SSブログ
経済問題 ブログトップ

統計問題(その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ) [経済問題]

統計問題については、2019年3月3日に取上げた。今日は、(その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ)である。なお、タイトルから「不正」はカット。

先ずは、2021年12月29日付け東洋経済オンラインが掲載した ジャーナリストの黒崎 亜弓氏による「建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/479789
・『建設業の月々の受注状況を推計し、GDP(国内総生産)算出にも使われる「建設工事受注動態統計」で、国土交通省があきれるばかりの不正を行っていた。遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ』、「遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ」、なるほど。
・『ユーザー軽視、何のための統計なのか  建設受注統計そのものの金額は二重計上でどのくらい増えていたのだろうか。 これはわからない。2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」(所管は厚生労働省)の問題よりも深刻といえる。 ただ、国交省が会計検査院の指摘を受けた後、自ら合算を行っていた2020年1月分?2021年3月分については、当月に入力した調査票データと、書き換え合算を行ったデータの2つがあり、他の条件をそろえて受注高を算出比較すれば、二重計上のインパクトがわかるはずだ。 2020年1月分?2021年3月分については、参考値との差額として「平均して1月あたり1.2兆円」という数字が国会答弁で出ているが、これは二重計上によって生じた数字ではない。二重計上のとりやめで生じたマイナスと同時に行われた推計方法の変更によるプラスとを合わせた数字だ。) 建設受注統計で国交省は、2021年4月分から二重計上をやめると同時に、調査先を選ぶ母集団となる「建設施工統計調査」で捕捉漏れをカバーする変更を行っている。2020年1月分?2021年3月分の参考値とは、この2つの変更を反映したものだ。金額は捕捉漏れカバーで増え、二重計上をやめたことで減る。これを差し引きすると1.2兆円のプラスというわけだ。 この母集団の捕捉漏れカバーは、カバレッジ(推計が網羅する範囲)を拡大して統計精度を上げるため、つまり、より実態を表す統計にするために行われたものと思われるが、国交省のホームページではきちんと説明がなされておらず、誤解を招いている。 「ユーザーには何が変わったのかわからない。統計は調査方法や推計方法を公開し、推計方法を変えたら『数字の見方に気をつけてください』とアナウンスするのが基本だ。国交省はユーザーを軽視している」。こう指摘するのは、日本銀行で統計畑を歩んだ肥後雅博・東京大学大学院教授だ。総務省の統計委員会担当室に出向していた3年前には、厚労省の毎月勤労統計における不正を明らかにした。 国交省はどう改善すべきなのか、不正続きの公的統計を立て直すにはどうすればいいか、肥後教授に聞いた』、「2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」・・・の問題よりも深刻といえる」、酷い話だ。「肥後教授」は「日本銀行で統計畑を歩んだ」だけあって、適任だ。
・『回答してくれた大事なデータを生かせ  Q:国交省は、遅れて届く調査票をどう扱うべきだったのでしょうか。 肥後月次の作業に遅れて届いた前月分の数字は前月分として入力し、前月分の受注高を推計し直して改訂すべきだ。多くの統計は、締め切り時点で推計して速報を出し、1カ月ほど遅れて届いた分については確報段階で反映している。 Q:国交省は2021年4月分からは遅れて届いた調査票を合算せず、「年度報」のタイミングで反映させるとのことですが、それでは不十分なのですか。 肥後遅れて回答する人が多ければ、それでは統計精度が確保できない。建設受注統計はもともと回収率が60%台と低いのだから、遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる。) Q:公的統計は回答が義務であることから、未回答者に罰金を科すべきという声もあります。 肥後法的には正しいかもしれないが、現実的ではない。 Q:日銀が作成する統計は回答義務がないのに回収率が高い。日銀短観も企業物価指数(確報)も回収率は90%台です。 肥後それは企業に回答してもらえるまで電話をかけ続けるからだ。短観の締め切り直前は、未回答企業に毎朝かけてお願いする。それが日銀では当たり前で、それを部下に徹底させるのが上司としての私の仕事だった。 金融政策を適切に判断するには、経済情勢を見極めなければならず、そのためには統計がきちんと作成されていなければならない。その認識が総裁から全員に共有されている』、「遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる」、なるほど。
・『外部の有識者からの厳しい批判に応えた  Q:日銀の統計には定評がありますね。 肥後日銀が作成する企業物価指数や企業向けサービス価格指数だって、四半世紀前は問題が多かった。物価下落局面に差し掛かった1990年代、製品の品質向上による実質価格の低下や特売、リベートといった実勢を反映できていなかった。また、価格の捕捉が難しくカバーしていない品目もかなりの数に上っていた。 学者の先生方からは厳しい批判を受けた。物価指数の作成方法について説明したら、「こんな調査をやっているからダメなんだ」と言われ、私は恥ずかしかった。そこから必死に長い時間をかけて直してきた。 Q:日銀内部からも「政策判断が狂う」と非難されたのではないですか。 肥後問題があることを逆手にとって「改善が必要だ」と主張し、統計部署の人員と予算をなんとか確保した。それで今がある。 Q:いっそのこと、日銀が政府の統計作成を請け負えばいいのではと思ったりします。 肥後日銀に限らず、統計調査を担うリサーチ会社はいくつもあるが、統計作成をフルに民間委託にすれば、いま公的統計に費やしている費用よりもはるかに高くつくだろう。) Q:会計検査院の報告書によると、現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる。 Q:民間委託とすることにも問題点はありますか。 肥後公的統計を民間にどこまで任せていいのかという問題はある。個別の契約で守秘義務を遵守するように民間業者を縛っているとはいえ、調査対象者は、企業や個人の情報が漏れるのではないかと心配になるだろう。 それに、統計作成を民間任せにすると、役所の中でどんな統計を、どのように作成するかという企画立案ができなくなる。調査対象者が回答できないような調査項目を作ったりする。役所が統計の作成にしっかり関与して、外注するのは末端の業務だけにしなければ、統計部署が空洞化してしまう』、「現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる」、なるほど。
・『「不正」よりも「欠陥統計」が問題  Q:統計をめぐる体制の問題としては、3年前の毎月勤労統計問題を受けて、統計委員会が基幹統計を一斉点検していたのに、建設受注統計の不正は見過ごされていました。 肥後統計委員会にマンパワーが足りない。常勤の委員はおらず、事務局は委員会の運営で手一杯だ。点検対象とする統計を絞り、徹底的に調べるべきだと意見したのは私だけではなかったが、基幹統計を網羅することが優先された。56もの基幹統計を限られた期間で見るには、各省庁に統計ごとに調査票を記入させ、問題が見つかったと自己申告してきたものを取り上げるしかなかった。自己点検だった。 Q:どうすれば不正を見つけられるのでしょうか。 肥後チェック体制には3段階ある。現在の自己点検、相手の同意をもとにした点検、それに強制力を持った検査だ。自己点検では実効性がないことが今回わかった。 Q:今回、調査票の書き換えを発見したのは、検査権限を持つ会計検査院でした。 肥後強制力を持つ統計監督機関を設けるには、法体系を変えなければならない。不正があまりに多く、摘発が最優先であれば検討されるべきだろうが、強制力のある組織では統計精度の改善はできない。不正がそこまで多くなく、省庁と協力して統計精度を改善する必要があるのなら、統計委員会のようにフレンドリーな組織のほうがいい。) 私は、摘発を優先しなければならないほど不正が多いとは思っていない。むしろ、公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる。毎月勤労統計でも、公表データで整合性のつかない点について厚労省に質問したら、全数調査のところ3分の1に抽出していたと告白した』、「公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる」、なるほど。
・『3省合体「統計庁」で統計の専門人材育成を  Q:各省庁の専門人材不足に対しては、統計部署の一元化が必要と言われます。 肥後私が考えているのは、部分的な一元化だ。総務省統計局と統計行政部署、内閣府のGDPを作る部署、それに経済産業省の統計部署の3つが合体する。名付けるなら「統計庁」だろうか。統計委員会もそこに入る。統計庁は、GDP、産業連関表に加え、国勢調査、経済センサス、消費者物価指数、鉱工業指数など主要統計を作成する。 最大の目的は、統計人材を集め、育てることだ。3?4の局がある800~900人規模の組織であれば、統計を志す人を採用できる。内部で人事ローテーションができ、さまざまな統計を作るのでノウハウが蓄積する。 他の省庁から統計を集めるわけではない。各省庁の所管業務に密着した統計は、その省庁でなければ作れない。たとえば医療施設についての統計であれば、厚労省しか分類方法などわからない。雇用統計は労働行政と結びついているし、建設関連の統計は、国交省の許認可権や公共工事の発注と関わっている。 ただし、所管官庁では統計の専門人材が不足する。それを統計庁がサポート・監督することで補い、統計全体の質を確保する。統計庁にノウハウが蓄積されれば、他省庁の統計がどのように作られているのかもわかる。 Q:現実味はあるのでしょうか。 肥後省庁再編が相当困難な作業であることは承知している。統計庁が誕生したとしても、元の省庁から人員を交互に派遣するのでは形だけになる。 統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ』、「統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ」、同感である。

次に、2022年3月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/299287
・『飲食サービス業の年収は141万円でしかない!  毎月勤労統計調査は、賃金に関する基本的なデータを提供する統計だ。 2021年確報によると、21年の現金給与総額は全産業計で年収383万円だ。これもずいぶん低い値だと感じるが、業種によっては驚くほど低いところもある。 例えば、「飲食サービス業等」の年収は141万円でしかない。一見したところ、極貧としか言いようがない状態だ。なぜこんなに低いのか? 本当にこんなに低いのだろうか? 実は、日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる』、「日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる」、なるほど。
・『パートタイム労働者の比率が鍵 飲食サービス業は77.7%と多い  パートタイム労働者の比率を業種別に見ると、図表1(後出)のとおりだ。産業計で31.28%だが、「飲食サービス業等」では77.66%と非常に高い。それに対して、建設業は5.67%、製造業は13.45%と低い。 (図表1:業種別のパート比率とFTE賃金など(2021年)はリンク先参照) そして、現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる。 ただ、労働時間が半分しかないのだから、複数の事業所で働いていることもあるだろう。それを考えれば、格差はもう少し縮まる』、「現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる」、なるほど。
・『「フルタイム当量」を計算すると 平均賃金は統計の数字ほど低くない  フルタイム労働者の約半分しか働かない人が約3割もいるということになれば、その人たちを含めた全体の平均賃金が低くなるのは当然だ。 そこで、これを調整するのに、FTE(full-time equivalent:フルタイム当量)という考えがある。 これについては、本コラム(2022年2月24日付)「日本の賃金『韓国の77%』は本当か、時代遅れの日本の賃金統計」で説明した。 例えば半分の時間しか働かない人は、1人とカウントするのではなくて、0.5人とカウントする方式である。) FTEの考え方を詳しく言えば、つぎのとおりだ。 労働時間比=(パートの労働時間)÷(一般労働者の労働時間) α=(一般労働者比率)+(パート比率)×(労働時間比) 実際の労働者数をnとすれば、FTEベースでの労働者数はαnだ。 賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる』、「賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる」、なるほど。
・『業種間の賃金格差は、統計で見るほど大きくない  この考え方に従って産業ごとにFTEベースでの労働者数を算出して賃金の修正をすると、図表1の右端欄のようになる。 これでもまだ飲食サービス業や小売業の平均賃金は低い。しかし、事態はだいぶ変わる。これは、政府の統計にあるのとはかなり違った姿だ。 αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ。 だから、FTEベースの賃金を求めるのは単に機械的な作業ではなく、政策判断には重要な意味を持つ作業だ。 日本企業の生産性は低いといわれてきた。とくに、サービス産業の生産性が低いといわれてきた。そのこと自体はこのような計算を行なっても変わらない。しかし、産業間の格差はこれまで考えられてきたよりはだいぶ縮まる』、「αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ」、「パート比率」の調整は実態に近づける。
・『パートが多いのは、ファミレスとコンビニ  パートタイム労働者の事業所規模別、企業規模別の就業状況については、「パートタイム労働者総合実態調査」(厚生労働省)がある。2016年のものでやや古いが、これを見ると、つぎのとおりだ。 (図表2 事業所規模別パート比率はリンク先参照) 図表2に見るように、パート比率は事業所規模と明確な相関がある。小規模事業所で高く、大規模事業所で低い。それに対して、企業規模別にはあまり大きな差が見られない。 つまり、パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している。 本来はこの点も考慮すべきだろうが、業種別・規模別のデータが得られなかったので、ここではその分析は行なわなかった』、「パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している」、その通りだ。
・『適切な政策のためには、 雇用形態の変化に応じる統計が必要  OECDの賃金統計はFTEベースのものだ。 日本政府が作成している統計に比べると、労働者の数は減る。また平均賃金は高くなる(ただし、これで計算しても、賃金が韓国に抜かれていること、時間的に上昇していないことに変わりはない)。 どの国でもパートタイム労働者が増えているので、FTEでないと、事態を正確につかめなくなっている。 アメリカの国民所得統計では、「フルタイム労働者」や「フルタイム賃金」が計算されている。 ILOは、コロナが雇用に与えた影響に関するレポートで、FTEによるデータで分析している。 日本でも、パートタイム労働者の増加が著しい。この変化に即した統計を作る必要がある。そうでないと、事態を正確に把握できず、適切な政策を行なえない。 いま、建設工事受注動態統計での不正な集計方法が問題とされている。毎月勤労統計調査でも、2019年に不正な集計方法が問題にされた。 確かにこれらは大きな問題だ。統計は、「正しい」手続きで作成されなければならない。ただし、それとともに、統計が「適切」なものかどうか、そして、それらが政策決定に使われているのかどうかも重要な問題だ。 適切な統計でなければ、政策に使うことができない。コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?』、「コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?」、「データ」を「活用」するためには、「統計が現実を適切に把握」するべくなるべく早目に「適切」に調整するべきだ。
タグ:統計問題 (その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ) 東洋経済オンライン 黒崎 亜弓氏による「建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く」 「遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ」、なる 「2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」・・・の問題よりも深刻といえる」、酷い話だ。「肥後教授」は「日本銀行で統計畑を歩んだ」だけあって、適任だ。 「遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる」、なるほど。 「現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる」、なるほど。 「公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる」、なるほど。 「統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ」 「日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる」、なるほど。 「現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる」、なるほど。 「賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる」、なるほど。 「αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ」、「パート比率」の調整は実態に近づける。 「パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している」、その通りだ。 「コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?」、「データ」を「活用」するためには、「統計が現実を適切に把握」するべくなるべく早目に「適切」に調整するべきだ。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

労働生産性(その1)(誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる、日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ) [経済問題]

今日は、労働生産性(その1)(誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる、日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ)を取上げよう。

先ずは、本年10月19日付け東洋経済オンラインが掲載した日本生産性本部 生産性総合研究センター 上席研究員の木内 康裕氏による「誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/626455
・『日本の経済成長を議論するうえで、「生産性の低さ」は大きな課題となっている。労働生産性を見ると、主要先進7カ国(G7)で最も低く、OECDでも23位にとどまる。 ただ、生産性に対する誤解は少なくない。「生産性が低い」と感じる人がいる一方で、「こんなに一生懸命働いていて、もうこれ以上働けないくらいなのに、生産性が低いといわれても……」と思う人もいる。実は「企業レベルの生産性向上が進んでも、国レベルの労働生産性向上には必ずしもつながらない部分がある」と指摘するのが、日本生産性本部の木内康裕・上席研究員だ。 はたして生産性とは何なのか、生産性を向上させるためにはどうすればいいのか。生産性の謎を解く連載の第2回は、生産性向上の議論をする際、近年の大きなテーマの1つとなっている「生産性が低い中小企業」の問題について木内氏が解説する。 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2021」によると、日本の労働生産性は49.5ドル(5086円)で、OECD加盟38カ国の中で23位にとどまっており、主要7カ国(G7)で最下位の状況が続いている。 これは、各国で1時間働いたときに生み出された付加価値額(=GDP)を比較したものである。そのとき、各国の物価水準の違いを調整する形でドルに換算する(購買力平価換算)。企業業績のように実際にいくら稼いだかをそのまま実勢レートでドルに換算するものとは少し異なる。いくつかの経済統計を基にした、いわば経済学的な手法で測定したものだ。 日本と同水準の国に西欧諸国がほとんどなく、リトアニアやチェコ、エストニアあたりになっていることはやや衝撃的ですらある』、「各国で1時間働いたときに生み出された付加価値額(=GDP)を比較したもの」を「購買力平価換算」した結果は、「OECD加盟38カ国の中で23位にとどまっており、主要7カ国(G7)で最下位」、「日本と同水準の国に西欧諸国がほとんどなく、リトアニアやチェコ、エストニアあたりになっていることはやや衝撃的」、確かに「衝撃的」ではある。
・『多くの要因が複合的に左右する根が深い問題  何が原因なのかというと、前回(『誤解がかなり多い「日本の生産性が低い」真の理由』)もふれたが、無駄な業務が多いとか、仕事が効率的でない、業務プロセスが旧態依然のままだといったことが働く人からはよく挙げられる。 マクロレベルでみると、①イノベーションがあまり起きなくなった(起こせなくなった)こと、②人材や設備に対する投資が減っていること、③これまでのデフレで低価格化競争が進み、諸外国と同じようなモノやサービスを提供しても、受け取れる粗利(≒付加価値)が少なくなっていること、④企業の新規開業や統廃合が少ないこと、⑤労働人口の多いサービス産業の生産性が諸外国より低いこと、などがよく指摘される。 つまり、働く人々の実感から学術研究に基づくものまで実に多くの要因が挙げられており、それがおそらく複合的に作用していて非常に根が深い問題になっているということだ。 そのためか、日本の生産性向上に向けた提案も、多くの人が多岐にわたる観点から行っている。主なテーマについては、この連載でも次回以降詳しく述べていく予定だが、ここでは少し視点を変えて、「あまり儲かっていない」中小企業の問題についてふれてみたい。 一般に、中小企業の労働生産性は、多くの分野で大企業より低いといわれている。 中小企業をどう定義するかにもよるが、例えば中小企業白書(2022年版)をみると、製造業の労働生産性(従業員1人当たり付加価値)は大企業で1180万円だが、中小企業では520万円にとどまっている。非製造業でも大企業が1267万円であるのに対し、中小企業は520万円である。つまり、中小企業の労働生産性は大企業の半分以下でしかない。 そのため、中小企業の生産性が向上すれば日本全体の生産性向上にもつながるといわれてきた。とくに中小企業が多いサービス産業分野を中心に、多くの企業や政府、民間団体などがさまざまな取り組みを行ってきた経緯がある』、「中小企業の労働生産性は大企業の半分以下」、どう読んだらいいのだろう。
・『日本の中小企業の6割以上が赤字の理由  もともと、日本の中小企業は6割以上が赤字である。東京商工リサーチによると、コロナ禍の影響が本格化しない2019年度でみても赤字(欠損)法人の割合は65.4%にのぼる。2010年前後に75%近かった状況からは改善傾向にあるものの、おおむね3分の2の中小企業が赤字ということになる。 このような赤字企業は、業績不振で多くの付加価値を生み出せなかったところももちろんあるが、税制上のメリットを享受するために会計上赤字にしている企業も少なくないと昔から言われている。 これは、赤字だと法人税負担が大幅に減り、場合によっては還付金を受け取れること、繰越欠損金控除を利用してその後も赤字を繰り越せることなどが認められているためだ。 資金繰りの厳しい中小企業が、合法的な範囲で節税に励むのはもちろん悪いことではない。しかし、このような行動が中小企業の付加価値創造を抑制してしまえば、労働生産性を押し下げる要因にはなっても、労働生産性の向上に結び付くとは考えにくい。 生産性のみならず、日本経済の成長性や活力を考えるうえでも、こうした企業をどうしていくことが望ましいのかは考える必要があるだろう。 考えられる方策の1つは、ノウハウや財政などの支援により、そうした企業の生産性を向上させていく「底上げ」策である。これは、経済産業省が行っている「サービス等生産性向上IT導入支援事業」のように生産性向上に役立つデジタル化の取り組みに補助金を支給する事業や、ベンチマーク可能な生産性向上事例を収集・周知する事業などが代表的なものだ。 もう1つは、競争メカニズムが効果的に働いていれば、生産性の低い企業がいずれ市場から退出すること(簡単にいえば倒産や廃業)になり、生産性が高くて賃金も多く払える企業に集約されていくようにすることだ。そうすると結果的に日本全体の生産性も上昇することになる。 最低賃金の引き上げを通じて、それを払えないような企業を淘汰し、生産性や賃金がもっと高い企業に労働者や資金を移動させていくべきだとするデービッド・アトキンソン氏のような意見も、こうした考え方に基づくものといえる。 では、日本の生産性が低いのは中小企業が足を引っ張っているからなのだろうか。これは一部で正しく、一部で正しくない』、どういうことだろう。
・『大企業の生産性を上回る中小企業もある  知識や資金、能力的な制約を抱える中小企業が多いこともあり、統計的に生産性の平均値でみるとどうしても大企業に見劣りしてしまう。 しかし、東京商工リサーチが提供する企業財務データベースを基に筆者が中小企業の生産性の分布をみると、必ずしも生産性の低い企業ばかりではない。従業員100人以下でも、労働生産性(従業員1人当たり付加価値)が2000万円以上の企業が3%程度存在している。 これは、不動産業のように業種特性的に生産性が高くなりやすい分野の企業が含まれていることもあるが、他の分野でもばらつきが非常に大きく、中には大企業の平均的な生産性水準を上回る企業もあることを示す。 実際、優れた技術やノウハウを持ち、ニッチな市場でリーダーになっているような中小企業では、大企業と遜色ない生産性水準や賃金水準になっていることも少なくない。 飲食店や各種小売業、コンサルティングや設計といった専門サービスなどの分野でも、事業環境の変化や消費者の嗜好をうまくつかんで成果につなげられるキーパーソンが1人でもいれば、生産性を高めて大企業と互角に渡り合うことは十分に可能だ。 そのようなやる気があって生産性の高い中小企業が規模を拡大させていければ、産業全体に活力が生まれ、生産性も改善していくことになる。) 問題は、日本ではなかなかそのようなダイナミズムがなく、ともすれば現状維持に意識が向きがちという点だ。 中小企業の方と話をしても、事業改革や生産性向上のために何かしたくても人がいないという話をよく聞く。さまざまな業務を担ってくれる人手が足りないということだけでなく、ICT活用や事業のデジタル化などを含めて生産性をどう向上させていくかを立案・実行する人材がなかなかいないという意見が多い。 経営者自身、あるいは後継者がそうしたキーパーソンになれれば、問題はあまりないかもしれない。しかし、そうでない場合にはどう人材を育成・確保するかを考える必要がある。これは中小企業だけでなく、大企業にも当てはまる課題といってよい』、「中小企業」では、「経営者自身、あるいは後継者が」、「ICT活用や事業のデジタル化などを含めて生産性をどう向上させていくかを立案・実行する」先頭に立ってゆく必要がある。
・『大学院修了者を活用できていない日本  企業や経済の成長や生産性向上には、イノベーションが欠かせないとよくいわれる。そのイノベーションを起こすにあたっても、人材の問題は避けて通れない。働く人が一生懸命に頑張ることも大事だが、イノベーションを生み出すための研究開発やマネタイゼーションには専門性の高い有能な人材が欠かせないからだ。 日本生産性本部とアメリカ・ブルッキングス研究所による研究によると、高度なスキルを持つ大学院修了者の比率が日本では3%に満たず、10%を超えるアメリカやドイツの1/3以下でしかない。これでは、イノベーションの担い手になる高度なスキルを持つ人々が少なすぎるといわざるをえないだろう。 しかも、政策的に支援が講じられつつあるとはいえ、博士号を取っても仕事がないポスドク問題などをみるかぎり、その数少ない人々すら十分に活用できているか心もとないのが実情だ。) また、大学院修了後の所得が高卒と比較してどのくらい高くなっているかを比較すると、日本の男性大学院修了者は高卒男性より47%所得が高くなっている。 しかし、アメリカ(同72%)やドイツ(同59%)と比べると、高度なスキルを持つことに対する「プレミアム(金銭的な見返り)」が大きいわけではない。日本はある意味で平等ともいえるが、高い専門性を得るために学歴に投資をするインセンティブが弱く、イノベーションの担い手を増やす環境が十分ではないということだ。 知的好奇心や世の中に貢献したいという使命感から大学院に進み、研究活動をする立派な人ももちろん多くいるが、その後の不確実性から二の足を踏む人も少なくない。そうした人の背を押すためにも、もう少しインセンティブを考える必要があるだろう』、「ポスドク問題」は企業にとっては、使い難いなどの批判が出ていることも事実だ。大学側の育て方にも問題があるとの声も根強い。
・『専門性やスキルに投資する魅力が欠けている  アメリカは、高等教育段階でSTEM(科学・技術・工学・数学)分野に大量の留学生を受け入れており、彼らがさまざまなイノベーションの担い手にもなっている。彼らは、アメリカの労働力全体の17%、STEM分野の23%を占め、1990~2000年にノーベル賞を受賞したアメリカの研究者のうち26%が海外出身者になっているという。 今の日本の環境では、こうした動きも望むべくもない。 もちろん、イノベーションは学歴やスキルだけで生み出されるわけではない。しかし、専門性やスキルに多くの投資をする魅力に欠けているのに、多くのイノベーションを期待するのは酷な話であろう。 こうした状況は一気に変えられるものでもないが、専門的なスキルを持つ人材が多く育成され、(成功すれば)多くの見返りを得られるような環境づくりをしていかなければ、いつまでも状況は変わらない。 『君主論』で有名なイタリアの政治思想家マキアヴェリは「君主たるものは、才能ある人材を登用し、その功績に対しては十分に報いることも知らねばならない」と述べている。 この言葉は、今の日本でも省みる価値があるように思われる。最近は、人的資本への投資や賃上げの必要性が叫ばれるようになっている。その中でこのような問題も解決されていくことを望みたい』、「マキアヴェリ」まで「人的資本への投資や賃上げの必要性」を説いたというのは初めて知った。日本でも「専門的なスキルを持つ人材が多く育成され、(成功すれば)多くの見返りを得られるような環境づくりをして」ゆくべきだろう。

次に、12月9日付け東洋経済オンラインが掲載した 東京都立大学教授の宮本 弘曉氏による「日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ」を紹介しよう。
・『日本といえば、世界的にもサービスの品質が高いことで知られているが、実は労働生産性という観点ではアメリカの約半分だという。元IMFのエコノミストで、東京都立大学教授の宮本弘曉氏は、日本の労働生産性が低いのは、人的資本・物的資本の枯渇――つまり、「人やモノにお金をかけない」からだと断言する(本記事は宮本氏著『51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因』の抜粋記事です)』、「日本の労働生産性が低いのは、人的資本・物的資本の枯渇――つまり、「人やモノにお金をかけない」からだ」、「カネ」の面では、内部留保は貯まる一方で、それを有効活用していないことになる。
・『改革のカギは「日本型雇用」にあり  日本で賃金が停滞している大きな原因は、生産性が低迷していることと、相対的に賃金が低い非正社員が増加していることです。では、なぜ生産性は低迷しているのでしょうか。 日本で生産性が低迷している大きな理由としては、企業行動が積極姿勢を欠き、守りの経営に入り、企業が人や資本に投資をしなくなったことがあげられます。また、日本的雇用慣行により、労働市場が硬直化してしまい、その結果、経済の新陳代謝が低くなっていることも、生産性の低迷につながっていると考えられます。 非正社員の増加という労働者構成の変化の背後にも、日本の雇用慣行の存在があります。日本では正社員を雇用すると、解雇するのが難しいため、経済が長期にわたり停滞し、将来の見通しが立たないときには、雇用調整のコストが低い非正社員を用いるというのは企業の合理的な判断となりえます。 さらに、日本的雇用慣行は労働者が賃金交渉において声をあげにくい環境を作っており、賃金低迷の原因となっています。ここでは、企業行動と雇用慣行に注目しながら、労働生産性が低迷している理由について考えることにしましょう。) あらためて日本の労働生産性の現状を確認しておきましょう。 上の図は、日本の労働生産性をOECD加盟諸国と比較したものです。2020年の日本の1時間当たりの労働生産性は49.5ドル(5086円)でした。これはOECD加盟国の平均59.4ドルより、2割弱低い数字です。OECD加盟38か国中、日本の順位は23位となっており、データが取得可能な1970年以降、もっとも低い順位となっています。 G7に注目すると、もっとも生産性が高いのがアメリカで80.5ドル、次がフランスの79.2ドル、そして、ドイツの76.0ドルとなっており、日本の順位はもっとも低くなっています。なお、G7における日本の順位は、1970年以降、50年以上にわたって最下位です。日本の1時間当たりの労働生産性は、アメリカの6割程度しかないのが現状です』、「2020年の日本の1時間当たりの労働生産性は49.5ドル(5086円)でした・・・OECD加盟38か国中、日本の順位は23位と」、「データが取得可能な1970年以降、もっとも低い順位」、「G7における日本の順位は、1970年以降、50年以上にわたって最下位」、酷い数字だ。
・『1人当たりの労働生産性でも出遅れている  なお、1時間当たりでなく1人当たりでも労働生産性を測ることがあります。付加価値を就業者数で割ることで求められる1人当たりの労働生産性は、2020年に日本では7万8655ドル(809万円)でした。これはOECD加盟38カ国中28位にあたります。 アメリカの就業者1人当たりの労働生産性は14万1370ドルとなっており、日本はその56%しかありません。また、かつては日本のほうが韓国より上位でしたが、2018年に逆転され、2020年の日本の就業者1人当たりの労働生産性は韓国より6%程度低くなっています。 労働生産性は産業ごとにも大きく異なっています。ここでは大きく、製造業とサービス業の2つをみていきましょう。 日本生産性本部によると、2019年における日本の製造業の労働生産性は、1時間当たり5512円、就業者1人当たり1054万円でした。一方、サービス業では1時間当たり91円、就業者1人当たり781万円と、サービス業の労働生産性は、製造業よりも低い水準にあることがわかります。 GDPに占める製造業の割合は約2割で、経済活動の大部分はサービス業で行われていることから、サービス業の労働生産性の低さが、日本全体の労働生産性を押し下げる要因となっていることがわかります。 次に、産業別に日本の労働生産性を他の先進諸国と比べてみましょう。まず、製造業について、2017年時点で、日本の労働生産性はイギリスやイタリアとほとんど同水準にある一方、アメリカより約30%、フランスより約23%、ドイツより約17%低い水準になっています。20年前の1997年の数字と比較すると、日本とこれらの国で労働生産性の格差はほとんど拡大していないことがわかります。) では、サービス業はどうでしょうか? 2017年における日本のサービス業の労働生産性は、アメリカの約半分で、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアより約27~35%低くなっています。製造業とは異なり、20年前の1997年の数字と比べると、日本と欧米諸国間の労働生産性格差が拡大していることがわかります。例えば、日本のサービス業の労働生産性を100とした場合の1997年におけるアメリカの労働生産性は174.5ですが、2017年は205.4となっています。 日本のサービス業の労働生産性がアメリカよりも低いと聞くと、遠和感を覚える方がいるかもしれません。アメリカのみならず、海外に旅行したり、住んだりしたことがある方は、日本のサービスの質が世界のなかでいかに優れているかを、肌身で感じられているのではないかと思います。 例えば、日本では電車が定刻どおり、寸分の狂いもなく正確に来ますが、そんな国は他にほとんどありません。私がかつて住んでいたアメリカの首都ワシントンD.Cのメトロ(地下鉄)には、そもそも時刻表がありませんでした。 また、日本のレストランやホテルでは、どこでも従業員が笑顔で両手を前に重ねて深々と頭を下げるのは日常風景ですが、海外であんな質の高いサービスを受けたければ、最高級のレストランやホテルに行かなくてはいけません。「日本の常識、世界の非常識」と言われることがありますが、日本と海外のサービスの質をうまく描写していると思われます』、「2019年における日本の製造業の労働生産性は、1時間当たり5512円、就業者1人当たり1054万円でした。一方、サービス業では1時間当たり91円、就業者1人当たり781万円」、「サービス業の労働生産性の低さが、日本全体の労働生産性を押し下げる要因となっている」、「サービス業はどうでしょうか? 2017年における日本のサービス業の労働生産性は、アメリカの約半分で、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアより約27~35%低くなっています」、「日本では電車が定刻どおり、寸分の狂いもなく正確に来ますが、そんな国は他にほとんどありません」、「日本のレストランやホテルでは、どこでも従業員が笑顔で両手を前に重ねて深々と頭を下げるのは日常風景ですが、海外であんな質の高いサービスを受けたければ、最高級のレストランやホテルに行かなくてはいけません。「日本の常識、世界の非常識」と言われることがありますが、日本と海外のサービスの質をうまく描写」、その通りだ。
・『日本とアメリカ、サービス業の差はどれくらい?  実際に、日本とアメリカでサービス業の質はどれくらい違うのでしょうか?下の図はアメリカ滞在経験のある日本人、また、日本滞在経験のあるアメリカ人を対象に、28の対人サービス業分野について、日米のサービス産業の品質の差に相当する価格比(日米の各サービスへの支払い意思額の比)を質問したアンケート結果を示したものです(出所:深尾京司、池内健太、滝澤美帆(2018)「質を調整した日米サービス産業の労働生産性水準比較」日本生産性本部、生産性レポートVol.6)。 ここから、米国滞在経験のある日本人は、宅配便やタクシー、コンビニなどの分野で、日本のサービスを享受するために、アメリカでの同種のサービス価格に比べて15?20%程度、高い金額を支払ってもいいと回答していることがわかります。さらに、ホテルやレストランでも1割程度、日本はアメリカより品質が高いと認識されています。 このようにアンケート調査からも日本のサービスの品質は、アメリカよりも高くなっていることがわかります。では、サービスの質を考慮した場合、日本とアメリカの労働生産性はどの程度異なるのでしょうか?) サービスの質を考慮して調整した労働生産性の日米比較を行った研究によると、調整後の日本の労働生産性の水準は、調整前のものよりも高くなっています。これは、アメリカよりも日本のほうがサービスの質が高いとするアンケートの回答結果と整合的です。 しかし、質の高さを考慮しても、労働生産性はアメリカのほうが日本よりも依然として高くなっています。その理由は、日本の価格が安いからです。品質に応じた価格がついていれば、「品質が高い=生産性が高い」になるのですが、日本の物価はこの30年間ほとんど上がっていないのに対して、アメリカでは物価が上がり続けたため、このような結果となってしまうのです』、「質の高さを考慮しても、労働生産性はアメリカのほうが日本よりも依然として高くなっています。その理由は、日本の価格が安いからです。品質に応じた価格がついていれば、「品質が高い=生産性が高い」になるのですが、日本の物価はこの30年間ほとんど上がっていないのに対して、アメリカでは物価が上がり続けたため、このような結果となってしまうのです」、逆に言えば、「日本」は「サービス」を安売りし過ぎていることになる。
・『日本の労働生産性が低迷しているワケ  現在まで、日本の労働生産性はどのように変化してきたのでしょうか?下の表は1970年以降、およそ10年ごとの労働生産性の変化率の動向を示したものです(出所:深尾京司、牧野達治「賃金長期停滞の背景(上)製造業・公的部門の低迷響く」日本経済新聞、経済教室(2021年12月6日))。日本の労働生産性の上昇率は、長期的に低下傾向にあることがわかります。 1970年代や80年代の労働生産性の上昇率は約45?51%と非常に高いものでしたが、90年代には約21%、2000年代は約12%に低下しています。こうした労働生産性上昇の減速が賃金成長率の低迷の主要因です。  ではなぜ、日本の労働生産性上昇率は低下したのでしょうか?この問いに答えるためには、労働生産性がどのように決まるのかを考える必要があります。労働生産性は、労働成果の指標である付加価値を労働投入量で割ったものとして定義されます。つまり、次のように表せます。 労働生産性=「付加価値÷労働投入量」 ここから、労働生産性が低くなる理由としては、付加価値が小さいこと、あるいは労働投入量が多い、つまり過剰労働になっていること、あるいはその両方が考えられます。逆に、労働生産性を高めるには付加価値を増やすか、労働投入量を節約するか、あるいはその両方が必要になるということです。 付加価値を生み出すには、機械や設備などの「資本」や、それを使いこなす「労働」といった生産要素が必要となります。また、生産技術や経営効率、組織運営効率なども付加価値に影響すると考えられます。これら生産要素以外で付加価値に寄与するものを「全要素生産性(TFP)」と言います。 生産要素のひとつである「労働」は、単にどれだけ働いたかだけではなく、労働者の持つスキルや経験など「労働の質」にも左右されます。つまり、労働は労働投入量(就業者数×労働時間)と労働の質の2つに分けて考えることができます。労働生産性は付加価値を労働投入量で割ったものですから、労働生産性は、労働の質、資本装備率(労働力当たりの資本)、そしてTFPの3つにより決まることがわかります。 先の表では、労働生産性の上昇率を、労働の質上昇、資本装備率上昇、そしてTFP上昇に要因分解しています。これをみると、1990年までの労働生産性の高い伸びは、資本装備率やTFPの上昇に大きく支えられていたことがわかります。 しかし、その後、1990年代にはTFPが大幅に減速し、それに伴い労働生産性の上昇も減速します。2000年以降、TFPの上昇は若干回復しますが、労働の質の低下と資本蓄積の減速により、労働生産性は停滞しています。ここからわかることは、この20年間の労働生産性の低迷、つまりは賃金の低迷の背景には、物的・人的資本そしてTFPの停滞があるということです』、「この20年間の労働生産性の低迷、つまりは賃金の低迷の背景には、物的・人的資本そしてTFPの停滞があるということです」、設備投資は堅調な動きを続けているので、「物的資本」はやがて押し上げる要因に変わる可能性もある。
タグ:労働生産性 (その1)(誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる、日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ) 東洋経済オンライン 木内 康裕氏による「誤解多い「日本の中小企業の生産性低い」真の理由 労働生産性は「大企業の半分以下」にとどまる」 「各国で1時間働いたときに生み出された付加価値額(=GDP)を比較したもの」を「購買力平価換算」した結果は、「OECD加盟38カ国の中で23位にとどまっており、主要7カ国(G7)で最下位」、「日本と同水準の国に西欧諸国がほとんどなく、リトアニアやチェコ、エストニアあたりになっていることはやや衝撃的」、確かに「衝撃的」ではある。 「中小企業の労働生産性は大企業の半分以下」、どう読んだらいいのだろう。 どういうことだろう。 「中小企業」では、「経営者自身、あるいは後継者が」、「ICT活用や事業のデジタル化などを含めて生産性をどう向上させていくかを立案・実行する」先頭に立ってゆく必要がある。 「ポスドク問題」は企業にとっては、使い難いなどの批判が出ていることも事実だ。大学側の育て方にも問題があるとの声も根強い。 「マキアヴェリ」まで「人的資本への投資や賃上げの必要性」を説いたというのは初めて知った。日本でも「専門的なスキルを持つ人材が多く育成され、(成功すれば)多くの見返りを得られるような環境づくりをして」ゆくべきだろう。 宮本 弘曉氏による「日本の「サービス業の生産性」が下がり続けるワケ 質が高いのに生産性は米国の約半分のなぜ」 宮本氏著『51のデータが明かす日本経済の構造 物価高・低賃金の根本原因』 「日本の労働生産性が低いのは、人的資本・物的資本の枯渇――つまり、「人やモノにお金をかけない」からだ」、「カネ」の面では、内部留保は貯まる一方で、それを有効活用していないことになる。 「2020年の日本の1時間当たりの労働生産性は49.5ドル(5086円)でした・・・OECD加盟38か国中、日本の順位は23位と」、「データが取得可能な1970年以降、もっとも低い順位」、「G7における日本の順位は、1970年以降、50年以上にわたって最下位」、酷い数字だ。 「2019年における日本の製造業の労働生産性は、1時間当たり5512円、就業者1人当たり1054万円でした。一方、サービス業では1時間当たり91円、就業者1人当たり781万円」、「サービス業の労働生産性の低さが、日本全体の労働生産性を押し下げる要因となっている」、 「サービス業はどうでしょうか? 2017年における日本のサービス業の労働生産性は、アメリカの約半分で、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアより約27~35%低くなっています」、「日本では電車が定刻どおり、寸分の狂いもなく正確に来ますが、そんな国は他にほとんどありません」、「日本のレストランやホテルでは、どこでも従業員が笑顔で両手を前に重ねて深々と頭を下げるのは日常風景ですが、海外であんな質の高いサービスを受けたければ、最高級のレストランやホテルに行かなくてはいけません。「日本の常識、世界の非常識」と言われ ることがありますが、日本と海外のサービスの質をうまく描写」、その通りだ。 「質の高さを考慮しても、労働生産性はアメリカのほうが日本よりも依然として高くなっています。その理由は、日本の価格が安いからです。品質に応じた価格がついていれば、「品質が高い=生産性が高い」になるのですが、日本の物価はこの30年間ほとんど上がっていないのに対して、アメリカでは物価が上がり続けたため、このような結果となってしまうのです」、逆に言えば、「日本」は「サービス」を安売りし過ぎていることになる。 「この20年間の労働生産性の低迷、つまりは賃金の低迷の背景には、物的・人的資本そしてTFPの停滞があるということです」、設備投資は堅調な動きを続けているので、「物的資本」はやがて押し上げる要因に変わる可能性もある。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

格差問題(その4)(岩本晃一氏「デジタル経済の嘘とホント」:(1)経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった、(2)非正規雇用140万人が7年後に職を失う 日本の格差拡大はこれからだ、(3)IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに、(4)IoTとAIでなくなる仕事と忙しくなる仕事、製造業は二極化が進む) [経済問題]

格差問題については、昨年5月11日に取上げた。久しぶりの今日は、(その4)(岩本晃一氏「デジタル経済の嘘とホント」:(1)経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった、(2)非正規雇用140万人が7年後に職を失う 日本の格差拡大はこれからだ、(3)IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに、(4)IoTとAIでなくなる仕事と忙しくなる仕事、製造業は二極化が進む)である。

先ずは、経済産業研究所/日本生産性本部 上席研究員の岩本晃一氏が1月9日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった 「デジタル経済の嘘とホント」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/190362
・『2019年も年初から「米国第一」を掲げるトランプ政策で振り回されることになりそうだ。 1月には日米物品貿易協定(TAG)交渉が始まり、また、米国が25%追加関税実施の期限を3月末に延期して「一時停止」状態にある米中貿易戦争も、中国側の改善努力が足りないと米国が判断すれば、さらなる泥沼に入り込む可能性がある』、確かに日米、米中の動きはこれから本格化する。
・『トランプ大統領はIT化の「真実」語らず  トランプ大統領は、米国人の失業や中流層の賃金低下による所得層の二極化、いわゆる経済格差が拡大した原因は、流入する移民や中国などから輸入される安い製品が米国人の雇用を奪っているからだと主張している。 それで移民の流入を防ぐためにメキシコ国境に「壁」を作り、一方で中国などには貿易不均衡を迫って強硬な姿勢を続けている。 だが、これは政治的な意図を持った宣伝に過ぎず、経済格差の発生原因はそこにはない。 トランプ大統領が誕生したのは、工場の閉鎖や海外移転でさびれた「フローズンベルト」と呼ばれる中西部の、職を失ったり賃金が下がったりした白人労働者らの支持があったからだというのはよく知られたことだ。 こうした白人中流層らの根強い支持は、昨年秋の中間選挙でも同じだった。 こうした地域と対極にあるのが、IT企業が集まるカリフォルニアのシリコンバレーだろう。 また聞きなので、どこまで正確かわからないが、今、シリコンバレーに立地する企業に勤める社員の平均賃金は約1300万円だと、知人の米国人研究者は話していた。 先日、放映されたNHKのフェイスブック社の特集番組のなかでも同社の社員の平均賃金は2300万円と説明していた。 シリコンバレーは、不動産価格や賃料も高騰し、それはかつての日本のバブル期をはるかにしのぐ状態で、大学生の中にはアパートも借りられず、ホームレスになる学生もいると聞く。 ワシントンDC本拠のシンクタンク「Institute for Policy Studies(IPS)」が先日、発表したレポートによれば、米国のお金持ち上位400人である「フォーブス400」にランク入りするための最低資産額は上昇が続いている。 1982年の最低資産額は1億ドルだった。今年の最低資産額は過去最高の20億ドル(約2260億円)に達している。 「この状況が続けば、過去数十年続いている一部の人々に富が集中する流れは、さらに強まっていく」とレポートの共同執筆者のJosh Hoxieは述べている。 IPSの報告によるとフォーブス400に登場する富豪らの合計資産額は、米国の下位64%の人々の合計資産額を上回っている。下位64%の人々の人口は“メキシコやカナダの人口の合計よりも多い”という。(出典;2017/11/10フォーブスジャパン)』、米国での経済格差拡大は確かに顕著だ。
・『政治的プロパガンダで移民や中国を「敵」に  米国における経済格差の推移を見る最も簡単な指標は、ジニ係数である(図表1)。 米国はジニ係数が上昇し続けており、しかもOECD諸国と比べても水準は高く、国内での経済格差が拡大し続けていることがわかる。 しかし一方で、図表2を見れば、アメリカのジニ係数のもう1つの特異さがわかる。 図表の横軸は、所得再分配前のジニ係数であり、縦軸は所得再分配後のジニ係数だ。 所得再分配というのは、例えば、税制や社会保障政策で、所得の高い人から低い人に政策的に所得を再分配することだ。金持ちほど税金が高くなる所得税の累進税率や税収による低所得者への住宅や教育費の補助などが典型だ。 この図表を見ても、米国政府には所得再分配を行う意思がほとんどないように見える。一方、ドイツは、強力な再分配を実施することで、稼いだ人の富を他者に分配している。これを求めて移民・難民がドイツに殺到しているのである。 もしトランプ大統領が米国内の経済格差が問題というのなら、富裕層から貧困層への富の分配をすればよい。この図からもわかるように、米国もドイツのように強力な所得再分配策を実施すれば、国内の経済格差はかなりの程度、緩和される。 それをしないで、移民や対米貿易黒字国の中国や日本などを非難するという、外に「敵」を作って攻撃しているところに、トランプ大統領の政治的意図を見ることができる』、所得再分配策をせずに、「移民や対米貿易黒字国の中国や日本などを非難するという、外に「敵」を作って攻撃」するトランプ大統領の姿勢は、政治的には巧みだ。
・『格差の原因は情報化投資 雇用・所得の二極化を生み出す  では、経済格差が拡大してきた「ホント」の原因は何なのか。それは国内の活発な情報化投資だ。 以下に紹介するのは、デイビッド・オーター(David H. Autor、1967年生まれ)がJournal of Economic Perspectives, Volume 29, Number 3, Summer 2015 に投稿した論文“Why Are There Still So Many Jobs? The History and Future of Workplace Automation”である。 同氏は、ハーバード大で修士号・博士号を得て、現在、MITで教授をしている。労働経済学が専門で、これまで、Econometric Society (2014)、American Academy of Arts and Sciences (2012)、Society of Labor Economists (2009)などで賞を得ている著名な研究者だ。 将来、ノーベル賞を受賞してもおかしくないくらい経済学会での存在感は大きい。 オーターが本論文で解明しようとした課題は、古くは機械の導入やロボット、ITなどと雇用や格差の関係だ。 すなわち、過去2世紀にわたって新しい技術の出現は多くの職業を奪ってしまうと警告され続けてきた。19世紀には、英国で、織機を打ち壊すラッダイト運動も起こった。雑誌TIMEは1961年2月24日号で「オートメーションが職を奪う」とのタイトルで特集記事を組んだ。 だが現実にはそうはなっていない。2世紀経った今でも多くの職業が存在している。それは、「嘘」だったのか。いやそうでもない。 彼は、独自の計算方法で、米国における1つひとつの職(ジョブ)に対して、「スキル度」(例えば、当該職業で働く大卒比率やその他要因などを加味して計算)を算出し、横軸にスキル度0%の職(ジョブ)から順に100%に向けて、左から右に向かって並べた。 例えば、低スキルの職とはトイレの清掃員、中スキルの職とは企業の経理職員、高スキルの職とは企業コンサルタントやアナリストなどである。 そしてそれぞれの職(ジョブ)ごとに、縦軸に雇用比率の変化をプロットした。それが次に示した図だ。 つまり、1979年から1989年、1989年から1999年、1999年から2007年、さらに2007年から2012年まで、それぞれの変化率を4本の折れ線で示した。 恒常的にマイナスになっている部分は、1979年から2012年まで恒常的に雇用者が減少していることを示している。 「スキル度」の計算は、オーター独自のものだが、図自体が示す各職種のスキルによって雇用比率が、米国で1979年から2012年までにどう変わってきたかという傾向は、歴然たる事実である。 この図から次のことが言える。 第1に、中スキルの職業の労働者が、情報化投資によって機械に代替され、過去、継続的にずっと減少を続けている。 オーターは、過去、職を失ってきた労働者は、機械に代替されてきた「ルーティン業務」であるとしている。 「ルーティン業務」は、どんなに難しい仕事であったとしても、また人間が仕事をするために長年の訓練が必要であってとしても、ロジックに基づいているので、簡単にプログラム化できるからである。 一方、オーターは、中スキルであったとしても、プログラム化できない対人関係業務の労働者は増えてきたとしている。 第2に、低スキルの職業の労働者が過去、継続的にずっと上昇を続け、かつ、上昇スピードが加速している。 第3に、高スキルの職業の労働者が過去、継続的にずっと上昇を続けているが、上昇スピードが減速している。 技術が進むほど高スキル者に対する企業の需要はますます強くなるが、それに応えられる人材の市場への供給がますます難しくなるため、労働者の伸びは鈍化し、高スキル者の賃金は上昇してきた。 第4に、雇用が失われる境界が、より高スキルの職の方に移動している。 そして、第5に、職を失った中スキルの労働者が移動する先は、高スキルか、または低スキルのどちらかだが、これまで記したように、技術が進むほど企業が求める高スキルのレベルは高くなり、中スキル者だった人がいくら自己投資しても高スキルに移行していく人はとても少ない。 例えば、そこそこの大学を出て年収300万円くらいで経理業務をしていた人が、いくら自己投資をしても、情報機器を使いこなしてさまざまなビッグデータを分析し、数千万円を稼ぐ企業コンサルタントやアナリストになることは難しい。 そのため、大部分の中スキルだった人は、低スキルに落ちていったことがうかがえる。 低スキルの仕事がほとんど増えないなかで、中スキル者が低スキルに落ちていって低スキルの総労働者数が増えているため、賃金は低いままに据え置かれ、かつ雇用がますます不安定化している。 これが米国で言われている「高学歴ワーキングプア」であり、そこそこの大学を出ても、企業経理のような仕事もなく、低スキル者がするような低賃金の不安定な仕事しかない、という状態である』、「高学歴ワーキングプア」の発生メカニズムがよく理解できた。
・『第6に、情報通信技術の進歩が、いまの米国の経済格差を発生させている大きな要因であることだ。 このことは、次に示したOECDによる日独米が世界に占めるICT投資割合の調査結果を見ればわかる(図表4)。 2000年後半以降、中国におけるICT投資が急増したにもかかわらず、米国の比率が増加している。これは、米国におけるICT投資の絶対金額が急増していることを示している。 これに対して、日米独のICT投資を比較すると、 日本のGDP・人口は、ドイツの約1.5倍なので、GDP原単位当たり・人口1人当たりのICT投資はドイツの約2/3と考えられる。米国には圧倒的に及ばない』、日本のICT投資の立ち遅れは深刻だ。
・『「誤解」「うのみ」は社会をおかしくする  つまり、オーターの分析によればここ40年、米国では、IT化によって、例えば、工場の生産ラインの調整・管理や、オフィスでのデータ管理や会計などの業務がITに置き換わり、かつ海外への外注が進んだ。 そのために、そうした仕事をしていた人が失業したり賃金が下がったりする一方で、GAFAに象徴されるITビジネスの成功者が巨額報酬を得るという経済格差発生のメカニズムが起きたのである。 具体的に経理業務を例に挙げると、電卓が出現し、経理ソフトが出現し、いまはRPAの出現により、経理課の人員はますます少人数化している。 一方で、いま企業が最も欲しがっているデータサイエンテイストはごく少数であるため、巨額の報酬を得ている。 そしてその原因が活発な情報化投資だということがわかる。 このことは、米国の経済学者の間ではほぼ合意されている。移民の流入や中国・日本からの輸入の増加は、経済格差とはほとんど関係ない。 ここにITと経済格差、雇用をめぐる「ホント」がある。 トランプ大統領はそのことを知っているはずである。 もしトランプ政権が国内の経済格差を本当に深刻な問題だと認識するなら、(1)国内の情報化投資を抑え、かつ(2)富の再分配を強力に実行することである。富の強力な再分配はドイツやフランスなどは実行しているのだから、米国政府もやる気になればできるはずだ。 それを全くしないで、関係のない外敵を攻撃しても、図表1からわかるように、これから米国の経済格差はますますものすごい勢いで拡大するだろう。 そうなったら、今のままでは米中の対立は、収まるどころか、もっと激しさを増していく、そして日本も大きな影響を受ける。それが私の予想であり懸念だ』、トランプ大統領のやり方では、経済格差がますます拡大し、外敵への攻撃も激しさを増すというのは、不吉だが、ありそうなシナリオだ。
・『ライフスタイルへの影響が大きいのに社会科学研究の専門家少ない  IoT、AIなどに象徴されるデジタル化は、急速に経済社会を変え始めているが、メディアなどからは、こうした政治的プロパガンダがそのままの形で伝えられ、その情報をうのみにしてしまうという例が少なくない。 それはなぜなのかといえば、日本にはデジタル化について社会科学的なアプロ―チで研究する専門家が少ないことが一因だ。 この分野に、研究時間の1~2割程度を使っている人は、最近、やっと出てきたが、この分野が主専門という人は私の知る限り、日本には他にいない。 社会科学とは、経済学、経営学、商学、社会学、ビジネスマネンジメント、テクノロジーマネンジメント等の分野を指す。 IoT、AIなどデジタル分野では、人間のライフスタイルに与える影響が大きく、単に進んだ技術だけを開発してもだめで、自然科学と社会科学の両分野の専門家同士が、車の両輪のごとく協力しあいながら、開発を進めることがとても重要なのだ。 このことはAIの研究・開発だけでなく、応用がいかに人間の生活を変えるかを考えればわかりやすい。 日本はかなり以前から、「技術で勝って商売で負ける」と言われてきた。 単に、先端的な技術を開発するだけではだめで、それを企業の商品やサービスとして販売し、グローバル競争に勝たなければ意味がない。 最近の事例で言えば、有機ELがそうだ。日本人の偉大なる発明であり、その研究開発費に多額の公費が投じられた。だがそれを商品化して利益をがっぽり得たのは韓国企業だ。 それは、有機ELを商品化して世界で売るための社会科学研究が日本では全くなされてこなかったからだ。 そしてこのことは、企業の競争に限らず、日本社会全体にとって大きなマイナスになっている。 日本には、IoT、AIなどデジタル化の社会科学分野の専門家がほとんどいないため、さまざまな分野で、誤解したり、誤った情報をうのみにしたりという現象がみられる。今回はその一例を書いてみた。 これから、折に触れ、デジタル経済の「定説」と考えられているものが、いかに誤った認識の上に立っているか、書いていきたいと考えている』、「技術で勝って商売で負ける」のは「社会科学研究の専門家少ない」との指摘は新鮮だ。この続編も紹介していくつもりだ。

第二に、上記の続き、2月12日付け「非正規雇用140万人が7年後に職を失う、日本の格差拡大はこれからだ「デジタル経済の嘘とホント」(2)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/193546
・『日本はバブル崩壊以降、新自由主義を導入し、「勝ち組」と「負け組」に分かれ、かつての中間所得層が減少し、経済格差が開いてきたとされている。 全国消費実態調査や国民生活基礎調査によると、税金などを差し引いた世帯の手取り収入(等価可処分所得)が、中央値の半分の水準の世帯の割合(相対的貧困率)は、それぞれ高まっている(図表1)。 このことは、徐々にではあるが「貧困層」が増えていることを示す。 また所得分配の不平等を示すジニ係数で、日本はOECD平均よりも格差が大きいことは、前回の記事「経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった」(2019年1月9日付)で書いた。 だから、日本で経済格差はこれ以上、拡大することはないだろうと思っている人が多いのではないか。 だが、そうではない。むしろこれから一気に拡大する可能性が高いのだ』、ずいぶん思い切った予測だ。
・『情報化投資が遅れてきた日本 RPA導入の加速で変化  日本はこれまでさまざまな理由により情報化投資が遅れてきた。 その結果として日本企業の労働生産性は先進国の中でビリに近い状態がずっと続いているものの、幸いにも米国のような極端な経済格差のある社会にはなっていない。 だが、今、日本では、職場にAIを導入し定型的な仕事であるルーティン(Routine)業務を機械化しようという動きが始まろうとしている。 その典型的な例が、人間が行ってきた事務作業の一部をソフトウェアのロボット技術で自動化するRPA(Robotic Process Automation)である。 その結果、日本は米国の後を追って、これから活発な情報化投資により、経済格差が広がることが予想される。 しかもバブル崩壊以降の日本企業は、大規模なリストラ、労働分配率の低下、非正規の大量採用、人材育成投資の大幅削減という「人への投資の削減」「人を冷遇する」という経営を続けてきた。 そのため、RPAが広がるこれからは、経済格差が米国よりも速いスピードで、一気に、しかも大規模に拡大する、というのが私の予想である』、陰鬱な予測だが、確かにそうの通りなのかも知れない。
・『米国では80年代からルーティン業務の雇用が減少  前回も紹介した米国MITのデイビッド・オーター(David H. Autor、1967年生まれ)教授の論文から、まずは米国でのルーティン業務の推移を見てみよう。 上の図表2からわかることは、知識や経験を必要とする「ルーティン業務」(Routine Cognitive)は、米国では少なくとも1960年代は増えていた。従って、その業務を担う人間の数は増えていたのだ。 だが、1970年代になると増加スピードは減少し、1980年代半ばになると米国内のルーティン業務自体が減少に転じ、その後、減少のスピードはどんどん加速している。 その一方で、人間を機械に代替する情報化投資は、1970年代から増え始め、1980年代半以降、一層加速していった。 では、ルーティン業務を担う労働力として、1960年代には雇用を増やしていた米国が、急に人間を機械に代替するほど情報化投資に積極的になっていった「境界線」はどこにあったのだろうか。 図表3は、IT関連機器投資の価格の1994年以降の傾向を示したものだが、情報化投資は急速にコストが減少する傾向を持つ。 このコスト低減傾向は1980年代以降にも見られた。そのため、米国企業の経営者は、合理的な判断をして、人間を雇用するコストよりも情報化投資のコストの方が安くなった時点で、人間を雇用するのを止め、情報化投資に切り替えていったものと思われる。 これが、米国における人間の機械への代替メカニズムである。 図表4に見るように、コスト低減傾向を持つ情報化投資コストが労働コストを下回る「境界点」を越えると、人間が機械に代替され始める。 米国の労働コストは日本の非正規の労働コストよりも高く、情報化投資コストは日本よりも安いので、日本よりも早く「境界点」に到達する。 だがやがて、日本でも米国に遅れるものの、「境界点」に到達する』、なるほど。
・『機械化しても雇用は維持 生産性や競争力の低下招く  OECDでは、米国、EU、日本の3ヵ国について、2002年から2014年まで、スキル別の職業ごとの労働者比率の変化について計算している(図表5)。 3ヵ国を比較すると、米国が最も変化が大きく、日本が最も変化が小さい。 米国の企業は、2002年以降、中スキルのルーティン業務の労働者を解雇してきただけでなく、中スキルの非ルーティン業務の労働者も解雇してきた。 その一方で、高スキル者を自社内で養成したり、新規雇用を増やしたりするなど、高スキル者の獲得に努めてきた。 米国と比較した日本の特徴は、本来は機械化を進めて解雇できたはずのルーティン業務の雇用者でも、ほとんど解雇していないことだ。 さらに日本と米国との大きな違いは、日本企業は高スキル者の獲得や養成にほとんど無関心だったように見えることだ。 日本では、「ウィンドウズ95」が発売された95年が「インターネット元年」とされるが、これでは、その後日本が米国とのグローバル競争に負けてきたこともうなずける。 日本企業は、雇用の現状維持の傾向が強く、技術進歩に伴って本来であれば機械で代替できる部分で人間を働かせていたり、高スキル人材を養成したりしていない。 順送り人事、過去と同じ業務の繰り返し、働き方の現状維持、の結果といえる。 つまり、技術進歩に応じた雇用状態が合っていないため、生産性低下、企業競争力低下を招いているものと思われる。 技術進歩にもかかわらず、雇用の現状維持を続けることは、企業のイノベーションの足を引っ張り、生産性の低下、競争力低下につながるのだ』、「日本企業は高スキル者の獲得や養成にほとんど無関心だったように見える」というのは驚かされた。日本企業の競争力低下についての指摘には説得力がある。
・『AI導入で機械への代替が一気に進む予兆  前述の図表3でわかるように、日本での情報化投資は米国よりもコストが高い。雇用慣行や人事だけでなく、このことも、日本で情報化投資が遅れてきた背景だ。 だが、情報化投資のコストは下がり続ける。日本でもいつかの時点で、多くの企業で人間を雇用するコストよりも情報化投資の方が安くなる境界点が到来する。 そのとき、機械への代替化が一気に進むと予想される。 実は、日本では現在、情報化投資が労働コストを下回る境界点に差し掛かっているのではないかという予兆が見える。 例えば、専門誌の特集、「実践RPA」(日経コンピュータ、2018年10月28日増刊号)、「まるわかりRPA」(日経コンピュータ、2017年12月30日増刊号)から主要な記事のタイトルを拾っただけでも、次のような動きがある。 「AIとRPAで帳票処理の8割を自動化、みずほ銀行が2019年春にも」「電通社長、メモ見て即決、目を付けたのはPC業務を自動化するRPAだった」「日本生命がRPA導入拡大、仕事を5倍速く、15%少なく」「三井住友海上火災保険、18%効率化を目途にRPAを本格導入へ」「RPA導入を先行した金融機関、作業時間が10分の1に」 また、地方自治体の中で先導的な役割を担っているつくば市では、RPAの実証実験をして結果を以下の通り公開している。 この実験は、2018年(1月~4月)に、市民税課や市民窓口課の電子申告書の印刷や異動届受理の通知など、5業務をソフトウェアのロボットでやることで、作業時間などをどの程度、削減できるかを実証したものだ。 図表6は、つくば市の基幹系6業務で、40の作業があったものの、そのうち32作業がRPAで代替でき、人間がしなくてはならない作業は17作業だったことを示している。 これは、もし基幹系6業務に100人を充てていたとすれば、そのうち32/(32+17)=65%、すなわち65人は不要になったことを示している。 また銀行業界では、RPAにより人員を減らす動きが現れている。 来春卒業の大学生の採用では、メガバンク3社は、一般職を合計900人の採用を減らすという。みずほフィナンシャルグループの場合、一般職は約7割減とのことだ(出典:朝日新聞2018年9月1日)。 またメガバンクは、今後、AI導入を進めることによって3社合計で約3万人規模のリストラをすると発表している。 銀行業界は、RPAの導入を急速に進めており、ルーティン業務の機械への代替は一気に進みそうだ。 RPA業界では、これからの最大市場は、銀行業界と地方自治体だとのうわさがされている。この2業種は、ほとんど大部分が帳票業務などの「ルーティン業務」だからだ』、RPAの「最大市場は、銀行業界と地方自治体だとのうわさ」はその通りなのかも知れない。
・『どれぐらいのスピードで雇用減や格差が広がるか  日本でこれから、AIなどに仕事や雇用がどの程度、代替され、経済格差がどこまで拡大するのだろうか。 +日本で、IoT、AIなどのデジタル技術の導入により、今後、機械への代替や雇用者数の減少はどうなるか。 +その結果、日本では米国の後を追う形で、どのようなスピードで、そしてどの程度の規模で経済格差が発生するか。 この2点に関しては、入手可能な数字等に基づき、ある程度の幅はあるものの、かなりの精度をもって予測することが可能である。 筆者の試算では、例えば、7年後の2025年を予測すれば、ルーティン業務量は今より7%程度減り、そうした業務を担う非正規雇用の約140万人程度が仕事を失うことが見込まれる。 ただし、この数字はかなり控えめに見た予測だ。 このことも含め、次回に詳細を書きたい』、2025年を予測すれば「非正規雇用の約140万人程度が仕事を失う」というのは深刻な予測だ。

第三に、上記の続き、2月28日付け「IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに 「デジタル経済の嘘とホント」(3)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/195327
・『情報化投資が遅れてきた日本は、米国などに比べて経済格差はそれほどではなかった。 しかしAIの導入がさまざまな分野で広がり、7年後の2025年には、控えめに見ても、約140万人が職を失うと予想される。 どういう仕事がなくなるのか、を予測すると、それはルーティン業務が中心になる。 そして失業した人の再就職も容易ではない』、なるほど。
・『日本のIT投資は合理化志向 人員削減が一気に進む  米国やドイツの経営者は、IT投資によって、合理化よりも新しいビジネスモデルによる売り上げ増を目指すのに対し、日本の経営者は、IT投資で人員削減、コスト削減といった徹底的な合理化を志向する。 こうした日本の情報化投資の傾向は、さまざまな調査で明確になっている。 代表的な調査結果を2つ挙げてみよう。 2015年5月、国際IT財団は、日本企業のIT投資に関する調査結果をまとめた。調査年次が、若干、古いかもしれないが、同種の調査はこれ以降、存在しないので、この調査結果(アンケートの有効回答数615社、回収率17.4%)を紹介する。 ITを積極的に導入している業務分野を見ると、「コスト削減」「人員削減」をめざしている色合いが濃い(図表1)。 一方で、IT対応がそれほど行われていない業務分野は、市場分析や開発など、「新しいビジネスモデル開発」「売り上げ増」を志向する分野だ。 この傾向は、電子情報技術産業協会(JEITA)が2013年に行った「ITを活用した経営に対する日米企業の相違分析」調査の結果(図表2)とも共通する。 この調査は、同協会が日米企業の「非IT部門」を対象にIT投資の意識調査を実施したもので、日本企業216社、米国企業194社が回答した。(ほかにヒアリング調査で日本企業5社、米国企業2社が回答) これを見ても、米国企業が、ITによる製品・サービスの開発など、「攻めのIT投資」と呼ばれる方向を志向しているのに対して、日本企業は、業務効率化・コスト削減などの「守りのIT投資」を志向していることがわかる。 こうした調査が示すのは、日本では、経営者に、情報化投資によって「新しいビジネスモデル」を創出して「売り上げ増」を目指し、付加価値を生み出そうという発想は極めて少ないことだ。 日本企業の経営者のみが、世界の経営者と違った方向を向いているのである。 私はこれを「日本の常識は世界の非常識」と呼んでいる。 とはいえ、技術進歩でAIなどがさまざまな分野で導入され、またグローバル競争も激しくなるばかりだ。企業にとってはIT化への対応は避けられない。 日本の経営者が持つ独特の志向を考えると、情報化投資が加速するなかで、人員削減が一気に進むのではと予想される』、「米国企業が、ITによる製品・サービスの開発など、「攻めのIT投資」と呼ばれる方向を志向しているのに対して、日本企業は、業務効率化・コスト削減などの「守りのIT投資」を志向している」、「日本では、経営者に、情報化投資によって「新しいビジネスモデル」を創出して「売り上げ増」を目指し、付加価値を生み出そうという発想は極めて少ない」というのは困ったことだ。確かに、これでは「人員削減が一気に進むのではと予想される」のも頷ける。
・『情報化投資でなくなるのはルーティン業務  日本でこれから、AIなどに仕事や雇用がどの程度、代替され、経済格差がどこまで拡大するのか。 前回(2019年2月12日付け)の本コラム「非正規雇用140万人が7年後に職を失う、日本の格差拡大はこれからだ」で、その見通しを書いた。 まず、今後、IT化で新たな雇用機会や所得増が期待できる人と、逆に仕事を失う人が出て、格差が拡大していく「スピード」を予測してみよう。 前回、紹介した米国MITのデイビッド・オーター教授の論文にある「米国におけるルーティン業務及び非ルーティン業務の作業の割合」(図表3)によれば、米国では、「ルーティン業務量」は1985年から2000年にかけて、15年間で12%減った。 日本では今後、これまで情報化投資が遅れていた分、米国よりも早いペースでRPA(Robotic process automation 人工知能を備えたソフトウェアのロボット技術を使った自動化・効率化)の導入が進むと考えられる。 政府は、2025年をめどにした外国人労働者の受け入れ目標を掲げているので、まずは、その時点にあわせて、7年後の2025年でどうなるかを考えてみる。 米国では、7年間で、非ルーティン業務は6%減のスピードだった。日本での減り方はもっと大きいと思われるが、それでも少し控えめに見て、「7年後にルーテイン業務量が7%減少」するとしよう。 その場合の実際の雇用者数の減少はどれぐらいになるのか。 仕事を失うのは、正規雇用の一般職と非正規雇用者だと思われるが、正規一般職は、企業が雇用を守ろうとして企業内の配置転換で対応すると思われるため、今回は非正規に絞って予測する。 現在、日本では非正規雇用は2036万人いる(図表4)。「7年後に7%減」であれば、2036万人×7%=約140万人が仕事を失うことが見込まれる。 ただ、一般職についても、実際は新規採用減という形で、職が失われることは考えていたほうがいい』、「攻めのIT投資」であれば、増える職種もあるだろうが、「守りのIT投資」では減るのみといのも困ったことだ。
・『OECD試算では1700万人が失業の可能性が「50-70%」  この数字を、別の角度から検証してみよう。 2016年にOECDは、加盟各国ごとに、10~20年後、労働者が機械に置き換えられる「機械代替リスク」の試算結果を発表した(図表5)。 この試算は、ITに代替される可能性が「70~100%」と、可能性が「50~70%」の2種類のリスクで見たものだ。 その結果を見ると、雇用者数全体で、機械代替リスクが「70~100%」の労働者の割合は、OECD平均で9%。各国別ではオーストリアで12%、米国で9%、ドイツで6%などとなっている。 日本で、10~20年後に仕事が失われる可能性が「70~100%」ある人は、雇用者数全体の約7%、「50~70%」の人は約31%である。 2018年で日本の総雇用者数は5460万人なので、10~20年後に、仕事が失われる可能性が「70~100%」の人は約380万人、失業の可能性が「50~70%」ある人では約1700万人になる。 上記で算出した「7年後に約140万人減」という予測は、かなり控えめであることがわかるが、ここでは控えめな数字を出しておきたい』、確かにOECD試算は、筆者よりもっと厳しい姿を予測しているようだ。
・『どういう仕事がなくなるか 一般事務や人事経理など  ではIT投資によって、具体的にどのような職が失われるか。 「2018年度年次経済財政報告(経済財政白書)」(2018年8月発表)では、「AIと雇用」に関する特集が行われた。 その中で、OECD作成のデータや内閣府が日本企業に対して行ったアンケートも掲載されており、以下は、それらの分析などをもとに明らかになったことだ。 それによると、日本でルーティン型業務が残っている主な職業を見ると、「事務補助員」「単純作業の従事者」が主であることがわかる。(図表6) また内閣府が2018年2月に実施した「企業意識調査」によれば、IoT、AIの導入が進行した場合に、「増える見込みの仕事」、「減る見込みの仕事」は図表7のようになりそうだ。 「技術系専門職」は、回答企業全体の約60%の企業が増えるとしているのに対し、逆に「一般事務・受付・秘書」、「総務・人事・経理等」、「製造・生産工程・管理」「事務系専門職」などが、減る仕事の上位に並んでいる。 また、実際に企業側が、AIに代替を考えている業務は図表8のようになっている。 大企業、中堅企業、中小企業を問わず、「定型的な書類作成」や「労務管理関係」「スケジュールなどの作成」「販売・電話対応などの接客」といった業務は将来、AIに代替されそうだ』、経済財政白書の職種別分析は概ね常識的だ。
・『外国人受け入れ拡大で「IT失業者」と職の奪い合いに  職を失う人のうち、自己投資して、IT関連などの新たなスキルを習得し、アナリスト、データサイエンティスト、コンサルタントなどといった高スキル高収入の職に転身できる人は極めて一握りでしかないだろう。 また、夫が働いていたり、家族が自営業などをしていたりして、自分を養ってもらえる人は、仕事をすること自体を諦めてしまうかもしれない。 だが、単身暮らしで自活しなければならない人や家族を養わなければならない人は、低スキル低賃金で雇用が不安定だったとしても生活のために仕事をすることになるだろう。 こうしたことを考えれば、控えめに見積もった「2025年に仕事を失う約140万人」のうち、約半分の約70万人程度は、生活の必要上、低スキル低賃金の労働市場に参入してくると予想される。 だが、低スキル低賃金の労働市場での競争は厳しいものになるだろう。 政府は、7年後の2025年までに50万人超の外国人労働者の受け入れを目指すと発表した。日本ではすでに2017年時点で128万人の外国人労働者が働いている。 7年後には、すでにかなりの数の外国人労働者が働いている労働市場に新たにIT投資で、仕事を失った日本人が参入するわけだ。 この時の状況について、経済学者の佐和隆光氏は次のように予想している。 「失業者の大半はハローワークで仕事探しをせざるを得まい。一念発起して何らかの職業訓練を受けない限り好景気時には忌嫌されがちだった『きつい』『きたない』『きけん』な仕事に就かざるを得なくなる」 「目下、右記14業種は深刻な人手不足に見舞われているが、10年後には様相が一変し、在留外国人と失業日本人との間で、職を奪い合う熾烈な競争の展開が予想される。」(ダイヤモンド社「経」2019年1月号)。 筆者の見方も同じだ。 外国人労働者を入れるべきではないとは言わないが、少し判断が早すぎたのではないか。 今まさに企業にAIが導入され、今後、IT投資が急拡大しようとしている。その動向をもう少し見て、職を失って低スキル・低賃金の職業に落ちてくる日本人の働き手の規模を確認しながら、外国人労働者の受け入れ人数と時期を判断してもよかったのではないかと思う。 外国人受け入れ拡大のための出入国管理法案が国会で議論されていた時、情報化投資の加速で、今の仕事を失う日本人と外国人労働者の間で、仕事の奪い合いが発生するのではないかという議論は誰もしなかった。 これもまた、IT・デジタル分野で、社会科学研究を担う専門家が日本には少ないために、議論が深まらない象徴的出来事だった。 日本は、米国という先例から学び、その失敗を繰り返してはならない』、「情報化投資の加速で、今の仕事を失う日本人と外国人労働者の間で、仕事の奪い合いが発生」というのは大いにありそうなシナリオだ。国会で誰も指摘しなかったのは、「IT・デジタル分野で、社会科学研究を担う専門家が日本には少ないために、議論が深まらない象徴的出来事だった」というのも困ったことだ。

第四に、上記の続き、3月14日付け「IoTとAIでなくなる仕事と忙しくなる仕事、製造業は二極化が進む 「デジタル経済の嘘とホント」(4)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/196637
・『日本はこれまで製造業の現場の熟練作業員を大切にしてきた歴史があり、日本のモノづくりの競争力の根源は、現場の熟練作業員の高い技能にあるといわれてきた。 新しいデジタル技術を導入した日本企業でも今のところは、雇用を増やした企業の方が多い。 だが人工知能(AI)を活用したIoTが広がれば、現場の熟練作業員の担っている作業の多くが早晩、AIに代替される時代がくる。 一方でデータエンジニアなど高スキルのエンジニアに対する企業の需要は増え、“二極化”が進む。 モノづくりが「独り勝ち」といわれるほど経済力を生み出しているドイツでも、二極化が深刻な社会問題化しつつある』、製造業への影響も興味深いテーマだ。
・『経営者がAIに代替を考える「製造業の現場の作業員」  前回(2019年2月28日)の本コラム「IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人との職の奪い合いに」で、主に事務部門で働くオフィスワーカーの失業の問題を下記の「企業意識調査」をもとに分析した。 内閣府が2018年2月、「経済財政白書2018」をまとめるにあたって企業を対象に調査したものだ。 その結果を見ると、企業経営者が、IoT、AIの導入が進行した場合に減る見込みの仕事、企業がAIに代替を考えている業務を見ると、「事務職」の次に「製造業の現場の作業員」を挙げている(図1、2)。 このことは、現場の作業員の労働を代替できる機械が出現すれば、製造現場の作業は機械に代替される可能性が高いことを示している。 実際に1990年代には、日本では省力化投資や機械化投資、省エネ投資と呼ばれる投資が時代の流行となり、現場から多くの作業員が消えていった。 近い将来、再び現場から作業員が大量に消える時代を迎えると思われる』、確かにAIは「現場の作業員の労働を代替」する強力なツールだろう。
・『現状は雇用に影響は出ていない 日本型の雇用慣行も背景に  だが現在のところは、新しいデジタル技術が導入されても、現場の熟練作業員の雇用には、ほとんど影響を与えていない。 今、日本の製造業の現場に導入されている新しいデジタル技術は、「見える化」までであり、表示されたデータを見て、故障原因を探り、対策を考えるところは、依然として熟練作業員が担っているからだ。 また、雇用慣行、雇用制度、雇用政策などは各国により大きく異なっており、新技術導入の雇用への影響が今のところ出ていないのは、長期安定雇用などの日本型の雇用慣行も背景にあると思われる。 しかも、現場に導入されたIoTシステムについては、作業員は少しの教育を受けるだけで習熟するため、雇用問題はほとんど顕在化していない』、「現状は雇用に影響は出ていない」としても、今後はどうなのだろうか。
・『日本企業の導入の動機は「見える化」や現場の負担軽減  日本は、新しいデジタル技術の導入で製造業の現場がどうなっているのか、日本企業はどういう狙いで新技術を導入し、ITと従業員の雇用の問題をどう考えているのか。 筆者は、2016年度初めから、下記の企業の責任者との面談や書面でのインタビューを重ねてきた。 その結果を総括すれば以下の通りだ。 富士通の幹部によると、自社のIoTシステムは、人口減少・少子高齢化により現場の熟練作業員が不足し、高齢化により熟練度が低下していることに対応する狙いだという。 作業員不足の部分を機械が代替する、または多品種少量生産が増え、企業で働く人間への負荷が増しているため、人間を「エンパワー」する、つまり機械に人間を補助させることが目的、と強調した。 三菱電機の幹部は、機械化、自動化、省力化投資が盛んだった1990年代と違って、今は、機械に得意な作業は機械に任せ、人間が優れた作業は人間がやるとの空気があり、「人と機械の調和」と呼ばれていると説明した。 デンソーの幹部は「自社のIoTシステムのコンセプトは、『人が中心』」と強調した。 会社の宝といえる熟練作業員の技能を生かすため、デジタル技術は「見える化」にとどめ、表示内容を見て故障の原因を調べ、対策を考えるのはあくまで人間の役割との考え方である。 日本の代表的なプラットフォームである三菱電機のe-F@ctoryや日立製作所のLumadaのいずれも、同じく「人間中心」という設計思想である。 また新日鉄住金の幹部は「現場から急速に熟練作業員がいなくなっている。投資が回収できるかどうかの問題ではない。背に腹は代えられない」と強調した。 共通するのは、企業の競争力の根源である熟練作業員を大切にしたいという思いだ。 これが今、日本で進行している「日本型デジタル技術の普及方式」といえよう』、「デジタル技術は「見える化」にとどめ、表示内容を見て故障の原因を調べ、対策を考えるのはあくまで人間の役割との考え方である」とのようだが、「故障の原因を調べ、対策を考える」のもAIは得意な筈で、今後そうした方向に進む可能性もあるのではなかろうか。これはもう少し後ろで説明があるようだ。
・『新技術導入で雇用を増やす企業が多い  こうした考え方は、経済産業研究所が、2017年8~10月、日本企業約1万社(1372社が回答、回収率13.6%)に行ったアンケートでも見られる。 この産業界のIoTの動向把握を行うアンケート(平成29年度「我が国の企業のIoTに関する調査」)の調査項目のなかに、「雇用への影響」及び「人材育成」に関する質問項目を含めた。 それによると、新技術導入により雇用者数が「減少した」と回答した企業は、34社であり、「増えた」と回答した企業数は43社である。後者の方が9社多い。 つまり、日本の産業界では、少なくとも現時点では、新しいデジタル技術の導入により、雇用が減少した企業数より、増加した企業数の方が多い。 日本全体ではまず雇用が増えるところからスタートしている。ここには、日本型雇用が深く影響しているものと想像される。 また新しいデジタル技術を導入すると、それを稼働させるための専門技術者、例えば、データエンジニアなどが現場で必要とされる。その傾向は、製造業の現場で顕著である。 アンケートでは、技術者のみならず、彼らを管理する者及び技術者の業務をサポートする事務職についても増加している。 一方、銀行金融業などでの事務部門では、「ルーティン業務の機械化」が継続して進められており、事務職の削減が続いている。 特に最近では、RPA(Robot Process Automation)の導入に熱心である。 それは事務部門のデジタル化よりも製造業の現場のデジタル化の方が、日本企業は熱心に進めているからといえよう』、現在まではその通りなのだろう。
・『いずれはAIに代替される現場の熟練作業員  だが、こうした傾向が今後とも継続するかどうかは、継続的に調査しないとわからない。 製造業の現場でも、AIの活用が今後、本格化するだろう。 「見える化」で表示されたデータを見て、判断をするのは、今は熟練作業員が担っているとしても、過去の前例を「学習」し、表示されたデータを見て、対策を考えるといった前例の延長線上にある作業は、人工知能の最も得意とするところだ。 しかも人工知能は、新しい事例を「学習」して賢くなっていく。 そのため、現在、熟練作業員が担っている作業の多くが、早晩、人工知能に代替されていくと思われる。 実際、ドイツでは、数年後に導入が予想されている人工知能による熟練作業員の代替問題は、労働組合IGメタルの力が強いこともあって、より深刻な課題となっている。 2015年9月、ドイツ・ミュンヘンにあるBCG (Boston Consulting Group in Munchen)は、「Man and Machine in Industry 4.0」を発表した。 それによると、2025年までにドイツ国内で雇用が35万人増加し、2030年までには580万から770万の人員不足数が予想されるという推計だ。 だが、雇用は総数では増えると予想されているものの、その具体的な中身を見ると、二極化している。 +増加する主な職種:データやデザイン関係のエンジニア、研究開発で22万人増 +減少する主な職種:生産や維持管理など現場の作業員で15万人減 ドイツでも、データエンジニアなど高スキルのエンジニアは雇用が増えると予想されているが、現場の作業員は雇用が減ると考えられているのだ。 日本で、ドイツと比べて、問題がより深刻になりそうなのは、人工知能に代替される現場の作業員の行き場が見えないことだ。 日本とドイツの作業員の雇用環境はかなり違う。 日本は企業別労働組合だが、ドイツは、企業の枠を超えて産業別組合のIGメタルにほぼ全員が加入している。 そのため、ある企業で職を失っても、IGメタルのあっせんで他の企業に就職することができる。 また、IGメタルの働きかけもあって、ITのスキルを学んで新たな仕事に就けるよう、全国に整備されている職業訓練学校において新しいカリキュラムが作られつつある。 日本では作業員の訓練は各企業で行われるが、ドイツの職業訓練学校に相当する場所はない。 新しい技術が出現したとき、ドイツではIGメタルも参加して職業訓練学校のカリキュラムを考えるが、日本では作業員の再訓練は、企業の意向次第である』、ドイツのような産業別組合はこうした技術革新には適合しているのかも知れない。企業別労働組合では、残念ながら手も足も出ないようだ。
タグ:格差問題 (その4)(岩本晃一氏「デジタル経済の嘘とホント」:(1)経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった、(2)非正規雇用140万人が7年後に職を失う 日本の格差拡大はこれからだ、(3)IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに、(4)IoTとAIでなくなる仕事と忙しくなる仕事、製造業は二極化が進む) 岩本晃一 ダイヤモンド・オンライン 「経済格差をめぐる誤解、原因は移民や安い輸入品ではなかった 「デジタル経済の嘘とホント」」 トランプ大統領はIT化の「真実」語らず 政治的プロパガンダで移民や中国を「敵」に 格差の原因は情報化投資 雇用・所得の二極化を生み出す ルーティン業務 高学歴ワーキングプア 「誤解」「うのみ」は社会をおかしくする ライフスタイルへの影響が大きいのに社会科学研究の専門家少ない 「技術で勝って商売で負ける」 「非正規雇用140万人が7年後に職を失う、日本の格差拡大はこれからだ「デジタル経済の嘘とホント」(2)」 情報化投資が遅れてきた日本 RPA導入の加速で変化 米国では80年代からルーティン業務の雇用が減少 機械化しても雇用は維持 生産性や競争力の低下招く 日本企業は高スキル者の獲得や養成にほとんど無関心だったように見える AI導入で機械への代替が一気に進む予兆 どれぐらいのスピードで雇用減や格差が広がるか 「IT投資で7年後になくなる仕事、失業者は外国人と職の奪い合いに 「デジタル経済の嘘とホント」(3)」 日本のIT投資は合理化志向 人員削減が一気に進む 米国やドイツの経営者は、IT投資によって、合理化よりも新しいビジネスモデルによる売り上げ増を目指す 日本の経営者は、IT投資で人員削減、コスト削減といった徹底的な合理化を志向する 情報化投資でなくなるのはルーティン業務 OECD試算では1700万人が失業の可能性が「50-70%」 どういう仕事がなくなるか 一般事務や人事経理など 外国人受け入れ拡大で「IT失業者」と職の奪い合いに 外国人労働者を入れるべきではないとは言わないが、少し判断が早すぎたのではないか 「IoTとAIでなくなる仕事と忙しくなる仕事、製造業は二極化が進む 「デジタル経済の嘘とホント」(4)」 経営者がAIに代替を考える「製造業の現場の作業員」 現状は雇用に影響は出ていない 日本型の雇用慣行も背景に 日本企業の導入の動機は「見える化」や現場の負担軽減 新技術導入で雇用を増やす企業が多い いずれはAIに代替される現場の熟練作業員
nice!(1)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感
経済問題 ブログトップ