SSブログ
経済政治動向 ブログトップ
前の10件 | -

日本の構造問題(その28)(受け入れざるを得ない悲しい現実 アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を、円安政策と金融緩和 「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い) [経済政治動向]

日本の構造問題については、本年3月2日に取上げた。今日は、(その28)(受け入れざるを得ない悲しい現実 アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を、円安政策と金融緩和 「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い)である。

先ずは、本年4月17日付けJBPressが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「受け入れざるを得ない悲しい現実、アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/74801
・『コロナ危機を経て、新興国が驚異的な経済成長を実現している。国内では日本のGDPがドイツに抜かされつつあることが話題となっているが、本当の脅威はそこではない。アジアやアフリカなど新興国の成長が本格化することで、大国の概念が大きく変わりつつある。日本は将来、インドネシアにも抜かれ、アジアの小国に転落する可能性が高く、それを前提にした戦略に転換する必要がある』、「日本は将来」、「アジアの小国に転落する可能性が高く」、薄々、予想してきたことではあるが、改めて指摘されるとやはり衝撃的だ。
・『東南アジアが急激に豊かになっている  フィリピン政府は2023年1月、2022年の実質GDP(国内総生産)成長率が前年比でプラス7.6%になったと発表した。この数字は、政府の目標値を上回っており、しかも過去2番目の大きさである。 高成長を実現したのはフィリピンだけではない。同年におけるマレーシアの成長率はプラス8.7%、ベトナムの成長率はプラス8.0%、インドネシアは5.3%と軒並み高い数字が並ぶ。 各国に共通しているのは消費の強さである。これまでアジアの新興国は、米国や日本、韓国の下請けとして工業製品を製造するケースが多く、基本的に輸出に依存していた。だが一連の高成長の原動力となっているのは内需であり、とりわけ個人消費の伸びが大きい。) 東南アジア各国が個人消費によって高成長を実現していることから分かるのは、各国で資本蓄積が進み、国内のインフラが整ったことで、国民生活が豊かになってきたという現実である。 一般的に新興工業国は、輸出とそれを支えるための生産設備への投資で経済を伸ばしていく。かつての中国や日本がそうだったが、GDPに占める設備投資の比率が高く、個人消費はそれほど成長には寄与しない。だが十分に資本蓄積が進んでくると内需の寄与度が大きくなり、本格的な消費社会が到来することになる。 こうした変化が発生するしきい値となるのは、1人あたりGDPで1万ドル前後と言われており、これは多くの文化圏に共通した現象である。1人あたりGDPが1万ドルを超えてくると、当該国は相当程度、豊かな生活を送れるようになり、消費パターンも先進国と似通ってくる。 この法則は過去の日本にも当てはまる。日本の1人あたりGDPが現在価値で1万ドルに達したのは1960年代であり、70年代以降、国内の風景は一変した。筆者は1969年生まれだが、小学校に入学する頃までは街中は汚く、一部では戦後の貧しい時代の雰囲気を色濃く残していた。ところが70年代後半から社会は急速に豊かになり、施設も見違えるように立派になっていった。 現在の中国における1人あたりGDPは1万2500ドルとなっており、しきい値を超えている。中国人の生活は劇的に変化しており、従来の中国とはまったく違う国になったと考えてよい。 ひるがえって東南アジア各国の1人あたりGDPは、マレーシアが1万3000ドル、タイが7600ドルとなっており、マレーシアはすでに中国並みの豊かさを実現し、タイが準先進国入りするのも時間の問題である。 ベトナムは4000ドル、フィリピンは3600ドル、インドネシアは4700ドルなので、1万ドルに到達するまでには少し時間がかかる。だが逆に言えば、1万ドルまでは青天井となる可能性が高く、当分の間、驚異的な成長を実現するだろう』、「十分に資本蓄積が進んでくると内需の寄与度が大きくなり、本格的な消費社会が到来することになる。 こうした変化が発生するしきい値となるのは、1人あたりGDPで1万ドル前後と言われており、これは多くの文化圏に共通した現象である。1人あたりGDPが1万ドルを超えてくると、当該国は相当程度、豊かな生活を送れるようになり、消費パターンも先進国と似通ってくる」、「東南アジア各国の1人あたりGDPは、マレーシアが1万3000ドル、タイが7600ドルとなっており、マレーシアはすでに中国並みの豊かさを実現し、タイが準先進国入りするのも時間の問題である。 ベトナムは4000ドル、フィリピンは3600ドル、インドネシアは4700ドルなので、1万ドルに到達するまでには少し時間がかかる」、なるほど。
・『日本はインドネシアにも抜かされる?  今の議論はあくまでも1人あたりGDP、つまり社会の豊かさに関するものだが、東南アジア各国の脅威はそれだけではない。中国ほどではないにせよ東南アジア各国は人口が多く、GDPの絶対値も大規模になる可能性が高いのだ。 日本の人口は1億2500万人であり、相対的には人口が多い国である。日本が戦後、工業国として成長できた理由のひとつは人口の多さであり、低賃金を武器に大量生産を実現したことで先進国の仲間入りを果たした。ビジネスや外交において規模は重要であり、人口が多いことが強力な武器になるのは今の中国を見れば明らかだろう。) 東南アジアで最も人口が多いのはインドネシアで約2.8億もの人口を抱えている。ベトナムやフィピンもインドネシアほどではないが人口が多く、ベトナムは約1億人、フィリピンは1億1000万人、タイも7000万人なのでかなりのボリュームだ。 多くの人口を抱えた東南アジア各国が今後、急激に成長し、豊かになってくると、中国のような爆買いを行うことは容易に想像できる。中国に加えて東南アジアが爆買いを開始した場合、アジアのビジネス環境が激変するのはほぼ間違いないだろう。 特に脅威となるのがインドネシアである。 インドネシアの1人あたりGDPはまだ5000ドルだが、今後、急激に豊かになり、今のタイやマレーシア並みに成長するのは確実である。3億人近い人口を抱えた国が経済成長すると、GDPの絶対値も大きな数字となる。多くの専門家が今後20年以内にインドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になると予想している。 東南アジアではないが、意外なところではアフリカのナイジェリアもそれに該当する。 同国はまだ貧しい新興国だが、人口は2億を超えた。東南アジアに続いて急成長を実現するのはアフリカ諸国と言われており、そうした新時代においてナイジェリアは大国になる可能性を秘めている』、「多くの人口を抱えた東南アジア各国が今後、急激に成長し、豊かになってくると、中国のような爆買いを行うことは容易に想像できる。中国に加えて東南アジアが爆買いを開始した場合、アジアのビジネス環境が激変するのはほぼ間違いないだろう。 特に脅威となるのがインドネシアである。 インドネシアの1人あたりGDPはまだ5000ドルだが、今後、急激に豊かになり、今のタイやマレーシア並みに成長するのは確実である。3億人近い人口を抱えた国が経済成長すると、GDPの絶対値も大きな数字となる。多くの専門家が今後20年以内にインドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になると予想」、「インドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になる」、確かに「脅威」ではある。
・『日本は小国であるという現実を受け入れよ  これまでの日本は、相応の人口を抱え、GDPの絶対値が大きかったことから、私たちは日本について大国であると認識してきた。だが、一連の現実からも分かるように、豊かさ(1人あたりのGDP)という点ではすでに台湾に抜かれ、韓国に追い付かれるのも時間の問題となっている。GDPの絶対値においても、新興国が驚異的なペースで規模を拡大させており、すでに日本は大国ではなくなりつつある。 日本における最大の貿易相手国は輸出入とも中国となっており、望むと望まざるとにかかわらず、日本は中国を中心とするアジア経済圏に取り込まれつつある。中国の人口は14億、東南アジア全体では7億人近くの人口があり、各国が今後、急激に豊かになるという現実を考えると、アジア経済圏において日本は小国の1つに過ぎない。 繰り返しになるが、外交や軍事力、ビジネスなど、対外的な交渉力や国家覇権という点では、1人あたりのGDPではなく、GDPの絶対値がモノを言う。戦後の国際社会はすべて米国を中心に回ってきたといっても過言ではないが、米国が世界のリーダーとして君臨できたのは、ひとえにその巨大な経済規模のおかげといってよい。 日本は世界最大の経済大国である米国と同盟国であり、かつGDPの規模が米国に次いで2位であった。この絶対値の大きさがあらゆる面でメリットになっていたことは疑いようのない事実であり、残念なことに日本は中国と東南アジアの台頭によって、その両方(「同盟国である米国が突出して大きな経済規模を持っていたこと」と「GDPの絶対値」)を失いつつある。 小国として経済や外交を運営するには、大国とはまったく異なるパラダイムが必要だが、日本人にその準備ができているとは思えない。これまでの価値観をすべてゼロにするくらいの意識改革を行わなければ、次の50年を生き抜くのは極めて難しいだろう』、「これまでの価値観をすべてゼロにするくらいの意識改革を行わなければ、次の50年を生き抜くのは極めて難しいだろう」、いささか寂しいが、同感である。

次に、5月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「円安政策と金融緩和、「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い」を紹介しよう。
・『物価が上っても賃金は上がらない 「賃金停滞」の本当の“犯人”は?  賃金が上がらない。これが、日本経済の最大の問題だ。 日本の賃金は1990年代の中頃からほとんど上がっておらず、それに対して世界の多くの国でこの間に賃金が上昇した。そのため、日本の国際的な地位が著しく低下した。 「日本で賃金上がらないのは、物価が上がらないからだ」と言われてきた。物価が上がれば賃金も上がるとされて、金融緩和が行われた。だが金融緩和は止めどもなく続けられたが、効果は一向に現われなかった。 2022年には金融緩和の結果ではなく、海外発のインフレーションが日本に輸入されたことと円安が進んだために日本の物価上昇率が3%を超えた。しかし、賃金上昇率はそれに追いつかず、実質賃金は下落した。つまり、物価が上昇しても賃金はそれに見合って上がらないということがはっきりした。 では日本の賃金はなぜ上がらないのか?それを変えるには何が必要なのか。「植田日銀の」緩和維持が役に立つのか?。以下は有料だが、今月の閲覧本数残り3本までは無料』、「「賃金停滞」の本当の“犯人”は?」、興味深そうだ。
・『1990年代中頃から続く停滞 60~97年度は18.1倍の“高成長”  まずは法人企業統計調査の長期データを用いて、賃金の停滞問題を考えることにする。ここでは、「金融業、保険業を除く全法人」を対象とする。 図表1に示すように、従業員一人当たりの給与・賞与(以下、「賃金」という)は、1990年代までは大きく伸びた。60年度に21.6万円だったものが、97年度には390.9万円となった。この間に18.1倍に増えたことになる。世界でも稀にみる“高成長”だ。  円安政策と金融緩和、「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い  しかし、97年度をピークに2005年度までは低下した。その後はほぼ横ばいで、21年度には377.6万円となっている。なぜこのような変化が起きたのか』、「円安政策と金融緩和、「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い」、その通りだ。
・『賃金を決める2つの要素 資本装備率と全要素生産性  経済理論によれば、賃金は、「資本装備率」と「全要素生産性」で決まる。 一定の仮定の下で、賃金は、資本装備率の(1-a)乗と、全要素生産性の積に等しいことが導ける。つまり次の関係が成立する。 賃金=(資本装備率)^(1-a)×(全要素生産性) ここで資本装備率とは、従業員一人当たりの有形固定資産額、つまり設備などの保有状況をいう(なお、法人企業統計調査は、これを「労働生産性」と呼んでいる。ここでは、通常の用語法にしたがって、「資本装備率」と呼ぶ。また同調査では1960年度の値が欠如している。そこで、ここでは期末固定資産期末有形固定資産額を従業員数で割ることによって資本装備率を算出した)。 全要素生産性というのは、資本や労働といった量的な生産要素の増加以外の質的な成長要因で、技術進歩や生産の効率化などが該当する。 aは、労働の弾力性だ。従業員数(労働力)が1%増加すれば、付加価値生産がa%だけ増加する。一定の条件の下で、労働分配率はaに等しいことを証明できる。 上式から分かるように、資本装備率が1%増えると、賃金は(1-a)%増加する。aの値は安定的であり、0.4から0.6程度だ』、なるほど。
・資本装備率の停滞も原因だが最大原因は全要素生産性の停滞  図表2に示すように、資本装備率は1990年代までは上昇した。しかし、その後は低下し、2005年頃以降はほとんど一定の値だ。 (図表2 資本装備率の長期的推移 はリンク先参照) 図には示していないが、この間に、従業員数もほぼ不変だ(05年度に4158万人、21年度に4157万人)。したがって、有形固定資産がほぼ一定ということになる。投資と資本減耗(減価償却)とがほぼ等しくなっているのだ。 つまり従業員一人当たりの有形固定資産=資本装備率が変わらないことが賃金停滞の原因の一つになっていることは否定できない。 しかし、90年代までの賃金の上昇は、資本装備率の上昇だけでは説明できない。その理由は次の通りだ。 資本装備率は、60年度の67万円から、97年度の1295万円まで、19.3倍になった。aが0.5だとすると、上式から賃金は4.4倍になるはずだ。しかし、上述のようにこの間に賃金は18.1倍になった。 これは、資本装備率と並んで賃金に影響を与えるもう一つの要因である全要素生産性がこの間に4.1倍になったことを意味する。 (なお、上記の値は、aの値をどのように取るかによって変わる。また、先に挙げた式は、実質値の関係を表しているので、本来は実質賃金のデータを用いるべきだ。しかし、ここで考えているような長期の実質賃金データは得られない。ここでは、資本装備率も名目値なので、名目賃金を用いることの問題は緩和されていると思われる)。 つまり、90年度までの賃金上昇に対して、全要素生産性は資本装備率とほぼ同程度の影響を与えたのだ。全要素生産性が賃金の動向に大きな影響を与えることは、諸外国でも見られる現象だ なぜ90年代以降に設備や研究開発などの投資が鈍ってしまったのだろうか。) 90年代後半の金融危機と混乱が、企業の投資に影響したことは否定できない。しかし、2000年代になってからも資本装備率低迷の状況が変わらず、継続してしまったことが重要だ。 これには理由がある』、「投資と資本減耗(減価償却)とがほぼ等しくなっているのだ。 つまり従業員一人当たりの有形固定資産=資本装備率が変わらないことが賃金停滞の原因の一つになっていることは否定できない」、過小設備投資は企業経営者の保守的姿勢を示している。
・『「円安政策」が企業の活力を削いだ金融緩和と相まって成長メカニズム破壊  全要素生産性は「技術進歩」と呼ばれることもあるが、狭い意味での技術進歩だけでなく、新しいビジネスモデルの開発や産業構造の変化をも含む概念だ。 1990年度までは非常に高い値であり、高度成長の最も重要な要因の一つだった。それが90年代以降停滞してしまったのだ。なぜ停滞したのか?その大きな原因は、「円安政策」だったと考えられる。 改革開放政策で工業化を進め急速に台頭した中国に対抗するために、政府や企業は円安に頼った。ドルで評価した日本人の賃金を低くした。つまり安売り戦略をとったのだ。 円安になれば、企業の利益は自動的に増える。技術開発したり、ビジネスモデルを考案したりする必要はない。そして、産業構造の変化に伴うさまざまな摩擦現象も回避できる。 このために全要素生産性の伸びが止まり、そして賃金の伸びも止まってしまったのだ。 「円安政策」は2000年代頃から始まり、アベノミクス以降の10年間さらに強化された。金融緩和と円安によって成長のための基本的なメカニズムは破壊されてしまったのだ。 日本の産業構造は、2000年ごろから基本的には変わらない。変わったのは、それまで日本の主力産業だった電機産業が凋落したことくらいだ。新しい産業が登場したり、新しい技術が開発されたり、新しいビジネスモデルが使われたりするような変化はなかった』、「全要素生産性は「技術進歩」と呼ばれることもあるが、狭い意味での技術進歩だけでなく、新しいビジネスモデルの開発や産業構造の変化をも含む概念だ」、「それが90年代以降停滞してしまったのだ。なぜ停滞したのか?その大きな原因は、「円安政策」だった」、「改革開放政策で工業化を進め急速に台頭した中国に対抗するために、政府や企業は円安に頼った。ドルで評価した日本人の賃金を低くした。つまり安売り戦略をとったのだ。 円安になれば、企業の利益は自動的に増える。技術開発したり、ビジネスモデルを考案したりする必要はない。そして、産業構造の変化に伴うさまざまな摩擦現象も回避できる。 このために全要素生産性の伸びが止まり、そして賃金の伸びも止まってしまったのだ」、アベノミクスという安易な「円安政策」の罪は深い。
・『再生には、企業や産業の新陳代謝 労働力の自由な移動進める政策を  進歩する世界の中で変化することを止めれば、凋落するのは当然だ。この意味で、日本の衰退は経済政策によってもたらされたものだ。金融緩和を続けても賃金は上がらない。 日本経済を再生させるには、経済の構造が変わらなければならない。そのためには、新しい企業が登場して産業の新陳代謝が起こり、人々が一つの企業に固定化されるのでなく、企業間を自由に移動できる仕組みが構築されることが必要だ。 いま求められているのは、そのような方向に向けて経済政策の基本的なあり方を変えることだ』、「日本経済を再生させるには、経済の構造が変わらなければならない。そのためには、新しい企業が登場して産業の新陳代謝が起こり、人々が一つの企業に固定化されるのでなく、企業間を自由に移動できる仕組みが構築されることが必要だ。 いま求められているのは、そのような方向に向けて経済政策の基本的なあり方を変えることだ」、同感である。
タグ:(その28)(受け入れざるを得ない悲しい現実 アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を、円安政策と金融緩和 「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い) 日本の構造問題 JBPRESS 加谷 珪一氏による「受け入れざるを得ない悲しい現実、アジアの中でも「小国」に転落する日本 インドネシアにも抜かされる?日本は抜本的な意識の転換を」 「日本は将来」、「アジアの小国に転落する可能性が高く」、薄々、予想してきたことではあるが、改めて指摘されるとやはり衝撃的だ。 「十分に資本蓄積が進んでくると内需の寄与度が大きくなり、本格的な消費社会が到来することになる。 こうした変化が発生するしきい値となるのは、1人あたりGDPで1万ドル前後と言われており、これは多くの文化圏に共通した現象である。1人あたりGDPが1万ドルを超えてくると、当該国は相当程度、豊かな生活を送れるようになり、消費パターンも先進国と似通ってくる」、 「東南アジア各国の1人あたりGDPは、マレーシアが1万3000ドル、タイが7600ドルとなっており、マレーシアはすでに中国並みの豊かさを実現し、タイが準先進国入りするのも時間の問題である。 ベトナムは4000ドル、フィリピンは3600ドル、インドネシアは4700ドルなので、1万ドルに到達するまでには少し時間がかかる」、なるほど。 「多くの人口を抱えた東南アジア各国が今後、急激に成長し、豊かになってくると、中国のような爆買いを行うことは容易に想像できる。中国に加えて東南アジアが爆買いを開始した場合、アジアのビジネス環境が激変するのはほぼ間違いないだろう。 特に脅威となるのがインドネシアである。 インドネシアの1人あたりGDPはまだ5000ドルだが、今後、急激に豊かになり、今のタイやマレーシア並みに成長するのは確実である。 3億人近い人口を抱えた国が経済成長すると、GDPの絶対値も大きな数字となる。多くの専門家が今後20年以内にインドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になると予想」、「インドネシアのGDPは日本を抜き、世界で5本の指に入る経済大国になる」、確かに「脅威」ではある。 「これまでの価値観をすべてゼロにするくらいの意識改革を行わなければ、次の50年を生き抜くのは極めて難しいだろう」、いささか寂しいが、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「円安政策と金融緩和、「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い」 「「賃金停滞」の本当の“犯人”は?」、興味深そうだ。 「円安政策と金融緩和、「賃金停滞」をもたらした経済政策の罪は重い」、その通りだ。 「投資と資本減耗(減価償却)とがほぼ等しくなっているのだ。 つまり従業員一人当たりの有形固定資産=資本装備率が変わらないことが賃金停滞の原因の一つになっていることは否定できない」、過小設備投資は企業経営者の保守的姿勢を示している。 「全要素生産性は「技術進歩」と呼ばれることもあるが、狭い意味での技術進歩だけでなく、新しいビジネスモデルの開発や産業構造の変化をも含む概念だ」、「それが90年代以降停滞してしまったのだ。なぜ停滞したのか?その大きな原因は、「円安政策」だった」、 「改革開放政策で工業化を進め急速に台頭した中国に対抗するために、政府や企業は円安に頼った。ドルで評価した日本人の賃金を低くした。つまり安売り戦略をとったのだ。 円安になれば、企業の利益は自動的に増える。技術開発したり、ビジネスモデルを考案したりする必要はない。そして、産業構造の変化に伴うさまざまな摩擦現象も回避できる。 このために全要素生産性の伸びが止まり、そして賃金の伸びも止まってしまったのだ」、アベノミクスという安易な「円安政策」の罪は深い。 「日本経済を再生させるには、経済の構造が変わらなければならない。そのためには、新しい企業が登場して産業の新陳代謝が起こり、人々が一つの企業に固定化されるのでなく、企業間を自由に移動できる仕組みが構築されることが必要だ。 いま求められているのは、そのような方向に向けて経済政策の基本的なあり方を変えることだ」、同感である。
nice!(0)  コメント(0) 

日本の構造問題(その27)(終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)、これが日本衰退の根本原因、なぜ博士号取得は経済的に割りにあわない それは日本企業がイノベーションしないから、日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実”) [経済政治動向]

日本の構造問題については、昨年5月27日に取上げた。今日は、(その27)(終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)、これが日本衰退の根本原因、なぜ博士号取得は経済的に割りにあわない それは日本企業がイノベーションしないから、日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実”)である。

先ずは、昨年6月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニューヨーク在住ジャーナリストの肥田美佐子氏による「終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304675
・『ベストセラー『競争優位の終焉』の著者で、NYのコロンビア大学ビジネススクール教授であるリタ・マグレイス氏。「世界の経営思想家トップ50」の常連であり、2021年にはトップ2に選ばれた。競争優位とイノベーションの権威である同教授は、日本企業をどう見ているのか? 日本企業がポストコロナ時代を乗り切るには? パーパスやESG、従業員のウェルビーイングに無頓着な企業の末路は? リスクをチャンスに変える企業の特徴は? 落ち着いた口調と冷静な分析が印象的な経営学者、マグレイス氏が日本企業のリスクと強みを語る。 >>前回の続き』、興味深そうだ。
・『ダイバーシティが欠如する企業は 現地市場の顧客のニーズを理解しにくい  Q:(前編から)大きな変化が到来する「変曲点」を事前に見いだせるかどうかで企業の命運が決まる、ということですが、教授の目から見て、存続が危ぶまれる日本企業はありますか? リタ・マグレイス(以下、マグレイス) 日本の金融システムに照らしてみると、企業は、自社の意思決定が引き起こす最悪の結果から守られることが多いように見えます。 とはいえ、日本企業は大きな問題を抱えています。それは、スピードが非常に重要な時代にあって、(意思決定などの)動きが遅いことです。 また、意思決定グループにダイバーシティ(多様性)がない点も、最も大きな問題の1つです。日本企業では、依然として、女性や日本文化に属していないアウトサイダーが発言権を持つのは至難の業でしょう? 意思決定者が日本人男性ばかりでは、例えば中南米やアフリカで製品を売ろうと思っても、まったくお門違いの品ぞろえになってしまいます。ダイバーシティの欠如により、多くの日本企業は、海外市場において現地の顧客のニーズを理解しにくいという、多大なリスクを抱えています。 一方、日本企業には強みもあります』、「日本企業は大きな問題を抱えています。それは、スピードが非常に重要な時代にあって、(意思決定などの)動きが遅いことです。 また、意思決定グループにダイバーシティ(多様性)がない点も、最も大きな問題の1つです」、的確な診断だ。
・『日本が誇る「クオリティ」は他国に追い付かれつつある  意思決定に時間がかかる分、計画が熟考され周到に練られているため、いざ実行の段階になると、素晴らしい手腕を発揮します。日本企業にはもう希望がない、などとは決して思いません。 Q:『フォーブスジャパン』2015年5月号でインタビューした際、教授は日本企業について、コンセンサスの形成や質の高い製品・サービス、仕事の正確さといった、大きな長所があると称賛しました。一方で、そうした強みは遂行に時間を要するものばかりだと指摘しています。変化の速度が加速する中、それこそが「日本企業のジレンマ」だと。 また、日本企業には「イノベーション」への障壁が多すぎると分析。ベテランの男性社員が恩恵を受ける終身雇用制度や、厳格なヒエラルキーは、女性の進出にとってマイナスだ、という指摘もしています。現在も、日本企業に関する教授の分析は変わりませんか? マグレイス そうした日本企業の構造は、ちょっとやそっとでは変わらないと思います。変わるとしても、ごくゆっくりとしたペースでしょう。 一方、日本市場は依然として大規模であり、国内市場ではうまくやっています。その点で、日本企業にもまだ優位性があるのは間違いありません。ただ、日本は、かつて世界の企業を圧倒していた「クオリティー」の点で、他国に追い付かれつつあります。 その意味で、日本企業は、次に競争優位を築ける領域を探さなければなりません。 Q:イノベーションには、平均して数年~7年を要するといわれています。従業員の勤続年数が短い米国企業と違い、長期勤続が前提の日本企業は、従業員が腰を落ち着けてイノベーションに取り組めるという点で有利でしょうか? マグレイス そう思います。終身雇用制度は、柔軟性の欠如や従業員がリスクを取ろうとしないことなど、多くの問題がある一方で、長い年月をかけて知識や能力を高めることができるという良い面もあります。会社から会社へと転職していては、そうしたことは困難です。 ただ、終身雇用制度には、同制度特有のヒエラルキーに従わなければならないという、イノベーションの阻害要因があります。そのため、変化を起こしにくいのです。 Q:大企業の終身雇用制度には、イノベーションにとってマイナスな、硬直性や惰性・怠惰を招くリスクもあります。 マグレイス 別に意地悪な見方をしているわけではありませんが、終身雇用制度の下では、チーム内のメンバーに失礼な言い方をしたり、本当の意味で信頼に足る行動を取ったりといったことを避けがちです。そうした行動を取らないことで、初めてチームの一員として歓迎される、という恩恵を得られるからです。 社内で悪いニュースを察知しても見て見ぬふりをする傾向があり、嘘をついているとまでは言いませんが、真実を言わないことに対し、おとがめも受けません。「社内の人間関係と調和」が重視されるからです。 ずっと同じ会社でやっていかなければならないため、ことのほかこうした社内政治への気配りが、(出世などの点で)大きな利点につながってしまうんですね。 同じ会社で何十年も勤め上げるということには、悲しいかな、そうした側面があります。従業員は、会社という「社会」に適応することにひたすら心を砕くのです。1社で生涯やっていくには、気難しい人だと思われたり、何かと反論してくる人だと思われたり、不愉快な人だと煙たがられたりしたら、まずいからです。 その結果、何が起こるのか? 自分のキャリアに枠がはめられ、できることが限られ、誠実な言動も、お互いに異を唱え合うこともままならず、常に「イエス」を繰り返すばかりの仕事人生になりがちです。危険人物だと見なされないように、です』、「社内で悪いニュースを察知しても見て見ぬふりをする傾向があり、嘘をついているとまでは言いませんが、真実を言わないことに対し、おとがめも受けません。「社内の人間関係と調和」が重視されるからです。 ずっと同じ会社でやっていかなければならないため、ことのほかこうした社内政治への気配りが、・・・大きな利点につながってしまうんですね」。その通りだ。
・『EVによる「アーキテクチャの変更」で日系グローバル企業の優位性が危ぶまれる恐れ  Q:現在も世界の市場で大きな成功を収めている唯一の主要日系グローバル企業、トヨタ自動車でさえ、「電気自動車(EV)時代を生き残れるのか? 」という声も聞かれます。 マグレイス トヨタが膨大なリソースと極めて有能な人材を抱えていることを考えると、大丈夫だとは思いますが、今後、テクノロジーで後れを取れば、どのような事態も起こり得ます。 というのも、EVは「アーキテクチャの変更」と言われる抜本的な構造変化をもたらしたからです。 例えば、ガソリン車などに比べ、メンテナンスが楽になりました。その結果、トヨタが長年誇ってきた自動車のクオリティーという大きな優位性が損なわれる可能性があります。 これまでは、車のクオリティが低いと、予想外の修理やメンテナンスにお金がかかりましたが、EVは部品の数自体が少ないため、従来の車ほどメンテナンスにコストがかかりません。ひとたびEVが自動車市場で主役を占めるようになったら、内燃エンジン車が主流だった時代に比べ、市場全体で修理の必要性が大幅に減るとみられています。 つまり、「うちの車を買えば、修理は不要ですよ」という、トヨタの売りや優位性がなくなる恐れがあります。それを避けるためには、テクノロジーへの投資が必須です。トヨタのことですから、すでに注力していると思いますが。 Q:日本企業がポストコロナ時代を乗り切るには、どうすればいいでしょうか? マグレイス もっとも重要なことは、企業のリーダーがどのようなアジェンダ(課題/計画)を持っているかです。 イノベーションや自社の成長、変革をアジェンダのトップに掲げることなく、「何でも自分で解決しなければ」というマインドセット(考え方)で日常の短期的な業務に忙殺されているようでは、リーダーとして有用な仕事をしているとは言えません。 重要なアジェンダに十分な時間を割くことができず、「未来」のために必要な投資を怠ることになるからです。 Q:リスクをチャンスに変える企業の特徴は? マグレイス 積極的に小さなリスクを取ろうとすることです。「答えは見えないが、小さな実験を重ね、そこから価値を見いだし、それをフルに生かそう」とする姿勢が大切です。小さなリスクを取って、そこから何かを学ぼうとする企業が成功を手にできます。 実験が失敗に終わり、思うような結果が得られなくても、その失敗が会社にとって許容範囲内で済むような、小さな実験を重ねることです。 成功している企業は最初から大きなリスクを取っていると考えがちですが、実際は違います。小さなリスクを数多く取って、実験やイノベーションを重ねることで成功をつかんだあと、大きなリスクを取ろうという決断に至るのです。 Q:小さなリスクを取って成功した企業の具体例を教えてください。 マグレイス 例えば、ブラインド販売専門の米EC(電子商取引)企業、Blinds.comが好例です(注:1996年創業のブラインズ・ドット・コムはテキサス州ヒューストンが本社で、もともとはカスタムメイドのブラインドを販売するスタートアップ系通販企業だったが、世界最大のブラインドEC企業に成長。米ホームセンター最大手のホーム・デポへ売却した)。 創業者で最高経営責任者(CEO)だったジェイ・スタインフェルド氏が折に触れて話していますが、彼はむしろリスク回避型で、小さな実験をたくさん行ったそうです。 「大きなリスクを取るタイプではない。大きな意思決定を迫られるような段階に至るまでには、数多くの小さなリスクを取るという経験を積んでいた」と。 スタインフェルド氏の新刊『Lead from the Core: The 4 Principles for Profit and Prosperity』(『基本理念にのっとって会社を率いる――利益と繁栄の4原則』未邦訳)にもあるように、彼はクレイジーで大きなリスクは取らず、用意周到に準備し、小さなリスクをいくつも取ったそうです』、「彼はクレイジーで大きなリスクは取らず、用意周到に準備し、小さなリスクをいくつも取ったそうです」、上手いやり方だ。
・『利益一辺倒の組織はもはや生き残れない  Q:脱炭素戦略や気候変動への取り組みなど、企業のパーパス(存在意義)が重視されるようになりました。消費者を含めたステークホルダー(利害関係者)が企業にパーパスを求める中、利益一辺倒の組織は、もはや生き残れない時代になるのでしょうか? マグレイス そう思います。例えば、インスリン製剤を扱う米製薬会社は、企業の強欲が常軌を逸してしまった典型的な例です。(医療保険に入っていても)薬価の自己負担額が高すぎ、インスリンを買えず、(糖尿病患者などが)命を落とすケースも出ています。 その一方で、製薬会社は自社株を買い戻して株価を上げ、株主に大きな便益を図っています。もはや、非倫理的なボーダーラインを越えてしまっているのです。そうした企業は今後、人材の獲得やフランチャイズ事業の維持などに苦労することになるでしょう。 Q:パンデミックで社会や人々の価値観が急速に変わる中、最優良企業でさえ、パーパスや企業倫理、ESG(環境・社会・ガバナンス)、従業員のウェルビーイング(幸福/心身の健康)などに無頓着だと、今後は衰退の一途をたどることになるのでしょうか? マグレイス そうですね。企業は、社会に対して筋の通った行いをすることを前提に、事業を許可されているのですから、その基準にかなわない企業は衰退を余儀なくされます。 例えば、米国の電子たばこ会社は未成年の若年層をターゲットに大いにもうけるつもりでしたが、米政府が規制し、基本的に高収益を上げる道が閉ざされてしまいました。(社会問題化している)麻薬性鎮痛剤オピオイドの蔓延(まんえん)を引き起こした米製薬会社も同じです。 これらは、社会に有害な企業の行動を示す極端な例ですが、人々が耐えられないようなコストを課すような企業は、衰退の一途をたどるしかありません。 インタビューの前編「『絶滅する組織』と『生き残る組織』の違い、世界トップ2に選出された経営学者が徹底解説!」も、ぜひご覧ください』、「社会に有害な企業の行動を示す極端な例ですが、人々が耐えられないようなコストを課すような企業は、衰退の一途をたどるしかありません」、その通りだ。

次に、本年2月26日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「これが日本衰退の根本原因、なぜ博士号取得は経済的に割りにあわない それは日本企業がイノベーションしないから」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/106507?imp=0
・『日本で博士号取得者が少ないのは、経済的に割りにあわないからだ。それは、日本企業がイノベーションを進めようとせず、高度専門家に十分な給与を払わないからだ』、興味深そうだ。
・『日本では学位取得者が少なく、論文数も減っている  日本の博士号取得者数を人口100万人当たりで見ると、2019年度で120人。これは、他の先進国と比べると、だいぶ少ない(文部科学省 科学技術・学術政策研究所「 科学技術指標2022。学位取得者の国際比較」による)。 最も多いのはドイツで315人、つぎにイギリスが313人。 2008年度からの推移を見ると、日本は減少しているのに対して、フランス、ドイツを除く国は増加している。伸び率が高いのは、韓国、アメリカ、イギリスだ。中国も、伸び率は高い。 この結果、日本発の論文が少なくなっている。 「科学技術指標2022」によると、「Top1%補正論文数」(他の論文に多く引用され注目度が高い論文)で、日本は10位で過去最低となった。1位は中国、2位がアメリカだ。イタリア、フランス、インドも日本より上位にある。 学位取得者数や論文数は、未来における競争力を決める基本的な要因だ。それが上に見たような状態では、日本がこれからどうなってしまうのか、大いに心配だ』、「Top1%補正論文数」で、「日本は10位で過去最低」、「学位取得者数や論文数は、未来における競争力を決める基本的な要因だ。それが上に見たような状態では、日本がこれからどうなってしまうのか、大いに心配だ」、その通りだ。
・『博士号取得者は薄給  日本で博士号取得者が少ない基本的な理由は、博士号を取得しても、収入が増えないことだ。苦労して取得しても、それに見合うリターンが得られないのだ。 博士課程取得者の年収分布を見ると、400万~500万円が約14%と最も多くなっている(男性では400万〜500万円が約14%、女性は300万~400万円が約14%:科学技術・学術政策研究所の「博士人材追跡調査 第4次報告書」2020年実施 )。決して満足できる水準ではない。 しかも雇用は安定的とは言えない。工学や保健では正規雇用の割合が多数であるものの、人文系では正規雇用は41%でしかない。 賃金構造基本統計調査(2021年)によると、大学院卒の月収は、年齢計では45.4万円で、大学卒の36.0万円より9.4万円多い。しかし、25〜29歳で比べると、27.9万円と26.1万円であり、ほとんど変わりがない。つまり、学位を取っても、月収が2万円弱しか増えない。 学位を取るために必要な費用や、その間に放棄した労働所得を考慮すれば、あきらかに採算にあわない』、「人文系では正規雇用は41%でしかない」、「大学院卒の月収は、年齢計では45.4万円で、大学卒の36.0万円より9.4万円多い。しかし、25〜29歳で比べると、27.9万円と26.1万円であり、ほとんど変わりがない」、「25〜29歳」では殆ど差がなくても、その後では「9.4万円」の差があるとも言える。
・『政府は「出世払い奨学金」を導入するが……  こうした事態に対応するため、政府は「出世払い型の大学奨学金」を導入する計画だ。在学中は授業料を徴収せず、卒業後の所得に応じて支払う。 2024年度の開始に向けて、文部科学省の有識者会議が制度設計を進めている。大学院生を対象とし、学部生への拡大も検討する。 奨学金は確かに重要だ。しかし、在学中はそれで生活できたとしても、就職したあとの収入が十分でなければ、返却できない。だから、出世払い奨学金を導入しても、博士課程への進学率が上昇するどうか、大いに疑問だ。 日本で博士号取得者が少ない基本的理由は、日本企業が高度人材を評価しないことなのである。 企業が高度専門人材を使って新しいビジネスを展開し、高度専門家に高い給与を支払うようにならなければ、事態が大きく変わるとは思えない』、「奨学金は確かに重要だ。しかし、在学中はそれで生活できたとしても、就職したあとの収入が十分でなければ、返却できない。だから、出世払い奨学金を導入しても、博士課程への進学率が上昇するどうか、大いに疑問だ」、その通りだ。
・『日本企業のイノベーション能力は低い  では、日本企業のイノベーション能力は、どの程度の水準か? イノベーションに関する能力の指標として、「グローバル・イノベーション・インデックス (GII)」がある。これは、国連の専門機関の1つである世界知的所有権機関(WIPO)が、米コーネル大学とフランスの経営大学院インシアード(INSEAD)と共同で2007年から発表しているものだ。国の制度や人的資本、インフラ、市場やビジネスの洗練度、テクノロジーに関するデータを基に、各国のイノベーション能力や成果を評価する。 日本の順位は、2007年には4位だった。しかし、その後低下を続け、2012年に25位にまで落ちた。その後徐々に回復したが、2018年から再び低下傾向にある。2022年には、2021年と同様の13位となった。決して満足できる水準ではない。 2022年で世界の上位にあるのは、スイス、アメリカ、スウェーデン、イギリス、オランダだ。アジアでは韓国(6位)、シンガポール(7位)、中国(11位)が日本より上位にある。 日本の評価が低いのは、「創造的な生産部門」だ。具体的には、文化的・創造的サービスの輸出に占める割合や、創造的な商品の輸出に占める割合、オンライン化アプリ製作の国内総生産(GDP)に占める割合などの順位が低い。 日本では自動車や機械など伝統的な産業の生産・輸出がまだ大きな割合を占めており、新しい産業の占めるシェアが低いのだ。 世界の研究開発支出の上位企業では、2021年に研究開発への支出額が10%近く増加して9000億ドルを超え、2019年の水準を上回った。これを牽引したのは、情報通信技術 (ICT) ハードウェア・電子機器、ソフトウェア・ICTサービス、医薬品・バイオテクノロジー、建設・工業用金属だった。 日本はとくにソフトウェア・ICTサービスで立ち後れている。 世界銀行の資料によると、輸出に占めるハイテク製品の比率は、日本は19%でしかないが、韓国では36%にもなる(2020年)。 これは日本の輸出が自動車に偏っているからだ。自動車は、ハイテク製品とはいえないのである』、「グローバル・イノベーション・インデックス (GII)」は、「2007年には4位だった。しかし、その後低下を続け、2012年に25位にまで落ちた。その後徐々に回復したが、2018年から再び低下傾向にある。2022年には、2021年と同様の13位」、「輸出に占めるハイテク製品の比率は、日本は19%でしかないが、韓国では36%にもなる(2020年)。 これは日本の輸出が自動車に偏っているからだ」、「輸出に占めるハイテク製品の比率は、日本は19%」、予想外に低いようだ。
・『GA+Mの時価総額計は東証プライムのそれを超える  日本の高度経済成長は、先進国へのキャッチアップの過程だった。そこでは、自ら技術を開発する必要がなかった。先進国で成功している技術とビジネスモデルをそのまま真似ればよかったのだ、 しかし、21世紀になって急速に発展しているのは、「データ資本主義」とも呼べるものだ。 その典型が、アメリカのGAFA+Mと呼ばれる企業群だ。 ここでは、アイディアが途方もない経済価値を生み出している。 時価総額で見ると、グーグル1社だけで1.4兆ドルだ(2023 年2月)。1ドル=130円で換算すれば、182兆円。これだけで、東証プライム時価総額676兆円(2022年12月末)の27%になる。 グーグルの他にアップル(時価総額2.4兆ドル)とマイクロソフト(2.0兆ドル)を加えれば、5.8兆ドル(754兆円)となり、東証プライム時価総額を超えてしまう。 こうなるのは、日本企業は、新しい資本主義に対応できないからだ。そのため、高度専門家に十分な給与を払えない。そのため高度専門家が育たない。日本はこの意味で、深刻な悪循環に陥っている。 これを断ち切るにはどうしたらよいのか? デジタル田園都市構想のような政策で解決がつく問題ではない。リスキリングのために補助金を出しても変わらない。 台湾の先端半導体企業を日本に招くために多額の補助金を出したところで、何も変わらない。 補助金も円安も低金利も、新しいビジネスモデルの創出には貢献しない。むしろ安易に利益が上がるために、イノベーションのインセンティブをそぐことになる。過去20年間の円安政策がもたらしたのは、まさにこのことだ。 日本企業のビジネスモデルが根底から変わらなければならない。 「新しい資本主義」が目指すべきは、まさにそのことなのだが、岸田政権は、それを実現出来るだろうか?』、「補助金も円安も低金利も、新しいビジネスモデルの創出には貢献しない。むしろ安易に利益が上がるために、イノベーションのインセンティブをそぐことになる。過去20年間の円安政策がもたらしたのは、まさにこのことだ」、「「新しい資本主義」が目指すべきは、まさにそのことなのだが、岸田政権は、それを実現出来るだろうか?」、その正解からますます逸れているようだ。

第三に、3月1日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実”」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/106829?imp=0
・『国内でも物価上昇が顕著となっていることから、賃上げへの社会的関心が高まっている。政府は企業に対して物価上昇率を超える賃上げを行うよう要請しているが、これに応えられる企業は多くない。賃金は基本的に生産性に比例するものであり、特に大企業の経営が変わらなければ賃金は上昇しない』、興味深そうだ。
・『経済と企業活動の関係  総務省が発表した2023年1月の消費者物価指数は4.2%という歴史的な水準となった。政府は何度も経済界に対して積極的な賃上げを要請しており、経済界側もある程度応じる姿勢を示しているものの、賃上げの原資を捻出できないところは多い。 現在、進んでいる物価上昇は、原油価格や円安による影響が大きいので、年後半には多少落ち着く可能性も見えているが、インフレ傾向そのものは長期継続する可能性が高い。日本人の生活水準をこれ以上、低下させないためには、継続的に企業の生産性を向上させる社会的・経済的枠組みの構築が不可欠である。 企業の生産性を向上させる方法はシンプルに言ってしまうと2つしかない。ひとつは、企業が生み出す付加価値を増やすというやり方。もうひとつは労働力を削減するというやり方である。 労働力の削減にはIT化の促進が最も効果的であり、ITの導入による省力化を進めることで、同じ業務をより少ない人数で実施できるようになる。余剰となった人材は、営業力の強化や新規事業にシフトすることで、全体の付加価値向上が期待できる。 一方、企業の付加価値は、経営戦略を変えなければ大きく増やすことはできない。 薄利多売を中心とした従来のビジネスモデルを改め、製品戦略や価格設定を見直すことで、より高い付加価値(粗利)を獲得する必要がある。IT化についてもトップが明確なビジョンを持って決断を下さなければ、効果的な導入は不可能であり、結局のところすべては経営の問題に行き着くことになる。 加えて言うと、日本の場合、労働者の7割が中小企業に勤務しており、多くの中小企業が大企業の下請けなど従属的関係にある。大企業が取引先である中小企業の値上げ要請を受け入れなければ、日本全体の賃上げは実現しないので、結局のところ大企業の経営がすべてのカギを握る。) 賃上げが難しいという経営者は決まって、低迷する日本経済を理由にあげるが、これは順序が逆である。企業活動が活発になり、賃金が上がって労働者の消費が拡大することで、結果的に経済全体も成長するのであって、経済が先にあって、その結果として企業の業績が決まるわけではない。政府の財政支援はあくまで側面支援であり、経済を決定付けるのはあくまで民間の経済活動である』、「賃上げが難しいという経営者は決まって、低迷する日本経済を理由にあげるが、これは順序が逆である。企業活動が活発になり、賃金が上がって労働者の消費が拡大することで、結果的に経済全体も成長するのであって、経済が先にあって、その結果として企業の業績が決まるわけではない」、その通りだ。
・『賃金が上がらないのは「経営の問題」  家具メーカー・ニトリの似鳥昭雄会長の発言は、こうした経済のイロハを端的に示している。似鳥氏は雑誌のインタビューにおいて、「日本経済が停滞しているのは労働生産性が低いからではないでしょうか。その原因は経営陣が同じことばかりやるからのように思います。」と、経済や賃金の低迷はズバリ、日本企業の経営に問題があると指摘している。 続いて似鳥氏は、「改革ができないのであればどんどん組織を変えるべき。」「社長の重要な仕事の一つは、自分の給料を減らしてでも優れた人を高給で引き抜くことです」とも述べている。 似鳥氏は、ソフトバンクの孫正義会長や、最大で4割という他社を圧倒する賃上げを実現したファーストリテイリングの柳井正会長らと同様、企業の創業者でもある。サラリーマンから経営者に昇格した人材とはそもそものレベルが違うので、一般的な上場企業経営者と、ある種の天才である似鳥氏ら創業経営者を比較するのは酷であるとの意見もあるだろう。 だが、こうした天才経営者の考え方を一般化するためにこそ経営学が存在しており、すべての経営者が似鳥氏や柳井氏のような経営はできないにしても、それに近い意思決定をすることは可能なはずである。) 諸外国でも創業経営者とそうでない経営者に力量の差があることは認識されているが、方法論の一般化によって、相応の水準が担保されている。その点からすると、現状の日本の大企業経営者の水準は、諸外国と比較してまだ十分な水準とは言い難い。 つまり日本人の賃金が上昇していないのは、経営に問題があり、社会全体として経営レベルを上げていく環境整備が必要であることを似鳥氏の発言は物語っている』、「日本人の賃金が上昇していないのは、経営に問題があり、社会全体として経営レベルを上げていく環境整備が必要である」、なるほど。
・『欧州型の改革と米国型の改革  企業の経営改革を外部から促すということになると、コーポレート・ガバナンス改革というキーワードがまず頭に浮かぶ。ガバナンス改革はうまく実施すれば劇的な効果を企業にもたらし、業績の拡大と賃金の上昇を同時に実現できる。問題はガバナンス改革を実施する具体的な手法だが、これには大きく分けて二つの方向性がある。 ひとつは市場における株主からの圧力で業績を拡大させるという米国型ガバナンス、もうひとつは法律や行政面での指導によって企業改革を促していく欧州型ガバナンスである。 かつて小泉改革の時代には、米国型のアプローチが模索され、市場からの圧力によって経営を改革する試みが行われた。だが、結果は非正規労働者を増やすなど、目先のコストカットだけに終わってしまい、本質的な経営改革に結びつかなかった。資本市場が十分に発達していないという日本経済の現状も考え併せると、米国型ガバナンスの実現は難しいだろう。そうなると法律などを通じて企業改革を促す欧州型の方が日本の土壌に合っているように思われる。 ドイツでは1990年代以降、雇用の流動化を進めると同時に、労働者の再教育プログラムを充実させるなど、企業活動を活性化させる環境整備を行ってきた(いわゆるシュレーダー改革)。だがドイツは同時並行で、企業の経営者に対してより高い社会的責務を課すというガバナンス改革も推進している。) ドイツでは債務超過を一定期間放置した経営者に罰則が適用されるなど、経営者の甘えを許さない社会が出来上がっている。フランスはもともと社会主義的体質の濃い国家であり、企業の国有化が積極的に進められてきた。このため、政府は議決権の行使を通じて企業経営に関与できる。 日本には日本に合ったやり方があるので、フランス式、ドイツ式をそのまま導入する必要はないだろうが、現実に日本企業の大株主は公的年金となっている。また、金融庁はこれまで何度も大規模なガバナンス改革について検討を進めており、何らかの形で社会が企業経営に関与する土壌は整っている。一連の枠組みを強化し、業績拡大と賃上げの両方を実現できる優秀な経営者をトップに据える努力が必要だろう』、「小泉改革の時代には、米国型のアプローチが模索され、市場からの圧力によって経営を改革する試みが行われた。だが、結果は非正規労働者を増やすなど、目先のコストカットだけに終わってしまい、本質的な経営改革に結びつかなかった」、「ドイツでは1990年代以降、雇用の流動化を進めると同時に、労働者の再教育プログラムを充実させるなど、企業活動を活性化させる環境整備を行ってきた・・・だがドイツは同時並行で、企業の経営者に対してより高い社会的責務を課すというガバナンス改革も推進している。 ドイツでは債務超過を一定期間放置した経営者に罰則が適用されるなど、経営者の甘えを許さない社会が出来上がっている。フランスはもともと社会主義的体質の濃い国家であり、企業の国有化が積極的に進められてきた。このため、政府は議決権の行使を通じて企業経営に関与できる」、「日本には日本に合ったやり方があるので、フランス式、ドイツ式をそのまま導入する必要はないだろうが・・・一連の枠組みを強化し、業績拡大と賃上げの両方を実現できる優秀な経営者をトップに据える努力が必要だろう」、その通りだ。
・『優秀な人材を探す努力をしていない  外部の力によって大企業経営者のハードルを上げるという議論をすると、必ずといって良いほど、なり手がいなくなるという指摘が出てくるが、筆者はまったく心配していない。 例えば、米国の人口は約3億人で、日本の約3倍程度だが、世界に通用する経営者の数はおそらく日本の10倍から20倍はいるだろう。人口比で行けばアメリカの方がよほど厳しい状況であり、日本も取締役会や株主が必死になって人材を探す努力をすれば、有能な経営者を探し出す(あるいは社内から抜擢する)ことは不可能ではない。 トヨタと並ぶ世界的自動車メーカーである米GM(ゼネラルモーターズ)のトップは、高卒で工場のラインで働いていた従業員出身である。世界的な小売企業であるウォルマートのトップもアルバイト定員からキャリアをスタートさせている。 果たして日本企業においてアルバイトも含め、全ての従業員や関係者から人材を探すような努力は行われているだろうか。決してそうではないはずである。 その意味で日本企業はまだぬるま湯に浸かった状態であるとも言える。有能な人材を探さなければならないという社会的なプレッシャーが高まれば、必然的に高い能力を持った人間が幹部に登用され、経営は刷新されていく。 岸田政権は防衛費の増額を実施するため、法人税を含め増税に手を付ける方針を示している。法人税の増税をきっかけに、税制改正を通じて企業の経営改革を促すと同時に、ガバナンス改革を強化することで、日本企業の体質を変えることが求められる。賃金上昇=経営改革という意識を全国民で共有する必要がある』、「米GM(ゼネラルモーターズ)のトップは、高卒で工場のラインで働いていた従業員出身」、「ウォルマートのトップもアルバイト定員からキャリアをスタートさせている」、というのは初めて知った。「日本も取締役会や株主が必死になって人材を探す努力をすれば、有能な経営者を探し出す(あるいは社内から抜擢する)ことは不可能ではない」、「日本企業はまだぬるま湯に浸かった状態であるとも言える。有能な人材を探さなければならないという社会的なプレッシャーが高まれば、必然的に高い能力を持った人間が幹部に登用され、経営は刷新されていく」、同感である。
タグ:ダイヤモンド・オンライン 「日本企業は大きな問題を抱えています。それは、スピードが非常に重要な時代にあって、(意思決定などの)動きが遅いことです。 また、意思決定グループにダイバーシティ(多様性)がない点も、最も大きな問題の1つです」、的確な診断だ。 競争優位の終焉 肥田美佐子氏による「終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)」 (その27)(終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)、これが日本衰退の根本原因、なぜ博士号取得は経済的に割りにあわない それは日本企業がイノベーションしないから、日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実”) 日本の構造問題 「社内で悪いニュースを察知しても見て見ぬふりをする傾向があり、嘘をついているとまでは言いませんが、真実を言わないことに対し、おとがめも受けません。「社内の人間関係と調和」が重視されるからです。 ずっと同じ会社でやっていかなければならないため、ことのほかこうした社内政治への気配りが、・・・大きな利点につながってしまうんですね」。その通りだ。 「彼はクレイジーで大きなリスクは取らず、用意周到に準備し、小さなリスクをいくつも取ったそうです」、上手いやり方だ。 「社会に有害な企業の行動を示す極端な例ですが、人々が耐えられないようなコストを課すような企業は、衰退の一途をたどるしかありません」、その通りだ。 現代ビジネス 野口悠紀雄氏による「これが日本衰退の根本原因、なぜ博士号取得は経済的に割りにあわない それは日本企業がイノベーションしないから」 「Top1%補正論文数」で、「日本は10位で過去最低」、「学位取得者数や論文数は、未来における競争力を決める基本的な要因だ。それが上に見たような状態では、日本がこれからどうなってしまうのか、大いに心配だ」、その通りだ。 「人文系では正規雇用は41%でしかない」、「大学院卒の月収は、年齢計では45.4万円で、大学卒の36.0万円より9.4万円多い。しかし、25〜29歳で比べると、27.9万円と26.1万円であり、ほとんど変わりがない」、「25〜29歳」では殆ど差がなくても、その後では「9.4万円」の差があるとも言える。 「奨学金は確かに重要だ。しかし、在学中はそれで生活できたとしても、就職したあとの収入が十分でなければ、返却できない。だから、出世払い奨学金を導入しても、博士課程への進学率が上昇するどうか、大いに疑問だ」、その通りだ。 「グローバル・イノベーション・インデックス (GII)」は、「2007年には4位だった。しかし、その後低下を続け、2012年に25位にまで落ちた。その後徐々に回復したが、2018年から再び低下傾向にある。2022年には、2021年と同様の13位」、「輸出に占めるハイテク製品の比率は、日本は19%でしかないが、韓国では36%にもなる(2020年)。 これは日本の輸出が自動車に偏っているからだ」、「輸出に占めるハイテク製品の比率は、日本は19%」、予想外に低いようだ。 「補助金も円安も低金利も、新しいビジネスモデルの創出には貢献しない。むしろ安易に利益が上がるために、イノベーションのインセンティブをそぐことになる。過去20年間の円安政策がもたらしたのは、まさにこのことだ」、「「新しい資本主義」が目指すべきは、まさにそのことなのだが、岸田政権は、それを実現出来るだろうか?」、その正解からますます逸れているようだ。 珪一氏による「日本経済が低迷しているのは「経営者がぬるま湯につかっているから」という“身も蓋もない現実”」 「賃上げが難しいという経営者は決まって、低迷する日本経済を理由にあげるが、これは順序が逆である。企業活動が活発になり、賃金が上がって労働者の消費が拡大することで、結果的に経済全体も成長するのであって、経済が先にあって、その結果として企業の業績が決まるわけではない」、その通りだ。 「日本人の賃金が上昇していないのは、経営に問題があり、社会全体として経営レベルを上げていく環境整備が必要である」、なるほど。 「小泉改革の時代には、米国型のアプローチが模索され、市場からの圧力によって経営を改革する試みが行われた。だが、結果は非正規労働者を増やすなど、目先のコストカットだけに終わってしまい、本質的な経営改革に結びつかなかった」、 「ドイツでは1990年代以降、雇用の流動化を進めると同時に、労働者の再教育プログラムを充実させるなど、企業活動を活性化させる環境整備を行ってきた・・・だがドイツは同時並行で、企業の経営者に対してより高い社会的責務を課すというガバナンス改革も推進している。 ドイツでは債務超過を一定期間放置した経営者に罰則が適用されるなど、経営者の甘えを許さない社会が出来上がっている。フランスはもともと社会主義的体質の濃い国家であり、企業の国有化が積極的に進められてきた。このため、政府は議決権の行使を通じて企業経営に関与でき る」、「日本には日本に合ったやり方があるので、フランス式、ドイツ式をそのまま導入する必要はないだろうが・・・一連の枠組みを強化し、業績拡大と賃上げの両方を実現できる優秀な経営者をトップに据える努力が必要だろう」、その通りだ。 「米GM(ゼネラルモーターズ)のトップは、高卒で工場のラインで働いていた従業員出身」、「ウォルマートのトップもアルバイト定員からキャリアをスタートさせている」、というのは初めて知った。「日本も取締役会や株主が必死になって人材を探す努力をすれば、有能な経営者を探し出す(あるいは社内から抜擢する)ことは不可能ではない」、 「日本企業はまだぬるま湯に浸かった状態であるとも言える。有能な人材を探さなければならないという社会的なプレッシャーが高まれば、必然的に高い能力を持った人間が幹部に登用され、経営は刷新されていく」、同感である。
nice!(0)  コメント(0) 

民主主義(その10)(ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選、蔓延する少数派の横暴、大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 新自由主義的への反省と民主的多元主義の再生) [経済政治動向]

民主主義については、昨年10月23日に取上げた。今日は、(その10)(ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選、蔓延する少数派の横暴、大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 新自由主義的への反省と民主的多元主義の再生)である。

先ずは、昨年10月21日付け東洋経済オンラインが掲載した米プリンストン大学教授 のヤン=ヴェルナー・ミュラー氏による「ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選、蔓延する少数派の横暴」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/625724
・『ブラジルの大統領選挙で現職のボルソナロ氏は、トランプ前米大統領と同じ「大ウソ」をつくり出そうとしている。自らが負ける選挙はインチキだと主張し、暴力をたきつけてでも権力の座に居座ろうとする例の戦略だ。 「熱帯のトランプ(ボルソナロ氏)」がトランプ氏をまねるのは驚くことではない。だが選挙結果を受け入れるのは、民主主義の最も基本的な要素の1つだ。選挙結果の否定が新たな世界的潮流になりつつあるのだとしたら、私たちはその理由を問わなくてはならない。なぜこれほど多くの市民が「選挙はインチキだ」と叫ぶインチキな指導者を受け入れようとするのだろうか』、1月に入って「ボルソナロ」支持派が選挙結果に抗議して議会を襲撃、1500人が逮捕された他、「ボルソナロ」側近を逮捕。アメリカ同様の混乱のようだ。
・『劣勢のボルソナロ氏  ボルソナロ氏と対決する左派のルラ元大統領の人気は高い。世論調査の支持率でも一貫してリードを保っており、極右のボルソナロ氏は敗色が濃厚だ。とはいえボルソナロ氏は、そうした選挙結果を受け入れないよう、支持者を調教するのに何年も費やしてきた。 中でも不気味なのは、2000年から用いられ広く信頼されている効率的な電子投票システムに不信の種をまいていることだ。21年1月6日の米連邦議会襲撃事件を受けて、ボルソナロ氏はこう警告した。電子投票を続ければ「米国より大きな問題になる」。 実際、選挙に負けたポピュリストは「インチキだ」と叫ぶことが多い。というのは、われらこそが、そしてわれらだけが「真の国民」、つまり「声なき多数派(サイレント・マジョリティー)」の代表だと言い張ることが支持を訴える基盤のすべてとなっているからだ。) ほかの候補者は全員腐敗している。ゆえにわれらポピュリストの指導者を支持しない者は真の国民ではなく、彼らが投じる票には正当性がない、という主張である。ポピュリズムとは単なるエリート批判ではなく(エリート批判にはうなずけるものも多い)、その根本には他者を排除する姿勢がある。 国民の唯一にして真の代表であるポピュリストが選挙に負けるということは、誰か(リベラル派のエリート)が何か(選挙の不正操作)を行ったからに違いない──。ポピュリストが支持者に施している洗脳とは、このようなものだ』、「ポピュリストが支持者に施している洗脳」はアメリカでも問題化したが、やはり深刻な問題だ。
・『本当に悪いのは誰か  有権者の分断が深まっているときには、選挙結果の否定が一段と起こりやすくなる。トランプ氏やボルソナロ氏のような政治的ビジネスマンにとっては、分断こそがチャンスだ。両氏はどちらも政党という鎖につながれてはいない。ボルソナロ氏は所属をころころと変え、大統領になってからは、どの政党にも属さなかった期間が2年ある。今や共和党を牛耳るトランプ氏が共和党に忠誠を示したことは一度もない(同氏はかつて民主党員だった)。 いずれもソーシャルメディアを通じてカルト信者のようなフォロワー集団を構築。政党の組織的支援を必要とせず、党内事情に配慮する必要もない。 政治信条もなければ、政策も持たず、ひたすら個人のキャラで終わりなき文化戦争を駆動する。そんな人物が選挙に負けたと知りながら敗北を否定する暴挙に出るのは、半ば当然の成り行きといえる。それよりもはるかに深刻なのは、周囲の振る舞いだ。 トランプ氏は例の「大ウソ」を、真の共和党員であるかどうかを試すリトマス試験紙に変えた。その結果、共和党候補の多くが、11月の中間選挙で負けた場合に結果を受け入れるか態度を明らかにするのを拒むようになっている。ブラジルでは、なお少数派であるボルソナロ陣営の「主人公」が軍を抱き込むべく工作に動いている。ボルソナロ氏の支持者は警察関係にも多い。 トランプ氏やボルソナロ氏のファンを見ればわかるように、ポピュリストの言う「声なき多数派(サイレント・マジョリティー)」の実体は大概が「声高な少数派(ラウド・マイノリティー)」だ。むろん少数派の声に耳を傾けるのが大切なことは言うまでもない。が、少数派が民主主義に逆らう暴力的な存在と化したときには、真の多数派には「サイレント」であることをやめる義務がある』、「ブラジルでは、なお少数派であるボルソナロ陣営の「主人公」が軍を抱き込むべく工作に動いている。ボルソナロ氏の支持者は警察関係にも多い」、クーデターの可能性もありそうだ。「ポピュリストの言う「声なき多数派・・・」の実体は大概が「声高な少数派・・・」だ。むろん少数派の声に耳を傾けるのが大切なことは言うまでもない。が、少数派が民主主義に逆らう暴力的な存在と化したときには、真の多数派には「サイレント」であることをやめる義務がある。その通りだ。

次に、11月30日付け東洋経済オンラインが掲載した政治学者・九州大学大学院比較社会文化研究院教授の施 光恒氏による「大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 新自由主義的への反省と民主的多元主義の再生」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/631573
・『グローバル化の問題点は「新しい階級闘争」を生み出した。新自由主義改革のもたらした経済格差の拡大、政治的な国民の分断、ポリティカル・コレクトネスやキャンセルカルチャーの暴走である。 アメリカの政治学者マイケル・リンド氏は、このたび邦訳された『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』で、各国でグローバル企業や投資家(オーバークラス)と庶民層の間で政治的影響力の差が生じてしまったことがその要因だと指摘している。 私たちはこの状況をいかに読み解くべきか。同書に収録された政治学者の施光恒氏による監訳者解説を一部編集のうえ、お届けする』、「新しい階級闘争」とは興味深そうだ。
・『アメリカの国民統合のあり方を考察  『新しい階級闘争:大都市エリートから民主主義を守る』は、Michael Lind, The New Class War: Saving Democracy from the Metropolitan Elite(London: Atlantic Books, 2020)の邦訳である。著者のマイケル・リンド(Michael Lind)氏は1962年アメリカテキサス生まれで、現在、テキサス大学オースティン校リンドン・B・ジョンソン公共政策大学院で政治学を講じる教授である。 氏は、イェール大学で国際関係論の修士、テキサス大学のロー・スクールでJD(法務博士)の学位をそれぞれ取得している。その後、ヘリテージ財団などのシンクタンクでアメリカの政策の分析・提言活動に従事し、1991年からは『ナショナル・インタレスト』などのメジャーな雑誌で編集者や論説委員を務めた。1999年には「ニュー・アメリカ財団」(現在は「ニュー・アメリカ」)というシンクタンクを設立し、2017年からは現職である。この経歴からわかるように、リンド氏は現実政治に対する深い知識と実践的関心を有する政治学者だと言えよう。 マイケル・リンド氏の名前を知ったのは、私が長年関心を持っている「リベラル・ナショナリズム」のアメリカにおける提唱者の一人だからである。氏は、1995年に出版した『次なる米国─新しいナショナリズムと第4次米国革命』(The Next American Nation: The New Nationalism and the Fourth American Revolution (New York: Free Press)などで、多様な人種や利害の相違を超えたアメリカの国民統合のあり方についてさまざまな考察を行ってきた。) 本書『新しい階級闘争』は、戦後実現した「民主的多元主義」の安定した政治が、1970年代に始まった新自由主義に基づく「上からの革命」の影響を受け、機能不全に陥った結果、今日のアメリカでは国民統合が揺らぎ、分断が深刻化していることを指摘し、また、その分断の解消をどのように図っていくべきかについて論じるものである。 リンド氏の第1の関心はアメリカ社会であるが、本書の議論は日本社会の現状を考えるうえでも大きな示唆を与える』、「戦後実現した「民主的多元主義」の安定した政治が、1970年代に始まった新自由主義に基づく「上からの革命」の影響を受け、機能不全に陥った結果、今日のアメリカでは国民統合が揺らぎ、分断が深刻化していることを指摘し、また、その分断の解消をどのように図っていくべきかについて論じるもの」、なるほど。
・『新自由主義が生み出した国民の分断  各章の概要を示しつつ、本書の内容を紹介したい。 リンド氏は、アメリカをはじめとする現代の欧米諸国で新しい階級闘争が生じていると考える(第1章)。前述したように1970年代から上流階級の高学歴の管理者(経営者)層(エリート層)が主導する「上からの革命」が生じ、新自由主義に基づくグローバル化推進策が徐々にとられるようになったからである。新しい階級闘争は、グローバル化推進策から利益を得る管理者(経営者)エリート層と、そこからほとんど利益を得ることのない庶民層(中間層ならびに労働者層)との間の対立である。こうした対立は、現在では、経済、政治、文化(価値)の各領域に及ぶ。 この対立は、国内における地理的な分断も生んでいる(第2章)。管理者(経営者)エリート層は、ニューヨークやロサンゼルス、あるいはロンドンやパリといった大都市に暮らす場合が多い。その結果、知識や技術、交通の結節点、つまり「ハブ」と呼ばれる大都市と、庶民層が多く暮らす「ハートランド」と称される郊外や地方という地理的分断も顕著となった。 新しい階級闘争を鎮める方策を考察するために、リンド氏は、それ以前の階級闘争の帰趨を振り返る(第3章)。かつての階級闘争は、いわゆる資本家と労働者との闘争だった。古い階級闘争は、2度の世界大戦を経験する中で、国家を仲介役とし、両陣営が妥協策を積み上げていったことが契機となり、これが戦後の福祉制度に引き継がれ、解消に向かった。リンド氏はこれを民主的多元主義(democratic pluralism)の政治と称する。労働組合をはじめ、農協などの協同組合、各種業界団体、政党の地方支部、教会(宗教団体)、ボランティア組織などのさまざまな参加型の中間団体が、国民の多様な層の声を集約し、政府がそれらを拾い上げ、相互調整し、偏りなく行っていく政治である。民主的多元主義を通じて、労働者は資本家に対し拮抗力を持つことができた。 しかし、こうした暫定協定は長続きしなかった。上からの新自由主義革命が生じたからである(第4章)。各種の妥協策が覆され、各層の利害が調整されなくなった。そして、管理者(経営者)エリート層の利益が、経済、政治、文化の各領域でもっぱら推進される不公正な社会へとアメリカをはじめとする欧米社会は変質してしまった。) それに対し、庶民層からの反発が生じている。これをリンド氏は、「下からのポピュリストの反革命」と称する(第5章)。2016年の国民投票による英国のEU離脱の決定、アメリカのトランプ前大統領の選出、2018年秋からのフランスの黄色いベスト運動、そのほかの欧州のポピュリスト政党の躍進などが表面に現れた顕著な例である。リンド氏は、庶民層に深い共感の念を抱いているが、ポピュリスト運動を必ずしも支持しない。ポピュリスト運動は、エリート層による社会の寡頭制支配やそれに伴う国民の分断という「病理」から発する「症状」の1つだとみなす。寡頭制支配を行うエリート層に対し、脅威を感じさせたり、その身勝手さに対する警告を発したりする機能は持つとしても、「病理」そのものへの根本的「治療」にはならないからである』、「古い階級闘争は、2度の世界大戦を経験する中で、国家を仲介役とし、両陣営が妥協策を積み上げていったことが契機となり、これが戦後の福祉制度に引き継がれ、解消に向かった。リンド氏はこれを民主的多元主義(democratic pluralism)の政治と称する」、「民主的多元主義を通じて、労働者は資本家に対し拮抗力を持つことができた。 しかし、こうした暫定協定は長続きしなかった。上からの新自由主義革命が生じたからである(第4章)。各種の妥協策が覆され、各層の利害が調整されなくなった。そして、管理者(経営者)エリート層の利益が、経済、政治、文化の各領域でもっぱら推進される不公正な社会へとアメリカをはじめとする欧米社会は変質」、「それに対し、庶民層からの反発が生じている。これをリンド氏は、「下からのポピュリストの反革命」と称する(第5章)。2016年の国民投票による英国のEU離脱の決定、アメリカのトランプ前大統領の選出、2018年秋からのフランスの黄色いベスト運動、そのほかの欧州のポピュリスト政党の躍進などが表面に現れた顕著な例」、なるほど。
・『エリート層の認識と「対症療法」的措置  エリート層は、庶民層のポピュリスト運動が発する警告を真剣に受け取ろうとしない(第6章)。むしろ、庶民はロシアの諜報活動に踊らされているだけだといった陰謀論をつくり出してしまう。あるいは、ポピュリストの政治家や政党の支持者を、「権威主義的パーソナリティー」などの精神病理を抱える者だとエリート層は認識してしまう。ポピュリズム運動をかつてのナチズムと同様、社会不適合者による非合理な運動だとみなすのである。それによって、エリート層は、自分たちがつくり出した社会の不公正さから目を背けようとする。 現代社会の不公正さを認識するとしても、エリート層は「根治療法」ではなく、新自由主義の枠内におけるいわば「対症療法」をとろうとする(第7章)。リカレント教育(再教育)などの教育政策、ベーシックインカムなどの再分配政策、反独占政策といったものである。リンド氏は、これらを評価しない。根本的問題である権力関係の不均等を正面から見つめ、その改善を真摯に図るものではないからである。 リンド氏は、問題の解決のためには、やはり庶民層の利益や見解を代弁し、政治に反映させる拮抗力が必要だと論じる(第8章)。庶民層の声を政治に届けるには、人々が団結しなければならない。やはり労働組合などさまざまな中間団体を再生し、新しい民主的多元主義を現代においてつくり出さなければならない。 そのためには、新自由主義に基づく現在のグローバル化推進策を改める必要性を訴える(第9章)。資本の国際的移動や、外国人労働者や移民といった人の移動に対する各国政府の規制や管理を強化する必要があるというのである。そうしなければ、労働組合などの各種の中間団体が機能せず、民主的多元主義に基づく公正な政治を行うことは不可能だからである。) 本書は、現代の欧米社会や日本社会を見つめ、評価するうえで大いに役立つ。日本の読者にとくに有益だと思われる3点について触れたい。 第1に指摘したいのは、グローバル化と自由民主主義の相性の悪さを明らかにしている点である。日本では「グローバル化」はまだまだ前向きで良い印象を与える言葉である。しかし、本書が論じるように、新自由主義に基づくグローバル化政策は、自由民主主義の政治の基盤を掘り崩してしまう。 この点については、さまざまな論者が明らかにしてきた。例えば、本書第9章でも触れているが、労働経済学者のダニ・ロドリックは、グローバル化に伴う資本の国際的移動の自由化・活発化が各国の経済政策に及ぼす影響について指摘した(柴山桂太・大川良文訳『グローバリゼーション・パラドクス』白水社、2013年、第9章)』、「エリート層は、自分たちがつくり出した社会の不公正さから目を背けようとする。 現代社会の不公正さを認識するとしても、エリート層は「根治療法」ではなく、新自由主義の枠内におけるいわば「対症療法」をとろうとする」、「問題の解決のためには、やはり庶民層の利益や見解を代弁し、政治に反映させる拮抗力が必要だと論じる・・・。庶民層の声を政治に届けるには、人々が団結しなければならない。やはり労働組合などさまざまな中間団体を再生し、新しい民主的多元主義を現代においてつくり出さなければならない。 そのためには、新自由主義に基づく現在のグローバル化推進策を改める必要性を訴える・・・。資本の国際的移動や、外国人労働者や移民といった人の移動に対する各国政府の規制や管理を強化する必要」、その通りなのだろう。
・『各国の一般庶民が政治の主役ではなくなってしまう  グローバル化とは一般に、ヒト、モノ、カネ(資本)、サービスの国境を越える移動が自由化・活発化することを意味するが、これが生じると、必然的に、グローバルな企業関係者や投資家(本書でいうところの管理者<経営者>エリート)の力が増す。彼らは「人件費を下げられるよう非正規労働者を雇用しやすくする改革を行え。さもなければ生産拠点をこの国から移す」「法人税を引き下げる税制改革を実行しないと貴国にはもう投資しない」などと各国政府に圧力をかけられるようになるからである。各国政府は、自国から資本が流出すること、あるいは海外からの投資が自国を忌避することを恐れ、グローバルな企業関係者や投資家の要求に敏感にならざるをえない。そのため、各国のルールや制度はグローバルな企業や投資家に有利なものへと「改革」される。だが、その半面、各国の一般庶民の声は相対的に政治に届きにくくなる。庶民層が各国政治の主役ではなくなってしまうのである。そして彼らの生活は不安定化し、貧困化が進む。 これに加え、リンド氏が本書で強調するのは、前述のとおり、民主的多元主義の基盤が掘り崩されてしまうことである。庶民層が政治に声を届けるには、各人が組織化され、各種の中間団体が形成されていなければならない。戦後の欧米諸国では(リンド氏は触れていないが後述のとおり日本も同様)、労働組合や協同組合などの各種中間団体を通じて庶民の声が政治に反映され、資本家に対する拮抗力を獲得し、比較的公平な政治が行われた。また、経済的格差も小さかった。) しかし、グローバル化により、資本の国際移転、仕事の国境を越えた外部委託(アウトソーシング)、外国人労働者や移民の大規模受け入れなどが可能になると、労働組合などはあまり機能しなくなる。政治的影響力のバランスが崩れ、不公正な政治が行われるようになる。 ネイションの境界を溶かすグローバル化の下では、自由民主主義の維持は非常に困難である。やはりネイションを軸とした秩序、つまり多数の国民国家からなる世界である必要がある。そして、各国は、民主的多元主義のシステムを内部に発展させ、国民各層の利害のバランスをとりつつ、ヒト、モノ、カネ、サービスの国境を越える移動を適切に規制・調整していく。現行の新自由主義的グローバリズムの秩序ではなく、このような民主的多元主義を可能にする国際秩序をつくり出す必要がある』、「現行の新自由主義的グローバリズムの秩序ではなく、このような民主的多元主義を可能にする国際秩序をつくり出す必要がある」、その通りだ。
・『寡頭制vs. ポピュリズム  第2に、本書は現在の欧米の主流派の政治、およびそれに対する反発としてのポピュリズムの政治を見つめる新たな視角を提供する点で有益である。 日本のマスコミや評論家は、欧米の主流派マスコミの情報をもとにして世界を見ていることが大半である。それゆえ、どうしても一面的な見方に陥ってしまう。ブレグジットやトランプ前大統領の選出など現代のポピュリズムに対する見方もそうだ。ポピュリズム現象とは、グローバル化に乗り遅れた時代遅れの不適合者が騒いでいるにすぎないという見方をとりがちだ。 他方、ネット世論では逆に、その反動からかポピュリズム運動を全面的に肯定してしまう議論がしばしばみられる。トランプ氏を英雄視してしまうような議論だ。 本書は、第3の視点を提供する。現在の主流派の政治は、管理者(経営者)エリートによる寡頭制支配にほかならないと見る。庶民層の怒りは正当だとする。だが、ポピュリスト運動は組織化されていないため不安定である。持続的ではないし、建設的でもない。国民各層の意見を十分に取り込むこともできていない。 リンド氏によれば、現在の病理の改善のためには、あらためて労働組合などの中間集団をきちんと組織し、国民各層の多様な見解や利害が公正に政治に反映される社会を再生する必要がある。) 3番目は、戦後日本社会を理解する有益な視点を提供するという点である。リンド氏は、民主的多元主義や新自由主義を論じる際に、日本についてほとんど触れていない。だが、リンド氏の議論は日本にも当てはまるところが多い』、「現在の主流派の政治は、管理者(経営者)エリートによる寡頭制支配にほかならないと見る。庶民層の怒りは正当だとする。だが、ポピュリスト運動は組織化されていないため不安定である。持続的ではないし、建設的でもない。国民各層の意見を十分に取り込むこともできていない。 リンド氏によれば、現在の病理の改善のためには、あらためて労働組合などの中間集団をきちんと組織し、国民各層の多様な見解や利害が公正に政治に反映される社会を再生する必要がある」、その通りなのだろう。
・『「一億総中流」ののち、中間層の暮らしは不安定化  戦後の日本は、高度経済成長を経て、比較的平等かつ安定的な発展を享受した。1990年代前半までに「日本型市場経済」「日本型経営」と称される特徴的な経済の仕組みをつくり出し、「一億総中流」と称される社会を実現した。中間層が主役の「ミドルブロー」の大衆文化も栄えた。しかし、1990年代後半以降は、欧米にならった新自由主義の経済運営を取り入れ、構造改革を繰り返し、現在では中間層の暮らしは不安定化し、劣化している。 かつての戦後日本社会が安定した経済を享受できたのは、本書でいうところの民主的多元主義を日本なりに作り上げたからだと理解できる。リンド氏は、前述のとおり、欧米諸国において資本家層と労働者層の妥協が生じたきっかけは2度の世界大戦の経験だと論じる。それが第2次大戦後の福祉国家的システムにつながっていったと考える。 日本についても、このように見る論者がいる。例えば、英国の日本研究者ロナルド・ドーアである(『幻滅─外国人社会学者が見た戦後日本70年』藤原書店、2014年、144─146頁など)。あるいは批判的な視点からではあるが、野口悠紀雄氏の「1940年体制」論も同様の見方をとると言える(『1940年体制─さらば戦時経済』東洋経済新報社、1995年)。 つまり日本も、リンド氏が本書で描いたような道筋をたどったと理解することができる。第2次大戦を戦い抜くために政府が経済の統制・調整に乗り出し、資本家と労働者、および資本家相互の妥協を作り出した。この体制が戦後の社会民主主義的な「日本型市場経済」につながった。一種の民主的多元主義の形態だと言えよう。 エズラ・ヴォーゲルは『ジャパンアズナンバーワン─アメリカへの教訓』(広中和歌子・大本彰子訳、TBSブリタニカ、1979年)を著したが、このなかで描かれているのは、まさに民主的多元主義がうまく機能している日本の姿である。ヴォーゲルは、日本ではさまざまな中間団体の活動がさかんであり、アメリカよりも日本のほうが民主的であるとまで述べた。「政治に多様な利益を反映させ、それらの利益を達成する統治能力があることが民主主義の定義であるならば、日本はアメリカよりも民主主義がずっと効果的に実現されている国家であるといえよう」(122頁)。 ヴォーゲルは、当時の戦後日本社会では、政府が、多様な中間団体の利益に配慮し、資本家と労働者、さまざまな業界間、大都市と地方、地域間を巧みに調整していると指摘した。「利益の分配の側面から見ると、日本ではフェア・シェア(公正な分配)がなされているといえる」(同頁)。リンド氏のいうところの民主的多元主義の一形態が日本で根付き、欧米諸国に比べても安定的に機能し、「一億総中流」と称された社会をつくり出したのである。) ヴォーゲルは、日本の民主主義が壊れるとしたら、その要因となるのは「軍国主義の脅威」などではなく「集団の団結力の拡散」だと指摘し、警鐘を鳴らしていた(156頁)。中間団体を作る機能が損なわれ、国民がばらばらになってしまい、各層の利益が公正に反映されなくなることを恐れたのである。 ヴォーゲルの懸念は1990年代後半以降、的中した。日本の場合は、「上からの新自由主義革命」が国内で生じたというよりも、ドーアなども指摘するとおり、アメリカなど欧米諸国の新自由主義化に無批判に追従したことが主な要因だと言えよう。ヴォーゲルが称賛した日本型民主的多元主義の道を捨て、「グローバル標準」を旗印とし、新自由主義的構造改革を推し進めた。 本来なら左派やリベラル派は、新自由主義化に対抗する中心的勢力になるべきであったが、日本ではそうはならなかった。いくつかの要因が指摘できるだろうが、「1940年体制」論の影響もその1つである。民主的多元主義の日本版だともいえる「日本型市場経済」は、戦時経済の名残であり否定すべきものだ、集団主義的で遅れたものだという議論が高まった。こうした議論に影響され、左派やリベラル派でさえ新自由主義的改革を肯定的に受け取ってしまった。 リンド氏が本書で指摘しているのは、欧米諸国で戦後、国民福祉と安定した経済成長を可能にしたのは日本と同様、戦争の経験に端を発する、民主的多元主義と称すべき政府主導の調整型の社会システムだということだ。つまり、「1940年体制」は日本だけではなかったのである。またリンド氏は、庶民各層の声を政治に十分に反映させる公正な社会の実現には、こうした社会システムの構築しかありえないと論じている。 これらは、現代の日本にとって、新自由主義以前の「日本型市場経済」や「日本型経営」といったかつての調整型の社会システムの再評価を迫るものだと言えるであろう』、「欧米諸国で戦後、国民福祉と安定した経済成長を可能にしたのは日本と同様、戦争の経験に端を発する、民主的多元主義と称すべき政府主導の調整型の社会システムだということだ。つまり、「1940年体制」は日本だけではなかったのである。またリンド氏は、庶民各層の声を政治に十分に反映させる公正な社会の実現には、こうした社会システムの構築しかありえないと論じている」、「現代の日本にとって、新自由主義以前の「日本型市場経済」や「日本型経営」といったかつての調整型の社会システムの再評価を迫るものだと言える」、「かつての調整型の社会システム」に戻るとはいっても、「かつて」とは同じではなく、より高度になったものだろう。
・『民主的多元主義の可能性  以上のように、本書は、新自由主義的政策の進展に伴い、管理者(経営者)エリート層と庶民層との間の力のバランスが崩れ、経済、政治、文化の各局面で諸種の不公正な事態が生じていることを明らかにする。現状に対する解決策として本書が期待するのは、現代の文脈における民主的多元主義の政治の再生である。そして、これを可能ならしめるために、現行の新自由主義に基づくグローバル化推進路線の転換が必要だと本書は論じる。 もちろん、これまでの路線を改め、現在の複雑な状況のなかで、民主的多元主義の政治を再構築することは多大な困難を伴う。しかし、各国において国民各層の声を公正に反映する政治を可能にするほかの方法がありうるだろうか。本書はこのように問いかける。新自由主義的な改革に明け暮れてきた欧米諸国や日本に新しい視点を与え、自由民主主義の意味や条件を考えさせる貴重な1冊だと言える』、「現状に対する解決策として本書が期待するのは、現代の文脈における民主的多元主義の政治の再生である。そして、これを可能ならしめるために、現行の新自由主義に基づくグローバル化推進路線の転換が必要だと本書は論じる」、私は「新自由主義」に反対の立場なので、「グローバル化推進路線の転換が必要」との趣旨には賛成である。
タグ:民主主義 (その10)(ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選、蔓延する少数派の横暴、大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 新自由主義的への反省と民主的多元主義の再生) 東洋経済オンライン ヤン=ヴェルナー・ミュラー氏による「ぶっ壊れた政党に民主主義を乗っ取るカルト政治 ブラジル大統領選、蔓延する少数派の横暴」 1月に入って「ボルソナロ」支持派が選挙結果に抗議して議会を襲撃、1500人が逮捕された他、「ボルソナロ」側近を逮捕。アメリカ同様の混乱のようだ。 「ポピュリストが支持者に施している洗脳」はアメリカでも問題化したが、やはり深刻な問題だ。 「ブラジルでは、なお少数派であるボルソナロ陣営の「主人公」が軍を抱き込むべく工作に動いている。ボルソナロ氏の支持者は警察関係にも多い」、クーデターの可能性もありそうだ。「ポピュリストの言う「声なき多数派・・・」の実体は大概が「声高な少数派・・・」だ。むろん少数派の声に耳を傾けるのが大切なことは言うまでもない。が、少数派が民主主義に逆らう暴力的な存在と化したときには、真の多数派には「サイレント」であることをやめる義務がある。その通りだ。 施 光恒氏による「大都市エリートが民主主義を滅ぼしてしまう理由 新自由主義的への反省と民主的多元主義の再生」 「新しい階級闘争」とは興味深そうだ。 「戦後実現した「民主的多元主義」の安定した政治が、1970年代に始まった新自由主義に基づく「上からの革命」の影響を受け、機能不全に陥った結果、今日のアメリカでは国民統合が揺らぎ、分断が深刻化していることを指摘し、また、その分断の解消をどのように図っていくべきかについて論じるもの」、なるほど。 「古い階級闘争は、2度の世界大戦を経験する中で、国家を仲介役とし、両陣営が妥協策を積み上げていったことが契機となり、これが戦後の福祉制度に引き継がれ、解消に向かった。リンド氏はこれを民主的多元主義(democratic pluralism)の政治と称する」、「民主的多元主義を通じて、労働者は資本家に対し拮抗力を持つことができた。 しかし、こうした暫定協定は長続きしなかった。上からの新自由主義革命が生じたからである(第4章)。各種の妥協策が覆され、各層の利害が調整されなくなった。そして、管理者(経営者)エリート層の利益が、経済、政治、文化の各領域でもっぱら推進される不公正な社会へとアメリカをはじめとする欧米社会は変質」、「それに対し、庶民層からの反発が生じている。これをリンド氏は、「下からのポピュリストの反革命」と称する(第5章)。 2016年の国民投票による英国のEU離脱の決定、アメリカのトランプ前大統領の選出、2018年秋からのフランスの黄色いベスト運動、そのほかの欧州のポピュリスト政党の躍進などが表面に現れた顕著な例」、なるほど。 「エリート層は、自分たちがつくり出した社会の不公正さから目を背けようとする。 現代社会の不公正さを認識するとしても、エリート層は「根治療法」ではなく、新自由主義の枠内におけるいわば「対症療法」をとろうとする」、「問題の解決のためには、やはり庶民層の利益や見解を代弁し、政治に反映させる拮抗力が必要だと論じる・・・。 庶民層の声を政治に届けるには、人々が団結しなければならない。やはり労働組合などさまざまな中間団体を再生し、新しい民主的多元主義を現代においてつくり出さなければならない。 そのためには、新自由主義に基づく現在のグローバル化推進策を改める必要性を訴える・・・。資本の国際的移動や、外国人労働者や移民といった人の移動に対する各国政府の規制や管理を強化する必要」、その通りなのだろう。 「現行の新自由主義的グローバリズムの秩序ではなく、このような民主的多元主義を可能にする国際秩序をつくり出す必要がある」、その通りだ。 「現在の主流派の政治は、管理者(経営者)エリートによる寡頭制支配にほかならないと見る。庶民層の怒りは正当だとする。だが、ポピュリスト運動は組織化されていないため不安定である。持続的ではないし、建設的でもない。国民各層の意見を十分に取り込むこともできていない。 リンド氏によれば、現在の病理の改善のためには、あらためて労働組合などの中間集団をきちんと組織し、国民各層の多様な見解や利害が公正に政治に反映される社会を再生する必要がある」、その通りなのだろう。 「欧米諸国で戦後、国民福祉と安定した経済成長を可能にしたのは日本と同様、戦争の経験に端を発する、民主的多元主義と称すべき政府主導の調整型の社会システムだということだ。つまり、「1940年体制」は日本だけではなかったのである。またリンド氏は、庶民各層の声を政治に十分に反映させる公正な社会の実現には、こうした社会システムの構築しかありえないと論じている」、 「現代の日本にとって、新自由主義以前の「日本型市場経済」や「日本型経営」といったかつての調整型の社会システムの再評価を迫るものだと言える」、「かつての調整型の社会システム」に戻るとはいっても、「かつて」とは同じではなく、より高度になったものだろう。 「現状に対する解決策として本書が期待するのは、現代の文脈における民主的多元主義の政治の再生である。そして、これを可能ならしめるために、現行の新自由主義に基づくグローバル化推進路線の転換が必要だと本書は論じる」、私は「新自由主義」に反対の立場なので、「グローバル化推進路線の転換が必要」との趣旨には賛成である。
nice!(0)  コメント(0) 

陰謀論(その1)(秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる、プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ、「陰謀論」がまた…!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前) [経済政治動向]

今日は、陰謀論(その1)(秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる、プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ、「陰謀論」がまた…!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前)を取上げよう。

先ずは、2021年1月2日付け東洋経済オンラインが掲載した評論家・著述家の真鍋 厚氏による「秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/398113
・『日本の社会が先行きの見えない不安に覆われている。驚くような事件や事象が次々と巻き起こる一方で、確かなものはますますわからなくなりつつある。わたしたちは間違いなく心休まらない「不安の時代」に生きている。しかもそれは、いつ爆発するかもしれない「不機嫌」を抱えている。そんな混迷の時代の深層に迫る連載第4回』、「いつ爆発するかもしれない「不機嫌」を抱えている」、とは興味深そうだ。
・『「Qアノン」とは何なのか  2020年は新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)によって、インフォデミック(偽情報の大流行)が世界各地で混乱を巻き起こし、陰謀論がメインストリームに躍り出るようになった年として記憶されることだろう。 アメリカ発の陰謀論である「Qアノン」がイギリスやドイツ、オーストラリアなどの国々にも拡大し、日本でもアメリカ大統領選の一連の騒動をきっかけにその影響力を増している。ブルームバーグは最近、日本にQアノンの支部が出現したことについて報じている。 「ソーシャルメディア分析会社グラフィカの調査によると、日本国内のQアノンのコミュニティーは独特の用語や行動様式、インフルエンサーを持ち、国際的に最も発達した支部の1つとなっている。トランプ大統領の側近だったマイケル・フリン元米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)を崇拝する動きも目立つという」(日本にも「Qアノン」、独特な信奉者集団は陰謀論の世界的広がり示す/Bloomberg2020年11月30日配信)。 Qアノンとは、一部のエリートから構成される悪魔を崇拝する小児性愛者の秘密結社が、政治やメディアを支配する「ディープ・ステート(闇の政府)」として君臨し、アメリカ合衆国連邦政府を裏で操っているとの見方を支持する集団である。そしてトランプ大統領は、そんな連中と人知れず戦っているヒーローだというのだ。もともとは2017年に政府の内通者を自称する「Q」が匿名掲示板に投稿したことに端を発している。 大変興味深いことではあるが、これらの荒唐無稽なおとぎ話が、コロナ禍によって世界各国に輸出され、現地の陰謀論と融合して、独自の発展を遂げている。つまり、Qアノンがいわば都合のいい母体となって、さまざまな妄想を吸収しているのである。 そもそも元祖のQアノン自体が、アメリカ・ワシントンのピザ店が小児性愛と児童買春の拠点とされ、ヒラリー・クリントンが関与しているという「ピザゲート」疑惑に着想を得た後、宇宙人から反ワクチンに至るまで多様な陰謀を咀嚼(そしゃく)し、雪だるま式にその全体像を巨大化させていったのだ。) 日本では、アメリカ大統領選をめぐる不正投票説の蔓延がQアノンの浸透を後押しした。日本国内の国政選挙における陰謀論がすでに根付いていたことに一因があると思われる。5~6年ほど前からソーシャルメディアを中心にたびたび言及されるようになった言説で、ムサシ社製の票計測機が自民党の候補者に有利になるよう仕組まれているという疑惑である。 これはムサシ社製品が開票所の票計測機として大きなシェアを占めることが背景にある。このようなローカルな陰謀論がネットコミュニティにある程度定着していたところに、同じく不正投票説を唱える海外の陰謀論が好意的に受け入れられたことは想像にかたくない。 そもそもディープ・ステートは、イギリスに本部を置く影の世界政府のトップ「三百人委員会」(ジョン・コールマン)、あるいはイルミナティやフリーメイソンといった世界征服を企む秘密結社といった系列の現代的なリバイバルにすぎない(以前であれば、ロスチャイルドやロックフェラー、現在ではビル・ゲイツやジョージ・ソロスなどの名前がよく挙がっている)』、「Qアノン」は、「もともとは2017年に政府の内通者を自称する「Q」が匿名掲示板に投稿したことに端を発している。 大変興味深いことではあるが、これらの荒唐無稽なおとぎ話が、コロナ禍によって世界各国に輸出され、現地の陰謀論と融合して、独自の発展を遂げている。つまり、Qアノンがいわば都合のいい母体となって、さまざまな妄想を吸収している」、「日本では、アメリカ大統領選をめぐる不正投票説の蔓延がQアノンの浸透を後押しした。日本国内の国政選挙における陰謀論がすでに根付いていたことに一因があると思われる」、なるほど。
・『コロナ禍で脳の警報装置を起動させるかのように  既存の陰謀論を巧みに取り込みながら、ローカルな陰謀論とも容易に結び付くメカニズムもそれほど目新しいものではないが、コロナ禍で世界各国の経済がダウンし、自粛により心身が過度のストレスにより疲弊し、ネットにかじりつく時間が増大したことで、真偽不明の情報に釣られやすくなっているだけでなく、深入りしてしまう動機づけがかつてないほど強まっているのである。 コロナ禍で陰謀論がメインストリームに急上昇しているのは、未曽有のパンデミックによる混乱ぶりも手伝って、その差し迫った脅威に関するメッセージが、まるで脳の警報装置を起動させるかのように、人々の情動へ効果的に作用したからだ。 進化心理学的に見れば、陰謀論に惹きつけられる発端は、進化の過程で獲得された心のプログラムの誤作動と考えることができる。進化心理学は、人間の心をさまざまな情報を直観的に処理する、複数の「認知モジュール」を備えたシステムととらえる。道に落ちていたヒモをヘビと間違えて身がすくむのは、ヘビを感知するモジュールが反応したとみなすのがわかりやすい例だが、これは太古の昔にわたしたちが生存のために身に付けたものである。) ただし、この仕組みは、現代社会のようなネットとスマホで構築された過剰接続の時代を想定してはいない。ソーシャルメディアでシェアされる恐怖や嫌悪をあおる情報が、いわばおもちゃのヘビ(虚偽)のようなものにすぎなかったとしても、脅威に対する認識は直観を優先する傾向に引きずられやすいのである。 当然ながら、社会や経済の危機的な状況下において、ネットを通じて諸悪の根源を追求しようとする振る舞いは、生存本能に促された自然な行為といえる面がある。しかし、目の前に「洪水」や「猛獣」などが迫り来るような、自身に危害が及ぶ緊急性がさほどない場合は、その多くが不必要なアラームとも考えられる。進化上重要なスイッチではあるけれども、他部族の襲撃や干ばつによる飢餓などが身近ではなくなった現代では、作動するにぶさわしい機会は恐らくかなり稀なはずで、むしろ検知の感度が高いほうが厄介だからである』、「コロナ禍で陰謀論がメインストリームに急上昇しているのは、未曽有のパンデミックによる混乱ぶりも手伝って、その差し迫った脅威に関するメッセージが、まるで脳の警報装置を起動させるかのように、人々の情動へ効果的に作用したからだ」、「目の前に「洪水」や「猛獣」などが迫り来るような、自身に危害が及ぶ緊急性がさほどない場合は、その多くが不必要なアラームとも考えられる。進化上重要なスイッチではあるけれども、他部族の襲撃や干ばつによる飢餓などが身近ではなくなった現代では、作動するにぶさわしい機会は恐らくかなり稀なはずで、むしろ検知の感度が高いほうが厄介だからである」、「その多くが不必要なアラーム」、その通りだ。
・『人間の道徳基盤が強く刺激された場合に  社会心理学者のジョナサン・ハイトは、複数の認知モジュールで構成される道徳基盤が、人間にあると主張する。それらのいずれかが強く刺激された場合に、その出力として引き起こされる情動が方向性を決めるという。 公正/欺瞞のモジュールであれば怒り・感謝、忠誠/背信のモジュールであれば裏切り者に対する怒りなど、権威/服従のモジュールであれば、尊敬・恐れが誘発される(『社会はなぜ左と右にわかれるのか対立を超えるための道徳心理学』高橋洋訳、紀伊國屋書店)。これがネットを飛び交う真偽不明の情報によっても生じ、情動が瞬時に物事の善し悪しを判断して、「闘争か、逃走か」モードに移行するのだ。 その際、ネットで悲観的な情報を漁り続ける「ドゥーム・スクローリング」(Doomscrolling)は、このような心理的な反応を積極的に作り出す大きな要因となる。コロナワクチンの接種はマイクロチップを埋め込むためで、それによって人類家畜化計画が成就するといったデマであっても、自分の生命を脅かすかもしれない出来事と切実に感じれば、関連するニュースや投稿を執拗に追い続け、世界がホラーハウスに見え始めてくるだろう。 これは、地球温暖化が恐ろしくて夜も寝られず、抑うつ状態になる「エコ不安症」とまったく同じメカニズムだ。つまり、情動のスイッチが誤作動を起こして入りっぱなしになるのである。 心理学者のジョシュア・ハートは、陰謀論に走りやすい人々に関する調査分析を行い、その性格的な因子を「スキゾタイピー」(統合失調症的な傾向)と呼んだ。「比較的信頼できない傾向があり、思想的に偏屈で、異常な知覚体験(実際には存在しない刺激を感じるなど)をしやすい特徴を持つ」と述べ、これは自分に特有のものだと感じたい欲求があると指摘した(Something’s going on here:Building a comprehensive profile of conspiracy thinkers/The Conversation)。 彼らは、「世界が危険な場所」であると捉えがちで、「あらゆる兆候」に差し迫った危機を見いだそうとするのである。このような被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がっていった可能性は高いだろう』、「ネットで悲観的な情報を漁り続ける「ドゥーム・スクローリング」(Doomscrolling)は、このような心理的な反応を積極的に作り出す大きな要因となる。コロナワクチンの接種はマイクロチップを埋め込むためで、それによって人類家畜化計画が成就するといったデマであっても、自分の生命を脅かすかもしれない出来事と切実に感じれば、関連するニュースや投稿を執拗に追い続け、世界がホラーハウスに見え始めてくるだろう。 これは、地球温暖化が恐ろしくて夜も寝られず、抑うつ状態になる「エコ不安症」とまったく同じメカニズムだ。つまり、情動のスイッチが誤作動を起こして入りっぱなしになるのである」、恐ろしいことだ。
・『どんなマイナーな言説でも小さな市民権を得られる  ネットのコミュニティでは、どんなマイナーな言説であっても、小さな市民権が得られる。手っ取り早く不安を解消するには、同じ不安を持つ人々と連帯するのがいい。だが、世界が特定の何者かによってコントロールされているといった信念は、無力感や不毛さをすべて外部要因のせいにしてしまうペテンであり、国家や企業や少人数のグループでさえがそれぞれ別のロジックが働いていて、まったく予期せぬ結果をもたらすという複雑性を排除する〝おまじない〟となる。 要するに、新世界秩序(New World Order)とは、人類が救済されることへの願望を反転させた陰画(ネガ)のようなものなのだ。人生を揺るがすようなスペクタクルを激しく欲しているのである。 もちろん、別々の物事に共通する理論を見いだし、それに根本原因を求めようとするパターン認識の習性や、あらゆる事象の背後に何らかの主体の意思を読み取ろうとする超高感度エージェンシー検出装置(HADD)という心性も、「闘争か、逃走か」モードに牽引された情動を強化する要素となるが、まず心のプログラムの誤作動が起点にあることにもっと注意を向ける必要がある。 直観に従属してしまう傾向を持ち、それゆえ頻繁にアラームが発動してしまう存在でありながら、有史以来経験したことのない過剰接続の世界に無防備なわたしたちのポテンシャルへの自覚である』、「別々の物事に共通する理論を見いだし、それに根本原因を求めようとするパターン認識の習性や、あらゆる事象の背後に何らかの主体の意思を読み取ろうとする超高感度エージェンシー検出装置(HADD)という心性も、「闘争か、逃走か」モードに牽引された情動を強化する要素となるが、まず心のプログラムの誤作動が起点にあることにもっと注意を向ける必要がある」、「直観に従属してしまう傾向を持ち、それゆえ頻繁にアラームが発動してしまう存在でありながら、有史以来経験したことのない過剰接続の世界に無防備なわたしたちのポテンシャルへの自覚である」、その通りなのだろう。

第二に、1月10日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「「陰謀論」がまた…!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/104321?imp=0
・『米バイデンが窮地に立たされた!  アメリカで新たな火種が噴出し、過激派組織を勢いを増している。移民問題が改めて米国政治の最重要課題になっているからだ。 気になるのは、米国の全人口に占める合法・不法移民の割合の高さだ。米移民研究センターによれば、昨年9月時点で14.6%に上っており、過去最高の1890年の14.8%を今年中に突破することが確実な情勢だ。 これをうけて、1月3日に開会した米連邦議会では、野党・共和党が不法移民対策を追及する構えだ。上下両院で多数派が異なる「ねじれ議会」なので、共和党が過半数を握る下院がその舞台となる。 一方、バイデン政権は移民の受け入れを増やす政策を掲げ、野党・共和党と真っ向から対立している。移民の増加や不法移民の合法化を柱とした移民制度改革が労働力不足を補い物価高の抑制にもつながるというのがその理由だ。 バイデン政権は昨年12月、トランプ前政権が新型コロナ対策を名目に導入した不法移民を母国に即時送還する措置を早期に終わらせる方針を表明したが、これに反発する共和党優位の各州が裁判所に措置の維持を求めている。 連邦最高裁判所の判断が下るのは今年6月以降になる見通しだ。 いったいアメリカはどうしてしまったのだろうか。 さらに連載記事『プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ』では、アメリカの陰謀論の深層と欧州でもふたたび猛威をふるう極右政党のいまを詳細にレポートする』、共和党、民主党間の「移民政策」を巡る対立は、困ったことだが、下院は共和党優勢になっただけに、今後の行方は不透明だ。「連載記事」は次で取上げる。

第三に、次に、1月10日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/104322?imp=0
・『アメリカでふたたび「移民問題」が噴出し、バイデン政権と野党・共和党が激しい論争を繰り広げている。かたや欧州ではウクライナ戦争で発生した難民受け入れでドイツにふたたび陰謀論が台頭、過激派が勢いをましている。前編記事『「陰謀論」がまた・・・!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前』に続き、アメリカとドイツの危険な兆候をレポートしていく』、興味深そうだ。
・『陰謀論うずまくアメリカ  メキシコと接する南西部国境での不法移民の拘束数は2022会計年度(2021年10月から2022年9月)に約230万人に上り、前年度より4割増加した。共和党は不法移民の増加が犯罪の温床になっているとバイデン政権を非難している。 米保守系メデイアは連日のように過激な報道を行っている。 FOXニュースのタッカー・カールソン氏は米南部国境の移民増加について「これは我が国への侵略だ。もう国境はない。かつて繁栄していた街は今は『戦争している』かのように見える」と扇情的に訴えている。) 移民の増加は人種差別的な陰謀論の隆盛に大きく影響する。移民の流入に歯止めがかからない米国は今や陰謀論のメッカだと言っても過言ではない。 米国では昨年末、電力施設に対する攻撃が相次いだ。 西部ワシントン州タコマで12月25日、電力施設4カ所が破壊工作を受け、1万4000世帯が停電した。現在捜査中だが、電力施設を保有するタコマ公益事業は「FBIから12月上旬に『同社の送電網が脅威にさらされている』と警告を受けていた」ことを明らかにしている。 オレゴン州やノースカロライナ州でも同様の事件が起きている。 組織的な攻撃かどうかは不明だが、国土安全保障省は「暴力的な過激派が少なくとも2020年以降、電力施設を攻撃するという具体的な計画を立てている」と認識している。 その狙いは定かではないが、「人種間の対立を図る右翼過激派が、電力施設を攻撃して全米で恐怖心を煽り、内戦を誘発しようとしている」との指摘がある』、「「人種間の対立を図る右翼過激派が、電力施設を攻撃して全米で恐怖心を煽り、内戦を誘発しようとしている」、との指摘が正しければ、「右翼過激派」はとんでもなく悪質なことを仕掛けていることになる。
・『すでに内戦状態  米国では近年「内戦勃発」に対する警戒感が強まっているが、移民の増加がそのリスクをさらに高めることになるのではないだろうか。移民の増加が過激派組織に勢いを与えているのは米国だけではない。 欧州で最もQアノン(米国の陰謀論サイト)信奉者が多いとされるドイツでも同様だ。) ドイツでは昨年12月上旬、連邦検察庁が国家転覆を計画していた右翼テロリスト集団を一斉摘発し、世界を驚かせた。 摘発されたテロリスト集団は2020年1月の米国の連邦議事堂襲撃事件にならい、「Xデー」にドイツ連邦議事堂に武器を持って侵入し、国会議員らを拘束して暫定政権を発足させる計画だったという。 逮捕者の中に既存の国家秩序を否定する「ライヒス・ビュルガー(帝国の臣民)」のメンバーが複数存在したが、このグループはQアノンの人種差別的な陰謀論に深く共鳴していることで有名だった。 この計画を首謀していたのが貴族の末裔だったことにも世間の関心が集まったが、筆者が注目したのは逮捕者の中に元連邦議会議員のヴィンケマンがいたことだ。ヴィンケマンは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に所属し、難民政策について問題発言を繰り返していた。 AfDは2017年の連邦議会選挙で第3党に躍り出たが、追い風となったのは大量に流入してきたシリア難民への国民の反発だった。 ドイツでは新たな難民問題が発生している。ロシアの侵攻以来、ウクライナからの難民が急増しているのだ。ウクライナからの難民は昨年10月中旬時点で100万人を超え、2015~16年のシリア難民の数を上回っている』、「摘発されたテロリスト集団は2020年1月の米国の連邦議事堂襲撃事件にならい、「Xデー」にドイツ連邦議事堂に武器を持って侵入し、国会議員らを拘束して暫定政権を発足させる計画だったという」、「ウクライナからの難民は昨年10月中旬時点で100万人を超え、2015~16年のシリア難民の数を上回っている」、「ウクライナからの難民」には連帯を示していると思っていたが、やはり「問題になっている」とは驚かされた。
・『極右がドイツを追い詰める  難民を収容している自治体の財政はパンク状態になっているが、ショルツ政権は寛容な難民受け入れの方針を変更する気配はまったくない。ウクライナ難民への国民の反発を糧にAfDの支持率は15%とウナギ登りだ。) これに対し、政権与党の社会民主党と緑の党の支持率がそれぞれ18%と伸び悩んでいる。国内の過激派組織にとっても願ってもない状況だろう。 ウクライナ難民の問題はEU共通の問題だ。「ない袖は振れない」各国は他の紛争地域向けODA予算を削減しており、このことが今後域内に流入する難民を増加させる原因になるのではないかと懸念されている。 経済の悪化に加えて、難民が急増する事態になれば、ドイツを始め欧州全域で過激派組織がこれまでになく勢いづいてしまうのではないだろうか さらに連載記事『習近平の大誤算…!「ゼロコロナ」がいざなう、中国発「世界大不況」の巨大すぎるインパクト』では、混とんとする世界情勢のなかでも中国のいまを詳細にレポートする』、「ウクライナ難民への国民の反発を糧にAfDの支持率は15%とウナギ登りだ」、「経済の悪化に加えて、難民が急増する事態になれば、ドイツを始め欧州全域で過激派組織がこれまでになく勢いづいてしまうのではないだろうか」、「政権与党の社会民主党と緑の党の支持率」回復を期待したいが、回復しない場合には「ウクライナ支援」にも悪影響がありそうだ。
タグ:東洋経済オンライン (その1)(秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる、プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ、「陰謀論」がまた…!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前) 陰謀論 真鍋 厚氏による「秘密結社が裏にいると信じる人が増えている訳 被害妄想的な感受性がコロナ禍で静かに広がる」 「いつ爆発するかもしれない「不機嫌」を抱えている」、とは興味深そうだ。 「Qアノン」は、「もともとは2017年に政府の内通者を自称する「Q」が匿名掲示板に投稿したことに端を発している。 大変興味深いことではあるが、これらの荒唐無稽なおとぎ話が、コロナ禍によって世界各国に輸出され、現地の陰謀論と融合して、独自の発展を遂げている。つまり、Qアノンがいわば都合のいい母体となって、さまざまな妄想を吸収している」、「日本では、アメリカ大統領選をめぐる不正投票説の蔓延がQアノンの浸透を後押しした。日本国内の国政選挙における陰謀論がすでに根付いていたことに一因があると思われる」、なるほど。 「コロナ禍で陰謀論がメインストリームに急上昇しているのは、未曽有のパンデミックによる混乱ぶりも手伝って、その差し迫った脅威に関するメッセージが、まるで脳の警報装置を起動させるかのように、人々の情動へ効果的に作用したからだ」、 「目の前に「洪水」や「猛獣」などが迫り来るような、自身に危害が及ぶ緊急性がさほどない場合は、その多くが不必要なアラームとも考えられる。進化上重要なスイッチではあるけれども、他部族の襲撃や干ばつによる飢餓などが身近ではなくなった現代では、作動するにぶさわしい機会は恐らくかなり稀なはずで、むしろ検知の感度が高いほうが厄介だからである」、「その多くが不必要なアラーム」、その通りだ。 「ネットで悲観的な情報を漁り続ける「ドゥーム・スクローリング」(Doomscrolling)は、このような心理的な反応を積極的に作り出す大きな要因となる。コロナワクチンの接種はマイクロチップを埋め込むためで、それによって人類家畜化計画が成就するといったデマであっても、自分の生命を脅かすかもしれない出来事と切実に感じれば、関連するニュースや投稿を執拗に追い続け、世界がホラーハウスに見え始めてくるだろう。 これは、地球温暖化が恐ろしくて夜も寝られず、抑うつ状態になる「エコ不安症」とまったく同じメカニズムだ。つまり、情動のスイッチが誤作動を起こして入りっぱなしになるのである」、恐ろしいことだ。 「別々の物事に共通する理論を見いだし、それに根本原因を求めようとするパターン認識の習性や、あらゆる事象の背後に何らかの主体の意思を読み取ろうとする超高感度エージェンシー検出装置(HADD)という心性も、「闘争か、逃走か」モードに牽引された情動を強化する要素となるが、まず心のプログラムの誤作動が起点にあることにもっと注意を向ける必要がある」、 「直観に従属してしまう傾向を持ち、それゆえ頻繁にアラームが発動してしまう存在でありながら、有史以来経験したことのない過剰接続の世界に無防備なわたしたちのポテンシャルへの自覚である」、その通りなのだろう。 現代ビジネス 藤 和彦氏による「「陰謀論」がまた…!「移民」ぎらいの「排外主義者」がふたたび勢いづくヤバすぎる国の名前」 共和党、民主党間の「移民政策」を巡る対立は、困ったことだが、下院は共和党優勢になっただけに、今後の行方は不透明だ。「連載記事」は次で取上げる。 藤 和彦氏による「プーチンの戦争で極右政党がさらに…!「アメリカ」と「ドイツ」を襲う「陰謀論」の危なすぎるワナ」 「「人種間の対立を図る右翼過激派が、電力施設を攻撃して全米で恐怖心を煽り、内戦を誘発しようとしている」、との指摘が正しければ、「右翼過激派」はとんでもなく悪質なことを仕掛けていることになる。 「摘発されたテロリスト集団は2020年1月の米国の連邦議事堂襲撃事件にならい、「Xデー」にドイツ連邦議事堂に武器を持って侵入し、国会議員らを拘束して暫定政権を発足させる計画だったという」、「ウクライナからの難民は昨年10月中旬時点で100万人を超え、2015~16年のシリア難民の数を上回っている」、「ウクライナからの難民」には連帯を示していると思っていたが、やはり「問題になっている」とは驚かされた。 「ウクライナ難民への国民の反発を糧にAfDの支持率は15%とウナギ登りだ」、「経済の悪化に加えて、難民が急増する事態になれば、ドイツを始め欧州全域で過激派組織がこれまでになく勢いづいてしまうのではないだろうか」、「政権与党の社会民主党と緑の党の支持率」回復を期待したいが、回復しない場合には「ウクライナ支援」にも悪影響がありそうだ。
nice!(0)  コメント(0) 

2023年展望(その1)(「来年の予測」を投資家が信じてはいけない3つの理由、2023年の「ドル円相場シナリオ」はどうなるのか 知っておくべき円高、円安の両方向のリスク、2023年は混迷の「新時代」に突入、日本経済の命運握る卯年の“活路”) [経済政治動向]

今年も残すところ僅か1日、今日は、2023年展望(その1)(「来年の予測」を投資家が信じてはいけない3つの理由、2023年の「ドル円相場シナリオ」はどうなるのか 知っておくべき円高、円安の両方向のリスク、2023年は混迷の「新時代」に突入、日本経済の命運握る卯年の“活路”)を取上げよう。

先ずは、11月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「「来年の予測」を投資家が信じてはいけない3つの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/313667
・『経済メディアによる「来年の経済・マーケット予測」特集の季節が近づいてきた。それを読んで資産運用に役立てようと思っている読者は、いったん冷静になって考え直す方がいい。予測を信じて投資してはいけない「三つの理由」があるからだ』、冒頭の記事でいきなり「2023年展望」に水をさすような内容で恐縮だが、事前のワクチンのつもりでお読み下さい。
・『年末の風物詩「予測特集号」は楽しい読み物だが…  12月が間近に迫ってきた。12月は、多くのメディアにとって来年の予測がテーマとなる季節だ。特に経済系の雑誌メディアでは、「来年の経済とマーケットはどうなるか?」を通常の号で何度も取り上げる。 さらに、それとは別に「○○○○年総予測/大予測」などと銘打った特集号が発売されることが多い。筆者の聞くところによると、この種の予測特集号は通常の号よりもはるかに発行部数が多く、かつよく売れるのだそうだ。 せっかくの「よく売れるコンテンツ」に水を差すのは申し訳ないのだが、投資家の皆さんにとっては、この種の特集の、特にマーケット予測には大いに注意が必要だ。正直なところ、筆者もその類いの原稿を書くことがあるので、「天に唾する」感を覚えぬでもないのだが、「予測特集」のマーケット予測を信じて投資しない方がいいことに気付いてほしい』、「予測特集号は通常の号よりもはるかに発行部数が多く、かつよく売れる」ようだが、「投資家の皆さんにとっては、この種の特集の、特にマーケット予測には大いに注意が必要だ」、どういうことだろう。
・『なぜだろうか?  それは、大半の特集の予測記事の流れが、まず経済全体の景気やインフレ率、これらに対する経済政策、さらには業界ごとの事情などを予測した上で、株価や為替レートなど市場の変数を予想するような論理構成になっているからだ。) 「まず、背景となる経済を分析する。その上で、マーケットに関する予測を行う。これが普通の手順であり王道ではないか」と思われる読者が多いに違いない。確かに、「普通の手順」であることはその通りだ。しかし、「普通」であることと、その手段が「有効」であることとの間には大きな差があるのだ』、「「普通の手順」であることと、その手段が「有効」であることとの間には大きな差がある」、言われてみればその通りだ。
・『経済予測に基づく運用は困難 プロの世界では半ば常識に  まずは世界および各国・地域の経済環境を予測して、株式にせよ為替レートにせよ、マーケットの予測につなげる。これが「自然な」流れだと普通の人は思うだろう。 正直に言うと、筆者自身がファンドマネージャーの仕事について数年たつくらいの頃までは(すなわち20代の大半は)、そのように思っていた。むしろ経済予測を強化することこそ運用を改善する王道だと思っていた。 そう思った理由は、運用に入門したての若手社員だった頃の筆者の強みが、経済の知識が豊富で議論に強いことだったからだろう。1985年のプラザ合意前後の円高や世界の金利低下を予測できていたように感じていたし、88年ごろには日本の資産価格が「バブル」の状態だという強い確信を持っていた。そしてこれらの知見は、筆者自身が担当する資金の運用に何がしか生かされていた。 自分をサンプルとして振り返って思うに、人は自分が力を入れている事柄を重要だと思いがちだ。それに2、3の成功事例が加わると、自分の仮説(=経済分析こそが運用に重要だ)をかなり強く信じてしまうものだ。何と素朴な。 しかし、経済を予測してアセットアロケーション(資産配分)を変更することによって運用パフォーマンスを改善しようとする「マーケットタイミング」を利用するアプローチは、大規模な年金資金の運用などプロの運用の世界では、うまくいかないことが業界内の半ば常識になっている。 例えば、公的年金も企業年金も、「基本ポートフォリオ」などと称するアセットアロケーションを、ほぼ変更せずにじっと維持し続ける運用方法を基本としている。マクロ経済の変化に合わせて配分を大きく変更するような運用はほとんど行われていない。 今回はその理由を詳しく説明しよう。 サンプルとしての自分に立ち返ると、筆者は10年、20年、30年と運用の世界を見続けているうちに、「経済予測で運用を改善する」ことは無理なのだと、実感を強化しながら認識するようになった。早い話が、その方針で大規模かつ長期的にうまくいっているプレーヤーが見当たらないのだ。 なお、個人として世界経済を論じることから運用方針を考えるばかばかしさを痛感した最初の経験は、勤めていた運用機関の上司(部長)が運用方針の会議で、ベルリンの壁崩壊についてとうとうと述べるのを聞いていた時だった。「経済予測が資産運用にとって重要だという考えは、単なる自己満足の補足材料なのではないか」と思った。そして、その思いは全く間違っていなかった』、「経済を予測してアセットアロケーション(資産配分)を変更することによって運用パフォーマンスを改善しようとする「マーケットタイミング」を利用するアプローチは、大規模な年金資金の運用などプロの運用の世界では、うまくいかないことが業界内の半ば常識になっている。 例えば、公的年金も企業年金も、「基本ポートフォリオ」などと称するアセットアロケーションを、ほぼ変更せずにじっと維持し続ける運用方法を基本としている」、「「経済予測が資産運用にとって重要だという考えは、単なる自己満足の補足材料なのではないか」と思った。そして、その思いは全く間違っていなかった」、「単なる自己満足の補足材料」とは手厳しい批判だ。
・『経済予測自体が実は「難事」である  経済予測で運用方針を決めることがうまくいかない大きな理由の一つは、経済予測自体が難しいからだ。 運用業界には、「予測は難しい。特に、将来のことに関しては」という、かつてのニューヨーク・ヤンキースの名捕手ヨギ・ベラ(味わい深い名言を吐くタイプの人物だったらしい)によるものとされる言葉が伝えられている。人を喰った印象を与える言葉だが、その通り、経済に関する予測は大変難しい。 世間に多くの職業エコノミストがいて、さらに経済学者がいるにもかかわらず、経済予測はなかなか当たらないし、特に肝心な局面で当たらない。 例えば、昨今のインフレに関して、少なくとも2021年の初頭くらいの段階で米連邦準備制度理事会(FRB)は「物価上昇は、一時的に2%をはっきり超えるかもしれないが一時的なものだ」と考えていた。おそらくは、世界のエネルギー・資源の価格に対する需給の読みを誤ったことに加えて、コロナ対策の財政支出の影響を過小評価したのだろう、などと事後的に評することはできる。ただ、そうだとしても、こと米国の景気や物価を調査する上では最高レベルの人材と情報(近い将来の金融政策まで予測できる「インサイダー」だ)を持ち合わせているはずのFRBでさえ、一番肝心の局面で物価予測が当たらなかった。 専門家の予測力の貧しさに関しては、世界的な金融危機についてエリザベス女王にご進講した超一流の経済学者たちが、「ところで、皆さんたちはこのようなことになると、誰も予測できなかったのですか」と問われて絶句したというエピソードなども有名だ。 より小さな研究所、金融機関・運用会社の調査部門、さらには市井の経済研究家が卑下する必要は少しもないが、彼らも、資産運用に有効なレベルで経済予測を行うことには成功していないように見える。 率直に認めようではないか。経済予測は難しいのだ』、「世間に多くの職業エコノミストがいて、さらに経済学者がいるにもかかわらず、経済予測はなかなか当たらないし、特に肝心な局面で当たらない」、残念ながらその通りだ。
・『経済変数とマーケット変数の「関係」が不安定  前言を翻すようで恐縮だが、経済は「全く予測できないわけではない」。国内総生産(GDP)や鉱工業生産指数、あるいは雇用などについて、われわれは将来の予想数字を持っているし、それが現実から極端に離れているわけでもない。だから、つい当てにしてしまうという意味で、「ある程度当たる予測」にはかえって厄介な面がある。 しかし資産運用との関係で言うと、経済の変数と、マーケットの変数(例えば株式の期待リターン)との間の「関係」が不安定であることが、経済予測からマーケット予測を構成し、その上で運用戦略を考えようとするアプローチへの障害になっている。 なぜ両者の関係が不安定なのかに関しては、複数の理由が考えられる。 例えば、GDPに代表される景気に関する来年の数字を「当てる」ことができても、来年の株式のリターンの予測に役立てることができるかは大いに疑問だ。 一つには、株式のリターンに影響する要素がGDPや景気以外にもあるからだろうか。だが、われわれには多変量を解析する手段があるはずだ。 しかし、複数の変数と株式のリターンとの関係が分析できても、例えば、現在の株価に将来の予想情報がどの程度「織り込まれているか」という別の問題がある。これについての「程度」が安定しないと、経済変数の将来予測からマーケット関係の変数を予想することは難しい。 また、仮に経済変数とマーケット変数との間の関係がある程度分かったとすると、この情報に対して市場参加者の行動が変化してしまうので、「将来のリターン」の予測は再び困難になってしまう。 このように、マーケットの仕組みを考えると、経済予測から始めて市場のリターンを予想しようとするアプローチは、複数の関節が緩くて制御の効かないマジックハンドで離れた場所にある物を取ろうとするくらいの難事であることが想像できる。実際にエコノミストは、ゲームセンターのUFOキャッチャーほどにも役に立たない。 エコノミストの側は悔しいから次のように言う。 「他の条件を一定とすると、○○が××なら、株価は△△になってもおかしくない」等々。しかし、現実の世の中では「他の条件」はじっとしていない。 かくして、誰も傷つかないし、しかし誰も役に立たない、独特の均衡状態が生まれる』、「仮に経済変数とマーケット変数との間の関係がある程度分かったとすると、この情報に対して市場参加者の行動が変化してしまうので、「将来のリターン」の予測は再び困難になってしまう」、その通りだ。
・『「他人の予測を把握する」こともほぼ不可能なくらい難しい  もう一点、経済予測から市場予測を構成するアプローチの有用性を損なうファクターを指摘しておこう。 それは、「他のプレイヤー(市場参加者)の予想」を把握することが難しいからだ。 仮に、それなりに正しい経済予測ができて、経済変数とマーケット変数との間の相関関係についてそこそこに有効と思える推定ができたとしよう。 次の問題は、市場に参加する他のプレイヤーがどのような予測を持っているかだ。 運用者にとって理想的なのは、他のプレイヤーが当面「誤った予測」を持っていて、しばらくした後に「間違いに気付いて、後追いしてくれる」状況だ。しかし、普通、世の中はなかなかそこまで幸運にはできていない。 そこで、自分の予想の価値を把握するために、他の市場参加者の予想をぜひ知りたいと思うのだが、これがほとんど不可能なくらい難しい。 いわゆるコンセンサス調査のようなデータは世間にある。市場参加者はこれを見て自分の予想の世間的な位置を知ろうとするのだが、それは、他の参加者もやっていることだ。そして、それで他の参加者の本音の予測が分かるわけではない。 かくして、多くの困難を乗り越えて、正しい経済予想と経済変数とマーケット変数の関係の推定とにたまたまたどり着けたとしても、自分の予想の相対的な位置や価値を正しく知ることが難しい。そして、そもそも元の予想が合っているのかどうかに自信がないのだ。脳みそが冷静でさえあれば、市場参加者は「経済予測から運用戦略を作るのは無理だ」と気が付くことになる』、「脳みそが冷静でさえあれば、市場参加者は「経済予測から運用戦略を作るのは無理だ」と気が付くことになる」、なるほど。
・『売買手数料は「重い!」 当たらない予測ならなおさら  経済予測から運用戦略を考えることに関しては、以上のような「困難」があるわけなのだが、これらに加えて現実の資産運用では、アセットアロケーションを調整するために手数料や市場に与えるインパクトなどから生じる「売買コスト」の存在が重大だ。 売買コストは、それ自体がたとえ小さいとしても「確実なマイナスの影響要素」だ。努力の結果生み出した予測だとしても「平均的には無価値な判断」に対してこれを割り当てることは合理的ではない。 ここで述べたような諸々の事情は、兆円単位の資産を運用する機関投資家にとっても、数百万円レベルのお金を運用する個人投資家にとっても、基本的には同じだ。 以上のような訳で、読者は、これから数多出るだろう「2023年の大予測特集」の記事を読んで、これを実際の運用に生かそうとしているなら、いったん冷静になって考え直す方がいい。 筆者が思うに、読者は、こうした予測特集の内容を、投資の参考にするために読むのではなく、分析者のアイデアを楽しむエンターテインメントとして読むべきだ。大切なお金の運用とは切り離して考えた方がいい。 付け加えると、そのように割り切った「大人の読者」が読んでくれるなら、記事を書く側ももっと腕の振るいようがあるのではないだろうか。 「予想(ヨソウ)」は反対方向から「ウソヨ」と読むくらいがちょうどいいのだ』、「現実の資産運用では、アセットアロケーションを調整するために手数料や市場に与えるインパクトなどから生じる「売買コスト」の存在が重大だ。 売買コストは、それ自体がたとえ小さいとしても「確実なマイナスの影響要素」だ。努力の結果生み出した予測だとしても「平均的には無価値な判断」に対してこれを割り当てることは合理的ではない」、「読者は、こうした予測特集の内容を、投資の参考にするために読むのではなく、分析者のアイデアを楽しむエンターテインメントとして読むべきだ」、「「予想(ヨソウ)」は反対方向から「ウソヨ」と読むくらいがちょうどいいのだ」、最後の部分は山崎氏のユーモアのセンスはまだまだ健在のようだ。

次に、12月18日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「2023年の「ドル円相場シナリオ」はどうなるのか 知っておくべき円高、円安の両方向のリスク」を:2022年も残すところあと半月になった。2023年のドル円相場はどうなるのか。筆者の考えるメインシナリオやリスクシナリオを示してみよう。 年明け以降のドル円相場は、1~3月期まではFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利上げ幅や利上げ停止がテーマとして注目される中、アメリカ金利低下とドル安に応じた円高が促されやすいと考えている。この辺りは多くの市場参加者が共有する問題意識ではないかと思われる。 この際、下値目途は2022年の値幅の半値戻しである1ドル=130円前後をイメージしている。なぜ半値しか戻らないのかと言えば、筆者は今般の円安を「ドル全面高」と「円全面安」が併発した結果だと考えているからだ。 ドル全面高はFRBのハト派転換(pivot)とともに修正される余地があるにしても、史上最大の貿易赤字などを背景に歪んだ円全面安の部分は解消されないだろう。直感的にも巨大な貿易赤字を擁する世界で唯一のマイナス金利採用国の通貨が買われ続けるというイメージは湧きにくい。 では、2023年4~6月期以降はどうなるか。金融市場ではそのまま円高傾向が続き、2022年初頭の水準(1ドル=112~113円付近)に戻るという意見が多いように見受けられる。だが、筆者はそう思っていない。 これは上述した日本の金利・需給環境も加味した結論だが、それだけではない。金融市場のコンセンサスどおりの展開となれば、おそらく2023年4~6月期以降はFRBの利上げ停止を確認することになる。しかし、「次の一手」としての利下げが現実的に市場予想の範囲に入ってくるのは2023年中の話ではないだろう。 とすると、金融市場には当面、FRBの大きな政策変更を予想しないで済む穏当な時間帯が生まれる可能性がある。象徴的にはボラティリティ低下とともに株高という地合いに至る可能性がある。利下げをするわけではないので日本から見た内外金利差も相応に高止まりする公算が大きい。これは対ドルだけではなく、対クロス円通貨に対しても同様のことがいえる』、12月21日付けで日銀は異次元緩和を微修正した。長期金利の上限を0.5%に、円も131円台に上昇。
・『2023年終盤に1ドル=140円台に戻る?  「十分な金利差」と「低いボラティリティ」はキャリー取引が行われるための2大条件である。2022年中は日米金利差が円売りの材料として注目されたが、本当の意味で円安を駆動するとしたら2023年のほうが好ましい環境に思える。「円だけマイナス金利」という状況下、貿易赤字大国の通貨が上昇一辺倒という軌道を辿るのは非常に難しく説明に窮する。2023年10~12月期には再び1ドル=140円台を主戦場とするような地合いに至るのではないか。) 以上はメインシナリオだが、そうならないリスクも当然ある。リスクは上下双方向に拡がっており、それぞれ複数考えられるが、主だったものを1つずつ挙げておきたい』、「リスクは上下双方向に拡がっており、それぞれ複数考えられるが、主だったものを1つずつ挙げておきたい」、なるほど。
・『アメリカ利上げは本当に1~3月期に止まるのか  まず、筆者の想定以上に円安がいきすぎるリスクだが、これはFRBの利上げ継続である。アメリカのインフレ率がピークアウトしていることはもはや自明であるとしても、多くの市場参加者が抱く「1~3月期中に利上げが停止する」という前提がそこまで確実なものなのか。 足元では、FRBが2%のインフレ目標で参照する個人消費支出(PCE)デフレーターはダラス地区連銀が試算するトリム平均指数(変動が非常に大きな異常値を除外して求める平均)で見ても前年比+4.7%程度、食料・エネルギーを除くコアベースでは+5%超、総合ベースでは+6%超である。PCEデフレーターが安定的に+2%程度になるという状況にまで、エネルギー情勢が年初3カ月間で収束するだろうか。 現状、利上げの終点と目される政策金利水準(以下ターミナルレート)のコンセンサスは4.75~5.25%というレンジにあるが、例えば「6月以降は四半期に1度、+25bp」というペースで利上げが継続する可能性もある。そうなった場合、ターミナルレートは6%に接近するだろう。 パウエルFRB議長は1年前(2021年11月末)、「インフレは一時的」という認識を急遽撤回し、市場に大きなショックを与えた経緯がある。当時の翻意に比べれば、利上げが1~3月期で停止せずに緩やかなペースで持続するという展開はさほど不自然ではない。メインシナリオではないが、円安方向のリスクシナリオとしては検討する価値がある。) 片や、筆者の想定とは逆方向に円高がいきすぎるリスクもある。これも複数考えられるが、やはり新体制への移行に伴う日本銀行のタカ派転換がその筆頭であろう。可能性としては上記の円安リスクよりは低いと思われるが、念頭に入れたいシナリオではある。 市場が抱く新体制へのイメージは「現状より緩和姿勢が強まることはない」程度であり、新総裁の候補者が複数名挙がっているものの、どの候補者になればどういった政策修正に至るのかというコンセンサスはない』、「市場が抱く新体制へのイメージは「現状より緩和姿勢が強まることはない」程度」、その通りだ。
・『岸田政権はアベノミクスと距離を取る?  12月13日に木原誠二官房副長官がブルームバーグとのインタビューで大規模金融緩和を正当化する政府・日銀による共同声明の修正に関し「新たな合意を結ぶ可能性はあるものの、現在の合意内容と異なるものになるかどうかはわからない」と語っている。言質は取らせていないが、ここは「修正は考えていない」と回答すべきだったように思えた。やはりアベノミクスとは距離を取る政策運営が志向されるのではないか。 具体策として想定されるものに関しては、引き締めの度合いが弱い順にフォワードガイダンスの修正、イールドカーブコントロール(YCC)における変幅拡大、YCCにおける操作年限の短期化、YCC廃止、利上げ(マイナス金利解除)などが考えられる。 このうち「新体制移行とともに利上げ」というような展開はほとんど想定されていない話と言える。2013年4月、黒田総裁が就任後初の会合で量的・質的金融緩和を決定し強烈なリフレ思想を煽った記憶を辿れば、その逆の展開が2023年4月に起きることはないのか。注目したい点である。 もちろん、保守的な岸田文雄政権の意向も相応に影響するであろうことを踏まえれば、日銀が家計部門にも大きな影響をもたらす利上げという決断に踏み切れる可能性は低い。また、リフレ思想を持たない(≒タカ派色の強い)市場参加者として注目される新任の高田創審議委員も日経新聞(12月10日)に掲載されたインタビューで、「(YCC解除に関して)残念ながらそういう局面になっていない」と述べている。 もちろん、現行体制と新体制では情報発信の意味も異なるだろうが、少なくとも現状の政策委員会の中では利上げを主張するような空気はまったく感じられないのが実情だろう。しかし、積極的な円買い材料に乏しいと言われる状況下、「日銀の利上げ」という為替市場参加者のほとんどが想定していない展開はリスクシナリオから外すべきではない、非常に重要な論点であるように思われる』、「「日銀の利上げ」という為替市場参加者のほとんどが想定していない展開はリスクシナリオから外すべきではない、非常に重要な論点であるように思われる」、その通りだ。

第三に、12月19日付けダイヤモンド・オンライン「2023年は混迷の「新時代」に突入、日本経済の命運握る卯年の“活路”」を紹介しよう。
https://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29881
・『『週刊ダイヤモンド』12月24日・12月31日新年合併特大号の第一特集は「2023 総予測」だ。過去1年を総括し、翌年のゆくえを見通すという、年末年始の恒例企画だが、2022年は国内外ともに近年類を見ない大波乱の1年となった。来る23年はどうなるのか?経済はもちろん政治、社会、文化まで特集を通じて「総予測」する』、興味深そうだ。
・『混迷の時代に突入する2023年 日本と世界の“活路”を探る  来る2023年。景気と株価はどうなる?円安とインフレは続くのか?金利上昇や不動産暴落は起きるのか?そして、歴史に刻まれる出来事が相次いだ22年を経て、日本と世界はどうなってしまうのか――。 年末年始におけるメディアの定番企画が翌年の「予測」だ。経済メディアにおいては、新たな1年の経済や企業の予測に各媒体が総力を挙げるのが恒例となっている。 『週刊ダイヤモンド』では年末年始の超特大特集「総予測」がそれだ。今回も企業トップやアナリスト、学者ほか多数の専門家を直撃し、23年の見通しや注目キーワードなどを徹底分析した。 今特集を俯瞰して浮かび上がるのは、23年の日本と世界が、これまでの“前提”が崩れた混迷の「新時代」に突入するということだ。ことの発端は22年に起きた、100年先の日本史、世界史の教科書にも記されるだろう国内外における二つの歴史的事件にある』、それは、「ロシアによるウクライナ侵攻」、「安倍晋三元首相銃撃事件」、である。
・『岸田政権はダッチロール状態 統一地方選と日銀総裁人事が焦点  まず国外では、2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻だ。片や国内の方は、7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件がそれである。 前者は、21年から続いていた世界的なインフレのアクセルを踏み込み、目下のエネルギー価格や食料価格の高騰を招いている。 資源高騰は無論のこと、とりわけ米国におけるインフレは日本経済に甚大な影響を及ぼす。目下の日米金利差に起因する超円安の命運は、米国のインフレ対策──、利上げ動向に懸かっているからだ。 問題は経済面にとどまらない。戦況の泥沼化によって、周知のようにロシアによる核兵器使用という第二次大戦以降、最悪の事態さえ懸念されている。 ところが、この世界情勢の混迷に対し、日本の岸田政権はまさにダッチロール状態だ。 安倍氏暗殺でクローズアップされたのが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自由民主党の“蜜月”関係だ。いわゆる「旧統一教会被害者救済法」が自民党と公明党など賛成多数で22年12月に成立したが、遅きに失した感は否めない。23年4月の統一地方選挙を岸田首相が乗り越えられるかどうかが、今後の政局を占う一つの焦点となる。 安倍氏の急逝は、政治のみならず金融政策のかじ取り役、日本銀行のトップ人事にも影響を与えそうだ。22年12月現在、23年4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任者選びが最終局面にある。「リフレ派」の黒田氏が、アベノミクスの目玉として官邸主導で送り込まれてから10年。安倍氏不在の今、現在の政策を踏襲する新総裁が誕生するのかに注目が集まっている。 こうした国内外の経営環境の激変を踏まえ、各産業、企業業績は23年どうなるのか。本特集では、ダイヤモンド編集部記者による日本企業「八大テーマ」座談会や、数多の日本を代表する企業トップや専門家への直撃インタビューなど徹底取材で明らかにする。 混迷の「新時代」が到来する中、卯年に倣って“跳躍”できるのか──。特集を通じて日本と世界の“活路”を探る』、「23年4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任者選びが最終局面にある。「リフレ派」の黒田氏が、アベノミクスの目玉として官邸主導で送り込まれてから10年。安倍氏不在の今、現在の政策を踏襲する新総裁が誕生するのかに注目」、「特集を通じて日本と世界の“活路”を探る」、なるほど。
・『「生前贈与」がダメになる前に得できる! 超豪華付録「駆け込み贈与・相続術カレンダー」つき(『週刊ダイヤモンド』12月24日・12月31日新年合併特大号の第一特集は「2023 総予測」です。 ページ数は、なんと物理的限界ギリギリの264ページ!295人の人物の名前が登場し、ダイヤモンド編集部の総力と多数の超一流の専門家の英知を結集させ、経済の先行きを徹底的に予測。株価、為替、企業業績のみならず、国際関係、政治、社会、文化、スポーツまで抜かりなく完全網羅しました。 さらに今回は、万人が無関係ではいられない“タイムリー”な豪華付録つきです。 相続税の節税術の王道だった生前贈与がもうすぐ事実上の禁じ手になることを踏まえて、人気税理士たちの監修の下に作成した「駆け込み贈与・相続術カレンダー」です。12カ月で後悔しない贈与と相続のやり方が学べること請け合いです。 家族が集う年末年始という絶好の機会に、贈与・相続を話し合いにお役立てください!』、「家族が集う年末年始という絶好の機会に、贈与・相続を話し合いにお役立てください!」、実にタイムリーな企画だ。 
nice!(0)  コメント(0) 

日本の構造問題(その29)(「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が 日本の命とりとなる」、経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した、誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない) [経済政治動向]

日本の構造問題については、9月24日に取上げた。今日は、(その29)(「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が 日本の命とりとなる」、経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した、誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない)である。

先ずは、11月12日付け現代ビジネス「「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が、日本の命とりとなる」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/101905?imp=0
・『自信なさげにボソボソ喋るメガネの男、キシダに国を任せていて大丈夫なのか? 世界は、日本の総理に厳しい目を向けている。いったいどうすれば日本は復活できるのか、国内外の7人の「知の巨人」に聞いた。7人目は政治学者のイアン・ブレマー氏だ』、「イアン・ブレマー氏」の診断とは興味深そうだ。
・『混沌とした「Gゼロ」の世界  9月28日、都内で開かれた「Gゼロサミット」のために訪日し、翌日に首相官邸で岸田総理にお会いしました。 サミットで岸田氏は「ブレマー博士のおっしゃる『Gゼロ』の世界が現実のものになりました」といったことを話されていました。 私が「Gゼロ」という言葉を造ったのは、約10年前のことです。「G」は世界をリードする大国を指しますが、'12年頃にはG7やG20が機能不全を起こしかけており「リーダー不在」になっていた。この状態を私は「Gゼロ」と名づけたのです。 そして'22年2月、プーチン大統領がウクライナ侵攻を始めたことで、世界秩序の崩壊がいよいよ現実のものとなりました。東アジアでも、台湾統一を公言する中国やミサイル発射を繰り返す北朝鮮など、軍事衝突の脅威が高まっています。 さらにキューバ危機から60年経っても、我々は何も学んでいないことも明らかになりました。想像しうる最悪の兵器―核によって人類が滅びかねない危機に再び直面しているのです。 ロシアがNATO加盟国に核ミサイルを撃ち込まない保障はありませんし、西側でも「核があればウクライナもロシアによる侵攻を防げたはず」「我々にも核が必要だ」といった声が上がっている』、確かに「「Gゼロ」の世界」は「「混沌とし」ている。
・『日本は「科学後進国」になりかけている  「Gゼロ」の世界は、想像以上に混沌としたものになりつつあります。これだけの難局を、岸田総理が乗り切れるとは到底思えません。 百歩譲って、日本、アメリカ、オーストラリア、インドが参加する「QUAD」の連携強化を進めている点は評価してもいいでしょう。 かつての「科学大国」が、今や「科学後進国」に。 しかし、日本には致命的な欠点があります。 科学研究や技術開発への投資が、ほとんど増えていないのです。'00年と'19年の研究開発費(名目額)を比較すると、日本は1.2倍とほぼ横ばいになっています。一方、米国は2.4倍、韓国は6.4倍、中国にいたっては24.7倍に急増している。 潤沢な研究資金を求め、日本を捨てて海外に出る研究者も多くいるようです。かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています。 日本が特に遅れを取っている分野の一つが、デジタル技術です。現在の地政学は、デジタル技術の発展によって大きく転換しています。資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります。 自律型ドローン、人工知能(AI)、さらには量子コンピュータなど、「破壊的なテクノロジー」は次々に生み出されています。 研究開発の努力を怠れば、日本は「Gゼロ」の世界を荒らしまわる強国に飲み込まれてしまうでしょう。 「知の巨人」シリーズ 1ポール・クルーグマンが激白「日本経済を復活させるには、定年を廃止せよ」 2昭和史を見つめてきた作家・保阪正康が岸田総理を斬る「宏池会の系譜に学ばぬ首相に失望した」 3経済学者・野口悠紀雄の提言「早く金利を上げて、円安を止めなさい」 4「賃金を上げて、非正規雇用を見直せ」ジャーナリストのビル・エモットが考える「日本再生への道」 5姜尚中が痛烈批判「岸田総理は、夏目漱石『それから』の主人公と同じ“煮え切らない男”」 6得権益を温存し衰退する日本…社会学者・宮台真司「愚かな総理を生み出したのは、からっぽの民衆だ」』、「かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています」、「資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります」、由々しい事態だ。

次に、11月16日付けPRESIDENT Onlineが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/63430
・『なぜ日本の製造業は衰退したのか。一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんは「政府による補助金政策に問題があった。かつては半導体産業にも力があったが、政府が“補助金漬け”にしたことによって競争力を失ってしまった」という――。(第1回)※本稿は、野口悠紀雄『円安と補助金で自壊する日本 2023年、日本の金利上昇は必至!』(ビジネス社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『90年代から始まった政府による製造業への介入政策  高度成長期、日本の製造業は国の直接介入を拒否した。1960年代に、通商産業省は外資自由化に備えて日本の産業の再編成を図ろうとし、「特振法」(特定産業振興臨時措置法)を準備した。しかし、その当時の日本の産業界は、これを「経済的自由を侵害する統制」であるとして、退けてしまったのである。外資による買収を防ぐより、政府に介入されないことのほうが重要と考えたのだ。 この当時、政府による保護策の対象は、高度成長に取り残された農業だった。ところが、1990年代の中頃から、この状況が変わってきた。競争力を失った製造業を救済するために、政府が介入するようになってきたのだ。 まず、マクロ政策において金融緩和を行い、円安に導いた。それに加え、経済産業省の指導による産業再編(その実態は、競争力が失われた製造業への補助と救済)が行われてきた。そして、2000年頃から、国による保護・救済の対象が、農業から製造業に変わった。世界経済の大転換に対して、産業構造の転換を図るのではなく、従来のタイプの製造業を延命させようとしたのだ。 特に08年のリーマンショック(08年9月にアメリカの投資銀行リーマンブラザーズが経営破綻したことをきっかけに生じた金融危機)後は、さまざまな製造業救済策がとられた。雇用調整助成金、エコカー減税・補助金、地上波デジタル移行によるテレビ受像機生産の助成などだ。 政府の干渉が強いと、産業構造の調整が遅れる。DRAM(半導体記憶素子)のエルピーダメモリや、LSI(大規模集積回路)のルネサスエレクトロニクスなどがその例だ。これらは業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ。また、シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた。 これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった』、「エルピーダメモリ」、「ルネサスエレクトロニクス」などは「業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ」、「シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた」、「これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった」、情けない限りだ。
・『史上最大の負債総額を出して破綻したエルピーダメモリ  これまで日本で行われた企業再建のかなりのものが、官主導で行われた。企業救済を目的とする官製ファンドとして、2003年に経済産業省が主導して「産業再生機構」がつくられた。そして、04年には、カネボーやダイエーの再建にかかわった。さらに09年には、「産業革新機構」が設立された。将来性がある企業や企業の重複事業をまとめることによって、革新をもたらすとされた。 半導体産業については、NEC、日立のDRAM事業を統合したエルピーダメモリが1999年に発足した(後に、三菱電機のDRAM事業を譲り受ける)。しかし、経営に行き詰まり、改正産業活力再生特別措置法の適用第1号となって、公的資金活用による300億円の出資を受けた。それでも事態は好転せず、2012年2月に、会社更生法の適用を申請し、製造業として史上最大の負債総額4480億円で破綻した。 日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう』、「日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう」、その通りだ。
・『莫大な補助金が投入されたジャパンディスプレイだったが…  ジャパンディスプレイ(JDI)は、ソニー、東芝、日立が行っていた液晶画面事業を合体して2012年につくられた組織だ。産業革新機構が2000億円を出資し、国策再生プロジェクトとしてスタートした。ところが、19年に危機的な状態になった。 産業革新機構から設立時に2000億円の出資を受け、16年から17年にかけても750億円の投資が追加でなされた。赤字の民間企業に国の金を投入し続けることに対して批判があったが、17年には1070億円の、18年にも200億円の支援がなされた。しかし、18年12月10日、産業革新投資機構の民間出身の取締役全員が辞職。革新機構は機能を停止した。 ジャパンディスプレイの財務状況は厳しいままだった。一時は債務超過に陥った。会計不正事件もあった。20年10月、石川県白山市の工場をシャープとアップルに売却し、経営安定に努めているが、いまだに赤字を続けている。液晶は、半導体と並んで日本製造業の強さの象徴であり、お家芸の技術とされていたものだ。それがこのような状態になった。必要なのは、世界的な製造業の構造変化に対応することだ。 数社の事業を統合して重複を除くというようなことではない。エルピーダメモリやジャパンディスプレイが成功しなかったのは、世界の製造業の基本構造が変わってしまったからだ』、「世界の製造業の基本構造が変わってしまった」、どういうように変わったのだろう。
・『政府の再建政策では抜本的な変革は実現できない  大きな改革は、企業の再建でなく、企業の新陳代謝によってしか進まない。ところが、官庁が主導して関係企業や金融機関が協議して決める再建は、これまでの日本的なビジネスモデルと産業構造を維持することを目的にしている。だから、抜本的な変革が実現できない。 このような官民協調体制が、日本の産業構造の変革を阻んできたのだ。この結果、日本の産業構造の基本的な仕組みと企業のビジネスモデルは、ほとんど変わっていない。日本では、企業の消滅を伴う改革は望ましくないと考えられてきた。その大きな理由は、雇用の確保だ。 しかし企業が残って雇用を維持し続けても、全体としての雇用情勢は大きく変わっている。非正規雇用が全体の4割にもなっている。新しい産業が成長して雇用機会を生み出していくしか、答えはない。 半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ。エルピーダメモリの場合について見れば、DRAMはもともと付加価値が低い製品だった。ジャパンディスプレイの売上高も、2016年までは、iPhoneの出荷台数の成長とともに増大していた。 ところが、16年以降、iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減したのだ』、「半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ」、「iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減」、なるほど。
・『日本経済が抱えている問題は、金融政策では対処できない  半導体では、経営者が大規模投資を決断できなかったことが、その後の不振の原因といわれる。しかし、液晶の場合には、大規模な投資を行った。特にシャープの場合は、「世界の亀山モデル」といわれる垂直統合モデル(液晶パネルの生産から液晶テレビの組立までを同一工場内で行う)を展開した。 ところが、結局は経営破綻して、台湾の鴻海(ホンハイ)の傘下に入らざるを得なくなった。厳重な情報管理をして液晶の技術を守るとしていたが、いまになってみれば、液晶はコモディティ(一般的な商品で、品質で差別化できないため、価格競争せざるを得ないもの)でしかなかったのだ。 日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT(情報通信技術)の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である。 金融緩和をすれば円安になる。そして、円安が進行している間は企業利益が増加して株価が上がる。しかし、これは一時的現象にすぎない。それにもかかわらず、金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ』、「日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT・・・の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である」、その通りだ。「金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ」、同感である。

第三に、11月30日付け東洋経済オンラインが掲載した学習院大学経済学部教授の宮川 努氏による「誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/636134
・『日本の経済成長を議論するうえで、「生産性の低さ」は大きな課題となっている。労働生産性を見ると、主要先進7カ国(G7)で最も低く、OECDでも23位にとどまる。 ただ、生産性に対する誤解は少なくない。「生産性が低い」と感じる人がいる一方で、「こんなに一生懸命働いていて、もうこれ以上働けないくらいなのに、生産性が低いといわれても……」と思う人もいる。 はたして生産性とは何なのか、生産性を向上させるためにはどうすればいいのか。生産性の謎を解く連載の第5回は、「生産性と設備投資」について、学習院大学経済学部教授の宮川努氏が解説する。 日本では「人への投資」がさかんに強調されている。確かに「人への投資」は重要だが、それは生産や研究のための新しい投資が行われて初めて効果的になる。 実は世界金融危機以降に潜在成長力が低下した先進諸国の大きな課題の1つは、生産のための通常の設備投資が減退していることなのである。 10月にイギリスのマンチェスターで開かれた生産性データベースの国際カンファレンスでキーノートスピーチを行った、イングランド銀行(イギリスの中央銀行)の金融政策委員会メンバーであるジョナサン・ハスケル氏も「投資と生産性」というタイトルで、先進諸国の投資の減退の要因を探っていた。 古い設備で経済活動を行うなら「人への投資」は不要(日本も例外ではない。経済成長の要因は、労働投入の増加分と資本投入の増加分とそして生産性に分解することができるが、今世紀に入ってからの資本投入の経済成長への寄与はほとんどないに等しい。つまり設備投資が少なく、新たな設備が蓄積されないのである。 このため、下のグラフにあるように設備の年齢は急速に上昇している。 (外部配信先では図や画像を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) もし古い設備で経済活動を行うのなら、「人への投資」は不要である。新たな知識やスキルを得ても使う場所がないのだから時間の無駄というものである。通信手段としてファックスを使い続ける社会にとっては、人材教育は不必要だが、革新的な投資を行えば人材投資は不可避となる。つまり設備を更新していくことと人材投資は車の両輪なのである。 投資には、潜在的な成長力(生産能力)を上げるという役割のほかにもう1つの側面がある。それは景気循環への影響である。 投資という行為は、建物を建築する資材を購入したり、機械設備を購入したりするため、財やサービスへの需要を増やすことになる。この支出の増加は、消費の増加や輸出の増加と同様景気にとってプラスに働く。生産能力の増加という供給面の効果と支出の増加という需要面の効果の双方を併せ持つことを「投資の二面性」と呼んでいる。 それでは投資が増加すればいいことづくめなのかといえば、そうともいえない。投資の増加は、景気を大いに盛り上げるが、いったん増加した生産能力は容易に減らすことはできない。このため、需要が減少した際には、企業は過剰設備を抱えることになる。バブル崩壊後の日本も大幅な過剰設備を抱えていた。 しかし生産性を向上させるためには、こうした設備の過剰を乗り越えて、新たな設備を導入していく必要がある。鉄道事業で自動券売機や自動改札を導入しなければ、生産性は向上しないし、小売業でも自動店舗やセルフ・レジのための機械の導入は、生産性の向上に貢献しているといえる。 今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じているのである』、「今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じている」、なるほど。
・『株価が上昇する一方で設備投資が低迷  ただ不可解なのは、2010年代は企業の株価が大きく上昇した時期でもあった。ダウ=ジョーンズで見ても、日経平均株価で見ても、2010年代の初めから最後にかけて株価は3倍に上昇している。通常、企業価値が上昇するということは、投資家が設備投資から生まれる将来的な利益の増加を期待していることを意味している。 つまり一般的に株価と設備投資は歩調を合わせて動くものなのである。それにもかかわらず、2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた。 このパズルを説明する要因として、先進国共通の要因としては3つ挙げられる。 1つ目は無形資産投資が増えていることである。1990年代後半にアメリカでIT革命が起きてから、ソフトウエアや人材投資をはじめとした目に見えない投資が増えている。株式市場はこの投資による収益の増加を評価しているが、公表される企業の財務諸表にはこうした資産のほとんどは計上されていない。したがって、株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じるのである。 2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなったという点である。アマゾンもグーグルも1990年代に創業した当初は、比較的小規模なベンチャー企業だったが、今やどの企業も太刀打ちできないほどの市場支配力を持っている。リーディング産業におけるこうした独占力は、その企業の利益を増大させ、株価を引き上げる一方で、経済全体の投資を縮小させる効果を持っている。 3つ目は、海外直接投資の影響である。先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる』、「2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた」、「1つ目は無形資産投資が増えている」ので、「株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じる」、「2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなった」、「3つ目は、海外直接投資の影響」、「先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる」、なるほど「パズル」が解けたようだ。
・『日本を見た場合の最大の要因は?  日本の場合を見てみると、無形資産投資の増加については、ある程度あてはまる。しかし、その無形資産投資額も2010年代からは横ばいになっており、あまり有形資産の投資をカバーする力はなさそうである。逆に人材投資は長い期間をとってみると減少しており、それが増加する企業価値と建物や機械などの投資の停滞とのギャップを埋めているとはいいがたい。 2つ目の市場集中度の上昇は、日本では一般的には見られない。しかし情報通信サービス業では、大企業と中小企業の生産性との差が見られることは確かである。この背景には、少数の企業が大きなシステム投資の受注を行い、それを中小の企業に請け負わせるという建設業に似た構造があると考えられる。こうした構造によって情報通信サービス業の投資や生産性が上昇してないという側面はある。 しかし日本の場合、この2つよりも大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである。 実はこの最後の3番目の問題は、地方経済にも暗い影を投げかけている。徳井丞次・信州大学教授と牧野達治・一橋大学経済研究所研究員が最近延長された都道府県別産業生産性データベースを使って都道府県別の研究開発に伴う知識ストックを調べたところ驚くべき結果が出ている。) 1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下している。 背景にはおそらく、この間に企業の海外進出と国内工場の閉鎖が進み、同時に技術者も減少していったことがある。地方はこの製造業の事業所の減少を観光業の振興で補完してきたが、それも東京オリンピック・パラリンピック開催時期における新型コロナウイルスの感染拡大という最悪のタイミングに起きた災禍によって先行きが不透明になっている』、「大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである」、「1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下」、ここまで「東京都」への「集中」が進んだとは、驚かされた。
・『日本は研究開発への支援が足りない?  研究開発力に関してはこうした量的な蓄積に加えて質的な問題も指摘されている。スタンフォード大学のニック・ブルーム教授やチャールズ・ジョーンズ教授らは、研究開発投資の効率性の低下について検証した研究を発表している。彼らは、半導体の集積密度が1年半から2年で2倍になるというムーアの法則を達成したり、新薬を開発したりするためには、これまで以上の研究資源を投入しなければならなくなっていることを示した。 従来の研究開発に関する研究では、研究開発への資源投入量が多ければ多いほど生産性の向上が期待されるという結果が得られていた。しかしながら、彼らが示したのは研究開発投入量当たりの生産性向上分、つまり研究開発の効率性が低下しているために、従来と同様の研究開発資源を投入しても、従来以下の生産性向上しか得られないというものであった。 日本では研究開発への支援が足りないということがさかんにいわれている。しかしながら量的な指標で見ると、日本の研究開発費の対GDP比は長年3%以上を保っている。これは韓国の4%には及ばないが、2%台の欧米先進諸国よりも高い。それでも研究開発費が十分でないということは、革新的な成果を出すために従来以上の資金や資源投入を必要としているということなのだろう。 こうした状況下では、たとえGDP比率が日本より低くとも、GDP自体が急速に膨らんでいる中国の研究成果が存在感を増しているというのもうなずける。) 国内における生産設備や研究開発への投資を増やし、生産性への向上につなげていくにはどのようにすればよいのだろうか。頼るのは、今回の台湾の半導体メーカーTSMCの進出のような海外からの直接投資だろう。 もともと直接投資というのは、経営能力の海外移転として捉えることができる。日本が好調であった時期には、日本の生産プロセスを海外に移転することが移転元、移転先双方にとって好ましいことであった。日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる』、「日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる」、寂しいが、認めざるを得ない。
・『海外直接投資を増やすための2つのハードル  ただし、こうした楽観的な期待には2つの注釈が必要になる。 1つは、従来から指摘されていることだが、日本では対日直接投資を実施する際の手続きが煩雑で、これが一種の参入障壁のようになっていた。このため日本への直接投資は中国や韓国よりも低い水準にあった。 もう1つは最近機運が高まっている経済安全保障による制約である。これにより、例えば半導体では外資メーカーが政府の補助金までもが受けられる一方で、ほかの分野では参入を拒否される企業も出てくる可能性がある。こうした政府の恣意的な介入が多くなると、対日投資は増えない。 手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう。 経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう』、「手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう」、その通りだ。 「経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう」、その通りなのだろう。
タグ:日本の構造問題 (その29)(「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が 日本の命とりとなる」、経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した、誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない) 現代ビジネス「「Gゼロ」の提唱者・イアン・ブレマーが指摘「科学研究の衰退が、日本の命とりとなる」」 「イアン・ブレマー氏」の診断とは興味深そうだ。 確かに「「Gゼロ」の世界」は「「混沌とし」ている。 「かつて「科学大国」と言われた日本は、今や「科学後進国」に転落する瀬戸際まで追い込まれています」、「資金を投じてデジタル技術開発を続けないと、日本はあっという間にサイバー攻撃の餌食となります」、由々しい事態だ。 PRESIDENT ONLINE 野口 悠紀雄氏による「経産省が手を出した業界から崩壊していく…日本企業が世界市場で勝てなかった根本原因 だから世界一だった液晶と半導体も崩壊した」 野口悠紀雄『円安と補助金で自壊する日本 2023年、日本の金利上昇は必至!』(ビジネス社) 「エルピーダメモリ」、「ルネサスエレクトロニクス」などは「業界再編成のために官主導で設立された会社だが、失敗しただけでなく、汚職をも生んだ」、「シャープやパナソニックによる巨大工場建設に関しては、巨額の補助金が支出された。こうして、民間企業の政府への依存が強まってきた」、「これは、日本の製造業が衰退したことの反映だ。安倍晋三内閣の成長戦略も、製造業を中心とした従来の産業構造を延命させることを目的として、政府が民間経済活動に介入しようとするものだった」、情けない限りだ。 「日本の半導体産業が弱体化したのは、補助金が少なかったからではない。補助金漬けになったからだ。「補助して企業を助ければよい」という考えが基本にある限り、日本の半導体産業が復活することはないだろう」、その通りだ。 「世界の製造業の基本構造が変わってしまった」、どういうように変わったのだろう。 「半導体事業や液晶事業不振のもともとの原因は、日本メーカーの新製品開発能力が低下し、競争力のある製品をつくり出せなくなったことだ」、「iPhoneはパネルに有機ELを採用し始めた。しかし、JDIは有機ELの準備がまったくできていなかった。こうしたことの結果、16年をピークに売上高が激減」、なるほど。 「日本経済に大きな影響を与えたのは、世界経済の構造変化だ。これは、IT・・・の進展と新興国の工業化によってもたらされたものであり、供給面で起きた変化だ。したがって、金融政策では対処できない問題である」、その通りだ。 「金融緩和で円安にすること、それによって「デフレ脱却」をすることが目的とされてきた。1993年以降、断続的に円売り・ドル買い介入が行われていたが、これがその後の量的金融緩和と大規模な為替介入につながっていった。 日本経済は、いまに至るまで、この路線上の経済政策を続けている。アベノミクスも異次元金融緩和も、その一環だ」、同感である。 東洋経済オンライン 宮川 努氏による「誤解が多い「日本の生産性」低位が続く意外な盲点 「人への投資」だけを推し進めても意味がない」 「今世紀に入ってからの日本は残念ながらこうした生産性向上のための投資がなかなか広がらず、逆に労働投入が増えて生産性の低迷が生じている」、なるほど。 「2010年代は株価が上昇する一方で、設備投資が低迷するというパズルが生じていた」、「1つ目は無形資産投資が増えている」ので、「株式市場での評価を基準にした企業価値と、会計上の投資の変動に乖離が生じる」、「2つ目は市場集中度が上昇し、新規企業の参入や新規投資が行いにくくなった」、 「3つ目は、海外直接投資の影響」、「先進国の市場はすでに成熟しているため、企業は成長著しい新興国に投資をしてきた。こうした海外での投資は企業に収益をもたらし株価を引き上げるが、国内投資は振るわないという現象が起きる」、なるほど「パズル」が解けたようだ。 「大きな要因は、3つ目の海外直接投資であろう。すでに収益源が国内よりも海外になっている企業が多数あり、さらに為替要因が加わっている。すなわち、アベノミクスによって異次元の金融政策が開始されたことにより円安が進行した。この円安が海外の収益を国内の通貨で評価した場合にさらに増幅させることになり、企業価値を押し上げ、低迷する国内投資とのギャップを拡大しているのである」、 「1995年の知識ストックは、東京を1とした場合、大都市近郊の滋賀県や神奈川県は東京都の9割程度の技術力を有していた。しかしそれから20年あまりたった2018年には、東京都の9割程度の技術力を有する都道府県はなく、2位の神奈川県ですら東京都の7割台にまで低下」、ここまで「東京都」への「集中」が進んだとは、驚かされた。 「日本の経営能力が有意な分野が少なくなった現在、今度は日本が直接投資を積極的に受け入れることが生産性向上、ひいてはこれからの成長のカギとなる」、寂しいが、認めざるを得ない。 「手続きの煩雑さについては、当面の間はデジタル化を通して手続きを簡素化する方向で進めることが必要だろう」、その通りだ。 「経済安全保障による制約に関しては、短期間で容易に解決できる状況ではない。むしろこれまでのサプライチェーンが、自由主義経済圏を中心としたものに再編されていくとすれば、その再編過程の中で日本への直接投資が増えていくことを期待するしかないだろう」、その通りなのだろう。
nice!(0)  コメント(0) 

日本型経営・組織の問題点(その14)(日本のカイシャは もうダメだ! 世界ランキング劣後の情けない理由 世界の動向知らず 意志決定もベタ後れ、「現場を管理しすぎる会社」が没落する必然3大理由 「失われた30年」最大の被害者は「現場」だ!、パナソニックはなぜテスラになれなかった?精神科医・和田秀樹の答え) [経済政治動向]

日本型経営・組織の問題点については、4月30日に取上げた。今日が、(その14)(日本のカイシャは もうダメだ! 世界ランキング劣後の情けない理由 世界の動向知らず 意志決定もベタ後れ、「現場を管理しすぎる会社」が没落する必然3大理由 「失われた30年」最大の被害者は「現場」だ!、パナソニックはなぜテスラになれなかった?精神科医・和田秀樹の答え)である。

先ずは、10月16日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「日本のカイシャは、もうダメだ! 世界ランキング劣後の情けない理由 世界の動向知らず、意志決定もベタ後れ」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/100971?imp=0
・『世界競争力ランキングで、日本企業の地位が惨憺たる状態だ。全体では世界の中間あたりなのだが、項目によっては、なんと世界最低になっている。時価総額でみても、上位100社にはトヨタ1社しか入らない。どうしたらこの状態から脱却できるか?』、興味深そうだ。
・『「デジタル競争力」で日本は「世界最低」!  スイスのIMD(国際経営開発研究所)が作成する「デジタル競争力のランキング2022年版が9月28日に公表された。 日本は、63カ国・地域中29位と、昨年より順位が下がった。 評価項目ごとに日本の順位を見ると、「国際経験」と「企業の俊敏性」とでは、63位。つまり、「世界最下位」だ。 これを普通の言葉で言えば、「日本企業は世界で何が起きているかをしらず、動きがのろい」ということになる。 また、「ビッグデータ、アナリティクスの活用」で63位、「デジタル・テクノロジースキル」でも62位だ。これを普通の言葉で言えば、「世界のどの国の人も使えるデジタル技術を、日本人は使えない」ということになる。 すべての項目で「最低」となっているわけではないが、重要度の高い項目で最低だ。少なくとも、先進国の中で最低であることに間違いない。惨憺たる状態としか言いようがない。 改めて言うまでもなく、これは、「とんでもないこと」だ。尋常なことではない。非常事態だ』、「「デジタル競争力」で日本は「世界最低」!」、ではなく、「63カ国・地域中29位」だ。ただ、「「ビッグデータ、アナリティクスの活用」で63位、「デジタル・テクノロジースキル」でも62位だ」、と「重要度の高い項目で最低だ」。
・『日本企業はアフリカやモンゴルの企業と同列  IMDが公表しているもう一つのランキングである「世界競争力のランキング」の2022年版(6月14日に公表)では、日本の順位は、63カ国・地域のうちで34位だった。 アジア・太平洋地域で見ると、14カ国・地域中10位で、マレーシアやタイより順位が低い。 このランキングは、「経済状況」、「政府の効率性」、「ビジネス効率性」、「インフラ」という4つの項目について評価を行なっている。そのうちの「ビジネス効率性」において、日本は、世界第51位まで落ち込んでしまった(図表1参照:なお、スペースの制約で、図表1には一部の国しか示していない)。(図表1 IMDによるランキング(ビジネス効率性)はリンク先参照) 日本企業は、アフリカの企業やモンゴルの企業とほぼ同列の存在になってしまったのだ! 「ビジネス効率性」の細分類を見ると、「労働生産性評価」では59位、「企業の効率性に対する評価」では、大企業が62位、中小企業が61位だ。そして、「デジタル化を活用した業績改善」では60位だ。 「経営プラクティス」の項目では、「企業の意思決定の迅速性」、「変化する市場への認識」、「機会と脅威への素早い対応」、「ビッグデータ分析の意思決定への活用」、「起業家精神」の5項目の全てで、最下位(63位)だ(三菱総合研究所のホームページによる。なお、同研究所は、日本のデータをIMDに提供している)』、「「世界競争力のランキング」の2022年版では、「63カ国・地域のうちで34位」、「「ビジネス効率性」において、日本は、世界第51位まで落ち込んでしまった」、「アフリカの企業やモンゴルの企業とほぼ同列の存在になってしまった」、「細目を見ると、「「経営プラクティス」の項目では、「企業の意思決定の迅速性」、「変化する市場への認識」、「機会と脅威への素早い対応」、「ビッグデータ分析の意思決定への活用」、「起業家精神」の5項目の全てで、最下位(63位)だ」、誠に屈辱的な結果だ。
・『時価総額100位内に、米は62社、日本は1社  付加価値を生み出す経済活動を行なうのは企業だ。だから、企業がどれだけの競争力を持っているかは、その国の現在と未来の世界における地位を決める。 上述のようなデータを見ていると、日本企業はもうダメなのではないか、と思えてくる。 そこで、株式市場がどう評価しているかを見るために、時価総額のランキングを見ることにしよう(以下の数字は、Largest Companies by Market Capによる。なお、時価総額は、2022年10月初めの値。株価の変動に伴い、日々変動する)。 株価は企業の将来の成長度を反映していると考えられるので、時価総額は、企業の未来を表していると考えてよい。 (図表2 時価総額でトップ100位までに入る企業数はリンク先参照) 時価総額で上位100社に入る企業数を国別に見ると、図表2のとおりだ。 アメリカが62社と圧倒的に多い。つぎに中国の12社がくる。イギリス、フランス、オランダなどでは、それぞれ2、3社だ。人口では小国であるアイルランドに2社もあることが注目される(同国の人口は、約500万人。東京都の人口約1400万人の3分の1強)。 日本企業で世界の上位100社に入るのは、トヨタ自動車だけだ(42位、1883.8億ドル)。 ドイツには、1社もない。ドイツの時価総額トップは、ソフトウエアサービスのSAPで、世界115位だ。 これに比べれば日本はマシだが、人口あたりでみれば、日本の上位100社企業数は、韓国や台湾に比べてずっと少ない。それに、時価総額の金額も少ない(韓国トップのサムスン電子は27位・2678.4億ドル、台湾のTSCMは、13位・3641.8 億ドル)』、「時価総額」が「日本企業で世界の上位100社に入るのは、トヨタ自動車だけ」、「人口あたりでみれば、日本の上位100社企業数は、韓国や台湾に比べてずっと少ない」、情けない限りだ。
・『日本企業はEVやファブレスへの移行に対応できるか?  ドイツで時価総額100位以内がなくなったのは、自動車会社が順位を落としたからだ。 これまで フォルクスワーゲンが世界の100位内に入っていたが、いまでは158位だ(768.6億ドル)。メルセデスベンツやBMWも順位を落としている。 こうした変化が起きるのは、今後、EVへの転換が生じることが確実だからだ。 実際、テスラ(第6位・7491.5億ドル)や中国のBYD(125位・936.3 億ドル)などのEVメーカーの順位が上昇している。テスラの時価総額はフォルクスワーゲンの約10倍になっているし、新興の自動車メーカーであるBYDの時価総額が、いまやフォルクスワーゲンを抜いてしまった。 その反面で、一般に自動車メーカーの順位が下がっている。アメリカGM(277位・507.9億ドル)、フォード(279位・502.9億ドル)といった具合だ。伝統的な自動車会社の中で時価総額トップ100に入っているのは、いまやトヨタ自動車だけになってしまった。 日本の最重要産業は自動車だ。それが、上記のような条件下で、順位を落としている。ホンダ(402位・382.3 億ドル)や日産(1145位・126.8 億ドル)は、今後どうなっていくのだろうか? EVへの転換は、事業内容の大幅な転換を伴うので、経営上の決定が難しいと言われる。日本の自動車メーカーがこうした大きな変化に対応しているかどうかが、今後試されることになる。 「世界で何が起きているかを知らず、動きがのろい」と評価された日本企業にそれができるのかどうか、心配だ。自動車は例外と祈りたいが、そうなるかどうか?』、「テスラの時価総額はフォルクスワーゲンの約10倍になっているし、新興の自動車メーカーであるBYDの時価総額が、いまやフォルクスワーゲンを抜いてしまった」、「EVへの転換は、事業内容の大幅な転換を伴うので、経営上の決定が難しいと言われる。日本の自動車メーカーがこうした大きな変化に対応しているかどうかが、今後試されることになる」、その通りだ。
・『製造業のファブレス化に対応できない日本  電機メーカーの時価総額も大きく変動している。ソニーは時価総額が大きいが、これは、モノヅクリから脱皮しているからだ。従来タイプの製造業である日立、東芝、などの時価総額は低迷している。 世界の製造業は、ファブレス(工場なし)に向かっている。時価総額世界1のがその代表だ。 アメリカには、この他に、NVIDA、Qualcomm、Broadcom、MediaTek、AMDなど、時価総額が大きいファブレス半導体企業が登場している。 日本では、キーエンスなどを除くと、ファブレス企業ほとんどない。ここでも、日本企業は変化に対応できていないのだ。 「世界最低」と評価された経営の決定の遅さから、何とか脱却してほしい』、「世界の製造業は、ファブレス(工場なし)に向かっている」、「アメリカには」、「アップル」、「NVIDA、Qualcomm、Broadcom、MediaTek、AMDなど、時価総額が大きいファブレス半導体企業が登場している」、「日本では、キーエンスなどを除くと、ファブレス企業ほとんどない。ここでも、日本企業は変化に対応できていないのだ」、「ファブレス」は根強いモノづくり神話からの脱却が必要になるが果たして出来るだろうか。

次に、11月9日付け東洋経済オンラインが掲載したシナ・コーポレーション代表取締役の遠藤 功氏による「「現場を管理しすぎる会社」が没落する必然3大理由 「失われた30年」最大の被害者は「現場」だ!」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/631256
・『『現場力を鍛える』『見える化』など数多くのベストセラーがあり、経営コンサルタントとして100社を超える経営に関与してきた遠藤功氏は、「GAFAMにあって日本企業にないのは『カルチャー』だ。組織を強くするには『現場からのカルチャー変革』が極めて重要」だと主張する。 このたび、その「カルチャー」を真正面から解説し、「組織を劇的に強くする方法」を1冊にまとめた『「カルチャー」を経営のど真ん中に据える 「現場からの風土改革」で組織を再生させる処方箋』が発売され、発売後たちまち大増刷するなど、話題を呼んでいる。 その遠藤氏が、「『現場を管理しすぎる会社』がどんどん劣化する3つの必然理由」について解説する』、「遠藤氏」はコンサルタントとしては、珍しく「現場」重視だ。ただ、「GAFAM」はその対極にある筈だ。
・『現場による「自主管理」が進まない悪循環  いま、多くの日本企業が置かれた状況は深刻である。 「イノベーションが生まれない」「労働生産性が低いまま」、さらには「不正や不祥事が頻繁に起こる」といった事態に直面している。 かつては日本企業の誇りの源泉だった現場が、不正や不祥事の温床になるほど傷んでしまった。 この状態を抜け出すには、組織の「現場力」を再強化するしか道はない。 しかし、ここで大切なのは、現場力とは、たんに組織能力(ケイパビリティ)ではないということだ。 「健全な組織風土」と「独自の組織文化」によって形成される「カルチャーとしての現場力」と、その土壌の上に形成される高い実行能力、すなわち「ケイパビリティとしての現場力」の二層構造によって「現場力」は成り立っている。 やみくもに現場を管理するのではなく、健全な組織風土、組織文化、つまり「カルチャー」を十分に整えることが先決である。 それによって、現場で働く人たちの心理的環境を整え、「現場起点」「現場主導」で進めることがきわめて重要なのである。 「現場を過剰に管理する会社」は、なぜ劣化してしまうのか。その理由について考察しながら、「カルチャーとしての現場力」を鍛えるためのヒントを探っていきたい。) 現場を過剰に管理する会社が劣化する1つ目の理由は、「受け身体質」が強くなってしまうということだ。 【1】「受け身体質の現場」になってしまう  不正や不祥事を起こした企業に共通するのは、「受け身体質が強い」ということである。 自分たちからは動こうとしない、言われたことしかやらない、やるべきことがわかっていても指示や命令を待っている……。現場の「主体性」の欠如が、活気を減退させ、組織風土を劣化させる大きな原因となっている。 「さまざまな問題」は現場で起きている。本来なら、問題が見えている現場自らが主体的に問題解決に取り組まなければならない。 また、「新たなビジネスチャンス」も現場に潜んでいる。チャンスに気づいた現場自らが能動的にチャンスを追いかけなければならない。 しかし、そんな「主体性の高い現場」は、この国から消えつつある』、「自分たちからは動こうとしない、言われたことしかやらない、やるべきことがわかっていても指示や命令を待っている……。現場の「主体性」の欠如が、活気を減退させ、組織風土を劣化させる大きな原因となっている」、「「主体性の高い現場」は、この国から消えつつある」、残念なことだ。
・『「失われた30年」の最大の被害者は現場  もちろん、そんな現場にしてしまったのは、現場だけのせいではない。平成の「失われた30年」の最大の被害者は現場である。 人やコストはギリギリまで削られ、非正規社員が増える、重要な業務まで平気で外注化する、要員や設備投資だけでなく、教育費まで切り詰められる、そしてミスをすれば厳しく叱責される。 こんなことが繰り返されれば、現場は自ら動こうとしなくなる。 その結果、本社・本部任せの何も考えない「思考停止」の現場になってしまう。 また、現場管理職の管理業務は膨れ上がり、本来やるべき業務が滞り、部下の声に耳を傾けたり、育成に費やしたりする時間が奪われ、その悪循環によっても、現場はやせ細っていくのだ。 多くの日本企業で現場の管理強化が強まるなかで、実質の伴わない「現場管理」ばかりが増え、その結果、「現場力が弱まる」という悪循環を招いてきたのも事実だ。 【2】「形だけの現場重視」に陥ってしまう  平成に入り、日本企業は「ガバナンス強化」という名目で、アメリカ流の管理手法をあまり深く考えずに導入した。 内部統制、コンプライアンス、ハラスメント防止、ISOなどの管理手法が矢継ぎ早に導入され、現場管理者や監督者の管理業務や報告業務は増加の一途を辿っている。 そして、事故や不手際が起これば、すべて現場のせいにされ、また管理が強化されるという悪循環に陥った。 こうした管理手法が無意味だ、必要ないと言うつもりはない。 しかし、「本社や本部が現場を精緻に管理する」というマイクロマネジメントが広がることによって、日本企業の根底にあった「現場自らが管理する」という「自主管理」の気風は消滅してしまった。 経営において「現場管理」は必要不可欠だが、その基本は現場による「自主管理」でなければならない。 現場自らが自分たちをしっかり管理できれば、本社や本部による管理は比較的軽く済む。「自主管理」できない現場を放置するから、「過剰な管理強化」につながるのだ』、「本社・本部任せの何も考えない「思考停止」の現場になってしまう。 また、現場管理職の管理業務は膨れ上がり、本来やるべき業務が滞り、部下の声に耳を傾けたり、育成に費やしたりする時間が奪われ、その悪循環によっても、現場はやせ細っていくのだ。 多くの日本企業で現場の管理強化が強まるなかで、実質の伴わない「現場管理」ばかりが増え、その結果、「現場力が弱まる」という悪循環を招いてきた」、「現場自らが自分たちをしっかり管理できれば、本社や本部による管理は比較的軽く済む。「自主管理」できない現場を放置するから、「過剰な管理強化」につながるのだ」、その通りだ。
・『ほんどの経営者は「現場」に関心がない  また、経営者と現場の「溝」も深くなった。 ほとんどの経営者は「現場」に関心がなく、気が向いたときにふらっと訪れるだけだ。しかも、現場責任者からおざなりの報告を受けるだけで、現場の実態など知ろうともしない。 そんな状況が30年も続いた現場が「受け身」になるのは、ある意味では当たり前のことだ。 さらに、短期的な経済合理性だけを追い求めるあまり、 本来であれば自分たちでやるべき機能や業務を外部に「丸投げ」する動きが進んだことも、現場力が衰えた大きな理由と言える。 【3】安易な「外注化」によって「自立性」が失われる  あまり問題視されていないが、私は平成の「失われた30年」において多くの日本企業が犯した「大きな間違い」のひとつが、過度な「脱自前」の動きだったと思っている。 その結果、外部に依存しなければ運営できないほど「自立性」を失い、組織の空洞化を招いてしまった』、「ほとんどの経営者は「現場」に関心がなく」、「現場責任者からおざなりの報告を受けるだけで、現場の実態など知ろうともしない」、「短期的な経済合理性だけを追い求めるあまり、 本来であれば自分たちでやるべき機能や業務を外部に「丸投げ」する動きが進んだことも、現場力が衰えた大きな理由」、「外部に依存しなければ運営できないほど「自立性」を失い、組織の空洞化を招いてしまった」、その通りだ。
・『人材開発を「丸投げ」する会社の大問題  たとえば人材育成・人材教育は、その顕著な例である。 外部の研修会社やビジネススクールに頼り、経営の本丸とも言える人材開発を「丸投げ」している会社がじつに多い。ITやデジタル化も同様である。 これが「組織風土の劣化」に多大な影響を与えている。 組織風土を実現するうえで大事なことは、「自分たちでできることは何でも自分たちでやる」という意欲と熱意、努力を取り戻すことである。 「安易で過度な外注化、外部依存」から脱却し、「自前化」に大きく舵を切ることは、現場が「主体性」と「身体性」を取り戻すために極めて重要である。 過度な管理強化により、現場の活力が失われていくプロセスをここまで見てきた。現場力という競争優位は、「現場の主体性」から生まれることを再認識し、「現場主導の動き」を開始し、広げ、大きくしていくことが肝心だ。 そのためには、次の3つのことを現場に取り戻したい。 ① 【自主性】自分の「力」で考え、行動する ② 【自発性】物事を自らの「意志」で進んで行う ③ 【自律性】自分の立てた「規範」に従って、自らの気持ちや行動をコントロールする (「現場の主体性」を形成する3つの要素 の図はリンク先参照) 社員一人ひとりが自らの「力」で考え、行動し、自らの「意志」を持ち、自らの「規範」で律するようになれば、個から「大きな活力」が生まれてくる。 そして、そんな個が連携し、チームを組めば、そこから生まれる活力は最大化される。それこそが「カルチャーとしての現場力」である。 「意志なき現場」はロボットや機械と同じである。「こうしたい」「こういうふうに変えたい」「こういうことをやってみたい」……。現場の「意志」こそが「気」となり、大きな「活力」となることを忘れてはならない』、「組織風土を実現するうえで大事なことは、「自分たちでできることは何でも自分たちでやる」という意欲と熱意、努力を取り戻すことである。 「安易で過度な外注化、外部依存」から脱却し、「自前化」に大きく舵を切ることは、現場が「主体性」と「身体性」を取り戻すために極めて重要である」、なるほど。
・『現場こそが、会社の「主役」であり「エンジン」  「カルチャーとしての現場力」の核心は、現場こそが会社の「主役」であり、「エンジン」であることを会社で再認識することである。 「誰が価値を生み出しているのか」「誰が汗をかき、実行しているのか」「誰が稼いでいるのか」ということをあらためて全員で確認し、「現場を会社の主役に据える」ことなしに、「カルチャーとしての現場力」は高まらない。 主体性や身体性は「プライド」から生まれる。現場で働く一人ひとりが自分の仕事に誇りを持ち、チームの一員であることに喜びを感じ、会社に対して忠誠心を持つ。これは何物にも代えがたい会社の「財産」である。 だからこそ、「現場の努力」「現場の知恵」「現場の成果」を、時に他者が認め、褒め称える「他者承認」がとても大切である。 「よくやってるね」「ずいぶんとよくなったな」「着実に進化しているね」といった何気ない幹部や上司の言葉は、現場にとっては「百人力」である。リスペクトを感じた現場は、「強烈なプライド」を持ち、「とてつもなく大きな力」を発揮する。 このようにして、現場の「心理的環境」、すなわち「カルチャーとしての現場力」を整えることから、現場の「自主管理」能力を高め、自立し、自走する現場を取り戻すことがなにより大切なのである』、「「よくやってるね」「ずいぶんとよくなったな」「着実に進化しているね」といった何気ない幹部や上司の言葉は、現場にとっては「百人力」である。リスペクトを感じた現場は、「強烈なプライド」を持ち、「とてつもなく大きな力」を発揮する。 このようにして、現場の「心理的環境」、すなわち「カルチャーとしての現場力」を整えることから、現場の「自主管理」能力を高め、自立し、自走する現場を取り戻すことがなにより大切」、「何気ない幹部や上司の言葉は、現場にとっては「百人力」」、とは初めて知ったが、重要なようだ。

第三に、11月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した精神科医の和田秀樹氏による「パナソニックはなぜテスラになれなかった?精神科医・和田秀樹の答え」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/312971
・『パナソニックは世界に先駆けてEV(電気自動車)を量産できる会社だったと思います。電池がつくれて、モーターもつくれるのですから、技術はそろっています。しかし現在、同社がしているのは、アメリカのEVメーカーであるテスラに電池を売ることです。それを喜んでいていいのでしょうか。「EVそのものをつくれたはずなのに」と悔しがるべきではないでしょうか。 ※本稿は、和田秀樹『50歳からの「脳のトリセツ」』(PHPビジネス新書)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『日本経済の停滞も「思い込み」が原因  日本の国際競争力の低下が、長年問題となっています。もうこの言葉がすっかり耳に馴染んだという方も多いでしょう。 しかしそんなことに慣れるのは、きわめて異常な事態です。ほかの先進国や新興国を見渡してみて、日本だけが数十年にわたって成長していないことに、なぜ誰も疑問を抱かないのでしょうか。 成長しないどころか、今や円相場は1ドル150円近く(2022年10月20日現在)。急激に進んだ円安は、日本の価値がいよいよ急激に落ちてきたことの証です。 ここに至った主な理由は、これまで述べた通り、新しいことへの挑戦を怠ってきたことです。 円は1995年に、一時1ドル80円を切るまでに高くなりました。1ドル360円の時代が終わり、円高が進むなかで、日本企業は「円高でも売れるもの」をつくるべきでした。しかし、日本企業が実際にしたことは、中国や東南アジアなどに工場を移転するなど、徹底したコストカットによって安い製品をつくり続けることでした』、「日本企業は「円高でも売れるもの」をつくるべきでした。しかし、日本企業が実際にしたことは、中国や東南アジアなどに工場を移転するなど、徹底したコストカットによって安い製品をつくり続けることでした」、その通りだ。
・『「加工貿易国」という意識から抜け出せなかった  メルセデス・ベンツもポルシェも、ユーロがどれだけ高くなっても売れる車をつくっています。エルメスやシャネルもしかりです。ユーロ高のときに価格を下げるようなこともしません。海外のハイブランドが持つこうした強気さ、「高くても欲しい」と消費者が思うものをつくろうという気概が、日本企業には欠けていました。その気概を持つタイミングを逸した、とも言えます。 ひたすらコストカットに励んだ結果、日本経済は成長せず、一転して円安に振れても、そのメリットを生かすことができない体質になってしまったのだと思います。 これは、「加工貿易国」という意識から抜け出せなかったからでしょう。 私が子どもだった1960年代ごろ、日本は加工貿易国でした。安い人件費で大量にものをつくって海外に輸出する新興国です。最近までの中国や、今ならばベトナムなども加工貿易国にあたります。 加工貿易は、通貨が安いときほど盛んになります。逆に言うと、新興国から先進国になり、通貨の価値が上がれば、加工貿易国から卒業するタイミングです。高くても売れるものづくりへと、つくり手が意識を変えなくてはなりません。その発想転換をできた企業が、どれだけあったでしょうか。 大多数の企業が「良質で安いものづくり」に最大の力点を置き続けたことも、日本経済の停滞を招いた要因だと私は考えています。 かつて日本製品がアメリカで大量に売れたのは、加工貿易国だった日本が安い製品を輸出していたからです。 「日本製=安い」というイメージは、私がアメリカに留学した1991~94年にはだいぶ変わってきていました。ソニーやホンダは高級品と見なされていたのです。 当時は、日本で家庭用のビデオカメラが発売された時期です。留学中の私は、周囲の購買傾向を丹念に観察していたのですが、日本の新製品の値段はまだ高いと思われていました。1000ドルまで下がらない限り、誰も買おうとしませんでした。そして、そこまで値段が下がると飛ぶように売れました。品質への信頼は世界最高水準でも、あこがれを持たれるようなイメージはつくれなかったから、大量生産で安くなるまで待とうと思われたのでしょう。 そのイメージをつくろうという意識が日本人に芽生えていなかったとも思われます。アメリカで売るために値下げをしたのですから。 その一方で、消費者としての日本人の意識には、「高くても欲しい」いう動機が、購買行動の一パターンとして確実に根づきました。特にバブル期までは、私たちの周りにもそうした商品がたくさんありました。 しかしそれらの高級品をイメージするとき、パッと思い浮かぶものは海外のブランドでしょう。腕時計やバッグなどの服飾品で、同じくらいの訴求力を持つ日本のブランドは思い当たりません。 服飾品だけではありません。ダイソンの掃除機も「高額な掃除機など誰も買わない」という巷の予想に反して大ヒットした商品です。日本の消費者にも「高くても欲しい」という気風が残っていたということです。ダイソンはイギリスの会社です。日本の電機メーカーになぜ同じことができなかったのか、歯がゆさを感じずにいられません』、「ダイソンの掃除機も「高額な掃除機など誰も買わない」という巷の予想に反して大ヒットした商品です。日本の消費者にも「高くても欲しい」という気風が残っていたということです。ダイソンはイギリスの会社です。日本の電機メーカーになぜ同じことができなかったのか、歯がゆさを感じずにいられません」、「ダイソン」は「掃除機」の他にもスタイリッシュな扇風機で人々を驚かせた。
・『「パナソニックのEV」はなぜできなかったのか  たとえばパナソニックなら、ダイソンと同じものがつくれたはずです。ついでに言うと、パナソニックは世界に先駆けてEV(電気自動車)を量産できる会社だったと思います。電池がつくれて、モーターもつくれるのですから、技術はそろっています。 しかし現在、同社がしているのは、アメリカのEVメーカーであるテスラに電池を売ることです。世界に冠たるテスラのEVに装着できる電池をつくり、向こう数年でさらに増産するという情報を、同社や報道記事は明るいトーンで伝えています。しかし、それを喜んでいていいのでしょうか。「EVそのものをつくれたはずなのに」と悔しがるべきではないでしょうか。 未知の分野への参入とはいえ、社運を懸けるほどの危ない橋ではなかったでしょう。電池だけでなくモーターもつくっているのですから。また、家電量販店は車のディーラーより広い駐車場を持っているので、そこで売ることも可能だったはずです。もし10年前にパナソニックが「EVをつくる」と発表していれば、テスラのように時価総額も上がっていたでしょう。今は「期待」で会社の価値が上がります。初期投資にかかったお金を実売で取り返して、利益を出さなければ株価が上がらなかった時代よりも、恵まれた環境です。 と言ったところで、時すでに遅し。EV市場には今、老舗の自動車メーカーも参入してテスラを猛追中。中国の新興企業も目覚ましい勢いでシェアを伸ばしています。その中で、日本の自動車メーカーは軒並み苦戦しています。業界外からは、ようやくソニーが名乗りを上げたという状況です。 立ち上がりの遅さにおいて、日本は群を抜いています。世界最高レベルの技術力がありながら、生かせていないのです。 誰かがつくったイノベーティブなものについて「自分もつくれた」と言う日本人はよくいます。ITの黎明(れいめい)期、技術系の人と話すたび、「自分でも検索エンジンはつくれた」という言葉をよく聞きました。「自分も同じコンセプトを考えた」と語った人もいましたが、考えついただけで行動には移さずじまいだったのでしょう。 どうやら日本人は、アイデアの創出力が足りないだけでなく、アイデアを実行に移すエネルギーも足りないようです。どちらも、前頭葉の弱さを如実に表しています』、「もし10年前にパナソニックが「EVをつくる」と発表していれば、テスラのように時価総額も上がっていたでしょう」、とあるが、ソニーも長年研究してきて、漸く自動運転に乗り出したようだが、「パナソニック」にとっては、やはり自動車を作るには、大きな技術のギャップを乗り越える必要があった筈であり、それほど簡単なことではなかったと思う。
タグ:「時価総額」が「日本企業で世界の上位100社に入るのは、トヨタ自動車だけ」、「人口あたりでみれば、日本の上位100社企業数は、韓国や台湾に比べてずっと少ない」、情けない限りだ。 「「世界競争力のランキング」の2022年版では、「63カ国・地域のうちで34位」、「「ビジネス効率性」において、日本は、世界第51位まで落ち込んでしまった」、「アフリカの企業やモンゴルの企業とほぼ同列の存在になってしまった」、「細目を見ると、「「経営プラクティス」の項目では、「企業の意思決定の迅速性」、「変化する市場への認識」、「機会と脅威への素早い対応」、「ビッグデータ分析の意思決定への活用」、「起業家精神」の5項目の全てで、最下位(63位)だ」、誠に屈辱的な結果だ。 「「デジタル競争力」で日本は「世界最低」!」、ではなく、「63カ国・地域中29位」だ。ただ、「「ビッグデータ、アナリティクスの活用」で63位、「デジタル・テクノロジースキル」でも62位だ」、と「重要度の高い項目で最低だ」 野口 悠紀雄氏による「日本のカイシャは、もうダメだ! 世界ランキング劣後の情けない理由 世界の動向知らず、意志決定もベタ後れ」 現代ビジネス 日本型経営・組織の問題点 (その14)(日本のカイシャは もうダメだ! 世界ランキング劣後の情けない理由 世界の動向知らず 意志決定もベタ後れ、「現場を管理しすぎる会社」が没落する必然3大理由 「失われた30年」最大の被害者は「現場」だ!、パナソニックはなぜテスラになれなかった?精神科医・和田秀樹の答え) 「テスラの時価総額はフォルクスワーゲンの約10倍になっているし、新興の自動車メーカーであるBYDの時価総額が、いまやフォルクスワーゲンを抜いてしまった」、「EVへの転換は、事業内容の大幅な転換を伴うので、経営上の決定が難しいと言われる。日本の自動車メーカーがこうした大きな変化に対応しているかどうかが、今後試されることになる」、その通りだ。 「世界の製造業は、ファブレス(工場なし)に向かっている」、「アメリカには」、「アップル」、「NVIDA、Qualcomm、Broadcom、MediaTek、AMDなど、時価総額が大きいファブレス半導体企業が登場している」、「日本では、キーエンスなどを除くと、ファブレス企業ほとんどない。ここでも、日本企業は変化に対応できていないのだ」、「ファブレス」は根強いモノづくり神話からの脱却が必要になるが果たして出来るだろうか。 東洋経済オンライン 遠藤 功氏による「「現場を管理しすぎる会社」が没落する必然3大理由 「失われた30年」最大の被害者は「現場」だ!」 「遠藤氏」はコンサルタントとしては、珍しく「現場」重視だ。ただ、「GAFAM」はその対極にある筈だ。 「自分たちからは動こうとしない、言われたことしかやらない、やるべきことがわかっていても指示や命令を待っている……。現場の「主体性」の欠如が、活気を減退させ、組織風土を劣化させる大きな原因となっている」、「「主体性の高い現場」は、この国から消えつつある」、残念なことだ。 「本社・本部任せの何も考えない「思考停止」の現場になってしまう。 また、現場管理職の管理業務は膨れ上がり、本来やるべき業務が滞り、部下の声に耳を傾けたり、育成に費やしたりする時間が奪われ、その悪循環によっても、現場はやせ細っていくのだ。 多くの日本企業で現場の管理強化が強まるなかで、実質の伴わない「現場管理」ばかりが増え、その結果、「現場力が弱まる」という悪循環を招いてきた」、 「現場自らが自分たちをしっかり管理できれば、本社や本部による管理は比較的軽く済む。「自主管理」できない現場を放置するから、「過剰な管理強化」につながるのだ」、その通りだ。 「ほとんどの経営者は「現場」に関心がなく」、「現場責任者からおざなりの報告を受けるだけで、現場の実態など知ろうともしない」、「短期的な経済合理性だけを追い求めるあまり、 本来であれば自分たちでやるべき機能や業務を外部に「丸投げ」する動きが進んだことも、現場力が衰えた大きな理由」、「外部に依存しなければ運営できないほど「自立性」を失い、組織の空洞化を招いてしまった」、その通りだ。 「組織風土を実現するうえで大事なことは、「自分たちでできることは何でも自分たちでやる」という意欲と熱意、努力を取り戻すことである。 「安易で過度な外注化、外部依存」から脱却し、「自前化」に大きく舵を切ることは、現場が「主体性」と「身体性」を取り戻すために極めて重要である」、なるほど。 「「よくやってるね」「ずいぶんとよくなったな」「着実に進化しているね」といった何気ない幹部や上司の言葉は、現場にとっては「百人力」である。リスペクトを感じた現場は、「強烈なプライド」を持ち、「とてつもなく大きな力」を発揮する。 このようにして、現場の「心理的環境」、すなわち「カルチャーとしての現場力」を整えることから、現場の「自主管理」能力を高め、自立し、自走する現場を取り戻すことがなにより大切」、「何気ない幹部や上司の言葉は、現場にとっては「百人力」」、とは初めて知ったが、重要なようだ。 ダイヤモンド・オンライン 和田秀樹氏による「パナソニックはなぜテスラになれなかった?精神科医・和田秀樹の答え」 和田秀樹『50歳からの「脳のトリセツ」』(PHPビジネス新書) 「日本企業は「円高でも売れるもの」をつくるべきでした。しかし、日本企業が実際にしたことは、中国や東南アジアなどに工場を移転するなど、徹底したコストカットによって安い製品をつくり続けることでした」、その通りだ。 「ダイソンの掃除機も「高額な掃除機など誰も買わない」という巷の予想に反して大ヒットした商品です。日本の消費者にも「高くても欲しい」という気風が残っていたということです。ダイソンはイギリスの会社です。日本の電機メーカーになぜ同じことができなかったのか、歯がゆさを感じずにいられません」、「ダイソン」は「掃除機」の他にもスタイリッシュな扇風機で人々を驚かせた。 「もし10年前にパナソニックが「EVをつくる」と発表していれば、テスラのように時価総額も上がっていたでしょう」、とあるが、ソニーも長年研究してきて、漸く自動運転に乗り出したようだが、「パナソニック」にとっては、やはり自動車を作るには、大きな技術のギャップを乗り越える必要があった筈であり、それほど簡単なことではなかったと思う。
nice!(0)  コメント(0) 

経済学(その6)(【ギリシャ元財務大臣が解説する】「なぜ経済を学ぶ必要があるのか?」に対する納得の回答、「高額紙幣の廃止」で犯罪撲滅を図った国の末路 インドと北朝鮮がやらかした壮大な経済失策、ノーベル経済学賞バーナンキ氏 実証と実行が後の理論を先導) [経済政治動向]

経済学については、5月3日に取上げた。今日は、(その6)(【ギリシャ元財務大臣が解説する】「なぜ経済を学ぶ必要があるのか?」に対する納得の回答、「高額紙幣の廃止」で犯罪撲滅を図った国の末路 インドと北朝鮮がやらかした壮大な経済失策、ノーベル経済学賞バーナンキ氏 実証と実行が後の理論を先導)である。

先ずは、9月13日付けダイヤモンド・オンライン「【ギリシャ元財務大臣が解説する】「なぜ経済を学ぶ必要があるのか?」に対する納得の回答」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309147
・『混沌を極める世界情勢のなかで、将来に不安を感じている人が多いのではないだろうか。世界で起きていることを理解するには、経済を正しく学ぶことが重要だ。とはいえ、経済を学ぶのは難しい印象があるかもしれない。そこでお薦めするのが、2015年のギリシャ財政危機のときに財務大臣を務めたヤニス・バルファキス氏の著書『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』だ。本書は、これからの時代を生きていくために必要な「知識・考え方・価値観」をわかりやすいたとえを織り交ぜて、経済の本質について丁寧にひも解いてくれる。2022年8月放送のNHK『100分de名著 for ティーンズ』も大きな話題となった。本稿では本書の内容から、なぜ経済を学ばなければならないのかという理由を伝えていく』、「バルファキス氏」の解説は平易で分かり易い。
・『「格差」はどんどん広がっている  「どうして世の中にはこんなに『格差』があるのか?」と疑問に思ったことはないだろうか。 世界には一国の国家予算よりも大きな富を持つ金持ちがいる。反面、食べるものが手に入らず、今日1日生き延びるのが精一杯なほど貧しい人がいる。この格差は年々広がっているとすら言われている。 大金持ちと貧しい人との格差がなければ、誰もがあくせく働かなくても豊かな生活を楽しめるようになるかもしれない。 みんな最初は裸一貫で生まれてくるのだから本来平等であるはず。だから、嫉妬も争いもない良い社会が築けると信じて疑わない人もいる。 いずれにせよ、格差があることに怒っている人は多そうだ』、「格差があることに怒っている人は多そうだ」、その通りだ。
・『みんなが経済を学ぶことでより良い社会ができる  世界の格差は、経済的な理由によるものである。「なぜ格差が生まれるのか」を理解することは、良い社会をつくる第一歩。 それには経済をきちんと学び、みずから考え、意見を言うことが重要になる。 誰もが経済についてしっかりと意見を言えることこそ、いい社会の必須条件であり、真の民主主義の前提条件だ。(P.2)』、「誰もが経済についてしっかりと意見を言えることこそ、いい社会の必須条件であり、真の民主主義の前提条件だ」、その通りだ。
・『経済は意外なところから生まれた  経済について学ぶにあたって、経済の誕生から振り返ってみよう。 歴史をひもといてみると、経済が生まれたのは1万2000年前に人類が農耕をはじめたことに由来する。 人々が農耕をはじめたのは、食糧が底をついて多くの人が飢えて死にそうになったから。生き延びるために必死に土地を耕して、作物を育てるしかなかった。 人類が農耕を「発明」したことは、本当に歴史的な事件だった。1万2000年経った今、振り返ってみるとその大切さがよくわかる。それは、人類が自然の恵みだけに頼らずに生きていけるようになった瞬間だったからだ。(P.27) その後、試行錯誤を繰り返し、農耕の技術は洗練されていく。おかげで効率的に大量の穀物を収穫できるようになり、人々は飢えから解放された。 そして、農耕技術が発展により効率的に農作物を収穫できるようになると、余剰が生まれるようになった。 この「余剰」が経済の基本になる。農耕の発展により農作物の余剰が生まれ、余剰を増やしていく過程で経済が大きく動き出していく』、「農耕の発展により農作物の余剰が生まれ、余剰を増やしていく過程で経済が大きく動き出していく」、言われてみれば、確かに「余剰」がなければ、「経済」は成長しない。
・『余剰が通貨を生み、余剰が国家を生んだ  人類が農耕をするようになると、最初のうちは食べる分と来年植える種以外のものが余剰だった。そのうち計画的に余剰を増やし、別の地域と別の種類の食糧と交換するようになる。 そのやりとりは物々交換だったが、次第に通貨を使ってやり取りすることでグローバルな規模で貿易ができるようになる。 通貨を使うにあたって、数字や文字、債務という便利なものも人類は使うようになり、経済は高度になっていく。 さらに農作物の余剰を守るために軍隊が配備され、国家という概念が生まれた。農耕で余剰が生まれたからこそ、国家が生まれたといえる。 このように、経済とは農作物の余剰を守るところからはじまっている』、「計画的に余剰を増やし、別の地域と別の種類の食糧と交換するようになる。 そのやりとりは物々交換だったが、次第に通貨を使ってやり取りすることでグローバルな規模で貿易ができるようになる。 通貨を使うにあたって、数字や文字、債務という便利なものも人類は使うようになり、経済は高度になっていく。 さらに農作物の余剰を守るために軍隊が配備され、国家という概念が生まれた」、「経済とは農作物の余剰を守るところからはじまっている」、「余剰」がここまで経済発展の源になっているとは、感心させられた。
・『「当たり前」を疑うことが大切  経済を学ぶ際に重要なことは「当たり前」を疑うこと。 アフリカの飢餓に苦しむ人々の映像を見て憐れむと同時に、その理不尽な状況に怒りを感じることもあるだろう。 しかし、彼らが安い賃金で栽培してくれた綿花の洋服を、私たちは当たり前のように着ているかもしれない。 知らない間に彼らから搾取して、豊かな生活をしていることに気づいていない可能性がある。人は自分が持っているものを当たり前だと思い込む傾向があるからだ。 「当たり前」の裏には格差の種が潜んでいるかもしれない。なぜ格差があるのかを理解して、自分はどうすべきかを考えて行動することが重要だ。 今の怒りをそのまま持ち続けてほしい。でも、賢く、戦略的に怒り続けてほしい。機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために。(P.43) そのためにも経済の本質を学ばなければならない』、「賢く、戦略的に怒り続けてほしい。機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために」、「必要な行動」とは投票行動なのだろうか。
・『経済を自分の問題として捉える――訳者より  本書は、ギリシャで財務大臣を務めたヤニス・バルファキスが、十代半ばの娘に向けて、「経済についてきちんと話すことができるように」という想いから、できるだけ専門用語を使わず、地に足のついた、血の通った言葉で経済について語ったものです。 本書を原書で読み、「圧倒された」というブレイディみかこさんは、「優しく、易しく、そして面白く資本主義について語った愛と叡智の書」と評しています。 その語りは、娘からの「なぜ格差が存在するのか」という問いに、著者なりの答えを出していくかたちで進んでいきます。その過程で、経済がどのように生まれたかにさかのぼり、金融の役割や資本主義の歴史と功罪について、小説やSF映画などの例を挙げながら平易な言葉で説いていきます。 原書の評判は経済を論じた本らしくなく、「一気読みしてしまった」「読むのを止められない」といった声が多数あがっていますが、実際、本書はまるで小説のように章を追うごとに話が深まっていき、ついついページをめくり続けてしまうみごとな構成になっています。 バルファキスは本書で、「誰もが経済についてしっかりと意見を言えること」が「真の民主主義の前提」であり、「専門家に経済をゆだねることは、自分にとって大切な判断をすべて他人にまかせてしまうこと」だと言っています。 大切な判断を他人まかせにしないためには、経済とは何か、資本主義がどのように生まれ、どんな歴史を経ていまの経済の枠組みが存在するようになったのかを、自分の頭で理解する必要があるのです。 本書のバルファキスのこの言葉を、私も若い人たちに贈りたいと思います。 「君には、いまの怒りをそのまま持ち続けてほしい。でも賢く、戦略的に怒り続けてほしい。そして、機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために」』、「大切な判断を他人まかせにしないためには、経済とは何か、資本主義がどのように生まれ、どんな歴史を経ていまの経済の枠組みが存在するようになったのかを、自分の頭で理解する必要がある」、その通りだ。

次に、9月19日付け東洋経済オンラインが掲載したSWIFT社 元CEOのゴットフリート・レイブラント氏、 SWIFT社 元コーポレートアフェアーズ部門責任者の ナターシャ・デ・テラン氏による「「高額紙幣の廃止」で犯罪撲滅を図った国の末路 インドと北朝鮮がやらかした壮大な経済失策」を紹介しよう。
・『現金は追跡が困難であることから、百ドル札などの高額紙幣は、日常生活ではそれほど頻繁に使われず、むしろ犯罪など地下経済で重宝されている。であれば、高額紙幣を廃止すれば犯罪を減らせると考えることは自然だが、事はそう簡単ではない。決済オタクであり、SWIFT(国際銀行間通信協会)の元CEOでもあるゴットフリート・レイブラント氏の新刊『教養としての決済』(ナターシャ・デ・テランとの共著)から、高額紙幣を廃止して国内で混乱を巻き起こした事例を紹介する』、「高額紙幣を廃止して国内で混乱を巻き起こした事例」とは興味深そうだ。
・『犯罪者にとって都合がいい高額紙幣  高額紙幣の量と使用状況のデータに基づいた試算の中には、アメリカのような先進国においてさえ、地下経済の規模はGDPの25%にまでおよぶとするものもある。そこには脱税のほか、麻薬や人身売買などの犯罪行為もふくまれる。 アメリカの麻薬経済の規模は年間1000億~1500億ドルと推定され、そのほとんどは現金で支払われており、そのうちの大部分が高額紙幣であると考えられる。ところが興味深いことに、アメリカの紙幣の90%にコカインの形跡が残っているのに対して、百ドル札ではその割合が著しく低い。 高額紙幣が麻薬の支払いに用いられる一方で、小額紙幣にはまったく異なる用途があるらしい。 経済学者たちは、各国政府がマネーロンダリングに対して厳しい体制を敷いている一方で、 高額紙幣を刷っていることの本質的な矛盾について長らく指摘してきた。 高額紙幣は明らかに、犯罪者にとって都合がいい。100万ドルを一ドル札で用意すれば重さが1トン以上、体積が1立方メートル以上になるが、百ドル札で用意すればおよそ10キログラム(22ポンド)になり、ブリーフケースひとつにきれいにおさまる。 さらに高額な五百ユーロ札の場合は、同じ100万ドルが、重さはたったの2キロになり、小さいバッグ──あるいは大きな胃袋──におさまるようになる。実際、2004年に不運な「ユーロ運び屋」がコロンビアへの道中で捕まったが、彼は胃袋の中に20万ユーロ分の五百ユーロ札をおさめていた。) とはいえ、犯罪者なら誰しも高額紙幣にこだわるというわけではない。コロンビアの運び屋が400枚の五百ユーロ札を飲み込む20年前、よく知られているように、オランダの醸造王フレディ・ハイネケンが誘拐された。ハイネケンはオフィスを出て家に帰る途中、お抱えの運転手とともにさらわれた。オランダの中央銀行からわずか200メートルの場所での出来事であった。 誘拐犯たちは、追跡されやすく交換が難しいのではないかという懸念から、千ギルダー札(500ドル超の価値)を敬遠した。代わりに、かれらは前代未聞の3500万オランダ・ギルダー(およそ2000万ドル)の身代金を、4つの通貨の中位の額の紙幣で支払うように要求した。不運にも、この選択もまた、身代金を扱いにくくするものだった。身代金が、約400キロもの重さになったからだ。 実にオランダ人らしく自転車で逃走することにしたこの一味は、アムステルダム郊外の林に戦利品を埋めるはめになり、ほんの4分の1ほどを回収したところで、散歩中の人に隠し場所を発見されてしまった。まちがいなく恐ろしい経験をしたであろうにもかかわらず、ハイネケンは21日間の監禁生活を生きのび、話し上手としての名声すら保った。 というのも、彼は後にこの経験についてこう語ったのだ。「犯人たちは私を拷問した……カールスバーグを飲まされたんだ!」』、「アメリカの麻薬経済の規模は年間1000億~1500億ドルと推定され、そのほとんどは現金で支払われており、そのうちの大部分が高額紙幣」、「アメリカの紙幣の90%にコカインの形跡が残っているのに対して、百ドル札ではその割合が著しく低い」、「高額紙幣は明らかに、犯罪者にとって都合がいい。100万ドルを一ドル札で用意すれば重さが1トン以上、体積が1立方メートル以上になるが、百ドル札で用意すればおよそ10キログラム(22ポンド)になり、ブリーフケースひとつにきれいにおさまる」、確かに「高額紙幣は明らかに、犯罪者にとって都合がいい」。「ハイネケンは21日間の監禁生活を生きのび」、「彼は後にこの経験についてこう語ったのだ。「犯人たちは私を拷問した……カールスバーグを飲まされたんだ!」商売敵の「カールスバーグ」を飲まされたとは、「ハイネケン」氏にとっては「拷問」」なのだろう。
・『なぜ政府は手をこまねいているのか?  スタンダードチャータード銀行の元最高経営責任者ピーター・サンズは、『悪者たちにより困難に』(Making it Harder for the Bad Guys)の中で、状況を簡潔に要約してみせた。彼は高額紙幣を「現代経済における時代錯誤」と形容し、「正規の経済活動ではほとんど役割を果たしていないが、地下経済においては重要な働きをしている。皮肉なことに、犯罪者たちが利用するそのような紙幣は、国家が用意しているのだ」と述べた。 では、なぜ一部の国々では、かつてないほど厳格なマネーロンダリング防止規制を銀行に課しながら、自国の高額紙幣が脱税、犯罪、テロ、汚職に使われることには目をつぶっているのだろうか?) たしかに、高額紙幣を見直そうとしている政府もある。しかし、現金──ないしあらゆる類の決済──を廃止することは、口で言うほど簡単なことではない。感情は昂り、愛着は強く、慣習はびくともしないように見える。そしてロジスティクスも容易ではない。 カナダは2000年に千カナダ・ドル札の発行を、シンガポールは2014年に一万シンガポール・ドル札の発行を終了したが、ユーロ圏ではそう簡単に物事は進まなかった』、「彼は高額紙幣を「現代経済における時代錯誤」と形容し、「正規の経済活動ではほとんど役割を果たしていないが、地下経済においては重要な働きをしている。皮肉なことに、犯罪者たちが利用するそのような紙幣は、国家が用意しているのだ」と述べた」、「カナダは2000年に千カナダ・ドル札の発行を、シンガポールは2014年に一万シンガポール・ドル札の発行を終了したが、ユーロ圏ではそう簡単に物事は進まなかった」、「ユーロ圏」では現金志向が強いのだろうか。
・『紙幣に対する信頼が揺らぐ  同年、ユーロ圏の19の中央銀行のうち17行が悪名高き五百ユーロ札の印刷を終了した。現金の利用が盛んなドイツとオーストリアも、抗議がなかったわけではないが、2019年にこれに続いた。 当時、ドイツ連邦銀行総裁のイェンス・ヴァイトマンは、この紙幣を段階的に廃止することは「犯罪対策にはほとんどならず、ユーロに対する信用を傷つけるだけだ」として異議を唱えた。五百ユーロ札はもはやほかのユーロ圏の国々(およびイギリス)では通用せず、交換もできないものの、ドイツとオーストリアではいまだ法定通貨となっており、商業銀行での交換や再流通が可能である。この2つのドイツ語圏の中央銀行が新しい五百ユーロ札の発行を停止したため、理論的には五百ユーロ札はやがて姿を消すことになる。 このような妥協によって問題が一挙に解決されることはないかもしれないが、もっとひどい結果──現金に対する信頼を損なうこと──を回避することはできる。これがヴァイトマンの主張の要であった。 すなわち、五百ユーロ札を受理しなくなることで、ほかの紙幣にも同様の措置が適用されるのではないかと人々を不安にさせる可能性がある、ということだ。その不安から、人々は二百ユーロ札、ひいては百ユーロ札さえも使うのを拒否するようになるかもしれない。 何より、これはとくにドイツ語圏の国々において、現金に対する絶対的な信頼を維持することが中央銀行にとって重要であることを示している』、「五百ユーロ札は」「ドイツとオーストリアではいまだ法定通貨となっており、商業銀行での交換や再流通が可能である。この2つのドイツ語圏の中央銀行が新しい五百ユーロ札の発行を停止したため、理論的には五百ユーロ札はやがて姿を消すことになる」、「五百ユーロ札を受理しなくなることで、ほかの紙幣にも同様の措置が適用されるのではないかと人々を不安にさせる可能性がある、ということだ。その不安から、人々は二百ユーロ札、ひいては百ユーロ札さえも使うのを拒否するようになるかもしれない」、これはとってつけたようなヘリクツのような印象を受ける。
・『比較的高額な紙幣に対してもっと大胆な行動をとった場合には、すさまじい混乱が生じることがある。 2016年、インド政府は「グレーマネー」を表に駆り出すことを目的として、流通している紙幣のうち最も高額な2つ──五百インドルピー(7.5ドル)と千インドルピー(15ドル)──の通用を廃止した。当時、この2つの紙幣が現金通貨の86%を占めていたが、実際には残りの14%を占める小額紙幣が、日常的な仕事の大半を担っていた。 その年の11月8日、ナレンドラ・モディ首相は、この厄介者の紙幣を午前零時──すなわち、わずか4時間後──に使用禁止にすることをテレビの生放送で発表し、国中を震撼させた。通用が廃止された紙幣を銀行で新紙幣に交換するために数週間の猶予が与えられたが、新紙幣の印刷は間に合っていなかった。 結果として貨幣危機が発生し、何千万ものインド人が、現金がない状態に陥るか、あるいはすこしの現金を手に入れるために毎日何時間も列に並ぶはめになった。事態が落ち着くまでには数週間を要し、GDPにもかなりの悪影響が及んだ。 その間、インドで通貨の代替品として好まれている金の価格は、20~30%上昇した。この施策の最終的な成功は、きわめて限定的なものであった』、「インド」での「五百インドルピー」と「千インドルピー」「の通用を廃止」は、準備不足などやり方が余りにお粗末だ。
・『グレーマネーは撲滅できたのか?  紙幣の追放の根拠となった考えは、現金の出所を正当化できる人々だけが旧紙幣を新紙幣に交換することになるので、グレーマネーの保有者の手元には無価値の紙幣だけが残るはずだ、というものであった。 しかし2年にわたる徹底した会計検査の後、インド準備銀行は、廃止された紙幣の実に99.3%が、追放されることなく銀行システムに戻ってきたと報告した。グレーマネーはモディが想定していたよりもすくなかったのか、あるいはインドのマネーロンダリングのしくみは、紙幣を追放するしくみよりも有能なのであろう。) そして、北朝鮮である。この「隠者の王国」の政府がポジティブな国内向けニュースを流すことに特化している一方で、同国にまつわるネガティブなニュースを伝えることに力を注ぐ海外勢力もある。 どちらのニュースも慎重に受け止める必要があるが、それでもなお、同国の直近の通貨切り下げに関する報道を見る限り北朝鮮が悲惨な状況にあることはまちがいない』、「インド」では「廃止された紙幣の実に99.3%が、追放されることなく銀行システムに戻ってきた」、「グレーマネーはモディが想定していたよりもすくなかったのか、あるいはインドのマネーロンダリングのしくみは、紙幣を追放するしくみよりも有能なのであろう」、なるほど。
・『突然の北朝鮮ウォンの切り下げ  現在の最高指導者の父、金正日は、2009年11月、北朝鮮ウォンの切り下げを突然命じた。政府はただちに紙幣からゼロを2つ切り落とし、旧紙幣を法定通貨からはずし、新紙幣に交換できる旧紙幣の量を制限した。 これによって巨額の貯蓄が失われただけでなく、新紙幣が流通する1週間前に旧紙幣が引き揚げられたため、その間、経済の大部分が停止するにいたった。この動きは、窮地に陥ったウォンを強化するどころか、政府が発行する貨幣に対する国民の信頼を失わせ、人々が外貨の保有に殺到するという事態を引き起こした。結果としてめったに起きない国内の反乱が生じ、1ドル30ウォンから約8500ウォンへと通貨が劇的に暴落した。 2013年には、同国の215億ドルの経済圏のなかで推定20億ドルのアメリカドル紙幣が流通していた。アンクル・サム〔アメリカ〕にとっては好都合だが、金一家にとってはそうでもない』、「北朝鮮ウォンの切り下げ」は、「政府が発行する貨幣に対する国民の信頼を失わせ、人々が外貨の保有に殺到するという事態を引き起こした。結果としてめったに起きない国内の反乱が生じ、1ドル30ウォンから約8500ウォンへと通貨が劇的に暴落した。 2013年には、同国の215億ドルの経済圏のなかで推定20億ドルのアメリカドル紙幣が流通していた。アンクル・サム〔アメリカ〕にとっては好都合だが、金一家にとってはそうでもない」、これも余りにお粗末な事例の1つだ。

第三に、10月21日付け日経ビジネスオンラインが掲載した東京大学大学院経済学研究科教授の青木 浩介氏による「ノーベル経済学賞バーナンキ氏、実証と実行が後の理論を先導」を紹介しよう。
・『2022年のノーベル経済学賞は「銀行と金融危機に関する研究」に対してベン・バーナンキ、ダグラス・ダイヤモンド、フィリップ・ディビッグの3氏に授与された。 ダイヤモンド氏とディビッグ氏は銀行に関する標準理論モデル「ダイヤモンド・ディビッグ・モデル」を構築したことが評価された。銀行が資金の「満期変換機能」を果たしていることをこのモデルは理論的に示している。 満期変換機能とは、銀行が預金者からいつでも引き出せる「要求払い預金」を集め、それを使って企業の長期投資に資金を融通することをいう。また、その機能を果たしているが故に銀行は不安定な存在であり、取り付け騒ぎのリスクにさらされることを示した。一方、バーナンキ氏は、20世紀初頭の大恐慌における銀行危機の役割を解明したことが評価された。 大恐慌が歴史上まれに見るほど深刻な不況になったのは、多くの銀行が倒産したからだということを実証的に示した。 本稿はバーナンキ氏に関するものである。ダイヤモンドとディビッグ両氏に関しては、本シリーズ2022年10月17日掲載の植田健一教授の寄稿をご参照いただきたい。また、バーナンキ氏は2006年から2014年までは米連邦準備理事会(FRB)議長を務めた。2009年に発生した世界金融危機時に米国金融政策のかじ取りをしたことを、多くの読者がご存じだろう。 しかし、本稿ではバーナンキ氏の政策担当者としての側面ではなく、授賞理由となった学術研究の解説をする。最後に、バーナンキ氏が米プリンストン大学教授だったときに、筆者は大学院生として講義を受け、博士論文の審査委員も引き受けていただいた(指導教員は、現在は米コロンビア大学のマイケル・ウッドフォード教授であった)。その時のエピソードも紹介したい』、「プリンストン大学教授だったとき」を中心に「紹介」してくれるとは、興味深そうだ。
・『銀行危機により恐慌が長く深刻に  世界大恐慌は、1920年代終わりから30年代に発生した、非常に深刻かつ世界的な景気後退である。多くの経済学者が大恐慌を理解すべく努力してきた。マクロ経済学の生みの親ジョン・メイナード・ケインズの代表作は36年刊行の『雇用・利子および貨幣の一般理論』(翻訳書は岩波文庫)であるが、これも大恐慌に強い影響を受けている。 バーナンキ氏自身、「大恐慌はマクロ経済学における聖杯である」と述べている(参考文献1)。聖杯(the holy grail)とは「非常に探すのが難しいもの」、「非常に高い目標」という意味だ。 バーナンキ氏は、銀行危機の発生こそが大恐慌を深刻かつ長い不況にしたということを明らかにした。銀行危機により経済の金融仲介が損なわれ、特に農家、中小企業や家計といった銀行への依存度が高い経済主体の消費・投資支出が大きく減少したことを実証的に示した。 現在の視点では、それは当たり前ではないかと思うかもしれない。読者が当たり前と思うという事実こそ、バーナンキ氏の研究成果が直接的、間接的に、広く人々の間に知られていることの証左だと思う。 授賞理由の主要業績に挙げられているバーナンキ氏の1983年の論文は「Nonmonetary effects of the financial crisis in the propagation of the Great Depression」(参考文献2)という題名である。この「Nonmonetary effects(非貨幣的な効果)」という部分にバーナンキ氏の新規性がある。 バーナンキ氏の論文以前の主流な仮説はミルトン・フリードマン氏とアンナ・シュワルツ氏のものである。両氏の研究は、大恐慌時における貨幣量の急激な減少に注目した。標準的なマクロ経済理論によれば、貨幣量が減少すると消費や投資などの総需要が減少し、物価が下落する。両氏によれば、貨幣量が急激に減少し、それに対して当時の連邦準備銀行が有効な政策を実行しなかったから大恐慌が深刻化した。 フリードマン、シュワルツ両氏も銀行危機の影響に注目しているが、バーナンキ氏の視点は異なる。フリードマン、シュワルツ両氏によれば、銀行危機とそれに伴う預金流出が急激な貨幣量の減少につながったとされる。注目しているのは貨幣量減少の効果、すなわち「Monetary effects」である。 一方、バーナンキ氏は銀行危機がもたらした金融仲介機能の毀損こそが、大恐慌を深刻なものにしたと考えた。金融仲介とは、貯蓄をする家計から資金を集め、必要とする企業へ資金を貸し付けることである。企業へ資金を提供する際には、企業の投資案件の審査や企業のモニタリングが必要であり、通常はそれを銀行が効率的に担っている。 そこで、銀行危機により、ある企業と通常取引している銀行が倒産したとしよう。その企業は倒産した銀行の代わりに資金を貸してくれる銀行を探すか、代替的な資金調達手段を探さなければならなくなる。代わりの銀行が見つかったとしても、普段取引をしていなかった銀行なので貸出金利が高くなるかもしれない。もしくは、借り入れそのものができなくなったりするかもしれない』、「バーナンキ氏は銀行危機がもたらした金融仲介機能の毀損こそが、大恐慌を深刻なものにしたと考えた」、なるほど。
・『金融部門と実体経済の連関を実証  この効果は資金調達を銀行に大きく依存している中小企業や家計で顕著になる。また、一度損なわれた銀行と借り手の関係は修復するのに時間がかかる。その結果、不況の回復も時間がかかる。これらのことが、バーナンキ氏の言う「Nonmonetary effects」である。氏はこれらを歴史資料と計量経済学を使って、厳密に実証した。 より広い見方をすると、バーナンキ氏の研究は、経済変動において金融市場が持つ役割についての我々の考え方を変えた。従来は、金融部門は実体経済を単に反映したものであり、金融部門の問題が実体経済の停滞に波及しているわけではないという考え方が根強くあった。例えば、貸出量が減少しているのは、生産量や投資量が減少した結果、資金需要が減少したからだという考え方である。 それに対するバーナンキ氏の考え方は、金融部門と実体経済は相互に連関しているというものである。さらに、金融部門の問題は実体経済の変動を増幅する効果があるとされる。これらは、「フィナンシャル・アクセレラレーター」もしくは「クレジット・チャネル」と呼ばれており、金融政策の波及経路の研究にも取り入れられている。バーナンキ氏の研究はこれらの考え方の先駆的なものとして認識されている。 ▽「マクロ経済学では色々な分野の勉強を」(バーナンキ氏は、79年に米マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学の博士号(Ph.D.)を取得後、85年に米プリンストン大学経済学部教授に就任。2002年にFRB理事として転出する前は学部長も務めていた。 筆者がプリンストン大学大学院に入学した時、1年目のマクロ経済学の講義をバーナンキ氏とウッドフォード教授が担当しており、初回講義はバーナンキ氏が担当だった。彼は冒頭、マクロ経済学がどのような学問であるかについて説明した。彼が次のように話したことをよく記憶している。 「マクロ経済学は色々な分野の応用なので、色々な分野を勉強しなければならない。失業を研究したいならば労働経済学を勉強する必要がある、インフレーションを研究したいならば貨幣経済学、経済成長ならば経済発展論、マクロ経済政策ならば公共経済学……景気循環は、マクロ経済学固有の研究課題だが、経済史とつながっている」。ここで、経済史を学ぶことの重要性を学生に説いていたことが非常に印象に残っている。 大恐慌の研究を現代経済の理解と後々の金融政策運営に生かしたバーナンキ氏のこだわりが、この冒頭講義に表れていると思う。講義では黒板に数式を多く書くことはあまりなかった。むしろ、経済理論や実証方法を直観的な言葉で説明していくスタイルだった。) バーナンキ氏は学生に対しては大変親身になって指導していた。論文の草稿を渡すとわずか2、3日のうちに詳細なコメントが返ってくるのには、大変ありがたく思ったと同時に「いつ自分の研究をしているのだろう?」と驚いた』、「バーナンキ氏が」、「次のように話したことをよく記憶している。 「マクロ経済学は色々な分野の応用なので、色々な分野を勉強しなければならない。失業を研究したいならば労働経済学を勉強する必要がある、インフレーションを研究したいならば貨幣経済学、経済成長ならば経済発展論、マクロ経済政策ならば公共経済学……景気循環は、マクロ経済学固有の研究課題だが、経済史とつながっている」。ここで、経済史を学ぶことの重要性を学生に説いていたことが非常に印象に残っている」、「マクロ経済学は色々な分野の応用なので、色々な分野を勉強しなければならない」、とは大変だ。
・『日本の金融政策にも独自の見解  博士論文の口述試験の日のこともよく覚えている。00年初夏のことである。口述試験が終わり、バーナンキ氏の研究室にお礼の挨拶に行った。そこで、「日本の金融政策はどうすればよいと思いますか?」と質問した。当時日本はすでに名目金利がゼロ下限に達しており、利下げの余地はもはやなかった。筆者の質問に対して氏は「いくらでもすることはあるよ。色々な資産を買えばよいのだ」と答えた。 当時主流となりつつあった「ニューケインジアン経済学」の理論は、名目金利が下限に達したときの金融政策として、人々の将来利子率に関する予想への働きかけを重視していた。今の言葉で言うと「フォワードガイダンス(先行き指針)」である。その一方で、資産購入政策の有効性については懐疑的な見方をする理論だった。 バーナンキ氏自身、ニューケインジアン経済学の分野でも重要な学術的貢献をしている。そのニューケインジアン経済学の分野で博士論文を完成させたばかりの当時の筆者は、恥を忍んで告白すると、「習った理論と違うことをおっしゃるなあ」と感じたことを覚えている。 世界金融危機が発生したとき、バーナンキ氏が連邦準備銀行議長として様々な資産購入政策を導入したことは周知の通りである。後日、「量的緩和の問題は、実際には効くのですが理論的には効かないということなのですよ」という言葉を残している(参考文献3)』、「量的緩和の問題は、実際には効くのですが理論的には効かないということなのですよ」、難し過ぎて、理解不能だ。
・『理論・事実・経験の絶妙なバランス  しかし、その言葉の後、彼は実際には日本の経験や大恐慌から学んだこと、フリードマン、シュワルツ、ウッドフォード、ポール・クルーグマンなどの研究者の名前を挙げながら、金融政策立案は学術研究の蓄積にも依存していることを強調している。同時に、金融政策は学会と政策当局が互恵関係にある典型的な例であるとしている。 1983年の論文が発表された当時、銀行理論はまさに開発されつつあった段階で、それを組み込んだマクロ経済モデルはほとんどなかった。同様に、世界金融危機の後になって、中央銀行の資産購入政策を分析する理論枠組みが本格的に開発され、ニューケインジアンモデルに組み込まれていった。 これらのことを考えると、バーナンキ氏は、その時々に支配的な理論の枠組みだけにとらわれることなく、理論、実証的事実、経験の全てにバランスをとりながら柔軟に物事を考える学者だったと思う。そのことによって、研究者時代は新たな領域を切り拓き、政策当局者としてその学術的知見をいかしながら新たな政策を立案した、まれな人物と言えよう』、「バーナンキ氏は、その時々に支配的な理論の枠組みだけ にとらわれることなく、理論、実証的事実、経験の全てにバランスをとりながら柔軟に物事を考える学者だったと思う」、お弟子さんが書いたとはいえ、やはり偉大な人物のようだ。 
タグ:「「高額紙幣の廃止」で犯罪撲滅を図った国の末路 インドと北朝鮮がやらかした壮大な経済失策」 「プリンストン大学教授だったとき」を中心に「紹介」してくれるとは、興味深そうだ。 青木 浩介氏による「ノーベル経済学賞バーナンキ氏、実証と実行が後の理論を先導」 「バルファキス氏」の解説は平易で分かり易い。 日経ビジネスオンライン 「北朝鮮ウォンの切り下げ」は、「政府が発行する貨幣に対する国民の信頼を失わせ、人々が外貨の保有に殺到するという事態を引き起こした。結果としてめったに起きない国内の反乱が生じ、1ドル30ウォンから約8500ウォンへと通貨が劇的に暴落した。 2013年には、同国の215億ドルの経済圏のなかで推定20億ドルのアメリカドル紙幣が流通していた。アンクル・サム〔アメリカ〕にとっては好都合だが、金一家にとってはそうでもない」、これも余りにお粗末な事例の1つだ。 「インド」では「廃止された紙幣の実に99.3%が、追放されることなく銀行システムに戻ってきた」、「グレーマネーはモディが想定していたよりもすくなかったのか、あるいはインドのマネーロンダリングのしくみは、紙幣を追放するしくみよりも有能なのであろう」、なるほど。 「誰もが経済についてしっかりと意見を言えることこそ、いい社会の必須条件であり、真の民主主義の前提条件だ」、その通りだ。 (その6)(【ギリシャ元財務大臣が解説する】「なぜ経済を学ぶ必要があるのか?」に対する納得の回答、「高額紙幣の廃止」で犯罪撲滅を図った国の末路 インドと北朝鮮がやらかした壮大な経済失策、ノーベル経済学賞バーナンキ氏 実証と実行が後の理論を先導) 経済学 「格差があることに怒っている人は多そうだ」、その通りだ。 「彼は高額紙幣を「現代経済における時代錯誤」と形容し、「正規の経済活動ではほとんど役割を果たしていないが、地下経済においては重要な働きをしている。皮肉なことに、犯罪者たちが利用するそのような紙幣は、国家が用意しているのだ」と述べた」、「カナダは2000年に千カナダ・ドル札の発行を、シンガポールは2014年に一万シンガポール・ドル札の発行を終了したが、ユーロ圏ではそう簡単に物事は進まなかった」、「ユーロ圏」では現金志向が強いのだろうか。 確かに「高額紙幣は明らかに、犯罪者にとって都合がいい」。「ハイネケンは21日間の監禁生活を生きのび」、「彼は後にこの経験についてこう語ったのだ。「犯人たちは私を拷問した……カールスバーグを飲まされたんだ!」商売敵の「カールスバーグ」を飲まされたとは、「ハイネケン」氏にとっては「拷問」」なのだろう。 ナターシャ・デ・テラン ゴットフリート・レイブラント 東洋経済オンライン 「大切な判断を他人まかせにしないためには、経済とは何か、資本主義がどのように生まれ、どんな歴史を経ていまの経済の枠組みが存在するようになったのかを、自分の頭で理解する必要がある」、その通りだ。 「賢く、戦略的に怒り続けてほしい。機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために」、「必要な行動」とは投票行動なのだろうか。 「計画的に余剰を増やし、別の地域と別の種類の食糧と交換するようになる。 そのやりとりは物々交換だったが、次第に通貨を使ってやり取りすることでグローバルな規模で貿易ができるようになる。 通貨を使うにあたって、数字や文字、債務という便利なものも人類は使うようになり、経済は高度になっていく。 さらに農作物の余剰を守るために軍隊が配備され、国家という概念が生まれた」、「経済とは農作物の余剰を守るところからはじまっている」、「余剰」がここまで経済発展の源になっているとは、感心させられた。 「農耕の発展により農作物の余剰が生まれ、余剰を増やしていく過程で経済が大きく動き出していく」、言われてみれば、確かに「余剰」がなければ、「経済」は成長しない。 「インド」での「五百インドルピー」と「千インドルピー」「の通用を廃止」は、準備不足などやり方が余りにお粗末だ。 「アメリカの麻薬経済の規模は年間1000億~1500億ドルと推定され、そのほとんどは現金で支払われており、そのうちの大部分が高額紙幣」、「アメリカの紙幣の90%にコカインの形跡が残っているのに対して、百ドル札ではその割合が著しく低い」、「高額紙幣は明らかに、犯罪者にとって都合がいい。100万ドルを一ドル札で用意すれば重さが1トン以上、体積が1立方メートル以上になるが、百ドル札で用意すればおよそ10キログラム(22ポンド)になり、ブリーフケースひとつにきれいにおさまる」、 「高額紙幣を廃止して国内で混乱を巻き起こした事例」とは興味深そうだ。 「バーナンキ氏は、その時々に支配的な理論の枠組みだけ にとらわれることなく、理論、実証的事実、経験の全てにバランスをとりながら柔軟に物事を考える学者だったと思う」、お弟子さんが書いたとはいえ、やはり偉大な人物のようだ。 「量的緩和の問題は、実際には効くのですが理論的には効かないということなのですよ」、難し過ぎて、理解不能だ。 その不安から、人々は二百ユーロ札、ひいては百ユーロ札さえも使うのを拒否するようになるかもしれない」、これはとってつけたようなヘリクツのような印象を受ける。 「五百ユーロ札は」「ドイツとオーストリアではいまだ法定通貨となっており、商業銀行での交換や再流通が可能である。この2つのドイツ語圏の中央銀行が新しい五百ユーロ札の発行を停止したため、理論的には五百ユーロ札はやがて姿を消すことになる」、「五百ユーロ札を受理しなくなることで、ほかの紙幣にも同様の措置が適用されるのではないかと人々を不安にさせる可能性がある、ということだ。 ここで、経済史を学ぶことの重要性を学生に説いていたことが非常に印象に残っている」、「マクロ経済学は色々な分野の応用なので、色々な分野を勉強しなければならない」、とは大変だ。 「バーナンキ氏が」、「次のように話したことをよく記憶している。 「マクロ経済学は色々な分野の応用なので、色々な分野を勉強しなければならない。失業を研究したいならば労働経済学を勉強する必要がある、インフレーションを研究したいならば貨幣経済学、経済成長ならば経済発展論、マクロ経済政策ならば公共経済学……景気循環は、マクロ経済学固有の研究課題だが、経済史とつながっている」。 「バーナンキ氏は銀行危機がもたらした金融仲介機能の毀損こそが、大恐慌を深刻なものにしたと考えた」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン「【ギリシャ元財務大臣が解説する】「なぜ経済を学ぶ必要があるのか?」に対する納得の回答」
nice!(0)  コメント(0) 

日本の構造問題(その28)(冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている、ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか) [経済政治動向]

日本の構造問題については、7月20日に取上げた。今日は、(その28)(冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている、ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか)である。

先ずは、8月22日付けPRESIDENT Onlineが掲載したHONZ代表の成毛 眞氏と経営共創基盤(IGPI)グループ会長の冨山 和彦氏による「冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60781
・『今の日本では「個人の力」の前に「個人の学ぶ力」を求められる  一人ひとりの日本人が「個人の力」を身につけ、生かしていこうとするとき、やはりそこでも壁として立ちはだかるのは、新陳代謝が進まず固定化した産業構造、社会構造だ。 これからの時代に求められる力は、新しい力である。しかし、古くて固定化した産業構造に身を置いても、あるいは、そこに向けて用意されている古い教育システムに身を置いても、それだけでは新しい力は身につかない。 長年にわたり、あれだけSTEM(ステム)(※1)が大事だと言われながら、相変わらずIT人材が足りない、AI技術者が育たないと嘆いている根本原因は、まさに人材教育、人材投資に関わる仕組みが古い構造に固定化されていることにある。 だから、ここでも自らの頭で考え、自らの頭で判断して、自分にフィットした「個人の力」を身につける道筋を探索しなくてはならない。「個人の力」の前に「個人の学ぶ力」を求められるのが、今の日本なのである。 GDPとは、要するに「付加価値の総計」である。付加価値をつくる能力がなければ、経済成長率も上がらないし、国民所得も増えない。日本のような成熟した先進国において、キャッチアップ型、コストと価格競争力勝負の大量生産工業への先行投資で付加価値が生まれる余地は小さい。しかも、付加価値創出はデジタル化とグローバル化による破壊的イノベーションに牽引される時代だ。 イノベーションの時代の付加価値の源泉は、一人ひとりの人間がもつ発想力、創造力、行動力である。そんな個がチームとなって相乗力が生まれ、新しい企業、さらには産業となってスケールする(※2)。 時代の移り変わりによって付加価値を生み出す力を失った古い産業構造のなか、古い組織のルール、古いお作法のなかでは、新しい付加価値を創造する個が輝くのは難しい。サッカーの天才も野球チームにいる限り、才能を開花させられないのは当たり前の話だ。 そこで古い産業構造が固定化して居座りを決め込めば、新しい付加価値が芽吹き大きく成長するスペースは、なかなか生まれない。 政府がお題目としてベンチャー支援を唱えても、他方で古い産業、古い企業の存続をあの手この手で支援すると、効果は相殺され、結果は現状維持となってしまうのだ。そして日本経済の付加価値創出力は停滞を続ける』、「イノベーションの時代の付加価値の源泉は、一人ひとりの人間がもつ発想力、創造力、行動力である。そんな個がチームとなって相乗力が生まれ、新しい企業、さらには産業となってスケールする」、「付加価値を生み出す力を失った古い産業構造のなか、古い組織のルール、古いお作法のなかでは、新しい付加価値を創造する個が輝くのは難しい・・・そこで古い産業構造が固定化して居座りを決め込めば、新しい付加価値が芽吹き大きく成長するスペースは、なかなか生まれない。 政府がお題目としてベンチャー支援を唱えても、他方で古い産業、古い企業の存続をあの手この手で支援すると、効果は相殺され、結果は現状維持となってしまうのだ。そして日本経済の付加価値創出力は停滞を続ける」、ある意味で真相を突いている。
・『経済危機のたびにゾンビ型企業延命メカニズムが働く理由  ちなみに、2008年のリーマンショックのような経済危機が起こっても、打撃の規模の割に、日本で倒産する企業は世界に類を見ないほど少ない。直近のコロナ禍でも、現在の倒産件数は、日本史上で見ても最低水準で推移している。 倒産する企業が少ないと聞くと、いいことのように思えるかもしれない。しかし、これは政府が巨大な支出をして倒産を回避しているだけの話だ。 要は、この国は個人を直接救う公助能力があまりにも低いのである。制度も弱いし、デジタル化も進んでいないので、有事に迅速に手を差し伸べられない。 だから毎回、企業内共助システム、「二重の保護」構造に頼らざるを得ない。そこで必死に融資や助成金で企業を支えるしか、困窮した国民を支える方法がないのだ。 これしかないので局面的にはやむを得ないのだが、すでに触れたように、この仕組みは大きな副作用を伴う。 すなわち、突然襲ってくる危機的状況において、どこでピンチになっているかわからない困窮者の生活、人生を救うには、とりあえず規模の大小、競争力の強弱、生産性の高低に関係なく、すべての企業を支えるしかない。 すると企業の新陳代謝は妨げられ、しかもここで分不相応に大きな借金を抱えて生き延びた企業の多くが過剰債務企業、すなわちゾンビ企業になってしまう。そしてその後も政府の支援に頼るようになる。結果的に、産業構造の固定化がさらに進んでいくのである』、「突然襲ってくる危機的状況において、どこでピンチになっているかわからない困窮者の生活、人生を救うには、とりあえず規模の大小、競争力の強弱、生産性の高低に関係なく、すべての企業を支えるしかない。 すると企業の新陳代謝は妨げられ、しかもここで分不相応に大きな借金を抱えて生き延びた企業の多くが過剰債務企業、すなわちゾンビ企業になってしまう。そしてその後も政府の支援に頼るようになる。結果的に、産業構造の固定化がさらに進んでいくのである」、その通りだ。
・『政府が無差別にカネを配ってしまった事業の末路  欧米でもコロナ禍に際してかなり大きな政府支出で緊急経済対策を打っているが、失業率も倒産件数も相応に増えている。 もともと、どの国も平時から起業率も廃業率も日本より高いのである。コロナ明けを想定すると、長い目で見ると産業の新陳代謝がさらに進み、デジタル技術を駆使した新しい業態、新しい企業への世代交代が進むだろう。歴史的にも、経済危機の後はイノベーションが加速する場合が多い。 しかし、日本では、むしろ古い産業がゾンビ化したまま生き残り、産業構造の固定化が進んでしまう傾向がある。バブル崩壊の後も、リーマンショックの後もそうだった。 原因が何であれ、稼げない企業は淘汰とうたされるのがビジネスの理ことわりだ。そういう意味では、倒産企業が少ないことは、長期的な経済発展という観点からは決して歓迎すべきことではないのである。 実際、コロナ禍でも、まったく同じ構図になりつつある。2020年に73兆円、2021年には55兆円の巨大な経済対策予算が組まれ、一般的には、10万円の個人向け給付金やGo Toキャンペーンなどが注目された。しかし、実はいろいろな形で企業にも巨額の資金が流れているのだ。 キャッシュ・イズ・キング。名目が補助金だろうが、給付金だろうが、融資だろうが、キャッシュが回っている限り、どんなに大赤字になっても企業は潰れない。だから、企業倒産件数は史上最低水準で推移しているのだ。 しかし、無差別にカネを配った結果、企業のなかにはその使い道がなく、預金額ばかりがどんどん積み上がってしまっているところも多い。 「このままでは潰れるかもしれない」という危機感がなければ、何かを変えよう、新しいことをやってみようという機運も高まりにくい。むしろ政府がいくらでも金を出してくれるのだから、危機が収まるまではじっとしていようと考えるのが人情だ』、「名目が補助金だろうが、給付金だろうが、融資だろうが、キャッシュが回っている限り、どんなに大赤字になっても企業は潰れない。だから、企業倒産件数は史上最低水準で推移しているのだ。 しかし、無差別にカネを配った結果、企業のなかにはその使い道がなく、預金額ばかりがどんどん積み上がってしまっているところも多い。 「このままでは潰れるかもしれない」という危機感がなければ、何かを変えよう、新しいことをやってみようという機運も高まりにくい。むしろ政府がいくらでも金を出してくれるのだから、危機が収まるまではじっとしていようと考えるのが人情だ」、その通りだ。
・『大企業は「戦略的グダグダ」ではなく「真正グダグダ」である  しかし、コロナ禍が去ってみると、企業間の格差、産業間の実力格差は広がっているだろう。そして、赤字補塡ほてんの借金を積み上げる一方で未来投資をためらっていた企業はゾンビ化していく可能性が高い。 ゾンビにいくら鮮血を注いでもゾンビとして生きながらえるだけであり、人間には戻らない。それと同じように、生産性の低い企業が、利益を上げる本来あるべき企業として蘇るのではなく、生産性が低いまま延命してしまうことになる。 私は20年前の金融危機に際し、産業再生機構(※3)を率いる立場になった時、現場のプロフェッショナル300名とともに公的資金10兆円を産業と金融の一体再生のために駆使したが、ゾンビ企業の延命にはカネを使わなかった。 そのことで多方面から矢のような非難を浴びたが、企業をゾンビ状態で延命させるべきではない。政府が救うべきはゾンビ企業ではなく、稼ぐ力が残っている事業であり、そこで働く人間なのだ。だから、むしろ経済危機に際して起きる企業の新陳代謝を止めるべきではない。 政府は企業の退出に伴う社会的コストの最小化、すなわちオーナー経営者の個人破産の回避や、労働者の転職や職業訓練、リカレント教育(※4)にこそ金を使うべきだと主張してきた。 要は社会全体として、過度な企業内共助の仕組みを脱却しよう、政府は企業、産業の新陳代謝を前提とした、公助共助連動型の包摂的なセーフティネットを整備すべきと主張してきたのである。 しかし、その後も企業内共助依存と「二重の保護」構造の転換は進まず、ひとたび経済危機が起こって企業が風前の灯になりかけると、毎回、政府が巨額のばらまきで救済する。 そんなズブズブの官民関係が続いているのだ。 バブル崩壊後の金融危機、ITバブルの崩壊、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ禍と、この20年間、日本経済は何度も危機を経験してきた。 そこで淘汰による新陳代謝が起こるなり、徹底的な自己改革によって付加価値生産性が上がるなりしていれば、日本の産業はもっと活発でおもしろいものになっていたかもしれない。 しかし、それを結果的に妨げてきた「二重の保護」構造は政治的にきわめて強固で、これからもなかなか崩せないだろう。官にも民にもその仕組みに寄りかかっている人がたくさんいて、特に、少子高齢化で数はたくさんいる上の世代の選挙民自身に、この構造のまま自分たちは逃げ切れるのではないか、という動機づけが強烈に働いているのだから。 産業再生機構の当時から感じていたのは、政府であれ、大企業であれ、日本の古典的なエスタブリッシュメント組織の体質をひとことで言うなら「グダグダ」であるということだ。すべてが固定的で旧時代的。何かというと「ことなかれ」の保身に走る。悪しき「昭和」である。 のらりくらりと世間の雑音をかわしつつ、やるべきことをしたたかに着々とやる、といった「戦略的グダグダ」ではない。本質的なことを考えていないから有効策を講じられない、大きな効果が見込める政策を断行する勇気もないという、いわば「真正グダグダ」である』、「産業再生機構」で「ゾンビ企業の延命にはカネを使わなかった」と大言壮語しているが、ダイエーは丸紅をスポンサー企業として渡した後も、結局、上手くゆかず、イオンが引き取る形で最終的に処理した。「戦略的グダグダ」はついに実行されなかったようだ。
・『「有事はない」という建前が崩壊し続けた失われた30年  昭和的グダグダ感の根っこの1つには、敗戦後にできた日本国憲法の成立から引き継がれてきた「有事というものは存在しない」という建前路線があるように思う。 憲法はその前文と第9条において、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して戦争放棄を規定している。この憲法が成立した1946年当時は吉田茂内閣の時代だ。吉田は英国流のプラグマティストで自由主義者である。 彼はその後の東西冷戦の時代において、むしろこの憲法を盾に、米国の核の傘の下で軽武装経済重視の国家再建を進めることになる。 いわば、美しい建前を利用して、国家再建という現実政策をプラグマティックに推し進めたのである。 実際、第二次世界大戦が終結してからの20世紀後半、世界はおおむね平和だった。1950年に始まる朝鮮戦争や、1960年代半ばから泥沼化していくベトナム戦争などの局地戦争はあるものの、世界的な戦争は起こっていない。少なくとも日本が当事者として大きな戦争に直接巻き込まれる事態は起きなかった。 そして戦後の日本は、明治時代の「富国強兵」路線マイナス強兵の加工貿易立国による富国路線によって、敗戦による荒廃からみごとに立ち直っていった。 そして長きにわたる平和と経済的繁栄によって、最初はあくまでも建前だった「有事はない」が、40年、50年と経つうちに実体的な前提になっていったのである。 目をつぶれば何も見えないのと同じで、この国のあらゆる仕組みが「有事はない」前提でつくられるようになっていく。 しかし、それほど長期間にわたり平時が続くことのほうが、本来は異常なのだ。現に20世紀末期から21世紀にかけて、元号が昭和から平成に変わると、バブル経済が崩壊し、1995年の阪神淡路、2011年の東日本という2つの大震災が起こり、原発事故も起き、コロナ禍というパンデミックが起こった。 米中対立の動向など国際情勢もきな臭くなる一方だ。南海トラフ地震や富士山噴火と、巨大規模の災害が高い確率で起こる可能性も指摘されている』、「「有事はない」という建前が崩壊し続けた失われた30年」、は安全保障の問題と災害の問題を混同しており、違和感がある。
・『日本の潜在的危機は深まっていく  このように「有事がない」なんてことはありえない。万が一、諸国民が公正で信義に溢れる人たちばかりでも激甚な天災は起きるし、新しいウイルスは人間の言うことを聞いてはくれない。 日本も「例外的に有事がなかった時代」が終わり、「いつでも有事が起こりうるという通常の状態」に戻ったのである。 そんなさなかに、この国は、政府もメディアも、ある意味、多くの日本国民さえも、未だに「有事がないという建前は現実でもある」という世界観から脱却できていない。 そんな縁起でもないこと、あってはならないことは起きない、だからそれを前提にした制度や仕組みもあってはならない、という現実歪曲わいきょく空間に閉じこもったままだ。 その結果、有事に直面するたびに有効策を講じられず、大きな効果が見込める施策を断行する勇気もないため、「グダグダ」なパターンを繰り返す。 高度成長期以降の「昭和元禄」天下泰平の時代がもたらした「昭和的グダグダ感」が続く限り、この国の潜在的危機が深まっていく』、平和主義を「現実歪曲わいきょく空間に閉じこもったまま」と批判するのは、安直だ。「高度成長期以降の「昭和元禄」天下泰平の時代がもたらした「昭和的グダグダ感」が続く限り、この国の潜在的危機が深まっていく」、観念的視点からの浮ついた批判で、読むに堪えない。 この後編も8月24日付けであるが、紹介は止めておく。

次に、9月17日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏による「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/619077
・『円安が1ドル=145円にタッチしそうなまでに進み、世間では「日本経済は終わった」「この世の終わりだ」といったような雰囲気になっている。ある月刊誌などは「日本ひとり負けの真犯人は誰か」などという特集まで組んでいる』、元気になる記事を書いてくれるようで、興味深い。
・『日本は世界と「真逆」  この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら 180度逆だ。ついに「日本がひとり勝ちするとき」がやってきたのだ。 当然だ。説明しよう。 世界は何をいま騒いでいるか。インフレである。インフレが大変なことになり、慌てふためいて、欧米を中心に世界中の中央銀行が政策金利を急激に引き上げている。 その結果、株価が暴落している。世中の中央銀行の量的緩和で膨らんだ株式バブルが崩壊している。実体経済は、この金利引き上げで急速に冷え込んでいる。一方、インフレは収まる気配がないから、いちばん嫌なスタグフレーション(経済が停滞する中での物価高)が確実になっている。世界経済は、「長期停滞」局面に入りつつあるのである。 一方、日本はどうか。世間が「ひとり負け」と騒ぐぐらいだから、日本だけが世界と正反対の状況になっている。 まず、世界で唯一と断言できるほど、インフレが起きていない。企業物価は大幅に上昇しているが、それが消費者物価に反映されるまで非常に時間がかかっており、英国の年率10%、アメリカの8%とは次元が違う2%程度となっている。 英国では、一家計あたりの年間エネルギー関連の支出が100万円超の見込みとなり、文字どおりの大騒ぎとなっている。新しく就任したリズ・トラス首相は、補助金をばらまくことによって、実質20万円以下に抑え込む政策を発表した。 だが、これによる財政支出は約25兆円にもなると言われており、これだけで「英国は財政破綻するのではないか」と言われるありさまだ。 これに比べると、日本の岸田政権のバラマキはバラマキでも低所得世帯へ各5万円程度、総額で1兆円弱であり、何の問題もなく見えてくるのである。 日本では、政策的に、電力会社が電気料金の引き上げを徐々にしかできないように規制しており、これが電気代の安定化に寄与している。日本では2%ちょっとの物価上昇でも、一時は大騒ぎになったが、インフレーションが加速するようなことが起きにくい構造になっているのである。 このような物価が安定した経済においては、中央銀行は急いで政策金利を引き上げる必要はない。だから、日本銀行は、世界で唯一、金融政策を現状維持して、のんびりできているのである』、日本だけ利上げに取り残され、円は暴落傾向だったのを、円売り介入で食い止めている状況で、「日本銀行は、世界で唯一、金融政策を現状維持して、のんびりできている」というのは言い過ぎだ。
・『賃金が上がらない経済のほうが望ましい理由  これに対して、大多数のエコノミストたちは、「欧米は物価も上がっているが、賃金も上がっている。賃金が上げられる経済だから、物価が上がっても大丈夫であり、日本のように賃金が上げられない経済は最悪だ」として、日本経済を「世界最悪だ」とこき下ろしている。 間違いだ。 1973年に起きたオイルショックのときは、その後の労使交渉が友好的にまとまり、賃金引き上げを社会全体で抑制できた。これにより経済の過熱を抑え、世界で日本だけがインフレをすばやく押さえ込み、1980年代には日本の経済が世界一となった。 これと同じで、賃金が上がらない経済のほうが、現状では望ましい。アメリカなどはそれこそ賃金上昇を死に物狂いで政府を挙げて抑え込もうとしている。つまり、賃金の上がらない日本経済は、現在のスタグフレーションリスクに襲われている世界経済の中では、うらやましがられる存在であり、世界でもっとも恵まれているのである。 消費者物価が上がらないのも、消費者が貧乏性であることが大きい。そのため、少しの値上げでも拒絶反応が大きく、企業側が企業間取引価格は引き上げても、小売価格を引き上げられない。しかし、このようなインフレが最大の問題となっている状況では、ショックアブソーバーが完備された「安定した経済、消費財市場」であり、望ましいのである。 だから、日本の中央銀行だけが金融政策を引き締めに転じる必要がなく、景気が急速に冷え込む恐れがなく、非常に安定して穏やかな景気拡大を続けており、非常にマクロ経済として良好な状態を保っているのである。 いったい、このような世界でもっとも恵まれた状況の日本経済に何の不満があるのか。 現在、日本を騒がせているのは、円安である。これは、異常な規模と特異な手段で行っている異次元金融緩和を、普通の金融緩和にすれば、直ちに解消する。 「連続指値オペ」という、日銀が毎日10年物の国債金利を指定する利回り(上限0.25%程度)で原則無制限に買う政策は、金融市場を完全に殺すものであり、異常なので、直ちに取りやめる。 また、イールドカーブコントロールと呼ばれる「10年物の金利をゼロ程度に抑え込むことをターゲットとする」という、これまた歴史上ほとんど類を見ない政策をやめれば、異常な円安は直ちに解消する。 要は今の円安で困っているのは、日銀の単純なテクニカルな手段のミスである。特異なことをやめ、普通に金融緩和を続けるだけで異常な円安も解消し、金融緩和も続けられるので、日本経済にはまったく問題がない、ということになる。 しかし、有識者たちは「真の日本経済の問題はもっと根深い。いちばんの問題は、この10数年、アメリカでは高い経済成長率を実現したのに、日本は低成長に甘んじたことだ。賃金、物価が上がらない、つまり変化が起こりにくい、ダイナミズムが不足しているのではないか」と懸念する。「アメリカには圧倒的に差をつけられ、中国にも抜かれてしまった。日本経済からダイナミズム、イノベーション、そして経済成長が失われてしまったことが大問題なのだ」と嘆く』、「円安」「は、異常な規模と特異な手段で行っている異次元金融緩和を、普通の金融緩和にすれば、直ちに解消する。 「連続指値オペ」という、日銀が毎日10年物の国債金利を指定する利回り(上限0.25%程度)で原則無制限に買う政策は、金融市場を完全に殺すものであり、異常なので、直ちに取りやめる。 また、イールドカーブコントロールと呼ばれる「10年物の金利をゼロ程度に抑え込むことをターゲットとする」という、これまた歴史上ほとんど類を見ない政策をやめれば、異常な円安は直ちに解消する」、これを止めるべきというのは正論だが、代わりに長期金利が上昇するのは放置する必要がある。
・『「日本の安定性」にもっと積極的な評価を  確かにこれは、日本経済の弱点と言える。良くはない。しかし、何事も、長所と短所がある。 日本の有識者や世間の議論の悪いところは、世界でいちばんのものを持ってきて「それに日本が劣る」と騒ぎたて、「日本はダメだ、悪い国だ」と自虐して、批判したことで満足してしまうことだ。社会保障はスウェーデンと比較し、イノベーションはアメリカと比較し、市場規模は中国と比較する。そりゃあ、さすがに勝ちようがない。 日本経済の特徴は、流動性に欠け、変化やダイナミズムは少ないが、その一方で、抜群の安定性がある。オイルショックでも物価高騰を抑え込み、リーマンショックでもコロナでも、失業率の上昇は、欧米に比べれば、無視できるほどだ。 21世紀になっても給料が上がっていないことを指摘されるが、その理由は3つある。第1に1990年時点の給料がバブルで高すぎたこと、第2に正規雇用と非正規雇用という不思議な区別があり、1990年時点の前者のグループの給料が高すぎた。そのために、後者のグループを急増させたため、2つのグループを合わせた平均では下がることが必然であることだ。第3に、雇用の安定性を良くも悪くも最重要視していること、である。 第1の問題は賃金が上がらないことが解決策であり、第2の問題は日本のマクロ経済の問題ではなく、日本社会制度の問題であり、非正規雇用というものを消滅させ、すべて平等に扱うことが必要だ。第3の問題は、日本人が、社会として歴史的に選択してきた結果である、ということである。 物価が上がりにくいことは、ある状況の下ではすばらしいことであり、その一例がオイルショックであり、今の2022年である。そして、私の主張は、そういう状況がいずれ21世紀の世界経済を覆うことになるのではないか、ということだ』、「物価が上がりにくいことは、ある状況の下ではすばらしいことであり・・・今の2022年である」、「今の2022年」は決して「すばらしいこと」ではなく、経済の弱みになっていると思う。
・『「膨張しない時代」が始まる  つまり、第2次世界大戦後、世界はずっとバブルだったのである。バブルという言葉がいやならば、膨張経済の時代だった。その下で、1990年の冷戦終了により、金融バブルが始まった(これは誰がなんと言おうとバブルだ)。 そして、そのバブルが膨張と破裂を繰り返し、いよいよ最後の「世界量的緩和バブル」が弾けつつあったところに、今度はコロナバブルが起きた。そして、それが今インフレにより、激しく破裂するのではなく、着実に萎み始めているのである。そして、萎んだ後は、長期停滞、膨張しない経済、膨張しない時代が始まるのである。 この「膨張しない時代」においては、日本経済と日本社会の安定性、効率性という強みが発揮されることになるのである。 そもそもイノベーションとは何か。すばらしい技術革新により、新しい必需品、生活になくてはならないものを作るのは、すばらしいイノベーションといえる。 だが、今世の中にあふれているのは、「新しい」必要でないものを生み出し、それを消費者に「欲しい」と思わせることである。次々と新しい「ぜいたく品」、要は余計なものを欲しいと思わせ、売りつけ、それにより人々は「造られた欲望」を満たし、幸せになった気でいるのだ。 しかし、これらは不必要なエンターテイメント物だから、すぐに飽きる。だから、作る側は次の「新しい」ぜいたく品を売りつけるのであり、それがやりやすい。それを繰り返していくのが、生活必需品が満たされた後の豊満経済であり、現代なのである。飽食により生活習慣病になるのと同じく、豊満で飽食で食傷気味になりつつあるのが現代経済なのである。) これらは、人々がすぐ飽きる、よく考えると無駄なぜいたく品、流行物であるから、まだいい。害は無駄というだけにすぎない。現在のイノベーションの大半、特にビジネスとして大成功しているものは、「麻薬」を生み出している企業である。 つまり、本来は不必要なものを必要だと人々に思わせ、そしてみんなで使っているうちに、なくてはならないものにしてしまっている「必需な」ぜいたく品である。そして、その多くは、必需と思わせるために、中毒になりやすい、嗜好を刺激するものになっている。ゲームであり、スマホであり、SNSである。 そして要は広告で儲ける。テレビも、報道からすぐに役割はエンターテイメントに変わった。そして広告ビジネスとなった。それがインターネット、スマホにとって変わられただけだ。しかし、中毒性は強まっており、人間社会を思考停止に追い込み、退廃させる「麻薬度」においては、「新しい」イノベーションであるために、より強力になっている』、「その多くは、必需と思わせるために、中毒になりやすい、嗜好を刺激するものになっている。ゲームであり、スマホであり、SNSである。 そして要は広告で儲ける。テレビも、報道からすぐに役割はエンターテイメントに変わった。そして広告ビジネスとなった。それがインターネット、スマホにとって変わられただけだ。しかし、中毒性は強まっており、人間社会を思考停止に追い込み、退廃させる「麻薬度」においては、「新しい」イノベーションであるために、より強力になっている」、これに関しては、異論はなく、その通りだ。
・『「膨張しない経済」の営みの本質とは?  しかし、この時代は終わりつつある。なぜ、いま、インフレになっているか。ぜいたく品と「麻薬」を作りすぎて、必需品の生産に手が回らなくなったからである。 優秀な大学を卒業し(またはしなくても)、金を稼ごうとする人々は、みなぜいたく品を作る側に回る。ブランド企業、独占力のある企業、他にない余計なものを作る企業に就職する。象徴的なのは、広告産業である。いらないものを欲しいと思わせる。それで稼ぐのである。 なぜ唯一無二のものはすべてぜいたく品か。「麻薬」か。それは必需品であれば、必要に迫られて、多くの人が作るからである。まず自分が必要なものは自分で作る。そのものを作るのが得意な人は、周りの人に頼まれて余計に作る。確実にニーズはある。あるに決まっている。必要に迫られている。それが村で評判になり、隣町で話題になる。それなら市場(いちば)で売ろうか、となる。 食料は、みなが必要である。だから作ろうとする人がたくさんいる。必需品は確実にニーズがあり、そして、今後もほぼ永遠に必要である。だから、作る人も多く現れる。人間が一生懸命工夫して作れば、世界でただ一人しか作れない、というものなどない。あってもそれはあきらめて、その次によい質のもの、良質の必需品で済ませる。 もしやる気があれば、必需品でよりよいものを作ろうとする。改善する。現在存在する必需品の延長線上で、よりよいものを作ろうとする。だが、これは一見イノベーションになりにくい。それでも社会に大きく貢献する。人々を確実に幸せにする。 しかし、大半は目新しくないから、今までとほとんど同じ値段でしか売れない。大儲けはできない。独占もできない。広告もあまりいらない。みんな使っているし、必要としているし、よりよいかどうかは使ってみないとわからないから、使ってみて、自分で判断するわけだ。) これが「膨張しない経済」における営みである。必需品の質が上がっていく。基礎的な消費の質が改善する。これが社会にとってもっとも必要であり、社会を豊かにし、社会を持続的に幸せにすることだ。格差は生まれにくい。質の差はあるが、その差に断絶はない。社会として一体性は維持されやすい。 驚くほどの経済成長、急速な規模的拡大はない。同じものを少しずつ改良しているのだから、ゆっくり持続的に質が上がっていく。この中で、景気が悪くなることもある。農業中心なら、干ばつ、洪水、気候変動であり、農業以外であっても、何らかの好不調はあるだろう。そのときに必要なのは、効率化である。苦しいときには、みんなが困らないように、少ないコストで、少ない労働力で、少ないエネルギーで同じものを作る。これは確実に社会に役に立つ。 日本企業は、こうした点は得意だ。改善と効率化。これが日本企業の真骨頂だ。そして、金にならない社会のためのイノベーションの代表格が、JR東日本が発行しているICカードの「Suica」である。 筆者に言わせれば、遅ればせながら、消費者の情報を「奪い取って」、消費者を利用して儲けることの可能性に気づいた。だが当初の目的は「キセル防止」「改札の混雑防止」などだった。社会に確実に役に立つ。みんながそれを求めていたからだ。儲けることはほとんど考えていなかった。情報を奪うこと、独占することなど思いもよらなかったはずだ。 配達をしてくれる人々、料理を作ってくれる人々、清掃員、介護者。別に高く売れるイチゴではなく、安全で普通においしい米、小麦を作ってくれる人々。今、社会では彼ら彼女らが不足している』、「改善と効率化。これが日本企業の真骨頂だ」、その通りだが、問題はイノベーションで新たなサービス・商品の価値を生み出すのが不得手な点だ。
・『日本が「持続目的経済」で「世界一」に  われわれは、必需品が作れなくなり、いらないぜいたく品が世の中に溢れ、人々は「麻薬」にお金を使っている。だから、新型コロナウイルスや戦争などなんらかの社会的なショックによって供給不足に陥り、必需品が目に見えて高騰してはじめて、ようやく「今まで必需品をつくることに手を抜いてきた社会」になっていたことに気づくのだ。 これからは、必需品を、資源制約、人材制約、環境制約の下で、効率的に作る。地道に質を改善していく。人々の地に足のついたニーズに基づいた改良を加えたものを作るために、改善に勤しむ。そういう、持続性のある、いや持続そのものが目的となる「持続目的経済」"eternal economy"の時代が始まりつつあるのである。その中では日本経済は、どこの経済よりも強みを発揮するだろう。 唯一の懸念は、この日本経済、日本社会の長所に気づかず、短所ばかりをあげつらい、他の国を真似て日本の長所を破壊しつつあることだ。それが、有識者がやっていることであり、エコノミストの政策提言であり、多くのビジネススクールで教えていることなのである。 もう一度、日本経済の長所を捉えなおし、それを活かす社会、経済、社会システムを構築することを目指す必要がある(ここで本編は終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)』、「持続そのものが目的となる「持続目的経済」"eternal economy"の時代が始まりつつあるのである。その中では日本経済は、どこの経済よりも強みを発揮するだろう」、その通りなのかも知れない。面白い視点だ。
タグ:「その多くは、必需と思わせるために、中毒になりやすい、嗜好を刺激するものになっている。ゲームであり、スマホであり、SNSである。 そして要は広告で儲ける。テレビも、報道からすぐに役割はエンターテイメントに変わった。そして広告ビジネスとなった。それがインターネット、スマホにとって変わられただけだ。しかし、中毒性は強まっており、人間社会を思考停止に追い込み、退廃させる「麻薬度」においては、「新しい」イノベーションであるために、より強力になっている」、これに関しては、異論はなく、その通りだ。 「物価が上がりにくいことは、ある状況の下ではすばらしいことであり・・・今の2022年である」、「今の2022年」は決して「すばらしいこと」ではなく、経済の弱みになっていると思う。 代わりに長期金利が上昇するのは放置する必要がある。 (その28)(冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている、ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか) PRESIDENT ONLINE 存続をあの手この手で支援すると、効果は相殺され、結果は現状維持となってしまうのだ。そして日本経済の付加価値創出力は停滞を続ける」、ある意味で真相を突いている。 元気になる記事を書いてくれるようで、興味深い。 「円安」「は、異常な規模と特異な手段で行っている異次元金融緩和を、普通の金融緩和にすれば、直ちに解消する。 「連続指値オペ」という、日銀が毎日10年物の国債金利を指定する利回り(上限0.25%程度)で原則無制限に買う政策は、金融市場を完全に殺すものであり、異常なので、直ちに取りやめる。 また、イールドカーブコントロールと呼ばれる「10年物の金利をゼロ程度に抑え込むことをターゲットとする」という、これまた歴史上ほとんど類を見ない政策をやめれば、異常な円安は直ちに解消する」、これを止めるべきというのは正論だが 日本だけ利上げに取り残され、円は暴落傾向だったのを、円売り介入で食い止めている状況で、「日本銀行は、世界で唯一、金融政策を現状維持して、のんびりできている」というのは言い過ぎだ。 日本の構造問題 平和主義を「現実歪曲わいきょく空間に閉じこもったまま」と批判するのは、安直だ。「高度成長期以降の「昭和元禄」天下泰平の時代がもたらした「昭和的グダグダ感」が続く限り、この国の潜在的危機が深まっていく」、観念的視点からの浮ついた批判で、読むに堪えない。 この後編も8月24日付けであるが、紹介は止めておく。 「「有事はない」という建前が崩壊し続けた失われた30年」、は安全保障の問題と災害の問題を混同しており、違和感がある。 「産業再生機構」で「ゾンビ企業の延命にはカネを使わなかった」と大言壮語しているが、ダイエーは丸紅をスポンサー企業として渡した後も、結局、上手くゆかず、イオンが引き取る形で最終的に処理した。「戦略的グダグダ」はついに実行されなかったようだ。 冨山 和彦氏による「冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている」 成毛 眞氏 「イノベーションの時代の付加価値の源泉は、一人ひとりの人間がもつ発想力、創造力、行動力である。そんな個がチームとなって相乗力が生まれ、新しい企業、さらには産業となってスケールする」、「付加価値を生み出す力を失った古い産業構造のなか、古い組織のルール、古いお作法のなかでは、新しい付加価値を創造する個が輝くのは難しい・・・そこで古い産業構造が固定化して居座りを決め込めば、新しい付加価値が芽吹き大きく成長するスペースは、なかなか生まれない。 政府がお題目としてベンチャー支援を唱えても、他方で古い産業、古い企業の うと考えるのが人情だ」、その通りだ。 「名目が補助金だろうが、給付金だろうが、融資だろうが、キャッシュが回っている限り、どんなに大赤字になっても企業は潰れない。だから、企業倒産件数は史上最低水準で推移しているのだ。 しかし、無差別にカネを配った結果、企業のなかにはその使い道がなく、預金額ばかりがどんどん積み上がってしまっているところも多い。 「このままでは潰れるかもしれない」という危機感がなければ、何かを変えよう、新しいことをやってみようという機運も高まりにくい。むしろ政府がいくらでも金を出してくれるのだから、危機が収まるまではじっとしていよ 「突然襲ってくる危機的状況において、どこでピンチになっているかわからない困窮者の生活、人生を救うには、とりあえず規模の大小、競争力の強弱、生産性の高低に関係なく、すべての企業を支えるしかない。 すると企業の新陳代謝は妨げられ、しかもここで分不相応に大きな借金を抱えて生き延びた企業の多くが過剰債務企業、すなわちゾンビ企業になってしまう。そしてその後も政府の支援に頼るようになる。結果的に、産業構造の固定化がさらに進んでいくのである」、その通りだ。 小幡 績氏による「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか」 東洋経済オンライン 「持続そのものが目的となる「持続目的経済」"eternal economy"の時代が始まりつつあるのである。その中では日本経済は、どこの経済よりも強みを発揮するだろう」、その通りなのかも知れない。面白い視点だ。 「改善と効率化。これが日本企業の真骨頂だ」、その通りだが、問題はイノベーションで新たなサービス・商品の価値を生み出すのが不得手な点だ。
nice!(0)  コメント(0) 

日本の構造問題(その27)(「絶滅する組織」と「生き残る組織」の違い 世界トップ2に選出された経営学者が徹底解説! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(前編、終身雇用とイエスマン人生 米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)、岸田ブレーンが語る日本経済低迷の「真犯人」 村井英樹首相補佐官が語る「岸田政策」の裏側) [経済政治動向]

日本の構造問題については、5月27日に取上げた。今日は、(その27)(「絶滅する組織」と「生き残る組織」の違い 世界トップ2に選出された経営学者が徹底解説! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(前編、終身雇用とイエスマン人生 米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)、岸田ブレーンが語る日本経済低迷の「真犯人」 村井英樹首相補佐官が語る「岸田政策」の裏側)である。

先ずは、5月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニューヨーク在住ジャーナリストの肥田美佐子氏による「「絶滅する組織」と「生き残る組織」の違い、世界トップ2に選出された経営学者が徹底解説! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(前編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/303242
・『ベストセラー『競争優位の終焉』の著者で、NYのコロンビア大学ビジネススクール教授であるリタ・マグレイス氏。「世界の経営思想家トップ50」の常連であり、2021年にはトップ2に選ばれた。競争優位とイノベーションの権威であるマグレイス教授は、『Seeing Around Corners: How to Spot Inflection Points in Business Before They Happen』(『曲がり角の先を見通す――ビジネスの変曲点を事前に見いだす』未邦訳、2019)の中で、企業の命運は「変曲点」を予見できるかどうかにかかっていると指摘。変曲点を見損なうと「破滅的結末」を迎える、と警告する同教授に話を聞いた(Qは聞き手の質問)、「ビジネスの変曲点を事前に見いだす」とは興味深そうだ。
・『「曲がり角の先」を見通せるリーダーだけが現代の市場で成功を手にできる  Q:教授のベストセラー『競争優位の終焉――市場の変化に合わせて、戦略を動かし続ける』(日本経済新聞出版)の原書が出版されてから約9年。テック企業による既存の業界の「破壊」やパンデミックによって、企業を取り巻く環境は過酷さを増しています。 2019年9月に上梓した『Seeing Around Corners』(『曲がり角の先を見通す』/未邦訳。企業におけるイノベーション研究における第一人者、故・クリステンセン教授が序章を担当した)では、「変曲点」が訪れる前にそれを予見し、その破壊的影響力を生かして自社の戦略的優位を築くことの重要性を、あなたは説いていますね。 (マグレイス氏の略歴はリンク先参照) この変曲点を見いだせるかどうかで、米アマゾン・ドット・コムや米ネットフリックスのように、既存の業界を「破壊」する企業になれるかどうかが決まる、と。変曲点を見いだせなければ、2010年に経営破綻した米ビデオレンタル大手・ブロックバスターのように「破滅的結末」を迎えることになると、あなたは警告しています。「曲がり角の先」を見通せるリーダーだけが、現代の市場で成功を手にできる、と。 ずばり、絶滅しそうな企業の特徴とは何でしょうか? リタ・マグレイス(以下、マグレイス) まず、「変曲点」とは、それまで当然だと思っていた状況が変化し、10倍の影響力を生み出すような大変革が起こる転換点のことです。長期的視野に立った投資に二の足を踏み、短期的視野でしか物事を見ていない企業は、変曲点に気づくことができません。 短期的視野が引き起こす弊害は2つ。まず、市場に出せるようなイノベーションを起こせないこと。次に、短期的視野に立った、間違っている前提に基づく投資決定を招くことです。苦境に陥っている企業は、代案を検討する時間を惜しむものです。 その典型的な例が、米ゼネラル・エレクトリック(GE)です。同社はかつて世界で最も称賛される企業でしたが、四半期ごとの決算を超えた視点に欠けていました。 GEは2015年11月、フランスの重電大手・アルストムのエネルギー事業を買収しました。向こう20年間は、再生エネルギーがコスト競争力のあるエネルギー源にはならないという見通しを立て、化石燃料がエネルギー源として持ちこたえられるという、誤った前提に賭けたのです。世界中の発電所にサービスを提供するというアイデアに基づく、大規模な買収でした。 ところが、GEの見立ては外れ、再生エネルギーの価格は下がり、気候変動対策が一大問題になりました。これは、企業が、到来する「変曲点」を見損なった代表例です。 次に、メディア企業を例に取りましょう』、「変曲点を見いだせるかどうかで、米アマゾン・ドット・コムや米ネットフリックスのように、既存の業界を「破壊」する企業になれるかどうかが決まる、と。変曲点を見いだせなければ、2010年に経営破綻した米ビデオレンタル大手・ブロックバスターのように「破滅的結末」を迎えることになると、あなたは警告」、「GEは2015年11月、フランスの重電大手・アルストムのエネルギー事業を買収」、「向こう20年間は、再生エネルギーがコスト競争力のあるエネルギー源にはならないという見通しを立て、化石燃料がエネルギー源として持ちこたえられるという、誤った前提に賭けた」、「「変曲点」を見損なった代表例」、なるほど。
・『既存の業界を「破壊する企業」と「破壊される企業」の3つの違い  私がコロンビア大学ビジネススクールで教え始めたのは1993年ですが、当時、ビデオメッセージを1億人に届けようと思ったら、大変な労力が必要でした。何人ものスタッフがアナログカメラで撮影し、テープを世界中に郵送しなければなりませんでした。まだデジタル化のはしりで、高速ブロードバンドのインターネット回線などなかったからです。 でも今や、ティーンエージャーが持っている安価な携帯電話にもメッセージを届けられる時代です。メディア企業にとって、ネットに接続できる誰もがライバルと化したのです。 30~40年前、大手テレビ局は1つの番組で60万~70万人の視聴者を魅了したものですが、状況は激変しました。コンテンツの数が増える一方で、視聴者層は、はるかに小規模化しています。人気のある番組でも、もはや60万人の視聴者を獲得することなどできません。 メディア事業全体の「経済学」が一変したのです。 Q:既存の業界を「破壊する企業」と「破壊される企業」の違いは何でしょうか? マグレイス 3つの大きな違いがあります。最大の違いは、「マインドセット」(発想・考え方)です。 2つ目は、リーダー層が、未知の実験に挑む度胸を持っていないことです。 現況はうまくいっていても、挑戦を怠るような「怠け者にはなるまい」という気概が大切です。新しいことを試し続けなければ、と駆り立てられるような「健全なパラノイア」精神とでも言ったらいいでしょうか。 リーダー層のあり方は極めて重要です。成功している企業では、リーダー層が、自分自身の利益と自社の利益のバランスをうまく取っています。でも、多くの企業のリーダー層は、そうではありません。自分たちの利益に固執する一方で、自社がうまくいっているか? 健全か? ということには無頓着です。 3つ目の大きな違いは、自社が属しているエコシステムとの関係をどのようにかじ取りするか? ということです。 多くの企業は、エコシステムとの関係など頭になく、自社のことだけを考えて計画を立てます。エコシステムが付加価値を与えてくれるとは考えないのです。 Q:企業を取り巻く環境が変化にさらされる中、経営陣は、手遅れになるまで問題の存在を認めないことが多いそうですね。経営陣が問題を頑(がん)として認めず、過去の競争優位にしがみつき、最悪の場合、自社を破滅的な結末に至らせるのはなぜでしょう? マグレイス 経営陣が変化の到来を認めたがらない理由はたくさんありますが、第1の理由は、「人間の特性」からくるものです。システムの刷新には「変革」という難題が伴い、新しいスキルや能力が必要になるからです。 2つ目の理由は、多くのリーダーが長期的視野で経営に臨んでいないことです。米国では、最高経営責任者(CEO)の在任年数は5年以下であることが多いため、在任期間以降も続くような変革には挑もうという気にならないのです。 本物の変革は長い年月を要します。5年で交代することが多いCEO には、10年かかるような変革への意欲など湧きません』、「メディア企業にとって、ネットに接続できる誰もがライバルと化したのです。 30~40年前、大手テレビ局は1つの番組で60万~70万人の視聴者を魅了したものですが、状況は激変しました。コンテンツの数が増える一方で、視聴者層は、はるかに小規模化しています。人気のある番組でも、もはや60万人の視聴者を獲得することなどできません」、「米国では、最高経営責任者(CEO)の在任年数は5年以下であることが多いため、在任期間以降も続くような変革には挑もうという気にならないのです。 本物の変革は長い年月を要します。5年で交代することが多いCEO には、10年かかるような変革への意欲など湧きません」、なるほど。
・『企業に求められるのは、許可不要の組織づくりと「ジグザグのキャリア」を持つリーダー  Q:『競争優位の終焉』や、「ハーバード・ビジネス・レビュー」2012年1~2月号に寄稿した「10年連続で好業績を続ける秘訣」(邦訳版はダイヤモンド社2013年1月号)で、あなたは、世界の企業4793社を対象にした研究を紹介しています。 2000~2009年にかけて、10年連続で純利益が年率5%以上増加するという異例の高成長を遂げた「アウトライヤー(外れ値)企業」は10社とのこと。日本企業では、ヤフー株式会社(当時)が入っていました。アウトライヤー企業の特徴として、リーダーシップと企業の価値観が安定していること、そして、たゆまぬイノベーションを挙げていますね。 マグレイス カギは、安定と、未来を見据えたイノベーションの組み合わせです。 絶えず何かを見直すことに、労力を費やす必要はありませんが、イノベーションの追求にどれだけ予算を組むかというダイナミックさも求められます。このバランスの取り方が難題なのです。 秘訣は、「過剰な変革を避けつつも、環境の変化に対応する」ことです。 リーダーは、従業員がイノベーションを目指して行動できるよう、(過剰な変化を抑えて)不確実性を和らげつつ、同時に、さらなる探求を奨励することが必要です。この2つのうち、いずれかを選べばいいという話ではないところがジレンマなのです。 不確実性のレベルが高まるにつれ、従業員が不確実性に立ち向かう後押しをし、「ある程度の確実性」を確保しなければなりません。 Q:不確実性が増す中、成功する企業に求められるものも変わりましたか? マグレイス この目まぐるしく変わるダイナミックな環境の下でうまくやっている企業のリーダーは、彼ら自身も往々にして、異なる環境下での経験が豊富です。 例えば、業務運営でキャリアをスタートさせ、マーケティングの分野に移り、またほかの分野に移行するといった具合です。機能的な理解の深さよりも、「ジグザグのキャリア」で体得した能力やスキルのほうが目立っています。 2つ目のポイントは、言わずもがな、デジタル全般に関する知識です。デジタル化により、人々の協働の仕方がどれだけ変わったかを理解していなければなりません。 3つ目のポイントが、迅速な意思決定を可能にする、「許可不要」の組織づくりです。組織構造自体が「競争優位」の源泉になり得るからです。 組織が多層構造から成り、上司から逐一、承認を得なければならないと、意思決定に時間がかかり、何か起こったとき、素早く対応できません。「許可不要の組織」を目指し、報告体制を刷新できれば、迅速な意思決定が可能です。 しかし、そのためには、戦略や目標を百パーセント明確にしておかねばなりません。上司の許可が要らない組織をつくるには、多くの条件を整え、その基盤を構築する必要があります。 例えば、アマゾンでは、意思決定の種類により、プロセスが異なります。 その決定が、重要な結果と高コストを招くものを「タイプ1の決定」とし、検討を重ねます。撤回できないため、時間をかけての、慎重な意思決定モデルです。 一方、「タイプ2の決定」は撤回が可能です。失敗しても、経営破綻に陥るような深刻な結果を招かないため、タイプ1のように時間をかけません。 ひるがえって多くの企業は、あらゆる意思決定を「タイプ1」として扱いがちです。5万ドルの実験の是非を問うプロセスも、6000万ドルの資本投資を決めるプロセスも同じなのです。 Q:米動画配信最大手ネットフリックスでも、上司の承認が要らないそうですね。 マグレイス そのとおりです。まず、有能な人材を雇い、同社が言うところの「能力密度を高める」企業文化を築き、何をなすべきかという指針を明確にし、裁量を与えるのがネットフリックスのやり方です。そうすれば、従業員が自ら状況の変化に適応してくれます。いわゆる「自由と責任」(F&R)文化です。 いちいち上司の承認を得る必要がない企業では、従業員が状況の変化に応じ、自ら戦略などを変えたりすることで、異なるチャンスが生まれます。そのため、多くの難題に直面しても、うまく乗り切れます。難局への対処法を熟知しているからです。 Q:アウトライヤー企業は、製薬からビール、建設、銀行まで、幅広い業界に及んでいます。 マグレイス 『競争優位の終焉』出版以降、競争が激しい分野について研究を重ねたところ、業界の垣根を超越した競争が繰り広げられていることが明らかになりました。アマゾンが好例です。 小売り企業でありながら、(米高級食品スーパーのホールフーズ・マーケット買収で)食品業界に進出し、(AWSなど)企業向けのサービスも展開し、ヘルスケア業界にまで事業を拡大しています。 つまり、今や企業を産業別にくくることなどできないのです。従来の企業戦略や、企業パフォーマンスの主要な決定要因としての「産業」という概念など、もはや通用しないのです。(後編へ続く)』、「まず、有能な人材を雇い、同社が言うところの「能力密度を高める」企業文化を築き、何をなすべきかという指針を明確にし、裁量を与えるのがネットフリックスのやり方です。そうすれば、従業員が自ら状況の変化に適応してくれます。いわゆる「自由と責任」(F&R)文化です。 いちいち上司の承認を得る必要がない企業では、従業員が状況の変化に応じ、自ら戦略などを変えたりすることで、異なるチャンスが生まれます。そのため、多くの難題に直面しても、うまく乗り切れます」、「「自由と責任」(F&R)文化」が出来上がれば、あとは楽だが、出来上がるまでには相当の困難もあるのだろう。

次に、6月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したニューヨーク在住ジャーナリストの肥田美佐子氏による「終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304675
・『ベストセラー『競争優位の終焉』の著者で、NYのコロンビア大学ビジネススクール教授であるリタ・マグレイス氏。「世界の経営思想家トップ50」の常連であり、2021年にはトップ2に選ばれた。競争優位とイノベーションの権威である同教授は、日本企業をどう見ているのか? 日本企業がポストコロナ時代を乗り切るには? パーパスやESG、従業員のウェルビーイングに無頓着な企業の末路は? リスクをチャンスに変える企業の特徴は? 落ち着いた口調と冷静な分析が印象的な経営学者、マグレイス氏が日本企業のリスクと強みを語る』、興味深そうだ。 
・『ダイバーシティが欠如する企業は現地市場の顧客のニーズを理解しにくい  Q:(前編から)大きな変化が到来する「変曲点」を事前に見いだせるかどうかで企業の命運が決まる、ということですが、教授の目から見て、存続が危ぶまれる日本企業はありますか? リタ・マグレイス(以下、マグレイス) 日本の金融システムに照らしてみると、企業は、自社の意思決定が引き起こす最悪の結果から守られることが多いように見えます。 とはいえ、日本企業は大きな問題を抱えています。それは、スピードが非常に重要な時代にあって、(意思決定などの)動きが遅いことです。 また、意思決定グループにダイバーシティ(多様性)がない点も、最も大きな問題の1つです。日本企業では、依然として、女性や日本文化に属していないアウトサイダーが発言権を持つのは至難の業でしょう? 意思決定者が日本人男性ばかりでは、例えば中南米やアフリカで製品を売ろうと思っても、まったくお門違いの品ぞろえになってしまいます。ダイバーシティの欠如により、多くの日本企業は、海外市場において現地の顧客のニーズを理解しにくいという、多大なリスクを抱えています。 一方、日本企業には強みもあります』、「日本企業では」、「意思決定グループにダイバーシティ(多様性)がない点も、最も大きな問題の1つです」、「多くの日本企業は、海外市場において現地の顧客のニーズを理解しにくいという、多大なリスクを抱えています」、なるほど。
・『日本が誇る「クオリティ」は他国に追い付かれつつある  意思決定に時間がかかる分、計画が熟考され周到に練られているため、いざ実行の段階になると、素晴らしい手腕を発揮します。日本企業にはもう希望がない、などとは決して思いません。 Q:『フォーブスジャパン』2015年5月号でインタビューした際、教授は日本企業について、コンセンサスの形成や質の高い製品・サービス、仕事の正確さといった、大きな長所があると称賛しました。一方で、そうした強みは遂行に時間を要するものばかりだと指摘しています。変化の速度が加速する中、それこそが「日本企業のジレンマ」だと。 また、日本企業には「イノベーション」への障壁が多すぎると分析。ベテランの男性社員が恩恵を受ける終身雇用制度や、厳格なヒエラルキーは、女性の進出にとってマイナスだ、という指摘もしています。現在も、日本企業に関する教授の分析は変わりませんか? マグレイス そうした日本企業の構造は、ちょっとやそっとでは変わらないと思います。変わるとしても、ごくゆっくりとしたペースでしょう。 一方、日本市場は依然として大規模であり、国内市場ではうまくやっています。その点で、日本企業にもまだ優位性があるのは間違いありません。ただ、日本は、かつて世界の企業を圧倒していた「クオリティー」の点で、他国に追い付かれつつあります。 その意味で、日本企業は、次に競争優位を築ける領域を探さなければなりません。 Q:イノベーションには、平均して数年~7年を要するといわれています。従業員の勤続年数が短い米国企業と違い、長期勤続が前提の日本企業は、従業員が腰を落ち着けてイノベーションに取り組めるという点で有利でしょうか? マグレイス そう思います。終身雇用制度は、柔軟性の欠如や従業員がリスクを取ろうとしないことなど、多くの問題がある一方で、長い年月をかけて知識や能力を高めることができるという良い面もあります。会社から会社へと転職していては、そうしたことは困難です。 ただ、終身雇用制度には、同制度特有のヒエラルキーに従わなければならないという、イノベーションの阻害要因があります。そのため、変化を起こしにくいのです。 Q:大企業の終身雇用制度には、イノベーションにとってマイナスな、硬直性や惰性・怠惰を招くリスクもあります。 マグレイス 別に意地悪な見方をしているわけではありませんが、終身雇用制度の下では、チーム内のメンバーに失礼な言い方をしたり、本当の意味で信頼に足る行動を取ったりといったことを避けがちです。そうした行動を取らないことで、初めてチームの一員として歓迎される、という恩恵を得られるからです。 社内で悪いニュースを察知しても見て見ぬふりをする傾向があり、嘘をついているとまでは言いませんが、真実を言わないことに対し、おとがめも受けません。「社内の人間関係と調和」が重視されるからです。 ずっと同じ会社でやっていかなければならないため、ことのほかこうした社内政治への気配りが、(出世などの点で)大きな利点につながってしまうんですね。 同じ会社で何十年も勤め上げるということには、悲しいかな、そうした側面があります。従業員は、会社という「社会」に適応することにひたすら心を砕くのです。1社で生涯やっていくには、気難しい人だと思われたり、何かと反論してくる人だと思われたり、不愉快な人だと煙たがられたりしたら、まずいからです。 その結果、何が起こるのか? 自分のキャリアに枠がはめられ、できることが限られ、誠実な言動も、お互いに異を唱え合うこともままならず、常に「イエス」を繰り返すばかりの仕事人生になりがちです。危険人物だと見なされないように、です』、「社内で悪いニュースを察知しても見て見ぬふりをする傾向があり、嘘をついているとまでは言いませんが、真実を言わないことに対し、おとがめも受けません。「社内の人間関係と調和」が重視されるからです。 ずっと同じ会社でやっていかなければならないため、ことのほかこうした社内政治への気配りが、(出世などの点で)大きな利点につながってしまうんですね。 同じ会社で何十年も勤め上げるということには、悲しいかな、そうした側面があります」、こうしたマイナス面があることも確かだ。
・『EVによる「アーキテクチャの変更」で日系グローバル企業の優位性が危ぶまれる恐れ  Q:現在も世界の市場で大きな成功を収めている唯一の主要日系グローバル企業、トヨタ自動車でさえ、「電気自動車(EV)時代を生き残れるのか? 」という声も聞かれます。 マグレイス トヨタが膨大なリソースと極めて有能な人材を抱えていることを考えると、大丈夫だとは思いますが、今後、テクノロジーで後れを取れば、どのような事態も起こり得ます。 というのも、EVは「アーキテクチャの変更」と言われる抜本的な構造変化をもたらしたからです。 例えば、ガソリン車などに比べ、メンテナンスが楽になりました。その結果、トヨタが長年誇ってきた自動車のクオリティーという大きな優位性が損なわれる可能性があります。 これまでは、車のクオリティが低いと、予想外の修理やメンテナンスにお金がかかりましたが、EVは部品の数自体が少ないため、従来の車ほどメンテナンスにコストがかかりません。ひとたびEVが自動車市場で主役を占めるようになったら、内燃エンジン車が主流だった時代に比べ、市場全体で修理の必要性が大幅に減るとみられています。 つまり、「うちの車を買えば、修理は不要ですよ」という、トヨタの売りや優位性がなくなる恐れがあります。それを避けるためには、テクノロジーへの投資が必須です。トヨタのことですから、すでに注力していると思いますが。 Q:日本企業がポストコロナ時代を乗り切るには、どうすればいいでしょうか? マグレイス もっとも重要なことは、企業のリーダーがどのようなアジェンダ(課題/計画)を持っているかです。 イノベーションや自社の成長、変革をアジェンダのトップに掲げることなく、「何でも自分で解決しなければ」というマインドセット(考え方)で日常の短期的な業務に忙殺されているようでは、リーダーとして有用な仕事をしているとは言えません。 重要なアジェンダに十分な時間を割くことができず、「未来」のために必要な投資を怠ることになるからです。 Q:リスクをチャンスに変える企業の特徴は? マグレイス 積極的に小さなリスクを取ろうとすることです。「答えは見えないが、小さな実験を重ね、そこから価値を見いだし、それをフルに生かそう」とする姿勢が大切です。小さなリスクを取って、そこから何かを学ぼうとする企業が成功を手にできます。 実験が失敗に終わり、思うような結果が得られなくても、その失敗が会社にとって許容範囲内で済むような、小さな実験を重ねることです。 成功している企業は最初から大きなリスクを取っていると考えがちですが、実際は違います。小さなリスクを数多く取って、実験やイノベーションを重ねることで成功をつかんだあと、大きなリスクを取ろうという決断に至るのです。 Q:小さなリスクを取って成功した企業の具体例を教えてください。 マグレイス 例えば、ブラインド販売専門の米EC(電子商取引)企業、Blinds.comが好例です(注:1996年創業のブラインズ・ドット・コムはテキサス州ヒューストンが本社で、もともとはカスタムメイドのブラインドを販売するスタートアップ系通販企業だったが、世界最大のブラインドEC企業に成長。米ホームセンター最大手のホーム・デポへ売却した)。 創業者で最高経営責任者(CEO)だったジェイ・スタインフェルド氏が折に触れて話していますが、彼はむしろリスク回避型で、小さな実験をたくさん行ったそうです。 「大きなリスクを取るタイプではない。大きな意思決定を迫られるような段階に至るまでには、数多くの小さなリスクを取るという経験を積んでいた」と。 スタインフェルド氏の新刊『Lead from the Core: The 4 Principles for Profit and Prosperity』(『基本理念にのっとって会社を率いる――利益と繁栄の4原則』未邦訳)にもあるように、彼はクレイジーで大きなリスクは取らず、用意周到に準備し、小さなリスクをいくつも取ったそうです』、「EVによる「アーキテクチャの変更」で日系グローバル企業の優位性が危ぶまれる恐れ」、由々しいことだ。「小さなリスクを数多く取って、実験やイノベーションを重ねることで成功をつかんだあと、大きなリスクを取ろうという決断に至るのです」、堅実なやり方だ。
・『利益一辺倒の組織はもはや生き残れない  Q:脱炭素戦略や気候変動への取り組みなど、企業のパーパス(存在意義)が重視されるようになりました。消費者を含めたステークホルダー(利害関係者)が企業にパーパスを求める中、利益一辺倒の組織は、もはや生き残れない時代になるのでしょうか? マグレイス そう思います。例えば、インスリン製剤を扱う米製薬会社は、企業の強欲が常軌を逸してしまった典型的な例です。(医療保険に入っていても)薬価の自己負担額が高すぎ、インスリンを買えず、(糖尿病患者などが)命を落とすケースも出ています。 その一方で、製薬会社は自社株を買い戻して株価を上げ、株主に大きな便益を図っています。もはや、非倫理的なボーダーラインを越えてしまっているのです。そうした企業は今後、人材の獲得やフランチャイズ事業の維持などに苦労することになるでしょう。 Q:パンデミックで社会や人々の価値観が急速に変わる中、最優良企業でさえ、パーパスや企業倫理、ESG(環境・社会・ガバナンス)、従業員のウェルビーイング(幸福/心身の健康)などに無頓着だと、今後は衰退の一途をたどることになるのでしょうか? マグレイス そうですね。企業は、社会に対して筋の通った行いをすることを前提に、事業を許可されているのですから、その基準にかなわない企業は衰退を余儀なくされます。   例えば、米国の電子たばこ会社は未成年の若年層をターゲットに大いにもうけるつもりでしたが、米政府が規制し、基本的に高収益を上げる道が閉ざされてしまいました。(社会問題化している)麻薬性鎮痛剤オピオイドの蔓延(まんえん)を引き起こした米製薬会社も同じです。 これらは、社会に有害な企業の行動を示す極端な例ですが、人々が耐えられないようなコストを課すような企業は、衰退の一途をたどるしかありません』、「企業は、社会に対して筋の通った行いをすることを前提に、事業を許可されているのですから、その基準にかなわない企業は衰退を余儀なくされます」、その通りだ。

第三に、6月25日付け東洋経済オンライン「岸田ブレーンが語る日本経済低迷の「真犯人」 村井英樹首相補佐官が語る「岸田政策」の裏側」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/599204
・『6月22日、参院選が公示され、7月10日の投開票日に向けた選挙戦が始まった。 岸田文雄政権が発足してから約8カ月が経過した。岸田首相の経済ブレーンとして知られ、国内経済その他特命事項担当の首相補佐官を務めてきたのが村井英樹議員だ。 官邸での経験から、日本の課題の根幹がどこにあると見定めたのか。出身元である財務省など霞が関への注文を含め、今後の政権運営を占ううえで重要となる考え方について聞いた(Qは聞き手の質問、Aは村井氏の回答)』、「首相補佐官を務めてきたのが村井英樹議員」、初めて知った。
・『最大の課題は「将来不安の軽減」  Q:物価上昇への批判などから足元では若干低下傾向にありますが、各種世論調査における内閣支持率は50〜60%程度と比較的高い水準を維持しています。7月10日の参院選後は、しばらく国政選挙の予定がなく、政治的に安定した「黄金の3年」になるとも言われています。 A:メディアの方は「黄金の3年」とおっしゃるが、そういう感覚はあまり持っていない。まずは、参院選をしっかりと戦うことが大前提だ。 政権運営の一端を担っている側からすれば、安全保障やコロナ対策、経済や社会保障の問題などの課題に、とにかく日々懸命に対応しているというのが正直なところだ。私は官邸の末席に名を連ねているが、それでも政権発足後の8カ月は、人生の中で最も長く感じた8カ月だった。 過去の政権を振り返っても、政権や政局が落ち着いている時期というものは本当にあったのかというのが、偽らざる実感だ。「永田町は、一寸先は闇」。参院選投開票日までのわずかの間も含めて、気を引き締めていかなければならないと日々感じている。 (村井氏の略歴はリンク先参照) Q:首相補佐官として、広く経済政策を担当してきました。日本経済の最大の課題はどこにあるのでしょうか。 A:一言でいうと、将来不安だ。日本においては、企業収益が増加しているにもかかわらず、その果実が成長分野への投資や賃金引き上げに十分に回らず、また、家計においても消費が低迷してきた。その根本には将来不安がある。 企業が将来の市場の不透明感から投資や賃上げを躊躇し、個人は将来不安から消費を控えてしまう。それが日本経済の長期低迷の原因だと思う。 Q:マインドを変えるのはなかなか難しい。どんな手を打ちますか。 A:将来の市場の不透明感に対しては、岸田首相もたびたび言及しているが、官か民かではなく、官が呼び水となって、民間の投資や消費を促すことが重要だ。例えば、グリーン分野では、10年間で150兆円の投資を実現するべく、政府が20兆円規模の大胆な政策支援を行うことを決めた。 また、賃上げについても、賃上げ税制の抜本的拡充や看護・保育士など公的に決まる賃金を引き上げることで、賃上げを促す環境を作ってきた。実際、今年の春闘の賃上げ率は現時点で2.09%と、ここ数年の低迷が一気に反転上昇した』、「将来の市場の不透明感に対しては、岸田首相もたびたび言及しているが、官か民かではなく、官が呼び水となって、民間の投資や消費を促すことが重要だ。例えば、グリーン分野では、10年間で150兆円の投資を実現するべく、政府が20兆円規模の大胆な政策支援を行うことを決めた」、なるほど。
・『年金を「見える化」し、不安を解消  Q:個人の将来不安を軽減するためには、どのような施策を考えていますか。 A:難しい課題だが、私はまずは「年金の見える化」が大切だと考えている。老後の生活の柱は公的年金だ。公的年金については、「どうせ将来もらえない」という方も依然として多いが、将来の年金受給の予定額をお知らせすると、実は多くの方、特に厚生年金加入の方からは「思ったより多いね」という反応がある。 将来不安解消に向けて、まずは公的年金について、できるだけ正しく認識していただくことが大切だと思う。 Q:3年前には「老後に2000万円が不足する」という金融庁の審議会報告書(その後、事実上撤回)が炎上しました。確かに乱暴な試算でミスリーディングなものでしたが、いずれにしても個人の老後不安は蔓延しています。 A:この問題の背景には、多くの方にとって、自分自身が将来どれくらい公的年金を受給できるかわからないということがあった。老後の生活の柱である公的年金が具体的にいくら受給できるかわからない中で、政府から「年金の制度は安心です、100年安心です」と言われても、将来不安が解消されないのは無理もない。 そのため、2022年4月に「公的年金シミュレーター」を公開した。これを使っていただければ、皆さんの将来の公的年金額が簡便にわかる。是非活用してほしい。) 加えて、岸田政権は今春、資産所得倍増を打ち出した。 所得には、大きく労働所得と資産所得がある。先ほど申し上げたとおり、労働所得を押し上げていくことはもちろんだが、資産所得も併せて増やすことが必要だ。 わが国個人の金融資産は約2000兆円と言われているが、その半分以上が預現金で保有されている。この結果、過去20年間でアメリカの家計金融資産が3倍、イギリスでは2.3倍になったのに対し、日本は1.4倍にとどまっている』、「「公的年金シミュレーター」を公開した。これを使っていただければ、皆さんの将来の公的年金額が簡便にわかる。是非活用してほしい」、「シミュレーター」を一度試してみたい。
・『国民運動で資産所得を倍増  Q:その差は、この間の経済成長力の差の結果と言ってしまえばそれまでですが、あえて資産所得倍増を打ち出した背景には「老後不安」の軽減という狙いもある? A:まずは、公的年金シミュレーターを多くの方に活用していただき、それをきっかけに老後の生活設計・資産形成に一歩足を踏み出していただきたい。 また、年末には、NISA(少額投資非課税制度)の拡充などを含めた「資産所得倍増プラン」を策定することとなっている。こうした施策を積み重ね、民間も巻き込んだ国民運動を展開することで、資産所得の倍増につなげていきたい。 Q:日本の企業や組織における課題も強調されていますね。 A:二極化が進んできているように思う。柔軟な組織構造を取り入れて、社員のやる気と挑戦を引き出しどんどん伸びる企業と、硬直的な組織文化を維持して、閉塞感にあえぐ組織だ。日本経済社会にとっては、前者のような企業を応援するとともに、後者のような組織に変革を促すことが重要だと思う。 私は、さいたま市で3人の息子を育てているが、子育て仲間のパパ友との話が非常におもしろい。伸びているベンチャー企業に勤めているようなお父さんは、なぜか時間に余裕があり、子育てにも積極的に参加していることが多い。 他方、役所や古式ゆかしい企業にお務めのお父さんは、なぜか帰りが遅く、子育ては「週末だけ」といったケースが多い。 Q:よくありがちな話ですが、企業の子育て支援とイノベーションの関係など、今後の政策を考えると興味深い話ですね。 A:よくよく聞いてみると、前者の企業は、時短・テレワークなど多様な働き方を積極的に認める、年齢・役職に関係なくおもしろいアイデアを採用するといったようなことをしており、働く側の満足度も総じて高い。 他方で、後者の企業は、年功序列を維持するなど、硬直的な組織になっていることが多いようだ。 民間に活性化を促す国の省庁自体が変わっているのか? Q:村井さんは、財務省出身ですが、やはり後者の組織になりますか。 A:残念ながら、後者の代表選手だと思います(笑)。昭和60年入省の財務省事務次官(事務方トップ)が退官するので、その次は昭和61年入省の人が財務事務次官といった、厳格な年功序列人事を、若手に至るまで、毎年やり続けている。 こうしたことをやる組織は、不思議と働き方も社員目線になっていない。実は最近、財務省時代の後輩から、民間企業で働くと連絡があった。非常に優秀な方だが、財務省的な働き方に疑問を感じたのも偽らざるところのようだ。 Q:霞が関は、全体として組織が硬直的ですね。 A:おっしゃるとおりだ。ただ実は、霞が関の中でも、働き方改革の進捗度・組織の硬直度は違いがあるように感じる。こうした組織改革は簡単ではないし、変に政治が出しゃばるとマイナスも大きいが、変革に向けた刺激を与え続けていきたいと思う。また、国会改革などを実行に移し、永田町が霞が関の働き方改革の足を引っ張っている部分を解消していかなければならない。 Q:冒頭で「黄金の3年」は否定されましたが、いずれにしろ課題は山積ですね。 A:何といっても、岸田政権を安定政権として、内憂外患ともいえるさまざまな課題に1つひとつ結果を出していくことだ。21世紀になって、森喜朗政権から、菅政権まで10の政権があったが、1年以上安定して政権運営できたのは、小泉純一郎政権と第2次安倍晋三政権の2つだけだ。それくらい、安定政権として腰を据えて政策課題に臨むことは簡単ではない。岸田首相を中心に、できるだけ多くの成果を上げていきたい』、「変革に向けた刺激を与え続けていきたいと思う。また、国会改革などを実行に移し、永田町が霞が関の働き方改革の足を引っ張っている部分を解消していかなければならない」、「霞が関の働き方改革」に向けた活躍を期待したい。
タグ:日本の構造問題 (その27)(「絶滅する組織」と「生き残る組織」の違い 世界トップ2に選出された経営学者が徹底解説! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(前編、終身雇用とイエスマン人生 米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)、岸田ブレーンが語る日本経済低迷の「真犯人」 村井英樹首相補佐官が語る「岸田政策」の裏側) ダイヤモンド・オンライン 肥田美佐子氏による「「絶滅する組織」と「生き残る組織」の違い、世界トップ2に選出された経営学者が徹底解説! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(前編)」 「ビジネスの変曲点を事前に見いだす」とは興味深そうだ。 「変曲点を見いだせるかどうかで、米アマゾン・ドット・コムや米ネットフリックスのように、既存の業界を「破壊」する企業になれるかどうかが決まる、と。変曲点を見いだせなければ、2010年に経営破綻した米ビデオレンタル大手・ブロックバスターのように「破滅的結末」を迎えることになると、あなたは警告」、「GEは2015年11月、フランスの重電大手・アルストムのエネルギー事業を買収」、「向こう20年間は、再生エネルギーがコスト競争力のあるエネルギー源にはならないという見通しを立て、化石燃料がエネルギー源として持ちこたえ 「メディア企業にとって、ネットに接続できる誰もがライバルと化したのです。 30~40年前、大手テレビ局は1つの番組で60万~70万人の視聴者を魅了したものですが、状況は激変しました。コンテンツの数が増える一方で、視聴者層は、はるかに小規模化しています。人気のある番組でも、もはや60万人の視聴者を獲得することなどできません」、「米国では、最高経営責任者(CEO)の在任年数は5年以下であることが多いため、在任期間以降も続くような変革には挑もうという気にならないのです。 本物の変革は長い年月を要します。5年で交 「まず、有能な人材を雇い、同社が言うところの「能力密度を高める」企業文化を築き、何をなすべきかという指針を明確にし、裁量を与えるのがネットフリックスのやり方です。そうすれば、従業員が自ら状況の変化に適応してくれます。いわゆる「自由と責任」(F&R)文化です。 いちいち上司の承認を得る必要がない企業では、従業員が状況の変化に応じ、自ら戦略などを変えたりすることで、異なるチャンスが生まれます。そのため、多くの難題に直面しても、うまく乗り切れます」、「「自由と責任」(F&R)文化」が出来上がれば、あとは楽だが、 肥田美佐子氏による「終身雇用とイエスマン人生、米著名経営学者が「日本企業のジレンマ」を徹底分析! リタ・マグレイス教授(コロンビア大学ビジネススクール)インタビュー(後編)」 『競争優位の終焉』 「日本企業では」、「意思決定グループにダイバーシティ(多様性)がない点も、最も大きな問題の1つです」、「多くの日本企業は、海外市場において現地の顧客のニーズを理解しにくいという、多大なリスクを抱えています」、なるほど。 「社内で悪いニュースを察知しても見て見ぬふりをする傾向があり、嘘をついているとまでは言いませんが、真実を言わないことに対し、おとがめも受けません。「社内の人間関係と調和」が重視されるからです。 ずっと同じ会社でやっていかなければならないため、ことのほかこうした社内政治への気配りが、(出世などの点で)大きな利点につながってしまうんですね。 同じ会社で何十年も勤め上げるということには、悲しいかな、そうした側面があります」、こうしたマイナス面があることも確かだ。 「EVによる「アーキテクチャの変更」で日系グローバル企業の優位性が危ぶまれる恐れ」、由々しいことだ。「小さなリスクを数多く取って、実験やイノベーションを重ねることで成功をつかんだあと、大きなリスクを取ろうという決断に至るのです」、堅実なやり方だ。 「企業は、社会に対して筋の通った行いをすることを前提に、事業を許可されているのですから、その基準にかなわない企業は衰退を余儀なくされます」、その通りだ。 東洋経済オンライン「岸田ブレーンが語る日本経済低迷の「真犯人」 村井英樹首相補佐官が語る「岸田政策」の裏側」 「首相補佐官を務めてきたのが村井英樹議員」、初めて知った。 「将来の市場の不透明感に対しては、岸田首相もたびたび言及しているが、官か民かではなく、官が呼び水となって、民間の投資や消費を促すことが重要だ。例えば、グリーン分野では、10年間で150兆円の投資を実現するべく、政府が20兆円規模の大胆な政策支援を行うことを決めた」、なるほど。 「「公的年金シミュレーター」を公開した。これを使っていただければ、皆さんの将来の公的年金額が簡便にわかる。是非活用してほしい」、「シミュレーター」を一度試してみたい。 「変革に向けた刺激を与え続けていきたいと思う。また、国会改革などを実行に移し、永田町が霞が関の働き方改革の足を引っ張っている部分を解消していかなければならない」、「霞が関の働き方改革」に向けた活躍を期待したい。
nice!(0)  コメント(0) 
前の10件 | - 経済政治動向 ブログトップ