日本の政治情勢(その68)(「与党議員が“カジノに連れて行け”と怒り出し 負けると借金まで…」 国会議員の“外遊バカンス”の実態とは? 「外務省のおもてなしルール」には“抜け穴”が、中国新聞スクープ! 河井元法相の大規模買収事件で検察が「安倍、菅、二階、甘利」各氏の資金提供うかがわせるメモ入手と報道、池田大作氏が死すとも自公関係は死せず 「腐れ縁」は今後も続く理由、自民5派閥裏金疑惑ついに実名が…萩生田氏の“舎弟”池田佳隆氏にパー券営業「900万円」のキックバック浮上) [国内政治]
日本の政治情勢については、本年8月19日に取上げた。今日は、(その68)(「与党議員が“カジノに連れて行け”と怒り出し 負けると借金まで…」 国会議員の“外遊バカンス”の実態とは? 「外務省のおもてなしルール」には“抜け穴”が、中国新聞スクープ! 河井元法相の大規模買収事件で検察が「安倍、菅、二階、甘利」各氏の資金提供うかがわせるメモ入手と報道、池田大作氏が死すとも自公関係は死せず 「腐れ縁」は今後も続く理由、自民5派閥裏金疑惑ついに実名が…萩生田氏の“舎弟”池田佳隆氏にパー券営業「900万円」のキックバック浮上)である。
先ずは、本年8月22日付けデイリー新潮「「与党議員が“カジノに連れて行け”と怒り出し、負けると借金まで…」 国会議員の“外遊バカンス”の実態とは? 「外務省のおもてなしルール」には“抜け穴”が」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/08221156/?all=1
・『「“カジノに連れて行け”と言いだし…」 国民からの非難が噴出した、自民党女性局長(21日に辞表を提出)の松川るい参院議員が今井絵理子参院議員らと出かけたフランスのパリ視察。今年1月、岸田文雄総理の長男・翔太郎氏が父の欧州・北米5カ国訪問に同行して観光名所を巡っていた問題も。なぜ“税金泥棒”が公然と認められているのか――その答えは2019年に策定された“抜け道”にあった。 もはや永田町の夏の風物詩ともいえる国会議員の海外視察。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、外務省が議員らに対して行うアテンド、すなわち「便宜供与」の実態についてこう明かす。 「私が便宜供与をしたうち、国会議員で一人だけ例外的にとてもひどい人がいました。細川護熙政権の時のことで、当時の新生党所属のある議員が“モスクワにカジノがあるなんて聞いてなかった。そういう一番重要なことを外務省はどうして説明しないのか”と怒り始め、カジノに連れて行けと言い出したのです」 やむなく佐藤氏は、議員をご希望先へ連れて行ったが、 「その議員は賭けに負け続けまして、やがて“金が足りない”と言うわけです。さらに“大使館は貸し付けはしているのか”などと聞いてくる。あまりにうるさいので大使館の総括参事官に相談したところ“裏金がある。そこから3千ドル貸そう”ということになりました。その後、金は返ってきましたが、これは思い出の中でも一番ひどいものですね」 ▽“抜け穴”的な規定(むろんさすがにこれは前世紀の話であり、今回のフランス視察はここまで悪質なわけではない。が、しかし、それでもなお今回の“外遊という名のバカンス”への国民の反発が強いのはご存知の通りである。 「こうした件が容認されないのは感情論としても当然のことといえますが、実はそれ以上の問題が横たわっているんです」 そう語るのは、さる政府関係者である。 「2019年4月、当時外相だった河野太郎氏が、議員の外遊における“新ルール”を策定しました。それはあくまで外見上は、公と私を今後きっちり区別する、と厳格化をアピールする形になっています」 河野大臣名義で作成された政府の内部文書の中には、「公的用務で外国を訪問する場合でも、休日等に私的目的で地方や市内の観光地の視察を行う場合には、公用車の配車や館員による同行は、原則として実施できません」とある。これに従うならば、在外公館は、やって来た議員の私的行動には便宜を図らなくても構わない、ということになるが、あくまでもそれは建前。実は河野大臣時代に、新ルールと共に“抜け道”も設定されていたようなのだ。 「これにあわせて衆参両院の事務局あてに、外務省の官房総務課が作成した文書があります。実はそちらにこそ、現状の問題を解くカギが隠されている。『国会議員の公務による外国訪問に対する便宜供与に係るガイドライン』という、河野外相が策定したものと区別がつきにくい代物ですが、そこには公私混同を今後も認めるかのごとき“抜け穴”的な規定が連綿と記されているのです」』、「永田町の夏の風物詩ともいえる国会議員の海外視察」、国会がヒマなこともあって「海外視察」に行くようだ。しかし、その裏方をさせられる在外公館の職員は大変だ。
・『公務の間に挟まる私用はセーフ 例えば、政府関係者の話に基づくと、こんなくだりがあるそうだ。 〈(国会議員が)公的用務の合間に、市内視察・買物等を組み込む場合には〉 と前置きし、 〈公的用務の急な日程変更等に柔軟に対応できるようにするとの観点及び在外公館として便宜供与を円滑に遂行するとの観点からも、公用車を継続的に配車し、派遣員を含む館員が同行することは、常識的な範囲内であれば差し支えない〉 つまり、公務の間に私用が挟まっている形なら、諸般「円滑に」進めるために公用車を使い、在外公館員を使役していい、と宣(のたま)っているのである。議員の特権へのお墨付きが裏で与えられていたのだから、翔太郎氏が公用車で堂々、安心して買い物に興じたのも無理はないのだ。 念の入ったことに外務省は便宜供与の対象を七つのランク分けまでしているという。8月23日発売の「週刊新潮」では、便宜を受ける人間を七つのランクに分類している事実のほか、議員らに対する便宜供与の実態について詳報する』、「公務の間に私用が挟まっている形なら、諸般「円滑に」進めるために公用車を使い、在外公館員を使役していい、と宣・・・っている」、全く「国会議員」天国だ。
次に、9月8日付け日刊ゲンダイ「中国新聞スクープ! 河井元法相の大規模買収事件で検察が「安倍、菅、二階、甘利」各氏の資金提供うかがわせるメモ入手と報道」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/328802
・『ジャニー喜多川氏(2019年死去)の性加害問題をめぐるジャニーズ事務所の初会見ニュースばかりが報じられる中、中国新聞(広島市)が大スクープを放った。 2019年7月の参院選広島選挙区の大規模買収事件で、安倍晋三首相(2022年死去)や菅義偉官房長官(74)、二階俊博幹事長(84)、甘利明選対委員長(74)=いずれも肩書は当時=の資金提供をうかがわせるメモを検察当局が入手していたと報じたのだ。 8日付の「中国新聞デジタル」によると、検察は2020年1月に河井克行元法相(60・公職選挙法違反罪で実刑確定、服役中)の自宅を家宅捜索した際、安倍氏ら4人から現金計6700万円を受け取った疑いを示すメモを発見。この金が広島県内の地方議員や後援会員に配られた買収原資だった可能性があるとみて捜査していたという』、「検察」は本件を起訴せずに済ませたようだ。
・『甘利氏は資金提供を認める 詳細は省くが、メモには「総理、すがっち、幹事長、甘利」などと書かれ、それぞれ提供されたとみられる金額が記してあったという。中国新聞の取材に対し、甘利氏は資金提供を認めたという。 記事がネットで報じられると、SNS上では早速、様々な意見が飛び交った。《やっぱり。検察は徹底的に捜査するべきだった。まだ事件は終わっていないな》 《このタイミングで?…。検察に供述を誘導されたと、カネをもらった県議や市議が言っているから当局の逆襲なのかな》 《菅さんと甘利さんは呼び捨て(笑)メモが本当だったとすればだけど》 ネット上でみられる通り、まだまだこの事件は終わっていない。ジャニー喜多川氏の性加害問題を「黙認」し、権力に忖度していたなどと批判の声が出ている新聞、テレビは今こそ、汚名返上のためにも中国新聞の大スクープを後追いし、故人の安倍氏はもちろん、名前を報じられた自民党議員を徹底追及するべきではないか』、結局、「後追いし」た「テレビ」がなかったのは残念だ。
第三に、11月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「池田大作氏が死すとも自公関係は死せず、「腐れ縁」は今後も続く理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/333056
・『公明党を創設し、政界に多大な影響力を誇っていた池田大作氏 「創価学会」名誉会長)が亡くなった。池田氏はこれまでどのように政治と関わってきたのか。また、自民党・公明党の関係性は、池田氏の死によってどう変わっていくのか。政治学者の視点から読み解いていく』、興味深そうだ。
・『故・池田大作氏への哀悼文を投稿した岸田首相が“炎上” 宗教団体「創価学会」の池田大作名誉会長が11月15日に死去した。岸田文雄首相は訃報を受け、池田氏に哀悼の意を表するツイートを「X(旧Twitter)」に投稿した。 「池田大作氏の御逝去の報に接し、深い悲しみにたえません。(中略)御遺族の方々および御関係の方々に対し衷心より哀悼の意を表します」というもので、「内閣総理大臣 岸田文雄」という署名も添えられていた。 その結果、ネット上ではこの投稿を疑問視する声が続出。いわゆる“炎上”状態となった。故・安倍晋三元首相の暗殺事件が起きて以降、政治と宗教の密接な関係に対して国民は非常にデリケートになっている。岸田首相の投稿はやや軽率だったのかもしれない。 一方で、国民の側も冷静さを保つことが必要だ。確かに日本国憲法では「政教分離」の原則の下、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」などと定められている。ただ、宗教団体が政治活動を行うこと自体は厳密には違法ではない。 国民は政治と宗教の接点を見いだしたとき、それだけを理由に過度なバッシングを行うべきではないといえる。事実上の「宗教弾圧」につながりかねないからだ。 その死をきっかけに、政治と宗教を巡る議論をさらに過熱させる池田氏は、これまでどのように政治と関わってきたのか。また、岸田首相が率いる自民党と、創価学会の支持を受ける公明党の関係性は、池田氏の死によってどう変わっていくのか。 歴史をひもときながら、政治学者としての見解を述べていきたい』、「歴史」的視点で見ることは重要だ。
・『「言論出版妨害事件」を起こすも「適切な宗教団体」に変化 創価学会は1930年に設立。池田氏は47年に入会し、60年に第3代会長に就任した。その後69年に、創価学会は政治との間で重大な問題を引き起こした。 政治学者・藤原弘達氏の著書『創価学会を斬る』の出版を中止するよう、公明党が田中角栄自民党幹事長(当時)に働きかけていたことが発覚したのだ。いわゆる「言論出版妨害事件」である。 共産党の機関紙『赤旗』による指摘をきっかけに、メディアはこぞって創価学会・公明党批判を展開。藤原氏に対して脅迫や嫌がらせがあったこと、公明党幹部が出版差し止めに向けて動いていたことなども明らかになった。 藤原氏以外にも、批判本の執筆を試みたため妨害を受けた著者が多数いた事実も発覚した。公明党からの働きかけを受けた田中角栄氏が、出版中止の要請を行っていたことも明るみに出た。 数々の事態の発覚を受け、創価学会と公明党・自民党の関係は「政教分離」に反すると批判された。 そして、池田氏は事件について謝罪。(1)創価学会幹部の議員兼職を廃止すること、(2)池田氏自身は政界に進出しないこと、(3)公明党の自立性を高めること、(4)創価学会は党の支持団体の立場に徹すること――などを約束した。 それから今日に至るまで、少なくとも表面的には、創価学会は政治への深い介入を行っていない。公明党の公式サイトにも「創価学会と公明党との関係は、あくまでも支持団体と支持を受ける政党という関係」だと明記されている。 創価学会と公明党の関係性について、今も根強い批判があることは承知の上だが、筆者はこれを「適切な宗教団体」に変化した好例だと捉えている。 というのも、例えば世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は、高額な献金や霊感商法の問題が取り沙汰されて以降も真摯(しんし)な対応を怠り、組織を改革しようとする姿勢がなかった。そして今年、ついに政府の「解散命令」請求に至った。生き残るための変化をかたくなに拒んだ結果、“自滅”したといえる。 他方で、池田大作という宗教家はそうではなかった。上記4項目のように、創価学会および公明党が生き残っていくための「現実的な路線」を模索し、柔軟に方針を切り替えたのだ。こういった姿勢からは、池田氏のリアリスティックな一面がうかがえる』、「言論出版妨害事件」をきっかけに、「池田氏は事件について謝罪。(1)創価学会幹部の議員兼職を廃止すること、(2)池田氏自身は政界に進出しないこと、(3)公明党の自立性を高めること、(4)創価学会は党の支持団体の立場に徹すること――などを約束した。 それから今日に至るまで、少なくとも表面的には、創価学会は政治への深い介入を行っていない。公明党の公式サイトにも「創価学会と公明党との関係は、あくまでも支持団体と支持を受ける政党という関係」だと明記されている」、なるほど。
・『与する政治勢力を「くら替え」しながら「権力に近い位置」を死守 池田氏の「リアリズム」は、公明党の政治的立場、政策志向の変化を歴史的に振り返ると、より明確に見えてくる。 公明党は池田氏の発意によって64年に結党。当時は野党として自民党と対立関係にあったが、イデオロギーにこだわる社会党や共産党など他の野党とは異なり「中道主義」を志向してきた。 70年代前半、公明党は「反自民・全野党結集」の方針に従って「日米安保条約の即時破棄」を訴えた。そして自民党は議席を減らし、与野党の議席差が伯仲する「伯仲国会」が実現した。 ところが80年の総選挙で自民党が圧勝して「伯仲国会」が終わると、公明党は本格的に自民党・民社党との「自公民路線」にかじを切った。そしてこの頃、公明党は自衛隊についても「容認」へと方針転換した。 92年の湾岸戦争後には、PKO法(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律)を自公民3党による交渉で成立させた。 ただし、このまま自公の蜜月が続くかと思いきや、公明党は再びくら替えする。93年に自民党による一党支配体制が終幕すると、「非自民・非共産」の野党(8党派)からなる細川護熙(もりひろ)連立政権に参画したのだ。 その後は二大政党の一角を目指した「新進党」への合流を巡って分裂するなどの混乱を経て、98年に「公明党」として再結成。翌年以降は自公連立として活動し、今日に至っている。 連立政権を組んでからの公明党は、安全保障などの領域で自民党の政策を受け入れてきた(第104回)。一方で自民党は、公明党による「支持者への利益分配」の要求に応え、新型コロナウイルス禍の初期に「所得制限なしで国民1人当たり10万円の支給」を実現させた(第239回)。 要するに、公明党は結党以降、状況に応じて自由自在に立場を変えながら「権力に近い位置」を常に確保してきた。野党であった時期も、常に有利な政治勢力に与(くみ)してきた』、「公明党は結党以降、状況に応じて自由自在に立場を変えながら「権力に近い位置」を常に確保してきた。野党であった時期も、常に有利な政治勢力に与・・・してきた」、なるほど。
・『相次ぐ政策転換に支持者がついてきた理由はやはり… 他の政党ならば、こうした政策の大転換に支持者はついてこない。社会党(当時)の村山富市元首相が90年代中盤に「自衛隊は憲法違反」「非武装中立」の党是を大転換し、自衛隊を合憲と認めた結果、同党が劇的に衰退したことが代表例だ。 しかし公明党では、党の方針転換に支持者が従ってきた。その背景には「信仰」があることは想像に難くない。信仰のよりどころとなっていたのは、やはり池田氏の存在だろう。 表向きは前述した4項目の改革によって、創価学会は政治への深い介入を行わなくなった。現代表の山口那津男氏をはじめ、公明党の歴代トップはもちろん池田氏とは別の人物である。しかしその裏側で、池田氏が影響力を持ち続けていたのは自明である。 教団および政党を存続・成長させるためなら「手のひら返し」を辞さなかった池田氏は、まさしく「政治的リアリズムの巨人」だったといえる』、「教団および政党を存続・成長させるためなら「手のひら返し」を辞さなかった池田氏は、まさしく「政治的リアリズムの巨人」だった」、さすがだ。
・『池田氏の死によって自公関係はどう変わる? では、そんな池田氏の死去によって、自公関係が今後どう変化するかを考えたい。 かねて本連載では、両党は別れられない「腐れ縁」だと指摘してきた(第332回)。詳しくは後述するが、その考えは基本的には変わらない。 今、公明党は苦境にある。昨年の参院選では、かつて800万票を誇った比例票が618万票まで落ち込んだ。今春の統一地方選では、都道府県議会選挙などで「候補者全員当選」の目標を果たせなかった。公明党が誇ってきた組織力が、明らかに弱体化している。 そして現在の自民党は、政策協議などを通じて日本維新の会や国民民主党との関係を深めつつある。自民党が連立政権から公明党を外して、維新・国民と連立を組むという「連立入れ替え論」もささやかれている。 というのも、衆院では単独で「圧倒的多数派」を形成する自民党だが、参院では総定数248議席のうち117議席しか占めていない。過半数を確保するために、今のところは公明党の27議席を必要としている。一方で、維新・国民も勢力を拡大しており、前者は20議席、後者は13議席を獲得済みだ。数字の上では、このどちらと(あるいは両方と)組んでも連立の組み替えが可能である』、「参院では総定数248議席のうち117議席しか占めていない。過半数を確保するために、今のところは公明党の27議席を必要としている。一方で、維新・国民も勢力を拡大しており、前者は20議席、後者は13議席を獲得済みだ。数字の上では、このどちらと(あるいは両方と)組んでも連立の組み替えが可能である」、なるほど。
・『池田氏が築き上げた「集票力」という武器は健在 こういった状況を受けて、自公連立政権の存続について不安や不信感を抱いている公明党支持者も一定数いるだろう。池田氏の死去に伴って不満を抑えきれなくなり、自公連立が不安定化するという見方もできなくはない。 しかし「選挙での協力態勢」となると、自民党にとって公明党が重要であることに変わりはないだろう。 自公連立は20年以上続いてきた。公明党はその間、支持母体である創価学会の集票力を武器に、さまざまな選挙区の自民党候補に「組織票」を提供するなど協力してきた。自民党が維新・国民と連立政権を組むならば、この組織票は失われてしまう。 特に維新は今年の統一地方選で躍進したが、全国政党化に向けては、まだ第一歩を踏み出したばかりだ(第329回)。統一地方選後の全国の首長選挙では苦戦が続いている。維新の組織力は、まだ全国的に確立されていないのが現実だ。 これでは、自民党が本気で「連立入れ替え」を検討するとは考えにくい。 現実的な話をすると、自公は政策のすり合わせを繰り返しながら関係を築いてきた。その積み重ねによって、両党に所属する政治家だけでなく、その支持者レベルでも結び付きが強まっている。 自公連立政権に影響を及ぼしてきた池田氏が亡くなったとはいえ、公明党(および創価学会)の支持者が小選挙区で各党の政策を見比べたときに、「自民党以外」を選ぶとは考えにくい。 だからこそ自公両党は、今後も政策や選挙態勢の面で、別れることができない「腐れ縁」として関係を続けていくと筆者は考える。 池田大作というカリスマは消えた。だが、そのリアリズムによって築き上げられた「集票力」という武器は政界に残り続けていくのだろう』、「維新の組織力は、まだ全国的に確立されていないのが現実だ。 これでは、自民党が本気で「連立入れ替え」を検討するとは考えにくい。 現実的な話をすると、自公は政策のすり合わせを繰り返しながら関係を築いてきた。その積み重ねによって、両党に所属する政治家だけでなく、その支持者レベルでも結び付きが強まっている・・・自公両党は、今後も政策や選挙態勢の面で、別れることができない「腐れ縁」として関係を続けていくと筆者は考える。 池田大作というカリスマは消えた。だが、そのリアリズムによって築き上げられた「集票力」という武器は政界に残り続けていくのだろう」、「腐れ縁」は想像以上に強いようだ。
第四に、11月30日付け日刊ゲンダイ「自民5派閥裏金疑惑ついに実名が…萩生田氏の“舎弟”池田佳隆氏にパー券営業「900万円」のキックバック浮上」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/332725
・『やはり、裏金づくりをやっていたのか。 自民党5派閥の政治団体が、パーティー収入計約4000万円を政治資金収支報告書に記載していなかった裏金疑惑が、連日、国会で追及の的になっている。東京地検特捜部は不記載額が最も大きかった安倍派に照準を絞っているとみられ、既に派閥関係者を聴取したとされる。焦点は、裏金づくりが実際に行われていたか否かだ。 「浮かび上がっている手口は、パー券販売ノルマの超過分を国会議員が懐に入れるというものです。派閥に入金されたパー券売り上げのうち、ノルマを超えた分を議員側にキックバック。戻ってきた分を収支報告書に記載しなかった議員がいるとみられているのです」(政界関係者) 複数の安倍派関係者によると、販売ノルマは当選回数や立場によって分けられており、最高幹部は約750万円で、閣僚経験者は400万~500万円。ヒラの議員は50万~100万円だという。 ノルマを超えてパー券をさばけばさばくほど、議員側の“実入り”が増えるスキームだったとみられている』、「ノルマを超えてパー券をさばけばさばくほど、議員側の“実入り”が増えるスキームだった」、悪知恵が利いたインセンティブだ。
・『企業経営者の知り合い多数 この裏金づくりに手を染めていた恐れのある議員の実名が、ついに浮上した。30日発売の「週刊文春」によると、キックバックの恩恵にあずかっていた可能性があるのは、安倍派所属の池田佳隆元文科副大臣(57、愛知3区)だ。派内では“パー券営業部長”として知る人ぞ知る存在で、秘書に「俺個人のパーティーより、派閥のパー券を売ることを優先して」と命じていたほどだという。文教族で、文科相経験者でもある萩生田政調会長の“舎弟”のような存在だそうだ。 文春の調査によると、安倍派の収支報告書には、毎年数十社のパー券購入企業が記されており、うち3割以上が池田氏個人のパー券も購入していた企業だという。2020年には、池田氏が地元企業に1000万円以上も派閥のパー券を販売。シャカリキになって地元の支援企業にパー券を売りさばいていた構図が浮かぶ。 ところが、池田氏に課されたノルマは60万円程度。文春は、ノルマ超過分の900万円超が池田氏側にキックバックされた可能性を指摘している。特捜部は、池田氏がキックバックを受けたか否かに着目しているという。 もし、文春が指摘するように、年間数百万円ものキックバックを受け、裏金として処理していたとしたら大問題だ。日刊ゲンダイは池田事務所に問い合わせたが、締め切りまでに回答はなかった。 安倍派関係者が言う。 「池田さんは06年から1年間、多くの若手経営者が所属する『日本青年会議所』の会頭を務めていました。企業経営者の知り合いが多いから、大量にパー券をさばけたのかもしれません。しかし、1000万円も売るなんてハンパじゃないですよ。本人は萩生田さんと似た体育会系のノリだから“モーレツ営業”ができたのかもしれませんが、それにしても1000万円はスゴ過ぎる。安倍さん並みの集金力ですよ」 池田氏は、キチンと説明責任を果たすべきだ』、「池田氏に課されたノルマは60万円程度。文春は、ノルマ超過分の900万円超が池田氏側にキックバックされた可能性を指摘している。特捜部は、池田氏がキックバックを受けたか否かに着目しているという。 もし、文春が指摘するように、年間数百万円ものキックバックを受け、裏金として処理していたとしたら大問題だ」、「「池田さんは06年から1年間、多くの若手経営者が所属する『日本青年会議所』の会頭を務めていました。企業経営者の知り合いが多いから、大量にパー券をさばけたのかもしれません。しかし、1000万円も売るなんてハンパじゃないですよ。本人は萩生田さんと似た体育会系のノリだから“モーレツ営業”ができたのかもしれませんが、それにしても1000万円はスゴ過ぎる。安倍さん並みの集金力ですよ」、いずれにしろ、特捜部がどう処理するのかが、当面の注目点だ。
先ずは、本年8月22日付けデイリー新潮「「与党議員が“カジノに連れて行け”と怒り出し、負けると借金まで…」 国会議員の“外遊バカンス”の実態とは? 「外務省のおもてなしルール」には“抜け穴”が」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2023/08221156/?all=1
・『「“カジノに連れて行け”と言いだし…」 国民からの非難が噴出した、自民党女性局長(21日に辞表を提出)の松川るい参院議員が今井絵理子参院議員らと出かけたフランスのパリ視察。今年1月、岸田文雄総理の長男・翔太郎氏が父の欧州・北米5カ国訪問に同行して観光名所を巡っていた問題も。なぜ“税金泥棒”が公然と認められているのか――その答えは2019年に策定された“抜け道”にあった。 もはや永田町の夏の風物詩ともいえる国会議員の海外視察。元外務省主任分析官で作家の佐藤優氏は、外務省が議員らに対して行うアテンド、すなわち「便宜供与」の実態についてこう明かす。 「私が便宜供与をしたうち、国会議員で一人だけ例外的にとてもひどい人がいました。細川護熙政権の時のことで、当時の新生党所属のある議員が“モスクワにカジノがあるなんて聞いてなかった。そういう一番重要なことを外務省はどうして説明しないのか”と怒り始め、カジノに連れて行けと言い出したのです」 やむなく佐藤氏は、議員をご希望先へ連れて行ったが、 「その議員は賭けに負け続けまして、やがて“金が足りない”と言うわけです。さらに“大使館は貸し付けはしているのか”などと聞いてくる。あまりにうるさいので大使館の総括参事官に相談したところ“裏金がある。そこから3千ドル貸そう”ということになりました。その後、金は返ってきましたが、これは思い出の中でも一番ひどいものですね」 ▽“抜け穴”的な規定(むろんさすがにこれは前世紀の話であり、今回のフランス視察はここまで悪質なわけではない。が、しかし、それでもなお今回の“外遊という名のバカンス”への国民の反発が強いのはご存知の通りである。 「こうした件が容認されないのは感情論としても当然のことといえますが、実はそれ以上の問題が横たわっているんです」 そう語るのは、さる政府関係者である。 「2019年4月、当時外相だった河野太郎氏が、議員の外遊における“新ルール”を策定しました。それはあくまで外見上は、公と私を今後きっちり区別する、と厳格化をアピールする形になっています」 河野大臣名義で作成された政府の内部文書の中には、「公的用務で外国を訪問する場合でも、休日等に私的目的で地方や市内の観光地の視察を行う場合には、公用車の配車や館員による同行は、原則として実施できません」とある。これに従うならば、在外公館は、やって来た議員の私的行動には便宜を図らなくても構わない、ということになるが、あくまでもそれは建前。実は河野大臣時代に、新ルールと共に“抜け道”も設定されていたようなのだ。 「これにあわせて衆参両院の事務局あてに、外務省の官房総務課が作成した文書があります。実はそちらにこそ、現状の問題を解くカギが隠されている。『国会議員の公務による外国訪問に対する便宜供与に係るガイドライン』という、河野外相が策定したものと区別がつきにくい代物ですが、そこには公私混同を今後も認めるかのごとき“抜け穴”的な規定が連綿と記されているのです」』、「永田町の夏の風物詩ともいえる国会議員の海外視察」、国会がヒマなこともあって「海外視察」に行くようだ。しかし、その裏方をさせられる在外公館の職員は大変だ。
・『公務の間に挟まる私用はセーフ 例えば、政府関係者の話に基づくと、こんなくだりがあるそうだ。 〈(国会議員が)公的用務の合間に、市内視察・買物等を組み込む場合には〉 と前置きし、 〈公的用務の急な日程変更等に柔軟に対応できるようにするとの観点及び在外公館として便宜供与を円滑に遂行するとの観点からも、公用車を継続的に配車し、派遣員を含む館員が同行することは、常識的な範囲内であれば差し支えない〉 つまり、公務の間に私用が挟まっている形なら、諸般「円滑に」進めるために公用車を使い、在外公館員を使役していい、と宣(のたま)っているのである。議員の特権へのお墨付きが裏で与えられていたのだから、翔太郎氏が公用車で堂々、安心して買い物に興じたのも無理はないのだ。 念の入ったことに外務省は便宜供与の対象を七つのランク分けまでしているという。8月23日発売の「週刊新潮」では、便宜を受ける人間を七つのランクに分類している事実のほか、議員らに対する便宜供与の実態について詳報する』、「公務の間に私用が挟まっている形なら、諸般「円滑に」進めるために公用車を使い、在外公館員を使役していい、と宣・・・っている」、全く「国会議員」天国だ。
次に、9月8日付け日刊ゲンダイ「中国新聞スクープ! 河井元法相の大規模買収事件で検察が「安倍、菅、二階、甘利」各氏の資金提供うかがわせるメモ入手と報道」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/328802
・『ジャニー喜多川氏(2019年死去)の性加害問題をめぐるジャニーズ事務所の初会見ニュースばかりが報じられる中、中国新聞(広島市)が大スクープを放った。 2019年7月の参院選広島選挙区の大規模買収事件で、安倍晋三首相(2022年死去)や菅義偉官房長官(74)、二階俊博幹事長(84)、甘利明選対委員長(74)=いずれも肩書は当時=の資金提供をうかがわせるメモを検察当局が入手していたと報じたのだ。 8日付の「中国新聞デジタル」によると、検察は2020年1月に河井克行元法相(60・公職選挙法違反罪で実刑確定、服役中)の自宅を家宅捜索した際、安倍氏ら4人から現金計6700万円を受け取った疑いを示すメモを発見。この金が広島県内の地方議員や後援会員に配られた買収原資だった可能性があるとみて捜査していたという』、「検察」は本件を起訴せずに済ませたようだ。
・『甘利氏は資金提供を認める 詳細は省くが、メモには「総理、すがっち、幹事長、甘利」などと書かれ、それぞれ提供されたとみられる金額が記してあったという。中国新聞の取材に対し、甘利氏は資金提供を認めたという。 記事がネットで報じられると、SNS上では早速、様々な意見が飛び交った。《やっぱり。検察は徹底的に捜査するべきだった。まだ事件は終わっていないな》 《このタイミングで?…。検察に供述を誘導されたと、カネをもらった県議や市議が言っているから当局の逆襲なのかな》 《菅さんと甘利さんは呼び捨て(笑)メモが本当だったとすればだけど》 ネット上でみられる通り、まだまだこの事件は終わっていない。ジャニー喜多川氏の性加害問題を「黙認」し、権力に忖度していたなどと批判の声が出ている新聞、テレビは今こそ、汚名返上のためにも中国新聞の大スクープを後追いし、故人の安倍氏はもちろん、名前を報じられた自民党議員を徹底追及するべきではないか』、結局、「後追いし」た「テレビ」がなかったのは残念だ。
第三に、11月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「池田大作氏が死すとも自公関係は死せず、「腐れ縁」は今後も続く理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/333056
・『公明党を創設し、政界に多大な影響力を誇っていた池田大作氏 「創価学会」名誉会長)が亡くなった。池田氏はこれまでどのように政治と関わってきたのか。また、自民党・公明党の関係性は、池田氏の死によってどう変わっていくのか。政治学者の視点から読み解いていく』、興味深そうだ。
・『故・池田大作氏への哀悼文を投稿した岸田首相が“炎上” 宗教団体「創価学会」の池田大作名誉会長が11月15日に死去した。岸田文雄首相は訃報を受け、池田氏に哀悼の意を表するツイートを「X(旧Twitter)」に投稿した。 「池田大作氏の御逝去の報に接し、深い悲しみにたえません。(中略)御遺族の方々および御関係の方々に対し衷心より哀悼の意を表します」というもので、「内閣総理大臣 岸田文雄」という署名も添えられていた。 その結果、ネット上ではこの投稿を疑問視する声が続出。いわゆる“炎上”状態となった。故・安倍晋三元首相の暗殺事件が起きて以降、政治と宗教の密接な関係に対して国民は非常にデリケートになっている。岸田首相の投稿はやや軽率だったのかもしれない。 一方で、国民の側も冷静さを保つことが必要だ。確かに日本国憲法では「政教分離」の原則の下、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」などと定められている。ただ、宗教団体が政治活動を行うこと自体は厳密には違法ではない。 国民は政治と宗教の接点を見いだしたとき、それだけを理由に過度なバッシングを行うべきではないといえる。事実上の「宗教弾圧」につながりかねないからだ。 その死をきっかけに、政治と宗教を巡る議論をさらに過熱させる池田氏は、これまでどのように政治と関わってきたのか。また、岸田首相が率いる自民党と、創価学会の支持を受ける公明党の関係性は、池田氏の死によってどう変わっていくのか。 歴史をひもときながら、政治学者としての見解を述べていきたい』、「歴史」的視点で見ることは重要だ。
・『「言論出版妨害事件」を起こすも「適切な宗教団体」に変化 創価学会は1930年に設立。池田氏は47年に入会し、60年に第3代会長に就任した。その後69年に、創価学会は政治との間で重大な問題を引き起こした。 政治学者・藤原弘達氏の著書『創価学会を斬る』の出版を中止するよう、公明党が田中角栄自民党幹事長(当時)に働きかけていたことが発覚したのだ。いわゆる「言論出版妨害事件」である。 共産党の機関紙『赤旗』による指摘をきっかけに、メディアはこぞって創価学会・公明党批判を展開。藤原氏に対して脅迫や嫌がらせがあったこと、公明党幹部が出版差し止めに向けて動いていたことなども明らかになった。 藤原氏以外にも、批判本の執筆を試みたため妨害を受けた著者が多数いた事実も発覚した。公明党からの働きかけを受けた田中角栄氏が、出版中止の要請を行っていたことも明るみに出た。 数々の事態の発覚を受け、創価学会と公明党・自民党の関係は「政教分離」に反すると批判された。 そして、池田氏は事件について謝罪。(1)創価学会幹部の議員兼職を廃止すること、(2)池田氏自身は政界に進出しないこと、(3)公明党の自立性を高めること、(4)創価学会は党の支持団体の立場に徹すること――などを約束した。 それから今日に至るまで、少なくとも表面的には、創価学会は政治への深い介入を行っていない。公明党の公式サイトにも「創価学会と公明党との関係は、あくまでも支持団体と支持を受ける政党という関係」だと明記されている。 創価学会と公明党の関係性について、今も根強い批判があることは承知の上だが、筆者はこれを「適切な宗教団体」に変化した好例だと捉えている。 というのも、例えば世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は、高額な献金や霊感商法の問題が取り沙汰されて以降も真摯(しんし)な対応を怠り、組織を改革しようとする姿勢がなかった。そして今年、ついに政府の「解散命令」請求に至った。生き残るための変化をかたくなに拒んだ結果、“自滅”したといえる。 他方で、池田大作という宗教家はそうではなかった。上記4項目のように、創価学会および公明党が生き残っていくための「現実的な路線」を模索し、柔軟に方針を切り替えたのだ。こういった姿勢からは、池田氏のリアリスティックな一面がうかがえる』、「言論出版妨害事件」をきっかけに、「池田氏は事件について謝罪。(1)創価学会幹部の議員兼職を廃止すること、(2)池田氏自身は政界に進出しないこと、(3)公明党の自立性を高めること、(4)創価学会は党の支持団体の立場に徹すること――などを約束した。 それから今日に至るまで、少なくとも表面的には、創価学会は政治への深い介入を行っていない。公明党の公式サイトにも「創価学会と公明党との関係は、あくまでも支持団体と支持を受ける政党という関係」だと明記されている」、なるほど。
・『与する政治勢力を「くら替え」しながら「権力に近い位置」を死守 池田氏の「リアリズム」は、公明党の政治的立場、政策志向の変化を歴史的に振り返ると、より明確に見えてくる。 公明党は池田氏の発意によって64年に結党。当時は野党として自民党と対立関係にあったが、イデオロギーにこだわる社会党や共産党など他の野党とは異なり「中道主義」を志向してきた。 70年代前半、公明党は「反自民・全野党結集」の方針に従って「日米安保条約の即時破棄」を訴えた。そして自民党は議席を減らし、与野党の議席差が伯仲する「伯仲国会」が実現した。 ところが80年の総選挙で自民党が圧勝して「伯仲国会」が終わると、公明党は本格的に自民党・民社党との「自公民路線」にかじを切った。そしてこの頃、公明党は自衛隊についても「容認」へと方針転換した。 92年の湾岸戦争後には、PKO法(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律)を自公民3党による交渉で成立させた。 ただし、このまま自公の蜜月が続くかと思いきや、公明党は再びくら替えする。93年に自民党による一党支配体制が終幕すると、「非自民・非共産」の野党(8党派)からなる細川護熙(もりひろ)連立政権に参画したのだ。 その後は二大政党の一角を目指した「新進党」への合流を巡って分裂するなどの混乱を経て、98年に「公明党」として再結成。翌年以降は自公連立として活動し、今日に至っている。 連立政権を組んでからの公明党は、安全保障などの領域で自民党の政策を受け入れてきた(第104回)。一方で自民党は、公明党による「支持者への利益分配」の要求に応え、新型コロナウイルス禍の初期に「所得制限なしで国民1人当たり10万円の支給」を実現させた(第239回)。 要するに、公明党は結党以降、状況に応じて自由自在に立場を変えながら「権力に近い位置」を常に確保してきた。野党であった時期も、常に有利な政治勢力に与(くみ)してきた』、「公明党は結党以降、状況に応じて自由自在に立場を変えながら「権力に近い位置」を常に確保してきた。野党であった時期も、常に有利な政治勢力に与・・・してきた」、なるほど。
・『相次ぐ政策転換に支持者がついてきた理由はやはり… 他の政党ならば、こうした政策の大転換に支持者はついてこない。社会党(当時)の村山富市元首相が90年代中盤に「自衛隊は憲法違反」「非武装中立」の党是を大転換し、自衛隊を合憲と認めた結果、同党が劇的に衰退したことが代表例だ。 しかし公明党では、党の方針転換に支持者が従ってきた。その背景には「信仰」があることは想像に難くない。信仰のよりどころとなっていたのは、やはり池田氏の存在だろう。 表向きは前述した4項目の改革によって、創価学会は政治への深い介入を行わなくなった。現代表の山口那津男氏をはじめ、公明党の歴代トップはもちろん池田氏とは別の人物である。しかしその裏側で、池田氏が影響力を持ち続けていたのは自明である。 教団および政党を存続・成長させるためなら「手のひら返し」を辞さなかった池田氏は、まさしく「政治的リアリズムの巨人」だったといえる』、「教団および政党を存続・成長させるためなら「手のひら返し」を辞さなかった池田氏は、まさしく「政治的リアリズムの巨人」だった」、さすがだ。
・『池田氏の死によって自公関係はどう変わる? では、そんな池田氏の死去によって、自公関係が今後どう変化するかを考えたい。 かねて本連載では、両党は別れられない「腐れ縁」だと指摘してきた(第332回)。詳しくは後述するが、その考えは基本的には変わらない。 今、公明党は苦境にある。昨年の参院選では、かつて800万票を誇った比例票が618万票まで落ち込んだ。今春の統一地方選では、都道府県議会選挙などで「候補者全員当選」の目標を果たせなかった。公明党が誇ってきた組織力が、明らかに弱体化している。 そして現在の自民党は、政策協議などを通じて日本維新の会や国民民主党との関係を深めつつある。自民党が連立政権から公明党を外して、維新・国民と連立を組むという「連立入れ替え論」もささやかれている。 というのも、衆院では単独で「圧倒的多数派」を形成する自民党だが、参院では総定数248議席のうち117議席しか占めていない。過半数を確保するために、今のところは公明党の27議席を必要としている。一方で、維新・国民も勢力を拡大しており、前者は20議席、後者は13議席を獲得済みだ。数字の上では、このどちらと(あるいは両方と)組んでも連立の組み替えが可能である』、「参院では総定数248議席のうち117議席しか占めていない。過半数を確保するために、今のところは公明党の27議席を必要としている。一方で、維新・国民も勢力を拡大しており、前者は20議席、後者は13議席を獲得済みだ。数字の上では、このどちらと(あるいは両方と)組んでも連立の組み替えが可能である」、なるほど。
・『池田氏が築き上げた「集票力」という武器は健在 こういった状況を受けて、自公連立政権の存続について不安や不信感を抱いている公明党支持者も一定数いるだろう。池田氏の死去に伴って不満を抑えきれなくなり、自公連立が不安定化するという見方もできなくはない。 しかし「選挙での協力態勢」となると、自民党にとって公明党が重要であることに変わりはないだろう。 自公連立は20年以上続いてきた。公明党はその間、支持母体である創価学会の集票力を武器に、さまざまな選挙区の自民党候補に「組織票」を提供するなど協力してきた。自民党が維新・国民と連立政権を組むならば、この組織票は失われてしまう。 特に維新は今年の統一地方選で躍進したが、全国政党化に向けては、まだ第一歩を踏み出したばかりだ(第329回)。統一地方選後の全国の首長選挙では苦戦が続いている。維新の組織力は、まだ全国的に確立されていないのが現実だ。 これでは、自民党が本気で「連立入れ替え」を検討するとは考えにくい。 現実的な話をすると、自公は政策のすり合わせを繰り返しながら関係を築いてきた。その積み重ねによって、両党に所属する政治家だけでなく、その支持者レベルでも結び付きが強まっている。 自公連立政権に影響を及ぼしてきた池田氏が亡くなったとはいえ、公明党(および創価学会)の支持者が小選挙区で各党の政策を見比べたときに、「自民党以外」を選ぶとは考えにくい。 だからこそ自公両党は、今後も政策や選挙態勢の面で、別れることができない「腐れ縁」として関係を続けていくと筆者は考える。 池田大作というカリスマは消えた。だが、そのリアリズムによって築き上げられた「集票力」という武器は政界に残り続けていくのだろう』、「維新の組織力は、まだ全国的に確立されていないのが現実だ。 これでは、自民党が本気で「連立入れ替え」を検討するとは考えにくい。 現実的な話をすると、自公は政策のすり合わせを繰り返しながら関係を築いてきた。その積み重ねによって、両党に所属する政治家だけでなく、その支持者レベルでも結び付きが強まっている・・・自公両党は、今後も政策や選挙態勢の面で、別れることができない「腐れ縁」として関係を続けていくと筆者は考える。 池田大作というカリスマは消えた。だが、そのリアリズムによって築き上げられた「集票力」という武器は政界に残り続けていくのだろう」、「腐れ縁」は想像以上に強いようだ。
第四に、11月30日付け日刊ゲンダイ「自民5派閥裏金疑惑ついに実名が…萩生田氏の“舎弟”池田佳隆氏にパー券営業「900万円」のキックバック浮上」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/332725
・『やはり、裏金づくりをやっていたのか。 自民党5派閥の政治団体が、パーティー収入計約4000万円を政治資金収支報告書に記載していなかった裏金疑惑が、連日、国会で追及の的になっている。東京地検特捜部は不記載額が最も大きかった安倍派に照準を絞っているとみられ、既に派閥関係者を聴取したとされる。焦点は、裏金づくりが実際に行われていたか否かだ。 「浮かび上がっている手口は、パー券販売ノルマの超過分を国会議員が懐に入れるというものです。派閥に入金されたパー券売り上げのうち、ノルマを超えた分を議員側にキックバック。戻ってきた分を収支報告書に記載しなかった議員がいるとみられているのです」(政界関係者) 複数の安倍派関係者によると、販売ノルマは当選回数や立場によって分けられており、最高幹部は約750万円で、閣僚経験者は400万~500万円。ヒラの議員は50万~100万円だという。 ノルマを超えてパー券をさばけばさばくほど、議員側の“実入り”が増えるスキームだったとみられている』、「ノルマを超えてパー券をさばけばさばくほど、議員側の“実入り”が増えるスキームだった」、悪知恵が利いたインセンティブだ。
・『企業経営者の知り合い多数 この裏金づくりに手を染めていた恐れのある議員の実名が、ついに浮上した。30日発売の「週刊文春」によると、キックバックの恩恵にあずかっていた可能性があるのは、安倍派所属の池田佳隆元文科副大臣(57、愛知3区)だ。派内では“パー券営業部長”として知る人ぞ知る存在で、秘書に「俺個人のパーティーより、派閥のパー券を売ることを優先して」と命じていたほどだという。文教族で、文科相経験者でもある萩生田政調会長の“舎弟”のような存在だそうだ。 文春の調査によると、安倍派の収支報告書には、毎年数十社のパー券購入企業が記されており、うち3割以上が池田氏個人のパー券も購入していた企業だという。2020年には、池田氏が地元企業に1000万円以上も派閥のパー券を販売。シャカリキになって地元の支援企業にパー券を売りさばいていた構図が浮かぶ。 ところが、池田氏に課されたノルマは60万円程度。文春は、ノルマ超過分の900万円超が池田氏側にキックバックされた可能性を指摘している。特捜部は、池田氏がキックバックを受けたか否かに着目しているという。 もし、文春が指摘するように、年間数百万円ものキックバックを受け、裏金として処理していたとしたら大問題だ。日刊ゲンダイは池田事務所に問い合わせたが、締め切りまでに回答はなかった。 安倍派関係者が言う。 「池田さんは06年から1年間、多くの若手経営者が所属する『日本青年会議所』の会頭を務めていました。企業経営者の知り合いが多いから、大量にパー券をさばけたのかもしれません。しかし、1000万円も売るなんてハンパじゃないですよ。本人は萩生田さんと似た体育会系のノリだから“モーレツ営業”ができたのかもしれませんが、それにしても1000万円はスゴ過ぎる。安倍さん並みの集金力ですよ」 池田氏は、キチンと説明責任を果たすべきだ』、「池田氏に課されたノルマは60万円程度。文春は、ノルマ超過分の900万円超が池田氏側にキックバックされた可能性を指摘している。特捜部は、池田氏がキックバックを受けたか否かに着目しているという。 もし、文春が指摘するように、年間数百万円ものキックバックを受け、裏金として処理していたとしたら大問題だ」、「「池田さんは06年から1年間、多くの若手経営者が所属する『日本青年会議所』の会頭を務めていました。企業経営者の知り合いが多いから、大量にパー券をさばけたのかもしれません。しかし、1000万円も売るなんてハンパじゃないですよ。本人は萩生田さんと似た体育会系のノリだから“モーレツ営業”ができたのかもしれませんが、それにしても1000万円はスゴ過ぎる。安倍さん並みの集金力ですよ」、いずれにしろ、特捜部がどう処理するのかが、当面の注目点だ。
タグ:日本の政治情勢 (その68)(「与党議員が“カジノに連れて行け”と怒り出し 負けると借金まで…」 国会議員の“外遊バカンス”の実態とは? 「外務省のおもてなしルール」には“抜け穴”が、中国新聞スクープ! 河井元法相の大規模買収事件で検察が「安倍、菅、二階、甘利」各氏の資金提供うかがわせるメモ入手と報道、池田大作氏が死すとも自公関係は死せず 「腐れ縁」は今後も続く理由、自民5派閥裏金疑惑ついに実名が…萩生田氏の“舎弟”池田佳隆氏にパー券営業「900万円」のキックバック浮上) デイリー新潮「「与党議員が“カジノに連れて行け”と怒り出し、負けると借金まで…」 国会議員の“外遊バカンス”の実態とは? 「外務省のおもてなしルール」には“抜け穴”が」 「永田町の夏の風物詩ともいえる国会議員の海外視察」、国会がヒマなこともあって「海外視察」に行くようだ。しかし、その裏方をさせられる在外公館の職員は大変だ。 「公務の間に私用が挟まっている形なら、諸般「円滑に」進めるために公用車を使い、在外公館員を使役していい、と宣・・・っている」、全く「国会議員」天国だ。 日刊ゲンダイ「中国新聞スクープ! 河井元法相の大規模買収事件で検察が「安倍、菅、二階、甘利」各氏の資金提供うかがわせるメモ入手と報道」 「検察」は本件を起訴せずに済ませたようだ。 結局、「後追いし」た「テレビ」がなかったのは残念だ。 ダイヤモンド・オンライン 上久保誠人氏による「池田大作氏が死すとも自公関係は死せず、「腐れ縁」は今後も続く理由」 「歴史」的視点で見ることは重要だ。 「言論出版妨害事件」をきっかけに、「池田氏は事件について謝罪。(1)創価学会幹部の議員兼職を廃止すること、(2)池田氏自身は政界に進出しないこと、(3)公明党の自立性を高めること、(4)創価学会は党の支持団体の立場に徹すること――などを約束した。 それから今日に至るまで、少なくとも表面的には、創価学会は政治への深い介入を行っていない。 公明党の公式サイトにも「創価学会と公明党との関係は、あくまでも支持団体と支持を受ける政党という関係」だと明記されている」、なるほど。 ・『与する政治勢力を「くら替え」しながら「権力に近い位置」を死守 池田氏の「リアリズム」は、公明党の政治的立場、政策志向の変化を歴史的に振り返ると、より明確に見えてくる。 公明党は池田氏の発意によって64年に結党。当時は野党として自民党と対立関係にあったが、イデオロギーにこだわる社会党や共産党など他の野党とは異なり「中道主義」を志向してきた。 70年代前半、公明党は「反自民・全野党結集」の方針に従って「日米安保条約の即時破棄」を訴えた。そして自民党は議席を減らし、与野党の議席差が伯仲する「伯仲国会」が実現した。 ところが80年の総選挙で自民党が圧勝して「伯仲国会」が終わると、公明党は本格的に自民党・民社党との「自公民路線」にかじを切った。そしてこの頃、公明党は自衛隊についても「容認」へと方針転換した。 92年の湾岸戦争後には、PKO法(国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律)を自公民3党による交渉で成立させた。 ただし、このまま自公の蜜月が続くかと思いきや、公明党は再びくら替えする。93年に自民党による一党支配体制が終幕すると、「非自民・非共産」の野党(8党派)からなる細川護熙(もりひろ)連立政権に参画したのだ。 その後は二大政党の一角を目指した「新進党」への合流を巡って分裂するなどの混乱を経て、98年に「公明党」として再結成。翌年以降は自公連立として活動し、今日に至っている。 連立政権を組んでからの公明党は、安全保障などの領域で自民党の政策を受け入れてきた(第104回)。 一方で自民党は、公明党による「支持者への利益分配」の要求に応え、新型コロナウイルス禍の初期に「所得制限なしで国民1人当たり10万円の支給」を実現させた(第239回)。 要するに、公明党は結党以降、状況に応じて自由自在に立場を変えながら「権力に近い位置」を常に確保してきた。野党であった時期も、常に有利な政治勢力に与(くみ)してきた』、「公明党は結党以降、状況に応じて自由自在に立場を変えながら「権力に近い位置」を常に確保してきた。野党であった時期も、常に有利な政治勢力に与・・・してきた」、なるほど。 「教団および政党を存続・成長させるためなら「手のひら返し」を辞さなかった池田氏は、まさしく「政治的リアリズムの巨人」だった」、さすがだ。 「参院では総定数248議席のうち117議席しか占めていない。過半数を確保するために、今のところは公明党の27議席を必要としている。一方で、維新・国民も勢力を拡大しており、前者は20議席、後者は13議席を獲得済みだ。数字の上では、このどちらと(あるいは両方と)組んでも連立の組み替えが可能である」、なるほど。 「維新の組織力は、まだ全国的に確立されていないのが現実だ。 これでは、自民党が本気で「連立入れ替え」を検討するとは考えにくい。 現実的な話をすると、自公は政策のすり合わせを繰り返しながら関係を築いてきた。その積み重ねによって、両党に所属する政治家だけでなく、その支持者レベルでも結び付きが強まっている・・・自公両党は、今後も政策や選挙態勢の面で、別れることができない「腐れ縁」として関係を続けていくと筆者は考える。 池田大作というカリスマは消えた。だが、そのリアリズムによって築き上げられた「集票力」という武器は政界に残り続けていくのだろう」、「腐れ縁」は想像以上に強いようだ。 日刊ゲンダイ「自民5派閥裏金疑惑ついに実名が…萩生田氏の“舎弟”池田佳隆氏にパー券営業「900万円」のキックバック浮上」 「ノルマを超えてパー券をさばけばさばくほど、議員側の“実入り”が増えるスキームだった」、悪知恵が利いたインセンティブだ。 「池田氏に課されたノルマは60万円程度。文春は、ノルマ超過分の900万円超が池田氏側にキックバックされた可能性を指摘している。特捜部は、池田氏がキックバックを受けたか否かに着目しているという。 もし、文春が指摘するように、年間数百万円ものキックバックを受け、裏金として処理していたとしたら大問題だ」、 「「池田さんは06年から1年間、多くの若手経営者が所属する『日本青年会議所』の会頭を務めていました。企業経営者の知り合いが多いから、大量にパー券をさばけたのかもしれません。しかし、1000万円も売るなんてハンパじゃないですよ。本人は萩生田さんと似た体育会系のノリだから“モーレツ営業”ができたのかもしれませんが、それにしても1000万円はスゴ過ぎる。安倍さん並みの集金力ですよ」、いずれにしろ、特捜部がどう処理するのかが、当面の注目点だ。
保育園(待機児童)問題(その13)(2歳児を公園に置き去りにして帰ってくる…全国の保育園で「昔にはあり得なかったこと」が起きている根本原因 保育が「儲かるビジネス」になり、質が低下している、「保育園の重大事故」園だけを責められない問題点 「待機児童ゼロ作戦」によって本末転倒な状況に、"国会での論戦"で見えた「日本の保育」重大争点 「異次元の少子化対策」保育においてはどうなのか?) [社会]
保育園(待機児童)問題については、2021年5月8日に取上げた。久しぶりの今日は、(その13)(2歳児を公園に置き去りにして帰ってくる…全国の保育園で「昔にはあり得なかったこと」が起きている根本原因 保育が「儲かるビジネス」になり、質が低下している、「保育園の重大事故」園だけを責められない問題点 「待機児童ゼロ作戦」によって本末転倒な状況に、"国会での論戦"で見えた「日本の保育」重大争点 「異次元の少子化対策」保育においてはどうなのか?)である。
先ずは、本年2月9日付けPRESIDENT Onlineが掲載した労働経済ジャーナリストの小林 美希氏による「2歳児を公園に置き去りにして帰ってくる…全国の保育園で「昔にはあり得なかったこと」が起きている根本原因 保育が「儲かるビジネス」になり、質が低下している」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/66268
・『幼稚園や保育園で「園児の置き去り事故」が相次いでいる。労働ジャーナリストの小林美希さんは「諸悪の根源は安倍政権の下で進んだ待機児童対策だ。園の数はここ10年で急増したが、保育士の労働環境は悪化しており、保育の質が低下している」という――』、興味深そうだ。
・『「いつ置き去り事故が起こってもおかしくない」 「子どもを公園に置いて園に帰ってきてしまう。少し前なら、あり得ないことが起こっているのです」 都内の認可保育園の小田明子園長(仮名、60代半ば)は、驚きを隠せない。小田園長は公立保育園も含めて40年以上、保育現場に携わっている。現在は私立の認可保育園の園長で、これまで大きな事故もなく過ごしてきたが、1年ほど前に保育士が2歳の園児を公園に置いたまま散歩から帰ってきてしまい、肝を冷やした。 園児がいないことに気づき、慌てて園長と保育者数人とで外を探すと、近隣の住民に保護され、ことなきを得た。もしも誤って道路に飛び出していれば交通事故に遭っていたかもしれないと思い、身震いした。担任保育士は経験が浅く、ケガが起きないように見るので精一杯。「早く保育園に帰って、給食の準備をしなければ」という焦りがあって、園児の点呼を忘れていたという。 こうした事態に小田園長は頭を悩ます。 「園児が全員いるかどうか点呼することは、基本中の基本です。公園に着いた時はもちろん、遊んでいる最中、園に帰る時も全員が揃っているか、常に確認する。それが、業務に追われて目の前の子どもが見えなくなっているのです。いつ置き去り事故が起こってもおかしくない環境なのです」』、「園児が全員いるかどうか点呼することは、基本中の基本です。公園に着いた時はもちろん、遊んでいる最中、園に帰る時も全員が揃っているか、常に確認する。それが、業務に追われて目の前の子どもが見えなくなっているのです。いつ置き去り事故が起こってもおかしくない環境なのです」、なるほど。
・『20人の子どもたちを4畳半程度のスペースに… それというのも小田園長が勤める法人は、保育園の数を増やして事業拡大することと利益を上げることを優先させている。人件費を抑えるため、保育士は低賃金で人員体制はギリギリという状態なのだ。若手が疲弊して、2~3年で辞めていく。そうしたなかで起こった置き去りだった。 他の都内の私立の認可保育園でも、園児が保育園から一人で出ていこうとしていた。たまたま居合わせた保護者の飯田恵さん(仮名、40代)が止めたが、その後の対応が不十分だった。飯田さんは、「子どもが勝手に出ていかないようにと、登園時やお迎えラッシュの時間帯は20人もの子どもたちが、4畳半程度のスペースに囲った柵のなかに詰め込まれるようになりました」と憤りを隠せない。 日頃から、園児同士の噛みつき、ひっかきも多い。大きなすり傷に気づいた飯田さんが理由を尋ねても、担任の保育士は「見ていなかったので分からない」と言うだけ。改善を求めてもケガが続いたことから、飯田さんは「これではいつ子どもが死ぬかも分からない」と子どもを転園させた』、「人件費を抑えるため、保育士は低賃金で人員体制はギリギリという状態なのだ。若手が疲弊して、2~3年で辞めていく。そうしたなかで起こった置き去りだった・・・大きなすり傷に気づいた飯田さんが理由を尋ねても、担任の保育士は「見ていなかったので分からない」と言うだけ。改善を求めてもケガが続いたことから、飯田さんは「これではいつ子どもが死ぬかも分からない」と子どもを転園させた」、「転園」とは賢明な判断だ。
・『安倍政権下で保育は「儲かるビジネス」と化した 福岡県中間市や静岡県牧之原市で起こった通園バス園児死亡事件は、出欠確認が徹底されないことによって園児がバスに置き去りになった。この事件は、保育の基本中の基本である園児の出欠確認ができないほど、現場の質が劣化していることを意味する。 園児が置き去りにされる、不適切な保育が横行するなどの保育の質の低下は、保育士の労働環境の悪化が大きく影響しているのだ。 その背景にあるのは、安倍晋三政権下で待機児童対策が目玉政策となり、急ピッチで保育園が作られるようになったことだ。 公的な保育園は、2013年度の2万4038カ所から22年度は3万9244カ所へと大幅に増えた。安倍政権が「株式会社に受け皿整備を担ってもらう」という方針を打ち出したことで、営利企業による認可保育園は13年の488カ所から21年に3151カ所にまで急増した(厚生労働省「社会福祉施設等調査」)。 保育園の増加ペースに人材が追い付かないうえ、事業者のモラルが低下。保育を「3兆円を超える市場」と捉え、儲けるために参入する事業者が雨後の筍のように現れた。利益を出すために人件費が削られ、保育士の労働環境が劣悪になった』、「公的な保育園は、2013年度の2万4038カ所から22年度は3万9244カ所へと大幅に増えた。安倍政権が「株式会社に受け皿整備を担ってもらう」という方針を打ち出したことで、営利企業による認可保育園は13年の488カ所から21年に3151カ所にまで急増した・・・保育園の増加ペースに人材が追い付かないうえ、事業者のモラルが低下。保育を「3兆円を超える市場」と捉え、儲けるために参入する事業者が雨後の筍のように現れた。利益を出すために人件費が削られ、保育士の労働環境が劣悪になった」、なるほど。
・『人件費がほかの費目に流用できるようになった かつて、認可保育園は公共性の高さから自治体か社会福祉法人しか設置・運営ができなかった。それが2000年の規制緩和によって、営利企業、宗教法人、NPO法人の参入が容認された。それと同時に、私立の認可保育園に支払われる運営費の使途の規制緩和である「委託費の弾力運用」が大幅に認められるようになった。 私立の認可保育園の運営費は「委託費」と呼ばれ、税金を主な原資とする。委託費の算定基準である「公定価格」では、人件費は基本的な部分だけでも全体の約8割を占める。人件費のほか、玩具や絵本を買うなど保育に要する「事業費」が約1割、職員の福利厚生費などの「管理費」が約1割必要だと国が想定し、委託費が各園に支払われている。 「委託費の弾力運用」が認められると、それまであった「人件費は人件費に使う」という使途制限が緩和され、人件費分を事業費や管理費へ流用するという各費目の相互流用のほか、同一法人が運営する他の保育園や介護施設への流用、施設整備費への流用などが許されるようになった。 ある程度の経営の自由度は必要だが、自民党政権下で規制緩和が繰り返され、今では委託費の年間収入の4分の1もの金額を他の費目に流用できるようになっている。そこに目をつけた事業者は、人件費を抑えて事業を拡大し、利益を得ていったのだ』、「人件費分を事業費や管理費へ流用するという各費目の相互流用のほか、同一法人が運営する他の保育園や介護施設への流用、施設整備費への流用などが許されるようになった。 ある程度の経営の自由度は必要だが、自民党政権下で規制緩和が繰り返され、今では委託費の年間収入の4分の1もの金額を他の費目に流用できるようになっている。そこに目をつけた事業者は、人件費を抑えて事業を拡大し、利益を得ていったのだ」、なるほど。
・『565万円→381万円…200万円はどこに消えたのか その結果、委託費の8割以上を占めるはずの人件費が抑え込まれた。東京都による2018年度実績の調査では、都内の社会福祉法人の人件費支出の割合は7割、株式会社では5割にとどまり、その傾向は今も変わっていない。 委託費を算出するための「公定価格」は全国8つの地域区分に分かれ、それぞれ単価が異なる。公定価格が最も高い東京23区で見てみると、2021年度の保育士一人当たりの基本的な賃金年額は約442万円となる。 営利企業が集中して進出する東京23区では、その442万円に処遇改善費が加わると、単純計算だが、最大で約565万円の賃金が公費で出ていることになる。しかし、東京23区で実際に保育士が手にとる賃金は約381万円と少ない(内閣府「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」2018年度実績)。計算上、公費から出る賃金額と実際に保育士に支払われる金額の差が、最大で年間200万円近くになる。その差はどこに消えるのか』、「計算上、公費から出る賃金額と実際に保育士に支払われる金額の差が、最大で年間200万円近くになる。その差はどこに消えるのか」、「差」が「最大で年間200万円近く」とは無視出来ない額だ。
・『基準より人員を多く雇う保育園はあるが… ただ、賃金が低くなる正当な理由もある。人件費は基本的には最低配置基準に沿って出るため、基準より多く雇えば一人当たりの賃金が低くなるケースがある。 認可保育園などの保育士の最低配置基準は、0歳児が園児3人に対して保育士1人(「3対1」)、1~2歳児が「6対1」、3歳児が「20対1」、4~5歳児が「30対1」となっている。4~5歳児の基準は戦後から70年以上も変わっていないため、この体制では不十分だと判断して人員を多く雇う保育園は多く、ひとつの認可保育園で平均3~4人を多く配置している(内閣府調査)。このように保育士の多い園では、一人当たりの賃金が低くなってもやむを得ない事情がある。 とはいえ冒頭のように、配置基準ギリギリにして人件費を抑える保育園は少なくない。利益重視の事業者は営利企業でも社会福祉法人でも、「コストコントロール」を図るため、「保育士の適正配置」「職員配置の適正化」を掲げている。つまり「人件費カットのため、最低配置基準を守れば人員体制はギリギリでいい」(複数の業界関係者)という考え方だ』、「保育士の最低配置基準」では不十分として、「ひとつの認可保育園で平均3~4人を多く配置している」、他方で、「最低配置基準を守れば人員体制はギリギリでいい」・・・という考え方」をとるところも多い。
・『都内30カ所で違反が常態化している ある中堅企業傘下の保育園で働いていた保育士は「園児の欠席が多いと、配置基準上で保育士が余るので、他園にヘルプに出されました。普段みていない園児を保育するのは不安でした。職員の数に余裕がないため、誰かが急に休むと、とたんに配置基準を割ってしまいます。これでは、いつ事故が起きてもおかしくないと思って辞めました」と話す。 1年半ほど前に筆者は東京都が認可保育園に対して行った2017~19年度の監査結果について調べており、「保育士が適正に配置されていない」などの文書指摘を受けた保育園が都内で合計153カ所に上った。 それらの違反の詳細について都に情報開示請求を行うと、「保育士配置違反が常態化している」「無資格者しかいない時間帯がある」などの実態が明らかになった。保育士配置違反が常態化している園と違反状態が長く続いていると見られる園は合計30カ所もあった。そもそも少ない配置基準でさえ守られないのでは、保育士は疲弊し、子どもの安全を守ることは難しいだろう』、「保育士配置違反が常態化している園と違反状態が長く続いていると見られる園は合計30カ所もあった。そもそも少ない配置基準でさえ守られないのでは、保育士は疲弊し、子どもの安全を守ることは難しいだろう」、なるほど。
・『6年間で保育事故は3.5倍に 保育士の配置基準については、2014年3月の段階で、1歳児を現行の園児6人に対し保育士1人(「6:1」)から「5:1」へ、4~5歳児は「30:1」から「25:1」にすると国は計画し、必要な予算を約1300億円と試算していた(「子ども・子育て支援新制度における『量的拡充』と『質の改善』について」)。 配置基準の引き上げは保育業界の長年の悲願であり、ようやく2023年度から「チーム保育推進加算」を拡充することで、大規模園の4~5歳児の「25対1」の実現が図られる。これを第一歩に、抜本的な改善が必要だ。 保育事故は年々増えている。内閣府の「教育・保育施設等における事故報告集計」から、認可保育園で起こった死亡・負傷等の事故件数を見ると、2015年の344件から2021年は1191件となり、この6年で3.5倍近く増えている。 2021年の保育事故の状況を詳しく見ると、負傷等のうち最も多いのが骨折の937件、その他(指の切断、唇、歯の裂傷等を含む)が242件あり、意識不明が8件、火傷が2件、死亡が2件だった。年齢別では、保育士配置が手薄になる4~5歳の多さが目立ち、それぞれ246件、404件だった』、「認可保育園で起こった死亡・負傷等の事故件数を見ると・・・2015年の344件から2021年は1191件となり、この6年で3.5倍近く増えている・・・2021年の保育事故の状況を詳しく見ると、負傷等のうち最も多いのが骨折の937件、その他(指の切断、唇、歯の裂傷等を含む)が242件あり、意識不明が8件、火傷が2件、死亡が2件だ」、大変だ。
・『事業者が利益を得るための制度ばかりが変わっていく 政府は1月27日、通園バス園児置き去りの再発防止のための調査結果を公表した。通園バスをもつ保育園などのうち約2割に乗降時の子どもの安全管理に課題があったとしている。4月からは通園バスに安全装置の設置が義務付けられるが、問題の本質は保育士不足や保育の質の低下であり、保育士の労働条件の改善こそが急務の課題だ。 4月にこども家庭庁が発足する今こそ、最低配置基準の引き上げを行い、それと同時に前述した「委託費の弾力運用」の規制を強化して人件費の流出を食い止めなければ、保育士の労働環境は変わらない。保育士が守られなければ、犠牲になるのは子どもたちだ。 この国は、保育事業者が利益を得るための制度は次々に変えていくが、保育現場で子どもが命を落としても、子どもにとって必要な制度は変わらない。保育は児童福祉法に基づく福祉行政の一貫として行われていることを忘れてはならない』、「問題の本質は保育士不足や保育の質の低下であり、保育士の労働条件の改善こそが急務の課題だ・・・「委託費の弾力運用」の規制を強化して人件費の流出を食い止めなければ、保育士の労働環境は変わらない。保育士が守られなければ、犠牲になるのは子どもたちだ」、同感である。
次に、4月24日付け東洋経済オンラインが掲載したフェリス女学院大学 文学部英語英米文学科 助教の関口 洋平氏による「「保育園の重大事故」園だけを責められない問題点 「待機児童ゼロ作戦」によって本末転倒な状況に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/667340
・『日常のいたるところで濫用され、消費されている「イクメン」という表現。2022年10月から改正育児・介護休業法により「産後パパ育休」が施行され、この4月からは育児休業取得状況の公表が義務化。「イクメン」という言葉の流布から10年以上が経ち、再び注目されるキーワードになった今こそ、その意味を構造的に問いなおすことが必要なのではないだろうか。 本稿は、子育ての話題の中でも特に議論を呼ぶ「保育園」を取り巻く問題について、検証する。自身も子育て中のアメリカ研究者が「イクメン」という言葉そのものに疑義を抱くところから始まる最新著書『「イクメン」を疑え!』(集英社新書)より、一部抜粋・再構成してお届けします。 アメリカでは保育園の設置基準が統一されていないのに対して、日本では国が認可保育所の条件を定めている。どの認可保育所を利用しても最低限の質は担保されているので、利用者は比較的安心して子どもを預けることができる。日本に住む私たちにとって、そうした質の高い保育は「育児のネットワーク」の重要な一部をなしている。 ところが、ここ20年あまりの新自由主義的な潮流のなかで、育児に対する公的な支援は日本でも徐々に削減されてきた。一言で言えば、日本においても保育の市場化が急速に進んだのである。本稿では少子化や待機児童といった日本独自の事情を勘案しつつ、新自由主義が日本の保育に与えた影響を検討したい』、「ここ20年あまりの新自由主義的な潮流のなかで、育児に対する公的な支援は日本でも徐々に削減されてきた。一言で言えば、日本においても保育の市場化が急速に進んだのである。本稿では少子化や待機児童といった日本独自の事情を勘案しつつ、新自由主義が日本の保育に与えた影響を検討したい」、なるほど。
・『保育園から「突然の通告」 はじめに、ここではひとつの具体例を紹介したい。東京都目黒区在住の竹内冬美さんは、いわゆる「保活」の末に2019年から区立保育園を利用し始めた。その区立園は評判どおりに保育の質が高く、2021年からは第二子も預けることができて満足していた――そんな矢先の4月半ばである。 竹内さんは保育園から1枚の薄い藁半紙を受け取った。その紙に掲載されていたQRコードを読み取って区のホームページを見ると、その区立園が数年後に別の区立園と統合されたうえで民営化されることが事務的に記されていた。) 青天の霹靂としか言いようのない保育園民営化計画を知って、竹内さんは困惑と怒りの混ざった感情を抱いたという。 慣れ親しんだ保育士がいなくなったとき、子どもたちはどのような反応をするだろうか?新しい保育園において保育の質はどこまで保持されるのだろうか?あるいは、公立の保育園がそれまで担ってきた公的役割─地域の避難所や子育て支援の拠点としての機能、障がい者の受け入れなど─はどうなるのだろうか?区による一方的な決定に疑問を感じた竹内さんたち保護者は、区立園の存続に向けた活動を始めた(※1)。 この例からもわかるとおり、保育園民営化は現在に至るまでさまざまな自治体において重要な争点になっている。だが、民営化の議論は近年に始まったことではない』、「保育園民営化は現在に至るまでさまざまな自治体において重要な争点になっている。だが、民営化の議論は近年に始まったことではない」、なるほど。
・『「待機児童ゼロ作戦」で目指したこと 日本において保育への公的支出がカットされ始めたのは、1980年代のことである。公立保育園の数が1983年に過去最多を記録した一方で、この時代には保育園運営費の国家負担率が徐々に削減されていった。公立保育園にのみ多額の公費が投入されることや、公立保育士の賃金の高さなどが批判されたのである。 このような流れのなかで、鈴木善幸内閣・中曽根康弘内閣の第二次臨時行政調査会は、保育園の民営化をひとつの目標として掲げた。 ところが、この時代には「生活可能な、主体的に働くことを選んでいる共働き層への保育サービスの供給は『公費の乱用』と指摘された」というから、待機児童の増大と少子化を背景とした現在の保育園民営化とは事情が大きく異なる(※2)。 共働きの家庭が現在ほど一般的でなかったこの時代においては、保育園の数を増やすどころか、むしろ抑制することが課題とされたのである。事実、1980年を境に保育園の入所児童数は緩やかに減少していった(※3)。 そのような方針を一変させる要因となったのが、1990年のいわゆる「1.57ショック」である。1973年には2.14であった合計特殊出生率(ひとりの女性が一生の間に産む子どもの数)は急速に低下し、1989年に1.57となったのだ。 この衝撃を受けて、政府は少子化対策としてさまざまな政策を矢継ぎ早に策定した。1994年の「エンゼルプラン」、1999年の「新エンゼルプラン」、2003年の次世代育成支援対策推進法・少子化社会対策基本法などがその一例である。 (※1)2021年8月21日、個人インタビュー。 (※2)萩原久美子「保育供給主体の多元化と公務員保育士─公共セクターから見るジェンダー平等政策の陥穽」『社会政策』8.3(2017年)66頁。 (※3)汐見稔幸・松本園子・髙田文子・矢治夕起・森川敬子『日本の保育の歴史子ども観と保育の歴史150年』(萌文書林、2017年)318頁。) 一連の少子化対策のなかで重視されたのが、保育園の量的な拡大だった。2001年に発足した小泉純一郎内閣は「待機児童ゼロ作戦」を掲げ、2002年度から3年間で15万人の保育園児の受け入れ増を目指した。「聖域なき構造改革」というキャッチフレーズを掲げて小泉政権が新自由主義的な政策を推進したことはよく知られているが、「待機児童ゼロ作戦」もその延長線上にある。 保育園の量的拡大を実現するために重用されたのは、規制緩和と民営化という二本柱であった。産業構造の変化により、いわゆる「家族賃金モデル」(父親がひとりで家族全員を養うことができるだけの賃金を終身雇用制により保障するシステム)が崩壊し、共働き世帯が増加していたことも相まって、これらの改革は急速に進行した』、「公立保育園の数が1983年に過去最多を記録した一方で、この時代には保育園運営費の国家負担率が徐々に削減されていった。公立保育園にのみ多額の公費が投入されることや、公立保育士の賃金の高さなどが批判されたのである。 このような流れのなかで、鈴木善幸内閣・中曽根康弘内閣の第二次臨時行政調査会は、保育園の民営化をひとつの目標として掲げた。 ところが、この時代には「生活可能な、主体的に働くことを選んでいる共働き層への保育サービスの供給は『公費の乱用』と指摘された」というから、待機児童の増大と少子化を背景とした現在の保育園民営化とは事情が大きく異なる(※2)。 共働きの家庭が現在ほど一般的でなかったこの時代においては、保育園の数を増やすどころか、むしろ抑制することが課題とされた・・・そのような方針を一変させる要因となったのが、1990年のいわゆる「1.57ショック」である。1973年には2.14であった合計特殊出生率(ひとりの女性が一生の間に産む子どもの数)は急速に低下し、1989年に1.57となったのだ。 この衝撃を受けて、政府は少子化対策としてさまざまな政策を矢継ぎ早に策定・・・一連の少子化対策のなかで重視されたのが、保育園の量的な拡大だった。2001年に発足した小泉純一郎内閣は「待機児童ゼロ作戦」を掲げ、2002年度から3年間で15万人の保育園児の受け入れ増を目指した・・・保育園の量的拡大を実現するために重用されたのは、規制緩和と民営化という二本柱であった。産業構造の変化により、いわゆる「家族賃金モデル」・・・が崩壊し、共働き世帯が増加していたことも相まって、これらの改革は急速に進行した」、これまでの流れが要領良く整理されている。
・『規制緩和で起こった「詰め込み保育」の弊害 新自由主義改革が保育という領域に与えた影響を理解するために、まずは規制緩和という側面に注目してみよう。 小泉政権が促進したのは、保育園の入所定員の「弾力化」である。「弾力化」とは耳慣れない言葉かもしれないが、規制を緩和して制度を柔軟に適用するということであり、この文脈では、「詰め込み保育」を意味している。この改革により、待機児童が多い自治体では、保育園の定員を超えて(年度初めは15%増しまで、年度途中は25%増しまで、年度後半は無制限)子どもを預かることが認められた。 小泉政権は保育園の入所定員だけでなく、保育士の配置基準も緩和した。1998年には常勤の保育士を原則とする規定が撤廃され、基準配置数の2割までという条件付きで短時間勤務保育士(非常勤保育士)を配置することが認められた。 小泉政権はこの規制緩和をさらに推し進め、非常勤保育士の上限を撤廃した。各クラスに1?2名以上常勤の保育士がいれば、あとはすべて非常勤保育士でもよくなったのである。 入所定員の弾力化や保育士の配置基準の緩和は、待機児童を減らすという意味では一定の効果があった。その一方で、規制緩和により保育の質が低下したこともまた事実である。 常勤の保育士が原則であったのは、保育士が頻繁に入れ替わると子どもが安定した人間関係を築けないからである。保育園に定員が設定されているのは、キャパシティを超えて園児を受け入れると十分に目が行き届かず、事故の可能性が高まるからだ。) 事実、保育園で起きた痛ましい死亡事故に関する報道は後を絶たない。ジャーナリストの猪熊弘子によれば、「事故が起きた施設の多くは、保育室の面積が非常に狭く、職員が少なく、無資格者や資格を持っていたとしても経験の少ない場合がほとんど」であり、「余裕のない保育施設の運営が、子どもの死亡事故を招いている」という(※4)。 事故を起こした個々の保育施設を責めることは簡単だが、その背後に構造的な要因が潜んでいることが看過されてはならない』、「「事故が起きた施設の多くは、保育室の面積が非常に狭く、職員が少なく、無資格者や資格を持っていたとしても経験の少ない場合がほとんど」であり、「余裕のない保育施設の運営が、子どもの死亡事故を招いている」という」、重大な指摘だ。
・『「保育園民営化」の推進で何が起こったか 待機児童対策のために政府が重視したもうひとつの方針が、民営化である。2000年には営利企業も認可保育所に参入できるようになった。自治体か社会福祉法人しか認可保育所を設置・運営してはならないという規制が撤廃されたのである。 小泉政権は、民営化の流れをさらに加速させた。2003年に内閣府により発表された報告書では、「保育サービスの需要は今後ますます増大し、将来有望な市場となる」一方で、「株式会社の参入を認めるなど規制緩和が進んだにもかかわらず、そのメリットが利用者にきちんと還元されて」いないことが問題視された(※5)。 公立保育園では「効率的に経営が行われて」おらず、規制緩和の徹底により民間企業の参入を促すことが必要である、というのがこの報告書の結論である。公立保育園のコスパの悪さを強調する一方で保育サービスが将来的に有望な市場であることを明記するこの報告書には、「すべての領域を金銭化する」新自由主義の基本方針が明確に反映されている。 この報告書の議論を受け、2004年にはいわゆる三位一体改革の一環として公立保育園の運営費が一般財源化された。それまでは国庫補助負担金という形で保育園の運営のためだけに使える予算が自治体へ支給されていたが、この補助金の廃止によって用途が特定されない予算が自治体に支給され、自治体ごとにその予算を自由に割り振れるようになったのである。 (※4)猪熊弘子『「子育て」という政治少子化なのになぜ待機児童が生まれるのか?』(角川SSC新書、2014年)101頁。 (※5)内閣府国民生活局物価政策課「保育サービス市場の現状と課題─『保育サービス価格に関する研究会』報告書─」2003年。) この一般財源化を機に、多くの自治体は保育園関連の予算を大幅にカットした。その結果、先述したような民営化による混乱が2000年代には続発した(※6)。また、公立・私立を問わず、保育士の非正規雇用化が進んだ。 慢性的な財政難に苦しむ自治体にとって、民営化によるコスト削減は魅力的である。民営化や統廃合が進むにつれて公営保育園の数は徐々に減り、2007年には私営保育園の数を下回った。2021年時点で、公営保育園が7919カ所あるのに対し、私営保育園は2万2076カ所である。 2000年の時点では公営・私営それぞれ1万2707カ所と9492カ所であったので、保育園の総数が増えていること、また公営・私営の割合が著しく逆転していることがわかる(図 ※7)』、 「慢性的な財政難に苦しむ自治体にとって、民営化によるコスト削減は魅力的である。民営化や統廃合が進むにつれて公営保育園の数は徐々に減り、2007年には私営保育園の数を下回った。2021年時点で、公営保育園が7919カ所あるのに対し、私営保育園は2万2076カ所である。 2000年の時点では公営・私営それぞれ1万2707カ所と9492カ所であったので、保育園の総数が増えていること、また公営・私営の割合が著しく逆転していることがわかる」、これほど「公営」と「私営」の割合が「逆転」したとは、衝撃的だ。
・『保育の質が低下することへの懸念 誤解しないでほしいのだが、私は民間の保育園や非正規の保育士は質が低いと主張したいわけではないし、公立の保育園が完璧であると言いたいわけでもない。私の個人的な経験から言っても、民間であれ、非正規であれ、有能で熱心な保育士は数多く存在している。 問題は、拙速な民営化によって保育の質が担保されないような構造ができ上がってしまったことなのだ。待機児童問題の深刻さを考えれば、営利企業の参入という判断は妥当であったかもしれない。だが、それによって保育の質が低下し、子どもを安心して預けられないのでは元も子もないはずである。 ※6)2000年代の保育園民営化については、たとえば以下の文献を参照。汐見稔幸・近藤幹生・普光院亜紀『保育園民営化を考える』(岩波ブックレット、2005年)、二宮厚美『構造改革と保育のゆくえ』(青木書店、2003年)、平松知子『保育は人保育は文化ある保育園民営化を受託した保育園の話』(ひとなる書房、2010年)。(※7)厚生労働省、平成12年?令和3年社会福祉施設等調査』、「問題は、拙速な民営化によって保育の質が担保されないような構造ができ上がってしまったことなのだ。待機児童問題の深刻さを考えれば、営利企業の参入という判断は妥当であったかもしれない。だが、それによって保育の質が低下し、子どもを安心して預けられないのでは元も子もないはずである」、「質の低下」は今後、問題化必至の由々しい問題だ。
第三に、 5月4日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの小林 美希氏による「"国会での論戦"で見えた「日本の保育」重大争点 「異次元の少子化対策」保育においてはどうなのか?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/669534
・『国会中継などで見かける大臣と議員の激しい論戦。その内容を注視して見たことはあるだろうか。 そこでは日本の未来を左右する重要な論点が多く扱われている。今の日本において見逃せない論点とは何か。ジャーナリストの小林美希さんが国会でとくに話題となった議論をたどりながら、問題の焦点に迫る。今回は「保育」の問題について取り上げる。 岸田文雄首相が大々的に掲げる「異次元の少子化対策」。保育園の通園バスに置き去りになって園児が死亡した事故や、保育士による虐待事件が相次ぐなど、保育の業界では事件・事故が続いている。そうした中、子どもを守る保育士の数を増やすべきと、人員増が求められている。 保育園には園児の年齢ごとに保育士の最低配置基準があり、現在、保育士1人で1~2歳児を6人、4~5歳児を30人みることができる。それでは保育士の負担が重いうえ、子どもたちに充分に目が行き届かないと、保育士の配置基準を引き上げることが検討課題になっている。 昨年来、国会では連日この問題が取り上げられ、当事者の運動も広がりを見せたことから、「配置基準が今年こそ引き上げられるのではないか」と期待がかかった。しかし3月末に発表された「異次元の少子化対策」の「たたき台」では、基準の「引き上げ」ではなく、手厚い保育を実施する園への運営費上乗せという「改善」に留まった。いったい配置基準引き上げを巡り、国会ではどんな論戦が行われ、議論の現在地はどうなっているのか』、興味深そうだ。
・『戦後から続いてきた「配置基準」をめぐる攻防 2022年11月9日、衆議院の厚生労働委員会では、大西健介議員が”難事”に向かった。持ち時間の多くを割いて説いたのは、保育士の最低配置基準引き上げの重要性についてだ。 認可保育園には保育士の最低配置基準が決められており、他のタイプの公的保育園もその基準に倣っている。配置基準が決められたのは戦後間もない1948年で、それ以降、大きく変わっていないことが問題視されている。 振り返れば基準が置かれた1948年の当初、0~1歳児は園児10人を保育士1人でみる「10対1」だった。0歳児は1967年に「6対1」へ、1998年に「3対1」へと基準が手厚い方向に変更された。 1~2歳児は1967年に「6対1」になって以降、50年以上変わっていない。4~5歳児は75年前からずっと「30対1」のまま。海外を見てみると、英国では保育者の持つ資格によるが、3歳以上5歳未満が「13対1」や「8対1」、ドイツは州ごとに異なるが3歳児未満の平均が「4.5対1」、3~6歳児が「11.8対1」や「8.6対1」などの厚みがある(厚生労働省の委託事業「諸外国における保育の質の捉え方・示し方に関する研究会」報告書2019年)。日本の基準引き上げは長年の課題だ。 大西議員は「基本的な考え方を聞いていきたい。大臣には是非、御自身のお言葉で、率直にお考えを」と切り出した。 「1歳児の基準は私が生まれた頃から変わっていない。4~5歳児は基準制定の1948年以来、70年以上変わっていないのです。1948年は戦後の第1次ベビーブーム。当時の出生数は約268万人、そして、昨年(2021年)の出生数は81万人。全く世の中が変わってしまっているのに、保育士の配置基準は変わっていない。ある種、異常なことだと思うが、大臣の率直な意見をお聞かせいただきたいと思います」(大西議員) 国会で議員が質問する内容は、事前に各省府庁に通告されて官僚が答弁を作り、それを基に閣僚が答えていく。大西議員は、大臣に対して官僚が作った答弁書を読むのではなく、大臣自身の言葉を求めた』、大西議員の質問はポイントを突いており、私も知りたいものだ。
・『ところが加藤勝信厚生労働相が説明し始めたのは、2015年度に行われた3歳児の配置改善についてだった。国は2014年に配置基準を引き上げる計画を立ており、一部は改善されている。 当時、消費税の税率を引き上げる際に、保育園の数を増やす「量的拡充」のための施策に必要な0.7兆円を消費税で賄い、そのなかで3歳児の配置基準の「20対1」を「15対1」にすると計画された。基準そのものは引き上げられなかったが、消費税を財源に「15対1」体制をとる園の運営費を「加算」して支給する形で、2015年度に改善した。 また、消費税以外を財源とする0.3兆円で「質の改善」を行うとして、1歳児の「6対1」を「5対1」へ、4~5歳児の「30対1」を「25対1」に引き上げるなどの計画が立てられた。それら保育の質を向上するための施策は「0.3兆円メニュー」と呼ばれているが、財源がないことを理由に2014年以降、実現しなかった。 加藤大臣は、「(目標としている)4~5歳児の配置改善は実施できていない。このことは強く認識をしているところ。引き続き、財源をしっかり確保する努力をしていきたい」と、淡々と答弁書を読み上げた。 大西議員は「答弁を読むのではなくて、70年前と今の社会、子どもを取り巻く状況は全く違う。70年で1回も配置基準が変わらないことが、率直に言って、これは普通ですか」と強調した。) ここで、愛知県の保育園関係者が結成した「子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会」が2022年2月~3月に行ったアンケート調査の内容が紹介された。現場で実際に働く保育士が考える、保育士1人が受け持つ子どもの適切な人数は何人なのか。 国の基準は1歳児が「6対1」だが、保育士の約半数が「3対1」と答えている。同様に4~5歳児の国の基準は「30対1」だが、現場で最も多かったのは4歳児が15人、5歳児が20人だった。 大西議員は「これが現場の受け止めなんです。実際の配置基準と大きく乖離していることについて大臣の受け止めをお聞きしたいと思います」と重ねた』、初めの質問への答弁は完全にポイントをズラした官僚答弁だ。これに対し、「現場で実際に働く保育士が考える、保育士1人が受け持つ子どもの適切な人数は何人なのか」を「アンケート調査」をもとに質問するとはさすがだ。「加藤大臣」の不誠実な官僚答弁には僕でも頭にくる。
・ これに対し加藤大臣は、またも「3歳児の配置改善を行った」と成果を強調。そして、「1歳児、4~5歳児についての宿題を果たすべく、しっかり財源も確保し実現できるよう努力したい」と、”財源確保”を理由に逃げるかのような答弁をするにとどまった。 業を煮やした大西議員は「繰り返しになりますけれど、私が最初に聞いたのは、50年、70年変わっていない、これが変ですよねという話ですよね。配置基準と現場の感覚が全く違うことを大臣に認めていただきたいんです」と語尾を強め、畳みかけた。 「1歳児、2歳児は、国の基準では6対1です。これで災害の時に子どもの安全を守ることができるのでしょうかということを聞きたいんです。例えばアンケートの自由記載の部分では、次のような回答がありました。 『子どもの発達には個人差があり、1歳児でも歩けない子どもがいるなか、6対1の配置では全く十分でない。おんぶ、だっこ、両手をつないで守れるのは4人まで。残り2人を声かけで避難など到底、無理』 大臣は、1歳児や2歳児6人に保育士1人という配置で、例えば地震などの災害が起きた場合、火事が起きた場合、安全を守ることができるとお思いになりますでしょうか」 ここでも問いに答えない加藤大臣。「地域の関係機関と連携して必要な協力が得られるよう努めるなどの対応をお示ししているところ。保育所には安全計画、それに沿った対応をお願いできるよう努力したい」と、論点をずらした。 大西議員は「全く、かみ合っていないと思うんですよ。安全計画を立てても、おんぶ、だっこ、両手をつないで4人、これしか無理なんです。逃げられないですよ。だから、これでは安全を守れないですよね、ということを言っているんです」と怒りを露わにした。) これは災害には限らない。アンケートの別の回答も切実だ。 「『3歳児18人を1人で担任していた時に、まだお漏らしをする子も多い中、便の始末にかかっている間に、部屋にいる子がけんかで、かみつきがあったり、椅子に上って大人の事務戸棚からセロテープをとろうとしてテープカッターを落としてしまい、テープカッターの刃の部分で隣にいた子の頭を切ってしまい3針縫うけがをさせてしまったことがあります』。 場面が思い浮かぶようなリアルなエピソードですが、3歳児は今、20対1の配置基準です。こういう配置基準だと、今言ったように目が届かなくて事故が起こるのが避けられないと私は思うのですが、これは大臣、いかがでしょうか」(大西議員) 加藤大臣は質問には答えず「保育士の皆さんは大変なご苦労をいただいているというふうに承知したおります」と言って、保育士の補助を行う保育補助者の雇い上げに必要な費用、業務の効率化のための登園管理システムの導入するためのICT化の推進など保育士の負担軽減策を行っていると細かな説明を始めた。 大西議員は「またかみ合ってない。子どもの発達という点でも、ぎりぎりの人数でやっている現状というのは、私は問題だと思っています」と指摘した。 そして、再びアンケート結果に話を戻した。アンケートでは「国の保育士配置基準が改善されればどのようなよい点があるか」という質問に対して、「1人ひとりにじっくり向き合える」「子どもたちの主体性を大切にし、いろんなことに挑戦したり、なかなかできない遊びを保障できる」「事務負担も分担してサービス残業も減る」「一人の負担も減るからメンタル的なしんどさも解消され、保育士を辞める人も減る」という回答が寄せられた。 大西議員が「子どもの発達、保育士の退職防止のためにも配置基準の見直しは必要。大臣、いかがでしょうか」と質問してやっと、加藤大臣は「今の基準を保持していくべきだということを申し上げているのではなく、既に、1歳児、4~5歳児は見直していくことを決めている」と国のスタンスに言及したのだった。とはいえ、「それを進めるにあたって安定的な財源をどう確保するか議論を進めたい」と、またも財源論。 大西議員は「決まって、この話になり、お金がないからできないと言って50年、70年やってこなかった。保育の質が置き去りになっているのは大問題。もう財源の確保を言い訳にしないで、必要なことはやる。こども家庭庁ができ、今まさにそのタイミングが来ている。加藤大臣、是非、ご決断いただきたいと思います」と迫った。 「政治判断が下されれば、予算は作られる」というのが永田町と霞が関の”常識”でもある。1歳児と4~5歳児の配置基準を引き上げるために必要な予算は、年に約1300億円。国家予算の規模からすれば、決して大きすぎる額ではない。) この問題に迫っているのは、大西議員だけではない。この質疑の1カ月前、2022年10月20日の参議院予算委員会では、片山大介議員が予算確保の必要性について岸田首相に迫り、10年前から実現しない「0.3兆円メニュー」の存在を改めて掘り起こしていた。 片山議員(画像:衆議院インターネット審議中継より) 「10年前の子ども・子育て関連三法の付帯決議で、配置基準の改善に必要な予算の確保を図るということを求めています。当時の民主党、自民党、公明党の三党で社会保障の一体改革のなかの確認書で、保育の質を上げようという話になっている。俗にいう0.3兆円メニューですが、あれから10年経っても実現されていないのです」 岸田首相は明言を避けたが「おっしゃるように、保育の質と予算とのバランスは考えていかなければならない課題だと思います。時代の変化のなかで果たすべき役割との関係で考えていく課題であると認識します」と含みを持たせるような答弁をした。 2023年に入って岸田首相が「異次元の少子化対策」を掲げ、政府は3月末に「たたき台」をまとめた。保育士の配置基準の改善のほかの主な対策は、①児童手当の所得制限の撤廃、②育児休業の給付金の拡充、③高等教育の経済負担の軽減策―――。他にも、出産費用の保険適用化、学校給食の無償化など、多岐に渡る政策が並んだ。 統一地方選を前に高所得者層の不満を解消すべく、児童手当の所得制限の撤廃がフォーカスされるなかでの「たたき台」の発表だった。 議論が児童手当の所得制限の撤廃に集中するあまり、国会周辺では「財源が児童手当の拡充にもっていかれては、配置基準の引き上げに予算がかけられないのではないか」という心配があった。「厚生労働省や内閣府は何年も前から配置基準の引き上げを行おうとしていたが、安倍晋三政権で保育園や幼稚園の無償化政策が行われた時も多額の予算が割かれてしまった」(関係者)という経緯もある。 岸田首相が「子ども予算倍増」と言う一方で、配置基準引き上げについて政府は煮え切らない。複数の関係者が「3月末に出た『たたき台』に向けて、内閣府と厚労省からは配置基準の引き上げは必須として、他の質の向上に関する政策も含めてすべて提出されていた」としており、「要望を受け取った小倉將信少子化担当大臣が頭を抱えていたようだ」と明かす。一方で、「国会でも大きく取り上げられ、さすがに今回は配置基準を変えるだろう」との見方も強まったが、結局のところ基準の「引き上げ」ではなく「改善」に留まった。 今後、「たたき台」をベースに岸田首相を議長とした「こども未来戦略会議」での議論を経て必要な政策や予算、財源が6月の「骨太の方針」までに示される。 こども家庭庁が発足して間もない4月4日、参議院の内閣委員会では井上哲士議員も配置基準を「引き上げ」るのか「改善」なのかを追及すると、小倉大臣が「基準の引き上げは行わない」と答えた。) 「最低基準を引き上げた場合、すべての保育園で基準をクリアする必要が出るため、保育士確保で現場に混乱が生じる可能性もあります。現状、様々な園において基準に達しないということも起こる可能性がある」(小倉大臣) この答弁に対して井上議員は、保育士の資格を持ちながら保育士として働いていない潜在保育士の多さを指摘。「厚生労働省の資料では、2019年で保育士の有資格者は160万7000人いるが、保育所などで働いているのは62万6000人で38.9%に過ぎない」と切り返した。 井上議員(画像:参議院インターネット審議中継より) そして、井上議員は「配置基準の抜本改定は、魅力とやりがいのある職場につながる。基準どおり配置できない保育園ができるということでない。これだけの資格者がいるわけですから、保育士が保育園で働けるようにするためにも1人当たりの子ども数を減らす点で、基準の改定は待ったなしだ」と小倉大臣に詰め寄った。 多くの国会議員が基準引き上げを求めるなか、国が言い訳にする保育士確保の問題には疑問が残る。 2022年12月の段階で、認可保育園全体の約2割が既に「チーム保育推進加算」という運営費の上乗せ制度を使って4~5歳児の「25対1」を図っている実態を、内閣府は把握していた。そのうえで、現場が「25対1」でない園の定員分布を分析。「121人以上の大規模な認可保育園が全体の約2割を占め、その4歳児クラス、5歳児クラスの人数が平均で25人を超えている」(内閣府、当時)として、2023年度から「チーム保育推進加算」を拡充したのだ。つまり、既に大半の園で「25対1」になっているのだ。 1歳児の配置については、東京都などの自治体が上乗せ補助を行い「5対1」を既に実現しているケースが少なくない。出生数減少により定員割れしている保育園が急増するなか、行政サイドからも「待機児童が多かった数年前であれば基準引き上げで混乱が生じてしまうが、今は状況が違う。最初は加算方式でも、何年かかけて基準を引き上げればいい」との見方がある。一方で、複数の国会議員が「保育園経営に近い立場の国会議員が、基準引き上げに猛烈に反対した」と明かす。 都市部や地方の複数の保育園経営者、業界団体の役員などは「園の評判が悪いことで保育士が集まらない場合があるだろうが、現状、配置基準が引き上げられても保育士確保に問題はない」と口を揃える。たとえ直ちに配置基準の引き上げとならなくても、数年後に基準を変えると宣言して猶予期間を作るなど、工夫はできる。今後の国会論戦でも国を動かす議論は見られるだろうか』、「2022年12月の段階で、認可保育園全体の約2割が既に「チーム保育推進加算」という運営費の上乗せ制度を使って4~5歳児の「25対1」を図っている実態を、内閣府は把握していた。そのうえで、現場が「25対1」でない園の定員分布を分析。「121人以上の大規模な認可保育園が全体の約2割を占め、その4歳児クラス、5歳児クラスの人数が平均で25人を超えている」(内閣府、当時)として、2023年度から「チーム保育推進加算」を拡充したのだ。つまり、既に大半の園で「25対1」になっているのだ・・・複数の国会議員が「保育園経営に近い立場の国会議員が、基準引き上げに猛烈に反対した」と明かす・・・たとえ直ちに配置基準の引き上げとならなくても、数年後に基準を変えると宣言して猶予期間を作るなど、工夫はできる。今後の国会論戦でも国を動かす議論は見られるだろうか」、「国を動かす議論」を期待したい。
先ずは、本年2月9日付けPRESIDENT Onlineが掲載した労働経済ジャーナリストの小林 美希氏による「2歳児を公園に置き去りにして帰ってくる…全国の保育園で「昔にはあり得なかったこと」が起きている根本原因 保育が「儲かるビジネス」になり、質が低下している」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/66268
・『幼稚園や保育園で「園児の置き去り事故」が相次いでいる。労働ジャーナリストの小林美希さんは「諸悪の根源は安倍政権の下で進んだ待機児童対策だ。園の数はここ10年で急増したが、保育士の労働環境は悪化しており、保育の質が低下している」という――』、興味深そうだ。
・『「いつ置き去り事故が起こってもおかしくない」 「子どもを公園に置いて園に帰ってきてしまう。少し前なら、あり得ないことが起こっているのです」 都内の認可保育園の小田明子園長(仮名、60代半ば)は、驚きを隠せない。小田園長は公立保育園も含めて40年以上、保育現場に携わっている。現在は私立の認可保育園の園長で、これまで大きな事故もなく過ごしてきたが、1年ほど前に保育士が2歳の園児を公園に置いたまま散歩から帰ってきてしまい、肝を冷やした。 園児がいないことに気づき、慌てて園長と保育者数人とで外を探すと、近隣の住民に保護され、ことなきを得た。もしも誤って道路に飛び出していれば交通事故に遭っていたかもしれないと思い、身震いした。担任保育士は経験が浅く、ケガが起きないように見るので精一杯。「早く保育園に帰って、給食の準備をしなければ」という焦りがあって、園児の点呼を忘れていたという。 こうした事態に小田園長は頭を悩ます。 「園児が全員いるかどうか点呼することは、基本中の基本です。公園に着いた時はもちろん、遊んでいる最中、園に帰る時も全員が揃っているか、常に確認する。それが、業務に追われて目の前の子どもが見えなくなっているのです。いつ置き去り事故が起こってもおかしくない環境なのです」』、「園児が全員いるかどうか点呼することは、基本中の基本です。公園に着いた時はもちろん、遊んでいる最中、園に帰る時も全員が揃っているか、常に確認する。それが、業務に追われて目の前の子どもが見えなくなっているのです。いつ置き去り事故が起こってもおかしくない環境なのです」、なるほど。
・『20人の子どもたちを4畳半程度のスペースに… それというのも小田園長が勤める法人は、保育園の数を増やして事業拡大することと利益を上げることを優先させている。人件費を抑えるため、保育士は低賃金で人員体制はギリギリという状態なのだ。若手が疲弊して、2~3年で辞めていく。そうしたなかで起こった置き去りだった。 他の都内の私立の認可保育園でも、園児が保育園から一人で出ていこうとしていた。たまたま居合わせた保護者の飯田恵さん(仮名、40代)が止めたが、その後の対応が不十分だった。飯田さんは、「子どもが勝手に出ていかないようにと、登園時やお迎えラッシュの時間帯は20人もの子どもたちが、4畳半程度のスペースに囲った柵のなかに詰め込まれるようになりました」と憤りを隠せない。 日頃から、園児同士の噛みつき、ひっかきも多い。大きなすり傷に気づいた飯田さんが理由を尋ねても、担任の保育士は「見ていなかったので分からない」と言うだけ。改善を求めてもケガが続いたことから、飯田さんは「これではいつ子どもが死ぬかも分からない」と子どもを転園させた』、「人件費を抑えるため、保育士は低賃金で人員体制はギリギリという状態なのだ。若手が疲弊して、2~3年で辞めていく。そうしたなかで起こった置き去りだった・・・大きなすり傷に気づいた飯田さんが理由を尋ねても、担任の保育士は「見ていなかったので分からない」と言うだけ。改善を求めてもケガが続いたことから、飯田さんは「これではいつ子どもが死ぬかも分からない」と子どもを転園させた」、「転園」とは賢明な判断だ。
・『安倍政権下で保育は「儲かるビジネス」と化した 福岡県中間市や静岡県牧之原市で起こった通園バス園児死亡事件は、出欠確認が徹底されないことによって園児がバスに置き去りになった。この事件は、保育の基本中の基本である園児の出欠確認ができないほど、現場の質が劣化していることを意味する。 園児が置き去りにされる、不適切な保育が横行するなどの保育の質の低下は、保育士の労働環境の悪化が大きく影響しているのだ。 その背景にあるのは、安倍晋三政権下で待機児童対策が目玉政策となり、急ピッチで保育園が作られるようになったことだ。 公的な保育園は、2013年度の2万4038カ所から22年度は3万9244カ所へと大幅に増えた。安倍政権が「株式会社に受け皿整備を担ってもらう」という方針を打ち出したことで、営利企業による認可保育園は13年の488カ所から21年に3151カ所にまで急増した(厚生労働省「社会福祉施設等調査」)。 保育園の増加ペースに人材が追い付かないうえ、事業者のモラルが低下。保育を「3兆円を超える市場」と捉え、儲けるために参入する事業者が雨後の筍のように現れた。利益を出すために人件費が削られ、保育士の労働環境が劣悪になった』、「公的な保育園は、2013年度の2万4038カ所から22年度は3万9244カ所へと大幅に増えた。安倍政権が「株式会社に受け皿整備を担ってもらう」という方針を打ち出したことで、営利企業による認可保育園は13年の488カ所から21年に3151カ所にまで急増した・・・保育園の増加ペースに人材が追い付かないうえ、事業者のモラルが低下。保育を「3兆円を超える市場」と捉え、儲けるために参入する事業者が雨後の筍のように現れた。利益を出すために人件費が削られ、保育士の労働環境が劣悪になった」、なるほど。
・『人件費がほかの費目に流用できるようになった かつて、認可保育園は公共性の高さから自治体か社会福祉法人しか設置・運営ができなかった。それが2000年の規制緩和によって、営利企業、宗教法人、NPO法人の参入が容認された。それと同時に、私立の認可保育園に支払われる運営費の使途の規制緩和である「委託費の弾力運用」が大幅に認められるようになった。 私立の認可保育園の運営費は「委託費」と呼ばれ、税金を主な原資とする。委託費の算定基準である「公定価格」では、人件費は基本的な部分だけでも全体の約8割を占める。人件費のほか、玩具や絵本を買うなど保育に要する「事業費」が約1割、職員の福利厚生費などの「管理費」が約1割必要だと国が想定し、委託費が各園に支払われている。 「委託費の弾力運用」が認められると、それまであった「人件費は人件費に使う」という使途制限が緩和され、人件費分を事業費や管理費へ流用するという各費目の相互流用のほか、同一法人が運営する他の保育園や介護施設への流用、施設整備費への流用などが許されるようになった。 ある程度の経営の自由度は必要だが、自民党政権下で規制緩和が繰り返され、今では委託費の年間収入の4分の1もの金額を他の費目に流用できるようになっている。そこに目をつけた事業者は、人件費を抑えて事業を拡大し、利益を得ていったのだ』、「人件費分を事業費や管理費へ流用するという各費目の相互流用のほか、同一法人が運営する他の保育園や介護施設への流用、施設整備費への流用などが許されるようになった。 ある程度の経営の自由度は必要だが、自民党政権下で規制緩和が繰り返され、今では委託費の年間収入の4分の1もの金額を他の費目に流用できるようになっている。そこに目をつけた事業者は、人件費を抑えて事業を拡大し、利益を得ていったのだ」、なるほど。
・『565万円→381万円…200万円はどこに消えたのか その結果、委託費の8割以上を占めるはずの人件費が抑え込まれた。東京都による2018年度実績の調査では、都内の社会福祉法人の人件費支出の割合は7割、株式会社では5割にとどまり、その傾向は今も変わっていない。 委託費を算出するための「公定価格」は全国8つの地域区分に分かれ、それぞれ単価が異なる。公定価格が最も高い東京23区で見てみると、2021年度の保育士一人当たりの基本的な賃金年額は約442万円となる。 営利企業が集中して進出する東京23区では、その442万円に処遇改善費が加わると、単純計算だが、最大で約565万円の賃金が公費で出ていることになる。しかし、東京23区で実際に保育士が手にとる賃金は約381万円と少ない(内閣府「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態調査」2018年度実績)。計算上、公費から出る賃金額と実際に保育士に支払われる金額の差が、最大で年間200万円近くになる。その差はどこに消えるのか』、「計算上、公費から出る賃金額と実際に保育士に支払われる金額の差が、最大で年間200万円近くになる。その差はどこに消えるのか」、「差」が「最大で年間200万円近く」とは無視出来ない額だ。
・『基準より人員を多く雇う保育園はあるが… ただ、賃金が低くなる正当な理由もある。人件費は基本的には最低配置基準に沿って出るため、基準より多く雇えば一人当たりの賃金が低くなるケースがある。 認可保育園などの保育士の最低配置基準は、0歳児が園児3人に対して保育士1人(「3対1」)、1~2歳児が「6対1」、3歳児が「20対1」、4~5歳児が「30対1」となっている。4~5歳児の基準は戦後から70年以上も変わっていないため、この体制では不十分だと判断して人員を多く雇う保育園は多く、ひとつの認可保育園で平均3~4人を多く配置している(内閣府調査)。このように保育士の多い園では、一人当たりの賃金が低くなってもやむを得ない事情がある。 とはいえ冒頭のように、配置基準ギリギリにして人件費を抑える保育園は少なくない。利益重視の事業者は営利企業でも社会福祉法人でも、「コストコントロール」を図るため、「保育士の適正配置」「職員配置の適正化」を掲げている。つまり「人件費カットのため、最低配置基準を守れば人員体制はギリギリでいい」(複数の業界関係者)という考え方だ』、「保育士の最低配置基準」では不十分として、「ひとつの認可保育園で平均3~4人を多く配置している」、他方で、「最低配置基準を守れば人員体制はギリギリでいい」・・・という考え方」をとるところも多い。
・『都内30カ所で違反が常態化している ある中堅企業傘下の保育園で働いていた保育士は「園児の欠席が多いと、配置基準上で保育士が余るので、他園にヘルプに出されました。普段みていない園児を保育するのは不安でした。職員の数に余裕がないため、誰かが急に休むと、とたんに配置基準を割ってしまいます。これでは、いつ事故が起きてもおかしくないと思って辞めました」と話す。 1年半ほど前に筆者は東京都が認可保育園に対して行った2017~19年度の監査結果について調べており、「保育士が適正に配置されていない」などの文書指摘を受けた保育園が都内で合計153カ所に上った。 それらの違反の詳細について都に情報開示請求を行うと、「保育士配置違反が常態化している」「無資格者しかいない時間帯がある」などの実態が明らかになった。保育士配置違反が常態化している園と違反状態が長く続いていると見られる園は合計30カ所もあった。そもそも少ない配置基準でさえ守られないのでは、保育士は疲弊し、子どもの安全を守ることは難しいだろう』、「保育士配置違反が常態化している園と違反状態が長く続いていると見られる園は合計30カ所もあった。そもそも少ない配置基準でさえ守られないのでは、保育士は疲弊し、子どもの安全を守ることは難しいだろう」、なるほど。
・『6年間で保育事故は3.5倍に 保育士の配置基準については、2014年3月の段階で、1歳児を現行の園児6人に対し保育士1人(「6:1」)から「5:1」へ、4~5歳児は「30:1」から「25:1」にすると国は計画し、必要な予算を約1300億円と試算していた(「子ども・子育て支援新制度における『量的拡充』と『質の改善』について」)。 配置基準の引き上げは保育業界の長年の悲願であり、ようやく2023年度から「チーム保育推進加算」を拡充することで、大規模園の4~5歳児の「25対1」の実現が図られる。これを第一歩に、抜本的な改善が必要だ。 保育事故は年々増えている。内閣府の「教育・保育施設等における事故報告集計」から、認可保育園で起こった死亡・負傷等の事故件数を見ると、2015年の344件から2021年は1191件となり、この6年で3.5倍近く増えている。 2021年の保育事故の状況を詳しく見ると、負傷等のうち最も多いのが骨折の937件、その他(指の切断、唇、歯の裂傷等を含む)が242件あり、意識不明が8件、火傷が2件、死亡が2件だった。年齢別では、保育士配置が手薄になる4~5歳の多さが目立ち、それぞれ246件、404件だった』、「認可保育園で起こった死亡・負傷等の事故件数を見ると・・・2015年の344件から2021年は1191件となり、この6年で3.5倍近く増えている・・・2021年の保育事故の状況を詳しく見ると、負傷等のうち最も多いのが骨折の937件、その他(指の切断、唇、歯の裂傷等を含む)が242件あり、意識不明が8件、火傷が2件、死亡が2件だ」、大変だ。
・『事業者が利益を得るための制度ばかりが変わっていく 政府は1月27日、通園バス園児置き去りの再発防止のための調査結果を公表した。通園バスをもつ保育園などのうち約2割に乗降時の子どもの安全管理に課題があったとしている。4月からは通園バスに安全装置の設置が義務付けられるが、問題の本質は保育士不足や保育の質の低下であり、保育士の労働条件の改善こそが急務の課題だ。 4月にこども家庭庁が発足する今こそ、最低配置基準の引き上げを行い、それと同時に前述した「委託費の弾力運用」の規制を強化して人件費の流出を食い止めなければ、保育士の労働環境は変わらない。保育士が守られなければ、犠牲になるのは子どもたちだ。 この国は、保育事業者が利益を得るための制度は次々に変えていくが、保育現場で子どもが命を落としても、子どもにとって必要な制度は変わらない。保育は児童福祉法に基づく福祉行政の一貫として行われていることを忘れてはならない』、「問題の本質は保育士不足や保育の質の低下であり、保育士の労働条件の改善こそが急務の課題だ・・・「委託費の弾力運用」の規制を強化して人件費の流出を食い止めなければ、保育士の労働環境は変わらない。保育士が守られなければ、犠牲になるのは子どもたちだ」、同感である。
次に、4月24日付け東洋経済オンラインが掲載したフェリス女学院大学 文学部英語英米文学科 助教の関口 洋平氏による「「保育園の重大事故」園だけを責められない問題点 「待機児童ゼロ作戦」によって本末転倒な状況に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/667340
・『日常のいたるところで濫用され、消費されている「イクメン」という表現。2022年10月から改正育児・介護休業法により「産後パパ育休」が施行され、この4月からは育児休業取得状況の公表が義務化。「イクメン」という言葉の流布から10年以上が経ち、再び注目されるキーワードになった今こそ、その意味を構造的に問いなおすことが必要なのではないだろうか。 本稿は、子育ての話題の中でも特に議論を呼ぶ「保育園」を取り巻く問題について、検証する。自身も子育て中のアメリカ研究者が「イクメン」という言葉そのものに疑義を抱くところから始まる最新著書『「イクメン」を疑え!』(集英社新書)より、一部抜粋・再構成してお届けします。 アメリカでは保育園の設置基準が統一されていないのに対して、日本では国が認可保育所の条件を定めている。どの認可保育所を利用しても最低限の質は担保されているので、利用者は比較的安心して子どもを預けることができる。日本に住む私たちにとって、そうした質の高い保育は「育児のネットワーク」の重要な一部をなしている。 ところが、ここ20年あまりの新自由主義的な潮流のなかで、育児に対する公的な支援は日本でも徐々に削減されてきた。一言で言えば、日本においても保育の市場化が急速に進んだのである。本稿では少子化や待機児童といった日本独自の事情を勘案しつつ、新自由主義が日本の保育に与えた影響を検討したい』、「ここ20年あまりの新自由主義的な潮流のなかで、育児に対する公的な支援は日本でも徐々に削減されてきた。一言で言えば、日本においても保育の市場化が急速に進んだのである。本稿では少子化や待機児童といった日本独自の事情を勘案しつつ、新自由主義が日本の保育に与えた影響を検討したい」、なるほど。
・『保育園から「突然の通告」 はじめに、ここではひとつの具体例を紹介したい。東京都目黒区在住の竹内冬美さんは、いわゆる「保活」の末に2019年から区立保育園を利用し始めた。その区立園は評判どおりに保育の質が高く、2021年からは第二子も預けることができて満足していた――そんな矢先の4月半ばである。 竹内さんは保育園から1枚の薄い藁半紙を受け取った。その紙に掲載されていたQRコードを読み取って区のホームページを見ると、その区立園が数年後に別の区立園と統合されたうえで民営化されることが事務的に記されていた。) 青天の霹靂としか言いようのない保育園民営化計画を知って、竹内さんは困惑と怒りの混ざった感情を抱いたという。 慣れ親しんだ保育士がいなくなったとき、子どもたちはどのような反応をするだろうか?新しい保育園において保育の質はどこまで保持されるのだろうか?あるいは、公立の保育園がそれまで担ってきた公的役割─地域の避難所や子育て支援の拠点としての機能、障がい者の受け入れなど─はどうなるのだろうか?区による一方的な決定に疑問を感じた竹内さんたち保護者は、区立園の存続に向けた活動を始めた(※1)。 この例からもわかるとおり、保育園民営化は現在に至るまでさまざまな自治体において重要な争点になっている。だが、民営化の議論は近年に始まったことではない』、「保育園民営化は現在に至るまでさまざまな自治体において重要な争点になっている。だが、民営化の議論は近年に始まったことではない」、なるほど。
・『「待機児童ゼロ作戦」で目指したこと 日本において保育への公的支出がカットされ始めたのは、1980年代のことである。公立保育園の数が1983年に過去最多を記録した一方で、この時代には保育園運営費の国家負担率が徐々に削減されていった。公立保育園にのみ多額の公費が投入されることや、公立保育士の賃金の高さなどが批判されたのである。 このような流れのなかで、鈴木善幸内閣・中曽根康弘内閣の第二次臨時行政調査会は、保育園の民営化をひとつの目標として掲げた。 ところが、この時代には「生活可能な、主体的に働くことを選んでいる共働き層への保育サービスの供給は『公費の乱用』と指摘された」というから、待機児童の増大と少子化を背景とした現在の保育園民営化とは事情が大きく異なる(※2)。 共働きの家庭が現在ほど一般的でなかったこの時代においては、保育園の数を増やすどころか、むしろ抑制することが課題とされたのである。事実、1980年を境に保育園の入所児童数は緩やかに減少していった(※3)。 そのような方針を一変させる要因となったのが、1990年のいわゆる「1.57ショック」である。1973年には2.14であった合計特殊出生率(ひとりの女性が一生の間に産む子どもの数)は急速に低下し、1989年に1.57となったのだ。 この衝撃を受けて、政府は少子化対策としてさまざまな政策を矢継ぎ早に策定した。1994年の「エンゼルプラン」、1999年の「新エンゼルプラン」、2003年の次世代育成支援対策推進法・少子化社会対策基本法などがその一例である。 (※1)2021年8月21日、個人インタビュー。 (※2)萩原久美子「保育供給主体の多元化と公務員保育士─公共セクターから見るジェンダー平等政策の陥穽」『社会政策』8.3(2017年)66頁。 (※3)汐見稔幸・松本園子・髙田文子・矢治夕起・森川敬子『日本の保育の歴史子ども観と保育の歴史150年』(萌文書林、2017年)318頁。) 一連の少子化対策のなかで重視されたのが、保育園の量的な拡大だった。2001年に発足した小泉純一郎内閣は「待機児童ゼロ作戦」を掲げ、2002年度から3年間で15万人の保育園児の受け入れ増を目指した。「聖域なき構造改革」というキャッチフレーズを掲げて小泉政権が新自由主義的な政策を推進したことはよく知られているが、「待機児童ゼロ作戦」もその延長線上にある。 保育園の量的拡大を実現するために重用されたのは、規制緩和と民営化という二本柱であった。産業構造の変化により、いわゆる「家族賃金モデル」(父親がひとりで家族全員を養うことができるだけの賃金を終身雇用制により保障するシステム)が崩壊し、共働き世帯が増加していたことも相まって、これらの改革は急速に進行した』、「公立保育園の数が1983年に過去最多を記録した一方で、この時代には保育園運営費の国家負担率が徐々に削減されていった。公立保育園にのみ多額の公費が投入されることや、公立保育士の賃金の高さなどが批判されたのである。 このような流れのなかで、鈴木善幸内閣・中曽根康弘内閣の第二次臨時行政調査会は、保育園の民営化をひとつの目標として掲げた。 ところが、この時代には「生活可能な、主体的に働くことを選んでいる共働き層への保育サービスの供給は『公費の乱用』と指摘された」というから、待機児童の増大と少子化を背景とした現在の保育園民営化とは事情が大きく異なる(※2)。 共働きの家庭が現在ほど一般的でなかったこの時代においては、保育園の数を増やすどころか、むしろ抑制することが課題とされた・・・そのような方針を一変させる要因となったのが、1990年のいわゆる「1.57ショック」である。1973年には2.14であった合計特殊出生率(ひとりの女性が一生の間に産む子どもの数)は急速に低下し、1989年に1.57となったのだ。 この衝撃を受けて、政府は少子化対策としてさまざまな政策を矢継ぎ早に策定・・・一連の少子化対策のなかで重視されたのが、保育園の量的な拡大だった。2001年に発足した小泉純一郎内閣は「待機児童ゼロ作戦」を掲げ、2002年度から3年間で15万人の保育園児の受け入れ増を目指した・・・保育園の量的拡大を実現するために重用されたのは、規制緩和と民営化という二本柱であった。産業構造の変化により、いわゆる「家族賃金モデル」・・・が崩壊し、共働き世帯が増加していたことも相まって、これらの改革は急速に進行した」、これまでの流れが要領良く整理されている。
・『規制緩和で起こった「詰め込み保育」の弊害 新自由主義改革が保育という領域に与えた影響を理解するために、まずは規制緩和という側面に注目してみよう。 小泉政権が促進したのは、保育園の入所定員の「弾力化」である。「弾力化」とは耳慣れない言葉かもしれないが、規制を緩和して制度を柔軟に適用するということであり、この文脈では、「詰め込み保育」を意味している。この改革により、待機児童が多い自治体では、保育園の定員を超えて(年度初めは15%増しまで、年度途中は25%増しまで、年度後半は無制限)子どもを預かることが認められた。 小泉政権は保育園の入所定員だけでなく、保育士の配置基準も緩和した。1998年には常勤の保育士を原則とする規定が撤廃され、基準配置数の2割までという条件付きで短時間勤務保育士(非常勤保育士)を配置することが認められた。 小泉政権はこの規制緩和をさらに推し進め、非常勤保育士の上限を撤廃した。各クラスに1?2名以上常勤の保育士がいれば、あとはすべて非常勤保育士でもよくなったのである。 入所定員の弾力化や保育士の配置基準の緩和は、待機児童を減らすという意味では一定の効果があった。その一方で、規制緩和により保育の質が低下したこともまた事実である。 常勤の保育士が原則であったのは、保育士が頻繁に入れ替わると子どもが安定した人間関係を築けないからである。保育園に定員が設定されているのは、キャパシティを超えて園児を受け入れると十分に目が行き届かず、事故の可能性が高まるからだ。) 事実、保育園で起きた痛ましい死亡事故に関する報道は後を絶たない。ジャーナリストの猪熊弘子によれば、「事故が起きた施設の多くは、保育室の面積が非常に狭く、職員が少なく、無資格者や資格を持っていたとしても経験の少ない場合がほとんど」であり、「余裕のない保育施設の運営が、子どもの死亡事故を招いている」という(※4)。 事故を起こした個々の保育施設を責めることは簡単だが、その背後に構造的な要因が潜んでいることが看過されてはならない』、「「事故が起きた施設の多くは、保育室の面積が非常に狭く、職員が少なく、無資格者や資格を持っていたとしても経験の少ない場合がほとんど」であり、「余裕のない保育施設の運営が、子どもの死亡事故を招いている」という」、重大な指摘だ。
・『「保育園民営化」の推進で何が起こったか 待機児童対策のために政府が重視したもうひとつの方針が、民営化である。2000年には営利企業も認可保育所に参入できるようになった。自治体か社会福祉法人しか認可保育所を設置・運営してはならないという規制が撤廃されたのである。 小泉政権は、民営化の流れをさらに加速させた。2003年に内閣府により発表された報告書では、「保育サービスの需要は今後ますます増大し、将来有望な市場となる」一方で、「株式会社の参入を認めるなど規制緩和が進んだにもかかわらず、そのメリットが利用者にきちんと還元されて」いないことが問題視された(※5)。 公立保育園では「効率的に経営が行われて」おらず、規制緩和の徹底により民間企業の参入を促すことが必要である、というのがこの報告書の結論である。公立保育園のコスパの悪さを強調する一方で保育サービスが将来的に有望な市場であることを明記するこの報告書には、「すべての領域を金銭化する」新自由主義の基本方針が明確に反映されている。 この報告書の議論を受け、2004年にはいわゆる三位一体改革の一環として公立保育園の運営費が一般財源化された。それまでは国庫補助負担金という形で保育園の運営のためだけに使える予算が自治体へ支給されていたが、この補助金の廃止によって用途が特定されない予算が自治体に支給され、自治体ごとにその予算を自由に割り振れるようになったのである。 (※4)猪熊弘子『「子育て」という政治少子化なのになぜ待機児童が生まれるのか?』(角川SSC新書、2014年)101頁。 (※5)内閣府国民生活局物価政策課「保育サービス市場の現状と課題─『保育サービス価格に関する研究会』報告書─」2003年。) この一般財源化を機に、多くの自治体は保育園関連の予算を大幅にカットした。その結果、先述したような民営化による混乱が2000年代には続発した(※6)。また、公立・私立を問わず、保育士の非正規雇用化が進んだ。 慢性的な財政難に苦しむ自治体にとって、民営化によるコスト削減は魅力的である。民営化や統廃合が進むにつれて公営保育園の数は徐々に減り、2007年には私営保育園の数を下回った。2021年時点で、公営保育園が7919カ所あるのに対し、私営保育園は2万2076カ所である。 2000年の時点では公営・私営それぞれ1万2707カ所と9492カ所であったので、保育園の総数が増えていること、また公営・私営の割合が著しく逆転していることがわかる(図 ※7)』、 「慢性的な財政難に苦しむ自治体にとって、民営化によるコスト削減は魅力的である。民営化や統廃合が進むにつれて公営保育園の数は徐々に減り、2007年には私営保育園の数を下回った。2021年時点で、公営保育園が7919カ所あるのに対し、私営保育園は2万2076カ所である。 2000年の時点では公営・私営それぞれ1万2707カ所と9492カ所であったので、保育園の総数が増えていること、また公営・私営の割合が著しく逆転していることがわかる」、これほど「公営」と「私営」の割合が「逆転」したとは、衝撃的だ。
・『保育の質が低下することへの懸念 誤解しないでほしいのだが、私は民間の保育園や非正規の保育士は質が低いと主張したいわけではないし、公立の保育園が完璧であると言いたいわけでもない。私の個人的な経験から言っても、民間であれ、非正規であれ、有能で熱心な保育士は数多く存在している。 問題は、拙速な民営化によって保育の質が担保されないような構造ができ上がってしまったことなのだ。待機児童問題の深刻さを考えれば、営利企業の参入という判断は妥当であったかもしれない。だが、それによって保育の質が低下し、子どもを安心して預けられないのでは元も子もないはずである。 ※6)2000年代の保育園民営化については、たとえば以下の文献を参照。汐見稔幸・近藤幹生・普光院亜紀『保育園民営化を考える』(岩波ブックレット、2005年)、二宮厚美『構造改革と保育のゆくえ』(青木書店、2003年)、平松知子『保育は人保育は文化ある保育園民営化を受託した保育園の話』(ひとなる書房、2010年)。(※7)厚生労働省、平成12年?令和3年社会福祉施設等調査』、「問題は、拙速な民営化によって保育の質が担保されないような構造ができ上がってしまったことなのだ。待機児童問題の深刻さを考えれば、営利企業の参入という判断は妥当であったかもしれない。だが、それによって保育の質が低下し、子どもを安心して預けられないのでは元も子もないはずである」、「質の低下」は今後、問題化必至の由々しい問題だ。
第三に、 5月4日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの小林 美希氏による「"国会での論戦"で見えた「日本の保育」重大争点 「異次元の少子化対策」保育においてはどうなのか?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/669534
・『国会中継などで見かける大臣と議員の激しい論戦。その内容を注視して見たことはあるだろうか。 そこでは日本の未来を左右する重要な論点が多く扱われている。今の日本において見逃せない論点とは何か。ジャーナリストの小林美希さんが国会でとくに話題となった議論をたどりながら、問題の焦点に迫る。今回は「保育」の問題について取り上げる。 岸田文雄首相が大々的に掲げる「異次元の少子化対策」。保育園の通園バスに置き去りになって園児が死亡した事故や、保育士による虐待事件が相次ぐなど、保育の業界では事件・事故が続いている。そうした中、子どもを守る保育士の数を増やすべきと、人員増が求められている。 保育園には園児の年齢ごとに保育士の最低配置基準があり、現在、保育士1人で1~2歳児を6人、4~5歳児を30人みることができる。それでは保育士の負担が重いうえ、子どもたちに充分に目が行き届かないと、保育士の配置基準を引き上げることが検討課題になっている。 昨年来、国会では連日この問題が取り上げられ、当事者の運動も広がりを見せたことから、「配置基準が今年こそ引き上げられるのではないか」と期待がかかった。しかし3月末に発表された「異次元の少子化対策」の「たたき台」では、基準の「引き上げ」ではなく、手厚い保育を実施する園への運営費上乗せという「改善」に留まった。いったい配置基準引き上げを巡り、国会ではどんな論戦が行われ、議論の現在地はどうなっているのか』、興味深そうだ。
・『戦後から続いてきた「配置基準」をめぐる攻防 2022年11月9日、衆議院の厚生労働委員会では、大西健介議員が”難事”に向かった。持ち時間の多くを割いて説いたのは、保育士の最低配置基準引き上げの重要性についてだ。 認可保育園には保育士の最低配置基準が決められており、他のタイプの公的保育園もその基準に倣っている。配置基準が決められたのは戦後間もない1948年で、それ以降、大きく変わっていないことが問題視されている。 振り返れば基準が置かれた1948年の当初、0~1歳児は園児10人を保育士1人でみる「10対1」だった。0歳児は1967年に「6対1」へ、1998年に「3対1」へと基準が手厚い方向に変更された。 1~2歳児は1967年に「6対1」になって以降、50年以上変わっていない。4~5歳児は75年前からずっと「30対1」のまま。海外を見てみると、英国では保育者の持つ資格によるが、3歳以上5歳未満が「13対1」や「8対1」、ドイツは州ごとに異なるが3歳児未満の平均が「4.5対1」、3~6歳児が「11.8対1」や「8.6対1」などの厚みがある(厚生労働省の委託事業「諸外国における保育の質の捉え方・示し方に関する研究会」報告書2019年)。日本の基準引き上げは長年の課題だ。 大西議員は「基本的な考え方を聞いていきたい。大臣には是非、御自身のお言葉で、率直にお考えを」と切り出した。 「1歳児の基準は私が生まれた頃から変わっていない。4~5歳児は基準制定の1948年以来、70年以上変わっていないのです。1948年は戦後の第1次ベビーブーム。当時の出生数は約268万人、そして、昨年(2021年)の出生数は81万人。全く世の中が変わってしまっているのに、保育士の配置基準は変わっていない。ある種、異常なことだと思うが、大臣の率直な意見をお聞かせいただきたいと思います」(大西議員) 国会で議員が質問する内容は、事前に各省府庁に通告されて官僚が答弁を作り、それを基に閣僚が答えていく。大西議員は、大臣に対して官僚が作った答弁書を読むのではなく、大臣自身の言葉を求めた』、大西議員の質問はポイントを突いており、私も知りたいものだ。
・『ところが加藤勝信厚生労働相が説明し始めたのは、2015年度に行われた3歳児の配置改善についてだった。国は2014年に配置基準を引き上げる計画を立ており、一部は改善されている。 当時、消費税の税率を引き上げる際に、保育園の数を増やす「量的拡充」のための施策に必要な0.7兆円を消費税で賄い、そのなかで3歳児の配置基準の「20対1」を「15対1」にすると計画された。基準そのものは引き上げられなかったが、消費税を財源に「15対1」体制をとる園の運営費を「加算」して支給する形で、2015年度に改善した。 また、消費税以外を財源とする0.3兆円で「質の改善」を行うとして、1歳児の「6対1」を「5対1」へ、4~5歳児の「30対1」を「25対1」に引き上げるなどの計画が立てられた。それら保育の質を向上するための施策は「0.3兆円メニュー」と呼ばれているが、財源がないことを理由に2014年以降、実現しなかった。 加藤大臣は、「(目標としている)4~5歳児の配置改善は実施できていない。このことは強く認識をしているところ。引き続き、財源をしっかり確保する努力をしていきたい」と、淡々と答弁書を読み上げた。 大西議員は「答弁を読むのではなくて、70年前と今の社会、子どもを取り巻く状況は全く違う。70年で1回も配置基準が変わらないことが、率直に言って、これは普通ですか」と強調した。) ここで、愛知県の保育園関係者が結成した「子どもたちにもう1人保育士を!実行委員会」が2022年2月~3月に行ったアンケート調査の内容が紹介された。現場で実際に働く保育士が考える、保育士1人が受け持つ子どもの適切な人数は何人なのか。 国の基準は1歳児が「6対1」だが、保育士の約半数が「3対1」と答えている。同様に4~5歳児の国の基準は「30対1」だが、現場で最も多かったのは4歳児が15人、5歳児が20人だった。 大西議員は「これが現場の受け止めなんです。実際の配置基準と大きく乖離していることについて大臣の受け止めをお聞きしたいと思います」と重ねた』、初めの質問への答弁は完全にポイントをズラした官僚答弁だ。これに対し、「現場で実際に働く保育士が考える、保育士1人が受け持つ子どもの適切な人数は何人なのか」を「アンケート調査」をもとに質問するとはさすがだ。「加藤大臣」の不誠実な官僚答弁には僕でも頭にくる。
・ これに対し加藤大臣は、またも「3歳児の配置改善を行った」と成果を強調。そして、「1歳児、4~5歳児についての宿題を果たすべく、しっかり財源も確保し実現できるよう努力したい」と、”財源確保”を理由に逃げるかのような答弁をするにとどまった。 業を煮やした大西議員は「繰り返しになりますけれど、私が最初に聞いたのは、50年、70年変わっていない、これが変ですよねという話ですよね。配置基準と現場の感覚が全く違うことを大臣に認めていただきたいんです」と語尾を強め、畳みかけた。 「1歳児、2歳児は、国の基準では6対1です。これで災害の時に子どもの安全を守ることができるのでしょうかということを聞きたいんです。例えばアンケートの自由記載の部分では、次のような回答がありました。 『子どもの発達には個人差があり、1歳児でも歩けない子どもがいるなか、6対1の配置では全く十分でない。おんぶ、だっこ、両手をつないで守れるのは4人まで。残り2人を声かけで避難など到底、無理』 大臣は、1歳児や2歳児6人に保育士1人という配置で、例えば地震などの災害が起きた場合、火事が起きた場合、安全を守ることができるとお思いになりますでしょうか」 ここでも問いに答えない加藤大臣。「地域の関係機関と連携して必要な協力が得られるよう努めるなどの対応をお示ししているところ。保育所には安全計画、それに沿った対応をお願いできるよう努力したい」と、論点をずらした。 大西議員は「全く、かみ合っていないと思うんですよ。安全計画を立てても、おんぶ、だっこ、両手をつないで4人、これしか無理なんです。逃げられないですよ。だから、これでは安全を守れないですよね、ということを言っているんです」と怒りを露わにした。) これは災害には限らない。アンケートの別の回答も切実だ。 「『3歳児18人を1人で担任していた時に、まだお漏らしをする子も多い中、便の始末にかかっている間に、部屋にいる子がけんかで、かみつきがあったり、椅子に上って大人の事務戸棚からセロテープをとろうとしてテープカッターを落としてしまい、テープカッターの刃の部分で隣にいた子の頭を切ってしまい3針縫うけがをさせてしまったことがあります』。 場面が思い浮かぶようなリアルなエピソードですが、3歳児は今、20対1の配置基準です。こういう配置基準だと、今言ったように目が届かなくて事故が起こるのが避けられないと私は思うのですが、これは大臣、いかがでしょうか」(大西議員) 加藤大臣は質問には答えず「保育士の皆さんは大変なご苦労をいただいているというふうに承知したおります」と言って、保育士の補助を行う保育補助者の雇い上げに必要な費用、業務の効率化のための登園管理システムの導入するためのICT化の推進など保育士の負担軽減策を行っていると細かな説明を始めた。 大西議員は「またかみ合ってない。子どもの発達という点でも、ぎりぎりの人数でやっている現状というのは、私は問題だと思っています」と指摘した。 そして、再びアンケート結果に話を戻した。アンケートでは「国の保育士配置基準が改善されればどのようなよい点があるか」という質問に対して、「1人ひとりにじっくり向き合える」「子どもたちの主体性を大切にし、いろんなことに挑戦したり、なかなかできない遊びを保障できる」「事務負担も分担してサービス残業も減る」「一人の負担も減るからメンタル的なしんどさも解消され、保育士を辞める人も減る」という回答が寄せられた。 大西議員が「子どもの発達、保育士の退職防止のためにも配置基準の見直しは必要。大臣、いかがでしょうか」と質問してやっと、加藤大臣は「今の基準を保持していくべきだということを申し上げているのではなく、既に、1歳児、4~5歳児は見直していくことを決めている」と国のスタンスに言及したのだった。とはいえ、「それを進めるにあたって安定的な財源をどう確保するか議論を進めたい」と、またも財源論。 大西議員は「決まって、この話になり、お金がないからできないと言って50年、70年やってこなかった。保育の質が置き去りになっているのは大問題。もう財源の確保を言い訳にしないで、必要なことはやる。こども家庭庁ができ、今まさにそのタイミングが来ている。加藤大臣、是非、ご決断いただきたいと思います」と迫った。 「政治判断が下されれば、予算は作られる」というのが永田町と霞が関の”常識”でもある。1歳児と4~5歳児の配置基準を引き上げるために必要な予算は、年に約1300億円。国家予算の規模からすれば、決して大きすぎる額ではない。) この問題に迫っているのは、大西議員だけではない。この質疑の1カ月前、2022年10月20日の参議院予算委員会では、片山大介議員が予算確保の必要性について岸田首相に迫り、10年前から実現しない「0.3兆円メニュー」の存在を改めて掘り起こしていた。 片山議員(画像:衆議院インターネット審議中継より) 「10年前の子ども・子育て関連三法の付帯決議で、配置基準の改善に必要な予算の確保を図るということを求めています。当時の民主党、自民党、公明党の三党で社会保障の一体改革のなかの確認書で、保育の質を上げようという話になっている。俗にいう0.3兆円メニューですが、あれから10年経っても実現されていないのです」 岸田首相は明言を避けたが「おっしゃるように、保育の質と予算とのバランスは考えていかなければならない課題だと思います。時代の変化のなかで果たすべき役割との関係で考えていく課題であると認識します」と含みを持たせるような答弁をした。 2023年に入って岸田首相が「異次元の少子化対策」を掲げ、政府は3月末に「たたき台」をまとめた。保育士の配置基準の改善のほかの主な対策は、①児童手当の所得制限の撤廃、②育児休業の給付金の拡充、③高等教育の経済負担の軽減策―――。他にも、出産費用の保険適用化、学校給食の無償化など、多岐に渡る政策が並んだ。 統一地方選を前に高所得者層の不満を解消すべく、児童手当の所得制限の撤廃がフォーカスされるなかでの「たたき台」の発表だった。 議論が児童手当の所得制限の撤廃に集中するあまり、国会周辺では「財源が児童手当の拡充にもっていかれては、配置基準の引き上げに予算がかけられないのではないか」という心配があった。「厚生労働省や内閣府は何年も前から配置基準の引き上げを行おうとしていたが、安倍晋三政権で保育園や幼稚園の無償化政策が行われた時も多額の予算が割かれてしまった」(関係者)という経緯もある。 岸田首相が「子ども予算倍増」と言う一方で、配置基準引き上げについて政府は煮え切らない。複数の関係者が「3月末に出た『たたき台』に向けて、内閣府と厚労省からは配置基準の引き上げは必須として、他の質の向上に関する政策も含めてすべて提出されていた」としており、「要望を受け取った小倉將信少子化担当大臣が頭を抱えていたようだ」と明かす。一方で、「国会でも大きく取り上げられ、さすがに今回は配置基準を変えるだろう」との見方も強まったが、結局のところ基準の「引き上げ」ではなく「改善」に留まった。 今後、「たたき台」をベースに岸田首相を議長とした「こども未来戦略会議」での議論を経て必要な政策や予算、財源が6月の「骨太の方針」までに示される。 こども家庭庁が発足して間もない4月4日、参議院の内閣委員会では井上哲士議員も配置基準を「引き上げ」るのか「改善」なのかを追及すると、小倉大臣が「基準の引き上げは行わない」と答えた。) 「最低基準を引き上げた場合、すべての保育園で基準をクリアする必要が出るため、保育士確保で現場に混乱が生じる可能性もあります。現状、様々な園において基準に達しないということも起こる可能性がある」(小倉大臣) この答弁に対して井上議員は、保育士の資格を持ちながら保育士として働いていない潜在保育士の多さを指摘。「厚生労働省の資料では、2019年で保育士の有資格者は160万7000人いるが、保育所などで働いているのは62万6000人で38.9%に過ぎない」と切り返した。 井上議員(画像:参議院インターネット審議中継より) そして、井上議員は「配置基準の抜本改定は、魅力とやりがいのある職場につながる。基準どおり配置できない保育園ができるということでない。これだけの資格者がいるわけですから、保育士が保育園で働けるようにするためにも1人当たりの子ども数を減らす点で、基準の改定は待ったなしだ」と小倉大臣に詰め寄った。 多くの国会議員が基準引き上げを求めるなか、国が言い訳にする保育士確保の問題には疑問が残る。 2022年12月の段階で、認可保育園全体の約2割が既に「チーム保育推進加算」という運営費の上乗せ制度を使って4~5歳児の「25対1」を図っている実態を、内閣府は把握していた。そのうえで、現場が「25対1」でない園の定員分布を分析。「121人以上の大規模な認可保育園が全体の約2割を占め、その4歳児クラス、5歳児クラスの人数が平均で25人を超えている」(内閣府、当時)として、2023年度から「チーム保育推進加算」を拡充したのだ。つまり、既に大半の園で「25対1」になっているのだ。 1歳児の配置については、東京都などの自治体が上乗せ補助を行い「5対1」を既に実現しているケースが少なくない。出生数減少により定員割れしている保育園が急増するなか、行政サイドからも「待機児童が多かった数年前であれば基準引き上げで混乱が生じてしまうが、今は状況が違う。最初は加算方式でも、何年かかけて基準を引き上げればいい」との見方がある。一方で、複数の国会議員が「保育園経営に近い立場の国会議員が、基準引き上げに猛烈に反対した」と明かす。 都市部や地方の複数の保育園経営者、業界団体の役員などは「園の評判が悪いことで保育士が集まらない場合があるだろうが、現状、配置基準が引き上げられても保育士確保に問題はない」と口を揃える。たとえ直ちに配置基準の引き上げとならなくても、数年後に基準を変えると宣言して猶予期間を作るなど、工夫はできる。今後の国会論戦でも国を動かす議論は見られるだろうか』、「2022年12月の段階で、認可保育園全体の約2割が既に「チーム保育推進加算」という運営費の上乗せ制度を使って4~5歳児の「25対1」を図っている実態を、内閣府は把握していた。そのうえで、現場が「25対1」でない園の定員分布を分析。「121人以上の大規模な認可保育園が全体の約2割を占め、その4歳児クラス、5歳児クラスの人数が平均で25人を超えている」(内閣府、当時)として、2023年度から「チーム保育推進加算」を拡充したのだ。つまり、既に大半の園で「25対1」になっているのだ・・・複数の国会議員が「保育園経営に近い立場の国会議員が、基準引き上げに猛烈に反対した」と明かす・・・たとえ直ちに配置基準の引き上げとならなくても、数年後に基準を変えると宣言して猶予期間を作るなど、工夫はできる。今後の国会論戦でも国を動かす議論は見られるだろうか」、「国を動かす議論」を期待したい。
タグ:(その13)(2歳児を公園に置き去りにして帰ってくる…全国の保育園で「昔にはあり得なかったこと」が起きている根本原因 保育が「儲かるビジネス」になり、質が低下している、「保育園の重大事故」園だけを責められない問題点 「待機児童ゼロ作戦」によって本末転倒な状況に、"国会での論戦"で見えた「日本の保育」重大争点 「異次元の少子化対策」保育においてはどうなのか?) 保育園(待機児童)問題 PRESIDENT ONLINE 小林 美希氏による「2歳児を公園に置き去りにして帰ってくる…全国の保育園で「昔にはあり得なかったこと」が起きている根本原因 保育が「儲かるビジネス」になり、質が低下している」 「園児が全員いるかどうか点呼することは、基本中の基本です。公園に着いた時はもちろん、遊んでいる最中、園に帰る時も全員が揃っているか、常に確認する。それが、業務に追われて目の前の子どもが見えなくなっているのです。いつ置き去り事故が起こってもおかしくない環境なのです」、なるほど。 「人件費を抑えるため、保育士は低賃金で人員体制はギリギリという状態なのだ。若手が疲弊して、2~3年で辞めていく。そうしたなかで起こった置き去りだった・・・大きなすり傷に気づいた飯田さんが理由を尋ねても、担任の保育士は「見ていなかったので分からない」と言うだけ。改善を求めてもケガが続いたことから、飯田さんは「これではいつ子どもが死ぬかも分からない」と子どもを転園させた」、「転園」とは賢明な判断だ。 「公的な保育園は、2013年度の2万4038カ所から22年度は3万9244カ所へと大幅に増えた。安倍政権が「株式会社に受け皿整備を担ってもらう」という方針を打ち出したことで、営利企業による認可保育園は13年の488カ所から21年に3151カ所にまで急増した・・・保育園の増加ペースに人材が追い付かないうえ、事業者のモラルが低下。 保育を「3兆円を超える市場」と捉え、儲けるために参入する事業者が雨後の筍のように現れた。利益を出すために人件費が削られ、保育士の労働環境が劣悪になった」、なるほど。 「人件費分を事業費や管理費へ流用するという各費目の相互流用のほか、同一法人が運営する他の保育園や介護施設への流用、施設整備費への流用などが許されるようになった。 ある程度の経営の自由度は必要だが、自民党政権下で規制緩和が繰り返され、今では委託費の年間収入の4分の1もの金額を他の費目に流用できるようになっている。そこに目をつけた事業者は、人件費を抑えて事業を拡大し、利益を得ていったのだ」、なるほど。 「計算上、公費から出る賃金額と実際に保育士に支払われる金額の差が、最大で年間200万円近くになる。その差はどこに消えるのか」、「差」が「最大で年間200万円近く」とは無視出来ない額だ。 「保育士の最低配置基準」では不十分として、「ひとつの認可保育園で平均3~4人を多く配置している」、他方で、「最低配置基準を守れば人員体制はギリギリでいい」・・・という考え方」をとるところも多い。 「保育士配置違反が常態化している園と違反状態が長く続いていると見られる園は合計30カ所もあった。そもそも少ない配置基準でさえ守られないのでは、保育士は疲弊し、子どもの安全を守ることは難しいだろう」、なるほど。 「認可保育園で起こった死亡・負傷等の事故件数を見ると・・・2015年の344件から2021年は1191件となり、この6年で3.5倍近く増えている・・・2021年の保育事故の状況を詳しく見ると、負傷等のうち最も多いのが骨折の937件、その他(指の切断、唇、歯の裂傷等を含む)が242件あり、意識不明が8件、火傷が2件、死亡が2件だ」、大変だ。 「問題の本質は保育士不足や保育の質の低下であり、保育士の労働条件の改善こそが急務の課題だ・・・「委託費の弾力運用」の規制を強化して人件費の流出を食い止めなければ、保育士の労働環境は変わらない。保育士が守られなければ、犠牲になるのは子どもたちだ」、同感である。 東洋経済オンライン 関口 洋平氏による「「保育園の重大事故」園だけを責められない問題点 「待機児童ゼロ作戦」によって本末転倒な状況に」 「ここ20年あまりの新自由主義的な潮流のなかで、育児に対する公的な支援は日本でも徐々に削減されてきた。一言で言えば、日本においても保育の市場化が急速に進んだのである。本稿では少子化や待機児童といった日本独自の事情を勘案しつつ、新自由主義が日本の保育に与えた影響を検討したい」、なるほど。 「保育園民営化は現在に至るまでさまざまな自治体において重要な争点になっている。だが、民営化の議論は近年に始まったことではない」、なるほど。 「公立保育園の数が1983年に過去最多を記録した一方で、この時代には保育園運営費の国家負担率が徐々に削減されていった。公立保育園にのみ多額の公費が投入されることや、公立保育士の賃金の高さなどが批判されたのである。 このような流れのなかで、鈴木善幸内閣・中曽根康弘内閣の第二次臨時行政調査会は、保育園の民営化をひとつの目標として掲げた。 ところが、この時代には「生活可能な、主体的に働くことを選んでいる共働き層への保育サービスの供給は『公費の乱用』と指摘された」というから、待機児童の増大と少子化を背景とした現在 共働きの家庭が現在ほど一般的でなかったこの時代においては、保育園の数を増やすどころか、むしろ抑制することが課題とされた・・・そのような方針を一変させる要因となったのが、1990年のいわゆる「1.57ショック」である。1973年には2.14であった合計特殊出生率(ひとりの女性が一生の間に産む子どもの数)は急速に低下し、1989年に1.57となったのだ。 この衝撃を受けて、政府は少子化対策としてさまざまな政策を矢継ぎ早に策定・・・ 一連の少子化対策のなかで重視されたのが、保育園の量的な拡大だった。2001年に発足した小泉純一郎内閣は「待機児童ゼロ作戦」を掲げ、2002年度から3年間で15万人の保育園児の受け入れ増を目指した・・・保育園の量的拡大を実現するために重用されたのは、規制緩和と民営化という二本柱であった。産業構造の変化により、いわゆる「家族賃金モデル」・・・が崩壊し、共働き世帯が増加していたことも相まって、これらの改革は急速に進行した」、これまでの流れが要領良く整理されている。 「「事故が起きた施設の多くは、保育室の面積が非常に狭く、職員が少なく、無資格者や資格を持っていたとしても経験の少ない場合がほとんど」であり、「余裕のない保育施設の運営が、子どもの死亡事故を招いている」という」、重大な指摘だ。 「慢性的な財政難に苦しむ自治体にとって、民営化によるコスト削減は魅力的である。民営化や統廃合が進むにつれて公営保育園の数は徐々に減り、2007年には私営保育園の数を下回った。2021年時点で、公営保育園が7919カ所あるのに対し、私営保育園は2万2076カ所である。 2000年の時点では公営・私営それぞれ1万2707カ所と9492カ所であったので、保育園の総数が増えていること、また公営・私営の割合が著しく逆転していることがわかる」、これほど「公営」と「私営」の割合が「逆転」したとは、衝撃的だ。 「問題は、拙速な民営化によって保育の質が担保されないような構造ができ上がってしまったことなのだ。待機児童問題の深刻さを考えれば、営利企業の参入という判断は妥当であったかもしれない。だが、それによって保育の質が低下し、子どもを安心して預けられないのでは元も子もないはずである」、「質の低下」は今後、問題化必至の由々しい問題だ。 小林 美希氏による「"国会での論戦"で見えた「日本の保育」重大争点 「異次元の少子化対策」保育においてはどうなのか?」 大西議員の質問はポイントを突いており、私も知りたいものだ。 初めの質問への答弁は完全にポイントをズラした官僚答弁だ。これに対し、「現場で実際に働く保育士が考える、保育士1人が受け持つ子どもの適切な人数は何人なのか」を「アンケート調査」をもとに質問するとはさすがだ。「加藤大臣」の不誠実な官僚答弁には僕でも頭にくる。 「2022年12月の段階で、認可保育園全体の約2割が既に「チーム保育推進加算」という運営費の上乗せ制度を使って4~5歳児の「25対1」を図っている実態を、内閣府は把握していた。そのうえで、現場が「25対1」でない園の定員分布を分析。「121人以上の大規模な認可保育園が全体の約2割を占め、その4歳児クラス、5歳児クラスの人数が平均で25人を超えている」(内閣府、当時)として、2023年度から「チーム保育推進加算」を拡充したのだ。つまり、既に大半の園で「25対1」になっているのだ・・・ 複数の国会議員が「保育園経営に近い立場の国会議員が、基準引き上げに猛烈に反対した」と明かす・・・たとえ直ちに配置基準の引き上げとならなくても、数年後に基準を変えると宣言して猶予期間を作るなど、工夫はできる。今後の国会論戦でも国を動かす議論は見られるだろうか」、「国を動かす議論」を期待したい。
ミャンマー(その7)(少年を斬首 女性をレイプ 僧侶も銃殺…残虐性増すミャンマー国軍の血も涙もない攻撃、ミャンマー軍政「非常事態宣言延長」で国内全域で治安はさらに悪化…住民虐殺 検問所爆破 戦闘機撃墜も、ミャンマー国軍兵士が続々と寝返り…!クーデター以降約15000人が民主派勢力に加わり軍政の兵力低下が止まらない) [世界情勢]
ミャンマーについては、昨年2月17日に取上げた。今日は、(その7)(少年を斬首 女性をレイプ 僧侶も銃殺…残虐性増すミャンマー国軍の血も涙もない攻撃、ミャンマー軍政「非常事態宣言延長」で国内全域で治安はさらに悪化…住民虐殺 検問所爆破 戦闘機撃墜も、ミャンマー国軍兵士が続々と寝返り…!クーデター以降約15000人が民主派勢力に加わり軍政の兵力低下が止まらない)である。
先ずは、本年3月19日付け現代ビジネスが掲載したPanAsiaNews記者の大塚 智彦氏による「少年を斬首、女性をレイプ、僧侶も銃殺…残虐性増すミャンマー国軍の血も涙もない攻撃」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107805?imp=0
・『軍政の残虐非道な行動が明らかに ミン・アウン・フライン司令官率いるミャンマー軍事政権は2022年から2023年にかけて反軍政の抵抗を続ける市民組織「国民防衛軍(PDF)」などへの弾圧を強化しており、その過程で一般市民の殺害も増加している。 そうした中でも特に未成年の若者や女性を虐殺するケースが相次いで報告され、人権侵害がこれまで以上に深刻化しているという。 さらに2023年3月13日にはミャンマーの独立系メディアが仏教寺院に避難していた一般市民と同時に僧侶をも殺害していたことを報じた。 ミャンマーは国民の90%を仏教徒が占める国で、僧侶は国民の尊敬を集める対象となっているだけに、僧侶まで殺害するという軍政の容赦ない姿勢は反軍政を掲げる国民の反感と怒りを高めている。 こうした軍政の残虐非道な行動は、2月2日に戒厳令を7郡区から37郡区に拡大し、同月22日にもさらにサガイン地方域で3郡区を追加するなどして、抵抗勢力との戦闘が激化している地方での軍の権力を強化したことと関係があるとみられている。 2021年2月のクーデター以降すでに2年以上が経過しながらも、国内の治安が一向に安定せず、8月に予定している「民主的な総選挙」の実施も危ぶまれる状況に対する軍政の焦りが背景にあるとの見方が有力視されている。 軍政は総選挙実施で軍政に対する「国民の信任」を得たとしてクーデターの正当化を目論んでいるため、万難を排してまでも総選挙実施を企図しているとされ、各地から報告される兵士による残虐行為はその反映とされている』、「ミャンマーは国民の90%を仏教徒が占める国で、僧侶は国民の尊敬を集める対象となっているだけに、僧侶まで殺害するという軍政の容赦ない姿勢は反軍政を掲げる国民の反感と怒りを高めている。 こうした軍政の残虐非道な行動は、2月2日に戒厳令を7郡区から37郡区に拡大し、同月22日にもさらにサガイン地方域で3郡区を追加するなどして、抵抗勢力との戦闘が激化している地方での軍の権力を強化したことと関係があるとみられている。 2021年2月のクーデター以降すでに2年以上が経過しながらも、国内の治安が一向に安定せず、8月に予定している「民主的な総選挙」の実施も危ぶまれる状況に対する軍政の焦りが背景にあるとの見方が有力視されている」、なるほど。
・『寺院の避難民を僧侶と共に殺害 独立メディア「ミャンマー・ナウ」はミャンマー北東部シャン州南部ピンラウン郡区のナンニント村で市民ら29人が殺害されているのを地元抵抗勢力である「カレンニー民族防衛隊(KNDF)」が3月13日の声明で明らかにしたと伝えた。29人の中には仏教僧侶3人が含まれていたとしている。 KNDFなどによると、軍は11日にナンニント村に空爆や砲撃を加えた上で、地上部隊が村に進入、村内の仏教寺院に避難していた市民を外に連れ出しその場で射殺した。その時僧侶3人も同時に殺害されたとしている。犠牲者には10代前半の少年2人も含まれ、全員がナンニント村の男性住民であるとしている。 ナンニント村の大半の住民は軍による攻撃激化を恐れて数週間前にすでに村外に避難していたが、僧侶が避難をせずに村に留まったことから20数人の男性村人が共に村に残り、空襲・砲撃を逃れるために寺院に避難していたという。 KNDFはナンニント村の状況を確認するためにドローンで上空から偵察していたところ、寺院で多数の遺体を発見したものの兵士が撤退するのを待ったため現場の寺院には12日までたどり着けなかったとしている。 KNDFのミャンマー語のホームページには殺害現場の生々しい写真が複数アップされ、民族衣装であるロンジーをまとった多数の男性が銃撃を受けて頭部や上半身などから血を流して寺院の外壁周辺に倒れている様子が写っている。 死者の間にはサフラン色の僧衣をまとった仏教僧侶が僧衣の一部を血に染めて横たわっており、寺院の外壁にも多数の弾痕が残されている。住民らに向けて銃を乱射して殺害した問答無用の残虐行為の跡がみてとれる。KNDFによると兵士はその後、ナンニント村の住居を焼き払ったという。 この寺院襲撃、僧侶殺害に関し、軍政のゾー・ミン・トゥン報道官はメディアに対して武装市民組織と民間人の何人かが死亡したことは確認したものの「地元のPDFメンバーによる殺害である」として兵士の関与を否定した』、「軍は11日にナンニント村に空爆や砲撃を加えた上で、地上部隊が村に進入、村内の仏教寺院に避難していた市民を外に連れ出しその場で射殺した。その時僧侶3人も同時に殺害されたとしている。犠牲者には10代前半の少年2人も含まれ、全員がナンニント村の男性住民であるとしている・・・住民らに向けて銃を乱射して殺害した問答無用の残虐行為の跡がみてとれる。KNDFによると兵士はその後、ナンニント村の住居を焼き払ったという」、自国軍隊がやることとは思えない、酷い話だ。
・『若者を虐殺、斬首で遺体放置 独立系メディアなどによると、2月25日に北西部サガイン地方域ミンム郡区ニャウン・ピンカン村付近で武装市民組織PDFと軍による戦闘が発生した。PDF側が弾薬不足のため退却する際に退路に地雷を埋設していた若者5人が軍に拘束された。 その後若者5人の遺体が発見されたが、うち3人は斬首され、頭部が竹柵や荷車の上に「晒し首」状態で放置されており、中には手足が切断された遺体もあったという。遺体には銃創が一切ないことから、若者らは生きたまま斬首された可能性が高いとみられている。 兵士は殺害した若者の携帯電話を取り上げて犠牲者の親族や友人に電話をかけて「死を祝っている」と述べたうえ、犠牲者を罵倒し続けたという。 斬首されたのは15歳の少年、17歳と19歳の青年で、いずれも地元の武装市民組織を手伝い地雷を設置していたところを軍に拘束され、虐殺されたという。事件を伝える独立メディアのウェブサイトには3人の若者がほほ笑む生前の写真がアップされている。 同村周辺ではさらに2人の若者の殺害遺体も発見されているほか、サガイン地方域カン・タイン村では別の男性2人の斬首遺体が発見され、同地方域ミンム郡区ニャウンイン村では16人が殺害されている。 このように国軍は今や、軍に同調しない市民とみれば年齢に関係なく殺害するという「殺人組織」と化している。 こうした傾向は以前からあり、2022年9月にはサガイン地方域にある小学校が空爆されて児童11人が犠牲となり15人が行方不明となった。この時、軍は死亡した子供たちの遺体を袋詰めにしてトラックでどこかに運び去ったと地元メディアは伝えている。 国連によるとクーデター発生後、ミャンマー全国で軍による攻撃で死亡あるいは重傷を負った子供は少なくとも約400人に上っている。 このほか10月には北部カチン州ハパカント近郊の村で軍政に抵抗を続ける少数民族武装勢力やその支持者、一般市民が参加して開催中のコンサート会場を軍が空爆して地元の著名女性歌手や男性演奏家、多数の観衆が殺害される事件も起きている』、「PDF側が弾薬不足のため退却する際に退路に地雷を埋設していた若者5人が軍に拘束された。 その後若者5人の遺体が発見されたが、うち3人は斬首され、頭部が竹柵や荷車の上に「晒し首」状態で放置されており、中には手足が切断された遺体もあったという。遺体には銃創が一切ないことから、若者らは生きたまま斬首された可能性が高いとみられている・・・国軍は今や、軍に同調しない市民とみれば年齢に関係なく殺害するという「殺人組織」と化している・・・国連によるとクーデター発生後、ミャンマー全国で軍による攻撃で死亡あるいは重傷を負った子供は少なくとも約400人に上っている」、本当に国郡の暴虐ぶりは目に余る。
・『レイプして殺害される女性たち 3月2日、サガイン地方域サガイン群区タルタイン村で女性3人を含む住民が軍に拘束されて「人間の盾」として戦闘現場に立たされたことが報じられた。 さらに同じ日、同地方域ミンム群区ニャウンイン村でレイプされた女性の遺体が発見されたほか。同村では計14人の遺体が発見されたが、その中にはレイプされ顔面や頭部を激しく殴打された痕跡の残る女性3人の遺体も含まれていたという。 2022年8月27日には、サガイン地方域カニ郡区タイエットピンブラ村に進入した兵士らが民家に取り残された知的障害のある40代の女性を屋外に連れ出して複数の兵士がレイプした。 また同月11日には同地方域インマビン群区インバウンテン村で10代の少女ら2人が兵士から集団レイプを受け、その後殺害され、遺体が崖に全裸の状態で放置されるという残虐な事件も明らかになっている』、「同地方域ミンム群区ニャウンイン村でレイプされた女性の遺体が発見されたほか。同村では計14人の遺体が発見されたが、その中にはレイプされ顔面や頭部を激しく殴打された痕跡の残る女性3人の遺体も含まれていたという・・・2022年8月11日には同地方域インマビン群区インバウンテン村で10代の少女ら2人が兵士から集団レイプを受け、その後殺害され、遺体が崖に全裸の状態で放置されるという残虐な事件も」、よくぞこんなにも「残虐」な「事件」が続発するとは、やはり「ミャンマー」は異常な国だ。
・『激化する人権侵害事件 このように軍は2022年から、各地で抵抗を続ける武装市民組織メンバーに対する掃討作戦を通じて一般市民を巻き込んだ強権的弾圧を強化、女性や若者をも無差別に殺害しているが、国民の尊敬と信仰の対象である仏教僧侶まで容赦なく殺害するという暴挙に対し内外から厳しい批判が高まっている。 戒厳令を拡大したことで地方の行政権が大幅に軍に移譲され、軍はこうした残虐行為を通じて抵抗勢力や反軍政の市民への「見せしめ効果」を狙っているとされる。しかしこうした残虐な人権侵害行為は反軍政感情を一層高めるという逆効果を招いており、ミャンマーの混乱は収拾不能な状況に陥っている。 タイ西部ターク県メーソットに本拠を置くミャンマーの人権団体「ミャンマー政治犯支援協会(AAPP)」によると、3月14日現在、軍政によって身柄を拘束された市民は20359人、殺害された市民は3124人に上っている』、「軍は2022年から、各地で抵抗を続ける武装市民組織メンバーに対する掃討作戦を通じて一般市民を巻き込んだ強権的弾圧を強化、女性や若者をも無差別に殺害しているが、国民の尊敬と信仰の対象である仏教僧侶まで容赦なく殺害するという暴挙に対し内外から厳しい批判が高まっている。 戒厳令を拡大したことで地方の行政権が大幅に軍に移譲され、軍はこうした残虐行為を通じて抵抗勢力や反軍政の市民への「見せしめ効果」を狙っているとされる。しかしこうした残虐な人権侵害行為は反軍政感情を一層高めるという逆効果を招いており、ミャンマーの混乱は収拾不能な状況に陥っている」、極めて危険な状態だ。日本はODAなどを通じて「ミャンマー」に強い影響力を持っているので、軍政の混乱解決に向け指導力を発揮してもらいたい。
次に、8月8日付け現代ビジネスが掲載したPanAsiaNews記者の大塚 智彦氏による「ミャンマー軍政「非常事態宣言延長」で国内全域で治安はさらに悪化…住民虐殺、検問所爆破、戦闘機撃墜も」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/114446?imp=0
・『実質的な内戦状態にあり治安状況が深刻化しているミャンマーで、ミン・アウン・フライン国軍司令官率いる軍政は7月31日に期限を迎えた非常事態宣言を6ヵ月延長することを決めた。これにより軍政が目指す「民政移管の為の民主的選挙」の実施は2024年2月以降にずれ込むことが確定し、軍政の強権弾圧政治が続くことになった。 軍政が非常事態宣言を延長した理由は国軍司令官が「武装した暴力が続いている。選挙は時期尚早で用意周到に準備する必要がある。当面の間我々が責任を負わなければならない」と述べたように、国内の治安が予想に反して一向に安定せず、各地で武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や国境地帯を拠点とする少数民族武装勢力が軍や警察を攻撃し、軍も住民に対して暴力や虐殺を続けるなど、全土で戦闘が激化していることが背景にある』、「軍政が非常事態宣言を延長した理由は・・・国内の治安が予想に反して一向に安定せず、各地で武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や国境地帯を拠点とする少数民族武装勢力が軍や警察を攻撃し、軍も住民に対して暴力や虐殺を続けるなど、全土で戦闘が激化していることが背景にある」、なるほど。
・『PDFによる軍への攻撃 軍政に抵抗する立場から報道を続けているミャンマーの独立系メディア「イラワジ」は7月31日、ミャンマー各地でのPDFと軍の戦闘を詳しく伝えた。 それによると戦闘は北西部のザガイン地方域、チン州、西部のカレン州(カイン州)中部のマンダレー地方域、南部のタニンダーリ地方域、東部のシャン州の各地で発生とミャンマーのほぼ全域に渡り、治安状況が軍政にとって深刻な問題になっていることが裏付けられている。 マンダレー地方域では7月27日、タベイッキン郡区でイラワジ川を航行していた軍の9隻の船団に対し、同地方域やザガイン地方域から集結した37のPDF組織が共同で待ち伏せ攻撃を敢行した。 船団の2隻を破壊したが、別の船から発砲があり川中の船と沿岸8ヵ所との間で激しい銃撃戦が交わされた。その後、船団は現場を逃れたため軍兵士の死傷者数は明らかになっていないが、同船団は食料や武器、弾薬、人員を補充するため輸送中だったとしている。 チン州ミンダット郡区では7月30日、パトロール中の軍の車列を地元のPDFが待ち伏せ攻撃し兵士8人を殺害した。さらに7月28日にはザガイン地方域モンユワ郡区にある軍の北西司令部をPDFが107ミリロケット弾で攻撃し、軍施設に損害を与えたという。 このほかにもタニンダーリ地方域では地元PDF部隊が地雷6つを使って軍を攻撃し、兵士10人を殺害したと報じた。 こうした一連の攻撃で軍側には少なくとも89人の犠牲を強いたと各地のPDFは報告しており、軍側の被害が拡大していることを印象付けた』、「こうした一連の攻撃で軍側には少なくとも89人の犠牲を強いたと各地のPDFは報告しており、軍側の被害が拡大していることを印象付けた」、なるほど。
・『戦闘機を地上から撃墜 軍政は戦闘機や爆撃機、ヘリコプターなどで掌握している制空権を利用して各地のPDF拠点への空からの攻撃を強化しているが、学校や仏教寺院などの被害も拡大しており、「無差別空爆」を行っている可能性もあるという。 そんな中、東部カヤー州パウラケ郡区にある少数民族武装勢力「カレンニ民族人民解放戦線(KNPLF)」の拠点を攻撃するために戦闘機1機が低空飛行で接近した際、地上からの銃撃などで撃墜に成功したとKNPLFが明らかにした。 KNPLFによると、特に対空兵器があった訳ではないが、メンバーによる必死の攻撃で墜落させた、と地上からの銃撃によって戦闘機を墜落させたという。 この戦闘機はイワルティット村近くに墜落したが同村周辺は軍の支配地域のため、墜落した戦闘機の詳しい情報は当初不明だった。軍が急いで機体の残骸を片付けてしまったことも影響しているが、KNPLFは、その後詳細が明らかになったとしている。 それによると同機はK8Wという戦闘機で、空軍の大尉と中尉が乗り込んだ複座で、タウング空軍基地から攻撃のため発進した。その後、空軍は、犠牲となった2人のパイロットをそれぞれ少佐、大尉に昇進させ功績を讃えたという。 さらに7月31日には、カレン州パアン郡区サルウィン橋に設けられていた軍の検問所が地元PDFによって爆破され、民間人1人が死亡、兵士7人を含む10数人が負傷したという。検問所の兵士が近くに駐車していた車両を不審に思って調べようとしたところ爆発したとカレン情報センター(KIC)が情報提供した』、「K8Wという戦闘機で、空軍の大尉と中尉が乗り込んだ複座で、タウング空軍基地から攻撃のため発進した」、「特に対空兵器があった訳ではないが、メンバーによる必死の攻撃で墜落させた、と地上からの銃撃によって戦闘機を墜落させた」、大したものだ。
・『軍が住民14人を虐殺 一方、軍も各地で強力な抵抗を続けるPDFへの攻撃を激化させている。 独立系メディア「ミャンマー・ナウ」が7月31日に伝えたところによると、ザガイン地方域モンユウのチンドウィン川西岸にあるソネチャウン村で住民14人の虐殺があったという。 それによると、雨の降る深夜、ソネチャウン村に約60人の兵士が侵入、民家を訪れては懐中電灯で住民の顔を照らし、地元PDFの幹部を探しだそうとした。犬が大きく吠えて多くの住民が起きたが、当初は軍の接近を住民に連絡する訪問と思って扉を開けた人が多かったという。 軍はミョー・ミン・ウー氏(42)を捜索し、彼を見つけると同じ家にいた兄弟や子供と一緒に拘束した。さらに、PDF関係者とみられる住民を次々と拘束し「武器をどこに隠した」と拷問を加えながら尋問を続けた。拘束された住民はPDFとの関係を否定し、武器の所在も知らないと主張したという。 翌日の明け方には、ミョー・ミン・ウー氏をはじめとする拘束されいた14人の遺体が村のあちこちに放置されているのが見つかった。遺体には拷問の跡や刃物による傷など虐待の痕跡が残され、残虐な手段で虐殺されたことを物語っていた。 兵士は民家から電化製品や食料を奪い、住民からは現金を強奪するなどの行為を行って村を去ったと報じ、軍の行動を非難した』、「軍はミョー・ミン・ウー氏(42)を捜索し、彼を見つけると同じ家にいた兄弟や子供と一緒に拘束した。さらに、PDF関係者とみられる住民を次々と拘束し「武器をどこに隠した」と拷問を加えながら尋問を続けた。拘束された住民はPDFとの関係を否定し、武器の所在も知らないと主張したという。 翌日の明け方には、ミョー・ミン・ウー氏をはじめとする拘束されいた14人の遺体が村のあちこちに放置されているのが見つかった。遺体には拷問の跡や刃物による傷など虐待の痕跡が残され、残虐な手段で虐殺されたことを物語っていた。 兵士は民家から電化製品や食料を奪い、住民からは現金を強奪するなどの行為を行って村を去った」、「兵士は民家から電化製品や食料を奪い、住民からは現金を強奪」、とは実に酷い話だ。
・『柔軟姿勢はあくまで表向き 8月1日、ミン・アウン・フライン国軍司令官は非常事態宣言を延長するとともに、アウン・サン・スー・チーさんを含めた政治犯など約7000人に対する恩赦を発表した。 これにより19のいわれなき罪状で訴追され2022年12月に合計禁固33年の判決を受けて収監されていたスー・チーさんは、5件の刑で計6年の減刑措置を受けた。スー・チーさんの残る刑期は27年となったものの、78歳という年齢を考えると、実質的には終身刑と同じといえる。 軍政は恩赦に先立ち、スー・チーさんをそれまで収容していた首都ネピドー近郊の刑務所内に設けた特別な施設から刑務所外にある政府関係者の民家に移送したという。 さらに7月には、ネピドーを訪問したタイのドーン外相とスー・チーさんとの面会を特別に許可し、両者は直接対面して会談した。スー・チーさんが外国の閣僚と面会するのは2021年2月1日のクーデターで軍によって身柄を拘束されて以来初めてであった。 このように軍政は、スー・チーさんに対し、刑務所外への移送、タイの外相との面会許可、そして恩赦による刑期短縮と「柔軟姿勢」ともとれる措置を相次いで講じているが、これには非常事態宣言の延長という強権政治の継続に対する欧米や東南アジア諸国連合(ASEAN)の批判を交わす狙いがあるとみられている。 しかしこうした「柔軟姿勢」の一方でPDFや少数民族武装勢力など反軍政の抵抗勢力との戦闘を激化させており、武力衝突は依然として内戦状態と言っても過言ではない状況となっている。 この衝突で軍の兵士そして抵抗組織、さらに一般住民の犠牲は増える一方で、軍による人権侵害とともにミャンマー情勢をより深刻かつ複雑なもにしている。 ミャンマー問題の解決の糸口は、一向に見えてこない』、「非常事態宣言の延長という強権政治の継続に対する欧米や東南アジア諸国連合・・・の批判」、日本も批判を「欧米や東南アジア諸国連合」任せにせず、自ら積極的に働きかけてゆくべきだ。
第三に、9月3日付け現代ビジネスが掲載したPanAsiaNews記者の大塚 智彦氏による「ミャンマー国軍兵士が続々と寝返り…!クーデター以降約15000人が民主派勢力に加わり軍政の兵力低下が止まらない」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/115692?imp=0
・『国軍兵士の「寝返り」 軍政と武装抵抗勢力との戦闘が続き実質的な内戦状態にあるミャンマーで、正規軍の中で戦線離脱や部隊離反などによる脱走兵が増加し、その大半が敵対する民主派勢力「国民防衛軍(PDF)」に加わっていることが、ミャンマーの独立系メディアなどの報道で明らかになった。 国軍兵士の「寝返り」ともいえるこの現象は、2021年2月に軍がアウン・サン・スー・チーさん率いる民主政府から実権を奪取したクーデター以来続く傾向というが、2023年になってその数はさらに増加傾向にあると指摘されている。 「ミン・アウン・フライン国軍司令官でさえ実際に国軍兵士の正確な兵力(兵士の数)を把握できていない」と言われるほど、最前線の部隊では定員数と実際の兵士の数に大きなギャップが生じているという。 こうした深刻な事態に軍政は政府職員や自治体職員をリクルートして兵力不足を補おうとしているが、職業軍人ではない「動員された兵士」ほど寝返る傾向が強く、不足が補えない状況が続いている。 一方のPDF側は国軍兵士の投降を呼びかける運動を強め、武器や弾薬、軍用車両などを持参しての寝返りには報奨金を用意するなどと宣伝して国軍兵力の数的弱体化を試みている。 このような国軍の兵力低下は、PDF戦闘員や一般住民に対する空爆、民家放火や拷問、暴力や残虐な殺害行為、人間の盾としての利用などを激化させるという行動のエスカレートを招いているとされ、そこに国軍の焦燥感が如実に現われているといわれている』、「正規軍の中で戦線離脱や部隊離反などによる脱走兵が増加し、その大半が敵対する民主派勢力「国民防衛軍(PDF)」に加わっていることが、ミャンマーの独立系メディアなどの報道で明らかになった。 国軍兵士の「寝返り」ともいえるこの現象は、2021年2月に軍がアウン・サン・スー・チーさん率いる民主政府から実権を奪取したクーデター以来続く傾向というが、2023年になってその数はさらに増加傾向にあると指摘されている」、いよいよ国軍も最終段階に陥った可能性がある。
・『過去4ヵ月で500人が離反 独立系メディア「イラワジ」が8月25日伝えたところによると、最近開催された軍政に対抗する民主派組織「国家統一政府(NUG)」の第28回閣議で、マー・ウィン・カイン・タン首相が「過去4ヵ月の間に約500人の国軍兵士が軍を離脱、脱走した」と報告した。この500人の中には大隊副司令官という軍幹部も含まれているという。 今年8月に入ってからだけでも50人以上が国軍を離れており、軍の兵力低下が深刻な問題となっているとの見方を示した。こうした動きは西部チン州、東部カヤー州、カレン州などでも報告され、兵士の部隊離反が全国的に起きているとNUGではみている。 NUGによると、2021年2月のクーデター以来、少なくとも15000人の兵士と警察官が寝返って民主派の「不服従運動(CDM)」に参加しているという。軍政側は兵士の死傷者や行方不明者、脱走者などの数字を明らかにしていないが、NUG側が指摘した数字はある程度実態を反映しているとの見方が有力だ。 寝返った兵士や警察官は「国民防衛軍(PDF)」に加わって軍との戦闘に参加するほか、単に逃亡して密かに暮らしているかのどちらかであるという。 こうした事態に軍政側は兵士を軍に引き留めるために、休暇の奨励、芸能人らによる部隊慰問、指揮官は兵士と共に食事をとりコミュニケーションを密にするなど、あの手この手の対策を講じているとされる。 これに対しNUG側は兵士や警察官に離脱を勧めており、武器や弾薬、航空機や艦船と共に寝返った兵士らには多額の現金を付与するという報奨金制度を設けている』、「軍政側」「NUG側」とも必死に知恵を絞っているようだ。
・『寝返った元国軍兵士の証言 「イラワジ」は8月26日、同月1日に入手したという軍の文書に基づき各地の部隊で兵員不足が深刻な問題となっていると指摘した。 その文書は北東部シャン州に拠点を置く歩兵114大隊から国軍上層部に報告されたものとみられ、少なくとも857人の大隊要員が必要にもかかわらず実際には132人しか兵士がいないことを訴えている。 また、その132人の兵士のうち基地防衛のために62人を残し、半数以上の70人が基地を出て最前線での戦闘に従事しているという実態も記述されている。 さらに別の文書では、シャン州の国境問題担当の大佐が地区総務部門関係者に対して警察官を除く全ての公務員の名簿を提出するよう要請したことが記されている。このことから兵員不足を緊急に解消するために公務員を民兵または予備軍兵士に転換することを州政府が計画していることが分かるとしている。 同じ26日に「イラワジ」は元国軍兵士であるテット・ミャット元陸軍大尉のインタビュー記事を掲載した。ミャット氏は2021年6月に軍を離反し軍政に抵抗する市民の「不服従運動(CDM)」に参加、以後抵抗勢力側に協力して現役の兵士や将校の離反、逃亡の手助けを続けているという。 ミャット氏によると「イラワジ」が入手し報道した文書は「本物と思われる」とした上で、「各大隊は毎月兵員数などの情報を上部機関に報告する必要がある。大隊は兵士の定員数が約800人なのだが、どこの大隊もその数を満たしていないのが実情だ」と述べて文書の信憑性とともに国軍の兵員数逼迫が事実であるとの見方を示した』、「元国軍兵士であるテット・ミャット元陸軍大尉のインタビュー記事を掲載した。ミャット氏は2021年6月に軍を離反し軍政に抵抗する市民の「不服従運動(CDM)」に参加、以後抵抗勢力側に協力して現役の兵士や将校の離反、逃亡の手助けを続けているという。 ミャット氏によると・・・「各大隊は毎月兵員数などの情報を上部機関に報告する必要がある。大隊は兵士の定員数が約800人なのだが、どこの大隊もその数を満たしていないのが実情だ」、なるほど。
・『公務員を民兵や予備軍に採用 軍政が兵力不足を深刻に考えていることは近年、地方の行政機関などで働く公務員を軍になかば強制的に採用し、民兵や予備軍に編入して部隊に送り込んでいることに現れている、とミャット氏は指摘している。 臨時採用され兵士として前線に送られた公務員出身者などは、戦闘で生命の危機に直面した場合に容易に投降する傾向がみられ、それもまた兵員不足の一因として軍政の悩みの種となっているという。 公務員以外にも、地方の住民で食糧難や滞在場所のない人々を脅迫して採用するというケースも報告されるなど、軍の兵員不足の深刻さが浮き彫りとなっている。 公務員や一般住民からの臨時兵士の他、正規軍兵士の前線からの離脱者も多く、「先見の明がある兵士」や「民主化弾圧に疑問を抱く兵士」らが「抵抗組織からの誘い」などを理由に寝返る傾向があるという。 そしてミャット氏は「イラワジ」に対して、「70年以上の歴史があるミャンマー国軍がわずか(クーデター以来)3年の武装抵抗を打ち負かすことができないという事実」を直視する必要があるとの言葉で結んだ』、「「70年以上の歴史があるミャンマー国軍がわずか(クーデター以来)3年の武装抵抗を打ち負かすことができないという事実」を直視する必要」、その通りだ。
・『一般住民を逮捕し人間の盾に 国軍は最近、抵抗勢力PDFや国境周辺での少数民族武装勢力との戦闘の中で、兵力不足を補う策として、一般住民を逮捕して、人間の盾として利用する作戦を実行しているという。 8月25日、北部カチン州パカント郡にあるナントヤール村、カットマウ村、サインパラ村に約30人の兵士が夜陰に紛れて侵入し、村人ら約100人を逮捕、連行したという。 軍はその後、パカント村に進軍するに際し、逮捕した住民を人間の盾として最前線に立たせたり、地雷が埋設されている可能性のある場所を強制的に歩かせたりして兵士の犠牲を最小限にしようとする作戦をとっている、と抵抗勢力はみている。 こうした作戦は軍による苦肉の策であり、兵員不足を補う根本的な解決策とはなっていないばかりか、一般住民の反感を買って軍の立場を窮地に追い込む結果になっている。 住民を敵に回しても民主化抵抗勢力との戦闘を継続しなければならない軍政の焦りが背景にあるのは間違いない。 2021年2月のクーデター以来、軍政は全土での治安安定という目標を達成できず、今年7月31日に非常事態宣言を半年間延長したことで2023年内に予定していた総選挙も2024年2月以降に延期せざるを得ない状況となっており、ますます苦境に陥っているのが実情だ』、「住民を敵に回しても民主化抵抗勢力との戦闘を継続しなければならない軍政の焦りが背景にあるのは間違いない」、その通りだ。日本政府もミャンマー政府・国軍との関係を見直しておくべき段階にきたのではなかろうか。
先ずは、本年3月19日付け現代ビジネスが掲載したPanAsiaNews記者の大塚 智彦氏による「少年を斬首、女性をレイプ、僧侶も銃殺…残虐性増すミャンマー国軍の血も涙もない攻撃」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107805?imp=0
・『軍政の残虐非道な行動が明らかに ミン・アウン・フライン司令官率いるミャンマー軍事政権は2022年から2023年にかけて反軍政の抵抗を続ける市民組織「国民防衛軍(PDF)」などへの弾圧を強化しており、その過程で一般市民の殺害も増加している。 そうした中でも特に未成年の若者や女性を虐殺するケースが相次いで報告され、人権侵害がこれまで以上に深刻化しているという。 さらに2023年3月13日にはミャンマーの独立系メディアが仏教寺院に避難していた一般市民と同時に僧侶をも殺害していたことを報じた。 ミャンマーは国民の90%を仏教徒が占める国で、僧侶は国民の尊敬を集める対象となっているだけに、僧侶まで殺害するという軍政の容赦ない姿勢は反軍政を掲げる国民の反感と怒りを高めている。 こうした軍政の残虐非道な行動は、2月2日に戒厳令を7郡区から37郡区に拡大し、同月22日にもさらにサガイン地方域で3郡区を追加するなどして、抵抗勢力との戦闘が激化している地方での軍の権力を強化したことと関係があるとみられている。 2021年2月のクーデター以降すでに2年以上が経過しながらも、国内の治安が一向に安定せず、8月に予定している「民主的な総選挙」の実施も危ぶまれる状況に対する軍政の焦りが背景にあるとの見方が有力視されている。 軍政は総選挙実施で軍政に対する「国民の信任」を得たとしてクーデターの正当化を目論んでいるため、万難を排してまでも総選挙実施を企図しているとされ、各地から報告される兵士による残虐行為はその反映とされている』、「ミャンマーは国民の90%を仏教徒が占める国で、僧侶は国民の尊敬を集める対象となっているだけに、僧侶まで殺害するという軍政の容赦ない姿勢は反軍政を掲げる国民の反感と怒りを高めている。 こうした軍政の残虐非道な行動は、2月2日に戒厳令を7郡区から37郡区に拡大し、同月22日にもさらにサガイン地方域で3郡区を追加するなどして、抵抗勢力との戦闘が激化している地方での軍の権力を強化したことと関係があるとみられている。 2021年2月のクーデター以降すでに2年以上が経過しながらも、国内の治安が一向に安定せず、8月に予定している「民主的な総選挙」の実施も危ぶまれる状況に対する軍政の焦りが背景にあるとの見方が有力視されている」、なるほど。
・『寺院の避難民を僧侶と共に殺害 独立メディア「ミャンマー・ナウ」はミャンマー北東部シャン州南部ピンラウン郡区のナンニント村で市民ら29人が殺害されているのを地元抵抗勢力である「カレンニー民族防衛隊(KNDF)」が3月13日の声明で明らかにしたと伝えた。29人の中には仏教僧侶3人が含まれていたとしている。 KNDFなどによると、軍は11日にナンニント村に空爆や砲撃を加えた上で、地上部隊が村に進入、村内の仏教寺院に避難していた市民を外に連れ出しその場で射殺した。その時僧侶3人も同時に殺害されたとしている。犠牲者には10代前半の少年2人も含まれ、全員がナンニント村の男性住民であるとしている。 ナンニント村の大半の住民は軍による攻撃激化を恐れて数週間前にすでに村外に避難していたが、僧侶が避難をせずに村に留まったことから20数人の男性村人が共に村に残り、空襲・砲撃を逃れるために寺院に避難していたという。 KNDFはナンニント村の状況を確認するためにドローンで上空から偵察していたところ、寺院で多数の遺体を発見したものの兵士が撤退するのを待ったため現場の寺院には12日までたどり着けなかったとしている。 KNDFのミャンマー語のホームページには殺害現場の生々しい写真が複数アップされ、民族衣装であるロンジーをまとった多数の男性が銃撃を受けて頭部や上半身などから血を流して寺院の外壁周辺に倒れている様子が写っている。 死者の間にはサフラン色の僧衣をまとった仏教僧侶が僧衣の一部を血に染めて横たわっており、寺院の外壁にも多数の弾痕が残されている。住民らに向けて銃を乱射して殺害した問答無用の残虐行為の跡がみてとれる。KNDFによると兵士はその後、ナンニント村の住居を焼き払ったという。 この寺院襲撃、僧侶殺害に関し、軍政のゾー・ミン・トゥン報道官はメディアに対して武装市民組織と民間人の何人かが死亡したことは確認したものの「地元のPDFメンバーによる殺害である」として兵士の関与を否定した』、「軍は11日にナンニント村に空爆や砲撃を加えた上で、地上部隊が村に進入、村内の仏教寺院に避難していた市民を外に連れ出しその場で射殺した。その時僧侶3人も同時に殺害されたとしている。犠牲者には10代前半の少年2人も含まれ、全員がナンニント村の男性住民であるとしている・・・住民らに向けて銃を乱射して殺害した問答無用の残虐行為の跡がみてとれる。KNDFによると兵士はその後、ナンニント村の住居を焼き払ったという」、自国軍隊がやることとは思えない、酷い話だ。
・『若者を虐殺、斬首で遺体放置 独立系メディアなどによると、2月25日に北西部サガイン地方域ミンム郡区ニャウン・ピンカン村付近で武装市民組織PDFと軍による戦闘が発生した。PDF側が弾薬不足のため退却する際に退路に地雷を埋設していた若者5人が軍に拘束された。 その後若者5人の遺体が発見されたが、うち3人は斬首され、頭部が竹柵や荷車の上に「晒し首」状態で放置されており、中には手足が切断された遺体もあったという。遺体には銃創が一切ないことから、若者らは生きたまま斬首された可能性が高いとみられている。 兵士は殺害した若者の携帯電話を取り上げて犠牲者の親族や友人に電話をかけて「死を祝っている」と述べたうえ、犠牲者を罵倒し続けたという。 斬首されたのは15歳の少年、17歳と19歳の青年で、いずれも地元の武装市民組織を手伝い地雷を設置していたところを軍に拘束され、虐殺されたという。事件を伝える独立メディアのウェブサイトには3人の若者がほほ笑む生前の写真がアップされている。 同村周辺ではさらに2人の若者の殺害遺体も発見されているほか、サガイン地方域カン・タイン村では別の男性2人の斬首遺体が発見され、同地方域ミンム郡区ニャウンイン村では16人が殺害されている。 このように国軍は今や、軍に同調しない市民とみれば年齢に関係なく殺害するという「殺人組織」と化している。 こうした傾向は以前からあり、2022年9月にはサガイン地方域にある小学校が空爆されて児童11人が犠牲となり15人が行方不明となった。この時、軍は死亡した子供たちの遺体を袋詰めにしてトラックでどこかに運び去ったと地元メディアは伝えている。 国連によるとクーデター発生後、ミャンマー全国で軍による攻撃で死亡あるいは重傷を負った子供は少なくとも約400人に上っている。 このほか10月には北部カチン州ハパカント近郊の村で軍政に抵抗を続ける少数民族武装勢力やその支持者、一般市民が参加して開催中のコンサート会場を軍が空爆して地元の著名女性歌手や男性演奏家、多数の観衆が殺害される事件も起きている』、「PDF側が弾薬不足のため退却する際に退路に地雷を埋設していた若者5人が軍に拘束された。 その後若者5人の遺体が発見されたが、うち3人は斬首され、頭部が竹柵や荷車の上に「晒し首」状態で放置されており、中には手足が切断された遺体もあったという。遺体には銃創が一切ないことから、若者らは生きたまま斬首された可能性が高いとみられている・・・国軍は今や、軍に同調しない市民とみれば年齢に関係なく殺害するという「殺人組織」と化している・・・国連によるとクーデター発生後、ミャンマー全国で軍による攻撃で死亡あるいは重傷を負った子供は少なくとも約400人に上っている」、本当に国郡の暴虐ぶりは目に余る。
・『レイプして殺害される女性たち 3月2日、サガイン地方域サガイン群区タルタイン村で女性3人を含む住民が軍に拘束されて「人間の盾」として戦闘現場に立たされたことが報じられた。 さらに同じ日、同地方域ミンム群区ニャウンイン村でレイプされた女性の遺体が発見されたほか。同村では計14人の遺体が発見されたが、その中にはレイプされ顔面や頭部を激しく殴打された痕跡の残る女性3人の遺体も含まれていたという。 2022年8月27日には、サガイン地方域カニ郡区タイエットピンブラ村に進入した兵士らが民家に取り残された知的障害のある40代の女性を屋外に連れ出して複数の兵士がレイプした。 また同月11日には同地方域インマビン群区インバウンテン村で10代の少女ら2人が兵士から集団レイプを受け、その後殺害され、遺体が崖に全裸の状態で放置されるという残虐な事件も明らかになっている』、「同地方域ミンム群区ニャウンイン村でレイプされた女性の遺体が発見されたほか。同村では計14人の遺体が発見されたが、その中にはレイプされ顔面や頭部を激しく殴打された痕跡の残る女性3人の遺体も含まれていたという・・・2022年8月11日には同地方域インマビン群区インバウンテン村で10代の少女ら2人が兵士から集団レイプを受け、その後殺害され、遺体が崖に全裸の状態で放置されるという残虐な事件も」、よくぞこんなにも「残虐」な「事件」が続発するとは、やはり「ミャンマー」は異常な国だ。
・『激化する人権侵害事件 このように軍は2022年から、各地で抵抗を続ける武装市民組織メンバーに対する掃討作戦を通じて一般市民を巻き込んだ強権的弾圧を強化、女性や若者をも無差別に殺害しているが、国民の尊敬と信仰の対象である仏教僧侶まで容赦なく殺害するという暴挙に対し内外から厳しい批判が高まっている。 戒厳令を拡大したことで地方の行政権が大幅に軍に移譲され、軍はこうした残虐行為を通じて抵抗勢力や反軍政の市民への「見せしめ効果」を狙っているとされる。しかしこうした残虐な人権侵害行為は反軍政感情を一層高めるという逆効果を招いており、ミャンマーの混乱は収拾不能な状況に陥っている。 タイ西部ターク県メーソットに本拠を置くミャンマーの人権団体「ミャンマー政治犯支援協会(AAPP)」によると、3月14日現在、軍政によって身柄を拘束された市民は20359人、殺害された市民は3124人に上っている』、「軍は2022年から、各地で抵抗を続ける武装市民組織メンバーに対する掃討作戦を通じて一般市民を巻き込んだ強権的弾圧を強化、女性や若者をも無差別に殺害しているが、国民の尊敬と信仰の対象である仏教僧侶まで容赦なく殺害するという暴挙に対し内外から厳しい批判が高まっている。 戒厳令を拡大したことで地方の行政権が大幅に軍に移譲され、軍はこうした残虐行為を通じて抵抗勢力や反軍政の市民への「見せしめ効果」を狙っているとされる。しかしこうした残虐な人権侵害行為は反軍政感情を一層高めるという逆効果を招いており、ミャンマーの混乱は収拾不能な状況に陥っている」、極めて危険な状態だ。日本はODAなどを通じて「ミャンマー」に強い影響力を持っているので、軍政の混乱解決に向け指導力を発揮してもらいたい。
次に、8月8日付け現代ビジネスが掲載したPanAsiaNews記者の大塚 智彦氏による「ミャンマー軍政「非常事態宣言延長」で国内全域で治安はさらに悪化…住民虐殺、検問所爆破、戦闘機撃墜も」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/114446?imp=0
・『実質的な内戦状態にあり治安状況が深刻化しているミャンマーで、ミン・アウン・フライン国軍司令官率いる軍政は7月31日に期限を迎えた非常事態宣言を6ヵ月延長することを決めた。これにより軍政が目指す「民政移管の為の民主的選挙」の実施は2024年2月以降にずれ込むことが確定し、軍政の強権弾圧政治が続くことになった。 軍政が非常事態宣言を延長した理由は国軍司令官が「武装した暴力が続いている。選挙は時期尚早で用意周到に準備する必要がある。当面の間我々が責任を負わなければならない」と述べたように、国内の治安が予想に反して一向に安定せず、各地で武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や国境地帯を拠点とする少数民族武装勢力が軍や警察を攻撃し、軍も住民に対して暴力や虐殺を続けるなど、全土で戦闘が激化していることが背景にある』、「軍政が非常事態宣言を延長した理由は・・・国内の治安が予想に反して一向に安定せず、各地で武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や国境地帯を拠点とする少数民族武装勢力が軍や警察を攻撃し、軍も住民に対して暴力や虐殺を続けるなど、全土で戦闘が激化していることが背景にある」、なるほど。
・『PDFによる軍への攻撃 軍政に抵抗する立場から報道を続けているミャンマーの独立系メディア「イラワジ」は7月31日、ミャンマー各地でのPDFと軍の戦闘を詳しく伝えた。 それによると戦闘は北西部のザガイン地方域、チン州、西部のカレン州(カイン州)中部のマンダレー地方域、南部のタニンダーリ地方域、東部のシャン州の各地で発生とミャンマーのほぼ全域に渡り、治安状況が軍政にとって深刻な問題になっていることが裏付けられている。 マンダレー地方域では7月27日、タベイッキン郡区でイラワジ川を航行していた軍の9隻の船団に対し、同地方域やザガイン地方域から集結した37のPDF組織が共同で待ち伏せ攻撃を敢行した。 船団の2隻を破壊したが、別の船から発砲があり川中の船と沿岸8ヵ所との間で激しい銃撃戦が交わされた。その後、船団は現場を逃れたため軍兵士の死傷者数は明らかになっていないが、同船団は食料や武器、弾薬、人員を補充するため輸送中だったとしている。 チン州ミンダット郡区では7月30日、パトロール中の軍の車列を地元のPDFが待ち伏せ攻撃し兵士8人を殺害した。さらに7月28日にはザガイン地方域モンユワ郡区にある軍の北西司令部をPDFが107ミリロケット弾で攻撃し、軍施設に損害を与えたという。 このほかにもタニンダーリ地方域では地元PDF部隊が地雷6つを使って軍を攻撃し、兵士10人を殺害したと報じた。 こうした一連の攻撃で軍側には少なくとも89人の犠牲を強いたと各地のPDFは報告しており、軍側の被害が拡大していることを印象付けた』、「こうした一連の攻撃で軍側には少なくとも89人の犠牲を強いたと各地のPDFは報告しており、軍側の被害が拡大していることを印象付けた」、なるほど。
・『戦闘機を地上から撃墜 軍政は戦闘機や爆撃機、ヘリコプターなどで掌握している制空権を利用して各地のPDF拠点への空からの攻撃を強化しているが、学校や仏教寺院などの被害も拡大しており、「無差別空爆」を行っている可能性もあるという。 そんな中、東部カヤー州パウラケ郡区にある少数民族武装勢力「カレンニ民族人民解放戦線(KNPLF)」の拠点を攻撃するために戦闘機1機が低空飛行で接近した際、地上からの銃撃などで撃墜に成功したとKNPLFが明らかにした。 KNPLFによると、特に対空兵器があった訳ではないが、メンバーによる必死の攻撃で墜落させた、と地上からの銃撃によって戦闘機を墜落させたという。 この戦闘機はイワルティット村近くに墜落したが同村周辺は軍の支配地域のため、墜落した戦闘機の詳しい情報は当初不明だった。軍が急いで機体の残骸を片付けてしまったことも影響しているが、KNPLFは、その後詳細が明らかになったとしている。 それによると同機はK8Wという戦闘機で、空軍の大尉と中尉が乗り込んだ複座で、タウング空軍基地から攻撃のため発進した。その後、空軍は、犠牲となった2人のパイロットをそれぞれ少佐、大尉に昇進させ功績を讃えたという。 さらに7月31日には、カレン州パアン郡区サルウィン橋に設けられていた軍の検問所が地元PDFによって爆破され、民間人1人が死亡、兵士7人を含む10数人が負傷したという。検問所の兵士が近くに駐車していた車両を不審に思って調べようとしたところ爆発したとカレン情報センター(KIC)が情報提供した』、「K8Wという戦闘機で、空軍の大尉と中尉が乗り込んだ複座で、タウング空軍基地から攻撃のため発進した」、「特に対空兵器があった訳ではないが、メンバーによる必死の攻撃で墜落させた、と地上からの銃撃によって戦闘機を墜落させた」、大したものだ。
・『軍が住民14人を虐殺 一方、軍も各地で強力な抵抗を続けるPDFへの攻撃を激化させている。 独立系メディア「ミャンマー・ナウ」が7月31日に伝えたところによると、ザガイン地方域モンユウのチンドウィン川西岸にあるソネチャウン村で住民14人の虐殺があったという。 それによると、雨の降る深夜、ソネチャウン村に約60人の兵士が侵入、民家を訪れては懐中電灯で住民の顔を照らし、地元PDFの幹部を探しだそうとした。犬が大きく吠えて多くの住民が起きたが、当初は軍の接近を住民に連絡する訪問と思って扉を開けた人が多かったという。 軍はミョー・ミン・ウー氏(42)を捜索し、彼を見つけると同じ家にいた兄弟や子供と一緒に拘束した。さらに、PDF関係者とみられる住民を次々と拘束し「武器をどこに隠した」と拷問を加えながら尋問を続けた。拘束された住民はPDFとの関係を否定し、武器の所在も知らないと主張したという。 翌日の明け方には、ミョー・ミン・ウー氏をはじめとする拘束されいた14人の遺体が村のあちこちに放置されているのが見つかった。遺体には拷問の跡や刃物による傷など虐待の痕跡が残され、残虐な手段で虐殺されたことを物語っていた。 兵士は民家から電化製品や食料を奪い、住民からは現金を強奪するなどの行為を行って村を去ったと報じ、軍の行動を非難した』、「軍はミョー・ミン・ウー氏(42)を捜索し、彼を見つけると同じ家にいた兄弟や子供と一緒に拘束した。さらに、PDF関係者とみられる住民を次々と拘束し「武器をどこに隠した」と拷問を加えながら尋問を続けた。拘束された住民はPDFとの関係を否定し、武器の所在も知らないと主張したという。 翌日の明け方には、ミョー・ミン・ウー氏をはじめとする拘束されいた14人の遺体が村のあちこちに放置されているのが見つかった。遺体には拷問の跡や刃物による傷など虐待の痕跡が残され、残虐な手段で虐殺されたことを物語っていた。 兵士は民家から電化製品や食料を奪い、住民からは現金を強奪するなどの行為を行って村を去った」、「兵士は民家から電化製品や食料を奪い、住民からは現金を強奪」、とは実に酷い話だ。
・『柔軟姿勢はあくまで表向き 8月1日、ミン・アウン・フライン国軍司令官は非常事態宣言を延長するとともに、アウン・サン・スー・チーさんを含めた政治犯など約7000人に対する恩赦を発表した。 これにより19のいわれなき罪状で訴追され2022年12月に合計禁固33年の判決を受けて収監されていたスー・チーさんは、5件の刑で計6年の減刑措置を受けた。スー・チーさんの残る刑期は27年となったものの、78歳という年齢を考えると、実質的には終身刑と同じといえる。 軍政は恩赦に先立ち、スー・チーさんをそれまで収容していた首都ネピドー近郊の刑務所内に設けた特別な施設から刑務所外にある政府関係者の民家に移送したという。 さらに7月には、ネピドーを訪問したタイのドーン外相とスー・チーさんとの面会を特別に許可し、両者は直接対面して会談した。スー・チーさんが外国の閣僚と面会するのは2021年2月1日のクーデターで軍によって身柄を拘束されて以来初めてであった。 このように軍政は、スー・チーさんに対し、刑務所外への移送、タイの外相との面会許可、そして恩赦による刑期短縮と「柔軟姿勢」ともとれる措置を相次いで講じているが、これには非常事態宣言の延長という強権政治の継続に対する欧米や東南アジア諸国連合(ASEAN)の批判を交わす狙いがあるとみられている。 しかしこうした「柔軟姿勢」の一方でPDFや少数民族武装勢力など反軍政の抵抗勢力との戦闘を激化させており、武力衝突は依然として内戦状態と言っても過言ではない状況となっている。 この衝突で軍の兵士そして抵抗組織、さらに一般住民の犠牲は増える一方で、軍による人権侵害とともにミャンマー情勢をより深刻かつ複雑なもにしている。 ミャンマー問題の解決の糸口は、一向に見えてこない』、「非常事態宣言の延長という強権政治の継続に対する欧米や東南アジア諸国連合・・・の批判」、日本も批判を「欧米や東南アジア諸国連合」任せにせず、自ら積極的に働きかけてゆくべきだ。
第三に、9月3日付け現代ビジネスが掲載したPanAsiaNews記者の大塚 智彦氏による「ミャンマー国軍兵士が続々と寝返り…!クーデター以降約15000人が民主派勢力に加わり軍政の兵力低下が止まらない」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/115692?imp=0
・『国軍兵士の「寝返り」 軍政と武装抵抗勢力との戦闘が続き実質的な内戦状態にあるミャンマーで、正規軍の中で戦線離脱や部隊離反などによる脱走兵が増加し、その大半が敵対する民主派勢力「国民防衛軍(PDF)」に加わっていることが、ミャンマーの独立系メディアなどの報道で明らかになった。 国軍兵士の「寝返り」ともいえるこの現象は、2021年2月に軍がアウン・サン・スー・チーさん率いる民主政府から実権を奪取したクーデター以来続く傾向というが、2023年になってその数はさらに増加傾向にあると指摘されている。 「ミン・アウン・フライン国軍司令官でさえ実際に国軍兵士の正確な兵力(兵士の数)を把握できていない」と言われるほど、最前線の部隊では定員数と実際の兵士の数に大きなギャップが生じているという。 こうした深刻な事態に軍政は政府職員や自治体職員をリクルートして兵力不足を補おうとしているが、職業軍人ではない「動員された兵士」ほど寝返る傾向が強く、不足が補えない状況が続いている。 一方のPDF側は国軍兵士の投降を呼びかける運動を強め、武器や弾薬、軍用車両などを持参しての寝返りには報奨金を用意するなどと宣伝して国軍兵力の数的弱体化を試みている。 このような国軍の兵力低下は、PDF戦闘員や一般住民に対する空爆、民家放火や拷問、暴力や残虐な殺害行為、人間の盾としての利用などを激化させるという行動のエスカレートを招いているとされ、そこに国軍の焦燥感が如実に現われているといわれている』、「正規軍の中で戦線離脱や部隊離反などによる脱走兵が増加し、その大半が敵対する民主派勢力「国民防衛軍(PDF)」に加わっていることが、ミャンマーの独立系メディアなどの報道で明らかになった。 国軍兵士の「寝返り」ともいえるこの現象は、2021年2月に軍がアウン・サン・スー・チーさん率いる民主政府から実権を奪取したクーデター以来続く傾向というが、2023年になってその数はさらに増加傾向にあると指摘されている」、いよいよ国軍も最終段階に陥った可能性がある。
・『過去4ヵ月で500人が離反 独立系メディア「イラワジ」が8月25日伝えたところによると、最近開催された軍政に対抗する民主派組織「国家統一政府(NUG)」の第28回閣議で、マー・ウィン・カイン・タン首相が「過去4ヵ月の間に約500人の国軍兵士が軍を離脱、脱走した」と報告した。この500人の中には大隊副司令官という軍幹部も含まれているという。 今年8月に入ってからだけでも50人以上が国軍を離れており、軍の兵力低下が深刻な問題となっているとの見方を示した。こうした動きは西部チン州、東部カヤー州、カレン州などでも報告され、兵士の部隊離反が全国的に起きているとNUGではみている。 NUGによると、2021年2月のクーデター以来、少なくとも15000人の兵士と警察官が寝返って民主派の「不服従運動(CDM)」に参加しているという。軍政側は兵士の死傷者や行方不明者、脱走者などの数字を明らかにしていないが、NUG側が指摘した数字はある程度実態を反映しているとの見方が有力だ。 寝返った兵士や警察官は「国民防衛軍(PDF)」に加わって軍との戦闘に参加するほか、単に逃亡して密かに暮らしているかのどちらかであるという。 こうした事態に軍政側は兵士を軍に引き留めるために、休暇の奨励、芸能人らによる部隊慰問、指揮官は兵士と共に食事をとりコミュニケーションを密にするなど、あの手この手の対策を講じているとされる。 これに対しNUG側は兵士や警察官に離脱を勧めており、武器や弾薬、航空機や艦船と共に寝返った兵士らには多額の現金を付与するという報奨金制度を設けている』、「軍政側」「NUG側」とも必死に知恵を絞っているようだ。
・『寝返った元国軍兵士の証言 「イラワジ」は8月26日、同月1日に入手したという軍の文書に基づき各地の部隊で兵員不足が深刻な問題となっていると指摘した。 その文書は北東部シャン州に拠点を置く歩兵114大隊から国軍上層部に報告されたものとみられ、少なくとも857人の大隊要員が必要にもかかわらず実際には132人しか兵士がいないことを訴えている。 また、その132人の兵士のうち基地防衛のために62人を残し、半数以上の70人が基地を出て最前線での戦闘に従事しているという実態も記述されている。 さらに別の文書では、シャン州の国境問題担当の大佐が地区総務部門関係者に対して警察官を除く全ての公務員の名簿を提出するよう要請したことが記されている。このことから兵員不足を緊急に解消するために公務員を民兵または予備軍兵士に転換することを州政府が計画していることが分かるとしている。 同じ26日に「イラワジ」は元国軍兵士であるテット・ミャット元陸軍大尉のインタビュー記事を掲載した。ミャット氏は2021年6月に軍を離反し軍政に抵抗する市民の「不服従運動(CDM)」に参加、以後抵抗勢力側に協力して現役の兵士や将校の離反、逃亡の手助けを続けているという。 ミャット氏によると「イラワジ」が入手し報道した文書は「本物と思われる」とした上で、「各大隊は毎月兵員数などの情報を上部機関に報告する必要がある。大隊は兵士の定員数が約800人なのだが、どこの大隊もその数を満たしていないのが実情だ」と述べて文書の信憑性とともに国軍の兵員数逼迫が事実であるとの見方を示した』、「元国軍兵士であるテット・ミャット元陸軍大尉のインタビュー記事を掲載した。ミャット氏は2021年6月に軍を離反し軍政に抵抗する市民の「不服従運動(CDM)」に参加、以後抵抗勢力側に協力して現役の兵士や将校の離反、逃亡の手助けを続けているという。 ミャット氏によると・・・「各大隊は毎月兵員数などの情報を上部機関に報告する必要がある。大隊は兵士の定員数が約800人なのだが、どこの大隊もその数を満たしていないのが実情だ」、なるほど。
・『公務員を民兵や予備軍に採用 軍政が兵力不足を深刻に考えていることは近年、地方の行政機関などで働く公務員を軍になかば強制的に採用し、民兵や予備軍に編入して部隊に送り込んでいることに現れている、とミャット氏は指摘している。 臨時採用され兵士として前線に送られた公務員出身者などは、戦闘で生命の危機に直面した場合に容易に投降する傾向がみられ、それもまた兵員不足の一因として軍政の悩みの種となっているという。 公務員以外にも、地方の住民で食糧難や滞在場所のない人々を脅迫して採用するというケースも報告されるなど、軍の兵員不足の深刻さが浮き彫りとなっている。 公務員や一般住民からの臨時兵士の他、正規軍兵士の前線からの離脱者も多く、「先見の明がある兵士」や「民主化弾圧に疑問を抱く兵士」らが「抵抗組織からの誘い」などを理由に寝返る傾向があるという。 そしてミャット氏は「イラワジ」に対して、「70年以上の歴史があるミャンマー国軍がわずか(クーデター以来)3年の武装抵抗を打ち負かすことができないという事実」を直視する必要があるとの言葉で結んだ』、「「70年以上の歴史があるミャンマー国軍がわずか(クーデター以来)3年の武装抵抗を打ち負かすことができないという事実」を直視する必要」、その通りだ。
・『一般住民を逮捕し人間の盾に 国軍は最近、抵抗勢力PDFや国境周辺での少数民族武装勢力との戦闘の中で、兵力不足を補う策として、一般住民を逮捕して、人間の盾として利用する作戦を実行しているという。 8月25日、北部カチン州パカント郡にあるナントヤール村、カットマウ村、サインパラ村に約30人の兵士が夜陰に紛れて侵入し、村人ら約100人を逮捕、連行したという。 軍はその後、パカント村に進軍するに際し、逮捕した住民を人間の盾として最前線に立たせたり、地雷が埋設されている可能性のある場所を強制的に歩かせたりして兵士の犠牲を最小限にしようとする作戦をとっている、と抵抗勢力はみている。 こうした作戦は軍による苦肉の策であり、兵員不足を補う根本的な解決策とはなっていないばかりか、一般住民の反感を買って軍の立場を窮地に追い込む結果になっている。 住民を敵に回しても民主化抵抗勢力との戦闘を継続しなければならない軍政の焦りが背景にあるのは間違いない。 2021年2月のクーデター以来、軍政は全土での治安安定という目標を達成できず、今年7月31日に非常事態宣言を半年間延長したことで2023年内に予定していた総選挙も2024年2月以降に延期せざるを得ない状況となっており、ますます苦境に陥っているのが実情だ』、「住民を敵に回しても民主化抵抗勢力との戦闘を継続しなければならない軍政の焦りが背景にあるのは間違いない」、その通りだ。日本政府もミャンマー政府・国軍との関係を見直しておくべき段階にきたのではなかろうか。
タグ:現代ビジネス (その7)(少年を斬首 女性をレイプ 僧侶も銃殺…残虐性増すミャンマー国軍の血も涙もない攻撃、ミャンマー軍政「非常事態宣言延長」で国内全域で治安はさらに悪化…住民虐殺 検問所爆破 戦闘機撃墜も、ミャンマー国軍兵士が続々と寝返り…!クーデター以降約15000人が民主派勢力に加わり軍政の兵力低下が止まらない) ミャンマー 大塚 智彦氏による「少年を斬首、女性をレイプ、僧侶も銃殺…残虐性増すミャンマー国軍の血も涙もない攻撃」 「ミャンマーは国民の90%を仏教徒が占める国で、僧侶は国民の尊敬を集める対象となっているだけに、僧侶まで殺害するという軍政の容赦ない姿勢は反軍政を掲げる国民の反感と怒りを高めている。 こうした軍政の残虐非道な行動は、2月2日に戒厳令を7郡区から37郡区に拡大し、同月22日にもさらにサガイン地方域で3郡区を追加するなどして、抵抗勢力との戦闘が激化している地方での軍の権力を強化したことと関係があるとみられている。 2021年2月のクーデター以降すでに2年以上が経過しながらも、国内の治安が一向に安定せず、8月に予定している「民主的な総選挙」の実施も危ぶまれる状況に対する軍政の焦りが背景にあるとの見方が有力視されている」、なるほど。 「軍は11日にナンニント村に空爆や砲撃を加えた上で、地上部隊が村に進入、村内の仏教寺院に避難していた市民を外に連れ出しその場で射殺した。その時僧侶3人も同時に殺害されたとしている。犠牲者には10代前半の少年2人も含まれ、全員がナンニント村の男性住民であるとしている・・・住民らに向けて銃を乱射して殺害した問答無用の残虐行為の跡がみてとれる。KNDFによると兵士はその後、ナンニント村の住居を焼き払ったという」、自国軍隊がやることとは思えない、酷い話だ。 「PDF側が弾薬不足のため退却する際に退路に地雷を埋設していた若者5人が軍に拘束された。 その後若者5人の遺体が発見されたが、うち3人は斬首され、頭部が竹柵や荷車の上に「晒し首」状態で放置されており、中には手足が切断された遺体もあったという。遺体には銃創が一切ないことから、若者らは生きたまま斬首された可能性が高いとみられている・・・国軍は今や、軍に同調しない市民とみれば年齢に関係なく殺害するという「殺人組織」と化している・・・国連によるとクーデター発生後、ミャンマー全国で軍による攻撃で死亡あるいは重傷を負 負った子供は少なくとも約400人に上っている」、本当に国郡の暴虐ぶりは目に余る。 「同地方域ミンム群区ニャウンイン村でレイプされた女性の遺体が発見されたほか。同村では計14人の遺体が発見されたが、その中にはレイプされ顔面や頭部を激しく殴打された痕跡の残る女性3人の遺体も含まれていたという・・・2022年8月11日には同地方域インマビン群区インバウンテン村で10代の少女ら2人が兵士から集団レイプを受け、その後殺害され、遺体が崖に全裸の状態で放置されるという残虐な事件も」、よくぞこんなにも「残虐」な「事件」が続発するとは、やはり「ミャンマー」は異常な国だ。 「軍は2022年から、各地で抵抗を続ける武装市民組織メンバーに対する掃討作戦を通じて一般市民を巻き込んだ強権的弾圧を強化、女性や若者をも無差別に殺害しているが、国民の尊敬と信仰の対象である仏教僧侶まで容赦なく殺害するという暴挙に対し内外から厳しい批判が高まっている。 戒厳令を拡大したことで地方の行政権が大幅に軍に移譲され、軍はこうした残虐行為を通じて抵抗勢力や反軍政の市民への「見せしめ効果」を狙っているとされる。しかしこうした残虐な人権侵害行為は反軍政感情を一層高めるという逆効果を招いており、ミャンマーの 混乱は収拾不能な状況に陥っている」、極めて危険な状態だ。日本はODAなどを通じて「ミャンマー」に強い影響力を持っているので、軍政の混乱解決に向け指導力を発揮してもらいたい。 大塚 智彦氏による「ミャンマー軍政「非常事態宣言延長」で国内全域で治安はさらに悪化…住民虐殺、検問所爆破、戦闘機撃墜も」 「軍政が非常事態宣言を延長した理由は・・・国内の治安が予想に反して一向に安定せず、各地で武装市民組織「国民防衛軍(PDF)」や国境地帯を拠点とする少数民族武装勢力が軍や警察を攻撃し、軍も住民に対して暴力や虐殺を続けるなど、全土で戦闘が激化していることが背景にある」、なるほど。 「こうした一連の攻撃で軍側には少なくとも89人の犠牲を強いたと各地のPDFは報告しており、軍側の被害が拡大していることを印象付けた」、なるほど。 「K8Wという戦闘機で、空軍の大尉と中尉が乗り込んだ複座で、タウング空軍基地から攻撃のため発進した」、「特に対空兵器があった訳ではないが、メンバーによる必死の攻撃で墜落させた、と地上からの銃撃によって戦闘機を墜落させた」、大したものだ。 「軍はミョー・ミン・ウー氏(42)を捜索し、彼を見つけると同じ家にいた兄弟や子供と一緒に拘束した。さらに、PDF関係者とみられる住民を次々と拘束し「武器をどこに隠した」と拷問を加えながら尋問を続けた。拘束された住民はPDFとの関係を否定し、武器の所在も知らないと主張したという。 翌日の明け方には、ミョー・ミン・ウー氏をはじめとする拘束されいた14人の遺体が村のあちこちに放置されているのが見つかった。 遺体には拷問の跡や刃物による傷など虐待の痕跡が残され、残虐な手段で虐殺されたことを物語っていた。 兵士は民家から電化製品や食料を奪い、住民からは現金を強奪するなどの行為を行って村を去った」、「兵士は民家から電化製品や食料を奪い、住民からは現金を強奪」、とは実に酷い話だ。 「非常事態宣言の延長という強権政治の継続に対する欧米や東南アジア諸国連合・・・の批判」、日本も批判を「欧米や東南アジア諸国連合」任せにせず、自ら積極的に働きかけてゆくべきだ。 大塚 智彦氏による「ミャンマー国軍兵士が続々と寝返り…!クーデター以降約15000人が民主派勢力に加わり軍政の兵力低下が止まらない」 「正規軍の中で戦線離脱や部隊離反などによる脱走兵が増加し、その大半が敵対する民主派勢力「国民防衛軍(PDF)」に加わっていることが、ミャンマーの独立系メディアなどの報道で明らかになった。 国軍兵士の「寝返り」ともいえるこの現象は、2021年2月に軍がアウン・サン・スー・チーさん率いる民主政府から実権を奪取したクーデター以来続く傾向というが、2023年になってその数はさらに増加傾向にあると指摘されている」、いよいよ国軍も最終段階に陥った可能性がある。 「軍政側」「NUG側」とも必死に知恵を絞っているようだ。 「元国軍兵士であるテット・ミャット元陸軍大尉のインタビュー記事を掲載した。ミャット氏は2021年6月に軍を離反し軍政に抵抗する市民の「不服従運動(CDM)」に参加、以後抵抗勢力側に協力して現役の兵士や将校の離反、逃亡の手助けを続けているという。 ミャット氏によると・・・「各大隊は毎月兵員数などの情報を上部機関に報告する必要がある。大隊は兵士の定員数が約800人なのだが、どこの大隊もその数を満たしていないのが実情だ」、なるほど。 「「70年以上の歴史があるミャンマー国軍がわずか(クーデター以来)3年の武装抵抗を打ち負かすことができないという事実」を直視する必要」、その通りだ。 「住民を敵に回しても民主化抵抗勢力との戦闘を継続しなければならない軍政の焦りが背景にあるのは間違いない」、その通りだ。日本政府もミャンマー政府・国軍との関係を見直しておくべき段階にきたのではなかろうか。
統計問題(その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ) [経済問題]
統計問題については、2019年3月3日に取上げた。今日は、(その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ)である。なお、タイトルから「不正」はカット。
先ずは、2021年12月29日付け東洋経済オンラインが掲載した ジャーナリストの黒崎 亜弓氏による「建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/479789
・『建設業の月々の受注状況を推計し、GDP(国内総生産)算出にも使われる「建設工事受注動態統計」で、国土交通省があきれるばかりの不正を行っていた。遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ』、「遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ」、なるほど。
・『ユーザー軽視、何のための統計なのか 建設受注統計そのものの金額は二重計上でどのくらい増えていたのだろうか。 これはわからない。2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」(所管は厚生労働省)の問題よりも深刻といえる。 ただ、国交省が会計検査院の指摘を受けた後、自ら合算を行っていた2020年1月分?2021年3月分については、当月に入力した調査票データと、書き換え合算を行ったデータの2つがあり、他の条件をそろえて受注高を算出比較すれば、二重計上のインパクトがわかるはずだ。 2020年1月分?2021年3月分については、参考値との差額として「平均して1月あたり1.2兆円」という数字が国会答弁で出ているが、これは二重計上によって生じた数字ではない。二重計上のとりやめで生じたマイナスと同時に行われた推計方法の変更によるプラスとを合わせた数字だ。) 建設受注統計で国交省は、2021年4月分から二重計上をやめると同時に、調査先を選ぶ母集団となる「建設施工統計調査」で捕捉漏れをカバーする変更を行っている。2020年1月分?2021年3月分の参考値とは、この2つの変更を反映したものだ。金額は捕捉漏れカバーで増え、二重計上をやめたことで減る。これを差し引きすると1.2兆円のプラスというわけだ。 この母集団の捕捉漏れカバーは、カバレッジ(推計が網羅する範囲)を拡大して統計精度を上げるため、つまり、より実態を表す統計にするために行われたものと思われるが、国交省のホームページではきちんと説明がなされておらず、誤解を招いている。 「ユーザーには何が変わったのかわからない。統計は調査方法や推計方法を公開し、推計方法を変えたら『数字の見方に気をつけてください』とアナウンスするのが基本だ。国交省はユーザーを軽視している」。こう指摘するのは、日本銀行で統計畑を歩んだ肥後雅博・東京大学大学院教授だ。総務省の統計委員会担当室に出向していた3年前には、厚労省の毎月勤労統計における不正を明らかにした。 国交省はどう改善すべきなのか、不正続きの公的統計を立て直すにはどうすればいいか、肥後教授に聞いた』、「2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」・・・の問題よりも深刻といえる」、酷い話だ。「肥後教授」は「日本銀行で統計畑を歩んだ」だけあって、適任だ。
・『回答してくれた大事なデータを生かせ Q:国交省は、遅れて届く調査票をどう扱うべきだったのでしょうか。 肥後月次の作業に遅れて届いた前月分の数字は前月分として入力し、前月分の受注高を推計し直して改訂すべきだ。多くの統計は、締め切り時点で推計して速報を出し、1カ月ほど遅れて届いた分については確報段階で反映している。 Q:国交省は2021年4月分からは遅れて届いた調査票を合算せず、「年度報」のタイミングで反映させるとのことですが、それでは不十分なのですか。 肥後遅れて回答する人が多ければ、それでは統計精度が確保できない。建設受注統計はもともと回収率が60%台と低いのだから、遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる。) Q:公的統計は回答が義務であることから、未回答者に罰金を科すべきという声もあります。 肥後法的には正しいかもしれないが、現実的ではない。 Q:日銀が作成する統計は回答義務がないのに回収率が高い。日銀短観も企業物価指数(確報)も回収率は90%台です。 肥後それは企業に回答してもらえるまで電話をかけ続けるからだ。短観の締め切り直前は、未回答企業に毎朝かけてお願いする。それが日銀では当たり前で、それを部下に徹底させるのが上司としての私の仕事だった。 金融政策を適切に判断するには、経済情勢を見極めなければならず、そのためには統計がきちんと作成されていなければならない。その認識が総裁から全員に共有されている』、「遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる」、なるほど。
・『外部の有識者からの厳しい批判に応えた Q:日銀の統計には定評がありますね。 肥後日銀が作成する企業物価指数や企業向けサービス価格指数だって、四半世紀前は問題が多かった。物価下落局面に差し掛かった1990年代、製品の品質向上による実質価格の低下や特売、リベートといった実勢を反映できていなかった。また、価格の捕捉が難しくカバーしていない品目もかなりの数に上っていた。 学者の先生方からは厳しい批判を受けた。物価指数の作成方法について説明したら、「こんな調査をやっているからダメなんだ」と言われ、私は恥ずかしかった。そこから必死に長い時間をかけて直してきた。 Q:日銀内部からも「政策判断が狂う」と非難されたのではないですか。 肥後問題があることを逆手にとって「改善が必要だ」と主張し、統計部署の人員と予算をなんとか確保した。それで今がある。 Q:いっそのこと、日銀が政府の統計作成を請け負えばいいのではと思ったりします。 肥後日銀に限らず、統計調査を担うリサーチ会社はいくつもあるが、統計作成をフルに民間委託にすれば、いま公的統計に費やしている費用よりもはるかに高くつくだろう。) Q:会計検査院の報告書によると、現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる。 Q:民間委託とすることにも問題点はありますか。 肥後公的統計を民間にどこまで任せていいのかという問題はある。個別の契約で守秘義務を遵守するように民間業者を縛っているとはいえ、調査対象者は、企業や個人の情報が漏れるのではないかと心配になるだろう。 それに、統計作成を民間任せにすると、役所の中でどんな統計を、どのように作成するかという企画立案ができなくなる。調査対象者が回答できないような調査項目を作ったりする。役所が統計の作成にしっかり関与して、外注するのは末端の業務だけにしなければ、統計部署が空洞化してしまう』、「現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる」、なるほど。
・『「不正」よりも「欠陥統計」が問題 Q:統計をめぐる体制の問題としては、3年前の毎月勤労統計問題を受けて、統計委員会が基幹統計を一斉点検していたのに、建設受注統計の不正は見過ごされていました。 肥後統計委員会にマンパワーが足りない。常勤の委員はおらず、事務局は委員会の運営で手一杯だ。点検対象とする統計を絞り、徹底的に調べるべきだと意見したのは私だけではなかったが、基幹統計を網羅することが優先された。56もの基幹統計を限られた期間で見るには、各省庁に統計ごとに調査票を記入させ、問題が見つかったと自己申告してきたものを取り上げるしかなかった。自己点検だった。 Q:どうすれば不正を見つけられるのでしょうか。 肥後チェック体制には3段階ある。現在の自己点検、相手の同意をもとにした点検、それに強制力を持った検査だ。自己点検では実効性がないことが今回わかった。 Q:今回、調査票の書き換えを発見したのは、検査権限を持つ会計検査院でした。 肥後強制力を持つ統計監督機関を設けるには、法体系を変えなければならない。不正があまりに多く、摘発が最優先であれば検討されるべきだろうが、強制力のある組織では統計精度の改善はできない。不正がそこまで多くなく、省庁と協力して統計精度を改善する必要があるのなら、統計委員会のようにフレンドリーな組織のほうがいい。) 私は、摘発を優先しなければならないほど不正が多いとは思っていない。むしろ、公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる。毎月勤労統計でも、公表データで整合性のつかない点について厚労省に質問したら、全数調査のところ3分の1に抽出していたと告白した』、「公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる」、なるほど。
・『3省合体「統計庁」で統計の専門人材育成を Q:各省庁の専門人材不足に対しては、統計部署の一元化が必要と言われます。 肥後私が考えているのは、部分的な一元化だ。総務省統計局と統計行政部署、内閣府のGDPを作る部署、それに経済産業省の統計部署の3つが合体する。名付けるなら「統計庁」だろうか。統計委員会もそこに入る。統計庁は、GDP、産業連関表に加え、国勢調査、経済センサス、消費者物価指数、鉱工業指数など主要統計を作成する。 最大の目的は、統計人材を集め、育てることだ。3?4の局がある800~900人規模の組織であれば、統計を志す人を採用できる。内部で人事ローテーションができ、さまざまな統計を作るのでノウハウが蓄積する。 他の省庁から統計を集めるわけではない。各省庁の所管業務に密着した統計は、その省庁でなければ作れない。たとえば医療施設についての統計であれば、厚労省しか分類方法などわからない。雇用統計は労働行政と結びついているし、建設関連の統計は、国交省の許認可権や公共工事の発注と関わっている。 ただし、所管官庁では統計の専門人材が不足する。それを統計庁がサポート・監督することで補い、統計全体の質を確保する。統計庁にノウハウが蓄積されれば、他省庁の統計がどのように作られているのかもわかる。 Q:現実味はあるのでしょうか。 肥後省庁再編が相当困難な作業であることは承知している。統計庁が誕生したとしても、元の省庁から人員を交互に派遣するのでは形だけになる。 統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ』、「統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ」、同感である。
次に、2022年3月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/299287
・『飲食サービス業の年収は141万円でしかない! 毎月勤労統計調査は、賃金に関する基本的なデータを提供する統計だ。 2021年確報によると、21年の現金給与総額は全産業計で年収383万円だ。これもずいぶん低い値だと感じるが、業種によっては驚くほど低いところもある。 例えば、「飲食サービス業等」の年収は141万円でしかない。一見したところ、極貧としか言いようがない状態だ。なぜこんなに低いのか? 本当にこんなに低いのだろうか? 実は、日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる』、「日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる」、なるほど。
・『パートタイム労働者の比率が鍵 飲食サービス業は77.7%と多い パートタイム労働者の比率を業種別に見ると、図表1(後出)のとおりだ。産業計で31.28%だが、「飲食サービス業等」では77.66%と非常に高い。それに対して、建設業は5.67%、製造業は13.45%と低い。 (図表1:業種別のパート比率とFTE賃金など(2021年)はリンク先参照) そして、現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる。 ただ、労働時間が半分しかないのだから、複数の事業所で働いていることもあるだろう。それを考えれば、格差はもう少し縮まる』、「現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる」、なるほど。
・『「フルタイム当量」を計算すると 平均賃金は統計の数字ほど低くない フルタイム労働者の約半分しか働かない人が約3割もいるということになれば、その人たちを含めた全体の平均賃金が低くなるのは当然だ。 そこで、これを調整するのに、FTE(full-time equivalent:フルタイム当量)という考えがある。 これについては、本コラム(2022年2月24日付)「日本の賃金『韓国の77%』は本当か、時代遅れの日本の賃金統計」で説明した。 例えば半分の時間しか働かない人は、1人とカウントするのではなくて、0.5人とカウントする方式である。) FTEの考え方を詳しく言えば、つぎのとおりだ。 労働時間比=(パートの労働時間)÷(一般労働者の労働時間) α=(一般労働者比率)+(パート比率)×(労働時間比) 実際の労働者数をnとすれば、FTEベースでの労働者数はαnだ。 賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる』、「賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる」、なるほど。
・『業種間の賃金格差は、統計で見るほど大きくない この考え方に従って産業ごとにFTEベースでの労働者数を算出して賃金の修正をすると、図表1の右端欄のようになる。 これでもまだ飲食サービス業や小売業の平均賃金は低い。しかし、事態はだいぶ変わる。これは、政府の統計にあるのとはかなり違った姿だ。 αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ。 だから、FTEベースの賃金を求めるのは単に機械的な作業ではなく、政策判断には重要な意味を持つ作業だ。 日本企業の生産性は低いといわれてきた。とくに、サービス産業の生産性が低いといわれてきた。そのこと自体はこのような計算を行なっても変わらない。しかし、産業間の格差はこれまで考えられてきたよりはだいぶ縮まる』、「αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ」、「パート比率」の調整は実態に近づける。
・『パートが多いのは、ファミレスとコンビニ パートタイム労働者の事業所規模別、企業規模別の就業状況については、「パートタイム労働者総合実態調査」(厚生労働省)がある。2016年のものでやや古いが、これを見ると、つぎのとおりだ。 (図表2 事業所規模別パート比率はリンク先参照) 図表2に見るように、パート比率は事業所規模と明確な相関がある。小規模事業所で高く、大規模事業所で低い。それに対して、企業規模別にはあまり大きな差が見られない。 つまり、パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している。 本来はこの点も考慮すべきだろうが、業種別・規模別のデータが得られなかったので、ここではその分析は行なわなかった』、「パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している」、その通りだ。
・『適切な政策のためには、 雇用形態の変化に応じる統計が必要 OECDの賃金統計はFTEベースのものだ。 日本政府が作成している統計に比べると、労働者の数は減る。また平均賃金は高くなる(ただし、これで計算しても、賃金が韓国に抜かれていること、時間的に上昇していないことに変わりはない)。 どの国でもパートタイム労働者が増えているので、FTEでないと、事態を正確につかめなくなっている。 アメリカの国民所得統計では、「フルタイム労働者」や「フルタイム賃金」が計算されている。 ILOは、コロナが雇用に与えた影響に関するレポートで、FTEによるデータで分析している。 日本でも、パートタイム労働者の増加が著しい。この変化に即した統計を作る必要がある。そうでないと、事態を正確に把握できず、適切な政策を行なえない。 いま、建設工事受注動態統計での不正な集計方法が問題とされている。毎月勤労統計調査でも、2019年に不正な集計方法が問題にされた。 確かにこれらは大きな問題だ。統計は、「正しい」手続きで作成されなければならない。ただし、それとともに、統計が「適切」なものかどうか、そして、それらが政策決定に使われているのかどうかも重要な問題だ。 適切な統計でなければ、政策に使うことができない。コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?』、「コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?」、「データ」を「活用」するためには、「統計が現実を適切に把握」するべくなるべく早目に「適切」に調整するべきだ。
先ずは、2021年12月29日付け東洋経済オンラインが掲載した ジャーナリストの黒崎 亜弓氏による「建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/479789
・『建設業の月々の受注状況を推計し、GDP(国内総生産)算出にも使われる「建設工事受注動態統計」で、国土交通省があきれるばかりの不正を行っていた。遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ』、「遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ」、なるほど。
・『ユーザー軽視、何のための統計なのか 建設受注統計そのものの金額は二重計上でどのくらい増えていたのだろうか。 これはわからない。2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」(所管は厚生労働省)の問題よりも深刻といえる。 ただ、国交省が会計検査院の指摘を受けた後、自ら合算を行っていた2020年1月分?2021年3月分については、当月に入力した調査票データと、書き換え合算を行ったデータの2つがあり、他の条件をそろえて受注高を算出比較すれば、二重計上のインパクトがわかるはずだ。 2020年1月分?2021年3月分については、参考値との差額として「平均して1月あたり1.2兆円」という数字が国会答弁で出ているが、これは二重計上によって生じた数字ではない。二重計上のとりやめで生じたマイナスと同時に行われた推計方法の変更によるプラスとを合わせた数字だ。) 建設受注統計で国交省は、2021年4月分から二重計上をやめると同時に、調査先を選ぶ母集団となる「建設施工統計調査」で捕捉漏れをカバーする変更を行っている。2020年1月分?2021年3月分の参考値とは、この2つの変更を反映したものだ。金額は捕捉漏れカバーで増え、二重計上をやめたことで減る。これを差し引きすると1.2兆円のプラスというわけだ。 この母集団の捕捉漏れカバーは、カバレッジ(推計が網羅する範囲)を拡大して統計精度を上げるため、つまり、より実態を表す統計にするために行われたものと思われるが、国交省のホームページではきちんと説明がなされておらず、誤解を招いている。 「ユーザーには何が変わったのかわからない。統計は調査方法や推計方法を公開し、推計方法を変えたら『数字の見方に気をつけてください』とアナウンスするのが基本だ。国交省はユーザーを軽視している」。こう指摘するのは、日本銀行で統計畑を歩んだ肥後雅博・東京大学大学院教授だ。総務省の統計委員会担当室に出向していた3年前には、厚労省の毎月勤労統計における不正を明らかにした。 国交省はどう改善すべきなのか、不正続きの公的統計を立て直すにはどうすればいいか、肥後教授に聞いた』、「2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」・・・の問題よりも深刻といえる」、酷い話だ。「肥後教授」は「日本銀行で統計畑を歩んだ」だけあって、適任だ。
・『回答してくれた大事なデータを生かせ Q:国交省は、遅れて届く調査票をどう扱うべきだったのでしょうか。 肥後月次の作業に遅れて届いた前月分の数字は前月分として入力し、前月分の受注高を推計し直して改訂すべきだ。多くの統計は、締め切り時点で推計して速報を出し、1カ月ほど遅れて届いた分については確報段階で反映している。 Q:国交省は2021年4月分からは遅れて届いた調査票を合算せず、「年度報」のタイミングで反映させるとのことですが、それでは不十分なのですか。 肥後遅れて回答する人が多ければ、それでは統計精度が確保できない。建設受注統計はもともと回収率が60%台と低いのだから、遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる。) Q:公的統計は回答が義務であることから、未回答者に罰金を科すべきという声もあります。 肥後法的には正しいかもしれないが、現実的ではない。 Q:日銀が作成する統計は回答義務がないのに回収率が高い。日銀短観も企業物価指数(確報)も回収率は90%台です。 肥後それは企業に回答してもらえるまで電話をかけ続けるからだ。短観の締め切り直前は、未回答企業に毎朝かけてお願いする。それが日銀では当たり前で、それを部下に徹底させるのが上司としての私の仕事だった。 金融政策を適切に判断するには、経済情勢を見極めなければならず、そのためには統計がきちんと作成されていなければならない。その認識が総裁から全員に共有されている』、「遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる」、なるほど。
・『外部の有識者からの厳しい批判に応えた Q:日銀の統計には定評がありますね。 肥後日銀が作成する企業物価指数や企業向けサービス価格指数だって、四半世紀前は問題が多かった。物価下落局面に差し掛かった1990年代、製品の品質向上による実質価格の低下や特売、リベートといった実勢を反映できていなかった。また、価格の捕捉が難しくカバーしていない品目もかなりの数に上っていた。 学者の先生方からは厳しい批判を受けた。物価指数の作成方法について説明したら、「こんな調査をやっているからダメなんだ」と言われ、私は恥ずかしかった。そこから必死に長い時間をかけて直してきた。 Q:日銀内部からも「政策判断が狂う」と非難されたのではないですか。 肥後問題があることを逆手にとって「改善が必要だ」と主張し、統計部署の人員と予算をなんとか確保した。それで今がある。 Q:いっそのこと、日銀が政府の統計作成を請け負えばいいのではと思ったりします。 肥後日銀に限らず、統計調査を担うリサーチ会社はいくつもあるが、統計作成をフルに民間委託にすれば、いま公的統計に費やしている費用よりもはるかに高くつくだろう。) Q:会計検査院の報告書によると、現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる。 Q:民間委託とすることにも問題点はありますか。 肥後公的統計を民間にどこまで任せていいのかという問題はある。個別の契約で守秘義務を遵守するように民間業者を縛っているとはいえ、調査対象者は、企業や個人の情報が漏れるのではないかと心配になるだろう。 それに、統計作成を民間任せにすると、役所の中でどんな統計を、どのように作成するかという企画立案ができなくなる。調査対象者が回答できないような調査項目を作ったりする。役所が統計の作成にしっかり関与して、外注するのは末端の業務だけにしなければ、統計部署が空洞化してしまう』、「現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる」、なるほど。
・『「不正」よりも「欠陥統計」が問題 Q:統計をめぐる体制の問題としては、3年前の毎月勤労統計問題を受けて、統計委員会が基幹統計を一斉点検していたのに、建設受注統計の不正は見過ごされていました。 肥後統計委員会にマンパワーが足りない。常勤の委員はおらず、事務局は委員会の運営で手一杯だ。点検対象とする統計を絞り、徹底的に調べるべきだと意見したのは私だけではなかったが、基幹統計を網羅することが優先された。56もの基幹統計を限られた期間で見るには、各省庁に統計ごとに調査票を記入させ、問題が見つかったと自己申告してきたものを取り上げるしかなかった。自己点検だった。 Q:どうすれば不正を見つけられるのでしょうか。 肥後チェック体制には3段階ある。現在の自己点検、相手の同意をもとにした点検、それに強制力を持った検査だ。自己点検では実効性がないことが今回わかった。 Q:今回、調査票の書き換えを発見したのは、検査権限を持つ会計検査院でした。 肥後強制力を持つ統計監督機関を設けるには、法体系を変えなければならない。不正があまりに多く、摘発が最優先であれば検討されるべきだろうが、強制力のある組織では統計精度の改善はできない。不正がそこまで多くなく、省庁と協力して統計精度を改善する必要があるのなら、統計委員会のようにフレンドリーな組織のほうがいい。) 私は、摘発を優先しなければならないほど不正が多いとは思っていない。むしろ、公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる。毎月勤労統計でも、公表データで整合性のつかない点について厚労省に質問したら、全数調査のところ3分の1に抽出していたと告白した』、「公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる」、なるほど。
・『3省合体「統計庁」で統計の専門人材育成を Q:各省庁の専門人材不足に対しては、統計部署の一元化が必要と言われます。 肥後私が考えているのは、部分的な一元化だ。総務省統計局と統計行政部署、内閣府のGDPを作る部署、それに経済産業省の統計部署の3つが合体する。名付けるなら「統計庁」だろうか。統計委員会もそこに入る。統計庁は、GDP、産業連関表に加え、国勢調査、経済センサス、消費者物価指数、鉱工業指数など主要統計を作成する。 最大の目的は、統計人材を集め、育てることだ。3?4の局がある800~900人規模の組織であれば、統計を志す人を採用できる。内部で人事ローテーションができ、さまざまな統計を作るのでノウハウが蓄積する。 他の省庁から統計を集めるわけではない。各省庁の所管業務に密着した統計は、その省庁でなければ作れない。たとえば医療施設についての統計であれば、厚労省しか分類方法などわからない。雇用統計は労働行政と結びついているし、建設関連の統計は、国交省の許認可権や公共工事の発注と関わっている。 ただし、所管官庁では統計の専門人材が不足する。それを統計庁がサポート・監督することで補い、統計全体の質を確保する。統計庁にノウハウが蓄積されれば、他省庁の統計がどのように作られているのかもわかる。 Q:現実味はあるのでしょうか。 肥後省庁再編が相当困難な作業であることは承知している。統計庁が誕生したとしても、元の省庁から人員を交互に派遣するのでは形だけになる。 統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ』、「統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ」、同感である。
次に、2022年3月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/299287
・『飲食サービス業の年収は141万円でしかない! 毎月勤労統計調査は、賃金に関する基本的なデータを提供する統計だ。 2021年確報によると、21年の現金給与総額は全産業計で年収383万円だ。これもずいぶん低い値だと感じるが、業種によっては驚くほど低いところもある。 例えば、「飲食サービス業等」の年収は141万円でしかない。一見したところ、極貧としか言いようがない状態だ。なぜこんなに低いのか? 本当にこんなに低いのだろうか? 実は、日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる』、「日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる」、なるほど。
・『パートタイム労働者の比率が鍵 飲食サービス業は77.7%と多い パートタイム労働者の比率を業種別に見ると、図表1(後出)のとおりだ。産業計で31.28%だが、「飲食サービス業等」では77.66%と非常に高い。それに対して、建設業は5.67%、製造業は13.45%と低い。 (図表1:業種別のパート比率とFTE賃金など(2021年)はリンク先参照) そして、現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる。 ただ、労働時間が半分しかないのだから、複数の事業所で働いていることもあるだろう。それを考えれば、格差はもう少し縮まる』、「現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる」、なるほど。
・『「フルタイム当量」を計算すると 平均賃金は統計の数字ほど低くない フルタイム労働者の約半分しか働かない人が約3割もいるということになれば、その人たちを含めた全体の平均賃金が低くなるのは当然だ。 そこで、これを調整するのに、FTE(full-time equivalent:フルタイム当量)という考えがある。 これについては、本コラム(2022年2月24日付)「日本の賃金『韓国の77%』は本当か、時代遅れの日本の賃金統計」で説明した。 例えば半分の時間しか働かない人は、1人とカウントするのではなくて、0.5人とカウントする方式である。) FTEの考え方を詳しく言えば、つぎのとおりだ。 労働時間比=(パートの労働時間)÷(一般労働者の労働時間) α=(一般労働者比率)+(パート比率)×(労働時間比) 実際の労働者数をnとすれば、FTEベースでの労働者数はαnだ。 賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる』、「賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる」、なるほど。
・『業種間の賃金格差は、統計で見るほど大きくない この考え方に従って産業ごとにFTEベースでの労働者数を算出して賃金の修正をすると、図表1の右端欄のようになる。 これでもまだ飲食サービス業や小売業の平均賃金は低い。しかし、事態はだいぶ変わる。これは、政府の統計にあるのとはかなり違った姿だ。 αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ。 だから、FTEベースの賃金を求めるのは単に機械的な作業ではなく、政策判断には重要な意味を持つ作業だ。 日本企業の生産性は低いといわれてきた。とくに、サービス産業の生産性が低いといわれてきた。そのこと自体はこのような計算を行なっても変わらない。しかし、産業間の格差はこれまで考えられてきたよりはだいぶ縮まる』、「αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ」、「パート比率」の調整は実態に近づける。
・『パートが多いのは、ファミレスとコンビニ パートタイム労働者の事業所規模別、企業規模別の就業状況については、「パートタイム労働者総合実態調査」(厚生労働省)がある。2016年のものでやや古いが、これを見ると、つぎのとおりだ。 (図表2 事業所規模別パート比率はリンク先参照) 図表2に見るように、パート比率は事業所規模と明確な相関がある。小規模事業所で高く、大規模事業所で低い。それに対して、企業規模別にはあまり大きな差が見られない。 つまり、パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している。 本来はこの点も考慮すべきだろうが、業種別・規模別のデータが得られなかったので、ここではその分析は行なわなかった』、「パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している」、その通りだ。
・『適切な政策のためには、 雇用形態の変化に応じる統計が必要 OECDの賃金統計はFTEベースのものだ。 日本政府が作成している統計に比べると、労働者の数は減る。また平均賃金は高くなる(ただし、これで計算しても、賃金が韓国に抜かれていること、時間的に上昇していないことに変わりはない)。 どの国でもパートタイム労働者が増えているので、FTEでないと、事態を正確につかめなくなっている。 アメリカの国民所得統計では、「フルタイム労働者」や「フルタイム賃金」が計算されている。 ILOは、コロナが雇用に与えた影響に関するレポートで、FTEによるデータで分析している。 日本でも、パートタイム労働者の増加が著しい。この変化に即した統計を作る必要がある。そうでないと、事態を正確に把握できず、適切な政策を行なえない。 いま、建設工事受注動態統計での不正な集計方法が問題とされている。毎月勤労統計調査でも、2019年に不正な集計方法が問題にされた。 確かにこれらは大きな問題だ。統計は、「正しい」手続きで作成されなければならない。ただし、それとともに、統計が「適切」なものかどうか、そして、それらが政策決定に使われているのかどうかも重要な問題だ。 適切な統計でなければ、政策に使うことができない。コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?』、「コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?」、「データ」を「活用」するためには、「統計が現実を適切に把握」するべくなるべく早目に「適切」に調整するべきだ。
タグ:統計問題 (その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ) 東洋経済オンライン 黒崎 亜弓氏による「建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く」 「遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ」、なる 「2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」・・・の問題よりも深刻といえる」、酷い話だ。「肥後教授」は「日本銀行で統計畑を歩んだ」だけあって、適任だ。 「遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる」、なるほど。 「現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる」、なるほど。 「公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる」、なるほど。 「統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ」 「日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる」、なるほど。 「現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる」、なるほど。 「賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる」、なるほど。 「αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ」、「パート比率」の調整は実態に近づける。 「パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している」、その通りだ。 「コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?」、「データ」を「活用」するためには、「統計が現実を適切に把握」するべくなるべく早目に「適切」に調整するべきだ。
防衛問題(その22)(防衛大告発論3題:石原俊教授は防衛大告発論考どう読んだのか?「何人もの研究者が指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて 他国の将校クラスよりも心もとないという評価」、「コスプレ感覚のミリタリー好き」「リストカット」「適応障害で留年」…幹部自衛官を目指すには適性を欠く学生も多々いる集団生活の“地獄”、女子学生への公然セクハラ シャワー室の盗撮 頻発する窃盗事件…問題だらけの防衛大でそれでも私が4年間退校せずに全うすることができた理由【学生たちの証言】) [国内政治]
防衛問題については、本年7月18日に取上げた。今日は、(その22)(防衛大告発論3題:石原俊教授は防衛大告発論考どう読んだのか?「何人もの研究者が指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて 他国の将校クラスよりも心もとないという評価」、「コスプレ感覚のミリタリー好き」「リストカット」「適応障害で留年」…幹部自衛官を目指すには適性を欠く学生も多々いる集団生活の“地獄”、女子学生への公然セクハラ シャワー室の盗撮 頻発する窃盗事件…問題だらけの防衛大でそれでも私が4年間退校せずに全うすることができた理由【学生たちの証言】)である。
先ずは、本年8月11日付け集英社オンライン「大学問題のスペシャリスト・石原俊教授は防衛大告発論考どう読んだのか?「何人もの研究者が指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて、他国の将校クラスよりも心もとないという評価」を紹介しよう。
https://shueisha.online/culture/152530?page=1
・『2023年6月30日に防衛大学校の等松春夫教授が衝撃的な論考を発表した。防大、防衛省の構造に警鐘を鳴らすこの論考を有識者たちはどのように読んだのだろうか。『硫黄島』(中公新書)、『シリーズ 戦争と社会』(岩波書店)などの著書で知られ、「大学の自治」に詳しい明治学院大学の石原俊教授が綴る』、興味深そうだ。
・『防衛大論考-私はこう読んだ#5 【関連記事:防衛大現役教授が実名告発】 #1 自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件 #2 防衛大の時代錯誤なリーダーシップ・フォロワーシップ教育 【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】 #1 望月衣塑子 #2 大木毅 #3 現役教官 4 石破茂 【元防大生の声】#1 上級生が気の利かない下級生を“ガイジ”と呼びすて… #2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」 #3 「叫びながら10回敬礼しろ。何もできないくせに上級生ぶるな」 【防大生たちの叫び】 #1 適性のない学生と同室で…集団生活の“地獄” #2 女子学生へのセクハラ、シャワー室の盗撮、窃盗事件…』、ずいぶん内容が濃いようだ。
・『一般の大学等とは大きく異なる「防衛大学校」という存在 筆者は防衛大学校と深い交流を持つ者ではなく、自衛隊や外国の軍隊を専門的な研究対象とする者でもない。そのため、本稿で述べる内容は徹頭徹尾、一般論にとどまることを、あらかじめ承知いただきたい。 防衛大学校(以下、防大)は、国際的にみれば各国の士官学校に比肩する教育機関であり、学校教育法第1条が定める「1条校」ではない。 この点で防大は、一般の大学等とは大きく異なる。 等松春夫教授による告発文書「危機に瀕する防衛大学校の教育」は、高等教育機関として特殊な組織である防大が、教育体制・事務体制から、教官人事・指導官人事、ガバナンスにいたるまで、重大な問題を長年にわたって放置してきた結果、学生の教育環境が危機的状況に陥っていると指摘する。 特に、学生舎(寮)における共同生活や、上級生から下級生への「指導」の慣習が、公私混同の命令や悪質な威圧の温床となり、ハラスメント、いじめ、賭博、詐欺などが蔓延する要因になってきたと告発している。 これまでも、防大生をめぐる不祥事が起こると事実関係が報道されることはあった。だが、そうした不祥事が頻発する構造的背景を、一般社会に向けて体系的かつ説得的に説明したのは、おそらく等松教授が初めてだろう。 等松教授の告発に対して、防大執行部は7月14日、久保文明学校長名による反論文書「本校教官の意見発表に対する防衛大学校長所感」を公表した【※】。 久保校長は防大改革を進めようとしており、反論文書は「学生間指導においても、上級生による強圧的な言動を排除してき」たとして、この1~2年の間に状況が劇的に改善したと主張している。 ただ、「上級生による強圧的な言動」はそれ以前の長きにわたり、幾度となく指摘されてきた問題だ。久保校長の退任後も含めて、これから十年単位で、防大が真に変化したかどうか、国民はウォッチしていく必要がある』、「これまでも、防大生をめぐる不祥事が起こると事実関係が報道されることはあった。だが、そうした不祥事が頻発する構造的背景を、一般社会に向けて体系的かつ説得的に説明したのは、おそらく等松教授が初めてだろう・・・等松教授の告発に対して、防大執行部は7月14日、久保文明学校長名による反論文書「本校教官の意見発表に対する防衛大学校長所感」を公表した。 久保校長は防大改革を進めようとしており、反論文書は「学生間指導においても、上級生による強圧的な言動を排除してき」たとして、この1~2年の間に状況が劇的に改善したと主張している。 ただ、「上級生による強圧的な言動」はそれ以前の長きにわたり、幾度となく指摘されてきた問題だ。久保校長の退任後も含めて、これから十年単位で、防大が真に変化したかどうか、国民はウォッチしていく必要がある」、なるほど。
・『「その任には堪えられない人々」が登用される現状 他方で、一般にはあまり知られていない点だが、防大は一般の大学等と同様、学校教育法に沿って文部科学省が定める「大学設置基準」に服しており、卒業時には大学改革支援・学位授与機構の審査を経て、学士の学位(学士号)が授与されている。 防大のカリキュラムは、いわゆる軍事教練にあたる「訓練課程」と、学術・科学分野を学ぶ「教育課程」に分かれている。 後者の「教育課程」には、防大特有の「防衛学」だけでなく、人文学・社会科学から、理工系の基礎科学・応用科学、そして外国語まで、一般の大学等と変わらぬバリエーションがそろっている。このように、防大が「大学設置基準」に沿った教育機関(かつ研究機関)と認定されているからこそ、防大の卒業生には、他の大多数の「大学校」(各種学校)と異なり、学士号が授与されているのだ。 ところが、等松教授の告発文書によれば、「防衛学」を担当する自衛官教官の多くが、文官教官のような教育能力や研究業績の厳格な審査を経ずに、教授や准教授に採用されており、「とてもその任には堪えられない人々」も少なくないという。 一方で、文官教官が雑誌や新聞に論考やコメントを発表する場合、原稿を事前に事務部門に提出しなければならず、学術的には素人の事務官が事実上の検閲を行うばかりか、原稿を書き換える事例さえあるという。 筆者は率直なところ、驚愕した』、「等松教授の告発文書によれば、「防衛学」を担当する自衛官教官の多くが、文官教官のような教育能力や研究業績の厳格な審査を経ずに、教授や准教授に採用されており、「とてもその任には堪えられない人々」も少なくないという。 一方で、文官教官が雑誌や新聞に論考やコメントを発表する場合、原稿を事前に事務部門に提出しなければならず、学術的には素人の事務官が事実上の検閲を行うばかりか、原稿を書き換える事例さえあるという」、なるほど。
・『防衛大論考-私はこう読んだ#5 「学問の自由」に反する事実上の検閲 こうした事実上の検閲は、一般の大学等ではとうてい考えられない。たしかに、昨今は大学等においても、学長や理事会などの経営陣によってガバナンスの「トップダウン」化が進められ、教員による「ボトムアップ」の意思決定・意見表明の場である教授会などの権限が削減されつつある。 とはいえ、たとえ「一族ワンマン経営」の理事会が支配するような小規模私立大学にあってさえ、教員の対外発信の内容を、学長や理事会ましてや事務部門が事前にチェックすることはありえない。 なぜならそれは、憲法23条が定める「学問の自由」に、根本的に反するからだ。 前述の久保校長の反論文書は、文官教官の対外発信時の事前届出制度が検閲を目的としておらず、また等松教授の告発文書に、防大執行部や事務官が一切、手を加えていないと強調している。 ただ留意すべきは、等松教授が世界的に認められた外交史の研究者であり、また幹部学校や統合幕僚学校、防衛研究所での教育歴も長く、自衛隊内で相当な権威をもつ文官教官であることだ。 他の研究者、特に中堅・若手を含むすべての文官教官が、対外発信時に防大執行部や事務官からの書き換え圧力を受けていないと明言できなければ、防大に検閲が存在しないということにはならない。 そもそも、重要な防衛機密事項の漏洩リスクがある場合を除き、研究者の対外発信内容について防大執行部や事務官が事前確認をおこない「意見を述べる」内部ルール自体が、憲法秩序に照らして著しく不適切である。 「学問の自由」が保障されていないこと、この一点のみをもってしても、防大は「大学設置基準」に沿った教育機関・研究機関の認定(学士号が授与される資格)を取り消されてもおかしくない状況にあるのだ』、「重要な防衛機密事項の漏洩リスクがある場合を除き、研究者の対外発信内容について防大執行部や事務官が事前確認をおこない「意見を述べる」内部ルール自体が、憲法秩序に照らして著しく不適切である。「学問の自由」が保障されていないこと、この一点のみをもってしても、防大は「大学設置基準」に沿った教育機関・研究機関の認定・・・を取り消されてもおかしくない状況にある」、なるほど。
・『防衛大論考-私はこう読んだ#5 他国に劣る幹部自衛官の知的・学術的水準 防大の4年と幹部候補生学校の1年、計5年の課程を修めた自衛官は、大多数が20歳代前半の若者ながら、ただちに尉官に任官し、国際基準では「将校」とみなされる。 つまり自衛隊は、一般の大学の学部4年間相当と、大学院修士課程2年間のうち1年間相当の高等教育を修めれば、いきなり将校クラスに任官するという、メリット・システム(閉鎖型任用制)を採用している。 これは、おおむね20代後半に係長、30代前半に課長補佐になる、霞が関のキャリア官僚の世界と比べてさえ、劇的といえるメリット・システムだ。もちろん、このシステム自体は、日本の旧軍や他国の軍隊を参照して設計されているので、驚くべき点はない。 ここで問題なのは、防大の(たった4年間の課程を担う)教育現場に、自衛隊の劇的なメリット・システムを支える責任と負荷が一身にかかっていることである。 しかしながら、防大受験者数は2010年代半ば以降、著しい減少傾向にあり、また中退者数、任官辞退者数、幹部候補生学校入校辞退者数などは、全体として増加傾向にある。自衛隊が優秀な幹部自衛官の確保・育成に苦労していることは、数字上からも事実といわざるをえない。 そして残念ながら、等松教授の告発文書にある「思考停止の中堅幹部が年々増えている」という評価は、筆者のもとに集まってくる情報とも符合している。 筆者自身、幾人もの幹部自衛官と長時間、腹を割って話したことはあり、職務において誠実で高潔な現役幹部自衛官が大勢いることは知っている。だが、筆者の研究仲間や知人で、外国軍将校と幹部自衛官の双方と日常的に交流の機会をもつ何人もの研究者が、異口同音に指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて他国の将校クラスよりも心もとないという評価だ。 北東アジアでは今後当分の間、朝鮮戦争以来の不安定な安全保障環境が続き、自衛隊は創設以来最大のプレゼンスを発揮することが求められる。防大の教育環境の抜本的な改善は、自衛隊・防衛省のみの問題にとどまらず、国家的・国民的な課題なのである』、「筆者の研究仲間や知人で、外国軍将校と幹部自衛官の双方と日常的に交流の機会をもつ何人もの研究者が、異口同音に指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて他国の将校クラスよりも心もとないという評価」、みっともないことだ。
・『防衛大論考-私はこう読んだ#5 防大教育問題の根本要因は… このシリーズで先に大木毅氏や石破茂氏が、防大教育問題の根本要因は、日本国憲法下で自衛隊の存在意義が曖昧にされ、自衛隊のなかで民主主義体制を守るという防衛規範が育ってこなかったことにあると論じている。 シリーズ「防衛大論考ーー私はこう読んだ」#4で防衛省の問題点を指摘した石破茂氏 筆者も基本的には、両氏と大きく異ならない国家観・安全保障観をもつ者である。 北東アジアの安全保障環境の悪化もふまえるとき、日本の自由民主主義(リベラル・デモクラシー)体制を防衛する実力組織としての自衛隊の存立規範を、社会的・国民的規模で打ち立てることは、急務だと考えている。 したがって両氏が主張するように、自衛隊の存立規範に変化がなければ、防大の教育環境が改善されがたい部分があることは、筆者も否定しない。 しかしながら、防大の教育環境を改善することによって、自衛隊全体によい影響が波及する側面も、確実に存在するはずだ。 加えて、等松教授らが真摯に求めている、防大の教育・人事・事務体制やガバナンスの抜本的な改善は、自衛隊改革全般のなかでも、おそらく技術的に最も「手をつけやすい」部分のひとつではないだろうか。 防大執行部と防衛省当局は、各学術・科学分野の専門家である文官教官の意見、特に中堅・若手教官の意見を聴く「ボトムアップ」の回路を十分に確保し、教育環境とガバナンスの改善に取り組むべきである。 これまで教授しか参加を認められてこなかった防大教授会に、他の大多数の大学と同様、准教授や専任講師を参加させるのは、その初めの第一歩だろう。 最後に強調しておくが、防大と自衛隊そして国防の将来を憂う等松教授は、真の意味での「国士」である。 等松教授はもちろんのこと、実名告発にはいたらない中堅・若手の文官教官、そして心ある自衛官教官や事務官に対して、有形無形の圧力や恫喝が加えられるべきではない。 ましてや、等松教授に不当な懲戒が下されるようなことがあってはならない。 【※】久保校長はアメリカ政治研究で著名な政治学者であり、多数の著作をもつ。テレビにもときどき解説者などとして出演しているので、顔を見知っている読者もいるだろう。慶応義塾大学や東京大学の教授を経て、2021年4月から防大校長を務めている。 等松教授は近代日本をめぐる戦争と外交、戦前期日本の植民地をめぐる国際関係などを専門としており、日本語の著作としては『日本帝国と委任統治―南洋群島をめぐる国際政治 1914-1947』(名古屋大学出版会、2011年)が、筆者を含む研究者の間でよく知られている。玉川大学教授を経て、2009年から防大教授を務めている。 久保校長、等松教授、2人とも政治学者である。) 【関連記事:防衛大現役教授が実名告発】 #1 自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件 #2 防衛大の時代錯誤なリーダーシップ・フォロワーシップ教育 【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】 #1 望月衣塑子:「教育者としての絶望」 #2 大木毅:「自衛隊が抱える病い」 #3 現役教官:「学生を変質させるカリキュラム」 #4 石破茂:「国防を真剣に考えると疎んじられる」 【元防大生の声】 #1 上級生が気の利かない下級生を“ガイジ”と呼びすて… #2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」 #3 「叫びながら10回敬礼しろ。何もできないくせに上級生ぶるな」 【防大生たちの叫び】 #1 適性のない学生と同室で…集団生活の“地獄” #2 女子学生へのセクハラ、シャワー室の盗撮、窃盗事件… ※「集英社オンライン」では、本記事や防衛大学校に関しての取材協力者や情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。 メールアドレス:shueisha.online@gmail.com Twitter:@shueisha_online 』、「防大の教育環境を改善することによって、自衛隊全体によい影響が波及する側面も、確実に存在するはずだ。 加えて、等松教授らが真摯に求めている、防大の教育・人事・事務体制やガバナンスの抜本的な改善は、自衛隊改革全般のなかでも、おそらく技術的に最も「手をつけやすい」部分のひとつではないだろうか。 防大執行部と防衛省当局は、各学術・科学分野の専門家である文官教官の意見、特に中堅・若手教官の意見を聴く「ボトムアップ」の回路を十分に確保し、教育環境とガバナンスの改善に取り組むべきである」、同感である。
次に、9月6日付け集英社オンライン「〈防衛大告発によせて〉「「コスプレ感覚のミリタリー好き」「リストカット」「適応障害で留年」…幹部自衛官を目指すには適性を欠く学生も多々いる集団生活の“地獄”」を紹介しよう。
https://shueisha.online/culture/155170
・『防衛大学校の等松春夫教授が発表した告発論考を受けて、防大のあり方について世間ではさまざまな議論を呼んでいる。現在の防大が抱える問題を現場の学生たちはどう考えているのか。集英社オンラインでは任官辞退者(卒業後、幹部候補生学校への配属の辞退者)と現役防大生への取材をおこなった。(前後編の前編)』、興味深そうだ。
・『防大生たちの叫び#1 【関連記事:防衛大現役教授が実名告発】 #1 自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件 #2 防衛大の時代錯誤なリーダーシップ・フォロワーシップ教育 【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】 #1 望月衣塑子 #2 大木毅 #3 現役教官 #4 石破茂 #5 石原俊 【元防大生の声】 #1 上級生が気の利かない下級生を“ガイジ”と呼びすて… #2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」 #3 「叫びながら10回敬礼しろ。何もできないくせに上級生ぶるな」 【防大生たちの叫び】 #2 女子学生へのセクハラ、シャワー室の盗撮、窃盗事件…』、個々には説明がないので、項目だけを読んで見当をつけてほしい。
・『ミリタリー好きがコスプレ感覚で入学してくる現状 「等松先生のおっしゃることも、防大OBの方々のおっしゃることもわかるので、やり切れない思いです」 任官辞退者の本田さん(仮名/女性)【1】は、そう語る。任官辞退とは、幹部候補生学校への配属【2】を辞退して民間人にもどることを意味し、批判的な人々の間では、「任官拒否」とも呼ばれる。 これまで集英社オンラインで公開した記事に登場した退校者たちとは異なり、本田さんをはじめとした任官辞退者は防衛大学校を正式に卒業している。その彼女は、本メディアが報じた退校者たちの証言については「五分五分です」と評した。 「特定の学生を“ガイジ”呼ばわりしたり、吐くまで食べさせるようなおこない【3】は、言語道断です。厳しく処分するべきだと思いますが、入室要領や清掃に関する学生間指導などを、単純に『嫌がらせ』と断じてしまうことには違和感も覚えました」 集英社オンラインの記事をきっかけに、ネット上には防大を擁護する声と非難する声があふれた。中でも、(自称も含む)退校者やOBたちによる「学生間指導の闇」についての書き込みはとどまるところを知らない。 「退校者が書いているであろうサイトや書き込みを読みましたが、彼らの半分近くは、入学当初から幹部自衛官を目指すには適性を欠いていた方々なのではないか。そんな思いもあります」 本田さんによれば、近年の防大にはミリタリー系のアニメやドラマ、スパイものの漫画、ライトノベル小説などにハマって、まるでコスプレでもするような気分で入学してくる者や、被災地支援の側面にのみ注目して、軍人としての自衛官という立場に思いが至らないまま憧れだけを募らせた学生も少なくないという』、「近年の防大にはミリタリー系のアニメやドラマ、スパイものの漫画、ライトノベル小説などにハマって、まるでコスプレでもするような気分で入学してくる者や、被災地支援の側面にのみ注目して、軍人としての自衛官という立場に思いが至らないまま憧れだけを募らせた学生も少なくないという」、嘆かわしいことだ。
・『防大生たちの叫び#1 問題は適性のない学生を学校が退校させないこと 「等松先生が告発するずっと前から、学生舎の暮らしがどんなものかは散々ネット上で書かれています。それなのに、どうして(新入生たちは)わからないのか。私には、むしろそれがわかりません。『戦場の理不尽さに耐えるための、日常の理不尽だ』なんて言い方は非常識だし、おかしいと思いますが、それでも、私たちはただの学生じゃないんです。 特別職の公務員として学費を免除していただき、手当ももらい、実質的には軍人を目指している。学園ドラマの遊びじゃないってことぐらいは覚悟して入ってきてほしい」 「信じられないかもしれませんが……」と前置きし、本田さんは言う。 「私が籍を置いていた、つい最近までの防大の退校者のうち半数程度は、本当に単純な問題として、朝起きられない、夜眠れない、すぐ泣く。ミスを指摘されると、パニック発作を起こす。何度やり直させても、必要な物品を揃えられない。リストを作らせてチェックさせると、そのリスト自体に抜けがあるなど、そもそも閉鎖的な空間での共同生活に適性のない人たちなのではないでしょうか」 その上で、「本館」(防大執行部を意味する隠語)や指導官たちが「適性のない学生の存在を把握していながら、退校させないこと」こそが、最大の問題だと指摘した。 「私が勝手に決めつけているのではありません。実際、医官が適応障害の診断を下した学生だったり、手首を切ったり、痙攣を起こしたりする学生たちは一定数います。 もちろん、本館や指導官が問題を抱えた学生のケアをして、立ち直るための手助けをするのであれば、ぜひそうしていただきたいですが、現実は違います。学校は手をこまねいたまま上級生に丸投げし、すべての問題を学生間指導で解決するよう強いてくるのです」』、「「私が籍を置いていた、つい最近までの防大の退校者のうち半数程度は、本当に単純な問題として、朝起きられない、夜眠れない、すぐ泣く。ミスを指摘されると、パニック発作を起こす。何度やり直させても、必要な物品を揃えられない。リストを作らせてチェックさせると、そのリスト自体に抜けがあるなど、そもそも閉鎖的な空間での共同生活に適性のない人たちなのではないでしょうか・・・「本館」・・・や指導官たちが「適性のない学生の存在を把握していながら、退校させないこと」こそが、最大の問題だと指摘」、定員不足に悩む「本館」にすれば、不適格な人間でも抱えておきたいのだろう。
・『防大生たちの叫び#1 「地獄」の集団生活 たとえば、本田さんが2年生のとき、同室になった1年生のひとりは、本来同級生であるはずの女性だったという。 「彼女は『適応障害』と診断されて留年し、2度目の1学年でした。“上”が『復学プログラム』【4】を準備したということだったのですが、私たち2学年はともかく、4学年の部屋長たちさえ、直前まで事情を知らされていませんでした」 そして始まった同じ居室での集団生活は、文字通りの「地獄」だったという。 「彼女は朝起きられないので、当然、清掃はできません。清掃だけじゃなくて、ほとんどの服務ができないので、他の1学年や私たちがやるしかない。座っているだけで済む授業は受けられますが、すぐに疲れてしまうので(1学年が全員参加することになっている)遠泳訓練にも参加せず。『とにかく、なにがあっても彼女を叱るな』と指導官から厳命された部屋長は、対応に苦慮していました。 ほとんど何もできていないので、この1年が過ぎても彼女は2学年には上がれません。そんなこと、みんなわかっているのに、指導官も当局も何もせず、私たち(居室の)学生にすべての負担を押しつけるだけでした。 本当にその子のことを思い、その子を復学させたいなら、少なくとも同室になる最上級生たちには事前に説明の機会を設けて、復学プログラムと連動した居室におけるケアの計画を立てるとか、服務を満足におこなえないメンバーを抱えるという、その居室の負担への配慮があってもいいと思うのです」 たまりかねた上級生たち【5】が、指導官に抗議したこともあったそうだ。 「指導官から『我々だって苦労しているんだ』などと他人事のように言われ、部屋長は呆れていました。その指導官によれば、本館や指導官に対して『うちの娘をなんだと思っているんだ。適応障害に追い込んだ犯人を探し出せ』などとクレームの電話が何回もかかってきている、と。そういう状況なので、本人が『やめる』と口にするまで、学校側から『別の人生がある』とは言えないと。それじゃあ、監督責任を放棄しているとしか思えません」』、「本館や指導官に対して『うちの娘をなんだと思っているんだ。適応障害に追い込んだ犯人を探し出せ』などとクレームの電話が何回もかかってきている、と。そういう状況なので、本人が『やめる』と口にするまで、学校側から『別の人生がある』とは言えないと。それじゃあ、監督責任を放棄しているとしか思えません」、悪質な「クレーム」に腰が引けて「監督責任を放棄」している「学校側」の責任は重大だ。
第三に、9月6日付け集英社オンライン「女子学生への公然セクハラ、シャワー室の盗撮、頻発する窃盗事件…問題だらけの防衛大でそれでも私が4年間退校せずに全うすることができた理由【学生たちの証言】」を紹介しよう。
https://shueisha.online/culture/155360?page=4
・『現在、防衛大学校が置かれている状況には改善されるべき点が多々あるものの、任官辞退した防大の卒業生は、「防衛省・自衛隊を役立たずの組織、酷い組織だと即断してほしくない」と話した。彼女が防大で4年間を全うすることができた理由とは…。任官辞退者と現役防大生への取材からお伝えする。(前後編の後編)』、興味深そうだ。
・『防大生たちの叫び#2 【関連記事:防衛大現役教授が実名告発】 #1 自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件 #2 防衛大の時代錯誤なリーダーシップ・フォロワーシップ教育 【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】 #1 望月衣塑子 #2 大木毅 #3 現役教官 #4 石破茂 #5 石原俊 【元防大生の声】 #1 上級生が気の利かない下級生を“ガイジ”と呼びすて… #2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」 #3 「叫びながら10回敬礼しろ。何もできないくせに上級生ぶるな」』、見出しを見るだけで酷い様子がアリアリとする。
・【防大生たちの叫び】 #1 適性のない学生と同室で…集団生活の“地獄” 学生舎で頻発する窃盗事件 現役の防大生である立花さん(仮名/女性)【6】からも、前編で語ってくれた任官辞退者の本田さん(仮名/女性)と似通った証言が出た。 「心臓が弱いとのことで、しばしば全身痙攣を起こす学生がいました。突然倒れて、医務室に担ぎ込まれたりするのに、指導官は『仲間なんだから、十分注意して目を離すな』と言うばかり。 もしも居室で命を落とすような事態になったら、学校はいったいどう責任をとるつもりだったのでしょうか。心配だったので、夜間は交代でずっとその学生を見守っていました。そのせいで3か月以上、居室の全員が寝不足です【7】。 しばらくして、その学生は退校しましたが、どうしてもっと早く手を打ってくれなかったのか。結局、その子の両親のクレームが怖くて、私たちに押しつけようとしたんじゃないですか」 さらに深刻な問題があると、立花さんは証言した。入学希望者の減少に苦しむ防大が「見かけの退校者数を抑える」ために、不適格な学生への処罰を控え、放置しているというのだ。 「皆さんが思っている以上に、学生舎では窃盗が頻発しています。盗まれるのは現金やスマートフォンが多いですが、まず指導官に言われるのは『証拠がないんだから、仲間を泥棒扱いするな。警務隊を呼ぶ前に、居室の全員でよく話し合え』です。けれど、窃盗は手癖なので、話し合ったってなくなりません。 さっさと警務隊を呼んで、持ち物を検査すれば、たいてい一発で(犯人が)わかります。前の居室でも、その前の居室でも、だいたい特定の学生がいる部屋で窃盗が起きていますから。それで最終的に警務隊を呼んで犯人がわかっても、大した処罰を受けないんです」 そう言って、立花さんは現在進行形のトラブルを列挙した』、「「心臓が弱いとのことで、しばしば全身痙攣を起こす学生がいました。突然倒れて、医務室に担ぎ込まれたりするのに、指導官は『仲間なんだから、十分注意して目を離すな』と言うばかり。 もしも居室で命を落とすような事態になったら、学校はいったいどう責任をとるつもりだったのでしょうか。心配だったので、夜間は交代でずっとその学生を見守っていました。そのせいで3か月以上、居室の全員が寝不足です【7】。 しばらくして、その学生は退校しましたが、どうしてもっと早く手を打ってくれなかったのか。結局、その子の両親のクレームが怖くて、私たちに押しつけようとしたんじゃないですか・・・入学希望者の減少に苦しむ防大が「見かけの退校者数を抑える」ために、不適格な学生への処罰を控え、放置しているというのだ。 「皆さんが思っている以上に、学生舎では窃盗が頻発しています。盗まれるのは現金やスマートフォンが多いですが、まず指導官に言われるのは『証拠がないんだから、仲間を泥棒扱いするな。警務隊を呼ぶ前に、居室の全員でよく話し合え』です。けれど、窃盗は手癖なので、話し合ったってなくなりません。 さっさと警務隊を呼んで、持ち物を検査すれば、たいてい一発で(犯人が)わかります。前の居室でも、その前の居室でも、だいたい特定の学生がいる部屋で窃盗が起きていますから。それで最終的に警務隊を呼んで犯人がわかっても、大した処罰を受けないんです」、「指導官」らのやり方は本当に酷い。
・『防大生たちの叫び#2 酔った男子学生が嫌がる女子学生にセクハラ 「6月に第2大隊前の路上でおこなわれたバーベキューで、酔った男子学生が衆人環視のなかで、嫌がる女子学生の身体を無理やり触り続けるという事件がありました。最終的には、周囲の学生らに制止されましたが、指導官は警務隊に報告せず、学生の風紀委員が点呼の際に口頭注意したのみです。 また、4月に4大隊で起きた3階シャワー室の盗撮事件。これは警務隊が扱いましたが、隠しカメラを設置して女子学生の裸を撮影して、盗撮したデータを他の学生たちと回覧した主犯の学生ふたりは、中隊の学生長と副学生長でした。それなのに、彼らは反省部屋(服務室)に入れられただけで、いまだに在学しています。本来は、退学相当じゃないですか。もっと酷いものでは、67期(今春卒業した期)の女子学生に対する性的暴行事件もありました」 この証言を受けて、編集部は防大に事実確認をおこなった。まず、第2大隊前の路上でおこなわれたバーベキューにおける「性的暴行」について、防大はこう回答した。 〈現在、細部の調査を慎重に進めているところであり、判明した事実関係に基づき、厳正に対処致します〉 そして〈学生から報告を受けた指導官は、なぜ自ら対応するのではなく、加害行為の処理を中隊(学生)に委任したのでしょうか〉との編集部の問いかけに対しては、〈被害学生が警務隊に対する被害届の提出を希望しなかったことから警務隊には通報していません〉と回答した。 だが、「被害者が希望しなかったから、指導官は通報しなかった」という釈明は、まさに〈細部〉のごまかしそのものであると、立花さん(前出)は怒りを露わにした。 「時系列がまったく違います。まず指導官は、彼女(被害学生)の話をまともに聞こうともせず、中隊(学生)に任せました。これが発端です。その一方的なやり方にショックを受けた被害学生と、怒った4学年の部屋長たちはその後、自分たちで警務隊に通報しようとしたんです。ところが、通報の直前になって被害学生のフラッシュバックがさらに悪化しました。 彼女は心配してくれた部屋長たちを巻き込みたくなくて、警務隊への通報を諦めたのです」(立花さん) 女子学生専用のシャワー室での盗撮事件について、主犯とされる中隊学生長および副学生長に対して〈現在までにどのような処分がなされたのか〉という編集部の質問に対して、防大は次のように回答した。 〈現在、細部の調査を慎重に進めているところであり、判明した事実関係に基づき、厳正に対処致します〉 67期の女子学生に対する性的暴行事件については〈調査の結果、判明した事実関係に基づき、厳正に対処しました〉(防大)とのことだが、具体的にどう〈対処〉したのかは開示されなかった』、「指導官」の対応は全く酷いもので、「細部のごまかし」も目に余る。
・『防大生たちの叫び#2 防大は「惰性と同調圧力に満ちた場所」 任官辞退者の本田さん、現役学生の立花さんが口にしたのは――防大のガバナンスが「法治」ではなく「人治」に傾斜しているという――等松教授の告発に通ずる指摘である。 等松教授は学生間指導を「悪しきリーダーシップ」の産物と見ていたが、問題はさらに根深い。ふたりの証言からは、悪しきリーダーシップというより、防大執行部や事務官、指導官たちの無責任な人治のツケが、学生たち(学生間指導)に回されている実態がうかがえる。 苦労の絶えない学生舎生活をやり抜いた本田さんやその同期たちが、揃って幹部候補生学校に進むことを“辞退”した理由は、決して“軍隊”が怖くなったからでも、学費の免除が目的だったからでもない。防大の「人治」に翻弄され、疲れ果ててしまったからなのではないか。 「多くの指導官は、自分の任期交代まで平穏に過ごせればそれでいい、と考えているのでしょう。自分の監督不行届きということにされたくないために、学生をなだめ、次年度の中隊替え、卒業を待つ。それも仕方のないことだと思います。ひとりで対抗するには、あまりにも惰性と同調圧力に満ちた場所です。 私が、4年間あの場所にいて思ったのは『はたして、ここは何を育てたいのだろうか』ということでした。学業時間の確保とか一斉喫食や清掃が辛いといった、そういったことも問題なのかもしれませんが、『どのような学生』を育て、『どのような能力』を身につけさせたいのかの方針を明確にしないまま『学生間指導』などというものを要求するから、指導官も上級生も困惑するのだと思います。 今のカリキュラムのままでは、幹部候補生学校に進んだとき、知性や教養では一般大学からの入校者に劣り、戦技では部隊の曹士の皆さんに劣る、という、いかにも中途半端な卒業者が量産されるだけになってしまうのではないでしょうか」(本田さん)』、「等松教授は学生間指導を「悪しきリーダーシップ」の産物と見ていたが、問題はさらに根深い。ふたりの証言からは、悪しきリーダーシップというより、防大執行部や事務官、指導官たちの無責任な人治のツケが、学生たち(学生間指導)に回されている実態がうかがえる。 苦労の絶えない学生舎生活をやり抜いた本田さんやその同期たちが、揃って幹部候補生学校に進むことを“辞退”した理由は、決して“軍隊”が怖くなったからでも、学費の免除が目的だったからでもない。防大の「人治」に翻弄され、疲れ果ててしまったからなのではないか・・・今のカリキュラムのままでは、幹部候補生学校に進んだとき、知性や教養では一般大学からの入校者に劣り、戦技では部隊の曹士の皆さんに劣る、という、いかにも中途半端な卒業者が量産されるだけになってしまうのではないでしょうか」、「幹部」の「知性や教養では一般大学からの入校者に劣り、戦技では部隊の曹士の皆さんに劣る、という、いかにも中途半端な卒業者が量産されるだけ」、恐ろしいことだ。
・『防大生たちの叫び#2 「曹士の人柄や態度、実践に感銘を受けたから4年間を全うできた」 それでも、本田さんは最後に言った。 「世間、国民の皆さんには、防大の置かれた状況だけをみて、防衛省・自衛隊を役立たずの組織、酷い組織だと即断していただきたくはありません。等松先生の告発も、その後の専門家の論説や記事も、国防における防衛省・自衛隊の重要性を『ゆるぎない前提』として『改善するため』になされている議論でしょうから。 【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】で等松教授の論考について言及した石原俊教授(『改善』を目指す取材であるため、私も主として『問題』についてお話ししましたが、指導官として補職されてこられた方々には、毅然と、そしてフェアに学生を監督する素晴らしい幹部自衛官の方々も、たくさんおられました【8】。 私が防大で4年間を全うすることができたのは、毎年の訓練でお目にかかった部隊の皆さん、とくに曹士の人柄や態度、実践に感銘を受けたからです。尊敬すべき下士官の皆さんの前に、堂々と立てるほどの研鑽を積めなかった自分を恥じる気持ちもあります。 このような状況下にあっても真面目に頑張ってくれている方々や、私がお世話になった方々のためにも、さまざまな現状から目を背けず、本館の方々に一考していただくことを祈ります」 衷心より発せられた彼女の言葉は、はたして「本館」に届くだろうか』、(以下省略)、「本田さん」の「衷心より発せられた」「言葉は、はたして「本館」に届くことは殆ど考え難い。「防衛大」のあり方・組織などは抜本的な見直しが不可欠だ。
先ずは、本年8月11日付け集英社オンライン「大学問題のスペシャリスト・石原俊教授は防衛大告発論考どう読んだのか?「何人もの研究者が指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて、他国の将校クラスよりも心もとないという評価」を紹介しよう。
https://shueisha.online/culture/152530?page=1
・『2023年6月30日に防衛大学校の等松春夫教授が衝撃的な論考を発表した。防大、防衛省の構造に警鐘を鳴らすこの論考を有識者たちはどのように読んだのだろうか。『硫黄島』(中公新書)、『シリーズ 戦争と社会』(岩波書店)などの著書で知られ、「大学の自治」に詳しい明治学院大学の石原俊教授が綴る』、興味深そうだ。
・『防衛大論考-私はこう読んだ#5 【関連記事:防衛大現役教授が実名告発】 #1 自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件 #2 防衛大の時代錯誤なリーダーシップ・フォロワーシップ教育 【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】 #1 望月衣塑子 #2 大木毅 #3 現役教官 4 石破茂 【元防大生の声】#1 上級生が気の利かない下級生を“ガイジ”と呼びすて… #2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」 #3 「叫びながら10回敬礼しろ。何もできないくせに上級生ぶるな」 【防大生たちの叫び】 #1 適性のない学生と同室で…集団生活の“地獄” #2 女子学生へのセクハラ、シャワー室の盗撮、窃盗事件…』、ずいぶん内容が濃いようだ。
・『一般の大学等とは大きく異なる「防衛大学校」という存在 筆者は防衛大学校と深い交流を持つ者ではなく、自衛隊や外国の軍隊を専門的な研究対象とする者でもない。そのため、本稿で述べる内容は徹頭徹尾、一般論にとどまることを、あらかじめ承知いただきたい。 防衛大学校(以下、防大)は、国際的にみれば各国の士官学校に比肩する教育機関であり、学校教育法第1条が定める「1条校」ではない。 この点で防大は、一般の大学等とは大きく異なる。 等松春夫教授による告発文書「危機に瀕する防衛大学校の教育」は、高等教育機関として特殊な組織である防大が、教育体制・事務体制から、教官人事・指導官人事、ガバナンスにいたるまで、重大な問題を長年にわたって放置してきた結果、学生の教育環境が危機的状況に陥っていると指摘する。 特に、学生舎(寮)における共同生活や、上級生から下級生への「指導」の慣習が、公私混同の命令や悪質な威圧の温床となり、ハラスメント、いじめ、賭博、詐欺などが蔓延する要因になってきたと告発している。 これまでも、防大生をめぐる不祥事が起こると事実関係が報道されることはあった。だが、そうした不祥事が頻発する構造的背景を、一般社会に向けて体系的かつ説得的に説明したのは、おそらく等松教授が初めてだろう。 等松教授の告発に対して、防大執行部は7月14日、久保文明学校長名による反論文書「本校教官の意見発表に対する防衛大学校長所感」を公表した【※】。 久保校長は防大改革を進めようとしており、反論文書は「学生間指導においても、上級生による強圧的な言動を排除してき」たとして、この1~2年の間に状況が劇的に改善したと主張している。 ただ、「上級生による強圧的な言動」はそれ以前の長きにわたり、幾度となく指摘されてきた問題だ。久保校長の退任後も含めて、これから十年単位で、防大が真に変化したかどうか、国民はウォッチしていく必要がある』、「これまでも、防大生をめぐる不祥事が起こると事実関係が報道されることはあった。だが、そうした不祥事が頻発する構造的背景を、一般社会に向けて体系的かつ説得的に説明したのは、おそらく等松教授が初めてだろう・・・等松教授の告発に対して、防大執行部は7月14日、久保文明学校長名による反論文書「本校教官の意見発表に対する防衛大学校長所感」を公表した。 久保校長は防大改革を進めようとしており、反論文書は「学生間指導においても、上級生による強圧的な言動を排除してき」たとして、この1~2年の間に状況が劇的に改善したと主張している。 ただ、「上級生による強圧的な言動」はそれ以前の長きにわたり、幾度となく指摘されてきた問題だ。久保校長の退任後も含めて、これから十年単位で、防大が真に変化したかどうか、国民はウォッチしていく必要がある」、なるほど。
・『「その任には堪えられない人々」が登用される現状 他方で、一般にはあまり知られていない点だが、防大は一般の大学等と同様、学校教育法に沿って文部科学省が定める「大学設置基準」に服しており、卒業時には大学改革支援・学位授与機構の審査を経て、学士の学位(学士号)が授与されている。 防大のカリキュラムは、いわゆる軍事教練にあたる「訓練課程」と、学術・科学分野を学ぶ「教育課程」に分かれている。 後者の「教育課程」には、防大特有の「防衛学」だけでなく、人文学・社会科学から、理工系の基礎科学・応用科学、そして外国語まで、一般の大学等と変わらぬバリエーションがそろっている。このように、防大が「大学設置基準」に沿った教育機関(かつ研究機関)と認定されているからこそ、防大の卒業生には、他の大多数の「大学校」(各種学校)と異なり、学士号が授与されているのだ。 ところが、等松教授の告発文書によれば、「防衛学」を担当する自衛官教官の多くが、文官教官のような教育能力や研究業績の厳格な審査を経ずに、教授や准教授に採用されており、「とてもその任には堪えられない人々」も少なくないという。 一方で、文官教官が雑誌や新聞に論考やコメントを発表する場合、原稿を事前に事務部門に提出しなければならず、学術的には素人の事務官が事実上の検閲を行うばかりか、原稿を書き換える事例さえあるという。 筆者は率直なところ、驚愕した』、「等松教授の告発文書によれば、「防衛学」を担当する自衛官教官の多くが、文官教官のような教育能力や研究業績の厳格な審査を経ずに、教授や准教授に採用されており、「とてもその任には堪えられない人々」も少なくないという。 一方で、文官教官が雑誌や新聞に論考やコメントを発表する場合、原稿を事前に事務部門に提出しなければならず、学術的には素人の事務官が事実上の検閲を行うばかりか、原稿を書き換える事例さえあるという」、なるほど。
・『防衛大論考-私はこう読んだ#5 「学問の自由」に反する事実上の検閲 こうした事実上の検閲は、一般の大学等ではとうてい考えられない。たしかに、昨今は大学等においても、学長や理事会などの経営陣によってガバナンスの「トップダウン」化が進められ、教員による「ボトムアップ」の意思決定・意見表明の場である教授会などの権限が削減されつつある。 とはいえ、たとえ「一族ワンマン経営」の理事会が支配するような小規模私立大学にあってさえ、教員の対外発信の内容を、学長や理事会ましてや事務部門が事前にチェックすることはありえない。 なぜならそれは、憲法23条が定める「学問の自由」に、根本的に反するからだ。 前述の久保校長の反論文書は、文官教官の対外発信時の事前届出制度が検閲を目的としておらず、また等松教授の告発文書に、防大執行部や事務官が一切、手を加えていないと強調している。 ただ留意すべきは、等松教授が世界的に認められた外交史の研究者であり、また幹部学校や統合幕僚学校、防衛研究所での教育歴も長く、自衛隊内で相当な権威をもつ文官教官であることだ。 他の研究者、特に中堅・若手を含むすべての文官教官が、対外発信時に防大執行部や事務官からの書き換え圧力を受けていないと明言できなければ、防大に検閲が存在しないということにはならない。 そもそも、重要な防衛機密事項の漏洩リスクがある場合を除き、研究者の対外発信内容について防大執行部や事務官が事前確認をおこない「意見を述べる」内部ルール自体が、憲法秩序に照らして著しく不適切である。 「学問の自由」が保障されていないこと、この一点のみをもってしても、防大は「大学設置基準」に沿った教育機関・研究機関の認定(学士号が授与される資格)を取り消されてもおかしくない状況にあるのだ』、「重要な防衛機密事項の漏洩リスクがある場合を除き、研究者の対外発信内容について防大執行部や事務官が事前確認をおこない「意見を述べる」内部ルール自体が、憲法秩序に照らして著しく不適切である。「学問の自由」が保障されていないこと、この一点のみをもってしても、防大は「大学設置基準」に沿った教育機関・研究機関の認定・・・を取り消されてもおかしくない状況にある」、なるほど。
・『防衛大論考-私はこう読んだ#5 他国に劣る幹部自衛官の知的・学術的水準 防大の4年と幹部候補生学校の1年、計5年の課程を修めた自衛官は、大多数が20歳代前半の若者ながら、ただちに尉官に任官し、国際基準では「将校」とみなされる。 つまり自衛隊は、一般の大学の学部4年間相当と、大学院修士課程2年間のうち1年間相当の高等教育を修めれば、いきなり将校クラスに任官するという、メリット・システム(閉鎖型任用制)を採用している。 これは、おおむね20代後半に係長、30代前半に課長補佐になる、霞が関のキャリア官僚の世界と比べてさえ、劇的といえるメリット・システムだ。もちろん、このシステム自体は、日本の旧軍や他国の軍隊を参照して設計されているので、驚くべき点はない。 ここで問題なのは、防大の(たった4年間の課程を担う)教育現場に、自衛隊の劇的なメリット・システムを支える責任と負荷が一身にかかっていることである。 しかしながら、防大受験者数は2010年代半ば以降、著しい減少傾向にあり、また中退者数、任官辞退者数、幹部候補生学校入校辞退者数などは、全体として増加傾向にある。自衛隊が優秀な幹部自衛官の確保・育成に苦労していることは、数字上からも事実といわざるをえない。 そして残念ながら、等松教授の告発文書にある「思考停止の中堅幹部が年々増えている」という評価は、筆者のもとに集まってくる情報とも符合している。 筆者自身、幾人もの幹部自衛官と長時間、腹を割って話したことはあり、職務において誠実で高潔な現役幹部自衛官が大勢いることは知っている。だが、筆者の研究仲間や知人で、外国軍将校と幹部自衛官の双方と日常的に交流の機会をもつ何人もの研究者が、異口同音に指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて他国の将校クラスよりも心もとないという評価だ。 北東アジアでは今後当分の間、朝鮮戦争以来の不安定な安全保障環境が続き、自衛隊は創設以来最大のプレゼンスを発揮することが求められる。防大の教育環境の抜本的な改善は、自衛隊・防衛省のみの問題にとどまらず、国家的・国民的な課題なのである』、「筆者の研究仲間や知人で、外国軍将校と幹部自衛官の双方と日常的に交流の機会をもつ何人もの研究者が、異口同音に指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて他国の将校クラスよりも心もとないという評価」、みっともないことだ。
・『防衛大論考-私はこう読んだ#5 防大教育問題の根本要因は… このシリーズで先に大木毅氏や石破茂氏が、防大教育問題の根本要因は、日本国憲法下で自衛隊の存在意義が曖昧にされ、自衛隊のなかで民主主義体制を守るという防衛規範が育ってこなかったことにあると論じている。 シリーズ「防衛大論考ーー私はこう読んだ」#4で防衛省の問題点を指摘した石破茂氏 筆者も基本的には、両氏と大きく異ならない国家観・安全保障観をもつ者である。 北東アジアの安全保障環境の悪化もふまえるとき、日本の自由民主主義(リベラル・デモクラシー)体制を防衛する実力組織としての自衛隊の存立規範を、社会的・国民的規模で打ち立てることは、急務だと考えている。 したがって両氏が主張するように、自衛隊の存立規範に変化がなければ、防大の教育環境が改善されがたい部分があることは、筆者も否定しない。 しかしながら、防大の教育環境を改善することによって、自衛隊全体によい影響が波及する側面も、確実に存在するはずだ。 加えて、等松教授らが真摯に求めている、防大の教育・人事・事務体制やガバナンスの抜本的な改善は、自衛隊改革全般のなかでも、おそらく技術的に最も「手をつけやすい」部分のひとつではないだろうか。 防大執行部と防衛省当局は、各学術・科学分野の専門家である文官教官の意見、特に中堅・若手教官の意見を聴く「ボトムアップ」の回路を十分に確保し、教育環境とガバナンスの改善に取り組むべきである。 これまで教授しか参加を認められてこなかった防大教授会に、他の大多数の大学と同様、准教授や専任講師を参加させるのは、その初めの第一歩だろう。 最後に強調しておくが、防大と自衛隊そして国防の将来を憂う等松教授は、真の意味での「国士」である。 等松教授はもちろんのこと、実名告発にはいたらない中堅・若手の文官教官、そして心ある自衛官教官や事務官に対して、有形無形の圧力や恫喝が加えられるべきではない。 ましてや、等松教授に不当な懲戒が下されるようなことがあってはならない。 【※】久保校長はアメリカ政治研究で著名な政治学者であり、多数の著作をもつ。テレビにもときどき解説者などとして出演しているので、顔を見知っている読者もいるだろう。慶応義塾大学や東京大学の教授を経て、2021年4月から防大校長を務めている。 等松教授は近代日本をめぐる戦争と外交、戦前期日本の植民地をめぐる国際関係などを専門としており、日本語の著作としては『日本帝国と委任統治―南洋群島をめぐる国際政治 1914-1947』(名古屋大学出版会、2011年)が、筆者を含む研究者の間でよく知られている。玉川大学教授を経て、2009年から防大教授を務めている。 久保校長、等松教授、2人とも政治学者である。) 【関連記事:防衛大現役教授が実名告発】 #1 自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件 #2 防衛大の時代錯誤なリーダーシップ・フォロワーシップ教育 【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】 #1 望月衣塑子:「教育者としての絶望」 #2 大木毅:「自衛隊が抱える病い」 #3 現役教官:「学生を変質させるカリキュラム」 #4 石破茂:「国防を真剣に考えると疎んじられる」 【元防大生の声】 #1 上級生が気の利かない下級生を“ガイジ”と呼びすて… #2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」 #3 「叫びながら10回敬礼しろ。何もできないくせに上級生ぶるな」 【防大生たちの叫び】 #1 適性のない学生と同室で…集団生活の“地獄” #2 女子学生へのセクハラ、シャワー室の盗撮、窃盗事件… ※「集英社オンライン」では、本記事や防衛大学校に関しての取材協力者や情報を募集しています。下記のメールアドレスかTwitterまで情報をお寄せ下さい。 メールアドレス:shueisha.online@gmail.com Twitter:@shueisha_online 』、「防大の教育環境を改善することによって、自衛隊全体によい影響が波及する側面も、確実に存在するはずだ。 加えて、等松教授らが真摯に求めている、防大の教育・人事・事務体制やガバナンスの抜本的な改善は、自衛隊改革全般のなかでも、おそらく技術的に最も「手をつけやすい」部分のひとつではないだろうか。 防大執行部と防衛省当局は、各学術・科学分野の専門家である文官教官の意見、特に中堅・若手教官の意見を聴く「ボトムアップ」の回路を十分に確保し、教育環境とガバナンスの改善に取り組むべきである」、同感である。
次に、9月6日付け集英社オンライン「〈防衛大告発によせて〉「「コスプレ感覚のミリタリー好き」「リストカット」「適応障害で留年」…幹部自衛官を目指すには適性を欠く学生も多々いる集団生活の“地獄”」を紹介しよう。
https://shueisha.online/culture/155170
・『防衛大学校の等松春夫教授が発表した告発論考を受けて、防大のあり方について世間ではさまざまな議論を呼んでいる。現在の防大が抱える問題を現場の学生たちはどう考えているのか。集英社オンラインでは任官辞退者(卒業後、幹部候補生学校への配属の辞退者)と現役防大生への取材をおこなった。(前後編の前編)』、興味深そうだ。
・『防大生たちの叫び#1 【関連記事:防衛大現役教授が実名告発】 #1 自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件 #2 防衛大の時代錯誤なリーダーシップ・フォロワーシップ教育 【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】 #1 望月衣塑子 #2 大木毅 #3 現役教官 #4 石破茂 #5 石原俊 【元防大生の声】 #1 上級生が気の利かない下級生を“ガイジ”と呼びすて… #2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」 #3 「叫びながら10回敬礼しろ。何もできないくせに上級生ぶるな」 【防大生たちの叫び】 #2 女子学生へのセクハラ、シャワー室の盗撮、窃盗事件…』、個々には説明がないので、項目だけを読んで見当をつけてほしい。
・『ミリタリー好きがコスプレ感覚で入学してくる現状 「等松先生のおっしゃることも、防大OBの方々のおっしゃることもわかるので、やり切れない思いです」 任官辞退者の本田さん(仮名/女性)【1】は、そう語る。任官辞退とは、幹部候補生学校への配属【2】を辞退して民間人にもどることを意味し、批判的な人々の間では、「任官拒否」とも呼ばれる。 これまで集英社オンラインで公開した記事に登場した退校者たちとは異なり、本田さんをはじめとした任官辞退者は防衛大学校を正式に卒業している。その彼女は、本メディアが報じた退校者たちの証言については「五分五分です」と評した。 「特定の学生を“ガイジ”呼ばわりしたり、吐くまで食べさせるようなおこない【3】は、言語道断です。厳しく処分するべきだと思いますが、入室要領や清掃に関する学生間指導などを、単純に『嫌がらせ』と断じてしまうことには違和感も覚えました」 集英社オンラインの記事をきっかけに、ネット上には防大を擁護する声と非難する声があふれた。中でも、(自称も含む)退校者やOBたちによる「学生間指導の闇」についての書き込みはとどまるところを知らない。 「退校者が書いているであろうサイトや書き込みを読みましたが、彼らの半分近くは、入学当初から幹部自衛官を目指すには適性を欠いていた方々なのではないか。そんな思いもあります」 本田さんによれば、近年の防大にはミリタリー系のアニメやドラマ、スパイものの漫画、ライトノベル小説などにハマって、まるでコスプレでもするような気分で入学してくる者や、被災地支援の側面にのみ注目して、軍人としての自衛官という立場に思いが至らないまま憧れだけを募らせた学生も少なくないという』、「近年の防大にはミリタリー系のアニメやドラマ、スパイものの漫画、ライトノベル小説などにハマって、まるでコスプレでもするような気分で入学してくる者や、被災地支援の側面にのみ注目して、軍人としての自衛官という立場に思いが至らないまま憧れだけを募らせた学生も少なくないという」、嘆かわしいことだ。
・『防大生たちの叫び#1 問題は適性のない学生を学校が退校させないこと 「等松先生が告発するずっと前から、学生舎の暮らしがどんなものかは散々ネット上で書かれています。それなのに、どうして(新入生たちは)わからないのか。私には、むしろそれがわかりません。『戦場の理不尽さに耐えるための、日常の理不尽だ』なんて言い方は非常識だし、おかしいと思いますが、それでも、私たちはただの学生じゃないんです。 特別職の公務員として学費を免除していただき、手当ももらい、実質的には軍人を目指している。学園ドラマの遊びじゃないってことぐらいは覚悟して入ってきてほしい」 「信じられないかもしれませんが……」と前置きし、本田さんは言う。 「私が籍を置いていた、つい最近までの防大の退校者のうち半数程度は、本当に単純な問題として、朝起きられない、夜眠れない、すぐ泣く。ミスを指摘されると、パニック発作を起こす。何度やり直させても、必要な物品を揃えられない。リストを作らせてチェックさせると、そのリスト自体に抜けがあるなど、そもそも閉鎖的な空間での共同生活に適性のない人たちなのではないでしょうか」 その上で、「本館」(防大執行部を意味する隠語)や指導官たちが「適性のない学生の存在を把握していながら、退校させないこと」こそが、最大の問題だと指摘した。 「私が勝手に決めつけているのではありません。実際、医官が適応障害の診断を下した学生だったり、手首を切ったり、痙攣を起こしたりする学生たちは一定数います。 もちろん、本館や指導官が問題を抱えた学生のケアをして、立ち直るための手助けをするのであれば、ぜひそうしていただきたいですが、現実は違います。学校は手をこまねいたまま上級生に丸投げし、すべての問題を学生間指導で解決するよう強いてくるのです」』、「「私が籍を置いていた、つい最近までの防大の退校者のうち半数程度は、本当に単純な問題として、朝起きられない、夜眠れない、すぐ泣く。ミスを指摘されると、パニック発作を起こす。何度やり直させても、必要な物品を揃えられない。リストを作らせてチェックさせると、そのリスト自体に抜けがあるなど、そもそも閉鎖的な空間での共同生活に適性のない人たちなのではないでしょうか・・・「本館」・・・や指導官たちが「適性のない学生の存在を把握していながら、退校させないこと」こそが、最大の問題だと指摘」、定員不足に悩む「本館」にすれば、不適格な人間でも抱えておきたいのだろう。
・『防大生たちの叫び#1 「地獄」の集団生活 たとえば、本田さんが2年生のとき、同室になった1年生のひとりは、本来同級生であるはずの女性だったという。 「彼女は『適応障害』と診断されて留年し、2度目の1学年でした。“上”が『復学プログラム』【4】を準備したということだったのですが、私たち2学年はともかく、4学年の部屋長たちさえ、直前まで事情を知らされていませんでした」 そして始まった同じ居室での集団生活は、文字通りの「地獄」だったという。 「彼女は朝起きられないので、当然、清掃はできません。清掃だけじゃなくて、ほとんどの服務ができないので、他の1学年や私たちがやるしかない。座っているだけで済む授業は受けられますが、すぐに疲れてしまうので(1学年が全員参加することになっている)遠泳訓練にも参加せず。『とにかく、なにがあっても彼女を叱るな』と指導官から厳命された部屋長は、対応に苦慮していました。 ほとんど何もできていないので、この1年が過ぎても彼女は2学年には上がれません。そんなこと、みんなわかっているのに、指導官も当局も何もせず、私たち(居室の)学生にすべての負担を押しつけるだけでした。 本当にその子のことを思い、その子を復学させたいなら、少なくとも同室になる最上級生たちには事前に説明の機会を設けて、復学プログラムと連動した居室におけるケアの計画を立てるとか、服務を満足におこなえないメンバーを抱えるという、その居室の負担への配慮があってもいいと思うのです」 たまりかねた上級生たち【5】が、指導官に抗議したこともあったそうだ。 「指導官から『我々だって苦労しているんだ』などと他人事のように言われ、部屋長は呆れていました。その指導官によれば、本館や指導官に対して『うちの娘をなんだと思っているんだ。適応障害に追い込んだ犯人を探し出せ』などとクレームの電話が何回もかかってきている、と。そういう状況なので、本人が『やめる』と口にするまで、学校側から『別の人生がある』とは言えないと。それじゃあ、監督責任を放棄しているとしか思えません」』、「本館や指導官に対して『うちの娘をなんだと思っているんだ。適応障害に追い込んだ犯人を探し出せ』などとクレームの電話が何回もかかってきている、と。そういう状況なので、本人が『やめる』と口にするまで、学校側から『別の人生がある』とは言えないと。それじゃあ、監督責任を放棄しているとしか思えません」、悪質な「クレーム」に腰が引けて「監督責任を放棄」している「学校側」の責任は重大だ。
第三に、9月6日付け集英社オンライン「女子学生への公然セクハラ、シャワー室の盗撮、頻発する窃盗事件…問題だらけの防衛大でそれでも私が4年間退校せずに全うすることができた理由【学生たちの証言】」を紹介しよう。
https://shueisha.online/culture/155360?page=4
・『現在、防衛大学校が置かれている状況には改善されるべき点が多々あるものの、任官辞退した防大の卒業生は、「防衛省・自衛隊を役立たずの組織、酷い組織だと即断してほしくない」と話した。彼女が防大で4年間を全うすることができた理由とは…。任官辞退者と現役防大生への取材からお伝えする。(前後編の後編)』、興味深そうだ。
・『防大生たちの叫び#2 【関連記事:防衛大現役教授が実名告発】 #1 自殺未遂、脱走、不審火、新入生をカモにした賭博事件 #2 防衛大の時代錯誤なリーダーシップ・フォロワーシップ教育 【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】 #1 望月衣塑子 #2 大木毅 #3 現役教官 #4 石破茂 #5 石原俊 【元防大生の声】 #1 上級生が気の利かない下級生を“ガイジ”と呼びすて… #2 「1年はゴミ、2年は奴隷、3年は人間、4年は神」 #3 「叫びながら10回敬礼しろ。何もできないくせに上級生ぶるな」』、見出しを見るだけで酷い様子がアリアリとする。
・【防大生たちの叫び】 #1 適性のない学生と同室で…集団生活の“地獄” 学生舎で頻発する窃盗事件 現役の防大生である立花さん(仮名/女性)【6】からも、前編で語ってくれた任官辞退者の本田さん(仮名/女性)と似通った証言が出た。 「心臓が弱いとのことで、しばしば全身痙攣を起こす学生がいました。突然倒れて、医務室に担ぎ込まれたりするのに、指導官は『仲間なんだから、十分注意して目を離すな』と言うばかり。 もしも居室で命を落とすような事態になったら、学校はいったいどう責任をとるつもりだったのでしょうか。心配だったので、夜間は交代でずっとその学生を見守っていました。そのせいで3か月以上、居室の全員が寝不足です【7】。 しばらくして、その学生は退校しましたが、どうしてもっと早く手を打ってくれなかったのか。結局、その子の両親のクレームが怖くて、私たちに押しつけようとしたんじゃないですか」 さらに深刻な問題があると、立花さんは証言した。入学希望者の減少に苦しむ防大が「見かけの退校者数を抑える」ために、不適格な学生への処罰を控え、放置しているというのだ。 「皆さんが思っている以上に、学生舎では窃盗が頻発しています。盗まれるのは現金やスマートフォンが多いですが、まず指導官に言われるのは『証拠がないんだから、仲間を泥棒扱いするな。警務隊を呼ぶ前に、居室の全員でよく話し合え』です。けれど、窃盗は手癖なので、話し合ったってなくなりません。 さっさと警務隊を呼んで、持ち物を検査すれば、たいてい一発で(犯人が)わかります。前の居室でも、その前の居室でも、だいたい特定の学生がいる部屋で窃盗が起きていますから。それで最終的に警務隊を呼んで犯人がわかっても、大した処罰を受けないんです」 そう言って、立花さんは現在進行形のトラブルを列挙した』、「「心臓が弱いとのことで、しばしば全身痙攣を起こす学生がいました。突然倒れて、医務室に担ぎ込まれたりするのに、指導官は『仲間なんだから、十分注意して目を離すな』と言うばかり。 もしも居室で命を落とすような事態になったら、学校はいったいどう責任をとるつもりだったのでしょうか。心配だったので、夜間は交代でずっとその学生を見守っていました。そのせいで3か月以上、居室の全員が寝不足です【7】。 しばらくして、その学生は退校しましたが、どうしてもっと早く手を打ってくれなかったのか。結局、その子の両親のクレームが怖くて、私たちに押しつけようとしたんじゃないですか・・・入学希望者の減少に苦しむ防大が「見かけの退校者数を抑える」ために、不適格な学生への処罰を控え、放置しているというのだ。 「皆さんが思っている以上に、学生舎では窃盗が頻発しています。盗まれるのは現金やスマートフォンが多いですが、まず指導官に言われるのは『証拠がないんだから、仲間を泥棒扱いするな。警務隊を呼ぶ前に、居室の全員でよく話し合え』です。けれど、窃盗は手癖なので、話し合ったってなくなりません。 さっさと警務隊を呼んで、持ち物を検査すれば、たいてい一発で(犯人が)わかります。前の居室でも、その前の居室でも、だいたい特定の学生がいる部屋で窃盗が起きていますから。それで最終的に警務隊を呼んで犯人がわかっても、大した処罰を受けないんです」、「指導官」らのやり方は本当に酷い。
・『防大生たちの叫び#2 酔った男子学生が嫌がる女子学生にセクハラ 「6月に第2大隊前の路上でおこなわれたバーベキューで、酔った男子学生が衆人環視のなかで、嫌がる女子学生の身体を無理やり触り続けるという事件がありました。最終的には、周囲の学生らに制止されましたが、指導官は警務隊に報告せず、学生の風紀委員が点呼の際に口頭注意したのみです。 また、4月に4大隊で起きた3階シャワー室の盗撮事件。これは警務隊が扱いましたが、隠しカメラを設置して女子学生の裸を撮影して、盗撮したデータを他の学生たちと回覧した主犯の学生ふたりは、中隊の学生長と副学生長でした。それなのに、彼らは反省部屋(服務室)に入れられただけで、いまだに在学しています。本来は、退学相当じゃないですか。もっと酷いものでは、67期(今春卒業した期)の女子学生に対する性的暴行事件もありました」 この証言を受けて、編集部は防大に事実確認をおこなった。まず、第2大隊前の路上でおこなわれたバーベキューにおける「性的暴行」について、防大はこう回答した。 〈現在、細部の調査を慎重に進めているところであり、判明した事実関係に基づき、厳正に対処致します〉 そして〈学生から報告を受けた指導官は、なぜ自ら対応するのではなく、加害行為の処理を中隊(学生)に委任したのでしょうか〉との編集部の問いかけに対しては、〈被害学生が警務隊に対する被害届の提出を希望しなかったことから警務隊には通報していません〉と回答した。 だが、「被害者が希望しなかったから、指導官は通報しなかった」という釈明は、まさに〈細部〉のごまかしそのものであると、立花さん(前出)は怒りを露わにした。 「時系列がまったく違います。まず指導官は、彼女(被害学生)の話をまともに聞こうともせず、中隊(学生)に任せました。これが発端です。その一方的なやり方にショックを受けた被害学生と、怒った4学年の部屋長たちはその後、自分たちで警務隊に通報しようとしたんです。ところが、通報の直前になって被害学生のフラッシュバックがさらに悪化しました。 彼女は心配してくれた部屋長たちを巻き込みたくなくて、警務隊への通報を諦めたのです」(立花さん) 女子学生専用のシャワー室での盗撮事件について、主犯とされる中隊学生長および副学生長に対して〈現在までにどのような処分がなされたのか〉という編集部の質問に対して、防大は次のように回答した。 〈現在、細部の調査を慎重に進めているところであり、判明した事実関係に基づき、厳正に対処致します〉 67期の女子学生に対する性的暴行事件については〈調査の結果、判明した事実関係に基づき、厳正に対処しました〉(防大)とのことだが、具体的にどう〈対処〉したのかは開示されなかった』、「指導官」の対応は全く酷いもので、「細部のごまかし」も目に余る。
・『防大生たちの叫び#2 防大は「惰性と同調圧力に満ちた場所」 任官辞退者の本田さん、現役学生の立花さんが口にしたのは――防大のガバナンスが「法治」ではなく「人治」に傾斜しているという――等松教授の告発に通ずる指摘である。 等松教授は学生間指導を「悪しきリーダーシップ」の産物と見ていたが、問題はさらに根深い。ふたりの証言からは、悪しきリーダーシップというより、防大執行部や事務官、指導官たちの無責任な人治のツケが、学生たち(学生間指導)に回されている実態がうかがえる。 苦労の絶えない学生舎生活をやり抜いた本田さんやその同期たちが、揃って幹部候補生学校に進むことを“辞退”した理由は、決して“軍隊”が怖くなったからでも、学費の免除が目的だったからでもない。防大の「人治」に翻弄され、疲れ果ててしまったからなのではないか。 「多くの指導官は、自分の任期交代まで平穏に過ごせればそれでいい、と考えているのでしょう。自分の監督不行届きということにされたくないために、学生をなだめ、次年度の中隊替え、卒業を待つ。それも仕方のないことだと思います。ひとりで対抗するには、あまりにも惰性と同調圧力に満ちた場所です。 私が、4年間あの場所にいて思ったのは『はたして、ここは何を育てたいのだろうか』ということでした。学業時間の確保とか一斉喫食や清掃が辛いといった、そういったことも問題なのかもしれませんが、『どのような学生』を育て、『どのような能力』を身につけさせたいのかの方針を明確にしないまま『学生間指導』などというものを要求するから、指導官も上級生も困惑するのだと思います。 今のカリキュラムのままでは、幹部候補生学校に進んだとき、知性や教養では一般大学からの入校者に劣り、戦技では部隊の曹士の皆さんに劣る、という、いかにも中途半端な卒業者が量産されるだけになってしまうのではないでしょうか」(本田さん)』、「等松教授は学生間指導を「悪しきリーダーシップ」の産物と見ていたが、問題はさらに根深い。ふたりの証言からは、悪しきリーダーシップというより、防大執行部や事務官、指導官たちの無責任な人治のツケが、学生たち(学生間指導)に回されている実態がうかがえる。 苦労の絶えない学生舎生活をやり抜いた本田さんやその同期たちが、揃って幹部候補生学校に進むことを“辞退”した理由は、決して“軍隊”が怖くなったからでも、学費の免除が目的だったからでもない。防大の「人治」に翻弄され、疲れ果ててしまったからなのではないか・・・今のカリキュラムのままでは、幹部候補生学校に進んだとき、知性や教養では一般大学からの入校者に劣り、戦技では部隊の曹士の皆さんに劣る、という、いかにも中途半端な卒業者が量産されるだけになってしまうのではないでしょうか」、「幹部」の「知性や教養では一般大学からの入校者に劣り、戦技では部隊の曹士の皆さんに劣る、という、いかにも中途半端な卒業者が量産されるだけ」、恐ろしいことだ。
・『防大生たちの叫び#2 「曹士の人柄や態度、実践に感銘を受けたから4年間を全うできた」 それでも、本田さんは最後に言った。 「世間、国民の皆さんには、防大の置かれた状況だけをみて、防衛省・自衛隊を役立たずの組織、酷い組織だと即断していただきたくはありません。等松先生の告発も、その後の専門家の論説や記事も、国防における防衛省・自衛隊の重要性を『ゆるぎない前提』として『改善するため』になされている議論でしょうから。 【シリーズ:防衛大論考――私はこう読んだ】で等松教授の論考について言及した石原俊教授(『改善』を目指す取材であるため、私も主として『問題』についてお話ししましたが、指導官として補職されてこられた方々には、毅然と、そしてフェアに学生を監督する素晴らしい幹部自衛官の方々も、たくさんおられました【8】。 私が防大で4年間を全うすることができたのは、毎年の訓練でお目にかかった部隊の皆さん、とくに曹士の人柄や態度、実践に感銘を受けたからです。尊敬すべき下士官の皆さんの前に、堂々と立てるほどの研鑽を積めなかった自分を恥じる気持ちもあります。 このような状況下にあっても真面目に頑張ってくれている方々や、私がお世話になった方々のためにも、さまざまな現状から目を背けず、本館の方々に一考していただくことを祈ります」 衷心より発せられた彼女の言葉は、はたして「本館」に届くだろうか』、(以下省略)、「本田さん」の「衷心より発せられた」「言葉は、はたして「本館」に届くことは殆ど考え難い。「防衛大」のあり方・組織などは抜本的な見直しが不可欠だ。
タグ:「指導官」の対応は全く酷いもので、「細部のごまかし」も目に余る。 』です。けれど、窃盗は手癖なので、話し合ったってなくなりません。 さっさと警務隊を呼んで、持ち物を検査すれば、たいてい一発で(犯人が)わかります。前の居室でも、その前の居室でも、だいたい特定の学生がいる部屋で窃盗が起きていますから。それで最終的に警務隊を呼んで犯人がわかっても、大した処罰を受けないんです」、「指導官」らのやり方は本当に酷い。 しばらくして、その学生は退校しましたが、どうしてもっと早く手を打ってくれなかったのか。結局、その子の両親のクレームが怖くて、私たちに押しつけようとしたんじゃないですか・・・入学希望者の減少に苦しむ防大が「見かけの退校者数を抑える」ために、不適格な学生への処罰を控え、放置しているというのだ。 「皆さんが思っている以上に、学生舎では窃盗が頻発しています。盗まれるのは現金やスマートフォンが多いですが、まず指導官に言われるのは『証拠がないんだから、仲間を泥棒扱いするな。警務隊を呼ぶ前に、居室の全員でよく話し合え 「「心臓が弱いとのことで、しばしば全身痙攣を起こす学生がいました。突然倒れて、医務室に担ぎ込まれたりするのに、指導官は『仲間なんだから、十分注意して目を離すな』と言うばかり。 もしも居室で命を落とすような事態になったら、学校はいったいどう責任をとるつもりだったのでしょうか。心配だったので、夜間は交代でずっとその学生を見守っていました。そのせいで3か月以上、居室の全員が寝不足です【7】。 「本田さん」の「衷心より発せられた」「言葉は、はたして「本館」に届くことは殆ど考え難い。「防衛大」のあり方・組織などは抜本的な見直しが不可欠だ。 今のカリキュラムのままでは、幹部候補生学校に進んだとき、知性や教養では一般大学からの入校者に劣り、戦技では部隊の曹士の皆さんに劣る、という、いかにも中途半端な卒業者が量産されるだけになってしまうのではないでしょうか」、「幹部」の「知性や教養では一般大学からの入校者に劣り、戦技では部隊の曹士の皆さんに劣る、という、いかにも中途半端な卒業者が量産されるだけ」、恐ろしいことだ。 「これまでも、防大生をめぐる不祥事が起こると事実関係が報道されることはあった。だが、そうした不祥事が頻発する構造的背景を、一般社会に向けて体系的かつ説得的に説明したのは、おそらく等松教授が初めてだろう・・・等松教授の告発に対して、防大執行部は7月14日、久保文明学校長名による反論文書「本校教官の意見発表に対する防衛大学校長所感」を公表した。 集英社オンライン「女子学生への公然セクハラ、シャワー室の盗撮、頻発する窃盗事件…問題だらけの防衛大でそれでも私が4年間退校せずに全うすることができた理由【学生たちの証言】」 「本館や指導官に対して『うちの娘をなんだと思っているんだ。適応障害に追い込んだ犯人を探し出せ』などとクレームの電話が何回もかかってきている、と。そういう状況なので、本人が『やめる』と口にするまで、学校側から『別の人生がある』とは言えないと。それじゃあ、監督責任を放棄しているとしか思えません」、悪質な「クレーム」に腰が引けて「監督責任を放棄」している「学校側」の責任は重大だ。 定員不足に悩む「本館」にすれば、不適格な人間でも抱えておきたいのだろう。 「「私が籍を置いていた、つい最近までの防大の退校者のうち半数程度は、本当に単純な問題として、朝起きられない、夜眠れない、すぐ泣く。ミスを指摘されると、パニック発作を起こす。何度やり直させても、必要な物品を揃えられない。リストを作らせてチェックさせると、そのリスト自体に抜けがあるなど、そもそも閉鎖的な空間での共同生活に適性のない人たちなのではないでしょうか・・・「本館」・・・や指導官たちが「適性のない学生の存在を把握していながら、退校させないこと」こそが、最大の問題だと指摘」、 「「私が籍を置いていた、つい最近までの防大の退校者のうち半数程度は、本当に単純な問題として、朝起きられない、夜眠れない、すぐ泣く。ミスを指摘されると、パニック発作を起こす。何度やり直させても、必要な物品を揃えられない。リストを作らせてチェックさせると、そのリスト自体に抜けがあるなど、そもそも閉鎖的な空間での共同生活に適性のない人たちなのではないでしょうか・・・「本館」・・・や指導官たちが「適性のない学生の存在を把握していながら、退校させないこと」こそが、最大の問題だと指摘」, 「近年の防大にはミリタリー系のアニメやドラマ、スパイものの漫画、ライトノベル小説などにハマって、まるでコスプレでもするような気分で入学してくる者や、被災地支援の側面にのみ注目して、軍人としての自衛官という立場に思いが至らないまま憧れだけを募らせた学生も少なくないという」、嘆かわしいことだ。 個々には説明がないので、項目だけを読んで見当をつけてほしい。 集英社オンライン「〈防衛大告発によせて〉「「コスプレ感覚のミリタリー好き」「リストカット」「適応障害で留年」…幹部自衛官を目指すには適性を欠く学生も多々いる集団生活の“地獄”」 「防大の教育環境を改善することによって、自衛隊全体によい影響が波及する側面も、確実に存在するはずだ。 加えて、等松教授らが真摯に求めている、防大の教育・人事・事務体制やガバナンスの抜本的な改善は、自衛隊改革全般のなかでも、おそらく技術的に最も「手をつけやすい」部分のひとつではないだろうか。 防大執行部と防衛省当局は、各学術・科学分野の専門家である文官教官の意見、特に中堅・若手教官の意見を聴く「ボトムアップ」の回路を十分に確保し、教育環境とガバナンスの改善に取り組むべきである」、同感である。 「筆者の研究仲間や知人で、外国軍将校と幹部自衛官の双方と日常的に交流の機会をもつ何人もの研究者が、異口同音に指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて他国の将校クラスよりも心もとないという評価」、みっともないことだ。 「重要な防衛機密事項の漏洩リスクがある場合を除き、研究者の対外発信内容について防大執行部や事務官が事前確認をおこない「意見を述べる」内部ルール自体が、憲法秩序に照らして著しく不適切である。「学問の自由」が保障されていないこと、この一点のみをもってしても、防大は「大学設置基準」に沿った教育機関・研究機関の認定・・・を取り消されてもおかしくない状況にある」、なるほど。 「等松教授の告発文書によれば、「防衛学」を担当する自衛官教官の多くが、文官教官のような教育能力や研究業績の厳格な審査を経ずに、教授や准教授に採用されており、「とてもその任には堪えられない人々」も少なくないという。 一方で、文官教官が雑誌や新聞に論考やコメントを発表する場合、原稿を事前に事務部門に提出しなければならず、学術的には素人の事務官が事実上の検閲を行うばかりか、原稿を書き換える事例さえあるという」、なるほど。 久保校長は防大改革を進めようとしており、反論文書は「学生間指導においても、上級生による強圧的な言動を排除してき」たとして、この1~2年の間に状況が劇的に改善したと主張している。 ただ、「上級生による強圧的な言動」はそれ以前の長きにわたり、幾度となく指摘されてきた問題だ。久保校長の退任後も含めて、これから十年単位で、防大が真に変化したかどうか、国民はウォッチしていく必要がある」、なるほど。 「等松教授は学生間指導を「悪しきリーダーシップ」の産物と見ていたが、問題はさらに根深い。ふたりの証言からは、悪しきリーダーシップというより、防大執行部や事務官、指導官たちの無責任な人治のツケが、学生たち(学生間指導)に回されている実態がうかがえる。 苦労の絶えない学生舎生活をやり抜いた本田さんやその同期たちが、揃って幹部候補生学校に進むことを“辞退”した理由は、決して“軍隊”が怖くなったからでも、学費の免除が目的だったからでもない。防大の「人治」に翻弄され、疲れ果ててしまったからなのではないか・・・ ずいぶん内容が濃いようだ。 集英社オンライン「大学問題のスペシャリスト・石原俊教授は防衛大告発論考どう読んだのか?「何人もの研究者が指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて、他国の将校クラスよりも心もとないという評価」 (その22)(防衛大告発論3題:石原俊教授は防衛大告発論考どう読んだのか?「何人もの研究者が指摘するのは、幹部自衛官の知的・学術的水準が相対的にみて 他国の将校クラスよりも心もとないという評価」、「コスプレ感覚のミリタリー好き」「リストカット」「適応障害で留年」…幹部自衛官を目指すには適性を欠く学生も多々いる集団生活の“地獄”、女子学生への公然セクハラ シャワー室の盗撮 頻発する窃盗事件…問題だらけの防衛大でそれでも私が4年間退校せずに全うすることができた理由【学生たちの証言】) 防衛問題
キシダノミクス(その11)(所得減税は「人気取り以上」に深刻 どんな観点からも正当化できない、アベノミクスの負のパズルにはまった 岸田政権はこのまま立ち枯れ?、岸田首相が「国民の資産1100兆円」を「海外流出」させようとしている…その「黒幕」の正体、「言うこと聞かなければ飛ばすわよ!」自見英子万博担当相の壮絶パワハラを元部下が明かした「朝5時から電話、うつ病で退職…」、岸田首相が開けた政権崩壊への「パンドラの箱」 「財務・検察離反」や「池田氏死去」で大ピンチ) [国内政治]
キシダノミクスについては、本年11月2日に取上げたばかりだ。今日は、(その11)(所得減税は「人気取り以上」に深刻 どんな観点からも正当化できない、アベノミクスの負のパズルにはまった 岸田政権はこのまま立ち枯れ?、岸田首相が「国民の資産1100兆円」を「海外流出」させようとしている…その「黒幕」の正体、「言うこと聞かなければ飛ばすわよ!」自見英子万博担当相の壮絶パワハラを元部下が明かした「朝5時から電話、うつ病で退職…」、岸田首相が開けた政権崩壊への「パンドラの箱」 「財務・検察離反」や「池田氏死去」で大ピンチ)である。政権崩壊が近づいてきたようなので、あえて短期間で取上げる次第である。
先ずは、本年11月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「所得減税は「人気取り以上」に深刻、どんな観点からも正当化できない」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/332001
・『減税の目的は何なのか? 総合経済対策、閣議決定 岸田文雄政権は11月2日、物価高対応などを掲げて所得税の「定額減税」や低所得世帯への給付を柱にした総合経済対策を閣議決定した。対策の規模は17兆円前半とされ、この財源として、13.1兆円の2023年度一般会計補正予算を編成するという。 だが問題だらけの対策であり、政府の政策構想力がここまで低下したかと、暗澹たる気持ちになる。とりわけ問題が大きいのは、岸田首相の指示で実施されることになった所得減税だ。第一に減税の目的が何なのかがはっきりしない。 首相は税収増を国民に還元するのが所得税減税の目的だと言っている。しかし、税収が見込みより増えたら納税者に返すというのは、そもそもおかしな発想だ。 選挙を意識した「人気取り政策」だとの批判が起きているのは当然だが、問題は人気取りだという以上に深刻だ』、「減税の目的が何なのかがはっきりしない・・・選挙を意識した「人気取り政策」だとの批判が起きているのは当然」、なるほど。
・『財政赤字増えるばかり 非課税世帯に「還元」はおかしい 税収が見込みより増えたからといって、それを納税者に返すのはなぜなのか。 この数年間、政府はコロナ対策などで大規模な補正予算を組み、追加の歳出の財源として巨額の国債を発行してきた。 もし、「税収が増えたら納税者に返す」ということを財政運営の基本方針にするのであれば、追加歳出が生じた時には、逆に新たに税収が必要になったら納税者に求めるということで、国債を発行するのではなく、臨時増税で賄わなくてはいけないはずだ。 不足した場合には国債を発行し、余った場合には納税者に返すというのでは整合的な政策になり得ない。そして、財政赤字は傾向的に増加する。 また、今回の対策では、減税だけでは非課税世帯に恩恵が及ばないため、所得税の非課税世帯にも給付で還元することになっている。しかし税金を納めていない人に税金を返すというのは、論理的にありえないことだ。 誤解のないように付言するが、私は非課税世帯に対する手当が不要だと言っているのではない。非課税世帯に対する給付を行なうのであれば、税収増の還元という目的はそもそもおかしいのではないかと言っているのだ。 つまり、「税収増還元というが、本当の目的は別のところにあるに違いない」と言っている』、「「税収が増えたら納税者に返す」ということを財政運営の基本方針にするのであれば、追加歳出が生じた時には、逆に新たに税収が必要になったら納税者に求めるということで、国債を発行するのではなく、臨時増税で賄わなくてはいけないはずだ。 不足した場合には国債を発行し、余った場合には納税者に返すというのでは整合的な政策になり得ない・・・非課税世帯に対する給付を行なうのであれば、税収増の還元という目的はそもそもおかしいのではないか」、確かに論理矛盾が目立つ。財政に強い筈の宏池会会長とは思えない悪手だ
・『物価高対策が目的ならまずやるべきは円安是正 今回の所得減税は、物価高騰に対する家計の負担増に対処するためのものなのか? 首相は急激な物価上昇から国民生活を守ることも目的だとしている。確かに、そのように理由付ければ、非課税者に還元することも説明がつくだろう。 しかし物価高騰に対応する必要があるのなら、まず物価高騰の原因に対処しなければならない。 本コラム「1970年代よりも低くなった日本人の購買力、日銀は長期金利引き上げで円安阻止を」(2023年10月19日付)で指摘したように、最近の物価高騰は主に円安によって生じている。だから、もし物価高騰への対処が必要なら、何より先に為替レートを円高に導かなければならない。 ところが、政府も日本銀行もそのような政策をとっていない。為替レートは水準が問題ではなく、変動率が問題だという立場だ。したがってここでも政府の政策は矛盾している』、「もし物価高騰への対処が必要なら、何より先に為替レートを円高に導かなければならない。 ところが、政府も日本銀行もそのような政策をとっていない」、その通りだ。
・『「人気取り」にもならない 政策構想能力の欠如 では、これは「人気取り」だけを目的にした政策なのか? 今回、岸田首相が所得減税を与党幹部に指示したのが、10月22日の衆参補選の直前だったことから、露骨な人気取り政策だという見方が多い。 しかし実際には、人気取りにもなっていないのではないだろうか。第一に、仮に人気取りが目的なのであれば、新型コロナ禍の時に行ったような直接的な現金給付を行うほうが効果があるだろう。 ここでも誤解のないように付言するが、私は現金給付が望ましいと言っているのではない。人気取りのためなら、そのほうが効率がよいという意味だ。 国民が減税による還元を実感するのは早くても来年6月になると考えられるので、当面の人気取りにはならない。しかも所得税納税者の多くは源泉徴収されているために、恩恵を感じにくいだろう。 それだけではない。所得減税はあまりにもおかしな政策であるために、支持する声は自民党の内部以外からは出ていない。むしろ内部からも批判の声が聞こえている。結局、多くの人から支持されない政策が人気取りとなるはずはない。 私は、人気取りのために税や歳出が用いられるのは望ましくないと考えている。しかし、政治家がそのようなことを行なうという事実は認めざるをえない。 その観点からしても効果の期待できない政策を取るのは、発案者の能力を疑わざるを得ない。冒頭で政府の政策構想能力に疑問を投げかけたのは、このためだ』、「所得減税を与党幹部に指示したのが、10月22日の衆参補選の直前だったことから、露骨な人気取り政策だという見方が多い。 しかし実際には、人気取りにもなっていないのではないだろうか。第一に、仮に人気取りが目的なのであれば、新型コロナ禍の時に行ったような直接的な現金給付を行うほうが効果があるだろう・・・人気取りが目的なのであれば、新型コロナ禍の時に行ったような直接的な現金給付を行うほうが効果があるだろ・・・国民が減税による還元を実感するのは早くても来年6月になると考えられるので、当面の人気取りにはならない。しかも所得税納税者の多くは源泉徴収されているために、恩恵を感じにくいだろう・・・効果の期待できない政策を取るのは、発案者の能力を疑わざるを得ない。冒頭で政府の政策構想能力に疑問を投げかけたのは、このためだ」、誠に手厳しいが筋の通った批判だ。
・『非課税世帯への給付は自治体に大変な事務負担 以上では、所得減税策が正当化されない政策であることを述べた。しかし仮に何らかの理由で所得税減税が正当化できるとしても、なおかつ問題がある。 それは事務負担の問題だ。所得税減税ではすべての国民が恩恵を受けることにはならないから、所得税非課税世帯に対する給付金が必要になる。問題は非課税世帯をどのように特定するかだ。 税務署は非課税世帯に対するデータを持っていないので、この特定には住民税のデータを持っている地方公共団体が行わざるを得ない。 原理的には、自治体のもつそのデータで2023年度の所得税の課税世帯か非課税世帯が判別できる。仮に地方公共団体が住民税のデータを元にして給付か否かを決め、給付金を銀行振り込みすることになると、大変な事務負担が生じる。20年の定額給付金の際には、銀行口座番号の違ったりして混乱した。今回も同じような問題が再び起きる可能性がある。 マイナンバーカードを使うことも考えられるが、すべての住民が保有しているわけではないので、それだけに頼ることはできない』、「問題は非課税世帯をどのように特定するかだ・・・この特定には住民税のデータを持っている地方公共団体が行わざるを得ない。 原理的には、自治体のもつそのデータで2023年度の所得税の課税世帯か非課税世帯が判別できる。仮に地方公共団体が住民税のデータを元にして給付か否かを決め、給付金を銀行振り込みすることになると、大変な事務負担が生じる。20年の定額給付金の際には、銀行口座番号の違ったりして混乱した。今回も同じような問題が再び起きる可能性がある」、その通りだ。
・『財政でやるべきことは山ほどある 防衛費や社会保障の安定財源確保 所得減税に対する最も大きな疑問は、政府が財政について行うべきことがほかに山ほどあるのに、なぜ今回、減税をするのかということだ。 本コラムでもこれまで何度も指摘したしたことだが、まず第一に首相が同様に重要政策としているはずの防衛費増額や子育て支援の予算に対する恒久的な財源の手当はされていない。 首相は防衛費増額に対して増税で基本的な財源を手当てする方針をかかげたために、「増税派」として批判されている。確かにそのような基本方針は立てたが、実際には増税は行なっていないし、実施の目途も曖昧にされている。いまされている財源の手当ては、事実上の赤字公債国増発を見えにくくしただけのことだ。 子育て支援以外の社会保障費の負担の問題も曖昧だ。今回考えられているのは1年限りの減税だから、社会保障負担のような長期的な問題には影響を与えないと考えられるかもしれない。 しかし社会保障負担の問題はいますぐにでも検討を始めなければならない重要な課題だ。とくに2024年は公的年金の財政検証の年になる。本来はこの問題についての検討が行われるべきだ。 しかし今年年末の与党の税制改正作業では所得減税具体化のための議論にかなりの時間がさかれるだろう。年金など社会保障費の負担の在り方についてまともな議論が行われるとは思えない。 巨額の政府債務を抱える財政をどう健全化し、高齢化や人口減少の課題に対応してしていくのか、日本の財政の長期的な方向づけなどの議論がおろそかになる懸念がある』、「2024年は公的年金の財政検証の年になる。本来はこの問題についての検討が行われるべきだ。 しかし今年年末の与党の税制改正作業では所得減税具体化のための議論にかなりの時間がさかれるだろう。年金など社会保障費の負担の在り方についてまともな議論が行われるとは思えない。巨額の政府債務を抱える財政をどう健全化し、高齢化や人口減少の課題に対応してしていくのか、日本の財政の長期的な方向づけなどの議論がおろそかになる懸念がある」、その通りだ。
・『所得税の不公平是正が急務 金融所得の総合課税化など 所得税制の見直しも重要な課題だ。政府の財政調査会は今年の6月にまとめた中期答申で、通勤手当などの非課税所得や退職金の税控除の見直しを求めた。いずれも重要な指摘だと思う。 日本の所得税には、これ以外にも課題がある。とくに大きな課題は、現在は分離課税になっている金融資産からの所得を総合課税化することだ。 また給与所得とフリーランサーの所得のアンバランスを是正する必要がある。給与所得の場合には、自動的に多額の給与所得控除が認められるが、フリーランサーの所得は雑所得になるため、そうした控除はない。これは組織に依存しない新しい働き方を実現していく上で大きな障害になっている。 政府はこうした問題をこそ検討しなければならない。所得税の減税などと言っている場合ではないことを明確に認識すべきだ』、「給与所得とフリーランサーの所得のアンバランスを是正する必要」は当然だが、「金融所得の総合課税化」は、抵抗も強く極めて困難な課題だ。「政府はこうした問題をこそ検討しなければならない。所得税の減税などと言っている場合ではないことを明確に認識すべきだ」、同感である。
次に、11月8日付け現代ビジネス「岸田首相が「国民の資産1100兆円」を「海外流出」させようとしている…その「黒幕」の正体」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/118718
・『ついにメガネが曇って何も見えなくなったのか。国民の財産を守るのが政治家の仕事のはずが、岸田首相はまったく逆の手を打とうとしている。タチの悪いことに、本人はそのことに無自覚のようだ』、どういうことなのだろう。
・『1100兆円の博打 ついに政権維持の危険水域である「支持率20%台」に突入した岸田内閣。外交では存在感を発揮できず、物価の上昇に反比例するように人気は急降下。このままでは、早期の退陣は免れない。 追い込まれた岸田文雄首相は、政権浮揚の最後の「賭け」に出ようとしている。恐るべきことにその賭け金は、日本国民の現預金1100兆円。しかも、どうやらこのギャンブル、負ける可能性が濃厚なのだ―。 10月20日から召集された臨時国会。その所信表明演説で岸田首相は「経済!経済!経済!何よりも経済に重点を置く!」と、「経済」という言葉を連呼した。この演説の直前、岸田首相は側近らに、まるで何かに取りつかれたようにボソボソとつぶやいたという。 「知ってるだろ?俺は元銀行員だよ。最近の総理の中では一番経済に精通してるんだ。国民だってそれをわかってるだろ。だから、俺が説明すれば、みんな理解してくれるはずだ……」 これまでは「外交の岸田」を自負してきたはずなのに、突然「俺の強みは経済」と転向した岸田首相。ひょっとすると、岸田さんの頭の中は「彼ら」に乗っ取られてしまったのではないか―首相周辺からはこんな声が聞こえてくる』、「所信表明演説で岸田首相は「経済!経済!経済!何よりも経済に重点を置く!」と、「経済」という言葉を連呼した。この演説の直前、岸田首相は側近らに、まるで何かに取りつかれたようにボソボソとつぶやいたという。 「知ってるだろ?俺は元銀行員だよ。最近の総理の中では一番経済に精通してるんだ。国民だってそれをわかってるだろ。だから、俺が説明すれば、みんな理解してくれるはずだ……」 これまでは「外交の岸田」を自負してきたはずなのに、突然「俺の強みは経済」と転向した岸田首相」、なるほど。
・『「彼ら」とはだれか 所信表明演説から遡ること1ヵ月。国連総会に出席するため9月19・21日にかけて訪米していた岸田首相。タイトな日程を縫うようにして最終日に向かったのは、ニューヨークにある5つ星ホテル「ザ・ピエール・ア・タージ」だ。この日、同ホテルでは米財界の大物が集うニューヨーク経済クラブ主催のパーティーが開かれていた。 ここに、岸田首相はゲストスピーカーとして招かれたのだ。それも、同クラブの長い歴史の中で、日本人としてはじめて、だ。 「かつてはチャーチルやゴルバチョフら主要国のトップが演説をした名門クラブですが、日本の宰相は、吉田茂さんでも安倍晋三さんでも立つ機会がなかった。そこに岸田さんが呼ばれた。岸田さんは金融界の大御所たちを前に、お得意の英語で、今後の岸田政権の金融政策について披露したのです」(官邸関係者) 安倍さんでさえ立てなかった国際金融の中心の舞台に、自分が立っている―岸田首相の高揚感は筆舌に尽くしがたいものがあったのだろう。帰国後も「金融の世界では俺の名前が轟いているってことだな」と自信満々だったという。 実はこの場所に、岸田首相が心酔する「金融集団」がいたことは、日本人にはあまり知られていない。 「ブラックロック」。運用資産総額約1400兆円と世界最高を誇る米資産運用会社の幹部だ。この金融集団こそ、首相周辺が懸念を示した「彼ら」だ。 「ブラックロックは世界約30ヵ国に展開する巨大金融企業です。米バイデン政権の国家経済会議委員長と財務副長官が同社の元幹部であることからもわかるように、世界の経済・金融政策にも多大な影響力を持っています」(経済ジャーナリストの磯山友幸氏) 「ブラックロック」CEOであるラリー・フィンク氏は、いったい何者なのか。なぜ日本を食い物にしようとしているのかについては、『週刊現代』『「日本国民の現預金」が外資の食い物に…「迷走メガネ」岸田首相が打った「ヒドい博打」)』が詳述している。岸田首相の支持率と「見栄」のために、われわれの大切な資産が海外に流出する危機に瀕しているのだ』、「ニューヨークにある5つ星ホテル「ザ・ピエール・ア・タージ」だ。この日、同ホテルでは米財界の大物が集うニューヨーク経済クラブ主催のパーティーが開かれていた。 ここに、岸田首相はゲストスピーカーとして招かれたのだ。それも、同クラブの長い歴史の中で、日本人としてはじめて、だ。 「かつてはチャーチルやゴルバチョフら主要国のトップが演説をした名門クラブですが、日本の宰相は、吉田茂さんでも安倍晋三さんでも立つ機会がなかった。そこに岸田さんが呼ばれた。岸田さんは金融界の大御所たちを前に、お得意の英語で、今後の岸田政権の金融政策について披露したのです」(官邸関係者) 安倍さんでさえ立てなかった国際金融の中心の舞台に、自分が立っている―岸田首相の高揚感は筆舌に尽くしがたいものがあったのだろう。帰国後も「金融の世界では俺の名前が轟いているってことだな」と自信満々だったという。 実はこの場所に、岸田首相が心酔する「金融集団」がいたことは、日本人にはあまり知られていない。 「ブラックロック」。運用資産総額約1400兆円と世界最高を誇る米資産運用会社の幹部だ。この金融集団こそ、首相周辺が懸念を示した「彼ら」だ。 「ブラックロックは世界約30ヵ国に展開する巨大金融企業です。米バイデン政権の国家経済会議委員長と財務副長官が同社の元幹部であることからもわかるように、世界の経済・金融政策にも多大な影響力を持っています」、この程度の材料で「「国民の資産1100兆円」を「海外流出」させようとしている」とは大げさ過ぎる。「ブラックロック」の「運用資産総額約1400兆円」とはいえ、そこへ預ける投資家はあくまで自己責任で投資しているだけである。「ブラックロック」の運用先に日本企業も入っているだろうが、それは世界での競合企業との比較に基づいた配分の筈だ。冷静に臨むべきだ。
第三に、11月15日付け文春オンライン「「言うこと聞かなければ飛ばすわよ!」自見英子万博担当相の壮絶パワハラを元部下が明かした「朝5時から電話、うつ病で退職…」」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/67018
・『会場建設費の増額で批判が高まる大阪万博。担当大臣として取り仕切っているのが自見英子氏(47)だ。その自見氏のパワハラ行為を、元官僚のA氏が「週刊文春」に証言した。 「私は自見さんからのパワハラが原因で、心身を病んでしまい、退職に至りました」(A氏)』、「私は自見さんからのパワハラが原因で、心身を病んでしまい、退職に至りました」とは深刻だ。
・『10分おきに執拗に問い合わせの電話 厚労行政に詳しい元内閣府官僚のA氏が自見氏からのパワハラを受けるようになったのは、2020年夏から秋ごろにかけてのこと。厚生労働大臣政務官だった自見氏は、A氏ら官僚に厳しい要求を繰り返したという。 「10分おきに執拗に問い合わせの電話をかけてきたり、『何で政務官の私の言うことが聞けないの?』と厳しい叱責を受けることもありました。携帯にも電話があり、早いときには朝5時、夜も午後10時以降にかかってくることが珍しくなかった。土日祝日も一切関係ありませんでした」(同前) 意に沿わない官僚に対しては、こう言い放ったという。 「言うこと聞かなければ飛ばすわよ!」』、「「10分おきに執拗に問い合わせの電話をかけてきたり、『何で政務官の私の言うことが聞けないの?』と厳しい叱責を受けることもありました。携帯にも電話があり、早いときには朝5時、夜も午後10時以降にかかってくることが珍しくなかった。土日祝日も一切関係ありませんでした」、全く典型的なハラスメントだ。
・『「うつ病」と診断され休職、最終的に退職へ… A氏の脳裏からは四六時中、自見氏の声が離れなくなり、やがて心身に変調をきたして「うつ病」と診断された。休職を経て一時は復帰したものの、最終的には退職を余儀なくされたという。 A氏へのパワハラについて自見氏に尋ねると、事務所は「御指摘のような事実はありません」と回答した。 だがA氏は「週刊文春」に、パワハラ被害の経緯や内容を詳細に証言しており、うつ病の診断書や退職証明書といった書類も提供している。自見氏の今後の説明に注目が集まりそうだ。 11月15日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」ならびに16日(木)発売の「週刊文春」では、こうしたパワハラの詳細のほか、自見氏の元秘書が明かす事務所の実態、自見氏が取り仕切る万博をめぐる仕事ぶり、「日よけリング」建設費高騰の理由などについて詳報している』、「A氏は「週刊文春」に、パワハラ被害の経緯や内容を詳細に証言しており、うつ病の診断書や退職証明書といった書類も提供している。自見氏の今後の説明に注目が集まりそうだ」、岸田内閣で数少ない女性閣僚がこんなに酷い「パワハラ」をするとは、やれやれだ。
第四に、11月23日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「岸田首相が開けた政権崩壊への「パンドラの箱」 「財務・検察離反」や「池田氏死去」で大ピンチ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/716885
・『岸田文雄首相が「絶体絶命の大ピンチ」(自民長老)を迎えている。「増税メガネ」に端を発した“メガネ騒動”の果ての減税への「国民総スカン」状態に、「超お粗末な理由」(閣僚経験者)での政務3役3連続辞任も重なり、内閣支持率下落が“底なし沼”になったからだ。 これに連動したような高市早苗経済安保相の「決起」を始めとする自民党内の反岸田勢力の胎動と、財務省や検察の政権からの離反、さらに創価学会の池田大作名誉会長の死去も絡み、「政権崩壊への“パンドラの箱”が開いた状況」(同)に。これを受け、週刊誌など多くのメディアが「首相の早期退陣」と「ポスト岸田候補の品定め」を競い合うなど、永田町はまさに「政権崩壊前夜」の様相となりつつある』、「永田町はまさに「政権崩壊前夜」の様相となりつつある」、予想以上に速い展開だ。
・『“底なし沼”の支持率下落 臨時国会が中盤を迎えた段階で各種メディアが実施した世論調査では、岸田内閣の支持率が2012年末の自民党政権復帰以来の「最低・最悪の数字」(アナリスト)となった。ほとんどの調査で内閣支持率は2割台まで落ち込み、不支持率は7割近くに達するありさまだ。 しかも、これに連動するように自民党支持率も下落傾向が際立ち、唯一の対面調査となる時事通信調査では内閣支持率21.3%―自民支持率19.1%にまで落ち込んだ。この数値は、故青木幹雄元自民党参院議員会長が唱えた「政権の寿命は1年以内」とする、いわゆる「青木の法則」に当てはまる。 岸田首相肝いりの超大型補正予算案の国会審議が始まった20日も、朝から首相官邸や自民党の幹部らの間では、与野党論戦そっちのけで週末の世論調査の話題ばかりに。時事通信だけでなく、朝日新聞25%、毎日新聞21%、読売新聞24%など大手紙の調査でも軒並み過去最低の支持率を記録したからだ。) これに対し、岸田首相は直前までアメリカ・サンフランシスコでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席し、習近平中国国家主席との日中首脳会談を実現するなど、岸田外交を内外にアピールすることでの態勢立て直しに躍起となった。しかし、結果的には「支持率下落の歯止めにはならなかった」(官邸筋)のが実態だ。 岸田首相周辺も「首相がこだわった『減税』が批判のキーワードになり、いくらあがいても逆風は収まらない」(官邸筋)とうなだれるばかり。こうした状況について、自民党中枢の1人の森山裕総務会長も21日の記者会見で、「非常に危機感を持って受け止めている」としたうえで「今は党を挙げて岸田首相をしっかり支え、信頼回復に全党で取り組んでいくことが大事だ」と厳しい表情で繰り返した』、「岸田首相は直前までアメリカ・サンフランシスコでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席し、習近平中国国家主席との日中首脳会談を実現するなど、岸田外交を内外にアピールすることでの態勢立て直しに躍起となった。しかし、結果的には「支持率下落の歯止めにはならなかった」、やはり外交では「態勢立て直しに」は限界があるようだ。
・『岸田首相への逆風が、自民党そのものへの逆風に 多くの世論調査をみると、岸田首相が「適材適所」を強調してきた政務3役で、職責に絡んだ辞任ドミノが起きたことについて、大多数が「首相の任命責任は重大」と受け止めている。さらに岸田首相が打ち出した所得減税や現金給付も「評価しない」が平均で6割以上にとなり、自民党内からも「1年限定での税金の還元という発想自体が『馬鹿にしている』と国民を怒らせた」との指摘が相次ぐ。 さらに「岸田首相への逆風が、自民党そのものへの逆風になりつつある」(麻生派若手)との不安も広がり、党有力幹部も「世論全体が『岸田さんを支持する』と言いにくい空気になっている」と天を仰ぐ。 そうした状況に追い打ちをかけたのが、自民党5派閥の政治団体が政治資金パーティーの収入を政治資金収支報告書に過少記載したとする告発状をうけての東京地検特捜部の捜査だ。各メディアは同特捜部が各派閥の担当者に任意の事情聴取を進めていると報じ、21日から始まった衆院予算委で泉健太立憲民主代表を先頭に「各派閥の収入の不記載は合計4000万円を超える」と指摘し、自民党総裁で岸田派会長でもある岸田首相に対して説明を求めた。) これに対し岸田首相は「岸田派の政治資金収支報告書の訂正」を認めるなど、防戦一方となり、野党側は「閣僚の中に収支報告の責任者となる派閥の事務総長や経験者がいる」として茂木派事務総長の新藤義孝経済再生担当相、安倍派の元事務総長の松野博一官房長官と西村康稔経済産業相に対して「会計担当者から相談を受けているかどうか」などをただしたが、新藤、松野、西村3氏は「政府にいる立場としてお答えは控える」の一点張りでかわした。 これに怒りを隠せない立憲民主は、22日午前の衆院予算委前の理事会で激しく抵抗、野党側が不記載の金額などを明示するよう要求したが、自民は拒否し、結局、岸田首相が委員会の冒頭に発言することで折り合った。これを受け岸田首相は各派で政治資金収支報告書の訂正をしていると強調した上で、「適切に説明を速やかに行ってもらうよう茂木敏充幹事長に指示した」と答弁したが、野党側はなお追及を続ける構えだ。 与党内には今回の検察当局の動きについて「早期の政権崩壊を見越して、検察が独自に動き出した。減税の原資は赤字国債だと主張した財務省も合わせて、明らかに政権離反の動きにみえる」(公明党幹部)との指摘も出ており、官邸サイドも深刻さを隠せない』、「与党内には今回の検察当局の動きについて「早期の政権崩壊を見越して、検察が独自に動き出した。減税の原資は赤字国債だと主張した財務省も合わせて、明らかに政権離反の動きにみえる」(公明党幹部)との指摘も出ており、官邸サイドも深刻さを隠せない」、「検察当局」に加えて、「財務省」も「政権離反の動き」とは深刻だ。
・『意気盛んな高市氏、菅・二階両氏もうごめく そうした中、民放テレビ番組などで次期総裁選について「戦わせていただく」と明言している高市経済安保相は、15日に自らの勉強会の初会合を行って党内から批判された。しかし高市氏は19日に自身のX(旧ツイッター)を更新し、「現職閣僚が担務外の政策を同僚議員と一緒に勉強する事の何が悪いのか、意味が分からん」などと反論するなど意気盛んだ。 この高市氏の動きと連動するように、菅義偉前首相と二階俊博元幹事長も9日に森山総務会長を交えて密談。二階派関係者によるとこの席で二階氏は「手のひらをひっくり返す素振りを見せながら『徹底的にやるぞ』とうそぶいた」とされる。 さらに菅氏もこの席で首相批判を繰り返したうえで、各世論調査でポスト岸田候補の上位に並ぶ石破茂元幹事長、河野太郎行革担当相、小泉進次郎元環境相のいわゆる「小石河連合」との連携もほのめかしたといわれる。) こうした現状は「党内の岸田包囲網の広がり」(岸田派幹部)だが、その最中の池田大作氏の死去も岸田政権を揺さぶる要因となった。創価学会は18日、「池田氏が15日夜に新宿区の居宅で老衰のため亡くなった」と発表したが、この18日は創価学会の創立記念日でもあり、機関紙の聖教新聞はお祝いムードの報道があふれていただけに、SNSを中心に違和感を指摘する声が相次いだからだ。 これに対し、学会関係者は「創立記念日にわざわざ訃報を伝えることは学会側にメリットがなく、意図的に発表を3日待ったということはありえない」とし、学会の内部では池田氏の存在がすでに過去の人になっていることをにじませた』、「「戦わせていただく」と明言している高市経済安保相」、「二階氏は「手のひらをひっくり返す素振りを見せながら『徹底的にやるぞ』とうそぶいた」とされる。 さらに菅氏もこの席で首相批判を繰り返したうえで、各世論調査でポスト岸田候補の上位に並ぶ石破茂元幹事長、河野太郎行革担当相、小泉進次郎元環境相のいわゆる「小石河連合」との連携もほのめかしたといわれる」、「こうした現状は「党内の岸田包囲網の広がり」(岸田派幹部)だが、その最中の池田大作氏の死去も岸田政権を揺さぶる要因となった」、なるほど。
・『池田氏死去で「自公協力弱体化」も ただ、池田氏の訃報を受けて岸田首相が19日夜、東京都新宿区の創価学会本部を自民党総裁として弔問し、原田稔会長や池田氏の長男、博正主任副会長と面会したことも、波紋を広げた。SNS上では憲法が定める政教分離と絡めて疑問視する意見が相次ぎ、松野官房長官が20日の記者会見で「個人としての弔意で問題はない」と釈明する事態となった。 こうした状況を予測したかのように、21日発売の週刊文春は「池田大作(創価学会名誉会長)“怪物”の正体」という特集記事を掲載。その中で「公明票への影響は『マイナス200万票』の衝撃」としたことも政権を揺さぶった。 そもそも、直近の国政選挙での公明党の得票は最盛期の約3割減ともなる600万票余まで落ち込んでいる。それがさらに200万票も減るとなれば「自公選挙協力の弱体化を露呈する」ことは明らかだ。特に、「平和を訴え続けた池田氏に共鳴した学会員たちが、自民党の保守・右傾化に愛想をつかして投票に行かなければ、首都圏などの自民党候補はバタバタと落選する」(自民選対)という事態を招きかねない。 こうした状況にもかかわらず、岸田首相自身は首脳外交に勤しみ、政権批判にもあえて笑顔を絶やさず「どうする文雄」どころか「とにかく明るい岸田」を演じ続け、この「ミスマッチ」がさらに岸田首相への国民的不信を増幅させるという悪循環に陥っている。 ここにきて永田町では、「解散権を奪われたかにみえる岸田首相が、やけくそでの『七夕選挙』を狙っている」との臆測も飛び交う。「まさに、年末以降の政局は、何でもありの出たとこ勝負」(自民長老)になりつつあるわけだが、「こうした自民内の闇試合が、さらに国民の政治不信をかき立てる」(同)ことだけは間違いなさそうだ』、「直近の国政選挙での公明党の得票は最盛期の約3割減ともなる600万票余まで落ち込んでいる。それがさらに200万票も減るとなれば「自公選挙協力の弱体化を露呈する」ことは明らかだ。特に、「平和を訴え続けた池田氏に共鳴した学会員たちが、自民党の保守・右傾化に愛想をつかして投票に行かなければ、首都圏などの自民党候補はバタバタと落選する」(自民選対)という事態を招きかねない・・・こうした状況にもかかわらず、岸田首相自身は首脳外交に勤しみ、政権批判にもあえて笑顔を絶やさず「どうする文雄」どころか「とにかく明るい岸田」を演じ続け、この「ミスマッチ」がさらに岸田首相への国民的不信を増幅させるという悪循環に陥っている。 ここにきて永田町では、「解散権を奪われたかにみえる岸田首相が、やけくそでの『七夕選挙』を狙っている」との臆測も飛び交う。「まさに、年末以降の政局は、何でもありの出たとこ勝負」(自民長老)になりつつあるわけだが、「こうした自民内の闇試合が、さらに国民の政治不信をかき立てる」(同)ことだけは間違いなさそうだ」、「「こうした自民内の闇試合が、さらに国民の政治不信をかき立てる」(同)ことだけは間違いなさそうだ」とは言い得て妙だ。
先ずは、本年11月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「所得減税は「人気取り以上」に深刻、どんな観点からも正当化できない」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/332001
・『減税の目的は何なのか? 総合経済対策、閣議決定 岸田文雄政権は11月2日、物価高対応などを掲げて所得税の「定額減税」や低所得世帯への給付を柱にした総合経済対策を閣議決定した。対策の規模は17兆円前半とされ、この財源として、13.1兆円の2023年度一般会計補正予算を編成するという。 だが問題だらけの対策であり、政府の政策構想力がここまで低下したかと、暗澹たる気持ちになる。とりわけ問題が大きいのは、岸田首相の指示で実施されることになった所得減税だ。第一に減税の目的が何なのかがはっきりしない。 首相は税収増を国民に還元するのが所得税減税の目的だと言っている。しかし、税収が見込みより増えたら納税者に返すというのは、そもそもおかしな発想だ。 選挙を意識した「人気取り政策」だとの批判が起きているのは当然だが、問題は人気取りだという以上に深刻だ』、「減税の目的が何なのかがはっきりしない・・・選挙を意識した「人気取り政策」だとの批判が起きているのは当然」、なるほど。
・『財政赤字増えるばかり 非課税世帯に「還元」はおかしい 税収が見込みより増えたからといって、それを納税者に返すのはなぜなのか。 この数年間、政府はコロナ対策などで大規模な補正予算を組み、追加の歳出の財源として巨額の国債を発行してきた。 もし、「税収が増えたら納税者に返す」ということを財政運営の基本方針にするのであれば、追加歳出が生じた時には、逆に新たに税収が必要になったら納税者に求めるということで、国債を発行するのではなく、臨時増税で賄わなくてはいけないはずだ。 不足した場合には国債を発行し、余った場合には納税者に返すというのでは整合的な政策になり得ない。そして、財政赤字は傾向的に増加する。 また、今回の対策では、減税だけでは非課税世帯に恩恵が及ばないため、所得税の非課税世帯にも給付で還元することになっている。しかし税金を納めていない人に税金を返すというのは、論理的にありえないことだ。 誤解のないように付言するが、私は非課税世帯に対する手当が不要だと言っているのではない。非課税世帯に対する給付を行なうのであれば、税収増の還元という目的はそもそもおかしいのではないかと言っているのだ。 つまり、「税収増還元というが、本当の目的は別のところにあるに違いない」と言っている』、「「税収が増えたら納税者に返す」ということを財政運営の基本方針にするのであれば、追加歳出が生じた時には、逆に新たに税収が必要になったら納税者に求めるということで、国債を発行するのではなく、臨時増税で賄わなくてはいけないはずだ。 不足した場合には国債を発行し、余った場合には納税者に返すというのでは整合的な政策になり得ない・・・非課税世帯に対する給付を行なうのであれば、税収増の還元という目的はそもそもおかしいのではないか」、確かに論理矛盾が目立つ。財政に強い筈の宏池会会長とは思えない悪手だ
・『物価高対策が目的ならまずやるべきは円安是正 今回の所得減税は、物価高騰に対する家計の負担増に対処するためのものなのか? 首相は急激な物価上昇から国民生活を守ることも目的だとしている。確かに、そのように理由付ければ、非課税者に還元することも説明がつくだろう。 しかし物価高騰に対応する必要があるのなら、まず物価高騰の原因に対処しなければならない。 本コラム「1970年代よりも低くなった日本人の購買力、日銀は長期金利引き上げで円安阻止を」(2023年10月19日付)で指摘したように、最近の物価高騰は主に円安によって生じている。だから、もし物価高騰への対処が必要なら、何より先に為替レートを円高に導かなければならない。 ところが、政府も日本銀行もそのような政策をとっていない。為替レートは水準が問題ではなく、変動率が問題だという立場だ。したがってここでも政府の政策は矛盾している』、「もし物価高騰への対処が必要なら、何より先に為替レートを円高に導かなければならない。 ところが、政府も日本銀行もそのような政策をとっていない」、その通りだ。
・『「人気取り」にもならない 政策構想能力の欠如 では、これは「人気取り」だけを目的にした政策なのか? 今回、岸田首相が所得減税を与党幹部に指示したのが、10月22日の衆参補選の直前だったことから、露骨な人気取り政策だという見方が多い。 しかし実際には、人気取りにもなっていないのではないだろうか。第一に、仮に人気取りが目的なのであれば、新型コロナ禍の時に行ったような直接的な現金給付を行うほうが効果があるだろう。 ここでも誤解のないように付言するが、私は現金給付が望ましいと言っているのではない。人気取りのためなら、そのほうが効率がよいという意味だ。 国民が減税による還元を実感するのは早くても来年6月になると考えられるので、当面の人気取りにはならない。しかも所得税納税者の多くは源泉徴収されているために、恩恵を感じにくいだろう。 それだけではない。所得減税はあまりにもおかしな政策であるために、支持する声は自民党の内部以外からは出ていない。むしろ内部からも批判の声が聞こえている。結局、多くの人から支持されない政策が人気取りとなるはずはない。 私は、人気取りのために税や歳出が用いられるのは望ましくないと考えている。しかし、政治家がそのようなことを行なうという事実は認めざるをえない。 その観点からしても効果の期待できない政策を取るのは、発案者の能力を疑わざるを得ない。冒頭で政府の政策構想能力に疑問を投げかけたのは、このためだ』、「所得減税を与党幹部に指示したのが、10月22日の衆参補選の直前だったことから、露骨な人気取り政策だという見方が多い。 しかし実際には、人気取りにもなっていないのではないだろうか。第一に、仮に人気取りが目的なのであれば、新型コロナ禍の時に行ったような直接的な現金給付を行うほうが効果があるだろう・・・人気取りが目的なのであれば、新型コロナ禍の時に行ったような直接的な現金給付を行うほうが効果があるだろ・・・国民が減税による還元を実感するのは早くても来年6月になると考えられるので、当面の人気取りにはならない。しかも所得税納税者の多くは源泉徴収されているために、恩恵を感じにくいだろう・・・効果の期待できない政策を取るのは、発案者の能力を疑わざるを得ない。冒頭で政府の政策構想能力に疑問を投げかけたのは、このためだ」、誠に手厳しいが筋の通った批判だ。
・『非課税世帯への給付は自治体に大変な事務負担 以上では、所得減税策が正当化されない政策であることを述べた。しかし仮に何らかの理由で所得税減税が正当化できるとしても、なおかつ問題がある。 それは事務負担の問題だ。所得税減税ではすべての国民が恩恵を受けることにはならないから、所得税非課税世帯に対する給付金が必要になる。問題は非課税世帯をどのように特定するかだ。 税務署は非課税世帯に対するデータを持っていないので、この特定には住民税のデータを持っている地方公共団体が行わざるを得ない。 原理的には、自治体のもつそのデータで2023年度の所得税の課税世帯か非課税世帯が判別できる。仮に地方公共団体が住民税のデータを元にして給付か否かを決め、給付金を銀行振り込みすることになると、大変な事務負担が生じる。20年の定額給付金の際には、銀行口座番号の違ったりして混乱した。今回も同じような問題が再び起きる可能性がある。 マイナンバーカードを使うことも考えられるが、すべての住民が保有しているわけではないので、それだけに頼ることはできない』、「問題は非課税世帯をどのように特定するかだ・・・この特定には住民税のデータを持っている地方公共団体が行わざるを得ない。 原理的には、自治体のもつそのデータで2023年度の所得税の課税世帯か非課税世帯が判別できる。仮に地方公共団体が住民税のデータを元にして給付か否かを決め、給付金を銀行振り込みすることになると、大変な事務負担が生じる。20年の定額給付金の際には、銀行口座番号の違ったりして混乱した。今回も同じような問題が再び起きる可能性がある」、その通りだ。
・『財政でやるべきことは山ほどある 防衛費や社会保障の安定財源確保 所得減税に対する最も大きな疑問は、政府が財政について行うべきことがほかに山ほどあるのに、なぜ今回、減税をするのかということだ。 本コラムでもこれまで何度も指摘したしたことだが、まず第一に首相が同様に重要政策としているはずの防衛費増額や子育て支援の予算に対する恒久的な財源の手当はされていない。 首相は防衛費増額に対して増税で基本的な財源を手当てする方針をかかげたために、「増税派」として批判されている。確かにそのような基本方針は立てたが、実際には増税は行なっていないし、実施の目途も曖昧にされている。いまされている財源の手当ては、事実上の赤字公債国増発を見えにくくしただけのことだ。 子育て支援以外の社会保障費の負担の問題も曖昧だ。今回考えられているのは1年限りの減税だから、社会保障負担のような長期的な問題には影響を与えないと考えられるかもしれない。 しかし社会保障負担の問題はいますぐにでも検討を始めなければならない重要な課題だ。とくに2024年は公的年金の財政検証の年になる。本来はこの問題についての検討が行われるべきだ。 しかし今年年末の与党の税制改正作業では所得減税具体化のための議論にかなりの時間がさかれるだろう。年金など社会保障費の負担の在り方についてまともな議論が行われるとは思えない。 巨額の政府債務を抱える財政をどう健全化し、高齢化や人口減少の課題に対応してしていくのか、日本の財政の長期的な方向づけなどの議論がおろそかになる懸念がある』、「2024年は公的年金の財政検証の年になる。本来はこの問題についての検討が行われるべきだ。 しかし今年年末の与党の税制改正作業では所得減税具体化のための議論にかなりの時間がさかれるだろう。年金など社会保障費の負担の在り方についてまともな議論が行われるとは思えない。巨額の政府債務を抱える財政をどう健全化し、高齢化や人口減少の課題に対応してしていくのか、日本の財政の長期的な方向づけなどの議論がおろそかになる懸念がある」、その通りだ。
・『所得税の不公平是正が急務 金融所得の総合課税化など 所得税制の見直しも重要な課題だ。政府の財政調査会は今年の6月にまとめた中期答申で、通勤手当などの非課税所得や退職金の税控除の見直しを求めた。いずれも重要な指摘だと思う。 日本の所得税には、これ以外にも課題がある。とくに大きな課題は、現在は分離課税になっている金融資産からの所得を総合課税化することだ。 また給与所得とフリーランサーの所得のアンバランスを是正する必要がある。給与所得の場合には、自動的に多額の給与所得控除が認められるが、フリーランサーの所得は雑所得になるため、そうした控除はない。これは組織に依存しない新しい働き方を実現していく上で大きな障害になっている。 政府はこうした問題をこそ検討しなければならない。所得税の減税などと言っている場合ではないことを明確に認識すべきだ』、「給与所得とフリーランサーの所得のアンバランスを是正する必要」は当然だが、「金融所得の総合課税化」は、抵抗も強く極めて困難な課題だ。「政府はこうした問題をこそ検討しなければならない。所得税の減税などと言っている場合ではないことを明確に認識すべきだ」、同感である。
次に、11月8日付け現代ビジネス「岸田首相が「国民の資産1100兆円」を「海外流出」させようとしている…その「黒幕」の正体」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/118718
・『ついにメガネが曇って何も見えなくなったのか。国民の財産を守るのが政治家の仕事のはずが、岸田首相はまったく逆の手を打とうとしている。タチの悪いことに、本人はそのことに無自覚のようだ』、どういうことなのだろう。
・『1100兆円の博打 ついに政権維持の危険水域である「支持率20%台」に突入した岸田内閣。外交では存在感を発揮できず、物価の上昇に反比例するように人気は急降下。このままでは、早期の退陣は免れない。 追い込まれた岸田文雄首相は、政権浮揚の最後の「賭け」に出ようとしている。恐るべきことにその賭け金は、日本国民の現預金1100兆円。しかも、どうやらこのギャンブル、負ける可能性が濃厚なのだ―。 10月20日から召集された臨時国会。その所信表明演説で岸田首相は「経済!経済!経済!何よりも経済に重点を置く!」と、「経済」という言葉を連呼した。この演説の直前、岸田首相は側近らに、まるで何かに取りつかれたようにボソボソとつぶやいたという。 「知ってるだろ?俺は元銀行員だよ。最近の総理の中では一番経済に精通してるんだ。国民だってそれをわかってるだろ。だから、俺が説明すれば、みんな理解してくれるはずだ……」 これまでは「外交の岸田」を自負してきたはずなのに、突然「俺の強みは経済」と転向した岸田首相。ひょっとすると、岸田さんの頭の中は「彼ら」に乗っ取られてしまったのではないか―首相周辺からはこんな声が聞こえてくる』、「所信表明演説で岸田首相は「経済!経済!経済!何よりも経済に重点を置く!」と、「経済」という言葉を連呼した。この演説の直前、岸田首相は側近らに、まるで何かに取りつかれたようにボソボソとつぶやいたという。 「知ってるだろ?俺は元銀行員だよ。最近の総理の中では一番経済に精通してるんだ。国民だってそれをわかってるだろ。だから、俺が説明すれば、みんな理解してくれるはずだ……」 これまでは「外交の岸田」を自負してきたはずなのに、突然「俺の強みは経済」と転向した岸田首相」、なるほど。
・『「彼ら」とはだれか 所信表明演説から遡ること1ヵ月。国連総会に出席するため9月19・21日にかけて訪米していた岸田首相。タイトな日程を縫うようにして最終日に向かったのは、ニューヨークにある5つ星ホテル「ザ・ピエール・ア・タージ」だ。この日、同ホテルでは米財界の大物が集うニューヨーク経済クラブ主催のパーティーが開かれていた。 ここに、岸田首相はゲストスピーカーとして招かれたのだ。それも、同クラブの長い歴史の中で、日本人としてはじめて、だ。 「かつてはチャーチルやゴルバチョフら主要国のトップが演説をした名門クラブですが、日本の宰相は、吉田茂さんでも安倍晋三さんでも立つ機会がなかった。そこに岸田さんが呼ばれた。岸田さんは金融界の大御所たちを前に、お得意の英語で、今後の岸田政権の金融政策について披露したのです」(官邸関係者) 安倍さんでさえ立てなかった国際金融の中心の舞台に、自分が立っている―岸田首相の高揚感は筆舌に尽くしがたいものがあったのだろう。帰国後も「金融の世界では俺の名前が轟いているってことだな」と自信満々だったという。 実はこの場所に、岸田首相が心酔する「金融集団」がいたことは、日本人にはあまり知られていない。 「ブラックロック」。運用資産総額約1400兆円と世界最高を誇る米資産運用会社の幹部だ。この金融集団こそ、首相周辺が懸念を示した「彼ら」だ。 「ブラックロックは世界約30ヵ国に展開する巨大金融企業です。米バイデン政権の国家経済会議委員長と財務副長官が同社の元幹部であることからもわかるように、世界の経済・金融政策にも多大な影響力を持っています」(経済ジャーナリストの磯山友幸氏) 「ブラックロック」CEOであるラリー・フィンク氏は、いったい何者なのか。なぜ日本を食い物にしようとしているのかについては、『週刊現代』『「日本国民の現預金」が外資の食い物に…「迷走メガネ」岸田首相が打った「ヒドい博打」)』が詳述している。岸田首相の支持率と「見栄」のために、われわれの大切な資産が海外に流出する危機に瀕しているのだ』、「ニューヨークにある5つ星ホテル「ザ・ピエール・ア・タージ」だ。この日、同ホテルでは米財界の大物が集うニューヨーク経済クラブ主催のパーティーが開かれていた。 ここに、岸田首相はゲストスピーカーとして招かれたのだ。それも、同クラブの長い歴史の中で、日本人としてはじめて、だ。 「かつてはチャーチルやゴルバチョフら主要国のトップが演説をした名門クラブですが、日本の宰相は、吉田茂さんでも安倍晋三さんでも立つ機会がなかった。そこに岸田さんが呼ばれた。岸田さんは金融界の大御所たちを前に、お得意の英語で、今後の岸田政権の金融政策について披露したのです」(官邸関係者) 安倍さんでさえ立てなかった国際金融の中心の舞台に、自分が立っている―岸田首相の高揚感は筆舌に尽くしがたいものがあったのだろう。帰国後も「金融の世界では俺の名前が轟いているってことだな」と自信満々だったという。 実はこの場所に、岸田首相が心酔する「金融集団」がいたことは、日本人にはあまり知られていない。 「ブラックロック」。運用資産総額約1400兆円と世界最高を誇る米資産運用会社の幹部だ。この金融集団こそ、首相周辺が懸念を示した「彼ら」だ。 「ブラックロックは世界約30ヵ国に展開する巨大金融企業です。米バイデン政権の国家経済会議委員長と財務副長官が同社の元幹部であることからもわかるように、世界の経済・金融政策にも多大な影響力を持っています」、この程度の材料で「「国民の資産1100兆円」を「海外流出」させようとしている」とは大げさ過ぎる。「ブラックロック」の「運用資産総額約1400兆円」とはいえ、そこへ預ける投資家はあくまで自己責任で投資しているだけである。「ブラックロック」の運用先に日本企業も入っているだろうが、それは世界での競合企業との比較に基づいた配分の筈だ。冷静に臨むべきだ。
第三に、11月15日付け文春オンライン「「言うこと聞かなければ飛ばすわよ!」自見英子万博担当相の壮絶パワハラを元部下が明かした「朝5時から電話、うつ病で退職…」」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/67018
・『会場建設費の増額で批判が高まる大阪万博。担当大臣として取り仕切っているのが自見英子氏(47)だ。その自見氏のパワハラ行為を、元官僚のA氏が「週刊文春」に証言した。 「私は自見さんからのパワハラが原因で、心身を病んでしまい、退職に至りました」(A氏)』、「私は自見さんからのパワハラが原因で、心身を病んでしまい、退職に至りました」とは深刻だ。
・『10分おきに執拗に問い合わせの電話 厚労行政に詳しい元内閣府官僚のA氏が自見氏からのパワハラを受けるようになったのは、2020年夏から秋ごろにかけてのこと。厚生労働大臣政務官だった自見氏は、A氏ら官僚に厳しい要求を繰り返したという。 「10分おきに執拗に問い合わせの電話をかけてきたり、『何で政務官の私の言うことが聞けないの?』と厳しい叱責を受けることもありました。携帯にも電話があり、早いときには朝5時、夜も午後10時以降にかかってくることが珍しくなかった。土日祝日も一切関係ありませんでした」(同前) 意に沿わない官僚に対しては、こう言い放ったという。 「言うこと聞かなければ飛ばすわよ!」』、「「10分おきに執拗に問い合わせの電話をかけてきたり、『何で政務官の私の言うことが聞けないの?』と厳しい叱責を受けることもありました。携帯にも電話があり、早いときには朝5時、夜も午後10時以降にかかってくることが珍しくなかった。土日祝日も一切関係ありませんでした」、全く典型的なハラスメントだ。
・『「うつ病」と診断され休職、最終的に退職へ… A氏の脳裏からは四六時中、自見氏の声が離れなくなり、やがて心身に変調をきたして「うつ病」と診断された。休職を経て一時は復帰したものの、最終的には退職を余儀なくされたという。 A氏へのパワハラについて自見氏に尋ねると、事務所は「御指摘のような事実はありません」と回答した。 だがA氏は「週刊文春」に、パワハラ被害の経緯や内容を詳細に証言しており、うつ病の診断書や退職証明書といった書類も提供している。自見氏の今後の説明に注目が集まりそうだ。 11月15日(水)12時配信の「週刊文春 電子版」ならびに16日(木)発売の「週刊文春」では、こうしたパワハラの詳細のほか、自見氏の元秘書が明かす事務所の実態、自見氏が取り仕切る万博をめぐる仕事ぶり、「日よけリング」建設費高騰の理由などについて詳報している』、「A氏は「週刊文春」に、パワハラ被害の経緯や内容を詳細に証言しており、うつ病の診断書や退職証明書といった書類も提供している。自見氏の今後の説明に注目が集まりそうだ」、岸田内閣で数少ない女性閣僚がこんなに酷い「パワハラ」をするとは、やれやれだ。
第四に、11月23日付け東洋経済オンラインが掲載した政治ジャーナリストの泉 宏氏による「岸田首相が開けた政権崩壊への「パンドラの箱」 「財務・検察離反」や「池田氏死去」で大ピンチ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/716885
・『岸田文雄首相が「絶体絶命の大ピンチ」(自民長老)を迎えている。「増税メガネ」に端を発した“メガネ騒動”の果ての減税への「国民総スカン」状態に、「超お粗末な理由」(閣僚経験者)での政務3役3連続辞任も重なり、内閣支持率下落が“底なし沼”になったからだ。 これに連動したような高市早苗経済安保相の「決起」を始めとする自民党内の反岸田勢力の胎動と、財務省や検察の政権からの離反、さらに創価学会の池田大作名誉会長の死去も絡み、「政権崩壊への“パンドラの箱”が開いた状況」(同)に。これを受け、週刊誌など多くのメディアが「首相の早期退陣」と「ポスト岸田候補の品定め」を競い合うなど、永田町はまさに「政権崩壊前夜」の様相となりつつある』、「永田町はまさに「政権崩壊前夜」の様相となりつつある」、予想以上に速い展開だ。
・『“底なし沼”の支持率下落 臨時国会が中盤を迎えた段階で各種メディアが実施した世論調査では、岸田内閣の支持率が2012年末の自民党政権復帰以来の「最低・最悪の数字」(アナリスト)となった。ほとんどの調査で内閣支持率は2割台まで落ち込み、不支持率は7割近くに達するありさまだ。 しかも、これに連動するように自民党支持率も下落傾向が際立ち、唯一の対面調査となる時事通信調査では内閣支持率21.3%―自民支持率19.1%にまで落ち込んだ。この数値は、故青木幹雄元自民党参院議員会長が唱えた「政権の寿命は1年以内」とする、いわゆる「青木の法則」に当てはまる。 岸田首相肝いりの超大型補正予算案の国会審議が始まった20日も、朝から首相官邸や自民党の幹部らの間では、与野党論戦そっちのけで週末の世論調査の話題ばかりに。時事通信だけでなく、朝日新聞25%、毎日新聞21%、読売新聞24%など大手紙の調査でも軒並み過去最低の支持率を記録したからだ。) これに対し、岸田首相は直前までアメリカ・サンフランシスコでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席し、習近平中国国家主席との日中首脳会談を実現するなど、岸田外交を内外にアピールすることでの態勢立て直しに躍起となった。しかし、結果的には「支持率下落の歯止めにはならなかった」(官邸筋)のが実態だ。 岸田首相周辺も「首相がこだわった『減税』が批判のキーワードになり、いくらあがいても逆風は収まらない」(官邸筋)とうなだれるばかり。こうした状況について、自民党中枢の1人の森山裕総務会長も21日の記者会見で、「非常に危機感を持って受け止めている」としたうえで「今は党を挙げて岸田首相をしっかり支え、信頼回復に全党で取り組んでいくことが大事だ」と厳しい表情で繰り返した』、「岸田首相は直前までアメリカ・サンフランシスコでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席し、習近平中国国家主席との日中首脳会談を実現するなど、岸田外交を内外にアピールすることでの態勢立て直しに躍起となった。しかし、結果的には「支持率下落の歯止めにはならなかった」、やはり外交では「態勢立て直しに」は限界があるようだ。
・『岸田首相への逆風が、自民党そのものへの逆風に 多くの世論調査をみると、岸田首相が「適材適所」を強調してきた政務3役で、職責に絡んだ辞任ドミノが起きたことについて、大多数が「首相の任命責任は重大」と受け止めている。さらに岸田首相が打ち出した所得減税や現金給付も「評価しない」が平均で6割以上にとなり、自民党内からも「1年限定での税金の還元という発想自体が『馬鹿にしている』と国民を怒らせた」との指摘が相次ぐ。 さらに「岸田首相への逆風が、自民党そのものへの逆風になりつつある」(麻生派若手)との不安も広がり、党有力幹部も「世論全体が『岸田さんを支持する』と言いにくい空気になっている」と天を仰ぐ。 そうした状況に追い打ちをかけたのが、自民党5派閥の政治団体が政治資金パーティーの収入を政治資金収支報告書に過少記載したとする告発状をうけての東京地検特捜部の捜査だ。各メディアは同特捜部が各派閥の担当者に任意の事情聴取を進めていると報じ、21日から始まった衆院予算委で泉健太立憲民主代表を先頭に「各派閥の収入の不記載は合計4000万円を超える」と指摘し、自民党総裁で岸田派会長でもある岸田首相に対して説明を求めた。) これに対し岸田首相は「岸田派の政治資金収支報告書の訂正」を認めるなど、防戦一方となり、野党側は「閣僚の中に収支報告の責任者となる派閥の事務総長や経験者がいる」として茂木派事務総長の新藤義孝経済再生担当相、安倍派の元事務総長の松野博一官房長官と西村康稔経済産業相に対して「会計担当者から相談を受けているかどうか」などをただしたが、新藤、松野、西村3氏は「政府にいる立場としてお答えは控える」の一点張りでかわした。 これに怒りを隠せない立憲民主は、22日午前の衆院予算委前の理事会で激しく抵抗、野党側が不記載の金額などを明示するよう要求したが、自民は拒否し、結局、岸田首相が委員会の冒頭に発言することで折り合った。これを受け岸田首相は各派で政治資金収支報告書の訂正をしていると強調した上で、「適切に説明を速やかに行ってもらうよう茂木敏充幹事長に指示した」と答弁したが、野党側はなお追及を続ける構えだ。 与党内には今回の検察当局の動きについて「早期の政権崩壊を見越して、検察が独自に動き出した。減税の原資は赤字国債だと主張した財務省も合わせて、明らかに政権離反の動きにみえる」(公明党幹部)との指摘も出ており、官邸サイドも深刻さを隠せない』、「与党内には今回の検察当局の動きについて「早期の政権崩壊を見越して、検察が独自に動き出した。減税の原資は赤字国債だと主張した財務省も合わせて、明らかに政権離反の動きにみえる」(公明党幹部)との指摘も出ており、官邸サイドも深刻さを隠せない」、「検察当局」に加えて、「財務省」も「政権離反の動き」とは深刻だ。
・『意気盛んな高市氏、菅・二階両氏もうごめく そうした中、民放テレビ番組などで次期総裁選について「戦わせていただく」と明言している高市経済安保相は、15日に自らの勉強会の初会合を行って党内から批判された。しかし高市氏は19日に自身のX(旧ツイッター)を更新し、「現職閣僚が担務外の政策を同僚議員と一緒に勉強する事の何が悪いのか、意味が分からん」などと反論するなど意気盛んだ。 この高市氏の動きと連動するように、菅義偉前首相と二階俊博元幹事長も9日に森山総務会長を交えて密談。二階派関係者によるとこの席で二階氏は「手のひらをひっくり返す素振りを見せながら『徹底的にやるぞ』とうそぶいた」とされる。 さらに菅氏もこの席で首相批判を繰り返したうえで、各世論調査でポスト岸田候補の上位に並ぶ石破茂元幹事長、河野太郎行革担当相、小泉進次郎元環境相のいわゆる「小石河連合」との連携もほのめかしたといわれる。) こうした現状は「党内の岸田包囲網の広がり」(岸田派幹部)だが、その最中の池田大作氏の死去も岸田政権を揺さぶる要因となった。創価学会は18日、「池田氏が15日夜に新宿区の居宅で老衰のため亡くなった」と発表したが、この18日は創価学会の創立記念日でもあり、機関紙の聖教新聞はお祝いムードの報道があふれていただけに、SNSを中心に違和感を指摘する声が相次いだからだ。 これに対し、学会関係者は「創立記念日にわざわざ訃報を伝えることは学会側にメリットがなく、意図的に発表を3日待ったということはありえない」とし、学会の内部では池田氏の存在がすでに過去の人になっていることをにじませた』、「「戦わせていただく」と明言している高市経済安保相」、「二階氏は「手のひらをひっくり返す素振りを見せながら『徹底的にやるぞ』とうそぶいた」とされる。 さらに菅氏もこの席で首相批判を繰り返したうえで、各世論調査でポスト岸田候補の上位に並ぶ石破茂元幹事長、河野太郎行革担当相、小泉進次郎元環境相のいわゆる「小石河連合」との連携もほのめかしたといわれる」、「こうした現状は「党内の岸田包囲網の広がり」(岸田派幹部)だが、その最中の池田大作氏の死去も岸田政権を揺さぶる要因となった」、なるほど。
・『池田氏死去で「自公協力弱体化」も ただ、池田氏の訃報を受けて岸田首相が19日夜、東京都新宿区の創価学会本部を自民党総裁として弔問し、原田稔会長や池田氏の長男、博正主任副会長と面会したことも、波紋を広げた。SNS上では憲法が定める政教分離と絡めて疑問視する意見が相次ぎ、松野官房長官が20日の記者会見で「個人としての弔意で問題はない」と釈明する事態となった。 こうした状況を予測したかのように、21日発売の週刊文春は「池田大作(創価学会名誉会長)“怪物”の正体」という特集記事を掲載。その中で「公明票への影響は『マイナス200万票』の衝撃」としたことも政権を揺さぶった。 そもそも、直近の国政選挙での公明党の得票は最盛期の約3割減ともなる600万票余まで落ち込んでいる。それがさらに200万票も減るとなれば「自公選挙協力の弱体化を露呈する」ことは明らかだ。特に、「平和を訴え続けた池田氏に共鳴した学会員たちが、自民党の保守・右傾化に愛想をつかして投票に行かなければ、首都圏などの自民党候補はバタバタと落選する」(自民選対)という事態を招きかねない。 こうした状況にもかかわらず、岸田首相自身は首脳外交に勤しみ、政権批判にもあえて笑顔を絶やさず「どうする文雄」どころか「とにかく明るい岸田」を演じ続け、この「ミスマッチ」がさらに岸田首相への国民的不信を増幅させるという悪循環に陥っている。 ここにきて永田町では、「解散権を奪われたかにみえる岸田首相が、やけくそでの『七夕選挙』を狙っている」との臆測も飛び交う。「まさに、年末以降の政局は、何でもありの出たとこ勝負」(自民長老)になりつつあるわけだが、「こうした自民内の闇試合が、さらに国民の政治不信をかき立てる」(同)ことだけは間違いなさそうだ』、「直近の国政選挙での公明党の得票は最盛期の約3割減ともなる600万票余まで落ち込んでいる。それがさらに200万票も減るとなれば「自公選挙協力の弱体化を露呈する」ことは明らかだ。特に、「平和を訴え続けた池田氏に共鳴した学会員たちが、自民党の保守・右傾化に愛想をつかして投票に行かなければ、首都圏などの自民党候補はバタバタと落選する」(自民選対)という事態を招きかねない・・・こうした状況にもかかわらず、岸田首相自身は首脳外交に勤しみ、政権批判にもあえて笑顔を絶やさず「どうする文雄」どころか「とにかく明るい岸田」を演じ続け、この「ミスマッチ」がさらに岸田首相への国民的不信を増幅させるという悪循環に陥っている。 ここにきて永田町では、「解散権を奪われたかにみえる岸田首相が、やけくそでの『七夕選挙』を狙っている」との臆測も飛び交う。「まさに、年末以降の政局は、何でもありの出たとこ勝負」(自民長老)になりつつあるわけだが、「こうした自民内の闇試合が、さらに国民の政治不信をかき立てる」(同)ことだけは間違いなさそうだ」、「「こうした自民内の闇試合が、さらに国民の政治不信をかき立てる」(同)ことだけは間違いなさそうだ」とは言い得て妙だ。
タグ:に基づいた配分の筈だ。冷静に臨むべきだ。 「ブラックロックは世界約30ヵ国に展開する巨大金融企業です。米バイデン政権の国家経済会議委員長と財務副長官が同社の元幹部であることからもわかるように、世界の経済・金融政策にも多大な影響力を持っています」、この程度の材料で「「国民の資産1100兆円」を「海外流出」させようとしている」とは大げさ過ぎる。「ブラックロック」の「運用資産総額約1400兆円」とはいえ、そこへ預ける投資家はあくまで自己責任で投資しているだけである。「ブラックロック」の運用先に日本企業も入っているだろうが、それは世界での競合企業との比較 の金融政策について披露したのです」(官邸関係者) 安倍さんでさえ立てなかった国際金融の中心の舞台に、自分が立っている―岸田首相の高揚感は筆舌に尽くしがたいものがあったのだろう。帰国後も「金融の世界では俺の名前が轟いているってことだな」と自信満々だったという。 実はこの場所に、岸田首相が心酔する「金融集団」がいたことは、日本人にはあまり知られていない。 「ブラックロック」。運用資産総額約1400兆円と世界最高を誇る米資産運用会社の幹部だ。この金融集団こそ、首相周辺が懸念を示した「彼ら」だ。 「ニューヨークにある5つ星ホテル「ザ・ピエール・ア・タージ」だ。この日、同ホテルでは米財界の大物が集うニューヨーク経済クラブ主催のパーティーが開かれていた。 ここに、岸田首相はゲストスピーカーとして招かれたのだ。それも、同クラブの長い歴史の中で、日本人としてはじめて、だ。 「かつてはチャーチルやゴルバチョフら主要国のトップが演説をした名門クラブですが、日本の宰相は、吉田茂さんでも安倍晋三さんでも立つ機会がなかった。そこに岸田さんが呼ばれた。岸田さんは金融界の大御所たちを前に、お得意の英語で、今後の岸田政権 文春オンライン「「言うこと聞かなければ飛ばすわよ!」自見英子万博担当相の壮絶パワハラを元部下が明かした「朝5時から電話、うつ病で退職…」」 (同)ことだけは間違いなさそうだ」、「「こうした自民内の闇試合が、さらに国民の政治不信をかき立てる」(同)ことだけは間違いなさそうだ」とは言い得て妙だ。 こうした状況にもかかわらず、岸田首相自身は首脳外交に勤しみ、政権批判にもあえて笑顔を絶やさず「どうする文雄」どころか「とにかく明るい岸田」を演じ続け、この「ミスマッチ」がさらに岸田首相への国民的不信を増幅させるという悪循環に陥っている。 ここにきて永田町では、「解散権を奪われたかにみえる岸田首相が、やけくそでの『七夕選挙』を狙っている」との臆測も飛び交う。「まさに、年末以降の政局は、何でもありの出たとこ勝負」(自民長老)になりつつあるわけだが、「こうした自民内の闇試合が、さらに国民の政治不信をかき立てる」 「直近の国政選挙での公明党の得票は最盛期の約3割減ともなる600万票余まで落ち込んでいる。それがさらに200万票も減るとなれば「自公選挙協力の弱体化を露呈する」ことは明らかだ。特に、「平和を訴え続けた池田氏に共鳴した学会員たちが、自民党の保守・右傾化に愛想をつかして投票に行かなければ、首都圏などの自民党候補はバタバタと落選する」(自民選対)という事態を招きかねない・・・ 「こうした現状は「党内の岸田包囲網の広がり」(岸田派幹部)だが、その最中の池田大作氏の死去も岸田政権を揺さぶる要因となった」、なるほど。 「「戦わせていただく」と明言している高市経済安保相」、「二階氏は「手のひらをひっくり返す素振りを見せながら『徹底的にやるぞ』とうそぶいた」とされる。 さらに菅氏もこの席で首相批判を繰り返したうえで、各世論調査でポスト岸田候補の上位に並ぶ石破茂元幹事長、河野太郎行革担当相、小泉進次郎元環境相のいわゆる「小石河連合」との連携もほのめかしたといわれる」、 「与党内には今回の検察当局の動きについて「早期の政権崩壊を見越して、検察が独自に動き出した。減税の原資は赤字国債だと主張した財務省も合わせて、明らかに政権離反の動きにみえる」(公明党幹部)との指摘も出ており、官邸サイドも深刻さを隠せない」、「検察当局」に加えて、「財務省」も「政権離反の動き」とは深刻だ。 「岸田首相は直前までアメリカ・サンフランシスコでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席し、習近平中国国家主席との日中首脳会談を実現するなど、岸田外交を内外にアピールすることでの態勢立て直しに躍起となった。しかし、結果的には「支持率下落の歯止めにはならなかった」、やはり外交では「態勢立て直しに」は限界があるようだ。 「永田町はまさに「政権崩壊前夜」の様相となりつつある」、予想以上に速い展開だ。 泉 宏氏による「岸田首相が開けた政権崩壊への「パンドラの箱」 「財務・検察離反」や「池田氏死去」で大ピンチ」 東洋経済オンライン 「A氏は「週刊文春」に、パワハラ被害の経緯や内容を詳細に証言しており、うつ病の診断書や退職証明書といった書類も提供している。自見氏の今後の説明に注目が集まりそうだ」、岸田内閣で数少ない女性閣僚がこんなに酷い「パワハラ」をするとは、やれやれだ。 「「10分おきに執拗に問い合わせの電話をかけてきたり、『何で政務官の私の言うことが聞けないの?』と厳しい叱責を受けることもありました。携帯にも電話があり、早いときには朝5時、夜も午後10時以降にかかってくることが珍しくなかった。土日祝日も一切関係ありませんでした」、全く典型的なハラスメントだ。 「私は自見さんからのパワハラが原因で、心身を病んでしまい、退職に至りました」とは深刻だ。 「給与所得とフリーランサーの所得のアンバランスを是正する必要」は当然だが、「金融所得の総合課税化」は、抵抗も強く極めて困難な課題だ。「政府はこうした問題をこそ検討しなければならない。所得税の減税などと言っている場合ではないことを明確に認識すべきだ」、同感である。 「所信表明演説で岸田首相は「経済!経済!経済!何よりも経済に重点を置く!」と、「経済」という言葉を連呼した。この演説の直前、岸田首相は側近らに、まるで何かに取りつかれたようにボソボソとつぶやいたという。 「知ってるだろ?俺は元銀行員だよ。最近の総理の中では一番経済に精通してるんだ。国民だってそれをわかってるだろ。だから、俺が説明すれば、みんな理解してくれるはずだ……」 これまでは「外交の岸田」を自負してきたはずなのに、突然「俺の強みは経済」と転向した岸田首相」、なるほど。 どういうことなのだろう。 現代ビジネス「岸田首相が「国民の資産1100兆円」を「海外流出」させようとしている…その「黒幕」の正体」 「2024年は公的年金の財政検証の年になる。本来はこの問題についての検討が行われるべきだ。 しかし今年年末の与党の税制改正作業では所得減税具体化のための議論にかなりの時間がさかれるだろう。年金など社会保障費の負担の在り方についてまともな議論が行われるとは思えない。巨額の政府債務を抱える財政をどう健全化し、高齢化や人口減少の課題に対応してしていくのか、日本の財政の長期的な方向づけなどの議論がおろそかになる懸念がある」、その通りだ。 「問題は非課税世帯をどのように特定するかだ・・・この特定には住民税のデータを持っている地方公共団体が行わざるを得ない。 原理的には、自治体のもつそのデータで2023年度の所得税の課税世帯か非課税世帯が判別できる。仮に地方公共団体が住民税のデータを元にして給付か否かを決め、給付金を銀行振り込みすることになると、大変な事務負担が生じる。20年の定額給付金の際には、銀行口座番号の違ったりして混乱した。今回も同じような問題が再び起きる可能性がある」、その通りだ。 国民が減税による還元を実感するのは早くても来年6月になると考えられるので、当面の人気取りにはならない。しかも所得税納税者の多くは源泉徴収されているために、恩恵を感じにくいだろう・・・効果の期待できない政策を取るのは、発案者の能力を疑わざるを得ない。冒頭で政府の政策構想能力に疑問を投げかけたのは、このためだ」、誠に手厳しいが筋の通った批判だ。 「所得減税を与党幹部に指示したのが、10月22日の衆参補選の直前だったことから、露骨な人気取り政策だという見方が多い。 しかし実際には、人気取りにもなっていないのではないだろうか。第一に、仮に人気取りが目的なのであれば、新型コロナ禍の時に行ったような直接的な現金給付を行うほうが効果があるだろう・・・人気取りが目的なのであれば、新型コロナ禍の時に行ったような直接的な現金給付を行うほうが効果があるだろ・・・ 「もし物価高騰への対処が必要なら、何より先に為替レートを円高に導かなければならない。 ところが、政府も日本銀行もそのような政策をとっていない」、その通りだ。 非課税世帯に対する給付を行なうのであれば、税収増の還元という目的はそもそもおかしいのではないか」、確かに論理矛盾が目立つ。財政に強い筈の宏池会会長とは思えない悪手だ 「「税収が増えたら納税者に返す」ということを財政運営の基本方針にするのであれば、追加歳出が生じた時には、逆に新たに税収が必要になったら納税者に求めるということで、国債を発行するのではなく、臨時増税で賄わなくてはいけないはずだ。 不足した場合には国債を発行し、余った場合には納税者に返すというのでは整合的な政策になり得ない・・・ 「減税の目的が何なのかがはっきりしない・・・選挙を意識した「人気取り政策」だとの批判が起きているのは当然」、なるほど。 野口悠紀雄氏による「所得減税は「人気取り以上」に深刻、どんな観点からも正当化できない」 ダイヤモンド・オンライン (その11)(所得減税は「人気取り以上」に深刻 どんな観点からも正当化できない、アベノミクスの負のパズルにはまった 岸田政権はこのまま立ち枯れ?、岸田首相が「国民の資産1100兆円」を「海外流出」させようとしている…その「黒幕」の正体、「言うこと聞かなければ飛ばすわよ!」自見英子万博担当相の壮絶パワハラを元部下が明かした「朝5時から電話、うつ病で退職…」、岸田首相が開けた政権崩壊への「パンドラの箱」 「財務・検察離反」や「池田氏死去」で大ピンチ) キシダノミクス
株式・為替相場(その19)(円安がさらなる貿易赤字と円売りを招くカラクリ サービス収支に透ける製造業のグローバル化、日経平均株価 一時3万3853円をつけた戻り高値の「教訓」とは?) [金融]
株式・為替相場については、本年6月19日に取上げた。今日は、(その19)(円安がさらなる貿易赤字と円売りを招くカラクリ サービス収支に透ける製造業のグローバル化、日経平均株価 一時3万3853円をつけた戻り高値の「教訓」とは?)である。
先ずは、10月24日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「円安がさらなる貿易赤字と円売りを招くカラクリ サービス収支に透ける製造業のグローバル化」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/710381
・『長引く円安の理由を理解するうえでは、日米金利差拡大という論点に終始するだけではなく、「円の需給構造があらゆる面で変化を強いられている」という論点も理解する姿勢が重要になっていると筆者は考えている。 円の需給構造変化を象徴するのは、約10年前から確認される貿易黒字の消滅だろう。 その背景は単純ではないが、輸出面では、①日本企業が海外生産移管を進めたことや、②そもそも日本の輸出品が競争力を喪失したこと、輸入面では、③東日本大震災を契機に原子力発電の稼働が停止したこと(≒結果的に一段と鉱物性燃料輸入に依存する電源構成に切り替わったこと)などが挙げられる』、為替動向を見る上で、こうした構造的要因に注目する見方は、参考になる。
・『製造業が消え、円安でも輸出は増えない とりわけ、③が資源輸入国である日本の貿易収支の脆弱性を高め、円安や資源価格上昇によって需給が崩れやすい(貿易赤字が拡大しやすい)体質につながったという話は広く知られている。2022年以降の貿易赤字拡大も、基本的にはそうした論点に起因するものと理解される。 だが、円安で日本から海外への輸出数量が押し上げられるならば、貿易収支が一方的な悪化を強いられることもなく、2022年のような「悪い円安」論も噴出しにくい側面はあっただろう。 この点、①で指摘されるように、円安を起点として実体経済に好循環をもたらすことが期待される製造業の生産拠点が日本から消えてしまったことが、円の需給構造が円売りに傾斜しやすくなった根本的な原因とも考えられる。) ただし、国際収支統計上、製造業の海外生産移管は貿易収支悪化の一因であると同時に、サービス収支改善の一因になっている部分もある。それが産業財産権等使用料であり、同項目には日本企業が海外子会社等から受け取るロイヤルティーなどが計上される。 日本の「その他サービス収支」において唯一、黒字を記録する知的財産権等使用料も、その実態は産業財産権等使用料の黒字に支えられている。 近年、海外企業から供給される音楽や動画の定額課金サービスを受けて著作権等使用料の赤字が増勢傾向にあるものの、産業財産権等使用料の黒字が多額に上っているため、これら2本から構成される知的財産権等使用料全体では黒字が維持される構図にある。 製造業の海外生産移管は経常収支上、赤字拡大と黒字拡大の二面性を有する』、「①で指摘されるように、円安を起点として実体経済に好循環をもたらすことが期待される製造業の生産拠点が日本から消えてしまったことが、円の需給構造が円売りに傾斜しやすくなった根本的な原因とも考えられる・・・製造業の海外生産移管は貿易収支悪化の一因であると同時に、サービス収支改善の一因になっている部分もある。それが産業財産権等使用料であり、同項目には日本企業が海外子会社等から受け取るロイヤルティーなどが計上される。 日本の「その他サービス収支」において唯一、黒字を記録する知的財産権等使用料も、その実態は産業財産権等使用料の黒字に支えられている。 近年、海外企業から供給される音楽や動画の定額課金サービスを受けて著作権等使用料の赤字が増勢傾向にあるものの、産業財産権等使用料の黒字が多額に上っているため、これら2本から構成される知的財産権等使用料全体では黒字が維持される構図にある。 製造業の海外生産移管は経常収支上、赤字拡大と黒字拡大の二面性を有する」、なるほど。
・『ロイヤルティー収入は増加 2023年8月公表の日銀レビュー『国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化』ではサービス収支を軸に日本経済が経験しているさまざまな構造変化を分析しているが、そこでは産業財産権等使用料の黒字が増勢傾向にあることも注目されている。 日本企業が海外生産移管を進めるほど、国内企業が海外から受け取るロイヤルティー(産業財産権等使用料)は増えるので、例えば自動車の海外生産台数の動きなどと安定した関係を見いだすことができる。 ちなみに日本の貿易収支が慢性的な赤字傾向に陥る直前の2010年の貿易収支は約6.6兆円の黒字だった。同じ年、産業財産権の受取は約2.2兆円だった。これが2021年の産業財産権の受取は約4.6兆円と倍以上に膨らんでいる。) 上述した輸入面に関する③電源構成の燃料輸入依存の論点もあって、産業財産権の受取だけで日本の貿易赤字が穴埋めできるような状況ではないが、海外移管された生産拠点や、それにより失われた輸出すべてが「円売り」に直結しているわけではなく、サービス収支上、産業財産権として回帰している部分もあることは円の需給を考察するうえでは知っておきたい事実だ。 単なる親子間取引の結果と言えばそれまでだが、日本経済の重要な構造変化を端的に表している部分と言える』、「海外移管された生産拠点や、それにより失われた輸出すべてが「円売り」に直結しているわけではなく、サービス収支上、産業財産権として回帰している部分もあることは円の需給を考察するうえでは知っておきたい事実だ」、なるほど。
・『海外生産が「海上貨物の支払い増」を招く なお、自動車のように海外生産が増えれば、当然それを運ぶためのサービス利用も活発化する。これはサービス収支上では輸送収支、その中でも海上貨物を扱う収支を見るとわかる。 受取と支払いを差し引きした収支で見た場合、2010年以降、産業財産権の受取がはっきり超過して黒字が拡大する一方、海上貨物は2017年以降に支払いが顕著に増え始め、2019年以降は赤字に転化し、拡大している。 だが、海上貨物に関する赤字拡大も二面性がある話だ。 日銀レビューでは「本邦製造業における海外生産比率の高まりは、海外海運企業との競争激化と相まって、本邦海運企業が海外子会社を活用して競争力を強化する形などで、グローバル化を促進した可能性も考えられる」と分析している。 日本の海運企業が海外子会社を活用し、そこで収益を積み上げれば、輸送収支(とりわけ海上貨物の収支)上の赤字は拡大しても、当該海外子会社の収益は第一次所得収支に計上される。 それが配当金として日本に帰ってくるのか、再投資収益として海外に滞留するのかという別問題はあるが(近年は海外に滞留する再投資収益が増える傾向にある)、海上貨物サービスへの支払いがすべて円売りになっているわけではない。) いずれにせよ、上述したような、「産業財産権の黒字が増えて、海上貨物の赤字が増えている」という構図からは、日本が単に原材料を輸入し、国内で生産し、海外へ輸出するというシンプルな加工貿易から撤退しつつある状況が読み取れる。 その代わりに、海外で生産した財を海外で販売したり、第三国向けに輸出したりする世界全体を巻き込んだサプライチェーン体制を組成している様子が読み取れる』、「「産業財産権の黒字が増えて、海上貨物の赤字が増えている」という構図からは、日本が単に原材料を輸入し、国内で生産し、海外へ輸出するというシンプルな加工貿易から撤退しつつある状況が読み取れる。 その代わりに、海外で生産した財を海外で販売したり、第三国向けに輸出したりする世界全体を巻き込んだサプライチェーン体制を組成している様子が読み取れる」、昔とはずいぶん変わったものだ。
・『円安による「好循環」は想定すべきではない こうした実情を踏まえれば、円安が製造業にコストメリットをもたらし、海外への輸出数量を押し上げ、国内経済に生産・所得・消費の好循環をもたらすという伝統的な波及経路をもはや想定すべきでないこともよくわかるだろう。 例えば、上述の議論を踏まえれば、海外生産拠点から受け取るロイヤルティーは円安で膨らみやすいが、海上貨物サービスへの支払いも円安で膨らみやすい状況が推測される。 むしろ、筆者がこれまで議論してきたような国際化されたサービス取引(例えばデジタル取引など)の存在を踏まえると「円安で支払いが増える」という事実から、円売りは増えそうなイメージもある。 伝統的な貿易収支への影響について言えば、円安が輸出を押し上げる構造がもはやない一方、円安で輸入が押し上げられる構造はしっかり存在しているため、やはり円安は赤字拡大に直結しやすい状況が想像されるし、事実、過去2年弱はそうなっている。 サービス収支を詳細に分析することで、近年の日本経済が経験している構造変化を深く理解し、また、為替需給の変遷も把握することができる。 毎月のアメリカ雇用統計やFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の「次の一手」など、日米金利差の拡大・縮小に直結する短期的な材料も当然重要だが、自国通貨の需給環境を包括的に理解する助けになる国際収支は、今も昔も円相場の中長期見通しを分析する立場から最重要の計数と言える』、「毎月のアメリカ雇用統計やFRB・・・の「次の一手」など、日米金利差の拡大・縮小に直結する短期的な材料も当然重要だが、自国通貨の需給環境を包括的に理解する助けになる国際収支は、今も昔も円相場の中長期見通しを分析する立場から最重要の計数と言える」、その通りだ。
次に、11月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家の山崎 元氏による「日経平均株価、一時3万3853円をつけた戻り高値の「教訓」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/332756
・『日経平均株価が33年ぶりの高値水準を付けた。この「戻り高値」には意外感を持った人が多かったのではないか。そこで、今回の株価上昇の要因を分析するとともに、投資家が学ぶべき「教訓」について考えたい』、どんな「教訓」があるのだろう、興味深そうだ。
・『日経平均株価が33年ぶり高水準 意外な戻り高値 11月20日の日中、いわゆる「ザラ場」の東京証券取引所の取引で、日経平均株価が33年ぶりの高水準まで上昇した。7月3日に付けた終値での戻り高値(バブル崩壊後高値)を一時上回る、3万3853円を付けた。33年間にわたってすっきりと「史上最高値」と言えないのは、わが国がかつて経験したバブルの威力と、その後の異例の経済停滞による泣き所だが、高値の一種には違いない。 もちろん人によって感じ方は違うだろうが、今回の高値には意外感を持つ向きが多いのではないか。 つい少し前、10月の終わりの4取引日にあっては、日経平均の終値はいずれも3万1000円を割っていて、3万円を維持できないのではないかと心配になるような状況だった。 それが、3週間のうちにざっと1割上昇して「戻り高値」なのである。この間、米連邦準備制度理事会(FRB)が今後にも利上げの可能性があると意外にタカ派的な示唆をしたり、逆に米国のインフレ関連のデータが落ち着きを見せたりといった、いつもあるようなニュースはあった。ところが、日本の株価に影響を与えるような大きなニュースがあったわけではない』、「今回の高値には意外感を持つ向きが多いのではないか。 つい少し前、10月の終わりの4取引日にあっては、日経平均の終値はいずれも3万1000円を割っていて、3万円を維持できないのではないかと心配になるような状況だった。 それが、3週間のうちにざっと1割上昇して「戻り高値」なのである・・・米国のインフレ関連のデータ・・・にも日本の株価に影響を与えるような大きなニュースがあったわけではない」、どうしたのだろう。
・『株価上昇の要因とは? 後から探すとたいてい見つかる 意外ではあっても、株価の動きに理由はある。予測は難しいけれども、後からの説明はできるのが相場業界の強いところである。 今回、大変良い説明を提供している、日本経済新聞の篠崎健太記者の記事「日経平均、一時33年ぶり高値 マネー再び日本株へ」(『日本経済新聞』11月20日電子版)を参考にさせてもらいながら、要因を整理しておこう。 今や、新聞記事のスクラップを行う人は激減しているだろうが、筆者が思うに、この記事はスクラップして、しばらく手元に置いておく価値がある。特に、今後しばらくして株価が低迷するようであれば、読み返してみて「戻り」の要因を再確認するのだ。 さて、株価の説明のためには、企業の業績から見るのがオーソドックスだ。記事はまず、日本の小売企業がコスト増を吸収する値上げを実現できたことと、外需企業の業績が上方修正ラッシュであり、「日本企業のファンダメンタルズの堅調さが確認できた」というヘッジファンドマネージャーの意見を紹介している。 小売価格の上昇は、少し気を付けて街を歩いて生活していたら気が付くだろうし、業績修正はインターネットか新聞でチェックしていれば、投資家なら気付いているはずだ。円安の効果は大きい。ただし、これらは11月に入って3週間の間に目立って生じたものではない。 なお、この後に「日経平均は年内に3万5000円まで上昇余地がある」とするファンドマネージャーの見解が紹介されているが、この部分に情報は含まれていない。「余地」はあるし、勢いはあってもおかしくはない。答える側も記事を書いている人も、いずれも大した意味を感じていないはずだ。 ただ、これに続く、日本株の上昇要因には株価収益率(PER)の拡大に表れた投資家の期待だけではなく、増益の寄与度が欧米を上回っていることが指摘できるとの分析は、記憶にとどめる価値がある。 ある程度の大きさの株価変動を説明できる要因は、後から探すとたいてい見つかるものなのだ』、「今回、大変良い説明を提供している、日本経済新聞の篠崎健太記者の記事「日経平均、一時33年ぶり高値 マネー再び日本株へ」(『日本経済新聞』11月20日電子版)を参考にさせてもらいながら、要因を整理しておこう・・・この記事はスクラップして、しばらく手元に置いておく価値がある。特に、今後しばらくして株価が低迷するようであれば、読み返してみて「戻り」の要因を再確認するのだ。 さて、株価の説明のためには、企業の業績から見るのがオーソドックスだ。記事はまず、日本の小売企業がコスト増を吸収する値上げを実現できたことと、外需企業の業績が上方修正ラッシュであり、「日本企業のファンダメンタルズの堅調さが確認できた」というヘッジファンドマネージャーの意見を紹介している・・・日本株の上昇要因には株価収益率(PER)の拡大に表れた投資家の期待だけではなく、増益の寄与度が欧米を上回っていることが指摘できるとの分析は、記憶にとどめる価値がある」、なるほど。
・『株価を決めるのは「海外勢」と「海外要因」 記事には「相場を押し上げている主体は海外投資家だ」とある。記者はそう思ったのだろうし、多くの市場関係者がそう感じていたはずだ。もちろん、筆者もそう思った。 日本取引所グループによると、8〜9月は現物株を2.4兆円売り越していた海外勢が、10月以降に1.1兆円買い越しているという。市場関係者が注目する主体別売買動向の数字だが、よく考えてみると、海外勢の売り越し・買い越しに対して、国内勢の別の主体が同金額の売買の相手になっているはずだ。なぜ、海外勢の売買の方が株価への影響力があるのだろうか。 直接的・直感的には、海外勢の買い方・売り方が、前者では上値を払い、後者では下値をたたくような、マーケットインパクトに対して積極的なものであることが原因だ。加えて、背後にある大きな資金主体のグローバルな株式投資のリバランスの意図が、売買によって示唆されるような情報上のインパクトがあるのかもしれない。 ただ、原因のいかんにかかわらず、日本の株価は海外の投資家の行動によって大きく影響を受けて形成されている。そして、変動要因の多くは海外にあり、日本市場は一つのローカルマーケットにすぎないという点は常に留意しておく価値がある。 それで別段卑下する必要はないが、趣味として株式投資をするレベルではなく、資産形成のために株式運用を行う多くの投資家にとって、日本株は「世界株の中の(愛すべき)一部」だと割り切って、分散投資の一部に取り入れたら十分なのではないかと考えられるゆえんだ』、「日本の株価は海外の投資家の行動によって大きく影響を受けて形成されている。そして、変動要因の多くは海外にあり、日本市場は一つのローカルマーケットにすぎないという点は常に留意しておく価値がある・・・資産形成のために株式運用を行う多くの投資家にとって、日本株は「世界株の中の(愛すべき)一部」だと割り切って、分散投資の一部に取り入れたら十分なのではないかと考えられるゆえんだ」、なるほど。
・『33年ぶり高値の理由は「3週間」の変化にはない さて、日経・篠崎記者の記事は、さらに親切に、アベノミクス以降の日本株の利益を指数化して、米国、欧州と比べたグラフを掲げてくれている。この間、日本株の利益成長は両地域の株式を大きく上回っている。 日本株の投資家にとっては心強いデータだ。アベノミクスの株式市場に対する好影響が確認できることもよいことだ。政策パッケージとして不足はあったかもしれないが、株価を下げる政策よりも良かったことは間違いあるまい。) さて、こうして戻り高値の要因を振り返ってみたが、海外勢の売買と、その背後にある海外の株価形成要因を除くと、いずれも、日経平均3万円割れ寸前から約1割高い戻り高値が形成された3週間の中の変化ではないことが分かる。 より正確には、この3週間の変化の中に将来の株価説明要因になるような大きな変化を「示唆」する情報はあったのかもしれないが、それはデータで確認できるようなものではなかった』、「アベノミクス以降の日本株の利益を指数化して、米国、欧州と比べたグラフを掲げてくれている。この間、日本株の利益成長は両地域の株式を大きく上回っている。 日本株の投資家にとっては心強いデータだ。アベノミクスの株式市場に対する好影響が確認できることもよいことだ。政策パッケージとして不足はあったかもしれないが、株価を下げる政策よりも良かったことは間違いあるまい・・・海外勢の売買と、その背後にある海外の株価形成要因を除くと、いずれも、日経平均3万円割れ寸前から約1割高い戻り高値が形成された3週間の中の変化ではないことが分かる。 より正確には、この3週間の変化の中に将来の株価説明要因になるような大きな変化を「示唆」する情報はあったのかもしれないが、それはデータで確認できるようなものではなかった」、なるほど。
・『投資家はうまくやれたか? 今回の戻り高値の「教訓」とは さて、一連の株価の動きを見て、日本の投資家の行動と心理を推測する。 最もまずいのは、この間に「3万円割れは確実だ」「もっと株価が下がったところで買い直したらいい」などと自分に言い聞かせて、怖くなって持ち株を売ってしまった投資家だろう。仮に、日経平均3万1000円の水準で持ち株を売ったとすると、現水準までに、あるいは現在の水準で株式を買い直すことは心理的に相当ハードルが高そうだ。 次にまずそうなのは、株式の買いチャンスをうかがっており、「3万円を割れたら買おう」と思っていて、買いそびれているうちに買いのタイミングを失した投資家だろうか。今後、株式投資のポジションを作るのが大幅に遅れるかもしれないし、さらに高値が形成されたときに多額にまとめて投資することになるのかもしれない。 今回の展開を見て、「定期的な定額積立投資だったら、安値でも買えていたはずだ」などという結果論を言うつもりはない。 投資家に確認してほしいのは、この3週間の変動の間に、投資方針を変えた方がいいと言えたような根拠となる情報要因がほぼ何もなかったことだ。 根拠がないのに売買を行うと、掛かるのは手数料であり、マーケットインパクトであり、ついでに余計な精神的疲労だ。その状態を、「面倒だったし、徒労だった」と振り返ることができずに、売買が一種の気晴らしになるような心境に陥っているのだとすると、さらにまずい。 合理的な投資家にできることは、余計な売買をせずに自分にとって必要な大きさの投資を維持してじっとしている真の「長期投資」と、これと両立する「分散投資」「低コスト」のポートフォリオの保有である。さらには、自分が合理的であるとの自信を持って精神的なストレスを減らすことだ。 この点を確認するに当たって、今回の一連の株価の動きは、極めて分かりやすい教材であった』、「合理的な投資家にできることは、余計な売買をせずに自分にとって必要な大きさの投資を維持してじっとしている真の「長期投資」と、これと両立する「分散投資」「低コスト」のポートフォリオの保有である。さらには、自分が合理的であるとの自信を持って精神的なストレスを減らすことだ。 この点を確認するに当たって、今回の一連の株価の動きは、極めて分かりやすい教材であった」、どうも「合理的な投資家」である筆者への鎮魂歌にも聞こえる。
先ずは、10月24日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「円安がさらなる貿易赤字と円売りを招くカラクリ サービス収支に透ける製造業のグローバル化」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/710381
・『長引く円安の理由を理解するうえでは、日米金利差拡大という論点に終始するだけではなく、「円の需給構造があらゆる面で変化を強いられている」という論点も理解する姿勢が重要になっていると筆者は考えている。 円の需給構造変化を象徴するのは、約10年前から確認される貿易黒字の消滅だろう。 その背景は単純ではないが、輸出面では、①日本企業が海外生産移管を進めたことや、②そもそも日本の輸出品が競争力を喪失したこと、輸入面では、③東日本大震災を契機に原子力発電の稼働が停止したこと(≒結果的に一段と鉱物性燃料輸入に依存する電源構成に切り替わったこと)などが挙げられる』、為替動向を見る上で、こうした構造的要因に注目する見方は、参考になる。
・『製造業が消え、円安でも輸出は増えない とりわけ、③が資源輸入国である日本の貿易収支の脆弱性を高め、円安や資源価格上昇によって需給が崩れやすい(貿易赤字が拡大しやすい)体質につながったという話は広く知られている。2022年以降の貿易赤字拡大も、基本的にはそうした論点に起因するものと理解される。 だが、円安で日本から海外への輸出数量が押し上げられるならば、貿易収支が一方的な悪化を強いられることもなく、2022年のような「悪い円安」論も噴出しにくい側面はあっただろう。 この点、①で指摘されるように、円安を起点として実体経済に好循環をもたらすことが期待される製造業の生産拠点が日本から消えてしまったことが、円の需給構造が円売りに傾斜しやすくなった根本的な原因とも考えられる。) ただし、国際収支統計上、製造業の海外生産移管は貿易収支悪化の一因であると同時に、サービス収支改善の一因になっている部分もある。それが産業財産権等使用料であり、同項目には日本企業が海外子会社等から受け取るロイヤルティーなどが計上される。 日本の「その他サービス収支」において唯一、黒字を記録する知的財産権等使用料も、その実態は産業財産権等使用料の黒字に支えられている。 近年、海外企業から供給される音楽や動画の定額課金サービスを受けて著作権等使用料の赤字が増勢傾向にあるものの、産業財産権等使用料の黒字が多額に上っているため、これら2本から構成される知的財産権等使用料全体では黒字が維持される構図にある。 製造業の海外生産移管は経常収支上、赤字拡大と黒字拡大の二面性を有する』、「①で指摘されるように、円安を起点として実体経済に好循環をもたらすことが期待される製造業の生産拠点が日本から消えてしまったことが、円の需給構造が円売りに傾斜しやすくなった根本的な原因とも考えられる・・・製造業の海外生産移管は貿易収支悪化の一因であると同時に、サービス収支改善の一因になっている部分もある。それが産業財産権等使用料であり、同項目には日本企業が海外子会社等から受け取るロイヤルティーなどが計上される。 日本の「その他サービス収支」において唯一、黒字を記録する知的財産権等使用料も、その実態は産業財産権等使用料の黒字に支えられている。 近年、海外企業から供給される音楽や動画の定額課金サービスを受けて著作権等使用料の赤字が増勢傾向にあるものの、産業財産権等使用料の黒字が多額に上っているため、これら2本から構成される知的財産権等使用料全体では黒字が維持される構図にある。 製造業の海外生産移管は経常収支上、赤字拡大と黒字拡大の二面性を有する」、なるほど。
・『ロイヤルティー収入は増加 2023年8月公表の日銀レビュー『国際収支統計からみたサービス取引のグローバル化』ではサービス収支を軸に日本経済が経験しているさまざまな構造変化を分析しているが、そこでは産業財産権等使用料の黒字が増勢傾向にあることも注目されている。 日本企業が海外生産移管を進めるほど、国内企業が海外から受け取るロイヤルティー(産業財産権等使用料)は増えるので、例えば自動車の海外生産台数の動きなどと安定した関係を見いだすことができる。 ちなみに日本の貿易収支が慢性的な赤字傾向に陥る直前の2010年の貿易収支は約6.6兆円の黒字だった。同じ年、産業財産権の受取は約2.2兆円だった。これが2021年の産業財産権の受取は約4.6兆円と倍以上に膨らんでいる。) 上述した輸入面に関する③電源構成の燃料輸入依存の論点もあって、産業財産権の受取だけで日本の貿易赤字が穴埋めできるような状況ではないが、海外移管された生産拠点や、それにより失われた輸出すべてが「円売り」に直結しているわけではなく、サービス収支上、産業財産権として回帰している部分もあることは円の需給を考察するうえでは知っておきたい事実だ。 単なる親子間取引の結果と言えばそれまでだが、日本経済の重要な構造変化を端的に表している部分と言える』、「海外移管された生産拠点や、それにより失われた輸出すべてが「円売り」に直結しているわけではなく、サービス収支上、産業財産権として回帰している部分もあることは円の需給を考察するうえでは知っておきたい事実だ」、なるほど。
・『海外生産が「海上貨物の支払い増」を招く なお、自動車のように海外生産が増えれば、当然それを運ぶためのサービス利用も活発化する。これはサービス収支上では輸送収支、その中でも海上貨物を扱う収支を見るとわかる。 受取と支払いを差し引きした収支で見た場合、2010年以降、産業財産権の受取がはっきり超過して黒字が拡大する一方、海上貨物は2017年以降に支払いが顕著に増え始め、2019年以降は赤字に転化し、拡大している。 だが、海上貨物に関する赤字拡大も二面性がある話だ。 日銀レビューでは「本邦製造業における海外生産比率の高まりは、海外海運企業との競争激化と相まって、本邦海運企業が海外子会社を活用して競争力を強化する形などで、グローバル化を促進した可能性も考えられる」と分析している。 日本の海運企業が海外子会社を活用し、そこで収益を積み上げれば、輸送収支(とりわけ海上貨物の収支)上の赤字は拡大しても、当該海外子会社の収益は第一次所得収支に計上される。 それが配当金として日本に帰ってくるのか、再投資収益として海外に滞留するのかという別問題はあるが(近年は海外に滞留する再投資収益が増える傾向にある)、海上貨物サービスへの支払いがすべて円売りになっているわけではない。) いずれにせよ、上述したような、「産業財産権の黒字が増えて、海上貨物の赤字が増えている」という構図からは、日本が単に原材料を輸入し、国内で生産し、海外へ輸出するというシンプルな加工貿易から撤退しつつある状況が読み取れる。 その代わりに、海外で生産した財を海外で販売したり、第三国向けに輸出したりする世界全体を巻き込んだサプライチェーン体制を組成している様子が読み取れる』、「「産業財産権の黒字が増えて、海上貨物の赤字が増えている」という構図からは、日本が単に原材料を輸入し、国内で生産し、海外へ輸出するというシンプルな加工貿易から撤退しつつある状況が読み取れる。 その代わりに、海外で生産した財を海外で販売したり、第三国向けに輸出したりする世界全体を巻き込んだサプライチェーン体制を組成している様子が読み取れる」、昔とはずいぶん変わったものだ。
・『円安による「好循環」は想定すべきではない こうした実情を踏まえれば、円安が製造業にコストメリットをもたらし、海外への輸出数量を押し上げ、国内経済に生産・所得・消費の好循環をもたらすという伝統的な波及経路をもはや想定すべきでないこともよくわかるだろう。 例えば、上述の議論を踏まえれば、海外生産拠点から受け取るロイヤルティーは円安で膨らみやすいが、海上貨物サービスへの支払いも円安で膨らみやすい状況が推測される。 むしろ、筆者がこれまで議論してきたような国際化されたサービス取引(例えばデジタル取引など)の存在を踏まえると「円安で支払いが増える」という事実から、円売りは増えそうなイメージもある。 伝統的な貿易収支への影響について言えば、円安が輸出を押し上げる構造がもはやない一方、円安で輸入が押し上げられる構造はしっかり存在しているため、やはり円安は赤字拡大に直結しやすい状況が想像されるし、事実、過去2年弱はそうなっている。 サービス収支を詳細に分析することで、近年の日本経済が経験している構造変化を深く理解し、また、為替需給の変遷も把握することができる。 毎月のアメリカ雇用統計やFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の「次の一手」など、日米金利差の拡大・縮小に直結する短期的な材料も当然重要だが、自国通貨の需給環境を包括的に理解する助けになる国際収支は、今も昔も円相場の中長期見通しを分析する立場から最重要の計数と言える』、「毎月のアメリカ雇用統計やFRB・・・の「次の一手」など、日米金利差の拡大・縮小に直結する短期的な材料も当然重要だが、自国通貨の需給環境を包括的に理解する助けになる国際収支は、今も昔も円相場の中長期見通しを分析する立場から最重要の計数と言える」、その通りだ。
次に、11月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家の山崎 元氏による「日経平均株価、一時3万3853円をつけた戻り高値の「教訓」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/332756
・『日経平均株価が33年ぶりの高値水準を付けた。この「戻り高値」には意外感を持った人が多かったのではないか。そこで、今回の株価上昇の要因を分析するとともに、投資家が学ぶべき「教訓」について考えたい』、どんな「教訓」があるのだろう、興味深そうだ。
・『日経平均株価が33年ぶり高水準 意外な戻り高値 11月20日の日中、いわゆる「ザラ場」の東京証券取引所の取引で、日経平均株価が33年ぶりの高水準まで上昇した。7月3日に付けた終値での戻り高値(バブル崩壊後高値)を一時上回る、3万3853円を付けた。33年間にわたってすっきりと「史上最高値」と言えないのは、わが国がかつて経験したバブルの威力と、その後の異例の経済停滞による泣き所だが、高値の一種には違いない。 もちろん人によって感じ方は違うだろうが、今回の高値には意外感を持つ向きが多いのではないか。 つい少し前、10月の終わりの4取引日にあっては、日経平均の終値はいずれも3万1000円を割っていて、3万円を維持できないのではないかと心配になるような状況だった。 それが、3週間のうちにざっと1割上昇して「戻り高値」なのである。この間、米連邦準備制度理事会(FRB)が今後にも利上げの可能性があると意外にタカ派的な示唆をしたり、逆に米国のインフレ関連のデータが落ち着きを見せたりといった、いつもあるようなニュースはあった。ところが、日本の株価に影響を与えるような大きなニュースがあったわけではない』、「今回の高値には意外感を持つ向きが多いのではないか。 つい少し前、10月の終わりの4取引日にあっては、日経平均の終値はいずれも3万1000円を割っていて、3万円を維持できないのではないかと心配になるような状況だった。 それが、3週間のうちにざっと1割上昇して「戻り高値」なのである・・・米国のインフレ関連のデータ・・・にも日本の株価に影響を与えるような大きなニュースがあったわけではない」、どうしたのだろう。
・『株価上昇の要因とは? 後から探すとたいてい見つかる 意外ではあっても、株価の動きに理由はある。予測は難しいけれども、後からの説明はできるのが相場業界の強いところである。 今回、大変良い説明を提供している、日本経済新聞の篠崎健太記者の記事「日経平均、一時33年ぶり高値 マネー再び日本株へ」(『日本経済新聞』11月20日電子版)を参考にさせてもらいながら、要因を整理しておこう。 今や、新聞記事のスクラップを行う人は激減しているだろうが、筆者が思うに、この記事はスクラップして、しばらく手元に置いておく価値がある。特に、今後しばらくして株価が低迷するようであれば、読み返してみて「戻り」の要因を再確認するのだ。 さて、株価の説明のためには、企業の業績から見るのがオーソドックスだ。記事はまず、日本の小売企業がコスト増を吸収する値上げを実現できたことと、外需企業の業績が上方修正ラッシュであり、「日本企業のファンダメンタルズの堅調さが確認できた」というヘッジファンドマネージャーの意見を紹介している。 小売価格の上昇は、少し気を付けて街を歩いて生活していたら気が付くだろうし、業績修正はインターネットか新聞でチェックしていれば、投資家なら気付いているはずだ。円安の効果は大きい。ただし、これらは11月に入って3週間の間に目立って生じたものではない。 なお、この後に「日経平均は年内に3万5000円まで上昇余地がある」とするファンドマネージャーの見解が紹介されているが、この部分に情報は含まれていない。「余地」はあるし、勢いはあってもおかしくはない。答える側も記事を書いている人も、いずれも大した意味を感じていないはずだ。 ただ、これに続く、日本株の上昇要因には株価収益率(PER)の拡大に表れた投資家の期待だけではなく、増益の寄与度が欧米を上回っていることが指摘できるとの分析は、記憶にとどめる価値がある。 ある程度の大きさの株価変動を説明できる要因は、後から探すとたいてい見つかるものなのだ』、「今回、大変良い説明を提供している、日本経済新聞の篠崎健太記者の記事「日経平均、一時33年ぶり高値 マネー再び日本株へ」(『日本経済新聞』11月20日電子版)を参考にさせてもらいながら、要因を整理しておこう・・・この記事はスクラップして、しばらく手元に置いておく価値がある。特に、今後しばらくして株価が低迷するようであれば、読み返してみて「戻り」の要因を再確認するのだ。 さて、株価の説明のためには、企業の業績から見るのがオーソドックスだ。記事はまず、日本の小売企業がコスト増を吸収する値上げを実現できたことと、外需企業の業績が上方修正ラッシュであり、「日本企業のファンダメンタルズの堅調さが確認できた」というヘッジファンドマネージャーの意見を紹介している・・・日本株の上昇要因には株価収益率(PER)の拡大に表れた投資家の期待だけではなく、増益の寄与度が欧米を上回っていることが指摘できるとの分析は、記憶にとどめる価値がある」、なるほど。
・『株価を決めるのは「海外勢」と「海外要因」 記事には「相場を押し上げている主体は海外投資家だ」とある。記者はそう思ったのだろうし、多くの市場関係者がそう感じていたはずだ。もちろん、筆者もそう思った。 日本取引所グループによると、8〜9月は現物株を2.4兆円売り越していた海外勢が、10月以降に1.1兆円買い越しているという。市場関係者が注目する主体別売買動向の数字だが、よく考えてみると、海外勢の売り越し・買い越しに対して、国内勢の別の主体が同金額の売買の相手になっているはずだ。なぜ、海外勢の売買の方が株価への影響力があるのだろうか。 直接的・直感的には、海外勢の買い方・売り方が、前者では上値を払い、後者では下値をたたくような、マーケットインパクトに対して積極的なものであることが原因だ。加えて、背後にある大きな資金主体のグローバルな株式投資のリバランスの意図が、売買によって示唆されるような情報上のインパクトがあるのかもしれない。 ただ、原因のいかんにかかわらず、日本の株価は海外の投資家の行動によって大きく影響を受けて形成されている。そして、変動要因の多くは海外にあり、日本市場は一つのローカルマーケットにすぎないという点は常に留意しておく価値がある。 それで別段卑下する必要はないが、趣味として株式投資をするレベルではなく、資産形成のために株式運用を行う多くの投資家にとって、日本株は「世界株の中の(愛すべき)一部」だと割り切って、分散投資の一部に取り入れたら十分なのではないかと考えられるゆえんだ』、「日本の株価は海外の投資家の行動によって大きく影響を受けて形成されている。そして、変動要因の多くは海外にあり、日本市場は一つのローカルマーケットにすぎないという点は常に留意しておく価値がある・・・資産形成のために株式運用を行う多くの投資家にとって、日本株は「世界株の中の(愛すべき)一部」だと割り切って、分散投資の一部に取り入れたら十分なのではないかと考えられるゆえんだ」、なるほど。
・『33年ぶり高値の理由は「3週間」の変化にはない さて、日経・篠崎記者の記事は、さらに親切に、アベノミクス以降の日本株の利益を指数化して、米国、欧州と比べたグラフを掲げてくれている。この間、日本株の利益成長は両地域の株式を大きく上回っている。 日本株の投資家にとっては心強いデータだ。アベノミクスの株式市場に対する好影響が確認できることもよいことだ。政策パッケージとして不足はあったかもしれないが、株価を下げる政策よりも良かったことは間違いあるまい。) さて、こうして戻り高値の要因を振り返ってみたが、海外勢の売買と、その背後にある海外の株価形成要因を除くと、いずれも、日経平均3万円割れ寸前から約1割高い戻り高値が形成された3週間の中の変化ではないことが分かる。 より正確には、この3週間の変化の中に将来の株価説明要因になるような大きな変化を「示唆」する情報はあったのかもしれないが、それはデータで確認できるようなものではなかった』、「アベノミクス以降の日本株の利益を指数化して、米国、欧州と比べたグラフを掲げてくれている。この間、日本株の利益成長は両地域の株式を大きく上回っている。 日本株の投資家にとっては心強いデータだ。アベノミクスの株式市場に対する好影響が確認できることもよいことだ。政策パッケージとして不足はあったかもしれないが、株価を下げる政策よりも良かったことは間違いあるまい・・・海外勢の売買と、その背後にある海外の株価形成要因を除くと、いずれも、日経平均3万円割れ寸前から約1割高い戻り高値が形成された3週間の中の変化ではないことが分かる。 より正確には、この3週間の変化の中に将来の株価説明要因になるような大きな変化を「示唆」する情報はあったのかもしれないが、それはデータで確認できるようなものではなかった」、なるほど。
・『投資家はうまくやれたか? 今回の戻り高値の「教訓」とは さて、一連の株価の動きを見て、日本の投資家の行動と心理を推測する。 最もまずいのは、この間に「3万円割れは確実だ」「もっと株価が下がったところで買い直したらいい」などと自分に言い聞かせて、怖くなって持ち株を売ってしまった投資家だろう。仮に、日経平均3万1000円の水準で持ち株を売ったとすると、現水準までに、あるいは現在の水準で株式を買い直すことは心理的に相当ハードルが高そうだ。 次にまずそうなのは、株式の買いチャンスをうかがっており、「3万円を割れたら買おう」と思っていて、買いそびれているうちに買いのタイミングを失した投資家だろうか。今後、株式投資のポジションを作るのが大幅に遅れるかもしれないし、さらに高値が形成されたときに多額にまとめて投資することになるのかもしれない。 今回の展開を見て、「定期的な定額積立投資だったら、安値でも買えていたはずだ」などという結果論を言うつもりはない。 投資家に確認してほしいのは、この3週間の変動の間に、投資方針を変えた方がいいと言えたような根拠となる情報要因がほぼ何もなかったことだ。 根拠がないのに売買を行うと、掛かるのは手数料であり、マーケットインパクトであり、ついでに余計な精神的疲労だ。その状態を、「面倒だったし、徒労だった」と振り返ることができずに、売買が一種の気晴らしになるような心境に陥っているのだとすると、さらにまずい。 合理的な投資家にできることは、余計な売買をせずに自分にとって必要な大きさの投資を維持してじっとしている真の「長期投資」と、これと両立する「分散投資」「低コスト」のポートフォリオの保有である。さらには、自分が合理的であるとの自信を持って精神的なストレスを減らすことだ。 この点を確認するに当たって、今回の一連の株価の動きは、極めて分かりやすい教材であった』、「合理的な投資家にできることは、余計な売買をせずに自分にとって必要な大きさの投資を維持してじっとしている真の「長期投資」と、これと両立する「分散投資」「低コスト」のポートフォリオの保有である。さらには、自分が合理的であるとの自信を持って精神的なストレスを減らすことだ。 この点を確認するに当たって、今回の一連の株価の動きは、極めて分かりやすい教材であった」、どうも「合理的な投資家」である筆者への鎮魂歌にも聞こえる。
タグ:山崎 元氏による「日経平均株価、一時3万3853円をつけた戻り高値の「教訓」とは?」 さて、株価の説明のためには、企業の業績から見るのがオーソドックスだ。記事はまず、日本の小売企業がコスト増を吸収する値上げを実現できたことと、外需企業の業績が上方修正ラッシュであり、「日本企業のファンダメンタルズの堅調さが確認できた」というヘッジファンドマネージャーの意見を紹介している・・・日本株の上昇要因には株価収益率(PER)の拡大に表れた投資家の期待だけではなく、増益の寄与度が欧米を上回っていることが指摘できるとの分析は、記憶にとどめる価値がある」、なるほど。 「①で指摘されるように、円安を起点として実体経済に好循環をもたらすことが期待される製造業の生産拠点が日本から消えてしまったことが、円の需給構造が円売りに傾斜しやすくなった根本的な原因とも考えられる・・・製造業の海外生産移管は貿易収支悪化の一因であると同時に、サービス収支改善の一因になっている部分もある。それが産業財産権等使用料であり、同項目には日本企業が海外子会社等から受け取るロイヤルティーなどが計上される。 ダイヤモンド・オンライン この点を確認するに当たって、今回の一連の株価の動きは、極めて分かりやすい教材であった」、どうも「合理的な投資家」である筆者への鎮魂歌にも聞こえる。 「今回、大変良い説明を提供している、日本経済新聞の篠崎健太記者の記事「日経平均、一時33年ぶり高値 マネー再び日本株へ」(『日本経済新聞』11月20日電子版)を参考にさせてもらいながら、要因を整理しておこう・・・この記事はスクラップして、しばらく手元に置いておく価値がある。特に、今後しばらくして株価が低迷するようであれば、読み返してみて「戻り」の要因を再確認するのだ。 にも日本の株価に影響を与えるような大きなニュースがあったわけではない」、どうしたのだろう。 「毎月のアメリカ雇用統計やFRB・・・の「次の一手」など、日米金利差の拡大・縮小に直結する短期的な材料も当然重要だが、自国通貨の需給環境を包括的に理解する助けになる国際収支は、今も昔も円相場の中長期見通しを分析する立場から最重要の計数と言える」、その通りだ。 「「産業財産権の黒字が増えて、海上貨物の赤字が増えている」という構図からは、日本が単に原材料を輸入し、国内で生産し、海外へ輸出するというシンプルな加工貿易から撤退しつつある状況が読み取れる。 その代わりに、海外で生産した財を海外で販売したり、第三国向けに輸出したりする世界全体を巻き込んだサプライチェーン体制を組成している様子が読み取れる」、昔とはずいぶん変わったものだ。 為替動向を見る上で、こうした構造的要因に注目する見方は、参考になる。 東洋経済オンライン 「日本の株価は海外の投資家の行動によって大きく影響を受けて形成されている。そして、変動要因の多くは海外にあり、日本市場は一つのローカルマーケットにすぎないという点は常に留意しておく価値がある・・・資産形成のために株式運用を行う多くの投資家にとって、日本株は「世界株の中の(愛すべき)一部」だと割り切って、分散投資の一部に取り入れたら十分なのではないかと考えられるゆえんだ」、なるほど。 海外勢の売買と、その背後にある海外の株価形成要因を除くと、いずれも、日経平均3万円割れ寸前から約1割高い戻り高値が形成された3週間の中の変化ではないことが分かる。 より正確には、この3週間の変化の中に将来の株価説明要因になるような大きな変化を「示唆」する情報はあったのかもしれないが、それはデータで確認できるようなものではなかった」、なるほど。 「アベノミクス以降の日本株の利益を指数化して、米国、欧州と比べたグラフを掲げてくれている。この間、日本株の利益成長は両地域の株式を大きく上回っている。 日本株の投資家にとっては心強いデータだ。アベノミクスの株式市場に対する好影響が確認できることもよいことだ。政策パッケージとして不足はあったかもしれないが、株価を下げる政策よりも良かったことは間違いあるまい・・・ 日本の「その他サービス収支」において唯一、黒字を記録する知的財産権等使用料も、その実態は産業財産権等使用料の黒字に支えられている。 近年、海外企業から供給される音楽や動画の定額課金サービスを受けて著作権等使用料の赤字が増勢傾向にあるものの、産業財産権等使用料の黒字が多額に上っているため、これら2本から構成される知的財産権等使用料全体では黒字が維持される構図にある。 製造業の海外生産移管は経常収支上、赤字拡大と黒字拡大の二面性を有する」、なるほど。 「海外移管された生産拠点や、それにより失われた輸出すべてが「円売り」に直結しているわけではなく、サービス収支上、産業財産権として回帰している部分もあることは円の需給を考察するうえでは知っておきたい事実だ」、なるほど。 唐鎌 大輔氏による「円安がさらなる貿易赤字と円売りを招くカラクリ サービス収支に透ける製造業のグローバル化」 「今回の高値には意外感を持つ向きが多いのではないか。 つい少し前、10月の終わりの4取引日にあっては、日経平均の終値はいずれも3万1000円を割っていて、3万円を維持できないのではないかと心配になるような状況だった。 それが、3週間のうちにざっと1割上昇して「戻り高値」なのである・・・米国のインフレ関連のデータ・・・ どんな「教訓」があるのだろう、興味深そうだ。 「合理的な投資家にできることは、余計な売買をせずに自分にとって必要な大きさの投資を維持してじっとしている真の「長期投資」と、これと両立する「分散投資」「低コスト」のポートフォリオの保有である。さらには、自分が合理的であるとの自信を持って精神的なストレスを減らすことだ。
民主主義(その9)(「若者よ 選挙に行くな」CMを支持する、納税額が低いと選挙権ナシ?高学歴なら複数投票OK?超有名思想家が下した結論とは) [経済政治動向]
民主主義については、2021年8月23日に取上げた。久しぶりの今日は、(その9)(「若者よ 選挙に行くな」CMを支持する、納税額が低いと選挙権ナシ?高学歴なら複数投票OK?超有名思想家が下した結論とは)である。
先ずは、本年4月12日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「「若者よ、選挙に行くな」CMを支持する」を紹介しよう。
・『統一地方選挙での若者の投票を呼びかける風刺動画が物議を醸している。「若者よ、選挙に行くな」と題したこの動画は、逆説的に若者が選挙で投票する大切さを説いているのだが、賛否両論が噴出している。筆者としては、この取り組みを支持したい』、興味深そうだ、
・『表現が痩せると発想も細る 表現の自由の範囲は、社会が許容できるギリギリまで広げておく方がいい。社会的圧力によってであれ、それを恐れた自主規制によってであれ、表現を制限していると表現力が痩せる。表現力が痩せると、やがては物事を発想する力も細っていく。これは、まことにつまらないことだ。いわゆる「ポリコレ」や「言葉狩り」をやり過ぎすることの最大の弊害だろう。 ちょうどいい検討例が現れた。趣旨としては今春の統一地方選挙で若者に選挙に行こうと呼びかける、インターネット動画のCM「若者よ、選挙に行くな」(笑下村塾作成)が物議を醸している。 皮肉が利いていていいではないかという声もあれば、若者と高齢者の対立をあおるので好ましくないといった意見もある。 動画を何度か観てみたが、結論は、「この程度は、全く問題ないではないか」だ。この程度の表現を抑圧したがるような、不寛容でおぞましくお節介な社会には「絶対に」なってほしくない。率直に言って、動画としての出来映えは今一つだと思ったのだが、内容はなかなか味わい深い。主たるメッセージが「若者は選挙に行った方がいい」という話なのは誤解のされようがないし、考える価値のある問題を複数提起している。 このCMの内容が気に入らない人も、少なからずいることだろう。もちろん、批判はあっていい。ただし、「こういうものは出すべきではない」という意見はできるだけ控えるべきだ。文句があるなら、もっとセンスのいい作品を作って対抗すればいい。 筆者としては、今回の「若者よ、選挙に行くな」CMのような表現やメッセージが、今後もどんどん登場することを期待したい。 「もっとやれ!」と言っておく』、「表現の自由の範囲は、社会が許容できるギリギリまで広げておく方がいい。社会的圧力によってであれ、それを恐れた自主規制によってであれ、表現を制限していると表現力が痩せる。表現力が痩せると、やがては物事を発想する力も細っていく。これは、まことにつまらないことだ。いわゆる「ポリコレ」や「言葉狩り」をやり過ぎすることの最大の弊害だろう」、「文句があるなら、もっとセンスのいい作品を作って対抗すればいい。 筆者としては、今回の「若者よ、選挙に行くな」CMのような表現やメッセージが、今後もどんどん登場することを期待したい。「もっとやれ!」と言っておく」、なるほど。「若者よ、選挙に行くな」CMのURLはhttps://www.youtube.com/watch?v=RF8I4LHej5E
・『若者にとっての「コスパ」を訴えよ 高齢者は、そもそも数が多く、しかも投票率が高いので、政治に彼らの意見が反映しやすいのは事実だ。これを指摘して、若者に投票を促すことは悪いことではない。事実を指摘して、良い行動を推奨している。 一方、より現実的な問題として、若者の投票率が上がっても選挙の結果は大きく変わらず、従って、世の中を変えるに至らないという調査や指摘が少なくない。例えば、多くの若者が読んでいると思われる経済学者・成田悠輔氏の『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(ソフトバンク新書)には詳細で説得的な分析が提示されている。 また、そもそも多くの社会的な意思決定を行うために、選挙で代表を選んで物事を決めようとする現在のシステム自体に相当な無理があることも事実だ。 こうした構造を考えたときに、若者が、自分が選挙に行っても何も変わらないだろうと予想を形成すること自体は大きく間違ってはいない。 では、この構造も含めて現状に不満を持っている場合に、若者はどうしたらいいのか。これが次の問題だろう。) 方法としては、ツイッターでのつぶやきから革命まで幅広い手段がある。ただ、行使できる影響力の期待値と手段のコストを考えると、今のところ最も「コスパ」のいい手段は、おそらく同じ意見の持ち主に声を掛けつつ選挙に行くことだろう。 若者の投票行動が変わると、少なくとも一部の政治家は焦り、一部は迎合しようとし、何らかの影響があるはずだ。また、選挙区によっては、本当に結果が変わるだろう。効果の期待値は、十分大きくはないかもしれないが、ゼロではない。コストは少々の時間と手間だ。逮捕などのリスクはない。 例えば、CMの続編を作るなら、「若者が選挙に行っても、選挙結果が変わる確率は小さいかもしれないわね」(女1)、「でも、あんたたち、革命なんか起こす元気もないし、面倒くさいんでしょう」(女2)、「今のところ意見を反映させる一番コスパのいい手段は選挙に行くことなんだよ。ダメ元でも、できることからやってみようよ」(男)、といったせりふを付け加えるのはいかがだろうか。 CMの出演者3人はプロの役者さんなので憎まれ役は平気だろう。しかし、ただ嫌われただけのキャラクターにしておくのは惜しい。それぞれの役者さんが、本当は若者のことを気に掛けていてアドバイスを送るような続編があってもいいのではないか』、「現状に不満を持っている場合に、若者はどうしたらいいのか。これが次の問題だろう。) 方法としては、ツイッターでのつぶやきから革命まで幅広い手段がある。ただ、行使できる影響力の期待値と手段のコストを考えると、今のところ最も「コスパ」のいい手段は、おそらく同じ意見の持ち主に声を掛けつつ選挙に行くことだろう。 若者の投票行動が変わると、少なくとも一部の政治家は焦り、一部は迎合しようとし、何らかの影響があるはずだ。また、選挙区によっては、本当に結果が変わるだろう。効果の期待値は、十分大きくはないかもしれないが、ゼロではない。コストは少々の時間と手間だ。逮捕などのリスクはない・・・CMの出演者3人はプロの役者さんなので憎まれ役は平気だろう。しかし、ただ嫌われただけのキャラクターにしておくのは惜しい。それぞれの役者さんが、本当は若者のことを気に掛けていてアドバイスを送るような続編があってもいいのではないか」、なるほど。
・『財政赤字の世代負担に関する「誤解」を考えるきっかけにも CMの中に、「日本の借金が増えているって? でも、どーせ返すのは未来の子どもたちだろう?」という財務省が喜びそうなせりふがあるが、この意見は、将来世代が現在世代から資産を受け継ぐことを見落とした俗論である。 「財政赤字は将来世代の負担だ」と言って、「そうだ!」とうなずくか否かは、政治家が、経済を理解している人なのか、単に話を刷り込まれただけの拡声器なのかを判別するいいリトマス試験紙だ。読者も用いるといい。 家計の貸し借りと、国の借金は性質が異なる。国の借金が海外からのものでない限り、国の借金は、例えば国債という資産として国民に保有されていて、これは次世代に相続される。国の借金が、本質的な意味で将来世代の負担になるのは、それが非効率的に使われて、モノや労働力などを含めた広義の資源の無駄になる場合だ。) 仮に、若者嫌いで意地悪な高齢者がいて、自分が保有する資産を次世代に相続するのが嫌だとばかりに国債を換金して消費に回したとすると、その消費は経済を活性化させるだろうから、むしろ次世代にとっての恩恵になり得る。 ただし、国の借金が手放しで褒められるものでないことは事実だ。一つには、政府は決してお金の使い方がうまい主体ではないから、大きな借り入れが自由にできることは上記の意味での本質的な負担を作る補助要因になり得る。また、国民の間に作った大規模な貸し借りが好ましくない形の再分配効果をもたらす可能性がある。 例えば、こうしたことを教えるために、「若者は選挙に行くな」CMを高校の授業で生徒に見せたりするのもいいのではないか』、「家計の貸し借りと、国の借金は性質が異なる。国の借金が海外からのものでない限り、国の借金は、例えば国債という資産として国民に保有されていて、これは次世代に相続される。国の借金が、本質的な意味で将来世代の負担になるのは、それが非効率的に使われて、モノや労働力などを含めた広義の資源の無駄になる場合だ」、なるほど。
・『「憲法を変える」の位置付けに驚く CMは次に、新型コロナウイルスへの政府の対応が、若者に冷たく(修学旅行がない)、高齢者優遇的(旅行の補助は暇のある高齢者の方が利用しやすい)であったことを指摘する。 考えるべき素材として悪くないテーマだろう。世代の利害対立があることと、意思表示をしないとますます不利になりかねないことなどを考えさせる。 筆者が大いに驚いたのは、次のせりふだった。こわもての方の女性が次のように言う。 「同性婚? ベーシックインカム? 憲法を変える? そんなことしたら社会が変わっちゃうじゃない」 いかにも若者が口にしそうなテーマを三つ挙げたのだろう。先進7カ国(G7)の中で唯一日本だけで認められない同性婚が挙がるのはいい。次に、ベーシックインカムがここまで市民権を得た言葉になったかと思うと、これは感慨深い。だが、この並びで「憲法を変える」が出てくると、時代は変わったのだと改めて思う。) 30年くらい前の感覚では、古い世代は、かつての日本へのノスタルジーと「アメリカに押しつけられた憲法」への反発などから改憲にシンパシーを持ち(だから憲法改正が長らく自民党の党是の一つなのだろう)、一方、当時の若い世代や革新的な勢力は新憲法(現行の日本国憲法)を民主的な新しい時代のものなので擁護したいと考えるといったポジショニングだった。 ところが今の感覚では、若い世代こそが憲法を変えたがっている、ということらしい。 確かに、いわゆる「革新」という言葉は近年いかにも古びて聞こえる。全く魅力を感じない。「改革」ならまだ幾らかは新しく、「革新」と言ってしまうと残念なまでに古臭い。ことの良しあしは別として、現在の野党は、こうした感覚の変化に対応しないと、支持世代の老化とともにそのまま衰退してしまいそうだ』、「今の感覚では、若い世代こそが憲法を変えたがっている、ということらしい。 確かに、いわゆる「革新」という言葉は近年いかにも古びて聞こえる。全く魅力を感じない。「改革」ならまだ幾らかは新しく、「革新」と言ってしまうと残念なまでに古臭い。ことの良しあしは別として、現在の野党は、こうした感覚の変化に対応しないと、支持世代の老化とともにそのまま衰退してしまいそうだ」、なるほど。
・『動画の続編にも反論作品にも期待したい CMはもう少し続いて、「ネットなら投票するのにって、ずっとネットで言ってなさい」などという名ぜりふもあるが、続きは動画を見ていただきたい。 主たるメッセージを伝えるだけでなく、その他にも考えさせる部分があるのは、いいメッセージだろう。 CMは全体を通じて、個人を侮辱するとか、特定の人を傷つけるような内容ではない。それなりの「毒」は盛られているが、注目されないよりも注目される方がいいので、許される範囲だろう。いいCMだったと思うし、続編的な作品にも期待したい。 ただ、繰り返しになるが、このCMが気に入らない人もいるだろう。センスのいい作品での反論にも大いに期待している』、「CMは全体を通じて、個人を侮辱するとか、特定の人を傷つけるような内容ではない。それなりの「毒」は盛られているが、注目されないよりも注目される方がいいので、許される範囲だろう。いいCMだったと思うし、続編的な作品にも期待したい」、同感である。
次に、11月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した九州大学名誉教授の関口正司氏による「納税額が低いと選挙権ナシ?高学歴なら複数投票OK?超有名思想家が下した結論とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/330415
・『与野党ともに次の総選挙の準備を進めている昨今、19世紀イギリスの思想家J・S・ミルが提唱した選挙制度の精神が光を放ち始めた。『自由論』で他者や社会を害しない範囲での幸福追求を論じたミルは、『代議制統治論』で他者への権力行使につながる投票行動を重視し、当時としても新奇な提言をおこなっている。「1票の格差」など問題山積の日本の選挙の指針となるか。本稿は、関口正司『J・S・ミル 自由を探求した思想家』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『多数派による専制を避けるにはヘア式投票制で死票を最小限に ジョン・スチュアート・ミル(1806~1873)は、非常に多様なテーマに関心を寄せたイギリス人の思想家だった。著作の範囲は、政治や行政や法律から、経済や社会、歴史や文学、道徳(倫理)や哲学などにまでおよんでいる。成熟期のミルの著作として『自由論』はよく知られているが、『代議制統治論』もまた代表的な1冊である。 『代議制統治論』は1861年4月に公刊された。全部で18章からなる大著で、選挙制度や議会、中央の行政、地方自治、インド統治など、当時のイギリスの政治体制全般にかかわる多様なテーマが取り上げられている。 代表者を選出する選挙人の資格という問題についてミルが行っている議論の中で、特に具体的な制度にかかわる提言を読むと、多くの読者が違和感を抱くかもしれない。 ミルによれば、代表民主政の正しい理解とは、国民の全員が等しく代表され、そのようにして選ばれた代表者たちによって国民全員が統治される、ということである。ところが、国民の中の多数者だけが代表されれば少数者が代表される機会が確保されなくてもよい、という誤った代表民主政のとらえ方が世の中では横行している。 この誤ったとらえ方では、(1)代表を実質的に選んでいる多数者や選ばれた代表者たちの知的レベルの低さ、(2)多数者による(代表をつうじた)排他的な階級利益(邪悪な利益)の追求という、2つの深刻な弊害は手つかずのまま放置されてしまう。 これらの弊害を防止するためには、あるいは可能な限り軽減するためには、代表民主政の正しい理解に即した制度、つまり平等の原則にもとづいた制度を導入する必要がある。 平等の原則からミルが強く推奨しているのは、ヘア式投票制である。これは、少数者の代表を応分に確保するために死票をできるだけ減らす工夫をした投票制度である。 選挙人は、自分の代表としたい複数の候補者を、順位をつけて投票する。地元だけでなくどの地域の候補者に投票してもよい。1人の候補者だけに投票してもよい。投票してよい候補者数は技術的問題がなければ無制限でかまわない。 当選票数は、全国の選挙人総数を議員の総定数で割算して出す。自分の投票した候補者の第1位が、自分の票を加算しなくても当選票数に達していれば、第2位に指名した候補者に票がまわることになる。以下、議員の総定員が満たされるまでこのような割り振りが繰り返される。実際には、見かけほど複雑な仕組みではない。) 選挙の平等の原則から必然的に帰結するのは、原則として成人の国民全員に選挙人の資格を与えることである。ミルはさらに、別の重要な道徳的問題もあるとして、次のように力説している。 ……他の人々と同じように自分にも利害がある事柄の処理について、自分の意見を顧慮してもらうという通常の特権を与えないことは、より大きな害悪の防止のためでないならば、人格にかかわる不正である。その人が支払うことを強制され、戦うことを強制されるかもしれず、黙って従うように求められるのであれば、それが何のためであるかを示してもらう法的な資格がある。同意を求められ、その人の意見を価値以上にではないにせよ、価値相応に受け止めてもらう法的な資格がある。……人は誰でも、何の相談もなく自分の運命を左右する無制限の権力を他人からふるわれるときには、自分で気づいていようといまいと、人格を貶められているのである。 人格的尊厳という点で、イギリスのような高度な文明国の国民には、男女を問わず、選挙資格を与えるべきである。特に、女性への選挙資格の付与は、ミルが強く主張した点だった』、「『代議制統治論』は1861年4月に公刊された。全部で18章からなる大著で、選挙制度や議会、中央の行政、地方自治、インド統治など、当時のイギリスの政治体制全般にかかわる多様なテーマが取り上げられている。 代表者を選出する選挙人の資格という問題についてミルが行っている議論の中で、特に具体的な制度にかかわる提言を読むと、多くの読者が違和感を抱くかもしれない。 ミルによれば、代表民主政の正しい理解とは、国民の全員が等しく代表され、そのようにして選ばれた代表者たちによって国民全員が統治される、ということである。ところが、国民の中の多数者だけが代表されれば少数者が代表される機会が確保されなくてもよい、という誤った代表民主政のとらえ方が世の中では横行している。 この誤ったとらえ方では、(1)代表を実質的に選んでいる多数者や選ばれた代表者たちの知的レベルの低さ、(2)多数者による(代表をつうじた)排他的な階級利益(邪悪な利益)の追求という、2つの深刻な弊害は手つかずのまま放置されてしまう。 これらの弊害を防止するためには、あるいは可能な限り軽減するためには、代表民主政の正しい理解に即した制度、つまり平等の原則にもとづいた制度を導入する必要がある・・・平等の原則からミルが強く推奨しているのは、ヘア式投票制である。これは、少数者の代表を応分に確保するために死票をできるだけ減らす工夫をした投票制度である。 選挙人は、自分の代表としたい複数の候補者を、順位をつけて投票する。地元だけでなくどの地域の候補者に投票してもよい。1人の候補者だけに投票してもよい。投票してよい候補者数は技術的問題がなければ無制限でかまわない。 当選票数は、全国の選挙人総数を議員の総定数で割算して出す。自分の投票した候補者の第1位が、自分の票を加算しなくても当選票数に達していれば、第2位に指名した候補者に票がまわることになる。以下、議員の総定員が満たされるまでこのような割り振りが繰り返される。実際には、見かけほど複雑な仕組みではない」、「死票をできるだけ減らす工夫をした投票制度」とは興味深い。
・『政策判断能力なき者や低額納税者への平等な投票資格付与は選挙を歪める ただし、平等な選挙資格と言っても無条件ではない。投票は公共の利益に判断を下す行為だから、判断を下すのに欠かせない識字能力が要件となる。また、公金の処理にかかわる判断でもあり、歳出と納税者の負担との関係を意識している必要があるから、タダ乗り的投票をさせないために、一定程度の納税をしていることも条件になる。 これらの要件は現代ではほとんど問題外とされているが、ミルがこのような制限を求める主張の根拠(判断能力や責任の自覚)については、あらためて正面から考えてみる必要があるように思える。 ところで、平等な選挙の確保は重要であるとはいえ、代表者議会の知的レベルの確保と階級利益追求の防止という2つの課題は依然として残されている。選挙民や議員の多数派に良識や中庸や自制を期待すれば十分だというのでは、ミルの言葉を借りれば「立憲的統治の哲学は無用の長物にすぎない」。権力を悪用させない国制上の仕組みが必要である。 そのためミルは、これら2つの課題への対応策として、選挙の平等という原則の一線を越える提言にまであえて踏み込んでいく。つまり、選挙人の中の高い知性を持った層に複数票を与える、という提言である。) こういう提言を市民が受け容れること、つまり、「善良で賢明な人々にはより大きな影響力を持つ資格がある、と市民が考えることは、市民にとって有益なのだから、国家がこの信念を公言し、国の制度に体現させることは重要である」とミルは論じている。 なぜ、このような趣旨の制度が必要かと言えば、それが実際に知性の確保に役立つばかりではない。無知と知性を同等に扱わないという制度の精神が国民に影響を与えるからである。また、複数投票が与えられるのは少数者に限定されていて、この仕組みで少数者だけで国政を左右することはないと想定されていた。 それでもなお、「善良で賢明な人々」の影響力確保のために、高学歴や知的職業への従事者に複数投票権を認めるというミルの主張を目にすると、おそらく多くの読者は違和感を覚えるだろう。筆者としても、平等選挙の精神を健全に保つためには、不公平感を与えることなしに、すぐれた人の知見を国政に活かす別の方法を探究した方が得策に思える。 その一方で、平等選挙の原則を一貫して重視するのであれば、いわゆる「1票の格差」と呼ばれている今日の事態についても、きちんと答えを出す必要があるとも感じる。そういう意味で、今もなお示唆的な議論だと言えるだろう』、「「善良で賢明な人々」の影響力確保のために、高学歴や知的職業への従事者に複数投票権を認めるというミルの主張を目にすると、おそらく多くの読者は違和感を覚えるだろう。筆者としても、平等選挙の精神を健全に保つためには、不公平感を与えることなしに、すぐれた人の知見を国政に活かす別の方法を探究した方が得策に思える。 その一方で、平等選挙の原則を一貫して重視するのであれば、いわゆる「1票の格差」と呼ばれている今日の事態についても、きちんと答えを出す必要があるとも感じる」、なるほど。
・『他者に対する権力行使である投票を秘密のうちに行うのは正しいのか ミルが「制度の精神」との関連で取り上げているテーマで、もう一つ注目されるのは、秘密投票(バロット)の問題である。 イギリスでは、1872年に秘密投票法が制定されるまで、庶民院や地方自治体の選挙は、自分が支持する候補者の名前を声を出して示すといった方法による公開投票だった。 ベンサムや父親のジェイムズ・ミルなどの哲学的急進派は、公開投票は地元有力者の圧力や買収の温床であり、旧来の地主支配体制を支える柱の一つだとみなし、秘密投票を政治改革の重要な項目の一つとしていた。ミルも、支持の立場を維持していた。 ミルがこの立場を変えたのは、1850年代になってからである。フランス2月革命の後、ルイ・ボナパルトが制度上は民主的な選挙によって大統領に選出されたことが、少なからず影響していると推測される。 ミルによれば、秘密投票は「制度の精神、つまり制度が市民の心に与える印象が、制度の働きの中で最も重要な部分を占める事例の一つ」である。その印象とは、人に知られることなく自分自身のために自分の都合に合わせて投票してよいのだ、という印象である。こうした印象は、投票を私的な権利だとみなす誤解につながる。しかし、投票は権利ではない。それは信託(trust)である。ミルは次のように力説している。) 権利の観念をどう定義し理解するとしても、人は誰も、他者に対して権力を行使する権利を(純粋に法律的な意味を別とすれば)持つことはできない。そうした権力はすべて、持つことが許されるとすれば、道徳的には、最も完全な意味で信託である。ところが、選挙人としてであれ代表としてであれ、政治的な役割を果たすということは、他者に対する権力行使なのである。 自分に権利のある家や債券を処分するとき、自由に思い通り処分してよい。権利の観念とはそうしたものである。投票も、権利であるなら同じように受け止められるだろう。 しかし、投票を家や債券と同様に自由に売ることは許されない。その意味で、投票は特殊な権利だと感じられている。この感覚は、鈍らせるのではなく、いっそう強化する必要がある。 投票の重要な意義は、たしかに自分の利益や自由を不当な侵害から守るのに役立つという点にある。しかし、投票は同時に、他者の未来も左右する。投票は社会全体に対する権力行使になる。 だから、投票は自分だけにかかわる自己決定と自己責任の問題ではなく、社会全体に対して責任を負うべき公共的行為である。投票者は、そうした権力を社会全体から信託されている。だから、投票を売ってはいけないのである。 ミルの考えでは、公開投票であれば、投票者は他者の視線を意識することで、投票の公共的理由について多少は考えざるをえなくなる。申し開きが立たないような利己的で浅ましい理由では、自分の体面が保てなくなるからである。人目を気にしたり見栄を張ったりといった同調志向の心理も、こういう公共的な効用がある場合には、ミルは活用に躊躇しない。 もっとも、公開投票が、ミルの期待しているとおりの効果を持つのかどうか、また、公開投票のメリットは、買収や強要を助長するというデメリットを上回るのかどうかといった点は、状況次第であるように思える。しかし、ここで目を向ける価値があるのは、その点よりも、制度の精神という問題の捉え方である。 投票制度の精神を問題にするとき、ミルが大前提にしていたのは、他者に権力を行使する権利は道徳的には絶対ありえない、という強い信念だった。だから、ミルは法律で定められた権利という文脈を除いて、権利という言葉は使わない。結論で賛否が分かれるとしても、じっくり議論する価値のある重要な問題である』、「投票の重要な意義は、たしかに自分の利益や自由を不当な侵害から守るのに役立つという点にある。しかし、投票は同時に、他者の未来も左右する。投票は社会全体に対する権力行使になる。 だから、投票は自分だけにかかわる自己決定と自己責任の問題ではなく、社会全体に対して責任を負うべき公共的行為である。投票者は、そうした権力を社会全体から信託されている。だから、投票を売ってはいけないのである」、「投票制度」について、ここまで深い考察をしているとはさすがだ。こうした原論的考察の重要性を再認識させられた。
先ずは、本年4月12日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「「若者よ、選挙に行くな」CMを支持する」を紹介しよう。
・『統一地方選挙での若者の投票を呼びかける風刺動画が物議を醸している。「若者よ、選挙に行くな」と題したこの動画は、逆説的に若者が選挙で投票する大切さを説いているのだが、賛否両論が噴出している。筆者としては、この取り組みを支持したい』、興味深そうだ、
・『表現が痩せると発想も細る 表現の自由の範囲は、社会が許容できるギリギリまで広げておく方がいい。社会的圧力によってであれ、それを恐れた自主規制によってであれ、表現を制限していると表現力が痩せる。表現力が痩せると、やがては物事を発想する力も細っていく。これは、まことにつまらないことだ。いわゆる「ポリコレ」や「言葉狩り」をやり過ぎすることの最大の弊害だろう。 ちょうどいい検討例が現れた。趣旨としては今春の統一地方選挙で若者に選挙に行こうと呼びかける、インターネット動画のCM「若者よ、選挙に行くな」(笑下村塾作成)が物議を醸している。 皮肉が利いていていいではないかという声もあれば、若者と高齢者の対立をあおるので好ましくないといった意見もある。 動画を何度か観てみたが、結論は、「この程度は、全く問題ないではないか」だ。この程度の表現を抑圧したがるような、不寛容でおぞましくお節介な社会には「絶対に」なってほしくない。率直に言って、動画としての出来映えは今一つだと思ったのだが、内容はなかなか味わい深い。主たるメッセージが「若者は選挙に行った方がいい」という話なのは誤解のされようがないし、考える価値のある問題を複数提起している。 このCMの内容が気に入らない人も、少なからずいることだろう。もちろん、批判はあっていい。ただし、「こういうものは出すべきではない」という意見はできるだけ控えるべきだ。文句があるなら、もっとセンスのいい作品を作って対抗すればいい。 筆者としては、今回の「若者よ、選挙に行くな」CMのような表現やメッセージが、今後もどんどん登場することを期待したい。 「もっとやれ!」と言っておく』、「表現の自由の範囲は、社会が許容できるギリギリまで広げておく方がいい。社会的圧力によってであれ、それを恐れた自主規制によってであれ、表現を制限していると表現力が痩せる。表現力が痩せると、やがては物事を発想する力も細っていく。これは、まことにつまらないことだ。いわゆる「ポリコレ」や「言葉狩り」をやり過ぎすることの最大の弊害だろう」、「文句があるなら、もっとセンスのいい作品を作って対抗すればいい。 筆者としては、今回の「若者よ、選挙に行くな」CMのような表現やメッセージが、今後もどんどん登場することを期待したい。「もっとやれ!」と言っておく」、なるほど。「若者よ、選挙に行くな」CMのURLはhttps://www.youtube.com/watch?v=RF8I4LHej5E
・『若者にとっての「コスパ」を訴えよ 高齢者は、そもそも数が多く、しかも投票率が高いので、政治に彼らの意見が反映しやすいのは事実だ。これを指摘して、若者に投票を促すことは悪いことではない。事実を指摘して、良い行動を推奨している。 一方、より現実的な問題として、若者の投票率が上がっても選挙の結果は大きく変わらず、従って、世の中を変えるに至らないという調査や指摘が少なくない。例えば、多くの若者が読んでいると思われる経済学者・成田悠輔氏の『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』(ソフトバンク新書)には詳細で説得的な分析が提示されている。 また、そもそも多くの社会的な意思決定を行うために、選挙で代表を選んで物事を決めようとする現在のシステム自体に相当な無理があることも事実だ。 こうした構造を考えたときに、若者が、自分が選挙に行っても何も変わらないだろうと予想を形成すること自体は大きく間違ってはいない。 では、この構造も含めて現状に不満を持っている場合に、若者はどうしたらいいのか。これが次の問題だろう。) 方法としては、ツイッターでのつぶやきから革命まで幅広い手段がある。ただ、行使できる影響力の期待値と手段のコストを考えると、今のところ最も「コスパ」のいい手段は、おそらく同じ意見の持ち主に声を掛けつつ選挙に行くことだろう。 若者の投票行動が変わると、少なくとも一部の政治家は焦り、一部は迎合しようとし、何らかの影響があるはずだ。また、選挙区によっては、本当に結果が変わるだろう。効果の期待値は、十分大きくはないかもしれないが、ゼロではない。コストは少々の時間と手間だ。逮捕などのリスクはない。 例えば、CMの続編を作るなら、「若者が選挙に行っても、選挙結果が変わる確率は小さいかもしれないわね」(女1)、「でも、あんたたち、革命なんか起こす元気もないし、面倒くさいんでしょう」(女2)、「今のところ意見を反映させる一番コスパのいい手段は選挙に行くことなんだよ。ダメ元でも、できることからやってみようよ」(男)、といったせりふを付け加えるのはいかがだろうか。 CMの出演者3人はプロの役者さんなので憎まれ役は平気だろう。しかし、ただ嫌われただけのキャラクターにしておくのは惜しい。それぞれの役者さんが、本当は若者のことを気に掛けていてアドバイスを送るような続編があってもいいのではないか』、「現状に不満を持っている場合に、若者はどうしたらいいのか。これが次の問題だろう。) 方法としては、ツイッターでのつぶやきから革命まで幅広い手段がある。ただ、行使できる影響力の期待値と手段のコストを考えると、今のところ最も「コスパ」のいい手段は、おそらく同じ意見の持ち主に声を掛けつつ選挙に行くことだろう。 若者の投票行動が変わると、少なくとも一部の政治家は焦り、一部は迎合しようとし、何らかの影響があるはずだ。また、選挙区によっては、本当に結果が変わるだろう。効果の期待値は、十分大きくはないかもしれないが、ゼロではない。コストは少々の時間と手間だ。逮捕などのリスクはない・・・CMの出演者3人はプロの役者さんなので憎まれ役は平気だろう。しかし、ただ嫌われただけのキャラクターにしておくのは惜しい。それぞれの役者さんが、本当は若者のことを気に掛けていてアドバイスを送るような続編があってもいいのではないか」、なるほど。
・『財政赤字の世代負担に関する「誤解」を考えるきっかけにも CMの中に、「日本の借金が増えているって? でも、どーせ返すのは未来の子どもたちだろう?」という財務省が喜びそうなせりふがあるが、この意見は、将来世代が現在世代から資産を受け継ぐことを見落とした俗論である。 「財政赤字は将来世代の負担だ」と言って、「そうだ!」とうなずくか否かは、政治家が、経済を理解している人なのか、単に話を刷り込まれただけの拡声器なのかを判別するいいリトマス試験紙だ。読者も用いるといい。 家計の貸し借りと、国の借金は性質が異なる。国の借金が海外からのものでない限り、国の借金は、例えば国債という資産として国民に保有されていて、これは次世代に相続される。国の借金が、本質的な意味で将来世代の負担になるのは、それが非効率的に使われて、モノや労働力などを含めた広義の資源の無駄になる場合だ。) 仮に、若者嫌いで意地悪な高齢者がいて、自分が保有する資産を次世代に相続するのが嫌だとばかりに国債を換金して消費に回したとすると、その消費は経済を活性化させるだろうから、むしろ次世代にとっての恩恵になり得る。 ただし、国の借金が手放しで褒められるものでないことは事実だ。一つには、政府は決してお金の使い方がうまい主体ではないから、大きな借り入れが自由にできることは上記の意味での本質的な負担を作る補助要因になり得る。また、国民の間に作った大規模な貸し借りが好ましくない形の再分配効果をもたらす可能性がある。 例えば、こうしたことを教えるために、「若者は選挙に行くな」CMを高校の授業で生徒に見せたりするのもいいのではないか』、「家計の貸し借りと、国の借金は性質が異なる。国の借金が海外からのものでない限り、国の借金は、例えば国債という資産として国民に保有されていて、これは次世代に相続される。国の借金が、本質的な意味で将来世代の負担になるのは、それが非効率的に使われて、モノや労働力などを含めた広義の資源の無駄になる場合だ」、なるほど。
・『「憲法を変える」の位置付けに驚く CMは次に、新型コロナウイルスへの政府の対応が、若者に冷たく(修学旅行がない)、高齢者優遇的(旅行の補助は暇のある高齢者の方が利用しやすい)であったことを指摘する。 考えるべき素材として悪くないテーマだろう。世代の利害対立があることと、意思表示をしないとますます不利になりかねないことなどを考えさせる。 筆者が大いに驚いたのは、次のせりふだった。こわもての方の女性が次のように言う。 「同性婚? ベーシックインカム? 憲法を変える? そんなことしたら社会が変わっちゃうじゃない」 いかにも若者が口にしそうなテーマを三つ挙げたのだろう。先進7カ国(G7)の中で唯一日本だけで認められない同性婚が挙がるのはいい。次に、ベーシックインカムがここまで市民権を得た言葉になったかと思うと、これは感慨深い。だが、この並びで「憲法を変える」が出てくると、時代は変わったのだと改めて思う。) 30年くらい前の感覚では、古い世代は、かつての日本へのノスタルジーと「アメリカに押しつけられた憲法」への反発などから改憲にシンパシーを持ち(だから憲法改正が長らく自民党の党是の一つなのだろう)、一方、当時の若い世代や革新的な勢力は新憲法(現行の日本国憲法)を民主的な新しい時代のものなので擁護したいと考えるといったポジショニングだった。 ところが今の感覚では、若い世代こそが憲法を変えたがっている、ということらしい。 確かに、いわゆる「革新」という言葉は近年いかにも古びて聞こえる。全く魅力を感じない。「改革」ならまだ幾らかは新しく、「革新」と言ってしまうと残念なまでに古臭い。ことの良しあしは別として、現在の野党は、こうした感覚の変化に対応しないと、支持世代の老化とともにそのまま衰退してしまいそうだ』、「今の感覚では、若い世代こそが憲法を変えたがっている、ということらしい。 確かに、いわゆる「革新」という言葉は近年いかにも古びて聞こえる。全く魅力を感じない。「改革」ならまだ幾らかは新しく、「革新」と言ってしまうと残念なまでに古臭い。ことの良しあしは別として、現在の野党は、こうした感覚の変化に対応しないと、支持世代の老化とともにそのまま衰退してしまいそうだ」、なるほど。
・『動画の続編にも反論作品にも期待したい CMはもう少し続いて、「ネットなら投票するのにって、ずっとネットで言ってなさい」などという名ぜりふもあるが、続きは動画を見ていただきたい。 主たるメッセージを伝えるだけでなく、その他にも考えさせる部分があるのは、いいメッセージだろう。 CMは全体を通じて、個人を侮辱するとか、特定の人を傷つけるような内容ではない。それなりの「毒」は盛られているが、注目されないよりも注目される方がいいので、許される範囲だろう。いいCMだったと思うし、続編的な作品にも期待したい。 ただ、繰り返しになるが、このCMが気に入らない人もいるだろう。センスのいい作品での反論にも大いに期待している』、「CMは全体を通じて、個人を侮辱するとか、特定の人を傷つけるような内容ではない。それなりの「毒」は盛られているが、注目されないよりも注目される方がいいので、許される範囲だろう。いいCMだったと思うし、続編的な作品にも期待したい」、同感である。
次に、11月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した九州大学名誉教授の関口正司氏による「納税額が低いと選挙権ナシ?高学歴なら複数投票OK?超有名思想家が下した結論とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/330415
・『与野党ともに次の総選挙の準備を進めている昨今、19世紀イギリスの思想家J・S・ミルが提唱した選挙制度の精神が光を放ち始めた。『自由論』で他者や社会を害しない範囲での幸福追求を論じたミルは、『代議制統治論』で他者への権力行使につながる投票行動を重視し、当時としても新奇な提言をおこなっている。「1票の格差」など問題山積の日本の選挙の指針となるか。本稿は、関口正司『J・S・ミル 自由を探求した思想家』(中央公論新社)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『多数派による専制を避けるにはヘア式投票制で死票を最小限に ジョン・スチュアート・ミル(1806~1873)は、非常に多様なテーマに関心を寄せたイギリス人の思想家だった。著作の範囲は、政治や行政や法律から、経済や社会、歴史や文学、道徳(倫理)や哲学などにまでおよんでいる。成熟期のミルの著作として『自由論』はよく知られているが、『代議制統治論』もまた代表的な1冊である。 『代議制統治論』は1861年4月に公刊された。全部で18章からなる大著で、選挙制度や議会、中央の行政、地方自治、インド統治など、当時のイギリスの政治体制全般にかかわる多様なテーマが取り上げられている。 代表者を選出する選挙人の資格という問題についてミルが行っている議論の中で、特に具体的な制度にかかわる提言を読むと、多くの読者が違和感を抱くかもしれない。 ミルによれば、代表民主政の正しい理解とは、国民の全員が等しく代表され、そのようにして選ばれた代表者たちによって国民全員が統治される、ということである。ところが、国民の中の多数者だけが代表されれば少数者が代表される機会が確保されなくてもよい、という誤った代表民主政のとらえ方が世の中では横行している。 この誤ったとらえ方では、(1)代表を実質的に選んでいる多数者や選ばれた代表者たちの知的レベルの低さ、(2)多数者による(代表をつうじた)排他的な階級利益(邪悪な利益)の追求という、2つの深刻な弊害は手つかずのまま放置されてしまう。 これらの弊害を防止するためには、あるいは可能な限り軽減するためには、代表民主政の正しい理解に即した制度、つまり平等の原則にもとづいた制度を導入する必要がある。 平等の原則からミルが強く推奨しているのは、ヘア式投票制である。これは、少数者の代表を応分に確保するために死票をできるだけ減らす工夫をした投票制度である。 選挙人は、自分の代表としたい複数の候補者を、順位をつけて投票する。地元だけでなくどの地域の候補者に投票してもよい。1人の候補者だけに投票してもよい。投票してよい候補者数は技術的問題がなければ無制限でかまわない。 当選票数は、全国の選挙人総数を議員の総定数で割算して出す。自分の投票した候補者の第1位が、自分の票を加算しなくても当選票数に達していれば、第2位に指名した候補者に票がまわることになる。以下、議員の総定員が満たされるまでこのような割り振りが繰り返される。実際には、見かけほど複雑な仕組みではない。) 選挙の平等の原則から必然的に帰結するのは、原則として成人の国民全員に選挙人の資格を与えることである。ミルはさらに、別の重要な道徳的問題もあるとして、次のように力説している。 ……他の人々と同じように自分にも利害がある事柄の処理について、自分の意見を顧慮してもらうという通常の特権を与えないことは、より大きな害悪の防止のためでないならば、人格にかかわる不正である。その人が支払うことを強制され、戦うことを強制されるかもしれず、黙って従うように求められるのであれば、それが何のためであるかを示してもらう法的な資格がある。同意を求められ、その人の意見を価値以上にではないにせよ、価値相応に受け止めてもらう法的な資格がある。……人は誰でも、何の相談もなく自分の運命を左右する無制限の権力を他人からふるわれるときには、自分で気づいていようといまいと、人格を貶められているのである。 人格的尊厳という点で、イギリスのような高度な文明国の国民には、男女を問わず、選挙資格を与えるべきである。特に、女性への選挙資格の付与は、ミルが強く主張した点だった』、「『代議制統治論』は1861年4月に公刊された。全部で18章からなる大著で、選挙制度や議会、中央の行政、地方自治、インド統治など、当時のイギリスの政治体制全般にかかわる多様なテーマが取り上げられている。 代表者を選出する選挙人の資格という問題についてミルが行っている議論の中で、特に具体的な制度にかかわる提言を読むと、多くの読者が違和感を抱くかもしれない。 ミルによれば、代表民主政の正しい理解とは、国民の全員が等しく代表され、そのようにして選ばれた代表者たちによって国民全員が統治される、ということである。ところが、国民の中の多数者だけが代表されれば少数者が代表される機会が確保されなくてもよい、という誤った代表民主政のとらえ方が世の中では横行している。 この誤ったとらえ方では、(1)代表を実質的に選んでいる多数者や選ばれた代表者たちの知的レベルの低さ、(2)多数者による(代表をつうじた)排他的な階級利益(邪悪な利益)の追求という、2つの深刻な弊害は手つかずのまま放置されてしまう。 これらの弊害を防止するためには、あるいは可能な限り軽減するためには、代表民主政の正しい理解に即した制度、つまり平等の原則にもとづいた制度を導入する必要がある・・・平等の原則からミルが強く推奨しているのは、ヘア式投票制である。これは、少数者の代表を応分に確保するために死票をできるだけ減らす工夫をした投票制度である。 選挙人は、自分の代表としたい複数の候補者を、順位をつけて投票する。地元だけでなくどの地域の候補者に投票してもよい。1人の候補者だけに投票してもよい。投票してよい候補者数は技術的問題がなければ無制限でかまわない。 当選票数は、全国の選挙人総数を議員の総定数で割算して出す。自分の投票した候補者の第1位が、自分の票を加算しなくても当選票数に達していれば、第2位に指名した候補者に票がまわることになる。以下、議員の総定員が満たされるまでこのような割り振りが繰り返される。実際には、見かけほど複雑な仕組みではない」、「死票をできるだけ減らす工夫をした投票制度」とは興味深い。
・『政策判断能力なき者や低額納税者への平等な投票資格付与は選挙を歪める ただし、平等な選挙資格と言っても無条件ではない。投票は公共の利益に判断を下す行為だから、判断を下すのに欠かせない識字能力が要件となる。また、公金の処理にかかわる判断でもあり、歳出と納税者の負担との関係を意識している必要があるから、タダ乗り的投票をさせないために、一定程度の納税をしていることも条件になる。 これらの要件は現代ではほとんど問題外とされているが、ミルがこのような制限を求める主張の根拠(判断能力や責任の自覚)については、あらためて正面から考えてみる必要があるように思える。 ところで、平等な選挙の確保は重要であるとはいえ、代表者議会の知的レベルの確保と階級利益追求の防止という2つの課題は依然として残されている。選挙民や議員の多数派に良識や中庸や自制を期待すれば十分だというのでは、ミルの言葉を借りれば「立憲的統治の哲学は無用の長物にすぎない」。権力を悪用させない国制上の仕組みが必要である。 そのためミルは、これら2つの課題への対応策として、選挙の平等という原則の一線を越える提言にまであえて踏み込んでいく。つまり、選挙人の中の高い知性を持った層に複数票を与える、という提言である。) こういう提言を市民が受け容れること、つまり、「善良で賢明な人々にはより大きな影響力を持つ資格がある、と市民が考えることは、市民にとって有益なのだから、国家がこの信念を公言し、国の制度に体現させることは重要である」とミルは論じている。 なぜ、このような趣旨の制度が必要かと言えば、それが実際に知性の確保に役立つばかりではない。無知と知性を同等に扱わないという制度の精神が国民に影響を与えるからである。また、複数投票が与えられるのは少数者に限定されていて、この仕組みで少数者だけで国政を左右することはないと想定されていた。 それでもなお、「善良で賢明な人々」の影響力確保のために、高学歴や知的職業への従事者に複数投票権を認めるというミルの主張を目にすると、おそらく多くの読者は違和感を覚えるだろう。筆者としても、平等選挙の精神を健全に保つためには、不公平感を与えることなしに、すぐれた人の知見を国政に活かす別の方法を探究した方が得策に思える。 その一方で、平等選挙の原則を一貫して重視するのであれば、いわゆる「1票の格差」と呼ばれている今日の事態についても、きちんと答えを出す必要があるとも感じる。そういう意味で、今もなお示唆的な議論だと言えるだろう』、「「善良で賢明な人々」の影響力確保のために、高学歴や知的職業への従事者に複数投票権を認めるというミルの主張を目にすると、おそらく多くの読者は違和感を覚えるだろう。筆者としても、平等選挙の精神を健全に保つためには、不公平感を与えることなしに、すぐれた人の知見を国政に活かす別の方法を探究した方が得策に思える。 その一方で、平等選挙の原則を一貫して重視するのであれば、いわゆる「1票の格差」と呼ばれている今日の事態についても、きちんと答えを出す必要があるとも感じる」、なるほど。
・『他者に対する権力行使である投票を秘密のうちに行うのは正しいのか ミルが「制度の精神」との関連で取り上げているテーマで、もう一つ注目されるのは、秘密投票(バロット)の問題である。 イギリスでは、1872年に秘密投票法が制定されるまで、庶民院や地方自治体の選挙は、自分が支持する候補者の名前を声を出して示すといった方法による公開投票だった。 ベンサムや父親のジェイムズ・ミルなどの哲学的急進派は、公開投票は地元有力者の圧力や買収の温床であり、旧来の地主支配体制を支える柱の一つだとみなし、秘密投票を政治改革の重要な項目の一つとしていた。ミルも、支持の立場を維持していた。 ミルがこの立場を変えたのは、1850年代になってからである。フランス2月革命の後、ルイ・ボナパルトが制度上は民主的な選挙によって大統領に選出されたことが、少なからず影響していると推測される。 ミルによれば、秘密投票は「制度の精神、つまり制度が市民の心に与える印象が、制度の働きの中で最も重要な部分を占める事例の一つ」である。その印象とは、人に知られることなく自分自身のために自分の都合に合わせて投票してよいのだ、という印象である。こうした印象は、投票を私的な権利だとみなす誤解につながる。しかし、投票は権利ではない。それは信託(trust)である。ミルは次のように力説している。) 権利の観念をどう定義し理解するとしても、人は誰も、他者に対して権力を行使する権利を(純粋に法律的な意味を別とすれば)持つことはできない。そうした権力はすべて、持つことが許されるとすれば、道徳的には、最も完全な意味で信託である。ところが、選挙人としてであれ代表としてであれ、政治的な役割を果たすということは、他者に対する権力行使なのである。 自分に権利のある家や債券を処分するとき、自由に思い通り処分してよい。権利の観念とはそうしたものである。投票も、権利であるなら同じように受け止められるだろう。 しかし、投票を家や債券と同様に自由に売ることは許されない。その意味で、投票は特殊な権利だと感じられている。この感覚は、鈍らせるのではなく、いっそう強化する必要がある。 投票の重要な意義は、たしかに自分の利益や自由を不当な侵害から守るのに役立つという点にある。しかし、投票は同時に、他者の未来も左右する。投票は社会全体に対する権力行使になる。 だから、投票は自分だけにかかわる自己決定と自己責任の問題ではなく、社会全体に対して責任を負うべき公共的行為である。投票者は、そうした権力を社会全体から信託されている。だから、投票を売ってはいけないのである。 ミルの考えでは、公開投票であれば、投票者は他者の視線を意識することで、投票の公共的理由について多少は考えざるをえなくなる。申し開きが立たないような利己的で浅ましい理由では、自分の体面が保てなくなるからである。人目を気にしたり見栄を張ったりといった同調志向の心理も、こういう公共的な効用がある場合には、ミルは活用に躊躇しない。 もっとも、公開投票が、ミルの期待しているとおりの効果を持つのかどうか、また、公開投票のメリットは、買収や強要を助長するというデメリットを上回るのかどうかといった点は、状況次第であるように思える。しかし、ここで目を向ける価値があるのは、その点よりも、制度の精神という問題の捉え方である。 投票制度の精神を問題にするとき、ミルが大前提にしていたのは、他者に権力を行使する権利は道徳的には絶対ありえない、という強い信念だった。だから、ミルは法律で定められた権利という文脈を除いて、権利という言葉は使わない。結論で賛否が分かれるとしても、じっくり議論する価値のある重要な問題である』、「投票の重要な意義は、たしかに自分の利益や自由を不当な侵害から守るのに役立つという点にある。しかし、投票は同時に、他者の未来も左右する。投票は社会全体に対する権力行使になる。 だから、投票は自分だけにかかわる自己決定と自己責任の問題ではなく、社会全体に対して責任を負うべき公共的行為である。投票者は、そうした権力を社会全体から信託されている。だから、投票を売ってはいけないのである」、「投票制度」について、ここまで深い考察をしているとはさすがだ。こうした原論的考察の重要性を再認識させられた。
タグ:「「善良で賢明な人々」の影響力確保のために、高学歴や知的職業への従事者に複数投票権を認めるというミルの主張を目にすると、おそらく多くの読者は違和感を覚えるだろう。筆者としても、平等選挙の精神を健全に保つためには、不公平感を与えることなしに、すぐれた人の知見を国政に活かす別の方法を探究した方が得策に思える。 その一方で、平等選挙の原則を一貫して重視するのであれば、いわゆる「1票の格差」と呼ばれている今日の事態についても、きちんと答えを出す必要があるとも感じる」、なるほど。 若者の投票行動が変わると、少なくとも一部の政治家は焦り、一部は迎合しようとし、何らかの影響があるはずだ。また、選挙区によっては、本当に結果が変わるだろう。効果の期待値は、十分大きくはないかもしれないが、ゼロではない。コストは少々の時間と手間だ。逮捕などのリスクはない・・・CMの出演者3人はプロの役者さんなので憎まれ役は平気だろう。しかし、ただ嫌われただけのキャラクターにしておくのは惜しい。それぞれの役者さんが、本当は若者のことを気に掛けていてアドバイスを送るような続編があってもいいのではないか」、なるほど 「若者よ、選挙に行くな」CM 「家計の貸し借りと、国の借金は性質が異なる。国の借金が海外からのものでない限り、国の借金は、例えば国債という資産として国民に保有されていて、これは次世代に相続される。国の借金が、本質的な意味で将来世代の負担になるのは、それが非効率的に使われて、モノや労働力などを含めた広義の資源の無駄になる場合だ」、なるほど。 「若者よ、選挙に行くな」CMのURLはhttps://www.youtube.com/watch?v=RF8I4LHej5E ミルによれば、代表民主政の正しい理解とは、国民の全員が等しく代表され、そのようにして選ばれた代表者たちによって国民全員が統治される、ということである。ところが、国民の中の多数者だけが代表されれば少数者が代表される機会が確保されなくてもよい、という誤った代表民主政のとらえ方が世の中では横行している。 山崎 元氏による「「若者よ、選挙に行くな」CMを支持する」 「『代議制統治論』は1861年4月に公刊された。全部で18章からなる大著で、選挙制度や議会、中央の行政、地方自治、インド統治など、当時のイギリスの政治体制全般にかかわる多様なテーマが取り上げられている。 代表者を選出する選挙人の資格という問題についてミルが行っている議論の中で、特に具体的な制度にかかわる提言を読むと、多くの読者が違和感を抱くかもしれない。 「投票制度」について、ここまで深い考察をしているとはさすがだこうした原論的考察の重要性を再認識させられた。 関口正司氏による「納税額が低いと選挙権ナシ?高学歴なら複数投票OK?超有名思想家が下した結論とは」 「今の感覚では、若い世代こそが憲法を変えたがっている、ということらしい。 確かに、いわゆる「革新」という言葉は近年いかにも古びて聞こえる。全く魅力を感じない。「改革」ならまだ幾らかは新しく、「革新」と言ってしまうと残念なまでに古臭い。ことの良しあしは別として、現在の野党は、こうした感覚の変化に対応しないと、支持世代の老化とともにそのまま衰退してしまいそうだ」、なるほど。 「表現の自由の範囲は、社会が許容できるギリギリまで広げておく方がいい。社会的圧力によってであれ、それを恐れた自主規制によってであれ、表現を制限していると表現力が痩せる。表現力が痩せると、やがては物事を発想する力も細っていく。これは、まことにつまらないことだ。いわゆる「ポリコレ」や「言葉狩り」をやり過ぎすることの最大の弊害だろう」、「文句があるなら、もっとセンスのいい作品を作って対抗すればいい。 平等の原則からミルが強く推奨しているのは、ヘア式投票制である。これは、少数者の代表を応分に確保するために死票をできるだけ減らす工夫をした投票制度である。 選挙人は、自分の代表としたい複数の候補者を、順位をつけて投票する。地元だけでなくどの地域の候補者に投票してもよい。1人の候補者だけに投票してもよい。投票してよい候補者数は技術的問題がなければ無制限でかまわない。 当選票数は、全国の選挙人総数を議員の総定数で割算して出す。自分の投票した候補者の第1位が、自分の票を加算しなくても当選票数に達していれば、第2位 https://www.youtube.com/watch?v=RF8I4LHej5E 「CMは全体を通じて、個人を侮辱するとか、特定の人を傷つけるような内容ではない。それなりの「毒」は盛られているが、注目されないよりも注目される方がいいので、許される範囲だろう。いいCMだったと思うし、続編的な作品にも期待したい」、同感である。 「投票の重要な意義は、たしかに自分の利益や自由を不当な侵害から守るのに役立つという点にある。しかし、投票は同時に、他者の未来も左右する。投票は社会全体に対する権力行使になる。 だから、投票は自分だけにかかわる自己決定と自己責任の問題ではなく、社会全体に対して責任を負うべき公共的行為である。投票者は、そうした権力を社会全体から信託されている。だから、投票を売ってはいけないのである」、 に指名した候補者に票がまわることになる。以下、議員の総定員が満たされるまでこのような割り振りが繰り返される。実際には、見かけほど複雑な仕組みではない」、「死票をできるだけ減らす工夫をした投票制度」とは興味深い。 この誤ったとらえ方では、(1)代表を実質的に選んでいる多数者や選ばれた代表者たちの知的レベルの低さ、(2)多数者による(代表をつうじた)排他的な階級利益(邪悪な利益)の追求という、2つの深刻な弊害は手つかずのまま放置されてしまう。 これらの弊害を防止するためには、あるいは可能な限り軽減するためには、代表民主政の正しい理解に即した制度、つまり平等の原則にもとづいた制度を導入する必要がある・・・ 関口正司『J・S・ミル 自由を探求した思想家』(中央公論新社) 「現状に不満を持っている場合に、若者はどうしたらいいのか。これが次の問題だろう。) 方法としては、ツイッターでのつぶやきから革命まで幅広い手段がある。ただ、行使できる影響力の期待値と手段のコストを考えると、今のところ最も「コスパ」のいい手段は、おそらく同じ意見の持ち主に声を掛けつつ選挙に行くことだろう。 ダイヤモンド・オンライン (その9)(「若者よ 選挙に行くな」CMを支持する、納税額が低いと選挙権ナシ?高学歴なら複数投票OK?超有名思想家が下した結論とは) 民主主義