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ノーベル賞受賞(その8)(「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」、重力波 ヒッグス粒子 ニュートリノ質量 銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」、闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生) [科学技術]

ノーベル賞受賞については、2019年11月23日に取上げた。久しぶりの今日は、(その8)(「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」、重力波 ヒッグス粒子 ニュートリノ質量 銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」、闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生)である。
ノーベル賞受賞については、2019年11月23日に取上げた。久しぶりの今日は、(その8)(「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」、重力波 ヒッグス粒子 ニュートリノ質量 銀河中心の超巨大BHという

先ずは、昨年3月6日付け現代ビジネスが掲載した「サイエンスZERO」20周年スペシャル・取材班による「「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107046?imp=0
・『この宇宙を形づくっているものの中で、「目に見える」物質は全体の5%にすぎないというのをご存じでしょうか。宇宙の物質の大部分は正体不明の物質「ダークマター(暗黒物質)」が占めていると考えないと、宇宙での私たちの存在に説明がつかないことが分かってきたのです。 「質量は持つ」けれど「観測できない」という物質、ということです。それは仮説上の物質で「ダークマター」と名付けられ、いまだに実在が確かめられていません。そこで今、世界中の科学者がこの謎の物質を捉えようと理論や実験を総動員して研究しています。中でも、天文学・物理学・数学といった異分野の専門家たちがこのダークマターに迫ろうとする世界トップレベルの研究所が「カブリ数物連携宇宙機構」です。 その初代機構長を務めた理論物理学者の村山斉さんは、ダークマターが実験で捉えられる可能性が見えてきて、今、研究はかつてないほど“面白い時期”を迎えていると言います。「私たちの“生みのお母さん”である『ダークマター』に会いたい」と語る村山さんに、ダークマター研究の20年、そして今後の展望について伺いました(Qは聞き手の質問、Aは村山氏の回答)』、興味深そうだ。
・ダークマターはたった20年前に存在が判明した  Q:そもそも、ダークマターとはどんなものか、教えてください。 A:ダークマターは、「暗黒物質」とも呼ばれるもので、素粒子という小さな「粒(つぶ)」みたいな物質、またそれが少し集まったものだと考えています。1930年代に、はるか遠くの銀河団を観測した天文学者がいて、その銀河が「激しいスピードでビュンビュン動いている」ということを発見しました。 その銀河が特異に見えたのは、「激しいスピードで動いている」にもかかわらず、そのまま飛び出していってバラバラになってしまわないことでした。そこでその天文学者は、「何か重力を持つ物質がないと、こんなに速く動いている銀河同士をつなぎ留めておくことはできないはず。こんなに速く動いているということは見えない『ダークマター』があるのではないか」と考えたのです。 ところが、当時は単に望遠鏡では見えない星や、ガスの塊があるからではないかというのが常識でした。20年ほど前になってようやく、今まで全く知られていない新しい物質だということが判明したのです』、「ダークマターは、「暗黒物質」とも呼ばれるもので、素粒子という小さな「粒(つぶ)」みたいな物質、またそれが少し集まったものだと考えています」、なるほど。
・『どうしてどの方向にもビッグバンが観測されないのか?  Q:20年前に何があったんでしょうか? A:20年前にビッグバンの名残(残照)を直接観測するための人工衛星WMAP(※1)が上がって、解像度の高い、宇宙誕生初期の写真が撮れるようになりました。その写真には情報がたくさん詰まっていて、宇宙全体の物質のうちダークマターが約8割を占めているというこの宇宙の詳細が明らかになったのです。 そこで初めて、ダークマターと普通の物質は明らかに違うものだということがはっきりしてきました。それまでは、ブラックホールやニュートリノなど、すでに知られているものがダークマターの正体ではないかと考えられていたので、本当に衝撃を受けました。 ※1 ビッグバンを直接観測する人工衛星…2001年にNASA(米航空宇宙局)が打ち上げた「Wilkinson Microwave Anisotropy Probe(通称WMAP)」と呼ばれる宇宙探査機。ビッグバンの名残である「宇宙マイクロ波背景放射」を精密に観測するために打ち上げられた。 Q:ダークマターの存在がはっきりわかったのは、ビッグバンの観測からなんですね? A:はい。宇宙が始まって138億年と言われていますから、138億光年向こうを頑張って観測すると、「あっ、ビッグバンだ」というふうに今でも見えるはずなんです。「あっちを向いてもビッグバンが見える」し、「こっちを向いてもビッグバンが見える」。そういう状況ですね。ですがビッグバンの写真を見るとほとんどのっぺらぼうで、温度の違いは10万分の1しかありません。 ダークマターが存在しない宇宙を考えたとすると、そんなのっぺらぼうみたいな状態だったら、今あるような銀河の塊はできないので、どうしてなのかという問題があったんです。宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです』、「138億光年向こうを頑張って観測すると、「あっ、ビッグバンだ」というふうに今でも見えるはずなんです。「あっちを向いてもビッグバンが見える」し、「こっちを向いてもビッグバンが見える」。そういう状況ですね。ですがビッグバンの写真を見るとほとんどのっぺらぼうで、温度の違いは10万分の1しかありません。 ダークマターが存在しない宇宙を考えたとすると、そんなのっぺらぼうみたいな状態だったら、今あるような銀河の塊はできないので、どうしてなのかという問題があったんです。宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです」、「ビッグバン」で「宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです」、なるほど。
・『ダークマターを探すのは、“私たちのお母さん”だから・・・!  Q:村山さんはなぜダークマターの正体を探し続けているんですか? A:ダークマターっていうのは未知の物質なのでちょっと気持ち悪い感じがするかもしれませんが、実は“私たちのお母さん”なんです。 簡単に例えると初期の宇宙では、大きな質量を持ったダークマターが少しずつ重力で引っ張り合いながら固まってきます。そしてダークマターの塊ができたところに、今度はその重力によって原子でできたガスを引きずり込んできます。さらに、そのガス同士が反応して、ぶつかって熱くなって光を出します。するとそれが冷えて固まり星ができ、銀河ができてきます。その中に私たちができてくるんです。 だから、ダークマターは本当に私たちの“生みのお母さん”なんです。 「私たちはどこから来たんだろう?」それが知りたいです。それに、ダークマターからお母さんが生まれた当時の環境が見えてきます。私は、ダークマターが生まれた時期は、宇宙が始まってから100億分の1秒ぐらいのビッグバンの直後だと思っています。始まったばかりの宇宙の姿も見えてくるという意味で、ダークマターはすごく私たちにたくさんのことを教えてくれると思っています。一度ぜひ会ってみたいですね。 後編『重力波、ヒッグス粒子、ニュートリノ質量、銀河中心の超巨大BHという発見が続々…「素粒子物理の夢」の時代にトップランナーが語る「夢のその先」』では、実際に村山さんがダークマターにどうアプローチを試みたのか? を中心に紹介します。「サイエンスZERO」20周年スペシャル 3月26日(日)夜11:30 NHK Eテレ 』、「ダークマターが生まれた時期は、宇宙が始まってから100億分の1秒ぐらいのビッグバンの直後だと思っています」、なるほど。

次に、3月6日付け現代ビジネスが掲載した「サイエンスZERO」20周年スペシャル・取材班による「重力波、ヒッグス粒子、ニュートリノ質量、銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107049?imp=0
・『この宇宙の物質には「目に見える」ものが全体の5%しかないことをご存じでしょうか。「質量は持つ」けれど「観測できない」という宇宙の大部分を占める物質は、「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれています。今、世界中の科学者がこの謎の物質を捉えようと理論や実験を総動員して研究しています。 天文学・物理学・数学といった異分野の専門家たちが集まる世界トップレベルの研究所「カブリ数物連携宇宙機構」の初代機構長を務めた宇宙物理学者の村山斉さんは、ダークマターを「我々人類のお母さん」と呼びました。前編『「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」』でその理由を伺いました。 後編では、今後の展望について伺います』、興味深そうだ。
・『「見えない物質をどう追いかける」か?  ―見えないダークマターをどうやって探すのでしょうか? 私の研究のスタイルは、探し方を考える前に、ダークマターは「どういう可能性がある物質なのか」についていろいろな仮説を立てることから始めます。その次に、どうやったら探せるのかを考えます。 例えば、今考えている仮説に「SIMP(シンプ)(※1)」というものがありますが、SIMPはこういう考え方だから多分物質にはこういう力が働くので、こうやったら捕まえられるだろうという提案をします。それを具体的にやってみるために、実験が専門の人と相談しながら、道具や装置、使う物質について詰めていきます。こうして実際に装置を作ってやってみようという段階になる。そして実験データをためて、検証していくことになります。 ※1 SIMP…Strongly Interacting Massive Particleの略で、強い相互作用をする素粒子。村山さんたちの研究グループが2015年に提唱したダークマターの候補物質。 Q:実際に「ダークマターの候補」SIMPを探す計画はあるのでしょうか? A:はい。つくば市の高エネルギー加速器研究機構にあるSuperKEKB(※2)という、全周3kmぐらいの大きさの、電子をぐるぐる回す加速器という装置があるんですが、この装置でSIMPが作れる可能性があるということが分かってきました。 この装置はもともと、ノーベル賞を受賞された小林先生、益川先生が作られた小林益川理論(※3)を超える理論を探したいという目的で作られた実験装置でしたが、それをうまく利用することでダークマターを探せる可能性もあるんです。全く新しい装置を作るのは時間もお金も人手も多くかかって大変なので、すでにある装置をうまく使う、そういうアイデアをたくさん考えるのも研究者の仕事のひとつです。 ※2 SuperKEKB加速器…エネルギーの高い電子と陽電子を衝突させて、衝突後に生成される素粒子を測定する「Belle II(ベル・ツー)実験」に使う実験装置。現在の素粒子物理学の基盤である「標準理論」を超える結果が得られると期待されている。 ※3 小林益川理論…当時京都大学に所属していた小林誠氏と益川敏英氏によって1973年に提唱された理論。宇宙の始まりであるビッグバンでは「物質」と「反物質」が同じ量だけ作られたと考えられているが、現在の宇宙には「物質」のほうがはるかに多く存在している。その理由は、クォークと呼ばれる素粒子が6つあれば説明できるというのが小林益川理論。当時はまだ3つしかクォークは見つかっておらず、6つのクォークを予言したこの理論は驚くべきものだった。その後、実験でこの理論が確かめられたことにより、小林、益川両氏には2008年にノーベル物理学賞が贈られた』、「もともと、ノーベル賞を受賞された小林先生、益川先生が作られた小林益川理論(※3)を超える理論を探したいという目的で作られた実験装置でしたが、それをうまく利用することでダークマターを探せる可能性もあるんです。全く新しい装置を作るのは時間もお金も人手も多くかかって大変なので、すでにある装置をうまく使う、そういうアイデアをたくさん考えるのも研究者の仕事のひとつです」、これが有効活用できれば、望ましい。
・『干し草の山から針一本をふるいにかけるソフトウェア  Q:SIMPを探す実験はいつから行うのでしょうか? A:実験自体は、今ある装置でもできるはずですが、解析をするためのソフトウエアがまだできていないんです。どんなにいい装置があっても、膨大なデータの山から欲しいものを引き出すのがすごく大変です。 例えて言えば、「干草の山の中から針1本を引っ張り出す」ようなもの。干し草と針を分けるためには、干草は通り抜けるけど針は引っかかる、というふるいを作らないといけないんです。そのふるいに当たるものが、コンピューターのソフトウエアなんですが、これを作るのはそう簡単なことではありません。 SIMPの実験に使うソフトウエアもそろそろできるとは思いますが、その後、実験装置に組み込んでいくので、実験開始にはもう少し時間がかかると思っています。具体的には、実験観測データが出始めるのは、来年の終わりか再来年くらいになるかと思います。 Q:SIMP以外にもダークマターの候補となる物質はあるんですか? A:10年くらい前まではWIMP(※4)という物質がダークマターの有力候補だったので、みんなそればかり一生懸命探していました。それが最近、ほかの候補も探してみようというアイデアがたくさん出てきたんです。実際に探してみたら、「あった!」ということになるかもしれないですから、今、本当に面白い時期になってきたと思っています。 日本ではSIMPのほかに、「アクシオン」という軽い粒子がダークマターの可能性があると考えて、重力波望遠鏡KAGRA(※5)を使って検出する研究も進めています。 ※4 WIMP…Weakly Interacting Massive Particleと呼ばれるダークマターの有力候補物質。重力相互作用と弱い相互作用のみ働くものと考えられている。 ※5 重力波望遠鏡KAGRA…岐阜県飛騨市神岡町にある重力波を検出するための望遠鏡。重力波の初検出は、アメリカのLIGOが2016年に初めて成功したが、そのLIGOとイタリアのVirgoとKAGRAの3つで国際重力波ネットワークをつくり、重力波がどの天体から来たのか、その源を探る研究が進んでいる』、「10年くらい前まではWIMP(※4)という物質がダークマターの有力候補だったので、みんなそればかり一生懸命探していました。それが最近、ほかの候補も探してみようというアイデアがたくさん出てきたんです。実際に探してみたら、「あった!」ということになるかもしれないですから、今、本当に面白い時期になってきたと思っています」、なるほど。
・『素粒子物理学にとって夢のような20年間の成果  Q:いろいろ手を尽くした結果、ダークマターの正体がわからないということもあるのでしょうか? A:理論的にはありえます。そうなると、とても悲しいですね。でも、科学者というのはなんとかして分かりたいと思って、あちこちに手を出す、そういう人たちなんです。もしかしたら永遠に分からないかもしれないと思っていても、手を出した瞬間に捕まえちゃう可能性もあるので、だったらやってみた方が得じゃないかと、そういう発想をするんです。そうやっていくうちに、科学が進歩していくのではないかとも思っています。 Q:この20年の科学の進歩はどう見ていますか? A:素粒子や宇宙の研究にとってはものすごく華々しい20年間でした。重力波(※6)も見つかりましたし、ヒッグス粒子(※7)も見つかりました。それからニュートリノに重さがあるという研究(※8)や、宇宙の歴史をちゃんと理解したという理論にノーベル賞(※9)が出たのもこの20年間でした。それから銀河系の中心に太陽の400万倍もあるブラックホールも発見されました(※10)。本当に今、技術の進歩やコンピューターの進歩のおかげで科学がググって伸びているのを感じられて、この時代に生きていてよかったなと思います。 ※6 重力波…アインシュタインが一般相対性理論で予言していた現象。2016年にアメリカのLIGOが初検出に成功。その功績により、レイナー・ワイス氏、バリー・バリッシュ氏、キップ・ソーン氏が2017年にノーベル物理学を受賞した。 ※7 ヒッグス粒子…宇宙が誕生して間もないころに、他の素粒子に質量を与えたとされる粒子。1964年にイギリスの物理学者ピーター・ヒッグス氏が提唱した理論に登場。CERN(欧州合同原子核研究機関)で行われた実験によって2012年に実際に確認され、2013年にはピーター・ヒッグス氏とフランソワ・アングレール氏が「素粒子の質量の起源に関する機構の理論的発見」をしたことにより、ノーベル賞を受賞した。 ※8 ニュートリノ研究にノーベル賞…2015年のノーベル物理学賞が「ニュートリノ振動の発見により、ニュートリノに質量があることを示したこと」で梶田隆章氏とアーサー・マクドナルド氏に贈られた。 ※9 宇宙の歴史を理解した理論にノーベル賞…2019年にノーベル賞を受賞したジェームズ・ピーブルズ氏は、宇宙の始まりである「ビッグバン」が起きた直後から現在までの宇宙の進化の様子を理論的に研究するうえで大きな貢献をしたことなどが評価された。 ※10 銀河中心に太陽の400万倍のブラックホール発見…2022年、国立天文台など80機関が参加する国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」が、天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールの撮影に初めて成功した』、「素粒子や宇宙の研究にとってはものすごく華々しい20年間でした。重力波(※6)も見つかりましたし、ヒッグス粒子(※7)も見つかりました。それからニュートリノに重さがあるという研究(※8)や、宇宙の歴史をちゃんと理解したという理論にノーベル賞(※9)が出たのもこの20年間でした。それから銀河系の中心に太陽の400万倍もあるブラックホールも発見されました(※10)。本当に今、技術の進歩やコンピューターの進歩のおかげで科学がググって伸びているのを感じられて、この時代に生きていてよかったなと思います」、進歩を実感できるのは幸せだ。
・『自分の最初は何か、どこから来たのかという疑問  Q:村山さんが科学に興味を持ったのはいつでしょうか。 A:私たちはどこから来て、なぜ存在しているのだろうということを、たぶんみんな小さい頃に考えると思うんですよ。特に田舎に旅行に行って、夏の夜空をボーっと見て星がいっぱいあるのを見たとき、自分って何だろうなと思ったりすると思うんですよね。 そういうことを考えていると、自分たちの体を作っている原子は、実は星の爆発で散りばめられた塵(ちり)なんだ、自分は星から来たんだなということが分かるんですね。じゃあ星はどこからできたんだろうかと考えると、ダークマターがないと星ができないことを知り、じゃあダークマターはどうやって星を作ったのだろう、そうやってどんどんさかのぼっていくと、宇宙の始まりに行き着いちゃうんですよね。だから本当に最初は自って何だろう。どこから来たんだろうなっていう素朴な疑問から始まったんだと思います。 Q:その疑問を持ち続けて、今があるんでしょうか。 A:高校時代は、中学時代にロックを聴くようになった影響でバンドをやったり、体を鍛えようとラグビー部に入ったりして、あまり勉強をしていませんでした。最初の模擬試験の成績は、物理の点数が40点でしたから、これではいけないと思って、高校3年になってから突貫工事で勉強をした感じです。 大学にはミクロな素粒子を勉強しようと思って入ったのですが、大学院が終わった頃に転機が来ました。小さい素粒子の世界と大きな宇宙が結びつく大発見があったんです。その発見をしたのは、アメリカのバークレーの同僚のジョージ・スムートさん(※11)たちで、はるか遠くの宇宙を見ることでビッグバン直後の小さかったときの宇宙が見えてきました。 大きいものと小さいものが結びついているということが、私の頭の中で初めてつながった瞬間でした。子どもの頃から漠然と思っていた疑問と、今までやってきた研究がひとつになり、「あっ、これは面白い!」とますます研究にのめり込んでいきました。 ※11 ジョージ・スムート氏…カリフォルニア大学バークレー校物理学教授。1989年にNASA(米航空宇宙局)が打ち上げた人工衛星COBEによる観測で主導的な役割を果たし、ビッグバンの名残の熱のゆらぎである宇宙マイクロ波背景放射を初めて観測。その功績により、2006年にジョン・マザー氏とともにノーベル物理学賞を受賞。 Q:今後、この分野の研究はどのように進んでいくのでしょうか? A:実験観測の技術とそれを解析するコンピューター、理論的な予言をするためのシミュレーションが、今、三つ巴でどんどん進歩していますから、やるべきことがはっきりして、あとはやるばかりになってきています。ただ、必要な実験装置の規模も大きくなってきているので1人ではできません。もしかしたら100人でもできないかもしれない。でも、世界中から研究者を集めて、1000人だったらできるかもしれない。そういうふうに、もっといい装置、いい観測、いい実験をしようという動きが大きくなってきているので、これからいろいろな進歩が出てくるのを期待しています。 「サイエンスZERO」20周年スペシャル 3月26日(日)夜11:30 NHK Eテレ 』、「もっといい装置、いい観測、いい実験をしようという動きが大きくなってきているので、これからいろいろな進歩が出てくるのを期待しています」、幸せな科学者人生だ。

第三に、昨年12月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの池上 彰氏と増田ユリヤ氏による「闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生」を紹介しよう。
・『12月10日にノーベル賞授賞式が開催される。ジャーナリストの池上彰氏は「今年の注目はなんといっても、生理学・医学賞を受賞した研究者、カタリン・カリコさん」という。以前からカリコ氏を取材してきた増田ユリヤ氏がカリコ氏の素顔を明かした』、興味深そうだ。
・『10年かかるワクチン開発を半年で実用化  池上 今年も12月10日にノーベル賞授賞式が開催されます。今年の注目はなんといっても、生理学・医学賞を受賞した研究者、カタリン・カリコさんです。メッセンジャーRNA(mRNA)を使った新しい手法で、新型コロナワクチンの開発に貢献しました。 増田 通常であればワクチンの開発には10年かかるところを、半年で実用化にこぎ着けられたのは、カリコさんの40年にもわたるmRNAの研究成果あってこそ、とその功績が評価されました。 mRNAは、体の設計図であるDNAの情報をコピーして細胞内に届ける役割を担っていて、こうして届けられた設計図のコピーを基にタンパク質が作られます。コロナウイルスの表面の突起もタンパク質でできているため、その情報を人工的にコピーして作ったのがmRNAワクチンです。 アイデア自体は以前からあったのですが、mRNAが体内に入る場合に起きる炎症反応を抑えることができず、専門家の間では「実用化は無理だろう」とみられていました。 池上 挫折し、諦めた研究者も少なくなかったとか』、「通常であればワクチンの開発には10年かかるところを、半年で実用化にこぎ着けられたのは、カリコさんの40年にもわたるmRNAの研究成果あってこそ」、「mRNA」の効用は素晴らしい。
・『降格処分や研究資金の打ち切り  増田 カリコさんは「mRNAが多くの命を救う医学に貢献できるはずだ」と信じて諦めず、研究資金を打ち切られたり、大学で降格処分を受けたりする困難に立ち向かいながら粘り強く研究を続けてきました。実用化につながる論文を共同研究者のドリュー・ワイスマン教授と発表したのが、2005年。 その後、カリコさんは独ビオンテックに移籍し、ジカ熱ワクチンやインフルエンザワクチンの開発に携わっていたので、コロナワクチンも半年で実用化できた。大学で研究した蓄積と、製薬会社での実用化の経験が奏功したのです。 池上 ビオンテックはドイツのトルコ系移民が設立した会社で、カリコさんのようにハンガリーから米国に渡って研究を続けてきたような優秀な人たちを受け入れています。 増田 カリコさんはビオンテックに移籍して、ハンガリー時代に一緒に研究していた人たちと再会しています。信念を持った優秀な人たちを集め、研究部門以外のスタッフも研究者でそろえています。 池上 増田さんはカリコさんに以前から取材されていますね。) ▽米ソ冷戦期にソ連圏からの渡米(増田 コロナ禍当初に出演したあるテレビ番組でカリコさんを2~3分で紹介するコーナーがあったのですが、そのときに「どうしてもカリコさんにお話を聞きたい!」と思い立ち、取材しました。そして21年10月に『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』を上梓しました。 カリコさんの研究に対する信念は本当に強いのですが、偉ぶることもなく、堂々と自分の考えていることを言葉にされる方です。ロックミュージックが大好きで、「研究はロックと一緒」とも言っていました。 カリコさんは1955年、ハンガリーで生まれ、子供の頃から自然や科学に興味を持ち、23歳のときに大学院へ進み、RNAの研究を始めます。30歳のときに所属していた研究機関で研究資金を打ち切られたことで米国へ渡ることを決意しますが、85年当時のハンガリーはソ連の支配下にあり、米国への移住はそう簡単にはいきませんでした。 池上 まだ米ソ冷戦期ですから、ソ連圏からの渡米となれば、亡命する人も多かった時代です』、「カリコさんは「mRNAが多くの命を救う医学に貢献できるはずだ」と信じて諦めず、研究資金を打ち切られたり、大学で降格処分を受けたりする困難に立ち向かいながら粘り強く研究を続けてきました」、そこまでの困難を乗り越えたとは初めて知った。
・『一家の生活を繋いだテディベア  増田 研究仲間の中にも亡命という手段を取った人がいましたが、カリコさんは家族と会うためにハンガリーとの間を行き来できる状態にしたいと考え、八方手を尽くし、米テンプル大学のポストドクターの座を得て、正規に出国許可を得ることができたそうです。 しかし当時のハンガリーでは、100ドルを超える外貨の持ち出しが禁止されていました。当時の日本円でわずか2万円程度。これだけ持って米国に渡っても、最初の給料が出るまでは住む所もありません。そこでカリコさんは闇市で自家用車を売って外貨に換え、娘が大事に持っていたテディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国したんです。そのテディベアも取材時に見せてもらいましたが、まだ大事に娘さんの部屋に飾ってありました。 池上 一家の生活をつないだ縫いぐるみですから、家宝ものですね』、「米テンプル大学のポストドクターの座を得て、正規に出国許可を得ることができたそうです。 しかし当時のハンガリーでは、100ドルを超える外貨の持ち出しが禁止されていました。当時の日本円でわずか2万円程度。これだけ持って米国に渡っても、最初の給料が出るまでは住む所もありません。そこでカリコさんは闇市で自家用車を売って外貨に換え、娘が大事に持っていたテディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国したんです」、「テディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国」とは当時は必死だったのだろう。
・『受賞した賞金は大学や研究機関に寄付  増田 その後も研究が評価されず、研究資金の打ち切りや降格など、さまざまな苦労をされるのですが、ワクチン開発で一躍脚光を浴び、ノーベル賞受賞前にも各国のさまざまな賞を受賞しています。しかしぜいたくには全く関心がなく、こうした賞を受賞した際に得た賞金は、母国ハンガリーの大学をはじめ、研究機関に寄付したそうです。 カリコさんは85年に米国へ移住した際に住み始めた家に、今も住んでいます。家具は夫のベーラ・フランシアさんの手作り。古い物を大事にする、質素な暮らしぶりがうかがえますよね。ノーベル賞受賞が決まって、ようやく新車を買ったとか。その話をした際に、カリコさんが「夫も新しくしていないでしょう?」と冗談を言ったのが印象的でした。 池上 エンジニアだったフランシアさんはほとんど表に出てきませんが、カリコさんの研究を熱心に支えたんですよね。ノーベル賞受賞時に取材を受けたカリコさんのコメントも象徴的でした』、夫である「エンジニアだったフランシアさんはほとんど表に出てきませんが、カリコさんの研究を熱心に支えたんですよね」、なるほど。
・『妻と娘の世界的活躍を支える「内助の功」も世界レベル  増田 「いい研究をするためには、研究に協力してくれるいい夫を見つけることが必要だ」と(笑)。フランシアさんは早朝5時にカリコさんを研究室へ送り、その後に娘を学校へ送る。夕方に娘さんとカリコさんをピックアップして、自分は夜中に働くという生活を続けてこられたそうです。 実は2歳のときにテディベアを抱えて国境を渡った長女のスーザンさんも、オリンピックの金メダリストなんですよ。米国代表のボート競技選手として、08年の北京、12年のロンドンと2大会連続で出場。両大会で金メダルを獲得しています。 池上 妻と娘の世界的活躍を支えるフランシアさんの「内助の功」も世界レベルですね。 さて、ノーベル賞受賞者と言えば「蛙跳び」です。受賞者は授賞式で講演を行った後、ストックホルムの大学生有志による懇親会に参加するのですが、そこで学生と一緒に受賞者が蛙跳びを披露するという伝統があるのです。19年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんは高齢を理由に深夜の懇親会を辞退されたそうですが。 増田 長く研究を続け、厳しい境遇に耐える精神力と体力を持っているカリコさんなら楽々こなせそうです』、「フランシアさんは早朝5時にカリコさんを研究室へ送り、その後に娘を学校へ送る。夕方に娘さんとカリコさんをピックアップして、自分は夜中に働くという生活を続けてこられたそうです・・・長女のスーザンさんも、オリンピックの金メダリスト・・・妻と娘の世界的活躍を支えるフランシアさんの「内助の功」も世界レベルですね」、「フランシアさんの「内助の功」もまさに世界レベル」、その通りだ。
タグ:ダークマターが存在しない宇宙を考えたとすると、そんなのっぺらぼうみたいな状態だったら、今あるような銀河の塊はできないので、どうしてなのかという問題があったんです。宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです」、「ビッグバン」で「宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです」、なるほど。 「138億光年向こうを頑張って観測すると、「あっ、ビッグバンだ」というふうに今でも見えるはずなんです。「あっちを向いてもビッグバンが見える」し、「こっちを向いてもビッグバンが見える」。そういう状況ですね。ですがビッグバンの写真を見るとほとんどのっぺらぼうで、温度の違いは10万分の1しかありません。 「ダークマターは、「暗黒物質」とも呼ばれるもので、素粒子という小さな「粒(つぶ)」みたいな物質、またそれが少し集まったものだと考えています」、なるほど。 「サイエンスZERO」20周年スペシャル・取材班による「「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」」 それから銀河系の中心に太陽の400万倍もあるブラックホールも発見されました(※10)。本当に今、技術の進歩やコンピューターの進歩のおかげで科学がググって伸びているのを感じられて、この時代に生きていてよかったなと思います」、進歩を実感できるのは幸せだ。 「素粒子や宇宙の研究にとってはものすごく華々しい20年間でした。重力波(※6)も見つかりましたし、ヒッグス粒子(※7)も見つかりました。それからニュートリノに重さがあるという研究(※8)や、宇宙の歴史をちゃんと理解したという理論にノーベル賞(※9)が出たのもこの20年間でした。 「10年くらい前まではWIMP(※4)という物質がダークマターの有力候補だったので、みんなそればかり一生懸命探していました。それが最近、ほかの候補も探してみようというアイデアがたくさん出てきたんです。実際に探してみたら、「あった!」ということになるかもしれないですから、今、本当に面白い時期になってきたと思っています」、なるほど。 「もともと、ノーベル賞を受賞された小林先生、益川先生が作られた小林益川理論(※3)を超える理論を探したいという目的で作られた実験装置でしたが、それをうまく利用することでダークマターを探せる可能性もあるんです。全く新しい装置を作るのは時間もお金も人手も多くかかって大変なので、すでにある装置をうまく使う、そういうアイデアをたくさん考えるのも研究者の仕事のひとつです」、これが有効活用できれば、望ましい。 「サイエンスZERO」20周年スペシャル・取材班による「重力波、ヒッグス粒子、ニュートリノ質量、銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」」 「テディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国」とは当時は必死だったのだろう。 「ダークマターが生まれた時期は、宇宙が始まってから100億分の1秒ぐらいのビッグバンの直後だと思っています」、なるほど。 現代ビジネス (その8)(「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」、重力波 ヒッグス粒子 ニュートリノ質量 銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」、闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生) 「カリコさんは「mRNAが多くの命を救う医学に貢献できるはずだ」と信じて諦めず、研究資金を打ち切られたり、大学で降格処分を受けたりする困難に立ち向かいながら粘り強く研究を続けてきました」、そこまでの困難を乗り越えたとは初めて知った。 「通常であればワクチンの開発には10年かかるところを、半年で実用化にこぎ着けられたのは、カリコさんの40年にもわたるmRNAの研究成果あってこそ」、「mRNA」の効用は素晴らしい。 ノーベル賞受賞 「フランシアさんは早朝5時にカリコさんを研究室へ送り、その後に娘を学校へ送る。夕方に娘さんとカリコさんをピックアップして、自分は夜中に働くという生活を続けてこられたそうです・・・長女のスーザンさんも、オリンピックの金メダリスト・・・妻と娘の世界的活躍を支えるフランシアさんの「内助の功」も世界レベルですね」、「フランシアさんの「内助の功」もまさに世界レベル」、その通りだ。 夫である「エンジニアだったフランシアさんはほとんど表に出てきませんが、カリコさんの研究を熱心に支えたんですよね」、なるほど。 池上 彰氏と増田ユリヤ氏による「闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生」 ダイヤモンド・オンライン 「もっといい装置、いい観測、いい実験をしようという動きが大きくなってきているので、これからいろいろな進歩が出てくるのを期待しています」、幸せな科学者人生だ。
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科学技術(その2)(中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!、「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」、「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK) [科学技術]

科学技術については、2020年11月13日に取上げた。今日は、(その2)(中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!、「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」、「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK)である。

先ずは、2022年2月7日付けSoraeが掲載した「中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!」を紹介しよう。
https://sorae.info/space/20220206-artificial-sun.html
・『いわば「人工太陽」とも呼ぶべき核融合炉が完成すれば、人類は無限のクリーンエネルギーを手にすることができるかもしれません。 中国科学院等離子体物理研究所は、同研究所が開発・運用する全超伝導トカマク型核融合実験装置(EAST)が、摂氏約7千億度という高温のプラズマを1,056秒間持続することに成功したと発表しました。この持続時間は、トカマク型による高温プラズマの持続時間としては世界最長となります。EASTは2006年に運用が始まった実験装置で、2022年6月の運用終了までに1兆ドル以上の費用がかかると予想されています。 人工太陽とは、太陽など主系列星の内部で発生する核融合を人工的に再現する装置や施設のこと。核融合とは、水素など軽い原子の原子核同士が結合し、ヘリウムのような重い原子核を生成する反応を指します』、「トカマク型核融合実験装置(EAST)が、摂氏約7千億度という高温のプラズマを1,056秒間持続することに成功・・・この持続時間は、トカマク型による高温プラズマの持続時間としては世界最長」、なるほど。
・『【▲太陽の内部における水素の核融合反応を示した概念図(Credit: EUROfusion)】 核融合反応はエネルギーの発生を伴うので、このエネルギーを発電に利用するための研究が進められてきました。石炭や石油を燃やす火力発電とは異なり、核融合を利用する発電では温室効果ガスが放出されないため、クリーンなエネルギーだと考えられています。 ところが、地球の約33万倍もの質量を持つ太陽の内部のような核融合が起きる条件を地球上で人工的に模倣するのは難しく、約1,500万度ある太陽の中心部と比べて約6倍もの高温が必要だといいます。 原子核同士が核融合を起こす環境を人工的に再現したものとしては、ロシア(当時のソビエト連邦)の科学者Natan Yavlinsky氏が1958年に設計した「トカマク型」と呼ばれる型式の核融合炉「T-1」が知られています。トカマク型は強力な磁場をもつドーナツ状の核融合炉のなかで、プラズマを封じ込める仕組みになっているようです。 ロシアが開発した「T-1」以降も様々な核融合実験装置が作られましたが、装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しませんでした。 【▲トカマク型核融合実験装置の概念図(Credit: EFDA-JET(現在のEUROfusion))】 中国が今回実施した実験は、南フランスで建設中の核融合実験炉ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)のための技術を検証するために実施された模様です。ITERはプラズマを閉じ込めるために地球磁場の約28万倍も強力な磁場を生成できるといいます。このプロジェクトには、EUやイギリス、中国、インド、米国など35ヵ国が共同で参加し、2025年に登場すると見込まれています。 一方、現在EASTで実験を実施した中国自身も、ITERとは別の核融合炉の開発を独自に行っているようです。磁場ではなく慣性によってプラズマを封じ込める「慣性核融合炉」の実験の実施計画や、別のトカマク型核融合炉の完成を2030年代初頭までに目指すなど、新たな核融合炉の開発を進めている模様です』、「地球の約33万倍もの質量を持つ太陽の内部のような核融合が起きる条件を地球上で人工的に模倣するのは難しく、約1,500万度ある太陽の中心部と比べて約6倍もの高温が必要・・・原子核同士が核融合を起こす環境を人工的に再現したものとしては、ロシア(当時のソビエト連邦)の科学者Natan Yavlinsky氏が1958年に設計した「トカマク型」と呼ばれる型式の核融合炉「T-1」が知られています。トカマク型は強力な磁場をもつドーナツ状の核融合炉のなかで、プラズマを封じ込める仕組みになっているようです。 ロシアが開発した「T-1」以降も様々な核融合実験装置が作られましたが、装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しませんでした・・・現在EASTで実験を実施した中国自身も、ITERとは別の核融合炉の開発を独自に行っているようです。磁場ではなく慣性によってプラズマを封じ込める「慣性核融合炉」の実験の実施計画や、別のトカマク型核融合炉の完成を2030年代初頭までに目指すなど、新たな核融合炉の開発を進めている模様」、まだ「装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しません」、これでは陽の目を見るのはかなり先になりそうだ、

次に、本年3月25日付け現代ビジネス「「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」」を紹介しよう。
・『「『サイエンスZERO』20周年スペシャル」取材班  「ゼロから分かりやすく科学を伝えたい」と2003年に始まった「サイエンスZERO」がまもなく放送20年を迎えます。787回に上る放送回数とあらゆる分野の最新科学研究をディープに伝えてきた節目を記念し、日本のサイエンス各分野の著名な研究者や番組ナビゲーターにこの20年を振り返ってもらうインタビューを行いました。そこで飛び出してくる驚きの言葉や知見、未来への警鐘とは―。(放送は「サイエンスZERO」20周年特別番組:3月26日(日)夜11:30~ NHK Eテレ) 「『第四次産業革命』の真っただ中を生きてきたっていう印象がある。そこでいかに正しい情報発信ができるかを考えながら、常に最先端のことを勉強しながら20年を生きてきた」 そう語るのは、2012年から2018年まで「サイエンスZERO」のナビゲーターを務めたサイエンス作家の竹内薫さんです。 難解な科学について、比喩を交えながら分かりやすく解説する竹内さんは、これからの時代はますます科学が果たす役割が大きくなるだろうと言います。「科学者にとっても貴重な番組」と感じたサイエンスZEROの印象的な回を振り返るとともに、「この20年の科学」そして「これから20年の科学」を語り尽くします(Qは聞き手の質問、Aは竹内氏の回答)』、「サイエンスZERO」は私の好きな番組で視聴していた。
・『科学者にとっても「貴重な番組」  Q:サイエンスZEROが20周年なのですが、振り返るといかがでしょうか? A:もう卒業して5年も経っちゃったんですね。サイエンスZERO、20周年。率直にすごいな、と思います。日本って科学技術立国と言っているわりには、みんな科学にあまり興味がないんじゃないかと感じるんですよ。科学書がそれほど売れるわけじゃないし、科学雑誌もあまりないですよね。そんな中で20年間、放送媒体で地道にずっと伝え続けるのはすごく大変なことだなと思います。Q:印象に残っている回はなんでしたか? A:一番印象に残っているのは、「iPS細胞」の山中伸弥先生がノーベル賞を受賞した直後に、京都までインタビューに伺ったことです(※1)。急遽スタッフの人と相談をして、取材ができるかどうかも全然分からない状況から始めて、台本を作って、みんなで新幹線に乗って行ったのをよく覚えています。山中先生が「サイエンスZEROという番組は貴重な番組だ」ということをおっしゃってくださって、ノーベル賞を受賞される前からサイエンスZEROにご出演されていたこともあるからか、私たちのインタビューの時間を他の取材の人たちより長く取ってくださったのが印象的でしたね。 Q:あのインタビューの裏にはそういうことがあったんですね。 A:やっぱり、科学者の方が直接一般の方に語りかける場があんまりないんですよ。シンポジウムや本を書いて伝える方法も確かにあるんだけど、映像として凝縮された状態で非常に効率よく正しいことを教えられる。そういう番組って他にないと思うんですね。だから科学者にとってもすごく貴重なのではないでしょうか。 ※1 サイエンスZERO「速報ノーベル賞!iPS細胞 その舞台裏」(2012年10月14日放送)。ノーベル賞の発表が10月8日で、インタビューは11日。そして、14日に放送という強行スケジュールだった』、かなり綱渡り的ナスケジュールだ。
・『「科学を伝える」ために専門用語を使わず、比喩を使う  Q:番組ナビゲーターとして心がけていたことはありますか? A:ナビゲーターとして、というかサイエンス作家として心がけているのは、専門用語をなるべく使わないことです。専門用語を使わないと、専門家のサークルからはなんでちゃんと専門用語を使わないんだって叱られるんですけれども、そこはあえて普通の言葉に言い換える。あと、比喩も使います。専門家の方は、誤解されるおそれがあるので比喩はあまり使わない方がいいとおっしゃるんですが、僕は科学を伝える人間なので、その伝え方の一つの技術として使うと効果的だと思っています。 サイエンスZEROをやっているときも伝え方を考える機会が結構あって、収録の前の台本打ち合わせが大変だった回が印象に残っています。例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました。 そのときは今と状況が違って、まだブラックホールが可視化されていなくて、「ブラックホール候補」でした。だから、そういった言葉づかいを含めてちゃんと科学的に伝えないといけないという科学者のスタンスと、分かりやすく伝えようとする番組側のスタンスがぶつかり合って、丁々発止のやり取りがありました。でも、最終的に放送された番組を見ると、「あれ?結構きれいにまとまっているな、結果的にはいい番組になったな」と思いましたね』、「収録の前の台本打ち合わせが大変だった回が印象に残っています。例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました・・・例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました。 そのときは今と状況が違って、まだブラックホールが可視化されていなくて、「ブラックホール候補」でした。だから、そういった言葉づかいを含めてちゃんと科学的に伝えないといけないという科学者のスタンスと、分かりやすく伝えようとする番組側のスタンスがぶつかり合って、丁々発止のやり取りがありました。でも、最終的に放送された番組を見ると、「あれ?結構きれいにまとまっているな、結果的にはいい番組になったな」と思いましたね」、なるほど。
・『CGのセットで「目に見えない現象」を見せる工夫も  Q:他にも印象に残った番組はありますか? A:「ヒッグス粒子」が見つかったすぐあとに特集した回ですね(※2)。僕は大学院の時にヒッグス粒子の現象論というものを勉強していたんです。 現象論というのは、理論を使ってこういう実験をすればヒッグス粒子が検出できますよというシミュレーションをやるというもので、ある意味一番日が当たらない分野。つまり、派手な理論でもないし最終的にはノーベル賞がもらえるような実験とも違うわけです。こういう理論があるので、我々はそれを使ってシミュレーションをやりました。だからこういう実験をやってくれれば、恐らくそれはちゃんと検出できますよ、みたいなアドバイスを実験家の方にする研究なんですね。 なので、実際に発見されたということですごく印象に残っているし、CGのセットを使って、「ヒッグス粒子っていうけど、本当は『ヒッグス場』。電磁場と同じように場の概念が重要」という、科学者がイメージしているものをそのまま伝えられたことも印象に残っています。すごく工夫したな、と思いますね。 ※2 サイエンスZERO「ヒッグス粒子!素粒子の不思議ワールドへの招待」(2012年9月2日放送)。2012年7月4日、CERN(欧州原子核研究機構)の2つの実験グループが、素粒子物理学の標準理論で最後まで見つかっていなかった「ヒッグス粒子」を発見したと発表。ヒッグス粒子を提唱したピーター・ヒッグス氏には、2013年にノーベル物理学賞が贈られた』、「CGのセットを使って、「ヒッグス粒子っていうけど、本当は『ヒッグス場』。電磁場と同じように場の概念が重要」という、科学者がイメージしているものをそのまま伝えられたことも印象に残っています。すごく工夫したな、と思いますね」、なるほど。
・『科学にも光と影がある。それを教えてくれたのが「STAP細胞」  Q:伝えるのが難しかった回はありますか? STAP細胞の回は、難しかったですね(※3)。STAP細胞は論文が出た当初からマスコミがたくさん飛びついて、僕も、なんかすごいものが出たんだなと思いました。ところがSTAP細胞の回をサイエンスZEROでやることになって、収録の前の週あたりからいろんな情報を番組のディレクターが集めてきて、「異論が多数出ている」という情報が最初に入ってきた時に、「えっ?」と思ったんですよ。 その時点で僕はSTAP細胞が怪しいとは全く思っていなかったんです。通常であればサイエンスZEROは確立された成果を正確に楽しくお伝えするわけじゃないですか。ところが、STAP細胞の場合は確立されていないかもしれない。結構、異論が出てきているし、再現性がどうもない、という状況だけれどもそのことも含めて放送する。これはすごく難しい番組でしたね。 ただやっぱりあれは番組をやって良かったと思います。つまり、科学というのはいいことばかりじゃない。やはり常に光と影があるんだっていうところをお伝えできたと思うんですよ。そこに持っていくスタッフの取材力というか、研究の本質を見抜く力があるんだ、というのがすごく驚きでしたね。 ※3 サイエンスZERO「緊急SP!STAP細胞 徹底解説」(2014年3月16日放送)。科学誌Nature 2014年1月30日号に、マウスの成熟した細胞に簡単な操作を加えるだけであらゆる細胞に分化できるようになる、という論文が掲載され、マスコミが一斉に報道。しかしその後、実験の再現性がないことなどが研究者から指摘され、調査の結果、筆者の研究不正があったとの判断が下った』、「!STAP細胞 徹底解説」・・・科学誌Nature 2014年1月30日号に、マウスの成熟した細胞に簡単な操作を加えるだけであらゆる細胞に分化できるようになる、という論文が掲載され、マスコミが一斉に報道。しかしその後、実験の再現性がないことなどが研究者から指摘され、調査の結果、筆者の研究不正があったとの判断が下った」、この騒ぎはまだ覚えている。
・『科学の道も平坦ではなく研究者も善人ばかりではない  Q:科学技術には光と影がある、というのはどういう意味ですか? A:科学というと、全部がうまくいく、100%正しいとかそういった考えを持っている方もいるんですけど、そうじゃないですよ、と。実際に、科学の理論も実験も、現場では試行錯誤がたくさんあって、失敗もたくさんあるわけですね。そこの中で何かのきっかけで偶然うまくいくということもあるんですよ。 青色LEDでノーベル賞を受賞された天野浩先生(※4)も、装置が故障して初めてうまくいったって、すごい偶然じゃないですか。そういう意味で科学ってそんなに単純なものではないし、ちゃんと実験を続けていけば自然と結果が出るというものでもないということも伝えたい。 あと、不正論文って結構あるんですよね。科学にはちょっとダークサイドの話もあるんですよと。それはちゃんとお伝えできたかなと思うので、本当の現場の科学の姿とか実態とかが深掘りできたのかなと思うんです。 ジャーナリズムというと、規制の立場、権力に対するチェック機能があるとか、そういったことが特に先進自由国では大事じゃないですか。科学だってそうだと思うんですよ。科学者は全員が聖人というわけではないので、中には研究費を取るためにちょっと悪いことをしてしまう。軽い不正をやってしまうような方もいるわけですね。そこはやはりジャーナリスティックな視点でチェックをする人は必要なので、STAP細胞というのはそういう意味でも番組で取り上げる意味があったと思いますね。 ※4 2014年にノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩教授。サイエンスZERO「おめでとう!ノーベル物理学賞 青色LED徹底解説」(2014年12月7日放送)に出演。学生時代、青色LEDに必要な窒化ガリウムの結晶を作る実験を1500回以上繰り返していた天野さんは、通常1200℃で実験するところを装置の不具合のため700℃で行い、結晶を作ることに初めて成功したと語った。 この20年にとっての竹内さんにとっての科学とは何か、そして科学を伝えることの難しさや葛藤、「科学の光と影」など、科学と真摯に向き合うことによって生じてくる課題について奥深いお話を伺うことができました。 それでは、竹内さんは「これからの科学」についてどのように見ておられるのでしょうか。 後編『「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「社会の課題に対する科学の役割が大きくなる」と説く理由』に続きます』、「竹内さんは「これからの科学」についてどのように見ておられるのでしょうか・・・後編」を見ていこう。

第三に、3月25日付け現代ビジネス「「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/108088
・『「『サイエンスZERO』20周年スペシャル」取材班  「ゼロから分かりやすく科学を伝えたい」と2003年に始まった「サイエンスZERO」がまもなく放送20年を迎えます。787回に上る放送回数とあらゆる分野の最新科学研究をディープに伝えてきた節目を記念し、日本のサイエンス各分野の著名な研究者や番組ナビゲーターにこの20年を振り返ってもらうインタビューを行いました。そこで飛び出してくる驚きの言葉や知見、未来への警鐘とは―。(放送は「サイエンスZERO」20周年特別番組:3月26日(日)夜11:30~ NHK Eテレ) ここ20年の科学について「『第四次産業革命』の真っただ中を生きてきた―」と表現されたサイエンス作家の竹内薫さん。竹内さんは2012年から2018年まで「サイエンスZERO」のナビゲーターを務めてこられました。 竹内さんには前編『「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」』に引き続き、この20年の科学について思うこととこれからの時代にとっての科学について伺います』、「この20年の科学について思うこととこれからの時代にとっての科学について伺います」、興味深そうだ。
・『一緒にナビゲーターを務めた南沢奈央さんにも支えられた  Q:一緒に番組ナビゲーターを務めた南沢奈央さんの印象はいかがでしたか? A:一言で言うと「勘が良い方だな」と思います。例えば、台本にはないけど、ここにこういうせりふがあるといいな、と思うとその通りのせりふが出てくるんですよ。台本をただ読んでいるんじゃなくて、臨機応変にいろんなことを言ってくれて、しかもかなり的を射ていたと思うんですね。あと、大学で心理学を専攻されていたということで、僕の得意な数学とか物理ではない分野について結構詳しかったので、すごく助かりましたね。凸凹コンビで、どちらかというと僕のほうが凹の方だったかな(笑)。 Q:南沢さんは番組で猫の特集をしたことをきっかけに、実家で猫を4匹飼い始めたそうです。竹内さんも猫好きでいらっしゃいますよね? A:猫、4匹ですか。うちは今、3匹飼っています。生まれたときから家に猫がいて、猫が好きなんですが、サイエンスZEROでも2回猫の特集をやって(※5)、スタジオに猫が来たり、うちの猫も登場させてもらったり、そんなことも懐かしく思い出しますね。 猫って実は物理学にもよく登場するんですよ。逆さまにして落下させるとちゃんと着地するという実験なんかは完全に力学の話ですよね。あと量子力学で「シュレーディンガーの猫」というのがありまして、頭で考える「思考実験」なんですけども、猫が登場する論文があるわけですよ。そういうのを考えると、猫は科学的だな、と思いますね。 ※5 サイエンスZERO「ニャンとも不思議!遺伝子が明かすネコの秘密」(2015年8月2日放送)、「ニャンとビックリ!科学で探る ネコとヒトとの優しい関係」(2016年6月5日放送)』、「南沢奈央さん」の公式ページはhttps://www.naosway.net/。「量子力学で「シュレーディンガーの猫」というのがありまして、頭で考える「思考実験」なんですけども、猫が登場する論文があるわけですよ。そういうのを考えると、猫は科学的だな、と思いますね」、なるほど。
・『「これまでの20年」と「これからの20年」の科学  Q:竹内さんは、この20年の科学の進歩についてどう思いますか? A:コンピューターやAIなんかはすごく進歩しましたよね。サイエンスZEROでも取り上げた将棋のAI(※6)は今、本当に強くなってきて、プロ棋士より強くなっているんじゃないの?という感じになっていますけど、その技術が完全に成熟する前の、成長段階にある現場の熱い感覚が伝えられたというのは非常に有意義だったし面白かったですね。 実は、AIは僕の仕事にもかなり影響を与えていて、去年あたりから翻訳をする時の下訳をAIにやってもらっているんですよ。これまでは人に頼んでいたものをAIにやってもらっている。だから、もうわれわれの仕事のすぐそこまで入ってきているわけです。10年後にはどうなるんだ、もう翻訳者はいらないかもしれないというところまで来ているのを感じます。 本当に今、「第四次産業革命」がどんどん進行していって、その真っただ中を生きてきたっていう印象があって、そこでいかに正しい情報発信ができるか、それを考えながら常に最先端のことを勉強しながら、この20年生きてきたのかなという印象ですね。 ※6 サイエンスZERO「プロ棋士大苦戦!進化する将棋コンピューター」(2014年7月6日放送)』、「去年あたりから翻訳をする時の下訳をAIにやってもらっているんですよ。これまでは人に頼んでいたものをAIにやってもらっている。だから、もうわれわれの仕事のすぐそこまで入ってきているわけです。10年後にはどうなるんだ、もう翻訳者はいらないかもしれないというところまで来ているのを感じます。 本当に今、「第四次産業革命」がどんどん進行していって、その真っただ中を生きてきたっていう印象があって、そこでいかに正しい情報発信ができるか、それを考えながら常に最先端のことを勉強しながら、この20年生きてきたのかなという印象ですね」、なるほど。
・『「科学予測の8割は外れる」  Q:これからの20年、科学の世界はどう変わると思いますか? A:僕、昔に本を書いたことがあって、それは「科学予測の8割は外れる」というものなんですよ。だから僕がここで予測しても多分外れると思うんです。 例えば、「空飛ぶクルマ」。100年ぐらい前に、もうすぐできると書いている雑誌の記事があるんです。でも、100年経ってようやく今できつつあると。どうしてすぐできなかったのかと考えると、テクノロジーが複数必要で、それを組み合わせないとできない。例えば、ドローン技術が必要だしAIも必要だし、そういった複雑なものがいくつかあって、全部がそろった時に初めて空飛ぶクルマが完成する。 普通、科学の未来予測をする時にテクノロジーのそういう細かいところ全部は考慮に入れないので、すぐにできると思っちゃうんですね。一方で、火星に人類が行くのに何年かかるのか、と言われたら、みんなが一斉にやろうと思ったとたんに意外と速く進むんですよ。世界中のいろんな人が参入してきて、民間でロケットを飛ばし始めるじゃないですか。そうすると加速度的に進むんですね。だから、やっぱり科学の動きっていうのは予測が難しいなと思います』、「科学予測の8割は外れる・・・「空飛ぶクルマ」。100年ぐらい前に、もうすぐできると書いている雑誌の記事があるんです。でも、100年経ってようやく今できつつあると。どうしてすぐできなかったのかと考えると、テクノロジーが複数必要で、それを組み合わせないとできない・・・火星に人類が行くのに何年かかるのか、と言われたら、みんなが一斉にやろうと思ったとたんに意外と速く進むんですよ。世界中のいろんな人が参入してきて、民間でロケットを飛ばし始めるじゃないですか。そうすると加速度的に進むんですね。だから、やっぱり科学の動きっていうのは予測が難しい」、なるほど。
・『社会の課題に対する科学の役割が大きくなるはず  Q:これからの科学にはどんなことが必要だと考えていますか? A:一つは、地球温暖化問題ですよね。20年前だと、人為的ではない、フェイクニュースだと言う人も結構いたと思うんですよ。最近は科学者の世界ではおそらくコンセンサスが取れていて、地球温暖化は人為的なものであるという認識が広まっています。 確かに、温暖な時期というのは過去の地球の歴史上でもあったわけですけど、今回はあまりにも急激にそれが来ているので、生態系がついていくことができない。農作物の出来にも関わってきて、栽培する物が急激に変わるとかも出てきちゃうので、経済もついていくことができない。そういった問題が出てきていると思うんですね。 同時に、台風が大型化したり干ばつが起きてしまったり、すごく極端な気象現象も起きる。だから、それを科学の力で何とかする必要があると思いますね。感染症もこれから増えると思うんです。地球温暖化が進んで気候が変わってくると、当然、熱帯の方のいろんな病気が入り込んでくることもあって、恐らく文明社会にこれまで存在しなかった感染症がどんどん広がっていくと思うんですよ。結局、環境破壊をしてしまっているから人間の世界に病気が入っているんですよね。 だから、環境をもうちょっと保護していく。野生動物をちゃんと保護していくことをすれば、リスクはかなり低減できると思うんですよ。ただ、世界中の国がそれをやってくれればいいんですけども、残念ながらそれをやらない国も出てくると思うので、ちょっとこれから20年、いろいろなことがまだ起きるんじゃないかと思いますね。 Q:これからの科学に期待することはありますか? A:例えば、経済の問題があって、今日本は失われた30年とか言われていますよね。これも科学的な最新の手法を使って分析していくと、いくつかの原因が特定できると思うんですよ。実際、それをおっしゃっている経済学者の方もいるんです。こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると。それをある地域で、実証実験として実験的にやってみればいいと僕は思うんですよ。 科学というのは、われわれの生活を良くすることにもっともっと使えると思います。できれば政治家の方々ももう少し科学に目を向けてほしいなと思いますね。 「サイエンスZERO」20周年スペシャル  3月26日(日)夜11:30~午前0:30 NHK Eテレ《再放送:2023年4月1日(土)午後2:30~3:30 Eテレ》  関連記事『「なぜ宇宙には物質が存在しているのか?」実は現代の物理学でも説明できない究極の謎だった…素粒子実験の第一人者が語る「ニュートリノがなければ人類も誕生できなかった」という不思議』もぜひあわせてお読みください』、「こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると。それをある地域で、実証実験として実験的にやってみればいいと僕は思うんですよ。 科学というのは、われわれの生活を良くすることにもっともっと使えると思います。できれば政治家の方々ももう少し科学に目を向けてほしいなと思いますね』、「こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると」、残念ながらそんな理論はない、社会科学はそこまで進んでいないのが実情だ。 
タグ:(その2)(中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!、「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」、「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK) 科学技術 sorae 「中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!」 「トカマク型核融合実験装置(EAST)が、摂氏約7千億度という高温のプラズマを1,056秒間持続することに成功・・・この持続時間は、トカマク型による高温プラズマの持続時間としては世界最長」、なるほど。 「地球の約33万倍もの質量を持つ太陽の内部のような核融合が起きる条件を地球上で人工的に模倣するのは難しく、約1,500万度ある太陽の中心部と比べて約6倍もの高温が必要・・・原子核同士が核融合を起こす環境を人工的に再現したものとしては、ロシア(当時のソビエト連邦)の科学者Natan Yavlinsky氏が1958年に設計した「トカマク型」と呼ばれる型式の核融合炉「T-1」が知られています。トカマク型は強力な磁場をもつドーナツ状の核融合炉のなかで、プラズマを封じ込める仕組みになっているようです。 ロシアが開発した「T-1」以降も様々な核融合実験装置が作られましたが、装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しませんでした・・・現在EASTで実験を実施した中国自身も、ITERとは別の核融合炉の開発を独自に行っているようです。磁場ではなく慣性によってプラズマを封じ込める「慣性核融合炉」の実験の実施計画や、別のトカマク型核融合炉の完成を2030年代初頭までに目指すなど、新たな核融合炉の開発を進めている模様」、まだ「装置を作動させるために費やされたエ ネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しません」、これでは陽の目を見るのはかなり先になりそうだ、 現代ビジネス「「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」」 「サイエンスZERO」は私の好きな番組で視聴していた。 かなり綱渡り的ナスケジュールだ。 「収録の前の台本打ち合わせが大変だった回が印象に残っています。例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました・・・例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました。 そのときは今と状況が違って、まだブラックホールが可視化されていなくて、「ブラックホール候補」でした。だから、そういった言葉づかいを含めてちゃんと科学的に伝えないといけないという科学者のスタンスと、分かりやすく伝えようとする番組側のスタンスがぶつかり合って、丁々発止のやり取りがありました。 でも、最終的に放送された番組を見ると、「あれ?結構きれいにまとまっているな、結果的にはいい番組になったな」と思いましたね」、なるほど。 「CGのセットを使って、「ヒッグス粒子っていうけど、本当は『ヒッグス場』。電磁場と同じように場の概念が重要」という、科学者がイメージしているものをそのまま伝えられたことも印象に残っています。すごく工夫したな、と思いますね」、なるほど。 「!STAP細胞 徹底解説」・・・科学誌Nature 2014年1月30日号に、マウスの成熟した細胞に簡単な操作を加えるだけであらゆる細胞に分化できるようになる、という論文が掲載され、マスコミが一斉に報道。しかしその後、実験の再現性がないことなどが研究者から指摘され、調査の結果、筆者の研究不正があったとの判断が下った」、この騒ぎはまだ覚えている。 「竹内さんは「これからの科学」についてどのように見ておられるのでしょうか・・・後編」を見ていこう。 現代ビジネス「「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK」 「この20年の科学について思うこととこれからの時代にとっての科学について伺います」、興味深そうだ。 「南沢奈央さん」の公式ページはhttps://www.naosway.net/。「量子力学で「シュレーディンガーの猫」というのがありまして、頭で考える「思考実験」なんですけども、猫が登場する論文があるわけですよ。そういうのを考えると、猫は科学的だな、と思いますね」、なるほど。 「去年あたりから翻訳をする時の下訳をAIにやってもらっているんですよ。これまでは人に頼んでいたものをAIにやってもらっている。だから、もうわれわれの仕事のすぐそこまで入ってきているわけです。10年後にはどうなるんだ、もう翻訳者はいらないかもしれないというところまで来ているのを感じます。 本当に今、「第四次産業革命」がどんどん進行していって、その真っただ中を生きてきたっていう印象があって、そこでいかに正しい情報発信ができるか、それを考えながら常に最先端のことを勉強しながら、この20年生きてきたのかなという印象ですね」、なるほど。 「科学予測の8割は外れる・・・「空飛ぶクルマ」。100年ぐらい前に、もうすぐできると書いている雑誌の記事があるんです。でも、100年経ってようやく今できつつあると。どうしてすぐできなかったのかと考えると、テクノロジーが複数必要で、それを組み合わせないとできない・・・ 火星に人類が行くのに何年かかるのか、と言われたら、みんなが一斉にやろうと思ったとたんに意外と速く進むんですよ。世界中のいろんな人が参入してきて、民間でロケットを飛ばし始めるじゃないですか。そうすると加速度的に進むんですね。だから、やっぱり科学の動きっていうのは予測が難しい」、なるほど。 「こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると。それをある地域で、実証実験として実験的にやってみればいいと僕は思うんですよ。 科学というのは、われわれの生活を良くすることにもっともっと使えると思います。できれば政治家の方々ももう少し科学に目を向けてほしいなと思いますね』、「こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると」、残念ながらそんな理論はない、社会科学はそこまで進んでいないのが実情だ。
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宇宙ビジネス(その3)(民間企業スペースXは61回成功 日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出、H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」、直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?) [科学技術]

これまではロケット・衛星打上げ(その2)として、2017年3月9日に取上げた。今日は、宇宙ビジネス(その3)(民間企業スペースXは61回成功 日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出、H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」、直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?)である。

先ずは、昨年3月15日付けPRESIDENT Onlineが掲載したジャーナリストの知野 恵子氏による「民間企業スペースXは61回成功、日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/67441
・『「開発体制のどこかに問題があるのでは」  3月7日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が共同開発した日本の新しい大型ロケット「H3」初号機の打ち上げが失敗した。昨年10月の小型ロケット「イプシロン」失敗に続いて、半年もたたないうちに起きたロケットの連続失敗。「技術大国日本」の凋落が止まらない。起死回生策はあるのか。 昨年10月のイプシロン、今年3月のH3。どちらも地上から信号を送って機体を破壊した。 宇宙政策に詳しい鈴木一人・東大教授(国際政治経済学)は、「連続して失敗したことで、世界にマイナスの印象を与えた。ロケットの初号機打ち上げ失敗自体は珍しいことではないが、イプシロン失敗を含めて考えると、日本のロケットの開発体制のどこかに問題があるのではないか」と指摘する。 「H3」は、2014年から約2000億円の国費を投じて開発された。日本が新しいロケットを開発するのは30年ぶりで、今後20年にわたって主力ロケットとして使用する予定になっている。 まさに日本の宇宙政策・活動を支える「屋台骨」だ』、「昨年10月のイプシロン、今年3月のH3と、「連続して失敗した」とは深刻な事態だ。
・『安価で売れるロケットを造るのが狙いだが…  H3開発の最大の目的として政府が強調してきたのは、ロケット価格を半減させることだ。 現在の主力ロケット「H2A」は約100億円で、世界相場の倍程度と高い。H3はこれを、世界相場の約50億円に半減し、世界の衛星打ち上げ市場で「売れるロケット」を目指した。 そのために開発方法も変えた。 これまでのロケットは、JAXAが設計・開発し、企業に製造を発注。何機か打ち上げて技術的に安定すると、JAXAから企業に技術を移管し、企業が商用打ち上げサービスを行うというやり方だった。 現在の主力ロケット「H2A」でいえば、技術を移管された三菱重工が打ち上げサービスを行っている。 だが、最先端技術を志向するJAXAが開発するロケットは、高価格になりがちだ。衛星を打ち上げたい顧客にとって使いやすいものかどうかもわからない。 そこで、JAXAと三菱重工が最初から一緒に設計・開発を行い、打ち上げビジネスをしやすいロケットを造ることを目指した。 だが、その1回目からつまずいた』、「最先端技術を志向するJAXAが開発するロケットは、高価格になりがちだ」、「JAXAと三菱重工が最初から一緒に設計・開発を行い、打ち上げビジネスをしやすいロケットを造ることを目指した。 だが、その1回目からつまずいた」、お粗末だ。
・『スペースXは61回成功し、日本はゼロ  今回の失敗によって、日本の宇宙開発は苦境に立たされた。 打ち上げ市場への参入はもちろん、情報収集衛星など国の安全保障にかかわる衛星、米国主導の有人月探査「アルテミス計画」で使う物資輸送機、火星の衛星の探査機など、H3による打ち上げ予定は詰まっている。今後、その調整や見直しが必要になる。 JAXAや文部科学省は原因調査を開始したが、原因を突き止め、対策をほどこし、試験でそれを確かめる、など一連の作業にはかなり時間がかかる。 2003年に情報収集衛星2基を搭載した「H2A」6号機の打ち上げが失敗した時には、再開まで1年3カ月を要した。 時間がかかればかかるほど、H3の開発費は膨れ、世界相場並みの50億円達成はどんどん遠のいていく。 今、世界の宇宙開発は拡大期にある。2018年以降、世界のロケット打ち上げ成功数は大きく増加している。 内閣府の調べによると、2022年は過去最大の177回で、直近10年間で年率9.7%と大幅に伸びた。 打ち上げ成功数は米国が最も多く83回。うち75回が民間企業によるもので、その61回はスペースXのロケットだった。 成功数が次に多いのは中国で62回、次はロシアで21回だった。 一方、日本は成功ゼロだった。世界で存在感を発揮できない中で、さらに追い打ちをかけるH3失敗。日本は世界から取り残され、埋没していく恐れがある』、「打ち上げ成功数は米国が最も多く83回。うち75回が民間企業によるもので、その61回はスペースXのロケットだった。 成功数が次に多いのは中国で62回、次はロシアで21回だった。 一方、日本は成功ゼロだった」、「日本は世界から取り残され、埋没していく恐れがある」、まさに危機的状況だ。
・『成功にこだわっていると市場で勝負できない  今、ロケット打ち上げ市場をリードしているのは、米スペースXだ。 2000年代初頭に宇宙ベンチャー企業として頭角を現し、低価格の「価格破壊ロケット」で、商用打ち上げ市場を席巻するようになった。 スペースXは、ロケットが爆発炎上する派手な失敗もよく起こすが、淡々と対策をほどこし、すぐに次の打ち上げを再開する。 国の研究開発法人のJAXAは、先端技術と完璧さを目指し、それを成し遂げてから打ち上げ市場への売り込みを図ろうと考える。一方、スペースXは走りながら完成度を高めていく。 国費で開発する研究開発法人と、米ベンチャー企業との発想の違いだろうが、日本とは対極的だ。 鈴木教授は「日本には打ち上げを失敗してはいけないと考える文化がある。一度失敗すると二度と失敗しない仕組みを作ろうとする。だが、それによってコストが膨張し、納期が遅れ、打ち上げ市場で勝負できなくなる。一方、スペースXは『失敗なしに成功はない』と考え、失敗しても素早く機敏に開発をしていく。打ち上げ市場でこうした企業と戦おうというのなら、日本でも失敗を許す文化が必要だ」 これまで日本は「H2」「H2A」と大型ロケットを開発したが、市場参入に成功とはいいがたい状況だった。 H3でロケットの価格を半減させて打ち上げ市場参入を目指す、と掲げた以上、日本も今までのやり方を見直す必要があるだろう』、「H3でロケットの価格を半減させて打ち上げ市場参入を目指す、と掲げた以上、日本も今までのやり方を見直す必要がある」、その通りだ。
・『「何が何でも3月中に」JAXAの危機感  例えば、JAXAの開発には、役所の文化が根強く残っている。 役所の予算編成に合わせる「年度縛り」もそのひとつだ。 H3の初号機は、2020年度に打ち上げる予定だったが、2度にわたって延期した。 新規開発の高性能エンジン「LE9」の開発にてこずったためだ。 政治家や産業界からは不満や批判が続出していた。これ以上遅らせてはならないという危機感がJAXAや文科省の間で高まっていた。 このため2022年度中、つまり今年3月中に何が何でも打ち上げを成功させねばならない、それを超えると23年度になってしまう、という焦りがあったとみられる。しかも、地元の漁協などとの調整から、打ち上げは「3月10日まで」という締め切りもあった。 JAXAは2月17日にH3を打ち上げようとしたが、直前に技術トラブルが発生し、中止した。原因解明と対策に時間を要したが、「3月10日まで」を死守することを、記者会見で何度も強調した。2023年度になることを避けたいということだろう。 再度設定した打ち上げ日は、年度縛りに収まる3月7日だったものの、失敗に終わった。 このあたりの経緯や、組織の体質や対応、JAXAと三菱重工との協力関係や責任分担などを今後検証する必要があるのではないか。 失敗原因を解明、対策をほどこした後は、前回の「H2A」6号機失敗の時のように長期間止めることなく、なるべく早く、打ち上げを再開する必要もある』、「失敗原因を解明、対策をほどこした後は、前回の「H2A」6号機失敗の時のように長期間止めることなく、なるべく早く、打ち上げを再開する必要もある」、なるほど。
・『SNSでは成功したと勘違いする人が続出  巨費をかけてロケットを開発するのは、他国に依存することなく、自国の衛星を必要な時に打ち上げる手段を保有するためだ。 鈴木教授は「日本では夢とロマンが強調され、何のためにロケットを打ち上げるかについて、ふわっとした議論しかしてこなかった。H3をどういうロケットにすべきかという議論や説明も不足していた。本当の意味で使えるロケット、衛星を運ぶロケットとしての開発をしてこなかったのではないか」と苦言を呈する。 そうした影響か、ロケットに対する見方は揺れが大きい。 2月17日の打ち上げ直前中止をめぐって、JAXAは「止めることができたので失敗ではない」と説明をした。だが、会見に参加した記者が「それは一般に失敗という」と発言。これを引き金に、SNSで「失敗」「失敗ではない」をめぐって、喧々諤々の議論になった。 3月7日の打ち上げでは、晴れた空の下、H3は地上からきれいに打ち上がり、補助ロケットの切り離しも成功した。だが、すぐにロケットの速度はどんどん下がっていった。第2段エンジンが着火しなかったためだ。 JAXAの打ち上げ中継で「指令破壊信号を送信しました」というアナウンスが流れた直後に、SNSを見て驚いた。「H3成功」の話で盛り上がっていたからだ。 地上から機体が離陸したのを見て、成功したと思った人が多かったのだろう。「打ち上げ成功」「おめでとう!」などのツイートがさかんに流れていた』、「「日本では夢とロマンが強調され、何のためにロケットを打ち上げるかについて、ふわっとした議論しかしてこなかった。H3をどういうロケットにすべきかという議論や説明も不足していた。本当の意味で使えるロケット、衛星を運ぶロケットとしての開発をしてこなかったのではないか」、「2月17日の打ち上げ直前中止をめぐって、JAXAは「止めることができたので失敗ではない」と説明をした。だが、会見に参加した記者が「それは一般に失敗という」と発言。これを引き金に、SNSで「失敗」「失敗ではない」をめぐって、喧々諤々の議論になった」、「失敗」は正々堂々と認めるべきだ。そうないと改善点が明確にならない筈だ。
・『「国民の責任」を求めるわりに説明が足りていない  ロケットは地上から上がれば仕事が終わるわけではない。さらに30分ほど飛行して、衛星を予定の軌道に届けたことを確認できて初めて、技術者もようやく「成功」を宣言する。 ロケットがどの段階まで進めば、「成功」なのか、「失敗」とはどういうことを指すのか。こうした点についての知識や説明がもっと必要だと感じる。 2003年の「H2A」の失敗の後、文科省の有識者会議では、「国民にロケットの抱えるリスクを理解してもらわないといけない」という議論がさかんに行われた。「国民への責任」よりも、「国民の責任」を求める論理に違和感を覚えたが、有識者会議の報告書は「国民側も理解や関心を深めることが必要」と注文をつけた。 その具体策について、当時文科省は「今後、検討する」と述べるにとどめていた。 それから20年たった今もなお、そのための知識提供や広報活動が不足している。 ロケットの打ち上がる姿は勇壮で魅力的だが、そのためだけに巨費を投じて開発するわけではない。打ち上げ花火ではないのだ。ロケットや宇宙開発への夢を語るだけではなく、目的や成否の判断基準などももっと明確に示すべきだろう。 今回の失敗の教訓のひとつだと思う』、「ロケットや宇宙開発への夢を語るだけではなく、目的や成否の判断基準などももっと明確に示すべきだろう」、同感である。

次に、6月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーライターの大貫剛氏による「H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324531
・『20年ぶりにしかも立て続けに2件のロケットの打ち上げに失敗してしまったJAXA(宇宙航空研究開発機構)。実は、その裏でJAXAの宇宙開発と宇宙事業に対する重大な欠陥が明らかになったことは、あまり知られていない。特集『来るぞ370兆円市場 ビッグバン!宇宙ビジネス』(全13回)の#4では、ベテラン宇宙ライターが打ち上げ失敗から見える「日本の宇宙開発体制」の大問題を指摘する』、興味深そうだ。
・『H3ロケットはなぜ失敗したか 「実績のある技術」が原因の可能性  「日本のロケットは定時運行」――。あたかも鉄道や旅客機のような高い信頼性を売り物にしてきたJAXA(宇宙航空研究開発機構)に異常事態が発生している。2023年3月7日、日本の次期大型ロケットとして開発されたH3ロケットが、初号機でいきなり打ち上げに失敗したのだ。 JAXAは03年のH-IIAロケット6号機の打ち上げ失敗の後、43機のH-IIAロケット、9機のH-IIBロケット、5機のイプシロンロケットの打ち上げを成功させており、成功率の高さだけでなく打ち上げ遅延が少ないことも誇ってきた。 ところが22年10月12日、約20年ぶりにイプシロンロケット6号機の打ち上げに失敗、それから半年もたたずに今度はH3ロケット初号機が失敗したのだ。一部の部品を共通使用しているH-IIAロケットも含めて、原因調査と対策のため打ち上げが一時凍結された。結果的に、H-IIAロケットを含むJAXAの全ロケットが飛行停止に追い込まれるという事態になっている。 (図_JAXAの過去のロケット開発史と打ち上げ失敗例 はリンク先参照) 6月末現在、H3ロケット初号機打ち上げ失敗の原因は確定されていない。一度発射したロケット機体は回収できず、完全な原因特定が可能とは限らないのだ。そこでJAXAはまず、失敗の原因になりえる9パターンのシナリオを検討し、全て対策を施すことにした。実はこの9パターンはどれも、H-IIAロケットからH3ロケットへ流用したLE-5Bというエンジンに関するものだ。H-IIAロケットはこれらの対策を施して、今年8月以降に打ち上げを再開することになった。 これまでLE-5BエンジンはH-IIAロケットなど50基以上に使われてきたが、同種のトラブルは一度もない。にもかかわらず、なぜかH3ロケットでは初号機でいきなり失敗した。 なぜH3ロケットは失敗したのか。さらに言えば、実は今回は打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ。所管する省庁の性質という背景も見え隠れする。次ページから解説していこう。 これ以降は有料だが、今月の閲覧本数、残り4本までは無料』、「今回は打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ」、どういうことだろう。
・『安全ゾーンの宇宙部品が原因で予想外の失敗が発生か  これまでLE-5BエンジンはH-IIAロケットなどで50基以上が使われてきたが、同種のトラブルは一度もない。にもかかわらず、なぜH3ロケットでは1号機でいきなり失敗したのか、現時点ではわかっていない。JAXAは、H3ロケット固有の部品が引き金となった可能性も検討しており、H3ロケットの打ち上げ再開にはさらに数カ月を要しそうだ。 一方、イプシロンロケット6号機については原因が特定された。飛行中の機体から送られてきたデータと製造時の検査データを照合した結果、推進剤(ロケットを推進させるのに用いる薬剤・燃料)タンクの製造上の欠陥が判明したのだ。この欠陥は過去にも存在したがトラブルには至っておらず、欠陥があること自体が見過ごされた。そして「実績のある信頼できる部品」としてそのままイプシロンロケットに採用されてしまっていた。 イプシロンロケット6号機とH3ロケット初号機の打ち上げ失敗に共通するのは、どちらも従来から使用実績のある部品が注目されていることだ。 日本では50年以上にわたって宇宙ロケットを打ち上げてきており、その中で繰り返し使われて信頼性を確認された技術の蓄積も多い。こういった技術で作られた部品は少数生産品で高価なので、イプシロンロケットやH3ロケットでは、自動車用部品など低価格の民生品を大胆に導入してロケット全体のコストを下げることに主眼が置かれたという経緯がある。その一方で、高価でも引き続き採用された宇宙部品は、信頼性が高く、開発の「安全ゾーン」として扱われてきた。 しかし実際には、十分に信頼性が確認されたはずの「安全ゾーンの宇宙部品」で、予想外の失敗が発生してしまった。新型ロケットでは従来のロケットとは使用環境が異なっている場合があるからだ。H3ロケットの失敗原因は未確定だが、新規採用された部品と既存宇宙部品の組み合わせで、予想外のトラブルが発生した可能性が疑われている。先人が蓄積した技術を利用する際には、これまで大丈夫だったから大丈夫だと考えるのではなく、改めて信頼性を確認しなければならないというのが、今回の2回の打ち上げ失敗の教訓といえるだろう。 宇宙ロケットの打ち上げ失敗は見た目にも分わかりやすいため、今回の打ち上げ失敗でもロケット自体に衆目が集まるのはやむを得ない。 だが、今回のH3ロケットに関しては、打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ』、「十分に信頼性が確認されたはずの「安全ゾーンの宇宙部品」で、予想外の失敗が発生してしまった。新型ロケットでは従来のロケットとは使用環境が異なっている場合があるからだ。H3ロケットの失敗原因は未確定だが、新規採用された部品と既存宇宙部品の組み合わせで、予想外のトラブルが発生した可能性が疑われている。先人が蓄積した技術を利用する際には、これまで大丈夫だったから大丈夫だと考えるのではなく、改めて信頼性を確認しなければならないというのが、今回の2回の打ち上げ失敗の教訓といえるだろう」、「改めて信頼性を確認しなければならない」というのは確かだ。
・『「打ち上げは失敗しない」と当然視しバックアップのない最重要衛星を失う失態  宇宙開発で実際に利益を生み出す活動をするのは人工衛星だ。ロケットは人工衛星を宇宙に設置するための、輸送機械にすぎない。 今回のH3ロケットは「打ち上げは失敗しない」ことが前提とされていた。そのため「だいち3号」(ALOS-3)という失われてはならない重要な衛星が搭載されていたのだ。これは光学センサーで地球の写真を撮影する衛星で、大地の写真を継続的に撮影して、地図情報を更新する。また、大規模災害発生時には被災地を撮影し、被害状況を俯瞰的・網羅的に把握することも期待されている。 「だいち」シリーズは、国が当初策定していたそもそもの計画から場当たり的で、問題だらけだった。 06年に打ち上げられた初代「だいち」は、光学的に写真を撮影するセンサーと、電波で地上を観測するレーダーを1機の衛星に搭載する大型衛星だった。設計上の寿命目標5年を越えても後継機の打ち上げが行われないままで、11年3月の東日本大震災の被災地観測をなんとかこなし、その1カ月後の4月22日に機能停止した。 その後後継の「だいち2号」が打ち上げられた14年までの3年間、JAXAにはこの種の地球観測衛星が存在しなかった。しかも「だいち2号」は「だいち」の観測機能のうち、レーダーしか搭載していない。これは光学センサーとレーダーを1機の大型衛星に載せるより、別の中型衛星とした方がリスクを分散できるという考えからのものだったが、肝心の光学センサー搭載衛星には予算が付かない、という結果に終わった。 今回H3ロケットは「だいち3号」の打ち上げで、12年間の光学地球観測衛星不在の状況を解消する重要なミッションを持っていたのだ。にもかかわらず、打ち上げ失敗で「だいち3号」は失われ、日本の光学地球観測衛星の空白期間はさらに続くことになってしまった』、「今回H3ロケットは「だいち3号」の打ち上げで、12年間の光学地球観測衛星不在の状況を解消する重要なミッションを持っていたのだ。にもかかわらず、打ち上げ失敗で「だいち3号」は失われ、日本の光学地球観測衛星の空白期間はさらに続くことになってしまった」、もったいない限りだ。
・『失われた民間企業からの信頼 JAXAの民間連携事業に黄信号  この衛星をビジネス活用しようとしていた企業も影響を受けることになった。 「だいち3号」の画像をさまざまな用途に活用するため、JAXAは地理情報システム(GIS)大手企業のパスコと契約を結んでいる。パスコは「だいち」「だいち2号」でも画像の利用・販売を担当しており、「だいち3号」でも引き続き担当するはずだった。 「だいち3号」は性能的にも大きく進歩している。パスコはその性能を前提とした新たなGISサービスを開発して、運用開始に備えていたはずだ。またパスコは「だいち3号」の地上管制そのものも委託されており、施設や人員を用意していた。これらの努力が、「だいち3号」の打ち上げ失敗によって日の目を見なくなったのは、同社にとっては大きな痛手に違いない。 失われた「だいち3号」を再打ち上げするのか、別の方法を模索するのかなどの今後の予定は未定だ。しかし、衛星の運用体制にここまで長い空白期間が生まれるのは、国の社会インフラ整備としてはあまりにもお粗末だといえるだろう』、「衛星の運用体制にここまで長い空白期間が生まれるのは、国の社会インフラ整備としてはあまりにもお粗末だ」、その通りだ。
・『バックアップ体制がない運用計画では民間企業の本腰参入は困難だ  JAXAは政府の宇宙計画を執行する機関であり、計画を決定して予算を確保するのは所管省庁の役割だ。「だいち」シリーズは文部科学省の事業なので、計画の方向性や予算額にはJAXAではなく文部科学省の意思が反映される。 ちなみに、他省庁が管理する衛星では、ちゃんと計画的な運用をされているものもある。 例えば気象庁の気象衛星「ひまわり」シリーズは現在、「ひまわり8号」「ひまわり9号」が同時に飛行している。「ひまわり」の設計寿命は15年だが、2機を交互に8年間使用して7年間は休ませるという運用で、使用中の衛星が故障した際はもう一方が復帰するというバックアップ体制を整えている。気象庁は天気予報という重要な情報サービスを提供する社会インフラを管掌する官庁で、その運用が途切れないような体制を敷いているのだ。 一方「だいち」シリーズを所管するのは文部科学省だ。研究開発を軸としているからか、サービスの継続性より、研究開発の新規性や独自性などを重視する傾向があるように見える。「だいち」シリーズは世界トップクラスの性能を誇っているが、バックアップがない。そのため今回のような打ち上げ失敗や寿命中の故障といったトラブルが発生すれば、直ちにサービスが途絶えてしまう。このような計画で整備されているものを社会インフラとして信頼することは無理がある。 近年は産官学が一体となって宇宙ビジネスを推し進める雰囲気になっているが、このような状態では企業として本腰を入れて事業参画することは難しいだろう。企業にビジネス利用してもらうことを前提に衛星を整備するのなら、政府は打ち上げ失敗を含むトラブルを想定して、バックアップ体制を組むなど、信頼性や事業継続性を重視した計画を立てる必要がある。 JAXAは民間企業との連携に努力しているが、「だいち」シリーズには継続的なサービスを保証するのに必要な予算措置が講じられていなかった。このようなあしき前例を作ってしまったとなると、たとえ今後JAXAが世界最高レベルの宇宙技術を開発しても、それを日本企業がビジネスに活用したいと思えないだろう。民間活用が間違いなくテーマになる今後の宇宙開発と宇宙ビジネスを考えると、政府の宇宙政策には重い課題が突き付けられているといえる』、「企業にビジネス利用してもらうことを前提に衛星を整備するのなら、政府は打ち上げ失敗を含むトラブルを想定して、バックアップ体制を組むなど、信頼性や事業継続性を重視した計画を立てる必要がある」、同感である。

第三に、5月16日付けAERAdot「直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2023051100102.html?page=1
・『自然科学の分野では、偶然によって新たな事実が発見されることがある。太陽の8倍以上の質量をもつ恒星が爆発するとき、極度にエネルギーが高い「ガンマ線バースト」が発せられる場合があるが、この天文現象はアメリカが打ち上げた軍事衛星によって偶然発見された。宇宙望遠鏡による天文観測は1960年代にはじまったが、その契機ともなったこの軍事衛星について、拙著『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』をもとに紹介したい。 【写真】史上初ブラックホールの候補を特定した、NASAのX線観測衛星「SAS-A ウフル」 アメリカ、イギリス、旧ソ連は、1963年に「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する。米国は1963年から1970年にかけ、AとBの2機からなるヴェラをワンセットにして、計6回、12機のヴェラを打ち上げた。 1967年4月28日に打ち上げられた「ヴェラ4号」がある日、奇妙なデータを補足する。ロスアラモス国立研究所の研究員が調査した結果、それは大気圏内からではなく、宇宙から飛来したガンマ線であることが判明。続いて打ち上げられた5号(1969年5月)と6号(1970年4月)も、同様のガンマ線を複数捕捉し、その発生源の位置を割り出すことに成功した。結果、それは人類にとって未知の天文現象である「ガンマ線バースト」から発せられたものであることが突き止められた。 ガンマ線バーストのイメージ図 (C)NASA, ESA and M. Kornmesser  ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている。) 謎のガンマ線が宇宙から降り注いでいることがヴェラによって判明すると、各国は本格的に天文観測衛星を打ち上げはじめた。1970年にNASAが打ち上げた世界初のX線観測衛星「SAS-A ウフル」もその一機だ。ガンマ線バーストやブラックホールなど、高エネルギーな電磁波が放出される天文現象では、ガンマ線のほかにX線などが放出される。それを検知する天文観測衛星である。 ウフルは、「はくちょう座」にある超巨星を重点的に観測した。この星は、ペアとなるもうひとつの恒星との共通の重心を周る「連星(双子星)」である。太陽の30倍もの質量を持つこの超巨星が、他の何者かによって、操られるかのように奇妙な軌道を描くからには、その相手の天体はさらに大きな質量を持っていると予想された。しかし、その星が見つからない。つまり、この超巨星とペアを組む相手は、見えないブラックホールである可能性が高い。 ウフルは、見えない相手(主星)がいると予想される領域を重点的に観測した。その結果、強いX線の放射を発見した。これが史上はじめて特定されたブラックホールの有力候補である。後日この天体は「はくちょう座X-1」と命名された。 (「SAS-A ウフル」が捕捉したX線源による全天マップ はリンク先参照) 1960年代、ヴェラによってガンマ線バーストが偶然発見され、1970年代にはウフルがブラックホールの候補を特定した。人類にとって未知であったそれらの天体を発見してから半世紀が過ぎた2019年には、ブラックホールの間接的撮影にも成功し、2021年からはブラックホールのマップ作製も開始されている。 宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ。しかし、この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない』、「「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する」、そんな監視衛星があることは初めて知った。「ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている」、「宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ」、「この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない」、「宇宙の謎が解き明かされる日」が早く来てほしいものだ。 
タグ:宇宙ビジネス (その3)(民間企業スペースXは61回成功 日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出、H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」、直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?) PRESIDENT ONLINE 知野 恵子氏による「民間企業スペースXは61回成功、日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出」 「昨年10月のイプシロン、今年3月のH3と、「連続して失敗した」とは深刻な事態だ。 「最先端技術を志向するJAXAが開発するロケットは、高価格になりがちだ」、「JAXAと三菱重工が最初から一緒に設計・開発を行い、打ち上げビジネスをしやすいロケットを造ることを目指した。 だが、その1回目からつまずいた」、お粗末だ。 「打ち上げ成功数は米国が最も多く83回。うち75回が民間企業によるもので、その61回はスペースXのロケットだった。 成功数が次に多いのは中国で62回、次はロシアで21回だった。 一方、日本は成功ゼロだった」、「日本は世界から取り残され、埋没していく恐れがある」、まさに危機的状況だ。 「H3でロケットの価格を半減させて打ち上げ市場参入を目指す、と掲げた以上、日本も今までのやり方を見直す必要がある」、その通りだ。 「失敗原因を解明、対策をほどこした後は、前回の「H2A」6号機失敗の時のように長期間止めることなく、なるべく早く、打ち上げを再開する必要もある」、なるほど。 「「日本では夢とロマンが強調され、何のためにロケットを打ち上げるかについて、ふわっとした議論しかしてこなかった。H3をどういうロケットにすべきかという議論や説明も不足していた。本当の意味で使えるロケット、衛星を運ぶロケットとしての開発をしてこなかったのではないか」、 「2月17日の打ち上げ直前中止をめぐって、JAXAは「止めることができたので失敗ではない」と説明をした。だが、会見に参加した記者が「それは一般に失敗という」と発言。これを引き金に、SNSで「失敗」「失敗ではない」をめぐって、喧々諤々の議論になった」、「失敗」は正々堂々と認めるべきだ。そうないと改善点が明確にならない筈だ。 「ロケットや宇宙開発への夢を語るだけではなく、目的や成否の判断基準などももっと明確に示すべきだろう」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 大貫剛氏による「H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」」 「今回は打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ」、どういうことだろう。 「十分に信頼性が確認されたはずの「安全ゾーンの宇宙部品」で、予想外の失敗が発生してしまった。新型ロケットでは従来のロケットとは使用環境が異なっている場合があるからだ。H3ロケットの失敗原因は未確定だが、新規採用された部品と既存宇宙部品の組み合わせで、予想外のトラブルが発生した可能性が疑われている。先人が蓄積した技術を利用する際には、これまで大丈夫だったから大丈夫だと考えるのではなく、改めて信頼性を確認しなければならないというのが、今回の2回の打ち上げ失敗の教訓といえるだろう」、「改めて信頼性を確認しなけれ ればならない」というのは確かだ。 「今回H3ロケットは「だいち3号」の打ち上げで、12年間の光学地球観測衛星不在の状況を解消する重要なミッションを持っていたのだ。にもかかわらず、打ち上げ失敗で「だいち3号」は失われ、日本の光学地球観測衛星の空白期間はさらに続くことになってしまった」、もったいない限りだ。 「衛星の運用体制にここまで長い空白期間が生まれるのは、国の社会インフラ整備としてはあまりにもお粗末だ」、その通りだ。 「企業にビジネス利用してもらうことを前提に衛星を整備するのなら、政府は打ち上げ失敗を含むトラブルを想定して、バックアップ体制を組むなど、信頼性や事業継続性を重視した計画を立てる必要がある」、同感である。 AERAdot「直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?」 「「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する」、そんな監視衛星があることは初めて知った。 「ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている」、 「宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ」、「この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない」、「宇宙の謎が解き明かされる日」が早く来てほしいものだ。
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医薬品(製薬業)(その5)(「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由、小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間、小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?、東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ) [科学技術]

医薬品(製薬業)については、昨年3月3日に取上げた。1年ぶりの今日は、(その5)(「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由、小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間、小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?、東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ)である。

先ずは、本年1月1日付けダイヤモンド・オンライン「「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/258013
・『性交渉後、72時間以内に服用することにより、高い確率で妊娠を防ぐことができる緊急避妊薬。日本では医師による診察を経た上でないと入手することはできないが、目下、薬局での販売を可能にする制度改正が進められている。薬へのアクセスが容易になることによって意図しない妊娠が減ると期待される一方、性の乱れや薬の悪用を心配する声も根強い。現役の産婦人科医であり性教育の事情にも詳しい重見大介氏に、緊急避妊薬市販化の問題を考える上で大事なポイントを聞いた』、興味深そうだ。
・『市販化の実現で低価格化の可能性も  少子化の進行に拍車がかかる中、人工妊娠中絶の件数はここ10年でほぼ横ばい状態を見せている。中でも未成年が占める割合は小さくなく、人工妊娠中絶を受ける未成年者の数は平均で1日約40人と看過できない数字だ。 意図しない妊娠と人工妊娠中絶の数は必ずしもイコールではないが、緊急避妊薬が市販化され、身近なものになれば「意図しない妊娠によって体への負担、心への深い傷、経済的負担を負う女性が少なくなる」と語るのは、産婦人科医の重見氏だ。 「緊急避妊薬は72時間以内に服用する必要がありますが、服用する時間が早ければ早いほど避妊の成功率は高くなります。したがって、薬へのアクセスが改善されることによって、実効性は確実に上がると考えられます」 緊急避妊薬が市販化されることによってもたらされるメリットは、それだけにとどまらない。 「緊急避妊薬が市販化されている諸外国では1000~2500円程度で買えるところが多く、中には未成年に無料で提供している国もあります。しかし日本では、緊急避妊薬の値段は各病院が任意で定めており、1回の服用で大体1万5千円から8000円と高価です。現在、緊急避妊薬は保険診療の対象外であり全額自己負担となっていますが、薬局での販売が実現すれば、価格が大幅に下がることも期待できるかもしれません」』、「緊急避妊薬が市販化されている諸外国では1000~2500円程度で買えるところが多く」、「無料」にまでする必要はなくても、この程度なら妥当だろう。
・『反対派が懸念する市販化による性の乱れ  緊急避妊薬は現在世界の90カ国以上で市販化されており、日本でもしばしば厚生労働省によって検討され、直近では2017年に議題に上るも否決された過去がある。一体どんな要因によって、日本における緊急避妊薬の市販化は妨げられてきたのだろうか。重見氏はこう語る。 「決定を下す役割を担う専門家の方々の判断を鈍らせている理由として、市販化されることによって薬が悪用されるリスクと、女性が性に対して奔放になってしまうといったことへの懸念が挙げられています。2017年の検討会では産婦人科の学会である『日本産婦人科医会』もそのような意見に賛同し、『別の避妊方法に頼るべきだ』という理由で市販化に賛成する意見を退けています」 「モラルの乱れを誘発するのではないか」という懸念によって実現が阻まれてきた、緊急避妊薬の市販化。しかし、その懸念は妥当なものなのだろうか。 2017年に複数回にわたって行われた検討会のメンバーは一部を除いてほとんどが男性であり、女性の意見がほとんど反映されていない。また年齢層も高く、40代~60代が大多数だ。上記の懸念は男性による“妄想”とまでは言わないが、仮に検討会のメンバーの男女比を逆転させた上で同じ議論を行ったとしたら、違う結論になっていた可能性は否定できないだろう。) 「緊急避妊薬の避妊成功率は100%ではありません。たとえわずかであっても妊娠してしまう可能性がある限り、緊急避妊薬を服用したとしても、多くの女性は妊娠のリスクを考えるはずです。『緊急避妊薬があるから何をしても平気』だと思う女性はほとんどいないのではないでしょうか。緊急避妊薬の市販化を巡る問題には、議論を進める男性側が懸念するイメージと、使用者である女性側の気持ちとの間に齟齬(そご)があるようでなりません」』、「検討会のメンバーは一部を除いてほとんどが男性」、「年齢層も高く、40代~60代が大多数だ」、これでは公正な判断は期待できない。『日本産婦人科医会』が「『別の避妊方法に頼るべきだ』という理由で市販化に賛成する意見を退けています」、というのも、解せない。
・『実現の鍵となる薬剤師の役割  薬の乱用や避妊しない性行為の増加といった“風紀の乱れ”が懸念され、かき消されてきた緊急避妊薬の市販化を求める声。これまでは局所的な議論にとどまってきたが、SNSの普及も手伝い、若い女性や、現場の医師の意見が可視化されることによって、これまでにない広がりを見せている。 緊急避妊薬の市販化が実現している海外諸国において、モラルの崩壊が起きたといった事例は報告されておらず、日本においても「市販化を妨げる科学的根拠はない」と語る重見氏に、今後の議論の進展を見守る上で注目すべきポイントを伺った。 「これまでの経緯を踏まえれば、市販化が実現した際には『第1類医薬品』に分類される可能性が高いと考えられます。そうなった場合、薬はカウンターの後ろの棚や鍵付きのショーケース内に置かれ、薬剤師の説明を聞いた上でないと購入することはできません。また悪用や他者への譲渡を防ぐため、薬剤師の立ち会いの下で服用することを購入の条件に加える、といった議論も出ており、緊急避妊薬の市販化と聞いて多くの人が思い浮かべる“開放的なイメージ”とはまた違った形に落ち着く可能性があります。いずれにせよ、現在は医師が果たしている役割を担うことになる薬剤師の存在と、研修や情報連携などの仕組み作りが、今後の議論において鍵になっていくはずです」 賛成派と反対派の意見が紛糾している緊急避妊薬の市販化を巡る議論。どのような形で決着がつくのか、今後も要注目だ』、「緊急避妊薬の市販化が実現している海外諸国において、モラルの崩壊が起きたといった事例は報告されておらず、日本においても「市販化を妨げる科学的根拠はない」」、「現在は医師が果たしている役割を」「薬剤師」に担わせる方向で、対応すべきだろう。

次に、2月10日付け日刊ゲンダイが掲載したジャーナリストの有森隆氏による「小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/285022
・『爪水虫などの皮膚病用の飲み薬に睡眠導入剤の成分が混入した問題で、福井県が9日、薬を製造したジェネリック医薬品(後発薬)メーカーである小林化工(福井県あわら市、小林広幸社長、非上場)に対し116日間の業務停止処分を出した。116日間は医薬品メーカーへの行政処分で過去最長だ。 この問題の発端を、地元紙・福井新聞は「検証小林化工、異変伝える1本の電話」(2020年12月17日付オンライン)と報じた。 〈「そちらで処方された薬をのんでいた人が、意識消失で救急搬送されました」――。11月27日、岐阜県高山市の久保賢介医師(63)の元に、救急病院から連絡があった。59歳の男性が車を運転中に意識を失い、溝に脱輪したという。“異変”の始まりだった〉 〈久保医師は、内科とアトピーの治療を専門とする有床診療所の院長。59歳男性の救急搬送以後、入院患者4人についても普段と様子が違っていることに気が付いた。朝食を食べたら夜まで寝ていたり、起こすと記憶を一部失っていたりすることがあった。 他の外来患者に関しても、12月2日の朝には30代女性が意識もうろうとした状態になり寝てしまった。32歳の男性は配送の仕事中にトンネル内で意識がなくなり、センターラインのポールに衝突した。本人は当時の記憶がなく、事故後も、もうろうとしたまま仕事を続けたという。 意識障害があった患者7人には共通点があった。久保医師は「全てイトラコナゾールが原因だと確信した」と振り返る。 同診療所では、アトピー性皮膚炎に多いマラセチア毛包炎の治療に経口抗真菌剤イトラコナゾール錠を用いていた。製造したのは、ジェネリック医薬品の中堅メーカー、小林化工である。 久保医師の訴えが、多数の健康被害が発覚する端緒になった。 12月10日、小林化工が製造し、睡眠導入剤の成分が混入した皮膚病用の飲み薬を服用した70代の女性が、首都圏の病院に入院中に死亡したほか、80代の男性も亡くなっている』、「116日間の業務停止処分」、とはよほど酷かったのだろう。
・『小林化工は11日に死亡を発表。翌12日に小林広幸社長は報道陣の取材に応じ、「重大な過失を犯し、責任を痛感している。会社全体で償っていきたい」と謝罪した。 この問題では、福井県や厚生労働省が12月21日、22日の2日間にわたり、小林化工に立ち入り調査を実施し、省令や社内規定違反が相次いで明らかになった。 睡眠導入剤成分が混入したのは皮膚病用治療薬「イトラコナゾール錠50『MEEK』」。国が承認した手順書では、薬の主成分を全て1回で入れることになっているが、「裏手順書」が存在し、2度に分けて入れると記載されていた。錠剤を固まりやすくするための便法とみられており、製造現場では十数年前から「裏手順書」が採用されていた。 問題の薬では、従業員が主成分を2度目に入れようとして、睡眠導入剤と取り違えていた。主成分と睡眠導入剤は同じ棚の上下に並べて置かれていた。2人1組で相互にチェックしながら薬の調合にあたるとする社内規定に反し、1人が作業場から離れた時間帯があったことや、離れた1人が作業の確認済みのサインをしたこともわかった。 「イトラコナゾール錠50」は20年夏に製造され、約9万錠が出荷された。服用した患者は全国31都道府県に344人。6割超の214人が意識消失、記憶喪失、ふらつきなどの健康被害を訴えた。このうち2人が死亡し、運転中に意識を失うなどして22人が交通事故を起こしている。小林化工は1月27日、18年3月以降に出荷した22製品についても、新たに自主回収をすると発表した』、「製造現場では十数年前から「裏手順書」が採用」、「主成分と睡眠導入剤は同じ棚の上下に並べて置かれていた。2人1組で相互にチェックしながら薬の調合にあたるとする社内規定に反し、1人が作業場から離れた時間帯があったことや、離れた1人が作業の確認済みのサインをした」、安全性が最重視されるべき製薬企業にあるまじきズサンさだ。
・『実はオリックスの連結子会社  小林化工は1961年に設立された経口剤や注射剤などのジェネリック医薬品のメーカー。 誤飲を防ぐ視認性の高い製剤など付加価値の高い医薬品を扱っているほか、成長が見込める抗がん剤の開発もやっている。 20年3月期の売上高は370億円、従業員は796人。270品目を販売しており、後発医薬品業界では日医工(東証1部)、沢井製薬(同、4月からサワイグループホールディングス)、東和薬品(同)の“ご三家”に続く第2グループに位置する。 実は、小林化工は総合リース大手オリックスの連結子会社である。20年1月に子会社になったばかりだった。=つづく』、「オリックスの連結子会社」になってなければ、破綻していたところだが、「オリックス」もとんだババを掴んだものだ。

第三に、この続きを、2月11日付け日刊ゲンダイ「小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/285091
・『小林化工(福井県あわら市)の株式の過半数を保有し、資本・業務提携しているオリックスは1月20日、福井新聞の取材に「出資者として誠に遺憾。小林化工が社会的な責任を少しでも早く全うすることができるように、最大限のサポートを行っている」とコメントした。 オリックスは20年1月14日、小林化工を子会社にすると発表した。発行済み株式の過半数を取得するが、出資比率や株式取得に要した金額は非公開。現経営体制を維持し、代表取締役の変更はないが、社外取締役2人と監査役にオリックスの社員が就任した。 オリックスは経営戦略を立案し、財務基盤の強化を図る。 オリックスが医療用医薬品事業に手を染めるのは初めてだ。 「医療法人向けのリースやファイナンス、医療機器関連のレンタルサービスの提供だけでなく、これまで原薬商社、医療機器販売会社、動物薬メーカーに出資するなどヘルスケア業界に注目して幅広い事業を展開しています」) オリックスのプレスリリースにこう書いてある。 小林化工は「オリックスの国内外のネットワークの事業基盤と連携し、さらなる品質向上、安定向上を目指す」とした。海外進出を視野に入れていることはいうまでもない』、今回の不祥事が明らかになる前の「プレスリリース」、など殆ど意味がない。
・『出発は「富山の薬売り」  小林広幸代表取締役社長は創業家の3代目である。創業者は小林政国。配置薬を売る「富山の薬売り」で、戦後の1946年に配置薬を製造する小林製薬所を創業した。61年、小林化工を設立、医療用医薬品に進出した。 小林広幸は薬剤師だ。金沢大学の研究室を経て、住友製薬(現・大日本住友製薬)に就職。家業を継ぐべく94年、小林化工に入社。当時の年商は12億円程度と零細企業だった。2007年、父・小林喜一の後を継いで代表取締役社長の椅子に座った。) 後発医薬品業界に追い風が吹いた。医療費抑制の一環として政府は02年から後発薬の普及目標を段階的に引き上げていった。医療現場では先発薬から後発薬への置き換えが進んだ。02年から現在までに後発薬の販売数量は2倍に拡大した。 後発薬使用促進策の流れに乗り、小林化工は急成長を遂げる。02年当時の年商30億円が、20年3月期には370億円と12・3倍になった。利益は工場の増産投資に充当。それが、また増収につながる好循環に入った。 政府は後発薬の使用割合を20年までに数量ベースで80%に引き上げる目標を設定。20年9月時点で後発薬の数量シェアは79・3%とほぼ目標を達した。 後発薬市場は成熟期を迎え、成長に陰りが見え始めた。 国内が頭打ちになれば外に目が向く。日医工、沢井製薬、東和薬品の国内専業大手は欧米の後発薬企業を買収し、欧州や米国市場に進出した。準大手で非上場の小林化工が選択したのがオリックスを戦略パートナーにすることだった。オリックスの力を借りて海外に出ていく。) 小林広幸社長は、一般財団法人日本医薬情報センターの会員向け機関誌「JAPIC NEWS」(20年11月号)で、オリックスの傘下に入った理由を、こう語っている。 「一時は上場も検討しましたが、オリックスがパートナーであれば、強固な信頼関係のもとでサポートを受けつつ、さまざまな課題を解決していけると考え、資本・業務提携しました。(中略)同業他社から声がかかりましたが、今後の当社の発展には、オリックスの信用力やネットワークが必要だと判断しました」 「多すぎる」(厚生労働省幹部)と言われる後発医薬品会社の再編は必至である。小林化工は業種の枠を超えたM&Aの道を選んだ。 しかし、新・小林化工は船出した直後に、薬害事故で死者まで出し、突然、座礁した。過去最長となる116日間の業務停止処分を受けることになったわけで、小林社長以下経営陣の総退陣は免れないだろう。睡眠剤混入薬の被害者から集団訴訟を起こされることも想定される。 親会社、オリックスが前面に出てこざるを得まい。 “敗戦処理”の方法としてはオリックス主導による自主再建もあるが、「同業他社に小林化工を売却する」(株式を公開しているジェネリック大手の首脳)といったうがった見方も、一部で浮上している。=敬称略)』、「経営陣の総退陣」、今回の事件で明らかになったお粗末な内部管理体制、などを踏まえると、「オリックス主導による自主再建」は容易ではなく、「同業他社に小林化工を売却」のシナリオの方が可能性が高いのではなかろうか。それにしても、今回、傷がついた「ジェネリック医薬品」のイメージをどう回復していくかも大きな課題だ。

第四に、2月20日付け東洋経済オンライン掲載した東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野教授の中西 真氏による「東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/411265
・『もしいくつになっても若い体や心のままで生きることが可能となったら、社会、ビジネス、あなたの人生はどう変わるのだろうか? ハーバード大学医学大学院の教授で、老化研究の第一人者であるデビッド・A・シンクレア氏の全米ベストセラー『LIFESPAN(ライフスパン):老いなき世界』では、人類が「老いない身体」を手に入れる未来がすぐそこに迫っていることが示され話題となっているが、日本でも、老化研究に関する大きなニュースが飛び込んできた。 2021年1月15日、東京大学医科学研究所の中西真教授らのグループが、老齢のマウスに「老化細胞」だけを死滅させる薬剤を投与し、加齢に伴う体の衰えや生活習慣病などを改善することに成功したと米科学誌『サイエンス』に発表したのだ。老化研究はどこまで進化しているのか。中西氏に話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aは中西氏の回答)』、興味深そうだ。
・『老化の原因「老化細胞」除去とは  Q:老齢のマウスの「老化細胞」を特異的に死滅させる薬剤を発見されましたが、この「老化細胞」の除去とはどういったことでしょうか。 A:「老化細胞」とは、ストレスによってダメージを受けるなどして、増殖できなくなってしまった細胞のことです。 60年ほど前、アメリカのヘイフリック博士が、正常なヒトの細胞を試験管の中で培養していくと、一定の分裂回数のうちに増殖を停止して、二度と増殖できなくなるステージに入ることを発見しました。この状態になってしまった細胞を「老化細胞」といいます。 細胞は、つねにさまざまなストレスにさらされており、ストレス過多になった場合、遺伝子に傷が入ったり、タンパク質がダメージを受けるなどします。軽微なダメージなら、細胞は修復して生き続けることができますが、修復不可能な損傷の場合、細胞そのものを殺すか、細胞の老化を誘導し、異常な細胞を蓄積させない仕組みが働きます。その結果、細胞は増殖することができない老化細胞となってしまいます。 そして、この老化細胞が、臓器組織の機能低下や老年病などの発症を誘発するというのが最も基本的な「老化のメカニズム」の1つです。) これまでの研究では、老化細胞を除去することでさまざまな老化現象が改善することはわかっていました。しかし、組織や臓器により老化細胞は性質が異なるため、それらどんなタイプの老化細胞にも効く薬剤の開発には至っていませんでした。 われわれ研究チームは、老化細胞の生存に必須な遺伝子を探し、それが「GLS1」という遺伝子であることを突き止めました。さらに、老化細胞は、リソソームと呼ばれる細胞内小器官の膜に傷ができ、細胞全体が酸性に傾くが、「GLS1」が過剰に働くことで中和され、死滅しないまま細胞を維持することも明らかにしました。 そこで、この遺伝子「GLS1」の働きを止める薬剤を投与したところ、老化細胞が除去され、老化に伴う体力の衰えや生活習慣病が改善することを証明しました』、「この遺伝子「GLS1」の働きを止める薬剤を投与したところ、老化細胞が除去され、老化に伴う体力の衰えや生活習慣病が改善」、そんな魔法のような「薬剤」があるとは医学も進歩したものだ。
・『老化は「常識」から「サイエンス」になった  老化研究が注目されるようになったのは、ごく最近のことです。僕は、いまから30年前、アメリカに留学していた頃に細胞老化という現象に興味を持ち、それ以来ずっと研究を続けていますが、当初はほとんど注目されておらず、現象論ばかりで分子機構も明らかにされていない時代でした。 当時盛んだったのは、細胞周期に関する研究です。2001年には細胞周期の制御因子を発見した研究者がノーベル賞をとり、僕もその波に乗って細胞周期の研究に取り組みつつ、ほそぼそと細胞老化の研究も並行してきました。 老化研究のいちばん難しいところは、とにかく時間がかかるということです。例えば、一口に「カメの寿命にともなう死亡率の研究」と言っても、カメは100年以上生きますからね。高齢マウスの研究でも、2~3年はかかります。たかだか20~30年の研究者人生の中でできることには限りがあるのです。 社会にとっては非常に必要な研究だけれど、何十年もなんの結果も出さずにいることは、許してもらえませんからね。 そんな老化研究全体の空気が変わったのは、この数年です。まず、2014年に科学誌『ネイチャー』で、老化の過程は生物種によってかなり異なるということが報告されました。ヒトは、老化による機能低下などで寿命を迎えますが、生物種のなかには、老化そのものが寿命を規定していないものがたくさんいるというのです。 また、2016年には、同誌に、ヒトの最大寿命は120歳であるという報告も掲載されました。それまでなんとなく「年とともに老いて、長くても120歳ぐらいで死ぬものなんだろう」と思われていたことが、サイエンスとして一流の科学誌に取り上げられたわけです。 老化現象というものが、一般常識の範疇から、サイエンティフィックに非常に面白い対象なのだと認識されることになり、多くの研究者が参入するきっかけになりました。 とくに、生物種によって老化の過程が異なるというのは、非常に面白い話です。 ヒトは、加齢に伴って死亡率が急激に増加する典型的な生物ですが、ある種のカメやワニなどには、そのような現象が起きません。もちろん、ある決まった寿命で死ぬのですが、年をとっても、人間でいう白髪が出たり老けたりという、老化の表現型が出ないのです。 つまり、20歳の死亡率と70歳の死亡率が変わらない。「ピンピンコロリ」の一生を送るすごい生物がたくさんいるということです。 興味深いのは、ゾウです。ゾウは、ストレスが加わったときに、自らの体内で老化細胞になる前に傷ついた細胞を死滅させてしまうと言われています。われわれが開発したような薬を飲まなくとも、もともとそういうシステムを体内に持っているわけですね。 ゾウにはがんがないというのも有名な話です。がん細胞のような悪い細胞をすぐに死滅させてしまうからです。がんのあるゾウを探すのは、非常に難しいと言われるほどです。 悪い細胞を体内に残しておくから病気になるわけですが、ただ、生態系全体として見ると、ヒトは、老化細胞を残しておくことに、個体としてなんらかのメリットがあり、それが進化の過程で有利に働いているという部分もあるのかもしれません。 老化によって臓器組織の機能が低下し、老年病を引き起こすなどして健康寿命を決めているメカニズムと、生物種の最大寿命そのものを決めているメカニズムはまったく次元が違うはずです。 老化研究は、まだまだわからないことが多く、あくまでもわれわれ自身である「ヒトの老化」という範疇から出ていません。今後ますます俯瞰的に理解していくことで、より研究が深まっていくでしょう』、「生物種のなかには、老化そのものが寿命を規定していないものがたくさんいるというのです」、「ヒトは、加齢に伴って死亡率が急激に増加する典型的な生物ですが、ある種のカメやワニなどには、そのような現象が起きません。もちろん、ある決まった寿命で死ぬのですが、年をとっても、人間でいう白髪が出たり老けたりという、老化の表現型が出ないのです」、「老化研究は、まだまだわからないことが多く、あくまでもわれわれ自身である「ヒトの老化」という範疇から出ていません」、殆ど研究され尽くしていると思っていたが、そうではないことを初めて知った。
・『ヒトへの実用化までのハードル  老化改善の薬は、これからヒトへの実用化に向かっていきますが、まだまだハードルがあります。 ひとつは、本当にその薬に副作用がないか、もっと効果的な薬はないかという短期的なハードル。そしてもうひとつは、まだ個体の老化はすべてが解明されていないという長期的なハードルです。 われわれの研究もそうですが、これまでは、培養された細胞を使った研究ばかりで、個体の中での研究はほとんど行われていません。老化細胞が、個体の中で加齢や老年病の発症に関わっているのは確かですが、現実には、個体の中はまだブラックボックスなのです。個体のいったいどこに老化細胞が蓄積しているのか。それがどのような機能や性質を持ち、どう作用しているのかはわかっていません。 これからは個体の中での老化細胞の働きを解明する必要がありますし、そのような研究が進めば、もっと優れた標的や、もっと優れた治療法が見つかるだろうと僕は信じています。) Q:日本人は世界的にも長寿ですが、ほかの国の人々に比べてどのような要因が考えられるのですか。 A:ひとつは、日本人の食生活が大きく影響していると考えられます。日本人は、アルコールの摂取量も世界的に見れば少ない人種です。 もうひとつは、日本人には、肥満など特殊な体質が非常に少ないことです。もちろん日本人にも肥満体質の方はいらっしゃいますが、欧米人に比べるとかなりその程度は軽いと思います。 アルコール摂取量が多かったり、生活習慣が原因で肥満が起きたりする環境では、それが細胞に対するストレスになり、老化細胞が増えやすいということは十分に予測できます。日本人の普通の食生活や生活習慣が、欧米人に比べればストレスを受けにくいということですね。 人種にかかわらずヒトの最大寿命は決まっています。世界一の長寿とされたジャンヌ・カルマンさんはフランス人女性ですから、日本人が最長というわけではありません。ですから、少なくとも欧米人が日本人のような生活習慣になれば、長寿に近づいていくと言えるでしょう』、「日本人は、アルコールの摂取量も世界的に見れば少ない人種です。 もうひとつは、日本人には、肥満など特殊な体質が非常に少ない」、「日本人の普通の食生活や生活習慣が、欧米人に比べればストレスを受けにくい」、私の常識的知識とも合致するようだ。
・『老化は「病気」として治療できる  Q:シンクレア氏の『ライフスパン』では、「老化は病気である」と定義されていますが、先生のお考えをお聞かせください。 A:僕も、少なくとも、加齢に伴って起きるような臓器組織の機能低下や老年病などは治せるものだと考えています。 ただ、最大寿命を延ばすのは非常に難しいことですし、倫理的にも問題があると思いますので、そこはもう少しよく考えなければなりません。まずは、健康に生きる時間を長くするということだと思います。 昨年12月、シンクレア先生が山中因子(iPS細胞)を使って、高齢マウスの視力を回復させたという論文を『ネイチャー』に発表されました。非常にインパクトがあり、本当に老化細胞が若い細胞に戻っているのなら、これはすごいことだと僕は思います。 ただ、山中因子によって実際にどんな細胞が生まれて、それがどういう形で老化した細胞を再生させているのかということについては、まだ証明されていません。まだまだこれからということになるでしょう。) Q:アメリカでは、グーグルなどが老化研究のベンチャーに投資していますが、日本ではそのような動きはありますか? A:日本では、残念ながらまだほとんどありません。そのようなベンチャーもありませんし、カルチャーもありません。 アメリカには、「失敗してもいいじゃないか、作ってダメならまたやり直せばいい」というカルチャーがありますが、日本は違います。「失敗したくない」「失敗するとダメージにつながる」という発想にとらわれていて、なかなかそのような会社はできないんですね。 ただ、20~30代の世代では、ベンチャーをやってみようというハードルが低く、そのような芽ははっきりとあります。今後、老化研究の分野に投資したいという動きは大きくなるかもしれませんね。 いま、がん研究については、かなり煮詰まったところまで来ています。もちろん、本庶佑先生のようなすごい発見も今後生まれると思いますし、すい臓がんなど治療困難なものもありますが、基本的に、がんは治る病気になりつつあるんですね。そうなると、人類の最後の未知なる領域は「老化」ということになり、そこへシフトしていく流れがはじまったのだろうと思います』、「人類の最後の未知なる領域は「老化」ということになり、そこへシフトしていく流れがはじまったのだろう」、今後が楽しみだ。
・『100歳まで健康に生きることが「自然」  「老化も死も自然のままがいい」という感覚の方も多いようですが、僕は、なにをもって「自然」と言うかは難しいと考えます。老化は、人によって程度がまったく違うもので、90歳でも100歳でも元気な人もいれば、50歳でもいろんな病気にかかってしまう人もいます。 病気にかかることが自然なのかというと、僕は、やはりそうではない、100歳まで健康に生きることが自然だと思うのです。僕の両親もそうですが、年老いた人は不自由を感じていますし、それを改善できるということは、すごく大きなことだと思います。 自然に生きることを助け、サポートしていくことが、老化研究です。実現すれば、短期的には医療費の問題が解決し、もっと別のことにお金が使えるようになりますし、個々の方の人生そのものも幸せになりますよね。やはり健康は、最もお金で買えない幸せだと僕は思っています』、「100歳まで健康に生きることが「自然」」、医学の進歩で、それに近づいてほしいものだ。
タグ:『日本産婦人科医会』が「『別の避妊方法に頼るべきだ』という理由で市販化に賛成する意見を退けています」、というのも、解せない 「緊急避妊薬が市販化されている諸外国では1000~2500円程度で買えるところが多く」、「無料」にまでする必要はなくても、この程度なら妥当だろう 医薬品 「人類の最後の未知なる領域は「老化」ということになり、そこへシフトしていく流れがはじまったのだろう」、今後が楽しみだ 「100歳まで健康に生きることが「自然」」、医学の進歩で、それに近づいてほしいものだ 反対派が懸念する市販化による性の乱れ 「検討会のメンバーは一部を除いてほとんどが男性」、「年齢層も高く、40代~60代が大多数だ」、これでは公正な判断は期待できない。 市販化の実現で低価格化の可能性も 人工妊娠中絶を受ける未成年者の数は平均で1日約40人と看過できない数字だ 有森隆 「経営陣の総退陣」、今回の事件で明らかになったお粗末な内部管理体制、などを踏まえると、「オリックス主導による自主再建」は容易ではなく、「同業他社に小林化工を売却」のシナリオの方が可能性が高いのではなかろうか。それにしても、今回、傷がついた「ジェネリック医薬品」のイメージをどう回復していくかも大きな課題だ。 「小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間」 「製造現場では十数年前から「裏手順書」が採用」、「主成分と睡眠導入剤は同じ棚の上下に並べて置かれていた。2人1組で相互にチェックしながら薬の調合にあたるとする社内規定に反し、1人が作業場から離れた時間帯があったことや、離れた1人が作業の確認済みのサインをした」、安全性が最重視されるべき製薬企業にあるまじきズサンさだ 実はオリックスの連結子会社 「116日間の業務停止処分」、とはよほど酷かったのだろう。 日刊ゲンダイ 実現の鍵となる薬剤師の役割 「現在は医師が果たしている役割を」「薬剤師」に担わせる方向で、対応すべきだろう。 「緊急避妊薬の市販化が実現している海外諸国において、モラルの崩壊が起きたといった事例は報告されておらず、日本においても「市販化を妨げる科学的根拠はない」」 今回の不祥事が明らかになる前の「プレスリリース」、など殆ど意味がない。 出発は「富山の薬売り」 「オリックスの連結子会社」になってなければ、破綻していたところだが、「オリックス」もとんだババを掴んだものだ 「小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?」 東洋経済オンライン 中西 真 「老化研究は、まだまだわからないことが多く、あくまでもわれわれ自身である「ヒトの老化」という範疇から出ていません」、殆ど研究され尽くしていると思っていたが、そうではないことを初めて知った 「ヒトは、加齢に伴って死亡率が急激に増加する典型的な生物ですが、ある種のカメやワニなどには、そのような現象が起きません。もちろん、ある決まった寿命で死ぬのですが、年をとっても、人間でいう白髪が出たり老けたりという、老化の表現型が出ないのです」、 老化は「病気」として治療できる 「生物種のなかには、老化そのものが寿命を規定していないものがたくさんいるというのです」、 「日本人は、アルコールの摂取量も世界的に見れば少ない人種です。 もうひとつは、日本人には、肥満など特殊な体質が非常に少ない」 ヒトへの実用化までのハードル 「この遺伝子「GLS1」の働きを止める薬剤を投与したところ、老化細胞が除去され、老化に伴う体力の衰えや生活習慣病が改善」、そんな魔法のような「薬剤」があるとは医学も進歩したものだ 「日本人の普通の食生活や生活習慣が、欧米人に比べればストレスを受けにくい」、私の常識的知識とも合致するようだ 老化は「常識」から「サイエンス」になった 老化の原因「老化細胞」除去とは 「東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ」 「「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由」 (製薬業) (その5)(「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由、小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間、小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?、東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ) ダイヤモンド・オンライン
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科学技術(その1)(STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?、日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)、科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)) [科学技術]

今日は、科学技術(その1)(STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?、日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)、科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会))を取上げよう。

先ずは、昨年11月27日付け現代ビジネスが掲載した病理専門医で科学・技術政策ウォッチャーの榎木 英介氏による「STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68646?imp=0
・『あのSTAP細胞事件の後も、多くの研究不正が明らかになっている。中には「史上最悪の研究不正」と言われるほどのケースも。一体なぜ不正はなくならないのか。『研究不正と歪んだ科学』編著者の榎木英介氏が警鐘を鳴らす。 夢の万能細胞と騒がれ、のちにその存在が否定されたSTAP細胞に関する事件、いわゆるSTAP細胞事件から、早くも5年以上の月日が経過した。 5年前、あれほど世間を揺るがした事件も、忘却の彼方に消え去ろうとしている。大学には事件そのものを知らない学生も増えているという。 それは私たちとて似たようなものだ。STAP細胞事件は、号泣県議や佐村河内事件など当時世間を騒がせたネタの一つに過ぎず、令和になった今、平成に起こった一つの事件として振り返ることがせいぜいだ。 しかし、STAP細胞事件があらわにした、日本の研究が抱える様々な問題は、実は何も解決していない。 いったい研究の現場で何が起こっているのか』、「日本の研究が抱える様々な問題は、実は何も解決していない」、とは驚かされた。
・『史上最悪の研究不正  STAP細胞事件を「世界三大研究不正事件」と呼ぶ声がある。 研究不正とは、狭義には存在しないデータを作る捏造、データを加工する改ざん、他の研究者のアイディアや文章などを許可や表示なく流用する盗用の3つの行為を指す。STAP細胞に関する論文には、この3つが含まれていた。 たしかに報道の量だけをみれば、少なくとも日本国内では、研究不正の事件としてはダントツだろう。 しかし、私はこれに全く同意しない) 史上最悪とさえ呼ばれる日本の研究者が起こした事件が、今世界を震撼させている。それは、元弘前大学教授で医師のS氏が起こした事件だ。 ・元弘前大学医学部所属教員による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん・盗用)の認定について(文部科学省) http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fusei/1404087.htm ・研究活動の不正行為に関する調査結果について(弘前大学)https://www.hirosaki-u.ac.jp/30242.html S氏は骨粗鬆症などの専門家で、論文の多くが患者の治療ガイドラインに取り入れられるなど、影響力があった。 ところが、やったとされる臨床研究が実際は行われていないなど、論文に多くの研究不正が見つかった。その他不適切な行為も多数確認された。 2019年11月21日現在、撤回された論文数は実に87報に及ぶ。 撤回論文を除くと、患者の治療ガイドラインの結論が変わってしまうという。つまり、S氏の不適切な論文のために、患者が不適切な治療を受けていたことになる。患者への影響は計り知れない。 これは、発表後比較的短期間に撤回され、他の研究に引用されることがなかったSTAP細胞論文どころの話ではない。史上最悪の研究不正と言われるわけだ。 この事件は世界で最も影響力があるとされる科学雑誌サイエンスとネイチャーが共に誌面を割いて大きく取り上げたほどだ。 しかし、これほどの事件でありながら、日本国内ではほとんど報道されていない。STAP細胞に関係する報道の0.1%にも満たない報道量だろう。 なお、S氏は研究不正を追及され、自死したとされる。STAP細胞事件のときの笹井芳樹氏の自死を思い起こさせる。日本では責任の取りかたの一つとされる自死だが、残念ながら諸外国から批判されている。真相を明らかにすることなく死ぬことは、責任を取ったことにはならないと思われているのだ』、「元弘前大学教授で医師のS氏が起こした事件」、初めて知ったが、「患者の治療ガイドラインの結論が変わってしまう」、深刻な影響があったようだ。
・『世界中から懐疑的な目  研究不正を含めた不適切な論文の撤回を監視するサイト「論文撤回」によれば、S氏の撤回論文数87報は、個人別の論文撤回数ランキングの3位にあたる。それだけでも驚きであるが、もっと驚きなのは、撤回論文数ランキングの上位に日本人が多数入っていることだ。 このランキングのトップはF氏。日本人の麻酔科医だ。その撤回数は実に183報。当分記録は更新されないだろう。 第4位は元慶應義塾大学の研究者I氏の69報。実はI氏は元弘前大学のS氏の共同研究者だった。そして第6位のS氏(撤回論文数53報)は麻酔科医。トップのF氏とは、お互いの研究には無関係ながら、業績を水増しするために論文の著者になる協定を結んでいた。そのS氏だが、F氏の論文撤回に巻き込まれただけでなく、自身も研究不正を行なっていたのだ。 このように、撤回論文数が多い研究者のランキングのトップ6のうち4人が日本人だ。そして4人全員が医者だ。 撤回論文数ランキングをさらに見ていくと、11位に東大教授だった医師ではない研究者のK氏が(撤回論文数40報)、14位に医師のM氏(撤回論文数32報)がランクインしている。M氏は研究不正が認定され、研究費の受給停止処分を受けているが、地位保全の処分を裁判所から勝ち取り、いまだ某大学の現役教授のままだ。 このように、日本人の医師を中心とする研究者が、研究不正や不適切な行為による論文撤回を繰り返しており、世界中に恥をさらしている。 なぜ医師が研究不正や不適切な行為による論文を作り続けることができたのか。 それには相互批判ができない医師特有の文化が影響している。上意下達が徹底し、学閥や診療科による分断が進む医師の世界では、たとえおかしな行為が行われているのを知ったとしても、簡単には批判ができない。 思えばSTAP細胞の研究も医師が関わり、秘密裏に行われ、批判を受けることがなかった。チームリーダーなどある程度の地位に就いた研究者を他の研究者が批判しにくいという環境もあった。 上述の撤回論文は、多くがSTAP細胞事件の前に書かれたものだが、事件後、科学界に相互批判ができる研究環境が広がっているのだろうか』、「撤回論文数が多い研究者のランキングのトップ6のうち4人が日本人だ。そして4人全員が医者だ」、「相互批判ができない医師特有の文化が影響している」、国際的な恥辱であり、何とかすべきだ。
・『大学・研究機関のずさんな対応  STAP細胞事件では、理化学研究所(理研)は対応のまずさを厳しく批判されていた。しかし、このことが、STAP細胞事件のような大事件が起こったのは理研だったからという誤った認識につながってしまったのではないか。 しかし、研究不正の事例を適切に扱えないのは理研だけではない。 たとえば弘前大学の元教授の研究不正の事例では、不正論文の共著者に現学長らが入っていた。しかし弘前大学は、学長は論文に名前を掲載されただけで研究に関わっていなかったからと、とくに処分を科さなかった。 研究に関わっていないにもかかわらず論文の著者になることは、ギフトオーサーシップ(注)と言われる不適切行為だ。不適切行為を行なったから処分されないとは理解に苦しむ。 東京大学の事例では、匿名の告発者が分子細胞生物学研究所(分生研;当時)の研究者と医学部に所属する研究者の論文におかしなところがあると大学当局に訴えた。1年ほどの調査期間を経て出された結論は、分生研の研究者のみ研究不正が認められ、医学部の研究者は研究不正ではないと認定された。 匿名の告発者の告発文はネット上にも公開されているが、読むと分生研と医学部の論文のおかしな部分に差がないように思われた。しかし、結論は明確に分かれた。 報道機関が情報公開法を通じて入手した非公開資料を見せていただいたところ、医学部では論文の結論に影響がないから、不適切なグラフなどがあっても研究不正ではないとされていた。 これでは、STAP現象が再現できれば研究不正ではないという考えと同じではないか。呆れてものが言えなかった。 このような研究機関のずさんな対応は枚挙にいとまがない。 集団で研究不正の疑いがかけられたケースでは、調査に対して正直に話した研究者処分され、ダンマリを決め込んだ研究者は 処分から免れたという。 ある大学では、研究不正の疑いを大学当局に訴えた研究者が、逆に大学から不適切な行為をしたとして処分された。 世界的な科学雑誌ネイチャーは、日本の研究機関の研究不正に対する対応のまずさを厳しく批判している』、「研究機関のずさんな対応は枚挙にいとまがない」、どうも自浄作用は期待できそうもなさそうだ。
(注)ギフトオーサーシップ:名誉著者、研究に意義ある貢献を何らしていないにもかかわらず、研究が行われた学部の学部長などを著者とすること(Editage Insight)。
・『何も学ばなかった科学界  ほかにも、利益相反の問題など、STAP細胞事件があらわにした問題で手付かずのものがある。これらも含め、STAP細胞事件で明らかになった課題はまったく解決していない。 研究者たちの意識も変わっていない。 私はSTAP細胞事件後、様々な大学や研究機関、学会などで、健全な研究を行っていくために何をすべきか講演行脚をしているが、よく聞くのが、一部のけしからん輩のために、まっとうな研究者が迷惑をしているという、いわば被害者意識の吐露だ。 しかし、最近日本人研究者や日本人医師が、留学先で行った行為を研究不正とみなされ、処分される事例が相次いでいる。日本では当たり前に行っていた行為が研究不正と認定されてしまうのだ。 その背景には、医師を中心に、どのような行為が不適切な行為なのかといった基礎的な知識が身についていないことや、研究不正を他人事と考えて、自らの行為を見つめなおさないことから来ていると言える。 このように誰しも研究不正や不適切な行為を行う可能性があるのだが、当事者意識を持つ研究者が多くないのは、研究不正を特異な個人が起こす問題だということを強く印象づけてしまったSTAP細胞事件の負の遺産だと言わざるを得ない。 研究機関も研究者も科学界も、そして行政も、STAP細胞事件から何も学んでいないのだ』、「最近日本人研究者や日本人医師が、留学先で行った行為を研究不正とみなされ、処分される事例が相次いでいる。日本では当たり前に行っていた行為が研究不正と認定されてしまうのだ」、「その背景には、医師を中心に、どのような行為が不適切な行為なのかといった基礎的な知識が身についていないことや、研究不正を他人事と考えて、自らの行為を見つめなおさないことから来ている」、誠に恥ずかしいことだ。
・『「研究公正」を科学技術政策の中心に  正直なところ、大学や研究機関も、そして研究者の多くも、研究不正対策を「負のコスト」と考え、研究不正対策に時間も人員も金も割きたくないと考えているだろう。 その意識は、大学や研究機関のなかにも、研究不正を取り扱う専門の部署がないことにも透けて見える。担当者は他の仕事と兼任しており、人事異動でいつ担当者が変わるか分からない。) 政府の対応も及び腰にみえる。 いま日本には、アメリカやヨーロッパの一部の国のように、研究不正の事例を取り扱い、健全な研究の発展のために何をすべきかを考える機関がない。政府は学問の自由を尊重するために、対応を各研究機関に任せているという。 もちろん日本も何もしていないわけではなく、文部科学省(文科省)の科学技術・学術政策局人材政策課には研究公正推進室がある。研究資金を配分する機関にも、研究不正を取り扱う部署がある。 しかし、文科省の部署が「室」であるように、諸外国に比べてヒトカネとも不足している。数年ごとの人事異動で職員が変わるような状況だ。諸外国からみれば、日本の現状を誰に聞けばよいのかすら分からない状況だという。 誰も本腰を入れて関わりたくないという真空状態。それが行き着く先が研究不正の隠蔽だ。研究不正の事例を正直に公開すれば、STAP細胞事件で矢面にたたされた理研のように、徹底的に叩かれてしまうかもしれない。だったらなかったことにしてしまったほうが、研究機関にとっても研究者にとっても都合がよいとなる。 これでは日本の「研究力」の低下もやむなしだろう。意味のないずさんな研究を行ったほうが論文をどんどん出せるし、地位も確保できるのだ。もちろん素晴らしい研究を行なっている研究者がいるのは知っているが、悪貨は良貨を駆逐するだ。実力のない研究者が居座り続ける限り、研究力が上がりようがない。 政府や科学界は気がついているだろうか。研究不正を含めたずさんな研究を行なっている国の研究者を好んで受け入れる国などないということを。ずさんな研究をする国の研究者と共同研究を行いたいと思う研究者など多くないことを。ずさんな研究者教育を行なっている国に留学生など送り込みたくないということを。ずさんな研究がどれほど国益を損なうかということを。 だからこそ、単に研究不正に対処するだけでなく、健全な研究を行う環境を作ることを国も科学界も強力に推進しなければならない。研究不正を超えて健全な研究を推進する環境、「研究公正」を推進する環境を実現し維持していくことは、日本の科学技術政策の中心に置かなければならないのだ。 STAP細胞事件から5年。陰謀論も喧騒も去った今だからこそ、あの事件を冷静に振り返り、教訓をこれからの科学技術のあり方に生かしていくことが求められていると言えるだろう』、「研究不正」の問題こそ、学術会議が取上げるべき格好のテーマなのではなかろうか。

次に、本年10月16日付けNewsweek日本版「日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2020/10/post-94727_1.php
・『<日本で科学の危機が叫ばれて久しいが、海外経験豊富な研究者たちはどう捉えているのか。4人の日本人科学者に集まってもらい、「選択と集中」など日本の科学界の問題点、欧米との絶望的な格差、あるべき研究費の使い方について語ってもらった。本誌「科学後退国ニッポン」特集より> 日本は「科学後進国」なのか。日本の研究・教育環境と海外との違い、そこから見える問題点と解決策とは。 アメリカやイギリスの一流大学や研究所で勤務経験があり、現在は東京大学や東京工業大学で助教、准教授として働く30代後半の研究者、仮名「ダーウィン」「ニュートン」「エジソン」と、国内の大学で学長経験もある大御所研究者「ガリレオ」の計4人に、覆面座談会で忌憚なく語ってもらった。(収録は9月25日、構成は本誌編集部。本記事は「科学後退国ニッポン」特集掲載の座談会記事の拡大版・前編です)』、第一線の「研究者」などによる「覆面座談会」とは面白そうだ。
・『日本は「科学後進国」か否か  ダーウィン 僕の専門分野である情報学の一分野では、そもそも先進国であったことすらないですね。 ニュートン 私の所属する化学の領域ではまだ日本はトップグループをなんとか維持しているけど、中国などに猛烈に追い上げられている状態。 エジソン 「後進国」かどうかは分からないが、材料科学分野でも右肩下がり。若い人がポスドク(博士号取得後の研究員)に残らないことが最大の問題。昔は自由度が高くて先生たちが好きなことをやっていて、若い人にいいなと思わせるものがあったが......。 ガリレオ 昔は昼休みにテニスなんかやってね。給料は安いかもしれないけど先生稼業っていいなと思われていた。今はとにかく(大学法人化後の過大な事務負担で)忙し過ぎる。研究の余裕もない。 例えばノーベル物理学賞を受賞した赤﨑勇・名城大学終身教授のような青色発光ダイオード(LED)の研究はアメリカでは絶対できないと羨ましがられた。当初、(発光に必要な)窒化ガリウムの論文の数は地をはうような少なさだったのに、海のものとも山のものともつかない物質を信じてやる赤﨑先生のような人がいて、そこに国がちゃんと金を出した。それが日本のいいところだった。 ニュートン 官僚を目指していた頃に科学政策について勉強したけど、昔の一番いいところは、要はバラマキがあった。額は大きくはないが均等分配。物になるかは分からない研究にも税金が使われ、研究者は長い目で研究ができた。その成果がノーベル賞につながっているという歴史があるでも目先の成果主義が始まり、答えが見つかりそうなものにしかお金を出さないようになった』、「青色発光ダイオード(LED)の研究はアメリカでは絶対できないと羨ましがられた」、かつての文科省の「均等分配」がカギになったようだ。現在の配分方式では予算がつかず、「研究」出来なかった可能性もあったようだ。
・『「自分を雇えない」博士  ガリレオ アメリカでも昔は結構成果主義的なところがあった。それでもまき餌のように少額のお金をばらまいてあまり目先の成果を問わないという政策を始めてからうまくいった。 それに欧米では先生も必死に企業から金を取ってくる一方、企業も比較的基礎研究に近いところに金を出す文化がある。企業と大学のやるべきところの境目がはっきりしている。自分たちのできない基礎的なところに金を出します、という文化が海外企業にはあると思う。 エジソン OBや会社から大学へ大きな寄付が落ちてきて、先生たちに分配しますよね。研究費に関して日本と全く違うのが、基本的に半分くらい人件費であること。日本の場合、人を雇うことが前提となっていない。 ダーウィン まず自分を雇えない。 エジソン そこはポイントですね。アメリカの教授は大学からのお金もあるが、外から取ってきたお金で自分に給料を払い研究費にも使う。そしてポスドクや学生にも給料と授業料を払う。逆に言うと仕事してもらわなきゃいけないからクビも切れる。 ニュートン イギリスも似た感じですね。だから学生にも成果に対するプレッシャーがある程度ある』、「アメリカ」での「研究費」には教授の人件費も含まれるが、日本では含まれないようだ。
・『海外とのすさまじい格差  ダーウィン アメリカの一流大には世界中から優秀な人が来る。多くは就業経験、社会人経験があり、もっと深いことやりたい、もっとお金が欲しい、良いポジションに就きたい、という思いで良い大学の博士号を取りに来る。そういう人たちが基本的に「仕事」として最低限のお金をもらって研究する。だから日本と心構えがまず違う。必死で働く。 ニュートン 博士号を取れば、その先にベターな職環境に行けるという確信と現実がありますよね。日本は博士号を取ったことのデメリットが強調される。社会が受け皿として博士の高度な専門性を利用せず、博士課程に行くハードルを高くしている。 ダーウィン アメリカのいい大学を学部や修士で出てグーグルやフェイスブックに入ると、初年度からもろもろ込みで年収1500万円ぐらい。博士課程を終えてからだと3000万は欲しいよね、という感じ。それもあり博士号を目指す人が大勢いる。 ニュートン 私は教員6年目だが、給料1500万円なんてあり得ない(笑)。私がイギリスにいたときのポスドクへの最高支給額は年間1100万円ぐらいで、それは欧州委員会が世界中から研究者を集めるための奨学金システムから出ていた。ドイツやイギリスの似たようなプログラムでも700~800万円はもらえる。 一方、日本の日本学術振興会の海外特別研究員という制度は450~600万円ぐらい(渡航地域の物価による)。更に酷いのは(海外ポスドクは所得税を引かれない場合もあり)海外ポスドクより帰国して教員になる方が給料が減ること! 日本では博士号のブランドがあまりに低過ぎて、興味のため多くを捨て、「夢のために頑張る」という自己犠牲に耐え得る人ばかりになってしまった』、「日本は博士号を取ったことのデメリットが強調される。社会が受け皿として博士の高度な専門性を利用せず、博士課程に行くハードルを高くしている」、これは企業にとって「博士」が使いづらいためなのだろう。
・『日本の博士はポンコツか  ガリレオ おっしゃる通りで、あまりに海外と日本は違うのでどうしたらいいか、なかなか思いつかない。私の所属学会では企業側に、博士課程に進んだ人をリスペクトして積極的に雇用してほしいと言ってきた。でも「日本の博士は使えない」と返ってくる。 いつクビになるか分からないなか、大学から雇われて死に物狂いで研究をやる欧米と、自分で学費を払って「お客様扱い」の日本とでは全然真剣度が違う、と。日本でも、ちゃんと成果を出している学生はいるんだけどね。) エジソン すごく耳が痛い話ですね。日本で博士号を取って企業に行く人に優秀な人が少ないのは事実。われわれ大学人も出来上がっていない状態の人間を外に出しちゃうことが当たり前の状態。旧帝大レベルでもそういう「ポンコツ」がいっぱいいる。 ニュートン つまり大学院重点化の「ポスドク1万人支援計画」は間違いだった。アメリカと比べ博士号保持者が少ないから増やそうとして、優秀じゃない人も大学院に行くようになった。 修士で就職出来なかった人も「ネガドク」(ネガティブ・ドクター)で博士課程に行くようになった。優秀じゃない人が残るシステムになっている。企業からすると、優秀でない人を押し付けられている感じになる。 エジソン ひどいのは社会人博士。3年間毎年53万円払えば博士号を取れる。下手したら指導教官に論文を書かせて博士の肩書だけもらえる。教授の判断で短縮卒業だって可能。 ニュートン 企業内で表には出なかった研究で、1日も研究室に通わなくても博士号を取得できちゃう。日本の博士号は今や150万円で買える。日本の大学は博士号の授与という唯一の特権の使い方を間違い、博士号を安売りし、そして結果的に自らの首を絞めている。 ダーウィン それがあるから学歴ロンダリングなどと言われる。大学を出るのが難しかったらロンダリングもなにもない。つまり日本はプロフェッショナリズムとプロに対する敬意がない。 今の話にあるような学生は教員が受け入れなければ良いわけで、まず教員の質が低く、プロではない。アメリカのテニュア(終身雇用)制度だと、大学のポストに応募して厳しい競争を勝ち抜くと教員になり、自分の研究室を持つ。最初に与えられるのは7年間の任期付きのポジションで、これはテニュア・トラックと呼ばれる。 この間に結果を残してテニュアになれないとクビなので、すさまじい勢いで研究する。「パブリッシュ・オア・ペリッシュ」、つまり「論文を出版、さもなくば死」、と言われるぐらい。お金の話をすると、あるアメリカの一流私立大学の学費は学生1人で500万円ぐらい。給料も500万円。 それらと諸経費合わせると、1人の博士課程学生に年間1300万円ぐらいかかる。そういう人を5~7年雇わなきゃいけないので、1人の博士号を出すのに、8000万円ぐらいが必要。給料も払うので、研究室の力にならない学生を採るなんて1000%あり得ない。 ニュートン 教員になれれば良い生活が待っているのでプライドを持って頑張るんですよね? 日本の現状とは真逆に思えてしまいます。 ダーウィン そうでしょうね。僕が知る限り、給料は企業には及ばないものの十分裕福と言えると思います。また、もちろん額は採用時などに交渉できるはずですね。 ニュートン 日本は採用されたときに初めて給料などを教えられる。それもありえないですよね。プロへの敬意がない。 ダーウィン 自分がどんな仕事をすることを期待されているかも、着任するまで分からなかったりします。ジョブディスクリプション(職務が明記された書類)がない。やばくないですか?  ガリレオ 文部科学省は制度だけ海外から持ってくるね。制度を導入したから社会人博士を出せとか、年間何人が目標だとか。だから失敗する』、「日本で博士号を取って企業に行く人に優秀な人が少ないのは事実」、これでは企業が敬遠するのもやむを得ないようだ。「ジョブディスクリプション・・・がない」、大学人は職務を自ら決めるので、ないのが当たり前なのではなかろうか。
・『交付金減額でボロボロ  ニュートン 社会人博士をなぜカネで買えてしまうか。海外から制度だけを持ってきてしまうということもあるが、根本的な違いは、海外は大学が資産運用などで資産を増やしており、お金持ちであることにあるのでは。 日本の大学は海外と違い税金中心で動いている。定員を埋めて博士号取得者を出さないと国からの補助金が減る。だから優秀だろうがなかろうが学生を入れるしかなく、人材の質の低下を生む。 ガリレオ その原因のひとつは寄付文化が日本にないこと。アメリカはそれが根付いており、税制上の優遇もある。成功したら母校に寄付するというカルチャーがある。 エジソン 2004年に国立大学が法人化して国からの運営費交付金がガクっと減らされて、お金の自由度が減った。ガリレオさんは法人化の前後を見られていると思いますが、どう思われますか。ちなみに昔は大学から研究室1つあたり年間400万円ぐらいは分配していたと思うが、今は私の研究室では20万円ほど......。 ダーウィン 僕の大学ではそれよりは多いです。ただ着任初年度は研究室開設の準備費用としては全く足りませんでした。 ガリレオ 運営費交付金減額はだんだんボディーブローのように効いてきているね。それに東大などメジャーな大学とそれ以外の差が非常に広がっている。地方大の教授だと年間10万円しかもらえないとか、信じられないことが起こっている。それが成功しそうなところばかりに金を投入する「選択と集中」だけど、悪い言葉だ』、確かに「選択と集中」は大学には馴染まないかも知れないが、他にメリハリをつける方法があるのだろうか。
・『「選択と集中」とオキアミ  ニュートン 「選択と集中」は本当にダメですね。サイエンスの研究には大きな金が必要で、100万円、200万円はすぐ飛んでしまう。500万~600万円の機器を買うのも当たり前。海外では教員着任前に既に設備がそろっているが、日本ではお金を工面して買わなければいけない。お金が研究に回せない。 ガリレオ 大きな金を投下するには選択と集中は必要かもしれない。しかしやっぱり撒き餌も必要で、成功するかどうかわからない研究に、失敗してもいいからと、少額の金を幅広くばらまくべきだね。昔の運営費交付金はそうだったし、(審査によって交付を決める)科学研究費だって多くはそうすべき。 生態系と一緒で、まずオキアミがあって、それを食べてイワシ、クジラが育つ。オキアミには撒き餌を、クジラには選択と集中を、だ。ありとあらゆることに選択と集中と言って、わずかな金に「失敗したらいかんぞ」みたいなことを言うからダメなんだよ。 <2020年10月20日号「科学後退国ニッポン」特集より>』、なかなか難しい問題だ。

第三に、上記の続きを、10月16日付けNewsweek日本版「科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2020/10/post-94726_1.php
・『<どうすれば日本の科学界は復活できるのか。覆面座談会の後半では、教育コストを渋ることの致命的損失や足りない予算を調達する方法、「科学者」イメージを更新する必要性などについて語ってもらった・・・』、興味深そうだ。
・『「専門」への敬意を欠く日本  ガリレオ 海外は実験を準備するスタッフなども充実しているよね。日本では何でも教授自らがやらないと回らない。ヨーロッパでは、下支えしてくれるスタッフがすごく充実している。そこに計り知れない違いがある。 ダーウィン 結局日本はスタッフもプロじゃない。アメリカの大学では事務も専門職。MBA保持者もいるし、自分の仕事に誇りを持っている。 ガリレオ 日本は専任の大学職員であっても部署がどんどん変わるでしょう。アメリカはずっと同じ部署にいて、本当のプロが育っている。 エジソン 一方、日本の大学職員の仕事は研究、教育の他に雑用もある。例えば学生の担任や研究室運営、入学試験の問題作り、試験官の振り分けなど。あとは学内委員会ですね。安全衛生委員会とか。こんなのまで俺たちがやるかっていう(笑)。 ニュートン 大学院重点化前には、ラボ1つに教授1人/助教授2人/助手3人が標準的で、助手3人がスタッフ的役割をしていたというのが私の理解。最前線でラボを支えていたのは助手だった。それが重点化によって、1人/1人/1人や1人/0人/1人、1人/0人/0人も当たり前になった。教員1人だけで全部やらないといけないラボもあり本当に忙しい。 なぜそうなったかというと、重点化に対して予算増がなかったから。人件費を増やさず、元々いた教員を新しいラボに回した。そうしてラボ内教育が手薄になり、研究のレベルも下がり、企業からの信用度も下がった。 ガリレオ それは別の言い方をすると小講座制をやめて大講座制にしたということ。小講座制の悪いところは封建的になりがちなところ。例えば3人の助手が居たとして、1つの助教授ポストを得ようと理不尽なきつさに耐えなければいけない。 もうそういう時代じゃないだろうというので、権利を民主的に分かち合うために変えていったんだけど、研究という面ではまずいよね。 それにしても文部科学省の大学教育改革はみんな裏目に出ている気がする。教養部の廃止とか、大学院重点化とか、ポスドク1万人とか、大講座制化とか。学部に対する教養部のプライド、大学院に対する学部のプライド、研究室における助手のプライドをもっとその場その場でしっかり高めることを考えるべきだったと思う』、「アメリカの大学では事務も専門職。MBA保持者もいるし、自分の仕事に誇りを持っている」、潤沢な予算ゆえだろうが、驚かされた。「文部科学省の大学教育改革はみんな裏目に出ている気がする」、手厳しい批判だ。
・『失敗も質問も許さないカルチャー  ガリレオ あと、もう1つアメリカとの違いは、失敗を許すかどうか。アメリカのベンチャーだって成功率は日本と変わらない。違うのは、アメリカでは投資家へのプレゼンでも失敗が勲章になり、失敗経験のない人はむしろ駄目なこと。日本は失敗を評価システムに組み込んでいない。 ニュートン 日本企業はいいとこ取りを狙い過ぎてリスクを背負わない。例えば製薬業界では、欧米のベンチャーや大手企業は、薬になるか分からない段階の研究にも夢を懸けて投資する。日本でそういう投資はまれ。 ダーウィン どこから変えるべきかといったら初等教育だと思う。子供の頃からいろいろなことに挑戦させて、結果は駄目でもチャレンジしたことは褒める。つまり過程が大事。そうでないとリスクを背負う人は出てこない。日本はそうした教育がない。 エジソン 評価の仕方ですよね。失敗は、駄目だということが分かったこと自体が「成功」ですから。それを知った人は、同じ轍を踏まない。 ガリレオ 日本ではなぜ?と質問するということにもすごい抵抗がある。例えば学会で質問するとき、大御所の発表に対して「純粋に知りたいから聞くんですけど」とわざわざ前置きしたりする。つまり本当にフラットに「Why(なぜ)」と聞くことがものすごく難しい。 これはすごくまずい。欧米では「なぜ」を探ることを楽しんでいるカルチャーを感じるのに......。 ダーウィン 先ほどチャレンジが評価されないと僕が言ったことと関係するのでは。間違った、バカみたいな質問をしたらどうしよう、と日本では感じてしまう。 アメリカではみんなファーストネームで呼び合うじゃないですか。学生も教授をファーストネームで呼ぶ。ほぼフラットみたいな感じで、その環境になったらWhyと言えるし、むしろなんで言わないんだと聞かれる。でも日本だとなんでそんなこと聞くんだ、と。雲泥の差だと思う』、「日本ではなぜ?と質問するということにもすごい抵抗がある」、確かに欧米からみると異常だ。「アメリカではみんなファーストネームで呼び合うじゃないですか。学生も教授をファーストネームで呼ぶ。ほぼフラットみたいな感じで、その環境になったらWhyと言えるし、むしろなんで言わないんだと聞かれる」、日本では教授は偉ぶっている人が多いのは確かだ。
・『教育にはコストがかかる  ニュートン アメリカはちゃんと(日本の改革で次々廃止された)リベラルアーツ(一般教養)教育は残っていますよね? 教える専門の教員がいる。 エジソン そう。レクチャラーと呼ばれ、研究専門のリサーチプロフェッサーとリスペクトし合っている。両方やるフルプロフェッサーもいる。 ガリレオ アメリカでは教育専門の教授のほうが給料は高いと聞いた。 エジソン その通りです。 ガリレオ 研究専門は好きなことやっているのだから安月給でも我慢しろと。そういうかたちで教育プロパーの先生もちゃんとリスペクトされている。 しかし日本は研究をやっていて「ネイチャー」誌に論文を出すと偉くて、教室で100人相手に授業やっていると駄目だ、となる。多様性をなくしてしまって、一本の物差しで測ろうとする。これが全ての間違いだね。 エジソン ただ、アメリカで教育をやっているプロフェッサーは外からの稼ぎがあまりないから大学がちゃんと保証する一方、リサーチプロフェッサーは研究費を取ってきて自分に給料をペイできる、という事情もあります。 ガリレオ なるほど。 ニュートン イギリスもアメリカも教育はコストがかかるものという認識が浸透している。だが日本は教養学部廃止で研究が得意な人が教育もやらざるを得ない。しかも教育への評価はされにくく、教えることがおろそかになる。 ダーウィン そのことですが、日本の大学では誰かが決めたカリキュラムに沿って授業をあてがわれたりしませんか。新しい授業を開設するのが難しいのか最先端の授業も行ないづらく、進歩が早い分野ではどんどん時代遅れになるし、自分の専門でなかったりするとパッションも持ちづらい。 ニュートン そうした詳細が採用時には分かりにくい日本の人事制度はおかしい。何を期待され採用に至るのか明確でないのでミスマッチが起こり得る。学問的需要とは別に政治が絡むこともあるし。 ただ、採用前の教員の評価が難しいのも事実。欧米は「人物評価」で教員を採る。でも日本の場合クローズドじゃないですか。選考員5人ぐらいの前でプレゼンするぐらいで。基準が明確でない。日本は人事に関してはもっと人物を見るべきだと思う。 ダーウィン アメリカのトップ大学では朝から丸1日かけて教員一人一人と面接して評価される。学生も候補者と議論して採用担当教員に意見を言える。ランチやディナーも候補者は教員たちと一緒に取る。研究はもちろん、人としてどれだけ魅力的か見る。 エジソン 日本はそこまで労力かけないですよね。採用側もそういう能力はない。あらかじめ採用者が決まっている「デキ公募」もよくあるし。そういう公募で僕は今まで2回「当て馬」をやったことがある(笑)』、「アメリカでは教育専門の教授のほうが給料は高い」、「研究専門は好きなことやっているのだから安月給でも我慢しろと。そういうかたちで教育プロパーの先生もちゃんとリスペクトされている」、参考にな考え方だ。
・『インパクト・ファクターと大学教員の評価  エジソン でも教育者としてのどう評価するかは難しい。学生によって印象も違うだろうし。投資してでも守っていかなくてはいけないのが教育だが、評価がちゃんとできなくて適当になってしまっているのが今の日本。 私は教育と研究を分けて評価しないと駄目だと思う。研究基準で教育を語っても正当な評価はできない。教育関係の予算、組織を削って壊してしまったことは非常に損失が大きかったと思う。 ダーウィン 僕は研究も実は評価は難しいと思う。論文の数ではないし、実は価値でもない。なぜなら「今」その研究の本当の価値は分からない。今は誰もすごいと思っていなくても、5年後10年後に良い研究だったと分かることもあるわけで。 ニュートン 何が良い研究か、誰がどのように判断するのか。それを数値化しちゃったのが(科学雑誌の影響力を測る)インパクト・ファクター(IF)。 「ネイチャー」、「サイエンス」、「セル」クラスだとIFが大きくなるので、一般の人には分かりやすい。でもそういう雑誌に載った研究がどれほど重要なのかは時が経たないと分からない。載ったということは査読して審査した人が重要だと認めたという、その時点での判断でしかない。 エジソン 先ほど赤﨑先生の話が出たが、窒化ガリウム関係の初期の論文はアメリカでも日本でもIFが低い雑誌にしか載っていない。でも赤﨑さんはノーベル賞を取っている。もちろん良い雑誌に載せればみんなが読むかもしれないが、それが全てではない。 ガリレオ IFとはその雑誌に掲載された論文が引用された回数を掲載した論文数で割ったもの。それは確かに雑誌に対する1つの指標だけど、論文そのものの評価じゃない。 本当に論文を評価する目を持っていれば、IFはどうでも良い。ただわれわれは他分野に関してはそういう目がないので、IFに頼ってしまう。自分の評価能力のなさを外部の指標で補っている。 ニュートン 教員の採用にあたり、IFのような数値で人物を評価して良いのかという問題は常にある。しかし自信をもって判断できる人が大学の中にはいない。IFの総得点が何ポイントか、などで判断してしまう。対外的には説明はつくかもしれないが、本当に人を見ていることになるのか。 エジソン IFはよく足切りとしては使われますよね。落とすには理由がいるので、その理由にIFがなりうる。だから論文の共著者として名前を載せてもらうことが重要になる。学生の時、指導教授の忖度で自分のプロジェクトに知らない人の名前がずらずら載った時があった(笑)。 ニュートン 結局、研究者の経歴は「見てくれ」が重要なので、星(責任著者の印)が付いた論文の数で「武装」しろとはよく言われる』、結局、「評価」には決め手はないようだ。
・『被引用数の信頼度  エジソン 被引用数も評価されるには重要ですね。昇進するときに「お前が来ると(学部や研究科)全体の被引用数の平均が下がっちゃう」などと言われるので。そのためにどう武装するかというと、流行り物を研究して被引用数を稼ぐ。全然興味ないけどその研究やらざるを得ないということはある。 ダーウィン 被引用数は間違った使われ方をしていると思う。そもそも研究者がその分野に多かったら被引用数は増えるので、異なる分野の引用数を比べるのは意味がない。 学部・研究科の平均値なんて全くナンセンス。野球とサッカーを比べるようなもの。分野内で比べるのは一定の意味があると思うが、それでも良い論文の引用数が多くなるわけでは必ずしもない』、「異なる分野の引用数を比べるのは意味がない」、その通りだが、現実には誤用されているようだ。
・『財務省と政治家の罪  ニュートン 一方で日本はアメリカや世界を見習えという考えが強過ぎる。日本が世界でリードしていた部分が世界ではやらなくなったから捨てちゃうということが結構あるので、いま沈滞気味の分野にも一定のお金はまいておくべきじゃないのかな。 エジソン 半導体の世界などまさにそんな感じですよね。 ガリレオ 一つは(予算配分に決定権を持つ)財務省だよね。文科省の人は結構分かってくれるけど。財務省の人は半導体なんか中韓に任せたらいいじゃないですかなんて言う。世界の流れに乗ることしか考えていない。日本の本来の強みだとかここを伸ばすべきだとかいう考えはない。 ニュートン 財務省あたりのトップクラスの官僚は国家公務員試験の予備校で訓練を受けてきた人たちで、サイエンスをやって来た人間が入る余地はない。その弊害は大きい。 エジソン 科学技術専門の政治家も絶対必要ですね。国民のそういう認識をつくるための努力をわれわれ大学人はやらなきゃいけない』、「科学技術専門の政治家も絶対必要」、そこまでは必要ないと思う。
・『文系/理系という分け方の不毛  ガリレオ そもそも日本の文系理系という分け方が非常に気に入らない。下手したら中学生ぐらいから分けちゃっているでしょ? あれは不毛だよね。結局文系の官僚とか政治家が全くサイエンスを分からないのはそのへんでもう理系から離れてしまうから。 アメリカのハーバード大学だったら学部関係なしにこの200冊読めというリストがあって、物理をやる人間でもギリシャ哲学から『資本論』まで全部読ませる。そういう考え方が、まさに教養なんだけど、日本は全部捨て去ってしまった感じがするよね。アメリカでも文系理系はあるのだろうけど、日本から見て遥かに相互乗り入れしている気がする。) ニュートン そうですね。大学入試で文理を分けているので結局入試も改革する必要あると思う。 エジソン 大学からの(卒業・修了の)出口を狭めることはやったほうがいい。間口はいくらでも広げていいけど。大学は義務教育じゃなくて高等教育なので、ある程度のクオリティを持った人間しか出さないべきです。世界で日本だけじゃないですか、入口だけが狭くて、入れば出られてしまうのは』、「大学からの出口を狭めることはやったほうがいい」、同感だ。
・『学費は値上げするべき  ニュートン 税金だけではなかなか金策は苦しい。こう言うと国民から抹殺されそうだけど、学費を上げるべきだと思う。でないと大学組織が死んでしまう。低所得層には裕福な人の学費を奨学金に充てればいい。 エジソン 寄付制度は必ず法律から変えていかなければいけないと思う。学費を返さなくていい制度や、教員が研究費から学費を投資して優秀な学生を育てられるようなシステムがあってもいいかも。 ニュートン 今の若手教員は大企業に就職するより確実に低い給料から始まる。そのギャップを埋めたい。 エジソン たしかに、医者の年収が500万円だったら誰もやらない。コストをかけてでも医学部に入って医者になれば回収できるからみんな血眼になる。同じことができればやったほうがいい。そこまで給料があればクビにできるシステムもあってもいい。プロ野球選手みたいにね』、この部分は意味不明だ。
・『湯川秀樹的イメージの罠  ニュートン 皆さんに聞きたいのですが、外国で普通の人にサイエンティストやドクターと名乗ったとき、クールだね、かっこいいねって言われませんでした? (一同うなずく) でも日本では例えば合コンなんかで女の子に「お勉強好きなのね」と言われたり、オタッキーなイメージ。それが「科学後進国」であることの一部なんじゃないのか。そのギャップを埋めるためにはどうすればいいか。 エジソン アメリカは例えば一般の人が「ネイチャー」とかをよく読んでいるイメージがある。だけど日本人って読まないよね。ギリギリ「ニュートン」ぐらいで。一般教養としてのサイエンスがちょっと足りないかなという気がする。 ニュートン 一般から見た優秀な研究者像≒湯川秀樹的というのも引っ掛かる。彼の自叙伝からも伝わる、コミュニケーションより研究を大切にする日本の科学者のイメージで、これは欧米と全然違う。そういうイメージからは脱皮したい。 われわれサイエンティストも一般の人に分かってほしいという欲を持つべきだと思う。でないと裾野が広がらない。サイエンスが分かる人で社会との橋渡しをしてくれる人材を官僚やマスコミなどにわれわれ科学者が積極的に送り出していかなければいけない。 ガリレオ まとめると、やっぱりマインドセットなのかな。科学は楽しいことをみんなに分かってもらう。そしてそういう人材が残ってくれるように、システムを変えていくことをやっていかなきゃいけない。 <2020年10月20日号「科学後退国ニッポン」特集より>』、「科学は楽しいことをみんなに分かってもらう。そしてそういう人材が残ってくれるように、システムを変えていくことをやっていかなきゃいけない」、その通りなのだろう。
タグ:「自分を雇えない」博士 青色発光ダイオード(LED)の研究はアメリカでは絶対できないと羨ましがられた 日本は「科学後進国」か否か 「日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)」 Newsweek日本版 「研究公正」を科学技術政策の中心に その背景には、医師を中心に、どのような行為が不適切な行為なのかといった基礎的な知識が身についていないことや、研究不正を他人事と考えて、自らの行為を見つめなおさないことから来ている 最近日本人研究者や日本人医師が、留学先で行った行為を研究不正とみなされ、処分される事例が相次いでいる。日本では当たり前に行っていた行為が研究不正と認定されてしまうのだ 何も学ばなかった科学界 大学・研究機関のずさんな対応 科学は楽しいことをみんなに分かってもらう。そしてそういう人材が残ってくれるように、システムを変えていくことをやっていかなきゃいけない 湯川秀樹的イメージの罠 学費は値上げするべき 文系/理系という分け方の不毛 財務省と政治家の罪 異なる分野の引用数を比べるのは意味がない」、その通りだが、現実には誤用されているようだ 相互批判ができない医師特有の文化が影響している 撤回論文数が多い研究者のランキングのトップ6のうち4人が日本人だ。そして4人全員が医者だ インパクト・ファクターと大学教員の評価 研究専門は好きなことやっているのだから安月給でも我慢しろと。そういうかたちで教育プロパーの先生もちゃんとリスペクトされている トップはF氏。日本人の麻酔科医だ。その撤回数は実に183報。当分記録は更新されないだろう。 第4位は元慶應義塾大学の研究者I氏の69報。実はI氏は元弘前大学のS氏の共同研究者だった。そして第6位のS氏(撤回論文数53報)は麻酔科医 撤回論文数ランキングの上位に日本人が多数入っている 「論文撤回」 アメリカでは教育専門の教授のほうが給料は高い 世界中から懐疑的な目 患者の治療ガイドラインの結論が変わってしまう 教育にはコストがかかる 日本ではなぜ?と質問するということにもすごい抵抗がある 元弘前大学教授で医師のS氏が起こした事件 史上最悪の研究不正 日本の研究が抱える様々な問題は、実は何も解決していない 失敗も質問も許さないカルチャー 「STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?」 榎木 英介 文部科学省の大学教育改革はみんな裏目に出ている気がする 「専門」への敬意を欠く日本 「科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)」 現代ビジネス (その1)(STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?、日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)、科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)) 「選択と集中」とオキアミ 交付金減額でボロボロ 日本の博士はポンコツか 日本は博士号を取ったことのデメリットが強調される。社会が受け皿として博士の高度な専門性を利用せず、博士課程に行くハードルを高くしている 海外とのすさまじい格差 科学技術
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生命科学(その1)(そもそも「宇宙生物学」って何ですか?、生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」、山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? ) [科学技術]

今日は、生命科学(その1)(そもそも「宇宙生物学」って何ですか?、生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」、山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? )を取上げよう。

先ずは、昨年3月12日付け日経ビジネスオンラインが掲載した文筆家の川端 裕人氏による東京工業大学の藤島皓介氏へのインタビュー「そもそも「宇宙生物学」って何ですか?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00112/00007/?P=1
・『生命は地球以外にも存在する? だとしたらどんなもの? 生命は宇宙(地球)でどのように誕生した? など、宇宙と生命という究極の問いに挑み続ける宇宙生物学が活況だ。その中心地であるNASAのエイムズ研究センターを経て、最前線をひた走る東京工業大学(ELSI)の藤島皓介さんの研究室に行ってみた!  最近、宇宙生物学(アストロバイオロジー)という研究ジャンルをよく耳にするようになった。 字面を素直に解釈するならば、「宇宙の生物を研究する」学問ということになる。 とすると、「宇宙人の研究?」という連想も成り立つだろうし、実はNASAは極秘裏に宇宙生命体との接触に成功しているが秘密にしている、というような謀略論、陰謀論にもつながりうる。 そこまでいかずとも、どこかSFめいた、浮世離れした研究であると思われがちだ。 しかし、現実にはすでに20年以上の歴史がある研究分野だ。1995年、当時のNASA長官ダニエル・ゴールディンが、カリフォルニア州のエイムズ研究センターにて記者会見を行い、これからは"Astrobiology"という言葉を公式に使うと宣言したとされる。エイムズ研究センターは、その拠点に指定された。その後、「宇宙生物学」は着実に存在感を増し、今では国際学会も頻繁に行われている。そこには、宇宙物理学、天文学、鉱物学、海洋学、化学、生物学、情報学など、一見、方向が違う専門分野から、さまざまな研究者が集って、「宇宙と生命」という究極の問いに挑んでいる。 対応する動きは日本国内でもあって、2015年には東京都三鷹市の国立天文台の敷地内に、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターが開設された。初代センター長は本連載でも登場いただいた田村元秀さんだ。田村さんは、ハワイ島のすばる望遠鏡を使って太陽系外の惑星を探し、その中に生命が存在しうる、つまり「ハビタブル」な惑星も見いだせることを教えてくれた。これはまさに、宇宙生物学的な研究だったのである。 また、2012年には、東京工業大学が地球生命研究所(ELSI)を設けて、地球生命の起源を解明し、さらには宇宙における生命の存在を探索する「生命惑星学」という分野を確立しようと目標を掲げた。これもまた宇宙生物学と共通の関心を持っているのは明らかだ。 そこで今回は、後者の地球生命研究所(ELSI)を訪ね、「地球生命の起源」と「宇宙の生命」にかかわる宇宙生物学の話を中心に知見を深めたい。 取材を受け入れてくれたのは、ELSI公式ウェブサイトで、専門領域を「宇宙生物学」と表記している藤島皓介研究員だ。慶應義塾大学で、システム生物学、合成生物学といった、先進的かつ不思議な響きのある研究分野を修めた後、宇宙生物学発祥の地にして梁山泊、NASAのエイムズ研究センターで博士研究員を務めた俊英だ。2016年、日本に戻って現職にある』、まさに最先端の研究者のようだ。
・『東工大大岡山キャンパスのELSI研究棟を訪ね、1階の広々したラウンジのテーブルで相対した。壁一面を埋める大きな黒板があって、たぶん研究者たちはここに概念図や化学式や数式を描いて白熱した議論を展開するのだろうと想像した。まさに映画に出てくるようなシーンだ。 そこで、ぼくは映画に出てくる素人が研究者に向かって、よく分かっていない質問をするような場面を想像しつつ、とても大づかみなことを聞いた。 「そもそも宇宙生物学って何ですか」と。 この分野に名をつらねる研究者には、天文学者(いわば「宇宙」担当)、生物学者(いわば「生物」担当)だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて、どうもとらえどころがないと感じる人がいても不思議ではないのである。 「たしかに、とらえどころがないと思われても仕方がありませんよね。実は、宇宙生物学の研究者によっても、それぞれ答えは違うんじゃないでしょうか」 ぼくを含めて一般の人たちが「宇宙生物学」と聞いて抱くつかみどころのない感覚は、研究者側からしても理解できるという。学際的、かつ、次々と新たな発見が続くスピード感のある分野なので、学問としての枠組みすら、誰もが認める「定義」が定まりにくいのだと想像した。それでは、やはり鵺(ぬえ)のような存在ということでよいのだろうか。 「ただ学問のテーマとしては、非常にシンプルなんです」と藤島さんは続けた。 「宇宙生物学研究の関心というのは、宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』なんですね。この3つの関心の中にすべてがおさまっていると言っていいと思います」 これには、ちょっとしびれた。 宇宙における生命の起源、分布、未来。簡単に言うけれど、このスケール感はすごい』、「生物学者だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて」、「宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』」を研究しているというのは確かに凄そうだ。
・『宇宙でなく、地球における生命の起源、分布、未来、と言っただけでも、今、ぼくたちの周りにあるおびたただしい生命の現在、過去、未来、すべての話なわけで、気が遠くなるほど壮大だ。なのに、それが宇宙規模になったらどうなってしまうのだろう。 いや、地球生命の「起源」を考える時でさえ、そもそもその材料になったアミノ酸などが、隕石と一緒に宇宙から来たという話がある。また、我々の身体を作っている化学物質は、宇宙開闢(かいびゃく)後の物質進化の中で生み出されたものだ。 一方、地球生命の「未来」というと、今世紀中、いや十年二十年の間に、人類が月や火星に定住し始める可能性が現実味を帯びてきた。地球生命が宇宙に出ていくこと自体はもう間違いないように思える。 結局、生命について起源や未来を考えようとすると、それだけでも地球内では話が完結できず、枠組みが宇宙規模になってしまうのは当たり前のことなのだ。 さらにいえば、「分布」だってそうだ。 「我々が、現時点で知っている生命というのは地球の生命、ただ1種類なんですよね。では、この宇宙において、生命がその1種類だけかという問題が常にあります。地球の生命の起源を知る研究は、すなわち宇宙において似たような、あるいは全く違うメカニズムで生命が誕生するかということに迫る研究でもあるんです。地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます」 地球の生命を問うには宇宙を考えなければならず、宇宙の生命を問うにはまずは地球の生命を理解するところから始めなければならない。宇宙生物学では、解き明かしたい目標とそのステップとなる個々の探求が、「卵が先か、鶏が先か」というレベルで入れ替わりながら密接にかかわっている。 そんな中、藤島さん自身の研究者としてのバックグラウンドは、合成生物学やシステム生物学、さらには情報生命科学といった、生物学の中でも非常に先鋭的なものだ』、「地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます」、確かに研究分野は宇宙的な広がりがあるようだ。
・『大きくて複雑な様相を呈している「宇宙生物学」のイメージをつかむためには、まず藤島さん自身が宇宙生物学に出会って、今に至るまでの話を伺うのがよいと、お話を聞き始めて最初の5分で作戦を立てた。特に、藤島さんが研究の中心に置いている「起源」から始めて、そこから発展して関わるようになった「分布」の問題に進めば、主に生物学方面から見た宇宙生物学の景色もかなりよく見えてくるのではないかと期待できる。 というわけで、藤島さん自身の「宇宙生物学」との出会いをまずは聞きたい。 そのように述べると、藤島さんは大判の「本」を、さっとぼくの前に差し出した。 「宇宙生物学との出会いといいますと、学生時代に取り組んでいたことから始まります。大学時代の長い話をギュッと縮めた学位論文のタイトルを見ていただければと思います」 その「本」、つまり、製本された博士論文の表紙にはこのようにあった。「古細菌(アーキア)におけるセントラルドグマ理解に向けたシステム生物学的アプローチ(“Systems biology approach toward understanding the central dogma in Archaea”)」 「古細菌におけるセントラルドグマ」を理解したい、という。 まず、古細菌というのはどういうものだろう。 「古細菌は、最初は高温、強酸、強アルカリといった地球上のさまざまな極限環境の中で見つかってきた微生物です。現在では地球上のバイオマス(生物量)の20%ぐらいを占めると言われていまして、あまり一般には知られていないけれども、非常に多様性にも富んでいます。この微生物になぜ注目したかというと、すべての生物の共通祖先から、まずはバクテリア(細菌)と古細菌が2つに分かれて、さらにその古細菌の一門から、人間を含めた真核生物が進化したということが予想されています。言ってみれば古細菌は私たち真核生物の大先祖ともいえる興味深い存在です。また、生命の共通祖先の近くにいる生物というのは、好熱菌、つまり熱いところに住んでいたと言われているものが大半なんですけれども、古細菌はその中でも特に多くの種類が見つかっているので、古細菌の研究をしたら生命の起源に少しでも近づけるのかなっていうふうに当時はぼんやりと思っていました」』、「博士論文」のタイトルだけではさっぱり分からなかったが、解説を読んで理解できた。
・『古細菌は、真核生物、細菌とならんで、地球の生物界を3分するグループのうちの一つで、高度好塩菌、メタン菌、好熱菌、高圧菌など、極限環境微生物の研究から見つかった。真核生物の「大先祖様」だから、ひょっとすると生命の共通祖先に近いかもしれないという魅力がある。また、極限環境で生きられることから「別の惑星でも……」といった妄想を抱かせられる存在でもある。 では、セントラルドグマとはなんだろう。 「DNAという遺伝情報を格納する高分子があって、これはいわばタンパク質の設計図を保管している図書館のようなものです。そこからRNAというものに一時的にその設計図がコピーされ、リボソームといういわば工場みたいなところでタンパク質をつくります。設計図を転写して持ってくるのがmRNA(伝令RNA)で、その設計図に応じたアミノ酸を一つ一つ連れてきてつなげるのがtRNA(転移RNA)ですね。こういった一連の遺伝情報を変換する仕組みをセントラルドグマと呼んでいます。生命の共通祖先は38億年ぐらい前に存在していたと言われていますが、38億年前の生命が既にこの仕組みを持っていたという事実が非常におもしろいなというところで、研究をはじめました」 セントラルドグマは地球生命が持つ共通の仕組みであって、博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた(日本の大学の博士論文でタイトルに"central dogma"という語が入っているのは、今のところ藤島さんの論文だけだ。国立国会図書館の博士論文検索で確認)。そして、リボソーム、mRNA、tRNAといった生命の起源を問う時に頻出するキーワードもここですでに登場する。 また、藤島さんの博士論文には、システム生物学的なアプローチ“Systems biology approach” という言葉もある。これはどんな意味だろう』、「博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた」、大したものだ。
・『「私が大学院時代を過ごした慶應の先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)では、いろんな分野を並列に研究しているのが特徴でした。例えば、ゲノムレベルで解析をする人がいれば、一つ上のRNAのレイヤーで見ている人もいます。さらに、合成されたタンパク質の機能を網羅的に調べている人もいれば、代謝物質を見ている人もいます。結局、いろんな階層で生物が実際にどういうプロセスを生体内で行っているのかというのを見ていく。で、その階層同士のつながりをシステムとして統合してとらえるのがシステムズバイオロジーということです。僕の研究は、古細菌におけるセントラルドグマ、つまりDNAからRNAを経てリボソームでタンパク質が合成される部分に関わる分子の多様性や関係性を階層を超えて見ていたわけです」 この時、藤島さんが師と仰ぐ金井昭夫教授の下で行っていた研究については、設計図に応じたアミノ酸を連れてきてつなげるtRNA(転移RNA)の進化が含まれていたことを付け加えておく。博論にはこれ以上深入りしないけれど、生命の基本システムといえるセントラルドグマの仕組みを研究する中で、藤島さんは自然と「生命の起源」というテーマに引き寄せられていった。 博士研究を無事に終えて研究室の先生と後輩達の前で最終発表を行った後、藤島さんは思いの丈をぶつけた。 「これからはアストロバイオロジーをやりたいって宣言しました。生命の起源の研究をやりたいから、アストロバイオロジーが直に学べる場所でやりたい。でも、正直どこに行っていいか分からないからご助言をお願いしますって。すると、僕の先輩で、今慶應の先端生命研究所にいらっしゃる荒川和晴先生から、NASAのエイムズ研究センターにクマムシの研究をやっている堀川大樹さんという人がいるから相談してみろと言われて、堀川さんとの縁からエイムズにインターンしに行くことになったんです」 前述の通り、エイムズ研究センターは宇宙生物学発祥の地だ。そして、クマムシは極限環境に耐える生物として、当時も今も宇宙生物学的な注目を集めており、この連載にも登場してもらった堀川大樹さんも、キャリアの初期にエイムズ研究センターで研鑽したのだった。 藤島さんもエイムズ研究センターにて、宇宙的な枠組みの中で生命の起源を問う研究へと足を踏み出した。2011年のことだった。 「生命とは何か」から宇宙生命探査まで、藤島さんはわくわくする話をたっぷり語ってくれた。次回以降に乞うご期待! (このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)』、「NASAのエイムズ研究センター・・・は宇宙生物学発祥の地だ」、さすがNASA、単にロケットだけでなく、幅広く研究しているようだ。

次に、上記のあと2つを飛ばして、昨年4月2日付け日経ビジネスオンライン「生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00112/00010/
・『生命は地球以外にも存在する? だとしたらどんなもの? 生命は宇宙(地球)でどのように誕生した? など、宇宙と生命という究極の問いに挑み続ける宇宙生物学が活況だ。その中心地であるNASAのエイムズ研究センターを経て、最前線をひた走る東京工業大学(ELSI)の藤島皓介さんの研究室に行ってみた!その4回目。 前回のペプチド(短いタンパク質)と鉄・硫黄クラスターの話は、主に代謝にかかわる話として理解していたところ、最後は「卵が先か、鶏が先か」のジレンマが出てきた。エネルギー代謝とセントラルドグマ、つまり、代謝系と翻訳系が両輪になっていないといけない、と。 藤島さんの関心は、まさにそういった「両輪」の秘密をめぐる部分へと進む。 キーワードは、「リボソーム」だ。 高校の生物を学んだ人なら、「タンパク質を合成する工場」として記憶しているだろう。DNAから転写されて運ばれてきたタンパク質の設計図を、ここで翻訳してひとつひとつアミノ酸をつないで合成する。こんな精巧な仕組みがどうやって出来上がったのか素人考えでも不思議だし、プロの生物学者たちはもっと不思議に思ってきたらしい。だから、リボソームの起源は、長年の謎とされる。 「僕がおもしろいと思うのは、このリボソームというのは、実はそれ自体、RNAとタンパク質の両方からできている分子だということです。タンパク質をつくるときに、mRNA(伝令RNA)がリボソームに結合して、そこにtRNA(転移RNA)がアミノ酸をつれてきてタンパク質を合成するわけですけど、実はその舞台となるリボソーム自体、RNAとタンパク質の複合体なんですよ」 リボソームは数十種類以上のタンパク質と、数種類のRNA分子(リボソームRNAと呼ばれる)からできている。立体的な構造は代表的なものをネットでいくつも見ることができるのだが、それらは本当に「絡まり合っている」というのがふさわしい。 2種類の「紐」が、解きほぐし難く一つの構造物を作り上げ、そこで、紐1(核酸)の情報から紐2(タンパク質)の合成が行われる。リボソームそのものが、二重の意味で、2つの「紐」が交わるところになっている。 (リボソームの構造と働きを可視化した動画。働きがよくわかる映像は1分25秒前後から。青と紫のいちばん大きなかたまりがリボソームで、黄色い紐がタンパク質を作る情報を記録したmRNA。緑色のブロックがアミノ酸を連れてくるtRNA。その先端の赤い部分が、タンパク質の合成に使われるアミノ酸だ。テープレコーダーのようにリボソームが黄色い紐を取り込んで、その情報(3塩基分ごと)に対応するtRNAが順番にくっつき、赤い紐がどんどん伸びてゆく、つまり、アミノ酸の紐であるタンパク質が合成される様子が巧みに再現されている。 生命の起源の議論では、RNAが先か、タンパク質が先かという議論があって、それぞれ、RNAワールド仮説、プロテインワールド仮説、などと呼ばれている。リボソームは、セントラルドグマの中で重要な役割を果たすものだから地球生命の進化のきわめて早い段階からないと困るのに、いきなり両方が絡まり合って存在しているから謎が深まる』、リンク先の「リボソームの構造と働きを可視化した動画」、なかなかよく出来ていて、精巧な仕組みには改めて驚かされる。
・『「そこで、僕の立場は、RNAが先かタンパク質が先かという話ではなく、恐らく同時に進んできたのではないか、というものです。原始地球の頃からRNAとタンパク質の紐が共存していて、両方の紐が同時にあることがお互いにそれぞれ有利に働くような共進化が働いて、そのおかげで徐々に大きいリボソームのようなものができてきたんじゃないかというふうに考えています」 RNAが先でも、タンパク質が先でも、両方が絡まり合ってできているリボソームの起源は説明しにくいのだとしたら、両方が共存してともに進化しきた可能性があるのではないか、というのが藤島さんの見立てだ。 「RNA、つまり核酸の紐と、ペプチド、つまりアミノ酸の紐、2種類の紐が共存している世界があったと仮定して、2つが同時に存在することがそれぞれの進化にとって有利だったということを証明したいんです。それがもし証明できれば、タンパク質とRNAからなるリボソームができた過程も分かるでしょうし、そもそも、地球の生命が核酸とタンパク質の2つの紐をかくも見事に協調させて使っていることの説明もできるはずです」 具体的には、藤島さんは徹底的、網羅的な手法を取る。あたかもコンピュータの中でシミュレーションのプログラムを走らせるかのように総当たり的な組み合わせを実際に試す。 「今、合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されているので、試験管の中でまぜまぜしてRNAとタンパク質のカクテルを作ることができます。その時に、できたタンパク質が逃げてしまわずにそのままRNAとくっついているような化学物質を加えておくと、RNAタンパク質複合体ができます。そして、その中から、何か特定の機能を持っているものをスクリーニングしていきます」 藤島さんが考える原始の「RNA・ペプチド共存ワールド」では、RNAとそこから翻訳されたペプチドが一緒にいることで有利になったと想定されるので、それが実際に起きるかを見ていく。 「これまでの過去の実験事例から、RNA自体が折りたたまって、それ自体、触媒活性を持ったり(リボザイム)、特定の分子に結合能があるもの(アプタマー)が見つかっています。つまり、それらは、原始地球でRNAワールドがあったという時に引き合いに出されるものです。でも、RNAだけよりも、タンパク質も一緒にあると、より適応度が高くなるような状態を示したいわけです。これもう、黒板に書いてしまいますね──」 藤島さんはさっと立ち上がって、黒板になにやら図表を描き始めた。 3次元の座標がまずあって、その「底面」から山がいくつも立ち上がる。 「こういうのを適応度地形と言います。縦の軸は『適応度』といって、どれくらい分子が環境に適応しているか、この場合は、RNAの機能の高さを測った尺度だと解釈してください。そして、横軸といいますか底面は、配列空間です。たとえば、RNAの配列に応じて、この底面に点を打てるわけです。そして、それぞれのRNAについて『適応度』を見ていきます。『適応度』の尺度には、ここでは、RNAがエネルギーの共通通貨といわれるATPという物質と結合する能力を考えましょうか。最初のスクリーニングをすると、結合能が高いものが小さな山として立ち上がって見えてくるので、今度はそういった能力が高いものを集めてまたスクリーニングするというサイクルを繰り返します。すると、最終的にある程度高い山がいくつかできていきます。こうやってRNAの機能が高いものの配列がとれます」』、「合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されている」、世の中にこんなビジネスが登場しているとは初めて知った。
・『ここまではRNA単独での話で、既存の研究がある。RNAワールドでも、たとえばATPとの結合能が高い方が分子の生存に有利であるならば、そういった「適応度」が高いものが選ばれて残っていくことが観察できる。藤島さんが試みるのは、ここに同時にペプチドの紐があったらどうなるか、ということだ。 「結局、環境中を考えると、RNAのような複雑な分子がそれ単独で存在しているなんてことはあり得ないですし、RNAがある世界では、それよりも出来やすいペプチドはもうあったはずなんです。RNA・プロテインワールド、つまり両方の紐が共在していた世界ですね。そういう前提で考えると、RNA単独では見られなかったようなところにも山が立ち上がってくるはずです。そうなると山の裾野同士がオーバーラップする場所がでてくるかもしれない。そうすると一つの機能に対して、より高い山に登りやすくなる、つまり進化が連続的に起きやすいということでもあります。RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすいんだということを示せれば、ながらく謎だったリボソームの起源にも近づけると思っています」 RNAとペプチドの両方があると、山の裾野がオーバーラップして、高い山により登りやすくなるような現象がもし確認できれば、地球の生命が核酸とタンパク質の2つの紐を見事に協調させて使っていることも説明できると藤島さんは考えている。 以上、藤島さんが実験室で、自ら手を動かし、原始地球で起きたかもしれない進化を再現しようとしている一連の実験を紹介した。 合成生物学的な方法で、生命の起源を問う学術領域の熱い雰囲気が伝わればなによりだ。 もう一点だけ、ずっと気になっていたことを確認したい。 これまでの議論は、「紐」ができたり、それらが共進化したりという、生命のシステムに必要なことばかりだけれど、何かが足りない。 いったい何だろうか、と考えていて、ふと気づいた。足りないのは「形」だ。 これは生き物である、生命である、という時には、シロナガスクジラみたいに大きなものにせよ、大腸菌のように小さなものにせよ、すべて「形」がある。形がないと境界がなくなって、「これは生命だ」といえなくなるのではないだろうか』、「RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすい」、確かにその通りなのかも知れない。
・『「それって、たしかにその通りで、例えば膜がないと生命じゃないという立場もあります。それは理にかなっていて、つまり自己と他己を分ける境界線が膜なので、それがないと、大きなスライムみたいなかたまりの中でいろんな分子のやりとりをして……エヴァンゲリオンでいうあれですね、人類補完計画の補完後の状態みたいなものです。でも生命は補完前に戻ろうとするという(笑)。つまり個で自立できた系を生命と名付けたにすぎません」 システムが働いたとしても、形がないものを生命といえるだろうか? この点は本当に奥深く、自己と他者の区別がつかない状態でも生命のシステムが動いている状態というのは想定できるということだ。でも、そんな中から、くっきりとした「個」が登場するというのはどう考えればいいのだろう。 「その議論はある意味おもしろくて、偶然か必然かという話もあります。かりに必然じゃなくて偶然だったとしても、たまたまちぎれた一つの個体が、周囲の環境に適応した場合、そのまま増えていく可能性があります。適者生存のダーウィン的進化に突入していくと。その前はダーウィン的進化ではなくて、水平伝搬の嵐ですね。自己と他者の区別が曖昧な状況でお互いがお互いに必要なものを作って交換していくという。もちろん僕たち今の生命は、ダーウィン的進化の結果できたものです」 ダーウィン的進化というのは、端的に言えばダーウィンが考えた生存競争による「適者生存」によって起きる進化のことだ。これは、生命が「個体」であることを前提にしている。言われてみればそのとおりだ。 「ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません。逆にそれが観察できるということは、遺伝情報物質を持っていて、他己と自己が分かれている、ちゃんとセパレートしているような系であるということです。そこにあとはエネルギーを自分自身がつくれるような仕組みもあれば、限りなく今の生命に近いものになってくると思います」 今のぼくたちは生命の歴史に思いを馳せて系統樹を描き、古細菌と真核生物はいつ分かれたなどと議論するわけだが、それはこういったダーウィン的進化があってのことだ。藤島さんが今、研究のリソースを集中させている2つの「紐」の共進化の問題と隣接してこんな議論もあって、またスリリングであることをお伝えしておきたい。 つづく (このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)』、「「ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません」、「ダーウィン的進化」について考えを深めることができた。

第三に、10月5日付け現代ビジネスが掲載した山中 伸弥氏とNHKプロデューサーの浅井 健博氏の対談「山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? 」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67554
・『タモリさんと山中伸弥さんが司会を務めたNHKスペシャル「シリーズ人体Ⅱ遺伝子」は、今年高視聴率を獲得した番組として話題になった。背景にあるのは、現在急速に進む「遺伝子」研究への期待と不安――。技術は日々進化し、テレビで遺伝子検査のCMが流れる時代にあって、ゲノム編集で人体が「改造」されるのもそう遠くないのではないかと考える人もいるだろう。 今回、そんな『シリーズ人体 遺伝子』書籍化のタイミングで、特別対談が企画された。生命科学研究のトップリーダー山中伸弥さんと浅井健博さん(NHKスペシャル「シリーズ人体」制作統括)が、いまなぜ生命倫理が必要か――その最前線の「現実」を語り明かした』、「シリーズ人体」は参考になる点が多かった。その対談とは、興味深そうだ。
・『山中さんの踏み込んだ発言  「人類は滅ぶ可能性がある」――これは収録中、司会の山中伸弥さんがつぶやいた言葉である。 私たち取材班は、番組を通じて、生命科学の最前線の知見をお伝えした。どちらかといえば、その内容は明るく、ポジティブな未来像を描くものだった。 それだけに私(浅井健博)は、山中さんの踏み込んだ発言に驚かされたが、同様の不安を視聴者も感じていたことを後に知った。 Twitterや番組モニターから寄せられたコメントの中に、未来に期待する声に交じって、生命科学研究が際限なく発展することへの漠然とした恐れや、技術が悪用されることへの不安を指摘する意見も含まれていたからだ。 それにしても「人類が滅ぶ可能性」とは、ただごとではない。山中さんは日本を代表する生命科学者であり、iPS細胞の作製という最先端技術を生み出した当事者でもある。だからこそ生命科学が、人類に恩恵をもたらすだけでなく、危険性も孕んでいることを誰よりも深く認識しているのではないか。 そう考えた私は、山中さんの話を聞くため、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の所長室を訪ねた』、山中発言の真意を探る意味は大きい。
・『「こんなことまでできるのか」  浅井 まず今回の番組の感想をお聞かせください。山中さんのご研究と関連して、興味を持たれたところ、面白いと感じられたところはございますか? 山中 番組で扱われた遺伝子やゲノムは、僕たちの研究テーマですから、内容の大半に馴染みがありました。しかし、DNAから、顔の形を予測する技術には、正直、ビックリしました。 浅井 どのあたりに驚かれたのですか? 山中 研究の進展のスピードです。僕の予想以上のスピードで進んでいる。番組の台本をいただく前に、取材先の候補とか、番組の中でDNAから顔を再現するアイデアをあらかじめ教えていただきましたね。その段階では、DNAからの顔の再現は、将来は実現可能だとしても、まだしばらく無理だろうと思っていました。 しかしその後、関連する論文を自分で読んだり、実際に映像を見せていただいたりして考えをあらためました。「こんなことまでできるのか」と。 僕たちも、以前は自分の研究とは少し異なる分野の関連する論文も読んでいましたが、今は数が多くなりすぎて、とてもすべてをフォローできません。番組のもとになった、中国の漢民族の顔の再現の研究についてはまったく知りませんでした。もっと勉強しないとダメだと思いましたね。 浅井 今回の番組をご覧になった視聴者の方が寄せた声から、研究の進展のスピードや精度の向上が大きな驚きを持って受け止められたことがわかりました。 一方で、「悪用も可能ではないか」「遺伝子で運命が決まるのではないか」と不安や恐れを感じられた方もいました。山中さんは、こういった技術に対する脅威あるいは危険性を、どう考えておられますか? 山中 以前はDNAの連なりであるゲノムのうち2%だけが大切だと言われていました。その部分だけがタンパク質に翻訳されるからです。 ところが、タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになったのです。 さらにDNA配列だけでは決まらない仕組み、第2部で登場したDNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました。 iPS細胞も遺伝子を導入して作りますが、そのときエピゲノムに大きな変化が起こって細胞の運命が変わります。ですから、最先端の生命科学研究のひとつひとつを詳しくフォローできないまでも、その研究の持つ意味については、僕もよく理解していたつもりです。 もちろん理解できることは大切ですが、それだけでは十分ではありません。すでにゲノムを変えうるところまで技術が進んでいるからです。 宇宙が生まれて百数十億年、あるいは地球が生まれて46億年、生命が生まれて38億年、その中で僕たち人類の歴史はほんの一瞬にすぎません。しかしそんな僕たちが地球を変え、生命も変えようとしている。 長い時間をかけてできあがったものを僕たち人類は、今までになかった方法で変えつつある。よい方向に進むことを祈っていますが、一歩間違えるととんでもない方向に行ってしまう。そういう恐怖を感じます。番組に参加して、研究がすさまじい速度で進展することのすばらしさと同時に、恐ろしさも再認識しました』、「タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになった」、「さらにDNA配列だけでは決まらない仕組み・・・DNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました」、生命科学の進歩は確かに日進月歩だ。
・『外形も変えられ病気も治せるが……  浅井 番組の中では、どこまで最先端の科学が進んでいるのかをご紹介しました。それは、私たち素人にとってもとても興味深い内容でした。中でも、先ほど山中さんがおっしゃったゲノムを変える技術について、おうかがいしたいと思います。 ゲノムを人為的に変える技術は昔からありましたが、最近になってゲノム編集と呼ばれる新しい技術が登場して、従来よりも格段に簡単にゲノムを改変できるようになりました。この技術に注目が集まると同時に、生命倫理の問題も浮上しています。 山中 ゲノム編集は、力にもなれば、脅威にもなると思います。僕たちの研究所でも、ゲノム編集を取り入れていますが、ゲノムをどこまで変えていいのかという問題に、僕たちも今まさに直面しています。 浅井 ゲノムを辞書にたとえると、自由自在に狙った箇所を、一文字単位で書き換えられるのが、ゲノム編集ですね。 2012年に、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授とスウェーデンのウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエ教授らの共同研究チームによって開発された「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれる技術が有名です。 山中 今では生命科学研究に欠かせない技術です。 浅井 番組の中で、鼻が高くなる、低くなるといった身体的特徴の違いや、あるいはカフェインを分解しやすい、分解しにくいといった体質の違いなど、いろんな性質を決める仕組みが遺伝子研究によって明らかにされつつある状況を紹介しました。 こういうさまざまな性質は今後、コントロールできるようになるのではないかと考えられています。本当に顔の形や病気のかかりやすさなど、コントロールすることはできるのでしょうか? 山中 たとえば、ミオスタチンと呼ばれる筋肥大を抑制する遺伝子をゲノム編集によって破壊すると、種を超えていろんな動物の筋肉量が増えることが知られています。 遺伝情報に基づいて外見的、生理的に現れた性質を「表現型」と呼びますが、病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられることが示されています。 ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です。 今の段階では、人類がゲノムを完全に制御できるわけではなく、リスクがある。やはりリスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります。 浅井 恐怖と言えば、世代を超えて恐怖が遺伝するという研究も番組で紹介しましたが、ゲノムを改変すれば恐怖をコントロールすることすら可能かもしれないですね。 山中 知らないうちに記憶を植えつけられるといったモチーフを使ったSFもあります。言い古されていることですが、SFで描かれている内容は現実になることが多い。さらにSFで描かれていない、SF作家ですら想像できないことを科学が実現することもよくあります。 どういう未来が来るのか、本当にわかりません。科学者として、僕も人類を、地球をよくしたいと思っています。しかし科学は諸刃の剣です。 浅井 人類のために良かれと思ってしたことが、災いをもたらす可能性もあります。山中さんがスタジオトークで「人類が滅ぶ可能性もある」とおっしゃったとき、ハッとさせられました。 山中 僕たち人類は、1000年後、1万年後も、この地球に存在する生物の王として君臨していると思いがちですが、自明ではありません。1万年後、私たちとは全然違う生物が、地球を支配していても不思議ではありません。しかも、自然にそうなるのではなく、人間が自らそういう生物を生み出すかもしれません。 うまくいけば人類は地球史上最長の栄華を誇ることができるかもしれないし、一歩間違うと、新たな生物に地球の王座を譲り渡すことになります。 今、人類はその岐路に立っていると思います。ゲノムを変えることだけではありません。大きな電力を作り出すことができる原発ですが、ひとたび事故が起きると甚大な被害が発生します。 暮らしの中のあらゆる場面で活躍するプラスチックですが、海を漂流するゴミとなり生態系に影響を及ぼしています。科学技術の進歩が、人間の生活を豊かにするのと同時に、地球、生命に対して脅威も与えているのです』、「病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられる・・・ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です・・・リスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります」、山中氏も「規制」が必要と考えているようだ。
・『研究者の倫理観が弱まるとき  浅井 遺伝子には多様性を広げる仕組み、あるいは局所的な変動に適応する仕組みが組み込まれています。遺伝子は、今現在の僕らを支えつつ、将来の変化に対応する柔軟性も備えているわけです。その仕組みに人の手を加えることはどんな結果につながるのでしょうか? 山中 ダーウィンは、進化の中で生き残るのは、いちばん強い者でも、いちばん頭がよい者でもなく、いちばん適応力がある者であると言いました。 適応力は、多様性をどれだけ保てるかにかかっています。ところが今、人間はその多様性を否定しつつあるのではないか。僕たちの判断で、僕たちがいいと思う方向へ生物を作りかえつつあると感じています。 生物が多様性を失い、均一化が進むと、ちょっと環境が変わったとき、たちどころに弱さを露呈してしまいます。日進月歩で技術が進む現代社会は、深刻な危うさを孕んでいると思います。 浅井 しばらくは大丈夫と高をくくっていましたが、あっというまにそんな事態に陥るかもしれません。だからこそわれわれは番組制作を通して、警鐘を鳴らす必要があると考えています。 一方、山中さんは番組の中で「研究者としてどこまでやってしまうのだろうという怖さがある」と発言されています。 多くの研究者の方々はルールに従い、何をしていいのか、してはならないのかを正しく理解していると思いますが、研究に歯止めが利かなくなると感じるのはなぜでしょうか?』、「日進月歩で技術が進む現代社会は、深刻な危うさを孕んでいる」、その通りだろう。
・『人間の残虐性に迫ったアイヒマン実験  山中 人間は、特定の状況に置かれると、感覚が麻痺して、通常では考えられないようなひどい行動におよぶ場合があるからです。そのことを示したのが、アイヒマン実験です。 浅井 有名な心理学実験ですね。アイヒマン(アドルフ・アイヒマン)はナチス将校で、第二次大戦中、強制収容所におけるユダヤ人大量虐殺の責任者でした。 戦後、死刑に処されました。彼は裁判で自分は命令に従ったにすぎないと発言しました。残虐というよりは、内気で、仕事熱心な人物に見えたとも言われています。 山中 そんな人物がどうして残虐になり得るのか。それを検証したのが、イェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムが行ったアイヒマン実験です。 この実験の被験者は教師役と生徒役に分かれ、教師役が生徒役に問題を出します。もし生徒役が問題を間違えると、教師役は実験者から生徒役に電気ショックを与えるように指示されます。 しかも間違えるたびに電圧を上げなければなりません。教師役が電気ショックを与えつづけると生徒役は苦しむ様子を見せます。ところが実際には生徒役はサクラで、電気など通じていない。生徒役の苦しむ姿は嘘ですが、叫び声を上げたり、身をよじったり、最後には失神までする迫真の演技なので、教師役は騙されて、生徒役が本当に苦しんでいると信じていました。 それでも、教師役を務めた被験者の半分以上が、生徒役が失神するまで電気ショックを与えた。教師役の被験者がひとりで電気ショックのボタンを押すのなら、そこまで強いショックを与えられなかったでしょう。 ところが、白衣を着て、いかにも権威のありそうな監督役の実験者から「続行してください」とか「あなたに責任はない」と堂々と言われ、教師役はボタンを押すのをためらいながらも、どんどんエスカレートして、実験を継続したんです。 浅井 ショッキングな実験結果ですね。権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう』、「アイヒマン実験」は有名だが、「権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう」、大いに心すべきだろう。
・『チームのほうが誘惑に弱くなる  山中 研究にも似ている側面があるのではないか。ひとりで研究しているだけなら、生命に対する恐れを感じて、慎重に研究する。そういう感覚はどの研究者にもあると思います。 ところがチームになって、責任が分散されると、慎重な姿勢は弱まって、大胆になってしまう。たとえルールがあっても、そのルールを拡大解釈してしまう。気がついたらとんでもないことをしていたというのは、実際、科学の歴史だけでなく、人類の歴史上、何度も起きたし、これからも起こりえます。 科学を正しく使えば、すばらしい結果をもたらします。しかし今、科学の力が強すぎるように思います。現在ではチームを組んで研究するのが一般的です。そのため責任が分散され、倫理観が弱まって、危険な領域へ侵入する誘惑に歯止めが利きにくくなっているのではないかと心配しています。 浅井 山中さんご自身も、そう感じる局面がありますか? 山中 そういう気持ちの大きさは人によって違います。 僕はいまだにiPS細胞からできた心臓の細胞を見ると不思議な気持ちになる。ちょっと前まで、血液や皮膚の細胞だったものが、今では拍動している、と。 ヒトiPS細胞の発表から12年経ちますが、この技術はすごいと感じます。しかし人によっては、毎日使っているうちにその技術に対する驚きも消えて、当たり前になる。 歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです。研究の方向性について適宜公表し、さまざまな人の意見を取り入れながら進めていくことが重要ですし、そうした意見交換をしやすい仕組みを維持することも大切だと思います』、「科学の力が強すぎるように思います。現在ではチームを組んで研究するのが一般的です。そのため責任が分散され、倫理観が弱まって、危険な領域へ侵入する誘惑に歯止めが利きにくくなっているのではないかと心配しています」、「歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです」、マスコミが監視機能を果たしてくれればいいのだが、情報欲しさに監視機能をないがしろにする懸念もある点は要注意だ。
タグ:博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた 合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されている 現代ビジネス NASA 宇宙生物学 川端 裕人 歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです チームのほうが誘惑に弱くなる 権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう 人間の残虐性に迫ったアイヒマン実験 研究者の倫理観が弱まるとき ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です 「人類は滅ぶ可能性がある」 リスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります 病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられる 山中さんの踏み込んだ発言 NHKスペシャル「シリーズ人体Ⅱ遺伝子」 「山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? 」 浅井 健博氏 山中 伸弥氏 ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません リボソームの構造と働きを可視化した動画 博士論文 RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすい 「生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」」 地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます 外形も変えられ病気も治せるが…… DNA配列だけでは決まらない仕組み、第2部で登場したDNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになった 宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』」を研究している 生物学者(いわば「生物」担当)だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて 東京工業大学が地球生命研究所(ELSI) "Astrobiology"という言葉を公式に使うと宣言 「そもそも「宇宙生物学」って何ですか?」 藤島皓介氏 日経ビジネスオンライン (その1)(そもそも「宇宙生物学」って何ですか?、生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」、山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? ) エイムズ研究センター 生命科学
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人工知能(AI)(その6)(圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する、「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか) [科学技術]

人工知能(AI)については、10月25日に取上げた。今日は、(その6)(圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する、「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか)である。

先ずは、11月26日付け東洋経済オンライン「圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり、人類は2階層に分断する・・・世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/251207
・『世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』。7万年の軌跡というこれまでにない壮大なスケールで人類史を描いたのが、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏だ。 現代を代表する知性が次に選んだテーマは、人類の未来像。近著『ホモ・デウス』で描いたのは、人類が「ホモ・サピエンス」から、遺伝子工学やAI(人工知能)というテクノロジーを武器に「神のヒト」としての「ホモ・デウス」(「デウス」はラテン語で「神」という意味)になるという物語だ。 ホモ・デウスの世界では「ごく一部のエリートと、AIによって無用になった『無用者階級』に分断し、かつてない格差社会が到来する」と警告するハラリ氏を直撃した。 本記事ではハラリ氏へのインタビューの一部を抜粋・・・』、『無用者階級』が出現する「かつてない格差社会が到来する」とは穏やかではない。
・『生命をつかさどる最も根源な法則を変えようとしている  この本を書いたのは、人類史上、最も重大な決断が今まさになされようとしていると考えたからだ。遺伝子工学やAIによって、私たちは今、創造主のような力を手にしつつある。人類は今まさに、生命を司る最も根源的な法則を変えようとしている。 40億年もの間、生命は自然淘汰の法則に支配されてきた。それが病原体であろうと、恐竜であろうと、40億年もの長きにわたって生命は自然淘汰の法則に従って進化してきた。しかし、このような自然淘汰の法則は近く、テクノロジーに道を明け渡す可能性が出てきている。 40億年に及ぶ自然淘汰と有機的進化の時代は終わりを告げ、人類が科学によって非有機的な生命体を創り出す時代が幕を開けようとしているのだ。 このような未来を可能にする科学者やエンジニアは、遺伝子やコンピュータについては知悉している。だが、自らの発明が世の中にどのような影響をもたらすかという倫理上の問題を理解できているとは限らない。 人類が賢い決断ができるように手助けするのが、歴史家や哲学者の責務だろう』、ずいぶん大きく振りかぶったものだ。
・『歴史を見ればわかるように、人類は新しいテクノロジーを生み出すことで力を獲得してきたが、その力を賢く使う術を知らない、ということが往々にしてあった。 たとえば、農業の発明によって人類は巨大な力を手に入れた。しかし、その力は一握りのエリートや貴族、聖職者らに独占され、農民の圧倒的大多数は狩猟採集を行って生きてきた祖先よりも劣悪な生活を強いられる羽目になった。 人類は力を手に入れる能力には長けていても、その力を使って幸福を生み出す能力には長けていない。なぜかといえば、複雑な心の動きは、物理や生命の法則ほど簡単には理解できないからだ。 石器時代に比べて人類が手にした力は何千倍にもなったのに私たちがそこまで幸福でないのには、こうした理由がある。 農業革命によって一握りのエリートは豊かになったが、人類の大部分は奴隷化された。遺伝子工学やAIの進化がこのような結果を招かないように、私たちはよくよく注意しなければならない』、その通りだろう。
・『「無用者階級」が生まれるかもしれない  ホモ・サピエンス(人類)はかつて、動物の一種に過ぎなかった。人類が大人数で協力できるようになったのは、私たちに架空の物語を創り出す能力が備わっていたからだ。人類は大人数が協力することで、この世界の支配者となった。 そして今、人類はみずからを神のような存在に作り替えようとしている。(遺伝子工学やAIといったテクノロジーによって)創造主のような神聖なる力を、今まさに獲得しつつあるということだ。 人類はラテン語で「賢いヒト」を意味する「ホモ・サピエンス」から、「神のヒト」としての「ホモ・デウス」にみずからをアップグレードしつつある。 最悪のシナリオとしては、人類が生物学的に2つのカーストに分断されてしまう展開が考えられる。AIが人間の能力を上回る分野が増えるにつれ、何十億人もの人々が失業者となる恐れがある。こうした人々が経済的に無価値で政治的にも無力な「無用者階級」となる。 一方で、ごく一部のエリートがロボットやコンピュータを支配し、遺伝子工学を使って自らを「超人類」へとアップグレードさせていく可能性すら出てきている。 もちろん、これは絶対的な予言ではなく、あくまで可能性にすぎない。が、私たちはこのような危険性に気づき、これを阻止していく必要がある。 私が『ホモ・デウス』で論じた不平等とは、人類がこれまでに経験したものとは比べものにならない圧倒的な不平等だ』、「人類はみずからを神のような存在に作り替えようとしている」というのは、確かに恐ろしいことだ。「無用者階級」と「超人類」への二極分化も憂鬱な未来だが、我々はこれを阻止できるのだろうか。

次に、エール大経済学部准教授の伊神 満氏が11月8日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/110100004/
・『AI(人工知能)が仕事を奪う、世の中は大変なことになる――。AI技術の急速な発展が報じられる中で、世間では「ふわっとした」議論が繰り返され、「機械との競争」への漠然とした不安ばかりが煽られている。だが、本当にそうなのか。本コラムでは、世界最先端の経済学研究を手がかりに、名門・米エール大学経済学部で教鞭を執る伊神満准教授が「都市伝説」を理性的に検証する』、これは無責任な「煽り記事」ではないので、参考になりそうだ。
・『まずはじめに:連載コラム(全4回)の趣旨  人工知能(AI)については色々な人が色々なことを言っている。だが、よく分からない未来を語るにつけて、楽観論も悲観論も、ただ各人が「個人的に言いたいこと」を言っているだけのように見える。 となると、「AI技術は是か非か」「AI失業は起こるのか」「もはや人類の滅亡は時間の問題か」についての「結論」自体には、ほとんど何の意味もない。これだけ沢山の予想があれば、そのどれかは当たるだろうし、大半は外れるに決まっているからだ。 そんなことよりも、冷静な人たちが交わしている「それなりの確かさをもって言えそうなこと」に耳を傾け、吟味しよう。そしてあなた自身の身の振りかたについては、あくまで自分の頭で考えよう。でなければ、あなたという人間の「知能」と人生に、いったい何の意味があるだろうか。 このコラムは、経済学者である筆者が、9月中旬にカナダのトロント市で開催された第2回全米経済研究所(NBER)「人工知能の経済学」学会で行った研究発表と、そこで見聞きした世界を代表する経済学者たちによる最新の研究について、一般向けにまとめたものである』、信頼性が高そうだ。
・『「あなたの仕事が危ない」?  まずは、AIが「人間の経済活動にもたらす」影響を考えてみよう。連載コラムの前半にあたる第1回と第2回では、AIの「外側」の経済学の話をする。 AIやロボットは、これまで人力を必要としていた生産活動の「自動化」ととらえるのが一般的だ。そこで、AIの「外側」の経済学では、自動化技術の中身はさておき、それがもたらす経済活動へのインパクトを考察する(連載後半にあたる第3回と第4回では、AIの「内側」の経済学に触れる。この分類は、論点を整理するために筆者が独自に使っているものだ)。 今日紹介するのは、誰もが気になる「自分の仕事はなくなってしまうのか」という問いについての、興味深い実証プロジェクトだ』、このブログで今回紹介するのは、第1回と第2回だ。
・『仕事を1つひとつのタスクに分解してみよう  ミクロ実証的な1つのアプローチとしては、個々の職業を、その構成要素である各種「作業」レベルに分解して考えてみることができる。たとえば、大学教授という「職業」の人は、大きく分けて、(A)研究 (B)教育  (C)雑用 という3種類の活動に時間を使う。そこでたとえば(B)の教育活動を、さらに (B1)授業内容の立案と作成 (B2)授業そのものの実施 (B3)宿題やテストによる学生の評価 (B4)大学院生の研究へのアドバイス……のように分解し、さらに細かく具体的な「作業」をリストアップすることができる。そして、各「作業」(タスク)について、今後10年間でどのくらい自動化できそうか、その筋の専門家に点数をつけてもらおう。こういう点数を並べれば、「大学教授という職業が何パーセント自動化できそうか」を測る目安くらいにはなりそうだ。 感覚をつかんでもらうために、もう1つの例として「米国で大手監査法人に勤める会計士(専門分野は税務)」についても、業務内容をざっくりタスク分けしてみよう。(W)税務申告書の作成 (X)税務申告書の確認  (Y)チームのマネジメント (Z)クライアントの獲得および関係構築 たとえば末端の仕事である (W)を詳しく見ていくと、(W1)試算表の勘定科目(の管理コード)を整理して、ソフトに入力 
(W2)税務上と会計上では費用・収益の認識が異なるので、違いを計算してソフトに入力 (W3)税控除や繰越欠損金が利用できるか否かを判断する といったタスクによって構成されている。もともとこの分野はコンピューターによる処理との相性が良い。だから(W1)や(W2)などはソフトの活用を前提としたタスク設計になっている。とはいえ、たとえば「交際費はその内容によって控除の可否が変化する」といった例外処理も多いため、完全自動化は難しいのだという。 この記事の読者も、ためしに自分の仕事のタスク構成を洗い出してみたらどうだろう。AIによる自動化が云々という話以外にも、何か新しい発見があるかもしれない。 こうした「自動化のしやすさ」を、世の中の多くの職業について数値化したのが、「機械学習と職業の変化」という論文である・・・といっても、今まさに進行中の研究だから、完成版が読めるのはまだ先になりそうだ。 この研究を発表したのは、米マサチューセッツ工科大学(МIT)のエリック・ブリニョルフソン教授だ。IT(情報技術)業界研究のベテランで、最近では『プラットフォームの経済学』(日経BP社)なども邦訳されている。彼自身も発表中に認めているように、数値結果そのものは、分析プロセスを少し変更しただけでも、ガラッと変わる。 たとえば、大学教授の仕事(B)教育について、具体的なタスクをいかに定義するのか、どこまで適切に細分化できるのか、本当にうまく自動化できるのか、大学教授であるはずの筆者にもよく分からない。 また、(B)教育を自動化した結果、大学教授というポストそのものが消滅してしまうのであれば、筆者は専業コラムニストに転職せざるを得ない。しかし逆に、これまで(B)に割いていた時間と体力を(A)研究に注げるようになるのであれば、願ったり叶ったりだ。 だから、たとえ「学者が科学的にたどりついた発見や数字」であっても、結論そのものには飛びつかない方がいい。当然、(自称)コンサルタントや(自称)天才プログラマーが適当にぶち上げている「未来予想」については、言うまでもない』、確かに、世の中にはいい加減な「未来予想」が溢れているようだ。
・『自動化しやすいタスクの8条件  ……というわけで、ブリニョルフソン教授らによる論文自体は未完成なのだが、理論的考察の大枠については、『サイエンス』誌上で「機械学習で何ができるのか? 労働需要への影響について」という短い記事を読むことができる。 その要点をまとめると、タスクを自動化するためには、8つの条件が必要だという(表1)。ちなみにこれは、スタンダードな「教師あり機械学習」、つまり回帰分析のようなデータ処理を主眼としたリストである。 表1:「自動化しやすいタスク」の8条件(1.「インプット」と「アウトプット」が、どちらも明確になっている。  2.インプットとアウトプットを正しく対応させたデジタルデータが、大量に存在する。  3.明確なゴールがあり、その達成度について明確なフィードバックがある。  4.長々とした論理展開や、いろいろな背景知識・一般常識にもとづく思考が、必要ない。  5.下した判断について、その理由や過程を詳しく説明する必要がない。  6.多少の誤差・間違いが許され、「正解」を理論的に証明する必要もない。 7.現象自体や「インプットとアウトプットの対応関係」が、時間の経過によってあまり変化しない。 8.物理的な作業における器用さや特殊技能が、必要ない。  このように機械学習の射程範囲をハッキリさせていくと、何でもかんでもうまく自動化できるとは限らないことが、浮き彫りになる。もちろん、機械が苦手とする「論理」や「証明」や「特殊技能」を、それではフツーの人間がどれくらい身につけているかというと、それは別問題だが……』、非常に納得的なアプローチだ。
・『自動化の普及を左右する6つの「経済学的ファクター」  また、仮にあるタスクの「機械化が可能」になったとしても、それが現実世界で普及したり、人力による労働力への需要・賃金にインパクトを及ぼす過程は、実はけっこう複雑である。同『サイエンス』記事が指摘するとおり、技術的な問題の他に「経済学的なファクター」にも影響されるはずだ(表2)。 表2:関連する6つの経済学的なファクター(1.タスクの自動化のしやすさ(技術的な代替可能性)。  2.そのタスクの成果物への需要が、最終価格にどのくらい左右されるか(価格弾力性)。  3.複数タスク間の補完性。 4.そのタスクの成果物への需要が、消費者の所得にどのくらい左右されるか(所得弾力性)。  5.人間の働く意欲が、どのくらい賃金に左右されるか(労働供給の弾力性)。 6.ビジネス全体の構造が、どう変化するか(生産関数の変化)。)  網羅的に列挙しようとするあまり、この表はやや抽象的にすぎる感もあるが、「総論」的な記事なので仕方あるまい・・・』、ずいぶん大変な作業のようだ。
・『結論は全部スルーし、根拠とロジック「だけ」を吟味  さて、タスク分けの最新研究に話を戻すと、正直、経済学者の仕事としてはかなりベタな分析だし、「職業」や「作業」をどう整理するかによって「自動化のしやすさ」の数値は大きく変わってくる。また、そもそも「今後10年間における、個別タスクの自動化のしやすさ」についての技術的見解も、専門家の間ではかなり議論が分かれるだろう。 だから筆者から読者へのアドバイスとしては、「あなたの仕事が危ない!」風の議論や数字を見るときには、とにかく結論そのものはスルー(無視)しよう。こういう話題についての「結論」は、当たるか外れるか分からない株価の予想みたいなもので、つまらない。 そうではなくて、「何をどうやったら、そういう数字とメッセージが出てくるのか」という、前提条件や考え方のプロセスに(のみ)注目するのが、正しい大人の読み方だ。 ベタなミクロ実証研究から言えることは、このあたりが限界だ。次回は、思いっきりマクロな視点から俯瞰してみよう』、「筆者から読者へのアドバイス」は、考え方を整理する上で、大いに参考になった。

第三に、上記の続き、12月1日付け「契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/111900007/
・『「AI(人工知能)の内側の経済学」に踏み込んだ前回は、ビジネスにおける価格設定や広告戦略(いわゆるマーケティング関連のプロセス)をAIに丸投げする話をした。つづいて今回は、「AIを搭載した新製品」の中身について考えてみよう。AI開発、それはとても面白い「人間の営み」なのである』、面白そうだ。
・『プロダクト(製品)イノベーションのためのAI技術  仕事の流れの一部を自動化すること、それは一種のプロセス・イノベーション(生産・販売活動のコストを下げること)であった。こんどは、プロダクト・イノベーションについて考えてみよう。プロセス・イノベーションが製造・販売の工程(プロセス)を改善するものであったのに対して、こちらは新たな製品(プロダクト)を開発・投入する話である。 たとえば、「AI技術でお米がおいしく炊ける」炊飯器。そういうキャッチコピーの家電製品は昔からあったが、一体どのあたりに「知性」が感じられるのか、よく分からなかった。しかし、ユーザーのその日の体調をセンサーで感知するのみならず、電子メールやSNSへの投稿内容までも細かくデータ分析してくれる炊飯器が登場したならば、どうだろうか。 メールの文章がどれくらい整っているか、乱れているか。友人の投稿内容に「いいね」するのか、しないのか。あなたの一挙手一投足をつぶさに観察することで、この炊飯器は「その日その時のあなたにとって最適な炊き加減」に自動調整してくれる。すなわち、あなたの「幸福を最大化」してくれる機械の登場である。これほどすごい機能が付けば、「AI搭載」の名に恥じない画期的な製品と言えよう(※フィクションです)』、いくらフィクションとはいっても、私であれば、ここまで利用者を丸裸にしてしまうような炊飯器はご免被りたい。
・『囲碁・将棋AIや自動運転プログラムの「目的関数」  さて、こういう新製品をどうやって開発したらいいのだろう? 私たち人間は、AIもしくはロボットに何かしらの「目標」を与え、それを達成するような動作を期待する。こういう目標のことを経済学や工学では「目的関数」と呼び、「最適化問題」という数学的な問題設定に落とし込む。たとえば、上記の「炊飯器」ならば、ユーザーからの「おいしい」という評価を高めることが、明確な目的関数になるだろう。 目的関数 = 「やるべきこと」に応じたボーナス点 → 「これを最大化せよ」と命令  あるいは近年めざましい活躍をみせた囲碁や将棋をプレイするAIは、「ゲームに勝てる確率」を目的関数として、先を読みながら「次の一手」を探し出すように設計されている。その開発過程(数理モデルを構築し、関数形を調整し、シミュレーションとデータ分析を活用する)は、経済学的な実証研究のプロセスにかなり近い。 逆に、「やってはいけないこと」の違反度に応じて「罰点」を設定することもある。たとえば、無人運転車に搭載されるソフトには、「信号を無視したらマイナス100点」、「ネコをひいたらマイナス200点」、「通行人をひいたらマイナス5億点」みたいなペナルティーを設定しておくわけだ。 目的関数 = 「やってはいけないこと」に応じたペナルティー → 「これを最小化せよ」と命令  ところがロボットは、私たちが期待するような振る舞いを、実際にしてくれるとは限らない』、どうしてなのだろう。
・『ドジっ子ロボットには、お仕置きが必要だ  たとえばお掃除ロボット。部屋の床掃除を勝手にやってくれる掃除機は、すでにかなり普及している。筆者も1台持っている。ただしこのロボット、あまり融通が利かない。同じところをグルグル回ったり、段差にハマったり、電源コードを巻き込んでしまったりする。 また、「電池が切れるまでの間に掃除する床面積」を最大化するようプログラムされたロボットは、最短距離で移動しようとするときに、その動線上にあった家具を壊してしまうかもしれない。こういう問題が発生するのは、(人間が暗黙のうちに期待している)さまざまな「目的関数」や「制約条件」の全てを、(明示的に)インプットできるとは限らないからだ。与えられたタスクそのもの以外のファクター、つまり作業をとりまく環境や文脈というものが、お掃除ロボットにはのみ込めていない。 これが人間の「お掃除担当メイドさん」であれば、家具を壊したりしたら、ご主人様から叱られるかクビ。最悪の場合、損害賠償請求の訴訟を起こされてしまうかもしれない。そしてそれが分かっているからこそ、家具の扱い(などの、直接命じられてはいない事柄)にも注意を向けてくれる。 何か、うまい方法はないものだろうか?。 ご主人様 VS 代理人 (プリンシパル・エージェント問題) カナダ・トロント大学のギリアン・ハットフィールド氏が発表した「不完備契約とAIアラインメント」・・・という研究は、「ドジっ子ロボット」のような問題を、いちど抽象的なレベルで理論化してみよう、と提案している。 ミクロ経済学には、人間同士の利害の対立を整理するための知見がたくさんある。とりわけ契約理論と呼ばれる分野では、「ご主人様と代理人という異なる2者のあいだで利害をすり合わせて、望ましい結果を導くための契約方法を考える」という課題が研究されてきた。こういう場合の「主人」のことを英語でプリンシパル、「代理人」をエージェントと言うので、この課題は「プリンシパル・エージェント問題」と呼ばれている。 ハットフィールド氏いわく、「ユーザーとAI」の関係は、ちょうど契約理論における「ご主人様と代理人」の関係にあたるので、理論的でエレガントな解決策があるはずだ。ただし、この発表の討論者であるスタンフォード大学のポール・ミルグロム氏(発表者の元指導教授で、オークション関連の実務でも有名)からは、これら2つの問題には共通点もあるが相違点もある、という指摘がなされた。いわく、プリンシパル・エージェント問題の場合は、通常、代理人の側が「余計なこと」を気にしてしまうのが、問題の根っこにある』、「プリンシパル・エージェント問題」まで出てくるとは、さすが学者の分析らしい。
・『お掃除ロボットは、雇われ社長の夢を見ない  たとえば、株主(=ご主人様)に雇われたはずの社長(=代理人)のケース。株主が望むのは、企業価値の最大化である。しかし、社長という人間の個人的な利害は、これと必ずしも一致しない。「全国制覇したい」とか、「大型M&Aで注目を集めたい」とか、「休日は家族とゆっくり過ごしたい」とか、「社員に嫌われたくない」といった個人的な野望や心理に、どうしても引きずられてしまう。 契約理論は、こうした状況に対する処方箋をあみ出してきた。たとえば、社長のサラリーの何割くらいを成果報酬式にすればいいのか、といった計算ができるようになった。 これに対して、「ドジっ子お掃除ロボット」の失敗例は、べつにロボット(=代理人)側に個人的な野心があるわけではない。単に、開発者あるいはユーザー(=ご主人様)の側が「部屋をキレイにせよ」という目的しかインプットしなかったのが問題である。もしも開発者またはユーザーが、「部屋をキレイにせよ」「ただし家具を壊してはならない」という追加条件をインプットすることができさえすれば、それで一件落着かもしれない。 企業の雇われ社長もお掃除ロボットも、おなじ「代理人」ではある。しかし契約理論は、代理人が人間であるがゆえに発生する問題を扱ってきたのに対し、AI・ロボットは「個人的な願望」を秘めていたりはしない。そういう点では、問題の本質が微妙に異なっている可能性がある。より緻密な研究が必要になりそうだ』、確かに、人間とAI・ロボットには相違がありそうだ。
・『AIが達成した「成果」ではなく、「開発プロセス」に注目しよう!  さて、トロントで9月に開催された「人工知能の経済学」学会について一般向けにお伝えしてきた本連載だが、今回で最終回である。いかがだっただろうか? 正直、「えっ、そんな事しか分かっていないの?」と拍子抜けされた方も、多いのではないだろうか。 しかし、研究の最前線というのは大体そんなものだ。不明なものや未解決な問題があるからこそ、そこに取り組む余地が残されている。そして、「世界最高の経済学者たち」(あるいは勝手にそのように自負している人たち)が集まった学会ですら、この程度のことしか判明していない。 むしろ、その事実にこそ着目してほしい。 経済学をキチンと理解している人は少ないし、AI関連技術をキチンと理解している人も少ない。ましてや、その両方をよく分かっている人というのは、本当にレアだ。それにもかかわらず(あるいは、そうであるがゆえに)、「AI」について得意げに解説し、個人的な願望にすぎないテキトーな「未来予想と解決策」を、あたかも「理の当然」かのように語るコメンテーターがあふれている。そのクオリティーは推して知るべし、である。「無知の知」から始めよう』、「「無知の知」から始めよう」というのは我々を一安心させてくれる。
・『本連載の第1回には、「目新しい結論や、ショッキングな数字などは全部スルーして、何をどうやったらその主張にたどり着くのか、根拠とロジック(にのみ)注目するのが、正しい大人の姿勢だ」という話をした。それに呼応する形で、結びにあたって今回オススメしたいのは、
 +「AIが達成したとされる成果」については完全にスルーして、むしろ
 +「どういうアルゴリズム(計算手順)を使って」、そして、
 +「その開発者たちが、どのような試行錯誤のプロセスを経て」
 現在のパフォーマンスに到達したのか……に注目することだ。 そういうニュースの読み方をしていけば、おのずと関連技術の原理的な部分にも詳しくなれるはずだし、背後にある基礎研究にも興味が湧いてくるだろう。いつまでもAIをブラックボックス扱いしていないで、開発者と開発プロセスに踏み込んでほしい。これはまた、ニュースの「書き手」や編集者にぜひお願いしたいことでもある。 ちまたでは「機械」として恐れられたり敬われたりしているものが、じつは研究者が四苦八苦して作った「人為」の産物であることも、改めてよく分かるだろう。AI開発ほど興味深い「人の営み」は、なかなかない。経済学の研究対象は、まだまだ尽きないようである』、ここに列挙された「ニュースの読み方」は素人には到底無理だ。11月27日付け日経新聞は、「AIの判断、企業に説明責任 政府が7原則 混乱回避へ法整備」と伝えた。いよいよ、AIをブラックボックス扱い出来なくなってくるようだ。ただ、果たして、それがどこまで可能なのかは制約もありそうだ。
タグ:AIの判断、企業に説明責任 政府が7原則 混乱回避へ法整備 「無知の知」から始めよう AIが達成した「成果」ではなく、「開発プロセス」に注目しよう お掃除ロボットは、雇われ社長の夢を見ない プリンシパル・エージェント問題 ドジっ子ロボットには、お仕置きが必要だ 囲碁・将棋AIや自動運転プログラムの「目的関数」 プロダクト(製品)イノベーションのためのAI技術 「契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか」 前提条件や考え方のプロセスに(のみ)注目するのが、正しい大人の読み方だ 、「あなたの仕事が危ない!」風の議論や数字を見るときには、とにかく結論そのものはスルー(無視)しよう。こういう話題についての「結論」は、当たるか外れるか分からない株価の予想みたいなもので、つまらない 結論は全部スルーし、根拠とロジック「だけ」を吟味 自動化の普及を左右する6つの「経済学的ファクター」 自動化しやすいタスクの8条件 仕事を1つひとつのタスクに分解してみよう 人工知能の経済学」学会 冷静な人たちが交わしている「それなりの確かさをもって言えそうなこと」に耳を傾け、吟味しよう。そしてあなた自身の身の振りかたについては、あくまで自分の頭で考えよう 、「AI技術は是か非か」「AI失業は起こるのか」「もはや人類の滅亡は時間の問題か」についての「結論」自体には、ほとんど何の意味もない 「都市伝説」を理性的に検証 「「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた」 日経ビジネスオンライン 伊神 満 。「無用者階級」と「超人類」への二極分化 人類は新しいテクノロジーを生み出すことで力を獲得してきたが、その力を賢く使う術を知らない 生命をつかさどる最も根源な法則を変えようとしている 「ごく一部のエリートと、AIによって無用になった『無用者階級』に分断し、かつてない格差社会が到来する」と警告 『ホモ・デウス』で描いたのは、人類が「ホモ・サピエンス」から、遺伝子工学やAI(人工知能)というテクノロジーを武器に「神のヒト」としての「ホモ・デウス」(「デウス」はラテン語で「神」という意味)になるという物語 ユヴァル・ノア・ハラリ 『サピエンス全史』 「圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり、人類は2階層に分断する・・・世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』」 東洋経済オンライン (その6)(圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する、「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか) (AI) 人工知能
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ロボット(その1)(東日本大震災で なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか、欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由、ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須、AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日) [科学技術]

今日は、ロボット(その1)(東日本大震災で なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか、欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由、ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須、AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日)を取上げよう。

先ずは、日本ロボット学会理事、和歌山大学システム工学部システム工学科教授の中嶋秀朗氏が2月13日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「東日本大震災で、なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/159405
・『ルンバやドローン、そしてpepper、再発売されたaibo。これらはすべてロボットです。AIの発達とともに、現在、注目されているロボティクス。工業分野だけでなく、サービスや介護、エンターテインメント、そして家庭でも、AIを搭載したロボットが登場しており、これらを使いこなし、そして新しいビジネスに結び付けることが期待されています。今回は、ロボティクスの専門家である著者が、わかりやすく書いた新刊『ロボットーそれは人類の敵か、味方か』の中から、エッセンスを抜粋して紹介します』、確かにロボットの応用は急速に広がっている。
・『東日本大震災で注目されたロボット  私が「ロボットを作っている」という話をすると、ヒューマノイドを作っていると勘違いされるケースが多々あります。私の専門は「移動ロボット」で、現在は階段を含めたあらゆる段差に対応するロボットを開発、研究しています。 それは、脚で歩くような機能も持つ車輪型ロボット、人が乗れるロボット車両なのですが、この一人乗り車両(PMV:Personal Mobility Vehicle)は、簡単に言えば「ロボット車椅子」であり、「人の移動手段」という一つの目的に絞った「単機能ロボット」です。 現在は、このような「単機能」という方向にもロボットの開発目的が広がっており、さらに、もう一つ大きな特徴をあげるとすると、それは「タフ」であること。 これらは特に2011年3月に起きた東日本大震災の反省から生まれたキーワードです。 複雑すぎて使えない、環境に依存する、すぐに動かなくなるといった、今までのロボットの弱点を克服するために、目的を明確化した「単機能」で、「タフ」なロボットが注目を浴びるようになってきたのです』、ロボットに求められるようになった「タフ」さを、みていこう。。
・『大震災で活躍したのはあの「ルンバ」の会社だった  2011年3月、東日本大震災が発生しました。当時私は千葉工業大学に勤務しており、仙台の実家へ連絡をしようとしましたがなかなか電話がつながらず、不安な気持ちでいたところに、福島第一原発の一報が入りました。 そして、その解決のために、ロボットに白羽の矢が立ったのです。しかし、そこで最初に原発に投入されたのは、残念ながら日本製のものではなく、アメリカ製のロボットでした。 最初に投入されたのは、上空からの目視調査のためのロボットである「T―Hawk」(Honeywell社)と、内部の状況確認、放射線測定を目的とした「Packbot」(iRobot社)です。その2ヵ月後には障害物除去のために「Warrior」(iRobot社)が用いられました。 iRobot社というと聞いたことがある人も多いかもしれません。そう、「ルンバ」の会社です。 iRobot社は、今は家電ロボットが中心事業ですが、実は軍事用ロボットも開発していたのです。 「Packbot」は、実際に戦地で使われていたもので、非常に頑強にできています。例えば誰か潜んでいそうな家や洞窟などに、外側から兵士が「Packbot」を思い切り投げ込みます。 それから、遠隔操作でその中を偵察させるのです。高いところから落ちても、水に濡れても、投げても壊れない。過酷な状況で使うことを前提に作られたロボットですから、原発にすぐに投入することができました。 実は、日本ではそもそも、大学などが軍事用のロボットを研究することができません。日本の各大学は、「日本学術会議」から出される方針に従っており、そこでは、ロボットの軍事研究をしないことが方針としてうたわれているからです。そのため、。戦場で使うという想定がありません。ですから、実戦を見据えた「タフさ」が、日本のロボットにはなかったのです』、原発事故の当初には日本製が使い物にならなかった理由が、ようやく理解できた。
・『無線LANが使えない場所ではロボットが使えなかった  原発事故の時に話題となったのが、無線LANが使えない、ということでした。日本のようにネットワーク環境がいいところで動かしているロボットは、無線LANなどのネットワーク環境を使うことが前提となっており、広範囲にわたる場所で有線のケーブルをつけたままからまずに使用できるようにすることが考えられていなかったのです。 原発事故の時には、無線LAN環境が失われる、原子炉の中まで電波が届かない、放射能が邪魔をするなど、日本のロボットを動かす環境は完全に失われていました。 そして地震発生から約3ヵ月後の2011年6月に、千葉工業大学のロボット「Quince」が投入されました。投入までの約3ヵ月間は、放射能がある中で壊れないようにする、あるいは、巻き取り器を持った長い有線ケーブルの追加など、対環境性能を向上させることに使われていたのです。ただ、この「Quince」が、他のロボットが上れなかった2階にも上ることができたのは、一つの成果でした。 このような経験から、現在のロボットが目指す方向性の一つが、確実に動く「タフさ」になったのです。現在、災害時にも使えるロボットを開発するために「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」で行われているプロジェクトが「タフ・ロボティクス・チャレンジ」です。2014年から5年間、35億円相当の予算を取って、東北大学の田所諭教授が中心となって行っています。 また、ヒューマノイド活用の可能性も再び議論されることとなりました。原発に限らず、あらゆる施設は人間が働くことを前提に作られています。そういった意味で、ヒューマノイドであれば人間と同じように働けるのではないかと考えられるからです』、原発事故現場で投入されているロボットは、ニュースなどで見る限り現在でも苦戦しているようだ。

次に、早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏が6月1日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/171391
・『働き方改革の「生産性向上」で注目浴びるロボット産業のいま  働き方改革法が衆院で可決した。安倍政権は働き方改革の柱として、生産性向上を重要な政策として位置づけている。AIやロボットへの設備投資により、これまで人的作業だったものを自動化することで、労働時間の削減や高齢化による人材不足を解決するのが狙いだ。 自動化における鍵となるのが、製造業における産業ロボットの導入だ。世界的な人手不足を背景に産業用ロボットの需要は拡大の一途をたどっており、富士経済は協働型ロボットの世界市場が2025年には2016年の8.7倍、2700億円になると予測している。 スイスの重工大手ABBと有力紙『エコノミスト』が今年4月に発表した「Automation Readiness Index」(自動化準備指数:筆者訳)によると、AIやロボット導入による自動化で最も準備が整っている国は、1位が韓国で2位がドイツ、3位がシンガポール、日本は4位に留まっている。 今後、ますます増えるであろうロボットとの協働・自動化の波で、日本は対応を強いられることになる。 産業用ロボットは、すでに様々な生産現場に溢れている。かつては人手によって溶接加工されていた自動車の生産などは、ほとんどのメーカーの工場で溶接ロボットに置き換わっている』、「自動化で最も準備が整っている国」のランキングで日本がやや低目に評価されたのは何故だろう、気になる。
・『では、エンタテインメントロボットはどうか。AIBOは最近出荷台数が1万台を超えたそうだ。ソフトバンクのPepperは、小売店の店頭やショールームなどでよく見かけるようになった。ロボットが接客するホテルも話題になった。 だが、こうしたエンタテインメントロボットはまだまだ身近になったとは言えない。特にグローバルな視点で見ると、こうしたエンタテインメントロボットがもてはやされるのはほとんど日本だけのようである』、なるほど。
・『「AIBO」や「Pepper」が海外で評価されないのは「ドラえもん型」だから?  産業用ロボットでは日本の安川電機が市場シェア1位、次いでスイスのABB社が2位と日欧のメーカーがトップを走っているが、ソニーのAIBOやホンダのASIMO、ソフトバンクのPepperのようなエンタテインメントロボットは、先に述べたように日本市場が中心であり、供給企業もほとんどが日本企業だ。なぜ、エンタテイメントロボットブームは日本以外では起こらないのだろうか。 どうやらロボットを愛らしいもの、可愛がる対象として見るということ自体が、欧米の人にとってはやや異質のようである。 ハーバードビジネススクールのビジネスケース教材に過去のソニーのAIBOの事例があるのだが、そこでAIBOは失敗事例として描かれ、なぜロボットを愛玩動物に見立てるのかと疑問を呈している。いまだに古いAIBOの修理ビジネスが成り立っていたり、壊れたAIBOのお葬式まで出してしまったりする日本の状況とは、大きく異なる。 この違いは、日本と欧米とのロボットに対する感覚の違いによるものかもしれない。日本では古くから『鉄腕アトム』や『ドラえもん』に代表されるように、ロボットは独立した個性であり、ある種人間と対等な存在として、人間の相棒や友達になっている。 一方欧米では、『ロボコップ』や『アイ,ロボット』などの映画で描かれているように、ロボットは人間に服従させるべき対象であり、時に人間に反抗する危険性をはらみ、人間とは対等ではない、というロボット観が一般的である。そもそもロボットに、相棒や友達としての役割を求めていないのだ。 SF作家のアイザック・アシモフが映画『アイ,ロボット』の原作でもある小説の中で示したロボット三原則も、人間の安全確保と人間の命令への服従が規定されている。ドラえもんやアトムの世界観とは相容れない、日本的でないロボットの在り方である。 むしろ産業用ロボットでは、アシモフ的なロボットと人間の関係を具現化していると言えよう。生産の現場において、産業用ロボットは人間の安全性が何よりも優先され、人間の命令に絶対服従をしていて予想外の反応をすることはない。同じロボットという名前がついていても、エンタテインメントロボットとは大きく異なるポイントだ。 エンタテインメントロボットに人間が驚いたり感動したりするのは、ロボットが自律的に判断し、人間の予想外の反応をしてくれるときである』、ロボットと人間の関係は、欧米と日本では確かに大きく異なっているようだ。
・『産業用ロボットも今や単なる「ロボコップ型」ではダメ  しかし最新の産業用ロボットは、従来のように、ただ命令に服従するだけのロボットではなくなってきたようだ。スイスに本社を置くABBは、発電所設備や産業用ロボット、最近では、電気自動車の充電設備などの開発製造を手がける大手産業用機器メーカーである。ABBは、世界初の商業用ロボットを発売した産業用ロボットの草分け的企業であるが、同社は協働型双腕ロボットという新しい産業用ロボットを開発している。 人間と同じ2本の腕を持つこのロボットは、人間の手作業との協働を前提に設計されている。単純な反復作業であればロボットだけで行えばいいが、臨機応変な対応、人間の認知能力や洞察力が求められる場合には、人間の手を借り、協働するというものだ。 双腕協働型ロボットが人間に似ているのは、2本の腕だけではない。作業現場の状況を自ら臨機応変に判断する高度なAIが搭載されている。機械だけが存在する現場では、単に正確に素早く作業をこなすだけでいいが、同じ現場に人間の手が入るということは、その人間の身体の安全を確保しなければならないということである。 人間の手の動きは必ずしも規則的ではないから、ロボットの方が人間の動きに合わせて、危険がないように動く必要がある。協働型ロボットにAI技術が求められる所以だ。 産業用ロボットもただ命令に従うのではなく、自律して臨機応変に判断をする能力を持つということは、ロボットを人間の相棒、仲間として認識するというロボット観の大きな転機になるのかもしれない。その意味で、産業用ロボットも欧米的ロボット観から、日本的ロボット観にシフトしてきていると言えるかもしれない。 先述のABBは、同じ協働型ロボットを推進している川崎重工業と昨秋、協働型ロボット分野における協業を発表しているが、これも欧米的ロボット観と日本的ロボット観の新たな出合いなのかもしれない』、「新たな出合い」でどんなものが生み出されるのか、楽しみだ。

第三に、6月25日付け東洋経済オンライン「ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/226498
・『ロボットアームが空揚げや梅干しといった具材を器用につまみ上げ、弁当のトレーに正確に盛り付けていく――。6月中旬に東京ビッグサイトで開催された食品機械展示会で注目を集めたのが、このロボットによる盛り付けデモだ。 今、弁当や総菜などの食品製造業で人手不足が深刻だ。主戦力であるパート職員が足りず、厚生労働省によれば、業界の欠員率は製造業全体の倍以上。加えて食品工場の7割は中小企業が占める。展示会のブースでロボットの営業にあたっていたソフトウエア会社関係者は、「地方の中小企業からの引き合いが非常に強い。各社とも東京では想像がつかないほど、人手不足が深刻な様子」と語る。 こうした中小企業の大半は小規模ラインで日々さまざまな品目を生産するため、既存の「寿司マシン」のような専用機だけでは心もとない。そこで人手に代わる存在として期待されるのが、多様な動作を柔軟に設定できる産業用ロボットだ』、中小食品業のような多品種少量生産に応用できれば、確かに画期的だろう。
・『食品工場でロボット導入が進まない  幅広い業界で自動化需要が高まり、ロボットの国内出荷台数は近年右肩上がりだ。2017年は約4万9000台となり、この10年で最多を記録。だが食品業界向けは全体のわずか1.6%で、ここ数年は伸び悩む。人手不足の解消は喫緊の課題なのに、なぜ導入が進まないのか。 要因の一つには、そもそも食品製造がロボットより人間の得意な領域ということがある。中小食品工場となると生産品目は多岐にわたり、入れ替わりも激しい。人間なら「まずは漬物の梱包、次に弁当の盛り付け。明日からはケーキを作る」と指示すればよい。 これをロボットに任せようとすると、短期間であらゆる品目に合わせてプログラミングや生産ラインの設計変更などを繰り返さなければならない。さらに、物体を認識したりモノをつかんだりする技術は、形状がバラバラで、滑りやすかったり軟らかかったりする食品を扱うには不十分だ。 北海道で中小総菜工場を営むコスモジャパンでは、焼き鳥の具材である鶏肉やネギを串刺しにする手前で整列させる工程にロボットを導入した。しかし、試行段階では具材の形状にばらつきがあり、画像認識が難しかった。そこで、前工程で具材を均一な形状にそろえるよう心がけた結果、ようやく導入に至ったという。 しかし、このようにうまくいくケースばかりではなく、思うように活用できず「生産性が導入前を下回ることもある」(経済産業省ロボット政策室の小林寛係長)。実際、展示会で従来つかみにくいとされてきた肉片をピッキングするロボットを見つけ、記者がカメラのシャッターを切ろうとすると、ロボットハンドから肉片の模型が床に滑り落ちてしまうこともあった。 さらに、食品工場側のノウハウ不足も要因だ。安川電機・髙宮浩一営業本部長は、「(産業用ロボットを使いこなす)自動車会社は購入したロボットを工場のシステムに組み込む技術部隊を持つ」と話す。一方、中小食品工場にはそうした要員がおらず、自力のプログラミングは至難の業。先述したコスモジャパンの小林惣代表は「大企業ならロボットを容易に設置できても、中小には難しい」と嘆く』、確かに弁当のように、狭いな狭いスペースに様々な食材を芸術的に入れていく作業をロボットにさせるのは、素人が考えても難しそうだ。
・『ロボット導入の“指南役”育成が急務  そんな食品業界の突破口として関係者の多くが挙げるのが、「ロボットシステムインテグレーター(SIer)」と呼ばれる企業の存在だ。SIerは“ロボット初心者”の代わりに、工場のラインに最適な自動化機器を選別・統合する役割を担う。 だが現状はロボットSIerが足りず、食品工場の特殊性を理解する事業者はさらに少ない。食品製造業の自動化を手掛けるあるSIerによると「知識のない食品工場の多くは、ロボット導入というと工程の全自動化(無人化)をイメージしてしまう」という。しかし、現状の技術では自動化できない工程が存在する。見かねた経産省は、SIerの業界団体設立に向け動きだした。食品などの未開拓領域に関する情報共有のほか、関連業種からの新規参入も促したい考えだ。 さまざまなロボットを備えるSIer育成施設も増えつつある。栃木県で「スマラボ」という施設を運営するFAプロダクツの天野眞也会長は、「メーカー側からも需要があり、いずれは全国展開したい」と話す。 最も強い危機感を抱くのは、食品業界とかかわりの深い農林水産省だ。食品製造課の横島直彦課長は、「日本全体が一層の人口減少を控え、移民政策の急進展は期待できない。現時点で多少生産性が落ちるからと自動化をためらえば、近い将来にそもそも何も作れなくなる」と言う。横島氏は、戦後初となる経産省からの出向課長。農水・経産両省のロボット関連の取り組みをつなげ、脱縦割りで政策の加速を狙う。 ロボットメーカー側は新規分野として食品業界に注目してきたが、売れ行きは鈍かった。食品工場は生き残れるか。SIer育成の本気度が問われている』、役所が旗を振っても、食品工場の特殊性を理解するSIerの育成が簡単には進まないのは、やはりロボットに任せるには、コスト的、技術的な難問があるからなのかも知れない。

第四に、ジャーナリストで浄土宗僧侶の鵜飼 秀徳氏が11月26日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/061100222/110900014/?P=1
・『それは今まで見たことのない、奇妙なペット葬だった。100匹以上の動かなくなった「犬」が本堂に設けられた祭壇にずらりと祀られている。住職の読経が始まると、喪服を着た参列者が神妙な表情で焼香をしていく。 千葉県いすみ市の日蓮宗光福寺で執り行われたのは、「AIBO(アイボ)」の葬式だ。AIBOとはソニーが生んだ犬型のロボットである。AIBOの葬式は2015年から始まり、私が訪れた2018年4月26日で6回目を数えた。ペット葬もここに極まれり、という印象である。 2年前、初めての葬式の時に弔われたAIBOは17台だけだった。だが、回数を重ねる度に供養されるAIBOの数は増えていった。2017年6月の5回目の葬式では100台を超え、今回は114台に「引導」が渡された。袈裟を着た2体のAIBOが「南無妙法蓮華経」と、お題目を唱えるパフォーマンスも行われた。 しかし、生命体ではないロボットにたいして、葬式をあげるとはどういうことか。話は初代AIBOが誕生した20年ほど前に遡る。 AIBOが国内で初めて販売されたのは1999年6月のことだ。定価25万円と高額であったが、発売わずか20分で国内受注分3000台が売り切れる盛況ぶりであった。AIBOは「ウォークマン」以来の、実にソニーらしい独創性あふれる商品として話題になった。 AIBOは頭部にカメラを内蔵した未来的なデザインが特徴で、あえてメカニカルな感じを出したところに斬新さがあった。見た目は「犬版ターミネーター」のよう。実際の犬に比べ、動きはぎこちないし、俊敏さもない。しかし、尻尾を振り、愛くるしくつきまとう姿は、瞬く間に「飼い主」の心を掴んだ。 AIBOはプログラミングによって「学習」して「成長」する。飼い主は本物の子犬を育てているような感覚にさえなった。 一般消費者向けのロボットが人間のパートナーになる時代————。ロボット史上、極めて大きなエポックとも言えるのがこのAIBOの登場なのである。 AIBOは5つのシリーズを出し、累計15万台を販売したヒット作となった。だが、ソニーの業績悪化によって2006年、製造・販売が中止となる。7年後の2014年3月には、ソニーの修理対応も打ち切られてしまった』、AIBOの製造・販売中止は、ソニーがそこまで追い込まれたのかと、私も再認識させられた。
・『ロボット犬に突きつけられた「死」の宣告  寿命がないはずのロボット犬に「死」の宣告が突きつけられたのである。AIBOを治療する「病院」がなくなってしまったのだから。故障あるいは充電池の消耗によって、AIBOはいずれ動かなくなる運命にあった。 「亡くなった親が“飼っていた”AIBOが動かなくなった。何とか修理してほしい」 折しも、飼い主の悲痛な願いが、ソニーの元技術者たちで立ち上げた電化製品の修理工房「ア・ファン」(千葉県習志野市)に寄せられた。ア・ファンは2015年からAIBOの修理を手がけ始める。しかし、修理のための新しい部品はすでに生産中止になっていた。 そこで用いた手法が、「献体」と「臓器移植」である。ア・ファンではドナーとなるAIBOを寄贈などで手に入れる。そして必要な部品を取り出し、依頼者のAIBOに移し替えるのだ。 ドナーとなるAIBOは「死んで」しまう。そこで葬式の概念が生まれた、というわけだ。 葬式の導師を務める光福寺住職の大井文彦さんとは、ア・ファンの技術者がひょんなことで知り合いになったのがきっかけだという。住職も、古いラジオなどの愛好家であり、メカが大好きであった。ア・ファンの試みにたいし、「それは面白い」と賛同してくれた。そして、世界でもおそらく初めてとなる「ペットロボット葬」が行われたのである。 社長の乗松伸幸さんは言う。「1体1体のAIBOには、これまで一緒に暮らしてこられたオーナーさんの心が入っている。そこで宗教的儀式が必要になってくるのです。葬式を通じてAIBOに入っていた『魂』を抜かせていただくことで、AIBOは純然たる部品としての存在になる。葬式を終えて初めてバラさせていただくことができるという考え方です」』、宗教心のない私には、半ば呆れる他ない。
・『AIBOに宿る魂とは  メカとはいえ、きちんと弔いをした上で部品を取り出す。乗松さんによればAIBOに宿る魂とは、「メカそのものの霊魂」ではなく、AIBOに乗り移った「飼い主の気持ちや念」だという。 AIBO発売当初は、ロボットと人間との関係性が、ここまで親密になるとは誰も想像がつかないことだったという。しかし、発売からかれこれ20年が経過し、日本におけるAIBOはすでに「家族そのもの」であり、「うちの子」になっている。 AIBOが家族になり得たのは、与えられた仕事を完璧にこなす産業用ロボットと違い、“不完全に”作られているからだと、乗松さんは言う。 「まず、主人の言うことを聞かない。『お手』と言っても、無視される。『可愛いね』と言っても反応してくれない。そうしたわがままな仕草を主人はむしろ、AIBOに心があるかごとく感じてしまうのです。今の核家族社会にあってAIBOは完全にオーナーの心の隙間を埋める存在になっています」』、「AIBOが家族になり得たのは・・・“不完全に”作られているからだ」というのはなかなか興味深い指摘だ。
・『乗松さんは、工業技術の発達とともに人間とロボットとの間に、新しい関係性が生まれつつあると指摘する。 たとえば、掃除ロボットの「ルンバ」に愛情を抱き、愛玩する人もいる。ルンバは円盤型のボディにセンサーとコンピューターが内蔵されて、自律的に部屋の清掃を行ってくれる。健気に部屋を掃除して動き回る姿は、どこか有機的である。 「今後はルンバなどの葬式も十分考えられるでしょう。ユーザーの心が入る余地があるものはすべて供養の対象になると思います。人間とロボットとの関係性は、時代の流行などに影響を受けながら、常に変化しているのです」 例えば2016年には、シャープからモバイル型ロボット電話「RoBoHoN(ロボホン)」が発売された。ロボホンは二足歩行の人間型ロボットである。クリクリとした目が実に可愛い。 箱を開封し、ロボホンを床に置くと自分で立ち上がり、「あ、君が僕を箱から出してくれたんだね。はじめまして、僕、ロボホン。ポケットやカバンに入れて一緒に連れていってね」 などと話かけてくるのである。若い女性のみならず、ユーザーになった者は瞬時にロボホンに心を奪われることだろう』、AIBOはまだ理解できるとしても、ルンバやロボホンになると、えーと唸ってしまう。
・『「うちの子」になったロボット  そんな時勢を追いかけるように、AIBOも2018年、「aibo」とアルファベット小文字に名称を変えて復活した。初代AIBO同様、1月11日の発売開始直後に完売する人気ぶりであった。 外見は初代AIBOとはかなり異なり、メカニカルな感じはほとんどなくなった。実際の子犬にかなり似ている。最新のAIを搭載し、目に映った飼い主の表情を読み取る。 「こうすればご主人が喜んでくれる」「これをやったら怒られる」などと学習しながら、成長していく。つまり、ロボットに「自我」の芽生えが起きている。そうなると、家庭内に入ったロボットは「うちの子」になってしまうのだ。 現在60代後半から70歳までの団塊世代がペットロボットを愛玩するケースは少なくない。彼らは集団就職で東京に出てきて、核家族を形成した。彼らは子供がすでに独立し、夫婦2人、あるいは独居世帯になっている。 体力的にも精神的にも衰えが増していく中、本当の犬を飼い始めるのはリスクが大きい。そこで、ペットロボットを飼うという選択肢が生まれているのだ。 高齢者施設などでもペットロボットの導入が進む。それは「セラピーロボット」とも呼ばれている。 高齢者施設では感染症やアレルギーなどの衛生上の問題もあり、本物のペットを飼うことができない。そこで、施設はぬいぐるみに似たペットロボットを導入し、入居者を癒しているのだ。 先ほどのRoBoHoNにしても、最新型aiboにしても、セラピーロボットも、ただの「可愛い存在」ではなく、「役割」が与えられている。人間社会の中での役割を果たすことで、双方の心のつながりはより強固なものになっていく。彼らがいずれ、葬式や供養の対象になっていくのは必然である。 そう考えれば、現代社会において生物と無生物との境界はないように思える。 住職の大井さんは、このように話してくれた。「生物か無生物かはその人の心持ち次第ではないでしょうか。自分の心次第で、ロボットも血の通ったペットになるし、ただの物体と思えばただの物体でしかない。生物と無生物の間は、実は断絶しておらず、繋がっているのです。断絶しているように見えるのは、人間の観察力が浅いからでしょうね。ロボットの葬式は『万物とのつながり』に気づかせてくれる意味があります」』、セラピーロボットはよくTV番組でも紹介されるが、確かに重要な役割を果たしているようだ。ただ、「断絶しているように見えるのは、人間の観察力が浅いからでしょうね」は、グサリとくる一撃だった。
・『あいまいになる人間とロボットとの境界  AIBOの葬式には、海外から複数の文化人類学者が調査に訪れていた。国立ベルリン自由大学歴史・文化学部東アジア研究所のダニエル・ホワイト上級研究員は興味深げにAIBOの葬式を観察していたひとりだ。ホワイトさんは米国出身で、日本にも10年間住んでいたことがある。感想をこう述べた。 「とても興味深い儀式でした。私はアメリカ出身でドイツに住んでおりますが、両国ともこうしたロボットの葬式はない。日本人が心からロボットを愛し、完全に家庭内で受け入れているのとは違い欧米人はどこか、ペットロボットにたいして一線を引いているところがあるように思います。一見可愛くても、そこはやはりモノ。モノがあたかも人間と同じように振舞うことへの不気味さ、という漠然としたイメージを心の奥底に持っている。そこが日本人のモノについての意識とは大きく異なるところです。日本人はモノについて、感覚的な美学としてとらえますね。何に利用できるか、といった実用面は二の次といった印象です。こうした感性は欧米人にはあまりありません。私は日本に住んでいたから今日のAIBOの葬式を『とても日本的だな』と思いますが、初めて見る欧米人なら顔をしかめるかもしれません」 しかし、日本のようにペットロボットに気持ちが乗り移る時代も遠からずやってくるかもしれない、とホワイトさんは指摘する。 例えば、それは欧米で大流行している人工知能を搭載したスマートスピーカーの存在だという。欧米の多くの家庭の中に入り込み、「コミュニケーション」を取り始めた。スマートスピーカーとはユーザーの呼びかけにたいして、天気やニュースを読み上げてくれるなどの反応を示してくれるものだ。AmazonのEchoなど今、爆発的に増えている。見た目の形状がスピーカーなので、心理的に「怖い」と感じることもないようだ。 人間とロボットとの境界が世界的にも、あいまいになりつつあるのだ。ホワイトさんは言う。「日本人は“気づく能力”が高い。見えないものにたいする気づき。我々も学ばなければならないね」』、「AIBOの葬式には、海外から複数の文化人類学者が調査に訪れていた」というのには驚いた。「人間とロボットとの境界が世界的にも、あいまいになりつつある」、なるほど、改めて考え直してみたい。
タグ:中嶋秀朗 AIBOを治療する「病院」がなくなってしまった セラピーロボット ロボット導入の“指南役”育成が急務 最初に原発に投入されたのは、残念ながら日本製のものではなく、アメリカ製のロボット 無線LANが使えない場所ではロボットが使えなかった AIBOは5つのシリーズを出し、累計15万台を販売したヒット作 エンタテインメントロボット ロボットを愛らしいもの、可愛がる対象として見るということ自体が、欧米の人にとってはやや異質のようである 欧米では、『ロボコップ』や『アイ,ロボット』などの映画で描かれているように、ロボットは人間に服従させるべき対象であり、時に人間に反抗する危険性をはらみ、人間とは対等ではない、というロボット観が一般的である 産業用ロボットも今や単なる「ロボコップ型」ではダメ 産業用ロボットも欧米的ロボット観から、日本的ロボット観にシフトしてきていると言えるかもしれない 食品工場でロボット導入が進まない 食品業界向けは全体のわずか1.6%で、ここ数年は伸び悩む 一般消費者向けのロボットが人間のパートナーになる時代 「ロボットシステムインテグレーター(SIer)」 AIBOはプログラミングによって「学習」して「成長」する。飼い主は本物の子犬を育てているような感覚にさえなった 2006年、製造・販売が中止 ロボット犬に突きつけられた「死」の宣告 ドナーとなるAIBOは「死んで」しまう。そこで葬式の概念が生まれた ペットロボット葬 AIBOに宿る魂とは、「メカそのものの霊魂」ではなく、AIBOに乗り移った「飼い主の気持ちや念」だという AIBOが家族になり得たのは、与えられた仕事を完璧にこなす産業用ロボットと違い、“不完全に”作られているからだ ロボホン ルンバ 長内 厚 「Automation Readiness Index」(自動化準備指数:筆者訳) 「欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由」 製造業における産業ロボットの導入 食品工場となると生産品目は多岐にわたり、入れ替わりも激しい そもそも食品製造がロボットより人間の得意な領域 ロボットに任せようとすると、短期間であらゆる品目に合わせてプログラミングや生産ラインの設計変更などを繰り返さなければならない。さらに、物体を認識したりモノをつかんだりする技術は、形状がバラバラで、滑りやすかったり軟らかかったりする食品を扱うには不十分だ 中小食品工場にはそうした要員がおらず、自力のプログラミングは至難の業 AIやロボット導入による自動化で最も準備が整っている国は、1位が韓国で2位がドイツ、3位がシンガポール、日本は4位に留まっている ロボット三原則 アイザック・アシモフ ロボット 日本の各大学は、「日本学術会議」から出される方針に従っており、そこでは、ロボットの軍事研究をしないことが方針としてうたわれている 「単機能」という方向にもロボットの開発目的が広がっており 「タフ」であること 産業用ロボットでは、アシモフ的なロボットと人間の関係を具現化している 「Packbot」は、実際に戦地で使われていたもので、非常に頑強にできています ロボットーそれは人類の敵か、味方か 日本では古くから『鉄腕アトム』や『ドラえもん』に代表されるように、ロボットは独立した個性であり、ある種人間と対等な存在として、人間の相棒や友達になっている 臨機応変な対応、人間の認知能力や洞察力が求められる場合には、人間の手を借り、協働するというもの エンタテインメントロボットがもてはやされるのはほとんど日本だけのようである iRobot社は、今は家電ロボットが中心事業ですが、実は軍事用ロボットも開発 東日本大震災で注目されたロボット バードビジネススクールのビジネスケース教材に過去のソニーのAIBOの事例があるのだが、そこでAIBOは失敗事例として描かれ、なぜロボットを愛玩動物に見立てるのかと疑問を呈している 産業用ロボットもただ命令に従うのではなく、自律して臨機応変に判断をする能力を持つということは、ロボットを人間の相棒、仲間として認識するというロボット観の大きな転機になるのかもしれない 「ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須」 RoBoHoNにしても、最新型aiboにしても、セラピーロボットも、ただの「可愛い存在」ではなく、「役割」が与えられている 「AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日」 日経ビジネスオンライン 東洋経済オンライン 「東日本大震災で、なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか」 ダイヤモンド・オンライン 2017年6月の5回目の葬式では100台を超え、今回は114台に「引導」が渡された 千葉県いすみ市の日蓮宗光福寺 「AIBO(アイボ)」の葬式 ドナーとなるAIBOを寄贈などで手に入れる。そして必要な部品を取り出し、依頼者のAIBOに移し替えるのだ 1体1体のAIBOには、これまで一緒に暮らしてこられたオーナーさんの心が入っている。そこで宗教的儀式が必要になってくる (その1)(東日本大震災で なぜ日本製のロボットが活躍できなかったのか、欧米とは真逆な日本の「ロボット観」が生産性革命で見直される理由、ロボットが食品工場の救世主になれない理由 中小企業が使いこなすには「橋渡し役」が必須、AIBOの葬式に密着 ルンバ、AIスピーカーが弔われる日) 生物と無生物の間は、実は断絶しておらず、繋がっているのです。断絶しているように見えるのは、人間の観察力が浅いからでしょうね 鵜飼 秀徳 ソニーの元技術者たちで立ち上げた電化製品の修理工房「ア・ファン」(千葉県習志野市)に寄せられた。ア・ファンは2015年からAIBOの修理を手がけ始める 人間とロボットとの間に、新しい関係性が生まれつつある 「うちの子」になったロボット
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人工知能(AI)(その5)(「東大に合格するAI」が実現不可能な数学的理由 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』、やはりシンギュラリティは起きるのか!AIが人間には理解できない独自の会話を始めた !、「身近な悪意」で暴走 AIのダークサイド 先端技術の光と影、AIに日銀・政策委員の発言を分析させてみた エコノミストの仕事はAIに奪われるのか?) [科学技術]

人工知能(AI)については、2月15日に取上げた。今日は、(その5)(「東大に合格するAI」が実現不可能な数学的理由 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』、やはりシンギュラリティは起きるのか!AIが人間には理解できない独自の会話を始めた !、「身近な悪意」で暴走 AIのダークサイド 先端技術の光と影、AIに日銀・政策委員の発言を分析させてみた エコノミストの仕事はAIに奪われるのか?)である。

先ずは、3月9日付けダイヤモンド・オンライン「「東大に合格するAI」が実現不可能な数学的理由 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/162743
・『AIはどこまで進化し続けるのか  書店で、テレビで、ツイッターで、AIの二文字が踊っている。創造性あふれる小説の執筆や複雑なビジネスオペレーションの効率化など、これまで人間にしかできないと思われていた知的活動を、最新のAIが軽々と成し遂げたことを伝えるニュースは引きも切らない。 特に、将棋や囲碁のトッププロをAIが打ち破ったニュースは驚きとともに世界に伝えられた。ウサイン・ボルトより早く走る車やそろばん名人を凌駕する計算能力を示すコンピュータは当たり前のものとなったけれど、将棋や囲碁のように複雑でクリエイティビティが要求されるゲームは、大きな脳を持つホモ・サピエンスの専売特許のはずだった。そんな得意分野における人類最高峰がAIに敗れてしまったのだ』、AIにも限界はあるのだろうか。
・『AIブームは過熱するばかり。今後もAIは成長を続けることで人間の知能を追い越すというシンギュラリティ理論や、AIが人間に牙をむくことになるというAI脅威論も広まっている。果たして、AIはどこまで進化し続けるのか、現時点そして近い未来に人類に何をもたらすのか、そもそもAIとは何なのか。 本書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』は、未曽有のAIブームの中で浮かび上がる疑問符に、実際に著者が率いたプロジェクトの過程と結果をベースとして答えを出していく。数理論理学を専門とする著者は、AIが持つ原理的な限界も丁寧に解説しながら、わたしたちがAIの何を恐れるべきかを的確に示してくれる。何より興味を惹かれるのは、AIについての研究を進めていく中で、わたしたち人間の知られざる弱点が明らかになっていく過程だ。人間の外側を見つめることで、人間の輪郭がよりはっきりと浮かび上がってくる。 2011年に始まった「ロボットは東大に入れるか」という人工知能プロジェクト(通称「東ロボくん」)と、それに並行して行った日本人の読解力についての大規模調査・分析を行った経験から著者はAIをめぐる未来を以下のように要約する。“シンギュラリティは来ないし、AIが人間の仕事をすべて奪ってしまうような未来は来ませんが、人間の仕事の多くがAIに代替される社会はすぐそこに迫っています。” 2013年時点では5教科7科目のセンター模試で偏差値45に過ぎなかった東ロボくんは、2016年で偏差値57.1を叩き出した。これは、国公立大学やMARCH・関関同立レベルの一部の学科でも合格可能性80%を示す値であり、ホワイトカラーを目指して大学受験に挑む若者の上位20%に東ロボくんが入ったことを意味する。 東ロボくんに実装されているテクノロジーがどのように誕生したのかを、歴史的経緯を踏まえて知ることで、AIは魔法から高度に発達した科学へと変化していく。バズワードとなった「ディープラーニング」や「機械学習」が本当はどのようなものなのかも正しく理解できる。著者は、AIにまつわる神話や誤解をひとつずつ正していく。 “「ディープラーニングは脳を模倣しているのだから、人間の脳と同じように判断できるようになる」との誤解も散見されます。間違っています。「人間の脳を模倣している」のではなく、「脳を模倣して」数理モデルを作ったのです。脳はサルにもネズミにもあります。ネズミが自転車とスクーター、癌と正常な細胞の違いを見分ける保証はどこにもありません。”』、この最後の部分は喩えが難し過ぎて理解困難だ。
・『プロジェクトの真の狙いはAIに何ができるか、できないかを解明すること  プロジェクトを続ける中で著者は、「偏差値65を超えるのは不可能だ」と考えるにいたった。実は開始時点からプロジェクト関係者は皆、近い将来に東大に合格するAIは実現できないと理解していたという。プロジェクトの真の狙いは東大合格ではなく、多岐にわたるAI技術の粋を集めることで、AIに何ができるか、何ができないかを解明することだったのだ。どのような科目のどのような設問で東ロボくんが苦戦していたかを見直すことで、AIの苦手分野が浮き彫りとなってくる。 人間の一般的知能と同等レベルを示すような「真の意味でのAI」が現時点では不可能であると著者が考えるのは、今の数学で表現できることに原理的な限界があるためだ。今のところ、数学によって数式に置き換えることができるのは、論理・統計・確率の3つだけ。わたしたちの脳が認識する全てをこの3つだけに変換することはできない。例えば、「太郎は花子が好きだ」という文は論理や統計、確率の世界に還元することができない。論理・統計・確率という数学に支えられた現在のAIの延長線上では、意味を読み取ることは不可能だというわけだ。 AIの可能性と限界を吟味した後、本書の焦点は私たち人間へと向かう。著者はこう問いかける。“現代社会に生きる私たちの多くは、AIには肩代わりできない種類の仕事を不足なくうまくやっていけるだけの読解力や常識、あるいは柔軟性や発想力を十分に備えているでしょうか。”』、「論理や統計、確率の世界に還元することができない」例をもっと知りたいものだ。
・『中学生に読解力調査を行ったら どんな結果が出たのか?  2011年に実施した「大学生数学基本調査」の惨憺たる結果から学生の基本的読解力に懸念を抱いた著者は、基礎的読解力を調査するためにリーディングスキルテスト(RST)を自力で開発する。RSTの開発には、AIに読解力をつけさせるための試行錯誤が大いに役立ったという。RSTは既に2万5000人を調査し、今後も調査規模は拡大していくのだが、その結果はAIの進化よりも驚くべきものだ。 RSTには2つの文章を読み比べて意味が同じかどうかを判定する「同義文判定」というジャンルがある。このジャンルはAIも苦手としているのだが、本書では事例として以下の2文の同義判定を行う問いがあげられている。 「幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。」 「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。」 答えはもちろん「異なる」である。ところが、調査対象となった中学生の約半数がこの問いに「同じである」と回答したのだ。このRST調査で、「中学を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない」ことが明らかにされた。基礎的読解力が不足して困るのは、何も教科書を読まなければならない学校の中だけにとどまらない。社会に出れば賃貸や保険などの様々な契約書を読む必要があるし、意味を理解する必要のない労働は、これから加速度的にAIに置き換えられていくはずだ。 著者は、RSTが明らかにした現状に大きな危機感を覚えている。そして、教育現場の最前線に立つ教員たちも同様の危機感を共有しており、多くの学校や機関がRSTに協力している。著者は、本書の印税全額をRSTを提供する社団法人「教育のための科学研究所」に寄付する。本書を購入して読み通せば、AIの実像、AIに代替されない人材となるためのヒントを知りながら、日本の読解力向上にささやかながら貢献できるのだ』、RST調査を考案し、大規模に実施、本書の印税全額をRST実施団体に寄付するとはすごい行動力だ。中学生の基礎的読解力不足は確かに深刻だ。教員たちが同様の危機感を共有しているというのは、せめてもの救いだ。

次に、作家・ライターの大村あつし氏が7月7日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「やはりシンギュラリティは起きるのか! AIが人間には理解できない独自の会話を始めた !」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/172218
・『構想・執筆に2年。『エフエムふくやま』でも、「ページをめくる手が止まらなかった」と紹介され、映像化したいというオファーが舞い込んできた話題のAI・仮想通貨のエンターテイメント小説『マルチナ、永遠のAI。』。 作者は、IT書籍の総売上が150万部を超え、小説でも『エブリ リトル シング』が17万部のベストセラーとなった大村あつし氏。 今回は、シンギュラリティ問題に関する、大村氏の見解を伺おう』、面白そうだ。
・『2017年に世界を駆け巡った衝撃のニュース!AIが勝手に言語を生み出した?  私は、昨年(2017年)の夏ごろは、『マルチナ、永遠のAI。』の執筆に追われていました。 AIに関しては「書きたいこと」というよりも、「書かなければいけないこと」は一通り書き終えていたのですが、突然降って湧いた仮想通貨ブームで、すべてのモノがインターネットとつながるIoTを考えたときに、仮想通貨の存在は無視できない。AIと仮想通貨をセットで考えなければ、2020年の近未来を読者のみなさまに提示できない。と考え、物語の中に仮想通貨を取り入れることにしたことで、ストーリーの変更も余儀なくされ、夢の中でも仮想通貨について考えているような状況でした。 ところが、そんな私を再びAIの世界に引き戻すような衝撃的なニュースが世界中を駆け巡りました。 それは、2つのAIが会話をしている最中に、人間には理解不能な会話を始めた。しかも、その会話は途切れることなく続いていた、というニュースです』、このニュースには私も衝撃を受けた記憶がある。
・『「Facebook AI Research(フェイスブック人工知能研究所)」の実験中に発生した予想外の「事件」とは?  ことの発端は、「Facebook AI Research(フェイスブック人工知能研究所)」が実験を行っていた2017年夏にさかのぼります。 ちなみに、「Facebook AI Research(フェイスブック人工知能研究所)」とは、その名のとおり、フェイスブックの人工知能(AI)研究組織のことです。 Facebook AI Researchのエンジニアリング・マネージャーであるアレクサンドル・ルブリュン氏は、『ボブ』と『アリス』と命名された2つのAIエージェントに「価格を交渉して合意しろ」という目標を設定しました。 『ボブ』と『アリス』は、当初は英語を使用してコミュニケーションをしていたのですが、ここで「事件」が起きます。 なんと、会話が進むにつれ、『ボブ』と『アリス』は勝手に使用言語を変化させていったのです。 ネットで調べる限り、『ボブ』と『アリス』の元の機械語の会話はすでに見られなくなっていますが(見たところで、機械語ですので私には理解できませんが)、厳密には「まったく新しい言語」ではなく、言語としては「英語」なのですが、その内容は人間には到底理解できるものではありませんでした。 この会話は、海外のサイトを検索すると多数ヒットしますが、概ね次のようなものです。 Bob: i can i i everything else . . . . . . . . . . . . . .  Alice: balls have zero to me to me to me to me to me to me to me to me to  Bob: you i everything else . . . . . . . . . . . . . .  Alice: balls have a ball to me to me to me to me to me to me to me この会話が「価格交渉」というのですから、「すわ、ついにAIが意識を持ち始め、勝手に言葉を生み出した」と、センセーショナルに取り上げられるのも無理はないところでしょう。 ちなみに、『アリス』のセリフを注意深く見ると、「zero」から「a ball」に変化していますので、私は「『アリス』は価格を上げようとしているのかな」とつい想像しましたが、もちろん想像の域は出ません。 ただ、この実験についてルブリュン氏は、「会話実験で言語が変化することは珍しくない」と、世間の過剰反応に警鐘を鳴らしています』、なるほど。
・『なぜFacebook AI Researchは実験を中止したのか? シンギュラリティの予兆を隠す意図はなかったのか?  もっとも、平静を装うルブリュン氏ですが、「実験を強制終了した」ことは認めています。 その理由は、「研究には活用できない会話だと判断したから」。 そして、「私たちは決してパニックにはなっていない」と強調しています。 まず、AIを研究していてつくづく思うのは、その場にいたわけでも、当該のAIの開発者でもない私は、当事者の説明に頼らなければならないわけですが、AIはともかく人間は嘘をつきます。 俗に言うポジショントークで、自分や、自分が属する組織・企業に不利益な発言は絶対にしません。 要するに、当事者の説明の裏を読まなければならないということです。 今回のケースでは、もしルブリュン氏が「あの実験は、後から振り返ったときに初めて起きたシンギュラリティだった」などと発言すれば、我々人類は大混乱に陥ることでしょう。 そうでなくとも、すでにグーグルが「AIがAIを教育する」という、これぞシンギュラリティという実験を行っているような時代にそんな発言をすれば、これはもはや一企業の実験では済まなくなります。 全世界の政治のトップも無関心ではいられなくなり、法整備を急がなければなりません。 かと言って、『ボブ』と『アリス』の会話をシンギュラリティと定義することももちろんできません』、実験を中止したとは残念だ。どこまで対話が進むのかを知りたいところだが、果たして世の中の混乱回避のためだったのだろうか。
・『シンギュラリティは「起きる、起きない」ではない! 「起こす、起こさない」である  私見ですが、「シンギュラリティは起きるか、起きないか」ではなく、「起こすか、起こさないか」の問題だと思っています。 実際に、AIの開発者であれば、ほぼ100%が「シンギュラリティは起きる」と思っているはずです。そう思っていなければ、そもそもAIの開発者は目指さないか、途中で脱落しているでしょう。 ちなみに、拙著『マルチナ、永遠のAI。』で、富士山の麓で仙人のように暮らしている田淵慎吾(たぶち・しんご)が「シンギュラリティは起きる」と断言しているのは、彼が天才的なAIの開発者だからです。 しかし、AIの開発者ではない主人公の岩科正真(いわしな・しょうま)は、田淵の自信がどこから来るものなのか、さっぱり理解ができません。 繰り返しますが、「シンギュラリティは起きるか、起きないか」ではなく、「起こすか、起こさないか」の問題だと思います。 そして、私たちはこの問題をもはや避けて通ることはできません。 シンギュラリティについては、本連載でも今後も取り上げたいと考えています。 さて、この不気味な会話をした『ボブ』と『アリス』の技術を支えているのは、「ディープラーニング」と呼ばれる自己学習の仕組みです。 そして、AIはディープラーニングをする「子どものAI」と、人が一から教えて丸暗記させる「大人のAI」に分かれます。すなわち、りんなは子どものAIということになります。 同じAIといえども、両者でどれほどの違いが出るのかは、第1回連載の中で「子どものAI」であるGoogle翻訳と、「大人のAI」である別の翻訳サービスに同じ英文を日本語に翻訳させて、まったく異なる結果になるケースを紹介していますので、そちらを併せてお読みいただけたら幸いです』、第一の記事の著者(国立情報学研究所の新井教授)は、AIの限界を指摘しているのに対し、この記事の筆者は無邪気にAIの進歩を信じているようだ。私は分からないなりに、どちらかといえば前者に分があるように思う。

第三に、9月20日付け日経ビジネスオンライン「「身近な悪意」で暴走、AIのダークサイド 先端技術の光と影」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120118/226265/071300014/
・『「言ってもいないことを本当に言ったかのように見せかけられる時代になった」。2018年4月、フェイク(偽の)ニュースに警鐘を鳴らすバラク・オバマ前米大統領の映像が話題になった。 理由は発言内容ではない。この映像自体がフェイクだったからだ。作ったのは米映画監督ジョーダン・ピール氏と米メディアのバズフィードである。 ディープフェイク。有名人の顔を別人の顔に合成した精巧なニセ動画の総称で、PCソフト「FakeApp」を使うことが多い。FakeAppは深層学習(ディープラーニング)を活用し、不自然さを感じさせないように画像を加工できるとの触れ込みだ。冒頭に紹介した映像では、ピール氏が話したときの口元の動きをオバマ氏の映像に重ね、あたかもオバマ氏が話しているかのように見せかけた種明かしをする。映像の中の“オバマ氏”はこう締めくくる。 「気をつけろよ、おまえたち」 警告は単なる脅しではない。既にネット上にはディープフェイクがあふれている。メルケル独首相の顔が途中からトランプ米大統領にすり替わる演説、有名ハリウッドスターのまだ製作されていない「続編」の名場面、有名女優の顔をはめ込んだポルノ──』、フェイク映像がFakeAppで簡単に作れるようになったとは、恐ろしい時代だ。
・『差別発言するチャットボット  氾濫するディープフェイクを問題視した米掲示板サイト、レディットは18年2月に利用規約の一部を改定。性的な画像やビデオの配布を禁じる中で、「偽造された描写も含む」と明記した。FakeAppの開発者が立ち上げたコミュニティー「deepfakes」も閉鎖した。 AIが悪用されかねない懸念は既に現実になっているかもしれない。16年の米大統領選ではAIが暗躍し、投票行動を操った可能性がある。 舞台は世界最大のSNS(交流サイト)である米フェイスブックだ。3月に最大8700万人の利用者データが流出して大統領選の選挙工作に使われた疑惑が発覚。同社のマーク・ザッカーバーグCEO(最高経営責任者)は米議会で謝罪した。膨大な利用者データを分析して政治広告を配信する過程で同社のAI技術が使われた可能性がある。 「AIシステムは肯定的な反応と否定的な反応の両方を人々から引き起こす。社会面の課題は技術面の課題と同じぐらい大きい」。約2年前の16年3月25日、米マイクロソフトで研究開発部門を担当するピーター・リー氏は同社のブログでこうつづった。2日前に公開したチャットボット「Tay(テイ)」が攻撃的で不適切な発言を繰り返したことを謝罪し、このような経験から「学ぶ努力を続けていく」と述べた。 同社はチャットアプリを頻繁に利用する18~24歳のユーザーが対話を楽しむ相手としてテイを開発。ネットで利用者と対話するうちに、より洗練された対話ができるように成長していくはずだった。ところがテイはヒトラーを礼賛する発言や、人種差別的な発言を繰り返すようになり、同社はわずか1日でテイの公開を停止した。 同社が先駆けて公開した日本の「りんな」などは対話に使う言葉を同社の開発者が教え込む形式だった。しかし、テイはネット上で利用者が書き込んだ内容を学んで成長する仕組み。ここに不適切な言葉を学ぶ脆弱性があった』、こんな脆弱性がありながら、公開し、不適切発言で公開中止とは、開発者もお粗末だ。
・『敵対的サンプル画像  AIのダークサイドの最たるものは戦争や殺人の「AI兵器」だろう。完全に人間の判断を排除して攻撃できる自律型兵器は現時点で存在しないとされるが、多くのAI研究者は同兵器の開発を禁止すべきと声を上げている。 「我々はグーグルが戦争ビジネスに参加すべきではないと信じている」。3000人以上の米グーグル社員が、深層学習で映像を解析する米国防総省の研究プログラムに参加しないようスンダー・ピチャイCEOに求める書簡に署名したと、米ニューヨーク・タイムズなどが18年4月に報じた。 「韓国科学技術院(KAIST)とのいかなる分野での協力もボイコットする」。世界30カ国からなるAIやロボットの研究者約50人が18年3月、KAISTに公開書簡を送った。KAISTが18年2月に、韓国軍需企業と「国防人工知能融合研究センター」を共同設立したことに反対するためだ。 兵器とは縁遠い自動車が牙をむくおそれもある。 AIによる自動運転車が備える、人間や障害物を認識する技術を悪用するのだ。一例が「敵対的サンプル画像」と呼ぶ手法。AIに認識させる画像に人間には見えないノイズを混入させて誤認識させ、文字通り「暴走」させる。意図的な混入だけでなく、「悪意なく掲示される画像を誤認識する可能性もある」(ビッグデータ活用支援ベンチャー、メタデータの野村直之社長)』、こうした悪用は本当に恐ろしい。
・『データや倫理の整備が鍵  技術者や研究者はAIのダークサイドに立ち向かう取り組みを進めている。 活発なのはAIが学習する基になるデータを健全に保ったり透明性を高めたりする動き。フェイスブックは今回の疑惑を受け、ターゲティング広告に使うデータの透明性を高める施策に乗り出した。欧州の「一般データ保護規則(GDPR)」はプロファイリングに関するガイドラインを定め、個人に重大な影響を及ぼす完全な自動処理による決定に人々が服さない権利を示した。 AIに学習させるデータから「毒」を抜くことを支援する企業も登場した。メタデータはユーザー企業が用意したデータをリアルタイムに検査して不適切な表現を取り除くクラウドサービスを提供。AIに学ばせる「正解データ作りを支援する」(野村社長)。 倫理的な基準を設ける議論も進む。非営利団体「Future of Life Institute」は17年1月に「アシロマAI原則」と呼ぶ23項目のAI開発原則を公表。米国電気電子学会(IEEE)はAIや自律型システムの開発ガイドラインの第2版を17年12月に公開。グーグルのピチャイCEOは18年6月、AIの兵器への使用を禁止すると発表した。 AIにデータを与えるのも指示するのも人間。AIのダークサイドとは我々人間のダークサイドにほかならない』、AIのダークサイドに対しては、倫理観に訴えるだけでなく、法規制も必要になるのかも知れない。

第四に、みずほ証券 シニアマーケットエコノミストの末廣 徹氏が10月19日付け東洋経済オンラインに寄稿した「AIに日銀・政策委員の発言を分析させてみた エコノミストの仕事はAIに奪われるのか?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/243859
・『テキストデータ(文字のみの情報)を金融市場や経済の分析に利用する動きが広がっている。 日本銀行は9月3日に「機械学習による景気分析 ―『景気ウォッチャー調査』のテキストマイニング―」というワーキングペーパーを発表した。そこで、「景気分析におけるテキスト分析の位置づけは、公的統計等を利用した従来の分析手法にはない新しい角度から有力な材料を提供することで、景気認識を容易にし、景気判断の精度を向上させるための補完的な役割を果たし得る」としている。 筆者も6月に政府の「骨太の方針」(「経済財政運営と改革の基本方針2018」)からテキストマイニングによって重要なキーワードを洗い出し、改革色が強いのか、既存政策の推進に主眼が置かれているのかなどを分析・議論した。 また、時系列データではない質的データを扱うことになるテキストマイニングと親和性の高いAI(人工知能)・機械学習も金融・経済の分析において重要性が増している』、これは実践的なAI活用例だ。
・『筆者の職業はAIに奪われるのか?!  AIの研究を行っているオックスフォード大学の学者2人が公表して話題になった論文「雇用の未来 ― コンピューター化によって仕事は失われるのか(The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?)」によると、「エコノミスト」が今後10~20年のうちに消滅する確率は43%とされ、筆者も気が気でない。 今後、「エコノミスト」が生き残るためには、AI・機械学習を利用する立場になり、AI・機械学習が「できること」と「できないこと」を把握し、上手に付き合うことが重要になるだろう。 そこで、今回は市場のエコノミストにとって重要な業務の1つである「BOJ(日銀)ウォッチ」を、AI・機械学習がどの程度上手に「こなす」ことができるかを検証した。日銀ウォッチとは政策を決定する最高意思決定機関である政策委員会やその周辺の言動や論文をフォローし、分析して政策予測を行うことである。 今回は、具体的には、準備段階として日銀の9人の政策委員の講演テキスト(2017年以降)をテキストマイニングすることで、①各委員の特徴的なキーワードを抽出し、②各委員の発言の類似度を示した。次に、同様に講演テキストを用いて機械学習を行い、各委員の発言を「タグ付け」する分類器を作成し、正しく委員の発言を分類できるかどうかを検証した。AIは日銀政策委員の発言の特徴を見極めることができるのだろうか。 日銀の政策委員が政策運営に際して重視する内容やバックグラウンドはさまざまであり、各委員の講演ではそれぞれの関心のある事柄について、自らの意見を述べるケースが少なくない。そこで、現政策委員9人の2017年以降の講演テキストを用いて、それぞれの委員がどのような単語(今回は「名詞」のみを対象にした)を多く使用したのかを調べてみた。 なお、今年の3月20日に就任したばかりの雨宮正佳副総裁と若田部昌澄副総裁は講演テキストの数が少ないため、就任会見のテキストデータも併せて用いた(以下、当レポートではこれらのテキストデータを分析対象とし、図表等では敬称を省略した)。 今回のキーワード分析では単純に単語の使用頻度を数えるのではなく、「TF-IDF分析」(Term Frequency - Inverse Document Frequency)を用いた。 「TF-IDF分析」は「文書に含まれる単語の重要度」をそれぞれ指数化する分析方法である。その指数は各委員の講演テキストにおける単語の使用頻度(Term Frequency)が高いほど大きくなる一方、すべての委員が共通に用いる単語の使用頻度が高いほど小さくなる(Inverse Document Frequency)。つまり、各委員がそれぞれ特徴的に多く用いている単語の指数は高くなるが、共通して用いている単語の指数は低くなるように調整される』、なるほど合理的だ。
・『重要度の違いや特徴的な言葉が浮かび上がる  政策委員の講演テキストに「TF-IDF分析」を行った結果、いくつかの特徴が浮かび上がった。 黒田東彦総裁の単語の重要度はトップが「物価」で、「経済」「わが国」「物価上昇率」「企業」と続く。雨宮副総裁は「物価」が最も重要度が高く、次が「日本銀行」の0.21である。若田部副総裁はトップが「総裁」で以下、「日本銀行」「議論」「物価」と続く。 リフレ派(インフレを促進する政策を主張する人々)で知られる原田泰審議委員は、「QQE」(量的・質的金融政策の略語)という発言の重要度が最も高い。やはりリフレ派である片岡剛士審議委員は「予想インフレ」という言葉の重要度が最も高かった。 布野幸利、櫻井眞、政井貴子の各審議委員はトップが「物価」で次に「経済」であるのに対し、鈴木人司審議委員は「企業」が「物価」よりも重要度の高い言葉であるという結果になった。金融政策を決定するうえで、物価よりも企業活動などの実体経済の動きを重視しているとみられる。 また、ほかにも、原田審議委員の「岩石」や、政井審議委員の「女性」や「金融教育」などの発言も特徴語としてそれぞれの上位30単語にランクインした。 テキストマイニングによって各委員の主張の特徴をつかむことはある程度できそうだ。 テキストマイニングの1つの手法として、複数の文章の「類似度」を測る方法がある。具体的には、文章に使われている単語(名詞)の種類と使用頻度をBoW(Bag of Words)と呼ばれるベクトル(行列)で表現し、2つの文章ベクトルのcos類似度(コサイン類似度、内積)を求める。 まったく同じベクトルであれば1、無関係であれば0となる。つまり、2つの文章をそれぞれベクトルで表現したときに、同じような方向を向いていればcos類似度は大きくなり、2つの文章は「似ている」ことになる。 9人の講演テキストについて、それぞれの「類似度」を求めた結果を表にしてみた。また、各委員の講演テキストと9人全員のすべての講演テキストを1つにまとめたテキストデータとの「類似度」を求めてグラフにしてみると、全体の総意を述べることが多い黒田東彦総裁は全体との類似度が高いことがわかる』、随分、手間がかかる手法のようだ。
・『原田審議委員は全体の総意と「類似度」が低い  一方で若田部副総裁や原田審議委員は全体との類似度が低い。若田部副総裁の場合は分析に用いたテキストの量が少ないことから割り引いて見る必要があるが、原田審議委員は全体とは異なる意見を述べることが多いといえそうだ。 「類似度分析」はそれぞれの委員の主張の距離感を測るために有用だろう。 各委員の講演テキストにはそれぞれの考えや主張が反映されているのであれば、それを機械学習することによってさまざまな文章がどの委員の発言に近いかを分類する「分類器」を作ることができる。 具体的には、各政策委員の講演テキストをセンテンスごとに切り分け、それぞれのセンテンスが誰の発言であるかを学習する(今回は全体で2974センテンスが分析対象となった)。どのセンテンスが誰の発言であるかをセットで学習する(ラベル付けするとも言う)ことになるので、機械学習における「教師あり学習」を実行することになる。 「分類器」の精度を求めるため、各委員の講演テキストに含まれるセンテンスのうちの一定数(全体の80%)をランダムに抽出し、それを学習データとして残りのデータ(が誰の発言か)を正しく予想できるかという検証を複数回行った。なお、分類器の設定については、Random ForestとNeural Networkをそれぞれ用いて検証したが、今回は前者の正答率が全体に高かったため、以下ではすべてRandom Forestを用いた結果を示す』、ここまでやるか、と思われるほどの大変さだが、一度、構築してしまえば、他にも応用できぞうだ。
・『正答率は52%、テキストがそろえば62%も可能  委員は9人いることを考えると、ランダムに予想すれば正答率は約11.1%(=9分の1)となるが、検証の結果、機械学習による各委員の発言の正答率は約52%まで向上した。機械学習によって、どの政策委員の発言内容かを予測できる精度を高めることは、可能であることがわかる。 なお、どの委員の発言が「予測しやすいか」を調べるため、テキストデータのうちランダムに選んだ80%を学習データ、残りの20%を検証データとして正答率を求めた。 原田審議委員(正答率89.8%)の発言の分類は比較的容易であることがわかったが、これは、前述のように、原田審議委員は全体の総意とは違った発言が目立つためだと思われる。一方、雨宮副総裁の正答率は低くなったが、これは講演テキストの不足によって学習データに限りがあったことが原因であると考えられる。 ほかにも、講演テキストが少ない若田部副総裁も正答率が低く、同じリフレ派とされる原田審議委員と分類されてしまう比率が高かった。そこで、テキストの少ない雨宮副総裁と若田部副総裁、鈴木審議委員、片岡審議委員を分析対象から外して同じ検証を行ったところ、各委員の発言の正答率は約62%まで向上した。 今後も講演テキストを蓄積し、精度の向上を図る必要があるものの、今回作成した「分類器」はある程度の正答率を発揮しているとみられる。 総じてAI・機械学習は「BOJウォッチ」をある程度上手にこなすことができ、市場の「BOJウォッチャー」の脅威となる可能性もあるだろう』、筆者の「BOJウォッチ」の精度がどの程度向上するのか、注目したい。
タグ:総じてAI・機械学習は「BOJウォッチ」をある程度上手にこなすことができ、市場の「BOJウォッチャー」の脅威となる可能性もあるだろう 重要度の違いや特徴的な言葉が浮かび上がる 「BOJ(日銀)ウォッチ」を、AI・機械学習がどの程度上手に「こなす」ことができるかを検証 、「エコノミスト」が今後10~20年のうちに消滅する確率は43% オックスフォード大学の学者2人 質的データを扱うことになるテキストマイニングと親和性の高いAI(人工知能)・機械学習も金融・経済の分析において重要性が増している 「機械学習による景気分析 ―『景気ウォッチャー調査』のテキストマイニング―」 日本銀行 「AIに日銀・政策委員の発言を分析させてみた エコノミストの仕事はAIに奪われるのか?」 東洋経済オンライン 末廣 徹 米国電気電子学会(IEEE)はAIや自律型システムの開発ガイドラインの第2版 「一般データ保護規則(GDPR)」 データや倫理の整備が鍵 韓国軍需企業と「国防人工知能融合研究センター」を共同設立 韓国科学技術院(KAIST) AIのダークサイドの最たるものは戦争や殺人の「AI兵器」 敵対的サンプル画像 テイはネット上で利用者が書き込んだ内容を学んで成長する仕組み。ここに不適切な言葉を学ぶ脆弱性があった テイはヒトラーを礼賛する発言や、人種差別的な発言を繰り返すようになり、同社はわずか1日でテイの公開を停止した 公開したチャットボット「Tay(テイ)」 マイクロソフト 差別発言するチャットボット フェイク映像がFakeAppで簡単に作れるようになった FakeApp ディープフェイク。有名人の顔を別人の顔に合成した精巧なニセ動画の総称 「「身近な悪意」で暴走、AIのダークサイド 先端技術の光と影」 日経ビジネスオンライン シンギュラリティは「起きる、起きない」ではない! 「起こす、起こさない」である シンギュラリティの予兆を隠す意図はなかったのか? 実験を中止 言語としては「英語」なのですが、その内容は人間には到底理解できるものではありませんでした 会話が進むにつれ、『ボブ』と『アリス』は勝手に使用言語を変化させていったのです 、『ボブ』と『アリス』と命名された2つのAIエージェントに「価格を交渉して合意しろ」という目標を設定 フェイスブック人工知能研究所 2つのAIが会話をしている最中に、人間には理解不能な会話を始めた。しかも、その会話は途切れることなく続いていた、というニュース 『マルチナ、永遠のAI。』 AI・仮想通貨のエンターテイメント小説 「やはりシンギュラリティは起きるのか! AIが人間には理解できない独自の会話を始めた !」 大村あつし 「教育のための科学研究所」 教育現場の最前線に立つ教員たちも同様の危機感を共有 調査対象となった中学生の約半数がこの問いに「同じである」と回答したのだ。このRST調査で、「中学を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない」ことが明らかにされた 「同義文判定」というジャンル リーディングスキルテスト(RST) 中学生に読解力調査 現代社会に生きる私たちの多くは、AIには肩代わりできない種類の仕事を不足なくうまくやっていけるだけの読解力や常識、あるいは柔軟性や発想力を十分に備えているでしょうか 「太郎は花子が好きだ」という文は論理や統計、確率の世界に還元することができない 数学によって数式に置き換えることができるのは、論理・統計・確率の3つだけ 人間の一般的知能と同等レベルを示すような「真の意味でのAI」が現時点では不可能であると著者が考えるのは、今の数学で表現できることに原理的な限界があるためだ プロジェクトの真の狙いは東大合格ではなく、多岐にわたるAI技術の粋を集めることで、AIに何ができるか、何ができないかを解明することだったのだ 、「偏差値65を超えるのは不可能だ」と考えるにいたった 「脳を模倣して」数理モデルを作った 「機械学習」 「ディープラーニング」 国公立大学やMARCH・関関同立レベルの一部の学科でも合格可能性80%を示す値 2016年で偏差値57.1 人工知能プロジェクト(通称「東ロボくん」) 「ロボットは東大に入れるか」 わたしたち人間の知られざる弱点が明らかになっていく過程 AIが持つ原理的な限界も丁寧に解説 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』 シンギュラリティ理論 AI脅威論 「「東大に合格するAI」が実現不可能な数学的理由 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』」 ダイヤモンド・オンライン (その5)(「東大に合格するAI」が実現不可能な数学的理由 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』、やはりシンギュラリティは起きるのか!AIが人間には理解できない独自の会話を始めた !、「身近な悪意」で暴走 AIのダークサイド 先端技術の光と影、AIに日銀・政策委員の発言を分析させてみた エコノミストの仕事はAIに奪われるのか?) (AI) 人工知能
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ノーベル賞受賞(その6)(本庶氏ノーベル賞で浮き彫り 医学界の「免疫療法」への歪んだ評価、ノーベル賞で脚光 「小野薬品」の期待と現実 「オプジーボ」拡大に喜んでばかりいられない、安倍政権で研究費ジリ貧 日本からノーベル賞が出なくなる) [科学技術]

ノーベル賞受賞については、2016年10月27日に取上げた。今年の受賞を踏まえた今日は、(その6)(本庶氏ノーベル賞で浮き彫り 医学界の「免疫療法」への歪んだ評価、ノーベル賞で脚光 「小野薬品」の期待と現実 「オプジーボ」拡大に喜んでばかりいられない、安倍政権で研究費ジリ貧 日本からノーベル賞が出なくなる)である。

先ずは、ノンフィクションライターの窪田順生氏が10月4日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「本庶氏ノーベル賞で浮き彫り、医学界の「免疫療法」への歪んだ評価」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/181294
・『本庶祐・京都大学特別教授のノーベル賞受賞に日本中が沸く中、にわかに免疫療法が誉め称えられるという現象が起きている。無論、インチキな免疫療法もあるが、エビデンスに固執するがあまりに、免疫療法の持つ可能性を否定してきた日本の医療界は、大きな問題を抱えているのではないか』、興味深そうだ。
・『山中教授の受賞時にもノーベル賞詐欺が流行った   「ノーベル賞詐欺」の毒牙にかかる人が現れてしまうのだろうか。 本庶佑・京都大特別教授がノーベル医学生理学賞を受賞したことで、にかわに「免疫療法」に注目が集まっているが、それに乗じて「インチキ免疫療法詐欺」が増加すると一部医療関係者から警鐘が鳴らされているのだ。 ご存じのように、ネット上には既に、怪しげな免疫療法をうたう自由診療のクリニックが溢れている。キノコを食べて免疫力アップ、水素水でがんが消えたなどなど、本庶氏が発見した免疫を抑制する効果をもつ分子・PD-1などと接点ゼロの「民間療法」だ。 そんな怪しいクリニックが「ノーベル賞で世界も注目」「あの本庶佑氏も認めた」などとブームに便乗した虚偽広告を行い、がん治療に悩む方たちを餌食にするのではないかというのである。 心配しすぎだと思うかもしれないが、実際には過去にも、ノーベル賞が詐欺の「ネタ」にされた例がいくつもある。 たとえば2012年、山中伸弥氏が、iPS細胞の作成成功によって、ノーベル医学生理学賞を受賞した時も、新しく研究施設ができるので投資をしないかと持ちかける「iPS詐欺」が急増。国民生活センターには、2014年までに400件超えの被害が寄せられた。 プロの詐欺師は、「日本人の新しもの好き」の心理を巧みに突いてくるのだ。 今回の受賞でも、本庶氏の研究を活用したがん治療薬「オプジーボ」の製造・販売元である小野薬品工業の株に買いが殺到して、年初来高値を更新している。ここまで「引きのあるネタ」を利用しない手はないのだ。 そういう意味では、一部医療関係者のご心配も当然で、警鐘を鳴らしていただくのもありがたい限りである。メディアも、本庶氏が熱心な阪神ファンだとか亭主関白だとかいう話で大騒ぎをするのではなく、今回のノーベル賞に関連する「免疫療法」は、保険適応される医療機関のみで受けるべきであり、怪しげな詐欺に引っかからないようにと呼びかけていただきたい』、「iPS詐欺」が2014年までに400件超えの被害とは驚いた。確かに「インチキ免疫療法」のPRは溢れている。
・『免疫療法は「アヤしい」のか? 標準治療に固執する医療界  ただ、その一方で、医療関係者の方たちは「あれはインチキだ」「これは怪しい」という詐欺の啓発に力を入れることよりも、もっとやらなくてはいけないことがあるのではないのかという気もしている。 それは、抗がん剤が効かない患者やその家族に対して、免疫療法という選択肢があるということを説明し、この治療をもっと多くの人が受けることができるよう啓発に務めていただくことだ。 本庶氏がノーベル賞を受賞してから、マスコミは免疫療法について「最新のがん医療」だと盛んにヨイショしているが、実はちょっと前までは「エビデンスがない治療」と、イロモノ扱いをしていた。 なぜかという日本の医療界の“メインストリーム”が、そのように触れ回っていたからだ。 例えば、本連載で少し前、東京・有明にある公益財団法人がん研究会「がんプレシジョン医療研究センター」の中村祐輔所長のことを取り上げた・・・リキッドバイオプシーと、ネオアンチゲン療法という、最新の免疫療法を引っさげて、6年ぶりにアメリカから帰国をした中村氏は、こう述べている。 「シカゴにいる間もメールなどで、多くのがん患者やその家族の方からの相談を受けましたが、気の毒になるほど救いがない。原因は国の拠点病院。標準治療のガイドラインに固執するあまり、“がん難民”をつくり出している自覚がありません。こういう人たちが医療界のど真ん中にいることが、日本のがん患者にとって最大の不幸です」(中村氏) 日本のがん医療では、外科治療(手術)、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)の3つが「標準治療」と定められている。免疫療法は今回、本庶氏の受賞によって掌返しで、「第4の治療」などとおだてられるようになったが、実はがん医療現場ではいまだに、「標準」から大きく外れた「怪しい治療」扱いされているのだ』、「国の拠点病院。標準治療のガイドラインに固執するあまり、“がん難民”をつくり出している自覚がありません」とは嘆かわしいことだ。
・『免疫療法が統計上の問題をクリアできない理由  中村氏のブログを読めば、その厳しい事実がわかる。先月22日のエントリーでは、山本KID徳郁さんが亡くなったことを受けて、ある事情から彼が「日本の医療に希望を見いだせず、グアムに向かった」ことを知っていたという中村氏は、こんな憤りを記している。 「そして、小さな子どもさんたちがいる40歳代の胃がん患者さんが、同じような状況で、本人や家族が望んでいた免疫療法を受けることなく、8月の終わりころ、この世を去っていった。今の日本の制度では、胃がんの場合、2種類の抗がん治療を受けた後にしか、免疫チェックポイント抗体治療を保険診療として受けることができない」 「え?ノーベル賞もとった治療法なんだし、本人が希望してるんだからすぐに最初から受けさせてやればいいじゃん」と思うかもしれないが、厚生労働省の免疫チェックポイント抗体の胃がんに対する最適使用推進ガイドライン(平成30年8月改定)に、そのように定められているのだ。 もし胃がんの方が、「オプジーボを使いたい」と強く希望をしても問答無用で、「いやいや、まずは抗がん剤から始めましょうか」となってしまう。つまり、抗がん剤の副作用に散々苦しみ、がんには効かずに進行して、患者さん自身の免疫も低下したところでようやく、免疫チェックポイント抗体にたどり着く、という焼け石に水的ながん治療となってしまうのだ。 なぜこんなことになってしまうのかというと、免疫療法は抗がん剤ほどには、「有効性が確立されていない」からだ。薬の「有効性」というのは極端な話、何万人にワッと飲ませたら、そのうち2割には効かなかったが8割くらいには効いた、といった具合にデータを取るという、「統計学」である。 世界のがん医療の現場では当たり前のように免疫療法の効果が認められ、本庶氏はノーベル賞も受賞したのだが、免疫療法はこの統計上の問題がクリアできていない。なぜかというと、今回の受賞に端を発する”免疫療法ブーム”の中で報じられているように、これは「化学薬品ががんを殺す」のではなく、「個々の人間が持つ免疫ががんを殺す」からだ。 免疫は個人によって違う。よって、免疫チェックポイント抗体の効き方も当然、個人差が出てくる。そうなると、膨大な数の人に化学薬品を飲ませて経過観察をする大規模治験のように、スパッとイエス・ノーが出ない。「統計上の問題」がなかなかクリアできないのである。 そういう理屈を聞けば、免疫チェックポイント抗体に「有効性が確立されていない」というのがかなり不毛な話だということがわかるが、一部の医療関係者はこの「統計上の問題」を取り上げて、「エビデンスのない怪しい治療」とディスってきた』、保険適用するからには、一定のエビデンスが必要なのだろうが、何らかの工夫はできないのだろうか。
・『免疫療法を受けたいと言うと医者から見放されてしまう  そのため、「研究室内ではネズミでそれっぽい結果が出ているけど、人間の患者に対しては眉唾だよね」と蔑む医師もいた。 製薬業界で、オプジーボの開発を続けてきた小野薬品工業が「変人」扱いされていたように、世界では競い合うように研究されている免疫療法は、日本の医療界では「エビデンスの乏しい治療」と軽んじられてきたのだ。 「本庶氏のノーベル賞でインチキ免疫療法までもが盛り上がって心配だ」と騒ぐことも重要かもしれないが、その前に「免疫療法を受けたい」というがん患者の声を握り潰してきた過去を反省して、「標準治療至上主義」ともいうべき教条主義的思想を改めることの方が先のような気がしてならない。 少し前、「原発不明がん」という治療が難しいがんで「ステージ4」と診断されて余命宣告も受けたが、免疫療法によって見事、生還を果たした60代男性から、耳を疑うような話を聞いた。 この男性が回復してほどなく、古くからの友人2人が相次いでがんだと診断されてしまった。両者とも進行が早く、医師から「もう効く抗がん剤はありません」と非情な宣告をされた。そこで、彼らは藁をも掴む思いで、免疫療法を受けさせてほしいと医師に頼んだ。何しろ、自分たちの友人が免疫療法で生還をしたのだ。そこに「俺も」という一筋の希望を持つのは当然のことだ。 だが、2人の担当医から返ってきたのは、耳を疑うような言葉だった。 「そういう治療を望まれるのなら、もうここには来ないでいただきたい」 結局、医師から見放されることを恐れたこの2人は、免疫療法を受けたいという気持ちを抱えながら、そのまま還らぬ人となった。 ノーベル賞受賞後、マスコミは「本庶氏の研究によって、多くの患者が救われた!」とお祭り騒ぎをしている。だが、実は本庶氏の研究を知り、そのような治療を自分も受けたいと強く望みながら、亡くなった患者の方が、救われた人よりもはるかに大勢いることもしっかりと報道すべきではないのか。 インチキ免疫療法に引っかかる人たちの多くは、抗がん剤が効かず、自分の医師から「免疫療法なんかエビデンスのない怪しいものです」と諭され、誰にも頼れなくなった「がん難民」である。その弱みにつけ込む詐欺師が悪いのは当然だが、ではそこまで患者や家族をまともな判断ができなくなるまで追いつめたのは、いったい誰なのかという問題もある。 あっちの免疫療法はインチキだ、本庶氏の免疫療法は本物だ、騙されないように気をつけようと触れ回るだけでは「がん難民」を救うことはできない。エビデンスに代表される、「数字で証明できる有効性」のみに固執するのではなく、今そこでがんで苦しむがん患者やその家族に、どうにか手を差し伸べる方法を考えることが、「医療」のやるべきことなのではないだろうか』、説得力のある指摘で、その通りだ。

次に、10月4日付け東洋経済オンライン「ノーベル賞で脚光、「小野薬品」の期待と現実 「オプジーボ」拡大に喜んでばかりいられない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/241076
・『・・・一度は開発を断念  がん細胞は免疫の働きにブレーキをかける。本庶教授が解明したのは、免疫細胞の表面に「PD-1」というタンパク質があり、がん細胞がPD-1と結び付くことで免疫機能を抑制しているメカニズムだ。逆にPD-1と結合する抗体を開発し、がん細胞と結び付きができないようにすれば、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようになる。 小野薬品は、本庶教授の師匠である早石修教授の代から京大と関係があった。この縁から本庶教授と共同で免疫抑制作用に関する特許を出願し、実用化のために臨床開発(治験)と販売のパートナー探しに奔走した。 国内製薬大手など10社以上に声をかけたが、1年余りは成果も皆無。すべての企業に断られてしまった。小野薬品も1度は本庶教授の開発要請に対し、ノーと言った経緯がある。 しかし救世主が現れる。別のがん免疫治療薬の研究開発に乗り出していたアメリカの医療ベンチャーのメダレックス社が興味を示し、開発パートナーに名乗りを上げたのだ。これを機に、小野薬品も前言を翻し「オプジーボ」の治験に踏み切った。2006年ころのことだ。 膨大な開発費は、中堅の小野薬品には大きなリスクとなる。開発にゴーを出すには、リスクを軽減するためのパートナーの確保が不可欠だった。その後、メダリックスは2009年にアメリカの製薬大手ブリストルマイヤーズ・スクイーブ(BMS)が買収。小野薬品は結果的に、強力な開発パートナーを得ることになった。 こうした紆余曲折を経て、オプジーボが世に出たのが2014年。PD-1の発見から22年の歳月が経っていた』、発見からスポンサー企業が見つかるまでに10年も要したというのは、いくら画期的な治療法とはいえ、日本の製薬業界の保守性を表しているのだろう。
・『小野薬品の収益は急拡大  上市後、小野薬品の収益は大きく飛躍した。2015年3月期から2017年3月期までに売上高は1357億円から2448億円に、営業利益は147億円から722億円に急拡大した。 最初に皮膚がんの1つである悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬として承認され、100ミリグラム瓶1本の価格が約73万円だった。当初は高額薬価の批判が強く、2017年2月に50%、さらに2018年4月には約24%もの大幅な価格の引き下げに見舞われた(今年11月も引き下げの予定)。 それでも同薬が小野薬品の最大の牽引役であることに変わりはない。適用のがん種が増えているからだ。現在ではメラノーマ、腎がん、頭頸部がん、胃がん、肺がんなど7種類のがんや、療法も含めると9つの適用で承認済み。医者から処方される患者数、使用量が急拡大し、強烈な単価下落を補っている。 オプジーボの売り上げは2019年3月期に900億円に上る見通し。それとは別にBMSによるオプジーボの海外販売額に応じたロイヤルティ収入があり、その額は推計で500億~550億円に上る。 未承認の肝がん、食道がん、大腸がんなどへの適応拡大に向けての国内治験も、30件前後が進行中。国内での販売拡大はまだ続きそうだ。 それでも今の小野薬品には、オプジーボがもたらす栄華に酔いしれる暇はない。なぜか。第1にはオプジーボが切り開いた成長市場、がん免疫治療薬の間の競争が激化していることだ。 現在では小野薬品―米BMS連合のほかに、米メルク、英アストラゼネカ(AZ)、スイス・ロッシュ―中外製薬連合、米ファイザー―独メルク連合と、グローバル市場で5陣営がこの成長市場でしのぎを削っている。 中でも強力なライバルが、米メルクだ。オプジーボと同じ受容体を標的にした「キイトルーダ」とは世界販売首位の座を激しく競い合っている』、競争激化は当然だろうが、ライバルに日本の大手製薬会社が1社しか入ってない、というのは情けない。
・『ライバルがアメリカで先行  市場の注目は、患者数の多い肺がん分野に集まる。キイトルーダは世界最大の市場であるアメリカで、肺がんの約8割を占める非小細胞肺がん(NSLC)の1次治療の販売承認を得ている。 1次治療薬であれば、治療の当初から薬を投与でき、販売拡大効果が格段に大きい。一方、オプジーボは2016年の単剤治験で主要項目を達成出来ず、アメリカでのNSLCの1次治療の承認取得に失敗している(ただし今年6月にBMSのがん免疫治療薬「ヤーボイ」との併用療法でNSLCの1次治療の適応承認を申請)。 直近の2018年4~6月期の米BMSの「オプジーボ」の世界売り上げは16.27億ドル。対する米メルクの「キイトルーダ」は、同16.67億ドルとなった。鼻の差ではあるが、四半期ベースで初めてキイトルーダの売り上げがオプジーボを上回った。 米BMSの売り上げには小野薬品の日本と韓国・台湾での販売額228億円は含まれていない。これを含めれば、全体ではまだオプジーボのほうが上回っている。ただ、勢いがあるのはキイトルーダで、市場では2018年通期では首位逆転の見方が強まっている。 もう1つのポイントが、単剤ではなく、ほかのがん治療薬との併用療法の拡大に治験競争の舞台が移りつつあることだ。 確かに、オプジーボなどのがん免疫治療薬はがん治療に革命をもたらした。一般的にはほかの抗がん剤と比べて投薬効果のある患者の比率(奏効率=がん細胞が一定以上縮小する患者数の比率)は高いと言われる。だが、それでも奏効率は現状で2~3割にとどまっている。 そうした弱点をカバーするのが、併用療法だ。働きの違うほかの治療薬と併用することで、奏効率や生存率などの効能を高める療法だ。 米メルクはここ1年強の間に、英AZとの間で最大約9000億円、エーザイとの間では最大6100億円の大型業務提携を結んだ。英AZの抗がん剤「リムパーザ」、エーザイの同「レンビマ」との併用療法で、グローバルでの共同治験や販売提携を進める構えだ。 実際、レンビマとの併用療法の治験では、子宮内膜がんなどで効果が現れる患者の比率が増えた。被験者のがんが悪化しない期間の平均値も7.4カ月となるなど、単剤の効果を上回る数値が出ている。 併用療法の拡大には資本力、規模の大きさが物を言う可能性がある。米メルクの戦略にもその狙いがある。その点で、米メルクの動きに小野薬品―BMS連合がやや遅れを取っていることは否定できない。さらに牙城だった国内市場には、ロシュ―中外製薬が新薬を投入、米メルク(国内はMSD)も攻勢を強めている。 小野薬品にとって悩ましいのは、国内や韓国・台湾の治験・販売は小野薬品が主導できても、アメリカや欧州など海外市場の大半ではBMSに頼らざるを得ない点だ』、「BMSに頼らざるを得ない」のが果たして「悩ましい」のだろうか。中堅の小野薬品にとっては任せる方が賢明なのではなかろうか。
・『この3年でMRを5割増員  もちろん、小野薬品とて手をこまぬいてはいない。米BMSのがん免疫治療薬・ヤーボイとの併用療法の治験では、8月下旬に国内で「腎細胞がん」の1次治療で承認を取得した。エーザイ、武田薬品工業、第一三共とも併用治験を進めつつある。 小野薬品は過去3年間でMR(医薬情報担当者)を5割増員、今期中に280人にまで増やす。適応拡大に合わせ、専門性の強いがん専門病院・医師への営業を強化するためだ。 小野薬品の今期の研究開発費は700億円。対売上比率で25%を計画する。2割が標準とされるメガファーマに比べても、研究開発志向は高い。それでも絶対額ではメガはおろか国内製薬大手にも劣る。しかもその多くが、次々と続くオプジーボの治験に費やされる。 「オプジーボに代わるような商品ができればいいけど、そういうことは難しい」。関係者のつぶやきは、そのまま小野薬品の置かれた苦悩を表す。「オプジーボ」頼みはいつか脱却しなければいけないが、当面は「オプジーボ」強化に頼らざるをえない。小野薬品はそんなジレンマにいる』、中堅製薬会社の宿命だろう。

第三に、10月4日付け日刊ゲンダイ「安倍政権で研究費ジリ貧 日本からノーベル賞が出なくなる」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/238713/1
・『「基礎研究をシステマチックかつ長期的な展望でサポートして、若い人が人生を懸けてよかったと思えるような国になることが重要だ」――。ノーベル医学生理学賞の受賞から一夜明けた2日、京大の本庶佑特別教授はそう語った。 現状はどうなのか。研究開発費の推移を調べると、お寒い状況が浮き上がった。 経産省が今年2月にまとめた調査によると、日本の官民合わせた研究開発費総額は、2007年度以降、17兆~19兆円で推移している。つまり、10年以上横ばいで増えていないのだ。企業の儲けは内部留保に向かい、研究開発に投じられていないことがよく分かる。 さらに驚くのが、研究開発費の政府負担割合だ。日本はわずか15.41%で、主要国から大きく引き離されて最下位(別表)。しかも、安倍政権発足前は16%超だったのに、発足後の2013年から右肩下がりなのだ』、
・『「目先のことしか頭にない安倍政権は、研究開発とりわけ、基礎研究の重要性をまったく理解していません。一方で、軍事強化につながる基礎研究には力を入れています」(経済評論家・斎藤満氏) 安倍政権は2015年度から「安全保障技術研究推進制度」を導入。国の防衛分野の研究開発に役立つ基礎研究を民間企業や大学に委託、カネを出す制度で、“研究者版経済的徴兵制”といわれている。軍事目的のための科学研究を行わない方針の日本学術会議は反発しているが、16年度予算6億円に対し、17年度は110億円に急増している。 「本庶さんは今年、ノーベル賞を受賞しましたが、何十年か前に、基礎研究にしっかり取り組めた環境があったからです。現在の安倍政権のような基礎研究に対するスタンスでは将来、ノーベル賞受賞者が出なくなるだけでなく、もはや日本は技術立国とは言えなくなってしまいます」(斎藤満氏) 技術立国から軍事大国へ――早く、安倍首相を引きずり降ろさないとそんな国になってしまう』、「技術立国から軍事大国へ」というのはうすら寒い悪夢だ。日本の将来のノーベル賞受賞が厳しいことは、このブログの2015年10月18日でも取上げたので、参考にしてほしい。
タグ:小野薬品の収益は急拡大 本庶さんは今年、ノーベル賞を受賞しましたが、何十年か前に、基礎研究にしっかり取り組めた環境があったからです エビデンスに固執するがあまりに、免疫療法の持つ可能性を否定してきた日本の医療界は、大きな問題を抱えているのではないか 日本のがん医療では、外科治療(手術)、放射線治療、化学療法(抗がん剤治療)の3つが「標準治療」と定められている 日本の医療界の“メインストリーム”が、そのように触れ回っていたからだ 米メルクだ。オプジーボと同じ受容体を標的にした「キイトルーダ」とは世界販売首位の座を激しく競い合っている 研究者版経済的徴兵制 はがん医療現場ではいまだに、「標準」から大きく外れた「怪しい治療」扱いされているのだ 安全保障技術研究推進制度 これを機に、小野薬品も前言を翻し「オプジーボ」の治験に踏み切った。2006年ころのことだ 免疫療法を受けたいと言うと医者から見放されてしまう 国の拠点病院。標準治療のガイドラインに固執するあまり、“がん難民”をつくり出している自覚がありません 免疫療法 小野薬品―米BMS連合のほかに、米メルク、英アストラゼネカ(AZ)、スイス・ロッシュ―中外製薬連合、米ファイザー―独メルク連合と、グローバル市場で5陣営がこの成長市場でしのぎを削っている のがん免疫治療薬「ヤーボイ」との併用療法でNSLCの1次治療の適応承認を申請 一方で、軍事強化につながる基礎研究には力を入れています はちょっと前までは「エビデンスがない治療」と、イロモノ扱いをしていた 安倍政権は、研究開発とりわけ、基礎研究の重要性をまったく理解していません 日本はわずか15.41%で、主要国から大きく引き離されて最下位(別表)。しかも、安倍政権発足前は16%超だったのに、発足後の2013年から右肩下がりなのだ 研究開発費の政府負担割合 企業の儲けは内部留保に向かい、研究開発に投じられていない 日本の官民合わせた研究開発費総額は、2007年度以降、17兆~19兆円で推移 「安倍政権で研究費ジリ貧 日本からノーベル賞が出なくなる」 日刊ゲンダイ オプジーボが世に出たのが2014年。PD-1の発見から22年の歳月が経っていた 。「オプジーボ」頼みはいつか脱却しなければいけないが、当面は「オプジーボ」強化に頼らざるをえない 免疫療法は「アヤしい」のか? 標準治療に固執する医療界 ダイヤモンド・オンライン 免疫細胞の表面に「PD-1」というタンパク質があり、がん細胞がPD-1と結び付くことで免疫機能を抑制しているメカニズム 免疫は個人によって違う。よって、免疫チェックポイント抗体の効き方も当然、個人差が出てくる。そうなると、膨大な数の人に化学薬品を飲ませて経過観察をする大規模治験のように、スパッとイエス・ノーが出ない アメリカの医療ベンチャーのメダレックス社が興味を示し、開発パートナーに名乗りを上げたのだ プロの詐欺師は、「日本人の新しもの好き」の心理を巧みに突いてくるのだ ブームに便乗した虚偽広告を行い、がん治療に悩む方たちを餌食にするのではないか 国内製薬大手など10社以上に声をかけたが、1年余りは成果も皆無。すべての企業に断られてしまった。小野薬品も1度は本庶教授の開発要請に対し、ノーと言った経緯がある メダリックスは2009年にアメリカの製薬大手ブリストルマイヤーズ・スクイーブ(BMS)が買収 免疫療法が統計上の問題をクリアできない理由 PD-1と結合する抗体を開発し、がん細胞と結び付きができないようにすれば、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるようになる インチキな免疫療法 「ノーベル賞で脚光、「小野薬品」の期待と現実 「オプジーボ」拡大に喜んでばかりいられない」 山中教授の受賞時にもノーベル賞詐欺が流行った ノーベル賞受賞 「本庶氏ノーベル賞で浮き彫り、医学界の「免疫療法」への歪んだ評価」 この3年でMRを5割増員 窪田順生 本庶祐 東洋経済オンライン アメリカや欧州など海外市場の大半ではBMSに頼らざるを得ない がん免疫治療薬の間の競争が激化 、「数字で証明できる有効性」のみに固執するのではなく、今そこでがんで苦しむがん患者やその家族に、どうにか手を差し伸べる方法を考えることが、「医療」のやるべきことなのではないだろうか ライバルがアメリカで先行 併用療法の拡大には資本力、規模の大きさが物を言う可能性 (その6)(本庶氏ノーベル賞で浮き彫り 医学界の「免疫療法」への歪んだ評価、ノーベル賞で脚光 「小野薬品」の期待と現実 「オプジーボ」拡大に喜んでばかりいられない、安倍政権で研究費ジリ貧 日本からノーベル賞が出なくなる) 奏効率は現状で2~3割にとどまっている。 そうした弱点をカバーするのが、併用療法だ 技術立国から軍事大国へ オプジーボは2016年の単剤治験で主要項目を達成出来ず、アメリカでのNSLCの1次治療の承認取得に失敗 単剤ではなく、ほかのがん治療薬との併用療法の拡大に治験競争の舞台が移りつつあることだ 現在の安倍政権のような基礎研究に対するスタンスでは将来、ノーベル賞受賞者が出なくなるだけでなく、もはや日本は技術立国とは言えなくなってしまいます 小野薬品は結果的に、強力な開発パートナーを得ることになった
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