宇宙(その2)宇宙論基礎2題:このまま膨張し続けたら 宇宙はどうなってしまうのか…、「ナゾの物質」ダークマターの正体がついに明らかに…?) [科学技術]
昨日に続いて、宇宙を(その2)宇宙論の基礎から捉えた(その2)宇宙論の基礎2題:このまま膨張し続けたら 宇宙はどうなってしまうのか…、「ナゾの物質」ダークマターの正体がついに明らかに…?)を取上げよう。
先ずは、本年9月8日付け現代ビジネスが掲載した高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所による「このまま膨張し続けたら、宇宙はどうなってしまうのか…「最悪のシナリオ」と「人類に残された希望」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/136796
・『138億年前、点にも満たない極小のエネルギーの塊からこの宇宙は誕生した。そこから物質、地球、生命が生まれ、私たちの存在に至る。しかし、ふと冷静になって考えると、誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するというのか、という疑問がわかないだろうか? 本連載では、第一線の研究者たちが基礎から最先端までを徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。 *本記事は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源 「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです』、興味深そうだ。
・『宇宙全体の70%を占めるダークエネルギー 前の記事で述べたように、ダークエネルギーもしくは宇宙定数が現在の宇宙に占める割合は、観測から約70%です。このダークエネルギーの多さが、インフレーションと同様に、現在の宇宙で、宇宙の加速膨張を引き起こしています。 Ia型と呼ばれる超新星爆発からの光を観測すると、宇宙の大きさが1/3から1/2の昔と比べて、現在の宇宙年齢に近づけば近づくほど、加速膨張がどんどん激しくなってきていることがわかってきました。Ia型とは、恒星の終末期の1つの姿である白色矮星にガスが降り積もって臨界質量を超えることで爆発するタイプの超新星爆発です。1998年に同時に発表された宇宙の加速膨張を示す観測データの業績により、アメリカのソール・パールムッター博士たちと、オーストラリアのブライアン・シュミット博士とアメリカのアダム・リース博士たちの2つのグループに2011年、ノーベル物理学賞が与えられました。 ダークエネルギーは、現在では宇宙全体のエネルギーの70%と、大きな量となっています。しかし、本当に定数であることを仮定するならば、宇宙が生まれた宇宙初期では、ものすごく小さな量だったことを意味します。宇宙が始まったときに、なんらかの物理過程により、この小さな種が仕込まれたのではないかと考えられています。また、近い将来、ダークエネルギーが宇宙のエネルギーの100%を占めるようになり、完全に支配的になると予想されています。しかし、その小ささの起源は、現代物理学では説明できません。未解決であり、新しい物理学の理論の発見が必要だと考えられています。この章の最後に、唯一あり得る科学的ではない解決方法である、人間原理での解決方法を解説します。人間原理は、人間の存在がこの宇宙の性質を決めているかもしれないという不思議な概念です』、「ダークエネルギーが宇宙のエネルギーの「70%を占めているのが」、「近い将来」、「100%を占めるようになり、完全に支配的になると予想されています。しかし、その小ささの起源は、現代物理学では説明できません。未解決であり、新しい物理学の理論の発見が必要だと考えられています。この章の最後に、唯一あり得る科学的ではない解決方法である、人間原理での解決方法を解説します。人間原理は、人間の存在がこの宇宙の性質を決めているかもしれないという不思議な概念です」、なるほど。
・『宇宙は再び加速膨張期を迎えた 宇宙が誕生したエネルギーとされるプランク(質量)スケール(約1000京GeV)から、宇宙はさまざまな相転移を経験して、その相を変えてきました。それを水の3相に例えるならば、水蒸気、水、氷というように、温度が低くなるにつれて、エネルギーのより低い、まったく異なる相に変わってきたというものです。それらの相とは、大統一理論の相転移(1京GeV)、電弱相転移(100GeV)、量子色力学の相転移(100MeV)などです。その一方、ダークエネルギーのエネルギースケールは、0.002eVで、最も低いエネルギー状態の真空だと理解されています。この、ダークエネルギーのスケール(0.002eV)だけは、現在の物理学では説明できません。以下に説明するように、その数字をもつ物理量が存在しないのです。 大統一理論が正しいかどうかは、まだ実験では検証されていませんが、理論の整合性だけから、その存在の確からしさが予言されています。大統一理論の相転移後、1京GeVのエネルギースケールの真空のエネルギーが残っている可能性があります。また、電弱相転移を引き起こすヒッグス粒子は、2012年にCERNのLHC実験により発見されました。2013年にヒッグス粒子の存在を予言した2人の理論家、ヒッグス博士とアングレール博士にノーベル物理学賞が贈られています。電弱相転移により、100GeV程度の真空のエネルギーが残っている可能性があります。加えて、温度1兆度(100MeV)の火の玉宇宙の中で、大量のクォーク・反クォークが一斉に対消滅するうちに、約10億分の1個だけが陽子や中性子などの核子として残ります。この量子色力学の相転移の真空のエネルギーは、約100MeVのエネルギースケールだと考えられています。 つまり、現在の物理学における素粒子の標準理論では、ダークエネルギーのエネルギースケールの約0.002eVで起こる相転移は知られていません。約0.002eVのスケールの真空のエネルギーは、現在の物理学では理論的に説明不可能なのです。これは、重力を修正するようなエキゾチックなモデルを考えたとしても、加えてそのエネルギースケールをさらに仮定しなければならないことに変わりはありません。このことは、未発見の新しい物理法則の存在を予感させます。 その真空のエネルギーが支配的になりエネルギー密度が近似的に一定になると、アインシュタイン博士が唱えた宇宙項、つまり宇宙定数とまったく同じ働きをします。宇宙定数を含む、もっと広い概念としてダークエネルギーという、完全に定数でなくても緩やかな変化であればよいという考え方も、観測からは否定されていません。第7章で説明した通り、宇宙定数つまりダークエネルギーが支配的になると、宇宙の大きさは倍々ゲームのように再び加速膨張により時間発展していきます』、「現在の物理学における素粒子の標準理論では、ダークエネルギーのエネルギースケールの約0.002eVで起こる相転移は知られていません。約0.002eVのスケールの真空のエネルギーは、現在の物理学では理論的に説明不可能なのです。これは、重力を修正するようなエキゾチックなモデルを考えたとしても、加えてそのエネルギースケールをさらに仮定しなければならないことに変わりはありません。このことは、未発見の新しい物理法則の存在を予感させます。 その真空のエネルギーが支配的になりエネルギー密度が近似的に一定になると、アインシュタイン博士が唱えた宇宙項、つまり宇宙定数とまったく同じ働きをします。宇宙定数を含む、もっと広い概念としてダークエネルギーという、完全に定数でなくても緩やかな変化であればよいという考え方も、観測からは否定されていません」、なるほど。
・『ダークエネルギーとは何か? 宇宙定数を素粒子論の言葉で表現するなら、未知のスカラー場が、そのポテンシャルエネルギーの底に落ち着いている状況だと考えられています。ポテンシャルエネルギーとは、スカラー場が固有にもつ位置エネルギーのようなエネルギーのことで、低いエネルギー状態に行けば行くほど安定であることを意味します。ダークエネルギーとなる未知のスカラー場の正体は、実験的にも、観測的にも、まったく明らかになっていません。そのため理論上は、その存在を仮定して宇宙モデルをつくることになります。 ここでは、ダークエネルギーとなるスカラー場を「φ」と呼びましょう。このφのポテンシャルエネルギーの底のエネルギー密度の大きさが、重要なのです。エネルギースケールでは、約0.002eVです。ポテンシャルエネルギーもしくは、エネルギー密度で表すならば、約0.002eVの4乗、つまり約16eV⁴の1兆分の1となります。もっと想像をたくましくした場合、必ずしも、現在ポテンシャルエネルギーの底に落ち着いていなくてもよいという考え方も可能となります。つまり、ポテンシャルエネルギーの底では、特別なエネルギースケールなどはなくて、エネルギー密度は確かにゼロとするのです。 しかし、将来そこに落ち着けばよいと考えて、今はポテンシャルの途中をゆっくり転がり落ちていると解釈するのです。つまり、宇宙定数ではなく、動いているダークエネルギーというより広い概念を導入することになります。そして0.002eVの4乗は、ゼロに向かう過渡期のポテンシャルエネルギーの値と解釈します。そうすれば、現在の宇宙が偶然、このエネルギースケールをとっているだけで、新しいエネルギースケールを説明しなくてもよいという解釈となります。このスカラー場は、光子、ニュートリノ、バリオン物質、ダークマターとも違う、第5の成分という意味で「クインテッセンスモデル」とも呼ばれます。 そして、そのゆっくり動く度合いは、理論と観測から厳しい制限を受けます。ポテンシャルの式中にφの逆べき、1/φの項が現れる理論モデルの場合、宇宙膨張からくる摩擦力とポテンシャルを落ちていく力が釣り合ってゆっくり転がるモデルとなります。そのため、最も無理のない自然なモデルだと考えられました。これを「トラッカー場モデル」と呼びます。 しかし、最新の観測より、トラッカー場モデルは、ファイが速く動きすぎるとして棄却されました。現在では、その真空に落ち着く直前(フリージング)か、別の真空から動き始める瞬間(ソーイング)かの、2つのモデルが観測から許されています。 これまで、スカラー場のモデルと書いてきましたが、理論的には何一つ確定していません。強いて候補を挙げるなら、前述の軽いALP(正確な分類では、スピンの場ですが、鏡に映す変換により場の値の符号がマイナスになる擬スカラー場です)のような量子場かもしれません。しかし、その約0.002eVというエネルギースケールをもつポテンシャルについては、第一原理から導かれるわけではなく、仮定するしか、現在は方法がありません。前述のALPでも、理論的にはそのエネルギースケールが必然ではありません。また、繰り返しますが、重力を修正したとしても、このエネルギースケールのエネルギー密度を第一原理から自然に導出するわけではないので、さらにエネルギースケール自体について仮定を追加する必要があるというのが現状です。つまり、重力を修正しても解決されていないのです』、「最新の観測より、トラッカー場モデルは、ファイが速く動きすぎるとして棄却されました。現在では、その真空に落ち着く直前(フリージング)か、別の真空から動き始める瞬間(ソーイング)かの、2つのモデルが観測から許されています。 これまで、スカラー場のモデルと書いてきましたが、理論的には何一つ確定していません。強いて候補を挙げるなら、前述の軽いALP(正確な分類では、スピンの場ですが、鏡に映す変換により場の値の符号がマイナスになる擬スカラー場です)のような量子場かもしれません。しかし、その約0.002eVというエネルギースケールをもつポテンシャルについては、第一原理から導かれるわけではなく、仮定するしか、現在は方法がありません。前述のALPでも、理論的にはそのエネルギースケールが必然ではありません」、難し過ぎて到底理解できない。
・『宇宙の未来 次に、最低限の仮定の下、このままダークエネルギーのエネルギー密度がほぼ定数だとして、この宇宙の未来がどうなっていくのかを見ていきます。現代物理学の知識で予想する、標準的な宇宙の運命は以下のようです。 まず、このまま加速膨張が続けば、基本的に銀河団に属していない銀河と銀河の間の距離は遠ざかり、宇宙は、どんどん空っぽになってしまいます。約40億年後、われわれの銀河とアンドロメダ銀河が合体します。形成される超巨大銀河には「ミルコメダ」という名前がすでに付けられています。約50億年後、太陽が死を迎えます。そのとき、地球は肥大した太陽に飲み込まれるという説と、地球の公転軌道が広がって飲み込まれないという2つの説が唱えられています。いずれにしても人類は、そのままでは生き延びることは不可能でしょう。 約1400億年後、ミルコメダは、激しい加速膨張で独りぼっちの銀河となります。約1兆年後、われわれの銀河にある一番の長寿命の恒星である赤色矮星まで、すべての恒星が燃え尽きます。約1000京年後、すべての銀河はブラックホールだらけになります。 約10³⁴年後、つまり、約1000京年の1000兆倍後、大統一理論の予言により、宇宙のすべての陽子が陽電子などに崩壊します。原子や分子などの普通の物質はなくなることになります。そして、約10⁸³年後、つまり約1000京年の1000京倍の1000京倍の1000京倍の1000万倍後、それぞれの銀河の中心にある超巨大ブラックホールが蒸発します。それ以後、天体と呼ぶことのできる物体は、宇宙から消え去るでしょう。 さらに仮定することを増やすと、ダークエネルギーが時間とともにより多くなるエキゾチックなモデルで、ビッグリップと呼ばれるより激しい加速膨張によって未来にすべての天体が引き裂かれることを提案した研究者もいます。このシナリオはとても刺激的ですが、その理論を示唆する観測・実験結果は今のところ得られていません』、「このまま加速膨張が続けば、基本的に銀河団に属していない銀河と銀河の間の距離は遠ざかり、宇宙は、どんどん空っぽになってしまいます。約40億年後、われわれの銀河とアンドロメダ銀河が合体します。形成される超巨大銀河には「ミルコメダ」という名前がすでに付けられています。約50億年後、太陽が死を迎えます。そのとき、地球は肥大した太陽に飲み込まれるという説と、地球の公転軌道が広がって飲み込まれないという2つの説が唱えられています。いずれにしても人類は、そのままでは生き延びることは不可能でしょう・・・約1400億年後、ミルコメダは、激しい加速膨張で独りぼっちの銀河となります。約1兆年後、われわれの銀河にある一番の長寿命の恒星である赤色矮星まで、すべての恒星が燃え尽きます。約1000京年後、すべての銀河はブラックホールだらけになります。 約10³⁴年後、つまり、約1000京年の1000兆倍後、大統一理論の予言により、宇宙のすべての陽子が陽電子などに崩壊します。原子や分子などの普通の物質はなくなることになります。そして、約10⁸³年後、つまり約1000京年の1000京倍の1000京倍の1000京倍の1000万倍後、それぞれの銀河の中心にある超巨大ブラックホールが蒸発します。それ以後、天体と呼ぶことのできる物体は、宇宙から消え去るでしょう。 さらに仮定することを増やすと、ダークエネルギーが時間とともにより多くなるエキゾチックなモデルで、ビッグリップと呼ばれるより激しい加速膨張によって未来にすべての天体が引き裂かれることを提案した研究者もいます」、なるほど。
・『残された大問題 これまで、真空のエネルギースケール約0.002eVを説明する物理法則を探ることが、ダークエネルギー問題の科学的な解決であることを説明してきました。つまり、現在の宇宙は、なぜ放射(約0.01%)、見える物質(約5%)、ダークマター(約25%)、ダークエネルギー(約70%)と、すべての成分が数桁の範囲でだいたい同じ程度のエネルギー密度なのか? そして、ダークエネルギーの量は、定数だというのに、なぜ、理論物理の知られているあらゆるスケールと比べてこんなに小さいのか? という問題でした。その小ささには、大変なチューニングが必要で、その値がもし約1000倍でも大きい宇宙だったら、宇宙はもっと早くに速く膨張してしまい、銀河はできないし地球は生まれないことからも、極めて深刻であることがわかります。 実は、物理学ではなく、哲学的にこの問題を解く試みがあります。それが、フランスの哲学者ルネ・デカルト博士が提唱した「我思う、故に我あり」という考え方を人間原理に適用したものです。それを、宇宙論の文脈で言い換えると、「宇宙の法則がこうなっているからこそ、この問いを発する人間が(必然として)生まれてきたという原理」などとなります。「必然として」を入れると、強い人間原理と呼ばれます。われわれは、ダークエネルギー(宇宙定数)が小さい宇宙に住んでいます。実際、観測される約1meVのスケールから、自然なスケールである1TeVまでが約15桁、その4乗の約60桁も小さいのです。この60桁というずれの程度は、理論的に説明するためには、ゼロ点からのずれ具合がすさまじく小さい数を仮定してチューニングしなければならないことを意味します。 その異常さを、標準理論を例にとって見てみます。標準理論にも、さまざまな質量が現れます。しかし、例えば、ヒッグス粒子の質量のスケール(約100GeV)から、一番軽い素粒子である電子の質量のスケール(約500KeV)までの、そのずれ方は大きく見積もっても6桁くらいに収まっているのです。多くの素粒子物理学者は、この6桁くらいのずれ方はなんらかの理由により説明できると考えています。そのため、この6桁のずれ程度ならば、普段、標準理論のほころびだとはそれほど思っていないように思います。筆者が発表した理論モデルの1つに、ニュートリノ質量(単位meV)の4乗がダークエネルギーのエネルギー密度になるかもしれない、というものがあります。しかし正直に申し上げて、この場合でもスケールを手で置いているという範疇を出ないものです。将来の観測で筆者のモデルが正しいと証明されるか、それとも棄却されるか、個人的には楽しみにしています。ぜひ、若い方々も、この問題に科学で真っ向からトライしてみてください。 宇宙は唯一ではないとするマルチバースの考え方を採用するならば、われわれの宇宙は、唯一の宇宙ではなく、それこそ天文学的な大きな数字の数だけ生まれた宇宙の中のただの1つにすぎないのかもしれません。そして、それぞれの宇宙は、物理法則が違っている可能性すらあります。宇宙定数が約60桁小さい宇宙も、確率的には有り得ないほど低くても、天文学的数字のマルチバースの中では、偶然に、たった1つでも誕生する可能性があるかもしれません。そして、その宇宙は人間が生まれる条件が整っているのです。その場合、人間が生まれる条件に合った宇宙だけに、人間が生まれただけにすぎないのかもしれないのです。そして、その人間が、自分たちの宇宙は「なぜ、こんなにも自分たちに都合がよくできているのか?(宇宙定数が小さくなっているのか?)」という疑問を発しているという解決方法なのです。
このように、「宇宙定数問題」または「ダークエネルギー問題」を人間原理で解決する場合、驚くことに人間の存在が、その宇宙全体の性質を決めてしまっていることになってしまいます。つまり、人間が住む宇宙のみ人間に観測され得ると言っているのです。 人類は、古来より信じられてきた天動説を捨て、精密な観測データの蓄積により得られたコペルニクス原理を採用し、地動説を信じるようになってきました。さらに、宇宙は一様で等方だとする宇宙原理を信じて、われわれの銀河や太陽系が特別な場所ではないと受け入れてきたのです。現代の人類が、より観測技術が進んだことにより、われわれの住んでいる宇宙は例外的な宇宙だったと受け入れなければならない状況になってきているのは、大変皮肉なことです。 説明なしの原理の導入は、その背後に隠れているかもしれない未発見の物理法則の探究を止めてしまう可能性があるのですが、現在、エキゾチックな宇宙モデルを仮定する以外には、人間原理による解決方法しかあり得ないようにも思えます。しかし、科学的な問題に人間原理を適用することは、最終手段として取っておくべきものだと思われます。 つまり、これまで解決不可能とされてきた問題に対して、新しい物理学の法則を見つけることこそ、科学による勝利なのです。繰り返しますが、ダークエネルギー問題は、今のところ人間原理の適用以外に解く方法がないように見え、人間原理を適用する最初の例になるかもしれないという大変に面白い問題と言えるでしょう。人類は、宇宙誕生の秘密に迫る、最も根本的な科学の問題に直面しているのかもしれませんね。 さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする』、「ダークエネルギー問題は、今のところ人間原理の適用以外に解く方法がないように見え、人間原理を適用する最初の例になるかもしれないという大変に面白い問題と言えるでしょう。人類は、宇宙誕生の秘密に迫る、最も根本的な科学の問題に直面しているのかもしれませんね。 さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする」、確かに「スリリング」ではあるが、理解の限度を超えつつあるようだ。
次に、9月8日付け現代ビジネスが掲載した高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所による「「ナゾの物質」ダークマターの正体がついに明らかに…?「最有力候補」を科学的検証とともに一挙解説!」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/136795
・『・・・どうやってダークマターを見つけるのか 先の記事で、理論的に予言されるダークマターの有力候補について、ちょっとだけご紹介しました。本記事では、それぞれについて詳しく説明してみたいと思います。 最も有力な候補と目されているのは、WIMPと呼ばれる未発見の素粒子です。「弱い相互作用をする重い粒子」という意味の英語の頭文字を取って、そうした性質をもつ粒子の総称として名付けられました。重さは、陽子の100倍(約100GeV)程度以上です。他の粒子との相互作用が弱すぎて散乱の頻度が低くて見つけられない粒子なのです。英語の単語wimp自体が弱虫という意味なので、名は体を表していますね。具体的な粒子としては、まだ仮説である超対称性理論に現れる光子、もしくは、Z粒子かヒッグス粒子の相棒の総称であるニュートラリーノが、WIMPの候補として注目されています。 ニュートラリーノの見つけ方は単純です。キセノン原子などの重い原子核を数トンも用意して、ニュートラリーノがぶつかってくるのを待つ方法が、最も有力とされています。キセノン原子の中の陽子や中性子との相互作用は弱いのですが、大量にキセノンを用意すれば、確率が上がって、直接検出できるという考え方です。しかし、これまでにニュートラリーノが確実に発見された、とする報告はありません。また、高エネルギー加速器研究機構(KEK)も参加するスイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での加速器実験でニュートラリーノがつくられると期待されていたのですが、見つかりませんでした。 その一方、宇宙観測を用いるアイデアもあります。銀河の中心など、ダークマターの密度が濃いところで、ダークマター同士がお互いに衝突して対消滅することが期待されています。対消滅した後、ニュートラリーノならば、光や電子、クォークなど見える粒子を対生成によりつくることが理論的に予想されています。そうした2次的につくられた見える粒子を検出し、間接的にWIMPを検出するのです。現在の理解では、質量が約100GeVよりずっと重いせいで、数も少なく衝突頻度が低いのではないかという解釈がなされています。今後、ターゲットの原子の量を多くする、もしくは、検出器の感度を高めるなど装置の改良を重ねて、将来的に検出されることが期待されています。) 138億年前、点にも満たない極小のエネルギーの塊からこの宇宙は誕生した。そこから物質、地球、生命が生まれ、私たちの存在に至る。しかし、ふと冷静になって考えると、誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するというのか、という疑問がわかないだろうか? 本連載では、第一線の研究者たちが基礎から最先端までを徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。 *本記事は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源 「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです』、「これまでにニュートラリーノが確実に発見された、とする報告はありません。また、高エネルギー加速器研究機構(KEK)も参加するスイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での加速器実験でニュートラリーノがつくられると期待されていたのですが、見つかりませんでした・・・宇宙観測を用いるアイデアもあります。銀河の中心など、ダークマターの密度が濃いところで、ダークマター同士がお互いに衝突して対消滅することが期待されています。対消滅した後、ニュートラリーノならば、光や電子、クォークなど見える粒子を対生成によりつくることが理論的に予想されています。そうした2次的につくられた見える粒子を検出し、間接的にWIMPを検出するのです。現在の理解では、質量が約100GeVよりずっと重いせいで、数も少なく衝突頻度が低いのではないかという解釈がなされています。今後、ターゲットの原子の量を多くする、もしくは、検出器の感度を高めるなど装置の改良を重ねて、将来的に検出されることが期待されています」、なるほど。
・『どうやってダークマターを見つけるのか 先の記事で、理論的に予言されるダークマターの有力候補について、ちょっとだけご紹介しました。本記事では、それぞれについて詳しく説明してみたいと思います。 最も有力な候補と目されているのは、WIMPと呼ばれる未発見の素粒子です。「弱い相互作用をする重い粒子」という意味の英語の頭文字を取って、そうした性質をもつ粒子の総称として名付けられました。重さは、陽子の100倍(約100GeV)程度以上です。他の粒子との相互作用が弱すぎて散乱の頻度が低くて見つけられない粒子なのです。英語の単語wimp自体が弱虫という意味なので、名は体を表していますね。具体的な粒子としては、まだ仮説である超対称性理論に現れる光子、もしくは、Z粒子かヒッグス粒子の相棒の総称であるニュートラリーノが、WIMPの候補として注目されています。 ニュートラリーノの見つけ方は単純です。キセノン原子などの重い原子核を数トンも用意して、ニュートラリーノがぶつかってくるのを待つ方法が、最も有力とされています。キセノン原子の中の陽子や中性子との相互作用は弱いのですが、大量にキセノンを用意すれば、確率が上がって、直接検出できるという考え方です。しかし、これまでにニュートラリーノが確実に発見された、とする報告はありません。また、高エネルギー加速器研究機構(KEK)も参加するスイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での加速器実験でニュートラリーノがつくられると期待されていたのですが、見つかりませんでした。 その一方、宇宙観測を用いるアイデアもあります。銀河の中心など、ダークマターの密度が濃いところで、ダークマター同士がお互いに衝突して対消滅することが期待されています。対消滅した後、ニュートラリーノならば、光や電子、クォークなど見える粒子を対生成によりつくることが理論的に予想されています。そうした2次的につくられた見える粒子を検出し、間接的にWIMPを検出するのです。現在の理解では、質量が約100GeVよりずっと重いせいで、数も少なく衝突頻度が低いのではないかという解釈がなされています。今後、ターゲットの原子の量を多くする、もしくは、検出器の感度を高めるなど装置の改良を重ねて、将来的に検出されることが期待されています』、「現在の理解では、質量が約100GeVよりずっと重いせいで、数も少なく衝突頻度が低いのではないかという解釈がなされています。今後、ターゲットの原子の量を多くする、もしくは、検出器の感度を高めるなど装置の改良を重ねて、将来的に検出されることが期待されています」、なるほど。
・『原始ブラックホール 3つ目の候補は、筆者の推しダークマターである原始ブラックホールです。通常のブラックホールが重い恒星の最期につぶれてつくられる天体であるのと異なり、原始ブラックホールは宇宙初期に密度ゆらぎが極めて大きな部分がつぶれることで生成されます。見える物質からつくられたのではなく、火の玉の放射がつぶれてつくられたブラックホールなのです。通常のブラックホールの重さは、およそ太陽質量以上、つまり約100京トンの10億倍以上です。それに対し、原始ブラックホールがダークマターになる場合の重さは、約1000億トンから約10京トンの間と予想されています。つまり、太陽質量より桁違いに軽いのです。 これは筆者の研究で示したことなのですが、もし原始ブラックホールが約1000億トンより軽い場合、ホーキング輻射として知られているように、ガンマ線の熱輻射を出して蒸発してしまい、現在のガンマ線の観測で蒸発する様子が見えるはずです。しかし、これまでの観測からそうした現象は見られないので、原始ブラックホールがダークマターになっているなら、もっと重くないといけないということになります。 その一方、重さが約10京トンより重い場合というのは、すばる望遠鏡の観測により否定されてしまいます。すばる望遠鏡でアンドロメダ銀河の恒星をずっと観測していると、その恒星の前を原始ブラックホールが通り過ぎる場合があります。そのとき、原始ブラックホールによる重力レンズ効果で、恒星の明るさが増光することが期待されていました。しかし、実際は観測されなかったことから、重さ約10京トン以上の原始ブラックホールを完全に否定してしまいました。 将来、ガンマ線観測の感度が上がれば、残っている質量領域である、約1000億トンより重く、約10京トンより軽い原始ブラックホールが、ゆっくりと蒸発する様子が観測されるかもしれません。また、原始ブラックホールをつくる密度ゆらぎは、同時に非線形重力波をつくることが知られています。将来の感度の高い、レーザー干渉計宇宙アンテナLISAや0.1ヘルツ帯干渉計型重力波天文台DECIGOなど人工衛星での重力波観測で、その非線形重力波を観測できれば、原始ブラックホールのダークマター説が検証される可能性があります』、「原始ブラックホールは宇宙初期に密度ゆらぎが極めて大きな部分がつぶれることで生成されます。見える物質からつくられたのではなく、火の玉の放射がつぶれてつくられたブラックホールなのです。通常のブラックホールの重さは、およそ太陽質量以上、つまり約100京トンの10億倍以上です。それに対し、原始ブラックホールがダークマターになる場合の重さは、約1000億トンから約10京トン「原始ブラックホールは宇宙初期に密度ゆらぎが極めて大きな部分がつぶれることで生成されます。見える物質からつくられたのではなく、火の玉の放射がつぶれてつくられたブラックホールなのです。通常のブラックホールの重さは、およそ太陽質量以上、つまり約100京トンの10億倍以上です。それに対し、原始ブラックホールがダークマターになる場合の重さは、約1000億トンから約10京トンのの間と予想されています。つまり、太陽質量より桁違いに軽いのです・・・もし原始ブラックホールが約1000億トンより軽い場合、ホーキング輻射として知られているように、ガンマ線の熱輻射を出して蒸発してしまい、現在のガンマ線の観測で蒸発する様子が見えるはずです。しかし、これまでの観測からそうした現象は見られないので、原始ブラックホールがダークマターになっているなら、もっと重くないといけないということになります」、なるほど。
・『右巻きニュートリノ 4つ目の候補は、未発見の右巻きニュートリノです。 その質量についての条件として、すでに検出されている左巻きニュートリノの質量の30倍程度あれば、質量だけなら、ダークマターに十分足りるのです。しかし、その程度だと軽すぎて光のように飛び回るせいで、銀河をダークマターとしてつなぎ止められません。つまり、「冷たいダークマター」とはなりません。 要求される条件は、左巻きニュートリノの数万倍以上の重さ、つまり、数千eVの質量をもつ必要があります。重い右巻きニュートリノは、X線光子を出して崩壊することが理論的に予言されています。その光子を検出できれば、右巻きニュートリノがダークマターであると確定する可能性があります。また、大強度陽子加速器施設J‐PARCでのニュートリノ振動実験T2Kなどでは、ニュートリノが右巻きニュートリノに崩壊もしくは振動する痕跡も探っています。 KEKが参加するLiteBIRD衛星実験では、将来得られる詳細な宇宙マイクロ波背景放射の偏光のデータから、右巻きニュートリノダークマターを検出する可能性があります。 さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする』、「要求される条件は、左巻きニュートリノの数万倍以上の重さ、つまり、数千eVの質量をもつ必要があります。重い右巻きニュートリノは、X線光子を出して崩壊することが理論的に予言されています。その光子を検出できれば、右巻きニュートリノがダークマターであると確定する可能性があります」、まだまだ発展途上の学問のようだ。
先ずは、本年9月8日付け現代ビジネスが掲載した高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所による「このまま膨張し続けたら、宇宙はどうなってしまうのか…「最悪のシナリオ」と「人類に残された希望」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/136796
・『138億年前、点にも満たない極小のエネルギーの塊からこの宇宙は誕生した。そこから物質、地球、生命が生まれ、私たちの存在に至る。しかし、ふと冷静になって考えると、誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するというのか、という疑問がわかないだろうか? 本連載では、第一線の研究者たちが基礎から最先端までを徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。 *本記事は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源 「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです』、興味深そうだ。
・『宇宙全体の70%を占めるダークエネルギー 前の記事で述べたように、ダークエネルギーもしくは宇宙定数が現在の宇宙に占める割合は、観測から約70%です。このダークエネルギーの多さが、インフレーションと同様に、現在の宇宙で、宇宙の加速膨張を引き起こしています。 Ia型と呼ばれる超新星爆発からの光を観測すると、宇宙の大きさが1/3から1/2の昔と比べて、現在の宇宙年齢に近づけば近づくほど、加速膨張がどんどん激しくなってきていることがわかってきました。Ia型とは、恒星の終末期の1つの姿である白色矮星にガスが降り積もって臨界質量を超えることで爆発するタイプの超新星爆発です。1998年に同時に発表された宇宙の加速膨張を示す観測データの業績により、アメリカのソール・パールムッター博士たちと、オーストラリアのブライアン・シュミット博士とアメリカのアダム・リース博士たちの2つのグループに2011年、ノーベル物理学賞が与えられました。 ダークエネルギーは、現在では宇宙全体のエネルギーの70%と、大きな量となっています。しかし、本当に定数であることを仮定するならば、宇宙が生まれた宇宙初期では、ものすごく小さな量だったことを意味します。宇宙が始まったときに、なんらかの物理過程により、この小さな種が仕込まれたのではないかと考えられています。また、近い将来、ダークエネルギーが宇宙のエネルギーの100%を占めるようになり、完全に支配的になると予想されています。しかし、その小ささの起源は、現代物理学では説明できません。未解決であり、新しい物理学の理論の発見が必要だと考えられています。この章の最後に、唯一あり得る科学的ではない解決方法である、人間原理での解決方法を解説します。人間原理は、人間の存在がこの宇宙の性質を決めているかもしれないという不思議な概念です』、「ダークエネルギーが宇宙のエネルギーの「70%を占めているのが」、「近い将来」、「100%を占めるようになり、完全に支配的になると予想されています。しかし、その小ささの起源は、現代物理学では説明できません。未解決であり、新しい物理学の理論の発見が必要だと考えられています。この章の最後に、唯一あり得る科学的ではない解決方法である、人間原理での解決方法を解説します。人間原理は、人間の存在がこの宇宙の性質を決めているかもしれないという不思議な概念です」、なるほど。
・『宇宙は再び加速膨張期を迎えた 宇宙が誕生したエネルギーとされるプランク(質量)スケール(約1000京GeV)から、宇宙はさまざまな相転移を経験して、その相を変えてきました。それを水の3相に例えるならば、水蒸気、水、氷というように、温度が低くなるにつれて、エネルギーのより低い、まったく異なる相に変わってきたというものです。それらの相とは、大統一理論の相転移(1京GeV)、電弱相転移(100GeV)、量子色力学の相転移(100MeV)などです。その一方、ダークエネルギーのエネルギースケールは、0.002eVで、最も低いエネルギー状態の真空だと理解されています。この、ダークエネルギーのスケール(0.002eV)だけは、現在の物理学では説明できません。以下に説明するように、その数字をもつ物理量が存在しないのです。 大統一理論が正しいかどうかは、まだ実験では検証されていませんが、理論の整合性だけから、その存在の確からしさが予言されています。大統一理論の相転移後、1京GeVのエネルギースケールの真空のエネルギーが残っている可能性があります。また、電弱相転移を引き起こすヒッグス粒子は、2012年にCERNのLHC実験により発見されました。2013年にヒッグス粒子の存在を予言した2人の理論家、ヒッグス博士とアングレール博士にノーベル物理学賞が贈られています。電弱相転移により、100GeV程度の真空のエネルギーが残っている可能性があります。加えて、温度1兆度(100MeV)の火の玉宇宙の中で、大量のクォーク・反クォークが一斉に対消滅するうちに、約10億分の1個だけが陽子や中性子などの核子として残ります。この量子色力学の相転移の真空のエネルギーは、約100MeVのエネルギースケールだと考えられています。 つまり、現在の物理学における素粒子の標準理論では、ダークエネルギーのエネルギースケールの約0.002eVで起こる相転移は知られていません。約0.002eVのスケールの真空のエネルギーは、現在の物理学では理論的に説明不可能なのです。これは、重力を修正するようなエキゾチックなモデルを考えたとしても、加えてそのエネルギースケールをさらに仮定しなければならないことに変わりはありません。このことは、未発見の新しい物理法則の存在を予感させます。 その真空のエネルギーが支配的になりエネルギー密度が近似的に一定になると、アインシュタイン博士が唱えた宇宙項、つまり宇宙定数とまったく同じ働きをします。宇宙定数を含む、もっと広い概念としてダークエネルギーという、完全に定数でなくても緩やかな変化であればよいという考え方も、観測からは否定されていません。第7章で説明した通り、宇宙定数つまりダークエネルギーが支配的になると、宇宙の大きさは倍々ゲームのように再び加速膨張により時間発展していきます』、「現在の物理学における素粒子の標準理論では、ダークエネルギーのエネルギースケールの約0.002eVで起こる相転移は知られていません。約0.002eVのスケールの真空のエネルギーは、現在の物理学では理論的に説明不可能なのです。これは、重力を修正するようなエキゾチックなモデルを考えたとしても、加えてそのエネルギースケールをさらに仮定しなければならないことに変わりはありません。このことは、未発見の新しい物理法則の存在を予感させます。 その真空のエネルギーが支配的になりエネルギー密度が近似的に一定になると、アインシュタイン博士が唱えた宇宙項、つまり宇宙定数とまったく同じ働きをします。宇宙定数を含む、もっと広い概念としてダークエネルギーという、完全に定数でなくても緩やかな変化であればよいという考え方も、観測からは否定されていません」、なるほど。
・『ダークエネルギーとは何か? 宇宙定数を素粒子論の言葉で表現するなら、未知のスカラー場が、そのポテンシャルエネルギーの底に落ち着いている状況だと考えられています。ポテンシャルエネルギーとは、スカラー場が固有にもつ位置エネルギーのようなエネルギーのことで、低いエネルギー状態に行けば行くほど安定であることを意味します。ダークエネルギーとなる未知のスカラー場の正体は、実験的にも、観測的にも、まったく明らかになっていません。そのため理論上は、その存在を仮定して宇宙モデルをつくることになります。 ここでは、ダークエネルギーとなるスカラー場を「φ」と呼びましょう。このφのポテンシャルエネルギーの底のエネルギー密度の大きさが、重要なのです。エネルギースケールでは、約0.002eVです。ポテンシャルエネルギーもしくは、エネルギー密度で表すならば、約0.002eVの4乗、つまり約16eV⁴の1兆分の1となります。もっと想像をたくましくした場合、必ずしも、現在ポテンシャルエネルギーの底に落ち着いていなくてもよいという考え方も可能となります。つまり、ポテンシャルエネルギーの底では、特別なエネルギースケールなどはなくて、エネルギー密度は確かにゼロとするのです。 しかし、将来そこに落ち着けばよいと考えて、今はポテンシャルの途中をゆっくり転がり落ちていると解釈するのです。つまり、宇宙定数ではなく、動いているダークエネルギーというより広い概念を導入することになります。そして0.002eVの4乗は、ゼロに向かう過渡期のポテンシャルエネルギーの値と解釈します。そうすれば、現在の宇宙が偶然、このエネルギースケールをとっているだけで、新しいエネルギースケールを説明しなくてもよいという解釈となります。このスカラー場は、光子、ニュートリノ、バリオン物質、ダークマターとも違う、第5の成分という意味で「クインテッセンスモデル」とも呼ばれます。 そして、そのゆっくり動く度合いは、理論と観測から厳しい制限を受けます。ポテンシャルの式中にφの逆べき、1/φの項が現れる理論モデルの場合、宇宙膨張からくる摩擦力とポテンシャルを落ちていく力が釣り合ってゆっくり転がるモデルとなります。そのため、最も無理のない自然なモデルだと考えられました。これを「トラッカー場モデル」と呼びます。 しかし、最新の観測より、トラッカー場モデルは、ファイが速く動きすぎるとして棄却されました。現在では、その真空に落ち着く直前(フリージング)か、別の真空から動き始める瞬間(ソーイング)かの、2つのモデルが観測から許されています。 これまで、スカラー場のモデルと書いてきましたが、理論的には何一つ確定していません。強いて候補を挙げるなら、前述の軽いALP(正確な分類では、スピンの場ですが、鏡に映す変換により場の値の符号がマイナスになる擬スカラー場です)のような量子場かもしれません。しかし、その約0.002eVというエネルギースケールをもつポテンシャルについては、第一原理から導かれるわけではなく、仮定するしか、現在は方法がありません。前述のALPでも、理論的にはそのエネルギースケールが必然ではありません。また、繰り返しますが、重力を修正したとしても、このエネルギースケールのエネルギー密度を第一原理から自然に導出するわけではないので、さらにエネルギースケール自体について仮定を追加する必要があるというのが現状です。つまり、重力を修正しても解決されていないのです』、「最新の観測より、トラッカー場モデルは、ファイが速く動きすぎるとして棄却されました。現在では、その真空に落ち着く直前(フリージング)か、別の真空から動き始める瞬間(ソーイング)かの、2つのモデルが観測から許されています。 これまで、スカラー場のモデルと書いてきましたが、理論的には何一つ確定していません。強いて候補を挙げるなら、前述の軽いALP(正確な分類では、スピンの場ですが、鏡に映す変換により場の値の符号がマイナスになる擬スカラー場です)のような量子場かもしれません。しかし、その約0.002eVというエネルギースケールをもつポテンシャルについては、第一原理から導かれるわけではなく、仮定するしか、現在は方法がありません。前述のALPでも、理論的にはそのエネルギースケールが必然ではありません」、難し過ぎて到底理解できない。
・『宇宙の未来 次に、最低限の仮定の下、このままダークエネルギーのエネルギー密度がほぼ定数だとして、この宇宙の未来がどうなっていくのかを見ていきます。現代物理学の知識で予想する、標準的な宇宙の運命は以下のようです。 まず、このまま加速膨張が続けば、基本的に銀河団に属していない銀河と銀河の間の距離は遠ざかり、宇宙は、どんどん空っぽになってしまいます。約40億年後、われわれの銀河とアンドロメダ銀河が合体します。形成される超巨大銀河には「ミルコメダ」という名前がすでに付けられています。約50億年後、太陽が死を迎えます。そのとき、地球は肥大した太陽に飲み込まれるという説と、地球の公転軌道が広がって飲み込まれないという2つの説が唱えられています。いずれにしても人類は、そのままでは生き延びることは不可能でしょう。 約1400億年後、ミルコメダは、激しい加速膨張で独りぼっちの銀河となります。約1兆年後、われわれの銀河にある一番の長寿命の恒星である赤色矮星まで、すべての恒星が燃え尽きます。約1000京年後、すべての銀河はブラックホールだらけになります。 約10³⁴年後、つまり、約1000京年の1000兆倍後、大統一理論の予言により、宇宙のすべての陽子が陽電子などに崩壊します。原子や分子などの普通の物質はなくなることになります。そして、約10⁸³年後、つまり約1000京年の1000京倍の1000京倍の1000京倍の1000万倍後、それぞれの銀河の中心にある超巨大ブラックホールが蒸発します。それ以後、天体と呼ぶことのできる物体は、宇宙から消え去るでしょう。 さらに仮定することを増やすと、ダークエネルギーが時間とともにより多くなるエキゾチックなモデルで、ビッグリップと呼ばれるより激しい加速膨張によって未来にすべての天体が引き裂かれることを提案した研究者もいます。このシナリオはとても刺激的ですが、その理論を示唆する観測・実験結果は今のところ得られていません』、「このまま加速膨張が続けば、基本的に銀河団に属していない銀河と銀河の間の距離は遠ざかり、宇宙は、どんどん空っぽになってしまいます。約40億年後、われわれの銀河とアンドロメダ銀河が合体します。形成される超巨大銀河には「ミルコメダ」という名前がすでに付けられています。約50億年後、太陽が死を迎えます。そのとき、地球は肥大した太陽に飲み込まれるという説と、地球の公転軌道が広がって飲み込まれないという2つの説が唱えられています。いずれにしても人類は、そのままでは生き延びることは不可能でしょう・・・約1400億年後、ミルコメダは、激しい加速膨張で独りぼっちの銀河となります。約1兆年後、われわれの銀河にある一番の長寿命の恒星である赤色矮星まで、すべての恒星が燃え尽きます。約1000京年後、すべての銀河はブラックホールだらけになります。 約10³⁴年後、つまり、約1000京年の1000兆倍後、大統一理論の予言により、宇宙のすべての陽子が陽電子などに崩壊します。原子や分子などの普通の物質はなくなることになります。そして、約10⁸³年後、つまり約1000京年の1000京倍の1000京倍の1000京倍の1000万倍後、それぞれの銀河の中心にある超巨大ブラックホールが蒸発します。それ以後、天体と呼ぶことのできる物体は、宇宙から消え去るでしょう。 さらに仮定することを増やすと、ダークエネルギーが時間とともにより多くなるエキゾチックなモデルで、ビッグリップと呼ばれるより激しい加速膨張によって未来にすべての天体が引き裂かれることを提案した研究者もいます」、なるほど。
・『残された大問題 これまで、真空のエネルギースケール約0.002eVを説明する物理法則を探ることが、ダークエネルギー問題の科学的な解決であることを説明してきました。つまり、現在の宇宙は、なぜ放射(約0.01%)、見える物質(約5%)、ダークマター(約25%)、ダークエネルギー(約70%)と、すべての成分が数桁の範囲でだいたい同じ程度のエネルギー密度なのか? そして、ダークエネルギーの量は、定数だというのに、なぜ、理論物理の知られているあらゆるスケールと比べてこんなに小さいのか? という問題でした。その小ささには、大変なチューニングが必要で、その値がもし約1000倍でも大きい宇宙だったら、宇宙はもっと早くに速く膨張してしまい、銀河はできないし地球は生まれないことからも、極めて深刻であることがわかります。 実は、物理学ではなく、哲学的にこの問題を解く試みがあります。それが、フランスの哲学者ルネ・デカルト博士が提唱した「我思う、故に我あり」という考え方を人間原理に適用したものです。それを、宇宙論の文脈で言い換えると、「宇宙の法則がこうなっているからこそ、この問いを発する人間が(必然として)生まれてきたという原理」などとなります。「必然として」を入れると、強い人間原理と呼ばれます。われわれは、ダークエネルギー(宇宙定数)が小さい宇宙に住んでいます。実際、観測される約1meVのスケールから、自然なスケールである1TeVまでが約15桁、その4乗の約60桁も小さいのです。この60桁というずれの程度は、理論的に説明するためには、ゼロ点からのずれ具合がすさまじく小さい数を仮定してチューニングしなければならないことを意味します。 その異常さを、標準理論を例にとって見てみます。標準理論にも、さまざまな質量が現れます。しかし、例えば、ヒッグス粒子の質量のスケール(約100GeV)から、一番軽い素粒子である電子の質量のスケール(約500KeV)までの、そのずれ方は大きく見積もっても6桁くらいに収まっているのです。多くの素粒子物理学者は、この6桁くらいのずれ方はなんらかの理由により説明できると考えています。そのため、この6桁のずれ程度ならば、普段、標準理論のほころびだとはそれほど思っていないように思います。筆者が発表した理論モデルの1つに、ニュートリノ質量(単位meV)の4乗がダークエネルギーのエネルギー密度になるかもしれない、というものがあります。しかし正直に申し上げて、この場合でもスケールを手で置いているという範疇を出ないものです。将来の観測で筆者のモデルが正しいと証明されるか、それとも棄却されるか、個人的には楽しみにしています。ぜひ、若い方々も、この問題に科学で真っ向からトライしてみてください。 宇宙は唯一ではないとするマルチバースの考え方を採用するならば、われわれの宇宙は、唯一の宇宙ではなく、それこそ天文学的な大きな数字の数だけ生まれた宇宙の中のただの1つにすぎないのかもしれません。そして、それぞれの宇宙は、物理法則が違っている可能性すらあります。宇宙定数が約60桁小さい宇宙も、確率的には有り得ないほど低くても、天文学的数字のマルチバースの中では、偶然に、たった1つでも誕生する可能性があるかもしれません。そして、その宇宙は人間が生まれる条件が整っているのです。その場合、人間が生まれる条件に合った宇宙だけに、人間が生まれただけにすぎないのかもしれないのです。そして、その人間が、自分たちの宇宙は「なぜ、こんなにも自分たちに都合がよくできているのか?(宇宙定数が小さくなっているのか?)」という疑問を発しているという解決方法なのです。
このように、「宇宙定数問題」または「ダークエネルギー問題」を人間原理で解決する場合、驚くことに人間の存在が、その宇宙全体の性質を決めてしまっていることになってしまいます。つまり、人間が住む宇宙のみ人間に観測され得ると言っているのです。 人類は、古来より信じられてきた天動説を捨て、精密な観測データの蓄積により得られたコペルニクス原理を採用し、地動説を信じるようになってきました。さらに、宇宙は一様で等方だとする宇宙原理を信じて、われわれの銀河や太陽系が特別な場所ではないと受け入れてきたのです。現代の人類が、より観測技術が進んだことにより、われわれの住んでいる宇宙は例外的な宇宙だったと受け入れなければならない状況になってきているのは、大変皮肉なことです。 説明なしの原理の導入は、その背後に隠れているかもしれない未発見の物理法則の探究を止めてしまう可能性があるのですが、現在、エキゾチックな宇宙モデルを仮定する以外には、人間原理による解決方法しかあり得ないようにも思えます。しかし、科学的な問題に人間原理を適用することは、最終手段として取っておくべきものだと思われます。 つまり、これまで解決不可能とされてきた問題に対して、新しい物理学の法則を見つけることこそ、科学による勝利なのです。繰り返しますが、ダークエネルギー問題は、今のところ人間原理の適用以外に解く方法がないように見え、人間原理を適用する最初の例になるかもしれないという大変に面白い問題と言えるでしょう。人類は、宇宙誕生の秘密に迫る、最も根本的な科学の問題に直面しているのかもしれませんね。 さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする』、「ダークエネルギー問題は、今のところ人間原理の適用以外に解く方法がないように見え、人間原理を適用する最初の例になるかもしれないという大変に面白い問題と言えるでしょう。人類は、宇宙誕生の秘密に迫る、最も根本的な科学の問題に直面しているのかもしれませんね。 さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする」、確かに「スリリング」ではあるが、理解の限度を超えつつあるようだ。
次に、9月8日付け現代ビジネスが掲載した高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所による「「ナゾの物質」ダークマターの正体がついに明らかに…?「最有力候補」を科学的検証とともに一挙解説!」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/136795
・『・・・どうやってダークマターを見つけるのか 先の記事で、理論的に予言されるダークマターの有力候補について、ちょっとだけご紹介しました。本記事では、それぞれについて詳しく説明してみたいと思います。 最も有力な候補と目されているのは、WIMPと呼ばれる未発見の素粒子です。「弱い相互作用をする重い粒子」という意味の英語の頭文字を取って、そうした性質をもつ粒子の総称として名付けられました。重さは、陽子の100倍(約100GeV)程度以上です。他の粒子との相互作用が弱すぎて散乱の頻度が低くて見つけられない粒子なのです。英語の単語wimp自体が弱虫という意味なので、名は体を表していますね。具体的な粒子としては、まだ仮説である超対称性理論に現れる光子、もしくは、Z粒子かヒッグス粒子の相棒の総称であるニュートラリーノが、WIMPの候補として注目されています。 ニュートラリーノの見つけ方は単純です。キセノン原子などの重い原子核を数トンも用意して、ニュートラリーノがぶつかってくるのを待つ方法が、最も有力とされています。キセノン原子の中の陽子や中性子との相互作用は弱いのですが、大量にキセノンを用意すれば、確率が上がって、直接検出できるという考え方です。しかし、これまでにニュートラリーノが確実に発見された、とする報告はありません。また、高エネルギー加速器研究機構(KEK)も参加するスイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での加速器実験でニュートラリーノがつくられると期待されていたのですが、見つかりませんでした。 その一方、宇宙観測を用いるアイデアもあります。銀河の中心など、ダークマターの密度が濃いところで、ダークマター同士がお互いに衝突して対消滅することが期待されています。対消滅した後、ニュートラリーノならば、光や電子、クォークなど見える粒子を対生成によりつくることが理論的に予想されています。そうした2次的につくられた見える粒子を検出し、間接的にWIMPを検出するのです。現在の理解では、質量が約100GeVよりずっと重いせいで、数も少なく衝突頻度が低いのではないかという解釈がなされています。今後、ターゲットの原子の量を多くする、もしくは、検出器の感度を高めるなど装置の改良を重ねて、将来的に検出されることが期待されています。) 138億年前、点にも満たない極小のエネルギーの塊からこの宇宙は誕生した。そこから物質、地球、生命が生まれ、私たちの存在に至る。しかし、ふと冷静になって考えると、誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するというのか、という疑問がわかないだろうか? 本連載では、第一線の研究者たちが基礎から最先端までを徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。 *本記事は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源 「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです』、「これまでにニュートラリーノが確実に発見された、とする報告はありません。また、高エネルギー加速器研究機構(KEK)も参加するスイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での加速器実験でニュートラリーノがつくられると期待されていたのですが、見つかりませんでした・・・宇宙観測を用いるアイデアもあります。銀河の中心など、ダークマターの密度が濃いところで、ダークマター同士がお互いに衝突して対消滅することが期待されています。対消滅した後、ニュートラリーノならば、光や電子、クォークなど見える粒子を対生成によりつくることが理論的に予想されています。そうした2次的につくられた見える粒子を検出し、間接的にWIMPを検出するのです。現在の理解では、質量が約100GeVよりずっと重いせいで、数も少なく衝突頻度が低いのではないかという解釈がなされています。今後、ターゲットの原子の量を多くする、もしくは、検出器の感度を高めるなど装置の改良を重ねて、将来的に検出されることが期待されています」、なるほど。
・『どうやってダークマターを見つけるのか 先の記事で、理論的に予言されるダークマターの有力候補について、ちょっとだけご紹介しました。本記事では、それぞれについて詳しく説明してみたいと思います。 最も有力な候補と目されているのは、WIMPと呼ばれる未発見の素粒子です。「弱い相互作用をする重い粒子」という意味の英語の頭文字を取って、そうした性質をもつ粒子の総称として名付けられました。重さは、陽子の100倍(約100GeV)程度以上です。他の粒子との相互作用が弱すぎて散乱の頻度が低くて見つけられない粒子なのです。英語の単語wimp自体が弱虫という意味なので、名は体を表していますね。具体的な粒子としては、まだ仮説である超対称性理論に現れる光子、もしくは、Z粒子かヒッグス粒子の相棒の総称であるニュートラリーノが、WIMPの候補として注目されています。 ニュートラリーノの見つけ方は単純です。キセノン原子などの重い原子核を数トンも用意して、ニュートラリーノがぶつかってくるのを待つ方法が、最も有力とされています。キセノン原子の中の陽子や中性子との相互作用は弱いのですが、大量にキセノンを用意すれば、確率が上がって、直接検出できるという考え方です。しかし、これまでにニュートラリーノが確実に発見された、とする報告はありません。また、高エネルギー加速器研究機構(KEK)も参加するスイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での加速器実験でニュートラリーノがつくられると期待されていたのですが、見つかりませんでした。 その一方、宇宙観測を用いるアイデアもあります。銀河の中心など、ダークマターの密度が濃いところで、ダークマター同士がお互いに衝突して対消滅することが期待されています。対消滅した後、ニュートラリーノならば、光や電子、クォークなど見える粒子を対生成によりつくることが理論的に予想されています。そうした2次的につくられた見える粒子を検出し、間接的にWIMPを検出するのです。現在の理解では、質量が約100GeVよりずっと重いせいで、数も少なく衝突頻度が低いのではないかという解釈がなされています。今後、ターゲットの原子の量を多くする、もしくは、検出器の感度を高めるなど装置の改良を重ねて、将来的に検出されることが期待されています』、「現在の理解では、質量が約100GeVよりずっと重いせいで、数も少なく衝突頻度が低いのではないかという解釈がなされています。今後、ターゲットの原子の量を多くする、もしくは、検出器の感度を高めるなど装置の改良を重ねて、将来的に検出されることが期待されています」、なるほど。
・『原始ブラックホール 3つ目の候補は、筆者の推しダークマターである原始ブラックホールです。通常のブラックホールが重い恒星の最期につぶれてつくられる天体であるのと異なり、原始ブラックホールは宇宙初期に密度ゆらぎが極めて大きな部分がつぶれることで生成されます。見える物質からつくられたのではなく、火の玉の放射がつぶれてつくられたブラックホールなのです。通常のブラックホールの重さは、およそ太陽質量以上、つまり約100京トンの10億倍以上です。それに対し、原始ブラックホールがダークマターになる場合の重さは、約1000億トンから約10京トンの間と予想されています。つまり、太陽質量より桁違いに軽いのです。 これは筆者の研究で示したことなのですが、もし原始ブラックホールが約1000億トンより軽い場合、ホーキング輻射として知られているように、ガンマ線の熱輻射を出して蒸発してしまい、現在のガンマ線の観測で蒸発する様子が見えるはずです。しかし、これまでの観測からそうした現象は見られないので、原始ブラックホールがダークマターになっているなら、もっと重くないといけないということになります。 その一方、重さが約10京トンより重い場合というのは、すばる望遠鏡の観測により否定されてしまいます。すばる望遠鏡でアンドロメダ銀河の恒星をずっと観測していると、その恒星の前を原始ブラックホールが通り過ぎる場合があります。そのとき、原始ブラックホールによる重力レンズ効果で、恒星の明るさが増光することが期待されていました。しかし、実際は観測されなかったことから、重さ約10京トン以上の原始ブラックホールを完全に否定してしまいました。 将来、ガンマ線観測の感度が上がれば、残っている質量領域である、約1000億トンより重く、約10京トンより軽い原始ブラックホールが、ゆっくりと蒸発する様子が観測されるかもしれません。また、原始ブラックホールをつくる密度ゆらぎは、同時に非線形重力波をつくることが知られています。将来の感度の高い、レーザー干渉計宇宙アンテナLISAや0.1ヘルツ帯干渉計型重力波天文台DECIGOなど人工衛星での重力波観測で、その非線形重力波を観測できれば、原始ブラックホールのダークマター説が検証される可能性があります』、「原始ブラックホールは宇宙初期に密度ゆらぎが極めて大きな部分がつぶれることで生成されます。見える物質からつくられたのではなく、火の玉の放射がつぶれてつくられたブラックホールなのです。通常のブラックホールの重さは、およそ太陽質量以上、つまり約100京トンの10億倍以上です。それに対し、原始ブラックホールがダークマターになる場合の重さは、約1000億トンから約10京トン「原始ブラックホールは宇宙初期に密度ゆらぎが極めて大きな部分がつぶれることで生成されます。見える物質からつくられたのではなく、火の玉の放射がつぶれてつくられたブラックホールなのです。通常のブラックホールの重さは、およそ太陽質量以上、つまり約100京トンの10億倍以上です。それに対し、原始ブラックホールがダークマターになる場合の重さは、約1000億トンから約10京トンのの間と予想されています。つまり、太陽質量より桁違いに軽いのです・・・もし原始ブラックホールが約1000億トンより軽い場合、ホーキング輻射として知られているように、ガンマ線の熱輻射を出して蒸発してしまい、現在のガンマ線の観測で蒸発する様子が見えるはずです。しかし、これまでの観測からそうした現象は見られないので、原始ブラックホールがダークマターになっているなら、もっと重くないといけないということになります」、なるほど。
・『右巻きニュートリノ 4つ目の候補は、未発見の右巻きニュートリノです。 その質量についての条件として、すでに検出されている左巻きニュートリノの質量の30倍程度あれば、質量だけなら、ダークマターに十分足りるのです。しかし、その程度だと軽すぎて光のように飛び回るせいで、銀河をダークマターとしてつなぎ止められません。つまり、「冷たいダークマター」とはなりません。 要求される条件は、左巻きニュートリノの数万倍以上の重さ、つまり、数千eVの質量をもつ必要があります。重い右巻きニュートリノは、X線光子を出して崩壊することが理論的に予言されています。その光子を検出できれば、右巻きニュートリノがダークマターであると確定する可能性があります。また、大強度陽子加速器施設J‐PARCでのニュートリノ振動実験T2Kなどでは、ニュートリノが右巻きニュートリノに崩壊もしくは振動する痕跡も探っています。 KEKが参加するLiteBIRD衛星実験では、将来得られる詳細な宇宙マイクロ波背景放射の偏光のデータから、右巻きニュートリノダークマターを検出する可能性があります。 さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする』、「要求される条件は、左巻きニュートリノの数万倍以上の重さ、つまり、数千eVの質量をもつ必要があります。重い右巻きニュートリノは、X線光子を出して崩壊することが理論的に予言されています。その光子を検出できれば、右巻きニュートリノがダークマターであると確定する可能性があります」、まだまだ発展途上の学問のようだ。
タグ:宇宙 (その2)宇宙論基礎2題:このまま膨張し続けたら 宇宙はどうなってしまうのか…、「ナゾの物質」ダークマターの正体がついに明らかに…?) 現代ビジネス 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 「このまま膨張し続けたら、宇宙はどうなってしまうのか…「最悪のシナリオ」と「人類に残された希望」」 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源 「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス) 「ダークエネルギーが宇宙のエネルギーの「70%を占めているのが」、「近い将来」、「100%を占めるようになり、完全に支配的になると予想されています。しかし、その小ささの起源は、現代物理学では説明できません。未解決であり、新しい物理学の理論の発見が必要だと考えられています。この章の最後に、唯一あり得る科学的ではない解決方法である、人間原理での解決方法を解説します。人間原理は、人間の存在がこの宇宙の性質を決めているかもしれないという不思議な概念です」、なるほど。 「現在の物理学における素粒子の標準理論では、ダークエネルギーのエネルギースケールの約0.002eVで起こる相転移は知られていません。約0.002eVのスケールの真空のエネルギーは、現在の物理学では理論的に説明不可能なのです。これは、重力を修正するようなエキゾチックなモデルを考えたとしても、加えてそのエネルギースケールをさらに仮定しなければならないことに変わりはありません。 このことは、未発見の新しい物理法則の存在を予感させます。 その真空のエネルギーが支配的になりエネルギー密度が近似的に一定になると、アインシュタイン博士が唱えた宇宙項、つまり宇宙定数とまったく同じ働きをします。宇宙定数を含む、もっと広い概念としてダークエネルギーという、完全に定数でなくても緩やかな変化であればよいという考え方も、観測からは否定されていません」、なるほど。 「最新の観測より、トラッカー場モデルは、ファイが速く動きすぎるとして棄却されました。現在では、その真空に落ち着く直前(フリージング)か、別の真空から動き始める瞬間(ソーイング)かの、2つのモデルが観測から許されています。 これまで、スカラー場のモデルと書いてきましたが、理論的には何一つ確定していません。強いて候補を挙げるなら、前述の軽いALP(正確な分類では、スピンの場ですが、鏡に映す変換により場の値の符号がマイナスになる擬スカラー場です)のような量子場かもしれません。 しかし、その約0.002eVというエネルギースケールをもつポテンシャルについては、第一原理から導かれるわけではなく、仮定するしか、現在は方法がありません。前述のALPでも、理論的にはそのエネルギースケールが必然ではありません」、難し過ぎて到底理解できない。 「このまま加速膨張が続けば、基本的に銀河団に属していない銀河と銀河の間の距離は遠ざかり、宇宙は、どんどん空っぽになってしまいます。約40億年後、われわれの銀河とアンドロメダ銀河が合体します。形成される超巨大銀河には「ミルコメダ」という名前がすでに付けられています。約50億年後、太陽が死を迎えます。そのとき、地球は肥大した太陽に飲み込まれるという説と、地球の公転軌道が広がって飲み込まれないという2つの説が唱えられています。いずれにしても人類は、そのままでは生き延びることは不可能でしょう・・・ 約1400億年後、ミルコメダは、激しい加速膨張で独りぼっちの銀河となります。約1兆年後、われわれの銀河にある一番の長寿命の恒星である赤色矮星まで、すべての恒星が燃え尽きます。約1000京年後、すべての銀河はブラックホールだらけになります。 約10³⁴年後、つまり、約1000京年の1000兆倍後、大統一理論の予言により、宇宙のすべての陽子が陽電子などに崩壊します。原子や分子などの普通の物質はなくなることになります。そして、約10⁸³年後、つまり約1000京年の1000京倍の1000京倍の1000京倍の1000万倍後、それぞれの銀河の中心にある超巨大ブラックホールが蒸発します。それ以後、天体と呼ぶことのできる物体は、宇宙から消え去るでしょう。 さらに仮定することを増やすと、ダークエネルギーが時間とともにより多くなるエキゾチックなモデルで、ビッグリップと呼ばれるより激しい加速膨張によって未来にすべての天体が引き裂かれることを提案した研究者もいます」、なるほど。 「ダークエネルギー問題は、今のところ人間原理の適用以外に解く方法がないように見え、人間原理を適用する最初の例になるかもしれないという大変に面白い問題と言えるでしょう。人類は、宇宙誕生の秘密に迫る、最も根本的な科学の問題に直面しているのかもしれませんね。 さらに「宇宙と物質の起源」シリーズの連載記事では、最新研究にもとづくスリリングな宇宙論をお届けする」、確かに「スリリング」ではあるが、理解の限度を超えつつあるようだ。 「「ナゾの物質」ダークマターの正体がついに明らかに…?「最有力候補」を科学的検証とともに一挙解説!」 「これまでにニュートラリーノが確実に発見された、とする報告はありません。また、高エネルギー加速器研究機構(KEK)も参加するスイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)での加速器実験でニュートラリーノがつくられると期待されていたのですが、見つかりませんでした・・・宇宙観測を用いるアイデアもあります。銀河の中心など、ダークマターの密度が濃いところで、ダークマター同士がお互いに衝突して対消滅することが期待されています。 対消滅した後、ニュートラリーノならば、光や電子、クォークなど見える粒子を対生成によりつくることが理論的に予想されています。そうした2次的につくられた見える粒子を検出し、間接的にWIMPを検出するのです。現在の理解では、質量が約100GeVよりずっと重いせいで、数も少なく衝突頻度が低いのではないかという解釈がなされています。今後、ターゲットの原子の量を多くする、もしくは、検出器の感度を高めるなど装置の改良を重ねて、将来的に検出されることが期待されています」、なるほど。 「現在の理解では、質量が約100GeVよりずっと重いせいで、数も少なく衝突頻度が低いのではないかという解釈がなされています。今後、ターゲットの原子の量を多くする、もしくは、検出器の感度を高めるなど装置の改良を重ねて、将来的に検出されることが期待されています」、なるほど。 「原始ブラックホールは宇宙初期に密度ゆらぎが極めて大きな部分がつぶれることで生成されます。見える物質からつくられたのではなく、火の玉の放射がつぶれてつくられたブラックホールなのです。通常のブラックホールの重さは、およそ太陽質量以上、つまり約100京トンの10億倍以上です。それに対し、原始ブラックホールがダークマターになる場合の重さは、約1000億トンから約10京トン「原始ブラックホールは宇宙初期に密度ゆらぎが極めて大きな部分がつぶれることで生成されます。 見える物質からつくられたのではなく、火の玉の放射がつぶれてつくられたブラックホールなのです。通常のブラックホールの重さは、およそ太陽質量以上、つまり約100京トンの10億倍以上です。それに対し、原始ブラックホールがダークマターになる場合の重さは、約1000億トンから約10京トンのの間と予想されています。つまり、太陽質量より桁違いに軽いのです・・・もし原始ブラックホールが約1000億トンより軽い場合、ホーキング輻射として知られているように、ガンマ線の熱輻射を出して蒸発してしまい、現在のガンマ線の観測で蒸発す る様子が見えるはずです。しかし、これまでの観測からそうした現象は見られないので、原始ブラックホールがダークマターになっているなら、もっと重くないといけないということになります」、なるほど。 「要求される条件は、左巻きニュートリノの数万倍以上の重さ、つまり、数千eVの質量をもつ必要があります。重い右巻きニュートリノは、X線光子を出して崩壊することが理論的に予言されています。その光子を検出できれば、右巻きニュートリノがダークマターであると確定する可能性があります」、まだまだ発展途上の学問のようだ。
宇宙(その1)(人間の身体は「星の爆発」から生まれた? 宇宙望遠鏡が教えてくれた「私たちはどこから来たのか」、直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?、宇宙ビジネスが活発なアメリカと日本の決定的差 「リスクを避ける組織文化」を乗り越えるには) [科学技術]
今日は、宇宙(その1)(人間の身体は「星の爆発」から生まれた? 宇宙望遠鏡が教えてくれた「私たちはどこから来たのか」、直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?、宇宙ビジネスが活発なアメリカと日本の決定的差 「リスクを避ける組織文化」を乗り越えるには)を取上げよう。
先ずは、昨年5月14日付けAERAdot「人間の身体は「星の爆発」から生まれた? 宇宙望遠鏡が教えてくれた「私たちはどこから来たのか」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/articles/-/194728?page=1
・『1960年代以降、人類は100機以上の宇宙望遠鏡を打ち上げてきた。そしていま現在も20機以上の観測機が軌道上にあり、宇宙の謎を解き明かすデータを日々大量に送り続けている。 そもそも、なぜ望遠鏡を宇宙に打ち上げなければならないのか? それによって私たちは何を知ろうとしているのか? 国立天文台の縣秀彦氏に監修をいただいた拙著『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』から、そのヒントを紹介したい。 私たちが星を観ようとするとき、それは夜に限られる。夜であっても天候が悪く、雲があれば見ることができない。また、揺らぐ大気によって星は瞬くため、望遠鏡を使用しても星の姿を鮮明に観測することは難しい。こうした制約から逃れる唯一の方法が、宇宙に望遠鏡を設置することだ。宇宙空間であればつねに星が観測でき、同じ光度で輝き続けるため、精度の高い観測が可能になる。 宇宙から天体を観測するもうひとつの理由として挙げられるのは、「電磁波の性質」の活用だ。 電磁波とは、医療機器にも使用される「ガンマ線」や「X線」、私たちの肌を痛める「紫外線」、ヒトが目で見ることができる「可視光線」、テレビのリモコンにも使用される「赤外線」、テレビやラジオに使用される「電波」に大別される。そして星々は、私たちが目視できる可視光線だけでなく、じつにさまざまな「光」や「電波」を発していて、これらを幅広く観測することで、その星の実体をより正確に知ることができるのだ。) では、それぞれの電磁波は何が違うのか。「波長の長さ」だ。 上のイラストを見ると、波長の短いガンマ線がいちばん左に描かれ、右にいくほど波長が長くなる。そして、宇宙から降り注ぐこれらの電磁波のうち、地上に到達しているのは主に「可視光線」と「電波」だけだ(マイクロ波は電波の一種)。つまり、それ以外のガンマ線やX線、紫外線、赤外線の大部分は、大気に吸収されて地上に届かず、地上からは十分に観測できない。 地上にも大型望遠鏡は数多くあるが、それらは「可視光線」を観測するための望遠鏡、または「電波望遠鏡」がほとんどだ。例外は、「近赤外線」。可視光線に近接する波長を持つ「近赤外線」は、可視光線に対して開かれた「大気の窓」をギリギリにかすめて地上に届く。そのため近赤外線を観測する望遠鏡も地上に建設されている。 天文観測において、もうひとつ面白い法則がある。星が放つ光や電波などの電磁波を観測すれば、その星がどんな成分で出来ているのかがわかるのだ。 ヒトの目に見える可視光線は、プリズムを通すと7色に分解できる。これを「分光」という。また、分光された光が虹のようにズラリと並んだものを「スペクトル」という。スペクトルが並ぶ順番はつねに決まっていて、その色の違いは、すなわち波長の違いを意味する。 ここで重要なのは、可視光線が虹のように分光できるのと同じように、ガンマ線、X線、紫外線、赤外線、電波もスペクトルに分解できるという点だ。 宇宙望遠鏡に搭載された主鏡は、星が発する光(電磁波)をレンズで集める。その光を「分光器」(スペクトロメータ)で波長ごとに分解し、そのデータを地上局に送る。こうした一連の作業が、宇宙望遠鏡に課せられた主な役割だ。望遠鏡や分光器の仕組みは電磁波の種類によって異なるため、多くの機体においては「X線観測機」や「赤外線宇宙望遠鏡」など、特定の光を観測する専用機として開発されることが多い。) 天文観測においてこの分光が重要なのは、何万光年も離れた星が発した電磁波を分光することにより、その天体を形成する物質の種類、量、比率のほか、天体の表面温度などが把握できる点にある。また、地球から遠ざかる星は赤く、近づく星は青く見えるため、その光の波長を調べることで、星の運動さえ分析することができる。 前述の国立天文台・縣氏監修の『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』では、これらを詳細に解説しているが、ここでは簡単に、星の成分について紹介したい。 上のイラストは、ハッブルがとらえた「イータカリーナ星雲」のスペクトルを表したものだ。タテに白く見える線は「輝線」(きせん)と呼ばれ、とくに強い波長を示している。この輝線は、特定の物質によって生まれる。つまり、何万光年も離れた星が放った光を、分光器を通してスペクトルに分解し、どの波長が強く、どんな組み合わせで表れるかを調べれば、その星の構成元素を知ることができるのだ。このイータカリーナ星雲のスペクトルからは、Fe(鉄)やNi(ニッケル)が検出されていることがわかる。 138億年前にビッグバンが発生したが、その際に生まれた元素は、水素(H)とヘリウム(He)と、ほんのわずかなリチウム(Li)とベリリウム(Be)などだけ。つまり、「水兵リーベ」の冒頭に並ぶ軽い元素だけだ。しかし、私たちの身体は、主に酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、カルシウム(Ca)などからなり、微量元素としては鉄(Fe)、フッ素(F)、ケイ素(Si)なども含まれる。こうした多様な元素は、どこで生まれたのか? ビッグバンで生まれた水素やヘリウムは、ガスやチリとなって宇宙を漂っていた。やがてそれらは重力によって集積し、その結果、星が生まれた。その内部では核融合反応がはじまり、水素からヘリウムが合成され、ヘリウムからは炭素が合成され、さらに炭素は酸素、そしてケイ素などへと変容し、最後は鉄(Fe)が生成されていった。) その星が寿命を迎えて爆発すると、それら元素は拡散して宇宙を漂い、やがてその元素を材料にして、また新たな星が生まれる。こうした宇宙の営みが繰り返される間に、やがて生命が誕生した。つまり、私たちの身体は、かつてどこかに存在した恒星の内部で生成された元素でできているといえる。 宇宙望遠鏡がはじめて打ち上げられた1960年代以降、新たな星や天文現象が、急速な勢いで次々と発見されてきた。しかし、それは単なる天体の発見に留まらない。歴代の宇宙望遠鏡の観測から得られたデータを詳細に分析することによって、私たちはいま、「地球はどのように生まれたのか」「宇宙はなぜ誕生したのか」「私たちはどこから来たのか」ということさえ、知ろうとしているのだ』、「138億年前にビッグバンが発生したが、その際に生まれた元素は、水素(H)とヘリウム(He)と、ほんのわずかなリチウム(Li)とベリリウム(Be)などだけ。つまり、「水兵リーベ」の冒頭に並ぶ軽い元素だけだ・・・ビッグバンで生まれた水素やヘリウムは、ガスやチリとなって宇宙を漂っていた。やがてそれらは重力によって集積し、その結果、星が生まれた。その内部では核融合反応がはじまり、水素からヘリウムが合成され、ヘリウムからは炭素が合成され、さらに炭素は酸素、そしてケイ素などへと変容し、最後は鉄(Fe)が生成されていった・・・その星が寿命を迎えて爆発すると、それら元素は拡散して宇宙を漂い、やがてその元素を材料にして、また新たな星が生まれる。こうした宇宙の営みが繰り返される間に、やがて生命が誕生した。つまり、私たちの身体は、かつてどこかに存在した恒星の内部で生成された元素でできているといえる・・・歴代の宇宙望遠鏡の観測から得られたデータを詳細に分析することによって、私たちはいま、「地球はどのように生まれたのか」「宇宙はなぜ誕生したのか」「私たちはどこから来たのか」ということさえ、知ろうとしているのだ」、なるほど。
次に、昨年5月16日付けAERAdot「直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/articles/-/194734?page=1
・『自然科学の分野では、偶然によって新たな事実が発見されることがある。太陽の8倍以上の質量をもつ恒星が爆発するとき、極度にエネルギーが高い「ガンマ線バースト」が発せられる場合があるが、この天文現象はアメリカが打ち上げた軍事衛星によって偶然発見された。宇宙望遠鏡による天文観測は1960年代にはじまったが、その契機ともなったこの軍事衛星について、拙著『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』をもとに紹介したい。 アメリカ、イギリス、旧ソ連は、1963年に「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する。米国は1963年から1970年にかけ、AとBの2機からなるヴェラをワンセットにして、計6回、12機のヴェラを打ち上げた。 1967年4月28日に打ち上げられた「ヴェラ4号」がある日、奇妙なデータを補足する。ロスアラモス国立研究所の研究員が調査した結果、それは大気圏内からではなく、宇宙から飛来したガンマ線であることが判明。続いて打ち上げられた5号(1969年5月)と6号(1970年4月)も、同様のガンマ線を複数捕捉し、その発生源の位置を割り出すことに成功した。結果、それは人類にとって未知の天文現象である「ガンマ線バースト」から発せられたものであることが突き止められた。 ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている。) 謎のガンマ線が宇宙から降り注いでいることがヴェラによって判明すると、各国は本格的に天文観測衛星を打ち上げはじめた。1970年にNASAが打ち上げた世界初のX線観測衛星「SAS-A ウフル」もその一機だ。ガンマ線バーストやブラックホールなど、高エネルギーな電磁波が放出される天文現象では、ガンマ線のほかにX線などが放出される。それを検知する天文観測衛星である。 ウフルは、「はくちょう座」にある超巨星を重点的に観測した。この星は、ペアとなるもうひとつの恒星との共通の重心を周る「連星(双子星)」である。太陽の30倍もの質量を持つこの超巨星が、他の何者かによって、操られるかのように奇妙な軌道を描くからには、その相手の天体はさらに大きな質量を持っていると予想された。しかし、その星が見つからない。つまり、この超巨星とペアを組む相手は、見えないブラックホールである可能性が高い。 ウフルは、見えない相手(主星)がいると予想される領域を重点的に観測した。その結果、強いX線の放射を発見した。これが史上はじめて特定されたブラックホールの有力候補である。後日この天体は「はくちょう座X-1」と命名された。 1960年代、ヴェラによってガンマ線バーストが偶然発見され、1970年代にはウフルがブラックホールの候補を特定した。人類にとって未知であったそれらの天体を発見してから半世紀が過ぎた2019年には、ブラックホールの間接的撮影にも成功し、2021年からはブラックホールのマップ作製も開始されている。 宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ。しかし、この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない』、「太陽の8倍以上の質量をもつ恒星が爆発するとき、極度にエネルギーが高い「ガンマ線バースト」が発せられる場合があるが、この天文現象はアメリカが打ち上げた軍事衛星によって偶然発見された・・・「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する。米国は1963年から1970年にかけ、AとBの2機からなるヴェラをワンセットにして、計6回、12機のヴェラを打ち上げた。 1967年4月28日に打ち上げられた「ヴェラ4号」がある日、奇妙なデータを補足する。ロスアラモス国立研究所の研究員が調査した結果、それは大気圏内からではなく、宇宙から飛来したガンマ線であることが判明。続いて打ち上げられた5号(1969年5月)と6号(1970年4月)も、同様のガンマ線を複数捕捉し、その発生源の位置を割り出すことに成功した。結果、それは人類にとって未知の天文現象である「ガンマ線バースト」から発せられたものであることが突き止められた。 ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている・・・いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ。しかし、この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない」、早く解明されることを期待する。
第三に、本年7月31日付け東洋経済オンラインが掲載した DigitalBlast 代表取締役CEOの堀口 真吾氏による「宇宙ビジネスが活発なアメリカと日本の決定的差 「リスクを避ける組織文化」を乗り越えるには」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/784154?display=b
・『小型ライフサイエンス実験装置の研究開発を行う会社や、企業のDXや宇宙ビジネスコンサルティングを行う会社の代表も務め、宇宙利用の拡大を目指している堀口真吾さんは、次のように話します。 「今、世界中で勢いを増す宇宙ビジネスの状況は、世界を変えたIT革命前夜と同じであるように感じます。まさに宇宙が社会を変える、『スペース・トランスフォーメーション』が起きつつあり、宇宙という場を利用していかに価値を生み出していくかが問われています」 今後ISSが退役し「ポストISS」といわれる時代になるに際し、どのような設備・機能・サービスがあればいいのか。また、宇宙にはどのような特徴があり、環境としてどのように使うことができるのかをつづった『スペース・トランスフォーメーション』より、一部抜粋・再構成してお届けします』、興味深そうだ。
・『日本の宇宙産業に求められる「民間開放」 宇宙産業は、産業育成という側面があまり重視されない期間が長く続きました。そのため、実績ある企業のみが継続して宇宙事業に取り組むこととなり、その結果、経験やノウハウの蓄積に偏りが生じて新規参入のハードルも高くなったことで、産業としての広がりが見られなかったのです。 実績のないスタートアップに投資し、一から育てた米国政府と違い、日本政府は民間を活用する事業を実施しようという場合に、まず「過去の実績」や「会社の規模」を問います。おそらく、「国民の税金を使うため、可能な限り失敗を避ける」ことを優先するためでしょう。 確かに、公共事業において、可能な限り失敗を避け、無駄な税金を使わないという考え方は重要です。しかし、新分野の産業を振興する際、政府がある程度の失敗を許容し、前進していく意識を持たなければ、民間の活力を生かして産業を発展させることは不可能です。) 政府は2023年11月、宇宙ビジネスの競争力を高めるため、10年で1兆円の「宇宙戦略基金」を創設することを決めました。宇宙領域のスタートアップ企業の育成や他分野からの参入の促進を狙いにしています。企業はこれを好機と捉え、「どうすれば官の資金を有効に使えるか」を考えていく必要があります』、「実績のないスタートアップに投資し、一から育てた米国政府と違い、日本政府は民間を活用する事業を実施しようという場合に、まず「過去の実績」や「会社の規模」を問います。おそらく、「国民の税金を使うため、可能な限り失敗を避ける」ことを優先するためでしょう・・・10年で1兆円の「宇宙戦略基金」を創設することを決めました。宇宙領域のスタートアップ企業の育成や他分野からの参入の促進を狙いにしています。企業はこれを好機と捉え、「どうすれば官の資金を有効に使えるか」を考えていく必要があります」、なるほど。
・『政府には「目利きの力」が必要 では、今後はどうすれば良いのか。政府はまず、新産業をもたらすチャレンジである宇宙産業については、一般の公共事業と一線を画し、日本にとって将来有益となる投資だという認識を持って、政策を立案、実行していく必要があります。 米国のように実績のない企業であっても入札などで選定できるようになるには、真の技術力や実行力を見抜く「目利きの力」が必要です。また、民間企業が投資できない、経済的効果に直接つながるわけではない宇宙基礎科学の分野に特化して資金を投入すべきです。持続的に科学振興を推進した結果、イノベーションが興り、経済活動の発展に結び付いた事例は多くあります。 米国はハッブル宇宙望遠鏡や火星探査機シリーズ、火星の表面を走破した無人探査機「スピリット」「オポチュニティ」など、宇宙科学分野で次々と成果を上げてきました。そうした積み重ねがあったからこそ、民間企業側から「宇宙旅行」「火星移住計画」といった目標が登場し、SpaceXをはじめとした企業が躍進して、経済活動と力強く結び付くに至ったのです。 民間企業はどうすれば良いのでしょうか。日本の宇宙産業はプレーヤーが限定された状態が長く続いてきました。まず、多くの企業が宇宙産業に自社が加わる可能性を検討し、宇宙産業の裾野を拡大して多様な挑戦を行う意欲を高めることが必要です。宇宙に関連した大規模な産業が創出されることを見据え、自社のサービス・製品を宇宙産業にどう生かすべきか、今こそ各企業が真剣に探索してほしいと願っています。) 現在、産業界の新潮流はIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)、ビッグデータなどのデジタルビジネスです。日本はこの新潮流に乗り遅れています。デジタルビジネスは米国を中心に動いています。 なぜ、日本はデジタルビジネスに乗り遅れたのでしょうか。「もの売りビジネスからデジタルビジネス(サービス化)にシフトできなかった」「グローバル化の遅れ」など、さまざまな理由が挙げられますが、その根本にあるのは「リスクを避ける組織文化」にあると、私は考えます』、「米国はハッブル宇宙望遠鏡や火星探査機シリーズ、火星の表面を走破した無人探査機「スピリット」「オポチュニティ」など、宇宙科学分野で次々と成果を上げてきました。そうした積み重ねがあったからこそ、民間企業側から「宇宙旅行」「火星移住計画」といった目標が登場し、SpaceXをはじめとした企業が躍進して、経済活動と力強く結び付くに至ったのです・・・多くの企業が宇宙産業に自社が加わる可能性を検討し、宇宙産業の裾野を拡大して多様な挑戦を行う意欲を高めることが必要です。宇宙に関連した大規模な産業が創出されることを見据え、自社のサービス・製品を宇宙産業にどう生かすべきか、今こそ各企業が真剣に探索してほしいと願っています・・・デジタルビジネスは米国を中心に動いています。 なぜ、日本はデジタルビジネスに乗り遅れたのでしょうか。「もの売りビジネスからデジタルビジネス(サービス化)にシフトできなかった」「グローバル化の遅れ」など、さまざまな理由が挙げられますが、その根本にあるのは「リスクを避ける組織文化」にあると、私は考えます」、なるほど。
・『宇宙ビジネスというニューフロンティア 日本は国内市場がそれなりに大きいため、新たなビジネス展開や海外展開に打って出るよりも、既存ビジネスの延長線上でビジネスを広げることがリスクの最小化につながるという発想にとどまっています。 しかし現実には、日本はすでに人口減少が始まっていて、国内市場は中長期的な視点では決して安泰ではありません。それなのに、中長期的視点から新機軸のビジネス展開に取り組む動きは活発ではありません。 これは、かつてさまざまなイノベーションを起こしてきた日本企業の多くで創業者が引退し、成長に伴って組織が大きくなったことで意思決定のスピードが以前より遅くなったこと、過去の成功に基づいて収益を上げるための組織構造・組織文化が強固に出来上がっているからこそ、急激な社会・経済状況の変化に対応できてない面があるといえます。) こうした組織文化を変革するためにも、私は日本の大企業が宇宙ビジネスに目を向け、宇宙ビジネスをニューフロンティアと位置付けて真剣に取り組むことを期待しています』、「成長に伴って組織が大きくなったことで意思決定のスピードが以前より遅くなったこと、過去の成功に基づいて収益を上げるための組織構造・組織文化が強固に出来上がっているからこそ、急激な社会・経済状況の変化に対応できてない面があるといえます。) こうした組織文化を変革するためにも、私は日本の大企業が宇宙ビジネスに目を向け、宇宙ビジネスをニューフロンティアと位置付けて真剣に取り組むことを期待しています」、なるほど。
・『宇宙は本当にビジネスになるのか 株主などのステークホルダーからは「宇宙は本当にビジネスになるのか」といった疑問の声が出てくることでしょう。しかし、宇宙には「金のなる木」がいくらでも存在します。 例えば、太陽系には、地球上では希少で価値の高いレアアースを多く含むとみられる小惑星があります。月には常に太陽に面している場所があり、エネルギー創出の場として注目されています。 また、宇宙を舞台とした映画や広告の制作、宇宙旅行など、宇宙エンターテインメントも活発になるでしょう。つまり、発想次第で可能性は無限に広がるのです。 大企業が積極的に投資をすると、リスクは軽減されます。しかし、一度確立した組織文化を変えることは難しいため、少しずつ変革する必要があります。そのきっかけとして、既存事業とは別物で飛躍が必要な宇宙ビジネスを活用できるのではないでしょうか。 どんな企業でも、宇宙ビジネスは新規事業と位置付けることができます。それだけでなく、市場が国内に閉じていないため、最初からグローバルな視点で取り組むことになります。いきなりロケット開発や資源探査事業に参画するのは難しいかもしれませんが、まずは自社にとって身近な分野から段階的に始めるのが良いでしょう。GPSや衛星リモートセンシングなど、宇宙データの活用からスモールスタートを切る方法も一案だと思います』、「宇宙には「金のなる木」がいくらでも存在します。 例えば、太陽系には、地球上では希少で価値の高いレアアースを多く含むとみられる小惑星があります。月には常に太陽に面している場所があり、エネルギー創出の場として注目されています。 また、宇宙を舞台とした映画や広告の制作、宇宙旅行など、宇宙エンターテインメントも活発になるでしょう。つまり、発想次第で可能性は無限に広がるのです・・・既存事業とは別物で飛躍が必要な宇宙ビジネスを活用できるのではないでしょうか。 どんな企業でも、宇宙ビジネスは新規事業と位置付けることができます。それだけでなく、市場が国内に閉じていないため、最初からグローバルな視点で取り組むことになります。いきなりロケット開発や資源探査事業に参画するのは難しいかもしれませんが、まずは自社にとって身近な分野から段階的に始めるのが良いでしょう。GPSや衛星リモートセンシングなど、宇宙データの活用からスモールスタートを切る方法も一案だと思います」、その通りだ。
先ずは、昨年5月14日付けAERAdot「人間の身体は「星の爆発」から生まれた? 宇宙望遠鏡が教えてくれた「私たちはどこから来たのか」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/articles/-/194728?page=1
・『1960年代以降、人類は100機以上の宇宙望遠鏡を打ち上げてきた。そしていま現在も20機以上の観測機が軌道上にあり、宇宙の謎を解き明かすデータを日々大量に送り続けている。 そもそも、なぜ望遠鏡を宇宙に打ち上げなければならないのか? それによって私たちは何を知ろうとしているのか? 国立天文台の縣秀彦氏に監修をいただいた拙著『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』から、そのヒントを紹介したい。 私たちが星を観ようとするとき、それは夜に限られる。夜であっても天候が悪く、雲があれば見ることができない。また、揺らぐ大気によって星は瞬くため、望遠鏡を使用しても星の姿を鮮明に観測することは難しい。こうした制約から逃れる唯一の方法が、宇宙に望遠鏡を設置することだ。宇宙空間であればつねに星が観測でき、同じ光度で輝き続けるため、精度の高い観測が可能になる。 宇宙から天体を観測するもうひとつの理由として挙げられるのは、「電磁波の性質」の活用だ。 電磁波とは、医療機器にも使用される「ガンマ線」や「X線」、私たちの肌を痛める「紫外線」、ヒトが目で見ることができる「可視光線」、テレビのリモコンにも使用される「赤外線」、テレビやラジオに使用される「電波」に大別される。そして星々は、私たちが目視できる可視光線だけでなく、じつにさまざまな「光」や「電波」を発していて、これらを幅広く観測することで、その星の実体をより正確に知ることができるのだ。) では、それぞれの電磁波は何が違うのか。「波長の長さ」だ。 上のイラストを見ると、波長の短いガンマ線がいちばん左に描かれ、右にいくほど波長が長くなる。そして、宇宙から降り注ぐこれらの電磁波のうち、地上に到達しているのは主に「可視光線」と「電波」だけだ(マイクロ波は電波の一種)。つまり、それ以外のガンマ線やX線、紫外線、赤外線の大部分は、大気に吸収されて地上に届かず、地上からは十分に観測できない。 地上にも大型望遠鏡は数多くあるが、それらは「可視光線」を観測するための望遠鏡、または「電波望遠鏡」がほとんどだ。例外は、「近赤外線」。可視光線に近接する波長を持つ「近赤外線」は、可視光線に対して開かれた「大気の窓」をギリギリにかすめて地上に届く。そのため近赤外線を観測する望遠鏡も地上に建設されている。 天文観測において、もうひとつ面白い法則がある。星が放つ光や電波などの電磁波を観測すれば、その星がどんな成分で出来ているのかがわかるのだ。 ヒトの目に見える可視光線は、プリズムを通すと7色に分解できる。これを「分光」という。また、分光された光が虹のようにズラリと並んだものを「スペクトル」という。スペクトルが並ぶ順番はつねに決まっていて、その色の違いは、すなわち波長の違いを意味する。 ここで重要なのは、可視光線が虹のように分光できるのと同じように、ガンマ線、X線、紫外線、赤外線、電波もスペクトルに分解できるという点だ。 宇宙望遠鏡に搭載された主鏡は、星が発する光(電磁波)をレンズで集める。その光を「分光器」(スペクトロメータ)で波長ごとに分解し、そのデータを地上局に送る。こうした一連の作業が、宇宙望遠鏡に課せられた主な役割だ。望遠鏡や分光器の仕組みは電磁波の種類によって異なるため、多くの機体においては「X線観測機」や「赤外線宇宙望遠鏡」など、特定の光を観測する専用機として開発されることが多い。) 天文観測においてこの分光が重要なのは、何万光年も離れた星が発した電磁波を分光することにより、その天体を形成する物質の種類、量、比率のほか、天体の表面温度などが把握できる点にある。また、地球から遠ざかる星は赤く、近づく星は青く見えるため、その光の波長を調べることで、星の運動さえ分析することができる。 前述の国立天文台・縣氏監修の『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』では、これらを詳細に解説しているが、ここでは簡単に、星の成分について紹介したい。 上のイラストは、ハッブルがとらえた「イータカリーナ星雲」のスペクトルを表したものだ。タテに白く見える線は「輝線」(きせん)と呼ばれ、とくに強い波長を示している。この輝線は、特定の物質によって生まれる。つまり、何万光年も離れた星が放った光を、分光器を通してスペクトルに分解し、どの波長が強く、どんな組み合わせで表れるかを調べれば、その星の構成元素を知ることができるのだ。このイータカリーナ星雲のスペクトルからは、Fe(鉄)やNi(ニッケル)が検出されていることがわかる。 138億年前にビッグバンが発生したが、その際に生まれた元素は、水素(H)とヘリウム(He)と、ほんのわずかなリチウム(Li)とベリリウム(Be)などだけ。つまり、「水兵リーベ」の冒頭に並ぶ軽い元素だけだ。しかし、私たちの身体は、主に酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、カルシウム(Ca)などからなり、微量元素としては鉄(Fe)、フッ素(F)、ケイ素(Si)なども含まれる。こうした多様な元素は、どこで生まれたのか? ビッグバンで生まれた水素やヘリウムは、ガスやチリとなって宇宙を漂っていた。やがてそれらは重力によって集積し、その結果、星が生まれた。その内部では核融合反応がはじまり、水素からヘリウムが合成され、ヘリウムからは炭素が合成され、さらに炭素は酸素、そしてケイ素などへと変容し、最後は鉄(Fe)が生成されていった。) その星が寿命を迎えて爆発すると、それら元素は拡散して宇宙を漂い、やがてその元素を材料にして、また新たな星が生まれる。こうした宇宙の営みが繰り返される間に、やがて生命が誕生した。つまり、私たちの身体は、かつてどこかに存在した恒星の内部で生成された元素でできているといえる。 宇宙望遠鏡がはじめて打ち上げられた1960年代以降、新たな星や天文現象が、急速な勢いで次々と発見されてきた。しかし、それは単なる天体の発見に留まらない。歴代の宇宙望遠鏡の観測から得られたデータを詳細に分析することによって、私たちはいま、「地球はどのように生まれたのか」「宇宙はなぜ誕生したのか」「私たちはどこから来たのか」ということさえ、知ろうとしているのだ』、「138億年前にビッグバンが発生したが、その際に生まれた元素は、水素(H)とヘリウム(He)と、ほんのわずかなリチウム(Li)とベリリウム(Be)などだけ。つまり、「水兵リーベ」の冒頭に並ぶ軽い元素だけだ・・・ビッグバンで生まれた水素やヘリウムは、ガスやチリとなって宇宙を漂っていた。やがてそれらは重力によって集積し、その結果、星が生まれた。その内部では核融合反応がはじまり、水素からヘリウムが合成され、ヘリウムからは炭素が合成され、さらに炭素は酸素、そしてケイ素などへと変容し、最後は鉄(Fe)が生成されていった・・・その星が寿命を迎えて爆発すると、それら元素は拡散して宇宙を漂い、やがてその元素を材料にして、また新たな星が生まれる。こうした宇宙の営みが繰り返される間に、やがて生命が誕生した。つまり、私たちの身体は、かつてどこかに存在した恒星の内部で生成された元素でできているといえる・・・歴代の宇宙望遠鏡の観測から得られたデータを詳細に分析することによって、私たちはいま、「地球はどのように生まれたのか」「宇宙はなぜ誕生したのか」「私たちはどこから来たのか」ということさえ、知ろうとしているのだ」、なるほど。
次に、昨年5月16日付けAERAdot「直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/articles/-/194734?page=1
・『自然科学の分野では、偶然によって新たな事実が発見されることがある。太陽の8倍以上の質量をもつ恒星が爆発するとき、極度にエネルギーが高い「ガンマ線バースト」が発せられる場合があるが、この天文現象はアメリカが打ち上げた軍事衛星によって偶然発見された。宇宙望遠鏡による天文観測は1960年代にはじまったが、その契機ともなったこの軍事衛星について、拙著『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』をもとに紹介したい。 アメリカ、イギリス、旧ソ連は、1963年に「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する。米国は1963年から1970年にかけ、AとBの2機からなるヴェラをワンセットにして、計6回、12機のヴェラを打ち上げた。 1967年4月28日に打ち上げられた「ヴェラ4号」がある日、奇妙なデータを補足する。ロスアラモス国立研究所の研究員が調査した結果、それは大気圏内からではなく、宇宙から飛来したガンマ線であることが判明。続いて打ち上げられた5号(1969年5月)と6号(1970年4月)も、同様のガンマ線を複数捕捉し、その発生源の位置を割り出すことに成功した。結果、それは人類にとって未知の天文現象である「ガンマ線バースト」から発せられたものであることが突き止められた。 ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている。) 謎のガンマ線が宇宙から降り注いでいることがヴェラによって判明すると、各国は本格的に天文観測衛星を打ち上げはじめた。1970年にNASAが打ち上げた世界初のX線観測衛星「SAS-A ウフル」もその一機だ。ガンマ線バーストやブラックホールなど、高エネルギーな電磁波が放出される天文現象では、ガンマ線のほかにX線などが放出される。それを検知する天文観測衛星である。 ウフルは、「はくちょう座」にある超巨星を重点的に観測した。この星は、ペアとなるもうひとつの恒星との共通の重心を周る「連星(双子星)」である。太陽の30倍もの質量を持つこの超巨星が、他の何者かによって、操られるかのように奇妙な軌道を描くからには、その相手の天体はさらに大きな質量を持っていると予想された。しかし、その星が見つからない。つまり、この超巨星とペアを組む相手は、見えないブラックホールである可能性が高い。 ウフルは、見えない相手(主星)がいると予想される領域を重点的に観測した。その結果、強いX線の放射を発見した。これが史上はじめて特定されたブラックホールの有力候補である。後日この天体は「はくちょう座X-1」と命名された。 1960年代、ヴェラによってガンマ線バーストが偶然発見され、1970年代にはウフルがブラックホールの候補を特定した。人類にとって未知であったそれらの天体を発見してから半世紀が過ぎた2019年には、ブラックホールの間接的撮影にも成功し、2021年からはブラックホールのマップ作製も開始されている。 宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ。しかし、この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない』、「太陽の8倍以上の質量をもつ恒星が爆発するとき、極度にエネルギーが高い「ガンマ線バースト」が発せられる場合があるが、この天文現象はアメリカが打ち上げた軍事衛星によって偶然発見された・・・「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する。米国は1963年から1970年にかけ、AとBの2機からなるヴェラをワンセットにして、計6回、12機のヴェラを打ち上げた。 1967年4月28日に打ち上げられた「ヴェラ4号」がある日、奇妙なデータを補足する。ロスアラモス国立研究所の研究員が調査した結果、それは大気圏内からではなく、宇宙から飛来したガンマ線であることが判明。続いて打ち上げられた5号(1969年5月)と6号(1970年4月)も、同様のガンマ線を複数捕捉し、その発生源の位置を割り出すことに成功した。結果、それは人類にとって未知の天文現象である「ガンマ線バースト」から発せられたものであることが突き止められた。 ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている・・・いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ。しかし、この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない」、早く解明されることを期待する。
第三に、本年7月31日付け東洋経済オンラインが掲載した DigitalBlast 代表取締役CEOの堀口 真吾氏による「宇宙ビジネスが活発なアメリカと日本の決定的差 「リスクを避ける組織文化」を乗り越えるには」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/784154?display=b
・『小型ライフサイエンス実験装置の研究開発を行う会社や、企業のDXや宇宙ビジネスコンサルティングを行う会社の代表も務め、宇宙利用の拡大を目指している堀口真吾さんは、次のように話します。 「今、世界中で勢いを増す宇宙ビジネスの状況は、世界を変えたIT革命前夜と同じであるように感じます。まさに宇宙が社会を変える、『スペース・トランスフォーメーション』が起きつつあり、宇宙という場を利用していかに価値を生み出していくかが問われています」 今後ISSが退役し「ポストISS」といわれる時代になるに際し、どのような設備・機能・サービスがあればいいのか。また、宇宙にはどのような特徴があり、環境としてどのように使うことができるのかをつづった『スペース・トランスフォーメーション』より、一部抜粋・再構成してお届けします』、興味深そうだ。
・『日本の宇宙産業に求められる「民間開放」 宇宙産業は、産業育成という側面があまり重視されない期間が長く続きました。そのため、実績ある企業のみが継続して宇宙事業に取り組むこととなり、その結果、経験やノウハウの蓄積に偏りが生じて新規参入のハードルも高くなったことで、産業としての広がりが見られなかったのです。 実績のないスタートアップに投資し、一から育てた米国政府と違い、日本政府は民間を活用する事業を実施しようという場合に、まず「過去の実績」や「会社の規模」を問います。おそらく、「国民の税金を使うため、可能な限り失敗を避ける」ことを優先するためでしょう。 確かに、公共事業において、可能な限り失敗を避け、無駄な税金を使わないという考え方は重要です。しかし、新分野の産業を振興する際、政府がある程度の失敗を許容し、前進していく意識を持たなければ、民間の活力を生かして産業を発展させることは不可能です。) 政府は2023年11月、宇宙ビジネスの競争力を高めるため、10年で1兆円の「宇宙戦略基金」を創設することを決めました。宇宙領域のスタートアップ企業の育成や他分野からの参入の促進を狙いにしています。企業はこれを好機と捉え、「どうすれば官の資金を有効に使えるか」を考えていく必要があります』、「実績のないスタートアップに投資し、一から育てた米国政府と違い、日本政府は民間を活用する事業を実施しようという場合に、まず「過去の実績」や「会社の規模」を問います。おそらく、「国民の税金を使うため、可能な限り失敗を避ける」ことを優先するためでしょう・・・10年で1兆円の「宇宙戦略基金」を創設することを決めました。宇宙領域のスタートアップ企業の育成や他分野からの参入の促進を狙いにしています。企業はこれを好機と捉え、「どうすれば官の資金を有効に使えるか」を考えていく必要があります」、なるほど。
・『政府には「目利きの力」が必要 では、今後はどうすれば良いのか。政府はまず、新産業をもたらすチャレンジである宇宙産業については、一般の公共事業と一線を画し、日本にとって将来有益となる投資だという認識を持って、政策を立案、実行していく必要があります。 米国のように実績のない企業であっても入札などで選定できるようになるには、真の技術力や実行力を見抜く「目利きの力」が必要です。また、民間企業が投資できない、経済的効果に直接つながるわけではない宇宙基礎科学の分野に特化して資金を投入すべきです。持続的に科学振興を推進した結果、イノベーションが興り、経済活動の発展に結び付いた事例は多くあります。 米国はハッブル宇宙望遠鏡や火星探査機シリーズ、火星の表面を走破した無人探査機「スピリット」「オポチュニティ」など、宇宙科学分野で次々と成果を上げてきました。そうした積み重ねがあったからこそ、民間企業側から「宇宙旅行」「火星移住計画」といった目標が登場し、SpaceXをはじめとした企業が躍進して、経済活動と力強く結び付くに至ったのです。 民間企業はどうすれば良いのでしょうか。日本の宇宙産業はプレーヤーが限定された状態が長く続いてきました。まず、多くの企業が宇宙産業に自社が加わる可能性を検討し、宇宙産業の裾野を拡大して多様な挑戦を行う意欲を高めることが必要です。宇宙に関連した大規模な産業が創出されることを見据え、自社のサービス・製品を宇宙産業にどう生かすべきか、今こそ各企業が真剣に探索してほしいと願っています。) 現在、産業界の新潮流はIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)、ビッグデータなどのデジタルビジネスです。日本はこの新潮流に乗り遅れています。デジタルビジネスは米国を中心に動いています。 なぜ、日本はデジタルビジネスに乗り遅れたのでしょうか。「もの売りビジネスからデジタルビジネス(サービス化)にシフトできなかった」「グローバル化の遅れ」など、さまざまな理由が挙げられますが、その根本にあるのは「リスクを避ける組織文化」にあると、私は考えます』、「米国はハッブル宇宙望遠鏡や火星探査機シリーズ、火星の表面を走破した無人探査機「スピリット」「オポチュニティ」など、宇宙科学分野で次々と成果を上げてきました。そうした積み重ねがあったからこそ、民間企業側から「宇宙旅行」「火星移住計画」といった目標が登場し、SpaceXをはじめとした企業が躍進して、経済活動と力強く結び付くに至ったのです・・・多くの企業が宇宙産業に自社が加わる可能性を検討し、宇宙産業の裾野を拡大して多様な挑戦を行う意欲を高めることが必要です。宇宙に関連した大規模な産業が創出されることを見据え、自社のサービス・製品を宇宙産業にどう生かすべきか、今こそ各企業が真剣に探索してほしいと願っています・・・デジタルビジネスは米国を中心に動いています。 なぜ、日本はデジタルビジネスに乗り遅れたのでしょうか。「もの売りビジネスからデジタルビジネス(サービス化)にシフトできなかった」「グローバル化の遅れ」など、さまざまな理由が挙げられますが、その根本にあるのは「リスクを避ける組織文化」にあると、私は考えます」、なるほど。
・『宇宙ビジネスというニューフロンティア 日本は国内市場がそれなりに大きいため、新たなビジネス展開や海外展開に打って出るよりも、既存ビジネスの延長線上でビジネスを広げることがリスクの最小化につながるという発想にとどまっています。 しかし現実には、日本はすでに人口減少が始まっていて、国内市場は中長期的な視点では決して安泰ではありません。それなのに、中長期的視点から新機軸のビジネス展開に取り組む動きは活発ではありません。 これは、かつてさまざまなイノベーションを起こしてきた日本企業の多くで創業者が引退し、成長に伴って組織が大きくなったことで意思決定のスピードが以前より遅くなったこと、過去の成功に基づいて収益を上げるための組織構造・組織文化が強固に出来上がっているからこそ、急激な社会・経済状況の変化に対応できてない面があるといえます。) こうした組織文化を変革するためにも、私は日本の大企業が宇宙ビジネスに目を向け、宇宙ビジネスをニューフロンティアと位置付けて真剣に取り組むことを期待しています』、「成長に伴って組織が大きくなったことで意思決定のスピードが以前より遅くなったこと、過去の成功に基づいて収益を上げるための組織構造・組織文化が強固に出来上がっているからこそ、急激な社会・経済状況の変化に対応できてない面があるといえます。) こうした組織文化を変革するためにも、私は日本の大企業が宇宙ビジネスに目を向け、宇宙ビジネスをニューフロンティアと位置付けて真剣に取り組むことを期待しています」、なるほど。
・『宇宙は本当にビジネスになるのか 株主などのステークホルダーからは「宇宙は本当にビジネスになるのか」といった疑問の声が出てくることでしょう。しかし、宇宙には「金のなる木」がいくらでも存在します。 例えば、太陽系には、地球上では希少で価値の高いレアアースを多く含むとみられる小惑星があります。月には常に太陽に面している場所があり、エネルギー創出の場として注目されています。 また、宇宙を舞台とした映画や広告の制作、宇宙旅行など、宇宙エンターテインメントも活発になるでしょう。つまり、発想次第で可能性は無限に広がるのです。 大企業が積極的に投資をすると、リスクは軽減されます。しかし、一度確立した組織文化を変えることは難しいため、少しずつ変革する必要があります。そのきっかけとして、既存事業とは別物で飛躍が必要な宇宙ビジネスを活用できるのではないでしょうか。 どんな企業でも、宇宙ビジネスは新規事業と位置付けることができます。それだけでなく、市場が国内に閉じていないため、最初からグローバルな視点で取り組むことになります。いきなりロケット開発や資源探査事業に参画するのは難しいかもしれませんが、まずは自社にとって身近な分野から段階的に始めるのが良いでしょう。GPSや衛星リモートセンシングなど、宇宙データの活用からスモールスタートを切る方法も一案だと思います』、「宇宙には「金のなる木」がいくらでも存在します。 例えば、太陽系には、地球上では希少で価値の高いレアアースを多く含むとみられる小惑星があります。月には常に太陽に面している場所があり、エネルギー創出の場として注目されています。 また、宇宙を舞台とした映画や広告の制作、宇宙旅行など、宇宙エンターテインメントも活発になるでしょう。つまり、発想次第で可能性は無限に広がるのです・・・既存事業とは別物で飛躍が必要な宇宙ビジネスを活用できるのではないでしょうか。 どんな企業でも、宇宙ビジネスは新規事業と位置付けることができます。それだけでなく、市場が国内に閉じていないため、最初からグローバルな視点で取り組むことになります。いきなりロケット開発や資源探査事業に参画するのは難しいかもしれませんが、まずは自社にとって身近な分野から段階的に始めるのが良いでしょう。GPSや衛星リモートセンシングなど、宇宙データの活用からスモールスタートを切る方法も一案だと思います」、その通りだ。
タグ:宇宙 (その1)(人間の身体は「星の爆発」から生まれた? 宇宙望遠鏡が教えてくれた「私たちはどこから来たのか」、直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?、宇宙ビジネスが活発なアメリカと日本の決定的差 「リスクを避ける組織文化」を乗り越えるには) AERAdot「人間の身体は「星の爆発」から生まれた? 宇宙望遠鏡が教えてくれた「私たちはどこから来たのか」」 「138億年前にビッグバンが発生したが、その際に生まれた元素は、水素(H)とヘリウム(He)と、ほんのわずかなリチウム(Li)とベリリウム(Be)などだけ。つまり、「水兵リーベ」の冒頭に並ぶ軽い元素だけだ・・・ビッグバンで生まれた水素やヘリウムは、ガスやチリとなって宇宙を漂っていた。やがてそれらは重力によって集積し、その結果、星が生まれた。その内部では核融合反応がはじまり、水素からヘリウムが合成され、ヘリウムからは炭素が合成され、さらに炭素は酸素、そしてケイ素などへと変容し、最後は鉄(Fe)が生成されてい った・・・その星が寿命を迎えて爆発すると、それら元素は拡散して宇宙を漂い、やがてその元素を材料にして、また新たな星が生まれる。こうした宇宙の営みが繰り返される間に、やがて生命が誕生した。つまり、私たちの身体は、かつてどこかに存在した恒星の内部で生成された元素でできているといえる・・・歴代の宇宙望遠鏡の観測から得られたデータを詳細に分析することによって、私たちはいま、「地球はどのように生まれたのか」「宇宙はなぜ誕生したのか」「私たちはどこから来たのか」ということさえ、知ろうとしているのだ」、なるほど。 AERAdot「直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?」 「太陽の8倍以上の質量をもつ恒星が爆発するとき、極度にエネルギーが高い「ガンマ線バースト」が発せられる場合があるが、この天文現象はアメリカが打ち上げた軍事衛星によって偶然発見された・・・「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する。米国は1963年から1970年にかけ、AとBの2機からなるヴェラをワンセットにして、計6回、12機のヴェラを打ち上げた。 1967年4月28日に打ち上げられた「ヴェラ4号」がある日、奇妙なデータを補足する。ロスアラモス国立研究所の研究員が調査した結果、それは大気圏内からではなく、宇宙から飛来したガンマ線であることが判明。続いて打ち上げられた5号(1969年5月)と6号(1970年4月)も、同様のガ ンマ線を複数捕捉し、その発生源の位置を割り出すことに成功した。結果、それは人類にとって未知の天文現象である「ガンマ線バースト」から発せられたものであることが突き止められた。 ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば 中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている・・・いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ。しかし、この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない」、早く解明されることを期待する。 東洋経済オンライン 堀口 真吾氏による「宇宙ビジネスが活発なアメリカと日本の決定的差 「リスクを避ける組織文化」を乗り越えるには」 「実績のないスタートアップに投資し、一から育てた米国政府と違い、日本政府は民間を活用する事業を実施しようという場合に、まず「過去の実績」や「会社の規模」を問います。おそらく、「国民の税金を使うため、可能な限り失敗を避ける」ことを優先するためでしょう・・・10年で1兆円の「宇宙戦略基金」を創設することを決めました。 宇宙領域のスタートアップ企業の育成や他分野からの参入の促進を狙いにしています。企業はこれを好機と捉え、「どうすれば官の資金を有効に使えるか」を考えていく必要があります」、なるほど。 「米国はハッブル宇宙望遠鏡や火星探査機シリーズ、火星の表面を走破した無人探査機「スピリット」「オポチュニティ」など、宇宙科学分野で次々と成果を上げてきました。そうした積み重ねがあったからこそ、民間企業側から「宇宙旅行」「火星移住計画」といった目標が登場し、SpaceXをはじめとした企業が躍進して、経済活動と力強く結び付くに至ったのです・・・ 多くの企業が宇宙産業に自社が加わる可能性を検討し、宇宙産業の裾野を拡大して多様な挑戦を行う意欲を高めることが必要です。宇宙に関連した大規模な産業が創出されることを見据え、自社のサービス・製品を宇宙産業にどう生かすべきか、今こそ各企業が真剣に探索してほしいと願っています・・・デジタルビジネスは米国を中心に動いています。 なぜ、日本はデジタルビジネスに乗り遅れたのでしょうか。「もの売りビジネスからデジタルビジネス(サービス化)にシフトできなかった」「グローバル化の遅れ」など、さまざまな理由が挙げられますが、そ の根本にあるのは「リスクを避ける組織文化」にあると、私は考えます」、なるほど。 「成長に伴って組織が大きくなったことで意思決定のスピードが以前より遅くなったこと、過去の成功に基づいて収益を上げるための組織構造・組織文化が強固に出来上がっているからこそ、急激な社会・経済状況の変化に対応できてない面があるといえます。) こうした組織文化を変革するためにも、私は日本の大企業が宇宙ビジネスに目を向け、宇宙ビジネスをニューフロンティアと位置付けて真剣に取り組むことを期待しています」、なるほど。 「宇宙には「金のなる木」がいくらでも存在します。 例えば、太陽系には、地球上では希少で価値の高いレアアースを多く含むとみられる小惑星があります。月には常に太陽に面している場所があり、エネルギー創出の場として注目されています。 また、宇宙を舞台とした映画や広告の制作、宇宙旅行など、宇宙エンターテインメントも活発になるでしょう。つまり、発想次第で可能性は無限に広がるのです・・・ 既存事業とは別物で飛躍が必要な宇宙ビジネスを活用できるのではないでしょうか。 どんな企業でも、宇宙ビジネスは新規事業と位置付けることができます。それだけでなく、市場が国内に閉じていないため、最初からグローバルな視点で取り組むことになります。いきなりロケット開発や資源探査事業に参画するのは難しいかもしれませんが、まずは自社にとって身近な分野から段階的に始めるのが良いでしょう。GPSや衛星リモートセンシングなど、宇宙データの活用からスモールスタートを切る方法も一案だと思います」、その通りだ。
生命科学(その3)(ヒトの「不死」細胞はすでに存在している驚愕事実 ただし、皆が思い描く不老不死の実現は難しい、「企業に特許を取られるとマズい…」京都大学が特許を取得せざるをえない衝撃のウラ事情…普通とは「180度違う発想」、「AIが人間を事前に逮捕」人間とAIの協力の先に起こりうる衝撃的な「近未来」をノーベル賞科学者・山中伸弥が徹底解説、宇宙のどこかに人間みたいな生命体がいる必然 宇宙物理学者・佐藤勝彦×生物学者・福岡伸一) [科学技術]
生命科学については、2022年1月7日に取上げた。今日は、(その3)(ヒトの「不死」細胞はすでに存在している驚愕事実 ただし、皆が思い描く不老不死の実現は難しい、「企業に特許を取られるとマズい…」京都大学が特許を取得せざるをえない衝撃のウラ事情…普通とは「180度違う発想」、「AIが人間を事前に逮捕」人間とAIの協力の先に起こりうる衝撃的な「近未来」をノーベル賞科学者・山中伸弥が徹底解説、宇宙のどこかに人間みたいな生命体がいる必然)である。
先ずは、本年1月21日付け東洋経済オンラインが掲載した 慶應義塾大学 環境情報学部 教授の黒田 裕樹 氏による「ヒトの「不死」細胞はすでに存在している驚愕事実 ただし、皆が思い描く不老不死の実現は難しい」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/727921
・『「永遠の命を実現する技術など、この世にはない」というのが一般的な考え方でしょう。しかし、永遠の命をどのように定義するかによっては、すでに実現されている技術もあるのだとか。 それは一体どのような技術なのか。永遠の命、不老不死は実現可能なのか?分子生物学者の黒田裕樹さんが解説します。 ※本稿は『希望の分子生物学: 私たちの「生命観」を書き換える』から一部抜粋・再構成したものです』、興味深そうだ。
・『不老不死にあこがれてきた人類 不老不死の願いは、時代や文化、性別や年齢を問わず、多くの人々が抱くものです。この願いを叶えるヒントがバイオ技術には隠されているかもしれません。 最近日本で人気を博したアニメ『鬼滅の刃』では、鬼になることで不老不死になれるという設定になっていました。ただし、鬼になると、直射日光を避ける必要がある、一般的な食事を楽しめないなどの制約がつきます。とはいえ、満身創痍でまさに死の淵にある時であれば、それらの条件を受け入れる人も一定数いることでしょう。 また、『ハリー・ポッター』シリーズでは、主要な悪役ヴォルデモートが永遠の命を求め、「ホーキュクス」という古代の闇の魔法を使う決意をします。それは、すなわちハリー・ポッターに関する大きな秘密にもなります。つまり、不老不死への追求とその困難さが、シリーズの重要なテーマとして描かれているわけです。 バイオを志す大学の新入生と話をすることも多々ありますが、その中には「いつかバイオの力で不老不死を実現したい」と希望する学生もよく見かけます。はたして、ヴォルデモートが興味の矛先をホーキュクスから変えてくれそうなものがバイオによって実現するでしょうか。) もし、永遠の命の定義が「自分自身のゲノム配列を持つ細胞が永久に生き残れること」であったとすれば、それはすでに実現しています。例えば、HeLa細胞(※1)は、1951年に取り出されたヒトのがん細胞に由来しており、これまで何十年にもわたって世界中の研究室で繁殖し続けているからです。 しかし、不老不死への渇望は自分自身のゲノム配列を持つ細胞が永久に生き残るだけで満たされるものではありません。少なくとも自分自身が持つ精神世界が永遠に維持され、刺激を受け入れることができ(インプット)、それに対して適切な反応をすることができること(アウトプット)が含まれるでしょう。 つまり、脳を中心とした中枢神経系と、それに対するインプットとアウトプットが正常に機能している状況を永遠に維持する必要性があります。それを考えただけでも不老不死の実現は極めて困難であると言わざるをえません。 (※1)ヒーラ細胞と発音する。Henrietta Lacksという女性患者の子宮頸部腫瘍から採取された生検標本をもとに樹立された培養細胞株。ヒトにおいて初めて株化に成功した例となる。この細胞株を用いて、子宮頸がんの原因ウイルスが解明され、2008年のノーベル生理学・医学賞の対象となっている。翌2009年の同賞はテロメアに関する研究が対象になり、その研究の中でもHeLa細胞が活用されている。輝かしい功績を持つ細胞であるが、本人に知らされることなく採取・樹立された背景があり、個人情報の保護やインフォームド・コンセントの観点から、大きな問題に発展したこともある』、「HeLa細胞(※1)は、1951年に取り出されたヒトのがん細胞に由来しており、これまで何十年にもわたって世界中の研究室で繁殖し続けているからです。 しかし、不老不死への渇望は自分自身のゲノム配列を持つ細胞が永久に生き残るだけで満たされるものではありません。少なくとも自分自身が持つ精神世界が永遠に維持され、刺激を受け入れることができ(インプット)、それに対して適切な反応をすることができること(アウトプット)が含まれるでしょう・・・脳を中心とした中枢神経系と、それに対するインプットとアウトプットが正常に機能している状況を永遠に維持する必要性があります。それを考えただけでも不老不死の実現は極めて困難であると言わざるをえません」、そこまでの高度な定義では、確かに難しそうだ。
・『損傷が蓄積されていく神経細胞 時間とともに、私たちの細胞は適切に機能したり分裂したりする能力を失います。このプロセスは「セネセンス」(※2)と呼ばれます。それは脳細胞にも当てはまります。時間の経過とともに、紫外線、放射線、化学物質、通常の代謝プロセスで発生する活性酸素などから私たちのDNAは損傷を受けます。 (※2)細胞が一定の回数分裂すると、その細胞の分裂能力が失われ、増殖が停止する現象を指す。この状態の細胞は死んでいるわけではなく、一定の活動を続けている。セネセンスを経た細胞は、分泌物の変化や形態の変化など、様々な特徴を持つ。最終的には炎症反応の促進や組織の再生の妨げとなるなど、様々な負の影響を及ぼすようになる。) 修復メカニズムは存在しますが、すべての場合において治せるものではなく、時間の経過とともに損傷は蓄積されていきます。一度失われた神経細胞は再生することが難しく、特にヒトの大脳皮質などの領域では新しい神経細胞がほとんど生まれないため、損傷や老化による神経細胞の損失は永続的なものとなります。 何らかの幹細胞を入れたからといって、失われた神経ネットワークの一部を元通りにすることはほぼ不可能です。つまり、脳の機能の永遠の維持は極めて困難なものと言えるでしょう』、「時間の経過とともに、紫外線、放射線、化学物質、通常の代謝プロセスで発生する活性酸素などから私たちのDNAは損傷を受けます。 (※2)細胞が一定の回数分裂すると、その細胞の分裂能力が失われ、増殖が停止する現象を指す。この状態の細胞は死んでいるわけではなく、一定の活動を続けている。セネセンスを経た細胞は、分泌物の変化や形態の変化など、様々な特徴を持つ。最終的には炎症反応の促進や組織の再生の妨げとなるなど、様々な負の影響を及ぼすようになる・・・修復メカニズムは存在しますが、すべての場合において治せるものではなく、時間の経過とともに損傷は蓄積されていきます。一度失われた神経細胞は再生することが難しく、特にヒトの大脳皮質などの領域では新しい神経細胞がほとんど生まれないため、損傷や老化による神経細胞の損失は永続的なものとなります」、なるほど。
・『脳は不老不死の実現を難しくさせる最大の要因 脳は極めて複雑な神経細胞ネットワークの集合体であり、セネセンスを考慮すれば中枢神経系はいつしか衰退の一途をたどらざるをえません。それは体全体の制御、恒常性の調節にも支障をきたします。そういったところに問題が生じれば、脳も酸素や栄養素を十分に受け取れなくなります。 その負のスパイラルは生物個体としての死につながるでしょう。脳は不老不死の実現を難しくさせる最大の要因の一つと言えますが、それぞれの臓器・組織においても似たことが言えます。 30兆を超える細胞から成り立つ、様々な臓器や組織が協調しながら成り立っている人体において、何か一つの問題が生じると連鎖的に他の箇所にも影響が及ぶことは避けられません。以上は私たちの細胞における問題点ですが、ほかの問題点として免疫系の老化が挙げられます。) 特に免疫系の総司令官的な働きをするヘルパーT細胞の成熟には「胸腺」という臓器が欠かせません。しかし、胸腺は思春期頃をピークにして、徐々に脂肪組織に置き換えられて萎縮していきます。 そのため、成人を過ぎてからは年々、免疫応答の質と量は劣化の道をたどります。これも、何らかの臓器・組織の疾患につながる要素となり、死を近づけるものになるでしょう』、「特に免疫系の総司令官的な働きをするヘルパーT細胞の成熟には「胸腺」という臓器が欠かせません。しかし、胸腺は思春期頃をピークにして、徐々に脂肪組織に置き換えられて萎縮していきます。 そのため、成人を過ぎてからは年々、免疫応答の質と量は劣化の道をたどります。これも、何らかの臓器・組織の疾患につながる要素となり、死を近づけるものになるでしょう」、なるほど。
・『生物である限り、受け入れるしかない老化と死 そもそも、なぜ老化と死があるのでしょうか。その大きな理由の一つは老化と死があることが生物種としての利点となることです。ここで「始原生殖細胞」という特別な細胞を意識することが重要になります。 始原生殖細胞とは、精子や卵になるために特別枠のような形で体の中にキープされる細胞のことです。精子と卵が受精してできた受精卵が何度かの分裂を繰り返した発生のごく初期の時点で始原生殖細胞はつくられます。 その後の体は「始原生殖細胞」と「始原生殖細胞以外の領域」に識別されると言えるでしょう。 私たちが、若さを保ちたい、死にたくない、と考えている精神世界は、物理的には「始原生殖細胞以外の領域」にあたります。 特定の生物種が存続していくためには、始原生殖細胞を介した次世代への遺伝子の受け渡しが必要であり、受け渡しを完了した「始原生殖細胞以外の領域」は、始原生殖細胞の観点からはいつしか邪魔な存在になります。 進化の歴史の中では、特定の生物種において、寿命が延びる傾向のある変異が生じたこともきっとあることでしょう。) しかし、始原生殖細胞にとって利点のない「始原生殖細胞以外の領域」の寿命延長は、その生物種の生存競争においてマイナスに働き、絶滅につながってきたと思われます。 今のそれぞれの生物種の持つ平均的な寿命は、そうした進化の歴史の中で最もバランスのよい形として実現されてきたものと言えるでしょう。生物である限り、やはり死は受け入れるしかないものだと思います』、「精子と卵が受精してできた受精卵が何度かの分裂を繰り返した発生のごく初期の時点で始原生殖細胞はつくられます。 その後の体は「始原生殖細胞」と「始原生殖細胞以外の領域」に識別される・・・受け渡しを完了した「始原生殖細胞以外の領域」は、始原生殖細胞の観点からはいつしか邪魔な存在になります。 進化の歴史の中では、特定の生物種において、寿命が延びる傾向のある変異が生じたこともきっとあることでしょう。) しかし、始原生殖細胞にとって利点のない「始原生殖細胞以外の領域」の寿命延長は、その生物種の生存競争においてマイナスに働き、絶滅につながってきたと思われます・・・生物である限り、やはり死は受け入れるしかないものだと思います」、なるほど。
・『「食事」「睡眠」「ストレス」の管理が重要 近年、レスベラトロール、コエンザイムQ10、オメガ3脂肪酸、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)、さらにアストラガルス(オウギ)という植物に含まれる成分などに、老化を遅らせ、健康寿命を延ばす効果があるとして、サプリメントという形で売り出されています。 確かに、それらはこれまでに実験的に報告された寿命などに関わる分子機構に影響を与える要素はあると思います。 ただし、先に述べましたように、老化は様々な要素が複合的に作用しながら進むものです。 特定の分子レベルのシナリオを強制的に変更したからといって、生物個体全体の老化をストップ/スローダウンさせることまでが実現するとは思えません。 また、特定の化学物質を過剰に摂取した場合の安全性についても、不安視される要素はあります。 やはり、適度なカロリー量の栄養バランスのとれた食事、良質かつ十分な睡眠、そしてストレスを少なくすることなどが、普段の生活の中で、生物個体の本体のメンテナンスのために最も重視すべき選択肢ではないでしょうか』、「老化を遅らせ、健康寿命を延ばす効果があるとして、サプリメントという形で売り出されています。 確かに、それらはこれまでに実験的に報告された寿命などに関わる分子機構に影響を与える要素はあると思います。 ただし、先に述べましたように、老化は様々な要素が複合的に作用しながら進むものです。 特定の分子レベルのシナリオを強制的に変更したからといって、生物個体全体の老化をストップ/スローダウンさせることまでが実現するとは思えません。 また、特定の化学物質を過剰に摂取した場合の安全性についても、不安視される要素はあります。 やはり、適度なカロリー量の栄養バランスのとれた食事、良質かつ十分な睡眠、そしてストレスを少なくすることなどが、普段の生活の中で、生物個体の本体のメンテナンスのために最も重視すべき選択肢ではないでしょうか」、その通りだ。
次に、3月27日付け現代ビジネスが掲載したノーベル賞科学者の山中 伸弥氏と棋士の羽生善治氏による対談「「企業に特許を取られるとマズい…」京都大学が特許を取得せざるをえない衝撃のウラ事情…普通とは「180度違う発想」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/126031?imp=0
・『「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第4回 『なぜ研究者は「隠したがる」のか…天才科学者・山中伸弥が羽生善治に明かす、あまりに非効率すぎる生命科学界のヤバい「伝統」』より続く』、興味深そうだ。
・『生命科学での「特許の暴力」 羽生 その特許についてもお聞きしたいんです。アメリカでは「パテント・トロール」と言って、他人から特許を買い集めて、その特許を侵害していると目をつけた相手から巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする人たちが問題になりましたね。それは生命科学の世界では起こっていないんでしょうか。 山中 いやいや、あります。そういうことを得意としている会社もありますよ。だから、僕たちは利益を得るためというよりも、どちらかと言うと防御のためにパテントを出願せざるを得ないんです。 羽生 そうなんですか。 山中 iPS細胞は基本的な技術です。それをプラットフォームにして、いろいろなアプリケーションを開発することが可能です。だからiPS細胞そのものを開発した僕たちからすると、できるだけ制約なく、できるだけ多くの人にその技術を使ってもらいたい。 でも羽生さんが言われたように、僕たちの特許とは別に、営利目的で特許出願をする会社もあります。そういうところで部分的にでも特許が成立してしまうと、iPS細胞の技術がすごく使いづらくなってしまいます。特許は本来、営利企業が開発した技術を独占して利益を確保するために取るものですけれど、僕たちからすると、まったく逆なんです』、「iPS細胞は基本的な技術です。それをプラットフォームにして、いろいろなアプリケーションを開発することが可能です。だからiPS細胞そのものを開発した僕たちからすると、できるだけ制約なく、できるだけ多くの人にその技術を使ってもらいたい。 でも羽生さんが言われたように、僕たちの特許とは別に、営利目的で特許出願をする会社もあります。そういうところで部分的にでも特許が成立してしまうと、iPS細胞の技術がすごく使いづらくなってしまいます」、なるほど。
・『私たちが「特許の値下げ」を主張した理由 山中 京都大学のような公的機関が特許を取得して、ライセンス料をリーズナブルに設定する。そうすることによって、一企業の特許取得による技術の独占を防いで、いろいろな研究機関がより広く、自由にiPS細胞を使える環境を確保する。 同じ特許ですけれども、意味が180度違うわけです。実際、私たちは2017年、富士フィルムに細胞の開発・製造の特許料を下げるよう要請しました。 羽生 特許は企業が持つよりも、大学が持ったほうが公益に資するんでしょうね。 山中 大学が特許を持つのは大切ですね。企業は収益を上げる目的が優先されますから。新たに開発された薬や医療は異常に高額で、中には患者さん1人に1億円かかるものもあります。これは世界的な脅威です。 羽生 企業は株主から利潤を求められるという事情も、もちろんあるでしょうね。 山中 そうですね。それぞれのアプリケーションは、絶対に収益を上げないと発展していかないので。けれども、根幹のところ、基盤部分は、できるだけ広く使ってもらいたい。OSと一緒です。 以前、マイクロソフトはどんどんOSを公開して、アップルは閉鎖的でしたね。結果として、どちらがよかったのかはわかりませんが、基本的に基盤部分はオープンにするのが世の流れになっています。生命科学の分野でも、根本的な技術はできるだけ囲い込まずにやることが、研究の進展にとっては非常に大切だと思います。 『「AIが人間を事前に逮捕」人間とAIの協力の先に起こりうる衝撃的な「近未来」をノーベル賞科学者・山中伸弥が徹底解説』に続く』、「生命科学の分野でも、根本的な技術はできるだけ囲い込まずにやることが、研究の進展にとっては非常に大切だと思います」、その通りだ。
第三に、3月27日付け現代ビジネスが掲載したノーベル賞科学者の山中 伸弥氏と棋士の羽生善治氏による対談「「AIが人間を事前に逮捕」人間とAIの協力の先に起こりうる衝撃的な「近未来」をノーベル賞科学者・山中伸弥が徹底解説」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/126034?imp=0
・『「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第5回 『「企業に特許を取られるとマズい…」京都大学が特許を取得せざるをえない衝撃のウラ事情…普通とは「180度違う発想」』より続く』、興味深そうだ。
・『誰もが「外付けの知能」を持っている 羽生 誰もがスマホを持っていて、それはある意味外付けの知能を持っているということでもある。そういう意味では、今後、私たち人間は「知能」とか「知性」をもう一度定義しなおさなければならなくなるかもしれません。人類の歴史は「高い知能を持っているのは人間だけ」という前提でここまで来ました。 でも将来、AIのIQが3千とか1万になると言われています。すると、その前提が崩れるかもしれません。「この分野でAIは人間以上のことができる」とか「これは人間にはできても、AIにはできないだろう」といった議論をしているときに、「では人間が持つ『高い知能』の知能とは、いったい何なんだろう?」とあらためて考えざるを得なくなると思います。 でも「知能とは何なのか」と問われると、結局わからない、という結論にたどりついてしまいます。人間には「実現はできるんだけれど説明できない」とか、「実際に思っていることや感じていることでも、すべてを言葉で表現することはできない」といった分野があまりにも多く残されているように思います。 山中 まさにブラックボックスですね』、「「知能とは何なのか」と問われると、結局わからない、という結論にたどりついてしまいます」、なるほど。
・『AIと人間の協力は果たしてユートピアか? 羽生 ただ、AIの進化によって人間の知能と対比するものが出てきたことになりますから、人間の知能の姿をあぶり出す可能性はある気がします。これまでは比較する対象がなかったので、「知能とは何か」については答えが保留されていましたが、AIという比較対象を得たことで、「知能とはこういうものだったのか」と人間の知能の本質にアプローチできる可能性が出てきました。 「人間の知能の正体を探究していけば、人間の知能と同じようなAIを作ることができるはずだ」と考えて研究している人たちも、かなりいます。 山中 AIと人間が協力し合う世界では、どういう可能性が生まれるんでしょうか。 羽生 そこに私は関心があります。たとえば、アメリカでAIを活用した防犯パトロールの事例があります。全米でも犯罪発生率が高い街のことです。人員も限られているため、犯罪の発生地域や頻度などさまざまなデータを基に、AIに「今日、どこにパトロールに行けばいいか」を決めてもらったそうです。 ベテラン警官が「なぜ犯罪なんか絶対に起こりそうにない閑静な住宅街に行かなきゃいけないんだ」と言いつつ、AIの指示通りにパトロールに行くと、なぜか怪しい人がいて、まさに犯行に及ぼうと……。結果的に犯罪発生率が劇的に低下したそうです。 SF映画の『マイノリティ・リポート』を思い出しました。AIが「殺人を犯す」と予知した人間を事前に逮捕するようになっているという、ある意味とんでもない近未来社会を描いています』、「アメリカでAIを活用した防犯パトロールの事例があります。全米でも犯罪発生率が高い街のことです。人員も限られているため、犯罪の発生地域や頻度などさまざまなデータを基に、AIに「今日、どこにパトロールに行けばいいか」を決めてもらったそうです。 ベテラン警官が「なぜ犯罪なんか絶対に起こりそうにない閑静な住宅街に行かなきゃいけないんだ」と言いつつ、AIの指示通りにパトロールに行くと、なぜか怪しい人がいて、まさに犯行に及ぼうと……。結果的に犯罪発生率が劇的に低下したそうです」、なるほど。
・『AIがもたらす「ブラックボックス問題」 山中 でも、それも荒唐無稽と笑っていられませんね。 羽生 そうなんです。現在のAIは民間企業が開発しているので、ある時期まで基本的に開発プランは公開されず、あるとき、「こんなものができました」と世の中に発表される形ですね。 そういう状況では、AIの開発について、社会が新しい規準や新しい倫理をつくるといっても、どうしても現実のほうに先を越されて後手に回ってしまいます。そして、その規準や倫理を誰が、どこで、どういう形で決めるのか、その枠組みすらできていない段階では、極めて漠然とした話になるのでは、とも思います。 データがある世界では、AIは人間の経験値を超える結果を生み出す可能性があります。ただ、それが絶対かと言われると、絶対ではないわけです。そのとき、先ほども言った「ブラックボックス問題」、結果はうまく行っているけれど、そのプロセスが誰にも見えない状況を人間の側が受け入れられるかどうかが問われます。 理屈としては理解できなくなって、AIが出した結果なり結論なりを信じるか信じないか、ただそれだけの話になってしまう可能性もあります。でも人間は人間なりに考えたり、発想したりすることを捨ててはいけない、やめてはいけないと思います』、「「ブラックボックス問題」、結果はうまく行っているけれど、そのプロセスが誰にも見えない状況を人間の側が受け入れられるかどうかが問われます。 理屈としては理解できなくなって、AIが出した結果なり結論なりを信じるか信じないか、ただそれだけの話になってしまう可能性もあります。でも人間は人間なりに考えたり、発想したりすることを捨ててはいけない、やめてはいけないと思います」、その通りだ。
第四に、4月29日付け東洋経済オンラインが掲載した生物学者・青山学院大学教授・ロックフェラー大学客員教授の福岡 伸一氏と宇宙物理学者・東京大学名誉教授の 佐藤 勝彦氏の対談「宇宙のどこかに人間みたいな生命体がいる必然 宇宙物理学者・佐藤勝彦×生物学者・福岡伸一」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/749629
・『「生命とは何か」という根源的な問いに向き合い、生命理論「動的平衡」を唱える生物学者・福岡伸一さんが文学、芸術、建築、芸能、宇宙物理学など、さまざまな分野の第一人者と対談した『新版 動的平衡ダイアローグ: 9人の先駆者と織りなす「知の対話集」』。 このうち、宇宙物理学者の佐藤勝彦さんと『「知的生命体」が宇宙にいるのは必然か』をテーマに対談した様子を同書から一部を抜粋、再編集し、お届けします』、興味深そうだ。
・『「それ」は地球の生命に似ているか 福岡佐藤さんはご著書のなかで、地球外生命は存在するのかという問題を取り上げられておられますよね。この分野にとくに関心がおありなんですか。 佐藤私自身がそうした研究を進めているわけではありませんが、「宇宙における生命」についての研究は、今後大きく発展していく新しい分野だと思っているんです。 天文学、生物学の境界領域であり、少数ではありますが、それぞれの分野の研究者がこの問題に取り組んでいます。幸い、私が機構長を務めている(対談当時)自然科学研究機構には、天文学と生物学、それぞれの研究所があります。 ですから、「宇宙における生命」の研究を応援し、強化していくことは、私たちの責務だとも思っているんです。 福岡2010年にNASAの宇宙生物学研究所の研究グループが、「カリフォルニア州のモノ湖で、リンの代わりにヒ素を使って生命活動を行う細菌を発見した」と発表して、大きな話題になりましたよね。 リンは地球の生命体を構成する主要元素の1つですが、それを使わずに生きられる細菌がいるなら、リンのない天体にも生命が存在できることになる。 これが事実なら、今後の地球外生命の探索にも影響を与えるのでは、といわれました。 その後、この発表には信憑性を疑う批判が相次いで出たわけですけど、宇宙における生命を考える場合、地球の生命体のようなものを想定するのか、あるいは、まったく異なる生命形態も含めて探るのか、2つの道があると思います。そのあたりはどうお考えですか。 佐藤そうですね。まず、いま自然科学研究機構の国立天文台が中心になって進めているのは、太陽系外の惑星、とくに水が液体で安定して存在できるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)にある惑星を探す研究なんです。 さらにそこから、それらの惑星を詳しく観測して、生命の有無を探っていくことになるでしょう。その際、初めはいま知られている唯一の生命体である地球型の生命を探すことになるはずです。) 福岡まずは、宇宙における生命体を、地球型生命体のバリエーションとして考えるわけですね。 佐藤ええ。しかし、もちろん、それだけでは終わらない。私たちの知る地球の植物は太陽光を使って光合成を行っていますが、例えば、恒星にはいろんな種類の星があり、太陽より少し小さい星は太陽より温度が低く赤みを帯びています。 その周りを回る惑星には、地球の植物とは大きく異なるメカニズムで光合成を行う植物も存在するかもしれません。しだいにそういうところまで、探査の対象を広げていければと思っています』、いま自然科学研究機構の国立天文台が中心になって進めているのは、太陽系外の惑星、とくに水が液体で安定して存在できるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)にある惑星を探す研究なんです。 さらにそこから、それらの惑星を詳しく観測して、生命の有無を探っていくことになるでしょう。その際、初めはいま知られている唯一の生命体である地球型の生命を探すことになるはずです」、なるほど。
・『宇宙はここ以外にも無限に存在する 佐藤私自身は宇宙論の研究者なので、本当はいろいろな生命体を考えたいんです。事実、宇宙科学者は、これまでにさまざまな地球外生命を発想してきました。 たとえば、私たちのように化学反応ではなく、原子核反応によって生命活動を行うもの。有機物の代わりに、プラズマ状態にある無機物で構成される生命体。 フレッド・ホイルというイギリスの天文学者が1957年に発表した『暗黒星雲』というSF小説では、暗黒星雲そのものが知的生命体として描かれています。 奇想天外にも思えますけど、ホイルは、恒星の内側で炭素や酸素などの元素が合成されることを明らかにするなど、数々の功績を遺した天才的天文学者で、この物語もある程度、科学的根拠のある話です。 あるいは、アメリカのダイソンという物理学者が……。 福岡ああ、フリーマン・ダイソンですね。 佐藤現在の物理学では、質量をもった物質はやがて崩壊し、電子やニュートリノや光になるといわれますが、ダイソンは、そのように物質が消え去った後でも、新たな生命が生まれてくる可能性はあると述べています。 そして、人類自体が宇宙生命体となり、太陽系を越え、はるか銀河系にまで広がっていくだろうと。 将来的には、そのあたりまで生命への洞察を拡大できれば素晴らしい。さらにその上には、「人間原理」という概念がありますけど。 福岡「この宇宙の物理定数が、ちょうど人間の生存に適した値になっているのはなぜか」という問題ですね。 佐藤ええ、宇宙はなぜこんなにうまく、人間が生まれるようにデザインされているのか。「デザイン」というと、ちょっと怖いですが(笑)。) 福岡佐藤さんはそれをどう説明されますか。 佐藤私たち物理学者は、それをマルチバース(多宇宙)という概念で説明できると考えています。これは、私たちがいる宇宙の他にも、宇宙が無限に存在するという考え方ですね。 私が1981年に「インフレーション理論」を発表したときも、1つの宇宙から多くの宇宙が次々に誕生するという論文を書きましたが、最近はその部分の理論が大きく進歩し、それらの宇宙では、物理法則までがそれぞれに異なると考えられています。 この考えのもとにあるのは、物質の基本要素を、粒ではなく、ひも状の存在とする「超ひも理論」です。 私たちがいる空間は、縦、横、高さのある3次元空間ですけれど、この理論に従えば、その周りには10次元の宇宙が広がり、そこには2次元や5次元の宇宙空間も存在していることになります。 さらに、「超ひも理論」をベースに発展した最新の仮説では、3次元空間に閉じ込められた私たちには単にそれらが見えないだけで、物理法則も次元も異なる宇宙は無限に存在するといわれています』、「「人間原理」という概念がありますけど。 福岡「この宇宙の物理定数が、ちょうど人間の生存に適した値になっているのはなぜか」という問題ですね。 佐藤ええ、宇宙はなぜこんなにうまく、人間が生まれるようにデザインされているのか。「デザイン」というと、ちょっと怖いですが(笑)。) 福岡佐藤さんはそれをどう説明されますか。 佐藤私たち物理学者は、それをマルチバース(多宇宙)という概念で説明できると考えています。これは、私たちがいる宇宙の他にも、宇宙が無限に存在するという考え方ですね・・・物質の基本要素を、粒ではなく、ひも状の存在とする「超ひも理論」です。 私たちがいる空間は、縦、横、高さのある3次元空間ですけれど、この理論に従えば、その周りには10次元の宇宙が広がり、そこには2次元や5次元の宇宙空間も存在していることになります。 さらに、「超ひも理論」をベースに発展した最新の仮説では、3次元空間に閉じ込められた私たちには単にそれらが見えないだけで、物理法則も次元も異なる宇宙は無限に存在するといわれています」、壮大な理論のようだ。
・『「宇宙は10の500乗存在する」 福岡「人間原理」では、この宇宙が人間に適して見えるのは、「まさに私たちがそこにいるからだ」といいますよね。 佐藤そうです。スタンフォード大学の物理学者で、この分野の権威であるレオナルド・サスキンドは「宇宙は10の500乗存在する」といっています。 仮にそれだけ多くの宇宙が多様な物理法則をもつとすれば、そのどこかで知的生命体が生まれているかもしれない。その生命体は、私たちと同じように、自分のいる世界はじつにうまくできていると感じているはずです。 つまり、認識主体がいるからその世界が存在するので、主体がいない宇宙はそもそも認識されない。誰も質問する人がいないので。 福岡質問する人がいない(笑)。質問が生まれるような宇宙なら、つじつまが合うのは当然だということですね。) 佐藤しかし一方、物理学者としては、「多様な物理法則」という考え方に対してフラストレーションもあります。物理学者は、この世界を総(す)べる物理法則は、必然的にたった1つに定まっていると信じたい。 その信念のもと、究極の法則を探り出すことに、最大の喜びがあるんです。 福岡そこにイデア(理念/観念)のようなものを見ているわけですね。 佐藤もちろん、すべての人がこうした考え方に同意してくれるわけではありません。 以前、ある生物学者の方からは、「物理法則なんてそれほど大仰なものじゃない。地球に人間が生まれたのはたまたま環境がそれに適していたからで、物理法則もそういう環境因子の1つに過ぎないよ」といわれました(笑)』、「物理学者は、この世界を総(す)べる物理法則は、必然的にたった1つに定まっていると信じたい。 その信念のもと、究極の法則を探り出すことに、最大の喜びがあるんです。 福岡そこにイデア(理念/観念)のようなものを見ているわけですね・・・ある生物学者の方からは、「物理法則なんてそれほど大仰なものじゃない。地球に人間が生まれたのはたまたま環境がそれに適していたからで、物理法則もそういう環境因子の1つに過ぎないよ」といわれました(笑)』、「物理法則もそういう環境因子の1つに過ぎない」、との考えには私には違和感を感じる。
・『恐竜が知的生物になった可能性もある 福岡じつは、こんな思考実験があるんです。 私たちのいるこの宇宙の歴史はおよそ138億年、そのうち地球の歴史は46億年、さらに、地球に生命が誕生してから38億年がたったといわれます。つまり、生命は、地球誕生の8億年後に生まれたことになる。 では、その8億年の歴史が、さまざまな環境条件を含めてまったく同じように再現され、繰り返されたとき、同じ進化のプロセスをたどって、いまと同じ人間が生まれてくるだろうか。 私は、生まれてこないと思うのですが。 佐藤私も、生まれないと思いますね。よく、いまから6550万年前に地球に巨大隕石が落ち、それによって恐竜が滅んだために、哺乳類が知的生物へと進化したといわれますよね。 しかし、あの時期にあの隕石が落ちたのは、極めて偶然です。隕石が落ちず、人間の代わりに恐竜が知的生物になった可能性すらあると思います。 福岡私は、同じ環境が再現されれば同じ結果がもたらされるというのは、イデアを求めすぎる考え方ではないかと思うんです。 同じ条件で隕石が落ちても、一部の恐竜は生き残ったかもしれないし、その後に残った哺乳類もいまのように栄えなかったかもしれない。 進化の過程にはさまざまな岐路が存在し、そのうちどれを選ぶかの選択には、偶然としか思えないことがたくさんあります。 たとえば、私たちの体をつくるアミノ酸にはL体とD体という2つの異性体があって、地球の生物はすべてL体を使っています。 そこに必然はなく、たまたま最初に誕生した生命がL体を選んだに過ぎない。同じ環境が繰り返されれば、次はD体が選ばれるかもしれません。 そう考えると、同一の進化のプロセスは二度と繰り返されないと思えます。 とくに西洋には、環境さえ再現されれば必ず人間が地球を支配するというある種のドグマ(独特の教義や教理)がありますけど、それはちょっと違うと思うんです。 佐藤そうですね。ただ、私自身は、知的生命体についてはもう少し別の見方ができると思っています。 確かに進化の過程でたくさんのサイコロが振られることを思えば、2、3回の実験でいまと同じ人間が生まれてくるとは考えにくい。しかし、地球のような星が他に無数にあるとするなら、どこかで人間のような知的生命体が生まれることは、統計的に必然です。 つまり、いま恐竜が知的生命体になったかもしれないと申し上げましたけど、ありとあらゆる場所にありとあらゆる生物が生まれ得るなら、そこには何らかの形で必ず知的生命体が含まれるはずです。 その場合、それがわれわれと同じように、DNAから生まれる生命体である可能性も決して低くないのではないでしょうか』、「いま恐竜が知的生命体になったかもしれないと申し上げましたけど、ありとあらゆる場所にありとあらゆる生物が生まれ得るなら、そこには何らかの形で必ず知的生命体が含まれるはずです。 その場合、それがわれわれと同じように、DNAから生まれる生命体である可能性も決して低くないのではないでしょうか」、なるほど。
・『宇宙が広すぎて出会えていないだけ? 福岡だとすると、私たちが地球外の知的生命体とまだ出会えていないのは、宇宙が広すぎるからでしょうか。 佐藤そう考えるのが、おそらく最も可能性が高いと思います。 銀河系における恒星間の平均距離は、およそ3光年(1光年はおよそ10兆キロメートル)。一方、いま人間がつくれる最速の宇宙船の速度は、光速の0.1パーセントにも満たない。これでは、隣の星へ行くだけで何万年もかかります。 おそらくこうした距離が、お互いの邂逅を妨げているのではないか。しかし、電波などの調査で今後も知的生命体の存在が確認できないとなれば、その理由をもっと深刻に考えないとなりません』、「銀河系における恒星間の平均距離は、およそ3光年(1光年はおよそ10兆キロメートル)。一方、いま人間がつくれる最速の宇宙船の速度は、光速の0.1パーセントにも満たない。これでは、隣の星へ行くだけで何万年もかかります。 おそらくこうした距離が、お互いの邂逅を妨げているのではないか。しかし、電波などの調査で今後も知的生命体の存在が確認できないとなれば、その理由をもっと深刻に考えないとなりません」、「その理由をもっと深刻に考えないとなりません」、どういう意味なのだろう。残念ながら私には理解不能だ。
先ずは、本年1月21日付け東洋経済オンラインが掲載した 慶應義塾大学 環境情報学部 教授の黒田 裕樹 氏による「ヒトの「不死」細胞はすでに存在している驚愕事実 ただし、皆が思い描く不老不死の実現は難しい」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/727921
・『「永遠の命を実現する技術など、この世にはない」というのが一般的な考え方でしょう。しかし、永遠の命をどのように定義するかによっては、すでに実現されている技術もあるのだとか。 それは一体どのような技術なのか。永遠の命、不老不死は実現可能なのか?分子生物学者の黒田裕樹さんが解説します。 ※本稿は『希望の分子生物学: 私たちの「生命観」を書き換える』から一部抜粋・再構成したものです』、興味深そうだ。
・『不老不死にあこがれてきた人類 不老不死の願いは、時代や文化、性別や年齢を問わず、多くの人々が抱くものです。この願いを叶えるヒントがバイオ技術には隠されているかもしれません。 最近日本で人気を博したアニメ『鬼滅の刃』では、鬼になることで不老不死になれるという設定になっていました。ただし、鬼になると、直射日光を避ける必要がある、一般的な食事を楽しめないなどの制約がつきます。とはいえ、満身創痍でまさに死の淵にある時であれば、それらの条件を受け入れる人も一定数いることでしょう。 また、『ハリー・ポッター』シリーズでは、主要な悪役ヴォルデモートが永遠の命を求め、「ホーキュクス」という古代の闇の魔法を使う決意をします。それは、すなわちハリー・ポッターに関する大きな秘密にもなります。つまり、不老不死への追求とその困難さが、シリーズの重要なテーマとして描かれているわけです。 バイオを志す大学の新入生と話をすることも多々ありますが、その中には「いつかバイオの力で不老不死を実現したい」と希望する学生もよく見かけます。はたして、ヴォルデモートが興味の矛先をホーキュクスから変えてくれそうなものがバイオによって実現するでしょうか。) もし、永遠の命の定義が「自分自身のゲノム配列を持つ細胞が永久に生き残れること」であったとすれば、それはすでに実現しています。例えば、HeLa細胞(※1)は、1951年に取り出されたヒトのがん細胞に由来しており、これまで何十年にもわたって世界中の研究室で繁殖し続けているからです。 しかし、不老不死への渇望は自分自身のゲノム配列を持つ細胞が永久に生き残るだけで満たされるものではありません。少なくとも自分自身が持つ精神世界が永遠に維持され、刺激を受け入れることができ(インプット)、それに対して適切な反応をすることができること(アウトプット)が含まれるでしょう。 つまり、脳を中心とした中枢神経系と、それに対するインプットとアウトプットが正常に機能している状況を永遠に維持する必要性があります。それを考えただけでも不老不死の実現は極めて困難であると言わざるをえません。 (※1)ヒーラ細胞と発音する。Henrietta Lacksという女性患者の子宮頸部腫瘍から採取された生検標本をもとに樹立された培養細胞株。ヒトにおいて初めて株化に成功した例となる。この細胞株を用いて、子宮頸がんの原因ウイルスが解明され、2008年のノーベル生理学・医学賞の対象となっている。翌2009年の同賞はテロメアに関する研究が対象になり、その研究の中でもHeLa細胞が活用されている。輝かしい功績を持つ細胞であるが、本人に知らされることなく採取・樹立された背景があり、個人情報の保護やインフォームド・コンセントの観点から、大きな問題に発展したこともある』、「HeLa細胞(※1)は、1951年に取り出されたヒトのがん細胞に由来しており、これまで何十年にもわたって世界中の研究室で繁殖し続けているからです。 しかし、不老不死への渇望は自分自身のゲノム配列を持つ細胞が永久に生き残るだけで満たされるものではありません。少なくとも自分自身が持つ精神世界が永遠に維持され、刺激を受け入れることができ(インプット)、それに対して適切な反応をすることができること(アウトプット)が含まれるでしょう・・・脳を中心とした中枢神経系と、それに対するインプットとアウトプットが正常に機能している状況を永遠に維持する必要性があります。それを考えただけでも不老不死の実現は極めて困難であると言わざるをえません」、そこまでの高度な定義では、確かに難しそうだ。
・『損傷が蓄積されていく神経細胞 時間とともに、私たちの細胞は適切に機能したり分裂したりする能力を失います。このプロセスは「セネセンス」(※2)と呼ばれます。それは脳細胞にも当てはまります。時間の経過とともに、紫外線、放射線、化学物質、通常の代謝プロセスで発生する活性酸素などから私たちのDNAは損傷を受けます。 (※2)細胞が一定の回数分裂すると、その細胞の分裂能力が失われ、増殖が停止する現象を指す。この状態の細胞は死んでいるわけではなく、一定の活動を続けている。セネセンスを経た細胞は、分泌物の変化や形態の変化など、様々な特徴を持つ。最終的には炎症反応の促進や組織の再生の妨げとなるなど、様々な負の影響を及ぼすようになる。) 修復メカニズムは存在しますが、すべての場合において治せるものではなく、時間の経過とともに損傷は蓄積されていきます。一度失われた神経細胞は再生することが難しく、特にヒトの大脳皮質などの領域では新しい神経細胞がほとんど生まれないため、損傷や老化による神経細胞の損失は永続的なものとなります。 何らかの幹細胞を入れたからといって、失われた神経ネットワークの一部を元通りにすることはほぼ不可能です。つまり、脳の機能の永遠の維持は極めて困難なものと言えるでしょう』、「時間の経過とともに、紫外線、放射線、化学物質、通常の代謝プロセスで発生する活性酸素などから私たちのDNAは損傷を受けます。 (※2)細胞が一定の回数分裂すると、その細胞の分裂能力が失われ、増殖が停止する現象を指す。この状態の細胞は死んでいるわけではなく、一定の活動を続けている。セネセンスを経た細胞は、分泌物の変化や形態の変化など、様々な特徴を持つ。最終的には炎症反応の促進や組織の再生の妨げとなるなど、様々な負の影響を及ぼすようになる・・・修復メカニズムは存在しますが、すべての場合において治せるものではなく、時間の経過とともに損傷は蓄積されていきます。一度失われた神経細胞は再生することが難しく、特にヒトの大脳皮質などの領域では新しい神経細胞がほとんど生まれないため、損傷や老化による神経細胞の損失は永続的なものとなります」、なるほど。
・『脳は不老不死の実現を難しくさせる最大の要因 脳は極めて複雑な神経細胞ネットワークの集合体であり、セネセンスを考慮すれば中枢神経系はいつしか衰退の一途をたどらざるをえません。それは体全体の制御、恒常性の調節にも支障をきたします。そういったところに問題が生じれば、脳も酸素や栄養素を十分に受け取れなくなります。 その負のスパイラルは生物個体としての死につながるでしょう。脳は不老不死の実現を難しくさせる最大の要因の一つと言えますが、それぞれの臓器・組織においても似たことが言えます。 30兆を超える細胞から成り立つ、様々な臓器や組織が協調しながら成り立っている人体において、何か一つの問題が生じると連鎖的に他の箇所にも影響が及ぶことは避けられません。以上は私たちの細胞における問題点ですが、ほかの問題点として免疫系の老化が挙げられます。) 特に免疫系の総司令官的な働きをするヘルパーT細胞の成熟には「胸腺」という臓器が欠かせません。しかし、胸腺は思春期頃をピークにして、徐々に脂肪組織に置き換えられて萎縮していきます。 そのため、成人を過ぎてからは年々、免疫応答の質と量は劣化の道をたどります。これも、何らかの臓器・組織の疾患につながる要素となり、死を近づけるものになるでしょう』、「特に免疫系の総司令官的な働きをするヘルパーT細胞の成熟には「胸腺」という臓器が欠かせません。しかし、胸腺は思春期頃をピークにして、徐々に脂肪組織に置き換えられて萎縮していきます。 そのため、成人を過ぎてからは年々、免疫応答の質と量は劣化の道をたどります。これも、何らかの臓器・組織の疾患につながる要素となり、死を近づけるものになるでしょう」、なるほど。
・『生物である限り、受け入れるしかない老化と死 そもそも、なぜ老化と死があるのでしょうか。その大きな理由の一つは老化と死があることが生物種としての利点となることです。ここで「始原生殖細胞」という特別な細胞を意識することが重要になります。 始原生殖細胞とは、精子や卵になるために特別枠のような形で体の中にキープされる細胞のことです。精子と卵が受精してできた受精卵が何度かの分裂を繰り返した発生のごく初期の時点で始原生殖細胞はつくられます。 その後の体は「始原生殖細胞」と「始原生殖細胞以外の領域」に識別されると言えるでしょう。 私たちが、若さを保ちたい、死にたくない、と考えている精神世界は、物理的には「始原生殖細胞以外の領域」にあたります。 特定の生物種が存続していくためには、始原生殖細胞を介した次世代への遺伝子の受け渡しが必要であり、受け渡しを完了した「始原生殖細胞以外の領域」は、始原生殖細胞の観点からはいつしか邪魔な存在になります。 進化の歴史の中では、特定の生物種において、寿命が延びる傾向のある変異が生じたこともきっとあることでしょう。) しかし、始原生殖細胞にとって利点のない「始原生殖細胞以外の領域」の寿命延長は、その生物種の生存競争においてマイナスに働き、絶滅につながってきたと思われます。 今のそれぞれの生物種の持つ平均的な寿命は、そうした進化の歴史の中で最もバランスのよい形として実現されてきたものと言えるでしょう。生物である限り、やはり死は受け入れるしかないものだと思います』、「精子と卵が受精してできた受精卵が何度かの分裂を繰り返した発生のごく初期の時点で始原生殖細胞はつくられます。 その後の体は「始原生殖細胞」と「始原生殖細胞以外の領域」に識別される・・・受け渡しを完了した「始原生殖細胞以外の領域」は、始原生殖細胞の観点からはいつしか邪魔な存在になります。 進化の歴史の中では、特定の生物種において、寿命が延びる傾向のある変異が生じたこともきっとあることでしょう。) しかし、始原生殖細胞にとって利点のない「始原生殖細胞以外の領域」の寿命延長は、その生物種の生存競争においてマイナスに働き、絶滅につながってきたと思われます・・・生物である限り、やはり死は受け入れるしかないものだと思います」、なるほど。
・『「食事」「睡眠」「ストレス」の管理が重要 近年、レスベラトロール、コエンザイムQ10、オメガ3脂肪酸、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)、さらにアストラガルス(オウギ)という植物に含まれる成分などに、老化を遅らせ、健康寿命を延ばす効果があるとして、サプリメントという形で売り出されています。 確かに、それらはこれまでに実験的に報告された寿命などに関わる分子機構に影響を与える要素はあると思います。 ただし、先に述べましたように、老化は様々な要素が複合的に作用しながら進むものです。 特定の分子レベルのシナリオを強制的に変更したからといって、生物個体全体の老化をストップ/スローダウンさせることまでが実現するとは思えません。 また、特定の化学物質を過剰に摂取した場合の安全性についても、不安視される要素はあります。 やはり、適度なカロリー量の栄養バランスのとれた食事、良質かつ十分な睡眠、そしてストレスを少なくすることなどが、普段の生活の中で、生物個体の本体のメンテナンスのために最も重視すべき選択肢ではないでしょうか』、「老化を遅らせ、健康寿命を延ばす効果があるとして、サプリメントという形で売り出されています。 確かに、それらはこれまでに実験的に報告された寿命などに関わる分子機構に影響を与える要素はあると思います。 ただし、先に述べましたように、老化は様々な要素が複合的に作用しながら進むものです。 特定の分子レベルのシナリオを強制的に変更したからといって、生物個体全体の老化をストップ/スローダウンさせることまでが実現するとは思えません。 また、特定の化学物質を過剰に摂取した場合の安全性についても、不安視される要素はあります。 やはり、適度なカロリー量の栄養バランスのとれた食事、良質かつ十分な睡眠、そしてストレスを少なくすることなどが、普段の生活の中で、生物個体の本体のメンテナンスのために最も重視すべき選択肢ではないでしょうか」、その通りだ。
次に、3月27日付け現代ビジネスが掲載したノーベル賞科学者の山中 伸弥氏と棋士の羽生善治氏による対談「「企業に特許を取られるとマズい…」京都大学が特許を取得せざるをえない衝撃のウラ事情…普通とは「180度違う発想」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/126031?imp=0
・『「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第4回 『なぜ研究者は「隠したがる」のか…天才科学者・山中伸弥が羽生善治に明かす、あまりに非効率すぎる生命科学界のヤバい「伝統」』より続く』、興味深そうだ。
・『生命科学での「特許の暴力」 羽生 その特許についてもお聞きしたいんです。アメリカでは「パテント・トロール」と言って、他人から特許を買い集めて、その特許を侵害していると目をつけた相手から巨額の賠償金やライセンス料を得ようとする人たちが問題になりましたね。それは生命科学の世界では起こっていないんでしょうか。 山中 いやいや、あります。そういうことを得意としている会社もありますよ。だから、僕たちは利益を得るためというよりも、どちらかと言うと防御のためにパテントを出願せざるを得ないんです。 羽生 そうなんですか。 山中 iPS細胞は基本的な技術です。それをプラットフォームにして、いろいろなアプリケーションを開発することが可能です。だからiPS細胞そのものを開発した僕たちからすると、できるだけ制約なく、できるだけ多くの人にその技術を使ってもらいたい。 でも羽生さんが言われたように、僕たちの特許とは別に、営利目的で特許出願をする会社もあります。そういうところで部分的にでも特許が成立してしまうと、iPS細胞の技術がすごく使いづらくなってしまいます。特許は本来、営利企業が開発した技術を独占して利益を確保するために取るものですけれど、僕たちからすると、まったく逆なんです』、「iPS細胞は基本的な技術です。それをプラットフォームにして、いろいろなアプリケーションを開発することが可能です。だからiPS細胞そのものを開発した僕たちからすると、できるだけ制約なく、できるだけ多くの人にその技術を使ってもらいたい。 でも羽生さんが言われたように、僕たちの特許とは別に、営利目的で特許出願をする会社もあります。そういうところで部分的にでも特許が成立してしまうと、iPS細胞の技術がすごく使いづらくなってしまいます」、なるほど。
・『私たちが「特許の値下げ」を主張した理由 山中 京都大学のような公的機関が特許を取得して、ライセンス料をリーズナブルに設定する。そうすることによって、一企業の特許取得による技術の独占を防いで、いろいろな研究機関がより広く、自由にiPS細胞を使える環境を確保する。 同じ特許ですけれども、意味が180度違うわけです。実際、私たちは2017年、富士フィルムに細胞の開発・製造の特許料を下げるよう要請しました。 羽生 特許は企業が持つよりも、大学が持ったほうが公益に資するんでしょうね。 山中 大学が特許を持つのは大切ですね。企業は収益を上げる目的が優先されますから。新たに開発された薬や医療は異常に高額で、中には患者さん1人に1億円かかるものもあります。これは世界的な脅威です。 羽生 企業は株主から利潤を求められるという事情も、もちろんあるでしょうね。 山中 そうですね。それぞれのアプリケーションは、絶対に収益を上げないと発展していかないので。けれども、根幹のところ、基盤部分は、できるだけ広く使ってもらいたい。OSと一緒です。 以前、マイクロソフトはどんどんOSを公開して、アップルは閉鎖的でしたね。結果として、どちらがよかったのかはわかりませんが、基本的に基盤部分はオープンにするのが世の流れになっています。生命科学の分野でも、根本的な技術はできるだけ囲い込まずにやることが、研究の進展にとっては非常に大切だと思います。 『「AIが人間を事前に逮捕」人間とAIの協力の先に起こりうる衝撃的な「近未来」をノーベル賞科学者・山中伸弥が徹底解説』に続く』、「生命科学の分野でも、根本的な技術はできるだけ囲い込まずにやることが、研究の進展にとっては非常に大切だと思います」、その通りだ。
第三に、3月27日付け現代ビジネスが掲載したノーベル賞科学者の山中 伸弥氏と棋士の羽生善治氏による対談「「AIが人間を事前に逮捕」人間とAIの協力の先に起こりうる衝撃的な「近未来」をノーベル賞科学者・山中伸弥が徹底解説」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/126034?imp=0
・『「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第5回 『「企業に特許を取られるとマズい…」京都大学が特許を取得せざるをえない衝撃のウラ事情…普通とは「180度違う発想」』より続く』、興味深そうだ。
・『誰もが「外付けの知能」を持っている 羽生 誰もがスマホを持っていて、それはある意味外付けの知能を持っているということでもある。そういう意味では、今後、私たち人間は「知能」とか「知性」をもう一度定義しなおさなければならなくなるかもしれません。人類の歴史は「高い知能を持っているのは人間だけ」という前提でここまで来ました。 でも将来、AIのIQが3千とか1万になると言われています。すると、その前提が崩れるかもしれません。「この分野でAIは人間以上のことができる」とか「これは人間にはできても、AIにはできないだろう」といった議論をしているときに、「では人間が持つ『高い知能』の知能とは、いったい何なんだろう?」とあらためて考えざるを得なくなると思います。 でも「知能とは何なのか」と問われると、結局わからない、という結論にたどりついてしまいます。人間には「実現はできるんだけれど説明できない」とか、「実際に思っていることや感じていることでも、すべてを言葉で表現することはできない」といった分野があまりにも多く残されているように思います。 山中 まさにブラックボックスですね』、「「知能とは何なのか」と問われると、結局わからない、という結論にたどりついてしまいます」、なるほど。
・『AIと人間の協力は果たしてユートピアか? 羽生 ただ、AIの進化によって人間の知能と対比するものが出てきたことになりますから、人間の知能の姿をあぶり出す可能性はある気がします。これまでは比較する対象がなかったので、「知能とは何か」については答えが保留されていましたが、AIという比較対象を得たことで、「知能とはこういうものだったのか」と人間の知能の本質にアプローチできる可能性が出てきました。 「人間の知能の正体を探究していけば、人間の知能と同じようなAIを作ることができるはずだ」と考えて研究している人たちも、かなりいます。 山中 AIと人間が協力し合う世界では、どういう可能性が生まれるんでしょうか。 羽生 そこに私は関心があります。たとえば、アメリカでAIを活用した防犯パトロールの事例があります。全米でも犯罪発生率が高い街のことです。人員も限られているため、犯罪の発生地域や頻度などさまざまなデータを基に、AIに「今日、どこにパトロールに行けばいいか」を決めてもらったそうです。 ベテラン警官が「なぜ犯罪なんか絶対に起こりそうにない閑静な住宅街に行かなきゃいけないんだ」と言いつつ、AIの指示通りにパトロールに行くと、なぜか怪しい人がいて、まさに犯行に及ぼうと……。結果的に犯罪発生率が劇的に低下したそうです。 SF映画の『マイノリティ・リポート』を思い出しました。AIが「殺人を犯す」と予知した人間を事前に逮捕するようになっているという、ある意味とんでもない近未来社会を描いています』、「アメリカでAIを活用した防犯パトロールの事例があります。全米でも犯罪発生率が高い街のことです。人員も限られているため、犯罪の発生地域や頻度などさまざまなデータを基に、AIに「今日、どこにパトロールに行けばいいか」を決めてもらったそうです。 ベテラン警官が「なぜ犯罪なんか絶対に起こりそうにない閑静な住宅街に行かなきゃいけないんだ」と言いつつ、AIの指示通りにパトロールに行くと、なぜか怪しい人がいて、まさに犯行に及ぼうと……。結果的に犯罪発生率が劇的に低下したそうです」、なるほど。
・『AIがもたらす「ブラックボックス問題」 山中 でも、それも荒唐無稽と笑っていられませんね。 羽生 そうなんです。現在のAIは民間企業が開発しているので、ある時期まで基本的に開発プランは公開されず、あるとき、「こんなものができました」と世の中に発表される形ですね。 そういう状況では、AIの開発について、社会が新しい規準や新しい倫理をつくるといっても、どうしても現実のほうに先を越されて後手に回ってしまいます。そして、その規準や倫理を誰が、どこで、どういう形で決めるのか、その枠組みすらできていない段階では、極めて漠然とした話になるのでは、とも思います。 データがある世界では、AIは人間の経験値を超える結果を生み出す可能性があります。ただ、それが絶対かと言われると、絶対ではないわけです。そのとき、先ほども言った「ブラックボックス問題」、結果はうまく行っているけれど、そのプロセスが誰にも見えない状況を人間の側が受け入れられるかどうかが問われます。 理屈としては理解できなくなって、AIが出した結果なり結論なりを信じるか信じないか、ただそれだけの話になってしまう可能性もあります。でも人間は人間なりに考えたり、発想したりすることを捨ててはいけない、やめてはいけないと思います』、「「ブラックボックス問題」、結果はうまく行っているけれど、そのプロセスが誰にも見えない状況を人間の側が受け入れられるかどうかが問われます。 理屈としては理解できなくなって、AIが出した結果なり結論なりを信じるか信じないか、ただそれだけの話になってしまう可能性もあります。でも人間は人間なりに考えたり、発想したりすることを捨ててはいけない、やめてはいけないと思います」、その通りだ。
第四に、4月29日付け東洋経済オンラインが掲載した生物学者・青山学院大学教授・ロックフェラー大学客員教授の福岡 伸一氏と宇宙物理学者・東京大学名誉教授の 佐藤 勝彦氏の対談「宇宙のどこかに人間みたいな生命体がいる必然 宇宙物理学者・佐藤勝彦×生物学者・福岡伸一」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/749629
・『「生命とは何か」という根源的な問いに向き合い、生命理論「動的平衡」を唱える生物学者・福岡伸一さんが文学、芸術、建築、芸能、宇宙物理学など、さまざまな分野の第一人者と対談した『新版 動的平衡ダイアローグ: 9人の先駆者と織りなす「知の対話集」』。 このうち、宇宙物理学者の佐藤勝彦さんと『「知的生命体」が宇宙にいるのは必然か』をテーマに対談した様子を同書から一部を抜粋、再編集し、お届けします』、興味深そうだ。
・『「それ」は地球の生命に似ているか 福岡佐藤さんはご著書のなかで、地球外生命は存在するのかという問題を取り上げられておられますよね。この分野にとくに関心がおありなんですか。 佐藤私自身がそうした研究を進めているわけではありませんが、「宇宙における生命」についての研究は、今後大きく発展していく新しい分野だと思っているんです。 天文学、生物学の境界領域であり、少数ではありますが、それぞれの分野の研究者がこの問題に取り組んでいます。幸い、私が機構長を務めている(対談当時)自然科学研究機構には、天文学と生物学、それぞれの研究所があります。 ですから、「宇宙における生命」の研究を応援し、強化していくことは、私たちの責務だとも思っているんです。 福岡2010年にNASAの宇宙生物学研究所の研究グループが、「カリフォルニア州のモノ湖で、リンの代わりにヒ素を使って生命活動を行う細菌を発見した」と発表して、大きな話題になりましたよね。 リンは地球の生命体を構成する主要元素の1つですが、それを使わずに生きられる細菌がいるなら、リンのない天体にも生命が存在できることになる。 これが事実なら、今後の地球外生命の探索にも影響を与えるのでは、といわれました。 その後、この発表には信憑性を疑う批判が相次いで出たわけですけど、宇宙における生命を考える場合、地球の生命体のようなものを想定するのか、あるいは、まったく異なる生命形態も含めて探るのか、2つの道があると思います。そのあたりはどうお考えですか。 佐藤そうですね。まず、いま自然科学研究機構の国立天文台が中心になって進めているのは、太陽系外の惑星、とくに水が液体で安定して存在できるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)にある惑星を探す研究なんです。 さらにそこから、それらの惑星を詳しく観測して、生命の有無を探っていくことになるでしょう。その際、初めはいま知られている唯一の生命体である地球型の生命を探すことになるはずです。) 福岡まずは、宇宙における生命体を、地球型生命体のバリエーションとして考えるわけですね。 佐藤ええ。しかし、もちろん、それだけでは終わらない。私たちの知る地球の植物は太陽光を使って光合成を行っていますが、例えば、恒星にはいろんな種類の星があり、太陽より少し小さい星は太陽より温度が低く赤みを帯びています。 その周りを回る惑星には、地球の植物とは大きく異なるメカニズムで光合成を行う植物も存在するかもしれません。しだいにそういうところまで、探査の対象を広げていければと思っています』、いま自然科学研究機構の国立天文台が中心になって進めているのは、太陽系外の惑星、とくに水が液体で安定して存在できるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)にある惑星を探す研究なんです。 さらにそこから、それらの惑星を詳しく観測して、生命の有無を探っていくことになるでしょう。その際、初めはいま知られている唯一の生命体である地球型の生命を探すことになるはずです」、なるほど。
・『宇宙はここ以外にも無限に存在する 佐藤私自身は宇宙論の研究者なので、本当はいろいろな生命体を考えたいんです。事実、宇宙科学者は、これまでにさまざまな地球外生命を発想してきました。 たとえば、私たちのように化学反応ではなく、原子核反応によって生命活動を行うもの。有機物の代わりに、プラズマ状態にある無機物で構成される生命体。 フレッド・ホイルというイギリスの天文学者が1957年に発表した『暗黒星雲』というSF小説では、暗黒星雲そのものが知的生命体として描かれています。 奇想天外にも思えますけど、ホイルは、恒星の内側で炭素や酸素などの元素が合成されることを明らかにするなど、数々の功績を遺した天才的天文学者で、この物語もある程度、科学的根拠のある話です。 あるいは、アメリカのダイソンという物理学者が……。 福岡ああ、フリーマン・ダイソンですね。 佐藤現在の物理学では、質量をもった物質はやがて崩壊し、電子やニュートリノや光になるといわれますが、ダイソンは、そのように物質が消え去った後でも、新たな生命が生まれてくる可能性はあると述べています。 そして、人類自体が宇宙生命体となり、太陽系を越え、はるか銀河系にまで広がっていくだろうと。 将来的には、そのあたりまで生命への洞察を拡大できれば素晴らしい。さらにその上には、「人間原理」という概念がありますけど。 福岡「この宇宙の物理定数が、ちょうど人間の生存に適した値になっているのはなぜか」という問題ですね。 佐藤ええ、宇宙はなぜこんなにうまく、人間が生まれるようにデザインされているのか。「デザイン」というと、ちょっと怖いですが(笑)。) 福岡佐藤さんはそれをどう説明されますか。 佐藤私たち物理学者は、それをマルチバース(多宇宙)という概念で説明できると考えています。これは、私たちがいる宇宙の他にも、宇宙が無限に存在するという考え方ですね。 私が1981年に「インフレーション理論」を発表したときも、1つの宇宙から多くの宇宙が次々に誕生するという論文を書きましたが、最近はその部分の理論が大きく進歩し、それらの宇宙では、物理法則までがそれぞれに異なると考えられています。 この考えのもとにあるのは、物質の基本要素を、粒ではなく、ひも状の存在とする「超ひも理論」です。 私たちがいる空間は、縦、横、高さのある3次元空間ですけれど、この理論に従えば、その周りには10次元の宇宙が広がり、そこには2次元や5次元の宇宙空間も存在していることになります。 さらに、「超ひも理論」をベースに発展した最新の仮説では、3次元空間に閉じ込められた私たちには単にそれらが見えないだけで、物理法則も次元も異なる宇宙は無限に存在するといわれています』、「「人間原理」という概念がありますけど。 福岡「この宇宙の物理定数が、ちょうど人間の生存に適した値になっているのはなぜか」という問題ですね。 佐藤ええ、宇宙はなぜこんなにうまく、人間が生まれるようにデザインされているのか。「デザイン」というと、ちょっと怖いですが(笑)。) 福岡佐藤さんはそれをどう説明されますか。 佐藤私たち物理学者は、それをマルチバース(多宇宙)という概念で説明できると考えています。これは、私たちがいる宇宙の他にも、宇宙が無限に存在するという考え方ですね・・・物質の基本要素を、粒ではなく、ひも状の存在とする「超ひも理論」です。 私たちがいる空間は、縦、横、高さのある3次元空間ですけれど、この理論に従えば、その周りには10次元の宇宙が広がり、そこには2次元や5次元の宇宙空間も存在していることになります。 さらに、「超ひも理論」をベースに発展した最新の仮説では、3次元空間に閉じ込められた私たちには単にそれらが見えないだけで、物理法則も次元も異なる宇宙は無限に存在するといわれています」、壮大な理論のようだ。
・『「宇宙は10の500乗存在する」 福岡「人間原理」では、この宇宙が人間に適して見えるのは、「まさに私たちがそこにいるからだ」といいますよね。 佐藤そうです。スタンフォード大学の物理学者で、この分野の権威であるレオナルド・サスキンドは「宇宙は10の500乗存在する」といっています。 仮にそれだけ多くの宇宙が多様な物理法則をもつとすれば、そのどこかで知的生命体が生まれているかもしれない。その生命体は、私たちと同じように、自分のいる世界はじつにうまくできていると感じているはずです。 つまり、認識主体がいるからその世界が存在するので、主体がいない宇宙はそもそも認識されない。誰も質問する人がいないので。 福岡質問する人がいない(笑)。質問が生まれるような宇宙なら、つじつまが合うのは当然だということですね。) 佐藤しかし一方、物理学者としては、「多様な物理法則」という考え方に対してフラストレーションもあります。物理学者は、この世界を総(す)べる物理法則は、必然的にたった1つに定まっていると信じたい。 その信念のもと、究極の法則を探り出すことに、最大の喜びがあるんです。 福岡そこにイデア(理念/観念)のようなものを見ているわけですね。 佐藤もちろん、すべての人がこうした考え方に同意してくれるわけではありません。 以前、ある生物学者の方からは、「物理法則なんてそれほど大仰なものじゃない。地球に人間が生まれたのはたまたま環境がそれに適していたからで、物理法則もそういう環境因子の1つに過ぎないよ」といわれました(笑)』、「物理学者は、この世界を総(す)べる物理法則は、必然的にたった1つに定まっていると信じたい。 その信念のもと、究極の法則を探り出すことに、最大の喜びがあるんです。 福岡そこにイデア(理念/観念)のようなものを見ているわけですね・・・ある生物学者の方からは、「物理法則なんてそれほど大仰なものじゃない。地球に人間が生まれたのはたまたま環境がそれに適していたからで、物理法則もそういう環境因子の1つに過ぎないよ」といわれました(笑)』、「物理法則もそういう環境因子の1つに過ぎない」、との考えには私には違和感を感じる。
・『恐竜が知的生物になった可能性もある 福岡じつは、こんな思考実験があるんです。 私たちのいるこの宇宙の歴史はおよそ138億年、そのうち地球の歴史は46億年、さらに、地球に生命が誕生してから38億年がたったといわれます。つまり、生命は、地球誕生の8億年後に生まれたことになる。 では、その8億年の歴史が、さまざまな環境条件を含めてまったく同じように再現され、繰り返されたとき、同じ進化のプロセスをたどって、いまと同じ人間が生まれてくるだろうか。 私は、生まれてこないと思うのですが。 佐藤私も、生まれないと思いますね。よく、いまから6550万年前に地球に巨大隕石が落ち、それによって恐竜が滅んだために、哺乳類が知的生物へと進化したといわれますよね。 しかし、あの時期にあの隕石が落ちたのは、極めて偶然です。隕石が落ちず、人間の代わりに恐竜が知的生物になった可能性すらあると思います。 福岡私は、同じ環境が再現されれば同じ結果がもたらされるというのは、イデアを求めすぎる考え方ではないかと思うんです。 同じ条件で隕石が落ちても、一部の恐竜は生き残ったかもしれないし、その後に残った哺乳類もいまのように栄えなかったかもしれない。 進化の過程にはさまざまな岐路が存在し、そのうちどれを選ぶかの選択には、偶然としか思えないことがたくさんあります。 たとえば、私たちの体をつくるアミノ酸にはL体とD体という2つの異性体があって、地球の生物はすべてL体を使っています。 そこに必然はなく、たまたま最初に誕生した生命がL体を選んだに過ぎない。同じ環境が繰り返されれば、次はD体が選ばれるかもしれません。 そう考えると、同一の進化のプロセスは二度と繰り返されないと思えます。 とくに西洋には、環境さえ再現されれば必ず人間が地球を支配するというある種のドグマ(独特の教義や教理)がありますけど、それはちょっと違うと思うんです。 佐藤そうですね。ただ、私自身は、知的生命体についてはもう少し別の見方ができると思っています。 確かに進化の過程でたくさんのサイコロが振られることを思えば、2、3回の実験でいまと同じ人間が生まれてくるとは考えにくい。しかし、地球のような星が他に無数にあるとするなら、どこかで人間のような知的生命体が生まれることは、統計的に必然です。 つまり、いま恐竜が知的生命体になったかもしれないと申し上げましたけど、ありとあらゆる場所にありとあらゆる生物が生まれ得るなら、そこには何らかの形で必ず知的生命体が含まれるはずです。 その場合、それがわれわれと同じように、DNAから生まれる生命体である可能性も決して低くないのではないでしょうか』、「いま恐竜が知的生命体になったかもしれないと申し上げましたけど、ありとあらゆる場所にありとあらゆる生物が生まれ得るなら、そこには何らかの形で必ず知的生命体が含まれるはずです。 その場合、それがわれわれと同じように、DNAから生まれる生命体である可能性も決して低くないのではないでしょうか」、なるほど。
・『宇宙が広すぎて出会えていないだけ? 福岡だとすると、私たちが地球外の知的生命体とまだ出会えていないのは、宇宙が広すぎるからでしょうか。 佐藤そう考えるのが、おそらく最も可能性が高いと思います。 銀河系における恒星間の平均距離は、およそ3光年(1光年はおよそ10兆キロメートル)。一方、いま人間がつくれる最速の宇宙船の速度は、光速の0.1パーセントにも満たない。これでは、隣の星へ行くだけで何万年もかかります。 おそらくこうした距離が、お互いの邂逅を妨げているのではないか。しかし、電波などの調査で今後も知的生命体の存在が確認できないとなれば、その理由をもっと深刻に考えないとなりません』、「銀河系における恒星間の平均距離は、およそ3光年(1光年はおよそ10兆キロメートル)。一方、いま人間がつくれる最速の宇宙船の速度は、光速の0.1パーセントにも満たない。これでは、隣の星へ行くだけで何万年もかかります。 おそらくこうした距離が、お互いの邂逅を妨げているのではないか。しかし、電波などの調査で今後も知的生命体の存在が確認できないとなれば、その理由をもっと深刻に考えないとなりません」、「その理由をもっと深刻に考えないとなりません」、どういう意味なのだろう。残念ながら私には理解不能だ。
タグ:生命科学 (その3)(ヒトの「不死」細胞はすでに存在している驚愕事実 ただし、皆が思い描く不老不死の実現は難しい、「企業に特許を取られるとマズい…」京都大学が特許を取得せざるをえない衝撃のウラ事情…普通とは「180度違う発想」、「AIが人間を事前に逮捕」人間とAIの協力の先に起こりうる衝撃的な「近未来」をノーベル賞科学者・山中伸弥が徹底解説、宇宙のどこかに人間みたいな生命体がいる必然 宇宙物理学者・佐藤勝彦×生物学者・福岡伸一) 東洋経済オンライン 黒田 裕樹 氏による「ヒトの「不死」細胞はすでに存在している驚愕事実 ただし、皆が思い描く不老不死の実現は難しい」 『希望の分子生物学: 私たちの「生命観」を書き換える』 「HeLa細胞(※1)は、1951年に取り出されたヒトのがん細胞に由来しており、これまで何十年にもわたって世界中の研究室で繁殖し続けているからです。 しかし、不老不死への渇望は自分自身のゲノム配列を持つ細胞が永久に生き残るだけで満たされるものではありません。少なくとも自分自身が持つ精神世界が永遠に維持され、刺激を受け入れることができ(インプット)、 それに対して適切な反応をすることができること(アウトプット)が含まれるでしょう・・・脳を中心とした中枢神経系と、それに対するインプットとアウトプットが正常に機能している状況を永遠に維持する必要性があります。それを考えただけでも不老不死の実現は極めて困難であると言わざるをえません」、そこまでの高度な定義では、確かに難しそうだ。 「時間の経過とともに、紫外線、放射線、化学物質、通常の代謝プロセスで発生する活性酸素などから私たちのDNAは損傷を受けます。 (※2)細胞が一定の回数分裂すると、その細胞の分裂能力が失われ、増殖が停止する現象を指す。この状態の細胞は死んでいるわけではなく、一定の活動を続けている。セネセンスを経た細胞は、分泌物の変化や形態の変化など、様々な特徴を持つ。最終的には炎症反応の促進や組織の再生の妨げとなるなど、様々な負の影響を及ぼすようになる・・・ 修復メカニズムは存在しますが、すべての場合において治せるものではなく、時間の経過とともに損傷は蓄積されていきます。一度失われた神経細胞は再生することが難しく、特にヒトの大脳皮質などの領域では新しい神経細胞がほとんど生まれないため、損傷や老化による神経細胞の損失は永続的なものとなります」、なるほど。 「特に免疫系の総司令官的な働きをするヘルパーT細胞の成熟には「胸腺」という臓器が欠かせません。しかし、胸腺は思春期頃をピークにして、徐々に脂肪組織に置き換えられて萎縮していきます。 そのため、成人を過ぎてからは年々、免疫応答の質と量は劣化の道をたどります。これも、何らかの臓器・組織の疾患につながる要素となり、死を近づけるものになるでしょう」、なるほど。 「精子と卵が受精してできた受精卵が何度かの分裂を繰り返した発生のごく初期の時点で始原生殖細胞はつくられます。 その後の体は「始原生殖細胞」と「始原生殖細胞以外の領域」に識別される・・・受け渡しを完了した「始原生殖細胞以外の領域」は、始原生殖細胞の観点からはいつしか邪魔な存在になります。 進化の歴史の中では、特定の生物種において、寿命が延びる傾向のある変異が生じたこともきっとあることでしょう。) しかし、始原生殖細胞にとって利点のない「始原生殖細胞以外の領域」の寿命延長は、その生物種の生存競争においてマイナ スに働き、絶滅につながってきたと思われます・・・生物である限り、やはり死は受け入れるしかないものだと思います」、なるほど。 「老化を遅らせ、健康寿命を延ばす効果があるとして、サプリメントという形で売り出されています。 確かに、それらはこれまでに実験的に報告された寿命などに関わる分子機構に影響を与える要素はあると思います。 ただし、先に述べましたように、老化は様々な要素が複合的に作用しながら進むものです。 特定の分子レベルのシナリオを強制的に変更したからといって、生物個体全体の老化をストップ/スローダウンさせることまでが実現するとは思えません。 また、特定の化学物質を過剰に摂取した場合の安全性についても、不安視される要素はありま す。 やはり、適度なカロリー量の栄養バランスのとれた食事、良質かつ十分な睡眠、そしてストレスを少なくすることなどが、普段の生活の中で、生物個体の本体のメンテナンスのために最も重視すべき選択肢ではないでしょうか」、その通りだ。 現代ビジネス 山中 伸弥氏と棋士の羽生善治氏 対談「「企業に特許を取られるとマズい…」京都大学が特許を取得せざるをえない衝撃のウラ事情…普通とは「180度違う発想」」 「iPS細胞は基本的な技術です。それをプラットフォームにして、いろいろなアプリケーションを開発することが可能です。だからiPS細胞そのものを開発した僕たちからすると、できるだけ制約なく、できるだけ多くの人にその技術を使ってもらいたい。 でも羽生さんが言われたように、僕たちの特許とは別に、営利目的で特許出願をする会社もあります。そういうところで部分的にでも特許が成立してしまうと、iPS細胞の技術がすごく使いづらくなってしまいます」、なるほど。 「生命科学の分野でも、根本的な技術はできるだけ囲い込まずにやることが、研究の進展にとっては非常に大切だと思います」、その通りだ。 山中 伸弥氏と棋士の羽生善治氏による対談「「AIが人間を事前に逮捕」人間とAIの協力の先に起こりうる衝撃的な「近未来」をノーベル賞科学者・山中伸弥が徹底解説」 「「知能とは何なのか」と問われると、結局わからない、という結論にたどりついてしまいます」、なるほど。 「アメリカでAIを活用した防犯パトロールの事例があります。全米でも犯罪発生率が高い街のことです。人員も限られているため、犯罪の発生地域や頻度などさまざまなデータを基に、AIに「今日、どこにパトロールに行けばいいか」を決めてもらったそうです。 ベテラン警官が「なぜ犯罪なんか絶対に起こりそうにない閑静な住宅街に行かなきゃいけないんだ」と言いつつ、AIの指示通りにパトロールに行くと、なぜか怪しい人がいて、まさに犯行に及ぼうと……。結果的に犯罪発生率が劇的に低下したそうです」、なるほど。 「「ブラックボックス問題」、結果はうまく行っているけれど、そのプロセスが誰にも見えない状況を人間の側が受け入れられるかどうかが問われます。 理屈としては理解できなくなって、AIが出した結果なり結論なりを信じるか信じないか、ただそれだけの話になってしまう可能性もあります。でも人間は人間なりに考えたり、発想したりすることを捨ててはいけない、やめてはいけないと思います」、その通りだ。 福岡 伸一氏 佐藤 勝彦氏の対談「宇宙のどこかに人間みたいな生命体がいる必然 宇宙物理学者・佐藤勝彦×生物学者・福岡伸一」 いま自然科学研究機構の国立天文台が中心になって進めているのは、太陽系外の惑星、とくに水が液体で安定して存在できるハビタブルゾーン(生命居住可能領域)にある惑星を探す研究なんです。 さらにそこから、それらの惑星を詳しく観測して、生命の有無を探っていくことになるでしょう。その際、初めはいま知られている唯一の生命体である地球型の生命を探すことになるはずです」、なるほど。 「「人間原理」という概念がありますけど。 福岡「この宇宙の物理定数が、ちょうど人間の生存に適した値になっているのはなぜか」という問題ですね。 佐藤ええ、宇宙はなぜこんなにうまく、人間が生まれるようにデザインされているのか。「デザイン」というと、ちょっと怖いですが(笑)。) 福岡佐藤さんはそれをどう説明されますか。 佐藤私たち物理学者は、それをマルチバース(多宇宙)という概念で説明できると考えています。これは、私たちがいる宇宙の他にも、宇宙が無限に存在するという考え方ですね・・・物質の基本要素を、粒ではなく、ひも状の存在とする「超ひも理論」です。 私たちがいる空間は、縦、横、高さのある3次元空間ですけれど、この理論に従えば、その周りには10次元の宇宙が広がり、そこには2次元や5次元の宇宙空間も存在していることになります。 さらに、「超ひも理論」をベースに発展した最新の仮説では、3次元空間に閉じ込められた私たちには単にそれらが見えないだけで、物理法則も次元も異なる宇宙は無限に存在するといわれています」、壮大な理論のようだ。 「物理学者は、この世界を総(す)べる物理法則は、必然的にたった1つに定まっていると信じたい。 その信念のもと、究極の法則を探り出すことに、最大の喜びがあるんです。 福岡そこにイデア(理念/観念)のようなものを見ているわけですね・・・ある生物学者の方からは、「物理法則なんてそれほど大仰なものじゃない。地球に人間が生まれたのはたまたま環境がそれに適していたからで、物理法則もそういう環境因子の1つに過ぎないよ」といわれました(笑)』、 「物理法則もそういう環境因子の1つに過ぎない」、との考えには私には違和感を感じる。 「いま恐竜が知的生命体になったかもしれないと申し上げましたけど、ありとあらゆる場所にありとあらゆる生物が生まれ得るなら、そこには何らかの形で必ず知的生命体が含まれるはずです。 その場合、それがわれわれと同じように、DNAから生まれる生命体である可能性も決して低くないのではないでしょうか」、なるほど。 「銀河系における恒星間の平均距離は、およそ3光年(1光年はおよそ10兆キロメートル)。一方、いま人間がつくれる最速の宇宙船の速度は、光速の0.1パーセントにも満たない。これでは、隣の星へ行くだけで何万年もかかります。 おそらくこうした距離が、お互いの邂逅を妨げているのではないか。しかし、電波などの調査で今後も知的生命体の存在が確認できないとなれば、その理由をもっと深刻に考えないとなりません」、 「その理由をもっと深刻に考えないとなりません」、どういう意味なのだろう。残念ながら私には理解不能だ。
ノーベル賞受賞(その8)(「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」、重力波 ヒッグス粒子 ニュートリノ質量 銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」、闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生) [科学技術]
ノーベル賞受賞については、2019年11月23日に取上げた。久しぶりの今日は、(その8)(「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」、重力波 ヒッグス粒子 ニュートリノ質量 銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」、闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生)である。
ノーベル賞受賞については、2019年11月23日に取上げた。久しぶりの今日は、(その8)(「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」、重力波 ヒッグス粒子 ニュートリノ質量 銀河中心の超巨大BHという
先ずは、昨年3月6日付け現代ビジネスが掲載した「サイエンスZERO」20周年スペシャル・取材班による「「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107046?imp=0
・『この宇宙を形づくっているものの中で、「目に見える」物質は全体の5%にすぎないというのをご存じでしょうか。宇宙の物質の大部分は正体不明の物質「ダークマター(暗黒物質)」が占めていると考えないと、宇宙での私たちの存在に説明がつかないことが分かってきたのです。 「質量は持つ」けれど「観測できない」という物質、ということです。それは仮説上の物質で「ダークマター」と名付けられ、いまだに実在が確かめられていません。そこで今、世界中の科学者がこの謎の物質を捉えようと理論や実験を総動員して研究しています。中でも、天文学・物理学・数学といった異分野の専門家たちがこのダークマターに迫ろうとする世界トップレベルの研究所が「カブリ数物連携宇宙機構」です。 その初代機構長を務めた理論物理学者の村山斉さんは、ダークマターが実験で捉えられる可能性が見えてきて、今、研究はかつてないほど“面白い時期”を迎えていると言います。「私たちの“生みのお母さん”である『ダークマター』に会いたい」と語る村山さんに、ダークマター研究の20年、そして今後の展望について伺いました(Qは聞き手の質問、Aは村山氏の回答)』、興味深そうだ。
・ダークマターはたった20年前に存在が判明した Q:そもそも、ダークマターとはどんなものか、教えてください。 A:ダークマターは、「暗黒物質」とも呼ばれるもので、素粒子という小さな「粒(つぶ)」みたいな物質、またそれが少し集まったものだと考えています。1930年代に、はるか遠くの銀河団を観測した天文学者がいて、その銀河が「激しいスピードでビュンビュン動いている」ということを発見しました。 その銀河が特異に見えたのは、「激しいスピードで動いている」にもかかわらず、そのまま飛び出していってバラバラになってしまわないことでした。そこでその天文学者は、「何か重力を持つ物質がないと、こんなに速く動いている銀河同士をつなぎ留めておくことはできないはず。こんなに速く動いているということは見えない『ダークマター』があるのではないか」と考えたのです。 ところが、当時は単に望遠鏡では見えない星や、ガスの塊があるからではないかというのが常識でした。20年ほど前になってようやく、今まで全く知られていない新しい物質だということが判明したのです』、「ダークマターは、「暗黒物質」とも呼ばれるもので、素粒子という小さな「粒(つぶ)」みたいな物質、またそれが少し集まったものだと考えています」、なるほど。
・『どうしてどの方向にもビッグバンが観測されないのか? Q:20年前に何があったんでしょうか? A:20年前にビッグバンの名残(残照)を直接観測するための人工衛星WMAP(※1)が上がって、解像度の高い、宇宙誕生初期の写真が撮れるようになりました。その写真には情報がたくさん詰まっていて、宇宙全体の物質のうちダークマターが約8割を占めているというこの宇宙の詳細が明らかになったのです。 そこで初めて、ダークマターと普通の物質は明らかに違うものだということがはっきりしてきました。それまでは、ブラックホールやニュートリノなど、すでに知られているものがダークマターの正体ではないかと考えられていたので、本当に衝撃を受けました。 ※1 ビッグバンを直接観測する人工衛星…2001年にNASA(米航空宇宙局)が打ち上げた「Wilkinson Microwave Anisotropy Probe(通称WMAP)」と呼ばれる宇宙探査機。ビッグバンの名残である「宇宙マイクロ波背景放射」を精密に観測するために打ち上げられた。 Q:ダークマターの存在がはっきりわかったのは、ビッグバンの観測からなんですね? A:はい。宇宙が始まって138億年と言われていますから、138億光年向こうを頑張って観測すると、「あっ、ビッグバンだ」というふうに今でも見えるはずなんです。「あっちを向いてもビッグバンが見える」し、「こっちを向いてもビッグバンが見える」。そういう状況ですね。ですがビッグバンの写真を見るとほとんどのっぺらぼうで、温度の違いは10万分の1しかありません。 ダークマターが存在しない宇宙を考えたとすると、そんなのっぺらぼうみたいな状態だったら、今あるような銀河の塊はできないので、どうしてなのかという問題があったんです。宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです』、「138億光年向こうを頑張って観測すると、「あっ、ビッグバンだ」というふうに今でも見えるはずなんです。「あっちを向いてもビッグバンが見える」し、「こっちを向いてもビッグバンが見える」。そういう状況ですね。ですがビッグバンの写真を見るとほとんどのっぺらぼうで、温度の違いは10万分の1しかありません。 ダークマターが存在しない宇宙を考えたとすると、そんなのっぺらぼうみたいな状態だったら、今あるような銀河の塊はできないので、どうしてなのかという問題があったんです。宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです」、「ビッグバン」で「宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです」、なるほど。
・『ダークマターを探すのは、“私たちのお母さん”だから・・・! Q:村山さんはなぜダークマターの正体を探し続けているんですか? A:ダークマターっていうのは未知の物質なのでちょっと気持ち悪い感じがするかもしれませんが、実は“私たちのお母さん”なんです。 簡単に例えると初期の宇宙では、大きな質量を持ったダークマターが少しずつ重力で引っ張り合いながら固まってきます。そしてダークマターの塊ができたところに、今度はその重力によって原子でできたガスを引きずり込んできます。さらに、そのガス同士が反応して、ぶつかって熱くなって光を出します。するとそれが冷えて固まり星ができ、銀河ができてきます。その中に私たちができてくるんです。 だから、ダークマターは本当に私たちの“生みのお母さん”なんです。 「私たちはどこから来たんだろう?」それが知りたいです。それに、ダークマターからお母さんが生まれた当時の環境が見えてきます。私は、ダークマターが生まれた時期は、宇宙が始まってから100億分の1秒ぐらいのビッグバンの直後だと思っています。始まったばかりの宇宙の姿も見えてくるという意味で、ダークマターはすごく私たちにたくさんのことを教えてくれると思っています。一度ぜひ会ってみたいですね。 後編『重力波、ヒッグス粒子、ニュートリノ質量、銀河中心の超巨大BHという発見が続々…「素粒子物理の夢」の時代にトップランナーが語る「夢のその先」』では、実際に村山さんがダークマターにどうアプローチを試みたのか? を中心に紹介します。「サイエンスZERO」20周年スペシャル 3月26日(日)夜11:30 NHK Eテレ 』、「ダークマターが生まれた時期は、宇宙が始まってから100億分の1秒ぐらいのビッグバンの直後だと思っています」、なるほど。
次に、3月6日付け現代ビジネスが掲載した「サイエンスZERO」20周年スペシャル・取材班による「重力波、ヒッグス粒子、ニュートリノ質量、銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107049?imp=0
・『この宇宙の物質には「目に見える」ものが全体の5%しかないことをご存じでしょうか。「質量は持つ」けれど「観測できない」という宇宙の大部分を占める物質は、「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれています。今、世界中の科学者がこの謎の物質を捉えようと理論や実験を総動員して研究しています。 天文学・物理学・数学といった異分野の専門家たちが集まる世界トップレベルの研究所「カブリ数物連携宇宙機構」の初代機構長を務めた宇宙物理学者の村山斉さんは、ダークマターを「我々人類のお母さん」と呼びました。前編『「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」』でその理由を伺いました。 後編では、今後の展望について伺います』、興味深そうだ。
・『「見えない物質をどう追いかける」か? ―見えないダークマターをどうやって探すのでしょうか? 私の研究のスタイルは、探し方を考える前に、ダークマターは「どういう可能性がある物質なのか」についていろいろな仮説を立てることから始めます。その次に、どうやったら探せるのかを考えます。 例えば、今考えている仮説に「SIMP(シンプ)(※1)」というものがありますが、SIMPはこういう考え方だから多分物質にはこういう力が働くので、こうやったら捕まえられるだろうという提案をします。それを具体的にやってみるために、実験が専門の人と相談しながら、道具や装置、使う物質について詰めていきます。こうして実際に装置を作ってやってみようという段階になる。そして実験データをためて、検証していくことになります。 ※1 SIMP…Strongly Interacting Massive Particleの略で、強い相互作用をする素粒子。村山さんたちの研究グループが2015年に提唱したダークマターの候補物質。 Q:実際に「ダークマターの候補」SIMPを探す計画はあるのでしょうか? A:はい。つくば市の高エネルギー加速器研究機構にあるSuperKEKB(※2)という、全周3kmぐらいの大きさの、電子をぐるぐる回す加速器という装置があるんですが、この装置でSIMPが作れる可能性があるということが分かってきました。 この装置はもともと、ノーベル賞を受賞された小林先生、益川先生が作られた小林益川理論(※3)を超える理論を探したいという目的で作られた実験装置でしたが、それをうまく利用することでダークマターを探せる可能性もあるんです。全く新しい装置を作るのは時間もお金も人手も多くかかって大変なので、すでにある装置をうまく使う、そういうアイデアをたくさん考えるのも研究者の仕事のひとつです。 ※2 SuperKEKB加速器…エネルギーの高い電子と陽電子を衝突させて、衝突後に生成される素粒子を測定する「Belle II(ベル・ツー)実験」に使う実験装置。現在の素粒子物理学の基盤である「標準理論」を超える結果が得られると期待されている。 ※3 小林益川理論…当時京都大学に所属していた小林誠氏と益川敏英氏によって1973年に提唱された理論。宇宙の始まりであるビッグバンでは「物質」と「反物質」が同じ量だけ作られたと考えられているが、現在の宇宙には「物質」のほうがはるかに多く存在している。その理由は、クォークと呼ばれる素粒子が6つあれば説明できるというのが小林益川理論。当時はまだ3つしかクォークは見つかっておらず、6つのクォークを予言したこの理論は驚くべきものだった。その後、実験でこの理論が確かめられたことにより、小林、益川両氏には2008年にノーベル物理学賞が贈られた』、「もともと、ノーベル賞を受賞された小林先生、益川先生が作られた小林益川理論(※3)を超える理論を探したいという目的で作られた実験装置でしたが、それをうまく利用することでダークマターを探せる可能性もあるんです。全く新しい装置を作るのは時間もお金も人手も多くかかって大変なので、すでにある装置をうまく使う、そういうアイデアをたくさん考えるのも研究者の仕事のひとつです」、これが有効活用できれば、望ましい。
・『干し草の山から針一本をふるいにかけるソフトウェア Q:SIMPを探す実験はいつから行うのでしょうか? A:実験自体は、今ある装置でもできるはずですが、解析をするためのソフトウエアがまだできていないんです。どんなにいい装置があっても、膨大なデータの山から欲しいものを引き出すのがすごく大変です。 例えて言えば、「干草の山の中から針1本を引っ張り出す」ようなもの。干し草と針を分けるためには、干草は通り抜けるけど針は引っかかる、というふるいを作らないといけないんです。そのふるいに当たるものが、コンピューターのソフトウエアなんですが、これを作るのはそう簡単なことではありません。 SIMPの実験に使うソフトウエアもそろそろできるとは思いますが、その後、実験装置に組み込んでいくので、実験開始にはもう少し時間がかかると思っています。具体的には、実験観測データが出始めるのは、来年の終わりか再来年くらいになるかと思います。 Q:SIMP以外にもダークマターの候補となる物質はあるんですか? A:10年くらい前まではWIMP(※4)という物質がダークマターの有力候補だったので、みんなそればかり一生懸命探していました。それが最近、ほかの候補も探してみようというアイデアがたくさん出てきたんです。実際に探してみたら、「あった!」ということになるかもしれないですから、今、本当に面白い時期になってきたと思っています。 日本ではSIMPのほかに、「アクシオン」という軽い粒子がダークマターの可能性があると考えて、重力波望遠鏡KAGRA(※5)を使って検出する研究も進めています。 ※4 WIMP…Weakly Interacting Massive Particleと呼ばれるダークマターの有力候補物質。重力相互作用と弱い相互作用のみ働くものと考えられている。 ※5 重力波望遠鏡KAGRA…岐阜県飛騨市神岡町にある重力波を検出するための望遠鏡。重力波の初検出は、アメリカのLIGOが2016年に初めて成功したが、そのLIGOとイタリアのVirgoとKAGRAの3つで国際重力波ネットワークをつくり、重力波がどの天体から来たのか、その源を探る研究が進んでいる』、「10年くらい前まではWIMP(※4)という物質がダークマターの有力候補だったので、みんなそればかり一生懸命探していました。それが最近、ほかの候補も探してみようというアイデアがたくさん出てきたんです。実際に探してみたら、「あった!」ということになるかもしれないですから、今、本当に面白い時期になってきたと思っています」、なるほど。
・『素粒子物理学にとって夢のような20年間の成果 Q:いろいろ手を尽くした結果、ダークマターの正体がわからないということもあるのでしょうか? A:理論的にはありえます。そうなると、とても悲しいですね。でも、科学者というのはなんとかして分かりたいと思って、あちこちに手を出す、そういう人たちなんです。もしかしたら永遠に分からないかもしれないと思っていても、手を出した瞬間に捕まえちゃう可能性もあるので、だったらやってみた方が得じゃないかと、そういう発想をするんです。そうやっていくうちに、科学が進歩していくのではないかとも思っています。 Q:この20年の科学の進歩はどう見ていますか? A:素粒子や宇宙の研究にとってはものすごく華々しい20年間でした。重力波(※6)も見つかりましたし、ヒッグス粒子(※7)も見つかりました。それからニュートリノに重さがあるという研究(※8)や、宇宙の歴史をちゃんと理解したという理論にノーベル賞(※9)が出たのもこの20年間でした。それから銀河系の中心に太陽の400万倍もあるブラックホールも発見されました(※10)。本当に今、技術の進歩やコンピューターの進歩のおかげで科学がググって伸びているのを感じられて、この時代に生きていてよかったなと思います。 ※6 重力波…アインシュタインが一般相対性理論で予言していた現象。2016年にアメリカのLIGOが初検出に成功。その功績により、レイナー・ワイス氏、バリー・バリッシュ氏、キップ・ソーン氏が2017年にノーベル物理学を受賞した。 ※7 ヒッグス粒子…宇宙が誕生して間もないころに、他の素粒子に質量を与えたとされる粒子。1964年にイギリスの物理学者ピーター・ヒッグス氏が提唱した理論に登場。CERN(欧州合同原子核研究機関)で行われた実験によって2012年に実際に確認され、2013年にはピーター・ヒッグス氏とフランソワ・アングレール氏が「素粒子の質量の起源に関する機構の理論的発見」をしたことにより、ノーベル賞を受賞した。 ※8 ニュートリノ研究にノーベル賞…2015年のノーベル物理学賞が「ニュートリノ振動の発見により、ニュートリノに質量があることを示したこと」で梶田隆章氏とアーサー・マクドナルド氏に贈られた。 ※9 宇宙の歴史を理解した理論にノーベル賞…2019年にノーベル賞を受賞したジェームズ・ピーブルズ氏は、宇宙の始まりである「ビッグバン」が起きた直後から現在までの宇宙の進化の様子を理論的に研究するうえで大きな貢献をしたことなどが評価された。 ※10 銀河中心に太陽の400万倍のブラックホール発見…2022年、国立天文台など80機関が参加する国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」が、天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールの撮影に初めて成功した』、「素粒子や宇宙の研究にとってはものすごく華々しい20年間でした。重力波(※6)も見つかりましたし、ヒッグス粒子(※7)も見つかりました。それからニュートリノに重さがあるという研究(※8)や、宇宙の歴史をちゃんと理解したという理論にノーベル賞(※9)が出たのもこの20年間でした。それから銀河系の中心に太陽の400万倍もあるブラックホールも発見されました(※10)。本当に今、技術の進歩やコンピューターの進歩のおかげで科学がググって伸びているのを感じられて、この時代に生きていてよかったなと思います」、進歩を実感できるのは幸せだ。
・『自分の最初は何か、どこから来たのかという疑問 Q:村山さんが科学に興味を持ったのはいつでしょうか。 A:私たちはどこから来て、なぜ存在しているのだろうということを、たぶんみんな小さい頃に考えると思うんですよ。特に田舎に旅行に行って、夏の夜空をボーっと見て星がいっぱいあるのを見たとき、自分って何だろうなと思ったりすると思うんですよね。 そういうことを考えていると、自分たちの体を作っている原子は、実は星の爆発で散りばめられた塵(ちり)なんだ、自分は星から来たんだなということが分かるんですね。じゃあ星はどこからできたんだろうかと考えると、ダークマターがないと星ができないことを知り、じゃあダークマターはどうやって星を作ったのだろう、そうやってどんどんさかのぼっていくと、宇宙の始まりに行き着いちゃうんですよね。だから本当に最初は自って何だろう。どこから来たんだろうなっていう素朴な疑問から始まったんだと思います。 Q:その疑問を持ち続けて、今があるんでしょうか。 A:高校時代は、中学時代にロックを聴くようになった影響でバンドをやったり、体を鍛えようとラグビー部に入ったりして、あまり勉強をしていませんでした。最初の模擬試験の成績は、物理の点数が40点でしたから、これではいけないと思って、高校3年になってから突貫工事で勉強をした感じです。 大学にはミクロな素粒子を勉強しようと思って入ったのですが、大学院が終わった頃に転機が来ました。小さい素粒子の世界と大きな宇宙が結びつく大発見があったんです。その発見をしたのは、アメリカのバークレーの同僚のジョージ・スムートさん(※11)たちで、はるか遠くの宇宙を見ることでビッグバン直後の小さかったときの宇宙が見えてきました。 大きいものと小さいものが結びついているということが、私の頭の中で初めてつながった瞬間でした。子どもの頃から漠然と思っていた疑問と、今までやってきた研究がひとつになり、「あっ、これは面白い!」とますます研究にのめり込んでいきました。 ※11 ジョージ・スムート氏…カリフォルニア大学バークレー校物理学教授。1989年にNASA(米航空宇宙局)が打ち上げた人工衛星COBEによる観測で主導的な役割を果たし、ビッグバンの名残の熱のゆらぎである宇宙マイクロ波背景放射を初めて観測。その功績により、2006年にジョン・マザー氏とともにノーベル物理学賞を受賞。 Q:今後、この分野の研究はどのように進んでいくのでしょうか? A:実験観測の技術とそれを解析するコンピューター、理論的な予言をするためのシミュレーションが、今、三つ巴でどんどん進歩していますから、やるべきことがはっきりして、あとはやるばかりになってきています。ただ、必要な実験装置の規模も大きくなってきているので1人ではできません。もしかしたら100人でもできないかもしれない。でも、世界中から研究者を集めて、1000人だったらできるかもしれない。そういうふうに、もっといい装置、いい観測、いい実験をしようという動きが大きくなってきているので、これからいろいろな進歩が出てくるのを期待しています。 「サイエンスZERO」20周年スペシャル 3月26日(日)夜11:30 NHK Eテレ 』、「もっといい装置、いい観測、いい実験をしようという動きが大きくなってきているので、これからいろいろな進歩が出てくるのを期待しています」、幸せな科学者人生だ。
第三に、昨年12月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの池上 彰氏と増田ユリヤ氏による「闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生」を紹介しよう。
・『12月10日にノーベル賞授賞式が開催される。ジャーナリストの池上彰氏は「今年の注目はなんといっても、生理学・医学賞を受賞した研究者、カタリン・カリコさん」という。以前からカリコ氏を取材してきた増田ユリヤ氏がカリコ氏の素顔を明かした』、興味深そうだ。
・『10年かかるワクチン開発を半年で実用化 池上 今年も12月10日にノーベル賞授賞式が開催されます。今年の注目はなんといっても、生理学・医学賞を受賞した研究者、カタリン・カリコさんです。メッセンジャーRNA(mRNA)を使った新しい手法で、新型コロナワクチンの開発に貢献しました。 増田 通常であればワクチンの開発には10年かかるところを、半年で実用化にこぎ着けられたのは、カリコさんの40年にもわたるmRNAの研究成果あってこそ、とその功績が評価されました。 mRNAは、体の設計図であるDNAの情報をコピーして細胞内に届ける役割を担っていて、こうして届けられた設計図のコピーを基にタンパク質が作られます。コロナウイルスの表面の突起もタンパク質でできているため、その情報を人工的にコピーして作ったのがmRNAワクチンです。 アイデア自体は以前からあったのですが、mRNAが体内に入る場合に起きる炎症反応を抑えることができず、専門家の間では「実用化は無理だろう」とみられていました。 池上 挫折し、諦めた研究者も少なくなかったとか』、「通常であればワクチンの開発には10年かかるところを、半年で実用化にこぎ着けられたのは、カリコさんの40年にもわたるmRNAの研究成果あってこそ」、「mRNA」の効用は素晴らしい。
・『降格処分や研究資金の打ち切り 増田 カリコさんは「mRNAが多くの命を救う医学に貢献できるはずだ」と信じて諦めず、研究資金を打ち切られたり、大学で降格処分を受けたりする困難に立ち向かいながら粘り強く研究を続けてきました。実用化につながる論文を共同研究者のドリュー・ワイスマン教授と発表したのが、2005年。 その後、カリコさんは独ビオンテックに移籍し、ジカ熱ワクチンやインフルエンザワクチンの開発に携わっていたので、コロナワクチンも半年で実用化できた。大学で研究した蓄積と、製薬会社での実用化の経験が奏功したのです。 池上 ビオンテックはドイツのトルコ系移民が設立した会社で、カリコさんのようにハンガリーから米国に渡って研究を続けてきたような優秀な人たちを受け入れています。 増田 カリコさんはビオンテックに移籍して、ハンガリー時代に一緒に研究していた人たちと再会しています。信念を持った優秀な人たちを集め、研究部門以外のスタッフも研究者でそろえています。 池上 増田さんはカリコさんに以前から取材されていますね。) ▽米ソ冷戦期にソ連圏からの渡米(増田 コロナ禍当初に出演したあるテレビ番組でカリコさんを2~3分で紹介するコーナーがあったのですが、そのときに「どうしてもカリコさんにお話を聞きたい!」と思い立ち、取材しました。そして21年10月に『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』を上梓しました。 カリコさんの研究に対する信念は本当に強いのですが、偉ぶることもなく、堂々と自分の考えていることを言葉にされる方です。ロックミュージックが大好きで、「研究はロックと一緒」とも言っていました。 カリコさんは1955年、ハンガリーで生まれ、子供の頃から自然や科学に興味を持ち、23歳のときに大学院へ進み、RNAの研究を始めます。30歳のときに所属していた研究機関で研究資金を打ち切られたことで米国へ渡ることを決意しますが、85年当時のハンガリーはソ連の支配下にあり、米国への移住はそう簡単にはいきませんでした。 池上 まだ米ソ冷戦期ですから、ソ連圏からの渡米となれば、亡命する人も多かった時代です』、「カリコさんは「mRNAが多くの命を救う医学に貢献できるはずだ」と信じて諦めず、研究資金を打ち切られたり、大学で降格処分を受けたりする困難に立ち向かいながら粘り強く研究を続けてきました」、そこまでの困難を乗り越えたとは初めて知った。
・『一家の生活を繋いだテディベア 増田 研究仲間の中にも亡命という手段を取った人がいましたが、カリコさんは家族と会うためにハンガリーとの間を行き来できる状態にしたいと考え、八方手を尽くし、米テンプル大学のポストドクターの座を得て、正規に出国許可を得ることができたそうです。 しかし当時のハンガリーでは、100ドルを超える外貨の持ち出しが禁止されていました。当時の日本円でわずか2万円程度。これだけ持って米国に渡っても、最初の給料が出るまでは住む所もありません。そこでカリコさんは闇市で自家用車を売って外貨に換え、娘が大事に持っていたテディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国したんです。そのテディベアも取材時に見せてもらいましたが、まだ大事に娘さんの部屋に飾ってありました。 池上 一家の生活をつないだ縫いぐるみですから、家宝ものですね』、「米テンプル大学のポストドクターの座を得て、正規に出国許可を得ることができたそうです。 しかし当時のハンガリーでは、100ドルを超える外貨の持ち出しが禁止されていました。当時の日本円でわずか2万円程度。これだけ持って米国に渡っても、最初の給料が出るまでは住む所もありません。そこでカリコさんは闇市で自家用車を売って外貨に換え、娘が大事に持っていたテディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国したんです」、「テディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国」とは当時は必死だったのだろう。
・『受賞した賞金は大学や研究機関に寄付 増田 その後も研究が評価されず、研究資金の打ち切りや降格など、さまざまな苦労をされるのですが、ワクチン開発で一躍脚光を浴び、ノーベル賞受賞前にも各国のさまざまな賞を受賞しています。しかしぜいたくには全く関心がなく、こうした賞を受賞した際に得た賞金は、母国ハンガリーの大学をはじめ、研究機関に寄付したそうです。 カリコさんは85年に米国へ移住した際に住み始めた家に、今も住んでいます。家具は夫のベーラ・フランシアさんの手作り。古い物を大事にする、質素な暮らしぶりがうかがえますよね。ノーベル賞受賞が決まって、ようやく新車を買ったとか。その話をした際に、カリコさんが「夫も新しくしていないでしょう?」と冗談を言ったのが印象的でした。 池上 エンジニアだったフランシアさんはほとんど表に出てきませんが、カリコさんの研究を熱心に支えたんですよね。ノーベル賞受賞時に取材を受けたカリコさんのコメントも象徴的でした』、夫である「エンジニアだったフランシアさんはほとんど表に出てきませんが、カリコさんの研究を熱心に支えたんですよね」、なるほど。
・『妻と娘の世界的活躍を支える「内助の功」も世界レベル 増田 「いい研究をするためには、研究に協力してくれるいい夫を見つけることが必要だ」と(笑)。フランシアさんは早朝5時にカリコさんを研究室へ送り、その後に娘を学校へ送る。夕方に娘さんとカリコさんをピックアップして、自分は夜中に働くという生活を続けてこられたそうです。 実は2歳のときにテディベアを抱えて国境を渡った長女のスーザンさんも、オリンピックの金メダリストなんですよ。米国代表のボート競技選手として、08年の北京、12年のロンドンと2大会連続で出場。両大会で金メダルを獲得しています。 池上 妻と娘の世界的活躍を支えるフランシアさんの「内助の功」も世界レベルですね。 さて、ノーベル賞受賞者と言えば「蛙跳び」です。受賞者は授賞式で講演を行った後、ストックホルムの大学生有志による懇親会に参加するのですが、そこで学生と一緒に受賞者が蛙跳びを披露するという伝統があるのです。19年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんは高齢を理由に深夜の懇親会を辞退されたそうですが。 増田 長く研究を続け、厳しい境遇に耐える精神力と体力を持っているカリコさんなら楽々こなせそうです』、「フランシアさんは早朝5時にカリコさんを研究室へ送り、その後に娘を学校へ送る。夕方に娘さんとカリコさんをピックアップして、自分は夜中に働くという生活を続けてこられたそうです・・・長女のスーザンさんも、オリンピックの金メダリスト・・・妻と娘の世界的活躍を支えるフランシアさんの「内助の功」も世界レベルですね」、「フランシアさんの「内助の功」もまさに世界レベル」、その通りだ。
ノーベル賞受賞については、2019年11月23日に取上げた。久しぶりの今日は、(その8)(「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」、重力波 ヒッグス粒子 ニュートリノ質量 銀河中心の超巨大BHという
先ずは、昨年3月6日付け現代ビジネスが掲載した「サイエンスZERO」20周年スペシャル・取材班による「「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107046?imp=0
・『この宇宙を形づくっているものの中で、「目に見える」物質は全体の5%にすぎないというのをご存じでしょうか。宇宙の物質の大部分は正体不明の物質「ダークマター(暗黒物質)」が占めていると考えないと、宇宙での私たちの存在に説明がつかないことが分かってきたのです。 「質量は持つ」けれど「観測できない」という物質、ということです。それは仮説上の物質で「ダークマター」と名付けられ、いまだに実在が確かめられていません。そこで今、世界中の科学者がこの謎の物質を捉えようと理論や実験を総動員して研究しています。中でも、天文学・物理学・数学といった異分野の専門家たちがこのダークマターに迫ろうとする世界トップレベルの研究所が「カブリ数物連携宇宙機構」です。 その初代機構長を務めた理論物理学者の村山斉さんは、ダークマターが実験で捉えられる可能性が見えてきて、今、研究はかつてないほど“面白い時期”を迎えていると言います。「私たちの“生みのお母さん”である『ダークマター』に会いたい」と語る村山さんに、ダークマター研究の20年、そして今後の展望について伺いました(Qは聞き手の質問、Aは村山氏の回答)』、興味深そうだ。
・ダークマターはたった20年前に存在が判明した Q:そもそも、ダークマターとはどんなものか、教えてください。 A:ダークマターは、「暗黒物質」とも呼ばれるもので、素粒子という小さな「粒(つぶ)」みたいな物質、またそれが少し集まったものだと考えています。1930年代に、はるか遠くの銀河団を観測した天文学者がいて、その銀河が「激しいスピードでビュンビュン動いている」ということを発見しました。 その銀河が特異に見えたのは、「激しいスピードで動いている」にもかかわらず、そのまま飛び出していってバラバラになってしまわないことでした。そこでその天文学者は、「何か重力を持つ物質がないと、こんなに速く動いている銀河同士をつなぎ留めておくことはできないはず。こんなに速く動いているということは見えない『ダークマター』があるのではないか」と考えたのです。 ところが、当時は単に望遠鏡では見えない星や、ガスの塊があるからではないかというのが常識でした。20年ほど前になってようやく、今まで全く知られていない新しい物質だということが判明したのです』、「ダークマターは、「暗黒物質」とも呼ばれるもので、素粒子という小さな「粒(つぶ)」みたいな物質、またそれが少し集まったものだと考えています」、なるほど。
・『どうしてどの方向にもビッグバンが観測されないのか? Q:20年前に何があったんでしょうか? A:20年前にビッグバンの名残(残照)を直接観測するための人工衛星WMAP(※1)が上がって、解像度の高い、宇宙誕生初期の写真が撮れるようになりました。その写真には情報がたくさん詰まっていて、宇宙全体の物質のうちダークマターが約8割を占めているというこの宇宙の詳細が明らかになったのです。 そこで初めて、ダークマターと普通の物質は明らかに違うものだということがはっきりしてきました。それまでは、ブラックホールやニュートリノなど、すでに知られているものがダークマターの正体ではないかと考えられていたので、本当に衝撃を受けました。 ※1 ビッグバンを直接観測する人工衛星…2001年にNASA(米航空宇宙局)が打ち上げた「Wilkinson Microwave Anisotropy Probe(通称WMAP)」と呼ばれる宇宙探査機。ビッグバンの名残である「宇宙マイクロ波背景放射」を精密に観測するために打ち上げられた。 Q:ダークマターの存在がはっきりわかったのは、ビッグバンの観測からなんですね? A:はい。宇宙が始まって138億年と言われていますから、138億光年向こうを頑張って観測すると、「あっ、ビッグバンだ」というふうに今でも見えるはずなんです。「あっちを向いてもビッグバンが見える」し、「こっちを向いてもビッグバンが見える」。そういう状況ですね。ですがビッグバンの写真を見るとほとんどのっぺらぼうで、温度の違いは10万分の1しかありません。 ダークマターが存在しない宇宙を考えたとすると、そんなのっぺらぼうみたいな状態だったら、今あるような銀河の塊はできないので、どうしてなのかという問題があったんです。宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです』、「138億光年向こうを頑張って観測すると、「あっ、ビッグバンだ」というふうに今でも見えるはずなんです。「あっちを向いてもビッグバンが見える」し、「こっちを向いてもビッグバンが見える」。そういう状況ですね。ですがビッグバンの写真を見るとほとんどのっぺらぼうで、温度の違いは10万分の1しかありません。 ダークマターが存在しない宇宙を考えたとすると、そんなのっぺらぼうみたいな状態だったら、今あるような銀河の塊はできないので、どうしてなのかという問題があったんです。宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです」、「ビッグバン」で「宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです」、なるほど。
・『ダークマターを探すのは、“私たちのお母さん”だから・・・! Q:村山さんはなぜダークマターの正体を探し続けているんですか? A:ダークマターっていうのは未知の物質なのでちょっと気持ち悪い感じがするかもしれませんが、実は“私たちのお母さん”なんです。 簡単に例えると初期の宇宙では、大きな質量を持ったダークマターが少しずつ重力で引っ張り合いながら固まってきます。そしてダークマターの塊ができたところに、今度はその重力によって原子でできたガスを引きずり込んできます。さらに、そのガス同士が反応して、ぶつかって熱くなって光を出します。するとそれが冷えて固まり星ができ、銀河ができてきます。その中に私たちができてくるんです。 だから、ダークマターは本当に私たちの“生みのお母さん”なんです。 「私たちはどこから来たんだろう?」それが知りたいです。それに、ダークマターからお母さんが生まれた当時の環境が見えてきます。私は、ダークマターが生まれた時期は、宇宙が始まってから100億分の1秒ぐらいのビッグバンの直後だと思っています。始まったばかりの宇宙の姿も見えてくるという意味で、ダークマターはすごく私たちにたくさんのことを教えてくれると思っています。一度ぜひ会ってみたいですね。 後編『重力波、ヒッグス粒子、ニュートリノ質量、銀河中心の超巨大BHという発見が続々…「素粒子物理の夢」の時代にトップランナーが語る「夢のその先」』では、実際に村山さんがダークマターにどうアプローチを試みたのか? を中心に紹介します。「サイエンスZERO」20周年スペシャル 3月26日(日)夜11:30 NHK Eテレ 』、「ダークマターが生まれた時期は、宇宙が始まってから100億分の1秒ぐらいのビッグバンの直後だと思っています」、なるほど。
次に、3月6日付け現代ビジネスが掲載した「サイエンスZERO」20周年スペシャル・取材班による「重力波、ヒッグス粒子、ニュートリノ質量、銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/107049?imp=0
・『この宇宙の物質には「目に見える」ものが全体の5%しかないことをご存じでしょうか。「質量は持つ」けれど「観測できない」という宇宙の大部分を占める物質は、「ダークマター(暗黒物質)」と呼ばれています。今、世界中の科学者がこの謎の物質を捉えようと理論や実験を総動員して研究しています。 天文学・物理学・数学といった異分野の専門家たちが集まる世界トップレベルの研究所「カブリ数物連携宇宙機構」の初代機構長を務めた宇宙物理学者の村山斉さんは、ダークマターを「我々人類のお母さん」と呼びました。前編『「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」』でその理由を伺いました。 後編では、今後の展望について伺います』、興味深そうだ。
・『「見えない物質をどう追いかける」か? ―見えないダークマターをどうやって探すのでしょうか? 私の研究のスタイルは、探し方を考える前に、ダークマターは「どういう可能性がある物質なのか」についていろいろな仮説を立てることから始めます。その次に、どうやったら探せるのかを考えます。 例えば、今考えている仮説に「SIMP(シンプ)(※1)」というものがありますが、SIMPはこういう考え方だから多分物質にはこういう力が働くので、こうやったら捕まえられるだろうという提案をします。それを具体的にやってみるために、実験が専門の人と相談しながら、道具や装置、使う物質について詰めていきます。こうして実際に装置を作ってやってみようという段階になる。そして実験データをためて、検証していくことになります。 ※1 SIMP…Strongly Interacting Massive Particleの略で、強い相互作用をする素粒子。村山さんたちの研究グループが2015年に提唱したダークマターの候補物質。 Q:実際に「ダークマターの候補」SIMPを探す計画はあるのでしょうか? A:はい。つくば市の高エネルギー加速器研究機構にあるSuperKEKB(※2)という、全周3kmぐらいの大きさの、電子をぐるぐる回す加速器という装置があるんですが、この装置でSIMPが作れる可能性があるということが分かってきました。 この装置はもともと、ノーベル賞を受賞された小林先生、益川先生が作られた小林益川理論(※3)を超える理論を探したいという目的で作られた実験装置でしたが、それをうまく利用することでダークマターを探せる可能性もあるんです。全く新しい装置を作るのは時間もお金も人手も多くかかって大変なので、すでにある装置をうまく使う、そういうアイデアをたくさん考えるのも研究者の仕事のひとつです。 ※2 SuperKEKB加速器…エネルギーの高い電子と陽電子を衝突させて、衝突後に生成される素粒子を測定する「Belle II(ベル・ツー)実験」に使う実験装置。現在の素粒子物理学の基盤である「標準理論」を超える結果が得られると期待されている。 ※3 小林益川理論…当時京都大学に所属していた小林誠氏と益川敏英氏によって1973年に提唱された理論。宇宙の始まりであるビッグバンでは「物質」と「反物質」が同じ量だけ作られたと考えられているが、現在の宇宙には「物質」のほうがはるかに多く存在している。その理由は、クォークと呼ばれる素粒子が6つあれば説明できるというのが小林益川理論。当時はまだ3つしかクォークは見つかっておらず、6つのクォークを予言したこの理論は驚くべきものだった。その後、実験でこの理論が確かめられたことにより、小林、益川両氏には2008年にノーベル物理学賞が贈られた』、「もともと、ノーベル賞を受賞された小林先生、益川先生が作られた小林益川理論(※3)を超える理論を探したいという目的で作られた実験装置でしたが、それをうまく利用することでダークマターを探せる可能性もあるんです。全く新しい装置を作るのは時間もお金も人手も多くかかって大変なので、すでにある装置をうまく使う、そういうアイデアをたくさん考えるのも研究者の仕事のひとつです」、これが有効活用できれば、望ましい。
・『干し草の山から針一本をふるいにかけるソフトウェア Q:SIMPを探す実験はいつから行うのでしょうか? A:実験自体は、今ある装置でもできるはずですが、解析をするためのソフトウエアがまだできていないんです。どんなにいい装置があっても、膨大なデータの山から欲しいものを引き出すのがすごく大変です。 例えて言えば、「干草の山の中から針1本を引っ張り出す」ようなもの。干し草と針を分けるためには、干草は通り抜けるけど針は引っかかる、というふるいを作らないといけないんです。そのふるいに当たるものが、コンピューターのソフトウエアなんですが、これを作るのはそう簡単なことではありません。 SIMPの実験に使うソフトウエアもそろそろできるとは思いますが、その後、実験装置に組み込んでいくので、実験開始にはもう少し時間がかかると思っています。具体的には、実験観測データが出始めるのは、来年の終わりか再来年くらいになるかと思います。 Q:SIMP以外にもダークマターの候補となる物質はあるんですか? A:10年くらい前まではWIMP(※4)という物質がダークマターの有力候補だったので、みんなそればかり一生懸命探していました。それが最近、ほかの候補も探してみようというアイデアがたくさん出てきたんです。実際に探してみたら、「あった!」ということになるかもしれないですから、今、本当に面白い時期になってきたと思っています。 日本ではSIMPのほかに、「アクシオン」という軽い粒子がダークマターの可能性があると考えて、重力波望遠鏡KAGRA(※5)を使って検出する研究も進めています。 ※4 WIMP…Weakly Interacting Massive Particleと呼ばれるダークマターの有力候補物質。重力相互作用と弱い相互作用のみ働くものと考えられている。 ※5 重力波望遠鏡KAGRA…岐阜県飛騨市神岡町にある重力波を検出するための望遠鏡。重力波の初検出は、アメリカのLIGOが2016年に初めて成功したが、そのLIGOとイタリアのVirgoとKAGRAの3つで国際重力波ネットワークをつくり、重力波がどの天体から来たのか、その源を探る研究が進んでいる』、「10年くらい前まではWIMP(※4)という物質がダークマターの有力候補だったので、みんなそればかり一生懸命探していました。それが最近、ほかの候補も探してみようというアイデアがたくさん出てきたんです。実際に探してみたら、「あった!」ということになるかもしれないですから、今、本当に面白い時期になってきたと思っています」、なるほど。
・『素粒子物理学にとって夢のような20年間の成果 Q:いろいろ手を尽くした結果、ダークマターの正体がわからないということもあるのでしょうか? A:理論的にはありえます。そうなると、とても悲しいですね。でも、科学者というのはなんとかして分かりたいと思って、あちこちに手を出す、そういう人たちなんです。もしかしたら永遠に分からないかもしれないと思っていても、手を出した瞬間に捕まえちゃう可能性もあるので、だったらやってみた方が得じゃないかと、そういう発想をするんです。そうやっていくうちに、科学が進歩していくのではないかとも思っています。 Q:この20年の科学の進歩はどう見ていますか? A:素粒子や宇宙の研究にとってはものすごく華々しい20年間でした。重力波(※6)も見つかりましたし、ヒッグス粒子(※7)も見つかりました。それからニュートリノに重さがあるという研究(※8)や、宇宙の歴史をちゃんと理解したという理論にノーベル賞(※9)が出たのもこの20年間でした。それから銀河系の中心に太陽の400万倍もあるブラックホールも発見されました(※10)。本当に今、技術の進歩やコンピューターの進歩のおかげで科学がググって伸びているのを感じられて、この時代に生きていてよかったなと思います。 ※6 重力波…アインシュタインが一般相対性理論で予言していた現象。2016年にアメリカのLIGOが初検出に成功。その功績により、レイナー・ワイス氏、バリー・バリッシュ氏、キップ・ソーン氏が2017年にノーベル物理学を受賞した。 ※7 ヒッグス粒子…宇宙が誕生して間もないころに、他の素粒子に質量を与えたとされる粒子。1964年にイギリスの物理学者ピーター・ヒッグス氏が提唱した理論に登場。CERN(欧州合同原子核研究機関)で行われた実験によって2012年に実際に確認され、2013年にはピーター・ヒッグス氏とフランソワ・アングレール氏が「素粒子の質量の起源に関する機構の理論的発見」をしたことにより、ノーベル賞を受賞した。 ※8 ニュートリノ研究にノーベル賞…2015年のノーベル物理学賞が「ニュートリノ振動の発見により、ニュートリノに質量があることを示したこと」で梶田隆章氏とアーサー・マクドナルド氏に贈られた。 ※9 宇宙の歴史を理解した理論にノーベル賞…2019年にノーベル賞を受賞したジェームズ・ピーブルズ氏は、宇宙の始まりである「ビッグバン」が起きた直後から現在までの宇宙の進化の様子を理論的に研究するうえで大きな貢献をしたことなどが評価された。 ※10 銀河中心に太陽の400万倍のブラックホール発見…2022年、国立天文台など80機関が参加する国際研究チーム「イベント・ホライズン・テレスコープ(EHT)・コラボレーション」が、天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールの撮影に初めて成功した』、「素粒子や宇宙の研究にとってはものすごく華々しい20年間でした。重力波(※6)も見つかりましたし、ヒッグス粒子(※7)も見つかりました。それからニュートリノに重さがあるという研究(※8)や、宇宙の歴史をちゃんと理解したという理論にノーベル賞(※9)が出たのもこの20年間でした。それから銀河系の中心に太陽の400万倍もあるブラックホールも発見されました(※10)。本当に今、技術の進歩やコンピューターの進歩のおかげで科学がググって伸びているのを感じられて、この時代に生きていてよかったなと思います」、進歩を実感できるのは幸せだ。
・『自分の最初は何か、どこから来たのかという疑問 Q:村山さんが科学に興味を持ったのはいつでしょうか。 A:私たちはどこから来て、なぜ存在しているのだろうということを、たぶんみんな小さい頃に考えると思うんですよ。特に田舎に旅行に行って、夏の夜空をボーっと見て星がいっぱいあるのを見たとき、自分って何だろうなと思ったりすると思うんですよね。 そういうことを考えていると、自分たちの体を作っている原子は、実は星の爆発で散りばめられた塵(ちり)なんだ、自分は星から来たんだなということが分かるんですね。じゃあ星はどこからできたんだろうかと考えると、ダークマターがないと星ができないことを知り、じゃあダークマターはどうやって星を作ったのだろう、そうやってどんどんさかのぼっていくと、宇宙の始まりに行き着いちゃうんですよね。だから本当に最初は自って何だろう。どこから来たんだろうなっていう素朴な疑問から始まったんだと思います。 Q:その疑問を持ち続けて、今があるんでしょうか。 A:高校時代は、中学時代にロックを聴くようになった影響でバンドをやったり、体を鍛えようとラグビー部に入ったりして、あまり勉強をしていませんでした。最初の模擬試験の成績は、物理の点数が40点でしたから、これではいけないと思って、高校3年になってから突貫工事で勉強をした感じです。 大学にはミクロな素粒子を勉強しようと思って入ったのですが、大学院が終わった頃に転機が来ました。小さい素粒子の世界と大きな宇宙が結びつく大発見があったんです。その発見をしたのは、アメリカのバークレーの同僚のジョージ・スムートさん(※11)たちで、はるか遠くの宇宙を見ることでビッグバン直後の小さかったときの宇宙が見えてきました。 大きいものと小さいものが結びついているということが、私の頭の中で初めてつながった瞬間でした。子どもの頃から漠然と思っていた疑問と、今までやってきた研究がひとつになり、「あっ、これは面白い!」とますます研究にのめり込んでいきました。 ※11 ジョージ・スムート氏…カリフォルニア大学バークレー校物理学教授。1989年にNASA(米航空宇宙局)が打ち上げた人工衛星COBEによる観測で主導的な役割を果たし、ビッグバンの名残の熱のゆらぎである宇宙マイクロ波背景放射を初めて観測。その功績により、2006年にジョン・マザー氏とともにノーベル物理学賞を受賞。 Q:今後、この分野の研究はどのように進んでいくのでしょうか? A:実験観測の技術とそれを解析するコンピューター、理論的な予言をするためのシミュレーションが、今、三つ巴でどんどん進歩していますから、やるべきことがはっきりして、あとはやるばかりになってきています。ただ、必要な実験装置の規模も大きくなってきているので1人ではできません。もしかしたら100人でもできないかもしれない。でも、世界中から研究者を集めて、1000人だったらできるかもしれない。そういうふうに、もっといい装置、いい観測、いい実験をしようという動きが大きくなってきているので、これからいろいろな進歩が出てくるのを期待しています。 「サイエンスZERO」20周年スペシャル 3月26日(日)夜11:30 NHK Eテレ 』、「もっといい装置、いい観測、いい実験をしようという動きが大きくなってきているので、これからいろいろな進歩が出てくるのを期待しています」、幸せな科学者人生だ。
第三に、昨年12月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの池上 彰氏と増田ユリヤ氏による「闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生」を紹介しよう。
・『12月10日にノーベル賞授賞式が開催される。ジャーナリストの池上彰氏は「今年の注目はなんといっても、生理学・医学賞を受賞した研究者、カタリン・カリコさん」という。以前からカリコ氏を取材してきた増田ユリヤ氏がカリコ氏の素顔を明かした』、興味深そうだ。
・『10年かかるワクチン開発を半年で実用化 池上 今年も12月10日にノーベル賞授賞式が開催されます。今年の注目はなんといっても、生理学・医学賞を受賞した研究者、カタリン・カリコさんです。メッセンジャーRNA(mRNA)を使った新しい手法で、新型コロナワクチンの開発に貢献しました。 増田 通常であればワクチンの開発には10年かかるところを、半年で実用化にこぎ着けられたのは、カリコさんの40年にもわたるmRNAの研究成果あってこそ、とその功績が評価されました。 mRNAは、体の設計図であるDNAの情報をコピーして細胞内に届ける役割を担っていて、こうして届けられた設計図のコピーを基にタンパク質が作られます。コロナウイルスの表面の突起もタンパク質でできているため、その情報を人工的にコピーして作ったのがmRNAワクチンです。 アイデア自体は以前からあったのですが、mRNAが体内に入る場合に起きる炎症反応を抑えることができず、専門家の間では「実用化は無理だろう」とみられていました。 池上 挫折し、諦めた研究者も少なくなかったとか』、「通常であればワクチンの開発には10年かかるところを、半年で実用化にこぎ着けられたのは、カリコさんの40年にもわたるmRNAの研究成果あってこそ」、「mRNA」の効用は素晴らしい。
・『降格処分や研究資金の打ち切り 増田 カリコさんは「mRNAが多くの命を救う医学に貢献できるはずだ」と信じて諦めず、研究資金を打ち切られたり、大学で降格処分を受けたりする困難に立ち向かいながら粘り強く研究を続けてきました。実用化につながる論文を共同研究者のドリュー・ワイスマン教授と発表したのが、2005年。 その後、カリコさんは独ビオンテックに移籍し、ジカ熱ワクチンやインフルエンザワクチンの開発に携わっていたので、コロナワクチンも半年で実用化できた。大学で研究した蓄積と、製薬会社での実用化の経験が奏功したのです。 池上 ビオンテックはドイツのトルコ系移民が設立した会社で、カリコさんのようにハンガリーから米国に渡って研究を続けてきたような優秀な人たちを受け入れています。 増田 カリコさんはビオンテックに移籍して、ハンガリー時代に一緒に研究していた人たちと再会しています。信念を持った優秀な人たちを集め、研究部門以外のスタッフも研究者でそろえています。 池上 増田さんはカリコさんに以前から取材されていますね。) ▽米ソ冷戦期にソ連圏からの渡米(増田 コロナ禍当初に出演したあるテレビ番組でカリコさんを2~3分で紹介するコーナーがあったのですが、そのときに「どうしてもカリコさんにお話を聞きたい!」と思い立ち、取材しました。そして21年10月に『世界を救うmRNAワクチンの開発者 カタリン・カリコ』を上梓しました。 カリコさんの研究に対する信念は本当に強いのですが、偉ぶることもなく、堂々と自分の考えていることを言葉にされる方です。ロックミュージックが大好きで、「研究はロックと一緒」とも言っていました。 カリコさんは1955年、ハンガリーで生まれ、子供の頃から自然や科学に興味を持ち、23歳のときに大学院へ進み、RNAの研究を始めます。30歳のときに所属していた研究機関で研究資金を打ち切られたことで米国へ渡ることを決意しますが、85年当時のハンガリーはソ連の支配下にあり、米国への移住はそう簡単にはいきませんでした。 池上 まだ米ソ冷戦期ですから、ソ連圏からの渡米となれば、亡命する人も多かった時代です』、「カリコさんは「mRNAが多くの命を救う医学に貢献できるはずだ」と信じて諦めず、研究資金を打ち切られたり、大学で降格処分を受けたりする困難に立ち向かいながら粘り強く研究を続けてきました」、そこまでの困難を乗り越えたとは初めて知った。
・『一家の生活を繋いだテディベア 増田 研究仲間の中にも亡命という手段を取った人がいましたが、カリコさんは家族と会うためにハンガリーとの間を行き来できる状態にしたいと考え、八方手を尽くし、米テンプル大学のポストドクターの座を得て、正規に出国許可を得ることができたそうです。 しかし当時のハンガリーでは、100ドルを超える外貨の持ち出しが禁止されていました。当時の日本円でわずか2万円程度。これだけ持って米国に渡っても、最初の給料が出るまでは住む所もありません。そこでカリコさんは闇市で自家用車を売って外貨に換え、娘が大事に持っていたテディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国したんです。そのテディベアも取材時に見せてもらいましたが、まだ大事に娘さんの部屋に飾ってありました。 池上 一家の生活をつないだ縫いぐるみですから、家宝ものですね』、「米テンプル大学のポストドクターの座を得て、正規に出国許可を得ることができたそうです。 しかし当時のハンガリーでは、100ドルを超える外貨の持ち出しが禁止されていました。当時の日本円でわずか2万円程度。これだけ持って米国に渡っても、最初の給料が出るまでは住む所もありません。そこでカリコさんは闇市で自家用車を売って外貨に換え、娘が大事に持っていたテディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国したんです」、「テディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国」とは当時は必死だったのだろう。
・『受賞した賞金は大学や研究機関に寄付 増田 その後も研究が評価されず、研究資金の打ち切りや降格など、さまざまな苦労をされるのですが、ワクチン開発で一躍脚光を浴び、ノーベル賞受賞前にも各国のさまざまな賞を受賞しています。しかしぜいたくには全く関心がなく、こうした賞を受賞した際に得た賞金は、母国ハンガリーの大学をはじめ、研究機関に寄付したそうです。 カリコさんは85年に米国へ移住した際に住み始めた家に、今も住んでいます。家具は夫のベーラ・フランシアさんの手作り。古い物を大事にする、質素な暮らしぶりがうかがえますよね。ノーベル賞受賞が決まって、ようやく新車を買ったとか。その話をした際に、カリコさんが「夫も新しくしていないでしょう?」と冗談を言ったのが印象的でした。 池上 エンジニアだったフランシアさんはほとんど表に出てきませんが、カリコさんの研究を熱心に支えたんですよね。ノーベル賞受賞時に取材を受けたカリコさんのコメントも象徴的でした』、夫である「エンジニアだったフランシアさんはほとんど表に出てきませんが、カリコさんの研究を熱心に支えたんですよね」、なるほど。
・『妻と娘の世界的活躍を支える「内助の功」も世界レベル 増田 「いい研究をするためには、研究に協力してくれるいい夫を見つけることが必要だ」と(笑)。フランシアさんは早朝5時にカリコさんを研究室へ送り、その後に娘を学校へ送る。夕方に娘さんとカリコさんをピックアップして、自分は夜中に働くという生活を続けてこられたそうです。 実は2歳のときにテディベアを抱えて国境を渡った長女のスーザンさんも、オリンピックの金メダリストなんですよ。米国代表のボート競技選手として、08年の北京、12年のロンドンと2大会連続で出場。両大会で金メダルを獲得しています。 池上 妻と娘の世界的活躍を支えるフランシアさんの「内助の功」も世界レベルですね。 さて、ノーベル賞受賞者と言えば「蛙跳び」です。受賞者は授賞式で講演を行った後、ストックホルムの大学生有志による懇親会に参加するのですが、そこで学生と一緒に受賞者が蛙跳びを披露するという伝統があるのです。19年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんは高齢を理由に深夜の懇親会を辞退されたそうですが。 増田 長く研究を続け、厳しい境遇に耐える精神力と体力を持っているカリコさんなら楽々こなせそうです』、「フランシアさんは早朝5時にカリコさんを研究室へ送り、その後に娘を学校へ送る。夕方に娘さんとカリコさんをピックアップして、自分は夜中に働くという生活を続けてこられたそうです・・・長女のスーザンさんも、オリンピックの金メダリスト・・・妻と娘の世界的活躍を支えるフランシアさんの「内助の功」も世界レベルですね」、「フランシアさんの「内助の功」もまさに世界レベル」、その通りだ。
タグ:ダークマターが存在しない宇宙を考えたとすると、そんなのっぺらぼうみたいな状態だったら、今あるような銀河の塊はできないので、どうしてなのかという問題があったんです。宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです」、「ビッグバン」で「宇宙に星や銀河、私たちが生まれたことは、ダークマターという未知の物質がないと説明がつかなくなったんです」、なるほど。 「138億光年向こうを頑張って観測すると、「あっ、ビッグバンだ」というふうに今でも見えるはずなんです。「あっちを向いてもビッグバンが見える」し、「こっちを向いてもビッグバンが見える」。そういう状況ですね。ですがビッグバンの写真を見るとほとんどのっぺらぼうで、温度の違いは10万分の1しかありません。 「ダークマターは、「暗黒物質」とも呼ばれるもので、素粒子という小さな「粒(つぶ)」みたいな物質、またそれが少し集まったものだと考えています」、なるほど。 「サイエンスZERO」20周年スペシャル・取材班による「「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」」 それから銀河系の中心に太陽の400万倍もあるブラックホールも発見されました(※10)。本当に今、技術の進歩やコンピューターの進歩のおかげで科学がググって伸びているのを感じられて、この時代に生きていてよかったなと思います」、進歩を実感できるのは幸せだ。 「素粒子や宇宙の研究にとってはものすごく華々しい20年間でした。重力波(※6)も見つかりましたし、ヒッグス粒子(※7)も見つかりました。それからニュートリノに重さがあるという研究(※8)や、宇宙の歴史をちゃんと理解したという理論にノーベル賞(※9)が出たのもこの20年間でした。 「10年くらい前まではWIMP(※4)という物質がダークマターの有力候補だったので、みんなそればかり一生懸命探していました。それが最近、ほかの候補も探してみようというアイデアがたくさん出てきたんです。実際に探してみたら、「あった!」ということになるかもしれないですから、今、本当に面白い時期になってきたと思っています」、なるほど。 「もともと、ノーベル賞を受賞された小林先生、益川先生が作られた小林益川理論(※3)を超える理論を探したいという目的で作られた実験装置でしたが、それをうまく利用することでダークマターを探せる可能性もあるんです。全く新しい装置を作るのは時間もお金も人手も多くかかって大変なので、すでにある装置をうまく使う、そういうアイデアをたくさん考えるのも研究者の仕事のひとつです」、これが有効活用できれば、望ましい。 「サイエンスZERO」20周年スペシャル・取材班による「重力波、ヒッグス粒子、ニュートリノ質量、銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」」 「テディベアに現金1000ドルを忍ばせて出国」とは当時は必死だったのだろう。 「ダークマターが生まれた時期は、宇宙が始まってから100億分の1秒ぐらいのビッグバンの直後だと思っています」、なるほど。 現代ビジネス (その8)(「暗黒物質ダークマター」は《お母さん》?「だからぜひ会ってみたいですね」と言い切る理論物理学者・村山斉さんが語る「人類すべての母」、重力波 ヒッグス粒子 ニュートリノ質量 銀河中心の超巨大BHという超発見が続々…「素粒子物理の夢の時代」にトップランナーが語る「夢のその先」、闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生) 「カリコさんは「mRNAが多くの命を救う医学に貢献できるはずだ」と信じて諦めず、研究資金を打ち切られたり、大学で降格処分を受けたりする困難に立ち向かいながら粘り強く研究を続けてきました」、そこまでの困難を乗り越えたとは初めて知った。 「通常であればワクチンの開発には10年かかるところを、半年で実用化にこぎ着けられたのは、カリコさんの40年にもわたるmRNAの研究成果あってこそ」、「mRNA」の効用は素晴らしい。 ノーベル賞受賞 「フランシアさんは早朝5時にカリコさんを研究室へ送り、その後に娘を学校へ送る。夕方に娘さんとカリコさんをピックアップして、自分は夜中に働くという生活を続けてこられたそうです・・・長女のスーザンさんも、オリンピックの金メダリスト・・・妻と娘の世界的活躍を支えるフランシアさんの「内助の功」も世界レベルですね」、「フランシアさんの「内助の功」もまさに世界レベル」、その通りだ。 夫である「エンジニアだったフランシアさんはほとんど表に出てきませんが、カリコさんの研究を熱心に支えたんですよね」、なるほど。 池上 彰氏と増田ユリヤ氏による「闇市で得た1000ドルをテディベアに隠して出国…「ワクチンでノーベル賞」カリコ氏の壮絶人生」 ダイヤモンド・オンライン 「もっといい装置、いい観測、いい実験をしようという動きが大きくなってきているので、これからいろいろな進歩が出てくるのを期待しています」、幸せな科学者人生だ。
科学技術(その2)(中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!、「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」、「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK) [科学技術]
科学技術については、2020年11月13日に取上げた。今日は、(その2)(中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!、「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」、「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK)である。
先ずは、2022年2月7日付けSoraeが掲載した「中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!」を紹介しよう。
https://sorae.info/space/20220206-artificial-sun.html
・『いわば「人工太陽」とも呼ぶべき核融合炉が完成すれば、人類は無限のクリーンエネルギーを手にすることができるかもしれません。 中国科学院等離子体物理研究所は、同研究所が開発・運用する全超伝導トカマク型核融合実験装置(EAST)が、摂氏約7千億度という高温のプラズマを1,056秒間持続することに成功したと発表しました。この持続時間は、トカマク型による高温プラズマの持続時間としては世界最長となります。EASTは2006年に運用が始まった実験装置で、2022年6月の運用終了までに1兆ドル以上の費用がかかると予想されています。 人工太陽とは、太陽など主系列星の内部で発生する核融合を人工的に再現する装置や施設のこと。核融合とは、水素など軽い原子の原子核同士が結合し、ヘリウムのような重い原子核を生成する反応を指します』、「トカマク型核融合実験装置(EAST)が、摂氏約7千億度という高温のプラズマを1,056秒間持続することに成功・・・この持続時間は、トカマク型による高温プラズマの持続時間としては世界最長」、なるほど。
・『【▲太陽の内部における水素の核融合反応を示した概念図(Credit: EUROfusion)】 核融合反応はエネルギーの発生を伴うので、このエネルギーを発電に利用するための研究が進められてきました。石炭や石油を燃やす火力発電とは異なり、核融合を利用する発電では温室効果ガスが放出されないため、クリーンなエネルギーだと考えられています。 ところが、地球の約33万倍もの質量を持つ太陽の内部のような核融合が起きる条件を地球上で人工的に模倣するのは難しく、約1,500万度ある太陽の中心部と比べて約6倍もの高温が必要だといいます。 原子核同士が核融合を起こす環境を人工的に再現したものとしては、ロシア(当時のソビエト連邦)の科学者Natan Yavlinsky氏が1958年に設計した「トカマク型」と呼ばれる型式の核融合炉「T-1」が知られています。トカマク型は強力な磁場をもつドーナツ状の核融合炉のなかで、プラズマを封じ込める仕組みになっているようです。 ロシアが開発した「T-1」以降も様々な核融合実験装置が作られましたが、装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しませんでした。 【▲トカマク型核融合実験装置の概念図(Credit: EFDA-JET(現在のEUROfusion))】 中国が今回実施した実験は、南フランスで建設中の核融合実験炉ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)のための技術を検証するために実施された模様です。ITERはプラズマを閉じ込めるために地球磁場の約28万倍も強力な磁場を生成できるといいます。このプロジェクトには、EUやイギリス、中国、インド、米国など35ヵ国が共同で参加し、2025年に登場すると見込まれています。 一方、現在EASTで実験を実施した中国自身も、ITERとは別の核融合炉の開発を独自に行っているようです。磁場ではなく慣性によってプラズマを封じ込める「慣性核融合炉」の実験の実施計画や、別のトカマク型核融合炉の完成を2030年代初頭までに目指すなど、新たな核融合炉の開発を進めている模様です』、「地球の約33万倍もの質量を持つ太陽の内部のような核融合が起きる条件を地球上で人工的に模倣するのは難しく、約1,500万度ある太陽の中心部と比べて約6倍もの高温が必要・・・原子核同士が核融合を起こす環境を人工的に再現したものとしては、ロシア(当時のソビエト連邦)の科学者Natan Yavlinsky氏が1958年に設計した「トカマク型」と呼ばれる型式の核融合炉「T-1」が知られています。トカマク型は強力な磁場をもつドーナツ状の核融合炉のなかで、プラズマを封じ込める仕組みになっているようです。 ロシアが開発した「T-1」以降も様々な核融合実験装置が作られましたが、装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しませんでした・・・現在EASTで実験を実施した中国自身も、ITERとは別の核融合炉の開発を独自に行っているようです。磁場ではなく慣性によってプラズマを封じ込める「慣性核融合炉」の実験の実施計画や、別のトカマク型核融合炉の完成を2030年代初頭までに目指すなど、新たな核融合炉の開発を進めている模様」、まだ「装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しません」、これでは陽の目を見るのはかなり先になりそうだ、
次に、本年3月25日付け現代ビジネス「「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」」を紹介しよう。
・『「『サイエンスZERO』20周年スペシャル」取材班 「ゼロから分かりやすく科学を伝えたい」と2003年に始まった「サイエンスZERO」がまもなく放送20年を迎えます。787回に上る放送回数とあらゆる分野の最新科学研究をディープに伝えてきた節目を記念し、日本のサイエンス各分野の著名な研究者や番組ナビゲーターにこの20年を振り返ってもらうインタビューを行いました。そこで飛び出してくる驚きの言葉や知見、未来への警鐘とは―。(放送は「サイエンスZERO」20周年特別番組:3月26日(日)夜11:30~ NHK Eテレ) 「『第四次産業革命』の真っただ中を生きてきたっていう印象がある。そこでいかに正しい情報発信ができるかを考えながら、常に最先端のことを勉強しながら20年を生きてきた」 そう語るのは、2012年から2018年まで「サイエンスZERO」のナビゲーターを務めたサイエンス作家の竹内薫さんです。 難解な科学について、比喩を交えながら分かりやすく解説する竹内さんは、これからの時代はますます科学が果たす役割が大きくなるだろうと言います。「科学者にとっても貴重な番組」と感じたサイエンスZEROの印象的な回を振り返るとともに、「この20年の科学」そして「これから20年の科学」を語り尽くします(Qは聞き手の質問、Aは竹内氏の回答)』、「サイエンスZERO」は私の好きな番組で視聴していた。
・『科学者にとっても「貴重な番組」 Q:サイエンスZEROが20周年なのですが、振り返るといかがでしょうか? A:もう卒業して5年も経っちゃったんですね。サイエンスZERO、20周年。率直にすごいな、と思います。日本って科学技術立国と言っているわりには、みんな科学にあまり興味がないんじゃないかと感じるんですよ。科学書がそれほど売れるわけじゃないし、科学雑誌もあまりないですよね。そんな中で20年間、放送媒体で地道にずっと伝え続けるのはすごく大変なことだなと思います。Q:印象に残っている回はなんでしたか? A:一番印象に残っているのは、「iPS細胞」の山中伸弥先生がノーベル賞を受賞した直後に、京都までインタビューに伺ったことです(※1)。急遽スタッフの人と相談をして、取材ができるかどうかも全然分からない状況から始めて、台本を作って、みんなで新幹線に乗って行ったのをよく覚えています。山中先生が「サイエンスZEROという番組は貴重な番組だ」ということをおっしゃってくださって、ノーベル賞を受賞される前からサイエンスZEROにご出演されていたこともあるからか、私たちのインタビューの時間を他の取材の人たちより長く取ってくださったのが印象的でしたね。 Q:あのインタビューの裏にはそういうことがあったんですね。 A:やっぱり、科学者の方が直接一般の方に語りかける場があんまりないんですよ。シンポジウムや本を書いて伝える方法も確かにあるんだけど、映像として凝縮された状態で非常に効率よく正しいことを教えられる。そういう番組って他にないと思うんですね。だから科学者にとってもすごく貴重なのではないでしょうか。 ※1 サイエンスZERO「速報ノーベル賞!iPS細胞 その舞台裏」(2012年10月14日放送)。ノーベル賞の発表が10月8日で、インタビューは11日。そして、14日に放送という強行スケジュールだった』、かなり綱渡り的ナスケジュールだ。
・『「科学を伝える」ために専門用語を使わず、比喩を使う Q:番組ナビゲーターとして心がけていたことはありますか? A:ナビゲーターとして、というかサイエンス作家として心がけているのは、専門用語をなるべく使わないことです。専門用語を使わないと、専門家のサークルからはなんでちゃんと専門用語を使わないんだって叱られるんですけれども、そこはあえて普通の言葉に言い換える。あと、比喩も使います。専門家の方は、誤解されるおそれがあるので比喩はあまり使わない方がいいとおっしゃるんですが、僕は科学を伝える人間なので、その伝え方の一つの技術として使うと効果的だと思っています。 サイエンスZEROをやっているときも伝え方を考える機会が結構あって、収録の前の台本打ち合わせが大変だった回が印象に残っています。例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました。 そのときは今と状況が違って、まだブラックホールが可視化されていなくて、「ブラックホール候補」でした。だから、そういった言葉づかいを含めてちゃんと科学的に伝えないといけないという科学者のスタンスと、分かりやすく伝えようとする番組側のスタンスがぶつかり合って、丁々発止のやり取りがありました。でも、最終的に放送された番組を見ると、「あれ?結構きれいにまとまっているな、結果的にはいい番組になったな」と思いましたね』、「収録の前の台本打ち合わせが大変だった回が印象に残っています。例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました・・・例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました。 そのときは今と状況が違って、まだブラックホールが可視化されていなくて、「ブラックホール候補」でした。だから、そういった言葉づかいを含めてちゃんと科学的に伝えないといけないという科学者のスタンスと、分かりやすく伝えようとする番組側のスタンスがぶつかり合って、丁々発止のやり取りがありました。でも、最終的に放送された番組を見ると、「あれ?結構きれいにまとまっているな、結果的にはいい番組になったな」と思いましたね」、なるほど。
・『CGのセットで「目に見えない現象」を見せる工夫も Q:他にも印象に残った番組はありますか? A:「ヒッグス粒子」が見つかったすぐあとに特集した回ですね(※2)。僕は大学院の時にヒッグス粒子の現象論というものを勉強していたんです。 現象論というのは、理論を使ってこういう実験をすればヒッグス粒子が検出できますよというシミュレーションをやるというもので、ある意味一番日が当たらない分野。つまり、派手な理論でもないし最終的にはノーベル賞がもらえるような実験とも違うわけです。こういう理論があるので、我々はそれを使ってシミュレーションをやりました。だからこういう実験をやってくれれば、恐らくそれはちゃんと検出できますよ、みたいなアドバイスを実験家の方にする研究なんですね。 なので、実際に発見されたということですごく印象に残っているし、CGのセットを使って、「ヒッグス粒子っていうけど、本当は『ヒッグス場』。電磁場と同じように場の概念が重要」という、科学者がイメージしているものをそのまま伝えられたことも印象に残っています。すごく工夫したな、と思いますね。 ※2 サイエンスZERO「ヒッグス粒子!素粒子の不思議ワールドへの招待」(2012年9月2日放送)。2012年7月4日、CERN(欧州原子核研究機構)の2つの実験グループが、素粒子物理学の標準理論で最後まで見つかっていなかった「ヒッグス粒子」を発見したと発表。ヒッグス粒子を提唱したピーター・ヒッグス氏には、2013年にノーベル物理学賞が贈られた』、「CGのセットを使って、「ヒッグス粒子っていうけど、本当は『ヒッグス場』。電磁場と同じように場の概念が重要」という、科学者がイメージしているものをそのまま伝えられたことも印象に残っています。すごく工夫したな、と思いますね」、なるほど。
・『科学にも光と影がある。それを教えてくれたのが「STAP細胞」 Q:伝えるのが難しかった回はありますか? STAP細胞の回は、難しかったですね(※3)。STAP細胞は論文が出た当初からマスコミがたくさん飛びついて、僕も、なんかすごいものが出たんだなと思いました。ところがSTAP細胞の回をサイエンスZEROでやることになって、収録の前の週あたりからいろんな情報を番組のディレクターが集めてきて、「異論が多数出ている」という情報が最初に入ってきた時に、「えっ?」と思ったんですよ。 その時点で僕はSTAP細胞が怪しいとは全く思っていなかったんです。通常であればサイエンスZEROは確立された成果を正確に楽しくお伝えするわけじゃないですか。ところが、STAP細胞の場合は確立されていないかもしれない。結構、異論が出てきているし、再現性がどうもない、という状況だけれどもそのことも含めて放送する。これはすごく難しい番組でしたね。 ただやっぱりあれは番組をやって良かったと思います。つまり、科学というのはいいことばかりじゃない。やはり常に光と影があるんだっていうところをお伝えできたと思うんですよ。そこに持っていくスタッフの取材力というか、研究の本質を見抜く力があるんだ、というのがすごく驚きでしたね。 ※3 サイエンスZERO「緊急SP!STAP細胞 徹底解説」(2014年3月16日放送)。科学誌Nature 2014年1月30日号に、マウスの成熟した細胞に簡単な操作を加えるだけであらゆる細胞に分化できるようになる、という論文が掲載され、マスコミが一斉に報道。しかしその後、実験の再現性がないことなどが研究者から指摘され、調査の結果、筆者の研究不正があったとの判断が下った』、「!STAP細胞 徹底解説」・・・科学誌Nature 2014年1月30日号に、マウスの成熟した細胞に簡単な操作を加えるだけであらゆる細胞に分化できるようになる、という論文が掲載され、マスコミが一斉に報道。しかしその後、実験の再現性がないことなどが研究者から指摘され、調査の結果、筆者の研究不正があったとの判断が下った」、この騒ぎはまだ覚えている。
・『科学の道も平坦ではなく研究者も善人ばかりではない Q:科学技術には光と影がある、というのはどういう意味ですか? A:科学というと、全部がうまくいく、100%正しいとかそういった考えを持っている方もいるんですけど、そうじゃないですよ、と。実際に、科学の理論も実験も、現場では試行錯誤がたくさんあって、失敗もたくさんあるわけですね。そこの中で何かのきっかけで偶然うまくいくということもあるんですよ。 青色LEDでノーベル賞を受賞された天野浩先生(※4)も、装置が故障して初めてうまくいったって、すごい偶然じゃないですか。そういう意味で科学ってそんなに単純なものではないし、ちゃんと実験を続けていけば自然と結果が出るというものでもないということも伝えたい。 あと、不正論文って結構あるんですよね。科学にはちょっとダークサイドの話もあるんですよと。それはちゃんとお伝えできたかなと思うので、本当の現場の科学の姿とか実態とかが深掘りできたのかなと思うんです。 ジャーナリズムというと、規制の立場、権力に対するチェック機能があるとか、そういったことが特に先進自由国では大事じゃないですか。科学だってそうだと思うんですよ。科学者は全員が聖人というわけではないので、中には研究費を取るためにちょっと悪いことをしてしまう。軽い不正をやってしまうような方もいるわけですね。そこはやはりジャーナリスティックな視点でチェックをする人は必要なので、STAP細胞というのはそういう意味でも番組で取り上げる意味があったと思いますね。 ※4 2014年にノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩教授。サイエンスZERO「おめでとう!ノーベル物理学賞 青色LED徹底解説」(2014年12月7日放送)に出演。学生時代、青色LEDに必要な窒化ガリウムの結晶を作る実験を1500回以上繰り返していた天野さんは、通常1200℃で実験するところを装置の不具合のため700℃で行い、結晶を作ることに初めて成功したと語った。 この20年にとっての竹内さんにとっての科学とは何か、そして科学を伝えることの難しさや葛藤、「科学の光と影」など、科学と真摯に向き合うことによって生じてくる課題について奥深いお話を伺うことができました。 それでは、竹内さんは「これからの科学」についてどのように見ておられるのでしょうか。 後編『「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「社会の課題に対する科学の役割が大きくなる」と説く理由』に続きます』、「竹内さんは「これからの科学」についてどのように見ておられるのでしょうか・・・後編」を見ていこう。
第三に、3月25日付け現代ビジネス「「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/108088
・『「『サイエンスZERO』20周年スペシャル」取材班 「ゼロから分かりやすく科学を伝えたい」と2003年に始まった「サイエンスZERO」がまもなく放送20年を迎えます。787回に上る放送回数とあらゆる分野の最新科学研究をディープに伝えてきた節目を記念し、日本のサイエンス各分野の著名な研究者や番組ナビゲーターにこの20年を振り返ってもらうインタビューを行いました。そこで飛び出してくる驚きの言葉や知見、未来への警鐘とは―。(放送は「サイエンスZERO」20周年特別番組:3月26日(日)夜11:30~ NHK Eテレ) ここ20年の科学について「『第四次産業革命』の真っただ中を生きてきた―」と表現されたサイエンス作家の竹内薫さん。竹内さんは2012年から2018年まで「サイエンスZERO」のナビゲーターを務めてこられました。 竹内さんには前編『「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」』に引き続き、この20年の科学について思うこととこれからの時代にとっての科学について伺います』、「この20年の科学について思うこととこれからの時代にとっての科学について伺います」、興味深そうだ。
・『一緒にナビゲーターを務めた南沢奈央さんにも支えられた Q:一緒に番組ナビゲーターを務めた南沢奈央さんの印象はいかがでしたか? A:一言で言うと「勘が良い方だな」と思います。例えば、台本にはないけど、ここにこういうせりふがあるといいな、と思うとその通りのせりふが出てくるんですよ。台本をただ読んでいるんじゃなくて、臨機応変にいろんなことを言ってくれて、しかもかなり的を射ていたと思うんですね。あと、大学で心理学を専攻されていたということで、僕の得意な数学とか物理ではない分野について結構詳しかったので、すごく助かりましたね。凸凹コンビで、どちらかというと僕のほうが凹の方だったかな(笑)。 Q:南沢さんは番組で猫の特集をしたことをきっかけに、実家で猫を4匹飼い始めたそうです。竹内さんも猫好きでいらっしゃいますよね? A:猫、4匹ですか。うちは今、3匹飼っています。生まれたときから家に猫がいて、猫が好きなんですが、サイエンスZEROでも2回猫の特集をやって(※5)、スタジオに猫が来たり、うちの猫も登場させてもらったり、そんなことも懐かしく思い出しますね。 猫って実は物理学にもよく登場するんですよ。逆さまにして落下させるとちゃんと着地するという実験なんかは完全に力学の話ですよね。あと量子力学で「シュレーディンガーの猫」というのがありまして、頭で考える「思考実験」なんですけども、猫が登場する論文があるわけですよ。そういうのを考えると、猫は科学的だな、と思いますね。 ※5 サイエンスZERO「ニャンとも不思議!遺伝子が明かすネコの秘密」(2015年8月2日放送)、「ニャンとビックリ!科学で探る ネコとヒトとの優しい関係」(2016年6月5日放送)』、「南沢奈央さん」の公式ページはhttps://www.naosway.net/。「量子力学で「シュレーディンガーの猫」というのがありまして、頭で考える「思考実験」なんですけども、猫が登場する論文があるわけですよ。そういうのを考えると、猫は科学的だな、と思いますね」、なるほど。
・『「これまでの20年」と「これからの20年」の科学 Q:竹内さんは、この20年の科学の進歩についてどう思いますか? A:コンピューターやAIなんかはすごく進歩しましたよね。サイエンスZEROでも取り上げた将棋のAI(※6)は今、本当に強くなってきて、プロ棋士より強くなっているんじゃないの?という感じになっていますけど、その技術が完全に成熟する前の、成長段階にある現場の熱い感覚が伝えられたというのは非常に有意義だったし面白かったですね。 実は、AIは僕の仕事にもかなり影響を与えていて、去年あたりから翻訳をする時の下訳をAIにやってもらっているんですよ。これまでは人に頼んでいたものをAIにやってもらっている。だから、もうわれわれの仕事のすぐそこまで入ってきているわけです。10年後にはどうなるんだ、もう翻訳者はいらないかもしれないというところまで来ているのを感じます。 本当に今、「第四次産業革命」がどんどん進行していって、その真っただ中を生きてきたっていう印象があって、そこでいかに正しい情報発信ができるか、それを考えながら常に最先端のことを勉強しながら、この20年生きてきたのかなという印象ですね。 ※6 サイエンスZERO「プロ棋士大苦戦!進化する将棋コンピューター」(2014年7月6日放送)』、「去年あたりから翻訳をする時の下訳をAIにやってもらっているんですよ。これまでは人に頼んでいたものをAIにやってもらっている。だから、もうわれわれの仕事のすぐそこまで入ってきているわけです。10年後にはどうなるんだ、もう翻訳者はいらないかもしれないというところまで来ているのを感じます。 本当に今、「第四次産業革命」がどんどん進行していって、その真っただ中を生きてきたっていう印象があって、そこでいかに正しい情報発信ができるか、それを考えながら常に最先端のことを勉強しながら、この20年生きてきたのかなという印象ですね」、なるほど。
・『「科学予測の8割は外れる」 Q:これからの20年、科学の世界はどう変わると思いますか? A:僕、昔に本を書いたことがあって、それは「科学予測の8割は外れる」というものなんですよ。だから僕がここで予測しても多分外れると思うんです。 例えば、「空飛ぶクルマ」。100年ぐらい前に、もうすぐできると書いている雑誌の記事があるんです。でも、100年経ってようやく今できつつあると。どうしてすぐできなかったのかと考えると、テクノロジーが複数必要で、それを組み合わせないとできない。例えば、ドローン技術が必要だしAIも必要だし、そういった複雑なものがいくつかあって、全部がそろった時に初めて空飛ぶクルマが完成する。 普通、科学の未来予測をする時にテクノロジーのそういう細かいところ全部は考慮に入れないので、すぐにできると思っちゃうんですね。一方で、火星に人類が行くのに何年かかるのか、と言われたら、みんなが一斉にやろうと思ったとたんに意外と速く進むんですよ。世界中のいろんな人が参入してきて、民間でロケットを飛ばし始めるじゃないですか。そうすると加速度的に進むんですね。だから、やっぱり科学の動きっていうのは予測が難しいなと思います』、「科学予測の8割は外れる・・・「空飛ぶクルマ」。100年ぐらい前に、もうすぐできると書いている雑誌の記事があるんです。でも、100年経ってようやく今できつつあると。どうしてすぐできなかったのかと考えると、テクノロジーが複数必要で、それを組み合わせないとできない・・・火星に人類が行くのに何年かかるのか、と言われたら、みんなが一斉にやろうと思ったとたんに意外と速く進むんですよ。世界中のいろんな人が参入してきて、民間でロケットを飛ばし始めるじゃないですか。そうすると加速度的に進むんですね。だから、やっぱり科学の動きっていうのは予測が難しい」、なるほど。
・『社会の課題に対する科学の役割が大きくなるはず Q:これからの科学にはどんなことが必要だと考えていますか? A:一つは、地球温暖化問題ですよね。20年前だと、人為的ではない、フェイクニュースだと言う人も結構いたと思うんですよ。最近は科学者の世界ではおそらくコンセンサスが取れていて、地球温暖化は人為的なものであるという認識が広まっています。 確かに、温暖な時期というのは過去の地球の歴史上でもあったわけですけど、今回はあまりにも急激にそれが来ているので、生態系がついていくことができない。農作物の出来にも関わってきて、栽培する物が急激に変わるとかも出てきちゃうので、経済もついていくことができない。そういった問題が出てきていると思うんですね。 同時に、台風が大型化したり干ばつが起きてしまったり、すごく極端な気象現象も起きる。だから、それを科学の力で何とかする必要があると思いますね。感染症もこれから増えると思うんです。地球温暖化が進んで気候が変わってくると、当然、熱帯の方のいろんな病気が入り込んでくることもあって、恐らく文明社会にこれまで存在しなかった感染症がどんどん広がっていくと思うんですよ。結局、環境破壊をしてしまっているから人間の世界に病気が入っているんですよね。 だから、環境をもうちょっと保護していく。野生動物をちゃんと保護していくことをすれば、リスクはかなり低減できると思うんですよ。ただ、世界中の国がそれをやってくれればいいんですけども、残念ながらそれをやらない国も出てくると思うので、ちょっとこれから20年、いろいろなことがまだ起きるんじゃないかと思いますね。 Q:これからの科学に期待することはありますか? A:例えば、経済の問題があって、今日本は失われた30年とか言われていますよね。これも科学的な最新の手法を使って分析していくと、いくつかの原因が特定できると思うんですよ。実際、それをおっしゃっている経済学者の方もいるんです。こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると。それをある地域で、実証実験として実験的にやってみればいいと僕は思うんですよ。 科学というのは、われわれの生活を良くすることにもっともっと使えると思います。できれば政治家の方々ももう少し科学に目を向けてほしいなと思いますね。 「サイエンスZERO」20周年スペシャル 3月26日(日)夜11:30~午前0:30 NHK Eテレ《再放送:2023年4月1日(土)午後2:30~3:30 Eテレ》 関連記事『「なぜ宇宙には物質が存在しているのか?」実は現代の物理学でも説明できない究極の謎だった…素粒子実験の第一人者が語る「ニュートリノがなければ人類も誕生できなかった」という不思議』もぜひあわせてお読みください』、「こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると。それをある地域で、実証実験として実験的にやってみればいいと僕は思うんですよ。 科学というのは、われわれの生活を良くすることにもっともっと使えると思います。できれば政治家の方々ももう少し科学に目を向けてほしいなと思いますね』、「こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると」、残念ながらそんな理論はない、社会科学はそこまで進んでいないのが実情だ。
先ずは、2022年2月7日付けSoraeが掲載した「中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!」を紹介しよう。
https://sorae.info/space/20220206-artificial-sun.html
・『いわば「人工太陽」とも呼ぶべき核融合炉が完成すれば、人類は無限のクリーンエネルギーを手にすることができるかもしれません。 中国科学院等離子体物理研究所は、同研究所が開発・運用する全超伝導トカマク型核融合実験装置(EAST)が、摂氏約7千億度という高温のプラズマを1,056秒間持続することに成功したと発表しました。この持続時間は、トカマク型による高温プラズマの持続時間としては世界最長となります。EASTは2006年に運用が始まった実験装置で、2022年6月の運用終了までに1兆ドル以上の費用がかかると予想されています。 人工太陽とは、太陽など主系列星の内部で発生する核融合を人工的に再現する装置や施設のこと。核融合とは、水素など軽い原子の原子核同士が結合し、ヘリウムのような重い原子核を生成する反応を指します』、「トカマク型核融合実験装置(EAST)が、摂氏約7千億度という高温のプラズマを1,056秒間持続することに成功・・・この持続時間は、トカマク型による高温プラズマの持続時間としては世界最長」、なるほど。
・『【▲太陽の内部における水素の核融合反応を示した概念図(Credit: EUROfusion)】 核融合反応はエネルギーの発生を伴うので、このエネルギーを発電に利用するための研究が進められてきました。石炭や石油を燃やす火力発電とは異なり、核融合を利用する発電では温室効果ガスが放出されないため、クリーンなエネルギーだと考えられています。 ところが、地球の約33万倍もの質量を持つ太陽の内部のような核融合が起きる条件を地球上で人工的に模倣するのは難しく、約1,500万度ある太陽の中心部と比べて約6倍もの高温が必要だといいます。 原子核同士が核融合を起こす環境を人工的に再現したものとしては、ロシア(当時のソビエト連邦)の科学者Natan Yavlinsky氏が1958年に設計した「トカマク型」と呼ばれる型式の核融合炉「T-1」が知られています。トカマク型は強力な磁場をもつドーナツ状の核融合炉のなかで、プラズマを封じ込める仕組みになっているようです。 ロシアが開発した「T-1」以降も様々な核融合実験装置が作られましたが、装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しませんでした。 【▲トカマク型核融合実験装置の概念図(Credit: EFDA-JET(現在のEUROfusion))】 中国が今回実施した実験は、南フランスで建設中の核融合実験炉ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)のための技術を検証するために実施された模様です。ITERはプラズマを閉じ込めるために地球磁場の約28万倍も強力な磁場を生成できるといいます。このプロジェクトには、EUやイギリス、中国、インド、米国など35ヵ国が共同で参加し、2025年に登場すると見込まれています。 一方、現在EASTで実験を実施した中国自身も、ITERとは別の核融合炉の開発を独自に行っているようです。磁場ではなく慣性によってプラズマを封じ込める「慣性核融合炉」の実験の実施計画や、別のトカマク型核融合炉の完成を2030年代初頭までに目指すなど、新たな核融合炉の開発を進めている模様です』、「地球の約33万倍もの質量を持つ太陽の内部のような核融合が起きる条件を地球上で人工的に模倣するのは難しく、約1,500万度ある太陽の中心部と比べて約6倍もの高温が必要・・・原子核同士が核融合を起こす環境を人工的に再現したものとしては、ロシア(当時のソビエト連邦)の科学者Natan Yavlinsky氏が1958年に設計した「トカマク型」と呼ばれる型式の核融合炉「T-1」が知られています。トカマク型は強力な磁場をもつドーナツ状の核融合炉のなかで、プラズマを封じ込める仕組みになっているようです。 ロシアが開発した「T-1」以降も様々な核融合実験装置が作られましたが、装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しませんでした・・・現在EASTで実験を実施した中国自身も、ITERとは別の核融合炉の開発を独自に行っているようです。磁場ではなく慣性によってプラズマを封じ込める「慣性核融合炉」の実験の実施計画や、別のトカマク型核融合炉の完成を2030年代初頭までに目指すなど、新たな核融合炉の開発を進めている模様」、まだ「装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しません」、これでは陽の目を見るのはかなり先になりそうだ、
次に、本年3月25日付け現代ビジネス「「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」」を紹介しよう。
・『「『サイエンスZERO』20周年スペシャル」取材班 「ゼロから分かりやすく科学を伝えたい」と2003年に始まった「サイエンスZERO」がまもなく放送20年を迎えます。787回に上る放送回数とあらゆる分野の最新科学研究をディープに伝えてきた節目を記念し、日本のサイエンス各分野の著名な研究者や番組ナビゲーターにこの20年を振り返ってもらうインタビューを行いました。そこで飛び出してくる驚きの言葉や知見、未来への警鐘とは―。(放送は「サイエンスZERO」20周年特別番組:3月26日(日)夜11:30~ NHK Eテレ) 「『第四次産業革命』の真っただ中を生きてきたっていう印象がある。そこでいかに正しい情報発信ができるかを考えながら、常に最先端のことを勉強しながら20年を生きてきた」 そう語るのは、2012年から2018年まで「サイエンスZERO」のナビゲーターを務めたサイエンス作家の竹内薫さんです。 難解な科学について、比喩を交えながら分かりやすく解説する竹内さんは、これからの時代はますます科学が果たす役割が大きくなるだろうと言います。「科学者にとっても貴重な番組」と感じたサイエンスZEROの印象的な回を振り返るとともに、「この20年の科学」そして「これから20年の科学」を語り尽くします(Qは聞き手の質問、Aは竹内氏の回答)』、「サイエンスZERO」は私の好きな番組で視聴していた。
・『科学者にとっても「貴重な番組」 Q:サイエンスZEROが20周年なのですが、振り返るといかがでしょうか? A:もう卒業して5年も経っちゃったんですね。サイエンスZERO、20周年。率直にすごいな、と思います。日本って科学技術立国と言っているわりには、みんな科学にあまり興味がないんじゃないかと感じるんですよ。科学書がそれほど売れるわけじゃないし、科学雑誌もあまりないですよね。そんな中で20年間、放送媒体で地道にずっと伝え続けるのはすごく大変なことだなと思います。Q:印象に残っている回はなんでしたか? A:一番印象に残っているのは、「iPS細胞」の山中伸弥先生がノーベル賞を受賞した直後に、京都までインタビューに伺ったことです(※1)。急遽スタッフの人と相談をして、取材ができるかどうかも全然分からない状況から始めて、台本を作って、みんなで新幹線に乗って行ったのをよく覚えています。山中先生が「サイエンスZEROという番組は貴重な番組だ」ということをおっしゃってくださって、ノーベル賞を受賞される前からサイエンスZEROにご出演されていたこともあるからか、私たちのインタビューの時間を他の取材の人たちより長く取ってくださったのが印象的でしたね。 Q:あのインタビューの裏にはそういうことがあったんですね。 A:やっぱり、科学者の方が直接一般の方に語りかける場があんまりないんですよ。シンポジウムや本を書いて伝える方法も確かにあるんだけど、映像として凝縮された状態で非常に効率よく正しいことを教えられる。そういう番組って他にないと思うんですね。だから科学者にとってもすごく貴重なのではないでしょうか。 ※1 サイエンスZERO「速報ノーベル賞!iPS細胞 その舞台裏」(2012年10月14日放送)。ノーベル賞の発表が10月8日で、インタビューは11日。そして、14日に放送という強行スケジュールだった』、かなり綱渡り的ナスケジュールだ。
・『「科学を伝える」ために専門用語を使わず、比喩を使う Q:番組ナビゲーターとして心がけていたことはありますか? A:ナビゲーターとして、というかサイエンス作家として心がけているのは、専門用語をなるべく使わないことです。専門用語を使わないと、専門家のサークルからはなんでちゃんと専門用語を使わないんだって叱られるんですけれども、そこはあえて普通の言葉に言い換える。あと、比喩も使います。専門家の方は、誤解されるおそれがあるので比喩はあまり使わない方がいいとおっしゃるんですが、僕は科学を伝える人間なので、その伝え方の一つの技術として使うと効果的だと思っています。 サイエンスZEROをやっているときも伝え方を考える機会が結構あって、収録の前の台本打ち合わせが大変だった回が印象に残っています。例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました。 そのときは今と状況が違って、まだブラックホールが可視化されていなくて、「ブラックホール候補」でした。だから、そういった言葉づかいを含めてちゃんと科学的に伝えないといけないという科学者のスタンスと、分かりやすく伝えようとする番組側のスタンスがぶつかり合って、丁々発止のやり取りがありました。でも、最終的に放送された番組を見ると、「あれ?結構きれいにまとまっているな、結果的にはいい番組になったな」と思いましたね』、「収録の前の台本打ち合わせが大変だった回が印象に残っています。例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました・・・例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました。 そのときは今と状況が違って、まだブラックホールが可視化されていなくて、「ブラックホール候補」でした。だから、そういった言葉づかいを含めてちゃんと科学的に伝えないといけないという科学者のスタンスと、分かりやすく伝えようとする番組側のスタンスがぶつかり合って、丁々発止のやり取りがありました。でも、最終的に放送された番組を見ると、「あれ?結構きれいにまとまっているな、結果的にはいい番組になったな」と思いましたね」、なるほど。
・『CGのセットで「目に見えない現象」を見せる工夫も Q:他にも印象に残った番組はありますか? A:「ヒッグス粒子」が見つかったすぐあとに特集した回ですね(※2)。僕は大学院の時にヒッグス粒子の現象論というものを勉強していたんです。 現象論というのは、理論を使ってこういう実験をすればヒッグス粒子が検出できますよというシミュレーションをやるというもので、ある意味一番日が当たらない分野。つまり、派手な理論でもないし最終的にはノーベル賞がもらえるような実験とも違うわけです。こういう理論があるので、我々はそれを使ってシミュレーションをやりました。だからこういう実験をやってくれれば、恐らくそれはちゃんと検出できますよ、みたいなアドバイスを実験家の方にする研究なんですね。 なので、実際に発見されたということですごく印象に残っているし、CGのセットを使って、「ヒッグス粒子っていうけど、本当は『ヒッグス場』。電磁場と同じように場の概念が重要」という、科学者がイメージしているものをそのまま伝えられたことも印象に残っています。すごく工夫したな、と思いますね。 ※2 サイエンスZERO「ヒッグス粒子!素粒子の不思議ワールドへの招待」(2012年9月2日放送)。2012年7月4日、CERN(欧州原子核研究機構)の2つの実験グループが、素粒子物理学の標準理論で最後まで見つかっていなかった「ヒッグス粒子」を発見したと発表。ヒッグス粒子を提唱したピーター・ヒッグス氏には、2013年にノーベル物理学賞が贈られた』、「CGのセットを使って、「ヒッグス粒子っていうけど、本当は『ヒッグス場』。電磁場と同じように場の概念が重要」という、科学者がイメージしているものをそのまま伝えられたことも印象に残っています。すごく工夫したな、と思いますね」、なるほど。
・『科学にも光と影がある。それを教えてくれたのが「STAP細胞」 Q:伝えるのが難しかった回はありますか? STAP細胞の回は、難しかったですね(※3)。STAP細胞は論文が出た当初からマスコミがたくさん飛びついて、僕も、なんかすごいものが出たんだなと思いました。ところがSTAP細胞の回をサイエンスZEROでやることになって、収録の前の週あたりからいろんな情報を番組のディレクターが集めてきて、「異論が多数出ている」という情報が最初に入ってきた時に、「えっ?」と思ったんですよ。 その時点で僕はSTAP細胞が怪しいとは全く思っていなかったんです。通常であればサイエンスZEROは確立された成果を正確に楽しくお伝えするわけじゃないですか。ところが、STAP細胞の場合は確立されていないかもしれない。結構、異論が出てきているし、再現性がどうもない、という状況だけれどもそのことも含めて放送する。これはすごく難しい番組でしたね。 ただやっぱりあれは番組をやって良かったと思います。つまり、科学というのはいいことばかりじゃない。やはり常に光と影があるんだっていうところをお伝えできたと思うんですよ。そこに持っていくスタッフの取材力というか、研究の本質を見抜く力があるんだ、というのがすごく驚きでしたね。 ※3 サイエンスZERO「緊急SP!STAP細胞 徹底解説」(2014年3月16日放送)。科学誌Nature 2014年1月30日号に、マウスの成熟した細胞に簡単な操作を加えるだけであらゆる細胞に分化できるようになる、という論文が掲載され、マスコミが一斉に報道。しかしその後、実験の再現性がないことなどが研究者から指摘され、調査の結果、筆者の研究不正があったとの判断が下った』、「!STAP細胞 徹底解説」・・・科学誌Nature 2014年1月30日号に、マウスの成熟した細胞に簡単な操作を加えるだけであらゆる細胞に分化できるようになる、という論文が掲載され、マスコミが一斉に報道。しかしその後、実験の再現性がないことなどが研究者から指摘され、調査の結果、筆者の研究不正があったとの判断が下った」、この騒ぎはまだ覚えている。
・『科学の道も平坦ではなく研究者も善人ばかりではない Q:科学技術には光と影がある、というのはどういう意味ですか? A:科学というと、全部がうまくいく、100%正しいとかそういった考えを持っている方もいるんですけど、そうじゃないですよ、と。実際に、科学の理論も実験も、現場では試行錯誤がたくさんあって、失敗もたくさんあるわけですね。そこの中で何かのきっかけで偶然うまくいくということもあるんですよ。 青色LEDでノーベル賞を受賞された天野浩先生(※4)も、装置が故障して初めてうまくいったって、すごい偶然じゃないですか。そういう意味で科学ってそんなに単純なものではないし、ちゃんと実験を続けていけば自然と結果が出るというものでもないということも伝えたい。 あと、不正論文って結構あるんですよね。科学にはちょっとダークサイドの話もあるんですよと。それはちゃんとお伝えできたかなと思うので、本当の現場の科学の姿とか実態とかが深掘りできたのかなと思うんです。 ジャーナリズムというと、規制の立場、権力に対するチェック機能があるとか、そういったことが特に先進自由国では大事じゃないですか。科学だってそうだと思うんですよ。科学者は全員が聖人というわけではないので、中には研究費を取るためにちょっと悪いことをしてしまう。軽い不正をやってしまうような方もいるわけですね。そこはやはりジャーナリスティックな視点でチェックをする人は必要なので、STAP細胞というのはそういう意味でも番組で取り上げる意味があったと思いますね。 ※4 2014年にノーベル物理学賞を受賞した名古屋大学の天野浩教授。サイエンスZERO「おめでとう!ノーベル物理学賞 青色LED徹底解説」(2014年12月7日放送)に出演。学生時代、青色LEDに必要な窒化ガリウムの結晶を作る実験を1500回以上繰り返していた天野さんは、通常1200℃で実験するところを装置の不具合のため700℃で行い、結晶を作ることに初めて成功したと語った。 この20年にとっての竹内さんにとっての科学とは何か、そして科学を伝えることの難しさや葛藤、「科学の光と影」など、科学と真摯に向き合うことによって生じてくる課題について奥深いお話を伺うことができました。 それでは、竹内さんは「これからの科学」についてどのように見ておられるのでしょうか。 後編『「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「社会の課題に対する科学の役割が大きくなる」と説く理由』に続きます』、「竹内さんは「これからの科学」についてどのように見ておられるのでしょうか・・・後編」を見ていこう。
第三に、3月25日付け現代ビジネス「「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/108088
・『「『サイエンスZERO』20周年スペシャル」取材班 「ゼロから分かりやすく科学を伝えたい」と2003年に始まった「サイエンスZERO」がまもなく放送20年を迎えます。787回に上る放送回数とあらゆる分野の最新科学研究をディープに伝えてきた節目を記念し、日本のサイエンス各分野の著名な研究者や番組ナビゲーターにこの20年を振り返ってもらうインタビューを行いました。そこで飛び出してくる驚きの言葉や知見、未来への警鐘とは―。(放送は「サイエンスZERO」20周年特別番組:3月26日(日)夜11:30~ NHK Eテレ) ここ20年の科学について「『第四次産業革命』の真っただ中を生きてきた―」と表現されたサイエンス作家の竹内薫さん。竹内さんは2012年から2018年まで「サイエンスZERO」のナビゲーターを務めてこられました。 竹内さんには前編『「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」』に引き続き、この20年の科学について思うこととこれからの時代にとっての科学について伺います』、「この20年の科学について思うこととこれからの時代にとっての科学について伺います」、興味深そうだ。
・『一緒にナビゲーターを務めた南沢奈央さんにも支えられた Q:一緒に番組ナビゲーターを務めた南沢奈央さんの印象はいかがでしたか? A:一言で言うと「勘が良い方だな」と思います。例えば、台本にはないけど、ここにこういうせりふがあるといいな、と思うとその通りのせりふが出てくるんですよ。台本をただ読んでいるんじゃなくて、臨機応変にいろんなことを言ってくれて、しかもかなり的を射ていたと思うんですね。あと、大学で心理学を専攻されていたということで、僕の得意な数学とか物理ではない分野について結構詳しかったので、すごく助かりましたね。凸凹コンビで、どちらかというと僕のほうが凹の方だったかな(笑)。 Q:南沢さんは番組で猫の特集をしたことをきっかけに、実家で猫を4匹飼い始めたそうです。竹内さんも猫好きでいらっしゃいますよね? A:猫、4匹ですか。うちは今、3匹飼っています。生まれたときから家に猫がいて、猫が好きなんですが、サイエンスZEROでも2回猫の特集をやって(※5)、スタジオに猫が来たり、うちの猫も登場させてもらったり、そんなことも懐かしく思い出しますね。 猫って実は物理学にもよく登場するんですよ。逆さまにして落下させるとちゃんと着地するという実験なんかは完全に力学の話ですよね。あと量子力学で「シュレーディンガーの猫」というのがありまして、頭で考える「思考実験」なんですけども、猫が登場する論文があるわけですよ。そういうのを考えると、猫は科学的だな、と思いますね。 ※5 サイエンスZERO「ニャンとも不思議!遺伝子が明かすネコの秘密」(2015年8月2日放送)、「ニャンとビックリ!科学で探る ネコとヒトとの優しい関係」(2016年6月5日放送)』、「南沢奈央さん」の公式ページはhttps://www.naosway.net/。「量子力学で「シュレーディンガーの猫」というのがありまして、頭で考える「思考実験」なんですけども、猫が登場する論文があるわけですよ。そういうのを考えると、猫は科学的だな、と思いますね」、なるほど。
・『「これまでの20年」と「これからの20年」の科学 Q:竹内さんは、この20年の科学の進歩についてどう思いますか? A:コンピューターやAIなんかはすごく進歩しましたよね。サイエンスZEROでも取り上げた将棋のAI(※6)は今、本当に強くなってきて、プロ棋士より強くなっているんじゃないの?という感じになっていますけど、その技術が完全に成熟する前の、成長段階にある現場の熱い感覚が伝えられたというのは非常に有意義だったし面白かったですね。 実は、AIは僕の仕事にもかなり影響を与えていて、去年あたりから翻訳をする時の下訳をAIにやってもらっているんですよ。これまでは人に頼んでいたものをAIにやってもらっている。だから、もうわれわれの仕事のすぐそこまで入ってきているわけです。10年後にはどうなるんだ、もう翻訳者はいらないかもしれないというところまで来ているのを感じます。 本当に今、「第四次産業革命」がどんどん進行していって、その真っただ中を生きてきたっていう印象があって、そこでいかに正しい情報発信ができるか、それを考えながら常に最先端のことを勉強しながら、この20年生きてきたのかなという印象ですね。 ※6 サイエンスZERO「プロ棋士大苦戦!進化する将棋コンピューター」(2014年7月6日放送)』、「去年あたりから翻訳をする時の下訳をAIにやってもらっているんですよ。これまでは人に頼んでいたものをAIにやってもらっている。だから、もうわれわれの仕事のすぐそこまで入ってきているわけです。10年後にはどうなるんだ、もう翻訳者はいらないかもしれないというところまで来ているのを感じます。 本当に今、「第四次産業革命」がどんどん進行していって、その真っただ中を生きてきたっていう印象があって、そこでいかに正しい情報発信ができるか、それを考えながら常に最先端のことを勉強しながら、この20年生きてきたのかなという印象ですね」、なるほど。
・『「科学予測の8割は外れる」 Q:これからの20年、科学の世界はどう変わると思いますか? A:僕、昔に本を書いたことがあって、それは「科学予測の8割は外れる」というものなんですよ。だから僕がここで予測しても多分外れると思うんです。 例えば、「空飛ぶクルマ」。100年ぐらい前に、もうすぐできると書いている雑誌の記事があるんです。でも、100年経ってようやく今できつつあると。どうしてすぐできなかったのかと考えると、テクノロジーが複数必要で、それを組み合わせないとできない。例えば、ドローン技術が必要だしAIも必要だし、そういった複雑なものがいくつかあって、全部がそろった時に初めて空飛ぶクルマが完成する。 普通、科学の未来予測をする時にテクノロジーのそういう細かいところ全部は考慮に入れないので、すぐにできると思っちゃうんですね。一方で、火星に人類が行くのに何年かかるのか、と言われたら、みんなが一斉にやろうと思ったとたんに意外と速く進むんですよ。世界中のいろんな人が参入してきて、民間でロケットを飛ばし始めるじゃないですか。そうすると加速度的に進むんですね。だから、やっぱり科学の動きっていうのは予測が難しいなと思います』、「科学予測の8割は外れる・・・「空飛ぶクルマ」。100年ぐらい前に、もうすぐできると書いている雑誌の記事があるんです。でも、100年経ってようやく今できつつあると。どうしてすぐできなかったのかと考えると、テクノロジーが複数必要で、それを組み合わせないとできない・・・火星に人類が行くのに何年かかるのか、と言われたら、みんなが一斉にやろうと思ったとたんに意外と速く進むんですよ。世界中のいろんな人が参入してきて、民間でロケットを飛ばし始めるじゃないですか。そうすると加速度的に進むんですね。だから、やっぱり科学の動きっていうのは予測が難しい」、なるほど。
・『社会の課題に対する科学の役割が大きくなるはず Q:これからの科学にはどんなことが必要だと考えていますか? A:一つは、地球温暖化問題ですよね。20年前だと、人為的ではない、フェイクニュースだと言う人も結構いたと思うんですよ。最近は科学者の世界ではおそらくコンセンサスが取れていて、地球温暖化は人為的なものであるという認識が広まっています。 確かに、温暖な時期というのは過去の地球の歴史上でもあったわけですけど、今回はあまりにも急激にそれが来ているので、生態系がついていくことができない。農作物の出来にも関わってきて、栽培する物が急激に変わるとかも出てきちゃうので、経済もついていくことができない。そういった問題が出てきていると思うんですね。 同時に、台風が大型化したり干ばつが起きてしまったり、すごく極端な気象現象も起きる。だから、それを科学の力で何とかする必要があると思いますね。感染症もこれから増えると思うんです。地球温暖化が進んで気候が変わってくると、当然、熱帯の方のいろんな病気が入り込んでくることもあって、恐らく文明社会にこれまで存在しなかった感染症がどんどん広がっていくと思うんですよ。結局、環境破壊をしてしまっているから人間の世界に病気が入っているんですよね。 だから、環境をもうちょっと保護していく。野生動物をちゃんと保護していくことをすれば、リスクはかなり低減できると思うんですよ。ただ、世界中の国がそれをやってくれればいいんですけども、残念ながらそれをやらない国も出てくると思うので、ちょっとこれから20年、いろいろなことがまだ起きるんじゃないかと思いますね。 Q:これからの科学に期待することはありますか? A:例えば、経済の問題があって、今日本は失われた30年とか言われていますよね。これも科学的な最新の手法を使って分析していくと、いくつかの原因が特定できると思うんですよ。実際、それをおっしゃっている経済学者の方もいるんです。こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると。それをある地域で、実証実験として実験的にやってみればいいと僕は思うんですよ。 科学というのは、われわれの生活を良くすることにもっともっと使えると思います。できれば政治家の方々ももう少し科学に目を向けてほしいなと思いますね。 「サイエンスZERO」20周年スペシャル 3月26日(日)夜11:30~午前0:30 NHK Eテレ《再放送:2023年4月1日(土)午後2:30~3:30 Eテレ》 関連記事『「なぜ宇宙には物質が存在しているのか?」実は現代の物理学でも説明できない究極の謎だった…素粒子実験の第一人者が語る「ニュートリノがなければ人類も誕生できなかった」という不思議』もぜひあわせてお読みください』、「こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると。それをある地域で、実証実験として実験的にやってみればいいと僕は思うんですよ。 科学というのは、われわれの生活を良くすることにもっともっと使えると思います。できれば政治家の方々ももう少し科学に目を向けてほしいなと思いますね』、「こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると」、残念ながらそんな理論はない、社会科学はそこまで進んでいないのが実情だ。
タグ:(その2)(中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!、「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」、「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK) 科学技術 sorae 「中国が約1兆ドルかけて製造・運用する「人工太陽」 太陽の5倍高温なプラズマの維持に成功!」 「トカマク型核融合実験装置(EAST)が、摂氏約7千億度という高温のプラズマを1,056秒間持続することに成功・・・この持続時間は、トカマク型による高温プラズマの持続時間としては世界最長」、なるほど。 「地球の約33万倍もの質量を持つ太陽の内部のような核融合が起きる条件を地球上で人工的に模倣するのは難しく、約1,500万度ある太陽の中心部と比べて約6倍もの高温が必要・・・原子核同士が核融合を起こす環境を人工的に再現したものとしては、ロシア(当時のソビエト連邦)の科学者Natan Yavlinsky氏が1958年に設計した「トカマク型」と呼ばれる型式の核融合炉「T-1」が知られています。トカマク型は強力な磁場をもつドーナツ状の核融合炉のなかで、プラズマを封じ込める仕組みになっているようです。 ロシアが開発した「T-1」以降も様々な核融合実験装置が作られましたが、装置を作動させるために費やされたエネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しませんでした・・・現在EASTで実験を実施した中国自身も、ITERとは別の核融合炉の開発を独自に行っているようです。磁場ではなく慣性によってプラズマを封じ込める「慣性核融合炉」の実験の実施計画や、別のトカマク型核融合炉の完成を2030年代初頭までに目指すなど、新たな核融合炉の開発を進めている模様」、まだ「装置を作動させるために費やされたエ ネルギーより多くのエネルギーを発生させることに成功したものは登場しません」、これでは陽の目を見るのはかなり先になりそうだ、 現代ビジネス「「日本って科学技術立国と言っているわりにはみんな科学にあまり興味がないんじゃないか」というこの国への本質的な疑問と竹内薫さんがこだわった「科学に興味がない人にも科学を伝え続ける意味」」 「サイエンスZERO」は私の好きな番組で視聴していた。 かなり綱渡り的ナスケジュールだ。 「収録の前の台本打ち合わせが大変だった回が印象に残っています。例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました・・・例えば、「ブラックホール」の回は打ち合わせが長時間かかりました。 そのときは今と状況が違って、まだブラックホールが可視化されていなくて、「ブラックホール候補」でした。だから、そういった言葉づかいを含めてちゃんと科学的に伝えないといけないという科学者のスタンスと、分かりやすく伝えようとする番組側のスタンスがぶつかり合って、丁々発止のやり取りがありました。 でも、最終的に放送された番組を見ると、「あれ?結構きれいにまとまっているな、結果的にはいい番組になったな」と思いましたね」、なるほど。 「CGのセットを使って、「ヒッグス粒子っていうけど、本当は『ヒッグス場』。電磁場と同じように場の概念が重要」という、科学者がイメージしているものをそのまま伝えられたことも印象に残っています。すごく工夫したな、と思いますね」、なるほど。 「!STAP細胞 徹底解説」・・・科学誌Nature 2014年1月30日号に、マウスの成熟した細胞に簡単な操作を加えるだけであらゆる細胞に分化できるようになる、という論文が掲載され、マスコミが一斉に報道。しかしその後、実験の再現性がないことなどが研究者から指摘され、調査の結果、筆者の研究不正があったとの判断が下った」、この騒ぎはまだ覚えている。 「竹内さんは「これからの科学」についてどのように見ておられるのでしょうか・・・後編」を見ていこう。 現代ビジネス「「科学はたとえば日本の『失われた30年』の原因を特定し解決することにも役立つはず」…科学伝道の第一人者が「日本の政治はもっと科学に目を向けてほしい」と説く理由 サイエンスZERO NHK」 「この20年の科学について思うこととこれからの時代にとっての科学について伺います」、興味深そうだ。 「南沢奈央さん」の公式ページはhttps://www.naosway.net/。「量子力学で「シュレーディンガーの猫」というのがありまして、頭で考える「思考実験」なんですけども、猫が登場する論文があるわけですよ。そういうのを考えると、猫は科学的だな、と思いますね」、なるほど。 「去年あたりから翻訳をする時の下訳をAIにやってもらっているんですよ。これまでは人に頼んでいたものをAIにやってもらっている。だから、もうわれわれの仕事のすぐそこまで入ってきているわけです。10年後にはどうなるんだ、もう翻訳者はいらないかもしれないというところまで来ているのを感じます。 本当に今、「第四次産業革命」がどんどん進行していって、その真っただ中を生きてきたっていう印象があって、そこでいかに正しい情報発信ができるか、それを考えながら常に最先端のことを勉強しながら、この20年生きてきたのかなという印象ですね」、なるほど。 「科学予測の8割は外れる・・・「空飛ぶクルマ」。100年ぐらい前に、もうすぐできると書いている雑誌の記事があるんです。でも、100年経ってようやく今できつつあると。どうしてすぐできなかったのかと考えると、テクノロジーが複数必要で、それを組み合わせないとできない・・・ 火星に人類が行くのに何年かかるのか、と言われたら、みんなが一斉にやろうと思ったとたんに意外と速く進むんですよ。世界中のいろんな人が参入してきて、民間でロケットを飛ばし始めるじゃないですか。そうすると加速度的に進むんですね。だから、やっぱり科学の動きっていうのは予測が難しい」、なるほど。 「こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると。それをある地域で、実証実験として実験的にやってみればいいと僕は思うんですよ。 科学というのは、われわれの生活を良くすることにもっともっと使えると思います。できれば政治家の方々ももう少し科学に目を向けてほしいなと思いますね』、「こうすれば経済は良くなるであろうという科学理論があると」、残念ながらそんな理論はない、社会科学はそこまで進んでいないのが実情だ。
宇宙ビジネス(その3)(民間企業スペースXは61回成功 日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出、H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」、直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?) [科学技術]
これまではロケット・衛星打上げ(その2)として、2017年3月9日に取上げた。今日は、宇宙ビジネス(その3)(民間企業スペースXは61回成功 日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出、H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」、直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?)である。
先ずは、昨年3月15日付けPRESIDENT Onlineが掲載したジャーナリストの知野 恵子氏による「民間企業スペースXは61回成功、日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/67441
・『「開発体制のどこかに問題があるのでは」 3月7日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が共同開発した日本の新しい大型ロケット「H3」初号機の打ち上げが失敗した。昨年10月の小型ロケット「イプシロン」失敗に続いて、半年もたたないうちに起きたロケットの連続失敗。「技術大国日本」の凋落が止まらない。起死回生策はあるのか。 昨年10月のイプシロン、今年3月のH3。どちらも地上から信号を送って機体を破壊した。 宇宙政策に詳しい鈴木一人・東大教授(国際政治経済学)は、「連続して失敗したことで、世界にマイナスの印象を与えた。ロケットの初号機打ち上げ失敗自体は珍しいことではないが、イプシロン失敗を含めて考えると、日本のロケットの開発体制のどこかに問題があるのではないか」と指摘する。 「H3」は、2014年から約2000億円の国費を投じて開発された。日本が新しいロケットを開発するのは30年ぶりで、今後20年にわたって主力ロケットとして使用する予定になっている。 まさに日本の宇宙政策・活動を支える「屋台骨」だ』、「昨年10月のイプシロン、今年3月のH3と、「連続して失敗した」とは深刻な事態だ。
・『安価で売れるロケットを造るのが狙いだが… H3開発の最大の目的として政府が強調してきたのは、ロケット価格を半減させることだ。 現在の主力ロケット「H2A」は約100億円で、世界相場の倍程度と高い。H3はこれを、世界相場の約50億円に半減し、世界の衛星打ち上げ市場で「売れるロケット」を目指した。 そのために開発方法も変えた。 これまでのロケットは、JAXAが設計・開発し、企業に製造を発注。何機か打ち上げて技術的に安定すると、JAXAから企業に技術を移管し、企業が商用打ち上げサービスを行うというやり方だった。 現在の主力ロケット「H2A」でいえば、技術を移管された三菱重工が打ち上げサービスを行っている。 だが、最先端技術を志向するJAXAが開発するロケットは、高価格になりがちだ。衛星を打ち上げたい顧客にとって使いやすいものかどうかもわからない。 そこで、JAXAと三菱重工が最初から一緒に設計・開発を行い、打ち上げビジネスをしやすいロケットを造ることを目指した。 だが、その1回目からつまずいた』、「最先端技術を志向するJAXAが開発するロケットは、高価格になりがちだ」、「JAXAと三菱重工が最初から一緒に設計・開発を行い、打ち上げビジネスをしやすいロケットを造ることを目指した。 だが、その1回目からつまずいた」、お粗末だ。
・『スペースXは61回成功し、日本はゼロ 今回の失敗によって、日本の宇宙開発は苦境に立たされた。 打ち上げ市場への参入はもちろん、情報収集衛星など国の安全保障にかかわる衛星、米国主導の有人月探査「アルテミス計画」で使う物資輸送機、火星の衛星の探査機など、H3による打ち上げ予定は詰まっている。今後、その調整や見直しが必要になる。 JAXAや文部科学省は原因調査を開始したが、原因を突き止め、対策をほどこし、試験でそれを確かめる、など一連の作業にはかなり時間がかかる。 2003年に情報収集衛星2基を搭載した「H2A」6号機の打ち上げが失敗した時には、再開まで1年3カ月を要した。 時間がかかればかかるほど、H3の開発費は膨れ、世界相場並みの50億円達成はどんどん遠のいていく。 今、世界の宇宙開発は拡大期にある。2018年以降、世界のロケット打ち上げ成功数は大きく増加している。 内閣府の調べによると、2022年は過去最大の177回で、直近10年間で年率9.7%と大幅に伸びた。 打ち上げ成功数は米国が最も多く83回。うち75回が民間企業によるもので、その61回はスペースXのロケットだった。 成功数が次に多いのは中国で62回、次はロシアで21回だった。 一方、日本は成功ゼロだった。世界で存在感を発揮できない中で、さらに追い打ちをかけるH3失敗。日本は世界から取り残され、埋没していく恐れがある』、「打ち上げ成功数は米国が最も多く83回。うち75回が民間企業によるもので、その61回はスペースXのロケットだった。 成功数が次に多いのは中国で62回、次はロシアで21回だった。 一方、日本は成功ゼロだった」、「日本は世界から取り残され、埋没していく恐れがある」、まさに危機的状況だ。
・『成功にこだわっていると市場で勝負できない 今、ロケット打ち上げ市場をリードしているのは、米スペースXだ。 2000年代初頭に宇宙ベンチャー企業として頭角を現し、低価格の「価格破壊ロケット」で、商用打ち上げ市場を席巻するようになった。 スペースXは、ロケットが爆発炎上する派手な失敗もよく起こすが、淡々と対策をほどこし、すぐに次の打ち上げを再開する。 国の研究開発法人のJAXAは、先端技術と完璧さを目指し、それを成し遂げてから打ち上げ市場への売り込みを図ろうと考える。一方、スペースXは走りながら完成度を高めていく。 国費で開発する研究開発法人と、米ベンチャー企業との発想の違いだろうが、日本とは対極的だ。 鈴木教授は「日本には打ち上げを失敗してはいけないと考える文化がある。一度失敗すると二度と失敗しない仕組みを作ろうとする。だが、それによってコストが膨張し、納期が遅れ、打ち上げ市場で勝負できなくなる。一方、スペースXは『失敗なしに成功はない』と考え、失敗しても素早く機敏に開発をしていく。打ち上げ市場でこうした企業と戦おうというのなら、日本でも失敗を許す文化が必要だ」 これまで日本は「H2」「H2A」と大型ロケットを開発したが、市場参入に成功とはいいがたい状況だった。 H3でロケットの価格を半減させて打ち上げ市場参入を目指す、と掲げた以上、日本も今までのやり方を見直す必要があるだろう』、「H3でロケットの価格を半減させて打ち上げ市場参入を目指す、と掲げた以上、日本も今までのやり方を見直す必要がある」、その通りだ。
・『「何が何でも3月中に」JAXAの危機感 例えば、JAXAの開発には、役所の文化が根強く残っている。 役所の予算編成に合わせる「年度縛り」もそのひとつだ。 H3の初号機は、2020年度に打ち上げる予定だったが、2度にわたって延期した。 新規開発の高性能エンジン「LE9」の開発にてこずったためだ。 政治家や産業界からは不満や批判が続出していた。これ以上遅らせてはならないという危機感がJAXAや文科省の間で高まっていた。 このため2022年度中、つまり今年3月中に何が何でも打ち上げを成功させねばならない、それを超えると23年度になってしまう、という焦りがあったとみられる。しかも、地元の漁協などとの調整から、打ち上げは「3月10日まで」という締め切りもあった。 JAXAは2月17日にH3を打ち上げようとしたが、直前に技術トラブルが発生し、中止した。原因解明と対策に時間を要したが、「3月10日まで」を死守することを、記者会見で何度も強調した。2023年度になることを避けたいということだろう。 再度設定した打ち上げ日は、年度縛りに収まる3月7日だったものの、失敗に終わった。 このあたりの経緯や、組織の体質や対応、JAXAと三菱重工との協力関係や責任分担などを今後検証する必要があるのではないか。 失敗原因を解明、対策をほどこした後は、前回の「H2A」6号機失敗の時のように長期間止めることなく、なるべく早く、打ち上げを再開する必要もある』、「失敗原因を解明、対策をほどこした後は、前回の「H2A」6号機失敗の時のように長期間止めることなく、なるべく早く、打ち上げを再開する必要もある」、なるほど。
・『SNSでは成功したと勘違いする人が続出 巨費をかけてロケットを開発するのは、他国に依存することなく、自国の衛星を必要な時に打ち上げる手段を保有するためだ。 鈴木教授は「日本では夢とロマンが強調され、何のためにロケットを打ち上げるかについて、ふわっとした議論しかしてこなかった。H3をどういうロケットにすべきかという議論や説明も不足していた。本当の意味で使えるロケット、衛星を運ぶロケットとしての開発をしてこなかったのではないか」と苦言を呈する。 そうした影響か、ロケットに対する見方は揺れが大きい。 2月17日の打ち上げ直前中止をめぐって、JAXAは「止めることができたので失敗ではない」と説明をした。だが、会見に参加した記者が「それは一般に失敗という」と発言。これを引き金に、SNSで「失敗」「失敗ではない」をめぐって、喧々諤々の議論になった。 3月7日の打ち上げでは、晴れた空の下、H3は地上からきれいに打ち上がり、補助ロケットの切り離しも成功した。だが、すぐにロケットの速度はどんどん下がっていった。第2段エンジンが着火しなかったためだ。 JAXAの打ち上げ中継で「指令破壊信号を送信しました」というアナウンスが流れた直後に、SNSを見て驚いた。「H3成功」の話で盛り上がっていたからだ。 地上から機体が離陸したのを見て、成功したと思った人が多かったのだろう。「打ち上げ成功」「おめでとう!」などのツイートがさかんに流れていた』、「「日本では夢とロマンが強調され、何のためにロケットを打ち上げるかについて、ふわっとした議論しかしてこなかった。H3をどういうロケットにすべきかという議論や説明も不足していた。本当の意味で使えるロケット、衛星を運ぶロケットとしての開発をしてこなかったのではないか」、「2月17日の打ち上げ直前中止をめぐって、JAXAは「止めることができたので失敗ではない」と説明をした。だが、会見に参加した記者が「それは一般に失敗という」と発言。これを引き金に、SNSで「失敗」「失敗ではない」をめぐって、喧々諤々の議論になった」、「失敗」は正々堂々と認めるべきだ。そうないと改善点が明確にならない筈だ。
・『「国民の責任」を求めるわりに説明が足りていない ロケットは地上から上がれば仕事が終わるわけではない。さらに30分ほど飛行して、衛星を予定の軌道に届けたことを確認できて初めて、技術者もようやく「成功」を宣言する。 ロケットがどの段階まで進めば、「成功」なのか、「失敗」とはどういうことを指すのか。こうした点についての知識や説明がもっと必要だと感じる。 2003年の「H2A」の失敗の後、文科省の有識者会議では、「国民にロケットの抱えるリスクを理解してもらわないといけない」という議論がさかんに行われた。「国民への責任」よりも、「国民の責任」を求める論理に違和感を覚えたが、有識者会議の報告書は「国民側も理解や関心を深めることが必要」と注文をつけた。 その具体策について、当時文科省は「今後、検討する」と述べるにとどめていた。 それから20年たった今もなお、そのための知識提供や広報活動が不足している。 ロケットの打ち上がる姿は勇壮で魅力的だが、そのためだけに巨費を投じて開発するわけではない。打ち上げ花火ではないのだ。ロケットや宇宙開発への夢を語るだけではなく、目的や成否の判断基準などももっと明確に示すべきだろう。 今回の失敗の教訓のひとつだと思う』、「ロケットや宇宙開発への夢を語るだけではなく、目的や成否の判断基準などももっと明確に示すべきだろう」、同感である。
次に、6月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーライターの大貫剛氏による「H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324531
・『20年ぶりにしかも立て続けに2件のロケットの打ち上げに失敗してしまったJAXA(宇宙航空研究開発機構)。実は、その裏でJAXAの宇宙開発と宇宙事業に対する重大な欠陥が明らかになったことは、あまり知られていない。特集『来るぞ370兆円市場 ビッグバン!宇宙ビジネス』(全13回)の#4では、ベテラン宇宙ライターが打ち上げ失敗から見える「日本の宇宙開発体制」の大問題を指摘する』、興味深そうだ。
・『H3ロケットはなぜ失敗したか 「実績のある技術」が原因の可能性 「日本のロケットは定時運行」――。あたかも鉄道や旅客機のような高い信頼性を売り物にしてきたJAXA(宇宙航空研究開発機構)に異常事態が発生している。2023年3月7日、日本の次期大型ロケットとして開発されたH3ロケットが、初号機でいきなり打ち上げに失敗したのだ。 JAXAは03年のH-IIAロケット6号機の打ち上げ失敗の後、43機のH-IIAロケット、9機のH-IIBロケット、5機のイプシロンロケットの打ち上げを成功させており、成功率の高さだけでなく打ち上げ遅延が少ないことも誇ってきた。 ところが22年10月12日、約20年ぶりにイプシロンロケット6号機の打ち上げに失敗、それから半年もたたずに今度はH3ロケット初号機が失敗したのだ。一部の部品を共通使用しているH-IIAロケットも含めて、原因調査と対策のため打ち上げが一時凍結された。結果的に、H-IIAロケットを含むJAXAの全ロケットが飛行停止に追い込まれるという事態になっている。 (図_JAXAの過去のロケット開発史と打ち上げ失敗例 はリンク先参照) 6月末現在、H3ロケット初号機打ち上げ失敗の原因は確定されていない。一度発射したロケット機体は回収できず、完全な原因特定が可能とは限らないのだ。そこでJAXAはまず、失敗の原因になりえる9パターンのシナリオを検討し、全て対策を施すことにした。実はこの9パターンはどれも、H-IIAロケットからH3ロケットへ流用したLE-5Bというエンジンに関するものだ。H-IIAロケットはこれらの対策を施して、今年8月以降に打ち上げを再開することになった。 これまでLE-5BエンジンはH-IIAロケットなど50基以上に使われてきたが、同種のトラブルは一度もない。にもかかわらず、なぜかH3ロケットでは初号機でいきなり失敗した。 なぜH3ロケットは失敗したのか。さらに言えば、実は今回は打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ。所管する省庁の性質という背景も見え隠れする。次ページから解説していこう。 これ以降は有料だが、今月の閲覧本数、残り4本までは無料』、「今回は打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ」、どういうことだろう。
・『安全ゾーンの宇宙部品が原因で予想外の失敗が発生か これまでLE-5BエンジンはH-IIAロケットなどで50基以上が使われてきたが、同種のトラブルは一度もない。にもかかわらず、なぜH3ロケットでは1号機でいきなり失敗したのか、現時点ではわかっていない。JAXAは、H3ロケット固有の部品が引き金となった可能性も検討しており、H3ロケットの打ち上げ再開にはさらに数カ月を要しそうだ。 一方、イプシロンロケット6号機については原因が特定された。飛行中の機体から送られてきたデータと製造時の検査データを照合した結果、推進剤(ロケットを推進させるのに用いる薬剤・燃料)タンクの製造上の欠陥が判明したのだ。この欠陥は過去にも存在したがトラブルには至っておらず、欠陥があること自体が見過ごされた。そして「実績のある信頼できる部品」としてそのままイプシロンロケットに採用されてしまっていた。 イプシロンロケット6号機とH3ロケット初号機の打ち上げ失敗に共通するのは、どちらも従来から使用実績のある部品が注目されていることだ。 日本では50年以上にわたって宇宙ロケットを打ち上げてきており、その中で繰り返し使われて信頼性を確認された技術の蓄積も多い。こういった技術で作られた部品は少数生産品で高価なので、イプシロンロケットやH3ロケットでは、自動車用部品など低価格の民生品を大胆に導入してロケット全体のコストを下げることに主眼が置かれたという経緯がある。その一方で、高価でも引き続き採用された宇宙部品は、信頼性が高く、開発の「安全ゾーン」として扱われてきた。 しかし実際には、十分に信頼性が確認されたはずの「安全ゾーンの宇宙部品」で、予想外の失敗が発生してしまった。新型ロケットでは従来のロケットとは使用環境が異なっている場合があるからだ。H3ロケットの失敗原因は未確定だが、新規採用された部品と既存宇宙部品の組み合わせで、予想外のトラブルが発生した可能性が疑われている。先人が蓄積した技術を利用する際には、これまで大丈夫だったから大丈夫だと考えるのではなく、改めて信頼性を確認しなければならないというのが、今回の2回の打ち上げ失敗の教訓といえるだろう。 宇宙ロケットの打ち上げ失敗は見た目にも分わかりやすいため、今回の打ち上げ失敗でもロケット自体に衆目が集まるのはやむを得ない。 だが、今回のH3ロケットに関しては、打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ』、「十分に信頼性が確認されたはずの「安全ゾーンの宇宙部品」で、予想外の失敗が発生してしまった。新型ロケットでは従来のロケットとは使用環境が異なっている場合があるからだ。H3ロケットの失敗原因は未確定だが、新規採用された部品と既存宇宙部品の組み合わせで、予想外のトラブルが発生した可能性が疑われている。先人が蓄積した技術を利用する際には、これまで大丈夫だったから大丈夫だと考えるのではなく、改めて信頼性を確認しなければならないというのが、今回の2回の打ち上げ失敗の教訓といえるだろう」、「改めて信頼性を確認しなければならない」というのは確かだ。
・『「打ち上げは失敗しない」と当然視しバックアップのない最重要衛星を失う失態 宇宙開発で実際に利益を生み出す活動をするのは人工衛星だ。ロケットは人工衛星を宇宙に設置するための、輸送機械にすぎない。 今回のH3ロケットは「打ち上げは失敗しない」ことが前提とされていた。そのため「だいち3号」(ALOS-3)という失われてはならない重要な衛星が搭載されていたのだ。これは光学センサーで地球の写真を撮影する衛星で、大地の写真を継続的に撮影して、地図情報を更新する。また、大規模災害発生時には被災地を撮影し、被害状況を俯瞰的・網羅的に把握することも期待されている。 「だいち」シリーズは、国が当初策定していたそもそもの計画から場当たり的で、問題だらけだった。 06年に打ち上げられた初代「だいち」は、光学的に写真を撮影するセンサーと、電波で地上を観測するレーダーを1機の衛星に搭載する大型衛星だった。設計上の寿命目標5年を越えても後継機の打ち上げが行われないままで、11年3月の東日本大震災の被災地観測をなんとかこなし、その1カ月後の4月22日に機能停止した。 その後後継の「だいち2号」が打ち上げられた14年までの3年間、JAXAにはこの種の地球観測衛星が存在しなかった。しかも「だいち2号」は「だいち」の観測機能のうち、レーダーしか搭載していない。これは光学センサーとレーダーを1機の大型衛星に載せるより、別の中型衛星とした方がリスクを分散できるという考えからのものだったが、肝心の光学センサー搭載衛星には予算が付かない、という結果に終わった。 今回H3ロケットは「だいち3号」の打ち上げで、12年間の光学地球観測衛星不在の状況を解消する重要なミッションを持っていたのだ。にもかかわらず、打ち上げ失敗で「だいち3号」は失われ、日本の光学地球観測衛星の空白期間はさらに続くことになってしまった』、「今回H3ロケットは「だいち3号」の打ち上げで、12年間の光学地球観測衛星不在の状況を解消する重要なミッションを持っていたのだ。にもかかわらず、打ち上げ失敗で「だいち3号」は失われ、日本の光学地球観測衛星の空白期間はさらに続くことになってしまった」、もったいない限りだ。
・『失われた民間企業からの信頼 JAXAの民間連携事業に黄信号 この衛星をビジネス活用しようとしていた企業も影響を受けることになった。 「だいち3号」の画像をさまざまな用途に活用するため、JAXAは地理情報システム(GIS)大手企業のパスコと契約を結んでいる。パスコは「だいち」「だいち2号」でも画像の利用・販売を担当しており、「だいち3号」でも引き続き担当するはずだった。 「だいち3号」は性能的にも大きく進歩している。パスコはその性能を前提とした新たなGISサービスを開発して、運用開始に備えていたはずだ。またパスコは「だいち3号」の地上管制そのものも委託されており、施設や人員を用意していた。これらの努力が、「だいち3号」の打ち上げ失敗によって日の目を見なくなったのは、同社にとっては大きな痛手に違いない。 失われた「だいち3号」を再打ち上げするのか、別の方法を模索するのかなどの今後の予定は未定だ。しかし、衛星の運用体制にここまで長い空白期間が生まれるのは、国の社会インフラ整備としてはあまりにもお粗末だといえるだろう』、「衛星の運用体制にここまで長い空白期間が生まれるのは、国の社会インフラ整備としてはあまりにもお粗末だ」、その通りだ。
・『バックアップ体制がない運用計画では民間企業の本腰参入は困難だ JAXAは政府の宇宙計画を執行する機関であり、計画を決定して予算を確保するのは所管省庁の役割だ。「だいち」シリーズは文部科学省の事業なので、計画の方向性や予算額にはJAXAではなく文部科学省の意思が反映される。 ちなみに、他省庁が管理する衛星では、ちゃんと計画的な運用をされているものもある。 例えば気象庁の気象衛星「ひまわり」シリーズは現在、「ひまわり8号」「ひまわり9号」が同時に飛行している。「ひまわり」の設計寿命は15年だが、2機を交互に8年間使用して7年間は休ませるという運用で、使用中の衛星が故障した際はもう一方が復帰するというバックアップ体制を整えている。気象庁は天気予報という重要な情報サービスを提供する社会インフラを管掌する官庁で、その運用が途切れないような体制を敷いているのだ。 一方「だいち」シリーズを所管するのは文部科学省だ。研究開発を軸としているからか、サービスの継続性より、研究開発の新規性や独自性などを重視する傾向があるように見える。「だいち」シリーズは世界トップクラスの性能を誇っているが、バックアップがない。そのため今回のような打ち上げ失敗や寿命中の故障といったトラブルが発生すれば、直ちにサービスが途絶えてしまう。このような計画で整備されているものを社会インフラとして信頼することは無理がある。 近年は産官学が一体となって宇宙ビジネスを推し進める雰囲気になっているが、このような状態では企業として本腰を入れて事業参画することは難しいだろう。企業にビジネス利用してもらうことを前提に衛星を整備するのなら、政府は打ち上げ失敗を含むトラブルを想定して、バックアップ体制を組むなど、信頼性や事業継続性を重視した計画を立てる必要がある。 JAXAは民間企業との連携に努力しているが、「だいち」シリーズには継続的なサービスを保証するのに必要な予算措置が講じられていなかった。このようなあしき前例を作ってしまったとなると、たとえ今後JAXAが世界最高レベルの宇宙技術を開発しても、それを日本企業がビジネスに活用したいと思えないだろう。民間活用が間違いなくテーマになる今後の宇宙開発と宇宙ビジネスを考えると、政府の宇宙政策には重い課題が突き付けられているといえる』、「企業にビジネス利用してもらうことを前提に衛星を整備するのなら、政府は打ち上げ失敗を含むトラブルを想定して、バックアップ体制を組むなど、信頼性や事業継続性を重視した計画を立てる必要がある」、同感である。
第三に、5月16日付けAERAdot「直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2023051100102.html?page=1
・『自然科学の分野では、偶然によって新たな事実が発見されることがある。太陽の8倍以上の質量をもつ恒星が爆発するとき、極度にエネルギーが高い「ガンマ線バースト」が発せられる場合があるが、この天文現象はアメリカが打ち上げた軍事衛星によって偶然発見された。宇宙望遠鏡による天文観測は1960年代にはじまったが、その契機ともなったこの軍事衛星について、拙著『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』をもとに紹介したい。 【写真】史上初ブラックホールの候補を特定した、NASAのX線観測衛星「SAS-A ウフル」 アメリカ、イギリス、旧ソ連は、1963年に「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する。米国は1963年から1970年にかけ、AとBの2機からなるヴェラをワンセットにして、計6回、12機のヴェラを打ち上げた。 1967年4月28日に打ち上げられた「ヴェラ4号」がある日、奇妙なデータを補足する。ロスアラモス国立研究所の研究員が調査した結果、それは大気圏内からではなく、宇宙から飛来したガンマ線であることが判明。続いて打ち上げられた5号(1969年5月)と6号(1970年4月)も、同様のガンマ線を複数捕捉し、その発生源の位置を割り出すことに成功した。結果、それは人類にとって未知の天文現象である「ガンマ線バースト」から発せられたものであることが突き止められた。 ガンマ線バーストのイメージ図 (C)NASA, ESA and M. Kornmesser ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている。) 謎のガンマ線が宇宙から降り注いでいることがヴェラによって判明すると、各国は本格的に天文観測衛星を打ち上げはじめた。1970年にNASAが打ち上げた世界初のX線観測衛星「SAS-A ウフル」もその一機だ。ガンマ線バーストやブラックホールなど、高エネルギーな電磁波が放出される天文現象では、ガンマ線のほかにX線などが放出される。それを検知する天文観測衛星である。 ウフルは、「はくちょう座」にある超巨星を重点的に観測した。この星は、ペアとなるもうひとつの恒星との共通の重心を周る「連星(双子星)」である。太陽の30倍もの質量を持つこの超巨星が、他の何者かによって、操られるかのように奇妙な軌道を描くからには、その相手の天体はさらに大きな質量を持っていると予想された。しかし、その星が見つからない。つまり、この超巨星とペアを組む相手は、見えないブラックホールである可能性が高い。 ウフルは、見えない相手(主星)がいると予想される領域を重点的に観測した。その結果、強いX線の放射を発見した。これが史上はじめて特定されたブラックホールの有力候補である。後日この天体は「はくちょう座X-1」と命名された。 (「SAS-A ウフル」が捕捉したX線源による全天マップ はリンク先参照) 1960年代、ヴェラによってガンマ線バーストが偶然発見され、1970年代にはウフルがブラックホールの候補を特定した。人類にとって未知であったそれらの天体を発見してから半世紀が過ぎた2019年には、ブラックホールの間接的撮影にも成功し、2021年からはブラックホールのマップ作製も開始されている。 宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ。しかし、この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない』、「「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する」、そんな監視衛星があることは初めて知った。「ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている」、「宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ」、「この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない」、「宇宙の謎が解き明かされる日」が早く来てほしいものだ。
先ずは、昨年3月15日付けPRESIDENT Onlineが掲載したジャーナリストの知野 恵子氏による「民間企業スペースXは61回成功、日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/67441
・『「開発体制のどこかに問題があるのでは」 3月7日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が共同開発した日本の新しい大型ロケット「H3」初号機の打ち上げが失敗した。昨年10月の小型ロケット「イプシロン」失敗に続いて、半年もたたないうちに起きたロケットの連続失敗。「技術大国日本」の凋落が止まらない。起死回生策はあるのか。 昨年10月のイプシロン、今年3月のH3。どちらも地上から信号を送って機体を破壊した。 宇宙政策に詳しい鈴木一人・東大教授(国際政治経済学)は、「連続して失敗したことで、世界にマイナスの印象を与えた。ロケットの初号機打ち上げ失敗自体は珍しいことではないが、イプシロン失敗を含めて考えると、日本のロケットの開発体制のどこかに問題があるのではないか」と指摘する。 「H3」は、2014年から約2000億円の国費を投じて開発された。日本が新しいロケットを開発するのは30年ぶりで、今後20年にわたって主力ロケットとして使用する予定になっている。 まさに日本の宇宙政策・活動を支える「屋台骨」だ』、「昨年10月のイプシロン、今年3月のH3と、「連続して失敗した」とは深刻な事態だ。
・『安価で売れるロケットを造るのが狙いだが… H3開発の最大の目的として政府が強調してきたのは、ロケット価格を半減させることだ。 現在の主力ロケット「H2A」は約100億円で、世界相場の倍程度と高い。H3はこれを、世界相場の約50億円に半減し、世界の衛星打ち上げ市場で「売れるロケット」を目指した。 そのために開発方法も変えた。 これまでのロケットは、JAXAが設計・開発し、企業に製造を発注。何機か打ち上げて技術的に安定すると、JAXAから企業に技術を移管し、企業が商用打ち上げサービスを行うというやり方だった。 現在の主力ロケット「H2A」でいえば、技術を移管された三菱重工が打ち上げサービスを行っている。 だが、最先端技術を志向するJAXAが開発するロケットは、高価格になりがちだ。衛星を打ち上げたい顧客にとって使いやすいものかどうかもわからない。 そこで、JAXAと三菱重工が最初から一緒に設計・開発を行い、打ち上げビジネスをしやすいロケットを造ることを目指した。 だが、その1回目からつまずいた』、「最先端技術を志向するJAXAが開発するロケットは、高価格になりがちだ」、「JAXAと三菱重工が最初から一緒に設計・開発を行い、打ち上げビジネスをしやすいロケットを造ることを目指した。 だが、その1回目からつまずいた」、お粗末だ。
・『スペースXは61回成功し、日本はゼロ 今回の失敗によって、日本の宇宙開発は苦境に立たされた。 打ち上げ市場への参入はもちろん、情報収集衛星など国の安全保障にかかわる衛星、米国主導の有人月探査「アルテミス計画」で使う物資輸送機、火星の衛星の探査機など、H3による打ち上げ予定は詰まっている。今後、その調整や見直しが必要になる。 JAXAや文部科学省は原因調査を開始したが、原因を突き止め、対策をほどこし、試験でそれを確かめる、など一連の作業にはかなり時間がかかる。 2003年に情報収集衛星2基を搭載した「H2A」6号機の打ち上げが失敗した時には、再開まで1年3カ月を要した。 時間がかかればかかるほど、H3の開発費は膨れ、世界相場並みの50億円達成はどんどん遠のいていく。 今、世界の宇宙開発は拡大期にある。2018年以降、世界のロケット打ち上げ成功数は大きく増加している。 内閣府の調べによると、2022年は過去最大の177回で、直近10年間で年率9.7%と大幅に伸びた。 打ち上げ成功数は米国が最も多く83回。うち75回が民間企業によるもので、その61回はスペースXのロケットだった。 成功数が次に多いのは中国で62回、次はロシアで21回だった。 一方、日本は成功ゼロだった。世界で存在感を発揮できない中で、さらに追い打ちをかけるH3失敗。日本は世界から取り残され、埋没していく恐れがある』、「打ち上げ成功数は米国が最も多く83回。うち75回が民間企業によるもので、その61回はスペースXのロケットだった。 成功数が次に多いのは中国で62回、次はロシアで21回だった。 一方、日本は成功ゼロだった」、「日本は世界から取り残され、埋没していく恐れがある」、まさに危機的状況だ。
・『成功にこだわっていると市場で勝負できない 今、ロケット打ち上げ市場をリードしているのは、米スペースXだ。 2000年代初頭に宇宙ベンチャー企業として頭角を現し、低価格の「価格破壊ロケット」で、商用打ち上げ市場を席巻するようになった。 スペースXは、ロケットが爆発炎上する派手な失敗もよく起こすが、淡々と対策をほどこし、すぐに次の打ち上げを再開する。 国の研究開発法人のJAXAは、先端技術と完璧さを目指し、それを成し遂げてから打ち上げ市場への売り込みを図ろうと考える。一方、スペースXは走りながら完成度を高めていく。 国費で開発する研究開発法人と、米ベンチャー企業との発想の違いだろうが、日本とは対極的だ。 鈴木教授は「日本には打ち上げを失敗してはいけないと考える文化がある。一度失敗すると二度と失敗しない仕組みを作ろうとする。だが、それによってコストが膨張し、納期が遅れ、打ち上げ市場で勝負できなくなる。一方、スペースXは『失敗なしに成功はない』と考え、失敗しても素早く機敏に開発をしていく。打ち上げ市場でこうした企業と戦おうというのなら、日本でも失敗を許す文化が必要だ」 これまで日本は「H2」「H2A」と大型ロケットを開発したが、市場参入に成功とはいいがたい状況だった。 H3でロケットの価格を半減させて打ち上げ市場参入を目指す、と掲げた以上、日本も今までのやり方を見直す必要があるだろう』、「H3でロケットの価格を半減させて打ち上げ市場参入を目指す、と掲げた以上、日本も今までのやり方を見直す必要がある」、その通りだ。
・『「何が何でも3月中に」JAXAの危機感 例えば、JAXAの開発には、役所の文化が根強く残っている。 役所の予算編成に合わせる「年度縛り」もそのひとつだ。 H3の初号機は、2020年度に打ち上げる予定だったが、2度にわたって延期した。 新規開発の高性能エンジン「LE9」の開発にてこずったためだ。 政治家や産業界からは不満や批判が続出していた。これ以上遅らせてはならないという危機感がJAXAや文科省の間で高まっていた。 このため2022年度中、つまり今年3月中に何が何でも打ち上げを成功させねばならない、それを超えると23年度になってしまう、という焦りがあったとみられる。しかも、地元の漁協などとの調整から、打ち上げは「3月10日まで」という締め切りもあった。 JAXAは2月17日にH3を打ち上げようとしたが、直前に技術トラブルが発生し、中止した。原因解明と対策に時間を要したが、「3月10日まで」を死守することを、記者会見で何度も強調した。2023年度になることを避けたいということだろう。 再度設定した打ち上げ日は、年度縛りに収まる3月7日だったものの、失敗に終わった。 このあたりの経緯や、組織の体質や対応、JAXAと三菱重工との協力関係や責任分担などを今後検証する必要があるのではないか。 失敗原因を解明、対策をほどこした後は、前回の「H2A」6号機失敗の時のように長期間止めることなく、なるべく早く、打ち上げを再開する必要もある』、「失敗原因を解明、対策をほどこした後は、前回の「H2A」6号機失敗の時のように長期間止めることなく、なるべく早く、打ち上げを再開する必要もある」、なるほど。
・『SNSでは成功したと勘違いする人が続出 巨費をかけてロケットを開発するのは、他国に依存することなく、自国の衛星を必要な時に打ち上げる手段を保有するためだ。 鈴木教授は「日本では夢とロマンが強調され、何のためにロケットを打ち上げるかについて、ふわっとした議論しかしてこなかった。H3をどういうロケットにすべきかという議論や説明も不足していた。本当の意味で使えるロケット、衛星を運ぶロケットとしての開発をしてこなかったのではないか」と苦言を呈する。 そうした影響か、ロケットに対する見方は揺れが大きい。 2月17日の打ち上げ直前中止をめぐって、JAXAは「止めることができたので失敗ではない」と説明をした。だが、会見に参加した記者が「それは一般に失敗という」と発言。これを引き金に、SNSで「失敗」「失敗ではない」をめぐって、喧々諤々の議論になった。 3月7日の打ち上げでは、晴れた空の下、H3は地上からきれいに打ち上がり、補助ロケットの切り離しも成功した。だが、すぐにロケットの速度はどんどん下がっていった。第2段エンジンが着火しなかったためだ。 JAXAの打ち上げ中継で「指令破壊信号を送信しました」というアナウンスが流れた直後に、SNSを見て驚いた。「H3成功」の話で盛り上がっていたからだ。 地上から機体が離陸したのを見て、成功したと思った人が多かったのだろう。「打ち上げ成功」「おめでとう!」などのツイートがさかんに流れていた』、「「日本では夢とロマンが強調され、何のためにロケットを打ち上げるかについて、ふわっとした議論しかしてこなかった。H3をどういうロケットにすべきかという議論や説明も不足していた。本当の意味で使えるロケット、衛星を運ぶロケットとしての開発をしてこなかったのではないか」、「2月17日の打ち上げ直前中止をめぐって、JAXAは「止めることができたので失敗ではない」と説明をした。だが、会見に参加した記者が「それは一般に失敗という」と発言。これを引き金に、SNSで「失敗」「失敗ではない」をめぐって、喧々諤々の議論になった」、「失敗」は正々堂々と認めるべきだ。そうないと改善点が明確にならない筈だ。
・『「国民の責任」を求めるわりに説明が足りていない ロケットは地上から上がれば仕事が終わるわけではない。さらに30分ほど飛行して、衛星を予定の軌道に届けたことを確認できて初めて、技術者もようやく「成功」を宣言する。 ロケットがどの段階まで進めば、「成功」なのか、「失敗」とはどういうことを指すのか。こうした点についての知識や説明がもっと必要だと感じる。 2003年の「H2A」の失敗の後、文科省の有識者会議では、「国民にロケットの抱えるリスクを理解してもらわないといけない」という議論がさかんに行われた。「国民への責任」よりも、「国民の責任」を求める論理に違和感を覚えたが、有識者会議の報告書は「国民側も理解や関心を深めることが必要」と注文をつけた。 その具体策について、当時文科省は「今後、検討する」と述べるにとどめていた。 それから20年たった今もなお、そのための知識提供や広報活動が不足している。 ロケットの打ち上がる姿は勇壮で魅力的だが、そのためだけに巨費を投じて開発するわけではない。打ち上げ花火ではないのだ。ロケットや宇宙開発への夢を語るだけではなく、目的や成否の判断基準などももっと明確に示すべきだろう。 今回の失敗の教訓のひとつだと思う』、「ロケットや宇宙開発への夢を語るだけではなく、目的や成否の判断基準などももっと明確に示すべきだろう」、同感である。
次に、6月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーライターの大貫剛氏による「H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324531
・『20年ぶりにしかも立て続けに2件のロケットの打ち上げに失敗してしまったJAXA(宇宙航空研究開発機構)。実は、その裏でJAXAの宇宙開発と宇宙事業に対する重大な欠陥が明らかになったことは、あまり知られていない。特集『来るぞ370兆円市場 ビッグバン!宇宙ビジネス』(全13回)の#4では、ベテラン宇宙ライターが打ち上げ失敗から見える「日本の宇宙開発体制」の大問題を指摘する』、興味深そうだ。
・『H3ロケットはなぜ失敗したか 「実績のある技術」が原因の可能性 「日本のロケットは定時運行」――。あたかも鉄道や旅客機のような高い信頼性を売り物にしてきたJAXA(宇宙航空研究開発機構)に異常事態が発生している。2023年3月7日、日本の次期大型ロケットとして開発されたH3ロケットが、初号機でいきなり打ち上げに失敗したのだ。 JAXAは03年のH-IIAロケット6号機の打ち上げ失敗の後、43機のH-IIAロケット、9機のH-IIBロケット、5機のイプシロンロケットの打ち上げを成功させており、成功率の高さだけでなく打ち上げ遅延が少ないことも誇ってきた。 ところが22年10月12日、約20年ぶりにイプシロンロケット6号機の打ち上げに失敗、それから半年もたたずに今度はH3ロケット初号機が失敗したのだ。一部の部品を共通使用しているH-IIAロケットも含めて、原因調査と対策のため打ち上げが一時凍結された。結果的に、H-IIAロケットを含むJAXAの全ロケットが飛行停止に追い込まれるという事態になっている。 (図_JAXAの過去のロケット開発史と打ち上げ失敗例 はリンク先参照) 6月末現在、H3ロケット初号機打ち上げ失敗の原因は確定されていない。一度発射したロケット機体は回収できず、完全な原因特定が可能とは限らないのだ。そこでJAXAはまず、失敗の原因になりえる9パターンのシナリオを検討し、全て対策を施すことにした。実はこの9パターンはどれも、H-IIAロケットからH3ロケットへ流用したLE-5Bというエンジンに関するものだ。H-IIAロケットはこれらの対策を施して、今年8月以降に打ち上げを再開することになった。 これまでLE-5BエンジンはH-IIAロケットなど50基以上に使われてきたが、同種のトラブルは一度もない。にもかかわらず、なぜかH3ロケットでは初号機でいきなり失敗した。 なぜH3ロケットは失敗したのか。さらに言えば、実は今回は打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ。所管する省庁の性質という背景も見え隠れする。次ページから解説していこう。 これ以降は有料だが、今月の閲覧本数、残り4本までは無料』、「今回は打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ」、どういうことだろう。
・『安全ゾーンの宇宙部品が原因で予想外の失敗が発生か これまでLE-5BエンジンはH-IIAロケットなどで50基以上が使われてきたが、同種のトラブルは一度もない。にもかかわらず、なぜH3ロケットでは1号機でいきなり失敗したのか、現時点ではわかっていない。JAXAは、H3ロケット固有の部品が引き金となった可能性も検討しており、H3ロケットの打ち上げ再開にはさらに数カ月を要しそうだ。 一方、イプシロンロケット6号機については原因が特定された。飛行中の機体から送られてきたデータと製造時の検査データを照合した結果、推進剤(ロケットを推進させるのに用いる薬剤・燃料)タンクの製造上の欠陥が判明したのだ。この欠陥は過去にも存在したがトラブルには至っておらず、欠陥があること自体が見過ごされた。そして「実績のある信頼できる部品」としてそのままイプシロンロケットに採用されてしまっていた。 イプシロンロケット6号機とH3ロケット初号機の打ち上げ失敗に共通するのは、どちらも従来から使用実績のある部品が注目されていることだ。 日本では50年以上にわたって宇宙ロケットを打ち上げてきており、その中で繰り返し使われて信頼性を確認された技術の蓄積も多い。こういった技術で作られた部品は少数生産品で高価なので、イプシロンロケットやH3ロケットでは、自動車用部品など低価格の民生品を大胆に導入してロケット全体のコストを下げることに主眼が置かれたという経緯がある。その一方で、高価でも引き続き採用された宇宙部品は、信頼性が高く、開発の「安全ゾーン」として扱われてきた。 しかし実際には、十分に信頼性が確認されたはずの「安全ゾーンの宇宙部品」で、予想外の失敗が発生してしまった。新型ロケットでは従来のロケットとは使用環境が異なっている場合があるからだ。H3ロケットの失敗原因は未確定だが、新規採用された部品と既存宇宙部品の組み合わせで、予想外のトラブルが発生した可能性が疑われている。先人が蓄積した技術を利用する際には、これまで大丈夫だったから大丈夫だと考えるのではなく、改めて信頼性を確認しなければならないというのが、今回の2回の打ち上げ失敗の教訓といえるだろう。 宇宙ロケットの打ち上げ失敗は見た目にも分わかりやすいため、今回の打ち上げ失敗でもロケット自体に衆目が集まるのはやむを得ない。 だが、今回のH3ロケットに関しては、打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ』、「十分に信頼性が確認されたはずの「安全ゾーンの宇宙部品」で、予想外の失敗が発生してしまった。新型ロケットでは従来のロケットとは使用環境が異なっている場合があるからだ。H3ロケットの失敗原因は未確定だが、新規採用された部品と既存宇宙部品の組み合わせで、予想外のトラブルが発生した可能性が疑われている。先人が蓄積した技術を利用する際には、これまで大丈夫だったから大丈夫だと考えるのではなく、改めて信頼性を確認しなければならないというのが、今回の2回の打ち上げ失敗の教訓といえるだろう」、「改めて信頼性を確認しなければならない」というのは確かだ。
・『「打ち上げは失敗しない」と当然視しバックアップのない最重要衛星を失う失態 宇宙開発で実際に利益を生み出す活動をするのは人工衛星だ。ロケットは人工衛星を宇宙に設置するための、輸送機械にすぎない。 今回のH3ロケットは「打ち上げは失敗しない」ことが前提とされていた。そのため「だいち3号」(ALOS-3)という失われてはならない重要な衛星が搭載されていたのだ。これは光学センサーで地球の写真を撮影する衛星で、大地の写真を継続的に撮影して、地図情報を更新する。また、大規模災害発生時には被災地を撮影し、被害状況を俯瞰的・網羅的に把握することも期待されている。 「だいち」シリーズは、国が当初策定していたそもそもの計画から場当たり的で、問題だらけだった。 06年に打ち上げられた初代「だいち」は、光学的に写真を撮影するセンサーと、電波で地上を観測するレーダーを1機の衛星に搭載する大型衛星だった。設計上の寿命目標5年を越えても後継機の打ち上げが行われないままで、11年3月の東日本大震災の被災地観測をなんとかこなし、その1カ月後の4月22日に機能停止した。 その後後継の「だいち2号」が打ち上げられた14年までの3年間、JAXAにはこの種の地球観測衛星が存在しなかった。しかも「だいち2号」は「だいち」の観測機能のうち、レーダーしか搭載していない。これは光学センサーとレーダーを1機の大型衛星に載せるより、別の中型衛星とした方がリスクを分散できるという考えからのものだったが、肝心の光学センサー搭載衛星には予算が付かない、という結果に終わった。 今回H3ロケットは「だいち3号」の打ち上げで、12年間の光学地球観測衛星不在の状況を解消する重要なミッションを持っていたのだ。にもかかわらず、打ち上げ失敗で「だいち3号」は失われ、日本の光学地球観測衛星の空白期間はさらに続くことになってしまった』、「今回H3ロケットは「だいち3号」の打ち上げで、12年間の光学地球観測衛星不在の状況を解消する重要なミッションを持っていたのだ。にもかかわらず、打ち上げ失敗で「だいち3号」は失われ、日本の光学地球観測衛星の空白期間はさらに続くことになってしまった」、もったいない限りだ。
・『失われた民間企業からの信頼 JAXAの民間連携事業に黄信号 この衛星をビジネス活用しようとしていた企業も影響を受けることになった。 「だいち3号」の画像をさまざまな用途に活用するため、JAXAは地理情報システム(GIS)大手企業のパスコと契約を結んでいる。パスコは「だいち」「だいち2号」でも画像の利用・販売を担当しており、「だいち3号」でも引き続き担当するはずだった。 「だいち3号」は性能的にも大きく進歩している。パスコはその性能を前提とした新たなGISサービスを開発して、運用開始に備えていたはずだ。またパスコは「だいち3号」の地上管制そのものも委託されており、施設や人員を用意していた。これらの努力が、「だいち3号」の打ち上げ失敗によって日の目を見なくなったのは、同社にとっては大きな痛手に違いない。 失われた「だいち3号」を再打ち上げするのか、別の方法を模索するのかなどの今後の予定は未定だ。しかし、衛星の運用体制にここまで長い空白期間が生まれるのは、国の社会インフラ整備としてはあまりにもお粗末だといえるだろう』、「衛星の運用体制にここまで長い空白期間が生まれるのは、国の社会インフラ整備としてはあまりにもお粗末だ」、その通りだ。
・『バックアップ体制がない運用計画では民間企業の本腰参入は困難だ JAXAは政府の宇宙計画を執行する機関であり、計画を決定して予算を確保するのは所管省庁の役割だ。「だいち」シリーズは文部科学省の事業なので、計画の方向性や予算額にはJAXAではなく文部科学省の意思が反映される。 ちなみに、他省庁が管理する衛星では、ちゃんと計画的な運用をされているものもある。 例えば気象庁の気象衛星「ひまわり」シリーズは現在、「ひまわり8号」「ひまわり9号」が同時に飛行している。「ひまわり」の設計寿命は15年だが、2機を交互に8年間使用して7年間は休ませるという運用で、使用中の衛星が故障した際はもう一方が復帰するというバックアップ体制を整えている。気象庁は天気予報という重要な情報サービスを提供する社会インフラを管掌する官庁で、その運用が途切れないような体制を敷いているのだ。 一方「だいち」シリーズを所管するのは文部科学省だ。研究開発を軸としているからか、サービスの継続性より、研究開発の新規性や独自性などを重視する傾向があるように見える。「だいち」シリーズは世界トップクラスの性能を誇っているが、バックアップがない。そのため今回のような打ち上げ失敗や寿命中の故障といったトラブルが発生すれば、直ちにサービスが途絶えてしまう。このような計画で整備されているものを社会インフラとして信頼することは無理がある。 近年は産官学が一体となって宇宙ビジネスを推し進める雰囲気になっているが、このような状態では企業として本腰を入れて事業参画することは難しいだろう。企業にビジネス利用してもらうことを前提に衛星を整備するのなら、政府は打ち上げ失敗を含むトラブルを想定して、バックアップ体制を組むなど、信頼性や事業継続性を重視した計画を立てる必要がある。 JAXAは民間企業との連携に努力しているが、「だいち」シリーズには継続的なサービスを保証するのに必要な予算措置が講じられていなかった。このようなあしき前例を作ってしまったとなると、たとえ今後JAXAが世界最高レベルの宇宙技術を開発しても、それを日本企業がビジネスに活用したいと思えないだろう。民間活用が間違いなくテーマになる今後の宇宙開発と宇宙ビジネスを考えると、政府の宇宙政策には重い課題が突き付けられているといえる』、「企業にビジネス利用してもらうことを前提に衛星を整備するのなら、政府は打ち上げ失敗を含むトラブルを想定して、バックアップ体制を組むなど、信頼性や事業継続性を重視した計画を立てる必要がある」、同感である。
第三に、5月16日付けAERAdot「直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2023051100102.html?page=1
・『自然科学の分野では、偶然によって新たな事実が発見されることがある。太陽の8倍以上の質量をもつ恒星が爆発するとき、極度にエネルギーが高い「ガンマ線バースト」が発せられる場合があるが、この天文現象はアメリカが打ち上げた軍事衛星によって偶然発見された。宇宙望遠鏡による天文観測は1960年代にはじまったが、その契機ともなったこの軍事衛星について、拙著『宇宙望遠鏡と驚異の大宇宙』をもとに紹介したい。 【写真】史上初ブラックホールの候補を特定した、NASAのX線観測衛星「SAS-A ウフル」 アメリカ、イギリス、旧ソ連は、1963年に「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する。米国は1963年から1970年にかけ、AとBの2機からなるヴェラをワンセットにして、計6回、12機のヴェラを打ち上げた。 1967年4月28日に打ち上げられた「ヴェラ4号」がある日、奇妙なデータを補足する。ロスアラモス国立研究所の研究員が調査した結果、それは大気圏内からではなく、宇宙から飛来したガンマ線であることが判明。続いて打ち上げられた5号(1969年5月)と6号(1970年4月)も、同様のガンマ線を複数捕捉し、その発生源の位置を割り出すことに成功した。結果、それは人類にとって未知の天文現象である「ガンマ線バースト」から発せられたものであることが突き止められた。 ガンマ線バーストのイメージ図 (C)NASA, ESA and M. Kornmesser ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている。) 謎のガンマ線が宇宙から降り注いでいることがヴェラによって判明すると、各国は本格的に天文観測衛星を打ち上げはじめた。1970年にNASAが打ち上げた世界初のX線観測衛星「SAS-A ウフル」もその一機だ。ガンマ線バーストやブラックホールなど、高エネルギーな電磁波が放出される天文現象では、ガンマ線のほかにX線などが放出される。それを検知する天文観測衛星である。 ウフルは、「はくちょう座」にある超巨星を重点的に観測した。この星は、ペアとなるもうひとつの恒星との共通の重心を周る「連星(双子星)」である。太陽の30倍もの質量を持つこの超巨星が、他の何者かによって、操られるかのように奇妙な軌道を描くからには、その相手の天体はさらに大きな質量を持っていると予想された。しかし、その星が見つからない。つまり、この超巨星とペアを組む相手は、見えないブラックホールである可能性が高い。 ウフルは、見えない相手(主星)がいると予想される領域を重点的に観測した。その結果、強いX線の放射を発見した。これが史上はじめて特定されたブラックホールの有力候補である。後日この天体は「はくちょう座X-1」と命名された。 (「SAS-A ウフル」が捕捉したX線源による全天マップ はリンク先参照) 1960年代、ヴェラによってガンマ線バーストが偶然発見され、1970年代にはウフルがブラックホールの候補を特定した。人類にとって未知であったそれらの天体を発見してから半世紀が過ぎた2019年には、ブラックホールの間接的撮影にも成功し、2021年からはブラックホールのマップ作製も開始されている。 宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ。しかし、この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない』、「「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する」、そんな監視衛星があることは初めて知った。「ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている」、「宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ」、「この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない」、「宇宙の謎が解き明かされる日」が早く来てほしいものだ。
タグ:宇宙ビジネス (その3)(民間企業スペースXは61回成功 日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出、H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」、直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?) PRESIDENT ONLINE 知野 恵子氏による「民間企業スペースXは61回成功、日本は成功ゼロ…日本のロケット開発が高価で失敗続きである根本原因 SNSでは成功したと勘違いする人が続出」 「昨年10月のイプシロン、今年3月のH3と、「連続して失敗した」とは深刻な事態だ。 「最先端技術を志向するJAXAが開発するロケットは、高価格になりがちだ」、「JAXAと三菱重工が最初から一緒に設計・開発を行い、打ち上げビジネスをしやすいロケットを造ることを目指した。 だが、その1回目からつまずいた」、お粗末だ。 「打ち上げ成功数は米国が最も多く83回。うち75回が民間企業によるもので、その61回はスペースXのロケットだった。 成功数が次に多いのは中国で62回、次はロシアで21回だった。 一方、日本は成功ゼロだった」、「日本は世界から取り残され、埋没していく恐れがある」、まさに危機的状況だ。 「H3でロケットの価格を半減させて打ち上げ市場参入を目指す、と掲げた以上、日本も今までのやり方を見直す必要がある」、その通りだ。 「失敗原因を解明、対策をほどこした後は、前回の「H2A」6号機失敗の時のように長期間止めることなく、なるべく早く、打ち上げを再開する必要もある」、なるほど。 「「日本では夢とロマンが強調され、何のためにロケットを打ち上げるかについて、ふわっとした議論しかしてこなかった。H3をどういうロケットにすべきかという議論や説明も不足していた。本当の意味で使えるロケット、衛星を運ぶロケットとしての開発をしてこなかったのではないか」、 「2月17日の打ち上げ直前中止をめぐって、JAXAは「止めることができたので失敗ではない」と説明をした。だが、会見に参加した記者が「それは一般に失敗という」と発言。これを引き金に、SNSで「失敗」「失敗ではない」をめぐって、喧々諤々の議論になった」、「失敗」は正々堂々と認めるべきだ。そうないと改善点が明確にならない筈だ。 「ロケットや宇宙開発への夢を語るだけではなく、目的や成否の判断基準などももっと明確に示すべきだろう」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 大貫剛氏による「H3打ち上げ失敗の影に隠れた、日本の宇宙開発体制の知られざる「重大欠陥」」 「今回は打ち上げ失敗そのものよりも、より目を向けるべき危機的な状況がある。それは政府とJAXAの宇宙利用計画と人工衛星の打ち上げ計画についての根本的な問題点だ」、どういうことだろう。 「十分に信頼性が確認されたはずの「安全ゾーンの宇宙部品」で、予想外の失敗が発生してしまった。新型ロケットでは従来のロケットとは使用環境が異なっている場合があるからだ。H3ロケットの失敗原因は未確定だが、新規採用された部品と既存宇宙部品の組み合わせで、予想外のトラブルが発生した可能性が疑われている。先人が蓄積した技術を利用する際には、これまで大丈夫だったから大丈夫だと考えるのではなく、改めて信頼性を確認しなければならないというのが、今回の2回の打ち上げ失敗の教訓といえるだろう」、「改めて信頼性を確認しなけれ ればならない」というのは確かだ。 「今回H3ロケットは「だいち3号」の打ち上げで、12年間の光学地球観測衛星不在の状況を解消する重要なミッションを持っていたのだ。にもかかわらず、打ち上げ失敗で「だいち3号」は失われ、日本の光学地球観測衛星の空白期間はさらに続くことになってしまった」、もったいない限りだ。 「衛星の運用体制にここまで長い空白期間が生まれるのは、国の社会インフラ整備としてはあまりにもお粗末だ」、その通りだ。 「企業にビジネス利用してもらうことを前提に衛星を整備するのなら、政府は打ち上げ失敗を含むトラブルを想定して、バックアップ体制を組むなど、信頼性や事業継続性を重視した計画を立てる必要がある」、同感である。 AERAdot「直撃を受けたら地球は消滅! アメリカの軍事衛星が発見した「宇宙イチ高エネルギー」な天文現象とは?」 「「部分的核実験禁止条約」を締結した。これにもとづいて米国防総省は、各国が同条約を順守し、核実験を実施していないかを監視するため、「ヴェラ」と呼ばれる軍事衛星を打ち上げた。 ヴェラは、地球上のどこかで核爆発が起こると、そこから放射されるX線やガンマ線、中性子線などを軌道上で感知する」、そんな監視衛星があることは初めて知った。 「ガンマ線バーストとは、恒星が爆発(超新星爆発)した際に、閃光(せんこう)のように放出される電磁波のこと。エネルギー量が極度に高く、その出力は太陽が100億年間に放出するエネルギーに匹敵するともいわれる。もしそのビームのような電磁波の直撃を受ければ、地球サイズの天体は瞬時に蒸発してしまうだろう。爆発した恒星の質量が太陽の8倍以上であれば中性子星になり、25倍以上の場合には、そこにブラックホールが誕生すると考えられている」、 「宇宙望遠鏡による天文観測が進化した結果、いまでは宇宙に存在する全エネルギー量を計算することにも成功している。その23%をダークマター、73%をダークエネルギーが占めることも判明しているが、その両者の正体はいまだ謎のままだ」、「この半世紀で人類が明らかにした真実と、天文観測技術の劇的な進化を思えば、こうした宇宙の謎が解き明かされる日は、さほど遠くないに違いない」、「宇宙の謎が解き明かされる日」が早く来てほしいものだ。
医薬品(製薬業)(その5)(「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由、小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間、小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?、東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ) [科学技術]
医薬品(製薬業)については、昨年3月3日に取上げた。1年ぶりの今日は、(その5)(「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由、小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間、小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?、東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ)である。
先ずは、本年1月1日付けダイヤモンド・オンライン「「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/258013
・『性交渉後、72時間以内に服用することにより、高い確率で妊娠を防ぐことができる緊急避妊薬。日本では医師による診察を経た上でないと入手することはできないが、目下、薬局での販売を可能にする制度改正が進められている。薬へのアクセスが容易になることによって意図しない妊娠が減ると期待される一方、性の乱れや薬の悪用を心配する声も根強い。現役の産婦人科医であり性教育の事情にも詳しい重見大介氏に、緊急避妊薬市販化の問題を考える上で大事なポイントを聞いた』、興味深そうだ。
・『市販化の実現で低価格化の可能性も 少子化の進行に拍車がかかる中、人工妊娠中絶の件数はここ10年でほぼ横ばい状態を見せている。中でも未成年が占める割合は小さくなく、人工妊娠中絶を受ける未成年者の数は平均で1日約40人と看過できない数字だ。 意図しない妊娠と人工妊娠中絶の数は必ずしもイコールではないが、緊急避妊薬が市販化され、身近なものになれば「意図しない妊娠によって体への負担、心への深い傷、経済的負担を負う女性が少なくなる」と語るのは、産婦人科医の重見氏だ。 「緊急避妊薬は72時間以内に服用する必要がありますが、服用する時間が早ければ早いほど避妊の成功率は高くなります。したがって、薬へのアクセスが改善されることによって、実効性は確実に上がると考えられます」 緊急避妊薬が市販化されることによってもたらされるメリットは、それだけにとどまらない。 「緊急避妊薬が市販化されている諸外国では1000~2500円程度で買えるところが多く、中には未成年に無料で提供している国もあります。しかし日本では、緊急避妊薬の値段は各病院が任意で定めており、1回の服用で大体1万5千円から8000円と高価です。現在、緊急避妊薬は保険診療の対象外であり全額自己負担となっていますが、薬局での販売が実現すれば、価格が大幅に下がることも期待できるかもしれません」』、「緊急避妊薬が市販化されている諸外国では1000~2500円程度で買えるところが多く」、「無料」にまでする必要はなくても、この程度なら妥当だろう。
・『反対派が懸念する市販化による性の乱れ 緊急避妊薬は現在世界の90カ国以上で市販化されており、日本でもしばしば厚生労働省によって検討され、直近では2017年に議題に上るも否決された過去がある。一体どんな要因によって、日本における緊急避妊薬の市販化は妨げられてきたのだろうか。重見氏はこう語る。 「決定を下す役割を担う専門家の方々の判断を鈍らせている理由として、市販化されることによって薬が悪用されるリスクと、女性が性に対して奔放になってしまうといったことへの懸念が挙げられています。2017年の検討会では産婦人科の学会である『日本産婦人科医会』もそのような意見に賛同し、『別の避妊方法に頼るべきだ』という理由で市販化に賛成する意見を退けています」 「モラルの乱れを誘発するのではないか」という懸念によって実現が阻まれてきた、緊急避妊薬の市販化。しかし、その懸念は妥当なものなのだろうか。 2017年に複数回にわたって行われた検討会のメンバーは一部を除いてほとんどが男性であり、女性の意見がほとんど反映されていない。また年齢層も高く、40代~60代が大多数だ。上記の懸念は男性による“妄想”とまでは言わないが、仮に検討会のメンバーの男女比を逆転させた上で同じ議論を行ったとしたら、違う結論になっていた可能性は否定できないだろう。) 「緊急避妊薬の避妊成功率は100%ではありません。たとえわずかであっても妊娠してしまう可能性がある限り、緊急避妊薬を服用したとしても、多くの女性は妊娠のリスクを考えるはずです。『緊急避妊薬があるから何をしても平気』だと思う女性はほとんどいないのではないでしょうか。緊急避妊薬の市販化を巡る問題には、議論を進める男性側が懸念するイメージと、使用者である女性側の気持ちとの間に齟齬(そご)があるようでなりません」』、「検討会のメンバーは一部を除いてほとんどが男性」、「年齢層も高く、40代~60代が大多数だ」、これでは公正な判断は期待できない。『日本産婦人科医会』が「『別の避妊方法に頼るべきだ』という理由で市販化に賛成する意見を退けています」、というのも、解せない。
・『実現の鍵となる薬剤師の役割 薬の乱用や避妊しない性行為の増加といった“風紀の乱れ”が懸念され、かき消されてきた緊急避妊薬の市販化を求める声。これまでは局所的な議論にとどまってきたが、SNSの普及も手伝い、若い女性や、現場の医師の意見が可視化されることによって、これまでにない広がりを見せている。 緊急避妊薬の市販化が実現している海外諸国において、モラルの崩壊が起きたといった事例は報告されておらず、日本においても「市販化を妨げる科学的根拠はない」と語る重見氏に、今後の議論の進展を見守る上で注目すべきポイントを伺った。 「これまでの経緯を踏まえれば、市販化が実現した際には『第1類医薬品』に分類される可能性が高いと考えられます。そうなった場合、薬はカウンターの後ろの棚や鍵付きのショーケース内に置かれ、薬剤師の説明を聞いた上でないと購入することはできません。また悪用や他者への譲渡を防ぐため、薬剤師の立ち会いの下で服用することを購入の条件に加える、といった議論も出ており、緊急避妊薬の市販化と聞いて多くの人が思い浮かべる“開放的なイメージ”とはまた違った形に落ち着く可能性があります。いずれにせよ、現在は医師が果たしている役割を担うことになる薬剤師の存在と、研修や情報連携などの仕組み作りが、今後の議論において鍵になっていくはずです」 賛成派と反対派の意見が紛糾している緊急避妊薬の市販化を巡る議論。どのような形で決着がつくのか、今後も要注目だ』、「緊急避妊薬の市販化が実現している海外諸国において、モラルの崩壊が起きたといった事例は報告されておらず、日本においても「市販化を妨げる科学的根拠はない」」、「現在は医師が果たしている役割を」「薬剤師」に担わせる方向で、対応すべきだろう。
次に、2月10日付け日刊ゲンダイが掲載したジャーナリストの有森隆氏による「小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/285022
・『爪水虫などの皮膚病用の飲み薬に睡眠導入剤の成分が混入した問題で、福井県が9日、薬を製造したジェネリック医薬品(後発薬)メーカーである小林化工(福井県あわら市、小林広幸社長、非上場)に対し116日間の業務停止処分を出した。116日間は医薬品メーカーへの行政処分で過去最長だ。 この問題の発端を、地元紙・福井新聞は「検証小林化工、異変伝える1本の電話」(2020年12月17日付オンライン)と報じた。 〈「そちらで処方された薬をのんでいた人が、意識消失で救急搬送されました」――。11月27日、岐阜県高山市の久保賢介医師(63)の元に、救急病院から連絡があった。59歳の男性が車を運転中に意識を失い、溝に脱輪したという。“異変”の始まりだった〉 〈久保医師は、内科とアトピーの治療を専門とする有床診療所の院長。59歳男性の救急搬送以後、入院患者4人についても普段と様子が違っていることに気が付いた。朝食を食べたら夜まで寝ていたり、起こすと記憶を一部失っていたりすることがあった。 他の外来患者に関しても、12月2日の朝には30代女性が意識もうろうとした状態になり寝てしまった。32歳の男性は配送の仕事中にトンネル内で意識がなくなり、センターラインのポールに衝突した。本人は当時の記憶がなく、事故後も、もうろうとしたまま仕事を続けたという。 意識障害があった患者7人には共通点があった。久保医師は「全てイトラコナゾールが原因だと確信した」と振り返る。 同診療所では、アトピー性皮膚炎に多いマラセチア毛包炎の治療に経口抗真菌剤イトラコナゾール錠を用いていた。製造したのは、ジェネリック医薬品の中堅メーカー、小林化工である。 久保医師の訴えが、多数の健康被害が発覚する端緒になった。 12月10日、小林化工が製造し、睡眠導入剤の成分が混入した皮膚病用の飲み薬を服用した70代の女性が、首都圏の病院に入院中に死亡したほか、80代の男性も亡くなっている』、「116日間の業務停止処分」、とはよほど酷かったのだろう。
・『小林化工は11日に死亡を発表。翌12日に小林広幸社長は報道陣の取材に応じ、「重大な過失を犯し、責任を痛感している。会社全体で償っていきたい」と謝罪した。 この問題では、福井県や厚生労働省が12月21日、22日の2日間にわたり、小林化工に立ち入り調査を実施し、省令や社内規定違反が相次いで明らかになった。 睡眠導入剤成分が混入したのは皮膚病用治療薬「イトラコナゾール錠50『MEEK』」。国が承認した手順書では、薬の主成分を全て1回で入れることになっているが、「裏手順書」が存在し、2度に分けて入れると記載されていた。錠剤を固まりやすくするための便法とみられており、製造現場では十数年前から「裏手順書」が採用されていた。 問題の薬では、従業員が主成分を2度目に入れようとして、睡眠導入剤と取り違えていた。主成分と睡眠導入剤は同じ棚の上下に並べて置かれていた。2人1組で相互にチェックしながら薬の調合にあたるとする社内規定に反し、1人が作業場から離れた時間帯があったことや、離れた1人が作業の確認済みのサインをしたこともわかった。 「イトラコナゾール錠50」は20年夏に製造され、約9万錠が出荷された。服用した患者は全国31都道府県に344人。6割超の214人が意識消失、記憶喪失、ふらつきなどの健康被害を訴えた。このうち2人が死亡し、運転中に意識を失うなどして22人が交通事故を起こしている。小林化工は1月27日、18年3月以降に出荷した22製品についても、新たに自主回収をすると発表した』、「製造現場では十数年前から「裏手順書」が採用」、「主成分と睡眠導入剤は同じ棚の上下に並べて置かれていた。2人1組で相互にチェックしながら薬の調合にあたるとする社内規定に反し、1人が作業場から離れた時間帯があったことや、離れた1人が作業の確認済みのサインをした」、安全性が最重視されるべき製薬企業にあるまじきズサンさだ。
・『実はオリックスの連結子会社 小林化工は1961年に設立された経口剤や注射剤などのジェネリック医薬品のメーカー。 誤飲を防ぐ視認性の高い製剤など付加価値の高い医薬品を扱っているほか、成長が見込める抗がん剤の開発もやっている。 20年3月期の売上高は370億円、従業員は796人。270品目を販売しており、後発医薬品業界では日医工(東証1部)、沢井製薬(同、4月からサワイグループホールディングス)、東和薬品(同)の“ご三家”に続く第2グループに位置する。 実は、小林化工は総合リース大手オリックスの連結子会社である。20年1月に子会社になったばかりだった。=つづく』、「オリックスの連結子会社」になってなければ、破綻していたところだが、「オリックス」もとんだババを掴んだものだ。
第三に、この続きを、2月11日付け日刊ゲンダイ「小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/285091
・『小林化工(福井県あわら市)の株式の過半数を保有し、資本・業務提携しているオリックスは1月20日、福井新聞の取材に「出資者として誠に遺憾。小林化工が社会的な責任を少しでも早く全うすることができるように、最大限のサポートを行っている」とコメントした。 オリックスは20年1月14日、小林化工を子会社にすると発表した。発行済み株式の過半数を取得するが、出資比率や株式取得に要した金額は非公開。現経営体制を維持し、代表取締役の変更はないが、社外取締役2人と監査役にオリックスの社員が就任した。 オリックスは経営戦略を立案し、財務基盤の強化を図る。 オリックスが医療用医薬品事業に手を染めるのは初めてだ。 「医療法人向けのリースやファイナンス、医療機器関連のレンタルサービスの提供だけでなく、これまで原薬商社、医療機器販売会社、動物薬メーカーに出資するなどヘルスケア業界に注目して幅広い事業を展開しています」) オリックスのプレスリリースにこう書いてある。 小林化工は「オリックスの国内外のネットワークの事業基盤と連携し、さらなる品質向上、安定向上を目指す」とした。海外進出を視野に入れていることはいうまでもない』、今回の不祥事が明らかになる前の「プレスリリース」、など殆ど意味がない。
・『出発は「富山の薬売り」 小林広幸代表取締役社長は創業家の3代目である。創業者は小林政国。配置薬を売る「富山の薬売り」で、戦後の1946年に配置薬を製造する小林製薬所を創業した。61年、小林化工を設立、医療用医薬品に進出した。 小林広幸は薬剤師だ。金沢大学の研究室を経て、住友製薬(現・大日本住友製薬)に就職。家業を継ぐべく94年、小林化工に入社。当時の年商は12億円程度と零細企業だった。2007年、父・小林喜一の後を継いで代表取締役社長の椅子に座った。) 後発医薬品業界に追い風が吹いた。医療費抑制の一環として政府は02年から後発薬の普及目標を段階的に引き上げていった。医療現場では先発薬から後発薬への置き換えが進んだ。02年から現在までに後発薬の販売数量は2倍に拡大した。 後発薬使用促進策の流れに乗り、小林化工は急成長を遂げる。02年当時の年商30億円が、20年3月期には370億円と12・3倍になった。利益は工場の増産投資に充当。それが、また増収につながる好循環に入った。 政府は後発薬の使用割合を20年までに数量ベースで80%に引き上げる目標を設定。20年9月時点で後発薬の数量シェアは79・3%とほぼ目標を達した。 後発薬市場は成熟期を迎え、成長に陰りが見え始めた。 国内が頭打ちになれば外に目が向く。日医工、沢井製薬、東和薬品の国内専業大手は欧米の後発薬企業を買収し、欧州や米国市場に進出した。準大手で非上場の小林化工が選択したのがオリックスを戦略パートナーにすることだった。オリックスの力を借りて海外に出ていく。) 小林広幸社長は、一般財団法人日本医薬情報センターの会員向け機関誌「JAPIC NEWS」(20年11月号)で、オリックスの傘下に入った理由を、こう語っている。 「一時は上場も検討しましたが、オリックスがパートナーであれば、強固な信頼関係のもとでサポートを受けつつ、さまざまな課題を解決していけると考え、資本・業務提携しました。(中略)同業他社から声がかかりましたが、今後の当社の発展には、オリックスの信用力やネットワークが必要だと判断しました」 「多すぎる」(厚生労働省幹部)と言われる後発医薬品会社の再編は必至である。小林化工は業種の枠を超えたM&Aの道を選んだ。 しかし、新・小林化工は船出した直後に、薬害事故で死者まで出し、突然、座礁した。過去最長となる116日間の業務停止処分を受けることになったわけで、小林社長以下経営陣の総退陣は免れないだろう。睡眠剤混入薬の被害者から集団訴訟を起こされることも想定される。 親会社、オリックスが前面に出てこざるを得まい。 “敗戦処理”の方法としてはオリックス主導による自主再建もあるが、「同業他社に小林化工を売却する」(株式を公開しているジェネリック大手の首脳)といったうがった見方も、一部で浮上している。=敬称略)』、「経営陣の総退陣」、今回の事件で明らかになったお粗末な内部管理体制、などを踏まえると、「オリックス主導による自主再建」は容易ではなく、「同業他社に小林化工を売却」のシナリオの方が可能性が高いのではなかろうか。それにしても、今回、傷がついた「ジェネリック医薬品」のイメージをどう回復していくかも大きな課題だ。
第四に、2月20日付け東洋経済オンライン掲載した東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野教授の中西 真氏による「東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/411265
・『もしいくつになっても若い体や心のままで生きることが可能となったら、社会、ビジネス、あなたの人生はどう変わるのだろうか? ハーバード大学医学大学院の教授で、老化研究の第一人者であるデビッド・A・シンクレア氏の全米ベストセラー『LIFESPAN(ライフスパン):老いなき世界』では、人類が「老いない身体」を手に入れる未来がすぐそこに迫っていることが示され話題となっているが、日本でも、老化研究に関する大きなニュースが飛び込んできた。 2021年1月15日、東京大学医科学研究所の中西真教授らのグループが、老齢のマウスに「老化細胞」だけを死滅させる薬剤を投与し、加齢に伴う体の衰えや生活習慣病などを改善することに成功したと米科学誌『サイエンス』に発表したのだ。老化研究はどこまで進化しているのか。中西氏に話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aは中西氏の回答)』、興味深そうだ。
・『老化の原因「老化細胞」除去とは Q:老齢のマウスの「老化細胞」を特異的に死滅させる薬剤を発見されましたが、この「老化細胞」の除去とはどういったことでしょうか。 A:「老化細胞」とは、ストレスによってダメージを受けるなどして、増殖できなくなってしまった細胞のことです。 60年ほど前、アメリカのヘイフリック博士が、正常なヒトの細胞を試験管の中で培養していくと、一定の分裂回数のうちに増殖を停止して、二度と増殖できなくなるステージに入ることを発見しました。この状態になってしまった細胞を「老化細胞」といいます。 細胞は、つねにさまざまなストレスにさらされており、ストレス過多になった場合、遺伝子に傷が入ったり、タンパク質がダメージを受けるなどします。軽微なダメージなら、細胞は修復して生き続けることができますが、修復不可能な損傷の場合、細胞そのものを殺すか、細胞の老化を誘導し、異常な細胞を蓄積させない仕組みが働きます。その結果、細胞は増殖することができない老化細胞となってしまいます。 そして、この老化細胞が、臓器組織の機能低下や老年病などの発症を誘発するというのが最も基本的な「老化のメカニズム」の1つです。) これまでの研究では、老化細胞を除去することでさまざまな老化現象が改善することはわかっていました。しかし、組織や臓器により老化細胞は性質が異なるため、それらどんなタイプの老化細胞にも効く薬剤の開発には至っていませんでした。 われわれ研究チームは、老化細胞の生存に必須な遺伝子を探し、それが「GLS1」という遺伝子であることを突き止めました。さらに、老化細胞は、リソソームと呼ばれる細胞内小器官の膜に傷ができ、細胞全体が酸性に傾くが、「GLS1」が過剰に働くことで中和され、死滅しないまま細胞を維持することも明らかにしました。 そこで、この遺伝子「GLS1」の働きを止める薬剤を投与したところ、老化細胞が除去され、老化に伴う体力の衰えや生活習慣病が改善することを証明しました』、「この遺伝子「GLS1」の働きを止める薬剤を投与したところ、老化細胞が除去され、老化に伴う体力の衰えや生活習慣病が改善」、そんな魔法のような「薬剤」があるとは医学も進歩したものだ。
・『老化は「常識」から「サイエンス」になった 老化研究が注目されるようになったのは、ごく最近のことです。僕は、いまから30年前、アメリカに留学していた頃に細胞老化という現象に興味を持ち、それ以来ずっと研究を続けていますが、当初はほとんど注目されておらず、現象論ばかりで分子機構も明らかにされていない時代でした。 当時盛んだったのは、細胞周期に関する研究です。2001年には細胞周期の制御因子を発見した研究者がノーベル賞をとり、僕もその波に乗って細胞周期の研究に取り組みつつ、ほそぼそと細胞老化の研究も並行してきました。 老化研究のいちばん難しいところは、とにかく時間がかかるということです。例えば、一口に「カメの寿命にともなう死亡率の研究」と言っても、カメは100年以上生きますからね。高齢マウスの研究でも、2~3年はかかります。たかだか20~30年の研究者人生の中でできることには限りがあるのです。 社会にとっては非常に必要な研究だけれど、何十年もなんの結果も出さずにいることは、許してもらえませんからね。 そんな老化研究全体の空気が変わったのは、この数年です。まず、2014年に科学誌『ネイチャー』で、老化の過程は生物種によってかなり異なるということが報告されました。ヒトは、老化による機能低下などで寿命を迎えますが、生物種のなかには、老化そのものが寿命を規定していないものがたくさんいるというのです。 また、2016年には、同誌に、ヒトの最大寿命は120歳であるという報告も掲載されました。それまでなんとなく「年とともに老いて、長くても120歳ぐらいで死ぬものなんだろう」と思われていたことが、サイエンスとして一流の科学誌に取り上げられたわけです。 老化現象というものが、一般常識の範疇から、サイエンティフィックに非常に面白い対象なのだと認識されることになり、多くの研究者が参入するきっかけになりました。 とくに、生物種によって老化の過程が異なるというのは、非常に面白い話です。 ヒトは、加齢に伴って死亡率が急激に増加する典型的な生物ですが、ある種のカメやワニなどには、そのような現象が起きません。もちろん、ある決まった寿命で死ぬのですが、年をとっても、人間でいう白髪が出たり老けたりという、老化の表現型が出ないのです。 つまり、20歳の死亡率と70歳の死亡率が変わらない。「ピンピンコロリ」の一生を送るすごい生物がたくさんいるということです。 興味深いのは、ゾウです。ゾウは、ストレスが加わったときに、自らの体内で老化細胞になる前に傷ついた細胞を死滅させてしまうと言われています。われわれが開発したような薬を飲まなくとも、もともとそういうシステムを体内に持っているわけですね。 ゾウにはがんがないというのも有名な話です。がん細胞のような悪い細胞をすぐに死滅させてしまうからです。がんのあるゾウを探すのは、非常に難しいと言われるほどです。 悪い細胞を体内に残しておくから病気になるわけですが、ただ、生態系全体として見ると、ヒトは、老化細胞を残しておくことに、個体としてなんらかのメリットがあり、それが進化の過程で有利に働いているという部分もあるのかもしれません。 老化によって臓器組織の機能が低下し、老年病を引き起こすなどして健康寿命を決めているメカニズムと、生物種の最大寿命そのものを決めているメカニズムはまったく次元が違うはずです。 老化研究は、まだまだわからないことが多く、あくまでもわれわれ自身である「ヒトの老化」という範疇から出ていません。今後ますます俯瞰的に理解していくことで、より研究が深まっていくでしょう』、「生物種のなかには、老化そのものが寿命を規定していないものがたくさんいるというのです」、「ヒトは、加齢に伴って死亡率が急激に増加する典型的な生物ですが、ある種のカメやワニなどには、そのような現象が起きません。もちろん、ある決まった寿命で死ぬのですが、年をとっても、人間でいう白髪が出たり老けたりという、老化の表現型が出ないのです」、「老化研究は、まだまだわからないことが多く、あくまでもわれわれ自身である「ヒトの老化」という範疇から出ていません」、殆ど研究され尽くしていると思っていたが、そうではないことを初めて知った。
・『ヒトへの実用化までのハードル 老化改善の薬は、これからヒトへの実用化に向かっていきますが、まだまだハードルがあります。 ひとつは、本当にその薬に副作用がないか、もっと効果的な薬はないかという短期的なハードル。そしてもうひとつは、まだ個体の老化はすべてが解明されていないという長期的なハードルです。 われわれの研究もそうですが、これまでは、培養された細胞を使った研究ばかりで、個体の中での研究はほとんど行われていません。老化細胞が、個体の中で加齢や老年病の発症に関わっているのは確かですが、現実には、個体の中はまだブラックボックスなのです。個体のいったいどこに老化細胞が蓄積しているのか。それがどのような機能や性質を持ち、どう作用しているのかはわかっていません。 これからは個体の中での老化細胞の働きを解明する必要がありますし、そのような研究が進めば、もっと優れた標的や、もっと優れた治療法が見つかるだろうと僕は信じています。) Q:日本人は世界的にも長寿ですが、ほかの国の人々に比べてどのような要因が考えられるのですか。 A:ひとつは、日本人の食生活が大きく影響していると考えられます。日本人は、アルコールの摂取量も世界的に見れば少ない人種です。 もうひとつは、日本人には、肥満など特殊な体質が非常に少ないことです。もちろん日本人にも肥満体質の方はいらっしゃいますが、欧米人に比べるとかなりその程度は軽いと思います。 アルコール摂取量が多かったり、生活習慣が原因で肥満が起きたりする環境では、それが細胞に対するストレスになり、老化細胞が増えやすいということは十分に予測できます。日本人の普通の食生活や生活習慣が、欧米人に比べればストレスを受けにくいということですね。 人種にかかわらずヒトの最大寿命は決まっています。世界一の長寿とされたジャンヌ・カルマンさんはフランス人女性ですから、日本人が最長というわけではありません。ですから、少なくとも欧米人が日本人のような生活習慣になれば、長寿に近づいていくと言えるでしょう』、「日本人は、アルコールの摂取量も世界的に見れば少ない人種です。 もうひとつは、日本人には、肥満など特殊な体質が非常に少ない」、「日本人の普通の食生活や生活習慣が、欧米人に比べればストレスを受けにくい」、私の常識的知識とも合致するようだ。
・『老化は「病気」として治療できる Q:シンクレア氏の『ライフスパン』では、「老化は病気である」と定義されていますが、先生のお考えをお聞かせください。 A:僕も、少なくとも、加齢に伴って起きるような臓器組織の機能低下や老年病などは治せるものだと考えています。 ただ、最大寿命を延ばすのは非常に難しいことですし、倫理的にも問題があると思いますので、そこはもう少しよく考えなければなりません。まずは、健康に生きる時間を長くするということだと思います。 昨年12月、シンクレア先生が山中因子(iPS細胞)を使って、高齢マウスの視力を回復させたという論文を『ネイチャー』に発表されました。非常にインパクトがあり、本当に老化細胞が若い細胞に戻っているのなら、これはすごいことだと僕は思います。 ただ、山中因子によって実際にどんな細胞が生まれて、それがどういう形で老化した細胞を再生させているのかということについては、まだ証明されていません。まだまだこれからということになるでしょう。) Q:アメリカでは、グーグルなどが老化研究のベンチャーに投資していますが、日本ではそのような動きはありますか? A:日本では、残念ながらまだほとんどありません。そのようなベンチャーもありませんし、カルチャーもありません。 アメリカには、「失敗してもいいじゃないか、作ってダメならまたやり直せばいい」というカルチャーがありますが、日本は違います。「失敗したくない」「失敗するとダメージにつながる」という発想にとらわれていて、なかなかそのような会社はできないんですね。 ただ、20~30代の世代では、ベンチャーをやってみようというハードルが低く、そのような芽ははっきりとあります。今後、老化研究の分野に投資したいという動きは大きくなるかもしれませんね。 いま、がん研究については、かなり煮詰まったところまで来ています。もちろん、本庶佑先生のようなすごい発見も今後生まれると思いますし、すい臓がんなど治療困難なものもありますが、基本的に、がんは治る病気になりつつあるんですね。そうなると、人類の最後の未知なる領域は「老化」ということになり、そこへシフトしていく流れがはじまったのだろうと思います』、「人類の最後の未知なる領域は「老化」ということになり、そこへシフトしていく流れがはじまったのだろう」、今後が楽しみだ。
・『100歳まで健康に生きることが「自然」 「老化も死も自然のままがいい」という感覚の方も多いようですが、僕は、なにをもって「自然」と言うかは難しいと考えます。老化は、人によって程度がまったく違うもので、90歳でも100歳でも元気な人もいれば、50歳でもいろんな病気にかかってしまう人もいます。 病気にかかることが自然なのかというと、僕は、やはりそうではない、100歳まで健康に生きることが自然だと思うのです。僕の両親もそうですが、年老いた人は不自由を感じていますし、それを改善できるということは、すごく大きなことだと思います。 自然に生きることを助け、サポートしていくことが、老化研究です。実現すれば、短期的には医療費の問題が解決し、もっと別のことにお金が使えるようになりますし、個々の方の人生そのものも幸せになりますよね。やはり健康は、最もお金で買えない幸せだと僕は思っています』、「100歳まで健康に生きることが「自然」」、医学の進歩で、それに近づいてほしいものだ。
先ずは、本年1月1日付けダイヤモンド・オンライン「「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/258013
・『性交渉後、72時間以内に服用することにより、高い確率で妊娠を防ぐことができる緊急避妊薬。日本では医師による診察を経た上でないと入手することはできないが、目下、薬局での販売を可能にする制度改正が進められている。薬へのアクセスが容易になることによって意図しない妊娠が減ると期待される一方、性の乱れや薬の悪用を心配する声も根強い。現役の産婦人科医であり性教育の事情にも詳しい重見大介氏に、緊急避妊薬市販化の問題を考える上で大事なポイントを聞いた』、興味深そうだ。
・『市販化の実現で低価格化の可能性も 少子化の進行に拍車がかかる中、人工妊娠中絶の件数はここ10年でほぼ横ばい状態を見せている。中でも未成年が占める割合は小さくなく、人工妊娠中絶を受ける未成年者の数は平均で1日約40人と看過できない数字だ。 意図しない妊娠と人工妊娠中絶の数は必ずしもイコールではないが、緊急避妊薬が市販化され、身近なものになれば「意図しない妊娠によって体への負担、心への深い傷、経済的負担を負う女性が少なくなる」と語るのは、産婦人科医の重見氏だ。 「緊急避妊薬は72時間以内に服用する必要がありますが、服用する時間が早ければ早いほど避妊の成功率は高くなります。したがって、薬へのアクセスが改善されることによって、実効性は確実に上がると考えられます」 緊急避妊薬が市販化されることによってもたらされるメリットは、それだけにとどまらない。 「緊急避妊薬が市販化されている諸外国では1000~2500円程度で買えるところが多く、中には未成年に無料で提供している国もあります。しかし日本では、緊急避妊薬の値段は各病院が任意で定めており、1回の服用で大体1万5千円から8000円と高価です。現在、緊急避妊薬は保険診療の対象外であり全額自己負担となっていますが、薬局での販売が実現すれば、価格が大幅に下がることも期待できるかもしれません」』、「緊急避妊薬が市販化されている諸外国では1000~2500円程度で買えるところが多く」、「無料」にまでする必要はなくても、この程度なら妥当だろう。
・『反対派が懸念する市販化による性の乱れ 緊急避妊薬は現在世界の90カ国以上で市販化されており、日本でもしばしば厚生労働省によって検討され、直近では2017年に議題に上るも否決された過去がある。一体どんな要因によって、日本における緊急避妊薬の市販化は妨げられてきたのだろうか。重見氏はこう語る。 「決定を下す役割を担う専門家の方々の判断を鈍らせている理由として、市販化されることによって薬が悪用されるリスクと、女性が性に対して奔放になってしまうといったことへの懸念が挙げられています。2017年の検討会では産婦人科の学会である『日本産婦人科医会』もそのような意見に賛同し、『別の避妊方法に頼るべきだ』という理由で市販化に賛成する意見を退けています」 「モラルの乱れを誘発するのではないか」という懸念によって実現が阻まれてきた、緊急避妊薬の市販化。しかし、その懸念は妥当なものなのだろうか。 2017年に複数回にわたって行われた検討会のメンバーは一部を除いてほとんどが男性であり、女性の意見がほとんど反映されていない。また年齢層も高く、40代~60代が大多数だ。上記の懸念は男性による“妄想”とまでは言わないが、仮に検討会のメンバーの男女比を逆転させた上で同じ議論を行ったとしたら、違う結論になっていた可能性は否定できないだろう。) 「緊急避妊薬の避妊成功率は100%ではありません。たとえわずかであっても妊娠してしまう可能性がある限り、緊急避妊薬を服用したとしても、多くの女性は妊娠のリスクを考えるはずです。『緊急避妊薬があるから何をしても平気』だと思う女性はほとんどいないのではないでしょうか。緊急避妊薬の市販化を巡る問題には、議論を進める男性側が懸念するイメージと、使用者である女性側の気持ちとの間に齟齬(そご)があるようでなりません」』、「検討会のメンバーは一部を除いてほとんどが男性」、「年齢層も高く、40代~60代が大多数だ」、これでは公正な判断は期待できない。『日本産婦人科医会』が「『別の避妊方法に頼るべきだ』という理由で市販化に賛成する意見を退けています」、というのも、解せない。
・『実現の鍵となる薬剤師の役割 薬の乱用や避妊しない性行為の増加といった“風紀の乱れ”が懸念され、かき消されてきた緊急避妊薬の市販化を求める声。これまでは局所的な議論にとどまってきたが、SNSの普及も手伝い、若い女性や、現場の医師の意見が可視化されることによって、これまでにない広がりを見せている。 緊急避妊薬の市販化が実現している海外諸国において、モラルの崩壊が起きたといった事例は報告されておらず、日本においても「市販化を妨げる科学的根拠はない」と語る重見氏に、今後の議論の進展を見守る上で注目すべきポイントを伺った。 「これまでの経緯を踏まえれば、市販化が実現した際には『第1類医薬品』に分類される可能性が高いと考えられます。そうなった場合、薬はカウンターの後ろの棚や鍵付きのショーケース内に置かれ、薬剤師の説明を聞いた上でないと購入することはできません。また悪用や他者への譲渡を防ぐため、薬剤師の立ち会いの下で服用することを購入の条件に加える、といった議論も出ており、緊急避妊薬の市販化と聞いて多くの人が思い浮かべる“開放的なイメージ”とはまた違った形に落ち着く可能性があります。いずれにせよ、現在は医師が果たしている役割を担うことになる薬剤師の存在と、研修や情報連携などの仕組み作りが、今後の議論において鍵になっていくはずです」 賛成派と反対派の意見が紛糾している緊急避妊薬の市販化を巡る議論。どのような形で決着がつくのか、今後も要注目だ』、「緊急避妊薬の市販化が実現している海外諸国において、モラルの崩壊が起きたといった事例は報告されておらず、日本においても「市販化を妨げる科学的根拠はない」」、「現在は医師が果たしている役割を」「薬剤師」に担わせる方向で、対応すべきだろう。
次に、2月10日付け日刊ゲンダイが掲載したジャーナリストの有森隆氏による「小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/285022
・『爪水虫などの皮膚病用の飲み薬に睡眠導入剤の成分が混入した問題で、福井県が9日、薬を製造したジェネリック医薬品(後発薬)メーカーである小林化工(福井県あわら市、小林広幸社長、非上場)に対し116日間の業務停止処分を出した。116日間は医薬品メーカーへの行政処分で過去最長だ。 この問題の発端を、地元紙・福井新聞は「検証小林化工、異変伝える1本の電話」(2020年12月17日付オンライン)と報じた。 〈「そちらで処方された薬をのんでいた人が、意識消失で救急搬送されました」――。11月27日、岐阜県高山市の久保賢介医師(63)の元に、救急病院から連絡があった。59歳の男性が車を運転中に意識を失い、溝に脱輪したという。“異変”の始まりだった〉 〈久保医師は、内科とアトピーの治療を専門とする有床診療所の院長。59歳男性の救急搬送以後、入院患者4人についても普段と様子が違っていることに気が付いた。朝食を食べたら夜まで寝ていたり、起こすと記憶を一部失っていたりすることがあった。 他の外来患者に関しても、12月2日の朝には30代女性が意識もうろうとした状態になり寝てしまった。32歳の男性は配送の仕事中にトンネル内で意識がなくなり、センターラインのポールに衝突した。本人は当時の記憶がなく、事故後も、もうろうとしたまま仕事を続けたという。 意識障害があった患者7人には共通点があった。久保医師は「全てイトラコナゾールが原因だと確信した」と振り返る。 同診療所では、アトピー性皮膚炎に多いマラセチア毛包炎の治療に経口抗真菌剤イトラコナゾール錠を用いていた。製造したのは、ジェネリック医薬品の中堅メーカー、小林化工である。 久保医師の訴えが、多数の健康被害が発覚する端緒になった。 12月10日、小林化工が製造し、睡眠導入剤の成分が混入した皮膚病用の飲み薬を服用した70代の女性が、首都圏の病院に入院中に死亡したほか、80代の男性も亡くなっている』、「116日間の業務停止処分」、とはよほど酷かったのだろう。
・『小林化工は11日に死亡を発表。翌12日に小林広幸社長は報道陣の取材に応じ、「重大な過失を犯し、責任を痛感している。会社全体で償っていきたい」と謝罪した。 この問題では、福井県や厚生労働省が12月21日、22日の2日間にわたり、小林化工に立ち入り調査を実施し、省令や社内規定違反が相次いで明らかになった。 睡眠導入剤成分が混入したのは皮膚病用治療薬「イトラコナゾール錠50『MEEK』」。国が承認した手順書では、薬の主成分を全て1回で入れることになっているが、「裏手順書」が存在し、2度に分けて入れると記載されていた。錠剤を固まりやすくするための便法とみられており、製造現場では十数年前から「裏手順書」が採用されていた。 問題の薬では、従業員が主成分を2度目に入れようとして、睡眠導入剤と取り違えていた。主成分と睡眠導入剤は同じ棚の上下に並べて置かれていた。2人1組で相互にチェックしながら薬の調合にあたるとする社内規定に反し、1人が作業場から離れた時間帯があったことや、離れた1人が作業の確認済みのサインをしたこともわかった。 「イトラコナゾール錠50」は20年夏に製造され、約9万錠が出荷された。服用した患者は全国31都道府県に344人。6割超の214人が意識消失、記憶喪失、ふらつきなどの健康被害を訴えた。このうち2人が死亡し、運転中に意識を失うなどして22人が交通事故を起こしている。小林化工は1月27日、18年3月以降に出荷した22製品についても、新たに自主回収をすると発表した』、「製造現場では十数年前から「裏手順書」が採用」、「主成分と睡眠導入剤は同じ棚の上下に並べて置かれていた。2人1組で相互にチェックしながら薬の調合にあたるとする社内規定に反し、1人が作業場から離れた時間帯があったことや、離れた1人が作業の確認済みのサインをした」、安全性が最重視されるべき製薬企業にあるまじきズサンさだ。
・『実はオリックスの連結子会社 小林化工は1961年に設立された経口剤や注射剤などのジェネリック医薬品のメーカー。 誤飲を防ぐ視認性の高い製剤など付加価値の高い医薬品を扱っているほか、成長が見込める抗がん剤の開発もやっている。 20年3月期の売上高は370億円、従業員は796人。270品目を販売しており、後発医薬品業界では日医工(東証1部)、沢井製薬(同、4月からサワイグループホールディングス)、東和薬品(同)の“ご三家”に続く第2グループに位置する。 実は、小林化工は総合リース大手オリックスの連結子会社である。20年1月に子会社になったばかりだった。=つづく』、「オリックスの連結子会社」になってなければ、破綻していたところだが、「オリックス」もとんだババを掴んだものだ。
第三に、この続きを、2月11日付け日刊ゲンダイ「小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/285091
・『小林化工(福井県あわら市)の株式の過半数を保有し、資本・業務提携しているオリックスは1月20日、福井新聞の取材に「出資者として誠に遺憾。小林化工が社会的な責任を少しでも早く全うすることができるように、最大限のサポートを行っている」とコメントした。 オリックスは20年1月14日、小林化工を子会社にすると発表した。発行済み株式の過半数を取得するが、出資比率や株式取得に要した金額は非公開。現経営体制を維持し、代表取締役の変更はないが、社外取締役2人と監査役にオリックスの社員が就任した。 オリックスは経営戦略を立案し、財務基盤の強化を図る。 オリックスが医療用医薬品事業に手を染めるのは初めてだ。 「医療法人向けのリースやファイナンス、医療機器関連のレンタルサービスの提供だけでなく、これまで原薬商社、医療機器販売会社、動物薬メーカーに出資するなどヘルスケア業界に注目して幅広い事業を展開しています」) オリックスのプレスリリースにこう書いてある。 小林化工は「オリックスの国内外のネットワークの事業基盤と連携し、さらなる品質向上、安定向上を目指す」とした。海外進出を視野に入れていることはいうまでもない』、今回の不祥事が明らかになる前の「プレスリリース」、など殆ど意味がない。
・『出発は「富山の薬売り」 小林広幸代表取締役社長は創業家の3代目である。創業者は小林政国。配置薬を売る「富山の薬売り」で、戦後の1946年に配置薬を製造する小林製薬所を創業した。61年、小林化工を設立、医療用医薬品に進出した。 小林広幸は薬剤師だ。金沢大学の研究室を経て、住友製薬(現・大日本住友製薬)に就職。家業を継ぐべく94年、小林化工に入社。当時の年商は12億円程度と零細企業だった。2007年、父・小林喜一の後を継いで代表取締役社長の椅子に座った。) 後発医薬品業界に追い風が吹いた。医療費抑制の一環として政府は02年から後発薬の普及目標を段階的に引き上げていった。医療現場では先発薬から後発薬への置き換えが進んだ。02年から現在までに後発薬の販売数量は2倍に拡大した。 後発薬使用促進策の流れに乗り、小林化工は急成長を遂げる。02年当時の年商30億円が、20年3月期には370億円と12・3倍になった。利益は工場の増産投資に充当。それが、また増収につながる好循環に入った。 政府は後発薬の使用割合を20年までに数量ベースで80%に引き上げる目標を設定。20年9月時点で後発薬の数量シェアは79・3%とほぼ目標を達した。 後発薬市場は成熟期を迎え、成長に陰りが見え始めた。 国内が頭打ちになれば外に目が向く。日医工、沢井製薬、東和薬品の国内専業大手は欧米の後発薬企業を買収し、欧州や米国市場に進出した。準大手で非上場の小林化工が選択したのがオリックスを戦略パートナーにすることだった。オリックスの力を借りて海外に出ていく。) 小林広幸社長は、一般財団法人日本医薬情報センターの会員向け機関誌「JAPIC NEWS」(20年11月号)で、オリックスの傘下に入った理由を、こう語っている。 「一時は上場も検討しましたが、オリックスがパートナーであれば、強固な信頼関係のもとでサポートを受けつつ、さまざまな課題を解決していけると考え、資本・業務提携しました。(中略)同業他社から声がかかりましたが、今後の当社の発展には、オリックスの信用力やネットワークが必要だと判断しました」 「多すぎる」(厚生労働省幹部)と言われる後発医薬品会社の再編は必至である。小林化工は業種の枠を超えたM&Aの道を選んだ。 しかし、新・小林化工は船出した直後に、薬害事故で死者まで出し、突然、座礁した。過去最長となる116日間の業務停止処分を受けることになったわけで、小林社長以下経営陣の総退陣は免れないだろう。睡眠剤混入薬の被害者から集団訴訟を起こされることも想定される。 親会社、オリックスが前面に出てこざるを得まい。 “敗戦処理”の方法としてはオリックス主導による自主再建もあるが、「同業他社に小林化工を売却する」(株式を公開しているジェネリック大手の首脳)といったうがった見方も、一部で浮上している。=敬称略)』、「経営陣の総退陣」、今回の事件で明らかになったお粗末な内部管理体制、などを踏まえると、「オリックス主導による自主再建」は容易ではなく、「同業他社に小林化工を売却」のシナリオの方が可能性が高いのではなかろうか。それにしても、今回、傷がついた「ジェネリック医薬品」のイメージをどう回復していくかも大きな課題だ。
第四に、2月20日付け東洋経済オンライン掲載した東京大学医科学研究所癌防御シグナル分野教授の中西 真氏による「東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/411265
・『もしいくつになっても若い体や心のままで生きることが可能となったら、社会、ビジネス、あなたの人生はどう変わるのだろうか? ハーバード大学医学大学院の教授で、老化研究の第一人者であるデビッド・A・シンクレア氏の全米ベストセラー『LIFESPAN(ライフスパン):老いなき世界』では、人類が「老いない身体」を手に入れる未来がすぐそこに迫っていることが示され話題となっているが、日本でも、老化研究に関する大きなニュースが飛び込んできた。 2021年1月15日、東京大学医科学研究所の中西真教授らのグループが、老齢のマウスに「老化細胞」だけを死滅させる薬剤を投与し、加齢に伴う体の衰えや生活習慣病などを改善することに成功したと米科学誌『サイエンス』に発表したのだ。老化研究はどこまで進化しているのか。中西氏に話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aは中西氏の回答)』、興味深そうだ。
・『老化の原因「老化細胞」除去とは Q:老齢のマウスの「老化細胞」を特異的に死滅させる薬剤を発見されましたが、この「老化細胞」の除去とはどういったことでしょうか。 A:「老化細胞」とは、ストレスによってダメージを受けるなどして、増殖できなくなってしまった細胞のことです。 60年ほど前、アメリカのヘイフリック博士が、正常なヒトの細胞を試験管の中で培養していくと、一定の分裂回数のうちに増殖を停止して、二度と増殖できなくなるステージに入ることを発見しました。この状態になってしまった細胞を「老化細胞」といいます。 細胞は、つねにさまざまなストレスにさらされており、ストレス過多になった場合、遺伝子に傷が入ったり、タンパク質がダメージを受けるなどします。軽微なダメージなら、細胞は修復して生き続けることができますが、修復不可能な損傷の場合、細胞そのものを殺すか、細胞の老化を誘導し、異常な細胞を蓄積させない仕組みが働きます。その結果、細胞は増殖することができない老化細胞となってしまいます。 そして、この老化細胞が、臓器組織の機能低下や老年病などの発症を誘発するというのが最も基本的な「老化のメカニズム」の1つです。) これまでの研究では、老化細胞を除去することでさまざまな老化現象が改善することはわかっていました。しかし、組織や臓器により老化細胞は性質が異なるため、それらどんなタイプの老化細胞にも効く薬剤の開発には至っていませんでした。 われわれ研究チームは、老化細胞の生存に必須な遺伝子を探し、それが「GLS1」という遺伝子であることを突き止めました。さらに、老化細胞は、リソソームと呼ばれる細胞内小器官の膜に傷ができ、細胞全体が酸性に傾くが、「GLS1」が過剰に働くことで中和され、死滅しないまま細胞を維持することも明らかにしました。 そこで、この遺伝子「GLS1」の働きを止める薬剤を投与したところ、老化細胞が除去され、老化に伴う体力の衰えや生活習慣病が改善することを証明しました』、「この遺伝子「GLS1」の働きを止める薬剤を投与したところ、老化細胞が除去され、老化に伴う体力の衰えや生活習慣病が改善」、そんな魔法のような「薬剤」があるとは医学も進歩したものだ。
・『老化は「常識」から「サイエンス」になった 老化研究が注目されるようになったのは、ごく最近のことです。僕は、いまから30年前、アメリカに留学していた頃に細胞老化という現象に興味を持ち、それ以来ずっと研究を続けていますが、当初はほとんど注目されておらず、現象論ばかりで分子機構も明らかにされていない時代でした。 当時盛んだったのは、細胞周期に関する研究です。2001年には細胞周期の制御因子を発見した研究者がノーベル賞をとり、僕もその波に乗って細胞周期の研究に取り組みつつ、ほそぼそと細胞老化の研究も並行してきました。 老化研究のいちばん難しいところは、とにかく時間がかかるということです。例えば、一口に「カメの寿命にともなう死亡率の研究」と言っても、カメは100年以上生きますからね。高齢マウスの研究でも、2~3年はかかります。たかだか20~30年の研究者人生の中でできることには限りがあるのです。 社会にとっては非常に必要な研究だけれど、何十年もなんの結果も出さずにいることは、許してもらえませんからね。 そんな老化研究全体の空気が変わったのは、この数年です。まず、2014年に科学誌『ネイチャー』で、老化の過程は生物種によってかなり異なるということが報告されました。ヒトは、老化による機能低下などで寿命を迎えますが、生物種のなかには、老化そのものが寿命を規定していないものがたくさんいるというのです。 また、2016年には、同誌に、ヒトの最大寿命は120歳であるという報告も掲載されました。それまでなんとなく「年とともに老いて、長くても120歳ぐらいで死ぬものなんだろう」と思われていたことが、サイエンスとして一流の科学誌に取り上げられたわけです。 老化現象というものが、一般常識の範疇から、サイエンティフィックに非常に面白い対象なのだと認識されることになり、多くの研究者が参入するきっかけになりました。 とくに、生物種によって老化の過程が異なるというのは、非常に面白い話です。 ヒトは、加齢に伴って死亡率が急激に増加する典型的な生物ですが、ある種のカメやワニなどには、そのような現象が起きません。もちろん、ある決まった寿命で死ぬのですが、年をとっても、人間でいう白髪が出たり老けたりという、老化の表現型が出ないのです。 つまり、20歳の死亡率と70歳の死亡率が変わらない。「ピンピンコロリ」の一生を送るすごい生物がたくさんいるということです。 興味深いのは、ゾウです。ゾウは、ストレスが加わったときに、自らの体内で老化細胞になる前に傷ついた細胞を死滅させてしまうと言われています。われわれが開発したような薬を飲まなくとも、もともとそういうシステムを体内に持っているわけですね。 ゾウにはがんがないというのも有名な話です。がん細胞のような悪い細胞をすぐに死滅させてしまうからです。がんのあるゾウを探すのは、非常に難しいと言われるほどです。 悪い細胞を体内に残しておくから病気になるわけですが、ただ、生態系全体として見ると、ヒトは、老化細胞を残しておくことに、個体としてなんらかのメリットがあり、それが進化の過程で有利に働いているという部分もあるのかもしれません。 老化によって臓器組織の機能が低下し、老年病を引き起こすなどして健康寿命を決めているメカニズムと、生物種の最大寿命そのものを決めているメカニズムはまったく次元が違うはずです。 老化研究は、まだまだわからないことが多く、あくまでもわれわれ自身である「ヒトの老化」という範疇から出ていません。今後ますます俯瞰的に理解していくことで、より研究が深まっていくでしょう』、「生物種のなかには、老化そのものが寿命を規定していないものがたくさんいるというのです」、「ヒトは、加齢に伴って死亡率が急激に増加する典型的な生物ですが、ある種のカメやワニなどには、そのような現象が起きません。もちろん、ある決まった寿命で死ぬのですが、年をとっても、人間でいう白髪が出たり老けたりという、老化の表現型が出ないのです」、「老化研究は、まだまだわからないことが多く、あくまでもわれわれ自身である「ヒトの老化」という範疇から出ていません」、殆ど研究され尽くしていると思っていたが、そうではないことを初めて知った。
・『ヒトへの実用化までのハードル 老化改善の薬は、これからヒトへの実用化に向かっていきますが、まだまだハードルがあります。 ひとつは、本当にその薬に副作用がないか、もっと効果的な薬はないかという短期的なハードル。そしてもうひとつは、まだ個体の老化はすべてが解明されていないという長期的なハードルです。 われわれの研究もそうですが、これまでは、培養された細胞を使った研究ばかりで、個体の中での研究はほとんど行われていません。老化細胞が、個体の中で加齢や老年病の発症に関わっているのは確かですが、現実には、個体の中はまだブラックボックスなのです。個体のいったいどこに老化細胞が蓄積しているのか。それがどのような機能や性質を持ち、どう作用しているのかはわかっていません。 これからは個体の中での老化細胞の働きを解明する必要がありますし、そのような研究が進めば、もっと優れた標的や、もっと優れた治療法が見つかるだろうと僕は信じています。) Q:日本人は世界的にも長寿ですが、ほかの国の人々に比べてどのような要因が考えられるのですか。 A:ひとつは、日本人の食生活が大きく影響していると考えられます。日本人は、アルコールの摂取量も世界的に見れば少ない人種です。 もうひとつは、日本人には、肥満など特殊な体質が非常に少ないことです。もちろん日本人にも肥満体質の方はいらっしゃいますが、欧米人に比べるとかなりその程度は軽いと思います。 アルコール摂取量が多かったり、生活習慣が原因で肥満が起きたりする環境では、それが細胞に対するストレスになり、老化細胞が増えやすいということは十分に予測できます。日本人の普通の食生活や生活習慣が、欧米人に比べればストレスを受けにくいということですね。 人種にかかわらずヒトの最大寿命は決まっています。世界一の長寿とされたジャンヌ・カルマンさんはフランス人女性ですから、日本人が最長というわけではありません。ですから、少なくとも欧米人が日本人のような生活習慣になれば、長寿に近づいていくと言えるでしょう』、「日本人は、アルコールの摂取量も世界的に見れば少ない人種です。 もうひとつは、日本人には、肥満など特殊な体質が非常に少ない」、「日本人の普通の食生活や生活習慣が、欧米人に比べればストレスを受けにくい」、私の常識的知識とも合致するようだ。
・『老化は「病気」として治療できる Q:シンクレア氏の『ライフスパン』では、「老化は病気である」と定義されていますが、先生のお考えをお聞かせください。 A:僕も、少なくとも、加齢に伴って起きるような臓器組織の機能低下や老年病などは治せるものだと考えています。 ただ、最大寿命を延ばすのは非常に難しいことですし、倫理的にも問題があると思いますので、そこはもう少しよく考えなければなりません。まずは、健康に生きる時間を長くするということだと思います。 昨年12月、シンクレア先生が山中因子(iPS細胞)を使って、高齢マウスの視力を回復させたという論文を『ネイチャー』に発表されました。非常にインパクトがあり、本当に老化細胞が若い細胞に戻っているのなら、これはすごいことだと僕は思います。 ただ、山中因子によって実際にどんな細胞が生まれて、それがどういう形で老化した細胞を再生させているのかということについては、まだ証明されていません。まだまだこれからということになるでしょう。) Q:アメリカでは、グーグルなどが老化研究のベンチャーに投資していますが、日本ではそのような動きはありますか? A:日本では、残念ながらまだほとんどありません。そのようなベンチャーもありませんし、カルチャーもありません。 アメリカには、「失敗してもいいじゃないか、作ってダメならまたやり直せばいい」というカルチャーがありますが、日本は違います。「失敗したくない」「失敗するとダメージにつながる」という発想にとらわれていて、なかなかそのような会社はできないんですね。 ただ、20~30代の世代では、ベンチャーをやってみようというハードルが低く、そのような芽ははっきりとあります。今後、老化研究の分野に投資したいという動きは大きくなるかもしれませんね。 いま、がん研究については、かなり煮詰まったところまで来ています。もちろん、本庶佑先生のようなすごい発見も今後生まれると思いますし、すい臓がんなど治療困難なものもありますが、基本的に、がんは治る病気になりつつあるんですね。そうなると、人類の最後の未知なる領域は「老化」ということになり、そこへシフトしていく流れがはじまったのだろうと思います』、「人類の最後の未知なる領域は「老化」ということになり、そこへシフトしていく流れがはじまったのだろう」、今後が楽しみだ。
・『100歳まで健康に生きることが「自然」 「老化も死も自然のままがいい」という感覚の方も多いようですが、僕は、なにをもって「自然」と言うかは難しいと考えます。老化は、人によって程度がまったく違うもので、90歳でも100歳でも元気な人もいれば、50歳でもいろんな病気にかかってしまう人もいます。 病気にかかることが自然なのかというと、僕は、やはりそうではない、100歳まで健康に生きることが自然だと思うのです。僕の両親もそうですが、年老いた人は不自由を感じていますし、それを改善できるということは、すごく大きなことだと思います。 自然に生きることを助け、サポートしていくことが、老化研究です。実現すれば、短期的には医療費の問題が解決し、もっと別のことにお金が使えるようになりますし、個々の方の人生そのものも幸せになりますよね。やはり健康は、最もお金で買えない幸せだと僕は思っています』、「100歳まで健康に生きることが「自然」」、医学の進歩で、それに近づいてほしいものだ。
タグ:『日本産婦人科医会』が「『別の避妊方法に頼るべきだ』という理由で市販化に賛成する意見を退けています」、というのも、解せない 「緊急避妊薬が市販化されている諸外国では1000~2500円程度で買えるところが多く」、「無料」にまでする必要はなくても、この程度なら妥当だろう 医薬品 「人類の最後の未知なる領域は「老化」ということになり、そこへシフトしていく流れがはじまったのだろう」、今後が楽しみだ 「100歳まで健康に生きることが「自然」」、医学の進歩で、それに近づいてほしいものだ 反対派が懸念する市販化による性の乱れ 「検討会のメンバーは一部を除いてほとんどが男性」、「年齢層も高く、40代~60代が大多数だ」、これでは公正な判断は期待できない。 市販化の実現で低価格化の可能性も 人工妊娠中絶を受ける未成年者の数は平均で1日約40人と看過できない数字だ 有森隆 「経営陣の総退陣」、今回の事件で明らかになったお粗末な内部管理体制、などを踏まえると、「オリックス主導による自主再建」は容易ではなく、「同業他社に小林化工を売却」のシナリオの方が可能性が高いのではなかろうか。それにしても、今回、傷がついた「ジェネリック医薬品」のイメージをどう回復していくかも大きな課題だ。 「小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間」 「製造現場では十数年前から「裏手順書」が採用」、「主成分と睡眠導入剤は同じ棚の上下に並べて置かれていた。2人1組で相互にチェックしながら薬の調合にあたるとする社内規定に反し、1人が作業場から離れた時間帯があったことや、離れた1人が作業の確認済みのサインをした」、安全性が最重視されるべき製薬企業にあるまじきズサンさだ 実はオリックスの連結子会社 「116日間の業務停止処分」、とはよほど酷かったのだろう。 日刊ゲンダイ 実現の鍵となる薬剤師の役割 「現在は医師が果たしている役割を」「薬剤師」に担わせる方向で、対応すべきだろう。 「緊急避妊薬の市販化が実現している海外諸国において、モラルの崩壊が起きたといった事例は報告されておらず、日本においても「市販化を妨げる科学的根拠はない」」 今回の不祥事が明らかになる前の「プレスリリース」、など殆ど意味がない。 出発は「富山の薬売り」 「オリックスの連結子会社」になってなければ、破綻していたところだが、「オリックス」もとんだババを掴んだものだ 「小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?」 東洋経済オンライン 中西 真 「老化研究は、まだまだわからないことが多く、あくまでもわれわれ自身である「ヒトの老化」という範疇から出ていません」、殆ど研究され尽くしていると思っていたが、そうではないことを初めて知った 「ヒトは、加齢に伴って死亡率が急激に増加する典型的な生物ですが、ある種のカメやワニなどには、そのような現象が起きません。もちろん、ある決まった寿命で死ぬのですが、年をとっても、人間でいう白髪が出たり老けたりという、老化の表現型が出ないのです」、 老化は「病気」として治療できる 「生物種のなかには、老化そのものが寿命を規定していないものがたくさんいるというのです」、 「日本人は、アルコールの摂取量も世界的に見れば少ない人種です。 もうひとつは、日本人には、肥満など特殊な体質が非常に少ない」 ヒトへの実用化までのハードル 「この遺伝子「GLS1」の働きを止める薬剤を投与したところ、老化細胞が除去され、老化に伴う体力の衰えや生活習慣病が改善」、そんな魔法のような「薬剤」があるとは医学も進歩したものだ 「日本人の普通の食生活や生活習慣が、欧米人に比べればストレスを受けにくい」、私の常識的知識とも合致するようだ 老化は「常識」から「サイエンス」になった 老化の原因「老化細胞」除去とは 「東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ」 「「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由」 (製薬業) (その5)(「緊急避妊薬の市販化」に日本が踏み込めない根深い理由、小林化工<上>水虫薬に睡眠導入剤が混入で業務停止116日間、小林化工<下>前途多難…オリックスが前面で経営再建か?、東大研究者が発見した「老化細胞」除去薬の衝撃 100歳まで健康に生きることが「自然」な時代へ) ダイヤモンド・オンライン
科学技術(その1)(STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?、日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)、科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)) [科学技術]
今日は、科学技術(その1)(STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?、日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)、科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会))を取上げよう。
先ずは、昨年11月27日付け現代ビジネスが掲載した病理専門医で科学・技術政策ウォッチャーの榎木 英介氏による「STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68646?imp=0
・『あのSTAP細胞事件の後も、多くの研究不正が明らかになっている。中には「史上最悪の研究不正」と言われるほどのケースも。一体なぜ不正はなくならないのか。『研究不正と歪んだ科学』編著者の榎木英介氏が警鐘を鳴らす。 夢の万能細胞と騒がれ、のちにその存在が否定されたSTAP細胞に関する事件、いわゆるSTAP細胞事件から、早くも5年以上の月日が経過した。 5年前、あれほど世間を揺るがした事件も、忘却の彼方に消え去ろうとしている。大学には事件そのものを知らない学生も増えているという。 それは私たちとて似たようなものだ。STAP細胞事件は、号泣県議や佐村河内事件など当時世間を騒がせたネタの一つに過ぎず、令和になった今、平成に起こった一つの事件として振り返ることがせいぜいだ。 しかし、STAP細胞事件があらわにした、日本の研究が抱える様々な問題は、実は何も解決していない。 いったい研究の現場で何が起こっているのか』、「日本の研究が抱える様々な問題は、実は何も解決していない」、とは驚かされた。
・『史上最悪の研究不正 STAP細胞事件を「世界三大研究不正事件」と呼ぶ声がある。 研究不正とは、狭義には存在しないデータを作る捏造、データを加工する改ざん、他の研究者のアイディアや文章などを許可や表示なく流用する盗用の3つの行為を指す。STAP細胞に関する論文には、この3つが含まれていた。 たしかに報道の量だけをみれば、少なくとも日本国内では、研究不正の事件としてはダントツだろう。 しかし、私はこれに全く同意しない) 史上最悪とさえ呼ばれる日本の研究者が起こした事件が、今世界を震撼させている。それは、元弘前大学教授で医師のS氏が起こした事件だ。 ・元弘前大学医学部所属教員による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん・盗用)の認定について(文部科学省) http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fusei/1404087.htm ・研究活動の不正行為に関する調査結果について(弘前大学)https://www.hirosaki-u.ac.jp/30242.html S氏は骨粗鬆症などの専門家で、論文の多くが患者の治療ガイドラインに取り入れられるなど、影響力があった。 ところが、やったとされる臨床研究が実際は行われていないなど、論文に多くの研究不正が見つかった。その他不適切な行為も多数確認された。 2019年11月21日現在、撤回された論文数は実に87報に及ぶ。 撤回論文を除くと、患者の治療ガイドラインの結論が変わってしまうという。つまり、S氏の不適切な論文のために、患者が不適切な治療を受けていたことになる。患者への影響は計り知れない。 これは、発表後比較的短期間に撤回され、他の研究に引用されることがなかったSTAP細胞論文どころの話ではない。史上最悪の研究不正と言われるわけだ。 この事件は世界で最も影響力があるとされる科学雑誌サイエンスとネイチャーが共に誌面を割いて大きく取り上げたほどだ。 しかし、これほどの事件でありながら、日本国内ではほとんど報道されていない。STAP細胞に関係する報道の0.1%にも満たない報道量だろう。 なお、S氏は研究不正を追及され、自死したとされる。STAP細胞事件のときの笹井芳樹氏の自死を思い起こさせる。日本では責任の取りかたの一つとされる自死だが、残念ながら諸外国から批判されている。真相を明らかにすることなく死ぬことは、責任を取ったことにはならないと思われているのだ』、「元弘前大学教授で医師のS氏が起こした事件」、初めて知ったが、「患者の治療ガイドラインの結論が変わってしまう」、深刻な影響があったようだ。
・『世界中から懐疑的な目 研究不正を含めた不適切な論文の撤回を監視するサイト「論文撤回」によれば、S氏の撤回論文数87報は、個人別の論文撤回数ランキングの3位にあたる。それだけでも驚きであるが、もっと驚きなのは、撤回論文数ランキングの上位に日本人が多数入っていることだ。 このランキングのトップはF氏。日本人の麻酔科医だ。その撤回数は実に183報。当分記録は更新されないだろう。 第4位は元慶應義塾大学の研究者I氏の69報。実はI氏は元弘前大学のS氏の共同研究者だった。そして第6位のS氏(撤回論文数53報)は麻酔科医。トップのF氏とは、お互いの研究には無関係ながら、業績を水増しするために論文の著者になる協定を結んでいた。そのS氏だが、F氏の論文撤回に巻き込まれただけでなく、自身も研究不正を行なっていたのだ。 このように、撤回論文数が多い研究者のランキングのトップ6のうち4人が日本人だ。そして4人全員が医者だ。 撤回論文数ランキングをさらに見ていくと、11位に東大教授だった医師ではない研究者のK氏が(撤回論文数40報)、14位に医師のM氏(撤回論文数32報)がランクインしている。M氏は研究不正が認定され、研究費の受給停止処分を受けているが、地位保全の処分を裁判所から勝ち取り、いまだ某大学の現役教授のままだ。 このように、日本人の医師を中心とする研究者が、研究不正や不適切な行為による論文撤回を繰り返しており、世界中に恥をさらしている。 なぜ医師が研究不正や不適切な行為による論文を作り続けることができたのか。 それには相互批判ができない医師特有の文化が影響している。上意下達が徹底し、学閥や診療科による分断が進む医師の世界では、たとえおかしな行為が行われているのを知ったとしても、簡単には批判ができない。 思えばSTAP細胞の研究も医師が関わり、秘密裏に行われ、批判を受けることがなかった。チームリーダーなどある程度の地位に就いた研究者を他の研究者が批判しにくいという環境もあった。 上述の撤回論文は、多くがSTAP細胞事件の前に書かれたものだが、事件後、科学界に相互批判ができる研究環境が広がっているのだろうか』、「撤回論文数が多い研究者のランキングのトップ6のうち4人が日本人だ。そして4人全員が医者だ」、「相互批判ができない医師特有の文化が影響している」、国際的な恥辱であり、何とかすべきだ。
・『大学・研究機関のずさんな対応 STAP細胞事件では、理化学研究所(理研)は対応のまずさを厳しく批判されていた。しかし、このことが、STAP細胞事件のような大事件が起こったのは理研だったからという誤った認識につながってしまったのではないか。 しかし、研究不正の事例を適切に扱えないのは理研だけではない。 たとえば弘前大学の元教授の研究不正の事例では、不正論文の共著者に現学長らが入っていた。しかし弘前大学は、学長は論文に名前を掲載されただけで研究に関わっていなかったからと、とくに処分を科さなかった。 研究に関わっていないにもかかわらず論文の著者になることは、ギフトオーサーシップ(注)と言われる不適切行為だ。不適切行為を行なったから処分されないとは理解に苦しむ。 東京大学の事例では、匿名の告発者が分子細胞生物学研究所(分生研;当時)の研究者と医学部に所属する研究者の論文におかしなところがあると大学当局に訴えた。1年ほどの調査期間を経て出された結論は、分生研の研究者のみ研究不正が認められ、医学部の研究者は研究不正ではないと認定された。 匿名の告発者の告発文はネット上にも公開されているが、読むと分生研と医学部の論文のおかしな部分に差がないように思われた。しかし、結論は明確に分かれた。 報道機関が情報公開法を通じて入手した非公開資料を見せていただいたところ、医学部では論文の結論に影響がないから、不適切なグラフなどがあっても研究不正ではないとされていた。 これでは、STAP現象が再現できれば研究不正ではないという考えと同じではないか。呆れてものが言えなかった。 このような研究機関のずさんな対応は枚挙にいとまがない。 集団で研究不正の疑いがかけられたケースでは、調査に対して正直に話した研究者処分され、ダンマリを決め込んだ研究者は 処分から免れたという。 ある大学では、研究不正の疑いを大学当局に訴えた研究者が、逆に大学から不適切な行為をしたとして処分された。 世界的な科学雑誌ネイチャーは、日本の研究機関の研究不正に対する対応のまずさを厳しく批判している』、「研究機関のずさんな対応は枚挙にいとまがない」、どうも自浄作用は期待できそうもなさそうだ。
(注)ギフトオーサーシップ:名誉著者、研究に意義ある貢献を何らしていないにもかかわらず、研究が行われた学部の学部長などを著者とすること(Editage Insight)。
・『何も学ばなかった科学界 ほかにも、利益相反の問題など、STAP細胞事件があらわにした問題で手付かずのものがある。これらも含め、STAP細胞事件で明らかになった課題はまったく解決していない。 研究者たちの意識も変わっていない。 私はSTAP細胞事件後、様々な大学や研究機関、学会などで、健全な研究を行っていくために何をすべきか講演行脚をしているが、よく聞くのが、一部のけしからん輩のために、まっとうな研究者が迷惑をしているという、いわば被害者意識の吐露だ。 しかし、最近日本人研究者や日本人医師が、留学先で行った行為を研究不正とみなされ、処分される事例が相次いでいる。日本では当たり前に行っていた行為が研究不正と認定されてしまうのだ。 その背景には、医師を中心に、どのような行為が不適切な行為なのかといった基礎的な知識が身についていないことや、研究不正を他人事と考えて、自らの行為を見つめなおさないことから来ていると言える。 このように誰しも研究不正や不適切な行為を行う可能性があるのだが、当事者意識を持つ研究者が多くないのは、研究不正を特異な個人が起こす問題だということを強く印象づけてしまったSTAP細胞事件の負の遺産だと言わざるを得ない。 研究機関も研究者も科学界も、そして行政も、STAP細胞事件から何も学んでいないのだ』、「最近日本人研究者や日本人医師が、留学先で行った行為を研究不正とみなされ、処分される事例が相次いでいる。日本では当たり前に行っていた行為が研究不正と認定されてしまうのだ」、「その背景には、医師を中心に、どのような行為が不適切な行為なのかといった基礎的な知識が身についていないことや、研究不正を他人事と考えて、自らの行為を見つめなおさないことから来ている」、誠に恥ずかしいことだ。
・『「研究公正」を科学技術政策の中心に 正直なところ、大学や研究機関も、そして研究者の多くも、研究不正対策を「負のコスト」と考え、研究不正対策に時間も人員も金も割きたくないと考えているだろう。 その意識は、大学や研究機関のなかにも、研究不正を取り扱う専門の部署がないことにも透けて見える。担当者は他の仕事と兼任しており、人事異動でいつ担当者が変わるか分からない。) 政府の対応も及び腰にみえる。 いま日本には、アメリカやヨーロッパの一部の国のように、研究不正の事例を取り扱い、健全な研究の発展のために何をすべきかを考える機関がない。政府は学問の自由を尊重するために、対応を各研究機関に任せているという。 もちろん日本も何もしていないわけではなく、文部科学省(文科省)の科学技術・学術政策局人材政策課には研究公正推進室がある。研究資金を配分する機関にも、研究不正を取り扱う部署がある。 しかし、文科省の部署が「室」であるように、諸外国に比べてヒトカネとも不足している。数年ごとの人事異動で職員が変わるような状況だ。諸外国からみれば、日本の現状を誰に聞けばよいのかすら分からない状況だという。 誰も本腰を入れて関わりたくないという真空状態。それが行き着く先が研究不正の隠蔽だ。研究不正の事例を正直に公開すれば、STAP細胞事件で矢面にたたされた理研のように、徹底的に叩かれてしまうかもしれない。だったらなかったことにしてしまったほうが、研究機関にとっても研究者にとっても都合がよいとなる。 これでは日本の「研究力」の低下もやむなしだろう。意味のないずさんな研究を行ったほうが論文をどんどん出せるし、地位も確保できるのだ。もちろん素晴らしい研究を行なっている研究者がいるのは知っているが、悪貨は良貨を駆逐するだ。実力のない研究者が居座り続ける限り、研究力が上がりようがない。 政府や科学界は気がついているだろうか。研究不正を含めたずさんな研究を行なっている国の研究者を好んで受け入れる国などないということを。ずさんな研究をする国の研究者と共同研究を行いたいと思う研究者など多くないことを。ずさんな研究者教育を行なっている国に留学生など送り込みたくないということを。ずさんな研究がどれほど国益を損なうかということを。 だからこそ、単に研究不正に対処するだけでなく、健全な研究を行う環境を作ることを国も科学界も強力に推進しなければならない。研究不正を超えて健全な研究を推進する環境、「研究公正」を推進する環境を実現し維持していくことは、日本の科学技術政策の中心に置かなければならないのだ。 STAP細胞事件から5年。陰謀論も喧騒も去った今だからこそ、あの事件を冷静に振り返り、教訓をこれからの科学技術のあり方に生かしていくことが求められていると言えるだろう』、「研究不正」の問題こそ、学術会議が取上げるべき格好のテーマなのではなかろうか。
次に、本年10月16日付けNewsweek日本版「日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2020/10/post-94727_1.php
・『<日本で科学の危機が叫ばれて久しいが、海外経験豊富な研究者たちはどう捉えているのか。4人の日本人科学者に集まってもらい、「選択と集中」など日本の科学界の問題点、欧米との絶望的な格差、あるべき研究費の使い方について語ってもらった。本誌「科学後退国ニッポン」特集より> 日本は「科学後進国」なのか。日本の研究・教育環境と海外との違い、そこから見える問題点と解決策とは。 アメリカやイギリスの一流大学や研究所で勤務経験があり、現在は東京大学や東京工業大学で助教、准教授として働く30代後半の研究者、仮名「ダーウィン」「ニュートン」「エジソン」と、国内の大学で学長経験もある大御所研究者「ガリレオ」の計4人に、覆面座談会で忌憚なく語ってもらった。(収録は9月25日、構成は本誌編集部。本記事は「科学後退国ニッポン」特集掲載の座談会記事の拡大版・前編です)』、第一線の「研究者」などによる「覆面座談会」とは面白そうだ。
・『日本は「科学後進国」か否か ダーウィン 僕の専門分野である情報学の一分野では、そもそも先進国であったことすらないですね。 ニュートン 私の所属する化学の領域ではまだ日本はトップグループをなんとか維持しているけど、中国などに猛烈に追い上げられている状態。 エジソン 「後進国」かどうかは分からないが、材料科学分野でも右肩下がり。若い人がポスドク(博士号取得後の研究員)に残らないことが最大の問題。昔は自由度が高くて先生たちが好きなことをやっていて、若い人にいいなと思わせるものがあったが......。 ガリレオ 昔は昼休みにテニスなんかやってね。給料は安いかもしれないけど先生稼業っていいなと思われていた。今はとにかく(大学法人化後の過大な事務負担で)忙し過ぎる。研究の余裕もない。 例えばノーベル物理学賞を受賞した赤﨑勇・名城大学終身教授のような青色発光ダイオード(LED)の研究はアメリカでは絶対できないと羨ましがられた。当初、(発光に必要な)窒化ガリウムの論文の数は地をはうような少なさだったのに、海のものとも山のものともつかない物質を信じてやる赤﨑先生のような人がいて、そこに国がちゃんと金を出した。それが日本のいいところだった。 ニュートン 官僚を目指していた頃に科学政策について勉強したけど、昔の一番いいところは、要はバラマキがあった。額は大きくはないが均等分配。物になるかは分からない研究にも税金が使われ、研究者は長い目で研究ができた。その成果がノーベル賞につながっているという歴史があるでも目先の成果主義が始まり、答えが見つかりそうなものにしかお金を出さないようになった』、「青色発光ダイオード(LED)の研究はアメリカでは絶対できないと羨ましがられた」、かつての文科省の「均等分配」がカギになったようだ。現在の配分方式では予算がつかず、「研究」出来なかった可能性もあったようだ。
・『「自分を雇えない」博士 ガリレオ アメリカでも昔は結構成果主義的なところがあった。それでもまき餌のように少額のお金をばらまいてあまり目先の成果を問わないという政策を始めてからうまくいった。 それに欧米では先生も必死に企業から金を取ってくる一方、企業も比較的基礎研究に近いところに金を出す文化がある。企業と大学のやるべきところの境目がはっきりしている。自分たちのできない基礎的なところに金を出します、という文化が海外企業にはあると思う。 エジソン OBや会社から大学へ大きな寄付が落ちてきて、先生たちに分配しますよね。研究費に関して日本と全く違うのが、基本的に半分くらい人件費であること。日本の場合、人を雇うことが前提となっていない。 ダーウィン まず自分を雇えない。 エジソン そこはポイントですね。アメリカの教授は大学からのお金もあるが、外から取ってきたお金で自分に給料を払い研究費にも使う。そしてポスドクや学生にも給料と授業料を払う。逆に言うと仕事してもらわなきゃいけないからクビも切れる。 ニュートン イギリスも似た感じですね。だから学生にも成果に対するプレッシャーがある程度ある』、「アメリカ」での「研究費」には教授の人件費も含まれるが、日本では含まれないようだ。
・『海外とのすさまじい格差 ダーウィン アメリカの一流大には世界中から優秀な人が来る。多くは就業経験、社会人経験があり、もっと深いことやりたい、もっとお金が欲しい、良いポジションに就きたい、という思いで良い大学の博士号を取りに来る。そういう人たちが基本的に「仕事」として最低限のお金をもらって研究する。だから日本と心構えがまず違う。必死で働く。 ニュートン 博士号を取れば、その先にベターな職環境に行けるという確信と現実がありますよね。日本は博士号を取ったことのデメリットが強調される。社会が受け皿として博士の高度な専門性を利用せず、博士課程に行くハードルを高くしている。 ダーウィン アメリカのいい大学を学部や修士で出てグーグルやフェイスブックに入ると、初年度からもろもろ込みで年収1500万円ぐらい。博士課程を終えてからだと3000万は欲しいよね、という感じ。それもあり博士号を目指す人が大勢いる。 ニュートン 私は教員6年目だが、給料1500万円なんてあり得ない(笑)。私がイギリスにいたときのポスドクへの最高支給額は年間1100万円ぐらいで、それは欧州委員会が世界中から研究者を集めるための奨学金システムから出ていた。ドイツやイギリスの似たようなプログラムでも700~800万円はもらえる。 一方、日本の日本学術振興会の海外特別研究員という制度は450~600万円ぐらい(渡航地域の物価による)。更に酷いのは(海外ポスドクは所得税を引かれない場合もあり)海外ポスドクより帰国して教員になる方が給料が減ること! 日本では博士号のブランドがあまりに低過ぎて、興味のため多くを捨て、「夢のために頑張る」という自己犠牲に耐え得る人ばかりになってしまった』、「日本は博士号を取ったことのデメリットが強調される。社会が受け皿として博士の高度な専門性を利用せず、博士課程に行くハードルを高くしている」、これは企業にとって「博士」が使いづらいためなのだろう。
・『日本の博士はポンコツか ガリレオ おっしゃる通りで、あまりに海外と日本は違うのでどうしたらいいか、なかなか思いつかない。私の所属学会では企業側に、博士課程に進んだ人をリスペクトして積極的に雇用してほしいと言ってきた。でも「日本の博士は使えない」と返ってくる。 いつクビになるか分からないなか、大学から雇われて死に物狂いで研究をやる欧米と、自分で学費を払って「お客様扱い」の日本とでは全然真剣度が違う、と。日本でも、ちゃんと成果を出している学生はいるんだけどね。) エジソン すごく耳が痛い話ですね。日本で博士号を取って企業に行く人に優秀な人が少ないのは事実。われわれ大学人も出来上がっていない状態の人間を外に出しちゃうことが当たり前の状態。旧帝大レベルでもそういう「ポンコツ」がいっぱいいる。 ニュートン つまり大学院重点化の「ポスドク1万人支援計画」は間違いだった。アメリカと比べ博士号保持者が少ないから増やそうとして、優秀じゃない人も大学院に行くようになった。 修士で就職出来なかった人も「ネガドク」(ネガティブ・ドクター)で博士課程に行くようになった。優秀じゃない人が残るシステムになっている。企業からすると、優秀でない人を押し付けられている感じになる。 エジソン ひどいのは社会人博士。3年間毎年53万円払えば博士号を取れる。下手したら指導教官に論文を書かせて博士の肩書だけもらえる。教授の判断で短縮卒業だって可能。 ニュートン 企業内で表には出なかった研究で、1日も研究室に通わなくても博士号を取得できちゃう。日本の博士号は今や150万円で買える。日本の大学は博士号の授与という唯一の特権の使い方を間違い、博士号を安売りし、そして結果的に自らの首を絞めている。 ダーウィン それがあるから学歴ロンダリングなどと言われる。大学を出るのが難しかったらロンダリングもなにもない。つまり日本はプロフェッショナリズムとプロに対する敬意がない。 今の話にあるような学生は教員が受け入れなければ良いわけで、まず教員の質が低く、プロではない。アメリカのテニュア(終身雇用)制度だと、大学のポストに応募して厳しい競争を勝ち抜くと教員になり、自分の研究室を持つ。最初に与えられるのは7年間の任期付きのポジションで、これはテニュア・トラックと呼ばれる。 この間に結果を残してテニュアになれないとクビなので、すさまじい勢いで研究する。「パブリッシュ・オア・ペリッシュ」、つまり「論文を出版、さもなくば死」、と言われるぐらい。お金の話をすると、あるアメリカの一流私立大学の学費は学生1人で500万円ぐらい。給料も500万円。 それらと諸経費合わせると、1人の博士課程学生に年間1300万円ぐらいかかる。そういう人を5~7年雇わなきゃいけないので、1人の博士号を出すのに、8000万円ぐらいが必要。給料も払うので、研究室の力にならない学生を採るなんて1000%あり得ない。 ニュートン 教員になれれば良い生活が待っているのでプライドを持って頑張るんですよね? 日本の現状とは真逆に思えてしまいます。 ダーウィン そうでしょうね。僕が知る限り、給料は企業には及ばないものの十分裕福と言えると思います。また、もちろん額は採用時などに交渉できるはずですね。 ニュートン 日本は採用されたときに初めて給料などを教えられる。それもありえないですよね。プロへの敬意がない。 ダーウィン 自分がどんな仕事をすることを期待されているかも、着任するまで分からなかったりします。ジョブディスクリプション(職務が明記された書類)がない。やばくないですか? ガリレオ 文部科学省は制度だけ海外から持ってくるね。制度を導入したから社会人博士を出せとか、年間何人が目標だとか。だから失敗する』、「日本で博士号を取って企業に行く人に優秀な人が少ないのは事実」、これでは企業が敬遠するのもやむを得ないようだ。「ジョブディスクリプション・・・がない」、大学人は職務を自ら決めるので、ないのが当たり前なのではなかろうか。
・『交付金減額でボロボロ ニュートン 社会人博士をなぜカネで買えてしまうか。海外から制度だけを持ってきてしまうということもあるが、根本的な違いは、海外は大学が資産運用などで資産を増やしており、お金持ちであることにあるのでは。 日本の大学は海外と違い税金中心で動いている。定員を埋めて博士号取得者を出さないと国からの補助金が減る。だから優秀だろうがなかろうが学生を入れるしかなく、人材の質の低下を生む。 ガリレオ その原因のひとつは寄付文化が日本にないこと。アメリカはそれが根付いており、税制上の優遇もある。成功したら母校に寄付するというカルチャーがある。 エジソン 2004年に国立大学が法人化して国からの運営費交付金がガクっと減らされて、お金の自由度が減った。ガリレオさんは法人化の前後を見られていると思いますが、どう思われますか。ちなみに昔は大学から研究室1つあたり年間400万円ぐらいは分配していたと思うが、今は私の研究室では20万円ほど......。 ダーウィン 僕の大学ではそれよりは多いです。ただ着任初年度は研究室開設の準備費用としては全く足りませんでした。 ガリレオ 運営費交付金減額はだんだんボディーブローのように効いてきているね。それに東大などメジャーな大学とそれ以外の差が非常に広がっている。地方大の教授だと年間10万円しかもらえないとか、信じられないことが起こっている。それが成功しそうなところばかりに金を投入する「選択と集中」だけど、悪い言葉だ』、確かに「選択と集中」は大学には馴染まないかも知れないが、他にメリハリをつける方法があるのだろうか。
・『「選択と集中」とオキアミ ニュートン 「選択と集中」は本当にダメですね。サイエンスの研究には大きな金が必要で、100万円、200万円はすぐ飛んでしまう。500万~600万円の機器を買うのも当たり前。海外では教員着任前に既に設備がそろっているが、日本ではお金を工面して買わなければいけない。お金が研究に回せない。 ガリレオ 大きな金を投下するには選択と集中は必要かもしれない。しかしやっぱり撒き餌も必要で、成功するかどうかわからない研究に、失敗してもいいからと、少額の金を幅広くばらまくべきだね。昔の運営費交付金はそうだったし、(審査によって交付を決める)科学研究費だって多くはそうすべき。 生態系と一緒で、まずオキアミがあって、それを食べてイワシ、クジラが育つ。オキアミには撒き餌を、クジラには選択と集中を、だ。ありとあらゆることに選択と集中と言って、わずかな金に「失敗したらいかんぞ」みたいなことを言うからダメなんだよ。 <2020年10月20日号「科学後退国ニッポン」特集より>』、なかなか難しい問題だ。
第三に、上記の続きを、10月16日付けNewsweek日本版「科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2020/10/post-94726_1.php
・『<どうすれば日本の科学界は復活できるのか。覆面座談会の後半では、教育コストを渋ることの致命的損失や足りない予算を調達する方法、「科学者」イメージを更新する必要性などについて語ってもらった・・・』、興味深そうだ。
・『「専門」への敬意を欠く日本 ガリレオ 海外は実験を準備するスタッフなども充実しているよね。日本では何でも教授自らがやらないと回らない。ヨーロッパでは、下支えしてくれるスタッフがすごく充実している。そこに計り知れない違いがある。 ダーウィン 結局日本はスタッフもプロじゃない。アメリカの大学では事務も専門職。MBA保持者もいるし、自分の仕事に誇りを持っている。 ガリレオ 日本は専任の大学職員であっても部署がどんどん変わるでしょう。アメリカはずっと同じ部署にいて、本当のプロが育っている。 エジソン 一方、日本の大学職員の仕事は研究、教育の他に雑用もある。例えば学生の担任や研究室運営、入学試験の問題作り、試験官の振り分けなど。あとは学内委員会ですね。安全衛生委員会とか。こんなのまで俺たちがやるかっていう(笑)。 ニュートン 大学院重点化前には、ラボ1つに教授1人/助教授2人/助手3人が標準的で、助手3人がスタッフ的役割をしていたというのが私の理解。最前線でラボを支えていたのは助手だった。それが重点化によって、1人/1人/1人や1人/0人/1人、1人/0人/0人も当たり前になった。教員1人だけで全部やらないといけないラボもあり本当に忙しい。 なぜそうなったかというと、重点化に対して予算増がなかったから。人件費を増やさず、元々いた教員を新しいラボに回した。そうしてラボ内教育が手薄になり、研究のレベルも下がり、企業からの信用度も下がった。 ガリレオ それは別の言い方をすると小講座制をやめて大講座制にしたということ。小講座制の悪いところは封建的になりがちなところ。例えば3人の助手が居たとして、1つの助教授ポストを得ようと理不尽なきつさに耐えなければいけない。 もうそういう時代じゃないだろうというので、権利を民主的に分かち合うために変えていったんだけど、研究という面ではまずいよね。 それにしても文部科学省の大学教育改革はみんな裏目に出ている気がする。教養部の廃止とか、大学院重点化とか、ポスドク1万人とか、大講座制化とか。学部に対する教養部のプライド、大学院に対する学部のプライド、研究室における助手のプライドをもっとその場その場でしっかり高めることを考えるべきだったと思う』、「アメリカの大学では事務も専門職。MBA保持者もいるし、自分の仕事に誇りを持っている」、潤沢な予算ゆえだろうが、驚かされた。「文部科学省の大学教育改革はみんな裏目に出ている気がする」、手厳しい批判だ。
・『失敗も質問も許さないカルチャー ガリレオ あと、もう1つアメリカとの違いは、失敗を許すかどうか。アメリカのベンチャーだって成功率は日本と変わらない。違うのは、アメリカでは投資家へのプレゼンでも失敗が勲章になり、失敗経験のない人はむしろ駄目なこと。日本は失敗を評価システムに組み込んでいない。 ニュートン 日本企業はいいとこ取りを狙い過ぎてリスクを背負わない。例えば製薬業界では、欧米のベンチャーや大手企業は、薬になるか分からない段階の研究にも夢を懸けて投資する。日本でそういう投資はまれ。 ダーウィン どこから変えるべきかといったら初等教育だと思う。子供の頃からいろいろなことに挑戦させて、結果は駄目でもチャレンジしたことは褒める。つまり過程が大事。そうでないとリスクを背負う人は出てこない。日本はそうした教育がない。 エジソン 評価の仕方ですよね。失敗は、駄目だということが分かったこと自体が「成功」ですから。それを知った人は、同じ轍を踏まない。 ガリレオ 日本ではなぜ?と質問するということにもすごい抵抗がある。例えば学会で質問するとき、大御所の発表に対して「純粋に知りたいから聞くんですけど」とわざわざ前置きしたりする。つまり本当にフラットに「Why(なぜ)」と聞くことがものすごく難しい。 これはすごくまずい。欧米では「なぜ」を探ることを楽しんでいるカルチャーを感じるのに......。 ダーウィン 先ほどチャレンジが評価されないと僕が言ったことと関係するのでは。間違った、バカみたいな質問をしたらどうしよう、と日本では感じてしまう。 アメリカではみんなファーストネームで呼び合うじゃないですか。学生も教授をファーストネームで呼ぶ。ほぼフラットみたいな感じで、その環境になったらWhyと言えるし、むしろなんで言わないんだと聞かれる。でも日本だとなんでそんなこと聞くんだ、と。雲泥の差だと思う』、「日本ではなぜ?と質問するということにもすごい抵抗がある」、確かに欧米からみると異常だ。「アメリカではみんなファーストネームで呼び合うじゃないですか。学生も教授をファーストネームで呼ぶ。ほぼフラットみたいな感じで、その環境になったらWhyと言えるし、むしろなんで言わないんだと聞かれる」、日本では教授は偉ぶっている人が多いのは確かだ。
・『教育にはコストがかかる ニュートン アメリカはちゃんと(日本の改革で次々廃止された)リベラルアーツ(一般教養)教育は残っていますよね? 教える専門の教員がいる。 エジソン そう。レクチャラーと呼ばれ、研究専門のリサーチプロフェッサーとリスペクトし合っている。両方やるフルプロフェッサーもいる。 ガリレオ アメリカでは教育専門の教授のほうが給料は高いと聞いた。 エジソン その通りです。 ガリレオ 研究専門は好きなことやっているのだから安月給でも我慢しろと。そういうかたちで教育プロパーの先生もちゃんとリスペクトされている。 しかし日本は研究をやっていて「ネイチャー」誌に論文を出すと偉くて、教室で100人相手に授業やっていると駄目だ、となる。多様性をなくしてしまって、一本の物差しで測ろうとする。これが全ての間違いだね。 エジソン ただ、アメリカで教育をやっているプロフェッサーは外からの稼ぎがあまりないから大学がちゃんと保証する一方、リサーチプロフェッサーは研究費を取ってきて自分に給料をペイできる、という事情もあります。 ガリレオ なるほど。 ニュートン イギリスもアメリカも教育はコストがかかるものという認識が浸透している。だが日本は教養学部廃止で研究が得意な人が教育もやらざるを得ない。しかも教育への評価はされにくく、教えることがおろそかになる。 ダーウィン そのことですが、日本の大学では誰かが決めたカリキュラムに沿って授業をあてがわれたりしませんか。新しい授業を開設するのが難しいのか最先端の授業も行ないづらく、進歩が早い分野ではどんどん時代遅れになるし、自分の専門でなかったりするとパッションも持ちづらい。 ニュートン そうした詳細が採用時には分かりにくい日本の人事制度はおかしい。何を期待され採用に至るのか明確でないのでミスマッチが起こり得る。学問的需要とは別に政治が絡むこともあるし。 ただ、採用前の教員の評価が難しいのも事実。欧米は「人物評価」で教員を採る。でも日本の場合クローズドじゃないですか。選考員5人ぐらいの前でプレゼンするぐらいで。基準が明確でない。日本は人事に関してはもっと人物を見るべきだと思う。 ダーウィン アメリカのトップ大学では朝から丸1日かけて教員一人一人と面接して評価される。学生も候補者と議論して採用担当教員に意見を言える。ランチやディナーも候補者は教員たちと一緒に取る。研究はもちろん、人としてどれだけ魅力的か見る。 エジソン 日本はそこまで労力かけないですよね。採用側もそういう能力はない。あらかじめ採用者が決まっている「デキ公募」もよくあるし。そういう公募で僕は今まで2回「当て馬」をやったことがある(笑)』、「アメリカでは教育専門の教授のほうが給料は高い」、「研究専門は好きなことやっているのだから安月給でも我慢しろと。そういうかたちで教育プロパーの先生もちゃんとリスペクトされている」、参考にな考え方だ。
・『インパクト・ファクターと大学教員の評価 エジソン でも教育者としてのどう評価するかは難しい。学生によって印象も違うだろうし。投資してでも守っていかなくてはいけないのが教育だが、評価がちゃんとできなくて適当になってしまっているのが今の日本。 私は教育と研究を分けて評価しないと駄目だと思う。研究基準で教育を語っても正当な評価はできない。教育関係の予算、組織を削って壊してしまったことは非常に損失が大きかったと思う。 ダーウィン 僕は研究も実は評価は難しいと思う。論文の数ではないし、実は価値でもない。なぜなら「今」その研究の本当の価値は分からない。今は誰もすごいと思っていなくても、5年後10年後に良い研究だったと分かることもあるわけで。 ニュートン 何が良い研究か、誰がどのように判断するのか。それを数値化しちゃったのが(科学雑誌の影響力を測る)インパクト・ファクター(IF)。 「ネイチャー」、「サイエンス」、「セル」クラスだとIFが大きくなるので、一般の人には分かりやすい。でもそういう雑誌に載った研究がどれほど重要なのかは時が経たないと分からない。載ったということは査読して審査した人が重要だと認めたという、その時点での判断でしかない。 エジソン 先ほど赤﨑先生の話が出たが、窒化ガリウム関係の初期の論文はアメリカでも日本でもIFが低い雑誌にしか載っていない。でも赤﨑さんはノーベル賞を取っている。もちろん良い雑誌に載せればみんなが読むかもしれないが、それが全てではない。 ガリレオ IFとはその雑誌に掲載された論文が引用された回数を掲載した論文数で割ったもの。それは確かに雑誌に対する1つの指標だけど、論文そのものの評価じゃない。 本当に論文を評価する目を持っていれば、IFはどうでも良い。ただわれわれは他分野に関してはそういう目がないので、IFに頼ってしまう。自分の評価能力のなさを外部の指標で補っている。 ニュートン 教員の採用にあたり、IFのような数値で人物を評価して良いのかという問題は常にある。しかし自信をもって判断できる人が大学の中にはいない。IFの総得点が何ポイントか、などで判断してしまう。対外的には説明はつくかもしれないが、本当に人を見ていることになるのか。 エジソン IFはよく足切りとしては使われますよね。落とすには理由がいるので、その理由にIFがなりうる。だから論文の共著者として名前を載せてもらうことが重要になる。学生の時、指導教授の忖度で自分のプロジェクトに知らない人の名前がずらずら載った時があった(笑)。 ニュートン 結局、研究者の経歴は「見てくれ」が重要なので、星(責任著者の印)が付いた論文の数で「武装」しろとはよく言われる』、結局、「評価」には決め手はないようだ。
・『被引用数の信頼度 エジソン 被引用数も評価されるには重要ですね。昇進するときに「お前が来ると(学部や研究科)全体の被引用数の平均が下がっちゃう」などと言われるので。そのためにどう武装するかというと、流行り物を研究して被引用数を稼ぐ。全然興味ないけどその研究やらざるを得ないということはある。 ダーウィン 被引用数は間違った使われ方をしていると思う。そもそも研究者がその分野に多かったら被引用数は増えるので、異なる分野の引用数を比べるのは意味がない。 学部・研究科の平均値なんて全くナンセンス。野球とサッカーを比べるようなもの。分野内で比べるのは一定の意味があると思うが、それでも良い論文の引用数が多くなるわけでは必ずしもない』、「異なる分野の引用数を比べるのは意味がない」、その通りだが、現実には誤用されているようだ。
・『財務省と政治家の罪 ニュートン 一方で日本はアメリカや世界を見習えという考えが強過ぎる。日本が世界でリードしていた部分が世界ではやらなくなったから捨てちゃうということが結構あるので、いま沈滞気味の分野にも一定のお金はまいておくべきじゃないのかな。 エジソン 半導体の世界などまさにそんな感じですよね。 ガリレオ 一つは(予算配分に決定権を持つ)財務省だよね。文科省の人は結構分かってくれるけど。財務省の人は半導体なんか中韓に任せたらいいじゃないですかなんて言う。世界の流れに乗ることしか考えていない。日本の本来の強みだとかここを伸ばすべきだとかいう考えはない。 ニュートン 財務省あたりのトップクラスの官僚は国家公務員試験の予備校で訓練を受けてきた人たちで、サイエンスをやって来た人間が入る余地はない。その弊害は大きい。 エジソン 科学技術専門の政治家も絶対必要ですね。国民のそういう認識をつくるための努力をわれわれ大学人はやらなきゃいけない』、「科学技術専門の政治家も絶対必要」、そこまでは必要ないと思う。
・『文系/理系という分け方の不毛 ガリレオ そもそも日本の文系理系という分け方が非常に気に入らない。下手したら中学生ぐらいから分けちゃっているでしょ? あれは不毛だよね。結局文系の官僚とか政治家が全くサイエンスを分からないのはそのへんでもう理系から離れてしまうから。 アメリカのハーバード大学だったら学部関係なしにこの200冊読めというリストがあって、物理をやる人間でもギリシャ哲学から『資本論』まで全部読ませる。そういう考え方が、まさに教養なんだけど、日本は全部捨て去ってしまった感じがするよね。アメリカでも文系理系はあるのだろうけど、日本から見て遥かに相互乗り入れしている気がする。) ニュートン そうですね。大学入試で文理を分けているので結局入試も改革する必要あると思う。 エジソン 大学からの(卒業・修了の)出口を狭めることはやったほうがいい。間口はいくらでも広げていいけど。大学は義務教育じゃなくて高等教育なので、ある程度のクオリティを持った人間しか出さないべきです。世界で日本だけじゃないですか、入口だけが狭くて、入れば出られてしまうのは』、「大学からの出口を狭めることはやったほうがいい」、同感だ。
・『学費は値上げするべき ニュートン 税金だけではなかなか金策は苦しい。こう言うと国民から抹殺されそうだけど、学費を上げるべきだと思う。でないと大学組織が死んでしまう。低所得層には裕福な人の学費を奨学金に充てればいい。 エジソン 寄付制度は必ず法律から変えていかなければいけないと思う。学費を返さなくていい制度や、教員が研究費から学費を投資して優秀な学生を育てられるようなシステムがあってもいいかも。 ニュートン 今の若手教員は大企業に就職するより確実に低い給料から始まる。そのギャップを埋めたい。 エジソン たしかに、医者の年収が500万円だったら誰もやらない。コストをかけてでも医学部に入って医者になれば回収できるからみんな血眼になる。同じことができればやったほうがいい。そこまで給料があればクビにできるシステムもあってもいい。プロ野球選手みたいにね』、この部分は意味不明だ。
・『湯川秀樹的イメージの罠 ニュートン 皆さんに聞きたいのですが、外国で普通の人にサイエンティストやドクターと名乗ったとき、クールだね、かっこいいねって言われませんでした? (一同うなずく) でも日本では例えば合コンなんかで女の子に「お勉強好きなのね」と言われたり、オタッキーなイメージ。それが「科学後進国」であることの一部なんじゃないのか。そのギャップを埋めるためにはどうすればいいか。 エジソン アメリカは例えば一般の人が「ネイチャー」とかをよく読んでいるイメージがある。だけど日本人って読まないよね。ギリギリ「ニュートン」ぐらいで。一般教養としてのサイエンスがちょっと足りないかなという気がする。 ニュートン 一般から見た優秀な研究者像≒湯川秀樹的というのも引っ掛かる。彼の自叙伝からも伝わる、コミュニケーションより研究を大切にする日本の科学者のイメージで、これは欧米と全然違う。そういうイメージからは脱皮したい。 われわれサイエンティストも一般の人に分かってほしいという欲を持つべきだと思う。でないと裾野が広がらない。サイエンスが分かる人で社会との橋渡しをしてくれる人材を官僚やマスコミなどにわれわれ科学者が積極的に送り出していかなければいけない。 ガリレオ まとめると、やっぱりマインドセットなのかな。科学は楽しいことをみんなに分かってもらう。そしてそういう人材が残ってくれるように、システムを変えていくことをやっていかなきゃいけない。 <2020年10月20日号「科学後退国ニッポン」特集より>』、「科学は楽しいことをみんなに分かってもらう。そしてそういう人材が残ってくれるように、システムを変えていくことをやっていかなきゃいけない」、その通りなのだろう。
先ずは、昨年11月27日付け現代ビジネスが掲載した病理専門医で科学・技術政策ウォッチャーの榎木 英介氏による「STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68646?imp=0
・『あのSTAP細胞事件の後も、多くの研究不正が明らかになっている。中には「史上最悪の研究不正」と言われるほどのケースも。一体なぜ不正はなくならないのか。『研究不正と歪んだ科学』編著者の榎木英介氏が警鐘を鳴らす。 夢の万能細胞と騒がれ、のちにその存在が否定されたSTAP細胞に関する事件、いわゆるSTAP細胞事件から、早くも5年以上の月日が経過した。 5年前、あれほど世間を揺るがした事件も、忘却の彼方に消え去ろうとしている。大学には事件そのものを知らない学生も増えているという。 それは私たちとて似たようなものだ。STAP細胞事件は、号泣県議や佐村河内事件など当時世間を騒がせたネタの一つに過ぎず、令和になった今、平成に起こった一つの事件として振り返ることがせいぜいだ。 しかし、STAP細胞事件があらわにした、日本の研究が抱える様々な問題は、実は何も解決していない。 いったい研究の現場で何が起こっているのか』、「日本の研究が抱える様々な問題は、実は何も解決していない」、とは驚かされた。
・『史上最悪の研究不正 STAP細胞事件を「世界三大研究不正事件」と呼ぶ声がある。 研究不正とは、狭義には存在しないデータを作る捏造、データを加工する改ざん、他の研究者のアイディアや文章などを許可や表示なく流用する盗用の3つの行為を指す。STAP細胞に関する論文には、この3つが含まれていた。 たしかに報道の量だけをみれば、少なくとも日本国内では、研究不正の事件としてはダントツだろう。 しかし、私はこれに全く同意しない) 史上最悪とさえ呼ばれる日本の研究者が起こした事件が、今世界を震撼させている。それは、元弘前大学教授で医師のS氏が起こした事件だ。 ・元弘前大学医学部所属教員による研究活動上の不正行為(捏造・改ざん・盗用)の認定について(文部科学省) http://www.mext.go.jp/a_menu/jinzai/fusei/1404087.htm ・研究活動の不正行為に関する調査結果について(弘前大学)https://www.hirosaki-u.ac.jp/30242.html S氏は骨粗鬆症などの専門家で、論文の多くが患者の治療ガイドラインに取り入れられるなど、影響力があった。 ところが、やったとされる臨床研究が実際は行われていないなど、論文に多くの研究不正が見つかった。その他不適切な行為も多数確認された。 2019年11月21日現在、撤回された論文数は実に87報に及ぶ。 撤回論文を除くと、患者の治療ガイドラインの結論が変わってしまうという。つまり、S氏の不適切な論文のために、患者が不適切な治療を受けていたことになる。患者への影響は計り知れない。 これは、発表後比較的短期間に撤回され、他の研究に引用されることがなかったSTAP細胞論文どころの話ではない。史上最悪の研究不正と言われるわけだ。 この事件は世界で最も影響力があるとされる科学雑誌サイエンスとネイチャーが共に誌面を割いて大きく取り上げたほどだ。 しかし、これほどの事件でありながら、日本国内ではほとんど報道されていない。STAP細胞に関係する報道の0.1%にも満たない報道量だろう。 なお、S氏は研究不正を追及され、自死したとされる。STAP細胞事件のときの笹井芳樹氏の自死を思い起こさせる。日本では責任の取りかたの一つとされる自死だが、残念ながら諸外国から批判されている。真相を明らかにすることなく死ぬことは、責任を取ったことにはならないと思われているのだ』、「元弘前大学教授で医師のS氏が起こした事件」、初めて知ったが、「患者の治療ガイドラインの結論が変わってしまう」、深刻な影響があったようだ。
・『世界中から懐疑的な目 研究不正を含めた不適切な論文の撤回を監視するサイト「論文撤回」によれば、S氏の撤回論文数87報は、個人別の論文撤回数ランキングの3位にあたる。それだけでも驚きであるが、もっと驚きなのは、撤回論文数ランキングの上位に日本人が多数入っていることだ。 このランキングのトップはF氏。日本人の麻酔科医だ。その撤回数は実に183報。当分記録は更新されないだろう。 第4位は元慶應義塾大学の研究者I氏の69報。実はI氏は元弘前大学のS氏の共同研究者だった。そして第6位のS氏(撤回論文数53報)は麻酔科医。トップのF氏とは、お互いの研究には無関係ながら、業績を水増しするために論文の著者になる協定を結んでいた。そのS氏だが、F氏の論文撤回に巻き込まれただけでなく、自身も研究不正を行なっていたのだ。 このように、撤回論文数が多い研究者のランキングのトップ6のうち4人が日本人だ。そして4人全員が医者だ。 撤回論文数ランキングをさらに見ていくと、11位に東大教授だった医師ではない研究者のK氏が(撤回論文数40報)、14位に医師のM氏(撤回論文数32報)がランクインしている。M氏は研究不正が認定され、研究費の受給停止処分を受けているが、地位保全の処分を裁判所から勝ち取り、いまだ某大学の現役教授のままだ。 このように、日本人の医師を中心とする研究者が、研究不正や不適切な行為による論文撤回を繰り返しており、世界中に恥をさらしている。 なぜ医師が研究不正や不適切な行為による論文を作り続けることができたのか。 それには相互批判ができない医師特有の文化が影響している。上意下達が徹底し、学閥や診療科による分断が進む医師の世界では、たとえおかしな行為が行われているのを知ったとしても、簡単には批判ができない。 思えばSTAP細胞の研究も医師が関わり、秘密裏に行われ、批判を受けることがなかった。チームリーダーなどある程度の地位に就いた研究者を他の研究者が批判しにくいという環境もあった。 上述の撤回論文は、多くがSTAP細胞事件の前に書かれたものだが、事件後、科学界に相互批判ができる研究環境が広がっているのだろうか』、「撤回論文数が多い研究者のランキングのトップ6のうち4人が日本人だ。そして4人全員が医者だ」、「相互批判ができない医師特有の文化が影響している」、国際的な恥辱であり、何とかすべきだ。
・『大学・研究機関のずさんな対応 STAP細胞事件では、理化学研究所(理研)は対応のまずさを厳しく批判されていた。しかし、このことが、STAP細胞事件のような大事件が起こったのは理研だったからという誤った認識につながってしまったのではないか。 しかし、研究不正の事例を適切に扱えないのは理研だけではない。 たとえば弘前大学の元教授の研究不正の事例では、不正論文の共著者に現学長らが入っていた。しかし弘前大学は、学長は論文に名前を掲載されただけで研究に関わっていなかったからと、とくに処分を科さなかった。 研究に関わっていないにもかかわらず論文の著者になることは、ギフトオーサーシップ(注)と言われる不適切行為だ。不適切行為を行なったから処分されないとは理解に苦しむ。 東京大学の事例では、匿名の告発者が分子細胞生物学研究所(分生研;当時)の研究者と医学部に所属する研究者の論文におかしなところがあると大学当局に訴えた。1年ほどの調査期間を経て出された結論は、分生研の研究者のみ研究不正が認められ、医学部の研究者は研究不正ではないと認定された。 匿名の告発者の告発文はネット上にも公開されているが、読むと分生研と医学部の論文のおかしな部分に差がないように思われた。しかし、結論は明確に分かれた。 報道機関が情報公開法を通じて入手した非公開資料を見せていただいたところ、医学部では論文の結論に影響がないから、不適切なグラフなどがあっても研究不正ではないとされていた。 これでは、STAP現象が再現できれば研究不正ではないという考えと同じではないか。呆れてものが言えなかった。 このような研究機関のずさんな対応は枚挙にいとまがない。 集団で研究不正の疑いがかけられたケースでは、調査に対して正直に話した研究者処分され、ダンマリを決め込んだ研究者は 処分から免れたという。 ある大学では、研究不正の疑いを大学当局に訴えた研究者が、逆に大学から不適切な行為をしたとして処分された。 世界的な科学雑誌ネイチャーは、日本の研究機関の研究不正に対する対応のまずさを厳しく批判している』、「研究機関のずさんな対応は枚挙にいとまがない」、どうも自浄作用は期待できそうもなさそうだ。
(注)ギフトオーサーシップ:名誉著者、研究に意義ある貢献を何らしていないにもかかわらず、研究が行われた学部の学部長などを著者とすること(Editage Insight)。
・『何も学ばなかった科学界 ほかにも、利益相反の問題など、STAP細胞事件があらわにした問題で手付かずのものがある。これらも含め、STAP細胞事件で明らかになった課題はまったく解決していない。 研究者たちの意識も変わっていない。 私はSTAP細胞事件後、様々な大学や研究機関、学会などで、健全な研究を行っていくために何をすべきか講演行脚をしているが、よく聞くのが、一部のけしからん輩のために、まっとうな研究者が迷惑をしているという、いわば被害者意識の吐露だ。 しかし、最近日本人研究者や日本人医師が、留学先で行った行為を研究不正とみなされ、処分される事例が相次いでいる。日本では当たり前に行っていた行為が研究不正と認定されてしまうのだ。 その背景には、医師を中心に、どのような行為が不適切な行為なのかといった基礎的な知識が身についていないことや、研究不正を他人事と考えて、自らの行為を見つめなおさないことから来ていると言える。 このように誰しも研究不正や不適切な行為を行う可能性があるのだが、当事者意識を持つ研究者が多くないのは、研究不正を特異な個人が起こす問題だということを強く印象づけてしまったSTAP細胞事件の負の遺産だと言わざるを得ない。 研究機関も研究者も科学界も、そして行政も、STAP細胞事件から何も学んでいないのだ』、「最近日本人研究者や日本人医師が、留学先で行った行為を研究不正とみなされ、処分される事例が相次いでいる。日本では当たり前に行っていた行為が研究不正と認定されてしまうのだ」、「その背景には、医師を中心に、どのような行為が不適切な行為なのかといった基礎的な知識が身についていないことや、研究不正を他人事と考えて、自らの行為を見つめなおさないことから来ている」、誠に恥ずかしいことだ。
・『「研究公正」を科学技術政策の中心に 正直なところ、大学や研究機関も、そして研究者の多くも、研究不正対策を「負のコスト」と考え、研究不正対策に時間も人員も金も割きたくないと考えているだろう。 その意識は、大学や研究機関のなかにも、研究不正を取り扱う専門の部署がないことにも透けて見える。担当者は他の仕事と兼任しており、人事異動でいつ担当者が変わるか分からない。) 政府の対応も及び腰にみえる。 いま日本には、アメリカやヨーロッパの一部の国のように、研究不正の事例を取り扱い、健全な研究の発展のために何をすべきかを考える機関がない。政府は学問の自由を尊重するために、対応を各研究機関に任せているという。 もちろん日本も何もしていないわけではなく、文部科学省(文科省)の科学技術・学術政策局人材政策課には研究公正推進室がある。研究資金を配分する機関にも、研究不正を取り扱う部署がある。 しかし、文科省の部署が「室」であるように、諸外国に比べてヒトカネとも不足している。数年ごとの人事異動で職員が変わるような状況だ。諸外国からみれば、日本の現状を誰に聞けばよいのかすら分からない状況だという。 誰も本腰を入れて関わりたくないという真空状態。それが行き着く先が研究不正の隠蔽だ。研究不正の事例を正直に公開すれば、STAP細胞事件で矢面にたたされた理研のように、徹底的に叩かれてしまうかもしれない。だったらなかったことにしてしまったほうが、研究機関にとっても研究者にとっても都合がよいとなる。 これでは日本の「研究力」の低下もやむなしだろう。意味のないずさんな研究を行ったほうが論文をどんどん出せるし、地位も確保できるのだ。もちろん素晴らしい研究を行なっている研究者がいるのは知っているが、悪貨は良貨を駆逐するだ。実力のない研究者が居座り続ける限り、研究力が上がりようがない。 政府や科学界は気がついているだろうか。研究不正を含めたずさんな研究を行なっている国の研究者を好んで受け入れる国などないということを。ずさんな研究をする国の研究者と共同研究を行いたいと思う研究者など多くないことを。ずさんな研究者教育を行なっている国に留学生など送り込みたくないということを。ずさんな研究がどれほど国益を損なうかということを。 だからこそ、単に研究不正に対処するだけでなく、健全な研究を行う環境を作ることを国も科学界も強力に推進しなければならない。研究不正を超えて健全な研究を推進する環境、「研究公正」を推進する環境を実現し維持していくことは、日本の科学技術政策の中心に置かなければならないのだ。 STAP細胞事件から5年。陰謀論も喧騒も去った今だからこそ、あの事件を冷静に振り返り、教訓をこれからの科学技術のあり方に生かしていくことが求められていると言えるだろう』、「研究不正」の問題こそ、学術会議が取上げるべき格好のテーマなのではなかろうか。
次に、本年10月16日付けNewsweek日本版「日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2020/10/post-94727_1.php
・『<日本で科学の危機が叫ばれて久しいが、海外経験豊富な研究者たちはどう捉えているのか。4人の日本人科学者に集まってもらい、「選択と集中」など日本の科学界の問題点、欧米との絶望的な格差、あるべき研究費の使い方について語ってもらった。本誌「科学後退国ニッポン」特集より> 日本は「科学後進国」なのか。日本の研究・教育環境と海外との違い、そこから見える問題点と解決策とは。 アメリカやイギリスの一流大学や研究所で勤務経験があり、現在は東京大学や東京工業大学で助教、准教授として働く30代後半の研究者、仮名「ダーウィン」「ニュートン」「エジソン」と、国内の大学で学長経験もある大御所研究者「ガリレオ」の計4人に、覆面座談会で忌憚なく語ってもらった。(収録は9月25日、構成は本誌編集部。本記事は「科学後退国ニッポン」特集掲載の座談会記事の拡大版・前編です)』、第一線の「研究者」などによる「覆面座談会」とは面白そうだ。
・『日本は「科学後進国」か否か ダーウィン 僕の専門分野である情報学の一分野では、そもそも先進国であったことすらないですね。 ニュートン 私の所属する化学の領域ではまだ日本はトップグループをなんとか維持しているけど、中国などに猛烈に追い上げられている状態。 エジソン 「後進国」かどうかは分からないが、材料科学分野でも右肩下がり。若い人がポスドク(博士号取得後の研究員)に残らないことが最大の問題。昔は自由度が高くて先生たちが好きなことをやっていて、若い人にいいなと思わせるものがあったが......。 ガリレオ 昔は昼休みにテニスなんかやってね。給料は安いかもしれないけど先生稼業っていいなと思われていた。今はとにかく(大学法人化後の過大な事務負担で)忙し過ぎる。研究の余裕もない。 例えばノーベル物理学賞を受賞した赤﨑勇・名城大学終身教授のような青色発光ダイオード(LED)の研究はアメリカでは絶対できないと羨ましがられた。当初、(発光に必要な)窒化ガリウムの論文の数は地をはうような少なさだったのに、海のものとも山のものともつかない物質を信じてやる赤﨑先生のような人がいて、そこに国がちゃんと金を出した。それが日本のいいところだった。 ニュートン 官僚を目指していた頃に科学政策について勉強したけど、昔の一番いいところは、要はバラマキがあった。額は大きくはないが均等分配。物になるかは分からない研究にも税金が使われ、研究者は長い目で研究ができた。その成果がノーベル賞につながっているという歴史があるでも目先の成果主義が始まり、答えが見つかりそうなものにしかお金を出さないようになった』、「青色発光ダイオード(LED)の研究はアメリカでは絶対できないと羨ましがられた」、かつての文科省の「均等分配」がカギになったようだ。現在の配分方式では予算がつかず、「研究」出来なかった可能性もあったようだ。
・『「自分を雇えない」博士 ガリレオ アメリカでも昔は結構成果主義的なところがあった。それでもまき餌のように少額のお金をばらまいてあまり目先の成果を問わないという政策を始めてからうまくいった。 それに欧米では先生も必死に企業から金を取ってくる一方、企業も比較的基礎研究に近いところに金を出す文化がある。企業と大学のやるべきところの境目がはっきりしている。自分たちのできない基礎的なところに金を出します、という文化が海外企業にはあると思う。 エジソン OBや会社から大学へ大きな寄付が落ちてきて、先生たちに分配しますよね。研究費に関して日本と全く違うのが、基本的に半分くらい人件費であること。日本の場合、人を雇うことが前提となっていない。 ダーウィン まず自分を雇えない。 エジソン そこはポイントですね。アメリカの教授は大学からのお金もあるが、外から取ってきたお金で自分に給料を払い研究費にも使う。そしてポスドクや学生にも給料と授業料を払う。逆に言うと仕事してもらわなきゃいけないからクビも切れる。 ニュートン イギリスも似た感じですね。だから学生にも成果に対するプレッシャーがある程度ある』、「アメリカ」での「研究費」には教授の人件費も含まれるが、日本では含まれないようだ。
・『海外とのすさまじい格差 ダーウィン アメリカの一流大には世界中から優秀な人が来る。多くは就業経験、社会人経験があり、もっと深いことやりたい、もっとお金が欲しい、良いポジションに就きたい、という思いで良い大学の博士号を取りに来る。そういう人たちが基本的に「仕事」として最低限のお金をもらって研究する。だから日本と心構えがまず違う。必死で働く。 ニュートン 博士号を取れば、その先にベターな職環境に行けるという確信と現実がありますよね。日本は博士号を取ったことのデメリットが強調される。社会が受け皿として博士の高度な専門性を利用せず、博士課程に行くハードルを高くしている。 ダーウィン アメリカのいい大学を学部や修士で出てグーグルやフェイスブックに入ると、初年度からもろもろ込みで年収1500万円ぐらい。博士課程を終えてからだと3000万は欲しいよね、という感じ。それもあり博士号を目指す人が大勢いる。 ニュートン 私は教員6年目だが、給料1500万円なんてあり得ない(笑)。私がイギリスにいたときのポスドクへの最高支給額は年間1100万円ぐらいで、それは欧州委員会が世界中から研究者を集めるための奨学金システムから出ていた。ドイツやイギリスの似たようなプログラムでも700~800万円はもらえる。 一方、日本の日本学術振興会の海外特別研究員という制度は450~600万円ぐらい(渡航地域の物価による)。更に酷いのは(海外ポスドクは所得税を引かれない場合もあり)海外ポスドクより帰国して教員になる方が給料が減ること! 日本では博士号のブランドがあまりに低過ぎて、興味のため多くを捨て、「夢のために頑張る」という自己犠牲に耐え得る人ばかりになってしまった』、「日本は博士号を取ったことのデメリットが強調される。社会が受け皿として博士の高度な専門性を利用せず、博士課程に行くハードルを高くしている」、これは企業にとって「博士」が使いづらいためなのだろう。
・『日本の博士はポンコツか ガリレオ おっしゃる通りで、あまりに海外と日本は違うのでどうしたらいいか、なかなか思いつかない。私の所属学会では企業側に、博士課程に進んだ人をリスペクトして積極的に雇用してほしいと言ってきた。でも「日本の博士は使えない」と返ってくる。 いつクビになるか分からないなか、大学から雇われて死に物狂いで研究をやる欧米と、自分で学費を払って「お客様扱い」の日本とでは全然真剣度が違う、と。日本でも、ちゃんと成果を出している学生はいるんだけどね。) エジソン すごく耳が痛い話ですね。日本で博士号を取って企業に行く人に優秀な人が少ないのは事実。われわれ大学人も出来上がっていない状態の人間を外に出しちゃうことが当たり前の状態。旧帝大レベルでもそういう「ポンコツ」がいっぱいいる。 ニュートン つまり大学院重点化の「ポスドク1万人支援計画」は間違いだった。アメリカと比べ博士号保持者が少ないから増やそうとして、優秀じゃない人も大学院に行くようになった。 修士で就職出来なかった人も「ネガドク」(ネガティブ・ドクター)で博士課程に行くようになった。優秀じゃない人が残るシステムになっている。企業からすると、優秀でない人を押し付けられている感じになる。 エジソン ひどいのは社会人博士。3年間毎年53万円払えば博士号を取れる。下手したら指導教官に論文を書かせて博士の肩書だけもらえる。教授の判断で短縮卒業だって可能。 ニュートン 企業内で表には出なかった研究で、1日も研究室に通わなくても博士号を取得できちゃう。日本の博士号は今や150万円で買える。日本の大学は博士号の授与という唯一の特権の使い方を間違い、博士号を安売りし、そして結果的に自らの首を絞めている。 ダーウィン それがあるから学歴ロンダリングなどと言われる。大学を出るのが難しかったらロンダリングもなにもない。つまり日本はプロフェッショナリズムとプロに対する敬意がない。 今の話にあるような学生は教員が受け入れなければ良いわけで、まず教員の質が低く、プロではない。アメリカのテニュア(終身雇用)制度だと、大学のポストに応募して厳しい競争を勝ち抜くと教員になり、自分の研究室を持つ。最初に与えられるのは7年間の任期付きのポジションで、これはテニュア・トラックと呼ばれる。 この間に結果を残してテニュアになれないとクビなので、すさまじい勢いで研究する。「パブリッシュ・オア・ペリッシュ」、つまり「論文を出版、さもなくば死」、と言われるぐらい。お金の話をすると、あるアメリカの一流私立大学の学費は学生1人で500万円ぐらい。給料も500万円。 それらと諸経費合わせると、1人の博士課程学生に年間1300万円ぐらいかかる。そういう人を5~7年雇わなきゃいけないので、1人の博士号を出すのに、8000万円ぐらいが必要。給料も払うので、研究室の力にならない学生を採るなんて1000%あり得ない。 ニュートン 教員になれれば良い生活が待っているのでプライドを持って頑張るんですよね? 日本の現状とは真逆に思えてしまいます。 ダーウィン そうでしょうね。僕が知る限り、給料は企業には及ばないものの十分裕福と言えると思います。また、もちろん額は採用時などに交渉できるはずですね。 ニュートン 日本は採用されたときに初めて給料などを教えられる。それもありえないですよね。プロへの敬意がない。 ダーウィン 自分がどんな仕事をすることを期待されているかも、着任するまで分からなかったりします。ジョブディスクリプション(職務が明記された書類)がない。やばくないですか? ガリレオ 文部科学省は制度だけ海外から持ってくるね。制度を導入したから社会人博士を出せとか、年間何人が目標だとか。だから失敗する』、「日本で博士号を取って企業に行く人に優秀な人が少ないのは事実」、これでは企業が敬遠するのもやむを得ないようだ。「ジョブディスクリプション・・・がない」、大学人は職務を自ら決めるので、ないのが当たり前なのではなかろうか。
・『交付金減額でボロボロ ニュートン 社会人博士をなぜカネで買えてしまうか。海外から制度だけを持ってきてしまうということもあるが、根本的な違いは、海外は大学が資産運用などで資産を増やしており、お金持ちであることにあるのでは。 日本の大学は海外と違い税金中心で動いている。定員を埋めて博士号取得者を出さないと国からの補助金が減る。だから優秀だろうがなかろうが学生を入れるしかなく、人材の質の低下を生む。 ガリレオ その原因のひとつは寄付文化が日本にないこと。アメリカはそれが根付いており、税制上の優遇もある。成功したら母校に寄付するというカルチャーがある。 エジソン 2004年に国立大学が法人化して国からの運営費交付金がガクっと減らされて、お金の自由度が減った。ガリレオさんは法人化の前後を見られていると思いますが、どう思われますか。ちなみに昔は大学から研究室1つあたり年間400万円ぐらいは分配していたと思うが、今は私の研究室では20万円ほど......。 ダーウィン 僕の大学ではそれよりは多いです。ただ着任初年度は研究室開設の準備費用としては全く足りませんでした。 ガリレオ 運営費交付金減額はだんだんボディーブローのように効いてきているね。それに東大などメジャーな大学とそれ以外の差が非常に広がっている。地方大の教授だと年間10万円しかもらえないとか、信じられないことが起こっている。それが成功しそうなところばかりに金を投入する「選択と集中」だけど、悪い言葉だ』、確かに「選択と集中」は大学には馴染まないかも知れないが、他にメリハリをつける方法があるのだろうか。
・『「選択と集中」とオキアミ ニュートン 「選択と集中」は本当にダメですね。サイエンスの研究には大きな金が必要で、100万円、200万円はすぐ飛んでしまう。500万~600万円の機器を買うのも当たり前。海外では教員着任前に既に設備がそろっているが、日本ではお金を工面して買わなければいけない。お金が研究に回せない。 ガリレオ 大きな金を投下するには選択と集中は必要かもしれない。しかしやっぱり撒き餌も必要で、成功するかどうかわからない研究に、失敗してもいいからと、少額の金を幅広くばらまくべきだね。昔の運営費交付金はそうだったし、(審査によって交付を決める)科学研究費だって多くはそうすべき。 生態系と一緒で、まずオキアミがあって、それを食べてイワシ、クジラが育つ。オキアミには撒き餌を、クジラには選択と集中を、だ。ありとあらゆることに選択と集中と言って、わずかな金に「失敗したらいかんぞ」みたいなことを言うからダメなんだよ。 <2020年10月20日号「科学後退国ニッポン」特集より>』、なかなか難しい問題だ。
第三に、上記の続きを、10月16日付けNewsweek日本版「科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/technology/2020/10/post-94726_1.php
・『<どうすれば日本の科学界は復活できるのか。覆面座談会の後半では、教育コストを渋ることの致命的損失や足りない予算を調達する方法、「科学者」イメージを更新する必要性などについて語ってもらった・・・』、興味深そうだ。
・『「専門」への敬意を欠く日本 ガリレオ 海外は実験を準備するスタッフなども充実しているよね。日本では何でも教授自らがやらないと回らない。ヨーロッパでは、下支えしてくれるスタッフがすごく充実している。そこに計り知れない違いがある。 ダーウィン 結局日本はスタッフもプロじゃない。アメリカの大学では事務も専門職。MBA保持者もいるし、自分の仕事に誇りを持っている。 ガリレオ 日本は専任の大学職員であっても部署がどんどん変わるでしょう。アメリカはずっと同じ部署にいて、本当のプロが育っている。 エジソン 一方、日本の大学職員の仕事は研究、教育の他に雑用もある。例えば学生の担任や研究室運営、入学試験の問題作り、試験官の振り分けなど。あとは学内委員会ですね。安全衛生委員会とか。こんなのまで俺たちがやるかっていう(笑)。 ニュートン 大学院重点化前には、ラボ1つに教授1人/助教授2人/助手3人が標準的で、助手3人がスタッフ的役割をしていたというのが私の理解。最前線でラボを支えていたのは助手だった。それが重点化によって、1人/1人/1人や1人/0人/1人、1人/0人/0人も当たり前になった。教員1人だけで全部やらないといけないラボもあり本当に忙しい。 なぜそうなったかというと、重点化に対して予算増がなかったから。人件費を増やさず、元々いた教員を新しいラボに回した。そうしてラボ内教育が手薄になり、研究のレベルも下がり、企業からの信用度も下がった。 ガリレオ それは別の言い方をすると小講座制をやめて大講座制にしたということ。小講座制の悪いところは封建的になりがちなところ。例えば3人の助手が居たとして、1つの助教授ポストを得ようと理不尽なきつさに耐えなければいけない。 もうそういう時代じゃないだろうというので、権利を民主的に分かち合うために変えていったんだけど、研究という面ではまずいよね。 それにしても文部科学省の大学教育改革はみんな裏目に出ている気がする。教養部の廃止とか、大学院重点化とか、ポスドク1万人とか、大講座制化とか。学部に対する教養部のプライド、大学院に対する学部のプライド、研究室における助手のプライドをもっとその場その場でしっかり高めることを考えるべきだったと思う』、「アメリカの大学では事務も専門職。MBA保持者もいるし、自分の仕事に誇りを持っている」、潤沢な予算ゆえだろうが、驚かされた。「文部科学省の大学教育改革はみんな裏目に出ている気がする」、手厳しい批判だ。
・『失敗も質問も許さないカルチャー ガリレオ あと、もう1つアメリカとの違いは、失敗を許すかどうか。アメリカのベンチャーだって成功率は日本と変わらない。違うのは、アメリカでは投資家へのプレゼンでも失敗が勲章になり、失敗経験のない人はむしろ駄目なこと。日本は失敗を評価システムに組み込んでいない。 ニュートン 日本企業はいいとこ取りを狙い過ぎてリスクを背負わない。例えば製薬業界では、欧米のベンチャーや大手企業は、薬になるか分からない段階の研究にも夢を懸けて投資する。日本でそういう投資はまれ。 ダーウィン どこから変えるべきかといったら初等教育だと思う。子供の頃からいろいろなことに挑戦させて、結果は駄目でもチャレンジしたことは褒める。つまり過程が大事。そうでないとリスクを背負う人は出てこない。日本はそうした教育がない。 エジソン 評価の仕方ですよね。失敗は、駄目だということが分かったこと自体が「成功」ですから。それを知った人は、同じ轍を踏まない。 ガリレオ 日本ではなぜ?と質問するということにもすごい抵抗がある。例えば学会で質問するとき、大御所の発表に対して「純粋に知りたいから聞くんですけど」とわざわざ前置きしたりする。つまり本当にフラットに「Why(なぜ)」と聞くことがものすごく難しい。 これはすごくまずい。欧米では「なぜ」を探ることを楽しんでいるカルチャーを感じるのに......。 ダーウィン 先ほどチャレンジが評価されないと僕が言ったことと関係するのでは。間違った、バカみたいな質問をしたらどうしよう、と日本では感じてしまう。 アメリカではみんなファーストネームで呼び合うじゃないですか。学生も教授をファーストネームで呼ぶ。ほぼフラットみたいな感じで、その環境になったらWhyと言えるし、むしろなんで言わないんだと聞かれる。でも日本だとなんでそんなこと聞くんだ、と。雲泥の差だと思う』、「日本ではなぜ?と質問するということにもすごい抵抗がある」、確かに欧米からみると異常だ。「アメリカではみんなファーストネームで呼び合うじゃないですか。学生も教授をファーストネームで呼ぶ。ほぼフラットみたいな感じで、その環境になったらWhyと言えるし、むしろなんで言わないんだと聞かれる」、日本では教授は偉ぶっている人が多いのは確かだ。
・『教育にはコストがかかる ニュートン アメリカはちゃんと(日本の改革で次々廃止された)リベラルアーツ(一般教養)教育は残っていますよね? 教える専門の教員がいる。 エジソン そう。レクチャラーと呼ばれ、研究専門のリサーチプロフェッサーとリスペクトし合っている。両方やるフルプロフェッサーもいる。 ガリレオ アメリカでは教育専門の教授のほうが給料は高いと聞いた。 エジソン その通りです。 ガリレオ 研究専門は好きなことやっているのだから安月給でも我慢しろと。そういうかたちで教育プロパーの先生もちゃんとリスペクトされている。 しかし日本は研究をやっていて「ネイチャー」誌に論文を出すと偉くて、教室で100人相手に授業やっていると駄目だ、となる。多様性をなくしてしまって、一本の物差しで測ろうとする。これが全ての間違いだね。 エジソン ただ、アメリカで教育をやっているプロフェッサーは外からの稼ぎがあまりないから大学がちゃんと保証する一方、リサーチプロフェッサーは研究費を取ってきて自分に給料をペイできる、という事情もあります。 ガリレオ なるほど。 ニュートン イギリスもアメリカも教育はコストがかかるものという認識が浸透している。だが日本は教養学部廃止で研究が得意な人が教育もやらざるを得ない。しかも教育への評価はされにくく、教えることがおろそかになる。 ダーウィン そのことですが、日本の大学では誰かが決めたカリキュラムに沿って授業をあてがわれたりしませんか。新しい授業を開設するのが難しいのか最先端の授業も行ないづらく、進歩が早い分野ではどんどん時代遅れになるし、自分の専門でなかったりするとパッションも持ちづらい。 ニュートン そうした詳細が採用時には分かりにくい日本の人事制度はおかしい。何を期待され採用に至るのか明確でないのでミスマッチが起こり得る。学問的需要とは別に政治が絡むこともあるし。 ただ、採用前の教員の評価が難しいのも事実。欧米は「人物評価」で教員を採る。でも日本の場合クローズドじゃないですか。選考員5人ぐらいの前でプレゼンするぐらいで。基準が明確でない。日本は人事に関してはもっと人物を見るべきだと思う。 ダーウィン アメリカのトップ大学では朝から丸1日かけて教員一人一人と面接して評価される。学生も候補者と議論して採用担当教員に意見を言える。ランチやディナーも候補者は教員たちと一緒に取る。研究はもちろん、人としてどれだけ魅力的か見る。 エジソン 日本はそこまで労力かけないですよね。採用側もそういう能力はない。あらかじめ採用者が決まっている「デキ公募」もよくあるし。そういう公募で僕は今まで2回「当て馬」をやったことがある(笑)』、「アメリカでは教育専門の教授のほうが給料は高い」、「研究専門は好きなことやっているのだから安月給でも我慢しろと。そういうかたちで教育プロパーの先生もちゃんとリスペクトされている」、参考にな考え方だ。
・『インパクト・ファクターと大学教員の評価 エジソン でも教育者としてのどう評価するかは難しい。学生によって印象も違うだろうし。投資してでも守っていかなくてはいけないのが教育だが、評価がちゃんとできなくて適当になってしまっているのが今の日本。 私は教育と研究を分けて評価しないと駄目だと思う。研究基準で教育を語っても正当な評価はできない。教育関係の予算、組織を削って壊してしまったことは非常に損失が大きかったと思う。 ダーウィン 僕は研究も実は評価は難しいと思う。論文の数ではないし、実は価値でもない。なぜなら「今」その研究の本当の価値は分からない。今は誰もすごいと思っていなくても、5年後10年後に良い研究だったと分かることもあるわけで。 ニュートン 何が良い研究か、誰がどのように判断するのか。それを数値化しちゃったのが(科学雑誌の影響力を測る)インパクト・ファクター(IF)。 「ネイチャー」、「サイエンス」、「セル」クラスだとIFが大きくなるので、一般の人には分かりやすい。でもそういう雑誌に載った研究がどれほど重要なのかは時が経たないと分からない。載ったということは査読して審査した人が重要だと認めたという、その時点での判断でしかない。 エジソン 先ほど赤﨑先生の話が出たが、窒化ガリウム関係の初期の論文はアメリカでも日本でもIFが低い雑誌にしか載っていない。でも赤﨑さんはノーベル賞を取っている。もちろん良い雑誌に載せればみんなが読むかもしれないが、それが全てではない。 ガリレオ IFとはその雑誌に掲載された論文が引用された回数を掲載した論文数で割ったもの。それは確かに雑誌に対する1つの指標だけど、論文そのものの評価じゃない。 本当に論文を評価する目を持っていれば、IFはどうでも良い。ただわれわれは他分野に関してはそういう目がないので、IFに頼ってしまう。自分の評価能力のなさを外部の指標で補っている。 ニュートン 教員の採用にあたり、IFのような数値で人物を評価して良いのかという問題は常にある。しかし自信をもって判断できる人が大学の中にはいない。IFの総得点が何ポイントか、などで判断してしまう。対外的には説明はつくかもしれないが、本当に人を見ていることになるのか。 エジソン IFはよく足切りとしては使われますよね。落とすには理由がいるので、その理由にIFがなりうる。だから論文の共著者として名前を載せてもらうことが重要になる。学生の時、指導教授の忖度で自分のプロジェクトに知らない人の名前がずらずら載った時があった(笑)。 ニュートン 結局、研究者の経歴は「見てくれ」が重要なので、星(責任著者の印)が付いた論文の数で「武装」しろとはよく言われる』、結局、「評価」には決め手はないようだ。
・『被引用数の信頼度 エジソン 被引用数も評価されるには重要ですね。昇進するときに「お前が来ると(学部や研究科)全体の被引用数の平均が下がっちゃう」などと言われるので。そのためにどう武装するかというと、流行り物を研究して被引用数を稼ぐ。全然興味ないけどその研究やらざるを得ないということはある。 ダーウィン 被引用数は間違った使われ方をしていると思う。そもそも研究者がその分野に多かったら被引用数は増えるので、異なる分野の引用数を比べるのは意味がない。 学部・研究科の平均値なんて全くナンセンス。野球とサッカーを比べるようなもの。分野内で比べるのは一定の意味があると思うが、それでも良い論文の引用数が多くなるわけでは必ずしもない』、「異なる分野の引用数を比べるのは意味がない」、その通りだが、現実には誤用されているようだ。
・『財務省と政治家の罪 ニュートン 一方で日本はアメリカや世界を見習えという考えが強過ぎる。日本が世界でリードしていた部分が世界ではやらなくなったから捨てちゃうということが結構あるので、いま沈滞気味の分野にも一定のお金はまいておくべきじゃないのかな。 エジソン 半導体の世界などまさにそんな感じですよね。 ガリレオ 一つは(予算配分に決定権を持つ)財務省だよね。文科省の人は結構分かってくれるけど。財務省の人は半導体なんか中韓に任せたらいいじゃないですかなんて言う。世界の流れに乗ることしか考えていない。日本の本来の強みだとかここを伸ばすべきだとかいう考えはない。 ニュートン 財務省あたりのトップクラスの官僚は国家公務員試験の予備校で訓練を受けてきた人たちで、サイエンスをやって来た人間が入る余地はない。その弊害は大きい。 エジソン 科学技術専門の政治家も絶対必要ですね。国民のそういう認識をつくるための努力をわれわれ大学人はやらなきゃいけない』、「科学技術専門の政治家も絶対必要」、そこまでは必要ないと思う。
・『文系/理系という分け方の不毛 ガリレオ そもそも日本の文系理系という分け方が非常に気に入らない。下手したら中学生ぐらいから分けちゃっているでしょ? あれは不毛だよね。結局文系の官僚とか政治家が全くサイエンスを分からないのはそのへんでもう理系から離れてしまうから。 アメリカのハーバード大学だったら学部関係なしにこの200冊読めというリストがあって、物理をやる人間でもギリシャ哲学から『資本論』まで全部読ませる。そういう考え方が、まさに教養なんだけど、日本は全部捨て去ってしまった感じがするよね。アメリカでも文系理系はあるのだろうけど、日本から見て遥かに相互乗り入れしている気がする。) ニュートン そうですね。大学入試で文理を分けているので結局入試も改革する必要あると思う。 エジソン 大学からの(卒業・修了の)出口を狭めることはやったほうがいい。間口はいくらでも広げていいけど。大学は義務教育じゃなくて高等教育なので、ある程度のクオリティを持った人間しか出さないべきです。世界で日本だけじゃないですか、入口だけが狭くて、入れば出られてしまうのは』、「大学からの出口を狭めることはやったほうがいい」、同感だ。
・『学費は値上げするべき ニュートン 税金だけではなかなか金策は苦しい。こう言うと国民から抹殺されそうだけど、学費を上げるべきだと思う。でないと大学組織が死んでしまう。低所得層には裕福な人の学費を奨学金に充てればいい。 エジソン 寄付制度は必ず法律から変えていかなければいけないと思う。学費を返さなくていい制度や、教員が研究費から学費を投資して優秀な学生を育てられるようなシステムがあってもいいかも。 ニュートン 今の若手教員は大企業に就職するより確実に低い給料から始まる。そのギャップを埋めたい。 エジソン たしかに、医者の年収が500万円だったら誰もやらない。コストをかけてでも医学部に入って医者になれば回収できるからみんな血眼になる。同じことができればやったほうがいい。そこまで給料があればクビにできるシステムもあってもいい。プロ野球選手みたいにね』、この部分は意味不明だ。
・『湯川秀樹的イメージの罠 ニュートン 皆さんに聞きたいのですが、外国で普通の人にサイエンティストやドクターと名乗ったとき、クールだね、かっこいいねって言われませんでした? (一同うなずく) でも日本では例えば合コンなんかで女の子に「お勉強好きなのね」と言われたり、オタッキーなイメージ。それが「科学後進国」であることの一部なんじゃないのか。そのギャップを埋めるためにはどうすればいいか。 エジソン アメリカは例えば一般の人が「ネイチャー」とかをよく読んでいるイメージがある。だけど日本人って読まないよね。ギリギリ「ニュートン」ぐらいで。一般教養としてのサイエンスがちょっと足りないかなという気がする。 ニュートン 一般から見た優秀な研究者像≒湯川秀樹的というのも引っ掛かる。彼の自叙伝からも伝わる、コミュニケーションより研究を大切にする日本の科学者のイメージで、これは欧米と全然違う。そういうイメージからは脱皮したい。 われわれサイエンティストも一般の人に分かってほしいという欲を持つべきだと思う。でないと裾野が広がらない。サイエンスが分かる人で社会との橋渡しをしてくれる人材を官僚やマスコミなどにわれわれ科学者が積極的に送り出していかなければいけない。 ガリレオ まとめると、やっぱりマインドセットなのかな。科学は楽しいことをみんなに分かってもらう。そしてそういう人材が残ってくれるように、システムを変えていくことをやっていかなきゃいけない。 <2020年10月20日号「科学後退国ニッポン」特集より>』、「科学は楽しいことをみんなに分かってもらう。そしてそういう人材が残ってくれるように、システムを変えていくことをやっていかなきゃいけない」、その通りなのだろう。
タグ:「自分を雇えない」博士 青色発光ダイオード(LED)の研究はアメリカでは絶対できないと羨ましがられた 日本は「科学後進国」か否か 「日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)」 Newsweek日本版 「研究公正」を科学技術政策の中心に その背景には、医師を中心に、どのような行為が不適切な行為なのかといった基礎的な知識が身についていないことや、研究不正を他人事と考えて、自らの行為を見つめなおさないことから来ている 最近日本人研究者や日本人医師が、留学先で行った行為を研究不正とみなされ、処分される事例が相次いでいる。日本では当たり前に行っていた行為が研究不正と認定されてしまうのだ 何も学ばなかった科学界 大学・研究機関のずさんな対応 科学は楽しいことをみんなに分かってもらう。そしてそういう人材が残ってくれるように、システムを変えていくことをやっていかなきゃいけない 湯川秀樹的イメージの罠 学費は値上げするべき 文系/理系という分け方の不毛 財務省と政治家の罪 異なる分野の引用数を比べるのは意味がない」、その通りだが、現実には誤用されているようだ 相互批判ができない医師特有の文化が影響している 撤回論文数が多い研究者のランキングのトップ6のうち4人が日本人だ。そして4人全員が医者だ インパクト・ファクターと大学教員の評価 研究専門は好きなことやっているのだから安月給でも我慢しろと。そういうかたちで教育プロパーの先生もちゃんとリスペクトされている トップはF氏。日本人の麻酔科医だ。その撤回数は実に183報。当分記録は更新されないだろう。 第4位は元慶應義塾大学の研究者I氏の69報。実はI氏は元弘前大学のS氏の共同研究者だった。そして第6位のS氏(撤回論文数53報)は麻酔科医 撤回論文数ランキングの上位に日本人が多数入っている 「論文撤回」 アメリカでは教育専門の教授のほうが給料は高い 世界中から懐疑的な目 患者の治療ガイドラインの結論が変わってしまう 教育にはコストがかかる 日本ではなぜ?と質問するということにもすごい抵抗がある 元弘前大学教授で医師のS氏が起こした事件 史上最悪の研究不正 日本の研究が抱える様々な問題は、実は何も解決していない 失敗も質問も許さないカルチャー 「STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?」 榎木 英介 文部科学省の大学教育改革はみんな裏目に出ている気がする 「専門」への敬意を欠く日本 「科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)」 現代ビジネス (その1)(STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」「史上最悪の研究不正」をご存知か?、日本の科学者は「給料安い」「ポンコツ多い」(一流科学者・覆面座談会)、科学者と名乗ると「外国ではカッコいいと言われる」(一流科学者・覆面座談会)) 「選択と集中」とオキアミ 交付金減額でボロボロ 日本の博士はポンコツか 日本は博士号を取ったことのデメリットが強調される。社会が受け皿として博士の高度な専門性を利用せず、博士課程に行くハードルを高くしている 海外とのすさまじい格差 科学技術
生命科学(その1)(そもそも「宇宙生物学」って何ですか?、生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」、山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? ) [科学技術]
今日は、生命科学(その1)(そもそも「宇宙生物学」って何ですか?、生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」、山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? )を取上げよう。
先ずは、昨年3月12日付け日経ビジネスオンラインが掲載した文筆家の川端 裕人氏による東京工業大学の藤島皓介氏へのインタビュー「そもそも「宇宙生物学」って何ですか?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00112/00007/?P=1
・『生命は地球以外にも存在する? だとしたらどんなもの? 生命は宇宙(地球)でどのように誕生した? など、宇宙と生命という究極の問いに挑み続ける宇宙生物学が活況だ。その中心地であるNASAのエイムズ研究センターを経て、最前線をひた走る東京工業大学(ELSI)の藤島皓介さんの研究室に行ってみた! 最近、宇宙生物学(アストロバイオロジー)という研究ジャンルをよく耳にするようになった。 字面を素直に解釈するならば、「宇宙の生物を研究する」学問ということになる。 とすると、「宇宙人の研究?」という連想も成り立つだろうし、実はNASAは極秘裏に宇宙生命体との接触に成功しているが秘密にしている、というような謀略論、陰謀論にもつながりうる。 そこまでいかずとも、どこかSFめいた、浮世離れした研究であると思われがちだ。 しかし、現実にはすでに20年以上の歴史がある研究分野だ。1995年、当時のNASA長官ダニエル・ゴールディンが、カリフォルニア州のエイムズ研究センターにて記者会見を行い、これからは"Astrobiology"という言葉を公式に使うと宣言したとされる。エイムズ研究センターは、その拠点に指定された。その後、「宇宙生物学」は着実に存在感を増し、今では国際学会も頻繁に行われている。そこには、宇宙物理学、天文学、鉱物学、海洋学、化学、生物学、情報学など、一見、方向が違う専門分野から、さまざまな研究者が集って、「宇宙と生命」という究極の問いに挑んでいる。 対応する動きは日本国内でもあって、2015年には東京都三鷹市の国立天文台の敷地内に、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターが開設された。初代センター長は本連載でも登場いただいた田村元秀さんだ。田村さんは、ハワイ島のすばる望遠鏡を使って太陽系外の惑星を探し、その中に生命が存在しうる、つまり「ハビタブル」な惑星も見いだせることを教えてくれた。これはまさに、宇宙生物学的な研究だったのである。 また、2012年には、東京工業大学が地球生命研究所(ELSI)を設けて、地球生命の起源を解明し、さらには宇宙における生命の存在を探索する「生命惑星学」という分野を確立しようと目標を掲げた。これもまた宇宙生物学と共通の関心を持っているのは明らかだ。 そこで今回は、後者の地球生命研究所(ELSI)を訪ね、「地球生命の起源」と「宇宙の生命」にかかわる宇宙生物学の話を中心に知見を深めたい。 取材を受け入れてくれたのは、ELSI公式ウェブサイトで、専門領域を「宇宙生物学」と表記している藤島皓介研究員だ。慶應義塾大学で、システム生物学、合成生物学といった、先進的かつ不思議な響きのある研究分野を修めた後、宇宙生物学発祥の地にして梁山泊、NASAのエイムズ研究センターで博士研究員を務めた俊英だ。2016年、日本に戻って現職にある』、まさに最先端の研究者のようだ。
・『東工大大岡山キャンパスのELSI研究棟を訪ね、1階の広々したラウンジのテーブルで相対した。壁一面を埋める大きな黒板があって、たぶん研究者たちはここに概念図や化学式や数式を描いて白熱した議論を展開するのだろうと想像した。まさに映画に出てくるようなシーンだ。 そこで、ぼくは映画に出てくる素人が研究者に向かって、よく分かっていない質問をするような場面を想像しつつ、とても大づかみなことを聞いた。 「そもそも宇宙生物学って何ですか」と。 この分野に名をつらねる研究者には、天文学者(いわば「宇宙」担当)、生物学者(いわば「生物」担当)だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて、どうもとらえどころがないと感じる人がいても不思議ではないのである。 「たしかに、とらえどころがないと思われても仕方がありませんよね。実は、宇宙生物学の研究者によっても、それぞれ答えは違うんじゃないでしょうか」 ぼくを含めて一般の人たちが「宇宙生物学」と聞いて抱くつかみどころのない感覚は、研究者側からしても理解できるという。学際的、かつ、次々と新たな発見が続くスピード感のある分野なので、学問としての枠組みすら、誰もが認める「定義」が定まりにくいのだと想像した。それでは、やはり鵺(ぬえ)のような存在ということでよいのだろうか。 「ただ学問のテーマとしては、非常にシンプルなんです」と藤島さんは続けた。 「宇宙生物学研究の関心というのは、宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』なんですね。この3つの関心の中にすべてがおさまっていると言っていいと思います」 これには、ちょっとしびれた。 宇宙における生命の起源、分布、未来。簡単に言うけれど、このスケール感はすごい』、「生物学者だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて」、「宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』」を研究しているというのは確かに凄そうだ。
・『宇宙でなく、地球における生命の起源、分布、未来、と言っただけでも、今、ぼくたちの周りにあるおびたただしい生命の現在、過去、未来、すべての話なわけで、気が遠くなるほど壮大だ。なのに、それが宇宙規模になったらどうなってしまうのだろう。 いや、地球生命の「起源」を考える時でさえ、そもそもその材料になったアミノ酸などが、隕石と一緒に宇宙から来たという話がある。また、我々の身体を作っている化学物質は、宇宙開闢(かいびゃく)後の物質進化の中で生み出されたものだ。 一方、地球生命の「未来」というと、今世紀中、いや十年二十年の間に、人類が月や火星に定住し始める可能性が現実味を帯びてきた。地球生命が宇宙に出ていくこと自体はもう間違いないように思える。 結局、生命について起源や未来を考えようとすると、それだけでも地球内では話が完結できず、枠組みが宇宙規模になってしまうのは当たり前のことなのだ。 さらにいえば、「分布」だってそうだ。 「我々が、現時点で知っている生命というのは地球の生命、ただ1種類なんですよね。では、この宇宙において、生命がその1種類だけかという問題が常にあります。地球の生命の起源を知る研究は、すなわち宇宙において似たような、あるいは全く違うメカニズムで生命が誕生するかということに迫る研究でもあるんです。地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます」 地球の生命を問うには宇宙を考えなければならず、宇宙の生命を問うにはまずは地球の生命を理解するところから始めなければならない。宇宙生物学では、解き明かしたい目標とそのステップとなる個々の探求が、「卵が先か、鶏が先か」というレベルで入れ替わりながら密接にかかわっている。 そんな中、藤島さん自身の研究者としてのバックグラウンドは、合成生物学やシステム生物学、さらには情報生命科学といった、生物学の中でも非常に先鋭的なものだ』、「地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます」、確かに研究分野は宇宙的な広がりがあるようだ。
・『大きくて複雑な様相を呈している「宇宙生物学」のイメージをつかむためには、まず藤島さん自身が宇宙生物学に出会って、今に至るまでの話を伺うのがよいと、お話を聞き始めて最初の5分で作戦を立てた。特に、藤島さんが研究の中心に置いている「起源」から始めて、そこから発展して関わるようになった「分布」の問題に進めば、主に生物学方面から見た宇宙生物学の景色もかなりよく見えてくるのではないかと期待できる。 というわけで、藤島さん自身の「宇宙生物学」との出会いをまずは聞きたい。 そのように述べると、藤島さんは大判の「本」を、さっとぼくの前に差し出した。 「宇宙生物学との出会いといいますと、学生時代に取り組んでいたことから始まります。大学時代の長い話をギュッと縮めた学位論文のタイトルを見ていただければと思います」 その「本」、つまり、製本された博士論文の表紙にはこのようにあった。「古細菌(アーキア)におけるセントラルドグマ理解に向けたシステム生物学的アプローチ(“Systems biology approach toward understanding the central dogma in Archaea”)」 「古細菌におけるセントラルドグマ」を理解したい、という。 まず、古細菌というのはどういうものだろう。 「古細菌は、最初は高温、強酸、強アルカリといった地球上のさまざまな極限環境の中で見つかってきた微生物です。現在では地球上のバイオマス(生物量)の20%ぐらいを占めると言われていまして、あまり一般には知られていないけれども、非常に多様性にも富んでいます。この微生物になぜ注目したかというと、すべての生物の共通祖先から、まずはバクテリア(細菌)と古細菌が2つに分かれて、さらにその古細菌の一門から、人間を含めた真核生物が進化したということが予想されています。言ってみれば古細菌は私たち真核生物の大先祖ともいえる興味深い存在です。また、生命の共通祖先の近くにいる生物というのは、好熱菌、つまり熱いところに住んでいたと言われているものが大半なんですけれども、古細菌はその中でも特に多くの種類が見つかっているので、古細菌の研究をしたら生命の起源に少しでも近づけるのかなっていうふうに当時はぼんやりと思っていました」』、「博士論文」のタイトルだけではさっぱり分からなかったが、解説を読んで理解できた。
・『古細菌は、真核生物、細菌とならんで、地球の生物界を3分するグループのうちの一つで、高度好塩菌、メタン菌、好熱菌、高圧菌など、極限環境微生物の研究から見つかった。真核生物の「大先祖様」だから、ひょっとすると生命の共通祖先に近いかもしれないという魅力がある。また、極限環境で生きられることから「別の惑星でも……」といった妄想を抱かせられる存在でもある。 では、セントラルドグマとはなんだろう。 「DNAという遺伝情報を格納する高分子があって、これはいわばタンパク質の設計図を保管している図書館のようなものです。そこからRNAというものに一時的にその設計図がコピーされ、リボソームといういわば工場みたいなところでタンパク質をつくります。設計図を転写して持ってくるのがmRNA(伝令RNA)で、その設計図に応じたアミノ酸を一つ一つ連れてきてつなげるのがtRNA(転移RNA)ですね。こういった一連の遺伝情報を変換する仕組みをセントラルドグマと呼んでいます。生命の共通祖先は38億年ぐらい前に存在していたと言われていますが、38億年前の生命が既にこの仕組みを持っていたという事実が非常におもしろいなというところで、研究をはじめました」 セントラルドグマは地球生命が持つ共通の仕組みであって、博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた(日本の大学の博士論文でタイトルに"central dogma"という語が入っているのは、今のところ藤島さんの論文だけだ。国立国会図書館の博士論文検索で確認)。そして、リボソーム、mRNA、tRNAといった生命の起源を問う時に頻出するキーワードもここですでに登場する。 また、藤島さんの博士論文には、システム生物学的なアプローチ“Systems biology approach” という言葉もある。これはどんな意味だろう』、「博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた」、大したものだ。
・『「私が大学院時代を過ごした慶應の先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)では、いろんな分野を並列に研究しているのが特徴でした。例えば、ゲノムレベルで解析をする人がいれば、一つ上のRNAのレイヤーで見ている人もいます。さらに、合成されたタンパク質の機能を網羅的に調べている人もいれば、代謝物質を見ている人もいます。結局、いろんな階層で生物が実際にどういうプロセスを生体内で行っているのかというのを見ていく。で、その階層同士のつながりをシステムとして統合してとらえるのがシステムズバイオロジーということです。僕の研究は、古細菌におけるセントラルドグマ、つまりDNAからRNAを経てリボソームでタンパク質が合成される部分に関わる分子の多様性や関係性を階層を超えて見ていたわけです」 この時、藤島さんが師と仰ぐ金井昭夫教授の下で行っていた研究については、設計図に応じたアミノ酸を連れてきてつなげるtRNA(転移RNA)の進化が含まれていたことを付け加えておく。博論にはこれ以上深入りしないけれど、生命の基本システムといえるセントラルドグマの仕組みを研究する中で、藤島さんは自然と「生命の起源」というテーマに引き寄せられていった。 博士研究を無事に終えて研究室の先生と後輩達の前で最終発表を行った後、藤島さんは思いの丈をぶつけた。 「これからはアストロバイオロジーをやりたいって宣言しました。生命の起源の研究をやりたいから、アストロバイオロジーが直に学べる場所でやりたい。でも、正直どこに行っていいか分からないからご助言をお願いしますって。すると、僕の先輩で、今慶應の先端生命研究所にいらっしゃる荒川和晴先生から、NASAのエイムズ研究センターにクマムシの研究をやっている堀川大樹さんという人がいるから相談してみろと言われて、堀川さんとの縁からエイムズにインターンしに行くことになったんです」 前述の通り、エイムズ研究センターは宇宙生物学発祥の地だ。そして、クマムシは極限環境に耐える生物として、当時も今も宇宙生物学的な注目を集めており、この連載にも登場してもらった堀川大樹さんも、キャリアの初期にエイムズ研究センターで研鑽したのだった。 藤島さんもエイムズ研究センターにて、宇宙的な枠組みの中で生命の起源を問う研究へと足を踏み出した。2011年のことだった。 「生命とは何か」から宇宙生命探査まで、藤島さんはわくわくする話をたっぷり語ってくれた。次回以降に乞うご期待! (このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)』、「NASAのエイムズ研究センター・・・は宇宙生物学発祥の地だ」、さすがNASA、単にロケットだけでなく、幅広く研究しているようだ。
次に、上記のあと2つを飛ばして、昨年4月2日付け日経ビジネスオンライン「生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00112/00010/
・『生命は地球以外にも存在する? だとしたらどんなもの? 生命は宇宙(地球)でどのように誕生した? など、宇宙と生命という究極の問いに挑み続ける宇宙生物学が活況だ。その中心地であるNASAのエイムズ研究センターを経て、最前線をひた走る東京工業大学(ELSI)の藤島皓介さんの研究室に行ってみた!その4回目。 前回のペプチド(短いタンパク質)と鉄・硫黄クラスターの話は、主に代謝にかかわる話として理解していたところ、最後は「卵が先か、鶏が先か」のジレンマが出てきた。エネルギー代謝とセントラルドグマ、つまり、代謝系と翻訳系が両輪になっていないといけない、と。 藤島さんの関心は、まさにそういった「両輪」の秘密をめぐる部分へと進む。 キーワードは、「リボソーム」だ。 高校の生物を学んだ人なら、「タンパク質を合成する工場」として記憶しているだろう。DNAから転写されて運ばれてきたタンパク質の設計図を、ここで翻訳してひとつひとつアミノ酸をつないで合成する。こんな精巧な仕組みがどうやって出来上がったのか素人考えでも不思議だし、プロの生物学者たちはもっと不思議に思ってきたらしい。だから、リボソームの起源は、長年の謎とされる。 「僕がおもしろいと思うのは、このリボソームというのは、実はそれ自体、RNAとタンパク質の両方からできている分子だということです。タンパク質をつくるときに、mRNA(伝令RNA)がリボソームに結合して、そこにtRNA(転移RNA)がアミノ酸をつれてきてタンパク質を合成するわけですけど、実はその舞台となるリボソーム自体、RNAとタンパク質の複合体なんですよ」 リボソームは数十種類以上のタンパク質と、数種類のRNA分子(リボソームRNAと呼ばれる)からできている。立体的な構造は代表的なものをネットでいくつも見ることができるのだが、それらは本当に「絡まり合っている」というのがふさわしい。 2種類の「紐」が、解きほぐし難く一つの構造物を作り上げ、そこで、紐1(核酸)の情報から紐2(タンパク質)の合成が行われる。リボソームそのものが、二重の意味で、2つの「紐」が交わるところになっている。 (リボソームの構造と働きを可視化した動画。働きがよくわかる映像は1分25秒前後から。青と紫のいちばん大きなかたまりがリボソームで、黄色い紐がタンパク質を作る情報を記録したmRNA。緑色のブロックがアミノ酸を連れてくるtRNA。その先端の赤い部分が、タンパク質の合成に使われるアミノ酸だ。テープレコーダーのようにリボソームが黄色い紐を取り込んで、その情報(3塩基分ごと)に対応するtRNAが順番にくっつき、赤い紐がどんどん伸びてゆく、つまり、アミノ酸の紐であるタンパク質が合成される様子が巧みに再現されている。 生命の起源の議論では、RNAが先か、タンパク質が先かという議論があって、それぞれ、RNAワールド仮説、プロテインワールド仮説、などと呼ばれている。リボソームは、セントラルドグマの中で重要な役割を果たすものだから地球生命の進化のきわめて早い段階からないと困るのに、いきなり両方が絡まり合って存在しているから謎が深まる』、リンク先の「リボソームの構造と働きを可視化した動画」、なかなかよく出来ていて、精巧な仕組みには改めて驚かされる。
・『「そこで、僕の立場は、RNAが先かタンパク質が先かという話ではなく、恐らく同時に進んできたのではないか、というものです。原始地球の頃からRNAとタンパク質の紐が共存していて、両方の紐が同時にあることがお互いにそれぞれ有利に働くような共進化が働いて、そのおかげで徐々に大きいリボソームのようなものができてきたんじゃないかというふうに考えています」 RNAが先でも、タンパク質が先でも、両方が絡まり合ってできているリボソームの起源は説明しにくいのだとしたら、両方が共存してともに進化しきた可能性があるのではないか、というのが藤島さんの見立てだ。 「RNA、つまり核酸の紐と、ペプチド、つまりアミノ酸の紐、2種類の紐が共存している世界があったと仮定して、2つが同時に存在することがそれぞれの進化にとって有利だったということを証明したいんです。それがもし証明できれば、タンパク質とRNAからなるリボソームができた過程も分かるでしょうし、そもそも、地球の生命が核酸とタンパク質の2つの紐をかくも見事に協調させて使っていることの説明もできるはずです」 具体的には、藤島さんは徹底的、網羅的な手法を取る。あたかもコンピュータの中でシミュレーションのプログラムを走らせるかのように総当たり的な組み合わせを実際に試す。 「今、合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されているので、試験管の中でまぜまぜしてRNAとタンパク質のカクテルを作ることができます。その時に、できたタンパク質が逃げてしまわずにそのままRNAとくっついているような化学物質を加えておくと、RNAタンパク質複合体ができます。そして、その中から、何か特定の機能を持っているものをスクリーニングしていきます」 藤島さんが考える原始の「RNA・ペプチド共存ワールド」では、RNAとそこから翻訳されたペプチドが一緒にいることで有利になったと想定されるので、それが実際に起きるかを見ていく。 「これまでの過去の実験事例から、RNA自体が折りたたまって、それ自体、触媒活性を持ったり(リボザイム)、特定の分子に結合能があるもの(アプタマー)が見つかっています。つまり、それらは、原始地球でRNAワールドがあったという時に引き合いに出されるものです。でも、RNAだけよりも、タンパク質も一緒にあると、より適応度が高くなるような状態を示したいわけです。これもう、黒板に書いてしまいますね──」 藤島さんはさっと立ち上がって、黒板になにやら図表を描き始めた。 3次元の座標がまずあって、その「底面」から山がいくつも立ち上がる。 「こういうのを適応度地形と言います。縦の軸は『適応度』といって、どれくらい分子が環境に適応しているか、この場合は、RNAの機能の高さを測った尺度だと解釈してください。そして、横軸といいますか底面は、配列空間です。たとえば、RNAの配列に応じて、この底面に点を打てるわけです。そして、それぞれのRNAについて『適応度』を見ていきます。『適応度』の尺度には、ここでは、RNAがエネルギーの共通通貨といわれるATPという物質と結合する能力を考えましょうか。最初のスクリーニングをすると、結合能が高いものが小さな山として立ち上がって見えてくるので、今度はそういった能力が高いものを集めてまたスクリーニングするというサイクルを繰り返します。すると、最終的にある程度高い山がいくつかできていきます。こうやってRNAの機能が高いものの配列がとれます」』、「合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されている」、世の中にこんなビジネスが登場しているとは初めて知った。
・『ここまではRNA単独での話で、既存の研究がある。RNAワールドでも、たとえばATPとの結合能が高い方が分子の生存に有利であるならば、そういった「適応度」が高いものが選ばれて残っていくことが観察できる。藤島さんが試みるのは、ここに同時にペプチドの紐があったらどうなるか、ということだ。 「結局、環境中を考えると、RNAのような複雑な分子がそれ単独で存在しているなんてことはあり得ないですし、RNAがある世界では、それよりも出来やすいペプチドはもうあったはずなんです。RNA・プロテインワールド、つまり両方の紐が共在していた世界ですね。そういう前提で考えると、RNA単独では見られなかったようなところにも山が立ち上がってくるはずです。そうなると山の裾野同士がオーバーラップする場所がでてくるかもしれない。そうすると一つの機能に対して、より高い山に登りやすくなる、つまり進化が連続的に起きやすいということでもあります。RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすいんだということを示せれば、ながらく謎だったリボソームの起源にも近づけると思っています」 RNAとペプチドの両方があると、山の裾野がオーバーラップして、高い山により登りやすくなるような現象がもし確認できれば、地球の生命が核酸とタンパク質の2つの紐を見事に協調させて使っていることも説明できると藤島さんは考えている。 以上、藤島さんが実験室で、自ら手を動かし、原始地球で起きたかもしれない進化を再現しようとしている一連の実験を紹介した。 合成生物学的な方法で、生命の起源を問う学術領域の熱い雰囲気が伝わればなによりだ。 もう一点だけ、ずっと気になっていたことを確認したい。 これまでの議論は、「紐」ができたり、それらが共進化したりという、生命のシステムに必要なことばかりだけれど、何かが足りない。 いったい何だろうか、と考えていて、ふと気づいた。足りないのは「形」だ。 これは生き物である、生命である、という時には、シロナガスクジラみたいに大きなものにせよ、大腸菌のように小さなものにせよ、すべて「形」がある。形がないと境界がなくなって、「これは生命だ」といえなくなるのではないだろうか』、「RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすい」、確かにその通りなのかも知れない。
・『「それって、たしかにその通りで、例えば膜がないと生命じゃないという立場もあります。それは理にかなっていて、つまり自己と他己を分ける境界線が膜なので、それがないと、大きなスライムみたいなかたまりの中でいろんな分子のやりとりをして……エヴァンゲリオンでいうあれですね、人類補完計画の補完後の状態みたいなものです。でも生命は補完前に戻ろうとするという(笑)。つまり個で自立できた系を生命と名付けたにすぎません」 システムが働いたとしても、形がないものを生命といえるだろうか? この点は本当に奥深く、自己と他者の区別がつかない状態でも生命のシステムが動いている状態というのは想定できるということだ。でも、そんな中から、くっきりとした「個」が登場するというのはどう考えればいいのだろう。 「その議論はある意味おもしろくて、偶然か必然かという話もあります。かりに必然じゃなくて偶然だったとしても、たまたまちぎれた一つの個体が、周囲の環境に適応した場合、そのまま増えていく可能性があります。適者生存のダーウィン的進化に突入していくと。その前はダーウィン的進化ではなくて、水平伝搬の嵐ですね。自己と他者の区別が曖昧な状況でお互いがお互いに必要なものを作って交換していくという。もちろん僕たち今の生命は、ダーウィン的進化の結果できたものです」 ダーウィン的進化というのは、端的に言えばダーウィンが考えた生存競争による「適者生存」によって起きる進化のことだ。これは、生命が「個体」であることを前提にしている。言われてみればそのとおりだ。 「ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません。逆にそれが観察できるということは、遺伝情報物質を持っていて、他己と自己が分かれている、ちゃんとセパレートしているような系であるということです。そこにあとはエネルギーを自分自身がつくれるような仕組みもあれば、限りなく今の生命に近いものになってくると思います」 今のぼくたちは生命の歴史に思いを馳せて系統樹を描き、古細菌と真核生物はいつ分かれたなどと議論するわけだが、それはこういったダーウィン的進化があってのことだ。藤島さんが今、研究のリソースを集中させている2つの「紐」の共進化の問題と隣接してこんな議論もあって、またスリリングであることをお伝えしておきたい。 つづく (このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)』、「「ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません」、「ダーウィン的進化」について考えを深めることができた。
第三に、10月5日付け現代ビジネスが掲載した山中 伸弥氏とNHKプロデューサーの浅井 健博氏の対談「山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? 」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67554
・『タモリさんと山中伸弥さんが司会を務めたNHKスペシャル「シリーズ人体Ⅱ遺伝子」は、今年高視聴率を獲得した番組として話題になった。背景にあるのは、現在急速に進む「遺伝子」研究への期待と不安――。技術は日々進化し、テレビで遺伝子検査のCMが流れる時代にあって、ゲノム編集で人体が「改造」されるのもそう遠くないのではないかと考える人もいるだろう。 今回、そんな『シリーズ人体 遺伝子』書籍化のタイミングで、特別対談が企画された。生命科学研究のトップリーダー山中伸弥さんと浅井健博さん(NHKスペシャル「シリーズ人体」制作統括)が、いまなぜ生命倫理が必要か――その最前線の「現実」を語り明かした』、「シリーズ人体」は参考になる点が多かった。その対談とは、興味深そうだ。
・『山中さんの踏み込んだ発言 「人類は滅ぶ可能性がある」――これは収録中、司会の山中伸弥さんがつぶやいた言葉である。 私たち取材班は、番組を通じて、生命科学の最前線の知見をお伝えした。どちらかといえば、その内容は明るく、ポジティブな未来像を描くものだった。 それだけに私(浅井健博)は、山中さんの踏み込んだ発言に驚かされたが、同様の不安を視聴者も感じていたことを後に知った。 Twitterや番組モニターから寄せられたコメントの中に、未来に期待する声に交じって、生命科学研究が際限なく発展することへの漠然とした恐れや、技術が悪用されることへの不安を指摘する意見も含まれていたからだ。 それにしても「人類が滅ぶ可能性」とは、ただごとではない。山中さんは日本を代表する生命科学者であり、iPS細胞の作製という最先端技術を生み出した当事者でもある。だからこそ生命科学が、人類に恩恵をもたらすだけでなく、危険性も孕んでいることを誰よりも深く認識しているのではないか。 そう考えた私は、山中さんの話を聞くため、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の所長室を訪ねた』、山中発言の真意を探る意味は大きい。
・『「こんなことまでできるのか」 浅井 まず今回の番組の感想をお聞かせください。山中さんのご研究と関連して、興味を持たれたところ、面白いと感じられたところはございますか? 山中 番組で扱われた遺伝子やゲノムは、僕たちの研究テーマですから、内容の大半に馴染みがありました。しかし、DNAから、顔の形を予測する技術には、正直、ビックリしました。 浅井 どのあたりに驚かれたのですか? 山中 研究の進展のスピードです。僕の予想以上のスピードで進んでいる。番組の台本をいただく前に、取材先の候補とか、番組の中でDNAから顔を再現するアイデアをあらかじめ教えていただきましたね。その段階では、DNAからの顔の再現は、将来は実現可能だとしても、まだしばらく無理だろうと思っていました。 しかしその後、関連する論文を自分で読んだり、実際に映像を見せていただいたりして考えをあらためました。「こんなことまでできるのか」と。 僕たちも、以前は自分の研究とは少し異なる分野の関連する論文も読んでいましたが、今は数が多くなりすぎて、とてもすべてをフォローできません。番組のもとになった、中国の漢民族の顔の再現の研究についてはまったく知りませんでした。もっと勉強しないとダメだと思いましたね。 浅井 今回の番組をご覧になった視聴者の方が寄せた声から、研究の進展のスピードや精度の向上が大きな驚きを持って受け止められたことがわかりました。 一方で、「悪用も可能ではないか」「遺伝子で運命が決まるのではないか」と不安や恐れを感じられた方もいました。山中さんは、こういった技術に対する脅威あるいは危険性を、どう考えておられますか? 山中 以前はDNAの連なりであるゲノムのうち2%だけが大切だと言われていました。その部分だけがタンパク質に翻訳されるからです。 ところが、タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになったのです。 さらにDNA配列だけでは決まらない仕組み、第2部で登場したDNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました。 iPS細胞も遺伝子を導入して作りますが、そのときエピゲノムに大きな変化が起こって細胞の運命が変わります。ですから、最先端の生命科学研究のひとつひとつを詳しくフォローできないまでも、その研究の持つ意味については、僕もよく理解していたつもりです。 もちろん理解できることは大切ですが、それだけでは十分ではありません。すでにゲノムを変えうるところまで技術が進んでいるからです。 宇宙が生まれて百数十億年、あるいは地球が生まれて46億年、生命が生まれて38億年、その中で僕たち人類の歴史はほんの一瞬にすぎません。しかしそんな僕たちが地球を変え、生命も変えようとしている。 長い時間をかけてできあがったものを僕たち人類は、今までになかった方法で変えつつある。よい方向に進むことを祈っていますが、一歩間違えるととんでもない方向に行ってしまう。そういう恐怖を感じます。番組に参加して、研究がすさまじい速度で進展することのすばらしさと同時に、恐ろしさも再認識しました』、「タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになった」、「さらにDNA配列だけでは決まらない仕組み・・・DNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました」、生命科学の進歩は確かに日進月歩だ。
・『外形も変えられ病気も治せるが…… 浅井 番組の中では、どこまで最先端の科学が進んでいるのかをご紹介しました。それは、私たち素人にとってもとても興味深い内容でした。中でも、先ほど山中さんがおっしゃったゲノムを変える技術について、おうかがいしたいと思います。 ゲノムを人為的に変える技術は昔からありましたが、最近になってゲノム編集と呼ばれる新しい技術が登場して、従来よりも格段に簡単にゲノムを改変できるようになりました。この技術に注目が集まると同時に、生命倫理の問題も浮上しています。 山中 ゲノム編集は、力にもなれば、脅威にもなると思います。僕たちの研究所でも、ゲノム編集を取り入れていますが、ゲノムをどこまで変えていいのかという問題に、僕たちも今まさに直面しています。 浅井 ゲノムを辞書にたとえると、自由自在に狙った箇所を、一文字単位で書き換えられるのが、ゲノム編集ですね。 2012年に、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授とスウェーデンのウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエ教授らの共同研究チームによって開発された「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれる技術が有名です。 山中 今では生命科学研究に欠かせない技術です。 浅井 番組の中で、鼻が高くなる、低くなるといった身体的特徴の違いや、あるいはカフェインを分解しやすい、分解しにくいといった体質の違いなど、いろんな性質を決める仕組みが遺伝子研究によって明らかにされつつある状況を紹介しました。 こういうさまざまな性質は今後、コントロールできるようになるのではないかと考えられています。本当に顔の形や病気のかかりやすさなど、コントロールすることはできるのでしょうか? 山中 たとえば、ミオスタチンと呼ばれる筋肥大を抑制する遺伝子をゲノム編集によって破壊すると、種を超えていろんな動物の筋肉量が増えることが知られています。 遺伝情報に基づいて外見的、生理的に現れた性質を「表現型」と呼びますが、病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられることが示されています。 ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です。 今の段階では、人類がゲノムを完全に制御できるわけではなく、リスクがある。やはりリスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります。 浅井 恐怖と言えば、世代を超えて恐怖が遺伝するという研究も番組で紹介しましたが、ゲノムを改変すれば恐怖をコントロールすることすら可能かもしれないですね。 山中 知らないうちに記憶を植えつけられるといったモチーフを使ったSFもあります。言い古されていることですが、SFで描かれている内容は現実になることが多い。さらにSFで描かれていない、SF作家ですら想像できないことを科学が実現することもよくあります。 どういう未来が来るのか、本当にわかりません。科学者として、僕も人類を、地球をよくしたいと思っています。しかし科学は諸刃の剣です。 浅井 人類のために良かれと思ってしたことが、災いをもたらす可能性もあります。山中さんがスタジオトークで「人類が滅ぶ可能性もある」とおっしゃったとき、ハッとさせられました。 山中 僕たち人類は、1000年後、1万年後も、この地球に存在する生物の王として君臨していると思いがちですが、自明ではありません。1万年後、私たちとは全然違う生物が、地球を支配していても不思議ではありません。しかも、自然にそうなるのではなく、人間が自らそういう生物を生み出すかもしれません。 うまくいけば人類は地球史上最長の栄華を誇ることができるかもしれないし、一歩間違うと、新たな生物に地球の王座を譲り渡すことになります。 今、人類はその岐路に立っていると思います。ゲノムを変えることだけではありません。大きな電力を作り出すことができる原発ですが、ひとたび事故が起きると甚大な被害が発生します。 暮らしの中のあらゆる場面で活躍するプラスチックですが、海を漂流するゴミとなり生態系に影響を及ぼしています。科学技術の進歩が、人間の生活を豊かにするのと同時に、地球、生命に対して脅威も与えているのです』、「病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられる・・・ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です・・・リスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります」、山中氏も「規制」が必要と考えているようだ。
・『研究者の倫理観が弱まるとき 浅井 遺伝子には多様性を広げる仕組み、あるいは局所的な変動に適応する仕組みが組み込まれています。遺伝子は、今現在の僕らを支えつつ、将来の変化に対応する柔軟性も備えているわけです。その仕組みに人の手を加えることはどんな結果につながるのでしょうか? 山中 ダーウィンは、進化の中で生き残るのは、いちばん強い者でも、いちばん頭がよい者でもなく、いちばん適応力がある者であると言いました。 適応力は、多様性をどれだけ保てるかにかかっています。ところが今、人間はその多様性を否定しつつあるのではないか。僕たちの判断で、僕たちがいいと思う方向へ生物を作りかえつつあると感じています。 生物が多様性を失い、均一化が進むと、ちょっと環境が変わったとき、たちどころに弱さを露呈してしまいます。日進月歩で技術が進む現代社会は、深刻な危うさを孕んでいると思います。 浅井 しばらくは大丈夫と高をくくっていましたが、あっというまにそんな事態に陥るかもしれません。だからこそわれわれは番組制作を通して、警鐘を鳴らす必要があると考えています。 一方、山中さんは番組の中で「研究者としてどこまでやってしまうのだろうという怖さがある」と発言されています。 多くの研究者の方々はルールに従い、何をしていいのか、してはならないのかを正しく理解していると思いますが、研究に歯止めが利かなくなると感じるのはなぜでしょうか?』、「日進月歩で技術が進む現代社会は、深刻な危うさを孕んでいる」、その通りだろう。
・『人間の残虐性に迫ったアイヒマン実験 山中 人間は、特定の状況に置かれると、感覚が麻痺して、通常では考えられないようなひどい行動におよぶ場合があるからです。そのことを示したのが、アイヒマン実験です。 浅井 有名な心理学実験ですね。アイヒマン(アドルフ・アイヒマン)はナチス将校で、第二次大戦中、強制収容所におけるユダヤ人大量虐殺の責任者でした。 戦後、死刑に処されました。彼は裁判で自分は命令に従ったにすぎないと発言しました。残虐というよりは、内気で、仕事熱心な人物に見えたとも言われています。 山中 そんな人物がどうして残虐になり得るのか。それを検証したのが、イェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムが行ったアイヒマン実験です。 この実験の被験者は教師役と生徒役に分かれ、教師役が生徒役に問題を出します。もし生徒役が問題を間違えると、教師役は実験者から生徒役に電気ショックを与えるように指示されます。 しかも間違えるたびに電圧を上げなければなりません。教師役が電気ショックを与えつづけると生徒役は苦しむ様子を見せます。ところが実際には生徒役はサクラで、電気など通じていない。生徒役の苦しむ姿は嘘ですが、叫び声を上げたり、身をよじったり、最後には失神までする迫真の演技なので、教師役は騙されて、生徒役が本当に苦しんでいると信じていました。 それでも、教師役を務めた被験者の半分以上が、生徒役が失神するまで電気ショックを与えた。教師役の被験者がひとりで電気ショックのボタンを押すのなら、そこまで強いショックを与えられなかったでしょう。 ところが、白衣を着て、いかにも権威のありそうな監督役の実験者から「続行してください」とか「あなたに責任はない」と堂々と言われ、教師役はボタンを押すのをためらいながらも、どんどんエスカレートして、実験を継続したんです。 浅井 ショッキングな実験結果ですね。権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう』、「アイヒマン実験」は有名だが、「権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう」、大いに心すべきだろう。
・『チームのほうが誘惑に弱くなる 山中 研究にも似ている側面があるのではないか。ひとりで研究しているだけなら、生命に対する恐れを感じて、慎重に研究する。そういう感覚はどの研究者にもあると思います。 ところがチームになって、責任が分散されると、慎重な姿勢は弱まって、大胆になってしまう。たとえルールがあっても、そのルールを拡大解釈してしまう。気がついたらとんでもないことをしていたというのは、実際、科学の歴史だけでなく、人類の歴史上、何度も起きたし、これからも起こりえます。 科学を正しく使えば、すばらしい結果をもたらします。しかし今、科学の力が強すぎるように思います。現在ではチームを組んで研究するのが一般的です。そのため責任が分散され、倫理観が弱まって、危険な領域へ侵入する誘惑に歯止めが利きにくくなっているのではないかと心配しています。 浅井 山中さんご自身も、そう感じる局面がありますか? 山中 そういう気持ちの大きさは人によって違います。 僕はいまだにiPS細胞からできた心臓の細胞を見ると不思議な気持ちになる。ちょっと前まで、血液や皮膚の細胞だったものが、今では拍動している、と。 ヒトiPS細胞の発表から12年経ちますが、この技術はすごいと感じます。しかし人によっては、毎日使っているうちにその技術に対する驚きも消えて、当たり前になる。 歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです。研究の方向性について適宜公表し、さまざまな人の意見を取り入れながら進めていくことが重要ですし、そうした意見交換をしやすい仕組みを維持することも大切だと思います』、「科学の力が強すぎるように思います。現在ではチームを組んで研究するのが一般的です。そのため責任が分散され、倫理観が弱まって、危険な領域へ侵入する誘惑に歯止めが利きにくくなっているのではないかと心配しています」、「歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです」、マスコミが監視機能を果たしてくれればいいのだが、情報欲しさに監視機能をないがしろにする懸念もある点は要注意だ。
先ずは、昨年3月12日付け日経ビジネスオンラインが掲載した文筆家の川端 裕人氏による東京工業大学の藤島皓介氏へのインタビュー「そもそも「宇宙生物学」って何ですか?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00112/00007/?P=1
・『生命は地球以外にも存在する? だとしたらどんなもの? 生命は宇宙(地球)でどのように誕生した? など、宇宙と生命という究極の問いに挑み続ける宇宙生物学が活況だ。その中心地であるNASAのエイムズ研究センターを経て、最前線をひた走る東京工業大学(ELSI)の藤島皓介さんの研究室に行ってみた! 最近、宇宙生物学(アストロバイオロジー)という研究ジャンルをよく耳にするようになった。 字面を素直に解釈するならば、「宇宙の生物を研究する」学問ということになる。 とすると、「宇宙人の研究?」という連想も成り立つだろうし、実はNASAは極秘裏に宇宙生命体との接触に成功しているが秘密にしている、というような謀略論、陰謀論にもつながりうる。 そこまでいかずとも、どこかSFめいた、浮世離れした研究であると思われがちだ。 しかし、現実にはすでに20年以上の歴史がある研究分野だ。1995年、当時のNASA長官ダニエル・ゴールディンが、カリフォルニア州のエイムズ研究センターにて記者会見を行い、これからは"Astrobiology"という言葉を公式に使うと宣言したとされる。エイムズ研究センターは、その拠点に指定された。その後、「宇宙生物学」は着実に存在感を増し、今では国際学会も頻繁に行われている。そこには、宇宙物理学、天文学、鉱物学、海洋学、化学、生物学、情報学など、一見、方向が違う専門分野から、さまざまな研究者が集って、「宇宙と生命」という究極の問いに挑んでいる。 対応する動きは日本国内でもあって、2015年には東京都三鷹市の国立天文台の敷地内に、自然科学研究機構アストロバイオロジーセンターが開設された。初代センター長は本連載でも登場いただいた田村元秀さんだ。田村さんは、ハワイ島のすばる望遠鏡を使って太陽系外の惑星を探し、その中に生命が存在しうる、つまり「ハビタブル」な惑星も見いだせることを教えてくれた。これはまさに、宇宙生物学的な研究だったのである。 また、2012年には、東京工業大学が地球生命研究所(ELSI)を設けて、地球生命の起源を解明し、さらには宇宙における生命の存在を探索する「生命惑星学」という分野を確立しようと目標を掲げた。これもまた宇宙生物学と共通の関心を持っているのは明らかだ。 そこで今回は、後者の地球生命研究所(ELSI)を訪ね、「地球生命の起源」と「宇宙の生命」にかかわる宇宙生物学の話を中心に知見を深めたい。 取材を受け入れてくれたのは、ELSI公式ウェブサイトで、専門領域を「宇宙生物学」と表記している藤島皓介研究員だ。慶應義塾大学で、システム生物学、合成生物学といった、先進的かつ不思議な響きのある研究分野を修めた後、宇宙生物学発祥の地にして梁山泊、NASAのエイムズ研究センターで博士研究員を務めた俊英だ。2016年、日本に戻って現職にある』、まさに最先端の研究者のようだ。
・『東工大大岡山キャンパスのELSI研究棟を訪ね、1階の広々したラウンジのテーブルで相対した。壁一面を埋める大きな黒板があって、たぶん研究者たちはここに概念図や化学式や数式を描いて白熱した議論を展開するのだろうと想像した。まさに映画に出てくるようなシーンだ。 そこで、ぼくは映画に出てくる素人が研究者に向かって、よく分かっていない質問をするような場面を想像しつつ、とても大づかみなことを聞いた。 「そもそも宇宙生物学って何ですか」と。 この分野に名をつらねる研究者には、天文学者(いわば「宇宙」担当)、生物学者(いわば「生物」担当)だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて、どうもとらえどころがないと感じる人がいても不思議ではないのである。 「たしかに、とらえどころがないと思われても仕方がありませんよね。実は、宇宙生物学の研究者によっても、それぞれ答えは違うんじゃないでしょうか」 ぼくを含めて一般の人たちが「宇宙生物学」と聞いて抱くつかみどころのない感覚は、研究者側からしても理解できるという。学際的、かつ、次々と新たな発見が続くスピード感のある分野なので、学問としての枠組みすら、誰もが認める「定義」が定まりにくいのだと想像した。それでは、やはり鵺(ぬえ)のような存在ということでよいのだろうか。 「ただ学問のテーマとしては、非常にシンプルなんです」と藤島さんは続けた。 「宇宙生物学研究の関心というのは、宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』なんですね。この3つの関心の中にすべてがおさまっていると言っていいと思います」 これには、ちょっとしびれた。 宇宙における生命の起源、分布、未来。簡単に言うけれど、このスケール感はすごい』、「生物学者だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて」、「宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』」を研究しているというのは確かに凄そうだ。
・『宇宙でなく、地球における生命の起源、分布、未来、と言っただけでも、今、ぼくたちの周りにあるおびたただしい生命の現在、過去、未来、すべての話なわけで、気が遠くなるほど壮大だ。なのに、それが宇宙規模になったらどうなってしまうのだろう。 いや、地球生命の「起源」を考える時でさえ、そもそもその材料になったアミノ酸などが、隕石と一緒に宇宙から来たという話がある。また、我々の身体を作っている化学物質は、宇宙開闢(かいびゃく)後の物質進化の中で生み出されたものだ。 一方、地球生命の「未来」というと、今世紀中、いや十年二十年の間に、人類が月や火星に定住し始める可能性が現実味を帯びてきた。地球生命が宇宙に出ていくこと自体はもう間違いないように思える。 結局、生命について起源や未来を考えようとすると、それだけでも地球内では話が完結できず、枠組みが宇宙規模になってしまうのは当たり前のことなのだ。 さらにいえば、「分布」だってそうだ。 「我々が、現時点で知っている生命というのは地球の生命、ただ1種類なんですよね。では、この宇宙において、生命がその1種類だけかという問題が常にあります。地球の生命の起源を知る研究は、すなわち宇宙において似たような、あるいは全く違うメカニズムで生命が誕生するかということに迫る研究でもあるんです。地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます」 地球の生命を問うには宇宙を考えなければならず、宇宙の生命を問うにはまずは地球の生命を理解するところから始めなければならない。宇宙生物学では、解き明かしたい目標とそのステップとなる個々の探求が、「卵が先か、鶏が先か」というレベルで入れ替わりながら密接にかかわっている。 そんな中、藤島さん自身の研究者としてのバックグラウンドは、合成生物学やシステム生物学、さらには情報生命科学といった、生物学の中でも非常に先鋭的なものだ』、「地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます」、確かに研究分野は宇宙的な広がりがあるようだ。
・『大きくて複雑な様相を呈している「宇宙生物学」のイメージをつかむためには、まず藤島さん自身が宇宙生物学に出会って、今に至るまでの話を伺うのがよいと、お話を聞き始めて最初の5分で作戦を立てた。特に、藤島さんが研究の中心に置いている「起源」から始めて、そこから発展して関わるようになった「分布」の問題に進めば、主に生物学方面から見た宇宙生物学の景色もかなりよく見えてくるのではないかと期待できる。 というわけで、藤島さん自身の「宇宙生物学」との出会いをまずは聞きたい。 そのように述べると、藤島さんは大判の「本」を、さっとぼくの前に差し出した。 「宇宙生物学との出会いといいますと、学生時代に取り組んでいたことから始まります。大学時代の長い話をギュッと縮めた学位論文のタイトルを見ていただければと思います」 その「本」、つまり、製本された博士論文の表紙にはこのようにあった。「古細菌(アーキア)におけるセントラルドグマ理解に向けたシステム生物学的アプローチ(“Systems biology approach toward understanding the central dogma in Archaea”)」 「古細菌におけるセントラルドグマ」を理解したい、という。 まず、古細菌というのはどういうものだろう。 「古細菌は、最初は高温、強酸、強アルカリといった地球上のさまざまな極限環境の中で見つかってきた微生物です。現在では地球上のバイオマス(生物量)の20%ぐらいを占めると言われていまして、あまり一般には知られていないけれども、非常に多様性にも富んでいます。この微生物になぜ注目したかというと、すべての生物の共通祖先から、まずはバクテリア(細菌)と古細菌が2つに分かれて、さらにその古細菌の一門から、人間を含めた真核生物が進化したということが予想されています。言ってみれば古細菌は私たち真核生物の大先祖ともいえる興味深い存在です。また、生命の共通祖先の近くにいる生物というのは、好熱菌、つまり熱いところに住んでいたと言われているものが大半なんですけれども、古細菌はその中でも特に多くの種類が見つかっているので、古細菌の研究をしたら生命の起源に少しでも近づけるのかなっていうふうに当時はぼんやりと思っていました」』、「博士論文」のタイトルだけではさっぱり分からなかったが、解説を読んで理解できた。
・『古細菌は、真核生物、細菌とならんで、地球の生物界を3分するグループのうちの一つで、高度好塩菌、メタン菌、好熱菌、高圧菌など、極限環境微生物の研究から見つかった。真核生物の「大先祖様」だから、ひょっとすると生命の共通祖先に近いかもしれないという魅力がある。また、極限環境で生きられることから「別の惑星でも……」といった妄想を抱かせられる存在でもある。 では、セントラルドグマとはなんだろう。 「DNAという遺伝情報を格納する高分子があって、これはいわばタンパク質の設計図を保管している図書館のようなものです。そこからRNAというものに一時的にその設計図がコピーされ、リボソームといういわば工場みたいなところでタンパク質をつくります。設計図を転写して持ってくるのがmRNA(伝令RNA)で、その設計図に応じたアミノ酸を一つ一つ連れてきてつなげるのがtRNA(転移RNA)ですね。こういった一連の遺伝情報を変換する仕組みをセントラルドグマと呼んでいます。生命の共通祖先は38億年ぐらい前に存在していたと言われていますが、38億年前の生命が既にこの仕組みを持っていたという事実が非常におもしろいなというところで、研究をはじめました」 セントラルドグマは地球生命が持つ共通の仕組みであって、博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた(日本の大学の博士論文でタイトルに"central dogma"という語が入っているのは、今のところ藤島さんの論文だけだ。国立国会図書館の博士論文検索で確認)。そして、リボソーム、mRNA、tRNAといった生命の起源を問う時に頻出するキーワードもここですでに登場する。 また、藤島さんの博士論文には、システム生物学的なアプローチ“Systems biology approach” という言葉もある。これはどんな意味だろう』、「博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた」、大したものだ。
・『「私が大学院時代を過ごした慶應の先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)では、いろんな分野を並列に研究しているのが特徴でした。例えば、ゲノムレベルで解析をする人がいれば、一つ上のRNAのレイヤーで見ている人もいます。さらに、合成されたタンパク質の機能を網羅的に調べている人もいれば、代謝物質を見ている人もいます。結局、いろんな階層で生物が実際にどういうプロセスを生体内で行っているのかというのを見ていく。で、その階層同士のつながりをシステムとして統合してとらえるのがシステムズバイオロジーということです。僕の研究は、古細菌におけるセントラルドグマ、つまりDNAからRNAを経てリボソームでタンパク質が合成される部分に関わる分子の多様性や関係性を階層を超えて見ていたわけです」 この時、藤島さんが師と仰ぐ金井昭夫教授の下で行っていた研究については、設計図に応じたアミノ酸を連れてきてつなげるtRNA(転移RNA)の進化が含まれていたことを付け加えておく。博論にはこれ以上深入りしないけれど、生命の基本システムといえるセントラルドグマの仕組みを研究する中で、藤島さんは自然と「生命の起源」というテーマに引き寄せられていった。 博士研究を無事に終えて研究室の先生と後輩達の前で最終発表を行った後、藤島さんは思いの丈をぶつけた。 「これからはアストロバイオロジーをやりたいって宣言しました。生命の起源の研究をやりたいから、アストロバイオロジーが直に学べる場所でやりたい。でも、正直どこに行っていいか分からないからご助言をお願いしますって。すると、僕の先輩で、今慶應の先端生命研究所にいらっしゃる荒川和晴先生から、NASAのエイムズ研究センターにクマムシの研究をやっている堀川大樹さんという人がいるから相談してみろと言われて、堀川さんとの縁からエイムズにインターンしに行くことになったんです」 前述の通り、エイムズ研究センターは宇宙生物学発祥の地だ。そして、クマムシは極限環境に耐える生物として、当時も今も宇宙生物学的な注目を集めており、この連載にも登場してもらった堀川大樹さんも、キャリアの初期にエイムズ研究センターで研鑽したのだった。 藤島さんもエイムズ研究センターにて、宇宙的な枠組みの中で生命の起源を問う研究へと足を踏み出した。2011年のことだった。 「生命とは何か」から宇宙生命探査まで、藤島さんはわくわくする話をたっぷり語ってくれた。次回以降に乞うご期待! (このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)』、「NASAのエイムズ研究センター・・・は宇宙生物学発祥の地だ」、さすがNASA、単にロケットだけでなく、幅広く研究しているようだ。
次に、上記のあと2つを飛ばして、昨年4月2日付け日経ビジネスオンライン「生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00112/00010/
・『生命は地球以外にも存在する? だとしたらどんなもの? 生命は宇宙(地球)でどのように誕生した? など、宇宙と生命という究極の問いに挑み続ける宇宙生物学が活況だ。その中心地であるNASAのエイムズ研究センターを経て、最前線をひた走る東京工業大学(ELSI)の藤島皓介さんの研究室に行ってみた!その4回目。 前回のペプチド(短いタンパク質)と鉄・硫黄クラスターの話は、主に代謝にかかわる話として理解していたところ、最後は「卵が先か、鶏が先か」のジレンマが出てきた。エネルギー代謝とセントラルドグマ、つまり、代謝系と翻訳系が両輪になっていないといけない、と。 藤島さんの関心は、まさにそういった「両輪」の秘密をめぐる部分へと進む。 キーワードは、「リボソーム」だ。 高校の生物を学んだ人なら、「タンパク質を合成する工場」として記憶しているだろう。DNAから転写されて運ばれてきたタンパク質の設計図を、ここで翻訳してひとつひとつアミノ酸をつないで合成する。こんな精巧な仕組みがどうやって出来上がったのか素人考えでも不思議だし、プロの生物学者たちはもっと不思議に思ってきたらしい。だから、リボソームの起源は、長年の謎とされる。 「僕がおもしろいと思うのは、このリボソームというのは、実はそれ自体、RNAとタンパク質の両方からできている分子だということです。タンパク質をつくるときに、mRNA(伝令RNA)がリボソームに結合して、そこにtRNA(転移RNA)がアミノ酸をつれてきてタンパク質を合成するわけですけど、実はその舞台となるリボソーム自体、RNAとタンパク質の複合体なんですよ」 リボソームは数十種類以上のタンパク質と、数種類のRNA分子(リボソームRNAと呼ばれる)からできている。立体的な構造は代表的なものをネットでいくつも見ることができるのだが、それらは本当に「絡まり合っている」というのがふさわしい。 2種類の「紐」が、解きほぐし難く一つの構造物を作り上げ、そこで、紐1(核酸)の情報から紐2(タンパク質)の合成が行われる。リボソームそのものが、二重の意味で、2つの「紐」が交わるところになっている。 (リボソームの構造と働きを可視化した動画。働きがよくわかる映像は1分25秒前後から。青と紫のいちばん大きなかたまりがリボソームで、黄色い紐がタンパク質を作る情報を記録したmRNA。緑色のブロックがアミノ酸を連れてくるtRNA。その先端の赤い部分が、タンパク質の合成に使われるアミノ酸だ。テープレコーダーのようにリボソームが黄色い紐を取り込んで、その情報(3塩基分ごと)に対応するtRNAが順番にくっつき、赤い紐がどんどん伸びてゆく、つまり、アミノ酸の紐であるタンパク質が合成される様子が巧みに再現されている。 生命の起源の議論では、RNAが先か、タンパク質が先かという議論があって、それぞれ、RNAワールド仮説、プロテインワールド仮説、などと呼ばれている。リボソームは、セントラルドグマの中で重要な役割を果たすものだから地球生命の進化のきわめて早い段階からないと困るのに、いきなり両方が絡まり合って存在しているから謎が深まる』、リンク先の「リボソームの構造と働きを可視化した動画」、なかなかよく出来ていて、精巧な仕組みには改めて驚かされる。
・『「そこで、僕の立場は、RNAが先かタンパク質が先かという話ではなく、恐らく同時に進んできたのではないか、というものです。原始地球の頃からRNAとタンパク質の紐が共存していて、両方の紐が同時にあることがお互いにそれぞれ有利に働くような共進化が働いて、そのおかげで徐々に大きいリボソームのようなものができてきたんじゃないかというふうに考えています」 RNAが先でも、タンパク質が先でも、両方が絡まり合ってできているリボソームの起源は説明しにくいのだとしたら、両方が共存してともに進化しきた可能性があるのではないか、というのが藤島さんの見立てだ。 「RNA、つまり核酸の紐と、ペプチド、つまりアミノ酸の紐、2種類の紐が共存している世界があったと仮定して、2つが同時に存在することがそれぞれの進化にとって有利だったということを証明したいんです。それがもし証明できれば、タンパク質とRNAからなるリボソームができた過程も分かるでしょうし、そもそも、地球の生命が核酸とタンパク質の2つの紐をかくも見事に協調させて使っていることの説明もできるはずです」 具体的には、藤島さんは徹底的、網羅的な手法を取る。あたかもコンピュータの中でシミュレーションのプログラムを走らせるかのように総当たり的な組み合わせを実際に試す。 「今、合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されているので、試験管の中でまぜまぜしてRNAとタンパク質のカクテルを作ることができます。その時に、できたタンパク質が逃げてしまわずにそのままRNAとくっついているような化学物質を加えておくと、RNAタンパク質複合体ができます。そして、その中から、何か特定の機能を持っているものをスクリーニングしていきます」 藤島さんが考える原始の「RNA・ペプチド共存ワールド」では、RNAとそこから翻訳されたペプチドが一緒にいることで有利になったと想定されるので、それが実際に起きるかを見ていく。 「これまでの過去の実験事例から、RNA自体が折りたたまって、それ自体、触媒活性を持ったり(リボザイム)、特定の分子に結合能があるもの(アプタマー)が見つかっています。つまり、それらは、原始地球でRNAワールドがあったという時に引き合いに出されるものです。でも、RNAだけよりも、タンパク質も一緒にあると、より適応度が高くなるような状態を示したいわけです。これもう、黒板に書いてしまいますね──」 藤島さんはさっと立ち上がって、黒板になにやら図表を描き始めた。 3次元の座標がまずあって、その「底面」から山がいくつも立ち上がる。 「こういうのを適応度地形と言います。縦の軸は『適応度』といって、どれくらい分子が環境に適応しているか、この場合は、RNAの機能の高さを測った尺度だと解釈してください。そして、横軸といいますか底面は、配列空間です。たとえば、RNAの配列に応じて、この底面に点を打てるわけです。そして、それぞれのRNAについて『適応度』を見ていきます。『適応度』の尺度には、ここでは、RNAがエネルギーの共通通貨といわれるATPという物質と結合する能力を考えましょうか。最初のスクリーニングをすると、結合能が高いものが小さな山として立ち上がって見えてくるので、今度はそういった能力が高いものを集めてまたスクリーニングするというサイクルを繰り返します。すると、最終的にある程度高い山がいくつかできていきます。こうやってRNAの機能が高いものの配列がとれます」』、「合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されている」、世の中にこんなビジネスが登場しているとは初めて知った。
・『ここまではRNA単独での話で、既存の研究がある。RNAワールドでも、たとえばATPとの結合能が高い方が分子の生存に有利であるならば、そういった「適応度」が高いものが選ばれて残っていくことが観察できる。藤島さんが試みるのは、ここに同時にペプチドの紐があったらどうなるか、ということだ。 「結局、環境中を考えると、RNAのような複雑な分子がそれ単独で存在しているなんてことはあり得ないですし、RNAがある世界では、それよりも出来やすいペプチドはもうあったはずなんです。RNA・プロテインワールド、つまり両方の紐が共在していた世界ですね。そういう前提で考えると、RNA単独では見られなかったようなところにも山が立ち上がってくるはずです。そうなると山の裾野同士がオーバーラップする場所がでてくるかもしれない。そうすると一つの機能に対して、より高い山に登りやすくなる、つまり進化が連続的に起きやすいということでもあります。RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすいんだということを示せれば、ながらく謎だったリボソームの起源にも近づけると思っています」 RNAとペプチドの両方があると、山の裾野がオーバーラップして、高い山により登りやすくなるような現象がもし確認できれば、地球の生命が核酸とタンパク質の2つの紐を見事に協調させて使っていることも説明できると藤島さんは考えている。 以上、藤島さんが実験室で、自ら手を動かし、原始地球で起きたかもしれない進化を再現しようとしている一連の実験を紹介した。 合成生物学的な方法で、生命の起源を問う学術領域の熱い雰囲気が伝わればなによりだ。 もう一点だけ、ずっと気になっていたことを確認したい。 これまでの議論は、「紐」ができたり、それらが共進化したりという、生命のシステムに必要なことばかりだけれど、何かが足りない。 いったい何だろうか、と考えていて、ふと気づいた。足りないのは「形」だ。 これは生き物である、生命である、という時には、シロナガスクジラみたいに大きなものにせよ、大腸菌のように小さなものにせよ、すべて「形」がある。形がないと境界がなくなって、「これは生命だ」といえなくなるのではないだろうか』、「RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすい」、確かにその通りなのかも知れない。
・『「それって、たしかにその通りで、例えば膜がないと生命じゃないという立場もあります。それは理にかなっていて、つまり自己と他己を分ける境界線が膜なので、それがないと、大きなスライムみたいなかたまりの中でいろんな分子のやりとりをして……エヴァンゲリオンでいうあれですね、人類補完計画の補完後の状態みたいなものです。でも生命は補完前に戻ろうとするという(笑)。つまり個で自立できた系を生命と名付けたにすぎません」 システムが働いたとしても、形がないものを生命といえるだろうか? この点は本当に奥深く、自己と他者の区別がつかない状態でも生命のシステムが動いている状態というのは想定できるということだ。でも、そんな中から、くっきりとした「個」が登場するというのはどう考えればいいのだろう。 「その議論はある意味おもしろくて、偶然か必然かという話もあります。かりに必然じゃなくて偶然だったとしても、たまたまちぎれた一つの個体が、周囲の環境に適応した場合、そのまま増えていく可能性があります。適者生存のダーウィン的進化に突入していくと。その前はダーウィン的進化ではなくて、水平伝搬の嵐ですね。自己と他者の区別が曖昧な状況でお互いがお互いに必要なものを作って交換していくという。もちろん僕たち今の生命は、ダーウィン的進化の結果できたものです」 ダーウィン的進化というのは、端的に言えばダーウィンが考えた生存競争による「適者生存」によって起きる進化のことだ。これは、生命が「個体」であることを前提にしている。言われてみればそのとおりだ。 「ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません。逆にそれが観察できるということは、遺伝情報物質を持っていて、他己と自己が分かれている、ちゃんとセパレートしているような系であるということです。そこにあとはエネルギーを自分自身がつくれるような仕組みもあれば、限りなく今の生命に近いものになってくると思います」 今のぼくたちは生命の歴史に思いを馳せて系統樹を描き、古細菌と真核生物はいつ分かれたなどと議論するわけだが、それはこういったダーウィン的進化があってのことだ。藤島さんが今、研究のリソースを集中させている2つの「紐」の共進化の問題と隣接してこんな議論もあって、またスリリングであることをお伝えしておきたい。 つづく (このコラムは、ナショナル ジオグラフィック日本版サイトに掲載した記事を再掲載したものです)』、「「ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません」、「ダーウィン的進化」について考えを深めることができた。
第三に、10月5日付け現代ビジネスが掲載した山中 伸弥氏とNHKプロデューサーの浅井 健博氏の対談「山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? 」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67554
・『タモリさんと山中伸弥さんが司会を務めたNHKスペシャル「シリーズ人体Ⅱ遺伝子」は、今年高視聴率を獲得した番組として話題になった。背景にあるのは、現在急速に進む「遺伝子」研究への期待と不安――。技術は日々進化し、テレビで遺伝子検査のCMが流れる時代にあって、ゲノム編集で人体が「改造」されるのもそう遠くないのではないかと考える人もいるだろう。 今回、そんな『シリーズ人体 遺伝子』書籍化のタイミングで、特別対談が企画された。生命科学研究のトップリーダー山中伸弥さんと浅井健博さん(NHKスペシャル「シリーズ人体」制作統括)が、いまなぜ生命倫理が必要か――その最前線の「現実」を語り明かした』、「シリーズ人体」は参考になる点が多かった。その対談とは、興味深そうだ。
・『山中さんの踏み込んだ発言 「人類は滅ぶ可能性がある」――これは収録中、司会の山中伸弥さんがつぶやいた言葉である。 私たち取材班は、番組を通じて、生命科学の最前線の知見をお伝えした。どちらかといえば、その内容は明るく、ポジティブな未来像を描くものだった。 それだけに私(浅井健博)は、山中さんの踏み込んだ発言に驚かされたが、同様の不安を視聴者も感じていたことを後に知った。 Twitterや番組モニターから寄せられたコメントの中に、未来に期待する声に交じって、生命科学研究が際限なく発展することへの漠然とした恐れや、技術が悪用されることへの不安を指摘する意見も含まれていたからだ。 それにしても「人類が滅ぶ可能性」とは、ただごとではない。山中さんは日本を代表する生命科学者であり、iPS細胞の作製という最先端技術を生み出した当事者でもある。だからこそ生命科学が、人類に恩恵をもたらすだけでなく、危険性も孕んでいることを誰よりも深く認識しているのではないか。 そう考えた私は、山中さんの話を聞くため、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の所長室を訪ねた』、山中発言の真意を探る意味は大きい。
・『「こんなことまでできるのか」 浅井 まず今回の番組の感想をお聞かせください。山中さんのご研究と関連して、興味を持たれたところ、面白いと感じられたところはございますか? 山中 番組で扱われた遺伝子やゲノムは、僕たちの研究テーマですから、内容の大半に馴染みがありました。しかし、DNAから、顔の形を予測する技術には、正直、ビックリしました。 浅井 どのあたりに驚かれたのですか? 山中 研究の進展のスピードです。僕の予想以上のスピードで進んでいる。番組の台本をいただく前に、取材先の候補とか、番組の中でDNAから顔を再現するアイデアをあらかじめ教えていただきましたね。その段階では、DNAからの顔の再現は、将来は実現可能だとしても、まだしばらく無理だろうと思っていました。 しかしその後、関連する論文を自分で読んだり、実際に映像を見せていただいたりして考えをあらためました。「こんなことまでできるのか」と。 僕たちも、以前は自分の研究とは少し異なる分野の関連する論文も読んでいましたが、今は数が多くなりすぎて、とてもすべてをフォローできません。番組のもとになった、中国の漢民族の顔の再現の研究についてはまったく知りませんでした。もっと勉強しないとダメだと思いましたね。 浅井 今回の番組をご覧になった視聴者の方が寄せた声から、研究の進展のスピードや精度の向上が大きな驚きを持って受け止められたことがわかりました。 一方で、「悪用も可能ではないか」「遺伝子で運命が決まるのではないか」と不安や恐れを感じられた方もいました。山中さんは、こういった技術に対する脅威あるいは危険性を、どう考えておられますか? 山中 以前はDNAの連なりであるゲノムのうち2%だけが大切だと言われていました。その部分だけがタンパク質に翻訳されるからです。 ところが、タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになったのです。 さらにDNA配列だけでは決まらない仕組み、第2部で登場したDNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました。 iPS細胞も遺伝子を導入して作りますが、そのときエピゲノムに大きな変化が起こって細胞の運命が変わります。ですから、最先端の生命科学研究のひとつひとつを詳しくフォローできないまでも、その研究の持つ意味については、僕もよく理解していたつもりです。 もちろん理解できることは大切ですが、それだけでは十分ではありません。すでにゲノムを変えうるところまで技術が進んでいるからです。 宇宙が生まれて百数十億年、あるいは地球が生まれて46億年、生命が生まれて38億年、その中で僕たち人類の歴史はほんの一瞬にすぎません。しかしそんな僕たちが地球を変え、生命も変えようとしている。 長い時間をかけてできあがったものを僕たち人類は、今までになかった方法で変えつつある。よい方向に進むことを祈っていますが、一歩間違えるととんでもない方向に行ってしまう。そういう恐怖を感じます。番組に参加して、研究がすさまじい速度で進展することのすばらしさと同時に、恐ろしさも再認識しました』、「タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになった」、「さらにDNA配列だけでは決まらない仕組み・・・DNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました」、生命科学の進歩は確かに日進月歩だ。
・『外形も変えられ病気も治せるが…… 浅井 番組の中では、どこまで最先端の科学が進んでいるのかをご紹介しました。それは、私たち素人にとってもとても興味深い内容でした。中でも、先ほど山中さんがおっしゃったゲノムを変える技術について、おうかがいしたいと思います。 ゲノムを人為的に変える技術は昔からありましたが、最近になってゲノム編集と呼ばれる新しい技術が登場して、従来よりも格段に簡単にゲノムを改変できるようになりました。この技術に注目が集まると同時に、生命倫理の問題も浮上しています。 山中 ゲノム編集は、力にもなれば、脅威にもなると思います。僕たちの研究所でも、ゲノム編集を取り入れていますが、ゲノムをどこまで変えていいのかという問題に、僕たちも今まさに直面しています。 浅井 ゲノムを辞書にたとえると、自由自在に狙った箇所を、一文字単位で書き換えられるのが、ゲノム編集ですね。 2012年に、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授とスウェーデンのウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエ教授らの共同研究チームによって開発された「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」と呼ばれる技術が有名です。 山中 今では生命科学研究に欠かせない技術です。 浅井 番組の中で、鼻が高くなる、低くなるといった身体的特徴の違いや、あるいはカフェインを分解しやすい、分解しにくいといった体質の違いなど、いろんな性質を決める仕組みが遺伝子研究によって明らかにされつつある状況を紹介しました。 こういうさまざまな性質は今後、コントロールできるようになるのではないかと考えられています。本当に顔の形や病気のかかりやすさなど、コントロールすることはできるのでしょうか? 山中 たとえば、ミオスタチンと呼ばれる筋肥大を抑制する遺伝子をゲノム編集によって破壊すると、種を超えていろんな動物の筋肉量が増えることが知られています。 遺伝情報に基づいて外見的、生理的に現れた性質を「表現型」と呼びますが、病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられることが示されています。 ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です。 今の段階では、人類がゲノムを完全に制御できるわけではなく、リスクがある。やはりリスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります。 浅井 恐怖と言えば、世代を超えて恐怖が遺伝するという研究も番組で紹介しましたが、ゲノムを改変すれば恐怖をコントロールすることすら可能かもしれないですね。 山中 知らないうちに記憶を植えつけられるといったモチーフを使ったSFもあります。言い古されていることですが、SFで描かれている内容は現実になることが多い。さらにSFで描かれていない、SF作家ですら想像できないことを科学が実現することもよくあります。 どういう未来が来るのか、本当にわかりません。科学者として、僕も人類を、地球をよくしたいと思っています。しかし科学は諸刃の剣です。 浅井 人類のために良かれと思ってしたことが、災いをもたらす可能性もあります。山中さんがスタジオトークで「人類が滅ぶ可能性もある」とおっしゃったとき、ハッとさせられました。 山中 僕たち人類は、1000年後、1万年後も、この地球に存在する生物の王として君臨していると思いがちですが、自明ではありません。1万年後、私たちとは全然違う生物が、地球を支配していても不思議ではありません。しかも、自然にそうなるのではなく、人間が自らそういう生物を生み出すかもしれません。 うまくいけば人類は地球史上最長の栄華を誇ることができるかもしれないし、一歩間違うと、新たな生物に地球の王座を譲り渡すことになります。 今、人類はその岐路に立っていると思います。ゲノムを変えることだけではありません。大きな電力を作り出すことができる原発ですが、ひとたび事故が起きると甚大な被害が発生します。 暮らしの中のあらゆる場面で活躍するプラスチックですが、海を漂流するゴミとなり生態系に影響を及ぼしています。科学技術の進歩が、人間の生活を豊かにするのと同時に、地球、生命に対して脅威も与えているのです』、「病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられる・・・ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です・・・リスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります」、山中氏も「規制」が必要と考えているようだ。
・『研究者の倫理観が弱まるとき 浅井 遺伝子には多様性を広げる仕組み、あるいは局所的な変動に適応する仕組みが組み込まれています。遺伝子は、今現在の僕らを支えつつ、将来の変化に対応する柔軟性も備えているわけです。その仕組みに人の手を加えることはどんな結果につながるのでしょうか? 山中 ダーウィンは、進化の中で生き残るのは、いちばん強い者でも、いちばん頭がよい者でもなく、いちばん適応力がある者であると言いました。 適応力は、多様性をどれだけ保てるかにかかっています。ところが今、人間はその多様性を否定しつつあるのではないか。僕たちの判断で、僕たちがいいと思う方向へ生物を作りかえつつあると感じています。 生物が多様性を失い、均一化が進むと、ちょっと環境が変わったとき、たちどころに弱さを露呈してしまいます。日進月歩で技術が進む現代社会は、深刻な危うさを孕んでいると思います。 浅井 しばらくは大丈夫と高をくくっていましたが、あっというまにそんな事態に陥るかもしれません。だからこそわれわれは番組制作を通して、警鐘を鳴らす必要があると考えています。 一方、山中さんは番組の中で「研究者としてどこまでやってしまうのだろうという怖さがある」と発言されています。 多くの研究者の方々はルールに従い、何をしていいのか、してはならないのかを正しく理解していると思いますが、研究に歯止めが利かなくなると感じるのはなぜでしょうか?』、「日進月歩で技術が進む現代社会は、深刻な危うさを孕んでいる」、その通りだろう。
・『人間の残虐性に迫ったアイヒマン実験 山中 人間は、特定の状況に置かれると、感覚が麻痺して、通常では考えられないようなひどい行動におよぶ場合があるからです。そのことを示したのが、アイヒマン実験です。 浅井 有名な心理学実験ですね。アイヒマン(アドルフ・アイヒマン)はナチス将校で、第二次大戦中、強制収容所におけるユダヤ人大量虐殺の責任者でした。 戦後、死刑に処されました。彼は裁判で自分は命令に従ったにすぎないと発言しました。残虐というよりは、内気で、仕事熱心な人物に見えたとも言われています。 山中 そんな人物がどうして残虐になり得るのか。それを検証したのが、イェール大学の心理学者スタンリー・ミルグラムが行ったアイヒマン実験です。 この実験の被験者は教師役と生徒役に分かれ、教師役が生徒役に問題を出します。もし生徒役が問題を間違えると、教師役は実験者から生徒役に電気ショックを与えるように指示されます。 しかも間違えるたびに電圧を上げなければなりません。教師役が電気ショックを与えつづけると生徒役は苦しむ様子を見せます。ところが実際には生徒役はサクラで、電気など通じていない。生徒役の苦しむ姿は嘘ですが、叫び声を上げたり、身をよじったり、最後には失神までする迫真の演技なので、教師役は騙されて、生徒役が本当に苦しんでいると信じていました。 それでも、教師役を務めた被験者の半分以上が、生徒役が失神するまで電気ショックを与えた。教師役の被験者がひとりで電気ショックのボタンを押すのなら、そこまで強いショックを与えられなかったでしょう。 ところが、白衣を着て、いかにも権威のありそうな監督役の実験者から「続行してください」とか「あなたに責任はない」と堂々と言われ、教師役はボタンを押すのをためらいながらも、どんどんエスカレートして、実験を継続したんです。 浅井 ショッキングな実験結果ですね。権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう』、「アイヒマン実験」は有名だが、「権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう」、大いに心すべきだろう。
・『チームのほうが誘惑に弱くなる 山中 研究にも似ている側面があるのではないか。ひとりで研究しているだけなら、生命に対する恐れを感じて、慎重に研究する。そういう感覚はどの研究者にもあると思います。 ところがチームになって、責任が分散されると、慎重な姿勢は弱まって、大胆になってしまう。たとえルールがあっても、そのルールを拡大解釈してしまう。気がついたらとんでもないことをしていたというのは、実際、科学の歴史だけでなく、人類の歴史上、何度も起きたし、これからも起こりえます。 科学を正しく使えば、すばらしい結果をもたらします。しかし今、科学の力が強すぎるように思います。現在ではチームを組んで研究するのが一般的です。そのため責任が分散され、倫理観が弱まって、危険な領域へ侵入する誘惑に歯止めが利きにくくなっているのではないかと心配しています。 浅井 山中さんご自身も、そう感じる局面がありますか? 山中 そういう気持ちの大きさは人によって違います。 僕はいまだにiPS細胞からできた心臓の細胞を見ると不思議な気持ちになる。ちょっと前まで、血液や皮膚の細胞だったものが、今では拍動している、と。 ヒトiPS細胞の発表から12年経ちますが、この技術はすごいと感じます。しかし人によっては、毎日使っているうちにその技術に対する驚きも消えて、当たり前になる。 歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです。研究の方向性について適宜公表し、さまざまな人の意見を取り入れながら進めていくことが重要ですし、そうした意見交換をしやすい仕組みを維持することも大切だと思います』、「科学の力が強すぎるように思います。現在ではチームを組んで研究するのが一般的です。そのため責任が分散され、倫理観が弱まって、危険な領域へ侵入する誘惑に歯止めが利きにくくなっているのではないかと心配しています」、「歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです」、マスコミが監視機能を果たしてくれればいいのだが、情報欲しさに監視機能をないがしろにする懸念もある点は要注意だ。
タグ:博士研究で扱うテーマとしては「大きすぎる」どころか「恐れ多い」とすら感じる人も多いはずなのだが、藤島さんは成し遂げた 合成生物学の世界では、ランダムな配列のDNAをデザインして注文することができて、それだと10の13乗ぐらいの異なる配列のDNAが手元に届きます。そこから転写して、10の13乗種類のRNAを作り、さらにそれを翻訳してタンパク質を作るものも市販されている 現代ビジネス NASA 宇宙生物学 川端 裕人 歯止めとして有効なのは、透明性を高めることだと思います。密室で研究しないことです チームのほうが誘惑に弱くなる 権威のある人のもとで、人間は際限なく残酷になってしまう 人間の残虐性に迫ったアイヒマン実験 研究者の倫理観が弱まるとき ただしわかっていないこともたくさんあります。どこまで正確に変えられるのか。表現型を変えたとして1~2年はともかく、何十年か後に影響が出ることはないのか。 生殖細胞を改変した場合、つまり次の世代に伝わる変化を起こしたとき、何百年という単位でどういう影響がありえるのか。これらは未解決の問題です 「人類は滅ぶ可能性がある」 リスクとベネフィットを評価して、ベネフィットが上回ると考えられる場合に限って、慎重に進めていくべきです。規制も必要でしょう。逆に、規制がないと大変なことになるという漠然とした恐怖感が常にあります 病気を含め、いろいろな表現型をゲノム編集によって実際に変えられる 山中さんの踏み込んだ発言 NHKスペシャル「シリーズ人体Ⅱ遺伝子」 「山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? 」 浅井 健博氏 山中 伸弥氏 ダーウィン的進化が起きるための必要条件というのは、遺伝情報物質を持っているということと、それが膜に包まれているということですね。つまり自分と他が分かたれているような状態であること。そうじゃないと、ヨーイドンである環境にさらしたときに、適応しているもの、してないものの差がつかない以上、ダーウィン的進化が起こっていきません リボソームの構造と働きを可視化した動画 博士論文 RNA単独、ペプチド単独よりも、両方存在する時により連続的な高分子の進化が成り立ちやすい 「生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」」 地球の生命の普遍性、特殊性を考えた場合、地球のような惑星がどれぐらいの頻度でこの宇宙に存在しているか、天文学系の研究と考え合わせれば、宇宙のどういったところに生命が分布しうるのかという話にもつながっていきます 外形も変えられ病気も治せるが…… DNA配列だけでは決まらない仕組み、第2部で登場したDNAメチル化酵素のような遺伝子をコントロールする、いわゆるエピゲノムの仕組みの解明も急速に進みました タンパク質に翻訳されない98%に秘密が隠されていると、この10年で劇的に認識が変わりました。ジャンク(ゴミ)と言われていた部分にも、生命活動に重要な役割を果たすDNA配列があることが明らかになった 宇宙における『生命の起源』と『生命の分布』、そして人類を含めた『生命の未来』」を研究している 生物学者(いわば「生物」担当)だけでなく、地学、惑星、海洋、化学、情報科学研究者などさまざまな専門性を持った人たちがいて 東京工業大学が地球生命研究所(ELSI) "Astrobiology"という言葉を公式に使うと宣言 「そもそも「宇宙生物学」って何ですか?」 藤島皓介氏 日経ビジネスオンライン (その1)(そもそも「宇宙生物学」って何ですか?、生命誕生の鍵を握る驚異の「リボソーム」、山中伸弥が「人類は滅ぶ可能性がある」とつぶやいた「本当のワケ」 生命科学の危険性とは何か? ) エイムズ研究センター 生命科学
人工知能(AI)(その6)(圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する、「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか) [科学技術]
人工知能(AI)については、10月25日に取上げた。今日は、(その6)(圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する、「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか)である。
先ずは、11月26日付け東洋経済オンライン「圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり、人類は2階層に分断する・・・世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/251207
・『世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』。7万年の軌跡というこれまでにない壮大なスケールで人類史を描いたのが、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏だ。 現代を代表する知性が次に選んだテーマは、人類の未来像。近著『ホモ・デウス』で描いたのは、人類が「ホモ・サピエンス」から、遺伝子工学やAI(人工知能)というテクノロジーを武器に「神のヒト」としての「ホモ・デウス」(「デウス」はラテン語で「神」という意味)になるという物語だ。 ホモ・デウスの世界では「ごく一部のエリートと、AIによって無用になった『無用者階級』に分断し、かつてない格差社会が到来する」と警告するハラリ氏を直撃した。 本記事ではハラリ氏へのインタビューの一部を抜粋・・・』、『無用者階級』が出現する「かつてない格差社会が到来する」とは穏やかではない。
・『生命をつかさどる最も根源な法則を変えようとしている この本を書いたのは、人類史上、最も重大な決断が今まさになされようとしていると考えたからだ。遺伝子工学やAIによって、私たちは今、創造主のような力を手にしつつある。人類は今まさに、生命を司る最も根源的な法則を変えようとしている。 40億年もの間、生命は自然淘汰の法則に支配されてきた。それが病原体であろうと、恐竜であろうと、40億年もの長きにわたって生命は自然淘汰の法則に従って進化してきた。しかし、このような自然淘汰の法則は近く、テクノロジーに道を明け渡す可能性が出てきている。 40億年に及ぶ自然淘汰と有機的進化の時代は終わりを告げ、人類が科学によって非有機的な生命体を創り出す時代が幕を開けようとしているのだ。 このような未来を可能にする科学者やエンジニアは、遺伝子やコンピュータについては知悉している。だが、自らの発明が世の中にどのような影響をもたらすかという倫理上の問題を理解できているとは限らない。 人類が賢い決断ができるように手助けするのが、歴史家や哲学者の責務だろう』、ずいぶん大きく振りかぶったものだ。
・『歴史を見ればわかるように、人類は新しいテクノロジーを生み出すことで力を獲得してきたが、その力を賢く使う術を知らない、ということが往々にしてあった。 たとえば、農業の発明によって人類は巨大な力を手に入れた。しかし、その力は一握りのエリートや貴族、聖職者らに独占され、農民の圧倒的大多数は狩猟採集を行って生きてきた祖先よりも劣悪な生活を強いられる羽目になった。 人類は力を手に入れる能力には長けていても、その力を使って幸福を生み出す能力には長けていない。なぜかといえば、複雑な心の動きは、物理や生命の法則ほど簡単には理解できないからだ。 石器時代に比べて人類が手にした力は何千倍にもなったのに私たちがそこまで幸福でないのには、こうした理由がある。 農業革命によって一握りのエリートは豊かになったが、人類の大部分は奴隷化された。遺伝子工学やAIの進化がこのような結果を招かないように、私たちはよくよく注意しなければならない』、その通りだろう。
・『「無用者階級」が生まれるかもしれない ホモ・サピエンス(人類)はかつて、動物の一種に過ぎなかった。人類が大人数で協力できるようになったのは、私たちに架空の物語を創り出す能力が備わっていたからだ。人類は大人数が協力することで、この世界の支配者となった。 そして今、人類はみずからを神のような存在に作り替えようとしている。(遺伝子工学やAIといったテクノロジーによって)創造主のような神聖なる力を、今まさに獲得しつつあるということだ。 人類はラテン語で「賢いヒト」を意味する「ホモ・サピエンス」から、「神のヒト」としての「ホモ・デウス」にみずからをアップグレードしつつある。 最悪のシナリオとしては、人類が生物学的に2つのカーストに分断されてしまう展開が考えられる。AIが人間の能力を上回る分野が増えるにつれ、何十億人もの人々が失業者となる恐れがある。こうした人々が経済的に無価値で政治的にも無力な「無用者階級」となる。 一方で、ごく一部のエリートがロボットやコンピュータを支配し、遺伝子工学を使って自らを「超人類」へとアップグレードさせていく可能性すら出てきている。 もちろん、これは絶対的な予言ではなく、あくまで可能性にすぎない。が、私たちはこのような危険性に気づき、これを阻止していく必要がある。 私が『ホモ・デウス』で論じた不平等とは、人類がこれまでに経験したものとは比べものにならない圧倒的な不平等だ』、「人類はみずからを神のような存在に作り替えようとしている」というのは、確かに恐ろしいことだ。「無用者階級」と「超人類」への二極分化も憂鬱な未来だが、我々はこれを阻止できるのだろうか。
次に、エール大経済学部准教授の伊神 満氏が11月8日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/110100004/
・『AI(人工知能)が仕事を奪う、世の中は大変なことになる――。AI技術の急速な発展が報じられる中で、世間では「ふわっとした」議論が繰り返され、「機械との競争」への漠然とした不安ばかりが煽られている。だが、本当にそうなのか。本コラムでは、世界最先端の経済学研究を手がかりに、名門・米エール大学経済学部で教鞭を執る伊神満准教授が「都市伝説」を理性的に検証する』、これは無責任な「煽り記事」ではないので、参考になりそうだ。
・『まずはじめに:連載コラム(全4回)の趣旨 人工知能(AI)については色々な人が色々なことを言っている。だが、よく分からない未来を語るにつけて、楽観論も悲観論も、ただ各人が「個人的に言いたいこと」を言っているだけのように見える。 となると、「AI技術は是か非か」「AI失業は起こるのか」「もはや人類の滅亡は時間の問題か」についての「結論」自体には、ほとんど何の意味もない。これだけ沢山の予想があれば、そのどれかは当たるだろうし、大半は外れるに決まっているからだ。 そんなことよりも、冷静な人たちが交わしている「それなりの確かさをもって言えそうなこと」に耳を傾け、吟味しよう。そしてあなた自身の身の振りかたについては、あくまで自分の頭で考えよう。でなければ、あなたという人間の「知能」と人生に、いったい何の意味があるだろうか。 このコラムは、経済学者である筆者が、9月中旬にカナダのトロント市で開催された第2回全米経済研究所(NBER)「人工知能の経済学」学会で行った研究発表と、そこで見聞きした世界を代表する経済学者たちによる最新の研究について、一般向けにまとめたものである』、信頼性が高そうだ。
・『「あなたの仕事が危ない」? まずは、AIが「人間の経済活動にもたらす」影響を考えてみよう。連載コラムの前半にあたる第1回と第2回では、AIの「外側」の経済学の話をする。 AIやロボットは、これまで人力を必要としていた生産活動の「自動化」ととらえるのが一般的だ。そこで、AIの「外側」の経済学では、自動化技術の中身はさておき、それがもたらす経済活動へのインパクトを考察する(連載後半にあたる第3回と第4回では、AIの「内側」の経済学に触れる。この分類は、論点を整理するために筆者が独自に使っているものだ)。 今日紹介するのは、誰もが気になる「自分の仕事はなくなってしまうのか」という問いについての、興味深い実証プロジェクトだ』、このブログで今回紹介するのは、第1回と第2回だ。
・『仕事を1つひとつのタスクに分解してみよう ミクロ実証的な1つのアプローチとしては、個々の職業を、その構成要素である各種「作業」レベルに分解して考えてみることができる。たとえば、大学教授という「職業」の人は、大きく分けて、(A)研究 (B)教育 (C)雑用 という3種類の活動に時間を使う。そこでたとえば(B)の教育活動を、さらに (B1)授業内容の立案と作成 (B2)授業そのものの実施 (B3)宿題やテストによる学生の評価 (B4)大学院生の研究へのアドバイス……のように分解し、さらに細かく具体的な「作業」をリストアップすることができる。そして、各「作業」(タスク)について、今後10年間でどのくらい自動化できそうか、その筋の専門家に点数をつけてもらおう。こういう点数を並べれば、「大学教授という職業が何パーセント自動化できそうか」を測る目安くらいにはなりそうだ。 感覚をつかんでもらうために、もう1つの例として「米国で大手監査法人に勤める会計士(専門分野は税務)」についても、業務内容をざっくりタスク分けしてみよう。(W)税務申告書の作成 (X)税務申告書の確認 (Y)チームのマネジメント (Z)クライアントの獲得および関係構築 たとえば末端の仕事である (W)を詳しく見ていくと、(W1)試算表の勘定科目(の管理コード)を整理して、ソフトに入力
(W2)税務上と会計上では費用・収益の認識が異なるので、違いを計算してソフトに入力 (W3)税控除や繰越欠損金が利用できるか否かを判断する といったタスクによって構成されている。もともとこの分野はコンピューターによる処理との相性が良い。だから(W1)や(W2)などはソフトの活用を前提としたタスク設計になっている。とはいえ、たとえば「交際費はその内容によって控除の可否が変化する」といった例外処理も多いため、完全自動化は難しいのだという。 この記事の読者も、ためしに自分の仕事のタスク構成を洗い出してみたらどうだろう。AIによる自動化が云々という話以外にも、何か新しい発見があるかもしれない。 こうした「自動化のしやすさ」を、世の中の多くの職業について数値化したのが、「機械学習と職業の変化」という論文である・・・といっても、今まさに進行中の研究だから、完成版が読めるのはまだ先になりそうだ。 この研究を発表したのは、米マサチューセッツ工科大学(МIT)のエリック・ブリニョルフソン教授だ。IT(情報技術)業界研究のベテランで、最近では『プラットフォームの経済学』(日経BP社)なども邦訳されている。彼自身も発表中に認めているように、数値結果そのものは、分析プロセスを少し変更しただけでも、ガラッと変わる。 たとえば、大学教授の仕事(B)教育について、具体的なタスクをいかに定義するのか、どこまで適切に細分化できるのか、本当にうまく自動化できるのか、大学教授であるはずの筆者にもよく分からない。 また、(B)教育を自動化した結果、大学教授というポストそのものが消滅してしまうのであれば、筆者は専業コラムニストに転職せざるを得ない。しかし逆に、これまで(B)に割いていた時間と体力を(A)研究に注げるようになるのであれば、願ったり叶ったりだ。 だから、たとえ「学者が科学的にたどりついた発見や数字」であっても、結論そのものには飛びつかない方がいい。当然、(自称)コンサルタントや(自称)天才プログラマーが適当にぶち上げている「未来予想」については、言うまでもない』、確かに、世の中にはいい加減な「未来予想」が溢れているようだ。
・『自動化しやすいタスクの8条件 ……というわけで、ブリニョルフソン教授らによる論文自体は未完成なのだが、理論的考察の大枠については、『サイエンス』誌上で「機械学習で何ができるのか? 労働需要への影響について」という短い記事を読むことができる。 その要点をまとめると、タスクを自動化するためには、8つの条件が必要だという(表1)。ちなみにこれは、スタンダードな「教師あり機械学習」、つまり回帰分析のようなデータ処理を主眼としたリストである。 表1:「自動化しやすいタスク」の8条件(1.「インプット」と「アウトプット」が、どちらも明確になっている。 2.インプットとアウトプットを正しく対応させたデジタルデータが、大量に存在する。 3.明確なゴールがあり、その達成度について明確なフィードバックがある。 4.長々とした論理展開や、いろいろな背景知識・一般常識にもとづく思考が、必要ない。 5.下した判断について、その理由や過程を詳しく説明する必要がない。 6.多少の誤差・間違いが許され、「正解」を理論的に証明する必要もない。 7.現象自体や「インプットとアウトプットの対応関係」が、時間の経過によってあまり変化しない。 8.物理的な作業における器用さや特殊技能が、必要ない。 このように機械学習の射程範囲をハッキリさせていくと、何でもかんでもうまく自動化できるとは限らないことが、浮き彫りになる。もちろん、機械が苦手とする「論理」や「証明」や「特殊技能」を、それではフツーの人間がどれくらい身につけているかというと、それは別問題だが……』、非常に納得的なアプローチだ。
・『自動化の普及を左右する6つの「経済学的ファクター」 また、仮にあるタスクの「機械化が可能」になったとしても、それが現実世界で普及したり、人力による労働力への需要・賃金にインパクトを及ぼす過程は、実はけっこう複雑である。同『サイエンス』記事が指摘するとおり、技術的な問題の他に「経済学的なファクター」にも影響されるはずだ(表2)。 表2:関連する6つの経済学的なファクター(1.タスクの自動化のしやすさ(技術的な代替可能性)。 2.そのタスクの成果物への需要が、最終価格にどのくらい左右されるか(価格弾力性)。 3.複数タスク間の補完性。 4.そのタスクの成果物への需要が、消費者の所得にどのくらい左右されるか(所得弾力性)。 5.人間の働く意欲が、どのくらい賃金に左右されるか(労働供給の弾力性)。 6.ビジネス全体の構造が、どう変化するか(生産関数の変化)。) 網羅的に列挙しようとするあまり、この表はやや抽象的にすぎる感もあるが、「総論」的な記事なので仕方あるまい・・・』、ずいぶん大変な作業のようだ。
・『結論は全部スルーし、根拠とロジック「だけ」を吟味 さて、タスク分けの最新研究に話を戻すと、正直、経済学者の仕事としてはかなりベタな分析だし、「職業」や「作業」をどう整理するかによって「自動化のしやすさ」の数値は大きく変わってくる。また、そもそも「今後10年間における、個別タスクの自動化のしやすさ」についての技術的見解も、専門家の間ではかなり議論が分かれるだろう。 だから筆者から読者へのアドバイスとしては、「あなたの仕事が危ない!」風の議論や数字を見るときには、とにかく結論そのものはスルー(無視)しよう。こういう話題についての「結論」は、当たるか外れるか分からない株価の予想みたいなもので、つまらない。 そうではなくて、「何をどうやったら、そういう数字とメッセージが出てくるのか」という、前提条件や考え方のプロセスに(のみ)注目するのが、正しい大人の読み方だ。 ベタなミクロ実証研究から言えることは、このあたりが限界だ。次回は、思いっきりマクロな視点から俯瞰してみよう』、「筆者から読者へのアドバイス」は、考え方を整理する上で、大いに参考になった。
第三に、上記の続き、12月1日付け「契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/111900007/
・『「AI(人工知能)の内側の経済学」に踏み込んだ前回は、ビジネスにおける価格設定や広告戦略(いわゆるマーケティング関連のプロセス)をAIに丸投げする話をした。つづいて今回は、「AIを搭載した新製品」の中身について考えてみよう。AI開発、それはとても面白い「人間の営み」なのである』、面白そうだ。
・『プロダクト(製品)イノベーションのためのAI技術 仕事の流れの一部を自動化すること、それは一種のプロセス・イノベーション(生産・販売活動のコストを下げること)であった。こんどは、プロダクト・イノベーションについて考えてみよう。プロセス・イノベーションが製造・販売の工程(プロセス)を改善するものであったのに対して、こちらは新たな製品(プロダクト)を開発・投入する話である。 たとえば、「AI技術でお米がおいしく炊ける」炊飯器。そういうキャッチコピーの家電製品は昔からあったが、一体どのあたりに「知性」が感じられるのか、よく分からなかった。しかし、ユーザーのその日の体調をセンサーで感知するのみならず、電子メールやSNSへの投稿内容までも細かくデータ分析してくれる炊飯器が登場したならば、どうだろうか。 メールの文章がどれくらい整っているか、乱れているか。友人の投稿内容に「いいね」するのか、しないのか。あなたの一挙手一投足をつぶさに観察することで、この炊飯器は「その日その時のあなたにとって最適な炊き加減」に自動調整してくれる。すなわち、あなたの「幸福を最大化」してくれる機械の登場である。これほどすごい機能が付けば、「AI搭載」の名に恥じない画期的な製品と言えよう(※フィクションです)』、いくらフィクションとはいっても、私であれば、ここまで利用者を丸裸にしてしまうような炊飯器はご免被りたい。
・『囲碁・将棋AIや自動運転プログラムの「目的関数」 さて、こういう新製品をどうやって開発したらいいのだろう? 私たち人間は、AIもしくはロボットに何かしらの「目標」を与え、それを達成するような動作を期待する。こういう目標のことを経済学や工学では「目的関数」と呼び、「最適化問題」という数学的な問題設定に落とし込む。たとえば、上記の「炊飯器」ならば、ユーザーからの「おいしい」という評価を高めることが、明確な目的関数になるだろう。 目的関数 = 「やるべきこと」に応じたボーナス点 → 「これを最大化せよ」と命令 あるいは近年めざましい活躍をみせた囲碁や将棋をプレイするAIは、「ゲームに勝てる確率」を目的関数として、先を読みながら「次の一手」を探し出すように設計されている。その開発過程(数理モデルを構築し、関数形を調整し、シミュレーションとデータ分析を活用する)は、経済学的な実証研究のプロセスにかなり近い。 逆に、「やってはいけないこと」の違反度に応じて「罰点」を設定することもある。たとえば、無人運転車に搭載されるソフトには、「信号を無視したらマイナス100点」、「ネコをひいたらマイナス200点」、「通行人をひいたらマイナス5億点」みたいなペナルティーを設定しておくわけだ。 目的関数 = 「やってはいけないこと」に応じたペナルティー → 「これを最小化せよ」と命令 ところがロボットは、私たちが期待するような振る舞いを、実際にしてくれるとは限らない』、どうしてなのだろう。
・『ドジっ子ロボットには、お仕置きが必要だ たとえばお掃除ロボット。部屋の床掃除を勝手にやってくれる掃除機は、すでにかなり普及している。筆者も1台持っている。ただしこのロボット、あまり融通が利かない。同じところをグルグル回ったり、段差にハマったり、電源コードを巻き込んでしまったりする。 また、「電池が切れるまでの間に掃除する床面積」を最大化するようプログラムされたロボットは、最短距離で移動しようとするときに、その動線上にあった家具を壊してしまうかもしれない。こういう問題が発生するのは、(人間が暗黙のうちに期待している)さまざまな「目的関数」や「制約条件」の全てを、(明示的に)インプットできるとは限らないからだ。与えられたタスクそのもの以外のファクター、つまり作業をとりまく環境や文脈というものが、お掃除ロボットにはのみ込めていない。 これが人間の「お掃除担当メイドさん」であれば、家具を壊したりしたら、ご主人様から叱られるかクビ。最悪の場合、損害賠償請求の訴訟を起こされてしまうかもしれない。そしてそれが分かっているからこそ、家具の扱い(などの、直接命じられてはいない事柄)にも注意を向けてくれる。 何か、うまい方法はないものだろうか?。 ご主人様 VS 代理人 (プリンシパル・エージェント問題) カナダ・トロント大学のギリアン・ハットフィールド氏が発表した「不完備契約とAIアラインメント」・・・という研究は、「ドジっ子ロボット」のような問題を、いちど抽象的なレベルで理論化してみよう、と提案している。 ミクロ経済学には、人間同士の利害の対立を整理するための知見がたくさんある。とりわけ契約理論と呼ばれる分野では、「ご主人様と代理人という異なる2者のあいだで利害をすり合わせて、望ましい結果を導くための契約方法を考える」という課題が研究されてきた。こういう場合の「主人」のことを英語でプリンシパル、「代理人」をエージェントと言うので、この課題は「プリンシパル・エージェント問題」と呼ばれている。 ハットフィールド氏いわく、「ユーザーとAI」の関係は、ちょうど契約理論における「ご主人様と代理人」の関係にあたるので、理論的でエレガントな解決策があるはずだ。ただし、この発表の討論者であるスタンフォード大学のポール・ミルグロム氏(発表者の元指導教授で、オークション関連の実務でも有名)からは、これら2つの問題には共通点もあるが相違点もある、という指摘がなされた。いわく、プリンシパル・エージェント問題の場合は、通常、代理人の側が「余計なこと」を気にしてしまうのが、問題の根っこにある』、「プリンシパル・エージェント問題」まで出てくるとは、さすが学者の分析らしい。
・『お掃除ロボットは、雇われ社長の夢を見ない たとえば、株主(=ご主人様)に雇われたはずの社長(=代理人)のケース。株主が望むのは、企業価値の最大化である。しかし、社長という人間の個人的な利害は、これと必ずしも一致しない。「全国制覇したい」とか、「大型M&Aで注目を集めたい」とか、「休日は家族とゆっくり過ごしたい」とか、「社員に嫌われたくない」といった個人的な野望や心理に、どうしても引きずられてしまう。 契約理論は、こうした状況に対する処方箋をあみ出してきた。たとえば、社長のサラリーの何割くらいを成果報酬式にすればいいのか、といった計算ができるようになった。 これに対して、「ドジっ子お掃除ロボット」の失敗例は、べつにロボット(=代理人)側に個人的な野心があるわけではない。単に、開発者あるいはユーザー(=ご主人様)の側が「部屋をキレイにせよ」という目的しかインプットしなかったのが問題である。もしも開発者またはユーザーが、「部屋をキレイにせよ」「ただし家具を壊してはならない」という追加条件をインプットすることができさえすれば、それで一件落着かもしれない。 企業の雇われ社長もお掃除ロボットも、おなじ「代理人」ではある。しかし契約理論は、代理人が人間であるがゆえに発生する問題を扱ってきたのに対し、AI・ロボットは「個人的な願望」を秘めていたりはしない。そういう点では、問題の本質が微妙に異なっている可能性がある。より緻密な研究が必要になりそうだ』、確かに、人間とAI・ロボットには相違がありそうだ。
・『AIが達成した「成果」ではなく、「開発プロセス」に注目しよう! さて、トロントで9月に開催された「人工知能の経済学」学会について一般向けにお伝えしてきた本連載だが、今回で最終回である。いかがだっただろうか? 正直、「えっ、そんな事しか分かっていないの?」と拍子抜けされた方も、多いのではないだろうか。 しかし、研究の最前線というのは大体そんなものだ。不明なものや未解決な問題があるからこそ、そこに取り組む余地が残されている。そして、「世界最高の経済学者たち」(あるいは勝手にそのように自負している人たち)が集まった学会ですら、この程度のことしか判明していない。 むしろ、その事実にこそ着目してほしい。 経済学をキチンと理解している人は少ないし、AI関連技術をキチンと理解している人も少ない。ましてや、その両方をよく分かっている人というのは、本当にレアだ。それにもかかわらず(あるいは、そうであるがゆえに)、「AI」について得意げに解説し、個人的な願望にすぎないテキトーな「未来予想と解決策」を、あたかも「理の当然」かのように語るコメンテーターがあふれている。そのクオリティーは推して知るべし、である。「無知の知」から始めよう』、「「無知の知」から始めよう」というのは我々を一安心させてくれる。
・『本連載の第1回には、「目新しい結論や、ショッキングな数字などは全部スルーして、何をどうやったらその主張にたどり着くのか、根拠とロジック(にのみ)注目するのが、正しい大人の姿勢だ」という話をした。それに呼応する形で、結びにあたって今回オススメしたいのは、
+「AIが達成したとされる成果」については完全にスルーして、むしろ
+「どういうアルゴリズム(計算手順)を使って」、そして、
+「その開発者たちが、どのような試行錯誤のプロセスを経て」
現在のパフォーマンスに到達したのか……に注目することだ。 そういうニュースの読み方をしていけば、おのずと関連技術の原理的な部分にも詳しくなれるはずだし、背後にある基礎研究にも興味が湧いてくるだろう。いつまでもAIをブラックボックス扱いしていないで、開発者と開発プロセスに踏み込んでほしい。これはまた、ニュースの「書き手」や編集者にぜひお願いしたいことでもある。 ちまたでは「機械」として恐れられたり敬われたりしているものが、じつは研究者が四苦八苦して作った「人為」の産物であることも、改めてよく分かるだろう。AI開発ほど興味深い「人の営み」は、なかなかない。経済学の研究対象は、まだまだ尽きないようである』、ここに列挙された「ニュースの読み方」は素人には到底無理だ。11月27日付け日経新聞は、「AIの判断、企業に説明責任 政府が7原則 混乱回避へ法整備」と伝えた。いよいよ、AIをブラックボックス扱い出来なくなってくるようだ。ただ、果たして、それがどこまで可能なのかは制約もありそうだ。
先ずは、11月26日付け東洋経済オンライン「圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり、人類は2階層に分断する・・・世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/251207
・『世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』。7万年の軌跡というこれまでにない壮大なスケールで人類史を描いたのが、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏だ。 現代を代表する知性が次に選んだテーマは、人類の未来像。近著『ホモ・デウス』で描いたのは、人類が「ホモ・サピエンス」から、遺伝子工学やAI(人工知能)というテクノロジーを武器に「神のヒト」としての「ホモ・デウス」(「デウス」はラテン語で「神」という意味)になるという物語だ。 ホモ・デウスの世界では「ごく一部のエリートと、AIによって無用になった『無用者階級』に分断し、かつてない格差社会が到来する」と警告するハラリ氏を直撃した。 本記事ではハラリ氏へのインタビューの一部を抜粋・・・』、『無用者階級』が出現する「かつてない格差社会が到来する」とは穏やかではない。
・『生命をつかさどる最も根源な法則を変えようとしている この本を書いたのは、人類史上、最も重大な決断が今まさになされようとしていると考えたからだ。遺伝子工学やAIによって、私たちは今、創造主のような力を手にしつつある。人類は今まさに、生命を司る最も根源的な法則を変えようとしている。 40億年もの間、生命は自然淘汰の法則に支配されてきた。それが病原体であろうと、恐竜であろうと、40億年もの長きにわたって生命は自然淘汰の法則に従って進化してきた。しかし、このような自然淘汰の法則は近く、テクノロジーに道を明け渡す可能性が出てきている。 40億年に及ぶ自然淘汰と有機的進化の時代は終わりを告げ、人類が科学によって非有機的な生命体を創り出す時代が幕を開けようとしているのだ。 このような未来を可能にする科学者やエンジニアは、遺伝子やコンピュータについては知悉している。だが、自らの発明が世の中にどのような影響をもたらすかという倫理上の問題を理解できているとは限らない。 人類が賢い決断ができるように手助けするのが、歴史家や哲学者の責務だろう』、ずいぶん大きく振りかぶったものだ。
・『歴史を見ればわかるように、人類は新しいテクノロジーを生み出すことで力を獲得してきたが、その力を賢く使う術を知らない、ということが往々にしてあった。 たとえば、農業の発明によって人類は巨大な力を手に入れた。しかし、その力は一握りのエリートや貴族、聖職者らに独占され、農民の圧倒的大多数は狩猟採集を行って生きてきた祖先よりも劣悪な生活を強いられる羽目になった。 人類は力を手に入れる能力には長けていても、その力を使って幸福を生み出す能力には長けていない。なぜかといえば、複雑な心の動きは、物理や生命の法則ほど簡単には理解できないからだ。 石器時代に比べて人類が手にした力は何千倍にもなったのに私たちがそこまで幸福でないのには、こうした理由がある。 農業革命によって一握りのエリートは豊かになったが、人類の大部分は奴隷化された。遺伝子工学やAIの進化がこのような結果を招かないように、私たちはよくよく注意しなければならない』、その通りだろう。
・『「無用者階級」が生まれるかもしれない ホモ・サピエンス(人類)はかつて、動物の一種に過ぎなかった。人類が大人数で協力できるようになったのは、私たちに架空の物語を創り出す能力が備わっていたからだ。人類は大人数が協力することで、この世界の支配者となった。 そして今、人類はみずからを神のような存在に作り替えようとしている。(遺伝子工学やAIといったテクノロジーによって)創造主のような神聖なる力を、今まさに獲得しつつあるということだ。 人類はラテン語で「賢いヒト」を意味する「ホモ・サピエンス」から、「神のヒト」としての「ホモ・デウス」にみずからをアップグレードしつつある。 最悪のシナリオとしては、人類が生物学的に2つのカーストに分断されてしまう展開が考えられる。AIが人間の能力を上回る分野が増えるにつれ、何十億人もの人々が失業者となる恐れがある。こうした人々が経済的に無価値で政治的にも無力な「無用者階級」となる。 一方で、ごく一部のエリートがロボットやコンピュータを支配し、遺伝子工学を使って自らを「超人類」へとアップグレードさせていく可能性すら出てきている。 もちろん、これは絶対的な予言ではなく、あくまで可能性にすぎない。が、私たちはこのような危険性に気づき、これを阻止していく必要がある。 私が『ホモ・デウス』で論じた不平等とは、人類がこれまでに経験したものとは比べものにならない圧倒的な不平等だ』、「人類はみずからを神のような存在に作り替えようとしている」というのは、確かに恐ろしいことだ。「無用者階級」と「超人類」への二極分化も憂鬱な未来だが、我々はこれを阻止できるのだろうか。
次に、エール大経済学部准教授の伊神 満氏が11月8日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/110100004/
・『AI(人工知能)が仕事を奪う、世の中は大変なことになる――。AI技術の急速な発展が報じられる中で、世間では「ふわっとした」議論が繰り返され、「機械との競争」への漠然とした不安ばかりが煽られている。だが、本当にそうなのか。本コラムでは、世界最先端の経済学研究を手がかりに、名門・米エール大学経済学部で教鞭を執る伊神満准教授が「都市伝説」を理性的に検証する』、これは無責任な「煽り記事」ではないので、参考になりそうだ。
・『まずはじめに:連載コラム(全4回)の趣旨 人工知能(AI)については色々な人が色々なことを言っている。だが、よく分からない未来を語るにつけて、楽観論も悲観論も、ただ各人が「個人的に言いたいこと」を言っているだけのように見える。 となると、「AI技術は是か非か」「AI失業は起こるのか」「もはや人類の滅亡は時間の問題か」についての「結論」自体には、ほとんど何の意味もない。これだけ沢山の予想があれば、そのどれかは当たるだろうし、大半は外れるに決まっているからだ。 そんなことよりも、冷静な人たちが交わしている「それなりの確かさをもって言えそうなこと」に耳を傾け、吟味しよう。そしてあなた自身の身の振りかたについては、あくまで自分の頭で考えよう。でなければ、あなたという人間の「知能」と人生に、いったい何の意味があるだろうか。 このコラムは、経済学者である筆者が、9月中旬にカナダのトロント市で開催された第2回全米経済研究所(NBER)「人工知能の経済学」学会で行った研究発表と、そこで見聞きした世界を代表する経済学者たちによる最新の研究について、一般向けにまとめたものである』、信頼性が高そうだ。
・『「あなたの仕事が危ない」? まずは、AIが「人間の経済活動にもたらす」影響を考えてみよう。連載コラムの前半にあたる第1回と第2回では、AIの「外側」の経済学の話をする。 AIやロボットは、これまで人力を必要としていた生産活動の「自動化」ととらえるのが一般的だ。そこで、AIの「外側」の経済学では、自動化技術の中身はさておき、それがもたらす経済活動へのインパクトを考察する(連載後半にあたる第3回と第4回では、AIの「内側」の経済学に触れる。この分類は、論点を整理するために筆者が独自に使っているものだ)。 今日紹介するのは、誰もが気になる「自分の仕事はなくなってしまうのか」という問いについての、興味深い実証プロジェクトだ』、このブログで今回紹介するのは、第1回と第2回だ。
・『仕事を1つひとつのタスクに分解してみよう ミクロ実証的な1つのアプローチとしては、個々の職業を、その構成要素である各種「作業」レベルに分解して考えてみることができる。たとえば、大学教授という「職業」の人は、大きく分けて、(A)研究 (B)教育 (C)雑用 という3種類の活動に時間を使う。そこでたとえば(B)の教育活動を、さらに (B1)授業内容の立案と作成 (B2)授業そのものの実施 (B3)宿題やテストによる学生の評価 (B4)大学院生の研究へのアドバイス……のように分解し、さらに細かく具体的な「作業」をリストアップすることができる。そして、各「作業」(タスク)について、今後10年間でどのくらい自動化できそうか、その筋の専門家に点数をつけてもらおう。こういう点数を並べれば、「大学教授という職業が何パーセント自動化できそうか」を測る目安くらいにはなりそうだ。 感覚をつかんでもらうために、もう1つの例として「米国で大手監査法人に勤める会計士(専門分野は税務)」についても、業務内容をざっくりタスク分けしてみよう。(W)税務申告書の作成 (X)税務申告書の確認 (Y)チームのマネジメント (Z)クライアントの獲得および関係構築 たとえば末端の仕事である (W)を詳しく見ていくと、(W1)試算表の勘定科目(の管理コード)を整理して、ソフトに入力
(W2)税務上と会計上では費用・収益の認識が異なるので、違いを計算してソフトに入力 (W3)税控除や繰越欠損金が利用できるか否かを判断する といったタスクによって構成されている。もともとこの分野はコンピューターによる処理との相性が良い。だから(W1)や(W2)などはソフトの活用を前提としたタスク設計になっている。とはいえ、たとえば「交際費はその内容によって控除の可否が変化する」といった例外処理も多いため、完全自動化は難しいのだという。 この記事の読者も、ためしに自分の仕事のタスク構成を洗い出してみたらどうだろう。AIによる自動化が云々という話以外にも、何か新しい発見があるかもしれない。 こうした「自動化のしやすさ」を、世の中の多くの職業について数値化したのが、「機械学習と職業の変化」という論文である・・・といっても、今まさに進行中の研究だから、完成版が読めるのはまだ先になりそうだ。 この研究を発表したのは、米マサチューセッツ工科大学(МIT)のエリック・ブリニョルフソン教授だ。IT(情報技術)業界研究のベテランで、最近では『プラットフォームの経済学』(日経BP社)なども邦訳されている。彼自身も発表中に認めているように、数値結果そのものは、分析プロセスを少し変更しただけでも、ガラッと変わる。 たとえば、大学教授の仕事(B)教育について、具体的なタスクをいかに定義するのか、どこまで適切に細分化できるのか、本当にうまく自動化できるのか、大学教授であるはずの筆者にもよく分からない。 また、(B)教育を自動化した結果、大学教授というポストそのものが消滅してしまうのであれば、筆者は専業コラムニストに転職せざるを得ない。しかし逆に、これまで(B)に割いていた時間と体力を(A)研究に注げるようになるのであれば、願ったり叶ったりだ。 だから、たとえ「学者が科学的にたどりついた発見や数字」であっても、結論そのものには飛びつかない方がいい。当然、(自称)コンサルタントや(自称)天才プログラマーが適当にぶち上げている「未来予想」については、言うまでもない』、確かに、世の中にはいい加減な「未来予想」が溢れているようだ。
・『自動化しやすいタスクの8条件 ……というわけで、ブリニョルフソン教授らによる論文自体は未完成なのだが、理論的考察の大枠については、『サイエンス』誌上で「機械学習で何ができるのか? 労働需要への影響について」という短い記事を読むことができる。 その要点をまとめると、タスクを自動化するためには、8つの条件が必要だという(表1)。ちなみにこれは、スタンダードな「教師あり機械学習」、つまり回帰分析のようなデータ処理を主眼としたリストである。 表1:「自動化しやすいタスク」の8条件(1.「インプット」と「アウトプット」が、どちらも明確になっている。 2.インプットとアウトプットを正しく対応させたデジタルデータが、大量に存在する。 3.明確なゴールがあり、その達成度について明確なフィードバックがある。 4.長々とした論理展開や、いろいろな背景知識・一般常識にもとづく思考が、必要ない。 5.下した判断について、その理由や過程を詳しく説明する必要がない。 6.多少の誤差・間違いが許され、「正解」を理論的に証明する必要もない。 7.現象自体や「インプットとアウトプットの対応関係」が、時間の経過によってあまり変化しない。 8.物理的な作業における器用さや特殊技能が、必要ない。 このように機械学習の射程範囲をハッキリさせていくと、何でもかんでもうまく自動化できるとは限らないことが、浮き彫りになる。もちろん、機械が苦手とする「論理」や「証明」や「特殊技能」を、それではフツーの人間がどれくらい身につけているかというと、それは別問題だが……』、非常に納得的なアプローチだ。
・『自動化の普及を左右する6つの「経済学的ファクター」 また、仮にあるタスクの「機械化が可能」になったとしても、それが現実世界で普及したり、人力による労働力への需要・賃金にインパクトを及ぼす過程は、実はけっこう複雑である。同『サイエンス』記事が指摘するとおり、技術的な問題の他に「経済学的なファクター」にも影響されるはずだ(表2)。 表2:関連する6つの経済学的なファクター(1.タスクの自動化のしやすさ(技術的な代替可能性)。 2.そのタスクの成果物への需要が、最終価格にどのくらい左右されるか(価格弾力性)。 3.複数タスク間の補完性。 4.そのタスクの成果物への需要が、消費者の所得にどのくらい左右されるか(所得弾力性)。 5.人間の働く意欲が、どのくらい賃金に左右されるか(労働供給の弾力性)。 6.ビジネス全体の構造が、どう変化するか(生産関数の変化)。) 網羅的に列挙しようとするあまり、この表はやや抽象的にすぎる感もあるが、「総論」的な記事なので仕方あるまい・・・』、ずいぶん大変な作業のようだ。
・『結論は全部スルーし、根拠とロジック「だけ」を吟味 さて、タスク分けの最新研究に話を戻すと、正直、経済学者の仕事としてはかなりベタな分析だし、「職業」や「作業」をどう整理するかによって「自動化のしやすさ」の数値は大きく変わってくる。また、そもそも「今後10年間における、個別タスクの自動化のしやすさ」についての技術的見解も、専門家の間ではかなり議論が分かれるだろう。 だから筆者から読者へのアドバイスとしては、「あなたの仕事が危ない!」風の議論や数字を見るときには、とにかく結論そのものはスルー(無視)しよう。こういう話題についての「結論」は、当たるか外れるか分からない株価の予想みたいなもので、つまらない。 そうではなくて、「何をどうやったら、そういう数字とメッセージが出てくるのか」という、前提条件や考え方のプロセスに(のみ)注目するのが、正しい大人の読み方だ。 ベタなミクロ実証研究から言えることは、このあたりが限界だ。次回は、思いっきりマクロな視点から俯瞰してみよう』、「筆者から読者へのアドバイス」は、考え方を整理する上で、大いに参考になった。
第三に、上記の続き、12月1日付け「契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/111900007/
・『「AI(人工知能)の内側の経済学」に踏み込んだ前回は、ビジネスにおける価格設定や広告戦略(いわゆるマーケティング関連のプロセス)をAIに丸投げする話をした。つづいて今回は、「AIを搭載した新製品」の中身について考えてみよう。AI開発、それはとても面白い「人間の営み」なのである』、面白そうだ。
・『プロダクト(製品)イノベーションのためのAI技術 仕事の流れの一部を自動化すること、それは一種のプロセス・イノベーション(生産・販売活動のコストを下げること)であった。こんどは、プロダクト・イノベーションについて考えてみよう。プロセス・イノベーションが製造・販売の工程(プロセス)を改善するものであったのに対して、こちらは新たな製品(プロダクト)を開発・投入する話である。 たとえば、「AI技術でお米がおいしく炊ける」炊飯器。そういうキャッチコピーの家電製品は昔からあったが、一体どのあたりに「知性」が感じられるのか、よく分からなかった。しかし、ユーザーのその日の体調をセンサーで感知するのみならず、電子メールやSNSへの投稿内容までも細かくデータ分析してくれる炊飯器が登場したならば、どうだろうか。 メールの文章がどれくらい整っているか、乱れているか。友人の投稿内容に「いいね」するのか、しないのか。あなたの一挙手一投足をつぶさに観察することで、この炊飯器は「その日その時のあなたにとって最適な炊き加減」に自動調整してくれる。すなわち、あなたの「幸福を最大化」してくれる機械の登場である。これほどすごい機能が付けば、「AI搭載」の名に恥じない画期的な製品と言えよう(※フィクションです)』、いくらフィクションとはいっても、私であれば、ここまで利用者を丸裸にしてしまうような炊飯器はご免被りたい。
・『囲碁・将棋AIや自動運転プログラムの「目的関数」 さて、こういう新製品をどうやって開発したらいいのだろう? 私たち人間は、AIもしくはロボットに何かしらの「目標」を与え、それを達成するような動作を期待する。こういう目標のことを経済学や工学では「目的関数」と呼び、「最適化問題」という数学的な問題設定に落とし込む。たとえば、上記の「炊飯器」ならば、ユーザーからの「おいしい」という評価を高めることが、明確な目的関数になるだろう。 目的関数 = 「やるべきこと」に応じたボーナス点 → 「これを最大化せよ」と命令 あるいは近年めざましい活躍をみせた囲碁や将棋をプレイするAIは、「ゲームに勝てる確率」を目的関数として、先を読みながら「次の一手」を探し出すように設計されている。その開発過程(数理モデルを構築し、関数形を調整し、シミュレーションとデータ分析を活用する)は、経済学的な実証研究のプロセスにかなり近い。 逆に、「やってはいけないこと」の違反度に応じて「罰点」を設定することもある。たとえば、無人運転車に搭載されるソフトには、「信号を無視したらマイナス100点」、「ネコをひいたらマイナス200点」、「通行人をひいたらマイナス5億点」みたいなペナルティーを設定しておくわけだ。 目的関数 = 「やってはいけないこと」に応じたペナルティー → 「これを最小化せよ」と命令 ところがロボットは、私たちが期待するような振る舞いを、実際にしてくれるとは限らない』、どうしてなのだろう。
・『ドジっ子ロボットには、お仕置きが必要だ たとえばお掃除ロボット。部屋の床掃除を勝手にやってくれる掃除機は、すでにかなり普及している。筆者も1台持っている。ただしこのロボット、あまり融通が利かない。同じところをグルグル回ったり、段差にハマったり、電源コードを巻き込んでしまったりする。 また、「電池が切れるまでの間に掃除する床面積」を最大化するようプログラムされたロボットは、最短距離で移動しようとするときに、その動線上にあった家具を壊してしまうかもしれない。こういう問題が発生するのは、(人間が暗黙のうちに期待している)さまざまな「目的関数」や「制約条件」の全てを、(明示的に)インプットできるとは限らないからだ。与えられたタスクそのもの以外のファクター、つまり作業をとりまく環境や文脈というものが、お掃除ロボットにはのみ込めていない。 これが人間の「お掃除担当メイドさん」であれば、家具を壊したりしたら、ご主人様から叱られるかクビ。最悪の場合、損害賠償請求の訴訟を起こされてしまうかもしれない。そしてそれが分かっているからこそ、家具の扱い(などの、直接命じられてはいない事柄)にも注意を向けてくれる。 何か、うまい方法はないものだろうか?。 ご主人様 VS 代理人 (プリンシパル・エージェント問題) カナダ・トロント大学のギリアン・ハットフィールド氏が発表した「不完備契約とAIアラインメント」・・・という研究は、「ドジっ子ロボット」のような問題を、いちど抽象的なレベルで理論化してみよう、と提案している。 ミクロ経済学には、人間同士の利害の対立を整理するための知見がたくさんある。とりわけ契約理論と呼ばれる分野では、「ご主人様と代理人という異なる2者のあいだで利害をすり合わせて、望ましい結果を導くための契約方法を考える」という課題が研究されてきた。こういう場合の「主人」のことを英語でプリンシパル、「代理人」をエージェントと言うので、この課題は「プリンシパル・エージェント問題」と呼ばれている。 ハットフィールド氏いわく、「ユーザーとAI」の関係は、ちょうど契約理論における「ご主人様と代理人」の関係にあたるので、理論的でエレガントな解決策があるはずだ。ただし、この発表の討論者であるスタンフォード大学のポール・ミルグロム氏(発表者の元指導教授で、オークション関連の実務でも有名)からは、これら2つの問題には共通点もあるが相違点もある、という指摘がなされた。いわく、プリンシパル・エージェント問題の場合は、通常、代理人の側が「余計なこと」を気にしてしまうのが、問題の根っこにある』、「プリンシパル・エージェント問題」まで出てくるとは、さすが学者の分析らしい。
・『お掃除ロボットは、雇われ社長の夢を見ない たとえば、株主(=ご主人様)に雇われたはずの社長(=代理人)のケース。株主が望むのは、企業価値の最大化である。しかし、社長という人間の個人的な利害は、これと必ずしも一致しない。「全国制覇したい」とか、「大型M&Aで注目を集めたい」とか、「休日は家族とゆっくり過ごしたい」とか、「社員に嫌われたくない」といった個人的な野望や心理に、どうしても引きずられてしまう。 契約理論は、こうした状況に対する処方箋をあみ出してきた。たとえば、社長のサラリーの何割くらいを成果報酬式にすればいいのか、といった計算ができるようになった。 これに対して、「ドジっ子お掃除ロボット」の失敗例は、べつにロボット(=代理人)側に個人的な野心があるわけではない。単に、開発者あるいはユーザー(=ご主人様)の側が「部屋をキレイにせよ」という目的しかインプットしなかったのが問題である。もしも開発者またはユーザーが、「部屋をキレイにせよ」「ただし家具を壊してはならない」という追加条件をインプットすることができさえすれば、それで一件落着かもしれない。 企業の雇われ社長もお掃除ロボットも、おなじ「代理人」ではある。しかし契約理論は、代理人が人間であるがゆえに発生する問題を扱ってきたのに対し、AI・ロボットは「個人的な願望」を秘めていたりはしない。そういう点では、問題の本質が微妙に異なっている可能性がある。より緻密な研究が必要になりそうだ』、確かに、人間とAI・ロボットには相違がありそうだ。
・『AIが達成した「成果」ではなく、「開発プロセス」に注目しよう! さて、トロントで9月に開催された「人工知能の経済学」学会について一般向けにお伝えしてきた本連載だが、今回で最終回である。いかがだっただろうか? 正直、「えっ、そんな事しか分かっていないの?」と拍子抜けされた方も、多いのではないだろうか。 しかし、研究の最前線というのは大体そんなものだ。不明なものや未解決な問題があるからこそ、そこに取り組む余地が残されている。そして、「世界最高の経済学者たち」(あるいは勝手にそのように自負している人たち)が集まった学会ですら、この程度のことしか判明していない。 むしろ、その事実にこそ着目してほしい。 経済学をキチンと理解している人は少ないし、AI関連技術をキチンと理解している人も少ない。ましてや、その両方をよく分かっている人というのは、本当にレアだ。それにもかかわらず(あるいは、そうであるがゆえに)、「AI」について得意げに解説し、個人的な願望にすぎないテキトーな「未来予想と解決策」を、あたかも「理の当然」かのように語るコメンテーターがあふれている。そのクオリティーは推して知るべし、である。「無知の知」から始めよう』、「「無知の知」から始めよう」というのは我々を一安心させてくれる。
・『本連載の第1回には、「目新しい結論や、ショッキングな数字などは全部スルーして、何をどうやったらその主張にたどり着くのか、根拠とロジック(にのみ)注目するのが、正しい大人の姿勢だ」という話をした。それに呼応する形で、結びにあたって今回オススメしたいのは、
+「AIが達成したとされる成果」については完全にスルーして、むしろ
+「どういうアルゴリズム(計算手順)を使って」、そして、
+「その開発者たちが、どのような試行錯誤のプロセスを経て」
現在のパフォーマンスに到達したのか……に注目することだ。 そういうニュースの読み方をしていけば、おのずと関連技術の原理的な部分にも詳しくなれるはずだし、背後にある基礎研究にも興味が湧いてくるだろう。いつまでもAIをブラックボックス扱いしていないで、開発者と開発プロセスに踏み込んでほしい。これはまた、ニュースの「書き手」や編集者にぜひお願いしたいことでもある。 ちまたでは「機械」として恐れられたり敬われたりしているものが、じつは研究者が四苦八苦して作った「人為」の産物であることも、改めてよく分かるだろう。AI開発ほど興味深い「人の営み」は、なかなかない。経済学の研究対象は、まだまだ尽きないようである』、ここに列挙された「ニュースの読み方」は素人には到底無理だ。11月27日付け日経新聞は、「AIの判断、企業に説明責任 政府が7原則 混乱回避へ法整備」と伝えた。いよいよ、AIをブラックボックス扱い出来なくなってくるようだ。ただ、果たして、それがどこまで可能なのかは制約もありそうだ。
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