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新自由主義(その3)(集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望、なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと) [経済政策]

新自由主義については、6月21日に取上げた。今日は、(その3)(集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望、なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと)である。

先ずは、2月11日付け週刊エコノミスト Online「集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220209/se1/00m/020/003000d
・『「新しい資本主義」を議論するには、米国のネオリベラリズムの背景にある思想性、理論性、歴史性を理解する必要がある。 同時に日本においてネオリベラリズム政策やネオリベラリズムに基づくコーポレート・ガバナンスがどう導入されたかを明らかにしない限り、意味のある議論はできない』、興味深そうだ。
・『真の狙いは労働市場の自由化  日本にネオリベラリズムの政策を導入したのは小泉政権である。バブル崩壊後の長期低迷を打開する手段として「規制緩和」や「競争促進政策」が導入された。 だがネオリベラリズム政策の最大の狙いは、米国同様、労働市場の規制緩和であった。労働市場の自由化によって非正規労働や派遣労働の規制が大幅に自由化された。それは企業からすれば、大幅な労働コストの削減を意味した。 労働市場の自由化によって非正規雇用は大幅に増加した。1984年には非正規雇用は15.3%であったが、2020年には37.2%にまで増えている。非正規雇用のうち49%がパート、21.5%がアルバイト、13.3%が契約社員である(総務省「労働力調査」)。賃金も正規雇用と非正規雇用では大きな格差がある。 2019年の一般労働者の時給は1976円であるが、非正規労働者の時給は1307円である。600円以上の差がある。なお短期間労働に従事する非正規労働者の時給は1103円とさらに低い(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」)。岸田首相は最低賃金1000円(全国加重平均)を実現すると主張しているが、米国ではバイデン大統領は連邦最低賃金15㌦を目標に掲げている。 現在の為替相場で換算すると、約1700円に相当する。日米で時給700円の差がある。かりに最低賃金1000円が実現しても、非正規雇用は社会保険費など企業負担がなく実質手取りは1000円を下回り、とても最低賃金でまともな生活を送れないのが実情である』、実際の「最低賃金」は「全国加重平均」で31円引上げ、961円にすることになった(8月6日付け日経新聞)。
・『労働市場自由化の弊害を軽視した小泉改革  米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響を与えた。戦後の日本経済の成長を支えてきた「日本的経営」はバブル崩壊後、有効性を失ったと主張された。日本型経営では最大のステークホールダーは従業員であり、メインバンクであり、取引先であった。 株主は主要なステークホールダーとはみなされていなかった。だが米国型コーポレート・ガバナンスは株主中心に考えられ、日本でも企業価値、言い換えれば株価を上げることが経営者の責務と考えられるようになった。労働者は「変動費」であり、経営者は従業員の雇用を守るという意識を失っていった。 かつて経営者の責務は従業員の雇用を守ることだと言われていた。米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる。 米国や英国では1900年代にはネオリベラリズム政策の弊害が目立ち始めていた。貧富の格差は急速に拡大し、深刻な社会問題を引き起こしつつあった。だが小泉改革では、そうした弊害について真剣に検討することなく、労働市場の自由化が強引に進められていった。 同時に終身雇用は破綻したとして、雇用の流動化が主張された。雇用の流動化は、言葉は魅力的だが、最も大きな恩恵を得るのは企業であって、従業員ではない。企業は高賃金の従業員に早期退職や転職、副業を勧めることで、大幅に労働コストを削減できる。 米国と違って日本では整備された転職市場が存在せず、さらに「同一労働同一賃金」や米国の401(k)のような「ポータブルな企業年金制度」などもなく、転職の負担はすべて従業員に掛かってくる』、「米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響」、「米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる」、なるほど。
・『日本の企業内組合は交渉力を発揮できない  岸田首相がどのような「新しい資本主義」を構想しているのか定かではない。成長すれば、その成果が労働者にも及ぶという供給サイドの経済学が主張する“トリクルダウン効果”論は歴史的にも、理論的にも破綻している。 成長すれば、最終的に恩恵はすべての人に及ぶというのは幻想である。企業は常に賃金上昇を抑えようとする。決して温情で賃上げをするわけではない。過去の企業行動を見れば、日本で行われている「成長」と「分配」を巡る議論は空論そのものであることが分かる。 賃上げをした企業に税の優遇措置を講ずるという報道もなされている。かつて安倍晋三首相は経済団体に賃上げを行うよう要請したことがあるが、企業は応じなかった。経営者は従業員に対する“温情”から賃上げを実施することはないだろう。 従業員と労働者が正当な賃金を得るには、企業と拮抗できる組織と仕組みが必要である。日本の企業は正規社員を減らし、非正規社員を雇用することで労働コストを大幅に削減して利益を上げてきた。米国同様、その利益の多くは株主配当に向けられるか、内部留保として退蔵されてきた。 さらに経営者の報酬も大幅に引き上げられた。本来なら組合は正当な労働報酬を受け取る権利がある。米国の労働組合は産業別組合で企業との交渉力を持っているが、日本の労働組合は企業内組合では、企業に対する交渉力を発揮することは難しい。 日本の時間当たりの付加価値は世界23位(低賃金は生産性向上を妨げる。本来なら企業は賃金上昇によるコストを吸収するために生産性を上げる努力を行う。だが低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである。 先進国の中で日本の生産性は最も低い。2020年の1人当たりの日本の労働生産性はOECD38カ国のうち28位(7万8655㌦)で、24位の韓国(8万3378㌦)よりも低く、ポーランドやエストニアと同水準である(「労働生産性の国際比較2021、日本生産性本部」)。 また。日本の時間当たりの付加価値は49.5㌦で、23位である。1位のアイルランドは121㌦、7位の米国は80㌦である。韓国は32位で43㌦である。なぜ、ここまで低いのか』、「低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである」、その通りだ。
・『経営者報酬と配当を増やす経営が日本を弱くした  日本特有の給与体系も影響している。日本では基本給の水準が低いため、残業手当が付かなければ、十分な所得を得られない。その結果、同じアウトプットを生産するために、残業を増やして長時間労働を行うことになる。 それこそが低生産性の最大の要因の一つである。昨今、「働き方改革」で残業を削減する動きがみられるが、残業時間の短縮は残業の減少と所得の減少を意味する。短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている。労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた』、「短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている」、「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、同感である。
・『存在価値を無くした日本の労働組合が低賃金の要因  米国と同様に日本でも労働組合参加率は低下の一途をたどっている。戦後の1949年には労働組合参加率は55%であった。その後、参加率は低下し、1980年代に20%台にまで低下した。 2021年の参加率は16.9%にまで低下している(労働組合基本調査)。米国ほどではないが、労働組合は急激に衰退し、社会的影響力の低下は目を覆うべき状態である。その背景には労働組合幹部が「労働貴族」となって特権を享受しているという“反労働組合キャンペーン”が行われたことが影響している。 労働組合は国民の支持を失い、現在では社会的存在感するなくなっている。日本の労働組合運動の衰退は世界でも際立っている。全くと言っていいほど企業に対する交渉力を失っている』、「連合」が立憲民主党と共産党の共闘に水を差し、他方で自民党にもシッポを振っているのは、連合の戦闘力喪失を表している。
・『日本で“スト”はもはや死語  高度経済成長期に賃金上げをリードしてきた「春闘方式」が崩壊し、企業内組合を軸とする労働組合は企業に取り込まれ、十分な交渉力を発揮できなくなった。労働組合運動は連合の結成で再編成されたが、連合はかつてのような影響力を発揮することができない。 目先の政治的な思惑に振り回されている。賃上げに関して十分な“理論武装”をすることもできず、ほぼ賃上げは経営者の言いなりに決定されているのが実情である。 労働組合の弱体化は「労働損失日」の統計に端的に反映されている。2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日であるのに対して、米国は2815日、カナダは1131日、英国は273日、ドイツは571日、韓国が552日である(労働政策研修機構『データブック国際労働比較2019』)。日本と同様に組合参加率が大幅に低下している米国ですら、賃上げや労働環境を巡って労働組合は経営と対立し、要求を実現している。 日本では“スト”はもはや死語となっている。格差是正や賃上げを要求する「主体」が日本には存在しないのである。その役割を政府に期待するのは、最初から無理な話である。それが実現できるとすれば、日本は社会主義国である』、「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日」、というのは初めて知ったが、情けないことだ。
・『税制、最低賃金、非正規問題の構造的な見直し  労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている。 一人ひとりの働く人が、誠実に働けば、家族を養い、子供を教育し、ささやかな家を購入するに足る所得を得る制度を再構築することが必要である。非正規とパート労働で疲弊した国民は決して幸せになれない。平等な労働条件、公平な賃金、雇用の安定を実現することが「新しい資本主義」でなければならない。 貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある』、「労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている」、「貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある」、同感である。
・『ネオリベラリズムは「既得権構造」に浸透  ネオリベラルの発想から抜け出す時期に来ている。そのためには、労働規制、税制、コーポレート・ガバナンス、労働組合の役割などの見直しは不可欠である。特にコーポレート・ガバナンスに労働者や消費者などの意見が反映できるようにコーポレート・ガバナンスの改革は不可欠である。 米国におけるネオリベラリズムの検討でみたように、その背後には明確な国家観の違いが存在している。そうした大きな枠組みの議論抜きには、新しい展望は出てこないだろう。 ネオリベラリズムは既得権構造に深く組み込まれている。それを崩すには、社会経済構造を根底から変える必要がある。激しい抵抗に会うのは間違いない。これからの議論で岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われることになるだろう。 最後に一言、小泉改革以降のネオリベラリズムの政策で日本経済の成長率は高まっていない。経済成長はGDPの約80%を占める需要によって決まるのである。日本の長期にわたる低成長はネオリベラリズム政策や発想がもたらした必然的結果なのである』、「岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われる」、とあるが、それは期待し過ぎだ。立憲民主党から建設的な意見が出てきてほしいものだ。

次に、8月5日付け現代ビジネスが掲載した東洋大学社会学部社会心理学科教授の北村 英哉氏による「なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98183?imp=0
・『自分にとって抑圧的な環境、不都合な状況なはずなのに、なぜかそこに適応してしまう。こうした態度を「自発的隷従」と呼ぶことがある。こうした自発的隷従のような態度について、社会心理学の見地から分析した、ジョン・ジョスト『システム正当化理論』(ちとせプレス)が刊行された。訳者の一人である東洋大学教授の北村英哉氏がその読みどころを解説する』、なるほど。
・『なぜ政権党は勝ち続けるのか?  まさに今の時代に合っている。ジョン・ジョストが提唱する「システム正当化理論」、そんな風に考えた。この理論は、「なぜだか現状維持に走ってしまう人々」の生の現実的な姿をつかむことに長けている。 システム正当化理論は、社会心理学の理論である。これまでの社会心理学の理論では、多くの場合、人々は自分自身が属する内集団を好み、自集団の有利を期待し、その利得に合致する方向で行動するものだとされていた。しかし、システム正当化理論は、こうした従来の理論とは反対に、自分の利得にならない行動をする人々について、うまく説明することができるのである。 現在、そうした「自分の利得にならない行動」が目立っているように見える。たとえば、日本の場合、おおまかに語れば自民党などの政権党は、経営者や大企業などのすでに日本社会の中で、有利な地位を得ている人たちの利益代表であり、「金持ち」「貧しい」という二分法で言えば、明らかに富む者のための政策を行う集団である。 したがって合理的には、社会階層の高い者たちが自民党を支持し、社会階層が低い者たちは野党を支持するはずである。そして、階層の高い者、豊かな者は社会全体から見れば少数であるから、大多数のお金持ちではない庶民は野党を支持しないと原理的にはおかしいということになる。) しかし、7月におこなわれた選挙でも、そうした結果にはなっていない。必ずしも豊かとは言えない人々も自民党に票を入れていなければ、比例区において自民党が最大割合(35%ほど)を獲得するという結果にはならないだろう。 SNSでは、野党を支持する人たちから、こうした選択について「愚かな選択」だとか、「分かっていない」などの発言が繰り返される。近年のリベラル層には、「正しくはリベラル的な政党を支持すべきだ。それが分からないのは知識がないのか、考え間違いなどをしているか、愚かなことである」といった意見も見られる。 しかし、ある意味、自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」である』、「自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」、興味深そうだ。
・『人は現状維持を望む傾向がある:安全を求めて  人は現在の社会のあり方をそのまま受け入れ、維持する傾向がある。これをジョン・ジョストは「システム正当化」と呼んだ。今こうであることには意味があり、それが正しいことであると正当化してしまうのだ。 このシステム(≒現状)を正当化しようという動機の基盤には、「認識論的欲求」「実存的欲求」「関係的欲求」があるという。 その仕組みを理解するために、システムを認めず、正当化をしなかったらどうなるか考えてみよう。 ある種の社会では政治的な現状に異議申し立てを行い、現在の政府を批判すると弾圧を受けるような場合もある。あからさまな弾圧は存在しない民主主義の国であっても、すでに多くの人が現政権を支持する状態に生まれ育てば、それを支持しないと周囲の人たちから非難されるかもしれない。たとえもし、現在の政治が正しくなく、変えるべきであると考えて行動したとしても、その先、どうなるかはわからない。 実際、日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した。 もちろん、それまで数十年もの間自民党の長期政権が続いてきたという環境では、長期間にわたって自民党と強固に連携してきた行政組織や経済団体と、関係を容易に「交代」できるわけではなく、その抵抗にあえば、行政的に行き詰まりやすい。 政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない。常に未来は不透明である』、「日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した」、「政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない」、ただ、「政権交代」が起きたメカニズムについての説明がないのは残念だ。
・『「世の中が変わらなければ、生きていける」  以上の話には、先に述べた「3つの欲求」がすべて含まれている。 まずは認識論的欲求である。どうなるか見通しがわからない、認識的に不分明・不確実な状態は、認識論的欲求として「わかりやすい」「すでにあった」「今までどおりのやり方」への志向性を高めてしまう。わかりやすく言えば、「自分はこれまで生きてきた世の中が今のまま何も変わらなければ、明日も生きていけるだろう」という確実性への欲求が、現状維持、すなわち、システム正当化を志向させるのだ。 つぎに、実存的欲求について。現状を支持する限り、周囲からは何の圧力もかからないだろう。周囲と軋轢を生まなければ安全を脅かされることはない。声高に反対を表明したり、デモに参加したりすることは、職場によっては反感を買ったり、評価を下げたり、出世を妨げたりすると考える人もいるだろう。 逆に言えば、政権に対して反対の意思を示すのは、いくらかの勇気と決断力、そして、組織などから見放されても自分の力で生きていける自信がないと、チャレンジしにくいことである。日本人は概ね自己評価が低い。自己評価の低い者にとって、安全を捨てて、危険のなかに飛び込むのは、言ってみれば「映画のなかだけの出来事」であり、現実の自分が行うことは決してないのである。 特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である。 「ふつう」でいないと職場や所属集団で「浮く」かもしれない。若者も「意識高いね」と皮肉られるのを嫌う。現在、「空気を読む」という傾向が若者の間で強まっていることを示す、筆者の調査データもある。そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデータだ。日本においても、同様に周囲の人たちから無難に受け入れられるようにシステムを正当化する様子が見られる。 以上がいつまでも政権党(自民党)が勝ち続ける理由だ。こうして記してみると、すでに誰もがわかっているだろう、実にシンプルな常識ではないだろうか。だが、このシステム正当化理論をおいてほかにこれをきちんと整理して、理論化した考え方がなかったのだ』、「特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である」、「そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデータだ。日本においても、同様に周囲の人たちから無難に受け入れられるようにシステムを正当化する様子が見られる」、ただ、日本での「政権交代」は事実として述べただけで、メカニズム的な作用につては、説明がないのは残念だ。
・『「この集団を脱したい」という思い  自分が属する集団を「内集団」、自分が属さない集団を「外集団」という。この関係性を重視する社会的アイデンティティ理論では、人は自身の属する内集団をひいきすることが幾度も語られてきた。しかし、この点についても、システム正当化理論は異なる角度から社会を見つめる。そしてそこにも、自身が必ずしも得をしない政策を推進する政党を支持してしまったりする現象を説明する手がかりがある。 日本ではアメリカのスラムと異なり、貧困地区が明瞭に他と区別されるように存在することは減ってきているが、たとえばスラムに住む者が全員「自分たちの集団はすばらしい集団だ」と皆が考えるとは限らない。「いずれこの集団を脱出したい」と考える者たちもいることだろう。 ジョン・ジョストはこのように、人は自分が属する集団を必ずしも好むわけではないという、それまでの社会的アイデンティティ理論とは対立する現実に着目した。スラムのなかには「いつか成功してお金持ちになる」と思っている人もいる。彼らは、リッチな人々という、現在の時点では「外集団」である存在に憧れ、それらを好ましく思うのだ。一般の庶民であった者が芸能人に憧れ、いつか有名人になってリッチになることを夢見る場合も同様である。 自身が困難な状況にあるほど、そこから脱して望ましい状態に至ろうとする人もいるだろう。その場合、彼らにとって、恵まれた集団は「目標」であって、「批判」する対象とはならない。恵まれた人々(≒社会的に力を持っている人々)を批判したところで、結局、そのあと自分自身がどうなるかは認識論的に不確実であると考えられるからだ。 もちろん、狭い集団の範囲で見れば、内集団をひいきし、外集団を貶めたほうが、安全が守られるかもしれない。しかし、より広い社会を視野に入れた場合、恵まれた人々を批判すると、実存的にも安全が脅かされ、関係的にも(より広い範囲の)周囲から煙たがられ、嫌われるおそれ、可能性があるからだ。 女性の初期の社会進出の際、男性社会に同化するように、「男並み」の働きを目指して、結婚や家庭を持つことを犠牲にしてきた先駆者がいたのと同じ仕組みが働いているのである。この本ではこうしたジェンダーの問題も取り上げている。) そこで、恵まれない人々、不利な人々(の一部)は、恵まれた人々を目標として、努力することになる。こうして努力が成功を生むという神話が支持されることとなり、これは反転して、成功を得られなかった時に、「自分は努力が足らなかった。だから自己責任である」という自己責任論を招くことにもなるのだ。 日本において、いまほど、自己責任論が猛威を振るっている時代はなかっただろうと思われる。自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい。自己責任論で自身の境遇を捉える限り、そこから新自由主義を否定する論理は立ち上がりにくい』、「自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい」、その通りだ。
・『「外集団ひいき」のような状況  この不思議な「外集団ひいき」と言ってよいような状況、すなわち、本来ならば成功した長者が支持することの多い新自由主義に、経済的に恵まれない人たちが絡め取られていく様子を、システム正当化理論は描いている。 ちなみに、「システム」とひと口で言っても、実のところ、そこには政治システムのほかに、経済システムや社会文化システムがある。経済システムの正当化への志向性を測定する尺度項目には、「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘している。 かつて奴隷制があった時でさえ、それに反発して立ち上がった者のほうが、声をあげなかった者たちよりも圧倒的に少数である。フランス革命など世界史的な革命は、体制をくつがえす人間の力を証明するものとして注目を浴びるが、それ以前のずっとずっと長い間、人々は奴隷制や王政への隷従に堪え忍んできたわけであり、ある意味そうした格差社会に驚くべき順応を示してきたのである。 「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている。インドのカーストにおいて下層にある者がそれを当然と考えていたこと、西アフリカの事例においてもカーストに類する制度が廃止された後も、「ご主人さまから呼ばれたら、当然のようにすぐ飛んでくる」といった日常のあり方が続いたことが示されている。人々は現状である日常を「当然のものとして」受け入れ、そのなかで生きているという現実がある。 そして、社会文化的側面においても、システムを正当化する人たちは、これまでの習慣を守ろうとする。それは、夫婦同姓という制度であったり、男尊女卑の伝統的性役割であったりもする。フェミニズム運動も若い女性たちから嫌われる傾向が指摘されている。いまだに玉の輿のように、「幸せな結婚」を望む女性たちは巷にあふれている。 自ら差別状態に入っていっても、差別されているという実感を持たない不利な立場の人たちもいる。差別されている事実に気づくこと自体が、自分の心を傷つけてしまうからだ。 私たち日本で暮らしている人々も、こうした現状において「隷従を続けている」との描写を否定できるだろうか。批判的精神を獲得するには、自身のなかにある認識論的、実存的、関係的不安をまず克服しなければならないのである。そうした安全感覚は、今の日本で広く与えられているであろうか』、「「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘」、「「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている」、その面では確かに正しいようだ。ただし、「システム正当化理論」では、政権交代が発生したことは説明し切れないようだ。原典では、アメリカ人が書いているので、きちんと書き込んでいるのかも知れないが、翻訳する段階でそうした部分を飛ばしている可能性もある。いずれにしても、翻訳されたものは、政権交代をきちんと説明しておらず、「理論」とよぶには問題があるようだ。
タグ:(その3)(集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望、なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと) 新自由主義 週刊エコノミスト Online「集集中連載 今考える「新自由主義」 第3回 日本の生産性を押し下げる低賃金 米国型コーポレート・ガバナンス導入が病巣=中岡望」 実際の「最低賃金」は「全国加重平均」で31円引上げ、961円にすることになった(8月6日付け日経新聞) 「米国型コーポレート・ガバナンスの導入も日本に大きな影響」、「米国型コーポレート・ガバナンスは、日本の労使関係を根底から変えてしまった。同時に経営者は米国と同様に巨額の報酬を手にするようになる」、なるほど。 「低賃金労働が使える限り、企業は資本コストの高い合理化投資を積極的に行わない。 企業は労働コストが上昇すれば、競争力が低下するために合理化投資を行わざるを得ない。大胆に言えば、日本企業の生産性が低いのは、賃金が安いからである」、その通りだ。 「短時間で同じ労働成果を上げることができれば、それは生産性向上を意味し、基本給の引き上げで従業員に還元されるべきものである。 だが、企業は所得が減った従業員に副業を推奨するという奇妙な議論が横行している。「労働の流動化」を口実に賃金引き下げと雇用の安定性が損なわれている」、「労働賃金を低く抑え、生産性向上投資を抑制し、目先の利益を増やし、経営者報酬と配当を増やし、株価を上げるという経営は、日本経済を間違いなく弱体化させてきた」、同感である。 「連合」が立憲民主党と共産党の共闘に水を差し、他方で自民党にもシッポを振っているのは、連合の戦闘力喪失を表している。 「2018年のストによる労働損失日は日本ではわずか1日」、というのは初めて知ったが、情けないことだ。 「労働市場で個人が企業と向かい合い、交渉することは不可能である。両者の間には圧倒的な力の差がある。だからこそルーズベルト大統領は労働者の団結権と団体交渉権を認め、全国労働関係委員会に労働争議の調整役を委ねたのである。小手先の制度改革ではネオリベラリズムの弊害を断ち切ることはできない。 バイデン大統領は中産階級の失地回復こそが格差是正の道であり、繁栄に至る道であると主張している。そのためには労働組合が企業に対して十分な交渉力を持つ必要があると説いている」、「貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き 「貧富の格差拡大は社会を分断し、深刻な貧困問題を引き起こす。長期的には経済成長を損なうことになる。そうした事態を回避するには現在の制度の構造的な見直しが要である。 税制の見直しや最低賃金の引き上げに加え、正規労働者と非正規労働者に二分された労働市場の見直しも不可欠である。労働者や消費者などさまざまな立場の人の意見を反映させるようなコーポレート・ガバナンスを構築する必要がある」、同感である。 「岸田首相の“本気度”と“覚悟”が問われる」、とあるが、それは期待し過ぎだ。立憲民主党から建設的な意見が出てきてほしいものだ。 現代ビジネス 北村 英哉氏による「なぜ「経済的に恵まれない人」が「新自由主義を支持する」のか? 社会心理学が明らかにしたこと」 「自民党を政権党にするという選択は、ほぼ一貫して第二次大戦後の日本社会のデフォルトの通常風景であり続けた。70年以上、例外的な時期を除けば、現在の政権党にあたる勢力を全体としては、支持し続けているのである。 こうなってくると、そうした選択を単なる「間違い」で済ませるわけにはいかない。むしろ、そうした結果になってしまう理由を考えるべきであろう。それこそが、理性的な思考となるのではないか。 そして、その理由を考えるのに役に立つのが「システム正当化理論」、極めて興味深そうだ。 「日本においても、2009年に政権交代が実現し、民主党政権ができたが、十分に国民の期待に応えた政策を実行できたかどうかまだよくわからない状態で、政権維持に行き詰まり、事実上、最後は政権を投げ出すような行いを示した」、「政権交代がよい結果をもたらすかどうかは、結果論的にあとを待たないと分からない」、その通りだ。 「特に日本ではリスクが嫌われる。リスクをとる覚悟で何かをやるのは、日本社会では「少し変わった人」である。多くの平凡な人たちは、「変わった人」になる勇気など持ってはいない。「ふつうが一番」なのである。そしてその「ふつう」とは政権党を支持することである。この「自身の安全を守りたい」という気持ちが、実存的欲求である」、「そもそもとがった意見を言うこと、何かを批判することについて、日本では免疫に欠ける。 欧米のデータでさえ、この「関係的欲求」に基づき大勢の人はシステム正当化を行うというのがジョン・ジョストたちのデ 「自己責任論は、経済的な自由や競争を重視する新自由主義的な考え方と相性がよい」、その通りだ。 「「経済格差は不可避であり、それどころか自然なものでさえある」という認識がその中心的なものとして含まれている。 その尺度によって人々の考えを測定した研究によれば、格差によって不利な状態にあり、いわば虐げられているものでさえ、今の仕組みは公正で正当であり、だから今の自分の境遇は仕方のないことと認めてしまうのである。これが自発的な隷従であるとジョン・ジョストは指摘」、「「システム正当化理論」では、歴史上、圧倒的多数の人々が反乱よりも屈服を選び、従属状態に順応してきたことが指摘されている」、その面では確かに正し
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働き方改革(その39)(NTT「3万人テレワーク」が日本経済に変革ドミノをもたらす、「初任給42万円」のサイバーエージェントはいい就職先か?、「休めない日本人」いまだ生み出す抵抗勢力の正体 小室淑恵「現役時代の休み方が定年後を決める」) [経済政策]

働き方改革については、6月11日に取上げた。今日は、(その39)(NTT「3万人テレワーク」が日本経済に変革ドミノをもたらす、「初任給42万円」のサイバーエージェントはいい就職先か?、「休めない日本人」いまだ生み出す抵抗勢力の正体 小室淑恵「現役時代の休み方が定年後を決める」)である。

先ずは、6月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「NTT「3万人テレワーク」が日本経済に変革ドミノをもたらす」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305135
・『NTTグループは7月から、主要7社の従業員3万人規模にテレワークを導入するという。この取り組みは、日本経済と日本企業に変革を次々と起こしていく可能性を大いに秘めている。どんなことが起きていくのか、共に考えてみよう』、興味深そうだ。
・『NTTを褒める文章は初めて?「3万人テレワーク」で働き方が変わる  NTTという会社について、筆者が肯定的な文章を書くのは初めてかもしれない。1980年代の株式売り出しの頃から折に触れて注目しているので、かれこれ30年以上NTTおよびNTTグループについて見ていることになる。 NTTグループは、主要7社の従業員の半分となる約3万人を原則としてテレワークの働き方にして、国内のどこにでも居住できる制度を7月から導入する。勤務場所は自宅やサテライトオフィスなどとして、出社が必要になる場合は交通費・宿泊費等を出張扱いで支給する方針だという(「日本経済新聞」6月19日)。 いわゆる「IT企業」と呼ばれるような相対的に歴史の浅い会社でテレワークを導入している会社は多くあった。しかし、NTTのように歴史のある大企業がこれだけ大規模にテレワークを導入する事例は聞いたことがない。 率直に言って素晴らしいと思うし、間違いなく他の大企業にも影響が及ぶだろう。後退させずに実現してほしいものだ。 日経新聞の記事は、この施策を導入する理由を「優秀な人材の獲得につなげる」と説明している。エンジニア、マーケティング、企画などの優秀な人材は各社が欲しいと思っている。そのため、今回発表されたような自由度の高いテレワークを提供するNTTグループ各社に対抗するためには、同様の働き方を認めるか、より高い報酬を支払うか、何らかの対抗措置が必要になる。 本件の影響として、テレワークが一層普及すると見るのが、まずは妥当だろう。システム開発などのエンジニア人材をNTTのグループ企業と取り合う関係にある企業は数多ある。波及効果は大きいだろう。 テレワークについて、これまで通勤に要した「時間」だけを考えるとしても、効果は大きい。その時間が生産に使えたり、余暇時間の拡大につなげられたり、休養に充てられたりする。通勤による疲労やストレスがなくなる点も大事だ。まして、今回のNTTのテレワークなら自分の好きな場所に住めるのだ。個人にとって魅力は大きい』、「NTTのように歴史のある大企業がこれだけ大規模にテレワークを導入する事例は聞いたことがない。 率直に言って素晴らしいと思うし、間違いなく他の大企業にも影響が及ぶだろう」、「テレワークについて、これまで通勤に要した「時間」だけを考えるとしても、効果は大きい。その時間が生産に使えたり、余暇時間の拡大につなげられたり、休養に充てられたりする。通勤による疲労やストレスがなくなる点も大事だ。まして、今回のNTTのテレワークなら自分の好きな場所に住めるのだ。個人にとって魅力は大きい」、その通りだ。
・『NTT「3万人テレワーク」によって人事評価と報酬も変わる  テレワークの一般論として言われることだが、テレワークの下では仕事の成果によって個々の社員を評価するウエートが増えるはずだ。それ以外に納得性のある方法がない。そして、例えばシステムの開発者の場合、個人間の生産性には大きな差があるはずであり、報酬はこれを反映したものにならざるを得ない。 生産性に10倍の差があって、報酬は2倍しか違わないという状況が可視化されると、生産性の高い社員は納得しないだろう。その場合、他社でも同様のテレワーク環境が提供されていれば、転職に至る確率は高くなるはずだ。 テレワーク環境が当初はNTTグループ独自の魅力であっても、人材を取り合う状況になると、その条件は長く続かないだろう。 テレワークの普及は、人事評価の成果主義化を加速し、生産性の高い社員の報酬の上昇につながるとみられる』、「テレワーク環境が当初はNTTグループ独自の魅力であっても、人材を取り合う状況になると、その条件は長く続かないだろう。 テレワークの普及は、人事評価の成果主義化を加速し、生産性の高い社員の報酬の上昇につながるとみられる」、その通りだ。
・『テレワークが日本社会に浸透すれば「副業」も変わるだろう  付け加えると、テレワークは副業にもなじみがいい。現在のNTTグループの企業が、一気に社員の副業について全面解禁や副業推奨にまで向かうのかどうかは分からない。ただ、テレワークで時間と居住地が自由になれば、社員は副業を行うことが容易になる。仮にNTTが社員の副業に対して消極的だとしても、競合他社が副業に積極的になると、それに追随せざるを得なくなるのではなかろうか。 副業の普及は概ねいいことだ。社員の自由の拡大だし、収入機会の拡大でもある。また、副業がセカンドキャリアへのスムーズな移行を助けたり、場合によっては起業につながったりするケースも出てくるはずだ。いきなり独立するのではなく、副業の形で新しいビジネスを試すのは、リスクコントロール上有効な方法だ。 テレワーク拡大の副次的効果として、副業の普及にも期待したい』、「仮にNTTが社員の副業に対して消極的だとしても、競合他社が副業に積極的になると、それに追随せざるを得なくなるのではなかろうか。 副業の普及は概ねいいことだ。社員の自由の拡大だし、収入機会の拡大でもある。また、副業がセカンドキャリアへのスムーズな移行を助けたり、場合によっては起業につながったりするケースも出てくるはずだ。いきなり独立するのではなく、副業の形で新しいビジネスを試すのは、リスクコントロール上有効な方法だ」、その通りだ。
・『テレワーク浸透→転職コスト低下 次に来るのは「人材の流動化」  さて、多くの会社がテレワークを自由にしたら、社員から見ると就職先の立地の制約が緩和される分、転職のコストが下がる。しかも、人事評価は成果主義に傾き、報酬も生産性に応じてより弾力的になるので、社員の転職が増える要因になるだろう。 転職のコストが減少し、人材が流動化して再配置される機会が増えるのはいいことだ。労働者同士の競争が厳しくなるが、総体としては個人が自分の生産性を上げようとするモチベーションとして働くだろう。 また、企業同士が優秀な社員に対して提供する条件を競う関係になるので、賃金の上昇にもつながるだろう。企業間での人材獲得競争が盛んになることの効果は大きい。 また、テレワークで生産に関わる人物は、必ずしも「社員」である必要はない。社員のように働きつつも、企業と個人、あるいは大企業と個人会社のような契約関係を結ぶような自由度も、当事者がうまく活用すると双方にとってのメリットになり得る。また、「優秀な人材」は必ずしも日本国内に居住する者でなくてもいい。テレワークを前提に業務を組み立てることは、優秀な人材を探す範囲の拡大にもつながるだろう』、「テレワーク浸透→転職コスト低下 次に来るのは「人材の流動化」」、「テレワークで生産に関わる人物は、必ずしも「社員」である必要はない」、あり得るシナリオだ。
・『上級社員層にもようやく「資本主義」がやって来る  テレワークの普及で、今まで大企業に囲い込まれていた技術職の社員のような非流動的な人材層の待遇が弾力化し、雇用が流動化する。雇用が流動化する際に、人材はあたかも商品のように取引されることになる。 これまで日本では、比較的シンプルな労働に従事する非正規労働者や彼らと競合する層の正社員は、労働力が徹底的に商品化されて競争にさらされてきた。ところが、大企業の正社員はいったん入社すると数十年にわたるメンバーシップを持ち、個人の生産性の差をあまり反映しない報酬システムの下に安住していた。「労働力の商品化」の度合いは極めて小さかったといえるだろう。 しかし、テレワークの普及は、「(所得階層的に)上級社員層」にも労働力の商品化をもたらす要因として働く可能性がある。つまり、「上級社員層」にやっと資本主義化が及ぶわけだ。岸田文雄首相が勘違いしているように「新しい資本主義に移行する」というよりも、「新しく、資本主義がもたらされる」のである。 しかも、ここで生まれる人材流動化のいいところは、「会社間」にも厳しい競争がもたらされることだ。この競争によって、賃金の上昇が後押しされる可能性がある。似た事例としては、かつての外資系の投資銀行間の人材引き抜き合戦が、投資銀行マンの報酬の高騰をもたらしたことを想起してほしい。 会社間の人材獲得競争に自ら乗り出すことは、NTTのようにある程度人材を抱え込むことができている古参の大企業にとって短期的には有利でないはずだ。ただ、内外のIT企業などとの人材獲得・確保の競争状況を考えると、積極的に競争を仕掛けていかざるを得ない事態の切迫を感じたのだろう。 日本の上級社員層の間に「資本主義」が広がることは、経済の成長と活性化のために大変結構なことだ。テレワークの普及はその流れを後押しする一つの要因になるはずだ。 まさか、あのNTTがやってくれるとは思わなかった。大胆な決断に拍手を送るとともに、その実行がうまくいくことを祈りたい』、「日本の上級社員層の間に「資本主義」が広がることは、経済の成長と活性化のために大変結構なことだ。テレワークの普及はその流れを後押しする一つの要因になるはずだ」、同感である。

次に、7月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「「初任給42万円」のサイバーエージェントはいい就職先か?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307023
・『サイバーエージェントが新入社員の初任給を42万円に引き上げた。一方、それと同時期に有名大企業の働き方に関するニュースも目にした。サイバーエージェントはいい就職先なのか。有名大企業との比較も交えて考えてみたい』、興味深そうだ。
・『「働き方」の二つのニュース 一つは良い、もう一つは残念  日本企業の経営と労働者の働き方に関わる二つのニュースが目についた。 一つは、ソニーグループ、キリンホールディングス、SOMPOホールディングスといった日本の主要企業が、社員のリスキリング(学び直し)で連携する協議会の設置が発表されたことだ。経済産業省と金融庁の支援の下に8月に「人的資本経営コンソーシアム」なるものを設置するという。社員が相互に兼業・副業する仕組みを設けたり、共同で学び直しの場を提供したりすることが検討されるらしい。 もう一つは、サイバーエージェントが2023年度の新入社員の初任給を42万円に引き上げることを発表したというニュースだ。22年春入社の社員と比べて2割を超える大幅な増額となる。人材獲得の競争が激化する中での、同社の経営戦略だ。 筆者は、一方を「良いニュース」だと思い、他方を「残念なニュース」だと思った。 ポジティブに解釈したのはサイバーエージェントの初任給引き上げだ。 率直に言って、新卒時点で相対的に優秀な社員を採用することの価値は極めて大きいはずだ』、確かに「サイバーエージェントが2023年度の新入社員の初任給を42万円に引き上げることを発表したというニュース」は確かに「良いニュース」ではあるが、私は2022年度や2021年度の入社組の給与との調整をどうするのかが気になった。
・『大企業批判を恐れて初任給だけ低くする日本の一流企業のつまらない慣行  典型的には工場と製造プロセスを経て製品ができるかつてのビジネスと、デジタル化された情報のハンドリングの巧拙やビジネス上のアイデアが成否を分ける近年のビジネスとではスピードが違う。そのため、「有能な個人」の価値が大きく異なり、かつ早くから影響が現れる。 知的能力でも、デザインなどのセンスでも、コミュニケーション力でも、「できる人材」と「普通の人材」の生産性の差は10倍以上違っていておかしくない。何はともあれ、初任給を上げて新卒採用マーケットで「買い負けしない」ようにしようという経営方針は素直でいい。 新卒のマーケットだけなのが残念だが、「普通の資本主義」(≒労働力の商品化)が実現することは、経済全体にとっても人的資源の効率的な配分の上で好ましい。 「初任給42万円(月額換算)」は年収換算で500万円と少々なので(サイバーエージェントの採用ホームページには「年俸制504万円」とある)、外資系の金融機関やコンサルティング会社などに対して競争力を持つほどではない。しかし、「大企業の厚遇批判」を恐れて初任給だけ低位にするような日本のつまらない一流企業の慣行を考えると(大卒の平均初任給は22万?23万円くらいだ)新入社員へのメッセージとしてインパクトを持つ。 大企業が初任給を大幅に引き上げるのは、(サラリーマン経営者は勇気がないから)それなりに大変なので、サイバーエージェントはいいポイントを突いたと思う。向こう2、3年くらいは有効な施策ではないだろうか。 初任給を不当に安く抑える現在の慣行のばかばかしさへの批判にもなっている点で、社会貢献でもある』、「「大企業の厚遇批判」を恐れて初任給だけ低位にするような日本のつまらない一流企業の慣行を考えると・・・新入社員へのメッセージとしてインパクトを持つ。 大企業が初任給を大幅に引き上げるのは、・・・それなりに大変なので、サイバーエージェントはいいポイントを突いたと思う。向こう2、3年くらいは有効な施策ではないだろうか」、「初任給を不当に安く抑える現在の慣行のばかばかしさへの批判にもなっている点で、社会貢献でもある」、同感である。
・『「人的資本経営コンソーシアム」の何がダメなのか  一方、人的資本経営コンソーシアムの構想は、関わる個々人にとっては「他社」が刺激となることで印象的なリスキリングの事例が生まれる程度のことは少々想像できるのだが、経営のあり方として全く魅力を感じない。このようなものに本気で期待する経営者がいるのだろうか。) もちろん、会社には「大人の事情」がある。同コンソーシアムの発起人企業として名を連ねた有名大企業(全てが文句なしの有名会社だ)の経営者たちも、経産省に旗を振られると「付き合わないわけにはいかない」ということだったのかもしれない。 しかし、例えば「発起人」に名を連ねるソニーや日立製作所の技術者が、キリンに出向してビール営業を体験することをどう考えるか。本人にとって新鮮な気付きがあるかもしれないが、出身会社にとって大きな価値を持つようには思えない。これは事例が意地悪すぎるかもしれないが、それでは、コンソーシアムの参加会社の社員が一緒に何らかの研修プログラムに参加することに、どのような意味があると考えるのか。 社員にどのような教育を提供し、それでどれだけの競争優位の要因をつくることができるかは、企業の経営にとって中核的な問題の一つだ。 他社との「コンソーシアム」のようなくだらないものに自社の社員のリスキリングを任せるくらいなら経営者は、事業と社員をまとめて売り払ってしまうか、無能な自分がさっさと引退するかした方がいい。 コンソーシアムには、企業の「人的投資」に対する一般的な情報の開示の基準を作る意図があるのではないかと推察する。ただ「まともな企業」は、自分たちがどれだけ社員の能力開発に対して投資を行っているのかを、自分たちの流儀で徹底的に公開・宣伝して独自に競うといい。世間の「基準」など待つ必要はない。基準は競争を通じて自ずと出来上がるはずであって、誰かが旗振りをする必要はない』、「「まともな企業」は、自分たちがどれだけ社員の能力開発に対して投資を行っているのかを、自分たちの流儀で徹底的に公開・宣伝して独自に競うといい。世間の「基準」など待つ必要はない。基準は競争を通じて自ずと出来上がるはずであって、誰かが旗振りをする必要はない」、その通りだ。
・『ソニーと日立の社員が同じ研修なら少なくとも一方の人事部は機能不全  若者は、どこの企業に就職すると自分の人材価値にどのようなプラス効果があるのかに敏感だ。若手だけではなく、中堅社員もある程度は気にしている。社員に対して企業がどれだけ、どのような内容に投資するのか。これについては、半ばカルテルのように「一緒に」やらせるよりは、企業間で大いに競争させるといい。 例えば、「○○社に就職すると、××××のような研修を受けることができて、これは自分のプラスになる(将来の転職にも役立つ)」といった立派な研修プログラムを持つことは、企業にとって大いにプラスになる。もちろん、スキルを身に付けた社員は「戦力」になるし、企業にとって差別化の源泉の一つになる。「他社と一緒にやろう」などと考える企業の未来には期待できない。 社員にどのような知識・スキルとマインドセットを持ってほしいのかについては、個々の企業で戦略を反映した違いがあって然るべきだ。例えば、ビジネスが近い2社だが、仮にソニーの社員と日立の社員が同じ研修を受けるのであれば、少なくともどちらかの人事部は「まともに機能していない」と考えた方がいいだろう。 このコンソーシアムは、官民の仲良しクラブの中では有意義な企画なのかもしれない。しかし、企業経営の次元では心から情けない。このプロジェクトに関わるサラリーマンの中間管理職諸氏には大いに同情する。 ともかく、経営者は大丈夫なのか。自社の中に競争力のある社員教育プログラムを持たないこと、社員に投資しないこと、社員への投資をアピールできないことは、経営者の無能力としか言いようがない』、「社員に対して企業がどれだけ、どのような内容に投資するのか。これについては、半ばカルテルのように「一緒に」やらせるよりは、企業間で大いに競争させるといい」、「自社の中に競争力のある社員教育プログラムを持たないこと、社員に投資しないこと、社員への投資をアピールできないことは、経営者の無能力としか言いようがない」、その通りだ。
・『人材の資本主義化を進めよう 生産性に見合う報酬と「クビ」の選択肢  近年、「生産性」という言葉を頻繁に聞くようになった。付加価値を生み出す効率というくらいの意味で捉えておくといいと思うのだが、個人の生産性に対する貢献には大差があり、その差は傾向として拡大している。 企業にとっての経済合理性から考えて、社員個人に対する報酬は、個人の生産(≒利益獲得)への貢献に見合ったものであるべきだ。価値を下回る見合わない報酬であれば、その社員は転職してしまう公算が大きい。真に「できる個人」には、社長の給料以上の額であっても報酬を払うくらいの柔軟性が必要なのだ。たぶん、サイバーエージェントのような会社では自然に理解されている事柄だろう。 稼ぎに貢献した社員に対して高額のボーナスその他を支払うことは元々外資系の金融機関などにはよくあることだ。有能な人材を確保するためには、貢献が期待できる有能な人材に対して好条件を提示できるのでなければならない。 一方、雇う側も間違えるし、雇う側と雇われる側の両方に見込み違いが生じる場合もある。 合理的なやり方は、期待値に基づいて雇ってみて、期待値に満たなかったらクビにするオプションも含めて条件を見直すことだ。もちろん、解雇には金銭的補償のルールが必要だが、「クビ」というオプションがあるかないかは、経営の効率性にとって極めて大きい。 また、率直に言って「クビ」があり得る職場とそうでない職場とでは、緊張感が違うので生産性に差がつく。職場としてストレスは増えるが、生産性は上がるはずだ。 現在の日本の雇用制度では、正社員を「クビ」にすることが難しい。しかも、社員間の報酬の差が小さい。企業は必然的に賃金に生産性が見合わない社員を抱えている。こうした社員がいわば「席を空けない」ことが、新しい社員の採用の邪魔になっている。また、雇ったらクビにできないことが「試しに雇ってみよう」のリスクとコストを高めるので、社会全体として人材移動が十分増えない。 転職と中途採用はかつてよりも盛んになったが、人材の流動性はまだまだ不十分だ。社会全体として、効率的な人材の再配置が行われる機会が乏しい。また、人材間の競争が不十分だ。 加えて、有能な人材を企業が取り合う形での報酬の上昇が起こりにくい。 「社員をクビにするオプションが必要、緊張感で生産性が違う、社員の報酬にもっと差があっていい、人材間の競争が必要」…。このように書いてみると、何やら自分が薄情で強欲な人になったような居心地の悪さを覚えるが、どうやら、わが国の成長が不十分であることや賃金上昇が十分でないことの背景には、人材の流動性の不足がありそうだ。 特に先の「コンソーシアム」に参加するような大企業にあって、わが国は十分「資本主義化」していない。資本主義は、労働力という商品によって、モノ・サービスを生み出す仕組みだが、はっきり言って「労働力の商品化」が、大企業層で不十分なのだ。 だから、人材の効率的再配置が不足するし、競争が不足する。そして、おそらく賃金も上昇しにくい。岸田文雄首相の言う「新しい資本主義」以前に、日本の会社や社会は「まだ十分に資本主義化していない」のである』、「日本の会社や社会は「まだ十分に資本主義化していない」、「「労働力の商品化」が、大企業層で不十分なのだ」、同感である。
・『「外資系金融のような職場は嫌だ」 そんな読者に想像してほしいこと  「外資系の金融機関のようなギスギスした職場は嫌だ」とお感じになる読者が少なくないと想像するが、二つの点について想像を巡らせてみてほしい。 まず、彼らのいささか高すぎるようにも思える報酬水準は、業界内の人材獲得競争によって生じたものだ。労働力という「商品」については、売り手側でも買い手側でも競争が生じ得る。日本の大企業労働者の賃金は、買い手側である企業側にあって競争が不十分なので上がりにくい一面がある。競争が十分に働く環境なら、多くのビジネスパーソンの給料はもっと高くていいはずなのだ。 もう1点、「クビ」がある職場は確かにギスギスするが、同一業界内で人材の流動性がある方が、クビになった場合に次の職場を探しやすい。就職先の「空席」が生じやすいし、「入れ替え」が起こることもある。「試しに雇ってもらう」ことがより容易になる。 人材に関して「資本主義化」を進めることによって、企業側にももっと競争させることが必要なのではないだろうか。 冒頭の問題に戻ると、採用の入り口の問題とはいえ、人材の競争的獲得に積極的に乗り出したサイバーエージェントの「初任給42万円」を歓迎したい。企業が進むべき方向に対して自覚的な同社は、求職者にとって、おそらくいい就職先であることだろう』、「人材に関して「資本主義化」を進めることによって、企業側にももっと競争させることが必要なのではないだろうか」、「人材の競争的獲得に積極的に乗り出したサイバーエージェントの「初任給42万円」を歓迎したい。企業が進むべき方向に対して自覚的な同社は、求職者にとって、おそらくいい就職先であることだろう」、同感である。

第三に、6月26日付け東洋経済オンラインが掲載した内科医・心療内科医の鈴木 裕介氏と、ワーク・ライフバランス代表取締役社長の 小室 淑恵氏による「「休めない日本人」いまだ生み出す抵抗勢力の正体 小室淑恵「現役時代の休み方が定年後を決める」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/596725
・『会議時間とストレスの相関を調べた調査では、1日4件の会議参加を境に高ストレス者が急増する一方で、連続する会議で5分程度の休憩を挟む「会議間インターバル」と、7時間以上の睡眠時間を確保する「勤務間インターバル」2つの休みを取り入れることで、そのリスクを軽減できることが明らかになりました。(「ネット会議やたら多いエリートの体調が危ない訳」4月1日配信) 有給取得率が60%に到達せず、生理休暇の取得率は1%前後。「休めない日本人」と揶揄されるほど、日本では休暇を取らずに働きづめのビジネスパーソンが大多数です。 「休めない空気」を生み出す、抵抗勢力の正体は?テレワーク時代に求められる「休む技術」とは? 心療内科医/産業医として、「休めない日本人」に向き合い続けてきた鈴木裕介医師と、男性の育児休暇取得や勤務間インターバルなど、「休む」に関連する法律を政策提言し続ける中で、その抵抗勢力とも向き合い続けた、株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役・小室淑恵氏が語り合いました』、興味深そうだ。
・『小室淑恵氏が「休む」ことの重要性を痛感した大失敗  鈴木 裕介(以下、鈴木):私は臨床現場で患者さんにお休みすることを提言する立場にいます。しかしこれまでの経験から、休むことに対して、申し訳なさや恥ずかしさ、恐怖といった心理的ハードルがあると感じてきました。 疲労がたまりすぎて危険な水域に入っていても、休職などまとまった休みを取ることに対する抵抗が強い方はとても多いです。ある方は、休職することに「目標や指示もない部署にいきなり放り込まれるような怖さ」を感じるとおっしゃっていました。これまでの日常から切り離されて、先の見えないところに飛ばされる恐怖があるのだと考えています。 また、その方の性格や状態にもよりますが、罪悪感を持たずに“ただ休む”ことができるようになるまでだいたい1カ月くらいはかかるんですね。 その後、やっと自分の体にとって休むことが大事だと実感できるんです。その経過を見ていると、休んでみないとわからないことがあるんだなと、常々患者さんから学んでいます。 小室 淑恵(以下、小室):私自身は元々は、仕事をどこで終わりにするか線が引けないタイプでした。前職では持ち帰りの仕事は当たり前。ですが、長男を出産後、同じスタイルは継続できないとすぐにわかりました。) 日中の育児に加えて夜中も続く授乳。当時は育児や仕事も、できるタイミングでできる限りやらないとと考えていました。しかしながら、睡眠が不足していくと、ちょっとしたことにネガティブな感情を抱くようになっていきました。そしてある日の夜中に、授乳のために起きたタイミングでメールチェックしてしまい、気になったことを指摘する社内向けに書いた強い口調のメールを、お客様に誤送信してしまったんです!!。大反省しました。 そこから生活スタイルを大転換しました。夜9時半には子どもと一緒に寝て、翌朝5時半に起きる生活にしました。授乳が必要な時には夫と交代制にするなど、もちろん育児の工夫もいろいろと凝らした結果、それまで喧嘩が増え続けていた家族関係も改善に向かったんです。大きなターニングポイントでした。睡眠、休息を取ることの大切さを痛感しましたね。休むことが物事の捉え方や認知の歪みも解消することを体感した時期でした。 鈴木:そうですね、まずご自身が休むことの必要性に気づいてもらうのはとても大切なポイントになります。 休むこと、睡眠不足に陥ると小室さんのような失敗が起こるのは、睡眠不足が、交感神経優位のバトルモード状態だからです。 交感神経は身体を興奮させ、動きを活発にする「バトルモード」で、副交感神経は身体をリラックスさせ、休んで元気をためる「休息モード」です。 人は「ここは安心だ」と思える環境や感覚を得て、自律神経が副交感神経優位の時になったときにのみゆっくり寝たりご飯を食べたりできるようにプログラムされているんですね。裏を返すと、睡眠不足とは「ここは安心だ」と思えない環境にいる状態で、言動も「バトルモード」になりがちです』、「元々は、仕事をどこで終わりにするか線が引けないタイプ」、「授乳のために起きたタイミングでメールチェックしてしまい、気になったことを指摘する社内向けに書いた強い口調のメールを、お客様に誤送信してしまったんです!!。大反省しました。 そこから生活スタイルを大転換しました。夜9時半には子どもと一緒に寝て、翌朝5時半に起きる生活にしました。授乳が必要な時には夫と交代制にするなど、もちろん育児の工夫もいろいろと凝らした結果、それまで喧嘩が増え続けていた家族関係も改善に向かったんです。大きなターニングポイントでした。睡眠、休息を取ることの大切さを痛感」、やはり大失敗をしないと気づかないようだ。
・『休むことに抵抗感が強い会社で最初にやる施策とは  小室さんは、ご自身の経験から、7時間以上の睡眠時間確保を目指す「勤務間インターバル」を政策提言されています。 しかし、経済同友会が、国内のスタートアップ企業について、一定条件のもとで「時間外労働の上限規制の適用対象から除外すべき」とする提言を発表したことが象徴するように、休むことへの抵抗勢力が、日本には根強く存在します。 企業の働き方改革コンサルティングの場面でも、そうした抵抗感の強い会社と対峙することも多いと思いますが、どのように向き合ってきたのでしょうか?) 小室:休むことに抵抗感が強い職場で最初にやる施策があります。それが「マニュアル休暇」です。全員が2週間程度のまとまった休みを取る練習をするんです。まず休みが取れたら何をしたいかを全員で書き出してもらいます。育児や介護などの理由がなくても、独身者も全員でカレンダーに休む予定を入れます。そして休む期間の仕事の引き継ぎの問題が発生するので、その際に利用するマニュアルを作成していくんです。マニュアルは、仕事を引き継ぐ側が書くと、いざその仕事をやってみる際に機能するマニュアルが作れます。 マニュアル休暇の効果はいくつかあります。独身/既婚・子どもの有無等にかかわらずみんなが休みを取ることによって、お互い様になるので肩身が狭くなく休めるようになります。また、マニュアル化が行われるので劇的に仕事の属人化が解消されます。個人商店的な雰囲気から、チームへの配慮も生まれます。 従来個人商店の働き方だと、誰かが困っていても助けられないので放っておくしかなかった状況が生まれてしまっていました。属人化を脱することが助け合える土壌を作るんです。 鈴木:土壌作り、マニュアルもできて一挙両得ですね。それは当院でもぜひやってみたいです。 ある日突然休職する方の傾向として、自分の都合よりも周りを優先して、環境や他者からの期待に完璧に近い形で従おうとする「過剰適応」傾向が挙げられます。そうした方の95%が、口癖のように「大丈夫です」と言ってしまうという結果が出ていますが、SOSを出すのが苦手な方にとっては、誰かが日常的に休暇を取得している状態というのは、安心して休暇を取得できますね』、「マニュアル休暇」、「全員が2週間程度のまとまった休みを取る練習をするんです。まず休みが取れたら何をしたいかを全員で書き出してもらいます。育児や介護などの理由がなくても、独身者も全員でカレンダーに休む予定を入れます。そして休む期間の仕事の引き継ぎの問題が発生するので、その際に利用するマニュアルを作成していくんです。マニュアルは、仕事を引き継ぐ側が書くと、いざその仕事をやってみる際に機能するマニュアルが作れます。 マニュアル休暇の効果はいくつかあります。独身/既婚・子どもの有無等にかかわらずみんなが休みを取ることによって、お互い様になるので肩身が狭くなく休めるようになります。また、マニュアル化が行われるので劇的に仕事の属人化が解消されます。個人商店的な雰囲気から、チームへの配慮も生まれます」、なかなかいい仕組みのようだ。
・『抵抗勢力を生み出す、アドレナリンの罠  休みやすい土壌作りができても、次にハードルになるのが、ストレスは自覚するのが難しく、そもそも休む必要性を感じづらい点です。 高ストレス者の57%が、自身が高ストレス者であることを自覚していないという結果が明らかになっています。 対策としては次のようなことが考えられます。開発者によって精度にばらつきはあり発展途上の領域ではありますが、声や自律神経など生体情報を活用したストレスチェックのアプリなども存在します。自身の感覚だけに頼らず、そうしたテクノロジーを活用するのも、選択肢の1つだと思います。 実はストレス状況下では、アドレナリンやコルチゾールなどの抗ストレスホルモンが分泌されることで、一時的にパフォーマンスが上がっていることが多いんですね。そうなると、ますますストレスを実感することが難しく、むしろ「調子がいい」とすら感じるので、注意が必要です。疲労感が伴わないまま、密かに進行する疲労というのがいちばん厄介です。 小室:このアドレナリンによる罠も、抵抗勢力が根強く存在する理由の1つです。 DawsonとReidの1997年の研究によると、人間の脳が集中力を発揮できるのは、起床から13時間以内で、それ以降は酒気帯び運転と同程度の集中力しか保てません。 さらに怖いのは、アドレナリンやコルチゾールによって、起きてから24時間を超えると集中力が一時的に上がってしまう点です。 ここで一時的に仕事が進んだ感覚を経験すると、それが強い成功体験になってしまいます。実際には朝起きて13時間から24時間までの11時間は、著しく生産性が落ちているわけですから、トータルで見た時には企業にとっても本人にとっても大きなマイナスなのですが、最後の数時間の記憶が、長時間労働を成功体験にしてしまい、休むことを軽視しがちです。 そうした背景もあり、私は7時間以上の睡眠時間確保を目指す「勤務間インターバル」を政策提言しています。 ストレスと密接な関係がある睡眠時間の確保を、法律で仕組み化することで、自覚できていないストレスにも対策可能にすることが狙いです』、「人間の脳が集中力を発揮できるのは、起床から13時間以内で、それ以降は酒気帯び運転と同程度の集中力しか保てません。 さらに怖いのは、アドレナリンやコルチゾールによって、起きてから24時間を超えると集中力が一時的に上がってしまう点です。 ここで一時的に仕事が進んだ感覚を経験すると、それが強い成功体験になってしまいます。実際には朝起きて13時間から24時間までの11時間は、著しく生産性が落ちているわけですから、トータルで見た時には企業にとっても本人にとっても大きなマイナスなのですが、最後の数時間の記憶が、長時間労働を成功体験にしてしまい、休むことを軽視しがちです。 そうした背景もあり、私は7時間以上の睡眠時間確保を目指す「勤務間インターバル」を政策提言しています」、確かに「起きてから24時間を超えると集中力が一時的に上がってしまう」、「トータルで見た時には企業にとっても本人にとっても大きなマイナスなのですが、最後の数時間の記憶が、長時間労働を成功体験にしてしまい、休むことを軽視しがちです」、確かに「勤務間インターバル」は有力な歯止め策のようだ。
・『抵抗勢力が押し黙る、データの正体  鈴木:小室さんは「一時的に仕事が進んだ感覚を経験した」抵抗勢力の方々に遭遇したときは、どのように向き合っていますか? 小室:2021年6月科学雑誌『ネイチャー』に、現役時代に 6時間以下の睡眠を続けた人は、定年後の認知症の発症率1.3倍、というデータが掲載されました。このデータを管理職研修などで紹介すると、場の空気が変わります。人生100年時代ということは、約40年も続く定年後の人生です。そのQOLを決めるのは、現役時代の働き方・休み方なのだ、ということですね。) また、抵抗勢力の人たちは「正義感が強い」ことも理解する必要があります。 以前「もし有休が取れたら本当は何をしたいか」をテーマに付箋を使ったワークショップを実施しました。 出てきた回答は「ライブに行きたい」「ディズニーランドに行きたい」など、もし休みが取れたらやりたいことが沢山ある!そんな思いが詰まった回答がたくさん出てきたんですね。 それを見た抵抗勢力だった人は驚かれていました。「休むよりも仕事をしたいと思っていたのは自分だけ?」とハッとしたと言います。 その方はみんなと一緒に成果を出したい、みんなの役に立ちたい気持ちが高い人でもありましたが、そこで初めて自分の考え方や行動が、みんなが休めない状況を作っていたことに気がついたんです。 悪気なく自分の考え方を強制していたことに最初はショックを受けていたようでした』、「もし休みが取れたらやりたいことが沢山ある!そんな思いが詰まった回答がたくさん出てきたんですね。 それを見た抵抗勢力だった人は驚かれていました。「休むよりも仕事をしたいと思っていたのは自分だけ?」とハッとしたと言います。 その方はみんなと一緒に成果を出したい、みんなの役に立ちたい気持ちが高い人でもありましたが、そこで初めて自分の考え方や行動が、みんなが休めない状況を作っていたことに気がついたんです。 悪気なく自分の考え方を強制していたことに最初はショックを受けていたようでした」、「抵抗勢力」は「みんなの役に立ちたい気持ちが高い人でもありましたが、そこで初めて自分の考え方や行動が、みんなが休めない状況を作っていたことに気がついたんです」、意外にも善人だったようだ。
・『権力と影響力を理解することは重要  鈴木:自分の背後に流れるパワー(権力)とその影響力を理解することは重要ですよね。自覚していなくても強制力を持ってしまったり、本音を聞けていなかったり。いつのまにか自分が権力側に立っていて、自分にとって耳当たりのいいことばかりしか耳に入らないようになってくる。これはとても恐ろしいことだと思います。 それに、「強者」だけでなく、「弱者」にあたる人の背後にもパワーが流れている、ということも重要な点だと思います。 最近では「心理的安全性」(注)の重要性が言われるようになって久しいですが、それを意識しするあまり上司が部下に何も言えなくなる場合が出てきて、かえってコミュニケーションの質が下がっているケースが少なくありません。「強者」と「弱者」は容易に入れ替わります。新しい仕組みやカルチャーを推進していくうえで、こうしたパワーの感覚への深い理解が欠かせないと思います』、「「心理的安全性」・・・を意識しするあまり上司が部下に何も言えなくなる場合が出てきて、かえってコミュニケーションの質が下がっているケースが少なくありません。「強者」と「弱者」は容易に入れ替わります。新しい仕組みやカルチャーを推進していくうえで、こうしたパワーの感覚への深い理解が欠かせないと思います』、「「強者」と「弱者」は容易に入れ替わります」、複雑な世の中になったものだ。
(注)「心理的安全性」:組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のこと。「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義(リクルートマネジメントソリューションズ))
タグ:働き方改革 (その39)(NTT「3万人テレワーク」が日本経済に変革ドミノをもたらす、「初任給42万円」のサイバーエージェントはいい就職先か?、「休めない日本人」いまだ生み出す抵抗勢力の正体 小室淑恵「現役時代の休み方が定年後を決める」) ダイヤモンド・オンライン 山崎 元氏による「NTT「3万人テレワーク」が日本経済に変革ドミノをもたらす」 「NTTのように歴史のある大企業がこれだけ大規模にテレワークを導入する事例は聞いたことがない。 率直に言って素晴らしいと思うし、間違いなく他の大企業にも影響が及ぶだろう」、「テレワークについて、これまで通勤に要した「時間」だけを考えるとしても、効果は大きい。その時間が生産に使えたり、余暇時間の拡大につなげられたり、休養に充てられたりする。通勤による疲労やストレスがなくなる点も大事だ。まして、今回のNTTのテレワークなら自分の好きな場所に住めるのだ。個人にとって魅力は大きい」、その通りだ。 「テレワーク環境が当初はNTTグループ独自の魅力であっても、人材を取り合う状況になると、その条件は長く続かないだろう。 テレワークの普及は、人事評価の成果主義化を加速し、生産性の高い社員の報酬の上昇につながるとみられる」、その通りだ。 「仮にNTTが社員の副業に対して消極的だとしても、競合他社が副業に積極的になると、それに追随せざるを得なくなるのではなかろうか。 副業の普及は概ねいいことだ。社員の自由の拡大だし、収入機会の拡大でもある。また、副業がセカンドキャリアへのスムーズな移行を助けたり、場合によっては起業につながったりするケースも出てくるはずだ。いきなり独立するのではなく、副業の形で新しいビジネスを試すのは、リスクコントロール上有効な方法だ」、その通りだ。 「テレワーク浸透→転職コスト低下 次に来るのは「人材の流動化」」、「テレワークで生産に関わる人物は、必ずしも「社員」である必要はない」、あり得るシナリオだ。 「日本の上級社員層の間に「資本主義」が広がることは、経済の成長と活性化のために大変結構なことだ。テレワークの普及はその流れを後押しする一つの要因になるはずだ」、同感である。 山崎 元氏による「「初任給42万円」のサイバーエージェントはいい就職先か?」 確かに「サイバーエージェントが2023年度の新入社員の初任給を42万円に引き上げることを発表したというニュース」は確かに「良いニュース」ではあるが、私は2022年度や2021年度の入社組の給与との調整をどうするのかが気になった。 「「大企業の厚遇批判」を恐れて初任給だけ低位にするような日本のつまらない一流企業の慣行を考えると・・・新入社員へのメッセージとしてインパクトを持つ。 大企業が初任給を大幅に引き上げるのは、・・・それなりに大変なので、サイバーエージェントはいいポイントを突いたと思う。向こう2、3年くらいは有効な施策ではないだろうか」、「初任給を不当に安く抑える現在の慣行のばかばかしさへの批判にもなっている点で、社会貢献でもある」、同感である。 「「まともな企業」は、自分たちがどれだけ社員の能力開発に対して投資を行っているのかを、自分たちの流儀で徹底的に公開・宣伝して独自に競うといい。世間の「基準」など待つ必要はない。基準は競争を通じて自ずと出来上がるはずであって、誰かが旗振りをする必要はない」、その通りだ。 「社員に対して企業がどれだけ、どのような内容に投資するのか。これについては、半ばカルテルのように「一緒に」やらせるよりは、企業間で大いに競争させるといい」、「自社の中に競争力のある社員教育プログラムを持たないこと、社員に投資しないこと、社員への投資をアピールできないことは、経営者の無能力としか言いようがない」、その通りだ。 「日本の会社や社会は「まだ十分に資本主義化していない」、「「労働力の商品化」が、大企業層で不十分なのだ」、同感である。 「人材に関して「資本主義化」を進めることによって、企業側にももっと競争させることが必要なのではないだろうか」、「人材の競争的獲得に積極的に乗り出したサイバーエージェントの「初任給42万円」を歓迎したい。企業が進むべき方向に対して自覚的な同社は、求職者にとって、おそらくいい就職先であることだろう」、同感である。 東洋経済オンライン 鈴木 裕介 小室 淑恵 「「休めない日本人」いまだ生み出す抵抗勢力の正体 小室淑恵「現役時代の休み方が定年後を決める」」 「元々は、仕事をどこで終わりにするか線が引けないタイプ」、「授乳のために起きたタイミングでメールチェックしてしまい、気になったことを指摘する社内向けに書いた強い口調のメールを、お客様に誤送信してしまったんです!!。大反省しました。 そこから生活スタイルを大転換しました。夜9時半には子どもと一緒に寝て、翌朝5時半に起きる生活にしました。授乳が必要な時には夫と交代制にするなど、もちろん育児の工夫もいろいろと凝らした結果、それまで喧嘩が増え続けていた家族関係も改善に向かったんです。大きなターニングポイントでした 「マニュアル休暇」、「全員が2週間程度のまとまった休みを取る練習をするんです。まず休みが取れたら何をしたいかを全員で書き出してもらいます。育児や介護などの理由がなくても、独身者も全員でカレンダーに休む予定を入れます。そして休む期間の仕事の引き継ぎの問題が発生するので、その際に利用するマニュアルを作成していくんです。マニュアルは、仕事を引き継ぐ側が書くと、いざその仕事をやってみる際に機能するマニュアルが作れます。 マニュアル休暇の効果はいくつかあります。独身/既婚・子どもの有無等にかかわらずみんなが休みを取 「人間の脳が集中力を発揮できるのは、起床から13時間以内で、それ以降は酒気帯び運転と同程度の集中力しか保てません。 さらに怖いのは、アドレナリンやコルチゾールによって、起きてから24時間を超えると集中力が一時的に上がってしまう点です。 ここで一時的に仕事が進んだ感覚を経験すると、それが強い成功体験になってしまいます。実際には朝起きて13時間から24時間までの11時間は、著しく生産性が落ちているわけですから、トータルで見た時には企業にとっても本人にとっても大きなマイナスなのですが、最後の数時間の記憶が、長時 確かに「起きてから24時間を超えると集中力が一時的に上がってしまう」、「トータルで見た時には企業にとっても本人にとっても大きなマイナスなのですが、最後の数時間の記憶が、長時間労働を成功体験にしてしまい、休むことを軽視しがちです」、確かに「勤務間インターバル」は有力な歯止め策のようだ。 「もし休みが取れたらやりたいことが沢山ある!そんな思いが詰まった回答がたくさん出てきたんですね。 それを見た抵抗勢力だった人は驚かれていました。「休むよりも仕事をしたいと思っていたのは自分だけ?」とハッとしたと言います。 その方はみんなと一緒に成果を出したい、みんなの役に立ちたい気持ちが高い人でもありましたが、そこで初めて自分の考え方や行動が、みんなが休めない状況を作っていたことに気がついたんです。 悪気なく自分の考え方を強制していたことに最初はショックを受けていたようでした」、「抵抗勢力」は「みんなの役 「「心理的安全性」・・・を意識しするあまり上司が部下に何も言えなくなる場合が出てきて、かえってコミュニケーションの質が下がっているケースが少なくありません。「強者」と「弱者」は容易に入れ替わります。新しい仕組みやカルチャーを推進していくうえで、こうしたパワーの感覚への深い理解が欠かせないと思います』、「「強者」と「弱者」は容易に入れ替わります」、複雑な世の中になったものだ。 (注)「心理的安全性」:組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のこと。「チームの他のメンバーが自分の発言
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電子政府(その6)(デジタル人材必読 電子立国エストニアはこれだけすごい 安全保障によって鍛えられた歴史、役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛、役所に残る「メールよりFAX」信仰、時代錯誤な住民の行政批判もDXの壁に) [経済政策]

電子政府については、昨年11月1日に取上げた。今日は、(その6)(デジタル人材必読 電子立国エストニアはこれだけすごい 安全保障によって鍛えられた歴史、役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛、役所に残る「メールよりFAX」信仰、時代錯誤な住民の行政批判もDXの壁に)である。

先ずは、本年2月2日付けWedge Onlineが掲載した中曽根康弘世界平和研究所主任研究員の大澤 淳 氏による「デジタル人材必読 電子立国エストニアはこれだけすごい 安全保障によって鍛えられた歴史」を紹介しよう。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/25609
・『バルト三国の一番北に位置するエストニアは、森と湖が国土の大半を占める平坦な国である。人口約132万人、国土面積は約4万5000平方キロメートルで、例えるなら、関東地方と新潟県を合わせた広さの土地に、さいたま市と同じ人口が暮らしている。 1918年にロシアから独立したが、40年にソビエト連邦に占領・編入された苦難の歴史がある。89年の東欧の民主化の波をうけ、91年に独立を回復した。 エストニアの首都タリンは、写真のように中世ハンザ都市の面影を強く残していて、観光で訪れる日本人が持つ第一印象は恐らく、「おとぎ話の舞台のような北欧」というものであろう。世界遺産に登録されているタリンの旧市街を歩けば、ドイツ騎士団領時代に建設された丸い塔が特徴のヴィル門や、ロシア統治時代に建設されたタマネギ型のドームが印象的なアレクサンドル・ネフスキー大聖堂があり、大国に翻弄されてきたこの国の歴史を感じることができる』、「首都タリンは、写真のように中世ハンザ都市の面影を強く残していて、観光で訪れる日本人が持つ第一印象は恐らく、「おとぎ話の舞台のような北欧」というものであろう」、行ってみたくなる。
・『道路にパーキング・メーターがない理由  街の中を一見しただけでは、この小国エストニアが、世界最先端の「電子立国」であることを見逃してしまうだろう。だが、街路で目をこらして見ると、世界の大都市によくあるパーキング・メーターがないことに気がつく。 駐車スペースと思われる道端には、駐車区域コードと駐車料金が記載されたPのマークの看板が設置されている。看板には、「m-pakimine」すなわち「モバイル・パーキング」との表示がある。 駐車するドライバーは、スマホから位置情報アプリかショートメッセージサービス(SMS)で区域コードを送信して駐車登録を行い、出発する際に駐車登録を解除する。小銭を取り出して料金を支払う必要はなく、月末に携帯電話料金と共に利用者の銀行口座から引き落とされる。m-パーキングでは、利用者の本人確認、車両登録情報、位置情報、携帯電話情報、銀行口座情報のデータが、瞬時に行政機関や通信事業者のサーバー間で交換されている』、「モバイル・パーキング」は確かに合理的だ。
・『北欧の「電子立国」エストニア  エストニアは、「e-Estonia」を掲げ、世界で最先端の「電子立国」を実現している。電子サービスは、m-パーキング以外にも、e-タックス、e-スクール、e-チケット、i-投票、e-警察、e-司法、e-医療、e-処方箋、e-土地登記簿、e-ビジネス(企業登録)、e-バンキングなどほぼすべての公的サービスに広がっている。 例えば、申告の95%がオンラインで行われているe-タックスでは、納税者の1年間の収入・控除などが自動集計され、納税者はシステムにログインして、自分のデータを確認・修正して電子署名を承認するだけで、3〜5分で申告が終了する。その他、処方箋の98%、銀行取引の99.8%、駐車料金の90%がオンライン経由で行われており、行政サービスの99%はオンラインで提供され、24時間365日利用可能である』、「e-タックスでは、納税者の1年間の収入・控除などが自動集計され、納税者はシステムにログインして、自分のデータを確認・修正して電子署名を承認するだけで、3〜5分で申告が終了」、全て手入力させられる日本のとは段違いに便利だ。「処方箋の98%、銀行取引の99.8%、駐車料金の90%がオンライン経由で行われており、行政サービスの99%はオンラインで提供され、24時間365日利用可能」、さすが「電子立国」だけある。 
・『「電子立国」を支える2つの基盤技術  エストニアの「電子立国」を支える最も重要な基盤が、安全なeID(デジタル身分証)と安全が担保されたX-Road(データ交換基盤)である。エストニアのIDカードは、日本のマイナンバーカードと同様のもので、個人識別コード、eID(デンタル本人確認証明書、暗号化証明書、電子署名証明書)が格納されている。 2002年に導入されたeIDは、プラステック製のIDカード専用の読取り装置か携帯電話のSIM(モバイルIDを入れた特別なもの)経由でも利用が可能である』、なるほど。
・『普及のためなら高齢者に何度も説明  このIDカードの普及率はなんと驚きの98%である。筆者はエストニア政府の担当者に「普及の秘訣は何ですか。高齢の方にどうやって納得してもらったのですか?」と質問する機会があったが、「落伍者を一人も出さないという目標を掲げ、街頭での普及活動に加え、高齢者のご家族にも説明を手伝ってもらい、必要なら担当者が何度も森の中のお宅に出向いて説明した」との答えが返ってきた。 エストニアの「電子立国」は、とことん国民に寄り添い、国民生活を楽に、便利にすることに主眼が置かれている。カードの普及率を上げることが目的化し、2兆円近い税金を使ってポイントで釣る日本のやり方は、再考の余地がある。 「電子立国」のもう1つの基盤X-Roadは、規格化された分散型のデータ交換基盤で、01年に政府により導入された。データベースを統合して1つにすると効率的だが、天変地異やサイバー攻撃で破壊されてしまえば、すべてのデータが消失するリスクがある。そのため、データベースを分散し、データベース間を安全につなぐことにしたのである。 X-Roadはインターネット通信プロトコル(TCP/IP)ベースで、インターネットを介してデータを交換する。そのため、データベースとX-Roadの間にセキュリティサーバーを置き、交換されるデータを暗号化して通信を行っている。また、それぞれのデータベースへのアクセスには、正当なアクセスであるユーザー認証を認証局から得る必要があり、不正なアクセスや情報漏洩が起こらない仕組みを構築している。昨今セキュリティ業界では「ゼロトラスト(何も信用せずにセキュリティ対策を講ずる)」が流行だが、エストニアのX-Roadは、20年前からゼロトラストの思想で設計されている』、「IDカードの普及率はなんと驚きの98%」、「落伍者を一人も出さないという目標を掲げ、街頭での普及活動に加え、高齢者のご家族にも説明を手伝ってもらい、必要なら担当者が何度も森の中のお宅に出向いて説明した」、「2兆円近い税金を使ってポイントで釣る日本のやり方は、再考の余地がある」、その通りだ。
・『基盤を支える「暗号アルゴリズム」 「電子立国」の基盤であるeIDとX-Roadの安心・安全を担保しているのが、権限を持つ本人であるかどうかをデジタルで証明する技術(アナログ社会の日本ならハンコと印鑑と印鑑証明にあたる)と、漏洩や改ざんされずにデータをやりとりできる技術(封書と書留にあたる)となる。この2つの技術の土台となるのが、「暗号アルゴリズム」である。 「暗号アルゴリズム」は、情報の暗号化や復号を行うための手順や計算式を定めたルールのことで、忍者の「山」「川」といった合言葉や真珠湾攻撃の開戦を指示した暗号電報「ニイタカヤマノボレ」も事前に意味が合意されたルールであり、暗号アルゴリズムの一種である。例をあげて簡単に説明すれば、文字を2文字後ろにずらすルール(アルゴリズム)を使うと、「ABC」という通信は「CDE」となり、「DOG(犬)」という内容も「FQI」という全く意味不明の通信となり、アルゴリズムを知らない他人には通信内容がわからなくなる。 現在では、上記の例のようなルール(鍵)を共有する「共通鍵暗号」と、暗号化ルール(公開鍵)と複合化ルール(秘密鍵)をセットにした「公開鍵暗号」の両方が使われている。公開鍵暗号は、ルールを事前に共有しなくても暗号通信のやりとりができるため、ネット時代のデジタル社会を支える技術基盤になっており、エストニアでも公開鍵基盤が政府によって運営されている』、なるほど。
・『起源はソビエト支配時代の研究開発  人口132万人の小国エストニアが、最先端の「暗号アルゴリズム」を用いた「電子立国」を、どのようにして世界に先駆けて実現できたのか。その答えは、ソビエト支配時代の科学技術開発にさかのぼる。 もともと、エストニアの首都タリンには、1918年にタリン工科大学が設立され、電気工学などの学問が盛んであった。そのような人的基盤を元に、60年にサイバネティクス研究所が設立された。同研究所では、自動制御、プログラミング、アルゴリズム、ソフトウェア開発が行われ、70年代末には500人の研究者が在籍していた。 エストニアのコンピューター科学の父といわれるEnn Tõugu教授も、当時研究所の一員で、ソフトウェア工学を研究する研究室を78年に研究所内に開いている。このサイバネティクス研究所は、閉鎖的なソビエトの科学技術開発の中で、珍しく西側に交流の窓が開かれており、スウェーデンやフィンランドの研究者との交流を通じて、エストニアが最先端のコンピューター科学の技術力を保持する母体となった。このサイバネティクス研究所からは、暗号アルゴリズムを専門とするCybernetica社が民間企業として97年に独立し、政府と一体となってエストニアのX-Roadや認証技術の開発を担っている』、「サイバネティクス研究所は、閉鎖的なソビエトの科学技術開発の中で、珍しく西側に交流の窓が開かれており、スウェーデンやフィンランドの研究者との交流を通じて、エストニアが最先端のコンピューター科学の技術力を保持する母体となった。このサイバネティクス研究所からは、暗号アルゴリズムを専門とするCybernetica社が民間企業として97年に独立し、政府と一体となってエストニアのX-Roadや認証技術の開発を担っている」、「サイバネティクス研究所」が「珍しく西側に交流の窓が開かれて」いたのはラッキーだった。
・『安全保障が鍛える「電子立国」の技術  このエストニアの「電子立国」の基盤技術は、その後厳しい安全保障環境の中で鍛えられていくこととなる。30カ国が加盟する北大西洋条約機構(NATO)の中でも、国境を直にロシアと接しているのは、エストニアも含めわずか5カ国にすぎず、その中でもエストニア−ロシア国境が294キロと最も長い。エストニアはNATOの最前線に位置するが、それはサイバー空間でも同じである。 2007年4月、エストニア政府、議会、金融機関、メディアなどがDDoS(分散型サービス拒否)を用いた機能妨害型のサイバー攻撃に襲われ、市民生活に大きな影響が生じた。一国を標的とした世界初めての大規模なサイバー攻撃で、世界に衝撃が走った。 エストニア政府はこのサイバー攻撃の教訓から、X-Roadで交換される重要なデータについて、「データの完全性(データが改ざんされていないこと)」をブロックチェーン技術で担保する技術開発を、翌08年に着手した。現在、この技術が、医療、土地登記、企業登記、政府公告などで使われている』、「「データの完全性」をブロックチェーン技術で担保する技術が、「医療、土地登記、企業登記、政府公告などで使われている」、「大規模なサイバー攻撃」の経験が生かされたようだ。
・『領土が侵略されてもデータは守る  14年には、ロシアがウクライナを侵攻し、クリミア半島を奪取した。クリミア紛争では、サイバー戦と軍事侵攻が同時に行われ、「ハイブリッド戦」が注目されるようになった。これを受け、エストニア政府は、「電子立国」の究極の安全保障政策として、Data Embassy(データ大使館)構想を15年から実行に移している。 先に述べたように、エストニアは歴史的に何度も大国の侵略に遭い、国土を蹂躙された経験を有している。そのため万が一、「物理的に領土が侵略されても、国民とその財産である国民のデータを守る覚悟」をもって、Data Embassy構想を進めている。 Data Embassyは、国外の第三国との間で、外交使節に関するウィーン条約第22条(使節団の公館は不可侵)の覚え書きを交換し、当該国に設置するサーバーにも公館不可侵の原則を適用してもらい、エストニア政府が保管する国民のデータのバックアップを、当該国のサーバー(Data Embassy)に保存するという構想である。 17年にルクセンブルグとの間で覚書が調印され、最初のData Embassyがルクセンブルク国内のデータセンターに設置された。その他にも、場所は明らかにされていないが、複数の国で同様のData Embassyが設置されている』、「「電子立国」の究極の安全保障政策として、Data Embassy(データ大使館)構想を15年から実行に移している」、面白い試みだ。
・『持つべき安全保障への覚悟  筆者がエストニアを訪問した際に、この構想についての「覚悟」を説明してくれたエストニア政府高官は、「攻めてくるのは隣の大きな熊(ロシア)ですよね?」という私の質問に対して、「明日にも宇宙人がやってくるかもしれないでしょ」といたずらっぽい目をして答えてくれた。 「どんなことがあっても、サイバー空間で国家を存続させる」と語る彼の口調からは、エストニアが置かれた安全保障環境の厳しさと、それに立ち向かって、国民の生命と財産を技術で守り抜くという真剣な覚悟が痛いほど伝わってきた。「電子立国」を成り立たせるために、そういった安全保障の覚悟があることをわれわれ日本人は真摯に受け止める必要がある。 『Wedge』2021年12月号で「日常から国家まで 今日はあなたが狙われる」を特集しております。 いまやすべての人間と国家が、サイバー攻撃の対象となっている。国境のないネット空間で、日々ハッカーたちが蠢き、さまざまな手で忍び寄る。その背後には誰がいるのか。彼らの狙いは何か。その影響はどこまで拡がるのか─。われわれが日々使うデバイスから、企業の情報・技術管理、そして国家の安全保障へ。すべてが繋がる便利な時代に、国を揺るがす脅威もまた、すべてに繋がっている。 特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます』、「どんなことがあっても、サイバー空間で国家を存続させる」、との「エストニア政府高官の「覚悟」が貫徹されることを願っている。

次に、5月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの酒井真弓氏による「役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/302583
・『日本の役所には「自分たちは間違えてはいけない、間違わないために前例を踏襲する」という考えが浸透している。実際には日々テクノロジーの進化によって、より良いモノや手法が生まれているのに、「間違ったことをしてはいけない」という概念にとらわれすぎて、前例踏襲主義から抜け出せない。そんな行政を変える動きが、少しずつだが生まれている』、興味深そうだ。
・『牧島かれんデジタル大臣が語った「無謬性神話からの脱却とアジャイル」とは  「無謬(むびゅう)性神話からの脱却」 牧島かれんデジタル大臣は、柔軟に政策の見直し・改善を行っていく「アジャイル型政策形成・評価の在り方に関するワーキンググループ」の立ち上げに際し、そう語った。 無謬とは、理論や判断に間違いがないこと。日本の政府や官僚組織には無意識のうちにこの無謬性神話にとりつかれている人が多い。自分たちは間違えてはいけない、間違わないために前例をきちんと守る……。 一方、アジャイルとは、「仕様や設計には変更がある」ということを前提に、最初から厳格な仕様を決めず、より良い姿を目指して臨機応変に形を変えていく開発スタイルだ。初めに仕様を決め、決められた工程を順に進めていくウォーターフォール型と比較して、市場環境やニーズの変化に柔軟に対応できるとして、取り入れる企業も増えている。 行政で働く人たちにも「本当はこうしたい」という思いがある。しかし、「間違ったことをしてはいけない」という概念にとらわれすぎて、前例踏襲主義から抜け出せない。リスクを取って変えたところで、失敗したら評価が下がる。時には建設的とは言えない批判に日常業務が圧迫されることもある。重要な決断が先延ばしにされ、新型コロナのような緊急事態での対応を遅らせる元凶は、無謬性を追い求めるがゆえの硬直した考え方にある。 時代の流れは速く、複雑性も増している。まずはスピード感を持って政策を投入し、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング:証拠に基づく政策立案)に則って早い段階で見直し、改善を重ねていくこともできるのではないか。 無謬性神話から脱却して、アジャイルで政策を形成し、評価するというのは非常に難しい。しかし牧島さんは、「コロナ禍でアジャイルのモデルケースができた」と語る。ワクチン接種記録システム(VRS)によって接種状況が可視化され、実際の数字と現場の声を掛け合わせ、柔軟に改善を図ることができたという。こうした動きは、霞が関のみならず、企業のDXにも一石を投じるもののように思う』、「「コロナ禍でアジャイルのモデルケースができた」と語る。ワクチン接種記録システム(VRS)によって接種状況が可視化され、実際の数字と現場の声を掛け合わせ、柔軟に改善を図ることができたという」、どこが「アジャイルのモデルケース」なんだろうか、説明不足も甚だしい。
・『ある地方自治体の行政パーソンの胸の内  牧島さんの話に深く共感する人がいた。 民間企業から、ある地方自治体のIT担当者に転身したAさんは、一歩引いた目線で「間違いがないことは、行政パーソンが一番大事にしていること。理念に近い」と語る。一方で、IT担当者として何かを変えようとすると、その無謬性が足かせになることがあるという。Aさんは「中の人」になって初めて、行政パーソンが抱える苦しさを知ったという。 まず、着任して早々、Aさんは驚いた。仕事で使うパソコンから、直接インターネットに接続できなかったのだ』、「インターネット接続」できる「パソコン」を限定するのは、「地方自治体」だけでなく、民間でも銀行や証券会社で採用されたやり方だ。
・『自治体がインターネットにつながらなくなった理由  これは、2016年に始まった「三層の対策」(三層分離)に起因する。三層の対策とは、2015年、日本年金機構が不正アクセスを受け、個人情報の一部が流出した事件を機に、総務省の要請によって進められたセキュリティ強化策だ。自治体のネットワークを、通常業務で使用するLGWAN(総合行政ネットワーク)接続系、マイナンバーに関わる業務を行うための個人番号利用事務系、インターネット接続系の3つに分離し、セキュリティを高めるといったアプローチだ。 狙い通り、インシデント数は大幅に減少した。しかし、全国約1700の自治体のほとんどが、業務端末から直接インターネットに接続できなくなり、業務効率の低下につながってしまった。 2016年といえば、世間では若年層のスマホ保有率が8割を超え、クラウドも当たり前の時代にシフトしていた。そんな中、自治体はインターネットからある意味切り離され、情報収集したくても、手間がかかるようになってしまったのだ。 三層の対策は、2020年に総務省が見直しを表明したものの、各自治体に深く影響が残っている。今は、世界中で何十億人が使うアプリと、行政のアプリのUI/UXが同じ土俵で比べられてしまう時代だ。行政パーソンもそれをひしひしと感じている。しかし、多くの自治体は、直接インターネットに接続できないがゆえ、クラウドサービスの利用に制約がかかっている状態。UI/UX(注)を改善する以前に、自分たちが優れたサービスを使って、「今どきのワークスタイルとはこういうものだ」と実感するのも難しいのが実情なのだ。 Aさんは、「インターネット接続の課題が改善されない限り、自治体のDXは進まない」と語る。いくら民間から新しい風を入れ、改善に動いても、技術的な制約によって早々に足止めをくらってしまう。これは、どの自治体にも共通する課題だ。それに、「インターネット」を他に置き換えれば、多くの企業で同じような現象が起きているのではないだろうか』、「三層の対策は、2020年に総務省が見直しを表明したものの、各自治体に深く影響が残っている」、困ったことだ。
(注)UI/UX:ユーザーインターフェイス(UI)とは、ユーザーとの間に現れるサービスやプロダクトの外観。ユーザーエクスペリエンス(UX)とは、ユーザーがプロダクトやサービスを通して得られた体験。
・『ミスをすることが、なぜこんなにも重いのか  AさんがIT担当者として初めに着手したのは、メールの誤送信対策として続けてきたPPAP(パスワード付き圧縮ファイル)と送信遅延の廃止だった。 次にAさんは、Bcc強制変換を廃止しようとした。Bcc強制変換とは、宛先に大量の外部宛てメールアドレスを指定した場合、強制的に「Bcc」(ブラインドカーボンコピー。複数の利用者宛にメールを同時送信する際、受取人以外の送信先メールアドレスを伏せること)に自動変換する機能のことだ。誤送信や個人情報漏えいを防ぐために導入している自治体は多いのだが、受信側は、返信の際に一つ一つメールアドレスを入れ直す必要があり、かなりの手間がかかっていた。 Aさんは、Bcc強制変換の廃止も受け入れられるだろうと思っていた。しかし、役所内からは「個人情報の保護を優先すべきだ」という声が上がった。自分たちの利便性向上よりも、セキュリティや個人情報保護を優先する背景には、「ミスによって市民からの信頼を失ってはならない」という責任感が垣間見えた。改革には、そこで働く人たちが大切にしてきたことへの共感やリスペクトが必要だ。Aさんにとってはこれが、行政パーソンが何を大事に業務に取り組んできたかを最初に実感した出来事だったという。 「民間企業として自治体と仕事をしてきたので、自治体の働き方、考え方についてそこそこ理解しているつもりでした。しかし、この一年で、何も分かっていなかったということがよく分かりました。本当のところは、中に入ってみないと分からないものですね」(Aさん)) 無謬性にとらわれているのは行政だけではない。Aさんは今、一部の業務がスマホでもできるよう準備を進めているのだが、業務時間中にスマホを見ていると、市民から「仕事中にスマホを触るとは何事だ」と電話が入ったという。 適切な時代認識を持たない一部の市民やメディアが本質からずれた批判をすることで、行政はさらに息苦しくなっていく。自分たちは間違えてはいけない。それが根底にあるからこそ真に受けて、変わることをやめてしまう』、「市民から「仕事中にスマホを触るとは何事だ」と電話が入った」、管理職からそんなクレームは無視してよい旨を伝えておけば済む話だ。
・『役所の変革こそ一筋縄ではいかない  行政を取材すると、「役所の変革こそ一筋縄ではいかない」という声を聞く。何かを変えようとすれば、受け継いだ政策をまずは「是」とするのが役人のイロハだと、役人としての資質を問われることになる。 冒頭の答弁で、牧島かれんデジタル大臣は、「企業の常識が霞が関の常識になっていない」と指摘した。「まずはデジタル庁が無謬性にとらわれず、新たなショーケースとなり、他の省庁にも展開しやすくしていきたい」という。 適切な時代認識とともに、世の中の当たり前を霞が関の当たり前に。そして、自治体の当たり前に。今がその分水嶺だ』、「世の中の当たり前を霞が関の当たり前に。そして、自治体の当たり前に」、困難を乗り越えて、頑張ってほしいものだ。

第三に、5月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの酒井真弓氏による「役所に残る「メールよりFAX」信仰、時代錯誤な住民の行政批判もDXの壁に」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/302975
・『日本のDXが進まないと言われて久しいが、一般企業以上に進んでいないのが行政のDXだ。行政のDXを妨げる要因はどこにあるのか。「役所は遅れている」と批判する前に、自治体を取り巻く閉塞感の正体と、私たち住民ができることを考えてみたい』、興味深そうだ。
・『90年代のパソコン環境のままで、時が止まっている  前回、『役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛』では、実例を踏まえ、行政のDXを妨げる要因に触れた。まずは、なぜ多くの自治体が、いまだに電話やFAX、紙をベースに業務を進めているのか考えてみたい。 1995年、Windows 95によってパソコン画面に色や絵が表示されるようになり、1996年にはInternet ExplorerやOutlook Expressが登場し、今に続くコミュニケーションの基礎ができあがった。自治体のIT環境やベースとなる考え方は、ほとんどこの時点で止まっている。この時期に決められたルール、導入した機器やソフトウエアが脈々と受け継がれているのだ。 市や町では、パソコンが1人1台支給されていないケースもある。支給されていたとしても、すぐにフリーズしてしまうような古いパソコンを大切に使い続けていたりする。ウェブ会議用のカメラが付いていないことも多く、ウェブ会議ツールのライセンスが部署ごとにしか発行されていなかったりもする。自治体とのウェブ会議では一つの画面に何人か収まっていることがあるのだが、そういう理由かもしれない。 加えて、前回も紹介したインターネット接続の課題だ。2016年に総務省の要請で始まったセキュリティー強化策「三層の対策」により、全国約1700ほとんどの自治体が、業務で使うパソコンから直接インターネットに接続できなくなった。一般企業では考えられないことだが、行政のDXを考える上では念頭に置くべき制約だ。 三層の対策は、2020年に総務省から見直しが表明されているものの、現場では尾を引いている。過度なセキュリティー対策に加え、「インターネットは危険なもの」という認識から迷信も根強く残る。一部の自治体で「メールよりFAXのほうが安全」と言われるのもその一つだ』、「1995年、Windows 95」、「1996年にはInternet ExplorerやOutlook Expressが登場し、今に続くコミュニケーションの基礎ができあがった。自治体のIT環境やベースとなる考え方は、ほとんどこの時点で止まっている。この時期に決められたルール、導入した機器やソフトウエアが脈々と受け継がれているのだ」、驚くべきことだ。
・『自治体のDXを妨げる4つの要因  一方で、自治体で働く人の多くが、私生活ではデジタルに慣れ親しんでいる。ギャップを知っているからこそ、庁内のパソコンを積極的に使おうとは思わない。すぐにフリーズするから最低限の機能を残して停止するし、会議は紙の資料で進んでいく。税金を使っている以上は最低限のスペックでというが、最低限のスペックとは時代とともに変化するものだ。民間企業の「普通」を享受することは、決してぜいたくではない。 自治体のDXを妨げる要因をかなり抽象化すると、大きく以下の4つに分けられそうだ。 (1)前時代的なIT環境(予算や政策との兼ね合いもある) (2)失敗を恐れる文化(4の原因となる場合もある) (3)年功序列・終身雇用(長い下積みや人材流動性の低さ) (4)意思決定と事業推進の遅さ(3による中間管理職層の厚さもその理由) これらは互いに影響し合っている。いくら(2)(3)(4)の改善に動いても、インターネット接続の課題を解決しない限り、技術的制約によって足止めをくらってしまう。民間から優秀なIT人材を採用しても、実力を発揮する以前の問題で去っていくということが起こり得るのだ』、「インターネット接続の課題を解決」するのが先決のようだ。
・『安易な行政批判やクレームがもたらすもの  既存のやり方を否定することが改善につながるかというと、そうではない。「間違ったことをして信頼を失ってはいけない」というコンテクストに背を向けて、失敗を恐れる文化を頭ごなしに批判したり、アジャイルを訴えたりしても、平行線をたどるのは目に見えている。 また、前回の記事では、Aさんが、スマホでも一部の業務が進められるよう準備を始めたところ、市民から「仕事中にスマホを触るとは何事だ」とクレームが入ったというエピソードを紹介した。 行政のDXが進まない原因は、適切な時代認識を持たない一部の住民やメディアにもある。民間企業なら無視できることも、行政では難しい。自己流の正義を振りかざす人たちは、自分たちの声で進化が止まってしまう可能性を考えたことがあるだろうか。どうか仕事の邪魔をしないであげてほしい。 実は地方公共団体の職員数は、1994年をピークに大幅に削減されている。これには地方財政の健全化、定員や給与の適正化、民間委託の推進などが関係しているが、今後は、なり手の減少によって行政サービスの維持すら厳しくなる自治体も出てくるだろう。業務効率化は急務だ。 事実、多くの自治体が人材確保に苦労している。「なりたい職業ランキング」では常に上位、人気の職業という印象の公務員だが、近年、定員割れや内定辞退が相次いでいる。北海道庁では、2017年から2年連続で内定辞退率が6割を超えて話題となった。コロナ禍で志願者は微増しているものの、一時的である可能性は高い。 さらに定着率を高めるには、働く人たちの満足度を高める必要がある。昨今、一部の民間企業では、従業員満足度の向上が生産性を高めるとして、EX(Employee Experience)の改善に取り組んでいる。行政には、地域や住民に貢献したいと志して入った人が多いだろう。だが、人を幸せにする前に、役所で働く人たち自身が幸せであってほしい。ただの「やりがい搾取」ではなく、働く環境や評価、待遇など、後回しにしてきた多くのことを見直す時期にさしかかっているのだ』、「さらに定着率を高めるには、働く人たちの満足度を高める必要がある」、「働く環境や評価、待遇など、後回しにしてきた多くのことを見直す時期にさしかかっている」、同感である。
・『役所から見て、住民は「顧客」なのか?  行政で働く人は、住民を「顧客」と表現することがある。これは、行政サービスをより良くするために必要な心がけかもしれない。だが、筆者はスマートシティーを取材して「それって本当はちょっと違うのかも」と思った。 スマートシティーを推進する静岡県浜松市は、「アジャイル型の街づくり」を掲げ、トライ&エラーを繰り返すことで変化に強い街づくりを進めている。担当者は、「まずはベータ版でPoC(概念実証)を回し、市民の皆さんの反応を見て改善していきたい」と語ってくれた。 はっとした。スマートシティーとはコミュニティーであって、住民がサービスを享受するだけのお客様では成立しないのだ。自治体も同じだ。私たち住民の理解と協力なしに、行政のDXは成し遂げられない』、「スマートシティーとはコミュニティーであって、住民がサービスを享受するだけのお客様では成立しないのだ。自治体も同じだ。私たち住民の理解と協力なしに、行政のDXは成し遂げられない」、その通りだ。
・『必要なのは住民と自治体の共創、自治体自身がもっと発信すべき  国内でも、住民と自治体の共創が少しずつ始まっている。代表的なのが、市民が協力して主体的に行政サービスの課題を解決していく「Civic Tech」だ。 行政側では、経済産業省の「PoliPoli Gov」や、デジタル庁の「アイデアボックス」、香川県高松市の「たかまつアイデアFACTORY」など、住民の声を可視化する取り組みが始まっている。重要なのは、意見募集にとどまらず、改善に向けた対応、結果や展望も含め、行政側の活動も可視化されることだ。こうした動きが見えないと、住民が主体性を保ち続けるのは難しい。 何より自治体は、自分たちを取り巻く課題を自ら発信してほしい。本当の共創は、住民が課題を知るところから始まる。批判を恐れて言えないとか、「自治体ってこういうものだから」と諦めてしまっている部分もあると思う。それでも、自治体は何に苦しみ、本当はどうしたいのか教えてほしい。そうでなければ、味方になってくれる人を振り向かせることすらできないのだから』、「自治体は何に苦しみ、本当はどうしたいのか教えてほしい。そうでなければ、味方になってくれる人を振り向かせることすらできないのだから」、同感である。
タグ:(その6)(デジタル人材必読 電子立国エストニアはこれだけすごい 安全保障によって鍛えられた歴史、役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛、役所に残る「メールよりFAX」信仰、時代錯誤な住民の行政批判もDXの壁に) 電子政府 Wedge Online 大澤 淳 氏による「デジタル人材必読 電子立国エストニアはこれだけすごい 安全保障によって鍛えられた歴史」 「首都タリンは、写真のように中世ハンザ都市の面影を強く残していて、観光で訪れる日本人が持つ第一印象は恐らく、「おとぎ話の舞台のような北欧」というものであろう」、その通りだ。 「首都タリンは、写真のように中世ハンザ都市の面影を強く残していて、観光で訪れる日本人が持つ第一印象は恐らく、「おとぎ話の舞台のような北欧」というものであろう」、行ってみたくなる。 「モバイル・パーキング」は確かに合理的だ。 「e-タックスでは、納税者の1年間の収入・控除などが自動集計され、納税者はシステムにログインして、自分のデータを確認・修正して電子署名を承認するだけで、3〜5分で申告が終了」、全て手入力させられる日本のとは段違いに便利だ。「処方箋の98%、銀行取引の99.8%、駐車料金の90%がオンライン経由で行われており、行政サービスの99%はオンラインで提供され、24時間365日利用可能」、さすが「電子立国」だけある。 「IDカードの普及率はなんと驚きの98%」、「落伍者を一人も出さないという目標を掲げ、街頭での普及活動に加え、高齢者のご家族にも説明を手伝ってもらい、必要なら担当者が何度も森の中のお宅に出向いて説明した」、「2兆円近い税金を使ってポイントで釣る日本のやり方は、再考の余地がある」、その通りだ。 「サイバネティクス研究所は、閉鎖的なソビエトの科学技術開発の中で、珍しく西側に交流の窓が開かれており、スウェーデンやフィンランドの研究者との交流を通じて、エストニアが最先端のコンピューター科学の技術力を保持する母体となった。このサイバネティクス研究所からは、暗号アルゴリズムを専門とするCybernetica社が民間企業として97年に独立し、政府と一体となってエストニアのX-Roadや認証技術の開発を担っている」、「サイバネティクス研究所」が「珍しく西側に交流の窓が開かれて」いたのはラッキーだった。 「「データの完全性」をブロックチェーン技術で担保する技術が、「医療、土地登記、企業登記、政府公告などで使われている」、「大規模なサイバー攻撃」の経験が生かされたようだ。 「「電子立国」の究極の安全保障政策として、Data Embassy(データ大使館)構想を15年から実行に移している」、面白い試みだ。 「どんなことがあっても、サイバー空間で国家を存続させる」、との「エストニア政府高官の「覚悟」が貫徹されることを願っている。 ダイヤモンド・オンライン 酒井真弓氏による「役所のDXはなぜ難しい?行政にはびこる「絶対間違えられない」の呪縛」 「「コロナ禍でアジャイルのモデルケースができた」と語る。ワクチン接種記録システム(VRS)によって接種状況が可視化され、実際の数字と現場の声を掛け合わせ、柔軟に改善を図ることができたという」、どこが「アジャイルのモデルケース」なんだろうか、説明不足も甚だしい。 「インターネット接続」できる「パソコン」を限定するのは、「地方自治体」だけでなく、民間でも銀行や証券会社で採用されたやり方だ。 「三層の対策」(三層分離) 「三層の対策は、2020年に総務省が見直しを表明したものの、各自治体に深く影響が残っている」、困ったことだ。 (注)UI/UX:ユーザーインターフェイス(UI)とは、ユーザーとの間に現れるサービスやプロダクトの外観。ユーザーエクスペリエンス(UX)とは、ユーザーがプロダクトやサービスを通して得られた体験。 「市民から「仕事中にスマホを触るとは何事だ」と電話が入った」、管理職からそんなクレームは無視してよい旨を伝えておけば済む話だ。 「世の中の当たり前を霞が関の当たり前に。そして、自治体の当たり前に」、困難を乗り越えて、頑張ってほしいものだ。 酒井真弓氏による「役所に残る「メールよりFAX」信仰、時代錯誤な住民の行政批判もDXの壁に」 「1995年、Windows 95」、「1996年にはInternet ExplorerやOutlook Expressが登場し、今に続くコミュニケーションの基礎ができあがった。自治体のIT環境やベースとなる考え方は、ほとんどこの時点で止まっている。この時期に決められたルール、導入した機器やソフトウエアが脈々と受け継がれているのだ」、驚くべきことだ。 「インターネット接続の課題を解決」するのが先決のようだ。 「さらに定着率を高めるには、働く人たちの満足度を高める必要がある」、「働く環境や評価、待遇など、後回しにしてきた多くのことを見直す時期にさしかかっている」、同感である。 「スマートシティーとはコミュニティーであって、住民がサービスを享受するだけのお客様では成立しないのだ。自治体も同じだ。私たち住民の理解と協力なしに、行政のDXは成し遂げられない」、その通りだ。 「自治体は何に苦しみ、本当はどうしたいのか教えてほしい。そうでなければ、味方になってくれる人を振り向かせることすらできないのだから」、同感である。
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異次元緩和政策(その42)(【翁邦雄・元日銀金融研究所所長に聞く】インフレはそれ以上に賃上げ率を高める という幻想 国民の求める「物価安定」とは何かを考え直す、次元緩和を問う⑥ 財政政策に入り込む中央銀行=翁百合、金利抑制を巡る日本銀行と海外ファンドの死闘 制するのはどちらか 過去には先進国の中央銀行が敗退も、円安に国民が苦しんでるのに それでも日銀が「金利を引き上げられない」4つの理由) [経済政策]

異次元緩和政策については、4月26日に取上げた。今日は、(その42)(【翁邦雄・元日銀金融研究所所長に聞く】インフレはそれ以上に賃上げ率を高める という幻想 国民の求める「物価安定」とは何かを考え直す、次元緩和を問う⑥ 財政政策に入り込む中央銀行=翁百合、金利抑制を巡る日本銀行と海外ファンドの死闘 制するのはどちらか 過去には先進国の中央銀行が敗退も、円安に国民が苦しんでるのに それでも日銀が「金利を引き上げられない」4つの理由)である。

先ずは、6月22日付けダイヤモンド・オンライン「【翁邦雄・元日銀金融研究所所長に聞く】インフレはそれ以上に賃上げ率を高める、という幻想。国民の求める「物価安定」とは何かを考え直す」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305144
・『黒田日銀総裁が2013年に就任した際「グローバル・スタンダード」と強調していた2%のインフレ目標。ようやくそれに達しようとしている今、国民の強い反発にさらされている。いま、国民の求めている「物価安定」とはなにかをもう一度考える必要がある』、「翁邦雄」氏の理論的見方とは興味深そうだ。
・『「家計は値上げ許容」発言への強い反発  2022年6月6日、黒田東彦・日本銀行総裁は、講演で「家計が値上げを受け入れている」と述べた。 この黒田総裁の発言に対しては、Twitterでは「#値上げ受け入れていません」というハッシュタグがトレンド入りして大きな話題になるなど、世間から強い反発があり、黒田総裁は発言撤回に追い込まれた。 6月15日、岸田文雄総理は国会閉幕後に記者会見し、物価高や景気対策のため「物価・賃金・生活総合対策本部」を設置すると明らかにし、みずからが本部長に就く、とした。物価高騰については、「最大限の警戒感を持って対応する」と述べ、「迅速かつ総合的な対応策を検討し、断固として国民生活を守り抜く」とした。 黒田総裁は2013年の就任記者会見で「2%の物価目標をできるだけ早期に実現するということが、日本銀行にとって最大の使命」とし、そのために採用したのが異次元緩和だった。また、2%のインフレ目標は「グローバル・スタンダード」であることも強調し続けている。 それから9年経って、ようやくインフレ率が2%に達したときに、政府が物価高騰対策に奔走し、物価高が参議院選挙の争点になっている状況をどう整理したらよいのだろうか。日本の物価安定目標のどこに齟齬があるのか。それを考えるうえでは、国民の求めている「物価安定」とはなにかをもう一度考える必要がある』、「国民の求めている「物価安定」とはなにかをもう一度考える必要がある」、その通りだ。
・『「物価安定」とはインフレを気にしなくて済むこと  黒田総裁が「グローバル・スタンダード」としてしばしば主張するように、現在、多くの国で2%程度の消費者物価上昇率を物価安定目標としている。この指標は、経済を定量的に捉えたい経済学者や、日々モニターで物価指数の動向をフォローしているようなエコノミストには、わかりやすく受け入れやすい、というメリットもある。 しかし、一般国民にとっては必ずしもそうではない。 普通の人々が日々、消費者物価指数の定義に沿って物価上昇率を計算したり、その上昇率を予想したりして暮らしているはずはないからだ。一般国民にとっての物価安定は、FRB議長時代のアラン・グリーンスパンが定義したようにむしろ物価上昇を気にかけなくてよい状況だろう(グリーンスパンは物価安定を「人々が、経済的な意思決定における一般物価の予想される変化を考慮しなくなったときに得られる」と定義した)。 こうした物価安定の考え方は、数値的な定義よりも日常的である。多くの人が健康だと感じるのは、痛みや食欲、睡眠などの異常がなく、健康を意識しなくてよい状態であり、血圧や体温など特定のバイタル・データに集約するのは難しい。金融についても金融システムの安定は、人々が銀行の経営に無関心でいられる状態であり、必ずしも一定以上の銀行の自己資本比率によって得られるものではない』、「一般国民にとっての物価安定は、FRB議長時代のアラン・グリーンスパンが定義したようにむしろ物価上昇を気にかけなくてよい状況だろう」、さすが説得力がある。
・『家計の収入が高く伸びれば2%程度のインフレは気にならない  どのような状況なら、人々は2%のインフレを気にかけないのだろうか。 もし、賃金が毎年数%ベアで上がっており、退職世代の年金についても物価スライドにより実質価値が保証され、十分に金利が高く金利収入が確保できたりしていれば、家計は2%程度の物価上昇をあまり気にしないだろう。 しかし、日本のように家計を支える収入がじりじり下がる世界では、物価が1%上がるような状態にも強い抵抗感を持ちがちになることが予想される。四半世紀を超えてゼロインフレが続いてきた日本では、それが社会規範になっている、との見解も見られるが、その背景には、こうした構造があるだろう』、「もし、賃金が毎年数%ベアで上がっており、退職世代の年金についても物価スライドにより実質価値が保証され、十分に金利が高く金利収入が確保できたりしていれば、家計は2%程度の物価上昇をあまり気にしないだろう。 しかし、日本のように家計を支える収入がじりじり下がる世界では、物価が1%上がるような状態にも強い抵抗感を持ちがちになることが予想される」、その通りだ。
・『「インフレはそれ以上に賃上げ率を高める」という幻想  これらのことを踏まえて、異次元緩和の出発時点の状況を振り返ってみよう。異次元緩和が始まったのは2013年4月である。その約1ヵ月後の5月7日、内閣府が出した経済財政諮問会議提出資料はこの点で興味深い。 この資料では、「海外をみると、物価安定目標を設定するなどして、2%程度の物価安定に向けて取り組んでいる国々では、名目賃金上昇率が物価上昇率と同水準、あるいはそれを上回る傾向にある」とされている。 そして、2000年以降のいくつかの国の具体的数字(米国では名目賃金上昇率は3.3%で消費者物価上昇率は2.5%、英国では名目賃金上昇率は3.3%で消費者物価上昇率は2.2%等)を挙げている。これらの国では、賃金上昇率が物価上昇率を上回っていた。しかし日本については、この期間、これらの国に比べ物価上昇率が相対的に低いだけでなく、名目賃金が消費者物価下落率(マイナス0.3%)をかなり上回って下落していた(マイナス0.8%)、という点で他国と大きく状況が異なっていたことが分かる。 内閣府資料は当時、政府が、日本が2%の物価安定目標を達成すれば、なんらかの理由で2%以上に賃金率が上がり他の主要先進国と同じ好循環が起きる、という期待を寄せていたことがうかがえる。 ただし、その根拠は金融政策には内在しない。そもそも、先行してインフレ率を上げれば、それ以上に賃金上昇率が高まるというシナリオは、現実には大きな弱点を抱える。インフレ率が賃金上昇率を上回る状況では実質所得が目減りするから家計の生活防衛意識が高まり、需要の6割を占める個人消費が減少して経済全体が失速しかねないからだ。 ちなみに、黒田総裁も、異次元緩和導入の約1年後の2014年3月の講演で賃金について触れている。そこでは、内閣府資料ほど楽観的な期待を示していたわけではない。しかし、賃金が上昇せずに、物価だけが上昇するということは、普通には起こらない、物価の上昇に伴って、労働者の取り分である労働分配率が下がり続けることになってしまうからであり、こうしたことは、一時的にはともかく、たぶん長く続くとは考えられない、と述べている。つまり、物価上昇を許容していればいつかは賃金上昇が追いかけはじめるだろう、という前提で、異次元緩和への理解を訴えていたことになる。 しかし、賃金・実質所得が上がらない状況では人々は値上げに対し寛容になることはなく、生活防衛的に反応し続けた。ゼロインフレは社会規範として定着し、日銀の「物価安定への取り組み」への認知度はじりじり下がり続けた』、「米国」や「英国」では「賃金上昇率が物価上昇率を上回っていた」が、「日本では」「物価上昇率が相対的に低いだけでなく、名目賃金が消費者物価下落率(マイナス0.3%)をかなり上回って下落していた(マイナス0.8%)、という点で他国と大きく状況が異なっていた」、「賃金・実質所得が上がらない状況では人々は値上げに対し寛容になることはなく、生活防衛的に反応し続けた。ゼロインフレは社会規範として定着し、日銀の「物価安定への取り組み」への認知度はじりじり下がり続けた」、米英と環境が大きく異なっていたようだ。
・『家計への共感の欠落がもたらす政策への逆風  日銀が家計や中小企業の懸念に敏感でないのは、マクロの視点に立ち、日本全体があたかも「一人の経済主体」であるように擬制したロジックで経済を捉えていることも一因だろう。 このことは、現在、大きな懸念を持たれ始めている円安による輸入物価の上昇の影響についての黒田総裁の説明にも表れている。 黒田総裁は6月6日の「きさらぎ会」の講演で「わが国の交易条件悪化の主因は、あくまでもドル建ての資源価格の上昇であって、為替円安ではありません。ドル建ての資源価格の上昇は、輸入物価だけを上昇させますが、為替円安は、輸出物価と輸入物価をともに押し上げるため、交易条件に対し概ねニュートラルです」と述べている。 しかし、輸出物価上昇の恩恵を受けるのは輸出企業であり、輸入物価上昇によって生活を直撃されるのは家計等である。あたかも同じ一人の主体が右手で恩恵を受け、左手で損失を被り、差し引きの影響がほぼゼロ、というようなロジックは、一方的に負担増に直面している家計の円安への懸念に対しては説得力を持たない。こうした家計への共感の欠落は、金融政策への不信と反発を増幅しかねない。 ただし、異次元緩和スタート時に比べれば、賃金上昇率の重要性についての日銀の認識はより深まっていると思われる。だからこそ黒田総裁は6月6日の講演で、「コロナ禍における行動制限下で蓄積した「強制貯蓄」が、家計の値上げ許容度の改善に繋がっている可能性がある」という強い批判を浴びた主張の述べた後で、日本の家計が値上げを受け容れている間に、良好なマクロ経済環境をできるだけ維持し、これを来年度以降のベースアップを含めた賃金の本格上昇にいかに繋げていけるかが当面のポイントである、としたのだろう。 とはいえ、これまでの経験は、賃金が十分上昇できる環境がつくれない限り、2%のインフレ目標がグリーンスパンの定義する物価安定と両立するような環境は達成できないことを強く示唆している。この点からみると、良好な「マクロ経済環境」は好況による総需給バランスの改善を超え、実質賃金の持続的上昇が可能になるよう環境でなければならない。DXや人への投資などさまざまな議論が盛り上がり始めているのは、そのことと無関係ではないだろう』、「ドル建ての資源価格の上昇は、輸入物価だけを上昇させますが、為替円安は、輸出物価と輸入物価をともに押し上げるため、交易条件に対し概ねニュートラルです」と述べている。 しかし、輸出物価上昇の恩恵を受けるのは輸出企業であり、輸入物価上昇によって生活を直撃されるのは家計等である。あたかも同じ一人の主体が右手で恩恵を受け、左手で損失を被り、差し引きの影響がほぼゼロ、というようなロジックは、一方的に負担増に直面している家計の円安への懸念に対しては説得力を持たない。こうした家計への共感の欠落は、金融政策への不信と反発を増幅しかねない」、手厳しい批判である。「良好な「マクロ経済環境」は好況による総需給バランスの改善を超え、実質賃金の持続的上昇が可能になるよう環境でなければならない」、しかし、実現の可能性は低そうだ。

次に、6月27日付けエコノミストOnline「異次元緩和を問う⑥ 財政政策に入り込む中央銀行=翁百合」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220705/se1/00m/020/061000c
・『金融政策の限界が認識され、焦点は財政政策に移っている。しかし、異次元金融緩和によって、日銀が財政政策に踏み込んでいると翁百合・日本総合研究所理事長は指摘する。中央銀行の独立性のあり方が問われる。(異次元緩和を問う) 翁氏は政府の有識者会議メンバーを歴任してきた。岸田政権下でも、「新しい資本主義実現会議」の委員を務める。 各種の会議に出席する機会には人への投資と、それによる生産性の向上が大事だと繰り返し述べている。 異次元緩和の当初はデフレ脱却がカギとの声が強かったが、生産性がカギであり、潜在成長率を上げていかなければならないことがようやく認識されるようになった。そのことに気づくのが遅れた影響が大きすぎると感じている。 安倍政権も成長戦略は掲げていた。2014年の「選択する未来」委員会は生産性向上、少子化対応、地域活性化の3点を挙げていた。それを検証する「選択する未来2.0」懇談会の座長を務め、昨年6月に報告書を提出した。残念ながら潜在成長率は横ばいで生産性は下がり続けている。出生率もコロナ前から下がっている。地域活性化だけは、一貫して続いてきた東京一極集中がコロナで少しだけ是正される兆しがある。 マクロの生産性を上げていくには、人への投資を行いながら、生産性の高い部門に人がシフトし、賃金が上がっていくことが大事だ。国民が望むのも、持続的に賃金が上がることだ。 長期停滞の要因として、生産性の低い企業が残ってしまうことがマクロの生産性にマイナスに寄与していると指摘されている。金利機能は効率的な資源配分を促すものだから、低金利はなんらかの背景になっている。 長期停滞には、需要と供給の双方からさまざまな要因があるが、異次元緩和は長期停滞の結果であり、一方で原因でもある。 異次元緩和を経済政策の前面に打ち出した安倍晋三元首相は、20年9月に首相を辞任した後も影響力を持つ。今年5月には「日本銀行は政府の子会社」と発言し、波紋を広げた。 日銀が事実上、まさにそのような立場に置かれてしまっていることが非常に大きな問題だ。 日銀は独立性のもと、通貨の安定、つまり物価と金融システムの安定を図るのが使命だ。独立性は条件なしに与えられているわけではない。選挙で選ばれていない中央銀行の政策は、国民から信頼され支持されなければ実行できない。 独立性を担保するうえで、なんらかの目安を示して説明することが大事という考え方は理解できる。ただ、異次元金融緩和で2%のインフレ目標を掲げ、期待に働きかける手法の有効性に過大な期待があったことが適切だったのか、疑問を感じる』、筆者の「翁百合」氏は日銀時代に、第一の記事の筆者の「翁邦雄」氏と結婚、夫婦揃って第一線のエコノミストとして活躍している。「異次元金融緩和で2%のインフレ目標を掲げ、期待に働きかける手法の有効性に過大な期待があったことが適切だったのか、疑問を感じる」、批判は立場上、抑制気味だ。
・『金融システムに潜むリスク  数字だけにこだわると金融に不均衡が生じる。不均衡は物価だけに表れるわけではない。日本のバブル期に物価は安定していたが、資産価格などひずみは大きくなっていた。 翁氏はもともと、金融システムの安定を図るプルーデンス政策が専門。1990年代には不良債権問題や金融機関の破綻処理を分析し、産業再生機構の委員も務めた。 金融システムの健全性は、表面的には崩れていないようにみえる。だが、低金利で地銀等は外債に傾斜し、含み損を抱えている。マクロの資金循環としても、度重なるリスクにさらされた企業部門が現預金の保有を増やしており、金融機関は厳しい環境にある。金融システムの潜在的リスクは拡大している。 いま局面が変わっているのは、財政政策との関係だ。独立性のもと金融政策を行っているはずなのに、日銀は国債を大量に購入したことで、結果的に財政政策に深入りし、抜け出せなくなっている。 今後、市場からの金利上昇圧力は続き、インフレで金利を上げざるをえないこともありうる。金利が上がることで超低金利の国債を大量に保有している日銀に大きな損失が生じた場合、それは日銀が債務超過に転落するという国民にとって想定外の社会的コストを突きつける可能性もある。 民主主義のプロセスがない形で財政政策に入り込んでいることが問題だ。 13年4月に異次元金融緩和が始まったのは、安倍政権が前年12月の衆院選で、大胆な金融緩和を公約に掲げて勝利し、誕生したことが反映されている。民意が緩和を求めたともいえる』、「民主主義のプロセスがない形で財政政策に入り込んでいることが問題だ」、金融政策は「財政政策」の領域にまで立ち入るべきではない。
・『国民は10年も同意せず  最初はそうだったが、国民は10年も続くとは思っていなかっただろう。当初、日銀は「2年でインフレ2%」と言っていたから、その間は年間50兆円、80兆円と保有国債残高を増やしても、その後で出口を考えれば問題は小さかったかもしれない。それが10年続き、国債保有(図)によって結果的に日銀の債務超過などに伴い、さまざまなコストが生じるとなると、「そこまで同意しただろうか」と国民は思うのではないか。 たとえば今のインフレが加速していくとしたら、日銀は金利を上げ、生じるコストを財政が穴埋めするのか。それとも政策を動かさず国民はインフレを受け入れざるをえないのか。 インフレが進めば低所得者に大打撃である一方、金利が上がれば国債の利払い費が増え、財政を直撃する。どちらかに陥れば大変な事態だから、ナローパス(狭い道筋)だ。ここまでバランスシート(資産・負債の規模)が拡大すると、日銀がこの先、ドラスチックにとれる行動はそれほどない。 出口の局面で、日銀は技術的にさまざまな手立てを講じるだろう。最終的に大きな課題となるのは、財政の持続可能性だ。これほどまで国債を購入してきた日銀は、責任を持てるのだろうか。日銀が出口について議論を避ける根底には、財政の持続可能性の問題があるのだろう。 財政規律に対して長期金利市場が警告を発する機能は失われている。財政支出が本当に生活の質や生産性向上に寄与するかどうかを問うことなく、規模に傾斜しがちな弊害がある。 日本の財政は、高齢化で拡大する社会保障をファイナンスする消費税導入・税率引き上げが遅れてきたから、科学技術や教育など長期的に税収増につながる投資ができていない。日本の閉塞(へいそく)感にはそのような背景もあると思う。今後、長期的な成長につながる投資を行いながら、財政再建を進めなければならない』、「日銀が出口について議論を避ける根底には、財政の持続可能性の問題があるのだろう」、「財政規律に対して長期金利市場が警告を発する機能は失われている。財政支出が本当に生活の質や生産性向上に寄与するかどうかを問うことなく、規模に傾斜しがちな弊害がある」、「日本の財政は、高齢化で拡大する社会保障をファイナンスする消費税導入・税率引き上げが遅れてきたから、科学技術や教育など長期的に税収増につながる投資ができていない」、「今後、長期的な成長につながる投資を行いながら、財政再建を進めなければならない」、同感である。

第三に、7月3日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「金利抑制を巡る日本銀行と海外ファンドの死闘、制するのはどちらか 過去には先進国の中央銀行が敗退も」を紹介しよう。
・『日本銀行は世界の大勢に逆らって金利を押さえ込んでいるが、いずれ政策転換を余儀なくされるだろうと予測する海外のファンドが、日本国債を売り浴びせて、日銀に挑戦している。もし彼らが勝てば、巨額の利益を手に入れることになる』、「海外のファンドが、日本国債を売り浴びせて、日銀に挑戦」、とは大変だ。
・『海外のファンドが日銀に挑戦  現在、日本の金利水準は、主要国(とくにアメリカ)の水準に比べて低い。このため、円資産を売って、ドルなどの資産に乗り換える動きが続き、金利に上昇圧力がかかっている。 これが、急速な円安をもたらしている基本的な原因だ。 これに対して、日本銀行は、国債を無制限に買い入れる政策をとって、対抗している。 最近では、海外のファンドが日銀の金融政策に真っ向から挑戦して政策転換を促し、日銀が応戦している状況が鮮明になってきた。 6月16日付の日本経済新聞によると、イギリスのヘッジファンド、ブルーベイ・アセット・マネジメントは、長期金利を抑制しようとする日銀の政策は、いずれ放棄せざるをえなくなるので、それを促すために日本国債を売っていると明言している。 同ファンドのマーク・ダウディング最高投資責任者(CIO)は、世界の金利が上昇しているなかで、日銀だけが長期金利の上限を0.25%にとどめようとしているが、それを維持するのは難しいとし、「7~9月のどこかで、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)政策を修正するだろう」と述べている』、確かに指値オペで「国債を無制限に買い入れる政策をとって、対抗」しているが、限界があるだろう。
・『ファンドは、なぜ日本国債を売るのか?  確かに、こうしたファンドが国債を売れば、国債の価格に下落圧力がかかる。つまり、金利上昇圧力が強まる。 ところで、このファンドは、なぜ日銀の金利政策を解除させようとしているのだろうか? 日銀の政策を正常化させて日本国民の役にたちたいというようなことではではないだろう。何らかの利益が得られるから、このようなことをしているのだろう。 「将来金利が上がる(国債価格が下落する)だろうから、価格が高いいまのうちに売ってしまおう」ということだろうか? そうした消極的理由もあるかもしれない。しかし、実は、ヘッジファンドは、もっと積極的に、現在の状況を利用して、巨額の利益を得ようとしているのである』、どういうことなのだろうか。
・『日本国債の「ショートポジション」を取った  このことは、ダウディング氏にインタビューしたブルームバーグの記事(2022年6月14日)をみると、分かる。 同氏は、「かなりの額の日本国債をショートしている」と言っているのだ。単に、保有している日本国債を売却するのではなく、「ショート」しているのである。こが重要なポイントだ。 「ショート」と言うのは空売りのことだ。国債を借りて売る。 そして、一定の期間後に、借りていた国債を返却するのである。 この取引をすると、金利上昇によって利益を得ることができる。その理由は、つぎのとおりだ。 現在は金利が低い。つまり国債の価格が高い。その価格で国債を売り、それによって国債の価格に下落圧力を加える。それが成功すれば、国債の価格が下がる。そこで、安くなった価格で国債を買って返せば、利益がでる。 なお、空売りでなく、国債の先物取引を行っても、同じ結果が得られる。つまり、将来、国債の価格は低下する(金利が上昇する)と予測した上で、「将来時点で国債を売る」という先物契約を結ぶのだ。 思惑通りになれば、将来時点で、現物価格より高い価格で国債を売れるだろう。だから、安く国債を買って、先物取引の実行で高く売れば、やはり利益を得ることができる』、「空売り」で「国債の価格が高い。その価格で国債を売り、それによって国債の価格に下落圧力を加える。それが成功すれば、国債の価格が下がる。そこで、安くなった価格で国債を買って返せば、利益がでる」、なるほど。
・『将来の金利が低下すればヘッジファンドは負け  もちろん、上で述べた取引には、リスクがある。仮に何らかの理由で、将来、金利が低下してしまったとする。つまり国債価格が上がったとする。空売りの場合には、借りた国債を返すために、価格が高くなった国債を買わなければならないので、損失が発生する。 国債の先物取引の場合にも、その実行によって、市場価格より安い価格で売らなければならないから、損失が発生する。 ブルーベリー・アセット・マネジメントは、「金利が将来下がる可能性は非常に低い」と読んでいるのだ。 前記のインタビューの中で、ダウディング氏は、つぎのように述べている。「金利が0.18%を超えて低下する可能性はかなり低い。一方、日銀がYCCの修正に動いた時の債券価格の下落(金利の上昇)は非常に大きいものになるだろう」』、「日銀がYCCの修正に動いた時の債券価格の下落(金利の上昇)は非常に大きいものになるだろう」、その通りだ。
・『どちらが勝つか?  日銀とヘッジファンドのどちらが勝つかは、資金力の違いに大きく影響されるから、ファンドが中央銀行に勝てるはずはないように思える。 しかし、同じような取引を仕掛けているのは、ブルーベイだけではないはずだ。巨額の利益を得るチャンスがあるのだから、多くのファンドや投機家が同じようなことをしているに違いない。 実際そのようなことが起きていることを示す状況証拠がある。これまで述べてきたような取引によって、日本国債のマーケットは、最近、きわめて異常な形に歪んでしまっているのだ(これについての詳しい説明は、ここでは省略する)』、なるほど。
・『中央銀行が負けた例も  中央銀行とヘッジファンドの戦いで、中央銀行が負けた例もある。最近では、オーストラリア準備銀行(中央銀行)が、昨年11月に金利のコントロールを放棄した。 もっと前では、アメリカの投資家、ジョージ・ソロス氏が、イングランド銀行を打ち負かした例が有名だ。 1990年、イギリスはEC諸国の為替を一定の枠に収めようとする通貨管理体制ERM(欧州為替相場メカニズム)に参加した。当時、イギリス経済が低迷していたにも関わらず、ポンドが過大評価されていた。 しかし、イギリスはERMの規制に従って切り下げができなかった。この状態に着目したソロス氏のクウォンタムファンドが、ポンドを売り浴びせ、ポンドの切り下げ圧力が強まった。 1992年9月16日(水)、ついにイギリス通貨当局が攻防に敗れ、ポンドは、ERMを脱退し、変動相場制へと移行することになった』、「ジョージ・ソロス氏が、イングランド銀行を打ち負かした例」は確かに「有名だが」、「オーストラリア準備銀行の「金利のコントロールを放棄」は初めて知った。
・『「合理的なものが勝つ可能性が高い」  前記のダウディング氏のインタビューで興味深いのは、「日銀が国債を買いながら財務省が円を買う介入をしようとしているのは、アクセルとブレーキを同時に踏むようなもので、一貫した政策とは言えない」とコメントしていることだ。そして同氏は、「一貫性のないものに対しては、投資家は挑戦をしたくなる」と述べている。 確かにその通りだ。現在の日本政府の政策は、ちぐはぐなものになっている。「物価対策が必要」ということで、ガソリンなどの価格をおさえている。ところが一方では、物価高騰の重要な要因である円安を放置している。つまり、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるのだ。 一貫性のない政策を継続することは難しい。どこかで破綻する。事実、現在の日本の国債市場は、そうした状況になりつつある。 「合理的なものが勝つ可能性が高い」という考えは、大変説得的だ』、「現在の日本政府の政策は、ちぐはぐなものになっている。「物価対策が必要」ということで、ガソリンなどの価格をおさえている。ところが一方では、物価高騰の重要な要因である円安を放置している。つまり、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるのだ。 一貫性のない政策を継続することは難しい。どこかで破綻する」、「「合理的なものが勝つ可能性が高い」という考えは、大変説得的だ」、同感である。

第四に、7月6日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「円安に国民が苦しんでるのに、それでも日銀が「金利を引き上げられない」4つの理由」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/97082?imp=0
・『日銀が6月の金融政策決定会合において、金融緩和策の継続を決定するなど、日米の金融政策の違いがより鮮明になっている。日本とアメリカの金利差が拡大するのはほぼ確実であり、市場では円安がさらに加速するとの見方が強まっている。 国内でも物価上昇が顕著となっており、日銀に対する風当たりは強まる一方だが、日銀はなぜ金利の引き上げに消極的なのだろうか。政府・日銀が金利を引き上げられない理由について、あらためてまとめた』、興味深そうだ。
・『理由その1 景気に逆風  日本経済は過去30年間、低金利が続いており、企業も家計も低金利であることが大前提となっている。このため、急に金利が上がってしまうと、企業の利払い負担が増えたり、借入れが減少するなど経済に大きな影響が及ぶことになる。 リーマンショック以降、国内の倒産件数は異常な低水準で推移してきたが、これは、政府が銀行に対して過度な資金回収を実施しないよう強く要請していたことが大きく影響している。企業は低金利で資金を借りることができ、しかも、銀行が積極的な融資姿勢を継続したことで、本来なら倒産している企業も延命できているケースが少なくない。 こうした状況で金利の引き上げを実施すると、倒産が増える可能性があるほか、大企業の設備投資も大幅に抑制される。諸外国と比較して、ただでさえコロナ危機からの回復が遅れている時に、金利の引き上げによる景気後退だけは避けたいというのが政府・日銀のホンネだろう』、確かに超金融緩和で支えてきた「企業」は「金利の引き上げ」には弱そうだ。
・『理由その2 住宅ローン負担が大きくなる  企業と同じく家計も低金利の恩恵を大きく受けており、金利引き上げの制約要因となっている。日本の家計は、低金利政策によって、極めて低い金利で住宅ローンを借りることができた。特に変動金利の場合、限りなくゼロ金利に近い金利で住宅ローンを組むことができたため、本来なら住宅ローンを組めない水準まで借り入れを行っている人が一部に存在している。 例えば5000万円のローンを30年で組んだ場合、2%の金利であれば返済原資の5000万に加えて、利子を1500万円以上支払わなければならない。ところが0.5%の低金利であれば、利子はわずか400万円程度で済むので、その分だけより高額な物件に手を出すことができてしまう。 ここで金利が上昇すると、一部の人は返済に苦慮することになり、場合によっては住宅ローン破綻者が増えるリスクがある。そこまでいかなくても、変動金利の場合、金利上昇によってローンの返済額が増えるのは確実であり、家計の可処分所得は減ることになる。当然の結果として個人消費には大きな悪影響が及ぶ』、「変動金利の場合、限りなくゼロ金利に近い金利で住宅ローンを組むことができたため、本来なら住宅ローンを組めない水準まで借り入れを行っている人が一部に存在している」、「ここで金利が上昇すると、一部の人は返済に苦慮することになり、場合によっては住宅ローン破綻者が増えるリスクがある」、その通りだ。
・『理由その3 政府の利払いが増える  低金利によって借金が大きく膨れ上がっているという点では、個人や企業だけでなく、政府にとっても同じことである。よく知られているように日本政府は約1000兆円の負債を抱えている。 現在はほぼゼロ金利に近いため、政府の利払いは最小限の水準で済んでいるが、もし金利が米国並みの3%台に上昇すれば、日本政府は最終的に年間30兆円以上の利子を負担しなければならない。日本政府が発行している国債の年月はバラバラなので、全ての国債が高い金利に入れ代われるまでには約9年の時間的猶予があるものの、年々利払い額が増えていくという点では、金利上昇後、すぐにその影響は顕在化してくる。) 現在、日本政府の税収は約50兆円しかなく、残りは全て新規の国債発行による借金である。ここで金利が上昇してしまうと単純計算で政府の支出が30兆円増えるということであり、政府の税収の6割が利払いに消えることになってしまう。この状態では、まともに予算を組むことはできず、他の予算が大きく制約を受けてしまう。こうした状況を考えると政府・日銀は、簡単には金利を引き上げられない』、「もし金利が米国並みの3%台に上昇すれば、日本政府は最終的に年間30兆円以上の利子を負担しなければならない」、「政府の税収の6割が利払いに消えることになってしまう。この状態では、まともに予算を組むことはできず、他の予算が大きく制約を受けてしまう」、これは大変だ。
・『理由その4 日銀のバランスシートが毀損する  日銀は現在(2022年6月末)、約540兆円の国債を保有している。もしここで日銀が金利上昇に踏み込んだ場合、理論上を保有している国債の評価額は減少することになる。もっとも日銀は簿価で会計を管理しているので、保有している国債の減額分を損失として計上する必要はない。 だが、現実問題として簿価で会計を処理しているので、損失は考慮する必要がないという理屈は成り立たない。市場は日銀が潜在損失を抱えたことを認識するので、これは確実に円安要因となる。 一部の論者は「保有する国債の価値が下がった程度で日本円が紙くずになることはない」と主張しているが、この議論は完全に論点がズレている。市場関係者が懸念しているのは日銀が破綻するといった極論ではない。日銀のバランスシートが毀損したと見なされた場合、最初に影響を受けるのは為替であり、過度な円安という形でその影響は顕在化する。現時点においても、円安の弊害が指摘される中、さらに円安が進みやすくなることを歓迎できるわけがない。 円安が加速するかしないかというのは、現実的な問題であり、この状況について日銀自身がもっともよく理解している。そうであればこそ、金利の上昇には簡単には踏み込めない』、「日銀のバランスシートが毀損したと見なされた場合、最初に影響を受けるのは為替であり、過度な円安という形でその影響は顕在化する。現時点においても、円安の弊害が指摘される中、さらに円安が進みやすくなることを歓迎できるわけがない」、確かに「為替」への影響は大きそうだ。
・『低金利を続けるとどうなる?  このように金利の上昇には多くの弊害があり、政府・日銀にとって、金利の上昇はなるべく避けたいというのが本音である。一方で、円安にもそれなりのデメリットがあり、国民からの不満の声は高まる一方である。どちらにしても厳しい状況だが、それでも日銀は現状の政策を維持し、円安のメリット(輸出やインバウンドの拡大)が顕在化してくるまで、時間稼ぎをした方が得策と考えている可能性は高い。 では、金融緩和を継続し、時間稼ぎをする政策はうまく機能するのだろうか。 最大の焦点となるのは、やはり長期金利の動向だろう。日銀は現在、国債の金利が0.25パーセント以上にならないよう、無制限に国債を買い取る「指値オペ」を実施している。為替については、一部から市場介入を実施すべきという声も出ているが、ドル売り、円買いの為替介入の場合、外貨準備の範囲でしか実行できないという制約があり、あまり現実的ではない。結果として為替市場では自由に取引が行われることになる。 そうなると政府・日銀が恣意的にコントロールできるのは、国債の金利しかない。理論的に日銀が購入できる国債は無限大なので、日銀は金利を低く抑え続けることができる。だが、この指し値オペを続ければ続けるほど、円安圧力が高まってくるのは確実である。 もしどこかのタイミングで、指し値オペを継続できなくなった場合、一気に円安が進み、半ば暴落に近い状態になるリスクが存在することは否定できないだろう。結局のところ、今の日銀は日本経済のファンダメンタルズと逆方向の政策を続けており、いずれ限界はやってくる。 急に金利を上げることの弊害が大きいことは筆者もよく理解しているが、現状の政策では、ダムが決壊するような形で金利上昇と円安が同時に進む最悪のシナリオもないとは言い切れない。こうした事態を回避するには、指し値オペの範囲に柔軟性を持たせるなど、市場に対して、何らかの含みをもたせておく必要があるはずだが、今の日銀にその気配は感じられない』、「理論的に日銀が購入できる国債は無限大なので、日銀は金利を低く抑え続けることができる。だが、この指し値オペを続ければ続けるほど、円安圧力が高まってくるのは確実である。 もしどこかのタイミングで、指し値オペを継続できなくなった場合、一気に円安が進み、半ば暴落に近い状態になるリスクが存在することは否定できない」、「今の日銀は日本経済のファンダメンタルズと逆方向の政策を続けており、いずれ限界はやってくる。 急に金利を上げることの弊害が大きいことは筆者もよく理解しているが、現状の政策では、ダムが決壊するような形で金利上昇と円安が同時に進む最悪のシナリオもないとは言い切れない。こうした事態を回避するには、指し値オペの範囲に柔軟性を持たせるなど、市場に対して、何らかの含みをもたせておく必要があるはずだが、今の日銀にその気配は感じられない」、「日銀」が硬直的なのは何故なのだろう。
タグ:ダイヤモンド・オンライン「【翁邦雄・元日銀金融研究所所長に聞く】インフレはそれ以上に賃上げ率を高める、という幻想。国民の求める「物価安定」とは何かを考え直す」 異次元緩和政策 (その42)(【翁邦雄・元日銀金融研究所所長に聞く】インフレはそれ以上に賃上げ率を高める という幻想 国民の求める「物価安定」とは何かを考え直す、次元緩和を問う⑥ 財政政策に入り込む中央銀行=翁百合、金利抑制を巡る日本銀行と海外ファンドの死闘 制するのはどちらか 過去には先進国の中央銀行が敗退も、円安に国民が苦しんでるのに それでも日銀が「金利を引き上げられない」4つの理由) 「翁邦雄」氏の理論的見方とは興味深そうだ。 「国民の求めている「物価安定」とはなにかをもう一度考える必要がある」、その通りだ。 「一般国民にとっての物価安定は、FRB議長時代のアラン・グリーンスパンが定義したようにむしろ物価上昇を気にかけなくてよい状況だろう」、さすが説得力がある。 「もし、賃金が毎年数%ベアで上がっており、退職世代の年金についても物価スライドにより実質価値が保証され、十分に金利が高く金利収入が確保できたりしていれば、家計は2%程度の物価上昇をあまり気にしないだろう。 しかし、日本のように家計を支える収入がじりじり下がる世界では、物価が1%上がるような状態にも強い抵抗感を持ちがちになることが予想される」、その通りだ。 「米国」や「英国」では「賃金上昇率が物価上昇率を上回っていた」が、「日本では」「物価上昇率が相対的に低いだけでなく、名目賃金が消費者物価下落率(マイナス0.3%)をかなり上回って下落していた(マイナス0.8%)、という点で他国と大きく状況が異なっていた」、「賃金・実質所得が上がらない状況では人々は値上げに対し寛容になることはなく、生活防衛的に反応し続けた。ゼロインフレは社会規範として定着し、日銀の「物価安定への取り組み」への認知度はじりじり下がり続けた」、米英と環境が大きく異なっていたようだ。 「ドル建ての資源価格の上昇は、輸入物価だけを上昇させますが、為替円安は、輸出物価と輸入物価をともに押し上げるため、交易条件に対し概ねニュートラルです」と述べている。 しかし、輸出物価上昇の恩恵を受けるのは輸出企業であり、輸入物価上昇によって生活を直撃されるのは家計等である。あたかも同じ一人の主体が右手で恩恵を受け、左手で損失を被り、差し引きの影響がほぼゼロ、というようなロジックは、一方的に負担増に直面している家計の円安への懸念に対しては説得力を持たない。こうした家計への共感の欠落は、金融政策への不信と反発 エコノミストOnline「異次元緩和を問う⑥ 財政政策に入り込む中央銀行=翁百合」 、筆者の「翁百合」氏は日銀時代に、第一の記事の筆者の「翁邦雄」氏と結婚、夫婦揃って第一線のエコノミストとして活躍している。「異次元金融緩和で2%のインフレ目標を掲げ、期待に働きかける手法の有効性に過大な期待があったことが適切だったのか、疑問を感じる」、批判は立場上、抑制気味だ。 「民主主義のプロセスがない形で財政政策に入り込んでいることが問題だ」、金融政策は「財政政策」の領域にまで立ち入るべきではない。 「日銀が出口について議論を避ける根底には、財政の持続可能性の問題があるのだろう」、「財政規律に対して長期金利市場が警告を発する機能は失われている。財政支出が本当に生活の質や生産性向上に寄与するかどうかを問うことなく、規模に傾斜しがちな弊害がある」、「日本の財政は、高齢化で拡大する社会保障をファイナンスする消費税導入・税率引き上げが遅れてきたから、科学技術や教育など長期的に税収増につながる投資ができていない」、「今後、長期的な成長につながる投資を行いながら、財政再建を進めなければならない」、同感である。 現代ビジネス 野口 悠紀雄氏による「金利抑制を巡る日本銀行と海外ファンドの死闘、制するのはどちらか 過去には先進国の中央銀行が敗退も」 「海外のファンドが、日本国債を売り浴びせて、日銀に挑戦」、とは大変だ。 確かに指値オペで「国債を無制限に買い入れる政策をとって、対抗」しているが、限界があるだろう。 どういうことなのだろうか。 「空売り」で「国債の価格が高い。その価格で国債を売り、それによって国債の価格に下落圧力を加える。それが成功すれば、国債の価格が下がる。そこで、安くなった価格で国債を買って返せば、利益がでる」、なるほど。 「日銀がYCCの修正に動いた時の債券価格の下落(金利の上昇)は非常に大きいものになるだろう」、その通りだ 「ジョージ・ソロス氏が、イングランド銀行を打ち負かした例」は確かに「有名だが」、「オーストラリア準備銀行の「金利のコントロールを放棄」は初めて知った。 「現在の日本政府の政策は、ちぐはぐなものになっている。「物価対策が必要」ということで、ガソリンなどの価格をおさえている。ところが一方では、物価高騰の重要な要因である円安を放置している。つまり、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるのだ。 一貫性のない政策を継続することは難しい。どこかで破綻する」、「「合理的なものが勝つ可能性が高い」という考えは、大変説得的だ」、同感である。 加谷 珪一氏による「円安に国民が苦しんでるのに、それでも日銀が「金利を引き上げられない」4つの理由」 理由その1 景気に逆風 確かに超金融緩和で支えてきた「企業」は「金利の引き上げ」には弱そうだ。 理由その2 住宅ローン負担が大きくなる 「変動金利の場合、限りなくゼロ金利に近い金利で住宅ローンを組むことができたため、本来なら住宅ローンを組めない水準まで借り入れを行っている人が一部に存在している」、「ここで金利が上昇すると、一部の人は返済に苦慮することになり、場合によっては住宅ローン破綻者が増えるリスクがある」、その通りだ。 理由その3 政府の利払いが増える 「もし金利が米国並みの3%台に上昇すれば、日本政府は最終的に年間30兆円以上の利子を負担しなければならない」、「政府の税収の6割が利払いに消えることになってしまう。この状態では、まともに予算を組むことはできず、他の予算が大きく制約を受けてしまう」、これは大変だ。 理由その4 日銀のバランスシートが毀損する 「日銀のバランスシートが毀損したと見なされた場合、最初に影響を受けるのは為替であり、過度な円安という形でその影響は顕在化する。現時点においても、円安の弊害が指摘される中、さらに円安が進みやすくなることを歓迎できるわけがない」、確かに「為替」への影響は大きそうだ。 低金利を続けるとどうなる? 「理論的に日銀が購入できる国債は無限大なので、日銀は金利を低く抑え続けることができる。だが、この指し値オペを続ければ続けるほど、円安圧力が高まってくるのは確実である。 もしどこかのタイミングで、指し値オペを継続できなくなった場合、一気に円安が進み、半ば暴落に近い状態になるリスクが存在することは否定できない」、「今の日銀は日本経済のファンダメンタルズと逆方向の政策を続けており、いずれ限界はやってくる。 急に金利を上げることの弊害が大きいことは筆者もよく理解しているが、現状の政策では、ダムが決壊するような形で
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政府財政問題(その8)(インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環、ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔) [経済政策]

政府財政問題については、3月19日に取上げた。今日は、(その8)(インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環、ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔)である。

先ずは、4月22日付け東洋経済オンライン「インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/583890
・『日本は長年、デフレ傾向の経済下で財政赤字を続けてきたが、インフレ下ではどのように変化するのか。 インフレは、見かけ上の名目GDP(国内総生産)を膨らますため、公的債務残高の対名目GDP比を低下させる効果があったり、実質的な債務負担を減らしたりすることがたびたび強調されてきた。そのような楽観的な見方でこれからの状況に臨んでいいのか』、興味深そうだ。
・『石油高と経済の過熱が招いた「狂乱物価」  日本人がもう一度、インフレ時代の経済や財政を思い起こすためには歴史に学ぶことが大切だ。ここでは、3つのポイントに分けて、第1次石油ショックの下で典型的なインフレ対応の緊縮型予算が組まれた1974年~1975年度の状況を振り返り、今後の行方を読み解いていこう。 第1次石油ショックは、1973年10月に第4次中東戦争が勃発し、ペルシャ湾岸6カ国が石油価格を21%引き上げ、米欧日などに向けた石油生産を毎年5%ずつ引き下げると打ち出したことで火がついた。 日本ではそれ以前から、田中角栄政権の「日本列島改造論」ブームで経済が過熱しインフレとなっており、石油高や買い占め・売り惜しみが加わったことで「狂乱物価」へ突入した。 CPIの伸び率は1974年に入ると、実に20%を超え、以後同年内は10%台に戻ることはなかった。1975年初頭からは、CPIは明確に下がり始め、同年中にインフレは沈静化していった。CPI上昇率は、1974年度平均で20.9%、1975年度平均では10.4%を記録した。 インフレ傾向にある現在だが、物価上昇の激しさは第1次石油ショック時が圧倒的だ。 またもう1つ、現在との違いで強調しておくべき点は、賃金も物価と同様に大幅に上がったということだ。 当時の現金給与総額の伸び率は、1973年度が21.9%、1974年度が29.1%、1975年度が12.4%を記録しており、第1次石油ショックは石油高騰だけを原因とするのではなく、大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴だった。) これに対し、現在の現金給与総額は1~2月で前年同月比1%強であり、春闘も定期昇給込みの平均賃上げ率が2%強と振るわなかった。目下の日本銀行は「悪い円安」に見舞われても、かたくなに超低金利政策を維持しようとしているが、その主たる理由は賃上げの鈍さに代表される経済停滞にある。 第1次石油ショック時の日本銀行は景気が過熱する中、インフレ退治の姿勢を鮮明に打ち出し、1973年12月には政策金利である公定歩合を9%まで引き上げた。現在とは異なって、インフレ沈静化を優先し、急速な金融引き締めで景気を冷やす「オーバーキル」を厭わなかったわけだ。 こうした急速な金融引き締めにより、1974年度には、インフレ影響を除いた実質経済成長率で前年度比0.5%減と戦後初のマイナス成長を記録した。翌1975年度も景気は低迷し、それとともにインフレは沈静化していった』、確かに「第1次石油ショック」時は、「大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴」、その通りだ。
・『今日的な意味として引き出せる「3つの教訓」  このように第1次石油ショック時の状況は、現在とは大きく異なるが、今後の経済・財政を展望するため、引き出せる3つの教訓やポイントがある。 1つ目が「税収」の行方だ。 第1次石油ショック時に景気後退とともに顕在化したのが、税収不足だった。 上表では、1974年度の租税及び印紙収入は前年度比12.4%増となっているが、これは本来なら1975年度の税収となるべきものを1974年度補正予算に繰り入れた当時の奇策のためだ。 その反動を含めて1975年度は同8.5%減もの税収減に見舞われ、これを埋めるために国債発行による収入が約2.4倍に跳ね上がった。日本の財政が大規模な赤字国債依存を始めたのが、この1975年度である。 では、こうした状況を現在に当てはめるとどうなるか。 先述のように現在の日本銀行は超低金利政策の継続方針を掲げ、大幅な引き締めに転じる可能性は極めて小さい。そのため、第1次石油ショック時ほどのドラスティックな景気後退はないだろう。 しかし、原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない。鈴木俊一財務相が「悪い円安」と警戒するゆえんだ。) 2つ目の教訓は、「インフレになったら歳出を削減すればいい」と言われてきたが、それは机上の空論であるということだ。 すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想される。 1974~1975年度予算では、総需要抑制(緊縮)の方針が打ち出された。実際、当初予算ベースの公共事業関係費では、当時としては異例の横ばい(1974年度伸び率ゼロ%、1975年度2.4%増)が打ち出された。予算執行の面でもあの手この手の繰り延べが行われた。 ただ、前出の表にあるように補正予算を含めた最終的な決算では、公共事業費も一定の増加(1974年度20.0%増、1975年度13.5%増)を示している。世論や関連業界、政治家などの要望が強い中で、「緊縮財政」を実行することの難しさがわかる』、①原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない、②すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想、なるほど。
・『物価の上昇が進めば、歳出も増える  一方で、意識的に大幅増の予算が組まれたのが、社会保障関係費だった。 財務総合政策研究所編『昭和財政史 昭和49~63年度』によれば、当時の橋本収主計局長は次のように述べている。 「一番心配したのは、福祉の後退だと言われることなんです。公共事業というのは、産業基盤の整備とか道路ばかりと思っているけど、そうじゃなくて住宅・下水とか公園とか漁港だとか、いっぱいあるわけですね。必ず福祉の後退と言われる。(中略)当時の新聞を見てみると、やっぱり福祉の後退だということを言っていますよね、公共事業を減らしたことは。したがって、そこで年金だとか、生活保護基準とか、そういうものは思い切って増やすということをした」 インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化した。 また、物価上昇により、当時の名目経済成長率は大幅なプラス(1974年度18.6%増、1975年度10.0%増)となったが、国債発行拡大はそれ以上の伸び率となったため、公債残高(対名目GDP比)も悪化した。 当時の加藤隆司主計局総務課長は「予算の伸びは大きいようですが、中はがらんどうなんですよね。物価、賃金もみな3割上がっちゃったんですよ」(『昭和財政史 昭和49~63年度』)と話している。 「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではないことは歴史が示している。 当時と現在では社会保障の制度や給付水準も違い、一概に比較はできないことも事実だろう。ただ、インフレとなれば、政府としては物価変動の影響を受けやすい階層に対する支援に傾くのは、いつの時代でも自然と考えてよい。物価上昇が進めば、低所得者層や中小企業などへの支援策を求める声は勢いを増すだろう。) インフレに脆弱な所得層に対する支援は必要だとしても、どこまでインフレ対策を広げるかは、3つ目の重要なポイントだ。 財政支出で物価上昇の大きい財の消費の支援を行うことは、総需要の落ち込みを防ぎ、景気や税収を下支えするという効果はある。しかし、一方で需要減少による価格低下という市場原理を弱めることも意味する。とりわけ現在の日本では資源などの輸入数量が減らず、経常収支の悪化が止まらないという負の側面があることに注意すべきだ。 超低金利政策の継続(アメリカとの金利差が拡大)によって円安をサポートしながら、ガソリン補助金や購入支援など経常収支の悪化を促進する財政政策を同時に進めれば、構造的に①円安が一段と進展→②輸入物価が上昇→③さらにインフレ対策の財政支出が必要→④経常収支が悪化→⑤円安が進行という悪性のスパイラルが発生しかねない。 さらに財政赤字拡大そのものも、「通貨の信認」という面からは円安を促進するものであり、こうした悪性のスパイラルを放置しておけば、円安を通じて財政危機のリスクまでも高めてしまうだろう』、③インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化」、「「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではない」、やはり歴史的事実で検証してみるべきだ。
・『インフレ対策をむやみに拡大するのは危うい  このように考えれば、財政赤字の拡大を厭わずにむやみにインフレ対策を拡大するというやり方は回避すべきだ。野党の一部には「消費減税」など極端な主張が見られ、政策案を精査していくことは不可欠だ。物価上昇で真に脆弱な層に絞り込んだ対策こそが求められる。 加えて、金融政策においても過度な引き締めは論外であるものの、世界情勢の変化に柔軟に対応し、超低金利政策から多少の引き締めへ修正することが求められるだろう。コロナ禍やウクライナ危機を背景とした供給制約やアメリカのドル金利上昇は非常に大きな構造変化だ。リーマンショック以降、世界的な低インフレが続いた中で継続できた超低金利政策や財政赤字の垂れ流しが、いつまでも持続可能だと錯覚してはならない。 日本銀行が引き締め方向に金融政策を微修正すれば、日本銀行や政府の利払いでコストが発生するが、現状ではまだ対応可能な範囲だろう。 アメリカ国債の長期金利上昇が一服し債券購入の含み損リスクが低減すれば、国内の銀行や機関投資家は円との金利差から、日本銀行当座預金に置いた資金をアメリカ債券にシフトし、さらなる円安が起きる可能性もある。 現在の政府や日本銀行のように資源高や世界的なインフレが沈静化することを待つだけでは心許ない。対応が遅れれば遅れるほど、将来、大幅な政策修正(金利上昇)リスクに直面し、そのときの危機のマグマは計り知れない』、現在は国債利回りの上昇を抑えるため、国債オペを指値で行うという極めて異例の方式でやっている。もう異次元緩和も完全に限界に達したようだ。

次に、6月13日付けエコノミストOnline「ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220621/se1/00m/020/058000c
・『足元で高値が続いている原油価格。その対策として導入された補助金政策は実効性に疑問がある』、私もかねてから「実効性に疑問」を感じていただけに、興味深そうだ。
・『政府の原油高騰対策は“石油業界の支援”策=小嶌正稔  2022年4月26日、政府は「原油価格・物価高騰等総合緊急対策」を発表した。これにより、時限的・緊急避難措置とされていた「原油価格高騰の激変緩和措置」は拡充され、「原油価格高騰対策」として、7月10日の参議院選挙後の9月末まで延長されることになった。原油価格高騰対策に投入される国費は、総合緊急対策全体の4分の1を占める1.5兆円にもなる。 原油価格高騰対策が動き出したのは21年11月。開始時は時限的・緊急避難的な激変緩和措置と位置付けられ、とにかく迅速な対策実施に重点が置かれた。このため民間企業(石油元売り会社)に国費(補助金)を支給するという、通常は考えられない政策が動き出した。 具体的には、レギュラーガソリンの全国平均小売価格1リットル当たり170円を基準価格とし、価格が上昇した分は、1リットル当たり5円を上限として、石油元売り会社に補助金を支給する。基準価格は4週間ごとに1円ずつ切り上げるとした。この段階的な切り上げは、対策終了時を意識した激変緩和の措置だ』、こんな直接的な補助金制度は異例中の異例だ。発展途上国がよくやるが、先進国ではあまり例がない。
・『不可解な算定基準  対策は22年1月27日から実施されたが、原油価格の高騰は止まらず、2月21日には上限の5円を超えた。2月24日にロシアによるウクライナ侵攻が始まると、政府は3月10日から補助金支給の上限を25円に引き上げたほか、基準価格の算定方式を変えた。 3月7日までは原油価格の変動分を補助金の算定基準としてきたが、これに小売価格の変動分を追加した。このため、仮にガソリンスタンドが自社の経営状況によって小売価格を変更すれば、それが補助金の金額に反映される仕組みとなった。 表1に4月19日までの補助金支給額と価格抑制効果をまとめた。抑制効果の差額がマイナスになっているのは、補助金相当分まで価格が下がっていないことを意味している。 原油価格の変動のみを基準としていた1月31日~3月7日の補助金支給額の累計は1リットル当たり27.1円で、価格上昇抑制効果は同25.3円。差の1.8円は徐々に解消される程度の水準だった。 しかし、新たな算定基準後は、支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は9.2円に拡大した。それを油種別に見ると、レギュラーガソリンが11円、軽油が10.8円、灯油は12.6円に拡大している。これらの合計34.4円が、支給額と抑制効果の差となる。これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がないのではないか。 石油元売り各社への補助金は、4月から支給上限額が1リットル=25円から35円に引き上げられた。さらに補助金の基準価格は、172円程度から168円程度に引き下げられ、基準価格を超えた分は2分の1を支援する仕組みとなった。 この変更は話題となっている「トリガー条項」と微妙に関係している。この場合の「トリガー条項」とは、揮発油税(ガソリン税)の暫定税率を一時的に停止する税制の条項で、総務省が毎月発表しているガソリンの全国平均小売価格が、3カ月連続で160円を超えた場合、暫定税率分=25.1円を停止し、原油高騰が一段落し、3カ月連続で130円を下回れば税率を元に戻すという施策だ。今までトリガー条項が発動されたことはない。 トリガー条項の160円は、10年当時の消費税5%を差し引くと本体152.38円で、これに現在の消費税10%を掛ければ167.6円となる。前述の基準価格を172円から168円に引き下げたのは、実はトリガー条項を発動することなく、これを適用した結果だ。補助金の35円への増額も同じで、4月4日の全国平均小売価格は、補助金がないと仮定すると、203円程度になる。これと168円との差は35円で、トリガー条項の基準がそのまま適用されているといえよう。 トリガー条項解除の要件の130円は、現在の税率に直すと136円で、原油をめぐる情勢を考えれば、当面の間は136円に戻るとは考えにくい。政府はトリガー条項を実質的に発動して、後のことは別途考えるという姿勢なのだろう』、「支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は」「1.8円」から「9.2円に拡大」、「これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がない」、その通りだ。
・『基準価格にも疑問  ただし、ここで注意が必要だ。トリガー条項と今回の緊急対策とでは、算定基準となる全国平均小売価格に根本的な違いがある。 トリガー条項の小売平均価格は、総務省の「小売物価統計調査」の価格であり、その価格は消費者が購入したフルサービスの現金ガソリン価格だ。現在は70%以上のガソリンがセルフサービスのガソリンスタンドで購入されていることを考えれば、時代遅れの規定ともいえる。この価格には、掛け売りや会員価格、価格割引の給油カードなどは含まれないため、消費者が購入する最も高い価格が基準となっている。ただし、この価格は消費者が実際に購入した価格の統計データだ。 一方、今回の緊急対策の全国平均小売価格は、あくまでガソリンスタンドの販売価格だ。ガソリンスタンドの価格は、現金価格、会員価格、カード会員価格など9種類の価格が存在し、看板にも複数の価格が掲示されている。緊急対策の全国平均小売価格は、小売業者が報告する報告価格であり、業者の価格意識が反映された価格のため、透明性は希薄だ。ドイツの価格表示は、基本的にそのガソリンスタンドで販売される最低価格が報告対象だ。政府は補助金を投入するならば最低限の価格を基準とするべきだろう。 ガソリンスタンドでの販売価格は、各ガソリンスタンドが決める。各店で小売価格に差があるのは、製油所や油槽所からの距離など、コスト面で違いがあるからといわれている。しかし、実際はこれでは説明できない。全国ベースで石油元売り会社からの卸売価格(22年3月時点)の差を見ると、最高で3.4円の開きがあるが、小売価格の差は12.9円もある(表3)。 表2は、製油所のある県の22年3月の小売価格、卸売価格、小売りマージンをまとめたものだ。製油所のある県同士の卸売価格の差は1.8円にとどまるが、小売価格差は10.7円もある。卸売価格が最低の大分県の小売価格は最も高く、大分県の平均マージンは25.8円で、マージン格差は43%もある。 さらに、消費者の購買データを集めた5月12日の民間調査会社のデータを見ると、最安値の愛知県が159.6円、最も高い高知県は178.2円で、18.6円も差がある。同じ愛知県内でも最安値は148円で、最高値は192円。差は44円もある。 すなわち、小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できるということだ』、「小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できる」、その通りだ。
・『整合性がない  政府の総合緊急対策では、物価高などに直面する生活困窮者への支援を打ち出しているが、ここでも原油価格高騰対策との整合性に疑問符がつく。 表4は、電気、ガス、灯油、ガソリンの支出に占める割合を所得分位別に見たものだが、地域別に大きな格差のある灯油を除けば、電気代は所得が低い第1分位の支出の割合が多く、ガソリン代は所得間格差が最も小さい。灯油は、最も支出の大きい青森市と最低の大阪市では約40倍も支出額が異なる。 灯油は地域間格差が大きいので、地域別に対策を実施すべき油種であり、全国一律に行う対策には適していない。 筆者は原油の価格高騰対策自体は否定していない。しかし、価格を通して製品の需給を調整する市場メカニズムをゆがめてはならない。ガソリン価格が高ければ節約することで需要が減少し、価格を引き下げる。また、消費者が少しでも安いガソリンスタンドで購入することで、価格は調整されていく。 だが、今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した。施策を再検証の上で必要な見直しをする必要があろう』、「今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した」、経済政策としては不必要で邪道だ。
タグ:(その8)(インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環、ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔) 政府財政問題 東洋経済オンライン「インフレでも「財政」がよくならない不都合な真実 超低金利政策と財政出動で円安が進む悪循環」 確かに「第1次石油ショック」時は、「大幅な賃金増が伴って経済が過熱した「ホームメイド・インフレ」になった点が特徴」、その通りだ。 今日的な意味として引き出せる「3つの教訓」 ①原材料高を価格転嫁できない企業が業績を悪化させたり、賃上げが鈍い中で物価上昇が個人消費を低迷させたりすることにより、今後景気悪化が進む可能性は小さくない。 そうなれば、現在においても税収不足が発生し、当初想定より財政赤字が悪化するのは間違いない、②すでに実施されているガソリン補助金や、現在与野党で検討されているインフレ対応の経済対策のように財政支出の拡大圧力は一段と高まることが予想、なるほど。 ③インフレとなれば、社会保障関係費に加えて、公務員給与や保育・介護・医療などの待遇、政府買い上げ米の価格、地方への交付金など自然と単価引き上げにつながる項目は少なくない。その結果、緊縮型予算と言いつつも、実際の歳出は税収を上回る増加を示し、財政赤字幅は悪化」、「「インフレになったら、歳出削減や増税で対応すればいい」と主張する積極財政派は少なくないが、実際にはそんなに簡単ではない」、やはり歴史的事実で検証してみるべきだ。 現在は国債利回りの上昇を抑えるため、国債オペを指値で行うという極めて異例の方式でやっている。もう異次元緩和も完全に限界に達したようだ。 エコノミストOnline「ガソリン補助金の価格抑制効果に疑問=小嶌正稔」 こんな直接的な補助金制度は異例中の異例だ。発展途上国がよくやるが、先進国ではあまり例がない。 「支給累計額が184.1円に増加したものの抑制効果は174.9円で、差は」「1.8円」から「9.2円に拡大」、「これだけ差が拡大すれば「原油価格高騰対策ではなく、石油業界支援策だ」と見られても仕方がない」、その通りだ。 「小売価格は小売市場の競争状況を強く反映するのであり、補助金を出すならば、原油価格の変動分を対象にすることでのみ、透明性を維持できる」、その通りだ。 「今回の緊急対策は、基準価格を引き下げることで消費を喚起した」、経済政策としては不必要で邪道だ。
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最低賃金(その2)(最低賃金1000円のまやかし 古賀茂明 政官財の罪と罰、「年収200万円暮らし」炎上の裏で 最低賃金1000円の公約もみ消す自民党の二枚舌、最低賃金を巡る「大矛盾」 正社員増加でも解決しない問題の本質とは) [経済政策]

最低賃金については、昨年8月6日に取上げた。今日は、(その2)(最低賃金1000円のまやかし 古賀茂明 政官財の罪と罰、「年収200万円暮らし」炎上の裏で 最低賃金1000円の公約もみ消す自民党の二枚舌、最低賃金を巡る「大矛盾」 正社員増加でも解決しない問題の本質とは)である。

先ずは、本年6月14日付けAERAdotが掲載した経産省出身の古賀茂明氏による「最低賃金1000円のまやかし 古賀茂明 政官財の罪と罰」を」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/wa/2022060900046.html?page=1
・『岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」の意味が分からない。 この言葉は、6月7日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022」(いわゆる骨太の方針)にも大きく掲げられたが、これを読んでもわかる人はほとんどいないだろう。 この骨太の方針で、「新しい資本主義」の1丁目1番地に掲げられたのが「人への投資と分配」だ。そのうち、人への「投資」については、3年間で4000億円使うと言うが、年平均では1333億円。防衛費を5兆円から10兆円にという話が進んでいるのに比べると、あまりに規模が小さい。あの日本経済新聞でさえ、8日の1面トップで「人への投資、世界水準遠く骨太方針決定」という見出しをつけ、落胆ぶりを露わにした。 一方、人への「分配」はどうか。「資産所得倍増」と掲げたので、我々の資産を「倍増」してくれそうなのだが、よく考えると、その元手がない人はどうなるのかがさっぱり見えない。唯一低所得層一般に確実にメリットがありそうなテーマが最低賃金の引き上げだ。そこで、骨太の方針に掲げられた最低賃金1000円という目標について、少し掘り下げてみよう。 実は、最低賃金の目標は、安倍晋三政権以来ずっと1000円のままだ。2016年度の骨太の方針では、年率3%程度引き上げて1000円を目指すとしていた。15年度の最低賃金798円をベースに毎年3%増やすと、23年度には1000円を超える計算だった。 この間、19年度の骨太の方針では、単に1000円を目指すのではなく、「より早期に」という言葉を書き加えて、目標達成の前倒しのニュアンスを出したが、1000円達成の年限は書いていない。 16年度の骨太の方針通りに進んでいれば、23年度、すなわち来年度には1000円に達するはずだから、「分配」を強調する岸田政権の骨太の方針では、本来は1年くらい前倒しして、今年22年度の改定で1000円達成と言ってもおかしくないはずだ。しかし、実際には、21年度が930円なので、7.5%の引き上げが必要になる。 岸田氏は、それは無理と諦めた。当初目標の23年度1000円なら、2年連続4%引き上げで何とかなるのだが、それすらも書かなかった。これでは、16年度の骨太の方針よりも後退したことになる。そこで、「できる限り早期に」という言葉を加えてお茶を濁した。本来なら、1000円どころか1500円を目指してもおかしくないのに、これが岸田氏の「新しい資本主義」における「分配」への「本気度」なのである。 もう一つ、重要なことを指摘しておこう。安倍政権直前の12年度の最低賃金は749円だったが、これは1ドル80円時代のことだから、ドル換算で9.4ドルだった。一方、仮に今すぐ目標である1000円を達成したとしても、現在の為替レート1ドル130円で換算すると7.7ドルだ。アベノミクスから新しい資本主義に入り、最低賃金は、国際的に見ると2割近く下がることになる。 こんな目標しか掲げられないなら「骨太の方針」ではなく、国民が「やせ細る方針」と名称変更した方がよい。自民党政権が続く限り、庶民の生活は貧しくなるばかり。来たる参議院選挙で、国民はこの流れを変えるための投票を行うべきだ』、岸田政権は、「最低賃金」に関してはこれまでの政権以上にやる気がないようだ。

次に、6月23日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「年収200万円暮らし」炎上の裏で、最低賃金1000円の公約もみ消す自民党の二枚舌」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305211
・『「最低賃金1000円」という言葉が自民党の公約から消えた  世界各国で着々と賃上げが進む中、日本だけで賃金の横ばいが30年続き、ついには平均給与で韓国にまで抜かれてしまった。さらに、「年収200万円で豊かに暮らす」という書籍タイトルも炎上したことも受けて、「なぜ日本の賃金はいつまでも上がらないのか」という議論が活発に行われている。 その「答え」がつい先日、これ以上ないほどわかりやすい形で国民に示された。6月16日に発表された、自民党の参院選公約である。 6年前から参院選のたびに掲げていた「最低賃金1000円」という数値目標がしれっと引っ込められたのだ。野党の多くは「1500円」など数値目標を掲げているのに、自民党はサクッともみ消したのだ。 岸田政権は「最低賃金1000円の早期達成」を打ち出している。6月7日に発表した「新しい資本主義実行計画工程表」の中にも、表の「枠外」ではあるが、「できる限り早期に全国加重平均が1000円以上となることを目指す」とちゃんと明記されている。にもかかわらず、岸田首相が総裁を務める自民党ではスルー。なぜこんなダブルスタンダードが起きるのか』、「最低賃金1000円」という言葉が自民党の公約から消えた」、とは初めて知った。
・『反対勢力のご機嫌取り国民の妥協こそ低迷の元凶  報道では、「公約に目標額を記載しなかった理由には直接答えず、労働者や企業側の代表者らによる審議会での議論に委ねる姿勢を示した」(東京新聞6月16日)ということだが、「選挙対策」であることは明白だ。 「最低賃金1000円」に反対する中小企業経営者の業界団体である日本商工会議所、全国商工連合会は自民党の有力票田だ。機嫌を損ねたら大勝できない。配慮のために引っ込めたと考えるのが自然だ。実際、2カ月前、日本商工会議所は「最低賃金に関する要望」を政府に届けて、「最低賃金の引上げを賃上げ政策実現の手段として用いることは適切でない」と自民にくぎを刺している。 そう聞くと、「まあ、政治は選挙に勝たないことには何もできないんだからある程度の妥協はしょうがないだろ」と感じる人もいるかもしれないが、実はその“妥協の構図”に日本が30年賃上げできなかった原因がすべて集約されている。 政府は世論の支持が生命線なので「最低賃金引き上げます!」と国民ウケのいいことを盛んにアピールするが、自民党としては中小企業団体からの選挙支援も大事なので、その裏で「実際はそんなに上げませんのでご安心を」と賃金引き上げの足を引っ張らざるを得ない。この「選挙での勝利と引き換えに最低賃金の引き上げをあきらめる」という妥協を、自民党政治家が30年以上も続けてきた結果が、「安いニッポン」である。 この構造は、同じく有力支持団体の日本医師会と自民党の関係を思い出していただければわかりやすい。新型コロナ感染拡大で公立病院などに患者が集中しても「町医者」がノータッチという問題や、「2類相当」の扱いがいつまで経っても見直されず結局ウヤムヤにされたのは、日本医師会が自民党の有力支持団体だからだ。政治力学的に自民党政権は、日本医師会が嫌がる「医療改革」ができないのだ。 賃金もこれとまったく同じことがいえる。世界では最低賃金の引き上げは国民生活を維持するためのメジャーな経済政策だが、日本ではいつまで経ってもウヤムヤにされている。自民党的に有力支持団体の逆鱗に触れる「NG政策」だからだ』、「最低賃金の引上げ」は「骨太の方針」には書き込んであるが、選挙公約からは外したは初めて知った。
・『各国で賃金は上がっているのに 日本は労働者、消費者を貧しくさせる  こんな話をすると脊髄反射で、「最低賃金を大きく引き上げると、中小企業が倒産して失業者が大量にあふれかえるので、自民党は責任政党として慎重に判断をしているのだ」という反論する自民党支持者の方も多い。しかし、実はそういう珍妙なロジックを唱えて、最低賃金を引き上げない国は世界でもかなり珍しい。 例えば、米国のロサンゼルスでは7月1日から、最低賃金がこれまでの時給15ドルから16.04ドル(日本円で約2179円、6月22日現在)へと引き上げられる。これは中小零細だからと免除されるようなものではなく、全ての事業所が対象だ。また、法定最低賃金に物価スライド制が採用されているフランスでも、5月から最低賃金が10.85ユーロ(日本円で約1552円、同上)にアップした。オーストラリアの公正労働委員会も7月から現在の最低賃金20.33豪ドルから21.38豪ドル(日本円で約2006円、同上)に引き上げる。こちらも5.2%の引き上げ幅だ。 アジアも普通に最低賃金を引き上げる。ベトナム政府も7月1日から最低賃金を月額で全国平均6%引き上げる。これは世界的な物価高とかではなく「平常運転」で、20年1月1日にも平均5.5%引き上げている。マレーシアでも5月1日、地域により月額1000~1200リンギットだった最低賃金が全国一律で1500リンギット(約4万6305円)まで一気に引き上げられている。 これらの国々は、今回の世界的な物価上昇で慌てて賃上げをしているわけではなく、それ以前から継続的に最低賃金を引き上げているのだ。しかし、そこで日本のように、「最低賃金を引き上げたら倒産が増えて国内は地獄になる」みたいなヒステリックな終末論が叫ばれることはない。 もちろん、どの国でも反対する中小企業経営者はいる。しかし、物価が上昇して価格が上がるのが当たり前のように、物価が上昇すれば賃金もそれにともなって上がっていくのは経済の常識である。むしろその好循環を後押ししないと、経済は成長しないという考え方がベースにある。 だから日本のように「物価は上がったけど、今こそ辛抱の時だ!」なんて精神論を唱えて、労働者=消費者を貧しくして、自国経済を冷え込ませるようなことはしないのだ。 「いや、韓国を見ろ!最低賃金を引き上げたことで今は地獄のようになっているぞ」とか言う人もいるが、実はそれはウクライナ報道と同じで、「日本人は日本人がハッピーになれるような国際ニュースしか耳に入れない」といういつもの悪いクセだ。 最低賃金を引き上げても失業率には影響がないという海外の論文を紹介して、最低賃金引き上げの必要性を唱えるデービッド・アトキンソン氏の「反論」を引用しよう。 <それはやはり日本のマスコミと日本の評論家の中身のなさを反映しているだけですね。あの時(韓国が最低賃金を引き上げた時)に、失業率はボンっと跳ねた。日本では絶対にするもんじゃないって。(マスコミも)いいこと言うじゃんって。 ただマスコミはそれしか見ないですから。その後どうなったかって、みんなもう無関心・思考停止っていいますか。あの2回目(賃上げを)やった後に、韓国の労働生産性は日本より初めて上にいったんです>(nippon.com 21年10月25日) 確かに冷静に考えれば、「最低賃金を上げたら失業者増」というストーリが思考停止の賜物だということはわかる。) 社員を最低賃金ギリギリで使っている経営者は、確かに最低賃金引き上げによって会社が倒産するかもしれない。しかし、そこで失業者になるのは、その経営者だけだ。社員たちは別にこの会社と「奴隷契約」をしているわけではないので転職をするからだ。しかも、新しい就職先は、最低賃金引き上げによって前の会社よりも賃金が高い。同じスキルの人がそれまでよりも高い賃金を生み出すということは、労働生産性も上がったということだ。こういう現象が、日本全国で広がれば、日本の労働生産性も上がっていくのだ。 日本経済が成長していないから賃上げできないというが、海外のエビデンスを見ると事実は真逆だ。日本は継続的な賃上げをしないから、いつまで経っても経済が成長しないのである』、「韓国」では「あの2回目(賃上げを)やった後に、韓国の労働生産性は日本より初めて上にいった」、最低賃金引上げで生産性が上がった事実は、反対派には不都合なので、無視されたようだ。「日本は継続的な賃上げをしないから、いつまで経っても経済が成長しない」、その通りだ。
・『88年前から指摘されている日本の労働者の賃金が安い理由  では、なぜ日本だけで、「最低賃金を上げたら失業者増」というこの珍妙な経済観が根付いたのだろうか。 ひとつにはこれまで述べてきたように、日本商工会議所など有力経営者団体と自民党がしっかりとタッグを組んで半世紀以上も「最低賃金の引き上げは恐ろしい」という常識を広めてきたことが大きい。これまで自民党議員は、最低賃金の引き上げを阻止すればするほど選挙に強くなるというインセンティブがついたからだ。 そこに加えて、「賃金は低くていい」というのが日本の伝統的な美徳だったということも大きい。それが保守政党である自民党の政策的にもフィットしたし、保守的な考えの政治家も受け入れやすいということもあるだろう。 実は日本の低賃金はこの30年の問題だと勝手に思い込んでいる人が多いが、日本が「高賃金」だった時代などほんのわずかで、日本は近代からずっと低賃金だ。 例えば、今から88年前の経済書「平価切下とソシアルダンピングの話」(昭和9年 和甲書房)の中で、「日本の労働者の賃金は何故安いか」という問題が論じられている。低賃金の原因として、日本が世界第2位の人口密度をもっている「超満員の国」だからなどさまざまな考察がされているが、注目すべきは、現代にも通じる中小零細企業の問題を指摘していることだ。 「第三には我が国の企業組織だ。紡績業や鉄工業・船舶製造業等の如きは欧米各国に劣らぬ大規模な進んだ設備を持つているが、尚一般には小規模の手工業・家内工業が甚だ多く取り入れられている。(中略)家内工業の性質として、少ない資本で長い時間を働き。家族全体がこれを手伝って、一人前の仕事をするといふやうな事から、賃金はグッと低下される」(P.87) 日本企業の99.7%は中小企業で、労働者の7割が働いている。中小企業の賃金が低いので、日本の賃金は低い。約90年前から日本の産業構造と、それがもたらす低賃金という問題は何ひとつ変わっていないのだ。 このように、「小さな会社の賃金はグッと低下される」というのが日本経済の伝統だとすると、自民党が最低賃金の引き上げに消極的なのも納得ではないか。 保守政党というのは基本的に、これまで続いてきたことを続けようという考えがベースにある。そこには科学的視点や合理性はない。「続いてきたことを守る」ということが何よりも大事なのだ』、「保守政党というのは基本的に、これまで続いてきたことを続けようという考えがベースにある。そこには科学的視点や合理性はない。「続いてきたことを守る」ということが何よりも大事なのだ」、「科学的視点や合理性はない」、のは確かだが、寂しいことだ。
・『年収200万円で豊かに暮らす道は日本人にピッタリ!?  低賃金を守る、という自民党の基本スタンスを多くの日本人は消極的だが受け入れている。 今回、自民の公約から「最低賃金1000円」が落ちたということにも、ほとんど関心がない。「給料が上がらない」と文句は言っているが、そこにマグマのような怒りはなく、「まあしょうがないか」とあきらめてしまっている。 これも約90年前から続く日本人の伝統である可能性が高い。先ほどの経済書が興味深いのは、日本人労働者が低賃金である理由として、日本人の国民性も指摘していることだ。 「第四には国民の生活が伝統的に、一般的に簡易だから、安い賃金でも暮し得る。第五に、日本人は個人主義的な欧米人と違ひ、家族主義であり、家族員各自の稼ぎを出し合つて暮しを立てて行く良風があるから、自然安い賃金でも満足している。第六に、日本は資源に乏しいから、どうしても賃金が安くなる。第七に、労働能力が低いから賃金も安い。これ等の事で、日本人は安い賃金でありながら大した苦痛を感じてはいないのだ」(同上) 最近、「年収200万円で豊かに暮らす」という書籍タイトルが炎上したが、実はあれは日本人の本質をついている。我々は祖父母の世代から、「労働者ってのは低賃金で生きるものだ」と受け入れて、さまざまな理由をつけて自分たちを納得させてきた。一方、企業経営者や政治家という「上級国民」は、その低賃金労働者をこき使って、彼らがそこそこ満足をする豊かな社会をつくってやる。そういう役割分担がしっかりなされていた。 今回の自民党の公約からも、そういう日本の伝統的な社会システムが、実が100年経過してもそれほど変わらず続いているという現実を浮かび上がらせている。 中小企業経営者団体によれば昨年、日本は最低賃金を約3%ほど引き上げたが、経済に大変なダメージを負わせているという。物価高で疲弊する中小企業にはこれ以上の重い負担は課せられないという。 世界とは全く逆の考え方だが、これが日本の伝統的な経済観なのだ。自民党も参院選で大勝すると言われているので、この流れは止められないだろう。そろそろ我々も悪あがきはやめて、先人たちのように賃金が上がらない事実を受け入れて、「年収200万円で豊かに暮らす道」を模索していった方がいいのかもしれない』、「日本は最低賃金を約3%ほど引き上げたが、経済に大変なダメージを負わせているという。物価高で疲弊する中小企業にはこれ以上の重い負担は課せられないという。 世界とは全く逆の考え方だが、これが日本の伝統的な経済観なのだ。自民党も参院選で大勝すると言われているので、この流れは止められないだろう」、「日本」はますます国際的潮流から取り残されることにならざるを得ない。寂しい限りだ。

第三に、7月1日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・百年コンサルティング代表の鈴木 貴博氏による「最低賃金を巡る「大矛盾」、正社員増加でも解決しない問題の本質とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305733
・『最低賃金問題の裏にはあまり知られていない三つのファクトがある  参議院議員選挙の争点のひとつになっているのが、最低賃金の問題です。現在の日本の最低賃金は全国加重平均で930円。コロナ禍が始まった2020年が1円しか上がらなかったのを除き、過去5年では毎年3%程度上昇して現在の賃金水準に至ります。 政府はこの最低賃金を早期に1000円台に乗せたいといいますが、年3%ペースの上昇ではそこまで到達するのにあと3年かかります。海外の最低賃金を見るとEU諸国が1600円近辺、アメリカは州にもよりますが、例えばカリフォルニア州は約2000円と、G7の中では日本はかなり置いていかれた感じです。 国民感情としては最低賃金を上げてもらわないと値上げラッシュの中で生活が成り立たない一方で、以前記事に書かせていただいたように経済学的には最低賃金を人為的に動かすと逆に雇用が減るなどマイナス点が大きいことも分かっています(詳細は、『日本の最低賃金を1500円に引き上げたら起こる「三つの悪いこと」』を参照)。 そもそもの問題として、最低賃金を議論する政治家も行政も有識者もメディアの社員も、基本的に最低賃金で働いているわけではないという矛盾があります。 そして、最低賃金近辺で働いている人たちがどのような生活をしているのかはSNSなどで個別の情報は入る一方で、統計的な数字はあまり知られていないものです。 実は最新の数字を見ると、最低賃金の問題は一般の読者の想像とは少し違う問題になりかけているかもしれません。あまり知られていない三つのファクトを提示したいと思います』、興味深そうだ。
・『ファクト1:コロナ禍で非正規労働者は101万人減ったが正規労働者が61万人増えている  2020年にコロナ禍が始まった当初、飲食業界や観光業界など多くの業界で「雇い止め」が問題になりました。企業が需要の急激な減少を乗り切るために、雇用の調整弁として非正規労働者の雇い止めに走ったことがニュースになったのです。 ミクロの視点では非正規労働者の苦境が報道されたものですが、マクロの数字を見てもこの2年間で非正規労働者は101万人も減少しています。これは令和3年の労働力調査からの数字です。 過去10年間で見ると、コロナ禍以前は非正規労働者が一貫して増加していたのにもかかわらず、この2年間だけ大幅に減少したことがわかります。 しかしその一方で、実はアベノミクス以降、日本の正社員の数も一貫して増えています。日本の正社員数は過去8年間で267万人増加、特にコロナ禍では伸び率が上がり2年間で正社員は61万人増えました。 この差し引きで、コロナ禍で減少した雇用は40万人ほどです。コロナ禍で雇い止めが起きた一方で、より安定した雇用を求めて正規雇用に流れた元非正規労働者も結構な人数が存在したわけです』、「コロナ禍で非正規労働者は101万人減ったが正規労働者が61万人増えている」、これほど「正規労働者」が増えたとは驚かされた。
・『ファクト2:若年層のパートアルバイトの従事者と希望者は過去10年で4分の3に減少  同じく労働力調査で年齢階級別の非正規労働者の推移を見ると、全体の中でも15歳から34歳までの若年層の非正規比率が下がっていることがわかります。特に25歳から34歳の働き盛りの層の非正規比率はアベノミクスの2014年以降、毎年一貫して下がり続けています。 そして非正規の仕事についた理由を尋ねると「正社員の仕事がない」という回答は非正規全体の1割と少なく、かつ前年から16%も減っています。 今や非正規労働者の最大の理由は「自分の都合のよい時間に働きたいから」が全体の約3分の1で、前年からは35%も増えています。 つまり、「若年層に雇用がなく仕方なく非正規を選んでいる」という就職氷河期からリーマンショックにかけてよく見られたのとは違う構造へと、非正規雇用がシフトし始めているのです』、「非正規雇用」が自発的なものに「シフトし始めている」のも初めて知った。
・『ファクト3:最低年収近辺の若年労働者世帯の5人に1人は正社員  ここまでの記事を読まれて、「正社員の仕事が増えているなら、最低賃金の問題は社会全体から見れば大きな問題ではなくなっているのではないか?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。 しかし、実は結論は逆です。最低年収近辺で働く人は減っているのではなく、むしろ増えているのです。 そもそも、最低賃金近辺で働く人の数が政府の統計ですぐに出てこないということ自体に問題があるのですが、この問題に詳しい都留文科大の後藤道夫名誉教授の試算によれば、2020年に最低賃金の1.1倍以内で働いている人の割合は14.2%で、2009年の7.5%から倍近くまで増加しています。最低賃金から1.2倍以内に範囲を広げるとその割合は23.7%と全従業員の4分の1近くに達します。 ただ、最低賃金に近い労働者はアルバイト・パートが多いことが知られていて、かつ女性のパートの多くが家計を助けるために年間103万円の壁を意識しながら働いていることもよく知られているファクトです。したがって、最低賃金を貧困の問題として捉えるならば、世帯主の年収を調べる必要があります。 では、世帯主が最低賃金近辺という比率はどれくらいなのでしょうか? これも統計を加工して分析しないと出てこないのが難点なのですが、せっかくなので分析してみました。 最低賃金930円で週40時間、年間2000時間フルタイムで働いた場合に年収は186万円になります(注:東京都や神奈川県では最低賃金が1000円を超えているので、フルタイムで働くと年収は200万円を超える)。では、世帯主の年収が200万円未満の世帯はどれくらいの比率なのでしょうか? 2019年に発表された独立行政法人労働政策研究・研修機構の「若年者の就業状況・キャリア・職業能力開発の現状」というリポートの付属集計表から独自に数字を拾ってみると、次のようなことがわかります。25歳から49歳までのいわゆる若年層の世帯のうち、世帯主の年収が200万円未満の世帯は全体のちょうど10%です。 それで、今度はその世帯主年収が200万円未満の世帯主の働き方を集計すると、22%が正社員なのです。わかりやすく繰り返すと、「若い世帯の約1割が最低賃金レベルの年収で、その中の2割は正社員なのにそのような暮らしをしている」ということです。 最低賃金レベルの世帯は数としては男性世帯主と女性世帯主がちょうど半々ぐらいなのですが、男性世帯主の場合は正社員が28%、つまり若い男性のうち最低賃金レベルの生活をしている人の約3割が正社員ということです。 この「最低賃金レベル」の範囲を、世帯主年収が250万円未満までに広げると全世帯の17%で、その中での正社員比率は38%まで上がります。数字を切り上げてしまうことにはなりますが、約2割が最低賃金レベルで、そのうち約4割が正社員です。ここからわかることはワーキングプアの問題は非正規だけの問題ではなく、今では正社員の問題へと変質し始めているのです』、「ワーキングプアの問題は非正規だけの問題ではなく、今では正社員の問題へと変質し始めている」、初めて知ったが、深刻だ。
・『最低賃金問題の本質は人材の固定化にある  さて、ここからは以上の三つのファクトをもとに、これからの日本社会がどうあるべきかを考えてみましょう。 実は今、経営者の話を聞くと幅広い業種で、とにかく人が採れない状況が続いているようです。新規採用時には、最低賃金よりも上乗せしないと採れない。アルバイト・パートでも不人気職種であれば、条件を上げないとダメだという人もいます。 つまりここが一見おかしなところで、市場原理に任せていたら自然と最低賃金よりも高いところに需給がマッチするポイントが生じているのです。しかし実際には最低賃金近辺で働く人の数が増えている。この矛盾はいったいどういうことか?というのが最低賃金問題の本質です。 そうなる理由は、人材の固定化にあります。実は我が国の転職者の数はコロナ禍で2年連続して3割以上減少しています。仕事の条件よりも安定を重視する人が多いことで日本人はあまり転職しない。そして企業から見れば、固定化している部分については賃金を上げなくていいのです。 人手が足りない今の状況では求人の際には売り手市場で、私たち労働者側の方が交渉力を持ちます。「おたくの条件が悪ければ他を探しますよ」というわけです。 ところが、いったん就職して落ち着くと交渉力の関係は逆になります。従業員が安定を求めているのがわかれば、経営者の側が「他に移りたければどうぞ」という立場に変わるわけです。 最低賃金は毎年3%ずつ上がっていると説明しましたが、会社の中での賃上げが毎年3%というわけではありません。要するに最低賃金が3%上がる度に、それまで最低賃金だった人に加えて新たに最低賃金を下回る人が出てきて、その人も最低賃金の対象者になります』、「いったん就職して落ち着くと交渉力の関係は逆になります。従業員が安定を求めているのがわかれば、経営者の側が「他に移りたければどうぞ」という立場に変わるわけです」、「最低賃金が3%上がる度に、それまで最低賃金だった人に加えて新たに最低賃金を下回る人が出てきて、その人も最低賃金の対象者になります」、なるほど。
・『最低賃金を巡る「大矛盾」、正社員増加でも解決しない問題の本質とは  一番低い人だけが3%上がっていく現象が10年続けば、社会全体で最低賃金近辺で働く人の割合は増えていく。この現象が先ほど紹介した後藤名誉教授の分析結果の原因でしょう。こういった構造を踏まえて考えないと、日本の貧困問題はなかなか根絶するのは難しいという話でした。 さて、最低賃金近辺の人が増える中で日本もいよいよベーシックインカムを真剣に議論しなければいけないと思います。私の新刊『日本経済復活の書』では、ベーシックインカム論について詳しく論じていますので、ご興味のある方はこの本をぜひ手に取ってみてください』、「一番低い人だけが3%上がっていく現象が10年続けば、社会全体で最低賃金近辺で働く人の割合は増えていく」、これを避けるためには、やはり全体へのベアも重要なようだ。
タグ:最低賃金 (その2)(最低賃金1000円のまやかし 古賀茂明 政官財の罪と罰、「年収200万円暮らし」炎上の裏で 最低賃金1000円の公約もみ消す自民党の二枚舌、最低賃金を巡る「大矛盾」 正社員増加でも解決しない問題の本質とは) AERAdot 古賀茂明氏による「最低賃金1000円のまやかし 古賀茂明 政官財の罪と罰」を」 岸田政権は、「最低賃金」に関してはこれまでの政権以上にやる気がないようだ。 ダイヤモンド・オンライン 窪田順生氏による「「年収200万円暮らし」炎上の裏で、最低賃金1000円の公約もみ消す自民党の二枚舌」 「最低賃金1000円」という言葉が自民党の公約から消えた」、とは初めて知った。 「最低賃金の引上げ」は「骨太の方針」には書き込んであるが、選挙公約からは外したは初めて知った。 「韓国」では「あの2回目(賃上げを)やった後に、韓国の労働生産性は日本より初めて上にいった」、最低賃金引上げで生産性が上がった事実は、反対派には不都合なので、無視されたようだ。「日本は継続的な賃上げをしないから、いつまで経っても経済が成長しない」、その通りだ。 「保守政党というのは基本的に、これまで続いてきたことを続けようという考えがベースにある。そこには科学的視点や合理性はない。「続いてきたことを守る」ということが何よりも大事なのだ」、「科学的視点や合理性はない」、のは確かだが、寂しいことだ。 「日本は最低賃金を約3%ほど引き上げたが、経済に大変なダメージを負わせているという。物価高で疲弊する中小企業にはこれ以上の重い負担は課せられないという。 世界とは全く逆の考え方だが、これが日本の伝統的な経済観なのだ。自民党も参院選で大勝すると言われているので、この流れは止められないだろう」、「日本」はますます国際的潮流から取り残されることにならざるを得ない。寂しい限りだ。 鈴木 貴博氏による「最低賃金を巡る「大矛盾」、正社員増加でも解決しない問題の本質とは」 ファクト1:コロナ禍で非正規労働者は101万人減ったが正規労働者が61万人増えている 「コロナ禍で非正規労働者は101万人減ったが正規労働者が61万人増えている」、これほど「正規労働者」が増えたとは驚かされた。 ファクト2:若年層のパートアルバイトの従事者と希望者は過去10年で4分の3に減少 「非正規雇用」が自発的なものに「シフトし始めている」のも初めて知った。 ファクト3:最低年収近辺の若年労働者世帯の5人に1人は正社員 「ワーキングプアの問題は非正規だけの問題ではなく、今では正社員の問題へと変質し始めている」、初めて知ったが、深刻だ。 「いったん就職して落ち着くと交渉力の関係は逆になります。従業員が安定を求めているのがわかれば、経営者の側が「他に移りたければどうぞ」という立場に変わるわけです」、「最低賃金が3%上がる度に、それまで最低賃金だった人に加えて新たに最低賃金を下回る人が出てきて、その人も最低賃金の対象者になります」、なるほど。 「一番低い人だけが3%上がっていく現象が10年続けば、社会全体で最低賃金近辺で働く人の割合は増えていく」、これを避けるためには、やはり全体へのベアも重要なようだ。
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地方自治体(その1)(4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”、「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ) [経済政策]

今日は、地方自治体(その1)(4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”、「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ)を取上げよう。

先ずは、本年5月25日付けデイリー新潮「4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”」を紹介しよう。
・『山口県阿武町で起きた誤送金事件は、劇的な結末を迎えた。回収が不可能と思われていた絶望的な状況から一転、町は誤送金した金額の9割に及ぶ約4300万円の回収に成功したのだ。町を救った“ヒーロー”は、昭和30年生まれの地元・山口県の弁護士。同業者の間でも、思いがけない奇策に注目が集まっているという』、新聞報道では込み入った事件が理解し難いので、大いに興味深い。
・『ドラマのような大逆転劇  「ポイントは回収先として、お金を持っていない24歳男性ではなく、決済代行業者に目をつけたこと。しかも、国税徴収法に基づき、わずかしかないであろう滞納税金に基づき、男性が決済代行業者に有していたとされる債権を全額差し押さえるという奇策に驚きました。やはり、自治体の弁護士は考えることが違うなと」 こう興奮気味に語るのは、「渥美坂井法律事務所弁護士法人 麹町オフィス」代表の渥美陽子弁護士だ。渥美氏ばかりではない。いま弁護士界隈のTwitterには、奇跡の債権回収を成し遂げた阿武町の顧問弁護士に対し、「ドラマのようだ」「これぞプロ」といった賞賛の嵐が吹き荒れているのだ。 大ピンチからの逆転劇を見せたのは、山口県で弁護士事務所を営む中山修身氏。山口県の法曹界では名の知れた、御年67歳の弁護士である。誤振込み問題が発生してからは、中山氏に対する批判の声も大きかった。「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」という声もその一つだ。 だが、「債権回収業務は結果がすべて。使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だと皆が褒め称えています」(渥美氏)。まさに、9回裏に一発大逆転のホームランを放ったのである』、確かに「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」との問題はあるにしても、「使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だ」、その通りだ。
・『公序良俗に反する契約  いったい中山氏はどのような手法で、不可能と思われた回収を成し遂げたのか。 田口容疑者は、自分の口座に振り込まれた4630万円のほぼすべてを、オンラインカジノに使ったと供述している。 カジノ口座への資金移動は、デビット決済と決済代行業者への振込みだった。賭博罪がある日本では、海外にサーバーがあったとしてもオンラインカジノでのギャンブルは違法。そのため、カジノサイトへ多額の資金を直接移動させるのは難しく、決済代行業者を利用するのが一般的だ。田口容疑者は約340万円をデビット決済で動かしたが、残りの約4300万円を国内3社の決済代行業者3社の口座に移した。 結論から言えば、中山氏はこの3社に詰め腹を切らせたわけである。 「報道によると、阿武町は男性と決済代行業者との間の委任契約は、公序良俗に反する契約で無効だと主張したようです。この主張が通ると考えるならば、決済代行業者は、口座に入金されたお金を男性に返さなければなりません。阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえたのだと考えられます」(渥美氏)』、「阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえた」、誠に見事な方法だ。
・『恫喝  その際、中山氏が持ち出したのが「国税徴収法」であった。金額は不明だが、田口容疑者はなんらかの税金を滞納していたようだ。 「滞納処分では、民間の案件とは異なり、裁判所で判決を取らなくても徴収職員が滞納者の財産を差し押さえることができます。だから、町は男性の預金とみなされた決済代行業者の預金をいきなり差し押さえることが可能だったのです」(同) それだけではない。その際に、法に基づき”恫喝”したのだ。中山氏は、決済代行業者の口座がある二つの銀行に対して、「犯罪による収益の移転防止に関する法律」8条1項に基づき、犯罪による収益と関係する「疑わしい取引」が行われているとして金融庁への届出と、同庁の定める「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応を求めた。 「あなたたちは怪しい取引をしていますよねと暗に圧力をかけたのです。決済代行業者にもやましいところがあったのでは。これ以上突っ込まれることは避けたいと考え、自ら町に全額を返金してしまったのでしょう」(渥美氏)』、「国税徴収法」を持ち出したり、「「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応」、を求めるなど地方の弁護士とは思えないような獅子奮迅の働きには、驚かされた。
・『決済代行業者は泣き寝入りか?  町は、決済代行業者の預金を差し押さえたが、そこから最終的に受け取ることができるのは、あくまで、滞納されていた税金の額に限られる。しかも、決済代行業者は約4300万円を町に振り込んだため、滞納税金との差額は田口容疑者が自分のものとして、返還を求めることができた。他方、町も田口容疑者に対し、誤送金した4630万円の返還を求めることができる状況にあった。町は、これらの返還請求権を事実上相殺する“ウルトラC的手法”で、田口容疑者に対する債権の回収に成功したわけである。 割を食ったのは決済代行業者である。現在、山口県警が捜査にあたっているが、海外で運営されているオンラインカジノの金の動きを追うのは困難で、田口容疑者が実際にギャンブルで使いきったかどうかはわかっていない。だが、もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる。 「それが彼らのリスク判断なのでしょう。決済代行業者が男性に対して、損害賠償請求を検討するかもしれませんが、男性は無資力でしょうからそこから回収は難しいのでは」(同)』、「もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる」、「決済代行業者」も「自腹で穴埋め」せざるを得ないところに追い込まれたのだろう。
・『反マスク主義者?  しかも、影響は今回のケースにとどまらない可能性があるという。 「決済代行業者が阿武町からの請求を認めて男性からの入金を全額返金したということは、自ら公序良俗に反する取引をしていたと認めてしまったに等しい。今後、オンラインカジノで負けた利用者が、決済代行業者に対し公序良俗に反する取引だったため無効であり、入金額相当の債権があると主張し始めるかもしれません」(渥美弁護士) 決済代行業者にとっては思わぬ波及効果が起きかねないというのである。見事、阿武町を救ったヒーローになった中山氏であるが、24日の記者会見では、突飛なことを言い出して、「変な弁護士」とのレッテルも貼られたという。 「マスクをつけないで会見に臨んでいたのですが、いきなり話の途中で、『申し訳ありませんけれども、私はそういう義務に従うつもりがない。遵法精神がない、同調しないタイプの人間ですので』と断り出したので、ざわつきました」(地元記者) これだけのことを成し遂げたのだから、多少の変人ぶりは目をつぶってもいいのかもしれない』、信念でマスクをしないほど同調圧力に屈しない「変人」だからこそ、「阿武町を救ったヒーローにな」れたのかも知れない。

次に、5月29日付け文春オンライン「「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/54706
・『山口県阿武町役場が新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金4630万円を誤って24歳の男性に振り込み、「オンラインカジノで使い果たしたから返せない」と突っぱねられた事件。 「小さな自治体では、まともな行政ができるわけがない」などと批判する著名人もいるが、誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」と指摘する市役所職員もいる。 コロナが流行した当初は「間違ってもいいから、とにかく早くカネをばらまけ」と主張する識者もいた。確かに困窮した人には一刻も早く届ける必要がある。が、誤支給を経験した自治体では役所だけでなく、住民にも深い傷が残った。それが一気に顕在化したのが阿武町だった。 阿武町ではオンラインカジノの決済代行業者から約4300万円が役場に“返金”されるなどしたが、誤支給の判明から2年半が過ぎても、まだ返金されていない自治体がある。大阪府摂津市だ。ただしこの場合、コロナ関連ではなく、住民税還付の事例である』、「誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」、実務をやらされる地方自治体は大変なようだ。
・『1502万円も過大に還付  間違いが起きたのは2018年春。市役所の課税部門で納税申告書類をコンピュータ入力していた時、本来は166万とすべきところを職員が1ケタ多く打ち込んだ。このため住民の男性に1502万円も過大な住民税を還付してしまった。 だが、市役所で気づく職員はなく、翌19年の課税作業も終えた。「おかしい」と指摘したのは大阪府だった。 摂津市の担当者が説明する。 「国や府は毎年、自治体の課税データの比較を行っています。その過程で摂津市の数値は年度間の乖離(かいり)が大きいと分かり、府の担当者から『一度確認して下さい』と連絡が入りました。『ええっ』ということで、2019年春の課税データを調べ直したのですが、これは合っていました。 『前年の数字がちょっと大きいな』とさかのぼって調べると、2018年に過大な還付をしていたと分かりました。税関連では特に慎重にチェックをしてきたはずなのですが、膨大な事務量となる時期だけに漏れてしまったようでした』、「2018年に過大な還付をしていた」のが、すぐに判明しないような会計システムにも問題がありそうだ。
・『謝罪・説明を重ねるも裁判に  摂津市は慌てて男性に連絡し、お詫びの文章も届けた。事情説明にも訪ねた。2019年10月のことだ。 「事情は分かっていただけたようでした。すぐに返金してほしいとお願いしたのですが、これには明確な意思表示がありませんでした。その後も何度もお願いしたのですけれど……」と、市の担当者は表情を曇らせる。 翌年の2020年2月、男性は弁護士を立て、その後は代理人同士の話し合いになった。) 「3月ぐらいになって、『返還義務を負うにしても、気づかずに使ってしまったものについては返せない』と通告されました。市としては『気づかずに使ってしまうような額ではないのに、悪意があったのではないですか。返してください』と申し上げました。双方の主張は交わらず、裁判で決めてもらうしかないと大阪地裁に提訴しました」』、「摂津市」の「提訴」は当然だ。
・『市が勝訴したものの……  判決は昨年10月、市が勝訴した。地裁は「株の売買で生計を立てており、過去に多額の税金を納めていたため、不思議に思わなかった」という男性の主張を退け、「株取引の利益がどの程度残るかはまさに死活問題で、税額などを把握していなかったとは考えられない」などと認定。男性は控訴しなかったので、判決が確定した。だが、その後返金はなされていない。 このまま無視を決めていたら、事態は悪化するばかりだ。判決では男性に年利5%を付けて市に返金するよう言い渡されており、約1500万円だと1年間で75万円にもなる。返すのが遅れれば遅れるほど積み重なっていく。 「そうしたことも含めて、早く返金していただきたいとお伝えしています。今後も粘り強く交渉していきたい」と市の担当者は話していた』、「市が勝訴したものの……」「返金はなされていない」、悪質だ。「今後も粘り強く」請求していくほかないだろう。
・『定額給付金の二重振り込み  ところで、コロナ関連の給付では、多くの自治体でミスが起きている。 最も混乱したのは2020年5月から全国民に1人当たり10万円が配付された「特別定額給付金」だろう。コロナ禍で初の緊急事態宣言発出(2020年4月7日から)という事態が進行する中で議論がなされ、一度は所得が低下した世帯に30万円を給付するとされた。だが、安倍晋三首相(当時)が4月17日に「一律1人10万円」に転換。4月30日に補正予算が可決されて、バタバタと配付が決まった。 政府がマイナンバーカードを使ったオンライン申請を導入したため、暗証番号を忘れてロックがかかる人が続出し、市区町村の窓口はパニック状態に陥った。 こうした給付を決めるのは政治家で、制度を具体化させるのは省庁だ。しかし、実際に支給の作業をするのは市区町村である。自治体の現場では支給決定前から国の動きをにらみながら準備を進めたが、そもそも余裕のない状態だった。 「そうでなくても行革で職員数はギリギリにまで削っています。コロナ対応の様々な業務が発生し、多忙を極めていました。パンク寸前になった保健所への応援は住民の命にかかわりかねない問題でした。そうした時に給付金の配付が始まったのです。きちんと配付するだけでも大変なのに、マイナンバーカードなどの混乱に足を取られました。二重申請をした人がいないかどうかなどの確認や照合作業にも膨大な人数が割かれました」と、東京23区の区役所幹部が語る。 このように、誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた。 2020年5月18日、福島県天栄村で二重振り込みのミスが発覚した。 「村の指定金融機関のJAで朝から振り込み作業を始めたところ、システムにエラーが表示されたのです」と、総務課職員が話す。) それと同時に「二重に振り込まれている」と住民から役場に通報があった。当時の人口は約5500人。「住民の顔が見える村」ならではのことだろう。 JAはすぐに振り込み作業を停止したが、この日に予定していたのは375世帯1162人分(1億1620万円)だった』、「誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた」、ここまでくると、政府の責任も重大だ。
・『ミスの原因は何だったのか?  総務課ではすぐさま職員が手分けして、申請書に記された番号に電話を掛け、「そのまま口座に残しておいて下さい」とお願いした。「ほぼその日のうちに全員と連絡がつきました。何が起きたのか説明してほしいという人には、職員が訪問しました」と前出の総務課員が語る。 誤って振り込まれたうち、35人分を除いては、翌日までに金融機関で戻す手立てができた。「現金で返したいという村民もいて、職員が受け取りに行きました。こうして3週間後の6月8日には全額が戻りました」。 原因は二重のデータ作成だった。同じデータを2日間にわたってJAに渡していたのである。 「村には事務職員が60人弱しかいません。出納担当は2人。結果としてはチェックが不十分でした。その後は出納室だけでなく、他の課でも改めて確認するようにしました」と総務課では説明する。個人情報が絡むデータは少数で取り扱うのが原則だが、誤りをなくす確認作業は課をまたいで行うことにしたのだった』、「同じデータを2日間にわたってJAに渡していた」、のが「出納担当は2人」なのに、何故発生するのだろうか不可解だ。
・『寝屋川市では1000世帯近くに「二重振り込み」  一方、金融機関で食い止められなかった自治体もある。大阪府寝屋川市だ。市のチェックで翌日振り込まれる1000世帯分近くが「二重振り込み」と分かったが、銀行では既に処理が終わっていた。 寝屋川市で支給ミスが表面化したのは2020年5月21日の振り込みだ。金額が「足りない」と市民から連絡が入った。給付金は世帯ごとに代表者に一括して振り込まれる仕組みになっているのに、額が世帯人数分に足りなかったのだ。そこで、翌日にチェックすると、5月21日分の振り込みでは195世帯が「過少振り込み」になっていた。 その後、全データを検証すると、5月26日に振り込む予定にしていた993世帯2196人分(2億1960万円)が二重になっていると前日に分かった。市は急いで止めようとしたが、前述したように無理だった。 原因は市が独自に構築したコンピュータのシステムだ。 当時の寝屋川市には23万人を超える人口があり、手作業による配付作業などできるはずがなかった。このためシステムを使って配付データを作成したのだが、コロナ禍で企業活動が抑制され、外部に委託すると時間が掛かると分かった。そこで、エクセルを活用し、職員がシステムを作った。「少しでも早く配付したい」という思いからだ。 システムには二重給付を避けるため、振り込みを終えたデータと突き合わせて、重複があれば弾く仕組みを採り入れていた。ところが、993世帯分については振り込みデータが登録されていないという不具合が生じていて、突き合わせができなかった。 その後、さらに56世帯97人分(970万円)でも二重振り込みなどが起きていたと分かる。市は電話や訪問で謝罪し、理解が得られた世帯から納付書を送り、返金分を振り込んでもらった。 これまでに全体の98.9%が戻ってきたとしている』、「993世帯分については振り込みデータが登録」されたのを確認してから、処理すれば、「二重振り込み」などのトラブルは避けられた筈だ。
・『13世帯が最後まで返金に応じなかった  使ってしまったのか、一括では返金できない人もいて、少額に分けて返す人もいた。現在も9世帯が分納をしている。 最後まで返金に応じなかった13世帯については、裁判に訴えた。市が債務名義を取得し、強制執行で預金口座を差し押さえようというのである。執行額は誤支給の1人当たり10万円に加え、1割程度の訴訟費用が上乗せされる。既に5世帯で裁判が終わり、うち3世帯が強制執行などで完納、2世帯は分納するなどしている。 残る8世帯は係争中だが、「裁判所から通知が行っているはずなのに、法廷に姿さえ見せてくれず、市が証拠となる資料を提出するだけの裁判が続いています。家を訪問しても誰も出てきません。住民票はあり、交付申請では本人確認の書類も添えて手続きをしたのに、どうしたことか。預金口座にもほとんど残額がないようです」と、市の担当者はいぶかしがる。 こうして誤支給から2年以上が経過した今も処理が続き、市の負担は大きい。他業務との兼務ではあるが、担当の係(3人)を置いているほどだ。間違いは一瞬でも、後遺症は重く、長く残る』、ゴネ得を許さないためにも訴訟に訴えるのは当然だ。
・『誤支給の処理にも人件費がかかる  処理に当たる人件費もばかにならない。 寝屋川市ではないが、どれくらいかかるか、うかがい知る資料がある。 コロナ禍からさかのぼること約5年前のことだ。消費税が5%から8%に上がった2014年、政府は住民税が非課税となる低所得者を対象に臨時福祉給付金制度を設け、2014年は1人当たり1万円、2015年は6000円、2016年は3000円を支給した。作業を行ったのはもちろん市区町村だ。 香川県高松市では、この給付のためにコンピュータのシステムを構築して、対象者選びなどを行った。しかし、税関係のデータを一部組み込まなかったため、除外されるはずの人にも給付された。 誤りが判明したのは2015年の受け付け期間中だ。制度が始まった2014年からだと、451人に計501万1000円が誤支給されたと分かった。 対象者に連絡を取り、事情を説明して、返還作業をお願いしたのだが、発覚直後の2015年11月10日から12月6日までの間に職員の時間外手当などで40万円あまりが掛かっていた。この数字は当時、市に出された住民監査請求で分かっている。 500万円の返金に対して、わずか1カ月弱で40万円の経費。その後も返還がらみの業務は続いたので、額はこれ以上にかさんだと見られる』、「誤支給の処理にも人件費がかかる」のは当然だが、公正な処理のためであれば、人件費がかかってもやむを得ないと思う。
・『神戸市でも“誤支給”が起きていた  コロナ禍に話を戻そう。1人10万円の特別定額給付金に関しては、大都市でも誤支給が発生した。 兵庫県神戸市は、18世帯33人に対して二重に振り込むなどした。 同市は「人口の多い政令指定都市であっても早く支給できるように」と、コンピュータのシステムができあがる前から、手作業でエクセルに入力を開始した。 だが、「入力データの行ずれが起きるなどして人の目で行うチェックは大変でした」と、当時の担当者が語る。誤支給はそうした影響で発生したようだ。 さらにこの担当者は「制度上、やむを得ない“誤支給”もありました」と振り返る。 例えば、DV(家庭内暴力)。 「給付金は世帯ごとの支給ですが、妻が避難している場合は別世帯で配らなければなりません。しかし、避難中と認められる前に、夫から給付申請があれば妻の分も含めて支給されてしまいます。国の通知では、加害側の夫に返還請求しなければならないのに、『妻が本当に10万円もらったかどうか、俺は分からない』『確認するため妻の連絡先を教えてくれ』などと言われ、返金のお願いには大変苦労しました」 このような誤支給はどうしたら避けられるか。「内部の議論では、『全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなるだろう。全員に個別の番号があったら、アメリカのように申請すら要らない』という話になりました」と話す』、「全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなる」、その通りだが、実現するのはまだ先だ。
・『「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」  一連の作業を通しては、ミスが起きかねない要素も多々あった。申請書類に添付された預金口座の番号が書き間違えられていたり、通帳に記載された金融機関の支店が統廃合でなくなっていたりしたのだ。「各戸へ書類を郵送するにも、何十万世帯分の封書を急に印刷してくれる事業所は限られていて、調整が難しかった」と語る。 誤支給が見つかった時の対応に、回り道はなかったようだ。 「すぐに連絡をして説明し、誠意を込めて謝罪しました。その人には何ら瑕疵(かし)がないのです。むしろ返金作業で迷惑を掛けてしまいます。たいていの場合は誤支給を知らず、驚いていました。怒るよりもびっくりされていて、真摯に謝ると、気は心というか、通じる部分がありました」 村社会のような人間関係がない都市部では特にそうだろう。 「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び。これは突発業務であろうが、通常業務であろうが変わりません。仕事の基本ではないかと思います」。そう淡々と話していた』、「「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」は自治体の大小を問わず、徹底すべきだ。
タグ:地方自治体 「国税徴収法」を持ち出したり、「「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」に基づく対応」、を求めるなど地方の弁護士とは思えないような獅子奮迅の働きには、驚かされた。 「阿武町は、男性は決済代行業者に対しこのお金の返還を請求できると主張したうえで、決済代行業者の銀行預金を男性の銀行預金とみなし、差し押さえた」、誠に見事な方法だ。 確かに「なぜ、田口翔容疑者に使い込まれる前に、彼の口座の仮差押えに動かなかったのか」との問題はあるにしても、「使い込まれたと気づいてからの迅速な動きについては、見事だ」、その通りだ。 デイリー新潮「4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”」 新聞報道では込み入った事件が理解し難いので、大いに興味深い。 (その1)(4630万円誤送金 9割回収の奇跡を起こした阿武町顧問弁護士がとった“ウラ技”、「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ) 「もし彼の供述が事実ならば、決済代行業者は、田口容疑者がギャンブルで浪費した4300万円を自腹で穴埋めしたということになる」、「決済代行業者」も「自腹で穴埋め」せざるを得ないところに追い込まれたのだろう。 信念でマスクをしないほど同調圧力に屈しない「変人」だからこそ、「阿武町を救ったヒーローにな」れたのかも知れない。 文春オンライン「「早く返金していただきたい」大阪でも1502万円が未回収…実は全国で“役所の誤支給”が頻発しているワケ」 「誤支給は都市部も含めて全国で発生している。背景にあるのは、コロナ禍で国や自治体が次々と支給してきた給付金類だ。 対象や額をどうするかで議論になり、ギリギリにならないと制度が決まらないのに、配付の作業だけは急がされる。「重要な施策だが、そのたびに新しく仕組みを作らなければならないので、いつどこでミスが起きないとも限らない」、実務をやらされる地方自治体は大変なようだ。 「2018年に過大な還付をしていた」のが、すぐに判明しないような会計システムにも問題がありそうだ。 「摂津市」の「提訴」は当然だ。 「市が勝訴したものの……」「返金はなされていない」、悪質だ。「今後も粘り強く」請求していくほかないだろう。 「誤支給が起きかねない前提条件は、十分すぎるほどそろっていた」、ここまでくると、政府の責任も重大だ。 「同じデータを2日間にわたってJAに渡していた」、のが「出納担当は2人」なのに、何故発生するのだろうか不可解だ。 「993世帯分については振り込みデータが登録」されたのを確認してから、処理すれば、「二重振り込み」などのトラブルは避けられた筈だ。 ゴネ得を許さないためにも訴訟に訴えるのは当然だ。 「誤支給の処理にも人件費がかかる」のは当然だが、公正な処理のためであれば、人件費がかかってもやむを得ないと思う。 「全員がマイナンバーカードと紐付けられた口座を持っていれば、事務的なミスはなくなる」、その通りだが、実現するのはまだ先だ。 「「誤りがあれば、速やかな連絡とお詫び」は自治体の大小を問わず、徹底すべきだ。
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政府の賃上げ要請(その5)(日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている、日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている) [経済政策]

政府の賃上げ要請については、2019年2月9日に取上げた。久しぶりの今日は、(その5)(日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている、日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている)である。

先ずは、昨年10月20日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家・百年コンサルティング代表 の鈴木 貴博氏による「日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている」を紹介しよう。
・『「日本人従業員の平均年収は433万円です」 そう聞くだけでムカっとする方が多いのではないでしょうか? この数字は別にうそでも何でもなく、国税庁が毎年9月に発表する民間給与実態統計調査の最新数字です。 アベノミクスで企業は儲かり株価も上がった一方で、実質賃金はぜんぜん増えていないという話があります。同時に格差が拡大したことで裕福な社会人と、生活が不安定な社会人の間にも収入ギャップが開いています。 そこで今回は平均値で見ていてもわからない日本人ビジネスパーソンの所得事情を、国税庁の民間給与実態統計調査を細かくみることで解明していきます。 まずは発表されたばかりの令和2(2020)年度版の統計の概容からわかることから見ていきましょう。この調査は2020年12月31日現在の民間企業に働く会社員の給与をまとめたものですから、コロナ禍の実態をしっかりと表しているはずです。 まず目につく数字ですがコロナ前の2019年12月と比べて給与所得者数が62万人も減少しています。このうち1年を通じて勤務した人の減少は10万人しかないので、コロナ禍において単純計算でみると52万人規模で非正規労働者が職を失ったことがわかります』、「52万人規模で非正規労働者が職を失った」、とは驚いた。何があったのだろう。
・『会社員1人当たり21万円の減収  2020年の給与の総額は前の年から5.4%減りました。減った総額は約12兆4000億円です。もっとわかりやすくいえば会社員1人当たり21万円の減収です。1人10万円の特別給付金がもらえたわりには損をしているような気がしていましたが、やはり減った金額のほうが大きかったようです。 ただ統計上、過去3年間は名目給与として毎年9万円ぐらい上がっていて、コロナ禍で久しぶりに21万円ダウンした計算なので、トータルでみると上がったほうが大きいことになります。それって実感と合わないと思う方も多いのではないでしょうか? 庶民の実感とは何かといえば、若い会社員は安い給料で働かされている気がするし、中年の会社員は昔と比べて給与の上昇が抑えられている気がするし、高齢の会社員はつねに首切りの恐怖を感じている気がするという具合で、それぞれの世代にそれぞれの不満が見られます。 実際はどうなのでしょうか? 幸いにして民間給与実態統計調査は1978年まで年代別の統計をさかのぼることができます。そこで日本人の給料に関するさまざまな都市伝説を解明してみたいと思います』。「給料に関するさまざまな都市伝説を解明してみたい」、興味深そうだ。
・『都市伝説1バブル入社組は昭和組と比較して損をしている  ドラマ『半沢直樹』で活躍する銀行マンの世代はバブル入社組と呼ばれています。就活は楽勝で、大企業の側は内定者を確保するために豪華なフランス料理をごちそうしたり、内定者研修は豪勢なリゾートホテルで行ったり。いい思いをして入社したとたんにバブルがはじけ、その後、悲惨なサラリーマン生活をすることになった。これが都市伝説です。 では給与の実態はどうなのでしょうか? 民間給与実態統計調査では1980年に社会人になった昭和の会社員と1990年に社会人になったバブル入社組会社員それぞれの、その後の給与グラフを追うことができます。最初にお断りしておきますと、今回の分析では男性サラリーマン同士のグラフを比較します。 「男女平等の時代に、なんて時代錯誤な!」と感じる方もいらっしゃると思います。そのとおりで、男女平等の時代なのに男女間に給与の不平等が存在していることが統計から非常によくわかります。そこで男女を分けてみないと「世代間格差の実態が見えてこない」という事情があるのです。男女間の不平等については後で整理します。(外部配信先では図やグラフなどを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 1980年にサラリーマンになった昭和組と1990年にサラリーマンになったバブル入社組のその後の給与を比較すると、昭和組は40歳以降、安定高値の給料をもらえていた一方で、バブル組はどちらかというと頭打ちで40代は低い給与に甘んじていたように見えます。これはバブル組と会話をしているときによく聞くぼやきとも合致しています』、「昭和組は40歳以降、安定高値の給料をもらえていた一方で、バブル組はどちらかというと頭打ちで40代は低い給与に甘んじていたように見えます」、やはり事実だったようだ。
・『昭和組も50代はバブル組同様に抑え込まれている  そこだけを見ると一見バブル入社組は損をしているように思えますが、実はそうでもないのが面白いところです。バブル入社組の給料が低く抑えられた40代は昭和組では50代に相当するのですが、この昭和組の50代も給料はまっ平になってしまっていてバブル組同様に抑え込まれているのです。結局、バブル組が50代に突入した2020年調査では昭和組の50代とほぼ同じ水準までバブル組が上昇しています。 さらに重要なことですが、実はバブル組は入社時点でそれまでの世代と比較して100万円も初任給が高かったという特徴があります。実は私は1986年入社で年代的にはバブル組に一見近いのですが、給与的には昭和組世代で、就活当時の大企業の大卒初任給はどこも横並びの200万円でした。それが4年間のバブルで高騰したのをみて、 「なんで若い連中は初任給がそんなに高いんだ?」と不満を感じた世代です。 しかもまだ転職がめずらしい時代だったせいで釣った魚の給与水準に変更はないということで、バブル期に優遇されたのはこれから内定する学生ばかり。私見ですが1986年組ぐらいまでの世代がいちばん20代のサラリーマン時代に割を食った世代ではないかと思います。さて、次の都市伝説を検証してみましょう』、「実はバブル組は入社時点でそれまでの世代と比較して100万円も初任給が高かったという特徴があります」、「1986年組ぐらいまでの世代がいちばん20代のサラリーマン時代に割を食った世代ではないかと思います」、なるほど。
・『都市伝説2氷河期世代が最も損をしている  バブル崩壊後の就職が困難だった時代、1993年から2005年の間に社会人になった世代のことを就職氷河期世代と呼びます。正社員になることすら難しかった世代であると同時に、就職できても給与が低くおさえられ、バブル期世代に強い憎しみを抱いているとされるのが都市伝説なのですが、実態はどうなのでしょうか? グラフはここでも男性サラリーマン同士の比較です。まずグラフで目につくところは、社会人スタート時点の年収水準はバブル組と変わらないという点です。ただその後は徐々にバブル組との差が開き、その状態が15年ほど続いた後、40代に入ってようやくバブル組のラインに追い付きます。その間の差は累計で約600万円、年収換算でいえば15年間ずっと約40万円も低くおさえられてきたことがわかります』、「就職氷河期世代」の「年収水準は」、「徐々にバブル組との差が開き、その状態が15年ほど続いた後、40代に入ってようやくバブル組のラインに追い付きます。その間の差は累計で約600万円、年収換算でいえば15年間ずっと約40万円も低くおさえられてきた」、確かに割を食わされてきたようだ。
・『氷河期世代は正社員になれたかどうかが分水嶺  ただし彼らが社会人として育った2000年代というのが日本経済にとってはそもそも最悪の時代で、そこがちょっとよくなりかけた後、リーマンショックが起き、東日本大震災が起きてという連続でした。後述する男女間格差と比較すれば、氷河期世代は「正社員のポジションをつかめるかどうかが大きな分水嶺になった」という格差だと私には読み取れます。 ちなみにここでそれ以降の世代も同じグラフにのせてみました。このグラフを見ると、これまで日本企業が行ってきた給与制度改革の全貌が浮かび上がってきます。それは終身雇用と年功序列が前提だった昭和の仕組みを是正し、就職や転職が盛んな若い世代の給与水準を上げ、逆に40代以降の給与水準を抑えるというのが基本思想なのですが、それでも40代から50代の20年間に給与カーブのピークが来る形は変わっていないのです。 さすがに60歳になると役職定年がはいり、65歳、70歳と会社には残れても給与は大幅に下がるのですが、それでも興味深いことに65歳の平均給与は25歳よりも高いし、70歳の平均給与は新入社員よりも高いと国税庁の統計は語っています。 この結果を言い換えると、「日本企業の給与システムは、経営者が思っているほどには大きく変わってはいない」ということです。変化がないのはサラリーマンにとってはいいことに見えますが、大きな変化がないことで、とてつもなく不利を被る人も出てきます。 その象徴といえるのが女性の会社員です。) 日本では1999年にいわゆる男女雇用機会均等法の改正が成立して、外形的には雇用における男女の差別がなくなりました。一方でこれは国際問題にもなっていますが、女性の管理職がいつまでたっても増えない、女性の活躍機会が日本は先進国と比較して極端に少ないという状況が続いています。 日本の給与制度というものは基本的にポジションが上がることで上昇します。正確には管理職のポジションに就くために必要な等級ないしは職能に達することで給与水準は上がります。つまり管理職になっている女性が少ない会社では、女性の平均給与は低くなってしまうということです。 そして民間企業の給与の実態調査を見ると一目瞭然で男女間の格差が開いています。とはいえ左側のグラフは少しミスリードな部分があります。国税庁が公表している男女の年代別データは正社員と非正規労働者が合計されています。 男女別、年代時代別に見ていくと? 正社員だけに限るとこの調査からは男女それぞれの給与の全体平均しかわかりません。それでも男性社員は平均年齢46.8歳で正社員の平均給与が550万円であるのに対して、女性は平均年齢46.7歳と年齢は大きく違わないのに正社員の平均給与は384万円と正社員平均でもかなり低い。同じ平均年齢で、同じ正社員の男女差は160万円以上も開いています。 一方で年代別時代別に分析をしようとすると国税庁の統計数値では非正規労働者が混在してしまいます。女性の非正規労働者は全体の38%と、男性の12%よりも高いので、女性の平均給与はその影響でも低くなります。さらに30代よりも50代女性のほうがパート率が高いなどの世代間の違いもあります。 これらの要素を独自に補正して作成したのが右のグラフです。同じ昭和入社の社員同士で比較すると、昭和入社の社員間では均等法が成立した後でもやはり女性社員の平均給与は低くおさえられたままです。 しかしこの点には企業側からは有力な反論があって、 「残念ながら、彼女たちが入社した時代、20代、30代では社会制度がそうなってはいなかったことで、管理職となるための教育ができていない。給与をあげたくてもあげられないのだ」ということです。) だったら、均等法導入後の入社組であれば、この格差は埋まったのでしょうか。次のグラフを見ると結構、衝撃的です。 男女雇用機会均等法が導入された後、確かに女性社員の給与は大きく上がりました。20代から30代前半にかけて累計すれば昭和の時代よりも1400万円は高いかたちで、社会人の出だしでの格差は一見埋まっています。 しかし30代に入り、男性社員が主任となり、リーダーとなり、より上の管理職へと上がっていく時期に、あくまで世代平均ではありますが、女性正社員の給与グラフは昭和の女性のほうに近づいていくのです。 この現象にも日本企業からは有力な反論があります。 「機会は均等なのだけれどたまたまフェアに評価をしてみたところわが社の女性社員は昇進できるスキルをもっていなかった。これは結果の不平等であって社会的には認められている範囲内だ」という反論です。 ただし、たまたま日本全体を平均してここまでの状態になるというのはたまたまとは言えないでしょう。そして結果の不平等は特に欧州では必ず是正しなければいけない項目です。このあたり、日本の政治が変えていくべき課題があることは明白でしょう』、「「機会は均等なのだけれどたまたまフェアに評価をしてみたところわが社の女性社員は昇進できるスキルをもっていなかった。これは結果の不平等であって社会的には認められている範囲内だ」という反論です。 ただし、たまたま日本全体を平均してここまでの状態になるというのはたまたまとは言えないでしょう。そして結果の不平等は特に欧州では必ず是正しなければいけない項目です。このあたり、日本の政治が変えていくべき課題があることは明白」、その通りだ。
・『平均からは格差の分布を見られない  さて、給与の格差という意味ではもうひとつ、絶対に無視できない大きな問題があります。それは給与水準が低く抑えられている非正規労働者層が拡大しているという問題です。 今の日本には3段階の格差があります。富裕層と庶民の格差、男女の格差、そして正規・非正規間の格差です。それらすべての平均値をとったのが冒頭の「日本人の平均年収は433万円です」という数字であって、平均からは格差の分布を見ることができません。 そこで次のグラフをご覧いただきたいと思います。 このグラフはたとえば年収100万円未満の男性が男性従業員全体の何%なのかといった具合に、男女別年収階層別の世の中の人数分布を示したものです。総じて男性よりも女性のほう収入階層の低い人が多いことがわかりますが、それ以上に目立つのはいわゆる低所得層に相当する人数が男女ともに多いことです。 年収200万円未満の層が全体の30%、女性に限れば38%がこの所得水準に入ってきます。確かに統計数字だけを見ていると日本人の平均は433万円近辺にくるのでしょうが、平均数字はどうしても年収700万円以上の裕福な会社員の数字にひっぱられてしまうわけです。 そして年収700万円を超える層はほぼ男性に偏っていて、男性全体の20%がそれに該当します。この層がアベノミクスでどんどん豊かになっている層であって、国民全体では給与は増えていない。この秋、物価が上昇する中では、国民感覚では実質給与はむしろ下がっていきます。 年功序列と男女格差をなんとかしようと過去30年にわたって国も経済団体もチャレンジをしてきたわけですが、結果をこのように分析してみるとわかるとおり、改善されたのはほんの部分的なことであって、依然、わが国の給与制度には本質的な問題がとり残されたままなのです』、「年功序列と男女格差をなんとかしようと過去30年にわたって国も経済団体もチャレンジをしてきたわけですが、結果をこのように分析してみるとわかるとおり、改善されたのはほんの部分的なことであって、依然、わが国の給与制度には本質的な問題がとり残されたまま」、との結果には改めて驚かされた。

次に、6月15日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)のリチャード・カッツ 氏による「日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/596702
・『まさに「大山鳴動して鼠一匹」である。岸田政権は「新しい資本主義」を具体的な政策として打ち出すために、有識者や新興企業関係者などの改革派を交えて6カ月間奔走した。だが、6月7日に閣議決定されたその実行計画は、多くの参加者を大きく失望させる、形だけのものであった。 具体的には、岸田首相が掲げる「健全な成長と平等な所得分配は互いに必要である」という基本理念に対する自民党内や金融市場からの「社会主義を推進している」という非難に簡単に屈する形になった。「成長の果実を再分配しなければ、消費と需要は増えない」という主張は社会主義ではない。これは、標準的なマクロ経済学における、長年の評決なのである』、「岸田政権は「新しい資本主義」を具体的な政策として打ち出すために、有識者や新興企業関係者などの改革派を交えて6カ月間奔走した。だが、6月7日に閣議決定されたその実行計画は、多くの参加者を大きく失望させる、形だけのものであった」、私も失望した。
・『実質的な方策に欠けた中身  岸田首相の"譲歩"のせいで、政策文書は「成長と分配の好循環」の必要性を訴えるレトリックに終始しているが、それを実現するための実質的な方策は極めて乏しい。 岸田首相の妥協は、就任直後に年収1億円以上の人にキャピタルゲインと配当課税の強化を求めたことで株価が下落し、いわゆる「岸田ショック」を招いたことに端を発する。動揺した岸田氏は、この提案を撤回した。7月の参議院選挙を前にして、経団連を怒らせるわけにはいかないと判断したのだ、とある関係者は語る。 参院選での勝利を確実にするには、安倍晋三氏などの前任者が打ち出した失敗策の焼き直し案しか残されていない。 例えば、賃金について、岸田首相は企業に対して年3%の賃上げを求めるという過去の意味のない要求を繰り返した。また、最低賃金を時給1000円にするという長年の目標も繰り返したが、その達成期限は示さなかった。 一定の賃上げを行った企業に与えられる一時的な減税の水準を引き上げることを提案したが、企業が一時的な税制優遇の見返りのために永続的な賃上げを行うことはないのは歴史が証明している。また、看護師など特定の職業に就く公務員の賃上げも約束した。 成長戦略の重要な要素――新興企業の数を今後5年間で10倍に増やす――に言及が及ぶと、改革者たちの不満はさらに高まった。科学技術・イノベーション会議が主導する官民合同チームは、日本の起業率を低く抑えている主要な問題点(銀行のような重要な問題は除外されているが)について、第一級の分析を行った。 例えば、初期段階の資金を提供する「エンジェル投資家」に対する税制優遇措置、新興企業が必要とする収入と信用を与える政府調達、資金難の新企業が優秀な人材を引き寄せるためのストックオプションの利用などだ。だが、最終文書では、これらの課題に関する具体的な提案は極力避けられている』、私も大いに失望させられた。
・『参院選を見据えた内容になってしまった  「参議院選挙が終わるまで待ってほしい」 不満の声を挙げた参加者の一部は、こう言われたという。官邸としては、具体的な救済策、特に税制や労働問題などに言及して、各省庁や利権団体の対立が表面化し、選挙で自民党が不利になることをおそれたのだろう。 例えば財務省は、新興企業の育成に必要な減税措置に繰り返し反対している。官邸は、年末までに「5カ年計画」を発表し、具体的な内容を盛り込むと約束した。しかし、複数の参加者と話をしたところ、そのプランが本当に充実したものになるのか、期待こそすれ、自信はあまりないといった様子であった。 ある関係者は、岸田首相が限られた政治資金を防衛費の増額に費やし、議論を呼ぶ経済対策のための資金を十分に残せないことを懸念した。また、自民党内の岸田派は比較的小さく、安倍氏や麻生太郎氏が率いる強力で保守的な派閥を疎外するわけにはいかないと強調する者もいた。 岸田首相のリーダーシップのあり方がさらに事態を悪化させている。複数の情報筋による指摘によると、1つには岸田首相自身は以前から賃金問題に関心を持っていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案したと言われている。 さらに岸田首相は、安倍氏が集団安全保障で、菅義偉氏が脱炭素化で行ったように、自民党や官僚にいくつかの重要な優先事項を課しながら、トップダウン方式で指導できるような首相ではなく、「聞き上手」を自称する合意形成者である』、「岸田首相自身は以前から賃金問題に関心を持っていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案」、やはり本人が真剣に考えたものではないようだ。
・『真の成長と分配による好循環を引き起こすには  さまざまな権力者の意見が異なる場合、岸田首相自身が解決策を押しつけるのではなく、権力者が妥協点を見いだせるように仕向ける。このスタイルは、ある状況下では生産的かもしれないが、岸田首相が主張するような大きな経済的「軌道修正」を生み出すことはできない。 では、参院選での勝利によって、岸田首相が年末に予定されている「5カ年計画」において、より積極的な主張をできるとなったらどう変わるか。その場合、真の「成長と分配の好循環」を引き起こすために、どのような手を打つことができるだろうか。 当初、岸田首相は前述のように、富裕層の株式所得に対する税率を引き上げることを提案していた。現在は一律20%である。その結果、主に投資によって年間1億円以上の所得を得ている人は、アッパーミドルクラスよりも全体の税率が低くなっている。 とはいえ、1億円以上の所得を持つ納税者は全体の0.01%程度に過ぎない。そのため、通常の所得税と同様、投資所得にもいくつかの区分を設けない限り、所得の平準化にはあまり効果がない。 いずれにせよ、多くの日本人の所得が低迷している最大の原因は、この国の少数の真の富裕層にあるのではなく、企業所得と家計所得の差である。企業は「内部留保」、つまり賃上げや投資、あるいは税金で経済に還元されない利益をため込んでいるのだ。 さらに悪いことに、過去数十年間、東京都は企業減税のために消費税増税を行い、家計から企業へ繰り返し所得を移転してきた。政府は1998年以降大企業に対する法人税率を大幅に引き下げ、現在は30%になっている。 経団連と経済産業省は、企業は余分な現金を使って賃金や投資を増やし、それによって1人当たりのGDPを押し上げるので、法人税減税によって誰もが恩恵を受けると主張した。事実上、政府は企業と取引をしていたのだ。もし、われわれが法人税を下げれば、企業は賃金を上げてくれるだろうと。しかし、企業がその約束を果たすことはなかった』、本来であれば、二重課税批判には目をつぶってでも、内部留保課税も考えるべきだ。
・『企業の内部留保だけが膨れ上がっている  11月26日の「新しい資本主義実現会議」では、この取引がいかに失敗したかを示す資料が配布された。2000年から2020年にかけて、国内数千の大企業の年間利益はほぼ倍増(18兆円増)したが、労働者への報酬は0.4%減、設備投資は5.3%減となった。 その結果、内部留保は20年間で154兆円も膨れ上がった。これは1年間のGDPの3分の1にも相当する。もし、企業がその余剰資金を賃金に回していたら、今日の生活水準は大幅に向上し、消費者の需要も高まっていただろう。中小企業でも同じパターンがみられており、ため込んだ現金が増える一方で、労働者の報酬は減少した。 このパターンは、岸田首相が「健全な成長も健全な分配も、他方なくしては存在しえない」と正しく指摘した通りである。労働者が作ったものを買うだけの収入がなければ、経済が成長するわけがない。国内で製品を売ることができず、円安にならないと海外で売ることができないのであれば、企業はなぜ拡大投資をするのだろうか。 経済協力開発機構(OECD)加盟国全体の中で、日本は労働時間当たりのGDPの増加と時間当たり賃金の増加の間に最大のギャップがある。そしてもちろん、消費税増税は消費者需要をさらに抑制する。 それにもかかわらず、閣議の議事録によれば、このデータは議論の場にも上げられなかった。同資料は元大蔵省官僚で、現在は東京政策研究財団にいる森信茂樹氏により作成された。われわれが、閣議メンバーがこの情報を見たと認識している根拠はこれのみである』、「森信茂樹氏」は「元大蔵省官僚」には珍しく、国民経済全体の観点から主張する好人物だ。
・『3%の賃上げを「期待」するのみ  岸田首相もほかの議員も、賃上げを行った企業に対する非効率な税額控除を引き上げる以上の具体的な改善策を提案することはなかった。岸田氏は、新型コロナウイルスによるパンデミック以前の水準まで売上を回復させた企業は3%の賃上げを行うことを「期待する」と述べただけである。「期待」は「行動」ではない。 もし法人税減税が日本の成長と財政赤字を悪化させているなら、なぜ減税を撤回しないのだろうか。その結果得られる収入で消費税を下げたらどうだろうか。そうすれば、企業と家計の間でより公正な所得分配が行われるのではないか。閣議では、誰もこの選択肢について言及しなかった。 企業が賃金を上げるような措置をとったらどうだろうか。例えば、日本の法律ではすでに正規と非正規、男女間の同一労働、同一賃金が義務づけられている。しかし、政府機関には違反を調査し、違反者を罰する義務はない。 一方、フランスでは、労働監督官が違反を調査し、同国政府はすでに女性の賃金が低いとして数社に罰金を科している。今回も、日本の労働監督官を同じように活用しようという議論は起こらなかった。 最低賃金の引き上げは、驚くほど強力な波及効果をもたらす。最低賃金以下の人たちだけでなく、最低賃金を15〜20%上回る人たちの所得も上昇させるからだだ。 パートタイム労働者の平均賃金はわずか1100円であり、彼らは全従業員のほぼ3分の1を占めているため、生活水準や消費需要への影響は劇的なものとなるであろう。残念ながら、岸田氏は十数年前に打ち出された最低賃金目標、時給1000円を繰り返しただけで、この目標をいつ達成するかは明言していない。現在、最低賃金は930円だ』、「最低賃金の引き上げ」については、日本経済アナリストのデビッド・アトキンソン氏がかねてから強く主張している。
・『最低賃金は1145円程度にする必要がある  岸田首相はまた、1000円を超える引き上げの可能性についても言及しなかった。2020年の最低賃金は全国平均賃金のわずか45%であり、OECD21カ国中、日本は18位となる。典型的な富裕国では52%である(貧困レベルを超えるには、全国平均賃金の半分の所得が必要である)。日本は富裕国の水準を目標にすべきだ。そのためには現状を踏まえて、最低賃金を1145円程度にする必要がある。 起業の数を10倍にするという目標については、先鋭のエキスパートによる専門チームが6カ月の期間中、さまざまな想像力を駆使してアイデアを出した。ところが、岸田内閣では、成長と分配の悪循環を解消するための同様の委員会は設置されなかった。 したがって、6月に承認された案は、11月に議論された案とほとんど変わりはない。こうしたやり方は、岸田首相の屈服が長引かないかどうかという心配を増幅させる。 日本と改革派と同様、私は岸田首相による次の5カ年計画では、この骨組みにもっと肉付けしてくれるのではないかと期待している。しかし期待だけで、確信は今のところない』、「岸田首相による次の5カ年計画」にせいぜい期待するほかなさそうだ。
タグ:政府の賃上げ要請 (その5)(日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている、日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている) 東洋経済オンライン 鈴木 貴博氏による「日本人の給料統計に映る「貧しくなった人」の真実 実質賃金は全然増えず格差が一段と開いている」 「52万人規模で非正規労働者が職を失った」、とは驚いた。何があったのだろう。 「給料に関するさまざまな都市伝説を解明してみたい」、興味深そうだ。 都市伝説1バブル入社組は昭和組と比較して損をしている 「昭和組は40歳以降、安定高値の給料をもらえていた一方で、バブル組はどちらかというと頭打ちで40代は低い給与に甘んじていたように見えます」、やはり事実だったようだ。 「実はバブル組は入社時点でそれまでの世代と比較して100万円も初任給が高かったという特徴があります」、「1986年組ぐらいまでの世代がいちばん20代のサラリーマン時代に割を食った世代ではないかと思います」、なるほど。 都市伝説2氷河期世代が最も損をしている 「就職氷河期世代」の「年収水準は」、「徐々にバブル組との差が開き、その状態が15年ほど続いた後、40代に入ってようやくバブル組のラインに追い付きます。その間の差は累計で約600万円、年収換算でいえば15年間ずっと約40万円も低くおさえられてきた」、確かに割を食わされてきたようだ。 「「機会は均等なのだけれどたまたまフェアに評価をしてみたところわが社の女性社員は昇進できるスキルをもっていなかった。これは結果の不平等であって社会的には認められている範囲内だ」という反論です。 ただし、たまたま日本全体を平均してここまでの状態になるというのはたまたまとは言えないでしょう。そして結果の不平等は特に欧州では必ず是正しなければいけない項目です。このあたり、日本の政治が変えていくべき課題があることは明白」、その通りだ。 「年功序列と男女格差をなんとかしようと過去30年にわたって国も経済団体もチャレンジをしてきたわけですが、結果をこのように分析してみるとわかるとおり、改善されたのはほんの部分的なことであって、依然、わが国の給与制度には本質的な問題がとり残されたまま」、との結果には改めて驚かされた。 リチャード・カッツ 氏による「日本人の給料が上がらないのは「企業が渋る」から 「骨太」打ち出した岸田首相が本当はすべきこと」 「岸田政権は「新しい資本主義」を具体的な政策として打ち出すために、有識者や新興企業関係者などの改革派を交えて6カ月間奔走した。だが、6月7日に閣議決定されたその実行計画は、多くの参加者を大きく失望させる、形だけのものであった」、私も失望した。 私も大いに失望させられた。 「岸田首相自身は以前から賃金問題に関心を持っていたものの、「新しい資本主義の形」を作るために何が必要かを考えたことがなかったという。実際、このコンセプト自体は岸田首相自身のものではなく、重要な側近である元大蔵省官僚の木原誠二官房副長官が考案」、やはり本人が真剣に考えたものではないようだ。 本来であれば、二重課税批判には目をつぶってでも、内部留保課税も考えるべきだ。 「森信茂樹氏」は「元大蔵省官僚」には珍しく、国民経済全体の観点から主張する好人物だ。 「最低賃金の引き上げ」については、日本経済アナリストのデビッド・アトキンソン氏がかねてから強く主張している。 「岸田首相による次の5カ年計画」にせいぜい期待するほかなさそうだ。
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マイナンバー制度(その2)(「マイナポイント第2弾」で公金受取口座の登録をする方法を解説! マイナンバーカードに金融機関の口座を登録して、7500円分のマイナポイントを獲得しよう!) [経済政策]

マイナンバー制度については、昨年11月28日に取上げた。今日は、(その2)(「マイナポイント第2弾」で公金受取口座の登録をする方法を解説! マイナンバーカードに金融機関の口座を登録して、7500円分のマイナポイントを獲得しよう!)である。

本年5月29日付けダイヤモンド・オンラインが転載したZAI Online「「マイナポイント第2弾」で公金受取口座の登録をする方法を解説! マイナンバーカードに金融機関の口座を登録して、7500円分のマイナポイントを獲得しよう!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/zai/articles/-/1001779
・『・・・ 「マイナポイント第2弾」の申し込みが2022年1月1日から始まった。第1弾に参加しなかった人、または申し込んだものの上限の5000円分のポイントに達していない人を対象に、引き続き上限5000円相当分までのマイナポイントを付与する。【※関連記事はこちら!】⇒「マイナポイント」に申し込む方法と注意点を解説!マイナンバーカードとキャッシュレス決済を登録し、最大5000円分(還元率25%)のポイントを獲得しよう 第2弾は、これに加えて「マイナンバーカード」の健康保険証としての利用申し込みを行うと+7500円分のポイント、公金受取口座の登録を行うと+7500円分のポイントと、合計1万5000円分のポイントを獲得できる。 前回の記事では、「マイナンバーカード」を健康保険証として登録する方法を紹介したので、今回は公金受取口座の設定方法を紹介しよう。当初は登録開始は春ごろということだったが、3月28日に登録できるようになった。 【※前回の記事はこちら!】⇒「マイナポイント第2弾」で2万ポイントをもらう方法!マイナンバーカードに健康保険証や公金受取口座を登録すると、第1弾利用者も1万5000ポイント獲得可能  まず「マイナポータル」のアプリにログインする。トップページに表示される「給付金等の受取口座をあらかじめ登録しておくことができます」のバナーをタップ。 「マイナポータル」のアプリ  口座情報の確認が表示されるので、「マイナンバーカードを読み取る」で再度ログインする。 「マイナンバーカードを読み取る」で再度ログイン  「マイナンバーカード」の情報が表示され、氏名、生年月日、住所を確認後「確認する」ボタンをタップ。 「マイナンバーカード」の情報 初回は「口座情報は未登録です」になっているはずなので、「口座情報を登録する」をタップする。 口座情報 「公金受取口座登録制度」の案内が表示されるので「次へ」をタップ。名前は入力されているので「カタカナ」「電話番号」「メールアドレス」を入力する。メールアドレスは「利用者登録情報を使用」を選択すると、すでに登録済みのメールアドレスが反映される。最後に「次へ」をタップ』、「今回は公金受取口座の設定方法」だが。実際にもこうした案内通りに順調に進んでほしいものだ。
・『「公金受取口座登録制度」の案内 続いて、口座情報を登録する。金融機関を選択して、支店名、口座種別を選択。口座番号を入力後、「確認する」ボタンをタップ。口座名義はカタカナで入力した内容が自動的に反映されており、本人の口座のみ登録できる。最後に「確認する」をタップ。 金融機関を選択して、支店名、口座種別を選択(内容に問題がなければ「次へ」をタップ。「口座情報登録の同意確認」が表示されるため、内容を確認して「すべての確認事項に同意する」にチェックを入れ「登録する」をタップ。 口座情報登録の同意確認 これで公金受取口座の登録が完了した。 公金受取口座の登録が終わってもポイントはすぐに獲得できない。バナーに「あらかじめ登録しておくことができます」とあるように、実際のポイント配布は6月ごろ。今回の登録によって付与される7500円分のマイナポイントについては、6月ごろに改めて紹介しよう。 以上、今回は「マイナンバーカード」の公金受取口座の登録について解説した』、実は、私は「マイナンバーカード」は保有しており、E-TAX申告に利用している。しかし、「マイナポータル」は数年前、登録しようと試みたが、恥ずかしながら何故か上手くいかなかった。今回のこの記事を参考に再度、チャレンジしてみるつもりだ。
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新自由主義(その2)(「なぜ私はダメなんですか!」「お立場が違います」朝日の若手記者を怒らせた“政治取材の不条理” 『朝日新聞政治部』 #1、「非正規労働は急増し、給料は上がらず 経済格差は急拡大した」竹中平蔵の片棒をかついだ元朝日記者の悔恨 『朝日新聞政治部』 #2) [経済政策]

新自由主義については、昨年7月12日に取上げた。今日は、(その2)(「なぜ私はダメなんですか!」「お立場が違います」朝日の若手記者を怒らせた“政治取材の不条理” 『朝日新聞政治部』 #1、「非正規労働は急増し、給料は上がらず 経済格差は急拡大した」竹中平蔵の片棒をかついだ元朝日記者の悔恨 『朝日新聞政治部』 #2)である。

先ずは、6月18日付け文春オンラインが掲載した元朝日新聞政治部デスクの鮫島 浩氏による「「なぜ私はダメなんですか!」「お立場が違います」朝日の若手記者を怒らせた“政治取材の不条理” 『朝日新聞政治部』 #1」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/55063
・『1997年4月、大物政治記者が支局長を務める浦和支局に赴任した朝日新聞記者の鮫島浩氏。当時、若手の鮫島氏に「次期総理」の呼び声の高い自民党大物議員を取材するチャンスが訪れた。ところが、彼がそこで見たものは“政治取材の残念な実情”だった……。 登場人物すべて実名の話題の内部告発ノンフィクション、「吉田調書事件」の当事者となった元エース記者・鮫島浩氏による初の著書『朝日新聞政治部』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)』、これは「新自由主義」とは関係ないが、著者の活動を知る意味で紹介した次第。
・『「大物政治記者」との出会い  大物政治記者が支局長を務めるという浦和支局へ私が赴任したのは1997年4月だった。その人、橘優さんは政治部デスクから浦和支局長へ異動し、次期政治部長に有力視されていた。私が初めて出会う政治記者だった。 橘さんは前年、1996年の衆院解散・総選挙の日程をスクープした「特ダネ政治記者」として知られていた。「○日に解散へ」「○日に衆院選投開票へ」「首相が方針固める」といった前打ち記事にどれほどの意味があるのか、当時の私には理解できなかったが、彼のスクープは社内だけでなく政界や各社政治部の中でも高く評価されていた。 奇怪だったのは、橘さんの「ネタ元」が当時の自民党幹事長で次期首相の筆頭候補だった加藤紘一氏であることが公然の秘密だったことだ。 新人記者は「取材源の秘匿」を厳しく指導される。警察取材で「ネタ元」がバレることは絶対にあってはならない。ネタ元の警察官は処分され、新聞記者は「記者失格」の烙印を押される。 政治取材の世界は違うようだった。次期総理の呼び声の高い加藤幹事長から総選挙日程の情報を漏らされるほど親しい政治記者であるという事実は、永田町の政治家や政治記者たちに尊敬とも畏怖ともつかぬ感情を抱かせ、橘さんの影響力を大きくしていた。 次期政治部長と言われるのは果たしてどんな人物なのか、私は興味津々で浦和支局へ向かった。初めて会った橘さんはカジュアルなチノパン姿だった。政治記者はスーツで身を固めていると思っていたから意外だった。) 埼玉県下の記者を集めたその後の会議で橘さんが投げかけた言葉は新鮮だった。彼はその日の県版に掲載された小さな記事――雑木林の落ち葉を堆肥として利用する農家の試みを紹介する記事――を引き合いに出し、こう語ったのだ。 「埼玉の小さな農家もグローバル経済に晒されている。東南アジアから大量の木材が輸入され日本の雑木林は大きく変わっている。割り箸のリサイクルひとつから世界が見える。小さな記事を深く掘り下げれば世界を描く記事を書ける……」 茨城で新聞記者として過ごした3年、警察取材や記事の書き方を先輩諸氏から教わることはあっても、世界がどうだ、政治経済がどうだ、という話は聞いたことがなかった。とにかく取材相手に食い込んで特ダネをとれ、と言われるばかりだった。夜討ち朝駆けに奔走して特ダネを追い求め、「抜かれ」「特オチ」に怯えた。 同期の多くが同じ境遇だったろう。地方支局で接する先輩の多くは社会部系だ。政治経済は縁遠いテーマで、国政選挙の時期だけ多少話題にのぼるくらいだった。 でも、この大物政治記者は違う。話がグローバルでダイナミックだ』、「話がグローバルでダイナミック」な「大物政治記者」に出会えたことは幸運だ。
・『一度は「大物政治記者」に魅力を感じたが…  当時は政治家にも新聞記者にも携帯電話が普及していなかった。浦和支局にはしばしば「衆院議員の加藤です。支局長をおねがいします」と電話がかかってきた。橘さんは私たちに中央政界について「次はこうなる」と予想を披露し、それが引き起こす政策上の論点・課題を先取りして解説した。その予想は的中し、論点整理も明快だった。私は浦和支局にいながら、中央政界の動きを知っている錯覚に陥った。 それまで新聞記者は「過去に起きたこと」を取材して報じるものと思っていた。橘さんの話を聞くうちに、政治経済の「未来」を的確に見通す記事はとても重要だと気づいた。 当局発表を少し早くリークしてもらって他社より少し早く報じる自称「特ダネ」とは違う。新聞には、各方面の情報を総合的に分析して「次はこうなる」という見立てを読者に示し、権力側に主導権を奪われることなく政策アジェンダを設定する役割があるのではないか――。私はこれまで出会った新聞記者に感じたことのない魅力を「大物政治記者」に感じた』、「新聞には、各方面の情報を総合的に分析して「次はこうなる」という見立てを読者に示し、権力側に主導権を奪われることなく政策アジェンダを設定する役割があるのではないか――」、さすが「大物政治記者」らしい影響力だ。
・『「なぜ私はダメなのですか!」「お立場が違います」  その好感が反感に変わるまでさほど時間を要しなかった。 私はある時、埼玉県の自民党関係者から加藤幹事長が極秘で来県するという情報を得た。直接取材する絶好の機会と思い、立ち寄り先のビルの前で待った。ほどなく黒塗りの車が到着し、加藤幹事長がSPを従え降りてきた。私は駆け寄った。その黒塗りの車から降りてきた人物がもう一人いた。橘さんだった。 どこかで加藤幹事長と落ち合い同乗してきたのだろう。忙しい政治家をつかまえサシで話を聞く取材手法のひとつが、車に同乗する「箱乗り」だ。 自分が待ち構えていた政治家と同じ車の中から自分の上司が現れたのだから多少驚きはしたが、私は橘さんに目もくれず、加藤幹事長に向かって直進した。加藤幹事長は素早くエレベーターに乗り込んだ。SPに続き、橘さんも乗り込んだ。浦和支局で大きな顔をしている普段の橘さんと違って、この時の身のこなしは素早かった。私も続こうとしたその時、SPの太い腕が私を制した。 「なぜ私はダメなのですか! あの人は乗り込んだじゃないですか!」 私は橘さんを指さして叫んだ。加藤幹事長も橘さんも黙っていた。SPが沈黙を破った。 「お立場が違います」 これが政治取材の実像か――。私は静かに閉まるエレベーターの扉を睨みつけながら悔しくて仕方がなかった。何を聞くかではなく、誰が聞くのかが重要なのだ。こんな政治取材はおかしい、いつか変えてやる、と青臭く思ったものだ』、確かに「青臭い」感想だ。

次に、この続き、6月18日付け文春オンライン「「非正規労働は急増し、給料は上がらず、経済格差は急拡大した」竹中平蔵の片棒をかついだ元朝日記者の悔恨 『朝日新聞政治部』 #2」を紹介しよう。
・『「竹中さんにくっついて一緒にいればいいよ。これは大きなチャンスだから」。2001年、上司の一声から竹中平蔵大臣に密着することとなった元朝日記者の鮫島浩氏。彼のボヤキを聞き、同じ釜の飯を食った鮫島氏が、今の竹中氏を見て「彼は既得権益側になった」と語る理由とは? 登場人物すべて実名の話題の内部告発ノンフィクション、「吉田調書事件」の当事者となった元エース記者・鮫島浩氏による初の著書『朝日新聞政治部』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む) 小泉政権が2001年春に発足した後、私は野党担当から官邸担当に移った。官邸クラブはキャップ、サブキャップ、官房長官番、官房副長官番、総理番が中心だが、私には明確な担当がなかった。さほど期待されていなかったのだろう。官邸キャップの渡辺勉さんから「明日から竹中平蔵大臣を回ってほしい」と告げられたのはそんな時だった。 渡辺さんは、自民党を担当する平河キャップの曽我豪さんと並んで朝日新聞の将来を担うと嘱望された政治部のエースだった。森喜朗政権では森首相の「神の国発言」を記者会見で激しく追及。理知的な雰囲気を漂わせながら強い正義感と大胆さを秘めた切れ味鋭い政治記者である。 竹中氏は慶応大教授から経済財政担当大臣に民間人として登用され、日が浅かった。小泉総理から構造改革の旗振り役として期待されていたが、自民党や霞が関に応援団は少なく苦戦していた。小泉・竹中構造改革に対する「抵抗勢力」が健在な時代で、官邸主導の政治は確立していなかった』、「自民党や霞が関に応援団は少なく苦戦していた」、「小泉・竹中構造改革に対する「抵抗勢力」が健在な時代で、官邸主導の政治は確立していなかった」、「竹中氏」も初期はこんな状況だったようだ。
・『「寂しいんだよ。だから政治部に泣きついてきた」  「経済はまったくの素人ですよ」と私は答えた。渡辺さんは「竹中さんにくっついて一緒にいればいいよ。これは大きなチャンスだから」と答え、背景を説明した。竹中大臣はその前夜、各社の官邸キャップを集めてオフレコ懇談を開いてこうぼやいたという。 「経済部の記者が私を担当しているのですが、誰も記者会見以外で取材してくれないんです。経済部は大臣より官僚を重視する。大臣が何を言っても事務次官が言うことを信じる。私はまったく相手にしてもらえないんですよ」 渡辺さんは「竹中さんは寂しいんだよ。だから政治部に泣きついてきた。経済はわからなくていいから、くっついて回って。そのうちわかるようになるよ」と言った。 政治部と経済部の取材手法の違いはこの一言に凝縮されている。政治部は政治家に番記者を張りつけ、その政治家が直面する政治課題を一緒に追いかけさせる。内閣改造人事で閣僚の顔ぶれが一新したら、政治部記者もがらりと入れ替わる。 他方、経済部は役所ごとに担当記者を置き、役所の政策課題を追いかけさせる。いつまでその職にあるかわからない大臣よりも各省庁の官僚トップに上り詰めた事務次官のほうがおのずから重要となる。 竹中氏は官僚や経済部記者に見向きされず、持ち前の発信力をいかせずに孤立していた。後ろ盾は小泉首相ただ一人だった。今こそ政治部が食い込むチャンスだ――渡辺さんはそう考えた。各社の官邸キャップで竹中氏のSOSを感じ取り、ただちに「竹中番」を張り付けたのは渡辺さんだけだった。彼の独特の嗅覚がもたらした判断だった。のちに朝日新聞社を大きく揺るがすことになる渡辺さんと私の師弟関係はここに始まる』、「「寂しいんだよ。だから政治部に泣きついてきた」理由は、「経済部は役所ごとに担当記者を置き、役所の政策課題を追いかけさせる。いつまでその職にあるかわからない大臣よりも各省庁の官僚トップに上り詰めた事務次官のほうがおのずから重要となる。 竹中氏は官僚や経済部記者に見向きされず、持ち前の発信力をいかせずに孤立していた」、竹中氏にもこんな時期があったとは初めて知った。
・『朝から夜まで竹中平蔵と付き合った日々  こうして私は竹中大臣の番記者になった。朝から夜までつきまとうのである。全社が張り付ける官房長官番や幹事長番と違って、竹中番は私一人だった。私は竹中氏と政務秘書官の真柄昭宏氏と3人で毎日会った。昼は国会の食堂で、日中は大臣室で、夜はファミレスで、とにかく話した。 当時の竹中氏は政治家や官僚、記者から軽んじられ、私を相手にする時間が十分にあった。政治家の名前と顔もよく知らず、国会でトイレに行くにも迷うほどだった。 政治記者4年目の私のほうが政界事情に詳しく「野中広務さんと青木幹雄さんは○○な関係で……」とありふれた政界解説をしていた。「素人3人組」が寄り添って、政官業の既得権の岩盤に挑む戦略をああでもないこうでもないと言い合う、漫画のような日々だった。 竹中氏の経済解説は非常にわかりやすく、面白かった。自民党や財務省と経済政策や規制緩和策について折衝する舞台裏を包み隠さず話し、「抵抗勢力」を打ち破るにはどうしたらよいか私に意見を求めた。 小泉首相は経済政策の司令塔として竹中氏を指名し、あとは任せっきりという政治スタイルだった。当時の竹中氏は政治的に非力だったが、立場上ディープな情報は集まっていた。何にも増して小泉首相の肉声に日々接していた。 私は竹中氏と毎日膝をつき合わせる取材を通じて日本の経済政策はどういうプロセスで決定されていくのかを生々しく理解するようになった。竹中氏は自らの改革に立ちはだかる財務省や自民党政調会長だった麻生太郎氏に対する不満を日増しに強めた。竹中氏の「財務省嫌い」や「麻生氏嫌い」は今も変わらない。 竹中氏は当初、敗れ続けた。だが、くじけなかった。自民党や財務省が水面下で主導する政策決定過程をオープンにして世論に訴えた。経済財政諮問会議の議事録を公開して「抵抗勢力」の姿を可視化したのだ。これは的中した。マスコミは次第に「抵抗勢力」を悪者に仕立て始めた。そして小泉首相は「竹中抵抗勢力」の闘いが佳境を迎えると歌舞伎役者よろしく登場し、竹中氏に軍配を上げたのだった。 政治の地殻変動が始まった。政策決定の中心が「自民党・霞が関」から「首相官邸」へ移り始めた。竹中氏の影響力は急拡大し、政治家や官僚が頻繁に訪れるようになった。竹中氏と真柄氏と私の素人3人組の作戦会議もファミレスから個室へ場所を移した。経産官僚だった岸博幸氏や財務官僚だった高橋洋一氏、学者から内閣府に入っていた大田弘子氏ら竹中氏を支える裏部隊も出来上がっていった』、「竹中氏は当初、敗れ続けた。だが、くじけなかった。自民党や財務省が水面下で主導する政策決定過程をオープンにして世論に訴えた。経済財政諮問会議の議事録を公開して「抵抗勢力」の姿を可視化したのだ。これは的中した。マスコミは次第に「抵抗勢力」を悪者に仕立て始めた。そして小泉首相は「竹中抵抗勢力」の闘いが佳境を迎えると歌舞伎役者よろしく登場し、竹中氏に軍配を上げたのだった。 政治の地殻変動が始まった。政策決定の中心が「自民党・霞が関」から「首相官邸」へ移り始めた」、なるほど。
・『彼の功と  ふと気づくと竹中氏は小泉政権の経済財政政策のど真ん中にいた。財務省からその立ち位置を奪ったのである。そして、政治部記者として竹中氏を担当していた私は、新聞社の長い歴史を通じて独占的に予算編成や税制改革を報じてきた経済部の財務省担当記者たちに取って代わり、予算や税制をめぐる「特ダネ」を連発した。 経済部記者が事務次官ら官僚をいくら回っても情報は遅かった。すべては竹中氏ら官邸主導で決まり、経済部記者が財務省取材でそれを知るころには私が朝日新聞紙面で報じていたのである。業界用語でいう「圧勝」の日々だった。各社の経済部は慌てて竹中氏を追いかけ始めたが、すでに遅かった。竹中氏は時間に追われ、初対面の記者といちから関係をつくる暇はなかった。 私は「竹中氏に食い込んだ記者」として知られるようになり、政治家や官僚、そして財界からも「竹中大臣を紹介してほしい」「竹中大臣の考えを教えてほしい」という面会依頼が相次いだ。経済知識もなく竹中氏と会食やお茶を重ねていただけなのに、わずか数ヵ月で私の境遇は様変わりしたのである。 これは権力に近づく政治部記者が勘違いする落とし穴でもある。私は茨城県警本部長に食い込んだ昔のサツ回り時代を思い出して自分を戒めるようにした。 朝日新聞社内で、政治部と経済部の関係は緊張した。私が予算や税制の特ダネを出稿するたびに財務省記者クラブを率いる経済部のキャップは「財務省は否定している」と取り下げを求めた。渡辺官邸キャップはそれを聞き流し、真夜中の1時を過ぎて新聞の印刷が始まるころ「そうは言っても、もう明日の新聞は降版しちゃったよ」と電話を切るのだった。 財務省は朝日新聞報道を追認していくようになる。財務省の言う通りに政策が決まらない新たな現実を、経済部はなかなか受け入れられないようだった。政策の主導権は明らかに自民党や財務省から首相官邸に移った。その意味で、小泉政権の誕生は「政権交代」といえた。省庁ごとの縦割りだったマスコミ各社の取材体制も変革を迫られたのである』、「政治部記者として竹中氏を担当していた私は、新聞社の長い歴史を通じて独占的に予算編成や税制改革を報じてきた経済部の財務省担当記者たちに取って代わり、予算や税制をめぐる「特ダネ」を連発した。 経済部記者が事務次官ら官僚をいくら回っても情報は遅かった。すべては竹中氏ら官邸主導で決まり、経済部記者が財務省取材でそれを知るころには私が朝日新聞紙面で報じていたのである」、「政策の主導権は明らかに自民党や財務省から首相官邸に移った。その意味で、小泉政権の誕生は「政権交代」といえた。省庁ごとの縦割りだったマスコミ各社の取材体制も変革を迫られたのである」、「小泉政権の誕生は「政権交代」」とは言い得て妙だ。
・『突如終わった「竹中番」  私は竹中番記者である限り、特ダネを書き続けられる気がした。その日々は突如として終わる。私はある日、「抵抗勢力」のドンと言われた自民党の古賀誠元幹事長の番記者に移るように告げられたのだ。 背景には、政治部と経済部の「手打ち」があった。それまでは政局は政治部、政策は経済部という仕分けが成立していた。政治家は政局に明け暮れ、政策は官僚が担うという時代が続いたからだ。小泉政権はそのシステムを壊した。 政策は官邸主導に移り、総理が指名した竹中氏のような大臣が仕切る新たな政策決定プロセスが整いつつあった。その時代に「政局は政治部、政策は経済部」という縦割り取材は通用しなかった。 両部は、①国会記者会館の朝日新聞の部屋に両部のデスクを常駐させて連携を密にする、②官邸サブキャップに経済部記者を配置する――などの協力態勢で合意するとともに、確執の元凶であった私を「竹中番」から外すことで折り合ったようだ。この社内政治によって私は竹中番を卒業したのである。 私の竹中氏取材は、権力者の懐に食い込んで情報を入手する旧来型のアクセスジャーナリズムの典型である。竹中氏の提灯記事を書いたつもりはないが、竹中氏らが抵抗勢力との戦いを有利に進めるために番記者である私(朝日新聞)を味方に引き込み情報を流したのは間違いない。朝日新聞はそれを承知のうえで、情報の確度を精査して主体的に報道すべき事実を判断して記事化していたが、結果的に竹中氏を後押しする側面があったのは否めない。 旧来の政治・経済報道ではこのように取材相手と「利害を重ねる」ことで情報を入手できる記者が「優秀」と評価されてきた。しかし、アクセスジャーナリズム自体に厳しい視線が向けられる時代になった。 権力者への密着取材が不要とは思わないが、読者の不信を招かないように取材手法や取材経緯をできる限り透明化したうえで「このような記事を書くために密着取材している」と胸を張って言える権力監視報道を具体的に示し、読者の理解と信頼を得ることが不可欠になったと思う。 竹中氏はその後、2004年参院選に出馬して当選し、2005年には担当大臣として郵政民営化を主導し、霞が関や経済界全体に絶大な影響力を誇るようになる。素人3人組が抵抗勢力を打ち負かす作戦を練るために集った日々がウソのようであった。 永田町・霞が関に単身で乗り込み、既得権の岩盤に挑んだ当初の竹中氏はチャレンジャーだった。規制緩和を中心とする新自由主義について私は批判的だが、他方、自民党の族議員と財務省などのエリート官僚によってベールに包まれてきたこの国の政策決定過程をこじ開け、透明化した彼の功績は大きいと思う。 竹中氏が強大な権力者になるにつれ、取り巻きは急増した。それに伴い、私は竹中氏と疎遠になった。竹中氏は小泉政権が終了した時点で大臣も参院議員も辞めたが、その後も今に至るまで大きな影響力を維持し続けている。当初は竹中氏と激突した霞が関や財界が「竹中化」したのだ』、「規制緩和を中心とする新自由主義について私は批判的だが、他方、自民党の族議員と財務省などのエリート官僚によってベールに包まれてきたこの国の政策決定過程をこじ開け、透明化した彼の功績は大きいと思う」、さすがに評価は公正だ。
・『竹中氏は挑戦者から「既得権益側」に変わった  竹中氏が労働市場の規制緩和を主導した後、人材派遣業界で急成長したパソナグループの会長になったこと、そのパソナが政府関連の業務を多く受注していることは象徴的である。挑戦者だった竹中氏は自民党や霞が関の既得権益を打ち破って勝者となり、挑戦を受ける既得権益側になったといえるだろう。 竹中氏が日本に持ち込んで実践したこの20年の構造改革がもたらしたものは何だったのか。株価はコロナ危機でもバブル期以来の高値を更新し、富裕層や大企業は潤い続けた。 一方で非正規労働は急増し、給料は上がらず、経済格差は急拡大した。対ロシア経済制裁による物価高や急速に進む円安のしわ寄せは、所得が低く弱い立場の人々ばかりに向かう。日本社会の健全さは損なわれ、活力は大きく衰えてしまった。 格差が広がる日本社会の曲がり角で、私は政権中枢に接近し「改革」の片棒を担いだのかもしれない』、「挑戦者だった竹中氏は自民党や霞が関の既得権益を打ち破って勝者となり、挑戦を受ける既得権益側になったといえるだろう」、「非正規労働は急増し、給料は上がらず、経済格差は急拡大した。対ロシア経済制裁による物価高や急速に進む円安のしわ寄せは、所得が低く弱い立場の人々ばかりに向かう。日本社会の健全さは損なわれ、活力は大きく衰えてしまった」、その通りだ。
タグ:新自由主義 (その2)(「なぜ私はダメなんですか!」「お立場が違います」朝日の若手記者を怒らせた“政治取材の不条理” 『朝日新聞政治部』 #1、「非正規労働は急増し、給料は上がらず 経済格差は急拡大した」竹中平蔵の片棒をかついだ元朝日記者の悔恨 『朝日新聞政治部』 #2) 文春オンライン 鮫島 浩氏による「「なぜ私はダメなんですか!」「お立場が違います」朝日の若手記者を怒らせた“政治取材の不条理” 『朝日新聞政治部』 #1」 これは「新自由主義」とは関係ないが、著者の活動を知る意味で紹介した次第。 「話がグローバルでダイナミック」な「大物政治記者」に出会えたことは幸運だ。 「新聞には、各方面の情報を総合的に分析して「次はこうなる」という見立てを読者に示し、権力側に主導権を奪われることなく政策アジェンダを設定する役割があるのではないか――」、さすが「大物政治記者」らしい影響力だ。 確かに「青臭い」感想だ。 文春オンライン「「非正規労働は急増し、給料は上がらず、経済格差は急拡大した」竹中平蔵の片棒をかついだ元朝日記者の悔恨 『朝日新聞政治部』 #2」 『朝日新聞政治部』 「自民党や霞が関に応援団は少なく苦戦していた」、「小泉・竹中構造改革に対する「抵抗勢力」が健在な時代で、官邸主導の政治は確立していなかった」、「竹中氏」も初期はこんな状況だったようだ。 「「寂しいんだよ。だから政治部に泣きついてきた」理由は、「経済部は役所ごとに担当記者を置き、役所の政策課題を追いかけさせる。いつまでその職にあるかわからない大臣よりも各省庁の官僚トップに上り詰めた事務次官のほうがおのずから重要となる。 竹中氏は官僚や経済部記者に見向きされず、持ち前の発信力をいかせずに孤立していた」、竹中氏にもこんな時期があったとは初めて知った。 「竹中氏は当初、敗れ続けた。だが、くじけなかった。自民党や財務省が水面下で主導する政策決定過程をオープンにして世論に訴えた。経済財政諮問会議の議事録を公開して「抵抗勢力」の姿を可視化したのだ。これは的中した。マスコミは次第に「抵抗勢力」を悪者に仕立て始めた。そして小泉首相は「竹中抵抗勢力」の闘いが佳境を迎えると歌舞伎役者よろしく登場し、竹中氏に軍配を上げたのだった。 政治の地殻変動が始まった。政策決定の中心が「自民党・霞が関」から「首相官邸」へ移り始めた」、なるほど。 「政治部記者として竹中氏を担当していた私は、新聞社の長い歴史を通じて独占的に予算編成や税制改革を報じてきた経済部の財務省担当記者たちに取って代わり、予算や税制をめぐる「特ダネ」を連発した。 経済部記者が事務次官ら官僚をいくら回っても情報は遅かった。すべては竹中氏ら官邸主導で決まり、経済部記者が財務省取材でそれを知るころには私が朝日新聞紙面で報じていたのである」、「政策の主導権は明らかに自民党や財務省から首相官邸に移った。その意味で、小泉政権の誕生は「政権交代」といえた。省庁ごとの縦割りだったマスコミ各社の 「規制緩和を中心とする新自由主義について私は批判的だが、他方、自民党の族議員と財務省などのエリート官僚によってベールに包まれてきたこの国の政策決定過程をこじ開け、透明化した彼の功績は大きいと思う」、さすがに評価は公正だ。 「挑戦者だった竹中氏は自民党や霞が関の既得権益を打ち破って勝者となり、挑戦を受ける既得権益側になったといえるだろう」、「非正規労働は急増し、給料は上がらず、経済格差は急拡大した。対ロシア経済制裁による物価高や急速に進む円安のしわ寄せは、所得が低く弱い立場の人々ばかりに向かう。日本社会の健全さは損なわれ、活力は大きく衰えてしまった」、その通りだ。
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