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人工知能(AI)(その14)(米中が覇権を握る生成AI 人材・資金でかなわない日本、イーロン・マスクですらこの危機感 世界でAI開発停止要求 なのに日本では無批判に国会答弁に使用提言!、チャットGPTの回答「官僚が結局精査」 非公表情報を入力する恐れも…答弁導入に疑問の声) [イノベーション]

人工知能(AI)については、3月20日に取上げた。今日は、(その14)(米中が覇権を握る生成AI 人材・資金でかなわない日本、イーロン・マスクですらこの危機感 世界でAI開発停止要求 なのに日本では無批判に国会答弁に使用提言!、チャットGPTの回答「官僚が結局精査」 非公表情報を入力する恐れも…答弁導入に疑問の声)である。

先ずは、3月20日付けエコノミストOnlineが掲載した立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏による「米中が覇権を握る生成AI 人材・資金でかなわない日本」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20230328/se1/00m/020/055000c
・『あらゆる問いに対して人間が書くような文章で回答する「対話型AI」が出現した。この技術のいったい何が革命的なのかを解き明かす。 対話型AI(人工知能)の「チャットGPT」の出現は、世の中に革命的な変化をもたらした。2022年11月にリリースされて以降、その驚くべき性能に利用者が急増している。 チャットGPTを世に送り出したオープンAIは、当初はAIの発展を目指してイーロン・マスク氏などが出資して15年に設立された非営利組織だった。しかし19年、AI技術を社会で実用化する営利目的の会社として、マイクロソフトなどが10億ドルを出資してオープンAI LP(リミテッド・パートナーシップ)を設立した。 マイクロソフトの参加により、オープンAIはマイクロソフトが持つさまざまなデータやリソース(経営資源)を使えるようになり、開発のスピードが一気に上がったとされる。 GPTとは「Generative Pre-trained Transformer」の略で、事前学習済み(Pre-trained)の文章生成型(Generative)トランスフォーマー(深層学習モデルの名称)を意味する、オープンAI開発の「巨大言語モデル」だ。チャットGPTを動かしている「GPT-3」(現在は改良版のGPT-3.5)のシステムは1750億のパラメーター(変数)を読み込んでおり、前バージョンに比べて性能が格段にアップした』、興味深そうだ。
・『高水準の文章で回答  チャットGPTが対話型で返してくる回答は、現時点においてかなりの水準に達している。 一つ例を挙げると、筆者が主宰するワークショップで研究している企業に、カインズやワークマンを傘下に持つベイシアグループがあるが、「ベイシアグループではどのようなDX(デジタルトランスフォーメーション)をしていますか」と聞いてみると、たちどころに「ベイシアグループでは、DXを推進するために、いくつかの取り組みをしています。例えば……」として複数の項目を答えてくる。 もちろん、正確性に問題はあるかもしれないが、このように文章の形で回答するシステムは、ほんの少し前まで、この世に存在しなかった。このレベルにまで達していることに驚きを覚える。 さらに、マイクロソフトの検索システム「Bing(ビング)」とチャットGPTを組み合わせて使うことで、利便性が飛躍的に高まった。 例えば、ベイシアグループについてBingで検索すると、最上部にチャットGPTの回答、その下側にはグーグルと同じような検索結果が出て、これらを同時に見ることができる。チャットGPTの回答をもっと知りたいと思えば、そこをクリックすると、チャットGPT専用の画面に切り替わる。このような仕組みは非常に有用だ』、「文章の形で回答するシステムは、ほんの少し前まで、この世に存在しなかった。このレベルにまで達していることに驚きを覚える」、すごい進歩だ。「マイクロソフト」と、「チャットGPT」を扱う「オープンAI」の提携はさすが本格的だ。
・『グーグルは「非常事態宣言」  これまでは、検索欄に「ベイシアグループ」と入れると、それに関連する記事などが出てきただけだが、決定的に違うのは、ベイシアグループとは何であるかを「ベイシアグループとは日本の流通企業です……」などといった文章で回答してくることだ。 また、画面の下には、どこから引用してきたかの情報が出ている。そこをクリックすると引用元のサイトに飛べるようになっている。この便利さに圧倒されて、筆者は最近、Bingばかりを使い、グーグルで検索することがなくなった。 チャットGPTの能力の奥深さは計り知れない。オープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)は「チャットGPTで実現したかったことの一つは、プログラミング言語を知らない人でもプログラムが組めて問題解決できるようになること」とまで語っている。恐るべき可能性を秘めていることは間違いない。 このようなチャットGPTに対して、検索で大きなシェアを持つグーグルはどのように対抗していくのか。グーグルの幹部は大きな危機感を抱き、今年1月に社内に「非常事態宣言」を発した。共同創業者のセルゲイ・ブリン氏は数年ぶりに現場に復帰してAI部門のテコ入れを図るようだ。 もちろんグーグルも生成AI、対話型AIの研究はこれまでも行っている。ただ、グーグルのビジネスモデルは、検索によって得られる情報から広告を提示する「検索広告」が事業の主力。収入の9割以上を広告に依存しているため、下手に新しいサービスを立ち上げることで広告に影響するようなことがあってはならないと、一歩を踏み出せずにいた。 しかし、マイクロソフトがグーグルの牙城である検索に踏み込んできたのだから黙ってはいられない。「検索プラス対話型AI」のサービスを遠くない時期に提供できるよう準備を進めている』、「グーグル」は、「今年1月に社内に「非常事態宣言」を発した」、「共同創業者のセルゲイ・ブリン氏は数年ぶりに現場に復帰してAI部門のテコ入れを図るようだ」、「マイクロソフトがグーグルの牙城である検索に踏み込んできたのだから黙ってはいられない。「検索プラス対話型AI」のサービスを遠くない時期に提供できるよう準備を進めている」、「グーグル」の反攻は上手くいくのだろうか。
・『準備を進める中国・百度  一方、中国はどうなっているのか。中国のグーグルと呼ばれる「百度(バイドゥ)」がその先頭を走る。同社は検索はもちろん、クルマの自動運転なども事業展開してきた会社だ。 今年1月上旬に米ラスベガスで開かれた世界最大級のテクノロジー見本市「CES」で生成AIやチャットGPTが話題になった。驚いたのはグーグルなどに先行して、1月下旬に百度はチャットGPTと似た対話型AIサービスを提供すると発表したことだ。当然ながら、生成AIについてずっと研究・開発を行ってきたからこそ、すぐに追随することが可能になる。 中国企業による開発に一つ利点があるとすれば、扱えるデータ量が多いということだろう。欧米はプライバシー重視の必要があるため、使えるデータに制約がかかる可能性がある。中国にはこのような制約がほとんどないことから、AIの精度を上げるために有利に働くと思われる。 いずれにしても今後、生成AIの分野は、マイクロソフトによるオープンAIとグーグルの米2社、それに中国・百度を加えた3社が、それぞれの世界をプラットフォーマーとして覇権を獲得していく可能性が高い。残念ながら、現時点でこの分野に日本の出番はない。人材面、資金面ともにまったく太刀打ちできないのが実情だ』、「中国企業による開発に一つ利点があるとすれば、扱えるデータ量が多いということだろう。欧米はプライバシー重視の必要があるため、使えるデータに制約がかかる可能性がある。中国にはこのような制約がほとんどないことから、AIの精度を上げるために有利に働くと思われる」、「現時点でこの分野に日本の出番はない。人材面、資金面ともにまったく太刀打ちできないのが実情だ」、寂しい限りだ。
・『危険性認識すべき  ただ、イアン・ブレマー氏が率いる米国の政治リスクの専門コンサルティング「ユーラシアグループ」が23年の10大リスクで「生成AI」を3位にランキングしているように、社会を混乱させる危険性があることは常に意識していなければならない。 ユーラシアグループは「大混乱生成兵器」と題し、AIの技術的な進歩が、デマゴーグを生んだり権威主義者に力を与えたりして、ビジネスや市場を混乱させる危険性があることを示した。 チャットGPTなどの利用によって、コンテンツの作成に参入障壁がなくなると、コンテンツの量は指数関数的に増加していき、市民の多くが事実とフィクションを区別できなくなる。偽情報が横行し、社会的な連帯、商業や民主主義の基盤である信頼が損なわれる可能性があると指摘していることは、十分認識しておくべきだろう』、参考にすべき警鐘だ。

次に、4月9日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「イーロン・マスクですらこの危機感、世界でAI開発停止要求、なのに日本では無批判に国会答弁に使用提言!」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/108584?imp=0
・『生成系AIの技術開発を一時停止すべきだとの提言が、アメリカでなされました。この技術が持つ潜在的な影響力の大きさを考えれば、当然の懸念です。一方日本では、国会答弁の下書きに利用するというのですが……』、「日本」は他国に先んじて利用したいというスケベ心が見え見えだ。
・『AIを開発しながら慎重な国と無批判に使おうとする国  ChatGPTやBingなど、生成系AIと呼ばれる技術について、その技術開発を半年間ストップさせるべきだとの提言が、アメリカでなされました。 これが 報道された日に、日本では、これと正反対の提言がなされました 。 国会答弁の下書きなどに生成系AIを活用するという提言案を、自民党がまとめたのです。 この2つは、AIに対する基本的な態度の際立った違いを示すものです。 一方は、極めて高度な技術を開発しながら、それを無条件に受け入れるのではなく、その社会的な影響について真剣に検討しようとしています。 もう一方は、外国で開発された技術を、その見かけに幻惑されて、無条件に受け入れようとしています。 この2つの差は極めて深刻なものだと、私は考えます』、「日本」の「提言案」は「自民党がまとめた」ので、本質が理解できないまま「利用」に重点をおいたようだ。
・『生成系AIの技術開発をストップさせる提言  まず、アメリカでの提言は、「人間と競合する知能を持つAIは、社会や人類に深刻なリスクとなりうる」として、強力なAI開発の半年間の停止を訴えています。 さらに、AI開発者は、「自分たちでさえ理解できないデジタル知性を開発する統制不能な競争に陥っている」と批判しています。 これに署名した1000人以上のテクノロジー関係者の中には、起業家イーロン・マスク氏も含まれています。彼は、ChatGPTを開発した企業OpenAIの創業者の1人でした。 現在のAIに、それだけの能力があるとは思えないのですが、将来様々な問題が起こり得ることは否定できないでしょう。この提言が指摘するように、AIの進歩が社会に与える影響は、きわめて大きいと考えざるをえません。 だから、その開発に規制を加えるべきだというのは、 大変重要な問題提起です 。兵器関係の技術以外の技術に関して、これほど強い危惧の念が表明されたのは、初めてのことではないでしょうか? 生成系AIの潜在力は、それほど大きいのです』、「アメリカでの提言は、「人間と競合する知能を持つAIは、社会や人類に深刻なリスクとなりうる」として、強力なAI開発の半年間の停止を訴えています。 さらに、AI開発者は、「自分たちでさえ理解できないデジタル知性を開発する統制不能な競争に陥っている」と批判しています。 これに署名した1000人以上のテクノロジー関係者の中には、起業家イーロン・マスク氏も含まれています」、「AIの進歩が社会に与える影響は、きわめて大きいと考えざるをえません。 だから、その開発に規制を加えるべきだというのは、 大変重要な問題提起です 。兵器関係の技術以外の技術に関して、これほど強い危惧の念が表明されたのは、初めてのことではないでしょうか? 生成系AIの潜在力は、それほど大きいのです」、確かにその通りだ。
・『AIはでたらめな答えを出す  上記の提言は、生成系AIの今後の技術開発に関わるものです。それ以前の問題として、生成系AIが、現在すでに様々な問題を抱えていることも間違いありません。 最大の問題は、誤った答えを出すことです。したがって、 結果を信用することができません。 Bing は、ホームページで、「誤った答えを出すことがあるから、依存しないように」と注意を喚起しています。Googleの対話型AIであるBardは、「自信満々に間違うことがある」とされています。 出力をそのまま信じて利用しようとすれば、深刻な混乱が生じるでしょう。 OpenAIのChatGPTにしても、MicrosoftのBingにしても、またGoogleのBardにしても、未完成の技術を一般の利用に供してしまったと考えざるをません』、「自信満々に間違うことがある」、とは言い得て妙だ。「未完成の技術を一般の利用に供してしまったと考えざるをません」、その通りだ。
・『悪貨が良貨を駆逐する危険  もう一つの問題として私が危惧するのは、優勝劣敗の法則が働かず、逆に、悪貨が良貨を駆逐してしまうことです。 生成系AIは 文章を作るコストを激減させます。内容を指定して、「何字程度の文章を書け」と言えば、数秒のうちに文章を出力します。 その内容は信頼できないものなのですが、読者が受け入れれば、世の中に流通するでしょう。 つまり、内容も誤っているし質も低い文章が、大量に生産される危険があるのです。手抜きの文章が世の中に溢れ、その結果、良質の文章が駆逐されてしまうという事態になりかねないのです。 現在のウェブは、すでにそのような状況になってしまっています。それが加速することが懸念されます』、「内容も誤っているし質も低い文章が、大量に生産される危険があるのです。手抜きの文章が世の中に溢れ、その結果、良質の文章が駆逐されてしまうという事態になりかねない」、恐ろしい事態だ。
・『どうやって規制するのか?  仮に規制が必要であるとしても、その実効確保は難しいでしょう。インターネット上の情報に関して、プロファイリング規制の必要性がいわれています。しかし、その実効性はいまだに確保できていません。生成系AIについても同じことが言えるでしょう。 しかも、Microsoftは、生成系AIにすでに巨額の投資をしています。したがって、上記提言に従って生成系AIの開発をストップさせることは、半年間といえども、現実には不可能ではないでしょうか? 他方で、この技術をうまく使えば、新たな価値が生み出されることも間違いありません。問題は、そのような可能性をいかにして実現していくかでしょう。 したがって、利用者が、この技術を無条件で受けるのではなく、賢明に利用することが求められます。 どんな技術であっても、その見かけに騙されず、賢明な利用方法をすることが重要です。生成系AIについては、とりわけそれが重要なのです』、「利用者が、この技術を無条件で受けるのではなく、賢明に利用することが求められます。 どんな技術であっても、その見かけに騙されず、賢明な利用方法をすることが重要です。生成系AIについては、とりわけそれが重要なのです」、その通りなのだろう。
・『いま行政に取り入れても、混乱が広がるだけ?  本稿の最初に述べたように、日本では、アメリカの提言と正反対の 提言がなされました。自民党が 国会答弁の下書きなどにこれを活用するという提言案をまとめたのです。 しかし、この考えには、首を傾げざるをえません。国会答弁作成にAIを活用しようとしても、能率が上がることはなく、かえって混乱が生じる危険が大きいでしょう。 官僚が国会答弁作成のため、深夜までの勤務を強いられています。私自身も(だいぶ昔のことですが)、この仕事にさんざん苦労させられました。 役人がなぜ夜遅くまで役所に残っているのかといえば、それは、資料の収集や分析などに手間がかかるからではありません。 時間がかかる理由は、第1には国会議員からの質問が夜遅くにならないと得られないことです。それまでの間、役人たちは役所でただ待機しているだけです。この状態が改善されない限り、深夜勤務問題は解決しません。 国会答弁作成に時間がかかる第2の理由は、他部局や他省庁との調整が必要なことです。関係する部局の了解を得られないと、最終答弁にはできません。この過程で、AIは何の役にも立ちません。 AIを使えば答弁に必要な資料やデータなどが簡単に得られると考えられているのかもしれませんが、先に述べたように、AIの出力には誤りが含まれています。この状態が改善されずにAIを使えば、大変な混乱が生じるでしょう。 対話型AIに接したときの人々の反応は、普通、つぎのような経過を辿ります。 第1段階として、知的な人間が書いたような文章がすらすらと出力されるのを見て、驚きます。しかし暫く使っていると、その内容が全くあてにならないことに気づきます。これが、第2段階です。 そして、第3段階として、そのような制約を知った上でどのような利用法があるかだろうと模索するようになります。 自民党の提言は、第1段階に止まっているのではないかと考えざるをえません』、「国会答弁作成」に、「時間がかかる理由は、第1には国会議員からの質問が夜遅くにならないと得られないことです。それまでの間、役人たちは役所でただ待機しているだけです」、「第2の理由は、他部局や他省庁との調整が必要なことです。関係する部局の了解を得られないと、最終答弁にはできません。この過程で、AIは何の役にも立ちません」、「対話型AIに接したときの人々の反応は、普通、つぎのような経過を辿ります。 第1段階として、知的な人間が書いたような文章がすらすらと出力されるのを見て、驚きます。しかし暫く使っていると、その内容が全くあてにならないことに気づきます。これが、第2段階です。 そして、第3段階として、そのような制約を知った上でどのような利用法があるかだろうと模索するようになります。 自民党の提言は、第1段階に止まっているのではないかと考えざるをえません」、「自民党の提言は、第1段階に止まっている」とは手厳しい批判だ。同感である。

第三に、4月12日付け読売新聞「チャットGPTの回答「官僚が結局精査」、非公表情報を入力する恐れも…答弁導入に疑問の声」を紹介しよう。
https://www.yomiuri.co.jp/economy/20230412-OYT1T50033/
・『西村経済産業相が11日の閣議後の記者会見で対話型AI(人工知能)「チャットGPT」で国会答弁を作成する可能性に言及したことについて、専門家からは情報管理の安全性を懸念する声や、導入の効果を疑問視する指摘が出ている。 「結局、チャットGPTの回答を官僚が精査しなければならない」。西村氏が検討理由に掲げる「国家公務員の業務負担軽減」について、元官僚の小峰隆夫・大正大客員教授はそんな見方を示した。 小峰氏は、諸外国の制度の調査など、官僚の業務でチャットGPTを使うメリットは多いとしつつ、「公開情報の中から無理やり回答を作り出すことがあり、うのみにするのは危険だ」と指摘。「政府の公式見解を示す国会答弁をチャットGPTに丸ごと委ねることにはなり得ない」と話した。 国立情報学研究所の佐藤一郎教授(情報学)は、「官僚が答弁を作成する上で非公表情報を入力してしまい、チャットGPTの学習に利用され、機密情報が漏えいするリスクがある」と指摘する。 チャットGPTは、オンライン上の大量の情報を読み込んだ上で、指示に対して新たな文章を生成する。誤った内容でも自然な文章のため気づきにくく、偽情報が拡散する恐れがある。 ほかにも、学習データに著作権のある文章が含まれていた場合、表現がその文章と同じだったり、似通ったりして著作権を侵害する可能性がある。学習データによっては、差別や偏見を助長する答えを返す恐れもある。 教育界からも悪影響を懸念する声が相次いでいる。チャットGPTは論文やリポート、読書感想文なども瞬時に生成するためで、名古屋大の杉山直学長は先月27日の卒業式祝辞で「大学の教育の危機といえる状況」と述べた。 東京大など、学生リポートなどでの利用制限方針を示す大学が相次ぐ。上智大は、リポート作成などに無許可でのチャットGPT利用を認めないと学生に通知。同大の担当者は取材に「教育の質の保証や公平性の観点から、生成AIで作成することは、ひょう窃や他人に依頼して作成させる行為と同様に認めることはできない」とした。 文部科学省も今後、教育現場での取り扱いを示す資料を作成する方針だ』、「「小峰氏は」、「公開情報の中から無理やり回答を作り出すことがあり、うのみにするのは危険だ」と指摘。「政府の公式見解を示す国会答弁をチャットGPTに丸ごと委ねることにはなり得ない」と話した。 国立情報学研究所の佐藤一郎教授(情報学)は、「官僚が答弁を作成する上で非公表情報を入力してしまい、チャットGPTの学習に利用され、機密情報が漏えいするリスクがある」と指摘する。 チャットGPTは、オンライン上の大量の情報を読み込んだ上で、指示に対して新たな文章を生成する。誤った内容でも自然な文章のため気づきにくく、偽情報が拡散する恐れがある。 ほかにも、学習データに著作権のある文章が含まれていた場合、表現がその文章と同じだったり、似通ったりして著作権を侵害する可能性がある。学習データによっては、差別や偏見を助長する答えを返す恐れもある。 教育界からも悪影響を懸念する声が相次いる」、同感である。先に取上げた「自民党の提言」は、余りにも能天気で勉強不足が見え見えだ。
タグ:田中道昭氏による「米中が覇権を握る生成AI 人材・資金でかなわない日本」 エコノミストOnline 人工知能(AI) (その14)(米中が覇権を握る生成AI 人材・資金でかなわない日本、イーロン・マスクですらこの危機感 世界でAI開発停止要求 なのに日本では無批判に国会答弁に使用提言!、チャットGPTの回答「官僚が結局精査」 非公表情報を入力する恐れも…答弁導入に疑問の声) 「文章の形で回答するシステムは、ほんの少し前まで、この世に存在しなかった。このレベルにまで達していることに驚きを覚える」、すごい進歩だ。「マイクロソフト」と、「チャットGPT」を扱う「オープンAI」の提携はさすが本格的だ。 「グーグル」は、「今年1月に社内に「非常事態宣言」を発した」、「共同創業者のセルゲイ・ブリン氏は数年ぶりに現場に復帰してAI部門のテコ入れを図るようだ」、「マイクロソフトがグーグルの牙城である検索に踏み込んできたのだから黙ってはいられない。「検索プラス対話型AI」のサービスを遠くない時期に提供できるよう準備を進めている」、「グーグル」の反攻は上手くいくのだろうか。 「中国企業による開発に一つ利点があるとすれば、扱えるデータ量が多いということだろう。欧米はプライバシー重視の必要があるため、使えるデータに制約がかかる可能性がある。中国にはこのような制約がほとんどないことから、AIの精度を上げるために有利に働くと思われる」、「現時点でこの分野に日本の出番はない。人材面、資金面ともにまったく太刀打ちできないのが実情だ」、寂しい限りだ。 参考にすべき警鐘だ。 現代ビジネス 野口 悠紀雄氏による「イーロン・マスクですらこの危機感、世界でAI開発停止要求、なのに日本では無批判に国会答弁に使用提言!」 「日本」は他国に先んじて利用したいというスケベ心が見え見えだ。 「日本」の「提言案」は「自民党がまとめた」ので、本質が理解できないまま「利用」に重点をおいたようだ。 「アメリカでの提言は、「人間と競合する知能を持つAIは、社会や人類に深刻なリスクとなりうる」として、強力なAI開発の半年間の停止を訴えています。 さらに、AI開発者は、「自分たちでさえ理解できないデジタル知性を開発する統制不能な競争に陥っている」と批判しています。 これに署名した1000人以上のテクノロジー関係者の中には、起業家イーロン・マスク氏も含まれています」、 「AIの進歩が社会に与える影響は、きわめて大きいと考えざるをえません。 だから、その開発に規制を加えるべきだというのは、 大変重要な問題提起です 。兵器関係の技術以外の技術に関して、これほど強い危惧の念が表明されたのは、初めてのことではないでしょうか? 生成系AIの潜在力は、それほど大きいのです」、確かにその通りだ。 「自信満々に間違うことがある」、とは言い得て妙だ。「未完成の技術を一般の利用に供してしまったと考えざるをません」、その通りだ。 「内容も誤っているし質も低い文章が、大量に生産される危険があるのです。手抜きの文章が世の中に溢れ、その結果、良質の文章が駆逐されてしまうという事態になりかねない」、恐ろしい事態だ。 「利用者が、この技術を無条件で受けるのではなく、賢明に利用することが求められます。 どんな技術であっても、その見かけに騙されず、賢明な利用方法をすることが重要です。生成系AIについては、とりわけそれが重要なのです」、その通りなのだろう。 「国会答弁作成」に、「時間がかかる理由は、第1には国会議員からの質問が夜遅くにならないと得られないことです。それまでの間、役人たちは役所でただ待機しているだけです」、「第2の理由は、他部局や他省庁との調整が必要なことです。関係する部局の了解を得られないと、最終答弁にはできません。この過程で、AIは何の役にも立ちません」、「対話型AIに接したときの人々の反応は、普通、つぎのような経過を辿ります。 第1段階として、知的な人間が書いたような文章がすらすらと出力されるのを見て、驚きます。しかし暫く使っていると、その内容が全くあてにならないことに気づきます。これが、第2段階です。 そして、第3段階として、そのような制約を知った上でどのような利用法があるかだろうと模索するようになります。 自民党の提言は、第1段階に止まっているのではないかと考えざるをえません」、「自民党の提言は、第1段階に止まっている」とは手厳しい批判だ。同感である。 読売新聞「チャットGPTの回答「官僚が結局精査」、非公表情報を入力する恐れも…答弁導入に疑問の声」 「「小峰氏は」、「公開情報の中から無理やり回答を作り出すことがあり、うのみにするのは危険だ」と指摘。「政府の公式見解を示す国会答弁をチャットGPTに丸ごと委ねることにはなり得ない」と話した。 国立情報学研究所の佐藤一郎教授(情報学)は、「官僚が答弁を作成する上で非公表情報を入力してしまい、チャットGPTの学習に利用され、機密情報が漏えいするリスクがある」と指摘する。 チャットGPTは、オンライン上の大量の情報を読み込んだ上で、指示に対して新たな文章を生成する。誤った内容でも自然な文章のため気づきにくく、偽 情報が拡散する恐れがある。 ほかにも、学習データに著作権のある文章が含まれていた場合、表現がその文章と同じだったり、似通ったりして著作権を侵害する可能性がある。学習データによっては、差別や偏見を助長する答えを返す恐れもある。 教育界からも悪影響を懸念する声が相次いる」、同感である。先に取上げた「自民党の提言」は、余りにも能天気で勉強不足が見え見えだ。
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人工知能(AI)(その13)(中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている、チャットGPTは アメリカ社会をどう変えるか?、チャットGPTで株価高まる世界のAI企業 懸念される「巨大リスク」とは) [イノベーション]

人工知能(AI)については、2021年9月3日に取上げた。久しぶりの今日は、(その13)(中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている、チャットGPTは アメリカ社会をどう変えるか?、チャットGPTで株価高まる世界のAI企業 懸念される「巨大リスク」とは)である。

先ずは、本年2月21日付け東洋経済オンラインが掲載した経済ジャーナリストの浦上 早苗氏による「中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/654040
・『アメリカのスタートアップ企業、オープンAIが昨年末リリースした対話型人工知能(AI)「ChatGPT」が世界的に注目を浴びている。 高度な対話、文章作成が可能なことから、検索、教育、マーケティングなど幅広い応用が期待され、中国では「中国版ChatGPT」の開発競争が過熱するが、その一方で早くも同技術を使ったフェイクニュースがSNSで広がり、警察が介入する騒動も起きている』、興味深そうだ。
・『フェイクニュースで大混乱  2月17日、浙江省の政府系放送局「浙江之声」がSNSの公式アカウントで、前日に拡散した杭州市の政策転換のニュースを「フェイク」だと打ち消した。 「(同省の)杭州市が自動車の通行制限を3月1日に撤廃する」との情報が16日に拡散したが、実際はChatGPTが作成したフェイクニュースだったのだ。 同局の説明によると、地域住民のグループチャットでChatGPTが話題に上った。ITの最新事情に詳しいメンバーが、同技術について説明するため、「杭州市が通行制限を廃止する」という設定でChatGPTにニュースリリースを書かせ、その様子を動画でシェアするとともに完成した文章を投稿した。 その後、ChatGPTを知らない別のメンバーがニュースリリースを本物だと信じ、コピペして別のグループチャットでシェアした。 杭州市は約10年前に、自動車増加に伴う渋滞を緩和するため通行制限を導入したが、ゼロコロナ政策やその後の感染爆発で走行量が減少し、最近は制限解除も期待されている。 絶妙なタイミングで投下された偽リリースは瞬く間に拡散し、ついに浙江省の広報媒体でもある浙江之声が「フェイクニュース」として否定する大騒動となった。) 同局によると警察が捜査に着手し、文章の作成者は「社会や政府に迷惑をかけたこと」を謝罪した。 作成者に悪意はなく、ネットでは同情の声が多く上がっている。一方で多くの人がAI作成の文章だと気づかないまま拡散したことで、これまではIT業界でのバズワードだったChatGPTへの注目度や懸念が一気に高まった。 2022年11月末にリリースされたChatGPTは、誰でも試せる気軽さもあり1月時点でアクティブユーザー数が1億人に達したといわれている。だが、中国のIPアドレスや電話番号では登録できないため、現時点で中国から利用しているのは、アクセスポイントを偽装するソフトや外国の電話番号でアクセスする「IT通」に限られる』、「ChatGPTは、誰でも試せる気軽さもあり1月時点でアクティブユーザー数が1億人に達したといわれている。だが、中国のIPアドレスや電話番号では登録できないため、現時点で中国から利用しているのは、アクセスポイントを偽装するソフトや外国の電話番号でアクセスする「IT通」に限られる」、「「IT通」に限られる」のに、「アクティブユーザー数が1億人」、とはさすが「中国」だ。
・『中国政府は今のところ後押ししている  それでも、お金のにおいがする有望技術に、中国企業や投資家は我先にと飛びついている。 マイクロソフトが2月初旬に、自社の検索エンジン「Bing(ビング)」にChatGPTを搭載し、検索で圧倒的なシェアを持つアルファベット傘下のグーグルが対話型AI「Bard(バード)」を近く一般公開すると発表すると、中国では「中国版ChatGPT」の開発競争が一気に加速した。 株式市場ではAIやマイクロソフトに関係する企業の株価が連日ストップ高となり、当局が注意喚起するほど過熱している。 中国政府は2020年以降IT企業の規制を強化しているが、AIはビッグデータ、5G、ブロックチェーンと並び、次世代の覇権に関わる技術として支援している。 だからか、中国政府の代弁者的なメディアも今のところ中国版ChatGPTの開発を後押しする姿勢を見せる。 政府系経済メディアの経済日報は2月12日、「中国企業の技術力はChatGPTに2年遅れているが、中国は世界最大規模のネットユーザーと多用な応用シーンを持っており、データ蓄積環境の優位性は明らかだ。ChatGPTに追いつき追い越すこともできる」と論評した。 検索に続いて対話型AIが応用されそうな教育・研究分野でも、警戒より期待が上回っている。 上海市で教育行政を統括する倪閩景氏は寄稿で「ChatGPTの登場は教育改革の大きな機会である」「ChatGPTのような学習ツールを教育改革に活用すれば、学習の質をさらに高められる」と指摘した。) そんな中で、共産党のエリート青年組織「中国共産主義青年団(共青団)」の機関紙「中国青年報」は2月17日、中国の大学で学ぶ学生が、ChatGPTを使って期末試験でクラス1位の成績を取った事例をレポートした。 記事によると大学2年生の男子学生は、昨年末に実施された期末試験の課題レポート「インターネット広告マーケティングの特徴」をChatGPTを利用して作成した。 オンラインで実施された期末試験は授業で使った資料や関連論文の閲覧を許可され、制限時間は2時間だった。ほかの学生が授業で配られた資料や数十本の関連論文をパソコンに保存し、試験に備えていたのに対し、男子学生はChatGPTにレポートのテーマを入力し複数回の対話を経て、1分足らずでChatGPTに6000字のドラフトを作らせた。その後、学生が1200文字に編集し、試験終了1時間前に提出したという。 中国青年報によると、「学校の課題にChatGPTを使う是非」について、SNSやインターネット掲示板で少なくとも数十万の投稿が公開されている。学生が「宿題の神器」「最強の家庭教師」と歓迎する一方、「思考力や創造力を奪う」との批判も少なくない。 中国青年報は記事でChatGPTを使って高得点を取った学生を批判しておらず、「正しく質問を入れないと、適切な回答は得られない。AIを使いこなすにも知識や技量がいる」「人間とAIが協業してより価値の高い成果を出せる」といった大学教授の声を多く紹介している。同メディアが共産党の機関紙であることを考えると、政府も対話型AIを「アメリカと肩を並べるための神器」と期待しているように見える』、「期末試験の課題レポート「インターネット広告マーケティングの特徴」をChatGPTを利用して作成した。 オンラインで実施された期末試験は授業で使った資料や関連論文の閲覧を許可され、制限時間は2時間だった。ほかの学生が授業で配られた資料や数十本の関連論文をパソコンに保存し、試験に備えていたのに対し、男子学生はChatGPTにレポートのテーマを入力し複数回の対話を経て、1分足らずでChatGPTに6000字のドラフトを作らせた。その後、学生が1200文字に編集し、試験終了1時間前に提出したという」、なかなか要領がいいようだ。「政府も対話型AIを「アメリカと肩を並べるための神器」と期待しているように見える」、なるほど。
・『締め付けに転じる可能性も  とはいえ、対話型AIの活用についてはまだ始まったばかりで、前述したように中国では使えない建前にもかかわらず、すでに大学の期末試験で使う学生が現れ、フェイクニュースが世の中を騒がせている。政府や企業の前のめりな期待をよそに、政府にとって想定外の事象が次々に生み出されるのは想像にかたくない。 習近平国家主席が率いる共産党政権は社会の秩序を乱す事象を何より嫌う。TwitterやFacebookなどのアメリカのSNSをブロックしたり、巨大なコストをかけてSNSを監視するのも、情報統制に絶対的な価値を置いているからだ。対話型AIが「デマの神器」になりそうな兆候が見えたら、躊躇なく締め付けに転じるだろう。 検索ポータルで中国首位のバイドゥ(百度)は3月に自社開発した対話型AIを発表する計画だが、中国政府のプレッシャーを背負う「中国版ChatGPT」は、どんな姿になるのだろうか』、「対話型AIが「デマの神器」になりそうな兆候が見えたら、躊躇なく締め付けに転じるだろう」、「バイドゥ」の「中国版ChatGPT」はどんな形になるのだろう。

次に、3月1日付けNewsweek日本版が掲載した在米作家の冷泉彰彦氏による「チャットGPTは、アメリカ社会をどう変えるか?」を紹介しよう。引用の順番を部分的に変更した。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2023/03/gpt_1.php
・『<英語で使用する限りでは、文章の作成・添削の能力は実用レベルに達している> 2022年11月30日に、サンフランシスコに本拠を置くベンチャー企業 Open AI 社は、AI(人工知能)が人間と対話する「チャットポット」をインターネットのパブリックな空間でリリースしました。UI(ユーザーインターフェース)は簡単で、ユーザーが文章でポットに質問を投げかけると、文章で回答を返してくるというスタイルです。これが現在、世界中で話題になっているチャットGPT の始まりでした。 私が、その存在と効果を知ったのはリリースから約1カ月弱後の12月後半でした。その時は英文のネイティブチェック的な使い方を、テック技術者のアシストで経験したのですが、その精度に驚嘆したのを覚えています。それから1カ月経過した本年の1月末には、かなり広範な社会現象になり、2月に入るとユーザーが3億人を超えたとして一般のメディアでも話題にされるようになりました。 その後、サーバの容量不足でサービスを受けるのに時間がかかる時期もありましたが、本稿の時点では容量の追加や、日々のアップデートなどがされているらしく、接続については、やや改善されています。運営サイドも、2月13日には「初期リリース」から「安定的リリース」にフェーズを進めています。また、混雑時に優先して使用ができる有料サービスの「PLUS」も始まっていますが、本稿の時点ではキャパを超えているらしく、登録しようとすると「ウェイトリスト」に入れられます。 ちなみに、現時点では日本語のデータ蓄積量はまだまだ少ないようで、事実を問うような質問ではどんどん誤情報が返ってくるのが現状です。試しに、今現在「旬」である芸能人3人について入力してみたところ、1名は「知らない」と言われ、残りの2名については全く間違った情報が返ってきました。ビジネスレターの様式などはある程度は習得しているようですが、日本語特有のニュアンスの表現に関しては、まだまだ実用レベルにはなっていません』、「英語で使用する限りでは、文章の作成・添削の能力は実用レベルに達している」、しかし「日本語特有のニュアンスの表現に関しては、まだまだ実用レベルにはなっていません」、ただ、それも時間の問題だろう。
・『英語の膨大な言語データ  ですが、英語の世界では違います。そもそも Open AI 社が英語圏の企業ということもありますが、恐らく膨大な言語データを有しているものと思われ、まず文章の作成や添削の能力としては、ハッキリ申し上げて実用レベルに達していると思います。現時点では、アメリカ社会もその実力を認め、その上で様々な分野で議論が始まっているところです。今回は4つの分野についてお話したいと思います。 1つ目は、教育の分野です。情報を検索するということでは、既にネットに多くのツールがありますが、チャットGPT を使うと正確な英文が簡単に書けてしまう、これは画期的なことです。まず、高校や大学では宿題のエッセイを書くのに、学生が使い始めており、早速論争になっています。例えば、調査と作文を一括で処理させるような行為が横行するようだと、学生の学習体験にならず学力が向上しないという指摘がされています。このため原則禁止にする学区もあり、学校貸与のデバイスでは接続を遮断するケースも見られます。 一部の大学では、チャットGPT が出力してくる英文の「クセ」を見抜くソフトを導入して「不正行為」の摘発に乗り出すとしているケースもあります。深刻な問題は、大学入試の小論文(エッセイ)試験です。アメリカの場合は、在宅受験であり、しかも教員や親などから英語の「言葉遣い」のチェックを受けることは特に禁止されていません。ですが、最初からAIに書かせたエッセイが横行すると入試制度が混乱してしまう懸念があります。今年の入試(原則として昨年の12月末締め切り)では、表面だった問題にはなっていませんが、次年度へ向けては各大学が対応に追われることと思います。 一方で、修士レベル以上では、文章作成というのが「論文執筆の後工程」に過ぎないという考え方を取るならば、チャットGPT というのは論文の生産性を劇的に高めるのは事実です。また、英語力が発展途上の留学生に取っては、論文執筆の心強い味方になります。もちろん出力された英文が自分の論旨に外れていないかを確認する工程を省略することはできませんし、ある程度はオリジナルな表現を入れるべきですが、こうした使用法は否定できないという意見はあります。) 2つ目は、生活の分野です。医者にちょっと複雑な相談をテキストで行う、小売店などが消費者への注意事項を告知する文書を用意する、保護者が教師に対して子どもの様子を報告する、などといった生活の中で「かなり丁寧で、正確性が求められる」レターを書くという局面はあります。そんな場合に、チャットGPT を使えば誰でも一定レベルの英文が書けるというのは便利です。 さらに、そうした利用者からの依頼や問い合わせに応える側では、一々考えて文章を書くのではなく、AIに条件を放り込めば回答を作ってくれるわけです。この点に関しては、このままAIが進化すると、ある程度の知的労働は機械に取って代わられてしまうのではという議論もあります。 3つ目は、プログラミング(コーディング)の分野です。チャットGPT には、当初からプログラムを入力すると、より良いプログラムの書き方を返してくるという機能があります。もちろん、産業別に込み入った条件があったり、複雑なインターフェースがあったりという条件下では、要件を入れただけでは、使えるプログラムを返してくるわけではありません。 ですが、スキルの低いプログラマーがダラダラ書いたステップ数の多いプログラムを入れると、短くて切れ味の良いプログラムに書き換えてくれるとか、条件の入れ方のコツを習得すると中級者レベルでも生産性支援ツールとして役立つということは確かにあるようです。デバッグ(プログラムのバグの解決)の機能も結構使えるという声があります。そうしたツールは既に色々出回っているわけですが、チャットGPT が相当なビッグデータを集めているとしたら、業界のゲームチェンジャーになる可能性はあります』、「1つ目は、教育の分野です」、「チャットGPT を使うと正確な英文が簡単に書けてしまう、これは画期的」、「調査と作文を一括で処理させるような行為が横行するようだと、学生の学習体験にならず学力が向上しないという指摘がされています。このため原則禁止にする学区もあり」、「2つ目は、生活の分野です。医者にちょっと複雑な相談をテキストで行う、小売店などが消費者への注意事項を告知する文書を用意する、保護者が教師に対して子どもの様子を報告する、などといった生活の中で「かなり丁寧で、正確性が求められる」レターを書くという局面はあります。そんな場合に、チャットGPT を使えば誰でも一定レベルの英文が書けるというのは便利」、「3つ目は、プログラミング(コーディング)の分野です。チャットGPT には、当初からプログラムを入力すると、より良いプログラムの書き方を返してくるという機能があります・・・スキルの低いプログラマーがダラダラ書いたステップ数の多いプログラムを入れると、短くて切れ味の良いプログラムに書き換えてくれるとか、条件の入れ方のコツを習得すると中級者レベルでも生産性支援ツールとして役立つということは確かにあるようです」、この「プログラミングの分野」は本当に便利そうだ。
・「4番目は、これは使用法ではなく、チャットGPT が出力してくる英文の「味付け」の問題です。昨年12月に使い始めた人の多くは、私も含めて、出てくる英語の文章が「とても丁寧で感じがよく、スッキリしていて、しかも世界中の誰も傷つけないように」書かれていることに驚いたのでした。これは、そのような「味付け」がアルゴリズムの中で設定されているようですし、またその背景には、そのような「味付け」が21世紀の英語圏では最も広範な実用性を持つという判断があると考えられます』、「4番目は、これは使用法ではなく、チャットGPT が出力してくる英文の「味付け」の問題です」、なるほど。 
・『ポリコレに汚染されている?  これに対しては早速「チャットGPT はポリコレに汚染されている」とか「政治的バイアスが不快」という声が上がっています。この問題は、もしかすると2022年のイーロン・マスク氏による「同氏の基準による発言の自由」を掲げての、ツイッター買収のような騒動に発展するかもしれません。 チャットGPT が実用化されることで、あるスキル以下のプログラマーは不要になるとか、職種の分担が変わってくるとか、あるいはシリコンバレー名物の「面倒な要件を与えてプログラムを書かせる入社試験」が、今まで以上に、やたらに難しくなるかもしれないなどという議論があります。それはともかく、リベラル寄りとされる チャットGPT に「対抗」して、保守的な立場や、統制的な価値観に基づいたAI開発などの動きが出てくるかもしれません。 いずれにしても、2023年3月初旬の現在、テックの分野では、このチャットGPT が大きな話題になっているのは間違いありません』、「リベラル寄りとされる チャットGPT に「対抗」して、保守的な立場や、統制的な価値観に基づいたAI開発などの動きが出てくるかもしれません」、「リベラル」と「保守」の争いが「AI開発」の分野でまで出てくるとすれば、見物だ。

第三に、3月14日付けダイヤモンドが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「チャットGPTで株価高まる世界のAI企業、懸念される「巨大リスク」とは」を紹介しよう。
・『世界のIT産業ではAI分野に関心がシフトしている。言語型AIなどと呼ばれる「チャットGPT」を用いてマイクロソフトは検索市場のシェアを、王者・グーグルから奪取しようとしている。AIが果たす役割は日常生活から企業の事業運営、社会インフラなどの管理、さらには防衛(安全保障)まで増えている。米国は中国が台頭する状況に懸念を強め、さまざまな対策を講じている。米中対立のはざまで揺れるAI業界の成長性をどのように見極めればいいのだろうか』、興味深そうだ。
・『米中対立のはざまで揺れるAI業界  最近、世界のIT先端分野の中心は、急速に変化している。主な兆候は、AI(人工知能)を使った文章や画像の生成などへの期待の高まりだ。米オープンAIの「GPT-3.5(チャットGPTを支えるAI)」、グーグルの「Bard」、中国バイドゥの「文心一言(アーニーボット)」などが注目を集めている。こうした先端分野の企業に期待する投資家が増え、足元で米ナスダック総合指数も底堅い展開になっている。 米国のバイデン政権は、中国の華為技術(ファーウェイ)に対する全面禁輸を検討している。米議会では超党派議員によって、動画投稿アプリ「TikTok」の一般利用を禁止する法案成立も視野に入っている。なお、オーストラリアでは、AIを搭載した中国製の監視カメラの排除が進みつつあるようだ。日用品などの分野で米中の相互依存度が高まっている一方、先端分野での米中対立はさらに熱を帯びている。それは、世界経済にとって無視できないマイナスの要因になる。 世界経済はウクライナ紛争をはじめとする不安要因を抱え、インフレなどに苦しんでいる。米国や欧州では、想定以上に金融引き締めが長引く可能性が高い。世界経済の成長に大きなインパクトを与えるAIなどの先端分野において、米中対立が一段と激化すると、実体経済と金融市場にマイナス影響が及ぶことは避けられないだろう』、「AIなどの先端分野において、米中対立が一段と激化すると、実体経済と金融市場にマイナス影響が及ぶことは避けられない」、その通りだ。
・『世界のAI企業で期待の星は?  世界のIT先端分野ではサブスクリプションや広告などのビジネスモデルから、より急速にAI関連分野に関心がシフトしている。きっかけの一つが、マイクロソフトとオープンAIとの連携強化だ。 従来のAI利用方法といえば、機器の使い方の説明やアラームの設定などがメインだった。しかし、言語型AIなどと呼ばれる「チャットGPT」は、自ら情報を生成する力を発揮し始めた。それを用いてマイクロソフトは検索市場のシェアを、王者・グーグルから奪取しようとしている。AIは既存の産業構造にかなりのインパクトを与えるとの見方は増えた。 AI利用の範囲は検索にとどまらない。1月12日の米国株式市場では、企業、政府、安全保障関連で意思決定などをサポートするAI開発を行う企業であるビッグ・ベアAI(BigBear.ai Holdings,Inc)の株価が前営業日の引け値から260%(株価は3.6倍)超上昇した。材料視されたのは、同社が米空軍から数量未確定の契約を(期間10年、総額9億ドル、およそ1215億円)を結んだことだった。 日常生活から企業の事業運営、社会インフラなどの管理、さらには防衛(安全保障)まで、AIが果たす役割は増えている。AI利用には、深層学習を支えるチップの性能向上が欠かせない。AI需要の増加期待を背景に、2023年初から3月初旬まで、米国の株式市場では、フィラデルフィア半導体株指数の上昇が顕著だった。 中国でもAI関連企業が注目されている。代表例はファーウェイだ。米トランプ前政権下での半導体禁輸措置などによって一時、ファーウェイの経営体力は大きく低下した。そのため同社は「オナー」ブランドのスマホ事業を売却して生き残りを図りつつ、AI分野に経営資源を急速に再配分した。その成果として、世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキングで上位の天津港で、ファーウェイのAIを用いた港湾の運行システムを稼働し始めた。 中国では寒武紀科技(カンブリコン・テクノロジーズ)など、AI関連新興企業に対する成長期待も高まっている。習国家主席の肝いりで創設された「科創板市場」に上場するカンブリコンの株価は、3月上旬までの年初来で約70%上昇した』、「言語型AIなどと呼ばれる「チャットGPT」は、自ら情報を生成する力を発揮し始めた。それを用いてマイクロソフトは検索市場のシェアを、王者・グーグルから奪取しようとしている」、「中国では寒武紀科技(カンブリコン・テクノロジーズ)など、AI関連新興企業に対する成長期待も高まっている」、なるほど。
・『米中対立がAI分野で先鋭化  米国は中国が台頭する状況に懸念を強めている。ファーウェイの全面禁輸に加え、TikTokなど外国企業のITサービスの利用を禁じる権限を米国政府に付与する法案成立も目指している。なお、欧州委員会、カナダ、わが国でも政府職員の業務用端末でのTikTok利用が禁止された。カナダでは、「19年と21年の連邦議会選挙に中国が介入した」との報道もある。また、米国では港湾で稼働しているクレーンが、「中国によるデータ抜き取りの手段になる」といった懸念が浮上し始めている。 そうしたリスクに対応するために、米国は日韓台との連携を強化し、半導体など先端分野での対中包囲網をさらに強固にする意向だ。また、アップルなどは生産拠点を中国からインドに移管しており、インドともAIなど先端分野での連携を強化しようとしている。 一方、中国共産党政権は、米国などの圧力に対抗し、AI利用を加速させようとしている。象徴的なのが、3月5日から始まった全人代と同じタイミングで実施された、全人代代表の改選だ。経済分野の代表としてAI開発企業である科大訊飛(アイフライテック)トップの劉慶峰氏が再選された。一方、テンセントの馬化騰(ポニー・マー)氏は代表から退いた。 習政権は、産業補助金の積み増しなどによってAI開発、ロジック半導体の微細化などの製造技術向上を加速するはずだ。また、2月下旬から3月上旬にスペイン・バルセロナで開催された世界最大規模の移動体通信展示会「モバイル・ワールド・コングレス」にて、ファーウェイは、政府や大企業だけでなく、中小企業向けの事業を強化すると発表した。シェアは低下したものの依然としてファーウェイは世界トップの通信基地局メーカーだ。その地位を生かし、同社がAIなどを用いたIoTサービスを新興国の中小事業者に提供するもようだ』、「シェアは低下したものの依然としてファーウェイは世界トップの通信基地局メーカーだ。その地位を生かし、同社がAIなどを用いたIoTサービスを新興国の中小事業者に提供するもようだ」、「ファーウェイ」が「世界トップの通信基地局メーカーだ」、には驚かされた。
・『明確な絵が描けないAIの可能性・成長性  現時点でチャットGPTなど生成AIの設計、開発などに関して、米国は中国をリードしている。米国は中国の半導体関連企業への禁輸措置をさらに強化するなどし、ファーウェイをはじめとするIT先端企業の成長をより強く抑え込もうとするだろう。それによって、先端分野における中国の取り組みが鈍化する可能性がある。 翻って米国をはじめ主要先進国のAI利用には、克服されるべき課題も多い。チャットGPTに関して、誤った検索結果の提示や、子どもの教育への配慮などの懸念が多く指摘されている。  一例としてアップルはチャットGPTを用いて過去のメールを検索し、自動で文書を作成するアプリ、「ブルーメール」のアップデートをしなかった。AIを用いることで定型化された業務の効率化などは期待されているものの、現時点では米中対立の先鋭化、人権への配慮、さらには人類の学ぶ意欲への悪影響など、AI利用がどのように進捗(しんちょく)するか不確定な要素は多い。そう考えると、年初来のAI関連株の上昇は、「行き過ぎ」に見える。 加えて、主要先進国は当面の間、インフレ沈静化のために金融を引き締めなければならない。米国を中心に世界的に金利はさらに上昇し、株価は下落しやすくなる。特に、期待先行で株価が上昇したAI関連銘柄への売り圧力は相対的に大きくなりやすい。 懸念されるのは、世界的に株価が下落するタイミングで、先端分野での米中対立の先鋭化が本格化する展開だ。AI、半導体、さらには人権の分野で米中対立が一段と熱を帯びれば、サプライチェーンの混乱が再燃する。台湾侵攻の緊迫感も高まり、中国ではなく他国に生産拠点をシフトさせる動きも激化するだろう。 そうなると、これまで以上に在庫を積み増そうとする企業は増えるに違いない。それに伴い、各国企業のコストは増加し、世界経済と金融市場の不安定感が追加的に高まると予想される。現在、AI関連企業を物色する投資家は多いが、チャットGPTなどの利用は一筋縄にはいかないだろう』、「期待先行で株価が上昇したAI関連銘柄への売り圧力は相対的に大きくなりやすい。 懸念されるのは、世界的に株価が下落するタイミングで、先端分野での米中対立の先鋭化が本格化する展開だ。AI、半導体、さらには人権の分野で米中対立が一段と熱を帯びれば、サプライチェーンの混乱が再燃する。台湾侵攻の緊迫感も高まり、中国ではなく他国に生産拠点をシフトさせる動きも激化するだろう」、「現在、AI関連企業を物色する投資家は多いが、チャットGPTなどの利用は一筋縄にはいかないだろう」、投資の観点からは、当面、「AI関連企業」は要警戒のようだ。
タグ:東洋経済オンライン (その13)(中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている、チャットGPTは アメリカ社会をどう変えるか?、チャットGPTで株価高まる世界のAI企業 懸念される「巨大リスク」とは) 人工知能(AI) 浦上 早苗氏による「中国「ChatGPT」偽ニュース拡散で揺れる政権対応 アメリカに対抗の一方で、懸念も生まれている」 オープンAI 「ChatGPT」 「「IT通」に限られる」のに、「アクティブユーザー数が1億人」、とはさすが「中国」だ。 「期末試験の課題レポート「インターネット広告マーケティングの特徴」をChatGPTを利用して作成した。 オンラインで実施された期末試験は授業で使った資料や関連論文の閲覧を許可され、制限時間は2時間だった。ほかの学生が授業で配られた資料や数十本の関連論文をパソコンに保存し、試験に備えていたのに対し、男子学生はChatGPTにレポートのテーマを入力し複数回の対話を経て、1分足らずでChatGPTに6000字のドラフトを作らせた。その後、学生が1200文字に編集し、試験終了1時間前に提出したという」、なかなか要 領がいいようだ。「政府も対話型AIを「アメリカと肩を並べるための神器」と期待しているように見える」、なるほど。 「対話型AIが「デマの神器」になりそうな兆候が見えたら、躊躇なく締め付けに転じるだろう」、「バイドゥ」の「中国版ChatGPT」はどんな形になるのだろう。 Newsweek日本版 冷泉彰彦氏による「チャットGPTは、アメリカ社会をどう変えるか?」 「英語で使用する限りでは、文章の作成・添削の能力は実用レベルに達している」、しかし「日本語特有のニュアンスの表現に関しては、まだまだ実用レベルにはなっていません」、ただ、それも時間の問題だろう。 「1つ目は、教育の分野です」、「チャットGPT を使うと正確な英文が簡単に書けてしまう、これは画期的」、「調査と作文を一括で処理させるような行為が横行するようだと、学生の学習体験にならず学力が向上しないという指摘がされています。このため原則禁止にする学区もあり」、 「2つ目は、生活の分野です。医者にちょっと複雑な相談をテキストで行う、小売店などが消費者への注意事項を告知する文書を用意する、保護者が教師に対して子どもの様子を報告する、などといった生活の中で「かなり丁寧で、正確性が求められる」レターを書くという局面はあります。そんな場合に、チャットGPT を使えば誰でも一定レベルの英文が書けるというのは便利」、 「3つ目は、プログラミング(コーディング)の分野です。チャットGPT には、当初からプログラムを入力すると、より良いプログラムの書き方を返してくるという機能があります・・・スキルの低いプログラマーがダラダラ書いたステップ数の多いプログラムを入れると、短くて切れ味の良いプログラムに書き換えてくれるとか、条件の入れ方のコツを習得すると中級者レベルでも生産性支援ツールとして役立つということは確かにあるようです」、この「プログラミングの分野」は本当に便利そうだ。 4番目は、これは使用法ではなく、チャットGPT が出力してくる英文の「味付け」の問題です 「リベラル寄りとされる チャットGPT に「対抗」して、保守的な立場や、統制的な価値観に基づいたAI開発などの動きが出てくるかもしれません」、「リベラル」と「保守」の争いが「AI開発」の分野でまで出てくるとすれば、見物だ。 ダイヤモンド 真壁昭夫氏による「チャットGPTで株価高まる世界のAI企業、懸念される「巨大リスク」とは」 「AIなどの先端分野において、米中対立が一段と激化すると、実体経済と金融市場にマイナス影響が及ぶことは避けられない」、その通りだ。 「言語型AIなどと呼ばれる「チャットGPT」は、自ら情報を生成する力を発揮し始めた。それを用いてマイクロソフトは検索市場のシェアを、王者・グーグルから奪取しようとしている」、「中国では寒武紀科技(カンブリコン・テクノロジーズ)など、AI関連新興企業に対する成長期待も高まっている」、なるほど。 「シェアは低下したものの依然としてファーウェイは世界トップの通信基地局メーカーだ。その地位を生かし、同社がAIなどを用いたIoTサービスを新興国の中小事業者に提供するもようだ」、「ファーウェイ」が「世界トップの通信基地局メーカーだ」、には驚かされた。 「期待先行で株価が上昇したAI関連銘柄への売り圧力は相対的に大きくなりやすい。 懸念されるのは、世界的に株価が下落するタイミングで、先端分野での米中対立の先鋭化が本格化する展開だ。AI、半導体、さらには人権の分野で米中対立が一段と熱を帯びれば、サプライチェーンの混乱が再燃する。台湾侵攻の緊迫感も高まり、中国ではなく他国に生産拠点をシフトさせる動きも激化するだろう」、 「現在、AI関連企業を物色する投資家は多いが、チャットGPTなどの利用は一筋縄にはいかないだろう」、投資の観点からは、当面、「AI関連企業」は要警戒のようだ。
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ブロックチェーン(その2)(世界に挑む「国産ブロックチェーン」起業家の素顔 「ウェブ3.0は若者に非常に有利な領域だ」、「Web3.0・NFT」って何?「NBAのカードが100万ドルで売買」される理由) [イノベーション]

ブロックチェーンについては、昨年1月15日に取上げた。今日は、(その2)(世界に挑む「国産ブロックチェーン」起業家の素顔 「ウェブ3.0は若者に非常に有利な領域だ」、「Web3.0・NFT」って何?「NBAのカードが100万ドルで売買」される理由)である。

先ずは、昨年4月25日付け東洋経済オンライン「世界に挑む「国産ブロックチェーン」起業家の素顔 「ウェブ3.0は若者に非常に有利な領域だ」」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/584073
・『ウェブ3.0の分野で起業する日本の若者が続々と出てきている。日本発のブロックチェーンを標榜するステイク・テクノロジーズの渡辺創太CEO(26)もその1人だ。 インターネットの秩序を大きく変えようとしている「ウェブ3.0」。ブロックチェーン技術を基盤として、特定の管理者が存在せず、ユーザーがデータの所有権を持てる世界だ。 2019年1月にステイク・テクノロジーズを創業し、独自のブロックチェーン「アスター・ネットワーク」を開発した渡辺創太CEO(26)。世界中の暗号資産関連の投資家から資金調達を行うなど、業界内でも日本を代表する起業家として注目を集めている。 起業のきっかけやウェブ3.0における勝ち目について聞いた(Qは聞き手の質問、Aは渡辺氏の回答)』、興味深そうだ。
・『最初から「波に乗れる」と思った  Q:なぜブロックチェーン領域での起業を決めたのですか。 A:テクノロジーには波があると思っていて、一番最初の大波がインターネットの誕生だったと思う。このときは僕らの世代は生まれていなかった。その次の波がモバイルで、アップルのスティーブ・ジョブズがiPhoneを発表したときは、中学生くらいだった。 そして今ブロックチェーンやウェブ3.0の波が起きている。歴史的なテクノロジーの大波の中で、今26歳の自分が最初からそれに乗れるのがこの波だった。ビットコインが生まれてからはまだ13年ほど。既存の常識にとらわれず、体力もある。若者に非常に有利な領域だと思う。 学生時代にインドや中国でボランティア活動に携わり、貧困や格差を解決したいと思ったということもある。ブロックチェーンは搾取されてきた人たちに権力を分配できる技術だ。いわゆる「GAFAM」はネットビジネスで勝ち抜いた。今後20年は、それがウェブ3.0になる。最初から世界を見据えて起業した。 Q:ブロックチェーンが「権力を分配できる」とは? A:ウェブ3.0は「Less trust, More truth(信頼に代わる真実を)」という世界。これまではあらゆる経済活動に、人々に「信頼」された中間的な業者が入っていた。 例えば今ウクライナに寄付をするにも、銀行や赤十字社が間に入る。そのため、現地にお金が届いているのか、「真実」はわかりにくい。あらゆるビジネスはすべて、信頼の上に成り立っているゆえに、間の人たちが実際に何をしているのかは見えない状態だった。 ブロックチェーンはユーザー同士を直接つなぎ、透明性や検証性の高い経済活動を実現する。中抜き構造が変わるのは大きなインパクトになる。 Q:現在開発する「アスター・ネットワーク」というブロックチェーンは、どのような役割を担うのでしょうか。 A:世界には今ビットコインやイーサリアムなど主要なブロックチェーンが20個ほどあるが、相互につながっていない。アスターはこれらをつなげるプラットフォームになる。 アスターは(イーサリアムの共同創設者である)ギャビン・ウッド氏が開発した「ポルカドット」というブロックチェーンに接続する、パラレルチェーンという部分を担っている。これが意味するのは、ポルカドットに接続されたほかのチェーンと相互に通信ができるということ。 ポルカドットに接続するチェーンはすべて同じ開発ツールで作られている。ただイーサリアムやソラナといったほかのチェーンは違う。それらのチェーンとポルカドットをつなぐ存在が必要で、僕らがその役割を担いたいと考えている。 Q:そもそもなぜブロックチェーン同士をつなぐ必要があると?) 今はユーザーがそれぞれのブロックチェーンのことを理解しなければ、アプリケーションが使いづらい。一般にブロックチェーンが普及するには、一つひとつのチェーンを意識せずに、さまざまなアプリケーションが使えることが重要だ。 例えばビットコインでイーサリアム上のNFT(非代替性トークン)を買える、といった世界観。それができなければ、ブロックチェーンがもたらすインクルージョン(包摂)が実現できない。 Q:今年1月にはアスター・ネットワークのトークンを発行し、時価総額は1000億円規模になりました。 A:たくさんのアプリ開発者が入ってきてくれていることが大きい。今後伸びるプラットフォームだと思ってくれていて、そこに早くから参入したいと思う人が入ってくれている。 開発者に対するインセンティブを用意していることも(特徴として)ある。ほかのチェーンではアプリを実装すると、開発者が高額な手数料を支払う必要がある。一方で、われわれのチェーンでは取引数や接続されたウォレットの数など貢献の度合いに応じて、開発者に報酬としてトークンを付与している。 既存のチェーンではコストがかかる構造になっており、開発インセンティブの設計として正しくない。ビットコインではマイニング(ブロックチェーン上の取引の承認に必要なコンピューターの演算作業)をした人に報酬が支払われているが、アスターではマイナー(マイニングをする人)だけでなく、開発者にも報酬を分配している』、「ウェブ3.0は「Less trust, More truth(信頼に代わる真実を)」という世界。これまではあらゆる経済活動に、人々に「信頼」された中間的な業者が入っていた。 例えば今ウクライナに寄付をするにも、銀行や赤十字社が間に入る。そのため、現地にお金が届いているのか、「真実」はわかりにくい。あらゆるビジネスはすべて、信頼の上に成り立っているゆえに、間の人たちが実際に何をしているのかは見えない状態だった。 ブロックチェーンはユーザー同士を直接つなぎ、透明性や検証性の高い経済活動を実現する。中抜き構造が変わるのは大きなインパクトになる」、「ブロックチェーンは搾取されてきた人たちに権力を分配できる技術だ。いわゆる「GAFAM」はネットビジネスで勝ち抜いた。今後20年は、それがウェブ3.0になる」、「ウェブ3.0は「Less trust, More truth(信頼に代わる真実を)」という世界。これまではあらゆる経済活動に、人々に「信頼」された中間的な業者が入っていた・・・あらゆるビジネスはすべて、信頼の上に成り立っているゆえに、間の人たちが実際に何をしているのかは見えない状態だった。 ブロックチェーンはユーザー同士を直接つなぎ、透明性や検証性の高い経済活動を実現する。中抜き構造が変わるのは大きなインパクトになる」、「世界には今ビットコインやイーサリアムなど主要なブロックチェーンが20個ほどあるが、相互につながっていない。アスターはこれらをつなげるプラットフォームになる。 アスターは・・・ギャビン・ウッド氏が開発した「ポルカドット」というブロックチェーンに接続する、パラレルチェーンという部分を担っている。これが意味するのは、ポルカドットに接続されたほかのチェーンと相互に通信ができるということ。 ポルカドットに接続するチェーンはすべて同じ開発ツールで作られている。ただイーサリアムやソラナといったほかのチェーンは違う。それらのチェーンとポルカドットをつなぐ存在が必要で、僕らがその役割を担いたいと考えている」、「今はユーザーがそれぞれのブロックチェーンのことを理解しなければ、アプリケーションが使いづらい。一般にブロックチェーンが普及するには、一つひとつのチェーンを意識せずに、さまざまなアプリケーションが使えることが重要だ。 例えばビットコインでイーサリアム上のNFT(非代替性トークン)を買える、といった世界観。それができなければ、ブロックチェーンがもたらすインクルージョン(包摂)が実現できない。 Q:今年1月にはアスター・ネットワークのトークンを発行し、時価総額は1000億円規模になりました」、「既存のチェーンではコストがかかる構造になっており、開発インセンティブの設計として正しくない。ビットコインではマイニング・・・をした人に報酬が支払われているが、アスターではマイナー・・・だけでなく、開発者にも報酬を分配している」、「開発者にも報酬を分配」とはいいインセンティブになる。
・『ブロックチェーン業界で重視されるのは「TVL」  Q:アスターのチェーン上ではどんなアプリが実際に使われているんでしょうか。 A:「DeFi(Decentralized Finance、ディーファイ/分散型金融)」の取引が盛んだ。アスター上のDEX(デックス、分散型交換所=余剰の暗号資産を持つ人と、手持ちの暗号資産を別の暗号資産に交換したい人をつなげる場)やレンディング(暗号資産の貸し出し)などが増えており、チェーン上の預かり資産額(Total Value Locked、TVL)はグローバルでトップ10に入った。 Q:DeFiで稼ぐ人が増えるということは、渡辺さんが目指しているインクルージョン(包摂)の世界と乖離してしまうのでは? A:それはその通りで、ブロックチェーンの利用者はまだアーリーアダプターが大半。交換所で暗号資産を買って、暗号資産用のウォレットをインストールして、イーサリアムからアスターにトークンを移したりしないといけない。ウェブ3.0の世界はまだ敷居が高い。だからお金が稼げるという動機があり、自分で学んで体験してみたいという人が多いのは事実だ。 ただそういった人たちだけにサービスを提供すればよいわけではなくて、インターフェースや体験、技術的な制約を解決して、一般に普及させなきゃいけない。これは業界の皆が考えていることだ。 自分が日本人で良かったと思うのは、日本がマンガやアニメなどの強いIP(知的財産、キャラクター)の大国であること。それを活用したNFTが国産ブロックチェーンに乗って世界を席巻する将来像を描きたい。それによって日本での普及も進むと思っている。) Q:アメリカのコインベースやシンガポールのCrypto.com、中国のバイナンスといった大手暗号資産交換所の投資部門や、海外のさまざまな暗号資産ファンドから資金調達をしています。ウェブ3.0における世界のプレイヤーから注目されている背景は何でしょうか。 A:Day 1(創業初日)からグローバルを意識しているというところが前提にあると思う。すでに世界で一定の認知度と技術の先端を走っているということが認められている。 あとはコミュニティの大きさ。チェーン上の取引数やアプリの盛り上がりなど、実際にコミュニティが大きくなっている。今後アプリが増えれば、トークンの時価総額も上がるという評価をしてもらっている。中国とアメリカのトップ投資家に支援してもらえたのは大きい。 Q:日本のベンチャーキャピタル(VC)などから資金を調達するという選択肢はなかったのですか。 A:ウェブ3.0はこれまでの株式だとか売上高だとかの世界観とはかなり違うので、既存のVCはアンラーン(学び直し)する必要がある。この領域はすごく盛り上がっているので、売り手市場になっており資金調達自体は難しくない。 日本のVCがついてこれないというのは仕方ない部分もあって、日本のLPS法(投資事業有限責任組合契約に関する法律)で、(投資事業有限責任組合である)VCの投資対象が株式などに限られており、暗号資産で投資ができない。やりたくてもできないのが現状だと思う』、「アメリカのコインベースやシンガポールのCrypto.com、中国のバイナンスといった大手暗号資産交換所の投資部門や、海外のさまざまな暗号資産ファンドから資金調達をしています。ウェブ3.0における世界のプレイヤーから注目されている背景は何でしょうか。 A:Day 1(創業初日)からグローバルを意識しているというところが前提にあると思う。すでに世界で一定の認知度と技術の先端を走っているということが認められている。 あとはコミュニティの大きさ」、なるほど。
・『日本のウェブ3.0起業家は皆、海外へ出ていく  Q:2019年に日本で創業して、2020年にはシンガポールに拠点を移しました。法人が保有するトークンの含み益への期末課税の問題が大きかったようですね。 A:これは本当に深刻で暗号資産を持っているだけで課税されてしまう。 特にわれわれのようにトークンを発行する会社への影響は大きい。トークンを発行して時価総額が1000億円になったとき、この1000億円の含み益に対して課税されてしまう。仮に会社側が発行済みトークンの50%を持っているとすると、500億円の含み益に対して30%課税される。もし日本で事業をしていれば、150億円を納税しなければいけない。 ただ納税のために150億円分のトークンを換金すれば、売り圧力が強すぎてマーケットが崩れてしまう。しかも、このトークンは「ガバナンストークン」といって議決権の役割もあるので、売ってしまうと運営不可能になる。だから今ウェブ3.0の領域で起業する人たちは皆、海外に出てしまっている。 Q:渡辺さんはこうした日本における規制の問題を指摘し続けています。ただ、グローバルでの成功を目指すのであれば、もはや場所は関係なくなってくるようにも思います。 A:個人としても会社としても税金の問題はセンシティブなので、発言するメリットはまったくない。 ただ、やはり1人の日本人として母国が沈んでいくのは悔しいじゃないですか。ウェブ2.0でも結局アメリカや中国のサービスを皆が使っている。データも日本ではなくて海外で管理されている。日本はすでに“デジタル植民地”になっていると思っている。 新しいウェブ3.0の波がある中で、日本人、そして日本の企業として、どれだけウェブ2.0の反省を生かして世界で戦えるか。それが国益にも繋がる。(起業家が海外へ出るという)由々しき事態が一刻も早く解決されることを望んでいる』、「「2019年に日本で創業して、2020年にはシンガポールに拠点を移しました。法人が保有するトークンの含み益への期末課税の問題が大きかった」、「トークンを発行して時価総額が1000億円になったとき、この1000億円の含み益に対して課税されてしまう。仮に会社側が発行済みトークンの50%を持っているとすると、500億円の含み益に対して30%課税される。もし日本で事業をしていれば、150億円を納税しなければいけない。 ただ納税のために150億円分のトークンを換金すれば、売り圧力が強すぎてマーケットが崩れてしまう。しかも、このトークンは「ガバナンストークン」といって議決権の役割もあるので、売ってしまうと運営不可能になる。だから今ウェブ3.0の領域で起業する人たちは皆、海外に出てしまっている」この重課税は由々しい問題だ。「新しいウェブ3.0の波がある中で、日本人、そして日本の企業として、どれだけウェブ2.0の反省を生かして世界で戦えるか。それが国益にも繋がる。(起業家が海外へ出るという)由々しき事態が一刻も早く解決されることを望んでいる」、同感である。

次に、4月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「「Web3.0・NFT」って何?「NBAのカードが100万ドルで売買」される理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/302308
・『「ウェブ3.0(スリー)」が注目され、「非代替性トークン」(NFT)の発行が急増している。象徴的な企業が、米国のダッパー・ラボだ。2020年10月、同社はNBAの名プレーシーンをNFTとして集めるゲーム、「NBA Top Shot」を始めた。希少性を担保する仕組みと、レアなカードを集めたいファンの欲求が重なった結果、NBA Top ShotのNFT価格が高騰。ロサンゼルス・レイカーズに所属しているレブロン・ジェームズ選手のNFTが、100万ドルで売りに出されている』、「レブロン・ジェームズ選手のNFTが、100万ドルで売りに出されている」、「希少性を担保する仕組みと、レアなカードを集めたいファンの欲求」があったとはいえ、驚きの高価格だ。
・『世界的に注目されるウェブ3.0  最近、世界的に「ウェブ3.0(スリー)」が注目を集めている。ウェブ3.0により、プライベート型のブロックチェーン技術を用いて、個人が公正なデータの管理などのメリットを享受できる。 そうした取り組みを加速させる企業の一つに、米国のDapper Labs(ダッパー・ラボ)がある。同社は処理能力の高いブロックチェーンを開発し、「非代替性トークン」(Non-Fungible Token、NFT、電子的な証明書)の発行と流通を可能にした。それを用いた、米NBAのスーパープレー動画を記録したNFT取引が、過熱している。国内でも大手芸能事務所などがNFTビジネスに参入している。 ただ、短期間に、GAFAM (Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)を頂点とした世界のIT業界の構図が崩れ、ウェブ3.0に移行するとは想定しづらい。今後、IT先端分野での競争は激化するだろう。その中で、ブロックチェーンなど新しいデジタル技術の利用が増え、分散型と中央集権型のシステム運営が並走する状況が続く可能性が高い。 その中で、より効率的かつ持続的に付加価値を生み出す技術が評価されるはずだ。言い換えれば、IT先端分野の環境変化のスピードは加速し、淘汰される企業が増える。行政を中心にデジタル化の遅れが深刻なわが国の、デジタル・ディバイド(情報格差)が鮮明化することが懸念される』、「IT先端分野の環境変化のスピードは加速し、淘汰される企業が増える。行政を中心にデジタル化の遅れが深刻なわが国の、デジタル・ディバイド(情報格差)が鮮明化することが懸念される」、その通りだ。
・『ウェブ3.0は金融にも変革をもたらす  1990年代から2000年9月の米ITバブル崩壊まで、米国から世界へITサービスが広がった。その一つに、ヤフーは検索機能や電子メールのサービスを提供し、経済運営の効率性が高まった。この時代を「ウェブ1.0(ワン)」と呼ぶ。 次に03年ごろ、世界はウェブ2.0(ツー)に移行したと考えられる。当時、広告シェアにおいてグーグルがヤフーを超えた。グーグルは広告収入を増やし、クラウドサービス事業などに資金を再配分してプラットフォーマーとしての地位を固めた。その後、アマゾンドットコムなどの急成長によってデジタル化は加速し、IT業界は寡占化した。その結果、個人のデータが、一部の大手企業に集中した。 今度は、ウェブ3.0が、そうした中央集権的なネット業界の構造を変えると期待されている。分散型のネットワークテクノロジーであるブロックチェーンによって、特定の組織の影響力が低下するのが特徴だ。 ブロックチェーンは、所有権など個人のデータを記録し、参加者の相互承認によってその取引を行う。理論上、改竄(かいざん)は不可能だ。取引の一例が、仮想通貨のビットコインである。 ビットコインを入手したい人は、一種の数学のクイズを解く。解答が正当か否かを全参加者が確認し、承認する。承認された解答者はビットコインを手に入れる。そうして、この取引のデータ(ブロック)が、過去から鎖のように連なるデータに付け加えられる。 一連の作業は、特定の監視者ではなく、システムが自律的に行う。誰がどれだけのビットコインを保有しているかは、企業ではなく分散型のネットワークシステムが管理する。この技術を用いたウェブ3.0の世界では、個人が自らのデータをよりよく管理し、その利用から利得を手にすることができると期待されている。 ウェブ3.0は金融にも変革をもたらす。銀行が預金を集めて信用審査を行い、信用を供与するのではなく、ブロックチェーン上で資産価額が評価され、融資が行われる。これにより金融ビジネスは、「分散型金融」(Decentralized Finance、DeFi、ディファイ)に向かうとみられている。システム上で資産の所有権や価値の評価などが行われるため、店舗運営などのコストが低下し、効率性が向上することが注目点だ』、「ウェブ3.0は金融にも変革をもたらす。銀行が預金を集めて信用審査を行い、信用を供与するのではなく、ブロックチェーン上で資産価額が評価され、融資が行われる。これにより金融ビジネスは、「分散型金融」・・・に向かうとみられている。システム上で資産の所有権や価値の評価などが行われるため、店舗運営などのコストが低下し、効率性が向上することが注目点だ」、「分散型金融」に向かった「金融ビジネス」は、これまでとは全く異なったものになるのだろう。
・『「NBA Top Shot」では、NFTが100万ドルに  ウェブ3.0を考える上で、NFTの発行が急増していることは見逃せない。その象徴的な企業が、米国のダッパー・ラボだ。2020年10月、同社はNBAの名プレーシーンをNFTとして集めるゲーム、「NBA Top Shot」を始めた。 NBAトップ・ショットは、ダッパー・ラボが開発・運営する「Flow」と名付けられたブロックチェーンが管理する。もともとダッパー・ラボは、他社のブロックチェーンを利用していたが、処理速度が遅いという問題があった。そのため、新しいブロックチェーンのFlowを自社開発し、より円滑な取引環境を利用者に提供している。 取引の仕方はこうだ。まず、NBA Top Shotの公式サイトにアクセスして、デジタル化されたトレーディングカードのパックを購入する。これは、有価証券の発行市場になぞらえることができる。 カードと呼ばれてはいるが、実際に購入するのは短い動画だ。パッケージには、ふつう(Common)、珍しい(Rare)、レジェンド(Legendary)の三つの区分があり、右に行くほど希少性が増し、価格も高くなる。イメージとしては、かつて子供に人気だったプロ野球選手のカード付きスナック菓子を買うことに似ている。 また、公式サイトのマーケットプレイス(流通市場)にアクセスし、他の保有者からデジタルカードを購入したり、売却したりすることもできる。決済はイーサリアムやビットコインといった仮想通貨、クレジットカードなどで行い、ダッパー・ラボは決済の手数料を獲得する。その他、カードを獲得できるイベントも開催されている。 ブロックチェーンが管理するNFTは、その一つ一つが唯一無二のデジタル資産だ。偽造はできない。デジタルであるため劣化もしない。そのため、NBAファンは、いつでもお気に入りの名選手の名プレーを、自分だけのものとして楽しむことができる。 そうした希少性を担保する仕組みと、希少なカードを集めたい欲求が重なった結果、NBA Top ShotのNFT価格が高騰した。一例として、マーケットプレイスでは、ロサンゼルス・レイカーズに所属しているレブロン・ジェームズ選手のNFTが、100万ドル(約1億2800万円)で売りに出されている(4月19日アクセス時点)』、「レブロン・ジェームズ選手のNFTが、100万ドル(約1億2800万円)で売りに出されている」、「希少性を担保する仕組みと、希少なカードを集めたい欲求が重なった結果」、なるほど。
・IT業界の競争激化とわが国への影響  世界経済はウェブ2.0から3.0への移行期にあると考えられる。とはいえ、ブロックチェーンの利用が増えたとしても、中央集権的な仕組みはなくならないだろう。 米FRB(連邦準備制度理事会)や日本銀行などは、「中央銀行デジタル通貨」(CBDC)に関する研究を進めている。パブリック型のブロックチェーンの利用が進むことによって、中央集権的な経済や社会の運営は続く。また、GAFAMのような大手IT企業が、ウェブ3.0企業を買収するなどして、中央集権的なネット運営が続くことも考えられる。 その一方で、ダッパー・ラボのように処理速度の速いブロックチェーン技術を開発し、人々の新しい取り組みや欲求を刺激できる企業は、競争に生き残る可能性がある。 また、現在のウェブ3.0への期待には、「行き過ぎ」の部分がある。筆者がそう考える理由の一つに、世界で金融政策の正常化および引き締めが進んでいることが挙げられる。 物価の高騰によって、米国をはじめ世界の主要中央銀行は利上げやバランスシートの縮小を急ぎ始めた。世界的に金利上昇圧力は高まり、米国のナスダック上場銘柄など、期待先行で上昇した株は売られるだろう。 それに伴って、ウェブ3.0への期待を集めたスタートアップ企業は不安定化し、ビジネスの継続に行き詰まる展開も予想される。2000年のITバブル崩壊の時のような状況が、再来する可能性は排除できない。NFT関連の規制も強化されるだろう。 今後、ウェブ2.0を牽引(けんいん)した企業と、ブロックチェーン開発を進めてNFT取引の拡大を目指す新興企業の競争が激化するはずだ。ひるがえって、わが国には米国や中国の有力プラットフォーマーに匹敵する企業が見当たらない。ダッパー・ラボのように新しく社会の関心と期待をさらうような企業も少ない。 ウクライナ危機をきっかけに、世界経済の分断は深まり、各国の経済運営の効率性も低下するだろう。それは、外需依存度が高まるわが国にマイナス影響をもたらす。ウェブ2.0からウェブ3.0へ、世界が加速度的にシフトする中、わが国のデジタル・ディバイドぶりは一段と鮮明化する恐れがある』、「わが国には米国や中国の有力プラットフォーマーに匹敵する企業が見当たらない。ダッパー・ラボのように新しく社会の関心と期待をさらうような企業も少ない」、「ウェブ2.0からウェブ3.0へ、世界が加速度的にシフトする中、わが国のデジタル・ディバイドぶりは一段と鮮明化する恐れがある」、世界の潮流からこれ以上、取り残されないようにしてもらいたいものだ。
タグ:ブロックチェーンはユーザー同士を直接つなぎ、透明性や検証性の高い経済活動を実現する。中抜き構造が変わるのは大きなインパクトになる」、「世界には今ビットコインやイーサリアムなど主要なブロックチェーンが20個ほどあるが、相互につながっていない。アスターはこれらをつなげるプラットフォームになる。 アスターは・・・ギャビン・ウッド氏が開発した「ポルカドット」というブロックチェーンに接続する、パラレルチェーンという部分を担っている。これが意味するのは、ポルカドットに接続されたほかのチェーンと相互に通信ができるという 「ブロックチェーンは搾取されてきた人たちに権力を分配できる技術だ。いわゆる「GAFAM」はネットビジネスで勝ち抜いた。今後20年は、それがウェブ3.0になる」、「ウェブ3.0は「Less trust, More truth(信頼に代わる真実を)」という世界。これまではあらゆる経済活動に、人々に「信頼」された中間的な業者が入っていた・・・あらゆるビジネスはすべて、信頼の上に成り立っているゆえに、間の人たちが実際に何をしているのかは見えない状態だった。 東洋経済オンライン「世界に挑む「国産ブロックチェーン」起業家の素顔 「ウェブ3.0は若者に非常に有利な領域だ」」 ブロックチェーン (その2)(世界に挑む「国産ブロックチェーン」起業家の素顔 「ウェブ3.0は若者に非常に有利な領域だ」、「Web3.0・NFT」って何?「NBAのカードが100万ドルで売買」される理由) こと。 ポルカドットに接続するチェーンはすべて同じ開発ツールで作られている。ただイーサリアムやソラナといったほかのチェーンは違う。それらのチェーンとポルカドットをつなぐ存在が必要で、僕らがその役割を担いたいと考えている」、「今はユーザーがそれぞれのブロックチェーンのことを理解しなければ、アプリケーションが使いづらい。一般にブロックチェーンが普及するには、一つひとつのチェーンを意識せずに、さまざまなアプリケーションが使えることが重要だ。 例えばビットコインでイーサリアム上のNFT(非代替性トークン)を買える 「アメリカのコインベースやシンガポールのCrypto.com、中国のバイナンスといった大手暗号資産交換所の投資部門や、海外のさまざまな暗号資産ファンドから資金調達をしています。ウェブ3.0における世界のプレイヤーから注目されている背景は何でしょうか。 A:Day 1(創業初日)からグローバルを意識しているというところが前提にあると思う。すでに世界で一定の認知度と技術の先端を走っているということが認められている。 あとはコミュニティの大きさ」、なるほど。 「「2019年に日本で創業して、2020年にはシンガポールに拠点を移しました。法人が保有するトークンの含み益への期末課税の問題が大きかった」、「トークンを発行して時価総額が1000億円になったとき、この1000億円の含み益に対して課税されてしまう。仮に会社側が発行済みトークンの50%を持っているとすると、500億円の含み益に対して30%課税される。もし日本で事業をしていれば、150億円を納税しなければいけない。 ただ納税のために150億円分のトークンを換金すれば、売り圧力が強すぎてマーケットが崩れてしまう ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫氏による「「Web3.0・NFT」って何?「NBAのカードが100万ドルで売買」される理由」 「レブロン・ジェームズ選手のNFTが、100万ドルで売りに出されている」、「希少性を担保する仕組みと、レアなカードを集めたいファンの欲求」があったとはいえ、驚きの高価格だ。 「IT先端分野の環境変化のスピードは加速し、淘汰される企業が増える。行政を中心にデジタル化の遅れが深刻なわが国の、デジタル・ディバイド(情報格差)が鮮明化することが懸念される」、その通りだ。 「分散型金融」・・・に向かうとみられている。システム上で資産の所有権や価値の評価などが行われるため、店舗運営などのコストが低下し、効率性が向上することが注目点だ」、「分散型金融」に向かった「金融ビジネス」は、これまでとは全く異なったものになるのだろう。 「レブロン・ジェームズ選手のNFTが、100万ドル(約1億2800万円)で売りに出されている」、「希少性を担保する仕組みと、希少なカードを集めたい欲求が重なった結果」、なるほど。 「わが国には米国や中国の有力プラットフォーマーに匹敵する企業が見当たらない。ダッパー・ラボのように新しく社会の関心と期待をさらうような企業も少ない」、「ウェブ2.0からウェブ3.0へ、世界が加速度的にシフトする中、わが国のデジタル・ディバイドぶりは一段と鮮明化する恐れがある」、世界の潮流からこれ以上、取り残されないようにしてもらいたいものだ。
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半導体産業(その9)(日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】、日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由、岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ) [イノベーション]

半導体産業については、8月25日に取上げた。今日は、(その9)(日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】、日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由、岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ)である。

先ずは、11月22日付けデイリー新潮「日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/11220555/?all=1
・『国家の安全保障を左右する戦略物資としてますます重みを増す半導体。このサプライチェーンをめぐって各国で激しい駆け引きが行われている。かつて日本は半導体大国だった。それがなぜこうまで凋落してしまったのか。そして今後、復活の可能性はあるのか。半導体産業を知悉するジャーナリストの提言』、「半導体産業を知悉するジャーナリストの提言」とは興味深そうだ。 
・『佐藤 ここ数年、半導体は常に経済ニュースの主役です。コロナや米中デカップリング(分離)でサプライチェーンが分断され、深刻な半導体不足が生じて家電製品や自動車の生産ラインが止まりました。ただ、この物資の実態は極めてわかりにくい。その全体像を理解するのに、太田さんの『2030半導体の地政学』は格好のテキストでした。 太田 ありがとうございます。おっしゃる通りで、半導体はあらゆる電気製品に組み込まれており、サプライチェーンはグローバルに広がって複雑です。その上、いまや国家の安全保障を左右する戦略物資となり、半導体を制する者が世界を制すという状況になっています。 佐藤 まずはこの半導体がどこでどう作られているのか、そこからお話しいただきたいと思います。 太田 半導体チップが製品として世に送り出されるまでには、千近くの工程があります。大雑把にまとめると、半導体にどのように仕事をさせるかを考える人、設計する人、実際に作る人がいます。それらが別々の地域、会社で行われています。 佐藤 国を跨いでもいる。 太田 はい。最上流にいるのが、電子回路の基本パターンやデジタル信号を処理する仕様を考え、ライセンスの形で供与する会社です。「IPベンダー」とも呼ばれますが、一番有名なのはイギリスのアームです。 佐藤 2016年に孫正義さんのソフトバンクが買収した会社ですね。 太田 そうです。次に基本設計を買って組み合わせて自社のチップの図面を描く人たちがいます。アメリカならクアルコム、エヌビディアなどの会社で、中国ならファーウェイ傘下のハイシリコンがそうです。またアメリカのインテルやAMDのようにアームとは異なる自前の仕様を採っている会社もあります。 佐藤 はっきり分けられない会社もある。 太田 ただ、これらの企業の多くはファブ(工場)を持たず、「ファブレス」と呼ばれています。 佐藤 つまり頭脳ですね。工場ではなく、オフィスで仕事をしている。 太田 製造を請け負うのは、「ファウンドリー」と呼ばれる企業です。アメリカのグローバルファウンドリーズや韓国のサムスン電子などがありますが、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)の一人勝ち状態です。技術力も規模も圧倒的で、世界の60%近いシェアを占めています。 佐藤 世界中でTSMCの工場を誘致していますね。アメリカではアリゾナ州に工場を造ることになりましたが、日本も国を挙げて誘致し、熊本に造ることが決まりました。 太田 製造だけ請け負うというと下請け企業のように見えますが、設計メーカーの方がTSMCに依存しているのが実態です。というのも半導体の仕様が非常に高度になり、設計はできても、製造・量産することが極めて難しくなっているからです。 佐藤 回路にはナノ(10億分の1)単位で描線が引かれるといいますね。 太田 5ナノ~3ナノで量産できるのはTSMCとサムスン電子の2社で、2ナノまで微細化を進めているのはTSMCだけです。 佐藤 このTSMCはいつできた会社なのですか。 太田 1987年です。そもそも設計と製造を分離させたファウンドリーは、TSMCの創業者・張忠謀が発展させてきたビジネスモデルです。アメリカ企業にしてみれば、工場を建てて設備投資すれば1兆円単位でカネがかかりますから、自分で持ちたくはない。安く作ってくれるところがあれば、任せたいわけです。 佐藤 両者の思惑が一致した。 太田 自由貿易と市場原理の一つの均衡点として生まれたモデルといえます。これらを地域で見ていくと、IPベンダーはイギリス、ファブレスはアメリカのシリコンバレー、そしてファウンドリーは台湾、韓国の東アジアと、大西洋も太平洋も跨ぐ形で、広大で複雑なサプライチェーンが広がっています』、「ファウンドリー」は、「製造だけ請け負うというと下請け企業のように見えますが、設計メーカーの方がTSMCに依存しているのが実態です。というのも半導体の仕様が非常に高度になり、設計はできても、製造・量産することが極めて難しくなっているからです」、「2ナノまで微細化を進めているのはTSMCだけ」、「ファウンドリー」はすごい力を持ったものだ。
・『日本はなぜ衰退したか  藤 その中で、いま日本はどんな位置にあるのですか。 太田 半導体を作るには、当然、材料が必要ですし、半導体に特化した製造装置が要ります。この分野は日本が強い。回路を載せるシリコンウエハーなら信越化学工業とSUMCOが世界で大きなシェアを占めていますし、製造装置では東京エレクトロンなどが有名です。 佐藤 日本の半導体産業はかつてメモリが非常に強く、製造機器は露光機なども大きなシェアを占めていました。それが衰退してしまったのは、どこに原因があったのでしょうか。 太田 三つあると思います。一つは1980年代の日米半導体摩擦で、不平等条約に近い不利な協定を結ばされてしまったことです。アメリカは当時から半導体が国家安全保障に関わる戦略物資だと考えていたので、業界を必死に守ろうとしました。これに対し、日本は「安くていいものを作ればいい」くらいにナイーブに考えていたんですね。これで時間を失ってしまった。 佐藤 ここぞ、という時には、アメリカは国家のすごみを出します。 太田 それからやはり政策の失敗も大きい。半導体産業はアップダウンが激しく、苦しい時もあるのですが、それでも投資すべき局面があります。そこは政府が後押ししなければならない。 佐藤 支援が適切な時期に適切な規模でなされなかったのですね。 太田 三つ目は、日本では半導体を総合電機メーカーが作っていたことです。日立も東芝も、重電から家電まで扱い、さらに半導体も作っていました。私はこれが衰退の最大の要因だと思います。 佐藤 確かに総合電機メーカーの事業は幅広く、家庭用洗濯機から原子炉まで作っています。 太田 彼らの主力事業である重電では、電力会社や鉄道会社などの需要を5年先、10年先まで見ながら設備投資をしていきますね。 佐藤 計画経済に近い。 太田 その通りです。でも半導体は、儲かったり儲からなかったり、振幅が大きいシリコンサイクルに振り回されます。すると、総合電機メーカーの中の部門としては浮いてしまう。結果として事業を続けられなくなった。 佐藤 つまりリストラの対象となる。 太田 総合電機メーカーという形態である以上、致し方ないことかもしれないですが、それが日本の半導体産業の悲劇だったと思います。 佐藤 日本でもファウンドリーを作ろうとしたことはあるのですか。 太田 1990年代末に台湾のある企業と総合電機メーカーが組んで始めようとしています。でも数年でやめてしまったんですよ』、「日本では半導体を総合電機メーカーが作っていたことです。日立も東芝も、重電から家電まで扱い、さらに半導体も作っていました。私はこれが衰退の最大の要因」、「振幅が大きいシリコンサイクルに振り回されます。すると、総合電機メーカーの中の部門としては浮いてしまう」、なるほど。
・『半導体と中国人  佐藤 米中のデカップリングで、いまこうした半導体のサプライチェーンが再編されつつあります。 太田 アメリカは、まずトランプ前大統領がファーウェイに制裁を科しました。それをバイデン政権も引き継いでいる。 佐藤 米中間はもちろん、台湾と中国のサプライチェーンも切断しました。 太田 ただすべてではないんですよ。ワシントンでは政府・議会・軍で形成される国防コミュニティーと企業が、常にせめぎ合っています。彼らは、この技術はダメだけども、ここまでは輸出できるとはっきり線を引く。その線は動くこともありますが、決められた範囲内ならほぼ自由に輸出できる。 佐藤 ビジネスを続けている。 太田 先端技術でデカップリングが進んでも、完全に分離するのは難しいでしょう。価値観としてのグローバリズムは終わりましたが、現象としてのグローバリゼーションは止まらない。その中で、多くの日本企業はアメリカが引いた線の一歩も二歩も手前の製品まで輸出しないようにしました。米中対立の実像がよくわかっていないんですよ。 佐藤 忖度ですね。何か言われると嫌だから、自主規制してしまった。それに官僚たちは本性として規制が大好きですから。 太田 安倍政権時代の日韓のけんかでは、日本政府が徴用工問題で韓国の文在寅政権に対抗する形で、韓国への化学素材の輸出管理を厳格化する措置を取りました。半導体のエッチングガスやシリコンの洗浄剤に使われるフッ化水素、有機ELの材料であるフッ化ポリイミド、半導体の基板に塗る感光剤のフォトレジストの3品目です。これによって韓国は悲鳴を上げましたが、同時に輸出を止められた日本の会社も激怒した。 佐藤 国から商売相手を切られたわけですからね。 太田 この時に、政府は輸出規制が強い武器であると確信したのだと思います。そして企業側はサプライチェーンが国家によって簡単に断ち切られるリスクを考慮しなければならなくなった。 佐藤 この対談にご登場いただいたパソコンメーカー・VAIOの山野正樹社長は、1~2ドルの安い半導体が中国から入ってこなくて困った、とお話しされていました。だからデカップリングでも、最先端で高価なものだけが重要なのではない。 太田 そこが大事なところで、どうしても最先端の技術競争に目が行きますが、1ドルのチップだって、欠けたら製品は完成しません。 佐藤 ご著作の中でバイデン大統領の言葉が紹介されていましたね。「釘が1本足りないため、馬の蹄鉄が駄目になった」と。 太田 あれはマザーグースからの引用で、その後は馬が走れず、騎士が乗れず、戦ができないので王国は滅びたと続きます。釘は最先端の部品とは限らない。そうしたチョークポイント(物事の進行を左右する部分)をどれだけ握れるかが、これから国家にとっての眼目になると思います。 佐藤 それをきちんと把握しなければならない。 太田 実はいま中国が10ナノにも届かない一般的な半導体に莫大な設備投資をしています。数年後には間違いなく過剰供給になる。鉄鋼がそうだったように、中国の過剰供給で値段がグンと下がりますから、日本の半導体産業が一気に掃討される可能性だってあります。最先端の領域だけでなく、ボリュームゾーンにも目を配っていかねばなりません。 佐藤 デカップリングでないところでも、危機が生じるのですね。 太田 私は産業を三つの階層から見るべきだと考えています。国家と企業と個人です。国家には安全保障の責務があり、各国の政府は国を守るためにゲームを繰り広げる。一方、企業は利潤を追求して、国境を越えてビジネスを展開します。そして個人は、国家や企業の価値観は関係なく、自分の人生を一番大切にする。 佐藤 それはそうです。 太田 日米半導体摩擦後に、日本のエリート技術者たちが数多く中国や韓国の企業にリクルートされ、技術流出が問題になりましたね。給料を2倍、3倍出すと言われて海を渡った人も多い。でも彼らを「国賊」とか「裏切り者」と言うのは間違っています。2倍3倍の給料が払えなかった企業の経営と、企業が稼げる仕組みを作れなかった政策が悪いのであって、彼らではない。 佐藤 その人たちにそれだけのマーケットバリューがあったということですからね。ただ一方で、イスラエルでは、シリコンバレーに行けば10倍の年収になる人も、国にとどまります。ユダヤ人国家を存続させるには、能力がある者は自国にいるべきだと考えているからです。それはロシアのシリコンバレーといわれるゼレノグラードでも同じです。 太田 なるほど。そうした国では、国家と企業、個人の距離感が違うのでしょうね。 佐藤 国家と個人が非常に近い。その点でイスラエルとロシアは似ていて、共通の感覚があります。だから、イスラエルはアメリカの最重要同盟国なのに、ロシアに経済制裁を行っていません。 太田 かつて日本人も、国や企業との距離が近かったですね。私は1990年代にアメリカに留学しましたが、駐在員や留学生たちはいつも「私の会社では」とか「私の国では」という話し方をしていました。 佐藤 その逆が中国人ですね。 太田 彼らは自分の幸せ、家族の存続を第一に考えますね。また現実主義者で、どこにでも移っていきます。 佐藤 国籍を変えることに抵抗がない。どこの国民になっても自分たちの宗族でまとまりますし、中国人の意識を持ち続けている。 太田 半導体を取材して感じたのは、その中国人、華人たちの活躍ぶりです。シリコンバレーのデジタル企業には、トップ層でマネジメントを担っている華人が多いんです。TSMCの張忠謀もマサチューセッツ工科大学を出て、アメリカの半導体企業テキサスインスツルメンツの幹部でした。彼らはあらゆるところにいる。華人の視点から見ていかないと、半導体はわからないと思うに至りました。ですから次は華人についてもっと研究したいと思っているんです。 佐藤 それは重要な視点です。国家ではないのに、国家のような様相を呈す集団ですね。ユダヤ人に近いかもしれない。 太田 そうですね。ただ彼らの取材は難しいんです。なかなかそのコミュニティーに入っていけませんから』、「中国人」、「彼らは自分の幸せ、家族の存続を第一に考えますね。また現実主義者で、どこにでも移っていきます。 佐藤 国籍を変えることに抵抗がない。どこの国民になっても自分たちの宗族でまとまりますし、中国人の意識を持ち続けている。 太田 半導体を取材して感じたのは、その中国人、華人たちの活躍ぶりです。シリコンバレーのデジタル企業には、トップ層でマネジメントを担っている華人が多いんです。TSMCの張忠謀もマサチューセッツ工科大学を出て、アメリカの半導体企業テキサスインスツルメンツの幹部でした。彼らはあらゆるところにいる。華人の視点から見ていかないと、半導体はわからないと思うに至りました」、その通りだ。
・『エンジニアに敬意を  佐藤 ご著作には、半導体の重要地域として、アルメニアが出てきました。このアルメニア人も国外にいる数の方が多い。その一部は武器商人として知られています。 太田 アルメニアには、アメリカのシノプシスという会社の開発拠点があります。半導体設計の自動支援システムを提供する会社は世界に3社しかなく、その最大手です。アルメニアはロシアと緊密な関係がありますから、ウクライナ侵攻でどうなっているのかと思ったら、シノプシスは以前と変わらず首都エレバンで人を募集していました。 佐藤 ここに注目されたのは慧眼だと思いました。 太田 デジタル技術から見た地政学上の重要地域の一つはASEANで、もう一つはコーカサスだと思っています。アルメニアは人口300万人弱の小国でありながら、IT分野の雇用者数は1万7千人に及ぶと聞きます。アメリカからは他にも、計測・制御ソフトのナショナルインスツルメンツやマイクロソフト、ネットワーク機器最大手のシスコなどが進出しました。 佐藤 もうサプライチェーンの一角を占めているわけですね。アルメニアは、ロシアはもちろん、イランとの関係も極めて深い。戦略上、注目すべき地域です。 太田 アルメニアは資源がないため、デジタル産業で国を興そうとしたんですね。その時、まだ半導体産業が輝いていた時代の日本人エンジニアが現地に行って教えているんですよ。 佐藤 それが基礎になっている。逆に日本は存在感がなくなってしまったわけです。日本はこれからどうすればいいとお考えですか。 太田 私はシンガポール駐在時代、ファーウェイの本社がある中国・深センに通ったんです。この都市の中心にある華強北という一区画には、畳1~2畳ほどの電子部品店が詰まったビルが林立していて、その熱気の中から新しい発想が次々と生み出されてくる。華強北でよく日本の若者にも会いましたが、もう日本にはこんな場所はないと言うんですね。秋葉原はいまやメイドとアニメの街ですから。 佐藤 私は小学生の頃、部品のジャンクショップで真空管やコンデンサーを買いラジオを組み立てていました。3球のラジオを作りましたね。 太田 私もやりました。真空管は、1球、2球と呼び、トランジスタになると1石、2石となる。 佐藤 あれは楽しかった。ワクワクしながら作っていました。 太田 私もそうです。モノ作りに熱量があったんですね。同じものを華強北には感じました。でもいまの日本にはそれがない。 佐藤 私もそう感じます。 太田 だからいま必要なのは、モノを作る人、エンジニアがいろいろなことを、生き生きと面白がってやれるようにすることだと思うのです。それにはエンジニアに対する社会の敬意が必要です。 佐藤 日本では「理系」と十把一絡げにして、狭い世界に閉じ込めてしまうところがありますからね。 太田 同時にエンジニアの方々には、もっと自分の経済価値に目覚めてほしいんですよ。先日、日本の素材サプライヤーを訪ねたんです。世界中でこの会社しかできない金属加工技術を持っていて、インテルやTSMC、サムスンが毎日のように「こっちに回せ」と言ってくる。そんなに需要があれば値段が上がるはずなのですが、むしろ値切られている。 佐藤 どうしてですか。 太田 商慣習だそうです。お客さんを大切にするとおっしゃっていましたが、どうにも腑に落ちない。なぜだろうと考えていて「あっ」と気がついたんです、彼らは幸せなのだと。すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない、とも思いました。 佐藤 非常に日本的ですね。そこに経済合理性を取り入れた方が、持続可能性にもつながるでしょう。 太田 そうですね。日本には優れたエンジニアたちがいます。彼ら、彼女らの価値を正しく認める舞台を作っていかなければいけない。エンジニアが夢を抱けなければ、日本の未来は明るくならないと思いますね。 太田氏の略歴はリンク先参照)』、「そんなに需要があれば値段が上がるはずなのですが、むしろ値切られている・・・商慣習だそうです。お客さんを大切にするとおっしゃっていましたが、どうにも腑に落ちない。なぜだろうと考えていて「あっ」と気がついたんです、彼らは幸せなのだと。すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない、とも思いました。 佐藤 非常に日本的ですね。そこに経済合理性を取り入れた方が、持続可能性にもつながるでしょう。 太田 そうですね。日本には優れたエンジニアたちがいます。彼ら、彼女らの価値を正しく認める舞台を作っていかなければいけない。エンジニアが夢を抱けなければ、日本の未来は明るくならないと思いますね』、「日本」の「エンジニア」は、「すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない」、同感である。

次に、11月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/313421
・『「ビヨンド2ナノ」に向けたラピダス設立に感じる課題  ビヨンド2ナノ(回路幅が2ナノクラスの次世代半導体)に向けて、台湾への半導体投資というプランBが必要なのではないか。 先日、トヨタ自動車やNTTなどが立ち上げたラピダス(Rapidus)は、国産半導体復興を目指した共同出資企業だ。ただ、ラピダスは規模を追わずに小規模で最先端半導体の開発をするという。しかし、技術開発は固定費であるし、半導体製造は巨大な装置産業であって、規模の経済性が重要な産業だ。どちらも大量に生産し、販売した方が、次の投資がしやすくなる。 とかく日本人は「いたずらに規模を追わず、技術で勝負する」「金儲けだけが目的ではない」ということを言いがちだが、経営学的に見れば、こんな危うい発言はない。言い換えれば、「入ってくるお金や資源は少ないが、日本人は優秀なので気合いで頑張れる」といった精神論にしか聞こえない。 20世紀のような、変動費の要素が大きいエレクトロニクス製品などの開発においては、数を追わない製品差別化戦略は可能であったと思う。しかし、様々なエレクトロニクス産業の製品がデジタル化し、ソフトウエアと半導体で構成されるようになると、固定費の要素が大半になるので、数を一番多く作ったところが総取りになるような競争が多く見られる。 MIT流の技術経営の考え方に、イノベーションとは新たな価値を産み出す価値創造のプロセスと、産み出した価値からしっかり収益を獲得する価値獲得のプロセスからなる、という考え方がある。価値創造は専ら開発の仕事であるが、価値獲得には製造、標準化、マーケティング、販売、PRなど様々な手段で自社の収益化に結びつけるあの手この手のアイデアが必要となる。日本は価値創造が得意だが、価値獲得が苦手な企業があまりに多い。 液晶パネル、太陽光パネル、NAND型フラッシュメモリ、最近でいえば日本のノーベル賞受賞技術であるリチウムイオン電池など、日本が価値創造に大きく貢献をしながら、価値獲得はよりビジネスの上手い諸外国企業に獲られているという状況が続いている。  これまでも、一度日本が失った市場を取り戻すべく、日の丸連合を作ったケースは多々あった。エルピーダメモリやジャパンディスプレイなど、いずれも規模を追わない日の丸連合で失敗をしている。ラピダスもこれらの失敗は意識しているのか、「日米連携による新会社は日の丸連合ではない」としているが、IBMも苦戦する半導体産業において、台湾や韓国の勢いにどれだけ対抗できるのであろうか。 そもそも規模の経済性を無視して、小規模で最先端ということが可能なのだろうか。最先端のことをやるには開発費がかかる、一方で、数を追って莫大な既存事業の利益を上げている会社と、細々と小規模な売り上げを立てている会社のどちらがその先の投資に有利かは、火を見るよりも明らかだ。 ただし、ここでいう規模というのはIDM(自社で設計、製造、販売まで手がけるメーカー)による少品種大量生産を意味するわけではない。ファウンドリービジネスでは、多品種少量生産をひとつのファウンドリーで集約して大量生産のメリットを活かすことができるので、ファウンドリーが半導体ビジネスの主流になった。ファウンドリーの多品種少量はあくまで大量生産の規模の経済性を最大限活かしているケースだ』、「液晶パネル、太陽光パネル、NAND型フラッシュメモリ、最近でいえば日本のノーベル賞受賞技術であるリチウムイオン電池など、日本が価値創造に大きく貢献をしながら、価値獲得はよりビジネスの上手い諸外国企業に獲られているという状況が続いている」、その通りだ。
・『半導体製造装置の優位性に不安材料も  もうひとつの不安材料は、製造設備だ。今でも半導体の部材や製造設備で日本には優位性のある分野が多いが、半導体製造に必要な露光装置に関していえば、かつて日本のキヤノンなどがアメリカのキャスパーから近接露光方式で優位を勝ち取ったのに対して、近年ではオランダのASMLがより高性能なEUVリソグラフィ露光装置で日本のニコンやキヤノンよりも優位に立っている。 現時点でASMLの露光装置なくして、ビヨンド2ナノの製造は不可能であろう。ASMLが新世代露光装置を独占している状況は、米国にとって必ずしも好ましいことではない。ASMLが中国に露光装置を輸出するのを禁止するよう、米国政府がオランダ政府に圧力をかけたほどであり、より与しやすい日本がこの分野で優位に立つことは米国の利益にもかなう。とはいえ、政府の思惑通りに企業の競争力が高まるわけでもない。) だからといって、日本がこの分野を簡単に諦めてしまっていいということではないだろう。26ナノプロセスの汎用性の高い技術については、熊本に台湾TSMCを誘致したように、日本はすでに日の丸連合にこだわらない半導体施策を進めている。 にもかかわらず、日本が最先端半導体の開発に乗り出すのは、半導体技術が安全保障に直結しているということもあるだろう。ウクライナでの紛争において民間のドローンが活躍しているように、民生用技術と軍事技術の垣根が低くなっている今日、AIやIoT技術に必須となる最先端半導体の国産化は、経済だけでなく安全保障上も重要になるだろう。とはいえ、国際競争力がつかなければ絵に描いた餅に過ぎない』、「日本が最先端半導体の開発に乗り出すのは、半導体技術が安全保障に直結しているということもあるだろう。ウクライナでの紛争において民間のドローンが活躍しているように、民生用技術と軍事技術の垣根が低くなっている今日、AIやIoT技術に必須となる最先端半導体の国産化は、経済だけでなく安全保障上も重要になるだろう」、その通りだ。
・『日本が台湾に学ぶべきビジネスでの「価値獲得」  冒頭で述べた台湾との連携というのも、簡単な話ではない。ラピダスの小池淳義社長は、日立製作所と台湾第2位の半導体ファウンドリー・UMCとの合弁でファウンドリーの立ち上げを目指したトレセンティにおいて量産を指揮したが、それでも上手くいかなかった。その要因は様々指摘されているが、日本は台湾と組むときに、台湾の生産能力だけを活用しようとしているからではないか。 日本が台湾から学ぶべきは、いかに制約条件が大きい中でビジネスの構想力によって課題を突破し、収益化に結びつけるかというビジネスの能力であろう。日本は価値創造が得意であるが、台湾が得意なのは価値獲得である。台湾を単に日本の製造手段として見ていると、台湾を過小評価することになる。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業がシャープを再建したり、熊本の汎用性の高い半導体事業にTSMCを誘致したりと、台湾の価値獲得の能力を活かす日台アライアンスの事例も増えてきている。 また、政策としての海外との連携という点では、日本は台湾と公式の外交関係がなく、日本の政府機関は、出先の民間組織として日本台湾交流協会を通じた外交政策を行っている。各省庁がひとつの出先機関に集中しているのは台湾だけであり、交流協会というひとつの組織で関係省庁が連携をとりやすい環境ができているのも、日台アライアンスを進める上でのメリットだ。) さらにいえば、近年の良好な日台関係も両者のアライアンスを後押しするだろう。米中対立や、ロシアのウクライナ侵攻、3期目に入る中国習近平政権と、東アジアの安全保障に緊張状態をもたらすイベントが多い中で、日本と台湾は同じ脅威に接しており、両者の連携はますます重要になってくるといえる。 また、台湾には日本が必要とする産業も多く、台湾企業への投資は国際的に見ても極めて利回りが良いが、これだけ日台関係が良好で経済的な結びつきもあるのに、日本から台湾企業への投資はほとんど行われていない。台湾側が望んでいないかといえばそうではなく、むしろ「なぜ日本はもっと台湾企業に投資をしないのか」という声が、台湾の財界からは聞こえてくる』、「日本は価値創造が得意であるが、台湾が得意なのは価値獲得である。台湾を単に日本の製造手段として見ていると、台湾を過小評価することになる」、その通りだ。「日本から台湾企業への投資はほとんど行われていない」、「中国政府」に遠慮しているためだろう。
・『単なる連携ではなく台湾の技術や能力を吸収せよ  現在はもっと積極的に台湾との連携を深める好機であり、半導体はその最も有望な候補と言えるだろう。ラピダスもまだその設立が発表されたばかりで、量産に向けてどのような体制を築くのかは不明なところもある。今発表されている米国企業との連携だけで進むということもあるのかもしれない。 しかし、最先端のプロセスでリードする台湾の半導体産業を巻き込むという意味でも、また日本が得意ではない価値獲得の領域でいかに戦略的に立ち回るべきかという意味でも、日本は台湾との関係をもう一度考えてもよいのではないだろうか。 そのときは、単なる業務提携ではなく、日本から台湾の有望な企業への投資を増やし、台湾の技術やビジネスの能力を日本のものにしていくということも、重要ではないだろうか』、「単なる業務提携ではなく、日本から台湾の有望な企業への投資を増やし、台湾の技術やビジネスの能力を日本のものにしていくということも、重要ではないだろうか」、その通りだが、中国本土との関係が悪化しないよう巧みに立ち回る必要がある。

第三に、12月21日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ」を紹介しよう』、興味深そうだ。
https://gendai.media/articles/-/103634?imp=0
・『中国の脅威が増大し、半導体確保のリスクが高まってきたことから、政府は国策半導体企業ラピダスの設立に乗り出した。だが日本は最先端半導体の製造技術において、他国より10年以上遅れており、一足飛びに世界トップを目指す方針には疑問の声も出ている。日本は90年代以降、半導体分野で完膚なきまでに敗北したが、すべての原因は「戦略の不在」である』、「日本は90年代以降、半導体分野で完膚なきまでに敗北したが、すべての原因は「戦略の不在」である」、その通りだ。
・『じつは「海外頼み」  ラピダスは、トヨタ自動車やNTTなど国内企業8社が出資し、次世代半導体の国産化を目指す国策企業である。同社が目指しているのは2ナノメートル(もしくはそれ以下)という最先端の製造プロセスだが、この技術を確立できる見通しが立っているのは、現時点では米インテル、台湾TSMC、韓国サムスンの3社だけである。 日本は現時点において、最先端の製造プロセス技術を持っておらず、2ナノの製造プロセスを実用化するためには、長い時間をかけて研究開発を行うか、他国から技術導入するしかない。 政府は基礎技術の開発を目指し、次世代半導体の研究開発拠点となる「技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)」を設立することも併せて発表している。 LSTCには、多くの研究所や大学が名を連ねているが、日本は長年、最先端半導体の製造分野から遠ざかっており、LSTC単体で技術を確立することは困難と言われる。LSTCは米IBMなど各国の研究機関と連携することが大前提の組織と考えてよいだろう。製造装置についても同様である。 日本メーカーは、2ナノメートルの半導体を製造できる装置を持っておらず、こちらも欧州メーカーから装置を導入する必要がある。基礎技術については米国から、製造装置については欧州から支援を受けるという形であり、自国による生産基盤の確立とは言い難い。) 資金面でも見通しが立っているわけではない。 2ナノメートルの量産体制を確立するためには、最低でも5兆円程度の先行投資が必要となり、上記3社はこの水準の巨額投資を行う方針を明らかにしている。だがラピダスについては、資金のメドが立っているとはいえず、政府も明確に全面支援するとは表明していない。 半導体産業というのは、巨額の先行投資が必要であると同時に、技術が陳腐化するスピードが速く、経営戦略的には極めてやっかいな分野である。十分な成果を上げるためには、完璧な戦略と資金の裏付けが必要であり、これは簡単なことではない。 最先端半導体の分野では圧倒的なナンバーワンである台湾TSMCは、今でこそ、圧倒的な地位を築いているが、同社がここまでの地位に上り詰めるまでには、想像を絶する苦労があった。ラピダスを成功させるためには、TSMCかそれ以上の取り組みが必要となるが、果たしてその覚悟が日本政府や産業界にあるのかは疑問である』、「ラピダスを成功させるためには、TSMCかそれ以上の取り組みが必要となるが、果たしてその覚悟が日本政府や産業界にあるのかは疑問である」、その通りだ。
・『日本の半導体産業の「戦略のミス」  台湾TSMCは半導体のファウンドリ(受託生産)分野のナンバーワン企業である。今でこそ半導体というのは、国際分業が当たり前であり、設計に特化する企業(ファブレス)と製造に特化する企業(ファウンドリ)に分かれ、それぞれが当該分野に特化している(インテルのような企業は例外で、設計から量産まですべて自前で完結できる)。 だが、TSMCが創業した1990年前後、こうした国際分業体制は確立されていなかった。80年代までは日本の半導体産業は圧倒的な競争力を持っており、メモリー(一時記憶を行う半導体)分野のシェアは8割を突破していた。当時の半導体は主に大型コンピュータ用の高価な製品だったが、ここに到来したのが全世界的なIT革命(パソコンの普及)である。パソコンの登場でコンピュータの価格は最終的に数十分の1になり、搭載する部品についても価格破壊が発生した。) パソコンの驚異的な普及は誰の目にも明らかだったにもかかわらず、日本勢は大型コンピュータ用のメモリーにこだわり続け、最終的にはほぼすべてのシェアを失ってしまった。日本勢が敗れたのは、すべて市場動向を見誤った戦略ミスであり、この事実は覆しようがない。いくら技術はすばらしいが商売で負けたと言い訳しても、ビジネスには勝ち負けしかないというのが現実だ。 実際、半導体以外の業界では、日本電産のようにパソコンの驚異的な普及という現実を見据え、パソコンに搭載するハードディスク用モーターに特化して大成功した企業もある。日本電産が世界企業に成長できたのは、世界的なIT革命という市場の流れを的確にとらえたからであり、すべては経営者(創業者の永守重信氏)の戦略性によるものだ。 パソコンの普及による産業構造の変化は、半導体業界にも及ぶことになり、米国では設計に特化するファブレス企業が活発になってきた。こうした状況を受けて製造に特化する企業として設立されたのがTSMCである』、「日本勢が敗れたのは、すべて市場動向を見誤った戦略ミスであり、この事実は覆しようがない。いくら技術はすばらしいが商売で負けたと言い訳しても、ビジネスには勝ち負けしかないというのが現実だ」、その通りだ。
・『台湾の驚くべき半導体戦略  TSMCが設立されたのは1987年だが、同社は半導体の製造を下請けとして受託する小さな新興メーカーに過ぎなかった。筆者はかつてジャーナリストをしていたが、1990年代の初頭、設立間もないTSMCに取材に行った数少ない日本人記者の一人である。 TSMCは台北郊外の新竹にあるサイエンスパークに巨大な生産ラインを構えており、今の新竹はさながら東洋のシリコンバレーといった状況になっている。だが当時の新竹にはTSMCの本社工場がポツンとあるだけだった。新竹は風が強いことで知られ、米粉(ビーフン)が名産だが、殺風景な場所という強烈な印象が残っている。 当時、TSMCが世界をリードする半導体企業になるとは業界の誰もが考えていなかったし、そもそもファウンドリという業態もうまく機能するのか疑問視する声が多かった(単なる下請けなので儲からないという見解が圧倒的に多かった)。そうした中で、無謀ともいえるチャレンジを行っているTSMCに興味が湧き、わざわざ取材に行ったのだが、TSMC幹部が筆者に語った戦略は驚くべきものだった。 同社は当時の段階から、IT業界が完璧な水平分業に体制にシフトし、半導体分野においてもファウンドリが業界の中核になるという見通しを描いていた。加えて、単なる下請け企業に陥らないよう、顧客となる半導体設計企業の業務を徹底的に分析し、彼らが必要とする機能をあらかじめモジュール化して提供する体制を整えるなど、今で言うところのソリューション型ビジネス(問題解決型)を実現する明確な戦略を立案していたのだ。 台湾の凄味は、精神論を排除した冷徹な合理主義と、一方で無謀ともいえる計画を政府が全面的に後押しし、巨額の資金と人材を支援するというリスクテイクの感覚が見事に同居している点だろう。日本の産業界や政府にこうした気概はなく、前例踏襲に終始した結果、半導体産業は壊滅的な状況まで追い込まれてしまった』、「台湾の凄味は、精神論を排除した冷徹な合理主義と、一方で無謀ともいえる計画を政府が全面的に後押しし、巨額の資金と人材を支援するというリスクテイクの感覚が見事に同居している点だろう。日本の産業界や政府にこうした気概はなく、前例踏襲に終始した結果、半導体産業は壊滅的な状況まで追い込まれてしまった」、日台は好対照だ。
・『もっと現実的な対策が必要  TSMCの事例を見ても分かるように、半導体業界において後発企業が大きな実績を上げるためには、極めて高い先見性と想像を超える努力、莫大な資金が必要となる。 日本はこうした生き馬の目を抜く半導体業界において敗北し、10年以上の技術力の差を付けられた状態にある。次の世代が2ナノメートルの製造プロセスが主流になることは誰もが知る事実であり、その技術を確立できる見通しがあり、かつ十分な資金を用意出来る立場にあるのは、冒頭にも述べたようにTSMC、インテル、サムスンの3社だけである。) 後発となった日本が3社に追い付くためには、彼らの何倍も資金を投入して物量で勝負するか、もしくはゲームのルールを自ら変えるゲームチェンジャーになるしかない。 ラピダスはあくまで後発として先行企業に挑むというモデルなので、市場そのものをひっくり返すことを目論んでいるわけではない。だが、ラピダスが後発企業として、先行3社に追い付くための具体的な方策は見えていないのが現実だ。 ラピダスの最大の問題点は、なぜ国策企業を設立するのかという基本戦略が曖昧なことである。 一連のプロジェクトには、中国の台湾侵攻など、地政学的リスクに対処するという意味合いもある。もし経済安全保障が目的であれば、日本にはニーズがない最先端プロセスの半導体を量産するよりも(日本には高度なAIを開発できる企業がないので、最先端半導体を購入する企業が存在していない)、家電や自動車など、具体的ニーズがある汎用的な半導体の国内生産体制を強化した方が圧倒的に効果が高い。 政府は、TSMCに補助金を出し、熊本県に工場を誘致することに成功した。同様に、米国の半導体大手マイクロンテクノロジーにも補助金を出し、広島県の工場での生産体制強化を実現している。 中国の脅威は現実問題であり、台湾有事となれば、国内で半導体が枯渇する可能性は十分にある。一般的な半導体の国内生産体制を確立することも立派な国家戦略である。政府はもっと地に足の着いた戦略を描く必要があるだろう』、「もし経済安全保障が目的であれば、日本にはニーズがない最先端プロセスの半導体を量産するよりも(日本には高度なAIを開発できる企業がないので、最先端半導体を購入する企業が存在していない)、家電や自動車など、具体的ニーズがある汎用的な半導体の国内生産体制を強化した方が圧倒的に効果が高い」、「台湾有事となれば、国内で半導体が枯渇する可能性は十分にある。一般的な半導体の国内生産体制を確立することも立派な国家戦略である。政府はもっと地に足の着いた戦略を描く必要があるだろう」、同感である。
タグ:デイリー新潮「日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】」 (その9)(日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】、日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由、岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ) 半導体産業 「半導体産業を知悉するジャーナリストの提言」とは興味深そうだ。 「ファウンドリー」は、「製造だけ請け負うというと下請け企業のように見えますが、設計メーカーの方がTSMCに依存しているのが実態です。というのも半導体の仕様が非常に高度になり、設計はできても、製造・量産することが極めて難しくなっているからです」、「2ナノまで微細化を進めているのはTSMCだけ」、「ファウンドリー」はすごい力を持ったものだ。 「日本では半導体を総合電機メーカーが作っていたことです。日立も東芝も、重電から家電まで扱い、さらに半導体も作っていました。私はこれが衰退の最大の要因」、「振幅が大きいシリコンサイクルに振り回されます。すると、総合電機メーカーの中の部門としては浮いてしまう」、なるほど。 「中国人」、「彼らは自分の幸せ、家族の存続を第一に考えますね。また現実主義者で、どこにでも移っていきます。 佐藤 国籍を変えることに抵抗がない。どこの国民になっても自分たちの宗族でまとまりますし、中国人の意識を持ち続けている。 太田 半導体を取材して感じたのは、その中国人、華人たちの活躍ぶりです。シリコンバレーのデジタル企業には、トップ層でマネジメントを担っている華人が多いんです 。TSMCの張忠謀もマサチューセッツ工科大学を出て、アメリカの半導体企業テキサスインスツルメンツの幹部でした。彼らはあらゆるところにいる。華人の視点から見ていかないと、半導体はわからないと思うに至りました」、その通りだ。 「日本」の「エンジニア」は、「すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 長内 厚氏による「日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由」 「液晶パネル、太陽光パネル、NAND型フラッシュメモリ、最近でいえば日本のノーベル賞受賞技術であるリチウムイオン電池など、日本が価値創造に大きく貢献をしながら、価値獲得はよりビジネスの上手い諸外国企業に獲られているという状況が続いている」、その通りだ。 「日本が最先端半導体の開発に乗り出すのは、半導体技術が安全保障に直結しているということもあるだろう。ウクライナでの紛争において民間のドローンが活躍しているように、民生用技術と軍事技術の垣根が低くなっている今日、AIやIoT技術に必須となる最先端半導体の国産化は、経済だけでなく安全保障上も重要になるだろう」、その通りだ。 「日本は価値創造が得意であるが、台湾が得意なのは価値獲得である。台湾を単に日本の製造手段として見ていると、台湾を過小評価することになる」、その通りだ。「日本から台湾企業への投資はほとんど行われていない」、「中国政府」に遠慮しているためだろう。 「単なる業務提携ではなく、日本から台湾の有望な企業への投資を増やし、台湾の技術やビジネスの能力を日本のものにしていくということも、重要ではないだろうか」、その通りだが、中国本土との関係が悪化しないよう巧みに立ち回る必要がある。 現代ビジネス 加谷 珪一氏による「岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ」 「日本は90年代以降、半導体分野で完膚なきまでに敗北したが、すべての原因は「戦略の不在」である」、その通りだ。 「ラピダスを成功させるためには、TSMCかそれ以上の取り組みが必要となるが、果たしてその覚悟が日本政府や産業界にあるのかは疑問である」、その通りだ。 「日本勢が敗れたのは、すべて市場動向を見誤った戦略ミスであり、この事実は覆しようがない。いくら技術はすばらしいが商売で負けたと言い訳しても、ビジネスには勝ち負けしかないというのが現実だ」、その通りだ。 「台湾の凄味は、精神論を排除した冷徹な合理主義と、一方で無謀ともいえる計画を政府が全面的に後押しし、巨額の資金と人材を支援するというリスクテイクの感覚が見事に同居している点だろう。日本の産業界や政府にこうした気概はなく、前例踏襲に終始した結果、半導体産業は壊滅的な状況まで追い込まれてしまった」、日台は好対照だ。 「もし経済安全保障が目的であれば、日本にはニーズがない最先端プロセスの半導体を量産するよりも(日本には高度なAIを開発できる企業がないので、最先端半導体を購入する企業が存在していない)、家電や自動車など、具体的ニーズがある汎用的な半導体の国内生産体制を強化した方が圧倒的に効果が高い」、 「台湾有事となれば、国内で半導体が枯渇する可能性は十分にある。一般的な半導体の国内生産体制を確立することも立派な国家戦略である。政府はもっと地に足の着いた戦略を描く必要があるだろう」、同感である。
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ブロックチェーン(その3)(Web3.0でブロックチェーン同士がつながる世界を実現、趣味がお金に変わる「NFT」とは?夢の技術を人気ブロガーが徹底解説) [イノベーション]

ブロックチェーンについては、6月27日に取上げた。今日は、(その3)(Web3.0でブロックチェーン同士がつながる世界を実現、趣味がお金に変わる「NFT」とは?夢の技術を人気ブロガーが徹底解説)である。

先ずは、7月21日付け日経ビジネスオンラインが掲載したAstar Network, Shiden Network, Next Webの 渡辺 創太氏による「Web3.0でブロックチェーン同士がつながる世界を実現」を紹介しよう。なお、対談の中で、「千野」氏のラベルが落ちているケースが多いが、こちらで補った。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00483/071900001/
・『「異なるブロックチェーン同士の相互運用性がないという課題を解決し、世界をつなぎたい」と強い情熱をもってWeb3.0(Web3)の実現に挑む起業家の渡辺創太さん。仮想通貨領域で今や後れをとっている日本で、Web3やDAO(分散型自律組織)が進むと、世の中や人々の生活、働き方はどのように変化するのでしょうか。書籍『仮想通貨とWeb3.0革命』(日本経済新聞出版)の著者、千野剛司さんと対談し、様々な視点から語っていただきました。本書から抜粋、再構成してお届けします』、興味深そうだ。
・『相互運用性の課題を解決  千野剛司さん(以下、千野) この対談ではWeb3やDAOが進むと、この世の中や人々の生活がどう変わるのかということを取り上げています。ただ、DAOといっても皆さん、想像がつかないと思うんですよ。その最前線で働いている渡辺創太さんにWeb3、DAOとは何かを聞きたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。 渡辺創太さん(以下、渡辺) 渡辺創太と申します。今、進めているプロジェクトはたくさんありますが、基本的にはWeb3の実現がミッションです。2019年に会社をつくりましたが、最初の2年間は「Web3? 何それ」みたいな感じで、何の風も吹いていませんでしたね。 千野 無風状態(笑)。 渡辺 でも、今はアメリカなどを中心に来ているWeb3の波にうまく乗れているかなと思ってます。僕は日本発のパブリックブロックチェーン(誰でも取引の承認に参加できるブロックチェーン)であるアスターネットワークをつくっています。 アスターネットワークとは、異なるブロックチェーンの相互接続(インターオペラビリティ)を目指すプロジェクトであるポルカドット(Polkadot)のパラチェーンとして、今年1月にメインネットローンチしたブロックチェーンです。パブリックブロックチェーンで解決すべき問題の一つが、インターオペラビリティ(相互運用性)がないことなんですね。つまり、ブロックチェーン同士はつながっていないんです。 例えば、インターネットってつながっていますよね。だから、日本とアメリカでも同時にコミュニケーションが取れる。でも、ブロックチェーン同士はまだつながっていない。ビットコイン、イーサリアム、ソラナ、アバランチなどレイヤー1のブロックチェーンがありますが、それらはトークンのブリッジはできても、ちゃんと仕組みとしてつながっていない。 我々はそこをシームレスにつなぐパブリックブロックチェーンをつくっていて、その上に、これから来るマルチチェーン時代の新しいDeFi(分散型金融)、NFT(非代替性トークン)といったユースケースをつくっていきたい。2022年1月にアスターネットワークをローンチして、現在の時価総額は1100億円くらい(取材時の2022年4月8日時点)。今後1兆円、2兆円以上を目指していきたいと考えています。 千野 渡辺さんのミッションはインターオペラビリティ問題の解決ですよね。インターネットと同じように、ブロックチェーン上でも国籍や国境に関係なく、いろんな人とコミュニケーションが取れる世の中を実現したいと。単にアプリケーションをつくっているだけではなく、かなり目線の高い事業ですよね。そんなプロジェクトに若き日本人がいると思うと頼もしい。チームは日本人だけじゃないですよね。今まさにダイバーシティのある組織を経営していらっしゃるんですよね。 渡辺 ダイバーシティしかないですね。 千野 どうやって仲間を集めたんですか。 渡辺 今、アスターのメンバーは30人ぐらいです。13カ国の国籍の人が14カ国に住んでいて、ヨーロッパに10人ぐらい、アジアに10人ぐらい、アメリカに6人ぐらいいます。アジアで緻密な戦略や数字的な部分、ヨーロッパで開発、アメリカでマーケティングをしています。僕は普段シンガポールにいるんですけど、シンガポールには2人しかいません。オフィスもフリーアドレスのデスクを1つ借りているだけで、家賃3万円です。  千野 どうやってコミュニケーションを取っているんですか。また、人材の集め方は? 渡辺 僕は1カ月前もニューヨークに行っていました。今までもデンバー、シンガポール、ドバイ……のメンバーとはけっこう会っているほうですが、日本のメンバーのなかにはまだオンライン以外では会っていない人も多くいます。採用はエンジェリストという採用プラットフォームから応募してきてくれたり、カンファレンスで直接採用したりしています。メールをくれた人に僕が直接返信することもあります。こうした働き方は、僕にとっては当たり前ですが、日本では、直接会ったことのない人と働くのはまだ浸透していないですよね。 千野 日本は就活サイトに登録して、エントリーシートを書いて、面接して……という流れですからね。今、渡辺さんが目指しているのはDAOだと思うんですが、最初からDAOができるわけじゃない。そのプロジェクトを推進していくコアチームが今の状態ということですね』、「ビットコイン、イーサリアム・・・などレイヤー1のブロックチェーンがありますが、それらはトークンのブリッジはできても、ちゃんと仕組みとしてつながっていない。 我々はそこをシームレスにつなぐパブリックブロックチェーンをつくっていて、その上に、これから来るマルチチェーン時代の新しいDeFi(分散型金融)、NFT(非代替性トークン)といったユースケースをつくっていきたい。2022年1月にアスターネットワークをローンチして、現在の時価総額は1100億円くらい・・・。今後1兆円、2兆円以上を目指していきたいと考えています」、「今、アスターのメンバーは30人ぐらいです。13カ国の国籍の人が14カ国に住んでいて、ヨーロッパに10人ぐらい、アジアに10人ぐらい、アメリカに6人ぐらいいます。アジアで緻密な戦略や数字的な部分、ヨーロッパで開発、アメリカでマーケティングをしています。僕は普段シンガポールにいるんですけど、シンガポールには2人しかいません。オフィスもフリーアドレスのデスクを1つ借りているだけで、家賃3万円です」、「パブリックブロックチェーン」とは意欲的な試みだ。
・『シリコンバレーで就職できた理由とは  千野  渡辺さんは大学卒業後、すぐにシリコンバレーに行ったのですか。もともとプログラミングができたのですか。 渡辺 プログラミングに興味はありましたけど、できません。僕はエンジニアじゃないです。英語も話せませんでした。 千野 なぜ、それでシリコンバレーに行こうと思ったのですか。 渡辺 よく本の例えを出すんですけど、「好きな本を選んでください」と言われたときに、1冊しか読んだことがないとそれしか選べないですよね。でも、100冊、1000冊、1万冊読んでいると違う。僕は大学生のときに何をしたらいいのか分からなかったので、バックパッカーでインドやロシアに行ったり、NPO団体に関わったりしていました。そこで貧しい子どもたちを見てショックを受け、どうにか世界を良くしたいと。 当時考えたのが、世界にインパクトを与えられるのは、政治家か、スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツ、イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベソスといったIT企業家だろうと。でも、インターネットを事業にするのはもう遅い。それならAIかブロックチェーンだなと思って、シリコンバレーに行きました。 千野 でも、エンジニアではない。英語もできない。どうやって職を得たのですか。 渡辺 もう、プライドを捨てました。アメリカにはビザの関係で1年しかいられないので、自分が帰ったらアメリカ人は誰も僕のことは覚えていないだろう、できることは全部やろうと思って、恥をかくことを恐れなかったですね。 「ブロックチェーンの今後」という資料を頑張って英語で100枚ほど書き、メールに添付して100社ぐらいに送りました。そうしたら、たまたま僕が行きたいと思っていたところから、「資料を見たよ」と返信があり、電話でミーティングをして、採用となりました。  千野 インターンとして採用されたのですか。 渡辺 インターンです。ラッキーだったのは、その会社はスタンフォードの教授がやっていて。僕の上司がアメリカの「Forbes 30 Under 30」に選ばれるような女性でした。そういう人たちと一緒に働けて、視座が上がりました。 千野  最初はどんな仕事を与えられたのですか。 渡辺 ほとんど雑用でした。「このプレゼンテーションを直して」「こんな資料を作って」というところから始まり、途中からはマーケティング戦略を見させてもらったり、「CEOが投資家と話すから、投資家に向けたプレゼンテーション作って」と言われたりしました。向こうはCEOもめちゃくちゃ働くので、最後にオフィスに残っているのがCEOと僕だけということもよくあり、そこでいろいろな話もできました。残業しまくっていましたね。 千野 それで仕事の内容もレベルアップしていったと。インターンは1年間ですか。 渡辺 半年後に社員になったのですが、当時はトランプ政権だったので、ビザが更新できず日本に帰国しないといけませんでした。でも、日本とシリコンバレーだと大きな時差があり、仕事も大変で。それで自分で起業しようと思いました』、「エンジニアではない。英語もできない。どうやって職を得たのですか」、「渡辺 もう、プライドを捨てました・・・恥をかくことを恐れなかったですね。 「ブロックチェーンの今後」という資料を頑張って英語で100枚ほど書き、メールに添付して100社ぐらいに送りました。そうしたら、たまたま僕が行きたいと思っていたところから、「資料を見たよ」と返信があり、電話でミーティングをして、採用となりました」、すごい度胸だ。
・『アンラーンできる人物が活躍する  千野 なるほど。東京大学で研究員もされていましたね。 渡辺 日本に帰ってきて、ありがたいことに東京大学大学院の共同研究員というポストを用意してもらえました。好き勝手できるポジションでしたので、東大の優秀な学生をスカウトして、一緒に会社をつくりました(笑)。 僕がアメリカに行った頃は、ビットコインは14万円ぐらいでしたが、2017年ごろに一気に200万円ぐらいまで値上がりしたんですね。それでビットコインの認知度が一気に高まった。でも、仮想通貨の世界って、専門家がいないんですよ。だからこそ、実際にシリコンバレーに行って経験した僕が呼ばれたんだと思います。  千野 それは意外ですね。 渡辺 そもそも、ブロックチェーンができて14年くらいなので、10年以上ブロックチェーンをやっている専門家がいないんです。だから、年齢関係なくマインドが若い人、アンラーン(これまで学んだことを見つめ直す)できる人が活躍している分野です。 千野 その業界のおえらいさん、重鎮がいないと。 渡辺 お笑いに例えると、明石家さんまさんやダウンタウンさんがいない世界なんです。 文/三浦香代子 構成/雨宮百子(日経BOOKプラス編集部) 写真/小野さやか [日経BOOKプラス 2022年7月21日付の記事を転載] ▽仮想通貨とWeb3.0革命  出遅れた我々に、復活の道はあるのか? DAO(分散型自律組織)、NFT(非代替性トークン)、ステーブルコインほか、仮想通貨とWeb3.0をめぐる最新の動向を解説。米大手暗号資産取引所の日本代表だから語れる、金融とITの未来! 千野剛司(著)/日本経済新聞出版/1980円(税込み)』、「ブロックチェーンができて14年くらいなので、10年以上ブロックチェーンをやっている専門家がいないんです。だから、年齢関係なくマインドが若い人、アンラーン・・・できる人が活躍している分野」、なお、「仮想通貨」相場は、「仮想通貨業界一の「優等生」FTXが突然破綻したことで、暴落している。

次に、12月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した超NFTブログ「tochiblog」主催・大人気ブロガーのtochi氏による「趣味がお金に変わる「NFT」とは?夢の技術を人気ブロガーが徹底解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/314046
・『NFTという言葉をご存じでしょうか?日本ではまだあまり広まってはいないNFTですが、一言で言ってしまえば「デジタルデータに所有権を持たせる」という夢の技術。海外ではすでに、何者でもなかった人が一日に何千万も稼ぐという事例もあるのです。そこで今回は、大人気ブロガーのtochi(とち)さんの著書『NFTで趣味をお金に変える』(青春出版社)から、いま流行りつつあるNFTを使って稼ぐ方法を抜粋して紹介します』、「NFTを使って稼ぐ方法」とは興味深そうだ。
・『「NFT」は誰だってできる“夢の技術”  NFTとはNon-Fungible Token(ノン・ファンジブル・トークン)の略です。「非代替性トークン」と訳されます。 正式名称は覚えなくていいですが、「デジタル画像に資産価値」を付けたNFTの「仕組み」のことは、軽く頭に入れておいた方がいいでしょう。では、NFTの舞台となる「ブロックチェーン」と、兄弟分の「FT」について見ていきましょう。 「仮想通貨」という言葉を、見聞きしたことのある人は多いでしょう。ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)に代表される“暗号通貨”です。その仮想通貨を世に広めた立役者(技術基盤)が、ブロックチェーンです。 ブロックチェーンによって、インターネット上で「誰でも、永遠に、嘘偽りなく」データのやりとりができるようになりました。全世界に公開、監視されるデータベースをイメージしてみましょう。そこでは「トークン」と呼ばれるデータが、「この資産は、この人が持っている」ということを証明してくれます』、「「トークン」と呼ばれるデータが、「この資産は、この人が持っている」ということを証明してくれます」、なるほど。
・『ネット上でやり取りするトークンとはいったいなに?  トークンには2種類あります。まず1つめがFT=代替できるトークン(お金やポイント)で、2つ目がNFT=代替できないトークン(一点もの)。 まずFTとは「Fungible Token(ファンジブル・トークン)」の略。NFTから「N(Non= 非)」が、なくなりました。「代替できるトークン」を意味します。 「代替できる」とは、お金のようにトークン同士の価値に差がないため、「他のもので替えがきく」ということ。身近なところでいうと、100円玉もFT。誰かと100円玉を交換しても、その価値は変わりません。100円のメロンパンを買うのに、“特定の100円玉”である必要はないのです。ビットコイン(BTC)やイーサリアム(ETH)もFTの一種といえます。 対して、NFTの“代替できない”とはなんでしょう。トークンはなにも、お金に限定されません。アートのように1点1点が特別な価値を持つ資産を扱うこともできます。お金とは違い、トークンごとに価値づけされるため「Non-Fungible Token(ノン・ファンジブル・トークン)」と呼ばれます。「ブロックチェーン上で、一点ものの資産の保有証明をする」のがNFTというわけです。 では一体、どのようにこのNFTで稼ぐことができるのか、早速見ていきましょう。 NFTの稼ぎ方(1)販売──NFTを作って稼ぐ(まずは王道。NFTアート(イラスト)を作り、販売して稼ぐ方法です。一般的に「NFTで稼ぐ」と聞いて、まず思い浮かべるものでしょう。 そして、みなさん気になるのは、どんなNFTアートならば「稼げる」のか、でしょう。 じつは僕は明確な答えを持ち合わせておりません(あったら僕がやります笑)。 ただ、ひとつ断言できることがあります。NFTアートには「トレンドがある」ということです。 「NFT元年」と呼ばれる2021年。その、わずか1年の間でも、いろんなトレンドが生まれました(そして消えました…)。ドット絵、お猿さん、女の子、ボクセル(立方体の組み合わせで作るアート)、自撮り写真、アニメ風作品…。 NFTアートで稼ぐなら、この「トレンド」をとらえる感覚は身につけておきたいところ。「何を」はもちろんですが、「いつ」出すかも、NFT販売において、とても大事な要素なのです。夏にコタツを出したって売れません』、「わずか1年の間でも、いろんなトレンドが生まれました(そして消えました…)。ドット絵、お猿さん、女の子、・・・自撮り写真、アニメ風作品…。 NFTアートで稼ぐなら、この「トレンド」をとらえる感覚は身につけておきたいところ」、難しそうだ。
・『まずは自分で買ってみて、買い手の求めるものを知るのが重要  NFTを販売するなら「まずは自分で買ってみる」ことは、とても重要な体験です。 「買い手目線」になることで、“どんなモノがウケているのか”を、知ることができます。いざ、初めてNFTを購入しようとすると十中八九、ウンウン迷うことになるでしょう。迷った中から、選んだ1つ。その決め手を言語化してみましょう。 「とにかく可愛いかった」「同じ作品を持っている人と友だちになれそう」「原画がもらえる特典にひかれた」…必ず、決め手があります。ひとり(自分)を動かしたキッカケは、より多くの人の動機になります。今度は「販売する側」として、“買い手の経験”を活かしてください』、「(自分)を動かしたキッカケは、より多くの人の動機になります。今度は「販売する側」として、“買い手の経験”を活かしてください」、なるほど。
・『コミュニティ(仲間作り)の重要性  最近では、NFTコレクションの人気や売れ行きを左右する要素として、「コミュニティ」が重要視されています。NFTにおけるコミュニティとは、「ファンクラブ」が近いでしょう。 人気のNFTプロジェクト/コレクションは、必ずといっていいほど、独自のコミュニティを持っています。活気のあるコミュニティならば、「新作発表→即完売」なんていうのは、よくある光景です。Twitter などSNSで告知する前に、作品は売れてしまうのです。) あなたの、そして作品の、ファンを作りましょう。ファンといっても、アイドルグループ・AKBのそれのような、熱狂的なファンである必要はありません。あなたの活動や発信内容に共感してくれたり、同じ趣味を持っていたり……“気が合う程度”でいいのです。集まった仲間の数と熱量は、そっくりそのまま、NFT界におけるブランドの強さになります。「NFT」と「コミュニティ」は、それぐらい密接な関係にあるのです』、「ファンといっても、アイドルグループ・AKBのそれのような、熱狂的なファンである必要はありません。あなたの活動や発信内容に共感してくれたり、同じ趣味を持っていたり……“気が合う程度”でいいのです。集まった仲間の数と熱量は、そっくりそのまま、NFT界におけるブランドの強さになります。「NFT」と「コミュニティ」は、それぐらい密接な関係にあるのです」、なるほど。
・『NFTの稼ぎ方(2)投資──売買で稼ぐ  つづいて「投資」です。NFTを安く買い、高く売れば、儲かります。原理は株と同じです。 シンプルな構図は「安く買って、高く売る」ですが、もちろん、そう簡単ではありません笑。「簡単に儲かる」話は、現実社会と同様、NFTにおいても100%詐欺です!ノッてはダメです。 しかし、NFT投資で儲けている人がいるのも事実。特に、NFTを「投資」と見る向きが強い海外(※著者印象)では、稼げる規模感も、日本とはケタが1つ2つ違います。海外の作品・プロジェクトまで目が届くのならば、選べる「投資商品」の幅が拡がることは、間違いありません』、「NFTを「投資」と見る向きが強い海外・・・では、稼げる規模感も、日本とはケタが1つ2つ違います。海外の作品・プロジェクトまで目が届くのならば、選べる「投資商品」の幅が拡がることは、間違いありません」、その通りなのだろう。
・『鉄則は安く仕入れる!  では、ここから、実際にNFT投資で稼ぐ具体的な方法を解説します。 「安く買う、高く売る」の「安く買う」に焦点をあてて説明します。「高く売れる」かは運要素も強いですが、「安く買う(もしくはタダでもらう)」ことは、努力次第で可能なためです。 NFTを安く買う方法は3つ。 1.ギブアウェイ(プレゼント) 2.ホワイトリスト(優先購入権) 3.チャート(市場)分析をする(トレーダー) 次から順に説明していきましょう。 1.ギブアウェイ(giveaway)(無料でもらえるNFTです。つまり、プレゼント。「タダ?怪しくない?」と思うかもしれませんね。でも心配いりません。NFTコレクションの人気と認知の拡大のために、ごくごく一般的に行われている施策です。もらえるものは、もらっておきましょう笑。 主にTwitter でギブアウェイ企画は行われています。Twitter で「#giveaway」と検索すると、たくさんの企画が出てきます。人気のギブアウェイは抽選になりますが、もちろん参加はタダ。「いいね」や「リツイート」をするだけです。狙う価値は、あります。) 2.ホワイトリスト(Whitelist)(「ホワイトリスト」も聞き慣れない言葉でしょう。NFTの「優先購入権」です。なじみのある表現だと「特別セールに参加できる会員権」といったところでしょうか。 多くのNFTプロジェクトが、一般販売の前に事前販売(プレセール)を行います。その「事前販売でNFTを購入できる権利」がホワイトリストです。通常、価格も一般販売(パブリックセール)より、安くなります。ホワイトリストも、ギブアウェイと同様、Twitterで配布されるケースが多いです。欲しい作品のホワイトリストが出たら、どんどん応募してみましょう。) 3.チャート(市場)分析をする(ここまでくれば「トレーダー」ですね。トレードの対象がNFTである必要があるかの議論は、いったん置いて説明します。) 今、世界中で一日に数種~数十種のNFTコレクションが生まれています(そして、消えています…)。膨大な数のNFTコレクションの価格や所有者数、取引量などを、チャートにまとめたサービスもあります。 チャートを見つつ、市場を見つつ、「上がる」NFTを購入できれば、儲かります。 いかがですか? 「絵が描けないから」「投資は難しいから…」と、NFTで稼ぐことをあきらめる必要はありません。 これ以外にもNFTには<プレー:NFTゲームで稼ぐ>や、<メディア:発信して稼ぐ>、<その他:動いて、聴いて…○○して稼ぐ>といった稼ぎ方もあるのです。 自分の趣味がお金に変わる夢の技術。ぜひあなたに合ったNFTの楽しい稼ぎ方を見つけてください』、「鉄則は安く仕入れる!」は分かるが、その他は、何か具体例で示してくれればいいのに、余りに抽象的なので、ピンとこない。残念だ。こんな役に立たない記事を紹介したのを許してほしい。
タグ:(その3)(Web3.0でブロックチェーン同士がつながる世界を実現、趣味がお金に変わる「NFT」とは?夢の技術を人気ブロガーが徹底解説) ブロックチェーン 『仮想通貨とWeb3.0革命』(日本経済新聞出版) 渡辺 創太氏による「Web3.0でブロックチェーン同士がつながる世界を実現」 日経ビジネスオンライン 「ビットコイン、イーサリアム・・・などレイヤー1のブロックチェーンがありますが、それらはトークンのブリッジはできても、ちゃんと仕組みとしてつながっていない。 我々はそこをシームレスにつなぐパブリックブロックチェーンをつくっていて、その上に、これから来るマルチチェーン時代の新しいDeFi(分散型金融)、NFT(非代替性トークン)といったユースケースをつくっていきたい。 2022年1月にアスターネットワークをローンチして、現在の時価総額は1100億円くらい・・・。今後1兆円、2兆円以上を目指していきたいと考えています」、「今、アスターのメンバーは30人ぐらいです。13カ国の国籍の人が14カ国に住んでいて、ヨーロッパに10人ぐらい、アジアに10人ぐらい、アメリカに6人ぐらいいます。アジアで緻密な戦略や数字的な部分、ヨーロッパで開発、アメリカでマーケティングをしています。僕は普段シンガポールにいるんですけど、シンガポールには2人しかいません。オフィスもフリーアドレスのデスクを 1つ借りているだけで、家賃3万円です」、「パブリックブロックチェーン」とは意欲的な試みだ。 「エンジニアではない。英語もできない。どうやって職を得たのですか」、「渡辺 もう、プライドを捨てました・・・恥をかくことを恐れなかったですね。 「ブロックチェーンの今後」という資料を頑張って英語で100枚ほど書き、メールに添付して100社ぐらいに送りました。そうしたら、たまたま僕が行きたいと思っていたところから、「資料を見たよ」と返信があり、電話でミーティングをして、採用となりました」、すごい度胸だ。 「ブロックチェーンができて14年くらいなので、10年以上ブロックチェーンをやっている専門家がいないんです。だから、年齢関係なくマインドが若い人、アンラーン・・・できる人が活躍している分野」、なお、「仮想通貨」相場は、「仮想通貨業界一の「優等生」FTXが突然破綻したことで、暴落している。 ダイヤモンド・オンライン tochi氏による「趣味がお金に変わる「NFT」とは?夢の技術を人気ブロガーが徹底解説」 「NFTを使って稼ぐ方法」とは興味深そうだ。 「「トークン」と呼ばれるデータが、「この資産は、この人が持っている」ということを証明してくれます」、なるほど。 「わずか1年の間でも、いろんなトレンドが生まれました(そして消えました…)。ドット絵、お猿さん、女の子、・・・自撮り写真、アニメ風作品…。 NFTアートで稼ぐなら、この「トレンド」をとらえる感覚は身につけておきたいところ」、難しそうだ。 「(自分)を動かしたキッカケは、より多くの人の動機になります。今度は「販売する側」として、“買い手の経験”を活かしてください」、なるほど。 「ファンといっても、アイドルグループ・AKBのそれのような、熱狂的なファンである必要はありません。あなたの活動や発信内容に共感してくれたり、同じ趣味を持っていたり……“気が合う程度”でいいのです。集まった仲間の数と熱量は、そっくりそのまま、NFT界におけるブランドの強さになります。「NFT」と「コミュニティ」は、それぐらい密接な関係にあるのです」、なるほど。 「NFTを「投資」と見る向きが強い海外・・・では、稼げる規模感も、日本とはケタが1つ2つ違います。海外の作品・プロジェクトまで目が届くのならば、選べる「投資商品」の幅が拡がることは、間違いありません」、その通りなのだろう。 「鉄則は安く仕入れる!」は分かるが、その他は、何か具体例で示してくれればいいのに、余りに抽象的なので、ピンとこない。残念だ。 こんな役に立たない記事を紹介したのを許してほしい。
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スタートアップ(その8)(東大発ベンチャー破産で政財官界に拡がる波紋…政府が進める「投資促進」に陰り、カネ集めに大異変「ベンチャー選別時代」の勝ち筋 数字と図表で徹底解剖!ベンチャー最前線①、日本でまともな「ベンチャー企業」が育たない理由...本当の問題は資金調達ではない) [イノベーション]

スタートアップについては、5月31日に取上げた。今日は、(その8)(東大発ベンチャー破産で政財官界に拡がる波紋…政府が進める「投資促進」に陰り、カネ集めに大異変「ベンチャー選別時代」の勝ち筋 数字と図表で徹底解剖!ベンチャー最前線①、日本でまともな「ベンチャー企業」が育たない理由...本当の問題は資金調達ではない)である。

先ずは、8月17日付け日刊ゲンダイ「東大発ベンチャー破産で政財官界に拡がる波紋…政府が進める「投資促進」に陰り」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/309862
・『官界通(同=官) 「東大発のベンチャー企業」として注目された医療系新興企業テラの自己破産が8月5日に確定し、23日に東証スタンダード市場への上場が廃止される。社員30人の小さな企業の行き詰まりだが、政官財の各界に波紋が広がっている。 政界通(以下=政) そうだ、安倍政権以来、政府が「貯蓄から投資へ」のキャッチフレーズで力を入れている投資促進策に、陰りが出ている。 財界通(同=財) テラは2004年に設立された若い企業。東大医科学研究所の技術をもとに医療機関へがん治療のノウハウを提供し、09年3月に上場した。売上高がどんどん増え、株価も初値の300円から10倍を超える4000円台まで急騰し、一般投資家に「夢」を与えた。 官 だが、創業者社長が社内規定に反して持ち株を大量売却したり、有価証券報告書の記載に不備があって金融庁に処分されたり、情報開示や企業統治が不十分で信頼を失った。 政 でも、新型コロナウイルスの治療薬開発に医薬品企業と提携し、メキシコで臨床研究を始めると起死回生を目指していたぞ。) 財 その発表で低迷していた株価がまた急騰したが、東証に提携の経過が不明確で提携先の情報確認が不十分と指摘され、昨秋に特設注意市場銘柄へ移されて夢はしぼんだ。増資もうまくいかず金融機関からの融資も止まり、破産手続きに追い込まれた。 官 投資家にすれば「何で、そんなずさんな企業を上場させたのだ」となるが、上場支援した証券会社のチェックも取引所の上場審査も型通り。上場後のチェックも、人手不足やコストを理由に不十分というのが実情だ。 政 それじゃあ、株券が紙切れ同然になった投資家が気の毒だ。 官 決算内容をチェックして「OK」としてきた会計事務所が問題になるが、意図的に情報隠しを手伝っていなければ、責任は問えない。 政 結局は「投資家の自己責任」か。それでは「投資よりも貯蓄のほうが安心」という日本人の傾向は、変わらないな』、「上場支援した証券会社のチェックも取引所の上場審査も型通り。上場後のチェックも、人手不足やコストを理由に不十分」、「会計事務所が問題になるが、意図的に情報隠しを手伝っていなければ、責任は問えない」、「結局は「投資家の自己責任」か。それでは「投資よりも貯蓄のほうが安心」という日本人の傾向は、変わらないな」、残念ながらその通りだ。

次に、9月10日付け東洋経済オンライン「カネ集めに大異変「ベンチャー選別時代」の勝ち筋 数字と図表で徹底解剖!ベンチャー最前線①」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/617065
・『アメリカを震源とする株式市場の低迷が、世界のベンチャー企業に影を落とし始めている。 9月12日発売の『週刊東洋経済』では、「すごいベンチャー100 2022年最新版」を特集。注目のベンチャー100社の総力取材記事に加え、ベンチャー市場の最新トピックスも網羅する。 足元では、輝く「ユニコーン」(評価額10億ドル以上で創業10年以内の未上場企業)としてもてはやされた企業の評価額が急落し、相次いで人員削減を迫られている。ベンチャーキャピタル(VC)などの投資家は、利益を出すことを起業家たちに要求している』、「ベンチャーキャピタル」が足元の苦境の余り、「利益を出すことを起業家たちに要求」というのは困ったものだ。もっと長い目での成長を促してほしいものだ。
・『影響は「まだ反映されていない」  日本のベンチャーにとってもひとごとではない。「評価額の下落は少しではない、半額だ」「想定した評価額に届かず、資金調達を諦めて事業を縮小した」。一部ベンチャーの経営陣からは苦しい声が聞こえ始めている。 スタートアップ情報プラットフォームのINITIALによれば、2022年1~6月の国内ベンチャーの資金調達額は4160億円と、上半期として過去最高となった。大型調達が連発され、年間で初めて8000億円を超えた2021年を上回るペースではある。 とはいえ、レイターステージ(株式上場が視野に入る段階)のベンチャーが対象のファンドを運営するシニフィアンの朝倉祐介氏は、「大型調達ほど時間がかかるため、2021年から検討し2022年に入って完了したものもある。そもそもアメリカに比べ日本はレイターの比率が低いため、市況の変化がまだ反映されていない」と指摘する』、「日本はレイターの比率が低い」、アーリーの「比率が低い」の間違いではないのだろうか。
・『上場目前の企業に打撃  一部ではすでに影響が出始めている。 AI契約審査SaaS(Software as a Service)のリーガルフォースは、6月に137億円の大型調達を行ったが、「昨年であれば評価額はもっと高くつけられたと思う」(角田望社長)と語る。 SaaSを中心に、上場企業の時価総額や未上場企業の評価額は、これまで売上高倍率で30倍程度という高い水準だった。だが現状は「20倍、15倍という水準まで下がっている」(コーラルキャピタルの澤山陽平・創業パートナー)。 上場を直前で取りやめた企業も出ている。インフルエンサーや企業のマーケティング支援を手がけるエニーマインドグループやチャットボットのジールスは、既存投資家などからの調達に切り替えた。 内視鏡AIによるがん診断を手がけるAIメディカルサービスも80億円を調達したが、関係者によれば当初は上場を目指していたという。 投資家側を見ると、2021年は海外勢の動きが目立っていた。日本での投資を始めたソフトバンク・ビジョン・ファンドや、上場株と未上場株の両方に投資する「クロスオーバーファンド」が押し寄せた。 だが、「海外のクロスオーバーは2021年末以降、一気に引いた」と複数のファンドやベンチャー関係者が口をそろえる。 運用資金の多い海外勢はレイターへの投資を牽引してきたが、出し手が減れば調達できないベンチャーが続出する可能性がある』、市場環境による「調達」困難化は日常茶飯事と割り切るしかない。
・『調達は「早い者勝ち」に  香港を拠点とするクロスオーバーファンド、タイボーン・キャピタル・マネジメントで日本株投資責任者を務める持田昌幸氏は、「上場株が値下がりしている中、流動性の低い未上場株を高く買う理由は正直ない。ただ、高くても魅力的なベンチャーはあるので、投資は続ける」と話す。 さらに持田氏は、「レイターの投資家が減っている中、ベンチャーにとって資金調達は“早い者勝ち”。『評価額を下げたくないから、当面はコストを絞ってしのぐ』と思っても、競合が先に調達してしまうとその後の出し手がいなくなる。起業家のセンスが問われる段階になってきた」と話す。 別のある海外投資家は、「CVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)など、金融収益ではなく事業のシナジーを重視する投資家が株主に多いと、株価が割高になったままだ。反面、アメリカでは格安の会社がいくつも出ているので、無理して日本のベンチャーに投資する必要はない」と明かす』、「調達は「早い者勝ち」」との考え方はおかしい。本来、株式公開による「調達」は、ゴールではなく、スタート地点の筈だ。どうも、日本のベンチャー企業やベンチャー・キャピタルには、間違った考え方が依然として根強いようだ。

第三に、10月25日付けNewsweek日本版が掲載した経済評論家の加谷珪一氏による「日本でまともな「ベンチャー企業」が育たない理由...本当の問題は資金調達ではない」を紹介しよう。
・『<岸田政権が進める大企業によるベンチャー買収の促進策は、日本における起業を活性化させるには正しい方針だ。ただ具体的な方法については実効性に疑問が残る> 政府が、大企業によるベンチャー企業買収を促進する施策について検討を始めている。ベンチャー企業を買収した場合、株式取得額の25%を課税所得から控除する案が出ているという。岸田政権は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付けており、税制優遇することによってベンチャー企業にとっての「出口戦略」を容易にし、起業の活性化につなげる。 大企業による買収を促進する今回のプランは、的外れなベンチャー支援策ばかり繰り返してきた日本政府としては、珍しく正しい方向性といえる。日本においてベンチャービジネスが活性化しないのは、資金が集まらないことが原因であるという説が、まるで神話のように語られてきたが、これは事実ではない。 日本国内のベンチャー投資金額は年間1兆円規模に達しており、対GDP比ではドイツと同水準、イタリアの5倍もある。アメリカと比較すると10分の1以下だが、同国は世界でも類を見ないベンチャー大国であり、極めて特殊なケースと言っていい。少なくとも日本の資金調達環境が諸外国と比べて著しく劣っているわけではない。 では、なぜ日本ではベンチャー企業が育ちにくいのだろうか。最大の問題は、資金調達ではなく、むしろ資金を集めてからで、日本の商慣行が大きな壁として立ちはだかっている』、「日本国内のベンチャー投資金額は年間1兆円規模に達しており、対GDP比ではドイツと同水準、イタリアの5倍もある。アメリカと比較すると10分の1以下だが、同国は世界でも類を見ないベンチャー大国であり、極めて特殊なケースと言っていい。少なくとも日本の資金調達環境が諸外国と比べて著しく劣っているわけではない」、その通りだ。
・『日本でベンチャーが育たない本当の理由  日本ではベンチャー企業が新しい製品やサービスを開発しても、大企業は「前例がない」「新しいものはよく分からない」といって取引を拒むケースが多く、ベンチャー企業の事業継続が困難になっている。このため、多くのベンチャー企業が十分な規模に成長することができない。一方で証券業界は手数料欲しさに、成長途上の未熟な企業まで無理に上場させてしまうため、株価が急落して投資家が損失を出すなど悪循環の連続となっている。 大企業が積極的にベンチャー企業を買収すれば、規模が小さく会社の体制が脆弱であっても、創業者や出資者は利益を得ることができる。加えて大企業の組織に起業家出身者が加われば、確実に組織は活性化し、やがては会社から独立して起業家になる人物も増えてくるだろう。上場が主な出口となっている現状と比較して、さまざまな面でハードルが下がると予想される。) しかしながら、この政策には実効性という点で大きな問題がある。その理由は、大企業が税制優遇だけでベンチャーを積極的に買収する可能性は低いからである。 安倍政権時代、政府は法人税の減税を繰り返し、既にかなりの低税率となっている。加えて、日本には以前から租税特別措置(租特)と呼ばれる優遇税制があり、多くの大企業がこの制度を利用して節税している。現実問題として、大企業は税金をあまり払っていないので、減税策を提示されても、魅力的には感じないだろう。 むしろ、旧態依然とした経営の刷新を目的に政府が進める「ガバナンス強化策」において、ベンチャー企業活用を促したほうが圧倒的に効果が高いと考えられる。欧米各国でも、全ての大企業経営者が勇猛果敢にベンチャー企業の新技術を活用しているわけではない。経営者に対して、現状維持を許さない市場環境があるからこそ、ベンチャー企業の買収や新技術の採用が進むという現実を、理解しておく必要がある』、「ガバナンス強化策」で「経営者に対して、現状維持を許さない市場環境」に変えることにより、「ベンチャー企業の買収や新技術の採用が進む」、という王道で臨むべきだろう。
タグ:スタートアップ (その8)(東大発ベンチャー破産で政財官界に拡がる波紋…政府が進める「投資促進」に陰り、カネ集めに大異変「ベンチャー選別時代」の勝ち筋 数字と図表で徹底解剖!ベンチャー最前線①、日本でまともな「ベンチャー企業」が育たない理由...本当の問題は資金調達ではない) 日刊ゲンダイ「東大発ベンチャー破産で政財官界に拡がる波紋…政府が進める「投資促進」に陰り」 「上場支援した証券会社のチェックも取引所の上場審査も型通り。上場後のチェックも、人手不足やコストを理由に不十分」、「会計事務所が問題になるが、意図的に情報隠しを手伝っていなければ、責任は問えない」、「結局は「投資家の自己責任」か。それでは「投資よりも貯蓄のほうが安心」という日本人の傾向は、変わらないな」、残念ながらその通りだ。 東洋経済オンライン「カネ集めに大異変「ベンチャー選別時代」の勝ち筋 数字と図表で徹底解剖!ベンチャー最前線①」 「ベンチャーキャピタル」が足元の苦境の余り、「利益を出すことを起業家たちに要求」というのは困ったものだ。もっと長い目での成長を促してほしいものだ。 「日本はレイターの比率が低い」、アーリーの「比率が低い」の間違いではないのだろうか。 市場環境による「調達」困難化は日常茶飯事と割り切るしかない。 「調達は「早い者勝ち」」との考え方はおかしい。本来、株式公開による「調達」は、ゴールではなく、スタート地点の筈だ。どうも、日本のベンチャー企業やベンチャー・キャピタルには、間違った考え方が依然として根強いようだ。 Newsweek日本版 加谷珪一氏による「日本でまともな「ベンチャー企業」が育たない理由...本当の問題は資金調達ではない」 「日本国内のベンチャー投資金額は年間1兆円規模に達しており、対GDP比ではドイツと同水準、イタリアの5倍もある。アメリカと比較すると10分の1以下だが、同国は世界でも類を見ないベンチャー大国であり、極めて特殊なケースと言っていい。少なくとも日本の資金調達環境が諸外国と比べて著しく劣っているわけではない」、その通りだ。 「ガバナンス強化策」で「経営者に対して、現状維持を許さない市場環境」に変えることにより、「ベンチャー企業の買収や新技術の採用が進む」、という王道で臨むべきだろう。
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イーロン・マスク(その1)(イーロン・マスク「テスラ&スペースX」の隠れた共通点、モノづくりの極意とは、お騒がせ野郎イーロン・マスク「マンU買収は冗談、どんなスポーツチームも買わない」、マスク氏 プーチン氏と会話 中ロに接近 ツイッター所有懸念強まる、Twitter買収を手放しでは喜べない…「世界一の富豪」イーロン・マスクに世界中が冷視線を向けるワケ なぜ中国・ロシア寄りの発言を繰り返すのか) [イノベーション]

昨日のツイッターに続いて、今日はイーロン・マスク(その1)(イーロン・マスク「テスラ&スペースX」の隠れた共通点、モノづくりの極意とは、お騒がせ野郎イーロン・マスク「マンU買収は冗談、どんなスポーツチームも買わない」、マスク氏 プーチン氏と会話 中ロに接近 ツイッター所有懸念強まる、Twitter買収を手放しでは喜べない…「世界一の富豪」イーロン・マスクに世界中が冷視線を向けるワケ なぜ中国・ロシア寄りの発言を繰り返すのか)を取上げよう。

先ずは、7月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経営コンサルタントの竹内一正氏による「イーロン・マスク「テスラ&スペースX」の隠れた共通点、モノづくりの極意とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/306983
・『「自動車を作ることと、宇宙ロケットを作ることはまったく違う」と誰もが思う。ところが、イーロン・マスクがCEOを務めるEV企業「テスラ」と、宇宙ロケット企業「スペースX」には驚くほどの共通点があった。イーロン・マスクについての著書を数多く執筆する経営コンサルタントの竹内一正氏が、イーロンのモノづくりの極意を解き明かす』、興味深そうだ。
・『イーロン・マスクは業界の枠を超えてモノを見る  イーロンのモノづくりの特徴の一つ目は、業界の常識に縛られず、業界の枠を超えてモノを見る力だ。 例えば、テスラはモデルSに大型17インチのタッチパネルを搭載した。これは自動車業界初であり、アップルがまだiPadを出す前のことだった。 開発段階でイーロンは技術者とともに、ノートPCをモデルSの試作車に持ち込んでアイデアをぶつけ合った結果、コンソールボックスに縦型17インチのタッチパネルを設置することに決めた。モデルSの登場以降、大手自動車メーカーは大型タッチパネルを搭載するようになった。 「クルマは納車した日の性能から良くなることはない」 これは、自動車業界の暗黙の常識だった。だが、テスラ車はソフトウエアアップデートで購入後もクルマの性能がアップしていく仕組みを打ち立てた。しかし、PCやスマホ業界ではソフトウエアアップデートで機能や性能を向上させていくことは当たり前に行われてきたことだった。業界の枠や常識を超えてモノを見る姿勢が表れている。 それは、スペースXでも見られる。 ファルコンロケットの燃料タンクには、摩擦攪拌(かくはん)接合というタンカーなどで使われていた技術が使われている。摩擦攪拌接合は、作業速度が速く製造コストを抑えられる利点があった。 高エネルギーの宇宙線を浴びる宇宙ロケットには高信頼性の電子部品が必要とされ、民生品は使えないと考えられていた。そして“宇宙仕様”の電子部品はコストが高かった。 しかし、スペースXは業界の常識にとらわれることなく、コストのこなれた民生品をいろいろ導入している。たとえば、PCでおなじみのイーサネット(PCで使われているLAN規格)や、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)などだ。FPGAはロジック・デバイスの一種で、エンジニアが現場で書き換えが可能で、カスタムLSIよりコストが安くできる。 自動車業界も宇宙ロケット業界も歴史と伝統があるゆえに、業界の枠で物事を考えてしまい、枠を超えることを良しとしない風土がある。しかし、業界の枠を超えてモノを見ることで活路が開けることをイーロンは実証している』、「自動車業界も宇宙ロケット業界も歴史と伝統があるゆえに、業界の枠で物事を考えてしまい、枠を超えることを良しとしない風土がある。しかし、業界の枠を超えてモノを見ることで活路が開けることをイーロンは実証している」、凄いことだ。
・『イーロン・マスクが目指すゴールは「自動運転」  イーロンのモノづくりの特徴の二つ目は、「自動運転」だ。 テスラのEVが目指すのは、ハンドルを人が握って運転するのではなく、AIが運転する完全自動運転である。現時点でテスラの自動運転はレベル2だが、イーロン・マスクはレベル5の完全自動運転を実現すべく開発現場の技術者たちにハッパをかけている。 そこで重要なのがソフトウエアとハードウエアの融合だ。しかもそれをテスラの社内でやってのける。AIのソフトウエア開発からAIチップの設計までテスラは内製化している。詳しくは後述するが、テスラのモデル3のECU(電子制御ユニット)は、完全自動運転を見据えた設計となっている。 一方、スペースXのロケットも“自動運転”、つまりロケットの場合は“自動操縦“だが、これを目指して開発をしてきた。2021年9月には宇宙船クルードラゴンが4人の民間人を地上約580㎞の宇宙に運び、3日間の宇宙滞在を成功させたが、これは自動操縦で行われていた。 イーロンは、「火星に人類を移住させる」という目標を掲げて、スペースXを経営してきた。高度な訓練を受けたプロの宇宙飛行士ではなく、普通の人が火星に移住する。百万人単位で文明を作るのが目的だ。そのためには、普通の人が操縦できる宇宙ロケットが必要だ。 EVもロケットも乗り物にかわりはない。誰でも乗れる乗り物のゴールは、自動運転だ。そして自動運転はシンプルな設計とも関係する』、「EVもロケットも乗り物にかわりはない。誰でも乗れる乗り物のゴールは、自動運転だ」、言われてみれば、確かにその通りだ。
・『とことん極めればシンプルな設計になる  テスラのEVモデル3の内装は極めてシンプルにできている。フロアにシフトレバーがないし、サイドブレーキもない。ハンドルの前にあるはずのスピードメーターもない。 あるのは15インチの横型タッチスクリーンだけ。これで速度表示もドライビングモードも、エアコン操作も、ヘッドライトの点灯も行ってしまう。 モデル3のシンプルな設計はECUの数にも表れている。ECUとは電子制御ユニットのことで、作動させる機能ごとに搭載し管理を行う。エンジン用、パワーステアリング用などがあり車体の各部に配置し、分散管理でクルマの円滑な走行を担う。 従来のガソリン自動車だと60個以上、多ければ100個のECUが組み込まれている。ECUにはおのおの電源が必要で、そのための配線も必要となりECUが多いほど複雑化する。 しかし、テスラモデル3のECUは5個しかなく、高度な集中管理型を実現していた。 しかも、自動運転機能は1つのECUにまとめられ、その半導体はテスラが設計し、演算能力は144TOPS(毎秒144兆回)と高性能だ。ちなみに、半導体設計まで自社でやる自動車メーカーはテスラ以外にはない。そして、その先にあるのは完全自動運転であることは言うまでもない。 モデル3の少ないECUはOTA(オン・ジ・エアー)でも効果的だ。OTAとは無線通信でソフトウエアのアップデートを行う機能のことだ。従来の分散型のECUだと個々にバージョンアップが必要だが、集中管理のモデル3では簡単にできる。 ECUは少ない方が配線も減らせ、省スペース化もやりやすくコストを下げられる。少ないECU化が、モデル3の3万5000ドル級の価格帯の実現に貢献している。 スペースXの再利用可能なロケット、ファルコン9の設計もシンプルにできている。 ファルコン9は2段式ロケットで、打ち上がった1段目が逆再生ビデオのように地上に帰還し、着陸後、再度打ち上げに利用できる。ファルコン9に搭載した宇宙船「クルードラゴン」は国際宇宙ステーションを往復し大気圏に再突入して洋上に着水後も、回収・修理を施して再利用がきる。  再利用を目指した設計のスペースシャトルと比較すると違いがよくわかる。 スペースシャトルは、飛行機のような形で三角翼と3基のエンジンを持つオービターと、それを背負うような巨大な外部燃料タンク。この燃料タンクはオービターのエンジンに液体燃料を供給する役目だ。そして、燃料タンクの両脇に固体ロケットブースターが2基装備され、まるで4つの巨大な物体が組み合わさったかの状態で打ち上げる。 固体ロケットブースターも外部燃料タンクも飛行途中で切り離され、使い捨てにされる。帰還し再利用されるのはオービターだけで、理論上は100回の使用に耐えるとされた。だが、再利用する際には多大な作業が必要となった。さらに飛行中に二度爆発事故を起こしたことを記憶している人は多い。 しかも、オービターの三角翼は帰還する際、グライダーのように滑空する時だけしか用をなさない。つまり、打ち上げの時は空気抵抗を増やす邪魔な代物でしかない。スペースシャトルの設計は政治的な影響もあって複雑になりすぎたのだった。 再利用をうたったスペースシャトルだったが、1回の打ち上げコストは約15億ドルもかかったのに対し、スペースXのファルコン9は0.62億ドルで、24分の1のコストで済んだ。 物理思考で原理を突き詰めれば、シンプルな設計に行き着く。これもイーロンのモノづくりの特徴のひとつだ』、「従来のガソリン自動車だと60個以上、多ければ100個のECUが組み込まれている」、「テスラモデル3のECUは5個しかなく、高度な集中管理型を実現していた。 しかも、自動運転機能は1つのECUにまとめられ、その半導体はテスラが設計し、演算能力は144TOPS・・・と高性能だ。ちなみに、半導体設計まで自社でやる自動車メーカーはテスラ以外にはない。そして、その先にあるのは完全自動運転であることは言うまでもない」、「再利用をうたったスペースシャトルだったが、1回の打ち上げコストは約15億ドルもかかったのに対し、スペースXのファルコン9は0.62億ドルで、24分の1のコストで済んだ。 物理思考で原理を突き詰めれば、シンプルな設計に行き着く。これもイーロンのモノづくりの特徴のひとつだ」、既存の常識の枠にとらわれない自由な発想には脱帽するしかない。
・『テスラもスペースXも技術革新とコストダウンを同時進行している  テスラとスペースXに共通する重要で、しかも他社にはまねできない点を最後に取り上げよう。それは技術革新とコストダウンを同時に行う点だ。 テスラのEVは、従来のクルマにはない技術革新を遂げてきた。タッチパネルでの操作や、ソフトウエアアップデート機能、新型ECUの搭載などだ。しかも、これらをコストダウンと同時進行で行っていた。その結果は価格に表れている。 08年に出荷を始めたスポーツカーEVの「ロードスター」は10万ドルを超えていたが、12年に出したEVセダンの「モデルS」は7万ドル級になり、17年に登場した「モデル3」は3万5000ドルになった。 トヨタの燃料電池車「ミライ」が、いつまでたっても約700万円でもたついているのと大違いだ。 一方、スペースXのファルコン9は野口聡一宇宙飛行士たちを国際宇宙ステーションへ送ったことで日本でも有名になったが、再利用ができるロケットだ。ロケット再利用はNASAでもできなかった快挙だが、再利用以外の要素でも大幅なコストダウンも実現していた。 2011年、NASAは伝統的な方法でファルコン9を開発した場合、スペースXの約10倍のコストがかかると報告し、宇宙ロケット業界に衝撃を与えた。これは、ロケット再利用を考えない場合の試算であった。 2017年にスペースXが再利用ロケットの打ち上げに成功してからは、再利用を繰り返せば繰り返すほどロケットコストは安くなっていく。 さて、日本企業はどうかというと、まず技術革新を起こすことに注力する。そして、技術革新が成功してからコストダウンのフェーズに移る2ステップ方式が常識だった。自動車でも家電でもそうだった。 しかし、テスラとスペースXは技術革新と劇的なコストダウンを同時にやってしまう1ステップ方式だ。1ステップ方式はスピード感はあるが、その分リスクも大きい。経営トップにリスクテイクの覚悟がないとできない手法だ。しかし、グローバル競争ではこのスピード感がないと生き残れない。 リチウムイオン電池に代わるとされる「全固体電池」の開発記事を目にすることが多くあるが、重要な点は全固体電池が開発できたかどうかではない。その量産コストがいくらになるかだ。そろそろマスコミもその点に焦点を当てるべきだ。さもなければ、すぐに中韓企業に追いつき追い越され、日本企業は再び「三日天下」で終わってしまう』、「テスラとスペースXは技術革新と劇的なコストダウンを同時にやってしまう1ステップ方式だ。1ステップ方式はスピード感はあるが、その分リスクも大きい。経営トップにリスクテイクの覚悟がないとできない手法だ。しかし、グローバル競争ではこのスピード感がないと生き残れない」、その通りだ。変なモノづくり神話に囚われていたら、日本企業は取り残されるだけだ。

次に、8月17日付けNewsweek日本版がロイター記事を転載した「お騒がせ野郎イーロン・マスク「マンU買収は冗談、どんなスポーツチームも買わない」」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/08/u-4.php
・『米電気自動車大手中国のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は17日、英サッカークラブのマンチェスター・ユナイテッド(マンU)を買収するとしたのは冗談だったとツイッターで明らかにした。 買収は本気かとのユーザーの問いに「いや、これはツイッターにおける長年のジョークだ。私はいかなるスポーツチームも買わない」とツイートした』、全く人騒がせな「ジョークだ」。

第三に、10月14日付けMSNが朝日新聞記事を転載した「マスク氏、プーチン氏と会話 中ロに接近 ツイッター所有懸念強まる」を紹介しよう。
・『米ツイッターの買収意向を示している米電気自動車大手テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が最近、ロシアや中国寄りと受け取れる言動を繰り返し、懸念が強まっている。両国による情報操作の問題が指摘されるなか、マスク氏が買収した場合のツイッターの投稿管理に不安の声が上がる。 マスク氏は3日のツイートに、ウクライナ戦争をめぐる独自の和平案を投稿した。ロシアがウクライナ4州で強行した「住民投票」をやり直し、ロシアが併合したクリミア半島をロシア領にするなどロシアの主張に沿う内容で、ウクライナ側から批判が出た。 米国際政治学者のイアン・ブレマー氏は10日、自らのニュースレターで、「2週間前にイーロンと話した」と言及。マスク氏はプーチン氏と直接会話し、その際にプーチン氏がウクライナ危機について「交渉の準備がある」と述べたという。ブレマー氏は、マスク氏の和平案がプーチン氏が話した内容とほぼ同じだと指摘した』、「ツイッター」経営者に求められる政治的中立性には、まだ馴れていないのだろうか。

第四に、11月15日付けPRESIDENT Onlineが掲載したフリーライター・翻訳者の青葉 やまと氏による「Twitter買収を手放しでは喜べない…「世界一の富豪」イーロン・マスクに世界中が冷視線を向けるワケ なぜ中国・ロシア寄りの発言を繰り返すのか」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/63441
・『イーロン・マスク氏の衛星通信サービスが日本で始まる  テック界の革命児、イーロン・マスク氏。買収によりTwitterを手中に収めた氏の勢いが止まらない。 だが、自動運転EV開発のテスラ、宇宙開発のスペースX、そして新たにTwitterを掌握した革命児の言動に、危うさが見え隠れする。中露寄りの発言を繰り返していることに加え、一度はロシアからの防衛戦でウクライナに寄与したスターリンク衛星通信サービスが、破竹の勢いで巻き返しを進めるウクライナ軍に「壊滅的な混乱」をもたらしているとの海外報道が聞かれるようになった。 家庭で衛星インターネットを利用できるスターリンクは10月以降、日本でも順次展開している。個人や企業が手軽に衛星経由での通信を楽しめるサービスだ。 このサービスは、イーロン・マスクCEO率いる米スペースX社が提供している。高度550km前後の低軌道に多数の中継衛星を浮かべ、空からデータ通信を中継するしくみだ。空の見渡せる場所に受信用のディッシュ(アンテナ)さえ設置すれば、既存のネット回線に依存せずにインターネットを利用可能となる。 僻地では光ファイバーを延々と敷設せずとも、目的の建物単体でネット環境を導入できる利便性がある。加えて都市部でも、万一の際のバックアップとして注目が集まるだろう。仮に大規模な震災などで通信網が寸断されても、スターリンクの受信用ディッシュと家庭用発電機があればネットを利用できる。家庭はもちろんのこと、役場や消防などで導入が進んでいれば、復旧への情報収集がスムーズに進みそうだ。 価格は初期費用として、アンテナなどを含むキットが7万3000円となっている。月額利用料金は1万2300円の設定だ。現時点で沖縄を除く日本のほぼ全土で利用可能となっている。 スターリンクの登場により、衛星通信を個人で利用できる時代が訪れた。ところがこの技術は個人の生活環境だけでなく、一国の在り方すら変えようとしている』、「価格は初期費用として、アンテナなどを含むキットが7万3000円・・・月額利用料金は1万2300円の設定だ」、これで「衛星通信を個人で利用できる時代が訪れた」、とは便利な時代になったものだ。
・『ウクライナの救世主になった  ロシアによる2月からの侵攻を受け、ウクライナ国内の被災地域では通信が寸断された。この状況を救ったのがスターリンクだ。ウクライナ政府の技術部門を統括するフェドロフ副首相がTwitterで支援を要請すると、スペースXのイーロン・マスク氏はわずか11時間弱で同国でのサービスを始動させた。 同時にマスク氏はウクライナには大量の受信ディッシュを送っており、病院や軍事拠点など重要施設に配備されている。ほか、市民も衛星通信経由のWi-Fiを利用しネットを再開することが可能となった。 スターリンクが戦局に大きな影響を与えたと指摘する報道もある。ウクライナ軍はロシアによる2014年のクリミア侵攻を契機として、攻撃・防御システムのIT化に力を入れてきた。現在はGIS Arta(ジーアイエス・アルタ)と呼ばれるシステムが各部隊に配備されており、ネットを通じて現在地や攻撃能力などの情報を常時共有しあっている。 英タイムズ紙の5月の報道によると、従来の常識では射撃命令から実際の攻撃までには部隊間の調整が必要であり、20分程度の時差を生じていた。だが、GIS Artaが部隊の展開状況に応じて最適な攻撃対象を自動で割り振ることで、30秒から1分程度での攻撃が可能となったという。これを支えているのがスターリンクによる通信インフラだ。 アメリカ国防契約管理局のトレント・テレンコ氏は5月、ツイートを通じ、「ウクライナの『GIS Art for Artillery(GIS Artaの別称)』アプリはスターリンクと組み合わさることで、アメリカ軍の一般的な砲術指揮統制よりもかなり優れたものをウクライナ軍にもたらした」と指摘している。氏はまた、「ウクライナ戦争は初のスターリンク戦争」だとも述べる』、「従来の常識では射撃命令から実際の攻撃までには部隊間の調整が必要であり、20分程度の時差を生じていた。だが、GIS Artaが部隊の展開状況に応じて最適な攻撃対象を自動で割り振ることで、30秒から1分程度での攻撃が可能となったという。これを支えているのがスターリンクによる通信インフラだ」、これほど短縮できるのであれば、戦闘能力は著しく向上する筈だ。
・『ネット遮断でウクライナ軍は大混乱  ところが、その後の形勢不利を経て反転攻勢に入った10月、ウクライナ軍を予期せぬ事態が襲うようになる。ロシア支配地域の奪還を進める一部部隊のあいだで、通信の途絶が報告されるようになったのだ。勢いに乗っていたウクライナ軍は、大混乱に陥った。 英フィナンシャル・タイムズ紙は10月8日、ウクライナ軍関係者および兵士らの話として、領土解放を進める最前線でスターリンクの通信機器に障害が発生し、作戦に支障をきたしていると報じた。 記事によるとウクライナ政府高官は、過去数週間でウクライナ軍の一部部隊が「壊滅的な」通信障害に陥っていると述べたという。同紙は首都キーウの別の当局者の話として、軍のヘルプラインに兵士たちから「パニック状態の電話」が相次いでいるとも報じている。 通信途絶は4~5の特定地域で発生しており、多くはロシア占領地域との境界上となっている』、「スターリンクの通信」に依存して有利に戦争を進めてきたのが、「通信途絶は4~5の特定地域で発生」とは大変だ。
・『マスク氏が意図的に遮断との見解も  サービス途絶の原因は何か。最も単純な仮説として、ウクライナ軍の領土奪還の勢いが速く、スターリンク側のサービス対象地域の更新が追いつかなかった可能性が指摘されている。スペースX社はロシア占領下に落ちたエリアを通信提供エリア外としており、これはロシア軍に利用されるのを防ぐためだとみられる。 だが、マスクCEOが意図的に、両軍が激しく衝突する地域でサービスを遮断したとの見解も聞かれるようになった。上記の通信障害が発生した地域とは別になるが、少なくともクリミア半島においては、明確な意志をもってサービスを遮断したようだ。 米インサイダーは、米有力政治アナリストのイアン・ブレマー氏の見解として、プーチンが核のボタンに手を伸ばす事態を懸念したマスク氏が、クリミアでのサービス提供を断ったと報じている。 クリミア奪還を進めたいウクライナ側から同地でのサービス開始を要請されたが、米有力政治アナリストのイアン・ブレマー氏によると、マスク氏は「(事態が)エスカレーションする可能性があるため断った」という』、「マスクCEOが意図的に、両軍が激しく衝突する地域でサービスを遮断したとの見解も聞かれるようになった・・・少なくともクリミア半島においては、明確な意志をもってサービスを遮断したようだ」、「プーチンが核のボタンに手を伸ばす事態を懸念」、あり得る話だ。
・『「ウクライナのネットを任せておくべきではない」  ウクライナ全土へのスターリンク提供についても、マスク氏はサービスの無償提供を続ける意向をツイッターで表明しているが、一時態度を硬化させた事実は見逃せない。 マスク氏は10月14日、米国政府が費用を負担しない場合、サービスを無償で無期限に提供することはできないとツイッターで警告した。ビジネスとしては当然の判断だが、重度に依存するウクライナにとっては死活問題だ。 米『ポリティコ』誌EU版によるとEUは、EU諸国が費用を負担することでウクライナへのサービス継続を要請できないか検討していると報じた。 リトアニアのガブリエリウス・ランズベルギス外相は同誌に対し、「ある朝目覚めて『もうやりたくないからやめだ』と言い、翌日には『ウクライナ人たちはネットなしでもやっていけるだろう』と言うような一人の『超強大な』人間に、ウクライナのネットアクセスを任せておくべきではない」と警告した』、「リトアニア」「外相」の発言は正論ではあるが、「米国政府」や「EU諸国」が負担するまでは、「ツイッター」に「無償提供を続け」てもらう必要がある。
・『ロシア・中国寄りの発言を繰り返してきた  こうした意見が聞かれるようになった背景には、各国の政治情勢に絡めて危うい発言を繰り返してきたマスク氏の過去がある。氏は今年に入ってから、ロシア寄り・中国寄りと取れる発言を繰り返している。 1億人以上のフォロワーを持つマスク氏はTwitter上にて、「1783年以来、(フルシチョフの過ちまで)そうであったように、クリミアを公式にロシアの一部とする」ことを含む独自の和平案を提案し、投票機能を通じて賛否を問うた。ウクライナ側は激しく反発している。 中台関係をめぐっては、台湾側が支配権の一部を中国に譲ることで和平がもたらされるとの考えを披露した。マスク氏はフィナンシャル・タイムズ紙のインタビューで、「私の提案としては……台湾の特別行政区という形で解決策を見出してはどうか。皆が納得するわけではないが、おおむね良い形だ」と語っている。 台湾の蕭美琴駐米代表はこれに反応したとみられる形でTwitter上で、「台湾は多くの製品を売っているが、自由と民主主義は売り物ではない。私たちの将来をめぐる提案はいずれも、平和的かつ強制的ではなく、そして台湾の人々の民主的な願いを尊重する形で決定されるべきである」と牽制している。 マスク氏のこれら独特な発言を念頭に、ウクライナの一部地域における衛星サービスの一時遮断についても臆測が広がった。一部の国においては、ウクライナ政府との関係が冷え込んだことから意図的に遮断に踏み切ったと取れる報道もあった』、「マスク氏」の気まぐれも困ったものだ。
・『カリスマCEOの強さと危うさ  マスク氏が技術で世界を変え、人類を前進させていることに疑いはないだろう。 テスラはEVを身近にし、夢物語だった自動運転を着実に実用化へ近づけている。スペースXは個人が月旅行に出かける時代を切り拓きつつある。地下トンネルで渋滞を回避したいという冗談から生まれたザ・ボーリング・カンパニーは、ラスベガスの地下に本物のテスト用地下自動車道を開通させた。 常識を超えた発想で未来を引き寄せるカリスマCEOには、独断で企業を率いる強力なリーダーシップが求められる。社会的な価値観と相違をものともせず、自らの信念を貫くタフさこそが強みとなるだろう。 だが、その影響は社内にとどまらず、国際社会にまで波及している。そこには彼の言動に左右される危うさがある。スターリンクのインフラに依存せざるを得ないウクライナ軍は、マスク氏の衛星なしには混乱状態に陥るまでに依存性を高めている。 クリミアをめぐる住民投票案や台湾情勢についても、独特な価値観に基づく発言を繰り出すマスク氏。おそらく政治情勢に深入りする意図はなく、独自の正義を世に示しているだけなのだろう。だが、発言の対象となった各国の政府が不快感を示すなど、巨大インフラを掌握するCEOの発言が世界を揺るがしていることは明らかだ』、「マスク氏」が全能感に酔って「発言」している訳ではないとしても、その影響力は甚大なだけに、責任感を自覚してほしいところだ。
・『「マスク依存」を深める世界の危険性  こうした危うさは、マスク氏のTwitter社の買収にも当てはまる。独自の価値観による「正義」が導入されればどうなるだろうか。仮にだが買収完了後、独自の発言規制やプライバシーに影響する機能が実装されれば、日本のユーザーにおいても影響は免れないだろう。 また、ワシントンポスト紙はマスク氏本人による発言を念頭に、Twitterは「事実上の街の公共広場」であり、マスク氏はいまやその市長になったのだと指摘している。Twitterの崩壊が、民主主義にとって世界規模の脅威になり得る恐れもある。 個人への影響に目を移せば、スターリンクは月額1万数千円という価格であるため、通常4~5千円程度する通常のネットサービスから乗り換え、災害対策を兼ねてメイン回線にすることも不可能ではない。しかし、通信網の寸断に強い反面、うつり気なCEOによるサービスという別のリスクを抱えることになる。 テクノロジーで世界を変革する男、イーロン・マスク。技術の進歩を数十年加速させる功績の一方で、気まぐれな言動が与える影響は年を追うごとに大きくなっている。一人のカリスマに依存する世界が、もろく、危ういことを彼自身が教えてくれている』、全く同感である。そろそろ、口を慎んでもらいたいものだ。 
タグ:「自動車業界も宇宙ロケット業界も歴史と伝統があるゆえに、業界の枠で物事を考えてしまい、枠を超えることを良しとしない風土がある。しかし、業界の枠を超えてモノを見ることで活路が開けることをイーロンは実証している」、凄いことだ。 (その1)(イーロン・マスク「テスラ&スペースX」の隠れた共通点、モノづくりの極意とは、お騒がせ野郎イーロン・マスク「マンU買収は冗談、どんなスポーツチームも買わない」、マスク氏 プーチン氏と会話 中ロに接近 ツイッター所有懸念強まる、Twitter買収を手放しでは喜べない…「世界一の富豪」イーロン・マスクに世界中が冷視線を向けるワケ なぜ中国・ロシア寄りの発言を繰り返すのか) 「テスラとスペースXは技術革新と劇的なコストダウンを同時にやってしまう1ステップ方式だ。1ステップ方式はスピード感はあるが、その分リスクも大きい。経営トップにリスクテイクの覚悟がないとできない手法だ。しかし、グローバル競争ではこのスピード感がないと生き残れない」、その通りだ。変なモノづくり神話に囚われていたら、日本企業は取り残されるだけだ。 「再利用をうたったスペースシャトルだったが、1回の打ち上げコストは約15億ドルもかかったのに対し、スペースXのファルコン9は0.62億ドルで、24分の1のコストで済んだ。 物理思考で原理を突き詰めれば、シンプルな設計に行き着く。これもイーロンのモノづくりの特徴のひとつだ」、既存の常識の枠にとらわれない自由な発想には脱帽するしかない。 「従来のガソリン自動車だと60個以上、多ければ100個のECUが組み込まれている」、「テスラモデル3のECUは5個しかなく、高度な集中管理型を実現していた。 しかも、自動運転機能は1つのECUにまとめられ、その半導体はテスラが設計し、演算能力は144TOPS・・・と高性能だ。ちなみに、半導体設計まで自社でやる自動車メーカーはテスラ以外にはない。そして、その先にあるのは完全自動運転であることは言うまでもない」、 「EVもロケットも乗り物にかわりはない。誰でも乗れる乗り物のゴールは、自動運転だ」、言われてみれば、確かにその通りだ。 「価格は初期費用として、アンテナなどを含むキットが7万3000円・・・月額利用料金は1万2300円の設定だ」、これで「衛星通信を個人で利用できる時代が訪れた」、とは便利な時代になったものだ。 青葉 やまと氏による「Twitter買収を手放しでは喜べない…「世界一の富豪」イーロン・マスクに世界中が冷視線を向けるワケ なぜ中国・ロシア寄りの発言を繰り返すのか」 PRESIDENT ONLINE 「マスク氏」の気まぐれも困ったものだ。 「リトアニア」「外相」の発言は正論ではあるが、「米国政府」や「EU諸国」が負担するまでは、「ツイッター」に「無償提供を続け」てもらう必要がある。 「マスクCEOが意図的に、両軍が激しく衝突する地域でサービスを遮断したとの見解も聞かれるようになった・・・少なくともクリミア半島においては、明確な意志をもってサービスを遮断したようだ」、「プーチンが核のボタンに手を伸ばす事態を懸念」、あり得る話だ。 「スターリンクの通信」に依存して有利に戦争を進めてきたのが、「通信途絶は4~5の特定地域で発生」とは大変だ。 「従来の常識では射撃命令から実際の攻撃までには部隊間の調整が必要であり、20分程度の時差を生じていた。だが、GIS Artaが部隊の展開状況に応じて最適な攻撃対象を自動で割り振ることで、30秒から1分程度での攻撃が可能となったという。これを支えているのがスターリンクによる通信インフラだ」、これほど短縮できるのであれば、戦闘能力は著しく向上する筈だ。 MSNが朝日新聞記事を転載 全く人騒がせな「ジョークだ」 「お騒がせ野郎イーロン・マスク「マンU買収は冗談、どんなスポーツチームも買わない」」 ロイター Newsweek日本版 イーロン・マスク 「ツイッター」経営者に求められる政治的中立性には、まだ馴れていないのだろうか。 「マスク氏、プーチン氏と会話 中ロに接近 ツイッター所有懸念強まる」 全く同感である。そろそろ、口を慎んでもらいたいものだ。 「マスク氏」が全能感に酔って「発言」している訳ではないとしても、その影響力は甚大なだけに、責任感を自覚してほしいところだ。 竹内一正氏による「イーロン・マスク「テスラ&スペースX」の隠れた共通点、モノづくりの極意とは」 ダイヤモンド・オンライン
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半導体産業(その8)(ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石、日本の半導体が「凋落」を経て決断した新たな戦略 挽回 推進 布石の3ステップで巻き返せるか、世界のTSMCが触手 日本の圧倒的な「半導体技術」 日本企業がいなければインテルのCPUも動かない、サムスン電子とTSMCの決算比較で 半導体市況の変化の兆しが丸わかり) [イノベーション]

半導体産業については、2月8日に取上げた。今日は、(その8)(ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石、日本の半導体が「凋落」を経て決断した新たな戦略 挽回 推進 布石の3ステップで巻き返せるか、世界のTSMCが触手 日本の圧倒的な「半導体技術」 日本企業がいなければインテルのCPUも動かない、サムスン電子とTSMCの決算比較で 半導体市況の変化の兆しが丸わかり)である。

先ずは、2月20日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/92525?imp=0
・『1990年代中頃まで、半導体露光装置で、キヤノンとニコンは世界を制覇した。しかし、その後、オランダのASMLがシェアを伸ばし、現在では、EUVと呼ばれる半導体製造装置の生産をほぼ独占している。日本のメーカーは、なぜASMLに負けたのか?』、「キヤノンとニコン」が「半導体露光装置」で完敗した要因とは興味深い。
・『ASMLとは何者?  オランダにASMLという会社がある。時価総額2642.2億ドル。これは、オランダの企業中でトップだ。オランダのトップ企業はフィリップスだと思っていた人にとっては驚きだ。「そんな会社、聞いたこともない」という人が多いだろう。 実際、ASMLは、歴史の長い企業ではない。生まれたのは1984年。フィリップスの1部門とASM Internationalが出資する合弁会社として設立された。フィリップスのゴミ捨て場の隣に建てたプレハブで、31人でスタートした。 しかし、いまの時価総額は、日本のトヨタ自動車2742.5億ドルとほぼ同じだ。世界第678位のフィリップス(293.5億ドル)の10倍近い。世界の時価総額ランキングで32位。29位のトヨタとほぼ並ぶ。 ASMLの2020年の売上は160億ドル(約1兆8000億円)、利益(EBIT)は46.3億ドルだ。トヨタの場合には、売上が2313.2 億ドル。利益(EBIT)は169.9億ドルだ。売上に対する利益の比率は、ASLMが遙かに高い。 しかも従業員数は28000人しかいない(2020年)。トヨタ自動車(37万人)の7.6%でしかない。 ASMLは、最先端の半導体製造装置を作っている。極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれる装置だ。この技術は、 ASMLがほぼ独占している。 年間の製造台数は50台ほどだ(2020年度は31台。2021年は約40台、2022年は約55台の見通し)。1台あたりの平均価格が3億4000万ドル(約390億円)にもなる。大型旅客機が1機180億円程度と言われるので、その2機分ということになる。 主なクライアントは、インテル、サムスン、TSMCなどだ』、「1984年」、「フィリップスのゴミ捨て場の隣に建てたプレハブで、31人でスタートした」のが、いまや「時価総額は、日本のトヨタ自動車2742.5億ドルとほぼ同じだ。世界第678位のフィリップス(293.5億ドル)の10倍近い」、「利益(EBIT)は46.3億ドル」。「トヨタ」「169.9億ドル」、「従業員数は28000人」とトヨタ自動車(37万人)の7.6%」、凄い超優良企業だ。
・『かつてのニコン、キヤノンの優位をASMLが崩した  半導体露光装置は、もともとは、日本の得意分野だった。ニコンが1980年にはじめて国産化し、1990年にはシェアが世界一になった。 キヤノンも参入し、1995年ごろまで、ニコンとキヤノンで世界の70~75%のシェアを占めた。 ASMLの最初の製品は、やはり半導体露光装置だった。しかし、この時代、キヤノンやニコンは、ゴミ捨て場に誕生した会社のことなど、歯牙にも掛けなかっただろう。 しかし、ニコン・キヤノンのシェアは、90年代後半に低下していった。その半面で、1990年には10%にも満たなかったASMLのシェアは、1995年には14%にまで上昇、2000年には30%になった。 2010年頃には、ASMLのシェアが約8割、ニコンは約2割と逆転した。そして、キヤノンはEUV露光装置分野から撤退した。ニコンも、2010年代初頭に、EUV露光装置の開発から撤退した』、「日本の得意分野」が20年強で「撤退」を余儀なくされるとは情けない限りだ。
・『日本メーカーの自社主義がASMLの分業主義に負けた  ASMLとニコン、キヤノンの違いは何だったのか? それは、中核部品を外注するか、内製するかだ。 ASMLは中核部品を外注した。投影レンズと照明系はカールツァイスに、制御ステージはフィリップスに外注した。自社で担当しているのは、ソフトウェアだけだ。 製造機械なのに、なぜソフトウエアが必要なのか? 半導体露光装置は「史上最も精密な装置」と呼ばれるほど複雑な機械であり、安定したレンズ収差と高精度なレンズ制御が重要だ。装置として完成させるには、高度にシステム化されたソフトウエアが不可欠なのだ。 自動車の組み立てのように人間が手作業で作るのではなく、ロボットが作業するようなものだから、そのロボットを動かすためのソフトウェアが必要なのだと考えれば良いだろう。 それに対して、ニコンは、レンズはもちろんのこと、制御ステージ、ボディー、さらに、ソフトウェアまで自社で生産した。外部から調達したのは、光源だけだ。 このように、ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みにこだわるという問題が生じたと言われる。 また、レンズをどう活用して全体の性能を上げるかというよりは、どうやってレンズの性能を引き出すかが優先されるというような問題が発生したといわれる。 結局、日本型縦割り組織を反映して全てを自社で内製化しようとする考えが、負けたということだ』、「ASMLは中核部品を外注・・・自社で担当しているのは、ソフトウェアだけだ」、「ニコンは、レンズはもちろんのこと、制御ステージ、ボディー、さらに、ソフトウェアまで自社で生産した。外部から調達したのは、光源だけだ。 このように、ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みにこだわるという問題が生じた」、「結局、日本型縦割り組織を反映して全てを自社で内製化しようとする考えが、負けたということだ」、ここまで完敗する前に、軌道修正できなかったのだろうか。
・『核になる技術を持っていたことで躓いた  キヤノンもニコンも核になる技術、つまり「レンズ」を持っていた。それに対してASMLは、部品については、核になる技術を持っていない。レンズすらも外注しているのだ。他社が作っているものを、ただ寄せ集めているだけのようにさえ見える。 しかし、それにもかかわらず、売上の3割という利益を稼ぎ出すことができるのだ。このことは、ビジネスモデルに関する従来の考えに反するものだろう。 いままでは、企業は核になる技術を持っていなければならず、その価値を発揮できるようなビジネスモデルを開発することが重要だと言われてきた。しかし、ASMLは、このルールには当てはまらない。 部品について、ASMLは製造者ではなく購入者であったため、品質評価が客観的であったと言われる。 また、多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながったと言われる。 それに対して、技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いたというのだ』、「企業は核になる技術を持っていなければならず、その価値を発揮できるようなビジネスモデルを開発することが重要」といった経営学の常識が覆された例だ。「ASML」は「多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながった」、「技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いた」、やはり日本側には慢心もあったのではなかろうか。
・『ASMLの時価総額は、キヤノンの10倍、ニコンの60倍  現在のキヤノン、ニコンはどのような状態か? キヤノンは、時価総額が255.9億ドル、世界第759位だ。2007年には784 億ドルだったのだが、このように減少した。 ニコンは、時価総額が41.8億ドルで、 世界第 2593位だ。 2007年には126億ドルだった。 2007年には、ASMLの時価総額は126億ドル程度で、ニコンとほぼ同じ、キヤノンの6分の1だった。しかし、いまでは、キヤノンの10倍程度、ニコンの60倍程度になってしまったのだ。 こうした状態では、日本の賃金が上がらないのも、当然のことと言える』、この格差は「キヤノン、ニコンの従業員」によりもたらされたというよりも、経営者の怠慢によりもたらされたと見るべきだろう。
・『もしデジタルカメラを生産しなかったら  日本企業敗退の原因は、自社主義だけではない。 もう一つは、ビジネスモデル選択の誤りだ。つまり、カメラという消費財に注力したことだ。 もし、2000年代の初めに、キヤノンやニコンがデジタルカメラに注力するのでなく、半導体製造装置に注力していたら、世界は大きく変っていただろう。 2010年頃、日本では、円高などが6重苦になっているといわれた。そして、「ボリュームゾーン」を目指した戦略を展開すべきだと言われた。これは、勃興してくる新興国の中間層をターゲットに、安価な製品を大量に供給しようというものだ。ASMLとは正反対のビジネスモデルだ。 そして、日本ではこの方向が受入れられ、企業の経営者もそれを目指した。その結果が、いまの日本の惨状なのだ。 もちろん、将来がどうなるかは分からない。半導体の微細化をさらに進めるために、3次元の回路を作るということも考えられている。そうした技術が実用化された時に、はたしてASMLが生き残れるかどうかは、誰にも分からない。 日本企業が再逆転してほしいが、果たしてできるだろうか? 奇跡が起こることを祈る他はない』、「ビジネスモデル選択の誤り」は致命的だ。「「ボリュームゾーン」を目指した戦略を展開」、というのは、日本企業の得意技ではあるが、「カメラ」事業自体がそれほど収益性のあるものではない点で「選択の誤り」は明らかだ。

次に、6月23日付け東洋経済オンライン「日本の半導体が「凋落」を経て決断した新たな戦略 挽回、推進、布石の3ステップで巻き返せるか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/598732
・『自動車向けなど用途の拡大で活況を呈する半導体。その安定調達は経済安全保障に直結するとして国も本腰を入れて支援に乗り出している。 「量子コンピューターやAI(人工知能)を実装するために、次世代半導体の実用化に大胆にチャレンジしていかなければならない」。 5月13日、岸田文雄首相は次世代半導体の強化を話し合った車座会議の冒頭でこう述べた。アメリカからはIBMシニアバイスプレジデントのダリオ・ギル氏、国内からは理化学研究所理事長の五神真氏らを総理官邸に招き、1時間にわたって意見を交わした。 桁違いの計算性能を持つ量子コンピューターが2030年代に実用化されると、現在のコンピューターでは事実上不可能な、膨大な組み合わせの中から最適解を探す計算処理が可能になる。医薬品開発にかかる計算時間が劇的に短縮できるなど、非連続的な社会変革さえ起こるといわれる』、「岸田文雄首相」が「次世代半導体の強化を話し合った車座会議」で重要性を学んだことは意義深そうだ。
・『次世代半導体の重要性は岸田首相にも伝わった  「量子コンピューターは新しい社会インフラになる。社会実装に向けたレースはまだ始まっておらず、日本が存在感を発揮できる可能性がある。その実用化段階でどうしても必要なのが、回路線幅2ナノメートル(ナノは10億分の1)の最先端の半導体だ」 経済同友会副代表幹事でJSR名誉会長の小柴満信氏はそう話す。小柴氏も車座会議に出席。量子コンピューターと次世代半導体の重要性は岸田首相に十分伝わったと感じる。 将来ますますキーパーツとなる半導体について、強化策を主導しているのが経済産業省だ。経産省は有識者や産業界の関係者を集めて、2021年3月から「半導体・デジタル産業戦略検討会議(半デジ会議)」を開いている。 同会議で経産省が示したのが、「我が国半導体産業復活の基本戦略」と題された3つのステップだ(次ページ表)。内容を要約すると、半導体生産能力の「挽回」、次世代半導体開発の「推進」、将来技術への「布石」となる。 ステップ1では、半導体の製造拠点を国内に確保する。 その第一手となったのが台湾TSMCの工場の国内誘致だ。TSMC、ソニーグループの半導体事業子会社、デンソーの3社合弁による熊本県での半導体工場設立計画を認定し、最大4760億円の補助金を国が支給する。) 自動車など日本の基幹産業にとって、TSMCから調達するロジック(演算用)半導体は今や欠かせない重要部品だ。ソニーグループが得意とし、スマホカメラで「目」のような役割を果たすCMOSイメージセンサーにもロジック半導体が用いられるが、調達の大部分をTSMCに依存している。 台湾に対する中国の政治的圧力が高まる中、TSMCの台湾拠点に調達を依存する状態はリスクを伴う。「半導体は食糧やエネルギーと同様に社会を支える基盤。国家戦略として安定確保していく必要がある」。半デジ会議で事務方を務める経産省情報産業課の西川和見課長はそう強調する』、「我が国半導体産業復活の基本戦略」は経産省らしいビジョンだ。
・『「将来技術」が産業の競争力を左右する  ステップ2は次世代半導体技術の確立を目指す。 次世代品の一例が「ビヨンド2ナノ」の製品だ。半導体では電子回路を細かく作るほど性能が上がる。現在の最先端半導体は回路線幅が3ナノメートルのものだが、さらに小さい回路線幅を実現するための技術開発が各国で行われている。 ステップ1と同様に自前主義にとらわれず、海外の「同盟国、友好国全体で強化していく」(西川氏)のが特徴だ。5月23日の日米首脳会談では、次世代半導体開発に向けた共同タスクフォースの設置が決まった。 ステップ3は、量子コンピューターをインフラとして広く提供することや、超低消費電力と高速データ処理を同時に可能にする新技術の実現をグローバル連携で目指す。完全自動運転の自動車では、搭載されているAIがスマホ数百台分の電力を消費するといわれる。2030年代にはこれら将来技術が人々の社会生活や産業競争力を左右するとみられる。 これら経産省による振興策を政治が後押しする。自民党内の「半導体戦略推進議員連盟(半導体議連)」は5月24日、「今後10年間で官民合わせて10兆円の投資を行うべき」と決議。党の政務調査会や総務会などで議論を深める方向だ。) 議連事務局長の関芳弘議員は、「(10兆円という)半端でない投資額と羅針盤を示して、民間企業の経営者の背中を押すのがわれわれの役割だ」と話す。現在、先端半導体の工場設立には1兆円程度の投資が必要とされる。巨額投資に二の足を踏む民間企業の経営者の不安を解消したいとの考えだ。 議連の会長は甘利明前幹事長、最高顧問は安倍晋三元首相や麻生太郎副総裁が務める。議連の決議の影響力は無視できない。 半デジ会議は2022年4月までに5回開かれた。メンバーの1人である東京理科大学の若林秀樹教授は、「ステップ1は80点をつけられる」と及第点を与える。ハードルが高いと思われた熊本へのTSMC誘致を実現し、日本の産業で必要とする半導体の確保に道筋をつけたからだ。 2021年3月の第1回会合は政府の本気度に対して懐疑的なメンバーもいたという。だがTSMC誘致の成功により、「『政府もやるな』と雰囲気が一変した」(若林氏)』、「TSMC誘致の成功により、「『政府もやるな』と雰囲気が一変した」」、には疑問も感じた。
・『重要なことは「次世代半導体」をどう使うのか  日本の半導体産業が世界市場で占めるシェアは、1988年の約50%から2019年には約10%にまで下がった。 この著しい「凋落」の原因はいくつか挙げられるが、その1つが「日の丸自前主義の落とし穴」だ。自前主義にこだわったことで、世界の流れに遅れをとった。その点、今回はTSMCをはじめ海外勢の力を当初から活用しており、大きく前進している。 問題はここからだ。ステップ2も現状は「誰がどのようにやって、いくら投じるのかもわからない」(若林氏)。また、次世代半導体をどう作るのかだけでなく、それがどう使われるのかという視点も重要となる。 「日本の半導体産業は、大手電機企業の一部門だった経緯から顧客企業に製品仕様を決めてもらい発注を待つ『部品屋』の色彩が濃い。しかしそれでは、グーグルやアマゾンのデータセンター用AI半導体などへと、半導体の需要先が変わっている時代についていけない」 製造業に強いコンサルティング会社、アーサー・ディ・リトルの赤山真一パートナーはそう指摘する。半導体における海外先進企業は、企画力やマーケティング力を発揮し需要先のニーズを先回りして新製品に落とし込む。今後の市場ニーズもみすえて次世代品を開発しないと、無用の長物になりかねない。 30年以上にわたって半導体産業をウォッチしてきたジェフリーズ証券の中名生(なかのみょう)正弘シニアアナリストも同様に、「メタバースや自動運転といった最終需要あっての半導体」と述べる。次世代半導体の需要を新たに生み出すIT企業やスタートアップ企業を育てる政策が並行して必要となる。 中名生氏は「需要家の要望を半導体の設計に落とし込み、実際に工場で生産するところまでの間をつなぐ人材が不足している」とも指摘する。需要と供給の両サイドをうまく橋渡しするには、技術も理解しておかなければならない。そのような技術者を育成する政策が求められるというわけだ。 「本当の勝負はこれからだと思っている」――。 萩生田光一経産相は6月17日、TSMC熊本工場への補助金支給の決定に際し、そうコメントした。将来にわたって半導体産業だけなく経済社会を発展させていけるのか。まさに第一歩となる』、「TSMC熊本工場への補助金支給」が「将来にわたって半導体産業だけなく経済社会を発展させてい」く「第一歩」となってほしいものだ。

第三に、6月24日付け東洋経済オンライン「世界のTSMCが触手、日本の圧倒的な「半導体技術」 日本企業がいなければインテルのCPUも動かない」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/598732
・『巨額の設備投資でしのぎを削る半導体。そうした中、日本勢が強みを持つ「後工程」に追い風が吹いている。 6月24日、茨城県のつくば市に施設を構える産業技術総合研究所の一角に、日本政府関係者や企業幹部、学者らが一堂に会する。 その目的は「TSMCジャパン 3DIC研究開発センター」の開所式だ。日本政府が主導して半導体製造の世界チャンピオン・台湾TSMCを誘致し、2021年2月に3DIC研究開発センターの設立が発表された。TSMCと日本の産学が共同し、半導体の「後工程」に関する研究開発を同センターで進める』、興味深そうだ。
・『参画企業は「オールジャパン」の顔ぶれ  ディスコや芝浦メカトロニクス、日立ハイテクなどの半導体製造装置メーカーや、イビデン、新光電気工業、東京応化工業といった半導体材料メーカーの計約20社がパートナー企業として参画する。TSMC以外は産総研、東京大学なども含め「オールジャパン」の顔ぶれだ。 パートナー企業の1社は、「研究段階から入り込むことでTSMCに自社の装置が採用されれば、量産に至ったときに大きな受注が手に入る」と期待をあらわにする。ほかの企業も「国内だと人の行き来がしやすい。TSMCとのビジネス拡大を狙いたい」と意気込む。 TSMCは半導体受託製造(ファウンドリー)分野で世界シェアの半分を占める。特に先端半導体の製造は同社への依存が高まっており、世界の電機・半導体メーカーが「TSMC詣で」をするほどの存在だ。 そのTSMCが半導体の「後工程」、しかも日本企業と共同研究開発を行うのには理由がある。 400~600と長い半導体の製造工程は大きく2つに分けられる。 1つは「前工程」だ。半導体を作る土台となる直径20cmや30cmのウエハに電子回路を描く。もう1つが、ウエハからチップを切り出し、パッケージで包み、検査する「後工程」だ。 半導体の性能は、電子回路をいかに細かく作るかに大きく左右される。微細にすればするほど、1つのチップにたくさんの回路を描き込むことができるため、処理速度や電力効率が上がる。ただ、その微細化が物理的な限界に近づきつつあり、「終わり」が意識され始めている。 そこで注目されているのが「3次元実装」と呼ばれる手法だ。ロジック(演算用)やメモリーなどの半導体チップを縦に積み上げることで、横に並べたときよりも面積が小さくなる。半導体チップ同士を結ぶ配線も短く済む。処理能力や電力効率が上がる次世代半導体の実現につながる』、「注目されているのが「3次元実装」と呼ばれる手法だ。ロジック(演算用)やメモリーなどの半導体チップを縦に積み上げることで、横に並べたときよりも面積が小さくなる。半導体チップ同士を結ぶ配線も短く済む。処理能力や電力効率が上がる次世代半導体の実現につながる」、なるほど。
・『「後工程」で日本の装置・材料は高シェア  「3次元実装」の実用化に向けては、製造装置メーカーや材料メーカーの協力が欠かせない。そして「後工程」の分野では日本メーカーしか持っていない技術がある。 ウエハを精緻に切断し、チップに分ける「ダイシングソー」では、日本のディスコが72%の市場シェアを持つ。切り分けたチップを保護するパッケージ基板(サブストレート)は「ミルフィーユのような複雑な構造」ともいわれ、最先端品では日本のイビデンと新光電気工業の2社寡占に近い。 「前工程」の微細化競争は半導体進化の一丁目一番地だ。そのため年間で兆円単位に上る巨額の研究開発投資を続けてきたTSMCのような企業に、半導体メーカーは製造を委託してきた。 一方、「後工程」はこれまで付加価値が低いとされ、人件費の安い東南アジアの企業などへ組み立てと検査が委託されてきた。それらの企業に代わって、日本の製造装置や材料メーカーに技術やノウハウが蓄積された。 後工程は進歩の余地が大きく、半導体の進化のカギを握っているといっても過言ではない。その中で、ひときわ存在感が大きいのがイビデンだ。 同社はパソコンやサーバーに搭載されるCPU(中央演算処理装置)向けにパッケージ基板を供給。アメリカのインテル向けが売上高の43%を占める。大げさに聞こえるかもしれないが、「イビデン製品がなければインテルのCPUは動かない」。TSMCが実用化を目指す「3次元実装」においてもパッケージ基板が重要技術となる。 「世界最先端の微細化をしているTSMC、トップランナーの材料メーカーと情報交換して、次世代の技術が習得できるのはありがたい」。イビデンの青木武志社長は、つくば市でのTSMCとの共同研究開発に期待感を示す。 岐阜県大垣市にある同社の大垣中央事業場。記者が訪れたのは日曜夕刻だったが、多くの車が出入りしており、繁忙を極めていることをうかがわせた。青木社長によると、足元の爆発的な半導体需要拡大に伴い、パッケージ基板のすべての工場が定期修繕以外24時間365日フル稼働だという』、「「後工程」はこれまで付加価値が低いとされ、人件費の安い東南アジアの企業などへ組み立てと検査が委託されてきた。それらの企業に代わって、日本の製造装置や材料メーカーに技術やノウハウが蓄積された。 後工程は進歩の余地が大きく、半導体の進化のカギを握っているといっても過言ではない」、大げさな感じもあるが、本当だろうか。
・『増産に向けて東京ドーム約3個分の土地を確保  もはや供給量は上限に達し、新たに工場を建てなければ顧客の要望に答えられない。そこでイビデンは年間売上高の約半分にあたる1800億円を投じ、河間(がま)事業場(岐阜県大垣市)を建て替えて増産する。 さらに、近隣の岐阜県大野町では過去最大となる15万㎡の土地を取得し、2026年度以降の増産を目指す。「河間事業場の建て替え後もすでにフル稼働が見通せているため、新たな土地を買った」と青木社長は説明する。 取得した土地の広さは東京ドーム約3個分、河間事業場の敷地面積の3倍弱にあたる。総投資額は数千億円規模に上るもようだ。現在、2023年夏の土地引き渡しに向けて多数の重機が土ぼこりを上げて整地作業を進めている。 新工場が立地する大野町は歓喜に沸いている。工場1棟あたり約1000人の人手が必要になるため、人口約2万2000人の大野町にとってはかなり大きなインパクトだ。 大野町では2007年から人口減が続いているが、「大規模な雇用が生まれることで、町外に流出する人口を食い止められる」(産業建設部建設課の後藤崇課長)との期待がかかる。新工場には最新鋭の高額な設備を導入するため、町に入る固定資産税も多額になりそうだ。 「クリティカル(死活的に重要)な材料は切り替えるコストが高くつく。サプライチェーンを維持して品質を保証し、必要なときに必要な量を供給する実績を長年積んできた日本勢に強みがある」 JSRの名誉会長で経済同友会副代表幹事の小柴満信氏は、日本の後工程技術の優位性をそう分析する。後工程の一部に必要な化学材料を手がけるJSRは、つくば市でのTSMCとの研究開発センターにも参画している』、「総投資額は数千億円規模」、「工場1棟あたり約1000人の人手が必要」、とはインパクトが大きそうだ。
・『予定通り人材を集めることができるのか  日本勢の完成されたサプライチェーンに一日の長があるとはいえ、人材確保が成長のボトルネックになりかねない。イビデンの青木社長は、「核になる技術者が足りない。最先端の半導体パッケージに関する技術は入社して2、3年で勉強できるものではなく、適した人材はそう多くない」と打ち明ける。 イビデンは新工場の立ち上げに向けて、地元に限定せず全国を対象に採用をかけるが、半導体関連の技術者をめぐる争奪戦は激しさを増す。予定通り増産するには早めの人材確保が欠かせない。 世界のTSMCも着目する日本の後工程技術。つくば市での研究開発の成果は、日本勢が次世代半導体を牽引する突破口になるかもしれない』、「つくば市での研究開発の成果は、日本勢が次世代半導体を牽引する突破口になるかもしれない」、とは楽しみだ。

第四に、7月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「サムスン電子とTSMCの決算比較で、半導体市況の変化の兆しが丸わかり」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/306792
・『2022年4~6月期の半導体業界は、メモリ半導体を主体として収益を得ている半導体メーカーの業績拡大ペースが鈍化した。台湾TSMCと韓国サムスン電子の連結決算を比較すると、それがよく分かる。ポイントは、ビジネスモデルの違いと営業利益だ』、興味深そうだ。
・『メモリ半導体市況は調整色が強まる ロジック・車載用半導体の不足は続く  足元の半導体市況を見ると、車載用の半導体などは依然としてタイトであるものの、代表的なメモリ半導体であるDRAM(Dynamic Random Access Memory)の需給は緩み始めている。それに伴い、台湾積体電路製造(TSMC)などの台湾勢、韓国のサムスン電子など大手半導体メーカーの収益状況は変化し始めている。 今後、メモリ半導体市況は調整色が強まる可能性が高い。ただ、精密度の高いロジック半導体や車載用半導体の不足は続くとの見方が有力だ。特に、最先端のロジック半導体の需給は、かなりタイトな状況が続くことが想定される。 そうした状況下、有力メーカーの存在感はさらに顕著になっている。一つの例は、ファウンドリ分野におけるTSMCのシェア拡大だ。また、半導体製造装置分野では、現在、最先端の生産に必要な露光装置(ステッパー)を、世界で唯一製造できるオランダASMLの存在感が一段と増している。 世界の半導体産業は、製造技術や経営体力などの総合力がモノをいう時代を迎えた。最先端の製造技術に磨きをかけることができるか否かが、大手半導体メーカーの優勝劣敗に決定的影響を与える。わが国の企業はそうした状況に追いつく努力をしないと、世界の半導体市場で生き残れなくなることが懸念される』、「世界の半導体産業は、製造技術や経営体力などの総合力がモノをいう時代を迎えた。最先端の製造技術に磨きをかけることができるか否かが、大手半導体メーカーの優勝劣敗に決定的影響を与える。わが国の企業はそうした状況に追いつく努力をしないと、世界の半導体市場で生き残れなくなることが懸念される」、由々しい事態だ。
・『TSMCとサムスン電子の決算比較 ビジネスモデルの特徴と営業利益は?  2022年4~6月期の半導体業界は、メモリ半導体を主体として収益を得ている半導体メーカーの業績拡大ペースが鈍化した。TSMCとサムスン電子の連結決算を比較すると、それがよく分かる(サムスン電子は速報)。 ビジネスモデルの特徴として、TSMCは5ナノや次世代のロジック半導体の生産能力に磨きをかけている。それによってTSMCはアップルやエヌビディアなどの顧客が設計・開発したチップの製造を多く受託し、急成長した。 一方、サムスン電子はスマホなどに加え、メモリ半導体に強みを持つ。近年はTSMCとの差を縮めるため、ファウンドリ分野での設備投資が積み増された。 4~6月期のTSMCとサムスン電子の連結決算のポイントは、営業利益だ。TSMCの営業利益は2621億台湾ドル(約1兆2000億円)で、12年来の過去最高を更新。前年同期と比べると79.9%も増加した。 他方、サムスン電子の営業利益は同11%増の14兆ウォン(約1兆4500億円)で、増益率は20年1~3月期以来の低水準だった。半導体事業はサムスン電子の営業利益の6割を稼ぐ。特に、メモリ半導体は稼ぎ頭だ。サムスン電子の世界シェアはNAND型フラッシュメモリで約34%、DRAMで約42%に達する。 世界のメモリ半導体業界は、在庫調整局面にシフトした。それが、サムスン電子のメモリ半導体事業の成長鈍化につながった。TSMC経営陣も、在庫調整が進むとの認識を示した。 メモリ半導体の需要が減少した一因は、中国経済の急速な減速だ。ゼロコロナ政策は人流・物流を寸断した。個人消費の急減によってスマホなどの需要が低下し、メモリ半導体需要を押し下げた。テレワーク拡大の一服もあり、世界全体でパソコン需要が減少し始めている。 そうした結果、メモリ半導体は値下がりし、サムスン電子の営業利益は伸び悩んだ。メモリ半導体の受託製造を手掛ける台湾の力晶積成電子製造も、需要減少に直面している。メモリ大手の米マイクロンでは、6~8月期の収益見通しが市場予想を下回ってもいる』、「TSMCは5ナノや次世代のロジック半導体の生産能力に磨きをかけている。それによってTSMCはアップルやエヌビディアなどの顧客が設計・開発したチップの製造を多く受託し、急成長した。 一方、サムスン電子はスマホなどに加え、メモリ半導体に強みを持つ。近年はTSMCとの差を縮めるため、ファウンドリ分野での設備投資が積み増された」、「世界のメモリ半導体業界は、在庫調整局面にシフトした。それが、サムスン電子のメモリ半導体事業の成長鈍化につながった」、なるほど。
・『最先端ロジック半導体は増加基調 TSMCは約6兆円の設備投資計画を維持  こうした状況下、TSMCは自社の競争優位性に自信を示している。背景には、「最先端のロジック半導体の需要が増加する」との見方がある。世界経済のデジタル化は、回路線幅3ナノや2ナノなど消費電力量が少なく、より高速なデータ処理を可能にするチップ需要を押し上げる。 ビッグデータの収集と分析の増加によって、最先端のロジック半導体需要は多少の変化を伴いつつも、増加基調となるだろう。そうした展開を予想してTSMCは400億~440億米ドル(約5.5兆~6兆円)の設備投資計画を維持している。 今後、競合他社が設備投資計画を下方修正した際、TSMCが投資計画を引き上げるか否かが見ものだ。他の大手半導体メーカーも最先端のロジック半導体生産体制の強化を急ぐ。米インテルはかつて10ナノレベルの生産ライン立ち上げにつまずき、遅れを取り戻すために、TSMCの製造技術に頼らざるを得なくなった。 また、サムスン電子は3ナノの量産体制を確立したと発表した。サムスン電子の微細化の実力に関してはさまざまな見方があるが、いずれにせよ、DRAMの需要急減をカバーするために、ロジック半導体の生産体制強化は急務だ。 また、TSMCやインテル、サムスン電子、台湾UMCなどが相次いで値上げを実施した。それだけ、最先端分野のロジック半導体の需要が強いということだ。インフレによる原材料価格の高騰も値上げの一因だ。 汎用型の生産ラインを用いて生産されるマイコンやセンサなど、車載用半導体も不足している。想定以上に事態は深刻で、トヨタ自動車は7月の追加減産を発表した。車載半導体分野でのシェア拡大を急ぐインテルは、「来年・再来年も半導体不足が続く」と予想している。 7月の米半導体イベント「SEMICON West 2022」において独フォルクスワーゲンは、「自社で半導体分野の取り組みを強化する」と表明した。世界全体で車載用半導体の供給が需要に追い付いていない。電動化や自動運転技術の実用化などによって、自動車に搭載される半導体点数が急増しているからだ。また、ウクライナ危機と中国のゼロコロナ政策が供給制約を深刻化させたことも大きい』、「世界経済のデジタル化は、回路線幅3ナノや2ナノなど消費電力量が少なく、より高速なデータ処理を可能にするチップ需要を押し上げる・・・そうした展開を予想してTSMCは400億~440億米ドル(約5.5兆~6兆円)の設備投資計画を維持」、「サムスン電子は3ナノの量産体制を確立したと発表した。サムスン電子の微細化の実力に関してはさまざまな見方があるが、いずれにせよ、DRAMの需要急減をカバーするために、ロジック半導体の生産体制強化は急務だ」、なるほど。
・『半導体メーカーの優勝劣敗は鮮明に これまで以上に経営体力が問われる  今後、世界の有力半導体メーカーの優勝劣敗は鮮明となるだろう。同じことは半導体の製造装置、部材メーカーにも当てはまる。これまで以上に企業の経営体力が問われる。 メモリ半導体の一角で、急速に需給は緩んでいる。しかし、それが半導体市況全体の大きな調整につながるとは考えづらい。特に、これまであまり半導体が使われてこなかった製品に、より多くのチップが搭載されるようになっている。スマート家電、スマートホームのように、スマホやITデバイスで家電や住宅設備を操作する機会が急増している。 製造業分野ではメタバース技術によって生産ラインが、自宅などでバーチャルに再現される。デジタル化の加速が、新しいチップ需要を創出する。 脱炭素にも同じことが言える。蓄電池やスマートグリッドなどの利用は増加する。それが電流の管理などを行うパワー半導体の需要を生み出す。すでに、その兆候が出ている。 7月に入り、物価高騰や供給制約など世界経済の先行き懸念が高まる中、米クアルコムはスタートアップのセルワイズを買収した。高速通信に対応したチップ開発を加速するためだ。EUV(極端紫外線)を用いた製造、検査装置のニーズも増える。「23年の半導体製造装置の世界販売は4年連続で過去最高を更新する」と国際団体のSEMIは予想する。 半導体メーカーは、新しい取り組みを強化し続けられるか否かが、優勝劣敗に直結する。わが国の半導体関連企業は、競合他社に見劣りしない規模で設備投資を積み増すことが不可欠だ。 特に、超高純度のフッ化水素やレジストなどの半導体部材、半導体の製造と検査装置で本邦企業は競争力を維持している。汎用型の車載用やパワー半導体分野でも、国内企業は一定のシェアを持つ。 成長加速のために、各社は事業運営の効率性を飛躍させつつ、研究開発や設備投資を積み増す必要がある。それができるか否かが、不安定な半導体産業で生き残りをかけた決定打となるはずだ』、「半導体メーカーは、新しい取り組みを強化し続けられるか否かが、優勝劣敗に直結する。わが国の半導体関連企業は、競合他社に見劣りしない規模で設備投資を積み増すことが不可欠だ。 特に、超高純度のフッ化水素やレジストなどの半導体部材、半導体の製造と検査装置で本邦企業は競争力を維持している。汎用型の車載用やパワー半導体分野でも、国内企業は一定のシェアを持つ。 成長加速のために、各社は事業運営の効率性を飛躍させつつ、研究開発や設備投資を積み増す必要がある」、日本の「半導体」関連産業の生き残りを期待したい。
タグ:「TSMCは5ナノや次世代のロジック半導体の生産能力に磨きをかけている。それによってTSMCはアップルやエヌビディアなどの顧客が設計・開発したチップの製造を多く受託し、急成長した。 一方、サムスン電子はスマホなどに加え、メモリ半導体に強みを持つ。近年はTSMCとの差を縮めるため、ファウンドリ分野での設備投資が積み増された」、「世界のメモリ半導体業界は、在庫調整局面にシフトした。それが、サムスン電子のメモリ半導体事業の成長鈍化につながった」、なるほど。 「世界の半導体産業は、製造技術や経営体力などの総合力がモノをいう時代を迎えた。最先端の製造技術に磨きをかけることができるか否かが、大手半導体メーカーの優勝劣敗に決定的影響を与える。わが国の企業はそうした状況に追いつく努力をしないと、世界の半導体市場で生き残れなくなることが懸念される」、由々しい事態だ。 「「後工程」はこれまで付加価値が低いとされ、人件費の安い東南アジアの企業などへ組み立てと検査が委託されてきた。それらの企業に代わって、日本の製造装置や材料メーカーに技術やノウハウが蓄積された。 後工程は進歩の余地が大きく、半導体の進化のカギを握っているといっても過言ではない」、大げさな感じもあるが、本当だろうか。 「注目されているのが「3次元実装」と呼ばれる手法だ。ロジック(演算用)やメモリーなどの半導体チップを縦に積み上げることで、横に並べたときよりも面積が小さくなる。半導体チップ同士を結ぶ配線も短く済む。処理能力や電力効率が上がる次世代半導体の実現につながる」、なるほど。 東洋経済オンライン「世界のTSMCが触手、日本の圧倒的な「半導体技術」 日本企業がいなければインテルのCPUも動かない」 「半導体メーカーは、新しい取り組みを強化し続けられるか否かが、優勝劣敗に直結する。わが国の半導体関連企業は、競合他社に見劣りしない規模で設備投資を積み増すことが不可欠だ。 特に、超高純度のフッ化水素やレジストなどの半導体部材、半導体の製造と検査装置で本邦企業は競争力を維持している。汎用型の車載用やパワー半導体分野でも、国内企業は一定のシェアを持つ。 成長加速のために、各社は事業運営の効率性を飛躍させつつ、研究開発や設備投資を積み増す必要がある」、日本の「半導体」関連産業の生き残りを期待したい。 「世界経済のデジタル化は、回路線幅3ナノや2ナノなど消費電力量が少なく、より高速なデータ処理を可能にするチップ需要を押し上げる・・・そうした展開を予想してTSMCは400億~440億米ドル(約5.5兆~6兆円)の設備投資計画を維持」、「サムスン電子は3ナノの量産体制を確立したと発表した。サムスン電子の微細化の実力に関してはさまざまな見方があるが、いずれにせよ、DRAMの需要急減をカバーするために、ロジック半導体の生産体制強化は急務だ」、なるほど。 半導体産業 真壁昭夫氏による「サムスン電子とTSMCの決算比較で、半導体市況の変化の兆しが丸わかり」 「つくば市での研究開発の成果は、日本勢が次世代半導体を牽引する突破口になるかもしれない」、とは楽しみだ。 ダイヤモンド・オンライン 「総投資額は数千億円規模」、「工場1棟あたり約1000人の人手が必要」、とはインパクトが大きそうだ。 「TSMC熊本工場への補助金支給」が「将来にわたって半導体産業だけなく経済社会を発展させてい」く「第一歩」となってほしいものだ。 「TSMC誘致の成功により、「『政府もやるな』と雰囲気が一変した」」、には疑問も感じた。 「我が国半導体産業復活の基本戦略」は経産省らしいビジョンだ。 「岸田文雄首相」が「次世代半導体の強化を話し合った車座会議」で重要性を学んだことは意義深そうだ。 東洋経済オンライン「日本の半導体が「凋落」を経て決断した新たな戦略 挽回、推進、布石の3ステップで巻き返せるか」 「ビジネスモデル選択の誤り」は致命的だ。「「ボリュームゾーン」を目指した戦略を展開」、というのは、日本企業の得意技ではあるが、「カメラ」事業自体がそれほど収益性のあるものではない点で「選択の誤り」は明らかだ。 この格差は「キヤノン、ニコンの従業員」によりもたらされたというよりも、経営者の怠慢によりもたらされたと見るべきだろう。 「企業は核になる技術を持っていなければならず、その価値を発揮できるようなビジネスモデルを開発することが重要」といった経営学の常識が覆された例だ。「ASML」は「多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながった」、「技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いた」、やはり日本側には慢心もあったのではなかろう 「ASMLは中核部品を外注・・・自社で担当しているのは、ソフトウェアだけだ」、「ニコンは、レンズはもちろんのこと、制御ステージ、ボディー、さらに、ソフトウェアまで自社で生産した。外部から調達したのは、光源だけだ。 このように、ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みにこだわるという問題が生じた」、「結局、日本型縦割り組織を反映して全てを自社で内製化しようとする考えが、負けたということだ」、ここまで完敗する前に、軌道修正できなかったのだろうか。 「日本の得意分野」が20年強で「撤退」を余儀なくされるとは情けない限りだ。 「キヤノンとニコン」が「半導体露光装置」で完敗した要因とは興味深い。 「1984年」、「フィリップスのゴミ捨て場の隣に建てたプレハブで、31人でスタートした」のが、いまや「時価総額は、日本のトヨタ自動車2742.5億ドルとほぼ同じだ。世界第678位のフィリップス(293.5億ドル)の10倍近い」、「利益(EBIT)は46.3億ドル」。「トヨタ」「169.9億ドル」、「従業員数は28000人」とトヨタ自動車(37万人)の7.6%」、凄い超優良企業だ。 野口 悠紀雄氏による「ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石」 現代ビジネス (その8)(ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石、日本の半導体が「凋落」を経て決断した新たな戦略 挽回 推進 布石の3ステップで巻き返せるか、世界のTSMCが触手 日本の圧倒的な「半導体技術」 日本企業がいなければインテルのCPUも動かない、サムスン電子とTSMCの決算比較で 半導体市況の変化の兆しが丸わかり)
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GAFA(その7)(GAFAの株価が低調 「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由、アップル 成長鈍化の逆風下でM2チップに透ける「深謀遠慮」とは、GAFA神話終焉のワケは「ネット広告の限界」だけじゃない!Twitter Netflixも同じ) [イノベーション]

GAFAについては、2月11日に取上げた。今日は、(その7)(GAFAの株価が低調 「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由、アップル 成長鈍化の逆風下でM2チップに透ける「深謀遠慮」とは、GAFA神話終焉のワケは「ネット広告の限界」だけじゃない!Twitter Netflixも同じ)である。

先ずは、5月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「GAFAの株価が低調、「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/302879
・『「GAFA」の株価が下落基調にある。これまで注目されてきたビジネスモデルに、行き詰まりの兆しが見え始めているからだ。その軌跡を基本から振り返ると共に、現在のリスク要因を分析し、今後の展開を予測する』、さしもの「GAFA」にも「行き詰まりの兆し」とは興味深そうだ。
・『GAFAの成長期待が鈍化 ビジネスモデルに行き詰まりの兆し  このところ、「GAFA」(グーグル、アップル、旧フェイスブック・現メタ、アマゾン)の株価が下落基調にある。2022年1~3月期決算が出そろった後も、各社の株価は上昇していない。 最大のポイントは、各社の成長期待が鈍化していることだ。これまで注目されてきたITプラットフォーマーとしてのビジネスモデルに、行き詰まりの兆しが見え始めている。加えて、米国内の人手不足や、「ディ・グローバリズム」(グローバル化に逆行する動き)に伴うコストアップ要因がGAFA各社を直撃している。 今後の展開として、GAFAの成長期待は一段と低下することも想定される。それが現実味を帯びると、各社の株価は下落する可能性が高い。ウクライナ危機や中国のゼロコロナ政策をきっかけに、グローバル化の加速を前提としたアップルの事業運営の効率性は、低下する恐れが強くなっている。主要先進国における個人データ保護規制の強化なども、メタやグーグル、アマゾンの成長期待を低下させるだろう。 米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、“インフレ退治”のため周囲の予想を上回るペースで金融引き締めを進めている。それはGAFAの事業運営には逆風となり、株価の下落懸念を高める要因だ』、要因には、「各社の成長期待が鈍化」、「米国内の人手不足」、「ディ・グローバリズム」「に伴うコストアップ要因」、「主要先進国における個人データ保護規制の強化」、さらには「FRB」の「金融引き締め」など構造的な性格が強いようだ。
・『これまでのビジネスモデルが神通力を失うGAFA  過去1年間のGAFAの株価の推移を確認すると、大まかな傾向として21年12月前半まで各社の株価は高値圏で推移した。しかし、その後は株価が上昇していない。それが意味することは、各社が高い成長を維持するのが難しくなっているということだ。 まず、アップルの成長期待の鈍化を考えてみよう。1990年代以降の米国経済において、アップルはグローバル化を追い風に高成長を実現した企業の象徴である。97年、同社は経営破綻寸前にまで追い込まれていたが、その状況を救ったのが創業者の一人だった故スティーブ・ジョブズだ。ジョブズは高付加価値なソフトウエアの創出に集中し、iPodやiPhoneなどのデバイスや、iTunesなどのサービスの設計と開発に注力した。 それと同時にアップルは世界各国から優れた部材や部品を集め、完成品のユニット組み立て型生産を、台湾の鴻海精密工業の中国子会社であるフォックスコンに委託した。こうした国際分業によって、製造ラインを自社保有する負担から解放され、高付加価値なソフトウエア創出に集中し、高い収益性を実現したのだ。同社がリーマンショック後の世界経済のデジタル化を加速し、米国および世界経済の成長に与えた影響は計り知れない。 しかし、近年、こうしたビジネスモデルに行き詰まりが見えている。まず、中国の生産年齢人口が減少し、労働コストが上昇したことは大きい。加えて、米中対立によって世界のサプライチェーンが混乱。さらに、新型コロナウイルスの感染再拡大やウクライナ危機など複合的な要因が重なり、供給制約は深刻化し続けている。 そうした環境の変化によって、国際分業体制の強化で高成長を実現してきたアップルが、需要を取りこぼし始めているのだ』、「アップル」の「国際分業体制」の「ビジネスモデルに行き詰まり」は確かに深刻だ。
・『SNSへの規制強化、労働組合の結成 逆風強まるITプラットフォーマー  動画や検索、SNSサービスの提供で広告収入を得てきたグーグルやメタ、ネット通販やクラウドコンピューティングなどのサービスを提供してきたアマゾンの成長期待も鈍化している。 グーグルとメタは、ユーザーである個人の検索や動画視聴、知人関係(ネットワーク)、モノやサービスの購入履歴といった膨大なデータ(ビッグデータ)を優先的に手に入れて、それを販売したり、新しいビジネスに用いたりすることによって急速に収益を増やした。 しかし、ロシアがフェイスブックを用いて2016年の米大統領選挙に介入した疑惑が浮上したことなどにより、SNSへの規制が強化されている。メタは人海戦術でフェイクニュースの摘発を強化しなければならなくなり、コストが増加した。また、公正さへの懸念から一時、フェイスブックのユーザーが減少した。 メタの22年1~3月期決算は、売上高の伸び率が上場来で最低となり、同社への懸念は高まっている。同様のことが、検索サービスの強化によって広告収入を増やしてきたグーグルにも当てはまる部分が多い。 アマゾンは世界に「物流革命」を起こした。同社は、積極的な設備投資によって世界各国で効率的な配送網を整備し、自力でラストワンマイルを構築した。さらに消費者一人ひとりの好みを突くアルゴリズムを開発して消費意欲をかき立て、クラウドサービスも提供することによって有力ITプラットフォーマーとしての地位を確立した。 しかし、物流施設での過酷な労働環境への反発から労働組合が結成されるなど、成長力には翳りが出始めている。加えて、米国をはじめ世界的な人手不足を背景に、物流センターでの人員やドライバーの確保が難しくなっているようだ。 倉庫の建設やEV新興メーカーへの投資も業績の重荷になっている。原油などエネルギー資源価格の高騰は燃料費の増加につながり、収益を圧迫している。このようにGAFA各社はこれまでの高い成長スピードを維持することが難しくなっている』、悪材料がよくもここまで出揃ったものだ。
・『中長期的なGAFA株の下落懸念 業績拡大ペースは鈍化  GAFA各社は正念場を迎えている。今後の展開として、GAFAの業績拡大ペースは鈍化し、株価が下落する可能性は高まっている。各社ともグローバル化の加速を前提にビジネスモデルを構築してきたからだ。 しかし、ウクライナ危機によって世界経済はグローバル化からブロック化に向かい始めた。世界経済の先行き見通しは悪化したため、広告主の企業はコスト削減を優先しなければならず、SNSや動画サイトでの広告出稿は減少するだろう。また、データ保護やフェイクニュースなどの取り締まりのためのコストも増える。 世界的な供給制約の長期化によって半導体の不足が長引き、スマホなどITデバイスの生産が計画を下回る可能性も高まっている。中国では経済成長の低下傾向が鮮明だ。IT機器やサービスの需要の低下に加えて、生産年齢人口の減少によって労働コストも上昇するだろう。いずれもGAFAの事業運営の効率性向上を阻害する要因だ。 加えて、米国をはじめ世界的に物価が急騰している。FRBは金融政策の正常化を急がなければならない。世界的に金利は上昇するだろう。金利上昇によって、企業が永続的に生み出すと考えられるフリー・キャッシュ・フローの「割引現在価値」(将来得られる価値を現在受け取るとしたらどの程度の価値になるかを計算したもの)は小さくなる。GAFAのように成長期待が高い企業ほど、そのインパクトは大きくなり株価の下落懸念は高まりやすい。 FRBが追加利上げやバランスシート縮小を急ぐ姿勢を一段と強める場合、米国の金利は急速に上昇し、GAFAなどIT先端企業の株価の低下傾向が一段と鮮明化する恐れがある。また、米金利の上昇によって新興国からは資金が流出し、世界経済全体で成長率は低下する展開も想定される。それはGAFAの収益減少要因になるだろう。 言い換えれば、GAFA各社がこれまでの発想にとらわれることなく新しいモノやサービスを生み出し、需要を創出することが出来るか否か、その実力が問われている』、「金利上昇によって」、「フリー・キャッシュ・フローの「割引現在価値」・・・は小さくなる。GAFAのように成長期待が高い企業ほど、そのインパクトは大きくなり株価の下落懸念は高まりやすい」、「米国の金利は急速に上昇し、GAFAなどIT先端企業の株価の低下傾向が一段と鮮明化する恐れがある」、「GAFA各社がこれまでの発想にとらわれることなく新しいモノやサービスを生み出し、需要を創出することが出来るか否か、その実力が問われている」、三番目は残念ながら期待薄だ。

次に、6月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「アップル、成長鈍化の逆風下でM2チップに透ける「深謀遠慮」とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305516
・『アップルのビジネスモデルの優位性が揺らいでいる。同社の業績への懸念が高まり、米国にあるアップルの小売店舗では労働組合が結成された。アプリストアに関しても、多くの国がアップルにストアを抱え込むのではなく、外部に開放するよう求めている。各国の規制当局がアップルのシェアをそぎ落とし、データの保護や自国企業に有利に働く環境整備を強化している。一方、アップルがメタバースに対応した「眼鏡型のデバイス」を発表するとの観測が高まる中で、クックCEOは新型の「M2チップ」を発表した。アップルが描く、ウェブ3.0の大激変期を生き抜く新しいビジネスモデルとは』、興味深そうだ。
・『アップルが新型の「M2チップ」を発表 変革期におけるその狙いとは  世界のネット業界が大激変期を迎えている。主要国の規制強化に加えて、アップルなどが主導してきた「ウェブ2.0」から、次の「ウェブ3.0」へ様変わりしつつある。その変革で、私たちとデジタル空間の距離感は一気に縮まり、新しいサービスやデバイスの需要が増える。 他方、スマートフォンなどの需要が飽和し、中国のゼロコロナ政策による供給制約やウクライナ危機による資源価格高騰が深刻化したことで、アップルのビジネスモデルの優位性が揺らいでいる。同社の業績への懸念が高まり、米国にあるアップルの小売店舗では労働組合が結成された。 そうした状況下、アップルは新しいビジネスモデルの確立を急いでいる。それを示唆するのが、チップ開発の加速だ。メタバースに対応した「眼鏡型のデバイス」を発表するとの観測が高まる中で、クックCEOは新型の「M2チップ」を発表した。その狙いは、より高性能なチップ開発を加速し、より多くの人が能動的に活動できる、新しいネット空間を整備することだろう。 アップルは人々がより積極的に新しい取り組みを進めてモノやサービスを取引するバーチャルな市場を整備し、その運営を多種多様な企業と連携して進めようとするだろう。このことが半導体部材メーカーおよび製造装置メーカーの事業運営や、米中対立に与えるインパクトは大きい』、「「M2チップ」を発表した。その狙いは、より高性能なチップ開発を加速し、より多くの人が能動的に活動できる、新しいネット空間を整備することだろう。 アップルは人々がより積極的に新しい取り組みを進めてモノやサービスを取引するバーチャルな市場を整備し、その運営を多種多様な企業と連携して進めようとするだろう」、ずいぶん意欲的なようだ。
・『アップルの成長鈍化が懸念される理由 労働組合が発足した背景  2000年代に入りアップルはiPodやiPhone、iPadなど次々と新しいデバイスを生み出して高い成長を実現した。それを可能にしたビジネスモデルが、グローバル化を追い風に設計・開発と生産を分離したことだ。 人件費が高い米国で、アップルはソフトウエアの設計と開発に集中。直感的に操作可能なデバイスを生み出し、ネット上で音楽配信やアプリストアなどを運営した。 また、世界から最も優秀な部材やユニットを低価格で調達し、中国にある富士康科技集団(フォックスコン、台湾の鴻海精密工業の子会社)の工場にユニット組み立て型生産を委託。こうして生産設備を抱える負担から解放され、米国など高価格で販売できる市場に製品を迅速に供給した。 そうした結果、収益が急拡大して資本の効率性が高まり、従業員の給料も増加した。しかし今、同社で労組が結成されたことは、ビジネスモデルの優位性が揺らぎ、高い成長の維持(≒給料の増加)が難しくなるとの懸念を示す。 複数の要因によってアップルの成長は鈍化しているが、主な要因として、従来体制での国際分業が難しくなっていることが挙げられる。 中国ではゼロコロナ政策が徹底され、iPhoneの生産が停滞した。IT業界担当の株式アナリストの間では、「iPhone14シリーズの発表が遅れる」との観測も出た。アップルは中国からインドなどに生産拠点を急速にシフトし始めた。 加えて、ウクライナ危機によって世界の資源価格が高騰している。グローバル化を追い風にソフトウエアの設計・開発のスピードを高め、新しい(アップデート型の)デバイスを供給して先端分野の需要を効率的に獲得してきたアップルに対する逆風が強くなっている。 そうした影響から、米国の店舗従業員は需要の鈍化を機敏に感じ取り、物価が高騰する環境下、自分たちの生活を守るために労組の発足に踏み切ったのだろう』、「同社で労組が結成されたことは、ビジネスモデルの優位性が揺らぎ、高い成長の維持(≒給料の増加)が難しくなるとの懸念を示す」、その通りだろう。
・『アップルの寡占化が分散され競争が激化するネット業界  アップルは世界のネット業界の激変にも直面している。端的に言えば、寡占化されたネット業界が分散化され、競争が激化する。 例えば、アプリストア(アプリ市場)の運営に関して、多くの国がアップルにストアを抱え込むのではなく、外部に開放するよう求めている。アプリ購入時の決済サービスに関しても、他の企業の参入を認めるよう規制が強化されている。 また、欧州委員会は24年秋までにデバイスの充電端子をUSBタイプCに統一するよう通告した。ナイフでケーキを切り分けるかのように、各国の規制当局がアップルのシェアをそぎ落とし、データの保護や自国企業に有利に働く環境整備を強化している。 そうした状況下、アップルは新チップM2を発表した。根底には、アップルの「深謀遠慮」があるだろう。これまでネット業界は一部の大手企業がサービスを提供し、収益とビッグデータを手に入れる(しかも「無料」で)構造だった(ウェブ2.0)。 それが今、ブロックチェーンを用いたウェブ3.0にシフトしている。これに伴い、偽造された非代替性トークン(NFT)の取引など、正規ではないデジタル資産の取引が増えるだろう。それは経済活動の効率性と透明性にマイナス影響を与える。また、米中対立や台湾海峡の緊迫化などを背景に、世界全体でサイバー攻撃のリスクが高まる。 そうした環境変化に対応しつつ成長を目指すために、アップルは他社との連携を強化して新しいネット上の秩序の構築に取り組むだろう。例えば、国際的なNFT取引の市場を整備し取引をモニターする、個々人や組織が必要に応じてネット空間で専門的なスキルを持つ人を募りプロジェクトを進める、などだ。 そうした取り組みを増やことが、個々人により高い満足感を提供する下支えになるだろう。そうした新しい仕組みを可能にするために、常時安心して接続できるネット空間の創造は不可欠だ。ウェブ3.0を支えるデバイスやサービスの先駆者利益を獲得するために、アップルはチップの設計と開発により集中し、新しいエコシステムの整備に取り組むはずだ』、「アップルは他社との連携を強化して新しいネット上の秩序の構築に取り組むだろう。例えば、国際的なNFT取引の市場を整備し取引をモニターする、個々人や組織が必要に応じてネット空間で専門的なスキルを持つ人を募りプロジェクトを進める、などだ」、なるほど。
・『急拡大する新しい半導体関連需要本邦企業と日本政府の取るべき策とは  ウェブ3.0によって、新しい半導体部材や製造装置の需要が急速に高まる。メタバースに加えて、自動車の電動化やIoT機器の導入、脱炭素、ビッグデータ利用の増加などによっても、これまであまり半導体が用いられてこなかった機器に対しても、多種多様なチップが搭載されるようになる。 ファウンドリーと半導体の製造装置分野では、先端分野での取り組みが加速している。アップルが設計・開発したチップの受託生産を行う台湾積体電路製造(TSMC)は、オランダの半導体製造装置メーカーであるASMLから次世代の露光装置を調達し、顧客の技術革新に必要な回路形成を実現すると表明した。ASMLは米コネチカット州での追加投資を発表。「ナノからピコへ」というように半導体製造の革新は加速することはあれ、止まることは考えられない。 また、アップルは米中対立の先鋭化など、脱グローバル化への対応も強化しなければならない。6月15日、アップルをはじめとする米IT先端企業のトップが連名で、「中国対抗法案」を早期に成立させ半導体生産体制強化を財政面から支援するよう、ペロシ下院議長やシューマー上院院内総務らに書簡を送った。 そうした環境下、世界のサプライチェーンの再編も勢いづくだろう。半導体の性能向上と、その実現に欠かせない部材や製造装置の創出が、各国の安全保障や経済運営により大きなインパクトを与えるようになる。 1990年代以降、わが国はデジタル化に取り残された。ウェブ3.0の時代が幕を開ける中、本邦企業はしっかりとしたビジネスモデルを確立しなければならない。各企業は先端分野におけるモノづくりの力を徹底して磨く必要がある。 加えて、日本政府が半導体の部材や製造装置、さらにはマイコンやパワー半導体など本邦企業が国際競争力を維持している分野に、支援を迅速かつ他国に見劣りしない規模感で実施することも不可欠だろう』、「1990年代以降、わが国はデジタル化に取り残された。ウェブ3.0の時代が幕を開ける中、本邦企業はしっかりとしたビジネスモデルを確立しなければならない。各企業は先端分野におけるモノづくりの力を徹底して磨く必要がある。 加えて、日本政府が半導体の部材や製造装置、さらにはマイコンやパワー半導体など本邦企業が国際競争力を維持している分野に、支援を迅速かつ他国に見劣りしない規模感で実施することも不可欠だろう」、同感である。

第三に、7月29日付け東洋経済オンラインが掲載した百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏による「GAFA神話終焉のワケは「ネット広告の限界」だけじゃない!Twitter、Netflixも同じ」を紹介しよう。
・『米国IT企業の株価急落 バブルの崩壊か  コロナ禍で業績を伸ばしてきたアメリカのIT企業が、ここのところ軒並み株価を落とし始めています。GAFA神話の終焉(しゅうえん)、そしてネット広告の成長の「限界」が訪れているかにも見えますが、実際のところどうなのか。情報を整理し考察してみたいと思います。 直近のIT企業株下落の最初のきっかけは先週、写真共有アプリのスナップチャットを提供するSNAPの決算発表でした。発表された数字が「すでに引き下げられていた業績見通しさえ下回った」ということから、SNAPの株価は40%安と大幅に値を下げました。 続いて、7月22日にツイッターが第2四半期の決算を発表しました。こちらは広告収入が増えたとはいえ、わずか2%増と市場予想を下回り、純利益が赤字に転落しました。 そして、7月26日にアルファベット(Googleの親会社)が4~6月期決算を発表。純利益14%減と、市場予想を下回りました。アルファベットによれば、インフレとそれに伴う景気後退予測で企業が広告費を見直す傾向が強まっていると言います。 アルファベットの株価についてはすでに先週から下落が始まっていたこともあり、決算発表の後は夜間取引で逆に、株価が5%ほど上昇しました。投資家心理として「思っていたよりもマイルドな結果だった」ことが安堵を与えた様子です。 さらに、7月27日にメタ(旧フェイスブック)は、第2四半期の純利益が前年同期比で36%減少したと発表しました。これも市場予測を下回り、メタの株価は夜間取引で4%下落しました。 SNSのアクティブユーザーはフェイスブック、インスタグラム、WhatsAppなど合計で増加しているものの、広告の平均価格が前年比で14%下がっているといいます』、なるほど。
・『米ハイテク株成長の限界を象徴する二つの事件とは  時間軸を半年ぐらいさかのぼってみると、アメリカのハイテク株の成長の限界として二つの象徴的な事件がありました。 一つは、今年の2月3日に起きました。フェイスブックで1日当たりの利用者数が減少したことを報告したメタ社の株価が、1日で約26%減少する「メタ・ショック」が起きたことです。 もう一つは、動画配信大手のネットフリックスです。こちらも4月20日に会員数が過去10年で初めて減少に転じたことを公表して、株価が1日で35%下落しました。 これらの現象を眺めると、確かにアメリカのハイテク大手各社は、コロナ禍の巣ごもり需要を背景にわが世の春を謳歌(おうか)していました。そこから転じて、今年の春から夏にかけて成長の限界を迎え、アフターコロナと景気後退で一斉に勢いを落とし始めているように見えます。 この「アフターコロナと景気後退」は、アメリカIT大手の株価下落をもたらす要素ではあるのですが、ここで見落としてはいけない、もうひとつ重要な要素が存在します』、何なのだろう、
・『米IT大手を襲うのは成長の限界だけではない  それは、「お互いがお互いの収益源に対して手を出し始めたこと」です。それまでIT大手にとってブルーオーシャンだった自分の得意領域が、血で血を洗うレッドオーシャンに変質し始めているのです。 要素を整理してみましょう。SNAPの凋落(ちょうらく)やツイッター、フェイスブックのスローダウンの背景にあると言われるのが、中国資本のTikTokです。 各社の決算発表のコメントには、TikTokとの競争激化が収益減少要因として必ず登場します。若い世代のユーザーを中心に、新しいサービスに顧客を奪われているのです。 グーグルの親会社であるアルファベットは、減益の要因について「企業が広告費を見直す傾向が強まっている」と公式発表していました。実は、グーグル事業よりも動画配信ビジネスのYouTubeでの悪影響が響いたようです。 そしてYouTubeへの広告出稿が鈍化した背景には、ツイッターなど競合するSNSにおける動画投稿市場が広がったことが影響だとされています。SNSがYouTubeの収益を奪っているのです。 そのアルファベットですが、広告収入は減少した一方で、クラウドサービスの収入が市場予想よりも高かったことで売り上げは市場予測を上回りました。 ここも面白い点です。実は、マイクロソフトはアルファベットと同じ日に決算を発表して、売り上げ・利益ともに市場予測を上回っていました。しかし、そんなマイクロソフトが唯一市場の期待に応えられなかったのが、クラウドサービス分野です。クラウドサービスにおけるアジュールの成長が、予想よりも低かったのです。つまり、マイクロソフトの成長余地をアルファベットが奪った形です。 今度は、ネットフリックスに目を移してみましょう。実は、利用者減少の最大要因は、ウクライナ侵攻によるロシア・ウクライナでの利用者減少でも、アフターコロナによる巣ごもり需要の消失でもなく、ダイレクトな競合サービスである「ディズニー+」の躍進にあるようです。 「ディズニー+」は、古くからあるディズニーのコンテンツに加えて、買収によって権利を得たマーベルやスターウォーズといった強力なコンテンツを武器に拡大を始めています。 同じく強力なコンテンツに強みを持つネットフリックスにとっては、同じ戦い方で同じ市場を取り合う初めての強敵の出現ということになるわけです。成長の限界というよりも、顧客が奪われ始めているのです。 さらに、ネットフリックスは戦い方を変えるために安価な広告付きプランの導入を来年度にも始めようと考えています。これはもともと1000円を切る価格のサービスだったところから値上げを繰り返した末に、インフレ経済に突入し加入者の減少を迎えてしまったことへの対抗策です。確かに、広告事業への参入は有効性が高いと思われます。 一方で、このニュースの大きなポイントはネットフリックスが組んだ「相手」だと、私は思います。実は、その広告付きプランの開発で、ネットフリックスが組んだ相手はマイクロソフトだったのです。 要するに、ネットフリックスはグーグルと組むことができなかった。それは新しいネットフリックスの広告付きモデルが、グーグル陣営のYouTubeとダイレクトに競合して収益を奪うことを危惧しているからでしょう』、「その広告付きプランの開発で、ネットフリックスが組んだ相手はマイクロソフトだったのです。 要するに、ネットフリックスはグーグルと組むことができなかった。それは新しいネットフリックスの広告付きモデルが、グーグル陣営のYouTubeとダイレクトに競合して収益を奪うことを危惧しているからでしょう」、組む相手は「競合」状況に左右されるようだ。
・『米IT大手の株価下落 「レッドオーシャン化」が一要因  こうして要素を並べてみると、成長の限界とは別のもう一つの収益減少要因が見えてきます。 アメリカのIT大手各社のビジネスについて、お互いの収益を奪い合うレッドオーシャン化が始まったのです。さらに言えば、IT各社はまだこれから始まるメタバースに関しても一斉に侵攻を始めています。 冒頭でお伝えしたメタの大幅減益に関しても、メタバース関連への投資がかさんでいることが一つの要因です。序盤戦ですでに、メタバース事業は各社ともレッドオーシャンです。 もちろんレッドオーシャン化のきっかけはこれまでの事業の柱の成長の鈍化によって、各社とも自分と近しいビジネスの隣接領域へと手を伸ばそうと考えたからです。ですから、成長の限界が競争激化のきっかけを起こしていることも事実です。 とはいえ、これから起きる未来を考えると、成長の限界とレッドオーシャン化ではそこから導かれる未来が違ってきます。 後者が引き起こす未来、それは業界の再編です。つまりGAFAと呼ばれる4社の寡占構造が崩れ、業界地図が大きく変わる可能性が見えてきた。 それが、今起きているアメリカIT株の下落の一番大きな不安要因なのではないでしょうか?』、「GAFAと呼ばれる4社の寡占構造が崩れ、業界地図が大きく変わる可能性が見えてきた。 それが、今起きているアメリカIT株の下落の一番大きな不安要因なのではないでしょうか?」、面白い見方だ。
タグ:真壁昭夫氏による「GAFAの株価が低調、「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由」 ダイヤモンド・オンライン (その7)(GAFAの株価が低調 「成長の限界を迎えた」といえるこれだけの理由、アップル 成長鈍化の逆風下でM2チップに透ける「深謀遠慮」とは、GAFA神話終焉のワケは「ネット広告の限界」だけじゃない!Twitter Netflixも同じ) GAFA 要因には、「各社の成長期待が鈍化」、「米国内の人手不足」、「ディ・グローバリズム」「に伴うコストアップ要因」、「主要先進国における個人データ保護規制の強化」、さらには「FRB」の「金融引き締め」など構造的な性格が強いようだ。 さしもの「GAFA」にも「行き詰まりの兆し」とは興味深そうだ。 「金利上昇によって」、「フリー・キャッシュ・フローの「割引現在価値」・・・は小さくなる。GAFAのように成長期待が高い企業ほど、そのインパクトは大きくなり株価の下落懸念は高まりやすい」、「米国の金利は急速に上昇し、GAFAなどIT先端企業の株価の低下傾向が一段と鮮明化する恐れがある」、「GAFA各社がこれまでの発想にとらわれることなく新しいモノやサービスを生み出し、需要を創出することが出来るか否か、その実力が問われている」、これは残念ながら期待薄だ。 悪材料がよくもここまで出揃ったものだ。 「アップル」の「国際分業体制」の「ビジネスモデルに行き詰まり」は確かに深刻だ。 三番目は残念ながら期待薄だ。 真壁昭夫氏による「アップル、成長鈍化の逆風下でM2チップに透ける「深謀遠慮」とは」 「「M2チップ」を発表した。その狙いは、より高性能なチップ開発を加速し、より多くの人が能動的に活動できる、新しいネット空間を整備することだろう。 アップルは人々がより積極的に新しい取り組みを進めてモノやサービスを取引するバーチャルな市場を整備し、その運営を多種多様な企業と連携して進めようとするだろう」、ずいぶん意欲的なようだ。 「同社で労組が結成されたことは、ビジネスモデルの優位性が揺らぎ、高い成長の維持(≒給料の増加)が難しくなるとの懸念を示す」、その通りだろう。 「アップルは他社との連携を強化して新しいネット上の秩序の構築に取り組むだろう。例えば、国際的なNFT取引の市場を整備し取引をモニターする、個々人や組織が必要に応じてネット空間で専門的なスキルを持つ人を募りプロジェクトを進める、などだ」、なるほど。 「1990年代以降、わが国はデジタル化に取り残された。ウェブ3.0の時代が幕を開ける中、本邦企業はしっかりとしたビジネスモデルを確立しなければならない。各企業は先端分野におけるモノづくりの力を徹底して磨く必要がある。 加えて、日本政府が半導体の部材や製造装置、さらにはマイコンやパワー半導体など本邦企業が国際競争力を維持している分野に、支援を迅速かつ他国に見劣りしない規模感で実施することも不可欠だろう」、同感である。 東洋経済オンライン 鈴木貴博氏による「GAFA神話終焉のワケは「ネット広告の限界」だけじゃない!Twitter、Netflixも同じ」 何なのだろう、 「その広告付きプランの開発で、ネットフリックスが組んだ相手はマイクロソフトだったのです。 要するに、ネットフリックスはグーグルと組むことができなかった。それは新しいネットフリックスの広告付きモデルが、グーグル陣営のYouTubeとダイレクトに競合して収益を奪うことを危惧しているからでしょう」、組む相手は「競合」状況に左右されるようだ。 「GAFAと呼ばれる4社の寡占構造が崩れ、業界地図が大きく変わる可能性が見えてきた。 それが、今起きているアメリカIT株の下落の一番大きな不安要因なのではないでしょうか?」、面白い見方だ。
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イノベーション(その4)(マッキンゼー:日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋、『両利きの経営』著者が指摘 日本企業の多くがイノベーションを勘違いしている チャールズ・オライリー教授インタビュー(前編)、NECやAGCにスタンフォードの学生が興味津々の理由 『両利きの経営』著者に聞く チャールズ・オライリー教授インタビュー(後編)) [イノベーション]

イノベーションについては、2019年1月31日に取上げた。今日は、(その4)(マッキンゼー:日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋、『両利きの経営』著者が指摘 日本企業の多くがイノベーションを勘違いしている チャールズ・オライリー教授インタビュー(前編)、NECやAGCにスタンフォードの学生が興味津々の理由 『両利きの経営』著者に聞く チャールズ・オライリー教授インタビュー(後編))である。

先ずは、2020年5月24日付け東洋経済オンラインが掲載したマッキンゼー パートナーの野崎 大輔氏と、マッキンゼー アソシエイトパートナーの 田口 弘一郎 氏による「日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/346923
・『日本から生まれた新たな製品やサービスが世界を席巻する──。かつて度々耳にしたそうした輝かしい報道を聞かなくなって久しい。企業も研究機関も、そして個人も日々努力を重ねているのだが、頓挫したり空回りしたり、思ったような成果が出せないケースが多く見られる。その問題の真因はどこにあるのか。昨年、『マッキンゼー ホッケースティック戦略成長戦略の策定と実行』を監訳した野崎大輔氏と、一部翻訳を担当した田口弘一郎氏が、新規事業において日本企業が陥りがちな罠とその処方箋を解き明かす』、興味深そうだ。
・『研究開発費自体は増えている  近年、日本企業のイノベーション力が低下しているという声をよく聞くようになった。例えば中国に特許出願数や論文の被引用数で後れを取り始めたというのはその証左であろう。 リチウムイオン電池のように、革新的な技術を開発して世界を席巻するということについては強さを誇ってきた日本企業であるはずだが、今何が起きているのか。そこには、日本ならではの課題が存在しているとわれわれは考えている。 本稿では80年代からの長期にわたるデータ分析と共に、これまで数多くのクライアントをご支援してきた経験から、日本企業がイノベーションを推進するうえで陥りがちな罠と、今後必要な取り組みについて考えてみたい。 まず、日本の研究開発に対するリソースがどう推移してきたか見てみたい。 1987年から2019年までの日本企業における研究開発費売上高比率と企業研究者の人数を見ると、実は80年代後半から今に至るまで、基本的には日本企業の研究開発にかけるリソースは継続的に増加してきている。 研究開発費売上高比率では、1987年に2.8%だったものが継続的に増加し2017年では3.9%、企業における研究者も1987年に26万人だったものが2017年では50万人近くまで、年率2%程で継続的に増えてきている。) では、なぜ特許出願数などで中国に後れを取り始めているのか。単純に、中国の研究開発費や研究者の増加が日本よりも急激だからであろうか』、「研究開発費売上高比率」は上昇、「研究者数」も増加しているのに、「特許出願数などで中国に後れを取り始めている」ようだ。
・『課題は研究者1人当たりの生産性  ここで、日本とアメリカ・中国の間で研究開発の生産性の比較を行ってみたい。あくまでも一つの指標ではあるが、研究者1人当たりの研究開発費(インプット)と、研究者1人当たりの特許出願件数(アウトプット)がどのように推移してきたか、それぞれの国で見ていく。横軸に1人当たり研究開発費(インプット)、縦軸に1人当たり特許出願件数(アウトプット)をプロットして時系列で見てみると、面白いことが見えてくる。 (出所:OECD Stat, WIPO Statistics database より筆者作成) まず、中国について。2000年代前半まで1人当たり研究開発費は10万ドル未満、特許出願件数も0.1件程度であったが、2009年に1人当たり研究開発費が15万ドルを超え、特許出願数0.2件と倍増したあたりから、毎年1人当たり研究開発費と1人当たり特許出願件数がきれいに相関を持って増加し、2017年では1人当たり研究開発費は約28万ドル、特許出願件数は0.75件程度となり、インプット・アウトプットともに日本の水準を超えている。 アメリカについては、1980年代に1人当たり研究開発費は20万ドル未満で特許出願件数も約0.1件程度であったが、その後継続的にインプットもアウトプットも増加し、2016年では1人当たり研究開発費が38万ドル程度、特許出願件数が0.4件程度と増加してきている。 つまり、アメリカでも中国同様、緩やかではあるものの、基本的にはインプットが増えればアウトプットが増える、という相関が維持されている。 一方日本はどうか。1980年代前半までは1人当たり研究開発費が10万ドル未満、1人当たり特許出願件数は0.6件程度であったが、そこから2000年代前半まで、1人当たり研究開発費が継続的に増加し17万ドル程度となり、1人当たり特許出願件数もそれに伴って0.8件程度まで増加していった。 つまり2000年代前半までは、日本もインプットを増やすほどアウトプットが増えていたのである。 ところが2000年代後半からは様子が大きく変わる。2017年までに1人当たり研究開発費は27万ドル程度まで増加したが、1人当たり特許出願件数はむしろ減少し、0.7件を下回っている。1人当たり研究開発費が10万ドル増えたにもかかわらず、特許出願件数が減っている。 つまり、インプットを増やしてもアウトプットが増えない、むしろ減ってしまうという壁に突き当たってしまっているのである。) もちろん、特許出願数はイノベーション力の1つの指標にすぎず、これはあくまでも1つの可能性にすぎないが、日本のイノベーション力の低下は、人員数や資金の問題ではなく、研究者1人当たりの生産性の低下がボトルネックになっていることが可能性として考えられる。 仮にそうであった場合、なぜこういった生産性の低下が起こってしまっているのであろうか』、「1人当たり研究開発費」と「特許出願件数」は中国や米国では比例関係がみられるが、日本では「2000年代後半から」インプットを増やしてもアウトプットが増えない、むしろ減ってしまうという壁に突き当たってしまっている」、確かに不思議な「生産性の低下」だ。
・『変わらない研究領域  こういった生産性低下の原因の1つのヒントとなるのが、日本の研究開発領域の硬直性である。日本の研究開発領域は、過去20年ほとんど変わっていない。 アメリカや中国は、過去20年間で大きく研究開発分野をシフトさせてきた。例えば特許登録件数の分野別比率(8技術分野)を見ると、アメリカは2000年から2018年の間で、特許登録件数に占める情報通信分野の割合が16%から29%へほぼ倍増し、代わりに化学や機械工学といった分野の比率が大きく下がった。 一方日本は、構成比率が最も大きく増減した分野でも、輸送機械分野の7%から10%へ移行した、約3%ポイントのみである。それ以外の分野に至っては、構成比率は3%ポイント未満しか増減していないのである。19年間という期間を考えれば、むしろ驚くべき硬直性である。また、毎年総務省が行っている科学技術研究調査という研究開発に関するサーベイの結果を見ても、少なくともここ10年間、研究者の専門分野構成はほとんど変わっていないことがわかる。 これは、ある程度成熟してしまった研究領域の中でさらに深掘りをし続けているということでもあるし、世界のニーズが大きくシフトしてきている中で、新たなニーズが生まれ多くのイノベーションが求められている領域での勝負ができていないということかもしれない。 こういったところに、日本企業の研究開発における生産性低下の一因があるのではないだろうか。つまり、アウトプットとしての事業領域がシフトできていない、新たなニーズをうまくとらえた事業を展開できていないために、研究開発も既存の領域にとどまり、結果的に生産性が低下してきてしまっているのではないか。 実際、携帯電話の顔認証機能など、先に基礎技術としての研究開発で成果は出していても、結局消費者のニーズをうまく捉えて製品化・事業化したのは海外企業であった、という例も見られる。 これを解決するためには、そもそもの日本企業の事業領域シフトを加速させることが重要である。 しかし、ここに日本特有の難しさが存在している。) たとえば上場企業の新陳代謝は、アメリカに比べ日本は非常に緩やかである。2017年の日経新聞調査によれば、ニューヨーク証券取引所の上場企業における平均寿命(上場維持年数の平均値)は15年であるのに対し、日本取引所上場企業の平均寿命は89年。経営の安定性が高い一方で、新陳代謝が進みにくく、新たな産業領域の開拓は苦手な傾向にある。 こういった事業のシフトを加速すること、そして、事業上のニーズに合わせて研究開発の方向性を調整し生産性を高めていくためには、まずそのかじ取りを行うマネジメント側が変わっていく必要があるのではないか。 既存企業の中において、新たな事業構築にかかわるマネジメントの行動様式を整え、そして組織としてのスキルを獲得すること(リスキリング)で、企業の新陳代謝を高め、新たな事業領域を切り開くことができるのではないだろうか』、「アメリカや中国は、過去20年間で大きく研究開発分野をシフトさせてきた」、他方、「日本の研究開発領域は、過去20年ほとんど変わっていない」、「驚くべき硬直性である」、「アウトプットとしての事業領域がシフトできていない、新たなニーズをうまくとらえた事業を展開できていないために、研究開発も既存の領域にとどまり、結果的に生産性が低下してきてしまっているのではないか」、「上場企業の新陳代謝は、アメリカに比べ日本は非常に緩やかである。2017年の日経新聞調査によれば、ニューヨーク証券取引所の上場企業における平均寿命・・・は15年であるのに対し、日本取引所上場企業の平均寿命は89年。経営の安定性が高い一方で、新陳代謝が進みにくく、新たな産業領域の開拓は苦手な傾向にある」、「既存企業の中において、新たな事業構築にかかわるマネジメントの行動様式を整え、そして組織としてのスキルを獲得すること(リスキリング)で、企業の新陳代謝を高め、新たな事業領域を切り開くことができるのではないだろうか」、確かに「リスキリング」が鍵になるようだ。
・『日本企業の新規事業構築「5つのポイント」  特に近年、我々のクライアントに対しても、こういったリスキリングと新規事業創出の具体的支援を並行して進めるケースが増えてきている。さまざまなご支援をさせていただく中で、我々は特に日本企業のマネジメントが陥りがちな罠がいくつか存在すると考えている。 今回は、その中でも主な5つをご紹介しつつ、それぞれにどう対処すべきか考えてみたい。 (1)「製品開発」の発想で「事業開発」を推進しない  これまで既存事業を長く続けてきた日本企業は、「製品開発」と「事業開発」が根本的に異なるものであることを意識しなければならない。 例えば既存事業において、製品開発の中止は稀にしか起きない憂慮すべき事態である。新型車の開発は遅延こそ起きるが、中止されることは比較的まれである。 一方で新規事業についてはどうか。事業開発は、そのほとんどが失敗する、もしくはピボットが必要になるというのが前提である。VCの事業ポートフォリオは平均30社以上で、その内1?2社がIPOすれば成功であり、それらの事業もIPOまでに3~4回程度のピボットを経験することが普通であると言われている。それに対し、例えば自動車のような製品開発の発想だと、30の製品開発を始めて、1製品でもヒットすればいい、しかも途中で大きな設計変更が3?4回生じるというのは通常許容されないだろう。 新規事業開発は製品開発と違い、そもそも顧客のニーズが存在するのか、事業モデル・マネタイズモデルが機能するのか不明確なところからスタートするため、当然確度は低くなる。複数の案件を、そのほとんどがうまくいかない前提で、顧客ニーズの確度を検証しつつ、頻度高くポートフォリオ管理を実施していくことが求められる。 また製品開発は、ある技術やサービス単品の開発をロードマップに沿って行うことが多いが、事業開発は事業として10年後、20年後の広がりを見据えて行う。仮にロードマップ通りに製品やサービスが開発されて単体として成功しても、事業としての長期的な展開に対するビジョンがないと、散発的な新規事業の一つとして数年で成長が止まってしまうことが多い。この製品開発から事業開発への考え方の切り替えが、リスキリングの重要な一歩となる』、「製品開発から事業開発への考え方の切り替えが、リスキリングの重要な一歩となる」、その通りだろう。
・『(2)既存事業の物差しで新規事業を見ない  上記のようなものの見方の違いを頭ではわかっても、いざ同じ経営会議の俎上にのせて同じメンバーで議論をしてしまうと、必然的に同じ物差しに寄せるバイアスが働くのは人の性といえる。場合によっては新規事業が経営企画部の管掌であったり、新規事業担当役員が既存事業と兼任であったりして、どうしても既存事業のKPI(重要業績評価指標)や成功確率やスピードに引きずられてしまう。) 日本企業、特に産業の中心を担ってきた自動車などの製造業は既存事業の確度が比較的高いことが多い。もちろん、そういった業界でも不確定性は常に存在するが、生産性・効率性等オペレーショナルなKPIをきっちりとやり切ればそれなりの成果は見込める。 一方で新規事業については、ニーズそのものが不透明で、何がKPIかも決まっておらず、わずかに垣間見える顧客ニーズの一端といった定性的な要素に基づいて頻度高い経営判断を行うことが求められる。 もちろんこういったことができるように既存経営陣に対してリスキリングを進めていく必要はあるが、同じ土俵・メンバーで議論している限り、リスキリングの進みはどうしても遅くなってしまう。 新規事業については組織を分け、担当役員も完全に分離した上で、新規事業に係る意思決定は既存の経営会議と分けて実施をするのがあるべき姿といえる。そして新規事業担当役員については、社内に適任者がいない場合、外部登用も積極的に検討すべきである』、「新規事業については組織を分け、担当役員も完全に分離した上で、新規事業に係る意思決定は既存の経営会議と分けて実施をするのがあるべき姿といえる」、なるほど。
・『既存事業の物差しも必要  一方で、いつかは新規事業も既存事業の物差しで評価していくことが必要となってくる。例えばある大手電機メーカーの社内ベンチャー制度では、立ち上げた新規事業に対して社内の他部門から引き合いが来た段階で、既存事業部に事業ごと引き渡すということを行っている。 また、営業キャッシュフローが黒字になるタイミングをマイルストーンとして事業部として独立させ、それ以降は既存事業と同等の評価指標で見るといった工夫も考えられるであろう。 (3)新規事業の成功体験を持つ外部人材の活用  新興国の台頭やデジタル化の進展、CASE(自動車業界に大きな影響を与えつつある4つのトレンド:Connected, Autonomous, Shared, Electrificationの頭文字を取ったもの)など破壊的トレンドによって日本企業が本格的に新規事業に取り組み始めたのは比較的最近のことである。 その中で、まだ新規事業の創出に成功したプレーヤーは多くはない。ほとんどの企業で、新規事業の成功体験がないのである。よって、社内でリスキリングを推進できるコーチ役となる人材は通常ほぼいない。 また、その中で、概念的に見るべきKPIや組織体制など他社のベストプラクティスを模倣しても、具体的なKPIの粒度や顧客ニーズの掘り起こし方など、成功体験を持ち肌感覚でわかる人材がいなければ成功確度は当然下がってしまう。 リスキリングを加速させるためには、起業経験・VC経験を持つ社外の人材をアドバイザーとして起用したり、短期契約でも新規事業創出のプロセスを一緒にひと回ししてもらい、社内の人材に実体験を蓄積したりすることが効果的である。一部の国内メーカーでは、既に社外有識者をアイデア創出等の取り組みにおいて積極的に活用し始めている』、「起業経験・VC経験を持つ社外の人材をアドバイザーとして起用したり、短期契約でも新規事業創出のプロセスを一緒にひと回ししてもらい、社内の人材に実体験を蓄積したりすることが効果的」、なかなかいいアイデアだ。 (4)リスキリングを組織として消化する  せっかく外部人材を登用してリスキリングを推進しようとしても、実際のオペレーションや、人材の評価・育成の仕組みが既存のままだと、組織としての慣性力(イナーシャ)が働き、リスキリングは停滞するか、以前の状況に簡単に戻ってしまう。 これを避けるためには、上述のようなオペレーションや、人材の評価・育成を新規事業に即したものに変えていき、リスキリングを継続させる仕組みを組織として構築する必要がある。 このためには、上述のように新規事業組織を分けるとともに、そこに新規事業スキルを保有する人材、新たな研究開発領域の知見を持つ人材を集約し、オペレーションや人材評価・育成を既存事業と分けて実施することが重要である。) たとえばある国内の鉄道会社では、そもそも採用の時点で既存の鉄道事業部門と電子マネーなど新規事業を担当する部門を分け、人事制度も既存事業とは分けている。 このように、新規事業として独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用を行うべきである。 そして、新規事業を推進できる魅力的な人材を採用できるだけの柔軟な処遇や、新規事業からのキャリアパスが描けることなど、人事制度上の工夫が必須である』、「新規事業として独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用を行うべきである」、なるほど。
・『人事制度の独立が必須  このように、新規事業は新規事業として、独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用をすべきである。そのためには、新規事業を推進できる魅力的な人材を採用できるだけの柔軟な処遇や、新規事業からのキャリアパスが描けることなど、人事制度の独立が必須である。 (5)新規事業=ゼロイチというバイアスの克服  これまで見てきたように、新規事業といっても、本当にゼロから事業を創出しスケールアップさせることは、確率が低く忍耐を伴い、見通しも不透明なものである。 1つの手法として、プログラマティックなM&Aを活用して新たな領域にどう入っていくかを検討することも重要な新規事業のアプローチである。 特に、対象とする事業領域の人材や組織をそのまま手に入れることが可能であるため、上記で述べたような陥りがちな罠はM&Aという手法を取ることによってある程度回避できる。 ゼロイチからの新規事業を検討する前に、どういった新規事業を目指すのか、本当にM&Aではなくゼロからの立ち上げを目指す必要があるのかを具体的に検討したうえで新規事業立ち上げの手法を選択すべきである。 そして本当にゼロから立ち上げる新規事業を目指すのであれば、経営陣として覚悟を持ち、外部役員の登用や人事制度の独立など、これまで述べてきたようなドラスティックなやり方を取ってリスキリングも並行して進めていくことが必要となる』、「本当にゼロから立ち上げる新規事業を目指すのであれば、経営陣として覚悟を持ち、外部役員の登用や人事制度の独立など、これまで述べてきたようなドラスティックなやり方を取ってリスキリングも並行して進めていくことが必要となる」、「経営陣として覚悟」が弱ければ、モラルも上がる筈もない。

次に、6月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家/コンサルタントの佐藤智恵氏による「『両利きの経営』著者が指摘、日本企業の多くがイノベーションを勘違いしている チャールズ・オライリー教授インタビュー(前編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305262
・『日本でベストセラーとなったビジネス書『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』の増幅改訂版が6月24日に発売された。著者の一人であるスタンフォード大学経営大学院のチャールズ・オライリー教授は日本での同書のヒットをどう見ているのか。また改訂版で新たにAGC(旧・旭硝子)の事例を加筆した理由とは』、興味深そうだ。
・『なぜ「両利きの経営」は日本でベストセラーになったのか  佐藤智恵 『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』(以下、「両利きの経営」)が、日本で10万部を超えるベストセラーとなっています。なぜ日本でこれほどのヒットを記録したと思いますか。 チャールズ・オライリー 「両利きの経営」に対しては世界中から反響がありましたが、日本からの反響が際立って大きいのは確かです。その理由は、おそらく日本の経営者がどの国の経営者よりも強く変革の必要性を感じているからではないでしょうか。 戦後、多くの日本企業は右肩上がりで成長を続けてきましたが、近年は中国企業や韓国企業など新興勢力がどんどん台頭し、激しい価格競争にさらされています。こうした中、日本企業の経営者は「これまでうまくいっていたやり方はもはや通用しないのだから、何か別のことをやらなくてはならない」「会社も、経営者としての自分も変わらなければならない」と痛感しているように見受けられます。 私たちが「両利きの経営」で示したのは、大企業がイノベーションを創出するための具体的な手法です。これが結果的に日本企業の経営者が今知りたいことにダイレクトに答えることとなり、多くの読者に支持されたのではないでしょうか。 また、私たちは本書で「大企業は長期的な視点でイノベーションを創出することが大切だ」と提唱していますが、日本企業の経営者は一般的に長期的な利益を重視しますから、こうした視点にも共感していただいたのかもしれません。 佐藤 「両利きの経営」の出版以来、オライリー教授の提唱する「既存事業の深化と新規事業の探索を同時に行う経営手法」は多くの日本企業に取り入れられ、経営のスタンダードになりつつあります。新型コロナウイルスの感染拡大は、こうした企業における「両利きの経営」の推進にどのような影響を与えたと思いますか。 オライリー パンデミックは、明らかに企業に変革やイノベーションを加速させるきっかけをもたらしたと思います。大企業の中には、これを機に「両利きの経営」をさらに加速させている企業もあります。自社はもう変われないと思っていたが、必要に迫られるとこれほど自社は変われるのかと実感し、変革に前向きになった経営者や社員がたくさん出てきたからです。 もちろんパンデミック下で業績が悪化した企業も数多くありますが、これらの企業が「両利きの経営」の実践を完全にストップさせたかといえば、そうでもないのです。大規模な投資は控えても、新規ビジネス創出への投資はやめていません』、「「両利きの経営」の出版以来、オライリー教授の提唱する「既存事業の深化と新規事業の探索を同時に行う経営手法」は多くの日本企業に取り入れられ、経営のスタンダードになりつつあります」、「自社はもう変われないと思っていたが、必要に迫られるとこれほど自社は変われるのかと実感し、変革に前向きになった経営者や社員がたくさん出てきた」、なるほど。
・『イノベーションが「着想」で終わっている  佐藤 日本では2022年6月24日に「両利きの経営」(増補改訂版)が新たに出版されました。今回、増補改訂版を出版しようと思った動機は何ですか。 オライリー 16年に「両利きの経営」を出版した後、日本とヨーロッパでさらに研究を進めたところ二つの重要な発見があり、これらをぜひとも書き加えたいと思ったからです。 まず一つめの発見は、何をどこまで実現すれば本当にイノベーションを創出したといえるのかを、多くの経営者や管理職が明確に理解していない点です。彼らが「イノベーション」という言葉を使うとき、それはほとんどの場合「アイデアを着想すること」を意味します。 つまり、「社内からイノベーションを起こすには、とにかく社員に新しいアイデアをたくさん提案してもらわなくてはならない」「新規ビジネスのアイデアがたくさん出てくれば、革新的な会社になれる」と思い込んでいるのです。 例えば、18年にある日本の大企業を調査したときのことです。この会社は「デザイン・シンキング」に多くのリソースを割いていて、新規事業開発部門の担当者は「このプロジェクトから新規ビジネスや新製品のアイデアが400以上も生まれたんですよ」と誇らしげに語ってくれました。 ところが実際、アイデアを思いつくだけでは、イノベーションは生まれません。私たちの理論によれば、イノベーションには「着想」(アイディエーション)→「育成」(インキュベーション)→「規模の拡大」(スケーリング)の三つのフェーズがあり、この三つ全てを実現して初めてイノベーションを創出したことになるのです。 私が担当者に、「ではその400のうち、いくつ市場に出し、いくつ事業化したのですか」と聞くと、口ごもってしまいました。つまりこの会社のイノベーションは、三つのフェーズのうちの「着想」で終わっていて、「育成」「規模の拡大」までたどりついていなかったのです。 二つめの発見は、これまで会社を成長させてきた既存事業の企業文化が「両利きの経営」推進の障害にもなり得ることです。なぜなら既存の企業文化は、新規事業部門が必要とする起業家的な文化とは相反することが多いからです。 「両利きの経営」を実現するためには、経営者が意識して「既存事業部門の伝統的な文化」と、「新規事業部門の起業家的な文化」を併存させていかなければなりません。ところが、全く異なる文化を両輪で回すのは容易ではありません。 経営者が相当な覚悟を持って二つの企業文化を管理しなければ、いくら新規事業開発用の新しい組織をつくったとしても、結果的に多くの社員が長いものに巻かれ、保守化してしまう結果となります。 こうした二つの発見をもとに私たちはさらに研究を進め、増補改訂版では、イノベーションの三つの規律(「着想」→「育成」→「規模の拡大」)と「両利きの経営」における組織文化の役割について大幅に加筆しています』、「この会社のイノベーションは、三つのフェーズのうちの「着想」で終わっていて、「育成」「規模の拡大」までたどりついていなかったのです」、「これまで会社を成長させてきた既存事業の企業文化が「両利きの経営」推進の障害にもなり得る」、あり得る話だ。
・『AGCと富士フイルム、2社の変革手法の違いとは  佐藤 「両利きの経営」(増補改訂版)では日本企業のAGC(旧・旭硝子)の事例についても加筆しています。その理由は何ですか。 オライリー 「両利きの経営」ではすでに富士フイルムの事例を取り上げていますが、増補改訂版では新しい日本企業の事例を追加したいと思いました。いくつかの候補の中からAGCを選んだのは、「伝統的な日本企業も変わろうと思えば変われるのだ」という事実を如実に示してくれた事例だったからです。 ご存じのとおりAGCは110年以上もの歴史を持つ長寿企業です。優れたテクノロジーも製造能力もある。ところが、近年は日本の他の製造業と同じようにコモディティー化の問題に直面していました。主力のガラス事業は市場競争にさらされ、伸び悩み、さらに他の既存事業も大きく成長する余地はなさそうな状況でした。 私たちが注目したのは15年に社長に就任した島村琢哉氏(現・AGC取締役兼会長)が、実際にどのように「両利きの経営」を実践していったかです。特に、富士フイルムとの比較で興味深かったのは、変革の手法です。 富士フイルムの古森重隆氏(現・富士フイルムホールディングス最高顧問)がトップダウンで一気に改革を断行していったのに対し、島村氏はトップダウンとボトムアップを併用した手法で時間をかけて改革を進めていった印象があります。このリーダーシップスタイルの違いも面白いと思いました。) 佐藤 トップダウンとボトムアップを併用した手法とは、具体的にはどういうことですか。 オライリー 島村氏が実行した改革の中でも非常に効果的だったと私が評価しているのが、組織文化改革です。島村氏は次の二つを特に意識して実行したと思います。 まず一つめが、「既存事業部門のものづくり文化」と「新規事業部門の起業家的な文化」を両輪で回すことです。全く異なる企業文化の管理はトップにしかできません。 既存事業部門の社員には、AGCの伝統であるものづくり文化を大切にしつつ、生産性の向上とグローバル展開に注力することを奨励し、新規事業部門の社員には、起業家のようなマインドで仕事をしてイノベーションを創出することを奨励しました。 二つめが、最初から中間管理職を企業変革に巻き込むことです。島村氏は中間管理職から会社の戦略について直接、意見を聞くセッションをいくつも設けました。 例えば「2025年のありたい姿」を策定した際には、早い段階から中間管理職が議論に参画し、自社がどの分野に進出すべきかについて意見を述べたと聞きます。自分の意見を社長に直接聞いてもらい、全社戦略に反映されれば、当然のことながら社員のやる気は高まるでしょう』、「「既存事業部門のものづくり文化」と「新規事業部門の起業家的な文化」を両輪で回すことです。全く異なる企業文化の管理はトップにしかできません。 既存事業部門の社員には、AGCの伝統であるものづくり文化を大切にしつつ、生産性の向上とグローバル展開に注力することを奨励し、新規事業部門の社員には、起業家のようなマインドで仕事をしてイノベーションを創出することを奨励しました」、「AGC」の「トップ」は「全く異なる企業文化の管理」をしたとは大したものだ。
・『社名変更が社員にもたらす影響とは  佐藤 AGCは18年に「旭硝子」から社名変更しましたが、社名変更は企業文化の変革にどのような影響をもたらしたと思いますか。 オライリー もちろん社名を変えたからといって、急に会社が変わるわけではありません。しかし社名変更には、社員に「これから私たちの会社は変わります」という強いメッセージを伝える効果があります。 例えば21年、フェイスブックが「メタ・プラットフォームズ」に社名変更しましたが、その主な目的は「これからこの会社はフェイスブック以外のプラットフォーム事業にも注力していく」というメッセージを社員に象徴的に伝えることだと思います。経営陣が新規事業に前向きなことが分かれば、社員は既存のフェイスブック事業の枠組みを超えた新規事業を安心して提案することができます。 経営陣が社員に変革を奨励する手法はいくつもあり、社名の変更は数ある手法の一つにすぎませんが、起業家精神にあふれた社員の能力を生かすために一定の効果があるのは間違いありません。社内で起業したい、新規事業を起こしたいと思っていた社員はますますやる気になるでしょうから。 その意味でもAGCの事例は興味あるものだと思います。私自身は、社名を変え、組織を変え、文化を変えたAGCが今後どのように変わっていくのか、注目しています。この事例は自社を変革したいと考える全てのリーダーにとって興味深いものですので、ぜひ多くの読者に読んでいただきたいです。(チャールズ・オライリー氏の略歴、佐藤智恵氏の略歴はリンク先参照)』、確かに「社名を変え、組織を変え、文化を変えたAGCが今後どのように変わっていくのか、注目」、同感である。

第三に、この続きを、6月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家/コンサルタントの佐藤智恵氏による「NECやAGCにスタンフォードの学生が興味津々の理由、『両利きの経営』著者に聞く チャールズ・オライリー教授インタビュー(後編)」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/282522
・『日本でベストセラーとなったビジネス書『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』の増幅改訂版が6月24日に発売された。著者の一人であるスタンフォード大学経営大学院のチャールズ・オライリー教授は、同校の授業でNECやAGCの事例を教えている。スタンフォードの学生たちは日本の長寿企業の改革をどう見ているのか。また、「両利きの経営」を実践する上で欠かせない、経営者必見の五つのポイントについて解説してもらった』、興味深そうだ。
・『「両利きの経営」著者がNECの変革に注目した訳  佐藤智恵 オライリー教授は、スタンフォード大学経営大学院で選択科目「既存組織における起業家的リーダーシップ」を担当しています。授業では、どのような日本企業の事例を取り上げていますか。 チャールズ・オライリー この授業の主題は、「大企業の経営者や管理職は、どうすれば大組織の中で起業家のようなリーダーシップを発揮できるのか」。授業ではNECとAGCの事例を教えています。 NECは日本企業の中でも積極的に「両利きの経営」を実践している会社で、私にとっても非常に興味深い研究対象です。 先ほど、日本の製造業企業が主力製品のコモディティー化の問題に直面していること(前編「『両利きの経営』著者が指摘、日本企業の多くがイノベーションを勘違いしている」参照)をお伝えしましたが、NECも同様の問題を抱え、近年、同社の成長は伸び悩んでいました。 素晴らしい組織能力、技術を持っている。世界市場へ参入していくための諸条件も整っている。顧客インサイトも蓄積されている。ところが、こうした自社の潜在能力をイノベーション創出に生かしきれない状況が続いていたのです。 そこでNECは、既存事業部門とは別に新規事業開発部門を設立し、その部門を核に新たなイノベーションを創出することにしました。2013年には「ビジネスイノベーション統括ユニット」(現・グローバルイノベーションユニット)、18年にはアメリカのシリコンバレーに新会社「NEC X」を立ち上げ、既存事業部門ではできないことに挑戦しようとしてきました。 現在、NECは森田隆之社長のもと、さらに「両利きの経営」を推進しようとしていますが、授業では「あなたがNECの社長だったら、コア事業部門と新規事業部門をどのように併存させていくか」「NECのケイパビリティーをどのように新規事業に生かすか」といったテーマで議論していきます。 佐藤 グローバルイノベーションユニットやNEC Xの存在は、一般社員や中間管理職にどのような影響を与えていると思いますか。 オライリー NECの中間管理職の中には、「私はNECで20年間、この仕事に携わってきた。私は今の仕事が好きだし得意なので、このままこの仕事を続けたい」という人もいるでしょう。私は、それはそれで構わないと思います。 NECにとっては、新規事業を創出することと同じくらい、既存事業を深化させていくことも大切なのです。例えば「三井住友銀行の勘定系システムを構築する」といった仕事がこれからも重要であることに変わりはありませんし、既存事業の仕事が得意な人は既存事業部門で活躍すればよいと思います。 ところがNECの中には、「新規事業の探索をしたい」「新しい事業を立ち上げたい」という社員もたくさんいます。問題は、既存事業部門ではこうした起業家精神にあふれた社員の熱意や能力を受け止めきれないことです。彼らの能力を生かすには、別個の組織が必要なのです。 その意味で私は、グローバルイノベーションユニットやNEC Xはいずれも若い社員ややる気のある社員に活躍の場を与える組織として、重要な役割を果たしていると思います』、「既存事業部門ではこうした起業家精神にあふれた社員の熱意や能力を受け止めきれないことです」、「グローバルイノベーションユニットやNEC Xはいずれも若い社員ややる気のある社員に活躍の場を与える組織として、重要な役割を果たしている」、なるほど。
・『スタンフォードで学んだ起業家精神は大企業で生かされている  佐藤 AGCのケースについては、どのような点に注目して議論するのですか。 オライリー 私がAGCのケースをもとに特に注力して教えているのが、いかに島村琢哉氏(現・AGC取締役兼会長)がボトムアップで組織文化を変革していったかです。 これまでの授業では度々、島村氏をゲストスピーカーとして招聘(しょうへい)しましたが、学生からは「どのようにして社員に変革の必要性を納得してもらったのですか」「日本企業で『両利きの経営』を実践できた秘訣(ひけつ)は何でしょうか」といった質問が相次ぎました。というのも、スタンフォードの学生は一般的に「日本企業は変革するのが難しい」「日本企業の経営者は決断も実行も遅い」という思い込みを持っているからです。 確かにAGCの変革は一朝一夕では実現できません。同社は創業110年以上の歴史の長い企業です。このような企業を変革するのは、並大抵のことではありません。私の見立てでは、少なくとも10年はかかるはずです。 AGCの「両利き戦略」は15年に島村氏が社長に就任したときに本格的に始まり、現在は平井良典社長に引き継がれていますが、この変革の成果は未知数です。つまり、AGCの「両利きの経営」はまだ発展途上なのです。しかし、同社がこれまでやってきたこと、やろうとしていることは理論的にも正しいことは確かです。 授業ではAGCが島村氏や平井氏のもと、どのように変わっていったかをつぶさに見ていきますが、毎回、学生は「このような伝統的な日本企業でも変われるのだ」という事実を知り、感銘を受けています。 佐藤 スタンフォードのデジタル・ネイティブ世代の学生が、NECやAGCといった日本の長寿企業の事例に関心を持っているのは意外な感じがします。どのような理由から興味を持つのだと思いますか。 オライリー スタンフォード大学の卒業生には著名な起業家がたくさんいることから、「スタンフォード大学の学生は皆、起業家志向だ」と思われがちですが、実際は多くの学生が大企業に就職しています。つまり、スタンフォードで学んだ起業家精神は大企業の中で生かされているのです。そのため、「両利きの経営」について学ぶ選択科目は、スタンフォード大学経営大学院の中で最も人気のある講座の一つになっています。 実際のところ、「両利きの経営」は世界中の大企業にとってますます重要になってきています。特に、アメリカでは経営者が自らの報酬を最大化するために短期利益を追求し、場当たり的な戦略を実施した結果、失敗してしまう事例が後を絶ちません。 ヒューレット・パッカード(HP)は、その典型的な事例でしょう。かつては革新的な企業の代名詞であった同社は、度重なるトップの交代と分社化で、今苦境に立たされています。HPの迷走の要因が、長期的な視点で両利きの経営を実践してこなかったことであることは明らかです。 NECやAGCなど日本企業の事例は、HPのような歴史の長い大企業に就職する学生にとって直接、役立つものなのです』、「AGCの変革は一朝一夕では実現できません。同社は創業110年以上の歴史の長い企業です。このような企業を変革するのは、並大抵のことではありません。私の見立てでは、少なくとも10年はかかるはずです」、やはり「歴史の長い企業」には時間がかかるようだ。「「両利きの経営」は世界中の大企業にとってますます重要になってきています。特に、アメリカでは経営者が自らの報酬を最大化するために短期利益を追求し、場当たり的な戦略を実施した結果、失敗してしまう事例が後を絶ちません。 ヒューレット・パッカード(HP)は、その典型的な事例でしょう。かつては革新的な企業の代名詞であった同社は、度重なるトップの交代と分社化で、今苦境に立たされています」、なるほど。
・『「両利きの経営」を成功させるために必要不可欠な五つの条件  佐藤 「両利きの経営」を実践しようとする日本企業の中には、「新規事業部門や新規ビジネスを立ち上げただけで終わってしまう」「経営者が人事にまで踏み込んで改革しなかったため、結局、新規事業部門が保守化してしまった」といった失敗事例も見受けられます。日本企業の経営者にどのようなアドバイスをしますか。 オライリー おっしゃる通り、「両利きの経営」は「言うはやすく行うは難し」で、頭では理解していても、正しく実践するのは難しいものです。なぜなら、経営者に相当な勇気と覚悟が必要だからです。 しかしながら、決して実現不可能なものではありません。私が「両利きの経営」を実践している大企業の経営者に助言しているのは、次の5点です』、「「両利きの経営」を成功させるために必要不可欠な五つの条件」とはどんなものなのだろうか。
・『(1)「両利きの経営」を経営陣が一丸となって推進する  「一丸となって」というところが肝です。例えば、「この専務は新規ビジネス推進派だけれど、この専務は反対派だ」というような状況を社員が察すれば、どうなるでしょうか。「どちらかにつくと今後の自分のキャリアに影響が出るから、ここは黙って、何もしないでおこう」となるでしょう。 いくら社長が「両利きをやる」といっても、自分の経営チームがまとまっていなければ、失敗してしまうのです。あなたが社長であれば、自分の経営チームは全員「両利き」賛成派にしなければなりません。 (2)二つの異なる企業文化を同時に管理する  ここで重要なのは、新規事業部門の起業家的な文化と既存事業部門の伝統的な文化を別々に管理し、間違っても、新規事業部門に伝統的文化が侵食しないようにすることです。さらにはこの二つの部門は、それぞれ文化は違っても、同じ経営理念を共有しなければなりません。つまり一つの経営理念のもと、二つの異なる企業文化を同時に管理していくことが重要なのです』、(1)は当然だろうが、(2)は結構、難しそうだ。
・『(3)新規事業部門は既存事業部門とは別に設立する  新規事業部門の役割は新しい事業の開拓(explore)であり、既存事業部門の役割は現事業の深化(exploit)です。両者は必要なリソースもプロセスも違います。そのため新規事業部門は、既存事業部門とは切り離して設立する必要があるのです。 (4)規模の拡大のためにリソースを投入する  新規ビジネスが軌道に乗り始めたら、拡大のためのリソースを十分に投入することが必要です。既存事業でもうけたお金をリスクの高い新規事業に投入するのは、簡単なようで難しいものです。なぜなら、会社全体の利益も経営者自らの報酬も減ってしまうリスクがあるからです。経営者が勇気をもって投入しなければ、「小さなビジネスがたくさん立ち上がっただけ」で終わってしまいます。 (5)最低5年は「両利き」を続ける  ベンチャー投資家がスタートアップ企業に投資する際、黒字化まで5~7年かかることを前提で投資しますが、大企業が社内事業に投資する際も同じことが言えます。「2年で黒字化しなければ撤退」と言われれば、社員は萎縮してしまい、破壊的なビジネスに挑戦できなくなります。 「両利きの経営」を成功させるための魔法はありません。この5点を実践する勇気が必要なのです』、(3)も当然だろうが、(4)はやはり難しそうで、「経営者」の覚悟が必要なようだ。(5)は果たして「5年」も我慢できるのかと心配になる。
・『トップが保守的だと感じても中間管理職には挑戦をやめないでほしい  佐藤 「両利きの経営」の読者の多くは、中間管理職です。読者の中には、「私が勤めている会社の経営陣は皆、保守的で、どうも両利きの経営を実践してくれそうにない。このままでは会社が傾いてしまうかもしれない」と不安に思っている人もいます。こうした中間管理職の人たちに、どのように助言しますか。 オライリー 「両利きの経営」を成功させるために、最も肝要なのが経営陣のリーダーシップであることは間違いありません。新規事業部門を設立し、必要な資金や人材を投入する決断をするのは経営者です。中間管理職がどれだけ素晴らしい提案をしても、実現するためのリソースや組織がなければ、事業化できません。 そうはいっても、中間管理職の皆さんには挑戦をやめないでほしいのです。中間管理職が「自社では新規事業はできない」と不満を述べている場合、経営者の保守化を言い訳にしているケースが多々見られます。「こんな新規事業をやってみたい」「こんな製品をつくってみたい」と思うなら、まずは下から上にどんどん提案することです。それが上を動かすことにもつながります。 佐藤 今後、研究してみたい日本企業はありますか。 オライリー NEC、AGCのほかにも、パナソニック、ソニー、トヨタ自動車、ホンダ、ANAなど、多くの日本の大企業が今、「両利きの経営」を実践していると聞いています。こうした日本企業の事例はどれも研究対象として興味深いものです。 私もスタンフォードの学生も、日本企業からまだまだ学ぶべきことがたくさんあると実感しています。私は、日本企業の未来については楽観的に見ています。日本企業の強みである製造能力、テクノロジーなどを生かし、長期的な視点でイノベーションを創出していけば、仮に今は成長が停滞していても、必ずまた成長していくと思います。 日本企業は変われないとよく聞きますが、私は、日本企業は「両利きの経営」を成功させることができるし、自力で変わることができると信じています。(チャールズ・オライリー氏の略歴、佐藤智恵氏の略歴はリンク先参照)』、「日本企業の強みである製造能力、テクノロジーなどを生かし、長期的な視点でイノベーションを創出していけば、仮に今は成長が停滞していても、必ずまた成長していくと思います。 日本企業は変われないとよく聞きますが、私は、日本企業は「両利きの経営」を成功させることができるし、自力で変わることができると信じています」、「オライリー氏」の予言が実現してほしいものだ。
タグ:(その4)(マッキンゼー:日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋、『両利きの経営』著者が指摘 日本企業の多くがイノベーションを勘違いしている チャールズ・オライリー教授インタビュー(前編)、NECやAGCにスタンフォードの学生が興味津々の理由 『両利きの経営』著者に聞く チャールズ・オライリー教授インタビュー(後編)) イノベーション 東洋経済オンライン 野崎 大輔 田口 弘一郎 「日本でイノベーションが生まれなくなった真因 新規事業の構築における「5つの罠」と処方箋」 「研究開発費売上高比率」は上昇、「研究者数」も増加しているのに、「特許出願数などで中国に後れを取り始めている」ようだ。 「1人当たり研究開発費」と「特許出願件数」は中国や米国では比例関係がみられるが、日本では「2000年代後半から」インプットを増やしてもアウトプットが増えない、むしろ減ってしまうという壁に突き当たってしまっている」、確かに不思議な「生産性の低下」だ。 「アメリカや中国は、過去20年間で大きく研究開発分野をシフトさせてきた」、他方、「日本の研究開発領域は、過去20年ほとんど変わっていない」、「驚くべき硬直性である」、「アウトプットとしての事業領域がシフトできていない、新たなニーズをうまくとらえた事業を展開できていないために、研究開発も既存の領域にとどまり、結果的に生産性が低下してきてしまっているのではないか」、 「上場企業の新陳代謝は、アメリカに比べ日本は非常に緩やかである。2017年の日経新聞調査によれば、ニューヨーク証券取引所の上場企業における平均寿命・・・は15年であるのに対し、日本取引所上場企業の平均寿命は89年。経営の安定性が高い一方で、新陳代謝が進みにくく、新たな産業領域の開拓は苦手な傾向にある」、「既存企業の中において、新たな事業構築にかかわるマネジメントの行動様式を整え、そして組織としてのスキルを獲得すること(リスキリング)で、企業の新陳代謝を高め、新たな事業領域を切り開くことができるのではないだ 日本企業の新規事業構築「5つのポイント」 (1)「製品開発」の発想で「事業開発」を推進しない 「製品開発から事業開発への考え方の切り替えが、リスキリングの重要な一歩となる」、その通りだろう。 (2)既存事業の物差しで新規事業を見ない 「新規事業については組織を分け、担当役員も完全に分離した上で、新規事業に係る意思決定は既存の経営会議と分けて実施をするのがあるべき姿といえる」、なるほど。 3)新規事業の成功体験を持つ外部人材の活用 「起業経験・VC経験を持つ社外の人材をアドバイザーとして起用したり、短期契約でも新規事業創出のプロセスを一緒にひと回ししてもらい、社内の人材に実体験を蓄積したりすることが効果的」、なかなかいいアイデアだ。 (4)リスキリングを組織として消化する 「新規事業として独立した人事制度・採用枠を作り、必要な人材がクリティカルマスを超えるように、新卒・中途双方での採用を行うべきである」、なるほど。 (5)新規事業=ゼロイチというバイアスの克服 「本当にゼロから立ち上げる新規事業を目指すのであれば、経営陣として覚悟を持ち、外部役員の登用や人事制度の独立など、これまで述べてきたようなドラスティックなやり方を取ってリスキリングも並行して進めていくことが必要となる」、「経営陣として覚悟」が弱ければ、モラルも上がる筈もない。 ダイヤモンド・オンライン 佐藤智恵氏による「『両利きの経営』著者が指摘、日本企業の多くがイノベーションを勘違いしている チャールズ・オライリー教授インタビュー(前編)」 『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』の増幅改訂版 「「両利きの経営」の出版以来、オライリー教授の提唱する「既存事業の深化と新規事業の探索を同時に行う経営手法」は多くの日本企業に取り入れられ、経営のスタンダードになりつつあります」、「自社はもう変われないと思っていたが、必要に迫られるとこれほど自社は変われるのかと実感し、変革に前向きになった経営者や社員がたくさん出てきた」、なるほど。 「この会社のイノベーションは、三つのフェーズのうちの「着想」で終わっていて、「育成」「規模の拡大」までたどりついていなかったのです」、「これまで会社を成長させてきた既存事業の企業文化が「両利きの経営」推進の障害にもなり得る」、あり得る話だ。 「「既存事業部門のものづくり文化」と「新規事業部門の起業家的な文化」を両輪で回すことです。全く異なる企業文化の管理はトップにしかできません。 既存事業部門の社員には、AGCの伝統であるものづくり文化を大切にしつつ、生産性の向上とグローバル展開に注力することを奨励し、新規事業部門の社員には、起業家のようなマインドで仕事をしてイノベーションを創出することを奨励しました」、「AGC」の「トップ」は「全く異なる企業文化の管理」をしたとは大したものだ。 、確かに「社名を変え、組織を変え、文化を変えたAGCが今後どのように変わっていくのか、注目」、同感である。 佐藤智恵氏による「NECやAGCにスタンフォードの学生が興味津々の理由、『両利きの経営』著者に聞く チャールズ・オライリー教授インタビュー(後編)」 「既存事業部門ではこうした起業家精神にあふれた社員の熱意や能力を受け止めきれないことです」、「グローバルイノベーションユニットやNEC Xはいずれも若い社員ややる気のある社員に活躍の場を与える組織として、重要な役割を果たしている」、なるほど。 「AGCの変革は一朝一夕では実現できません。同社は創業110年以上の歴史の長い企業です。このような企業を変革するのは、並大抵のことではありません。私の見立てでは、少なくとも10年はかかるはずです」、やはり「歴史の長い企業」には時間がかかるようだ。「「両利きの経営」は世界中の大企業にとってますます重要になってきています。特に、アメリカでは経営者が自らの報酬を最大化するために短期利益を追求し、場当たり的な戦略を実施した結果、失敗してしまう事例が後を絶ちません。 ヒューレット・パッカード(HP)は、その典型的な 「両利きの経営」を成功させるために必要不可欠な五つの条件 (1)「両利きの経営」を経営陣が一丸となって推進する (2)二つの異なる企業文化を同時に管理する (1)は当然だろうが、(2)は結構、難しそうだ。 (3)新規事業部門は既存事業部門とは別に設立する (4)規模の拡大のためにリソースを投入する (5)最低5年は「両利き」を続ける (3)も当然だろうが、(4)はやはり難しそうで、「経営者」の覚悟が必要なようだ。(5)は果たして「5年」も我慢できるのかと心配になる。 「日本企業の強みである製造能力、テクノロジーなどを生かし、長期的な視点でイノベーションを創出していけば、仮に今は成長が停滞していても、必ずまた成長していくと思います。 日本企業は変われないとよく聞きますが、私は、日本企業は「両利きの経営」を成功させることができるし、自力で変わることができると信じています」、「オライリー氏」の予言が実現してほしいものだ。
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