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ノーベル賞受賞(その7)(ノーベル賞・吉野氏のエール「私たちはハッピーな時代にいる」、「研究は苦しいことの連続だが あるラインを越えると楽しくなる」――ノーベル化学賞の吉野氏、大日本帝国憲法で独立守ったエチオピア 天皇制と縁の深い今年のノーベル平和賞) [イノベーション]

ノーベル賞受賞については、昨年10月21日に取上げた。久しぶりの今日は、(その7)(ノーベル賞・吉野氏のエール「私たちはハッピーな時代にいる」、「研究は苦しいことの連続だが あるラインを越えると楽しくなる」――ノーベル化学賞の吉野氏、大日本帝国憲法で独立守ったエチオピア 天皇制と縁の深い今年のノーベル平和賞)である。

先ずは、本年10月10日付け日経ビジネスオンライン「ノーベル賞・吉野氏のエール「私たちはハッピーな時代にいる」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00059/101000208/
・『2019年10月9日、米国のJohn Goodenough氏、英国のStanley Whittingham氏とともに、旭化成名誉フェローの吉野彰氏の、ノーベル化学賞の受賞が決まりました。「日経ビジネス」2010年8月30日号に登場いただいた吉野氏の、読者や研究者へのエールを再掲載いたします。 私が1980年代半ばに発明したリチウムイオン電池は、今では人々の生活の様々な電気機器で使われるようになりました。携帯電話やパソコン、情報機器などへの搭載が進み、本格的な普及が始まったのが約15年前。研究者である私にしてみれば、研究が本格的に始まった約30年前がリチウムイオン電池の黎明期だったという認識です。 今、電池の研究はその時に匹敵する大きな節目を迎えています。携帯など小型の民生分野から、電気自動車やエネルギーインフラなど中型・大型と呼ばれる分野へ、市場の大転換が始まったからです。本格的な普及期に入るのが15年後の2025年頃。必要な電圧も、これまでの20ボルト程度から700ボルトに達すると見られています。 電池関連の研究に携わる人には、間違いなくハッピーな時代がやってきたと言えますね。市場は広がる一方なのに、技術が十分についていっていないのですから、やるべきことが山ほどある。研究者が思う存分に活躍できる時代だと言うこともできます。 ただし、私がリチウムイオン電池の研究を始めた約30年前と比べ、研究者を取り巻く環境は大きく変わりました。以前は、電池材料の研究など、モノ作りの「川上」に没頭していれば済んだようなところがありましたが、今後は充電システムや、それらをネットワーク化した社会インフラなど「川下」まで含めた構想力が求められます』、「以前は、電池材料の研究など、モノ作りの「川上」に没頭していれば済んだようなところがありましたが、今後は充電システムや、それらをネットワーク化した社会インフラなど「川下」まで含めた構想力が求められます」、今後求められるのは、どちらかといえば、日本人が不得手な分野のようだ。
・『技術が激動する時代は、日本の企業や研究者が大きな“宝物”をつかみ取るチャンスです。私は大いに期待していますが、心配な面もあります。 まず、パソコンのソフトウエアのように、「川下」分野ではデファクトスタンダード(事実上の標準)を握ることが重要だということです。その点、日本企業は自分たちの製品やシステムを世界にアピールすることが苦手です。もう技術力の優位性だけでは勝てない時代なのですから、電池を無償提供しながら充電インフラを売って利用実績を積み上げるようなアプローチが必要になるでしょう。相手にメリットを与えながら、自分たちも得できるような、したたかな戦い方が必要です。 もう1つは、若手の研究者に成功体験が少なくなってしまったことです。試行錯誤が続く研究では教科書的な解決策では済まない課題が次々と出てきます。ここでモノをいうのが経験です。 この15年間ほど、リチウムイオン電池は改良型の研究開発が多かったので、大きな壁にぶつかってそれを乗り越えた経験があまりない。私たちの世代が若手と一緒に活動しながら、自分の成功体験を伝えていくことが、非常に大切になってくると思います。 リチウムイオン電池は、最終製品こそ日本メーカーのシェアは5割程度ですが、原材料ベースのシェアは約85%にもなり、日本が圧倒的に強い分野です。たとえ電池の世代交代が起こっても、システム化で勝負する時代になっても、日本勢は踏ん張って存在感を示してほしい。そのためにも研究者には「今、ハッピーな時代にいる」ことを再認識して気持ちを奮い立たせてもらいたいのです。(談)』、「たとえ電池の世代交代が起こっても、システム化で勝負する時代になっても、日本勢は踏ん張って存在感を示してほしい。そのためにも研究者には「今、ハッピーな時代にいる」ことを再認識して気持ちを奮い立たせてもらいたいのです」、同感だ。

次に、10月10日付け日経XTECH「「研究は苦しいことの連続だが、あるラインを越えると楽しくなる」――ノーベル化学賞の吉野氏」を紹介しよう。
https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/01023/100900005/
・『本記事は日経ものづくりの過去記事を再掲載したものです。 持ち歩ける電子機器に、今やリチウムイオン2次電池は欠かせない。この電池は正極にコバルト酸リチウム(LiCoO2)、負極にカーボン(C)を使う。1985年にこの基本構成を発明し、基本特許を成立させたのが、吉野彰氏だ*1。同氏が研究者としてこの発明を成し遂げたのは、常に顧客に役立つための研究を意識し、貫いてきたからである。 *1 吉野氏はリチウムイオン2次電池の基本構成の特許第2668678以外にも、価値の高い特許を取得している。そのうちの一つが、正極の集電体にアルミニウムはくを使った特許第2128922号。 1972年に旭化成に入社した同氏は、機能性樹脂の研究にいそしむ。9年目の1981年、吉野氏は研究テーマにポリアセチレンを選び、3人の小規模な研究グループのリーダーとなった。ポリアセチレンは、後の2000年にノーベル化学賞を受賞することになる白川英樹氏が世界で初めて発見した導電性樹脂である。この樹脂には、電気を流すと電気化学的に酸化還元反応を示す特性があった。これをうまく利用すれば、2次電池として機能する。吉野氏はポリアセチレンに期待されていたさまざまな特性を丹念に調べ、2次電池の可能性を確信する。 試行錯誤で研究を進める中、吉野氏は偶然、ある海外論文に目を通し、LiCoO2が正極に使えることを知る。一方、負極にはポリアセチレンと同じ特性を持ち、より低コストなカーボンで代用できることを発見した*2。当初は有望と考え、研究のきっかけとなったポリアセチレンだが、実用化に向けた評価を進める過程で、熱に対する安定性に欠け、比重が小さく電池にした場合に小型化できないという弱点を突き止めた同氏は、すぐに他の材料に切り替えたのだ。そして、LiCoO2とカーボンを組み合わせた2次電池を試作し、実験して息をのむ。充電も放電もうまくいった。リチウムイオン2次電池が誕生した瞬間だった。 *2 吉野氏がリチウムイオン2次電池の負極に使ったカーボンは「気相成長法炭素繊維(VGCF、Vapor phase Grown Carbon Fiber)」。直径10nm、長さ1~2cmほどの繊維状のカーボンを、バインダで固めて負極に加工した。VGCFは宮崎県延岡市にある旭化成の繊維系の研究所が開発していた』、「弱点を突き止めた同氏は、すぐに他の材料に切り替えた」、とは吉野氏は非常に柔軟なようだ。
・『「研究は苦しいことの連続だ。だが、苦しさがあるラインを越えると、“ランナーズハイ”のように楽しくなってくる」と吉野氏は語る。だが、そのためには押さえるべきポイントがある。「研究の初期段階で市場性を徹底的に調べること」(同氏)だ。 企業は利益を追求する組織である。そのため、研究がある水準に達し、それ以上継続させるためには、市場があることや技術がものになることを企業側に証明する必要があるというのだ。「事業に結び付かない研究は、遅かれ早かれストップが掛かる。その際、研究者は継続したい一心で、市場や技術の優位性をでっち上げたい気持ちに駆られることもある。だが、そうしたところでうまくいくものではない。だからこそ、できる限り早い段階で対象となる研究の将来性を見極めることが大切だ」と吉野氏は力説するのだ。 吉野氏は2003年に旭化成のグループフェローに任命された*3。この成功の源をたどると、ポリアセチレンの研究に着手してすぐに2次電池の市場や技術を調査し、市場が大きいことや、そのために解決すべき技術的な課題を把握していたことが大きい。 *3 旭化成グループフェロー制度は、2003年に同社がグループ共通の制度として設けた。優れた業績を上げた研究者に「グループフェロー」の称号を与えて高く評価し、厚く処遇する。若い研究者や技術者のモチベーションを鼓舞する狙い。』、「研究は苦しいことの連続だ。だが、苦しさがあるラインを越えると、“ランナーズハイ”のように楽しくなってくる」、面白い比喩だ。「研究の初期段階で市場性を徹底的に調べること」、民間企業で研究者として生き残れた秘訣なのかも知れない。
・『化学メーカーである旭化成には電池の経験がなかった。そのため、吉野氏は電池メーカーの技術者に話を聞きに行く。だが、普通には会ってくれない。そこで同氏は両者(正しくは両社?)の幹部同士を通じて非公式な話し合いを設けてもらい、その電池メーカーの技術者から市場性や技術的な課題を聞いたのだ。その時、特に「安全性が開発のネックである」という貴重な情報を得た。これにより、「研究の初期の段階で最優先に解決すべき課題を知ったことで、商品化に有利になった」(同氏)。 旭化成のフェロー制度は、研究水準の高さに加え、事業を成功に導いて利益へ貢献したかも厳しく問う。研究と市場の二兎にとを追ったからこそ、吉野氏はフェローの称号を手にしたのだ。同氏は現在も若手研究者に市場に目配りすることの重要性を説いている。 出典:日経ものづくり、2005年5月号 特集「悩める技術者の幸福論 Part2 技術で生きる10人の幸福論、研究の目的を事業化の成功に置き 市場調査を徹底してフェローに昇格」を改題 記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります』、「普通には会ってくれない。そこで同氏は両者の幹部同士を通じて非公式な話し合いを設けてもらい、その電池メーカーの技術者から市場性や技術的な課題を聞いたのだ。その時、特に「安全性が開発のネックである」という貴重な情報を得た」、組織や上司の動かし方もなかなか上手いだけでなく、ヒアリング能力にも長けていたようだ。やはり非凡な人物のようだ。

第三に、イノベーションのカテゴリーには入らないが、作曲家=指揮者で東大准教授の伊東 乾氏が11月20日付けJBPressに掲載した「大日本帝国憲法で独立守ったエチオピア 天皇制と縁の深い今年のノーベル平和賞」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58236
・『2019年のノーベル平和賞は、エチオピアのアビ・アハメド首相に授与されました。 ところが受賞の報の直後、これに抗議する人々のデモと治安部隊が衝突し、67人が亡くなるという報道がありました。 全く穏やかではありません。ノーベル平和賞を受賞したはずの治安部隊側の発砲で死者が出ており、決して「平和な平和賞」ではないことが知られます。 アフリカ大陸には国境がありますが、その多くは直線で仕切られています。例えばエジプト、リビア、スーダン、チャドなどの間の国境は、サハラ砂漠の上に引かれた真っ直ぐの線で、つまり架空の国境に過ぎません。 誰が引いたか、と言えば、アフリカを植民地として権利を主張し合った西欧列強による分割で、実際のアフリカ社会は別のルールでできています。 それは「部族社会」です。 ルワンダ・ジェノサイドで対立した「フトゥ」「トゥティ」の両者は<部族>ではなく社会階層の違いでしたが、実質的にはグループとして対立し、3か月間で120万とも180万ともいわれる数の犠牲者が出ました。 アフリカの対立は欧州の植民地化と部族の対立を考えねば、一般には何も分かりません』、「ノーベル平和賞を受賞したはずの治安部隊側の発砲で死者が出ており」、私もどうなっているのだろうと、疑問に思っていた。ただ、「ノーベル平和賞」は余りに政治的に決まるので、その1つかとも思った。
・『しかし、広いアフリカ大陸の中に、2つだけ、独立を保った国家があります。すなわち、ごく一時期の例外を除いて、アフリカ人の自治国家が継続した国があるのです。 一つは「リベリア」ですが、これは名前から分かるようにリベラル、リバティ、つまり自由の名を冠した、アメリカ合衆国で解放奴隷となった人々がアフリカに戻ってアメリカ合衆国憲法を範として建国した国家です。 リベリアの国旗は「星条旗」に星が1つだけというもので、建国の経緯もあって西欧列強の植民地化は避けられました。 では問題がなかったかと言われると・・・そんなことは全くありません。 米国で奴隷から解法された黒人支配階層は、元来このエリアの出身ではなく、様々な地域にルーツを持つ人々です。 そのような「アメリコ・ライべリアン」と、そもそもこのエリア(胡椒海岸)に住む原住民との間には、差別と対立が発生します。米国からの移民と違い、欧化されておらず貧困層を形成していたためです。 このアメリコ・ライべリアン支配は1980年にクーデタで終結しますが、以後、リベリア現地の部族間対立によって血で血を洗う凄惨な対立と内戦が断続しています。 やはり「部族対立」がアフリカを特徴づけていることは間違いありません。 このリベリアと似て非なる経緯を取ってきたのが、エチオピアの歴史にほかなりません』、リベリアがそんな歴史を抱えた国というのは初めて知った。
・『大日本帝国憲法とエチオピア独立  リベリアは1847年、つまり19世紀半ばに、先進国の支援もあって作られたアフリカの拠点という性格がありましたが、それと全く事情が違うのがエチオピアです。 エチオピアの歴史は古く、その国名はギリシャ語で「日に焼けた顔」を意味するアイティオプスに由来します。 紀元前から栄えた古代エチオピア帝国は、3~4世紀にかけてキリスト教が伝来し、コプト派キリスト教国として大いに栄えます。 このエチオピア・キリスト教徒たちはイスラム勢力と良好な友好関係を保ち、中世には独自のアフリカ・キリスト教大国として繁栄し、ローマ教皇などとも友好関係を取り結びました。 近世のエチオピアが独立の命脈を保つことができた一因には、このキリスト教の背景が存在すると考えられます。しかし19世紀の帝国主義はそこまで甘くありませんでした。 エチオピアも、とりわけ後発列強として植民地獲得を急いで、ソマリア、エリトリアを領有していたイタリアによって容赦なく植民地化の危機にさらされます。 しかし1896年「アドワの戦い」でイタリア軍を下し、独立を守りました。 この年号が、日清戦争の勃発した1894年と近接していることに注意する必要があります。 つまり東アジアにおいては、大国である清に対して新興国の日本が勝利し、10年後には列強の一つであるロシア帝国も打ち負かして領土を拡大、日本が列強の一角に台頭するわけです。 片やアフリカでは、イタリアを打ち負かして領土拡大とまでは行きませんでしたが、現地民が帝国主義の支配をはねのけて、独立を守ることができました。 この時期以降エチオピアは日本を手本として、民族自決を考えるようになります。 エチオピア帝国最後の皇帝であったハイレ・セラシエ1世(1892-1975)はエチオピア正教会に属するキリスト教徒でした。 1916年に摂政として国内の実権を握ると、第1次世界大戦後の1924年には国際連盟に加盟、イタリアやフランスなど近隣植民地からの帝国主義支配を強める列強に対抗すべく米国や日本との関係を強化します。 そして1930年に即位すると、翌31年に大日本帝国憲法を模範とするエチオピア初の成文憲法「1931年憲法」を発布して絶対主義的な支配体制を確立します。 ハイレ・セラシエは黒人民衆の「現人神」と位置づけられ、イキガミであるエチオピア皇帝を軸として、西欧列強の進出に対して対抗するアフリカ自決のイデオロギーとして機能します。 のちにジャマイカ出身のラスタファリ運動ではハイレ・セラシエがキリスト教の神と同一視されるような右派的傾向をも生み出しています。 ともあれ、ハイレ・セラシエ1世は、エチオピア国内の互いに対立する各部族の地主支配や搾取など、古くからの経済構造を基本的に温存し、地域共同体を守るとともに、西欧列強の植民地支配による社会の崩壊・改変を免れることに成功します。 ここから「大日本帝国憲法」のようなものの持つ意味や効果もよく分かると思います』、「エチオピア国内の互いに対立する各部族の地主支配や搾取など、古くからの経済構造を基本的に温存し、地域共同体を守るとともに、西欧列強の植民地支配による社会の崩壊・改変を免れることに成功します」、当時のアフリカでは確かに、「西欧列強の進出に対して対抗するアフリカ自決のイデオロギーとして機能します」、希望の星だったのだろう。
・『絶対主義憲法の功と罪  エチオピア皇帝ハイレ・セラシエ1世は1935年からファシスト政権イタリアの攻撃を受けて翌36年、ナチス・ドイツのヒトラーがベルリン・オリンピックを開催した年にロンドンに脱出します。 しかし、5年の亡命生活を経て1941年、英国軍によってファシスト・イタリアは駆逐され、再び凱旋することになります。 そののち、1974年に帝国が崩壊するまで、ハイレ・セラシエ1世は30余年にわたってエチオピアに君臨し、外交面では独自の活躍を見せました。 その際、疑似「大日本帝国憲法」による国内統治は地方の有力者利権を温存し、政党を禁じ自由な経済発展を阻害するローカルな搾取構造に依存したままだったので、世界の波に乗り遅れ、第2次世界大戦後の高度成長からすっかり取り残されてしまいます。 その結果、戦後のブレトン・ウッズ体制で躓き、さらにそのレジームが崩壊する石油ショックの時期には、エチオピアは世界最貧国の地位にまで転落してしまいます。 82歳の高齢に達していたハイレ・セラシエ1世はクーデターによって逮捕・廃位され、射殺されて生涯を閉じました。 ここから、アラヒトガミを担ぐ「大日本帝国憲法」のような絶対主義体制の持つマイナス面が露骨に見て取れます。 地域ごとのローカルな搾取構造を温存し「身の丈」に合った代々の生活の踏襲を強要、優秀な人材があっても適切な教育を受けさせることなく、国内の自由な経済発展やイノベーションを阻害させてしまう。 無能な地主など地域のボスが利権を貪り続けることで、地域ないしは国家全体の成長が停滞し、GDP(国内総生産)は伸びず若者はロスジェネレーション化、将来に期待が持てず社会不安が広がる・・・。 まるでどこかの国のどこかの時期のような状況をエチオピアの歴史は露骨に垣間見せてくれています。 こんなところで「天皇陛下万歳」のような「ハイレ・セラシエ現人神」の万歳連呼や個人崇拝を続けても、しょせんは社会の矛盾が激化して、80歳を過ぎた現人神が廃位、銃殺されて帝国2000年の歴史が閉じるのが関の山ともなりかねません。 そのようになって以降のエチオピアはいったいどうなったのか?) そこにこそ今年のノーベル平和賞の光と影があります』、「世界最貧国の地位にまで転落」したのであれば、「クーデターによって逮捕・廃位され、射殺」、というのもやむを得ないだろう。
・日本がエチオピアに学ぶこと   1990年代。血で血を洗った旧ユーゴスラビアの内戦はいまだにその禍根を引きずっています。これはチトー(大統領)という圧倒的な求心力を失ってバラバラになったバルカン半島を襲った分裂の悲劇でした。 エチオピアも、列強の支配からアフリカ黒人の自決国家を守るという意味をもった「大日本帝国憲法」型の絶対主義独裁が、「開発独裁」の体裁を為さず、停滞的な部族封建社会を温存したために20世紀の高度成長トレンドに完全に乗り遅れた。 そこで、エチオピアは貧困と飢餓を乗り切るべく、別の求心力、冷戦期の一神教というべき社会主義に舵を切ります。 背後にはソ連の支援があり、エチオピアは臨時軍事行政評議会が支配するソビエトの衛星国として、スターリン粛清なみの恐怖政治が続きます。 ところが、雪解けの1987年に立憲制の人民民主共和国が宣言され、冷戦崩壊後の91年、まず併合していたエリトリアとの分離紛争が勃発、93年にエリトリアが独立、エチオピアも95年に連邦民主共和国に体制が変わり、現在に至っています。 ここからエチオピアの抱える病が透けて見えることになります。 日本同様、アラヒトガミを担いで西欧列強の植民地支配を免れたエチオピアでしたが、封建的な身分固定型の停滞憲法に固執したために、社会経済は成長のタイミングを逸し、国家経済は下流に転落します。 いま日本で「身の丈」などという言葉が去来したり、あろうことか教育勅語など、旧憲法体制への反動のようなものも見かけるわけですが、これらは「エチオピア状況」への転落に直結します。 おかしな憲法壊制は予防しなければならないでしょう。 入試制度を壊しかけていますが、身分の固定化は間違いなく社会を停滞させるとともに、階層化と貧困の固定、社会不安や若年層の不満の堆積などを招来し、ろくな未来をもたらさないのも、エチオピアの歴史が雄弁に教えるところです。 今回ノーベル平和賞を授与されたアビ・アハメドは1976年生まれでいまだ43歳の壮年軍人ですが、かつて併合し、1990年代の分離独立以来、武装対立が絶えなかったエリトリアとの和平を成立させたことで、ノーベル賞を授与されました。 かつて併合した地域と、ヘイトの何のといったゼノフォビア、対外嫌悪で右傾化することがいかに愚かしいか、どこかの国も参考にするとよいと思います』、「封建的な身分固定型の停滞憲法に固執したために、社会経済は成長のタイミングを逸し、国家経済は下流に転落します。 いま日本で「身の丈」などという言葉が去来したり、あろうことか教育勅語など、旧憲法体制への反動のようなものも見かけるわけですが、これらは「エチオピア状況」への転落に直結します」、その通りだ。
・『さて、しかし昨年2月に首相に選ばれたのが若いアビ・アハメドで、その名の示す通りイスラムの背景をもち、エチオピアの人口で最大数に相当する「オロモ人」出身の初の首相になります。 民衆人口の多数を占めるオモロ人は、リベリアやルワンダでの歴史と同様に、エチオピア内戦を通じて民族自決の分離独立を主張し、統一政府からテロリストとして弾圧されてきた歴史があります。 エチオピアの1995年憲法は、各部族に民族自決の権利を認める画期的な内容が記されており、自治を認めた「連邦民主共和国」の体制を取っているはずです。 ところが、その実は政権を取った人口第2位勢力の「アムハラ人」人口第3位の「ティグライ人」などの政権下で不満が鬱積し、オロモ人の土地「オロミア」の独立を求めて先鋭化します。 2018年の2月には非常事態宣言が出されるなか、オロモ人のアビが首相に選出されたという経緯がありました。 アビ首相は、周辺国との緊張を緩和し、自国内の民族間対立を融和に導く人道的な政策を相次いで打ち出し、永年の外交課題であったエリトリアとの和平を成立させます。 しかし、こうした融和政策に、そもそものアビの出身母体であるオロモ人急進派が反感を持ち、反旗を翻すようになったのです。 自分たちオロモ人の代表として全エチオピアの舵取りを任されたのに、むしろオモロ人に不利な融和政策ばかりやっている。 アビは独裁的だという急伸(正しくは:急進)右派の武力を含む抵抗が、今回報道された治安当局とデモ隊の衝突の実態と考えられています。 融和主義政策が弱腰だとして右派が台頭というと、第2次世界大戦前のネヴィル・チェンバレン英国首相を想起せずにおられません。 彼の異母兄にあたるオースティン・チェンバレン英外相は第1次世界大戦後、平和共存のロカルノ条約締結で1925年のノーベル平和賞を受賞しておりなおさらそれを感じます。 その反動の色彩ももってウインストン・チャーチル政権の第2次世界大戦参戦に至る経緯、チャーチルはのちにノーベル文学賞を受けますが、平和賞をもらうような人物では決してありませんでした。 金本位制に関するチャーチルの光栄ある大英帝国妄想という時代錯誤は、ボリス・ジョンソン現政権の迷妄の祖先の一つのようにも思います』、「アビは独裁的だという急進右派の武力を含む抵抗が、今回報道された治安当局とデモ隊の衝突の実態と考えられています」、どうやら「デモ隊」の方に非がありそうだ。「金本位制に関するチャーチルの光栄ある大英帝国妄想という時代錯誤は、ボリス・ジョンソン現政権の迷妄の祖先の一つのようにも思います」、面白い見方だ。
・『閑話休題  自分たちの部族をこそ優遇すべきだという地元利権で固まった行動右翼が、政府側治安当局と衝突して70人からの死者が出る現状に、部族支配と対立、もっと言うならその利権構造の根深さを見ないわけにはいきません。 ノーベル賞、ひいては先進国際社会は、アビ首相の融和政策を支持、評価して今回ノーベル平和賞を与えました。 間違ってもドナルド・トランプ米大統領や北朝鮮の金正恩委員長にノーベル平和賞が与えられることはありません。 バラク・オバマ前大統領にはノーベル賞が与えられましたが、トランプ氏には終生こうした賞は無縁です。 グローバル社会はブロック経済と自由な体制の維持を重視し、本質的にそれに反するトランプ大統領のような人物を危険視こそすれ、東アジアでのスタンドプレーなど評価することは決してありません。 エチオピアのケースも全く同様で、反動的な民族利権と分断を優先する右派の動きに対して、できるだけ平和的な方法で、アビ政権が対処することを各国は望んでいます。 67人の犠牲者が出たことは大変に残念で、繰り返されるべき事態ではありません。 状況は日本についても全く同様です。社会格差の助長やローカル利権の温存による反動、右傾化などは、厳しく国際社会から警戒視されていることを認識すべきと思います。 日本がエチオピアの失敗に学び、同じ轍を踏まぬようにすべきポイントは、まだまだ沢山あると考えておく方が無難、転ばぬ先の杖が大切と認識すべきでしょう』、説得力溢れた主張で、全面的に同意する。トランプ大統領にノーベル平和賞を与えるべきと推薦したのが、他ならぬ安倍首相で、恥ずかしい限りだ。
タグ:リベリア リチウムイオン電池 ノーベル賞受賞 日経ビジネスオンライン JBPRESS 吉野彰 伊東 乾 (その7)(ノーベル賞・吉野氏のエール「私たちはハッピーな時代にいる」、「研究は苦しいことの連続だが あるラインを越えると楽しくなる」――ノーベル化学賞の吉野氏、大日本帝国憲法で独立守ったエチオピア 天皇制と縁の深い今年のノーベル平和賞) 「ノーベル賞・吉野氏のエール「私たちはハッピーな時代にいる」」 ノーベル化学賞の受賞 研究が本格的に始まった約30年前がリチウムイオン電池の黎明期だった 格的な普及期に入るのが15年後の2025年頃。必要な電圧も、これまでの20ボルト程度から700ボルトに達すると見られています 以前は、電池材料の研究など、モノ作りの「川上」に没頭していれば済んだようなところがありましたが、今後は充電システムや、それらをネットワーク化した社会インフラなど「川下」まで含めた構想力が求められます 「川下」分野ではデファクトスタンダード(事実上の標準)を握ることが重要だということです。その点、日本企業は自分たちの製品やシステムを世界にアピールすることが苦手 若手の研究者に成功体験が少なくなってしまった たとえ電池の世代交代が起こっても、システム化で勝負する時代になっても、日本勢は踏ん張って存在感を示してほしい。そのためにも研究者には「今、ハッピーな時代にいる」ことを再認識して気持ちを奮い立たせてもらいたいのです 日経XTECH 「「研究は苦しいことの連続だが、あるラインを越えると楽しくなる」――ノーベル化学賞の吉野氏」 当初は有望と考え、研究のきっかけとなったポリアセチレンだが、実用化に向けた評価を進める過程で、熱に対する安定性に欠け、比重が小さく電池にした場合に小型化できないという弱点を突き止めた同氏は、すぐに他の材料に切り替えた 「研究は苦しいことの連続だ。だが、苦しさがあるラインを越えると、“ランナーズハイ”のように楽しくなってくる」 研究の初期段階で市場性を徹底的に調べること 両者(正しくは両社?)の幹部同士を通じて非公式な話し合いを設けてもらい、その電池メーカーの技術者から市場性や技術的な課題を聞いたのだ 「大日本帝国憲法で独立守ったエチオピア 天皇制と縁の深い今年のノーベル平和賞」 ノーベル平和賞は、エチオピアのアビ・アハメド首相に授与 ノーベル平和賞を受賞したはずの治安部隊側の発砲で死者が出ており、決して「平和な平和賞」ではない アフリカ大陸の中に、2つだけ、独立を保った国家 アメリカ合衆国で解放奴隷となった人々がアフリカに戻ってアメリカ合衆国憲法を範として建国した国家 米国で奴隷から解法された黒人支配階層は、元来このエリアの出身ではなく、様々な地域にルーツを持つ人々です。 そのような「アメリコ・ライべリアン」と、そもそもこのエリア(胡椒海岸)に住む原住民との間には、差別と対立が発生 アメリコ・ライべリアン支配は1980年にクーデタで終結しますが、以後、リベリア現地の部族間対立によって血で血を洗う凄惨な対立と内戦が断続 紀元前から栄えた古代エチオピア帝国は、3~4世紀にかけてキリスト教が伝来し、コプト派キリスト教国として大いに栄えます イタリアによって容赦なく植民地化 イタリアを打ち負かして領土拡大とまでは行きませんでしたが、現地民が帝国主義の支配をはねのけて、独立を守ることができました。 この時期以降エチオピアは日本を手本として、民族自決を考えるようになります エチオピア帝国最後の皇帝であったハイレ・セラシエ1世 大日本帝国憲法を模範とするエチオピア初の成文憲法「1931年憲法」を発布して絶対主義的な支配体制を確立 ハイレ・セラシエは黒人民衆の「現人神」と位置づけられ、イキガミであるエチオピア皇帝を軸として、西欧列強の進出に対して対抗するアフリカ自決のイデオロギーとして機能します エチオピア国内の互いに対立する各部族の地主支配や搾取など、古くからの経済構造を基本的に温存し、地域共同体を守るとともに、西欧列強の植民地支配による社会の崩壊・改変を免れることに成功します 絶対主義憲法の功と罪 1941年、英国軍によってファシスト・イタリアは駆逐され、再び凱旋 1974年に帝国が崩壊するまで、ハイレ・セラシエ1世は30余年にわたってエチオピアに君臨し、外交面では独自の活躍 国内統治は地方の有力者利権を温存し、政党を禁じ自由な経済発展を阻害するローカルな搾取構造に依存したままだったので、世界の波に乗り遅れ、第2次世界大戦後の高度成長からすっかり取り残されてしまいます 石油ショックの時期には、エチオピアは世界最貧国の地位にまで転落 クーデターによって逮捕・廃位され、射殺されて生涯を閉じました 地域ごとのローカルな搾取構造を温存し「身の丈」に合った代々の生活の踏襲を強要、優秀な人材があっても適切な教育を受けさせることなく、国内の自由な経済発展やイノベーションを阻害させてしまう。 無能な地主など地域のボスが利権を貪り続けることで、地域ないしは国家全体の成長が停滞し、GDP(国内総生産)は伸びず若者はロスジェネレーション化、将来に期待が持てず社会不安が広がる 日本がエチオピアに学ぶこと 封建的な身分固定型の停滞憲法に固執したために、社会経済は成長のタイミングを逸し、国家経済は下流に転落 日本で「身の丈」などという言葉が去来したり、あろうことか教育勅語など、旧憲法体制への反動のようなものも見かけるわけですが、これらは「エチオピア状況」への転落に直結します アビは独裁的だという急伸(正しくは:急進)右派の武力を含む抵抗が、今回報道された治安当局とデモ隊の衝突の実態 金本位制に関するチャーチルの光栄ある大英帝国妄想という時代錯誤は、ボリス・ジョンソン現政権の迷妄の祖先の一つのようにも思います 社会格差の助長やローカル利権の温存による反動、右傾化などは、厳しく国際社会から警戒視されていることを認識すべきと思います。 日本がエチオピアの失敗に学び、同じ轍を踏まぬようにすべきポイントは、まだまだ沢山あると考えておく方が無難、転ばぬ先の杖が大切と認識すべきでしょう
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ベンチャー(その5)(アマゾンを“蹴った” 時価総額2兆円ベンチャー スラックが「自主独立」にこだわる理由、フラットな組織も崩壊 「ビジネスの定説」過信で起きた4つの失敗 LayerX・福島良典社長、16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた) [イノベーション]

ベンチャーについては、2月11日に取上げた。今日は、(その5)(アマゾンを“蹴った” 時価総額2兆円ベンチャー スラックが「自主独立」にこだわる理由、フラットな組織も崩壊 「ビジネスの定説」過信で起きた4つの失敗 LayerX・福島良典社長、16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた)である。

先ずは、8月21日付け日経ビジネスオンライン「アマゾンを“蹴った”、時価総額2兆円ベンチャー スラックが「自主独立」にこだわる理由」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00074/081900004/?P=1
・『米アマゾン・ドット・コムと米マイクロソフトという世界を代表する2社がそれぞれ1兆円規模の買収に動いていたとされるベンチャーが米スラック・テクノロジーズだ。だがスラックは、こうした買収提案を蹴って経営の自主独立を守る方針を貫き、株式上場を果たした。ビジネスチャットという新領域で旋風を起こすスラックの強みはどこにあるのか。日経BPから刊行した『10年後のGAFAを探せ 世界を変える100社』で取り上げた多様なイノベーションを生み出すベンチャーを紹介する本連載の4回目では、スラックを取り上げる。 ビジネス用のチャットツール「スラック」が旋風を巻き起こしている。アプリに文字などを打ち込むだけで、チーム全員で情報を共有できる。1対1でもグループでも、誰とでもチャットが可能なことに加えて、PCやスマートフォンなど端末も選ばない。 仕事をするうえで必要な情報を迅速に共有したり、意見交換したりできることが人気になり、瞬く間にユーザー数が増加。14年のサービス開始から5年で、利用者の数は全世界で1000万人を超えた。電子メールと異なり、宛先アドレスを入力する必要がなく、大事なメッセージが埋もれにくい。返信が重なっても「Re:Re:」のような意味不明な件名に悩まされることもない。 世界的に普及が進むスラックを開発したのが米スラック・テクノロジーズだ。2019年6月20日に米ニューヨーク証券取引所に株式を上場。初値は取引所が事前に示す参考価格を48%上回り、株式時価総額は約195億ドル(約2兆1000億円)に達した。 スラックの2019年1月期の売上高は約4億ドル(約430億円)、最終損失は約1億4000万ドル(約150億円)。売上高規模が小さい、赤字のベンチャーなのに、過大な評価ではないかと思う人は少なくないことだろう。 だが上場前から、スラックは世界的なIT大手から巨額の買収オファーを受けていた。2016年にはマイクロソフトが80億ドルで買収を検討していたと報じられ、2017年にもアマゾンが90億ドルで買収を打診したと報じられていた。 1兆円規模の買収オファーに心が動かない経営者はなかなかいないはずだ。多くの株式を保有する創業者は、莫大な資産を手にすることが可能になる。だが、スラックの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のスチュワート・バターフィールド氏は、自主独立の経営を貫く道を選んだ』、高値での買収をオファーされると直ぐに売ってしまうベンチャー企業経営者が多いなかで、骨がある経営者もいたものだ。
・『フリッカーの買収提案を受け入れた苦い経験  買収を拒否する戦略は、マイクロソフトやアマゾンなどを向こうに回して戦うことを意味する。なぜバターフィールド氏はあえて険しい道を進もうとするのか。 背景には過去の苦い経験がある。2004年にバターフィールド氏が共同創業した写真共有サービスのFlickr(フリッカー)。使い勝手の良さが評価され、瞬く間に人気になったが、2005年に米ヤフーからオファーを受けて事業を売却した。 いったんは「世界一のオンライン写真共有サービス」となったフリッカーだったが、あれよあれよという間に転落する。ヤフーの既存サービスと「統合」することを重視した結果、使い勝手が低下。新機能を充実させてイノベーションを生み出すフリッカーの力が弱まってしまったと批判された。 一方で、Facebook(フェイスブック)やInstagram(インスタグラム)が台頭。友人などとつながるソーシャルな写真共有の場として多くの人に支持されるようになる。フリッカーも、独立した企業として経営を続けていれば、違う発展の道があったのかもしれない。 そんな悔しい経験を持つだけに、バターフィールド氏はスラックのCEOとして、魅力的な買収提案を受けても首を縦に振らず、自分たちの手で経営を続けていく方針を守ってきた。GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に買収された多くのベンチャーの事業は、経営の自主性を失って衰退するケースが目立つとの指摘もある。だからこそ「鶏口となるも牛後となるなかれ」の精神で、スラックは戦ってきた。 それではスラックは、いかにしてイノベーションを実現しようとしているのか。 「急速に移り変わる市場や消費者ニーズに対応するには、企業や組織がアジリティ(俊敏性)を身に付け、変革を続ける必要がある」。バターフィールド氏はこう強調する』、「フリッカーの買収提案を受け入れた苦い経験」があったとは納得できた。
・『アイアンマンがパワードスーツを着るようなもの  従来の企業で主流だった電子メールを使うやりとりは時間がかかり、迅速に仕事を進めるのには向いていないという。「映画『アイアンマン』の主人公がパワードスーツを着るように、ナレッジワーカーは生産性を上げるツールで武装して、組織のパフォーマンスを高めることが求められる。そのニーズに応えるのがスラックだ」(バターフィールド氏) トップ自身が語るように、スラックの魅力は、組織内のさまざまなチームがスピード感を持って仕事を進めやすい環境を実現できることにある。チームで、ファイルやドキュメントを共有し、各メンバーが書き込むさまざまなメッセージを一覧できる。共有ファイルを見ながら、音声・ビデオ通話で議論することも可能だ。 しかもスラックの基本的な機能は「無料」で利用できる。企業が、規模やニーズに応じた機能を追加したり、サービス保証や24時間サポートを受けたりするプランにアップグレードした場合に、有料課金する仕組みだ。 こうした特徴が支持されて、スラックは電子メールに代わるビジネスのコミュニケーション手段として普及が進んでいる。IT大手の米IBM、ライドシェアの米リフト、小売り大手の米ターゲットから、フリマアプリの日本のメルカリまで、幅広い業種の企業で採用が広がっているという。 「世界の企業は、ERP(統合基幹業務システム)に年間300億ドルを投じており、CRM(顧客情報管理)市場も250億ドルに成長。スラックのようなコミュニケーションツールの市場は、現在は高く見積もって10億ドル程度だが、100億ドル規模に育っても不思議はない」。バターフィールド氏はこう語る』、「スラック」は確かに便利なツールのようだ。
・『「チームズ」で逆襲するマイクロソフト  もちろんスラックの買収をかつて検討していたとされるマイクロソフトも黙ってはいない。スラックと似た機能を実現する競合製品の「Microsoft Teams(チームズ)」を投入。マイクロソフトの「Office 365」で利用できるチャットツールだ。マイクロソフト製品は、ビジネス市場に広く、深く、浸透しているだけに、間違いなく強力なライバルになる。 巨人の攻勢を受けても、バターフィールド氏の自信は揺るがない。「マイクロソフトの動きは脅威ではなく追い風。スラックが狙う市場は有望とのお墨付きが得られたわけだから。当社は米IBMや米オラクル、独SAPなど大手から新興系まで、多くのIT企業とパートナーシップを結んでいる」 企業内の情報のやりとりで最も重要なのは今後も「テキスト」であり続けるという。スラックは、AI(人工知能)や機械学習を駆使し、過去のやりとりを簡単に共有できる技術の開発に取り組む。優先順位の高いメッセージを抽出したり、要約したりすることもできるようになりそうだ。進化を加速させることで、ビジネスチャットのリーダーとしての地位を揺るぎないものにしようとする。 「10年後にグーグルのようになるのか」とバターフィールド氏に聞いたところこんな答えが返ってきた。「扱う技術が違うから置き換わることはないだろう。だが、同規模の成功を収められるかという質問なら、答えは『イエス』だ」』、「マイクロソフト」からの攻勢を「進化を加速させることで」受けて立とうというのは勇ましい。今後の動向を注目したい。

次に、10月23日付けダイヤモンド・オンライン「フラットな組織も崩壊、「ビジネスの定説」過信で起きた4つの失敗 LayerX・福島良典社長」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/218157
・『資金調達にサービスの立ち上げ、上場や事業売却と、ポジティブな側面が取り上げられがちなスタートアップだが、その実態は、失敗や苦悩の連続だ。この連載では、起業家の生々しい「失敗」、そしてそれを乗り越えた「実体験」を動画とテキストのインタビューで学んでいく。第5回はGunosy創業者でLayerX代表取締役社長の福島良典氏の「失敗」について聞いた。 ニュースアプリ「グノシー」を提供するGunosyの創業は2012年のことだ。東京大学大学院に在学中の福島氏とその同級生だった吉田宏司氏、関喜史氏が2011年に趣味として公開したサービスこそがその母体になっている。 起業後、サービスは順調に成長。2015年には東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たした。創業から2年4カ月というスピードだった。2017年には東証一部市場に市場を変更している。 その後福島氏は、2018年8月にブロックチェーン領域の事業を手がける子会社のLayerXを設立。同社の代表取締役社長に就任する。 2019年7月には、そのLayerXをGunosyからMBOして独立。同10月には取締役にユナイテッド元取締役でXTech Ventures共同創業者の手嶋浩己氏らを招聘(しょうへい)して、新体制で事業を展開している。そんな福島氏に、Gunosyの創業秘話と、当時経験した4つの失敗を語ってもおう』、絵に描いたような成功物語のように思えるが、やはり「失敗」はあったようだ。
・『創業からの7年間「苦労しかなかった」  グノシーは、もともとは機械学習の研究室にいた同級生3人で「何か自分たちで作りたい」という話をしていたところからはじまったサービスです。機械学習の分野では、自分たちでプログラムを書いて、自分たちでデータをさわっていないとスキルが上がりません。だからプロダクトも自分たちで作らないといけないと考えていたんです。いざ作ったところで、正直なところ、それがビジネスになるかどうかも分かりませんでした。 ですがおかげさまでサービスはすぐに伸びてきて、「スマートフォン×ニュース×機械学習」という領域に可能性を感じるようになっていました。それと同時に、趣味として週末にメンテナンスをしている程度では、サービスは終わってしまうとも思いました。サービスって、常に改善していかないと死んでしまうんです。 長い目で見たとき、インターネット上に記事が増えてきて、「ニュースはパーソナライズされるのが当たり前」となる世界が来ることについては確信がありました。もしそれを僕らがやらなかったら、グーグルやヤフーがやるんじゃないか?それって悔しい、と思ったんです。そうしたことが起業につながりました。 もう1つきっかけになったのは、当時のスタートアップバブルです。周囲の大学生が続々と起業するタイミングでした。当時僕は22、23歳の頃。一度起業して、失敗したとしても、そのあとは普通に働けると思ったんです。ビジネスにできるかどうかは分からない。でも信じられる未来がある。キャリアとして考えれば、スタートアップをやるのはむしろ人生にとってプラスだろうと考えたんです。 結果として、僕たちは創業から2年4カ月で上場することができました。世間一般の定義で見れば、僕たちの起業は成功だと思います。ですが、起業家として走っていた僕自身は、めちゃくちゃ失敗をしていたんです。サービスが本当に伸びるのか、マネタイズが本当にできるのかと、不安なことも数多くありました。事業をするお金も集まって、「やるしかない」と覚悟を決めてもがき続けた7年間です。よく「急成長して、苦労はかなかったんですか?」と聞かれるのですが、「苦労しかなかったですよ!」としか言えません(笑)。 (競合サービスも同じ時期に出てきていたので)競争も意識せざるを得ませんでした。ですから、「絶対的な数字が伸びてる」ということよりも、競合やグローバルにあるサービスと比較して、細かいことや新しいことをしないといけないという危機感を持ち続けていました。もっとユーザーにとって便利なサービスにしなければいけない。でも便利なだけでも使ってもらえない。何よりまず、どうやったら知ってもらえるのか。そんなことをひたすら考えていました』、「「やるしかない」と覚悟を決めてもがき続けた7年間です」、「競合やグローバルにあるサービスと比較して、細かいことや新しいことをしないといけないという危機感を持ち続けていました」、やはりこうした「危機感」を持ち続けることが大切なようだ。
・『マーケットが伸びる前に勝負に出る  ニュースアプリとしてのグノシーは、上場した年に初めて利益が出ているんです。それがなぜここまで成長したのかを考えると、「マーケットが伸びたから」のひと言に尽きると思っています。もちろん、ものすごい努力をしてきた自負はあります。ですが同じように努力しても、マーケットがずれていたために幸運を受けられなかった企業はたくさんあると思っています。それは、紙一重の差だったんだと思います。 当時、「スマートフォンで、アルゴリズムを使ってニュースを効率化していく」というところで勝負したのが、世の中に刺さったんだと思います。その時点だと、多くの企業にとっては「やってくる(マーケットができる)」かどうか分からなかった。まだマーケットが伸びるか怪しい時に勝負に出たからこそ成長できたんだと思っています。 2015年に上場して、2017年に東証一部上場まで会社を経営してきました。そして今、ブロックチェーンという次の大きな流れを感じています。インターネットが始まって以来の大きな革命に挑戦しようと思い、もともとGunosy傘下だったLayerXをMBOしました。 LayerXの事業は、ブロックチェーンを使ってプロダクトを作りたい企業に対して、そのお手伝いをするというものです。企業に対して開発のコンサルティングをしたり、ビジネスモデルの構築をしたりとお手伝いしています。僕らは企業に向けてソフトウェアライセンスを作り、それを使っていただく、もしくは提携や共同事業なども進めていきます。AIの領域で言えば、PKSHA Technology(パークシャーテクノロジー)、PFN(Preferred Networks:プリファードネットワークス)、HEROZといった開発会社がありますが、そのブロックチェーン領域版です。 インターネットの大きな波がやってきた中で“正しいポジション”を取った企業は大きくなっているんです。ヤフーや楽天、サイバーエージェント、グローバルならGoogleやAmazonですね。そのあとにはモバイルインターネットの波もありました。彼らは大きなリスクを取り、それをコントロールしてきました。同じように、大きな入り口に立たないと成功は難しいと思っているんです。パラダイムシフトが起きる時、リスクを取って“ファーストペンギン“――つまり新領域に一番乗りで挑戦するスタートアップになりたいと思っています。僕らはブロックチェーンについて、時代がやってくると確信しています。ですがまだ確定しているわけではなく、周囲は半信半疑です。そんなところに張りたいと思っています』、頼もしい心掛けだ。
・『「自分の頭で考えていなかった」で直面した、4つの失敗  僕は今まで多くの失敗をしてきました。その原因は何かいうと、「自分の頭で考えていなかった」ということ。自分の頭で考えきらずに、マーケットで言われている常識や定説と、起業家として直面する「リアル」に差があることに気付いていなかったんです。 具体的には、(1)「フラットな組織がいい」と言われていたが、実際には崩壊してしまったこと、(2)「テレビCMはブランディングだ」と言われていたが、実際に作ってみるとCPA(Cost Per Action:1人あたりの獲得コスト)が想定の100倍になってしまったこと、(3)「アプリはプラットフォーム化すべき」といわれていたが、実際には誰も使ってくれなかったこと、(4)「受託ビジネスはよくない」と言われていたのに、今は受託で伸びている会社がいること。この4点です。 まず、フラットな組織についてです。僕は、人の出せる能力の総数は「能力×情報へのアクセシビリティ」だと思っています。ですがここで人間のメカニズムを無視しちゃいけないんです。どういうことかというと、人間本来の機能的に「部下を一定数以上付けるとマネジメントが破綻する」ということがあります。Slackのようなツールを使うことで多少は補完できても、1人で100人のマネジメントはできないんです。 それなのに「フラット=階層的でない組織」と一面的に考えてしまい、(中間層の)マネージャーを置かなかった。その結果、マネージャーは部下の体調管理すらできなくなってしまって、チームに不満がたまり、多くの人が辞めていくことになりました。フラットな組織の良さって、つまりは情報の平準化だったんです』、本来、組織の在り方は、業種、企業の発展段階、従業員の質など多くの要素により決まるので、「フラット」が最善とはいえない筈だ。福島氏も実践するなかで、問題点を解決していったようだ。
・『次にテレビCMについてです。CMを作った経験はこれまでありませんでしたが、有力なマーケティングの手段だろうとは考えていました。これまでやってきたモバイル広告の運用では、(クリエイティブを複数作り)CPA、、つまり獲得単価を見ながら高速でPDCAを回すという手法をとってきました。ですが、テレビCMは素材1つ1つのコストもかかります。それで、「ドーンと作って、バーンとやる。ブランディングなので、CM中に同じフレーズを何度も言う」といった提案をいただいたんです。 僕らが未熟だったので、何の疑問も持たずにそのとおりCMを制作した結果、CPAが想定の100倍になってしまったんです。もちろん同じ作り方でユーザーをうまく取った企業もあるんですが、僕らは数字を地道に見つめて、積み重ねていた会社です。テレビCMだってモバイルマーケティングのように何かしらの指標を作るべきだったんです。その後、クリエイティブを出し分けて、反響を測定していくことで、CMの効率を上げることができました。「得意な方法」を最初からできなかったのは、大きな反省です』、「クリエイティブを出し分けて、反響を測定していくことで、CMの効率を上げることができました」、と改善したところはさすがだ。
・『3つめのアプリのプラットフォーム化ですが、中国の「WeChat」はご存じでしょうか? 彼らはメッセンジャーアプリからスタートして、決済をはじめとした機能を増やしてアプリをプラットフォーム化していきました。彼らを見て、生活での接点を増やして、ユーザーのエンゲージメントを強くするいい事例だと思っていたんです。インターネットの歴史を調べると、Yahoo!もそうですが、プラットフォーム化、ポータル化は“王道”の戦略です。じゃあグノシーでもニュース以外の接点を持てないかとやってみたんですが、これがユーザーに使われなかったんですよ。 戦略的には正しいという思い込みがあったんですけど、結局のところ、ニュースを読みたい人はニュースを読みたいんです。旅行の予約をしたいわけでも、マンガを読みたいわけでもありませんでした。ネットサービスでは「プラットフォーム化」とはよく言いますが、意味がない多機能化をしても仕方ないんです。大事なのはマーケットを観察することと、「何を求めているか」を考えることなんです』、確かに、一時は「ポータル化」が流行ったが、それに成功したのはごく一部にとどまったようだ。
・『「受託」が正解だったと証明したい  4つめの受託ビジネスは、今まさにLayerXで挑戦しているところです。前述のPKSHAやPFNなどは、機械学習の領域でも、(自社サービスではなく)クライアントワークや企業との共同事業をメインにしています。この10年ほどで生まれたスタートアップの中を見ると、メルカリやSansanのような飛び抜けた事例を除いて、領域として大きく成長しているのは、実はこの領域(機械学習関連の受託事業)だけなんです。 「受託」というと誤解を生むかもしれませんが、パートナー企業からお金をいただいてサービスを作る、ということに可能性を感じています。もちろん自社だけでできる事業で協業をすると、意志決定のスピードは(パートナーに引きずられて)遅くなります。ですが、たとえば「自動運転の技術を作りたい」となった時に自動車の企業と組まないのは筋が悪いですよね。結局「何がプロダクトを作るまでの最速なのか」を考えないといけません。 また、日本はベンチャーファンディングで研究開発をするのが難しい国なんです。もちろんその後は自社サービスをやるのですが、最初はクライアントワークをやっていたという企業は多いんです。ZOZOはECサイトの開発をやっていたし、サイバーエージェントは広告代理店業を今もやっています。GMOも、オンザエッヂ(のちのライブドア)もそうです。 もちろん受託にも質があります。売り上げなり、ノウハウなり、アセットなりがストックされていくものでなければいけません。それでビジネスへの入り方を間違えなければ、大きくスケールします。世の中的には「受託はカッコ悪い」と言われます。ですが、小さいときにはクライアントワークでも成長するので資本効率的には悪くないんです。そこも含めて、考え方をフラットにしないといけません。僕らも現在進行形でトライしているところです。これが正解だったと証明していきたいと思っています』、「小さいときにはクライアントワークでも成長するので資本効率的には悪くないんです」、その通りだろう。
・『原理原則はあっても、「自分で考える」ことが大事  これからの起業家の皆さんには、「とにかく自分で考えよう」と伝えたいです。起業家というのは、ないものづくしな中でジャイアントキリング(格上を倒す番狂わせのこと。ここではスタートアップが大企業を超えることを指す)を起こさないといけません。 今は、僕が起業した頃よりもまわりにアドバイスをしてくれる人もいるし、書籍も含めて、情報量が増えています。そこから学ぶ「原理原則」はあるんですが、そういうものはツールでしかありません。結局ジャイアントキリングを起こすには、その人しか見つけていない型であったり、考え方が必要です。瞬間瞬間、自分の組織に合った意志決定が求められるんです。 組織個別性の「正しさ」しか、スタートアップが大企業に勝つ道はありませんから。常識が勝つ世界、定理で勝つ世界というのは、すなわち大企業が勝つ世界なんです。スタートアップは失敗する。一度失敗するからこそ、リカバリして勝つ。それがスタートアップの真理です。僕はこれからもたくさんの失敗をするでしょう。でもそこで諦めずに、立ち上がります。そうやっていくのが真の起業家なんだと思います。福島氏の略歴は省略)』、「常識が勝つ世界、定理で勝つ世界というのは、すなわち大企業が勝つ世界なんです。スタートアップは失敗する。一度失敗するからこそ、リカバリして勝つ。それがスタートアップの真理です」、その通りなのだろう。私にはスタートアップはいまさら難しいようだ。

第三に、作家・生活史研究家の阿古 真理氏が11月8日付け東洋経済オンラインに掲載した「16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/313162
・『15歳という若さで種苗会社を始めた高校生がいる。東京在住の小林宙(そら)氏、現在16歳の高校2年生だ。会社の名前は「鶴頸(かくけい)種苗流通プロモーション」。伝統野菜を主とする種と苗と、農薬・化学肥料不使用の伝統野菜の販売を行っている。 京都名物、千枚漬けの材料になる聖護院かぶら、東京の練馬大根、金沢野菜の金時草、鹿児島の桜島大根、味のよさで知られる山形のだだちゃ豆。最近、食の世界で注目を集める伝統野菜のブランドはもともと、土地の人たちが種を採り受け継いできた在来作物である。ほかにも、全国には多様な在来の野菜や穀物がある』、「15歳という若さで種苗会社を始めた高校生」、とは驚いた。
・『幼少期から種と植物に興味があった  一方、私たちが普段スーパーや八百屋で購入するのは、種苗会社が種を管理し販売するF1種と呼ばれる1代限りの交配種だ。農家は毎年、種を買わなければならないが、栽培や収穫が楽なので、昭和後半に多くの産地で在来作物と入れ替わっていった。例えば神奈川県の三浦大根は、1979年の台風20号で大きな被害に見舞われたことをきっかけに、F1種の青首大根が急速に普及し、栽培が衰退した。 F1種に押され、絶滅の危機に瀕する在来作物を守ろうと取り組む人たちは、全国にたくさんいる。それでも、衰退を止められない。もう一刻の猶予もない、と会社を立ち上げたのが小林氏だ。 インターネットなどで全国の種苗会社から仕入れた種は、小学生時代から通っていた絵本カフェや、農業書センターのほか、花屋、カフェなど10店ほどの店で委託販売をしている。店の販売スペースをふさがないよう、袋は小ぶりにし、1袋200円を中心にしている。大量に売れるのは、都内のほか全国で開かれる食のイベントに参加した折だ。 平日は学業で忙しいので、仕事をするのは週末。細かい作業で手間がかかる種の袋詰めには、2人の妹や学校の友達に手伝ってもらうこともあるという。それにしても、この若さにしてなぜ種苗、しかも在来種に特化した、会社を始めようと思ったのだろうか。 小林氏は、幼少期から種と植物に興味を抱いてきた。最初のきっかけは、小学校1年生のとき。学校で育てた朝顔から種を採り、再びまいてみたところ見事に花を咲かせたのに、2度目は葉があまり茂らず茎も頼りなく、咲いた花がとても小さかったのである。一方、幼稚園児の頃、庭に埋めたどんぐりは、めったに生えてこないはずなのに芽を出した。こういった出来事から好奇心をかき立てられ、野菜の苗を買って育てるようになった。 あるとき、ホームセンターの種売り場に、苗では売られていない野菜の種がたくさんあることに気づく。野菜や種についてもっと知りたい、と東京・神田神保町で古書を探し、専門的な本を集める農文協・農業書センターにも通い始める。 中学生になると、インターネットでも自分が知らない種がたくさんあることを知り、もっと集めたいと思うようになる。たくさんある種の中に、在来野菜のものもあった。それらの種は、栽培されている地域の種苗店へ行かなければ手に入れることができない。そこで、家族で父親の出身地の長野県や、父方の祖父が住む新潟県へ帰省するたびに、近辺の種苗店を回るようになった。長野県や新潟県には種苗店がたくさんあった』、「私たちが普段スーパーや八百屋で購入するのは、種苗会社が種を管理し販売するF1種と呼ばれる1代限りの交配種だ」、初めて知った。「野菜の種」についての興味は本格的だ。
・『種苗店が廃業している実態を知る  中学生になると、両親から「関東の日帰り圏内なら、1人で行っていいよ」と言われ、関東の種苗店を回るようになった。高校生になると、「泊まりで行ってもいいよ」と言われる。夏休みなどの長期休暇に1週間ほどかけ、素泊まりできる民宿や、バックパッカーが泊まる宿などに泊まる旅をしている。 小林氏は民宿で、地元の食材を使った料理などを教えてもらうという。「種から育てたものを、その地域の食文化の中でどう食べるのか知ることも大事。自分で種を採る農家の人たちは、自分の好みの味にしようと思って種を選んで育てるので、その地域でどういう味がおいしいと思われているのか、体感しておきたい」と小林氏は説明する。 各地を回るうちに、種苗店がどんどん廃業していることに気づいた。「日本種苗協会という業界団体から脱会する人が多いのです」と小林氏が言うので、協会のウェブサイトを調べたところ、2018年度には27人も脱会していた。 「次に、お店にある資料を見て、『この種ありますか?』と聞くと、『その種を採っている人が亡くなっちゃったから、扱えないわ』と言われることが、行く先々であるんです」と小林氏。実情を知るにつけ、種を守らなければという思いが募る。 2018年、高校合格が決まってすぐに会社を起こしたのは、在来作物の種を全国区で流通させることが、「日本全体で種をコレクションするのと同じ」と考えたからだ。「地域を超えて種の需要を生み出し、全国規模で流通させることで保存していく」ことを社是としている。 起業にあたり、小林氏はまず父の了解を得るため、企画書をまとめた。書類を作ったのは、小林家にはおこづかい制度がなく、欲しいものを親に説明してお金をもらい、購入後は領収書を渡す習慣があったからだ。父は、驚きつつも会社形態にすると責任も持つのでよい経験になる、と認めてくれた。 両親は会社勤めで親戚は教員中心と、種の会社を設立する手続きについて詳しい大人は周りにいない。小林氏は、インターネットや法律関係の書籍などで調べ、種苗店にも相談した。 「中学生がアポイントを取ろうとしても、絶対断られる。直接社長に会えそうな小さな会社へ行こうと、社長が日本種苗協会の理事をしている埼玉県の野原種苗を訪問しました。販売する種の袋に書く情報や、写真の版権についてなど、いろいろ教えていただいてお世話になりました」』、「「地域を超えて種の需要を生み出し、全国規模で流通させることで保存していく」ことを社是」、とは本格的だ。
・『多くの人に支えられ事業が広がっていく  10代の小林氏は、たくさんの人に支えられている。いちばんの支えになっている両親は、折々に助け舟を出してくれた。栽培について詳しいのは農文協の書籍、と教えてくれたのは母。同僚から群馬県伊勢崎市に畑を借り、開業届を出すのに同行してくれた父。 小学生のときに母に連れられて行った食のイベントでは、農文協に知り合いができた。そして、当時同協会が発行していた『のらのら』という子供向けの農業誌で取材された。小学校6年生のとき、同誌の企画で都内に住む種採り名人から、種の採り方を教わったのである。 「その方はサラリーマン。会社の屋上の菜園で、公園で落ち葉を拾って堆肥を作り有機栽培しているんです。都会に住んでいても、自分で動いたらできることがあるのではないか、と気づかされました」と小林氏は話す。 中学校の課題の職場体験でも、農文協で編集補助をさせてもらった。親しくなった編集者に、畑で野菜が穫れすぎた話をすると「売りにおいでよ」と言われ、イベントで販売させてもらったこともある。店を手伝ったからと農文協の本をもらい、野菜を詰めてきた段ボールに、今度は欲しい本を詰めて帰る。そして野菜や種についての知識をたくさん教えてもらってきた。) 起業してまだ2年目のため、種の販売だけで利益はそれほど上がらない。伊勢崎市の畑で作った野菜を販売する、イベントの講師や執筆などで、運営資金を捻出している。今年9月には『タネの未来 僕が15歳でタネの会社を起業したわけ』という本も出した。自分の給料が必要ないので、何とか赤字にならずに回っているという程度だ。株式会社にはしておらず、個人事業主なのでそれでも大丈夫なのだという。 NPOにする方法もあるのではないかと問うと、将来、農業法人化して畑を借りることを考えているから、企業が望ましいという小林氏。「種がなくなっていくのは、農家の副業として種採りができる人がいなくなっているからで、種採りの技術を継承する人を増やせるようにしたいと思っています」と話す。 そして、補助金をもらいながら運営する方法は難しいと言う。「やり始めたら際限のない仕事なので、使用目的を限定する補助金は違うのかなと。もちろん協賛してくださる方から寄付をいただくのはいいと思います。今はクラウドファンディングなど、事業を応援してもらう方法は、いろいろありますから」』、「高校生」とは思えないほどしっかりしていて、頼もしい。
・『利益より種を流通させることが大事  鶴頸種苗流通プロモーションは今のところ、将来も副業とするつもりだとも言う。「好きなことを本業にすると失敗する、という話をよく聞くので。それに、お金にならないから辞める、という事態を避けたいです」と語る。 利益より、種を流通させることが大事と考える小林氏。委託販売を行うのも、種に興味がなかった人に知ってもらうことが目的の1つである。 小林氏がそこまでして種を守ろうとするのは、多様性を守るためである。有名な話では、1845年にアイルランドでジャガイモ飢饉が起こり、国民の2割以上が餓死し、大量の移民をアメリカなどに出したことがある。それは、単一品種のジャガイモに食料を頼っていたことが原因だった。 今は気候変動が激しく、従来の作物が育てにくくなっている地域もある。多様な種があれば、暑さに強いものなどを掛け合わせで作ることもできる。在来作物を守ることは、野菜や穀物のバックアップをしておくことに等しいのだ。) ただ、在来作物の中には、気候と土壌が変われば特徴ある形や味を失うものがある。例えば大阪の天王寺蕪は、江戸時代に長野の野沢温泉村の健命寺住職が種を持ち帰って育てたところ、茎葉ばかりが成長して野沢菜となった。 全国区で種を流通させれば、特徴を維持できないのではと問うと、「守ることは種苗会社や熟練の種採りの方がやってくださっている。僕は新しい伝統野菜を作ることも大事だと思います。いろいろな地域で新しい野菜が生まれれば非常に面白いですし、町おこしにつながるかもしれない」と明快に答えてくれた』、「アイルランドでジャガイモ飢饉・・・それは、単一品種のジャガイモに食料を頼っていたことが原因だった」、「種を守ろうとするのは、多様性を守るため」、高校生とは思えない説得力がある。
・『種の保存は、地域の食文化や歴史を守ること  種を守ることで野菜や穀物の多様性を守ることは、地域の食文化を守ることであり、受け継がれてきた歴史を守ることでもある。同時に、食料危機を防ぐためでもある。気象変動のため、当たり前に食べてきたものが食べられなくなるかもしれない、と考えればこれが誰にとっても切実な問題であることがわかる。 しかし、小林氏のように若い世代が新しい発想で、種を守る活動に参画していけば、野菜の未来は変わるかもしれない。 平成の30年間に、インターネットの普及で、情報収集や情報交換の手段は多様になった。グローバリゼーションの進行で、社会の構造も大きく変化した。今、世の中は新しい発想、新しい才能を必要としている。年齢や経歴に関係なく、未来を築こうとする人を助けたい、と望む人たちもたくさんいる。 利益を上げることは大切だが、それ以外にも大切なことがあると考える若い世代が登場してきたのは、社会が成熟した証しと言える。さまざまな問題は山積しているが、案外私たちの未来は明るいかもしれない』、こういう志がある若者がいるというのは、例外的存在なのだろうが、頼もしい。
タグ:ベンチャー 東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン (その5)(アマゾンを“蹴った” 時価総額2兆円ベンチャー スラックが「自主独立」にこだわる理由、フラットな組織も崩壊 「ビジネスの定説」過信で起きた4つの失敗 LayerX・福島良典社長、16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた) 「アマゾンを“蹴った”、時価総額2兆円ベンチャー スラックが「自主独立」にこだわる理由」 米スラック・テクノロジーズ アマゾン・ドット・コムと米マイクロソフトという世界を代表する2社がそれぞれ1兆円規模の買収に動いていた スラックは、こうした買収提案を蹴って経営の自主独立を守る方針を貫き、株式上場を果たした ビジネスチャット 株式時価総額は約195億ドル(約2兆1000億円)に フリッカーの買収提案を受け入れた苦い経験 アイアンマンがパワードスーツを着るようなもの 「チームズ」で逆襲するマイクロソフト 「フラットな組織も崩壊、「ビジネスの定説」過信で起きた4つの失敗 LayerX・福島良典社長」 Gunosy創業者でLayerX代表取締役社長の福島良典氏の「失敗」 東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たした。創業から2年4カ月というスピード その後福島氏は、2018年8月にブロックチェーン領域の事業を手がける子会社のLayerXを設立。同社の代表取締役社長に就任する 創業からの7年間「苦労しかなかった」 競合やグローバルにあるサービスと比較して、細かいことや新しいことをしないといけないという危機感を持ち続けていました マーケットが伸びる前に勝負に出る 「自分の頭で考えていなかった」で直面した、4つの失敗 (1)「フラットな組織がいい」と言われていたが、実際には崩壊してしまったこと (2)「テレビCMはブランディングだ」と言われていたが、実際に作ってみるとCPA(Cost Per Action:1人あたりの獲得コスト)が想定の100倍になってしまったこと (3)「アプリはプラットフォーム化すべき」といわれていたが、実際には誰も使ってくれなかったこと (4)「受託ビジネスはよくない」と言われていたのに、今は受託で伸びている会社がいること 「受託」が正解だったと証明したい 原理原則はあっても、「自分で考える」ことが大事 常識が勝つ世界、定理で勝つ世界というのは、すなわち大企業が勝つ世界なんです。スタートアップは失敗する。一度失敗するからこそ、リカバリして勝つ。それがスタートアップの真理です 阿古 真理 「16歳男子高校生が「種」を売る何とも壮大な理由 わずか15歳で種苗会社を立ち上げた」 15歳という若さで種苗会社を始めた高校生 幼少期から種と植物に興味があった 種苗店が廃業している実態を知る 多くの人に支えられ事業が広がっていく 利益より種を流通させることが大事 種の保存は、地域の食文化や歴史を守ること
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自動運転(その3)(対談 自動運転業界:(第1回)無人で走るクルマ 結局いつ実現するの?、(第2回)日本は 自動運転大国になれる、(第3回)自動運転は 社会をどう変える? 4つの予言) [イノベーション]

自動運転については、昨年4月18日に取上げた。久しぶりの今日は、(その3)(対談 自動運転業界:(第1回)無人で走るクルマ 結局いつ実現するの?、(第2回)日本は 自動運転大国になれる、(第3回)自動運転は 社会をどう変える? 4つの予言)である。

先ずは、5月14日付け日経ビジネスオンラインが掲載した早稲田大学ビジネススクール教授の入山 章栄氏ら4名による座談会「[議論]無人で走るクルマ、結局いつ実現するの?File 3 「自動運転業界」(第1回)」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/forum/19/00012/042500012/?P=1
・『現在の議論のテーマ  File3のテーマは自動運転です。今回は技術面などの現状について議論しました。結局、ドライバー不在での自動運転はいつ実現するのでしょうか? 自動運転のメリット・デメリットなどについて、ご意見をコメント欄に自由に書き込んでください。 「あの業界、今、どうなの?」「競争環境が厳しくなるけれど、今後は大丈夫なの?」――。就活中の大学生やビジネスパーソン、経営者にとって、未知の業界の内情は大きな関心事だ。そこで、日経ビジネスが動画・ウェブ・本誌の多面展開で立ち上げたのが「入山章栄・安田洋祐の業界未来図鑑」だ。 経営学者の入山章栄氏と経済学者の安田洋祐氏が、それぞれの業界の関係者や業界をよく知るゲストを招き、都合のいい話も都合の悪い話も、ざっくばらんに議論し尽くす。読者からのコメントも積極的に取り入れ、業界を深掘りしていく。 第3回シリーズ(File 3)で取り上げるのは自動運転業界。世界中で実証実験が進むなど産業界の話題の中心だが、実際のところ、今、自動運転技術はどこまで進歩しているのか。自動運転技術の進化で未来の社会はどう変わるのか。入山氏と安田氏がゲストとともに熱く語り合う』、興味深そうだ。
・『入山:「入山・安田の業界未来図鑑」、第3回シリーズを始めていきます。 この連載は、経済学者の安田さん、経営学者の僕が、各業界で働く第一線の方にお話を伺い、その業界の現状と未来について我々なりの考えを整理していこうというものです。若い方には就職活動とか転職の参考にしてほしいし、年配の方には幅広い知識を得てほしいという狙いがあります。「日経ビジネス電子版」とユーザー参加型メディアの「Raise」を活用し、テキストと動画のどちらも楽しんでいただきます。 前回までお届けした第2回シリーズでは、VR(仮想現実)業界を取り上げましたが……。 安田:そう、VRでしたね。コンサルティングにVRを活用しているドイツのコンサルティング会社、ローランド・ベルガーの東京オフィスにお邪魔して、実際に我々もVRを体験させてもらって、世界観を思いっきり広げてもらいました。そして今回、我々がどこに来ているかというと……。 入山:はい、実はDeNAの本社に伺っています。会議室で動画の撮影までさせてもらおうという…。「日経ビジネス」どうなんですかね、毎回、訪問する会社の会議室を借りちゃって(笑)。 安田:なんとなく社会科見学みたいな感じですね。DeNAというと、IT企業でモバイルゲームが強くて……というイメージが強いかもしれませんけど、今日は別の事業の話ですね。 入山:そうです。今日取り上げるのは自動運転業界。DeNAは今、モビリティー事業に力を入れていますからね。何かと話題の自動運転業界の未来を聞いていこうと思います。 ゲストをご紹介します。まずはDeNAの常務執行役員でオートモーティブ事業の本部長を務めている中島宏さん。もう1人は自動車業界・自動運転業界に非常に詳しいアーサー・ディ・リトル・ジャパンのパートナーである鈴木裕人さんです。では、お2人、お願いします。 中島・鈴木:よろしくお願いします。 入山:初めまして。どうぞおかけください。早速ですが中島さん、今、自動運転業界でDeNAはとても注目されています。まずはどんなプロジェクトを進めているのかを簡単に説明していただけますか。 中島:はい。先ほどご紹介いただいたように、DeNAは今、モビリティー事業に力を入れています。タクシー配車サービス「MOV(モブ)」、個人間のカーシェアリングサービス「Anyca(エニカ)」、自動運転バスで地域の足をつくる「ロボットシャトル」などのプロジェクトを手掛けています。日産自動車とは、無人運転車両を使った新しい交通サービス「Easy Ride」の共同開発を進めています。 自動運転とシェアリングエコノミーは、変革のキードライバーになると思っているので、DeNAは今この2つの分野に力を注いでいます。 安田:自動運転の技術そのものを開発するのではなく、その技術を活用したサービスを提供していこうという立場ですね』、DeNAが自動運転にも注力しているとは初めて知った。
・『自動運転とシェアリングは変革のキードライバー  中島:そうです。自動運転業界は分業化していて、ハードウエアとしてのクルマをつくる企業と、自動運転キットをつくる企業と、サービスプラットフォームをつくる我々のような企業とがあって……。 入山:ああ、クルマ、キット、プラットフォームと。3層になっているんですね。 中島:さらに、その上にタクシー事業者とかバス事業者とか、実際にお客様を乗せてサービスする旅客運送事業者がいるので4層のレイヤー構造ですね。サービスプラットフォームをつくる我々は、ほかのレイヤーを侵食するつもりは全くありません。 安田:僕、早速、鈴木さんにお聞きしたいことがあるんですが。自動運転と一口に言っていますけど、新聞記事なんかを見ると、よく「レベルいくつ」っていうのが出てきますよね。それがいったい、どの程度のことなのかがよくわからなくて。そこからぜひ説明を聞きたいです。 鈴木:自動運転は大きくレベルを5つに分けて考えています。「レベル1」は運転支援機能といわれているものです。今、標準装備になり始めている自動ブレーキなどですね。「レベル2」はその高度なもの。レーン・キープ・アシストとか、前車追従のクルーズコントロールみたいなものを含みます。「レベル1」「レベル2」に関しては、運転操作の責任はドライバーにあります。 「レベル3」は条件付き自動運転、「レベル4」は高度自動運転、「レベル5」は完全自動運転というもの。最終段階の「レベル5」はどこでもドライバーなしで自動走行できる状態をいいます。「レベ3」から「レベル5」はシステムが運転の責任をとります。運行事業者やクルマをつくったメーカーにもかかわってきます。 安田:最近、高齢ドライバーが起こす事故がたびたびニュースになっています。自動運転が機能して、ブレーキとアクセルを踏み間違えるというような事故を完全に抑えられれば、高齢の方でも安全に運転できるはずですよね。それを可能にするには、どれぐらいのレベルが必要でしょうか。「レベル3」ぐらいでもいいのか、「レベル4」とか「レベル5」が必要なのか。 鈴木:標準装備されるようになれば、「レベル1」「レベル2」でもそれなりの効果はあると思います』、「自動運転業界」は4層のレイヤー構造ということはずいぶん広がりがありそうだ。
・『「レベル3」は自家用車、「レベル4」は商用車に向く  入山:我々は、自動運転という言葉を聞くと、すぐに「クルマが街中を自由自在に走る」というイメージを思い浮かべてしまいますが、それは「レベル5」の話であって、その前段階もあるということですね。 鈴木:そうです。「レベル3」「レベル4」も限定された条件の下では自動運転を実現できますが。 入山:「レベル3」と「レベル4」の違いはどう理解すればいいですか。 鈴木:「レベル3」まではドライバーが必要ですが、「レベル4」からは不要となります。「レベル3」は非常事態があった時には人間に責任を返すことが前提になっていて…。 入山:責任を人間に返す? 中島:たとえば、ドライバーが運転中に「ちょっと本を読みたいな」と思って自動運転ボタンを押したとします。なんらかの事態が起きてクルマのシステムだけでは処理しきれない時、「ピピピピッ」と音が鳴って、「人間のドライバーさん、ちょっと交代してください」と訴えてくる。「しょうがないな」と人間が運転を代わる。そんな感じです。「レベル3」は主に自家用車向けのものと私は理解しています。 「レベル4」は、「雪が降った時はムリ」とか、「暗い中では走れない」といった条件がある。これは「レベル3」と違って自家用車向きではないですね。それまでドライバーなしで自動走行していたのに、雪が降った途端に自動運転ができなくなるというのでは困りますから。でも商用車だったら、雪が降って運行できなくなった場合には人間が運転するタクシーがフォローすればいいわけです。 入山:なるほど。レベル感がよくわかりました。となると、知りたいのは自動運転業界が現在、どのレベルまで来ているのかっていうことです。 安田:読者の方からも質問が届いていますね。中小企業技術職人さんから、「単純に、現在どこまで進んでいるのか」という質問です。 鈴木:今、すでに「レベル2」までは市販されています。量産車で既に実現していますね。たとえばスバルの運転支援システム「アイサイト」は初期段階では「レベル1」でしたが、車線逸脱抑制、誤発進抑制、前車追従などの機能を盛り込んだ今は「レベル2」までいきつつあります。2018年、アウディは旗艦モデルの「A8」のモデルチェンジに合わせて、「レベル3」の自動運転機能を開発しました。ただ、法整備が追いついていないので、まだ実車への搭載はできていません。この辺になると法律的な壁も出てきます。 安田:さきほどの中小企業技術職人さん、「『レベル4』『レベル5』の実現はいつ頃になるのか知りたい」とも書き込んでいますが……。 鈴木:「レベル4」については、「来年出す」と言っている自動車メーカーもあります。2023年くらいまでには出さないと、ちょっと技術力を疑われてしまうだろうという感じになっていますね。 入山:もうそんなに進んでいるんですか。2023年というとあと4年? 4年後に出さないと、「あの会社、大丈夫か」っていう話になっちゃうと……。中島さんもそんなイメージですか。 中島:これまでは自動車メーカーや自動運転キットをつくるメーカーが「いつまでにこういうレベルのものを出します」と公表することってあまりなかったんです。ところが、このごろ、「2020年には出します」という具合に正式に発信し始める企業が出てきた。トップランナーの企業は2020年代の前半には出すと言い始めています。ひっくるめて考えると、「2023年までに出さないと遅い」というのはおっしゃる通りだと思います。 入山:これに関して、「日経ビジネス電子版」には詳しい読者の方から質問がきているので紹介します。ホッチーさん、サラリーマンの方です。「カリフォルニア州が提出を義務付けているデータから見ると、正直自動車メーカーのレベルはまだまだ。本気で『レベル3』が実現できると考えているのでしょうか」というものです。鈴木さん、いかがでしょうか』、「レベル4」については、「2023年までに出さないと遅い」というのは、予想以上に早く進んでいるようだ。ただ、「レベル3」では、「クルマのシステムだけでは処理しきれない時、「ピピピピッ」と音が鳴って、「人間のドライバーさん、ちょっと交代してください」と訴えてくる」とはいっても、それまでボンヤリしていたのに、急に運転せよと言われても、戸惑うドライバーも多いのではなかろうか。
・『2023年までに完全自動運転車が出てくる  中島:読者の方が指摘しているのは、カリフォルニア州車両管理局が自動運転技術を開発中の企業に対して提出を求めた、走行テストの実施状況などに関するデータのことですね。その中ではテスト中、自動運転モードを解除し、人間のドライバーが運転する「ディスエンゲージメント」の頻度も記録されています。つまり、自動運転でどれだけ走行できるかを測っている。それによると、トップはグーグル系のウェイモ。続いてゼネラル・モーターズ(GM)傘下のGMクルーズでした。 入山:確かにホッチーさんは、「日産ですらウェイモの2%、GMクルーズの4%しか解除なしで走れない。BMWやトヨタ、ホンダ、メルセデスにいたってはその日産の1/46~1/140、鳴り物入りで参画したアップルは2kmも走れない惨たんたる状況」と指摘しています。 鈴木:ただ、これはあくまでカリフォルニアでやったテストのデータ。自動車メーカーはグローバルでテストをしているので、すべてを含めた数字にすれば、それほど差はないだろうというのが我々の認識です。 入山:つまり、カリフォルニアのデータは何かの理由で際立って悪い結果が出ていると。 鈴木:そうですね。カリフォルニア州は自動運転の実証実験をしやすい環境を整備しているので、いろいろな会社がそこで実験を行っています。特にグーグルの本社はカリフォルニアですから、そこで集中的にテストしています。 安田:ウェイモもGMクルーズもアメリカに本社がある。カリフォルニアで積極的に実証実験を行っているのはアメリカの企業が多いと。 鈴木:カリフォルニアであまり良い数字が出ていないからといって、世界のトヨタや日産が自動運転開発競争で後じんを拝しているのかというと、そういうわけではありません。自動車メーカーの間での競争があるので、競合他社に今の自社の技術レベルを知られるわけにはいかないという面もあります。 入山:隠して出していないだけで、実は相当進んでいるはずだということですね。 中島:かなり進んでいると思っています。実証実験はしやすいけれど、カリフォルニアでやったらデータを開示しなくてはならない。敵に状況を知られたくないと考える会社はカリフォルニアでは走らない。カリフォルニア州が開示したデータでは、「あまり走れていないけれど大丈夫ですか」と見えちゃうということです。 入山:ホッチーさん、実は裏ではちゃんと進んでいますということのようです』、「ウェイモ」や「GMクルーズ」に比べ、日本メーカーは遅れているのではと心配していたが、「実は裏ではちゃんと進んでいます」というので安心した。
・『移動のサービス化は力強いトレンド  安田:自動車業界では今、「MaaS」というコンセプトが提唱されていますね。「モビリティー・アズ・ア・サービス(Mobility as a Service)」の略ですが、鈴木さんか中島さん、このキーワードについても解説をしていただけますか。 中島:細かくいうと、「MaaS」には今、3つの意味があります。第1はクルマを含むモビリティーをサービス化すること。DeNAさんが手掛けているようなカーシェアリング、配車アプリなどが代表的なものですね。 入山:それ、我々が漠然と考えていた「MaaS」です。 中島:第2に、複数の交通サービスを組み合わせる「マルチモーダル」という意味でも使われています。たとえば、電車とカーシェアリング、バス、タクシーなど複数の交通手段を組み合わせて、快適なユーザーエクスペリエンスを提供しようということです。日本には「乗換案内」というアプリがありますが、さらに進んで、そのまま予約や決済まで統合しようという動きが出ています。 安田:今、スマートフォンで「Google マップ」を立ち上げて目的地を設定すると、複数の交通手段を使った経路がいくつか出てきますね。将来はそのまま予約ができたり、お金を払ったりもできると。 中島:おっしゃる通りです。「Google マップ」は第1段階。ヨーロッパで最近出てきたのは、そこで予約をして決済までできるという第2段階のものです。さらに、サブスクリプションの形で、月額固定で乗り放題のサービスなども出てきています。最近はこちらの意味で「MaaS」という言葉を使うことが一般的になってきていますね。 第3は「ビヨンドMaaS」ともいわれ始めていますが、交通と生活サービスとか、交通と不動産などを統合していくというもの。1960年代のモータリゼーションみたいな動きです。 この3つの意味で分けて考えると、第1のサービス化としての「MaaS」は当然、これから起きてくると考えられています。力強いトレンドになっています。一方、第2の複数の交通手段を統合する意味での「MaaS」はちょっと怪しい。ものすごく注目され、もてはやされたヨーロッパの「MaaS」のスタートアップもユーザーが定着しなかったり、事業者があまり乗ってこなかったりとうまくいっていません。「1つのアプリで全部できる」ことにそんなに価値はないんじゃないかといわれ始めているというのが業界の最新の状況ですね。第3の「ビヨンドMaaS」といわれるものについては、可能性は十分あるんじゃないかとみられています。 入山:今、鈴木さんに説明していただいた「MaaS」の3つの定義でいうと、DeNAはどこに注目しているのでしょうか。 中島:第1のサービス化、「モノからコト」については、まさに今、取り組んでいる最中です。積極的に投資をしています。第2の複数の交通手段の統合は鉄道会社などがやりたいという意向をお持ちなので、我々は「協力します」という立場です。主体的にはやっていません。第3の「ビヨンドMaaS」にはものすごく興味があって、調査や研究開発をどんどん進めているというところです。 安田:最先端のところに切り込んでいるわけですね。 鈴木:アジアでは、グラブやゴジェックが配車サービスを手掛けていますが、彼らはまさにモビリティーを中心に買い物や宅配など周辺の生活サービスを統合する方向で今、ものすごく成長しています。先進国ではなく新興国からそういう最先端のものが出てきているというのが、この領域の面白いところだと思います。 中島:「イノベーションのスキップ」ですよね。たとえば、スマートフォン決済って中国で真っ先に浸透しました。クレジットカードがあまり普及しなかったためにイノベーションが起きた。 入山:アメリカはいまだにクレジットカードが主流ですもんね』、確かに、この分野でも「イノベーションのスキップ」が起こりつつあるというのは、興味深い。
・『新興国でモビリティーの「カエル跳び」起きるか  中島:新興国はこれからマイカーが大衆層に普及していこうというタイミングです。そこに「MaaS」が浸透すると、マイカーを買う文化が醸成される前に、サービスとしてモビリティーを使うようになるかもしれない。 安田:「モノ」をスキップして、いきなり「コト」から入っていくっていうことですね。 入山:経営学ではそれを「リープフロッギング」というんですけれど。カエル跳びですね。新興国の方が既存のものがないから跳び上がって我々の先に行く。それが自動車の世界でもあると。 中島:そういうことが起きる可能性があると思います。 入山:なるほど。自動運転業界の現状が見えてきました。ありがとうございます。この後は、この業界の課題についてお話を伺いたいと思います』、続きが楽しみだ。

次に、この続き、5月28日付け日経ビジネスオンライン「[議論]日本は、自動運転大国になれる?File3 「自動運転業界」(第2回)」を紹介しよう。
・・・・今回の議題は「自動運転業界の課題」。ドライバーなしのクルマが街中を走るとなれば、技術の成熟が不可欠な上に、制度や法律などの仕組み整備も必要となる。果たしてその準備は進んでいるのか……。世界中で過熱する「自動運転化競争」で日本はどんなポジションにあるのか。議論からは日本の“意外な強さ”が浮き彫りになった。 安田:このシリーズでは自動運転業界について、ゲストのお2人と議論を進めています。今回は自動運転業界の課題について、お聞きしていこうと思います。 前回、自動運転業界の現状についてお話しいただき、業界で注目されるキーコンセプトの「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」についても説明をしていただきました。モビリティーの領域で「モノからコト」へのサービス化が進むならば、法律やシステムなどの環境整備は欠かせませんね。 入山:そうなんですよ。だって2023年までには、無人の自動運転車が出てくるだろう、それが実現できない会社は「遅れている」と思われるだろうっていう話ですから。正直、「すげえな」と思いましたけれど。一方で僕は、自動運転車がきちんと走るための制度や仕組みはまだ整っていないんじゃないかという気がして、そんな中で出てきちゃって大丈夫なのかとも感じます。 安田:「日経ビジネス電子版」の読者の方からもその辺の質問をいただいています。機械系設計者の方で「延長被雇用のおじさん」から。「今までは道路環境などの外因があっても、全てをドライバーの責任として済ませてきた。自動運転でも責任の所在問題が残る」とあります。運転操作が人間から機械に変われば、全体として安全性は高まるのでしょうけれど、万一の事故が起きた時に誰が責任を取るのか。根本的な問題がありますね。 入山:よく出る話ですね。自動運転の判断に誰が責任を取るのかと。 中島:これはもし間違っていたらぜひ補足していただきたいのですが……。よく日本は自動運転の法改正が遅れているという指摘があります。 入山:僕、自動運転業界の素人ですけれど、完全にそういうイメージを持ってます。 中島:実は日本って結構進んでいると私は思っているんです。2015年ごろは確かに遅れていた。けれど2016年、2017年と、「世界に後れをとってはならない。2020年までに完全自動運転車が走れるよう、法改正を終えなくては」と政府がリーダーシップを発揮してきた。 入山:そうなんですか。2020年というともう来年ですが……。 中島:民間事業者を困らせるわけにはいかない、必要な法改正をやろうと、関連省庁に横ぐしを刺して徹底的に法改正の準備をしているところだと認識しています。 入山:鈴木さんも同じ意見ですか。 鈴木:はい。そういう意味でも、自動運転はDeNAのような事業者がクルマを使ってサービスするところから普及するだろうと思います。たとえば、今、タクシードライバーが事故を起こしたら、タクシー会社が責任を取りますよね。それが自動運転車になるだけですから。タクシー会社のビジネス構造からすると変わらない。 自家用車の場合はどうかというと、今は事故を起こせばほとんどがドライバーの責任です。それが、自動運転ではクルマのメーカーが責任を持つというようなことになったら自動車会社も困ってしまう』、自動運転の事故ではタクシー会社の方がビジネス構造上、馴染み易いというのは、言われてみればその通りだ。
・『完全自動運転化は商用車から始まる  入山:そうか。自動車を自家用車と商用車に分けて考えると、タクシーやバスなどの商用車の方が、根本的なビジネス構造を変えずに自動運転を活用しやすいんですね。 中島:おっしゃる通りです。なので自家用車の自動運転化は商用車の後だといわれています。商用車から先に完全自動運転化が始まる。「レベル4」の商用車から普及が進むとみられています。 安田:責任の所在に関して、別の読者の方からも質問をいただいています。NKさんから、「自動運転のカテゴリーで、一部車両側で運転責任を負う『レベル3』は本当に必要なのか」という内容です。「レベル4」「レベル5」ならばドライバーはいないので、ドライバーの責任なのか、技術・機械の責任なのかという問題はなくなります。「レベル3」をスキップして一気に「レベル4」「レベル5」を目指してもいいのではないかというご意見です。 専門のお2人のご意見はどうでしょう。せっかくなので、お手元にある○×棒を出して回答していただきましょう。今後、自動運転が普及していく上で、「レベル3」をスキップしてもいいと思う場合は「○」を、いやいや、やっぱり段階を追うべきだと思う場合は「×」を出してください。 入山:ええと、これ僕も挙げるんですか。 安田:ええ、ぜひ。 入山:何も分かってないのに。 安田:はい。僕は司会進行に徹するので、挙げませんけれど。 入山:ずるいな(笑)。 安田:準備はいいですか。では一斉に……はい、どうぞ。ほう、なるほど。これは素晴らしいですね。専門家のお2人は「×」。つまり、「レベル3」をスキップすべきではないと。入山さんは「○」で、スキップしていい。 入山:今までのお話を聞いていると、本当にこの「レベル3」、難しい気がするんですよ。倫理的な部分とか、法律的な部分とか……。 安田:「レベル3」さえなければ法的な問題は発生せず、スムーズにいきそうな感じは確かにしますね。 入山:ここが一番面倒くさい。つまり自動運転に任せて、自分は本を読んでいる。けれどそのクルマが事故を起こして、たとえば歩行者をひいてしまったら、それってクルマのせいなのか、本を読んでいたドライバーのせいなのか。結構難しい問題だなと今までの話を聞いていて思ったんですよね。 グレーゾーンが多くなりそうなのが「レベル3」。飛ばしちゃった方がいいんじゃないのと思ったんですけれど。ぜひ教えてください。「×」の理由を』、私も「飛ばしちゃった方がいいんじゃないのと思った」口だが、プロの2人は必要と考えているようだ。
・『「『レベル3』が必要な理由、教えてください」  安田:じゃあ、鈴木さんからお願いします。 鈴木:「レベル3」とか「レベル4」って、極端なことを言うと自動車メーカーのスタンス次第なんです。たとえばトヨタ自動車は慎重だから、「レベル3」ができたとしても、「今できるのは『レベル2』まで」と言うでしょう。 トヨタのように慎重な姿勢だと「レベル4」までできるようにならないと、「『レベル3』ができる」とは言わない。一方で、イメージ戦略として「『レベル3』をやります」と発表するメーカーもあるかもしれない。あいまいな責任問題が存在することを含めて、「レベル3」をやると言うか言わないかの問題になる。ブランドをどう位置づけるかにもかかわるので、一概に「レベル3はスキップした方がいい」といえる問題でもないと思います。 入山:中島さんはどうですか。 中島:私はちょっとアプローチが違うのですが。「レベル1」「レベル2」と来たら、その先は「レベル3」と「レベル4」がパラレルで進むと思っているんです。 入山:なるほど。それは自家用車と商用車の違いということですか。 中島:そうです。自動運転キットを開発する会社の技術者の方とかOEMメーカーの技術者の方々と話していると、「『レベル3』と『レベル4』は別物です」と言うんですね。「レベル3」ができないと「レベル4」ができないわけではない。ただ技術はかなり相互連関があって、どちらかが発展するともう片方にもいい影響がある。「両方パラレルで進むべきです」という話なんです。 「レベル2」の延長線上にあるのは「レベル3」です。なので、「レベル3」がじわじわっと始まるかもしれない。そこである日突然、全く違う文脈で「レベル4」がポンと出てくるという感じになるのではないでしょうか。確かに、実は技術的にも難しいのは「レベル3」みたいですね。人というあいまいなものを検知しながらになるので』、「人というあいまいなものを検知しながらになるので」、「技術的にも難しいのは「レベル3」」、というのはその通りなのかも知れない。
・『##3→4は、「レベルアップ」ではない  入山:そうか。「レベル4」は完全に機械だからむしろシンプルでやりやすい。 中島:はい。ただ「レベル4」を実現するための基礎技術は「レベル1」「レベル2」「レベル3」にも活用されるので、1~3も積極的にやっていきましょうというところですね。 入山:「レベル」という言葉を使っちゃっているから、どうしても段階を経ていくイメージがあるけど、そうじゃないんですね。 安田:ロールプレイングゲームみたいに、技術力が上がって1つずつレベルアップしていくっていうのではない。「レベル3」と「レベル4」は分岐する。 中島:はい、技術とか法整備という観点でいうと、「レベル3」と「レベル4」は別物で、横に並べた方が分かりやすいと思います。 入山:日本は他の国に比べて法整備も進んできているというお話でしたけど、これから「レベル3」や「レベル4」にも対応するような法律ができてくるんですか。 中島:そう思っています。「レベル4」の方が法整備的にはジャンプがありますけれど。 入山:ジャンプがあるというのは?』、「技術とか法整備という観点でいうと、「レベル3」と「レベル4」は別物で、横に並べた方が分かりやすい」、言われてみれば、納得できる。
・『ドライバーのいないクルマ、法律はどうとらえるか  中島:これまで運転席がないクルマっていう概念が、日本の法律の中にはなかったので。 入山:そうか。「レベル4」からはドライバーがいない。つまり運転席がないわけですからね。 中島:数十年間、「ドライバーがいる」という大原則の下で法律がつくられてきましたが、その根本のところが変わっちゃう。法改正議論としては複雑な話です。 安田:今、ふっと思いついたんですけれど。経済学者の岩井克人さんが研究していることですが、法人って偉大な発明で。株式会社の場合は所有される客体としての性質を持つ一方、法人格として所有することもできる存在です。 運転の場合も同じようにできるかもしれない。従来だったら人が運転手をやらなきゃいけないけれど、運転する主体として認め得るものを法的に整えれば、一義的にその主体が責任を負うという形にできるかもしれない。 入山:いやー、安田さんが初めて経済学者らしいことを言ったな(笑)。 中島:おっしゃる通り、そういうアプローチで法改正をしようという方もいます。または今の法律の延長線上で解釈を変えるというアプローチでやろうという方もいる。全く別物なので新しい法律をつくりましょうという方もいます。 入山:そこはまだ分からないんですね。法改正で行くのか新法をつくるのか。 中島:国際的な議論では、今おっしゃったような運転手の概念を拡張する方向での検討が主軸だと言われていますね。たとえば、AI(人工知能)が担うとか、サービサーが担うというような形で。 安田:ほかにも読者の方からのご意見、ご質問としてたくさんいただいているのがルール整備についてです。自動運転の安全性や交通の効率性を追求するならば、人間の運転を禁止した方がいいのではないかとか、人間のドライバーが運転できるレーンを制限した方がいいんじゃないかといった内容です。どう考えますか』、「「レベル4」からはドライバーがいない」ことを前提とした法整備は、確かに一筋縄ではいかないようだ。
・『クルマが出た時も「馬車は使用禁止」とはならなかった  中島:私はわりと現実的な路線を考えています。かつて馬車があった時代にクルマが発明されましたが、じゃあ、「クルマの方が便利だから馬車は使用禁止」となったかといえばなっていない。しばらくの間は馬車とクルマが併存していたわけです。クルマの方が便利なので馬車は自然となくなっていきましたが。 今の時代も、自動運転という便利なものが出てきたからといって、人間が運転するクルマをなくそうなんていう強引なことは絶対に起きないでしょう。専用レーンっていうのも、日本の道路を考えたらできるわけがない。混在環境になると思います。そして、じわじわと自動運転の比率が高まっていくというのが現実的な路線だと思います。 安田:今のお話から考えると、混在している環境できちんと自動運転ができるならば、そこで生まれた日本のサービスやシステムは世界のどこに出しても使えるということですね。難しい環境で成功したものだから輸出もしやすい。 中島:そう思います。ただ、意外と交通サービスって地域特性が出るんです。たとえば、インターネットではグーグルの検索エンジンが世界を席巻しましたけど、ひとつの配車サービスだけが世界を席巻してはいない。世界各地でウーバー、グラブ、オラ、ディディなど様々な企業が活躍しています。自動運転のサービスやシステムもローカルの特性が出るはずです。 安田:今、「ローカル」というキーワードが出てきましたけど、ローカルといえば、この『フラグメント化する世界』という本の中で、鈴木さんはGAFAに代表されるグローバルプラットフォーマーが独占的地位を得ていた時代から転換し、これからはローカライゼーション、カスタマイゼーションが起きてくるということを指摘していますね。このフラグメント化の文脈で見ると、自動運転はどういう形になるのでしょう。 鈴木:町の構造や人口密度は本当に様々です。一口に自動運転と言っても、状況によって必要な技術も全く変わります。それぞれの町に最適な自動運転の形が出てくると思います。低速の自動運転車が走る町が出てくるかもしれないし、高速道路の専用レーンに自動運転車が走る町が出てくるかもしれない。 中島:そういう点からも、自動運転車を活用した「ロボットタクシー」のサービスは、どこかの都市で早めに磨き込みを掛けないと国際競争に勝てないと思っています。ロボットタクシーって新幹線のアナロジーに似ていると思うので。 入山:どういうことですか』、「それぞれの町に最適な自動運転の形が出てくる」というのは面白い指摘だ。
・『日本は“自動運転大国”になるポテンシャルが高い  中島:新幹線って、車両自体は重工メーカーがつくっていますね。電線整備などインフラを構築するのは電力会社。世界最高の1分の狂いもない車両マネジメントシステムは日立製作所がつくっている。オペレーションを含めてそれらをラッピングしているのがJR。水平分業で、いろいろな領域を担う人たちが1つの社会交通システムである新幹線というものを共同でつくり上げています。 自動運転もそれに近くて、OEMメーカー、キットメーカー、サービサー、旅客運送事業者が一緒になってロボットタクシーというパッケージをつくっている。新幹線は今、国際展開していて、中国やフランスと競合しています。 自動運転時代のロボットタクシーも同じような競争が都市ごとに起こっていくだろうと。今、いろんな企業が世界各地で開発を進めていますが、たぶんどこかの都市で先に磨きを掛けたところがそれを輸出するでしょう。 鈴木:実は公共交通にこんなに民間企業がかかわっている国って日本以外にはあんまりないんです。ヨーロッパではほとんど都市の交通局みたいなところが取り仕切っているので。日本には私鉄もあるし、大きなタクシー会社もある。民間ベースでそういう企業が成り立っているというところは日本の強みになり得ると思います。 中島:それにトヨタ自動車、日産自動車、ホンダとグローバルでもトップクラスのOEMメーカーがこの狭い国土の中に集中しています。周辺技術を持った会社もたくさんある。さらに政府も強力に推進しようとしている。意外と日本はいろんな条件がそろっています。 入山:実は日本って自動運転大国、自動運転先進国になるポテンシャルがめちゃめちゃ高いんですね。 中島:チャンスは大きいと思います。 安田:国内競争が激烈な業界で勝ち残ると海外でも十分に競争力を持つことができる。これはどんな分野でもそうですからね。 入山:DeNAはそういう中で新しいプレーヤーとして入って、ゆくゆくはグローバル展開も考えているということですね。 中島:そうですね。水平分業の1レイヤーを担いたいです。ラッピングするのは我々じゃなくてもいい。でも、「ラッピングします」という企業が現れないのであれば我々がやりましょう、と思っているところです。 安田:世界展開できたら、「トヨタのクルマに乗ろう」「日産のクルマに乗ろう」ではなく、「DeNAを使おう」となるわけですね。 入山:現に今、新幹線はどの重工メーカーがつくった車両かは気にせず、JRのサービスとして利用していますからね。同じことが自動運転の世界でも起きるようになると。 安田:ちょうど今後の話が出ましたので、第2回はここで終わりにして、次に未来の話をお聞きしていきましょう』、「日本って自動運転大国、自動運転先進国になるポテンシャルがめちゃめちゃ高い」、というのは嬉しくなるような話だ。続きも興味深そうだ。

第三に、この続きを、6月11日付け日経ビジネスオンライン「[議論]自動運転は、社会をどう変える? 4つの予言 File3 「自動運転業界」(第3回)」を紹介しよう。
・『・・・3回目の議題は「自動運転が社会を変える」。自動運転やMaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)の進行で新しいサービスが次々に登場する中、社会はどう変わっていくのか。ホテルはつぶれ、住宅革命が起きるのか……。 議論の中で飛び出した斬新な予想から、クルマを起点に様変わりする未来が垣間見えた。 入山:引き続き、自動運転業界について、ゲストのお2人にお話をお聞きしていきます。今回は自動運転の未来を伺いたいと思います。ここまでの議論をおさらいすると、自動運転には「レベル1」~「レベル5」まであり、既に「レベル2」までは実現している。 これから「レベル3」~「レベル5」が出てくるけれども、主にタクシーやバスなどの商用車については、ドライバーなしで勝手に走り回るという状況が2023年ぐらいまでには部分的にでも起きるだろうと。 安田:あと4年ですね。2025年には私の勤める大阪大学の地元で万博も開かれますが、その頃には結構自動運転車が浸透しているってことです。 入山:そこでお聞きしたいのは、その後の2025年から2030年ぐらいまでの間に、自動運転によって我々の社会には何が起きるかということです。お2人には、既にホワイトボードに予想する未来を書いていただきました。実は僕も書きました。順番に説明していきましょう。 まず僕からいっていいですか。僕が予想する未来はこれです。ジャン。(スケッチブックを見せる) 安田:えーと、入山さん。「ホテルがつぶれる」と……』、確かに「自動運転によって我々の社会」には大きな変化が起きそうだ。
・『自動運転車がホテルを駆逐する?  入山:ええ。「レベル4」なんかが出てくると、間違いなくこれが起きると思ってます。ある駐車場会社の調査結果によると、駐車場にクルマを止めてドライバーがしていることのトップ5に、昼寝とか仕事が入っています。クルマって閉ざされた空間なので、自分のしたいことが自由にできる。つまり、究極のプライベート空間なんですよ。 自分で運転しなくてはいけない今は駐車場に止める必要がありますが、完全自動運転が実現すれば、勝手に運転してくれるから、移動しながら好きなことができる。完全自動化したクルマなら、ホテル代わりにも使えます。ほら、大阪大の先生である安田さんは、住んでいる大阪から出張で全国各地に移動することも多いでしょう? 自動運転のクルマがあれば、移動しながら宿泊もできますよ。夜の11時ぐらいにクルマに乗って後はガーッと寝ていればいい。朝起きたら、出張先に着いています。ビジネスホテルは自動運転に取って代わられる可能性があると僕は思っています』、私は若い頃はクルマで寝たこともあるが、疲れが取れず、コリゴリだ。
・『移動と宿泊のセットには価値がある  安田:なるほど。僕、ときどき船の旅に行くんですけれど、それに近い世界観ですね。船の旅って全部船の中でサービスが完結するので、子供連れには楽でいいんです。それと同じようなことが、クルマの世界でもっと広範に、低価格で起きるということですね。 中島:すごく鋭い指摘だと思います。現に鉄道では豪華な宿泊設備が付いた列車がブームになっています。寝台列車の「ななつ星in九州」とか。 安田:ああ、「ななつ星」は大変な人気ですよね。 中島:移動と宿泊のセットに価値があるということの実証であって、同じことはクルマでも起き得ると思います。ただ、クルマの場合も、あるのは高級路線かなと。 大衆路線のビジネスホテルの代替というのはなかなか難しいと思います。みんなが移動するクルマの中で寝始めたら、夜中の道路が渋滞しちゃいますから。都市空間を効率よく使うためには、大きなビルの中でたくさんの人に寝てもらった方がいい。貴重な道路を使いながら宿泊する場合には、たくさんのお金を払える人を対象にした高級路線にする方がいいのではないでしょうか。 入山:なるほど。北海道一周を自動運転でやっちゃうというようなことですね。 中島:そうです。そんな旅行が今後はどんどん出てくると思います。 安田:ホテルの場合は一度つくったら、そこでしか楽しめないけれど、クルマなら、ベストビューのところまで移動していけますしね。電車と違って線路の制限もない。 中島:朝日が美しい場所まで行って起こしてくれるとか、いろいろなサービスが可能となります』、「貴重な道路を使いながら宿泊する場合には、たくさんのお金を払える人を対象にした高級路線にする方がいい」、というのはその通りだろう。
・『入山:なるほど。じゃあ、次は安田君、いってみようか。 安田:僕はこれです。 入山:カプコン……? 安田:ええと、ゲーム会社の話ではなくて、「カプセルコンテナ」の略。未来には移動手段とは別に「マイカプセル」みたいなものをおのおのが持つようになるだろうという予想です。移動したい時には、コンテナのように移動手段にカプコンごとポコッと乗る。 イメージ的には「ドラゴンボール」の宇宙船。プライベートなスペースとしての「マイカプセル」は変わらないけれど、乗っかるクルマは場面によって変わるというものです。1人で乗る場合もあるし、複数人で乗る場合もある。クルマに限定されないモビリティーですね。 鈴木:トヨタ自動車が提案している「イーパレット」は、このコンセプトに近いですよね。移動、物流、物販と幅広い用途を想定し、パレットのように姿を変えるというものです。 安田:そうですか! じゃあ、僕は独自にトヨタと同じところにたどり着いたんだ(笑)』、「プライベートなスペースとしての「マイカプセル」は変わらないけれど、乗っかるクルマは場面によって変わる」、というのは面白い夢物語ではある。
・『「トヨタの方、いつでもプレゼンします」  入山:自己評価高過ぎないですか(笑)。 中島:トヨタよりも先を行っている感じはします! 入山:おお、トヨタの先を行っているのか! 中島:クルマと一体化していないのがポイントですよね。移動主体と分離できるということは、都市空間を効率的に使えます。 安田:個人的には「マイカプセル」にするのがポイントだと思っているんです。シェアリングサービスが進んだときに、ほかの人が使ったスペースに入るのを嫌がる人もいるでしょうから。トヨタさんの関係者の方、見ていらっしゃいますか。いつでもプレゼンしに行きますよ(笑)。 入山:我々の露払いはこの辺にしておいて、お2人に自動運転の未来をお伺いしましょう。では鈴木さんから。 鈴木:若干、現実的過ぎるかもしれないんですけれど……。 入山:我々はかなりいいかげんなので、そういうのがかえってありがたいです(笑)。 鈴木:「地方のタクシーからロボタクシー」と書きました。2025年になると団塊の世代が75歳を過ぎて後期高齢者になってきます。運転免許を返納する人が増える。一方で実はタクシーのドライバーが減っていくんですよね』、なるほど。
・『自動運転は地方のタクシー事業者を救う  入山:そうですよね。特に地方でね。 鈴木:今はタクシー業界が反対して、自動運転化が進まないという面もあるんですが、これからの時代には自動運転を入れていかないとサービスを維持できなくなる。切実な問題です。 入山:実際、地方へ行くと、年配のタクシードライバーが多いですよね。 鈴木:そうなんです。先日もある地方都市へ行ったら、いつもはすぐ来たタクシーが全然来ない。話を聞くと、3月で数人退職者が出たそうなんです。そうしたら、もうタクシーが全然つかまらないっていう状況で』、「自動運転は地方のタクシー事業者を救う」というのはその通りなのかも知れない。
・『「移動弱者」をどうするか  中島:地方では行きたいところに行けない「移動弱者」が出てしまうという課題が深刻ですね。一方、事業者の方の悩みも深くて、「乗務員を募集しても全然集まりません」とか、「利益が出ません」という声をよく聞きます。公共交通サービスなので簡単にやめるわけにもいきません。ロボタクシーのようなものが地方から進んでいくというのは確かにあるでしょうね。 安田:ただ気になるのは、自動運転車の価格です。自動運転車自体がものすごく高額だったら、多少人件費がかさんでも、人でまかなった方がいいっていうことになります。将来出る製品の価格を予測するのって難しいとは思うんですが、その辺りはどうなのでしょうか』、確かに問題だ。
・『ロボタクシー、車両価格10倍でも利益が出る  鈴木:我々の試算では、本当にドライバーレスにできるなら、車両価格が今の10倍になったとしても、利益が出ます。 入山:そうなんですか。 鈴木:はい。それぐらいやはり人件費って高いんですね。高いだけでなく、そもそも人がいないという問題が深刻なのですが。 中島:タクシー業界のコスト分析をしてみると、人件費はコスト全体の7割を占めています。車両は数%です。 安田:数%か……。それだったら10倍になっても大したことないですね。 中島:自家用車だと1000万円、2000万円となったら、いくら完全自動運転だといってもなかなか買える方はいませんけれどね。商用車であれば車両価格は誤差の範囲です。 入山:なるほど。そういう意味でも、やはり自家用車よりも先に商用車で自動運転は進む可能性が高いですね。我々、自動運転というとやはりテスラのイメージが強くて、「高級車で乗り回すのがステータス」っていう感覚が残っているんですけれど、実態はずいぶん違うということですね。分かりました。 では最後に中島さん、お願いします』、「ロボタクシー、車両価格10倍でも利益が出る」のであれば、大いに期待できそうだ。
・『中島:ちょっと私は路線が違うんですが。「住宅革命」が起こるとみています。 入山:自動運転が普及すると住宅革命が起きると。どういうことですか。 中島:今、日本の都市は駅前中心に経済が成り立っています。マンションでも一軒家でも、駅近の物件価値が高く、駅から同心円状に価格が下がっていきますね。でも自動運転が浸透したら、鉄道を利用しなくてもいい。駅から遠い物件でも、住宅を安い価格で買った分、自動運転のクルマを1000万円で買えばいいっていうことになります。 1960年代にモータリゼーションが起き、マイカーが浸透したら、交通の便が悪かったところにも住宅がたくさんできて地価が上がりました。同じように、自動運転時代になって交通の便が変わると、価値がなかった駅遠の物件価値が上がると思います。ロードサイドに土地をお持ちの方は、そのまま持っていた方がいいんじゃないかと。 入山:なるほど。めっちゃ面白いですね。田舎の辺ぴなところでも、むしろ「景観がいい」とか、別の価値が評価されるようになるかもしれませんね』、「自動運転時代になって交通の便が変わると」、地価のあり方が変わるというのもありそうだ。
・『「そもそも人間に移動は必要ですか?」  中島:こういう変化が起こると、たぶん流通業も飲食業も変わってきます。駅前の一等立地でなくてもいい。自動運転車がデリバリーするのならまさに立地フリーです。「Uber Eats」はそのはしりといえると思います。 安田:今、東京だと駅から15分以上離れた戸建てって、ものすごく不動産価値が落ちてしまいますが、そういうところが逆転する可能性がありますね。 入山:逆に駅の横にあるタワーマンションなんかは、もしかしたら価値があまり高くなくなるかもしれない。今は駅前に物件が集中していますが、もうちょっとフラット化するかもしれないですね。 鈴木:私が住んでいるマンションも駅から遠くて、今は送迎用のバスが出ているんです。管理組合が管理しているんですが、これが大赤字なんですよ。けれど、自動運転ならばコストを下げられて、かつ、もっと本数を増やして利便性を向上できる。おっしゃるように、自動運転との掛け算で不動産の価値って大きく変わってくると思います。 安田:さすが鈴木さん、そこまで先読みされてマンションを購入されたと。 鈴木:いやいや、結果論で(笑)。 入山:今のお話に関連するので、ちょっと読者の方の質問を議論してみたいのですが。情報処理従事者のK.Gotouさんからです。非常に深い質問で、「そもそも移動は必要か」という問題提起です。「人間の脳が満足する事であれば、『仮想の移動体験』で物事は済みそうです」と。「移動することの意味」を問うていらっしゃるんですね。 ちょうどこの「業界未来図鑑」でも、前回シリーズでVR(仮想現実)業界を取り上げました。VRとかAR(拡張現実)が実用化されると、自分が移動しなくてもアバターなんかを使って仮想上でいろいろな交流もできるようになります。こういう便利なものがどんどん出ている中で、移動って本当に我々にとって必要なものなのか。いかがでしょうか。 中島:先日OEMメーカーの技術者の方にお聞きした話なんですが、国家のGDP(国内総生産)が増えると、その国に住む人たちの総移動距離が比例して上がるという相関関係が明確にあるそうなんです。国が発展すると、みんなワサワサ移動するっていうことですね。 ところが最近、GDPが高い国では、GDPが拡大しても総移動距離が増えなくなってきている。おそらく人が移動するまでもなく、例えばアマゾン・ドット・コムでモノを注文できたり、VRで疑似体験できたりするからだろうと』、「最近、GDPが高い国では、GDPが拡大しても総移動距離が増えなくなってきている」、というのは初めて知った。
・『感性に訴える店だけがEコマースに勝つ  入山:人間ではなく、モノや情報の方が移動しているんですね。 中島:そうです。モノとか情報の移動をグラフに足せば、GDPの上昇に比例して伸びていくのだろうと予想できます。では、そもそもなぜ人は移動するのかという目的を考えると、仕事のためだったり、遊びのためだったり、誰かとつながってインタラクションを求めるからですよね。 そのインタラクティブな関係性そのものがGDPに比例して増えるのかもしれません。それがリアルな移動を伴わずにリモートで働けたり、ネット上の交流で満たされたりすると、人の移動は頭打ちになる。 鈴木:そういう側面は確かにあります。ただ人間って生身の生物なので、動かないと、どんどん不健康になります。特に高齢者はそれでなくても家に引きこもりがち。寝たきりになってしまって健康寿命がどんどん短くなってしまうというのは困ります。いかに外に出していくかという意味で、交通弱者の問題はクリティカルですね。 入山:人が動かなくなるからこそ動かす必要があると。 鈴木:そう思います。 中島:私は機能的な移動はどんどんバーチャルになっていくけれど、逆に感性的な移動はどんどん価値を増すと思っています。 入山:なるほど。必要に迫られてする、面倒だけど渋々する移動というのは、バーチャルが代替してくれる。 中島:私たちは地方都市の交通課題を分析するために、実際に現地に行って地元のおじいちゃん、おばあちゃんにお話を伺っています。「買い物、困るんだよね」という話が出るので、「じゃあ、ネットスーパーがあったらいいですか」と話を深掘りすると、「いや、そうじゃない」と。 スーパーまで買い物に行って、ショッピングするのがひとつの楽しみだっていうんです。私もそうですけれど、大きなスーパーに行くとちょっとワクワクしますからね。生身の自分が移動して買い物をしたいという気持ちがある。機能的な移動は効率化され、そういう感性的な移動の価値はどんどん増していくと思います。 安田:逆に言うと、リアル店舗はそういう感性に訴えられるようなお店以外は、eコマース(電子商取引)に徹底的に淘汰されていってしまうかもしれないですね。 入山:確かにそうですね。面白い未来のお話が伺えました。ありがとうございます』、「機能的な移動は効率化され、そういう感性的な移動の価値はどんどん増していく」、というのは面白い指摘だ。そうであれば、運動不足を懸念しなくて済むのかも知れない。いずれにしろ、自動運転の問題はかなり幅広く深い問題のようだ。
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イノベーション(その3)(イノベーションを阻害する「同調圧力」の呪縛、失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業にイノベーションはできるのか? 入山章栄が語るイノベーティブ人材論、科学と軍事と民生技術を集約 謎のイノベーション推進組織『DARPA(ダーパ)秘史 世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇』) [イノベーション]

イノベーションについては、昨年6月27日に取上げた。久しぶりの今日は、(その3)(イノベーションを阻害する「同調圧力」の呪縛、失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業にイノベーションはできるのか? 入山章栄が語るイノベーティブ人材論、科学と軍事と民生技術を集約 謎のイノベーション推進組織『DARPA(ダーパ)秘史 世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇』)である。

先ずは、ネットサービス・ベンチャーズ・マネージングパートナーの校條 浩氏が昨年10月15日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「イノベーションを阻害する「同調圧力」の呪縛」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/179866
・『既存製品の延長線上にある新製品や新サービスの開発は次々と実現できるのに、まったく新しいコンセプトの製品を開発したり、既存製品を破壊するようなイノベーションを起こすことができないと悩む企業は多い。その企業に優秀な人材と多種多様な知識、経験が蓄積されているのにもかかわらず、である。 この答えとしてイノベーションのジレンマが有名だ。既存の市場と顧客のニーズへの対応に集中し過ぎることにより、新しいニーズを見失い、イノベーションができなくなることをいう。 しかし、新たな市場や顧客ニーズを見据えたイノベーションチームを社内につくっても、イノベーションを起こすのが難しいことの方が多い。それはなぜだろうか? 答えを先に言えば、その理由は「同調圧力」にあると考えている。イノベーションを起こそうとする人たちに対する、既存組織や周りの環境からの、変化させまいとする圧力である。 同調圧力は「場の空気」と言い換えることができる。「集団の一員であり仲間としての自分」という自覚を持ち行動すべきという暗黙の了解であり、行動規範のようなものだ。 こうした規範について、各人が意見を言うような直接的なことで「圧力」が顕在化するだけではなく、仲間にとってよかれと思って行動すること自体が空気となり圧力となる。その空気の中で、各人が規範から外れることを抑制するようになる』、同調圧力がイノベーションに対するブレーキ役になっているとは、興味深い指摘だ。
・『一人前の技術者から異端児へ  私自身も同調圧力を経験した。私は社会人となり入社した会社で、写真フィルムの開発部隊に配属された。写真フィルムは「乳剤」と呼ばれる感光体を含む液体を塗布、乾燥して作られる。高度な技術に加えてノウハウの塊であった。 そのため、開発者が実験作業を遂行するには技術や知識だけではなく、“職人芸”も要求された。先輩職人の技術を早く習得しなければ実験ができない。私は入社してから、無我夢中で仕事を覚えた。 実はこの過程では、同調圧力はまったく感じなかった。私が「職人芸を覚えた技術者」として、仲間の信頼を勝ち取っていたからである。 状況が一変したのは、世界で初めての電子カメラの試作品がメディアで発表されてからだ。 私は、これは写真フィルムに取って代わる破壊的な技術だと直感した。それ以降、写真フィルムの将来について上司や同僚と話すようになった。 そのころから私は、仲間の行動規範から逸脱し始めたのだろう。上司からは、「余計なことは心配しないで業務に専念するように」と優しく諭され、同僚たちはデジタル写真についての議論に加わらなくなっていった。 しかし、彼らは声を荒らげるようなことは決してない。先輩も同僚も優しかった。ただ、私の話には反応せず、遠巻きに見ているような雰囲気なのである。私は、職人芸を覚えた技術者から、組織の存続意義に疑問を持つ異端児となってしまったわけだ。 私は、夜まで実験作業をこなしながら、深夜や週末に電子カメラの基礎技術を勉強する二重生活を続けるうちに、心身共に疲れ果ててしまった。 これが同調圧力だと分かったのは、社内で自ら立ち上げに参画した、電子映像技術の研究部隊に異動することができてからである。元の組織の共通規範が及ばない他の組織に移って、初めてその圧力を「見る」ことができたのである』、写真フィルムの開発部隊のなかで、自らの存立基盤を揺るがす電子カメラのことは考えたくないとする同僚や上司の反応は理解できるが、少なくとも上司であれば、社内の適切な部署を巻き込んで検討の場を作るべきであったろう。
・『“起業家精神”は問題ではない  行動生態学・進化生物学者の長谷川眞理子氏と、社会心理学者の山岸俊男氏の共著、『きずなと思いやりが日本をダメにする』(集英社インターナショナル)に、興味深い内容があった。 人間の脳が進化したのは、気候変動により食料が豊富な森林が減り、人間がサバンナに出ていかざるを得なかったからだという。サバンナでは食料を探すのに知恵が必要になるし、他の動物から身を守るには、集団で協力した方が効果的だった。 しかし、集団で行動し、社会を形成するには、今までの動物にない知性が必要だった。それが集団内で上手に生きていくための知恵、「社会脳」だ。それは「同じ空間の中で他者と共存し、協力し合って生きていくための知性」であり、「具体的には集団内での衝突を回避するために他者の心の中を想像する能力が必要」だという。このようにして、人間は、集団生活で社会を形成するための知恵を身に付けていったと考えられる。 少子化などの社会問題も、個人の「心」が原因ではなく、環境により規定された社会や集団の中で、その人が最も生存しやすい条件を選択していることが原因だという。 社会脳の特性を考えると、同じ組織の中で、新しい規範の行動、例えばイノベーションを起こすことが、人間の本性として非常に難しいことが分かる。イノベーションが起こらない理由は、「起業家精神が足りない」などという、心の問題ではないのだ。 そう考えていくと、新たな市場や顧客ニーズを見据えた製品やサービスを生み出すなら、イノベーションチームという別の「集団」と、新しい規範による社会脳をつくる必要があるということだ。そうしないと、既存の組織の持つ同調圧力に押しつぶされてしまう。 既存の集団の社会脳は個人の心構えや頑張りでは変えられないのだから、規範や環境そのものを変えるしかない。具体的には、場所、人事制度、報酬を変えることが考えられる。外部から人材を投入、もしくは異業種のコミュニティーへ自ら入るのもよい。異業種の企業を買収するという手段もある。 人間がサバンナで生き抜いた時代は、集団から逸脱することは死を意味した。イノベーション活動を進めるために既存集団から逸脱した途端に、“キャリアの死”を覚悟しなければならない環境では、誰も新たな社会脳をつくることはできないだろう。 環境を変えられるのは経営トップだ。イノベーションの環境づくりはトップダウンでなくてはならないゆえんである』、、既存の組織の持つ同調圧力は、「社会脳」の存在のためとの指摘は大いに参考になった。ただ、日本企業には同調圧力が殊の外強い点にも触れて欲しかった。

次に、早稲田大学ビジネススクール准教授の入山 章栄氏が1月29日付け現代ビジネスに寄稿した「失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業にイノベーションはできるのか? 入山章栄が語るイノベーティブ人材論」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59554
・『「日本の競争力は今後のイノベーションが握る」。政官財あげて大合唱だ。しかし個々人の中でこれほど腹落ちしない議論も他にないだろう。イノベーションを阻む要因しか社内に見当たらないからだ。 パナソニックなどの大企業に所属する若手社員が有志ではじめたコミュニティ「ONE JAPAN」が発足から2年で50社1200人を擁する団体に育ったのは、そのモヤモヤした空気を突破したいビジネスパーソンがいかに多いかをあらわす。 どうして企業は変われないのか。どうすれば企業で革新的イノベーションを起こせるのか。その発足以来「ONE JAPAN」の意義を認めている早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授は、2018年9月30日に「ONE JAPAN」2周年カンファレンスでプレゼンテーションをおこない、大型台風が迫っていたにもかかわらず集まった1000人が聞き入った。その内容をベースに構成した談話記事をお届けしよう』、「ONE JAPAN」とは初耳なので、興味深そうだ。
・『今のままで10年先はない  今ほど多くの日本企業がイノベーションの必要性を声高に叫ぶ時はかつてなかったかもしれない。その背景には、言うまでもなく人工知能、IoT、ブロックチェーン、将来的には量子コンピュータといった急速なテクノロジーの進歩があり、GAFAのようにそれらを自社の製品・サービスにうまく適応できた新しい企業群が伝統的企業群にとって代わり、産業そのものを根こそぎ変え得る勢力になってきたことがある。 このことは多くの人が共通して認識していることだろう。例えば自動運転テクノロジーの競争の渦中にある自動車産業にいる方々の中には、自社が今のままで10年先を迎えられるとは思えない、というほど深刻な危機感を抱えている方も多い。 では、なぜ日本企業にはイノベーションが足りないのか。イノベーションとは新しいアイデアを生み出すことだ。 どうしたら生み出せるのか、その経営学における原理の一つが、ジョセフ・シュンペーターが80年以上前に提唱した”New Combination”、直訳すると「新結合」である。 イノベーションとは既存の知と既存の知を組み合わせて新しいアイデアを創り出すことになる。すなわち、人・組織は常に新しい知と知を組み合わせ続けなければ、イノベーションはおきないのだ。 ところが人間の認知には限界がある。どうしても目の前で認知できるものだけを組み合わせる傾向になってしまう。 したがって、それを克服するための第一歩が、目の前ではなくて、自分のいる場所からなるべく遠く離れたところを見て、遠くの知を幅広く探索し、それらを持って帰ってきて、いま自分にある既存の知と新しく組み合わせることだ。 これを経営学では”Exploration”と呼ぶ。この概念を私は『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)という著書で「知の探索」と訳した。人間の認知に限界がある以上、この「知の探索」がイノベーションを生むのに果たす役割は決定的に大きい』、「目の前ではなくて、自分のいる場所からなるべく遠く離れたところを見て、遠くの知を幅広く探索し、それらを持って帰ってきて、いま自分にある既存の知と新しく組み合わせることだ」という「知の探索」は、確かに有効そうに思える。
・『TSUTAYAのレンタル事業は消費者金融から発想  日本におけるイノベーションも多くは知の探索で生まれている。例えば必要な部品を必要な時に必要なだけ揃えるトヨタの「ジャスト・イン・タイム」の生産システムは、アメリカのスーパーマーケットの仕組みと自動車生産の仕組みを組み合わせたことで生まれている。 また、TSUTAYAのレンタル事業も同様で、1000円のCDを3日100円でレンタルする仕組みは、同じように元金を貸して利益を取ることで収益を取る消費者金融から発想されたとされる。創業者の増田宗昭氏はそこから着想してあのビジネスに目をつけたと言われているのだ。これくらい遠くを見ないとイノベーションは起きないのである』、TSUTAYAのレンタル事業の原型は昔あった「貸本屋」なのではないかという気もするが、創業者が「消費者金融から発想」と言っているのであれば、そうなのだろう。
・『とはいえ、企業は「知の探索」ばかりしているわけにはいかない。すでに社内に持っている知を改良したり、同質の知を積み重ねたりして、それらをビジネスに活用し収益を生み出そうとする。これを経営学では”Exploitation”、「知の深化」と呼ぶ。 スタンフォード大学のジェームス・マーチが1991年に発表した論文「Exploration and Exploitation in Organizational Leading」で、「知の探索」と「知の深化」の両方をバランスよく実現することが非常に重要であり、このバランスがよい企業、組織、ビジネスパーソンがイノベーションを起こせる確率が高いとされている。これはまた”Ambidexterity”、「両利きの経営」といい、世界のイノベーション研究で多くの経営学者が依拠する考え方だ』、「知の探索」はプロダクト・イノベーション、「知の深化」はプロセス・イノベーションに近い考え方なのではなかろうか。確かに両者のバランスが重要なので、「両利きの経営」が理想形となるのだろうが、現実には難しそうだ。
・『社内から批判「あの部署はカネの無駄」  しかし現実に日本の大企業で「両利きの経営」ができているケースは少ない。先に述べた認知の限界のためであるだけでなく、日本企業の組織に内在する問題もあると私は考えている。ここ10年ほど、多くの大企業で新規事業開発部やイノベーション推進室などが作られた。それらの組織で何が起こっているのか、典型的な例を挙げてみよう。 まず新規事業開発の部門では、最初は元気よく「知の探索」がおこなわれるのだが、3年ぐらい経つと社内で批判され始める。予算ばかり使って結果が出ないことが続くと「あの部署は金ばかり使っているコストセンターだ」などと言われ始めるわけだ。しかし想像も想定もできないものがイノベーションなのだから「絶対に失敗しないイノベーション」などといったものが存在するわけがない。すぐに結果が出なくても、それは当然なのである。 しかし組織では、そんな状況が続くと、なんとか利益を出そうとして目の前で儲かっている分野を深掘りして「知の深化」に頼ることになる。たしかに「知の深化」によって短期的には儲かる。しかし長い目で見たときには、イノベーションに重要な「知の探索」のほうをなおざりにするので、結果的に中長期的なイノベーションが枯渇してしまう。 こうした悪循環に陥り「知の深化」に偏ってしまうことを、経営学では「コンピテンシー・トラップ」などと呼ぶ。世界の経営学の視点から言うと、今の日本の大企業にイノベーションが足りないのは、ほとんどの企業が「知の深化」に偏りすぎている、つまりコンピテンシー・トラップに陥っていると言うことができるのだ』、その通りだろう。
・『失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業  ここまでの前提から、なぜ日本企業にはイノベーションが足りないのか、さらに深掘りした二つの理由を提示しよう。まず一つは、日本企業の多くが「失敗」を許さない組織文化を持っていることだ。 誰もがスティーブ・ジョブズを素晴らしいイノベーターだと考えているだろう。それに間違いはない。しかし試みに「ジョブズ 失敗」でインターネット検索してみてほしい。今はかなりマニアックな人しか覚えていないアップルのソーシャルネットワーク「PING」や音楽携帯の「iPodシャッフル」などなど、使いにくく売れなかった彼の失敗作が驚くほどたくさんヒットする。こうした大量の失敗作がある一方で、ほんの一握りの大ヒットがあり、それがiMacであり、iPhoneなのだ。ジョブズは大天才であると同時に大失敗王でもあるのだ』、ジョブズが「失敗王でもあるのだ」というのは初めて知った。
・『ところが、日本の大企業はこうした失敗を許さない。「iPodシャッフル」のような失敗など絶対あってはいけない。徹頭徹尾何一つ間違ってはいけないという組織では「知の探索」などとてもできない。社員からイノベーションなど生まれようがない土壌ができてしまう。 もう一つの理由が人事評価だ。失敗を許さない企業にいれば、社員は失敗を怖れる。人事で評価されないのであれば、あえて失敗をするかもしれないような仕事をする社員などいないだろう。 歴史の長い大企業独特の人事の問題もある。新卒一括採用で終身雇用制度の会社はどうしても自分たちと同じような人間を採用する傾向にある。だから似たもの同士が、同じ組織の中にずっと一緒にいる。これではいけないと思って同業他社を見渡しても、そこでもおおむね自分たちと似たような人たちが集まっている。 右を見ても左を見ても似た傾向の人たちが目の前の知の組み合わせをしているだけでは、イノベーションは生まれない。「最近うちの会社では、新しいことができていない」と思ったら、それは知と知の組み合わせが出尽くしてしまったからなのだ。 このような理由から、「知の深化」に偏った状態から脱して「知の探索」を促すのは、現在の大企業組織ではかなり困難だというのが私の見方である』、残念ながらその通りだろう。
・『手段と目的が混同されるダイバーシティ  では、どうすればいいのだろうか。一つのヒントが、大企業にいながら他業種の多様な人たちと交流できる場を設けている「ONE JAPAN」のような組織だ。私が「ONE JAPAN」に注目しているのは、彼らの考え方と存在価値に共感しているからだ。かれらが出した著書『仕事はもっと楽しくできる 大企業若手 50社1200人 会社変革ドキュメンタリー』に私は「組織でもがきながら、境界を超えてつながる彼らにこそ、日本の未来がある」という推薦文を寄せさせてもらった。 普段は会えない人たちと会うことで「知の探索」に必要なダイバーシティが生まれる。さらに、共通の思いをもって集まる仲間同士には心理的な安全性が生まれるので、失敗も受け入れられやすい。「ONE JAPAN」はこのコミュニティを「実践共同体」と名付けているが、イノベーションが起こるのに必要な条件を持つのは、まさにこのような組織である。私は日頃から、「ONE JAPAN」こそ失敗を許容する組織にしなければならないと主張している。 さらに言えば、ダイバーシティを導入しようとする日本の大企業で起こりがちなのは、その手段と目的を混同するケースだ。2016年に女性活躍推進法が施行されて以来、私の研究室にダイバーシティ推進室長という肩書きのつく方がしばしばいらっしゃる。ダイバーシティを進めるための部署はできたけれど何をしていいかわからないという。 そこで「では何のためにダイバーシティを推進するのですか?」というそもそもの質問をすると、たいてい「わかりません」という答えが返ってくる。会社がそう決めたからとおっしゃる場合もあった。このような認識ではダイバーシティは進まない。ダイバーシティ推進そのものが目的化し、それはイノベーションのための手段であるという理解に乏しいことが多いのだ。 それに対して「ONE JAPAN」はもともとバラバラの個人が集まる組織だから、ダイバーシティな組織になっている。これからもっと多様なバックグランウンドを持つ、多様な業界・多様な年代の人たちを入れて、そのダイバーシティ性をますます徹底してほしい』、「ONE JAPAN」についての具体的な説明がないが、1200人もいるのであれば、多くの分科会に分かれて活動しているのであろう。
・『「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞者たちの共通点  繰り返すと、ダイバーシティはイノベーションを生み出すためのものであり、幅広い知見を組み合わせるための「知の探索」ができる場であると考えられている。しかし、「知の探索」はひとりの個人の中でも起こせる。多様な経験と幅広い知見を持っていたら、その人の中で既存の知と既存の知の新しい組み合わせができる。 これは経営学で「イントラパーソナル・ダイバーシティIntrapersonal Diversity」=「個人内多様性」と呼ぶ新しい概念だ。現在、イノベーティブなことができている人のほとんどは、このイントラパーソナル・ダイバーシティが高い。 リーダー育成のプロである岡島悦子プロノバ社長は「キャリアのタグ=比較優位となる強み」を持てと、よく主張されている。会社の中で「あいつは○○に強い」と「想起される」人になれということなのだが、この考えにしたがえば、自分の中にいくつもタグを持っている人は、それらを組み合わせて発想することができるため、イノベーション人材になり得るわけだ。 私は「日経WOMAN」が主催する「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」の選考委員をしている。2017年の受賞者たちにはある共通点があった。それはマルチキャリアの持ち主ということだ。異なる職業の経験値を革新的なビジネスにつなげている人たちだったのである。 例えばクリエイターのネットワークを構築し地域創生を手がけるロフトワークの林千晶さんは、花王出身である。その後、ボストン大学大学院を経て、共同通信ニューヨーク支局に勤務したのち日本に戻って起業した。「未来食堂」で有名な社会起業家の小林せかいさんは、元IBMのエンジニアだった。 世界的に評価されるVR用のヘッドマウントディスプレーを開発したFOVEのCEO小島由香さんは、なんと元プロの漫画家だ。彼女はもともと漫画を読むことも大好きで、「漫画の中のイケメンの名前を呼んだら振り返って笑ってくれること」が長年の夢だったという。その発想から生まれたFOVEのヘッドマウントディスプレーは、赤外線で目線の動きを感知する視線追跡機能を搭載して世界中の出資者から12億円を集めた。彼女が漫画家でなければ、この発想自体が生まれなかっただろう。 自身の中に多様性があるからこそ、知の探索ができ、イノベーションを生む。ジョブズの言葉を借りるのであれば、これはコネクティング・ドッツともいえる。事前にはわからないけれど、振り返ると、それぞれの点と点が線でつながっているわけだ』、「イントラパーソナル・ダイバーシティ」が高い人は貴重な存在のようだが、きっと「何をやらせても出来る」ような人物なのだろう。
・『「チャラ男」と「チャラ子」の創造力  もうひとつ、イノベーション人材の特徴について述べたい。 ソーシャルネットワークの分野では、人と人とのつながりを解析して、どのような人脈を持つ人がパフォーマンスを上げるかについて研究されている。 そのなかで最もよく知られている考え方が、スタンフォード大学のマーク・グラノヴェッターが1973年に発表した論文「The strength of weak ties=弱い紐帯の強み」だ。家族や親友といった「強い結びつき」と、ただの知り合いどうしでつくられる「弱い結びつき」では、どちらのほうが価値のある情報が伝わるのか。一見、親友のほうだと思われるが、実はそうとは限らない。 親友をつくるのは容易ではないが、「弱い結びつき」はごく簡単につくることができる。だから「弱い結びつき」のほうが遠くに伸びやすい。遠くに伸びれば、そこには自分が知らない多様な知見や考えや経験を持った人がいて、そういう人たちが発信する情報は「弱い結びつき」のほうが多く流れる。 私が先ほどから述べている「知の探索」に向いているのは、この「弱い結びつき」なのだ。したがって「弱い結びつき」をたくさん持っている人のほうがクリエイティブであるということが、多くの研究で示されている。 これがどんな人かを一言でいうなら、「チャラ男」と「チャラ子」だ。チャラい奴はたいてい大企業では疎まれる。普段は人脈づくりと称してあちこちの呑み会に顔を出し、名刺コレクターと呼ばれて普段はバカにされている。 しかしいざ会議をやってみると、意外とチャラ男がだれも思いつかないような斬新な視点から画期的な提案をしたりする。そうして部長から「お、チャラ男、やるじゃん!」などと褒められてますます周りから疎まれるわけなのだが、こうしたことが起きるのは、かれらが「弱い結びつき」を持っているからなのだ』、「「チャラ男」と「チャラ子」の創造力」が高いというのは、言われてみれば理解できるが、常識とは異なる意外な結論だ。
・『イノベーションを生む「ONE JAPAN」に注目  そしてこう考えると、「ONE JAPAN」のさらなる重要性がわかるだろう。そう、「ONE JAPAN」こそが、まさに「弱い結びつき」を作れる場なのである。残念ながら、人を企業内・事業部内で抱え込む傾向のある日本の大企業では、人は他企業の人たちと弱い結びつきを作ることが難しい。 そこで「ONE JAPAN」のような、企業の垣根を超えて人と人が繋がるプラットホームがあれば、それは知の探索になるのである。そして、それは個人内の多様性を高めるだろう。 世間には、ONE JAPANを「大企業の若手の仲良しクラブ・交流会」と批判する人もいる。しかし、私に言わせれば、その企業の垣根を超えた交流会こそがまずは重要なのだ。「ONE JAPAN」は人と人が繋がる場だ。ここで多くの今まで知りえなかった多様な人と弱い結びつきを作るはずだ。それ自体に、大きな意味があるのである。 では、ここまで見てきたようなイノベーション人材になるにはどうすればいいだろか。それは別に難しいことではない。まずとにかく「動く」。これしかない。「ONE JAPAN」をその動くきっかけとしてぜひ使って欲しい。 これから日本のビジネスは徐々に「プロジェクト型」に移行していくことになるだろう。個人が自らの中に多様性を持ち、自分らしさが発揮できる機会を求めて「弱い結びつき」の中で多様な人材とプロジェクトごとにつながり、自分が納得できる仕事だけをする。そういう時代が近い将来必ずやってくる。 そうなると、その人にとって企業とは、単なる自分が所属する組織なのではなく、自分らしさを発揮して、自分の作りたい世界を作り、自分がしたいことをするための道具になるだろう。 日本の大企業で働く社員たちにそうした意識が芽生えてきているのは、ここで紹介した「ONE JAPAN」が発足2年で50社1200人も参加するほどのコミュニティになったことが、何よりの証左だろう。イノベーションを生む芽は確実に育ちつつあることを私は実感している』、「ONE JAPAN」の今後の活動を注視していきたい。

第三に、東京大学教授、信州大学教授の玉井克哉氏が1月27日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「科学と軍事と民生技術を集約 謎のイノベーション推進組織『DARPA(ダーパ)秘史 世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇』」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/191986
・『科学に基づく新たな技術が国家の安全を左右する。1957年、最初の人工衛星スプートニクの打ち上げで旧ソ連(現ロシア)に先んじられた米国は、改(あらた)めてそれを痛感した。 翌58年、対抗策として設立されたのがDARPA(米国防高等研究計画局)である。本書は、かつての機密文書や豊富なインタビュー記録を用い、発足当初から今日に至る足跡をたどっている。 本書が投げかける疑問の一つは、平和研究と軍事研究の境界線だ。旧ソ連との地下核実験禁止条約を締結するため、米国は核実験と地震とを確実に識別する技術を必要とした。そのために、DARPAは大規模な予算を投入し、科学としての地震学を発展させた。軍縮のための基礎科学研究をも、軍事研究と呼ぶべきなのだろうか。 DARPAの実質的な出発点は、ベトナム戦争での60年代以降の秘密作戦だ。軍の旺盛な需要に、彼らは応えた。小型の自動小銃を開発するに止(とど)まらず、ゲリラから隔離した「戦略村」を構想し、空爆による心理的打撃の効果を上げるために社会心理学をも動員した。 もっとも、ベトナム戦争への関与は全体として大きな失敗だった。戦略村は機能せず、社会心理分析は的外れで、枯れ葉剤のように、国際的にも、国内的にも、厳しい非難を浴びた開発成果もあった』、DARPAはインターネットの原型を作ったことで有名だが、ベトナム戦争への関与など功罪相半ばするようだ。
・『研究戦略の観点から興味深いのは、DARPAでの研究者の裁量の大きさと、異常なまでの意思決定の速さである。後世インターネットとして結実した研究は、一人の独創的な研究者の発意を当時の局長がわずか15分で承認したことから始まった。有識者の会議で、長時間かけて意見を集約するようなやり方とは、対照的である』、インターネットの原型を「局長がわずか15分で承認」というのには驚かされた。無論、局長の権限内の予算だったのだろうが、彼我の差を改めて痛感した。
・『とりわけ注目すべきなのは、無人攻撃機、ステルス技術、GPS(全地球測位システム)、自動走行車、音声認識、精密誘導弾、さらにコンピューター間連携による統制支援や兵器群連携システムなどを早くから手掛け、しかもいったんは失敗に終わっていたことだ。 同様のことが、今日も行われている可能性は高い。数十年後に人類が目にする技術は、いま密(ひそ)かに研究されているのかもしれない。成果の公開と自由な相互批判を基盤とする科学研究とは別個に、闇に隠れたダークマターのような技術の世界が、見えないところに広がっているのかもしれない。 近年のDARPAは、有名になった割に活動が低調であり、存在理由すら問われる状況だという。だが、「米中新冷戦」が語られる今日、技術安全保障における米国の躍進をもたらした組織の実像を知る意義は、まことに大きい』、「闇に隠れたダークマターのような技術の世界が、見えないところに広がっているのかもしれない」というのは、不気味だが、とんでもない画期的技術が飛び出してくる可能性があるというのは、楽しみでもある。
タグ:イノベーション ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス 入山 章栄 校條 浩 (その3)(イノベーションを阻害する「同調圧力」の呪縛、失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業にイノベーションはできるのか? 入山章栄が語るイノベーティブ人材論、科学と軍事と民生技術を集約 謎のイノベーション推進組織『DARPA(ダーパ)秘史 世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇』) 「イノベーションを阻害する「同調圧力」の呪縛」 一人前の技術者から異端児へ “起業家精神”は問題ではない 新たな市場や顧客ニーズを見据えた製品やサービスを生み出すなら、イノベーションチームという別の「集団」と、新しい規範による社会脳をつくる必要 “キャリアの死”を覚悟しなければならない環境では、誰も新たな社会脳をつくることはできないだろう。 「失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業にイノベーションはできるのか? 入山章栄が語るイノベーティブ人材論」 大企業に所属する若手社員が有志ではじめたコミュニティ「ONE JAPAN」が発足から2年で50社1200人を擁する団体に育った なぜ日本企業にはイノベーションが足りないのか 人間の認知には限界 目の前ではなくて、自分のいる場所からなるべく遠く離れたところを見て、遠くの知を幅広く探索し、それらを持って帰ってきて、いま自分にある既存の知と新しく組み合わせることだ 「知の探索」 すでに社内に持っている知を改良したり、同質の知を積み重ねたりして、それらをビジネスに活用し収益を生み出そうとする 「知の深化」 「知の探索」と「知の深化」の両方をバランスよく実現することが非常に重要であり、このバランスがよい企業、組織、ビジネスパーソンがイノベーションを起こせる確率が高い 「両利きの経営」 社内から批判「あの部署はカネの無駄」 「知の深化」によって短期的には儲かる。しかし長い目で見たときには、イノベーションに重要な「知の探索」のほうをなおざりにするので、結果的に中長期的なイノベーションが枯渇 コンピテンシー・トラップ 失敗を怖れる人間ばかり集まる大企業 日本の大企業はこうした失敗を許さない ジョブズは大天才であると同時に大失敗王でもあるのだ 手段と目的が混同されるダイバーシティ 「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞者たちの共通点 イントラパーソナル・ダイバーシティ 「個人内多様性」 「チャラ男」と「チャラ子」の創造力 「弱い結びつき」のほうが遠くに伸びやすい。遠くに伸びれば、そこには自分が知らない多様な知見や考えや経験を持った人がいて、そういう人たちが発信する情報は「弱い結びつき」のほうが多く流れる イノベーションを生む「ONE JAPAN」に注目 玉井克哉 「科学と軍事と民生技術を集約 謎のイノベーション推進組織『DARPA(ダーパ)秘史 世界を変えた「戦争の発明家たち」の光と闇』」 ベトナム戦争への関与は全体として大きな失敗 後世インターネットとして結実した研究は、一人の独創的な研究者の発意を当時の局長がわずか15分で承認したことから始まった 無人攻撃機、ステルス技術、GPS(全地球測位システム)、自動走行車、音声認識、精密誘導弾、さらにコンピューター間連携による統制支援や兵器群連携システム
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人工知能(AI)(その7)(「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、AIが奪う仕事 vs 少子化で減る人手 第2回 自動化と人口減少のマクロ経済学、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか) [イノベーション]

17日に続いて、人工知能(AI)(その7)(「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、AIが奪う仕事 vs 少子化で減る人手 第2回 自動化と人口減少のマクロ経済学、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか)を取上げよう。

先ずは、エール大経済学部准教授の伊神 満氏が11月8日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた」を紹介しよう。なお、注などは省略した。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/110100004/?P=1
・『AI(人工知能)が仕事を奪う、世の中は大変なことになる――。AI技術の急速な発展が報じられる中で、世間では「ふわっとした」議論が繰り返され、「機械との競争」への漠然とした不安ばかりが煽られている。だが、本当にそうなのか。本コラムでは、世界最先端の経済学研究を手がかりに、名門・米エール大学経済学部で教鞭を執る伊神満准教授が「都市伝説」を理性的に検証する』、面白そうだ。
・『まずはじめに:連載コラム(全4回)の趣旨  人工知能(AI)については色々な人が色々なことを言っている。だが、よく分からない未来を語るにつけて、楽観論も悲観論も、ただ各人が「個人的に言いたいこと」を言っているだけのように見える。 となると、「AI技術は是か非か」「AI失業は起こるのか」「もはや人類の滅亡は時間の問題か」についての「結論」自体には、ほとんど何の意味もない。これだけ沢山の予想があれば、そのどれかは当たるだろうし、大半は外れるに決まっているからだ。 そんなことよりも、冷静な人たちが交わしている「それなりの確かさをもって言えそうなこと」に耳を傾け、吟味しよう。そしてあなた自身の身の振りかたについては、あくまで自分の頭で考えよう。でなければ、あなたという人間の「知能」と人生に、いったい何の意味があるだろうか。 このコラムは、経済学者である筆者が、9月中旬にカナダのトロント市で開催された第2回全米経済研究所(NBER)「人工知能の経済学」学会で行った研究発表と、そこで見聞きした世界を代表する経済学者たちによる最新の研究について、一般向けにまとめたものである』、こうしたテーマを取上げるNBERはさすがだ。
・『まずは、AIが「人間の経済活動にもたらす」影響を考えてみよう。連載コラムの前半にあたる第1回と第2回では、AIの「外側」の経済学の話をする。 AIやロボットは、これまで人力を必要としていた生産活動の「自動化」ととらえるのが一般的だ。そこで、AIの「外側」の経済学では、自動化技術の中身はさておき、それがもたらす経済活動へのインパクトを考察する(連載後半にあたる第3回と第4回では、AIの「内側」の経済学に触れる。この分類は、論点を整理するために筆者が独自に使っているものだ)。 今日紹介するのは、誰もが気になる「自分の仕事はなくなってしまうのか」という問いについての、興味深い実証プロジェクトだ』、どのように実証的に分析するのだろう。
・『仕事を1つひとつのタスクに分解してみよう  ミクロ実証的な1つのアプローチとしては、個々の職業を、その構成要素である各種「作業」レベルに分解して考えてみることができる。たとえば、大学教授という「職業」の人は、大きく分けて、 (A)研究 (B)教育 (C)雑用 という3種類の活動に時間を使う。そこでたとえば(B)の教育活動を、さらに (B1)授業内容の立案と作成 (B2)授業そのものの実施 (B3)宿題やテストによる学生の評価 (B4)大学院生の研究へのアドバイス ……のように分解し、さらに細かく具体的な「作業」をリストアップすることができる。そして、各「作業」(タスク)について、今後10年間でどのくらい自動化できそうか、その筋の専門家に点数をつけてもらおう。こういう点数を並べれば、「大学教授という職業が何パーセント自動化できそうか」を測る目安くらいにはなりそうだ。 感覚をつかんでもらうために、もう1つの例として「米国で大手監査法人に勤める会計士(専門分野は税務)」についても、業務内容をざっくりタスク分けしてみよう。 (W)税務申告書の作成 (X)税務申告書の確認 (Y)チームのマネジメント (Z)クライアントの獲得および関係構築 たとえば末端の仕事である(W)を詳しく見ていくと、 (W1)試算表の勘定科目(の管理コード)を整理して、ソフトに入力 (W2)税務上と会計上では費用・収益の認識が異なるので、違いを計算してソフトに入力 (W3)税控除や繰越欠損金が利用できるか否かを判断する といったタスクによって構成されている。もともとこの分野はコンピューターによる処理との相性が良い。だから(W1)や(W2)などはソフトの活用を前提としたタスク設計になっている。とはいえ、たとえば「交際費はその内容によって控除の可否が変化する」といった例外処理も多いため、完全自動化は難しいのだという。 この記事の読者も、ためしに自分の仕事のタスク構成を洗い出してみたらどうだろう。AIによる自動化が云々という話以外にも、何か新しい発見があるかもしれない。 こうした「自動化のしやすさ」を、世の中の多くの職業について数値化したのが、「機械学習と職業の変化」という論文である・・・といっても、今まさに進行中の研究だから、完成版が読めるのはまだ先になりそうだ。 この研究を発表したのは、米マサチューセッツ工科大学(МIT)のエリック・ブリニョルフソン教授だ。IT(情報技術)業界研究のベテランで、最近では『プラットフォームの経済学』(日経BP社)なども邦訳されている。彼自身も発表中に認めているように、数値結果そのものは、分析プロセスを少し変更しただけでも、ガラッと変わる。 たとえば、大学教授の仕事(B)教育について、具体的なタスクをいかに定義するのか、どこまで適切に細分化できるのか、本当にうまく自動化できるのか、大学教授であるはずの筆者にもよく分からない。 また、(B)教育を自動化した結果、大学教授というポストそのものが消滅してしまうのであれば、筆者は専業コラムニストに転職せざるを得ない。しかし逆に、これまで(B)に割いていた時間と体力を(A)研究に注げるようになるのであれば、願ったり叶ったりだ。 だから、たとえ「学者が科学的にたどりついた発見や数字」であっても、結論そのものには飛びつかない方がいい。当然、(自称)コンサルタントや(自称)天才プログラマーが適当にぶち上げている「未来予想」については、言うまでもない』、仕事をタスクに細分化して、タスクごとに「「自動化のしやすさ」を、世の中の多くの職業について数値化」するとは、確かに説得力がありそうな手法だ。
・『自動化しやすいタスクの8条件  ……というわけで、ブリニョルフソン教授らによる論文自体は未完成なのだが、理論的考察の大枠については、『サイエンス』誌上で「機械学習で何ができるのか? 労働需要への影響について」という短い記事を読むことができる。 その要点をまとめると、タスクを自動化するためには、8つの条件が必要だという(表1)。ちなみにこれは、スタンダードな「教師あり機械学習」、つまり回帰分析のようなデータ処理を主眼としたリストである。 表1:「自動化しやすいタスク」の8条件(1.「インプット」と「アウトプット」が、どちらも明確になっている。 2.インプットとアウトプットを正しく対応させたデジタルデータが、大量に存在する。 3.明確なゴールがあり、その達成度について明確なフィードバックがある。 4.長々とした論理展開や、いろいろな背景知識・一般常識にもとづく思考が、必要ない。 5.下した判断について、その理由や過程を詳しく説明する必要がない。 6.多少の誤差・間違いが許され、「正解」を理論的に証明する必要もない。 7.現象自体や「インプットとアウトプットの対応関係」が、時間の経過によってあまり変化しない。 8.物理的な作業における器用さや特殊技能が、必要ない。) このように機械学習の射程範囲をハッキリさせていくと、何でもかんでもうまく自動化できるとは限らないことが、浮き彫りになる。もちろん、機械が苦手とする「論理」や「証明」や「特殊技能」を、それではフツーの人間がどれくらい身につけているかというと、それは別問題だが……』、この「自動化しやすいタスク」の8条件を満たすタスクは、現実にはかなり限定されたものになりそうだ。
・『自動化の普及を左右する6つの「経済学的ファクター」  また、仮にあるタスクの「機械化が可能」になったとしても、それが現実世界で普及したり、人力による労働力への需要・賃金にインパクトを及ぼす過程は、実はけっこう複雑である。同『サイエンス』記事が指摘するとおり、技術的な問題の他に「経済学的なファクター」にも影響されるはずだ(表2)。 表2:関連する6つの経済学的なファクター(1.タスクの自動化のしやすさ(技術的な代替可能性)。 2.そのタスクの成果物への需要が、最終価格にどのくらい左右されるか(価格弾力性)。 3.複数タスク間の補完性。 4.そのタスクの成果物への需要が、消費者の所得にどのくらい左右されるか(所得弾力性)。 5.人間の働く意欲が、どのくらい賃金に左右されるか(労働供給の弾力性)。 6.ビジネス全体の構造が、どう変化するか(生産関数の変化)。 網羅的に列挙しようとするあまり、この表はやや抽象的にすぎる感もあるが、「総論」的な記事なので仕方あるまい。これらの経済学的コンセプトの詳細については、入門レベルの教科書に譲る・・・』、これは抽象的で経済学的過ぎる印象も受ける。
・『結論は全部スルーし、根拠とロジック「だけ」を吟味  さて、タスク分けの最新研究に話を戻すと、正直、経済学者の仕事としてはかなりベタな分析だし、「職業」や「作業」をどう整理するかによって「自動化のしやすさ」の数値は大きく変わってくる。また、そもそも「今後10年間における、個別タスクの自動化のしやすさ」についての技術的見解も、専門家の間ではかなり議論が分かれるだろう。 だから筆者から読者へのアドバイスとしては、「あなたの仕事が危ない!」風の議論や数字を見るときには、とにかく結論そのものはスルー(無視)しよう。こういう話題についての「結論」は、当たるか外れるか分からない株価の予想みたいなもので、つまらない。 そうではなくて、「何をどうやったら、そういう数字とメッセージが出てくるのか」という、前提条件や考え方のプロセスに(のみ)注目するのが、正しい大人の読み方だ。 ベタなミクロ実証研究から言えることは、このあたりが限界だ。次回は、思いっきりマクロな視点から俯瞰してみよう』、「結論は全部スルーし、根拠とロジック「だけ」を吟味」とは、我々素人にとっては有難いアドバイスだ。

この続きを、11月15日付け「AIが奪う仕事 vs 少子化で減る人手 第2回 自動化と人口減少のマクロ経済学」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/110600005/?P=1
・『「AIで仕事がなくなる」というストーリーを検証するために、前回は私たちの仕事を細かくタスク分けしてみた。その結果、各職業がどれくらい自動化できそうかの目安にはなりそうだが、数字自体は計算の前提次第でコロコロ変わってしまうので、あまり当てにならなそうだと分かった。 そういうベタなミクロ実証研究とは対照的に、今回は思いっきりマクロな視点から眺めてみよう』、なるほど。
・『自動化とは「資本」で「労働」を置き換えること  1国全体でどれくらいの労働力が必要とされるか(労働への需要)は、自ずと「自動化」の影響を受けることになるだろう。タスクの自動化が進んだとき、労働需要は増えるのだろうか、それとも減るのだろうか? 「自動化」は、コンピュータ・アルゴリズムやロボットという機械への「投資」によって可能になる。だから自動化とは、それらの投資の積み重ねである「資本」の働きによって、人力での「労働」を代替するものだと言える。こう頭を整理すれば、その先のロジックも見通しが立てやすい。 もしもマクロ経済学に触れたことのある読者がいたら、経済活動の生産面に注目したコンセプトである「生産関数」が、 アウトプット = 「労働インプット」と「資本インプット」の関数 という形で表現されていたことを思い出そう。1つひとつのタスクについて、あるいは企業について、「ミクロな生産関数」を考えることもできるし、ある地域や国全体について「マクロな生産関数」を考えることもある。 問題は、この「関数」がどんな形をしているかだ。生産関数のカタチ次第で、機械と人力のあいだの代替・補完関係や、ひいては「自動化が労働需要にもたらすインパクト」も変わってくる』、その通りだろう。
・『消える仕事 vs 新たな仕事  自動化によって労働力への需要がどのくらい増えるか、それとも減るかは、必ずしも自明ではない。 たとえば、エレベーターガール(エレベーター運転士)という仕事は、今でも時折デパートで目にすることはあるものの、基本的には「絶滅危惧種」だ。自動化の犠牲者とも言えるだろう。しかしその一方で、エレベーターの自動運転化によって生まれた仕事もある。「エレベーター運行システムの開発や管理」といった役割だ。 個々のタスクや職業が自動化されたときに「経済全体で労働需要が増えるか減るか」については、どれだけ熱心にエレベーターガールを観察していても、分からない。新たな仕事は同じデパート内ではなく、むしろエレベーター製造会社や運営会社の方で生まれているからだ。広い範囲における自動化のインパクトを知るには、その自動化技術が「奪う仕事」と「生む仕事」の両方を視野に入れねばならない』、エレベーターの例では、「奪う仕事」の方が「生む仕事」よりも圧倒的に多い筈だ。そうでなければ、代替が進まなかっただろう。
・『アメリカでは「消える仕事」の方が多かった  米マサチューセッツ工科大学(MIT)のダロン・アセモグル教授がカナダ・トロントで発表した論文「自動化と新タスク」・・・は、この「消える仕事と新たな仕事」という視点を重視し、独特なカタチをした生産関数を提案(=仮定)している。 そのようなマクロ経済モデルに即して、過去30年間のアメリカのデータを分析した結果、自動化(ここでは「工場への産業用ロボットの導入」のこと)によって生まれる仕事よりも、消える仕事のほうが多かった、と結論づけている。 もちろん、過去における「工業用ロボットの導入」と、未来における「AIによる各種タスクの自動化」の間には、分野や使途の違いも多いはずだ。過去のデータからそのまま未来を予測するのにも限界があるから、国と時代ごとの状況の違いを考慮した方がいいだろう』、「アメリカでは「消える仕事」の方が多かった」というのは納得できる話だ。
・『ドイツでは、ロボット導入後も人材の配置転換がうまくいった  実際、ドイツについて同様の分析をした別の論文「ロボットに適応する」・・・では、アメリカとは対照的な結果が報じられている。ドイツの場合は、ロボット導入後も、企業内での人員の配置転換がうまくいったらしい。 なお、これらのマクロ的な実証分析は、扱う対象やデータの性質上、因果関係の識別についてはツメが甘い傾向がある。だから、これらの研究によって「自動化が原因で、仕事が消える(または消えない)という結果が起こった」という因果関係が示された、と信じ込むのは早合点だ。 そうではなく、あくまで「過去30年間のアメリカのデータに見られた相関関係が、同時期のドイツのデータでは見られなかった」という程度にユルく理解しておく方が安全だろう。統計や計量経済学になじみのない読者のためにもう少しかみ砕いて言うと、「ロボットの導入」と「仕事の増減」のどちらが原因でどちらが結果かが厳密に証明されたわけではなく、単にそれらの2つの出来事がほぼ同時に起こったという意味だ』、「ドイツでは、ロボット導入後も人材の配置転換がうまくいった」というのは理解に苦しむ。もっとも「どちらが原因でどちらが結果かが厳密に証明されたわけでは」ないというのは、その通りかも知れない。「疑似相関」には気をつける必要がありそうだ。
・『少子化と労働需給  さて、未来の日本がアメリカとドイツ、どちらに近い展開になるのか、あるいは全然違う第3のパターンを示すのかは、分からない。だが、仮に工業用ロボットとAIが似たような技術革新である場合(そして仮に日本企業がドイツよりもアメリカに近い人事制度をとっている場合)には、AIの実用化が進むにつれ労働需要は減っていきそうである。 それでは、AIの商業利用などさっさと禁止してしまったほうがいいのだろうか? そして日本の労働者は、「AI先進国」であるアメリカと中国の企業が(日本に本格進出する前に)全面戦争に突入して共倒れしてくれることを、ただ神頼みするしかないのだろうか? しかし、ここで忘れてはいけないのは、人口問題である。 先に紹介した研究が扱ったのは、過去のアメリカとドイツ、すなわち、「国全体の人口が増加している局面」であった。人口が増加すると、だいたい労働力(労働の供給)も増える。だが、ひとたび将来に目を転じると、日本や韓国、それにドイツを筆頭に一部の欧米諸国も、すでに少子高齢化と人口減少のステージに突入している。 言いかえると、1国内に存在する労働力(労働供給)は、どの国でも減少傾向にある(ただし、アフリカの多くの国々を除く)』、具体的には次のようだ。
・『AI失業 vs 人口減少  ……ということは、AIによるタスク自動化によって労働需要が減る(可能性がある)一方で、人口の高齢化によって労働供給も(現実にすでに)減りつつあるわけだ。  片や、「AIで仕事がなくなる!」  片や、「高齢化で人手が足りない!」 これらは本当に、現代社会を悩ます2大マクロ問題となるのだろうか? 冷静に(ただしある程度ザックリ単純に)考えてみると、2つの悩みは両立し得ない。「自動化によって人手不足を補う」ことさえできれば、2大問題はどちらも解消し、一件落着となるかもしれない。 このような楽観的なシナリオを強調したのが、米グーグルのチーフエコノミストであるハル・ヴァリアン氏が発表した「自動化と生殖」(原題は「Automation vs Procreation」)という論文だ。まあ、AIを開発する企業に勤めている彼の立場を考えると、このような「ゆるふわ」風味の論文それ自体は、多少割り引いて読んだ方が賢明だろう。 しかし、「高齢化が進む国ほど、ロボットの開発と導入も盛んである」という別の研究もある。というか、日本はまさにその世界最前線にある国だ。だから私自身の意見としては、日本の企業や家庭(そしてもちろん政府)は、どんどん実験的な取り組みを進めるべきだと思う。 ……というわけで、AIが労働の需給にもたらすインパクトは、「消える職業」と「生まれる職業」、そして「人口減少スピード」の三つ巴のバランス次第ということだ』、その通りだろう。
・『私たちが本当に考えるべきこと  もちろん、たとえばエレベーターの「運転」と「管理」は別の職種であり、タスク構成も必要なスキルも異なる。だから、エレベーターガールが「エレベーター自動運転プログラムを設計する仕事」に、いきなり転職できるとは限らない。もう少し一般論として考えても、「無くなる仕事」と「新たな仕事」は、別物だ。 また自動化で「人余りになる仕事」と、人口減少で「人手不足になる仕事」にも、ズレがあるだろう。 となると、もし私たちが「AI失業」と「人口減少」について真面目に考えるのであれば、社会全体として重視すべきなのは、  ①仕事と人手の出会いを、業界・社会全体でスムーズにする工夫。  ⓶いまある人手でこなせるように、仕事のカタチを柔軟に変化させる工夫。 ③「新たな仕事」に柔軟に対応できるような、新スキル習得の場所と機会。 ④「人手不足の分野を狙って自動化を進める」ような、研究開発と企業活動。 ……といったポイントになる。 これらの前向きな方策について(特に④について)考える際には、前回と今回の議論のように「自動化技術」をブラックボックスとして外側から眺めているだけでは、ラチがあかない。 「自動化技術」そのものも、私たち人間が開発・運用してきたものなのだから、AIの「外側」の話はこれくらいにして、次回からはAIの「内側」に入っていくことにしよう』、①~④は確かに重視すべきなのだろう。

この続きの第三の、11月22日付け「「パチスロ必勝法」に学ぶ価格戦略 第3回 マーケティングは丸投げできる? AIの内側の経済学」については、リンク先は下記だが、ここでの紹介を省略する。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/111400006/

第四の、12月1日付け「契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/102200249/111900007/
・『「AI(人工知能)の内側の経済学」に踏み込んだ前回は、ビジネスにおける価格設定や広告戦略(いわゆるマーケティング関連のプロセス)をAIに丸投げする話をした。つづいて今回は、「AIを搭載した新製品」の中身について考えてみよう。AI開発、それはとても面白い「人間の営み」なのである』、どういうことなのだろう。
・『プロダクト(製品)イノベーションのためのAI技術  仕事の流れの一部を自動化すること、それは一種のプロセス・イノベーション(生産・販売活動のコストを下げること)であった。こんどは、プロダクト・イノベーションについて考えてみよう。プロセス・イノベーションが製造・販売の工程(プロセス)を改善するものであったのに対して、こちらは新たな製品(プロダクト)を開発・投入する話である。 たとえば、「AI技術でお米がおいしく炊ける」炊飯器。そういうキャッチコピーの家電製品は昔からあったが、一体どのあたりに「知性」が感じられるのか、よく分からなかった。しかし、ユーザーのその日の体調をセンサーで感知するのみならず、電子メールやSNSへの投稿内容までも細かくデータ分析してくれる炊飯器が登場したならば、どうだろうか。 メールの文章がどれくらい整っているか、乱れているか。友人の投稿内容に「いいね」するのか、しないのか。あなたの一挙手一投足をつぶさに観察することで、この炊飯器は「その日その時のあなたにとって最適な炊き加減」に自動調整してくれる。すなわち、あなたの「幸福を最大化」してくれる機械の登場である。これほどすごい機能が付けば、「AI搭載」の名に恥じない画期的な製品と言えよう(※フィクションです)』、例示は極端で不適切だ。たかが炊飯器にそこまで「観察」されたくない人も多いのではなかろうか。ただ、プロダクト・イノベーションに活躍しそうだというのは、その通りなのかも知れない。
・『囲碁・将棋AIや自動運転プログラムの「目的関数」  さて、こういう新製品をどうやって開発したらいいのだろう? 私たち人間は、AIもしくはロボットに何かしらの「目標」を与え、それを達成するような動作を期待する。こういう目標のことを経済学や工学では「目的関数」と呼び、「最適化問題」という数学的な問題設定に落とし込む。たとえば、上記の「炊飯器」ならば、ユーザーからの「おいしい」という評価を高めることが、明確な目的関数になるだろう。 目的関数 = 「やるべきこと」に応じたボーナス点 → 「これを最大化せよ」と命令  あるいは近年めざましい活躍をみせた囲碁や将棋をプレイするAIは、「ゲームに勝てる確率」を目的関数として、先を読みながら「次の一手」を探し出すように設計されている。その開発過程(数理モデルを構築し、関数形を調整し、シミュレーションとデータ分析を活用する)は、経済学的な実証研究のプロセスにかなり近い。 逆に、「やってはいけないこと」の違反度に応じて「罰点」を設定することもある。たとえば、無人運転車に搭載されるソフトには、「信号を無視したらマイナス100点」、「ネコをひいたらマイナス200点」、「通行人をひいたらマイナス5億点」みたいなペナルティーを設定しておくわけだ。 目的関数 = 「やってはいけないこと」に応じたペナルティー → 「これを最小化せよ」と命令  ところがロボットは、私たちが期待するような振る舞いを、実際にしてくれるとは限らない』、どうしてなのだろう。
・『ドジっ子ロボットには、お仕置きが必要だ  たとえばお掃除ロボット。部屋の床掃除を勝手にやってくれる掃除機は、すでにかなり普及している。筆者も1台持っている。ただしこのロボット、あまり融通が利かない。同じところをグルグル回ったり、段差にハマったり、電源コードを巻き込んでしまったりする。 また、「電池が切れるまでの間に掃除する床面積」を最大化するようプログラムされたロボットは、最短距離で移動しようとするときに、その動線上にあった家具を壊してしまうかもしれない。こういう問題が発生するのは、(人間が暗黙のうちに期待している)さまざまな「目的関数」や「制約条件」の全てを、(明示的に)インプットできるとは限らないからだ。与えられたタスクそのもの以外のファクター、つまり作業をとりまく環境や文脈というものが、お掃除ロボットにはのみ込めていない。 これが人間の「お掃除担当メイドさん」であれば、家具を壊したりしたら、ご主人様から叱られるかクビ。最悪の場合、損害賠償請求の訴訟を起こされてしまうかもしれない。そしてそれが分かっているからこそ、家具の扱い(などの、直接命じられてはいない事柄)にも注意を向けてくれる。 何か、うまい方法はないものだろうか?。 ご主人様 VS 代理人 (プリンシパル・エージェント問題) カナダ・トロント大学のギリアン・ハットフィールド氏が発表した「不完備契約とAIアラインメント」・・・という研究は、「ドジっ子ロボット」のような問題を、いちど抽象的なレベルで理論化してみよう、と提案している。 ミクロ経済学には、人間同士の利害の対立を整理するための知見がたくさんある。とりわけ契約理論と呼ばれる分野では、「ご主人様と代理人という異なる2者のあいだで利害をすり合わせて、望ましい結果を導くための契約方法を考える」という課題が研究されてきた。こういう場合の「主人」のことを英語でプリンシパル、「代理人」をエージェントと言うので、この課題は「プリンシパル・エージェント問題」と呼ばれている。 ハットフィールド氏いわく、「ユーザーとAI」の関係は、ちょうど契約理論における「ご主人様と代理人」の関係にあたるので、理論的でエレガントな解決策があるはずだ。ただし、この発表の討論者であるスタンフォード大学のポール・ミルグロム氏(発表者の元指導教授で、オークション関連の実務でも有名)からは、これら2つの問題には共通点もあるが相違点もある、という指摘がなされた。いわく、プリンシパル・エージェント問題の場合は、通常、代理人の側が「余計なこと」を気にしてしまうのが、問題の根っこにある』、「プリンシパル・エージェント問題」まで出てくるとは、さすが経済学者らしい。
・『お掃除ロボットは、雇われ社長の夢を見ない  たとえば、株主(=ご主人様)に雇われたはずの社長(=代理人)のケース。株主が望むのは、企業価値の最大化である。しかし、社長という人間の個人的な利害は、これと必ずしも一致しない。「全国制覇したい」とか、「大型M&Aで注目を集めたい」とか、「休日は家族とゆっくり過ごしたい」とか、「社員に嫌われたくない」といった個人的な野望や心理に、どうしても引きずられてしまう。 契約理論は、こうした状況に対する処方箋をあみ出してきた。たとえば、社長のサラリーの何割くらいを成果報酬式にすればいいのか、といった計算ができるようになった。 これに対して、「ドジっ子お掃除ロボット」の失敗例は、べつにロボット(=代理人)側に個人的な野心があるわけではない。単に、開発者あるいはユーザー(=ご主人様)の側が「部屋をキレイにせよ」という目的しかインプットしなかったのが問題である。もしも開発者またはユーザーが、「部屋をキレイにせよ」「ただし家具を壊してはならない」という追加条件をインプットすることができさえすれば、それで一件落着かもしれない。 企業の雇われ社長もお掃除ロボットも、おなじ「代理人」ではある。しかし契約理論は、代理人が人間であるがゆえに発生する問題を扱ってきたのに対し、AI・ロボットは「個人的な願望」を秘めていたりはしない。そういう点では、問題の本質が微妙に異なっている可能性がある。より緻密な研究が必要になりそうだ』、言われてみれば、通常のプリンシパル・エージェント問題とは大きく違うようだ。追加条件だけで済むのであれば、こんな回り道をす必要もなさそうだ。
・『AIが達成した「成果」ではなく、「開発プロセス」に注目しよう!  さて、トロントで9月に開催された「人工知能の経済学」学会について一般向けにお伝えしてきた本連載だが、今回で最終回である。いかがだっただろうか? 正直、「えっ、そんな事しか分かっていないの?」と拍子抜けされた方も、多いのではないだろうか。 しかし、研究の最前線というのは大体そんなものだ。不明なものや未解決な問題があるからこそ、そこに取り組む余地が残されている。そして、「世界最高の経済学者たち」(あるいは勝手にそのように自負している人たち)が集まった学会ですら、この程度のことしか判明していない。 むしろ、その事実にこそ着目してほしい。 経済学をキチンと理解している人は少ないし、AI関連技術をキチンと理解している人も少ない。ましてや、その両方をよく分かっている人というのは、本当にレアだ。それにもかかわらず(あるいは、そうであるがゆえに)、「AI」について得意げに解説し、個人的な願望にすぎないテキトーな「未来予想と解決策」を、あたかも「理の当然」かのように語るコメンテーターがあふれている。そのクオリティーは推して知るべし、である。「無知の知」から始めよう。 本連載の第1回には、「目新しい結論や、ショッキングな数字などは全部スルーして、何をどうやったらその主張にたどり着くのか、根拠とロジック(にのみ)注目するのが、正しい大人の姿勢だ」という話をした。それに呼応する形で、結びにあたって今回オススメしたいのは、
 +「AIが達成したとされる成果」については完全にスルーして、むしろ
 +「どういうアルゴリズム(計算手順)を使って」、そして、
 +「その開発者たちが、どのような試行錯誤のプロセスを経て」 現在のパフォーマンスに到達したのか……に注目することだ。
そういうニュースの読み方をしていけば、おのずと関連技術の原理的な部分にも詳しくなれるはずだし、背後にある基礎研究にも興味が湧いてくるだろう。いつまでもAIをブラックボックス扱いしていないで、開発者と開発プロセスに踏み込んでほしい。これはまた、ニュースの「書き手」や編集者にぜひお願いしたいことでもある。 ちまたでは「機械」として恐れられたり敬われたりしているものが、じつは研究者が四苦八苦して作った「人為」の産物であることも、改めてよく分かるだろう。AI開発ほど興味深い「人の営み」は、なかなかない。経済学の研究対象は、まだまだ尽きないようである』、「テキトーな「未来予想と解決策」」に騙されないようにとのアドバイスは心強い。「ちまたでは「機械」として恐れられたり敬われたりしているものが、じつは研究者が四苦八苦して作った「人為」の産物であることも、改めてよく分かるだろう」との指摘も実に参考になった。
タグ:人工知能 エレベーターガール 日経ビジネスオンライン (AI) 伊神 満 「「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた」 仕事を1つひとつのタスクに分解してみよう 自動化しやすいタスクの8条件 自動化の普及を左右する6つの「経済学的ファクター」 結論は全部スルーし、根拠とロジック「だけ」を吟味 「契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか」 プロダクト(製品)イノベーションのためのAI技術 囲碁・将棋AIや自動運転プログラムの「目的関数」 ドジっ子ロボットには、お仕置きが必要だ プリンシパル・エージェント問題 お掃除ロボットは、雇われ社長の夢を見ない (その7)(「AIで人間の仕事がなくなる?」の経済学的解明 第1回 全職種の作業をタスク分けしてみた、AIが奪う仕事 vs 少子化で減る人手 第2回 自動化と人口減少のマクロ経済学、契約理論でAIを「調教」「ドジっ子お掃除ロボット」は撲滅できるか) エール大学経済学部 楽観論も悲観論も、ただ各人が「個人的に言いたいこと」を言っているだけのように見える 「AI技術は是か非か」「AI失業は起こるのか」「もはや人類の滅亡は時間の問題か」についての「結論」自体には、ほとんど何の意味もない 第2回全米経済研究所(NBER)「人工知能の経済学」学会で行った研究発表 AIが「人間の経済活動にもたらす」影響 「AIが奪う仕事 vs 少子化で減る人手 第2回 自動化と人口減少のマクロ経済学」 自動化とは「資本」で「労働」を置き換えること 消える仕事 vs 新たな仕事 エレベーターの自動運転化によって生まれた仕事もある。「エレベーター運行システムの開発や管理」といった役割 アメリカでは「消える仕事」の方が多かった ドイツでは、ロボット導入後も人材の配置転換がうまくいった 少子化と労働需給 AI失業 vs 人口減少 AIが労働の需給にもたらすインパクトは、「消える職業」と「生まれる職業」、そして「人口減少スピード」の三つ巴のバランス次第 私たちが本当に考えるべきこと ①仕事と人手の出会いを、業界・社会全体でスムーズにする工夫 ⓶いまある人手でこなせるように、仕事のカタチを柔軟に変化させる工夫 ③「新たな仕事」に柔軟に対応できるような、新スキル習得の場所と機会 ④「人手不足の分野を狙って自動化を進める」ような、研究開発と企業活動 「「パチスロ必勝法」に学ぶ価格戦略 第3回 マーケティングは丸投げできる? AIの内側の経済学」 「AI技術でお米がおいしく炊ける」炊飯器 「その日その時のあなたにとって最適な炊き加減」に自動調整してくれる。すなわち、あなたの「幸福を最大化」してくれる機械の登場 「部屋をキレイにせよ」「ただし家具を壊してはならない」という追加条件をインプットすることができさえすれば、それで一件落着かもしれない AIが達成した「成果」ではなく、「開発プロセス」に注目しよう! ちまたでは「機械」として恐れられたり敬われたりしているものが、じつは研究者が四苦八苦して作った「人為」の産物であることも、改めてよく分かるだろう 「AI」について得意げに解説し、個人的な願望にすぎないテキトーな「未来予想と解決策」を、あたかも「理の当然」かのように語るコメンテーターがあふれている
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人工知能(AI)(その6)(「風が吹けば儲かるのは誰か」をAIが予測 記者の仕事がまた消える!?、圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する) [イノベーション]

人工知能(AI)については、10月25日に取上げた。今日は、(その6)(「風が吹けば儲かるのは誰か」をAIが予測 記者の仕事がまた消える!?、圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する)である。

先ずは、11月9日付け日経ビジネスオンライン「「風が吹けば儲かるのは誰か」をAIが予測 記者の仕事がまた消える!?」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/110800624/
・『企業ニュースは、すべて「風が吹けば(桶屋ならぬ)誰が儲かる?」で出来ていると思う。 たとえばフルタイムの共働き世帯が増えたことで、家事時間の短縮を実現する商品やサービスを世に送り出した企業が消費者の支持を獲得している・・・あるいは人口減少が進むにつれ、移動販売車が各地で快走している・・・。 企業ニュースを担当する記者は世間にどんな風が吹いているのかを感じ取り、その風がどんな企業にどんな形で影響するのか、企業はいかなる対応を考えているのかを取材して記事にする。それが業界の新しいトレンドの端緒となりうることを示したり、社会の「いま」を描くことにつながったりする。 だから寝ても覚めても「風が吹けば誰が儲かる?」を考え続けることが、記者にとっての最大の仕事。個人的に、そう信じてきた。 ところがどうも、この「記者最大の仕事」も近い将来、テクノロジーに取って代わられてしまうかもしれないらしい。経済ニュースを自然言語処理技術で解析し、上場企業の業績への影響を予測するサービスが11月、試験的に始まったのだ』、「企業ニュースは、すべて「風が吹けば(桶屋ならぬ)誰が儲かる?」で出来ていると思う」というのは、確かにその通りなのかも知れない。
・『10年分、30万本超の経済ニュース解析  提供するのはゼノデータ・ラボ(東京・渋谷)。公認会計士の関洋二郎社長(34)が2016年2月に設立したスタートアップで、金融情報を分析するAI(人工知能)の開発を手掛ける。すでに三菱UFJ銀行や帝国データバンクなど計9社から出資を受けている。 新サービス「xenoBrain」(ゼノブレイン)は米ダウ・ジョーンズの過去10年分、30万本超にわたる記事を解析して、経済ニュースの因果関係を可視化。さらに上場企業の決算短信や有価証券報告書の解析結果と組み合わせることで、経済にまつわる出来事があったとき、その前後にはどんな出来事が発生し、上場企業の業績がどのように変化するかを予測する。 実例をみてみよう。「小麦価格の上昇幅が、市場予測を上回りそう」。そんなニュース記事の見出しをクリックしてみる。ゼノブレインがモノの数秒で弾き出すのは、次のような可能性だ。 +キッコーマンや山崎製パンは営業減益へ +日野自動車や新日鉄住金は増収へ キッコーマンや山崎製パンはわかりやすい。小麦価格が高騰すれば、醤油やパンの原材料費がかさんで利益が削られてしまうからだ。ためしにキッコーマンの有価証券報告書(第101期)の「事業等のリスク」を参照してみると、たしかに小麦価格の上昇が業績に悪影響を及ぼすことが明記されている』、直接的な影響はAIに頼るまでもなく、簡単に分かる。
・『複数の因果関係をつないで見える化  では日野自動車や新日鉄住金に影響するのはなぜか。 それは小麦価格が上昇(A)すれば農家の収入が増え(B)、農家の収入が増えれば農機などを含んだトラックの需要が高まり(C)、トラック需要の高まりによって鋼材需要も上向くから(D)だ。 ニュース記事というのは、一つひとつは「AだからB」「BだからC」「CだからD」などと、シンプルな因果関係を伝えるものが多い。ゼノブレインの場合、大量の記事を解析することで、それら個別の因果関係をつなぎあわせ、最終的に「AだからD」という大きな流れを見えるようにしている。 関社長は「企業が公表している決算情報は『こういう事業環境だったから、こういう業績になった』という過去の結果を示している」と話す。だが、これを「経済ニュースの分析と組み合わせれば、将来的に業績がどう変わっていくのかまで予測できるようになる」(同)。 人間の力ではとてもカバーできなかった量の情報を解析すれば、これまで誰も気づかなかったような新たな業績の変動要因も発見することができるかもしれない。すでに三菱UFJ銀行のほか、「ひふみ投信」の運用などで知られるレオス・キャピタルワークスなど10社前後が導入を決めたという。 ゼノデータ・ラボの強みは金融機関出身者の多さにある。関社長は公認会計士として、大手監査法人でメーカーや小売企業などの財務監査に携わった経験をもつ。篠原廉和COO(最高執行責任者)も大手生保の株式投資部門出身。いわば経済ニュースや企業が公表する決算資料の解析作業のプロだ。 日本語の連なりを分析して、書かれている要素と要素の関わり合いを可視化するだけなら、他のスタートアップでもできる。だが独特の言い回しも多い経済ニュースでは「2つの事象に因果関係があるかどうかの判断が難しい。金融経験者が多いからこそ正しいアルゴリズムを組める」と関社長は話す。 ゼノデータ・ラボは2018年末をメドに、指定した企業の業績に影響しそうな経済ニュースを「逆引き」する機能も盛り込む予定。 「ゼノブレインを開いてみたら、我が社の増益につながりそうなニュースは過去3カ月で14本、反対に減益ニュースは8本だって……。どれどれ、どんなニュースがあるんだろう?」。そんな利用のスタイルが浸透すれば、経営戦略の立案を担当する社員が自社のリスクをあぶり出すのにも使えそうだ』、このプロジェクトが上手くいけば、確かに応用は無限広がるだろう。
・『記者はAIに代替されにくいはずだが……  「雇用の未来」で有名な英オックスフォード大のマイケル・オズボーン准教授らの研究をひくまでもなく、記者業は一般的に、AIに代替されにくい職業とされてきた。だが日本経済新聞社が決算短信のサマリー記事を自動執筆する取り組みを進めているように、記者がこれまで行ってきた仕事のすべてが残るわけではない。 AIに代替されない、人間にしかできない、本当に付加価値の高い仕事とは何だろう。この命題を考え続けることは、いい記事とは何かを追求することにもつながるといえるだろう。肝に銘じたい』、記者の仕事の本質を考え直して、AIに負けない「いい記事」づくりに励んでもらいたいものだ。

次に、11月26日付け東洋経済オンライン「圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり、人類は2階層に分断する」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/251207
・『世界中の知識人から賞賛を浴び、全世界で800万部を突破したベストセラー『サピエンス全史』。7万年の軌跡というこれまでにない壮大なスケールで人類史を描いたのが、イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏だ。 現代を代表する知性が次に選んだテーマは、人類の未来像。近著『ホモ・デウス』で描いたのは、人類が「ホモ・サピエンス」から、遺伝子工学やAI(人工知能)というテクノロジーを武器に「神のヒト」としての「ホモ・デウス」(「デウス」はラテン語で「神」という意味)になるという物語だ。 ホモ・デウスの世界では「ごく一部のエリートと、AIによって無用になった『無用者階級』に分断し、かつてない格差社会が到来する」と警告するハラリ氏を直撃した。 本記事ではハラリ氏へのインタビューの一部を抜粋、全文は11月26日発売の『週刊東洋経済』の特集「データ階層社会あなたもAIに選別される」に掲載している・・・』、人類が「ホモ・デウス」になるとは、大きく振りかぶったものだ。
・『生命をつかさどる最も根源な法則を変えようとしている  ・・・この本を書いたのは、人類史上、最も重大な決断が今まさになされようとしていると考えたからだ。遺伝子工学やAIによって、私たちは今、創造主のような力を手にしつつある。人類は今まさに、生命を司る最も根源的な法則を変えようとしている。 40億年もの間、生命は自然淘汰の法則に支配されてきた。それが病原体であろうと、恐竜であろうと、40億年もの長きにわたって生命は自然淘汰の法則に従って進化してきた。しかし、このような自然淘汰の法則は近く、テクノロジーに道を明け渡す可能性が出てきている。 40億年に及ぶ自然淘汰と有機的進化の時代は終わりを告げ、人類が科学によって非有機的な生命体を創り出す時代が幕を開けようとしているのだ。 このような未来を可能にする科学者やエンジニアは、遺伝子やコンピュータについては知悉している。だが、自らの発明が世の中にどのような影響をもたらすかという倫理上の問題を理解できているとは限らない。 人類が賢い決断ができるように手助けするのが、歴史家や哲学者の責務だろう』、確かに倫理上の問題を解きほぐす歴史家や哲学者の役割は大きそうだ。そうしたものなしに科学者やエンジニアが暴走する事態だけは、避けたいものだ、
・『歴史を見ればわかるように、人類は新しいテクノロジーを生み出すことで力を獲得してきたが、その力を賢く使う術を知らない、ということが往々にしてあった。 たとえば、農業の発明によって人類は巨大な力を手に入れた。しかし、その力は一握りのエリートや貴族、聖職者らに独占され、農民の圧倒的大多数は狩猟採集を行って生きてきた祖先よりも劣悪な生活を強いられる羽目になった。 人類は力を手に入れる能力には長けていても、その力を使って幸福を生み出す能力には長けていない。なぜかといえば、複雑な心の動きは、物理や生命の法則ほど簡単には理解できないからだ。 石器時代に比べて人類が手にした力は何千倍にもなったのに私たちがそこまで幸福でないのには、こうした理由がある。 農業革命によって一握りのエリートは豊かになったが、人類の大部分は奴隷化された。遺伝子工学やAIの進化がこのような結果を招かないように、私たちはよくよく注意しなければならない』、「人類は力を手に入れる能力には長けていても、その力を使って幸福を生み出す能力には長けていない」というのは、言われてみればその通りなのかも知れない。ただ、「石器時代に比べて人類が手にした力は何千倍にもなったのに私たちがそこまで幸福でないのには、こうした理由がある」というのには、やや乱暴な議論だ。
・『「無用者階級」が生まれるかもしれない  (AIのような先端テクノロジーがもたらす人類の未来像とは) ホモ・サピエンス(人類)はかつて、動物の一種に過ぎなかった。人類が大人数で協力できるようになったのは、私たちに架空の物語を創り出す能力が備わっていたからだ。人類は大人数が協力することで、この世界の支配者となった。 そして今、人類はみずからを神のような存在に作り替えようとしている。(遺伝子工学やAIといったテクノロジーによって)創造主のような神聖なる力を、今まさに獲得しつつあるということだ。 人類はラテン語で「賢いヒト」を意味する「ホモ・サピエンス」から、「神のヒト」としての「ホモ・デウス」にみずからをアップグレードしつつある。 最悪のシナリオとしては、人類が生物学的に2つのカーストに分断されてしまう展開が考えられる。AIが人間の能力を上回る分野が増えるにつれ、何十億人もの人々が失業者となる恐れがある。こうした人々が経済的に無価値で政治的にも無力な「無用者階級」となる。 一方で、ごく一部のエリートがロボットやコンピュータを支配し、遺伝子工学を使って自らを「超人類」へとアップグレードさせていく可能性すら出てきている。 もちろん、これは絶対的な予言ではなく、あくまで可能性にすぎない。が、私たちはこのような危険性に気づき、これを阻止していく必要がある。 私が『ホモ・デウス』で論じた不平等とは、人類がこれまでに経験したものとは比べものにならない圧倒的な不平等だ』、「人類が大人数で協力できるようになったのは、私たちに架空の物語を創り出す能力が備わっていたからだ」というのは、面白い見方だ。「人類がこれまでに経験したものとは比べものにならない圧倒的な不平等だ」という予言は、不吉ではあるが、説得力があるだけに恐ろしい。科学者やエンジニアの暴走を食い止める歴史家や哲学者には、大いに奮闘して欲しいものだ。

なお、明日、明後日は都合により更新を休むので、木曜日にご期待を!
タグ:人工知能 東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン サピエンス全史 (AI) (その6)(「風が吹けば儲かるのは誰か」をAIが予測 記者の仕事がまた消える!?、圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり 人類は2階層に分断する) 「「風が吹けば儲かるのは誰か」をAIが予測 記者の仕事がまた消える!?」 企業ニュースは、すべて「風が吹けば(桶屋ならぬ)誰が儲かる?」で出来ていると思う 経済ニュースを自然言語処理技術で解析し、上場企業の業績への影響を予測するサービスが11月、試験的に始まった ゼノデータ・ラボ 金融情報を分析するAI(人工知能)の開発を手掛ける ゼノブレイン 米ダウ・ジョーンズの過去10年分、30万本超にわたる記事を解析して、経済ニュースの因果関係を可視化。さらに上場企業の決算短信や有価証券報告書の解析結果と組み合わせることで、経済にまつわる出来事があったとき、その前後にはどんな出来事が発生し、上場企業の業績がどのように変化するかを予測する 複数の因果関係をつないで見える化 独特の言い回しも多い経済ニュースでは「2つの事象に因果関係があるかどうかの判断が難しい。金融経験者が多いからこそ正しいアルゴリズムを組める 指定した企業の業績に影響しそうな経済ニュースを「逆引き」する機能も盛り込む予定 記者はAIに代替されにくいはずだが…… 「圧倒的な不平等が世界にいずれ蔓延する理由 AIの能力が高まり、人類は2階層に分断する」 イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリ氏 人類が「ホモ・サピエンス」から、遺伝子工学やAI(人工知能)というテクノロジーを武器に「神のヒト」としての「ホモ・デウス」 ホモ・デウスの世界では「ごく一部のエリートと、AIによって無用になった『無用者階級』に分断し、かつてない格差社会が到来 人類は今まさに、生命を司る最も根源的な法則を変えようとしている 自然淘汰の法則は近く、テクノロジーに道を明け渡す可能性が出てきている このような未来を可能にする科学者やエンジニアは、遺伝子やコンピュータについては知悉 自らの発明が世の中にどのような影響をもたらすかという倫理上の問題を理解できているとは限らない 人類が賢い決断ができるように手助けするのが、歴史家や哲学者の責務だろう 人類は新しいテクノロジーを生み出すことで力を獲得してきたが、その力を賢く使う術を知らない、ということが往々にしてあった 人類は力を手に入れる能力には長けていても、その力を使って幸福を生み出す能力には長けていない 「無用者階級」が生まれるかもしれない 最悪のシナリオとしては、人類が生物学的に2つのカーストに分断されてしまう展開が考えられる 人々が経済的に無価値で政治的にも無力な「無用者階級」となる。 一方で、ごく一部のエリートがロボットやコンピュータを支配し、遺伝子工学を使って自らを「超人類」へとアップグレードさせていく可能性すら出てきている。 私が『ホモ・デウス』で論じた不平等とは、人類がこれまでに経験したものとは比べものにならない圧倒的な不平等だ
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イノベーション(その2)(欧州「ソサイエタル・イノベーション」とは 世界のイノベーション事情(1)欧州のイノベーション、「おっぱいポロリ」動画がYouTube誕生のきっかけ、日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない) [イノベーション]

イノベーションについては、昨年4月24日に取上げた。今日は、(その2)(欧州「ソサイエタル・イノベーション」とは 世界のイノベーション事情(1)欧州のイノベーション、「おっぱいポロリ」動画がYouTube誕生のきっかけ、日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない)である。なお、今回からタイトルから技術革新は外した。

先ずは、Japan Innovation Network 代表理事  多摩大学大学院 教授の紺野 登氏が昨年12月7日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「欧州「ソサイエタル・イノベーション」とは 世界のイノベーション事情(1)欧州のイノベーション」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「世界のイノベーション事情」といえば、米シリコンバレーを思い浮かべる読者も少なくないと思うが、これから2回は、欧州を取り上げる。
・理由は3つある。(1)ここでいう欧州とは主に欧州連合(EU)のメンバー国家を指すが、地域を挙げてイノベーション政策を推進している。(2)彼らのイノベーション政策や制度は米国とも日本とも違うが、社会や市民のためのイノベーションを目的としている。どちらかといえば社会的課題を多く抱え、それがイノベーションの起点ともなり得る点で日本の状況に近い。そして(3)今、シリコンバレーに限らず、イノベーションは世界の諸地域に広がった経済・経営活動であり、その重要な一極が欧州だからである。
▽地域「イノベーション・エコシステム」の台頭
・デンマークの首都コペンハーゲンからスウェーデンに伸びる全長16kmのオーレスン大橋を渡って約1時間。スウェーデン南部スコーネ地域の中核都市、ルンド市。今、この地域に世界的関心が集まっている。2019年完成予定で、中性子利用研究のための欧州最大のESS(欧州核破砕中性子源)の工事が進んでいるからだ。ルンド市では、世界最強と言われる陽子線形加速器、世界各国の研究所とスパコン間のデータ管理などの施設が集約され、クリーンエネルギー、食品、医薬、医療、ITなど各分野での基礎研究及び応用研究が進んでいる。
・同施設群にはルンド市庁舎、ルンド大学などが近接し、一大「イノベーション・エコシステム」(地域生態系)が形成されつつある。しかし、ここでの主眼は科学技術でなく、地域全体の「ソサイエタル(社会構造的)・イノベーション」にある。同市は「イノベーティブなルンド」をスローガンに、若者が未来のために活躍できる、グローバルな知識経済の中心のひとつとなることを目指している。人里離れた場所でなく、都市、すなわち人々や社会のまっただ中で最先端の研究開発が行われるのである。
・こういった思考で、社会と経済の発展のためと、イノベーションを位置づけ、企業(ルンドには、かつてソニー・エリクソンが本社を置き、今でもソニーモバイルコミュニケーションズのオフィスがある)、大学、自治体、市民を巻き込んだ活動を展開しようというのが欧州先進地域でのイノベーションの基本形であり、ルンド市及び周辺地域はその代表的存在といえる。
・ここから東北東へ約1000kmに位置する、フィンランドの首都ヘルシンキの隣町エスポー市。ここでも地域のイノベーション・エコシステム「EIG(エスポー・イノベーション・ガーデン)」が展開されている。
・主体はエスポー市、アールト大学、ノキアなどのグローバル企業、中小企業やスタートアップ企業などである。エスポー市はノキアの本拠地として知られてきたが、ノキアが携帯電話事業から撤退した後は行く末が危ぶまれていた。しかし、同地域が蓄積してきた知識資産、大学などをハブとするネットワークによって発展し続け、北欧のイノベーション拠点として人や資本を集めている。
・アールト大学の学生発で始まったスタートアップ・イベント「SLUSH(スラッシュ)」(www.slush.org)は、2016年には1万7000人を集めた(スタートアップカルチャーについては次回で触れる)。一時は表舞台から消えたノキアだが、現在は通信インフラ事業者として戦略を転換、フランスの通信機器大手、アルカテル・ルーセントを買収・統合し、再び成長を始めている。
▽世界でもっとも豊かな地域
・こういった地域のイノベーション・エコシステムが生まれる背景はなんだろうか。 欧州は国別に見れば、いずれも日本より経済的にも小さい。しかしEU全体として見ればGDP(国内総生産)では中国を上回り(2015年)、購買平価ベースでは世界最大の経済地域だ(英国の離脱という問題を抱えているが…)。日本と同様に製造業、輸出が強く、圧倒的に中小企業の構成比が高い。したがって、ドイツの「インダストリー4.0」のような生産技術革新が国家的な課題となり、それに伴う革新的ビジネスモデルへの期待が高まっている。
・中小企業が多いこともあって、EUをはじめ、その実務組織である欧州委員会(EC)、欧州地域委員会といった地域政府の役割が大きい。EUは毎年国別のイノベーション・ランキングを発表し、イノベーション政策のイニシアティブを取ろうとしている。
・基盤となっているのはデジタル社会への移行である。EUの「ホライゾン2020」はEUにおける科学技術・イノベーション政策(ICT関連の研究・イノベーションプロジェクトを含む総計770億ユーロのファンディング。2014年発効)であり、(1)卓越した科学、(2)産業界のリーダーシップ、(3)社会的課題への取り組みを目的とする。
・各国のコンセンサスとして、欧州におけるイノベーションの要請は第一次及び第二次世界大戦の痛々しい記憶から生まれている。地域の平和を維持するには社会的・経済的なイノベーションを持続的に興していくことが不可欠という認識である。これは、軍事分野での研究開発投入が大きい米国とは異なる点であり、平和国家日本としても学ぶことのできるモデルではないだろうか。
・しかし、現実的には課題も大きい。EU各国はそれぞれ産業形態や経済状態、政治状況も異なり、足並みが揃っているとは言えない面も多い。 たとえばドイツでは、より民間企業の力の方が強い。そうした中で、欧州地域のイノベーションを推進していこうというのが、スウェーデンやフィンランドのような“優等生”である。彼らのひとつの特徴は政府、企業、労働者の協調でイノベーション政策が展開されている点である。
・イノベーションは一国の閉じられた環境、枠組みの中、一企業の内部だけで実現するのは不可能である。欧州委員会が標榜するのは「オープンイノベーション2.0」である。それは、(1)政府・公共、(2)大学・教育機関、(3)企業・産業、(4)市民・ユーザーが相互に関わりつつ、市民やユーザーが主体となって、社会や地域にインパクトを生み出すというモデルである。
・いわゆるオープン・イノベーション(1.0)は、自社の技術を他社に開示する(インサイドアウト)、あるいは外部の知を自社に導入する(アウトサイドイン)、オープンな研究開発を意味するが、結局は企業間の知財のやりとり、研究開発効率や知財を活用した一企業の利益に帰する。これに対して「オープンイノベーション2.0」は社会的目的の達成のための多様な相互関係性(四重奏的なイノベーション)が狙いである。
▽欧州のシリコンバレー
・欧州イノベーション指標(2016年)のベスト5は、スウェーデン、デンマーク、フィンランド、オランダ、英国であった。これらの国々を地図上で見れば、北海及びバルト海沿岸諸国に集中している。ちょうどカリフォルニア州が重なる規模だ。いわばシリコンバレーを凌ぐ可能性を秘めた欧州のイノベーション地域だと言える。
・これらの国々は社会的なコストが高く、その削減といった点でもイノベーションが必須なのである。たとえばキャッシュレス社会への挑戦である。スウェーデンの労働コストは同じEU圏内でもブルガリアの10倍を超える。そこでのキャッシュレス化の効果は大きい。日本はキャッシュレス化の移行が遅く、GDPの2割が未だに現金で流動している。一方のスウェーデンは既に2%以下となっており、キャッシュレス化が進んでいる。
・今後、この地域が社会的イノベーションの震源地となる可能性は高い。たとえば「フューチャーセンター」や「リビングラボ」などの“場”の広がりもそのひとつだ。フューチャーセンターは欧州の政府に始まった社会的イノベーションのための横断的な対話、政策形成のための空間や機能である。リビングラボはそうしたプログラムを元に、都市や地域共同体、公共空間の中で、市民や顧客とともに社会実験、共創を進める手法である。現在、欧州地域には400近くのリビングラボが立ち上がってきており、この波は日本にも広がっている。
▽イノベーション経営を目指す企業
・欧州企業はこうしたイノベーション社会・経済においてどのような経営を行っていくべきだと考えているのだろうか。それは「イノベーション経営」である。 イノベーション経営とは、組織的プロセス、組織文化に染み渡ったイノベーションのための実践知であり、企業のイノベーションを具体化する手法、方法論である。
・例えばフィンランドの森林産業、製紙産業においては、デジタル化によるビジネスモデル破壊を契機として、いち早く産業界としてのイノベーション経営政策が重視されてきた。前述の「ホライゾン2020」のレポートでは、特に中小企業における「イノベーション経営に関する能力の欠如が経済的影響を生み出すための重要な障壁」だと指摘する。スウェーデン、フィンランドでは「イノベーション経営」の修士号を授与する大学も少なくない。CIO(最高イノベーション責任者)を設置する企業も増えつつある。
・フランスでは、CIOを組織化する「パリCIOクラブ」があり、活発な活動を行っている。ちなみにイノベーション政策担当大臣やCIOには女性の参画が多い。こういった傾向は欧州だけではないが、イノベーション経営という面で一歩進んでいると考えられよう。
・EUがイノベーション経営のイニシアティブを取るもうひとつの背景には、実は保守的な文化や社会がある。日本人は新しもの好きと言われるが、確かにあまりこだわらずに新製品やサービスを受け入れる。しかし欧州は違う。重い伝統と先端をどのようにブレンドするのか。そこで社会的なイノベーションがエンジンとなる。
・一方、日本企業は、日本人が新たな物事に柔軟性があるのに、イノベーション経営に踏み切れずに躊躇している感がある。変化を望まず不確実性を回避しようという日本企業の傾向が指摘されている。これでは本来成長すべき新たな事業を育てる余地がなくなる。社会や文化のポテンシャルを日本企業は活かしていないと言える。オープンイノベーション2.0、ダイバーシティ、女性の活用など、欧州から学べる点は多い。 次回は、「スタートアップカルチャー」を切り口に、欧州とその周辺を見ていくことにしたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400128/120600018/

次に、ファウンダーズ・スペース社代表、シリコンバレー業界団体組合議長のスティーブン・S・ホフマン氏が4月7日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「おっぱいポロリ」動画がYouTube誕生のきっかけ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・シリコンバレーに拠点を置くアップル、グーグル、フェイスブック、エアビーアンドビー、ウーバー……といった企業は、どうやって次々と大きなイノベーションを起こしているのか? 新刊『シリコンバレー式 最高のイノベーション』では、22ヵ国でスタートアップを支援するインキュベーター&アクセラレーター会社のCEOである著者が、シリコンバレーで起きているイノベーション成功の秘密を初公開! 小さなアイデアが大きな変革をもたらし、世の中を一変させるプロセスを、多くの実例を紹介しながら解き明かす。起業家、企業のオーナー、ビジネスパーソンを問わず、あらゆるビジネスに応用できるイノベーションのヒント。本連載では、その基本中の基本である「小さく、少なく始める」コツについて10回にわたって紹介していきたい。
▽大きく考えてはいけない
・ イノベーションを起こすには、大きなことを考えなければならないと思っている人は多い。  あなたが大企業の経営者なら、組織全体にまたがるような、大規模なイノベーションプロジェクトを実行する必要があると思っているだろう。 全員が力を合わせなければならない。 おカネに糸目はつけていられない。 これが会社の未来そのものであり、次の大きな収益の柱は、イノベーションによってもたらされる。
・だが、これは真実からはほど遠い。 本物のイノベーションを起こすには、大きく考えてはいけない。 小さく考えなければいけない。 大規模なイノベーションのプロジェクトはたいてい失敗に終わる。多額の予算、大人数のチーム、大きな結果が求められるからこそ、失敗するのだ。
・ことイノベーションに関しては、たいてい一番小さなアイデアが産業を変える力を持つ。〈ポストイット〉も面ファスナーの〈ベルクロ〉も、使い捨てカミソリもそうだ。 これまで産業に革命をもたらしたのは、いずれもシンプルなアイデアだった。
・今となっては、付箋なんて当たり前で、誰でも思いつきそうに見える。 だが、それまで誰も思いつかなかった。 しかもそれは、失敗のおかげでひらめいたアイデアだった。 3Mで科学者として働いていたスペンサー・シルバーは、超強力な粘着剤を開発しようとしていた。 それなのに偶然、「粘着力の弱い」付けたり外したりできるような糊が生まれた。 5年もの間、シルバー博士はこの発明を製品化しようと試みた。でも、誰も見向きもしなかった。
・しかし、あるとき同僚が賛美歌のしおりにこの新しい糊を使おうと思いついた。 一連のちょっとしたひらめきがポストイットにつながったのだ。 偉大なイノベーションが起きたプロセスを振り返ると、同じような経過をたどっているケースが多い。
・優れたアイデアは壮大なビジョンからではなく、ちょっとした実験と偶然の発見から生まれている。 壮大なビジョンは後付けだ。 発見秘話はマスコミによって書き換えられ、人々の心の中で違うストーリーができあがる。
▽〈YouTube〉に壮大なビジョンはなかった
・テクノロジーのスタートアップにも同じことが言える。 僕たちにもお馴染みの例を挙げよう。〈ユーチューブ〉の始まりは、壮大なビジョンがきっかけではなかった。 世界中の動画とクリエイターと視聴者をつなぐためのグローバルなプラットフォームを目指していたわけではない。 始まりは全く違うものだった。
・最初は、出会い系サイトの〈ホット・オア・ノット〉をパクって動画を加えた〈チューン・イン・フックアップ〉というサービスだった。 でも、そこに人が集まらなかったので、創業者たちは他のアイデアを考え始めた。
・ひらめきが生まれたのは、2つのちょっとした不満からだった。 1つ目は、創業者のジョード・カリムがジャネット・ジャクソンの「おっぱいポロリ」動画をオンラインで見つけられず、イライラしていたこと。 2つ目は、共同創業者のチャド・ハーリーとスティーブ・チェンが、ディナーパーティーの動画をメールで送ろうとして、容量不足で送れなかったことだ。
・そこで、動画共有の簡単なしくみを作ったところ、反響がすごかった。 あっという間にいくつかの動画が拡散され、ユーチューブの情報量は爆発的に伸び、動画コンテンツはすべてここに集まるようになった。
・ユーチューブが世界最大のオンライン動画サイトになったのは、壮大なビジョンがあったからでも、計画があったからでもない。 小さなイノベーションが強烈な効果をもたらした結果だ。 もし最初からグローバルな放送局を目指していたら、ユーチューブは生まれていなかった。
・例えば、かつて〈デジタル・エンタテインメント・ネットワーク〉というスタートアップがあった。 ドットコムバブルの時期にテレビ番組をインターネットで流そうとしていた。 壮大なビジョンはあったが失敗だった。 コンテンツにカネがかかりすぎ、広告も取れなかった。
▽小さく考える環境と構造を創る
・多くのスタートアップが同じような失敗をしている。 例えば、僕のところにやって来たある台湾企業は、すべてのスマート機器を解錠できるような単一のアプリを作ろうとしていた。 スマート自転車の鍵から自動車、自宅、引き出しなど、すべてを解錠できるアプリだ。 課金モデルは無理だと諦め、アプリを無料にして、アプリ内でソーシャル・ネットワークを築こうとした。
・自動車メーカーからIoT機器メーカーまで、あらゆる企業とパートナーを組むことを狙っていた。さらに複雑なことに、このアプリで解錠するには、スマート機器に特殊な仕様が必要だった。 そんなやり方で、これほど大規模で複雑なものを軌道に乗せるのは、はなから不可能だった。
・僕は単刀直入に、こう言った。「小さく考えたほうがいい。君たちのアプリを高く評価してくれる顧客を1社選んで、そこに力を注ぐべきだ」と。 安全に価値を置く企業を狙って、セキュリティのソリューションを売り込むことを勧めた。
・社内のドア、机、ファイル棚、倉庫といった重要なアクセスポイントを、単一のスマホアプリで制御できるようにするのがいい。 スマートロックの数に従って課金できるし、付加価値のあるサービスを提供することもできる。
・元の計画よりそのほうがはるかにシンプルで、狙う顧客も1種類に限られ、はっきりとした収益モデルもできる。 このピボット(方向転換)が成功するかどうかはまだわからないが、僕は期待している。
・3人のスタートアップでも、3万人の多国籍企業でも、イノベーションのプロセスはほぼ同じだ。 チームが小さく考えられるような環境と構造を創り出さなければならない。
https://diamond.jp/articles/-/164519

第三に、元投資銀行のアナリストで小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソン氏が6月23日付け東洋経済オンラインに寄稿した「日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・日本でもようやく、「生産性」の大切さが認識され始めてきた。「生産性向上」についてさまざまな議論が展開されているが、『新・観光立国論』(山本七平賞)で日本の観光政策に多大な影響を与えたデービッド・アトキンソン氏は、その多くが根本的に間違っているという。 34年間の集大成として「日本経済改革の本丸=生産性」に切り込んだ新刊『新・生産性立国論』を上梓したアトキンソン氏に、真の生産性革命に必要な改革を解説してもらう。
▽生産性に対する根強い誤解
・先日あるところで、東証一部上場の某大企業の社長と同席しました。その時、その社長からこんな質問をされて、びっくりさせられました。「利益が出ていないというだけで、日本企業の生産性は低いと言い切っていいものでしょうか」。
・確かに、この連載の過去記事にも「生産性は分子が利益だから」というコメントが何度も寄せられています。 このようなコメントを見るにつけ、まだまだ生産性と収益性や、「コスト削減をすれば生産性が上がる」など、生産性と効率性を混同している人が少なくないのを痛感させられます。 混同している人が一般の方だけではなく、一部上場企業の経営者にもいるという事実を思い知らされ、正直、絶望しました。
・しかし絶望してばかりはいられません。気を取り直して、今回の記事では「イノベーション」について考えていきたいと思います。 一般的に、生産性向上の秘訣はイノベーションにあると言われています。 既存の商品の値段をただ単に上げるだけでは、消費者の納得が得られず、持続的に生産性を向上することはできません。一方で、より付加価値の高い、新しい商品を開発することができれば、より高い価格で販売することが可能になります。
・掃除機のダイソンがいい例です。市場が飽和し、コモディティ化が進んで、低価格品が主流になっていた掃除機の市場で、ダイソンは従来品よりも何万円も高い商品を導入し、定着させることに成功しました。正直に言うと、掃除機としての本質的な機能がそこまですごいかは微妙ではないかと思います。しかし、私もダイソンを使っています。購入した理由は、ストーリーとデザインに魅了されたからです。
・このように、基本性能だけではなく、デザイン性を向上させることでも、生産性を上げることは十分に可能です。たとえば自動車です。最高級車と軽自動車は、人を運ぶという自動車の基本性能には、それほど大きな違いはありません。しかし、最高級車と軽自動車では価格に何百万円から、場合によっては1000万円以上の差があります。なぜそこまで価格に違いがあるのでしょうか。それは、デザインであったり、ストーリーや夢、いわゆるブランド力に違いがあるからでしょう。
▽イノベーションに効くのは「Entrepreneurism」
・私は、最近の政府の委員会の議論や、マスコミの報道を見るにつれ、ある危惧を抱いています。それは、日本の技術力を持ってすればAIやロボットなどの分野を伸ばし、これからの人口減少下でも十分に戦っていけるという論調が多いことです。
・日本ではイノベーションという英語が「技術革新」と訳されることが多いためか、イノベーションと技術力は切っても切り離せないものだと考えられています。 事実、政府予算も技術革新ならば「何でもOK」というスタンスで、最先端技術と言えば何でも通るような風潮があるように感じます。
・しかし、「何が生産性の向上をもたらすのか」を学問的に分析した結果によると、日本で思われているのとは違う要因が重要だということが明らかにされています。英国も、相対的に生産性が低い国です。そこで、政府を上げて、対米・対独の生産性ギャップを縮小させ、国民所得を高めようとしている最中です。政府は大学と協力し、徹底的に生産性を調査・分析して、ポイントを探っています。
・この分析では生産性向上に決定的に重要だと思われる5つの要素を識別して、相関関係と因果関係を分析しています。まさにエビデンスに基づく政策(Evidence Based Policy Making)で対応しようとしているのです。
・その英国政府の分析によると、技術革新はイノベーションを起こし、生産性向上をもたらす最重要の要素ではありません。いちばん重要なのは、実は、Entrepreneurismです。「Entrepreneur」は、一般的に起業家と訳します。しかし経済学では、より広い意味合いが含まれています。「イノベーションの担い手として創造性と決断力を持って事業を創始し運営する個人事業家」という説明を見たことがありますが、これも英語のニュアンスと微妙に違います。
・国連の定義では、Entrepreneurとは、「市場に変化と成長を起こす人として、新しい発想の創出、普及、適用を促す人、チャンスを積極的に探って、それに向かって冒険的にリスクを取る人」。このようにEntrepreneurであることは、何も新しい企業だけではなく、既存企業の中でも可能です。
・英国政府の分析によると、このEntrepreneurismと生産性の間の相関係数は0.91。極めて強い関係があることが明らかになっています。 つまり、新しい発想を持って、既存の経営資源(人材、技術)を組み直したり、新しい企業体系を作ったり、技術と組織、その他の資源の新しい組み合わせを構築することが、生産性向上にはいちばん効果的だというのが結論なのです。
・このような組織変更が生産性向上にとって極めて重要だということは、1990年代のアメリカと日本の企業行動の違いを考えると合点がいきます。 アメリカの生産性は1990年代に飛躍的に向上しました。一方、日本の生産性は、まったくと言っていいほど上がりませんでした。
・なぜこの違いが生まれたのでしょうか。それは、アメリカでは多くの企業が技術革新の効果を最大限に引き出すために、組織を大幅に刷新し、仕事のやり方を大胆に変えたのに対し、日本では技術導入はしたものの、組織や仕事の仕方に手を付ける企業が少なかったからです。そのため、日本は生産性を上げることができなかったのです。
・組織や仕事のやり方を刷新できるか否かは、企業の「機敏性」がモノを言います。統計的な分析に長けている「IMD World Digital Competitiveness Ranking 2017」によると、日本企業の機敏性は世界63カ国中57位で、先進国最下位です。
・既存の経営資源の組み直しが生産性の向上に最も貢献するというのは、当たり前といえば当たり前です。新しい技術を生み出すより、既存の技術の使い方を変えるほうが簡単なのは自明でしょう。
▽2番目、3番目も「技術革新」ではない
・Entrepreneurismに次いで生産性の向上に寄与する要素は「設備投資を含めた労働者一人当たりの物的資本増強」です。物的資本とは土地、公的なインフラ、機械などを含みます。その投資行動自体もGDP成長に貢献するので、当然、生産性向上に貢献する傾向も確認されています。 物的資本の増強と生産性向上との相関係数は0.77。こちらもかなり高い数字です。実際、戦後のGDPの成長のうち、約半分は設備投資によるという分析結果も出ています。
・3番目に生産性の向上と高い相関があるのが「社員教育によるスキルアップ」で、相関係数は0.66です。イノベーションを起こし成長を推進するには、社員自身もレベルアップしていかなければならず、そのための再教育が必要なのは言うまでもありません。新しいスキルの獲得、新しい技術を活用できるスキルなどが必要になります。
・日本では職責が上がれば上がるほど、教育、研修を受ける機会が少なくなるのが一般的です。そのため、日本では経営者教育が十分ではなく、国際的には日本の経営者の能力は極めて低く評価されています。「IMD World Talent Ranking 2017」によると、日本の経営者ランキングは、機敏性が63カ国中57位、分析能力が59位、有能な経営者が58位、経営教育を受けたことがある割合が53位、海外経験が63位でした。 冒頭で紹介したように、利益と生産性の関係が理解できていない大企業の社長もいらっしゃいますので、低い評価なのもうなずけます。
・1990年代に入ってIT化が進み、経営者の勘や経験の重要性が低下する一方、調査分析能力の重要性が増していると言われています。しかし、日本の経営者の分析能力は、先のIMDの評価では63カ国中59位で、先進国中最下位です。
・日本では国民の平均年齢が高くなるにつれ、経営者も高齢化する傾向があります。つまり、学校を卒業してからより長い年月が経ち、古いやり方に慣れている経営者が、他国と比べて幅を利かせているのです。そのような高齢経営者の場合、新しいやり方の存在自体も知らないことが少なくありません。
・実際、日本は先進国なのに「いまだにファックスが多く使われている」と揶揄する声も聞こえてきます。日本では頭の古い経営者の再教育が不可欠なのですが、それに気づいている人は少なく、もちろん実行もできていないのが現実です。
▽技術革新と研究開発だけでは生産性が上がらない
・では、日本人が大好きな「技術革新」はどうなのでしょうか。実は生産性向上と「技術革新」の相関係数は意外に低く、0.56です。先に紹介した3つの要素と比べると決して高くはありません。このことは、技術革新だけでは生産性を上げるのには不十分であることを示唆しています。
・英国政府はこの問題にかなり力を入れています。英国は大学の評価が高く、さまざまな分野で革新的な技術を生み出していますが、経済全体の生産性向上に対する貢献度合いは思ったほど高くないからです。英国政府は、その原因を普及率が低いからだと分析しています。これは、2番目のEntrepreneurismと深い関係があります。要するに、研究開発のための研究開発に終始してしまい、実際に導入までこぎ着ける力が足りないのです。
・これは日本にも大いに当てはまると思います。技術大国と言いながら案外アナログの部分が多い。特に零細企業は、あたかも昭和がまだ終わっていないようなところが非常に多いです。事実、日本は特許の数が非常に多いのに、特許が活用されない比率が極めて高いとも言われています。
・また、日本では効率化と生産性向上が混同されていることも、技術開発と生産性の相関が弱い要因になっています。どういうことか、日本の農家の例で考えてみましょう。
・それまで1日かけてやっていた仕事を、機械を導入することによって半日でできるようになったとします。1日かかっていたものが半日でできるようになったということは、効率性が倍になったことを意味します。しかし、それだけでは生産性が上がったことにはなりません。 たとえば、1日の仕事が半日になっても、余った半日はテレビを見て過ごしていたら、効率はよくなりますが、生産性はむしろ下がります。理由は、機械のコストがかかるからです。
・生産性の向上とは、同じ人間の数でより多く売り上げるか、同じ売り上げをより少ない人数で上げるかのいずれかです。 機械を使い効率が倍になったのであれば、それまでの倍の農地を耕し、売り上げを倍にしなくては、生産性を上げたことにはならないのです。要するに、仕事を楽にするのではなく、その効果を最大限に生かすために産業の構造を大きく変えないといけないのです。日本ではそれが行われないので、技術革新の効果が出ないのです。
・確かに、生産性の高い人は仕事の効率もよい傾向がありますが、仕事の効率が良いからといって生産性が高いとは限りません。誤解をしている人が多いのですが、これはとても重要なポイントです。 確かに、商品をより早く作ることができれば、効率が良いことにはなります。しかしいくら効率よく作っていても、その商品が必要とされていない、いわば「ちょんまげ商品」であれば、生産性はゼロなのです。
▽日本はすでに「過剰競争」に陥っている
・先の英国政府の分析では、5つの要素の中で「競争」がもっとも生産性向上との相関が低いことが明らかになりました。分析の結果では、相関係数はたった0.05%でした。 一定の競争は必要ですが、競争が過度になると、今度は価格破壊が起こり、余裕が消えて、研究開発が犠牲となります。その結果、生産性を下げてしまうことにつながるのです。特許という制度は、このように過度な競争をいたずらに助長しないために設けられた制度だと言えるでしょう。
・ちなみにWEFによると、日本の企業間競争の厳しさは世界一です。「大胆提言!日本企業は今の半分に減るべきだ」でも紹介したように、日本では人口が減少し需要者が減っているにもかかわらず、企業の数は十分に減っていません。そもそも日本の企業の数は、経済規模に比較して多すぎです。
・これが、企業間の過当競争を招く要因になっています。特に大手企業は下請けの中小企業を競争させ、自分たちにより有利な取引条件を引き出そうとします。このことが、まわりまわって国民全体の所得を下げているという事実があるのにもかかわらずです。
・私が社長を務めている小西美術工藝社も、悩まされている1社です。自分たちの利益のために、多すぎる中小企業による過当競争を強いるのは、建設業界はじめ日本のさまざまな業界で見られる悪習でしかありません。
・私が「企業を統合させるべし」という話をすると、「企業数が減れば雇用が減って、失業者が増える」というバカげた指摘をしてくる人がいますが、そんなことはありえません。人手不足の下、労働者は生産性の高い企業に移ればいいだけです。
・これからの日本では、人口が減って財政的な余裕がますますなくなります。社会保障制度を守るためには、諸外国以上にイノベーションを徹底的に進め、生産性を上げる必要があります。 日本では今まで、技術ありきで、高い技術力に酔いしれて、それさえ開発すれば何でも解決できると信じ込んでいた長い歴史があります。
・その理由はよくわかります。日本経済の高度成長は主に急激な人口の増加によってもたらされたにもかかわらず、いまだに多くの人が、あたかも日本は高い技術力と国民の勤勉性だけで世界第2位の先進国になったと信じているからです。しかし、そんなものは神話でしかありません。
・『新・生産性立国論』やこの連載でも繰り返し述べているように、日本がこれからの時代を生き抜いていくためには、生産性の向上が絶対に不可欠です。それには今までの常識を捨てて、それこそ教育を徹底し、分析能力を高め、現実を直視できるよう経営者を鍛え直すべきなのです。
https://toyokeizai.net/articles/-/225904

第一の記事で、ルンド市には、『一大「イノベーション・エコシステム」(地域生態系)が形成されつつある。しかし、ここでの主眼は科学技術でなく、地域全体の「ソサイエタル(社会構造的)・イノベーション」にある』、 『各国のコンセンサスとして、欧州におけるイノベーションの要請は・・・地域の平和を維持するには社会的・経済的なイノベーションを持続的に興していくことが不可欠という認識である。これは、軍事分野での研究開発投入が大きい米国とは異なる点であり、平和国家日本としても学ぶことのできるモデルではないだろうか』、『「オープンイノベーション2.0」は社会的目的の達成のための多様な相互関係性(四重奏的なイノベーション)が狙いである』、『この地域が社会的イノベーションの震源地となる可能性は高い。たとえば「フューチャーセンター」や「リビングラボ」などの“場”の広がりもそのひとつだ。フューチャーセンターは欧州の政府に始まった社会的イノベーションのための横断的な対話、政策形成のための空間や機能である。リビングラボはそうしたプログラムを元に、都市や地域共同体、公共空間の中で、市民や顧客とともに社会実験、共創を進める手法である。現在、欧州地域には400近くのリビングラボが立ち上がってきており』、などは興味深い。日本のマスコミももっと欧州の動向も取上げてほしいものだ。
第二の記事で、 『本物のイノベーションを起こすには、大きく考えてはいけない。 小さく考えなければいけない。 大規模なイノベーションのプロジェクトはたいてい失敗に終わる。多額の予算、大人数のチーム、大きな結果が求められるからこそ、失敗するのだ』、『〈YouTube〉に壮大なビジョンはなかった』、などというのは初耳だが、その通りなのかも知れない。 なかでもYouTubeの話は面白かった。
第三の記事で、 『英国・・・政府は大学と協力し、徹底的に生産性を調査・分析して、ポイントを探っています。この分析では生産性向上に決定的に重要だと思われる5つの要素を識別して、相関関係と因果関係を分析しています。まさにエビデンスに基づく政策(Evidence Based Policy Making)で対応しようとしているのです』、という姿勢には大いに学ぶべきだ。日本のように、御用学者を集めた審議会で、いいかげんに決めているのとは大違いだ。 『英国政府の分析によると、このEntrepreneurismと生産性の間の相関係数は0.91。極めて強い関係があることが明らかになっています。 つまり、新しい発想を持って、既存の経営資源(人材、技術)を組み直したり、新しい企業体系を作ったり、技術と組織、その他の資源の新しい組み合わせを構築することが、生産性向上にはいちばん効果的だというのが結論なのです・・・2番目、3番目も「技術革新」ではない』、なるほど。 (英国では)『要するに、研究開発のための研究開発に終始してしまい、実際に導入までこぎ着ける力が足りないのです。 これは日本にも大いに当てはまると思います。技術大国と言いながら案外アナログの部分が多い。特に零細企業は、あたかも昭和がまだ終わっていないようなところが非常に多いです・・・また、日本では効率化と生産性向上が混同されていることも、技術開発と生産性の相関が弱い要因になっています』、『日本人が大好きな「技術革新」はどうなのでしょうか。実は生産性向上と「技術革新」の相関係数は意外に低く、0.56です。先に紹介した3つの要素と比べると決して高くはありません。このことは、技術革新だけでは生産性を上げるのには不十分であることを示唆しています』、『日本はすでに「過剰競争」に陥っている』、などの指摘は新鮮で説得力がある。日本政府も同氏を、インバウンド関連の審議会などで活用するだけでなく、経済財政諮問会議のような本丸でも活用すべきだろう。
タグ:イノベーション 東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン デービッド・アトキンソン 新・観光立国論 (その2)(欧州「ソサイエタル・イノベーション」とは 世界のイノベーション事情(1)欧州のイノベーション、「おっぱいポロリ」動画がYouTube誕生のきっかけ、日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない) 紺野 登 「欧州「ソサイエタル・イノベーション」とは 世界のイノベーション事情(1)欧州のイノベーション」 一大「イノベーション・エコシステム」(地域生態系)が形成されつつある。しかし、ここでの主眼は科学技術でなく、地域全体の「ソサイエタル(社会構造的)・イノベーション」にある 各国のコンセンサスとして、欧州におけるイノベーションの要請は第一次及び第二次世界大戦の痛々しい記憶から生まれている。地域の平和を維持するには社会的・経済的なイノベーションを持続的に興していくことが不可欠という認識である。これは、軍事分野での研究開発投入が大きい米国とは異なる点であり、平和国家日本としても学ぶことのできるモデルではないだろうか スティーブン・S・ホフマン 「「おっぱいポロリ」動画がYouTube誕生のきっかけ」 本物のイノベーションを起こすには、大きく考えてはいけない。 小さく考えなければいけない。 大規模なイノベーションのプロジェクトはたいてい失敗に終わる。多額の予算、大人数のチーム、大きな結果が求められるからこそ、失敗するのだ 〈YouTube〉に壮大なビジョンはなかった ・ユーチューブが世界最大のオンライン動画サイトになったのは、壮大なビジョンがあったからでも、計画があったからでもない。 小さなイノベーションが強烈な効果をもたらした結果だ 小さく考える環境と構造を創る 「日本人の「技術信仰」が生産性向上を妨げる 技術革新は「人口減少の特効薬」ではない」 新・生産性立国論 この分析では生産性向上に決定的に重要だと思われる5つの要素を識別して、相関関係と因果関係を分析しています。まさにエビデンスに基づく政策(Evidence Based Policy Making)で対応しようとしているのです 英国政府の分析によると、このEntrepreneurismと生産性の間の相関係数は0.91。極めて強い関係があることが明らかになっています。 つまり、新しい発想を持って、既存の経営資源(人材、技術)を組み直したり、新しい企業体系を作ったり、技術と組織、その他の資源の新しい組み合わせを構築することが、生産性向上にはいちばん効果的だというのが結論なのです 日本企業の機敏性は世界63カ国中57位で、先進国最下位 2番目、3番目も「技術革新」ではない 日本の経営者の分析能力は、先のIMDの評価では63カ国中59位で、先進国中最下位です 日本人が大好きな「技術革新」はどうなのでしょうか。実は生産性向上と「技術革新」の相関係数は意外に低く、0.56です。先に紹介した3つの要素と比べると決して高くはありません。このことは、技術革新だけでは生産性を上げるのには不十分であることを示唆しています 日本では効率化と生産性向上が混同されていることも、技術開発と生産性の相関が弱い要因になっています 日本はすでに「過剰競争」に陥っている
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