民間デジタル化(その3)(韓国ソウルで感じた日本のデジタル後進国ぶり 入国システム・3Dディスプレイ…、「コンサルあまり」の時代が始まった…マッキンゼー、アクセンチュアが大規模リストラに追い込まれた理由 IT企業向けのサービス需要が行き詰まっている、27カ国中最下位…日本がIT人材足りない根本理由 このままでは最大80万人が不足する事態に) [技術革新]
民間デジタル化については、2021年6月25日に取上げた。久しぶりの今日は、(その3)(韓国ソウルで感じた日本のデジタル後進国ぶり 入国システム・3Dディスプレイ…、「コンサルあまり」の時代が始まった…マッキンゼー、アクセンチュアが大規模リストラに追い込まれた理由 IT企業向けのサービス需要が行き詰まっている、27カ国中最下位…日本がIT人材足りない根本理由 このままでは最大80万人が不足する事態に)である。なお、タイトルから「促進策」は削除。
先ずは、本年2月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したテクノロジーライターの大谷和利氏による「韓国ソウルで感じた日本のデジタル後進国ぶり、入国システム・3Dディスプレイ…」を紹介しよう。ただ、文中の説明にるURLの紹介は省略した。
https://diamond.jp/articles/-/318236
・『筆者は先日、所用と観光を兼ねて約4年ぶりに韓国のソウルを訪れた。欧米に拠点のある企業の取材もリモートでの対応が多くなった昨今、今回の渡韓は、新型コロナウィルス禍に見舞われて以降、初めての海外渡航でもあった。サムスン電子やLGエレクトロニクスのお膝元でもある韓国は、日本よりも社会のIT化が進んでいることが知られている。数日のソウル滞在の間に見聞きしたデジタル事情と比べると、残念ながら日本はかなり遅れていると言わざるを得ない』、「韓国」の先進「デジタル事情」とは興味深そうだ。
・『サムスンは折りたたみスマホのマーケティングに注力 縦開き・横開きの2種類 韓流の刑事ドラマでは、食事をインスタントラーメンで済ませるような新米刑事まで高価な折りたたみスマートフォンのGalaxy Flipを使っていたりして、あからさまなプロダクトプレイスメント(番組内に製品を登場させる間接広告:以下、PPL)に苦笑することがある。 実は、韓国のTVドラマは放送法の規定で途中にCMを入れることが禁じられており、制作側の収益面ではPPLの比重が高い。CMが挟まれない分、ストーリーに集中できそうだが、劇中の役には不釣り合いな製品を使用していたり、登場人物が急に化粧品や炊飯器を褒め始めたりするので、思わずツッコミを入れたくなる。 中には、そういうシーンの小道具にPPLの文字が配されている(たとえば、カフェで座っている3人の客が、それぞれ「P」「P」「L」のレター入りトレーナーを着ているなど)、正直というかある意味開き直った演出を行うドラマまであった。 そんなPPLで見かけることの多いGalaxy Flipだが、メーカーのサムスン電子は、ロシアのウクライナ侵攻などによる消費の冷え込みの影響で2022年に大幅減産を強いられた結果、シェアを拡大するよりも利益率の高いモデルに注力する方針を進めている。そのため、販売面ではたためないGalaxy Sシリーズに及ばなくても、縦開きのGalaxy Flipと横開きのGalaxy Foldのマーケティングに力を入れていくようだ。ただし、中国のOPPOも、Android製品の中で差別化を図るために自らが先行した縦開きのFlipタイプのスマートフォンに力を入れていくと公言しており、もしも価格競争になると苦しい戦いを強いられる可能性もある。 さすがはサムスン電子のお膝元で、たまたま地下鉄に乗ったときに、並びの親子連れの女性と向かい側の青年が、ともにGalaxy Flipを使っているような場面にも遭遇した。それでも、ソウルの某有名大学の副学長さんに話を聞くと、「韓国ではもちろんAndroidユーザーが多いが、学生たちの間ではiPhoneが人気」だという。この方自身も、そして同席された中堅の男性の先生もiPhoneユーザーで、Apple Watchの愛用者でもあり、3月から韓国でサービス開始予定のApple Payを使うことを楽しみにしていた。 韓国では、2019年の時点ですでに国民全体の92%にスマートフォンが普及しており、60代でも9割近くの普及率だった。これに対して、日本は2021年の調査でも88.6%(個人保有全体では74.3%、同じく60代では79.3%)となっている。Android対iPhoneの割合では、韓国がほぼ世界平均と同じ70%強:30%割弱で、日本は逆に35%弱:65%強だが、上記のように韓国の若い世代のiPhoneへの関心が高まっているとすると、今後、iPhoneがよりシェアを伸ばしていく可能性もありそうだ(ちなみに、韓流ドラマのPPLではアップル製品もそれなりに目にする)』、「韓国のTVドラマは放送法の規定で途中にCMを入れることが禁じられており、制作側の収益面ではPPLの比重が高い。CMが挟まれない分、ストーリーに集中できそうだが、劇中の役には不釣り合いな製品を使用していたり、登場人物が急に化粧品や炊飯器を褒め始めたりするので、思わずツッコミを入れたくなる」、「放送法の規定で途中にCMを入れることが禁じられており」、とは初めて知った。「Android対iPhoneの割合では、韓国がほぼ世界平均と同じ70%強:30%割弱」、「韓国の若い世代のiPhoneへの関心が高まっているとすると、今後、iPhoneがよりシェアを伸ばしていく可能性もありそうだ」、なるほど。
・『EV化が進む都市部のタクシー、ロボタクシーもテスト走行中 ソウルのタクシーは、一般のタクシーと、無事故歴10年以上のドライバーが乗り、運転や応対が丁寧な黒塗りの模範タクシーに分かれている。初乗り(1.6キロ)料金が2月1日から値上げされ、一般タクシーで約480円、やや高めの模範タクシーは約700円だが、それでも、東京23区内タクシーの初乗り約1キロ470円~500円よりは(距離も考慮すると)安価といえる。 ソウルでは流しのタクシーも次々にやってくるので困ることはないが、街中で観察していると、特に若い人はカフェなどでお茶している間にアプリで手配し、来たら乗るというようなスタイルが定着しているようだ。特に冬は、そのほうが寒い戸外で待つ必要がなく、支払いも同時に済むので、合理的ということなのだろう。 その一般タクシーで今回目立ったのが、現代自動車(ヒョンデ)のEV、「IONIQ 5」(アイオニックファイブ※)だった。日本でもインポート・カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、京都のMKタクシーも計50台の導入が進行中。筆者自身も発表時から注目していた車である。 IONIQ 5のエクステリアは、パラメトリックピクセルと呼ばれるデジタル由来のデザイン要素がLEDヘッドランプ、同リアコンビランプ、アルミホイールに採り入れられている。インテリアのデジタルメーターにも、他には見られないホワイト系のベゼル(筆者は、iPodや白いバリエーションが存在した時代のiPhoneやiPadを想起した)を採用するなど、独自のEVイメージを確立しようとする意思に満ちている。 その意思は、テスラにもないヘッドアップディスプレイ(スピードやナビ、死角エリアの車両センサー情報などをフロントウィンドウにAR投影する)や、クラス最長の3メートルのホイールベースと切り詰めた前後のオーバーハングがもたらす全体のプロポーション(そのためにコンパクトに見えるが、実際のサイズはトヨタのRAV4よりも大きい)、全席に位置や背もたれ角度のメモリー機能が付き、センターコンソールを含めて大きく前後に移動できる電動シートアレンジ、停車中にフロントシートを座面ごと傾けて休めるリラックスポジションなど、インテリアの随所にも散りばめられている。 ※2022年6月に、韓国でIONIQ 5が高速道路上の構造物に突っ込む単独事故により、衝突後3秒でリチウムイオンバッテリーが発火し、ドライバーと同乗者が死亡という痛ましい報道があったが、これは時速100キロでノーブレーキの衝突、かつシートベルト未装着で死因は衝撃によるものだったことが明らかとなっている。車両自体はヨーロッパの厳しいNCAPの衝突安全テストにおいて最高評価の5つ星を獲得しており、それでも構造物がリチウムイオンバッテリーを突き抜けたことが発火の原因だった。スマートフォンも同様だが、リチウムイオンバッテリーはそのような危険を内包しており、この点は、全個体電池などが実用化されない限り、避けきれない問題といえる』、「一般タクシーで今回目立ったのが、現代自動車・・・のEV、「IONIQ 5」・・・だった」、「車両自体はヨーロッパの厳しいNCAPの衝突安全テストにおいて最高評価の5つ星を獲得」、大したものだ。
・『ソウルでテスト中のロボタクシーは早期にレベル4の自動運転を実用化を目指す さらにIONIQ 5は、ヒョンデとアプティブ(アイルランドに本社のある自動車テクノロジー企業)との合弁企業のモーショナルが開発している、自動運転レベル4(決まった走行ルートなどの特定条件下で可能な、人ではなくシステム主体で車を走らせる自動運転)を実現するロボタクシーのベース車両ともなっている。今回の訪韓中には見かけなかったが、このロボタクシーもソウル市内でテスト走行中だ。 折りしも「人工知能(AI)産業の育成と信頼確保に関する法案」が、韓国国会科学技術情報放送通信委員会の情報通信放送法案審査小委員会を通過したとの報道があったが、そこにうたわれていたのは「まず認可・後に規制」という事後規制の原則だ。もちろん、実際の議会での可決までには踏むべき段階が残っているものの、おそらくほぼそのまま成立し、ロボタクシーもこのような原則の下での早期の実用化を目指すものと思われる。 ちなみにヒョンデは、EVではないものの、ビジネス用のリムジンから大型タクシー、幼稚園などの送迎用まで幅広い用途に対応する新世代の世界戦略ワンボックスカー「STARIA」も擁している。予約開始の初日だけで1万台のオーダーを受けたという人気車種だけに、こちらも市内のあちこちで見かけた。IONIQ 5もそうだが、周囲を威嚇するようなフロントマスクを持つ日本のワンボックスとは一線を画すSTARIAの佇まいを見ていると、K-POPや韓国ドラマのように、韓国車が価格ではなくコンセプトや質の面で世界に受け入れられる日が近いことを予感した』、「IONIQ 5は、ヒョンデとアプティブ・・・との合弁企業のモーショナルが開発している、自動運転レベル4・・・を実現するロボタクシーのベース車両ともなっている・・・このロボタクシーもソウル市内でテスト走行中だ」、「ロボタクシー」とは進んでいる。「新世代の世界戦略ワンボックスカー「STARIA」は・・・IONIQ 5もそうだが、周囲を威嚇するようなフロントマスクを持つ日本のワンボックスとは一線を画すSTARIAの佇まいを見ていると・・・韓国車が価格ではなくコンセプトや質の面で世界に受け入れられる日が近いことを予感した」、「周囲を威嚇するようなフロントマスクを持つ日本のワンボックス」、私もあの「フロントマスク」は嫌いだ。「韓国車が価格ではなくコンセプトや質の面で世界に受け入れられる日が近いことを予感した」、大したものだ。
・『新しいデジタルサイネージへの積極的な取り組み 2021年の暮れに新宿駅東口近くに設置されて話題を呼んだ、特定の角度から見ると猫やルンバが飛び出して見える3D街頭ビジョンも、韓国ではそれ以前から導入されていた。実際に機材の開発・製造を行っているのは中国企業だが、本国以外で設置した国は、韓国が最初だったようだ。 というのも、韓国は新しい技術や製品に対する抵抗感が少なく、スマートフォン普及率の例からも分かるように、全年齢層がアーリーアダプター的な消費動向を持っているためだ。それゆえ韓国市場は、国外企業からも新たな技術や製品を試験的に投入して反応を確かめる場として捉えられているところがある。 アパレルやアクセサリー系の問屋やテナントがひしめき合う東大門(トンデモン)のファッションビルの1つにも、新型コロナウィルス禍以前にはなかった新型の街頭ビジョンが設置されていたのだが、それはある意味で擬似的な3D街頭ビジョンを超える、リアルな3Dビジョンといえた。なぜなら、細かくブロック分けされたLEDパネルが、個々に物理的に前後しながら画像を表示する、本物の立体(構造)ディスプレイだったからだ。 「ウェーブスクリーン」と呼ばれるそれがウネウネと動いている様子は、少し離れた位置からはプロジェクションマッピング的な目の錯覚かとも思えた。だが、近づいてみると、実際にパネルが動いていることに驚かされた。これも作っているのは中国企業だが、韓国での反応を見たうえで、他国にも売り込んでいくのだろう。 ただし、正直なところインパクトの点では、擬似的とはいえ立体感に勝り、表示するイメージのバリエーションも豊富な3D街頭ビジョンのほうに軍配が上がるといわざるを得ない。また、可動部が多いのでメンテナンスも大変そうだ。しかし見る側の角度依存が少ないことや、既存のコンテンツもそのまま表示でき、専用コンテンツの制作も3D街頭ビジョンより簡単に行えそうな点ではメリットもある。設置場所の自由度も高く、特に近距離から見たときに迫力を感じるので、それぞれの特徴を生かして使い分けられていきそうだ』、「韓国は新しい技術や製品に対する抵抗感が少なく、スマートフォン普及率の例からも分かるように、全年齢層がアーリーアダプター的な消費動向を持っているためだ。それゆえ韓国市場は、国外企業からも新たな技術や製品を試験的に投入して反応を確かめる場として捉えられているところがある」、羨ましい限りだ。「特定の角度から見ると猫やルンバが飛び出して見える3D街頭ビジョン」、「ウェーブスクリーン」、などなかなか面白そうだ。
・『空港システムの進化に見る日韓の違い 最後に、韓国入出国と帰国時に感じた日韓の違いを書いておきたい。 現在、渡韓時にはK-ETA(電子渡航認証システム)とQ-CODE(検疫情報事前入力システム)の事前登録が求められる。前者は、ビザが免除されている国籍の渡航者に対して義務化されており、後者は任意だが、7日間の隔離を免除されるワクチン接種歴の確認を渡航前に済ませられるので、入国審査がスムーズになる。 K-ETAは英語のみ、Q-CODEは韓国語と英語のみの対応だが、旅行社などが公開している日本語の解説サイトがあるので、それらを参照すれば、さほど支障なく登録できるはずだ。 問題は、Q-CODE申請は無料だが、K-ETAは約1000円の申請料がかかり、クレジットカードのみでの支払いとなるため、そこを狙った偽サイトも少なからず存在するという点である。被害に遭わないためには、大使館や航空会社、大手旅行社の公式ページからのリンクを使って正しいサイトにアクセスするのが良いだろう。 日本出発時の空港は、平日にもかかわらず訪日外国人で大混雑しており、まだ制限されている中国からの団体客を除けば、ほぼ客足が戻ったかのような印象だった。そのため、ソウルの仁川空港でも入国審査で時間が取られることを覚悟していたのだが、幸いなことに窓口に並ぶ人数も少なく、また、パスポート照合によるK-ETAの確認と、Q-CODEの二次元バーコードの読み取りによって、拍子抜けするほど簡単に、短時間で通ることができた』、なるほど。
・『仁川空港では2014年からセルフバッグドロップシステムの導入が進む また、航空便のオンラインチェックインはほぼ常識化しているが、機内持ち込みできないスーツケースなどのバッグドロップ(手荷物預け入れ)は、航空会社のカウンターで物理的に行う必要がある。しかし、仁川空港では、大韓航空などを皮切りにセルフバッグドロップシステムの導入が進んでおり、搭乗券とパスポートをスキャンして、荷物を乗せたコンベア台のカバーが閉まるとX線検査がその場で行われ、問題なければカバーが開き、プリントされたタグを自分で荷物に取り付けることで処理が完了する。 同種の機材は、日本でもANAが2015年に羽田空港の国内線カウンターに導入し、2017年に成田空港の国際線での実証実験を行って以来、普及が進んでいる。仁川空港では、オランダのスキポール空港、イギリスのヒースロー空港、オーストラリアのシドニー空港などに続いて、2014年から導入開始していたので、やはり、先に触れた先取精神が発揮されたようだ』、「先取精神」には我々も学ぶべきだ。
・『デジタル庁推進「Visit Japan Web」の使い勝手は…… 実は、今回の旅で最も不可解だったのは、関西国際空港帰国時のVisit Japan Web(デジタル庁が推進する入国手続オンラインサービス)の対応だった。事前登録した画面またはプリントアウトを見せることで検疫を通過できるとの触れ込みで、実際にもその通りだったのだが、ターミナル間の移動用シャトルは利用できずに通路を延々と歩く必要があり、要所ごとにやたらと多くの係員が配置されている。 しかも、Webの説明では(ネット接続ができない場合に備えて)「縦に長いページの3つの要素を確実にスクリーンショットで保存するか、プリントアウトして見せること」となっていたものの、実際には、数をこなすためか移動途中で最初の画面をチラッと見る程度で、何の証明にもならず、最悪の場合、偽造も簡単に行える(適当なスクリーンショットを入手するだけ)と思われた。 さらに、帰国後に改めて登録ページを確認すると、先の縦長ページを一度にダウンロードできる機能が追加されていたのだが、リンク先に飛ぶと、スマートフォンのスクリーンに収まらないサイズの画像が縮小もスクロールもできない状態で表示され、ダウンロードボタンも表示されない状態だった。動作検証の有無や、その程度の改修にいくら税金が使われたのか、大いに気になる。 NIA(韓国知能情報社会振興院)の資料によれば、国連やOECDなどの国際機関によるDX、IT関連のランキングで、韓国はICTの国際競争力、ICTインフラ整備、電子的な社会参加、オープンデータ利用、AIの民主的利用の項目で1位を獲得している。もちろん、同時にさまざまな社会問題も抱えているものの、ことデジタル技術の推進やDXに関しては、政府が音頭を取るだけでなく、具体的に利用しやすい形で社会実装が進められなければ意味がないことが、きちんと理解されていると感じられた』、「「Visit Japan Web」の使い勝手は」余り良くないようだ』、「国連やOECDなどの国際機関によるDX、IT関連のランキングで、韓国はICTの国際競争力、ICTインフラ整備、電子的な社会参加、オープンデータ利用、AIの民主的利用の項目で1位を獲得」、「ことデジタル技術の推進やDXに関しては、政府が音頭を取るだけでなく、具体的に利用しやすい形で社会実装が進められなければ意味がないことが、きちんと理解されていると感じられた」、「日本」は「韓国」に残念ながら大きく水をあけられてしまったようだ。
次に、4月3日付けPRESIDENT Onlineが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁 昭夫氏による「「コンサルあまり」の時代が始まった…マッキンゼー、アクセンチュアが大規模リストラに追い込まれた理由 IT企業向けのサービス需要が行き詰まっている」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/68014
・『マッキンゼーは1400人、アクセンチュアは1万9000人 2月下旬以降、米国の大手コンサルティング企業が相次いで人員の削減を進めている。まず、マッキンゼー・アンド・カンパニーは約2000人の削減計画が報じられた。削減規模は同社にとって過去最大規模とみられる。3月23日、アクセンチュアも大規模なリストラ計画を発表した。今のところ削減規模は1万9000人に達する見込みであり、コンサル業界で過去最大級のリストラが進もうとしている。 リーマンショック後、世界の有力コンサルティング企業は、新しい事業の育成、その運営体制の企画、設計などに関する業務をIT先端企業などから受託してきた。そうすることで企業は迅速に、必要な業務運営の体制を整備できた。コロナ禍の発生によって、世界経済のデジタル化は一時的に急加速した。その結果、IT先端分野などで新しい業務運営の確立に必要なコンサルティング・サービスへの需要も押し上げられた。 しかし、競争の激化、世界的なインフレ進行、ウィズコロナへの移行、さらには世界的な金利上昇などを背景に、IT関連企業の成長期待は急速にしぼんでいる。すでに、米メタ(旧フェイスブック)などで、コンサル出身の経営幹部が要職を退いた。IT業界でのリストラは加速している。その成長を取り込んだコンサル業界などにもより強いリストラ圧力がのしかかろうとしている』、「IT業界でのリストラは加速している。その成長を取り込んだコンサル業界などにもより強いリストラ圧力がのしかかろうとしている」、なるほど。
・『過剰投資、過剰採用を抱えたIT企業の退潮 足許、米国を中心に急速にコンサル業界でリストラが進んでいる。それだけ、多くの企業は、高い成長が続くと先行きの展開を楽観し、採用を強化した。しかし、世界経済の減速、特にIT先端分野での業績悪化懸念が急速に高まった。IT有力企業では過剰な投資や採用が顕在化している。それに伴い、IT先端分野での需要を取り込んできたコンサル業界でも、過剰人員などの問題が浮上し、コストカットが急がれている。 リーマンショック後、米国ではアップルの“iPhone”などのヒットをきっかけに、経済のデジタル化が加速した。“21世紀はデータの世紀”と呼ばれるように、ビッグデータの重要性は急速に高まった。データを活用することによって、新しいビジネスが次から次へと生み出された。 メタやツイッターなどはSNSという新しい業態を生み出した。それにデータを用いた広告ビジネスが結合され、収益はおおきく伸びた。物流分野では、アマゾンがネット通販で購入された品物の配達スピードを引き上げるために、物流施設の建設を増やすなどした』、「経済のデジタル化が加速した。“21世紀はデータの世紀”と呼ばれるように、ビッグデータの重要性は急速に高まった。データを活用することによって、新しいビジネスが次から次へと生み出された。 メタやツイッターなどはSNSという新しい業態を生み出した。それにデータを用いた広告ビジネスが結合され、収益はおおきく伸びた」、なるほど。
・『業務効率化でコンサルティング依頼は急増したが… そうした新しい業務運営の在り方を確立し、実際のマネジメント手法を組織に浸透させるために、マッキンゼーやアクセンチュアへのコンサルティング依頼は急増した。 コンサルティング各社は、顧客企業が新しい分野に進出し、いち早く安定した業務の運営体制を確立するために必要な方法論を提供して対価を得る。具体的にマッキンゼーなどは、経営戦略や財務、管理会計の理論を結合することによって、効率的に業務運営を行う標準的な手法を確立した。 そうしたサービスを利用することによって、IT関連分野の企業は、データの利用など自社の強みがより発揮できる分野に集中しやすくなった。コンサル業界でのリストラ増加は、IT先端分野での企業の成長性が低下していることを意味する。そうした変化を機敏に感じとり、早い段階でIT先端企業を去った人もいる』、「新しい業務運営の在り方を確立し、実際のマネジメント手法を組織に浸透させるために、マッキンゼーやアクセンチュアへのコンサルティング依頼は急増した。 コンサルティング各社は、顧客企業が新しい分野に進出し、いち早く安定した業務の運営体制を確立するために必要な方法論を提供して対価を得る。具体的にマッキンゼーなどは、経営戦略や財務、管理会計の理論を結合することによって、効率的に業務運営を行う標準的な手法を確立した」、なるほど。
・『コンサル出身のサンドバーグ氏はいち早くメタを去った その一人として、2022年6月、シェリル・サンドバーグ女史はメタの最高執行責任者(COO)を辞すと表明した。それは、メタなどの成長の勢いが弱まり、新たな成長分野を探さなければならないという認識に基づいた意思決定だったように見える。ハーバード・ビジネス・スクールを修了した後、サンドバーグ女史はマッキンゼーでコンサルタントとして働いた。グーグルなどを経て、2008年、COOとしてサンドバーグ女史はフェイスブックに参画した。 メタ創業者のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)にとって、経営コンサルタントとしてのスキル、グーグルでの広告ビジネスの高い成長を支えたサンドバーグ女史の実力は、SNS分野でのビジネスモデルを確立し、高い成長を実現するために喉から手が出るほど欲しかった要素だったはずだ。 このようにして、多くのIT先端企業は、コンサル業界出身の人材採用を強化した。また、アクセンチュアやソフトウエア分野への選択と集中を進めたIBMなどに、ビジネスモデルの確立や、新規事業の業務運営体制の企画、マネジメント手法などのコンサルティングを委託する企業も増えた。 その結果、世界的にコンサルタント人材の求人は急増した。一部では、組織運営などに関する理論に加え、人工知能(AI)やネットワーク・テクノロジーに精通した人材の争奪戦に拍車がかかった』、「多くのIT先端企業は、コンサル業界出身の人材採用を強化した。また、アクセンチュアやソフトウエア分野への選択と集中を進めたIBMなどに、ビジネスモデルの確立や、新規事業の業務運営体制の企画、マネジメント手法などのコンサルティングを委託する企業も増えた。 その結果、世界的にコンサルタント人材の求人は急増した」、なるほど。
・『ビジネスモデルの行き詰まりを鮮明に理解している しかし、高い成長がいつまでも続くことは考えづらい。2021年の秋ごろから、徐々にメタをはじめとするIT有力企業の成長鈍化懸念は高まった。株価も下落し始めた。 2022年3月に連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを開始し、その後は急激に金融が引き締められた。世界全体で企業の資金調達などのコストも増加した。スタートアップ企業とGAFAなどの競争も激化した。SNSやサブスク型のビジネスモデルの優位性は行き詰まり、業績懸念は追加的に高まっている。 2023年2月には、ユーチューブのスーザン・ウォジスキーCEOの退任も発表された。ウォジスキー女史もベイン・アンド・カンパニーで経営コンサルタントとしてキャリアを積み、その上でグーグルに参画した。コンサルタントとして多くの企業を見てきた経験があるだけに、彼女らはビジネスモデルの行き詰まりをより鮮明に理解しているはずだ』、「2021年の秋ごろから、徐々にメタをはじめとするIT有力企業の成長鈍化懸念は高まった。株価も下落し始めた・・・世界全体で企業の資金調達などのコストも増加した。スタートアップ企業とGAFAなどの競争も激化した。SNSやサブスク型のビジネスモデルの優位性は行き詰まり、業績懸念は追加的に高まっている」、ようやく足元の状況に近づいてきた。
・『コンサル、会計監査需要は急速にしぼんでいる コンサル業界だけでなく、米国では大手会計事務所のKPMGも2%程度の従業員(約700人)を削減すると報じられた。3月23日、リクルートホールディングスは2012年に買収した米インディードの従業員の15%を削減すると発表した。 リーマンショック後から2022年3月まで、世界全体で、超低金利環境の長期化観測は高まった。投資(投機)資金は成長期待の高いIT先端分野の株式などに流入した。高い成長は間違いないという過度な期待は一段と膨張した。そうした環境変化を追い風に、IT先端分野での起業は増えた。 コロナ禍の発生後は、カネ余りとデジタル化の加速期待に拍車がかかった。特別買収目的会社(SPAC)による買収を通した株式の公開によって資金を調達し、事業規模の拡大に取り組む企業は急増した。こうして、採用、コンサルティングや会計監査といったサービス需要も押し上げられた。 そうした強気な環境は急速にしぼんでいる。メタなどは追加リストラ策を発表した。IT先端企業などとの取引を強化した米欧金融機関のいくつかは破綻した。IT先端企業の成長を取り込んできたコンサル業界などでも、リストラの強化は避けられないだろう』、「コロナ禍の発生後は、カネ余りとデジタル化の加速期待に拍車がかかった。特別買収目的会社(SPAC)による買収を通した株式の公開によって資金を調達し、事業規模の拡大に取り組む企業は急増した。こうして、採用、コンサルティングや会計監査といったサービス需要も押し上げられた。 そうした強気な環境は急速にしぼんでいる。メタなどは追加リストラ策を発表した。IT先端企業などとの取引を強化した米欧金融機関のいくつかは破綻した。IT先端企業の成長を取り込んできたコンサル業界などでも、リストラの強化は避けられないだろう」、その通りだろう。
・『相次ぐリストラの背景にある「新たな成長機会」 しかし、すべての分野でコンサルティングの需要が減少しているわけではない。米国では、マイクロソフトなどが“チャットGPT”をはじめとする生成型のAIを用いた新しい広告サービスなどのビジネス創出に取り組んでいる。IBMは既存分野でリストラを進めつつAI関連の事業運営体制を強化している。 加えて、台湾問題の緊迫感は高まっている。世界の工場としての中国経済の成長鈍化懸念も上昇している。それらを背景に、世界全体でインドやASEAN地域の新興国、さらには企業の本国に近い場所に生産拠点などを移す動きも激化している。 世界規模で供給網の再編に取り組みつつ貿易管理体制を強化するためにも、企業はコンサルティング企業の助言を必要とする。コンサル業界でのリストラは、世界経済を支えたIT先端企業の成長性が鈍化し、新しい成長の機会が模索されていることの裏返しといえる』、「世界規模で供給網の再編に取り組みつつ貿易管理体制を強化するためにも、企業はコンサルティング企業の助言を必要とする。コンサル業界でのリストラは、世界経済を支えたIT先端企業の成長性が鈍化し、新しい成長の機会が模索されていることの裏返しといえる」、「新しい成長の機会が模索されていることの裏返し」とは興味深い捉え方だ。
第三に、5月2日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)のリチャード・カッツ氏による「27カ国中最下位…日本がIT人材足りない根本理由 このままでは最大80万人が不足する事態に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/669331
・『日本はデジタル分野の専門人材不足が深刻化する「2025年デジタルの崖」に直面する。経済産業省によると、2020年には30万人、2030年にはデジタルサービスの需要次第で45万人から80万人にまで不足が拡大するとされている。後者の場合、日本が必要とする190万人の専門人材を4割も下回ることになる。 経産省は、日本がこの崖を乗り越えなければ、2025年以降、日本のGDPは予測よりも毎年12兆円も低くなると警告している。その損失は、2022年のGDPの2%以上に相当する。ところが、政府はDXなどという聞こえのいいスローガンを掲げるだけで、この状況を改善するためにほとんど何もしていない。民間企業では心強い変化も起きているが、それが政府の動きによって増幅されない限り、崖の高さを低くすることしかできないだろう』、「経済産業省によると、2020年には30万人、2030年にはデジタルサービスの需要次第で45万人から80万人にまで不足が拡大」、「日本がこの崖を乗り越えなければ、2025年以降、日本のGDPは予測よりも毎年12兆円も低くなると警告している。その損失は、2022年のGDPの2%以上に相当する。ところが、政府はDXなどという聞こえのいいスローガンを掲げるだけで、この状況を改善するためにほとんど何もしていない」、「政府」の無責任ぶりには腹が立つ。
・『そもそも人材育成ができていない 最大の問題は人材の育成ができていないことだろう。日本は数学と科学の分野で世界トップクラスの成績を収めた高校生の割合で2019年、韓国に次いで2位の成績を収めている。にもかかわらず、日本は27の富裕国の中で、科学や工学の分野でのキャリアを目指す優秀な学生の割合が最下位となっている。日本は、STEM(科学、技術、工学、数学)コースを専攻した大学卒業生の割合が22位である。これに対し、韓国は3位につけている。(出典:OECD、注:STEM=科学、技術、工学、数学) これは単に優れたコンピュータを開発したり、新しいソフトウェアを書いたりする方法を知っている人たちが不足するという問題だけではない。日本は数学と科学の分野で世界トップクラスの成績を収めた高校生の割合で2019年、韓国に次いで2位の成績を収めている。にもかかわらず、日本は27の富裕国の中で、科学や工学の分野でのキャリアを目指す優秀な学生の割合が最下位となっている。日本は、STEM(科学、技術、工学、数学)コースを専攻した大学卒業生の割合が22位である。これに対し、韓国は3位につけている。さらに状況を悪化させているのは、日本の大企業と、日本の労働者の7割を雇用する中小企業との間にある大きな「デジタルデバイド」である。) 大企業が総投資額の10%をソフトウェアに割いているのに対し、従業員数300人以下の企業ではその比率はわずか4%である。2017年に何らかのデジタル機器やソフトウェアに投資した中小企業は、4社に1社にとどまっている。 経産省が中小企業にデジタル技術の利用が進んでいない理由を尋ねたところ、「ITを導入できる人材が不足している」という回答が43%と最も多い結果となった。また、「IT導入の効果が不明確、または十分でない」が40%と僅差で2位だった。日本には、こうした中小企業にITを活用した売り上げの向上や、効率化の方法を示すコンサルタントが数多く必要なのだ』、「日本は数学と科学の分野で世界トップクラスの成績を収めた高校生の割合で2019年、韓国に次いで2位の成績を収めている。にもかかわらず、日本は27の富裕国の中で、科学や工学の分野でのキャリアを目指す優秀な学生の割合が最下位となっている。日本は、STEM(科学、技術、工学、数学)コースを専攻した大学卒業生の割合が22位である。これに対し、韓国は3位」、「大企業が総投資額の10%をソフトウェアに割いているのに対し、従業員数300人以下の企業ではその比率はわずか4%である」、「日本には、こうした中小企業にITを活用した売り上げの向上や、効率化の方法を示すコンサルタントが数多く必要なのだ」、その通りだ。
・『高校教育が遅れている この問題は高校から始まっており、教師自身のITスキル、こうしたテーマを教える能力、教師を養成するためのリソース、さらには十分な機器やオンライン学習プラットフォームといった重要な分野で、日本はOECDの中で最下位に位置している。 政府の教育改革アドバイザーである鈴木寛氏は、大学入試にデジタルスキルが含まれていないことが大きな理由の1つだと指摘する。そのため、高校の教師は教える必要性をほとんど感じていない。 鈴木氏によれば、2025年からは、入試にIT関連の問題が含まれるようになるとのことで、進んではいる。しかし、誰が教師を指導するのだろうか。そして、それにはどのくらいの時間がかかるのだろうか。 また、優秀な学生がデジタル専門人材になるために必要な時間とお金を費やすインセンティブも、他の富裕国よりはるかに低い。ほとんどの企業では、給料を決めるのに、依然として職業よりも年功序列が重視される。 2021年、日本のデジタル人材の平均年収は、2019年から4%減の438万円にとどまった。これは、日本の給与の中央値から2%下回る水準である。最もスキルの高いデジタル専門人材の給与では、その差はさらに大きくなっている。) ある調査によると、デジタル人材の65%の年収が390万円から540万円であり、615万円以上は5%、1000万円は一握りである。また、他の17カ国では、IT技術者の給与が日本より高いという調査結果も出ている。 残念ながら、DXは空虚な流行語にすぎないように思われる。日本政府は2021年にデジタル庁を創設したが、その使命は、政府内や政府と一般市民とのコミュニケーションのデジタル化に関するものがほとんどである。 文部科学省は、STEM専攻の学生が支払う高い授業料と費用を、社会科学や人文科学専攻の学生が支払う低い水準に引き下げる財政支援策を提案している。成立すれば、年間約20万人の学生が恩恵を受けることになる。これは歓迎すべき一歩だが、デジタルスキルの教え方を知らない教師たちの問題を解決するものではない』、「問題は高校から始まっており、教師自身のITスキル、こうしたテーマを教える能力、教師を養成するためのリソース、さらには十分な機器やオンライン学習プラットフォームといった重要な分野で、日本はOECDの中で最下位に位置している」、「「優秀な学生がデジタル専門人材になるために必要な時間とお金を費やすインセンティブも、他の富裕国よりはるかに低い。ほとんどの企業では、給料を決めるのに、依然として職業よりも年功序列が重視される」、「2021年、日本のデジタル人材の平均年収は、2019年から4%減の438万円にとどまった。これは、日本の給与の中央値から2%下回る水準である。最もスキルの高いデジタル専門人材の給与では、その差はさらに大きくなっている。 ある調査によると、デジタル人材の65%の年収が390万円から540万円であり、615万円以上は5%、1000万円は一握りである。また、他の17カ国では、IT技術者の給与が日本より高いという調査結果も出ている」、「残念ながら、DXは空虚な流行語にすぎないように思われる。日本政府は2021年にデジタル庁を創設したが、その使命は、政府内や政府と一般市民とのコミュニケーションのデジタル化に関するものがほとんどである。 文部科学省は、STEM専攻の学生が支払う高い授業料と費用を、社会科学や人文科学専攻の学生が支払う低い水準に引き下げる財政支援策を提案している。成立すれば、年間約20万人の学生が恩恵を受けることになる。これは歓迎すべき一歩だが、デジタルスキルの教え方を知らない教師たちの問題を解決するものではない」、「文部科学省」の「財政支援策を提案」は初耳で、実際に施行される可能性は殆どないだろう。
・『外国人の高度人材にとっても魅力がない 日本政府は、デジタルなどの分野で優れた技能を持つ移民を増やすため、複数の特別なビザを設けている。しかし、2022年現在、このビザ規則で高度専門職に指定された外国人は3275人にとどまっている。2022年の時点で、ICT分野の外国人就労者はわずか7万6000人ほどである。潜在的な人材が他の地域でもっと多くの給与を得ることができるので、不思議なことではない。 さらに、2019年のOECDの調査では、高学歴人材の魅力度において、日本は35カ国中25位となっている。例えば、日本では外国人の子弟が学校で日本語の授業を受けることが認められているが、教師不足のため、対象者のうち65%しか支援を受けていない。 昨年9月、岸田内閣の「教育未来創造会議」は、2032年までに大学のSTEM専攻者を半数以上にすることを提言したが、その方法はもちろん、そのような高い数値が望ましいかどうかも示さなかった。 政府による措置がない中で、最大の前向きな動きは、世代交代による意識の変化によって、一部の高度な技能を持つ人材が、企業による採用競争によって、より高い給与を得られるようになっていることである。) 20代、30代の働き手は、親よりもずっと、自分が面白いと思えるキャリアを手に入れたいと考えている。また、専門的なスキルを持つ人は、終身雇用の必要性をあまり感じない。そのため、よりやりがいのある仕事、より高い給与を求めて転職を希望する人が増えている。 1970年代から1980年代前半に採用された25歳から29歳の人たちが、最初は1つの会社に10年間勤めたとする。そのうちの70%は、少なくともさらに10年以上勤続している。しかし、15年後に採用された人たちでは、52%しか残らなかった。同様の傾向は、度合いは低いものの、それ以上の年齢層でも見られる』、「「教育未来創造会議」は、2032年までに大学のSTEM専攻者を半数以上にすることを提言したが、その方法はもちろん、そのような高い数値が望ましいかどうかも示さなかった」、無責任で「提言」に値しない。「政府による措置がない中で、最大の前向きな動きは、世代交代による意識の変化によって、一部の高度な技能を持つ人材が、企業による採用競争によって、より高い給与を得られるようになっていることである」、ただ、百年河清を待つようなものだ。
・『IT人材の給与を上げることは必然 この世代交代に加え、専門的なスキルを持つ社内人材の不足に対応するため、現在では中途採用の人材を確保せざるをえない企業も増えている。1999年当時、中途採用を実施していた企業は、大小問わず37%にすぎなかった。今では70%近くになっている。 さらに、優秀な中途人材を引きつけるために、企業はより高い給与を支払わなければならない。2009年当時、勤務先から別の勤務先に転職した人のうち、10%以上の賃上げを実現した人は13%にすぎなかった。しかし、2017年には、その割合は27%に倍増している。 経験則や各種調査によると、この変化の恩恵を最も受けているのは、熟練したデジタル人材であることがわかっている。 富士通やNTTデータなどの企業は、最もスキルの高いデジタル系社員に年間1000万円以上支払っている。 2019年、NECは優秀な研究開発職の採用者に初任給1000万円を提示したが、これは何年も前に採用した他の社員よりも高い給与を与えることになるケースが多い。パーソルホールディングスは、人材紹介会社として、企業のデジタル人材の確保を支援するとともに、ITに関する研修プログラムも提供している。外資系企業や日本の新興企業は、従来の日本の国内企業よりも大幅に高い給与を支払っている。 これだけですべての問題を解決することはできないが、正しい方向に進んでいることは間違いない。政府は、DXに関するレトリックを、しっかりとした現実的な対策に変えるべき時である』、「優秀な中途人材を引きつけるために、企業はより高い給与を支払わなければならない。2009年当時、勤務先から別の勤務先に転職した人のうち、10%以上の賃上げを実現した人は13%にすぎなかった。しかし、2017年には、その割合は27%に倍増している」、「政府は、DXに関するレトリックを、しっかりとした現実的な対策に変えるべき時である」、民間企業の努力に報いる政策を打ち出すべきだ。
先ずは、本年2月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したテクノロジーライターの大谷和利氏による「韓国ソウルで感じた日本のデジタル後進国ぶり、入国システム・3Dディスプレイ…」を紹介しよう。ただ、文中の説明にるURLの紹介は省略した。
https://diamond.jp/articles/-/318236
・『筆者は先日、所用と観光を兼ねて約4年ぶりに韓国のソウルを訪れた。欧米に拠点のある企業の取材もリモートでの対応が多くなった昨今、今回の渡韓は、新型コロナウィルス禍に見舞われて以降、初めての海外渡航でもあった。サムスン電子やLGエレクトロニクスのお膝元でもある韓国は、日本よりも社会のIT化が進んでいることが知られている。数日のソウル滞在の間に見聞きしたデジタル事情と比べると、残念ながら日本はかなり遅れていると言わざるを得ない』、「韓国」の先進「デジタル事情」とは興味深そうだ。
・『サムスンは折りたたみスマホのマーケティングに注力 縦開き・横開きの2種類 韓流の刑事ドラマでは、食事をインスタントラーメンで済ませるような新米刑事まで高価な折りたたみスマートフォンのGalaxy Flipを使っていたりして、あからさまなプロダクトプレイスメント(番組内に製品を登場させる間接広告:以下、PPL)に苦笑することがある。 実は、韓国のTVドラマは放送法の規定で途中にCMを入れることが禁じられており、制作側の収益面ではPPLの比重が高い。CMが挟まれない分、ストーリーに集中できそうだが、劇中の役には不釣り合いな製品を使用していたり、登場人物が急に化粧品や炊飯器を褒め始めたりするので、思わずツッコミを入れたくなる。 中には、そういうシーンの小道具にPPLの文字が配されている(たとえば、カフェで座っている3人の客が、それぞれ「P」「P」「L」のレター入りトレーナーを着ているなど)、正直というかある意味開き直った演出を行うドラマまであった。 そんなPPLで見かけることの多いGalaxy Flipだが、メーカーのサムスン電子は、ロシアのウクライナ侵攻などによる消費の冷え込みの影響で2022年に大幅減産を強いられた結果、シェアを拡大するよりも利益率の高いモデルに注力する方針を進めている。そのため、販売面ではたためないGalaxy Sシリーズに及ばなくても、縦開きのGalaxy Flipと横開きのGalaxy Foldのマーケティングに力を入れていくようだ。ただし、中国のOPPOも、Android製品の中で差別化を図るために自らが先行した縦開きのFlipタイプのスマートフォンに力を入れていくと公言しており、もしも価格競争になると苦しい戦いを強いられる可能性もある。 さすがはサムスン電子のお膝元で、たまたま地下鉄に乗ったときに、並びの親子連れの女性と向かい側の青年が、ともにGalaxy Flipを使っているような場面にも遭遇した。それでも、ソウルの某有名大学の副学長さんに話を聞くと、「韓国ではもちろんAndroidユーザーが多いが、学生たちの間ではiPhoneが人気」だという。この方自身も、そして同席された中堅の男性の先生もiPhoneユーザーで、Apple Watchの愛用者でもあり、3月から韓国でサービス開始予定のApple Payを使うことを楽しみにしていた。 韓国では、2019年の時点ですでに国民全体の92%にスマートフォンが普及しており、60代でも9割近くの普及率だった。これに対して、日本は2021年の調査でも88.6%(個人保有全体では74.3%、同じく60代では79.3%)となっている。Android対iPhoneの割合では、韓国がほぼ世界平均と同じ70%強:30%割弱で、日本は逆に35%弱:65%強だが、上記のように韓国の若い世代のiPhoneへの関心が高まっているとすると、今後、iPhoneがよりシェアを伸ばしていく可能性もありそうだ(ちなみに、韓流ドラマのPPLではアップル製品もそれなりに目にする)』、「韓国のTVドラマは放送法の規定で途中にCMを入れることが禁じられており、制作側の収益面ではPPLの比重が高い。CMが挟まれない分、ストーリーに集中できそうだが、劇中の役には不釣り合いな製品を使用していたり、登場人物が急に化粧品や炊飯器を褒め始めたりするので、思わずツッコミを入れたくなる」、「放送法の規定で途中にCMを入れることが禁じられており」、とは初めて知った。「Android対iPhoneの割合では、韓国がほぼ世界平均と同じ70%強:30%割弱」、「韓国の若い世代のiPhoneへの関心が高まっているとすると、今後、iPhoneがよりシェアを伸ばしていく可能性もありそうだ」、なるほど。
・『EV化が進む都市部のタクシー、ロボタクシーもテスト走行中 ソウルのタクシーは、一般のタクシーと、無事故歴10年以上のドライバーが乗り、運転や応対が丁寧な黒塗りの模範タクシーに分かれている。初乗り(1.6キロ)料金が2月1日から値上げされ、一般タクシーで約480円、やや高めの模範タクシーは約700円だが、それでも、東京23区内タクシーの初乗り約1キロ470円~500円よりは(距離も考慮すると)安価といえる。 ソウルでは流しのタクシーも次々にやってくるので困ることはないが、街中で観察していると、特に若い人はカフェなどでお茶している間にアプリで手配し、来たら乗るというようなスタイルが定着しているようだ。特に冬は、そのほうが寒い戸外で待つ必要がなく、支払いも同時に済むので、合理的ということなのだろう。 その一般タクシーで今回目立ったのが、現代自動車(ヒョンデ)のEV、「IONIQ 5」(アイオニックファイブ※)だった。日本でもインポート・カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれ、京都のMKタクシーも計50台の導入が進行中。筆者自身も発表時から注目していた車である。 IONIQ 5のエクステリアは、パラメトリックピクセルと呼ばれるデジタル由来のデザイン要素がLEDヘッドランプ、同リアコンビランプ、アルミホイールに採り入れられている。インテリアのデジタルメーターにも、他には見られないホワイト系のベゼル(筆者は、iPodや白いバリエーションが存在した時代のiPhoneやiPadを想起した)を採用するなど、独自のEVイメージを確立しようとする意思に満ちている。 その意思は、テスラにもないヘッドアップディスプレイ(スピードやナビ、死角エリアの車両センサー情報などをフロントウィンドウにAR投影する)や、クラス最長の3メートルのホイールベースと切り詰めた前後のオーバーハングがもたらす全体のプロポーション(そのためにコンパクトに見えるが、実際のサイズはトヨタのRAV4よりも大きい)、全席に位置や背もたれ角度のメモリー機能が付き、センターコンソールを含めて大きく前後に移動できる電動シートアレンジ、停車中にフロントシートを座面ごと傾けて休めるリラックスポジションなど、インテリアの随所にも散りばめられている。 ※2022年6月に、韓国でIONIQ 5が高速道路上の構造物に突っ込む単独事故により、衝突後3秒でリチウムイオンバッテリーが発火し、ドライバーと同乗者が死亡という痛ましい報道があったが、これは時速100キロでノーブレーキの衝突、かつシートベルト未装着で死因は衝撃によるものだったことが明らかとなっている。車両自体はヨーロッパの厳しいNCAPの衝突安全テストにおいて最高評価の5つ星を獲得しており、それでも構造物がリチウムイオンバッテリーを突き抜けたことが発火の原因だった。スマートフォンも同様だが、リチウムイオンバッテリーはそのような危険を内包しており、この点は、全個体電池などが実用化されない限り、避けきれない問題といえる』、「一般タクシーで今回目立ったのが、現代自動車・・・のEV、「IONIQ 5」・・・だった」、「車両自体はヨーロッパの厳しいNCAPの衝突安全テストにおいて最高評価の5つ星を獲得」、大したものだ。
・『ソウルでテスト中のロボタクシーは早期にレベル4の自動運転を実用化を目指す さらにIONIQ 5は、ヒョンデとアプティブ(アイルランドに本社のある自動車テクノロジー企業)との合弁企業のモーショナルが開発している、自動運転レベル4(決まった走行ルートなどの特定条件下で可能な、人ではなくシステム主体で車を走らせる自動運転)を実現するロボタクシーのベース車両ともなっている。今回の訪韓中には見かけなかったが、このロボタクシーもソウル市内でテスト走行中だ。 折りしも「人工知能(AI)産業の育成と信頼確保に関する法案」が、韓国国会科学技術情報放送通信委員会の情報通信放送法案審査小委員会を通過したとの報道があったが、そこにうたわれていたのは「まず認可・後に規制」という事後規制の原則だ。もちろん、実際の議会での可決までには踏むべき段階が残っているものの、おそらくほぼそのまま成立し、ロボタクシーもこのような原則の下での早期の実用化を目指すものと思われる。 ちなみにヒョンデは、EVではないものの、ビジネス用のリムジンから大型タクシー、幼稚園などの送迎用まで幅広い用途に対応する新世代の世界戦略ワンボックスカー「STARIA」も擁している。予約開始の初日だけで1万台のオーダーを受けたという人気車種だけに、こちらも市内のあちこちで見かけた。IONIQ 5もそうだが、周囲を威嚇するようなフロントマスクを持つ日本のワンボックスとは一線を画すSTARIAの佇まいを見ていると、K-POPや韓国ドラマのように、韓国車が価格ではなくコンセプトや質の面で世界に受け入れられる日が近いことを予感した』、「IONIQ 5は、ヒョンデとアプティブ・・・との合弁企業のモーショナルが開発している、自動運転レベル4・・・を実現するロボタクシーのベース車両ともなっている・・・このロボタクシーもソウル市内でテスト走行中だ」、「ロボタクシー」とは進んでいる。「新世代の世界戦略ワンボックスカー「STARIA」は・・・IONIQ 5もそうだが、周囲を威嚇するようなフロントマスクを持つ日本のワンボックスとは一線を画すSTARIAの佇まいを見ていると・・・韓国車が価格ではなくコンセプトや質の面で世界に受け入れられる日が近いことを予感した」、「周囲を威嚇するようなフロントマスクを持つ日本のワンボックス」、私もあの「フロントマスク」は嫌いだ。「韓国車が価格ではなくコンセプトや質の面で世界に受け入れられる日が近いことを予感した」、大したものだ。
・『新しいデジタルサイネージへの積極的な取り組み 2021年の暮れに新宿駅東口近くに設置されて話題を呼んだ、特定の角度から見ると猫やルンバが飛び出して見える3D街頭ビジョンも、韓国ではそれ以前から導入されていた。実際に機材の開発・製造を行っているのは中国企業だが、本国以外で設置した国は、韓国が最初だったようだ。 というのも、韓国は新しい技術や製品に対する抵抗感が少なく、スマートフォン普及率の例からも分かるように、全年齢層がアーリーアダプター的な消費動向を持っているためだ。それゆえ韓国市場は、国外企業からも新たな技術や製品を試験的に投入して反応を確かめる場として捉えられているところがある。 アパレルやアクセサリー系の問屋やテナントがひしめき合う東大門(トンデモン)のファッションビルの1つにも、新型コロナウィルス禍以前にはなかった新型の街頭ビジョンが設置されていたのだが、それはある意味で擬似的な3D街頭ビジョンを超える、リアルな3Dビジョンといえた。なぜなら、細かくブロック分けされたLEDパネルが、個々に物理的に前後しながら画像を表示する、本物の立体(構造)ディスプレイだったからだ。 「ウェーブスクリーン」と呼ばれるそれがウネウネと動いている様子は、少し離れた位置からはプロジェクションマッピング的な目の錯覚かとも思えた。だが、近づいてみると、実際にパネルが動いていることに驚かされた。これも作っているのは中国企業だが、韓国での反応を見たうえで、他国にも売り込んでいくのだろう。 ただし、正直なところインパクトの点では、擬似的とはいえ立体感に勝り、表示するイメージのバリエーションも豊富な3D街頭ビジョンのほうに軍配が上がるといわざるを得ない。また、可動部が多いのでメンテナンスも大変そうだ。しかし見る側の角度依存が少ないことや、既存のコンテンツもそのまま表示でき、専用コンテンツの制作も3D街頭ビジョンより簡単に行えそうな点ではメリットもある。設置場所の自由度も高く、特に近距離から見たときに迫力を感じるので、それぞれの特徴を生かして使い分けられていきそうだ』、「韓国は新しい技術や製品に対する抵抗感が少なく、スマートフォン普及率の例からも分かるように、全年齢層がアーリーアダプター的な消費動向を持っているためだ。それゆえ韓国市場は、国外企業からも新たな技術や製品を試験的に投入して反応を確かめる場として捉えられているところがある」、羨ましい限りだ。「特定の角度から見ると猫やルンバが飛び出して見える3D街頭ビジョン」、「ウェーブスクリーン」、などなかなか面白そうだ。
・『空港システムの進化に見る日韓の違い 最後に、韓国入出国と帰国時に感じた日韓の違いを書いておきたい。 現在、渡韓時にはK-ETA(電子渡航認証システム)とQ-CODE(検疫情報事前入力システム)の事前登録が求められる。前者は、ビザが免除されている国籍の渡航者に対して義務化されており、後者は任意だが、7日間の隔離を免除されるワクチン接種歴の確認を渡航前に済ませられるので、入国審査がスムーズになる。 K-ETAは英語のみ、Q-CODEは韓国語と英語のみの対応だが、旅行社などが公開している日本語の解説サイトがあるので、それらを参照すれば、さほど支障なく登録できるはずだ。 問題は、Q-CODE申請は無料だが、K-ETAは約1000円の申請料がかかり、クレジットカードのみでの支払いとなるため、そこを狙った偽サイトも少なからず存在するという点である。被害に遭わないためには、大使館や航空会社、大手旅行社の公式ページからのリンクを使って正しいサイトにアクセスするのが良いだろう。 日本出発時の空港は、平日にもかかわらず訪日外国人で大混雑しており、まだ制限されている中国からの団体客を除けば、ほぼ客足が戻ったかのような印象だった。そのため、ソウルの仁川空港でも入国審査で時間が取られることを覚悟していたのだが、幸いなことに窓口に並ぶ人数も少なく、また、パスポート照合によるK-ETAの確認と、Q-CODEの二次元バーコードの読み取りによって、拍子抜けするほど簡単に、短時間で通ることができた』、なるほど。
・『仁川空港では2014年からセルフバッグドロップシステムの導入が進む また、航空便のオンラインチェックインはほぼ常識化しているが、機内持ち込みできないスーツケースなどのバッグドロップ(手荷物預け入れ)は、航空会社のカウンターで物理的に行う必要がある。しかし、仁川空港では、大韓航空などを皮切りにセルフバッグドロップシステムの導入が進んでおり、搭乗券とパスポートをスキャンして、荷物を乗せたコンベア台のカバーが閉まるとX線検査がその場で行われ、問題なければカバーが開き、プリントされたタグを自分で荷物に取り付けることで処理が完了する。 同種の機材は、日本でもANAが2015年に羽田空港の国内線カウンターに導入し、2017年に成田空港の国際線での実証実験を行って以来、普及が進んでいる。仁川空港では、オランダのスキポール空港、イギリスのヒースロー空港、オーストラリアのシドニー空港などに続いて、2014年から導入開始していたので、やはり、先に触れた先取精神が発揮されたようだ』、「先取精神」には我々も学ぶべきだ。
・『デジタル庁推進「Visit Japan Web」の使い勝手は…… 実は、今回の旅で最も不可解だったのは、関西国際空港帰国時のVisit Japan Web(デジタル庁が推進する入国手続オンラインサービス)の対応だった。事前登録した画面またはプリントアウトを見せることで検疫を通過できるとの触れ込みで、実際にもその通りだったのだが、ターミナル間の移動用シャトルは利用できずに通路を延々と歩く必要があり、要所ごとにやたらと多くの係員が配置されている。 しかも、Webの説明では(ネット接続ができない場合に備えて)「縦に長いページの3つの要素を確実にスクリーンショットで保存するか、プリントアウトして見せること」となっていたものの、実際には、数をこなすためか移動途中で最初の画面をチラッと見る程度で、何の証明にもならず、最悪の場合、偽造も簡単に行える(適当なスクリーンショットを入手するだけ)と思われた。 さらに、帰国後に改めて登録ページを確認すると、先の縦長ページを一度にダウンロードできる機能が追加されていたのだが、リンク先に飛ぶと、スマートフォンのスクリーンに収まらないサイズの画像が縮小もスクロールもできない状態で表示され、ダウンロードボタンも表示されない状態だった。動作検証の有無や、その程度の改修にいくら税金が使われたのか、大いに気になる。 NIA(韓国知能情報社会振興院)の資料によれば、国連やOECDなどの国際機関によるDX、IT関連のランキングで、韓国はICTの国際競争力、ICTインフラ整備、電子的な社会参加、オープンデータ利用、AIの民主的利用の項目で1位を獲得している。もちろん、同時にさまざまな社会問題も抱えているものの、ことデジタル技術の推進やDXに関しては、政府が音頭を取るだけでなく、具体的に利用しやすい形で社会実装が進められなければ意味がないことが、きちんと理解されていると感じられた』、「「Visit Japan Web」の使い勝手は」余り良くないようだ』、「国連やOECDなどの国際機関によるDX、IT関連のランキングで、韓国はICTの国際競争力、ICTインフラ整備、電子的な社会参加、オープンデータ利用、AIの民主的利用の項目で1位を獲得」、「ことデジタル技術の推進やDXに関しては、政府が音頭を取るだけでなく、具体的に利用しやすい形で社会実装が進められなければ意味がないことが、きちんと理解されていると感じられた」、「日本」は「韓国」に残念ながら大きく水をあけられてしまったようだ。
次に、4月3日付けPRESIDENT Onlineが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁 昭夫氏による「「コンサルあまり」の時代が始まった…マッキンゼー、アクセンチュアが大規模リストラに追い込まれた理由 IT企業向けのサービス需要が行き詰まっている」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/68014
・『マッキンゼーは1400人、アクセンチュアは1万9000人 2月下旬以降、米国の大手コンサルティング企業が相次いで人員の削減を進めている。まず、マッキンゼー・アンド・カンパニーは約2000人の削減計画が報じられた。削減規模は同社にとって過去最大規模とみられる。3月23日、アクセンチュアも大規模なリストラ計画を発表した。今のところ削減規模は1万9000人に達する見込みであり、コンサル業界で過去最大級のリストラが進もうとしている。 リーマンショック後、世界の有力コンサルティング企業は、新しい事業の育成、その運営体制の企画、設計などに関する業務をIT先端企業などから受託してきた。そうすることで企業は迅速に、必要な業務運営の体制を整備できた。コロナ禍の発生によって、世界経済のデジタル化は一時的に急加速した。その結果、IT先端分野などで新しい業務運営の確立に必要なコンサルティング・サービスへの需要も押し上げられた。 しかし、競争の激化、世界的なインフレ進行、ウィズコロナへの移行、さらには世界的な金利上昇などを背景に、IT関連企業の成長期待は急速にしぼんでいる。すでに、米メタ(旧フェイスブック)などで、コンサル出身の経営幹部が要職を退いた。IT業界でのリストラは加速している。その成長を取り込んだコンサル業界などにもより強いリストラ圧力がのしかかろうとしている』、「IT業界でのリストラは加速している。その成長を取り込んだコンサル業界などにもより強いリストラ圧力がのしかかろうとしている」、なるほど。
・『過剰投資、過剰採用を抱えたIT企業の退潮 足許、米国を中心に急速にコンサル業界でリストラが進んでいる。それだけ、多くの企業は、高い成長が続くと先行きの展開を楽観し、採用を強化した。しかし、世界経済の減速、特にIT先端分野での業績悪化懸念が急速に高まった。IT有力企業では過剰な投資や採用が顕在化している。それに伴い、IT先端分野での需要を取り込んできたコンサル業界でも、過剰人員などの問題が浮上し、コストカットが急がれている。 リーマンショック後、米国ではアップルの“iPhone”などのヒットをきっかけに、経済のデジタル化が加速した。“21世紀はデータの世紀”と呼ばれるように、ビッグデータの重要性は急速に高まった。データを活用することによって、新しいビジネスが次から次へと生み出された。 メタやツイッターなどはSNSという新しい業態を生み出した。それにデータを用いた広告ビジネスが結合され、収益はおおきく伸びた。物流分野では、アマゾンがネット通販で購入された品物の配達スピードを引き上げるために、物流施設の建設を増やすなどした』、「経済のデジタル化が加速した。“21世紀はデータの世紀”と呼ばれるように、ビッグデータの重要性は急速に高まった。データを活用することによって、新しいビジネスが次から次へと生み出された。 メタやツイッターなどはSNSという新しい業態を生み出した。それにデータを用いた広告ビジネスが結合され、収益はおおきく伸びた」、なるほど。
・『業務効率化でコンサルティング依頼は急増したが… そうした新しい業務運営の在り方を確立し、実際のマネジメント手法を組織に浸透させるために、マッキンゼーやアクセンチュアへのコンサルティング依頼は急増した。 コンサルティング各社は、顧客企業が新しい分野に進出し、いち早く安定した業務の運営体制を確立するために必要な方法論を提供して対価を得る。具体的にマッキンゼーなどは、経営戦略や財務、管理会計の理論を結合することによって、効率的に業務運営を行う標準的な手法を確立した。 そうしたサービスを利用することによって、IT関連分野の企業は、データの利用など自社の強みがより発揮できる分野に集中しやすくなった。コンサル業界でのリストラ増加は、IT先端分野での企業の成長性が低下していることを意味する。そうした変化を機敏に感じとり、早い段階でIT先端企業を去った人もいる』、「新しい業務運営の在り方を確立し、実際のマネジメント手法を組織に浸透させるために、マッキンゼーやアクセンチュアへのコンサルティング依頼は急増した。 コンサルティング各社は、顧客企業が新しい分野に進出し、いち早く安定した業務の運営体制を確立するために必要な方法論を提供して対価を得る。具体的にマッキンゼーなどは、経営戦略や財務、管理会計の理論を結合することによって、効率的に業務運営を行う標準的な手法を確立した」、なるほど。
・『コンサル出身のサンドバーグ氏はいち早くメタを去った その一人として、2022年6月、シェリル・サンドバーグ女史はメタの最高執行責任者(COO)を辞すと表明した。それは、メタなどの成長の勢いが弱まり、新たな成長分野を探さなければならないという認識に基づいた意思決定だったように見える。ハーバード・ビジネス・スクールを修了した後、サンドバーグ女史はマッキンゼーでコンサルタントとして働いた。グーグルなどを経て、2008年、COOとしてサンドバーグ女史はフェイスブックに参画した。 メタ創業者のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)にとって、経営コンサルタントとしてのスキル、グーグルでの広告ビジネスの高い成長を支えたサンドバーグ女史の実力は、SNS分野でのビジネスモデルを確立し、高い成長を実現するために喉から手が出るほど欲しかった要素だったはずだ。 このようにして、多くのIT先端企業は、コンサル業界出身の人材採用を強化した。また、アクセンチュアやソフトウエア分野への選択と集中を進めたIBMなどに、ビジネスモデルの確立や、新規事業の業務運営体制の企画、マネジメント手法などのコンサルティングを委託する企業も増えた。 その結果、世界的にコンサルタント人材の求人は急増した。一部では、組織運営などに関する理論に加え、人工知能(AI)やネットワーク・テクノロジーに精通した人材の争奪戦に拍車がかかった』、「多くのIT先端企業は、コンサル業界出身の人材採用を強化した。また、アクセンチュアやソフトウエア分野への選択と集中を進めたIBMなどに、ビジネスモデルの確立や、新規事業の業務運営体制の企画、マネジメント手法などのコンサルティングを委託する企業も増えた。 その結果、世界的にコンサルタント人材の求人は急増した」、なるほど。
・『ビジネスモデルの行き詰まりを鮮明に理解している しかし、高い成長がいつまでも続くことは考えづらい。2021年の秋ごろから、徐々にメタをはじめとするIT有力企業の成長鈍化懸念は高まった。株価も下落し始めた。 2022年3月に連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを開始し、その後は急激に金融が引き締められた。世界全体で企業の資金調達などのコストも増加した。スタートアップ企業とGAFAなどの競争も激化した。SNSやサブスク型のビジネスモデルの優位性は行き詰まり、業績懸念は追加的に高まっている。 2023年2月には、ユーチューブのスーザン・ウォジスキーCEOの退任も発表された。ウォジスキー女史もベイン・アンド・カンパニーで経営コンサルタントとしてキャリアを積み、その上でグーグルに参画した。コンサルタントとして多くの企業を見てきた経験があるだけに、彼女らはビジネスモデルの行き詰まりをより鮮明に理解しているはずだ』、「2021年の秋ごろから、徐々にメタをはじめとするIT有力企業の成長鈍化懸念は高まった。株価も下落し始めた・・・世界全体で企業の資金調達などのコストも増加した。スタートアップ企業とGAFAなどの競争も激化した。SNSやサブスク型のビジネスモデルの優位性は行き詰まり、業績懸念は追加的に高まっている」、ようやく足元の状況に近づいてきた。
・『コンサル、会計監査需要は急速にしぼんでいる コンサル業界だけでなく、米国では大手会計事務所のKPMGも2%程度の従業員(約700人)を削減すると報じられた。3月23日、リクルートホールディングスは2012年に買収した米インディードの従業員の15%を削減すると発表した。 リーマンショック後から2022年3月まで、世界全体で、超低金利環境の長期化観測は高まった。投資(投機)資金は成長期待の高いIT先端分野の株式などに流入した。高い成長は間違いないという過度な期待は一段と膨張した。そうした環境変化を追い風に、IT先端分野での起業は増えた。 コロナ禍の発生後は、カネ余りとデジタル化の加速期待に拍車がかかった。特別買収目的会社(SPAC)による買収を通した株式の公開によって資金を調達し、事業規模の拡大に取り組む企業は急増した。こうして、採用、コンサルティングや会計監査といったサービス需要も押し上げられた。 そうした強気な環境は急速にしぼんでいる。メタなどは追加リストラ策を発表した。IT先端企業などとの取引を強化した米欧金融機関のいくつかは破綻した。IT先端企業の成長を取り込んできたコンサル業界などでも、リストラの強化は避けられないだろう』、「コロナ禍の発生後は、カネ余りとデジタル化の加速期待に拍車がかかった。特別買収目的会社(SPAC)による買収を通した株式の公開によって資金を調達し、事業規模の拡大に取り組む企業は急増した。こうして、採用、コンサルティングや会計監査といったサービス需要も押し上げられた。 そうした強気な環境は急速にしぼんでいる。メタなどは追加リストラ策を発表した。IT先端企業などとの取引を強化した米欧金融機関のいくつかは破綻した。IT先端企業の成長を取り込んできたコンサル業界などでも、リストラの強化は避けられないだろう」、その通りだろう。
・『相次ぐリストラの背景にある「新たな成長機会」 しかし、すべての分野でコンサルティングの需要が減少しているわけではない。米国では、マイクロソフトなどが“チャットGPT”をはじめとする生成型のAIを用いた新しい広告サービスなどのビジネス創出に取り組んでいる。IBMは既存分野でリストラを進めつつAI関連の事業運営体制を強化している。 加えて、台湾問題の緊迫感は高まっている。世界の工場としての中国経済の成長鈍化懸念も上昇している。それらを背景に、世界全体でインドやASEAN地域の新興国、さらには企業の本国に近い場所に生産拠点などを移す動きも激化している。 世界規模で供給網の再編に取り組みつつ貿易管理体制を強化するためにも、企業はコンサルティング企業の助言を必要とする。コンサル業界でのリストラは、世界経済を支えたIT先端企業の成長性が鈍化し、新しい成長の機会が模索されていることの裏返しといえる』、「世界規模で供給網の再編に取り組みつつ貿易管理体制を強化するためにも、企業はコンサルティング企業の助言を必要とする。コンサル業界でのリストラは、世界経済を支えたIT先端企業の成長性が鈍化し、新しい成長の機会が模索されていることの裏返しといえる」、「新しい成長の機会が模索されていることの裏返し」とは興味深い捉え方だ。
第三に、5月2日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)のリチャード・カッツ氏による「27カ国中最下位…日本がIT人材足りない根本理由 このままでは最大80万人が不足する事態に」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/669331
・『日本はデジタル分野の専門人材不足が深刻化する「2025年デジタルの崖」に直面する。経済産業省によると、2020年には30万人、2030年にはデジタルサービスの需要次第で45万人から80万人にまで不足が拡大するとされている。後者の場合、日本が必要とする190万人の専門人材を4割も下回ることになる。 経産省は、日本がこの崖を乗り越えなければ、2025年以降、日本のGDPは予測よりも毎年12兆円も低くなると警告している。その損失は、2022年のGDPの2%以上に相当する。ところが、政府はDXなどという聞こえのいいスローガンを掲げるだけで、この状況を改善するためにほとんど何もしていない。民間企業では心強い変化も起きているが、それが政府の動きによって増幅されない限り、崖の高さを低くすることしかできないだろう』、「経済産業省によると、2020年には30万人、2030年にはデジタルサービスの需要次第で45万人から80万人にまで不足が拡大」、「日本がこの崖を乗り越えなければ、2025年以降、日本のGDPは予測よりも毎年12兆円も低くなると警告している。その損失は、2022年のGDPの2%以上に相当する。ところが、政府はDXなどという聞こえのいいスローガンを掲げるだけで、この状況を改善するためにほとんど何もしていない」、「政府」の無責任ぶりには腹が立つ。
・『そもそも人材育成ができていない 最大の問題は人材の育成ができていないことだろう。日本は数学と科学の分野で世界トップクラスの成績を収めた高校生の割合で2019年、韓国に次いで2位の成績を収めている。にもかかわらず、日本は27の富裕国の中で、科学や工学の分野でのキャリアを目指す優秀な学生の割合が最下位となっている。日本は、STEM(科学、技術、工学、数学)コースを専攻した大学卒業生の割合が22位である。これに対し、韓国は3位につけている。(出典:OECD、注:STEM=科学、技術、工学、数学) これは単に優れたコンピュータを開発したり、新しいソフトウェアを書いたりする方法を知っている人たちが不足するという問題だけではない。日本は数学と科学の分野で世界トップクラスの成績を収めた高校生の割合で2019年、韓国に次いで2位の成績を収めている。にもかかわらず、日本は27の富裕国の中で、科学や工学の分野でのキャリアを目指す優秀な学生の割合が最下位となっている。日本は、STEM(科学、技術、工学、数学)コースを専攻した大学卒業生の割合が22位である。これに対し、韓国は3位につけている。さらに状況を悪化させているのは、日本の大企業と、日本の労働者の7割を雇用する中小企業との間にある大きな「デジタルデバイド」である。) 大企業が総投資額の10%をソフトウェアに割いているのに対し、従業員数300人以下の企業ではその比率はわずか4%である。2017年に何らかのデジタル機器やソフトウェアに投資した中小企業は、4社に1社にとどまっている。 経産省が中小企業にデジタル技術の利用が進んでいない理由を尋ねたところ、「ITを導入できる人材が不足している」という回答が43%と最も多い結果となった。また、「IT導入の効果が不明確、または十分でない」が40%と僅差で2位だった。日本には、こうした中小企業にITを活用した売り上げの向上や、効率化の方法を示すコンサルタントが数多く必要なのだ』、「日本は数学と科学の分野で世界トップクラスの成績を収めた高校生の割合で2019年、韓国に次いで2位の成績を収めている。にもかかわらず、日本は27の富裕国の中で、科学や工学の分野でのキャリアを目指す優秀な学生の割合が最下位となっている。日本は、STEM(科学、技術、工学、数学)コースを専攻した大学卒業生の割合が22位である。これに対し、韓国は3位」、「大企業が総投資額の10%をソフトウェアに割いているのに対し、従業員数300人以下の企業ではその比率はわずか4%である」、「日本には、こうした中小企業にITを活用した売り上げの向上や、効率化の方法を示すコンサルタントが数多く必要なのだ」、その通りだ。
・『高校教育が遅れている この問題は高校から始まっており、教師自身のITスキル、こうしたテーマを教える能力、教師を養成するためのリソース、さらには十分な機器やオンライン学習プラットフォームといった重要な分野で、日本はOECDの中で最下位に位置している。 政府の教育改革アドバイザーである鈴木寛氏は、大学入試にデジタルスキルが含まれていないことが大きな理由の1つだと指摘する。そのため、高校の教師は教える必要性をほとんど感じていない。 鈴木氏によれば、2025年からは、入試にIT関連の問題が含まれるようになるとのことで、進んではいる。しかし、誰が教師を指導するのだろうか。そして、それにはどのくらいの時間がかかるのだろうか。 また、優秀な学生がデジタル専門人材になるために必要な時間とお金を費やすインセンティブも、他の富裕国よりはるかに低い。ほとんどの企業では、給料を決めるのに、依然として職業よりも年功序列が重視される。 2021年、日本のデジタル人材の平均年収は、2019年から4%減の438万円にとどまった。これは、日本の給与の中央値から2%下回る水準である。最もスキルの高いデジタル専門人材の給与では、その差はさらに大きくなっている。) ある調査によると、デジタル人材の65%の年収が390万円から540万円であり、615万円以上は5%、1000万円は一握りである。また、他の17カ国では、IT技術者の給与が日本より高いという調査結果も出ている。 残念ながら、DXは空虚な流行語にすぎないように思われる。日本政府は2021年にデジタル庁を創設したが、その使命は、政府内や政府と一般市民とのコミュニケーションのデジタル化に関するものがほとんどである。 文部科学省は、STEM専攻の学生が支払う高い授業料と費用を、社会科学や人文科学専攻の学生が支払う低い水準に引き下げる財政支援策を提案している。成立すれば、年間約20万人の学生が恩恵を受けることになる。これは歓迎すべき一歩だが、デジタルスキルの教え方を知らない教師たちの問題を解決するものではない』、「問題は高校から始まっており、教師自身のITスキル、こうしたテーマを教える能力、教師を養成するためのリソース、さらには十分な機器やオンライン学習プラットフォームといった重要な分野で、日本はOECDの中で最下位に位置している」、「「優秀な学生がデジタル専門人材になるために必要な時間とお金を費やすインセンティブも、他の富裕国よりはるかに低い。ほとんどの企業では、給料を決めるのに、依然として職業よりも年功序列が重視される」、「2021年、日本のデジタル人材の平均年収は、2019年から4%減の438万円にとどまった。これは、日本の給与の中央値から2%下回る水準である。最もスキルの高いデジタル専門人材の給与では、その差はさらに大きくなっている。 ある調査によると、デジタル人材の65%の年収が390万円から540万円であり、615万円以上は5%、1000万円は一握りである。また、他の17カ国では、IT技術者の給与が日本より高いという調査結果も出ている」、「残念ながら、DXは空虚な流行語にすぎないように思われる。日本政府は2021年にデジタル庁を創設したが、その使命は、政府内や政府と一般市民とのコミュニケーションのデジタル化に関するものがほとんどである。 文部科学省は、STEM専攻の学生が支払う高い授業料と費用を、社会科学や人文科学専攻の学生が支払う低い水準に引き下げる財政支援策を提案している。成立すれば、年間約20万人の学生が恩恵を受けることになる。これは歓迎すべき一歩だが、デジタルスキルの教え方を知らない教師たちの問題を解決するものではない」、「文部科学省」の「財政支援策を提案」は初耳で、実際に施行される可能性は殆どないだろう。
・『外国人の高度人材にとっても魅力がない 日本政府は、デジタルなどの分野で優れた技能を持つ移民を増やすため、複数の特別なビザを設けている。しかし、2022年現在、このビザ規則で高度専門職に指定された外国人は3275人にとどまっている。2022年の時点で、ICT分野の外国人就労者はわずか7万6000人ほどである。潜在的な人材が他の地域でもっと多くの給与を得ることができるので、不思議なことではない。 さらに、2019年のOECDの調査では、高学歴人材の魅力度において、日本は35カ国中25位となっている。例えば、日本では外国人の子弟が学校で日本語の授業を受けることが認められているが、教師不足のため、対象者のうち65%しか支援を受けていない。 昨年9月、岸田内閣の「教育未来創造会議」は、2032年までに大学のSTEM専攻者を半数以上にすることを提言したが、その方法はもちろん、そのような高い数値が望ましいかどうかも示さなかった。 政府による措置がない中で、最大の前向きな動きは、世代交代による意識の変化によって、一部の高度な技能を持つ人材が、企業による採用競争によって、より高い給与を得られるようになっていることである。) 20代、30代の働き手は、親よりもずっと、自分が面白いと思えるキャリアを手に入れたいと考えている。また、専門的なスキルを持つ人は、終身雇用の必要性をあまり感じない。そのため、よりやりがいのある仕事、より高い給与を求めて転職を希望する人が増えている。 1970年代から1980年代前半に採用された25歳から29歳の人たちが、最初は1つの会社に10年間勤めたとする。そのうちの70%は、少なくともさらに10年以上勤続している。しかし、15年後に採用された人たちでは、52%しか残らなかった。同様の傾向は、度合いは低いものの、それ以上の年齢層でも見られる』、「「教育未来創造会議」は、2032年までに大学のSTEM専攻者を半数以上にすることを提言したが、その方法はもちろん、そのような高い数値が望ましいかどうかも示さなかった」、無責任で「提言」に値しない。「政府による措置がない中で、最大の前向きな動きは、世代交代による意識の変化によって、一部の高度な技能を持つ人材が、企業による採用競争によって、より高い給与を得られるようになっていることである」、ただ、百年河清を待つようなものだ。
・『IT人材の給与を上げることは必然 この世代交代に加え、専門的なスキルを持つ社内人材の不足に対応するため、現在では中途採用の人材を確保せざるをえない企業も増えている。1999年当時、中途採用を実施していた企業は、大小問わず37%にすぎなかった。今では70%近くになっている。 さらに、優秀な中途人材を引きつけるために、企業はより高い給与を支払わなければならない。2009年当時、勤務先から別の勤務先に転職した人のうち、10%以上の賃上げを実現した人は13%にすぎなかった。しかし、2017年には、その割合は27%に倍増している。 経験則や各種調査によると、この変化の恩恵を最も受けているのは、熟練したデジタル人材であることがわかっている。 富士通やNTTデータなどの企業は、最もスキルの高いデジタル系社員に年間1000万円以上支払っている。 2019年、NECは優秀な研究開発職の採用者に初任給1000万円を提示したが、これは何年も前に採用した他の社員よりも高い給与を与えることになるケースが多い。パーソルホールディングスは、人材紹介会社として、企業のデジタル人材の確保を支援するとともに、ITに関する研修プログラムも提供している。外資系企業や日本の新興企業は、従来の日本の国内企業よりも大幅に高い給与を支払っている。 これだけですべての問題を解決することはできないが、正しい方向に進んでいることは間違いない。政府は、DXに関するレトリックを、しっかりとした現実的な対策に変えるべき時である』、「優秀な中途人材を引きつけるために、企業はより高い給与を支払わなければならない。2009年当時、勤務先から別の勤務先に転職した人のうち、10%以上の賃上げを実現した人は13%にすぎなかった。しかし、2017年には、その割合は27%に倍増している」、「政府は、DXに関するレトリックを、しっかりとした現実的な対策に変えるべき時である」、民間企業の努力に報いる政策を打ち出すべきだ。
タグ:(その3)(韓国ソウルで感じた日本のデジタル後進国ぶり 入国システム・3Dディスプレイ…、「コンサルあまり」の時代が始まった…マッキンゼー、アクセンチュアが大規模リストラに追い込まれた理由 IT企業向けのサービス需要が行き詰まっている、27カ国中最下位…日本がIT人材足りない根本理由 このままでは最大80万人が不足する事態に) 民間デジタル化 ダイヤモンド・オンライン 大谷和利氏による「韓国ソウルで感じた日本のデジタル後進国ぶり、入国システム・3Dディスプレイ…」 「韓国」の先進「デジタル事情」とは興味深そうだ。 「韓国のTVドラマは放送法の規定で途中にCMを入れることが禁じられており、制作側の収益面ではPPLの比重が高い。CMが挟まれない分、ストーリーに集中できそうだが、劇中の役には不釣り合いな製品を使用していたり、登場人物が急に化粧品や炊飯器を褒め始めたりするので、思わずツッコミを入れたくなる」、「放送法の規定で途中にCMを入れることが禁じられており」、とは初めて知った。 「Android対iPhoneの割合では、韓国がほぼ世界平均と同じ70%強:30%割弱」、「韓国の若い世代のiPhoneへの関心が高まっているとすると、今後、iPhoneがよりシェアを伸ばしていく可能性もありそうだ」、なるほど。 「一般タクシーで今回目立ったのが、現代自動車・・・のEV、「IONIQ 5」・・・だった」、「車両自体はヨーロッパの厳しいNCAPの衝突安全テストにおいて最高評価の5つ星を獲得」、大したものだ。 「IONIQ 5は、ヒョンデとアプティブ・・・との合弁企業のモーショナルが開発している、自動運転レベル4・・・を実現するロボタクシーのベース車両ともなっている・・・このロボタクシーもソウル市内でテスト走行中だ」、「ロボタクシー」とは進んでいる。 「新世代の世界戦略ワンボックスカー「STARIA」は・・・IONIQ 5もそうだが、周囲を威嚇するようなフロントマスクを持つ日本のワンボックスとは一線を画すSTARIAの佇まいを見ていると・・・韓国車が価格ではなくコンセプトや質の面で世界に受け入れられる日が近いことを予感した」、「周囲を威嚇するようなフロントマスクを持つ日本のワンボックス」、私もあの「フロントマスク」は嫌いだ。「韓国車が価格ではなくコンセプトや質の面で世界に受け入れられる日が近いことを予感した」、大したものだ。 「韓国は新しい技術や製品に対する抵抗感が少なく、スマートフォン普及率の例からも分かるように、全年齢層がアーリーアダプター的な消費動向を持っているためだ。それゆえ韓国市場は、国外企業からも新たな技術や製品を試験的に投入して反応を確かめる場として捉えられているところがある」、羨ましい限りだ。「特定の角度から見ると猫やルンバが飛び出して見える3D街頭ビジョン」、「ウェーブスクリーン」、などなかなか面白そうだ。 「先取精神」には我々も学ぶべきだ。 「「Visit Japan Web」の使い勝手は」余り良くないようだ』、「国連やOECDなどの国際機関によるDX、IT関連のランキングで、韓国はICTの国際競争力、ICTインフラ整備、電子的な社会参加、オープンデータ利用、AIの民主的利用の項目で1位を獲得」、 「ことデジタル技術の推進やDXに関しては、政府が音頭を取るだけでなく、具体的に利用しやすい形で社会実装が進められなければ意味がないことが、きちんと理解されていると感じられた」、「日本」は「韓国」に残念ながら大きく水をあけられてしまったようだ。 PRESIDENT ONLINE 真壁 昭夫氏による「「コンサルあまり」の時代が始まった…マッキンゼー、アクセンチュアが大規模リストラに追い込まれた理由 IT企業向けのサービス需要が行き詰まっている」 「IT業界でのリストラは加速している。その成長を取り込んだコンサル業界などにもより強いリストラ圧力がのしかかろうとしている」、なるほど。 「経済のデジタル化が加速した。“21世紀はデータの世紀”と呼ばれるように、ビッグデータの重要性は急速に高まった。データを活用することによって、新しいビジネスが次から次へと生み出された。 メタやツイッターなどはSNSという新しい業態を生み出した。それにデータを用いた広告ビジネスが結合され、収益はおおきく伸びた」、なるほど。 「新しい業務運営の在り方を確立し、実際のマネジメント手法を組織に浸透させるために、マッキンゼーやアクセンチュアへのコンサルティング依頼は急増した。 コンサルティング各社は、顧客企業が新しい分野に進出し、いち早く安定した業務の運営体制を確立するために必要な方法論を提供して対価を得る。具体的にマッキンゼーなどは、経営戦略や財務、管理会計の理論を結合することによって、効率的に業務運営を行う標準的な手法を確立した」、なるほど。 「多くのIT先端企業は、コンサル業界出身の人材採用を強化した。また、アクセンチュアやソフトウエア分野への選択と集中を進めたIBMなどに、ビジネスモデルの確立や、新規事業の業務運営体制の企画、マネジメント手法などのコンサルティングを委託する企業も増えた。 その結果、世界的にコンサルタント人材の求人は急増した」、なるほど。 「2021年の秋ごろから、徐々にメタをはじめとするIT有力企業の成長鈍化懸念は高まった。株価も下落し始めた・・・世界全体で企業の資金調達などのコストも増加した。スタートアップ企業とGAFAなどの競争も激化した。SNSやサブスク型のビジネスモデルの優位性は行き詰まり、業績懸念は追加的に高まっている」、ようやく足元の状況に近づいてきた。 「コロナ禍の発生後は、カネ余りとデジタル化の加速期待に拍車がかかった。特別買収目的会社(SPAC)による買収を通した株式の公開によって資金を調達し、事業規模の拡大に取り組む企業は急増した。こうして、採用、コンサルティングや会計監査といったサービス需要も押し上げられた。 そうした強気な環境は急速にしぼんでいる。メタなどは追加リストラ策を発表した。IT先端企業などとの取引を強化した米欧金融機関のいくつかは破綻した。IT先端企業の成長を取り込んできたコンサル業界などでも、リストラの強化は避けられないだろう」、そ の通りだろう。 「世界規模で供給網の再編に取り組みつつ貿易管理体制を強化するためにも、企業はコンサルティング企業の助言を必要とする。コンサル業界でのリストラは、世界経済を支えたIT先端企業の成長性が鈍化し、新しい成長の機会が模索されていることの裏返しといえる」、「新しい成長の機会が模索されていることの裏返し」とは興味深い捉え方だ。 東洋経済オンライン リチャード・カッツ氏による「27カ国中最下位…日本がIT人材足りない根本理由 このままでは最大80万人が不足する事態に」 「経済産業省によると、2020年には30万人、2030年にはデジタルサービスの需要次第で45万人から80万人にまで不足が拡大」、「日本がこの崖を乗り越えなければ、2025年以降、日本のGDPは予測よりも毎年12兆円も低くなると警告している。その損失は、2022年のGDPの2%以上に相当する。ところが、政府はDXなどという聞こえのいいスローガンを掲げるだけで、この状況を改善するためにほとんど何もしていない」、「政府」の無責任ぶりには腹が立つ。 「日本は数学と科学の分野で世界トップクラスの成績を収めた高校生の割合で2019年、韓国に次いで2位の成績を収めている。にもかかわらず、日本は27の富裕国の中で、科学や工学の分野でのキャリアを目指す優秀な学生の割合が最下位となっている。日本は、STEM(科学、技術、工学、数学)コースを専攻した大学卒業生の割合が22位である。これに対し、韓国は3位」、 「大企業が総投資額の10%をソフトウェアに割いているのに対し、従業員数300人以下の企業ではその比率はわずか4%である」、「日本には、こうした中小企業にITを活用した売り上げの向上や、効率化の方法を示すコンサルタントが数多く必要なのだ」、その通りだ。 「問題は高校から始まっており、教師自身のITスキル、こうしたテーマを教える能力、教師を養成するためのリソース、さらには十分な機器やオンライン学習プラットフォームといった重要な分野で、日本はOECDの中で最下位に位置している」、 「「優秀な学生がデジタル専門人材になるために必要な時間とお金を費やすインセンティブも、他の富裕国よりはるかに低い。ほとんどの企業では、給料を決めるのに、依然として職業よりも年功序列が重視される」、「2021年、日本のデジタル人材の平均年収は、2019年から4%減の438万円にとどまった。これは、日本の給与の中央値から2%下回る水準である。最もスキルの高いデジタル専門人材の給与では、その差はさらに大きくなっている。 ある調査によると、デジタル人材の65%の年収が390万円から540万円であり、615万円以上は5%、1000万円は一握りである。また、他の17カ国では、IT技術者の給与が日本より高いという調査結果も出ている」、「残念ながら、DXは空虚な流行語にすぎないように思われる。日本政府は2021年にデジタル庁を創設したが、その使命は、政府内や政府と一般市民とのコミュニケーションのデジタル化に関するものがほとんどである。 文部科学省は、STEM専攻の学生が支払う高い授業料と費用を、社会科学や人文科学専攻の学生が支払う低い水準に引き下げる財政支援策を提案している。成立すれば、年間約20万人の学生が恩恵を受けることになる。これは歓迎すべき一歩だが、デジタルスキルの教え方を知らない教師たちの問題を解決するものではない」、「文部科学省」の「財政支援策を提案」は初耳で、実際に施行される可能性は殆どないだろう。 「「教育未来創造会議」は、2032年までに大学のSTEM専攻者を半数以上にすることを提言したが、その方法はもちろん、そのような高い数値が望ましいかどうかも示さなかった」、無責任で「提言」に値しない。「政府による措置がない中で、最大の前向きな動きは、世代交代による意識の変化によって、一部の高度な技能を持つ人材が、企業による採用競争によって、より高い給与を得られるようになっていることである」、ただ、百年河清を待つようなものだ。 「優秀な中途人材を引きつけるために、企業はより高い給与を支払わなければならない。2009年当時、勤務先から別の勤務先に転職した人のうち、10%以上の賃上げを実現した人は13%にすぎなかった。しかし、2017年には、その割合は27%に倍増している」、「政府は、DXに関するレトリックを、しっかりとした現実的な対策に変えるべき時である」、民間企業の努力に報いる政策を打ち出すべきだ。
エネルギー(その6)(中国製風車」が倒壊事故 同社の風車は全国に400基も、水素1 水電解装置 “グリーン水素”の大量製造時代へ 世界で400超のプロジェ…=中園敦二、脱炭素の切り札?にわかに脚光を浴びる「アンモニア発電」とは何か、再エネ推進派でも意外と知らない「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の違い) [技術革新]
エネルギーについては、昨年1月3日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その6)(中国製風車」が倒壊事故 同社の風車は全国に400基も、水素1 水電解装置 “グリーン水素”の大量製造時代へ 世界で400超のプロジェ…=中園敦二、脱炭素の切り札?にわかに脚光を浴びる「アンモニア発電」とは何か、再エネ推進派でも意外と知らない「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の違い)である。
先ずは、2月2日付けデイリー新潮「「中国製風車」が倒壊事故 同社の風車は全国に400基も」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/02020556/?all=1
・『傾き始めた菅政権の切り札「脱炭素化」の出鼻をくじいた格好だ。2050年までの温室効果ガス実質ゼロを目指し、再生可能エネルギーが脚光を浴びている。その折も折、長崎に設置されていた中国製風車が根元から倒壊したのだ。 「ドーン!」 けたたましい音が轟いたのは、昨年10月1日13時頃。長崎県松浦市に設置されていた小型風力発電機が根元から倒壊した。 小型とはいえ、発電機は高さ20メートルほど。風速6メートルなら年間8万キロワット以上を発電することが可能だ。事業主の企業は経産省が所管するFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)に参画し、2018年に都内にあるHYエネルギーという会社が約2千万円で販売しているこの風車を購入し、設置していたのである。 事情通によれば、 「HYエネルギーは中国人が経営者で、かつては自民党の二階俊博幹事長の次男が役員として名を連ねたことで知られていました。この発電機を購入した事業主はメンテナンス費用を差し引いても年間200万円ほどの利益が上がる予定でした。10年で初期投資を回収できるはずだったのに、それが2年で倒れてしまったのですから、大損です」 製造元はGHREという中国の会社。風車は中国の工場で作られたため、販売元のHYエネルギーとGHREの間で責任のなすり合いとなっているのである』、「小型風力発電機が根元から倒壊」、僅か「2年で倒れ」たとは、いかにも「中国製」らしい。「販売」した「HYエネルギーは中国人が経営者で、かつては自民党の二階俊博幹事長の次男が役員」、なるほど。
・『ボルトが折れる 事故直前に辞任するも、今も事故対応をしているHYエネルギーの前代表が言う。 「今回の事故は、タワーと土台を溶接で繋いでいる部分の少し下、タワーの下部がポキッと折れてしまったことで起きました」 その原因については、「風車の羽根を結合する際、ボルトが強度不足だった可能性があります。羽根がガタガタと揺れてしまい、その振動でタワーに過重な負担がかかり、倒壊したのではないか。実際、GHREのボルトは設置の際によく折れていて、GHREの工場に改善の要求を出していたんです」 かたや、GHRE日本事業部のマネージャーは上海から記者に電話をかけてきて、こう反論するのだ。 「弊社からすればHYエネルギーの主張は事実に反します。ボルトの強度については出荷前に第三者機構によるレポートで確認済みだからです。向こうの主張はエビデンスに基づいているのでしょうか。今回の事故については調査中で、本当の原因が突き止められ次第、公表する予定です」 倒壊から3カ月以上が経過しても、両社の主張は平行線を辿るばかり。さらに不安視されるのは、 「ウチが手掛けた同じ型の発電機は全国で100基ほどが稼働しています。目視と音の検査で異常はありませんでしたが、今後もっと詳しい検査を行う予定です」(HYエネルギーの前代表) 他の企業が設置したものも含めると、GHRE製の小型風車は日本で400基が稼働中とも言われている。 経産省の担当者に聞くと、 「小型風力発電機について、設置されている数は把握できていません」』、原因は不明だが、「GHRE製の小型風車は日本で400基が稼働中」、恐ろしい話だ。
次に、本年2月21日付けエコノミストOnline「水素1 水電解装置 “グリーン水素”の大量製造時代へ 世界で400超のプロジェ…=中園敦二」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210302/se1/00m/020/027000c
・『“グリーン水素”の大量製造時代へ 世界で400超のプロジェクト 水電解装置は風力、太陽光発電などの再生可能エネルギーにより生み出された電力余剰分で水を電気分解して水素に変換し、エネルギーを貯蔵することができる。グリーン水素を製造する市場でいかに高効率に水素を製造するか。水電解装置の需要が高まり、国内外の企業が参入している。 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などによると、実用技術としては、(1)アルカリ水電解法、(2)固体高分子型(PEM型)水電解法──の2種類がある。アルカリ水電解法はスケールメリットがあり、特に大規模プラントで低コスト化が期待できる。PEM型水電解法は同じ面積に流す電流(電流密度)がアルカリ水電解法に比べて高いため装置を小型化できるが、部材が高価でコストがかさむ。ただ、最近の活発な研究開発で規模、コストとも差は縮まっているという』、なるほど。
・『旭化成が世界最大級 国内で注目されるのが旭化成だ。2020年7月に実証試験を兼ねて本格稼働を始めた水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」(FH2R)にアルカリ水電解装置を納入した。 水を電気分解して水素を発生させる水電解装置は、消費電力が大きいほど、多量の水素を作り出すことができる。旭化成は、10メガワットという大きな電力で水素を発生させる装置を開発。単体の水電解装置としては世界最大級という。世界市場で高いシェアを誇る自社の食塩電解プロセスを流用して開発が可能となった。同社は装置のコスト低減と長期耐久性検証を続け、展開を狙う。 日立造船はPEM型水電解法の装置を開発し、周辺機器を含めたシステムを販売する。同社は水素にCO2を加えてメタンを作る「メタネーション」技術の開発にも取り組む。 三菱パワーは固体酸化物形燃料電池(SOFC)を扱っているが、SOFCの発電の仕組みを逆反応させて、水から水素と酸素を発生させることで、効率の高い固体酸化物形電解設備(SOEC)となる。今後、水電解装置への応用についても動きが出てくると期待される。 国際エネルギー機関(IEA)などによると、20年6月現在、稼働中の水電解プロジェクトはドイツ、日本などで169件あり、アルカリ水電解法とPEM型水電解法がほぼ二分するが、プロジェクト規模についてはアルカリ水電解法が6割以上を占める。 また、計画中のプロジェクト件数は公表されているものだけで現状の1.6倍の257件に上る。稼働中と合わせると400を超えるプロジェクトが存在する』、「稼働中の水電解プロジェクトはドイツ、日本などで169件あり、アルカリ水電解法とPEM型水電解法がほぼ二分」、「計画中のプロジェクト件数は公表されているものだけで現状の1.6倍の257件」、まだまだこれからのようだ。
・『EUだけで4兆円市場 欧州連合(EU)の水素戦略は30年までに電解装置40ギガワット(1ギガワットは1000メガワット)・水素1000万トン製造を目標にしており、「電解設備コストは1メガワット当たり約1億円で、EUだけで4兆円の市場規模になる。世界的に見ても参入企業は増える」(大手シンクタンク)。海外勢はシーメンス(ドイツ)、Nel(ノルウェー)などが設置を進めており、コスト低減のため大型化を図っている。また、ITM(英)は住友商事と協定を結び、住商は日本での販売代理店となった。 日本企業も海外で動いている。三菱重工業は豪州のH2Uインベストメンツ社へ出資し、同社が検討中の水電解事業に参画する。再エネから水素を製造して地域への供給を目指す。また、ドイツでバッテンフォール(スウェーデン)、シェル(英蘭)などと協働して、グリーン水素製造・供給・利用事業の実現可能性の検討を開始。閉鎖予定の石炭火力発電所跡地で100メガワット規模の水電解プラントを建設する。 ただ、日本企業は「国内需要がほとんどなかったこともあり、装置の大型化に5年以上遅れている。このままでは欧米メーカーに太刀打ちできなくなる」(業界関係者)と懸念する声もある』、「日本企業は」「装置の大型化に5年以上遅れている」、またまた後塵を拝するとはやれやれだ。
第三に、.3月3日付けエコノミストOnlineが掲載した日本総合研究所ディレクタの段野孝一郎氏による「脱炭素の切り札?にわかに脚光を浴びる「アンモニア発電」とは何か」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210302/se1/00m/020/035000c
・『主に農業肥料用途として使われているアンモニア(NH3)が、発電用燃料としてにわかに注目されている。 「二酸化炭素(CO2)フリー」の発電燃料として活用できることが現実味を帯びてきたからだ。 アンモニアの製造方法は100年前に確立された「ハーバー・ボッシュ法」で、天然ガスなどに含まれるメタン(CH4)から分離された水素(H)と、大気中の窒素(N)を高温高圧で合成する。 可燃性があるアンモニアは燃料になり得るが、従来の製造方法では、多大なCO2を排出した。原料として天然ガスなどの化石燃料を使用し、さらに合成プロセスで多量のエネルギーを必要とするためである。 前者については、メタン由来水素を、水を再生可能エネルギーで分解する「グリーン水素」、または、メタン由来水素ではあるが製造工程で出るCO2を回収する「ブルー水素」に置き換えることで削減が可能だ。 後者についても、少ないエネルギーで済む合成プロセスの開発が進む。 こうした新たなプロセスでアンモニアを作れば、CO2フリーのクリーンな発電燃料となる。 ここで、アンモニアでなく、グリーン・ブルー水素をそのまま発電燃料として活用するということも可能ではある。しかし、水素は燃焼速度が速いという特性があり、既存の発電所で混焼させる場合は、同じく燃焼速度が速いガス火力での混焼が主体となる。 この点で、日本はベース電源として石炭火力が多く、石炭はガスと比べて燃焼速度が遅いため、そのままではグリーン・ブルー水素の活用が難しい。 そこで、石炭に近い燃焼速度を持つアンモニアの形に変え、石炭火力発電所のCO2排出量を下げる目的で使おうという動きが活発化している』、「水素は燃焼速度が速いという特性があり、既存の発電所で混焼させる場合は、同じく燃焼速度が速いガス火力での混焼が主体となる」、「石炭に近い燃焼速度を持つアンモニアの形に変え、石炭火力発電所のCO2排出量を下げる目的で使おうという動きが活発化」、「混焼させる場合は」「燃焼速度」が問題になるようだ。
・『今治・伊藤忠が利用検討 国内では、電力・ガス・商社・船舶会社などから構成される「グリーンアンモニアコンソーシアム」が、再エネ由来のグリーンアンモニアの普及に向けて活動を進めている。 具体的には、2021年度から、東京電力ホールディングスと中部電力の合弁によるJERA・碧南石炭火力発電所(愛知県)内の出力100万キロワットの発電機で、アンモニアを20%程度混焼させる実証実験を検討している。 石炭燃料代替以外の用途では、ガスタービン、船舶用ディーゼルエンジンなどに活用することを念頭に研究開発が行われている。 今治造船・三井E&Sマシナリー・日本海事協会・伊藤忠エネクス・伊藤忠商事は、「アンモニア焚(だ)き機関」を搭載する船舶を共同で開発することに合意している。 加えて、アンモニアは水素のエネルギーキャリア(運搬方法)としても期待されている。 水素は密度が小さいため、(1)液化、(2)圧縮、(3)有機ハイドライド(トルエンと合成)、(4)水素吸蔵合金 ──といった常温常圧以外での輸送方法が必要である。 いずれも輸送のための新たなインフラ構築が必要になる。 一方、前述したように、アンモニアは肥料用途での商用実績があり、輸送インフラも整備されており、使用時に水素を取り出すことなく燃焼させることが可能であるため、既存のアンモニア流通経路が活用できる。 現在、アンモニアは、(1)肥料用途が主体で、需要地が偏在する、(2)原料は天然ガスと大気であり供給地の制約が少ない、(3)ハーバー・ボッシュ法が確立されており供給地の制約が少ない ──といったことから、需要地近接型の工場立地で、地産地消がなされてきた。 国内では、主に工業ガス会社が供給や製造、輸送を担い、肥料や化学用途の需要家が消費してきた。 しかし今後は、脱炭素化での用途が新たに増加することが見込まれる。 現在、国内では年間約100万トンが消費されているが、経済産業省資源エネルギー庁は、発電や船舶などの「燃料用」として、30年には300万トンの需要を想定する。 需要増に対応するには、国内の供給網だけでなく、海外からの調達が必要になる。 具体的には、ブルー水素由来のアンモニアが製造可能な産油・ガス国や、グリーン水素由来のアンモニアが製造可能な水準まで再生可能エネルギーの製造コストが安価になると見込まれる北米・豪州・中東からの輸入も必要になるだろう。 国内の輸送は既存インフラが活用できる見通しであるが、新規用途として発電側で混焼させるための設備投資(アンモニア貯蔵タンクや混焼設備)も必要となる』、「水素」で運搬するよりは、確かに実績のある「アンモニア」で運搬する方がよさそうだ。
・『課題はNOX、臭い 脱炭素としてのアンモニア利用にも課題は存在する。 その一つは、Nを含むことであり、燃焼時に窒素酸化物(NOX)の排出量の増加が見込まれる点だ。CO2が減ったとしても、NOXが増えてしまえば社会的影響は大きい。 現在では、アンモニアをボイラーに投入する位置を工夫することによってボイラー内でのアンモニアの燃焼性を改善させること、既存の脱硝装置を活用することなどにより、大幅に改善が図れることが判明してきている。 二つ目は、アンモニア特有の臭気である。 小型のアンモニア燃料電池の開発なども進むが、一般家庭・住宅が存在する地域での使用は、万が一の漏えいを想定すると現実的ではない。 アンモニアはあくまでもBtoB(法人対法人)分野での脱炭素用途に使われるものと割り切った方がよいだろう。 水素・アンモニアの利用自体は国内でもたびたび盛り上がってきていたが、世界市場で潮目が変わったのは20年7月に公表された「欧州水素戦略」であろう。 戦略で、欧州連合(EU)は「グリーン水素」を戦略的産業と位置付けた。この動きには、脱炭素政策と一体化したEU、特にドイツの通商政策を垣間見ることができる。 EUが石炭などからの脱却を目指す中、独シーメンスに代表される重工メーカーもポートフォリオを転換し、石炭火力からの撤退、再エネ・水電解事業への傾斜を深めてきた。 そして、欧州水素戦略発表の2カ月後、シーメンスは独最大の水素製造プラントを建設すると発表したのである。 この間、日本は「天然ガスと省エネこそ『低炭素』」という論陣を張ってきたが、EUはゲームのルールを「低炭素」から「脱炭素」に変え、通商政策と合わせて市場の覇権を握ろうという動きを見せている。 日本の実情を踏まえ、50年を見据えた際、再エネ普及、水素・アンモニア混焼といった施策は確かに有効な打ち手である。しかし、それだけでは脱炭素に至らない。 CO2の回収・利用・貯留(CCUS)といった施策も必要になるであろうし、受け身対応ばかりでは、気候変動コストも今後、上昇の一途をたどるであろう。 短期的な対応はもちろん必要であるが、新たな「市場(ゲーム)」で、どのような国益を勝ち取るかといった大局的な視点も必要である』、「日本は「天然ガスと省エネこそ『低炭素』」という論陣を張ってきたが、EUはゲームのルールを「低炭素」から「脱炭素」に変え、通商政策と合わせて市場の覇権を握ろうという動きを見せている」、日本も「新たな「市場(ゲーム)」で、どのような国益を勝ち取るかといった大局的な視点も必要である」、その通りだろう。
第四に、.3月3日付けエコノミストOnline「再エネ推進派でも意外と知らない「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の違い」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210302/se1/00m/020/032000c
・『現在、脱炭素が産業界の一大テーマになったことから水素に注目が集まるが、現状、日本では石油精製での利用や食品添加物などの産業用原料に使う、という小さなマーケットに過ぎない。では、今後、大規模消費が期待されるエネルギー用途としての水素の生産、貯蔵・運搬、利活用はどのように変化していくのである』、興味深そうだ。
・『3タイプある水素 水素は、原料や生産過程での二酸化炭素(CO2)排出の有無によって三つに大別される。 現状では主に化石燃料由来の副生成品としての水素が市場に出回っており、これらは「グレー水素」と呼ばれる。製造過程でCO2が出るからだ。 その手順は、(1)天然ガス中のメタン(CH4)や石油製品であるナフサなど、炭素と水素から成る物質(炭化水素)を水蒸気と化学反応させ、水素と一酸化炭素(CO)に分ける、 (2)COについては、水蒸気と化学反応させ水素とCO2に分ける ──という2段階だ。 「グレー水素」の製造過程で出るCO2を回収・利用・貯留する技術(CCUS)と合わせることで、水素の製造過程全体で見ればほぼ「CO2ゼロ」にできる。このような水素は「ブルー水素」と呼ばれる。 「貯留」は地中に埋めること、「利用」はガス田や油田に圧入して産出量を増やす技術「増進回収法(EOR)」などを指す。 ブルー水素は、原料である化石燃料のコストが低いことから、グリーン水素に比べても総コストが低いとされる。 しかしCCUSには「実際に地中貯留で漏れが生じていないか」「地中環境への影響は」といった評価基準がない。設備投資も高く、開発途上の技術である。 また、貯留が大量かつ経済的に可能な場所が、米国、豪州、中東産油国などに限られることから、ブルー水素は輸入が基本となる。 水を再生可能エネルギーで電気分解し、製造過程でまったくCO2を発しないのが「グリーン水素」だ。 ただ、水電解の市場は成熟しておらず、導入費用も高い。世界的にはコストが低下している再生可能エネルギーも、日本ではまだ高く、水素製造コストを下げるためには、更なるコスト削減が求められる。 最近5~10年は、脱炭素という観点からの水素はグリーンとブルーに限定されているが、水素の市場拡大のためには、グレーも一定の役割を果たすことには留意が必要だ。 例えば既に30万台以上普及している家庭用エネファームなどの燃料電池は天然ガスを水素に変換して利用しているが、発電効率が高いので省エネとCO2排出削減に一定の役割を果たしている』、「世界的にはコストが低下している再生可能エネルギーも、日本ではまだ高く、水素製造コストを下げるためには、更なるコスト削減が求められる」、そのためには「再生可能エネルギー」購入価格の弾力的見直しが必要だ。
・『アンモニア運搬 現実的 貯蔵・運搬についても数種類あるが(表)、今後数年単位で商用化が進むのはアンモニアに合成しての貯蔵・運搬とみられている。 これは、水素(H2)と、空気中の窒素(N2)を反応させてアンモニアにして運搬する手段である。 主な用途は火力発電所の燃料で、水素に戻さず、アンモニアのまま、石炭と混焼させる。アンモニアは従来、農業肥料としても世界中で取引されており、貯蔵・運搬・取引方法が確立されている。ただし、劇物であるアンモニアは、街中に持ち込むような分散型利用には適さない。 他には、液化や圧縮がある。 液化は水素ガスをマイナス253度に下げ、体積を約800分の1にすることで、貯蔵・運搬スペースをコンパクトにできる。 海外から天然ガスを輸入する際に液化するのと同じ原理だ。 ただ、ここまでの低温にするために、要するエネルギーを削減することが課題だ。 同じガスから液体にするのにも、トルエンを使う手法がある。 水素をトルエンと反応させて、メチルシクロヘキサン(MCH)に転換し、液状で貯蔵・運搬する「有機ケミカルハイドライド法」だ。 水素ガスの体積を約500分の1に圧縮可能で、常温・常圧で輸送でき、既存の化学タンクやタンカーを使えるのがメリットだ。 水素利用地で、触媒を用いて水素を分離する(脱水素)が、この際、熱の投入が必要であることが課題であろう。 圧縮は、ガスのまま圧縮して貯蔵・運搬するが、圧縮にも限度があり、大量輸送には向かない。製造拠点から近い場所で使う「地産地消」向けだ』、「アンモニアにして運搬する」のは慣れ親しんだ方法だ。
・『大規模供給網は必須 では、水素の利用はどの分野で広がるのだろうか。 国際エネルギー機関(IEA)の「Energy Technology Perspectives 2020」によると、世界の水素需要は2019年の7500万トンから50年には約3億トンになるとの見通しもある(図)。 欧州では、まずは、主に軽工業などの小規模産業向けから開始し、徐々に市場を広げる戦略を取る。これに対して、日本では火力発電所での大規模需要を目指す。 というのは、電力業界にも脱炭素が求められる中、日本では再生可能エネルギーの急速な伸びが容易ではなく、東京電力福島第1原発事故後は、原発再稼働も困難になっている。 こうした状況では、既存の石炭火力発電所へのアンモニア混焼や水素・アンモニア専焼ガス火力発電が重要なオプションとなる。 電力会社の水素利用が進めば、日本では、大口需要が一気に発生する。1ギガワットの水素専焼発電所が年間に消費する水素の量は約20万トンであり、燃料電池車(FCV)の200万台分に相当する。欧州の市場とは対照的だ。 しかし、まだ、大口需要に対応できる水素サプライチェーンが確立されていない。 水素の大口需要に対しては、資源会社や商社のノウハウが期待できる。資源を安定・大量調達し、需要家を確保・整理する能力に長(た)けているからだ。 しかし、資源会社や商社にとっても水素は新領域で、設備投資も膨大になる。初期には取引価格も安定しないだろう。 新たなエネルギー市場が生まれようとする中、民間のみの資金力・価格調整力では限界がある。 研究開発や設備投資を支援する補助金や投融資制度、カーボンプライシングなどで化石燃料価格を高く設定するといった公的制度の議論は避けて通れないだろう』、説得力ある主張で、同感である。特に、「カーボンプライシングなどで化石燃料価格を高く設定する」、この方向を積極的に推進すべきだろう。
先ずは、2月2日付けデイリー新潮「「中国製風車」が倒壊事故 同社の風車は全国に400基も」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/02020556/?all=1
・『傾き始めた菅政権の切り札「脱炭素化」の出鼻をくじいた格好だ。2050年までの温室効果ガス実質ゼロを目指し、再生可能エネルギーが脚光を浴びている。その折も折、長崎に設置されていた中国製風車が根元から倒壊したのだ。 「ドーン!」 けたたましい音が轟いたのは、昨年10月1日13時頃。長崎県松浦市に設置されていた小型風力発電機が根元から倒壊した。 小型とはいえ、発電機は高さ20メートルほど。風速6メートルなら年間8万キロワット以上を発電することが可能だ。事業主の企業は経産省が所管するFIT制度(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)に参画し、2018年に都内にあるHYエネルギーという会社が約2千万円で販売しているこの風車を購入し、設置していたのである。 事情通によれば、 「HYエネルギーは中国人が経営者で、かつては自民党の二階俊博幹事長の次男が役員として名を連ねたことで知られていました。この発電機を購入した事業主はメンテナンス費用を差し引いても年間200万円ほどの利益が上がる予定でした。10年で初期投資を回収できるはずだったのに、それが2年で倒れてしまったのですから、大損です」 製造元はGHREという中国の会社。風車は中国の工場で作られたため、販売元のHYエネルギーとGHREの間で責任のなすり合いとなっているのである』、「小型風力発電機が根元から倒壊」、僅か「2年で倒れ」たとは、いかにも「中国製」らしい。「販売」した「HYエネルギーは中国人が経営者で、かつては自民党の二階俊博幹事長の次男が役員」、なるほど。
・『ボルトが折れる 事故直前に辞任するも、今も事故対応をしているHYエネルギーの前代表が言う。 「今回の事故は、タワーと土台を溶接で繋いでいる部分の少し下、タワーの下部がポキッと折れてしまったことで起きました」 その原因については、「風車の羽根を結合する際、ボルトが強度不足だった可能性があります。羽根がガタガタと揺れてしまい、その振動でタワーに過重な負担がかかり、倒壊したのではないか。実際、GHREのボルトは設置の際によく折れていて、GHREの工場に改善の要求を出していたんです」 かたや、GHRE日本事業部のマネージャーは上海から記者に電話をかけてきて、こう反論するのだ。 「弊社からすればHYエネルギーの主張は事実に反します。ボルトの強度については出荷前に第三者機構によるレポートで確認済みだからです。向こうの主張はエビデンスに基づいているのでしょうか。今回の事故については調査中で、本当の原因が突き止められ次第、公表する予定です」 倒壊から3カ月以上が経過しても、両社の主張は平行線を辿るばかり。さらに不安視されるのは、 「ウチが手掛けた同じ型の発電機は全国で100基ほどが稼働しています。目視と音の検査で異常はありませんでしたが、今後もっと詳しい検査を行う予定です」(HYエネルギーの前代表) 他の企業が設置したものも含めると、GHRE製の小型風車は日本で400基が稼働中とも言われている。 経産省の担当者に聞くと、 「小型風力発電機について、設置されている数は把握できていません」』、原因は不明だが、「GHRE製の小型風車は日本で400基が稼働中」、恐ろしい話だ。
次に、本年2月21日付けエコノミストOnline「水素1 水電解装置 “グリーン水素”の大量製造時代へ 世界で400超のプロジェ…=中園敦二」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210302/se1/00m/020/027000c
・『“グリーン水素”の大量製造時代へ 世界で400超のプロジェクト 水電解装置は風力、太陽光発電などの再生可能エネルギーにより生み出された電力余剰分で水を電気分解して水素に変換し、エネルギーを貯蔵することができる。グリーン水素を製造する市場でいかに高効率に水素を製造するか。水電解装置の需要が高まり、国内外の企業が参入している。 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などによると、実用技術としては、(1)アルカリ水電解法、(2)固体高分子型(PEM型)水電解法──の2種類がある。アルカリ水電解法はスケールメリットがあり、特に大規模プラントで低コスト化が期待できる。PEM型水電解法は同じ面積に流す電流(電流密度)がアルカリ水電解法に比べて高いため装置を小型化できるが、部材が高価でコストがかさむ。ただ、最近の活発な研究開発で規模、コストとも差は縮まっているという』、なるほど。
・『旭化成が世界最大級 国内で注目されるのが旭化成だ。2020年7月に実証試験を兼ねて本格稼働を始めた水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド」(FH2R)にアルカリ水電解装置を納入した。 水を電気分解して水素を発生させる水電解装置は、消費電力が大きいほど、多量の水素を作り出すことができる。旭化成は、10メガワットという大きな電力で水素を発生させる装置を開発。単体の水電解装置としては世界最大級という。世界市場で高いシェアを誇る自社の食塩電解プロセスを流用して開発が可能となった。同社は装置のコスト低減と長期耐久性検証を続け、展開を狙う。 日立造船はPEM型水電解法の装置を開発し、周辺機器を含めたシステムを販売する。同社は水素にCO2を加えてメタンを作る「メタネーション」技術の開発にも取り組む。 三菱パワーは固体酸化物形燃料電池(SOFC)を扱っているが、SOFCの発電の仕組みを逆反応させて、水から水素と酸素を発生させることで、効率の高い固体酸化物形電解設備(SOEC)となる。今後、水電解装置への応用についても動きが出てくると期待される。 国際エネルギー機関(IEA)などによると、20年6月現在、稼働中の水電解プロジェクトはドイツ、日本などで169件あり、アルカリ水電解法とPEM型水電解法がほぼ二分するが、プロジェクト規模についてはアルカリ水電解法が6割以上を占める。 また、計画中のプロジェクト件数は公表されているものだけで現状の1.6倍の257件に上る。稼働中と合わせると400を超えるプロジェクトが存在する』、「稼働中の水電解プロジェクトはドイツ、日本などで169件あり、アルカリ水電解法とPEM型水電解法がほぼ二分」、「計画中のプロジェクト件数は公表されているものだけで現状の1.6倍の257件」、まだまだこれからのようだ。
・『EUだけで4兆円市場 欧州連合(EU)の水素戦略は30年までに電解装置40ギガワット(1ギガワットは1000メガワット)・水素1000万トン製造を目標にしており、「電解設備コストは1メガワット当たり約1億円で、EUだけで4兆円の市場規模になる。世界的に見ても参入企業は増える」(大手シンクタンク)。海外勢はシーメンス(ドイツ)、Nel(ノルウェー)などが設置を進めており、コスト低減のため大型化を図っている。また、ITM(英)は住友商事と協定を結び、住商は日本での販売代理店となった。 日本企業も海外で動いている。三菱重工業は豪州のH2Uインベストメンツ社へ出資し、同社が検討中の水電解事業に参画する。再エネから水素を製造して地域への供給を目指す。また、ドイツでバッテンフォール(スウェーデン)、シェル(英蘭)などと協働して、グリーン水素製造・供給・利用事業の実現可能性の検討を開始。閉鎖予定の石炭火力発電所跡地で100メガワット規模の水電解プラントを建設する。 ただ、日本企業は「国内需要がほとんどなかったこともあり、装置の大型化に5年以上遅れている。このままでは欧米メーカーに太刀打ちできなくなる」(業界関係者)と懸念する声もある』、「日本企業は」「装置の大型化に5年以上遅れている」、またまた後塵を拝するとはやれやれだ。
第三に、.3月3日付けエコノミストOnlineが掲載した日本総合研究所ディレクタの段野孝一郎氏による「脱炭素の切り札?にわかに脚光を浴びる「アンモニア発電」とは何か」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210302/se1/00m/020/035000c
・『主に農業肥料用途として使われているアンモニア(NH3)が、発電用燃料としてにわかに注目されている。 「二酸化炭素(CO2)フリー」の発電燃料として活用できることが現実味を帯びてきたからだ。 アンモニアの製造方法は100年前に確立された「ハーバー・ボッシュ法」で、天然ガスなどに含まれるメタン(CH4)から分離された水素(H)と、大気中の窒素(N)を高温高圧で合成する。 可燃性があるアンモニアは燃料になり得るが、従来の製造方法では、多大なCO2を排出した。原料として天然ガスなどの化石燃料を使用し、さらに合成プロセスで多量のエネルギーを必要とするためである。 前者については、メタン由来水素を、水を再生可能エネルギーで分解する「グリーン水素」、または、メタン由来水素ではあるが製造工程で出るCO2を回収する「ブルー水素」に置き換えることで削減が可能だ。 後者についても、少ないエネルギーで済む合成プロセスの開発が進む。 こうした新たなプロセスでアンモニアを作れば、CO2フリーのクリーンな発電燃料となる。 ここで、アンモニアでなく、グリーン・ブルー水素をそのまま発電燃料として活用するということも可能ではある。しかし、水素は燃焼速度が速いという特性があり、既存の発電所で混焼させる場合は、同じく燃焼速度が速いガス火力での混焼が主体となる。 この点で、日本はベース電源として石炭火力が多く、石炭はガスと比べて燃焼速度が遅いため、そのままではグリーン・ブルー水素の活用が難しい。 そこで、石炭に近い燃焼速度を持つアンモニアの形に変え、石炭火力発電所のCO2排出量を下げる目的で使おうという動きが活発化している』、「水素は燃焼速度が速いという特性があり、既存の発電所で混焼させる場合は、同じく燃焼速度が速いガス火力での混焼が主体となる」、「石炭に近い燃焼速度を持つアンモニアの形に変え、石炭火力発電所のCO2排出量を下げる目的で使おうという動きが活発化」、「混焼させる場合は」「燃焼速度」が問題になるようだ。
・『今治・伊藤忠が利用検討 国内では、電力・ガス・商社・船舶会社などから構成される「グリーンアンモニアコンソーシアム」が、再エネ由来のグリーンアンモニアの普及に向けて活動を進めている。 具体的には、2021年度から、東京電力ホールディングスと中部電力の合弁によるJERA・碧南石炭火力発電所(愛知県)内の出力100万キロワットの発電機で、アンモニアを20%程度混焼させる実証実験を検討している。 石炭燃料代替以外の用途では、ガスタービン、船舶用ディーゼルエンジンなどに活用することを念頭に研究開発が行われている。 今治造船・三井E&Sマシナリー・日本海事協会・伊藤忠エネクス・伊藤忠商事は、「アンモニア焚(だ)き機関」を搭載する船舶を共同で開発することに合意している。 加えて、アンモニアは水素のエネルギーキャリア(運搬方法)としても期待されている。 水素は密度が小さいため、(1)液化、(2)圧縮、(3)有機ハイドライド(トルエンと合成)、(4)水素吸蔵合金 ──といった常温常圧以外での輸送方法が必要である。 いずれも輸送のための新たなインフラ構築が必要になる。 一方、前述したように、アンモニアは肥料用途での商用実績があり、輸送インフラも整備されており、使用時に水素を取り出すことなく燃焼させることが可能であるため、既存のアンモニア流通経路が活用できる。 現在、アンモニアは、(1)肥料用途が主体で、需要地が偏在する、(2)原料は天然ガスと大気であり供給地の制約が少ない、(3)ハーバー・ボッシュ法が確立されており供給地の制約が少ない ──といったことから、需要地近接型の工場立地で、地産地消がなされてきた。 国内では、主に工業ガス会社が供給や製造、輸送を担い、肥料や化学用途の需要家が消費してきた。 しかし今後は、脱炭素化での用途が新たに増加することが見込まれる。 現在、国内では年間約100万トンが消費されているが、経済産業省資源エネルギー庁は、発電や船舶などの「燃料用」として、30年には300万トンの需要を想定する。 需要増に対応するには、国内の供給網だけでなく、海外からの調達が必要になる。 具体的には、ブルー水素由来のアンモニアが製造可能な産油・ガス国や、グリーン水素由来のアンモニアが製造可能な水準まで再生可能エネルギーの製造コストが安価になると見込まれる北米・豪州・中東からの輸入も必要になるだろう。 国内の輸送は既存インフラが活用できる見通しであるが、新規用途として発電側で混焼させるための設備投資(アンモニア貯蔵タンクや混焼設備)も必要となる』、「水素」で運搬するよりは、確かに実績のある「アンモニア」で運搬する方がよさそうだ。
・『課題はNOX、臭い 脱炭素としてのアンモニア利用にも課題は存在する。 その一つは、Nを含むことであり、燃焼時に窒素酸化物(NOX)の排出量の増加が見込まれる点だ。CO2が減ったとしても、NOXが増えてしまえば社会的影響は大きい。 現在では、アンモニアをボイラーに投入する位置を工夫することによってボイラー内でのアンモニアの燃焼性を改善させること、既存の脱硝装置を活用することなどにより、大幅に改善が図れることが判明してきている。 二つ目は、アンモニア特有の臭気である。 小型のアンモニア燃料電池の開発なども進むが、一般家庭・住宅が存在する地域での使用は、万が一の漏えいを想定すると現実的ではない。 アンモニアはあくまでもBtoB(法人対法人)分野での脱炭素用途に使われるものと割り切った方がよいだろう。 水素・アンモニアの利用自体は国内でもたびたび盛り上がってきていたが、世界市場で潮目が変わったのは20年7月に公表された「欧州水素戦略」であろう。 戦略で、欧州連合(EU)は「グリーン水素」を戦略的産業と位置付けた。この動きには、脱炭素政策と一体化したEU、特にドイツの通商政策を垣間見ることができる。 EUが石炭などからの脱却を目指す中、独シーメンスに代表される重工メーカーもポートフォリオを転換し、石炭火力からの撤退、再エネ・水電解事業への傾斜を深めてきた。 そして、欧州水素戦略発表の2カ月後、シーメンスは独最大の水素製造プラントを建設すると発表したのである。 この間、日本は「天然ガスと省エネこそ『低炭素』」という論陣を張ってきたが、EUはゲームのルールを「低炭素」から「脱炭素」に変え、通商政策と合わせて市場の覇権を握ろうという動きを見せている。 日本の実情を踏まえ、50年を見据えた際、再エネ普及、水素・アンモニア混焼といった施策は確かに有効な打ち手である。しかし、それだけでは脱炭素に至らない。 CO2の回収・利用・貯留(CCUS)といった施策も必要になるであろうし、受け身対応ばかりでは、気候変動コストも今後、上昇の一途をたどるであろう。 短期的な対応はもちろん必要であるが、新たな「市場(ゲーム)」で、どのような国益を勝ち取るかといった大局的な視点も必要である』、「日本は「天然ガスと省エネこそ『低炭素』」という論陣を張ってきたが、EUはゲームのルールを「低炭素」から「脱炭素」に変え、通商政策と合わせて市場の覇権を握ろうという動きを見せている」、日本も「新たな「市場(ゲーム)」で、どのような国益を勝ち取るかといった大局的な視点も必要である」、その通りだろう。
第四に、.3月3日付けエコノミストOnline「再エネ推進派でも意外と知らない「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」の違い」を紹介しよう。
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210302/se1/00m/020/032000c
・『現在、脱炭素が産業界の一大テーマになったことから水素に注目が集まるが、現状、日本では石油精製での利用や食品添加物などの産業用原料に使う、という小さなマーケットに過ぎない。では、今後、大規模消費が期待されるエネルギー用途としての水素の生産、貯蔵・運搬、利活用はどのように変化していくのである』、興味深そうだ。
・『3タイプある水素 水素は、原料や生産過程での二酸化炭素(CO2)排出の有無によって三つに大別される。 現状では主に化石燃料由来の副生成品としての水素が市場に出回っており、これらは「グレー水素」と呼ばれる。製造過程でCO2が出るからだ。 その手順は、(1)天然ガス中のメタン(CH4)や石油製品であるナフサなど、炭素と水素から成る物質(炭化水素)を水蒸気と化学反応させ、水素と一酸化炭素(CO)に分ける、 (2)COについては、水蒸気と化学反応させ水素とCO2に分ける ──という2段階だ。 「グレー水素」の製造過程で出るCO2を回収・利用・貯留する技術(CCUS)と合わせることで、水素の製造過程全体で見ればほぼ「CO2ゼロ」にできる。このような水素は「ブルー水素」と呼ばれる。 「貯留」は地中に埋めること、「利用」はガス田や油田に圧入して産出量を増やす技術「増進回収法(EOR)」などを指す。 ブルー水素は、原料である化石燃料のコストが低いことから、グリーン水素に比べても総コストが低いとされる。 しかしCCUSには「実際に地中貯留で漏れが生じていないか」「地中環境への影響は」といった評価基準がない。設備投資も高く、開発途上の技術である。 また、貯留が大量かつ経済的に可能な場所が、米国、豪州、中東産油国などに限られることから、ブルー水素は輸入が基本となる。 水を再生可能エネルギーで電気分解し、製造過程でまったくCO2を発しないのが「グリーン水素」だ。 ただ、水電解の市場は成熟しておらず、導入費用も高い。世界的にはコストが低下している再生可能エネルギーも、日本ではまだ高く、水素製造コストを下げるためには、更なるコスト削減が求められる。 最近5~10年は、脱炭素という観点からの水素はグリーンとブルーに限定されているが、水素の市場拡大のためには、グレーも一定の役割を果たすことには留意が必要だ。 例えば既に30万台以上普及している家庭用エネファームなどの燃料電池は天然ガスを水素に変換して利用しているが、発電効率が高いので省エネとCO2排出削減に一定の役割を果たしている』、「世界的にはコストが低下している再生可能エネルギーも、日本ではまだ高く、水素製造コストを下げるためには、更なるコスト削減が求められる」、そのためには「再生可能エネルギー」購入価格の弾力的見直しが必要だ。
・『アンモニア運搬 現実的 貯蔵・運搬についても数種類あるが(表)、今後数年単位で商用化が進むのはアンモニアに合成しての貯蔵・運搬とみられている。 これは、水素(H2)と、空気中の窒素(N2)を反応させてアンモニアにして運搬する手段である。 主な用途は火力発電所の燃料で、水素に戻さず、アンモニアのまま、石炭と混焼させる。アンモニアは従来、農業肥料としても世界中で取引されており、貯蔵・運搬・取引方法が確立されている。ただし、劇物であるアンモニアは、街中に持ち込むような分散型利用には適さない。 他には、液化や圧縮がある。 液化は水素ガスをマイナス253度に下げ、体積を約800分の1にすることで、貯蔵・運搬スペースをコンパクトにできる。 海外から天然ガスを輸入する際に液化するのと同じ原理だ。 ただ、ここまでの低温にするために、要するエネルギーを削減することが課題だ。 同じガスから液体にするのにも、トルエンを使う手法がある。 水素をトルエンと反応させて、メチルシクロヘキサン(MCH)に転換し、液状で貯蔵・運搬する「有機ケミカルハイドライド法」だ。 水素ガスの体積を約500分の1に圧縮可能で、常温・常圧で輸送でき、既存の化学タンクやタンカーを使えるのがメリットだ。 水素利用地で、触媒を用いて水素を分離する(脱水素)が、この際、熱の投入が必要であることが課題であろう。 圧縮は、ガスのまま圧縮して貯蔵・運搬するが、圧縮にも限度があり、大量輸送には向かない。製造拠点から近い場所で使う「地産地消」向けだ』、「アンモニアにして運搬する」のは慣れ親しんだ方法だ。
・『大規模供給網は必須 では、水素の利用はどの分野で広がるのだろうか。 国際エネルギー機関(IEA)の「Energy Technology Perspectives 2020」によると、世界の水素需要は2019年の7500万トンから50年には約3億トンになるとの見通しもある(図)。 欧州では、まずは、主に軽工業などの小規模産業向けから開始し、徐々に市場を広げる戦略を取る。これに対して、日本では火力発電所での大規模需要を目指す。 というのは、電力業界にも脱炭素が求められる中、日本では再生可能エネルギーの急速な伸びが容易ではなく、東京電力福島第1原発事故後は、原発再稼働も困難になっている。 こうした状況では、既存の石炭火力発電所へのアンモニア混焼や水素・アンモニア専焼ガス火力発電が重要なオプションとなる。 電力会社の水素利用が進めば、日本では、大口需要が一気に発生する。1ギガワットの水素専焼発電所が年間に消費する水素の量は約20万トンであり、燃料電池車(FCV)の200万台分に相当する。欧州の市場とは対照的だ。 しかし、まだ、大口需要に対応できる水素サプライチェーンが確立されていない。 水素の大口需要に対しては、資源会社や商社のノウハウが期待できる。資源を安定・大量調達し、需要家を確保・整理する能力に長(た)けているからだ。 しかし、資源会社や商社にとっても水素は新領域で、設備投資も膨大になる。初期には取引価格も安定しないだろう。 新たなエネルギー市場が生まれようとする中、民間のみの資金力・価格調整力では限界がある。 研究開発や設備投資を支援する補助金や投融資制度、カーボンプライシングなどで化石燃料価格を高く設定するといった公的制度の議論は避けて通れないだろう』、説得力ある主張で、同感である。特に、「カーボンプライシングなどで化石燃料価格を高く設定する」、この方向を積極的に推進すべきだろう。
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電気自動車(EV)(その6)(トヨタが「中国電池」に頼らざるをえない理由 中国大手CATL・BYDが世界の電池市場を寡占、ダイソンがEVから撤退せざるをえなかった理由 テスラが築いた「高くて構わない」はもう飽和、ノーベル賞「吉野彰氏」が描くEV用電池の未来図 2025年までは間違いなく市場拡大していく) [技術革新]
電気自動車(EV)については、昨年8月16日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その6)(トヨタが「中国電池」に頼らざるをえない理由 中国大手CATL・BYDが世界の電池市場を寡占、ダイソンがEVから撤退せざるをえなかった理由 テスラが築いた「高くて構わない」はもう飽和、ノーベル賞「吉野彰氏」が描くEV用電池の未来図 2025年までは間違いなく市場拡大していく)である。
先ずは、みずほ銀行法人推進部 主任研究員の湯 進氏が6月15日付け東洋経済オンラインに掲載した「トヨタが「中国電池」に頼らざるをえない理由 中国大手CATL・BYDが世界の電池市場を寡占」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/286333
・『2019年6月7日、トヨタが中国リチウムイオン二次電池(LIB)大手の寧徳時代新能源科技(CATL)、比亜迪(BYD)などと協業すると発表し、複数メーカーから電池調達する方針を示した。日産、ホンダとの提携に加え、日本自動車メーカーの中国電池頼りの姿勢は鮮明となった。 今年から実施した中国のNEV(新エネルギー車)規制により、乗用車メーカーに一定台数のNEV生産の義務づけられた。仮に中国で日本勢がガソリン車500万台を生産する場合、発生する10%相当分の50万クレジットを確保するには、すべてEVの生産で対応するならばEVを10万台(航続距離の条件は350km)、全てPHVならばPHVを50万台(同5km超)生産しなければならない』、「中国のNEV規制」はさすが社会主義国ならではだ。
・『車載電池の安定調達は喫緊の課題 一方、今年1~4月のNEV生産実績では、一汽トヨタが4232台、広汽本田が906台、東風日産が900台にとどまる。各社はNEV生産を急ピッチで進める必要があり、なかでも車載電池を安定調達することが、日本勢にとって喫緊の課題だ。 LIBはソニーが1991年に世界に先駆けて実用化し、日本の「お家芸」とされてきた。2011年以降、韓国企業の台頭により、世界市場でパナソニックとLG化学、サムスンSDIの日韓企業のトップ争いが行われていた。日本では、「中国製EV電池の安全性と信頼性を保証できない」といった論調が多い。ところが中国で、日本車メーカーが相次いで“地場電池メーカー詣で”になった。 1つ目の要因は外資電池メーカーの排除政策だ。「LIB市場を制するメーカーがEV市場を制する」との認識の下、中国政府は、特定メーカーのLIBを搭載することがNEV補助金を支給する条件であると規定。2016年には認定された地場LIBメーカー57社を「ホワイトリスト」に登録した。 この規制により、サムスンSDIとLG化学の中国工場の稼働率は一時10%程度に落ち込み、SKイノベーションは北京工場を閉鎖した。パナソニックの大連工場では中国市場向けのEV電池生産が行われなかった。現在に至るまで外資系LIBメーカーが中国乗用車市場に参入することは依然として難しい状況にある。 一方、中国政府が2017年からLIB分野における外資の独資を容認し、2019年にはLIB産業を外資投資の奨励産業分類に格上げ、外資政策の転換を行った。またこれまで外資系電池メーカーの参入障壁だった「ホワイトリスト」が、NEV補助金政策の中止に伴い、2021年に事実上撤廃されることが決まった』、中国政府が地場優先から、外資系にも門戸を突如開いたのは、地場が力を付けてきたためなのだろうか。
・『中国地場メーカー、創業7年で世界トップに ところが、LIBの大規模増産のために必要な資金は巨額であり、回収期間も長い。産業政策に翻弄される外資系LIBメーカーが生産能力とコスト面において、地場LIBメーカーに追随し難い状況となっている。今後中国におけるトヨタのLIB需要を勘案すれば、パナソニック1社で賄い切れるような量では到底ない。このような状況を鑑みて、トヨタは中国で必要なLIBを複数メーカーから調達する意向を示した。 2つ目の要因は地場電池メーカーの成長だ。中国国内の需要増が地場メーカーを世界トップに押し上げた。CATL、BYDなど地場メーカー7社が2018年のLIB出荷量世界トップ10にランクイン。創業わずか7年のCATLが、パナソニックを抜き2年連続で世界首位となった。2012年に開始した独BMWとの協業は技術力とブランド力の向上を果たし同社のターニングポイントであった。 2018年には独ダイムラーとVWへのLIBの供給が決定。また、CATLは安全・信頼性の高いLIBの設計・開発や過酷な条件での限界試験に力を入れ、品質に厳しい日本の自動車メーカーとの取引を増やしている。現在、CATLは中国自動車主要5グループとそれぞれ車載電池開発・生産の合弁会社を設立し、外資系を含む自動車メーカー30社以上に電池を供給している。 自動車メーカーとの水平分業型戦略を採用したCATLに対し、LIB世界3位のBYDは、自社ブランドのNEVにセルを供給する垂直統合型戦略を採用した。セルから電池バック、BMS、車両を内製することにより、低コスト生産を実現した。2019年、BYDはLIB事業を独立させ、生産能力(60ギガワット時)の引き上げや他社向けの販売など、LIB事業のさらなる拡大を企図している。 中国政府は2019年のNEV補助金額を前年比で大きく減額した。航続距離の長い電池を搭載すれば、多額なNEV補助金を獲得できるため、NEVメーカーの電池調達先は大手電池メーカーに集中する傾向だ。2019年1~5月の中国LIB市場シェアを見ると、1位のCATLと2位のBYDの合算シェアは75%、業界の寡占化が進んでいることがわかる』、「CATL、BYDなど地場メーカー7社が2018年のLIB出荷量世界トップ10にランクイン。創業わずか7年のCATLが、パナソニックを抜き2年連続で世界首位となった」、地場企業の優遇、多額の補助金、などがあったにせよ、短期間での成長ぶるには改めて驚かされる。
・『24時間稼働でも受注に対応しきれず 現在、CATLは生産ラインが24時間稼動しているにもかかわらず、受注に対応しきれない状況だ。筆者は51歳の曽毓群(ロビン・ツォン)会長とは数回雑談する機会があったがこれまでの成長を自慢することなく、政府補助金がなくなれば真っ正面から有力外資メーカーに向き合わざるをえなくなる危機感をもちながらも、技術力のさらなる向上を強調した。 この数年でLIB産業は製造技術の進歩に伴い、液晶パネルと同様に巨大な設備投資を求める装置産業となっている。豊富な資金を持つ中国企業が政府の支援を受け、生産能力を急拡大し、技術優位にあった日韓企業を凌駕する勢いをみせた。 現在中国には、質と量の両面を追おうとするLIBメーカーが多く、技術力が高いメーカーが限られている。今回発表されたトヨタの中国2社協業は、中国大手電池メーカーにとって、ドイツ勢に続き日本自動車ビッグスリーへの供給を果たし、グローバル競争に向けて大きな一歩を踏み出したといえよう』、「24時間稼働でも受注に対応しきれず」、当面は中国国内向けで手一杯のようだが、今後、補助金が削減されると、海外に打って出ることになるとみられ、要注意である。
次に、自動車関連情報の編集プロダクションであるグラニテ代表の池田 直渡氏が10月25日付け東洋経済オンラインに掲載した「ダイソンがEVから撤退せざるをえなかった理由 テスラが築いた「高くて構わない」はもう飽和」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/309908
・『イギリスの家電大手、ダイソンはEV(電気自動車)の開発から撤退することを発表した。 従来の内燃機関に比べれば、EVは部品点数が圧倒的に少なく、技術蓄積が必要なくなるとする見方から、「EVの時代になれば、参入障壁が下がり、既存自動車メーカーのアドバンテージが失われ、新興の異業種からの活発な事業参入が見込まれる」という説が巷間をにぎわした。コンペティターが増えることで価格競争が進み、車両価格は数分の1に下がるとする意見も根強かった。 すでに家電の世界で先行していたように、いわゆる垂直統合型から水平分業型への構造移行が進むとされていた。そしてまさに異業種からの参入の旗手と目されてきたのがダイソンであった。 創業者のジェームズ・ダイソン氏はEV開発プロジェクトで開発中の車両がすばらしいものであったことを強調するが、現実的に事業の採算見通しが立たず、事業の売却にも買い手がつかなかったという。 しかし、その話は矛盾する。すばらしい製品だが採算が合わず、かつ事業の引き受け手もいないという条件は不自然である。 おそらく、ダイソンはEVのマーケット構造変化についていけなかったものと考えられる。順を追って説明しよう』、ダイソンがどんなEVを作るのかと期待していただけに、撤退のニュースにはがっかりした。
・『そもそもEVとは何なのか? EVの目的は温室効果ガスを削減することにある。これが第一義で圧倒的に大事。社会の使命として可能な限り早く化石燃料の使用をやめなければならないからこそのEVである。 内燃機関との比較上でのEVのメリットはいくつかあるが、上述の化石燃料廃止の手段という存在異(正しくは:意)議と、それ以外は少し階層が違う。言ってみれば嗜好性的な領域である。 例えばEVならではの運転フィールがある。モーターの特性を生かした瞬間的な加速力。かつてのアメリカ車が自慢のV8ユニットの加速力を広告で「Kicking Asphalt(キッキング・アスファルト)」とうたったように踏んだ瞬間の異次元の加速力は魅力の1つだろう。3つ目は静粛性、内燃機関と比べると圧倒的に静かで洗練されている。 社会的役務を背負い、商品として独特の魅力も備えるEVは、しかしながら今のところ、世の中の期待ほどには普及していない。 EVは2018年のグローバル販売台数実績で121万台。自動車全体におけるトータルシェアは1%少々。それが現実だ。新聞やテレビで頻繁に聞くEV新時代の話とはだいぶギャップを感じるだろう。 結局のところ、1%ちょっとのシェアという厳然たる事実がすべてなのだが、それではニュースバリューがない。なので部分に注目してトリミングして見せることになる。 例えばノルウェーだけを抜き出せば「環境先進国では3台に1台はEVだ」とも言えるし、20年前にはクルマそのものがほぼないに等しかった中国の伸び率を延長線で伸ばしていけば「●●年には内燃機関を抜く」と書くのも簡単だ。トリッキーなトピックの作り方をしないと話題にならず、やろうとすれば扱い易い特性を持つ素材でもある。要するにニュースの編み方にモラルハザードを起こしやすいのだ』、グローバルで「1%ちょっとのシェアという厳然たる事実がすべて」、「要するにニュースの編み方にモラルハザードを起こしやすい」、とは、さすが、「自動車関連情報の編集プロダクション」でメシを食っているだけある。
・『EVの実績が伸びない理由 しかし、そもそもなぜ世界の期待を集めるEVが1%少々の実績に甘んじているのか? 実は自動車の黎明期からEVは存在した。しかしほとんど見向きもされずに内燃機関の時代が続いたのである。問題の本質は当時から同じだ。エネルギー密度が低い。つまり「重量当たりのエネルギー量が少ない」。 クルマに仕立てるには航続距離が足りない。足りるようにするためには大量のバッテリーを搭載せねばならず、そうすると重いし高価になる。 「いやいや、エネルギー密度は目覚ましく改善されている」と反論する人が世の中にはいて、それは必ずしも間違ってはいない。そのあたりにかろうじてメドがついたからこそ10年ほど前から各社がEVをリリースし始めたのだ。100年前と比べれば進歩がすさまじいのは認めよう。 だが、商品として適正なバランスに達するには、まだあと100倍くらい進歩が必要だ。今の10倍ではまだ厳しい。EVは必須の技術であり、今後も継続的に開発投資が進むだろうが、2年や3年でどうにかなるレベルにはない。早くとも2030年くらいまではかかるのではないか。 2019年の今、EVのバッテリーは1台分で200万円から300万円くらいのコストと言われている。バッテリーだけでは走れないから、クルマに仕立てるとどうやっても350万円くらいにはなってしまう。 だからまじめにバランスのよいクルマを作ろうとすればするほど、お値段はお高め、航続距離は少しやせ我慢して「わりと余裕ですよ」と言えるくらい、装備は少し悲しめのEVが出来上がる。バッテリーが高いのがすべて悪い。このトラップから誰が抜け出せるかのレースが今のEVマーケットの本命だ』、「商品として適正なバランスに達するには、まだあと100倍くらい進歩が必要だ。今の10倍ではまだ厳しい。EVは必須の技術であり、今後も継続的に開発投資が進むだろうが、2年や3年でどうにかなるレベルにはない。早くとも2030年くらいまではかかるのではないか」、そんなにかかるというのには驚かされた。「まじめにバランスのよいクルマを作ろうとすればするほど、お値段はお高め、航続距離は少しやせ我慢して「わりと余裕ですよ」と言えるくらい、装備は少し悲しめのEVが出来上がる。バッテリーが高いのがすべて悪い。このトラップから誰が抜け出せるかのレースが今のEVマーケットの本命だ」、確かにその「レース」は見物だ。
・『テスラの発明 これらの状況を一点突破で見事にぶち破って見せたのがテスラで、彼らのコロンブスの卵は「高くていいじゃん」だった。それならば存分にバッテリーを搭載し、装備もガジェット好きのハートを打ち抜くようなギミックをモリモリに搭載できる。 まじめな自動車エンジニアが「環境のためのEVなのだから」と爪に火をともすようにバッテリー電力を節約するのを尻目に、EVはゼロエミッションだからどんなに電気を使ってもおとがめなしとばかりに、時速100キロまで3秒の加速でキャラクターを打ち出す。発電所が温室効果ガスを出すのは発電所の問題なので、クルマ側の問題ではない。そう割り切った。 こうやってプレミアムEVというジャンルを確立したテスラによって、EVは商品として初めて注目を集めることになったのだ。初めて客に喜んで買ってもらえるEVを製品化したという意味でテスラの功績は計り知れない。 ただし、それが環境社会の求めているEVかといえばそうではない。富裕層が求める新しモノとしての需要を喚起したにすぎない。つまりグローバル環境が求めているEVと脚光を浴びているプレミアムEVは、本当は同じものではない。そこにねじれ構造がある。 整理しよう。現在ビジネスモデルとして成立しているのはテスラのようなプレミアムEV。儲かりはしないけれど、人類の責任として未来のために必要なのが日産自動車「リーフ」のようなバランス型EV。 そしてもう1つ下に都市内交通として短距離に特化したEVがある。例えばセブン-イレブンの配達用に使われている安価な1人乗り超小型EV「コムス」。コムスは現状のバッテリーの性能を前提に考えれば、EVとして論理的に最も正しい解だと思うが、商品性はないに等しい。 ダイソンがこのうちどれをやろうとしたか?おそらくはテスラと、リーフとの間を狙っていたと思う。利益を出そうと考えればそこしかない。 しかしながら、この数年でその環境が激変した。プレミアムEVはもうレッドオーシャン化まっしぐらだ。既存の自動車メーカーが、グローバルな各種温室効果ガス規制を課せられた結果、プレミアム系の自動車ブランドは全社漏れなくそのマーケットへと転進を余儀なくされた。 テスラが見つけた正解「高くて構わない」が客に言えるブランドにしてみれば、従来よりケタ違いに速いEVスーパースポーツを作れば一定数売れるのは明らかなのだ。 すでにポルシェはタイカンを、ジャガーはI-PACEをデビューさせているし、フェラーリもアストンマーチンもロータスも、軒並み超高性能EVをリリースする。ランボルギーニはBEVは作らないそうだが、フォルクスワーゲングループの一員なのでポルシェ・タイカンのコンポーネンツはいつでも使える。PHVの計画はすでに発表済みだ。もちろんすでに先行しているベンツ、BMW、アウディもラインナップを増やしてくるだろう。 掃除機ではハイブランドのダイソンだが、これらの名門ブランドと並べて選ばれるものに仕立てるのは難しい。加えて、ポルシェやジャガーはすでにそれぞれの伝統の乗り味をEVで再現するモデルを送り出し始めており、戦いは自動車としてのブランドアイコンを持たない新参メーカーにはすでに太刀打ちできない領域に入っている』、「戦いは自動車としてのブランドアイコンを持たない新参メーカーにはすでに太刀打ちできない領域に入っている」、ダイソンが撤退せざるを得なかった事情がよく分かった。
・『すでに旧来の自動車メーカーが群雄割拠状態 プレミアムEVが無理ならと言って、リーフのクラスは体力ゲージによほど余裕がないと入っていけない。バッテリー性能が向上するまでひたすら赤字を垂れ流しつつ、マーケットに実績を作り続けるしかないが、野球に例えれば、現在守護神と目される「全固体電池」がマウンドにやってくるのはどんなに早くても2025年以降になる・・・かといって、コムスのクラスはあまりにも地味で、ビジネスの成功も難しいだけでなく、それ以前に参入のメリットが少ない。ユニコーン企業になれる雰囲気は皆無だし、出資者から見てもわくわくしないだろう。 だめ押しのようだが、バッテリーとモーターさえあればクルマが作れるわけではなく、衝突安全などにも高度なノウハウが必要なことは、「EVブームの論調に踊る人がわかってない本質」(2018年4月24日配信)でも解説したとおりだ。 そもそも内燃機関がなくなっただけで誰でもクルマが作れるということ自体幻想であり、車体設計こそノウハウの塊だ。むしろ内燃機関は完成品を売ってもらうこともできるし、技術会社に設計と生産を委託することも可能だ。 全体を俯瞰的に捉え直すと、こういうことだ。社会に最も求められる商品は、バッテリー価格が問題で商品性に難があり、じっと技術革新を待っている。 それをクリアできるのが、高価であることを許容してくれるプレミアムEVのマーケットだが、すでに旧来の自動車メーカーが群雄割拠状態にあり、新参での参入はだいぶ厳しい。いちばん現実的な都市内トランスポーターの類いは、個人ユーザーが買いたくなりそうもない。 さて、ここで突如全員を出し抜いて出てくるのがトヨタだ。テスラが「高くて良いじゃん」でプレミアムEVを発明したのと同じく、トヨタもまた1点突破を成し遂げた。「航続距離要らないじゃん」。ただしこれはもう少し複雑だ。 トヨタはこう考えたのだ。結局バッテリーが高いのが問題だ。それはそれで価格低減に向けての努力は進めていくとして「トヨタはEVに不まじめだ」という声もすでに無視できない。すぐに出せる商品がないと批判の嵐が止まない。 かと言って、今さらリーフクラスのEVを出しても、あの池には大して魚がいないことは多くのメーカーが身銭を切って証明済みで、絶望感の漂ういす取りゲームにわざわざ参入する意味はない。 結局はバッテリー価格が問題なんだったら、小型バッテリーでもOKな、航続距離のいらないユーザーに向けたクルマを作ればいいじゃないか?ビジネスニーズは航続距離を必要としない。100キロ走れば十分だ。都市内の移動なので最高速度も60キロでいい。それなら200万円もあれば十分だろう。あるいは150万円でも可能かもしれない』、「そもそも内燃機関がなくなっただけで誰でもクルマが作れるということ自体幻想であり、車体設計こそノウハウの塊だ」、誤解を見事に解いてくれた。トヨタが慎重にEV市場を見極めて、「航続距離要らないじゃん」で「1点突破を成し遂げた」、巧みな二番手戦略だ。
・『ダイソンにはなくてテスラとトヨタにあるもの そうなるとトヨタは強い。営業が全力を挙げてEVビジネスカーの需要を探る。例えば東京電力を筆頭とする電力会社の営業車とか、官公庁の公用車、郵政や銀行や保険などの公益性の高い事業主体は、可能であればEVを採用したいと考えている。そしてこれらのビジネスユーズは安定的需要があり、定期的に必ず車両入れ替えが起きる。 ただし現在、軽自動車で足りているそれを置き換えるものとして350万円のEVでは無理だ。つまり妥当な価格ならば本当はEVにしたいというニーズがほったらかしになっていたのである。 トヨタはすでにどこの社のどの営業所に何台というレベルで台数を読んでいると思われる。考えてみればまさにトヨタ生産方式。「売れた分だけ作る」とはこのことだろう。 ダイソンは3つあるEVのクラスの1番上に商機ありと見て参入したが、そこは誰の目から見てもいちばんおいしそうに見えるマーケットゆえに一瞬にしてレッドオーシャン化した。 損切りをして撤退した判断はさすがと思うが、やはりゲームチェンジャーにはなれなかったことは大きい。プレミアムEVでテスラが、ビジネスEVでトヨタがやって見せたゲームチェンジャーの指し手をダイソンは打ち込めなかったのである』、トヨタが「ビジネスEV」を展開していく上では、その強い営業力が大いに寄与するのだろう。EVを巡る競争が分野別に整理され、理解しやすかった。
第三に、10月11日付け東洋経済オンライン「ノーベル賞「吉野彰氏」が描くEV用電池の未来図 2025年までは間違いなく市場拡大していく」を紹介しよう(Qは聞き手の質問、」Aは吉野氏の回答)。
https://toyokeizai.net/articles/-/307914
・『10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーは今年のノーベル化学賞受賞者を発表。受賞者は旭化成の吉野彰名誉フェロー、米テキサス大学のジョン・グッドイナフ教授、米ニューヨーク州立大学のマイケル・スタンリー・ウィッティンガム卓越教授の3人で、リチウムイオン電池の開発で主導的な役割を果たしたことが評価された。『週刊東洋経済プラス』で公開している吉野氏の1万字インタビューの一部を掲載する。 Q:リチウムイオン電池は今やIT機器だけでなく自動車にも。例えば、米テスラの電気自動車(EV)には円筒型のリチウムイオン電池が何千本も入っています。 A:そうです、そうです。いわゆる「18650」というノート型パソコンに使われているものですけどね。これはもう25年ぐらい実績があって、性能も最高レベルに達していて、なおかつ値段が非常に安い。それをたくさん搭載して繋ぐというのは、1つの考え方やね。 何千本もの電池をつないできちんと機能させるためには、バッテリーマネジメントが非常に難しいんです。だから、テスラはそういう技術を持っていたということなんでしょう。 ただ、未来永劫そのやり方がメインストリームになるかどうかはわかりませんけど』、「何千本もの電池をつないできちんと機能させるためには、バッテリーマネジメントが非常に難しいんです」、なるほど、初めて知った。
・『車載用の市場は小型民生用をちょっと追い越している Q:角型のリチウムイオン電池のほうは多くのハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に使われています。その良さは何でしょうか。 A:これもメリット、デメリットがあるんです。 メリットは当然大きな電池を一つ作るほうが、小さな乾電池50本分ぐらいに相当するのかな。要は作るのは楽ですわね。直列、並列にはつなぐんだけども、つなぐ数が少なくて済みますから、バッテリーマネジメントが楽です。 デメリットとしてはまだ大型のリチウム電池はあまり市場の実績がないから、どうしても安全に気をつかって設計せんといかんですよね。本当はエネルギー密度を上げられるんだけど、いきなり無理して上げるわけにもいかない。そうすると、ちょっと性能的には落ちますし、値段的にも当然ね(高くなる)。これから作っていく段階だから、値段もそんなに下がっていない。ちょうど(円筒型と)裏返しの関係ですよね。 今のようなEVが本格的に世の中に出てきたのは2010年前後で。三菱自動車の「アイ・ミーブ」と日産の「リーフ」。たぶんそこがスタートなんです。そこから7、8年が経過して、2017年で小型民生用とほぼ一緒になり、ちょっと車載用が追い越したともいわれる状況なんですよね。 Q:マーケットのサイズが? A:そうです、そうです。じゃあこれから先どこまで増えるのか。まあ、当然増えていくんですけど。今のところ間違いないと言われてるのが2025年で、だいたい小型民生用の10倍ぐらい。そこまでは技術的にもこれでいけそうですね、数量的にもそのあたりは見えてますね、となっている。 じゃあ2025年以降にどうなっていくのかは、たぶんいろんな見方がある。2025年で小型民生用の10倍になる規模というのは、車全体のだいたい15%ぐらいなんですよ。もしそれが100%になったら約6倍だから、小型民生用の60倍になる。それが本当に実現できるのか、あるいは別のシナリオがあるのか。そこが今、議論の争点になってると思います。 Q:部材が足りるのかなど、いろんな論点があります。 A:だから、資源の問題も含めて、現実として2025年がある意味でギリギリのライン。 Q:足元でも、中国の企業がコバルトの採掘場を買収するなど、資源を囲い込むような動きがあります。 A:2025年まではそれほど大きな問題にはならないんだけども、とはいえどうしても投機的な問題が出てきますよね。絶対量としては問題ないんだけども、やはり資源価格が高騰していくとかね。したがって、市場規模が2025年レベルまでいくとしても、それ以降はやはり何らかのリサイクルとか、本当にそういうことが大前提になってくると思います』、「2025年で・・・小型民生用の60倍になる。それが本当に実現できるのか、あるいは別のシナリオがあるのか。そこが今、議論の争点になってると思います」、確かに何らかのブレークスルーが必要になりそうだ。
・『日産リーフの航続距離も当初から2倍に延びた Q:価格は今後、下がっていくものでしょうか。 A:大型が作られてもうすぐ10年になるので、コストもどんどん下がってきていますし、当然、技術も向上してきています。実際に作っていくと、エネルギー密度の考え方とか、ある程度のツボがわかってくる。例えば、最初に発売された日産のリーフは1回の充電で走行距離が200キロメートルでしたが、今では2倍の400キロメートルほどになりましたよね。 Q:大型の角型電池が円筒型のコストパフォーマンスに近づいてくるのは、どんな要因が大きいのでしょうか。 A:一つは材料です。正極にしても負極にしても、これを改良することでエネルギー密度も上がるし、なおかつ値段も下げますと。どちらかというと材料メーカーの努力です。 もう一つはさきほど言った設計。実際に材料を使って電池にするときに、当初は安全サイド、安全サイドという観点で設計せざるを得なかったんでね。ただ、(生産を重ねていくうちに)ここはちょっともう少し無理がききますねとかが分かってくる。そのあたりはいわゆる電池メーカー、もしくは自動車メーカーの努力でしょうね、「コスト」削減には、「材料」と「設計」がカギになるようだ。一層のコスト削減努力に期待したい。
先ずは、みずほ銀行法人推進部 主任研究員の湯 進氏が6月15日付け東洋経済オンラインに掲載した「トヨタが「中国電池」に頼らざるをえない理由 中国大手CATL・BYDが世界の電池市場を寡占」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/286333
・『2019年6月7日、トヨタが中国リチウムイオン二次電池(LIB)大手の寧徳時代新能源科技(CATL)、比亜迪(BYD)などと協業すると発表し、複数メーカーから電池調達する方針を示した。日産、ホンダとの提携に加え、日本自動車メーカーの中国電池頼りの姿勢は鮮明となった。 今年から実施した中国のNEV(新エネルギー車)規制により、乗用車メーカーに一定台数のNEV生産の義務づけられた。仮に中国で日本勢がガソリン車500万台を生産する場合、発生する10%相当分の50万クレジットを確保するには、すべてEVの生産で対応するならばEVを10万台(航続距離の条件は350km)、全てPHVならばPHVを50万台(同5km超)生産しなければならない』、「中国のNEV規制」はさすが社会主義国ならではだ。
・『車載電池の安定調達は喫緊の課題 一方、今年1~4月のNEV生産実績では、一汽トヨタが4232台、広汽本田が906台、東風日産が900台にとどまる。各社はNEV生産を急ピッチで進める必要があり、なかでも車載電池を安定調達することが、日本勢にとって喫緊の課題だ。 LIBはソニーが1991年に世界に先駆けて実用化し、日本の「お家芸」とされてきた。2011年以降、韓国企業の台頭により、世界市場でパナソニックとLG化学、サムスンSDIの日韓企業のトップ争いが行われていた。日本では、「中国製EV電池の安全性と信頼性を保証できない」といった論調が多い。ところが中国で、日本車メーカーが相次いで“地場電池メーカー詣で”になった。 1つ目の要因は外資電池メーカーの排除政策だ。「LIB市場を制するメーカーがEV市場を制する」との認識の下、中国政府は、特定メーカーのLIBを搭載することがNEV補助金を支給する条件であると規定。2016年には認定された地場LIBメーカー57社を「ホワイトリスト」に登録した。 この規制により、サムスンSDIとLG化学の中国工場の稼働率は一時10%程度に落ち込み、SKイノベーションは北京工場を閉鎖した。パナソニックの大連工場では中国市場向けのEV電池生産が行われなかった。現在に至るまで外資系LIBメーカーが中国乗用車市場に参入することは依然として難しい状況にある。 一方、中国政府が2017年からLIB分野における外資の独資を容認し、2019年にはLIB産業を外資投資の奨励産業分類に格上げ、外資政策の転換を行った。またこれまで外資系電池メーカーの参入障壁だった「ホワイトリスト」が、NEV補助金政策の中止に伴い、2021年に事実上撤廃されることが決まった』、中国政府が地場優先から、外資系にも門戸を突如開いたのは、地場が力を付けてきたためなのだろうか。
・『中国地場メーカー、創業7年で世界トップに ところが、LIBの大規模増産のために必要な資金は巨額であり、回収期間も長い。産業政策に翻弄される外資系LIBメーカーが生産能力とコスト面において、地場LIBメーカーに追随し難い状況となっている。今後中国におけるトヨタのLIB需要を勘案すれば、パナソニック1社で賄い切れるような量では到底ない。このような状況を鑑みて、トヨタは中国で必要なLIBを複数メーカーから調達する意向を示した。 2つ目の要因は地場電池メーカーの成長だ。中国国内の需要増が地場メーカーを世界トップに押し上げた。CATL、BYDなど地場メーカー7社が2018年のLIB出荷量世界トップ10にランクイン。創業わずか7年のCATLが、パナソニックを抜き2年連続で世界首位となった。2012年に開始した独BMWとの協業は技術力とブランド力の向上を果たし同社のターニングポイントであった。 2018年には独ダイムラーとVWへのLIBの供給が決定。また、CATLは安全・信頼性の高いLIBの設計・開発や過酷な条件での限界試験に力を入れ、品質に厳しい日本の自動車メーカーとの取引を増やしている。現在、CATLは中国自動車主要5グループとそれぞれ車載電池開発・生産の合弁会社を設立し、外資系を含む自動車メーカー30社以上に電池を供給している。 自動車メーカーとの水平分業型戦略を採用したCATLに対し、LIB世界3位のBYDは、自社ブランドのNEVにセルを供給する垂直統合型戦略を採用した。セルから電池バック、BMS、車両を内製することにより、低コスト生産を実現した。2019年、BYDはLIB事業を独立させ、生産能力(60ギガワット時)の引き上げや他社向けの販売など、LIB事業のさらなる拡大を企図している。 中国政府は2019年のNEV補助金額を前年比で大きく減額した。航続距離の長い電池を搭載すれば、多額なNEV補助金を獲得できるため、NEVメーカーの電池調達先は大手電池メーカーに集中する傾向だ。2019年1~5月の中国LIB市場シェアを見ると、1位のCATLと2位のBYDの合算シェアは75%、業界の寡占化が進んでいることがわかる』、「CATL、BYDなど地場メーカー7社が2018年のLIB出荷量世界トップ10にランクイン。創業わずか7年のCATLが、パナソニックを抜き2年連続で世界首位となった」、地場企業の優遇、多額の補助金、などがあったにせよ、短期間での成長ぶるには改めて驚かされる。
・『24時間稼働でも受注に対応しきれず 現在、CATLは生産ラインが24時間稼動しているにもかかわらず、受注に対応しきれない状況だ。筆者は51歳の曽毓群(ロビン・ツォン)会長とは数回雑談する機会があったがこれまでの成長を自慢することなく、政府補助金がなくなれば真っ正面から有力外資メーカーに向き合わざるをえなくなる危機感をもちながらも、技術力のさらなる向上を強調した。 この数年でLIB産業は製造技術の進歩に伴い、液晶パネルと同様に巨大な設備投資を求める装置産業となっている。豊富な資金を持つ中国企業が政府の支援を受け、生産能力を急拡大し、技術優位にあった日韓企業を凌駕する勢いをみせた。 現在中国には、質と量の両面を追おうとするLIBメーカーが多く、技術力が高いメーカーが限られている。今回発表されたトヨタの中国2社協業は、中国大手電池メーカーにとって、ドイツ勢に続き日本自動車ビッグスリーへの供給を果たし、グローバル競争に向けて大きな一歩を踏み出したといえよう』、「24時間稼働でも受注に対応しきれず」、当面は中国国内向けで手一杯のようだが、今後、補助金が削減されると、海外に打って出ることになるとみられ、要注意である。
次に、自動車関連情報の編集プロダクションであるグラニテ代表の池田 直渡氏が10月25日付け東洋経済オンラインに掲載した「ダイソンがEVから撤退せざるをえなかった理由 テスラが築いた「高くて構わない」はもう飽和」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/309908
・『イギリスの家電大手、ダイソンはEV(電気自動車)の開発から撤退することを発表した。 従来の内燃機関に比べれば、EVは部品点数が圧倒的に少なく、技術蓄積が必要なくなるとする見方から、「EVの時代になれば、参入障壁が下がり、既存自動車メーカーのアドバンテージが失われ、新興の異業種からの活発な事業参入が見込まれる」という説が巷間をにぎわした。コンペティターが増えることで価格競争が進み、車両価格は数分の1に下がるとする意見も根強かった。 すでに家電の世界で先行していたように、いわゆる垂直統合型から水平分業型への構造移行が進むとされていた。そしてまさに異業種からの参入の旗手と目されてきたのがダイソンであった。 創業者のジェームズ・ダイソン氏はEV開発プロジェクトで開発中の車両がすばらしいものであったことを強調するが、現実的に事業の採算見通しが立たず、事業の売却にも買い手がつかなかったという。 しかし、その話は矛盾する。すばらしい製品だが採算が合わず、かつ事業の引き受け手もいないという条件は不自然である。 おそらく、ダイソンはEVのマーケット構造変化についていけなかったものと考えられる。順を追って説明しよう』、ダイソンがどんなEVを作るのかと期待していただけに、撤退のニュースにはがっかりした。
・『そもそもEVとは何なのか? EVの目的は温室効果ガスを削減することにある。これが第一義で圧倒的に大事。社会の使命として可能な限り早く化石燃料の使用をやめなければならないからこそのEVである。 内燃機関との比較上でのEVのメリットはいくつかあるが、上述の化石燃料廃止の手段という存在異(正しくは:意)議と、それ以外は少し階層が違う。言ってみれば嗜好性的な領域である。 例えばEVならではの運転フィールがある。モーターの特性を生かした瞬間的な加速力。かつてのアメリカ車が自慢のV8ユニットの加速力を広告で「Kicking Asphalt(キッキング・アスファルト)」とうたったように踏んだ瞬間の異次元の加速力は魅力の1つだろう。3つ目は静粛性、内燃機関と比べると圧倒的に静かで洗練されている。 社会的役務を背負い、商品として独特の魅力も備えるEVは、しかしながら今のところ、世の中の期待ほどには普及していない。 EVは2018年のグローバル販売台数実績で121万台。自動車全体におけるトータルシェアは1%少々。それが現実だ。新聞やテレビで頻繁に聞くEV新時代の話とはだいぶギャップを感じるだろう。 結局のところ、1%ちょっとのシェアという厳然たる事実がすべてなのだが、それではニュースバリューがない。なので部分に注目してトリミングして見せることになる。 例えばノルウェーだけを抜き出せば「環境先進国では3台に1台はEVだ」とも言えるし、20年前にはクルマそのものがほぼないに等しかった中国の伸び率を延長線で伸ばしていけば「●●年には内燃機関を抜く」と書くのも簡単だ。トリッキーなトピックの作り方をしないと話題にならず、やろうとすれば扱い易い特性を持つ素材でもある。要するにニュースの編み方にモラルハザードを起こしやすいのだ』、グローバルで「1%ちょっとのシェアという厳然たる事実がすべて」、「要するにニュースの編み方にモラルハザードを起こしやすい」、とは、さすが、「自動車関連情報の編集プロダクション」でメシを食っているだけある。
・『EVの実績が伸びない理由 しかし、そもそもなぜ世界の期待を集めるEVが1%少々の実績に甘んじているのか? 実は自動車の黎明期からEVは存在した。しかしほとんど見向きもされずに内燃機関の時代が続いたのである。問題の本質は当時から同じだ。エネルギー密度が低い。つまり「重量当たりのエネルギー量が少ない」。 クルマに仕立てるには航続距離が足りない。足りるようにするためには大量のバッテリーを搭載せねばならず、そうすると重いし高価になる。 「いやいや、エネルギー密度は目覚ましく改善されている」と反論する人が世の中にはいて、それは必ずしも間違ってはいない。そのあたりにかろうじてメドがついたからこそ10年ほど前から各社がEVをリリースし始めたのだ。100年前と比べれば進歩がすさまじいのは認めよう。 だが、商品として適正なバランスに達するには、まだあと100倍くらい進歩が必要だ。今の10倍ではまだ厳しい。EVは必須の技術であり、今後も継続的に開発投資が進むだろうが、2年や3年でどうにかなるレベルにはない。早くとも2030年くらいまではかかるのではないか。 2019年の今、EVのバッテリーは1台分で200万円から300万円くらいのコストと言われている。バッテリーだけでは走れないから、クルマに仕立てるとどうやっても350万円くらいにはなってしまう。 だからまじめにバランスのよいクルマを作ろうとすればするほど、お値段はお高め、航続距離は少しやせ我慢して「わりと余裕ですよ」と言えるくらい、装備は少し悲しめのEVが出来上がる。バッテリーが高いのがすべて悪い。このトラップから誰が抜け出せるかのレースが今のEVマーケットの本命だ』、「商品として適正なバランスに達するには、まだあと100倍くらい進歩が必要だ。今の10倍ではまだ厳しい。EVは必須の技術であり、今後も継続的に開発投資が進むだろうが、2年や3年でどうにかなるレベルにはない。早くとも2030年くらいまではかかるのではないか」、そんなにかかるというのには驚かされた。「まじめにバランスのよいクルマを作ろうとすればするほど、お値段はお高め、航続距離は少しやせ我慢して「わりと余裕ですよ」と言えるくらい、装備は少し悲しめのEVが出来上がる。バッテリーが高いのがすべて悪い。このトラップから誰が抜け出せるかのレースが今のEVマーケットの本命だ」、確かにその「レース」は見物だ。
・『テスラの発明 これらの状況を一点突破で見事にぶち破って見せたのがテスラで、彼らのコロンブスの卵は「高くていいじゃん」だった。それならば存分にバッテリーを搭載し、装備もガジェット好きのハートを打ち抜くようなギミックをモリモリに搭載できる。 まじめな自動車エンジニアが「環境のためのEVなのだから」と爪に火をともすようにバッテリー電力を節約するのを尻目に、EVはゼロエミッションだからどんなに電気を使ってもおとがめなしとばかりに、時速100キロまで3秒の加速でキャラクターを打ち出す。発電所が温室効果ガスを出すのは発電所の問題なので、クルマ側の問題ではない。そう割り切った。 こうやってプレミアムEVというジャンルを確立したテスラによって、EVは商品として初めて注目を集めることになったのだ。初めて客に喜んで買ってもらえるEVを製品化したという意味でテスラの功績は計り知れない。 ただし、それが環境社会の求めているEVかといえばそうではない。富裕層が求める新しモノとしての需要を喚起したにすぎない。つまりグローバル環境が求めているEVと脚光を浴びているプレミアムEVは、本当は同じものではない。そこにねじれ構造がある。 整理しよう。現在ビジネスモデルとして成立しているのはテスラのようなプレミアムEV。儲かりはしないけれど、人類の責任として未来のために必要なのが日産自動車「リーフ」のようなバランス型EV。 そしてもう1つ下に都市内交通として短距離に特化したEVがある。例えばセブン-イレブンの配達用に使われている安価な1人乗り超小型EV「コムス」。コムスは現状のバッテリーの性能を前提に考えれば、EVとして論理的に最も正しい解だと思うが、商品性はないに等しい。 ダイソンがこのうちどれをやろうとしたか?おそらくはテスラと、リーフとの間を狙っていたと思う。利益を出そうと考えればそこしかない。 しかしながら、この数年でその環境が激変した。プレミアムEVはもうレッドオーシャン化まっしぐらだ。既存の自動車メーカーが、グローバルな各種温室効果ガス規制を課せられた結果、プレミアム系の自動車ブランドは全社漏れなくそのマーケットへと転進を余儀なくされた。 テスラが見つけた正解「高くて構わない」が客に言えるブランドにしてみれば、従来よりケタ違いに速いEVスーパースポーツを作れば一定数売れるのは明らかなのだ。 すでにポルシェはタイカンを、ジャガーはI-PACEをデビューさせているし、フェラーリもアストンマーチンもロータスも、軒並み超高性能EVをリリースする。ランボルギーニはBEVは作らないそうだが、フォルクスワーゲングループの一員なのでポルシェ・タイカンのコンポーネンツはいつでも使える。PHVの計画はすでに発表済みだ。もちろんすでに先行しているベンツ、BMW、アウディもラインナップを増やしてくるだろう。 掃除機ではハイブランドのダイソンだが、これらの名門ブランドと並べて選ばれるものに仕立てるのは難しい。加えて、ポルシェやジャガーはすでにそれぞれの伝統の乗り味をEVで再現するモデルを送り出し始めており、戦いは自動車としてのブランドアイコンを持たない新参メーカーにはすでに太刀打ちできない領域に入っている』、「戦いは自動車としてのブランドアイコンを持たない新参メーカーにはすでに太刀打ちできない領域に入っている」、ダイソンが撤退せざるを得なかった事情がよく分かった。
・『すでに旧来の自動車メーカーが群雄割拠状態 プレミアムEVが無理ならと言って、リーフのクラスは体力ゲージによほど余裕がないと入っていけない。バッテリー性能が向上するまでひたすら赤字を垂れ流しつつ、マーケットに実績を作り続けるしかないが、野球に例えれば、現在守護神と目される「全固体電池」がマウンドにやってくるのはどんなに早くても2025年以降になる・・・かといって、コムスのクラスはあまりにも地味で、ビジネスの成功も難しいだけでなく、それ以前に参入のメリットが少ない。ユニコーン企業になれる雰囲気は皆無だし、出資者から見てもわくわくしないだろう。 だめ押しのようだが、バッテリーとモーターさえあればクルマが作れるわけではなく、衝突安全などにも高度なノウハウが必要なことは、「EVブームの論調に踊る人がわかってない本質」(2018年4月24日配信)でも解説したとおりだ。 そもそも内燃機関がなくなっただけで誰でもクルマが作れるということ自体幻想であり、車体設計こそノウハウの塊だ。むしろ内燃機関は完成品を売ってもらうこともできるし、技術会社に設計と生産を委託することも可能だ。 全体を俯瞰的に捉え直すと、こういうことだ。社会に最も求められる商品は、バッテリー価格が問題で商品性に難があり、じっと技術革新を待っている。 それをクリアできるのが、高価であることを許容してくれるプレミアムEVのマーケットだが、すでに旧来の自動車メーカーが群雄割拠状態にあり、新参での参入はだいぶ厳しい。いちばん現実的な都市内トランスポーターの類いは、個人ユーザーが買いたくなりそうもない。 さて、ここで突如全員を出し抜いて出てくるのがトヨタだ。テスラが「高くて良いじゃん」でプレミアムEVを発明したのと同じく、トヨタもまた1点突破を成し遂げた。「航続距離要らないじゃん」。ただしこれはもう少し複雑だ。 トヨタはこう考えたのだ。結局バッテリーが高いのが問題だ。それはそれで価格低減に向けての努力は進めていくとして「トヨタはEVに不まじめだ」という声もすでに無視できない。すぐに出せる商品がないと批判の嵐が止まない。 かと言って、今さらリーフクラスのEVを出しても、あの池には大して魚がいないことは多くのメーカーが身銭を切って証明済みで、絶望感の漂ういす取りゲームにわざわざ参入する意味はない。 結局はバッテリー価格が問題なんだったら、小型バッテリーでもOKな、航続距離のいらないユーザーに向けたクルマを作ればいいじゃないか?ビジネスニーズは航続距離を必要としない。100キロ走れば十分だ。都市内の移動なので最高速度も60キロでいい。それなら200万円もあれば十分だろう。あるいは150万円でも可能かもしれない』、「そもそも内燃機関がなくなっただけで誰でもクルマが作れるということ自体幻想であり、車体設計こそノウハウの塊だ」、誤解を見事に解いてくれた。トヨタが慎重にEV市場を見極めて、「航続距離要らないじゃん」で「1点突破を成し遂げた」、巧みな二番手戦略だ。
・『ダイソンにはなくてテスラとトヨタにあるもの そうなるとトヨタは強い。営業が全力を挙げてEVビジネスカーの需要を探る。例えば東京電力を筆頭とする電力会社の営業車とか、官公庁の公用車、郵政や銀行や保険などの公益性の高い事業主体は、可能であればEVを採用したいと考えている。そしてこれらのビジネスユーズは安定的需要があり、定期的に必ず車両入れ替えが起きる。 ただし現在、軽自動車で足りているそれを置き換えるものとして350万円のEVでは無理だ。つまり妥当な価格ならば本当はEVにしたいというニーズがほったらかしになっていたのである。 トヨタはすでにどこの社のどの営業所に何台というレベルで台数を読んでいると思われる。考えてみればまさにトヨタ生産方式。「売れた分だけ作る」とはこのことだろう。 ダイソンは3つあるEVのクラスの1番上に商機ありと見て参入したが、そこは誰の目から見てもいちばんおいしそうに見えるマーケットゆえに一瞬にしてレッドオーシャン化した。 損切りをして撤退した判断はさすがと思うが、やはりゲームチェンジャーにはなれなかったことは大きい。プレミアムEVでテスラが、ビジネスEVでトヨタがやって見せたゲームチェンジャーの指し手をダイソンは打ち込めなかったのである』、トヨタが「ビジネスEV」を展開していく上では、その強い営業力が大いに寄与するのだろう。EVを巡る競争が分野別に整理され、理解しやすかった。
第三に、10月11日付け東洋経済オンライン「ノーベル賞「吉野彰氏」が描くEV用電池の未来図 2025年までは間違いなく市場拡大していく」を紹介しよう(Qは聞き手の質問、」Aは吉野氏の回答)。
https://toyokeizai.net/articles/-/307914
・『10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーは今年のノーベル化学賞受賞者を発表。受賞者は旭化成の吉野彰名誉フェロー、米テキサス大学のジョン・グッドイナフ教授、米ニューヨーク州立大学のマイケル・スタンリー・ウィッティンガム卓越教授の3人で、リチウムイオン電池の開発で主導的な役割を果たしたことが評価された。『週刊東洋経済プラス』で公開している吉野氏の1万字インタビューの一部を掲載する。 Q:リチウムイオン電池は今やIT機器だけでなく自動車にも。例えば、米テスラの電気自動車(EV)には円筒型のリチウムイオン電池が何千本も入っています。 A:そうです、そうです。いわゆる「18650」というノート型パソコンに使われているものですけどね。これはもう25年ぐらい実績があって、性能も最高レベルに達していて、なおかつ値段が非常に安い。それをたくさん搭載して繋ぐというのは、1つの考え方やね。 何千本もの電池をつないできちんと機能させるためには、バッテリーマネジメントが非常に難しいんです。だから、テスラはそういう技術を持っていたということなんでしょう。 ただ、未来永劫そのやり方がメインストリームになるかどうかはわかりませんけど』、「何千本もの電池をつないできちんと機能させるためには、バッテリーマネジメントが非常に難しいんです」、なるほど、初めて知った。
・『車載用の市場は小型民生用をちょっと追い越している Q:角型のリチウムイオン電池のほうは多くのハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)に使われています。その良さは何でしょうか。 A:これもメリット、デメリットがあるんです。 メリットは当然大きな電池を一つ作るほうが、小さな乾電池50本分ぐらいに相当するのかな。要は作るのは楽ですわね。直列、並列にはつなぐんだけども、つなぐ数が少なくて済みますから、バッテリーマネジメントが楽です。 デメリットとしてはまだ大型のリチウム電池はあまり市場の実績がないから、どうしても安全に気をつかって設計せんといかんですよね。本当はエネルギー密度を上げられるんだけど、いきなり無理して上げるわけにもいかない。そうすると、ちょっと性能的には落ちますし、値段的にも当然ね(高くなる)。これから作っていく段階だから、値段もそんなに下がっていない。ちょうど(円筒型と)裏返しの関係ですよね。 今のようなEVが本格的に世の中に出てきたのは2010年前後で。三菱自動車の「アイ・ミーブ」と日産の「リーフ」。たぶんそこがスタートなんです。そこから7、8年が経過して、2017年で小型民生用とほぼ一緒になり、ちょっと車載用が追い越したともいわれる状況なんですよね。 Q:マーケットのサイズが? A:そうです、そうです。じゃあこれから先どこまで増えるのか。まあ、当然増えていくんですけど。今のところ間違いないと言われてるのが2025年で、だいたい小型民生用の10倍ぐらい。そこまでは技術的にもこれでいけそうですね、数量的にもそのあたりは見えてますね、となっている。 じゃあ2025年以降にどうなっていくのかは、たぶんいろんな見方がある。2025年で小型民生用の10倍になる規模というのは、車全体のだいたい15%ぐらいなんですよ。もしそれが100%になったら約6倍だから、小型民生用の60倍になる。それが本当に実現できるのか、あるいは別のシナリオがあるのか。そこが今、議論の争点になってると思います。 Q:部材が足りるのかなど、いろんな論点があります。 A:だから、資源の問題も含めて、現実として2025年がある意味でギリギリのライン。 Q:足元でも、中国の企業がコバルトの採掘場を買収するなど、資源を囲い込むような動きがあります。 A:2025年まではそれほど大きな問題にはならないんだけども、とはいえどうしても投機的な問題が出てきますよね。絶対量としては問題ないんだけども、やはり資源価格が高騰していくとかね。したがって、市場規模が2025年レベルまでいくとしても、それ以降はやはり何らかのリサイクルとか、本当にそういうことが大前提になってくると思います』、「2025年で・・・小型民生用の60倍になる。それが本当に実現できるのか、あるいは別のシナリオがあるのか。そこが今、議論の争点になってると思います」、確かに何らかのブレークスルーが必要になりそうだ。
・『日産リーフの航続距離も当初から2倍に延びた Q:価格は今後、下がっていくものでしょうか。 A:大型が作られてもうすぐ10年になるので、コストもどんどん下がってきていますし、当然、技術も向上してきています。実際に作っていくと、エネルギー密度の考え方とか、ある程度のツボがわかってくる。例えば、最初に発売された日産のリーフは1回の充電で走行距離が200キロメートルでしたが、今では2倍の400キロメートルほどになりましたよね。 Q:大型の角型電池が円筒型のコストパフォーマンスに近づいてくるのは、どんな要因が大きいのでしょうか。 A:一つは材料です。正極にしても負極にしても、これを改良することでエネルギー密度も上がるし、なおかつ値段も下げますと。どちらかというと材料メーカーの努力です。 もう一つはさきほど言った設計。実際に材料を使って電池にするときに、当初は安全サイド、安全サイドという観点で設計せざるを得なかったんでね。ただ、(生産を重ねていくうちに)ここはちょっともう少し無理がききますねとかが分かってくる。そのあたりはいわゆる電池メーカー、もしくは自動車メーカーの努力でしょうね、「コスト」削減には、「材料」と「設計」がカギになるようだ。一層のコスト削減努力に期待したい。
タグ:設計 材料 日産リーフの航続距離も当初から2倍に延びた 2025年以降にどうなっていくのかは、たぶんいろんな見方がある。2025年で小型民生用の10倍になる規模というのは、車全体のだいたい15%ぐらいなんですよ。もしそれが100%になったら約6倍だから、小型民生用の60倍になる。それが本当に実現できるのか、あるいは別のシナリオがあるのか。そこが今、議論の争点になってる 今のところ間違いないと言われてるのが2025年で、だいたい小型民生用の10倍ぐらい。そこまでは技術的にもこれでいけそう 車載用の市場は小型民生用をちょっと追い越している 何千本もの電池をつないできちんと機能させるためには、バッテリーマネジメントが非常に難しいんです 吉野彰名誉フェロー ノーベル化学賞 「ノーベル賞「吉野彰氏」が描くEV用電池の未来図 2025年までは間違いなく市場拡大していく」 トヨタは強い。営業が全力を挙げてEVビジネスカーの需要を探る ダイソンにはなくてテスラとトヨタにあるもの トヨタもまた1点突破を成し遂げた。「航続距離要らないじゃん」 そもそも内燃機関がなくなっただけで誰でもクルマが作れるということ自体幻想であり、車体設計こそノウハウの塊だ 現在守護神と目される「全固体電池」がマウンドにやってくるのはどんなに早くても2025年以降 すでに旧来の自動車メーカーが群雄割拠状態 戦いは自動車としてのブランドアイコンを持たない新参メーカーにはすでに太刀打ちできない領域に入っている プレミアムEVはもうレッドオーシャン化まっしぐら もう1つ下に都市内交通として短距離に特化したEVがある 儲かりはしないけれど、人類の責任として未来のために必要なのが日産自動車「リーフ」のようなバランス型EV 現在ビジネスモデルとして成立しているのはテスラのようなプレミアムEV プレミアムEV これらの状況を一点突破で見事にぶち破って見せたのがテスラで、彼らのコロンブスの卵は「高くていいじゃん」だった バッテリーが高いのがすべて悪い。このトラップから誰が抜け出せるかのレースが今のEVマーケットの本命だ まじめにバランスのよいクルマを作ろうとすればするほど、お値段はお高め、航続距離は少しやせ我慢して「わりと余裕ですよ」と言えるくらい、装備は少し悲しめのEVが出来上がる EVのバッテリーは1台分で200万円から300万円くらいのコストと言われている。バッテリーだけでは走れないから、クルマに仕立てるとどうやっても350万円くらいにはなってしまう 商品として適正なバランスに達するには、まだあと100倍くらい進歩が必要だ。今の10倍ではまだ厳しい。EVは必須の技術であり、今後も継続的に開発投資が進むだろうが、2年や3年でどうにかなるレベルにはない。早くとも2030年くらいまではかかるのではないか エネルギー密度が低い。つまり「重量当たりのエネルギー量が少ない」 EVの実績が伸びない理由 要するにニュースの編み方にモラルハザードを起こしやすい 1%ちょっとのシェアという厳然たる事実がすべてなのだ そもそもEVとは何なのか? 事業の採算見通しが立たず、事業の売却にも買い手がつかなかった ダイソンはEV(電気自動車)の開発から撤退 「ダイソンがEVから撤退せざるをえなかった理由 テスラが築いた「高くて構わない」はもう飽和」 池田 直渡 CATL 24時間稼働でも受注に対応しきれず 2019年1~5月の中国LIB市場シェアを見ると、1位のCATLと2位のBYDの合算シェアは75%、業界の寡占化が進んでいる BYDは、自社ブランドのNEVにセルを供給する垂直統合型戦略を採用 自動車メーカーとの水平分業型戦略を採用したCATL CATL、BYDなど地場メーカー7社が2018年のLIB出荷量世界トップ10にランクイン。創業わずか7年のCATLが、パナソニックを抜き2年連続で世界首位となった 2つ目の要因は地場電池メーカーの成長 中国地場メーカー、創業7年で世界トップに 2017年からLIB分野における外資の独資を容認し、2019年にはLIB産業を外資投資の奨励産業分類に格上げ、外資政策の転換を行った NEV補助金を支給する条件 地場LIBメーカー57社を「ホワイトリスト」に登録 外資電池メーカーの排除政策 韓国企業の台頭により、世界市場でパナソニックとLG化学、サムスンSDIの日韓企業のトップ争い LIBはソニーが1991年に世界に先駆けて実用化し、日本の「お家芸」 車載電池の安定調達は喫緊の課題 今年から実施した中国のNEV(新エネルギー車)規制により、乗用車メーカーに一定台数のNEV生産の義務づけられた トヨタが中国リチウムイオン二次電池(LIB)大手の寧徳時代新能源科技(CATL)、比亜迪(BYD)などと協業すると発表 「トヨタが「中国電池」に頼らざるをえない理由 中国大手CATL・BYDが世界の電池市場を寡占」 東洋経済オンライン 湯 進 (その6)(トヨタが「中国電池」に頼らざるをえない理由 中国大手CATL・BYDが世界の電池市場を寡占、ダイソンがEVから撤退せざるをえなかった理由 テスラが築いた「高くて構わない」はもう飽和、ノーベル賞「吉野彰氏」が描くEV用電池の未来図 2025年までは間違いなく市場拡大していく) EV 電気自動車
人工知能(AI)(その8)(「機械に大半の仕事を奪われる」説の大きな誤解 日本人が「デジタル失業」しにくい5つの理由、「中国発AI」で、通訳も速記も もう必要ない ファーウェイやBATを超える ものすごい企業、AIが生み出す「不条理な没落」にどう対峙すべきか、養老孟司氏:AIと日本人) [技術革新]
人工知能(AI)については、昨年12月20日に取上げた。今日は、(その8)(「機械に大半の仕事を奪われる」説の大きな誤解 日本人が「デジタル失業」しにくい5つの理由、「中国発AI」で、通訳も速記も もう必要ない ファーウェイやBATを超える ものすごい企業、AIが生み出す「不条理な没落」にどう対峙すべきか、養老孟司氏:AIと日本人)である。
先ずは、4月8日付け東洋経済オンライン「「機械に大半の仕事を奪われる」説の大きな誤解 日本人が「デジタル失業」しにくい5つの理由」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/275351
・『95.4%――。これは野村総合研究所が2015年に発表した、「日本におけるコンピューター化と仕事の未来」というイギリス・オックスフォード大学との共同研究における、「タクシー運転手」の今後10~20年後の「機械による代替可能性」である。同研究では、職業がAI(人工知能)やロボティクスなどの機械によってどれだけ代替されるかを検証した。 本当に95.4%という高確率でタクシー運転手という職業が機械に代替されるのか。確かに、自動運転が実用化されたら、無人タクシーは普及する可能性が高い。すでにタクシー大手の大和自動車交通は、昨年から公道や住宅地で自動運転の実証実験を開始。「限定区域内での自動運転タクシーの実現は近い」と同社の前島忻治社長は語る。 ただ、「安全・安心を今以上に担保するために、しばらくは乗務員が同乗することになる」と、前島社長は釘を刺す。公道ではどんな危険が待ち受けているかわからない。しばらくは非常時のトラブル対応が乗務員の仕事になるという。さらに、高齢者が多く利用する過疎地では、「(乗客との)コミュニケーション力が必要になる。運転スキルより、心理学や接客の心得がある人材が必要になる」(前島社長)。 加えて無人化が実現すると、タクシー会社には車内や周囲の状況を、カメラを通じて監視する仕事が生まれると予想される。その場合、一定数の運転手は、そうした新たな職業にシフトする可能性がある。それも考慮すると、タクシー運転手という職業の95.4%が機械に代替されるという予測は、現実とはギャップがあることがわかる』、確かに「AI(人工知能)やロボティクスなどの機械によってどれだけ代替されるか」というのは難しい問題のようだ。
・『「AIに仕事を奪われる」説が横行 『週刊東洋経済』は4月8日発売号で「AI時代に食える仕事食えない仕事」を特集。そこでは多くの人にとって身近な18職種の自動化の影響を、取材に基づき検証している。 野村総研の予測値は、専門家が設定した特定の職業における自動化の傾向をAIに学習させ、他の職業に当てはめることで導き出した。これは2013年、英オックスフォード大のカール・B・フレイ博士とマイケル・A・オズボーン准教授が発表した「雇用の未来」という研究論文と同様の手法を用いている。 同論文では、「アメリカでは10~20年以内に労働人口の47%が機械に代替されるリスクが高い」と発表。その反響は大きく、当時「47%」という数値と併せ、「AIに仕事を奪われる」といったセンセーショナルな報道が繰り返され、「AIによる職業消滅論」の関連書籍の発刊も相次いだ。 ただその後、専門家の間では同リポートの問題点を指摘する声が次々と上がった。経済産業研究所の岩本晃一上席研究員は、「47%という数値は特殊な前提での予測。雇用の未来の研究では、その後に研究結果を発表した独ZEW研究所のメラニー・アーンツ氏らの貢献のほうが大きい」と指摘する。 アーンツ氏らの研究結果の特徴は、オズボーン氏らのリポートが考慮していなかった「タスクベース」の変化を踏まえたもの。本来、仕事はさまざまな業務(タスク)の積み重ねである。いくら自動化が進んでも、実際には職業そのものが機械に置き換わるわけではない。その一部のタスクが置き換わっていくのだ。 OECD(経済協力開発機構)は、アーンツ氏らのそうした現実を踏まえた研究結果を基に2016年にリポートを発表。そこでは、自動化の可能性が7割を超える職業はOECD21カ国平均で「9%」という予測値が掲載された』、どんな方法論でやるか如何で、試算の数字は大きく異なるようだ。
・『「未来の仕事のデータは存在しない」 しかし、アーンツ氏らの研究結果にも加味されていない要素がある。その1つは「現実社会では新しい仕事が生まれる」ことである。前述のタクシー運転手の「カメラを通じて監視する仕事」がこれに当たる。 野村総研リポートを担当した上田恵陶奈上級コンサルタントも、「未来の仕事のデータは存在しないため、調査においては、現状の仕事が未来永劫変わらないとの前提を置いた。しかし、時代とともに仕事は変わる。定量的予測にはどうしても限界がある」と話す。それでも調査を実施した狙いについて、「将来の労働力不足を踏まえ、自動化による仕事の代替の可能性を検証しようとした」(上田氏)と振り返る。 では実際、職業の自動化による影響はどのように表れるのか――。現実社会を見据えると、上記の①「職業はタスクベースで変化する」、②「新しい仕事が生まれる」という要素以外にも、これまでの定量予測には含まれていない3つの要素がある。それは③「技術進化&コストの影響」、④「人材需給の影響」、そして⑤「社会制度や慣習の影響」である。 これまでの「AIによる職業消滅論」の多くでは、AIやロボット技術が、想定されるかぎり進化することを前提に、職業への影響を予測している。しかし、技術進化は一足飛びには進みにくい。その実現のスピードに加え、コストとの見合いで導入するメリットがあるかが、普及のカギを握る。それが③「技術進化&コストの影響」である。 ④「人材需給の影響」はどうか。今でも現実社会で、デジタル化やそれにAI技術を組み合わせた自動化は普及し始めている。だが、その中心はサービス業や建設業をはじめとする人材不足が深刻な業界。いくら自動化の技術開発が進んでも、余剰人員を抱える業界や企業ほど「まずは人にやってもらう」という動機が働きやすい。よほど低コスト化が進まない限り、自動化が進みにくい分野があるのが現実だ。 最後に⑤「社会制度や慣習の影響」も現実社会では避けて通れない。役所や金融機関のサービス、企業間契約などでは、人と対面し、捺印した書類で手続きするといったアナログなルール、慣習が多く残る。デジタル化に一気に舵を切ろうにも、デジタルデバイド(情報格差)の影響を危惧する声などが上がり、一足飛びに進めにくい分野がある』、確かに現実にはこうした定性的要素を考慮する必要がありそうだ。
・『身の回りの環境変化への想像が不可欠 専門家の間では、「こうした現実をすべて踏まえた定量的予測は不可能」というのが常識。現実社会は複雑だからこそ、ある特定の条件下に絞った形で、定量予測が行われてきた経緯がある。 すでに単純な定型業務におけるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入など、人の仕事の機械への代替は進んでいる。そうした変化によって雇用に影響が及ぶ人も広がるだろう。デジタル失業が発生しない、というわけではない。 ただ実際に起こるのは、職業そのものの消滅というより、タスクベースでの増減という変化が大半だろう。変化の様相は職業によって異なる。だからこそ職業の未来は個別に、かつタスクベースで、さらに社会変化も含めて見通すことが重要になる。 現実にどんな事態が発生するのか――。各個人が身の回りの環境変化に想像をめぐらせることが不可欠といえる』、「こうした現実をすべて踏まえた定量的予測は不可能」なので、「各個人が身の回りの環境変化に想像をめぐらせることが不可欠」という結論では、「なあーんだ」と言いたくもなるが、これが正直な見方なのだろう。
次に、5月2日付け東洋経済オンライン「「中国発AI」で、通訳も速記も、もう必要ない ファーウェイやBATを超える、ものすごい企業」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/278801
・『会議で議事録を取る必要はなし。外国企業との商談も通訳いらず――。 そんな夢のような世界を、中国屈指の音声認識AI(人工知能)企業である、アイフライテックがすでに実現している。 同社が開発した「智能会議系統(スマート会議システム)」は、会議中の発言をAIで認識し、自動で文字に変換してスクリーンに映し出す。音声認識の正確性は中国語で97%、英語で95%と、プロの速記者をも上回る高さだ。声紋を分析して話者を識別できるのはもちろんのこと、中国語と英語だけでなく日本語や韓国語にも対応し、リアルタイムでスクリーンに対訳を表示する機能を併せ持つ。中国語では、会議の要点を短くまとめた要約すら、自動で作成可能だという。 人間のような声を人工的に生み出す音声合成の技術も発達している。その名も「AIカスタマーサービスロボット」。中国火鍋チェーン大手で日本にも店舗を持つ、海底撈(ハイディラオ)などの外食企業で活用されている。予約を取るため店舗に電話してきた客と、まるで人間同然のスムーズさでやりとりができる。研究部門のトップを務める李世鵬・アイフライテック副社長は、「電話の相手が人間かロボットかを判別するのは難しい(くらいの自然さ)」と豪語する』、アイフライテックの「スマート会議システム」や「AIカスタマーサービスロボット」は、確かに凄い性能のようだ。
・『アマゾンやグーグルに次ぐ、中国トップの破壊力 元々アイフライテックは1999年設立の学生ベンチャーだった。 そのミッションは「コンピュータに聞き、話し、理解し、考えさせる」「AIでよりよい世界をつくる」ことである。音声認識と音声合成技術の高さを武器に、AI大国を目指す中国政府からの支援も受けながら急成長し、2008年に上場。2017年版の『MITテクノロジーレビュー』によると、革新的な技術と効果的なビジネスモデルを組み合わせた「スマート・カンパニー50」で、アメリカのアマゾンや、グーグルの親会社アルファベットに次ぐ、世界第6位に選ばれた。中国勢としては巨大IT企業であるBAT(バイドゥ、アリババグループ、テンセント)を抑えてトップだ。 今や1万人以上の従業員を抱えており、時価総額も1兆円を超える大企業となった。4月19日に発表された2018年度の業績は、売上高約1300億円(前期比45%増)、純利益約90億円(同24%増)ときわめて好調だ。 こうした最先端の企業を含め、『会社四季報 業界地図』(東洋経済新報社)では、自動車・商社・ITなど166業界を網羅。主要な業界プレーヤーやその関係性を図解している。トップページを飾るのはAI業界で、中国企業ではBATの3社を掲載中だ。今後はアイフライテックのような新興企業にも注目していく。 そのアイフライテックが手がけるのは、企業向けサービスだけではない。今年1月、アメリカのラスベガスで開かれた世界最大の電子機器見本市CESで発表した「AIノート」は、有望な製品の1つだ。 A5サイズで厚さは7.5mm、重さは360gと軽く、アマゾンの電子書籍リーダー「Kindle(キンドル)」を彷彿とさせる。電子書籍を読む機能もあるが、それだけではない。スマート会議システムと同様、音声を自動かつほぼ同時に文字変換し、画面上に表示できるのだ。まるでノートが速記者の代わりをしてくれるようである』、アイフライテックは、「スマート・カンパニー50」で「世界第6位」、「中国勢」トップになるだけの実力を備えているようだ。
・『専門分野のデータが次々と蓄積される 中国AIの動きには、日本の電子機器メーカーも後押しする。ワコムが供給する付属のデジタルペンで通常のノートのようにメモを取ると、自動変換されたテキストの該当部分が網掛けでハイライトされる。記録した内容は簡単にキーワード検索でき、どのメモに何を記録したか、思い出しながら探す手間を省くことが可能。持ち運びもしやすいため、活用シーンは会議だけでなく、学校の授業や取材など多様だ。中国語と英語の同時翻訳機能もリリース予定である。 「将来、オフィスで働く人は、AIノートさえ持てばよいことになる」(李副社長)。価格は約8万円で、現在は中国でのみ展開しているが、販売台数はすでに30万台を突破。海外版の発売も検討中だという。 AIノートに先駆けて市販化されたアイフライテックのポータブル音声翻訳機は、日本のアマゾンのサイトでも約6.5万円で販売されている。50種類もの言語を認識、中国語に同時吹き替えできるだけでなく、逆に中国語を外国語に吹き替えすることも可能で、英語・日本語・韓国語・ロシア語はオフラインでも中国語から変換できる。レストランのメニューや駅の標識などの文字情報を、”画像認識”して翻訳する機能も備えるという。同社は今後、医療や金融、ITなど産業翻訳の分野で蓄積したビッグデータを武器に、専門用語の翻訳機能を強化し続ける方針だ。 人間の目、耳、そして脳までも置き換えるAIの進化。産業界で浸透するアイフライテックなど中国企業の躍進を見る限り、通訳、速記者の仕事がAIに奪われる日は、近い。(リンク先には米国勢、中国勢の図あり)』、英語版や日本語版などが出てくれば、市場を席捲し、通訳、速記者の仕事は明らかに代替されるだろう。日本企業が部品供給だけに留まっているのは、残念だ。
第三に、5月15日付け日経ビジネスオンラインが掲載した山本龍彦=慶応義塾大学法科大学院教授へのインタビュー「AIが生み出す「不条理な没落」にどう対峙すべきか」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/051400009/?P=1
・『あらゆる分野でAI(人工知能)の活用が広がっている。特にFinTech(金融と技術の融合)分野では、与信領域で活用が進みつつある。中国では個人の与信を点数化して表示するスコアリングサービスが広がっており、日本でもこうした動きが少しずつ広がりつつある。だが、そこに落とし穴はないのだろうか。AIから受ける恩恵の側面だけに光を当てていないだろうか。憲法学を専門とする慶應義塾大学法科大学院の山本龍彦教授に聞いた』、法的側面からの見解は貴重だ。
・『憲法はプライバシーの権利を保障している。一方、AI(人工知能)やビッグデータの世界では情報を集めることが重要になる。プライバシーの考え方とデータがけん引する社会の間には、そもそも一定の矛盾が存在している。大学院の修士課程で研究していた「遺伝情報の保護」を例に取ろう。 遺伝情報は生まれつきのものだ。疾病は本来、遺伝情報と環境要因が影響しあって発現するものだが、遺伝情報から読み取れるリスクだけでその後の人生が決定されるような風潮がある。 遺伝情報の解析とAIは確率的な予測をするという点で非常に相性がいいが、遺伝情報は本人の努力によって変えられるものではない。AIの予測精度を高めるためにこうした情報を広く集め始めると、「生まれによる差別」が間違った形で復活する可能性も出てきてしまう。 例えば、FinTech業界で起きている変化を見てみよう。中国のアリババグループが運営する「芝麻信用」は個人の信用をスコア付けする仕組みだ。スコアの高い人は恩恵を受け、スコアの低い人は制限を受ける。 本来、FinTechが「Financial Inclusion(金融包摂)」を目的として生まれたものであれば、このスコアリングの仕組みは貨幣ではない価値がけん引するという点で、従来はチャンスを与えられなかった人に恩恵をもたらす側面がある。伝統的な信用情報を持ち得ていない人でも、「線」でその人の行動を捉えることによって包摂されていくためだ』、「プライバシーの考え方とデータがけん引する社会の間には、そもそも一定の矛盾が存在している」というのは、鋭い指摘だ。
・『オーウェルからカフカの世界へ だが、問題もある。一つは監視という問題だ。「線」で捉えるというのは、極端に言えば「ずっと見ている」ということを意味する。従来は社会的な評価の対象にならなかった領域、例えば私的な領域が評価対象になる可能性もある。 極めてプライベートな空間である自宅でごろごろ寝ている行為ですら、センシング技術や手に持ったスマートフォンで把握される恐れがある。そうなると、リラックスできる安息地がこの世界から無くなってしまうかもしれない。 スコアの高い人も低い人も、常に緊張にさらされる問題もある。仮に公的な機関がスコアを管理すると、多くの人が現状の政権を批判するような活動を控えるようになるだろう。行動に萎縮が生まれ、「自由」の意味が変わってしまう。 法治国家は事前に罰せられるルールを明確化している。予測可能性が立つことで自由が生まれる。これが法による支配のメリットでもある。 ところがアルゴリズムの世界では事前に不利益を予知しにくい。そのため予測可能性が立たず、自身のどのような行動がマイナス要因になるのかが分からず、萎縮効果が生まれる。こうした支配状況はアルゴリズムとデモクラシーを掛け合わせた「algocracy(アルゴクラシー)」とも呼ばれる。 アルゴリズムによって規律される社会では、ブラックボックスが生まれてしまう。個人にとっての自由の意味が変わり、社会的に見れば民主主義にも影響を与えることになる』、「アルゴクラシー」とは恐ろしいような話だ。
・『さらに私が「バーチャルスラム」と呼ぶ問題が出てくる。スコアが社会的なインフラと結びつくと、スコアの低い人が排除される社会になる。社会生活で不利益を被ることになり、差別を受け始めるのだ。なぜスコアが低くなったのかが分かれば改善の余地もあるが、ブラックボックスであれば手の施しようがない。 英国のSF作家、ジョージ・オーウェルは小説『1984』で監視社会の暴走を描いた。一方、チェコの作家、フランツ・カフカは小説『審判』で、理由も分からず逮捕され、理由も述べられないまま裁判にかけられ処刑される主人公の不条理を描いた。 D.ソロブという情報法学者は、データ社会がブラックボックスを放置したまま発展を続けていくと、「オーウェルの世界」から「カフカの世界」へと移行すると指摘する。不条理な没落によってスコアが低い人が二度とはい上がれず、権力主体が誰なのかは分からない。こうした人たちがバーチャル空間のなかで吹きだまりを作り、バーチャルスラムを形成してしまう。 政府や民間企業は当然、こうした問題を把握している。例えば内閣府がまとめている「人間中心のAI社会原則(案)」では、「公平性、説明責任及び透明性の原則」を掲げている。EU(欧州連合)のGDPR(一般データ保護規則)でも「Automated individual decision making(個人に関する自動化された意思決定)」を行う場合の説明義務に触れている。 民間でも「Explainable AI(説明可能なAI)」に取り組み始めた企業が出ている。ロジックを残し、説明可能にしておくことで、AIをホワイトボックス化する取り組みだ』、「AIをホワイトボックス化する取り組み」は大いに推進してほしいところだ。
・『「主義」や「憲法」による差異 共産主義は基本的な考え方として私有財産制度を否定している。これに対し、資本主義は財を囲い込む。データを財として見れば分かりやすいが、共産主義国家は財を私有せずに皆で共有するのに対し、資本主義国家は横串にさせない。このように国家としての「主義」の違いは、データの取り扱いという点に深く影響を及ぼす。 憲法文化も大きな差異を生む。「自由(liberty)」をベースにプライバシーを考える米国では「表現の自由」が強い。マーケティングにおいても、データ収集・プロファイリング・データの販売は表現の自由として憲法上、保護されている。そのためにGAFAのような巨大企業が育っていく。 一方、「尊厳(dignity)」をベースにプライバシーを考えるEUは、人をツール化(道具化)することに対して否定的だ。そのため、スコアリングやターゲティングといった人をモノとして見る行為を良しとせず、国民のデータベースを作ることにも抵抗感がある。 だが、米国では選挙コンサルティング会社のケンブリッジ・アナリティカによる米Facebookのデータ不正収集事件で潮目が変わりつつある。米GoogleやFacebookと異なり、広告収入に依存しない米Microsoftや米Appleが盛んにプライバシーの尊重をうたい始めていることからも、その変化は見て取れる。誇りに思っていた表現の自由がデータの乱用によって侵されたという事態に国民が憤りを感じているためだ。 では、どのような対処が望ましいのだろうか。 一つは、スコアなどの情報を金融の世界だけにとどめておくことだ。利用範囲を限定し、社会生活のインフラと結び付けないようにすれば、差別を生まない環境を作れる。もう一つはスコアを多元化しておくことだ。複数の事業者が手掛ける形にすれば一元化を避けられ、国民に選択肢を与えることができる。 政府が厳しい規制をかける段階にはまだ来ていない。民間企業が今後どのような動きを見せるのかは分からない。自由な活動を政府が規制するタイミングではないだろう』、米国でも「米Microsoftや米Appleが盛んにプライバシーの尊重をうたい始めている」というのは好ましい変化だ。「スコアなどの情報を金融の世界だけにとどめておく」、「スコアを多元化しておく」という提言には大賛成である。
第四に、解剖学者の養老孟司氏が文芸春秋3月号に寄稿した「AIと日本人~AIが人間を情報化する新たな「脳化社会」を生き抜く処方箋とは」のポイントを紹介しよう。
・『チンパンジーとの違い 人間とは「意識=理性」によって「同じ」という概念を獲得した生き物。「等価交換」が出来るようになったり、言葉やお金、民主主義を生み出した』、「「同じ」という概念を獲得した」ことは、確かに大きな進歩をもたらしたようだ。
・『本人がノイズに 現代は脳の時代で「脳化社会」と定義。あらゆる人工物は、脳機能の表出。30年間のデジタル化により、社会の「脳化」はますます鮮明に。世界が究極的な理性主義になっている。「理性」を突き詰めたのがコンピュータ、その先にあるAI。現代社会における「本人」は「ノイズ」でしかない(例えば本人確認では書類の方が大事)。「相模原障害者施設の19人殺し」の背景には、帰納的に使えるか否かのイチかゼロかの発想で、全てのものには意味がなければならないという心理がある。さらにその意味が「自分にわかる筈だ」という暗黙の了解もある。後段が問題で、「私にはそういうものの存在意義がわからないから、意味がないと勝手に決めてしまっている』、「現代社会における「本人」は「ノイズ」でしかない」というのは面白い比喩だ。「相模原障害者施設の19人殺し」の背景の分析も興味深い。
・『人間の悪いクセ アメリカで人間の能力を上げるヒューマン・エンハンスメントを真面目に考えている。この問題が孕む優生思想の危険性』、「ヒューマン・エンハンスメント」が「優生思想の危険性」を孕んでいるというのも、言われてみればその通りなのだろう。
・『「わかる」ことの落とし穴 東大などの国公立大学に進学する生徒は読解力があるが、その帰結として、空気を読み「忖度する」官僚のような負の側面。世の中には理屈のないもの、感覚的なものが存在するのだから、子供たちの”差異”を大切にする感覚を日常生活において持ち続けることが、非常に大事。テクロノジーやAIの発展を止めることは出来ない。戦前の軍隊と同じように、一度、お金と労力を投資してシステム化してしまうと、慣性が大きくなってしまい、後戻り出来ないからです。だからこそ、世界には「同一性」と「差異」が併存。それが、AIが生み出す新たな脳化社会への処方箋になるかもしれません』、「子供たちの”差異”を大切にする感覚を日常生活において持ち続けることが、非常に大事」というのは、その通りだ。そうすることで、企業でも、性別や人種の違いに限らず、年齢、性格、学歴、価値観などの多様性を受け入れ、広く人材を活用することで生産性を高めようとするダイバーシティを広く認めることにもつながっていくだろう。
先ずは、4月8日付け東洋経済オンライン「「機械に大半の仕事を奪われる」説の大きな誤解 日本人が「デジタル失業」しにくい5つの理由」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/275351
・『95.4%――。これは野村総合研究所が2015年に発表した、「日本におけるコンピューター化と仕事の未来」というイギリス・オックスフォード大学との共同研究における、「タクシー運転手」の今後10~20年後の「機械による代替可能性」である。同研究では、職業がAI(人工知能)やロボティクスなどの機械によってどれだけ代替されるかを検証した。 本当に95.4%という高確率でタクシー運転手という職業が機械に代替されるのか。確かに、自動運転が実用化されたら、無人タクシーは普及する可能性が高い。すでにタクシー大手の大和自動車交通は、昨年から公道や住宅地で自動運転の実証実験を開始。「限定区域内での自動運転タクシーの実現は近い」と同社の前島忻治社長は語る。 ただ、「安全・安心を今以上に担保するために、しばらくは乗務員が同乗することになる」と、前島社長は釘を刺す。公道ではどんな危険が待ち受けているかわからない。しばらくは非常時のトラブル対応が乗務員の仕事になるという。さらに、高齢者が多く利用する過疎地では、「(乗客との)コミュニケーション力が必要になる。運転スキルより、心理学や接客の心得がある人材が必要になる」(前島社長)。 加えて無人化が実現すると、タクシー会社には車内や周囲の状況を、カメラを通じて監視する仕事が生まれると予想される。その場合、一定数の運転手は、そうした新たな職業にシフトする可能性がある。それも考慮すると、タクシー運転手という職業の95.4%が機械に代替されるという予測は、現実とはギャップがあることがわかる』、確かに「AI(人工知能)やロボティクスなどの機械によってどれだけ代替されるか」というのは難しい問題のようだ。
・『「AIに仕事を奪われる」説が横行 『週刊東洋経済』は4月8日発売号で「AI時代に食える仕事食えない仕事」を特集。そこでは多くの人にとって身近な18職種の自動化の影響を、取材に基づき検証している。 野村総研の予測値は、専門家が設定した特定の職業における自動化の傾向をAIに学習させ、他の職業に当てはめることで導き出した。これは2013年、英オックスフォード大のカール・B・フレイ博士とマイケル・A・オズボーン准教授が発表した「雇用の未来」という研究論文と同様の手法を用いている。 同論文では、「アメリカでは10~20年以内に労働人口の47%が機械に代替されるリスクが高い」と発表。その反響は大きく、当時「47%」という数値と併せ、「AIに仕事を奪われる」といったセンセーショナルな報道が繰り返され、「AIによる職業消滅論」の関連書籍の発刊も相次いだ。 ただその後、専門家の間では同リポートの問題点を指摘する声が次々と上がった。経済産業研究所の岩本晃一上席研究員は、「47%という数値は特殊な前提での予測。雇用の未来の研究では、その後に研究結果を発表した独ZEW研究所のメラニー・アーンツ氏らの貢献のほうが大きい」と指摘する。 アーンツ氏らの研究結果の特徴は、オズボーン氏らのリポートが考慮していなかった「タスクベース」の変化を踏まえたもの。本来、仕事はさまざまな業務(タスク)の積み重ねである。いくら自動化が進んでも、実際には職業そのものが機械に置き換わるわけではない。その一部のタスクが置き換わっていくのだ。 OECD(経済協力開発機構)は、アーンツ氏らのそうした現実を踏まえた研究結果を基に2016年にリポートを発表。そこでは、自動化の可能性が7割を超える職業はOECD21カ国平均で「9%」という予測値が掲載された』、どんな方法論でやるか如何で、試算の数字は大きく異なるようだ。
・『「未来の仕事のデータは存在しない」 しかし、アーンツ氏らの研究結果にも加味されていない要素がある。その1つは「現実社会では新しい仕事が生まれる」ことである。前述のタクシー運転手の「カメラを通じて監視する仕事」がこれに当たる。 野村総研リポートを担当した上田恵陶奈上級コンサルタントも、「未来の仕事のデータは存在しないため、調査においては、現状の仕事が未来永劫変わらないとの前提を置いた。しかし、時代とともに仕事は変わる。定量的予測にはどうしても限界がある」と話す。それでも調査を実施した狙いについて、「将来の労働力不足を踏まえ、自動化による仕事の代替の可能性を検証しようとした」(上田氏)と振り返る。 では実際、職業の自動化による影響はどのように表れるのか――。現実社会を見据えると、上記の①「職業はタスクベースで変化する」、②「新しい仕事が生まれる」という要素以外にも、これまでの定量予測には含まれていない3つの要素がある。それは③「技術進化&コストの影響」、④「人材需給の影響」、そして⑤「社会制度や慣習の影響」である。 これまでの「AIによる職業消滅論」の多くでは、AIやロボット技術が、想定されるかぎり進化することを前提に、職業への影響を予測している。しかし、技術進化は一足飛びには進みにくい。その実現のスピードに加え、コストとの見合いで導入するメリットがあるかが、普及のカギを握る。それが③「技術進化&コストの影響」である。 ④「人材需給の影響」はどうか。今でも現実社会で、デジタル化やそれにAI技術を組み合わせた自動化は普及し始めている。だが、その中心はサービス業や建設業をはじめとする人材不足が深刻な業界。いくら自動化の技術開発が進んでも、余剰人員を抱える業界や企業ほど「まずは人にやってもらう」という動機が働きやすい。よほど低コスト化が進まない限り、自動化が進みにくい分野があるのが現実だ。 最後に⑤「社会制度や慣習の影響」も現実社会では避けて通れない。役所や金融機関のサービス、企業間契約などでは、人と対面し、捺印した書類で手続きするといったアナログなルール、慣習が多く残る。デジタル化に一気に舵を切ろうにも、デジタルデバイド(情報格差)の影響を危惧する声などが上がり、一足飛びに進めにくい分野がある』、確かに現実にはこうした定性的要素を考慮する必要がありそうだ。
・『身の回りの環境変化への想像が不可欠 専門家の間では、「こうした現実をすべて踏まえた定量的予測は不可能」というのが常識。現実社会は複雑だからこそ、ある特定の条件下に絞った形で、定量予測が行われてきた経緯がある。 すでに単純な定型業務におけるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入など、人の仕事の機械への代替は進んでいる。そうした変化によって雇用に影響が及ぶ人も広がるだろう。デジタル失業が発生しない、というわけではない。 ただ実際に起こるのは、職業そのものの消滅というより、タスクベースでの増減という変化が大半だろう。変化の様相は職業によって異なる。だからこそ職業の未来は個別に、かつタスクベースで、さらに社会変化も含めて見通すことが重要になる。 現実にどんな事態が発生するのか――。各個人が身の回りの環境変化に想像をめぐらせることが不可欠といえる』、「こうした現実をすべて踏まえた定量的予測は不可能」なので、「各個人が身の回りの環境変化に想像をめぐらせることが不可欠」という結論では、「なあーんだ」と言いたくもなるが、これが正直な見方なのだろう。
次に、5月2日付け東洋経済オンライン「「中国発AI」で、通訳も速記も、もう必要ない ファーウェイやBATを超える、ものすごい企業」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/278801
・『会議で議事録を取る必要はなし。外国企業との商談も通訳いらず――。 そんな夢のような世界を、中国屈指の音声認識AI(人工知能)企業である、アイフライテックがすでに実現している。 同社が開発した「智能会議系統(スマート会議システム)」は、会議中の発言をAIで認識し、自動で文字に変換してスクリーンに映し出す。音声認識の正確性は中国語で97%、英語で95%と、プロの速記者をも上回る高さだ。声紋を分析して話者を識別できるのはもちろんのこと、中国語と英語だけでなく日本語や韓国語にも対応し、リアルタイムでスクリーンに対訳を表示する機能を併せ持つ。中国語では、会議の要点を短くまとめた要約すら、自動で作成可能だという。 人間のような声を人工的に生み出す音声合成の技術も発達している。その名も「AIカスタマーサービスロボット」。中国火鍋チェーン大手で日本にも店舗を持つ、海底撈(ハイディラオ)などの外食企業で活用されている。予約を取るため店舗に電話してきた客と、まるで人間同然のスムーズさでやりとりができる。研究部門のトップを務める李世鵬・アイフライテック副社長は、「電話の相手が人間かロボットかを判別するのは難しい(くらいの自然さ)」と豪語する』、アイフライテックの「スマート会議システム」や「AIカスタマーサービスロボット」は、確かに凄い性能のようだ。
・『アマゾンやグーグルに次ぐ、中国トップの破壊力 元々アイフライテックは1999年設立の学生ベンチャーだった。 そのミッションは「コンピュータに聞き、話し、理解し、考えさせる」「AIでよりよい世界をつくる」ことである。音声認識と音声合成技術の高さを武器に、AI大国を目指す中国政府からの支援も受けながら急成長し、2008年に上場。2017年版の『MITテクノロジーレビュー』によると、革新的な技術と効果的なビジネスモデルを組み合わせた「スマート・カンパニー50」で、アメリカのアマゾンや、グーグルの親会社アルファベットに次ぐ、世界第6位に選ばれた。中国勢としては巨大IT企業であるBAT(バイドゥ、アリババグループ、テンセント)を抑えてトップだ。 今や1万人以上の従業員を抱えており、時価総額も1兆円を超える大企業となった。4月19日に発表された2018年度の業績は、売上高約1300億円(前期比45%増)、純利益約90億円(同24%増)ときわめて好調だ。 こうした最先端の企業を含め、『会社四季報 業界地図』(東洋経済新報社)では、自動車・商社・ITなど166業界を網羅。主要な業界プレーヤーやその関係性を図解している。トップページを飾るのはAI業界で、中国企業ではBATの3社を掲載中だ。今後はアイフライテックのような新興企業にも注目していく。 そのアイフライテックが手がけるのは、企業向けサービスだけではない。今年1月、アメリカのラスベガスで開かれた世界最大の電子機器見本市CESで発表した「AIノート」は、有望な製品の1つだ。 A5サイズで厚さは7.5mm、重さは360gと軽く、アマゾンの電子書籍リーダー「Kindle(キンドル)」を彷彿とさせる。電子書籍を読む機能もあるが、それだけではない。スマート会議システムと同様、音声を自動かつほぼ同時に文字変換し、画面上に表示できるのだ。まるでノートが速記者の代わりをしてくれるようである』、アイフライテックは、「スマート・カンパニー50」で「世界第6位」、「中国勢」トップになるだけの実力を備えているようだ。
・『専門分野のデータが次々と蓄積される 中国AIの動きには、日本の電子機器メーカーも後押しする。ワコムが供給する付属のデジタルペンで通常のノートのようにメモを取ると、自動変換されたテキストの該当部分が網掛けでハイライトされる。記録した内容は簡単にキーワード検索でき、どのメモに何を記録したか、思い出しながら探す手間を省くことが可能。持ち運びもしやすいため、活用シーンは会議だけでなく、学校の授業や取材など多様だ。中国語と英語の同時翻訳機能もリリース予定である。 「将来、オフィスで働く人は、AIノートさえ持てばよいことになる」(李副社長)。価格は約8万円で、現在は中国でのみ展開しているが、販売台数はすでに30万台を突破。海外版の発売も検討中だという。 AIノートに先駆けて市販化されたアイフライテックのポータブル音声翻訳機は、日本のアマゾンのサイトでも約6.5万円で販売されている。50種類もの言語を認識、中国語に同時吹き替えできるだけでなく、逆に中国語を外国語に吹き替えすることも可能で、英語・日本語・韓国語・ロシア語はオフラインでも中国語から変換できる。レストランのメニューや駅の標識などの文字情報を、”画像認識”して翻訳する機能も備えるという。同社は今後、医療や金融、ITなど産業翻訳の分野で蓄積したビッグデータを武器に、専門用語の翻訳機能を強化し続ける方針だ。 人間の目、耳、そして脳までも置き換えるAIの進化。産業界で浸透するアイフライテックなど中国企業の躍進を見る限り、通訳、速記者の仕事がAIに奪われる日は、近い。(リンク先には米国勢、中国勢の図あり)』、英語版や日本語版などが出てくれば、市場を席捲し、通訳、速記者の仕事は明らかに代替されるだろう。日本企業が部品供給だけに留まっているのは、残念だ。
第三に、5月15日付け日経ビジネスオンラインが掲載した山本龍彦=慶応義塾大学法科大学院教授へのインタビュー「AIが生み出す「不条理な没落」にどう対峙すべきか」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/051400009/?P=1
・『あらゆる分野でAI(人工知能)の活用が広がっている。特にFinTech(金融と技術の融合)分野では、与信領域で活用が進みつつある。中国では個人の与信を点数化して表示するスコアリングサービスが広がっており、日本でもこうした動きが少しずつ広がりつつある。だが、そこに落とし穴はないのだろうか。AIから受ける恩恵の側面だけに光を当てていないだろうか。憲法学を専門とする慶應義塾大学法科大学院の山本龍彦教授に聞いた』、法的側面からの見解は貴重だ。
・『憲法はプライバシーの権利を保障している。一方、AI(人工知能)やビッグデータの世界では情報を集めることが重要になる。プライバシーの考え方とデータがけん引する社会の間には、そもそも一定の矛盾が存在している。大学院の修士課程で研究していた「遺伝情報の保護」を例に取ろう。 遺伝情報は生まれつきのものだ。疾病は本来、遺伝情報と環境要因が影響しあって発現するものだが、遺伝情報から読み取れるリスクだけでその後の人生が決定されるような風潮がある。 遺伝情報の解析とAIは確率的な予測をするという点で非常に相性がいいが、遺伝情報は本人の努力によって変えられるものではない。AIの予測精度を高めるためにこうした情報を広く集め始めると、「生まれによる差別」が間違った形で復活する可能性も出てきてしまう。 例えば、FinTech業界で起きている変化を見てみよう。中国のアリババグループが運営する「芝麻信用」は個人の信用をスコア付けする仕組みだ。スコアの高い人は恩恵を受け、スコアの低い人は制限を受ける。 本来、FinTechが「Financial Inclusion(金融包摂)」を目的として生まれたものであれば、このスコアリングの仕組みは貨幣ではない価値がけん引するという点で、従来はチャンスを与えられなかった人に恩恵をもたらす側面がある。伝統的な信用情報を持ち得ていない人でも、「線」でその人の行動を捉えることによって包摂されていくためだ』、「プライバシーの考え方とデータがけん引する社会の間には、そもそも一定の矛盾が存在している」というのは、鋭い指摘だ。
・『オーウェルからカフカの世界へ だが、問題もある。一つは監視という問題だ。「線」で捉えるというのは、極端に言えば「ずっと見ている」ということを意味する。従来は社会的な評価の対象にならなかった領域、例えば私的な領域が評価対象になる可能性もある。 極めてプライベートな空間である自宅でごろごろ寝ている行為ですら、センシング技術や手に持ったスマートフォンで把握される恐れがある。そうなると、リラックスできる安息地がこの世界から無くなってしまうかもしれない。 スコアの高い人も低い人も、常に緊張にさらされる問題もある。仮に公的な機関がスコアを管理すると、多くの人が現状の政権を批判するような活動を控えるようになるだろう。行動に萎縮が生まれ、「自由」の意味が変わってしまう。 法治国家は事前に罰せられるルールを明確化している。予測可能性が立つことで自由が生まれる。これが法による支配のメリットでもある。 ところがアルゴリズムの世界では事前に不利益を予知しにくい。そのため予測可能性が立たず、自身のどのような行動がマイナス要因になるのかが分からず、萎縮効果が生まれる。こうした支配状況はアルゴリズムとデモクラシーを掛け合わせた「algocracy(アルゴクラシー)」とも呼ばれる。 アルゴリズムによって規律される社会では、ブラックボックスが生まれてしまう。個人にとっての自由の意味が変わり、社会的に見れば民主主義にも影響を与えることになる』、「アルゴクラシー」とは恐ろしいような話だ。
・『さらに私が「バーチャルスラム」と呼ぶ問題が出てくる。スコアが社会的なインフラと結びつくと、スコアの低い人が排除される社会になる。社会生活で不利益を被ることになり、差別を受け始めるのだ。なぜスコアが低くなったのかが分かれば改善の余地もあるが、ブラックボックスであれば手の施しようがない。 英国のSF作家、ジョージ・オーウェルは小説『1984』で監視社会の暴走を描いた。一方、チェコの作家、フランツ・カフカは小説『審判』で、理由も分からず逮捕され、理由も述べられないまま裁判にかけられ処刑される主人公の不条理を描いた。 D.ソロブという情報法学者は、データ社会がブラックボックスを放置したまま発展を続けていくと、「オーウェルの世界」から「カフカの世界」へと移行すると指摘する。不条理な没落によってスコアが低い人が二度とはい上がれず、権力主体が誰なのかは分からない。こうした人たちがバーチャル空間のなかで吹きだまりを作り、バーチャルスラムを形成してしまう。 政府や民間企業は当然、こうした問題を把握している。例えば内閣府がまとめている「人間中心のAI社会原則(案)」では、「公平性、説明責任及び透明性の原則」を掲げている。EU(欧州連合)のGDPR(一般データ保護規則)でも「Automated individual decision making(個人に関する自動化された意思決定)」を行う場合の説明義務に触れている。 民間でも「Explainable AI(説明可能なAI)」に取り組み始めた企業が出ている。ロジックを残し、説明可能にしておくことで、AIをホワイトボックス化する取り組みだ』、「AIをホワイトボックス化する取り組み」は大いに推進してほしいところだ。
・『「主義」や「憲法」による差異 共産主義は基本的な考え方として私有財産制度を否定している。これに対し、資本主義は財を囲い込む。データを財として見れば分かりやすいが、共産主義国家は財を私有せずに皆で共有するのに対し、資本主義国家は横串にさせない。このように国家としての「主義」の違いは、データの取り扱いという点に深く影響を及ぼす。 憲法文化も大きな差異を生む。「自由(liberty)」をベースにプライバシーを考える米国では「表現の自由」が強い。マーケティングにおいても、データ収集・プロファイリング・データの販売は表現の自由として憲法上、保護されている。そのためにGAFAのような巨大企業が育っていく。 一方、「尊厳(dignity)」をベースにプライバシーを考えるEUは、人をツール化(道具化)することに対して否定的だ。そのため、スコアリングやターゲティングといった人をモノとして見る行為を良しとせず、国民のデータベースを作ることにも抵抗感がある。 だが、米国では選挙コンサルティング会社のケンブリッジ・アナリティカによる米Facebookのデータ不正収集事件で潮目が変わりつつある。米GoogleやFacebookと異なり、広告収入に依存しない米Microsoftや米Appleが盛んにプライバシーの尊重をうたい始めていることからも、その変化は見て取れる。誇りに思っていた表現の自由がデータの乱用によって侵されたという事態に国民が憤りを感じているためだ。 では、どのような対処が望ましいのだろうか。 一つは、スコアなどの情報を金融の世界だけにとどめておくことだ。利用範囲を限定し、社会生活のインフラと結び付けないようにすれば、差別を生まない環境を作れる。もう一つはスコアを多元化しておくことだ。複数の事業者が手掛ける形にすれば一元化を避けられ、国民に選択肢を与えることができる。 政府が厳しい規制をかける段階にはまだ来ていない。民間企業が今後どのような動きを見せるのかは分からない。自由な活動を政府が規制するタイミングではないだろう』、米国でも「米Microsoftや米Appleが盛んにプライバシーの尊重をうたい始めている」というのは好ましい変化だ。「スコアなどの情報を金融の世界だけにとどめておく」、「スコアを多元化しておく」という提言には大賛成である。
第四に、解剖学者の養老孟司氏が文芸春秋3月号に寄稿した「AIと日本人~AIが人間を情報化する新たな「脳化社会」を生き抜く処方箋とは」のポイントを紹介しよう。
・『チンパンジーとの違い 人間とは「意識=理性」によって「同じ」という概念を獲得した生き物。「等価交換」が出来るようになったり、言葉やお金、民主主義を生み出した』、「「同じ」という概念を獲得した」ことは、確かに大きな進歩をもたらしたようだ。
・『本人がノイズに 現代は脳の時代で「脳化社会」と定義。あらゆる人工物は、脳機能の表出。30年間のデジタル化により、社会の「脳化」はますます鮮明に。世界が究極的な理性主義になっている。「理性」を突き詰めたのがコンピュータ、その先にあるAI。現代社会における「本人」は「ノイズ」でしかない(例えば本人確認では書類の方が大事)。「相模原障害者施設の19人殺し」の背景には、帰納的に使えるか否かのイチかゼロかの発想で、全てのものには意味がなければならないという心理がある。さらにその意味が「自分にわかる筈だ」という暗黙の了解もある。後段が問題で、「私にはそういうものの存在意義がわからないから、意味がないと勝手に決めてしまっている』、「現代社会における「本人」は「ノイズ」でしかない」というのは面白い比喩だ。「相模原障害者施設の19人殺し」の背景の分析も興味深い。
・『人間の悪いクセ アメリカで人間の能力を上げるヒューマン・エンハンスメントを真面目に考えている。この問題が孕む優生思想の危険性』、「ヒューマン・エンハンスメント」が「優生思想の危険性」を孕んでいるというのも、言われてみればその通りなのだろう。
・『「わかる」ことの落とし穴 東大などの国公立大学に進学する生徒は読解力があるが、その帰結として、空気を読み「忖度する」官僚のような負の側面。世の中には理屈のないもの、感覚的なものが存在するのだから、子供たちの”差異”を大切にする感覚を日常生活において持ち続けることが、非常に大事。テクロノジーやAIの発展を止めることは出来ない。戦前の軍隊と同じように、一度、お金と労力を投資してシステム化してしまうと、慣性が大きくなってしまい、後戻り出来ないからです。だからこそ、世界には「同一性」と「差異」が併存。それが、AIが生み出す新たな脳化社会への処方箋になるかもしれません』、「子供たちの”差異”を大切にする感覚を日常生活において持ち続けることが、非常に大事」というのは、その通りだ。そうすることで、企業でも、性別や人種の違いに限らず、年齢、性格、学歴、価値観などの多様性を受け入れ、広く人材を活用することで生産性を高めようとするダイバーシティを広く認めることにもつながっていくだろう。
タグ:私的な領域が評価対象になる可能性も 「AIと日本人~AIが人間を情報化する新たな「脳化社会」を生き抜く処方箋とは」 スコアが社会的なインフラと結びつくと、スコアの低い人が排除される社会になる。社会生活で不利益を被ることになり、差別を受け始めるのだ 「相模原障害者施設の19人殺し」の背景 Microsoftや米Appleが盛んにプライバシーの尊重をうたい始めている 一つは監視という問題 私が「バーチャルスラム」と呼ぶ問題が出てくる オーウェルからカフカの世界へ 「「機械に大半の仕事を奪われる」説の大きな誤解 日本人が「デジタル失業」しにくい5つの理由」 アルゴリズムによって規律される社会では、ブラックボックスが生まれてしまう。個人にとっての自由の意味が変わり、社会的に見れば民主主義にも影響を与えることになる 独ZEW研究所のメラニー・アーンツ氏らの貢献 世界第6位に選ばれた。中国勢としては巨大IT企業であるBAT(バイドゥ、アリババグループ、テンセント)を抑えてトップ ジョージ・オーウェル ③「技術進化&コストの影響」 公的な機関がスコアを管理すると、多くの人が現状の政権を批判するような活動を控えるようになるだろう スマート・カンパニー50 もう一つはスコアを多元化しておくこと チンパンジーとの違い 「私にはそういうものの存在意義がわからないから、意味がないと勝手に決めてしまっている プライバシーの考え方とデータがけん引する社会の間には、そもそも一定の矛盾が存在 アマゾンやグーグルに次ぐ、中国トップの破壊力 ①「職業はタスクベースで変化する」 スマート会議システム 東洋経済オンライン 「未来の仕事のデータは存在しない」 世の中には理屈のないもの、感覚的なものが存在する 文芸春秋3月号 養老孟司 「同じ」という概念を獲得 algocracy(アルゴクラシー) ロジックを残し、説明可能にしておくことで、AIをホワイトボックス化する取り組みだ リラックスできる安息地がこの世界から無くなってしまうかもしれない 専門分野のデータが次々と蓄積される AIカスタマーサービスロボット 「こうした現実をすべて踏まえた定量的予測は不可能」 身の回りの環境変化への想像が不可欠 95.4% Financial Inclusion 時代とともに仕事は変わる。定量的予測にはどうしても限界がある」 法治国家は事前に罰せられるルールを明確化している。予測可能性が立つことで自由が生まれる。これが法による支配のメリットでもある (その8)(「機械に大半の仕事を奪われる」説の大きな誤解 日本人が「デジタル失業」しにくい5つの理由、「中国発AI」で、通訳も速記も もう必要ない ファーウェイやBATを超える ものすごい企業、AIが生み出す「不条理な没落」にどう対峙すべきか、養老孟司氏:AIと日本人) 「AIが生み出す「不条理な没落」にどう対峙すべきか」 電子書籍を読む機能もあるが、それだけではない。スマート会議システムと同様、音声を自動かつほぼ同時に文字変換し、画面上に表示できる フランツ・カフカは小説『審判』で、理由も分からず逮捕され、理由も述べられないまま裁判にかけられ処刑される主人公の不条理を描いた AI 中国語では、会議の要点を短くまとめた要約すら、自動で作成可能 本人確認では書類の方が大事 アイフライテック アルゴリズムの世界では事前に不利益を予知しにくい。そのため予測可能性が立たず、自身のどのような行動がマイナス要因になるのかが分からず、萎縮効果が生まれる スコアなどの情報を金融の世界だけにとどめておくこと 伝情報は本人の努力によって変えられるものではない。AIの予測精度を高めるためにこうした情報を広く集め始めると、「生まれによる差別」が間違った形で復活する可能性も出てきてしまう AIノート カール・B・フレイ博士とマイケル・A・オズボーン准教授が発表した「雇用の未来」という研究論文と同様の手法 「タクシー運転手」の今後10~20年後の「機械による代替可能性」 会議中の発言をAIで認識し、自動で文字に変換してスクリーンに映し出す。音声認識の正確性は中国語で97%、英語で95%と、プロの速記者をも上回る高さだ 「自由(liberty)」をベースにプライバシーを考える米国では「表現の自由」が強い 「「中国発AI」で、通訳も速記も、もう必要ない ファーウェイやBATを超える、ものすごい企業」 米国では選挙コンサルティング会社のケンブリッジ・アナリティカによる米Facebookのデータ不正収集事件で潮目が変わりつつある ④「人材需給の影響」 FinTech ⑤「社会制度や慣習の影響」 日経ビジネスオンライン 『1984』で監視社会の暴走を描いた 山本龍彦=慶応義塾大学法科大学院教授 本人がノイズに 「AIに仕事を奪われる」説が横行 「等価交換」が出来るようになったり、言葉やお金、民主主義を生み出した OECD(経済協力開発機構)は、アーンツ氏らのそうした現実を踏まえた研究結果を基に2016年にリポートを発表。そこでは、自動化の可能性が7割を超える職業はOECD21カ国平均で「9%」という予測値が掲載 各個人が身の回りの環境変化に想像をめぐらせることが不可欠といえる 不条理な没落によってスコアが低い人が二度とはい上がれず、権力主体が誰なのかは分からない。こうした人たちがバーチャル空間のなかで吹きだまりを作り、バーチャルスラムを形成してしまう 「わかる」ことの落とし穴 「主義」や「憲法」による差異 アメリカで人間の能力を上げるヒューマン・エンハンスメントを真面目に考えている。この問題が孕む優生思想の危険性 世界には「同一性」と「差異」が併存。それが、AIが生み出す新たな脳化社会への処方箋になるかもしれません ②「新しい仕事が生まれる」 子供たちの”差異”を大切にする感覚を日常生活において持ち続けることが、非常に大事 「タスクベース」の変化 人の仕事の機械への代替は進んでいる D.ソロブという情報法学者は、データ社会がブラックボックスを放置したまま発展を続けていくと、「オーウェルの世界」から「カフカの世界」へと移行すると指摘 RPA 人工知能 専門家の間では同リポートの問題点を指摘する声が次々と上がった 「アメリカでは10~20年以内に労働人口の47%が機械に代替されるリスクが高い」 「尊厳(dignity)」をベースにプライバシーを考えるEUは、人をツール化(道具化)することに対して否定的
ベンチャー(その4)(バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生 治験中断の誤算、「起業家うつ」増加の実態 メンタルヘルスを損なう6つの事情、「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由) [技術革新]
昨日に続いて、ベンチャー(その4)(バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生 治験中断の誤算、「起業家うつ」増加の実態 メンタルヘルスを損なう6つの事情、「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由)を取上げよう。
先ずは、昨年9月26日付け東洋経済オンライン「バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生、治験中断の誤算」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/239264
・『日本を代表するバイオベンチャーが岐路に立たされている。そーせいグループは9月18日、アルツハイマー病(AD)やレビー小体型認知症(DLB)などの治療候補薬で行っていた臨床試験(治験)を自主的に中断すると公表した。 アメリカでは提携先の製薬大手アラガン(本社・アイルランド)が2017年からAD向け適応の治験第1相を開始、日本国内ではグループの中核子会社ヘプタレス・セラピューテックが、DLB向け適応の治験第2相を開始したばかりだった』、こうしたことは、バイオベンチャーではありがちだ。
・『最大3600億円の超大型提携 そーせいにとって、この薬は極めて重要だ。そーせいは2016年4月、ほかの創薬候補を含めて中枢神経系疾患分野でアラガンと大型提携を結んでいる。いずれも同年2月に買収したヘプタレスの技術を活用したものだった。 その内容は、アラガンにグローバルでの開発・販売権を与える代わりに、契約一時金137億円、化合物のタイプ別に開発進捗に応じたマイルストン収入最大730億円、さらに販売目標の達成に応じたマイルストン収入として最大で2743億円(発表時の換算レートでの計算値)が入るというもの。 想定収益合計は最大3600億円に達し、ほかに売上高に応じた最大2ケタの段階的ロイヤルティの受領権もある。日本のバイオベンチャーとしては破格だった。契約一時金はすでに計上済みで、2017年3月期のそーせいの収益を一気に膨らませた。この契約によりバイオベンチャー銘柄としての同社の注目は一気に高まって、株価は一時、6500円を超えた。 今回の創薬候補は、アラガンにライセンスアウトした3つの化合物タイプの1つにすぎないが、日米欧で治験(欧州は現在治験後期第1相を完了)段階に進んでいて、アラガンと提携した開発プロジェクトの先陣を切っていた。 これまでアラガン関連の開発は順調に進捗しているとみられていた。それが突然の自主中断。なぜ中断せざるをえなくなったのか。 その“犯人”はカニクイザルだった。 人に対する治験と並行して、そーせいは重篤な副作用がないかなどの安全性を確認するため、動物を使った長期毒性試験を実施していた。ラットなどの試験では重篤な有害事象が起きなかったが、今回、カニクイザルに毒性所見が見つかり、希少な腫瘍(がんや肉腫)が発生した』、ラットなどでは大丈夫でも、サルでは毒性だ出たというのは、ありそうな話ではある。それにしても、アラガンとの契約で、「段階的ロイヤルティの受領権」とはいかにも製薬業界らしい手法だ。
・『不十分な説明内容 そーせいはただちに原因究明に入るとともに、人向けの治験を中断。リリース発表当日に、緊急でこの事案に関する投資家向けオンライン説明会を実施した。 当然と言えば当然だが、人の安全性の確保を第一優先にしたこと、動揺する市場や投資家への説明を急いだことは評価されるべきだろう。ただ、その説明の内容が極めて不十分だった。 がんが発生した複数のサル向けの毒性試験での投与期間は9カ月。治験での人への投与期間より長い。薬の用量も人に対するものよりも多かった。 会社側は「9カ月という投与期間の終わりに近い時期になって毒性が見つかった」とも説明している。こうした説明からは、投与期間の長さや用量の多さががんを引き起こしたのではないか、という疑問が起きる。 これに対し、そーせいは「原因究明に向けアラガンなどと調査を開始した」と語るのみで、有毒事案の中身など詳細な説明は避けている。いつからどのくらいの期間、どれだけの用量を欧米などの治験で人に投与したのかといった極めて基本的な情報も含めて、「アラガンとの契約上の守秘義務」を理由にそーせいは口をふさぐ。 これまでの治験では人に重篤な有害事象は出ていないと会社は強調しているが、単に薬の投与期間が短いから出ていないだけなのかもしれない。長期に薬を使い続ける必要性がある認知症治療薬の現実を考えれば、現時点では少なくともその懸念は持たざるをえない。 「ほかの薬の開発やプロジェクトへの影響はどうか」。説明会では、今回の事件がほかの開発薬に広がるのではないかという懸念を持つ投資家からの質問が相次いだ。「いつになったらよいニュースが聞けるのか」など、会社へのいらだちを素直に表す意見も飛び出した。 「1つの薬だけでなく、当社にはたくさんのプロジェクト、多くの有望なポートフォリオがある」。ピーター・ベインズ社長CEOは懸命に投資家の懸念払拭に努める』、問題をいち早く公表した姿勢は評価できるが、契約先との守秘義務を口実に十分な説明が出来ないというのは問題だ。必要であれば、契約先と交渉して守秘の一部を解除してもらうことも可能な筈だが、契約先が最大のスポンサーとあっては遠慮したのかも知れない。
・『治験再開には最低6カ月かかる 確かに同社は日本のバイオベンチャーには珍しく豊富な開発候補品を持つ。今回の説明会資料によれば、治験段階の候補品が6つ、その一歩手前の前臨床の薬が6つ、さらにその手前の探索段階の薬が5つという具合。昨年末に海外で約210億円を調達しており、開発資金も当分は十分にある。 ただ、前述のとおり、今回の開発薬がアラガンとの大型提携の中で最先行していただけに、その治験中断の影響は小さくない。ベインズCEOは「6~12カ月以内に治験を再開したい」と語ったが、今後、原因究明を本格化する段階であり、現時点では治験再開のメドは立っていない。最悪の場合、「治験が再開できない可能性もある」(ベインズCEO)。 今回の治験中断が、関連する資産やのれんの減損に自動的につながるわけではないが、治験中止となれば、そーせいの財務に大きな影響を及ぼす可能性もある。 発表を受けて株価は大きく調整した。現在では1200円前後と、ピーク時の2割程度にすぎない。かつてバイオベンチャーの中で断トツだった時価総額は、ペプチドリームやサンバイオに大きく水を空けられており、投資家の目も厳しくなりつつある。 「こういうことはこの業界では日常茶飯事。会社が強靭になるためのよいチャンス」。説明会の最後に創業者の田村真一会長はそう語った。その言葉どおり、雨降って地固まるとなるのか。悲願である世界的バイオ会社に脱皮できるか、大きな正念場にそーせいは差し掛かっている』、なんとか踏ん張って欲しいところだ。
次に、株式会社cotree 代表取締役の櫻本真理氏が1月18日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「起業家うつ」増加の実態、メンタルヘルスを損なう6つの事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/191198
・『古くからの友人と、カフェで偶然出会った。2年は連絡をとっていなかったと思う。1年ほど前、彼は長く勤めた大企業を辞めて自分の会社とサービスを立ち上げた。当時はいくつものメディアに取り上げられ、注目を浴びているのをSNSで見かけていた。それがこのところ、SNSでも友人の集まりの場でも、姿を見かけないな、と思っていたところだった。 向かいの席に座った彼は「久しぶりだねー」と笑顔をつくったが、口元がひきつっているのが分かった。カップを握る手も震えていた。もともと明るくて気さくな彼の、落ち着かない様子に違和感を持ち、少し心配になった。 「大丈夫?調子悪そう」と聞くと、ぎこちなく笑いながら「会う人みんなにそう言われる」と答えた。 「最近寝ても寝た気がしなくて、それに頭が全然働かない」と彼は話し始めた。 聞くと、彼の事業はスタート当初こそ注目されたものの、思ったように収益化は進まなかったという。追加の資金調達のめどがつかないまま、資金は底をつきそうになっていた。運転資金を稼ぐために日銭稼ぎのための業務を請け負うが、それが彼の体力と睡眠時間を奪っていた。ミスが増え、顧客からのクレームも増え、仕事を楽しいとは思えない。うつむいて絞り出すように話す様子からも、精神的に限界にきているのだとすぐに分かった。 「いったんゆっくり休んでみるという選択肢はないの?病院にも行ってみたほうが」と言う私に、彼はこう返してきた。 「できることなら休みたいし…もうやめたい、とすら思ってしまう。でも今休んだら会社は立ち行かなくなる。そうしたら失敗者としての烙印を押されてしまって、きっともう夢をかなえることはできなくなる。もう一度立ち上がれる自信がない」 彼はその数ヵ月後、事業をたたみ、実家に帰ったと聞いた。 このエピソードは、個人が特定されないように複数の事例をもとに改変を加えたものである。だが、起業家うつの、典型的な事例のひとつといっていいだろう』、「運転資金を稼ぐために日銭稼ぎのための業務を請け負うが、それが彼の体力と睡眠時間を奪っていた」とは、ありそうな落とし穴だ。
・『増える起業家、知られざる苦悩 起業がブームだ。東京都は、現在5%程度の都内開業率を2024年に10%台にまで引き上げるべく、起業家支援のための予算を割いている。キャッシュリッチな大企業も相次いでアクセラレーション(起業家育成)のプログラムやCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)の組成を通じてベンチャー投資や支援の動きを加速させており、起業家支援のためのエコシステムは広がり続けている。 有望なベンチャーに投資したいという資金はあふれ、投資家同士が獲得競争をしている。そんな中、むしろ投資家が投資したいがために「起業させる」ようなケースもあると聞く。 既存産業の成長の鈍化、イノベーションの必要性、テクノロジーの進歩、働き方の多様化。「起業家を増やす」ことは社会が向かいうる当然の方向性である』、確かに最近のベンチャーブームはバブル的色彩すら帯びてきたようだ。
・『そんな中、このようなデータがある。 「起業家の37%が、気分障害・不安障害の基準を満たしている(一般人の7倍)」「起業家の49%が、生涯に一度はメンタルの問題を抱える」 筆者が運営する会社(株式会社cotree)では、従来からオンラインで臨床心理士等の専門家との相談を行えるオンラインカウンセリングサービスを運営しており、起業家からの相談も多く受けてきた。その中で見えてきたことは、言い古されてきたかもしれない「経営者の孤独」とメンタルヘルスの現実だ。起業家はメンタルヘルスの問題を抱えやすく、その問題を持続させやすい。そこには単純ではない、起業家特有のいくつかの要因が関係している』、起業家のメンタルヘルスの問題はこれまで殆ど取り上げられることがなかったが、確かに重要な問題のようだ。
・『【要因1】経営者という責任と不確実性の大きさ 起業家が抱える外的ストレス要因は大きい。利害関係者が増えれば増えるほど、精神的な重圧は増える。顧客はもちろんのこと、雇用をしていれば従業員、投資を受けていれば投資家に対して、負うべき責任は拡大していく。事業成長の鈍化、資金不足、組織内のいざこざ、製品へのクレーム、想像もしないトラブルなど、あらゆる「ハードシングス」が起こる。 そしてそれだけのハードシングスを乗り越えたとして「成功する確約」はどこにもないことも多い。来月どうなるか分からないという不確実性もまた、精神的負荷を高めることになる』、その通りだろう。
・『【要因2】裏切りからの孤独、他者への不信 経営を続ける中で、信頼していた役員や従業員への期待が裏切られたり、同じ船に乗る仲間だと考えていたメンバーが冷たく立ち去ったりといった場面と出合うことは多い。そうした経験から傷つきを重ね「だんだん他人に期待をしなくなった」と経営者が話すのを聞くことがある。 他人に依存しない姿勢は経営者の「強さ」のようにも見えるが、仲間を巻き込みながらも「本当に信頼できるのは自分だけ」という孤独感と裏腹でもある』、経営が上手くいかなくなると、手の平を返したように去っていくというのも、人間社会の縮図だろう。
・『【要因3】夫婦・家族関係の不和で孤独感が加速 弊社が運営するオンラインカウンセリングサービスにおける経営者からの相談の中で、最も多く見られる相談内容は「夫婦関係、家族関係」であった。経営者、特に立ち上げ初期の起業家にとっては、仕事に割く心身のエネルギーが大きいために、家庭の優先順位が必然的に下がってしまうことは多い。また、経営者によく見られる自由への志向性や合理的思考を前提としたときに、不自由で親密な関係性を維持することが難しくなってしまう場合もある。 夫婦・家族関係が不和であるということは、すなわち「家に帰っても癒される場所がなく、孤独である」ということだ。これが職場における孤独感に拍車をかけることがある』、「「家に帰っても癒される場所がなく」というのは悲惨だ。
・『【要因4】起業家のADHD生涯罹患率は約3割 「起業」というリスクとハードシングスを伴う環境に自ら飛び込もうとする人たちには、それを可能にする「起業家ならではの性格特性」がある。フットワークの軽さや創造性、柔軟性などの性格特性は、環境に適応していれば起業家の強みとして事業の拡大を支える。 だが、それが生かせる環境や他者との関係性がなければ、それはむしろ社会的不適応となり、精神的不安定さや周囲とのあつれきとなる。起業家的な特性とメンタルの疾患は、紙一重のところにあるのだ。 UC Berkeleyの調査によれば、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の生涯罹患率は起業家で29%、一方の対照群で5%。躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害は起業家で11%、対照群で1%。薬物やアルコールなどへの依存は、起業家で12%、対照群で4%。いずれの精神疾患においても、起業家の罹患率は著しく高い(グラフ参照)。 昨今国内外のメディアで目にすることもある「起業家の自殺」は、支援者にとっては最も触れたくないであろう出来事であろう。だが、起業家に多いとされる双極性障害は、精神疾患の中でも最も自殺のリスクが高い。もともとそうした気質を持った起業家が、高いストレスにさらされた結果発症し、薬物・アルコールへの依存や衝動性などと相まって自殺既遂に至ってしまうことは、必然的に想定しうる不幸なのだ』、「起業家的な特性とメンタルの疾患は、紙一重のところにある」、UC Berkeleyの衝撃的な調査結果が如実に物語っているようだ。
・『【要因5】休む、転職という「逃げ道」がない 精神的負荷が高まって「もうだめだ、苦しい」となってしまったとき、一般の従業員であれば「休む」「転職する」という選択肢もある。だが、起業家は安易に「休む」「逃げる」という選択をするには、仕事が人生と結びつき過ぎていることが多い。会社の経営が起業家のカリスマ性や能力に依存している場合にはなおさらである。 だからこそ、限界まで苦しみ、逃げることができずに抱え込んでしまうことになる。経営者自身が不調や心の揺れを抑圧していることもあり、自覚したときにはもう手遅れ(病理の状態)になっているケースもある』、確かにその通りだろう。
・『【要因6】「起業家は強くなくてはならぬ」という社会の目 メンタルヘルスの問題に対する社会の目は、10年前と比べると格段に改善したとはいえ、依然として優しいとはいえない。それが「自己責任でリスクをとっている」と考えられがちな起業家のメンタルヘルスとなるとなおさらである。「メンタルが弱い起業家になんて投資しないから、起業家のメンタルヘルス問題には興味がない」と話すキャピタリストと出会ったこともある。 こうした言説がまかり通る社会で、起業家にとって自身の不安感や揺らぎを堂々と表明できる場所はほとんどない。IPOやバイアウトなどの形でEXIT(事業売却)に成功し大金持ちになる起業家の世界は華々しいが、その光の世界にたどり着く起業家はごく一部だ。その道すがら、弱さをさらけ出すことができずに「姿を見かけなくなる」起業家は多い。「失敗者の烙印」を恐れて社会に戻れなくなる者もいる』、やはり何でも相談出来る親しい友人が必要なようだ。
・『失敗や弱さを許容する社会へ 「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助氏の有名な言葉がある。「成功とは、成功するまでやり続けること」 今の社会には、失敗を許容し、成功するまでやり続けられる空気があると言えるだろうか? 起業家にとってメンタルの不調は、自身の不調だけの問題では済まない。事業成長の鈍化や組織への悪影響という形で、さらなる状態の悪化を招くこともある。それが起こる前に早期に自覚して対処することが、負のスパイラルを止めることにつながるはずである。だが、起業家特有の精神的孤立や、「弱さをみせたら成功は遠のく」「失敗したら次はない」という社会の空気感が、起業家の抱える心の問題の発見を遅らせ、再起を難しくしているのである。 メンタルヘルスの問題やリスクに対する適切な理解、対処、支え合える関係性を築いていく上で、まずは支援者、そして社会全体が起業家の失敗やメンタルのリスクを受容する姿勢が必要とされている。 2018年11月に弊社が立ち上げた起業家向けメンタルサポートサービス「escort」では、その運営にVC(ベンチャーキャピタル)をはじめとする起業家支援に関わる20社以上による協賛金が充てられ、起業家は無料でメンタルサポートを利用できるようになった。これは、支援者の立場からもこの問題を真摯に受け止め、解決に向けて取り組んでいくことへの意思表示であるともいえよう。 多様で自由な生き方が許容されるはずの時代において、「起業家としての成功」はごく一部の人たちに許されるスポットライトではなく、広く社会を照らす希望の光になるべきである。最初から成功可能性の高い「安牌」にのみコミットするのではなく、「起業」のあり方が多様化する中で起業家の失敗を受容し、不調な時期を乗り越えられるように支えることこそが、支援者ひいては社会としてのあるべき姿なのではないだろうか』、説得力ある主張で、その通りだ。筆者が立ち上げたメンタルサポートサービスに、VCなど「20社以上による協賛金」とは、世間の見方も変わりつつあることを示唆しているのかも知れない。
第三に、評論家の中野 剛志氏が2月9日付け東洋経済オンラインに寄稿しつぁ「「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/264149
・『アメリカという国家の価値観がどのように出来上がってきたのか。500年の歴史からひもといた『ファンタジーランド狂気と幻想のアメリカ500年史』がこのほど刊行された。アメリカを支えてきた価値観はどこから来て、どこへ行くのか。『[新版]〈起業〉という幻想アメリカン・ドリームの現実』の共訳者でもある筆者が読み解いていく』、意外性があり面白そうだ。
・『現実と幻想の区別がつかない国民性 そうだろうなと薄々感じていたことなのに、それを明快に論証されると、かえって驚くようなことがある。 『ファンタジーランド』とは、まさにそういう本だ。 本書のテーマは、次のように要約される。 「トランプ政権の『ポスト真実』『もう一つの事実』は、一般的には、不可解で常軌を逸したアメリカの『新たな』現象だと考えられている。だがこれは、アメリカ史全体を通じて(実際にはアメリカ史が始まる前から)受け継がれてきた意識や傾向から当然導き出される結果なのである」(『ファンタジーランド 上』、p17) トランプ政権を生み出したのは、アメリカ人の国民性である。その国民性とは、現実と幻想の区別がつかないということだ。 驚くなかれ、アメリカとは、次のような世論調査の結果が出る国なのだ。 3分の2が、「天使や悪魔がこの世で活躍している」と信じている。 3分の1以上が、地球温暖化は、科学者や政府やマスコミの共謀による作り話だと信じている。 3分の1が「政府は製薬会社と結託し、がんが自然治癒する証拠を隠蔽している」「地球外生物が最近、地球を訪れた」と信じている。4分の1が「ワクチンを接種すると自閉症になる」「魔女は存在する」と信じている。 聖書は主に伝説と寓話であると思っている人は、5人に1人しかいない。 著者のカート・アンダーセンは、この現実と幻想の区別ができないアメリカ人気質を、建国以前のプロテスタントの入植までさかのぼっている』、「現実と幻想の区別ができないアメリカ人気質」は、実にユニークな指摘で、言われてみれば頷ける部分もある。
・『「ポスト真実」の根源は1960~1970年代の若者文化 もっとも、この気質が本格的に花開いたのは、1960年代から1970年代である。 リベラル派(左派)は、この時代の若者文化を理想視し、いまだにその反体制的な価値観を信じている。そして、保守派(右派)のトランプ政権が振りまく「ポスト真実」に怒りの声を上げている。 しかし、1960~1970年代の若者文化の価値観とトランプ政権の「ポスト真実」とは、同根であることをアンダーセンは暴いていく。 (1960年代の平等の拡大によって)一人ひとり誰もが自由に、自分の好きなことを信じ、好きなものになれるようになった。こうした考え方を突き詰めていけば、競合するあらゆる考えを否定することになる。もちろん個人主義は、アメリカが生まれ、幸福の追求や自由が解き放たれたときから存在する。以前から、『夢を信じろ』『権威を疑え』『好きなことをしろ』『自分だけの真実を見つけろ』と言われてきた。だがアメリカでは1960年代以降、法律が一人ひとりを同一に扱うだけでなく、一人ひとりが信じていることはどれも一様に正しいというところまで、平等の意味が拡大された。絶対的な個人の自由を容認するのがわが国の文化の原則となり、国民の心理として内面化された。自分が信じていることは正しいと思っているのであれば、それは正しい。こうして個人主義は、自己中心主義となって蔓延した」(『ファンタジーランド 上』、p314~315) 権威を疑い、体制に逆らい、自由と平等を絶対視した結果、リベラル派は「一人ひとりが信じていることはどれも一様に正しい」という相対主義に行きついた。 しかし、リベラル派の「権威を疑え」「自分だけの真実を見つけろ」という相対主義を徹底すれば、客観と主観、あるいは現実と幻想の区別がなくなっていくのも当然であろう。リベラル派はトランプ政権を批判するが、「ポスト真実」「もう一つの事実」といった相対主義を振りまいてきたのは、本をただせば、リベラル派なのである』、「960~1970年代の若者文化の価値観とトランプ政権の「ポスト真実」とは、同根である」との指摘には、心底驚いた。
・『自由放任主義と「みんな子ども」症候群 さらに、リベラル派の相対主義は、次の2つのアメリカ的な気質にもつながっている。 その1つは、極端な所得格差や巨大企業の市場独占を許容する「自由放任主義(新自由主義)」である。 「自分だけの真実がある」という相対主義は、「自分の好きなことをしていい」という自己中心的な個人主義を正当化する。それは、自己表現にふけったりマリファナを吸ったりする自由だけでなく、資本家が規制や税から逃れたり、従業員の400倍の所得を得る自由も許容する。自由放任主義は、リベラル派の相対主義と個人主義の帰結なのだ。 もう1つは、アンダーセンの言う「『みんな子ども』症候群」である。 相対主義を徹底すると現実と幻想の区別がなくなるが、現実と幻想の区別をしないということは、幼稚化するということでもある。幼児は現実と幻想をごっちゃにするが、大人になるにつれ、その分別ができるようになる。ところが、リベラル派の相対主義は、現実と幻想の未分化を是とする。要するに、いつまでも子どものままでいることを称揚するのだ。 1960~1970年代のリベラル派の価値観が育てた個人主義、自由放任主義そして「みんな子ども」症候群。 このアメリカというファンタジーランドを象徴する現象が、日本人が憧れてやまないシリコンバレーの起業家である。 そもそも、アメリカの起業家のイメージは、多くの「幻想」によって構成されている。日本人、そしてほかならぬアメリカ人自身が信じている起業家の「幻想」は、こんな感じだろう。 シリコンバレーでは、才能にあふれた若者が途方もない夢を抱き、その夢を実現するために、1人あるいは数名で起業する。アメリカでは、そうしたスタートアップ企業が続々と登場し、それがアメリカ経済のダイナミズムを生んでいる。とくに、1990年代のIT革命は、そうした若者が起業して夢を実現するチャンスを大きく拡大した。 このような起業家のイメージを象徴する存在が、例えばスティーブ・ジョブズである。 しかし、アメリカの起業家の「現実」は、こうである(『真説企業論』)。
+ アメリカの開業率は下落し続けており、この30年間で半減している(「日本経済『長期停滞』の本当の原因」図1)。
+ 1990年代は、IT革命にもかかわらず、30歳以下の起業家の比率は低下ないしは停滞しており、特に2010年以降は激減している(「ウォールストリート・ジャーナル」記事)。
+ 一般的に、先進国よりも開発途上国のほうが起業家の比率が高い傾向にある。例えば、生産年齢人口に占める起業家の比率は、ペルー、ウガンダ、エクアドル、ベネズエラはアメリカの2倍以上である。
+ アメリカの典型的なスタートアップ企業は、イノベーティブなハイテク企業ではなく、パフォーマンスも良くない。起業家に多いのは若者よりも、中年男性である(『[新版]〈起業〉という幻想』)。
+1990年代後半から2000年代前半(IT革命の前後)、シリコンバレーにおけるハイテク産業の開業率は全米平均をやや下回り、シリコンバレーを除いたカリフォルニア州の開業率の3分の2程度である(CESifoサイト)』、リベラル派の相対主義が「自由放任主義と「みんな子ども」症候群」を生んだとの指摘もユニークで参考になる。「アメリカの起業家の「現実」」は、我々日本人のイメージとは大きくかけ離れたものだ。
・『GAFAを生み出した「ファンタジーランド」 こうした「現実」にもかかわらず、なぜ起業家という「幻想」は消えないのか。それは、アメリカ人が、現実と幻想の区別ができないし、したくもないという気質をもつからである。 「シリコンバレーで、有能かつ幸運な一握りの人間がまれに巨万の富を得て、それに刺激を受けたほかの人たちが信じ願い続ける。個人の起業家が大成功を収める可能性はとてつもなく小さい。宝くじと同じだ。それに、テクノロジーで大当たりする可能性も低い。だが、1980年代と90年代に驚異的に大金持ちになった第一世代のデジタル起業家、ゲイツ、ジョブズ、ベゾスは、中年でも比較的若いうちに億万長者になった。今世紀、バブルがはじけて暴落が起きる前夜に成功した若きデジタル起業家は、30歳(グーグルのラリー・ペイジ)、25歳(スナップチャットのエヴァン・シュピーゲル)、23歳(フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ)で億万長者になった。これが夢をさらに大きくした。金銭的に大成功を収めるテクノロジー関係のスタートアップを指す新しい用語は何か?『ユニコーン』だ。子どもだけが信じる想像上の生き物である」(『ファンタジーランド 下』、p337~338) 大企業組織に立ち向かう個人の起業家は、反体制的な個人主義の理想に合致する。 各国の規制や税から逃れる寡占的な巨大IT企業(いわゆるGAFA)は、「自分の好きなことをしていい」という自由放任主義の産物だ。 そのGAFAが提供するのは、現実と幻想の区分をあいまいにするデジタル技術であり、「自分だけの真実」が見つかるSNSである。 成功する起業家の若さが強調されるのは、「みんな子ども」症候群の症例だろう。次の症例も同じである(最近、日本でも、同じような症例を見せる痛々しい企業が増えてきているが) 「現代的でクールなオフィスでは(カリフォルニアでは特に)、管理職も従業員も子どものような服装をしているだけではない。職場に、スリンキーやミスター・ポテトヘッドなどのおもちゃ、テーブルサッカーや『HALO(ヘイロー)』などのゲームが完備されている。1990年代になると、職場でよく『楽しいかい?』と尋ねられるようになった。それが、仕事に満足しているかどうかを尋ねる標準的な言葉となったのである」(『ファンタジーランド 下』、 p29) ここでも、スティーブ・ジョブズは象徴的である。 若き日のジョブズは、1960~70年代の若者文化(ヒッピー文化)の影響を強く受け、薬物を使用してハイになり、幻覚を見ていた。晩年、膵臓がんを患ったジョブズは、すぐに外科手術を受けていれば治癒する可能性があったにもかかわらず、フルーツジュース、鍼、薬草療法、インターネットで見つけた治療法、霊能者に頼っていたという(『ファンタジーランド下』、p136~137)。 このように、起業家のイメージは、徹頭徹尾、アメリカ的=ファンタジーランド的なのである。だから、アメリカ人たちは、起業家という「幻想」から離れられないのである。 そもそも、「アメリカは山師、起業家、あらゆる種類のペテン師によって作られた」(『ファンタジーランド 下』、p373)国なのだ。ジョブズを生んだファンタジーランドで、トランプ大統領が誕生したのは、必然だったのではないか。 「日本では、起業家がなかなか育たない」などと嘆く声が絶えないが、それも当然である。ファンタジーランドの幻想をいくら追いかけたところで、現実にはならないのだ』、「こうした「現実」にもかかわらず、なぜ起業家という「幻想」は消えないのか。それは、アメリカ人が、現実と幻想の区別ができないし、したくもないという気質をもつからである」、「GAFAが提供するのは、現実と幻想の区分をあいまいにするデジタル技術であり、「自分だけの真実」が見つかるSNSである。 成功する起業家の若さが強調されるのは、「みんな子ども」症候群の症例だろう」、「起業家のイメージは、徹頭徹尾、アメリカ的=ファンタジーランド的なのである。だから、アメリカ人たちは、起業家という「幻想」から離れられないのである」、「ジョブズを生んだファンタジーランドで、トランプ大統領が誕生したのは、必然だったのではないか」、などの指摘は、極めてユニークで、大いに考えさせられる。日本がベンチャー育成で、アメリカの真似をしようとするのは、馬鹿げたことなのかも知れない。やはり、日本には日本に合ったやち方があるのだろう。
先ずは、昨年9月26日付け東洋経済オンライン「バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生、治験中断の誤算」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/239264
・『日本を代表するバイオベンチャーが岐路に立たされている。そーせいグループは9月18日、アルツハイマー病(AD)やレビー小体型認知症(DLB)などの治療候補薬で行っていた臨床試験(治験)を自主的に中断すると公表した。 アメリカでは提携先の製薬大手アラガン(本社・アイルランド)が2017年からAD向け適応の治験第1相を開始、日本国内ではグループの中核子会社ヘプタレス・セラピューテックが、DLB向け適応の治験第2相を開始したばかりだった』、こうしたことは、バイオベンチャーではありがちだ。
・『最大3600億円の超大型提携 そーせいにとって、この薬は極めて重要だ。そーせいは2016年4月、ほかの創薬候補を含めて中枢神経系疾患分野でアラガンと大型提携を結んでいる。いずれも同年2月に買収したヘプタレスの技術を活用したものだった。 その内容は、アラガンにグローバルでの開発・販売権を与える代わりに、契約一時金137億円、化合物のタイプ別に開発進捗に応じたマイルストン収入最大730億円、さらに販売目標の達成に応じたマイルストン収入として最大で2743億円(発表時の換算レートでの計算値)が入るというもの。 想定収益合計は最大3600億円に達し、ほかに売上高に応じた最大2ケタの段階的ロイヤルティの受領権もある。日本のバイオベンチャーとしては破格だった。契約一時金はすでに計上済みで、2017年3月期のそーせいの収益を一気に膨らませた。この契約によりバイオベンチャー銘柄としての同社の注目は一気に高まって、株価は一時、6500円を超えた。 今回の創薬候補は、アラガンにライセンスアウトした3つの化合物タイプの1つにすぎないが、日米欧で治験(欧州は現在治験後期第1相を完了)段階に進んでいて、アラガンと提携した開発プロジェクトの先陣を切っていた。 これまでアラガン関連の開発は順調に進捗しているとみられていた。それが突然の自主中断。なぜ中断せざるをえなくなったのか。 その“犯人”はカニクイザルだった。 人に対する治験と並行して、そーせいは重篤な副作用がないかなどの安全性を確認するため、動物を使った長期毒性試験を実施していた。ラットなどの試験では重篤な有害事象が起きなかったが、今回、カニクイザルに毒性所見が見つかり、希少な腫瘍(がんや肉腫)が発生した』、ラットなどでは大丈夫でも、サルでは毒性だ出たというのは、ありそうな話ではある。それにしても、アラガンとの契約で、「段階的ロイヤルティの受領権」とはいかにも製薬業界らしい手法だ。
・『不十分な説明内容 そーせいはただちに原因究明に入るとともに、人向けの治験を中断。リリース発表当日に、緊急でこの事案に関する投資家向けオンライン説明会を実施した。 当然と言えば当然だが、人の安全性の確保を第一優先にしたこと、動揺する市場や投資家への説明を急いだことは評価されるべきだろう。ただ、その説明の内容が極めて不十分だった。 がんが発生した複数のサル向けの毒性試験での投与期間は9カ月。治験での人への投与期間より長い。薬の用量も人に対するものよりも多かった。 会社側は「9カ月という投与期間の終わりに近い時期になって毒性が見つかった」とも説明している。こうした説明からは、投与期間の長さや用量の多さががんを引き起こしたのではないか、という疑問が起きる。 これに対し、そーせいは「原因究明に向けアラガンなどと調査を開始した」と語るのみで、有毒事案の中身など詳細な説明は避けている。いつからどのくらいの期間、どれだけの用量を欧米などの治験で人に投与したのかといった極めて基本的な情報も含めて、「アラガンとの契約上の守秘義務」を理由にそーせいは口をふさぐ。 これまでの治験では人に重篤な有害事象は出ていないと会社は強調しているが、単に薬の投与期間が短いから出ていないだけなのかもしれない。長期に薬を使い続ける必要性がある認知症治療薬の現実を考えれば、現時点では少なくともその懸念は持たざるをえない。 「ほかの薬の開発やプロジェクトへの影響はどうか」。説明会では、今回の事件がほかの開発薬に広がるのではないかという懸念を持つ投資家からの質問が相次いだ。「いつになったらよいニュースが聞けるのか」など、会社へのいらだちを素直に表す意見も飛び出した。 「1つの薬だけでなく、当社にはたくさんのプロジェクト、多くの有望なポートフォリオがある」。ピーター・ベインズ社長CEOは懸命に投資家の懸念払拭に努める』、問題をいち早く公表した姿勢は評価できるが、契約先との守秘義務を口実に十分な説明が出来ないというのは問題だ。必要であれば、契約先と交渉して守秘の一部を解除してもらうことも可能な筈だが、契約先が最大のスポンサーとあっては遠慮したのかも知れない。
・『治験再開には最低6カ月かかる 確かに同社は日本のバイオベンチャーには珍しく豊富な開発候補品を持つ。今回の説明会資料によれば、治験段階の候補品が6つ、その一歩手前の前臨床の薬が6つ、さらにその手前の探索段階の薬が5つという具合。昨年末に海外で約210億円を調達しており、開発資金も当分は十分にある。 ただ、前述のとおり、今回の開発薬がアラガンとの大型提携の中で最先行していただけに、その治験中断の影響は小さくない。ベインズCEOは「6~12カ月以内に治験を再開したい」と語ったが、今後、原因究明を本格化する段階であり、現時点では治験再開のメドは立っていない。最悪の場合、「治験が再開できない可能性もある」(ベインズCEO)。 今回の治験中断が、関連する資産やのれんの減損に自動的につながるわけではないが、治験中止となれば、そーせいの財務に大きな影響を及ぼす可能性もある。 発表を受けて株価は大きく調整した。現在では1200円前後と、ピーク時の2割程度にすぎない。かつてバイオベンチャーの中で断トツだった時価総額は、ペプチドリームやサンバイオに大きく水を空けられており、投資家の目も厳しくなりつつある。 「こういうことはこの業界では日常茶飯事。会社が強靭になるためのよいチャンス」。説明会の最後に創業者の田村真一会長はそう語った。その言葉どおり、雨降って地固まるとなるのか。悲願である世界的バイオ会社に脱皮できるか、大きな正念場にそーせいは差し掛かっている』、なんとか踏ん張って欲しいところだ。
次に、株式会社cotree 代表取締役の櫻本真理氏が1月18日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「起業家うつ」増加の実態、メンタルヘルスを損なう6つの事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/191198
・『古くからの友人と、カフェで偶然出会った。2年は連絡をとっていなかったと思う。1年ほど前、彼は長く勤めた大企業を辞めて自分の会社とサービスを立ち上げた。当時はいくつものメディアに取り上げられ、注目を浴びているのをSNSで見かけていた。それがこのところ、SNSでも友人の集まりの場でも、姿を見かけないな、と思っていたところだった。 向かいの席に座った彼は「久しぶりだねー」と笑顔をつくったが、口元がひきつっているのが分かった。カップを握る手も震えていた。もともと明るくて気さくな彼の、落ち着かない様子に違和感を持ち、少し心配になった。 「大丈夫?調子悪そう」と聞くと、ぎこちなく笑いながら「会う人みんなにそう言われる」と答えた。 「最近寝ても寝た気がしなくて、それに頭が全然働かない」と彼は話し始めた。 聞くと、彼の事業はスタート当初こそ注目されたものの、思ったように収益化は進まなかったという。追加の資金調達のめどがつかないまま、資金は底をつきそうになっていた。運転資金を稼ぐために日銭稼ぎのための業務を請け負うが、それが彼の体力と睡眠時間を奪っていた。ミスが増え、顧客からのクレームも増え、仕事を楽しいとは思えない。うつむいて絞り出すように話す様子からも、精神的に限界にきているのだとすぐに分かった。 「いったんゆっくり休んでみるという選択肢はないの?病院にも行ってみたほうが」と言う私に、彼はこう返してきた。 「できることなら休みたいし…もうやめたい、とすら思ってしまう。でも今休んだら会社は立ち行かなくなる。そうしたら失敗者としての烙印を押されてしまって、きっともう夢をかなえることはできなくなる。もう一度立ち上がれる自信がない」 彼はその数ヵ月後、事業をたたみ、実家に帰ったと聞いた。 このエピソードは、個人が特定されないように複数の事例をもとに改変を加えたものである。だが、起業家うつの、典型的な事例のひとつといっていいだろう』、「運転資金を稼ぐために日銭稼ぎのための業務を請け負うが、それが彼の体力と睡眠時間を奪っていた」とは、ありそうな落とし穴だ。
・『増える起業家、知られざる苦悩 起業がブームだ。東京都は、現在5%程度の都内開業率を2024年に10%台にまで引き上げるべく、起業家支援のための予算を割いている。キャッシュリッチな大企業も相次いでアクセラレーション(起業家育成)のプログラムやCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)の組成を通じてベンチャー投資や支援の動きを加速させており、起業家支援のためのエコシステムは広がり続けている。 有望なベンチャーに投資したいという資金はあふれ、投資家同士が獲得競争をしている。そんな中、むしろ投資家が投資したいがために「起業させる」ようなケースもあると聞く。 既存産業の成長の鈍化、イノベーションの必要性、テクノロジーの進歩、働き方の多様化。「起業家を増やす」ことは社会が向かいうる当然の方向性である』、確かに最近のベンチャーブームはバブル的色彩すら帯びてきたようだ。
・『そんな中、このようなデータがある。 「起業家の37%が、気分障害・不安障害の基準を満たしている(一般人の7倍)」「起業家の49%が、生涯に一度はメンタルの問題を抱える」 筆者が運営する会社(株式会社cotree)では、従来からオンラインで臨床心理士等の専門家との相談を行えるオンラインカウンセリングサービスを運営しており、起業家からの相談も多く受けてきた。その中で見えてきたことは、言い古されてきたかもしれない「経営者の孤独」とメンタルヘルスの現実だ。起業家はメンタルヘルスの問題を抱えやすく、その問題を持続させやすい。そこには単純ではない、起業家特有のいくつかの要因が関係している』、起業家のメンタルヘルスの問題はこれまで殆ど取り上げられることがなかったが、確かに重要な問題のようだ。
・『【要因1】経営者という責任と不確実性の大きさ 起業家が抱える外的ストレス要因は大きい。利害関係者が増えれば増えるほど、精神的な重圧は増える。顧客はもちろんのこと、雇用をしていれば従業員、投資を受けていれば投資家に対して、負うべき責任は拡大していく。事業成長の鈍化、資金不足、組織内のいざこざ、製品へのクレーム、想像もしないトラブルなど、あらゆる「ハードシングス」が起こる。 そしてそれだけのハードシングスを乗り越えたとして「成功する確約」はどこにもないことも多い。来月どうなるか分からないという不確実性もまた、精神的負荷を高めることになる』、その通りだろう。
・『【要因2】裏切りからの孤独、他者への不信 経営を続ける中で、信頼していた役員や従業員への期待が裏切られたり、同じ船に乗る仲間だと考えていたメンバーが冷たく立ち去ったりといった場面と出合うことは多い。そうした経験から傷つきを重ね「だんだん他人に期待をしなくなった」と経営者が話すのを聞くことがある。 他人に依存しない姿勢は経営者の「強さ」のようにも見えるが、仲間を巻き込みながらも「本当に信頼できるのは自分だけ」という孤独感と裏腹でもある』、経営が上手くいかなくなると、手の平を返したように去っていくというのも、人間社会の縮図だろう。
・『【要因3】夫婦・家族関係の不和で孤独感が加速 弊社が運営するオンラインカウンセリングサービスにおける経営者からの相談の中で、最も多く見られる相談内容は「夫婦関係、家族関係」であった。経営者、特に立ち上げ初期の起業家にとっては、仕事に割く心身のエネルギーが大きいために、家庭の優先順位が必然的に下がってしまうことは多い。また、経営者によく見られる自由への志向性や合理的思考を前提としたときに、不自由で親密な関係性を維持することが難しくなってしまう場合もある。 夫婦・家族関係が不和であるということは、すなわち「家に帰っても癒される場所がなく、孤独である」ということだ。これが職場における孤独感に拍車をかけることがある』、「「家に帰っても癒される場所がなく」というのは悲惨だ。
・『【要因4】起業家のADHD生涯罹患率は約3割 「起業」というリスクとハードシングスを伴う環境に自ら飛び込もうとする人たちには、それを可能にする「起業家ならではの性格特性」がある。フットワークの軽さや創造性、柔軟性などの性格特性は、環境に適応していれば起業家の強みとして事業の拡大を支える。 だが、それが生かせる環境や他者との関係性がなければ、それはむしろ社会的不適応となり、精神的不安定さや周囲とのあつれきとなる。起業家的な特性とメンタルの疾患は、紙一重のところにあるのだ。 UC Berkeleyの調査によれば、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の生涯罹患率は起業家で29%、一方の対照群で5%。躁状態とうつ状態を繰り返す双極性障害は起業家で11%、対照群で1%。薬物やアルコールなどへの依存は、起業家で12%、対照群で4%。いずれの精神疾患においても、起業家の罹患率は著しく高い(グラフ参照)。 昨今国内外のメディアで目にすることもある「起業家の自殺」は、支援者にとっては最も触れたくないであろう出来事であろう。だが、起業家に多いとされる双極性障害は、精神疾患の中でも最も自殺のリスクが高い。もともとそうした気質を持った起業家が、高いストレスにさらされた結果発症し、薬物・アルコールへの依存や衝動性などと相まって自殺既遂に至ってしまうことは、必然的に想定しうる不幸なのだ』、「起業家的な特性とメンタルの疾患は、紙一重のところにある」、UC Berkeleyの衝撃的な調査結果が如実に物語っているようだ。
・『【要因5】休む、転職という「逃げ道」がない 精神的負荷が高まって「もうだめだ、苦しい」となってしまったとき、一般の従業員であれば「休む」「転職する」という選択肢もある。だが、起業家は安易に「休む」「逃げる」という選択をするには、仕事が人生と結びつき過ぎていることが多い。会社の経営が起業家のカリスマ性や能力に依存している場合にはなおさらである。 だからこそ、限界まで苦しみ、逃げることができずに抱え込んでしまうことになる。経営者自身が不調や心の揺れを抑圧していることもあり、自覚したときにはもう手遅れ(病理の状態)になっているケースもある』、確かにその通りだろう。
・『【要因6】「起業家は強くなくてはならぬ」という社会の目 メンタルヘルスの問題に対する社会の目は、10年前と比べると格段に改善したとはいえ、依然として優しいとはいえない。それが「自己責任でリスクをとっている」と考えられがちな起業家のメンタルヘルスとなるとなおさらである。「メンタルが弱い起業家になんて投資しないから、起業家のメンタルヘルス問題には興味がない」と話すキャピタリストと出会ったこともある。 こうした言説がまかり通る社会で、起業家にとって自身の不安感や揺らぎを堂々と表明できる場所はほとんどない。IPOやバイアウトなどの形でEXIT(事業売却)に成功し大金持ちになる起業家の世界は華々しいが、その光の世界にたどり着く起業家はごく一部だ。その道すがら、弱さをさらけ出すことができずに「姿を見かけなくなる」起業家は多い。「失敗者の烙印」を恐れて社会に戻れなくなる者もいる』、やはり何でも相談出来る親しい友人が必要なようだ。
・『失敗や弱さを許容する社会へ 「経営の神様」と呼ばれる松下幸之助氏の有名な言葉がある。「成功とは、成功するまでやり続けること」 今の社会には、失敗を許容し、成功するまでやり続けられる空気があると言えるだろうか? 起業家にとってメンタルの不調は、自身の不調だけの問題では済まない。事業成長の鈍化や組織への悪影響という形で、さらなる状態の悪化を招くこともある。それが起こる前に早期に自覚して対処することが、負のスパイラルを止めることにつながるはずである。だが、起業家特有の精神的孤立や、「弱さをみせたら成功は遠のく」「失敗したら次はない」という社会の空気感が、起業家の抱える心の問題の発見を遅らせ、再起を難しくしているのである。 メンタルヘルスの問題やリスクに対する適切な理解、対処、支え合える関係性を築いていく上で、まずは支援者、そして社会全体が起業家の失敗やメンタルのリスクを受容する姿勢が必要とされている。 2018年11月に弊社が立ち上げた起業家向けメンタルサポートサービス「escort」では、その運営にVC(ベンチャーキャピタル)をはじめとする起業家支援に関わる20社以上による協賛金が充てられ、起業家は無料でメンタルサポートを利用できるようになった。これは、支援者の立場からもこの問題を真摯に受け止め、解決に向けて取り組んでいくことへの意思表示であるともいえよう。 多様で自由な生き方が許容されるはずの時代において、「起業家としての成功」はごく一部の人たちに許されるスポットライトではなく、広く社会を照らす希望の光になるべきである。最初から成功可能性の高い「安牌」にのみコミットするのではなく、「起業」のあり方が多様化する中で起業家の失敗を受容し、不調な時期を乗り越えられるように支えることこそが、支援者ひいては社会としてのあるべき姿なのではないだろうか』、説得力ある主張で、その通りだ。筆者が立ち上げたメンタルサポートサービスに、VCなど「20社以上による協賛金」とは、世間の見方も変わりつつあることを示唆しているのかも知れない。
第三に、評論家の中野 剛志氏が2月9日付け東洋経済オンラインに寄稿しつぁ「「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/264149
・『アメリカという国家の価値観がどのように出来上がってきたのか。500年の歴史からひもといた『ファンタジーランド狂気と幻想のアメリカ500年史』がこのほど刊行された。アメリカを支えてきた価値観はどこから来て、どこへ行くのか。『[新版]〈起業〉という幻想アメリカン・ドリームの現実』の共訳者でもある筆者が読み解いていく』、意外性があり面白そうだ。
・『現実と幻想の区別がつかない国民性 そうだろうなと薄々感じていたことなのに、それを明快に論証されると、かえって驚くようなことがある。 『ファンタジーランド』とは、まさにそういう本だ。 本書のテーマは、次のように要約される。 「トランプ政権の『ポスト真実』『もう一つの事実』は、一般的には、不可解で常軌を逸したアメリカの『新たな』現象だと考えられている。だがこれは、アメリカ史全体を通じて(実際にはアメリカ史が始まる前から)受け継がれてきた意識や傾向から当然導き出される結果なのである」(『ファンタジーランド 上』、p17) トランプ政権を生み出したのは、アメリカ人の国民性である。その国民性とは、現実と幻想の区別がつかないということだ。 驚くなかれ、アメリカとは、次のような世論調査の結果が出る国なのだ。 3分の2が、「天使や悪魔がこの世で活躍している」と信じている。 3分の1以上が、地球温暖化は、科学者や政府やマスコミの共謀による作り話だと信じている。 3分の1が「政府は製薬会社と結託し、がんが自然治癒する証拠を隠蔽している」「地球外生物が最近、地球を訪れた」と信じている。4分の1が「ワクチンを接種すると自閉症になる」「魔女は存在する」と信じている。 聖書は主に伝説と寓話であると思っている人は、5人に1人しかいない。 著者のカート・アンダーセンは、この現実と幻想の区別ができないアメリカ人気質を、建国以前のプロテスタントの入植までさかのぼっている』、「現実と幻想の区別ができないアメリカ人気質」は、実にユニークな指摘で、言われてみれば頷ける部分もある。
・『「ポスト真実」の根源は1960~1970年代の若者文化 もっとも、この気質が本格的に花開いたのは、1960年代から1970年代である。 リベラル派(左派)は、この時代の若者文化を理想視し、いまだにその反体制的な価値観を信じている。そして、保守派(右派)のトランプ政権が振りまく「ポスト真実」に怒りの声を上げている。 しかし、1960~1970年代の若者文化の価値観とトランプ政権の「ポスト真実」とは、同根であることをアンダーセンは暴いていく。 (1960年代の平等の拡大によって)一人ひとり誰もが自由に、自分の好きなことを信じ、好きなものになれるようになった。こうした考え方を突き詰めていけば、競合するあらゆる考えを否定することになる。もちろん個人主義は、アメリカが生まれ、幸福の追求や自由が解き放たれたときから存在する。以前から、『夢を信じろ』『権威を疑え』『好きなことをしろ』『自分だけの真実を見つけろ』と言われてきた。だがアメリカでは1960年代以降、法律が一人ひとりを同一に扱うだけでなく、一人ひとりが信じていることはどれも一様に正しいというところまで、平等の意味が拡大された。絶対的な個人の自由を容認するのがわが国の文化の原則となり、国民の心理として内面化された。自分が信じていることは正しいと思っているのであれば、それは正しい。こうして個人主義は、自己中心主義となって蔓延した」(『ファンタジーランド 上』、p314~315) 権威を疑い、体制に逆らい、自由と平等を絶対視した結果、リベラル派は「一人ひとりが信じていることはどれも一様に正しい」という相対主義に行きついた。 しかし、リベラル派の「権威を疑え」「自分だけの真実を見つけろ」という相対主義を徹底すれば、客観と主観、あるいは現実と幻想の区別がなくなっていくのも当然であろう。リベラル派はトランプ政権を批判するが、「ポスト真実」「もう一つの事実」といった相対主義を振りまいてきたのは、本をただせば、リベラル派なのである』、「960~1970年代の若者文化の価値観とトランプ政権の「ポスト真実」とは、同根である」との指摘には、心底驚いた。
・『自由放任主義と「みんな子ども」症候群 さらに、リベラル派の相対主義は、次の2つのアメリカ的な気質にもつながっている。 その1つは、極端な所得格差や巨大企業の市場独占を許容する「自由放任主義(新自由主義)」である。 「自分だけの真実がある」という相対主義は、「自分の好きなことをしていい」という自己中心的な個人主義を正当化する。それは、自己表現にふけったりマリファナを吸ったりする自由だけでなく、資本家が規制や税から逃れたり、従業員の400倍の所得を得る自由も許容する。自由放任主義は、リベラル派の相対主義と個人主義の帰結なのだ。 もう1つは、アンダーセンの言う「『みんな子ども』症候群」である。 相対主義を徹底すると現実と幻想の区別がなくなるが、現実と幻想の区別をしないということは、幼稚化するということでもある。幼児は現実と幻想をごっちゃにするが、大人になるにつれ、その分別ができるようになる。ところが、リベラル派の相対主義は、現実と幻想の未分化を是とする。要するに、いつまでも子どものままでいることを称揚するのだ。 1960~1970年代のリベラル派の価値観が育てた個人主義、自由放任主義そして「みんな子ども」症候群。 このアメリカというファンタジーランドを象徴する現象が、日本人が憧れてやまないシリコンバレーの起業家である。 そもそも、アメリカの起業家のイメージは、多くの「幻想」によって構成されている。日本人、そしてほかならぬアメリカ人自身が信じている起業家の「幻想」は、こんな感じだろう。 シリコンバレーでは、才能にあふれた若者が途方もない夢を抱き、その夢を実現するために、1人あるいは数名で起業する。アメリカでは、そうしたスタートアップ企業が続々と登場し、それがアメリカ経済のダイナミズムを生んでいる。とくに、1990年代のIT革命は、そうした若者が起業して夢を実現するチャンスを大きく拡大した。 このような起業家のイメージを象徴する存在が、例えばスティーブ・ジョブズである。 しかし、アメリカの起業家の「現実」は、こうである(『真説企業論』)。
+ アメリカの開業率は下落し続けており、この30年間で半減している(「日本経済『長期停滞』の本当の原因」図1)。
+ 1990年代は、IT革命にもかかわらず、30歳以下の起業家の比率は低下ないしは停滞しており、特に2010年以降は激減している(「ウォールストリート・ジャーナル」記事)。
+ 一般的に、先進国よりも開発途上国のほうが起業家の比率が高い傾向にある。例えば、生産年齢人口に占める起業家の比率は、ペルー、ウガンダ、エクアドル、ベネズエラはアメリカの2倍以上である。
+ アメリカの典型的なスタートアップ企業は、イノベーティブなハイテク企業ではなく、パフォーマンスも良くない。起業家に多いのは若者よりも、中年男性である(『[新版]〈起業〉という幻想』)。
+1990年代後半から2000年代前半(IT革命の前後)、シリコンバレーにおけるハイテク産業の開業率は全米平均をやや下回り、シリコンバレーを除いたカリフォルニア州の開業率の3分の2程度である(CESifoサイト)』、リベラル派の相対主義が「自由放任主義と「みんな子ども」症候群」を生んだとの指摘もユニークで参考になる。「アメリカの起業家の「現実」」は、我々日本人のイメージとは大きくかけ離れたものだ。
・『GAFAを生み出した「ファンタジーランド」 こうした「現実」にもかかわらず、なぜ起業家という「幻想」は消えないのか。それは、アメリカ人が、現実と幻想の区別ができないし、したくもないという気質をもつからである。 「シリコンバレーで、有能かつ幸運な一握りの人間がまれに巨万の富を得て、それに刺激を受けたほかの人たちが信じ願い続ける。個人の起業家が大成功を収める可能性はとてつもなく小さい。宝くじと同じだ。それに、テクノロジーで大当たりする可能性も低い。だが、1980年代と90年代に驚異的に大金持ちになった第一世代のデジタル起業家、ゲイツ、ジョブズ、ベゾスは、中年でも比較的若いうちに億万長者になった。今世紀、バブルがはじけて暴落が起きる前夜に成功した若きデジタル起業家は、30歳(グーグルのラリー・ペイジ)、25歳(スナップチャットのエヴァン・シュピーゲル)、23歳(フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ)で億万長者になった。これが夢をさらに大きくした。金銭的に大成功を収めるテクノロジー関係のスタートアップを指す新しい用語は何か?『ユニコーン』だ。子どもだけが信じる想像上の生き物である」(『ファンタジーランド 下』、p337~338) 大企業組織に立ち向かう個人の起業家は、反体制的な個人主義の理想に合致する。 各国の規制や税から逃れる寡占的な巨大IT企業(いわゆるGAFA)は、「自分の好きなことをしていい」という自由放任主義の産物だ。 そのGAFAが提供するのは、現実と幻想の区分をあいまいにするデジタル技術であり、「自分だけの真実」が見つかるSNSである。 成功する起業家の若さが強調されるのは、「みんな子ども」症候群の症例だろう。次の症例も同じである(最近、日本でも、同じような症例を見せる痛々しい企業が増えてきているが) 「現代的でクールなオフィスでは(カリフォルニアでは特に)、管理職も従業員も子どものような服装をしているだけではない。職場に、スリンキーやミスター・ポテトヘッドなどのおもちゃ、テーブルサッカーや『HALO(ヘイロー)』などのゲームが完備されている。1990年代になると、職場でよく『楽しいかい?』と尋ねられるようになった。それが、仕事に満足しているかどうかを尋ねる標準的な言葉となったのである」(『ファンタジーランド 下』、 p29) ここでも、スティーブ・ジョブズは象徴的である。 若き日のジョブズは、1960~70年代の若者文化(ヒッピー文化)の影響を強く受け、薬物を使用してハイになり、幻覚を見ていた。晩年、膵臓がんを患ったジョブズは、すぐに外科手術を受けていれば治癒する可能性があったにもかかわらず、フルーツジュース、鍼、薬草療法、インターネットで見つけた治療法、霊能者に頼っていたという(『ファンタジーランド下』、p136~137)。 このように、起業家のイメージは、徹頭徹尾、アメリカ的=ファンタジーランド的なのである。だから、アメリカ人たちは、起業家という「幻想」から離れられないのである。 そもそも、「アメリカは山師、起業家、あらゆる種類のペテン師によって作られた」(『ファンタジーランド 下』、p373)国なのだ。ジョブズを生んだファンタジーランドで、トランプ大統領が誕生したのは、必然だったのではないか。 「日本では、起業家がなかなか育たない」などと嘆く声が絶えないが、それも当然である。ファンタジーランドの幻想をいくら追いかけたところで、現実にはならないのだ』、「こうした「現実」にもかかわらず、なぜ起業家という「幻想」は消えないのか。それは、アメリカ人が、現実と幻想の区別ができないし、したくもないという気質をもつからである」、「GAFAが提供するのは、現実と幻想の区分をあいまいにするデジタル技術であり、「自分だけの真実」が見つかるSNSである。 成功する起業家の若さが強調されるのは、「みんな子ども」症候群の症例だろう」、「起業家のイメージは、徹頭徹尾、アメリカ的=ファンタジーランド的なのである。だから、アメリカ人たちは、起業家という「幻想」から離れられないのである」、「ジョブズを生んだファンタジーランドで、トランプ大統領が誕生したのは、必然だったのではないか」、などの指摘は、極めてユニークで、大いに考えさせられる。日本がベンチャー育成で、アメリカの真似をしようとするのは、馬鹿げたことなのかも知れない。やはり、日本には日本に合ったやち方があるのだろう。
タグ:治験再開には最低6カ月かかる 【要因1】経営者という責任と不確実性の大きさ ベンチャー 【要因6】「起業家は強くなくてはならぬ」という社会の目 起業家の37%が、気分障害・不安障害の基準を満たしている(一般人の7倍) だから、アメリカ人たちは、起業家という「幻想」から離れられないのである そのGAFAが提供するのは、現実と幻想の区分をあいまいにするデジタル技術であり、「自分だけの真実」が見つかるSNSである GAFAを生み出した「ファンタジーランド」 アメリカの典型的なスタートアップ企業は、イノベーティブなハイテク企業ではなく、パフォーマンスも良くない。起業家に多いのは若者よりも、中年男性である 1990年代は、IT革命にもかかわらず、30歳以下の起業家の比率は低下ないしは停滞しており、特に2010年以降は激減 アメリカの開業率は下落し続けており、この30年間で半減 個人主義は、自己中心主義となって蔓延 リベラル派の「権威を疑え」「自分だけの真実を見つけろ」という相対主義を徹底すれば、客観と主観、あるいは現実と幻想の区別がなくなっていくのも当然 アメリカの起業家の「現実」 1960~1970年代のリベラル派の価値観が育てた個人主義、自由放任主義そして「みんな子ども」症候群 自由放任主義と「みんな子ども」症候群 「ポスト真実」「もう一つの事実」といった相対主義を振りまいてきたのは、本をただせば、リベラル派なのである 1960~1970年代の若者文化の価値観とトランプ政権の「ポスト真実」とは、同根である 「ポスト真実」の根源は1960~1970年代の若者文化 3分の1が「政府は製薬会社と結託し、がんが自然治癒する証拠を隠蔽している」「地球外生物が最近、地球を訪れた」と信じている 3分の1以上が、地球温暖化は、科学者や政府やマスコミの共謀による作り話だと信じている 3分の2が、「天使や悪魔がこの世で活躍している」と信じている トランプ政権を生み出したのは、アメリカ人の国民性である。その国民性とは、現実と幻想の区別がつかないということだ 『[新版]〈起業〉という幻想アメリカン・ドリームの現実』 『ファンタジーランド狂気と幻想のアメリカ500年史』 「「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由」 中野 剛志 失敗や弱さを許容する社会へ 要因5】休む、転職という「逃げ道」がない 【要因4】起業家のADHD生涯罹患率は約3割 【要因3】夫婦・家族関係の不和で孤独感が加速 起業家のメンタルヘルスの問題 起業家の49%が、生涯に一度はメンタルの問題を抱える 株価は大きく調整した。現在では1200円前後 増える起業家、知られざる苦悩 運転資金を稼ぐために日銭稼ぎのための業務を請け負うが、それが彼の体力と睡眠時間を奪っていた 「「起業家うつ」増加の実態、メンタルヘルスを損なう6つの事情」 ダイヤモンド・オンライン 櫻本真理 ラットなどの試験では重篤な有害事象が起きなかったが、今回、カニクイザルに毒性所見が見つかり、希少な腫瘍(がんや肉腫)が発生 動物を使った長期毒性試験 株価は一時、6500円を超えた ほかに売上高に応じた最大2ケタの段階的ロイヤルティの受領権もある 想定収益合計は最大3600億円 最大3600億円の超大型提携 提携先の製薬大手アラガン アルツハイマー病(AD)やレビー小体型認知症(DLB)などの治療候補薬で行っていた臨床試験(治験)を自主的に中断すると公表 そーせいグループ 東洋経済オンライン (その4)(バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生 治験中断の誤算、「起業家うつ」増加の実態 メンタルヘルスを損なう6つの事情、「起業家が育たない日本」はまともな社会だ 「ジョブズとトランプの価値観」が実は同じ理由) アラガンとの契約上の守秘義務 【要因2】裏切りからの孤独、他者への不信 現実と幻想の区別がつかない国民性 「バイオベンチャー「そーせい」が迎えた大試練 実験サルにがんが発生、治験中断の誤算」 起業家のイメージは、徹頭徹尾、アメリカ的=ファンタジーランド的なのである 不十分な説明内容
ベンチャー(その3)(日本人がシリコンバレーで通用しない理由、ベンツが注目!3つの単語で表す「住所」革命 世界を57兆個に分割 英国ベンチャーの威力) [技術革新]
ベンチャーについては、昨年1月19日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その3)(日本人がシリコンバレーで通用しない理由、ベンツが注目!3つの単語で表す「住所」革命 世界を57兆個に分割 英国ベンチャーの威力)である。
先ずは、日本マイクロソフト 業務執行役員、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長の澤 円氏が昨年6月28日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日本人がシリコンバレーで通用しない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/173461
・『皆さんこんにちは、澤です。 皆さんは、シリコンバレーに対してどんな印象を持っていますか?超最先端企業が集まる場所?イノベーションの聖地?天才たちがしのぎを削る場所?といった印象でしょうか。 確かに、世界的に有名なテクノロジー企業の本社が数多く存在し、イノベーティブな世界が広がっているのは間違いないでしょう。私自身、そんな刺激的なシリコンバレーでがんばっている親しい友人が何人もおり、先日、その中の1人で、私が心から尊敬する堀江愛利さんと日本で対談する機会に恵まれました。 堀江さんはカリフォルニア大学を卒業後、IBMでキャリアをスタートさせ、その後さまざまなテクノロジー関連企業でマーケティングの仕事をしていました。そして、2013年に「Women’s Startup Lab」を創業し、女性の起業家向けのアクセラレーション(短期養成所)を立ち上げています。 多くのメディアに取り上げられたり、大規模なITイベントのキーノートスピーカーを務めたりと、非常に華々しい活躍が目立っていますが、実際の堀江さんは極めて人間くさく、そして包容力のある優しい女性です。今回は、そんな堀江さんとの対談の中で気づいた、シリコンバレーで活躍する人にあって、ほとんどの日本人に足りない力についてお話ししたいと思います』、シリコンバレー事情を日本人向けに語る上では、ピッタリだ。
・『シリコンバレーは「オープン」な場所だけれど、決して「イージー」な場所ではない シリコンバレーとは、ご存じの通り、サンフランシスコ・ベイエリアの南にあるサンタクララバレーとその周辺地域一帯のことです。ITの巨大企業の多くがここで生まれ、今でもイノベーションの聖地として全世界から多くの人を引きつけています。 シリコンバレーのカルチャーは一言でいえば「オープン」。とにかく、どんな人に対しても門戸は開かれています。ただし、チャレンジしようとする人だけに活動が許されています。そうでない人たちに、居場所が与えられることはありません。 実のところ日本人には、「勉強するためにシリコンバレーに行く」というモードの人が少なくありません。これが一番迷惑がられる。何かを生み出すつもりがなければ、シリコンバレーでは足手まといにしかなりません。 また、シリコンバレーでは「考える」よりも「行動する」人が尊重されます。そして、「巻き込む力」も大事です。シリコンバレーで活躍しようとする人たちはとにかく「ピッチ」をたくさんするそうです。 「ピッチ」というのは「プレゼンテーション」のことで、シリコンバレー独特の表現だといいます。投資家などへのプレゼンのことを「ピッチ」と呼ぶことが多く、会議室やシアターなどで行う構えたプレゼンなどではなく、もっとカジュアルに行うイメージだそうです。 シリコンバレーで新しいビジネスを立ち上げようとしている起業家は、UberやLyftの運転手になっていろいろな人を乗せ、運転しながら乗客に片端からピッチを行ったりするとのこと。シリコンバレーでUberやLyftを利用する人の中には、数多くのベンチャーキャピタリストがいるので、チャンスをつかむ手段と生活費を稼ぐ手段の両方になるわけです。 こうやって人を巻き込んでいくことが、シリコンバレーで生き残るために必要なアクションになります。 そして、「オープンであるけれどもイージーではない」というのもシリコンバレーの特徴です。チャレンジする人はもちろん歓迎されますが、成功が約束されているわけでは、もちろんありません。 また、「一生懸命やっている」のは当たり前の話であって、そのこと自体が評価されることはありません。大事なのは、そのアイデアがどのように世の中を変え、実行するのがなぜ自分であるべきなのかを言語化できているかどうかです。それが言語化できていれば、シリコンバレーの人々が味方になってくれます。 誰もが思い付きそうなアイデアや、誰でも身につけられるスキルを武器にできるほど、イージーな世界ではありません。自分でなくてはならない「何か」を持っていることが、シリコンバレーでは求められるのです』、「日本人には、「勉強するためにシリコンバレーに行く」というモードの人が少なくありません。これが一番迷惑がられる」、というのは納得できる。起業家が「UberやLyftの運転手になっていろいろな人を乗せ、運転しながら乗客に片端からピッチを行ったりする」という超積極姿勢には、驚かされた。
・『実は「男性社会」のシリコンバレー 今回、私が堀江さんから聞いた話で非常に驚いたのが、シリコンバレーがかなりの「男性社会」だということです。ダイバーシティーの最先端という印象だったのですが、94%のベンチャーキャピタルからの投資は、男性CEOのスタートアップ企業に渡るのだそうです。そして、「女性の意見は成熟度が足りない」と言われることも少なくないそうで、だからこそ愛利さんは「Women’s Startup Lab」を立ち上げ、男性を巻き込んでいけるような女性の起業家を育てようと奮闘しています。 ただし、「なんだ、日本と同じなんだ」と思うことなかれ。シリコンバレーでは圧倒的に「チャレンジしている人たち」の数が多く、その中でライフイベントに左右されずにチャレンジし続けている男性が成功をつかんでいるだけの話です。結婚や出産によって、チャレンジが途切れがちなのは日本もアメリカも一緒ですが、チャレンジをしている人数にはやはり比較できないくらい差があります。 まず日本は、チャレンジをしようと思える土壌を作るところから始めなくてはなりません。以前から何度もこの連載でお話ししましたが、日本人は「正解は何か」を考えようとしてしまう癖があります。しかし、正解探しをしている間はチャレンジとは呼べません。チャレンジするとは、「自分でまだ解決されていない課題を見つけ、さらにその正解となるものを作る」ことだからです。そのためには、やはり「行動」が最も大事ですン』、「チャレンジするとは、「自分でまだ解決されていない課題を見つけ、さらにその正解となるものを作る」とは、言い得て妙だ。
・『プランを立てる前に実行するシリコンバレーの人々 失敗を恐れてチャレンジをしない日本人 シリコンバレーでは「ビジネスプランを持ってくるやつが現れたら逃げろ」と言われているそうです。プランを立てている間に、そのアイデアは古くなる、プランを立てるくらいならまず手を動かすなり誰かと行動を起こすなりしろ、ということだそうです。 実際、最新のシステム開発では、プランから実装までを順番に行うウォーターフォールと呼ばれる手法から、アジャイル開発とかDevOpsと呼ばれる手法にシフトしてきています。これは、早めに失敗してすぐに修正するということを可能にするアプローチです。早く失敗すれば、修正も小さくて済みます。そのためには、なるべく多くのフィードバックを多面的に得られるように、早くマーケットに出したり、ユーザーに使ってもらったりする必要があります。 今までなら「こんな出来でよくリリースしたな」というアプリケーションが、スマートフォンのストアに出ていたりするのは、まさにこういったアプローチの表れでもあります。 日本人は失敗をなるべく避けようとします。もちろん、シリコンバレーでも失敗をしたくてするわけではないでしょうけれど、失敗はチャレンジにつきものだ、という合意があるそうです。 まだまだ日本人には「石橋を叩いて渡る」という精神を持つ人が多く、たくさん時間が浪費されてしまう傾向があります。そんな日本人にもどうやって早めに失敗をさせて、それを克服して成長してもらうか、その道筋をどう作っていくか。これが今の私に必要なチャレンジなのではないか、と気づかせてもらえた素敵な対談でした』、「プランを立てる前に実行するシリコンバレーの人々 失敗を恐れてチャレンジをしない日本人」という指摘は、大いにありそうな話だ。さすがである。
次に、7月31日付け東洋経済オンライン「ベンツが注目!3つの単語で表す「住所」革命 世界を57兆個に分割、英国ベンチャーの威力」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/231492
・『過去何世紀にもわたって世界中で人々の生活の基盤となってきた“住所”の概念に、英国発のベンチャーが革命を起こそうとしている。 2013年に創業した英国ロンドンに拠点を置く「what3words(ワット3ワーズ)」は、世界中を3メートル四方の空間に分け、たった3つの単語で位置情報を表わすシステムを開発した。57兆個の空間に4万の単語を割り当てている。日本語に対応したスマートフォンアプリも今年5月に配信が始まった。 夏の休日、都内にある広大な代々木公園でピクニックをしている友人たちに合流しようとする。「池の近く」「大きな木の近く」などと言われても、わかりにくい。電話をしながらやっとの思いで会えた、という経験がある人も少なくないだろう。そんなときに、what3wordsの3単語の位置情報がわかれば、簡単に合流できる。代々木公園にある池のほとりのある場所は「あつがり・はじめ・よろしく」だ』、これは驚くほど画期的なアイデアだ。覚え易い単語3つで表すとは、心憎いばかりだ。
・『住所の仕組みは100年前で止まっていた 「スマホや車で位置情報を扱い、米アマゾンのアレクサ(のような音声アシスタント)やスマートスピーカーが普及し始めているのに、住所システムは100年前と同じ。これは変でしょう」。what3wordsのクレア・ジョーンズCCO(チーフ・コマーシャル・オフィサー)は、そう疑問を投げかける。たとえばロンドンには「チャーチロード」という道が14個あり、メキシコシティには「フアレスストリート」という道が632個もある。 住所システムのない世界の途上国には、40億人が暮らしている。2016年にいち早く提携したのが、モンゴル政府だ。遊牧民国家だったモンゴルは、多くの人々がつねに移動を繰り返すため、住所という概念がなかった。主に郵便局がwhat3wordsを活用し、郵便物の正確な配達が可能になった。物流分野ではほかにも、中東の物流最大手であるサウジアラビアのアラメックス社にシステムを提供。旧来の住所の仕組みが都市の発展に追いついていなかったという。 この革新的なアイデアに、世界的大企業も注目した。高級車ブランド「メルセデス・ベンツ」を展開する独ダイムラーである。同社は今年1月、what3wordsの資金調達に参画し、約10%の株式を取得したことを発表。今春から、ベンツの小型車「Aクラス」の新たなカーナビシステムにwhat3wordsが組み込まれている。長々とした住所を入力しなくても、3つの単語を言うだけで目的地を指定できる。 「創業当初から、われわれは“音声”を前提にシステムを設計した」と、ジョーンズ氏は明かす。what3wordsの創業メンバーたちは、人間と機械のコミュニケーションにおいて音声が主役になると見越して、3つの単語による位置情報の表現を編み出したのである。 来る自動運転時代に、ドライバーがいない“ロボットタクシー”に乗ることを考えてみる。目的地が近づいた際、交差点を左、次の信号を右、といった指示を出すことは容易ではない。始めからスマホアプリや車内のマイクなどに3単語で目的地を吹き込んで3メートル四方の正確な地点を指定しておけば、迷うことはない』、「音声が主役になると見越して、3つの単語による位置情報の表現を編み出した」というのも凄いことだ。
・『音声認識に適した単語の組み合わせ 3つの単語の組み合わせも、音声認識に適したものが考えられている。たとえば比較的近隣の場所に、似たような発音の単語の組み合わせは割り当てていない。誤って別の場所を指定してしまう事態を避けるためだ。類似する単語や発音の組み合わせは、互いに遠くの場所が設定されている。たとえば、「lemon.banana.apple」はオーストラリアの砂漠地帯で、「melon.banana.apple」は米国ニューメキシコ州だ。 自動車や物流だけでなく、what3wordsと相性がいいのが「インスタグラム」をはじめとするSNSだ。旅行先で見つけた感動的な風景など、自分が見つけた位置情報タグのないスポットを簡単に共有することができる。「#what3words」というハッシュタグで検索すると、世界でさまざまな位置情報が投稿されているのがわかる。 英語や日本語だけでなく、現時点で26言語に対応している。新たな言語に対応する際は、単に英語版を翻訳するのではなく、それぞれの言語でまったく新しい3つの単語を割り振っている。ロンドン本社の言語担当の部署が世界中で数百人のフリーランスの言語学者と契約し、各言語で単語リストをつくる。数百の言語で研究を進めており、1言語ごとに6カ月の開発期間を設けている。 単語リストの基準は、①なじみのある言葉かどうか、②短い言葉であるかどうか、という2点だ。日本語の場合は2万5000語のリストが存在し、数学を用いたアルゴリズムによって、57兆とおりの3単語の組み合わせを自動で割り当てる。 さらに注目すべきは、これがネットにつながっていないオフライン状態でも作動することだ。一度振り分けられた3単語は、永遠に変わることがなく、言語リストの組み合わせは単なる文字データなので、全世界でもたったの12メガバイト分のデータにしかならない。住所のように膨大なデータベースを必要としないため、海外旅行や災害時でも使える』、「世界中で数百人のフリーランスの言語学者と契約し、各言語で単語リストをつくる。数百の言語で研究を進めており、1言語ごとに6カ月の開発期間を設けている」』、「音声認識に適した単語の組み合わせ」などは、「実装」にもかなりの工夫を凝らしているようだ。
・『ではどのように収益化しているのか。先述のダイムラーやモンゴル政府、アラメックス社といったB to Bの顧客から得るシステムのライセンス料が収益源だ。消費者向けのアプリは無料で使えるが、大規模な利用には料金が発生する仕組みだ。 創業者のクリス・シェルドリックCEOは、もともと音楽業界で働いていた。シェルドリック氏が企画したライブの会場を、参加するミュージシャンや機材の業者らが見つけられず迷うことが多かった。ライブハウスだけでなく、広大な公園や緑地で行われる音楽フェスティバルなどでも、人と待ち合わせたり、ステージを見つけたりするのに苦労することがある。 そんな悩みを抱えたシェルドリック氏はある夜、母校であるケンブリッジ大学の数学者の友人と夕食を食べながら、愚痴をこぼした。「位置情報の正確性や利便性を高めるには、どうしたらいいだろう」。緯度や経度を示すGPS座標の16ケタの数字はあるが、覚えられるものではなく、誰も使っていない。「じゃあ、単語の組み合わせにすればいいじゃないか」。 この数学者がシェルドリック氏の創業パートナーで、現在what3wordsの研究開発を率いるモーハン・ガネサリンガム氏だ。2人はすぐさま土台となるアルゴリズムのコードを書き始めた。これが現在では80人を抱えるベンチャー企業となった』、音楽プロデューサーと友人の数学者の夕食時の会話からアイデアが生まれたとは、驚いたが、そんなものなのかも知れない。
・『日本でも大企業との提携が生まれるか what3wordsはここ日本でもビジネスの拡大を狙っている。今年6月にはカーナビ大手のアルパインが出資したことを発表。さらに、米シリコンバレーを拠点とするスタートアップ支援機関の「プラグアンドプレイ」も支援している。同社は世界26拠点で数百社のスタートアップと大企業をつなげてきた。what3wordsとダイムラーをつないだのもプラグアンドプレイの独ストゥットガルト拠点だった。 昨年設立されたプラグアンドプレイの日本法人がこの6月に始めた支援プログラムに、what3wordsも参画している。大企業パートナーには日産自動車やデンソーなどの自動車関連メーカーや、日本通運といった物流企業も名を連ねる。「プログラムが終わる頃には、発表できることがあると思う」とジョーンズ氏は話す。こうした企業との提携に発展するかどうかが注目される。 住所という古くて新しい課題を、3つの単語で解決しようとするwhat3words。シンプルだがクリエイティブな仕組みを、世界に定着させることができるか』、恐らく定着するのだろうが、日本でもこうした本格的なベンチャ-が出現してほしいものだ。
先ずは、日本マイクロソフト 業務執行役員、マイクロソフトテクノロジーセンター センター長の澤 円氏が昨年6月28日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日本人がシリコンバレーで通用しない理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/173461
・『皆さんこんにちは、澤です。 皆さんは、シリコンバレーに対してどんな印象を持っていますか?超最先端企業が集まる場所?イノベーションの聖地?天才たちがしのぎを削る場所?といった印象でしょうか。 確かに、世界的に有名なテクノロジー企業の本社が数多く存在し、イノベーティブな世界が広がっているのは間違いないでしょう。私自身、そんな刺激的なシリコンバレーでがんばっている親しい友人が何人もおり、先日、その中の1人で、私が心から尊敬する堀江愛利さんと日本で対談する機会に恵まれました。 堀江さんはカリフォルニア大学を卒業後、IBMでキャリアをスタートさせ、その後さまざまなテクノロジー関連企業でマーケティングの仕事をしていました。そして、2013年に「Women’s Startup Lab」を創業し、女性の起業家向けのアクセラレーション(短期養成所)を立ち上げています。 多くのメディアに取り上げられたり、大規模なITイベントのキーノートスピーカーを務めたりと、非常に華々しい活躍が目立っていますが、実際の堀江さんは極めて人間くさく、そして包容力のある優しい女性です。今回は、そんな堀江さんとの対談の中で気づいた、シリコンバレーで活躍する人にあって、ほとんどの日本人に足りない力についてお話ししたいと思います』、シリコンバレー事情を日本人向けに語る上では、ピッタリだ。
・『シリコンバレーは「オープン」な場所だけれど、決して「イージー」な場所ではない シリコンバレーとは、ご存じの通り、サンフランシスコ・ベイエリアの南にあるサンタクララバレーとその周辺地域一帯のことです。ITの巨大企業の多くがここで生まれ、今でもイノベーションの聖地として全世界から多くの人を引きつけています。 シリコンバレーのカルチャーは一言でいえば「オープン」。とにかく、どんな人に対しても門戸は開かれています。ただし、チャレンジしようとする人だけに活動が許されています。そうでない人たちに、居場所が与えられることはありません。 実のところ日本人には、「勉強するためにシリコンバレーに行く」というモードの人が少なくありません。これが一番迷惑がられる。何かを生み出すつもりがなければ、シリコンバレーでは足手まといにしかなりません。 また、シリコンバレーでは「考える」よりも「行動する」人が尊重されます。そして、「巻き込む力」も大事です。シリコンバレーで活躍しようとする人たちはとにかく「ピッチ」をたくさんするそうです。 「ピッチ」というのは「プレゼンテーション」のことで、シリコンバレー独特の表現だといいます。投資家などへのプレゼンのことを「ピッチ」と呼ぶことが多く、会議室やシアターなどで行う構えたプレゼンなどではなく、もっとカジュアルに行うイメージだそうです。 シリコンバレーで新しいビジネスを立ち上げようとしている起業家は、UberやLyftの運転手になっていろいろな人を乗せ、運転しながら乗客に片端からピッチを行ったりするとのこと。シリコンバレーでUberやLyftを利用する人の中には、数多くのベンチャーキャピタリストがいるので、チャンスをつかむ手段と生活費を稼ぐ手段の両方になるわけです。 こうやって人を巻き込んでいくことが、シリコンバレーで生き残るために必要なアクションになります。 そして、「オープンであるけれどもイージーではない」というのもシリコンバレーの特徴です。チャレンジする人はもちろん歓迎されますが、成功が約束されているわけでは、もちろんありません。 また、「一生懸命やっている」のは当たり前の話であって、そのこと自体が評価されることはありません。大事なのは、そのアイデアがどのように世の中を変え、実行するのがなぜ自分であるべきなのかを言語化できているかどうかです。それが言語化できていれば、シリコンバレーの人々が味方になってくれます。 誰もが思い付きそうなアイデアや、誰でも身につけられるスキルを武器にできるほど、イージーな世界ではありません。自分でなくてはならない「何か」を持っていることが、シリコンバレーでは求められるのです』、「日本人には、「勉強するためにシリコンバレーに行く」というモードの人が少なくありません。これが一番迷惑がられる」、というのは納得できる。起業家が「UberやLyftの運転手になっていろいろな人を乗せ、運転しながら乗客に片端からピッチを行ったりする」という超積極姿勢には、驚かされた。
・『実は「男性社会」のシリコンバレー 今回、私が堀江さんから聞いた話で非常に驚いたのが、シリコンバレーがかなりの「男性社会」だということです。ダイバーシティーの最先端という印象だったのですが、94%のベンチャーキャピタルからの投資は、男性CEOのスタートアップ企業に渡るのだそうです。そして、「女性の意見は成熟度が足りない」と言われることも少なくないそうで、だからこそ愛利さんは「Women’s Startup Lab」を立ち上げ、男性を巻き込んでいけるような女性の起業家を育てようと奮闘しています。 ただし、「なんだ、日本と同じなんだ」と思うことなかれ。シリコンバレーでは圧倒的に「チャレンジしている人たち」の数が多く、その中でライフイベントに左右されずにチャレンジし続けている男性が成功をつかんでいるだけの話です。結婚や出産によって、チャレンジが途切れがちなのは日本もアメリカも一緒ですが、チャレンジをしている人数にはやはり比較できないくらい差があります。 まず日本は、チャレンジをしようと思える土壌を作るところから始めなくてはなりません。以前から何度もこの連載でお話ししましたが、日本人は「正解は何か」を考えようとしてしまう癖があります。しかし、正解探しをしている間はチャレンジとは呼べません。チャレンジするとは、「自分でまだ解決されていない課題を見つけ、さらにその正解となるものを作る」ことだからです。そのためには、やはり「行動」が最も大事ですン』、「チャレンジするとは、「自分でまだ解決されていない課題を見つけ、さらにその正解となるものを作る」とは、言い得て妙だ。
・『プランを立てる前に実行するシリコンバレーの人々 失敗を恐れてチャレンジをしない日本人 シリコンバレーでは「ビジネスプランを持ってくるやつが現れたら逃げろ」と言われているそうです。プランを立てている間に、そのアイデアは古くなる、プランを立てるくらいならまず手を動かすなり誰かと行動を起こすなりしろ、ということだそうです。 実際、最新のシステム開発では、プランから実装までを順番に行うウォーターフォールと呼ばれる手法から、アジャイル開発とかDevOpsと呼ばれる手法にシフトしてきています。これは、早めに失敗してすぐに修正するということを可能にするアプローチです。早く失敗すれば、修正も小さくて済みます。そのためには、なるべく多くのフィードバックを多面的に得られるように、早くマーケットに出したり、ユーザーに使ってもらったりする必要があります。 今までなら「こんな出来でよくリリースしたな」というアプリケーションが、スマートフォンのストアに出ていたりするのは、まさにこういったアプローチの表れでもあります。 日本人は失敗をなるべく避けようとします。もちろん、シリコンバレーでも失敗をしたくてするわけではないでしょうけれど、失敗はチャレンジにつきものだ、という合意があるそうです。 まだまだ日本人には「石橋を叩いて渡る」という精神を持つ人が多く、たくさん時間が浪費されてしまう傾向があります。そんな日本人にもどうやって早めに失敗をさせて、それを克服して成長してもらうか、その道筋をどう作っていくか。これが今の私に必要なチャレンジなのではないか、と気づかせてもらえた素敵な対談でした』、「プランを立てる前に実行するシリコンバレーの人々 失敗を恐れてチャレンジをしない日本人」という指摘は、大いにありそうな話だ。さすがである。
次に、7月31日付け東洋経済オンライン「ベンツが注目!3つの単語で表す「住所」革命 世界を57兆個に分割、英国ベンチャーの威力」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/231492
・『過去何世紀にもわたって世界中で人々の生活の基盤となってきた“住所”の概念に、英国発のベンチャーが革命を起こそうとしている。 2013年に創業した英国ロンドンに拠点を置く「what3words(ワット3ワーズ)」は、世界中を3メートル四方の空間に分け、たった3つの単語で位置情報を表わすシステムを開発した。57兆個の空間に4万の単語を割り当てている。日本語に対応したスマートフォンアプリも今年5月に配信が始まった。 夏の休日、都内にある広大な代々木公園でピクニックをしている友人たちに合流しようとする。「池の近く」「大きな木の近く」などと言われても、わかりにくい。電話をしながらやっとの思いで会えた、という経験がある人も少なくないだろう。そんなときに、what3wordsの3単語の位置情報がわかれば、簡単に合流できる。代々木公園にある池のほとりのある場所は「あつがり・はじめ・よろしく」だ』、これは驚くほど画期的なアイデアだ。覚え易い単語3つで表すとは、心憎いばかりだ。
・『住所の仕組みは100年前で止まっていた 「スマホや車で位置情報を扱い、米アマゾンのアレクサ(のような音声アシスタント)やスマートスピーカーが普及し始めているのに、住所システムは100年前と同じ。これは変でしょう」。what3wordsのクレア・ジョーンズCCO(チーフ・コマーシャル・オフィサー)は、そう疑問を投げかける。たとえばロンドンには「チャーチロード」という道が14個あり、メキシコシティには「フアレスストリート」という道が632個もある。 住所システムのない世界の途上国には、40億人が暮らしている。2016年にいち早く提携したのが、モンゴル政府だ。遊牧民国家だったモンゴルは、多くの人々がつねに移動を繰り返すため、住所という概念がなかった。主に郵便局がwhat3wordsを活用し、郵便物の正確な配達が可能になった。物流分野ではほかにも、中東の物流最大手であるサウジアラビアのアラメックス社にシステムを提供。旧来の住所の仕組みが都市の発展に追いついていなかったという。 この革新的なアイデアに、世界的大企業も注目した。高級車ブランド「メルセデス・ベンツ」を展開する独ダイムラーである。同社は今年1月、what3wordsの資金調達に参画し、約10%の株式を取得したことを発表。今春から、ベンツの小型車「Aクラス」の新たなカーナビシステムにwhat3wordsが組み込まれている。長々とした住所を入力しなくても、3つの単語を言うだけで目的地を指定できる。 「創業当初から、われわれは“音声”を前提にシステムを設計した」と、ジョーンズ氏は明かす。what3wordsの創業メンバーたちは、人間と機械のコミュニケーションにおいて音声が主役になると見越して、3つの単語による位置情報の表現を編み出したのである。 来る自動運転時代に、ドライバーがいない“ロボットタクシー”に乗ることを考えてみる。目的地が近づいた際、交差点を左、次の信号を右、といった指示を出すことは容易ではない。始めからスマホアプリや車内のマイクなどに3単語で目的地を吹き込んで3メートル四方の正確な地点を指定しておけば、迷うことはない』、「音声が主役になると見越して、3つの単語による位置情報の表現を編み出した」というのも凄いことだ。
・『音声認識に適した単語の組み合わせ 3つの単語の組み合わせも、音声認識に適したものが考えられている。たとえば比較的近隣の場所に、似たような発音の単語の組み合わせは割り当てていない。誤って別の場所を指定してしまう事態を避けるためだ。類似する単語や発音の組み合わせは、互いに遠くの場所が設定されている。たとえば、「lemon.banana.apple」はオーストラリアの砂漠地帯で、「melon.banana.apple」は米国ニューメキシコ州だ。 自動車や物流だけでなく、what3wordsと相性がいいのが「インスタグラム」をはじめとするSNSだ。旅行先で見つけた感動的な風景など、自分が見つけた位置情報タグのないスポットを簡単に共有することができる。「#what3words」というハッシュタグで検索すると、世界でさまざまな位置情報が投稿されているのがわかる。 英語や日本語だけでなく、現時点で26言語に対応している。新たな言語に対応する際は、単に英語版を翻訳するのではなく、それぞれの言語でまったく新しい3つの単語を割り振っている。ロンドン本社の言語担当の部署が世界中で数百人のフリーランスの言語学者と契約し、各言語で単語リストをつくる。数百の言語で研究を進めており、1言語ごとに6カ月の開発期間を設けている。 単語リストの基準は、①なじみのある言葉かどうか、②短い言葉であるかどうか、という2点だ。日本語の場合は2万5000語のリストが存在し、数学を用いたアルゴリズムによって、57兆とおりの3単語の組み合わせを自動で割り当てる。 さらに注目すべきは、これがネットにつながっていないオフライン状態でも作動することだ。一度振り分けられた3単語は、永遠に変わることがなく、言語リストの組み合わせは単なる文字データなので、全世界でもたったの12メガバイト分のデータにしかならない。住所のように膨大なデータベースを必要としないため、海外旅行や災害時でも使える』、「世界中で数百人のフリーランスの言語学者と契約し、各言語で単語リストをつくる。数百の言語で研究を進めており、1言語ごとに6カ月の開発期間を設けている」』、「音声認識に適した単語の組み合わせ」などは、「実装」にもかなりの工夫を凝らしているようだ。
・『ではどのように収益化しているのか。先述のダイムラーやモンゴル政府、アラメックス社といったB to Bの顧客から得るシステムのライセンス料が収益源だ。消費者向けのアプリは無料で使えるが、大規模な利用には料金が発生する仕組みだ。 創業者のクリス・シェルドリックCEOは、もともと音楽業界で働いていた。シェルドリック氏が企画したライブの会場を、参加するミュージシャンや機材の業者らが見つけられず迷うことが多かった。ライブハウスだけでなく、広大な公園や緑地で行われる音楽フェスティバルなどでも、人と待ち合わせたり、ステージを見つけたりするのに苦労することがある。 そんな悩みを抱えたシェルドリック氏はある夜、母校であるケンブリッジ大学の数学者の友人と夕食を食べながら、愚痴をこぼした。「位置情報の正確性や利便性を高めるには、どうしたらいいだろう」。緯度や経度を示すGPS座標の16ケタの数字はあるが、覚えられるものではなく、誰も使っていない。「じゃあ、単語の組み合わせにすればいいじゃないか」。 この数学者がシェルドリック氏の創業パートナーで、現在what3wordsの研究開発を率いるモーハン・ガネサリンガム氏だ。2人はすぐさま土台となるアルゴリズムのコードを書き始めた。これが現在では80人を抱えるベンチャー企業となった』、音楽プロデューサーと友人の数学者の夕食時の会話からアイデアが生まれたとは、驚いたが、そんなものなのかも知れない。
・『日本でも大企業との提携が生まれるか what3wordsはここ日本でもビジネスの拡大を狙っている。今年6月にはカーナビ大手のアルパインが出資したことを発表。さらに、米シリコンバレーを拠点とするスタートアップ支援機関の「プラグアンドプレイ」も支援している。同社は世界26拠点で数百社のスタートアップと大企業をつなげてきた。what3wordsとダイムラーをつないだのもプラグアンドプレイの独ストゥットガルト拠点だった。 昨年設立されたプラグアンドプレイの日本法人がこの6月に始めた支援プログラムに、what3wordsも参画している。大企業パートナーには日産自動車やデンソーなどの自動車関連メーカーや、日本通運といった物流企業も名を連ねる。「プログラムが終わる頃には、発表できることがあると思う」とジョーンズ氏は話す。こうした企業との提携に発展するかどうかが注目される。 住所という古くて新しい課題を、3つの単語で解決しようとするwhat3words。シンプルだがクリエイティブな仕組みを、世界に定着させることができるか』、恐らく定着するのだろうが、日本でもこうした本格的なベンチャ-が出現してほしいものだ。
タグ:ダイムラー 住所の仕組みは100年前で止まっていた what3wordsの資金調達に参画し、約10%の株式を取得 音声認識に適した単語の組み合わせ 音声が主役になると見越して、3つの単語による位置情報の表現を編み出した ベンツの小型車「Aクラス」の新たなカーナビシステムにwhat3wordsが組み込まれている 日本通運 デンソー 日産自動車 日本でも大企業との提携が生まれるか じゃあ、単語の組み合わせにすればいいじゃないか 緯度や経度を示すGPS座標の16ケタの数字はあるが、覚えられるものではなく、誰も使っていない 母校であるケンブリッジ大学の数学者の友人と夕食を食べながら、愚痴をこぼした 企画したライブの会場を、参加するミュージシャンや機材の業者らが見つけられず迷うことが多かった ダイムラーやモンゴル政府、アラメックス社といったB to Bの顧客から得るシステムのライセンス料が収益源だ 言語リストの組み合わせは単なる文字データなので、全世界でもたったの12メガバイト分のデータにしかならない 現時点で26言語に対応 日本語の場合は2万5000語のリストが存在し、数学を用いたアルゴリズムによって、57兆とおりの3単語の組み合わせを自動で割り当てる 世界中で数百人のフリーランスの言語学者と契約し、各言語で単語リストをつくる。数百の言語で研究を進めており、1言語ごとに6カ月の開発期間を設けている 国ロンドンに拠点 世界中を3メートル四方の空間に分け、たった3つの単語で位置情報を表わすシステムを開発した。57兆個の空間に4万の単語を割り当てている 「ベンツが注目!3つの単語で表す「住所」革命 世界を57兆個に分割、英国ベンチャーの威力」 東洋経済オンライン what3words プランを立てる前に実行するシリコンバレーの人々 失敗を恐れてチャレンジをしない日本人 プランを立てている間に、そのアイデアは古くなる、プランを立てるくらいならまず手を動かすなり誰かと行動を起こすなりしろ 日本人には「石橋を叩いて渡る」という精神を持つ人が多く、たくさん時間が浪費されてしまう傾向があります チャンスをつかむ手段と生活費を稼ぐ手段の両方になる 実は「男性社会」のシリコンバレー ライフイベントに左右されずにチャレンジし続けている男性が成功をつかんでいるだけの話 起業家は、UberやLyftの運転手になっていろいろな人を乗せ、運転しながら乗客に片端からピッチを行ったりする シリコンバレーは「オープン」な場所だけれど、決して「イージー」な場所ではない 堀江愛利 「Women’s Startup Lab」 「日本人がシリコンバレーで通用しない理由」 (その3)(日本人がシリコンバレーで通用しない理由、ベンツが注目!3つの単語で表す「住所」革命 世界を57兆個に分割 英国ベンチャーの威力) ダイヤモンド・オンライン 澤 円 ベンチャー 創業者のクリス・シェルドリックCEOは、もともと音楽業界で働いていた 消費者向けのアプリは無料で使えるが、大規模な利用には料金が発生する仕組みだ 日本人には、「勉強するためにシリコンバレーに行く」というモードの人が少なくありません。これが一番迷惑がられる