小売業(一般)(その10)(ドンキ創業者・安田隆夫氏が語る人事論 毎年20%の支社長が降格、ドンキは2割降格でも社内が明るい 仕事を「ゲーム化」する4条件、ドンキ創業者・安田隆夫氏が「凱旋」会見 米国攻略へ3つの勝ち筋、ヨーカドー「33店舗閉店」で露見した"残酷な真実" 人も街も変化したのに なにも変われなかった) [企業経営]
小売業(一般)については、本年4月29日に取上げた。今日は、(その10)(ドンキ創業者・安田隆夫氏が語る人事論 毎年20%の支社長が降格、ドンキは2割降格でも社内が明るい 仕事を「ゲーム化」する4条件、ドンキ創業者・安田隆夫氏が「凱旋」会見 米国攻略へ3つの勝ち筋、ヨーカドー「33店舗閉店」で露見した"残酷な真実" 人も街も変化したのに なにも変われなかった)である。
先ずは、本年8月5日付けYahooニュースが転載した日経ビジネスオンライン「ドンキ創業者・安田隆夫氏が語る人事論 毎年20%の支社長が降格」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/af9549f428953720c9d2aadacc32ca21b3cc8523
・『破竹の進撃が止まらない。ディスカウントストア「ドン・キホーテ」(通称「ドンキ」)を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、34期連続増収増益と波に乗る。『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』を上梓(じょうし)した酒井大輔が、その強さの源泉を探る。 「はらわた力(りょく)」──。ドン・キホーテに脈々と伝わる造語である。 たとえ失敗して土壇場に追い詰められても、その経験を糧として勇猛果敢に立ち上がる。目の前の壁に跳ね返され、もがき苦しみながらも、不屈の闘志で最後に這い上がろうとする一念のことを指す。 はらわた力を思う存分鍛えられるよう、ドンキには失敗を容認する企業文化が浸透している。経営理念に掲げるのは「大胆な権限委譲」。仕入れ過ぎて在庫を大量に抱えてしまった、開発した商品が全く売れなかった、赤字を計上してしまった…そんなときも上司からとがめられることはない。ドンキでは誰もが派手にやらかしながら、一人前の商売人に育ってきたからだ。失敗による損失は、成功体験を積み重ねる礎と位置付けている。 社員全員が貪欲に成長を追い求める集団であり続けられれば、どれほど大きな企業になろうと安定志向に傾き、成長が鈍化することはない。「大企業病」になることなどない、はずだった。 しかし、売上高5000億円が近づいてきた2010年ごろから、創業者の安田隆夫氏に危機感が芽生え始めた。 増収率が鈍った時期に、創業者は何を考えたか? 増収率が鈍ってきた。意思疎通の遅れや、店舗の末端まで目が届かなかったことによる不正も起きた。この先も成長街道を突っ走るためには、社内の組織づくりも変えていく必要がある。安田氏がそう思案するようになったのは、この時期からだ(「ドンキ、35期連続増収増益に挑む カルト集団のごとき理念の徹底実践」参照)。 実際には増収増益は途切れることなく続き、10年代後半には、成長が再び加速する。19年にはユニーを完全子会社化し、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)というグループ全体で、ついに売上高1兆円を突破。07年の長崎屋買収に続く大型再編劇で、小売業界の台風の目に躍り出た。その半面、快進撃の反動なのか、大企業化による弊害も直視せざるを得ない状況に陥った』、「「はらわた力(りょく)」──。ドン・キホーテに脈々と伝わる造語である。 たとえ失敗して土壇場に追い詰められても、その経験を糧として勇猛果敢に立ち上がる。目の前の壁に跳ね返され、もがき苦しみながらも、不屈の闘志で最後に這い上がろうとする一念のことを指す。 はらわた力を思う存分鍛えられるよう、ドンキには失敗を容認する企業文化が浸透している。経営理念に掲げるのは「大胆な権限委譲」。仕入れ過ぎて在庫を大量に抱えてしまった、開発した商品が全く売れなかった、赤字を計上してしまった…そんなときも上司からとがめられることはない。ドンキでは誰もが派手にやらかしながら、一人前の商売人に育ってきたからだ。失敗による損失は、成功体験を積み重ねる礎と位置付けている。 社員全員が貪欲に成長を追い求める集団であり続けられれば、どれほど大きな企業になろうと安定志向に傾き、成長が鈍化することはない。「大企業病」になることなどない、はずだった・・・パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)というグループ全体で、ついに売上高1兆円を突破。07年の長崎屋買収に続く大型再編劇で、小売業界の台風の目に躍り出た。その半面、快進撃の反動なのか、大企業化による弊害も直視せざるを得ない状況に陥った」、「失敗を容認する企業文化が浸透」、日本企業には珍しいことだ。
・『支社を分割、究極の権限委譲へ 「1人の支社長が20店舗、30店舗と見るようになったんです。従業数にして1000人以上です。そもそも1人の人間が、集団を把握できる物理的な限界は140~150人という説がありますよね。そもそも支社として機能しているんですか、ということですよ」 15年に「勇退」を発表し、代表権のない創業会長兼最高顧問としてシンガポールに移住した安田氏が20年9月、ついに大なたを振るった。「ミリオンスター制度」という新たな人事評価システムを導入したのだ。 ドンキではもともと現場に権限を委譲する代わりに、しっかりと結果を出した従業員にはその努力をたたえ、昇給や昇進という形で報いる完全実力主義を掲げてきた。権限委譲と適切な評価、その両輪が回ることで組織の新陳代謝が図られ、ベンチャースピリットが保たれてきたのだ。しかし、支社長が目配りできないほどの店舗を統括していると、個店ごとの経営課題を十分にくみ取れないのはもちろん、そこで働く従業員一人ひとりの頑張りをきめ細かくフォローすることができない。人事評価の根幹が崩れてしまうのだ。 そこで「1ミリオン(100万)を単位に、(組織図を)大きく変えることにした」(安田氏)。目指したのは「究極」の権限委譲である。 それまで全国で20だった支社数を102に分割し、100万人(=1ミリオン)の商圏人口ごとに1人の「ミリオン支社長」を任命した。これにより、1人の支社長につき3~6店舗を管轄する体制に刷新。ミリオン支社長に上司はおらず、100万人の商圏、100億円の年商を持つエリアの“社長”として、完全に経営を任せる、という大胆なプランだ。 支社長ポストが大きく増えたことで、ドンキ初の女性支社長や、27歳の支社長(いずれも当時)が誕生した。ダイバーシティー(多様性)を推進しながら、実力のある人材はどんどん抜擢(ばってき)する、という姿勢を社内に見せつけたのだ』、「それまで全国で20だった支社数を102に分割し、100万人(=1ミリオン)の商圏人口ごとに1人の「ミリオン支社長」を任命した。これにより、1人の支社長につき3~6店舗を管轄する体制に刷新。ミリオン支社長に上司はおらず、100万人の商圏、100億円の年商を持つエリアの“社長”として、完全に経営を任せる、という大胆なプランだ。 支社長ポストが大きく増えたことで、ドンキ初の女性支社長や、27歳の支社長(いずれも当時)が誕生した。ダイバーシティー(多様性)を推進しながら、実力のある人材はどんどん抜擢(ばってき)する、という姿勢を社内に見せつけたのだ」、画期的だ。
・『“入れ替え戦”で下位20%は自動降格 一人ひとりのミリオン支社長がそのエリアの収支に責任を持つことで、エリア全体の業績を高める“経営”に挑んでもらう。年間の利益貢献度で上位に入ったミリオン支社長は高額の報酬を手にできる一方で、下位20%に沈んだ場合、新たな支社長にとって代わられる。英国のプレミアリーグや日本のJリーグなどが取り入れる“入れ替え戦”の仕組みを、社内制度として導入したのだ。 安田氏は大相撲の番付になぞらえて、こう説明する。 「通年で下位20%のミリオン支社長は自動降格して幕下になる。上位になったら上位になったで、また新しい番付がその翌年から始まりますから、幕下に落ちないように頑張るしかないですね。もう一度、ゼロからやり直しですから」 荒療治に打って出たのは、好業績にあぐらをかくことなく、今一度原点を思い出してもらいたいからだ。「大企業病を排除して、(従業員)一人ひとりの個性、生きざまを把握しながら、みんなで一つの目的に向かっていける、有機的な結合を持った、いわばチームとしての組織をつくろうとしたんですよ」と安田氏は語る。 ミリオンスター制度には、支社長たるもの、部下の社員だけでなく、「メイトさん」と呼ぶアルバイト全員の名前まで、名札を見ずに言えないと失格だ──という安田氏の強い思いが反映されている。大企業になっても、駆け出しのスタートアップのように、仲間と互いに顔を突き合わせながら、難局を乗り越えていく。その積み重ねにより、店も個々人も成長していくという信念がそこにある。 ミリオンスター制度は、毎年全体の2割の支社長を入れ替えるという「劇薬」だけに、“副作用”も大きい。制度のひずみを正すため、新たな組織が設けられた。それが「アンサーマン本部」である。(次回に続く)』、「下位20%に沈んだ場合、新たな支社長にとって代わられる。英国のプレミアリーグや日本のJリーグなどが取り入れる“入れ替え戦”の仕組みを、社内制度として導入したのだ」、なるほど。
次に、8月7日付け日経ビジネスオンライン「ドンキは2割降格でも社内が明るい 仕事を「ゲーム化」する4条件」を紹介しよう。
・『この記事の3つのポイント 業績好調の「ドン・キホーテ」は、昇格も降格も活発だ 人事制度への不満などには「アンサーマン本部」が対応 完全実力主義をゲーム化する「競争の4条件」がある ディスカウントストア「ドン・キホーテ」(通称「ドンキ」)を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、34期連続増収増益と波に乗る。完全実力主義で「ミリオンスター制度」の下、毎年2割の支社長が降格になる(前回「ドンキ創業者・安田隆夫氏が語る人事論 毎年20%の支社長が降格」)。厳しいようだが、不思議と社内は明るい。なぜか? 『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』を上梓(じょうし)した酒井大輔が、謎に迫る。 PPIHのミリオンスター制度は、毎年全体の2割の支社長を入れ替えるという「劇薬」だけに、“副作用”も大きい。制度のひずみを正すため、新たな組織が設けられた。それが「アンサーマン本部」である。 常務執行役員でドン・キホーテ副社長と長崎屋社長を兼務する赤城真一郎氏の名刺を見ると「アンサーマン本部長兼人財本部長」と併記されていた。 「代表取締役」よりも前に「アンサーマン本部長」の肩書が出る、赤城真一郎氏の名刺(筆者撮影) 「アンサーマンってなんですか、ってよく言われるんですよ。一番上に書かれていますから」と赤城氏は笑う。確かに、名刺上では、ドンキや長崎屋の役員よりも「アンサーマン本部長」が前に出ている。それだけ社内で重要なポジションと目されているのだ。 「ミリオンスター制度って、とんでもないルールじゃないですか。結果を出せば、年収がザバーンと上がるという意味では(努力が報われる)画期的な制度ですが、一方で降格になる人も続出する。毎年毎年、制度の不備や文句が出てくるんですよ。それをサポートしていく部署が必要だよねということで、アンサーマン本部ができました」(赤城氏)。 降格された人の文句を聞くばかりではない。) アンサーマンとは、その名の通り「答える人」のこと。現場の悩みや不満、要望など「何でも聞いて、答えてあげる」任務を負う。 メンバーは赤城氏を本部長に、ドンキの取締役が「アンサーマン委員」として名を連ねる。「もっとかっこいい名前をいろいろ考えていたんですけど、『お前、本部がそんな偉そうな、仰々しい名前をつけてどうするんだよ。それで現場から(社内の)情報が集まると思っているのか。もっと考えろ』と安田から言われまして…」(赤城氏)。 なんでも相談室といった候補も挙がったというが、安田氏命名のアンサーマン本部に決まった。「これが業務サポート部とか一般的な名前だと、『何かのサポートをやっているんじゃないの』ぐらいの反応になっちゃうんですけど、アンサーマンだと『何ですか、それ』ってみんな興味を持つわけですよ。さすがだな、と思いましたね」と赤城氏は振り返る。アンサーマンに限らず、ドンキのユニークな制度が機能するのは、安田氏のネーミングセンスに負うところも大きい。 常務執行役員の赤城氏。もともとスポーツマンで、大学卒業後、しばらくは定職につかず、中途採用でドンキに入った(写真=古立 康三) ただし、競争にはルールが必要だ。ドンキにおける競争の4条件として、明確な勝敗の基準とタイムリミットを設け、プレーヤーに大幅な自由裁量権を与えて、ルールは最小限のシンプルなものにとどめるという方針を、安田氏は打ち出した。 実際のゲームもルールで縛り過ぎると、プレーしていて楽しくないだろう。工夫できる余地があるからこそ、どうやって攻略しようかとワクワクするものだ。そして勝敗の基準が明確であればこそ、負けても納得し、次は勝とうと前を向ける。 競争の面白さを最大限、引き出すルールと仕組みがあるから、完全実力主義を貫いても社内が回る。ミリオンスター制度は、とんでもない劇薬のように見えて、実はドンキらしさを突き詰めた究極のシステムともいえるのだ。 PPIHは、仕事をゲーム化する仕組みをつくり、社員のやる気を引き出すことにたけている。ゲームを持ち込むことで、仕事がもっと楽しくなる。ドンキが長年磨いてきたアミューズメント性の高い買い場(*)は、従業員自身がやりがいを胸に、楽しく仕事をしていることの裏返しでもある。 * 買い場:ドンキでは伝統的に売り場のことを「買い場」と呼ぶ。売り場は店側から見た言葉で、来店客からすれば商品を買う場所だからだ。 気づけば売上高2兆円。今や「セブン、イオン、ドンキ」として総合小売り3強の一角をなす。怒涛の34期連続増収増益を支える、逆張り戦略。アルバイト店員に商品の仕入れから値付け、陳列まで“丸投げ”する。現場が好き勝手やっているのに、利益が上がるのはなぜか? 知られざる巨大企業の強さに迫る1冊、2024年8月発売。 実は、かつてドンキの店舗には「アンサーマン」がいた。緑色のジャケットを着て、来店客の質問に答えるコンシェルジュ的な役割を果たしていた。アンサーマン本部=何かに答えてくれる部署として、現場にも違和感なく受け入れられるという皮算用もあった』、「降格になる人も続出する。毎年毎年、制度の不備や文句が出てくるんですよ。それをサポートしていく部署が必要だよねということで、アンサーマン本部ができました」(赤城氏)。 降格された人の文句を聞くばかりではない。) アンサーマンとは、その名の通り「答える人」のこと。現場の悩みや不満、要望など「何でも聞いて、答えてあげる」任務を負う。 メンバーは赤城氏を本部長に、ドンキの取締役が「アンサーマン委員」として名を連ねる・・・仕事をゲーム化する仕組みをつくり、社員のやる気を引き出すことにたけている。ゲームを持ち込むことで、仕事がもっと楽しくなる。ドンキが長年磨いてきたアミューズメント性の高い買い場(*)は、従業員自身がやりがいを胸に、楽しく仕事をしていることの裏返しでもある」、なるほど。
・『「数字至上主義」に走り過ぎていないか? アンサーマン本部の仕事は、とにかく店舗に足を運び、店長や従業員の御用聞きに徹することだ。例えば、“番付”の上位に入るべく支社長が「数字至上主義」に走り、現場にむちゃを強いてはいないか。直属の上司にはなかなか直言できない問題点を、役員たちが直々に聞き取ることで、課題を把握し、早期の改善につなげるのが目的である。 赤城氏自身も全国のドンキの店舗を精力的に回り、「常務執行役員です、副社長ですじゃなくて、どこに行ってもアンサーマン本部ですと言うようにしている」という。ミリオンスター支社長から陥落してしまった社員もヒアリングの対象だ。当事者として辛酸をなめているからこそ、支社長としてもっとこうすればよかった、ミリオンスター制度のここを改善してほしいといった一家言を持っているからだ。 自動降格が発動し、ミリオンスター支社長の座を奪われても、金輪際チャンスが巡ってこないというわけではない。降格があるということは、昇格もある。実際、新たな支社長は社内の立候補者から選ばれ、その中には降格経験者も含まれている。PPIHの役員たち自身も、昇降格を繰り返しながら、着実にステップアップしてきた。 「敗者復活」の文化があるから、絶望することなく、捲土(けんど)重来を期して爪を研げる。“入れ替え戦”は己を見つめ直し、はらわた力(*)を蓄える絶好の機会になる。 * はらわた力:ドンキに脈々と伝わる造語。たとえ失敗して土壇場に追い詰められても、その経験を糧として勇猛果敢に立ち上がり、もがき苦しみながら、不屈の闘志で這い上がろうとする一念のことを指す。 ▽若くして“経営者”の経験を積める(ミリオンスター制度は見方によっては、恐怖政治のようだが、実力次第で誰にでもチャンスが与えられ、若くして“経営者”の経験を積めるというメリットがある。結果を出せば、待遇も良くなるため、モチベーションも上がりやすい。 この制度の導入以前は、支社長が長く変わらず、社内全体に硬直感が漂っていたという。それが今や、毎年20人ほどの新支社長の椅子を目指し、100人ほどが手を挙げる。「安定を求めている人にとっては、とんでもない制度なのかもしれないですが、うちの会社には安定という文字はないので」(赤城氏)。 完全実力主義を振りかざし過ぎると、社内がギスギスしそうなものだが、ドンキでは不思議とそうなっていない。いったい、何が違うのだろうか。 安田氏は、権限委譲によって、仕事が労働(ワーク)ではなく、競争(ゲーム)になる、と説く。企業理念をまとめた小冊子「源流」(「ドンキ、35期連続増収増益に挑む カルト集団のごとき理念の徹底実践」参照)にも、「仕事を『ワーク』ではなく『ゲーム』として楽しめ」という心得が記載されている』、「降格があるということは、昇格もある。実際、新たな支社長は社内の立候補者から選ばれ、その中には降格経験者も含まれている。PPIHの役員たち自身も、昇降格を繰り返しながら、着実にステップアップしてきた。 「敗者復活」の文化があるから、絶望することなく、捲土(けんど)重来を期して爪を研げる。“入れ替え戦”は己を見つめ直し、はらわた力(*)を蓄える絶好の機会になる・・・権限委譲によって、仕事が労働(ワーク)ではなく、競争(ゲーム)になる、と説く・・・「仕事を『ワーク』ではなく『ゲーム』として楽しめ」という心得が記載」、なるほど。
第三に、8月20日付け日経ビジネスオンライン「ドンキ創業者・安田隆夫氏が「凱旋」会見 米国攻略へ3つの勝ち筋」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00096/081900180/
・『この記事の3つのポイント 創業者の安田氏が9年ぶりに決算会見に登壇 米国市場の本格開拓への野望を語った 売上高2兆円突破や35期連続の増収増益は通過点 勇退した創業者が9年半ぶりに登壇――。ディスカウントストア「ドン・キホーテ」(通称「ドンキ」)を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の決算発表の場に安田隆夫氏が戻ってきた。35期連続の増収増益を達成した同社の会見に、なぜ安田氏が戻ってきたのか。その肉声に込められた思いと背景を、『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』を上梓(じょうし)した酒井大輔が分析する。 9年半ぶりの“凱旋”だった。2024年8月16日、都内で開かれたPPIHの決算説明会。冒頭、壇上に立ったのは、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を一代で巨大企業に押し上げた、創業会長兼最高顧問の安田隆夫氏だった。 15年6月期の中間決算説明会で「勇退する」と表明して以来のスピーチとなる。現在はシンガポールに居を構える安田氏が、なぜこの場にいるのか。本人も開口一番、自虐混じりにこう切り出した。 「なぜ後期高齢者である老体にムチを打ち、あえてこの場に出張ってきたか」』、興味深そうだ。
・『「老体にムチ打ち」訴えたかったこと それは、現場から頼み込まれたからだ、と続けた。「今年はドン・キホーテの開業35周年に当たる。節目とも言える年に売り上げ2兆円を突破した。ぜひ創業会長による記念スピーチを行ってほしい旨、経営陣から強い要請があったからにほかなりません」 ドンキを運営するPPIHは24年6月期、連結売上高が初めて2兆円を突破した。日本の小売業では史上5社目となる。売上高は前期比8.2%増の2兆950万円。営業利益は33.2%増の1401億円と大きく伸びた。 1989年、東京都府中市にドンキ1号店を開業して以来、売上高と営業利益は一貫して伸び続け、ついに35期連続増収増益を成し遂げたのだ。 特に利益面の躍進が目覚ましい。25年6月期までの中期経営計画で掲げた営業利益の目標は1200億円。それを1年前倒しで達成、それも目標額を約200億円上回る勢いだ。営業利益率は、前期の5.43%から6.69%へと高まった。セブン&アイ・ホールディングス(4.66%、24年2月期)、イオン(2.63%、24年2月期)という「小売り2強」をはるかに上回る水準だ。 インバンド(訪日外国人)客が急増し、ドンキの免税売上高が急伸しただけではない。業界では終わった業態と目されていた総合スーパー(GMS)事業が大きく利益貢献した。 PPIHは19年にGMS大手のユニーを完全子会社化。一部店舗をドンキに業態転換し、残る店舗「アピタ」「ピアゴ」にもドンキ流の個店経営を注入した。5年前と比べて営業利益は231億円増え、GMS事業の営業利益率は7.4%(24年6月期)まで上昇した。1%を下回るイオン、イトーヨーカ堂のGMS事業と比べると高収益ぶりが際立っている』、「営業利益率は、前期の5.43%から6.69%へと高まった。セブン&アイ・ホールディングス(4.66%、24年2月期)、イオン(2.63%、24年2月期)という「小売り2強」をはるかに上回る水準だ・・・PPIHは19年にGMS大手のユニーを完全子会社化。一部店舗をドンキに業態転換し、残る店舗「アピタ」「ピアゴ」にもドンキ流の個店経営を注入した。5年前と比べて営業利益は231億円増え、GMS事業の営業利益率は7.4%(24年6月期)まで上昇した。1%を下回るイオン、イトーヨーカ堂のGMS事業と比べると高収益ぶりが際立っている」、なるほど。
・『マニフェストをことごとく有言実行 安田氏は、これまでの歩みから語り始めた。 「過去を振り返ってみますと、会社の業績計画を公表するこうしたIR(投資家向け広報)の場などにおいても、当社の証券コード7532を用いた『753(しちごさん)計画』『7532(しちごさんツー)計画』、あるいは『2×4(ツーバイフォー)計画』など各種経営数値目標を、アナリストの方々にマニフェストとしてお約束し、ここからが重要なのですが、区切られた期日までにすべて実現してまいりました」 753計画では01年6月期までに「売上高700億円」「経常利益50億円」「総店舗数30店舗」を目指し、その後繰り出した2×4計画では「売上高2000億円」「株主資本利益率(ROE)20%」の達成と「経常利益200億円」「年間新規出店数20店舗」体制の確立を掲げた。 続く7532計画では「経常利益率7%超」「1株当たり当期純利益(EPS)500円超」「売上高3年以内3000億円超」「2桁成長、20%成長」を目標とした。753計画は完遂し、2×4計画、7532計画はおおむね実現。20年6月期、25年6月期までの中期経営計画は、それぞれ1年前倒しで達成した』、「各種経営数値目標を、アナリストの方々にマニフェストとしてお約束し、ここからが重要なのですが、区切られた期日までにすべて実現してまいりました」、大したものだ。
・『マニフェストをことごとく有言実行 安田氏は、これまでの歩みから語り始めた。 「過去を振り返ってみますと、会社の業績計画を公表するこうしたIR(投資家向け広報)の場などにおいても、当社の証券コード7532を用いた『753(しちごさん)計画』『7532(しちごさんツー)計画』、あるいは『2×4(ツーバイフォー)計画』など各種経営数値目標を、アナリストの方々にマニフェストとしてお約束し、ここからが重要なのですが、区切られた期日までにすべて実現してまいりました」 753計画では01年6月期までに「売上高700億円」「経常利益50億円」「総店舗数30店舗」を目指し、その後繰り出した2×4計画では「売上高2000億円」「株主資本利益率(ROE)20%」の達成と「経常利益200億円」「年間新規出店数20店舗」体制の確立を掲げた。 続く7532計画では「経常利益率7%超」「1株当たり当期純利益(EPS)500円超」「売上高3年以内3000億円超」「2桁成長、20%成長」を目標とした。753計画は完遂し、2×4計画、7532計画はおおむね実現。20年6月期、25年6月期までの中期経営計画は、それぞれ1年前倒しで達成した。 「ここで私が何を申し上げたいかと言えば、当社は言ったことは必ずやり遂げる有言実行の企業であり、そのことに私は大いなる自信と自負を抱いております。すなわち、上げたアドバルーンが単なるアドバルーンで終わらず、常にきちんとした結果を出すということであり、グループ売上高2兆円はまさにそうした文脈の延長線上にあるわけでございます」 都内にドンキが数店舗しかなかった時代から、安田氏は全国で多店舗展開するビジョンを公言し、その通り、進撃に進撃を重ねた。目下、安田氏が大いなる野心を燃やすのは海外展開である。 「(15年に勇退し)国内の事業経営を後進に譲った後は、アジアと米国を主体に、海外での多店舗展開を内外に宣言し、現在進行形ではありますが、確実にそれを推し進めているところであります」 アジアでは、日本の産品に特化した業態「DON DON DONKI(ドンドンドンキ)」の展開を加速する。それに加えて「今後は重点的に米国を攻めてまいります」と言い切った。 シンガポールの「DONDONDONKI(ドンドンドンキ) オーチャードセントラル」は2017年12月にオープン 「言うまでもなく、米国はいまだ成長力の衰えない世界最大の市場であり、ここで一定のプレゼンスを得ないことには、社名である環太平洋(パン・パシフィック)制覇は絵に描いた餅と言わざるを得ません」 既に勝ち筋は描いている。大きな示唆を得たというのは、24年4月、米国本土攻略の「先兵」として開業した米グアム島の大型商業施設「VILLAGE OF DONKI(ヴィレッジオブドンキ)」だ。安田氏が「うれしい誤算」だったと語るのは、非食品がことのほか売れているという事実である。 「(アジアのドンドンドンキを通じて)食品がたくさん売れることは当初から分かっておりましたが、日用消耗品や生活雑貨などを含む日本の非食品がこれだけ売れるのなら、今の我が国流通業を苦しめている歴史的な円安を逆手に取れる大チャンスが、米国という、とてつもない巨大な市場に眠っていることになります。当社は全力を挙げ、それを顕在化させ、取りにまいります」』、「各種経営数値目標を、アナリストの方々にマニフェストとしてお約束し、ここからが重要なのですが、区切られた期日までにすべて実現してまいりました」・・・米国本土攻略の「先兵」として開業した米グアム島の大型商業施設「VILLAGE OF DONKI(ヴィレッジオブドンキ)」だ。安田氏が「うれしい誤算」だったと語るのは、非食品がことのほか売れているという事実である。 「(アジアのドンドンドンキを通じて)食品がたくさん売れることは当初から分かっておりましたが、日用消耗品や生活雑貨などを含む日本の非食品がこれだけ売れるのなら、今の我が国流通業を苦しめている歴史的な円安を逆手に取れる大チャンスが、米国という、とてつもない巨大な市場に眠っていることになります。当社は全力を挙げ、それを顕在化させ、取りにまいります」、なるほど。
・『ロスでトップセールス「世界商談会」を敢行へ 食品のみならず、非食品もキラーコンテンツにする。さらに他社をも巻き込んで、米国本土に乗り込むプランも明かした。8月末には取引先の大手メーカーや問屋とともに米ロサンゼルスで「世界商談会」を開催する予定だ。安田氏自らがロスに出向き、トップセールスをかけるという。 米国はレギュレーション(規制)が厳しいことで知られるが、「そのボトルネックを抜ければ、日本の自動車産業に匹敵するような未来が待っている可能性もございます。多くの仕入れ先パートナーの皆様と協力しながら、米国でロビー活動をやるべきではないでしょうか。商談会という名前はついておりますが、別に1個1個の商談をするわけではなく、気持ちを一つにして、これから未来に向かっていこう、と。その挑戦の決意を共有するための会が、世界商談会ということでございます」 米国の市場規模は、どれだけ大きいのか。安田氏はハワイを引き合いに出し、こう表現してみせた。 「今、ハワイの人口はだいたい140万人で、(PPIHは)年間1000億円近く売り上げているんですね。140万人というと、滋賀県と同じぐらいの規模ですよね。滋賀県で1000億円近い数字なんて上がりっこない。140万人で1000億円だったら、日本(の総人口)で言ったら8兆円ぐらいになる。日本よりハワイのほうが売っているんじゃないかという話ですよね」 米国本土のカリフォルニア州では日本食を軸とした「TOKYO CENTRAL(トーキョーセントラル)」を多店舗展開しているが、客単価は6000円を超えるという。 「米国では、食品が中心の店でも、それだけ買っていただける。そもそも顧客の購買力が全く違う。アジアとは比較にならないマーケットの大きさがあります。当然のことながら、米国を制すれば、ある面では地球を制すると言っても過言ではございません」』、「米国では、食品が中心の店でも、それだけ買っていただける。そもそも顧客の購買力が全く違う。アジアとは比較にならないマーケットの大きさがあります。当然のことながら、米国を制すれば、ある面では地球を制すると言っても過言ではございません」、なるほど。
・『今の苦戦は、将来への「成長痛」 ただ、もちろん課題もある。その最たる例が、店のオペレーション(運営)だ。ドンキ躍進の原動力となっているのは、現場への権限委譲である。社員はもちろん、メイトと呼ぶアルバイトにも、商品の仕入れから陳列、値付け、ポップの作成などあらゆる店内業務を委ねているのが特徴だ。それは海外店舗も同じである。 しかし、米国で働く現地の従業員は日本やアジアの店舗と異なり、リーダーシップとなる人材をつくり切れていないという。大きな壁は、言語にある。 「私どもには、そもそも従来、英語を話せる人材がほとんどいないんですよ。いくら日本で店をつくるのが達人のようにうまくても、英語が話せなければ話になりません。店をつくるのがうまくて、英語が話せる人材はほとんどいない。ただ、今、私たちはそうした人材をたくさんかき集めようとしております」) しかし、米国で働く現地の従業員は日本やアジアの店舗と異なり、リーダーシップとなる人材をつくり切れていないという。大きな壁は、言語にある。 「私どもには、そもそも従来、英語を話せる人材がほとんどいないんですよ。いくら日本で店をつくるのが達人のようにうまくても、英語が話せなければ話になりません。店をつくるのがうまくて、英語が話せる人材はほとんどいない。ただ、今、私たちはそうした人材をたくさんかき集めようとしております」 10代から20代半ばのZ世代には、英語を話せるメイトも多い。「こういう方たちを率先して、特別優遇措置をつけてたくさん雇用しようとしている最中」なのだという。 非食品を強化し、ロビー活動で規制を乗り越え、多言語人材を確保する。この3つの勝ち筋がうまくはまれば、「米国(事業)は今の日本を凌駕(りょうが)できる可能性も十二分にあるのではないかと私は確信しております」と説く。なぜなら「米国は、運営は大変だけど、販売はそんなに難しくない」と見るからだ。 現在は、店舗運営で苦戦しているが、「むしろこの苦戦は成長痛であり、ボトルネックであると感じております。このボトルネックをクリアすれば、むしろ一気に成長できます。これは、当社の日本のかつての姿を思い浮かべていただければご理解いただけるものと思います」と自信を込めた』、「店をつくるのがうまくて、英語が話せる人材はほとんどいない。ただ、今、私たちはそうした人材をたくさんかき集めようとしております」、これでは話にならない。当面、期待薄だ。
・『日本では縮小市場の「ラストマン」になる どこまでも肥沃な市場が広がる海外事業に注力する一方、日本国内事業をおろそかにすることはもちろんない。日本において今後進めるのは「ラストマンスタンディング戦略」の総仕上げだ。 ラストマンスタンディングとは文字通り、最後まで立っている、つまり生き残り続けることを指す。「海外と違って国内市場は全体的にシュリンク(縮小)しておりますが、激烈な戦いを制することによって、逆に占拠率、シェアが大きく高まるという、ご褒美、果実がございます」(安田氏)。 生き馬の目を抜くような厳しい競争の世界だからこそ、その「レッドオーシャンの中で勝者になった後は、ほぼブルーオーシャンになる可能性」がある。「私どもはぜひそれを目指していきたい」と安田氏は意気込んだ。 人口が減っていく日本で、成長力を持続するのは容易ではないが、安田氏はどこまでも前のめりだ。 「我が国の小売総販売額は約140兆円ある。当社のシェアは現状ではわずか1.5%にも満たない。もちろん、私どもはこのレベルに安住する気持ちは毛頭ございません」 強気の発言を裏付けるのは、積み重ねてきた歴史にある。「長崎屋、ユニーというGMS事業を買収して見事に再生させたという、誰も否定できない圧倒的な実績とエビデンスがあるわけでございます」 24年3月、旧ダイエーの跡地に開業した「MEGAドン・キホーテ成増店」も「万年不振で(イオングループが)諦めた物件を、当社が超繁盛店へと生まれ変わらせた」と誇り、壇上からこう呼び掛けた。 「ポストGMSという我が国流通業界における歴史的課題を解決するのは、結局PPIHをおいて他にない。そろそろそんなお墨付きを、私どもがいただいてもよろしいのではないかと勝手に考えておりますが、皆さんはどのようにお考えでございましょうか」 「いずれにせよ、我が国のGMS業界は再編の最終章に入ったと認識しております。当社としては再編最終章に勝ち残り、ラストマンスタンディングの総仕上げにして、次のステージに駆け上がることを、皆様の前で宣言させていただきたいと思います」 売上高2兆円突破も、35期連続増収増益も金字塔には違いないが、それで満足することはない。海外市場を果敢に開拓し、国内では消耗戦の勝者になる。2兆円企業となったのは「私どもにとって来るべき未来に向けた一つの節目、いわば新たな出発点であり、今はそのスタート台に立ったのだと、私どもは認識しております」(安田氏)。 今期も売上高2兆2200億円、営業利益1500億円と、36期連続の増収増益を見込む。飽くなき挑戦は、終わらない』、米国での展開は人材面のネック解消は当分の間、期待出来ないので厳しいが、その他では今後も成長が期待できるだろう。
第四に、9月4日付け東洋経済オンラインが掲載したチェーンストア研究家・ライターの谷頭 和希氏による「ヨーカドー「33店舗閉店」で露見した"残酷な真実" 人も街も変化したのに、なにも変われなかった」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/821339
・『閉店する33店舗が決定、100店舗を割るヨーカドー GMS大手のイトーヨーカドーが、再び世間を賑わせている。ヨーカドーといえば、今年の2月に東北地方を含む17店舗の閉店を発表。また、親会社のセブン&アイ・ホールディングスがスーパー事業を分離するという実質的な「見放し」も受け、自力での再建を求められている途中だ。 そんなヨーカドーだが、来年2月末までに閉店する33店舗の詳細が判明し、大きな話題となっている。報道によれば、茨城県で唯一の店舗であった竜ヶ崎店や埼玉の西川口店、千葉の姉崎店など、関東近郊圏での閉店も行われる。この縮小により、イトーヨーカドーは一気に93店にまで減ることになる。 閉店する店舗の中でも、話題を呼んだのが、9月に営業を終える津田沼店だ。閉店が決まった当初から、「悲しい」「あの津田沼店が……」という声が聞かれた。 【画像13枚】「悲しい」「あの津田沼店が…」46年の歴史に幕をおろす、イトーヨーカドー津田沼店の悲しすぎる現在の姿) そんな中で、筆者が「面白い」と感じたポストがある。一般ユーザーの投稿のため、直接引用することは控えるものの、そのポストではイトーヨーカドー津田沼店に「閉店」の2文字が掲げられるとは想像もできなかったと述べつつ、津田沼という街について、「ここ20年で一番、『行く』街から『住む』街に変化した街だと思う」と指摘していた。 何気ないポストに思えるが、チェーンストアや都市について執筆活動をしている筆者には、イトーヨーカドーが持っている、本質的かつ普遍的な問題が潜んでいると思えた。 そこで今回は、閉店する津田沼店を実際に訪れながら、街とヨーカドーの関係性について考えていきたい』、興味深そうだ。
・『津田沼店を訪れてみると… ヨーカドー津田沼店は、新京成線の新津田沼駅から直結している。入り口のドアの前には、閉店のお知らせが貼ってあった。 中に入ると、顧客から店へのメッセージを募集するコーナーが。ポストイットにそれぞれの人が津田沼店の思い出を書いて貼っている。その数は膨大で、津田沼店が地域の人から愛されてきたことがわかる。 その横には、閉店までの店の陳列について説明するポスター展示があり、一歩踏み入れただけで、完全に「お別れモード」に包まれる。) 店内にも、至るところに「閉店売りつくし」と張り紙がしてある。いろんなものが安売りしていて、大量に積まれた商品が放り込まれたラックの周りには、ちらほら人がいる。 でも、ちらほら、だ。たくさんいるわけじゃない。そこがまた、一層悲しさを際立たせる。 もっとも「お別れモード」が強いのが、最上階。本来はレストランフロアなのだが、ほとんどのテナントが撤退していて、白い壁が広がっている。そのあまりの殺風景さを埋めるためか、「津田沼店の想い出」コーナーが展開されている。ヨーカドーの昔の写真の展示から、当時の資料、津田沼の歴史年表まで、ちょっとした博物館のようである。 入り口にもあった「津田沼店の想い出コーナー」はここにも広がっていて、無数のポストイットが貼られていた。これだけ愛されてるんだったら、なんで撤退なんて……。つい、そう思ってしまう』、「もっとも「お別れモード」が強いのが、最上階。本来はレストランフロアなのだが、ほとんどのテナントが撤退していて、白い壁が広がっている。そのあまりの殺風景さを埋めるためか、「津田沼店の想い出」コーナーが展開されている・・・これだけ愛されてるんだったら、なんで撤退なんて……。つい、そう思ってしまう」、なるほど。
・『「津田沼戦争」に参入したヨーカドー 津田沼店が撤退せざるを得ないのっぴきならない理由はなにか。 もちろん、それはイトーヨーカドー全体の業績が悪いことはいうまでもないが、津田沼という街ならではの理由もある。) もともと、津田沼店は1977年に誕生した。今年で46年目を迎える。 当時、津田沼には「西武津田沼ショッピングセンター」「丸井」「サンぺデック(ダイエー津田沼店)」「長崎屋」等の大型商業施設が多数立地していた。商業的な激戦が繰り広げられるさまは「津田沼戦争」とも呼ばれ、当時は勢いのあったヨーカドーがその戦争に参入した形となる。 戦争」ともなれば、本気を出さざるを得ない。売り場面積は当時としては最大。地下には「津田沼ファミリーワールド」という、さまざまな食料品を取り扱うモールのようなものもあり、食べ物であればなんでも揃った。こうした戦略が功を奏し、津田沼店はヨーカドー店舗の中でも売り上げ上位の店舗になる。 【2024年9月5日10時35分追記】初出時、記載の内容に誤りがありました。お詫びして修正致します。 前述したポストでは、「津田沼はかつて『行く』街だった」と述べられているが、まさにちょっと特別な場所としてヨーカドー津田沼店はあったのだ』、「津田沼店はヨーカドー店舗の中でも売り上げ上位の店舗になる・・・「津田沼はかつて『行く』街だった」と述べられているが、まさにちょっと特別な場所としてヨーカドー津田沼店はあったのだ」、なるほど。
・『商業エリアの中心が動いた しかし、ここに強敵が現れる。津田沼店誕生の4年後に誕生した「ららぽーとTOKYO-BAY」である。津田沼店からはわずか4キロほどで、車で行けば10分かからない距離。津田沼の隣、船橋の臨海エリアに誕生した。ちなみに、元はと言えば、懐かしい人には懐かしい「船橋ヘルスセンター」がある場所だ。 ここは、今でこそ全国に増えた「ららぽーと」の1号店にして、現在でも日本最大級の面積を誇る大ショッピングモール。現在の敷地面積は約171,000平方メートルで、東京ドーム3.6個分。でかすぎる。 とはいえ、ららぽーとTOKYO-BAY、オープン当初は日本に本格的なショッピングモールがなかったこと、ららぽーと自体が初出店だったこともあって、先行きが不安視されていた。なにより、すぐ近くの津田沼は戦争中だ。そんな激戦区にあって、後発の業態がうまくいくはずがない、そう目されていた。 だが、その目論見は見事、外れる。オープン時には4万人が来場し、推定では25万人が来場したらしい。客の勢いは止まらず、このショッピングモールはさらにさらに面積を広げていく。 そこでの集客にあやかろうとしたのか、2000年には、この臨海エリアに、コストコやカルフール、三井アウトレットパーク幕張など数多くの商業施設が誕生。これには、2000年に大店法が改正され、大規模な小売店の出店が容易になった事情もある。明確に「行く」街は、この臨海エリアになったのである。) さて、そうなると大変なのが津田沼駅前にあった商業施設たちである。そこで戦争をしていると思ったら、予想しないところで客を取られてしまった。折しも時代は、GMSの時代からショッピングモールの時代へと移り変わっていくさなか。津田沼に数多くあった商業施設は、また一つまた一つと閉店していった。 その跡地に商業施設ができる場合があったが、そこには多くの場合、生活に密着したテナントが入る場合が多い。例えば、2007年に閉店した丸井津田沼店のあとにできた「mina津田沼店」には、ダイソーやJINS、AOKI、業務スーパーなど、さまざまなチェーンが入っている。まさに、特別感のあるラインナップというよりも、「住む」街として、そこに住んでいる人たちに特化したラインナップへと変わっていったのだ』、「2000年には、この臨海エリアに、コストコやカルフール、三井アウトレットパーク幕張など数多くの商業施設が誕生。これには、2000年に大店法が改正され、大規模な小売店の出店が容易になった事情もある・・・大変なのが津田沼駅前にあった商業施設たちである。そこで戦争をしていると思ったら、予想しないところで客を取られてしまった。折しも時代は、GMSの時代からショッピングモールの時代へと移り変わっていくさなか。津田沼に数多くあった商業施設は、また一つまた一つと閉店していった・・・その跡地に商業施設ができる場合があったが、そこには多くの場合、生活に密着したテナントが入る場合が多い。例えば、2007年に閉店した丸井津田沼店のあとにできた「mina津田沼店」には、ダイソーやJINS、AOKI、業務スーパーなど、さまざまなチェーンが入っている。まさに、特別感のあるラインナップというよりも、「住む」街として、そこに住んでいる人たちに特化したラインナップへと変わっていったのだ」、なるほど。
・『街の変化より、変化が遅かったヨーカドー こうして津田沼の街は変化を続け、それに合わせて「津田沼戦争」も収束、街の形に合わせるようにして、商業施設も変化していった。 ところで、唐突だが、ここで思い出すのが、最近私が精力的に取り組んでいる「渋谷カフェ少なすぎ問題」である。これは、土日の渋谷では、どんなチェーンカフェも混んでいることを指摘したものだ。この要因には、コロナ禍を経てリモートで仕事をする人が増えたことや、都市自体に人がゆっくり休める場所が少ないことが原因だと考えている。 しかし、その大元にあるのは、「人の変化」と「チェーンストアや商業施設の変化」、さらには「街全体の変化」のスピードが、それぞれ異なっていることだ。 人間の流行は、わずか数年程度で移り変わっていくのがほとんどだ。それに対し、商業施設などは、すぐに出店できるものでもなく、本部による出店計画や工事などを経て、やっと出来上がる。人々の興味よりも変化のスピードが遅いのだ。もちろん、チェーンストアの入れ替わりも、人々の興味の変化に遅れて生じる。 そして、それらを包み込む街ともなれば、もっともっとその変化は遅い。渋谷の再開発は2012年から2027年まで、15年がかかっている(というか、それ以上になりそうでもある)。 一方で、コロナを経て、人々の変化は以前にも増して早くなっている。リモートワークが前提となり、若者の消費も「モノ消費」から「コト消費」へと変わった。 にもかかわらず、街自体はまだ変化の途中。都心にカフェが足りない問題もまた、こうしたサイクルの問題だと言えるのだ。 そして、これは、今見てきた津田沼でも同様である。近隣にショッピングモールができたことによって人々の行動パターンが変わり、他の商業施設は変わってきた。 しかし、イトーヨーカドーだけは、その変化のサイクルに乗り遅れてしまったのではないか』、「コロナを経て、人々の変化は以前にも増して早くなっている。リモートワークが前提となり、若者の消費も「モノ消費」から「コト消費」へと変わった。 にもかかわらず、街自体はまだ変化の途中。都心にカフェが足りない問題もまた、こうしたサイクルの問題だと言えるのだ。 そして、これは、今見てきた津田沼でも同様である。近隣にショッピングモールができたことによって人々の行動パターンが変わり、他の商業施設は変わってきた。 しかし、イトーヨーカドーだけは、その変化のサイクルに乗り遅れてしまったのではないか」、その通りだ。
・『改革はしているが、肝心の消費者を見られていない イトーヨーカドーの「変化の遅さ」はこれまでも取り上げられてきた。日本経済新聞の社説でも「遅すぎた経営改革」として語られているぐらいだ。実際、同社の取り組みを見ていると、この「人の変化」に対応する、という意識が希薄なのではないか、と思ってしまうことにたびたび遭遇する。 私は以前、都内にあるイトーヨーカドーの全店舗をめぐって、その問題点を指摘したことがあるが、例えば顧客層が高齢者にもかかわらずセルフレジ化を進め、結果、有人レジが大混雑している様子など、そうした例は枚挙にいとまがない。 先ほども書いたように、ただでさえ、「街の変化」「商業施設の変化」「人の変化」はサイクルがバラバラで、とくに商業施設は、人の変化のスピード感に対応しなければならない。普段の努力がなければこの変化に対応することはできないのだ。 津田沼店は、結果として46年という長寿を全うした。 しかし、そこが長寿であることは、むしろ、津田沼店が「変化に対応しなかった」ということを表している。もっともゆっくり進む街の変化にも対応しなかったということなのである。なんという皮肉だろうか。今や、GMSを追いやったショッピングモールが、利益率の低下に苦しんでいる状況であり、決して安泰ではない。 こういった現実を考えれば考えるほど、津田沼店に貼ってあった、大量のポストイットも違った風景に見えてくる。 そこに書いてある「ヨーカドーが無くなって残念です」という内容は、むしろヨーカドーがいかに変化をしてこなかったかを逆に表しているのだ。そこに、残酷な真実が隠れている。 もはやイトーヨーカドーは、多くの人にとって「今」ではなく、「懐かしく、美しい記憶の中」に存在しているのだ。 関連記事:ヨーカドーが「第2のライフ」には多分なれない訳「消費者を見ない姿勢」は変化の妨げになる』、「なんという皮肉だろうか。今や、GMSを追いやったショッピングモールが、利益率の低下に苦しんでいる状況であり、決して安泰ではない。 こういった現実を考えれば考えるほど、津田沼店に貼ってあった、大量のポストイットも違った風景に見えてくる。 そこに書いてある「ヨーカドーが無くなって残念です」という内容は、むしろヨーカドーがいかに変化をしてこなかったかを逆に表しているのだ。そこに、残酷な真実が隠れている。 もはやイトーヨーカドーは、多くの人にとって「今」ではなく、「懐かしく、美しい記憶の中」に存在しているのだ」、同感である。
先ずは、本年8月5日付けYahooニュースが転載した日経ビジネスオンライン「ドンキ創業者・安田隆夫氏が語る人事論 毎年20%の支社長が降格」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/articles/af9549f428953720c9d2aadacc32ca21b3cc8523
・『破竹の進撃が止まらない。ディスカウントストア「ドン・キホーテ」(通称「ドンキ」)を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、34期連続増収増益と波に乗る。『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』を上梓(じょうし)した酒井大輔が、その強さの源泉を探る。 「はらわた力(りょく)」──。ドン・キホーテに脈々と伝わる造語である。 たとえ失敗して土壇場に追い詰められても、その経験を糧として勇猛果敢に立ち上がる。目の前の壁に跳ね返され、もがき苦しみながらも、不屈の闘志で最後に這い上がろうとする一念のことを指す。 はらわた力を思う存分鍛えられるよう、ドンキには失敗を容認する企業文化が浸透している。経営理念に掲げるのは「大胆な権限委譲」。仕入れ過ぎて在庫を大量に抱えてしまった、開発した商品が全く売れなかった、赤字を計上してしまった…そんなときも上司からとがめられることはない。ドンキでは誰もが派手にやらかしながら、一人前の商売人に育ってきたからだ。失敗による損失は、成功体験を積み重ねる礎と位置付けている。 社員全員が貪欲に成長を追い求める集団であり続けられれば、どれほど大きな企業になろうと安定志向に傾き、成長が鈍化することはない。「大企業病」になることなどない、はずだった。 しかし、売上高5000億円が近づいてきた2010年ごろから、創業者の安田隆夫氏に危機感が芽生え始めた。 増収率が鈍った時期に、創業者は何を考えたか? 増収率が鈍ってきた。意思疎通の遅れや、店舗の末端まで目が届かなかったことによる不正も起きた。この先も成長街道を突っ走るためには、社内の組織づくりも変えていく必要がある。安田氏がそう思案するようになったのは、この時期からだ(「ドンキ、35期連続増収増益に挑む カルト集団のごとき理念の徹底実践」参照)。 実際には増収増益は途切れることなく続き、10年代後半には、成長が再び加速する。19年にはユニーを完全子会社化し、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)というグループ全体で、ついに売上高1兆円を突破。07年の長崎屋買収に続く大型再編劇で、小売業界の台風の目に躍り出た。その半面、快進撃の反動なのか、大企業化による弊害も直視せざるを得ない状況に陥った』、「「はらわた力(りょく)」──。ドン・キホーテに脈々と伝わる造語である。 たとえ失敗して土壇場に追い詰められても、その経験を糧として勇猛果敢に立ち上がる。目の前の壁に跳ね返され、もがき苦しみながらも、不屈の闘志で最後に這い上がろうとする一念のことを指す。 はらわた力を思う存分鍛えられるよう、ドンキには失敗を容認する企業文化が浸透している。経営理念に掲げるのは「大胆な権限委譲」。仕入れ過ぎて在庫を大量に抱えてしまった、開発した商品が全く売れなかった、赤字を計上してしまった…そんなときも上司からとがめられることはない。ドンキでは誰もが派手にやらかしながら、一人前の商売人に育ってきたからだ。失敗による損失は、成功体験を積み重ねる礎と位置付けている。 社員全員が貪欲に成長を追い求める集団であり続けられれば、どれほど大きな企業になろうと安定志向に傾き、成長が鈍化することはない。「大企業病」になることなどない、はずだった・・・パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)というグループ全体で、ついに売上高1兆円を突破。07年の長崎屋買収に続く大型再編劇で、小売業界の台風の目に躍り出た。その半面、快進撃の反動なのか、大企業化による弊害も直視せざるを得ない状況に陥った」、「失敗を容認する企業文化が浸透」、日本企業には珍しいことだ。
・『支社を分割、究極の権限委譲へ 「1人の支社長が20店舗、30店舗と見るようになったんです。従業数にして1000人以上です。そもそも1人の人間が、集団を把握できる物理的な限界は140~150人という説がありますよね。そもそも支社として機能しているんですか、ということですよ」 15年に「勇退」を発表し、代表権のない創業会長兼最高顧問としてシンガポールに移住した安田氏が20年9月、ついに大なたを振るった。「ミリオンスター制度」という新たな人事評価システムを導入したのだ。 ドンキではもともと現場に権限を委譲する代わりに、しっかりと結果を出した従業員にはその努力をたたえ、昇給や昇進という形で報いる完全実力主義を掲げてきた。権限委譲と適切な評価、その両輪が回ることで組織の新陳代謝が図られ、ベンチャースピリットが保たれてきたのだ。しかし、支社長が目配りできないほどの店舗を統括していると、個店ごとの経営課題を十分にくみ取れないのはもちろん、そこで働く従業員一人ひとりの頑張りをきめ細かくフォローすることができない。人事評価の根幹が崩れてしまうのだ。 そこで「1ミリオン(100万)を単位に、(組織図を)大きく変えることにした」(安田氏)。目指したのは「究極」の権限委譲である。 それまで全国で20だった支社数を102に分割し、100万人(=1ミリオン)の商圏人口ごとに1人の「ミリオン支社長」を任命した。これにより、1人の支社長につき3~6店舗を管轄する体制に刷新。ミリオン支社長に上司はおらず、100万人の商圏、100億円の年商を持つエリアの“社長”として、完全に経営を任せる、という大胆なプランだ。 支社長ポストが大きく増えたことで、ドンキ初の女性支社長や、27歳の支社長(いずれも当時)が誕生した。ダイバーシティー(多様性)を推進しながら、実力のある人材はどんどん抜擢(ばってき)する、という姿勢を社内に見せつけたのだ』、「それまで全国で20だった支社数を102に分割し、100万人(=1ミリオン)の商圏人口ごとに1人の「ミリオン支社長」を任命した。これにより、1人の支社長につき3~6店舗を管轄する体制に刷新。ミリオン支社長に上司はおらず、100万人の商圏、100億円の年商を持つエリアの“社長”として、完全に経営を任せる、という大胆なプランだ。 支社長ポストが大きく増えたことで、ドンキ初の女性支社長や、27歳の支社長(いずれも当時)が誕生した。ダイバーシティー(多様性)を推進しながら、実力のある人材はどんどん抜擢(ばってき)する、という姿勢を社内に見せつけたのだ」、画期的だ。
・『“入れ替え戦”で下位20%は自動降格 一人ひとりのミリオン支社長がそのエリアの収支に責任を持つことで、エリア全体の業績を高める“経営”に挑んでもらう。年間の利益貢献度で上位に入ったミリオン支社長は高額の報酬を手にできる一方で、下位20%に沈んだ場合、新たな支社長にとって代わられる。英国のプレミアリーグや日本のJリーグなどが取り入れる“入れ替え戦”の仕組みを、社内制度として導入したのだ。 安田氏は大相撲の番付になぞらえて、こう説明する。 「通年で下位20%のミリオン支社長は自動降格して幕下になる。上位になったら上位になったで、また新しい番付がその翌年から始まりますから、幕下に落ちないように頑張るしかないですね。もう一度、ゼロからやり直しですから」 荒療治に打って出たのは、好業績にあぐらをかくことなく、今一度原点を思い出してもらいたいからだ。「大企業病を排除して、(従業員)一人ひとりの個性、生きざまを把握しながら、みんなで一つの目的に向かっていける、有機的な結合を持った、いわばチームとしての組織をつくろうとしたんですよ」と安田氏は語る。 ミリオンスター制度には、支社長たるもの、部下の社員だけでなく、「メイトさん」と呼ぶアルバイト全員の名前まで、名札を見ずに言えないと失格だ──という安田氏の強い思いが反映されている。大企業になっても、駆け出しのスタートアップのように、仲間と互いに顔を突き合わせながら、難局を乗り越えていく。その積み重ねにより、店も個々人も成長していくという信念がそこにある。 ミリオンスター制度は、毎年全体の2割の支社長を入れ替えるという「劇薬」だけに、“副作用”も大きい。制度のひずみを正すため、新たな組織が設けられた。それが「アンサーマン本部」である。(次回に続く)』、「下位20%に沈んだ場合、新たな支社長にとって代わられる。英国のプレミアリーグや日本のJリーグなどが取り入れる“入れ替え戦”の仕組みを、社内制度として導入したのだ」、なるほど。
次に、8月7日付け日経ビジネスオンライン「ドンキは2割降格でも社内が明るい 仕事を「ゲーム化」する4条件」を紹介しよう。
・『この記事の3つのポイント 業績好調の「ドン・キホーテ」は、昇格も降格も活発だ 人事制度への不満などには「アンサーマン本部」が対応 完全実力主義をゲーム化する「競争の4条件」がある ディスカウントストア「ドン・キホーテ」(通称「ドンキ」)を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)は、34期連続増収増益と波に乗る。完全実力主義で「ミリオンスター制度」の下、毎年2割の支社長が降格になる(前回「ドンキ創業者・安田隆夫氏が語る人事論 毎年20%の支社長が降格」)。厳しいようだが、不思議と社内は明るい。なぜか? 『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』を上梓(じょうし)した酒井大輔が、謎に迫る。 PPIHのミリオンスター制度は、毎年全体の2割の支社長を入れ替えるという「劇薬」だけに、“副作用”も大きい。制度のひずみを正すため、新たな組織が設けられた。それが「アンサーマン本部」である。 常務執行役員でドン・キホーテ副社長と長崎屋社長を兼務する赤城真一郎氏の名刺を見ると「アンサーマン本部長兼人財本部長」と併記されていた。 「代表取締役」よりも前に「アンサーマン本部長」の肩書が出る、赤城真一郎氏の名刺(筆者撮影) 「アンサーマンってなんですか、ってよく言われるんですよ。一番上に書かれていますから」と赤城氏は笑う。確かに、名刺上では、ドンキや長崎屋の役員よりも「アンサーマン本部長」が前に出ている。それだけ社内で重要なポジションと目されているのだ。 「ミリオンスター制度って、とんでもないルールじゃないですか。結果を出せば、年収がザバーンと上がるという意味では(努力が報われる)画期的な制度ですが、一方で降格になる人も続出する。毎年毎年、制度の不備や文句が出てくるんですよ。それをサポートしていく部署が必要だよねということで、アンサーマン本部ができました」(赤城氏)。 降格された人の文句を聞くばかりではない。) アンサーマンとは、その名の通り「答える人」のこと。現場の悩みや不満、要望など「何でも聞いて、答えてあげる」任務を負う。 メンバーは赤城氏を本部長に、ドンキの取締役が「アンサーマン委員」として名を連ねる。「もっとかっこいい名前をいろいろ考えていたんですけど、『お前、本部がそんな偉そうな、仰々しい名前をつけてどうするんだよ。それで現場から(社内の)情報が集まると思っているのか。もっと考えろ』と安田から言われまして…」(赤城氏)。 なんでも相談室といった候補も挙がったというが、安田氏命名のアンサーマン本部に決まった。「これが業務サポート部とか一般的な名前だと、『何かのサポートをやっているんじゃないの』ぐらいの反応になっちゃうんですけど、アンサーマンだと『何ですか、それ』ってみんな興味を持つわけですよ。さすがだな、と思いましたね」と赤城氏は振り返る。アンサーマンに限らず、ドンキのユニークな制度が機能するのは、安田氏のネーミングセンスに負うところも大きい。 常務執行役員の赤城氏。もともとスポーツマンで、大学卒業後、しばらくは定職につかず、中途採用でドンキに入った(写真=古立 康三) ただし、競争にはルールが必要だ。ドンキにおける競争の4条件として、明確な勝敗の基準とタイムリミットを設け、プレーヤーに大幅な自由裁量権を与えて、ルールは最小限のシンプルなものにとどめるという方針を、安田氏は打ち出した。 実際のゲームもルールで縛り過ぎると、プレーしていて楽しくないだろう。工夫できる余地があるからこそ、どうやって攻略しようかとワクワクするものだ。そして勝敗の基準が明確であればこそ、負けても納得し、次は勝とうと前を向ける。 競争の面白さを最大限、引き出すルールと仕組みがあるから、完全実力主義を貫いても社内が回る。ミリオンスター制度は、とんでもない劇薬のように見えて、実はドンキらしさを突き詰めた究極のシステムともいえるのだ。 PPIHは、仕事をゲーム化する仕組みをつくり、社員のやる気を引き出すことにたけている。ゲームを持ち込むことで、仕事がもっと楽しくなる。ドンキが長年磨いてきたアミューズメント性の高い買い場(*)は、従業員自身がやりがいを胸に、楽しく仕事をしていることの裏返しでもある。 * 買い場:ドンキでは伝統的に売り場のことを「買い場」と呼ぶ。売り場は店側から見た言葉で、来店客からすれば商品を買う場所だからだ。 気づけば売上高2兆円。今や「セブン、イオン、ドンキ」として総合小売り3強の一角をなす。怒涛の34期連続増収増益を支える、逆張り戦略。アルバイト店員に商品の仕入れから値付け、陳列まで“丸投げ”する。現場が好き勝手やっているのに、利益が上がるのはなぜか? 知られざる巨大企業の強さに迫る1冊、2024年8月発売。 実は、かつてドンキの店舗には「アンサーマン」がいた。緑色のジャケットを着て、来店客の質問に答えるコンシェルジュ的な役割を果たしていた。アンサーマン本部=何かに答えてくれる部署として、現場にも違和感なく受け入れられるという皮算用もあった』、「降格になる人も続出する。毎年毎年、制度の不備や文句が出てくるんですよ。それをサポートしていく部署が必要だよねということで、アンサーマン本部ができました」(赤城氏)。 降格された人の文句を聞くばかりではない。) アンサーマンとは、その名の通り「答える人」のこと。現場の悩みや不満、要望など「何でも聞いて、答えてあげる」任務を負う。 メンバーは赤城氏を本部長に、ドンキの取締役が「アンサーマン委員」として名を連ねる・・・仕事をゲーム化する仕組みをつくり、社員のやる気を引き出すことにたけている。ゲームを持ち込むことで、仕事がもっと楽しくなる。ドンキが長年磨いてきたアミューズメント性の高い買い場(*)は、従業員自身がやりがいを胸に、楽しく仕事をしていることの裏返しでもある」、なるほど。
・『「数字至上主義」に走り過ぎていないか? アンサーマン本部の仕事は、とにかく店舗に足を運び、店長や従業員の御用聞きに徹することだ。例えば、“番付”の上位に入るべく支社長が「数字至上主義」に走り、現場にむちゃを強いてはいないか。直属の上司にはなかなか直言できない問題点を、役員たちが直々に聞き取ることで、課題を把握し、早期の改善につなげるのが目的である。 赤城氏自身も全国のドンキの店舗を精力的に回り、「常務執行役員です、副社長ですじゃなくて、どこに行ってもアンサーマン本部ですと言うようにしている」という。ミリオンスター支社長から陥落してしまった社員もヒアリングの対象だ。当事者として辛酸をなめているからこそ、支社長としてもっとこうすればよかった、ミリオンスター制度のここを改善してほしいといった一家言を持っているからだ。 自動降格が発動し、ミリオンスター支社長の座を奪われても、金輪際チャンスが巡ってこないというわけではない。降格があるということは、昇格もある。実際、新たな支社長は社内の立候補者から選ばれ、その中には降格経験者も含まれている。PPIHの役員たち自身も、昇降格を繰り返しながら、着実にステップアップしてきた。 「敗者復活」の文化があるから、絶望することなく、捲土(けんど)重来を期して爪を研げる。“入れ替え戦”は己を見つめ直し、はらわた力(*)を蓄える絶好の機会になる。 * はらわた力:ドンキに脈々と伝わる造語。たとえ失敗して土壇場に追い詰められても、その経験を糧として勇猛果敢に立ち上がり、もがき苦しみながら、不屈の闘志で這い上がろうとする一念のことを指す。 ▽若くして“経営者”の経験を積める(ミリオンスター制度は見方によっては、恐怖政治のようだが、実力次第で誰にでもチャンスが与えられ、若くして“経営者”の経験を積めるというメリットがある。結果を出せば、待遇も良くなるため、モチベーションも上がりやすい。 この制度の導入以前は、支社長が長く変わらず、社内全体に硬直感が漂っていたという。それが今や、毎年20人ほどの新支社長の椅子を目指し、100人ほどが手を挙げる。「安定を求めている人にとっては、とんでもない制度なのかもしれないですが、うちの会社には安定という文字はないので」(赤城氏)。 完全実力主義を振りかざし過ぎると、社内がギスギスしそうなものだが、ドンキでは不思議とそうなっていない。いったい、何が違うのだろうか。 安田氏は、権限委譲によって、仕事が労働(ワーク)ではなく、競争(ゲーム)になる、と説く。企業理念をまとめた小冊子「源流」(「ドンキ、35期連続増収増益に挑む カルト集団のごとき理念の徹底実践」参照)にも、「仕事を『ワーク』ではなく『ゲーム』として楽しめ」という心得が記載されている』、「降格があるということは、昇格もある。実際、新たな支社長は社内の立候補者から選ばれ、その中には降格経験者も含まれている。PPIHの役員たち自身も、昇降格を繰り返しながら、着実にステップアップしてきた。 「敗者復活」の文化があるから、絶望することなく、捲土(けんど)重来を期して爪を研げる。“入れ替え戦”は己を見つめ直し、はらわた力(*)を蓄える絶好の機会になる・・・権限委譲によって、仕事が労働(ワーク)ではなく、競争(ゲーム)になる、と説く・・・「仕事を『ワーク』ではなく『ゲーム』として楽しめ」という心得が記載」、なるほど。
第三に、8月20日付け日経ビジネスオンライン「ドンキ創業者・安田隆夫氏が「凱旋」会見 米国攻略へ3つの勝ち筋」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00096/081900180/
・『この記事の3つのポイント 創業者の安田氏が9年ぶりに決算会見に登壇 米国市場の本格開拓への野望を語った 売上高2兆円突破や35期連続の増収増益は通過点 勇退した創業者が9年半ぶりに登壇――。ディスカウントストア「ドン・キホーテ」(通称「ドンキ」)を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の決算発表の場に安田隆夫氏が戻ってきた。35期連続の増収増益を達成した同社の会見に、なぜ安田氏が戻ってきたのか。その肉声に込められた思いと背景を、『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』を上梓(じょうし)した酒井大輔が分析する。 9年半ぶりの“凱旋”だった。2024年8月16日、都内で開かれたPPIHの決算説明会。冒頭、壇上に立ったのは、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を一代で巨大企業に押し上げた、創業会長兼最高顧問の安田隆夫氏だった。 15年6月期の中間決算説明会で「勇退する」と表明して以来のスピーチとなる。現在はシンガポールに居を構える安田氏が、なぜこの場にいるのか。本人も開口一番、自虐混じりにこう切り出した。 「なぜ後期高齢者である老体にムチを打ち、あえてこの場に出張ってきたか」』、興味深そうだ。
・『「老体にムチ打ち」訴えたかったこと それは、現場から頼み込まれたからだ、と続けた。「今年はドン・キホーテの開業35周年に当たる。節目とも言える年に売り上げ2兆円を突破した。ぜひ創業会長による記念スピーチを行ってほしい旨、経営陣から強い要請があったからにほかなりません」 ドンキを運営するPPIHは24年6月期、連結売上高が初めて2兆円を突破した。日本の小売業では史上5社目となる。売上高は前期比8.2%増の2兆950万円。営業利益は33.2%増の1401億円と大きく伸びた。 1989年、東京都府中市にドンキ1号店を開業して以来、売上高と営業利益は一貫して伸び続け、ついに35期連続増収増益を成し遂げたのだ。 特に利益面の躍進が目覚ましい。25年6月期までの中期経営計画で掲げた営業利益の目標は1200億円。それを1年前倒しで達成、それも目標額を約200億円上回る勢いだ。営業利益率は、前期の5.43%から6.69%へと高まった。セブン&アイ・ホールディングス(4.66%、24年2月期)、イオン(2.63%、24年2月期)という「小売り2強」をはるかに上回る水準だ。 インバンド(訪日外国人)客が急増し、ドンキの免税売上高が急伸しただけではない。業界では終わった業態と目されていた総合スーパー(GMS)事業が大きく利益貢献した。 PPIHは19年にGMS大手のユニーを完全子会社化。一部店舗をドンキに業態転換し、残る店舗「アピタ」「ピアゴ」にもドンキ流の個店経営を注入した。5年前と比べて営業利益は231億円増え、GMS事業の営業利益率は7.4%(24年6月期)まで上昇した。1%を下回るイオン、イトーヨーカ堂のGMS事業と比べると高収益ぶりが際立っている』、「営業利益率は、前期の5.43%から6.69%へと高まった。セブン&アイ・ホールディングス(4.66%、24年2月期)、イオン(2.63%、24年2月期)という「小売り2強」をはるかに上回る水準だ・・・PPIHは19年にGMS大手のユニーを完全子会社化。一部店舗をドンキに業態転換し、残る店舗「アピタ」「ピアゴ」にもドンキ流の個店経営を注入した。5年前と比べて営業利益は231億円増え、GMS事業の営業利益率は7.4%(24年6月期)まで上昇した。1%を下回るイオン、イトーヨーカ堂のGMS事業と比べると高収益ぶりが際立っている」、なるほど。
・『マニフェストをことごとく有言実行 安田氏は、これまでの歩みから語り始めた。 「過去を振り返ってみますと、会社の業績計画を公表するこうしたIR(投資家向け広報)の場などにおいても、当社の証券コード7532を用いた『753(しちごさん)計画』『7532(しちごさんツー)計画』、あるいは『2×4(ツーバイフォー)計画』など各種経営数値目標を、アナリストの方々にマニフェストとしてお約束し、ここからが重要なのですが、区切られた期日までにすべて実現してまいりました」 753計画では01年6月期までに「売上高700億円」「経常利益50億円」「総店舗数30店舗」を目指し、その後繰り出した2×4計画では「売上高2000億円」「株主資本利益率(ROE)20%」の達成と「経常利益200億円」「年間新規出店数20店舗」体制の確立を掲げた。 続く7532計画では「経常利益率7%超」「1株当たり当期純利益(EPS)500円超」「売上高3年以内3000億円超」「2桁成長、20%成長」を目標とした。753計画は完遂し、2×4計画、7532計画はおおむね実現。20年6月期、25年6月期までの中期経営計画は、それぞれ1年前倒しで達成した』、「各種経営数値目標を、アナリストの方々にマニフェストとしてお約束し、ここからが重要なのですが、区切られた期日までにすべて実現してまいりました」、大したものだ。
・『マニフェストをことごとく有言実行 安田氏は、これまでの歩みから語り始めた。 「過去を振り返ってみますと、会社の業績計画を公表するこうしたIR(投資家向け広報)の場などにおいても、当社の証券コード7532を用いた『753(しちごさん)計画』『7532(しちごさんツー)計画』、あるいは『2×4(ツーバイフォー)計画』など各種経営数値目標を、アナリストの方々にマニフェストとしてお約束し、ここからが重要なのですが、区切られた期日までにすべて実現してまいりました」 753計画では01年6月期までに「売上高700億円」「経常利益50億円」「総店舗数30店舗」を目指し、その後繰り出した2×4計画では「売上高2000億円」「株主資本利益率(ROE)20%」の達成と「経常利益200億円」「年間新規出店数20店舗」体制の確立を掲げた。 続く7532計画では「経常利益率7%超」「1株当たり当期純利益(EPS)500円超」「売上高3年以内3000億円超」「2桁成長、20%成長」を目標とした。753計画は完遂し、2×4計画、7532計画はおおむね実現。20年6月期、25年6月期までの中期経営計画は、それぞれ1年前倒しで達成した。 「ここで私が何を申し上げたいかと言えば、当社は言ったことは必ずやり遂げる有言実行の企業であり、そのことに私は大いなる自信と自負を抱いております。すなわち、上げたアドバルーンが単なるアドバルーンで終わらず、常にきちんとした結果を出すということであり、グループ売上高2兆円はまさにそうした文脈の延長線上にあるわけでございます」 都内にドンキが数店舗しかなかった時代から、安田氏は全国で多店舗展開するビジョンを公言し、その通り、進撃に進撃を重ねた。目下、安田氏が大いなる野心を燃やすのは海外展開である。 「(15年に勇退し)国内の事業経営を後進に譲った後は、アジアと米国を主体に、海外での多店舗展開を内外に宣言し、現在進行形ではありますが、確実にそれを推し進めているところであります」 アジアでは、日本の産品に特化した業態「DON DON DONKI(ドンドンドンキ)」の展開を加速する。それに加えて「今後は重点的に米国を攻めてまいります」と言い切った。 シンガポールの「DONDONDONKI(ドンドンドンキ) オーチャードセントラル」は2017年12月にオープン 「言うまでもなく、米国はいまだ成長力の衰えない世界最大の市場であり、ここで一定のプレゼンスを得ないことには、社名である環太平洋(パン・パシフィック)制覇は絵に描いた餅と言わざるを得ません」 既に勝ち筋は描いている。大きな示唆を得たというのは、24年4月、米国本土攻略の「先兵」として開業した米グアム島の大型商業施設「VILLAGE OF DONKI(ヴィレッジオブドンキ)」だ。安田氏が「うれしい誤算」だったと語るのは、非食品がことのほか売れているという事実である。 「(アジアのドンドンドンキを通じて)食品がたくさん売れることは当初から分かっておりましたが、日用消耗品や生活雑貨などを含む日本の非食品がこれだけ売れるのなら、今の我が国流通業を苦しめている歴史的な円安を逆手に取れる大チャンスが、米国という、とてつもない巨大な市場に眠っていることになります。当社は全力を挙げ、それを顕在化させ、取りにまいります」』、「各種経営数値目標を、アナリストの方々にマニフェストとしてお約束し、ここからが重要なのですが、区切られた期日までにすべて実現してまいりました」・・・米国本土攻略の「先兵」として開業した米グアム島の大型商業施設「VILLAGE OF DONKI(ヴィレッジオブドンキ)」だ。安田氏が「うれしい誤算」だったと語るのは、非食品がことのほか売れているという事実である。 「(アジアのドンドンドンキを通じて)食品がたくさん売れることは当初から分かっておりましたが、日用消耗品や生活雑貨などを含む日本の非食品がこれだけ売れるのなら、今の我が国流通業を苦しめている歴史的な円安を逆手に取れる大チャンスが、米国という、とてつもない巨大な市場に眠っていることになります。当社は全力を挙げ、それを顕在化させ、取りにまいります」、なるほど。
・『ロスでトップセールス「世界商談会」を敢行へ 食品のみならず、非食品もキラーコンテンツにする。さらに他社をも巻き込んで、米国本土に乗り込むプランも明かした。8月末には取引先の大手メーカーや問屋とともに米ロサンゼルスで「世界商談会」を開催する予定だ。安田氏自らがロスに出向き、トップセールスをかけるという。 米国はレギュレーション(規制)が厳しいことで知られるが、「そのボトルネックを抜ければ、日本の自動車産業に匹敵するような未来が待っている可能性もございます。多くの仕入れ先パートナーの皆様と協力しながら、米国でロビー活動をやるべきではないでしょうか。商談会という名前はついておりますが、別に1個1個の商談をするわけではなく、気持ちを一つにして、これから未来に向かっていこう、と。その挑戦の決意を共有するための会が、世界商談会ということでございます」 米国の市場規模は、どれだけ大きいのか。安田氏はハワイを引き合いに出し、こう表現してみせた。 「今、ハワイの人口はだいたい140万人で、(PPIHは)年間1000億円近く売り上げているんですね。140万人というと、滋賀県と同じぐらいの規模ですよね。滋賀県で1000億円近い数字なんて上がりっこない。140万人で1000億円だったら、日本(の総人口)で言ったら8兆円ぐらいになる。日本よりハワイのほうが売っているんじゃないかという話ですよね」 米国本土のカリフォルニア州では日本食を軸とした「TOKYO CENTRAL(トーキョーセントラル)」を多店舗展開しているが、客単価は6000円を超えるという。 「米国では、食品が中心の店でも、それだけ買っていただける。そもそも顧客の購買力が全く違う。アジアとは比較にならないマーケットの大きさがあります。当然のことながら、米国を制すれば、ある面では地球を制すると言っても過言ではございません」』、「米国では、食品が中心の店でも、それだけ買っていただける。そもそも顧客の購買力が全く違う。アジアとは比較にならないマーケットの大きさがあります。当然のことながら、米国を制すれば、ある面では地球を制すると言っても過言ではございません」、なるほど。
・『今の苦戦は、将来への「成長痛」 ただ、もちろん課題もある。その最たる例が、店のオペレーション(運営)だ。ドンキ躍進の原動力となっているのは、現場への権限委譲である。社員はもちろん、メイトと呼ぶアルバイトにも、商品の仕入れから陳列、値付け、ポップの作成などあらゆる店内業務を委ねているのが特徴だ。それは海外店舗も同じである。 しかし、米国で働く現地の従業員は日本やアジアの店舗と異なり、リーダーシップとなる人材をつくり切れていないという。大きな壁は、言語にある。 「私どもには、そもそも従来、英語を話せる人材がほとんどいないんですよ。いくら日本で店をつくるのが達人のようにうまくても、英語が話せなければ話になりません。店をつくるのがうまくて、英語が話せる人材はほとんどいない。ただ、今、私たちはそうした人材をたくさんかき集めようとしております」) しかし、米国で働く現地の従業員は日本やアジアの店舗と異なり、リーダーシップとなる人材をつくり切れていないという。大きな壁は、言語にある。 「私どもには、そもそも従来、英語を話せる人材がほとんどいないんですよ。いくら日本で店をつくるのが達人のようにうまくても、英語が話せなければ話になりません。店をつくるのがうまくて、英語が話せる人材はほとんどいない。ただ、今、私たちはそうした人材をたくさんかき集めようとしております」 10代から20代半ばのZ世代には、英語を話せるメイトも多い。「こういう方たちを率先して、特別優遇措置をつけてたくさん雇用しようとしている最中」なのだという。 非食品を強化し、ロビー活動で規制を乗り越え、多言語人材を確保する。この3つの勝ち筋がうまくはまれば、「米国(事業)は今の日本を凌駕(りょうが)できる可能性も十二分にあるのではないかと私は確信しております」と説く。なぜなら「米国は、運営は大変だけど、販売はそんなに難しくない」と見るからだ。 現在は、店舗運営で苦戦しているが、「むしろこの苦戦は成長痛であり、ボトルネックであると感じております。このボトルネックをクリアすれば、むしろ一気に成長できます。これは、当社の日本のかつての姿を思い浮かべていただければご理解いただけるものと思います」と自信を込めた』、「店をつくるのがうまくて、英語が話せる人材はほとんどいない。ただ、今、私たちはそうした人材をたくさんかき集めようとしております」、これでは話にならない。当面、期待薄だ。
・『日本では縮小市場の「ラストマン」になる どこまでも肥沃な市場が広がる海外事業に注力する一方、日本国内事業をおろそかにすることはもちろんない。日本において今後進めるのは「ラストマンスタンディング戦略」の総仕上げだ。 ラストマンスタンディングとは文字通り、最後まで立っている、つまり生き残り続けることを指す。「海外と違って国内市場は全体的にシュリンク(縮小)しておりますが、激烈な戦いを制することによって、逆に占拠率、シェアが大きく高まるという、ご褒美、果実がございます」(安田氏)。 生き馬の目を抜くような厳しい競争の世界だからこそ、その「レッドオーシャンの中で勝者になった後は、ほぼブルーオーシャンになる可能性」がある。「私どもはぜひそれを目指していきたい」と安田氏は意気込んだ。 人口が減っていく日本で、成長力を持続するのは容易ではないが、安田氏はどこまでも前のめりだ。 「我が国の小売総販売額は約140兆円ある。当社のシェアは現状ではわずか1.5%にも満たない。もちろん、私どもはこのレベルに安住する気持ちは毛頭ございません」 強気の発言を裏付けるのは、積み重ねてきた歴史にある。「長崎屋、ユニーというGMS事業を買収して見事に再生させたという、誰も否定できない圧倒的な実績とエビデンスがあるわけでございます」 24年3月、旧ダイエーの跡地に開業した「MEGAドン・キホーテ成増店」も「万年不振で(イオングループが)諦めた物件を、当社が超繁盛店へと生まれ変わらせた」と誇り、壇上からこう呼び掛けた。 「ポストGMSという我が国流通業界における歴史的課題を解決するのは、結局PPIHをおいて他にない。そろそろそんなお墨付きを、私どもがいただいてもよろしいのではないかと勝手に考えておりますが、皆さんはどのようにお考えでございましょうか」 「いずれにせよ、我が国のGMS業界は再編の最終章に入ったと認識しております。当社としては再編最終章に勝ち残り、ラストマンスタンディングの総仕上げにして、次のステージに駆け上がることを、皆様の前で宣言させていただきたいと思います」 売上高2兆円突破も、35期連続増収増益も金字塔には違いないが、それで満足することはない。海外市場を果敢に開拓し、国内では消耗戦の勝者になる。2兆円企業となったのは「私どもにとって来るべき未来に向けた一つの節目、いわば新たな出発点であり、今はそのスタート台に立ったのだと、私どもは認識しております」(安田氏)。 今期も売上高2兆2200億円、営業利益1500億円と、36期連続の増収増益を見込む。飽くなき挑戦は、終わらない』、米国での展開は人材面のネック解消は当分の間、期待出来ないので厳しいが、その他では今後も成長が期待できるだろう。
第四に、9月4日付け東洋経済オンラインが掲載したチェーンストア研究家・ライターの谷頭 和希氏による「ヨーカドー「33店舗閉店」で露見した"残酷な真実" 人も街も変化したのに、なにも変われなかった」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/821339
・『閉店する33店舗が決定、100店舗を割るヨーカドー GMS大手のイトーヨーカドーが、再び世間を賑わせている。ヨーカドーといえば、今年の2月に東北地方を含む17店舗の閉店を発表。また、親会社のセブン&アイ・ホールディングスがスーパー事業を分離するという実質的な「見放し」も受け、自力での再建を求められている途中だ。 そんなヨーカドーだが、来年2月末までに閉店する33店舗の詳細が判明し、大きな話題となっている。報道によれば、茨城県で唯一の店舗であった竜ヶ崎店や埼玉の西川口店、千葉の姉崎店など、関東近郊圏での閉店も行われる。この縮小により、イトーヨーカドーは一気に93店にまで減ることになる。 閉店する店舗の中でも、話題を呼んだのが、9月に営業を終える津田沼店だ。閉店が決まった当初から、「悲しい」「あの津田沼店が……」という声が聞かれた。 【画像13枚】「悲しい」「あの津田沼店が…」46年の歴史に幕をおろす、イトーヨーカドー津田沼店の悲しすぎる現在の姿) そんな中で、筆者が「面白い」と感じたポストがある。一般ユーザーの投稿のため、直接引用することは控えるものの、そのポストではイトーヨーカドー津田沼店に「閉店」の2文字が掲げられるとは想像もできなかったと述べつつ、津田沼という街について、「ここ20年で一番、『行く』街から『住む』街に変化した街だと思う」と指摘していた。 何気ないポストに思えるが、チェーンストアや都市について執筆活動をしている筆者には、イトーヨーカドーが持っている、本質的かつ普遍的な問題が潜んでいると思えた。 そこで今回は、閉店する津田沼店を実際に訪れながら、街とヨーカドーの関係性について考えていきたい』、興味深そうだ。
・『津田沼店を訪れてみると… ヨーカドー津田沼店は、新京成線の新津田沼駅から直結している。入り口のドアの前には、閉店のお知らせが貼ってあった。 中に入ると、顧客から店へのメッセージを募集するコーナーが。ポストイットにそれぞれの人が津田沼店の思い出を書いて貼っている。その数は膨大で、津田沼店が地域の人から愛されてきたことがわかる。 その横には、閉店までの店の陳列について説明するポスター展示があり、一歩踏み入れただけで、完全に「お別れモード」に包まれる。) 店内にも、至るところに「閉店売りつくし」と張り紙がしてある。いろんなものが安売りしていて、大量に積まれた商品が放り込まれたラックの周りには、ちらほら人がいる。 でも、ちらほら、だ。たくさんいるわけじゃない。そこがまた、一層悲しさを際立たせる。 もっとも「お別れモード」が強いのが、最上階。本来はレストランフロアなのだが、ほとんどのテナントが撤退していて、白い壁が広がっている。そのあまりの殺風景さを埋めるためか、「津田沼店の想い出」コーナーが展開されている。ヨーカドーの昔の写真の展示から、当時の資料、津田沼の歴史年表まで、ちょっとした博物館のようである。 入り口にもあった「津田沼店の想い出コーナー」はここにも広がっていて、無数のポストイットが貼られていた。これだけ愛されてるんだったら、なんで撤退なんて……。つい、そう思ってしまう』、「もっとも「お別れモード」が強いのが、最上階。本来はレストランフロアなのだが、ほとんどのテナントが撤退していて、白い壁が広がっている。そのあまりの殺風景さを埋めるためか、「津田沼店の想い出」コーナーが展開されている・・・これだけ愛されてるんだったら、なんで撤退なんて……。つい、そう思ってしまう」、なるほど。
・『「津田沼戦争」に参入したヨーカドー 津田沼店が撤退せざるを得ないのっぴきならない理由はなにか。 もちろん、それはイトーヨーカドー全体の業績が悪いことはいうまでもないが、津田沼という街ならではの理由もある。) もともと、津田沼店は1977年に誕生した。今年で46年目を迎える。 当時、津田沼には「西武津田沼ショッピングセンター」「丸井」「サンぺデック(ダイエー津田沼店)」「長崎屋」等の大型商業施設が多数立地していた。商業的な激戦が繰り広げられるさまは「津田沼戦争」とも呼ばれ、当時は勢いのあったヨーカドーがその戦争に参入した形となる。 戦争」ともなれば、本気を出さざるを得ない。売り場面積は当時としては最大。地下には「津田沼ファミリーワールド」という、さまざまな食料品を取り扱うモールのようなものもあり、食べ物であればなんでも揃った。こうした戦略が功を奏し、津田沼店はヨーカドー店舗の中でも売り上げ上位の店舗になる。 【2024年9月5日10時35分追記】初出時、記載の内容に誤りがありました。お詫びして修正致します。 前述したポストでは、「津田沼はかつて『行く』街だった」と述べられているが、まさにちょっと特別な場所としてヨーカドー津田沼店はあったのだ』、「津田沼店はヨーカドー店舗の中でも売り上げ上位の店舗になる・・・「津田沼はかつて『行く』街だった」と述べられているが、まさにちょっと特別な場所としてヨーカドー津田沼店はあったのだ」、なるほど。
・『商業エリアの中心が動いた しかし、ここに強敵が現れる。津田沼店誕生の4年後に誕生した「ららぽーとTOKYO-BAY」である。津田沼店からはわずか4キロほどで、車で行けば10分かからない距離。津田沼の隣、船橋の臨海エリアに誕生した。ちなみに、元はと言えば、懐かしい人には懐かしい「船橋ヘルスセンター」がある場所だ。 ここは、今でこそ全国に増えた「ららぽーと」の1号店にして、現在でも日本最大級の面積を誇る大ショッピングモール。現在の敷地面積は約171,000平方メートルで、東京ドーム3.6個分。でかすぎる。 とはいえ、ららぽーとTOKYO-BAY、オープン当初は日本に本格的なショッピングモールがなかったこと、ららぽーと自体が初出店だったこともあって、先行きが不安視されていた。なにより、すぐ近くの津田沼は戦争中だ。そんな激戦区にあって、後発の業態がうまくいくはずがない、そう目されていた。 だが、その目論見は見事、外れる。オープン時には4万人が来場し、推定では25万人が来場したらしい。客の勢いは止まらず、このショッピングモールはさらにさらに面積を広げていく。 そこでの集客にあやかろうとしたのか、2000年には、この臨海エリアに、コストコやカルフール、三井アウトレットパーク幕張など数多くの商業施設が誕生。これには、2000年に大店法が改正され、大規模な小売店の出店が容易になった事情もある。明確に「行く」街は、この臨海エリアになったのである。) さて、そうなると大変なのが津田沼駅前にあった商業施設たちである。そこで戦争をしていると思ったら、予想しないところで客を取られてしまった。折しも時代は、GMSの時代からショッピングモールの時代へと移り変わっていくさなか。津田沼に数多くあった商業施設は、また一つまた一つと閉店していった。 その跡地に商業施設ができる場合があったが、そこには多くの場合、生活に密着したテナントが入る場合が多い。例えば、2007年に閉店した丸井津田沼店のあとにできた「mina津田沼店」には、ダイソーやJINS、AOKI、業務スーパーなど、さまざまなチェーンが入っている。まさに、特別感のあるラインナップというよりも、「住む」街として、そこに住んでいる人たちに特化したラインナップへと変わっていったのだ』、「2000年には、この臨海エリアに、コストコやカルフール、三井アウトレットパーク幕張など数多くの商業施設が誕生。これには、2000年に大店法が改正され、大規模な小売店の出店が容易になった事情もある・・・大変なのが津田沼駅前にあった商業施設たちである。そこで戦争をしていると思ったら、予想しないところで客を取られてしまった。折しも時代は、GMSの時代からショッピングモールの時代へと移り変わっていくさなか。津田沼に数多くあった商業施設は、また一つまた一つと閉店していった・・・その跡地に商業施設ができる場合があったが、そこには多くの場合、生活に密着したテナントが入る場合が多い。例えば、2007年に閉店した丸井津田沼店のあとにできた「mina津田沼店」には、ダイソーやJINS、AOKI、業務スーパーなど、さまざまなチェーンが入っている。まさに、特別感のあるラインナップというよりも、「住む」街として、そこに住んでいる人たちに特化したラインナップへと変わっていったのだ」、なるほど。
・『街の変化より、変化が遅かったヨーカドー こうして津田沼の街は変化を続け、それに合わせて「津田沼戦争」も収束、街の形に合わせるようにして、商業施設も変化していった。 ところで、唐突だが、ここで思い出すのが、最近私が精力的に取り組んでいる「渋谷カフェ少なすぎ問題」である。これは、土日の渋谷では、どんなチェーンカフェも混んでいることを指摘したものだ。この要因には、コロナ禍を経てリモートで仕事をする人が増えたことや、都市自体に人がゆっくり休める場所が少ないことが原因だと考えている。 しかし、その大元にあるのは、「人の変化」と「チェーンストアや商業施設の変化」、さらには「街全体の変化」のスピードが、それぞれ異なっていることだ。 人間の流行は、わずか数年程度で移り変わっていくのがほとんどだ。それに対し、商業施設などは、すぐに出店できるものでもなく、本部による出店計画や工事などを経て、やっと出来上がる。人々の興味よりも変化のスピードが遅いのだ。もちろん、チェーンストアの入れ替わりも、人々の興味の変化に遅れて生じる。 そして、それらを包み込む街ともなれば、もっともっとその変化は遅い。渋谷の再開発は2012年から2027年まで、15年がかかっている(というか、それ以上になりそうでもある)。 一方で、コロナを経て、人々の変化は以前にも増して早くなっている。リモートワークが前提となり、若者の消費も「モノ消費」から「コト消費」へと変わった。 にもかかわらず、街自体はまだ変化の途中。都心にカフェが足りない問題もまた、こうしたサイクルの問題だと言えるのだ。 そして、これは、今見てきた津田沼でも同様である。近隣にショッピングモールができたことによって人々の行動パターンが変わり、他の商業施設は変わってきた。 しかし、イトーヨーカドーだけは、その変化のサイクルに乗り遅れてしまったのではないか』、「コロナを経て、人々の変化は以前にも増して早くなっている。リモートワークが前提となり、若者の消費も「モノ消費」から「コト消費」へと変わった。 にもかかわらず、街自体はまだ変化の途中。都心にカフェが足りない問題もまた、こうしたサイクルの問題だと言えるのだ。 そして、これは、今見てきた津田沼でも同様である。近隣にショッピングモールができたことによって人々の行動パターンが変わり、他の商業施設は変わってきた。 しかし、イトーヨーカドーだけは、その変化のサイクルに乗り遅れてしまったのではないか」、その通りだ。
・『改革はしているが、肝心の消費者を見られていない イトーヨーカドーの「変化の遅さ」はこれまでも取り上げられてきた。日本経済新聞の社説でも「遅すぎた経営改革」として語られているぐらいだ。実際、同社の取り組みを見ていると、この「人の変化」に対応する、という意識が希薄なのではないか、と思ってしまうことにたびたび遭遇する。 私は以前、都内にあるイトーヨーカドーの全店舗をめぐって、その問題点を指摘したことがあるが、例えば顧客層が高齢者にもかかわらずセルフレジ化を進め、結果、有人レジが大混雑している様子など、そうした例は枚挙にいとまがない。 先ほども書いたように、ただでさえ、「街の変化」「商業施設の変化」「人の変化」はサイクルがバラバラで、とくに商業施設は、人の変化のスピード感に対応しなければならない。普段の努力がなければこの変化に対応することはできないのだ。 津田沼店は、結果として46年という長寿を全うした。 しかし、そこが長寿であることは、むしろ、津田沼店が「変化に対応しなかった」ということを表している。もっともゆっくり進む街の変化にも対応しなかったということなのである。なんという皮肉だろうか。今や、GMSを追いやったショッピングモールが、利益率の低下に苦しんでいる状況であり、決して安泰ではない。 こういった現実を考えれば考えるほど、津田沼店に貼ってあった、大量のポストイットも違った風景に見えてくる。 そこに書いてある「ヨーカドーが無くなって残念です」という内容は、むしろヨーカドーがいかに変化をしてこなかったかを逆に表しているのだ。そこに、残酷な真実が隠れている。 もはやイトーヨーカドーは、多くの人にとって「今」ではなく、「懐かしく、美しい記憶の中」に存在しているのだ。 関連記事:ヨーカドーが「第2のライフ」には多分なれない訳「消費者を見ない姿勢」は変化の妨げになる』、「なんという皮肉だろうか。今や、GMSを追いやったショッピングモールが、利益率の低下に苦しんでいる状況であり、決して安泰ではない。 こういった現実を考えれば考えるほど、津田沼店に貼ってあった、大量のポストイットも違った風景に見えてくる。 そこに書いてある「ヨーカドーが無くなって残念です」という内容は、むしろヨーカドーがいかに変化をしてこなかったかを逆に表しているのだ。そこに、残酷な真実が隠れている。 もはやイトーヨーカドーは、多くの人にとって「今」ではなく、「懐かしく、美しい記憶の中」に存在しているのだ」、同感である。
タグ:(その10)(ドンキ創業者・安田隆夫氏が語る人事論 毎年20%の支社長が降格、ドンキは2割降格でも社内が明るい 仕事を「ゲーム化」する4条件、ドンキ創業者・安田隆夫氏が「凱旋」会見 米国攻略へ3つの勝ち筋、ヨーカドー「33店舗閉店」で露見した"残酷な真実" 人も街も変化したのに なにも変われなかった) 小売業(一般) 「「はらわた力(りょく)」──。ドン・キホーテに脈々と伝わる造語である。 たとえ失敗して土壇場に追い詰められても、その経験を糧として勇猛果敢に立ち上がる。目の前の壁に跳ね返され、もがき苦しみながらも、不屈の闘志で最後に這い上がろうとする一念のことを指す。 はらわた力を思う存分鍛えられるよう、ドンキには失敗を容認する企業文化が浸透している。経営理念に掲げるのは「大胆な権限委譲」。 日経ビジネスオンライン「ドンキ創業者・安田隆夫氏が語る人事論 毎年20%の支社長が降格」 yahooニュース 仕入れ過ぎて在庫を大量に抱えてしまった、開発した商品が全く売れなかった、赤字を計上してしまった…そんなときも上司からとがめられることはない。ドンキでは誰もが派手にやらかしながら、一人前の商売人に育ってきたからだ。失敗による損失は、成功体験を積み重ねる礎と位置付けている。 社員全員が貪欲に成長を追い求める集団であり続けられれば、どれほど大きな企業になろうと安定志向に傾き、成長が鈍化することはない。「大企業病」になることなどない、はずだった・・・パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH )というグループ全体で、ついに売上高1兆円を突破。07年の長崎屋買収に続く大型再編劇で、小売業界の台風の目に躍り出た。その半面、快進撃の反動なのか、大企業化による弊害も直視せざるを得ない状況に陥った」、「失敗を容認する企業文化が浸透」、日本企業には珍しいことだ。 「それまで全国で20だった支社数を102に分割し、100万人(=1ミリオン)の商圏人口ごとに1人の「ミリオン支社長」を任命した。これにより、1人の支社長につき3~6店舗を管轄する体制に刷新。ミリオン支社長に上司はおらず、100万人の商圏、100億円の年商を持つエリアの“社長”として、完全に経営を任せる、という大胆なプランだ。 支社長ポストが大きく増えたことで、ドンキ初の女性支社長や、27歳の支社長(いずれも当時)が誕生した。ダイバーシティー(多様性)を推進しながら、実力のある人材はどんどん抜擢(ばってき) する、という姿勢を社内に見せつけたのだ」、画期的だ。 「下位20%に沈んだ場合、新たな支社長にとって代わられる。英国のプレミアリーグや日本のJリーグなどが取り入れる“入れ替え戦”の仕組みを、社内制度として導入したのだ」、なるほど。 日経ビジネスオンライン「ドンキは2割降格でも社内が明るい 仕事を「ゲーム化」する4条件」 『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』を上梓(じょうし)した酒井大輔 「降格になる人も続出する。毎年毎年、制度の不備や文句が出てくるんですよ。それをサポートしていく部署が必要だよねということで、アンサーマン本部ができました」(赤城氏)。 降格された人の文句を聞くばかりではない。) アンサーマンとは、その名の通り「答える人」のこと。現場の悩みや不満、要望など「何でも聞いて、答えてあげる」任務を負う。 メンバーは赤城氏を本部長に、ドンキの取締役が「アンサーマン委員」として名を連ねる・・・ 仕事をゲーム化する仕組みをつくり、社員のやる気を引き出すことにたけている。ゲームを持ち込むことで、仕事がもっと楽しくなる。ドンキが長年磨いてきたアミューズメント性の高い買い場(*)は、従業員自身がやりがいを胸に、楽しく仕事をしていることの裏返しでもある」、なるほど。 「降格があるということは、昇格もある。実際、新たな支社長は社内の立候補者から選ばれ、その中には降格経験者も含まれている。PPIHの役員たち自身も、昇降格を繰り返しながら、着実にステップアップしてきた。 「敗者復活」の文化があるから、絶望することなく、捲土(けんど)重来を期して爪を研げる。“入れ替え戦”は己を見つめ直し、はらわた力(*)を蓄える絶好の機会になる・・・ 権限委譲によって、仕事が労働(ワーク)ではなく、競争(ゲーム)になる、と説く・・・「仕事を『ワーク』ではなく『ゲーム』として楽しめ」という心得が記載」、なるほど。 日経ビジネスオンライン「ドンキ創業者・安田隆夫氏が「凱旋」会見 米国攻略へ3つの勝ち筋」 1989年、東京都府中市にドンキ1号店を開業して以来、売上高と営業利益は一貫して伸び続け、ついに35期連続増収増益を成し遂げたのだ。 特に利益面の躍進が目覚ましい 「営業利益率は、前期の5.43%から6.69%へと高まった。セブン&アイ・ホールディングス(4.66%、24年2月期)、イオン(2.63%、24年2月期)という「小売り2強」をはるかに上回る水準だ・・・PPIHは19年にGMS大手のユニーを完全子会社化。一部店舗をドンキに業態転換し、残る店舗「アピタ」「ピアゴ」にもドンキ流の個店経営を注入した。5年前と比べて営業利益は231億円増え、GMS事業の営業利益率は7.4%(24年6月期)まで上昇した。 1%を下回るイオン、イトーヨーカ堂のGMS事業と比べると高収益ぶりが際立っている」、なるほど。 「各種経営数値目標を、アナリストの方々にマニフェストとしてお約束し、ここからが重要なのですが、区切られた期日までにすべて実現してまいりました」、大したものだ。 「各種経営数値目標を、アナリストの方々にマニフェストとしてお約束し、ここからが重要なのですが、区切られた期日までにすべて実現してまいりました」・・・米国本土攻略の「先兵」として開業した米グアム島の大型商業施設「VILLAGE OF DONKI(ヴィレッジオブドンキ)」だ。安田氏が「うれしい誤算」だったと語るのは、非食品がことのほか売れているという事実である。 「(アジアのドンドンドンキを通じて)食品がたくさん売れることは当初から分かっておりましたが、日用消耗品や生活雑貨などを含む日本の非食品がこれだけ売れるのなら、今の我が国流通業を苦しめている歴史的な円安を逆手に取れる大チャンスが、米国という、とてつもない巨大な市場に眠っていることになります。当社は全力を挙げ、それを顕在化させ、取りにまいります」、なるほど。 「米国では、食品が中心の店でも、それだけ買っていただける。そもそも顧客の購買力が全く違う。アジアとは比較にならないマーケットの大きさがあります。当然のことながら、米国を制すれば、ある面では地球を制すると言っても過言ではございません」、なるほど。 「店をつくるのがうまくて、英語が話せる人材はほとんどいない。ただ、今、私たちはそうした人材をたくさんかき集めようとしております」、これでは話にならない。当面、期待薄だ。 米国での展開は人材面のネック解消は当分の間、期待出来ないので厳しいが、その他では今後も成長が期待できるだろう。 東洋経済オンライン 谷頭 和希氏による「ヨーカドー「33店舗閉店」で露見した"残酷な真実" 人も街も変化したのに、なにも変われなかった」 「もっとも「お別れモード」が強いのが、最上階。本来はレストランフロアなのだが、ほとんどのテナントが撤退していて、白い壁が広がっている。そのあまりの殺風景さを埋めるためか、「津田沼店の想い出」コーナーが展開されている・・・これだけ愛されてるんだったら、なんで撤退なんて……。つい、そう思ってしまう」、なるほど。 「津田沼店はヨーカドー店舗の中でも売り上げ上位の店舗になる・・・「津田沼はかつて『行く』街だった」と述べられているが、まさにちょっと特別な場所としてヨーカドー津田沼店はあったのだ」、なるほど。 津田沼店誕生の4年後に誕生した「ららぽーとTOKYO-BAY」 2000年には、この臨海エリアに、コストコやカルフール、三井アウトレットパーク幕張など数多くの商業施設が誕生。これには、2000年に大店法が改正され、大規模な小売店の出店が容易になった事情もある。明確に「行く」街は、この臨海エリアになったのである 「2000年には、この臨海エリアに、コストコやカルフール、三井アウトレットパーク幕張など数多くの商業施設が誕生。これには、2000年に大店法が改正され、大規模な小売店の出店が容易になった事情もある・・・大変なのが津田沼駅前にあった商業施設たちである。そこで戦争をしていると思ったら、予想しないところで客を取られてしまった。 折しも時代は、GMSの時代からショッピングモールの時代へと移り変わっていくさなか。津田沼に数多くあった商業施設は、また一つまた一つと閉店していった・・・その跡地に商業施設ができる場合があったが、そこには多くの場合、生活に密着したテナントが入る場合が多い。例えば、2007年に閉店した丸井津田沼店のあとにできた「mina津田沼店」には、ダイソーやJINS、AOKI、業務スーパーなど、さまざまなチェーンが入っている。まさに、特別感のあるラインナップというよりも、「住む」街として、そこに住んでいる人たちに特化した ラインナップへと変わっていったのだ」、なるほど。 「コロナを経て、人々の変化は以前にも増して早くなっている。リモートワークが前提となり、若者の消費も「モノ消費」から「コト消費」へと変わった。 にもかかわらず、街自体はまだ変化の途中。都心にカフェが足りない問題もまた、こうしたサイクルの問題だと言えるのだ。 そして、これは、今見てきた津田沼でも同様である。近隣にショッピングモールができたことによって人々の行動パターンが変わり、他の商業施設は変わってきた。 しかし、イトーヨーカドーだけは、その変化のサイクルに乗り遅れてしまったのではないか」、その通りだ。 「なんという皮肉だろうか。今や、GMSを追いやったショッピングモールが、利益率の低下に苦しんでいる状況であり、決して安泰ではない。 こういった現実を考えれば考えるほど、津田沼店に貼ってあった、大量のポストイットも違った風景に見えてくる。 そこに書いてある「ヨーカドーが無くなって残念です」という内容は、むしろヨーカドーがいかに変化をしてこなかったかを逆に表しているのだ。そこに、残酷な真実が隠れている。 もはやイトーヨーカドーは、多くの人にとって「今」ではなく、「懐かしく、美しい記憶の中」に存在しているのだ」 、同感である。
日産・三菱自・ルノー問題(その4)(「あなた評判悪いよ」発言も噴出…日産・内田社長の“塩対応”に不信感募った株主総会、日産「ルノー支配が終焉」でも不安が拭えない理由、不可解人事に業績面でも…、ルノー 日産を時価総額で逆転-年初来で株価37%上昇、日産「99%減益」の真因 アメリカ事業に2つの課題 インセンティブ濫発とHV不在のダブルパンチ) [企業経営]
日産・三菱自・ルノー問題については、2020年9月25日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その4)(「あなた評判悪いよ」発言も噴出…日産・内田社長の“塩対応”に不信感募った株主総会、日産「ルノー支配が終焉」でも不安が拭えない理由、不可解人事に業績面でも…、ルノー 日産を時価総額で逆転-年初来で株価37%上昇、日産「99%減益」の真因 アメリカ事業に2つの課題 インセンティブ濫発とHV不在のダブルパンチ)である。
先ずは、昨年7月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した佃モビリティ総研代表の佃 義夫氏による「「あなた評判悪いよ」発言も噴出…日産・内田社長の“塩対応”に不信感募った株主総会」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/325522
・『注目を集めていた日産の株主総会が開催 日産自動車の第124回定時株主総会が、神奈川県・横浜の日産グローバル本社で6月27日に開催された。 今回の株主総会はとりわけ注目を集めていた。最高執行責任者(COO)として日産再生を推進してきたナンバー2のアシュワニ・グプタ氏が突然、取締役と代表執行役を株主総会で退任すると発表されていたことや、6月20日には日産元会長のカルロス・ゴーン被告が逃亡先のレバノンで日産などを相手取り、名誉を傷つけられたとして10億ドル(約1400億円)の損害賠償を提訴するなどしていたからだ。 また、今回の株主総会は、日産にとって積年の課題であった資本提携先の仏ルノーとの資本関係見直し議論が2月に「対等出資」で合意したものの、最終契約が遅れているといった不透明なガバナンスに対する経営側の説明も注目されていた。 筆者は、ここ10年ほど日産の一般株主として株主総会に出席し、その全てを見届けているが、今回はルノーとの新提携の行方に大きな関心を寄せていた。 この合意内容は、ルノーが保有する43%の日産株を15%に引き下げ、相互に15%ずつ出資(代わりに日産がルノーのEV分社のアンペアに最大15%出資検討)するというもの。つまり、1999年に日産を救済する形でルノーと資本提携して以来、24年もの間続いていたルノーと日産の「親子資本関係」が対等の立場になり、「新生日産」対する期待が高まっていたのだ。 だが、残念ながら今株主総会の内容は、筆者を含め一般株主の期待を裏切るような対応をする経営側への不信と、内田体制へ一抹の不安を感じるようなもので終始してしまった。) まずは、グプタCOOが今株主総会をもって退任・退社することが決まったが、内田議長はこの件に関する質問に対し「Nissan NEXTの事業構造改革に貢献してくれたグプタ氏は次のステップに向かう」との発言にとどめた。質問者の「グプタ氏に、この4年間を振り返って話してもらいたい」という問いかけにも無視するかのように、グプタ氏から一切の発言はなかった(発言させなかった)。 そもそも、現在53歳のグプタ氏は、インド人でホンダ現地法人に採用されて頭角を現しその後ルノーに転じた人物であり、日本語も堪能で「切れ者」と知られてきた。 2019年6月に日産と三菱自動車工業が資本提携した際、COOとして三菱自工に送り込まれたが、19年12月に日産の西川廣人前社長が辞任し内田体制がスタートしたタイミングで日産COOに呼び戻された。そして、これまで内田社長の右腕として事業構造改革の旗を振ってきた逸材だ。 5月11日の23年3月期連結決算発表では、内田社長と並んでグプタCOOもいつものように発言していたが、翌12日に突然日産は、6月27日の定時株主総会でグプタ氏が任期満了で取締役を退任すると発表したのだ。 さらに6月16日にはグプタCOOが27日付で退社すると発表するとともに、グプタCOOの取締役退任を巡る内部告発など、自社ガバナンスに関連する報道や情報管理について第三者機関による調査を進めていることも明らかにした。どうも日産経営陣に内紛があったようだ。) また今回、取締役全員(12人)任期満了につき10人を選任する第2号議案が示されたが、グプタCOOとともに退任したのが豊田正和社外取締役だ。 豊田氏は、経済産業省出身で通商政策のベテランだ。経産省では最終的にナンバー2の経産審議官を務めて、日産には18年から社外取締役に就任している。指名委員会委員長で筆頭社外取締役の重職にあった人物だ。 ルノーが仏政府の意向が反映される会社であるのに対して、日産が日本政府・経産省をバックにした政治レベルでの交渉ができる会社であることは、豊田社外取締役の存在とそのキャリアから推して知るべしだ。 だが、今年2月の資本関係見直しでは、EV特許など知的財産の扱いなどに異を唱えて反対した取締役がいたことで、合意までにかなりの日時を要した。「全会一致なき合意」ともやゆされたほどである。今回の株主総会での取締役選任は、こうした紆余(うよ)曲折があり、従来の12人から10人に減員する形で決着を見たのだ。 そして株主総会後の取締役会で新経営体制を発表し、内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)の下に当面、COOは置かないものとし、取締役会議長の木村康氏、副議長のジャンドミニク・スナール氏(ルノー会長)は続投することを決めた。豊田氏の後任の指名委員会委員長にはアンドリュー・ハウス氏が、筆頭社外取締役にはベルナール・デルマス氏が就いた。 新体制でルノー寄りになるのか、日産の経営自由度を強めるのか、まだ予断は許されないと、筆者は受けとめている』、「グプタ氏は、インド人でホンダ現地法人に採用されて頭角を現しその後ルノーに転じた人物であり、日本語も堪能で「切れ者」と知られてきた。 2019年6月に日産と三菱自動車工業が資本提携した際、COOとして三菱自工に送り込まれたが、19年12月に日産の西川廣人前社長が辞任し内田体制がスタートしたタイミングで日産COOに呼び戻された。そして、これまで内田社長の右腕として事業構造改革の旗を振ってきた逸材だ。 5月11日の23年3月期連結決算発表では、内田社長と並んでグプタCOOもいつものように発言していたが、翌12日に突然日産は、6月27日の定時株主総会でグプタ氏が任期満了で取締役を退任すると発表したのだ・・・グプタCOOの取締役退任を巡る内部告発など、自社ガバナンスに関連する報道や情報管理について第三者機関による調査を進めていることも明らかにした。どうも日産経営陣に内紛があったようだ・・・内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)の下に当面、COOは置かないものとし、取締役会議長の木村康氏、副議長のジャンドミニク・スナール氏(ルノー会長)は続投することを決めた。豊田氏の後任の指名委員会委員長にはアンドリュー・ハウス氏が、筆頭社外取締役にはベルナール・デルマス氏が就いた。 新体制でルノー寄りになるのか、日産の経営自由度を強めるのか、まだ予断は許されないと、筆者は受けとめている」、なるほど。
・『不信感を招く答弁に終始した内田社長 株主総会は10時から、開始され所要時間は1時間46分だった。議長役の内田社長が早口で事業構造改革の報告、将来に向けた取り組みなどを説明した。質疑応答では、従来の先着順から今回は抽選式となったが、14人の質問者に内田社長がほとんど全て一人で答えた(唯一、壇上に並んだ取締役で発言したのは報酬委員会委員長の井原慶子氏だった)。 内田社長は「日産はこの提訴に関して把握しておらず、ノーコメント。適切な対応を取っていく」と述べたにとどめた。ゴーン被告は、日本から保釈中に逃亡し、日本だけでなくフランスからも逮捕状が出されている身であり、日産トップの発言として生ぬるいものを感じた。 また、内田社長は「ルノーとの基本合意から、次のステップであるフレームの最終契約に時間を要しているが、方向として前向きに早い段階で形にして説明していきたい」と、最終契約のタイミングに対する明言は避けた。 このほか、事業構造改革で黒字化を果たしたが、株価は依然大きく低迷しており、今回の会社側の第1号議案の剰余金処分案の期末配当10円に対し、株主提案である第3号議案では15円増配が主張された。 その理由として、役員報酬の増額の妥当性を指摘し、役員報酬増額よりも株主還元をすべきとした。 このため、先述した報酬委員会委員長の井原慶子氏から説明があったわけだが、回答内容が抽象的なもので、株主サイドから井原委員長に「株価が上がったら役員報酬を上げるでいいんですよ」と諭すような発言もあったほどだ。) 結果的に会社側の第1号議案が議決され株主提案は否決されたが、一連の質疑では内田議長の素っ気ない対応が目立ち不信感をあおったというのが感想だ。質問者から面と向かって「内田さん、あなた評判悪いよ」と、こんな発言まで飛び出した。 内田社長は、就任時には緊張感を強くにじませる一方、その後の筆者のインタビューでは笑顔を見せ余裕を感じさせるなど「表情で分かりやすい人」という印象だったが、今回の株主総会では壇上で下まぶたのクマが濃くなり、経営陣の内紛をにじませたかのように見えた。 日産は、株主総会の翌日、7月1日付のエグゼクティブコミッテイに関する役員人事を発表した。内田社長は「絶え間なく変化する市場環境に対応するため、よりフラットで柔軟な経営体制を実現し、各事業地域および機能軸でのリーダーシップをさらに強化する。新エグセクティブコミッティは、最終年度となる構造改革Nissan NEXTの進捗を加速させ、日産の成長を実現するための次期中計の策定に一丸となって取り組んでいく」と述べた。 日産の新執行役は、内田誠代表執行役社長兼CEO、スティーブン・マー執行役最高財務責任者(CFO)、坂本秀行執行役副社長、星野朝子執行役副社長、中畔邦雄執行役副社長で、それぞれを補佐する専務執行役クラスがメンバーに就任した。) 日産の前期(23年3月期)の業績は、売上高10兆5967億円、営業利益3771億円、当期純利益2219億円で増収増益となった。20年3月期、21年3月期と連続で赤字だったが、22年3月期で黒字転換を果たし、23年3月期でも半導体不足や原材料費高騰など厳しい環境下ながら順調な回復を示した。 また、今期(24年3月期)見通しも売上高が前期比17%増の12兆4000億円、営業利益が38%増の5200億円、当期利益が42%増の3150億円と、日産の“復活”を示す業績見込みだ。内田社長は「今期が新中計の『Nissan NEXT』に最終年度であり、かつ日産創立90周年にもあたる。継続的な新車投入、事業基盤強化、イノベーション投資の積極展開を進める」としている。 ただし、日産の経営課題として北米と並ぶ主力地域である中国事業での低迷が顕在化しており、前期の自動車事業の営業利益率は1%未満にとどまっている。今中計の最終年度である23年度の売上高営業利益率5%以上の実現は未達に終わりそうで、まだ不安定な業績動向でもある。 今回の株主総会でも指摘されたように、またも日産経営陣で内紛か、内田体制は大丈夫かとの懸念が出る中で、クルマ業界・モビリティ業界は大きく変化のスピードを上げてきている。ルノーとの新たなアライアンス関係の方向・活用も含めて日産の価値向上へ急がねばならない状況なのだ』、「一連の質疑では内田議長の素っ気ない対応が目立ち不信感をあおったというのが感想だ。質問者から面と向かって「内田さん、あなた評判悪いよ」と、こんな発言まで飛び出した。 内田社長は、就任時には緊張感を強くにじませる一方、その後の筆者のインタビューでは笑顔を見せ余裕を感じさせるなど「表情で分かりやすい人」という印象だったが、今回の株主総会では壇上で下まぶたのクマが濃くなり、経営陣の内紛をにじませたかのように見えた・・・日産の経営課題として北米と並ぶ主力地域である中国事業での低迷が顕在化しており、前期の自動車事業の営業利益率は1%未満にとどまっている。今中計の最終年度である23年度の売上高営業利益率5%以上の実現は未達に終わりそうで、まだ不安定な業績動向でもある」、せっかく「ルノー」の支配を脱したのに、「内田社長」にはもっと積極的なビジョンなどを語ってもらいたかった。
次に、昨年12月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した佃モビリティ総研代表の佃 義夫氏による「日産「ルノー支配が終焉」でも不安が拭えない理由、不可解人事に業績面でも…」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/335379
・『ルノーとの資本関係見直し後 初の3社首脳会見 日産自動車が創立90周年を迎える。 日産の源流は、1918(大正7)年の快進社(日本初となる4気筒搭載のダット41型乗用車を生産・発売)にさかのぼるが、鮎川義介が設立した持ち株会社の日本産業と戸畑鋳物が出資して自動車製造を設立した33(昭和8)年12月26日が創立記念日となっている。その翌年の34(昭和9)年6月に行われた株主総会で日本産業の100%出資となり、社名も日産自動車株式会社に変更され今日に至っている。 日産は創立90周年にあたり、大きな節目として12月14日に横浜のグローバル本社で「日産自動車創立90周年記念レセプション」を開催する予定だ。 くしくも、日産が創立90周年を迎えようとする12月6日に仏ルノーと日産、三菱自動車工業の3社首脳が資本関係見直し後、初の記者会見をパリで開いた。これは、ルノーの日産に対する出資比率43.4%を15%に引き下げ、相互に15%ずつ出資する資本関係見直しが11月に完了したことを受けたものだ。 日産にとって四半世紀も続いたルノー支配の不利な関係が対等になって、日仏連合が新しい段階に入った、ということである。 日産の内田誠社長は会見で、「新たな3社のパートナーシップが各社にメリットをもたらすと確信している」ことを強調した。 一方、ルノーグループのルカ・デメオCEOは、ルノーが上場を目指すEV・車載ソフトの新会社アンペアに日産が最大6億ユーロ(約940億円)、三菱自が最大2億ユーロ(約313億円)の出資を決めたことに触れて「両社の信頼を得て、支援を受けられることに感謝する」と述べた。 また、ジャンドミニク・スナール会長は「アライアンスは消えるのではなく、プロジェクト単位の運営に集中するということだ」とあえて連携を深めることに言及した。) かつてトヨタと共に20世紀の日本の自動車産業をリードしてきたのが日産だった。 むしろ、トヨタが愛知・豊田市を本拠としていたのに対し、首都東京・銀座(当時)に本社を置く日産が日本車を代表したリーディング企業でもあったのだ。「販売のトヨタ」に対し「技術の日産」が、野球で王・長嶋のONに比較されたTNのライバル関係のキャッチフレーズだった。 しかし、日産の凋落によって、次第に日産とトヨタの両大手のライバル関係は格差がつき、90年代後半にその差ははっきりとした。それは日産が抱えていた労働組合問題が経営の混乱を招いた結果だった。 90年代末には、瀕死(ひんし)の日産は外資のルノーとの資本提携に活路を求めた。そして、ルノー・日産の日仏国際提携は、2016年に日産が三菱自を傘下に収めたことでルノー・日産・三菱自の3社連合に変化した。 だが、この3社連合は、ルノーの傘下に日産(ルノーが日産に43.4%出資)、日産の傘下に三菱自(日産が三菱自に34%出資)という親・子・孫の複雑な資本関係であった。さらにルノーは、かつてのルノー公団として現在も仏政府が筆頭株主という国策が絡んだ企業であり、連合の動向は常に微妙な状況にあった。 日産はルノーと対等に議決権を行使できるようになったことで、1999年以来の親子関係がついに変わる。今後は経営の自由度が増し、積極投資や日仏連合での主導権、リーダーシップへの変化が期待されるところだ。 そこで、内田誠・日産社長体制の評価だが、日産は赤字から脱しこの24年3月期に中間配当としては4年ぶりの配当を行ったものの、1株あたり5円とごくわずかであり依然多くの経営課題を抱えている。 カルロス・ゴーン長期政権後期のグローバル拡大戦略のゆがみによる業績悪化と経営陣の混乱の中で、19年12月に抜てきの形でスタートしたのが内田誠体制だ。) 日商岩井から日産に転じた経歴を持つ内田氏は、当時、全くのダークホースだった。日産入りしてから購買・調達畑を歩み、直前では専務執行役員・中国事業統括で中国・武漢に駐在していたが、社長の白羽の矢が立ち、コロナ禍が始まる中で急きょ、日本の本社に呼び戻された。 内田日産体制は、最悪の状態からスタートを切った。19年度の日産の純損失・赤字は6712億円に膨らんでいた。内田社長を支えるCOOに三菱自COOから復帰させたアシュワニ・グプタ(ルノー出身)氏と、副COOには中国事業統括の前任だったプロパーの関潤氏を采配する経営布陣だったが、すぐに関氏は退任して日本電産(現ニデック)社長に転じてしまった。なお、関氏はその後、台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)入りしてしまう。 19年の内田日産体制のスタートから4年が経過する中で、内田社長は不退転の覚悟で、不採算事業・余剰設備の整理や選択と集中を進めてきた。収益性重視・コスト最適化を企図した事業構造改革として中期経営計画の「NISSAN NEXT」を20年5月策定し、この23年度末までの4カ年計画で営業利益率5%、マーケットシェア6%レベルの達成を掲げた。 今期業績予想は、営業利益6200億円の上方修正を既に発表しており、これに基づくと23年度の営業利益率は4.8%となる。中間期としての配当復活と共に一定の評価はすべきだろう。 だが、内情は円安による為替差益の押し上げが400億円もあり、日産全体の純利益の34%も占める中国事業が一転して厳しい状況となっている。 また、今年6月の株主総会でアシュワニ・グプタCOOが突然の退任、社外取締役の経産省出身の豊田正和氏も退任し、不可解な経営陣の混乱も示唆された。) これまで、内田CEO・グプタCOOの両輪で事業構造改革を急いできた日産だ。当面は、内田社長に権限を集中させ、迅速な経営判断を行える体制で次期中計に臨むことになるものの、この次期中計の公表も延期しており一抹の不安が残る。 内田体制も5年目に入る。ポスト内田の最有力候補と目されたクプタ前COOの突然の退任もあり、日産にとっては、内田社長の後継者選任も含めて、来年から始まる日産100周年に向けた道筋が最も大事な時期だ。 三菱自を含む日仏3社連合は、ゴーン氏が支配した無理なグローバル拡大戦略のツケとコロナ禍による市場低迷で、ここ数年、構造改革に躍起になってきた。3社とも、この23年で業績を回復しており、ルノー・日産の資本関係見直しで3社連合は大きな転機を迎える。 日産にとって創立90周年という大きな節目を経て、次の100周年に向かう。主力となっている中国事業の立て直しなど多くの課題も抱えているが、ルノーのEV新会社・アンペアにも日産は三菱自と共に出資しており、3社連合を改めて強化して成長機会と捉える。 ライバルだったトヨタは「この指とまれ」(豊田章男会長)と、日本連合としてのグループ連携を強めている。日産も、CASE時代が本格化するこの時期に「他のやらぬことをやる」創業の精神で3社連合をリードして生き抜いていくことを期待したい』、「日産も、CASE時代が本格化するこの時期に「他のやらぬことをやる」創業の精神で3社連合をリードして生き抜いていくことを期待したい」、その通りだ。
・『ルノーとの資本関係見直し後 初の3社首脳会見 日産自動車が創立90周年を迎える。 日産の源流は、1918(大正7)年の快進社(日本初となる4気筒搭載のダット41型乗用車を生産・発売)にさかのぼるが、鮎川義介が設立した持ち株会社の日本産業と戸畑鋳物が出資して自動車製造を設立した33(昭和8)年12月26日が創立記念日となっている。その翌年の34(昭和9)年6月に行われた株主総会で日本産業の100%出資となり、社名も日産自動車株式会社に変更され今日に至っている。 日産は創立90周年にあたり、大きな節目として12月14日に横浜のグローバル本社で「日産自動車創立90周年記念レセプション」を開催する予定だ。 くしくも、日産が創立90周年を迎えようとする12月6日に仏ルノーと日産、三菱自動車工業の3社首脳が資本関係見直し後、初の記者会見をパリで開いた。これは、ルノーの日産に対する出資比率43.4%を15%に引き下げ、相互に15%ずつ出資する資本関係見直しが11月に完了したことを受けたものだ。 日産にとって四半世紀も続いたルノー支配の不利な関係が対等になって、日仏連合が新しい段階に入った、ということである。 日産の内田誠社長は会見で、「新たな3社のパートナーシップが各社にメリットをもたらすと確信している」ことを強調した。 一方、ルノーグループのルカ・デメオCEOは、ルノーが上場を目指すEV・車載ソフトの新会社アンペアに日産が最大6億ユーロ(約940億円)、三菱自が最大2億ユーロ(約313億円)の出資を決めたことに触れて「両社の信頼を得て、支援を受けられることに感謝する」と述べた。 また、ジャンドミニク・スナール会長は「アライアンスは消えるのではなく、プロジェクト単位の運営に集中するということだ」とあえて連携を深めることに言及した。) かつてトヨタと共に20世紀の日本の自動車産業をリードしてきたのが日産だった。 むしろ、トヨタが愛知・豊田市を本拠としていたのに対し、首都東京・銀座(当時)に本社を置く日産が日本車を代表したリーディング企業でもあったのだ。「販売のトヨタ」に対し「技術の日産」が、野球で王・長嶋のONに比較されたTNのライバル関係のキャッチフレーズだった。 しかし、日産の凋落によって、次第に日産とトヨタの両大手のライバル関係は格差がつき、90年代後半にその差ははっきりとした。それは日産が抱えていた労働組合問題が経営の混乱を招いた結果だった。 90年代末には、瀕死(ひんし)の日産は外資のルノーとの資本提携に活路を求めた。そして、ルノー・日産の日仏国際提携は、2016年に日産が三菱自を傘下に収めたことでルノー・日産・三菱自の3社連合に変化した。 だが、この3社連合は、ルノーの傘下に日産(ルノーが日産に43.4%出資)、日産の傘下に三菱自(日産が三菱自に34%出資)という親・子・孫の複雑な資本関係であった。さらにルノーは、かつてのルノー公団として現在も仏政府が筆頭株主という国策が絡んだ企業であり、連合の動向は常に微妙な状況にあった。 日産はルノーと対等に議決権を行使できるようになったことで、1999年以来の親子関係がついに変わる。今後は経営の自由度が増し、積極投資や日仏連合での主導権、リーダーシップへの変化が期待されるところだ。 そこで、内田誠・日産社長体制の評価だが、日産は赤字から脱しこの24年3月期に中間配当としては4年ぶりの配当を行ったものの、1株あたり5円とごくわずかであり依然多くの経営課題を抱えている。 カルロス・ゴーン長期政権後期のグローバル拡大戦略のゆがみによる業績悪化と経営陣の混乱の中で、19年12月に抜てきの形でスタートしたのが内田誠体制だ。) 日商岩井から日産に転じた経歴を持つ内田氏は、当時、全くのダークホースだった。日産入りしてから購買・調達畑を歩み、直前では専務執行役員・中国事業統括で中国・武漢に駐在していたが、社長の白羽の矢が立ち、コロナ禍が始まる中で急きょ、日本の本社に呼び戻された。 内田日産体制は、最悪の状態からスタートを切った。19年度の日産の純損失・赤字は6712億円に膨らんでいた。内田社長を支えるCOOに三菱自COOから復帰させたアシュワニ・グプタ(ルノー出身)氏と、副COOには中国事業統括の前任だったプロパーの関潤氏を采配する経営布陣だったが、すぐに関氏は退任して日本電産(現ニデック)社長に転じてしまった。なお、関氏はその後、台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)入りしてしまう。 19年の内田日産体制のスタートから4年が経過する中で、内田社長は不退転の覚悟で、不採算事業・余剰設備の整理や選択と集中を進めてきた。収益性重視・コスト最適化を企図した事業構造改革として中期経営計画の「NISSAN NEXT」を20年5月策定し、この23年度末までの4カ年計画で営業利益率5%、マーケットシェア6%レベルの達成を掲げた。 今期業績予想は、営業利益6200億円の上方修正を既に発表しており、これに基づくと23年度の営業利益率は4.8%となる。中間期としての配当復活と共に一定の評価はすべきだろう。 だが、内情は円安による為替差益の押し上げが400億円もあり、日産全体の純利益の34%も占める中国事業が一転して厳しい状況となっている。 また、今年6月の株主総会でアシュワニ・グプタCOOが突然の退任、社外取締役の経産省出身の豊田正和氏も退任し、不可解な経営陣の混乱も示唆された。) これまで、内田CEO・グプタCOOの両輪で事業構造改革を急いできた日産だ。当面は、内田社長に権限を集中させ、迅速な経営判断を行える体制で次期中計に臨むことになるものの、この次期中計の公表も延期しており一抹の不安が残る。 内田体制も5年目に入る。ポスト内田の最有力候補と目されたクプタ前COOの突然の退任もあり、日産にとっては、内田社長の後継者選任も含めて、来年から始まる日産100周年に向けた道筋が最も大事な時期だ。 三菱自を含む日仏3社連合は、ゴーン氏が支配した無理なグローバル拡大戦略のツケとコロナ禍による市場低迷で、ここ数年、構造改革に躍起になってきた。3社とも、この23年で業績を回復しており、ルノー・日産の資本関係見直しで3社連合は大きな転機を迎える。 日産にとって創立90周年という大きな節目を経て、次の100周年に向かう。主力となっている中国事業の立て直しなど多くの課題も抱えているが、ルノーのEV新会社・アンペアにも日産は三菱自と共に出資しており、3社連合を改めて強化して成長機会と捉える。 ライバルだったトヨタは「この指とまれ」(豊田章男会長)と、日本連合としてのグループ連携を強めている。日産も、CASE時代が本格化するこの時期に「他のやらぬことをやる」創業の精神で3社連合をリードして生き抜いていくことを期待したい』、「日商岩井から日産に転じた経歴を持つ内田氏は、当時、全くのダークホースだった。日産入りしてから購買・調達畑を歩み、直前では専務執行役員・中国事業統括で中国・武漢に駐在していたが、社長の白羽の矢が立ち、コロナ禍が始まる中で急きょ、日本の本社に呼び戻された。 内田日産体制は、最悪の状態からスタートを切った」、「内田氏」が「日商岩井」出身とは初めて知った。「内情は円安による為替差益の押し上げが400億円もあり、日産全体の純利益の34%も占める中国事業が一転して厳しい状況となっている・・・3社とも、この23年で業績を回復しており、ルノー・日産の資本関係見直しで3社連合は大きな転機を迎える。 日産にとって創立90周年という大きな節目を経て、次の100周年に向かう。主力となっている中国事業の立て直しなど多くの課題も抱えているが、ルノーのEV新会社・アンペアにも日産は三菱自と共に出資しており、3社連合を改めて強化して成長機会と捉える・・・日産も、CASE時代が本格化するこの時期に「他のやらぬことをやる」創業の精神で3社連合をリードして生き抜いていくことを期待したい」、その通りだ。
第三に、4月8日付けBloombeg「ルノー、日産を時価総額で逆転-年初来で株価37%上昇」を紹介しよう。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-04-08/SBMFGHT0G1KW00#:~:text=%E4%BB%8F%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97%E3%81%8C%E6%97%A5%E7%94%A3,%E6%9D%A5%E3%81%A737%EF%BC%85%E4%B8%8A%E6%98%87%E3%80%82
・『ルノー、利益率とフリーキャッシュフローの改善続く-日産は苦戦 アライアンス発足以降、ルノーの時価総額は日産を下回り続けていた 仏ルノーグループが日産自動車を時価総額で上回った。日産とのアライアンス(企業連合)緩和などの動きを投資家が評価している。 ルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は黒字化を果たし、ラインナップの見直しに取り組んでいる。こうした中で、ルノーの株価は年初来で37%上昇。数十年前のアライアンス発足以来、ほぼ全ての期間でルノーの時価総額は日産を下回ってきたが、いまやルノーは約150億ユーロ(約2兆5000億円)と評価され、日産を2000億円程度上回った。 スタイフェルのアナリスト、ピエール・イブ・ケメナー氏は、「そつがない経営で、利益率とフリーキャッシュフローの改善が続いている」と指摘した。 デメオCEOの下、ルノーはロシアから撤退し、電気自動車(EV)事業と従来型のエンジン車事業を分離、クアルコムやボルボ、中国・浙江吉利などとの新たな協力関係を成立させた。競争の激しい欧州EV市場で勝ち抜くべく、価格2万5000ユーロの「R5 E-Tech」を投入する。これらが好感され、ルノーは欧州自動車株のうち年初来の上昇率が最も高い。 一方、日産はラインナップの陳腐化や北米でのハイブリッド製品の欠如、中国での競争激化で苦戦している』、「ルノーはロシアから撤退し、電気自動車(EV)事業と従来型のエンジン車事業を分離、クアルコムやボルボ、中国・浙江吉利などとの新たな協力関係を成立させた。競争の激しい欧州EV市場で勝ち抜くべく、価格2万5000ユーロの「R5 E-Tech」を投入する。これらが好感され、ルノーは欧州自動車株のうち年初来の上昇率が最も高い。 一方、日産はラインナップの陳腐化や北米でのハイブリッド製品の欠如、中国での競争激化で苦戦している」、「日産」がモタモタしている間に、「ルノー」に株価でも抜かれるとは情けない限りだ。
第四に、8月7日付け東洋経済オンライン「日産「99%減益」の真因、アメリカ事業に2つの課題 インセンティブ濫発とHV不在のダブルパンチ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/791289
・『「昔の悪い日産に戻ってしまった。経営が本質的な問題解決に取り組まないから、何度も同じ過ちを繰り返す」。日産自動車の元幹部はそう肩を落とす。 日産自動車が7月25日に発表した2025年3月期第1四半期(4〜6月)決算の営業利益はわずか10億円。前年同期の1285億円から99%の減益となった。円安という強い追い風があったにもかかわらず、だ。今年5月に掲げたばかりの通期6000億円の営業利益計画も5000億円に下方修正した。 新たな業績予想では、為替前提を従来の1ドル145円から155円へと円安方向に見直した。が、その後、日銀が利上げに動いたことで為替は1ドル145円前後まで上昇している。円安修正の動きが続けば、再度の下方修正に追い込まれる可能性がある』、「2025年3月期第1四半期(4〜6月)決算の営業利益はわずか10億円。前年同期の1285億円から99%の減益となった。円安という強い追い風があったにもかかわらず、だ・・・円安修正の動きが続けば、再度の下方修正に追い込まれる可能性がある」、なるほど。
・『北米事業の採算が急悪化 業績悪化の最大の原因は、近年稼ぎ頭だった北米事業の採算が急悪化したことにある。現地での在庫が膨らんだことで販売奨励金(インセンティブ)などの販売コストが急増し、収益を圧迫。北米事業の第1四半期のセグメント営業利益は前期の1320億円から209億円の赤字に転落した。 日産のスティーブン・マーCFOは「ローグの2024年モデルの切り替えが遅れた」と販売コスト増の背景を説明する。ローグは日産のアメリカ市場における主力SUV(スポーツ用多目的車)で、日本市場の「エクストレイル」に相当する。 競合の他メーカーが2024年モデルの販売を始めてからも、在庫がたまっていた2023年モデルのローグを売り続けたことで販売コストが膨らんだ。今年1~3月(前第4四半期)に9万台あったローグの販売台数は、4~6月(今第1四半期)は5万台と苦戦している。 調査会社によれば、6月の日産の1台当たりインセンティブ額は約4000ドル(約60万円)と1年前の2倍近い水準まで上昇している。これはトヨタ自動車の2.5倍、ホンダの1.6倍に相当する。) 決算発表の場でインセンティブ上昇について問われた内田誠社長は「われわれのインセンティブは業界平均レベルだと思っている。販売の質の向上を維持するという観点から、ほとんどはキャッシュ(値引き)ではなくお客様のローンの支援に当てている」と答え、特段問題視しなかった。 だが、日産がアメリカ市場で「インセンティブ漬け」になったのはこれが初めてではない。カルロス・ゴーン時代の拡大戦略の中にあった2016年にも1台当たりインセンティブ額が4000ドルを超えた。これを原資に現地ディーラーは安売りを濫発、日産車のブランドは大きく毀損した。 日産に16年間勤務し北米事業の経験もあるブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生アナリストは、「40年以上変わらない構造問題だ。日産には『こんなに売れるわけがない』とみんながわかっていても過大な計画を立ててボリュームを伸ばそうとする歴史がある。『できない』と言った瞬間、『君はいらない』と言われてしまう」と嘆く。 日産関係者によれば、「そもそも今回、ローグのモデルチェンジが遅れたのもストレッチした生産計画とブランド力低下によって旧モデルが売れ残ったのが原因。特殊要因があったわけではない」。 日産の在庫は、コロナ禍や半導体不足で供給制約が起きた2019年以降、減少していた。供給制約が解消された途端に無理して数を追う悪弊が顔を出した。コロナ禍が隠していた日産の構造問題が再び噴き出した形とも言える』、「ローグのモデルチェンジが遅れたのもストレッチした生産計画とブランド力低下によって旧モデルが売れ残ったのが原因・・・供給制約が解消された途端に無理して数を追う悪弊が顔を出した。コロナ禍が隠していた日産の構造問題が再び噴き出した形とも言える」、なるほど。
・『人気のHVを投入できない日産 足元での日産のアメリカ市場での苦戦にはもう1つ深刻な課題がある。ハイブリッド車(HV)の不在だ。 世界2位の自動車市場であるアメリカ市場では現在、電気自動車(EV)の販売が失速しHVの販売が伸びている。インフレや金利上昇で割高なEVが敬遠され、トヨタ車を筆頭に価格が手ごろで燃費もいいHV人気が高まっているためだ。 実際、HVのラインナップをそろえるトヨタ自動車やホンダはインセンティブを抑制しつつアメリカ市場での販売を伸ばしている。一方、4~6月の日産の販売台数は23万台。インセンティブを積んでなお前年同期比3.1%減と低迷する。 日産も「e-POWER」と名づけた独自HVシステムを持っている。走行にエンジンと小型モーターを併用する一般的なハイブリッドシステムと異なり、e-POWERはエンジンを発電のみに使い、起こした電力でモーターを駆動させて走るシリーズ方式のハイブリッド技術だ。 これまで日産はe-POWERをアメリカ市場で展開してこなかった。その理由を「EV投入を優先してきたため」と説明しており、2026年度に投入する予定としている。 だが、「e-POWERは高速域での燃費に課題が大きい。そのまま投入しても商品としての魅力が弱く、日本以外では売れない」(日産の元技術系幹部)という声がある。 道路環境の違いから、北米では高い速度域をキープして走る運転が多い。こうした高速一定走行はエンジンをそのまま駆動に使った方が高効率で、エンジンで発電しその電気でモーターを動かすe-POWERはむしろ燃費が低下するのだ。) 「海外で売る気なら、例えば三菱自動車のアウトランダーのように高速域ではエンジン直結で走行する機構を入れるか、他社のハイブリッド技術を受け入れる必要がある」(同元幹部) 日産は、2000年代にトヨタのハイブリッドシステム(THS)の技術協力を受けて、HVの「アルティマ ハイブリッド」を投入したこともあるが、「ゴーンさんはトヨタからもらうことに我慢ができなかった」(日産幹部)。EVを優先する戦略を進めたこともあり、1世代でトヨタとの協業関係は終わった。 ホンダとの戦略的パートナーシップの第1段として次世代の車載ソフトウェアの共同研究契約を締結。ホンダとの戦略的パートナーシップでは、協業領域として車両の相互補完も打ち出している。「まだ細部の詰めが残っている段階であり、具体的なモデル名などの公表は差し控えるが、ガソリン車やEVなどの相互供給を検討している」(ホンダの三部敏宏社長)としている』、「ホンダとの戦略的パートナーシップでは、協業領域として車両の相互補完も打ち出している。「まだ細部の詰めが残っている段階であり、具体的なモデル名などの公表は差し控えるが、ガソリン車やEVなどの相互供給を検討している」、なるほど。
・『再拡大戦略に走る日産 日産は北米事業の今後について、「(在庫適正化などの)課題に対して明確な対策を打ち、新型車の投入を進めることで業績を回復していく」(マーCFO)と説明する。この夏に新型「キックス」などを投入するが、競合他社も新型車を投入する中でどこまで市場競争力があるかは不明瞭だ。 日産は今年3月に2026年度までの中期経営計画「The Arc」を公表、2023年度比で100万台増販を掲げ、再び販売台数の拡大を目指している。台数が伸びるのは悪くない。だが、重要なのは質を伴った拡大だ。 数々の構造課題を解決せずに拡大戦略を掲げ続ければ、日産の傷口はさらに広がりかねない』、「日産も「e-POWER」と名づけた独自HVシステムを持っている。走行にエンジンと小型モーターを併用する一般的なハイブリッドシステムと異なり、e-POWERはエンジンを発電のみに使い、起こした電力でモーターを駆動させて走るシリーズ方式のハイブリッド技術だ。 これまで日産はe-POWERをアメリカ市場で展開してこなかった。その理由を「EV投入を優先してきたため」と説明しており、2026年度に投入する予定としている。 だが、「e-POWERは高速域での燃費に課題が大きい。そのまま投入しても商品としての魅力が弱く、日本以外では売れない」(日産の元技術系幹部)という声がある・・・日産は今年3月に2026年度までの中期経営計画「The Arc」を公表、2023年度比で100万台増販を掲げ、再び販売台数の拡大を目指している。台数が伸びるのは悪くない。だが、重要なのは質を伴った拡大だ。 数々の構造課題を解決せずに拡大戦略を掲げ続ければ、日産の傷口はさらに広がりかねない』、「「e-POWERは高速域での燃費に課題が大きい。そのまま投入しても商品としての魅力が弱く、日本以外では売れない」(日産の元技術系幹部)という声がある・・・日産は今年3月に2026年度までの中期経営計画「The Arc」を公表、2023年度比で100万台増販を掲げ、再び販売台数の拡大を目指している。台数が伸びるのは悪くない。だが、重要なのは質を伴った拡大だ。 数々の構造課題を解決せずに拡大戦略を掲げ続ければ、日産の傷口はさらに広がりかねない」、今後、立て直しが上手くいくか、要注目だ。
先ずは、昨年7月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した佃モビリティ総研代表の佃 義夫氏による「「あなた評判悪いよ」発言も噴出…日産・内田社長の“塩対応”に不信感募った株主総会」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/325522
・『注目を集めていた日産の株主総会が開催 日産自動車の第124回定時株主総会が、神奈川県・横浜の日産グローバル本社で6月27日に開催された。 今回の株主総会はとりわけ注目を集めていた。最高執行責任者(COO)として日産再生を推進してきたナンバー2のアシュワニ・グプタ氏が突然、取締役と代表執行役を株主総会で退任すると発表されていたことや、6月20日には日産元会長のカルロス・ゴーン被告が逃亡先のレバノンで日産などを相手取り、名誉を傷つけられたとして10億ドル(約1400億円)の損害賠償を提訴するなどしていたからだ。 また、今回の株主総会は、日産にとって積年の課題であった資本提携先の仏ルノーとの資本関係見直し議論が2月に「対等出資」で合意したものの、最終契約が遅れているといった不透明なガバナンスに対する経営側の説明も注目されていた。 筆者は、ここ10年ほど日産の一般株主として株主総会に出席し、その全てを見届けているが、今回はルノーとの新提携の行方に大きな関心を寄せていた。 この合意内容は、ルノーが保有する43%の日産株を15%に引き下げ、相互に15%ずつ出資(代わりに日産がルノーのEV分社のアンペアに最大15%出資検討)するというもの。つまり、1999年に日産を救済する形でルノーと資本提携して以来、24年もの間続いていたルノーと日産の「親子資本関係」が対等の立場になり、「新生日産」対する期待が高まっていたのだ。 だが、残念ながら今株主総会の内容は、筆者を含め一般株主の期待を裏切るような対応をする経営側への不信と、内田体制へ一抹の不安を感じるようなもので終始してしまった。) まずは、グプタCOOが今株主総会をもって退任・退社することが決まったが、内田議長はこの件に関する質問に対し「Nissan NEXTの事業構造改革に貢献してくれたグプタ氏は次のステップに向かう」との発言にとどめた。質問者の「グプタ氏に、この4年間を振り返って話してもらいたい」という問いかけにも無視するかのように、グプタ氏から一切の発言はなかった(発言させなかった)。 そもそも、現在53歳のグプタ氏は、インド人でホンダ現地法人に採用されて頭角を現しその後ルノーに転じた人物であり、日本語も堪能で「切れ者」と知られてきた。 2019年6月に日産と三菱自動車工業が資本提携した際、COOとして三菱自工に送り込まれたが、19年12月に日産の西川廣人前社長が辞任し内田体制がスタートしたタイミングで日産COOに呼び戻された。そして、これまで内田社長の右腕として事業構造改革の旗を振ってきた逸材だ。 5月11日の23年3月期連結決算発表では、内田社長と並んでグプタCOOもいつものように発言していたが、翌12日に突然日産は、6月27日の定時株主総会でグプタ氏が任期満了で取締役を退任すると発表したのだ。 さらに6月16日にはグプタCOOが27日付で退社すると発表するとともに、グプタCOOの取締役退任を巡る内部告発など、自社ガバナンスに関連する報道や情報管理について第三者機関による調査を進めていることも明らかにした。どうも日産経営陣に内紛があったようだ。) また今回、取締役全員(12人)任期満了につき10人を選任する第2号議案が示されたが、グプタCOOとともに退任したのが豊田正和社外取締役だ。 豊田氏は、経済産業省出身で通商政策のベテランだ。経産省では最終的にナンバー2の経産審議官を務めて、日産には18年から社外取締役に就任している。指名委員会委員長で筆頭社外取締役の重職にあった人物だ。 ルノーが仏政府の意向が反映される会社であるのに対して、日産が日本政府・経産省をバックにした政治レベルでの交渉ができる会社であることは、豊田社外取締役の存在とそのキャリアから推して知るべしだ。 だが、今年2月の資本関係見直しでは、EV特許など知的財産の扱いなどに異を唱えて反対した取締役がいたことで、合意までにかなりの日時を要した。「全会一致なき合意」ともやゆされたほどである。今回の株主総会での取締役選任は、こうした紆余(うよ)曲折があり、従来の12人から10人に減員する形で決着を見たのだ。 そして株主総会後の取締役会で新経営体制を発表し、内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)の下に当面、COOは置かないものとし、取締役会議長の木村康氏、副議長のジャンドミニク・スナール氏(ルノー会長)は続投することを決めた。豊田氏の後任の指名委員会委員長にはアンドリュー・ハウス氏が、筆頭社外取締役にはベルナール・デルマス氏が就いた。 新体制でルノー寄りになるのか、日産の経営自由度を強めるのか、まだ予断は許されないと、筆者は受けとめている』、「グプタ氏は、インド人でホンダ現地法人に採用されて頭角を現しその後ルノーに転じた人物であり、日本語も堪能で「切れ者」と知られてきた。 2019年6月に日産と三菱自動車工業が資本提携した際、COOとして三菱自工に送り込まれたが、19年12月に日産の西川廣人前社長が辞任し内田体制がスタートしたタイミングで日産COOに呼び戻された。そして、これまで内田社長の右腕として事業構造改革の旗を振ってきた逸材だ。 5月11日の23年3月期連結決算発表では、内田社長と並んでグプタCOOもいつものように発言していたが、翌12日に突然日産は、6月27日の定時株主総会でグプタ氏が任期満了で取締役を退任すると発表したのだ・・・グプタCOOの取締役退任を巡る内部告発など、自社ガバナンスに関連する報道や情報管理について第三者機関による調査を進めていることも明らかにした。どうも日産経営陣に内紛があったようだ・・・内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)の下に当面、COOは置かないものとし、取締役会議長の木村康氏、副議長のジャンドミニク・スナール氏(ルノー会長)は続投することを決めた。豊田氏の後任の指名委員会委員長にはアンドリュー・ハウス氏が、筆頭社外取締役にはベルナール・デルマス氏が就いた。 新体制でルノー寄りになるのか、日産の経営自由度を強めるのか、まだ予断は許されないと、筆者は受けとめている」、なるほど。
・『不信感を招く答弁に終始した内田社長 株主総会は10時から、開始され所要時間は1時間46分だった。議長役の内田社長が早口で事業構造改革の報告、将来に向けた取り組みなどを説明した。質疑応答では、従来の先着順から今回は抽選式となったが、14人の質問者に内田社長がほとんど全て一人で答えた(唯一、壇上に並んだ取締役で発言したのは報酬委員会委員長の井原慶子氏だった)。 内田社長は「日産はこの提訴に関して把握しておらず、ノーコメント。適切な対応を取っていく」と述べたにとどめた。ゴーン被告は、日本から保釈中に逃亡し、日本だけでなくフランスからも逮捕状が出されている身であり、日産トップの発言として生ぬるいものを感じた。 また、内田社長は「ルノーとの基本合意から、次のステップであるフレームの最終契約に時間を要しているが、方向として前向きに早い段階で形にして説明していきたい」と、最終契約のタイミングに対する明言は避けた。 このほか、事業構造改革で黒字化を果たしたが、株価は依然大きく低迷しており、今回の会社側の第1号議案の剰余金処分案の期末配当10円に対し、株主提案である第3号議案では15円増配が主張された。 その理由として、役員報酬の増額の妥当性を指摘し、役員報酬増額よりも株主還元をすべきとした。 このため、先述した報酬委員会委員長の井原慶子氏から説明があったわけだが、回答内容が抽象的なもので、株主サイドから井原委員長に「株価が上がったら役員報酬を上げるでいいんですよ」と諭すような発言もあったほどだ。) 結果的に会社側の第1号議案が議決され株主提案は否決されたが、一連の質疑では内田議長の素っ気ない対応が目立ち不信感をあおったというのが感想だ。質問者から面と向かって「内田さん、あなた評判悪いよ」と、こんな発言まで飛び出した。 内田社長は、就任時には緊張感を強くにじませる一方、その後の筆者のインタビューでは笑顔を見せ余裕を感じさせるなど「表情で分かりやすい人」という印象だったが、今回の株主総会では壇上で下まぶたのクマが濃くなり、経営陣の内紛をにじませたかのように見えた。 日産は、株主総会の翌日、7月1日付のエグゼクティブコミッテイに関する役員人事を発表した。内田社長は「絶え間なく変化する市場環境に対応するため、よりフラットで柔軟な経営体制を実現し、各事業地域および機能軸でのリーダーシップをさらに強化する。新エグセクティブコミッティは、最終年度となる構造改革Nissan NEXTの進捗を加速させ、日産の成長を実現するための次期中計の策定に一丸となって取り組んでいく」と述べた。 日産の新執行役は、内田誠代表執行役社長兼CEO、スティーブン・マー執行役最高財務責任者(CFO)、坂本秀行執行役副社長、星野朝子執行役副社長、中畔邦雄執行役副社長で、それぞれを補佐する専務執行役クラスがメンバーに就任した。) 日産の前期(23年3月期)の業績は、売上高10兆5967億円、営業利益3771億円、当期純利益2219億円で増収増益となった。20年3月期、21年3月期と連続で赤字だったが、22年3月期で黒字転換を果たし、23年3月期でも半導体不足や原材料費高騰など厳しい環境下ながら順調な回復を示した。 また、今期(24年3月期)見通しも売上高が前期比17%増の12兆4000億円、営業利益が38%増の5200億円、当期利益が42%増の3150億円と、日産の“復活”を示す業績見込みだ。内田社長は「今期が新中計の『Nissan NEXT』に最終年度であり、かつ日産創立90周年にもあたる。継続的な新車投入、事業基盤強化、イノベーション投資の積極展開を進める」としている。 ただし、日産の経営課題として北米と並ぶ主力地域である中国事業での低迷が顕在化しており、前期の自動車事業の営業利益率は1%未満にとどまっている。今中計の最終年度である23年度の売上高営業利益率5%以上の実現は未達に終わりそうで、まだ不安定な業績動向でもある。 今回の株主総会でも指摘されたように、またも日産経営陣で内紛か、内田体制は大丈夫かとの懸念が出る中で、クルマ業界・モビリティ業界は大きく変化のスピードを上げてきている。ルノーとの新たなアライアンス関係の方向・活用も含めて日産の価値向上へ急がねばならない状況なのだ』、「一連の質疑では内田議長の素っ気ない対応が目立ち不信感をあおったというのが感想だ。質問者から面と向かって「内田さん、あなた評判悪いよ」と、こんな発言まで飛び出した。 内田社長は、就任時には緊張感を強くにじませる一方、その後の筆者のインタビューでは笑顔を見せ余裕を感じさせるなど「表情で分かりやすい人」という印象だったが、今回の株主総会では壇上で下まぶたのクマが濃くなり、経営陣の内紛をにじませたかのように見えた・・・日産の経営課題として北米と並ぶ主力地域である中国事業での低迷が顕在化しており、前期の自動車事業の営業利益率は1%未満にとどまっている。今中計の最終年度である23年度の売上高営業利益率5%以上の実現は未達に終わりそうで、まだ不安定な業績動向でもある」、せっかく「ルノー」の支配を脱したのに、「内田社長」にはもっと積極的なビジョンなどを語ってもらいたかった。
次に、昨年12月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した佃モビリティ総研代表の佃 義夫氏による「日産「ルノー支配が終焉」でも不安が拭えない理由、不可解人事に業績面でも…」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/335379
・『ルノーとの資本関係見直し後 初の3社首脳会見 日産自動車が創立90周年を迎える。 日産の源流は、1918(大正7)年の快進社(日本初となる4気筒搭載のダット41型乗用車を生産・発売)にさかのぼるが、鮎川義介が設立した持ち株会社の日本産業と戸畑鋳物が出資して自動車製造を設立した33(昭和8)年12月26日が創立記念日となっている。その翌年の34(昭和9)年6月に行われた株主総会で日本産業の100%出資となり、社名も日産自動車株式会社に変更され今日に至っている。 日産は創立90周年にあたり、大きな節目として12月14日に横浜のグローバル本社で「日産自動車創立90周年記念レセプション」を開催する予定だ。 くしくも、日産が創立90周年を迎えようとする12月6日に仏ルノーと日産、三菱自動車工業の3社首脳が資本関係見直し後、初の記者会見をパリで開いた。これは、ルノーの日産に対する出資比率43.4%を15%に引き下げ、相互に15%ずつ出資する資本関係見直しが11月に完了したことを受けたものだ。 日産にとって四半世紀も続いたルノー支配の不利な関係が対等になって、日仏連合が新しい段階に入った、ということである。 日産の内田誠社長は会見で、「新たな3社のパートナーシップが各社にメリットをもたらすと確信している」ことを強調した。 一方、ルノーグループのルカ・デメオCEOは、ルノーが上場を目指すEV・車載ソフトの新会社アンペアに日産が最大6億ユーロ(約940億円)、三菱自が最大2億ユーロ(約313億円)の出資を決めたことに触れて「両社の信頼を得て、支援を受けられることに感謝する」と述べた。 また、ジャンドミニク・スナール会長は「アライアンスは消えるのではなく、プロジェクト単位の運営に集中するということだ」とあえて連携を深めることに言及した。) かつてトヨタと共に20世紀の日本の自動車産業をリードしてきたのが日産だった。 むしろ、トヨタが愛知・豊田市を本拠としていたのに対し、首都東京・銀座(当時)に本社を置く日産が日本車を代表したリーディング企業でもあったのだ。「販売のトヨタ」に対し「技術の日産」が、野球で王・長嶋のONに比較されたTNのライバル関係のキャッチフレーズだった。 しかし、日産の凋落によって、次第に日産とトヨタの両大手のライバル関係は格差がつき、90年代後半にその差ははっきりとした。それは日産が抱えていた労働組合問題が経営の混乱を招いた結果だった。 90年代末には、瀕死(ひんし)の日産は外資のルノーとの資本提携に活路を求めた。そして、ルノー・日産の日仏国際提携は、2016年に日産が三菱自を傘下に収めたことでルノー・日産・三菱自の3社連合に変化した。 だが、この3社連合は、ルノーの傘下に日産(ルノーが日産に43.4%出資)、日産の傘下に三菱自(日産が三菱自に34%出資)という親・子・孫の複雑な資本関係であった。さらにルノーは、かつてのルノー公団として現在も仏政府が筆頭株主という国策が絡んだ企業であり、連合の動向は常に微妙な状況にあった。 日産はルノーと対等に議決権を行使できるようになったことで、1999年以来の親子関係がついに変わる。今後は経営の自由度が増し、積極投資や日仏連合での主導権、リーダーシップへの変化が期待されるところだ。 そこで、内田誠・日産社長体制の評価だが、日産は赤字から脱しこの24年3月期に中間配当としては4年ぶりの配当を行ったものの、1株あたり5円とごくわずかであり依然多くの経営課題を抱えている。 カルロス・ゴーン長期政権後期のグローバル拡大戦略のゆがみによる業績悪化と経営陣の混乱の中で、19年12月に抜てきの形でスタートしたのが内田誠体制だ。) 日商岩井から日産に転じた経歴を持つ内田氏は、当時、全くのダークホースだった。日産入りしてから購買・調達畑を歩み、直前では専務執行役員・中国事業統括で中国・武漢に駐在していたが、社長の白羽の矢が立ち、コロナ禍が始まる中で急きょ、日本の本社に呼び戻された。 内田日産体制は、最悪の状態からスタートを切った。19年度の日産の純損失・赤字は6712億円に膨らんでいた。内田社長を支えるCOOに三菱自COOから復帰させたアシュワニ・グプタ(ルノー出身)氏と、副COOには中国事業統括の前任だったプロパーの関潤氏を采配する経営布陣だったが、すぐに関氏は退任して日本電産(現ニデック)社長に転じてしまった。なお、関氏はその後、台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)入りしてしまう。 19年の内田日産体制のスタートから4年が経過する中で、内田社長は不退転の覚悟で、不採算事業・余剰設備の整理や選択と集中を進めてきた。収益性重視・コスト最適化を企図した事業構造改革として中期経営計画の「NISSAN NEXT」を20年5月策定し、この23年度末までの4カ年計画で営業利益率5%、マーケットシェア6%レベルの達成を掲げた。 今期業績予想は、営業利益6200億円の上方修正を既に発表しており、これに基づくと23年度の営業利益率は4.8%となる。中間期としての配当復活と共に一定の評価はすべきだろう。 だが、内情は円安による為替差益の押し上げが400億円もあり、日産全体の純利益の34%も占める中国事業が一転して厳しい状況となっている。 また、今年6月の株主総会でアシュワニ・グプタCOOが突然の退任、社外取締役の経産省出身の豊田正和氏も退任し、不可解な経営陣の混乱も示唆された。) これまで、内田CEO・グプタCOOの両輪で事業構造改革を急いできた日産だ。当面は、内田社長に権限を集中させ、迅速な経営判断を行える体制で次期中計に臨むことになるものの、この次期中計の公表も延期しており一抹の不安が残る。 内田体制も5年目に入る。ポスト内田の最有力候補と目されたクプタ前COOの突然の退任もあり、日産にとっては、内田社長の後継者選任も含めて、来年から始まる日産100周年に向けた道筋が最も大事な時期だ。 三菱自を含む日仏3社連合は、ゴーン氏が支配した無理なグローバル拡大戦略のツケとコロナ禍による市場低迷で、ここ数年、構造改革に躍起になってきた。3社とも、この23年で業績を回復しており、ルノー・日産の資本関係見直しで3社連合は大きな転機を迎える。 日産にとって創立90周年という大きな節目を経て、次の100周年に向かう。主力となっている中国事業の立て直しなど多くの課題も抱えているが、ルノーのEV新会社・アンペアにも日産は三菱自と共に出資しており、3社連合を改めて強化して成長機会と捉える。 ライバルだったトヨタは「この指とまれ」(豊田章男会長)と、日本連合としてのグループ連携を強めている。日産も、CASE時代が本格化するこの時期に「他のやらぬことをやる」創業の精神で3社連合をリードして生き抜いていくことを期待したい』、「日産も、CASE時代が本格化するこの時期に「他のやらぬことをやる」創業の精神で3社連合をリードして生き抜いていくことを期待したい」、その通りだ。
・『ルノーとの資本関係見直し後 初の3社首脳会見 日産自動車が創立90周年を迎える。 日産の源流は、1918(大正7)年の快進社(日本初となる4気筒搭載のダット41型乗用車を生産・発売)にさかのぼるが、鮎川義介が設立した持ち株会社の日本産業と戸畑鋳物が出資して自動車製造を設立した33(昭和8)年12月26日が創立記念日となっている。その翌年の34(昭和9)年6月に行われた株主総会で日本産業の100%出資となり、社名も日産自動車株式会社に変更され今日に至っている。 日産は創立90周年にあたり、大きな節目として12月14日に横浜のグローバル本社で「日産自動車創立90周年記念レセプション」を開催する予定だ。 くしくも、日産が創立90周年を迎えようとする12月6日に仏ルノーと日産、三菱自動車工業の3社首脳が資本関係見直し後、初の記者会見をパリで開いた。これは、ルノーの日産に対する出資比率43.4%を15%に引き下げ、相互に15%ずつ出資する資本関係見直しが11月に完了したことを受けたものだ。 日産にとって四半世紀も続いたルノー支配の不利な関係が対等になって、日仏連合が新しい段階に入った、ということである。 日産の内田誠社長は会見で、「新たな3社のパートナーシップが各社にメリットをもたらすと確信している」ことを強調した。 一方、ルノーグループのルカ・デメオCEOは、ルノーが上場を目指すEV・車載ソフトの新会社アンペアに日産が最大6億ユーロ(約940億円)、三菱自が最大2億ユーロ(約313億円)の出資を決めたことに触れて「両社の信頼を得て、支援を受けられることに感謝する」と述べた。 また、ジャンドミニク・スナール会長は「アライアンスは消えるのではなく、プロジェクト単位の運営に集中するということだ」とあえて連携を深めることに言及した。) かつてトヨタと共に20世紀の日本の自動車産業をリードしてきたのが日産だった。 むしろ、トヨタが愛知・豊田市を本拠としていたのに対し、首都東京・銀座(当時)に本社を置く日産が日本車を代表したリーディング企業でもあったのだ。「販売のトヨタ」に対し「技術の日産」が、野球で王・長嶋のONに比較されたTNのライバル関係のキャッチフレーズだった。 しかし、日産の凋落によって、次第に日産とトヨタの両大手のライバル関係は格差がつき、90年代後半にその差ははっきりとした。それは日産が抱えていた労働組合問題が経営の混乱を招いた結果だった。 90年代末には、瀕死(ひんし)の日産は外資のルノーとの資本提携に活路を求めた。そして、ルノー・日産の日仏国際提携は、2016年に日産が三菱自を傘下に収めたことでルノー・日産・三菱自の3社連合に変化した。 だが、この3社連合は、ルノーの傘下に日産(ルノーが日産に43.4%出資)、日産の傘下に三菱自(日産が三菱自に34%出資)という親・子・孫の複雑な資本関係であった。さらにルノーは、かつてのルノー公団として現在も仏政府が筆頭株主という国策が絡んだ企業であり、連合の動向は常に微妙な状況にあった。 日産はルノーと対等に議決権を行使できるようになったことで、1999年以来の親子関係がついに変わる。今後は経営の自由度が増し、積極投資や日仏連合での主導権、リーダーシップへの変化が期待されるところだ。 そこで、内田誠・日産社長体制の評価だが、日産は赤字から脱しこの24年3月期に中間配当としては4年ぶりの配当を行ったものの、1株あたり5円とごくわずかであり依然多くの経営課題を抱えている。 カルロス・ゴーン長期政権後期のグローバル拡大戦略のゆがみによる業績悪化と経営陣の混乱の中で、19年12月に抜てきの形でスタートしたのが内田誠体制だ。) 日商岩井から日産に転じた経歴を持つ内田氏は、当時、全くのダークホースだった。日産入りしてから購買・調達畑を歩み、直前では専務執行役員・中国事業統括で中国・武漢に駐在していたが、社長の白羽の矢が立ち、コロナ禍が始まる中で急きょ、日本の本社に呼び戻された。 内田日産体制は、最悪の状態からスタートを切った。19年度の日産の純損失・赤字は6712億円に膨らんでいた。内田社長を支えるCOOに三菱自COOから復帰させたアシュワニ・グプタ(ルノー出身)氏と、副COOには中国事業統括の前任だったプロパーの関潤氏を采配する経営布陣だったが、すぐに関氏は退任して日本電産(現ニデック)社長に転じてしまった。なお、関氏はその後、台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)入りしてしまう。 19年の内田日産体制のスタートから4年が経過する中で、内田社長は不退転の覚悟で、不採算事業・余剰設備の整理や選択と集中を進めてきた。収益性重視・コスト最適化を企図した事業構造改革として中期経営計画の「NISSAN NEXT」を20年5月策定し、この23年度末までの4カ年計画で営業利益率5%、マーケットシェア6%レベルの達成を掲げた。 今期業績予想は、営業利益6200億円の上方修正を既に発表しており、これに基づくと23年度の営業利益率は4.8%となる。中間期としての配当復活と共に一定の評価はすべきだろう。 だが、内情は円安による為替差益の押し上げが400億円もあり、日産全体の純利益の34%も占める中国事業が一転して厳しい状況となっている。 また、今年6月の株主総会でアシュワニ・グプタCOOが突然の退任、社外取締役の経産省出身の豊田正和氏も退任し、不可解な経営陣の混乱も示唆された。) これまで、内田CEO・グプタCOOの両輪で事業構造改革を急いできた日産だ。当面は、内田社長に権限を集中させ、迅速な経営判断を行える体制で次期中計に臨むことになるものの、この次期中計の公表も延期しており一抹の不安が残る。 内田体制も5年目に入る。ポスト内田の最有力候補と目されたクプタ前COOの突然の退任もあり、日産にとっては、内田社長の後継者選任も含めて、来年から始まる日産100周年に向けた道筋が最も大事な時期だ。 三菱自を含む日仏3社連合は、ゴーン氏が支配した無理なグローバル拡大戦略のツケとコロナ禍による市場低迷で、ここ数年、構造改革に躍起になってきた。3社とも、この23年で業績を回復しており、ルノー・日産の資本関係見直しで3社連合は大きな転機を迎える。 日産にとって創立90周年という大きな節目を経て、次の100周年に向かう。主力となっている中国事業の立て直しなど多くの課題も抱えているが、ルノーのEV新会社・アンペアにも日産は三菱自と共に出資しており、3社連合を改めて強化して成長機会と捉える。 ライバルだったトヨタは「この指とまれ」(豊田章男会長)と、日本連合としてのグループ連携を強めている。日産も、CASE時代が本格化するこの時期に「他のやらぬことをやる」創業の精神で3社連合をリードして生き抜いていくことを期待したい』、「日商岩井から日産に転じた経歴を持つ内田氏は、当時、全くのダークホースだった。日産入りしてから購買・調達畑を歩み、直前では専務執行役員・中国事業統括で中国・武漢に駐在していたが、社長の白羽の矢が立ち、コロナ禍が始まる中で急きょ、日本の本社に呼び戻された。 内田日産体制は、最悪の状態からスタートを切った」、「内田氏」が「日商岩井」出身とは初めて知った。「内情は円安による為替差益の押し上げが400億円もあり、日産全体の純利益の34%も占める中国事業が一転して厳しい状況となっている・・・3社とも、この23年で業績を回復しており、ルノー・日産の資本関係見直しで3社連合は大きな転機を迎える。 日産にとって創立90周年という大きな節目を経て、次の100周年に向かう。主力となっている中国事業の立て直しなど多くの課題も抱えているが、ルノーのEV新会社・アンペアにも日産は三菱自と共に出資しており、3社連合を改めて強化して成長機会と捉える・・・日産も、CASE時代が本格化するこの時期に「他のやらぬことをやる」創業の精神で3社連合をリードして生き抜いていくことを期待したい」、その通りだ。
第三に、4月8日付けBloombeg「ルノー、日産を時価総額で逆転-年初来で株価37%上昇」を紹介しよう。
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-04-08/SBMFGHT0G1KW00#:~:text=%E4%BB%8F%E3%83%AB%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97%E3%81%8C%E6%97%A5%E7%94%A3,%E6%9D%A5%E3%81%A737%EF%BC%85%E4%B8%8A%E6%98%87%E3%80%82
・『ルノー、利益率とフリーキャッシュフローの改善続く-日産は苦戦 アライアンス発足以降、ルノーの時価総額は日産を下回り続けていた 仏ルノーグループが日産自動車を時価総額で上回った。日産とのアライアンス(企業連合)緩和などの動きを投資家が評価している。 ルカ・デメオ最高経営責任者(CEO)は黒字化を果たし、ラインナップの見直しに取り組んでいる。こうした中で、ルノーの株価は年初来で37%上昇。数十年前のアライアンス発足以来、ほぼ全ての期間でルノーの時価総額は日産を下回ってきたが、いまやルノーは約150億ユーロ(約2兆5000億円)と評価され、日産を2000億円程度上回った。 スタイフェルのアナリスト、ピエール・イブ・ケメナー氏は、「そつがない経営で、利益率とフリーキャッシュフローの改善が続いている」と指摘した。 デメオCEOの下、ルノーはロシアから撤退し、電気自動車(EV)事業と従来型のエンジン車事業を分離、クアルコムやボルボ、中国・浙江吉利などとの新たな協力関係を成立させた。競争の激しい欧州EV市場で勝ち抜くべく、価格2万5000ユーロの「R5 E-Tech」を投入する。これらが好感され、ルノーは欧州自動車株のうち年初来の上昇率が最も高い。 一方、日産はラインナップの陳腐化や北米でのハイブリッド製品の欠如、中国での競争激化で苦戦している』、「ルノーはロシアから撤退し、電気自動車(EV)事業と従来型のエンジン車事業を分離、クアルコムやボルボ、中国・浙江吉利などとの新たな協力関係を成立させた。競争の激しい欧州EV市場で勝ち抜くべく、価格2万5000ユーロの「R5 E-Tech」を投入する。これらが好感され、ルノーは欧州自動車株のうち年初来の上昇率が最も高い。 一方、日産はラインナップの陳腐化や北米でのハイブリッド製品の欠如、中国での競争激化で苦戦している」、「日産」がモタモタしている間に、「ルノー」に株価でも抜かれるとは情けない限りだ。
第四に、8月7日付け東洋経済オンライン「日産「99%減益」の真因、アメリカ事業に2つの課題 インセンティブ濫発とHV不在のダブルパンチ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/791289
・『「昔の悪い日産に戻ってしまった。経営が本質的な問題解決に取り組まないから、何度も同じ過ちを繰り返す」。日産自動車の元幹部はそう肩を落とす。 日産自動車が7月25日に発表した2025年3月期第1四半期(4〜6月)決算の営業利益はわずか10億円。前年同期の1285億円から99%の減益となった。円安という強い追い風があったにもかかわらず、だ。今年5月に掲げたばかりの通期6000億円の営業利益計画も5000億円に下方修正した。 新たな業績予想では、為替前提を従来の1ドル145円から155円へと円安方向に見直した。が、その後、日銀が利上げに動いたことで為替は1ドル145円前後まで上昇している。円安修正の動きが続けば、再度の下方修正に追い込まれる可能性がある』、「2025年3月期第1四半期(4〜6月)決算の営業利益はわずか10億円。前年同期の1285億円から99%の減益となった。円安という強い追い風があったにもかかわらず、だ・・・円安修正の動きが続けば、再度の下方修正に追い込まれる可能性がある」、なるほど。
・『北米事業の採算が急悪化 業績悪化の最大の原因は、近年稼ぎ頭だった北米事業の採算が急悪化したことにある。現地での在庫が膨らんだことで販売奨励金(インセンティブ)などの販売コストが急増し、収益を圧迫。北米事業の第1四半期のセグメント営業利益は前期の1320億円から209億円の赤字に転落した。 日産のスティーブン・マーCFOは「ローグの2024年モデルの切り替えが遅れた」と販売コスト増の背景を説明する。ローグは日産のアメリカ市場における主力SUV(スポーツ用多目的車)で、日本市場の「エクストレイル」に相当する。 競合の他メーカーが2024年モデルの販売を始めてからも、在庫がたまっていた2023年モデルのローグを売り続けたことで販売コストが膨らんだ。今年1~3月(前第4四半期)に9万台あったローグの販売台数は、4~6月(今第1四半期)は5万台と苦戦している。 調査会社によれば、6月の日産の1台当たりインセンティブ額は約4000ドル(約60万円)と1年前の2倍近い水準まで上昇している。これはトヨタ自動車の2.5倍、ホンダの1.6倍に相当する。) 決算発表の場でインセンティブ上昇について問われた内田誠社長は「われわれのインセンティブは業界平均レベルだと思っている。販売の質の向上を維持するという観点から、ほとんどはキャッシュ(値引き)ではなくお客様のローンの支援に当てている」と答え、特段問題視しなかった。 だが、日産がアメリカ市場で「インセンティブ漬け」になったのはこれが初めてではない。カルロス・ゴーン時代の拡大戦略の中にあった2016年にも1台当たりインセンティブ額が4000ドルを超えた。これを原資に現地ディーラーは安売りを濫発、日産車のブランドは大きく毀損した。 日産に16年間勤務し北米事業の経験もあるブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生アナリストは、「40年以上変わらない構造問題だ。日産には『こんなに売れるわけがない』とみんながわかっていても過大な計画を立ててボリュームを伸ばそうとする歴史がある。『できない』と言った瞬間、『君はいらない』と言われてしまう」と嘆く。 日産関係者によれば、「そもそも今回、ローグのモデルチェンジが遅れたのもストレッチした生産計画とブランド力低下によって旧モデルが売れ残ったのが原因。特殊要因があったわけではない」。 日産の在庫は、コロナ禍や半導体不足で供給制約が起きた2019年以降、減少していた。供給制約が解消された途端に無理して数を追う悪弊が顔を出した。コロナ禍が隠していた日産の構造問題が再び噴き出した形とも言える』、「ローグのモデルチェンジが遅れたのもストレッチした生産計画とブランド力低下によって旧モデルが売れ残ったのが原因・・・供給制約が解消された途端に無理して数を追う悪弊が顔を出した。コロナ禍が隠していた日産の構造問題が再び噴き出した形とも言える」、なるほど。
・『人気のHVを投入できない日産 足元での日産のアメリカ市場での苦戦にはもう1つ深刻な課題がある。ハイブリッド車(HV)の不在だ。 世界2位の自動車市場であるアメリカ市場では現在、電気自動車(EV)の販売が失速しHVの販売が伸びている。インフレや金利上昇で割高なEVが敬遠され、トヨタ車を筆頭に価格が手ごろで燃費もいいHV人気が高まっているためだ。 実際、HVのラインナップをそろえるトヨタ自動車やホンダはインセンティブを抑制しつつアメリカ市場での販売を伸ばしている。一方、4~6月の日産の販売台数は23万台。インセンティブを積んでなお前年同期比3.1%減と低迷する。 日産も「e-POWER」と名づけた独自HVシステムを持っている。走行にエンジンと小型モーターを併用する一般的なハイブリッドシステムと異なり、e-POWERはエンジンを発電のみに使い、起こした電力でモーターを駆動させて走るシリーズ方式のハイブリッド技術だ。 これまで日産はe-POWERをアメリカ市場で展開してこなかった。その理由を「EV投入を優先してきたため」と説明しており、2026年度に投入する予定としている。 だが、「e-POWERは高速域での燃費に課題が大きい。そのまま投入しても商品としての魅力が弱く、日本以外では売れない」(日産の元技術系幹部)という声がある。 道路環境の違いから、北米では高い速度域をキープして走る運転が多い。こうした高速一定走行はエンジンをそのまま駆動に使った方が高効率で、エンジンで発電しその電気でモーターを動かすe-POWERはむしろ燃費が低下するのだ。) 「海外で売る気なら、例えば三菱自動車のアウトランダーのように高速域ではエンジン直結で走行する機構を入れるか、他社のハイブリッド技術を受け入れる必要がある」(同元幹部) 日産は、2000年代にトヨタのハイブリッドシステム(THS)の技術協力を受けて、HVの「アルティマ ハイブリッド」を投入したこともあるが、「ゴーンさんはトヨタからもらうことに我慢ができなかった」(日産幹部)。EVを優先する戦略を進めたこともあり、1世代でトヨタとの協業関係は終わった。 ホンダとの戦略的パートナーシップの第1段として次世代の車載ソフトウェアの共同研究契約を締結。ホンダとの戦略的パートナーシップでは、協業領域として車両の相互補完も打ち出している。「まだ細部の詰めが残っている段階であり、具体的なモデル名などの公表は差し控えるが、ガソリン車やEVなどの相互供給を検討している」(ホンダの三部敏宏社長)としている』、「ホンダとの戦略的パートナーシップでは、協業領域として車両の相互補完も打ち出している。「まだ細部の詰めが残っている段階であり、具体的なモデル名などの公表は差し控えるが、ガソリン車やEVなどの相互供給を検討している」、なるほど。
・『再拡大戦略に走る日産 日産は北米事業の今後について、「(在庫適正化などの)課題に対して明確な対策を打ち、新型車の投入を進めることで業績を回復していく」(マーCFO)と説明する。この夏に新型「キックス」などを投入するが、競合他社も新型車を投入する中でどこまで市場競争力があるかは不明瞭だ。 日産は今年3月に2026年度までの中期経営計画「The Arc」を公表、2023年度比で100万台増販を掲げ、再び販売台数の拡大を目指している。台数が伸びるのは悪くない。だが、重要なのは質を伴った拡大だ。 数々の構造課題を解決せずに拡大戦略を掲げ続ければ、日産の傷口はさらに広がりかねない』、「日産も「e-POWER」と名づけた独自HVシステムを持っている。走行にエンジンと小型モーターを併用する一般的なハイブリッドシステムと異なり、e-POWERはエンジンを発電のみに使い、起こした電力でモーターを駆動させて走るシリーズ方式のハイブリッド技術だ。 これまで日産はe-POWERをアメリカ市場で展開してこなかった。その理由を「EV投入を優先してきたため」と説明しており、2026年度に投入する予定としている。 だが、「e-POWERは高速域での燃費に課題が大きい。そのまま投入しても商品としての魅力が弱く、日本以外では売れない」(日産の元技術系幹部)という声がある・・・日産は今年3月に2026年度までの中期経営計画「The Arc」を公表、2023年度比で100万台増販を掲げ、再び販売台数の拡大を目指している。台数が伸びるのは悪くない。だが、重要なのは質を伴った拡大だ。 数々の構造課題を解決せずに拡大戦略を掲げ続ければ、日産の傷口はさらに広がりかねない』、「「e-POWERは高速域での燃費に課題が大きい。そのまま投入しても商品としての魅力が弱く、日本以外では売れない」(日産の元技術系幹部)という声がある・・・日産は今年3月に2026年度までの中期経営計画「The Arc」を公表、2023年度比で100万台増販を掲げ、再び販売台数の拡大を目指している。台数が伸びるのは悪くない。だが、重要なのは質を伴った拡大だ。 数々の構造課題を解決せずに拡大戦略を掲げ続ければ、日産の傷口はさらに広がりかねない」、今後、立て直しが上手くいくか、要注目だ。
タグ:日産・三菱自・ルノー問題 (その4)(「あなた評判悪いよ」発言も噴出…日産・内田社長の“塩対応”に不信感募った株主総会、日産「ルノー支配が終焉」でも不安が拭えない理由、不可解人事に業績面でも…、ルノー 日産を時価総額で逆転-年初来で株価37%上昇、日産「99%減益」の真因 アメリカ事業に2つの課題 インセンティブ濫発とHV不在のダブルパンチ) ダイヤモンド・オンライン 佃 義夫氏による「「あなた評判悪いよ」発言も噴出…日産・内田社長の“塩対応”に不信感募った株主総会」 「グプタ氏は、インド人でホンダ現地法人に採用されて頭角を現しその後ルノーに転じた人物であり、日本語も堪能で「切れ者」と知られてきた。 2019年6月に日産と三菱自動車工業が資本提携した際、COOとして三菱自工に送り込まれたが、19年12月に日産の西川廣人前社長が辞任し内田体制がスタートしたタイミングで日産COOに呼び戻された。そして、これまで内田社長の右腕として事業構造改革の旗を振ってきた逸材だ。 5月11日の23年3月期連結決算発表では、内田社長と並んでグプタCOOもいつものように発言していたが、翌12 日に突然日産は、6月27日の定時株主総会でグプタ氏が任期満了で取締役を退任すると発表したのだ・・・グプタCOOの取締役退任を巡る内部告発など、自社ガバナンスに関連する報道や情報管理について第三者機関による調査を進めていることも明らかにした。どうも日産経営陣に内紛があったようだ・・・内田誠社長兼最高経営責任者(CEO)の下に当面、COOは置かないものとし、取締役会議長の木村康氏、副議長のジャンドミニク・スナール氏(ルノー会長)は続投することを決めた。豊田氏の後任の指名委員会委員長にはアンドリュー・ハウス氏が 、筆頭社外取締役にはベルナール・デルマス氏が就いた。 新体制でルノー寄りになるのか、日産の経営自由度を強めるのか、まだ予断は許されないと、筆者は受けとめている」、なるほど。 「一連の質疑では内田議長の素っ気ない対応が目立ち不信感をあおったというのが感想だ。質問者から面と向かって「内田さん、あなた評判悪いよ」と、こんな発言まで飛び出した。 内田社長は、就任時には緊張感を強くにじませる一方、その後の筆者のインタビューでは笑顔を見せ余裕を感じさせるなど「表情で分かりやすい人」という印象だったが、今回の株主総会では壇上で下まぶたのクマが濃くなり、経営陣の内紛をにじませたかのように見えた・・・ 日産の経営課題として北米と並ぶ主力地域である中国事業での低迷が顕在化しており、前期の自動車事業の営業利益率は1%未満にとどまっている。今中計の最終年度である23年度の売上高営業利益率5%以上の実現は未達に終わりそうで、まだ不安定な業績動向でもある」、せっかく「ルノー」の支配を脱したのに、「内田社長」にはもっと積極的なビジョンなどを語ってもらいたかった。 佃 義夫氏による「日産「ルノー支配が終焉」でも不安が拭えない理由、不可解人事に業績面でも…」 「日産も、CASE時代が本格化するこの時期に「他のやらぬことをやる」創業の精神で3社連合をリードして生き抜いていくことを期待したい」、その通りだ。 「日商岩井から日産に転じた経歴を持つ内田氏は、当時、全くのダークホースだった。日産入りしてから購買・調達畑を歩み、直前では専務執行役員・中国事業統括で中国・武漢に駐在していたが、社長の白羽の矢が立ち、コロナ禍が始まる中で急きょ、日本の本社に呼び戻された。 内田日産体制は、最悪の状態からスタートを切った」、「内田氏」が「日商岩井」出身とは初めて知った。 「内情は円安による為替差益の押し上げが400億円もあり、日産全体の純利益の34%も占める中国事業が一転して厳しい状況となっている・・・3社とも、この23年で業績を回復しており、ルノー・日産の資本関係見直しで3社連合は大きな転機を迎える。 日産にとって創立90周年という大きな節目を経て、次の100周年に向かう。主力となっている中国事業の立て直しなど多くの課題も抱えているが、ルノーのEV新会社・アンペアにも日産は三菱自と共に出資しており、3社連合を改めて強化して成長機会と捉える・・・ 日産も、CASE時代が本格化するこの時期に「他のやらぬことをやる」創業の精神で3社連合をリードして生き抜いていくことを期待したい」、その通りだ。 Bloombeg「ルノー、日産を時価総額で逆転-年初来で株価37%上昇」 「ルノーはロシアから撤退し、電気自動車(EV)事業と従来型のエンジン車事業を分離、クアルコムやボルボ、中国・浙江吉利などとの新たな協力関係を成立させた。競争の激しい欧州EV市場で勝ち抜くべく、価格2万5000ユーロの「R5 E-Tech」を投入する。これらが好感され、ルノーは欧州自動車株のうち年初来の上昇率が最も高い。 一方、日産はラインナップの陳腐化や北米でのハイブリッド製品の欠如、中国での競争激化で苦戦している」、「日産」がモタモタしている間に、「ルノー」に株価でも抜かれるとは情けない限りだ。 東洋経済オンライン「日産「99%減益」の真因、アメリカ事業に2つの課題 インセンティブ濫発とHV不在のダブルパンチ」 「2025年3月期第1四半期(4〜6月)決算の営業利益はわずか10億円。前年同期の1285億円から99%の減益となった。円安という強い追い風があったにもかかわらず、だ・・・円安修正の動きが続けば、再度の下方修正に追い込まれる可能性がある」、なるほど。 「ローグのモデルチェンジが遅れたのもストレッチした生産計画とブランド力低下によって旧モデルが売れ残ったのが原因・・・供給制約が解消された途端に無理して数を追う悪弊が顔を出した。コロナ禍が隠していた日産の構造問題が再び噴き出した形とも言える」、なるほど。 「ホンダとの戦略的パートナーシップでは、協業領域として車両の相互補完も打ち出している。「まだ細部の詰めが残っている段階であり、具体的なモデル名などの公表は差し控えるが、ガソリン車やEVなどの相互供給を検討している」、なるほど。
ブラック企業(その17)(「勤務中に肋骨3本を折ったのに“1カ月で出社しろ”と…」 山崎製パンの“凄絶ブラック労働”の実態 「コロナにかかったのに強制出勤」も、銀行で課長止まりの私と 支店長3店目の1年上の先輩…「出世の明暗」分けたのは?) [企業経営]
ブラック企業については、本年4月6日に取上げた。今日は、(その17)(「勤務中に肋骨3本を折ったのに“1カ月で出社しろ”と…」 山崎製パンの“凄絶ブラック労働”の実態 「コロナにかかったのに強制出勤」も、銀行で課長止まりの私と 支店長3店目の1年上の先輩…「出世の明暗」分けたのは?)である。
先ずは、本年5月16日付けデイリー新潮「「勤務中に肋骨3本を折ったのに“1カ月で出社しろ”と…」 山崎製パンの“凄絶ブラック労働”の実態 「コロナにかかったのに強制出勤」も」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2024/05161100/?all=1#goog_rewarded
・『「全治2カ月なのに“1カ月で出社しろ”と セールスドライバーが死亡事故を起こした横浜第二工場 「週刊新潮」はこれまで「山崎製パン」で異物混入事案が相次いでいることや、工場で事故が発生する背景をお伝えしてきた。今回紹介するのは、足の骨が折れているにもかかわらず勤務させられたり、車で通勤中に事故に遭っても“警察を呼ばずに出勤してくれ”と命じられたりするなど、ブラック過ぎる労働環境の実態である。 「山パンが超ブラック企業なのは間違いありません。働いていた時に自分や仲間の間でよくあったのが、ケガをしていても休めないことでした」 そう話すのは、横浜第二工場で長らくセールスドライバーを務めていた男性である。 「自分の例としては、トラックの荷台から落ちて肋骨を3本折った時、全治2カ月だったのですが、1カ月で出社しろ、と言われました。また、車で通勤中に追突されたので上司に連絡して“警察呼びます”と言ったら、“いや、そのまま出勤してくれ”と命じられたこともあります」 他にも、「股関節に痛みがあったのに無理やり出勤させられ、仕事中、あまりに痛いので病院に行ったら大腿骨が折れていた、という人がいました。あと、坂で停めていたトラックが動いてしまい、ひかれて足を骨折した人の場合、代わりのドライバーは用意してもらえたものの、“道が分かるお前も乗ってろ”と上司に言われ、骨が折れているのに助手席に乗ってその日の配送が終わるまで働かされていました」』、「車で通勤中に追突されたので上司に連絡して“警察呼びます”と言ったら、“いや、そのまま出勤してくれ”と命じられたこともあります」、警察での事故処理をせずに済ませたのであれば、問題だ。「「股関節に痛みがあったのに無理やり出勤させられ、仕事中、あまりに痛いので病院に行ったら大腿骨が折れていた、という人がいました」、信じ難いような話だ。
・「一番つらかったのは、父の死に目に会えなかったこと」 同工場の別の元セールスドライバーもこう語る。 「一番つらかったのは、父の死に目に会えなかったことですね。ヤマザキパンの配送は1日に2便あるのですが、2便目の配送前に父親が危篤状態だという連絡が入り、上司に“何とかなりませんか”と掛け合ったものの“(配送に出て)できるだけ早く帰ってこい”と取り合ってもらえませんでした。セールスドライバーは常に人が足りていないのでそうなってしまうのです」 そうした環境で働かされているためか、 「2010~12年ごろにはドライバーが死亡事故を起こしたこともありました。配送中に前方不注意で原付バイクをはねてしまったのですが、原因は居眠り運転だったはずです」(同)』、「坂で停めていたトラックが動いてしまい、ひかれて足を骨折した人の場合、代わりのドライバーは用意してもらえたものの、“道が分かるお前も乗ってろ”と上司に言われ、骨が折れているのに助手席に乗ってその日の配送が終わるまで働かされていました」、応急手当はした上であっても、予後安静できず、かえって最終的な治療期間が遅くなる懸念もある。
・『「コロナにかかり体調が悪い人に“人がいないから出てくれ”」 子会社の現役セールスドライバーに聞いても、 「ウチも慢性的な人手不足です。直近では、ドライバーで新型コロナにかかった2名と、靭帯損傷1名が強制出勤させられています」 と、こう語る。 「靭帯損傷の人は1カ月は休まないといけないのに2週間程度で無理やり出勤させられていました。コロナの人は4~5日休んで、まだ体調が悪いのに“人がいないから出てくれ”と言われて出てきていました。普段は“無理するな”とか“安全第一”と言うのに、いざ何か起こると“みんな無理して出てきているんだから出てこい”と命じてくるのです」 完全版記事「『父が危篤なのに勤務させられ死に目に会えず…』『10代の女性アルバイトに次亜塩素酸がかかり大やけど』 山崎製パンの“絶望工場”の実態を現役社員、元社員が告発」と5月16日発売の「週刊新潮」では、ドライバーのみならず元アルバイトや元社員からの告発に基づき、10代の工場アルバイトに危険作業を任せた結果、次亜塩素酸が体にかかった事故などと併せ、山崎製パンのブラック過ぎる労働環境の実態について詳報する』、「「靭帯損傷の人は1カ月は休まないといけないのに2週間程度で無理やり出勤させられていました。コロナの人は4~5日休んで、まだ体調が悪いのに“人がいないから出てくれ”と言われて出てきていました。普段は“無理するな”とか“安全第一”と言うのに、いざ何か起こると“みんな無理して出てきているんだから出てこい”と命じてくるのです」。コロナの場合は、完治せずに出勤すれば、感染を広げてしまうだけだ。
次に、6月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した現役行員の目黒冬弥氏による「銀行で課長止まりの私と、支店長3店目の1年上の先輩…「出世の明暗」分けたのは?」を紹介しよう。これは、ブラック企業として挙げるには、必ずしも適切ではないが、広義で捉えれば、問題ないと思われる。
https://diamond.jp/articles/-/328830
・『かつて問題児だった先輩が大規模店の支店長に出世(黙っていれば、いつの間にか支店長になれる。そんな時代ではなくなった。支店の数は年々縮小の一途をたどり、支店長のポスト自体がそもそも減っているからだ。椅子取りゲームの椅子は確実に少なくなっている。 先日、入行して最初に着任した吹田支店の先輩から電話があった。たまたま私が受電したのだが、三十数年ぶりの「再会」だった。 「おお、目黒か。久しぶりやないか!」 「お久しぶりです。お元気ですか?」 話を聞くと、都内大規模店の支店長になっているという。支店長としても3店目だそうだ。この先輩は私の1年上。当時はとんでもない問題児だった。営業中に昼寝をし、集金の約束をすっぽかし、私がその尻拭いに行かされた。「融資の稟議書を手伝え」と言われて先輩の寮部屋に徹夜で缶詰め。麻雀のメンツが足りないと駆り出され…。ろくでもない思い出ばかりなのだが、その先輩が今では大規模店の支店長を歴任している。 「先輩、随分ご活躍のようですね? すごいじゃないですか!」 「わしか? たまたまや。運が良かっただけや。目黒は預金課長か、苦労したなあ。お前なんか真面目やし、もっと偉くなると思ってたわ。まあ、運よ、運。奥さんによろしくな」 豪快さだけは相変わらず。30年の年月が彼を変えたのか、それとも言葉そのまま運が良かっただけなのか』、「この先輩は私の1年上。当時はとんでもない問題児だった。営業中に昼寝をし、集金の約束をすっぽかし、私がその尻拭いに行かされた。「融資の稟議書を手伝え」と言われて先輩の寮部屋に徹夜で缶詰め。麻雀のメンツが足りないと駆り出され…。ろくでもない思い出ばかりなのだが、その先輩が今では大規模店の支店長を歴任している」、なるほど。
・『入行3年目の社員が退職を決めた理由 ところで最近の若手社員の中には、処遇は改善された方がうれしいが、昇進・昇格を必ずしも望んでいない者が少なからずいるようだ。給料は高いに越したことがないが、責任は取りたくない。全く都合のいい話だが、私のような老いぼれた中間管理職を見ていれば、そう思われても仕方がないのかもしれない。ましてや、支店長を目指すなど考えるわけもないだろう。 すでに、仕事に対する考え方がこの30年で大きく変わっている。銀行で仕事をするなら、いつかは支店長になりたいと考えていた時代ではなくなっている。それにしがみついているのは、バブル入行組か崩壊後間もなく入行した世代であり、若い世代の考え方は極めてドライだ。これも、政府が目指す働き方改革の波なのか。 先月、入行3年目の法人営業担当者がデスクにいる私へ声をかけてきた。 「課長、今ちょっといいですか? 私、今月退職することになりました」 「えっ? 随分突然だな。それでこれからどうするんだ?転職か?」 「はい、外資系のコンサル会社に転職します」 「コンサルかあ。うちの銀行でもできたんじゃないか?そういう部署、うちにもあるよな?」 「キャリア公募で申し込んでも、その部署に行ける保証はないですもん。それに、1年後になるのか、もっと後か…そうなると待ちきれませんね。そこに行けたとしても、やりたいことをやらせてもらえるとは限りませんし。今までやらされてきたことを考えると、とてもじゃないけれど希望が通ると思えません。どうせまともに評価されてませんしね」 「評価って言うけど、キミはまだ2~3年しか働いてないじゃないか。仕えた支店長だって2人だろ? 将来、キミを買ってくれる支店長が現れるかもしれないぜ?」 今、評価されなきゃ意味がないんですよ。だから、評価してもらえる会社に転職します」 「その会社で評価されなかったら、どうするのさ」 「そういうことはあまり考えないですね。この銀行に入る時もそうでしたし。また転職したらいいじゃないですか? 少なくとも、今の支店長みたいな人がいない会社に行きたいですね。そろそろ行きます。課長もお元気で。お世話になりました」 「おう、頑張れよ。近くに来たら寄ってけよ」 「あはは、たぶん来ませんよ。それじゃ」 それが彼と会った最後だった。 長くても2年で支店長が異動する環境だ。それこそ最大の魅力であり、自分次第で敗者復活のチャンスはいくらでもあるはずなのだが、退職を選択したのはよほど我慢がならなかったのだろう。 支店長が喜ぶ成果を上げれば、いいことがあると信じていた昭和時代。一方、部下が支店長を見下し、支店長も部下の将来など露とも思わない令和時代。全てが全て、こんな支店長や若手ばかりではないが、30年の年月をこの会社一筋でやってきた自分としては、このギャップに強い違和感を覚える。昔の常識はもう通用しない世の中になっているんだと痛感している。 ただし、この若手が支店長に失望し退職していったように、やはり支店長の存在というのは大きい。それだけはいつの時代になっても、いい意味でも悪い意味でも変わらないのだ』、「支店長が喜ぶ成果を上げれば、いいことがあると信じていた昭和時代。一方、部下が支店長を見下し、支店長も部下の将来など露とも思わない令和時代。全てが全て、こんな支店長や若手ばかりではないが、30年の年月をこの会社一筋でやってきた自分としては、このギャップに強い違和感を覚える。昔の常識はもう通用しない世の中になっているんだと痛感している」、なるほど。
・『自分ファーストな支店長が人事権を握ることの危険性 2000年代後半、自ら応募して支店長などの希望するポストに立候補する人事制度が始まり、たくさんの副支店長や課長が名乗りを挙げて支店長になった。この制度を使ってトップ出世で支店長になるのが、最年少で30代半ば。ぼちぼち、平成生まれの支店長も現れるだろうし、すでに登場しているのかもしれない。 30代半ばというのは、恥ずかしながら私がやっと課長代理になれた年だ。そこからさらに数年かかって課長になった。やっと自分も人並みなところに追いついたかと思いきや、営業職を解かれ失意の底に沈んだのが40代前半。 自ら支店長にチャレンジするからか、立候補者には優秀な者が多い。また、経験が浅くても持ち前のバイタリティーでカバーし、忠誠心の高い三本槍(やり)だか何本槍だかの「軍師」や「家臣」が就くことで、支店という組織は順回転する。正に「職位は人を育てる」という言葉が当てはまる。早く支店長になれば、それだけ多くの支店に支店長として着任できる。40代前半ともなれば、2~3店の支店長を歴任して、さらに上位職を展望できよう。 問題は、支店長が優秀ではない場合だ。ただのバカ殿、自分ファーストな支店長であれば、部下の将来的なキャリア形成を考慮した指導育成などするわけがない。自分の上司である支店長が評価し薦めてくれたことを忘れ、自分の実力で支店長になれたと勘違いしているからだ。 そのような者に人事権を与えるのは、幼児に刃物を持たせるに等しい。部下を生かすも殺すもその支店長に気に入られるかにかかってくるのは、あまりに危険だと感じる』、「ただのバカ殿、自分ファーストな支店長であれば、部下の将来的なキャリア形成を考慮した指導育成などするわけがない。自分の上司である支店長が評価し薦めてくれたことを忘れ、自分の実力で支店長になれたと勘違いしているからだ。 そのような者に人事権を与えるのは、幼児に刃物を持たせるに等しい。部下を生かすも殺すもその支店長に気に入られるかにかかってくるのは、あまりに危険だと感じる」、その通りだ。
・『銀行での出世の明暗を分けるのは能力ではない 私の働くメガバンクでは、公務員のような昇進試験はない。支店長が全権を握り、部下たちの評価を下している。このような状況であれば、とにかく支店長に気に入られる行動を取るしかない。気に入られなかったら終わり。支店長の在任期間はおおむね2年。その間は足踏みしかない。 支店長が代われども足踏みが続けば、先が見えてくる。退職までの残りの年数が近づいてくると、最後の職位はどのくらいで終わるのか、大体分かってくる。課長で終わるのか副支店長で終わるのか。退職金だって数百万円は変わるらしいし、企業年金の支給額も違うと聞いた。苦労した者が正当に報われないのは極めて残念だ。 …そんなにつらい毎日だったなら、そんなに不遇な評価を受けてきたと思っているなら、もっと早く辞めていればよかったじゃないか? それも正解だ。しかし私は、転職を選ばなかった。拙著『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』にも詳しく記したが、銀行には暗黙の「5年ルール」がある。顧客との癒着による不正を回避すべく、営業職であろうとも事務職であろうとも、5年以内に人事異動となり、他部署や他支店へ転勤となる。それが転職みたいなものだと、自分に言い聞かせていたのもある。 私がこの銀行に入行してから四半世紀。今数えてみたところ、10回前後の転勤を経て20人ほどの支店長に仕えた。相性が合うか合わないかを確率論で考えれば50:50のはずだったのだが…。 自分自身で言うのもおこがましいが、私のことを高く評価し、人事異動で着実にステップアップさせてくれた支店長はおおよそ4分の1弱。反対に、残念な人事異動を命じた支店長はおおよそ4分の1強。致命的なタイミングで出会ってしまい出世レースに乗り遅れ、最後には支店長への道からも外されてしまった。残りの2分の1には、どうとも思われていなかったようだ。それもまたつらいといえばつらい。 私を高く評価してくれた4分の1弱の支店長が、いいタイミングで私を評価していたら、もっと早く課長を卒業したかもしれない。逆に、悪い評価を下した4分の1強の支店長が最悪なタイミングで低評価を与えたら、私はいまだヒラ社員だったかもしれない。 当たり前のことだが、出会いは運以外の何ものでもない。部下と相性が合わなければ、支店長は服を着替えるように異動させることができるが、部下は支店長を選ぶことはできない。もっとも、我慢しかねて支店長をパワハラで訴えて退ける猛者が現れたのも、時代の波か。 このような環境であり、残念ながら銀行で出世するための方法など、これといった妙案は見当たらない。要領よく調子のいいことばかり言ってとんとん拍子に昇格していく者もいれば、性格のいいヤツが損な役回りばかり背負わされ、浮かばれない銀行員人生を過ごす人もいる。 明暗を分け隔てたものは何か。人間の能力で言えば、そんなに大きな差はないはずだ。やはり、支店長の影響がかなり大きいと痛感する。まあ、私がこんなことを言うのも負け犬の遠ぼえにしかならないが。 そんな事を感じつつ、私は今日も明日もこの銀行で勤務する。つらいことも喜びもあった。この銀行に感謝している』、「私を高く評価してくれた4分の1弱の支店長が、いいタイミングで私を評価していたら、もっと早く課長を卒業したかもしれない。逆に、悪い評価を下した4分の1強の支店長が最悪なタイミングで低評価を与えたら、私はいまだヒラ社員だったかもしれない。 当たり前のことだが、出会いは運以外の何ものでもない・・・明暗を分け隔てたものは何か。人間の能力で言えば、そんなに大きな差はないはずだ。やはり、支店長の影響がかなり大きいと痛感する。まあ、私がこんなことを言うのも負け犬の遠ぼえにしかならないが。 そんな事を感じつつ、私は今日も明日もこの銀行で勤務する。つらいことも喜びもあった。この銀行に感謝している」、最後の部分はホットさせられる。
先ずは、本年5月16日付けデイリー新潮「「勤務中に肋骨3本を折ったのに“1カ月で出社しろ”と…」 山崎製パンの“凄絶ブラック労働”の実態 「コロナにかかったのに強制出勤」も」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2024/05161100/?all=1#goog_rewarded
・『「全治2カ月なのに“1カ月で出社しろ”と セールスドライバーが死亡事故を起こした横浜第二工場 「週刊新潮」はこれまで「山崎製パン」で異物混入事案が相次いでいることや、工場で事故が発生する背景をお伝えしてきた。今回紹介するのは、足の骨が折れているにもかかわらず勤務させられたり、車で通勤中に事故に遭っても“警察を呼ばずに出勤してくれ”と命じられたりするなど、ブラック過ぎる労働環境の実態である。 「山パンが超ブラック企業なのは間違いありません。働いていた時に自分や仲間の間でよくあったのが、ケガをしていても休めないことでした」 そう話すのは、横浜第二工場で長らくセールスドライバーを務めていた男性である。 「自分の例としては、トラックの荷台から落ちて肋骨を3本折った時、全治2カ月だったのですが、1カ月で出社しろ、と言われました。また、車で通勤中に追突されたので上司に連絡して“警察呼びます”と言ったら、“いや、そのまま出勤してくれ”と命じられたこともあります」 他にも、「股関節に痛みがあったのに無理やり出勤させられ、仕事中、あまりに痛いので病院に行ったら大腿骨が折れていた、という人がいました。あと、坂で停めていたトラックが動いてしまい、ひかれて足を骨折した人の場合、代わりのドライバーは用意してもらえたものの、“道が分かるお前も乗ってろ”と上司に言われ、骨が折れているのに助手席に乗ってその日の配送が終わるまで働かされていました」』、「車で通勤中に追突されたので上司に連絡して“警察呼びます”と言ったら、“いや、そのまま出勤してくれ”と命じられたこともあります」、警察での事故処理をせずに済ませたのであれば、問題だ。「「股関節に痛みがあったのに無理やり出勤させられ、仕事中、あまりに痛いので病院に行ったら大腿骨が折れていた、という人がいました」、信じ難いような話だ。
・「一番つらかったのは、父の死に目に会えなかったこと」 同工場の別の元セールスドライバーもこう語る。 「一番つらかったのは、父の死に目に会えなかったことですね。ヤマザキパンの配送は1日に2便あるのですが、2便目の配送前に父親が危篤状態だという連絡が入り、上司に“何とかなりませんか”と掛け合ったものの“(配送に出て)できるだけ早く帰ってこい”と取り合ってもらえませんでした。セールスドライバーは常に人が足りていないのでそうなってしまうのです」 そうした環境で働かされているためか、 「2010~12年ごろにはドライバーが死亡事故を起こしたこともありました。配送中に前方不注意で原付バイクをはねてしまったのですが、原因は居眠り運転だったはずです」(同)』、「坂で停めていたトラックが動いてしまい、ひかれて足を骨折した人の場合、代わりのドライバーは用意してもらえたものの、“道が分かるお前も乗ってろ”と上司に言われ、骨が折れているのに助手席に乗ってその日の配送が終わるまで働かされていました」、応急手当はした上であっても、予後安静できず、かえって最終的な治療期間が遅くなる懸念もある。
・『「コロナにかかり体調が悪い人に“人がいないから出てくれ”」 子会社の現役セールスドライバーに聞いても、 「ウチも慢性的な人手不足です。直近では、ドライバーで新型コロナにかかった2名と、靭帯損傷1名が強制出勤させられています」 と、こう語る。 「靭帯損傷の人は1カ月は休まないといけないのに2週間程度で無理やり出勤させられていました。コロナの人は4~5日休んで、まだ体調が悪いのに“人がいないから出てくれ”と言われて出てきていました。普段は“無理するな”とか“安全第一”と言うのに、いざ何か起こると“みんな無理して出てきているんだから出てこい”と命じてくるのです」 完全版記事「『父が危篤なのに勤務させられ死に目に会えず…』『10代の女性アルバイトに次亜塩素酸がかかり大やけど』 山崎製パンの“絶望工場”の実態を現役社員、元社員が告発」と5月16日発売の「週刊新潮」では、ドライバーのみならず元アルバイトや元社員からの告発に基づき、10代の工場アルバイトに危険作業を任せた結果、次亜塩素酸が体にかかった事故などと併せ、山崎製パンのブラック過ぎる労働環境の実態について詳報する』、「「靭帯損傷の人は1カ月は休まないといけないのに2週間程度で無理やり出勤させられていました。コロナの人は4~5日休んで、まだ体調が悪いのに“人がいないから出てくれ”と言われて出てきていました。普段は“無理するな”とか“安全第一”と言うのに、いざ何か起こると“みんな無理して出てきているんだから出てこい”と命じてくるのです」。コロナの場合は、完治せずに出勤すれば、感染を広げてしまうだけだ。
次に、6月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した現役行員の目黒冬弥氏による「銀行で課長止まりの私と、支店長3店目の1年上の先輩…「出世の明暗」分けたのは?」を紹介しよう。これは、ブラック企業として挙げるには、必ずしも適切ではないが、広義で捉えれば、問題ないと思われる。
https://diamond.jp/articles/-/328830
・『かつて問題児だった先輩が大規模店の支店長に出世(黙っていれば、いつの間にか支店長になれる。そんな時代ではなくなった。支店の数は年々縮小の一途をたどり、支店長のポスト自体がそもそも減っているからだ。椅子取りゲームの椅子は確実に少なくなっている。 先日、入行して最初に着任した吹田支店の先輩から電話があった。たまたま私が受電したのだが、三十数年ぶりの「再会」だった。 「おお、目黒か。久しぶりやないか!」 「お久しぶりです。お元気ですか?」 話を聞くと、都内大規模店の支店長になっているという。支店長としても3店目だそうだ。この先輩は私の1年上。当時はとんでもない問題児だった。営業中に昼寝をし、集金の約束をすっぽかし、私がその尻拭いに行かされた。「融資の稟議書を手伝え」と言われて先輩の寮部屋に徹夜で缶詰め。麻雀のメンツが足りないと駆り出され…。ろくでもない思い出ばかりなのだが、その先輩が今では大規模店の支店長を歴任している。 「先輩、随分ご活躍のようですね? すごいじゃないですか!」 「わしか? たまたまや。運が良かっただけや。目黒は預金課長か、苦労したなあ。お前なんか真面目やし、もっと偉くなると思ってたわ。まあ、運よ、運。奥さんによろしくな」 豪快さだけは相変わらず。30年の年月が彼を変えたのか、それとも言葉そのまま運が良かっただけなのか』、「この先輩は私の1年上。当時はとんでもない問題児だった。営業中に昼寝をし、集金の約束をすっぽかし、私がその尻拭いに行かされた。「融資の稟議書を手伝え」と言われて先輩の寮部屋に徹夜で缶詰め。麻雀のメンツが足りないと駆り出され…。ろくでもない思い出ばかりなのだが、その先輩が今では大規模店の支店長を歴任している」、なるほど。
・『入行3年目の社員が退職を決めた理由 ところで最近の若手社員の中には、処遇は改善された方がうれしいが、昇進・昇格を必ずしも望んでいない者が少なからずいるようだ。給料は高いに越したことがないが、責任は取りたくない。全く都合のいい話だが、私のような老いぼれた中間管理職を見ていれば、そう思われても仕方がないのかもしれない。ましてや、支店長を目指すなど考えるわけもないだろう。 すでに、仕事に対する考え方がこの30年で大きく変わっている。銀行で仕事をするなら、いつかは支店長になりたいと考えていた時代ではなくなっている。それにしがみついているのは、バブル入行組か崩壊後間もなく入行した世代であり、若い世代の考え方は極めてドライだ。これも、政府が目指す働き方改革の波なのか。 先月、入行3年目の法人営業担当者がデスクにいる私へ声をかけてきた。 「課長、今ちょっといいですか? 私、今月退職することになりました」 「えっ? 随分突然だな。それでこれからどうするんだ?転職か?」 「はい、外資系のコンサル会社に転職します」 「コンサルかあ。うちの銀行でもできたんじゃないか?そういう部署、うちにもあるよな?」 「キャリア公募で申し込んでも、その部署に行ける保証はないですもん。それに、1年後になるのか、もっと後か…そうなると待ちきれませんね。そこに行けたとしても、やりたいことをやらせてもらえるとは限りませんし。今までやらされてきたことを考えると、とてもじゃないけれど希望が通ると思えません。どうせまともに評価されてませんしね」 「評価って言うけど、キミはまだ2~3年しか働いてないじゃないか。仕えた支店長だって2人だろ? 将来、キミを買ってくれる支店長が現れるかもしれないぜ?」 今、評価されなきゃ意味がないんですよ。だから、評価してもらえる会社に転職します」 「その会社で評価されなかったら、どうするのさ」 「そういうことはあまり考えないですね。この銀行に入る時もそうでしたし。また転職したらいいじゃないですか? 少なくとも、今の支店長みたいな人がいない会社に行きたいですね。そろそろ行きます。課長もお元気で。お世話になりました」 「おう、頑張れよ。近くに来たら寄ってけよ」 「あはは、たぶん来ませんよ。それじゃ」 それが彼と会った最後だった。 長くても2年で支店長が異動する環境だ。それこそ最大の魅力であり、自分次第で敗者復活のチャンスはいくらでもあるはずなのだが、退職を選択したのはよほど我慢がならなかったのだろう。 支店長が喜ぶ成果を上げれば、いいことがあると信じていた昭和時代。一方、部下が支店長を見下し、支店長も部下の将来など露とも思わない令和時代。全てが全て、こんな支店長や若手ばかりではないが、30年の年月をこの会社一筋でやってきた自分としては、このギャップに強い違和感を覚える。昔の常識はもう通用しない世の中になっているんだと痛感している。 ただし、この若手が支店長に失望し退職していったように、やはり支店長の存在というのは大きい。それだけはいつの時代になっても、いい意味でも悪い意味でも変わらないのだ』、「支店長が喜ぶ成果を上げれば、いいことがあると信じていた昭和時代。一方、部下が支店長を見下し、支店長も部下の将来など露とも思わない令和時代。全てが全て、こんな支店長や若手ばかりではないが、30年の年月をこの会社一筋でやってきた自分としては、このギャップに強い違和感を覚える。昔の常識はもう通用しない世の中になっているんだと痛感している」、なるほど。
・『自分ファーストな支店長が人事権を握ることの危険性 2000年代後半、自ら応募して支店長などの希望するポストに立候補する人事制度が始まり、たくさんの副支店長や課長が名乗りを挙げて支店長になった。この制度を使ってトップ出世で支店長になるのが、最年少で30代半ば。ぼちぼち、平成生まれの支店長も現れるだろうし、すでに登場しているのかもしれない。 30代半ばというのは、恥ずかしながら私がやっと課長代理になれた年だ。そこからさらに数年かかって課長になった。やっと自分も人並みなところに追いついたかと思いきや、営業職を解かれ失意の底に沈んだのが40代前半。 自ら支店長にチャレンジするからか、立候補者には優秀な者が多い。また、経験が浅くても持ち前のバイタリティーでカバーし、忠誠心の高い三本槍(やり)だか何本槍だかの「軍師」や「家臣」が就くことで、支店という組織は順回転する。正に「職位は人を育てる」という言葉が当てはまる。早く支店長になれば、それだけ多くの支店に支店長として着任できる。40代前半ともなれば、2~3店の支店長を歴任して、さらに上位職を展望できよう。 問題は、支店長が優秀ではない場合だ。ただのバカ殿、自分ファーストな支店長であれば、部下の将来的なキャリア形成を考慮した指導育成などするわけがない。自分の上司である支店長が評価し薦めてくれたことを忘れ、自分の実力で支店長になれたと勘違いしているからだ。 そのような者に人事権を与えるのは、幼児に刃物を持たせるに等しい。部下を生かすも殺すもその支店長に気に入られるかにかかってくるのは、あまりに危険だと感じる』、「ただのバカ殿、自分ファーストな支店長であれば、部下の将来的なキャリア形成を考慮した指導育成などするわけがない。自分の上司である支店長が評価し薦めてくれたことを忘れ、自分の実力で支店長になれたと勘違いしているからだ。 そのような者に人事権を与えるのは、幼児に刃物を持たせるに等しい。部下を生かすも殺すもその支店長に気に入られるかにかかってくるのは、あまりに危険だと感じる」、その通りだ。
・『銀行での出世の明暗を分けるのは能力ではない 私の働くメガバンクでは、公務員のような昇進試験はない。支店長が全権を握り、部下たちの評価を下している。このような状況であれば、とにかく支店長に気に入られる行動を取るしかない。気に入られなかったら終わり。支店長の在任期間はおおむね2年。その間は足踏みしかない。 支店長が代われども足踏みが続けば、先が見えてくる。退職までの残りの年数が近づいてくると、最後の職位はどのくらいで終わるのか、大体分かってくる。課長で終わるのか副支店長で終わるのか。退職金だって数百万円は変わるらしいし、企業年金の支給額も違うと聞いた。苦労した者が正当に報われないのは極めて残念だ。 …そんなにつらい毎日だったなら、そんなに不遇な評価を受けてきたと思っているなら、もっと早く辞めていればよかったじゃないか? それも正解だ。しかし私は、転職を選ばなかった。拙著『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』にも詳しく記したが、銀行には暗黙の「5年ルール」がある。顧客との癒着による不正を回避すべく、営業職であろうとも事務職であろうとも、5年以内に人事異動となり、他部署や他支店へ転勤となる。それが転職みたいなものだと、自分に言い聞かせていたのもある。 私がこの銀行に入行してから四半世紀。今数えてみたところ、10回前後の転勤を経て20人ほどの支店長に仕えた。相性が合うか合わないかを確率論で考えれば50:50のはずだったのだが…。 自分自身で言うのもおこがましいが、私のことを高く評価し、人事異動で着実にステップアップさせてくれた支店長はおおよそ4分の1弱。反対に、残念な人事異動を命じた支店長はおおよそ4分の1強。致命的なタイミングで出会ってしまい出世レースに乗り遅れ、最後には支店長への道からも外されてしまった。残りの2分の1には、どうとも思われていなかったようだ。それもまたつらいといえばつらい。 私を高く評価してくれた4分の1弱の支店長が、いいタイミングで私を評価していたら、もっと早く課長を卒業したかもしれない。逆に、悪い評価を下した4分の1強の支店長が最悪なタイミングで低評価を与えたら、私はいまだヒラ社員だったかもしれない。 当たり前のことだが、出会いは運以外の何ものでもない。部下と相性が合わなければ、支店長は服を着替えるように異動させることができるが、部下は支店長を選ぶことはできない。もっとも、我慢しかねて支店長をパワハラで訴えて退ける猛者が現れたのも、時代の波か。 このような環境であり、残念ながら銀行で出世するための方法など、これといった妙案は見当たらない。要領よく調子のいいことばかり言ってとんとん拍子に昇格していく者もいれば、性格のいいヤツが損な役回りばかり背負わされ、浮かばれない銀行員人生を過ごす人もいる。 明暗を分け隔てたものは何か。人間の能力で言えば、そんなに大きな差はないはずだ。やはり、支店長の影響がかなり大きいと痛感する。まあ、私がこんなことを言うのも負け犬の遠ぼえにしかならないが。 そんな事を感じつつ、私は今日も明日もこの銀行で勤務する。つらいことも喜びもあった。この銀行に感謝している』、「私を高く評価してくれた4分の1弱の支店長が、いいタイミングで私を評価していたら、もっと早く課長を卒業したかもしれない。逆に、悪い評価を下した4分の1強の支店長が最悪なタイミングで低評価を与えたら、私はいまだヒラ社員だったかもしれない。 当たり前のことだが、出会いは運以外の何ものでもない・・・明暗を分け隔てたものは何か。人間の能力で言えば、そんなに大きな差はないはずだ。やはり、支店長の影響がかなり大きいと痛感する。まあ、私がこんなことを言うのも負け犬の遠ぼえにしかならないが。 そんな事を感じつつ、私は今日も明日もこの銀行で勤務する。つらいことも喜びもあった。この銀行に感謝している」、最後の部分はホットさせられる。
タグ:ダイヤモンド・オンライン 「「靭帯損傷の人は1カ月は休まないといけないのに2週間程度で無理やり出勤させられていました。コロナの人は4~5日休んで、まだ体調が悪いのに“人がいないから出てくれ”と言われて出てきていました。普段は“無理するな”とか“安全第一”と言うのに、いざ何か起こると“みんな無理して出てきているんだから出てこい”と命じてくるのです」。コロナの場合は、完治せずに出勤すれば、感染を広げてしまうだけだ。 「坂で停めていたトラックが動いてしまい、ひかれて足を骨折した人の場合、代わりのドライバーは用意してもらえたものの、“道が分かるお前も乗ってろ”と上司に言われ、骨が折れているのに助手席に乗ってその日の配送が終わるまで働かされていました」、応急手当はした上であっても、予後安静できず、かえって最終的な治療期間が遅くなる懸念もある。 「車で通勤中に追突されたので上司に連絡して“警察呼びます”と言ったら、“いや、そのまま出勤してくれ”と命じられたこともあります」、警察での事故処理をせずに済ませたのであれば、問題だ。「「股関節に痛みがあったのに無理やり出勤させられ、仕事中、あまりに痛いので病院に行ったら大腿骨が折れていた、という人がいました」、信じ難いような話だ。 デイリー新潮「「勤務中に肋骨3本を折ったのに“1カ月で出社しろ”と…」 山崎製パンの“凄絶ブラック労働”の実態 「コロナにかかったのに強制出勤」も」 (その17)(「勤務中に肋骨3本を折ったのに“1カ月で出社しろ”と…」 山崎製パンの“凄絶ブラック労働”の実態 「コロナにかかったのに強制出勤」も、銀行で課長止まりの私と 支店長3店目の1年上の先輩…「出世の明暗」分けたのは?) ブラック企業 目黒冬弥氏による「銀行で課長止まりの私と、支店長3店目の1年上の先輩…「出世の明暗」分けたのは?」 「この先輩は私の1年上。当時はとんでもない問題児だった。営業中に昼寝をし、集金の約束をすっぽかし、私がその尻拭いに行かされた。「融資の稟議書を手伝え」と言われて先輩の寮部屋に徹夜で缶詰め。麻雀のメンツが足りないと駆り出され…。ろくでもない思い出ばかりなのだが、その先輩が今では大規模店の支店長を歴任している」、なるほど。 「支店長が喜ぶ成果を上げれば、いいことがあると信じていた昭和時代。一方、部下が支店長を見下し、支店長も部下の将来など露とも思わない令和時代。全てが全て、こんな支店長や若手ばかりではないが、30年の年月をこの会社一筋でやってきた自分としては、このギャップに強い違和感を覚える。昔の常識はもう通用しない世の中になっているんだと痛感している」、なるほど。 「ただのバカ殿、自分ファーストな支店長であれば、部下の将来的なキャリア形成を考慮した指導育成などするわけがない。自分の上司である支店長が評価し薦めてくれたことを忘れ、自分の実力で支店長になれたと勘違いしているからだ。 そのような者に人事権を与えるのは、幼児に刃物を持たせるに等しい。部下を生かすも殺すもその支店長に気に入られるかにかかってくるのは、あまりに危険だと感じる」、その通りだ。 「私を高く評価してくれた4分の1弱の支店長が、いいタイミングで私を評価していたら、もっと早く課長を卒業したかもしれない。逆に、悪い評価を下した4分の1強の支店長が最悪なタイミングで低評価を与えたら、私はいまだヒラ社員だったかもしれない。 当たり前のことだが、出会いは運以外の何ものでもない・・・明暗を分け隔てたものは何か。人間の能力で言えば、そんなに大きな差はないはずだ。やはり、支店長の影響がかなり大きいと痛感する。 まあ、私がこんなことを言うのも負け犬の遠ぼえにしかならないが。 そんな事を感じつつ、私は今日も明日もこの銀行で勤務する。つらいことも喜びもあった。この銀行に感謝している」、最後の部分はホットさせられる。
日本企業の海外M&A(その8)(「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に) [企業経営]
昨日、本日の更新を休むと予告したが、更新可能になった。日本企業の海外M&Aについては、2018年5月22日に取上げた。久しぶりの今日は、(その8)(「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に)である。
本年4月23日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの町田 徹氏による「アメリカの「鶴の一声」で、日本製鉄が窮地…! 「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/128426?imp=0
・『「大統領見解を受け入れている」 全国紙はほとんど報じなかったようだが、CFIUS(The Committee on Foreign Investments in the United States、対米外国投資委員会)の委員長を兼ねる、米財務長官のイエレン氏は先週火曜日(4月16日)の記者会見で、「脱・日本、脱・高炉」の起死回生策になるはずだった日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをした。 CFIUSは米大統領直属の省庁横断の委員会組織で、主な使命は外国資本による米国企業の経営や事業、技術への出資の審査だ。米国の安全保障を脅かす可能性が有ると判断した場合、中止を命じることができるほか、買収が完了した後であっても米国の国益に反する問題が発生した時はその出資の白紙撤回を迫るという絶大な権限を持つ。委員長は財務長官で、過去の例を見ると、委員長は、他の委員(国防総省、国務省、商務省、運輸省、司法省などのトップ)の賛成や反対を押し切った実績もある。 イエレン氏の駄目出しは、世界銀行と国際通貨基金(IMF)の年次総会の記者会見の際に、かねて「USスチールは100年以上にわたって象徴的な米国の鋼鉄会社で、引き続き、米国内で所有され運営されていることが不可欠だ」と主張してきたバイデン大統領の発言に触れる形で、「大統領見解を受け入れている」と発言するものだった。 こうした保護主義的な判断の背景には、バイデン氏が今年11月に控えた米大統領選挙でトランプ前大統領と熾烈な選挙戦を展開しており、USスチール従業員が加入する全米鉄鋼労働組合(USW)がバイデン氏の出身母体である民主党の有力支持団体の一つに名前を連ねていることがある。 日本製鉄は、4月12日のUSスチールの臨時株主総会で買収案の承認を得て今年9月をめどに買収を完了する計画だったが、断念を迫られる可能性が劇的に高まっている。 日本製鉄がUSスチールと買収契約を締結したと発表したのは、去年(2023年)の年の瀬が迫った12月18日である。 発表によると、買収方法は、日本製鉄の100%子会社「NIPPON STEEL NORTH AMERICA」が100%出資する買収目的の孫会社を通じて、USスチール株をすべて現金で買収したうえで、両社が合併するというものだ。明らかに、米国人投資家やUSスチール労働者への配慮だろう。買収完了後は、買収目的の孫会社は消滅させて、USスチールを存続会社にするとしていた。 この点を以って、日本製鉄は「USスチールが引き続き、米国企業であり続ける」と主張して理解を得たいのかもしれないが、CFIUSは大元の親会社が日本製鉄である以上、米国企業とは認めないはずだ。強硬な反対をしている全米鉄鋼労働組合(UAW)の本音も、会社の形式や従業員のプライドの擁護といったことではなく、USスチールの歴代経営者に呑ませてきた分厚い既得権を日本製鉄が守るはずがないとの疑心暗鬼にあるとみられる。 話を戻すと、米国側への手厚い配慮は、買収価格にもみられた。USスチール株の取得価格を、1株当たり55ドルとしたのだ。日本製鉄の取得価格は、合併発表3日前の12月15日のUSスチール株の終値(39.33 ドル)に40%という破格のプレミアムを上乗せする大盤振る舞いだったのである』、「CFIUS・・・対米外国投資委員会)の委員長を兼ねる、米財務長官のイエレン氏は先週火曜日(4月16日)の記者会見で、「脱・日本、脱・高炉」の起死回生策になるはずだった日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをした。 CFIUSは米大統領直属の省庁横断の委員会組織で、主な使命は外国資本による米国企業の経営や事業、技術への出資の審査だ。米国の安全保障を脅かす可能性が有ると判断した場合、中止を命じることができるほか、買収が完了した後であっても米国の国益に反する問題が発生した時はその出資の白紙撤回を迫るという絶大な権限を持つ」、「イエレン氏」が「事実上の駄目出しをした」のであれば、ほぼ買収は困難になったようだ。「買収方法は、日本製鉄の100%子会社「NIPPON STEEL NORTH AMERICA」が100%出資する買収目的の孫会社を通じて、USスチール株をすべて現金で買収したうえで、両社が合併するというものだ。明らかに、米国人投資家やUSスチール労働者への配慮だろう。買収完了後は、買収目的の孫会社は消滅させて、USスチールを存続会社にするとしていた。 この点を以って、日本製鉄は「USスチールが引き続き、米国企業であり続ける」と主張して理解を得たいのかもしれないが、CFIUSは大元の親会社が日本製鉄である以上、米国企業とは認めないはずだ。強硬な反対をしている全米鉄鋼労働組合(UAW)の本音も、会社の形式や従業員のプライドの擁護といったことではなく、USスチールの歴代経営者に呑ませてきた分厚い既得権を日本製鉄が守るはずがないとの疑心暗鬼にあるとみられる」、「日本製鉄」側の美醜方法上の小細工は、見破られたようだ。当然のことである。
・『約2兆100億円を投じる 日本製鉄は、総額で141億2600万ドル(約2兆100億円)の巨費を投じる計算だ。この額は、2006年に、「インド版の今太閤」と称された創業者経営者ラクシュミ・ミタル氏が率いた当時世界最大の鉄鋼会社ミッタルが、同2位でフランスとルクセンブルグに本社を置いていたアルセロールを買収した際の買収額269億ユーロ(当時の為替レートで、約3兆9300億円)に次ぐ規模だ。世界の鉄鋼業界のM&A(企業の合併・買収)の歴史においても2番目に大きい買収となる。 USスチール経営陣にとっては「渡りに船」で、この気前の良い提案に応じ、買収契約を締結した。というのは、USスチールは日本製鉄の買収契約に応じる4ヶ月ほど前の2023年8月に、同業の米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスからの総額約70億ドル(約1兆円)の買収提案を拒否し、もっと高く身売りできる道がないか模索すると株主に公約していたからだ。 USスチールの株主にとっても、日本製鉄の破格の買収提案は歓迎すべきものだった。このため、買収契約の締結発表から4カ月弱を経た今年(2024年)4月12日の臨時株主総会で、計画を承認した。これを受けて、日本製鉄とUSスチールはM&Aを今年9月までに買収手続きの完了を目指すと表明した。 最新(2022年)の世界鉄鋼協会のデータによると、1位の宝武鉄鋼集団、3位の鞍鋼集団など中国勢が鉄鋼会社のトップ10のうち6社を占める。非中国勢は、2位にルクセンブルグのアルセロール・ミッタル、4位に日本製鉄、7位に韓国のポスコ、10位にインドのタタがかろうじて顔を出しているに過ぎない。USスチールに至っては、世界27位、米国勢の中でも3位と低迷している。 つまり、最近のランキングには、日本製鉄の前身である新日本製鉄に1973年に「世界一の座」を明け渡すまで、戦前から長年にわたってトップに君臨したUSスチールの過去の栄光の面影はみられない。 半面、日本製鉄も、宝武鉄鋼集団と鞍鋼集団の後塵を拝しているようでは、鄧小平氏がけん引した1970年代の改革開放運動に協力して、中国の近代製鉄業の育成に貢献した実績が霞んで見える。 こうした中で、日本製鉄はUSスチールの買収に成功すれば、3位の鞍鋼集団を抜き、世界3位の地位に上昇する。 米中間の経済のデカップリング(分断)が進む一方で、西側の鉄鋼会社はここ5年あまり、過剰生産能力を持つ中国勢の安値攻勢に苦しみ続けてきた。それゆえ、日本製鉄は、米国と同盟関係にある日本企業の日本製鉄によるUSスチール買収が米国の経済安全保障に役立つと歓迎されると楽観していたのだろう。実際、日本製鉄の橋本英二社長は12月19日の記者会見で、中国を念頭に「世界の潮流は新しい経済安全保障」と胸を張っていた。 しかし、日本製鉄のUSスチール買収はすんなりとはいかなかった。USスチールの従業員らが加盟するUSWが大きく立ちはだかったのだ。 USWはデービッド・マッコール会長名で今年3月1日に、米国議会上院に電子メールを送り、議会上院が日本製鉄のUSスチール買収に反対するよう求めた。その理由として、日本製鉄によるUSスチール買収が「雇用を脅かし、米国の防衛と経済的繁栄の安全保障をいくつかの点で危うくする」と主張した。それだけでなく、むしろ、こちらが本音と見るべきだろうが、労働協定や年金、福利厚生プランを巡る既得権が脅かされることへの懸念を挙げていた。 こうした要求もあり、米議会は反対の狼煙をあげた。 そして、この事態を決定的に深刻なものにしたのは、バイデン大統領がUSWへの肩入れ姿勢をエスカレートさせてきたことだ。バイデン氏は昨年12月21日に公表した声明で、まず、「USスチールは、国家安全保障に不可欠な国内鉄鋼生産の中核を担っている」との考えを表明、USWの要求に応じて、前述のCFIUSに買収の是非を精査させる方針を示した』、「USスチールの従業員らが加盟するUSWが大きく立ちはだかったのだ。 USWはデービッド・マッコール会長名で今年3月1日に、米国議会上院に電子メールを送り、議会上院が日本製鉄のUSスチール買収に反対するよう求めた。その理由として、日本製鉄によるUSスチール買収が「雇用を脅かし、米国の防衛と経済的繁栄の安全保障をいくつかの点で危うくする」と主張した。それだけでなく、むしろ、こちらが本音と見るべきだろうが、労働協定や年金、福利厚生プランを巡る既得権が脅かされることへの懸念を挙げていた。 こうした要求もあり、米議会は反対の狼煙をあげた・・・日本製鉄は、米国と同盟関係にある日本企業の日本製鉄によるUSスチール買収が米国の経済安全保障に役立つと歓迎されると楽観していた・・・バイデン大統領がUSWへの肩入れ姿勢をエスカレート・・・バイデン氏は昨年12月21日に公表した声明で、まず、「USスチールは、国家安全保障に不可欠な国内鉄鋼生産の中核を担っている」との考えを表明、USWの要求に応じて、前述のCFIUSに買収の是非を精査させる方針を示した」、「日本製鉄」の読みは過度に楽観的過ぎたようだ。
・『日本政府の援護射撃は期待できない さらに、トランプ前大統領の「私なら即座に阻止する」との発言に煽られる形で、今年3月14日には、「(USスチールは)国内で所有・運営される米鉄鋼企業であり続けることが重要だ」と買収反対を示唆する声明を出した。これにより、その6日後の3月20日、USWから今年11月の米大統領選挙で民主党のバイデン大統領を支持するとの発表を取り付けたのだった。 その後、冒頭で紹介したように、CFIUSの委員長を兼ねる、イエレン米財務長官が4月16日の記者会見で、「大統領見解を受け入れている」と発言し、日本製鉄の買収に事実上の駄目を出したのである。 水面下で、日本製鉄が、将来にわたって、USスチールの弱みである高コスト体質の主因と目されてきた数々の既得権を保障し、それが守られるとUAWが納得しない限り、事態を好転させるのは難しいだろう。 客観的に見れば、バイデン政権のなりふり構わぬUAWへの肩入れと日本製鉄のUSスチール買収阻止は、明らかに、日米両政府が岸田総理とバイデン大統領による4月10日の会談でまとめた「日米首脳会談の共同声明」で改めて確認した日米間の相互投資の促進による経済面での連携強化に反する行為だ。 林芳正官房長官は4月18日の記者会見で、バイデン米大統領が前日、「1世紀以上にわたり米国の象徴であり続けた企業は、これからもそのままであるべきだ」などと発言したことについての見解を問われて、「個別の企業の経営に関する事案についてのコメントは差し控えたい」と回答を避ける一方で、日米首脳会談の共同声明を踏まえて「日米相互の投資の拡大を含めた経済関係の一層の強化、インド太平洋地域の持続的・包摂的な経済成長の実現、経済安全保障分野における協力などは互いにとって不可欠だ」とやんわりと批判するのが精一杯だった。今後も、この問題で、日本政府が日本製鉄を強力に援護射撃することは期待できないだろう。 要するに、バイデン政権にとっては、中国との経済面でのデカップリング政策を押し通すより、11月に迫った大統領選挙で勝利を収めることの方が優先する課題なのだ。最新情勢を見ても、大統領選挙の行方を左右する激戦区7州の世論はトランプ前大統領がやや優勢に選挙戦を進めている。 こうした中で、USスチールが工場を置くペンシルベニア州やミシガン州はこの激戦区7州に位置し、バイデン大統領の死命を制しかねない。前々回(2016年)の大統領選ではこれらの激戦区の製造業の労働者票がトランプ前大統領に流れた結果、民主党のヒラリー候補が敗れた前例もあるのだ。 バイデン政権はトランプ政権ほどではないとはいえ、やはり本質的に「米国第一主義」に引きずられる政権だ。トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を拒み、関税引き下げを含まないインド太平洋経済枠組み(IPEF)に傾注し、全米自動車労組(UAW)の強引な賃上げ要求を支持したことなどからも、肝心なところで保護主義に抗えないことを繰り返し露わにしてきたことを、我々、日本人は今一度、肝に銘じておくべきだろう』、「バイデン政権はトランプ政権ほどではないとはいえ、やはり本質的に「米国第一主義」に引きずられる政権だ。トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を拒み、関税引き下げを含まないインド太平洋経済枠組み(IPEF)に傾注し、全米自動車労組(UAW)の強引な賃上げ要求を支持したことなどからも、肝心なところで保護主義に抗えないことを繰り返し露わにしてきたことを、我々、日本人は今一度、肝に銘じておくべきだろう」、その通りだ。
・『日本製鉄の経営は奈落の底に… とはいえ、今回の買収が挫折すれば、日本製鉄が失うものは計り知れない。というのは、人口減少など成長が期待できない日本市場に見切りを付けるとともに、二酸化炭素(CO2)の排出の多い製鉄手法である高炉への過剰な依存体質を改善するという2重の意味で、起死回生の活路を求めたのが、米国市場を本拠地とし、比較的CO2の排出の少ない電炉事業の構築を進めているUSスチールの買収だったからである。 まず、日本市場の成長性からみると、大口顧客の自動車産業の需要の伸びが期待できないのだ。例えば、4輪の乗用車の国内生産台数のピークは1990年の994万7972台だ。これが人口減少の深刻化と歩調を合わせるかのように減り続けて、2022年は656万6318台まで減った。自動車メーカー各社は米国や東南アジアでの現地生産を強化しており、日本で生産して日本から輸出する台数は今後も減り続ける見通しなのだ。 これに対して、短期的な不振が伝えられているものの、米国は人口が増えて成長が続き、今後も電気自動車(EV)を含む自動車の生産台数は増加していく見込みだ。 加えて、日本製鉄は近年、ようやく高炉に見切りをつけて、理論的にはCO2を排出しない水素還元製鉄の開発・実用化を急ぐとしているが、30年以上も前から水素還元製鉄の開発・実用化を口にしながら怠り続けてきたことは、気候変動対策を重視してきた環境学者らの間では周知の事実だ。 同社は、くず鉄などのスクラップを原料とする電炉を軽視してきたが、今後、当分の間、電炉に活路を求めざるを得なくなっていた。 これに対し、USスチールはこの分野で、最先端の電炉ミニミルであるビッグ リバー スチールを2021年に完全子会社化した。すでに鋼板ラインを稼働し、めっきラインが年内に稼働する予定のほか、能力の倍増に向けて新工場も建設中だ。この部門こそ、日本製鉄が喉から手が出るほど必要としているものなのだ。 日本製鉄にとっては、日本という自国市場の成長の先細り懸念と、待ったなしで迫られるようになったカーボンニュートラルという2つの至上命題を、一石二鳥で解消してくれるはずだった起死回生策がUSスチールの買収だったのである。 まとめると、以上、縷々見てきたように、CFIUS委員長をつとめるイエレン米財務長官の日本製鉄によるUSスチールの買収への駄目出し発言は、米国頼みの日本の通商政策の危うさを浮き彫りにするだけでなく、日本製鉄の経営を奈落の底に突き落としかねない冷徹な宣告だったのだ』、「イエレン米財務長官の日本製鉄によるUSスチールの買収への駄目出し発言は、米国頼みの日本の通商政策の危うさを浮き彫りにするだけでなく、日本製鉄の経営を奈落の底に突き落としかねない冷徹な宣告だった」、深刻に捉える必要がありそうだ。
本年4月23日付け現代ビジネスが掲載した経済ジャーナリストの町田 徹氏による「アメリカの「鶴の一声」で、日本製鉄が窮地…! 「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/128426?imp=0
・『「大統領見解を受け入れている」 全国紙はほとんど報じなかったようだが、CFIUS(The Committee on Foreign Investments in the United States、対米外国投資委員会)の委員長を兼ねる、米財務長官のイエレン氏は先週火曜日(4月16日)の記者会見で、「脱・日本、脱・高炉」の起死回生策になるはずだった日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをした。 CFIUSは米大統領直属の省庁横断の委員会組織で、主な使命は外国資本による米国企業の経営や事業、技術への出資の審査だ。米国の安全保障を脅かす可能性が有ると判断した場合、中止を命じることができるほか、買収が完了した後であっても米国の国益に反する問題が発生した時はその出資の白紙撤回を迫るという絶大な権限を持つ。委員長は財務長官で、過去の例を見ると、委員長は、他の委員(国防総省、国務省、商務省、運輸省、司法省などのトップ)の賛成や反対を押し切った実績もある。 イエレン氏の駄目出しは、世界銀行と国際通貨基金(IMF)の年次総会の記者会見の際に、かねて「USスチールは100年以上にわたって象徴的な米国の鋼鉄会社で、引き続き、米国内で所有され運営されていることが不可欠だ」と主張してきたバイデン大統領の発言に触れる形で、「大統領見解を受け入れている」と発言するものだった。 こうした保護主義的な判断の背景には、バイデン氏が今年11月に控えた米大統領選挙でトランプ前大統領と熾烈な選挙戦を展開しており、USスチール従業員が加入する全米鉄鋼労働組合(USW)がバイデン氏の出身母体である民主党の有力支持団体の一つに名前を連ねていることがある。 日本製鉄は、4月12日のUSスチールの臨時株主総会で買収案の承認を得て今年9月をめどに買収を完了する計画だったが、断念を迫られる可能性が劇的に高まっている。 日本製鉄がUSスチールと買収契約を締結したと発表したのは、去年(2023年)の年の瀬が迫った12月18日である。 発表によると、買収方法は、日本製鉄の100%子会社「NIPPON STEEL NORTH AMERICA」が100%出資する買収目的の孫会社を通じて、USスチール株をすべて現金で買収したうえで、両社が合併するというものだ。明らかに、米国人投資家やUSスチール労働者への配慮だろう。買収完了後は、買収目的の孫会社は消滅させて、USスチールを存続会社にするとしていた。 この点を以って、日本製鉄は「USスチールが引き続き、米国企業であり続ける」と主張して理解を得たいのかもしれないが、CFIUSは大元の親会社が日本製鉄である以上、米国企業とは認めないはずだ。強硬な反対をしている全米鉄鋼労働組合(UAW)の本音も、会社の形式や従業員のプライドの擁護といったことではなく、USスチールの歴代経営者に呑ませてきた分厚い既得権を日本製鉄が守るはずがないとの疑心暗鬼にあるとみられる。 話を戻すと、米国側への手厚い配慮は、買収価格にもみられた。USスチール株の取得価格を、1株当たり55ドルとしたのだ。日本製鉄の取得価格は、合併発表3日前の12月15日のUSスチール株の終値(39.33 ドル)に40%という破格のプレミアムを上乗せする大盤振る舞いだったのである』、「CFIUS・・・対米外国投資委員会)の委員長を兼ねる、米財務長官のイエレン氏は先週火曜日(4月16日)の記者会見で、「脱・日本、脱・高炉」の起死回生策になるはずだった日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをした。 CFIUSは米大統領直属の省庁横断の委員会組織で、主な使命は外国資本による米国企業の経営や事業、技術への出資の審査だ。米国の安全保障を脅かす可能性が有ると判断した場合、中止を命じることができるほか、買収が完了した後であっても米国の国益に反する問題が発生した時はその出資の白紙撤回を迫るという絶大な権限を持つ」、「イエレン氏」が「事実上の駄目出しをした」のであれば、ほぼ買収は困難になったようだ。「買収方法は、日本製鉄の100%子会社「NIPPON STEEL NORTH AMERICA」が100%出資する買収目的の孫会社を通じて、USスチール株をすべて現金で買収したうえで、両社が合併するというものだ。明らかに、米国人投資家やUSスチール労働者への配慮だろう。買収完了後は、買収目的の孫会社は消滅させて、USスチールを存続会社にするとしていた。 この点を以って、日本製鉄は「USスチールが引き続き、米国企業であり続ける」と主張して理解を得たいのかもしれないが、CFIUSは大元の親会社が日本製鉄である以上、米国企業とは認めないはずだ。強硬な反対をしている全米鉄鋼労働組合(UAW)の本音も、会社の形式や従業員のプライドの擁護といったことではなく、USスチールの歴代経営者に呑ませてきた分厚い既得権を日本製鉄が守るはずがないとの疑心暗鬼にあるとみられる」、「日本製鉄」側の美醜方法上の小細工は、見破られたようだ。当然のことである。
・『約2兆100億円を投じる 日本製鉄は、総額で141億2600万ドル(約2兆100億円)の巨費を投じる計算だ。この額は、2006年に、「インド版の今太閤」と称された創業者経営者ラクシュミ・ミタル氏が率いた当時世界最大の鉄鋼会社ミッタルが、同2位でフランスとルクセンブルグに本社を置いていたアルセロールを買収した際の買収額269億ユーロ(当時の為替レートで、約3兆9300億円)に次ぐ規模だ。世界の鉄鋼業界のM&A(企業の合併・買収)の歴史においても2番目に大きい買収となる。 USスチール経営陣にとっては「渡りに船」で、この気前の良い提案に応じ、買収契約を締結した。というのは、USスチールは日本製鉄の買収契約に応じる4ヶ月ほど前の2023年8月に、同業の米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスからの総額約70億ドル(約1兆円)の買収提案を拒否し、もっと高く身売りできる道がないか模索すると株主に公約していたからだ。 USスチールの株主にとっても、日本製鉄の破格の買収提案は歓迎すべきものだった。このため、買収契約の締結発表から4カ月弱を経た今年(2024年)4月12日の臨時株主総会で、計画を承認した。これを受けて、日本製鉄とUSスチールはM&Aを今年9月までに買収手続きの完了を目指すと表明した。 最新(2022年)の世界鉄鋼協会のデータによると、1位の宝武鉄鋼集団、3位の鞍鋼集団など中国勢が鉄鋼会社のトップ10のうち6社を占める。非中国勢は、2位にルクセンブルグのアルセロール・ミッタル、4位に日本製鉄、7位に韓国のポスコ、10位にインドのタタがかろうじて顔を出しているに過ぎない。USスチールに至っては、世界27位、米国勢の中でも3位と低迷している。 つまり、最近のランキングには、日本製鉄の前身である新日本製鉄に1973年に「世界一の座」を明け渡すまで、戦前から長年にわたってトップに君臨したUSスチールの過去の栄光の面影はみられない。 半面、日本製鉄も、宝武鉄鋼集団と鞍鋼集団の後塵を拝しているようでは、鄧小平氏がけん引した1970年代の改革開放運動に協力して、中国の近代製鉄業の育成に貢献した実績が霞んで見える。 こうした中で、日本製鉄はUSスチールの買収に成功すれば、3位の鞍鋼集団を抜き、世界3位の地位に上昇する。 米中間の経済のデカップリング(分断)が進む一方で、西側の鉄鋼会社はここ5年あまり、過剰生産能力を持つ中国勢の安値攻勢に苦しみ続けてきた。それゆえ、日本製鉄は、米国と同盟関係にある日本企業の日本製鉄によるUSスチール買収が米国の経済安全保障に役立つと歓迎されると楽観していたのだろう。実際、日本製鉄の橋本英二社長は12月19日の記者会見で、中国を念頭に「世界の潮流は新しい経済安全保障」と胸を張っていた。 しかし、日本製鉄のUSスチール買収はすんなりとはいかなかった。USスチールの従業員らが加盟するUSWが大きく立ちはだかったのだ。 USWはデービッド・マッコール会長名で今年3月1日に、米国議会上院に電子メールを送り、議会上院が日本製鉄のUSスチール買収に反対するよう求めた。その理由として、日本製鉄によるUSスチール買収が「雇用を脅かし、米国の防衛と経済的繁栄の安全保障をいくつかの点で危うくする」と主張した。それだけでなく、むしろ、こちらが本音と見るべきだろうが、労働協定や年金、福利厚生プランを巡る既得権が脅かされることへの懸念を挙げていた。 こうした要求もあり、米議会は反対の狼煙をあげた。 そして、この事態を決定的に深刻なものにしたのは、バイデン大統領がUSWへの肩入れ姿勢をエスカレートさせてきたことだ。バイデン氏は昨年12月21日に公表した声明で、まず、「USスチールは、国家安全保障に不可欠な国内鉄鋼生産の中核を担っている」との考えを表明、USWの要求に応じて、前述のCFIUSに買収の是非を精査させる方針を示した』、「USスチールの従業員らが加盟するUSWが大きく立ちはだかったのだ。 USWはデービッド・マッコール会長名で今年3月1日に、米国議会上院に電子メールを送り、議会上院が日本製鉄のUSスチール買収に反対するよう求めた。その理由として、日本製鉄によるUSスチール買収が「雇用を脅かし、米国の防衛と経済的繁栄の安全保障をいくつかの点で危うくする」と主張した。それだけでなく、むしろ、こちらが本音と見るべきだろうが、労働協定や年金、福利厚生プランを巡る既得権が脅かされることへの懸念を挙げていた。 こうした要求もあり、米議会は反対の狼煙をあげた・・・日本製鉄は、米国と同盟関係にある日本企業の日本製鉄によるUSスチール買収が米国の経済安全保障に役立つと歓迎されると楽観していた・・・バイデン大統領がUSWへの肩入れ姿勢をエスカレート・・・バイデン氏は昨年12月21日に公表した声明で、まず、「USスチールは、国家安全保障に不可欠な国内鉄鋼生産の中核を担っている」との考えを表明、USWの要求に応じて、前述のCFIUSに買収の是非を精査させる方針を示した」、「日本製鉄」の読みは過度に楽観的過ぎたようだ。
・『日本政府の援護射撃は期待できない さらに、トランプ前大統領の「私なら即座に阻止する」との発言に煽られる形で、今年3月14日には、「(USスチールは)国内で所有・運営される米鉄鋼企業であり続けることが重要だ」と買収反対を示唆する声明を出した。これにより、その6日後の3月20日、USWから今年11月の米大統領選挙で民主党のバイデン大統領を支持するとの発表を取り付けたのだった。 その後、冒頭で紹介したように、CFIUSの委員長を兼ねる、イエレン米財務長官が4月16日の記者会見で、「大統領見解を受け入れている」と発言し、日本製鉄の買収に事実上の駄目を出したのである。 水面下で、日本製鉄が、将来にわたって、USスチールの弱みである高コスト体質の主因と目されてきた数々の既得権を保障し、それが守られるとUAWが納得しない限り、事態を好転させるのは難しいだろう。 客観的に見れば、バイデン政権のなりふり構わぬUAWへの肩入れと日本製鉄のUSスチール買収阻止は、明らかに、日米両政府が岸田総理とバイデン大統領による4月10日の会談でまとめた「日米首脳会談の共同声明」で改めて確認した日米間の相互投資の促進による経済面での連携強化に反する行為だ。 林芳正官房長官は4月18日の記者会見で、バイデン米大統領が前日、「1世紀以上にわたり米国の象徴であり続けた企業は、これからもそのままであるべきだ」などと発言したことについての見解を問われて、「個別の企業の経営に関する事案についてのコメントは差し控えたい」と回答を避ける一方で、日米首脳会談の共同声明を踏まえて「日米相互の投資の拡大を含めた経済関係の一層の強化、インド太平洋地域の持続的・包摂的な経済成長の実現、経済安全保障分野における協力などは互いにとって不可欠だ」とやんわりと批判するのが精一杯だった。今後も、この問題で、日本政府が日本製鉄を強力に援護射撃することは期待できないだろう。 要するに、バイデン政権にとっては、中国との経済面でのデカップリング政策を押し通すより、11月に迫った大統領選挙で勝利を収めることの方が優先する課題なのだ。最新情勢を見ても、大統領選挙の行方を左右する激戦区7州の世論はトランプ前大統領がやや優勢に選挙戦を進めている。 こうした中で、USスチールが工場を置くペンシルベニア州やミシガン州はこの激戦区7州に位置し、バイデン大統領の死命を制しかねない。前々回(2016年)の大統領選ではこれらの激戦区の製造業の労働者票がトランプ前大統領に流れた結果、民主党のヒラリー候補が敗れた前例もあるのだ。 バイデン政権はトランプ政権ほどではないとはいえ、やはり本質的に「米国第一主義」に引きずられる政権だ。トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を拒み、関税引き下げを含まないインド太平洋経済枠組み(IPEF)に傾注し、全米自動車労組(UAW)の強引な賃上げ要求を支持したことなどからも、肝心なところで保護主義に抗えないことを繰り返し露わにしてきたことを、我々、日本人は今一度、肝に銘じておくべきだろう』、「バイデン政権はトランプ政権ほどではないとはいえ、やはり本質的に「米国第一主義」に引きずられる政権だ。トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を拒み、関税引き下げを含まないインド太平洋経済枠組み(IPEF)に傾注し、全米自動車労組(UAW)の強引な賃上げ要求を支持したことなどからも、肝心なところで保護主義に抗えないことを繰り返し露わにしてきたことを、我々、日本人は今一度、肝に銘じておくべきだろう」、その通りだ。
・『日本製鉄の経営は奈落の底に… とはいえ、今回の買収が挫折すれば、日本製鉄が失うものは計り知れない。というのは、人口減少など成長が期待できない日本市場に見切りを付けるとともに、二酸化炭素(CO2)の排出の多い製鉄手法である高炉への過剰な依存体質を改善するという2重の意味で、起死回生の活路を求めたのが、米国市場を本拠地とし、比較的CO2の排出の少ない電炉事業の構築を進めているUSスチールの買収だったからである。 まず、日本市場の成長性からみると、大口顧客の自動車産業の需要の伸びが期待できないのだ。例えば、4輪の乗用車の国内生産台数のピークは1990年の994万7972台だ。これが人口減少の深刻化と歩調を合わせるかのように減り続けて、2022年は656万6318台まで減った。自動車メーカー各社は米国や東南アジアでの現地生産を強化しており、日本で生産して日本から輸出する台数は今後も減り続ける見通しなのだ。 これに対して、短期的な不振が伝えられているものの、米国は人口が増えて成長が続き、今後も電気自動車(EV)を含む自動車の生産台数は増加していく見込みだ。 加えて、日本製鉄は近年、ようやく高炉に見切りをつけて、理論的にはCO2を排出しない水素還元製鉄の開発・実用化を急ぐとしているが、30年以上も前から水素還元製鉄の開発・実用化を口にしながら怠り続けてきたことは、気候変動対策を重視してきた環境学者らの間では周知の事実だ。 同社は、くず鉄などのスクラップを原料とする電炉を軽視してきたが、今後、当分の間、電炉に活路を求めざるを得なくなっていた。 これに対し、USスチールはこの分野で、最先端の電炉ミニミルであるビッグ リバー スチールを2021年に完全子会社化した。すでに鋼板ラインを稼働し、めっきラインが年内に稼働する予定のほか、能力の倍増に向けて新工場も建設中だ。この部門こそ、日本製鉄が喉から手が出るほど必要としているものなのだ。 日本製鉄にとっては、日本という自国市場の成長の先細り懸念と、待ったなしで迫られるようになったカーボンニュートラルという2つの至上命題を、一石二鳥で解消してくれるはずだった起死回生策がUSスチールの買収だったのである。 まとめると、以上、縷々見てきたように、CFIUS委員長をつとめるイエレン米財務長官の日本製鉄によるUSスチールの買収への駄目出し発言は、米国頼みの日本の通商政策の危うさを浮き彫りにするだけでなく、日本製鉄の経営を奈落の底に突き落としかねない冷徹な宣告だったのだ』、「イエレン米財務長官の日本製鉄によるUSスチールの買収への駄目出し発言は、米国頼みの日本の通商政策の危うさを浮き彫りにするだけでなく、日本製鉄の経営を奈落の底に突き落としかねない冷徹な宣告だった」、深刻に捉える必要がありそうだ。
タグ:(その8)(「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に) 日本企業の海外M&A 現代ビジネス 町田 徹氏による「アメリカの「鶴の一声」で、日本製鉄が窮地…! 「約2兆100億円を投じる」巨大プロジェクトのご破算が濃厚に」 「CFIUS・・・対米外国投資委員会)の委員長を兼ねる、米財務長官のイエレン氏は先週火曜日(4月16日)の記者会見で、「脱・日本、脱・高炉」の起死回生策になるはずだった日本製鉄の米鉄鋼大手USスチール買収に事実上の駄目出しをした。 CFIUSは米大統領直属の省庁横断の委員会組織で、主な使命は外国資本による米国企業の経営や事業、技術への出資の審査だ。 「日本製鉄」側の美醜方法上の小細工は、見破られたようだ。当然のことである。 「USスチールの従業員らが加盟するUSWが大きく立ちはだかったのだ。 USWはデービッド・マッコール会長名で今年3月1日に、米国議会上院に電子メールを送り、議会上院が日本製鉄のUSスチール買収に反対するよう求めた。その理由として、日本製鉄によるUSスチール買収が「雇用を脅かし、米国の防衛と経済的繁栄の安全保障をいくつかの点で危うくする」と主張した。それだけでなく、むしろ、こちらが本音と見るべきだろうが、労働協定や年金、福利厚生プランを巡る既得権が脅かされることへの懸念を挙げていた。 こうした要求もあり、米議会は反対の狼煙をあげた・・・日本製鉄は、米国と同盟関係にある日本企業の日本製鉄によるUSスチール買収が米国の経済安全保障に役立つと歓迎されると楽観していた・・・バイデン大統領がUSWへの肩入れ姿勢をエスカレート・・・バイデン氏は昨年12月21日に公表した声明で、まず、「USスチールは、国家安全保障に不可欠な国内鉄鋼生産の中核を担っている」との考えを表明、USWの要求に応じて、前述のCFIUSに買収の是非を精査させる方針を示した」、「日本製鉄」の読みは過度に楽観的過ぎたようだ。 「バイデン政権はトランプ政権ほどではないとはいえ、やはり本質的に「米国第一主義」に引きずられる政権だ。トランプ氏が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰を拒み、関税引き下げを含まないインド太平洋経済枠組み(IPEF)に傾注し、全米自動車労組(UAW)の強引な賃上げ要求を支持したことなどからも、肝心なところで保護主義に抗えないことを繰り返し露わにしてきたことを、我々、日本人は今一度、肝に銘じておくべきだろう」、その通りだ。 「イエレン米財務長官の日本製鉄によるUSスチールの買収への駄目出し発言は、米国頼みの日本の通商政策の危うさを浮き彫りにするだけでなく、日本製鉄の経営を奈落の底に突き落としかねない冷徹な宣告だった」、深刻に捉える必要がありそうだ。
「物言う株主」(アクティビスト・ファンド)(その6)(京都銀行VS英ファンド、終わらない「還元戦争」 シルチェスターが2年連続で特別配当を要求、花王の経営戦略を問題視「モノ言う株主」が急浮上 強面ファンドが社長の肝煎り戦略に「ダメ出し」、京成電鉄が「オリエンタルランド株」巡り攻防戦 物言う株主の株主提案にも動じない老獪さ) [企業経営]
「物言う株主」(アクティビスト・ファンド)については、昨年3月15日に取上げた。今日は、(その6)(京都銀行VS英ファンド、終わらない「還元戦争」 シルチェスターが2年連続で特別配当を要求、花王の経営戦略を問題視「モノ言う株主」が急浮上 強面ファンドが社長の肝煎り戦略に「ダメ出し」、京成電鉄が「オリエンタルランド株」巡り攻防戦 物言う株主の株主提案にも動じない老獪さ)である。
先ずは、昨年4月28日付け東洋経済オンライン「京都銀行VS英ファンド、終わらない「還元戦争」 シルチェスターが2年連続で特別配当を要求」を紹介しよう。
・『イギリスの投資ファンド、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズは4月26日、京都銀行に対して株主提案を行う方針を明らかにした。4月30日までに、6月の定時株主総会に向けた提案書を会社側へ提出する。 シルチェスターによる京都銀行への株主提案は2度目だ。2022年の定時株主総会でも特別配当を求めたが否決に終わっている。リベンジとなる今年は1株あたり62円の特別配当に加えて、発行済み株式の1%にあたる、上限50億円の自己株取得も要求する構えだ。 京都銀行の広報担当者は「シルチェスターが株主提案の意向を表明したことは承知している。ただ、提案をまだ受領していないためコメントは控える」としている。1年に渡るつばぜり合いを経て、両社はまたも株主総会で衝突することになった』、興味深そうだ。
・『16年目の「豹変」 最初にシルチェスターが京都銀行の株式を取得したのは2006年9月。15年以上の間、株主提案を行ったことは一度もなく、どちらかと言えば穏健な株主とみなされていた。 牙を剥いたのは2022年4月だった。シルチェスターは1株当たり100円という会社側の配当計画にかみつき、別途132円の特別配当を求めると表明。地方銀行関係者を一様に驚かせた。 豹変の背景には運用体制の変更があったという指摘もあるが、シルチェスターは「会社との対話はこれまでも行ってきたが、われわれの要望が理解されなかった」と、しびれを切らしたという。 シルチェスターが問題視したのは、京都銀行の利益構造だ。任天堂やニデック(旧日本電産)、京セラ、村田製作所といった京都企業の株式を保有しており、それらが莫大な配当金をもたらしている。当時のシルチェスターの書簡によれば、2021年3月期の純利益169億円に対して、保有株式の配当金は173億円もあった。逆に、融資やコンサルティングといった本業は赤字だった。 そこでシルチェスターは「コアの銀行業務からの純利益の50%」、および「保有株式から受け取る年間配当金の100%」を配当に回すことを求めた。シルチェスターは「受取配当金を盾にごまかしをするのではなく、コアの銀行業務の収益性改善に確実に注力させる」案だと胸を張った。) 京都銀行は当時、2021年末に総還元性向50%程度という地銀最高水準の還元方針を策定したばかりだった。2022年1月に4年ぶりとなる自己株取得も発表していた。そんな中で受けたシルチェスターの提案を「地域金融機関である当行の特徴を考慮しない、短期的な視点に立脚したもの」と断じた。すると、シルチェスターは「(京都銀行の説明は)認識の甘さと財務的洞察力の欠如を示すもの」と反発。両社の対立は決定的となった。 結局、2022年6月の定時株主総会では、シルチェスターの株主提案への賛成率は25%にとどまった。だが、これでシルチェスターが諦めると見る向きは少なかった』、「任天堂やニデック(旧日本電産)、京セラ、村田製作所といった京都企業の株式を保有しており、それらが莫大な配当金をもたらしている。当時のシルチェスターの書簡によれば、2021年3月期の純利益169億円に対して、保有株式の配当金は173億円もあった。逆に、融資やコンサルティングといった本業は赤字だった・・・シルチェスターは「コアの銀行業務からの純利益の50%」、および「保有株式から受け取る年間配当金の100%」を配当に回すことを求めた」、京都の優良企業からの「配当」が大幅黒字なのに、「本業は赤字」とは苦しく、「物言う株主」に付け入れられたようだ。
・『株を買い増し臨戦態勢 これは来年も仕掛けるな」。地銀関係者の間では、2023年も京都銀行が株主提案を受領するという見方が早くから広がっていた。総会後、シルチェスターは京都銀行の株を買い進めていたからだ。 シルチェスターは2022年、京都銀行のほかに岩手、滋賀、中国(現ちゅうぎんフィナンシャルグループ)の3行にも同様の株主提案を行っていた。しかし、株を買い増したのは京都銀行のみ。他3行はむしろ保有比率を引き下げている』、「シルチェスター」が「株を買い増したのは京都銀行のみ。他3行はむしろ保有比率を引き下げている」、不運にも狙われたものだ。
・『シルチェスターが過去株主提案した地銀の保有比率 対する京都銀行は、提案を受けた危機感もあってか、さらなる還元強化に踏み込んだ。2023年1月には2年連続となる自己株取得の実施を発表し、3月に策定した中期経営計画では総還元性向を「50%程度」から「50%以上」へと引き上げた。2024年3月期の総還元性向は60%超となる見通しだ。リスク資産への投資や還元強化による自己資本比率の縮減など、過去の中計では見られなかった資本政策も掲げた。 だが、シルチェスターは納得しなかった。「資本配分政策の変更を発表しない限り、株主総会において議案を提出する」。3月下旬、シルチェスターは京都銀行に書簡を送付した。やり玉に挙げたのはROE(自己資本利益率)とPBR(株価純資産倍率)だ。 シルチェスターは資本コストを上回る水準として、かねて10%以上のROEを投資先企業に求めている。京都銀行に対しても、2022年に行った株主提案の中でROEの低さを指摘していた。特別配当の実施は還元強化に加えて、資本の圧縮を促す意図もある。 PBRについては、1倍に引き上げるための計画を求めた。2022年の株主提案ではPBRに関する言及がなかったが、東京証券取引所が上場企業に対してPBRなどの改善策を求めた動きに呼応したものと見られる。今回の株主提案ではPBRの改善を期待してか、昨年にはなかった自社株買いが追加されている。 京都銀行のROEは3%弱、実績PBRも0.4倍台と、シルチェスターが求める水準にはほど遠い。4月中旬にも両社は電話で意見を交わしたが、強硬姿勢を崩さないシルチェスターと、漸進的な改革を模索する京都銀行との溝は埋まるはずもなく、交渉は決裂した』、「京都銀行のROEは3%弱、実績PBRも0.4倍台と、シルチェスターが求める水準にはほど遠い。4月中旬にも両社は電話で意見を交わしたが、強硬姿勢を崩さないシルチェスターと、漸進的な改革を模索する京都銀行との溝は埋まるはずもなく、交渉は決裂した」、やむを得ないだろう。
・『要求水準まで提案は続く 通常の場合、弊社は当会社(京都銀行)の更新後の中期経営計画を支持し、取締役会に対する賛成票を投じることでしょう」。26日の公表文の中で、シルチェスターは京都銀行が資本政策の見直しに踏み切ったこと自体は評価している。だが、あくまで同社の要求水準に達していない限り、株主提案を行うというスタンスだ。 関係者によれば、シルチェスターの目的は必ずしも株主提案を可決することだけではないという。「昨年より賛成率が上がれば、経営陣によりプレッシャーがかかる。それだけでも提案を行う意義がある」。両社が「停戦」を迎える兆しは見えない』、「「昨年より賛成率が上がれば、経営陣によりプレッシャーがかかる。それだけでも提案を行う意義がある」、なるほど。
次に、本年4月14日付け東洋経済オンライン「花王の経営戦略を問題視「モノ言う株主」が急浮上 強面ファンドが社長の肝煎り戦略に「ダメ出し」」を紹介しよう。
・『「花王は今こそよりよい企業になるべきだ」 モノ言う株主として知られるオアシス・インベストメント・マネジメントのセス・フィッシャー最高投資責任者が来日し、4月8日の会見で花王に対する要求をぶちまけた。 オアシスによれば、花王にコンタクトしたのは約9カ月前のこと。社長を含めた経営陣との面談を求めてきたが、いまだ実現していないという。3月22日に開かれた定時株主総会で経営陣には会えたものの、社長との面談は「5月末以降」とはね返された。 オアシスは花王株の3%超を握っているとする。直近ではドラッグストアのツルハホールディングス(HD)やエレベーターメーカーのフジテックなどの株式を買い増してきた。ただ、花王の時価総額は約2.8兆円。オアシスの日本での投資案件としては最大規模とみられる』、「社長を含めた経営陣との面談を求めてきたが、いまだ実現していないという。3月22日に開かれた定時株主総会で経営陣には会えたものの、社長との面談は「5月末以降」とはね返された」、なるほど。
・『強面ファンドの変化 オアシスは近年、創業家に絡んだ不祥事をテコに、経営陣の入れ替えを提案する手法を得意としてきた。 フジテックでは創業家の内山高一元社長をターゲットに「私邸の庭掃除を従業員にやらせている」という写真や、不動産に関わる不透明な取引を指摘。ほかの株主からの支持も集めて内山氏を退任に追い込んだ。) ツルハHDでも取締役会が鶴羽順社長ら創業家に牛耳られており、ガバナンス面で問題があると訴えた。最終的にイオンに保有株式を約1000億円で売却することでエグジットしたが、手法は似ている。 今年3月にはMBO(経営陣による買収)をめぐって買い付け価格に異議を唱えた大正製薬HD案件でも、土地の売買について創業家を攻撃している。 だが今回、花王に突きつけた要求は、これまで得意としてきた“戦法”とは中身が異なる』、「オアシスは近年、創業家に絡んだ不祥事をテコに、経営陣の入れ替えを提案する手法を得意としてきた。 フジテックでは創業家の内山高一元社長をターゲットに「私邸の庭掃除を従業員にやらせている」という写真や、不動産に関わる不透明な取引を指摘。ほかの株主からの支持も集めて内山氏を退任に追い込んだ」、コーポレート・ガバナンスを徹底する上で果たしている役割は無視できない。
・『ブランド集約は”不十分” 8日の会見でセス氏は「海外大手ブランドと比べても花王のブランドは多すぎる。もっと絞り込むべきだ」と主張。さらに「優れた製品があるにもかかわらず、積極的な海外展開が見られない」と日本国外の市場へのより積極的な進出を訴えた。 確かに花王はここ数年、業績不振に悩まされてきた。 2019年度まで7期連続で営業最高益を更新したが、20年度以降は4期連続の営業減益。19年度に2117億円あった営業利益は、23年度に600億円まで縮小。23年度に計上した547億円の構造改革費用を除いても、収益悪化は明白だ。 背景にはインバウンド需要剥落や原料高騰といった外部要因のみならず、花王固有の問題が重なっている。 オアシスの指摘どおり、花王は過去10年間で商品数が倍増している。消費者ニーズの広がりに合わせて商品を細分化したためだが、結果として1つの商品に充てるマーケティング費用や研究費が分散した。 海外進出も出遅れている。花王の消費者向け(コンシューマープロダクツ)事業の23年度の海外売上比率は35%にとどまる。) 花王は足元で利益重視に方針転換し、低収益なSKU(商品の品目数)の削減や、ブランドの売却・撤退を進めている。 昨年8月には紙おむつ「メリーズ」の中国生産撤退を発表。化粧品では中価格帯メイク「コフレドール」「オーブ」の販売終了を決めた。茶飲料「ヘルシア」はキリンビバレッジに売却する。スキンケアの海外展開では、とがった技術を武器に攻略を目指している。独自技術を生かせる領域で、差別化を図る戦略を掲げる。 しかし、オアシスはこれでは不十分と指摘する。例えば、長谷部佳宏社長は21年1月の社長就任時に、「アナザー花王」という新事業の構想を掲げた。「未来の成長エンジンとなる新事業」として、健康状態の予測ができる技術などを事業化する方針だ。 だが、オアシスは「(アナザー花王は)やるべきではない。長谷部社長は研究畑出身なので関心が強いかもしれないが、リソースは消費者向け事業のブランドに向けるべきだ」と手厳しい』、「オアシスは「(アナザー花王は)やるべきではない。長谷部社長は研究畑出身なので関心が強いかもしれないが、リソースは消費者向け事業のブランドに向けるべきだ」と手厳しい」、なるほど。
・『経営陣の交代に含み セス氏は「(社長交代が必要とは)今日は言わないでおく」と経営トップのすげ替え要求に含みを持たせた。意見の対立がさらに先鋭化すれば株主総会で議決権の奪い合いに発展する可能性もある。 花王側は「オアシスの主張では、23年度決算で示した積極的なポートフォリオ管理と構造改革について、残念ながら十分な理解がなされていません」(4日リリース)と公表した。 改革を求めるオアシスへ、花王はどう対応していくのか。多くのファンを抱えるブランドを展開する花王だけに、影響は大きい。議論の行方次第では、消費者をも巻き込んだ“場外乱闘”へと発展しかねない』、「改革を求めるオアシスへ、花王はどう対応していくのか」、大いに注目される。
第三に、5月10日付け東洋経済オンライン「京成電鉄が「オリエンタルランド株」巡り攻防戦 物言う株主の株主提案にも動じない老獪さ」を紹介しよう。
・『「京成電鉄は強い。ファンドの要求に応じているようでいて、実はまともに対峙していないように見える」。大手私鉄のある幹部はそう語る。 千葉、東京東部などを地盤とする京成電鉄とアクティビスト(物言う株主)の対立がヒートアップしている。イギリスの投資ファンドのパリサー・キャピタルは4月30日、株式の1.6%を所有する京成電鉄に対し、オリエンタルランド(OLC)株の一部売却などを求める株主提案を出した。 パリサーは同24日に、資本コストを意識した投資戦略と株主還元に関する計画を年内に策定し公表することを求めていた。併せて、OLC株の保有比率を2026年3月末までに4%ほど引き下げて15%未満にすることも要求していた。 当初は勧告的な内容にとどめていたが、京成電鉄側が拒否したため、法的拘束力のある株主提案として再提出した』、「イギリスの投資ファンドのパリサー・キャピタルは4月30日、株式の1.6%を所有する京成電鉄に対し、オリエンタルランド(OLC)株の一部売却などを求める株主提案を出した。 パリサーは同24日に、資本コストを意識した投資戦略と株主還元に関する計画を年内に策定し公表することを求めていた。併せて、OLC株の保有比率を2026年3月末までに4%ほど引き下げて15%未満にすることも要求」、なるほど。
・『パリサーとは10回以上の会談 パリサー側の資料によると、京成電鉄の取締役会とは2021年8月に協議を開始している。このころに京成電鉄株を取得したと推察される。 これまで両者は10回以上にわたりオンラインや対面でミーティングを実施してきた。OLC株の売却などを要請するパリサーに対し、京成電鉄側は「OLC株の売却は当面ない」などと対立の姿勢を見せていた。 だが、2024年2月に330億円を上限とする自己株買いを発表。さらに3月には約1640万株のOLC株式を801億円で譲渡し、保有比率を約19%と1%ポイント引き下げた。売却益は特別配当として、株主に一部還元した。 譲歩の姿勢を見せたように映る京成電鉄だが、パリサー側は対応に不満を募らせる。「OLC株1%の売却自体は歓迎。大きな一歩。だが、成長戦略や株主還元の意識は到底足りない」と、京成電鉄の内情に詳しい市場関係者は指摘する。) 株価もこの市場関係者の不満を反映しているかのようだ。OLC株1%売却と増配の発表を受けた4月30日、京成電鉄の株価(終値)は5893円と前営業日終値比で0.6%下落した。株式市場の反応は冷ややかだった。 「これが株式市場の評価だ。しぶしぶ、1%を売ったことが市場に見透かされている。これでは(この程度の規模の売却では)ダメでしょう、というのが投資家の大半の見方ではないか」(別の市場関係者) 京成電鉄は、ディズニーランドが位置する千葉県浦安に直通する路線を保有しているわけではない。事業のシナジー効果が薄いように見えるが、京成電鉄はこれまで、OLCを「一種の祖業」として、株式保有を正当化してきた。 京成電鉄は明治時代の1909年に、成田山新勝寺の参拝輸送を目的に設立された「京成電気軌道」を起源とする。その後、東京への延伸を繰り返し、1960年には「押上ー浅草橋」駅間を開業。東京圏の需要は大きく、安定成長していった』、「京成電鉄は、ディズニーランドが位置する千葉県浦安に直通する路線を保有しているわけではない。事業のシナジー効果が薄いように見えるが、京成電鉄はこれまで、OLCを「一種の祖業」として、株式保有を正当化してきた」、「一種の祖業」とは苦しい位置づけだ。
・『京成にとってOLC株は「打ち出の小槌」 一方、OLCの設立は1960年。浦安沖の海面を埋め立て、商住地域の開発と一大レジャーランドの建設を行い、国民の文化などに寄与することを目的に創業した。 OLCの設立に大きく関わったのが、当時の社長であり、京成電鉄の「中興の祖」と言われる川崎千春氏だ。アメリカでディズニーランドを体験した川崎氏は、帰国後、三井不動産の江戸英雄社長(当時)らとともに、「オリエンタルランド設立計画趣意書」をまとめた。 OLCが創業時に事務所を置いたのは当時の京成電鉄の本社(東京都上野)でもあった。 その後、京成電鉄は「打ち出の小槌」のようにOLC株を少しずつ売却して、設備投資や自己株買いの資金として充当してきた。2023年9月末時点での保有比率は20%弱。筆頭株主ではあるが、子会社ではなく持ち分適用会社となっている。 ところが、京成電鉄の時価総額1兆円強に対し、OLCの時価総額は7兆9000億円(ともに5月8日時点)。京成電鉄の保有比率に換算すると、京成電鉄が持つOLC株の時価は京成電鉄の時価総額を上回ることになる。 この「資本のねじれ」につけ込んだのが、2021年に設立されたパリサーだ。 パリサーの創業者で最高投資責任者であるジェームズ・スミス氏は、エリオット・マネジメントの出身。アメリカの投資ファンドであるエリオットは、「武闘派」のアクティビストとして知られる。 しかし京成電鉄は、折衝力に長けるパリサーに対し冷静な姿勢をこれまで崩さなかった。「パリサーは京成電鉄の老獪さに翻弄されているかのようだ」(市場関係者)との見方まである。) 株主提案をしたものの、パリサーの株式保有比率は1.6%に過ぎない。多くの株主の支持を得て決議を成立させるのはハードルが高そうだ。 京成電鉄がこの先、パリサーの要求に応じて保有比率を15%未満にするためにOLC株を約4%売却しすることは考えにくいようにも見える。ところが京成電鉄の関係者は、「京成電鉄がOLC株を大量に売っても不思議ではない」と話す。 上場企業は近年、資本コストや株価を意識した経営がより強く求められている。「京成電鉄も資本収益性を十分に意識しないと、株主にそっぽを向かれる懸念がある。経営陣はこの2~3年で『(持ち合い株式などは)売らなきゃ』という気持ちに傾いている」(京成電鉄の関係者)。 OLC株を大量に売って売却益を得たとしても、その使途がなければ不毛な行為となる。その点、京成電鉄にはこの先の成長戦略において、多くの資金需要がある』、「「京成電鉄も資本収益性を十分に意識しないと、株主にそっぽを向かれる懸念がある。経営陣はこの2~3年で『(持ち合い株式などは)売らなきゃ』という気持ちに傾いている」(京成電鉄の関係者)。 OLC株を大量に売って売却益を得たとしても、その使途がなければ不毛な行為となる。その点、京成電鉄にはこの先の成長戦略において、多くの資金需要がある」、どんな「資金需要」なのだろう。
・『資金使途が説明できれば株を売る? 京成電鉄にとって成田国際空港へのアクセス路線は収益柱だ。その成田空港は滑走路の新設など拡張計画を打ち出している。「成田空港の発着回数が増えるとなると、当社としても輸送力の増強を図る必要がある」と同社の広報・IR担当者は話す。車両基地の建設や整備も進めることになるだろう。 ほかにも、「台風や地震などの災害対策、バスの運転手不足対策など、やることはいっぱいある」(京成電鉄の関係者)。さらに鉄道以外の領域である流通事業強化の一環で、今2025年3月期中にも地場スーパーなどのM&A(企業合併・買収)を検討している。 京成電鉄の関係者は、「京成電鉄は成長投資への資金が必要だ。お金の使い方が説明できるとなると、OLCを売るのではないか」と見通す。 「京成電鉄の小林敏也社長が、『OLCが当社の持ち分適用会社であることにこだわる必要はない』と、周りにつぶやいている」――。市場関係者からは、こういった声も漏れ伝わってくる。 パリサーのOLC株に対する要求について、その対応を京成電鉄の広報・IR担当者に確認したところ、「個別の投資家に関することは回答できない」とした。 おりしも、エリオットからOLC株売却を求められている三井不動産は、その保有比率を徐々に減らしている。京成電鉄は現在の保有比率を継続するとなると、多額のOLC株を保有する合理性を説明できなければならない。 当面の焦点は、6月27日に開催予定の京成電鉄の定時株主総会だ。経営陣は株主に向けて何をどう語るのか。これまで以上に注目を集める』、「成田空港の発着回数が増えるとなると、当社としても輸送力の増強を図る必要がある」と同社の広報・IR担当者は話す。車両基地の建設や整備も進めることになるだろう。 ほかにも、「台風や地震などの災害対策、バスの運転手不足対策など、やることはいっぱいある」・・・。さらに鉄道以外の領域である流通事業強化の一環で、今2025年3月期中にも地場スーパーなどのM&A・・・を検討している。 京成電鉄の関係者は、「京成電鉄は成長投資への資金が必要だ。お金の使い方が説明できるとなると、OLCを売るのではないか」と見通す・・・当面の焦点は、6月27日に開催予定の京成電鉄の定時株主総会だ。経営陣は株主に向けて何をどう語るのか。これまで以上に注目を集める」、さて、実際にはどうするのだろうか。
先ずは、昨年4月28日付け東洋経済オンライン「京都銀行VS英ファンド、終わらない「還元戦争」 シルチェスターが2年連続で特別配当を要求」を紹介しよう。
・『イギリスの投資ファンド、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズは4月26日、京都銀行に対して株主提案を行う方針を明らかにした。4月30日までに、6月の定時株主総会に向けた提案書を会社側へ提出する。 シルチェスターによる京都銀行への株主提案は2度目だ。2022年の定時株主総会でも特別配当を求めたが否決に終わっている。リベンジとなる今年は1株あたり62円の特別配当に加えて、発行済み株式の1%にあたる、上限50億円の自己株取得も要求する構えだ。 京都銀行の広報担当者は「シルチェスターが株主提案の意向を表明したことは承知している。ただ、提案をまだ受領していないためコメントは控える」としている。1年に渡るつばぜり合いを経て、両社はまたも株主総会で衝突することになった』、興味深そうだ。
・『16年目の「豹変」 最初にシルチェスターが京都銀行の株式を取得したのは2006年9月。15年以上の間、株主提案を行ったことは一度もなく、どちらかと言えば穏健な株主とみなされていた。 牙を剥いたのは2022年4月だった。シルチェスターは1株当たり100円という会社側の配当計画にかみつき、別途132円の特別配当を求めると表明。地方銀行関係者を一様に驚かせた。 豹変の背景には運用体制の変更があったという指摘もあるが、シルチェスターは「会社との対話はこれまでも行ってきたが、われわれの要望が理解されなかった」と、しびれを切らしたという。 シルチェスターが問題視したのは、京都銀行の利益構造だ。任天堂やニデック(旧日本電産)、京セラ、村田製作所といった京都企業の株式を保有しており、それらが莫大な配当金をもたらしている。当時のシルチェスターの書簡によれば、2021年3月期の純利益169億円に対して、保有株式の配当金は173億円もあった。逆に、融資やコンサルティングといった本業は赤字だった。 そこでシルチェスターは「コアの銀行業務からの純利益の50%」、および「保有株式から受け取る年間配当金の100%」を配当に回すことを求めた。シルチェスターは「受取配当金を盾にごまかしをするのではなく、コアの銀行業務の収益性改善に確実に注力させる」案だと胸を張った。) 京都銀行は当時、2021年末に総還元性向50%程度という地銀最高水準の還元方針を策定したばかりだった。2022年1月に4年ぶりとなる自己株取得も発表していた。そんな中で受けたシルチェスターの提案を「地域金融機関である当行の特徴を考慮しない、短期的な視点に立脚したもの」と断じた。すると、シルチェスターは「(京都銀行の説明は)認識の甘さと財務的洞察力の欠如を示すもの」と反発。両社の対立は決定的となった。 結局、2022年6月の定時株主総会では、シルチェスターの株主提案への賛成率は25%にとどまった。だが、これでシルチェスターが諦めると見る向きは少なかった』、「任天堂やニデック(旧日本電産)、京セラ、村田製作所といった京都企業の株式を保有しており、それらが莫大な配当金をもたらしている。当時のシルチェスターの書簡によれば、2021年3月期の純利益169億円に対して、保有株式の配当金は173億円もあった。逆に、融資やコンサルティングといった本業は赤字だった・・・シルチェスターは「コアの銀行業務からの純利益の50%」、および「保有株式から受け取る年間配当金の100%」を配当に回すことを求めた」、京都の優良企業からの「配当」が大幅黒字なのに、「本業は赤字」とは苦しく、「物言う株主」に付け入れられたようだ。
・『株を買い増し臨戦態勢 これは来年も仕掛けるな」。地銀関係者の間では、2023年も京都銀行が株主提案を受領するという見方が早くから広がっていた。総会後、シルチェスターは京都銀行の株を買い進めていたからだ。 シルチェスターは2022年、京都銀行のほかに岩手、滋賀、中国(現ちゅうぎんフィナンシャルグループ)の3行にも同様の株主提案を行っていた。しかし、株を買い増したのは京都銀行のみ。他3行はむしろ保有比率を引き下げている』、「シルチェスター」が「株を買い増したのは京都銀行のみ。他3行はむしろ保有比率を引き下げている」、不運にも狙われたものだ。
・『シルチェスターが過去株主提案した地銀の保有比率 対する京都銀行は、提案を受けた危機感もあってか、さらなる還元強化に踏み込んだ。2023年1月には2年連続となる自己株取得の実施を発表し、3月に策定した中期経営計画では総還元性向を「50%程度」から「50%以上」へと引き上げた。2024年3月期の総還元性向は60%超となる見通しだ。リスク資産への投資や還元強化による自己資本比率の縮減など、過去の中計では見られなかった資本政策も掲げた。 だが、シルチェスターは納得しなかった。「資本配分政策の変更を発表しない限り、株主総会において議案を提出する」。3月下旬、シルチェスターは京都銀行に書簡を送付した。やり玉に挙げたのはROE(自己資本利益率)とPBR(株価純資産倍率)だ。 シルチェスターは資本コストを上回る水準として、かねて10%以上のROEを投資先企業に求めている。京都銀行に対しても、2022年に行った株主提案の中でROEの低さを指摘していた。特別配当の実施は還元強化に加えて、資本の圧縮を促す意図もある。 PBRについては、1倍に引き上げるための計画を求めた。2022年の株主提案ではPBRに関する言及がなかったが、東京証券取引所が上場企業に対してPBRなどの改善策を求めた動きに呼応したものと見られる。今回の株主提案ではPBRの改善を期待してか、昨年にはなかった自社株買いが追加されている。 京都銀行のROEは3%弱、実績PBRも0.4倍台と、シルチェスターが求める水準にはほど遠い。4月中旬にも両社は電話で意見を交わしたが、強硬姿勢を崩さないシルチェスターと、漸進的な改革を模索する京都銀行との溝は埋まるはずもなく、交渉は決裂した』、「京都銀行のROEは3%弱、実績PBRも0.4倍台と、シルチェスターが求める水準にはほど遠い。4月中旬にも両社は電話で意見を交わしたが、強硬姿勢を崩さないシルチェスターと、漸進的な改革を模索する京都銀行との溝は埋まるはずもなく、交渉は決裂した」、やむを得ないだろう。
・『要求水準まで提案は続く 通常の場合、弊社は当会社(京都銀行)の更新後の中期経営計画を支持し、取締役会に対する賛成票を投じることでしょう」。26日の公表文の中で、シルチェスターは京都銀行が資本政策の見直しに踏み切ったこと自体は評価している。だが、あくまで同社の要求水準に達していない限り、株主提案を行うというスタンスだ。 関係者によれば、シルチェスターの目的は必ずしも株主提案を可決することだけではないという。「昨年より賛成率が上がれば、経営陣によりプレッシャーがかかる。それだけでも提案を行う意義がある」。両社が「停戦」を迎える兆しは見えない』、「「昨年より賛成率が上がれば、経営陣によりプレッシャーがかかる。それだけでも提案を行う意義がある」、なるほど。
次に、本年4月14日付け東洋経済オンライン「花王の経営戦略を問題視「モノ言う株主」が急浮上 強面ファンドが社長の肝煎り戦略に「ダメ出し」」を紹介しよう。
・『「花王は今こそよりよい企業になるべきだ」 モノ言う株主として知られるオアシス・インベストメント・マネジメントのセス・フィッシャー最高投資責任者が来日し、4月8日の会見で花王に対する要求をぶちまけた。 オアシスによれば、花王にコンタクトしたのは約9カ月前のこと。社長を含めた経営陣との面談を求めてきたが、いまだ実現していないという。3月22日に開かれた定時株主総会で経営陣には会えたものの、社長との面談は「5月末以降」とはね返された。 オアシスは花王株の3%超を握っているとする。直近ではドラッグストアのツルハホールディングス(HD)やエレベーターメーカーのフジテックなどの株式を買い増してきた。ただ、花王の時価総額は約2.8兆円。オアシスの日本での投資案件としては最大規模とみられる』、「社長を含めた経営陣との面談を求めてきたが、いまだ実現していないという。3月22日に開かれた定時株主総会で経営陣には会えたものの、社長との面談は「5月末以降」とはね返された」、なるほど。
・『強面ファンドの変化 オアシスは近年、創業家に絡んだ不祥事をテコに、経営陣の入れ替えを提案する手法を得意としてきた。 フジテックでは創業家の内山高一元社長をターゲットに「私邸の庭掃除を従業員にやらせている」という写真や、不動産に関わる不透明な取引を指摘。ほかの株主からの支持も集めて内山氏を退任に追い込んだ。) ツルハHDでも取締役会が鶴羽順社長ら創業家に牛耳られており、ガバナンス面で問題があると訴えた。最終的にイオンに保有株式を約1000億円で売却することでエグジットしたが、手法は似ている。 今年3月にはMBO(経営陣による買収)をめぐって買い付け価格に異議を唱えた大正製薬HD案件でも、土地の売買について創業家を攻撃している。 だが今回、花王に突きつけた要求は、これまで得意としてきた“戦法”とは中身が異なる』、「オアシスは近年、創業家に絡んだ不祥事をテコに、経営陣の入れ替えを提案する手法を得意としてきた。 フジテックでは創業家の内山高一元社長をターゲットに「私邸の庭掃除を従業員にやらせている」という写真や、不動産に関わる不透明な取引を指摘。ほかの株主からの支持も集めて内山氏を退任に追い込んだ」、コーポレート・ガバナンスを徹底する上で果たしている役割は無視できない。
・『ブランド集約は”不十分” 8日の会見でセス氏は「海外大手ブランドと比べても花王のブランドは多すぎる。もっと絞り込むべきだ」と主張。さらに「優れた製品があるにもかかわらず、積極的な海外展開が見られない」と日本国外の市場へのより積極的な進出を訴えた。 確かに花王はここ数年、業績不振に悩まされてきた。 2019年度まで7期連続で営業最高益を更新したが、20年度以降は4期連続の営業減益。19年度に2117億円あった営業利益は、23年度に600億円まで縮小。23年度に計上した547億円の構造改革費用を除いても、収益悪化は明白だ。 背景にはインバウンド需要剥落や原料高騰といった外部要因のみならず、花王固有の問題が重なっている。 オアシスの指摘どおり、花王は過去10年間で商品数が倍増している。消費者ニーズの広がりに合わせて商品を細分化したためだが、結果として1つの商品に充てるマーケティング費用や研究費が分散した。 海外進出も出遅れている。花王の消費者向け(コンシューマープロダクツ)事業の23年度の海外売上比率は35%にとどまる。) 花王は足元で利益重視に方針転換し、低収益なSKU(商品の品目数)の削減や、ブランドの売却・撤退を進めている。 昨年8月には紙おむつ「メリーズ」の中国生産撤退を発表。化粧品では中価格帯メイク「コフレドール」「オーブ」の販売終了を決めた。茶飲料「ヘルシア」はキリンビバレッジに売却する。スキンケアの海外展開では、とがった技術を武器に攻略を目指している。独自技術を生かせる領域で、差別化を図る戦略を掲げる。 しかし、オアシスはこれでは不十分と指摘する。例えば、長谷部佳宏社長は21年1月の社長就任時に、「アナザー花王」という新事業の構想を掲げた。「未来の成長エンジンとなる新事業」として、健康状態の予測ができる技術などを事業化する方針だ。 だが、オアシスは「(アナザー花王は)やるべきではない。長谷部社長は研究畑出身なので関心が強いかもしれないが、リソースは消費者向け事業のブランドに向けるべきだ」と手厳しい』、「オアシスは「(アナザー花王は)やるべきではない。長谷部社長は研究畑出身なので関心が強いかもしれないが、リソースは消費者向け事業のブランドに向けるべきだ」と手厳しい」、なるほど。
・『経営陣の交代に含み セス氏は「(社長交代が必要とは)今日は言わないでおく」と経営トップのすげ替え要求に含みを持たせた。意見の対立がさらに先鋭化すれば株主総会で議決権の奪い合いに発展する可能性もある。 花王側は「オアシスの主張では、23年度決算で示した積極的なポートフォリオ管理と構造改革について、残念ながら十分な理解がなされていません」(4日リリース)と公表した。 改革を求めるオアシスへ、花王はどう対応していくのか。多くのファンを抱えるブランドを展開する花王だけに、影響は大きい。議論の行方次第では、消費者をも巻き込んだ“場外乱闘”へと発展しかねない』、「改革を求めるオアシスへ、花王はどう対応していくのか」、大いに注目される。
第三に、5月10日付け東洋経済オンライン「京成電鉄が「オリエンタルランド株」巡り攻防戦 物言う株主の株主提案にも動じない老獪さ」を紹介しよう。
・『「京成電鉄は強い。ファンドの要求に応じているようでいて、実はまともに対峙していないように見える」。大手私鉄のある幹部はそう語る。 千葉、東京東部などを地盤とする京成電鉄とアクティビスト(物言う株主)の対立がヒートアップしている。イギリスの投資ファンドのパリサー・キャピタルは4月30日、株式の1.6%を所有する京成電鉄に対し、オリエンタルランド(OLC)株の一部売却などを求める株主提案を出した。 パリサーは同24日に、資本コストを意識した投資戦略と株主還元に関する計画を年内に策定し公表することを求めていた。併せて、OLC株の保有比率を2026年3月末までに4%ほど引き下げて15%未満にすることも要求していた。 当初は勧告的な内容にとどめていたが、京成電鉄側が拒否したため、法的拘束力のある株主提案として再提出した』、「イギリスの投資ファンドのパリサー・キャピタルは4月30日、株式の1.6%を所有する京成電鉄に対し、オリエンタルランド(OLC)株の一部売却などを求める株主提案を出した。 パリサーは同24日に、資本コストを意識した投資戦略と株主還元に関する計画を年内に策定し公表することを求めていた。併せて、OLC株の保有比率を2026年3月末までに4%ほど引き下げて15%未満にすることも要求」、なるほど。
・『パリサーとは10回以上の会談 パリサー側の資料によると、京成電鉄の取締役会とは2021年8月に協議を開始している。このころに京成電鉄株を取得したと推察される。 これまで両者は10回以上にわたりオンラインや対面でミーティングを実施してきた。OLC株の売却などを要請するパリサーに対し、京成電鉄側は「OLC株の売却は当面ない」などと対立の姿勢を見せていた。 だが、2024年2月に330億円を上限とする自己株買いを発表。さらに3月には約1640万株のOLC株式を801億円で譲渡し、保有比率を約19%と1%ポイント引き下げた。売却益は特別配当として、株主に一部還元した。 譲歩の姿勢を見せたように映る京成電鉄だが、パリサー側は対応に不満を募らせる。「OLC株1%の売却自体は歓迎。大きな一歩。だが、成長戦略や株主還元の意識は到底足りない」と、京成電鉄の内情に詳しい市場関係者は指摘する。) 株価もこの市場関係者の不満を反映しているかのようだ。OLC株1%売却と増配の発表を受けた4月30日、京成電鉄の株価(終値)は5893円と前営業日終値比で0.6%下落した。株式市場の反応は冷ややかだった。 「これが株式市場の評価だ。しぶしぶ、1%を売ったことが市場に見透かされている。これでは(この程度の規模の売却では)ダメでしょう、というのが投資家の大半の見方ではないか」(別の市場関係者) 京成電鉄は、ディズニーランドが位置する千葉県浦安に直通する路線を保有しているわけではない。事業のシナジー効果が薄いように見えるが、京成電鉄はこれまで、OLCを「一種の祖業」として、株式保有を正当化してきた。 京成電鉄は明治時代の1909年に、成田山新勝寺の参拝輸送を目的に設立された「京成電気軌道」を起源とする。その後、東京への延伸を繰り返し、1960年には「押上ー浅草橋」駅間を開業。東京圏の需要は大きく、安定成長していった』、「京成電鉄は、ディズニーランドが位置する千葉県浦安に直通する路線を保有しているわけではない。事業のシナジー効果が薄いように見えるが、京成電鉄はこれまで、OLCを「一種の祖業」として、株式保有を正当化してきた」、「一種の祖業」とは苦しい位置づけだ。
・『京成にとってOLC株は「打ち出の小槌」 一方、OLCの設立は1960年。浦安沖の海面を埋め立て、商住地域の開発と一大レジャーランドの建設を行い、国民の文化などに寄与することを目的に創業した。 OLCの設立に大きく関わったのが、当時の社長であり、京成電鉄の「中興の祖」と言われる川崎千春氏だ。アメリカでディズニーランドを体験した川崎氏は、帰国後、三井不動産の江戸英雄社長(当時)らとともに、「オリエンタルランド設立計画趣意書」をまとめた。 OLCが創業時に事務所を置いたのは当時の京成電鉄の本社(東京都上野)でもあった。 その後、京成電鉄は「打ち出の小槌」のようにOLC株を少しずつ売却して、設備投資や自己株買いの資金として充当してきた。2023年9月末時点での保有比率は20%弱。筆頭株主ではあるが、子会社ではなく持ち分適用会社となっている。 ところが、京成電鉄の時価総額1兆円強に対し、OLCの時価総額は7兆9000億円(ともに5月8日時点)。京成電鉄の保有比率に換算すると、京成電鉄が持つOLC株の時価は京成電鉄の時価総額を上回ることになる。 この「資本のねじれ」につけ込んだのが、2021年に設立されたパリサーだ。 パリサーの創業者で最高投資責任者であるジェームズ・スミス氏は、エリオット・マネジメントの出身。アメリカの投資ファンドであるエリオットは、「武闘派」のアクティビストとして知られる。 しかし京成電鉄は、折衝力に長けるパリサーに対し冷静な姿勢をこれまで崩さなかった。「パリサーは京成電鉄の老獪さに翻弄されているかのようだ」(市場関係者)との見方まである。) 株主提案をしたものの、パリサーの株式保有比率は1.6%に過ぎない。多くの株主の支持を得て決議を成立させるのはハードルが高そうだ。 京成電鉄がこの先、パリサーの要求に応じて保有比率を15%未満にするためにOLC株を約4%売却しすることは考えにくいようにも見える。ところが京成電鉄の関係者は、「京成電鉄がOLC株を大量に売っても不思議ではない」と話す。 上場企業は近年、資本コストや株価を意識した経営がより強く求められている。「京成電鉄も資本収益性を十分に意識しないと、株主にそっぽを向かれる懸念がある。経営陣はこの2~3年で『(持ち合い株式などは)売らなきゃ』という気持ちに傾いている」(京成電鉄の関係者)。 OLC株を大量に売って売却益を得たとしても、その使途がなければ不毛な行為となる。その点、京成電鉄にはこの先の成長戦略において、多くの資金需要がある』、「「京成電鉄も資本収益性を十分に意識しないと、株主にそっぽを向かれる懸念がある。経営陣はこの2~3年で『(持ち合い株式などは)売らなきゃ』という気持ちに傾いている」(京成電鉄の関係者)。 OLC株を大量に売って売却益を得たとしても、その使途がなければ不毛な行為となる。その点、京成電鉄にはこの先の成長戦略において、多くの資金需要がある」、どんな「資金需要」なのだろう。
・『資金使途が説明できれば株を売る? 京成電鉄にとって成田国際空港へのアクセス路線は収益柱だ。その成田空港は滑走路の新設など拡張計画を打ち出している。「成田空港の発着回数が増えるとなると、当社としても輸送力の増強を図る必要がある」と同社の広報・IR担当者は話す。車両基地の建設や整備も進めることになるだろう。 ほかにも、「台風や地震などの災害対策、バスの運転手不足対策など、やることはいっぱいある」(京成電鉄の関係者)。さらに鉄道以外の領域である流通事業強化の一環で、今2025年3月期中にも地場スーパーなどのM&A(企業合併・買収)を検討している。 京成電鉄の関係者は、「京成電鉄は成長投資への資金が必要だ。お金の使い方が説明できるとなると、OLCを売るのではないか」と見通す。 「京成電鉄の小林敏也社長が、『OLCが当社の持ち分適用会社であることにこだわる必要はない』と、周りにつぶやいている」――。市場関係者からは、こういった声も漏れ伝わってくる。 パリサーのOLC株に対する要求について、その対応を京成電鉄の広報・IR担当者に確認したところ、「個別の投資家に関することは回答できない」とした。 おりしも、エリオットからOLC株売却を求められている三井不動産は、その保有比率を徐々に減らしている。京成電鉄は現在の保有比率を継続するとなると、多額のOLC株を保有する合理性を説明できなければならない。 当面の焦点は、6月27日に開催予定の京成電鉄の定時株主総会だ。経営陣は株主に向けて何をどう語るのか。これまで以上に注目を集める』、「成田空港の発着回数が増えるとなると、当社としても輸送力の増強を図る必要がある」と同社の広報・IR担当者は話す。車両基地の建設や整備も進めることになるだろう。 ほかにも、「台風や地震などの災害対策、バスの運転手不足対策など、やることはいっぱいある」・・・。さらに鉄道以外の領域である流通事業強化の一環で、今2025年3月期中にも地場スーパーなどのM&A・・・を検討している。 京成電鉄の関係者は、「京成電鉄は成長投資への資金が必要だ。お金の使い方が説明できるとなると、OLCを売るのではないか」と見通す・・・当面の焦点は、6月27日に開催予定の京成電鉄の定時株主総会だ。経営陣は株主に向けて何をどう語るのか。これまで以上に注目を集める」、さて、実際にはどうするのだろうか。
タグ:「物言う株主」(アクティビスト・ファンド) (その6)(京都銀行VS英ファンド、終わらない「還元戦争」 シルチェスターが2年連続で特別配当を要求、花王の経営戦略を問題視「モノ言う株主」が急浮上 強面ファンドが社長の肝煎り戦略に「ダメ出し」、京成電鉄が「オリエンタルランド株」巡り攻防戦 物言う株主の株主提案にも動じない老獪さ) 東洋経済オンライン「京都銀行VS英ファンド、終わらない「還元戦争」 シルチェスターが2年連続で特別配当を要求」 「任天堂やニデック(旧日本電産)、京セラ、村田製作所といった京都企業の株式を保有しており、それらが莫大な配当金をもたらしている。当時のシルチェスターの書簡によれば、2021年3月期の純利益169億円に対して、保有株式の配当金は173億円もあった。逆に、融資やコンサルティングといった本業は赤字だった・・・シルチェスターは「コアの銀行業務からの純利益の50%」、 および「保有株式から受け取る年間配当金の100%」を配当に回すことを求めた」、京都の優良企業からの「配当」が大幅黒字なのに、「本業は赤字」とは苦しく、「物言う株主」に付け入れられたようだ。 「シルチェスター」が「株を買い増したのは京都銀行のみ。他3行はむしろ保有比率を引き下げている」、不運にも狙われたものだ。 「京都銀行のROEは3%弱、実績PBRも0.4倍台と、シルチェスターが求める水準にはほど遠い。4月中旬にも両社は電話で意見を交わしたが、強硬姿勢を崩さないシルチェスターと、漸進的な改革を模索する京都銀行との溝は埋まるはずもなく、交渉は決裂した」、やむを得ないだろう。 「「昨年より賛成率が上がれば、経営陣によりプレッシャーがかかる。それだけでも提案を行う意義がある」、なるほど。 東洋経済オンライン「花王の経営戦略を問題視「モノ言う株主」が急浮上 強面ファンドが社長の肝煎り戦略に「ダメ出し」」 「社長を含めた経営陣との面談を求めてきたが、いまだ実現していないという。3月22日に開かれた定時株主総会で経営陣には会えたものの、社長との面談は「5月末以降」とはね返された」、なるほど。 「オアシスは近年、創業家に絡んだ不祥事をテコに、経営陣の入れ替えを提案する手法を得意としてきた。 フジテックでは創業家の内山高一元社長をターゲットに「私邸の庭掃除を従業員にやらせている」という写真や、不動産に関わる不透明な取引を指摘。ほかの株主からの支持も集めて内山氏を退任に追い込んだ」、コーポレート・ガバナンスを徹底する上で果たしている役割は無視できない。 「オアシスは「(アナザー花王は)やるべきではない。長谷部社長は研究畑出身なので関心が強いかもしれないが、リソースは消費者向け事業のブランドに向けるべきだ」と手厳しい」、なるほど。 「改革を求めるオアシスへ、花王はどう対応していくのか」、大いに注目される。 東洋経済オンライン「京成電鉄が「オリエンタルランド株」巡り攻防戦 物言う株主の株主提案にも動じない老獪さ」 「イギリスの投資ファンドのパリサー・キャピタルは4月30日、株式の1.6%を所有する京成電鉄に対し、オリエンタルランド(OLC)株の一部売却などを求める株主提案を出した。 パリサーは同24日に、資本コストを意識した投資戦略と株主還元に関する計画を年内に策定し公表することを求めていた。併せて、OLC株の保有比率を2026年3月末までに4%ほど引き下げて15%未満にすることも要求」、なるほど。 「京成電鉄は、ディズニーランドが位置する千葉県浦安に直通する路線を保有しているわけではない。事業のシナジー効果が薄いように見えるが、京成電鉄はこれまで、OLCを「一種の祖業」として、株式保有を正当化してきた」、「一種の祖業」とは苦しい位置づけだ。 「「京成電鉄も資本収益性を十分に意識しないと、株主にそっぽを向かれる懸念がある。経営陣はこの2~3年で『(持ち合い株式などは)売らなきゃ』という気持ちに傾いている」(京成電鉄の関係者)。 OLC株を大量に売って売却益を得たとしても、その使途がなければ不毛な行為となる。その点、京成電鉄にはこの先の成長戦略において、多くの資金需要がある」、どんな「資金需要」なのだろう。 「成田空港の発着回数が増えるとなると、当社としても輸送力の増強を図る必要がある」と同社の広報・IR担当者は話す。車両基地の建設や整備も進めることになるだろう。 ほかにも、「台風や地震などの災害対策、バスの運転手不足対策など、やることはいっぱいある」・・・。さらに鉄道以外の領域である流通事業強化の一環で、今2025年3月期中にも地場スーパーなどのM&A・・・を検討している。 京成電鉄の関係者は、「京成電鉄は成長投資への資金が必要だ。お金の使い方が説明できるとなると、OLCを売るのではないか」と見通す・・・当面の焦点は、6月27日に開催予定の京成電鉄の定時株主総会だ。経営陣は株主に向けて何をどう語るのか。これまで以上に注目を集める」、さて、実際にはどうするのだろうか。
MBO(マネジメント バイアウト)(その1)(大正製薬 「安すぎるMBO」批判くすぶる総会の中身 決定過程への質問集中 上原家は終始発言せず、大正製薬がMBOで非上場化へ…舞台裏では取引金融機関の激しい“つばぜり合い”が、「ブラザー参戦」でもファンドを頼るローランドDG かつての親会社の非公開化でも登場のタイヨウ) [企業経営]
今日は、MBO(マネジメント バイアウト)(その1)(大正製薬 「安すぎるMBO」批判くすぶる総会の中身 決定過程への質問集中 上原家は終始発言せず、大正製薬がMBOで非上場化へ…舞台裏では取引金融機関の激しい“つばぜり合い”が、「ブラザー参戦」でもファンドを頼るローランドDG かつての親会社の非公開化でも登場のタイヨウ)を取上げよう。
先ずは、本年3月27日付け東洋経済オンライン「大正製薬、「安すぎるMBO」批判くすぶる総会の中身 決定過程への質問集中、上原家は終始発言せず」を紹介しよう。
・『春の嵐のような強風が吹きすさんだ3月18日。東京・豊島区にある大正製薬の本社ホール周辺には、警備員と、10人弱の同社社員が並び、ものものしい雰囲気に包まれていた。 その日開かれたのは、約7100億円を投じてMBO(経営陣による買収)を実施した大正製薬ホールディングス(HD)の臨時株主総会だ。昨年末から今年1月、上原明社長の息子である上原茂副社長が代表を務める大手門株式会社が同社に対してTOB(株式公開買い付け)を実施。オーナー一族の上原家は、従来の保有分と合わせて約73%の株式を取得するに至っていた。 このTOBをめぐっては、1株8620円という買い付け価格に対して、ファンドなど一部の株主から「安すぎる」と問題視する声が上がっていた。TOB発表前営業日の終値に5割超のプレミアムをつけたとはいえ、PBR(株価純資産倍率)ベースでは0.85倍にとどまる価格だったからだ』、「ファンドなど一部の株主から「安すぎる」と問題視する声が上がっていた。TOB発表前営業日の終値に5割超のプレミアムをつけたとはいえ、PBRベースでは0.85倍にとどまる価格だったからだ」、なるほど。
・『現地参加の株主はわずか十数人 法的手段に訴えることを検討する株主も出てくる中、厳戒態勢で迎えた当日。ふたを開けてみると、現地に足を運んだ株主はわずか十数人だった。総会では、株式非公開化に向けた株式併合を進めることなどに関する議案がすべて可決され、4月9日に上場廃止となることが決まった』、「現地参加の株主はわずか十数人・・・株式非公開化に向けた株式併合を進めることなどに関する議案がすべて可決され、4月9日に上場廃止となることが決まった」、なるほど。
・『大正製薬ホールディングスの総会当日の様子 総会に参加した40代の男性は、父の代から50年以上、大正製薬の株式を保有していた。「最後くらい社長の声を聞きたい」と会社を休んで埼玉から足を運んだが、総会で明社長がコメントすることはなかったという。 「上場廃止によってオーナーの圧力が強まり、より閉鎖的になるのではないか」。男性はそう懸念を口にした。 国内過去最大とされるMBOに踏み切った大正製薬HDの株主総会は、どう進められたのか。関係者への取材によって見えてきた当日の様子をお届けする。) 総会は定刻の午前10時に始まり、まずMBOの目的や経緯を説明する動画が上映された。「機動的な意思決定を柔軟かつ迅速に実践できる経営体制の構築こそが必要不可欠」「株式上場に必要な費用が増加している」などと、非上場化を決めた理由が淡々と説明された。 続いて、黒田潤取締役からTOB価格の正当性などに関する説明や、事前質問の一部への回答が続いた。回答の中身は、おおよそこれまで開示資料で説明してきた情報の域を出ないものだった。 その後、開場での質疑応答が始まり、延べ8人からMBOの正当性などに関する質問が相次いだ。 とくに質問が集中したのは、TOB価格を決定するに至ったプロセスについてだった。株主であるアメリカの投資ファンド、キュリRMBキャピタルは、大正製薬HDがTOBに際して設置した特別委員会の独立性について問いただした。 特別委は、少数株主の利益保護の観点から、TOBの取引条件や手続きの妥当性について検証するために設置されるものだ。そのため本来は別途ファイナンシャル・アドバイザー(FA)などを雇い、独自にTOB価格を算出することが望ましいが、大正製薬HDのTOBにおける特別委はそれを行わず、取締役会が依頼したFAの算出価格を追認する形をとった』、「本来は別途ファイナンシャル・アドバイザー(FA)などを雇い、独自にTOB価格を算出することが望ましいが、大正製薬HDのTOBにおける特別委はそれを行わず、取締役会が依頼したFAの算出価格を追認する形をとった」、簡便な方法で済ませたようだ。
・『「大きな認識のギャップを感じた」 この点について、特別委の委員長を務めた松尾眞・大正製薬HD社外監査役は、自身に知見があることなどを挙げ、特別委の役割は十分果たせていたとした。 キュリRMBの細水政和パートナーは総会後、東洋経済の取材に「非常に大きな認識のギャップを感じた。委員個人の能力の問題以前に、善管注意義務を負う取締役と異なり、補完的な役割である監査役は責任を取れない立場にある。特別委として、(価格の正当性の説明について)責任を取れるリーガルアドバイザーやFAを雇うことは必須だったはずだ」と語った。 また、同じく株主である香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントは、大正製薬HDが当初、少数株主の過半数の支持を得ることを案件の成立条件とする「マジョリティー・オブ・マイノリティー(MOM)」を採用しようとしていた点を指摘。その採用を見送った理由について、大正製薬HD側は「インデックスファンドが買い付けに申し込まないことが想定されたため」などと説明する一方、詳細な経緯を再び問われると、開示義務がないことを理由に回答しなかった。) 質疑応答が始まって30分ほどが経過したころだった。突如、議長が「それでは時間も押してまいりましたので、次で最後の質問にさせていただきます」と発言。会場はややざわめき、抗議の声が上がったという。 その後、3人の質問者が当たったのちに質疑応答は終了した。前出の個人株主の男性は、「まだ質問したがっていた株主がいたにもかかわらず、(質疑応答が)打ち切られた」と振り返る。 議長が会場の株主に対し、議案に対する賛否を問うと、2人あまりが拍手をした。総会では明社長らが指名される場面もあったが、議案の内容と利害関係があることを理由に、最後までMBOを主導した上原一族が発言することはなかった。 大正製薬HDは「多くの株主様はTOBにご応募いただいており、今回の臨時株主総会での議案においても多数の賛同を得ていることから今回のMBOは適正」と東洋経済の取材にコメントした』、「大正製薬HDは」「今回のMBOは適正」と「コメントした」、執行側としてはそうコメントする他なさそうだ。
・『ファンド株主はすでに法的手段の準備 ただ総会が終わった今もなお、一部とはいえ、株主の疑問は解消されていない。 総会後の臨時報告書によると、総会で提案された株式併合と、それに伴う定款の一部変更に関する議案への賛成率はともに84.89%。TOBを経て上原家が73%の議決権を握っていることを考えると、TOBに応じなかった株主の過半が反対した計算になる。 キュリRMBはすでに、今回のTOB価格をめぐって法的手段に訴える準備を進めている。TOB価格に不服がある株主は、裁判所に適正価格を申し立てることができる。キュリRMB以外の複数の株主もこれに追随する可能性がある。 実際、2020年に実施された伊藤忠商事によるファミリーマートへのTOBでは、キュリRMBやオアシスなどの株主が裁判所へ価格決定の申し立てを行った。東京地方裁判所は株主側の主張を認め、TOB価格の増額が適正と判断したが、伊藤忠側は抗告しており、いまだに議論が続いている。 非上場化に向けた議案が可決かかるようだされたことで、大正製薬HDはあと2週間で約60年にわたる上場会社としての歴史に幕を閉じる。もっとも、上場廃止をもって一件落着、と結論づけるにはまだ早そうだ』、「2020年に実施された伊藤忠商事によるファミリーマートへのTOBでは、キュリRMBやオアシスなどの株主が裁判所へ価格決定の申し立てを行った。東京地方裁判所は株主側の主張を認め、TOB価格の増額が適正と判断したが、伊藤忠側は抗告しており、いまだに議論が続いている」、訴訟の決着には時間がかかりそうだ。
次に、3月30日付け日刊ゲンダイが掲載した金融ジャーナリストの小林佳樹氏による「大正製薬がMBOで非上場化へ…舞台裏では取引金融機関の激しい“つばぜり合い”が」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/338216
・『大正製薬ホールディングス(上原明社長)が東京都内で18日開催した臨時株主総会で、株式非公開化に向けた株式併合などの議案を可決した。東証スタンダード市場の上場は4月9日に廃止となる。 大正製薬HDは、オーナー家の上原茂副社長が代表を務める大手門(東京・豊島区)がMBO(経営陣が参加する買収)の一環として実施したTOB(株式公開買い付け)が1月に成立しており、株主総会での承認を受けて大正製薬HDの残り全株式を取得する手続きを進めることになる。 非上場化に合わせて大正製薬HDは上原茂氏が社長に昇格する予定だ。主力の一般用医薬品(大衆薬)が伸び悩むなか、非上場化でネット販売や海外展開を強化するとしている。 だが、このMBO、非上場化の舞台裏では、取引金融機関の激しいつばぜり合いがあったことは知られていない。「大正製薬のMBOは過去最大の約7000億円のディール。その巨額な買収資金をどこの銀行が融資するかが焦点だった」(メガバンク幹部)というのだ』、どういうことだろう。
・『三井住友銀行の「法皇」堀田庄三氏との血脈 大正製薬のメインバンクは三菱UFJ銀行。だが、同行が融資することにはならなかった。決め手となったのは大正製薬のオーナーである上原家と三井住友銀行の「法皇」と呼ばれ、戦後19年間にわたり住友銀行頭取、会長を務めた堀田庄三氏との血脈だった。 大正製薬HDの筆頭株主は2割近くを持つ上原記念生命科学財団、2位は上原明社長の父親の昭二名誉会長で、上原家で約4割の株式を保有している。この上原家保有分を含めMBOで株式を買い上げるのに、融資を依頼したのが三井住友銀行だった。 「実は明社長の実父は堀田庄三氏だ。堀田氏の次男であった明氏は、大正製薬の昭二氏の養子に入った経緯がある」(メガバンク幹部)とされる。さらに、昭二名誉会長の次女と結婚し、大正製薬の取締役を務めた大平明相談役は、大平正芳元首相の息子。まさに“華麗なる一族”の血脈で結ばれている。 「今回のMBO・非上場化の背景には、上原家の相続問題も影を落としている」(大手証券幹部)との指摘もある。まさに「血は水よりも濃し」ということか』、「大正製薬のメインバンク」と「オーナーである上原家」の取引銀行が「三菱UFJ銀行」と「三井住友銀行」とねじれていとは初めて知った。
第三に、3月29日付け東洋経済オンラインが掲載した金融ジャーナリストの伊藤 歩氏による「「ブラザー参戦」でもファンドを頼るローランドDG かつての親会社の非公開化でも登場のタイヨウ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/744090
・『投資ファンドのタイヨウ・パシフィック・パートナーズが、100%支配を目指して2月13日から実施している、サインプリンター大手のローランド ディー.ジー.(以下、DG)株式のTOB(株式公開買い付け)。 建前上はDGの田部耕平社長によるMBO(経営陣が参加する買収)となっているが、田部社長が非公開後に出資するのはわずか0.25~0.5%程度の予定。事実上タイヨウのスクイーズアウト(強制買い取り)による完全子会社化である。 当初は波乱なく終わるかに見えたが、3月13日にブラザー工業がDG側の同意を得ることなく対抗TOBを宣言。一気に雲行きが怪しくなってきた』、「事実上タイヨウのスクイーズアウト・・・による完全子会社化」に待ったをかけたのが「ブラザー工業」による「対抗TOB」だ。
・『TOB価格を修正しなかったタイヨウ ブラザーはタイヨウによるTOBが成立していないことを条件に、対抗TOBを仕掛ける。ブラザーからするとDGが強みを持つ産業印刷領域を補強できる。 TOB価格はタイヨウの5035円に対し、ブラザーは5200円を提示。競合状況次第ではさらなる引き上げも示唆したからか、DGの株価はブラザーの参戦宣言翌日の3月14日以降、5200円を大きく上回る水準にハネ上がり、3月21日には年初来高値5540円をつけた。 タイヨウは3月27日、この日までとしていたTOB期間を4月12日まで延長した。しかし、TOB価格は修正しなかった。株価がTOB価格を上回っている限り成立はほぼないにもかかわらず、である。) 一方のDGは必要な開示をしているとはいえ沈黙を守っている。2月のタイヨウによるTOB開始と同時に、個別の取材対応を停止。予定されていた決算説明会すら中止するほどの徹底ぶりだ。 真意は確認のしようがないが、タイヨウのTOB開始と同時にDGが公表した意見表明報告書の文面は、昨年9月にブラザーから買収提案を受けたため、DG側がタイヨウに救いを求めて駆け込んだように読める』、「TOB価格はタイヨウの5035円に対し、ブラザーは5200円を提示。競合状況次第ではさらなる引き上げも示唆したからか、DGの株価はブラザーの参戦宣言翌日の3月14日以降、5200円を大きく上回る水準にハネ上がり、3月21日には年初来高値5540円をつけた。 タイヨウは3月27日、この日までとしていたTOB期間を4月12日まで延長した。しかし、TOB価格は修正しなかった。株価がTOB価格を上回っている限り成立はほぼないにもかかわらず、である」、「タイヨウ」が「TOB価格は修正しなかった」のは何故だろう。
・『ローランドDGにブラザーが対抗TOBした経緯 買収提案を受けた場合、取締役会は、取締役会とは別に特別委員会を設置し、特別委は会社側とは異なるLA(リーガルアドバイザー)、FA(フィナンシャルアドバイザー)を雇うこと――。 昨年8月に経済産業省が公表した「企業買収における行動指針」(以下、指針)はそう推奨している。買収提案を受けた企業は、望まない相手からの提案でも真摯に検討すべしとしている。 だが、DGは特別委を設置しただけで、その特別委は会社側とは別のLAもFAも雇わなかった。そればかりか、ブラザーとTOB価格の交渉すらしないままタイヨウによるTOBに突入している。特別委がタイヨウならびにブラザーとの交渉に乗り出したのは、ブラザーの参戦宣言を受けてからだ』、「DGは特別委を設置しただけで、その特別委は会社側とは別のLAもFAも雇わなかった」、何故、このような簡便な方法で済まそうとしたのだろうか。「ブラザーとTOB価格の交渉すらしないままタイヨウによるTOBに突入している。特別委がタイヨウならびにブラザーとの交渉に乗り出したのは、ブラザーの参戦宣言を受けてからだ」、これも理由が理解できない。
・『特別委員会の独自の動きが見えない 特別委独自のLAとして西村あさひ法律事務所を雇ったのも3月22日のことだった。本来ならタイヨウによるTOB開始以前にやっているべきことだ。DGが開示したのはタイヨウがTOB期間延長を公表する前日の3月26日。つまり当初の買い付け期限の1日前だった。 さらに現時点では特別委独自のFAは雇っていない。また、かねてDG経営陣が主張している「ブラザー相手では『ディスシナジー』が発生する懸念がある」という主張を特別委も支持している。そのディスシナジーとは何なのかの具体的な説明もいまだにしていない。 そもそもDGがタイヨウ以外に買収候補者として声をかけた対象は2社あるのだが、そのいずれもがファンドであって事業会社ではない。) ファンドによる買収は基本、LBO(レバレッジドバイアウト)になる。LBOとは、買収するファンドが設立したペーパーカンパニーが、ファンドからの出資と借入金で買収資金を調達し、最終的には借入金を買収する会社に負担させる手法だ。 具体的には、ペーパーカンパニーは非公開化後、買った会社と合併し、借金を買った会社にツケ回す。つまり買われた会社は買収者が借りた多額の借金を背負わされる。事業会社による買収では、事業会社自身が資金調達をするので、基本、LBOにはしない。つまり買われた会社は借金を背負わされない。 タイヨウは今回の買収費用642億円のうち、出資は200億円だけ。残る442億円は借金だ。非公開化後にペーパーカンパニーが非公開化後のDGと合併するのかどうかの記載は公開買付届出書にはない。だが定石通り合併すれば、年商540億円のDGが、442億円もの借金を背負うことになる』、「定石通り合併すれば、年商540億円のDGが、442億円もの借金を背負うことになる」、こんなに企業財務を悪化させる狙いは何なのだろう。
・『代償として残る借金の重み DGは2022年12月期までは実質無借金だったが、タイ工場と本社の新築費用調達のため、2023年12月期末時点で28億円の有利子負債がある。そこへ442億円がのしかかるのだ。 それでもファンドに買われるほうが、会社の成長にとっても、一般株主にとっても利があるというのなら、その説明が要る。 タイヨウは2014年、DGの親会社だった電子楽器メーカーのローランドを非公開化したファンドでもある。 総額437億円の買収費用のうち、タイヨウによる出資は112億円で、残る325億円は借金で賄った。当然のようにペーパーカンパニーは非公開化後のローランドと合併し、借金をローランドにツケ回した。 そのローランドにツケ回された325億円の借金のうち、114億円はDGが肩代わりしたも同然だった。当時ローランドが保有していたDG株式の半分を、DGに114億円で自己株取得させたのだ。) つまりタイヨウが支配するローランドは、DGから114億円を吸い上げて、買収資金として借りた借金の返済に充てたのだ。 2014年の自己株取得の際にDGは、「ローランドからの事業活動や経営判断における独立性を一層確立できることが企業価値向上に資する」と説明していた。 ただ、この自己株取得のために、当時実質無借金だったDGは72億円の借金をした。この借金をDGが完済したのは2年前だ。2016年5月にも、ローランドはDG株式をDGに自己株取得させて34億円を吸い上げている。 さらにタイヨウは、ローランド再上場前の2018年に107億円、2019年に25億円、計132億円の配当金をローランドから引き出している』、「タイヨウ」と「DG」、「ローランド」の関係は複雑怪奇で理解し難い。残念ながら錬金術を解き明かすことは出来なかった。
・『タイヨウの「実績」には疑問符 タイヨウはローランド再上場時の株式売り出しでは355億円を手にした。再上場から1年後の2021年12月、米国系ファンドのミネルバ・グロース・キャピタルに一部売却した際には167億円を得た。それらは外部の投資家から得たものであり、とやかく言う筋合いのものではない。 だが、非公開化に伴う325億円の借金はローランドが負い、DGには2回の自己株取得で計148億円を負担させた。このような「実績」を持つタイヨウを、なぜDGは頼るのか。 DGは3月26日、株主への応募推奨を取り下げた。タイヨウに対しTOB価格を引き上げる可能性があるかを問い、検討中である旨の回答は得たものの、具体的な回答を得られなかったというのがその理由だ。 だが、依然としてタイヨウによるTOBへの賛同意見は変えていない。なぜタイヨウなのか。投資家を納得させるだけの説明が求められることは言うまでもない。 ローランド ディー.ジー.の株価・業績 は「四季報オンライン」で』、前述の通り、「タイヨウ」と「DG」、「ローランド」の関係が全ても鍵を握っているが、解明出来ないのは腹立たしい限りだ。
先ずは、本年3月27日付け東洋経済オンライン「大正製薬、「安すぎるMBO」批判くすぶる総会の中身 決定過程への質問集中、上原家は終始発言せず」を紹介しよう。
・『春の嵐のような強風が吹きすさんだ3月18日。東京・豊島区にある大正製薬の本社ホール周辺には、警備員と、10人弱の同社社員が並び、ものものしい雰囲気に包まれていた。 その日開かれたのは、約7100億円を投じてMBO(経営陣による買収)を実施した大正製薬ホールディングス(HD)の臨時株主総会だ。昨年末から今年1月、上原明社長の息子である上原茂副社長が代表を務める大手門株式会社が同社に対してTOB(株式公開買い付け)を実施。オーナー一族の上原家は、従来の保有分と合わせて約73%の株式を取得するに至っていた。 このTOBをめぐっては、1株8620円という買い付け価格に対して、ファンドなど一部の株主から「安すぎる」と問題視する声が上がっていた。TOB発表前営業日の終値に5割超のプレミアムをつけたとはいえ、PBR(株価純資産倍率)ベースでは0.85倍にとどまる価格だったからだ』、「ファンドなど一部の株主から「安すぎる」と問題視する声が上がっていた。TOB発表前営業日の終値に5割超のプレミアムをつけたとはいえ、PBRベースでは0.85倍にとどまる価格だったからだ」、なるほど。
・『現地参加の株主はわずか十数人 法的手段に訴えることを検討する株主も出てくる中、厳戒態勢で迎えた当日。ふたを開けてみると、現地に足を運んだ株主はわずか十数人だった。総会では、株式非公開化に向けた株式併合を進めることなどに関する議案がすべて可決され、4月9日に上場廃止となることが決まった』、「現地参加の株主はわずか十数人・・・株式非公開化に向けた株式併合を進めることなどに関する議案がすべて可決され、4月9日に上場廃止となることが決まった」、なるほど。
・『大正製薬ホールディングスの総会当日の様子 総会に参加した40代の男性は、父の代から50年以上、大正製薬の株式を保有していた。「最後くらい社長の声を聞きたい」と会社を休んで埼玉から足を運んだが、総会で明社長がコメントすることはなかったという。 「上場廃止によってオーナーの圧力が強まり、より閉鎖的になるのではないか」。男性はそう懸念を口にした。 国内過去最大とされるMBOに踏み切った大正製薬HDの株主総会は、どう進められたのか。関係者への取材によって見えてきた当日の様子をお届けする。) 総会は定刻の午前10時に始まり、まずMBOの目的や経緯を説明する動画が上映された。「機動的な意思決定を柔軟かつ迅速に実践できる経営体制の構築こそが必要不可欠」「株式上場に必要な費用が増加している」などと、非上場化を決めた理由が淡々と説明された。 続いて、黒田潤取締役からTOB価格の正当性などに関する説明や、事前質問の一部への回答が続いた。回答の中身は、おおよそこれまで開示資料で説明してきた情報の域を出ないものだった。 その後、開場での質疑応答が始まり、延べ8人からMBOの正当性などに関する質問が相次いだ。 とくに質問が集中したのは、TOB価格を決定するに至ったプロセスについてだった。株主であるアメリカの投資ファンド、キュリRMBキャピタルは、大正製薬HDがTOBに際して設置した特別委員会の独立性について問いただした。 特別委は、少数株主の利益保護の観点から、TOBの取引条件や手続きの妥当性について検証するために設置されるものだ。そのため本来は別途ファイナンシャル・アドバイザー(FA)などを雇い、独自にTOB価格を算出することが望ましいが、大正製薬HDのTOBにおける特別委はそれを行わず、取締役会が依頼したFAの算出価格を追認する形をとった』、「本来は別途ファイナンシャル・アドバイザー(FA)などを雇い、独自にTOB価格を算出することが望ましいが、大正製薬HDのTOBにおける特別委はそれを行わず、取締役会が依頼したFAの算出価格を追認する形をとった」、簡便な方法で済ませたようだ。
・『「大きな認識のギャップを感じた」 この点について、特別委の委員長を務めた松尾眞・大正製薬HD社外監査役は、自身に知見があることなどを挙げ、特別委の役割は十分果たせていたとした。 キュリRMBの細水政和パートナーは総会後、東洋経済の取材に「非常に大きな認識のギャップを感じた。委員個人の能力の問題以前に、善管注意義務を負う取締役と異なり、補完的な役割である監査役は責任を取れない立場にある。特別委として、(価格の正当性の説明について)責任を取れるリーガルアドバイザーやFAを雇うことは必須だったはずだ」と語った。 また、同じく株主である香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントは、大正製薬HDが当初、少数株主の過半数の支持を得ることを案件の成立条件とする「マジョリティー・オブ・マイノリティー(MOM)」を採用しようとしていた点を指摘。その採用を見送った理由について、大正製薬HD側は「インデックスファンドが買い付けに申し込まないことが想定されたため」などと説明する一方、詳細な経緯を再び問われると、開示義務がないことを理由に回答しなかった。) 質疑応答が始まって30分ほどが経過したころだった。突如、議長が「それでは時間も押してまいりましたので、次で最後の質問にさせていただきます」と発言。会場はややざわめき、抗議の声が上がったという。 その後、3人の質問者が当たったのちに質疑応答は終了した。前出の個人株主の男性は、「まだ質問したがっていた株主がいたにもかかわらず、(質疑応答が)打ち切られた」と振り返る。 議長が会場の株主に対し、議案に対する賛否を問うと、2人あまりが拍手をした。総会では明社長らが指名される場面もあったが、議案の内容と利害関係があることを理由に、最後までMBOを主導した上原一族が発言することはなかった。 大正製薬HDは「多くの株主様はTOBにご応募いただいており、今回の臨時株主総会での議案においても多数の賛同を得ていることから今回のMBOは適正」と東洋経済の取材にコメントした』、「大正製薬HDは」「今回のMBOは適正」と「コメントした」、執行側としてはそうコメントする他なさそうだ。
・『ファンド株主はすでに法的手段の準備 ただ総会が終わった今もなお、一部とはいえ、株主の疑問は解消されていない。 総会後の臨時報告書によると、総会で提案された株式併合と、それに伴う定款の一部変更に関する議案への賛成率はともに84.89%。TOBを経て上原家が73%の議決権を握っていることを考えると、TOBに応じなかった株主の過半が反対した計算になる。 キュリRMBはすでに、今回のTOB価格をめぐって法的手段に訴える準備を進めている。TOB価格に不服がある株主は、裁判所に適正価格を申し立てることができる。キュリRMB以外の複数の株主もこれに追随する可能性がある。 実際、2020年に実施された伊藤忠商事によるファミリーマートへのTOBでは、キュリRMBやオアシスなどの株主が裁判所へ価格決定の申し立てを行った。東京地方裁判所は株主側の主張を認め、TOB価格の増額が適正と判断したが、伊藤忠側は抗告しており、いまだに議論が続いている。 非上場化に向けた議案が可決かかるようだされたことで、大正製薬HDはあと2週間で約60年にわたる上場会社としての歴史に幕を閉じる。もっとも、上場廃止をもって一件落着、と結論づけるにはまだ早そうだ』、「2020年に実施された伊藤忠商事によるファミリーマートへのTOBでは、キュリRMBやオアシスなどの株主が裁判所へ価格決定の申し立てを行った。東京地方裁判所は株主側の主張を認め、TOB価格の増額が適正と判断したが、伊藤忠側は抗告しており、いまだに議論が続いている」、訴訟の決着には時間がかかりそうだ。
次に、3月30日付け日刊ゲンダイが掲載した金融ジャーナリストの小林佳樹氏による「大正製薬がMBOで非上場化へ…舞台裏では取引金融機関の激しい“つばぜり合い”が」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/338216
・『大正製薬ホールディングス(上原明社長)が東京都内で18日開催した臨時株主総会で、株式非公開化に向けた株式併合などの議案を可決した。東証スタンダード市場の上場は4月9日に廃止となる。 大正製薬HDは、オーナー家の上原茂副社長が代表を務める大手門(東京・豊島区)がMBO(経営陣が参加する買収)の一環として実施したTOB(株式公開買い付け)が1月に成立しており、株主総会での承認を受けて大正製薬HDの残り全株式を取得する手続きを進めることになる。 非上場化に合わせて大正製薬HDは上原茂氏が社長に昇格する予定だ。主力の一般用医薬品(大衆薬)が伸び悩むなか、非上場化でネット販売や海外展開を強化するとしている。 だが、このMBO、非上場化の舞台裏では、取引金融機関の激しいつばぜり合いがあったことは知られていない。「大正製薬のMBOは過去最大の約7000億円のディール。その巨額な買収資金をどこの銀行が融資するかが焦点だった」(メガバンク幹部)というのだ』、どういうことだろう。
・『三井住友銀行の「法皇」堀田庄三氏との血脈 大正製薬のメインバンクは三菱UFJ銀行。だが、同行が融資することにはならなかった。決め手となったのは大正製薬のオーナーである上原家と三井住友銀行の「法皇」と呼ばれ、戦後19年間にわたり住友銀行頭取、会長を務めた堀田庄三氏との血脈だった。 大正製薬HDの筆頭株主は2割近くを持つ上原記念生命科学財団、2位は上原明社長の父親の昭二名誉会長で、上原家で約4割の株式を保有している。この上原家保有分を含めMBOで株式を買い上げるのに、融資を依頼したのが三井住友銀行だった。 「実は明社長の実父は堀田庄三氏だ。堀田氏の次男であった明氏は、大正製薬の昭二氏の養子に入った経緯がある」(メガバンク幹部)とされる。さらに、昭二名誉会長の次女と結婚し、大正製薬の取締役を務めた大平明相談役は、大平正芳元首相の息子。まさに“華麗なる一族”の血脈で結ばれている。 「今回のMBO・非上場化の背景には、上原家の相続問題も影を落としている」(大手証券幹部)との指摘もある。まさに「血は水よりも濃し」ということか』、「大正製薬のメインバンク」と「オーナーである上原家」の取引銀行が「三菱UFJ銀行」と「三井住友銀行」とねじれていとは初めて知った。
第三に、3月29日付け東洋経済オンラインが掲載した金融ジャーナリストの伊藤 歩氏による「「ブラザー参戦」でもファンドを頼るローランドDG かつての親会社の非公開化でも登場のタイヨウ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/744090
・『投資ファンドのタイヨウ・パシフィック・パートナーズが、100%支配を目指して2月13日から実施している、サインプリンター大手のローランド ディー.ジー.(以下、DG)株式のTOB(株式公開買い付け)。 建前上はDGの田部耕平社長によるMBO(経営陣が参加する買収)となっているが、田部社長が非公開後に出資するのはわずか0.25~0.5%程度の予定。事実上タイヨウのスクイーズアウト(強制買い取り)による完全子会社化である。 当初は波乱なく終わるかに見えたが、3月13日にブラザー工業がDG側の同意を得ることなく対抗TOBを宣言。一気に雲行きが怪しくなってきた』、「事実上タイヨウのスクイーズアウト・・・による完全子会社化」に待ったをかけたのが「ブラザー工業」による「対抗TOB」だ。
・『TOB価格を修正しなかったタイヨウ ブラザーはタイヨウによるTOBが成立していないことを条件に、対抗TOBを仕掛ける。ブラザーからするとDGが強みを持つ産業印刷領域を補強できる。 TOB価格はタイヨウの5035円に対し、ブラザーは5200円を提示。競合状況次第ではさらなる引き上げも示唆したからか、DGの株価はブラザーの参戦宣言翌日の3月14日以降、5200円を大きく上回る水準にハネ上がり、3月21日には年初来高値5540円をつけた。 タイヨウは3月27日、この日までとしていたTOB期間を4月12日まで延長した。しかし、TOB価格は修正しなかった。株価がTOB価格を上回っている限り成立はほぼないにもかかわらず、である。) 一方のDGは必要な開示をしているとはいえ沈黙を守っている。2月のタイヨウによるTOB開始と同時に、個別の取材対応を停止。予定されていた決算説明会すら中止するほどの徹底ぶりだ。 真意は確認のしようがないが、タイヨウのTOB開始と同時にDGが公表した意見表明報告書の文面は、昨年9月にブラザーから買収提案を受けたため、DG側がタイヨウに救いを求めて駆け込んだように読める』、「TOB価格はタイヨウの5035円に対し、ブラザーは5200円を提示。競合状況次第ではさらなる引き上げも示唆したからか、DGの株価はブラザーの参戦宣言翌日の3月14日以降、5200円を大きく上回る水準にハネ上がり、3月21日には年初来高値5540円をつけた。 タイヨウは3月27日、この日までとしていたTOB期間を4月12日まで延長した。しかし、TOB価格は修正しなかった。株価がTOB価格を上回っている限り成立はほぼないにもかかわらず、である」、「タイヨウ」が「TOB価格は修正しなかった」のは何故だろう。
・『ローランドDGにブラザーが対抗TOBした経緯 買収提案を受けた場合、取締役会は、取締役会とは別に特別委員会を設置し、特別委は会社側とは異なるLA(リーガルアドバイザー)、FA(フィナンシャルアドバイザー)を雇うこと――。 昨年8月に経済産業省が公表した「企業買収における行動指針」(以下、指針)はそう推奨している。買収提案を受けた企業は、望まない相手からの提案でも真摯に検討すべしとしている。 だが、DGは特別委を設置しただけで、その特別委は会社側とは別のLAもFAも雇わなかった。そればかりか、ブラザーとTOB価格の交渉すらしないままタイヨウによるTOBに突入している。特別委がタイヨウならびにブラザーとの交渉に乗り出したのは、ブラザーの参戦宣言を受けてからだ』、「DGは特別委を設置しただけで、その特別委は会社側とは別のLAもFAも雇わなかった」、何故、このような簡便な方法で済まそうとしたのだろうか。「ブラザーとTOB価格の交渉すらしないままタイヨウによるTOBに突入している。特別委がタイヨウならびにブラザーとの交渉に乗り出したのは、ブラザーの参戦宣言を受けてからだ」、これも理由が理解できない。
・『特別委員会の独自の動きが見えない 特別委独自のLAとして西村あさひ法律事務所を雇ったのも3月22日のことだった。本来ならタイヨウによるTOB開始以前にやっているべきことだ。DGが開示したのはタイヨウがTOB期間延長を公表する前日の3月26日。つまり当初の買い付け期限の1日前だった。 さらに現時点では特別委独自のFAは雇っていない。また、かねてDG経営陣が主張している「ブラザー相手では『ディスシナジー』が発生する懸念がある」という主張を特別委も支持している。そのディスシナジーとは何なのかの具体的な説明もいまだにしていない。 そもそもDGがタイヨウ以外に買収候補者として声をかけた対象は2社あるのだが、そのいずれもがファンドであって事業会社ではない。) ファンドによる買収は基本、LBO(レバレッジドバイアウト)になる。LBOとは、買収するファンドが設立したペーパーカンパニーが、ファンドからの出資と借入金で買収資金を調達し、最終的には借入金を買収する会社に負担させる手法だ。 具体的には、ペーパーカンパニーは非公開化後、買った会社と合併し、借金を買った会社にツケ回す。つまり買われた会社は買収者が借りた多額の借金を背負わされる。事業会社による買収では、事業会社自身が資金調達をするので、基本、LBOにはしない。つまり買われた会社は借金を背負わされない。 タイヨウは今回の買収費用642億円のうち、出資は200億円だけ。残る442億円は借金だ。非公開化後にペーパーカンパニーが非公開化後のDGと合併するのかどうかの記載は公開買付届出書にはない。だが定石通り合併すれば、年商540億円のDGが、442億円もの借金を背負うことになる』、「定石通り合併すれば、年商540億円のDGが、442億円もの借金を背負うことになる」、こんなに企業財務を悪化させる狙いは何なのだろう。
・『代償として残る借金の重み DGは2022年12月期までは実質無借金だったが、タイ工場と本社の新築費用調達のため、2023年12月期末時点で28億円の有利子負債がある。そこへ442億円がのしかかるのだ。 それでもファンドに買われるほうが、会社の成長にとっても、一般株主にとっても利があるというのなら、その説明が要る。 タイヨウは2014年、DGの親会社だった電子楽器メーカーのローランドを非公開化したファンドでもある。 総額437億円の買収費用のうち、タイヨウによる出資は112億円で、残る325億円は借金で賄った。当然のようにペーパーカンパニーは非公開化後のローランドと合併し、借金をローランドにツケ回した。 そのローランドにツケ回された325億円の借金のうち、114億円はDGが肩代わりしたも同然だった。当時ローランドが保有していたDG株式の半分を、DGに114億円で自己株取得させたのだ。) つまりタイヨウが支配するローランドは、DGから114億円を吸い上げて、買収資金として借りた借金の返済に充てたのだ。 2014年の自己株取得の際にDGは、「ローランドからの事業活動や経営判断における独立性を一層確立できることが企業価値向上に資する」と説明していた。 ただ、この自己株取得のために、当時実質無借金だったDGは72億円の借金をした。この借金をDGが完済したのは2年前だ。2016年5月にも、ローランドはDG株式をDGに自己株取得させて34億円を吸い上げている。 さらにタイヨウは、ローランド再上場前の2018年に107億円、2019年に25億円、計132億円の配当金をローランドから引き出している』、「タイヨウ」と「DG」、「ローランド」の関係は複雑怪奇で理解し難い。残念ながら錬金術を解き明かすことは出来なかった。
・『タイヨウの「実績」には疑問符 タイヨウはローランド再上場時の株式売り出しでは355億円を手にした。再上場から1年後の2021年12月、米国系ファンドのミネルバ・グロース・キャピタルに一部売却した際には167億円を得た。それらは外部の投資家から得たものであり、とやかく言う筋合いのものではない。 だが、非公開化に伴う325億円の借金はローランドが負い、DGには2回の自己株取得で計148億円を負担させた。このような「実績」を持つタイヨウを、なぜDGは頼るのか。 DGは3月26日、株主への応募推奨を取り下げた。タイヨウに対しTOB価格を引き上げる可能性があるかを問い、検討中である旨の回答は得たものの、具体的な回答を得られなかったというのがその理由だ。 だが、依然としてタイヨウによるTOBへの賛同意見は変えていない。なぜタイヨウなのか。投資家を納得させるだけの説明が求められることは言うまでもない。 ローランド ディー.ジー.の株価・業績 は「四季報オンライン」で』、前述の通り、「タイヨウ」と「DG」、「ローランド」の関係が全ても鍵を握っているが、解明出来ないのは腹立たしい限りだ。
タグ:MBO(マネジメント バイアウト) (その1)(大正製薬 「安すぎるMBO」批判くすぶる総会の中身 決定過程への質問集中 上原家は終始発言せず、大正製薬がMBOで非上場化へ…舞台裏では取引金融機関の激しい“つばぜり合い”が、「ブラザー参戦」でもファンドを頼るローランドDG かつての親会社の非公開化でも登場のタイヨウ、ブラザーによる“同意なきTOB”にローランドDG役員が憂慮「営業利益50億円減のインパクト」、社員の賛否は?) 東洋経済オンライン「大正製薬、「安すぎるMBO」批判くすぶる総会の中身 決定過程への質問集中、上原家は終始発言せず」 「ファンドなど一部の株主から「安すぎる」と問題視する声が上がっていた。TOB発表前営業日の終値に5割超のプレミアムをつけたとはいえ、PBRベースでは0.85倍にとどまる価格だったからだ」、なるほど。 「現地参加の株主はわずか十数人・・・株式非公開化に向けた株式併合を進めることなどに関する議案がすべて可決され、4月9日に上場廃止となることが決まった」、なるほど。 「本来は別途ファイナンシャル・アドバイザー(FA)などを雇い、独自にTOB価格を算出することが望ましいが、大正製薬HDのTOBにおける特別委はそれを行わず、取締役会が依頼したFAの算出価格を追認する形をとった」、簡便な方法で済ませたようだ。 「大正製薬HDは」「今回のMBOは適正」と「コメントした」、執行側としてはそうコメントする他なさそうだ。 「2020年に実施された伊藤忠商事によるファミリーマートへのTOBでは、キュリRMBやオアシスなどの株主が裁判所へ価格決定の申し立てを行った。東京地方裁判所は株主側の主張を認め、TOB価格の増額が適正と判断したが、伊藤忠側は抗告しており、いまだに議論が続いている」、訴訟の決着には時間がかかりそうだ。 日刊ゲンダイ 小林佳樹氏による「大正製薬がMBOで非上場化へ…舞台裏では取引金融機関の激しい“つばぜり合い”が」 どういうことだろう。 「大正製薬のメインバンク」と「オーナーである上原家」の取引銀行が「三菱UFJ銀行」と「三井住友銀行」とねじれていとは初めて知った。 東洋経済オンライン 伊藤 歩氏による「「ブラザー参戦」でもファンドを頼るローランドDG かつての親会社の非公開化でも登場のタイヨウ」 「事実上タイヨウのスクイーズアウト・・・による完全子会社化」に待ったをかけたのが「ブラザー工業」による「対抗TOB」だ。 「TOB価格はタイヨウの5035円に対し、ブラザーは5200円を提示。競合状況次第ではさらなる引き上げも示唆したからか、DGの株価はブラザーの参戦宣言翌日の3月14日以降、5200円を大きく上回る水準にハネ上がり、3月21日には年初来高値5540円をつけた。 タイヨウは3月27日、この日までとしていたTOB期間を4月12日まで延長した。しかし、TOB価格は修正しなかった。株価がTOB価格を上回っている限り成立はほぼないにもかかわらず、である」、「タイヨウ」が「TOB価格は修正しなかった」のは何故だろう。 「DGは特別委を設置しただけで、その特別委は会社側とは別のLAもFAも雇わなかった」、何故、このような簡便な方法で済まそうとしたのだろうか。「ブラザーとTOB価格の交渉すらしないままタイヨウによるTOBに突入している。特別委がタイヨウならびにブラザーとの交渉に乗り出したのは、ブラザーの参戦宣言を受けてからだ」、これも理由が理解できない。 「定石通り合併すれば、年商540億円のDGが、442億円もの借金を背負うことになる」、こんなに企業財務を悪化させる狙いは何なのだろう。 「タイヨウ」と「DG」、「ローランド」の関係は複雑怪奇で理解し難い。残念ながら錬金術を解き明かすことは出来なかった。 前述の通り、「タイヨウ」と「DG」、「ローランド」の関係が全ても鍵を握っているが、解明出来ないのは腹立たしい限りだ。
海外事業(海外投資)(その3)(ローランドの「脱毛サロン」がマレーシアで大失敗…原因は日本と異なる「意外な事情」のせいだった!、ローランドのマレーシア進出は「甘すぎる」と断言できる「確かな理由」 あらゆる違いを理解していない、「USスチール買収」摩擦は特殊ケース、日本企業の北米投資10兆円はアジア向けの2倍以上) [企業経営]
海外事業(海外投資)については、2021年6月6日に取上げた。今日は、(その3)(ローランドの「脱毛サロン」がマレーシアで大失敗…原因は日本と異なる「意外な事情」のせいだった!、ローランドのマレーシア進出は「甘すぎる」と断言できる「確かな理由」 あらゆる違いを理解していない、「USスチール買収」摩擦は特殊ケース、日本企業の北米投資10兆円はアジア向けの2倍以上)である。
先ずは、昨年8月23日付け現代ビジネスが掲載したフリージャーナリストの片岡 亮氏による「ローランドの「脱毛サロン」がマレーシアで大失敗…原因は日本と異なる「意外な事情」のせいだった!」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/114775?imp=0
・『事情が違うマレーシアの「モール」 ホストで実業家のローランド氏が、自身のYouTubeチャンネルで、「完全にやられた…6000万円がパァになった流れ全部公開します」と題する動画を公開、マレーシアの新しいショッピングモールに脱毛サロンを出店しようとして工事費用を出したが、集客の少ない現場を見て断念したという話を伝えた。 独特のキャラクターを売ってタレント活動をしている人物が、動画番組で大きく伝えているという話は正直、どこまでが本当の話か分からないところがある。 だから、この特定のケースそのものについての分析や原因追及をする気はまったくないが、唯一、出店先の新しいモールの集客が弱く、客足以前にテナント数も少ない状態だという部分、これは異常でも何でもない。マレーシアでは普通の光景だという指摘はできる。 筆者は2018年からマレーシアに自宅とオフィスを持ち、日本と往復して取材活動をしているが、5年程度の現地生活でも、そこはハッキリ分かる。 基本的にマレーシアでは、「ソフト・オープニング」とも呼ばれる助走期間を作ることが多いからだ。過去、レストラン開店などの取材でも何度も見てきたし、ほかの新しいモールのほとんどで見られてきた。) 日本では「ショッピングモールが新規開店」と聞くと、最初からテナントがすべて揃って、それを待っていた客が初日に殺到するようなものを想像するだろうが、マレーシアでは違う。 後進国からの急発展で、建築が予定どおり進まない事情から、テナントはオープンから少しづつ増えていく。出店予定のテナントはしばらく広告の壁で覆われた状態になり、当初のオープン予定が3カ月以上も遅れることが珍しくはない。 たとえば、昨年1月、東南アジア初となる日系ショッピングモール「ららぽーと」でも、かなり大規模なスペースながら、開店時にはテナントの半分も開いていなかった』、「マレーシアでは違う。 後進国からの急発展で、建築が予定どおり進まない事情から、テナントはオープンから少しづつ増えていく。出店予定のテナントはしばらく広告の壁で覆われた状態になり、当初のオープン予定が3カ月以上も遅れることが珍しくはない。 たとえば、昨年1月、東南アジア初となる日系ショッピングモール「ららぽーと」でも、かなり大規模なスペースながら、開店時にはテナントの半分も開いていなかった」、ずいぶん日本とは事情が違うようだ。
・『オープンして一年以上たつのに、テナントが入っていないモール 多くは「出店予定」の広告壁になったまま、いずれ揃うことは伝わったが、モール不可欠のフードコートでさえ数店しかオープンしておらず、集客はまだこれからという状態だった。 ローランド氏が、もし最初から完全にテナントが埋まって客が殺到した状態などでスタートすると思っていて、そう説明を受けていたのなら、見通しが甘すぎると言わざるを得ない。 日本とマレーシアのこの違いは、不動産業界でも見られるという。【後編】『ローランドのマレーシア進出は「甘すぎる」と断言できる「確かな理由」』では、それについて詳しく説明し、ローランド氏が失敗した原因をさらに解説する』、「ローランド氏が、もし最初から完全にテナントが埋まって客が殺到した状態などでスタートすると思っていて、そう説明を受けていたのなら、見通しが甘すぎると言わざるを得ない」、後編をさらに見てみよう。
次に、続きを昨年8月23日付け現代ビジネスが掲載したフリージャーナリストの片岡 亮氏による「ローランドのマレーシア進出は「甘すぎる」と断言できる「確かな理由」 あらゆる違いを理解していない」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/114776?imp=0
・『ホストで実業家のローランド氏が、自身のYouTubeチャンネルで、「完全にやられた…6000万円がパァになった流れ全部公開します」と題する動画を公開、マレーシアの新しいショッピングモールに脱毛サロンを出店しようとして工事費用を出したが、集客の少ない現場を見て断念したという話を伝えた』、どうも海外投資、特にマレーシア投資の基本的知識の欠如が、致命的な判断ミスを招いてしまったようだ。
・『オープンして1年以上、経つのにテナントが入っていないモール この失敗は、日本とマレーシアで、テナントがショッピングモールに入るスピード感が異なることが原因だった。マレーシアではモールがオープンしてもすぐにはテナントが埋まらず、日本でイメージされるような「開店と同時に客が殺到する」ことはない。 【前編】『ローランドの「脱毛サロン」がマレーシアで大失敗…原因は日本と異なる「意外な事情」のせいだった!』、「ローランド」氏は余りにも現地事情に疎いようだが、誰かと相談したのだろうか。
・『マレーシアの不動産事情 これは不動産業界でも日本との違いが言われることがある。 たとえばコンドミニアム(分譲マンション)では販売時、1階部分に人気ファストフードやカフェなどが並んで人々が行き交う予想写真が広告に載せられるが、実際の入居時にはテナントがガラ空き状態になっていることが多い。 それは当たり前のことだから、「話が違う!」と怒る人はいない。 「逆にマレーシアの新築マンションは、必ずしも新築時に買うことがベストではないです。新築だと何か不具合があったり、予想外の問題が起きることもあるので、その様子を見てから慎重に買う人々も少なくないんです」(クアラルンプールの不動産エージェント、ジェニファー・リン氏)』、「マレーシアの新築マンションは、必ずしも新築時に買うことがベストではないです。新築だと何か不具合があったり、予想外の問題が起きることもあるので、その様子を見てから慎重に買う人々も少なくない」、なるほど。
・『日本人と違う生活スタイルも考慮しなければならない そもそもローランド氏が出店しようとしていた7月下旬オープンの「J・バリュー・モール」は特殊な部類で、確実に盛況となるかは断言できない類だ。 クアラルンプールのペタリン・ジャヤという立地は悪くないが、なにしろ「日本のレストランや店が中心の日本専門モール」というコンセプトだからだ。 マレーシアは大の親日国で、アニメや旅行、日本食が大人気ではあるのだが、国民7割のマレー系は、日本人とは違う生活スタイルを持つイスラム教徒。衣類も違うし、食事はハラル限定で、モールに行く理由は日本文化を楽しむためだけではない。 すでにクアラルンプールには伊勢丹が存在するが、あまりに日本色を出しすぎたやりかたで集客に苦戦する失敗例となった。 最近、ドン・キホーテが続々とモール内に出店して人気だが、これも一般的なモール内にある店舗のひとつだから客を集められている面があり、モールが日本一色になると、客層を選んでしまう。日系スーパーマーケットの大手イオンでさえ、日本製品コーナーや弁当を置いてはいるが、決してジャパン色が主体ではない。 もちろん、「J・バリュー・モール」が、新たな日本好きスポットとして人気になる可能性は十分あるが、筆者のマレーシア人の友人たちの間で話題にはなっておらず、むしろ数少ないマレーシア在住の日本人が喜ぶような話題だ。 いずれにしても、海外に出店するならば、最低限、現地の特色は知っておかないと「話が違う!」ということになるのは必然だ。) 人種も文化も習慣もすべて違うのだから、「日本で売れているものだから場所が変わっても売れる」なんて話にはならない。逆にマレーシアで人気のものを、そのまま日本で展開しても成功する確率は低いのと同じだ。 筆者はアメリカで商社マンの経験があり、中国やインドネシアとの取引をした経験があるが、まず徹底したのは市場調査だった。もし、その努力をせず、現地の人から良い話だけを聞き、それを鵜呑みにして「これは儲かるぞ」などと思って手を出したなら、それはあまりにビジネスとしても未熟。 大手ファストフードやレストランチェーンの出店であれば、事前に入念な市場調査をしている。たとえば、アメリカやマレーシアなど多民族がいる国では、ときに店で接客する人の人種まで選ぶ。マジョリティだけでなく、東洋系やインド系など複数の人種を揃えておくと、客が印象的に入りやすくなることがあるからだ。 ちなみに美容関係でも日本との違いがあり、たとえばVIO脱毛はブラジリアン脱毛と呼ぶことが多い。イスラム教徒はアンダーヘアの処理をすることが常識となっているため市場は大きく、すでに日系企業も進出している。 破格の6000万円も出資して本気でマレーシア進出を考えていたならば、「J・バリュー・モール」にこだわらずとも、別の選択はたくさんあり、もっとしっかり現地事情を把握してから乗り出せば「モールに人がいない!」なんて慌てるレベルの失敗はまずないだろう』、「「J・バリュー・モール」は特殊な部類で、確実に盛況となるかは断言できない類だ。 クアラルンプールのペタリン・ジャヤという立地は悪くないが、なにしろ「日本のレストランや店が中心の日本専門モール」というコンセプトだからだ・・・筆者のマレーシア人の友人たちの間で話題にはなっておらず、むしろ数少ないマレーシア在住の日本人が喜ぶような話題だ・・・伊勢丹が存在するが、あまりに日本色を出しすぎたやりかたで集客に苦戦する失敗例となった。 最近、ドン・キホーテが続々とモール内に出店して人気だが、これも一般的なモール内にある店舗のひとつだから客を集められている面があり、モールが日本一色になると、客層を選んでしまう。日系スーパーマーケットの大手イオンでさえ、日本製品コーナーや弁当を置いてはいるが、決してジャパン色が主体ではない」、確かに「「J・バリュー・モール」は特殊な部類で、確実に盛況となるかは断言できない類だ」そうした特殊な「モール」に「マレーシア」の事情を理解せずに出店しようとしたことが間違いの基本だ。傷が深くなる前に早目に撤退したことは、せめてもの幸いなのかも知れない。
第三に、本年4月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した三井住友銀行(ニューヨーク駐在)チーフ・エコノミストの西岡純子氏による「「USスチール買収」摩擦は特殊ケース、日本企業の北米投資10兆円はアジア向けの2倍以上」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342711
・『アジアから再び米国M&Aに勢い 2023年の北米直接投資10兆円超 日本企業による海外企業のM&A(企業の合併・買収)が活発化している。米国にいる筆者も、日本企業のM&Aを通じた米国企業の買収のニュースを頻繁に聞く。最近、最も報道されているのは、やはり日本製鉄による米国の大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収だ。 4月12日にはUSスチールの臨時株主総会が開かれ、投票総数の98%以上が賛成して日本製鉄による買収案が承認された。だが労働組合は強硬に反対し、大統領選挙を控えて政治問題化している。 USスチールの本拠地、ペンシルベニア州をはじめ、大統領選の「激戦区」は、全米鉄鋼労働組合(USW)の組合員も多く、労組票を得ようとする思惑が先行する。 国名「US」を冠にする大企業が他国企業に買収されるとあって、「阻止」を公然と掲げるトランプ前大統領だけでなく、バイデン大統領も「USW支持」の声明を発表。保護主義的な姿勢を強めるバイデン政権や世論との間であつれきを起こしている。 雇用の削減や施設の閉鎖は行わないことなどを条件に交渉は進められているようだが、選挙の年とあって、この買収劇の終幕がどうなるかはなかなか見えそうにない。 だが日本企業の米国投資でこうした難航は極めて例外だ。 2023年の日本から北米向けの直接投資額は10兆1513億円と、中国などのアジア向けを2倍以上になる活況だ。 アジアに一時、偏った投資を再び米国に向ける流れには幾つかの理由がある』、「日本から北米向けの直接投資額が大幅増加しているのはともかく、普段は慎重な「日本製鉄」が「USスチール」買収しようとして壁にぶつかったのには驚かされた。
・『地政学リスクや保護主義 「利回り」低くても安定性を重視 M&Aの動きなどが分かる国際収支統計の直接投資の動きを見ると、直近の23年に記録した日本から北米向けの直接投資額はアジア向けの4兆1630億円を大幅に上回った。22年も北米向けは8兆1724億円で、アジア向けは5兆1330億円だった。 USスチール買収のような巨大企業間のM&Aの事例は注目されがちだが、それ以外にも日本企業は、現地の地場企業や中小企業の買収や、スタートアップ事業への投資を広げている。 追加投資や引き揚げなどの出入りを示す投資「残高」を見ても、22年時点で、アジア向けは72兆379億円に対し北米向けが93兆2264億円と圧倒的に多い。 1990年代終盤からのアジア市場の急拡大により、アジア向け直接投資が増え、その後、米中通商摩擦が強まった2018年以前は、国際展開する日本企業は、中国を中心とするアジアでの事業と米国での事業のバランスをとる例が多かった。 しかし、ここ数年はアジアに偏った投資を今一度、米国に振り向けようとするアセットアロケーションの動きがうかがえる。 北米向け投資が勢いを取り戻してきた一つの理由は、米中対立先鋭化などの地政学リスクの高まりや米国内の保護主義の流れの強まりだ。 トランプ前政権による米中摩擦が加速したことが一つの契機になったが、高い利回りが期待されてきたアジア市場の変調もあって、地政学的リスクの高い地域を避けながら投資先を選別すると米国が選ばれる、ということになっているようだ。 企業にとっては、投資の結果、実際にもうかっているかどうかが肝心だが、直接投資による収益がどれだけ得られているかを地域別・国別に見ると、日本企業が23年の直接投資から得られた収益は、アジアでは9兆1498億円で、うち中国は1兆5930億円だった。それに対して米国は2兆1784億円と、中国を上回っている。 前年(22年)の直接投資残高に占める当期(23年)の投資収益の比率を「利回り」と考えると、中国向けの直接投資の利回りは14.6%だが、米国は8.0%しかない。その前年を見ても中国向けの投資が19.4%に対し米国向けは9.8%と、利回りの水準は中国向けの投資の方が米国向けの投資の利回りよりも高い。 しかし、相対的に利回りが低くても、ここにきて安定性が投資判断において重視されるようになっているようだ。リスクが高まりやすい時代に入ったことで、今一度、リスク分散をすることで安定成長を確保する戦略が垣間見える』、「ここ数年はアジアに偏った投資を今一度、米国に振り向けようとするアセットアロケーションの動きがうかがえる。 北米向け投資が勢いを取り戻してきた一つの理由は、米中対立先鋭化などの地政学リスクの高まりや米国内の保護主義の流れの強まりだ。 トランプ前政権による米中摩擦が加速したことが一つの契機になったが、高い利回りが期待されてきたアジア市場の変調もあって、地政学的リスクの高い地域を避けながら投資先を選別すると米国が選ばれる、ということになっているようだ・・・前年(22年)の直接投資残高に占める当期(23年)の投資収益の比率を「利回り」と考えると、中国向けの直接投資の利回りは14.6%だが、米国は8.0%しかない。その前年を見ても中国向けの投資が19.4%に対し米国向けは9.8%と、利回りの水準は中国向けの投資の方が米国向けの投資の利回りよりも高い。 しかし、相対的に利回りが低くても、ここにきて安定性が投資判断において重視されるようになっているようだ。リスクが高まりやすい時代に入ったことで、今一度、リスク分散をすることで安定成長を確保する戦略が垣間見える」、なるほど。
・『米国経済の力強さ、投資決定を後押し 移民流入などで就業人口増加 さらに、足元の米国経済の強さも投資決定の背中を押している。 コロナパンデミック収束以降の米国経済はFRB(米連邦準備制度理事会)のハイペースの利上げにもかかわらず好調で、毎月の経済指標を見ても消費は堅調で、雇用統計では過去の景気拡大期並みのペースで雇用の拡大が続いている。 移民の流入で就業人口は増え続ける国であり、金利は高いが、市場の拡大や雇用確保などでそれを上回るリターンが享受できる国だという判断から安定的に投資が流入している。 「23年リセッションシナリオ」は杞憂(きゆう)に終わって、FRBの政策運営を批判する声はこのところあまり聞かれなくなった。 実際、米国で事業展開と投資を広げてきた日系企業の幹部らと話をしても、一部の産業を除き悲観的な見方は少ないようにみられる。各社とも、米国経済が拡大の終盤に差し掛かっているという漠然とした感覚は抱いているようだが、実際、どのようなメカニズムで景気が後退に向かっていくかについては、余裕を持ちながら頭の体操をしているにとどまる。 見方が悲観的な方向に傾く産業でいえば、不動産だ。中でもオフィス市場を巡るリスク認識は強い。コロナ禍で外出規制などが行われて以降、米国では、在宅勤務も併用するハイブリッド型の働き方が完全に浸透している。一見、活況にみえる大都市でも、子細にみると大型の商業ビルは空室が目立ち、オフィスに通勤する人を商売の対象としていたレストランなど路面店は廃業が多い。 大都市でのオフィス物件はレガシー物件と称される古いオフィスビルと、環境規制にも対応したニューノーマル型のオフィスビルがあり、空室の高さは前者に集中する。 日本の不動産企業が手掛ける商業施設はニューノーマル型に近く、成功例と見なされることが多いが、全体に警戒感が強まっているのは、07年のサブプライムショック当時と類似した不動産関連の証券化が進み、リスクの所在が判然としない点があるからだろう。 サブプライムショック当時の証券化商品の原資産は住宅ローン(信用度が低い部類)だったが、今回はその原資産はオフィスであり、その家賃収入低下などからオフィス運営企業に融資する中小企業の体力が引き当ての急増で低下していることや、大型投資ファンドが商業不動産から手を引く動きが出ていることが市場の不安をあおっている。 とはいえ商業不動産市場を除くと、米国経済に対し悲観的な見方は少ない。 米国の需要を取り込む上では、輸出も重要だが、大統領選挙でトランプ前大統領が返り咲き、保護主義政策に拍車がかかる恐れや、人件費の安いメキシコでモノを作り、完成品を米国に輸出する動きに制限がかかる懸念など、企業が意識する政治リスクは極めて高い。 それなら米国の企業をM&Aなどで獲得することで、市場シェアを拡大して安定収益を得ようとする企業の戦略は極めて合理的だ』、「商業不動産市場を除くと、米国経済に対し悲観的な見方は少ない。 米国の需要を取り込む上では、輸出も重要だが、大統領選挙でトランプ前大統領が返り咲き、保護主義政策に拍車がかかる恐れや、人件費の安いメキシコでモノを作り、完成品を米国に輸出する動きに制限がかかる懸念など、企業が意識する政治リスクは極めて高い。 それなら米国の企業をM&Aなどで獲得することで、市場シェアを拡大して安定収益を得ようとする企業の戦略は極めて合理的だ」、なるほど。
・『日銀の緩和長く続いて低利で円を調達できる恩恵 さらに日本企業の米国投資への追い風になっているのは、日米の国際収支構造が補完的なことや日本銀行の金融緩和が長く続いてきたことだ。 日本は、経常収支黒字国で投資資金がもともと恒常的に豊富だったことに加え、日銀の超緩和政策が続き低利で円を調達してドルに換え、それで投資を行う動機が働きやすい環境だった。さらに20年のパンデミック後、各国中央銀行が一斉に緩和政策をとったことで、大量に市中に供給されたマネーの一部が「余剰資金」として対外投資につながっていることもある。 対外純資産からの安定収益のフローを確立し、常に再投資と新規投資の機会を探る日本と、経常赤字が定着しており常に他国からのファイナンスに頼らざるを得ない米国は資金バランス上で互いに足りないものを補う関係にある。そこに円の超低金利が米ドルへの投資を促してきたのだ。 日本製鉄によるUSスチール買収のように、政治的な要因で摩擦を起こしてしまっている例は特殊なケースだと考えられ、今後も資金繰りのコストが急激に高まるような金融ショックが起こらない限り、日本から米国に向けた投資は蓄積されていくだろうし、今後、米国の保護主義や対中強硬姿勢が一段と激しくなれば、一層、日本からの投資の振り向け先として米国が重視される流れが強まると考えられる。 米ドル金利の上昇は、理論的には対米投資を制御するはずだが、米国で事業展開や投資を進めている日本企業の多くは、米ドルで投資資金を借り入れてレバレッジを積極的にかけているわけではない。従って米ドル金利の高い低いが投資のモメンタムを決めるわけではなさそうだ。 いわんや、円金利が、日銀の金融政策正常化で今後いくらか上昇することはあっても、米ドル金利のように5%を超える水準にまで上昇する可能性はなく、これも対米投資を左右する要因としては大きくはないだろう。 日本では賃金上昇の機運が強まってきているが、米国に比べると雇用にかかる企業の支払いの増加ペースは低く収まっている。賃金コストの低さからいえば日本企業はメリットを享受できそうだが、そもそも人口が増えない経済では需要の大幅な増加は期待できない。 日本企業は、日本国内では伸びにくいリターンを、米国を中心とした海外で安定的に獲得するビジネスフローを確立しつつあるといえよう。 こうした流れがもたらすリスクとして、「産業の空洞化」が指摘されてきたが、一方で最近では、超微細加工の半導体を日本国内で量産する技術の開発などの動きがあり、政府主導で、「日本のお家芸」と称されるモノづくりを再度、復興させようとしている。 こうして日本が得意とするモノづくりの国内生産をてこ入れする一方、それ以外は国外に資本を振り向けるというすみ分けが定着していくのかもしれない』、「政府主導で、「日本のお家芸」と称されるモノづくりを再度、復興させようとしている。 こうして日本が得意とするモノづくりの国内生産をてこ入れする一方、それ以外は国外に資本を振り向けるというすみ分けが定着していくのかもしれない』、「日本が得意とするモノづくりの国内生産をてこ入れする一方、それ以外は国外に資本を振り向けるというすみ分けが定着していくのかもしれない」、思いがけない興味深い見方だ。
先ずは、昨年8月23日付け現代ビジネスが掲載したフリージャーナリストの片岡 亮氏による「ローランドの「脱毛サロン」がマレーシアで大失敗…原因は日本と異なる「意外な事情」のせいだった!」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/114775?imp=0
・『事情が違うマレーシアの「モール」 ホストで実業家のローランド氏が、自身のYouTubeチャンネルで、「完全にやられた…6000万円がパァになった流れ全部公開します」と題する動画を公開、マレーシアの新しいショッピングモールに脱毛サロンを出店しようとして工事費用を出したが、集客の少ない現場を見て断念したという話を伝えた。 独特のキャラクターを売ってタレント活動をしている人物が、動画番組で大きく伝えているという話は正直、どこまでが本当の話か分からないところがある。 だから、この特定のケースそのものについての分析や原因追及をする気はまったくないが、唯一、出店先の新しいモールの集客が弱く、客足以前にテナント数も少ない状態だという部分、これは異常でも何でもない。マレーシアでは普通の光景だという指摘はできる。 筆者は2018年からマレーシアに自宅とオフィスを持ち、日本と往復して取材活動をしているが、5年程度の現地生活でも、そこはハッキリ分かる。 基本的にマレーシアでは、「ソフト・オープニング」とも呼ばれる助走期間を作ることが多いからだ。過去、レストラン開店などの取材でも何度も見てきたし、ほかの新しいモールのほとんどで見られてきた。) 日本では「ショッピングモールが新規開店」と聞くと、最初からテナントがすべて揃って、それを待っていた客が初日に殺到するようなものを想像するだろうが、マレーシアでは違う。 後進国からの急発展で、建築が予定どおり進まない事情から、テナントはオープンから少しづつ増えていく。出店予定のテナントはしばらく広告の壁で覆われた状態になり、当初のオープン予定が3カ月以上も遅れることが珍しくはない。 たとえば、昨年1月、東南アジア初となる日系ショッピングモール「ららぽーと」でも、かなり大規模なスペースながら、開店時にはテナントの半分も開いていなかった』、「マレーシアでは違う。 後進国からの急発展で、建築が予定どおり進まない事情から、テナントはオープンから少しづつ増えていく。出店予定のテナントはしばらく広告の壁で覆われた状態になり、当初のオープン予定が3カ月以上も遅れることが珍しくはない。 たとえば、昨年1月、東南アジア初となる日系ショッピングモール「ららぽーと」でも、かなり大規模なスペースながら、開店時にはテナントの半分も開いていなかった」、ずいぶん日本とは事情が違うようだ。
・『オープンして一年以上たつのに、テナントが入っていないモール 多くは「出店予定」の広告壁になったまま、いずれ揃うことは伝わったが、モール不可欠のフードコートでさえ数店しかオープンしておらず、集客はまだこれからという状態だった。 ローランド氏が、もし最初から完全にテナントが埋まって客が殺到した状態などでスタートすると思っていて、そう説明を受けていたのなら、見通しが甘すぎると言わざるを得ない。 日本とマレーシアのこの違いは、不動産業界でも見られるという。【後編】『ローランドのマレーシア進出は「甘すぎる」と断言できる「確かな理由」』では、それについて詳しく説明し、ローランド氏が失敗した原因をさらに解説する』、「ローランド氏が、もし最初から完全にテナントが埋まって客が殺到した状態などでスタートすると思っていて、そう説明を受けていたのなら、見通しが甘すぎると言わざるを得ない」、後編をさらに見てみよう。
次に、続きを昨年8月23日付け現代ビジネスが掲載したフリージャーナリストの片岡 亮氏による「ローランドのマレーシア進出は「甘すぎる」と断言できる「確かな理由」 あらゆる違いを理解していない」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/114776?imp=0
・『ホストで実業家のローランド氏が、自身のYouTubeチャンネルで、「完全にやられた…6000万円がパァになった流れ全部公開します」と題する動画を公開、マレーシアの新しいショッピングモールに脱毛サロンを出店しようとして工事費用を出したが、集客の少ない現場を見て断念したという話を伝えた』、どうも海外投資、特にマレーシア投資の基本的知識の欠如が、致命的な判断ミスを招いてしまったようだ。
・『オープンして1年以上、経つのにテナントが入っていないモール この失敗は、日本とマレーシアで、テナントがショッピングモールに入るスピード感が異なることが原因だった。マレーシアではモールがオープンしてもすぐにはテナントが埋まらず、日本でイメージされるような「開店と同時に客が殺到する」ことはない。 【前編】『ローランドの「脱毛サロン」がマレーシアで大失敗…原因は日本と異なる「意外な事情」のせいだった!』、「ローランド」氏は余りにも現地事情に疎いようだが、誰かと相談したのだろうか。
・『マレーシアの不動産事情 これは不動産業界でも日本との違いが言われることがある。 たとえばコンドミニアム(分譲マンション)では販売時、1階部分に人気ファストフードやカフェなどが並んで人々が行き交う予想写真が広告に載せられるが、実際の入居時にはテナントがガラ空き状態になっていることが多い。 それは当たり前のことだから、「話が違う!」と怒る人はいない。 「逆にマレーシアの新築マンションは、必ずしも新築時に買うことがベストではないです。新築だと何か不具合があったり、予想外の問題が起きることもあるので、その様子を見てから慎重に買う人々も少なくないんです」(クアラルンプールの不動産エージェント、ジェニファー・リン氏)』、「マレーシアの新築マンションは、必ずしも新築時に買うことがベストではないです。新築だと何か不具合があったり、予想外の問題が起きることもあるので、その様子を見てから慎重に買う人々も少なくない」、なるほど。
・『日本人と違う生活スタイルも考慮しなければならない そもそもローランド氏が出店しようとしていた7月下旬オープンの「J・バリュー・モール」は特殊な部類で、確実に盛況となるかは断言できない類だ。 クアラルンプールのペタリン・ジャヤという立地は悪くないが、なにしろ「日本のレストランや店が中心の日本専門モール」というコンセプトだからだ。 マレーシアは大の親日国で、アニメや旅行、日本食が大人気ではあるのだが、国民7割のマレー系は、日本人とは違う生活スタイルを持つイスラム教徒。衣類も違うし、食事はハラル限定で、モールに行く理由は日本文化を楽しむためだけではない。 すでにクアラルンプールには伊勢丹が存在するが、あまりに日本色を出しすぎたやりかたで集客に苦戦する失敗例となった。 最近、ドン・キホーテが続々とモール内に出店して人気だが、これも一般的なモール内にある店舗のひとつだから客を集められている面があり、モールが日本一色になると、客層を選んでしまう。日系スーパーマーケットの大手イオンでさえ、日本製品コーナーや弁当を置いてはいるが、決してジャパン色が主体ではない。 もちろん、「J・バリュー・モール」が、新たな日本好きスポットとして人気になる可能性は十分あるが、筆者のマレーシア人の友人たちの間で話題にはなっておらず、むしろ数少ないマレーシア在住の日本人が喜ぶような話題だ。 いずれにしても、海外に出店するならば、最低限、現地の特色は知っておかないと「話が違う!」ということになるのは必然だ。) 人種も文化も習慣もすべて違うのだから、「日本で売れているものだから場所が変わっても売れる」なんて話にはならない。逆にマレーシアで人気のものを、そのまま日本で展開しても成功する確率は低いのと同じだ。 筆者はアメリカで商社マンの経験があり、中国やインドネシアとの取引をした経験があるが、まず徹底したのは市場調査だった。もし、その努力をせず、現地の人から良い話だけを聞き、それを鵜呑みにして「これは儲かるぞ」などと思って手を出したなら、それはあまりにビジネスとしても未熟。 大手ファストフードやレストランチェーンの出店であれば、事前に入念な市場調査をしている。たとえば、アメリカやマレーシアなど多民族がいる国では、ときに店で接客する人の人種まで選ぶ。マジョリティだけでなく、東洋系やインド系など複数の人種を揃えておくと、客が印象的に入りやすくなることがあるからだ。 ちなみに美容関係でも日本との違いがあり、たとえばVIO脱毛はブラジリアン脱毛と呼ぶことが多い。イスラム教徒はアンダーヘアの処理をすることが常識となっているため市場は大きく、すでに日系企業も進出している。 破格の6000万円も出資して本気でマレーシア進出を考えていたならば、「J・バリュー・モール」にこだわらずとも、別の選択はたくさんあり、もっとしっかり現地事情を把握してから乗り出せば「モールに人がいない!」なんて慌てるレベルの失敗はまずないだろう』、「「J・バリュー・モール」は特殊な部類で、確実に盛況となるかは断言できない類だ。 クアラルンプールのペタリン・ジャヤという立地は悪くないが、なにしろ「日本のレストランや店が中心の日本専門モール」というコンセプトだからだ・・・筆者のマレーシア人の友人たちの間で話題にはなっておらず、むしろ数少ないマレーシア在住の日本人が喜ぶような話題だ・・・伊勢丹が存在するが、あまりに日本色を出しすぎたやりかたで集客に苦戦する失敗例となった。 最近、ドン・キホーテが続々とモール内に出店して人気だが、これも一般的なモール内にある店舗のひとつだから客を集められている面があり、モールが日本一色になると、客層を選んでしまう。日系スーパーマーケットの大手イオンでさえ、日本製品コーナーや弁当を置いてはいるが、決してジャパン色が主体ではない」、確かに「「J・バリュー・モール」は特殊な部類で、確実に盛況となるかは断言できない類だ」そうした特殊な「モール」に「マレーシア」の事情を理解せずに出店しようとしたことが間違いの基本だ。傷が深くなる前に早目に撤退したことは、せめてもの幸いなのかも知れない。
第三に、本年4月24日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した三井住友銀行(ニューヨーク駐在)チーフ・エコノミストの西岡純子氏による「「USスチール買収」摩擦は特殊ケース、日本企業の北米投資10兆円はアジア向けの2倍以上」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/342711
・『アジアから再び米国M&Aに勢い 2023年の北米直接投資10兆円超 日本企業による海外企業のM&A(企業の合併・買収)が活発化している。米国にいる筆者も、日本企業のM&Aを通じた米国企業の買収のニュースを頻繁に聞く。最近、最も報道されているのは、やはり日本製鉄による米国の大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収だ。 4月12日にはUSスチールの臨時株主総会が開かれ、投票総数の98%以上が賛成して日本製鉄による買収案が承認された。だが労働組合は強硬に反対し、大統領選挙を控えて政治問題化している。 USスチールの本拠地、ペンシルベニア州をはじめ、大統領選の「激戦区」は、全米鉄鋼労働組合(USW)の組合員も多く、労組票を得ようとする思惑が先行する。 国名「US」を冠にする大企業が他国企業に買収されるとあって、「阻止」を公然と掲げるトランプ前大統領だけでなく、バイデン大統領も「USW支持」の声明を発表。保護主義的な姿勢を強めるバイデン政権や世論との間であつれきを起こしている。 雇用の削減や施設の閉鎖は行わないことなどを条件に交渉は進められているようだが、選挙の年とあって、この買収劇の終幕がどうなるかはなかなか見えそうにない。 だが日本企業の米国投資でこうした難航は極めて例外だ。 2023年の日本から北米向けの直接投資額は10兆1513億円と、中国などのアジア向けを2倍以上になる活況だ。 アジアに一時、偏った投資を再び米国に向ける流れには幾つかの理由がある』、「日本から北米向けの直接投資額が大幅増加しているのはともかく、普段は慎重な「日本製鉄」が「USスチール」買収しようとして壁にぶつかったのには驚かされた。
・『地政学リスクや保護主義 「利回り」低くても安定性を重視 M&Aの動きなどが分かる国際収支統計の直接投資の動きを見ると、直近の23年に記録した日本から北米向けの直接投資額はアジア向けの4兆1630億円を大幅に上回った。22年も北米向けは8兆1724億円で、アジア向けは5兆1330億円だった。 USスチール買収のような巨大企業間のM&Aの事例は注目されがちだが、それ以外にも日本企業は、現地の地場企業や中小企業の買収や、スタートアップ事業への投資を広げている。 追加投資や引き揚げなどの出入りを示す投資「残高」を見ても、22年時点で、アジア向けは72兆379億円に対し北米向けが93兆2264億円と圧倒的に多い。 1990年代終盤からのアジア市場の急拡大により、アジア向け直接投資が増え、その後、米中通商摩擦が強まった2018年以前は、国際展開する日本企業は、中国を中心とするアジアでの事業と米国での事業のバランスをとる例が多かった。 しかし、ここ数年はアジアに偏った投資を今一度、米国に振り向けようとするアセットアロケーションの動きがうかがえる。 北米向け投資が勢いを取り戻してきた一つの理由は、米中対立先鋭化などの地政学リスクの高まりや米国内の保護主義の流れの強まりだ。 トランプ前政権による米中摩擦が加速したことが一つの契機になったが、高い利回りが期待されてきたアジア市場の変調もあって、地政学的リスクの高い地域を避けながら投資先を選別すると米国が選ばれる、ということになっているようだ。 企業にとっては、投資の結果、実際にもうかっているかどうかが肝心だが、直接投資による収益がどれだけ得られているかを地域別・国別に見ると、日本企業が23年の直接投資から得られた収益は、アジアでは9兆1498億円で、うち中国は1兆5930億円だった。それに対して米国は2兆1784億円と、中国を上回っている。 前年(22年)の直接投資残高に占める当期(23年)の投資収益の比率を「利回り」と考えると、中国向けの直接投資の利回りは14.6%だが、米国は8.0%しかない。その前年を見ても中国向けの投資が19.4%に対し米国向けは9.8%と、利回りの水準は中国向けの投資の方が米国向けの投資の利回りよりも高い。 しかし、相対的に利回りが低くても、ここにきて安定性が投資判断において重視されるようになっているようだ。リスクが高まりやすい時代に入ったことで、今一度、リスク分散をすることで安定成長を確保する戦略が垣間見える』、「ここ数年はアジアに偏った投資を今一度、米国に振り向けようとするアセットアロケーションの動きがうかがえる。 北米向け投資が勢いを取り戻してきた一つの理由は、米中対立先鋭化などの地政学リスクの高まりや米国内の保護主義の流れの強まりだ。 トランプ前政権による米中摩擦が加速したことが一つの契機になったが、高い利回りが期待されてきたアジア市場の変調もあって、地政学的リスクの高い地域を避けながら投資先を選別すると米国が選ばれる、ということになっているようだ・・・前年(22年)の直接投資残高に占める当期(23年)の投資収益の比率を「利回り」と考えると、中国向けの直接投資の利回りは14.6%だが、米国は8.0%しかない。その前年を見ても中国向けの投資が19.4%に対し米国向けは9.8%と、利回りの水準は中国向けの投資の方が米国向けの投資の利回りよりも高い。 しかし、相対的に利回りが低くても、ここにきて安定性が投資判断において重視されるようになっているようだ。リスクが高まりやすい時代に入ったことで、今一度、リスク分散をすることで安定成長を確保する戦略が垣間見える」、なるほど。
・『米国経済の力強さ、投資決定を後押し 移民流入などで就業人口増加 さらに、足元の米国経済の強さも投資決定の背中を押している。 コロナパンデミック収束以降の米国経済はFRB(米連邦準備制度理事会)のハイペースの利上げにもかかわらず好調で、毎月の経済指標を見ても消費は堅調で、雇用統計では過去の景気拡大期並みのペースで雇用の拡大が続いている。 移民の流入で就業人口は増え続ける国であり、金利は高いが、市場の拡大や雇用確保などでそれを上回るリターンが享受できる国だという判断から安定的に投資が流入している。 「23年リセッションシナリオ」は杞憂(きゆう)に終わって、FRBの政策運営を批判する声はこのところあまり聞かれなくなった。 実際、米国で事業展開と投資を広げてきた日系企業の幹部らと話をしても、一部の産業を除き悲観的な見方は少ないようにみられる。各社とも、米国経済が拡大の終盤に差し掛かっているという漠然とした感覚は抱いているようだが、実際、どのようなメカニズムで景気が後退に向かっていくかについては、余裕を持ちながら頭の体操をしているにとどまる。 見方が悲観的な方向に傾く産業でいえば、不動産だ。中でもオフィス市場を巡るリスク認識は強い。コロナ禍で外出規制などが行われて以降、米国では、在宅勤務も併用するハイブリッド型の働き方が完全に浸透している。一見、活況にみえる大都市でも、子細にみると大型の商業ビルは空室が目立ち、オフィスに通勤する人を商売の対象としていたレストランなど路面店は廃業が多い。 大都市でのオフィス物件はレガシー物件と称される古いオフィスビルと、環境規制にも対応したニューノーマル型のオフィスビルがあり、空室の高さは前者に集中する。 日本の不動産企業が手掛ける商業施設はニューノーマル型に近く、成功例と見なされることが多いが、全体に警戒感が強まっているのは、07年のサブプライムショック当時と類似した不動産関連の証券化が進み、リスクの所在が判然としない点があるからだろう。 サブプライムショック当時の証券化商品の原資産は住宅ローン(信用度が低い部類)だったが、今回はその原資産はオフィスであり、その家賃収入低下などからオフィス運営企業に融資する中小企業の体力が引き当ての急増で低下していることや、大型投資ファンドが商業不動産から手を引く動きが出ていることが市場の不安をあおっている。 とはいえ商業不動産市場を除くと、米国経済に対し悲観的な見方は少ない。 米国の需要を取り込む上では、輸出も重要だが、大統領選挙でトランプ前大統領が返り咲き、保護主義政策に拍車がかかる恐れや、人件費の安いメキシコでモノを作り、完成品を米国に輸出する動きに制限がかかる懸念など、企業が意識する政治リスクは極めて高い。 それなら米国の企業をM&Aなどで獲得することで、市場シェアを拡大して安定収益を得ようとする企業の戦略は極めて合理的だ』、「商業不動産市場を除くと、米国経済に対し悲観的な見方は少ない。 米国の需要を取り込む上では、輸出も重要だが、大統領選挙でトランプ前大統領が返り咲き、保護主義政策に拍車がかかる恐れや、人件費の安いメキシコでモノを作り、完成品を米国に輸出する動きに制限がかかる懸念など、企業が意識する政治リスクは極めて高い。 それなら米国の企業をM&Aなどで獲得することで、市場シェアを拡大して安定収益を得ようとする企業の戦略は極めて合理的だ」、なるほど。
・『日銀の緩和長く続いて低利で円を調達できる恩恵 さらに日本企業の米国投資への追い風になっているのは、日米の国際収支構造が補完的なことや日本銀行の金融緩和が長く続いてきたことだ。 日本は、経常収支黒字国で投資資金がもともと恒常的に豊富だったことに加え、日銀の超緩和政策が続き低利で円を調達してドルに換え、それで投資を行う動機が働きやすい環境だった。さらに20年のパンデミック後、各国中央銀行が一斉に緩和政策をとったことで、大量に市中に供給されたマネーの一部が「余剰資金」として対外投資につながっていることもある。 対外純資産からの安定収益のフローを確立し、常に再投資と新規投資の機会を探る日本と、経常赤字が定着しており常に他国からのファイナンスに頼らざるを得ない米国は資金バランス上で互いに足りないものを補う関係にある。そこに円の超低金利が米ドルへの投資を促してきたのだ。 日本製鉄によるUSスチール買収のように、政治的な要因で摩擦を起こしてしまっている例は特殊なケースだと考えられ、今後も資金繰りのコストが急激に高まるような金融ショックが起こらない限り、日本から米国に向けた投資は蓄積されていくだろうし、今後、米国の保護主義や対中強硬姿勢が一段と激しくなれば、一層、日本からの投資の振り向け先として米国が重視される流れが強まると考えられる。 米ドル金利の上昇は、理論的には対米投資を制御するはずだが、米国で事業展開や投資を進めている日本企業の多くは、米ドルで投資資金を借り入れてレバレッジを積極的にかけているわけではない。従って米ドル金利の高い低いが投資のモメンタムを決めるわけではなさそうだ。 いわんや、円金利が、日銀の金融政策正常化で今後いくらか上昇することはあっても、米ドル金利のように5%を超える水準にまで上昇する可能性はなく、これも対米投資を左右する要因としては大きくはないだろう。 日本では賃金上昇の機運が強まってきているが、米国に比べると雇用にかかる企業の支払いの増加ペースは低く収まっている。賃金コストの低さからいえば日本企業はメリットを享受できそうだが、そもそも人口が増えない経済では需要の大幅な増加は期待できない。 日本企業は、日本国内では伸びにくいリターンを、米国を中心とした海外で安定的に獲得するビジネスフローを確立しつつあるといえよう。 こうした流れがもたらすリスクとして、「産業の空洞化」が指摘されてきたが、一方で最近では、超微細加工の半導体を日本国内で量産する技術の開発などの動きがあり、政府主導で、「日本のお家芸」と称されるモノづくりを再度、復興させようとしている。 こうして日本が得意とするモノづくりの国内生産をてこ入れする一方、それ以外は国外に資本を振り向けるというすみ分けが定着していくのかもしれない』、「政府主導で、「日本のお家芸」と称されるモノづくりを再度、復興させようとしている。 こうして日本が得意とするモノづくりの国内生産をてこ入れする一方、それ以外は国外に資本を振り向けるというすみ分けが定着していくのかもしれない』、「日本が得意とするモノづくりの国内生産をてこ入れする一方、それ以外は国外に資本を振り向けるというすみ分けが定着していくのかもしれない」、思いがけない興味深い見方だ。
タグ:海外事業(海外投資) (その3)(ローランドの「脱毛サロン」がマレーシアで大失敗…原因は日本と異なる「意外な事情」のせいだった!、ローランドのマレーシア進出は「甘すぎる」と断言できる「確かな理由」 あらゆる違いを理解していない、「USスチール買収」摩擦は特殊ケース、日本企業の北米投資10兆円はアジア向けの2倍以上) 現代ビジネス 片岡 亮氏による「ローランドの「脱毛サロン」がマレーシアで大失敗…原因は日本と異なる「意外な事情」のせいだった!」 「マレーシアでは違う。 後進国からの急発展で、建築が予定どおり進まない事情から、テナントはオープンから少しづつ増えていく。出店予定のテナントはしばらく広告の壁で覆われた状態になり、当初のオープン予定が3カ月以上も遅れることが珍しくはない。 たとえば、昨年1月、東南アジア初となる日系ショッピングモール「ららぽーと」でも、かなり大規模なスペースながら、開店時にはテナントの半分も開いていなかった」、ずいぶん日本とは事情が違うようだ。 「ローランド氏が、もし最初から完全にテナントが埋まって客が殺到した状態などでスタートすると思っていて、そう説明を受けていたのなら、見通しが甘すぎると言わざるを得ない」、後編をさらに見てみよう。 片岡 亮氏による「ローランドのマレーシア進出は「甘すぎる」と断言できる「確かな理由」 あらゆる違いを理解していない」 どうも海外投資、特にマレーシア投資の基本的知識の欠如が、致命的な判断ミスを招いてしまったようだ。 「ローランド」氏は余りにも現地事情に疎いようだが、誰かと相談したのだろうか。 「マレーシアの新築マンションは、必ずしも新築時に買うことがベストではないです。新築だと何か不具合があったり、予想外の問題が起きることもあるので、その様子を見てから慎重に買う人々も少なくない」、なるほど。 「「J・バリュー・モール」は特殊な部類で、確実に盛況となるかは断言できない類だ。 クアラルンプールのペタリン・ジャヤという立地は悪くないが、なにしろ「日本のレストランや店が中心の日本専門モール」というコンセプトだからだ・・・筆者のマレーシア人の友人たちの間で話題にはなっておらず、むしろ数少ないマレーシア在住の日本人が喜ぶような話題だ・・・伊勢丹が存在するが、あまりに日本色を出しすぎたやりかたで集客に苦戦する失敗例となった。 最近、ドン・キホーテが続々とモール内に出店して人気だが、これも一般的なモール内にある店舗のひとつだから客を集められている面があり、モールが日本一色になると、客層を選んでしまう。日系スーパーマーケットの大手イオンでさえ、日本製品コーナーや弁当を置いてはいるが、決してジャパン色が主体ではない」、確かに「「J・バリュー・モール」は特殊な部類で、確実に盛況となるかは断言できない類だ」そうした特殊な「モール」に「マレーシア」の事情を理解せずに出店しようとしたことが間違いの基本だ。傷が深くなる前に早目に撤退したことは 、せめてもの幸いなのかも知れない。 ダイヤモンド・オンライン 西岡純子氏による「「USスチール買収」摩擦は特殊ケース、日本企業の北米投資10兆円はアジア向けの2倍以上」 「日本から北米向けの直接投資額が大幅増加しているのはともかく、普段は慎重な「日本製鉄」が「USスチール」買収しようとして壁にぶつかったのには驚かされた。 「ここ数年はアジアに偏った投資を今一度、米国に振り向けようとするアセットアロケーションの動きがうかがえる。 北米向け投資が勢いを取り戻してきた一つの理由は、米中対立先鋭化などの地政学リスクの高まりや米国内の保護主義の流れの強まりだ。 トランプ前政権による米中摩擦が加速したことが一つの契機になったが、高い利回りが期待されてきたアジア市場の変調もあって、地政学的リスクの高い地域を避けながら投資先を選別すると米国が選ばれる、ということになっているようだ・・・ 前年(22年)の直接投資残高に占める当期(23年)の投資収益の比率を「利回り」と考えると、中国向けの直接投資の利回りは14.6%だが、米国は8.0%しかない。その前年を見ても中国向けの投資が19.4%に対し米国向けは9.8%と、利回りの水準は中国向けの投資の方が米国向けの投資の利回りよりも高い。 しかし、相対的に利回りが低くても、ここにきて安定性が投資判断において重視されるようになっているようだ。リスクが高まりやすい時代に入ったことで、今一度、リスク分散をすることで安定成長を確保する戦略が垣間見える」、な るほど。 「商業不動産市場を除くと、米国経済に対し悲観的な見方は少ない。 米国の需要を取り込む上では、輸出も重要だが、大統領選挙でトランプ前大統領が返り咲き、保護主義政策に拍車がかかる恐れや、人件費の安いメキシコでモノを作り、完成品を米国に輸出する動きに制限がかかる懸念など、企業が意識する政治リスクは極めて高い。 それなら米国の企業をM&Aなどで獲得することで、市場シェアを拡大して安定収益を得ようとする企業の戦略は極めて合理的だ」、なるほど。 「政府主導で、「日本のお家芸」と称されるモノづくりを再度、復興させようとしている。 こうして日本が得意とするモノづくりの国内生産をてこ入れする一方、それ以外は国外に資本を振り向けるというすみ分けが定着していくのかもしれない』、「日本が得意とするモノづくりの国内生産をてこ入れする一方、それ以外は国外に資本を振り向けるというすみ分けが定着していくのかもしれない」、思いがけない興味深い見方だ。
事業再生(その4)(カネボウ破綻 絶望からの経営訓 クラシエ・石橋社長 「復興の10年」を語る、マレリに再び「資金不安説」が浮上!経営破綻→再スタートから1年半で“暗雲”のワケ、【実話】トヨタからの転職先のパン会社が民事再生中!?「トヨタ式カイゼン」で再建してみた) [企業経営]
事業再生については、昨年2月19日に取上げた。今日は、(その4)(カネボウ破綻 絶望からの経営訓 クラシエ・石橋社長 「復興の10年」を語る、マレリに再び「資金不安説」が浮上!経営破綻→再スタートから1年半で“暗雲”のワケ、【実話】トヨタからの転職先のパン会社が民事再生中!?「トヨタ式カイゼン」で再建してみた)である。
先ずは、2017年8月22日付け日経ビジネスオンラインが掲載したジャーナリストの金田 信一郎氏による「カネボウ破綻、絶望からの経営訓 クラシエ・石橋社長、「復興の10年」を語る」を紹介しよう。やや古いが、改めて取上げる価値は十分にあると取上げた次第である。
https://business.nikkei.com/atcl/report/16/081700155/082100002/
・『10年前、壮絶な破綻劇を引き起こしたカネボウは今――。当時、中堅幹部だった石橋康哉氏は、残された3事業を引き継いだクラシエホールディングスの社長となり、収益力を急回復させている。「家族主義を復活させる」。社員を訪ね、酒を酌み交わし、社員旅行を復活させた。そんな石橋社長は、どのようにして会社を蘇らせたのか。 ※日経ビジネス8月7・14日合併号では「挫折力 実録8社の復活劇」と題した特集を掲載しています。併せてお読みください。 Q:カネボウからクラシエに社名が変わって10年、赤字体質から収益力が大きく回復してきました。そして、「クラシエ10年の歩み」という社史を作ったのに、その半分を破綻の経緯に割いている。不祥事を起こした企業は、その後、事件を語ろうとしません。ところが、カネボウの創業から始まって、破綻の経緯を詳しく書いてある。なぜ、こうした社史を作ろうとしたんですか。 石橋社長(以下、石橋):私たちはそういう(破綻という)過去があったことを知っている者として、正しく文字にして残して、次の世代につないでいく。それが、あの時代を経験した人間の大きな責任なんだろうと。2度とあってはならないことだから。 でも、クラシエって、あの経験を超えてきたことで今があると思うんですよ。もう1回やれって言われても嫌ですよ、絶対(笑)。2度と経験したくない。 僕は「普通の会社を目指す」と言い続けているけど、「普通」って失った時に初めて気付くものなんですよ。まじめに働いていればボーナスが出て、結婚して家を建てて、定年後は年金と退職金で暮らしていく。企業人の心のどこかに、そういう物語があるじゃないですか。それがある日突然、ご破算になっちゃった。その傷みや悔しさ、情けなさを乗り越えて今まで来たことを、「その時代」を知らない人たちに伝えていきたい。 Q:今は優良企業でも、破綻しかけた企業は多い。失敗を物語として語り継いでいる会社の方が、学ぶ力が強く、「何のために仕事をしているのか」を知っています。 石橋:いい効果があると思いますよ。だから、今は50%以上の人がカネボウ時代を知らない社員です。で、ここ(10年史)を読むと、「上司は偉そうにしてるけど、こんなことになってたんじゃないか」と。それでいいと思うんですよ。 破綻直後は、結構気にする雰囲気がありました。「先祖帰りだ」とか、「過去の栄光にすがっている」とかね。最近はめっきり減りましたけど。 正しく認識して、何が悪かったのか、真正面から向き合うことで見えてくるものがある。カネボウの破綻を、斜陽産業になった繊維(事業)の問題だとか、経営者の問題だとか、そんなことで片付けてはならないんだと思うんですよ。我々だって、その企業にいたわけですから、責任はゼロではない。だから、変えていこうよ、と』、「今は50%以上の人がカネボウ時代を知らない社員です。で、ここ(10年史)を読むと、「上司は偉そうにしてるけど、こんなことになってたんじゃないか」と。それでいいと思うんですよ。 破綻直後は、結構気にする雰囲気がありました。「先祖帰りだ」とか、「過去の栄光にすがっている」とかね。最近はめっきり減りましたけど。 正しく認識して、何が悪かったのか、真正面から向き合うことで見えてくるものがある。カネボウの破綻を、斜陽産業になった繊維(事業)の問題だとか、経営者の問題だとか、そんなことで片付けてはならないんだと思うんですよ」、「今は50%以上の人がカネボウ時代を知らない社員」もうそんなになったのかと、時間が経つのの速さに改めて驚かされた。
・『家族主義を貫く Q:変えるべき問題はどこにあったんでしょうか。 石橋:一番の問題は、「内向き」だったこと。130年前の紡績が創業ですから、全国から15歳ぐらいの子を集めて寮に入れて、社内に学校を作って教育していく。その先生は社員です。大学を出て3年ぐらいは、その先生役を担っていくわけで、そうなれば自分の弟であり、妹になっていくわけですよね。 Q:まさに家族ですね。 石橋:そう、家族ですよ。「家族主義」って悪いことじゃない。すばらしい一面は伝えていきたい。毎年、1〜3月に現場に行って、100人単位でフェイス・トゥー・フェイスで「進んでいく道はこっちだろう」と話している。 繊維、ヒール(悪)役じゃないんだよ、と。昔は中卒で入ってきた子が、ずっと寮で生活して、地元の人と知り合って結婚していく。そうすると、まだ味噌汁の作り方や裁縫とか分からない。そこで、退職前の数カ月間、そういうことを教えてから嫁に出していたんですよ。 Q:これから退職するという人に。 石橋:そう。それを話すとちょっと、うるっときてね。「カネボウという会社の家族主義には、そこまでやっていたDNAがあるんやで」って。「僕らが残してもらったすばらしいDNAなんだ。だから僕らは、これを引き継いで残していこう」って話して回った。 でも一方で、かばい合いすぎてダメなところを指摘できなかったり、弊害も出てくる。経営判断を遅らせたり、誤らせたり、問題につながってきた。それを1つひとつ解きほぐしながら、「何をこれからも継承していくの」「どんな新しい(改革の)風を吹かせるの」っていうことを、毎年のようにみんなで話し合っていく。そして2度と間違いが起こらないようにする。 Q:何が間違いだった。 石橋:悪くなる原因は1つではない。特定の事業や経営者に限定すると、本質にたどり着かない。本質は、そうなってしまう風土とか、空気が会社にあったんだと思うんですよね。そういう空気にならないためにはどうするのか、みんなで考えられると思うんですよ。 Q:その議論の結論は、家族主義は守るべき。 石橋:僕は守ろうと思っている。 Q:「働き方改革」には逆行するようにも聞こえますが、一方で家族のように仲良く仕事をするのが悪いこととは思えないですね。 石橋:思えないんですよ。今は、合理主義や能率主義ばかりが取りざたされている。目指す会社はあっていい。僕らは違うと思っている。「自分のため」ではなくて、「チームのため」とか。そこに一生懸命やろうという価値観を持っている日本人て、たくさんいるじゃないですか。 Q:そっちの方が日本人の強さが出る。 石橋:自分のためより、チームのための方が、力が出ますよね。僕はよく、「居場所」と言うんですけど、会社を辞めていく人の共通項があって、「集団の中に居場所がなくなった」って言うんですよ。役に立っていると思える人は、辞めようとしない。つらいことがあっても、仲間の中で自分の存在が認められていると頑張れるわけですよね。 個人の業績だと、結果が出なくなった瞬間に居場所がないですよね。そうじゃねえだろう、って。「おまえにはちゃんと役割があるだろう。それを果たしていたら、良い業績の時もあれば悪い時もある」と。それをみんなが認め合っていれば、それでいいんですよ。) Q:カネボウが悪くなってしまった1つのポイントとして、「売り上げを常に上げるように求められて、個人も組織も疲弊した」と多くの部署の人が証言しています。とにかく数字を作らないといけない、と。 石橋:今だって、事業をやっている限り、数字は必要だとは思う。でも、何のための数字なのか。僕は、「利益の永続的な成長だよ」って言い続けている。「売上高至上主義は絶対ダメだ」と。でも、売り上げがダメだとは言っていない。利益を上げるために、一番まっとうなやり方は売り上げを上げることですよね。でも、売り上げが目的になっちゃったんです。だから、利益は上がらず、やっているヤツも疲弊していく。 去年、「10年後のクラシエをどんな会社にしたいですか」と社員にアンケートをとった。すると、「家族や友人に誇れる会社にしたい」とか「環境を大切にする会社になりたい」と。どれも正解だと思う。でも、みんなが頑張って利益をあげて、そのカネの使い方だよね、と。ボーナスが高かったり、環境保護に資金を投じられるのも、儲かったカネがあるから、そういう夢がかなうんだよね、と。何をするにも儲からなかったら始まらない。 だってうち1回、潰れたやろ、と。儲けなければ、同じことが起きる。事業を営んでいる限り、儲けることができないと夢は実現しないよ、と言っているんです』、「「家族主義」って悪いことじゃない。すばらしい一面は伝えていきたい・・・かばい合いすぎてダメなところを指摘できなかったり、弊害も出てくる。経営判断を遅らせたり、誤らせたり、問題につながってきた。それを1つひとつ解きほぐしながら、「何をこれからも継承していくの」「どんな新しい(改革の)風を吹かせるの」っていうことを、毎年のようにみんなで話し合っていく。そして2度と間違いが起こらないようにする・・・売り上げが目的になっちゃったんです。だから、利益は上がらず、やっているヤツも疲弊していく」、なるほど。
・『社員旅行、数千万円の効果 Q:そうした会話も、現場を回って、直接話した方が効果は高いのでしょうか。 石橋:今の時代、ネットとかいろいろあるし、はるかにそっちの方がいいと思いますよ。でも、芸風は変わんねえわ(笑)。直接現場に行って、みんなの顔を見ながら「そやろ、そやろ」と言って、終わったらば、「じゃあ、飲み行くぞ」と。どこまで伝わっているのか、ギャップがどこにあるのか、「確かめ算」みたいなものです。 Q:飲んで話しながら、その反応を見たり、全体の雰囲気を確かめたりするわけですね。 石橋:うちって、やっぱりそういう会社やと思っているんです。年初にビデオで経営方針を流したりはしている。だけど、現場に行って、「今日はナマの社長、来たよお」って(笑)。「言いたいことがあれば、言ったらいいよ」って。 人事を長くやったけど、本社に呼んで面接している時と、現場に行って話をする時と全然違う。僕はよく、サッカーのホームとアウェーに例えるんですが、選手の動きが違いますよね。会社も同じで、聞き出せる話の内容も量も全然違うんですよ。本社に呼ばれたらガチガチで、ほとんど本音なんか出てこない。でも自分の職場で、普段着ならポロポロ本音が出てくる。酒飲みにいったら、もっと本音が出るじゃないですか。 Q:退職する女子を結婚前に修業させていたわけだから、地元ではカネボウファンは多いですよね。そういう地域の店で飲んでいると、もう思っていることがバンバン出てくる。 石橋:全然違いますよね。私が本社に戻って(担当役員に)「現場でこんな意見が出ているぞ」って言えば、担当者は「もっとよく知らなければ」と現場に目が向くわけじゃないですか。それによって、経営陣と社員の距離って、もっと短くできるし、風通しをよくできるかもしれない。 どこの破綻した企業も、ダメだと分かっていてやっている経営者はいないと思う。いつの間にか、気がつかなくなってしまう。「社員のために」と最初は思っていたのに、いつの間にか「自分のため」になっていて、社員の思いとはかけ離れてしまう。社員の思いと合っているのかどうか、見ておかないと。 4年前、社員旅行を復活させたんだけど、「やるぞ」って言ったら、「えーっ」って経営陣が冷ややかな目で見る。「社長だけですよ、そんなの喜ぶのは」って。「今の子はそんなの来ませんよ」って。「あれ」と思って、しばらく考えたりしたんだけど、「お前ら、やっぱり絶対うけるよ」と。 20〜30年前までは慰安旅行って、日本中の会社がやっていたじゃないですか。で、若い子たちが「オフまで会社の人と一緒なんて嫌だ」っていうことで、下火になってきたことはありましたよ。でも、最近は違います。 Q:本当ですか。 石橋:それには、条件があります。内容とか企画は、すべて若い子たちにやらせる。「年寄りは文句を言うな」と。入社1~2年目の子たちが必死に考えてくれて。でも、遊びと言えども、何百人という人たちを一斉に動かすって大変なんですよ。そういうことを学んでくれたら、いい話じゃないですか。 Q:部署単位で行くんですか。 石橋:工場や支店など、いろんな単位でやっている。任せています。 Q:社長もたまには行くんですか。 石橋:それがね、最初は「全部、俺が出る」って言ったんだけど、本当に地方から電話がかかってきて、「やっぱ、全部出られない」と(笑)。「社長やめたら出る」と言ってます。今は本社の(慰安旅行)だけ出ています。 仕事って、つらくて苦しいことは当たり前じゃないですか、カネもらってるんだから。でも、それだけじゃない。みんなで頑張ったら慰安旅行があったり、工場では地域の人と夏祭りや盆踊りをやったりね。そういうことが出来ることが、この会社の良いところだと思うんですよ。 Q:それがなければ、個人で仕事をやればいい話ですね。 石橋:そう。僕はよくそれを言うんですよ。「チームでやった方がいいと思うから会社にいるんだろう」って。「自分一人で満足できるんだったら、会社なんか辞めて個人で事業やった方がいいじゃん」って。自分以上の力を発揮する醍醐味があるから組織の中で生きているわけだから、その喜びとかを感じなかったら意味ないじゃないですか。 Q:だから、家族主義はパフォーマンスを上げるための仕組みだったんでしょうね。 石橋:元々はね。だから、すばらしい発想だった。でも繰り返しているうちに、保身(の道具)に変わってきて、歪みが少しずつ出ていった。だから、今の自分たちの仕事に置き換え、「原点」のいい部分を引き継いでいけばいいと思うんですね。 Q:慰安旅行もやり方によってはいい。 石橋:まあ、多くの会社はカネがないから、なくしたんでしょうけどね(笑)。全社で数千万円かかってるもん。これも、「儲けたから、旅行するんやで」って。がんばった分は反映されるように、経営者は絶対にやっていかないといけない。ボーナスや福利厚生などトータルしてみた時に、頑張った分は会社が答えてくれているなと実感させろ、と。会社だけ良くなっていて、自分の生活が変わらなかったら、「搾取されてるだけだ」と考え始め、誰も頑張らないですよ。 Q:慰安旅行も、数千万円の効果はあると。 石橋:十分戻ってきます、結果的には。数千万円使っても、その子たちが数億円にして返してくれますよ。間違いないです。生きたカネ(の使い方)だと思いますよ。 Q:親が子供にカネをかけるようなものですかね。 石橋:だから、「10周年ぐらいで社史を作って」と思う人もいるかもしれないし、全国5カ所で(10周年)パーティーを開いて「なんだ」と思う人もいると思う。ただ、(社員が)はち切れんばかりの表情で帰って行くのを見て、これはきっと「頑張ろう」と思ってくれると。費用対効果で見たら、「ナイスだな」と思いますよ。 Q:今の企業人は、会社のことをあまり知らないと思います。でも、10年史を見ると、激動の歴史の中で、今の会社があることが分かる。「会社とは何か」を考える機会が多いでしょうね。 石橋:やっぱり会社をよく知って、好きになってほしい。何かの縁で入ってきたんだから、「この会社が日本で一番、好きな会社だ」と本人にも、家族にも思ってもらいたい。日本一の企業を目指しているわけではないけど、でも、働いていて「この会社が好きなんだ」と言える会社が素敵だと思うんですよ。) Q:現場を回って、「働き方改革」時代の若い社員をどう捉えている? 石橋:私の若い時は、「こうやれ」って言われたら、何も考えずにやって、そのプロセスの中で、自分で意味を考えていった。 今の子はそれがまったく通用しない。「なぜ、これをするの」って。だから、「なんでこの仕事をするのか」「こういう意味があって、こう成果につながっているんだよ」とか説明する必要がある。本音を言えば、すごく面倒くさい。その面倒くさいことをきっちり説明してあげなさいって管理職に言っている。そうしないと、今の子は育たない。でも、意味づけを理解させておけば、残業でも文句を言いませんよ。 Q:上司や先輩が説明不足だから、若手が「なんで」と反発する。 石橋:説明でかなりの部分は解決する。それでも、1分1秒も残業したくない、という連中も出てくると思います。でも、成果をあげなあかんわけで、そのためには説明してやらないと。意外とみんな、「そういうことですね」と納得してくれますけどね。 Q:納得すれば、若い人も仕事に没頭する。 石橋:一緒だと思いますよ。チームで評価されることに意義を感じる子は、うちは一杯いてくれている。 ▽若手に考えさせる経営(Q:家族主義はカネボウ時代には悪い方向にも行ってしまった。どこを修正すれば、家族主義は今の時代に機能するのか。 石橋:1つは透明にすることですね。今は、ホールディングスの経営会議の議事録もかなりの人が見ることができます。隠す必要がない。とにかく可能な限り「見える化」してしまい、みんなが近いレベルで情報を共有することが、大事なんだと思う。 カネボウ時代、社長が「好調だ」とか言ってて、その実態はボロボロだった。昔の大本営発表と同じで、戦況はいいと言い続けていて、最後は原爆をボーンと落とされて負けた。国民の大部分は、こんなにボロボロに負けてると知らなかったわけじゃないですか。 苦しいなら、みんなでシェアしておけばいい。社長も工場長も特別な人間がやっているわけじゃない。だから、悪い状況に陥っても、みんながシェアしてたら、誰かのアイデアが救う時もありますよね。社長一人のアイデアで切り抜けるなんて、できると思ってない。 若い頃、カネボウで腹が立ったことがあってね。上司から「お前ら危機感がない」と怒られたことがあるんですよ。怒っている人は、会社の悪い状況をよく知っている。我々、下っ端はブラックボックスで全部隠されているのに、危機感なんてどうやって持てるんだよ、と。「ふざけるな」と思った。どこまで会社が追い込まれているか、(幹部層は)オレたちに言ったことがないじゃないか。 一方でね、悪い話を伝えすぎると、現場の勢いがなくなって、沈みかけた船から逃げるネズミも増えると言う人がいる。僕は違うと思っている。逃げるネズミは、いつかは逃げるんだ。みんながシェアしている方が、はるかに活力を生む。 僕は、ほとんどの情報を知れるように(仕組みを)作ってきたつもりなんです。経営状況から、各事業の商品の原価まで。昔は原価を教えることに大反対されました。「辞めてよそのメーカーに行ったとき、原価がばれてしまう」とか。そんなもの、調べたらわかりますわ。そんなことよりも、「この原価だから、販促費はこれくらいでないと儲からない」と教えてる。原価を隠しておいて、「儲かるような売り方をしてこい」って言われても、分かんないですよ。それよりも「どんな売り方をしたら儲かるか、君が知恵を出したらいい」と。 そうすれば、社員は利益を生む方法を、現場で考えますね。やみくもに販売数を追うのではなくて。 石橋:若い子は、みんな優秀だと思います。うちの子だけじゃなくて、日本企業の若手社員は優れている。でも、大事なのは、考えさせることですよね。どんなに優秀な子でも、1〜2年考えなくなったら、確実にアホになりますよ。自分で考えることを習慣化すれば成長していきます。 Q:考える材料が与えられなかったわけですね。日本の敗戦と同じで。 石橋:みんな隠しちゃう』、「本社に呼んで面接している時と、現場に行って話をする時と全然違う。僕はよく、サッカーのホームとアウェーに例えるんですが、選手の動きが違いますよね。会社も同じで、聞き出せる話の内容も量も全然違うんですよ。本社に呼ばれたらガチガチで、ほとんど本音なんか出てこない。でも自分の職場で、普段着ならポロポロ本音が出てくる。酒飲みにいったら、もっと本音が出るじゃないですか・・・どこの破綻した企業も、ダメだと分かっていてやっている経営者はいないと思う。いつの間にか、気がつかなくなってしまう。「社員のために」と最初は思っていたのに、いつの間にか「自分のため」になっていて、社員の思いとはかけ離れてしまう。社員の思いと合っているのかどうか、見ておかないと」、「本社に呼んで面接している時と、現場に行って話をする時と全然違う」、確かにその通りだ。
・『情報格差は上司の自己満足 Q:今回の「挫折力」特集でも、『失敗の本質』を書いた野中郁次郎さんのインタビューをしました。彼は、日本企業の多くの失敗って、日本軍の失敗と重なると言います。ガダルカナル戦とかミッドウェー戦と同じで、情報をフィードバックしないまま、お友達ネットワークで事態が進んでいく。空気を大事にするとか、もう同じような組織問題ばかりです。 石橋:そうですね。それが、流行の言葉では「忖度」につながったり、下の方からは「今の経営陣を守るために、粉飾に近いけれども、やらないとダメだ」とか、いろんなことが起きる。ぼくは正しい情報が伝わるという状況を作ることが、そういうことの抑止力になるような気がするんですよ。 Q:情報をオープンにして困ったことはありましたか。 石橋:1つもないです。 Q:そうですよね。 石橋:あるわけがないですよ。だから、結局、情報格差は、役職上位職の「自分の方が多くの情報を持っている」という自己満足だけだったんですよね。 Q:情報格差によって、組織を統率できると勘違いする。 石橋:そうそう。そこが全部ボトルネックになって情報が伝わらない。大事なことを言っても、幹部が止めてしまう場合もありますよね。下から悲鳴があがっていることも、その人が(上に)止めちゃう。その上下の両方向に、スムースに正しい情報が伝わっていれば、もっと判断を早く、正しくできたのに。 Q:カネボウは関係会社で決算数字をつけ回す「循環取引」もやっていたが、これも情報がオープンだったらできなかったことですね。 石橋:オープンだったらね。オープンになれば、みんなが意見を言えますし、間違いを犯す確率は確実に減るんだと思います。 Q:多くの経営者はそこまで胆力がない。情報をすべて出せば、自分の判断ミスも明らかになりかねない。それでも、オープンにした方がいいと言い切れるのはなぜですか。 石橋:潰れたからですよ。会社が続いていたら、世話になった上司たちの名誉を傷つけてしまうとか、考えてしまう。ぼくらは潰れたから、全部オープンになっちゃってるので関係ないんですよ。だから、そのままオープンにしておけば、次の世代が私たちに気を遣う必要がないですよね。 Q:石橋さんのお話だと、会社は1回潰れないとダメなのかと思ってしまいます。 石橋:そんなことないと思います。「会社は何のためにやっているの」という所だと思うんですよ。確かに過去に世話になったが、今いる社員と未来の社員のために仕事をしているわけですよね。 ただ、人間は今の自分がかわいいのは当たり前で、「なんとか自分の時代だけは乗り切りたい」と思ってしまう。過去を見てもしがらみが多すぎる。でもカネボウはそれで潰れてしまった。 だから、ほんの10%でもいいから、10年経った時の自分と会社をイメージして、少しでも良い状態を作るには、何をしておかなければならないのか、みんなでそれを考えよう、と。10年後、仕事を違う人がやった時、もっとやりやすい仕事になっているには、何を変えておく必要があるのか。みんなで考えられたら、その会社は永遠に潰れないと言い続けているんですよ。 Q:やっぱり過去を見ると、しがらみになる恩人がいる。その存在がいない状態がいいんでしょうね。 石橋:その通りです。 Q:しがらみを断ち切れる? 石橋:できます。だから、定年の内規を厳しく運用する。僕は任期が重要だと思っている。長い人の時代に問題が生まれていることが多い。うちの歴史もそうだった。役職上は退いているんだけど、実質上は君臨しているとか。そういうことを認めず継承することが、抑止することにつながると思いますね。うちは8年と内規で決めました。役員の定年も従業員とほぼ同じにして、徹底して守る。少しはリスクを回避できるかな、と思います。 Q:中嶋(章義・前会長)さんも定年で辞めた? 石橋:定年です。会長も社長も定年は63歳と決めてますから。 Q:顧問とかは就いていない? 広報:半年だけ顧問をやりました。 石橋:うちは「顧問は1年」と決めていますので、それ以上はありません。 Q:なるほど。では、石橋さんが「老害」になることもない。 石橋:ない。顧問になったら1年で辞める。中嶋さんは会社が好きだったから来ていたけど、僕は顧問になったら会社には来ないから。そっちの方が会社のためになるでしょ(笑)。 Q:それで、しがらみなく次の人が経営する。 石橋:そうそう。うちは大株主が(染毛剤大手の)ホーユーというオーナー企業です。サラリーマン社長とオーナー社長を同列で考えてはいかんと思うんですよ。オーナー社長は何年でもやればいいんですよ、カリスマになって。でもサラリーマンはサラリーマンです。サラリーマン社長は期限を決めて循環させていくことで、会社が長く正常な状態に保たれると思う。 Q:最後に、カネボウ破綻劇で、一番つらかったことというと、何が頭に浮かびますか。 石橋:(10秒ほど沈黙)社員の生活が本当に守れるんか、という葛藤が一番つらかったですよね。 ▽いろいろな会社があっていい(Q:人事部長の時代ですか。 石橋:破綻前でしたが、「会社更正法の適用でもなんでも、早くしよう」と上司たちにかけあったことがあるんです。その時にこう言われた。「会社って、ここだからこそ生きているやつもいっぱいいるんだ。もし潰したら、そいつらに対して、どう責任を取るんだよ」と。 確かに、会社が潰れれば信用を失い、うまく再生できないかもしれない。その時に、どこかで拾ってもらえる優秀な人材もいるが、カネボウでしか働き口がなさそうな人もいる。これを言われて「うーん」と思って、腰が引けましたね。 Q:誰に言われたんですか。 石橋:上司。でも、後で気がついたんですよ、産業再生機構に入って。実は、会社が潰れても、本当に職を失うのは役員だけなんです。儲かっている事業だったら、売却されても従業員の雇用は守られるんです。その頃、そこまで頭が回らなかった。 でも当時は、「確かになあ」と。僕の出身である化粧品事業では、美容部員の優秀だった子たちは、外資系の化粧品会社とかに引っ張られるけど、そうじゃない子たちもいっぱいいるじゃないですか。その子だって、その収入で家族が生活していることもありますよね。「その家族の生活をお前は守ってやれるのか」って言われた時は、反論できなかったですね。 でも、それで腰が引けた自分が情けなかったし、つらかった。だからこそ、再生機構に入って以降は、社員の雇用だけは絶対守るというスタンスで今日まで来ました。ありがたいことにリストラはクラシエになって一度もないんで、信念を全うできているから幸せだと思っています。 Q:その言葉を言った上司は、自分の保身だった? 石橋:違います。本心でそう思っていた。「そのリスクをお前は負っていけるんか」って。僕はまだ40代半ばで、重たいなあ、と。人事が長かったから、走馬灯のように何千人の知ってる顔が浮かぶ。「あいつなんか無理だろうなあ」とか。「でも、あいつ、今年中学生になる子供がいるのに、生活どうなるんやろ」とか。 Q:大家族主義だからこその悩みでもありますね。クラシエでも、その思いは続いている。 石橋:一緒です。でも、うちだけじゃなくて、東芝さんもそうだし、日本の伝統ある企業って、昔はみんなそうだったんじゃないでしょうか。だから、会社に骨を埋めようというギブ・アンド・テークみたいな関係が成立していた。今は、会社も雇用を守りきれなくなっているし、従業員側も「もっといいところがあったら移ろう」という関係が一般化していて、大家族的なものが日本から少なくなってきている。でも、僕は大家族主義的なものが好きでこの会社に入ったし、いまクラシエはそんなに大きな会社ではないけど、その精神は守りたいと思ってやっていますけどね。 Q:それは会社が大きくなってもできる? 石橋:できると思っている。それは規模じゃない、経営者の考え方だと思うんです。甘やかさず、家族だから言える厳しい事を指摘してチームとして勝つ。家族主義的会社を全否定することはないと思う。 いろんな形態の会社があっていいじゃないですか。アメリカ合理主義を生かして成功した企業もいっぱいあるから、個人主義的な評価の中で自分を成長させたい人はそういう会社に行けばいいと思うんです。会社は受け皿なわけですから、いろんな考え方があった方がいい。みんな同じだったらつまんないもん。 Q:若い人も会社を選べるし。 石橋:ねえ。うちはこんな規模ですけど、こんなことを目指しているとフラッグを掲げる。 Q:それを見て、思いが合った人たちが集まる。 石橋:そうそう。その企業の価値に賛同する人が集まってくれば、戦いようがあると思うんですね。 Q:クラシエというのは、そういう意味で、チームで戦うのがいいという人が集まる原点に戻ろうとしているわけですか。 石橋:それが喜びになるような子たちが集まってきてくれているんだと思います。それが、収益力が回復してきた最大のポイントだと思って、これからもその旗を掲げ続けようと思っています』、「4年前、社員旅行を復活させたんだけど、「やるぞ」って言ったら、「えーっ」って経営陣が冷ややかな目で見る。「社長だけですよ、そんなの喜ぶのは」って・・・それには、条件があります。内容とか企画は、すべて若い子たちにやらせる。「年寄りは文句を言うな」と。入社1~2年目の子たちが必死に考えてくれて。でも、遊びと言えども、何百人という人たちを一斉に動かすって大変なんですよ。そういうことを学んでくれたら、いい話じゃないですか・・・実は、会社が潰れても、本当に職を失うのは役員だけなんです。儲かっている事業だったら、売却されても従業員の雇用は守られるんです。その頃、そこまで頭が回らなかった。 でも当時は、「確かになあ」と。僕の出身である化粧品事業では、美容部員の優秀だった子たちは、外資系の化粧品会社とかに引っ張られるけど、そうじゃない子たちもいっぱいいるじゃないですか。その子だって、その収入で家族が生活していることもありますよね。「その家族の生活をお前は守ってやれるのか」って言われた時は、反論できなかったですね」、「会社が潰れても、本当に職を失うのは役員だけ」というのはその通りだ。「クラシエというのは、そういう意味で、チームで戦うのがいいという人が集まる原点に戻ろうとしているわけですか。 石橋:それが喜びになるような子たちが集まってきてくれているんだと思います。それが、収益力が回復してきた最大のポイントだと思って、これからもその旗を掲げ続けようと思っています」、「クラシエ」が今後とも「回復」を続けることを期待したい。
次に、本年2月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した東京経済取締役東京本部長の井出豪彦氏による「マレリに再び「資金不安説」が浮上!経営破綻→再スタートから1年半で“暗雲”のワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338373
・『自動車部品大手の「マレリ」(さいたま市北区)がふたたび資金繰り不安に直面していることが分かった。持株会社で金融機関からの資金調達窓口である「マレリホールディングス(HD)」(同)が1月16日にバンクミーティングを開催し、足元の厳しい資金状況などについて説明したという』、興味深そうだ。
・『資金計画の狂いから数百億円規模の調達必要か 自動車部品大手の「マレリ」(さいたま市北区)がふたたび資金繰り不安に直面していることが分かった。 金融筋によれば、資金計画の狂いから新たに数百億円規模の調達が必要になる可能性があるとされ、スポンサーの米大手ファンドKKRなどが主導していざというときの調達先を探しているもようだが、成否は流動的だ。 マレリHDが2022年8月に東京地裁で民事再生手続(簡易再生)を終結してからまだ1年半しかたっていない。法的整理による再スタートから間もない段階での異例ともいえる資金不安。背景には、事業譲渡や資産売却が思うように進んでいないことがあるという。 たしかに昨年2月に東証スタンダードに上場する東京ラヂエーター製造の株式の一部を27億円で売却したほかは目立った動きが見られない。一方、従業員のリストラについては各事業部門が順調に積み上げた結果、退職金などのキャッシュアウトが先行してしまっているとされる。「リストラの効果はこれから出るため、今期以降、業績改善が見込めるのは事実だが、足元で一時的に資金ショートの危険性がある。グループの資金管理がうまくできていない」(取引行関係者)というからなんともお粗末だ』、プロである「米大手ファンドKKRなどが」「スポンサー」になっているにしては、お粗末だ。
・『事業再生ADR成立せず簡易再生に移行した経緯 マレリグループはカルソニックカンセイ(当時)が19年に欧州の同業大手であるマニエッティ・マレリ(同)を62億ユーロ(約9900億円)で買収して誕生した。カルソニックカンセイはもともと日産自動車の子会社だったが、日産の系列解体などをうけ17年に米大手投資会社のKKRが買収し、M&A(企業の合併・買収)による拡大路線をとった。 巨額の買収資金の大半を借入金で賄ったところ、翌年からのコロナ禍で完成車メーカーが大幅な減産を強いられたことなどが痛手となり、経営が悪化。22年3月にマレリHDは私的整理の一種である「事業再生ADR」を申請した。 ADR(裁判外紛争解決手続き)の成立には26社あった金融債権者が全て同意する必要があるが、中国系の3行が反対したことで成立に至らず、同年6月に法的整理(民事再生手続)を申請した経緯がある。法的整理は「倒産」とカウントされる。負債は1兆1300億円に達した。 さらに同年7月には民事再生法の簡易再生手続に移行した。「簡易再生」とは聞き慣れないが、ADRが成立しなかった場合でも迅速かつ円滑な再生を可能にするために21年に新たにできた制度だ。ADRで対象債権額の60%以上を保有する債権者の同意があれば、裁判所での手続きを大幅に省略し、ADRでの事業再生計画案をそのまま民事再生での再生計画案として決議できる。 ADRに反対した中国系3行の債権額は合計でも10%に満たなかったことから難なく再生計画は認可され、22年8月に早くも再生手続は終結した。 再生手続ではあらためてKKRがスポンサーに決まり、マレリHDはKKRへの第三者割当増資で888億円の払い込みを受けた。併せて、みずほ銀行をはじめとする取引銀行団は4301億円の債権放棄を実施したほか、債務株式化(DES)による253億円の現物出資にも応じた。これで経営再建は峠を越したはずだった』、「KKR」や「みずほ銀行」は一体、何をやっているのだろう。
・『取引銀行団の対応に注目 再び混乱が起きる可能性も にもかかわらず、このほど資金不足の懸念が浮上している背景はすでに記したとおり。「グローバル企業といえば聞こえはいいが、実態は身の丈を越えたM&Aの弊害で各事業部がバラバラ。結果的に資金コントロールが機能不全に陥っているのが根本的な問題だ」(前出の金融筋)。当初から一度マレリグループの経営にしくじったKKRがふたたび主導権を握って大丈夫かという不安は銀行団の中にもあったが、その不安が的中してしまった可能性がある。 実際、準主力行だった三井住友銀行、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行は再生計画に賛成したにもかかわらず、手続終結直後から貸出債権の売却に動き、すでにマレリから手を引いてしまっているとの情報もある。残っているのはメインのみずほ銀行のほか、国際協力銀行、日本政策投資銀行などだ。 今回の資金不安に対し、前出の金融筋は「みずほといえども追加融資には応じにくいはず。KKRが調達先を見つけてくるにしても、マレリグループの資産に対する新たな担保権の設定には既存の取引銀行団の同意を得る必要があり、担保の取り分が目減りする既存行がすんなり受け入れるかどうかは不透明だ」と分析する。 ADRのときと同じ混乱が繰り返される懸念がある。別の金融関係者は「遅れている事業売却が実現すればなんとかなるかもしれない」と期待を寄せるが、いずれにしても目が離せない状況になってきた』、「準主力行だった三井住友銀行、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行は再生計画に賛成したにもかかわらず、手続終結直後から貸出債権の売却に動き、すでにマレリから手を引いてしまっているとの情報もある」、「みずほ銀行」は「準主力行」への説得に失敗、「準主力行」が逃げ出したとはみっともない限りだ。
・『ダイヤモンド編集部の質問に対するマレリHDからの回答は なお、ダイヤモンド編集部からの質問に対し、マレリHDのジェラード・ファン・ブッティンガ・ウィッチャーズ・グローバルコミュニケーション部門長副社長は下記の通り、回答した。 <質問1>1月16日にバンクミーティングを開催したとの情報がありますが、事実ですか? <回答>弊社と銀行とは定期的にミーティングを行っており、CFO並びにCEOからも定期的に説明しています。 <質問2>その席上、グループの事業売却や資産リストラが遅れているとの説明があったとの情報がありますが、事実ですか? <回答>計画は順調に進捗しています。固定費を削減し、効率を向上させ、プロセスを更に簡素化し、デジタル化することに取り組んできました。その結果、利益を取り戻し、将来に適した運営体制を維持するためのバランスの取れた施策を実施し、ビジネスを最適化できました。業績も大きく改善、将来に向けて受注残も堅調です。2024年および2025年についても安定した収益を見込んでいます。2023年についても、事業再編にかかる一時的費用を除外したベースで営業利益は黒字となりました。 <質問3>足元でグループの資金繰りが悪化しており、数百億円規模の資金調達に動いているとの情報がありますが事実ですか? <回答>業績は大きく改善しており、受注も将来に向けて堅調な水準にあります。営業フリーキャッシュフローも創出できており、財務的に健全な状況に向かっています。 <質問4>今回の資金繰り悪化の原因は何ですか?またどのように乗り切る計画ですか? <回答>繰り返しになりますが、弊社の業績は大きく改善しており、受注も堅調な水準にあります。営業フリーキャッシュフローも創出できており、財務的に健全な状況に向かっています。 <質問5>民事再生手続きが終結後、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行が貸出債権を売却したとの情報がありますが事実ですか? <回答>当事者の代わりにコメントすることは差し控えさせていただきます。(ご参考情報として:銀行がセカンダリー市場に貸出債権を売却することは通常よく行われていると理解しております)』、「銀行がセカンダリー市場に貸出債権を売却することは通常よく行われていると理解しております」と「準主力行」が逃げ出した問題をスマートに表現しているのはさすがだ。それにしても、メガバンクで唯一残された「みずほ銀行」は単独でも融資を続けるのだろうか。
第三に、3月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したTESIC株式会社CEOの川越貴博氏による「【実話】トヨタからの転職先のパン会社が民事再生中!?「トヨタ式カイゼン」で再建してみた」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339191
・『高卒でトヨタ自動車に入社し、13年間の工場勤務中に「カイゼン思考」を骨の髄まで叩き込まれた筆者。トヨタ退職後に民事再生中のパン製造会社に転職した筆者は、周囲の猛反発を受けながらも、短期間で組織を立て直すことに成功した。筆者が打った「カイゼン」の策とは――。本稿は、川越貴博『経営課題をすべて解決するカイゼン思考 利益最大化・資金繰り安定・組織健全化』(現代書林)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『トヨタ自動車を退社して民事再生中のパン製造会社へ あるとき私は家庭の事情で東京に移住することになりました。 東京でもトヨタ自動車で働ければ、と考えたのですが、残念ながら東京には支社・支店機能があるだけで工場はありませんでした。自分の経験が生きる部署では働けないので、退職することを決意しました。 世界一の企業を辞めるわけですし、「トヨタの従業員」という特権的な感覚もある。もうこれ以上の損失はありません。上司の反応も、「トヨタを辞めるなんて信じられない」というものでした。 トヨタという会社に守られていることは理解していたので、辞める以上はさらにステップアップするために、自分に地力をつけなければならないと考えました。 そこで、トヨタ在籍中に今後必要になるだろうと思われる資格をいろいろと取得して転職活動に備えました。まずはビジネス実務法務、ファイナンシャルプランナー(FP)、さらにメンタルヘルスマネジメントの資格も取得しました。 なぜ、こうした順番で取っていたのかというと、トヨタを辞める以上、10年以内に起業して経営者になることを目指そうと決めていたからです。 東京での転職先は民事再生中のパン製造会社でした。 就職活動はエージェントにお願いしていたのですが、「生産管理部門を立ち上げてほしい」とのミッションで社長直下での勤務という会社がある、という触れ込みでした。 生産管理の部署の立ち上げはすでにトヨタで経験していたので目新しい仕事ではなかったのですが、“社長直下”というポジションに魅力を感じました。「経営の勉強ができるんじゃないか」と考えたのです。 この会社が一度破綻していて、そのときは民事再生中だということは入社してから知りました。 社長直下だったので、決算書などを見せてもらい経営状態を詳しく調べました。トヨタ時代に財務的な勉強もしていたので、その会社の経営の実態はすぐに理解しました。 とんでもない状況でした。原価率95%。まさに火の車です。 「生産管理部署を立ち上げる」という生ぬるいことをいっている場合ではないと考え、私は「ターンアラウンドをやらせてほしい」と社長に直訴しました。 そして、ターンアラウンド・マネージャーとして事業再生に取り組むことになったのです』、「ビジネス実務法務、ファイナンシャルプランナー(FP)、さらにメンタルヘルスマネジメントの資格も取得」、とは大したものだ。「ターンアラウンド・マネージャーとして事業再生に取り組むことになった」、目のつけどころがよさそうだ。
・『猛反発を食らった「経営再建」への道筋 当時、ターンアラウンドの知識やノウハウは全くありませんでした。思考は単純でした。お金がないのなら儲ければいい。売上を増やして、無駄な出費を削ればいいだけの話です。 家計を管理するのと同じです。そもそも給料が少ないのか、給料はそこそこあるけれど無駄な支出が多いからダメなのか、と自分の実体験に照らしてそのバランスを分析し、社長や社員に実態を伝えて経営再建への道筋を伝えていきました。 当時、私はまだ30代前半。周りの社員はみな年上です。 「なんで、入社して間もない若造に偉そうにいわれなければならないのか」「これまで自分たちがやってきたスタンスを崩さないでくれ」 多くはそういった反応でした。しかし、そもそも後ろ向きのスタンスで続けていても何も解決しません。 事業を再生するためなら、べつに嫌われてもかまわないと思い、私のやろうとしていることを懇切丁寧に説明していきました。 それでも刺さらない人には刺さりません。ただ、一部には目の色の変わった人もいました。その目を輝かせた人たちをどうやって多勢にしていくかをまず戦略の一つにしました。 役職や勤続年数などの垣根は全く関係なしに、私の提案を理解して前向きに捉えてくれた人たちだけを残そうと考えたのです。 目の色を変えて頑張ろうとなったのは、最初は全社員60人中わずか3人だけでした。それも営業の若い社員1人とアルバイトの子2人です。 でも、若いからこそ、「この会社、このままではヤバいよね」という鋭敏なセンサーと危機感を持っていました。 そこに私自身も感銘を受け、一緒にやっていこうと決めたのです。そして、徐々に上の人間も切り崩していこうと考えました』、「私の提案を理解して前向きに捉えてくれた人たちだけを残そうと考えたのです。 目の色を変えて頑張ろうとなったのは、最初は全社員60人中わずか3人だけでした。それも営業の若い社員1人とアルバイトの子2人です。 でも、若いからこそ、「この会社、このままではヤバいよね」という鋭敏なセンサーと危機感を持っていました。 そこに私自身も感銘を受け、一緒にやっていこうと決めたのです。そして、徐々に上の人間も切り崩していこうと考えました」、よく嫌にならずに頑張ったものだ。
・『経営状態を数値化して客観的に評価する 私の戦略は、とにかく主観を排して経営状態を数値化して示し、客観的に評価するというものです。このやり方をどんどん導入しました。 たとえば、「売上が3億で、それに対して使っているお金がこれだけあります。単純に足りていませんよね」とまず説明します。) さらに、「では、売上が少ないことが問題なのか、売上に対して出費が多すぎることが問題なのか、どっちだと思いますか?」といったことを、営業やマーケティング、総務、コスト管理をしている部署、工場などで調査させました。 こうして問題点を見える化していくと、当然ながら売上も足りないし、出費も多すぎるという結論になります。 では、「売上を増やすためにどういうアクションが必要だと思いますか?」と考えてもらいます。 コストについては、「たとえば、この経費を減らしたらどのような副作用があると思いますか?」と検証していきます。副作用がなければ、そのコストをカットすればいいわけです。 このように進めていくと、どんどん主観的な理由が取り除かれていきます。たとえば、この会社では創業当時から付き合っている仕入れ先がありました。その仕入れ先に問題があっても、「長い付き合いだから」という話になってくるわけです。そこで、「健全なお付き合いができていますか?」「向こうの言いなりになっていませんか?」と疑問を突きつけて考えてもらいました』、「たとえば、この会社では創業当時から付き合っている仕入れ先がありました。その仕入れ先に問題があっても、「長い付き合いだから」という話になってくるわけです。そこで、「健全なお付き合いができていますか?」「向こうの言いなりになっていませんか?」と疑問を突きつけて考えてもらいました」、客観的な基準で洗い直すのはいいことだ。
・『品質を変えずに生産量を増やすにはどうすべきか 販売の方では、大手のOEM商品の問題もありました。当時、このOEM商品は売上の40%を占めていました。その製品に対する原価計算をして、売上に対してどのくらいの費用を使っているかを調査したところ、ほぼすべての商品が逆ザヤだったのです。 製造コストがかかりすぎていて、作れば作るほど赤字が増える構造になっていたわけです。その状況に当時の担当者は気づいていませんでした。 「OEM先が大きな企業だし、昔からの付き合いなので価格交渉はできない」「これだけ大きな会社と取引ができているのは、うちの会社の信用になっているから」 そんな訳のわからない説明を受けました。客観的に見れば、そもそもその注文をとってくるべきなのかどうかを考え直さなければなりません。 価格の見直しを交渉しましたが、「卸値は変えられない」ということでした。かといって、40%の売上を飛ばすわけにもいきませんし、そのへんは一定程度理解できます。) そこで、どうすれば儲けを出せるか、会社を挙げて考えることになりました。 まずは、トヨタで学んだことを活かし、製造の標準作業を可視化することから始めました。標準3票(トヨタ生産方式の標準作業に不可欠な工程別能力表、標準作業組み合わせ票、標準作業票の3点セット)を作って、それぞれの手順を分析し、どのくらいのバラツキがあり、どう品質に影響するのかを明らかにしました。 その上で、OEM先の担当者も工場に呼んで説明・提案を行いました。 経営状態を正直に話して、品質に影響のないものからカイゼンしたいと申し入れました。まず、商品の包装紙を安価なものに変えさせてほしいと提案しました。 また、一日に製造する量を増やせば一つあたりの単価は落ちます。そこで、パンは発酵食品なので難しいのですが、品質を落とさずに生産量を上げる方法を考えました。 「水の配合などの調整をしながらスピードを上げて機械に通せば、このくらいの分数なり秒数で発酵するので、このタイミングで出して温度や時間をこう設定すれば、前と変わらない品質のものが仕上げられます」 このように、一度卓上でシミュレーションし、さらに現場でテストして披露しました』、「大手のOEM商品の問題もありました。当時、このOEM商品は売上の40%を占めていました。その製品に対する原価計算をして、売上に対してどのくらいの費用を使っているかを調査したところ、ほぼすべての商品が逆ザヤだったのです・・・製造の標準作業を可視化することから始めました。標準3票(トヨタ生産方式の標準作業に不可欠な工程別能力表、標準作業組み合わせ票、標準作業票の3点セット)を作って、それぞれの手順を分析し、どのくらいのバラツキがあり、どう品質に影響するのかを明らかにしました。 その上で、OEM先の担当者も工場に呼んで説明・提案を行いました。 経営状態を正直に話して、品質に影響のないものからカイゼンしたいと申し入れました。まず、商品の包装紙を安価なものに変えさせてほしいと提案しました・・・卓上でシミュレーションし、さらに現場でテストして披露しました」、なるほど。
・『原価率を70%まで下げ1年半で黒字化を達成 重要なのは、感情ではなくロジックです。このように「カイゼン」を見せたことで、OEM先には「この会社は信用できる」と思っていただき、これ以降、受注量が一気に増えました。 こうした会社の評判は業界でも噂になるのでしょう。さらに、某有名コンビニチェーンからもお声がけいただき、この2本の柱ができたことによって業績は一気に回復したのです。 結果的に、初年度で原価率を70%くらいまで下げることができ、1年半で黒字化し、経営が安定しました。 最終的には原価率を60%まで下げ、一般的なサプライヤーの水準にまで持っていくことができました。 60人いた従業員は最終的には24人になっていました。でも、一人あたりの労働時間自体は増えていません。 売上や受注量は増加しているので生産性は上がっていました』、「「カイゼン」を見せたことで、OEM先には「この会社は信用できる」と思っていただき、これ以降、受注量が一気に増えました。 こうした会社の評判は業界でも噂になるのでしょう。さらに、某有名コンビニチェーンからもお声がけいただき、この2本の柱ができたことによって業績は一気に回復したのです。 結果的に、初年度で原価率を70%くらいまで下げることができ、1年半で黒字化し、経営が安定しました。 最終的には原価率を60%まで下げ、一般的なサプライヤーの水準にまで持っていくことができました。 60人いた従業員は最終的には24人になっていました。でも、一人あたりの労働時間自体は増えていません。 売上や受注量は増加しているので生産性は上がっていました」、地道な努力で「受注量」を「増やし」、「1年半で黒字化し、経営が安定しました。 最終的には原価率を60%まで下げ、一般的なサプライヤーの水準にまで持っていくことができました」、とはさすがだ。
先ずは、2017年8月22日付け日経ビジネスオンラインが掲載したジャーナリストの金田 信一郎氏による「カネボウ破綻、絶望からの経営訓 クラシエ・石橋社長、「復興の10年」を語る」を紹介しよう。やや古いが、改めて取上げる価値は十分にあると取上げた次第である。
https://business.nikkei.com/atcl/report/16/081700155/082100002/
・『10年前、壮絶な破綻劇を引き起こしたカネボウは今――。当時、中堅幹部だった石橋康哉氏は、残された3事業を引き継いだクラシエホールディングスの社長となり、収益力を急回復させている。「家族主義を復活させる」。社員を訪ね、酒を酌み交わし、社員旅行を復活させた。そんな石橋社長は、どのようにして会社を蘇らせたのか。 ※日経ビジネス8月7・14日合併号では「挫折力 実録8社の復活劇」と題した特集を掲載しています。併せてお読みください。 Q:カネボウからクラシエに社名が変わって10年、赤字体質から収益力が大きく回復してきました。そして、「クラシエ10年の歩み」という社史を作ったのに、その半分を破綻の経緯に割いている。不祥事を起こした企業は、その後、事件を語ろうとしません。ところが、カネボウの創業から始まって、破綻の経緯を詳しく書いてある。なぜ、こうした社史を作ろうとしたんですか。 石橋社長(以下、石橋):私たちはそういう(破綻という)過去があったことを知っている者として、正しく文字にして残して、次の世代につないでいく。それが、あの時代を経験した人間の大きな責任なんだろうと。2度とあってはならないことだから。 でも、クラシエって、あの経験を超えてきたことで今があると思うんですよ。もう1回やれって言われても嫌ですよ、絶対(笑)。2度と経験したくない。 僕は「普通の会社を目指す」と言い続けているけど、「普通」って失った時に初めて気付くものなんですよ。まじめに働いていればボーナスが出て、結婚して家を建てて、定年後は年金と退職金で暮らしていく。企業人の心のどこかに、そういう物語があるじゃないですか。それがある日突然、ご破算になっちゃった。その傷みや悔しさ、情けなさを乗り越えて今まで来たことを、「その時代」を知らない人たちに伝えていきたい。 Q:今は優良企業でも、破綻しかけた企業は多い。失敗を物語として語り継いでいる会社の方が、学ぶ力が強く、「何のために仕事をしているのか」を知っています。 石橋:いい効果があると思いますよ。だから、今は50%以上の人がカネボウ時代を知らない社員です。で、ここ(10年史)を読むと、「上司は偉そうにしてるけど、こんなことになってたんじゃないか」と。それでいいと思うんですよ。 破綻直後は、結構気にする雰囲気がありました。「先祖帰りだ」とか、「過去の栄光にすがっている」とかね。最近はめっきり減りましたけど。 正しく認識して、何が悪かったのか、真正面から向き合うことで見えてくるものがある。カネボウの破綻を、斜陽産業になった繊維(事業)の問題だとか、経営者の問題だとか、そんなことで片付けてはならないんだと思うんですよ。我々だって、その企業にいたわけですから、責任はゼロではない。だから、変えていこうよ、と』、「今は50%以上の人がカネボウ時代を知らない社員です。で、ここ(10年史)を読むと、「上司は偉そうにしてるけど、こんなことになってたんじゃないか」と。それでいいと思うんですよ。 破綻直後は、結構気にする雰囲気がありました。「先祖帰りだ」とか、「過去の栄光にすがっている」とかね。最近はめっきり減りましたけど。 正しく認識して、何が悪かったのか、真正面から向き合うことで見えてくるものがある。カネボウの破綻を、斜陽産業になった繊維(事業)の問題だとか、経営者の問題だとか、そんなことで片付けてはならないんだと思うんですよ」、「今は50%以上の人がカネボウ時代を知らない社員」もうそんなになったのかと、時間が経つのの速さに改めて驚かされた。
・『家族主義を貫く Q:変えるべき問題はどこにあったんでしょうか。 石橋:一番の問題は、「内向き」だったこと。130年前の紡績が創業ですから、全国から15歳ぐらいの子を集めて寮に入れて、社内に学校を作って教育していく。その先生は社員です。大学を出て3年ぐらいは、その先生役を担っていくわけで、そうなれば自分の弟であり、妹になっていくわけですよね。 Q:まさに家族ですね。 石橋:そう、家族ですよ。「家族主義」って悪いことじゃない。すばらしい一面は伝えていきたい。毎年、1〜3月に現場に行って、100人単位でフェイス・トゥー・フェイスで「進んでいく道はこっちだろう」と話している。 繊維、ヒール(悪)役じゃないんだよ、と。昔は中卒で入ってきた子が、ずっと寮で生活して、地元の人と知り合って結婚していく。そうすると、まだ味噌汁の作り方や裁縫とか分からない。そこで、退職前の数カ月間、そういうことを教えてから嫁に出していたんですよ。 Q:これから退職するという人に。 石橋:そう。それを話すとちょっと、うるっときてね。「カネボウという会社の家族主義には、そこまでやっていたDNAがあるんやで」って。「僕らが残してもらったすばらしいDNAなんだ。だから僕らは、これを引き継いで残していこう」って話して回った。 でも一方で、かばい合いすぎてダメなところを指摘できなかったり、弊害も出てくる。経営判断を遅らせたり、誤らせたり、問題につながってきた。それを1つひとつ解きほぐしながら、「何をこれからも継承していくの」「どんな新しい(改革の)風を吹かせるの」っていうことを、毎年のようにみんなで話し合っていく。そして2度と間違いが起こらないようにする。 Q:何が間違いだった。 石橋:悪くなる原因は1つではない。特定の事業や経営者に限定すると、本質にたどり着かない。本質は、そうなってしまう風土とか、空気が会社にあったんだと思うんですよね。そういう空気にならないためにはどうするのか、みんなで考えられると思うんですよ。 Q:その議論の結論は、家族主義は守るべき。 石橋:僕は守ろうと思っている。 Q:「働き方改革」には逆行するようにも聞こえますが、一方で家族のように仲良く仕事をするのが悪いこととは思えないですね。 石橋:思えないんですよ。今は、合理主義や能率主義ばかりが取りざたされている。目指す会社はあっていい。僕らは違うと思っている。「自分のため」ではなくて、「チームのため」とか。そこに一生懸命やろうという価値観を持っている日本人て、たくさんいるじゃないですか。 Q:そっちの方が日本人の強さが出る。 石橋:自分のためより、チームのための方が、力が出ますよね。僕はよく、「居場所」と言うんですけど、会社を辞めていく人の共通項があって、「集団の中に居場所がなくなった」って言うんですよ。役に立っていると思える人は、辞めようとしない。つらいことがあっても、仲間の中で自分の存在が認められていると頑張れるわけですよね。 個人の業績だと、結果が出なくなった瞬間に居場所がないですよね。そうじゃねえだろう、って。「おまえにはちゃんと役割があるだろう。それを果たしていたら、良い業績の時もあれば悪い時もある」と。それをみんなが認め合っていれば、それでいいんですよ。) Q:カネボウが悪くなってしまった1つのポイントとして、「売り上げを常に上げるように求められて、個人も組織も疲弊した」と多くの部署の人が証言しています。とにかく数字を作らないといけない、と。 石橋:今だって、事業をやっている限り、数字は必要だとは思う。でも、何のための数字なのか。僕は、「利益の永続的な成長だよ」って言い続けている。「売上高至上主義は絶対ダメだ」と。でも、売り上げがダメだとは言っていない。利益を上げるために、一番まっとうなやり方は売り上げを上げることですよね。でも、売り上げが目的になっちゃったんです。だから、利益は上がらず、やっているヤツも疲弊していく。 去年、「10年後のクラシエをどんな会社にしたいですか」と社員にアンケートをとった。すると、「家族や友人に誇れる会社にしたい」とか「環境を大切にする会社になりたい」と。どれも正解だと思う。でも、みんなが頑張って利益をあげて、そのカネの使い方だよね、と。ボーナスが高かったり、環境保護に資金を投じられるのも、儲かったカネがあるから、そういう夢がかなうんだよね、と。何をするにも儲からなかったら始まらない。 だってうち1回、潰れたやろ、と。儲けなければ、同じことが起きる。事業を営んでいる限り、儲けることができないと夢は実現しないよ、と言っているんです』、「「家族主義」って悪いことじゃない。すばらしい一面は伝えていきたい・・・かばい合いすぎてダメなところを指摘できなかったり、弊害も出てくる。経営判断を遅らせたり、誤らせたり、問題につながってきた。それを1つひとつ解きほぐしながら、「何をこれからも継承していくの」「どんな新しい(改革の)風を吹かせるの」っていうことを、毎年のようにみんなで話し合っていく。そして2度と間違いが起こらないようにする・・・売り上げが目的になっちゃったんです。だから、利益は上がらず、やっているヤツも疲弊していく」、なるほど。
・『社員旅行、数千万円の効果 Q:そうした会話も、現場を回って、直接話した方が効果は高いのでしょうか。 石橋:今の時代、ネットとかいろいろあるし、はるかにそっちの方がいいと思いますよ。でも、芸風は変わんねえわ(笑)。直接現場に行って、みんなの顔を見ながら「そやろ、そやろ」と言って、終わったらば、「じゃあ、飲み行くぞ」と。どこまで伝わっているのか、ギャップがどこにあるのか、「確かめ算」みたいなものです。 Q:飲んで話しながら、その反応を見たり、全体の雰囲気を確かめたりするわけですね。 石橋:うちって、やっぱりそういう会社やと思っているんです。年初にビデオで経営方針を流したりはしている。だけど、現場に行って、「今日はナマの社長、来たよお」って(笑)。「言いたいことがあれば、言ったらいいよ」って。 人事を長くやったけど、本社に呼んで面接している時と、現場に行って話をする時と全然違う。僕はよく、サッカーのホームとアウェーに例えるんですが、選手の動きが違いますよね。会社も同じで、聞き出せる話の内容も量も全然違うんですよ。本社に呼ばれたらガチガチで、ほとんど本音なんか出てこない。でも自分の職場で、普段着ならポロポロ本音が出てくる。酒飲みにいったら、もっと本音が出るじゃないですか。 Q:退職する女子を結婚前に修業させていたわけだから、地元ではカネボウファンは多いですよね。そういう地域の店で飲んでいると、もう思っていることがバンバン出てくる。 石橋:全然違いますよね。私が本社に戻って(担当役員に)「現場でこんな意見が出ているぞ」って言えば、担当者は「もっとよく知らなければ」と現場に目が向くわけじゃないですか。それによって、経営陣と社員の距離って、もっと短くできるし、風通しをよくできるかもしれない。 どこの破綻した企業も、ダメだと分かっていてやっている経営者はいないと思う。いつの間にか、気がつかなくなってしまう。「社員のために」と最初は思っていたのに、いつの間にか「自分のため」になっていて、社員の思いとはかけ離れてしまう。社員の思いと合っているのかどうか、見ておかないと。 4年前、社員旅行を復活させたんだけど、「やるぞ」って言ったら、「えーっ」って経営陣が冷ややかな目で見る。「社長だけですよ、そんなの喜ぶのは」って。「今の子はそんなの来ませんよ」って。「あれ」と思って、しばらく考えたりしたんだけど、「お前ら、やっぱり絶対うけるよ」と。 20〜30年前までは慰安旅行って、日本中の会社がやっていたじゃないですか。で、若い子たちが「オフまで会社の人と一緒なんて嫌だ」っていうことで、下火になってきたことはありましたよ。でも、最近は違います。 Q:本当ですか。 石橋:それには、条件があります。内容とか企画は、すべて若い子たちにやらせる。「年寄りは文句を言うな」と。入社1~2年目の子たちが必死に考えてくれて。でも、遊びと言えども、何百人という人たちを一斉に動かすって大変なんですよ。そういうことを学んでくれたら、いい話じゃないですか。 Q:部署単位で行くんですか。 石橋:工場や支店など、いろんな単位でやっている。任せています。 Q:社長もたまには行くんですか。 石橋:それがね、最初は「全部、俺が出る」って言ったんだけど、本当に地方から電話がかかってきて、「やっぱ、全部出られない」と(笑)。「社長やめたら出る」と言ってます。今は本社の(慰安旅行)だけ出ています。 仕事って、つらくて苦しいことは当たり前じゃないですか、カネもらってるんだから。でも、それだけじゃない。みんなで頑張ったら慰安旅行があったり、工場では地域の人と夏祭りや盆踊りをやったりね。そういうことが出来ることが、この会社の良いところだと思うんですよ。 Q:それがなければ、個人で仕事をやればいい話ですね。 石橋:そう。僕はよくそれを言うんですよ。「チームでやった方がいいと思うから会社にいるんだろう」って。「自分一人で満足できるんだったら、会社なんか辞めて個人で事業やった方がいいじゃん」って。自分以上の力を発揮する醍醐味があるから組織の中で生きているわけだから、その喜びとかを感じなかったら意味ないじゃないですか。 Q:だから、家族主義はパフォーマンスを上げるための仕組みだったんでしょうね。 石橋:元々はね。だから、すばらしい発想だった。でも繰り返しているうちに、保身(の道具)に変わってきて、歪みが少しずつ出ていった。だから、今の自分たちの仕事に置き換え、「原点」のいい部分を引き継いでいけばいいと思うんですね。 Q:慰安旅行もやり方によってはいい。 石橋:まあ、多くの会社はカネがないから、なくしたんでしょうけどね(笑)。全社で数千万円かかってるもん。これも、「儲けたから、旅行するんやで」って。がんばった分は反映されるように、経営者は絶対にやっていかないといけない。ボーナスや福利厚生などトータルしてみた時に、頑張った分は会社が答えてくれているなと実感させろ、と。会社だけ良くなっていて、自分の生活が変わらなかったら、「搾取されてるだけだ」と考え始め、誰も頑張らないですよ。 Q:慰安旅行も、数千万円の効果はあると。 石橋:十分戻ってきます、結果的には。数千万円使っても、その子たちが数億円にして返してくれますよ。間違いないです。生きたカネ(の使い方)だと思いますよ。 Q:親が子供にカネをかけるようなものですかね。 石橋:だから、「10周年ぐらいで社史を作って」と思う人もいるかもしれないし、全国5カ所で(10周年)パーティーを開いて「なんだ」と思う人もいると思う。ただ、(社員が)はち切れんばかりの表情で帰って行くのを見て、これはきっと「頑張ろう」と思ってくれると。費用対効果で見たら、「ナイスだな」と思いますよ。 Q:今の企業人は、会社のことをあまり知らないと思います。でも、10年史を見ると、激動の歴史の中で、今の会社があることが分かる。「会社とは何か」を考える機会が多いでしょうね。 石橋:やっぱり会社をよく知って、好きになってほしい。何かの縁で入ってきたんだから、「この会社が日本で一番、好きな会社だ」と本人にも、家族にも思ってもらいたい。日本一の企業を目指しているわけではないけど、でも、働いていて「この会社が好きなんだ」と言える会社が素敵だと思うんですよ。) Q:現場を回って、「働き方改革」時代の若い社員をどう捉えている? 石橋:私の若い時は、「こうやれ」って言われたら、何も考えずにやって、そのプロセスの中で、自分で意味を考えていった。 今の子はそれがまったく通用しない。「なぜ、これをするの」って。だから、「なんでこの仕事をするのか」「こういう意味があって、こう成果につながっているんだよ」とか説明する必要がある。本音を言えば、すごく面倒くさい。その面倒くさいことをきっちり説明してあげなさいって管理職に言っている。そうしないと、今の子は育たない。でも、意味づけを理解させておけば、残業でも文句を言いませんよ。 Q:上司や先輩が説明不足だから、若手が「なんで」と反発する。 石橋:説明でかなりの部分は解決する。それでも、1分1秒も残業したくない、という連中も出てくると思います。でも、成果をあげなあかんわけで、そのためには説明してやらないと。意外とみんな、「そういうことですね」と納得してくれますけどね。 Q:納得すれば、若い人も仕事に没頭する。 石橋:一緒だと思いますよ。チームで評価されることに意義を感じる子は、うちは一杯いてくれている。 ▽若手に考えさせる経営(Q:家族主義はカネボウ時代には悪い方向にも行ってしまった。どこを修正すれば、家族主義は今の時代に機能するのか。 石橋:1つは透明にすることですね。今は、ホールディングスの経営会議の議事録もかなりの人が見ることができます。隠す必要がない。とにかく可能な限り「見える化」してしまい、みんなが近いレベルで情報を共有することが、大事なんだと思う。 カネボウ時代、社長が「好調だ」とか言ってて、その実態はボロボロだった。昔の大本営発表と同じで、戦況はいいと言い続けていて、最後は原爆をボーンと落とされて負けた。国民の大部分は、こんなにボロボロに負けてると知らなかったわけじゃないですか。 苦しいなら、みんなでシェアしておけばいい。社長も工場長も特別な人間がやっているわけじゃない。だから、悪い状況に陥っても、みんながシェアしてたら、誰かのアイデアが救う時もありますよね。社長一人のアイデアで切り抜けるなんて、できると思ってない。 若い頃、カネボウで腹が立ったことがあってね。上司から「お前ら危機感がない」と怒られたことがあるんですよ。怒っている人は、会社の悪い状況をよく知っている。我々、下っ端はブラックボックスで全部隠されているのに、危機感なんてどうやって持てるんだよ、と。「ふざけるな」と思った。どこまで会社が追い込まれているか、(幹部層は)オレたちに言ったことがないじゃないか。 一方でね、悪い話を伝えすぎると、現場の勢いがなくなって、沈みかけた船から逃げるネズミも増えると言う人がいる。僕は違うと思っている。逃げるネズミは、いつかは逃げるんだ。みんながシェアしている方が、はるかに活力を生む。 僕は、ほとんどの情報を知れるように(仕組みを)作ってきたつもりなんです。経営状況から、各事業の商品の原価まで。昔は原価を教えることに大反対されました。「辞めてよそのメーカーに行ったとき、原価がばれてしまう」とか。そんなもの、調べたらわかりますわ。そんなことよりも、「この原価だから、販促費はこれくらいでないと儲からない」と教えてる。原価を隠しておいて、「儲かるような売り方をしてこい」って言われても、分かんないですよ。それよりも「どんな売り方をしたら儲かるか、君が知恵を出したらいい」と。 そうすれば、社員は利益を生む方法を、現場で考えますね。やみくもに販売数を追うのではなくて。 石橋:若い子は、みんな優秀だと思います。うちの子だけじゃなくて、日本企業の若手社員は優れている。でも、大事なのは、考えさせることですよね。どんなに優秀な子でも、1〜2年考えなくなったら、確実にアホになりますよ。自分で考えることを習慣化すれば成長していきます。 Q:考える材料が与えられなかったわけですね。日本の敗戦と同じで。 石橋:みんな隠しちゃう』、「本社に呼んで面接している時と、現場に行って話をする時と全然違う。僕はよく、サッカーのホームとアウェーに例えるんですが、選手の動きが違いますよね。会社も同じで、聞き出せる話の内容も量も全然違うんですよ。本社に呼ばれたらガチガチで、ほとんど本音なんか出てこない。でも自分の職場で、普段着ならポロポロ本音が出てくる。酒飲みにいったら、もっと本音が出るじゃないですか・・・どこの破綻した企業も、ダメだと分かっていてやっている経営者はいないと思う。いつの間にか、気がつかなくなってしまう。「社員のために」と最初は思っていたのに、いつの間にか「自分のため」になっていて、社員の思いとはかけ離れてしまう。社員の思いと合っているのかどうか、見ておかないと」、「本社に呼んで面接している時と、現場に行って話をする時と全然違う」、確かにその通りだ。
・『情報格差は上司の自己満足 Q:今回の「挫折力」特集でも、『失敗の本質』を書いた野中郁次郎さんのインタビューをしました。彼は、日本企業の多くの失敗って、日本軍の失敗と重なると言います。ガダルカナル戦とかミッドウェー戦と同じで、情報をフィードバックしないまま、お友達ネットワークで事態が進んでいく。空気を大事にするとか、もう同じような組織問題ばかりです。 石橋:そうですね。それが、流行の言葉では「忖度」につながったり、下の方からは「今の経営陣を守るために、粉飾に近いけれども、やらないとダメだ」とか、いろんなことが起きる。ぼくは正しい情報が伝わるという状況を作ることが、そういうことの抑止力になるような気がするんですよ。 Q:情報をオープンにして困ったことはありましたか。 石橋:1つもないです。 Q:そうですよね。 石橋:あるわけがないですよ。だから、結局、情報格差は、役職上位職の「自分の方が多くの情報を持っている」という自己満足だけだったんですよね。 Q:情報格差によって、組織を統率できると勘違いする。 石橋:そうそう。そこが全部ボトルネックになって情報が伝わらない。大事なことを言っても、幹部が止めてしまう場合もありますよね。下から悲鳴があがっていることも、その人が(上に)止めちゃう。その上下の両方向に、スムースに正しい情報が伝わっていれば、もっと判断を早く、正しくできたのに。 Q:カネボウは関係会社で決算数字をつけ回す「循環取引」もやっていたが、これも情報がオープンだったらできなかったことですね。 石橋:オープンだったらね。オープンになれば、みんなが意見を言えますし、間違いを犯す確率は確実に減るんだと思います。 Q:多くの経営者はそこまで胆力がない。情報をすべて出せば、自分の判断ミスも明らかになりかねない。それでも、オープンにした方がいいと言い切れるのはなぜですか。 石橋:潰れたからですよ。会社が続いていたら、世話になった上司たちの名誉を傷つけてしまうとか、考えてしまう。ぼくらは潰れたから、全部オープンになっちゃってるので関係ないんですよ。だから、そのままオープンにしておけば、次の世代が私たちに気を遣う必要がないですよね。 Q:石橋さんのお話だと、会社は1回潰れないとダメなのかと思ってしまいます。 石橋:そんなことないと思います。「会社は何のためにやっているの」という所だと思うんですよ。確かに過去に世話になったが、今いる社員と未来の社員のために仕事をしているわけですよね。 ただ、人間は今の自分がかわいいのは当たり前で、「なんとか自分の時代だけは乗り切りたい」と思ってしまう。過去を見てもしがらみが多すぎる。でもカネボウはそれで潰れてしまった。 だから、ほんの10%でもいいから、10年経った時の自分と会社をイメージして、少しでも良い状態を作るには、何をしておかなければならないのか、みんなでそれを考えよう、と。10年後、仕事を違う人がやった時、もっとやりやすい仕事になっているには、何を変えておく必要があるのか。みんなで考えられたら、その会社は永遠に潰れないと言い続けているんですよ。 Q:やっぱり過去を見ると、しがらみになる恩人がいる。その存在がいない状態がいいんでしょうね。 石橋:その通りです。 Q:しがらみを断ち切れる? 石橋:できます。だから、定年の内規を厳しく運用する。僕は任期が重要だと思っている。長い人の時代に問題が生まれていることが多い。うちの歴史もそうだった。役職上は退いているんだけど、実質上は君臨しているとか。そういうことを認めず継承することが、抑止することにつながると思いますね。うちは8年と内規で決めました。役員の定年も従業員とほぼ同じにして、徹底して守る。少しはリスクを回避できるかな、と思います。 Q:中嶋(章義・前会長)さんも定年で辞めた? 石橋:定年です。会長も社長も定年は63歳と決めてますから。 Q:顧問とかは就いていない? 広報:半年だけ顧問をやりました。 石橋:うちは「顧問は1年」と決めていますので、それ以上はありません。 Q:なるほど。では、石橋さんが「老害」になることもない。 石橋:ない。顧問になったら1年で辞める。中嶋さんは会社が好きだったから来ていたけど、僕は顧問になったら会社には来ないから。そっちの方が会社のためになるでしょ(笑)。 Q:それで、しがらみなく次の人が経営する。 石橋:そうそう。うちは大株主が(染毛剤大手の)ホーユーというオーナー企業です。サラリーマン社長とオーナー社長を同列で考えてはいかんと思うんですよ。オーナー社長は何年でもやればいいんですよ、カリスマになって。でもサラリーマンはサラリーマンです。サラリーマン社長は期限を決めて循環させていくことで、会社が長く正常な状態に保たれると思う。 Q:最後に、カネボウ破綻劇で、一番つらかったことというと、何が頭に浮かびますか。 石橋:(10秒ほど沈黙)社員の生活が本当に守れるんか、という葛藤が一番つらかったですよね。 ▽いろいろな会社があっていい(Q:人事部長の時代ですか。 石橋:破綻前でしたが、「会社更正法の適用でもなんでも、早くしよう」と上司たちにかけあったことがあるんです。その時にこう言われた。「会社って、ここだからこそ生きているやつもいっぱいいるんだ。もし潰したら、そいつらに対して、どう責任を取るんだよ」と。 確かに、会社が潰れれば信用を失い、うまく再生できないかもしれない。その時に、どこかで拾ってもらえる優秀な人材もいるが、カネボウでしか働き口がなさそうな人もいる。これを言われて「うーん」と思って、腰が引けましたね。 Q:誰に言われたんですか。 石橋:上司。でも、後で気がついたんですよ、産業再生機構に入って。実は、会社が潰れても、本当に職を失うのは役員だけなんです。儲かっている事業だったら、売却されても従業員の雇用は守られるんです。その頃、そこまで頭が回らなかった。 でも当時は、「確かになあ」と。僕の出身である化粧品事業では、美容部員の優秀だった子たちは、外資系の化粧品会社とかに引っ張られるけど、そうじゃない子たちもいっぱいいるじゃないですか。その子だって、その収入で家族が生活していることもありますよね。「その家族の生活をお前は守ってやれるのか」って言われた時は、反論できなかったですね。 でも、それで腰が引けた自分が情けなかったし、つらかった。だからこそ、再生機構に入って以降は、社員の雇用だけは絶対守るというスタンスで今日まで来ました。ありがたいことにリストラはクラシエになって一度もないんで、信念を全うできているから幸せだと思っています。 Q:その言葉を言った上司は、自分の保身だった? 石橋:違います。本心でそう思っていた。「そのリスクをお前は負っていけるんか」って。僕はまだ40代半ばで、重たいなあ、と。人事が長かったから、走馬灯のように何千人の知ってる顔が浮かぶ。「あいつなんか無理だろうなあ」とか。「でも、あいつ、今年中学生になる子供がいるのに、生活どうなるんやろ」とか。 Q:大家族主義だからこその悩みでもありますね。クラシエでも、その思いは続いている。 石橋:一緒です。でも、うちだけじゃなくて、東芝さんもそうだし、日本の伝統ある企業って、昔はみんなそうだったんじゃないでしょうか。だから、会社に骨を埋めようというギブ・アンド・テークみたいな関係が成立していた。今は、会社も雇用を守りきれなくなっているし、従業員側も「もっといいところがあったら移ろう」という関係が一般化していて、大家族的なものが日本から少なくなってきている。でも、僕は大家族主義的なものが好きでこの会社に入ったし、いまクラシエはそんなに大きな会社ではないけど、その精神は守りたいと思ってやっていますけどね。 Q:それは会社が大きくなってもできる? 石橋:できると思っている。それは規模じゃない、経営者の考え方だと思うんです。甘やかさず、家族だから言える厳しい事を指摘してチームとして勝つ。家族主義的会社を全否定することはないと思う。 いろんな形態の会社があっていいじゃないですか。アメリカ合理主義を生かして成功した企業もいっぱいあるから、個人主義的な評価の中で自分を成長させたい人はそういう会社に行けばいいと思うんです。会社は受け皿なわけですから、いろんな考え方があった方がいい。みんな同じだったらつまんないもん。 Q:若い人も会社を選べるし。 石橋:ねえ。うちはこんな規模ですけど、こんなことを目指しているとフラッグを掲げる。 Q:それを見て、思いが合った人たちが集まる。 石橋:そうそう。その企業の価値に賛同する人が集まってくれば、戦いようがあると思うんですね。 Q:クラシエというのは、そういう意味で、チームで戦うのがいいという人が集まる原点に戻ろうとしているわけですか。 石橋:それが喜びになるような子たちが集まってきてくれているんだと思います。それが、収益力が回復してきた最大のポイントだと思って、これからもその旗を掲げ続けようと思っています』、「4年前、社員旅行を復活させたんだけど、「やるぞ」って言ったら、「えーっ」って経営陣が冷ややかな目で見る。「社長だけですよ、そんなの喜ぶのは」って・・・それには、条件があります。内容とか企画は、すべて若い子たちにやらせる。「年寄りは文句を言うな」と。入社1~2年目の子たちが必死に考えてくれて。でも、遊びと言えども、何百人という人たちを一斉に動かすって大変なんですよ。そういうことを学んでくれたら、いい話じゃないですか・・・実は、会社が潰れても、本当に職を失うのは役員だけなんです。儲かっている事業だったら、売却されても従業員の雇用は守られるんです。その頃、そこまで頭が回らなかった。 でも当時は、「確かになあ」と。僕の出身である化粧品事業では、美容部員の優秀だった子たちは、外資系の化粧品会社とかに引っ張られるけど、そうじゃない子たちもいっぱいいるじゃないですか。その子だって、その収入で家族が生活していることもありますよね。「その家族の生活をお前は守ってやれるのか」って言われた時は、反論できなかったですね」、「会社が潰れても、本当に職を失うのは役員だけ」というのはその通りだ。「クラシエというのは、そういう意味で、チームで戦うのがいいという人が集まる原点に戻ろうとしているわけですか。 石橋:それが喜びになるような子たちが集まってきてくれているんだと思います。それが、収益力が回復してきた最大のポイントだと思って、これからもその旗を掲げ続けようと思っています」、「クラシエ」が今後とも「回復」を続けることを期待したい。
次に、本年2月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した東京経済取締役東京本部長の井出豪彦氏による「マレリに再び「資金不安説」が浮上!経営破綻→再スタートから1年半で“暗雲”のワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338373
・『自動車部品大手の「マレリ」(さいたま市北区)がふたたび資金繰り不安に直面していることが分かった。持株会社で金融機関からの資金調達窓口である「マレリホールディングス(HD)」(同)が1月16日にバンクミーティングを開催し、足元の厳しい資金状況などについて説明したという』、興味深そうだ。
・『資金計画の狂いから数百億円規模の調達必要か 自動車部品大手の「マレリ」(さいたま市北区)がふたたび資金繰り不安に直面していることが分かった。 金融筋によれば、資金計画の狂いから新たに数百億円規模の調達が必要になる可能性があるとされ、スポンサーの米大手ファンドKKRなどが主導していざというときの調達先を探しているもようだが、成否は流動的だ。 マレリHDが2022年8月に東京地裁で民事再生手続(簡易再生)を終結してからまだ1年半しかたっていない。法的整理による再スタートから間もない段階での異例ともいえる資金不安。背景には、事業譲渡や資産売却が思うように進んでいないことがあるという。 たしかに昨年2月に東証スタンダードに上場する東京ラヂエーター製造の株式の一部を27億円で売却したほかは目立った動きが見られない。一方、従業員のリストラについては各事業部門が順調に積み上げた結果、退職金などのキャッシュアウトが先行してしまっているとされる。「リストラの効果はこれから出るため、今期以降、業績改善が見込めるのは事実だが、足元で一時的に資金ショートの危険性がある。グループの資金管理がうまくできていない」(取引行関係者)というからなんともお粗末だ』、プロである「米大手ファンドKKRなどが」「スポンサー」になっているにしては、お粗末だ。
・『事業再生ADR成立せず簡易再生に移行した経緯 マレリグループはカルソニックカンセイ(当時)が19年に欧州の同業大手であるマニエッティ・マレリ(同)を62億ユーロ(約9900億円)で買収して誕生した。カルソニックカンセイはもともと日産自動車の子会社だったが、日産の系列解体などをうけ17年に米大手投資会社のKKRが買収し、M&A(企業の合併・買収)による拡大路線をとった。 巨額の買収資金の大半を借入金で賄ったところ、翌年からのコロナ禍で完成車メーカーが大幅な減産を強いられたことなどが痛手となり、経営が悪化。22年3月にマレリHDは私的整理の一種である「事業再生ADR」を申請した。 ADR(裁判外紛争解決手続き)の成立には26社あった金融債権者が全て同意する必要があるが、中国系の3行が反対したことで成立に至らず、同年6月に法的整理(民事再生手続)を申請した経緯がある。法的整理は「倒産」とカウントされる。負債は1兆1300億円に達した。 さらに同年7月には民事再生法の簡易再生手続に移行した。「簡易再生」とは聞き慣れないが、ADRが成立しなかった場合でも迅速かつ円滑な再生を可能にするために21年に新たにできた制度だ。ADRで対象債権額の60%以上を保有する債権者の同意があれば、裁判所での手続きを大幅に省略し、ADRでの事業再生計画案をそのまま民事再生での再生計画案として決議できる。 ADRに反対した中国系3行の債権額は合計でも10%に満たなかったことから難なく再生計画は認可され、22年8月に早くも再生手続は終結した。 再生手続ではあらためてKKRがスポンサーに決まり、マレリHDはKKRへの第三者割当増資で888億円の払い込みを受けた。併せて、みずほ銀行をはじめとする取引銀行団は4301億円の債権放棄を実施したほか、債務株式化(DES)による253億円の現物出資にも応じた。これで経営再建は峠を越したはずだった』、「KKR」や「みずほ銀行」は一体、何をやっているのだろう。
・『取引銀行団の対応に注目 再び混乱が起きる可能性も にもかかわらず、このほど資金不足の懸念が浮上している背景はすでに記したとおり。「グローバル企業といえば聞こえはいいが、実態は身の丈を越えたM&Aの弊害で各事業部がバラバラ。結果的に資金コントロールが機能不全に陥っているのが根本的な問題だ」(前出の金融筋)。当初から一度マレリグループの経営にしくじったKKRがふたたび主導権を握って大丈夫かという不安は銀行団の中にもあったが、その不安が的中してしまった可能性がある。 実際、準主力行だった三井住友銀行、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行は再生計画に賛成したにもかかわらず、手続終結直後から貸出債権の売却に動き、すでにマレリから手を引いてしまっているとの情報もある。残っているのはメインのみずほ銀行のほか、国際協力銀行、日本政策投資銀行などだ。 今回の資金不安に対し、前出の金融筋は「みずほといえども追加融資には応じにくいはず。KKRが調達先を見つけてくるにしても、マレリグループの資産に対する新たな担保権の設定には既存の取引銀行団の同意を得る必要があり、担保の取り分が目減りする既存行がすんなり受け入れるかどうかは不透明だ」と分析する。 ADRのときと同じ混乱が繰り返される懸念がある。別の金融関係者は「遅れている事業売却が実現すればなんとかなるかもしれない」と期待を寄せるが、いずれにしても目が離せない状況になってきた』、「準主力行だった三井住友銀行、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行は再生計画に賛成したにもかかわらず、手続終結直後から貸出債権の売却に動き、すでにマレリから手を引いてしまっているとの情報もある」、「みずほ銀行」は「準主力行」への説得に失敗、「準主力行」が逃げ出したとはみっともない限りだ。
・『ダイヤモンド編集部の質問に対するマレリHDからの回答は なお、ダイヤモンド編集部からの質問に対し、マレリHDのジェラード・ファン・ブッティンガ・ウィッチャーズ・グローバルコミュニケーション部門長副社長は下記の通り、回答した。 <質問1>1月16日にバンクミーティングを開催したとの情報がありますが、事実ですか? <回答>弊社と銀行とは定期的にミーティングを行っており、CFO並びにCEOからも定期的に説明しています。 <質問2>その席上、グループの事業売却や資産リストラが遅れているとの説明があったとの情報がありますが、事実ですか? <回答>計画は順調に進捗しています。固定費を削減し、効率を向上させ、プロセスを更に簡素化し、デジタル化することに取り組んできました。その結果、利益を取り戻し、将来に適した運営体制を維持するためのバランスの取れた施策を実施し、ビジネスを最適化できました。業績も大きく改善、将来に向けて受注残も堅調です。2024年および2025年についても安定した収益を見込んでいます。2023年についても、事業再編にかかる一時的費用を除外したベースで営業利益は黒字となりました。 <質問3>足元でグループの資金繰りが悪化しており、数百億円規模の資金調達に動いているとの情報がありますが事実ですか? <回答>業績は大きく改善しており、受注も将来に向けて堅調な水準にあります。営業フリーキャッシュフローも創出できており、財務的に健全な状況に向かっています。 <質問4>今回の資金繰り悪化の原因は何ですか?またどのように乗り切る計画ですか? <回答>繰り返しになりますが、弊社の業績は大きく改善しており、受注も堅調な水準にあります。営業フリーキャッシュフローも創出できており、財務的に健全な状況に向かっています。 <質問5>民事再生手続きが終結後、三井住友銀行、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行が貸出債権を売却したとの情報がありますが事実ですか? <回答>当事者の代わりにコメントすることは差し控えさせていただきます。(ご参考情報として:銀行がセカンダリー市場に貸出債権を売却することは通常よく行われていると理解しております)』、「銀行がセカンダリー市場に貸出債権を売却することは通常よく行われていると理解しております」と「準主力行」が逃げ出した問題をスマートに表現しているのはさすがだ。それにしても、メガバンクで唯一残された「みずほ銀行」は単独でも融資を続けるのだろうか。
第三に、3月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したTESIC株式会社CEOの川越貴博氏による「【実話】トヨタからの転職先のパン会社が民事再生中!?「トヨタ式カイゼン」で再建してみた」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339191
・『高卒でトヨタ自動車に入社し、13年間の工場勤務中に「カイゼン思考」を骨の髄まで叩き込まれた筆者。トヨタ退職後に民事再生中のパン製造会社に転職した筆者は、周囲の猛反発を受けながらも、短期間で組織を立て直すことに成功した。筆者が打った「カイゼン」の策とは――。本稿は、川越貴博『経営課題をすべて解決するカイゼン思考 利益最大化・資金繰り安定・組織健全化』(現代書林)の一部を抜粋・編集したものです』、興味深そうだ。
・『トヨタ自動車を退社して民事再生中のパン製造会社へ あるとき私は家庭の事情で東京に移住することになりました。 東京でもトヨタ自動車で働ければ、と考えたのですが、残念ながら東京には支社・支店機能があるだけで工場はありませんでした。自分の経験が生きる部署では働けないので、退職することを決意しました。 世界一の企業を辞めるわけですし、「トヨタの従業員」という特権的な感覚もある。もうこれ以上の損失はありません。上司の反応も、「トヨタを辞めるなんて信じられない」というものでした。 トヨタという会社に守られていることは理解していたので、辞める以上はさらにステップアップするために、自分に地力をつけなければならないと考えました。 そこで、トヨタ在籍中に今後必要になるだろうと思われる資格をいろいろと取得して転職活動に備えました。まずはビジネス実務法務、ファイナンシャルプランナー(FP)、さらにメンタルヘルスマネジメントの資格も取得しました。 なぜ、こうした順番で取っていたのかというと、トヨタを辞める以上、10年以内に起業して経営者になることを目指そうと決めていたからです。 東京での転職先は民事再生中のパン製造会社でした。 就職活動はエージェントにお願いしていたのですが、「生産管理部門を立ち上げてほしい」とのミッションで社長直下での勤務という会社がある、という触れ込みでした。 生産管理の部署の立ち上げはすでにトヨタで経験していたので目新しい仕事ではなかったのですが、“社長直下”というポジションに魅力を感じました。「経営の勉強ができるんじゃないか」と考えたのです。 この会社が一度破綻していて、そのときは民事再生中だということは入社してから知りました。 社長直下だったので、決算書などを見せてもらい経営状態を詳しく調べました。トヨタ時代に財務的な勉強もしていたので、その会社の経営の実態はすぐに理解しました。 とんでもない状況でした。原価率95%。まさに火の車です。 「生産管理部署を立ち上げる」という生ぬるいことをいっている場合ではないと考え、私は「ターンアラウンドをやらせてほしい」と社長に直訴しました。 そして、ターンアラウンド・マネージャーとして事業再生に取り組むことになったのです』、「ビジネス実務法務、ファイナンシャルプランナー(FP)、さらにメンタルヘルスマネジメントの資格も取得」、とは大したものだ。「ターンアラウンド・マネージャーとして事業再生に取り組むことになった」、目のつけどころがよさそうだ。
・『猛反発を食らった「経営再建」への道筋 当時、ターンアラウンドの知識やノウハウは全くありませんでした。思考は単純でした。お金がないのなら儲ければいい。売上を増やして、無駄な出費を削ればいいだけの話です。 家計を管理するのと同じです。そもそも給料が少ないのか、給料はそこそこあるけれど無駄な支出が多いからダメなのか、と自分の実体験に照らしてそのバランスを分析し、社長や社員に実態を伝えて経営再建への道筋を伝えていきました。 当時、私はまだ30代前半。周りの社員はみな年上です。 「なんで、入社して間もない若造に偉そうにいわれなければならないのか」「これまで自分たちがやってきたスタンスを崩さないでくれ」 多くはそういった反応でした。しかし、そもそも後ろ向きのスタンスで続けていても何も解決しません。 事業を再生するためなら、べつに嫌われてもかまわないと思い、私のやろうとしていることを懇切丁寧に説明していきました。 それでも刺さらない人には刺さりません。ただ、一部には目の色の変わった人もいました。その目を輝かせた人たちをどうやって多勢にしていくかをまず戦略の一つにしました。 役職や勤続年数などの垣根は全く関係なしに、私の提案を理解して前向きに捉えてくれた人たちだけを残そうと考えたのです。 目の色を変えて頑張ろうとなったのは、最初は全社員60人中わずか3人だけでした。それも営業の若い社員1人とアルバイトの子2人です。 でも、若いからこそ、「この会社、このままではヤバいよね」という鋭敏なセンサーと危機感を持っていました。 そこに私自身も感銘を受け、一緒にやっていこうと決めたのです。そして、徐々に上の人間も切り崩していこうと考えました』、「私の提案を理解して前向きに捉えてくれた人たちだけを残そうと考えたのです。 目の色を変えて頑張ろうとなったのは、最初は全社員60人中わずか3人だけでした。それも営業の若い社員1人とアルバイトの子2人です。 でも、若いからこそ、「この会社、このままではヤバいよね」という鋭敏なセンサーと危機感を持っていました。 そこに私自身も感銘を受け、一緒にやっていこうと決めたのです。そして、徐々に上の人間も切り崩していこうと考えました」、よく嫌にならずに頑張ったものだ。
・『経営状態を数値化して客観的に評価する 私の戦略は、とにかく主観を排して経営状態を数値化して示し、客観的に評価するというものです。このやり方をどんどん導入しました。 たとえば、「売上が3億で、それに対して使っているお金がこれだけあります。単純に足りていませんよね」とまず説明します。) さらに、「では、売上が少ないことが問題なのか、売上に対して出費が多すぎることが問題なのか、どっちだと思いますか?」といったことを、営業やマーケティング、総務、コスト管理をしている部署、工場などで調査させました。 こうして問題点を見える化していくと、当然ながら売上も足りないし、出費も多すぎるという結論になります。 では、「売上を増やすためにどういうアクションが必要だと思いますか?」と考えてもらいます。 コストについては、「たとえば、この経費を減らしたらどのような副作用があると思いますか?」と検証していきます。副作用がなければ、そのコストをカットすればいいわけです。 このように進めていくと、どんどん主観的な理由が取り除かれていきます。たとえば、この会社では創業当時から付き合っている仕入れ先がありました。その仕入れ先に問題があっても、「長い付き合いだから」という話になってくるわけです。そこで、「健全なお付き合いができていますか?」「向こうの言いなりになっていませんか?」と疑問を突きつけて考えてもらいました』、「たとえば、この会社では創業当時から付き合っている仕入れ先がありました。その仕入れ先に問題があっても、「長い付き合いだから」という話になってくるわけです。そこで、「健全なお付き合いができていますか?」「向こうの言いなりになっていませんか?」と疑問を突きつけて考えてもらいました」、客観的な基準で洗い直すのはいいことだ。
・『品質を変えずに生産量を増やすにはどうすべきか 販売の方では、大手のOEM商品の問題もありました。当時、このOEM商品は売上の40%を占めていました。その製品に対する原価計算をして、売上に対してどのくらいの費用を使っているかを調査したところ、ほぼすべての商品が逆ザヤだったのです。 製造コストがかかりすぎていて、作れば作るほど赤字が増える構造になっていたわけです。その状況に当時の担当者は気づいていませんでした。 「OEM先が大きな企業だし、昔からの付き合いなので価格交渉はできない」「これだけ大きな会社と取引ができているのは、うちの会社の信用になっているから」 そんな訳のわからない説明を受けました。客観的に見れば、そもそもその注文をとってくるべきなのかどうかを考え直さなければなりません。 価格の見直しを交渉しましたが、「卸値は変えられない」ということでした。かといって、40%の売上を飛ばすわけにもいきませんし、そのへんは一定程度理解できます。) そこで、どうすれば儲けを出せるか、会社を挙げて考えることになりました。 まずは、トヨタで学んだことを活かし、製造の標準作業を可視化することから始めました。標準3票(トヨタ生産方式の標準作業に不可欠な工程別能力表、標準作業組み合わせ票、標準作業票の3点セット)を作って、それぞれの手順を分析し、どのくらいのバラツキがあり、どう品質に影響するのかを明らかにしました。 その上で、OEM先の担当者も工場に呼んで説明・提案を行いました。 経営状態を正直に話して、品質に影響のないものからカイゼンしたいと申し入れました。まず、商品の包装紙を安価なものに変えさせてほしいと提案しました。 また、一日に製造する量を増やせば一つあたりの単価は落ちます。そこで、パンは発酵食品なので難しいのですが、品質を落とさずに生産量を上げる方法を考えました。 「水の配合などの調整をしながらスピードを上げて機械に通せば、このくらいの分数なり秒数で発酵するので、このタイミングで出して温度や時間をこう設定すれば、前と変わらない品質のものが仕上げられます」 このように、一度卓上でシミュレーションし、さらに現場でテストして披露しました』、「大手のOEM商品の問題もありました。当時、このOEM商品は売上の40%を占めていました。その製品に対する原価計算をして、売上に対してどのくらいの費用を使っているかを調査したところ、ほぼすべての商品が逆ザヤだったのです・・・製造の標準作業を可視化することから始めました。標準3票(トヨタ生産方式の標準作業に不可欠な工程別能力表、標準作業組み合わせ票、標準作業票の3点セット)を作って、それぞれの手順を分析し、どのくらいのバラツキがあり、どう品質に影響するのかを明らかにしました。 その上で、OEM先の担当者も工場に呼んで説明・提案を行いました。 経営状態を正直に話して、品質に影響のないものからカイゼンしたいと申し入れました。まず、商品の包装紙を安価なものに変えさせてほしいと提案しました・・・卓上でシミュレーションし、さらに現場でテストして披露しました」、なるほど。
・『原価率を70%まで下げ1年半で黒字化を達成 重要なのは、感情ではなくロジックです。このように「カイゼン」を見せたことで、OEM先には「この会社は信用できる」と思っていただき、これ以降、受注量が一気に増えました。 こうした会社の評判は業界でも噂になるのでしょう。さらに、某有名コンビニチェーンからもお声がけいただき、この2本の柱ができたことによって業績は一気に回復したのです。 結果的に、初年度で原価率を70%くらいまで下げることができ、1年半で黒字化し、経営が安定しました。 最終的には原価率を60%まで下げ、一般的なサプライヤーの水準にまで持っていくことができました。 60人いた従業員は最終的には24人になっていました。でも、一人あたりの労働時間自体は増えていません。 売上や受注量は増加しているので生産性は上がっていました』、「「カイゼン」を見せたことで、OEM先には「この会社は信用できる」と思っていただき、これ以降、受注量が一気に増えました。 こうした会社の評判は業界でも噂になるのでしょう。さらに、某有名コンビニチェーンからもお声がけいただき、この2本の柱ができたことによって業績は一気に回復したのです。 結果的に、初年度で原価率を70%くらいまで下げることができ、1年半で黒字化し、経営が安定しました。 最終的には原価率を60%まで下げ、一般的なサプライヤーの水準にまで持っていくことができました。 60人いた従業員は最終的には24人になっていました。でも、一人あたりの労働時間自体は増えていません。 売上や受注量は増加しているので生産性は上がっていました」、地道な努力で「受注量」を「増やし」、「1年半で黒字化し、経営が安定しました。 最終的には原価率を60%まで下げ、一般的なサプライヤーの水準にまで持っていくことができました」、とはさすがだ。
タグ:事業再生 (その4)(カネボウ破綻 絶望からの経営訓 クラシエ・石橋社長 「復興の10年」を語る、マレリに再び「資金不安説」が浮上!経営破綻→再スタートから1年半で“暗雲”のワケ、【実話】トヨタからの転職先のパン会社が民事再生中!?「トヨタ式カイゼン」で再建してみた) 日経ビジネスオンライン 金田 信一郎氏による「カネボウ破綻、絶望からの経営訓 クラシエ・石橋社長、「復興の10年」を語る」 「今は50%以上の人がカネボウ時代を知らない社員です。で、ここ(10年史)を読むと、「上司は偉そうにしてるけど、こんなことになってたんじゃないか」と。それでいいと思うんですよ。 破綻直後は、結構気にする雰囲気がありました。「先祖帰りだ」とか、「過去の栄光にすがっている」とかね。最近はめっきり減りましたけど。 正しく認識して、何が悪かったのか、真正面から向き合うことで見えてくるものがある。 カネボウの破綻を、斜陽産業になった繊維(事業)の問題だとか、経営者の問題だとか、そんなことで片付けてはならないんだと思うんですよ」、「今は50%以上の人がカネボウ時代を知らない社員」もうそんなになったのかと、時間が経つのの速さに改めて驚かされた。 「「家族主義」って悪いことじゃない。すばらしい一面は伝えていきたい・・・かばい合いすぎてダメなところを指摘できなかったり、弊害も出てくる。経営判断を遅らせたり、誤らせたり、問題につながってきた。それを1つひとつ解きほぐしながら、「何をこれからも継承していくの」「どんな新しい(改革の)風を吹かせるの」っていうことを、毎年のようにみんなで話し合っていく。そして2度と間違いが起こらないようにする・・・売り上げが目的になっちゃったんです。だから、利益は上がらず、やっているヤツも疲弊していく」、なるほど。 「本社に呼んで面接している時と、現場に行って話をする時と全然違う。僕はよく、サッカーのホームとアウェーに例えるんですが、選手の動きが違いますよね。会社も同じで、聞き出せる話の内容も量も全然違うんですよ。本社に呼ばれたらガチガチで、ほとんど本音なんか出てこない。でも自分の職場で、普段着ならポロポロ本音が出てくる。酒飲みにいったら、もっと本音が出るじゃないですか・・・どこの破綻した企業も、ダメだと分かっていてやっている経営者はいないと思う。いつの間にか、気がつかなくなってしまう。「社員のために」と最初は思って のに、いつの間にか「自分のため」になっていて、社員の思いとはかけ離れてしまう。社員の思いと合っているのかどうか、見ておかないと」、「本社に呼んで面接している時と、現場に行って話をする時と全然違う」、確かにその通りだ。 「4年前、社員旅行を復活させたんだけど、「やるぞ」って言ったら、「えーっ」って経営陣が冷ややかな目で見る。「社長だけですよ、そんなの喜ぶのは」って・・・それには、条件があります。内容とか企画は、すべて若い子たちにやらせる。「年寄りは文句を言うな」と。入社1~2年目の子たちが必死に考えてくれて。でも、遊びと言えども、何百人という人たちを一斉に動かすって大変なんですよ。そういうことを学んでくれたら、いい話じゃないですか・・・ 実は、会社が潰れても、本当に職を失うのは役員だけなんです。儲かっている事業だったら、売却されても従業員の雇用は守られるんです。その頃、そこまで頭が回らなかった。 でも当時は、「確かになあ」と。僕の出身である化粧品事業では、美容部員の優秀だった子たちは、外資系の化粧品会社とかに引っ張られるけど、そうじゃない子たちもいっぱいいるじゃないですか。その子だって、その収入で家族が生活していることもありますよね。 「その家族の生活をお前は守ってやれるのか」って言われた時は、反論できなかったですね」、「会社が潰れても、本当に職を失うのは役員だけ」というのはその通りだ。「クラシエというのは、そういう意味で、チームで戦うのがいいという人が集まる原点に戻ろうとしているわけですか。 石橋:それが喜びになるような子たちが集まってきてくれているんだと思います。それが、収益力が回復してきた最大のポイントだと思って、これからもその旗を掲げ続けようと思っています」、「クラシエ」が今後とも「回復」を続けることを期待したい。 ダイヤモンド・オンライン 井出豪彦氏による「マレリに再び「資金不安説」が浮上!経営破綻→再スタートから1年半で“暗雲”のワケ」 プロである「米大手ファンドKKRなどが」「スポンサー」になっているにしては、お粗末だ。 「KKR」や「みずほ銀行」は一体、何をやっているのだろう。 「準主力行だった三井住友銀行、三菱UFJ銀行、三井住友信託銀行は再生計画に賛成したにもかかわらず、手続終結直後から貸出債権の売却に動き、すでにマレリから手を引いてしまっているとの情報もある」、「みずほ銀行」は「準主力行」への説得に失敗、「準主力行」が逃げ出したとはみっともない限りだ。 「銀行がセカンダリー市場に貸出債権を売却することは通常よく行われていると理解しております」と「準主力行」が逃げ出した問題をスマートに表現しているのはさすがだ。それにしても、メガバンクで唯一残された「みずほ銀行」は単独でも融資を続けるのだろうか。 川越貴博氏による「【実話】トヨタからの転職先のパン会社が民事再生中!?「トヨタ式カイゼン」で再建してみた」 川越貴博『経営課題をすべて解決するカイゼン思考 利益最大化・資金繰り安定・組織健全化』(現代書林) 「ビジネス実務法務、ファイナンシャルプランナー(FP)、さらにメンタルヘルスマネジメントの資格も取得」、とは大したものだ。「ターンアラウンド・マネージャーとして事業再生に取り組むことになった」、目のつけどころがよさそうだ。 「私の提案を理解して前向きに捉えてくれた人たちだけを残そうと考えたのです。 目の色を変えて頑張ろうとなったのは、最初は全社員60人中わずか3人だけでした。それも営業の若い社員1人とアルバイトの子2人です。 でも、若いからこそ、「この会社、このままではヤバいよね」という鋭敏なセンサーと危機感を持っていました。 そこに私自身も感銘を受け、一緒にやっていこうと決めたのです。そして、徐々に上の人間も切り崩していこうと考えました」、よく嫌にならずに頑張ったものだ。 「たとえば、この会社では創業当時から付き合っている仕入れ先がありました。その仕入れ先に問題があっても、「長い付き合いだから」という話になってくるわけです。そこで、「健全なお付き合いができていますか?」「向こうの言いなりになっていませんか?」と疑問を突きつけて考えてもらいました」、客観的な基準で洗い直すのはいいことだ。 「大手のOEM商品の問題もありました。当時、このOEM商品は売上の40%を占めていました。その製品に対する原価計算をして、売上に対してどのくらいの費用を使っているかを調査したところ、ほぼすべての商品が逆ザヤだったのです・・・製造の標準作業を可視化することから始めました。標準3票(トヨタ生産方式の標準作業に不可欠な工程別能力表、標準作業組み合わせ票、標準作業票の3点セット)を作って、それぞれの手順を分析し、どのくらいのバラツキがあり、どう品質に影響するのかを明らかにしました。 その上で、OEM先の担当者も工場に呼んで説明・提案を行いました。 経営状態を正直に話して、品質に影響のないものからカイゼンしたいと申し入れました。まず、商品の包装紙を安価なものに変えさせてほしいと提案しました・・・卓上でシミュレーションし、さらに現場でテストして披露しました」、なるほど。 「「カイゼン」を見せたことで、OEM先には「この会社は信用できる」と思っていただき、これ以降、受注量が一気に増えました。 こうした会社の評判は業界でも噂になるのでしょう。さらに、某有名コンビニチェーンからもお声がけいただき、この2本の柱ができたことによって業績は一気に回復したのです。 結果的に、初年度で原価率を70%くらいまで下げることができ、1年半で黒字化し、経営が安定しました。 最終的には原価率を60%まで下げ、一般的なサプライヤーの水準にまで持っていくことができました。 60人いた従業員は最終的には24人になっていました。でも、一人あたりの労働時間自体は増えていません。 売上や受注量は増加しているので生産性は上がっていました」、地道な努力で「受注量」を「増やし」、「1年半で黒字化し、経営が安定しました。 最終的には原価率を60%まで下げ、一般的なサプライヤーの水準にまで持っていく ことができました」、とはさすがだ。
M&A(一般)(その3)(任天堂創業家へ反撃!東洋建設「意外すぎる一手」 6月27日の株主総会を前に攻防がヒートアップ、ブラザー工業が「対抗TOB」で狙う三度目の正直 ローランドDGが実施のMBOに「待った」をかける、「法律違反」「異常なやり方」M&Aで急成長する企業の“トップ解任騒動”の全内幕!) [企業経営]
M&A(一般)については、2021年12月20日に取上げた。今日は、(その3)(任天堂創業家へ反撃!東洋建設「意外すぎる一手」 6月27日の株主総会を前に攻防がヒートアップ、ブラザー工業が「対抗TOB」で狙う三度目の正直 ローランドDGが実施のMBOに「待った」をかける、「法律違反」「異常なやり方」M&Aで急成長する企業の“トップ解任騒動”の全内幕!)である。
先ずは、昨年6月6日付け東洋経済オンライン「任天堂創業家へ反撃!東洋建設「意外すぎる一手」 6月27日の株主総会を前に攻防がヒートアップ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/677008
・『中堅ゼネコンの株式を巡る攻防が、一段と激しくなってきた。 海洋土木(マリコン)大手の東洋建設は5月24日、任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)が東洋建設に対して行っていたTOB(株式公開買い付け)提案に反対することを発表した。取締役会の全員一致で反対することを決めた。 同時に、社内取締役2人、社外取締役7人の計9人の選任を求めるYFOによる株主提案に反対することも決定した。 東洋建設はどちらの提案を受けるよりも、今年3月に策定した2027年度を最終年度とする新中期経営計画を遂行することこそが、「当社の企業価値や株主の共同利益の最大化につながる」とした。また、YFOが提示している公開買い付け価格1000円についても、「プレミアムはわずか1.5~3.8%に過ぎず、当社の本源的価値を反映した価格とは言えない(1000円の価格は安すぎる)」とした』、「YFOが東洋建設に対して行っていたTOB提案」、「社内取締役2人、社外取締役7人の計9人の選任を求めるYFOによる株主提案」、に「反対」、なるほど。
・『YFO「完全な二枚舌だ」 東洋建設の時田学執行役員は、「YFOの企業価値向上策を遂行しても当社の企業価値は向上しない。経営の基盤が崩壊し、受注活動に悪影響を与える」と語る。 一方、YFOの関係者は、東洋建設の決定に不満を漏らす。「完全な二枚舌だ。当初は『1000円という価格の根拠がわからない。そこまでの株価にはいかない』(1000円の価格は高い)と言っていたはず」。「協議の当初から、経営基盤の崩壊論を展開していた。あたまからそれ(反対)ありきで動いていた」。 東洋建設の株価については、1年前の2022年5月31日時点では833円(終値)だったが、今年5月31日は985円(同)をつけている。洋上風力発電事業に本格参入するなど骨太の方針を打ち出した新中期経営計画の内容や、2023年度から2025年度の配当性向を100%(下限50円)とする株主還元策を掲げたことが、市場から評価された。 YFOによる東洋建設の保有株式が27%を超過し、YFOが東洋建設に対してTOBを提案した2022年4月以降、YFOと東洋建設は荒々しいやりとりを繰り広げてきた。どちらかというと、東洋建設はYFO側の話を聞くことに終始する、受け身一辺倒だったと言える。 ところが、今年3月の新中期経営計画発表時に「(経営の姿勢を)守りから攻めへ転換する」(時田執行役員)と宣言すると同時に、YFOへ反撃の姿勢をみせるようになった』、「東洋建設はYFO側の話を聞くことに終始する、受け身一辺倒だったと言える。 ところが、今年3月の新中期経営計画発表時に「(経営の姿勢を)守りから攻めへ転換する」・・・と宣言すると同時に、YFOへ反撃の姿勢をみせるようになった」、なるほど。
・『反対表明を冷静に受け止めるYFO YFOも受けて立つ。「東洋建設の現取締役会のガバナンスが機能していないことを顕著に示すもの」。YFOは5月25日付のリリースで、攻めに転じた東洋建設の反対表明を批判した。 しかし、攻撃的な言葉とは裏腹に、YFO側は東洋建設の反対表明については、冷静に受け止めている。「反対表明は想定の範囲内。賛同表明を出すとは、まったく考えていなかった」(YFO関係者)。 むしろ、YFO側が驚いたのは、東洋建設が反対表明と同じ5月24日に発表した新しい経営体制への移行だ。東洋建設は新役員候補案として社内取締役の5人、社外取締役6人を掲げた。土木畑の長い大林東壽氏(はるひさ、取締役・専務執行役員)と、建築分野を歩んできた平田浩美氏(取締役・執行役員副社長)を新任の代表取締役にするとした。 加えて、現任の武澤恭司社長と藪下貴弘専務執行役員の代表取締役2人が退任することも発表した(それぞれ相談役、顧問に就任予定)。武澤社長と藪下専務は東洋建設のツートップであり、YFOとの協議も両者が前面に出て対応してきた。 「この人事案には意外性があった。東洋建設は現体制のままで中期戦略を進めるのか、新体制で望むのか、どちらを選択するのか注視していたが、後者を選択した。特に、代表取締役2人が同時交代することは異例で、意外だった」と、YFO関係者は語る。 同YFO関係者は、「東洋建設は(6月27日に予定される)定時株主総会で、当方の株主提案に対する票読みが難しいとみて、代表取締役2人の退任を発表したのではないか」といぶかる。) この見方に対して、東洋建設は「(武澤社長らの退任は)既定路線だった」(時田執行役員)と強調する。武澤社長は2014年4月に就任して以降、9年にわたり経営トップを務めてきた。 東洋建設は不動産開発事業に失敗し、債務免除を受け、2003年から前田建設工業の傘下で経営再建を図ってきた。武澤社長はその経営改革のまさに牽引者だった。「中興の祖と言ってもおかしくない」(別の東洋建設関係者)。 5月24日に行われた社長交代の記者会見で、武澤社長は次のように語った。 「9年間、経営基盤の強化に取り組んだ。社長就任当初は存続の危機だった。純資産200億円を上回るかどうか厳しい状況で、信用力が低下し、民間工事の受注も厳しかった。そこから、社員の頑張りもあり、収益を上げ、純資産を積み上げることができた。前2023年3月期末は純資産が700億円を超えた。立派な数字になったなと思う」 記者は会見を終えたばかりの武澤社長に近づき、「続投は考えなかったのか」と質問した。武澤社長は「いやいや」と首を横に振りながら、こう語った。「私は守りを託された。それを成し遂げたので、(攻めに転じる)いまがいいタイミングだ」。 この人事案にどのような真相があるかは不明だ。だが、昨年12月にトップ会談が決裂して以降、協議の場が持たれていないYFOと東洋建設の冷え切った関係に、何らかの変化を与える可能性はある。「役員が新しいメンバーに変わることもあり、(こちらからYFOに)対話を再開するメッセージを出していくのは大事なこと」と、東洋建設の時田執行役員は話す』、「現任の武澤恭司社長と藪下貴弘専務執行役員の代表取締役2人が退任することも発表・・・特に、代表取締役2人が同時交代することは異例で、意外だった」とYFO関係者は語る・・・東洋建設は不動産開発事業に失敗し、債務免除を受け、2003年から前田建設工業の傘下で経営再建を図ってきた。武澤社長はその経営改革のまさに牽引者だった・・・社長就任当初は存続の危機だった。純資産200億円を上回るかどうか厳しい状況で、信用力が低下し、民間工事の受注も厳しかった。そこから、社員の頑張りもあり、収益を上げ、純資産を積み上げることができた。前2023年3月期末は純資産が700億円を超えた。立派な数字になったなと思う」、確かに再建を果たしたようだ。
・『株式を追加取得する可能性も? 1年以上も続いているYFOと東洋建設の株式攻防戦は、今後どういう展開を見せるのか。 YFOは5月24日に、別のリリースも出している。それによると、東洋建設の同意を得ずに東洋建設株式を追加取得しないことを誓約していたが、5月24日までとしていた誓約期限を延長しない、つまり今後は「東洋建設の株式を買い増す可能性もある」という。 ただ、市場の混乱などを避けるために、保有株式が3分の1を超えないようにし、かつ追加の買い付け価格は提示するTOB価格の1000円を超えないようにする、としている。 上記のリリース内容やこれまでの経緯からして、YFOが強引に会社を“乗っ取る”ような行動に出ることは考えにくい。 当面の焦点はやはり、6月27日に予定されている定時株主総会だ。 東洋建設が提案する新役員案について、YFO関係者は次のように明かす。「大林氏や平田氏といった、土木と建築という事業柱のバックグラウンドがある方については、(YFO側は)反対しないだろう。ただ、スキルセットを考慮したうえで、一部の役員候補については反対するかもしれない」。 この関係者のいうスキルセットとは、YFOが株主提案する役員候補との経営上のバランスのことだ。YFOは常勤取締役候補として、元三菱商事の代表取締役である吉田真也氏、元フジタの建築本部理事の登坂章氏、そして社外取締役候補として弁護士で日本ガバナンス研究学会理事の山口利昭氏などを提案する』、「YFO」は「東洋建設の同意を得ずに東洋建設株式を追加取得しないことを誓約していたが、5月24日までとしていた誓約期限を延長しない、つまり今後は「東洋建設の株式を買い増す可能性もある」という」、なるほど。
・『役員が混在する「連邦」体制になる可能性 YFOとしては、提案する新役員候補の9人全員が東洋建設の経営に参画することが前提だが、そのうち数名が選任されることも考えられる。つまり、結果としては、今後の東洋建設の経営は、東洋建設側が提案する役員とYFO側が提案する役員が混在する「連邦」体制になる可能性はある。 YFO側の株式保有比率は合計で27%超。一方、前田建設(20%超保有)と、ほかの親密な政策保有先が東洋建設を支持するとみられる。海外投資家がどう動くのかが、定時株主総会の行方を決定づける』、最終的にどうなったのかについては、12月20日付けロイター「「任天堂創業家の資産運用会社、東洋建設へのTOB提案取り下げ」として、 任天堂創業家の資産運用会社YFOは20日、東洋建設への株式公開買い付け(TOB)開始を取りやめると発表。12月下旬までに買い付けを始めることを目指していたが、東洋建設取締役会の賛同を得られていなかった 。YFOは、現時点で1株1255円を超える価格提案は難しく、東洋建設取締役会の賛同を取り付けるなどTOBの前提条件を満たすのは困難と判断。東洋建設の取締役会は6月の総会後にYFOが提案した取締役が過半を占めているが、今月14日に全員一致で反対意見を決議、結局、TOBを断念したようだが」、「YFO」の「取締役会は6月の総会後にYFOが提案した取締役が過半を占めている」にも拘らず、「全員一致で反対意見を決議」、とは意外だ。
次に、本年3月21日付け東洋経済オンライン「ブラザー工業が「対抗TOB」で狙う三度目の正直 ローランドDGが実施のMBOに「待った」をかける」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/742140
・『投資ファンドと組んだMBO(経営陣が参加する買収)に、「待った」をかけたのは協業関係にあった事業会社だった――。投資ファンドに普通の事業会社が噛みつくという構図の異例の事態が起きている。 ミシンで知られるブラザー工業は3月13日、産業用印刷中堅のローランド ディー. ジー.(DG)に対抗TOB(株式公開買い付け)を行う予定であると発表した。 ローランドDGに対しては、2月13日から3月27日までの期間で、タイヨウ・パシフィック・パートナーズによるTOBが行われている。タイヨウはアメリカの投資ファンドでローランドDGの大株主。ローランドDGのMBOの一環としてTOBが実施されている。TOB価格は1株あたり5035円だ。 一方のブラザーは5200円のTOB価格を提示した。タイヨウによるTOBが継続中もしくは不成立であることを条件に、5月中旬をメドに開始する。買収総額は640億円の見込み。これは2015年に買収したイギリスの産業印刷機メーカーの約10.5億ポンド(当時の為替レートで約1930億円)に次ぐ金額規模となる』、「投資ファンドと組んだMBO・・・に、「待った」をかけたのは協業関係にあった事業会社だった――。投資ファンドに普通の事業会社が噛みつくという構図の異例の事態」、確かに「異例」だ。
・『注力分野の1つが産業印刷機 ブラザーの売り上げ規模は8000億円超。世界的なミシンメーカーとして知られる同社だが事業領域は幅広い。 売り上げの過半を占めるのは家庭用インクジェットプリンターを中心とするプリンター関連で、ほかに産業印刷機、工作機械、通信カラオケの「ジョイサウンド」なども手がける。この中で近年注力しているのが産業印刷機と工作機械だ。 その産業印刷の分野で、広告看板向けの大型インクジェットプリンターに強みを持つのがローランドDG。布に印刷するガーメントプリンターや歯科用ミリングマシンなども手がけており、2023年12月期の売上高は540億円だった。 ブラザーはTOBの意義について、両社の資産共有によるローランドDGの競争力強化を第一に掲げる。開発にブラザーのインクジェット技術を活用、共同購買を通じた製造コストの削減が期待できるなど、同じ印刷業界だからこそ可能な価値向上施策を実施できるとする。 ブラザーにとっては産業印刷の強化にもつながる。ペーパーレス化が逆風といえるオフィスや家庭用のプリンターとは異なり、新興国で工業製品の消費が増えることなどによる市場の拡大が見込める。ブラザーの事業ポートフォリオ的には、産業印刷領域の拡大は望ましい』、「ブラザーの事業ポートフォリオ的には、産業印刷領域の拡大は望ましい」、その通りだ。
・『2度拒否されたTOB提案 今回のブラザーによる対抗TOBはローランドDGの同意を得ていない。いわゆる「同意なきTOB」だ。しかしブラザーの佐々木一郎社長は、「両企業にとって、さらにはお互いのお客様にとってもWin-Win-Winの関係を構築できる」との内容でコメントを出した。 実はブラザーはこれまでに2度、ローランドDGにTOB提案を拒否されている。1度目の提案は2023年9月。1株あたり4800円でTOBの提案を行った。2019年の1月頃から、ローランドDGとの親和性について意識し始めたという。同12月からは製品の共同開発を始め、関係を強化していた。 しかしローランドDGは提案に慎重な姿勢を示した。理由に挙げたのが「ディスシナジーの発生懸念」だ。ブラザーとの協議を繰り返すも、やはり懸念が拭えないことを理由に今年2月2日、協議の中止をブラザーに伝達した。 2度目の提案は協議中止から4日後の2月6日。TOB価格を1株あたり4850円に上げると伝えた。だがローランドDGの意思は変わらず、2月9日に再度TOBについての検討中止をブラザーに伝達した。 その日、タイヨウがMBOを前提としたローランドDGへのTOBを2月13日から始めると発表した。ブラザーは1度目の提案を行った昨年9月頃から水面下でMBOの準備が進んでいたことについて知らされていなかった。) もはや執念すら感じる今回の対抗TOBだが成功する可能性はある。 ローランドDGの株価は3月19日の終値で5460円。タイヨウはおろかブラザーが提示したTOB価格をも上回る水準だ。ローランドDGが当初描いたMBOには暗雲が漂う。 TOBに応募するかどうかを決めるのが株主である以上、その判断はTOBの価格に大きく左右される。このままMBOを進めるのであれば、タイヨウがブラザーよりも高いTOB価格を提示する必要がある。 ローランドDGは今後、取締役会などでの検討を経てブラザーの対抗TOBに対する推奨・非推奨の意を表明する予定だ。もし非推奨として3度目の拒否をする場合には、「ディスシナジー」についても踏み込んだ説明が求められるだろう』、「このままMBOを進めるのであれば、タイヨウがブラザーよりも高いTOB価格を提示する必要がある。 ローランドDGは今後、取締役会などでの検討を経てブラザーの対抗TOBに対する推奨・非推奨の意を表明する予定だ。もし非推奨として3度目の拒否をする場合には、「ディスシナジー」についても踏み込んだ説明が求められるだろう」、その通りだ。
・『過去の巨額買収は利益創出に課題 一方のブラザーも宿願成就の後が本番だ。 先述した2015年買収のイギリス産業印刷機メーカー、ドミノ・プリンティング・サイエンシズ社はブラザー入りして以降、売り上げ成長は続けている。ただ、利益創出に時間を要している。 買収後に投資がかさんでいる影響で、2023年3月期においてもドミノ事業の実質的な営業利益は56億円。100億円近くあった買収前の営業利益に遠く及ばない。 このブラザー史上最高額の買収となったドミノ社の事業統括は当時社長だった小池利和・現会長が就いた。今回のローランドDGへのTOBも小池会長が陣頭指揮を執っているとみられる。 ローランドDGのMBO、そしてブラザーの対抗TOBの行方を握るのは現状、タイヨウの出方にかかっている。勝敗が決するまでにもう一波乱ありそうだ。 ブラザー工業の株価・業績 は「四季報オンライン」で』、「2015年買収のイギリス産業印刷機メーカー、ドミノ・プリンティング・サイエンシズ社はブラザー入りして以降、売り上げ成長は続けている。ただ、利益創出に時間を要している。 買収後に投資がかさんでいる影響で、2023年3月期においてもドミノ事業の実質的な営業利益は56億円。100億円近くあった買収前の営業利益に遠く及ばない」、やはり「利益」がしっかり出せるかどうかがカギだ。
第三に、4月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した東京経済取締役東京本部長の井出豪彦氏による「「法律違反」「異常なやり方」M&Aで急成長する企業の“トップ解任騒動”の全内幕!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341414
・『後継者難などで悩む中小企業を次々買収してきた「MJG」(東京都港区、本社の外観写真あり)で、昨年11月に代表の田邑元基氏が解任される“クーデター”が発生した一件について、筆者は前回のダイヤモンド・オンラインの記事で報じた(なお、MJGは昨年10月にいったん、日本マニュファクチャリングホールディングスと社名を変更していたが、今年2月再び社名をMJGに戻した)。MJGでは一体何が起きているのか。2月の臨時株主総会と取締役会を経て代表に復帰した田邑氏が取材に応じた』、興味深そうだ。
・『田邑氏が解任された取締役会の議事録を入手 クーデターを受けて新代表に就任したA氏は代理人を通じてグループ会社や取引先に文書を送付し、田邑氏の解任理由について「田邑氏の代表取締役としての複数に及ぶ違法行為が判明している」などと説明していたが、具体的な違法行為の内容については言及がなかった。 このほど筆者は関係者から、田邑氏が解任された昨年11月14日の取締役会の詳細な議事録を入手した。それによれば田邑氏はMJGの実施した企業買収などに際し、取締役会決議を取っていないという会社法違反を指摘されていたことがわかった。 また、社外取締役4人はこの取締役会の翌日、一斉に辞任したが、このうち1人は取締役会で「田邑氏のM&Aのやり方は異常である。M&Aを資金繰りに使う、というのは完全に間違っている」などと発言していたことがわかった。MJGが2023年6月期中、新規に買収した会社からの預かり金として15億円を調達したなどと財務担当が説明したことを受けた発言である。 MJGは日本M&Aセンター名誉会長の分林保弘氏、レノバ名誉会長の千本倖生氏、上智大学大学院教授の織朱實氏らを社外取締役に招聘(しょうへい)するなどして、株式公開に向けてコンプライアンスの態勢を整えてきた経緯がある。 前回の記事掲載以降、筆者のもとには匿名を条件に「MJGの子会社のなかには親会社に資金を吸い上げられた結果、電気代や税金を払えないほど資金繰りに行き詰まっているところがある」との情報提供もあった。果たしてMJGとグループ会社約40社の経営は持続可能なのか。今回、2月の臨時株主総会と取締役会を経て代表に復帰した田邑氏が取材に応じた』、「田邑氏が解任された昨年11月14日の取締役会の詳細な議事録を入手した。それによれば田邑氏はMJGの実施した企業買収などに際し、取締役会決議を取っていないという会社法違反を指摘されていたことがわかった。 また、社外取締役4人はこの取締役会の翌日、一斉に辞任したが、このうち1人は取締役会で「田邑氏のM&Aのやり方は異常である。M&Aを資金繰りに使う、というのは完全に間違っている」などと発言していたことがわかった。MJGが2023年6月期中、新規に買収した会社からの預かり金として15億円を調達したなどと財務担当が説明したことを受けた発言である」、全く異常という他ない。
・『議事録に書かれた各取締役の発言内容 まず、クーデターが発生した昨年11月の取締役会でのやりとりについて議事録をもとに振り返る。なお、田邑氏を除く発言者はすでに会社を去っているため匿名化する。 「報告事項 全社財務状況の件」として財務担当の執行役員Z氏が「新規にグループインした会社からの預かり金として、15億円を調達した」と発言したことを受けて、次のやりとりがあった。 社外取締役P氏「グループ会社からの資金収集は借り入れなのか」 田邑氏「借り入れにはなっていない。前受金と配当金の前払いという形になっている」 Z氏「監査法人からは、借り入れなのか前受金なのか定義を明確にしてほしいと指摘されている。書面での契約は締結せずに各社に集金を指示している状況であり、社内でも定義ができていない。監査法人からも資金の流れを明瞭化してほしいと指摘が出ている」 田邑氏「キャッシュフローマネジメントにおいて、同一の資本のなかで資金繰りをしているということであり、処理の適切さについては、今後数字と構築を明確にすれば問題はない認識だ」 P氏「数字ではなく、グループ会社からの資金回収がどういう性格のものであるかが重要であり、適正さは監査法人が決めること」 田邑氏「ルールが明確ではないため、今後は金利の発生なども含めて整備していく」』、「全社財務状況の件」として財務担当の執行役員Z氏が「新規にグループインした会社からの預かり金として、15億円を調達した」と発言したことを受けて、次のやりとりがあった。 社外取締役P氏「グループ会社からの資金収集は借り入れなのか」 田邑氏「借り入れにはなっていない。前受金と配当金の前払いという形になっている・・・監査法人からも資金の流れを明瞭化してほしいと指摘が出ている」 田邑氏「キャッシュフローマネジメントにおいて、同一の資本のなかで資金繰りをしているということであり、処理の適切さについては、今後数字と構築を明確にすれば問題はない認識だ」、会計原則を無視した酷い処理だ。
・『「すべて独断」「やり方は異常」…会社法違反めぐる緊迫したやり取り 次に議題は「グループ全体の財務状況」に移る。そこで問題の会社法違反の指摘が出る。かなり長文となるが、発言内容は以下の通りだ。 Z氏「グループ会社からの借り入れ35億円の内容について、グループ会社全体で見る必要がある。将来退職金は、オーナーに株式取得額と将来的な退職金を合わせて提示することにより、初期の買収負担を軽減しつつ、オーナーのリテンションとして買収後も数年間頑張っていただく、という目的のもと設定している」 社外取締役Q氏「退職金の引き当ては行っているのか」 田邑氏「短いのもあるが、10年以上の契約もある」 Q氏「将来退職金は絶対に払わなければいけないものであり、これは負債である。負債に計上しているか、という話」 P氏「今日初めて将来退職金という設定をしていることを認識した。もし取締役会での承認なしで取締役田邑の独断で決定しているとしたら、かなり難しい問題である」 Q氏「もし対象者が死亡した場合、支払い義務が発生するのか」 田邑氏「状況によっては支払わなければいけないと理解している」 Q氏「状況によってではなく、将来退職金は契約で絶対に支払うべきもの。これは明確に定義すべきである」 田邑氏「株価対価(ママ)には記載されている」 Q氏「取締役に対しても明確に提示すべきだ。すべて独断で決めているのが問題である」 監査役R氏「会社法362条にて、取締役会において報告・決議すべきことが記載されている。最も重要な項目として、多額の資産の譲り受け、つまり買収に関しての内容が第1項に記載されている。買収理由、PMI(筆者注:M&A成立後の経営統合プロセスのこと)による5年間の業績改善計画、それを企業価値(ママ)に割り引いた場合、割安であるという提案を取締役会において実施し、そこで承認を得て進めることが投資。借入金が必要な理由を取締役会において説明をして承認されて初めて、借財に関する取引の実施が可能になる」 社外取締役S氏(会社法第362条を読み上げる) R氏「第3項の支配人そのほかの重要な使用人の選定について、つまり部長や執行役員のことであるが、10月1日に経営陣の体制を大きく変えたが、その際は取締役会において決議は取ったのか」 田邑氏「取っていない」 R氏「何のために取締役会を置いているのか、という疑問がある。田邑氏は会社法違反を重ねているということであり、取締役会設置会社としては由々しき事態である。監査法人や主幹事証券が認知するところとなれば、相当な指摘を受けかねないことであり、コーポレートガバナンスの基礎もなっていない状態。これは非常に由々しき事態であることを認識していただきたい」 田邑氏「M&Aの決定も私にしかでき得ないことであり、会社法が大事なのか会社を守ることのほうが大事なのかについてはまた議論すればよい。日々案件がある中、毎日取締役会をすることは難しい」 P氏「自分に能力があるから、自分で勝手に判断してもいい、会社法は後回しにしてもいい、というのは間違っている」 R氏「投資案件に関して、代表取締役田邑がスーパーハンターであることは認める。ただし、経営やM&Aのプロである社外取締役をなぜ活用しないのか。取締役会開催の頻度が問題なのであれば、取締役会の中に、投資委員会を設置すればよいのではないか」 Q氏「結局、田邑氏の独断になってしまう。M&A関連の投資は田邑氏が判断しなくてもよいことである。M&Aに関して、今まで何の相談もなかった」 P氏「田邑氏の今までの行動は法律違反である」 A氏「現状の議論はM&Aの継続可否が論点に含まれると認識したが、皆様の考えをお聞かせいただきたい」 Q氏「現状の田邑氏のM&Aのやり方は異常である。常識では考えられない。M&Aを資金繰りに使う、というのは完全に間違っている」 R氏「Q氏に同意で、これはM&Aとは呼ばない。現状のやり方は不動産購入と同じ」 Q氏「M&AはPMIでいかに買収企業の価値向上をするか、が目的であるが、現状グループ会社の価値向上に関して何も行っていない」 田邑氏「私が考えているM&Aは経営統合であり、資金はあるが技術がない、技術はあるが資金はない会社を経営統合して、各社の事業を継続していくというやり方である」 Q氏「買収した会社に対して何もしていない。田邑氏に決定権が集中しすぎている」 田邑氏「他の人に任せられればいいが、現時点で他に任せられる人がいない。今はグループ会社の従業員の生活を守ることを最優先としている」 P氏「従業員の生活を守ることと、法律を守ること、どちらが大事だと思うか」 田邑氏「法律も守れるように形を整えるしかないと考えている」 P氏「今の財務内容は、今までの田邑氏の法律違反の結果ではないのか」 田邑氏「組織として認識が甘かったことは認める」 P氏「これは会社法違反である」 Z氏「当社がグループ会社から資金授受している金額が、35億円。グループ会社全社の現預金は29億円、当社の現預金は6800万円であるためグループ全体で約30億円。問題は営業赤字の状態で166億円を借り入れているということ」 R氏「このような財務状況では、メガバンクは融資してくれないのでは」 田邑氏「元々メガバンクから融資は受けていない。他金融機関からの融資は受けられている」 Z氏「私の認識は田邑氏の認識と相違がある。今年9月にクロージングした会社の融資のため、8行の銀行を回った結果、X(筆者注:原文は金融機関の実名)とY(同)はグループ全体の資金収支状況の懸念を理由に見送りとなり、また他4行は営業利益状況と資金の使用使途が買収資金であるという点を理由に見送りとなった。残り2社は検討中という結果であった」 R氏「Xも含め誰も融資をしてくれないというのは、会社として由々しき事態なのではないか。正常な会社はどの金融機関も融資をしてくれるはず。財務状況を取締役会において協議しなかったというのはあり得ない」 田邑氏「取締役会において議論すべきであったかもしれないが、結局財務状況に関して責任を取れるのは私しかいない」 S氏「代表取締役が一人で責任を負うという点だが、取締役会の取締役には損害賠償責任が発生する。決議事項があり、それらが損害を被らせた場合、取締役にも責任が発生する」 田邑氏「取締役に迷惑をかけたい訳ではない。今後この財務状況をどう改善するかが重要」 Q氏「田邑氏に今までの経営判断、会社の財務状況を悪化させてきたことの責任がある」 田邑氏「各社の負債は、私が代表となり各社が背負っているもの」 R氏「代表取締役を選任するのは取締役会。取締役会に報告し事前協議を諮ることは義務である」 P氏「自分が全部やっているから自分が全部責任を持つ、ということのようだが、それであれば自分一人で会社をすればよかった。我々他の取締役を入れた上で、我々に責任と義務が発生する状態で、今まで協議がなかったということは由々しき事態」 こうした緊迫のやり取りを経て田邑氏は代表取締役を解任され、A氏が後任に就いたわけである。ただ、田邑氏は引き続き発行済み株式の約8割を保有するオーナーであり、株主の請求による臨時株主総会が今年2月13日に開催され、A氏が解任され、田邑氏が代表に復帰したのは前回の記事で報じたとおり。クーデターは鎮圧されたといえるが、信用回復は容易ではなさそうだ』、「会社法違反」は関係者からの告発がなければ、通常は問題とされない。「退職給与引当」は必ずしも正しく処理されてない可能性がある・・・経営陣の体制を大きく変えたが、その際は取締役会において決議は取ったのか」 田邑氏「取っていない」 R氏「何のために取締役会を置いているのか、という疑問がある。田邑氏は会社法違反を重ねているということであり、取締役会設置会社としては由々しき事態である。監査法人や主幹事証券が認知するところとなれば、相当な指摘を受けかねないことであり、コーポレートガバナンスの基礎もなっていない状態。これは非常に由々しき事態であることを認識していただきたい・・・元々メガバンクから融資は受けていない。他金融機関からの融資は受けられている」 Z氏「私の認識は田邑氏の認識と相違がある。今年9月にクロージングした会社の融資のため、8行の銀行を回った結果、X(筆者注:原文は金融機関の実名)とY(同)はグループ全体の資金収支状況の懸念を理由に見送りとなり、また他4行は営業利益状況と資金の使用使途が買収資金であるという点を理由に見送りとなった。残り2社は検討中という結果であった」 R氏「Xも含め誰も融資をしてくれないというのは、会社として由々しき事態なのではないか。正常な会社はどの金融機関も融資をしてくれるはず。財務状況を取締役会において協議しなかったというのはあり得ない」、どうも「他金融機関」との関係も悪化している可能性がある。
・『筆者の疑問に対する田邑氏の回答は 田邑氏はクーデターについてどう振り返り、今後いかに経営を立て直すのか。3月25日、田邑氏は本社の入っているビル「浜離宮ザ・タワー」の36階にあるプライベートオフィスで筆者の取材に応じた。主なやりとりは次のとおり(Qは聞き手の質問、Aは田邑氏の回答)。 Q:資金繰りが厳しい子会社があるようだ。 A:昨年買収した会社は、コロナ禍で毀損(きそん)していた会社が多い。銀行とのリレーションもうまくいっていないところもある。ただ、コロナが明け、MJGのグループに入ったことで改善しつつある。MJGには銀行とのリレーションがある。買収前にしっかりデューデリジェンスを行っており、改善の見込みがあるところしか買収していない。 Q:電気代すら払えていないという子会社があると聞いた。 A:どこのことかな? 工場なので電気代は結構な金額になる。昨年4月以降、経営と執行を分離し、執行をA氏らに任せたあと、資金繰りを先読みすることができず、おかしくなってしまった。7月、8月あたりからさまざまな問題が表面化したため厳しく叱責したが、改善しないので、元通り私が全部やるからA氏らに退いてくれと言ったところ、クーデターが起きてしまった。いま仕切り直ししている。 Q:足元のグループの有利子負債は160億円くらい? A:そこまでない。120億円くらい。それに対し現預金は20億~30億円ある。昨年7月から連結会計システムを導入しており、毎月5日には前月の月次決算ができる体制になっている。 Q:11月14日の取締役会では旧オーナーの退職金債務の話が出たが、いまはバランスシートで負債計上しているのか。 A:いまも負債として認識していない。上場するのであれば計上する必要があるが。 Q:上場計画はどうなったのか。 A:監査法人や主幹事証券会社とは契約を解消した。もともと上場するにしても私は東京プロマーケット市場を想定していたが、A氏らが入ってきて、プロマーケットでは資金調達できないからと東証グロース市場にターゲットを変更した経緯がある。MJGに上場するメリットはない。A氏らのやる気を出すために株を持たせたが、私は対価を受け取っていない。 Q:普通は1社買収して経営を立て直すだけでも大変な仕事なのに、事業内容も企業文化もバラバラの会社をこれほど多く買収して手が回るのか。 A:事業承継のニーズは非常に多い。買収時に外部の専門家に頼んで、事業デューデリもしっかりできている。得意先への値上げ交渉など、基本的なことを確実に進めていくだけでもずいぶん良くなる。コンサルは入れていない。将来的には開発設計の機能を持つ子会社と量産の機能を持つ子会社を連携させて、得意先に一貫して任せてもらう体制をとるなどグループのシナジーを発揮していく。しかし、まず足元は個々の子会社が自立できるようにすることが先決。MJGはプラットフォームの機能を果たす。 Q:MJGはA氏が代表を務めていた会社を買収しており、同社では現在田邑氏とクーデターの首謀者ともいえるA氏が共同代表になっている。いまの状態を続けるのか。 A:A氏に株式を売り戻してMJGから切り離すことになるだろう。同社は買収前から借入金の返済をリスケしており、低い株価しかつかない。昨年5月頃同社のバンクミーティングに出席したが、事業計画についてA氏は自ら説明せず、外部のコンサルに任せていた。経営者としてありえない。リスケしている子会社は他にも数社あるが、返済再開にこぎ着けているところもある。 Q:旧オーナーへの退職金の支払いでもめている会社があると聞いた。 A:旧オーナーではなく、その奥さんで取締役になっている人物から今回のゴタゴタを受けて辞任の申し出があり、退職金を払ってほしいと言われている。この会社についても旧オーナーに株を売り戻す可能性がある。 Q:グループ会社のなかには、買収直後に余剰資金をMJGに抜かれたと言っているところがある。取締役会でもM&Aを資金繰りに使っているという指摘があった。 A:キャッシュマネジメントシステム(CMS)の考え方を導入した。おかしくなったのはA氏らに任せてから。 Q:田邑氏のM&Aについて「不動産購入と同じ」との指摘もあった。 A:良い会社なら、金融機関から買収資金を借りても5年程度で返済できるかもしれない。しかし、不動産と違って中小企業の株に担保価値があるわけではない。たしかに私は不動産取引もいくつかしたことがあるが、M&Aを同じように考えていたら金融機関の信用を失ってしまう。 Q:CMSを導入するのであれば、資金使途の変更について子会社の借入先の金融機関との契約を結び直す必要があるのではないか。 A:その必要はない。子会社が借りた資金をMJGのM&Aに使うなどということは一切していない。実はメインバンクからは、グループの資金調達窓口をMJGに一本化しないかという提案を受けたが断っている。M&A案件は各地の金融機関の紹介から出てくるケースがあり、個々の子会社の金融機関との関係も大切にしたい。グループで40行程度の金融機関と取引がある。 Q:クーデター以降、新たな買収は行ったのか。 A:まだ開示できるものはないが、M&A仲介会社などから新規の案件は持ち込まれている。A氏らはM&Aを3年やめて上場するために足元を固めると言ってきた。しかし、私はM&Aをやめない。MJGが事業承継のモデルケースになる。いまは信頼できる人たちと経営できている。MJGと同じような会社がもっと出てくるといい。 田邑氏はインタビューにおいて、経営維持の自信を最後まで崩さなかった。MJGは混乱から立ち直って、中小企業の事業承継分野の希望の星になれるだろうか』、「Q:足元のグループの有利子負債は160億円くらい? A:そこまでない。120億円くらい。それに対し現預金は20億~30億円ある。昨年7月から連結会計システムを導入しており、毎月5日には前月の月次決算ができる体制になっている。 Q:11月14日の取締役会では旧オーナーの退職金債務の話が出たが、いまはバランスシートで負債計上しているのか。 A:いまも負債として認識していない」、「退職金」はやはり「債務」として認識してないようだ。「Q:CMSを導入するのであれば、資金使途の変更について子会社の借入先の金融機関との契約を結び直す必要があるのではないか。 A:その必要はない。子会社が借りた資金をMJGのM&Aに使うなどということは一切していない。実はメインバンクからは、グループの資金調達窓口をMJGに一本化しないかという提案を受けたが断っている。M&A案件は各地の金融機関の紹介から出てくるケースがあり、個々の子会社の金融機関との関係も大切にしたい。グループで40行程度の金融機関と取引がある・・・A:まだ開示できるものはないが、M&A仲介会社などから新規の案件は持ち込まれている。A氏らはM&Aを3年やめて上場するために足元を固めると言ってきた。しかし、私はM&Aをやめない。MJGが事業承継のモデルケースになる。いまは信頼できる人たちと経営できている。MJGと同じような会社がもっと出てくるといい。 田邑氏はインタビューにおいて、経営維持の自信を最後まで崩さなかった。MJGは混乱から立ち直って、中小企業の事業承継分野の希望の星になれるだろうか」、どう考えても「田邑氏」はM&A専門家として、情報に敏感なだけで、山師的で、財務原則順守・コンプラ意識も欠如しているようだ。こんな人物が「グループで40行程度の金融機関と取引がある」とは驚くべきことだ。しかし、取引金融機関のなかから、どうも怪しいとの見方が広がりだすと、一気に信用を失墜する可能性がある。
先ずは、昨年6月6日付け東洋経済オンライン「任天堂創業家へ反撃!東洋建設「意外すぎる一手」 6月27日の株主総会を前に攻防がヒートアップ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/677008
・『中堅ゼネコンの株式を巡る攻防が、一段と激しくなってきた。 海洋土木(マリコン)大手の東洋建設は5月24日、任天堂創業家の資産運用会社「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)が東洋建設に対して行っていたTOB(株式公開買い付け)提案に反対することを発表した。取締役会の全員一致で反対することを決めた。 同時に、社内取締役2人、社外取締役7人の計9人の選任を求めるYFOによる株主提案に反対することも決定した。 東洋建設はどちらの提案を受けるよりも、今年3月に策定した2027年度を最終年度とする新中期経営計画を遂行することこそが、「当社の企業価値や株主の共同利益の最大化につながる」とした。また、YFOが提示している公開買い付け価格1000円についても、「プレミアムはわずか1.5~3.8%に過ぎず、当社の本源的価値を反映した価格とは言えない(1000円の価格は安すぎる)」とした』、「YFOが東洋建設に対して行っていたTOB提案」、「社内取締役2人、社外取締役7人の計9人の選任を求めるYFOによる株主提案」、に「反対」、なるほど。
・『YFO「完全な二枚舌だ」 東洋建設の時田学執行役員は、「YFOの企業価値向上策を遂行しても当社の企業価値は向上しない。経営の基盤が崩壊し、受注活動に悪影響を与える」と語る。 一方、YFOの関係者は、東洋建設の決定に不満を漏らす。「完全な二枚舌だ。当初は『1000円という価格の根拠がわからない。そこまでの株価にはいかない』(1000円の価格は高い)と言っていたはず」。「協議の当初から、経営基盤の崩壊論を展開していた。あたまからそれ(反対)ありきで動いていた」。 東洋建設の株価については、1年前の2022年5月31日時点では833円(終値)だったが、今年5月31日は985円(同)をつけている。洋上風力発電事業に本格参入するなど骨太の方針を打ち出した新中期経営計画の内容や、2023年度から2025年度の配当性向を100%(下限50円)とする株主還元策を掲げたことが、市場から評価された。 YFOによる東洋建設の保有株式が27%を超過し、YFOが東洋建設に対してTOBを提案した2022年4月以降、YFOと東洋建設は荒々しいやりとりを繰り広げてきた。どちらかというと、東洋建設はYFO側の話を聞くことに終始する、受け身一辺倒だったと言える。 ところが、今年3月の新中期経営計画発表時に「(経営の姿勢を)守りから攻めへ転換する」(時田執行役員)と宣言すると同時に、YFOへ反撃の姿勢をみせるようになった』、「東洋建設はYFO側の話を聞くことに終始する、受け身一辺倒だったと言える。 ところが、今年3月の新中期経営計画発表時に「(経営の姿勢を)守りから攻めへ転換する」・・・と宣言すると同時に、YFOへ反撃の姿勢をみせるようになった」、なるほど。
・『反対表明を冷静に受け止めるYFO YFOも受けて立つ。「東洋建設の現取締役会のガバナンスが機能していないことを顕著に示すもの」。YFOは5月25日付のリリースで、攻めに転じた東洋建設の反対表明を批判した。 しかし、攻撃的な言葉とは裏腹に、YFO側は東洋建設の反対表明については、冷静に受け止めている。「反対表明は想定の範囲内。賛同表明を出すとは、まったく考えていなかった」(YFO関係者)。 むしろ、YFO側が驚いたのは、東洋建設が反対表明と同じ5月24日に発表した新しい経営体制への移行だ。東洋建設は新役員候補案として社内取締役の5人、社外取締役6人を掲げた。土木畑の長い大林東壽氏(はるひさ、取締役・専務執行役員)と、建築分野を歩んできた平田浩美氏(取締役・執行役員副社長)を新任の代表取締役にするとした。 加えて、現任の武澤恭司社長と藪下貴弘専務執行役員の代表取締役2人が退任することも発表した(それぞれ相談役、顧問に就任予定)。武澤社長と藪下専務は東洋建設のツートップであり、YFOとの協議も両者が前面に出て対応してきた。 「この人事案には意外性があった。東洋建設は現体制のままで中期戦略を進めるのか、新体制で望むのか、どちらを選択するのか注視していたが、後者を選択した。特に、代表取締役2人が同時交代することは異例で、意外だった」と、YFO関係者は語る。 同YFO関係者は、「東洋建設は(6月27日に予定される)定時株主総会で、当方の株主提案に対する票読みが難しいとみて、代表取締役2人の退任を発表したのではないか」といぶかる。) この見方に対して、東洋建設は「(武澤社長らの退任は)既定路線だった」(時田執行役員)と強調する。武澤社長は2014年4月に就任して以降、9年にわたり経営トップを務めてきた。 東洋建設は不動産開発事業に失敗し、債務免除を受け、2003年から前田建設工業の傘下で経営再建を図ってきた。武澤社長はその経営改革のまさに牽引者だった。「中興の祖と言ってもおかしくない」(別の東洋建設関係者)。 5月24日に行われた社長交代の記者会見で、武澤社長は次のように語った。 「9年間、経営基盤の強化に取り組んだ。社長就任当初は存続の危機だった。純資産200億円を上回るかどうか厳しい状況で、信用力が低下し、民間工事の受注も厳しかった。そこから、社員の頑張りもあり、収益を上げ、純資産を積み上げることができた。前2023年3月期末は純資産が700億円を超えた。立派な数字になったなと思う」 記者は会見を終えたばかりの武澤社長に近づき、「続投は考えなかったのか」と質問した。武澤社長は「いやいや」と首を横に振りながら、こう語った。「私は守りを託された。それを成し遂げたので、(攻めに転じる)いまがいいタイミングだ」。 この人事案にどのような真相があるかは不明だ。だが、昨年12月にトップ会談が決裂して以降、協議の場が持たれていないYFOと東洋建設の冷え切った関係に、何らかの変化を与える可能性はある。「役員が新しいメンバーに変わることもあり、(こちらからYFOに)対話を再開するメッセージを出していくのは大事なこと」と、東洋建設の時田執行役員は話す』、「現任の武澤恭司社長と藪下貴弘専務執行役員の代表取締役2人が退任することも発表・・・特に、代表取締役2人が同時交代することは異例で、意外だった」とYFO関係者は語る・・・東洋建設は不動産開発事業に失敗し、債務免除を受け、2003年から前田建設工業の傘下で経営再建を図ってきた。武澤社長はその経営改革のまさに牽引者だった・・・社長就任当初は存続の危機だった。純資産200億円を上回るかどうか厳しい状況で、信用力が低下し、民間工事の受注も厳しかった。そこから、社員の頑張りもあり、収益を上げ、純資産を積み上げることができた。前2023年3月期末は純資産が700億円を超えた。立派な数字になったなと思う」、確かに再建を果たしたようだ。
・『株式を追加取得する可能性も? 1年以上も続いているYFOと東洋建設の株式攻防戦は、今後どういう展開を見せるのか。 YFOは5月24日に、別のリリースも出している。それによると、東洋建設の同意を得ずに東洋建設株式を追加取得しないことを誓約していたが、5月24日までとしていた誓約期限を延長しない、つまり今後は「東洋建設の株式を買い増す可能性もある」という。 ただ、市場の混乱などを避けるために、保有株式が3分の1を超えないようにし、かつ追加の買い付け価格は提示するTOB価格の1000円を超えないようにする、としている。 上記のリリース内容やこれまでの経緯からして、YFOが強引に会社を“乗っ取る”ような行動に出ることは考えにくい。 当面の焦点はやはり、6月27日に予定されている定時株主総会だ。 東洋建設が提案する新役員案について、YFO関係者は次のように明かす。「大林氏や平田氏といった、土木と建築という事業柱のバックグラウンドがある方については、(YFO側は)反対しないだろう。ただ、スキルセットを考慮したうえで、一部の役員候補については反対するかもしれない」。 この関係者のいうスキルセットとは、YFOが株主提案する役員候補との経営上のバランスのことだ。YFOは常勤取締役候補として、元三菱商事の代表取締役である吉田真也氏、元フジタの建築本部理事の登坂章氏、そして社外取締役候補として弁護士で日本ガバナンス研究学会理事の山口利昭氏などを提案する』、「YFO」は「東洋建設の同意を得ずに東洋建設株式を追加取得しないことを誓約していたが、5月24日までとしていた誓約期限を延長しない、つまり今後は「東洋建設の株式を買い増す可能性もある」という」、なるほど。
・『役員が混在する「連邦」体制になる可能性 YFOとしては、提案する新役員候補の9人全員が東洋建設の経営に参画することが前提だが、そのうち数名が選任されることも考えられる。つまり、結果としては、今後の東洋建設の経営は、東洋建設側が提案する役員とYFO側が提案する役員が混在する「連邦」体制になる可能性はある。 YFO側の株式保有比率は合計で27%超。一方、前田建設(20%超保有)と、ほかの親密な政策保有先が東洋建設を支持するとみられる。海外投資家がどう動くのかが、定時株主総会の行方を決定づける』、最終的にどうなったのかについては、12月20日付けロイター「「任天堂創業家の資産運用会社、東洋建設へのTOB提案取り下げ」として、 任天堂創業家の資産運用会社YFOは20日、東洋建設への株式公開買い付け(TOB)開始を取りやめると発表。12月下旬までに買い付けを始めることを目指していたが、東洋建設取締役会の賛同を得られていなかった 。YFOは、現時点で1株1255円を超える価格提案は難しく、東洋建設取締役会の賛同を取り付けるなどTOBの前提条件を満たすのは困難と判断。東洋建設の取締役会は6月の総会後にYFOが提案した取締役が過半を占めているが、今月14日に全員一致で反対意見を決議、結局、TOBを断念したようだが」、「YFO」の「取締役会は6月の総会後にYFOが提案した取締役が過半を占めている」にも拘らず、「全員一致で反対意見を決議」、とは意外だ。
次に、本年3月21日付け東洋経済オンライン「ブラザー工業が「対抗TOB」で狙う三度目の正直 ローランドDGが実施のMBOに「待った」をかける」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/742140
・『投資ファンドと組んだMBO(経営陣が参加する買収)に、「待った」をかけたのは協業関係にあった事業会社だった――。投資ファンドに普通の事業会社が噛みつくという構図の異例の事態が起きている。 ミシンで知られるブラザー工業は3月13日、産業用印刷中堅のローランド ディー. ジー.(DG)に対抗TOB(株式公開買い付け)を行う予定であると発表した。 ローランドDGに対しては、2月13日から3月27日までの期間で、タイヨウ・パシフィック・パートナーズによるTOBが行われている。タイヨウはアメリカの投資ファンドでローランドDGの大株主。ローランドDGのMBOの一環としてTOBが実施されている。TOB価格は1株あたり5035円だ。 一方のブラザーは5200円のTOB価格を提示した。タイヨウによるTOBが継続中もしくは不成立であることを条件に、5月中旬をメドに開始する。買収総額は640億円の見込み。これは2015年に買収したイギリスの産業印刷機メーカーの約10.5億ポンド(当時の為替レートで約1930億円)に次ぐ金額規模となる』、「投資ファンドと組んだMBO・・・に、「待った」をかけたのは協業関係にあった事業会社だった――。投資ファンドに普通の事業会社が噛みつくという構図の異例の事態」、確かに「異例」だ。
・『注力分野の1つが産業印刷機 ブラザーの売り上げ規模は8000億円超。世界的なミシンメーカーとして知られる同社だが事業領域は幅広い。 売り上げの過半を占めるのは家庭用インクジェットプリンターを中心とするプリンター関連で、ほかに産業印刷機、工作機械、通信カラオケの「ジョイサウンド」なども手がける。この中で近年注力しているのが産業印刷機と工作機械だ。 その産業印刷の分野で、広告看板向けの大型インクジェットプリンターに強みを持つのがローランドDG。布に印刷するガーメントプリンターや歯科用ミリングマシンなども手がけており、2023年12月期の売上高は540億円だった。 ブラザーはTOBの意義について、両社の資産共有によるローランドDGの競争力強化を第一に掲げる。開発にブラザーのインクジェット技術を活用、共同購買を通じた製造コストの削減が期待できるなど、同じ印刷業界だからこそ可能な価値向上施策を実施できるとする。 ブラザーにとっては産業印刷の強化にもつながる。ペーパーレス化が逆風といえるオフィスや家庭用のプリンターとは異なり、新興国で工業製品の消費が増えることなどによる市場の拡大が見込める。ブラザーの事業ポートフォリオ的には、産業印刷領域の拡大は望ましい』、「ブラザーの事業ポートフォリオ的には、産業印刷領域の拡大は望ましい」、その通りだ。
・『2度拒否されたTOB提案 今回のブラザーによる対抗TOBはローランドDGの同意を得ていない。いわゆる「同意なきTOB」だ。しかしブラザーの佐々木一郎社長は、「両企業にとって、さらにはお互いのお客様にとってもWin-Win-Winの関係を構築できる」との内容でコメントを出した。 実はブラザーはこれまでに2度、ローランドDGにTOB提案を拒否されている。1度目の提案は2023年9月。1株あたり4800円でTOBの提案を行った。2019年の1月頃から、ローランドDGとの親和性について意識し始めたという。同12月からは製品の共同開発を始め、関係を強化していた。 しかしローランドDGは提案に慎重な姿勢を示した。理由に挙げたのが「ディスシナジーの発生懸念」だ。ブラザーとの協議を繰り返すも、やはり懸念が拭えないことを理由に今年2月2日、協議の中止をブラザーに伝達した。 2度目の提案は協議中止から4日後の2月6日。TOB価格を1株あたり4850円に上げると伝えた。だがローランドDGの意思は変わらず、2月9日に再度TOBについての検討中止をブラザーに伝達した。 その日、タイヨウがMBOを前提としたローランドDGへのTOBを2月13日から始めると発表した。ブラザーは1度目の提案を行った昨年9月頃から水面下でMBOの準備が進んでいたことについて知らされていなかった。) もはや執念すら感じる今回の対抗TOBだが成功する可能性はある。 ローランドDGの株価は3月19日の終値で5460円。タイヨウはおろかブラザーが提示したTOB価格をも上回る水準だ。ローランドDGが当初描いたMBOには暗雲が漂う。 TOBに応募するかどうかを決めるのが株主である以上、その判断はTOBの価格に大きく左右される。このままMBOを進めるのであれば、タイヨウがブラザーよりも高いTOB価格を提示する必要がある。 ローランドDGは今後、取締役会などでの検討を経てブラザーの対抗TOBに対する推奨・非推奨の意を表明する予定だ。もし非推奨として3度目の拒否をする場合には、「ディスシナジー」についても踏み込んだ説明が求められるだろう』、「このままMBOを進めるのであれば、タイヨウがブラザーよりも高いTOB価格を提示する必要がある。 ローランドDGは今後、取締役会などでの検討を経てブラザーの対抗TOBに対する推奨・非推奨の意を表明する予定だ。もし非推奨として3度目の拒否をする場合には、「ディスシナジー」についても踏み込んだ説明が求められるだろう」、その通りだ。
・『過去の巨額買収は利益創出に課題 一方のブラザーも宿願成就の後が本番だ。 先述した2015年買収のイギリス産業印刷機メーカー、ドミノ・プリンティング・サイエンシズ社はブラザー入りして以降、売り上げ成長は続けている。ただ、利益創出に時間を要している。 買収後に投資がかさんでいる影響で、2023年3月期においてもドミノ事業の実質的な営業利益は56億円。100億円近くあった買収前の営業利益に遠く及ばない。 このブラザー史上最高額の買収となったドミノ社の事業統括は当時社長だった小池利和・現会長が就いた。今回のローランドDGへのTOBも小池会長が陣頭指揮を執っているとみられる。 ローランドDGのMBO、そしてブラザーの対抗TOBの行方を握るのは現状、タイヨウの出方にかかっている。勝敗が決するまでにもう一波乱ありそうだ。 ブラザー工業の株価・業績 は「四季報オンライン」で』、「2015年買収のイギリス産業印刷機メーカー、ドミノ・プリンティング・サイエンシズ社はブラザー入りして以降、売り上げ成長は続けている。ただ、利益創出に時間を要している。 買収後に投資がかさんでいる影響で、2023年3月期においてもドミノ事業の実質的な営業利益は56億円。100億円近くあった買収前の営業利益に遠く及ばない」、やはり「利益」がしっかり出せるかどうかがカギだ。
第三に、4月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した東京経済取締役東京本部長の井出豪彦氏による「「法律違反」「異常なやり方」M&Aで急成長する企業の“トップ解任騒動”の全内幕!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341414
・『後継者難などで悩む中小企業を次々買収してきた「MJG」(東京都港区、本社の外観写真あり)で、昨年11月に代表の田邑元基氏が解任される“クーデター”が発生した一件について、筆者は前回のダイヤモンド・オンラインの記事で報じた(なお、MJGは昨年10月にいったん、日本マニュファクチャリングホールディングスと社名を変更していたが、今年2月再び社名をMJGに戻した)。MJGでは一体何が起きているのか。2月の臨時株主総会と取締役会を経て代表に復帰した田邑氏が取材に応じた』、興味深そうだ。
・『田邑氏が解任された取締役会の議事録を入手 クーデターを受けて新代表に就任したA氏は代理人を通じてグループ会社や取引先に文書を送付し、田邑氏の解任理由について「田邑氏の代表取締役としての複数に及ぶ違法行為が判明している」などと説明していたが、具体的な違法行為の内容については言及がなかった。 このほど筆者は関係者から、田邑氏が解任された昨年11月14日の取締役会の詳細な議事録を入手した。それによれば田邑氏はMJGの実施した企業買収などに際し、取締役会決議を取っていないという会社法違反を指摘されていたことがわかった。 また、社外取締役4人はこの取締役会の翌日、一斉に辞任したが、このうち1人は取締役会で「田邑氏のM&Aのやり方は異常である。M&Aを資金繰りに使う、というのは完全に間違っている」などと発言していたことがわかった。MJGが2023年6月期中、新規に買収した会社からの預かり金として15億円を調達したなどと財務担当が説明したことを受けた発言である。 MJGは日本M&Aセンター名誉会長の分林保弘氏、レノバ名誉会長の千本倖生氏、上智大学大学院教授の織朱實氏らを社外取締役に招聘(しょうへい)するなどして、株式公開に向けてコンプライアンスの態勢を整えてきた経緯がある。 前回の記事掲載以降、筆者のもとには匿名を条件に「MJGの子会社のなかには親会社に資金を吸い上げられた結果、電気代や税金を払えないほど資金繰りに行き詰まっているところがある」との情報提供もあった。果たしてMJGとグループ会社約40社の経営は持続可能なのか。今回、2月の臨時株主総会と取締役会を経て代表に復帰した田邑氏が取材に応じた』、「田邑氏が解任された昨年11月14日の取締役会の詳細な議事録を入手した。それによれば田邑氏はMJGの実施した企業買収などに際し、取締役会決議を取っていないという会社法違反を指摘されていたことがわかった。 また、社外取締役4人はこの取締役会の翌日、一斉に辞任したが、このうち1人は取締役会で「田邑氏のM&Aのやり方は異常である。M&Aを資金繰りに使う、というのは完全に間違っている」などと発言していたことがわかった。MJGが2023年6月期中、新規に買収した会社からの預かり金として15億円を調達したなどと財務担当が説明したことを受けた発言である」、全く異常という他ない。
・『議事録に書かれた各取締役の発言内容 まず、クーデターが発生した昨年11月の取締役会でのやりとりについて議事録をもとに振り返る。なお、田邑氏を除く発言者はすでに会社を去っているため匿名化する。 「報告事項 全社財務状況の件」として財務担当の執行役員Z氏が「新規にグループインした会社からの預かり金として、15億円を調達した」と発言したことを受けて、次のやりとりがあった。 社外取締役P氏「グループ会社からの資金収集は借り入れなのか」 田邑氏「借り入れにはなっていない。前受金と配当金の前払いという形になっている」 Z氏「監査法人からは、借り入れなのか前受金なのか定義を明確にしてほしいと指摘されている。書面での契約は締結せずに各社に集金を指示している状況であり、社内でも定義ができていない。監査法人からも資金の流れを明瞭化してほしいと指摘が出ている」 田邑氏「キャッシュフローマネジメントにおいて、同一の資本のなかで資金繰りをしているということであり、処理の適切さについては、今後数字と構築を明確にすれば問題はない認識だ」 P氏「数字ではなく、グループ会社からの資金回収がどういう性格のものであるかが重要であり、適正さは監査法人が決めること」 田邑氏「ルールが明確ではないため、今後は金利の発生なども含めて整備していく」』、「全社財務状況の件」として財務担当の執行役員Z氏が「新規にグループインした会社からの預かり金として、15億円を調達した」と発言したことを受けて、次のやりとりがあった。 社外取締役P氏「グループ会社からの資金収集は借り入れなのか」 田邑氏「借り入れにはなっていない。前受金と配当金の前払いという形になっている・・・監査法人からも資金の流れを明瞭化してほしいと指摘が出ている」 田邑氏「キャッシュフローマネジメントにおいて、同一の資本のなかで資金繰りをしているということであり、処理の適切さについては、今後数字と構築を明確にすれば問題はない認識だ」、会計原則を無視した酷い処理だ。
・『「すべて独断」「やり方は異常」…会社法違反めぐる緊迫したやり取り 次に議題は「グループ全体の財務状況」に移る。そこで問題の会社法違反の指摘が出る。かなり長文となるが、発言内容は以下の通りだ。 Z氏「グループ会社からの借り入れ35億円の内容について、グループ会社全体で見る必要がある。将来退職金は、オーナーに株式取得額と将来的な退職金を合わせて提示することにより、初期の買収負担を軽減しつつ、オーナーのリテンションとして買収後も数年間頑張っていただく、という目的のもと設定している」 社外取締役Q氏「退職金の引き当ては行っているのか」 田邑氏「短いのもあるが、10年以上の契約もある」 Q氏「将来退職金は絶対に払わなければいけないものであり、これは負債である。負債に計上しているか、という話」 P氏「今日初めて将来退職金という設定をしていることを認識した。もし取締役会での承認なしで取締役田邑の独断で決定しているとしたら、かなり難しい問題である」 Q氏「もし対象者が死亡した場合、支払い義務が発生するのか」 田邑氏「状況によっては支払わなければいけないと理解している」 Q氏「状況によってではなく、将来退職金は契約で絶対に支払うべきもの。これは明確に定義すべきである」 田邑氏「株価対価(ママ)には記載されている」 Q氏「取締役に対しても明確に提示すべきだ。すべて独断で決めているのが問題である」 監査役R氏「会社法362条にて、取締役会において報告・決議すべきことが記載されている。最も重要な項目として、多額の資産の譲り受け、つまり買収に関しての内容が第1項に記載されている。買収理由、PMI(筆者注:M&A成立後の経営統合プロセスのこと)による5年間の業績改善計画、それを企業価値(ママ)に割り引いた場合、割安であるという提案を取締役会において実施し、そこで承認を得て進めることが投資。借入金が必要な理由を取締役会において説明をして承認されて初めて、借財に関する取引の実施が可能になる」 社外取締役S氏(会社法第362条を読み上げる) R氏「第3項の支配人そのほかの重要な使用人の選定について、つまり部長や執行役員のことであるが、10月1日に経営陣の体制を大きく変えたが、その際は取締役会において決議は取ったのか」 田邑氏「取っていない」 R氏「何のために取締役会を置いているのか、という疑問がある。田邑氏は会社法違反を重ねているということであり、取締役会設置会社としては由々しき事態である。監査法人や主幹事証券が認知するところとなれば、相当な指摘を受けかねないことであり、コーポレートガバナンスの基礎もなっていない状態。これは非常に由々しき事態であることを認識していただきたい」 田邑氏「M&Aの決定も私にしかでき得ないことであり、会社法が大事なのか会社を守ることのほうが大事なのかについてはまた議論すればよい。日々案件がある中、毎日取締役会をすることは難しい」 P氏「自分に能力があるから、自分で勝手に判断してもいい、会社法は後回しにしてもいい、というのは間違っている」 R氏「投資案件に関して、代表取締役田邑がスーパーハンターであることは認める。ただし、経営やM&Aのプロである社外取締役をなぜ活用しないのか。取締役会開催の頻度が問題なのであれば、取締役会の中に、投資委員会を設置すればよいのではないか」 Q氏「結局、田邑氏の独断になってしまう。M&A関連の投資は田邑氏が判断しなくてもよいことである。M&Aに関して、今まで何の相談もなかった」 P氏「田邑氏の今までの行動は法律違反である」 A氏「現状の議論はM&Aの継続可否が論点に含まれると認識したが、皆様の考えをお聞かせいただきたい」 Q氏「現状の田邑氏のM&Aのやり方は異常である。常識では考えられない。M&Aを資金繰りに使う、というのは完全に間違っている」 R氏「Q氏に同意で、これはM&Aとは呼ばない。現状のやり方は不動産購入と同じ」 Q氏「M&AはPMIでいかに買収企業の価値向上をするか、が目的であるが、現状グループ会社の価値向上に関して何も行っていない」 田邑氏「私が考えているM&Aは経営統合であり、資金はあるが技術がない、技術はあるが資金はない会社を経営統合して、各社の事業を継続していくというやり方である」 Q氏「買収した会社に対して何もしていない。田邑氏に決定権が集中しすぎている」 田邑氏「他の人に任せられればいいが、現時点で他に任せられる人がいない。今はグループ会社の従業員の生活を守ることを最優先としている」 P氏「従業員の生活を守ることと、法律を守ること、どちらが大事だと思うか」 田邑氏「法律も守れるように形を整えるしかないと考えている」 P氏「今の財務内容は、今までの田邑氏の法律違反の結果ではないのか」 田邑氏「組織として認識が甘かったことは認める」 P氏「これは会社法違反である」 Z氏「当社がグループ会社から資金授受している金額が、35億円。グループ会社全社の現預金は29億円、当社の現預金は6800万円であるためグループ全体で約30億円。問題は営業赤字の状態で166億円を借り入れているということ」 R氏「このような財務状況では、メガバンクは融資してくれないのでは」 田邑氏「元々メガバンクから融資は受けていない。他金融機関からの融資は受けられている」 Z氏「私の認識は田邑氏の認識と相違がある。今年9月にクロージングした会社の融資のため、8行の銀行を回った結果、X(筆者注:原文は金融機関の実名)とY(同)はグループ全体の資金収支状況の懸念を理由に見送りとなり、また他4行は営業利益状況と資金の使用使途が買収資金であるという点を理由に見送りとなった。残り2社は検討中という結果であった」 R氏「Xも含め誰も融資をしてくれないというのは、会社として由々しき事態なのではないか。正常な会社はどの金融機関も融資をしてくれるはず。財務状況を取締役会において協議しなかったというのはあり得ない」 田邑氏「取締役会において議論すべきであったかもしれないが、結局財務状況に関して責任を取れるのは私しかいない」 S氏「代表取締役が一人で責任を負うという点だが、取締役会の取締役には損害賠償責任が発生する。決議事項があり、それらが損害を被らせた場合、取締役にも責任が発生する」 田邑氏「取締役に迷惑をかけたい訳ではない。今後この財務状況をどう改善するかが重要」 Q氏「田邑氏に今までの経営判断、会社の財務状況を悪化させてきたことの責任がある」 田邑氏「各社の負債は、私が代表となり各社が背負っているもの」 R氏「代表取締役を選任するのは取締役会。取締役会に報告し事前協議を諮ることは義務である」 P氏「自分が全部やっているから自分が全部責任を持つ、ということのようだが、それであれば自分一人で会社をすればよかった。我々他の取締役を入れた上で、我々に責任と義務が発生する状態で、今まで協議がなかったということは由々しき事態」 こうした緊迫のやり取りを経て田邑氏は代表取締役を解任され、A氏が後任に就いたわけである。ただ、田邑氏は引き続き発行済み株式の約8割を保有するオーナーであり、株主の請求による臨時株主総会が今年2月13日に開催され、A氏が解任され、田邑氏が代表に復帰したのは前回の記事で報じたとおり。クーデターは鎮圧されたといえるが、信用回復は容易ではなさそうだ』、「会社法違反」は関係者からの告発がなければ、通常は問題とされない。「退職給与引当」は必ずしも正しく処理されてない可能性がある・・・経営陣の体制を大きく変えたが、その際は取締役会において決議は取ったのか」 田邑氏「取っていない」 R氏「何のために取締役会を置いているのか、という疑問がある。田邑氏は会社法違反を重ねているということであり、取締役会設置会社としては由々しき事態である。監査法人や主幹事証券が認知するところとなれば、相当な指摘を受けかねないことであり、コーポレートガバナンスの基礎もなっていない状態。これは非常に由々しき事態であることを認識していただきたい・・・元々メガバンクから融資は受けていない。他金融機関からの融資は受けられている」 Z氏「私の認識は田邑氏の認識と相違がある。今年9月にクロージングした会社の融資のため、8行の銀行を回った結果、X(筆者注:原文は金融機関の実名)とY(同)はグループ全体の資金収支状況の懸念を理由に見送りとなり、また他4行は営業利益状況と資金の使用使途が買収資金であるという点を理由に見送りとなった。残り2社は検討中という結果であった」 R氏「Xも含め誰も融資をしてくれないというのは、会社として由々しき事態なのではないか。正常な会社はどの金融機関も融資をしてくれるはず。財務状況を取締役会において協議しなかったというのはあり得ない」、どうも「他金融機関」との関係も悪化している可能性がある。
・『筆者の疑問に対する田邑氏の回答は 田邑氏はクーデターについてどう振り返り、今後いかに経営を立て直すのか。3月25日、田邑氏は本社の入っているビル「浜離宮ザ・タワー」の36階にあるプライベートオフィスで筆者の取材に応じた。主なやりとりは次のとおり(Qは聞き手の質問、Aは田邑氏の回答)。 Q:資金繰りが厳しい子会社があるようだ。 A:昨年買収した会社は、コロナ禍で毀損(きそん)していた会社が多い。銀行とのリレーションもうまくいっていないところもある。ただ、コロナが明け、MJGのグループに入ったことで改善しつつある。MJGには銀行とのリレーションがある。買収前にしっかりデューデリジェンスを行っており、改善の見込みがあるところしか買収していない。 Q:電気代すら払えていないという子会社があると聞いた。 A:どこのことかな? 工場なので電気代は結構な金額になる。昨年4月以降、経営と執行を分離し、執行をA氏らに任せたあと、資金繰りを先読みすることができず、おかしくなってしまった。7月、8月あたりからさまざまな問題が表面化したため厳しく叱責したが、改善しないので、元通り私が全部やるからA氏らに退いてくれと言ったところ、クーデターが起きてしまった。いま仕切り直ししている。 Q:足元のグループの有利子負債は160億円くらい? A:そこまでない。120億円くらい。それに対し現預金は20億~30億円ある。昨年7月から連結会計システムを導入しており、毎月5日には前月の月次決算ができる体制になっている。 Q:11月14日の取締役会では旧オーナーの退職金債務の話が出たが、いまはバランスシートで負債計上しているのか。 A:いまも負債として認識していない。上場するのであれば計上する必要があるが。 Q:上場計画はどうなったのか。 A:監査法人や主幹事証券会社とは契約を解消した。もともと上場するにしても私は東京プロマーケット市場を想定していたが、A氏らが入ってきて、プロマーケットでは資金調達できないからと東証グロース市場にターゲットを変更した経緯がある。MJGに上場するメリットはない。A氏らのやる気を出すために株を持たせたが、私は対価を受け取っていない。 Q:普通は1社買収して経営を立て直すだけでも大変な仕事なのに、事業内容も企業文化もバラバラの会社をこれほど多く買収して手が回るのか。 A:事業承継のニーズは非常に多い。買収時に外部の専門家に頼んで、事業デューデリもしっかりできている。得意先への値上げ交渉など、基本的なことを確実に進めていくだけでもずいぶん良くなる。コンサルは入れていない。将来的には開発設計の機能を持つ子会社と量産の機能を持つ子会社を連携させて、得意先に一貫して任せてもらう体制をとるなどグループのシナジーを発揮していく。しかし、まず足元は個々の子会社が自立できるようにすることが先決。MJGはプラットフォームの機能を果たす。 Q:MJGはA氏が代表を務めていた会社を買収しており、同社では現在田邑氏とクーデターの首謀者ともいえるA氏が共同代表になっている。いまの状態を続けるのか。 A:A氏に株式を売り戻してMJGから切り離すことになるだろう。同社は買収前から借入金の返済をリスケしており、低い株価しかつかない。昨年5月頃同社のバンクミーティングに出席したが、事業計画についてA氏は自ら説明せず、外部のコンサルに任せていた。経営者としてありえない。リスケしている子会社は他にも数社あるが、返済再開にこぎ着けているところもある。 Q:旧オーナーへの退職金の支払いでもめている会社があると聞いた。 A:旧オーナーではなく、その奥さんで取締役になっている人物から今回のゴタゴタを受けて辞任の申し出があり、退職金を払ってほしいと言われている。この会社についても旧オーナーに株を売り戻す可能性がある。 Q:グループ会社のなかには、買収直後に余剰資金をMJGに抜かれたと言っているところがある。取締役会でもM&Aを資金繰りに使っているという指摘があった。 A:キャッシュマネジメントシステム(CMS)の考え方を導入した。おかしくなったのはA氏らに任せてから。 Q:田邑氏のM&Aについて「不動産購入と同じ」との指摘もあった。 A:良い会社なら、金融機関から買収資金を借りても5年程度で返済できるかもしれない。しかし、不動産と違って中小企業の株に担保価値があるわけではない。たしかに私は不動産取引もいくつかしたことがあるが、M&Aを同じように考えていたら金融機関の信用を失ってしまう。 Q:CMSを導入するのであれば、資金使途の変更について子会社の借入先の金融機関との契約を結び直す必要があるのではないか。 A:その必要はない。子会社が借りた資金をMJGのM&Aに使うなどということは一切していない。実はメインバンクからは、グループの資金調達窓口をMJGに一本化しないかという提案を受けたが断っている。M&A案件は各地の金融機関の紹介から出てくるケースがあり、個々の子会社の金融機関との関係も大切にしたい。グループで40行程度の金融機関と取引がある。 Q:クーデター以降、新たな買収は行ったのか。 A:まだ開示できるものはないが、M&A仲介会社などから新規の案件は持ち込まれている。A氏らはM&Aを3年やめて上場するために足元を固めると言ってきた。しかし、私はM&Aをやめない。MJGが事業承継のモデルケースになる。いまは信頼できる人たちと経営できている。MJGと同じような会社がもっと出てくるといい。 田邑氏はインタビューにおいて、経営維持の自信を最後まで崩さなかった。MJGは混乱から立ち直って、中小企業の事業承継分野の希望の星になれるだろうか』、「Q:足元のグループの有利子負債は160億円くらい? A:そこまでない。120億円くらい。それに対し現預金は20億~30億円ある。昨年7月から連結会計システムを導入しており、毎月5日には前月の月次決算ができる体制になっている。 Q:11月14日の取締役会では旧オーナーの退職金債務の話が出たが、いまはバランスシートで負債計上しているのか。 A:いまも負債として認識していない」、「退職金」はやはり「債務」として認識してないようだ。「Q:CMSを導入するのであれば、資金使途の変更について子会社の借入先の金融機関との契約を結び直す必要があるのではないか。 A:その必要はない。子会社が借りた資金をMJGのM&Aに使うなどということは一切していない。実はメインバンクからは、グループの資金調達窓口をMJGに一本化しないかという提案を受けたが断っている。M&A案件は各地の金融機関の紹介から出てくるケースがあり、個々の子会社の金融機関との関係も大切にしたい。グループで40行程度の金融機関と取引がある・・・A:まだ開示できるものはないが、M&A仲介会社などから新規の案件は持ち込まれている。A氏らはM&Aを3年やめて上場するために足元を固めると言ってきた。しかし、私はM&Aをやめない。MJGが事業承継のモデルケースになる。いまは信頼できる人たちと経営できている。MJGと同じような会社がもっと出てくるといい。 田邑氏はインタビューにおいて、経営維持の自信を最後まで崩さなかった。MJGは混乱から立ち直って、中小企業の事業承継分野の希望の星になれるだろうか」、どう考えても「田邑氏」はM&A専門家として、情報に敏感なだけで、山師的で、財務原則順守・コンプラ意識も欠如しているようだ。こんな人物が「グループで40行程度の金融機関と取引がある」とは驚くべきことだ。しかし、取引金融機関のなかから、どうも怪しいとの見方が広がりだすと、一気に信用を失墜する可能性がある。
タグ:「YFO」は「東洋建設の同意を得ずに東洋建設株式を追加取得しないことを誓約していたが、5月24日までとしていた誓約期限を延長しない、つまり今後は「東洋建設の株式を買い増す可能性もある」という」、なるほど。 M&A(一般) 純資産200億円を上回るかどうか厳しい状況で、信用力が低下し、民間工事の受注も厳しかった。そこから、社員の頑張りもあり、収益を上げ、純資産を積み上げることができた。前2023年3月期末は純資産が700億円を超えた。立派な数字になったなと思う」、確かに再建を果たしたようだ。 「現任の武澤恭司社長と藪下貴弘専務執行役員の代表取締役2人が退任することも発表・・・特に、代表取締役2人が同時交代することは異例で、意外だった」とYFO関係者は語る・・・東洋建設は不動産開発事業に失敗し、債務免除を受け、2003年から前田建設工業の傘下で経営再建を図ってきた。武澤社長はその経営改革のまさに牽引者だった・・・社長就任当初は存続の危機だった。 「東洋建設はYFO側の話を聞くことに終始する、受け身一辺倒だったと言える。 ところが、今年3月の新中期経営計画発表時に「(経営の姿勢を)守りから攻めへ転換する」・・・と宣言すると同時に、YFOへ反撃の姿勢をみせるようになった」、なるほど。 「YFOが東洋建設に対して行っていたTOB提案」、「社内取締役2人、社外取締役7人の計9人の選任を求めるYFOによる株主提案」、に「反対」、なるほど。 東洋経済オンライン「任天堂創業家へ反撃!東洋建設「意外すぎる一手」 6月27日の株主総会を前に攻防がヒートアップ」 (その3)(任天堂創業家へ反撃!東洋建設「意外すぎる一手」 6月27日の株主総会を前に攻防がヒートアップ、ブラザー工業が「対抗TOB」で狙う三度目の正直 ローランドDGが実施のMBOに「待った」をかける、「法律違反」「異常なやり方」M&Aで急成長する企業の“トップ解任騒動”の全内幕!) 「ブラザーの事業ポートフォリオ的には、産業印刷領域の拡大は望ましい」、その通りだ。 「投資ファンドと組んだMBO・・・に、「待った」をかけたのは協業関係にあった事業会社だった――。投資ファンドに普通の事業会社が噛みつくという構図の異例の事態」、確かに「異例」だ。 東洋経済オンライン「ブラザー工業が「対抗TOB」で狙う三度目の正直 ローランドDGが実施のMBOに「待った」をかける」 東洋建設の取締役会は6月の総会後にYFOが提案した取締役が過半を占めているが、今月14日に全員一致で反対意見を決議、結局、TOBを断念したようだが」、「YFO」の「取締役会は6月の総会後にYFOが提案した取締役が過半を占めている」にも拘らず、「全員一致で反対意見を決議」、とは意外だ。 最終的にどうなったのかについては、12月20日付けロイター「「任天堂創業家の資産運用会社、東洋建設へのTOB提案取り下げ」として、 任天堂創業家の資産運用会社YFOは20日、東洋建設への株式公開買い付け(TOB)開始を取りやめると発表。12月下旬までに買い付けを始めることを目指していたが、東洋建設取締役会の賛同を得られていなかった 。YFOは、現時点で1株1255円を超える価格提案は難しく、東洋建設取締役会の賛同を取り付けるなどTOBの前提条件を満たすのは困難と判断。 監査法人からも資金の流れを明瞭化してほしいと指摘が出ている」 田邑氏「キャッシュフローマネジメントにおいて、同一の資本のなかで資金繰りをしているということであり、処理の適切さについては、今後数字と構築を明確にすれば問題はない認識だ」、会計原則を無視した酷い処理だ。 「全社財務状況の件」として財務担当の執行役員Z氏が「新規にグループインした会社からの預かり金として、15億円を調達した」と発言したことを受けて、次のやりとりがあった。 社外取締役P氏「グループ会社からの資金収集は借り入れなのか」 田邑氏「借り入れにはなっていない。前受金と配当金の前払いという形になっている・・・ MJGが2023年6月期中、新規に買収した会社からの預かり金として15億円を調達したなどと財務担当が説明したことを受けた発言である」、全く異常という他ない。 「田邑氏が解任された昨年11月14日の取締役会の詳細な議事録を入手した。それによれば田邑氏はMJGの実施した企業買収などに際し、取締役会決議を取っていないという会社法違反を指摘されていたことがわかった。 また、社外取締役4人はこの取締役会の翌日、一斉に辞任したが、このうち1人は取締役会で「田邑氏のM&Aのやり方は異常である。M&Aを資金繰りに使う、というのは完全に間違っている」などと発言していたことがわかった。 井出豪彦氏による「「法律違反」「異常なやり方」M&Aで急成長する企業の“トップ解任騒動”の全内幕!」 ダイヤモンド・オンライン 「2015年買収のイギリス産業印刷機メーカー、ドミノ・プリンティング・サイエンシズ社はブラザー入りして以降、売り上げ成長は続けている。ただ、利益創出に時間を要している。 買収後に投資がかさんでいる影響で、2023年3月期においてもドミノ事業の実質的な営業利益は56億円。100億円近くあった買収前の営業利益に遠く及ばない」、やはり「利益」がしっかり出せるかどうかがカギだ。 「このままMBOを進めるのであれば、タイヨウがブラザーよりも高いTOB価格を提示する必要がある。 ローランドDGは今後、取締役会などでの検討を経てブラザーの対抗TOBに対する推奨・非推奨の意を表明する予定だ。もし非推奨として3度目の拒否をする場合には、「ディスシナジー」についても踏み込んだ説明が求められるだろう」、その通りだ。 A:まだ開示できるものはないが、M&A仲介会社などから新規の案件は持ち込まれている。A氏らはM&Aを3年やめて上場するために足元を固めると言ってきた。しかし、私はM&Aをやめない。MJGが事業承継のモデルケースになる。いまは信頼できる人たちと経営できている。MJGと同じような会社がもっと出てくるといい。 田邑氏はインタビューにおいて、経営維持の自信を最後まで崩さなかった。MJGは混乱から立ち直って、中小企業の事業承継分野の希望の星になれるだろうか」、どう考えても「田邑氏」はM&A専門家として、情報に敏感な との契約を結び直す必要があるのではないか。 A:その必要はない。子会社が借りた資金をMJGのM&Aに使うなどということは一切していない。実はメインバンクからは、グループの資金調達窓口をMJGに一本化しないかという提案を受けたが断っている。M&A案件は各地の金融機関の紹介から出てくるケースがあり、個々の子会社の金融機関との関係も大切にしたい。グループで40行程度の金融機関と取引がある・・・ 「Q:足元のグループの有利子負債は160億円くらい? A:そこまでない。120億円くらい。それに対し現預金は20億~30億円ある。昨年7月から連結会計システムを導入しており、毎月5日には前月の月次決算ができる体制になっている。 Q:11月14日の取締役会では旧オーナーの退職金債務の話が出たが、いまはバランスシートで負債計上しているのか。 A:いまも負債として認識していない」、「退職金」はやはり「債務」として認識してないようだ。「Q:CMSを導入するのであれば、資金使途の変更について子会社の借入先の金融機関 いというのは、会社として由々しき事態なのではないか。正常な会社はどの金融機関も融資をしてくれるはず。財務状況を取締役会において協議しなかったというのはあり得ない」、どうも「他金融機関」との関係も悪化している可能性がある。 これは非常に由々しき事態であることを認識していただきたい・・・元々メガバンクから融資は受けていない。他金融機関からの融資は受けられている」 Z氏「私の認識は田邑氏の認識と相違がある。今年9月にクロージングした会社の融資のため、8行の銀行を回った結果、X(筆者注:原文は金融機関の実名)とY(同)はグループ全体の資金収支状況の懸念を理由に見送りとなり、また他4行は営業利益状況と資金の使用使途が買収資金であるという点を理由に見送りとなった。残り2社は検討中という結果であった」 R氏「Xも含め誰も融資をしてくれな 「会社法違反」は関係者からの告発がなければ、通常は問題とされない。「退職給与引当」は必ずしも正しく処理されてない可能性がある・・・経営陣の体制を大きく変えたが、その際は取締役会において決議は取ったのか」 田邑氏「取っていない」 R氏「何のために取締役会を置いているのか、という疑問がある。田邑氏は会社法違反を重ねているということであり、取締役会設置会社としては由々しき事態である。監査法人や主幹事証券が認知するところとなれば、相当な指摘を受けかねないことであり、コーポレートガバナンスの基礎もなっていない状態。 だけで、山師的で、財務原則順守・コンプラ意識も欠如しているようだ。こんな人物が「グループで40行程度の金融機関と取引がある」とは驚くべきことだ。しかし、取引金融機関のなかから、どうも怪しいとの見方が広がりだすと、一気に信用を失墜する可能性がある。
ブラック企業(その16)(ダイハツ お前もか…闇落ちするブラック企業には「ヤバいスローガン」がある、従業員の不満投稿が多い“ブラック”企業ランキング2023【トップ30】6位ヨドバシカメラ 3位イオンリテール ビッグモーターも上位!) [企業経営]
ブラック企業については、昨年3月31日に取上げた。今日は、(その16)(ダイハツ お前もか…闇落ちするブラック企業には「ヤバいスローガン」がある、従業員の不満投稿が多い“ブラック”企業ランキング2023【トップ30】6位ヨドバシカメラ 3位イオンリテール ビッグモーターも上位!)である。
先ずは、昨年12月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「ダイハツ、お前もか…闇落ちするブラック企業には「ヤバいスローガン」がある」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/336571
・『「員数主義」に走っていたとしてもなぜこれほどダイハツは「堕ちた」のか 不正問題で揺れるダイハツが、「ブラック企業」だと叩かれている。 12月20日に第三者委員会の調査報告書で指摘された社風が、「そりゃ、不正がまん延するよ」「昔、在籍していたブラック企業がまさにこんな感じだった」などと、世間をドン引きさせているのだ。 まず報告書によれば、ダイハツは「極度のプレッシャーに晒されて追い込まれた現場の担当者に問題の解決が委ねられた現場任せの状況になっていた」という。ぶっちゃけ、こういう「現場に丸投げ」はサラリーマンならば一度や二度は経験する「あるある」だが、ダイハツがすさまじいのはここからだ。 現場が「これこれこういう問題でできません」と管理職にSOSを出しても、「『で?』と言われるだけで相談する意味がなく、問題点を報告しても『なんでそんな失敗したの』『どうするんだ』『間に合うのか』と詰問するだけで、親身になって建設的な意見を出してくれるわけではない」(調査報告書より)というのだ。 要するに、「どんな手を使っても結果を出すのがお前の仕事だろ」と言わんばかりに、ノルマと責任をすべて「下」に押し付ける、という威圧的マネジメントがまかり通っていた。「下」は、生きるためにやむなく不正行為に走ったというワケだ。 ちなみに、これは筆者が本連載の中で、日本企業の「不正カルチャー」の原因だと繰り返し指摘してきた「員数主義」の典型的なケースだ。「員数」とは旧日本軍内で使われてた装備品や物資の数を示す言葉だ。 軍隊内ではこの「員数」と帳簿上の数が合わないのは「あり得ない」ので、ダイハツのように「で?」「なんで数が合わないの」「どうするんだ」と詰問された。そこで、とにかく員数を合わせるため、他部隊から装備品を盗んだりする不正行為がまん延、現場レベルでは黙認されていたというのだ。 そんな旧日本軍の「数の帳尻を合わせるためならば多少のインチキには目をつぶる」という「員数主義」が戦後、従軍経験者や軍需工場での勤務経験者を介して、日本の民間企業にも引き継がれて、現在に至るというのが筆者の考えだ。詳しくは、《ビッグモーター前社長の他人事発言が、東京裁判「元陸軍大将の釈明」と重なる理由》をお読みいただきたい。 ただ、仮にダイハツが員数主義にむしばまれていたとしても、ここまで「ベタベタのブラック企業」になってしまったことは説明できない。日本最古の自動車メーカーであり、軽自動車国内新車販売台数17年連続トップの名門がなぜこんな「闇堕ち」してしまったのか』、「これは筆者が本連載の中で、日本企業の「不正カルチャー」の原因だと繰り返し指摘してきた「員数主義」の典型的なケースだ。「員数」とは旧日本軍内で使われてた装備品や物資の数を示す言葉だ。 軍隊内ではこの「員数」と帳簿上の数が合わないのは「あり得ない」ので、ダイハツのように「で?」「なんで数が合わないの」「どうするんだ」と詰問された。そこで、とにかく員数を合わせるため、他部隊から装備品を盗んだりする不正行為がまん延、現場レベルでは黙認されていたというのだ。 そんな旧日本軍の「数の帳尻を合わせるためならば多少のインチキには目をつぶる」という「員数主義」が戦後、従軍経験者や軍需工場での勤務経験者を介して、日本の民間企業にも引き継がれて、現在に至るというのが筆者の考えだ・・・ただ、仮にダイハツが員数主義にむしばまれていたとしても、ここまで「ベタベタのブラック企業」になってしまったことは説明できない。日本最古の自動車メーカーであり、軽自動車国内新車販売台数17年連続トップの名門がなぜこんな「闇堕ち」してしまったのか」、その通りで、興味深そうだ。
・『「ヤバいスローガン」による弊害? 実はビッグモーターも… いろいろなご意見があるだろうが、報道対策アドバイザーとして、世間的に「ブラック企業」のそしりを受けた会社の危機管理も手伝った経験から言わせていただくと、「ヤバいスローガン」の弊害もあると思っている。 社訓、社是、ミッション、パーパスなど呼び方はさまざまだが、企業というのは自分たちの会社が目指すべきこと、社員が心がけることをスローガンとして掲げて、研修や教育で現場に叩き込んでいく。例えば、トヨタの場合、創業以来受け継がれてきた「豊田綱領」がこれにあたる。他にも、トヨタウェイだミッションだと色んな言葉が掲げられているが、「豊田綱領の精神」が最上位にあるという。 「たかがスローガンが企業カルチャーに影響なんてしねーよ。オレなんか自社のスローガンが何かなんてまったく知らないし」と嘲笑する人も多いだろう。しかし、我々はつい最近も「ヤバいスローガン」が「ヤバい会社」を生み出したことを目の当たりにしている。 勘のいい方はお分かりだろう、ビッグモーターだ。 ビッグモーターもダイハツ同様に不正発覚後、ブラック企業ぶりが叩かれた。ノルマ達成できないとLINEグループ内や会議でボロカスに人格否定されて降格や左遷。目標未達だと罰金を自腹で払わされるなどの社風が次々と明らかになっていく中で、注目されたのは、「ヤバい経営計画者」だ ビッグモーターの整備工場前では毎朝、従業員が一堂に会して、創業者である兼重宏行氏のかなりクセのある経営思想が反映された「経営計画書」を読み上げていた。 例えば、「会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある」社員について、「今、すぐ辞めてください」とピシャリ。さらには「店長には営業マンの生殺与奪権を与える」などの内容も唱えられていた。 これらのスローガンを毎日叩き込まれた社員が「上の命令にはガタガタ言わずに黙って従う」としつけられることは言うまでもない。つまり、上から課せられたノルマが達成できない場合も、「できません」など言うことはあり得ないということだ。となると、残る道はインチキしかない。 この「ヤバいスローガン」はダイハツにも当てはまる』、「我々はつい最近も「ヤバいスローガン」が「ヤバい会社」を生み出したことを目の当たりにしている。 勘のいい方はお分かりだろう、ビッグモーターだ。 ビッグモーターもダイハツ同様に不正発覚後、ブラック企業ぶりが叩かれた。ノルマ達成できないとLINEグループ内や会議でボロカスに人格否定されて降格や左遷。目標未達だと罰金を自腹で払わされるなどの社風が次々と明らかになっていく中で、注目されたのは、「ヤバい経営計画者」だ ビッグモーターの整備工場前では毎朝、従業員が一堂に会して、創業者である兼重宏行氏のかなりクセのある経営思想が反映された「経営計画書」を読み上げていた。 例えば、「会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある」社員について、「今、すぐ辞めてください」とピシャリ。さらには「店長には営業マンの生殺与奪権を与える」などの内容も唱えられていた。 これらのスローガンを毎日叩き込まれた社員が「上の命令にはガタガタ言わずに黙って従う」としつけられることは言うまでもない。つまり、上から課せられたノルマが達成できない場合も、「できません」など言うことはあり得ないということだ。となると、残る道はインチキしかない。 この「ヤバいスローガン」はダイハツにも当てはまる」、なるほど。
・『「1mm、1g、1円、1秒へのこだわり」にはらむ危ない優先度 報道されているように、ダイハツは「数値目標」に対して非常にシビアだ。スローガンとして「1mm、1g、1円、1秒にこだわってお客様に寄り添ったクルマづくり」を掲げて、現場にも叩き込んでいたという。 ものづくり企業として素晴らしい目標じゃないか、どこが問題なのだ」と首を傾げる方もいるかもしれないが、大いに問題がある。ダイハツが寄り添うという「お客様」からすれば、車は「安心安全」がまず何よりも重要で、次に「コスパ」だ。とにかく1円でも安いことが重要で、そのためには多少の危険はガマンする、なんてユーザーは珍しい。 つまり、「1mm、1g、1円、1秒へのこわだり」なんて、ダイハツ側が思っているほど、ユーザーはありがたがっていないのだ。 もちろん、自動車評論家やら自動車を趣味としている人は「コスパ」や「走り」からダイハツ車を選んでいるのだろうから、「1mm、1g、1円、1秒へのこわだり」は重要だ。しかし、一般的な軽自動車ユーザーにとって、ダイハツ車は仕事や生活の足であり、大切な人を載せるモビリティに過ぎない。つまり、「1mm、1g、1円、1秒」はユーザー目線ではなく、作り手目線のこだわりなのだ。 そういうプロダクトアウト的なスローガンを掲げ、それを現場に叩き込んでいる時点で、ダイハツがユーザーメリットより、企業内の論理を優先する「ヤバい会社」だということが伺えるのだ』、「一般的な軽自動車ユーザーにとって、ダイハツ車は仕事や生活の足であり、大切な人を載せるモビリティに過ぎない。つまり、「1mm、1g、1円、1秒」はユーザー目線ではなく、作り手目線のこだわりなのだ。 そういうプロダクトアウト的なスローガンを掲げ、それを現場に叩き込んでいる時点で、ダイハツがユーザーメリットより、企業内の論理を優先する「ヤバい会社」だということが伺えるのだ」、その通りだ。
・『「世界一」を目標にしていたが… 「高すぎる目標」が日本企業のブラック化につながる そんな「内向きなカルチャー」を象徴することがもうひとつある。ダイハツが掲げる「世界一」というスローガンだ。5つのフィロソフィー(グループ理念)の最後にこうある。 「世界一のスモールカーづくりが私たちの挑戦(チャレンジ)です」 実はこれは不正がまん延する企業によく見られるスローガンだ。 筆者は2017年10月に、『神戸製鋼も…名門企業が起こす不正の元凶は「世界一病」だ』という記事を書いた。その際、神戸製鋼、三菱自動車、東芝など「世界一の技術」をスローガンにしていたものづくり企業で相次いで不正が発覚していく事例を紹介して、原因を次のように分析をさせていただいた。ちょっと長いが、今回のダイハツにも当てはまる本質的な問題なので引用しよう。 ================= 「世界一」とは本来、技術力や生産性を高めていくうちに、他者からの評価という形で得られる「結果」に過ぎない。 しかし、東芝の場合はこのように何十年も「世界一」を追い求めてきたことで、いつのまにやら「世界一」になることが何よりも優先すべき「目的」となってしまった恐れがあるのだ。このように「結果」と「目的」をはきちがえた時、企業は「不正」に走る。 (中略) 鉄鋼、自動車、電機というかつて日本の基幹産業と呼ばれた業種を代表する企業たちが、まるで内部からガラガラと崩壊するように、不正が噴出している。 これには競争力に問題があるとか、生産性が下がったからだとか、いろいろなご意見があるだろうが、筆者はこれまで見てきたように、これらの業界がかつて「世界一」というスローガンを掲げて、それをがむしゃらに追い求めてきたことの「重い後遺症」だと思っている。 =================== 戦前の報道を見てもわかるが、日本人は昔から「日本一」「東洋一」「世界一」がやたらと好きだ。「とにかく夢は大きく、目標は高い方がいい」という思想があるからかもしれないが、そんな日本人の「高すぎる目標」が不正や組織のブラック化のトリガーになっている醜悪な現実がある』、「神戸製鋼、三菱自動車、東芝など「世界一の技術」をスローガンにしていたものづくり企業で相次いで不正が発覚していく事例を紹介して、原因を次のように分析」、「「世界一」とは本来、技術力や生産性を高めていくうちに、他者からの評価という形で得られる「結果」に過ぎない。 しかし、東芝の場合はこのように何十年も「世界一」を追い求めてきたことで、いつのまにやら「世界一」になることが何よりも優先すべき「目的」となってしまった恐れがあるのだ。このように「結果」と「目的」をはきちがえた時、企業は「不正」に走る。 (中略) 鉄鋼、自動車、電機というかつて日本の基幹産業と呼ばれた業種を代表する企業たちが、まるで内部からガラガラと崩壊するように、不正が噴出している。 これには競争力に問題があるとか、生産性が下がったからだとか、いろいろなご意見があるだろうが、筆者はこれまで見てきたように、これらの業界がかつて「世界一」というスローガンを掲げて、それをがむしゃらに追い求めてきたことの「重い後遺症」だと思っている」、なるほど。
・『現場に追い討ちをかける「高すぎる目標」 人口減少時代は「無理ゲー」 人口が右肩上がりで増えて、市場も拡大していく時は「高すぎる目標」はプラスに働く。消費者も労働者もたくさんいるので、高めの目標を見上げながら技術や品質を極めることができた。巨大な国内市場でテストマーケティングして、海外市場で戦うことも可能だ。だから、人口増時代のメイド・イン・ジャパンの日本車、白物家電、半導体が世界を席巻したのだ。 しかし、人口減少して労働者も消費者も減るとこの好循環がすべて「逆回転」していく。 まず、市場がシュリンクしていくので、人口増時代の売上規模がキープできない。そこでどうにか「数」で勝負をしようと、薄利多売に傾倒して、ものづくり企業は「安くて高品質」のプレッシャーが強くなる。高度経済成長期の日本でそれができたのは賃金が低いからだが、そういう現実から目を背けてどうにか技術力とコストカットで「安くて高品質」を実現しようとするので、当然、現場は疲弊していく。 そんなボロボロの現場に追い討ちをかけるのが、「高すぎる目標」だ。人口増時代は頑張れば達成できるかもと希望が持てたが、人口減少時代は「無理ゲー」を強いて、メンタルを破壊することにしかならない。しかし、管理職は自分が若い時の成功体験があるので、現場から「こんなスケジュールではできません」「もうコストカットは限界です」と泣きつかれても、「で?」「それを可能性にするためには何をすればいいのか考えるのがお前の仕事だ」など突き放す。 そうなると、追いつめられた現場はどうするか。「やってられない」と辞表を出すか、開き直って左遷・更迭されるか、あるいはインチキをするか、だ。 これがこの30年間ほど「世界一」を掲げてきたものづくり企業の現場でパワハラや不正が次々と明らかになっている根本的な原因だ。無茶なスローガンに耐えきれなくなってきた現場が、これまでのインチキを隠し通せなくなってきたのである』、「ボロボロの現場に追い討ちをかけるのが、「高すぎる目標」だ。人口増時代は頑張れば達成できるかもと希望が持てたが、人口減少時代は「無理ゲー」を強いて、メンタルを破壊することにしかならない。しかし、管理職は自分が若い時の成功体験があるので、現場から「こんなスケジュールではできません」「もうコストカットは限界です」と泣きつかれても、「で?」「それを可能性にするためには何をすればいいのか考えるのがお前の仕事だ」など突き放す。 そうなると、追いつめられた現場はどうするか。「やってられない」と辞表を出すか、開き直って左遷・更迭されるか、あるいはインチキをするか、だ。 これがこの30年間ほど「世界一」を掲げてきたものづくり企業の現場でパワハラや不正が次々と明らかになっている根本的な原因だ。無茶なスローガンに耐えきれなくなってきた現場が、これまでのインチキを隠し通せなくなってきたのである」、なるほど。
・『日本の悲しい過去も… ヤバい会社にはヤバいスローガンがある こんな話をすると決まって「こじつけだ!企業の不正はそれぞれが企業の経営者が悪いのであって、スローガンごときで人間は影響を受けない」という反論があるが、実は我々は「スローガン」というものの恐ろしさを身をもって体験した民族だ。 わかりやすいのが、旧日本軍の「戦陣訓」だ。これは1941年(昭和16年)に、陸軍大臣・東條英機が全陸軍に発した戦場での心得のようなものだ。その中でも有名なのが以下のスローガンである。 ============ 恥を知る者は強し。常に郷党(きょうとう)家門の面目を思ひ、愈々(いよいよ)奮励(ふんれい)してその期待に答ふべし、生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず、死して罪過の汚名を残すこと勿(なか)れ — 『戦陣訓』「本訓 其の二」、「第八 名を惜しむ」 ============ 読んでわかるように、「一族の恥にならないように勇ましく戦いなさいよ」くらいの意味だ。現場ではこれを復唱させて、兵士たちの闘争心を高めるという好循環ができた。 しかし、戦局が悪化して敗退に次ぐ敗退となっていくと、「逆回転」していった。圧倒的な戦力差と物資不足で不利になっていくと、「生きて虜囚の辱を受けず」だけが切り取られ、自軍の情報が敵に漏れないよう「投降禁止」のスローガンになった。当時、世界の戦争では「勝ち目がなくなったら白旗をあげて投降、捕虜は人道的に扱わなくてはならぬ」という国際ルールがあったが、日本軍はそれをガン無視するだけではなく、投降してきた米英の捕虜も殺害するという「不正」に走っていく。 それだけではない。敗戦のプレッシャーが強まれば強まるほど、このスローガンは日本全体を「ブラック企業」のようにしてしまう。 《戦陣訓の中の「生きて虜囚(りょしゅう)の辱め(はずかしめ)を受けず」の一節は、将兵に対し捕虜になることを固く戒めたもので、太平洋戦争で戦いが絶望的な状況になっても将兵が投降せずに玉砕や自決する事態が頻発、動けなくなった傷病兵の殺害などが起こることにもつながったと言われる。また、サイパンや沖縄戦で、住民の集団自決がおこったのもこの戦陣訓が背景になったと言われている》(NHK アーカイブズ) たかがスローガンと笑うなかれ、我々はそのスローガンによって、自分自身の首を絞めて、最終的には自らの命を放りだすまで追いつめられてしまった、という悲しい過去があるのだ。 だからこそ、組織人は自分が属する組織の「スローガン」に敏感になるべきだ。「世界一のホニャララ」とか、ひとりよがり的なことが唱えられていないか。現実とかけ離れた精神主義や、過度な組織への忠誠や滅私奉公を求めていないか。 「うちの会社ってもしかしてブラック企業?」と悩むそこのあなた、経営理念やフィロソフィーを確認してみてはどうだろう。 ヤバい会社にはヤバいスローガンがある。不正をやらされたり、「殺されたり」する前に、一刻も早く逃げていただきたい』、「『戦陣訓』「本訓 其の二」は、「現場ではこれを復唱させて、兵士たちの闘争心を高めるという好循環ができた。 しかし、戦局が悪化して敗退に次ぐ敗退となっていくと、「逆回転」していった。圧倒的な戦力差と物資不足で不利になっていくと、「生きて虜囚の辱を受けず」だけが切り取られ、自軍の情報が敵に漏れないよう「投降禁止」のスローガンになった。当時、世界の戦争では「勝ち目がなくなったら白旗をあげて投降、捕虜は人道的に扱わなくてはならぬ」という国際ルールがあったが、日本軍はそれをガン無視するだけではなく、投降してきた米英の捕虜も殺害するという「不正」に走っていく。 それだけではない。敗戦のプレッシャーが強まれば強まるほど、このスローガンは日本全体を「ブラック企業」のようにしてしまう。 《戦陣訓の中の「生きて虜囚(りょしゅう)の辱め(はずかしめ)を受けず」の一節は、将兵に対し捕虜になることを固く戒めたもので、太平洋戦争で戦いが絶望的な状況になっても将兵が投降せずに玉砕や自決する事態が頻発、動けなくなった傷病兵の殺害などが起こることにもつながったと言われる。また、サイパンや沖縄戦で、住民の集団自決がおこったのもこの戦陣訓が背景になったと言われている・・・「うちの会社ってもしかしてブラック企業?」と悩むそこのあなた、経営理念やフィロソフィーを確認してみてはどうだろう。 ヤバい会社にはヤバいスローガンがある。不正をやらされたり、「殺されたり」する前に、一刻も早く逃げていただきたい」、同感である。
次に、本年2月5日付けダイヤモンド・オンライン「従業員の不満投稿が多い“ブラック”企業ランキング2023【トップ30】6位ヨドバシカメラ、3位イオンリテール、ビッグモーターも上位!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338136
・『インターネット上には勤務先の給料や待遇などの不満があふれている。そこでダイヤモンド編集部は、企業の与信管理を支援するベンチャーが集めた大量の口コミデータなどを基に、働き方に関する従業員の不満が多い“ブラック”企業ランキングを作成した。対象期間は2023年1月から12月までの1年間。上位には金融、不動産、自動車、小売り、鉄道などの大手企業が名を連ねた』、興味深そうだ。
・『ネガティブ投稿を収集しランキングを作成 ダイヤモンド編集部は、企業向けに与信管理サービスを提供するベンチャー企業、アラームボックス(東京・新宿区)のデータを基に、ネガティブな口コミを多く集めた企業のランキングを作成した。 期間は2023年1月から12月までの1年間。同期間中に勤務関連の口コミ投稿があったのは、調査対象企業1万6633社のうち3009社だった。今回取り上げる働き方に関するネガティブ情報は9230件で、1社当たりの平均は約3件だったが、ランキング上位に名を連ねた企業は平均をはるかに上回るネガティブ投稿を集めた。 上位には金融、不動産、自動車、小売り、鉄道などの大手企業が名を連ねた。 次ページからは、ランキング上位の具体的な社名と投稿数とともに、具体的な投稿内容も明らかにする。 さっそくランキングを見てみよう。) (働き方”ブラック企業”トップ5 はリンク先参照)』、「ネガティブな口コミを多く集めた企業のランキングを作成・・・期間は2023年1月から12月までの1年間。同期間中に勤務関連の口コミ投稿があったのは、調査対象企業1万6633社のうち3009社だった。今回取り上げる働き方に関するネガティブ情報は9230件で、1社当たりの平均は約3件だったが、ランキング上位に名を連ねた企業は平均をはるかに上回るネガティブ投稿を集めた。 上位には金融、不動産、自動車、小売り、鉄道などの大手企業が名を連ねた」、なるほど。
・『1位はJR東日本 目立つ働き方への不満 23年1~12月に投稿数が最も多かったのはJR東日本で、84件に達した。 投稿で目立つのは働き方に関する不満だ。人手不足による残業の多さや、心身への負担の大きさを指摘する投稿などが目立った。投稿内容は下記の通りだ。 「人出不足なのに、人を減らしているため、現場が回っていない」 「どこも人手が足りなくて休日出勤が常態化している。年間で20日以上休みが減った職場もある」 「人が常に足りないため、休日出勤を月に2~3日やっている人もおり、自転車操業」 「人員が減少し、以前より少ない人数で仕事しなければならず、体力的にも精神的にも限界」 「育児介護制度があっても使えないことが多い。育児や介護について周囲の理解が得られず、定時に帰れない」 また、待遇面では、コロナ禍での賞与の減少に関する不満が目立った。 「基本給が低く、賞与が高く、設定されている。コロナ禍で賞与が減り、年収減となった」 「基本給が安く抑えられていて、ボーナスでとんとんになる。しかしコロナ禍でボーナスがカットされて厳しくなっている」 「マルチタスクを任せられるようになったが、逆に手当が減り、年収が下がった」 さらに、硬直的な組織への不満も多かった。 「現場に挑戦する志を持っている社員はほとんどいない。新しいことをやろうとしても上から抑えられる。年功序列の会社なので風通しも良くない」 「リスクの種類に関わらず、徹底的に回避する傾向があるため、新規事業や構造改革のアイデアを持っていても、それを実現するビジョンが見えない」 「社員の評価は飲み会の参加などでの上司からのお気に入り度合いで決まる。会社の考えが昭和でとまっている」 企業の将来の不安の声も少なくない。 「鉄道だけの収益ではやっていけなくなっているのが現状で、他の事業などで収入を出そうとしているが、施策を見る限りでは不安しかない」』、「1位はJR東日本 目立つ働き方への不満・・・「現場に挑戦する志を持っている社員はほとんどいない。新しいことをやろうとしても上から抑えられる。年功序列の会社なので風通しも良くない」 「リスクの種類に関わらず、徹底的に回避する傾向があるため、新規事業や構造改革のアイデアを持っていても、それを実現するビジョンが見えない」、なるほど。
・『2位は日本生命 営業方法に多くの不満 2位は日本生命保険で、投稿件数は79件。特に保険契約のノルマや営業方法に関する不満の投稿が目立つ。 「締め日前にノルマを達成していないと、強く詰められる」 「最低限の営業ノルマがあり、それができないと容赦なくクビになるため、安定した働き方ではない」 「昔ながらの体育会系の営業方法で、身体を壊す人が散見された」 残業に関する不満や指摘も多かった。 「残業や休日出勤が当たり前で、プライベートの時間の確保ができない」 「残業時間が多すぎ、一人当たりに対する仕事量が半端ない。このまま働き続けたら、心身に影響が出る」 「平日は毎日8時出社に20時退勤で、早く帰る雰囲気が全くない」 「古い体質で残業が当たり前」 さらに組織や社風に関する不満も目立った。 「年功序列の縦社会。上司の言うことは基本的に是。出る杭は打たれる文化」 「社内の全てについて昭和で時が止まっている。改善や変革を謳ってはいるものの、古き良き時代の記憶、過去の栄光にとらわれ、全く変わる気はない」 「新人を入れろと言う割に、今いる社員を大事にしないので、どんどん社員が辞め、お客さんの不信感を増長させている」 「今時ファックスを普通に使用し、会議も紙でやっている。時代と逆行している事が多々ある」』、「2位は日本生命 営業方法に多くの不満」、なるほど。
・『3位はイオンリテール 4位はアウトソーシングテクノロジー 3位はイオンリテールで、投稿件数は54件。 イオンリテールでは労働時間や給与に関する不満が目立った。 「特に食品部門はほぼ強制的にサービス残業をさせられ、心身を壊す人が後を絶たない」 「残業時間削減を謳い、年々締め付けが厳しくなっているが、結局はサービス残業になり、無給で働かされている」 「老朽化した設備など、職場環境は非常に悪い上、無駄で非効率な確認作業に忙殺されサービス残業が発生している」 また、風通しの悪さを指摘する投稿もあった。 「近年トップダウン傾向が強まり、組織の風通しはものすごく悪い」 「特に上の役職の人ほどパワハラ気質な人が多く、人を大事にできない会社」 「上下関係が厳しく、間違ったことでも勤務年数が長い方には逆らえない風習がある」 4位は技術者派遣や開発請負などを行うアウトソーシングテクノロジーで、投稿件数は41件。アウトソーシングテクノロジーについては、派遣先に関する不満投稿が目立った。 「自分の希望はほとんど通らず、スキルが身につかないような仕事内容もあり、とても時間の無駄」 「ITの案件を紹介してくれるということで入社したが、実際に紹介されるのは工場ばかり」 「派遣先の身勝手な理由により、短期間で契約終了となることもある」 給与面での不満も少なくなかった。 「給与水準が低い。営業成績に対するインセンティブもなく、昇給もあまり望めない」 「年収が低く、ボーナスもほぼ出ず、スズメの涙程度」 「派遣業なので徹底的に低賃金で社員を使い潰そうとしてくる」』、「3位はイオンリテール 4位はアウトソーシングテクノロジー」、「イオン」では、「老朽化した設備など、職場環境は非常に悪い上、無駄で非効率な確認作業に忙殺されサービス残業が発生している」 また、風通しの悪さを指摘する投稿もあった。 「近年トップダウン傾向が強まり、組織の風通しはものすごく悪い」 「特に上の役職の人ほどパワハラ気質な人が多く、人を大事にできない会社」、「アウトソーシングテクノロジー」では、「ITの案件を紹介してくれるということで入社したが、実際に紹介されるのは工場ばかり」 「派遣先の身勝手な理由により、短期間で契約終了となることもある」、いずれも深刻な問題を抱えているようだ。
・『5位はトランスコスモス 給与面での不満が多数 5位はコールセンターなどを手掛けるトランスコスモスで、投稿件数は40件だった。 目立ったのは給与面での不満だ。 「給料が低すぎる。昇格しても昇給額が信じられないほど低い」 「優秀な人材が、給料やマネジメント層の対応に不満を抱え、続々と抜けている。まずは給料を見直すべき」 「昇給はほとんどない。いまのご時世、5~10円の振り幅なんて聞いたことがない」 「大学生のアルバイトの時給よりも低い時給で働いている」 そのほか、「上場企業とは思えないほど、コンプライアンス意識が低く驚いた」「残業することが当たり前のような雰囲気」「有給を取る時に理由を求められるため、気軽に取れない」などの投稿もあった。 トップ5に続く企業は以下となる。) (働きか”ブラック”企業6~9位 はリンク先参照)』、「トランスコスモス」では、給与などを別にすれば、「上場企業とは思えないほど、コンプライアンス意識が低く驚いた」「残業することが当たり前のような雰囲気」、などが気になるところだ。
・『ヨドバシカメラの投稿数が昨年下期に急増 6位はヨドバシカメラで、投稿件数は39件。23年1~6月の投稿件数は8件だったが、7~12月は31件と急増した。 目立ったのは残業に関する不満だ。 「残業はマックスまでさせられることが多いため、予定が全く立てられない」 「一日の労働時間が12~13時間と非常に長いため、休日があっても疲れを取るだけで終わる。ワークバランスが全くない」 「サービス残業が多すぎてプライベートはほぼない」 「残業が多く、体力的にきつい。実際体調やメンタルを崩して、休職する人や退職していく人は少なくない」 「残業ありきの人員配置。定時に上がると店が回らなくなる」 「人手が足りておらず、忙しすぎて人が辞めてく」 また、組織や社風に関する不満も少なくない。 「基本トップダウン。下からの意見を吸い上げる気はない。非上場のため、それを直す気もない」 「経営トップや店長の言うことが絶対なので、それが現場にとって合わないこと、非効率なことでもやらなきゃいけない」 「管理職の言い方がキツかったりするので人が結構辞める。昭和のやり方が残ってる」 セクハラ・パワハラ関連の投稿もあった。 「ウォーターサーバーなど『利益が出るもの』に対してノルマを課すことが多く、これが達成できないと、パワハラ一歩手前の叱責を受ける」 「客からのセクハラ等は日常茶飯事」』、「ヨドバシカメラ」では、「「経営トップや店長の言うことが絶対なので、それが現場にとって合わないこと、非効率なことでもやらなきゃいけない」 「管理職の言い方がキツかったりするので人が結構辞める。昭和のやり方が残ってる」 セクハラ・パワハラ関連の投稿もあった」、など深刻な問題を抱えているようだ。
・『三菱電機とJR西日本が7位で投稿件数は33件 7位は三菱電機とJR西日本で、投稿件数は33件。 三菱電機で目立った投稿は残業に関するものと社風に関するものだ。 残業関連は下記などの投稿があった。 「ほとんどの部署で残業が非常に多く、休日出勤もごく普通。心を病む人が多く、新卒も半年たてば目の輝きを失う」 「育休明けの時短勤務を申請している人に仕事を振りまくり、残業させている。最悪だと思う」 「殺人的な長時間残業」 「ワークライフバランスは最悪」 また、社風に関しては下記の投稿などがあった。 「新しいことを始めるための障壁が多いため、時代の変化に対応できていない」 「社内政治が大事な側面もある。旧態依然の会社」 「意思決定が遅く、過去のしがらみが大変強力。非常に保守的で、新しいことへのチャレンジに対してかなりの抵抗を受ける事がある」 「かなり陰湿な体質で、下手な事すると必ず悪口を言われる。出る杭は打たれる」 「入社後、強烈な縦割り文化に驚いた」 さらに役員への不満も多かった。 「役員クラスがひどい。仕事ができるかどうか以前に、自分たちの決断について説明できないレベル」 「問題が発覚した時の対応がその場しのぎ。マネジメント層が根本的な対応をせず、現場に丸投げ」 「マネジメント層のビジョンが不透明、舵取りや判断の遅さに不信感が大きい」 一方、JR西日本で最も目立った投稿は給与に関するものだ。 「基本給が低いので、ボーナスが戻らないと金銭的にしんどい」 「コロナ禍により賞与が大幅カットされた」 「年収に占めるボーナスの割合が高く、コロナ禍で年収が50万円以上減った」 「基本給が安く、ボーナスで補っているため、ここ数年、ボーナスカットで社員はやる気を失っている」 「重労働なのに低月給。お客様の安全を守る人の給料ではない」 働き方への不満投稿は下記などがあった。 「緊急の事故・障害対応などで勤務時間が不規則になりやすく、土日や深夜の呼び出しもままある」 「仕事量が多く超過勤務が多い。休日の呼び出しも多く、さらに休日に組合活動に出ることもありストレスがたまる」 また、パワハラを指摘する投稿もあった。 「一部でパワハラが横行し、精神的に追い込まれ休業を余儀なくされた人は珍しくない」 「昭和体育会系の考え方が根強く残っており、若い人が負担を強いられる。パワハラは当たり前」』、「三菱電機」では「「役員クラスがひどい。仕事ができるかどうか以前に、自分たちの決断について説明できないレベル」 「問題が発覚した時の対応がその場しのぎ。マネジメント層が根本的な対応をせず、現場に丸投げ」 「マネジメント層のビジョンが不透明、舵取りや判断の遅さに不信感が大きい」」、「JR西日本」では「「一部でパワハラが横行し、精神的に追い込まれ休業を余儀なくされた人は珍しくない」 「昭和体育会系の考え方が根強く残っており、若い人が負担を強いられる。パワハラは当たり前」」、などは問題が大きい。
・『日産自動車・みずほ銀行・JR九州が9位で投稿件数は31件 9位は日産自動車、みずほ銀行、JR九州で、投稿件数は31件。 日産自動車では経営への不満や将来への不安などを指摘する投稿が少なからずあった。 「毎月上級管理職が退職している。このような状況は異常ではないか」 「戦術と戦略の区別がついている人が上層部に1人もいない」 「新規事業への活気が感じられない。恐らく衰退し続けると思う」 また、会社の風通しの悪さや組織の硬直さに関する投稿もあった。 「数年に一度会社を揺るがす大きな危機に見舞われ、その時だけは多少団結するが、危機が去ると途端に足を引っ張り合い責任を押し付け合う文化」 「仕事は雑に丸投げされ、結果のみ吸い上げられる。真面目に対応すればするほどに奴隷化させられ、精神をすり減らして脱落していく」 「くだらない根回しが横行して本質的な仕事ができない」 「従業員を大事にしない風土。部長のパワハラで社員数人がメンタル疾患で休職した」 人手不足や業務負担の大きさへの不満もあった。 「設計の部署は人権がほぼない。金曜日夜に会議があり22時に議事録を送る。持ち帰り残業もよくある」 「調整業務が多い。マイクロマネジメントしてくるチームリーダーやパワハラ的な言動をする同僚が周りにいる」 「忙しい時期は頭がおかしくなるぐらい仕事が降ってくるが、それが当たり前と思っている社員が多く、残業時間は月70時間以上ある」 みずほ銀行は23年1~6月の投稿件数は22件だったが、7~12月は9件と減少している。 残業の多さや人手不足への不満が目立つ。 「本部の部署によっては終電まで仕事をするのが当たり前、もしくは、仕事が終わるまで残らざるを得ないケースが多い」 「本部の私の部署では8時40分始業、22時退行が常態化」 「無駄な事務により残業が多い。近年は退職者も多く、慢性的に人が足りていない」 「平日も朝まで飲み会、土日はゴルフや資格試験の勉強で、プライベートはなきに等しい」 「営業職は休日出社する場合もあるので、プライベートはあまりないと思った方がいい」 人材流出に関する懸念や不満も少なくない。 「従業員の士気が低い。優秀な人は若手・中堅を中心に会社を去っている」 「金融業の会社としての将来性は微妙。退職者が後をたたない。若手の退職が増えている」 「行員のモチベーションの低下が著しい。社外向けのブランディングを気にする前に、まずは社内のカルチャーをどうにかしないと、優秀な若手は流出し続ける」 旧態依然の社風への不満もあった。 「とにかく意思決定が遅い。決裁者への説明までに踏むべきプロセスが多すぎる」 「経営のやり方が明らかに間違っている。定性評価をはき違えて、上の好き勝手で評価がきまる」 「年功序列による評価体制を見直すべく取り組んでいるが、超が付くほどの保守的な企業風土ゆえ大きな変化は望めない」 「古い企業文化と無能力なおじさんたちが残っている会社。やる気のある人、できる人はどんどん抜けていく」 一方、JR九州は23年1~6月の投稿件数は9件だったが、7~12月は22件と増加した。 JR東日本、JR西日本と同様、JR九州でも目立ったのが給与に関する不満だ。 「コロナ禍で年収が下がり、業務量と責任に見合った収入が得られていない」 「コロナ禍以降ボーナスをカットされ、給料は減っているのに1人あたりの業務は増えている」 「安い給料と多くない休暇、増加するご意見対応などで現場の社員は疲弊している」 「過度に設備を廃止したり、人件費を削ったりして、利用客にも従業員にも悪い影響が出まくっている」 また、働き方への不満投稿も多い。 「深刻な人材流出により現場は疲弊している。特に現業部門は、休日出勤をしないと回らず、ワークライフバランスなど無いに等しい」 「本社勤務では長時間残業に苦しむ社員も多く、労使協定に抵触しないために闇残業を行う姿も見受けられる」 「休みの日や夜中にも呼び出しがあり、災害時には職場で寝泊まりする必要がある。 一歩間違えば大事故につながる作業でも手当がつかないなど、社員の扱いがひどい」 そのほか、「毎年、お中元とお歳暮のノルマが課せられる」といった投稿もあった。 12位から29位までの19社の中には、数々の不祥事が明らかになった中古車販売大手のビッグモーターのほか、ソフトバンク、三井住友海上、大和ハウスなど、大手企業が多数ランクインしている。次ページからのランキングをぜひチェックしてみてほしい。) (働き方”ブラック”企業12~20位 はリンク先参照)) (働き方”ブラック”企業24~29位 はリンク先参照)』、「日産自動車」では「「毎月上級管理職が退職している。このような状況は異常ではないか」 「戦術と戦略の区別がついている人が上層部に1人もいない」 「新規事業への活気が感じられない。恐らく衰退し続けると思う」 また、会社の風通しの悪さや組織の硬直さに関する投稿もあった」、「みずほ銀行」では「「本部の部署によっては終電まで仕事をするのが当たり前、もしくは、仕事が終わるまで残らざるを得ないケースが多い」 「本部の私の部署では8時40分始業、22時退行が常態化」 「無駄な事務により残業が多い。近年は退職者も多く、慢性的に人が足りていない」」、「JR九州」では「「深刻な人材流出により現場は疲弊している。特に現業部門は、休日出勤をしないと回らず、ワークライフバランスなど無いに等しい」 「本社勤務では長時間残業に苦しむ社員も多く、労使協定に抵触しないために闇残業を行う姿も見受けられる」」、など不満も強いようだ。
先ずは、昨年12月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「ダイハツ、お前もか…闇落ちするブラック企業には「ヤバいスローガン」がある」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/336571
・『「員数主義」に走っていたとしてもなぜこれほどダイハツは「堕ちた」のか 不正問題で揺れるダイハツが、「ブラック企業」だと叩かれている。 12月20日に第三者委員会の調査報告書で指摘された社風が、「そりゃ、不正がまん延するよ」「昔、在籍していたブラック企業がまさにこんな感じだった」などと、世間をドン引きさせているのだ。 まず報告書によれば、ダイハツは「極度のプレッシャーに晒されて追い込まれた現場の担当者に問題の解決が委ねられた現場任せの状況になっていた」という。ぶっちゃけ、こういう「現場に丸投げ」はサラリーマンならば一度や二度は経験する「あるある」だが、ダイハツがすさまじいのはここからだ。 現場が「これこれこういう問題でできません」と管理職にSOSを出しても、「『で?』と言われるだけで相談する意味がなく、問題点を報告しても『なんでそんな失敗したの』『どうするんだ』『間に合うのか』と詰問するだけで、親身になって建設的な意見を出してくれるわけではない」(調査報告書より)というのだ。 要するに、「どんな手を使っても結果を出すのがお前の仕事だろ」と言わんばかりに、ノルマと責任をすべて「下」に押し付ける、という威圧的マネジメントがまかり通っていた。「下」は、生きるためにやむなく不正行為に走ったというワケだ。 ちなみに、これは筆者が本連載の中で、日本企業の「不正カルチャー」の原因だと繰り返し指摘してきた「員数主義」の典型的なケースだ。「員数」とは旧日本軍内で使われてた装備品や物資の数を示す言葉だ。 軍隊内ではこの「員数」と帳簿上の数が合わないのは「あり得ない」ので、ダイハツのように「で?」「なんで数が合わないの」「どうするんだ」と詰問された。そこで、とにかく員数を合わせるため、他部隊から装備品を盗んだりする不正行為がまん延、現場レベルでは黙認されていたというのだ。 そんな旧日本軍の「数の帳尻を合わせるためならば多少のインチキには目をつぶる」という「員数主義」が戦後、従軍経験者や軍需工場での勤務経験者を介して、日本の民間企業にも引き継がれて、現在に至るというのが筆者の考えだ。詳しくは、《ビッグモーター前社長の他人事発言が、東京裁判「元陸軍大将の釈明」と重なる理由》をお読みいただきたい。 ただ、仮にダイハツが員数主義にむしばまれていたとしても、ここまで「ベタベタのブラック企業」になってしまったことは説明できない。日本最古の自動車メーカーであり、軽自動車国内新車販売台数17年連続トップの名門がなぜこんな「闇堕ち」してしまったのか』、「これは筆者が本連載の中で、日本企業の「不正カルチャー」の原因だと繰り返し指摘してきた「員数主義」の典型的なケースだ。「員数」とは旧日本軍内で使われてた装備品や物資の数を示す言葉だ。 軍隊内ではこの「員数」と帳簿上の数が合わないのは「あり得ない」ので、ダイハツのように「で?」「なんで数が合わないの」「どうするんだ」と詰問された。そこで、とにかく員数を合わせるため、他部隊から装備品を盗んだりする不正行為がまん延、現場レベルでは黙認されていたというのだ。 そんな旧日本軍の「数の帳尻を合わせるためならば多少のインチキには目をつぶる」という「員数主義」が戦後、従軍経験者や軍需工場での勤務経験者を介して、日本の民間企業にも引き継がれて、現在に至るというのが筆者の考えだ・・・ただ、仮にダイハツが員数主義にむしばまれていたとしても、ここまで「ベタベタのブラック企業」になってしまったことは説明できない。日本最古の自動車メーカーであり、軽自動車国内新車販売台数17年連続トップの名門がなぜこんな「闇堕ち」してしまったのか」、その通りで、興味深そうだ。
・『「ヤバいスローガン」による弊害? 実はビッグモーターも… いろいろなご意見があるだろうが、報道対策アドバイザーとして、世間的に「ブラック企業」のそしりを受けた会社の危機管理も手伝った経験から言わせていただくと、「ヤバいスローガン」の弊害もあると思っている。 社訓、社是、ミッション、パーパスなど呼び方はさまざまだが、企業というのは自分たちの会社が目指すべきこと、社員が心がけることをスローガンとして掲げて、研修や教育で現場に叩き込んでいく。例えば、トヨタの場合、創業以来受け継がれてきた「豊田綱領」がこれにあたる。他にも、トヨタウェイだミッションだと色んな言葉が掲げられているが、「豊田綱領の精神」が最上位にあるという。 「たかがスローガンが企業カルチャーに影響なんてしねーよ。オレなんか自社のスローガンが何かなんてまったく知らないし」と嘲笑する人も多いだろう。しかし、我々はつい最近も「ヤバいスローガン」が「ヤバい会社」を生み出したことを目の当たりにしている。 勘のいい方はお分かりだろう、ビッグモーターだ。 ビッグモーターもダイハツ同様に不正発覚後、ブラック企業ぶりが叩かれた。ノルマ達成できないとLINEグループ内や会議でボロカスに人格否定されて降格や左遷。目標未達だと罰金を自腹で払わされるなどの社風が次々と明らかになっていく中で、注目されたのは、「ヤバい経営計画者」だ ビッグモーターの整備工場前では毎朝、従業員が一堂に会して、創業者である兼重宏行氏のかなりクセのある経営思想が反映された「経営計画書」を読み上げていた。 例えば、「会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある」社員について、「今、すぐ辞めてください」とピシャリ。さらには「店長には営業マンの生殺与奪権を与える」などの内容も唱えられていた。 これらのスローガンを毎日叩き込まれた社員が「上の命令にはガタガタ言わずに黙って従う」としつけられることは言うまでもない。つまり、上から課せられたノルマが達成できない場合も、「できません」など言うことはあり得ないということだ。となると、残る道はインチキしかない。 この「ヤバいスローガン」はダイハツにも当てはまる』、「我々はつい最近も「ヤバいスローガン」が「ヤバい会社」を生み出したことを目の当たりにしている。 勘のいい方はお分かりだろう、ビッグモーターだ。 ビッグモーターもダイハツ同様に不正発覚後、ブラック企業ぶりが叩かれた。ノルマ達成できないとLINEグループ内や会議でボロカスに人格否定されて降格や左遷。目標未達だと罰金を自腹で払わされるなどの社風が次々と明らかになっていく中で、注目されたのは、「ヤバい経営計画者」だ ビッグモーターの整備工場前では毎朝、従業員が一堂に会して、創業者である兼重宏行氏のかなりクセのある経営思想が反映された「経営計画書」を読み上げていた。 例えば、「会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある」社員について、「今、すぐ辞めてください」とピシャリ。さらには「店長には営業マンの生殺与奪権を与える」などの内容も唱えられていた。 これらのスローガンを毎日叩き込まれた社員が「上の命令にはガタガタ言わずに黙って従う」としつけられることは言うまでもない。つまり、上から課せられたノルマが達成できない場合も、「できません」など言うことはあり得ないということだ。となると、残る道はインチキしかない。 この「ヤバいスローガン」はダイハツにも当てはまる」、なるほど。
・『「1mm、1g、1円、1秒へのこだわり」にはらむ危ない優先度 報道されているように、ダイハツは「数値目標」に対して非常にシビアだ。スローガンとして「1mm、1g、1円、1秒にこだわってお客様に寄り添ったクルマづくり」を掲げて、現場にも叩き込んでいたという。 ものづくり企業として素晴らしい目標じゃないか、どこが問題なのだ」と首を傾げる方もいるかもしれないが、大いに問題がある。ダイハツが寄り添うという「お客様」からすれば、車は「安心安全」がまず何よりも重要で、次に「コスパ」だ。とにかく1円でも安いことが重要で、そのためには多少の危険はガマンする、なんてユーザーは珍しい。 つまり、「1mm、1g、1円、1秒へのこわだり」なんて、ダイハツ側が思っているほど、ユーザーはありがたがっていないのだ。 もちろん、自動車評論家やら自動車を趣味としている人は「コスパ」や「走り」からダイハツ車を選んでいるのだろうから、「1mm、1g、1円、1秒へのこわだり」は重要だ。しかし、一般的な軽自動車ユーザーにとって、ダイハツ車は仕事や生活の足であり、大切な人を載せるモビリティに過ぎない。つまり、「1mm、1g、1円、1秒」はユーザー目線ではなく、作り手目線のこだわりなのだ。 そういうプロダクトアウト的なスローガンを掲げ、それを現場に叩き込んでいる時点で、ダイハツがユーザーメリットより、企業内の論理を優先する「ヤバい会社」だということが伺えるのだ』、「一般的な軽自動車ユーザーにとって、ダイハツ車は仕事や生活の足であり、大切な人を載せるモビリティに過ぎない。つまり、「1mm、1g、1円、1秒」はユーザー目線ではなく、作り手目線のこだわりなのだ。 そういうプロダクトアウト的なスローガンを掲げ、それを現場に叩き込んでいる時点で、ダイハツがユーザーメリットより、企業内の論理を優先する「ヤバい会社」だということが伺えるのだ」、その通りだ。
・『「世界一」を目標にしていたが… 「高すぎる目標」が日本企業のブラック化につながる そんな「内向きなカルチャー」を象徴することがもうひとつある。ダイハツが掲げる「世界一」というスローガンだ。5つのフィロソフィー(グループ理念)の最後にこうある。 「世界一のスモールカーづくりが私たちの挑戦(チャレンジ)です」 実はこれは不正がまん延する企業によく見られるスローガンだ。 筆者は2017年10月に、『神戸製鋼も…名門企業が起こす不正の元凶は「世界一病」だ』という記事を書いた。その際、神戸製鋼、三菱自動車、東芝など「世界一の技術」をスローガンにしていたものづくり企業で相次いで不正が発覚していく事例を紹介して、原因を次のように分析をさせていただいた。ちょっと長いが、今回のダイハツにも当てはまる本質的な問題なので引用しよう。 ================= 「世界一」とは本来、技術力や生産性を高めていくうちに、他者からの評価という形で得られる「結果」に過ぎない。 しかし、東芝の場合はこのように何十年も「世界一」を追い求めてきたことで、いつのまにやら「世界一」になることが何よりも優先すべき「目的」となってしまった恐れがあるのだ。このように「結果」と「目的」をはきちがえた時、企業は「不正」に走る。 (中略) 鉄鋼、自動車、電機というかつて日本の基幹産業と呼ばれた業種を代表する企業たちが、まるで内部からガラガラと崩壊するように、不正が噴出している。 これには競争力に問題があるとか、生産性が下がったからだとか、いろいろなご意見があるだろうが、筆者はこれまで見てきたように、これらの業界がかつて「世界一」というスローガンを掲げて、それをがむしゃらに追い求めてきたことの「重い後遺症」だと思っている。 =================== 戦前の報道を見てもわかるが、日本人は昔から「日本一」「東洋一」「世界一」がやたらと好きだ。「とにかく夢は大きく、目標は高い方がいい」という思想があるからかもしれないが、そんな日本人の「高すぎる目標」が不正や組織のブラック化のトリガーになっている醜悪な現実がある』、「神戸製鋼、三菱自動車、東芝など「世界一の技術」をスローガンにしていたものづくり企業で相次いで不正が発覚していく事例を紹介して、原因を次のように分析」、「「世界一」とは本来、技術力や生産性を高めていくうちに、他者からの評価という形で得られる「結果」に過ぎない。 しかし、東芝の場合はこのように何十年も「世界一」を追い求めてきたことで、いつのまにやら「世界一」になることが何よりも優先すべき「目的」となってしまった恐れがあるのだ。このように「結果」と「目的」をはきちがえた時、企業は「不正」に走る。 (中略) 鉄鋼、自動車、電機というかつて日本の基幹産業と呼ばれた業種を代表する企業たちが、まるで内部からガラガラと崩壊するように、不正が噴出している。 これには競争力に問題があるとか、生産性が下がったからだとか、いろいろなご意見があるだろうが、筆者はこれまで見てきたように、これらの業界がかつて「世界一」というスローガンを掲げて、それをがむしゃらに追い求めてきたことの「重い後遺症」だと思っている」、なるほど。
・『現場に追い討ちをかける「高すぎる目標」 人口減少時代は「無理ゲー」 人口が右肩上がりで増えて、市場も拡大していく時は「高すぎる目標」はプラスに働く。消費者も労働者もたくさんいるので、高めの目標を見上げながら技術や品質を極めることができた。巨大な国内市場でテストマーケティングして、海外市場で戦うことも可能だ。だから、人口増時代のメイド・イン・ジャパンの日本車、白物家電、半導体が世界を席巻したのだ。 しかし、人口減少して労働者も消費者も減るとこの好循環がすべて「逆回転」していく。 まず、市場がシュリンクしていくので、人口増時代の売上規模がキープできない。そこでどうにか「数」で勝負をしようと、薄利多売に傾倒して、ものづくり企業は「安くて高品質」のプレッシャーが強くなる。高度経済成長期の日本でそれができたのは賃金が低いからだが、そういう現実から目を背けてどうにか技術力とコストカットで「安くて高品質」を実現しようとするので、当然、現場は疲弊していく。 そんなボロボロの現場に追い討ちをかけるのが、「高すぎる目標」だ。人口増時代は頑張れば達成できるかもと希望が持てたが、人口減少時代は「無理ゲー」を強いて、メンタルを破壊することにしかならない。しかし、管理職は自分が若い時の成功体験があるので、現場から「こんなスケジュールではできません」「もうコストカットは限界です」と泣きつかれても、「で?」「それを可能性にするためには何をすればいいのか考えるのがお前の仕事だ」など突き放す。 そうなると、追いつめられた現場はどうするか。「やってられない」と辞表を出すか、開き直って左遷・更迭されるか、あるいはインチキをするか、だ。 これがこの30年間ほど「世界一」を掲げてきたものづくり企業の現場でパワハラや不正が次々と明らかになっている根本的な原因だ。無茶なスローガンに耐えきれなくなってきた現場が、これまでのインチキを隠し通せなくなってきたのである』、「ボロボロの現場に追い討ちをかけるのが、「高すぎる目標」だ。人口増時代は頑張れば達成できるかもと希望が持てたが、人口減少時代は「無理ゲー」を強いて、メンタルを破壊することにしかならない。しかし、管理職は自分が若い時の成功体験があるので、現場から「こんなスケジュールではできません」「もうコストカットは限界です」と泣きつかれても、「で?」「それを可能性にするためには何をすればいいのか考えるのがお前の仕事だ」など突き放す。 そうなると、追いつめられた現場はどうするか。「やってられない」と辞表を出すか、開き直って左遷・更迭されるか、あるいはインチキをするか、だ。 これがこの30年間ほど「世界一」を掲げてきたものづくり企業の現場でパワハラや不正が次々と明らかになっている根本的な原因だ。無茶なスローガンに耐えきれなくなってきた現場が、これまでのインチキを隠し通せなくなってきたのである」、なるほど。
・『日本の悲しい過去も… ヤバい会社にはヤバいスローガンがある こんな話をすると決まって「こじつけだ!企業の不正はそれぞれが企業の経営者が悪いのであって、スローガンごときで人間は影響を受けない」という反論があるが、実は我々は「スローガン」というものの恐ろしさを身をもって体験した民族だ。 わかりやすいのが、旧日本軍の「戦陣訓」だ。これは1941年(昭和16年)に、陸軍大臣・東條英機が全陸軍に発した戦場での心得のようなものだ。その中でも有名なのが以下のスローガンである。 ============ 恥を知る者は強し。常に郷党(きょうとう)家門の面目を思ひ、愈々(いよいよ)奮励(ふんれい)してその期待に答ふべし、生きて虜囚(りょしゅう)の辱(はずかしめ)を受けず、死して罪過の汚名を残すこと勿(なか)れ — 『戦陣訓』「本訓 其の二」、「第八 名を惜しむ」 ============ 読んでわかるように、「一族の恥にならないように勇ましく戦いなさいよ」くらいの意味だ。現場ではこれを復唱させて、兵士たちの闘争心を高めるという好循環ができた。 しかし、戦局が悪化して敗退に次ぐ敗退となっていくと、「逆回転」していった。圧倒的な戦力差と物資不足で不利になっていくと、「生きて虜囚の辱を受けず」だけが切り取られ、自軍の情報が敵に漏れないよう「投降禁止」のスローガンになった。当時、世界の戦争では「勝ち目がなくなったら白旗をあげて投降、捕虜は人道的に扱わなくてはならぬ」という国際ルールがあったが、日本軍はそれをガン無視するだけではなく、投降してきた米英の捕虜も殺害するという「不正」に走っていく。 それだけではない。敗戦のプレッシャーが強まれば強まるほど、このスローガンは日本全体を「ブラック企業」のようにしてしまう。 《戦陣訓の中の「生きて虜囚(りょしゅう)の辱め(はずかしめ)を受けず」の一節は、将兵に対し捕虜になることを固く戒めたもので、太平洋戦争で戦いが絶望的な状況になっても将兵が投降せずに玉砕や自決する事態が頻発、動けなくなった傷病兵の殺害などが起こることにもつながったと言われる。また、サイパンや沖縄戦で、住民の集団自決がおこったのもこの戦陣訓が背景になったと言われている》(NHK アーカイブズ) たかがスローガンと笑うなかれ、我々はそのスローガンによって、自分自身の首を絞めて、最終的には自らの命を放りだすまで追いつめられてしまった、という悲しい過去があるのだ。 だからこそ、組織人は自分が属する組織の「スローガン」に敏感になるべきだ。「世界一のホニャララ」とか、ひとりよがり的なことが唱えられていないか。現実とかけ離れた精神主義や、過度な組織への忠誠や滅私奉公を求めていないか。 「うちの会社ってもしかしてブラック企業?」と悩むそこのあなた、経営理念やフィロソフィーを確認してみてはどうだろう。 ヤバい会社にはヤバいスローガンがある。不正をやらされたり、「殺されたり」する前に、一刻も早く逃げていただきたい』、「『戦陣訓』「本訓 其の二」は、「現場ではこれを復唱させて、兵士たちの闘争心を高めるという好循環ができた。 しかし、戦局が悪化して敗退に次ぐ敗退となっていくと、「逆回転」していった。圧倒的な戦力差と物資不足で不利になっていくと、「生きて虜囚の辱を受けず」だけが切り取られ、自軍の情報が敵に漏れないよう「投降禁止」のスローガンになった。当時、世界の戦争では「勝ち目がなくなったら白旗をあげて投降、捕虜は人道的に扱わなくてはならぬ」という国際ルールがあったが、日本軍はそれをガン無視するだけではなく、投降してきた米英の捕虜も殺害するという「不正」に走っていく。 それだけではない。敗戦のプレッシャーが強まれば強まるほど、このスローガンは日本全体を「ブラック企業」のようにしてしまう。 《戦陣訓の中の「生きて虜囚(りょしゅう)の辱め(はずかしめ)を受けず」の一節は、将兵に対し捕虜になることを固く戒めたもので、太平洋戦争で戦いが絶望的な状況になっても将兵が投降せずに玉砕や自決する事態が頻発、動けなくなった傷病兵の殺害などが起こることにもつながったと言われる。また、サイパンや沖縄戦で、住民の集団自決がおこったのもこの戦陣訓が背景になったと言われている・・・「うちの会社ってもしかしてブラック企業?」と悩むそこのあなた、経営理念やフィロソフィーを確認してみてはどうだろう。 ヤバい会社にはヤバいスローガンがある。不正をやらされたり、「殺されたり」する前に、一刻も早く逃げていただきたい」、同感である。
次に、本年2月5日付けダイヤモンド・オンライン「従業員の不満投稿が多い“ブラック”企業ランキング2023【トップ30】6位ヨドバシカメラ、3位イオンリテール、ビッグモーターも上位!」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/338136
・『インターネット上には勤務先の給料や待遇などの不満があふれている。そこでダイヤモンド編集部は、企業の与信管理を支援するベンチャーが集めた大量の口コミデータなどを基に、働き方に関する従業員の不満が多い“ブラック”企業ランキングを作成した。対象期間は2023年1月から12月までの1年間。上位には金融、不動産、自動車、小売り、鉄道などの大手企業が名を連ねた』、興味深そうだ。
・『ネガティブ投稿を収集しランキングを作成 ダイヤモンド編集部は、企業向けに与信管理サービスを提供するベンチャー企業、アラームボックス(東京・新宿区)のデータを基に、ネガティブな口コミを多く集めた企業のランキングを作成した。 期間は2023年1月から12月までの1年間。同期間中に勤務関連の口コミ投稿があったのは、調査対象企業1万6633社のうち3009社だった。今回取り上げる働き方に関するネガティブ情報は9230件で、1社当たりの平均は約3件だったが、ランキング上位に名を連ねた企業は平均をはるかに上回るネガティブ投稿を集めた。 上位には金融、不動産、自動車、小売り、鉄道などの大手企業が名を連ねた。 次ページからは、ランキング上位の具体的な社名と投稿数とともに、具体的な投稿内容も明らかにする。 さっそくランキングを見てみよう。) (働き方”ブラック企業”トップ5 はリンク先参照)』、「ネガティブな口コミを多く集めた企業のランキングを作成・・・期間は2023年1月から12月までの1年間。同期間中に勤務関連の口コミ投稿があったのは、調査対象企業1万6633社のうち3009社だった。今回取り上げる働き方に関するネガティブ情報は9230件で、1社当たりの平均は約3件だったが、ランキング上位に名を連ねた企業は平均をはるかに上回るネガティブ投稿を集めた。 上位には金融、不動産、自動車、小売り、鉄道などの大手企業が名を連ねた」、なるほど。
・『1位はJR東日本 目立つ働き方への不満 23年1~12月に投稿数が最も多かったのはJR東日本で、84件に達した。 投稿で目立つのは働き方に関する不満だ。人手不足による残業の多さや、心身への負担の大きさを指摘する投稿などが目立った。投稿内容は下記の通りだ。 「人出不足なのに、人を減らしているため、現場が回っていない」 「どこも人手が足りなくて休日出勤が常態化している。年間で20日以上休みが減った職場もある」 「人が常に足りないため、休日出勤を月に2~3日やっている人もおり、自転車操業」 「人員が減少し、以前より少ない人数で仕事しなければならず、体力的にも精神的にも限界」 「育児介護制度があっても使えないことが多い。育児や介護について周囲の理解が得られず、定時に帰れない」 また、待遇面では、コロナ禍での賞与の減少に関する不満が目立った。 「基本給が低く、賞与が高く、設定されている。コロナ禍で賞与が減り、年収減となった」 「基本給が安く抑えられていて、ボーナスでとんとんになる。しかしコロナ禍でボーナスがカットされて厳しくなっている」 「マルチタスクを任せられるようになったが、逆に手当が減り、年収が下がった」 さらに、硬直的な組織への不満も多かった。 「現場に挑戦する志を持っている社員はほとんどいない。新しいことをやろうとしても上から抑えられる。年功序列の会社なので風通しも良くない」 「リスクの種類に関わらず、徹底的に回避する傾向があるため、新規事業や構造改革のアイデアを持っていても、それを実現するビジョンが見えない」 「社員の評価は飲み会の参加などでの上司からのお気に入り度合いで決まる。会社の考えが昭和でとまっている」 企業の将来の不安の声も少なくない。 「鉄道だけの収益ではやっていけなくなっているのが現状で、他の事業などで収入を出そうとしているが、施策を見る限りでは不安しかない」』、「1位はJR東日本 目立つ働き方への不満・・・「現場に挑戦する志を持っている社員はほとんどいない。新しいことをやろうとしても上から抑えられる。年功序列の会社なので風通しも良くない」 「リスクの種類に関わらず、徹底的に回避する傾向があるため、新規事業や構造改革のアイデアを持っていても、それを実現するビジョンが見えない」、なるほど。
・『2位は日本生命 営業方法に多くの不満 2位は日本生命保険で、投稿件数は79件。特に保険契約のノルマや営業方法に関する不満の投稿が目立つ。 「締め日前にノルマを達成していないと、強く詰められる」 「最低限の営業ノルマがあり、それができないと容赦なくクビになるため、安定した働き方ではない」 「昔ながらの体育会系の営業方法で、身体を壊す人が散見された」 残業に関する不満や指摘も多かった。 「残業や休日出勤が当たり前で、プライベートの時間の確保ができない」 「残業時間が多すぎ、一人当たりに対する仕事量が半端ない。このまま働き続けたら、心身に影響が出る」 「平日は毎日8時出社に20時退勤で、早く帰る雰囲気が全くない」 「古い体質で残業が当たり前」 さらに組織や社風に関する不満も目立った。 「年功序列の縦社会。上司の言うことは基本的に是。出る杭は打たれる文化」 「社内の全てについて昭和で時が止まっている。改善や変革を謳ってはいるものの、古き良き時代の記憶、過去の栄光にとらわれ、全く変わる気はない」 「新人を入れろと言う割に、今いる社員を大事にしないので、どんどん社員が辞め、お客さんの不信感を増長させている」 「今時ファックスを普通に使用し、会議も紙でやっている。時代と逆行している事が多々ある」』、「2位は日本生命 営業方法に多くの不満」、なるほど。
・『3位はイオンリテール 4位はアウトソーシングテクノロジー 3位はイオンリテールで、投稿件数は54件。 イオンリテールでは労働時間や給与に関する不満が目立った。 「特に食品部門はほぼ強制的にサービス残業をさせられ、心身を壊す人が後を絶たない」 「残業時間削減を謳い、年々締め付けが厳しくなっているが、結局はサービス残業になり、無給で働かされている」 「老朽化した設備など、職場環境は非常に悪い上、無駄で非効率な確認作業に忙殺されサービス残業が発生している」 また、風通しの悪さを指摘する投稿もあった。 「近年トップダウン傾向が強まり、組織の風通しはものすごく悪い」 「特に上の役職の人ほどパワハラ気質な人が多く、人を大事にできない会社」 「上下関係が厳しく、間違ったことでも勤務年数が長い方には逆らえない風習がある」 4位は技術者派遣や開発請負などを行うアウトソーシングテクノロジーで、投稿件数は41件。アウトソーシングテクノロジーについては、派遣先に関する不満投稿が目立った。 「自分の希望はほとんど通らず、スキルが身につかないような仕事内容もあり、とても時間の無駄」 「ITの案件を紹介してくれるということで入社したが、実際に紹介されるのは工場ばかり」 「派遣先の身勝手な理由により、短期間で契約終了となることもある」 給与面での不満も少なくなかった。 「給与水準が低い。営業成績に対するインセンティブもなく、昇給もあまり望めない」 「年収が低く、ボーナスもほぼ出ず、スズメの涙程度」 「派遣業なので徹底的に低賃金で社員を使い潰そうとしてくる」』、「3位はイオンリテール 4位はアウトソーシングテクノロジー」、「イオン」では、「老朽化した設備など、職場環境は非常に悪い上、無駄で非効率な確認作業に忙殺されサービス残業が発生している」 また、風通しの悪さを指摘する投稿もあった。 「近年トップダウン傾向が強まり、組織の風通しはものすごく悪い」 「特に上の役職の人ほどパワハラ気質な人が多く、人を大事にできない会社」、「アウトソーシングテクノロジー」では、「ITの案件を紹介してくれるということで入社したが、実際に紹介されるのは工場ばかり」 「派遣先の身勝手な理由により、短期間で契約終了となることもある」、いずれも深刻な問題を抱えているようだ。
・『5位はトランスコスモス 給与面での不満が多数 5位はコールセンターなどを手掛けるトランスコスモスで、投稿件数は40件だった。 目立ったのは給与面での不満だ。 「給料が低すぎる。昇格しても昇給額が信じられないほど低い」 「優秀な人材が、給料やマネジメント層の対応に不満を抱え、続々と抜けている。まずは給料を見直すべき」 「昇給はほとんどない。いまのご時世、5~10円の振り幅なんて聞いたことがない」 「大学生のアルバイトの時給よりも低い時給で働いている」 そのほか、「上場企業とは思えないほど、コンプライアンス意識が低く驚いた」「残業することが当たり前のような雰囲気」「有給を取る時に理由を求められるため、気軽に取れない」などの投稿もあった。 トップ5に続く企業は以下となる。) (働きか”ブラック”企業6~9位 はリンク先参照)』、「トランスコスモス」では、給与などを別にすれば、「上場企業とは思えないほど、コンプライアンス意識が低く驚いた」「残業することが当たり前のような雰囲気」、などが気になるところだ。
・『ヨドバシカメラの投稿数が昨年下期に急増 6位はヨドバシカメラで、投稿件数は39件。23年1~6月の投稿件数は8件だったが、7~12月は31件と急増した。 目立ったのは残業に関する不満だ。 「残業はマックスまでさせられることが多いため、予定が全く立てられない」 「一日の労働時間が12~13時間と非常に長いため、休日があっても疲れを取るだけで終わる。ワークバランスが全くない」 「サービス残業が多すぎてプライベートはほぼない」 「残業が多く、体力的にきつい。実際体調やメンタルを崩して、休職する人や退職していく人は少なくない」 「残業ありきの人員配置。定時に上がると店が回らなくなる」 「人手が足りておらず、忙しすぎて人が辞めてく」 また、組織や社風に関する不満も少なくない。 「基本トップダウン。下からの意見を吸い上げる気はない。非上場のため、それを直す気もない」 「経営トップや店長の言うことが絶対なので、それが現場にとって合わないこと、非効率なことでもやらなきゃいけない」 「管理職の言い方がキツかったりするので人が結構辞める。昭和のやり方が残ってる」 セクハラ・パワハラ関連の投稿もあった。 「ウォーターサーバーなど『利益が出るもの』に対してノルマを課すことが多く、これが達成できないと、パワハラ一歩手前の叱責を受ける」 「客からのセクハラ等は日常茶飯事」』、「ヨドバシカメラ」では、「「経営トップや店長の言うことが絶対なので、それが現場にとって合わないこと、非効率なことでもやらなきゃいけない」 「管理職の言い方がキツかったりするので人が結構辞める。昭和のやり方が残ってる」 セクハラ・パワハラ関連の投稿もあった」、など深刻な問題を抱えているようだ。
・『三菱電機とJR西日本が7位で投稿件数は33件 7位は三菱電機とJR西日本で、投稿件数は33件。 三菱電機で目立った投稿は残業に関するものと社風に関するものだ。 残業関連は下記などの投稿があった。 「ほとんどの部署で残業が非常に多く、休日出勤もごく普通。心を病む人が多く、新卒も半年たてば目の輝きを失う」 「育休明けの時短勤務を申請している人に仕事を振りまくり、残業させている。最悪だと思う」 「殺人的な長時間残業」 「ワークライフバランスは最悪」 また、社風に関しては下記の投稿などがあった。 「新しいことを始めるための障壁が多いため、時代の変化に対応できていない」 「社内政治が大事な側面もある。旧態依然の会社」 「意思決定が遅く、過去のしがらみが大変強力。非常に保守的で、新しいことへのチャレンジに対してかなりの抵抗を受ける事がある」 「かなり陰湿な体質で、下手な事すると必ず悪口を言われる。出る杭は打たれる」 「入社後、強烈な縦割り文化に驚いた」 さらに役員への不満も多かった。 「役員クラスがひどい。仕事ができるかどうか以前に、自分たちの決断について説明できないレベル」 「問題が発覚した時の対応がその場しのぎ。マネジメント層が根本的な対応をせず、現場に丸投げ」 「マネジメント層のビジョンが不透明、舵取りや判断の遅さに不信感が大きい」 一方、JR西日本で最も目立った投稿は給与に関するものだ。 「基本給が低いので、ボーナスが戻らないと金銭的にしんどい」 「コロナ禍により賞与が大幅カットされた」 「年収に占めるボーナスの割合が高く、コロナ禍で年収が50万円以上減った」 「基本給が安く、ボーナスで補っているため、ここ数年、ボーナスカットで社員はやる気を失っている」 「重労働なのに低月給。お客様の安全を守る人の給料ではない」 働き方への不満投稿は下記などがあった。 「緊急の事故・障害対応などで勤務時間が不規則になりやすく、土日や深夜の呼び出しもままある」 「仕事量が多く超過勤務が多い。休日の呼び出しも多く、さらに休日に組合活動に出ることもありストレスがたまる」 また、パワハラを指摘する投稿もあった。 「一部でパワハラが横行し、精神的に追い込まれ休業を余儀なくされた人は珍しくない」 「昭和体育会系の考え方が根強く残っており、若い人が負担を強いられる。パワハラは当たり前」』、「三菱電機」では「「役員クラスがひどい。仕事ができるかどうか以前に、自分たちの決断について説明できないレベル」 「問題が発覚した時の対応がその場しのぎ。マネジメント層が根本的な対応をせず、現場に丸投げ」 「マネジメント層のビジョンが不透明、舵取りや判断の遅さに不信感が大きい」」、「JR西日本」では「「一部でパワハラが横行し、精神的に追い込まれ休業を余儀なくされた人は珍しくない」 「昭和体育会系の考え方が根強く残っており、若い人が負担を強いられる。パワハラは当たり前」」、などは問題が大きい。
・『日産自動車・みずほ銀行・JR九州が9位で投稿件数は31件 9位は日産自動車、みずほ銀行、JR九州で、投稿件数は31件。 日産自動車では経営への不満や将来への不安などを指摘する投稿が少なからずあった。 「毎月上級管理職が退職している。このような状況は異常ではないか」 「戦術と戦略の区別がついている人が上層部に1人もいない」 「新規事業への活気が感じられない。恐らく衰退し続けると思う」 また、会社の風通しの悪さや組織の硬直さに関する投稿もあった。 「数年に一度会社を揺るがす大きな危機に見舞われ、その時だけは多少団結するが、危機が去ると途端に足を引っ張り合い責任を押し付け合う文化」 「仕事は雑に丸投げされ、結果のみ吸い上げられる。真面目に対応すればするほどに奴隷化させられ、精神をすり減らして脱落していく」 「くだらない根回しが横行して本質的な仕事ができない」 「従業員を大事にしない風土。部長のパワハラで社員数人がメンタル疾患で休職した」 人手不足や業務負担の大きさへの不満もあった。 「設計の部署は人権がほぼない。金曜日夜に会議があり22時に議事録を送る。持ち帰り残業もよくある」 「調整業務が多い。マイクロマネジメントしてくるチームリーダーやパワハラ的な言動をする同僚が周りにいる」 「忙しい時期は頭がおかしくなるぐらい仕事が降ってくるが、それが当たり前と思っている社員が多く、残業時間は月70時間以上ある」 みずほ銀行は23年1~6月の投稿件数は22件だったが、7~12月は9件と減少している。 残業の多さや人手不足への不満が目立つ。 「本部の部署によっては終電まで仕事をするのが当たり前、もしくは、仕事が終わるまで残らざるを得ないケースが多い」 「本部の私の部署では8時40分始業、22時退行が常態化」 「無駄な事務により残業が多い。近年は退職者も多く、慢性的に人が足りていない」 「平日も朝まで飲み会、土日はゴルフや資格試験の勉強で、プライベートはなきに等しい」 「営業職は休日出社する場合もあるので、プライベートはあまりないと思った方がいい」 人材流出に関する懸念や不満も少なくない。 「従業員の士気が低い。優秀な人は若手・中堅を中心に会社を去っている」 「金融業の会社としての将来性は微妙。退職者が後をたたない。若手の退職が増えている」 「行員のモチベーションの低下が著しい。社外向けのブランディングを気にする前に、まずは社内のカルチャーをどうにかしないと、優秀な若手は流出し続ける」 旧態依然の社風への不満もあった。 「とにかく意思決定が遅い。決裁者への説明までに踏むべきプロセスが多すぎる」 「経営のやり方が明らかに間違っている。定性評価をはき違えて、上の好き勝手で評価がきまる」 「年功序列による評価体制を見直すべく取り組んでいるが、超が付くほどの保守的な企業風土ゆえ大きな変化は望めない」 「古い企業文化と無能力なおじさんたちが残っている会社。やる気のある人、できる人はどんどん抜けていく」 一方、JR九州は23年1~6月の投稿件数は9件だったが、7~12月は22件と増加した。 JR東日本、JR西日本と同様、JR九州でも目立ったのが給与に関する不満だ。 「コロナ禍で年収が下がり、業務量と責任に見合った収入が得られていない」 「コロナ禍以降ボーナスをカットされ、給料は減っているのに1人あたりの業務は増えている」 「安い給料と多くない休暇、増加するご意見対応などで現場の社員は疲弊している」 「過度に設備を廃止したり、人件費を削ったりして、利用客にも従業員にも悪い影響が出まくっている」 また、働き方への不満投稿も多い。 「深刻な人材流出により現場は疲弊している。特に現業部門は、休日出勤をしないと回らず、ワークライフバランスなど無いに等しい」 「本社勤務では長時間残業に苦しむ社員も多く、労使協定に抵触しないために闇残業を行う姿も見受けられる」 「休みの日や夜中にも呼び出しがあり、災害時には職場で寝泊まりする必要がある。 一歩間違えば大事故につながる作業でも手当がつかないなど、社員の扱いがひどい」 そのほか、「毎年、お中元とお歳暮のノルマが課せられる」といった投稿もあった。 12位から29位までの19社の中には、数々の不祥事が明らかになった中古車販売大手のビッグモーターのほか、ソフトバンク、三井住友海上、大和ハウスなど、大手企業が多数ランクインしている。次ページからのランキングをぜひチェックしてみてほしい。) (働き方”ブラック”企業12~20位 はリンク先参照)) (働き方”ブラック”企業24~29位 はリンク先参照)』、「日産自動車」では「「毎月上級管理職が退職している。このような状況は異常ではないか」 「戦術と戦略の区別がついている人が上層部に1人もいない」 「新規事業への活気が感じられない。恐らく衰退し続けると思う」 また、会社の風通しの悪さや組織の硬直さに関する投稿もあった」、「みずほ銀行」では「「本部の部署によっては終電まで仕事をするのが当たり前、もしくは、仕事が終わるまで残らざるを得ないケースが多い」 「本部の私の部署では8時40分始業、22時退行が常態化」 「無駄な事務により残業が多い。近年は退職者も多く、慢性的に人が足りていない」」、「JR九州」では「「深刻な人材流出により現場は疲弊している。特に現業部門は、休日出勤をしないと回らず、ワークライフバランスなど無いに等しい」 「本社勤務では長時間残業に苦しむ社員も多く、労使協定に抵触しないために闇残業を行う姿も見受けられる」」、など不満も強いようだ。
タグ:「我々はつい最近も「ヤバいスローガン」が「ヤバい会社」を生み出したことを目の当たりにしている。 勘のいい方はお分かりだろう、ビッグモーターだ。 ビッグモーターもダイハツ同様に不正発覚後、ブラック企業ぶりが叩かれた。ノルマ達成できないとLINEグループ内や会議でボロカスに人格否定されて降格や左遷。目標未達だと罰金を自腹で払わされるなどの社風が次々と明らかになっていく中で、注目されたのは、「ヤバい経営計画者」だ 「派遣先の身勝手な理由により、短期間で契約終了となることもある」、いずれも深刻な問題を抱えているようだ。 「3位はイオンリテール 4位はアウトソーシングテクノロジー」、「イオン」では、「老朽化した設備など、職場環境は非常に悪い上、無駄で非効率な確認作業に忙殺されサービス残業が発生している」 また、風通しの悪さを指摘する投稿もあった。 「近年トップダウン傾向が強まり、組織の風通しはものすごく悪い」 「特に上の役職の人ほどパワハラ気質な人が多く、人を大事にできない会社」、「アウトソーシングテクノロジー」では、「ITの案件を紹介してくれるということで入社したが、実際に紹介されるのは工場ばかり」 「2位は日本生命 営業方法に多くの不満」、なるほど。 そんな旧日本軍の「数の帳尻を合わせるためならば多少のインチキには目をつぶる」という「員数主義」が戦後、従軍経験者や軍需工場での勤務経験者を介して、日本の民間企業にも引き継がれて、現在に至るというのが筆者の考えだ・・・ただ、仮にダイハツが員数主義にむしばまれていたとしても、ここまで「ベタベタのブラック企業」になってしまったことは説明できない。日本最古の自動車メーカーであり、軽自動車国内新車販売台数17年連続トップの名門がなぜこんな「闇堕ち」してしまったのか」、その通りで、興味深そうだ。 「ボロボロの現場に追い討ちをかけるのが、「高すぎる目標」だ。人口増時代は頑張れば達成できるかもと希望が持てたが、人口減少時代は「無理ゲー」を強いて、メンタルを破壊することにしかならない。しかし、管理職は自分が若い時の成功体験があるので、現場から「こんなスケジュールではできません」「もうコストカットは限界です」と泣きつかれても、「で?」「それを可能性にするためには何をすればいいのか考えるのがお前の仕事だ」など突き放す。 「1位はJR東日本 目立つ働き方への不満・・・「現場に挑戦する志を持っている社員はほとんどいない。新しいことをやろうとしても上から抑えられる。年功序列の会社なので風通しも良くない」 「リスクの種類に関わらず、徹底的に回避する傾向があるため、新規事業や構造改革のアイデアを持っていても、それを実現するビジョンが見えない」、なるほど。 「みずほ銀行」では「「本部の部署によっては終電まで仕事をするのが当たり前、もしくは、仕事が終わるまで残らざるを得ないケースが多い」 「本部の私の部署では8時40分始業、22時退行が常態化」 「無駄な事務により残業が多い。近年は退職者も多く、慢性的に人が足りていない」」、「JR九州」では「「深刻な人材流出により現場は疲弊している。特に現業部門は、休日出勤をしないと回らず、ワークライフバランスなど無いに等しい」 「本社勤務では長時間残業に苦しむ社員も多く、労使協定に抵触しないために闇残業を行う姿も見受けられる (中略) 鉄鋼、自動車、電機というかつて日本の基幹産業と呼ばれた業種を代表する企業たちが、まるで内部からガラガラと崩壊するように、不正が噴出している。 これには競争力に問題があるとか、生産性が下がったからだとか、いろいろなご意見があるだろうが、筆者はこれまで見てきたように、これらの業界がかつて「世界一」というスローガンを掲げて、それをがむしゃらに追い求めてきたことの「重い後遺症」だと思っている」、なるほど。 「日産自動車」では「「毎月上級管理職が退職している。このような状況は異常ではないか」 「戦術と戦略の区別がついている人が上層部に1人もいない」 「新規事業への活気が感じられない。恐らく衰退し続けると思う」 また、会社の風通しの悪さや組織の硬直さに関する投稿もあった」、 「神戸製鋼、三菱自動車、東芝など「世界一の技術」をスローガンにしていたものづくり企業で相次いで不正が発覚していく事例を紹介して、原因を次のように分析」、「「世界一」とは本来、技術力や生産性を高めていくうちに、他者からの評価という形で得られる「結果」に過ぎない。 しかし、東芝の場合はこのように何十年も「世界一」を追い求めてきたことで、いつのまにやら「世界一」になることが何よりも優先すべき「目的」となってしまった恐れがあるのだ。このように「結果」と「目的」をはきちがえた時、企業は「不正」に走る。 「JR西日本」では「「一部でパワハラが横行し、精神的に追い込まれ休業を余儀なくされた人は珍しくない」 「昭和体育会系の考え方が根強く残っており、若い人が負担を強いられる。パワハラは当たり前」」、などは問題が大きい。 「ネガティブな口コミを多く集めた企業のランキングを作成・・・期間は2023年1月から12月までの1年間。同期間中に勤務関連の口コミ投稿があったのは、調査対象企業1万6633社のうち3009社だった。今回取り上げる働き方に関するネガティブ情報は9230件で、1社当たりの平均は約3件だったが、ランキング上位に名を連ねた企業は平均をはるかに上回るネガティブ投稿を集めた。 上位には金融、不動産、自動車、小売り、鉄道などの大手企業が名を連ねた」、なるほど。 「三菱電機」では「「役員クラスがひどい。仕事ができるかどうか以前に、自分たちの決断について説明できないレベル」 「問題が発覚した時の対応がその場しのぎ。マネジメント層が根本的な対応をせず、現場に丸投げ」 「マネジメント層のビジョンが不透明、舵取りや判断の遅さに不信感が大きい」」、 ダイヤモンド・オンライン「従業員の不満投稿が多い“ブラック”企業ランキング2023【トップ30】6位ヨドバシカメラ、3位イオンリテール、ビッグモーターも上位!」 戦陣訓が背景になったと言われている・・・「うちの会社ってもしかしてブラック企業?」と悩むそこのあなた、経営理念やフィロソフィーを確認してみてはどうだろう。 ヤバい会社にはヤバいスローガンがある。不正をやらされたり、「殺されたり」する前に、一刻も早く逃げていただきたい」、同感である。 「ヨドバシカメラ」では、「「経営トップや店長の言うことが絶対なので、それが現場にとって合わないこと、非効率なことでもやらなきゃいけない」 「管理職の言い方がキツかったりするので人が結構辞める。昭和のやり方が残ってる」 セクハラ・パワハラ関連の投稿もあった」、など深刻な問題を抱えているようだ。 「一般的な軽自動車ユーザーにとって、ダイハツ車は仕事や生活の足であり、大切な人を載せるモビリティに過ぎない。つまり、「1mm、1g、1円、1秒」はユーザー目線ではなく、作り手目線のこだわりなのだ。 そういうプロダクトアウト的なスローガンを掲げ、それを現場に叩き込んでいる時点で、ダイハツがユーザーメリットより、企業内の論理を優先する「ヤバい会社」だということが伺えるのだ」、その通りだ。 「トランスコスモス」では、給与などを別にすれば、「上場企業とは思えないほど、コンプライアンス意識が低く驚いた」「残業することが当たり前のような雰囲気」、などが気になるところだ。 「これは筆者が本連載の中で、日本企業の「不正カルチャー」の原因だと繰り返し指摘してきた「員数主義」の典型的なケースだ。「員数」とは旧日本軍内で使われてた装備品や物資の数を示す言葉だ。 軍隊内ではこの「員数」と帳簿上の数が合わないのは「あり得ない」ので、ダイハツのように「で?」「なんで数が合わないの」「どうするんだ」と詰問された。そこで、とにかく員数を合わせるため、他部隊から装備品を盗んだりする不正行為がまん延、現場レベルでは黙認されていたというのだ。 窪田順生氏による「ダイハツ、お前もか…闇落ちするブラック企業には「ヤバいスローガン」がある」 ダイヤモンド・オンライン 「できません」など言うことはあり得ないということだ。となると、残る道はインチキしかない。 この「ヤバいスローガン」はダイハツにも当てはまる」、なるほど。 米英の捕虜も殺害するという「不正」に走っていく。 それだけではない。敗戦のプレッシャーが強まれば強まるほど、このスローガンは日本全体を「ブラック企業」のようにしてしまう。 《戦陣訓の中の「生きて虜囚(りょしゅう)の辱め(はずかしめ)を受けず」の一節は、将兵に対し捕虜になることを固く戒めたもので、太平洋戦争で戦いが絶望的な状況になっても将兵が投降せずに玉砕や自決する事態が頻発、動けなくなった傷病兵の殺害などが起こることにもつながったと言われる。また、サイパンや沖縄戦で、住民の集団自決がおこったのもこの戦陣訓 「『戦陣訓』「本訓 其の二」は、「現場ではこれを復唱させて、兵士たちの闘争心を高めるという好循環ができた。 しかし、戦局が悪化して敗退に次ぐ敗退となっていくと、「逆回転」していった。圧倒的な戦力差と物資不足で不利になっていくと、「生きて虜囚の辱を受けず」だけが切り取られ、自軍の情報が敵に漏れないよう「投降禁止」のスローガンになった。当時、世界の戦争では「勝ち目がなくなったら白旗をあげて投降、捕虜は人道的に扱わなくてはならぬ」という国際ルールがあったが、日本軍はそれをガン無視するだけではなく、投降してきた米 そうなると、追いつめられた現場はどうするか。「やってられない」と辞表を出すか、開き直って左遷・更迭されるか、あるいはインチキをするか、だ。 これがこの30年間ほど「世界一」を掲げてきたものづくり企業の現場でパワハラや不正が次々と明らかになっている根本的な原因だ。無茶なスローガンに耐えきれなくなってきた現場が、これまでのインチキを隠し通せなくなってきたのである」、なるほど。 (その16)(ダイハツ お前もか…闇落ちするブラック企業には「ヤバいスローガン」がある、従業員の不満投稿が多い“ブラック”企業ランキング2023【トップ30】6位ヨドバシカメラ 3位イオンリテール ビッグモーターも上位!) ビッグモーターの整備工場前では毎朝、従業員が一堂に会して、創業者である兼重宏行氏のかなりクセのある経営思想が反映された「経営計画書」を読み上げていた。 例えば、「会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある」社員について、「今、すぐ辞めてください」とピシャリ。さらには「店長には営業マンの生殺与奪権を与える」などの内容も唱えられていた。 これらのスローガンを毎日叩き込まれた社員が「上の命令にはガタガタ言わずに黙って従う」としつけられることは言うまでもない。つまり、上から課せられたノルマが達成できない場合 ブラック企業