電気自動車(EV)(その14)(「アップルカー開発断念」はEVブーム終焉のサイン?トヨタら日本勢はチャンスを活かせ、中国にEV墓場 テスラ株は暴落…「やっぱりトヨタが正しかった!」と浮かれる人が見落とす死角) [産業動向]
電気自動車(EV)については、昨年6月3日に取上げた。今日は、(その14)(「アップルカー開発断念」はEVブーム終焉のサイン?トヨタら日本勢はチャンスを活かせ、中国にEV墓場 テスラ株は暴落…「やっぱりトヨタが正しかった!」と浮かれる人が見落とす死角)である。
先ずは、本年3月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した佃モビリティ総研代表の佃 義夫氏による「アップルカー開発断念」はEVブーム終焉のサイン?トヨタら日本勢はチャンスを活かせ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340154
・『アップルカー開発中止はEVブーム終焉のサイン? 米アップルが電気自動車(EV)の開発計画を断念したと伝えられた。アップルのジェフ・ウィリアムズCOO(最高執行責任者)が社員に通達したと、米ブルームバーグが報じた。それによると、アップルカー開発チームの一部開発者はAI部門に配置転換し、アップルでは珍しいレイオフ(一時解雇)を計画しているという。 アップルといえば、スマートフォンの世界でiPhoneの存在感が非常に大きい。EV化に伴い、クルマが高度なソフトウェアを搭載する「走るスマホ」ともいわれるようになる中、そのアップルがEVに進出するということで、自動車業界からも脅威の存在としてその動向が注目されていた。 特に、自動車業界にとって100年に一度の大変革期といわれるゆえんである「CASE革命」の中核に位置する、「電動化」と「自動運転」をセットで開発するアップルカーを同社がどう具現化するかは、業界の大きな関心事だった。 脱炭素社会に向けたEVと自律走行実現のための自動運転の親和性をとらえたアップルカー。アップルは、「EVによる完全自動運転」を目指したものと受け止められていた。) しかし、10年越しとなるアップルカー開発の社内プロジェクト「タイタン」は、ここにきてEV開発を断念したと伝えられた。 この間、アップルは米本社のあるカリフォルニア州での試験走行を重ねてきた。23年の同州での走行試験の距離は約72万9000kmと前年の3.6倍に増えており、自動運転技術などの特許も数多く取得し実用化への布石を打ってきた。また、アップルカーを製造委託するファブレス企業としてのパートナーには、カナダのマグナ・インターナショナルや韓国の現代自動車グループに加え、日本の日産自動車の名前が候補として挙がったこともある。 アップルカー開発断念の背景には、アップルの完全自動運転EV開発が遅れている一方、生成AIを巡る競争環境の激変に対応が迫られているという社内事情があるようだ。加えて、これまで電動化の中で世界的にBEV(バッテリーEV)に偏向する風潮があったものの、直近でEV市場の変化や価格競争激化が生じるなど、EVの販売環境が悪化してきていることも挙げられる。 今後の注目ポイントとなるのが、このアップルカー撤退の動きが、自動車業界全体の電動化、特にBEVの拡大や戦略にどう影響するのか、あるいはBEVへの潮流が変わっていく(変わっている)転換点になるのか、ということだ。 それはすなわち、トヨタ自動車を筆頭に日本車のBEVへの出遅れが指摘されてきた見方が変化するのか、という意味でもある』、「アップルカー開発断念の背景には、アップルの完全自動運転EV開発が遅れている一方、生成AIを巡る競争環境の激変に対応が迫られているという社内事情があるようだ。加えて、これまで電動化の中で世界的にBEV(バッテリーEV)に偏向する風潮があったものの、直近でEV市場の変化や価格競争激化が生じるなど、EVの販売環境が悪化してきていることも挙げられる」、なるほど。
・『海外メーカーで相次ぐEV計画の修正 いわゆる「EVブーム」は、CO2削減を大命題に、欧州の環境規制強化や米国カリフォルニア州のZEV(ゼロエミッションビークル)規制、中国政府によるNEV(ニューエネルギービークル)規制といった、世界的な各種規制への対応から大きな潮流へと発展したものだ。) 欧州勢が独フォルクス・ワーゲン(VW)のテールゲート事件を契機に主流のディーゼル車からEVへの転換政策を一気に進めたほか、米国もGM、フォードがEVシフト計画を積極化した。さらに、中国は世界最大となった中国の国内市場を武器に、国家レベルでのNEV政策を押し出して「EV大国」にのし上がってきた。 一方で、日本ではホンダの三部敏宏社長が「脱エンジン」を宣言し、2040年までに新車をEVとFCV(燃料電池車)に100%切り替える方針を打ち出したものの、「敵は脱炭素であり、エンジン車ではない」(豊田章男トヨタ会長)とするトヨタの「マルチパスウェイ(全方位)」戦略を筆頭として「EV普及に後ろ向きだ」との批判を浴びてきたのも事実だ。 しかし、ここへきてEVブームの風向きが変わってきた。 23年は世界のEV販売が年間100万台を超えたが、急速に販売の伸びが鈍ってきている。中国では、過当な販売競争でNEV市場が荒れてきており、米国はEVよりハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が伸びたことが注目されている。世界各国のエネルギー事情やEV販売の補助金を抑制する動きなどでBEVの伸びが鈍化しているのは確かだ。明らかにEVシフトの過渡期におけるひずみが起きている。 EVシフトを積極的に進めようとしていた自動車各社でも、その戦略を見直す動きが広がっている。) 米GMはかねて35年以降にエンジン車を販売しない目標を掲げており、25年後半に安価なEVを投入する計画だったが、その要であったホンダとの量販価格帯EVの共同開発を撤回した。代わりに戦略を修正し、PHV投入の方向を打ち出してきている。 米フォードもEV関連の投資計画全体のうち、120億ドルを抑制すると昨年10月に発表した。また、独メルセデス・ベンツは、30年の「完全EV化」を事実上撤回し、25年までに新車販売の最大50%がEVとPHVになるという見通しを「20年代後半」に遅らせた。 EVの成長ペースが鈍化しHVやPHVが当面の電動化の“現実解”との見方が広がる中で、トヨタを筆頭とする日本車各社は、市場に合わせた展開で巻き返しの好機を見いだしつつある。 だが、大きなうねりとしてBEVが主流になる動きは、長期的に見ると変わらないはずだ。 足元のEV鈍化に一喜一憂せず、日本車各社にはEV過渡期としての現状の“現実解”に対するアドバンテージを活かしながら、低コスト化や自動運転との親和性を活かした機能開発など、長期視点でのEV対応が求められることになるだろう。 また、アップルカーの撤退で、同じくテック企業とのコラボEVの代表であるホンダとソニーグループの共同開発車「アフィーラ」の動きにも変化があるのか、こちらにも注目したい』、「ここへきてEVブームの風向きが変わってきた。 23年は世界のEV販売が年間100万台を超えたが、急速に販売の伸びが鈍ってきている。中国では、過当な販売競争でNEV市場が荒れてきており、米国はEVよりハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が伸びたことが注目されている。世界各国のエネルギー事情やEV販売の補助金を抑制する動きなどでBEVの伸びが鈍化しているのは確かだ。明らかにEVシフトの過渡期におけるひずみが起きている・・・EVの成長ペースが鈍化しHVやPHVが当面の電動化の“現実解”との見方が広がる中で、トヨタを筆頭とする日本車各社は、市場に合わせた展開で巻き返しの好機を見いだしつつある。 だが、大きなうねりとしてBEVが主流になる動きは、長期的に見ると変わらないはずだ・・・足元のEV鈍化に一喜一憂せず、日本車各社にはEV過渡期としての現状の“現実解”に対するアドバンテージを活かしながら、低コスト化や自動運転との親和性を活かした機能開発など、長期視点でのEV対応が求められることになるだろう。 また、アップルカーの撤退で、同じくテック企業とのコラボEVの代表であるホンダとソニーグループの共同開発車「アフィーラ」の動きにも変化があるのか、こちらにも注目したい」、その通りだ。
次に、3月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「中国にEV墓場、テスラ株は暴落…「やっぱりトヨタが正しかった!」と浮かれる人が見落とす死角」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340993
・『電気自動車(EV)大手である米テスラの株価が大幅に下落し、中国では「EV墓場」が出現している。対照的に、トヨタ自動車は、EV以外の選択肢を世界の消費者に提示し多くの需要を取り込んでいる。短期的には、この戦略は有効だろう。ただ、中長期的に世界のEVシフトは再加速する可能性が高い。日本の自動車メーカーは、どのように戦えばいいのだろうか』、「中長期的に世界のEVシフトは再加速する可能性が高い。日本の自動車メーカーは、どのように戦えばいいのだろうか」、確かに「中長期的」には「世界のEVシフトは再加速」に備える必要がありそうだ。
・『トヨタの株価が3割上がり テスラの株価が3割下がったワケ 一時期、大きく盛り上がった電気自動車(EV)に対する期待が、ここへ来て世界的に鈍化している。それは、米テスラをはじめ主要EVメーカーの株価の推移からも確認できる。年初から3月中旬までの間、エンジン車、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、EVなど全方位型の事業戦略を採るトヨタ自動車の株価は30%超上昇した。一方、それとは対照的にテスラの株価は、30%以上下落した。 中国では「EV墓場」が出現するほど、EVの供給過剰が社会問題化している。欧米の大手自動車メーカーのEV計画もやや頭打ち傾向になっている。人手不足と人件費高騰、サプライチェーン構築の遅れなどで、EVバッテリー関連のコストは想定以上に増えた。 対照的に、トヨタなどわが国の自動車メーカーは、EV以外の選択肢を世界の消費者に提示し多くの需要を取り込んでいる。短期的には、この戦略は有効だろう。 ただ、中長期的に世界のEVシフトは再加速する可能性が高い。特に、世界経済の成長の源泉として期待が高まるアジア地域で、わが国の自動車メーカーと、中国EVメーカーの競争は激化するだろう。 競争に勝ち残るため、わが国の自動車関連企業は次世代、次々世代の電動車の製造技術を早期に確立する必要がある。HVという有力な最終製品の実現に固執することなく、関連企業トップは先をにらんで必要な技術を磨き、世界に先駆けて実用化することが重要だ』、「中国EVメーカーの競争は激化するだろう。 競争に勝ち残るため、わが国の自動車関連企業は次世代、次々世代の電動車の製造技術を早期に確立する必要がある。HVという有力な最終製品の実現に固執することなく、関連企業トップは先をにらんで必要な技術を磨き、世界に先駆けて実用化することが重要だ」、その通りだ。
・『中国で「EV墓場」が社会問題 欧米の自動車大手もEVで苦戦 2023年の世界のEV販売台数は前年に比べて30%増えたものの、22年の前年比60%増に比べると、増加ペースは鈍化した。そして24年のEV販売台数は、23年と同程度か下回るとの予想もある。EV市場の成長の鈍化は、米テスラの決算でも確認できる。 1月、テスラのイーロン・マスクCEOは、24年の売上高の増加ペースが鈍化するとの見通しを示した。これにより同社の株価は下落し、投資判断を引き下げたアナリストもいる。新モデルの「サイバートラック」の生産が遅れていることに加え、電気自動車大手の中国BYDによる大幅な値下げ攻勢により、競争が一段と激化しているからだ。 中国では、不動産バブルが崩壊して個人消費の低迷が深刻になっている。地方政府の財政難もあり、EV販売への補助金が終了あるいは減少した。中国においてEVは供給過剰に陥り、経営破綻する新興EVメーカーも出ている。「1台買えば、もう1台が無料」といった信じられないセールを行う企業も現れたが、効果はほとんど出なかったようだ。 中国では行き場を失い放置される大量のEVの様子が、「EV墓場」として報道されてもいる。また、大雪時にバッテリーが消耗したことで立ち往生するEVが増えているともいう。春節(中華圏の旧正月)休暇で人々が帰省や旅行に出かけた際は、EV充電待ちの渋滞も発生した。こうした事例が広がり、消費者がEVを敬遠することに拍車をかけた。2月、中国のEV販売台数は前年同月比21.8%減の29万4000台に落ち込んだ。 翻って欧州では、自動車大手がEV計画の失敗を認める事態となっている。トヨタと世界トップの座を競う独フォルクスワーゲンは、15年に起きたディーゼルエンジンの排ガス不正問題を契機に、EVシフトを強化した。しかし、バッテリー製造コストの増加、ソフトウエアの開発力不足、充電インフラ整備の遅れなど課題は多い。同社CEO自ら「欧州EV市場は思ったほど拡大していない」との見解を示してもいる。 同様に独メルセデスは、「30年にEV専業メーカーになる」という目標を撤回し、新型エンジンの開発を進めている。また、仏ルノーは、市場環境が適さないとしてEV新会社Ampereの新規株式公開(IPO)を中止した。 米国でも欧州と似たような理由から、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードのEV戦略が計画よりも遅れている。あるいは、レンタカー大手のハーツがEVの値崩れに直面し、経営トップが更迭されるという事例も出ている』、「中国では行き場を失い放置される大量のEVの様子が、「EV墓場」として報道されてもいる・・・大雪時にバッテリーが消耗したことで立ち往生するEVが増えているともいう。春節(中華圏の旧正月)休暇で人々が帰省や旅行に出かけた際は、EV充電待ちの渋滞も発生した・・・春節・・・休暇で人々が帰省や旅行に出かけた際は、EV充電待ちの渋滞も発生した。こうした事例が広がり、消費者がEVを敬遠することに拍車をかけた。2月、中国のEV販売台数は前年同月比21.8%減の29万4000台に落ち込んだ・・・独フォルクスワーゲンは、15年に起きたディーゼルエンジンの排ガス不正問題を契機に、EVシフトを強化した。しかし、バッテリー製造コストの増加、ソフトウエアの開発力不足、充電インフラ整備の遅れなど課題は多い。同社CEO自ら「欧州EV市場は思ったほど拡大していない」との見解を示してもいる。 同様に独メルセデスは、「30年にEV専業メーカーになる」という目標を撤回し、新型エンジンの開発を進めている。また、仏ルノーは、市場環境が適さないとしてEV新会社Ampereの新規株式公開(IPO)を中止」、なるほど。
・『全方位戦略が奏功のトヨタ 世界が優位性を再認識 中国と欧米でEVが総崩れに近い状況とは対照的に、わが国の自動車メーカーは世界市場で健闘している。車載用半導体の供給が改善されて自動車生産と輸出が回復したこと、世界で中国製EVを排除する動きが強まったことも、HVに強みを持つわが国の自動車産業に追い風だ。 現状、リチウムイオン系バッテリーを搭載したEVの供給は、中国勢が強みを持つ。その価格競争力を支えたのは、中国政府の産業政策だ。中国はBYDや世界最大の車載用バッテリーメーカーである寧徳時代新能源科技(CATL)に、産業補助金や土地を供与することでローコスト戦略を支援してきた。これは奏功して23年のCATLの業績は、世界のEV市場の成長鈍化にもかかわらず、純利益が増えるなど好調だ。 一方、欧州委員会や米国のバイデン政権は、中国製EVやバッテリーなどの主要部品に対する「締め出し策」を強化した。中国の一大政策による中国EVの低価格競争を警戒しているのだ。安全保障面でも、EVの走行データなどが中国に漏れるとの危機感が強い。 米国や欧州の政府系機関は、中国製EVを締め出すことで国・域内企業の電動車供給に弾みをつけようとしている。ところが、欧米自動車メーカーがEV生産を計画通りに進められない状況にあるのは前述した通りだ。EVからHVなどへ生産ラインを変更するのも容易ではない。 そうした中で、少ない温室効果ガス排出量と長い航続距離を両立するHVの長所が改めて評価され、トヨタをはじめとしたHVに需要が向かっている。中国でもレクサスは依然として人気ブランドである。 23年、4年連続でトヨタは世界トップの販売台数を記録した。足元では傘下のダイハツ工業の検査不正問題なども明るみになっているが、燃費のいいエンジン車、HV、PHV、FCV、EVと、さまざまなタイプを幅広く取りそろえる同社の優位性を、世界が再認識したといえる』、「燃費のいいエンジン車、HV、PHV、FCV、EVと、さまざまなタイプを幅広く取りそろえる同社(トヨタ)の優位性を、世界が再認識したといえる」、なるほど。
・『リチウムイオン電池の教訓を糧に「全固体電池」の実用化を急げ 今後、中国では新興のEVメーカーの経営破綻がさらに増えるだろう。米アップルが自前のEV、通称「アップルカー」の開発を中止する方針だという報道も出ている。これに続いて自動運転技術などの開発プロジェクトの中止、関連分野でのスタートアップ企業の淘汰も増えそうだ。米国においては金利の高止まりリスクも、EV市場の下押し要因になるだろう。 また、米国では11月5日に大統領選挙を控えている。今後は政権が自動車業界の労働組合などに配慮して、EVシフトではなくエンジン車の生産、シェールガスやオイル採掘の支援を強化するかもしれない。それらの変化は、基本的にわが国の自動車産業にプラスに働くはずだ。主要先進国の自動車市場で、わが国メーカーの競争力が向上する可能性は高い。 一方、中長期的には世界のEVシフトは加速する可能性がある。特に、タイやインドネシアなど、これまで日本の自動車メーカーが高いシェアを維持した東南アジアの国では、経済成長の牽引(けんいん)役としてEV関連産業を重視している。BYDなどの新興勢が低価格を強みに、進出を加速させるだろう。 現状、リチウムイオン系電池の低コスト化とEVのユニット組み立て型生産において、BYDの競争力は高い。一方、従来型の自動車ビジネス、すなわち、すり合わせ技術を磨き全方位型の事業戦略を推進する点で、わが国の自動車メーカーは優位性を持つ。そのため、東南アジア市場を中心に、日本勢と中国勢の競争が激しくなる可能性は高い。 わが国自動車メーカーにとって重要なのは、EVの切り札として期待される「全固体電池」など、次世代バッテリーの実用化を急ぐことだ。かつてリチウムイオン電池の研究開発は、わが国が先行した。ただ、事業化・収益化に難航した。 この教訓を糧に、日本は次世代、次々世代のバッテリー開発を強化すべきだ。そのためには世界的に優秀な人材を適切な賃金で雇うことも欠かせない。今春闘で大幅な賃上げが実現していることは、追い風になっている。 海外の自動車、半導体、IT企業などとの連携も強化し、中国勢とは差別化できるようなわが国発のEVを生み出し、バッテリー製造などの国際規格策定を主導することも本気で狙うべきだろう。こうした発想が、全方位型の自動車メーカーの戦略に加わることを期待したい』、「わが国自動車メーカーにとって重要なのは、EVの切り札として期待される「全固体電池」など、次世代バッテリーの実用化を急ぐことだ。かつてリチウムイオン電池の研究開発は、わが国が先行した。ただ、事業化・収益化に難航した。 この教訓を糧に、日本は次世代、次々世代のバッテリー開発を強化すべきだ。そのためには世界的に優秀な人材を適切な賃金で雇うことも欠かせない。今春闘で大幅な賃上げが実現していることは、追い風になっている。海外の自動車、半導体、IT企業などとの連携も強化し、中国勢とは差別化できるようなわが国発のEVを生み出し、バッテリー製造などの国際規格策定を主導することも本気で狙うべきだろう。こうした発想が、全方位型の自動車メーカーの戦略に加わることを期待したい」、同感である。
先ずは、本年3月8日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した佃モビリティ総研代表の佃 義夫氏による「アップルカー開発断念」はEVブーム終焉のサイン?トヨタら日本勢はチャンスを活かせ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340154
・『アップルカー開発中止はEVブーム終焉のサイン? 米アップルが電気自動車(EV)の開発計画を断念したと伝えられた。アップルのジェフ・ウィリアムズCOO(最高執行責任者)が社員に通達したと、米ブルームバーグが報じた。それによると、アップルカー開発チームの一部開発者はAI部門に配置転換し、アップルでは珍しいレイオフ(一時解雇)を計画しているという。 アップルといえば、スマートフォンの世界でiPhoneの存在感が非常に大きい。EV化に伴い、クルマが高度なソフトウェアを搭載する「走るスマホ」ともいわれるようになる中、そのアップルがEVに進出するということで、自動車業界からも脅威の存在としてその動向が注目されていた。 特に、自動車業界にとって100年に一度の大変革期といわれるゆえんである「CASE革命」の中核に位置する、「電動化」と「自動運転」をセットで開発するアップルカーを同社がどう具現化するかは、業界の大きな関心事だった。 脱炭素社会に向けたEVと自律走行実現のための自動運転の親和性をとらえたアップルカー。アップルは、「EVによる完全自動運転」を目指したものと受け止められていた。) しかし、10年越しとなるアップルカー開発の社内プロジェクト「タイタン」は、ここにきてEV開発を断念したと伝えられた。 この間、アップルは米本社のあるカリフォルニア州での試験走行を重ねてきた。23年の同州での走行試験の距離は約72万9000kmと前年の3.6倍に増えており、自動運転技術などの特許も数多く取得し実用化への布石を打ってきた。また、アップルカーを製造委託するファブレス企業としてのパートナーには、カナダのマグナ・インターナショナルや韓国の現代自動車グループに加え、日本の日産自動車の名前が候補として挙がったこともある。 アップルカー開発断念の背景には、アップルの完全自動運転EV開発が遅れている一方、生成AIを巡る競争環境の激変に対応が迫られているという社内事情があるようだ。加えて、これまで電動化の中で世界的にBEV(バッテリーEV)に偏向する風潮があったものの、直近でEV市場の変化や価格競争激化が生じるなど、EVの販売環境が悪化してきていることも挙げられる。 今後の注目ポイントとなるのが、このアップルカー撤退の動きが、自動車業界全体の電動化、特にBEVの拡大や戦略にどう影響するのか、あるいはBEVへの潮流が変わっていく(変わっている)転換点になるのか、ということだ。 それはすなわち、トヨタ自動車を筆頭に日本車のBEVへの出遅れが指摘されてきた見方が変化するのか、という意味でもある』、「アップルカー開発断念の背景には、アップルの完全自動運転EV開発が遅れている一方、生成AIを巡る競争環境の激変に対応が迫られているという社内事情があるようだ。加えて、これまで電動化の中で世界的にBEV(バッテリーEV)に偏向する風潮があったものの、直近でEV市場の変化や価格競争激化が生じるなど、EVの販売環境が悪化してきていることも挙げられる」、なるほど。
・『海外メーカーで相次ぐEV計画の修正 いわゆる「EVブーム」は、CO2削減を大命題に、欧州の環境規制強化や米国カリフォルニア州のZEV(ゼロエミッションビークル)規制、中国政府によるNEV(ニューエネルギービークル)規制といった、世界的な各種規制への対応から大きな潮流へと発展したものだ。) 欧州勢が独フォルクス・ワーゲン(VW)のテールゲート事件を契機に主流のディーゼル車からEVへの転換政策を一気に進めたほか、米国もGM、フォードがEVシフト計画を積極化した。さらに、中国は世界最大となった中国の国内市場を武器に、国家レベルでのNEV政策を押し出して「EV大国」にのし上がってきた。 一方で、日本ではホンダの三部敏宏社長が「脱エンジン」を宣言し、2040年までに新車をEVとFCV(燃料電池車)に100%切り替える方針を打ち出したものの、「敵は脱炭素であり、エンジン車ではない」(豊田章男トヨタ会長)とするトヨタの「マルチパスウェイ(全方位)」戦略を筆頭として「EV普及に後ろ向きだ」との批判を浴びてきたのも事実だ。 しかし、ここへきてEVブームの風向きが変わってきた。 23年は世界のEV販売が年間100万台を超えたが、急速に販売の伸びが鈍ってきている。中国では、過当な販売競争でNEV市場が荒れてきており、米国はEVよりハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が伸びたことが注目されている。世界各国のエネルギー事情やEV販売の補助金を抑制する動きなどでBEVの伸びが鈍化しているのは確かだ。明らかにEVシフトの過渡期におけるひずみが起きている。 EVシフトを積極的に進めようとしていた自動車各社でも、その戦略を見直す動きが広がっている。) 米GMはかねて35年以降にエンジン車を販売しない目標を掲げており、25年後半に安価なEVを投入する計画だったが、その要であったホンダとの量販価格帯EVの共同開発を撤回した。代わりに戦略を修正し、PHV投入の方向を打ち出してきている。 米フォードもEV関連の投資計画全体のうち、120億ドルを抑制すると昨年10月に発表した。また、独メルセデス・ベンツは、30年の「完全EV化」を事実上撤回し、25年までに新車販売の最大50%がEVとPHVになるという見通しを「20年代後半」に遅らせた。 EVの成長ペースが鈍化しHVやPHVが当面の電動化の“現実解”との見方が広がる中で、トヨタを筆頭とする日本車各社は、市場に合わせた展開で巻き返しの好機を見いだしつつある。 だが、大きなうねりとしてBEVが主流になる動きは、長期的に見ると変わらないはずだ。 足元のEV鈍化に一喜一憂せず、日本車各社にはEV過渡期としての現状の“現実解”に対するアドバンテージを活かしながら、低コスト化や自動運転との親和性を活かした機能開発など、長期視点でのEV対応が求められることになるだろう。 また、アップルカーの撤退で、同じくテック企業とのコラボEVの代表であるホンダとソニーグループの共同開発車「アフィーラ」の動きにも変化があるのか、こちらにも注目したい』、「ここへきてEVブームの風向きが変わってきた。 23年は世界のEV販売が年間100万台を超えたが、急速に販売の伸びが鈍ってきている。中国では、過当な販売競争でNEV市場が荒れてきており、米国はEVよりハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が伸びたことが注目されている。世界各国のエネルギー事情やEV販売の補助金を抑制する動きなどでBEVの伸びが鈍化しているのは確かだ。明らかにEVシフトの過渡期におけるひずみが起きている・・・EVの成長ペースが鈍化しHVやPHVが当面の電動化の“現実解”との見方が広がる中で、トヨタを筆頭とする日本車各社は、市場に合わせた展開で巻き返しの好機を見いだしつつある。 だが、大きなうねりとしてBEVが主流になる動きは、長期的に見ると変わらないはずだ・・・足元のEV鈍化に一喜一憂せず、日本車各社にはEV過渡期としての現状の“現実解”に対するアドバンテージを活かしながら、低コスト化や自動運転との親和性を活かした機能開発など、長期視点でのEV対応が求められることになるだろう。 また、アップルカーの撤退で、同じくテック企業とのコラボEVの代表であるホンダとソニーグループの共同開発車「アフィーラ」の動きにも変化があるのか、こちらにも注目したい」、その通りだ。
次に、3月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「中国にEV墓場、テスラ株は暴落…「やっぱりトヨタが正しかった!」と浮かれる人が見落とす死角」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340993
・『電気自動車(EV)大手である米テスラの株価が大幅に下落し、中国では「EV墓場」が出現している。対照的に、トヨタ自動車は、EV以外の選択肢を世界の消費者に提示し多くの需要を取り込んでいる。短期的には、この戦略は有効だろう。ただ、中長期的に世界のEVシフトは再加速する可能性が高い。日本の自動車メーカーは、どのように戦えばいいのだろうか』、「中長期的に世界のEVシフトは再加速する可能性が高い。日本の自動車メーカーは、どのように戦えばいいのだろうか」、確かに「中長期的」には「世界のEVシフトは再加速」に備える必要がありそうだ。
・『トヨタの株価が3割上がり テスラの株価が3割下がったワケ 一時期、大きく盛り上がった電気自動車(EV)に対する期待が、ここへ来て世界的に鈍化している。それは、米テスラをはじめ主要EVメーカーの株価の推移からも確認できる。年初から3月中旬までの間、エンジン車、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、EVなど全方位型の事業戦略を採るトヨタ自動車の株価は30%超上昇した。一方、それとは対照的にテスラの株価は、30%以上下落した。 中国では「EV墓場」が出現するほど、EVの供給過剰が社会問題化している。欧米の大手自動車メーカーのEV計画もやや頭打ち傾向になっている。人手不足と人件費高騰、サプライチェーン構築の遅れなどで、EVバッテリー関連のコストは想定以上に増えた。 対照的に、トヨタなどわが国の自動車メーカーは、EV以外の選択肢を世界の消費者に提示し多くの需要を取り込んでいる。短期的には、この戦略は有効だろう。 ただ、中長期的に世界のEVシフトは再加速する可能性が高い。特に、世界経済の成長の源泉として期待が高まるアジア地域で、わが国の自動車メーカーと、中国EVメーカーの競争は激化するだろう。 競争に勝ち残るため、わが国の自動車関連企業は次世代、次々世代の電動車の製造技術を早期に確立する必要がある。HVという有力な最終製品の実現に固執することなく、関連企業トップは先をにらんで必要な技術を磨き、世界に先駆けて実用化することが重要だ』、「中国EVメーカーの競争は激化するだろう。 競争に勝ち残るため、わが国の自動車関連企業は次世代、次々世代の電動車の製造技術を早期に確立する必要がある。HVという有力な最終製品の実現に固執することなく、関連企業トップは先をにらんで必要な技術を磨き、世界に先駆けて実用化することが重要だ」、その通りだ。
・『中国で「EV墓場」が社会問題 欧米の自動車大手もEVで苦戦 2023年の世界のEV販売台数は前年に比べて30%増えたものの、22年の前年比60%増に比べると、増加ペースは鈍化した。そして24年のEV販売台数は、23年と同程度か下回るとの予想もある。EV市場の成長の鈍化は、米テスラの決算でも確認できる。 1月、テスラのイーロン・マスクCEOは、24年の売上高の増加ペースが鈍化するとの見通しを示した。これにより同社の株価は下落し、投資判断を引き下げたアナリストもいる。新モデルの「サイバートラック」の生産が遅れていることに加え、電気自動車大手の中国BYDによる大幅な値下げ攻勢により、競争が一段と激化しているからだ。 中国では、不動産バブルが崩壊して個人消費の低迷が深刻になっている。地方政府の財政難もあり、EV販売への補助金が終了あるいは減少した。中国においてEVは供給過剰に陥り、経営破綻する新興EVメーカーも出ている。「1台買えば、もう1台が無料」といった信じられないセールを行う企業も現れたが、効果はほとんど出なかったようだ。 中国では行き場を失い放置される大量のEVの様子が、「EV墓場」として報道されてもいる。また、大雪時にバッテリーが消耗したことで立ち往生するEVが増えているともいう。春節(中華圏の旧正月)休暇で人々が帰省や旅行に出かけた際は、EV充電待ちの渋滞も発生した。こうした事例が広がり、消費者がEVを敬遠することに拍車をかけた。2月、中国のEV販売台数は前年同月比21.8%減の29万4000台に落ち込んだ。 翻って欧州では、自動車大手がEV計画の失敗を認める事態となっている。トヨタと世界トップの座を競う独フォルクスワーゲンは、15年に起きたディーゼルエンジンの排ガス不正問題を契機に、EVシフトを強化した。しかし、バッテリー製造コストの増加、ソフトウエアの開発力不足、充電インフラ整備の遅れなど課題は多い。同社CEO自ら「欧州EV市場は思ったほど拡大していない」との見解を示してもいる。 同様に独メルセデスは、「30年にEV専業メーカーになる」という目標を撤回し、新型エンジンの開発を進めている。また、仏ルノーは、市場環境が適さないとしてEV新会社Ampereの新規株式公開(IPO)を中止した。 米国でも欧州と似たような理由から、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードのEV戦略が計画よりも遅れている。あるいは、レンタカー大手のハーツがEVの値崩れに直面し、経営トップが更迭されるという事例も出ている』、「中国では行き場を失い放置される大量のEVの様子が、「EV墓場」として報道されてもいる・・・大雪時にバッテリーが消耗したことで立ち往生するEVが増えているともいう。春節(中華圏の旧正月)休暇で人々が帰省や旅行に出かけた際は、EV充電待ちの渋滞も発生した・・・春節・・・休暇で人々が帰省や旅行に出かけた際は、EV充電待ちの渋滞も発生した。こうした事例が広がり、消費者がEVを敬遠することに拍車をかけた。2月、中国のEV販売台数は前年同月比21.8%減の29万4000台に落ち込んだ・・・独フォルクスワーゲンは、15年に起きたディーゼルエンジンの排ガス不正問題を契機に、EVシフトを強化した。しかし、バッテリー製造コストの増加、ソフトウエアの開発力不足、充電インフラ整備の遅れなど課題は多い。同社CEO自ら「欧州EV市場は思ったほど拡大していない」との見解を示してもいる。 同様に独メルセデスは、「30年にEV専業メーカーになる」という目標を撤回し、新型エンジンの開発を進めている。また、仏ルノーは、市場環境が適さないとしてEV新会社Ampereの新規株式公開(IPO)を中止」、なるほど。
・『全方位戦略が奏功のトヨタ 世界が優位性を再認識 中国と欧米でEVが総崩れに近い状況とは対照的に、わが国の自動車メーカーは世界市場で健闘している。車載用半導体の供給が改善されて自動車生産と輸出が回復したこと、世界で中国製EVを排除する動きが強まったことも、HVに強みを持つわが国の自動車産業に追い風だ。 現状、リチウムイオン系バッテリーを搭載したEVの供給は、中国勢が強みを持つ。その価格競争力を支えたのは、中国政府の産業政策だ。中国はBYDや世界最大の車載用バッテリーメーカーである寧徳時代新能源科技(CATL)に、産業補助金や土地を供与することでローコスト戦略を支援してきた。これは奏功して23年のCATLの業績は、世界のEV市場の成長鈍化にもかかわらず、純利益が増えるなど好調だ。 一方、欧州委員会や米国のバイデン政権は、中国製EVやバッテリーなどの主要部品に対する「締め出し策」を強化した。中国の一大政策による中国EVの低価格競争を警戒しているのだ。安全保障面でも、EVの走行データなどが中国に漏れるとの危機感が強い。 米国や欧州の政府系機関は、中国製EVを締め出すことで国・域内企業の電動車供給に弾みをつけようとしている。ところが、欧米自動車メーカーがEV生産を計画通りに進められない状況にあるのは前述した通りだ。EVからHVなどへ生産ラインを変更するのも容易ではない。 そうした中で、少ない温室効果ガス排出量と長い航続距離を両立するHVの長所が改めて評価され、トヨタをはじめとしたHVに需要が向かっている。中国でもレクサスは依然として人気ブランドである。 23年、4年連続でトヨタは世界トップの販売台数を記録した。足元では傘下のダイハツ工業の検査不正問題なども明るみになっているが、燃費のいいエンジン車、HV、PHV、FCV、EVと、さまざまなタイプを幅広く取りそろえる同社の優位性を、世界が再認識したといえる』、「燃費のいいエンジン車、HV、PHV、FCV、EVと、さまざまなタイプを幅広く取りそろえる同社(トヨタ)の優位性を、世界が再認識したといえる」、なるほど。
・『リチウムイオン電池の教訓を糧に「全固体電池」の実用化を急げ 今後、中国では新興のEVメーカーの経営破綻がさらに増えるだろう。米アップルが自前のEV、通称「アップルカー」の開発を中止する方針だという報道も出ている。これに続いて自動運転技術などの開発プロジェクトの中止、関連分野でのスタートアップ企業の淘汰も増えそうだ。米国においては金利の高止まりリスクも、EV市場の下押し要因になるだろう。 また、米国では11月5日に大統領選挙を控えている。今後は政権が自動車業界の労働組合などに配慮して、EVシフトではなくエンジン車の生産、シェールガスやオイル採掘の支援を強化するかもしれない。それらの変化は、基本的にわが国の自動車産業にプラスに働くはずだ。主要先進国の自動車市場で、わが国メーカーの競争力が向上する可能性は高い。 一方、中長期的には世界のEVシフトは加速する可能性がある。特に、タイやインドネシアなど、これまで日本の自動車メーカーが高いシェアを維持した東南アジアの国では、経済成長の牽引(けんいん)役としてEV関連産業を重視している。BYDなどの新興勢が低価格を強みに、進出を加速させるだろう。 現状、リチウムイオン系電池の低コスト化とEVのユニット組み立て型生産において、BYDの競争力は高い。一方、従来型の自動車ビジネス、すなわち、すり合わせ技術を磨き全方位型の事業戦略を推進する点で、わが国の自動車メーカーは優位性を持つ。そのため、東南アジア市場を中心に、日本勢と中国勢の競争が激しくなる可能性は高い。 わが国自動車メーカーにとって重要なのは、EVの切り札として期待される「全固体電池」など、次世代バッテリーの実用化を急ぐことだ。かつてリチウムイオン電池の研究開発は、わが国が先行した。ただ、事業化・収益化に難航した。 この教訓を糧に、日本は次世代、次々世代のバッテリー開発を強化すべきだ。そのためには世界的に優秀な人材を適切な賃金で雇うことも欠かせない。今春闘で大幅な賃上げが実現していることは、追い風になっている。 海外の自動車、半導体、IT企業などとの連携も強化し、中国勢とは差別化できるようなわが国発のEVを生み出し、バッテリー製造などの国際規格策定を主導することも本気で狙うべきだろう。こうした発想が、全方位型の自動車メーカーの戦略に加わることを期待したい』、「わが国自動車メーカーにとって重要なのは、EVの切り札として期待される「全固体電池」など、次世代バッテリーの実用化を急ぐことだ。かつてリチウムイオン電池の研究開発は、わが国が先行した。ただ、事業化・収益化に難航した。 この教訓を糧に、日本は次世代、次々世代のバッテリー開発を強化すべきだ。そのためには世界的に優秀な人材を適切な賃金で雇うことも欠かせない。今春闘で大幅な賃上げが実現していることは、追い風になっている。海外の自動車、半導体、IT企業などとの連携も強化し、中国勢とは差別化できるようなわが国発のEVを生み出し、バッテリー製造などの国際規格策定を主導することも本気で狙うべきだろう。こうした発想が、全方位型の自動車メーカーの戦略に加わることを期待したい」、同感である。
タグ:佃 義夫氏による「アップルカー開発断念」はEVブーム終焉のサイン?トヨタら日本勢はチャンスを活かせ」 ダイヤモンド・オンライン (その14)(「アップルカー開発断念」はEVブーム終焉のサイン?トヨタら日本勢はチャンスを活かせ、中国にEV墓場 テスラ株は暴落…「やっぱりトヨタが正しかった!」と浮かれる人が見落とす死角) 電気自動車(EV) 真壁昭夫氏による「中国にEV墓場、テスラ株は暴落…「やっぱりトヨタが正しかった!」と浮かれる人が見落とす死角」 また、アップルカーの撤退で、同じくテック企業とのコラボEVの代表であるホンダとソニーグループの共同開発車「アフィーラ」の動きにも変化があるのか、こちらにも注目したい」、その通りだ。 EVの成長ペースが鈍化しHVやPHVが当面の電動化の“現実解”との見方が広がる中で、トヨタを筆頭とする日本車各社は、市場に合わせた展開で巻き返しの好機を見いだしつつある。 だが、大きなうねりとしてBEVが主流になる動きは、長期的に見ると変わらないはずだ・・・足元のEV鈍化に一喜一憂せず、日本車各社にはEV過渡期としての現状の“現実解”に対するアドバンテージを活かしながら、低コスト化や自動運転との親和性を活かした機能開発など、長期視点でのEV対応が求められることになるだろう。 「ここへきてEVブームの風向きが変わってきた。 23年は世界のEV販売が年間100万台を超えたが、急速に販売の伸びが鈍ってきている。中国では、過当な販売競争でNEV市場が荒れてきており、米国はEVよりハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)の販売が伸びたことが注目されている。世界各国のエネルギー事情やEV販売の補助金を抑制する動きなどでBEVの伸びが鈍化しているのは確かだ。明らかにEVシフトの過渡期におけるひずみが起きている・・・ 「アップルカー開発断念の背景には、アップルの完全自動運転EV開発が遅れている一方、生成AIを巡る競争環境の激変に対応が迫られているという社内事情があるようだ。加えて、これまで電動化の中で世界的にBEV(バッテリーEV)に偏向する風潮があったものの、直近でEV市場の変化や価格競争激化が生じるなど、EVの販売環境が悪化してきていることも挙げられる」、なるほど。 「中国では行き場を失い放置される大量のEVの様子が、「EV墓場」として報道されてもいる・・・大雪時にバッテリーが消耗したことで立ち往生するEVが増えているともいう。春節(中華圏の旧正月)休暇で人々が帰省や旅行に出かけた際は、EV充電待ちの渋滞も発生した・・・春節・・・休暇で人々が帰省や旅行に出かけた際は、EV充電待ちの渋滞も発生した。こうした事例が広がり、消費者がEVを敬遠することに拍車をかけた。2月、中国のEV販売台数は前年同月比21.8%減の29万4000台に落ち込んだ・・・ 「中国EVメーカーの競争は激化するだろう。 競争に勝ち残るため、わが国の自動車関連企業は次世代、次々世代の電動車の製造技術を早期に確立する必要がある。HVという有力な最終製品の実現に固執することなく、関連企業トップは先をにらんで必要な技術を磨き、世界に先駆けて実用化することが重要だ」、その通りだ。 「中長期的に世界のEVシフトは再加速する可能性が高い。日本の自動車メーカーは、どのように戦えばいいのだろうか」、確かに「中長期的」には「世界のEVシフトは再加速」に備える必要がありそうだ。 海外の自動車、半導体、IT企業などとの連携も強化し、中国勢とは差別化できるようなわが国発のEVを生み出し、バッテリー製造などの国際規格策定を主導することも本気で狙うべきだろう。こうした発想が、全方位型の自動車メーカーの戦略に加わることを期待したい」、同感である。 「わが国自動車メーカーにとって重要なのは、EVの切り札として期待される「全固体電池」など、次世代バッテリーの実用化を急ぐことだ。かつてリチウムイオン電池の研究開発は、わが国が先行した。ただ、事業化・収益化に難航した。 この教訓を糧に、日本は次世代、次々世代のバッテリー開発を強化すべきだ。そのためには世界的に優秀な人材を適切な賃金で雇うことも欠かせない。今春闘で大幅な賃上げが実現していることは、追い風になっている。 「燃費のいいエンジン車、HV、PHV、FCV、EVと、さまざまなタイプを幅広く取りそろえる同社(トヨタ)の優位性を、世界が再認識したといえる」、なるほど。 独フォルクスワーゲンは、15年に起きたディーゼルエンジンの排ガス不正問題を契機に、EVシフトを強化した。しかし、バッテリー製造コストの増加、ソフトウエアの開発力不足、充電インフラ整備の遅れなど課題は多い。同社CEO自ら「欧州EV市場は思ったほど拡大していない」との見解を示してもいる。 同様に独メルセデスは、「30年にEV専業メーカーになる」という目標を撤回し、新型エンジンの開発を進めている。また、仏ルノーは、市場環境が適さないとしてEV新会社Ampereの新規株式公開(IPO)を中止」、なるほど。
トランプ(その51)(トランプが大統領再選したときの「危険シナリオ」 「もしトラ」から「ほぼトラ」に変わりつつある、「有名大学から極左を追い出せ!」トランプ氏の主張に支持者が拍手喝采なワケ【佐藤優・池上彰対談】) [世界情勢]
トランプについては、本年1月28日に取上げた。今日は、(その51)(トランプが大統領再選したときの「危険シナリオ」 「もしトラ」から「ほぼトラ」に変わりつつある、「有名大学から極左を追い出せ!」トランプ氏の主張に支持者が拍手喝采なワケ【佐藤優・池上彰対談】)である。
先ずは、本年2月24日付け東洋経済オンラインが掲載した経済ジャーナリストの岩崎 博充氏による「トランプが大統領再選したときの「危険シナリオ」 「もしトラ」から「ほぼトラ」に変わりつつある」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/736164
・『今年の11月に行われるアメリカの大統領選挙が、早くもドナルド・トランプ前大統領の再選になるのではないかと心配されている。いまや、「もしトラ(もしかしたらトランプ)」から「ほぼトラ(ほぼトランプ)」に変わりつつあり、最近は「確トラ(確実にトランプ)」と言われる状況にまで事態は進んでいる。 実際に、トランプ氏が再選されるかどうかはわからない。「ブルームバーグ」が報道するように「トランプ氏、選挙開戦7月に軍資金枯渇の見通し-弁護士費用で綱渡り」(2024年2月15日配信)のように資金の枯渇で苦戦する可能性があるかもしれない。 将来のことはわからないが、ここではトランプ氏の大統領再選が実現した場合、世界はどうなるのか……、アメリカや日本の国民はどうなるのか……。トランプ再選後の状況を、最近の彼の言動や8年前の行動などを参考に、いくつかのシナリオを検証してみたい』、「もしトラ」から「ほぼトラ」に変わりつつあり、「最近は「確トラ」と言われる状況にまで事態は進んでいる」、願わくば「確トラ」は勘弁してもらいたいものだ。
・『シナリオ①ウクライナ戦争がロシア勝利で終わる? もともとトランプ氏は、ロシアとの関わりを指摘されてきた人間だが、つい先日もロシアに有利になるような発言をして、世間を驚かせた。「相応の資金を負担しないNATO加盟国に対しては、ロシアに好きにするように言う」として、アメリカはロシアに侵略されても、防衛しない趣旨の発言をして、バイデン大統領やNATOのトップから批判されている。 かたやロシアのプーチン大統領は、「バイデン大統領のほうが予測可能で、ロシアにとっては再選が望ましい」とコメント。プーチンの本音は「コントロールできるトランプより、できないバイデンのほうが嫌だ」と言っているのではないか、とさえ指摘されている。) もともとトランプ氏が当選した2016年の大統領選挙では、ロシアが重要な役割を果たしたと指摘されている。 トランプ氏とロシアの関係については、英国オックスフォード大学の「ComputationalPropagandaProject(コンピューターによる政治宣伝研究プロジェクト)」と、ソーシャルメディア分析企業の「グラフィカ」による共同研究の報告書が、アメリカの上院で発表された。 報告書にはロシアは政治宣伝拡散のためにFacebookやTwitter(現X)など、ソーシャルメディアを駆使して(大統領選挙に)介入した」とある。「発信のすべてが、特にドナルド・トランプに利益をもたらそうとしていたのは明白だ」と、報告書は主張している(BBCニュース、2018年12月18日)』、「ロシア」の「ソーシャルメディアを駆使して(大統領選挙に)介入」は、「特にドナルド・トランプに利益をもたらそうとしていたのは明白だ」、なるほど。
・『トランプが公表した「アジェンダ47」 実際にトランプ氏は、プーチン大統領の盟友である富豪の「オレグ・デリパスカ」とつながりのあるロシア企業3社の経済制裁を任期途中に解除している(BBCニュース、2019年1月28日)。トランプ氏は、自分が大統領に返り咲いたときの政策に対して、公約集として「アジェンダ47」を公表しているが、外交に関しては次のように明言している。 ・ウクライナは、ただちに停戦(アメリカ・ファーストの外交政策の復活) ・第3次世界大戦の防止のために、圧倒的な戦力を整備する(防衛費の大幅増強) ・NATOなどの同盟国に対しても同等の負担を要求する ロシアと戦争をしているウクライナの戦況がどうなるかは不明だが、はっきりしていることは日本を含めた同盟国が、それ相応の負担をしなければならなくなるということだろう。前回の在任中は途中で諦めた感があるトランプ氏だが、ここで返り咲けば、前回以上に強権的な姿勢が目立つ政権になることは確実で、米軍を駐留させているNATOや韓国、日本に対しても、これまで以上の高い負担を求めてくることになるはずだ。) 今でも他国に比べて莫大なコストを負担している日本だが、さらなる負担を求められる可能性もある。何よりも、多額の財政赤字を抱える日本にとっては、防衛費の大幅増強を求められるのは大きな負担になる。政府による財政支出に頼りすぎている日本経済にとっては、大きなブレーキになるはずだ。 ちなみに、ガザ地区に侵攻したイスラエルに関しては、アメリカ国内にいるユダヤ人の献金と票がトランプ氏にとっては最重要課題であり、むしろイスラエルを強く支持する側に回るとされる。「アメリカ・ファースト」ではなく「トランプ・ファースト」が彼の政治的信条の根幹だ』、「前回の在任中は途中で諦めた感があるトランプ氏だが、ここで返り咲けば、前回以上に強権的な姿勢が目立つ政権になることは確実で、米軍を駐留させているNATOや韓国、日本に対しても、これまで以上の高い負担を求めてくることになるはずだ・・・多額の財政赤字を抱える日本にとっては、防衛費の大幅増強を求められるのは大きな負担になる。政府による財政支出に頼りすぎている日本経済にとっては、大きなブレーキになるはずだ・・・イスラエルに関しては、アメリカ国内にいるユダヤ人の献金と票がトランプ氏にとっては最重要課題であり、むしろイスラエルを強く支持する側に回るとされる。「アメリカ・ファースト」ではなく「トランプ・ファースト」が彼の政治的信条の根幹だ」、なるほど。
・『シナリオ② インフレの再燃から株価暴落へ? トランプ氏の大統領再選は、同時にインフレの再燃でもある。というのも、トランプ氏の掲げる政策の大半は、インフレの原因になるものばかりだからだ。アメリカ経済に再びインフレをもたらせば、金利がまた上昇に転ずることになる。ドルが高くなり、世界中の通貨がまた安くなる。 アメリカだけではなく、世界中が再びインフレの波に襲われることになる。これまでにトランプ政権がとってきた政策や新たに公約として掲げているものをチェックすると次のようになり、その結果としてインフレの圧力が高まる。 ●保護貿易政策(中国からの輸入品に対して60%の関税を課す、というトランプ氏の発言が注目されているが、輸入品の価格上昇につながることになり、インフレ再燃の要因となる。 ●大幅な規制緩和(トランプ政権の誕生は、前回もそうだったように大幅な規制緩和が実施される。規制緩和によって景気が良くなり、株価が上がる。個人消費も拡大し、景気が一時的に良くなることは間違いない。経済が意図的に成長に転ずれば、自然にインフレが始まる。その結果として、インフレは再度の利上げを招き、株価低迷、個人消費の低迷をもたらす。 ●減税による個人消費の拡大(関税引き上げや規制緩和による増収などを背景に、先行して行われるのが「減税」だ。ポピュリズム(大衆迎合主義)政治の典型的なパターンだが、大幅な減税は個人消費を押し上げて、一時的には景気が良くなりインフレが再燃する。トランプ氏は、減税=国民の支持率が上がることを信じている。) ●移民政策強化による賃金上昇(今回の選挙でもトランプ氏が強くアピールしているのが、移民審査の厳格化だ。移民に対する審査を強化することで、移民人口を大幅に抑えてしまう可能性が高い。アメリカの経済成長の源とも言える人口増加をストップすることになり、短期的には影響が出ないものの、中長期的には賃金が上昇することになり、飲食や運送などのサービス価格が上昇し、やはりインフレを招く。 ●金融緩和政策への大幅転換(アメリカの中央銀行であるFRB議長の任期(2026年5月)が、大統領の任期中に終わるため迫ってきているが、現在のパウエル議長よりハト派=積極的な金融緩和への転換が予想される。必要以上に金利を引き下げて、景気を刺激する政策に転換することが予想され、景気の押し上げ=インフレを招くことになる。 インフレは、ドル高を招くために、日本を含めた海外でのインフレも深刻化する。インフレは、金融引締め、株価の下落などを招くため、最終的には景気が低迷していくことになる』、「トランプ政権がとってきた政策や新たに公約として掲げているものをチェックすると次のようになり・・・・・・保護貿易政策・・・大幅な規制緩和・・・減税による個人消費の拡大・・・移民政策強化による賃金上昇・・・金融緩和政策への大幅転換」いずれも「その結果としてインフレの圧力が高まる」のは確かだ。
・『シナリオ③大統領権限の強化 トランプ氏と言えば、さまざまな裁判を抱えていることで有名だが、この2月16日にはニューヨークの司法当局が、トランプ一族企業に対して約3億5400万ドル(約533億円)の支払いを命じる判決を下している。トランプ氏は「バイデンの政敵に対する魔女狩りであり、選挙妨害だ」と主張することで選挙戦に有利になるように演出。その選挙スタイルが成功しているとはいえ、今回の民事訴訟に加えて議会襲撃など4つの刑事事件でも起訴されている。 トランプ氏は大統領に再選されなければ、犯罪者として収監される可能性が高いと予想されており、亡命するか、あるいは自分が大統領になって、自分自身に恩赦を出して免責するしか道が残っていないとも言われている。さらに、トランプ氏が大統領に返り咲けば、大統領権限をフル活用して強大な権力を獲得しようとすることが予想されている。 たとえば、大統領権限を制限した1974年の「執行留保統制法」についても、トランプ氏は合憲ではないと疑問を呈しており、大統領権限を大幅に強化することが考えられる。大統領権限で、予算執行をストップさせ歳出削減を強制的に可能にし、その財源で減税を実行するかもしれない。ウクライナ支援などアメリカの利益にならないような予算は大幅に削減してくるはずだ。) 行政に限らず、共和党に有利になるような司法制度や議会運営に対してメスを入れてくる可能性も高い。もともとトランプ氏は、前回の選挙戦で陰謀論の「ディープ・ステート(闇の政府)」を打倒するとして、国家統治の本質的な部分にまで踏み込もうとしたものの未遂に終わっている。たとえば、情報機関や連邦政府の要所を占めている官僚を解雇し、汚職を排除すると称して主要な政府職員を一掃する可能性もある。 トランプ氏は、日本製鉄がアメリカの鉄鋼大手「USスチール」を買収する構想について「絶対に阻止する」と発言して注目されたが、大統領権限の強化によって、さまざまな面でアメリカ有利のビジネス体制となり、アメリカとビジネスをするのに大きな時間とコストがかかるようになってしまうかもしれない。 このほか、内政に対しては大統領権限を大幅に強化させる可能性があると報道されている。その範囲は政府内部に限らず、マスメディアなどに対しても支配権を握ろうとしている節がある。たとえば、日経速報ニュース「高関税・脱中国から陰謀論まで『トランプ公約集』要旨」(2024年2月10日配信)などを参考にまとめると、次のような政策が考えられる。 ●大統領が予算執行を停止できる「没収権」を復活させる ●国防総省や国務省、CIA(中央情報局)の人事は忠誠心で判断し支配下に置く ●反トラスト法を監視するFTC(連邦取引委員会)、放送通信事業を所管するFCC(連邦通信委員会)を大統領指揮下において管理する ●多様性を重視した教育を否定、「トランプ大学」の設立構想 ●ジェンダー教育や批判的人種理論(白人至上主義の批判)を強要する学校に対しては補助金カット』、「『トランプ公約集』要旨」の各項目はとんでもないものばかりだ。
・『リスクだらけの「トランプ2」 トランプ政権が誕生するかどうかは、まだまだ微妙だ。そもそも民主党のバイデン大統領も高齢で選挙戦を最後まで戦えるのかさえも疑問だ。そんな状況の中で、はっきりしていることはトランプ氏が共和党の候補者に正式になった場合、11月に行われる大統領選挙後も混乱が深まるということだ。最悪の場合、再びトランプ氏が選挙で負けても敗北を認めず、アメリカ国内で内戦になる可能性も完全には否定できない。つまり、トランプ氏が勝っても、負けても大混乱が避けられないということだ。 内戦が始まらない場合でも、トランプ政権の誕生はリスクだらけの日常になりそうだ。たとえば、株式や為替といった金融市場も、確かに最初は投資家の期待を受けて株価も上昇したものの、新型コロナになってからは大きく下落した。なぜ、前回のトランプ氏が選挙で負けたかと言えば、新型コロナというパンデミックの発生によって、十分な対応力を見せられなかったからだろう。 史上最高値を更新し続けているような、現在の株高の中で、今後もその勢いを維持できるかは甚だ疑問だ。超ワンマン体質では、不測の事態に直面したときに、エビデンスに基づいた正しい選択ができない可能性がある。自分の周囲をイエスマンだけで固めようとする独裁者は、いずれ馬脚を現す。 そんな状況を覚悟のうえで、与えられた時間の中で、トランプ政権の返り咲きという、これまでにない途方もないリスクに対応する方法を考えるしかない』、「超ワンマン体質では、不測の事態に直面したときに、エビデンスに基づいた正しい選択ができない可能性がある。自分の周囲をイエスマンだけで固めようとする独裁者は、いずれ馬脚を現す。 そんな状況を覚悟のうえで、与えられた時間の中で、トランプ政権の返り咲きという、これまでにない途方もないリスクに対応する方法を考えるしかない」、その通りだろう。
次に、3月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家・元外務省主任分析官の佐藤 優氏とジャーナリストの池上 彰氏の対談「有名大学から極左を追い出せ!」トランプ氏の主張に支持者が拍手喝采なワケ【佐藤優・池上彰対談】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340905
・『11月に迫る米国大統領選挙で、トランプ前大統領は優勢に戦っている。なぜトランプ氏は支持されるのか。前回に続き、スペシャル版としてジャーナリストの池上彰氏を迎えて最新の世界情勢について語り尽くす』、興味深そうだ。
・『「能力より忠誠心を重視」 トランプの公約の中身 佐藤 今年11月の米国大統領選挙では、トランプ前大統領の返り咲きが現実味を帯びてきました。 池上 トランプ氏は2023年に、「アジェンダ47」という公約を発表しています。その中身を見ていくと、どんな米国を目指しているかが分かります。 まず「ディープステート(闇の政府)」を解体する。トランプ氏は前回、大統領になれば何でも好きにできるだろうと思っていたのに、さまざまな良識派に抵抗されて思い通りにならなかった。「これは闇の政府が牛耳っているからだ」と考えたわけです。 だからディープステートを支えている連中は大統領令で皆、首にする。米国の公務員において政権運営を担う3000人から4000人程度は大統領による政治任用ですが、それ以外は公務員試験に受かって入ってきた人たちです。彼らについても、能力ではなく忠誠心を確かめ、自分の言うことを聞かないやつはすぐに首にできる仕組みを作るというのです。 佐藤 かなりの新陳代謝が起きますね。トランプ氏の第一次政権時代のブレーンは、すでに誰も残っていないでしょう。そもそも、副大統領は誰になるのか。 池上 それが注目の的です。指名争いを途中で撤退した候補者はヘイリーを除いてみんな、自分を副大統領にしてほしいようです。トランプ氏の周囲では、黒人や女性にすればバイデン氏に勝てるという議論があって、トランプ氏は考えている状態です。 「アジェンダ47」には、公正取引委員会を大統領の直属にするという項目もあります。特定企業の独占が過ぎると公正取引委員会がモノ申すわけですが、大統領命令で自由にできるようにすると言っています。 佐藤 競争原理の市場に独禁法みたいな縛りを作って介入するほうが、むしろ不公正だという論理ですね。トランプ一族が経営する複合企業が大きくなりそうです』、「「アジェンダ47」という公約を発表・・・「ディープステート・・・」を解体する。トランプ氏は前回、大統領になれば何でも好きにできるだろうと思っていたのに、さまざまな良識派に抵抗されて思い通りにならなかった。「これは闇の政府が牛耳っているからだ」と考えたわけです。 だからディープステートを支えている連中は大統領令で皆、首にする。米国の公務員において政権運営を担う3000人から4000人程度は大統領による政治任用ですが、それ以外は公務員試験に受かって入ってきた人たちです。彼らについても、能力ではなく忠誠心を確かめ、自分の言うことを聞かないやつはすぐに首にできる仕組みを作るというのです」、「政治任用」以外の人間も「能力ではなく忠誠心を確かめ、自分の言うことを聞かないやつはすぐに首にできる仕組みを作る」、これは画期的だ。
・『トランプの主張にはそれなり説得力がある 池上 巨大な私立大学への多額の寄付金に税金をかける、という項目もあります。トランプ氏が言うには「有名大学には極左がいっぱいいて、共和党を批判している。課税することによって、大学から極左の連中を追い出す」。 佐藤 米国の大学はもうけ過ぎですから、無税はおかしい。また、連邦政府の無駄な支出を削減し、減税という形で国民に還元するというので皆、拍手喝采です。 池上 子どもの性自認やトランスジェンダーについて教えた教師は、公民権違反などで厳罰に処するとも言っています。 州議会で共和党が多数を占めるフロリダ州で、一昨年7月から性的指向や性自認に関して教えることを禁止する州法が施行されました。通称「ゲイと言うな法」です。あれを国家レベルにして、LGBTQについて学校では触れないということです。 佐藤 ローティーンの子どもたちに性自認の判断を迫ったり、性転換の手術を認めたりしていいのか、という議論もあります。トランプ氏の主張は粗野ですが、それなりに説得力があるんです。つまり、ポリティカルコレクトネスを掲げて口に出してはいけないとされている問題が、本当にタブーなんだろうかとトランプ氏は問い掛けている』、「佐藤 米国の大学はもうけ過ぎですから、無税はおかしい。また、連邦政府の無駄な支出を削減し、減税という形で国民に還元するというので皆、拍手喝采です・・・佐藤 ローティーンの子どもたちに性自認の判断を迫ったり、性転換の手術を認めたりしていいのか、という議論もあります。トランプ氏の主張は粗野ですが、それなりに説得力があるんです。つまり、ポリティカルコレクトネスを掲げて口に出してはいけないとされている問題が、本当にタブーなんだろうかとトランプ氏は問い掛けている」、もっともな部分もあるようだ。
・『米国の産業界も金融界もトランプに期待 佐藤 日本では「トランプはとんでもないやつだ。大統領に返り咲いたら、世界は大混乱になる」と思い込んでいて、「なぜ米国人は、彼を再びリーダーに担ごうとしているのか」を真剣に分析しようとしません。 池上 佐藤さんは「ウクライナへ攻め込んだロシアを非難するだけでなく、その内在的論理を理解する必要がある」と言っていますね。「トランプを生み出す米国の内在的論理」についても、知らなければならないということですね。 佐藤 米国社会では過去40年で格差が急激に広がっていて、その上医療費は恐ろしいほど高額。「金がないやつは病気になったら死ね」というのが、今の米国です。こんな社会にしたエスタブリッシュメントには責任がある。それを乱暴な言葉で訴えているのが、トランプ氏じゃないでしょうか。トランプ氏は米国第一主義で輸入に規制をかけると宣言していますから、当然、国内産業が振興し、米国内の景気は良くなるでしょう。 池上 米国の産業界も金融界もトランプ氏に期待していますね。 佐藤 そういう意味では、トランプ氏はレーニンに似ている。陰謀論的な発言は別として、なぜトランプ氏が支持されるのかを考えると、合理性があると思えるんです。 池上 なるほど、トランプ現象とはトランプ革命ですか。優雅に暮らしていた帝政ロシアの貴族たちには教養があったのに、農民や工場労働者、下っ端の兵隊たちで構成されるボルシェビキによって、ひっくり返されました』、「佐藤 米国社会では過去40年で格差が急激に広がっていて、その上医療費は恐ろしいほど高額。「金がないやつは病気になったら死ね」というのが、今の米国です。こんな社会にしたエスタブリッシュメントには責任がある。それを乱暴な言葉で訴えているのが、トランプ氏じゃないでしょうか・・・トランプ氏はレーニンに似ている。陰謀論的な発言は別として、なぜトランプ氏が支持されるのかを考えると、合理性があると思えるんです。 池上 なるほど、トランプ現象とはトランプ革命ですか。優雅に暮らしていた帝政ロシアの貴族たちには教養があったのに、農民や工場労働者、下っ端の兵隊たちで構成されるボルシェビキによって、ひっくり返されました」、確かに主張にもまともな部分もあるようだ。
・『戦争に自国の兵を送らない米国の狡さ 佐藤 ウクライナ戦争について、他国の領土を侵略したロシアは明らかに間違っています。しかし西側は、ウクライナに「われわれの自由や民主主義や価値観を守るために戦え」と言って、お金と武器だけ貸し付ける。死ぬのはウクライナ人とロシア人だけ。これがモラル的に正しいのか。 ひと昔前の米国だったら、自分たちが戦いました。自由社会を守るためにベトナムへ行き、テロと戦うためにアフガニスタンへ行きました。最近の米国には狡さと嘘があるでしょう。トランプ氏は、そこも巧みについていると思います。 池上 米国の狡さでいうと、オバマ時代に過激派組織「イスラム国」(IS)が勢力を拡大したときも、米兵が死なないようにクルド人に武器や金を送って戦わせましたね。クルドの民兵に万単位の犠牲が出て、ようやくISを鎮めることができました。米軍はクルド人を支援するため後方にいたんですが、トランプ氏が大統領になったら撤退させました。 佐藤 台湾有事が現実になれば、ウクライナ戦争の繰り返しになるかもしれません。台湾人が民主主義を守るために、中国人と戦う。気をつけないといけないのは、憲法9条を改正して日本が参戦できるようになれば、「武器と金は提供するから戦ってこい」と言われるかもしれないことです。米国的な価値観を守るために、日本が中国と戦うことになりかねません。 トランプ氏が「自由や民主主義を守るために、米軍が他国へ行く必要はない。北大西洋条約機構(NATO)だって、ロシアが怖いなら自分たちで対応しろ」というのは突き放した表現ですが、素朴な正しさがあります』、「ひと昔前の米国だったら、自分たちが戦いました。自由社会を守るためにベトナムへ行き、テロと戦うためにアフガニスタンへ行きました。最近の米国には狡さと嘘があるでしょう。トランプ氏は、そこも巧みについていると思います・・・台湾人が民主主義を守るために、中国人と戦う。気をつけないといけないのは、憲法9条を改正して日本が参戦できるようになれば、「武器と金は提供するから戦ってこい」と言われるかもしれないことです。米国的な価値観を守るために、日本が中国と戦うことになりかねません」、台湾がらみでは、日本は注意深く行動すべきだ。
・『トランプは常軌を逸しているが「怪しげな人」しか革命は起こせない 池上「なぜ米国人は、トランプの言うことを信じるんですか?」とよく聞かれます。「大統領がおっしゃってるんだから、正しいに違いない」と、米国大統領の権威というものを信じている人たちが多いですね。 佐藤 正当な選挙結果を暴力で覆そうと試みたわけだから、普通の法治国家なら政治劇場への入場券を失うはずです。それなのに彼は、失っていない。そう考えると米国では、規格外のことが起きているんです。 レーニンがインテリで貴族だったように、考えてみればトランプ氏もエスタブリッシュメント側の人です。ところが何かの巡り合わせによって、虐げられた階級の代表者になっています。トランプ氏は常軌を逸したような人物ですが、歴史を振り返ると、こういうタイプにしか革命はできません。歴史を動かすのはいつも怪しげな人たちです。レーニンだって既成概念を否定するダダイストだし、奥さんと愛人と一緒に住んでいました。 池上 スターリンは銀行強盗をやったし、売春宿を経営してすごくもうけた。レーニンから「革命の資金集めのための売春宿経営はいいけど、そっちが本業じゃないからいいかげんにしておけ」とたしなめられたという話があります』、「レーニンがインテリで貴族だったように、考えてみればトランプ氏もエスタブリッシュメント側の人です。ところが何かの巡り合わせによって、虐げられた階級の代表者になっています。トランプ氏は常軌を逸したような人物ですが、歴史を振り返ると、こういうタイプにしか革命はできません。歴史を動かすのはいつも怪しげな人たちです」、なるほど。
・『ディープステートは日本を含めて実在する 佐藤 トランプ氏の発言を、もっと真面目に捉えなければいけないと思います。彼の言うディープステートは、日本を含めて実在します。近代的な国家システムは、選挙によって選ばれた政治家と、資格試験によって登用された官僚で成り立っています。しかし影の陰謀団ではないにせよ、正規の手続きを経ていないのに政治や経済政策の決定に関与する人たちがいます。日本で言えば、しばしば政府の諮問会議や有識者会議のメンバーになっていた、ヤマト運輸の故小倉昌男さんやJR東海の故葛西敬之さん。 池上 古くは、故中曽根康弘元首相のブレーンだった故瀬島龍三さんとか。 佐藤 さらに中高一貫校のつながりなど、表に一切出てこない事実上のブレーンもいます。彼らの主張が政策に採用されたら、誰がどう責任を取るのか。民主的統制を経ていないエスタブリッシュメントたちが国家意思を形成するのは、世界的な傾向ですが、そこには問題も孕んでいます。 われわれは今、時代の転換点にいます。革命家であるトランプ氏に対して忌避感を持つのは、旧世代のエスタブリッシュメントの感覚ではないでしょうか。 池上 4年後にトランプ氏の評価は一変しているかもしれませんね』、「日本」では、「政府の諮問会議や有識者会議のメンバーになっていた、ヤマト運輸の故小倉昌男さんやJR東海の故葛西敬之さん」など大勢いる。「民主的統制を経ていないエスタブリッシュメントたちが国家意思を形成する」のは確かに問題だ。「トランプ氏」の言動を巡って「日本」側の問題まで炙り出されたようだ。
先ずは、本年2月24日付け東洋経済オンラインが掲載した経済ジャーナリストの岩崎 博充氏による「トランプが大統領再選したときの「危険シナリオ」 「もしトラ」から「ほぼトラ」に変わりつつある」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/736164
・『今年の11月に行われるアメリカの大統領選挙が、早くもドナルド・トランプ前大統領の再選になるのではないかと心配されている。いまや、「もしトラ(もしかしたらトランプ)」から「ほぼトラ(ほぼトランプ)」に変わりつつあり、最近は「確トラ(確実にトランプ)」と言われる状況にまで事態は進んでいる。 実際に、トランプ氏が再選されるかどうかはわからない。「ブルームバーグ」が報道するように「トランプ氏、選挙開戦7月に軍資金枯渇の見通し-弁護士費用で綱渡り」(2024年2月15日配信)のように資金の枯渇で苦戦する可能性があるかもしれない。 将来のことはわからないが、ここではトランプ氏の大統領再選が実現した場合、世界はどうなるのか……、アメリカや日本の国民はどうなるのか……。トランプ再選後の状況を、最近の彼の言動や8年前の行動などを参考に、いくつかのシナリオを検証してみたい』、「もしトラ」から「ほぼトラ」に変わりつつあり、「最近は「確トラ」と言われる状況にまで事態は進んでいる」、願わくば「確トラ」は勘弁してもらいたいものだ。
・『シナリオ①ウクライナ戦争がロシア勝利で終わる? もともとトランプ氏は、ロシアとの関わりを指摘されてきた人間だが、つい先日もロシアに有利になるような発言をして、世間を驚かせた。「相応の資金を負担しないNATO加盟国に対しては、ロシアに好きにするように言う」として、アメリカはロシアに侵略されても、防衛しない趣旨の発言をして、バイデン大統領やNATOのトップから批判されている。 かたやロシアのプーチン大統領は、「バイデン大統領のほうが予測可能で、ロシアにとっては再選が望ましい」とコメント。プーチンの本音は「コントロールできるトランプより、できないバイデンのほうが嫌だ」と言っているのではないか、とさえ指摘されている。) もともとトランプ氏が当選した2016年の大統領選挙では、ロシアが重要な役割を果たしたと指摘されている。 トランプ氏とロシアの関係については、英国オックスフォード大学の「ComputationalPropagandaProject(コンピューターによる政治宣伝研究プロジェクト)」と、ソーシャルメディア分析企業の「グラフィカ」による共同研究の報告書が、アメリカの上院で発表された。 報告書にはロシアは政治宣伝拡散のためにFacebookやTwitter(現X)など、ソーシャルメディアを駆使して(大統領選挙に)介入した」とある。「発信のすべてが、特にドナルド・トランプに利益をもたらそうとしていたのは明白だ」と、報告書は主張している(BBCニュース、2018年12月18日)』、「ロシア」の「ソーシャルメディアを駆使して(大統領選挙に)介入」は、「特にドナルド・トランプに利益をもたらそうとしていたのは明白だ」、なるほど。
・『トランプが公表した「アジェンダ47」 実際にトランプ氏は、プーチン大統領の盟友である富豪の「オレグ・デリパスカ」とつながりのあるロシア企業3社の経済制裁を任期途中に解除している(BBCニュース、2019年1月28日)。トランプ氏は、自分が大統領に返り咲いたときの政策に対して、公約集として「アジェンダ47」を公表しているが、外交に関しては次のように明言している。 ・ウクライナは、ただちに停戦(アメリカ・ファーストの外交政策の復活) ・第3次世界大戦の防止のために、圧倒的な戦力を整備する(防衛費の大幅増強) ・NATOなどの同盟国に対しても同等の負担を要求する ロシアと戦争をしているウクライナの戦況がどうなるかは不明だが、はっきりしていることは日本を含めた同盟国が、それ相応の負担をしなければならなくなるということだろう。前回の在任中は途中で諦めた感があるトランプ氏だが、ここで返り咲けば、前回以上に強権的な姿勢が目立つ政権になることは確実で、米軍を駐留させているNATOや韓国、日本に対しても、これまで以上の高い負担を求めてくることになるはずだ。) 今でも他国に比べて莫大なコストを負担している日本だが、さらなる負担を求められる可能性もある。何よりも、多額の財政赤字を抱える日本にとっては、防衛費の大幅増強を求められるのは大きな負担になる。政府による財政支出に頼りすぎている日本経済にとっては、大きなブレーキになるはずだ。 ちなみに、ガザ地区に侵攻したイスラエルに関しては、アメリカ国内にいるユダヤ人の献金と票がトランプ氏にとっては最重要課題であり、むしろイスラエルを強く支持する側に回るとされる。「アメリカ・ファースト」ではなく「トランプ・ファースト」が彼の政治的信条の根幹だ』、「前回の在任中は途中で諦めた感があるトランプ氏だが、ここで返り咲けば、前回以上に強権的な姿勢が目立つ政権になることは確実で、米軍を駐留させているNATOや韓国、日本に対しても、これまで以上の高い負担を求めてくることになるはずだ・・・多額の財政赤字を抱える日本にとっては、防衛費の大幅増強を求められるのは大きな負担になる。政府による財政支出に頼りすぎている日本経済にとっては、大きなブレーキになるはずだ・・・イスラエルに関しては、アメリカ国内にいるユダヤ人の献金と票がトランプ氏にとっては最重要課題であり、むしろイスラエルを強く支持する側に回るとされる。「アメリカ・ファースト」ではなく「トランプ・ファースト」が彼の政治的信条の根幹だ」、なるほど。
・『シナリオ② インフレの再燃から株価暴落へ? トランプ氏の大統領再選は、同時にインフレの再燃でもある。というのも、トランプ氏の掲げる政策の大半は、インフレの原因になるものばかりだからだ。アメリカ経済に再びインフレをもたらせば、金利がまた上昇に転ずることになる。ドルが高くなり、世界中の通貨がまた安くなる。 アメリカだけではなく、世界中が再びインフレの波に襲われることになる。これまでにトランプ政権がとってきた政策や新たに公約として掲げているものをチェックすると次のようになり、その結果としてインフレの圧力が高まる。 ●保護貿易政策(中国からの輸入品に対して60%の関税を課す、というトランプ氏の発言が注目されているが、輸入品の価格上昇につながることになり、インフレ再燃の要因となる。 ●大幅な規制緩和(トランプ政権の誕生は、前回もそうだったように大幅な規制緩和が実施される。規制緩和によって景気が良くなり、株価が上がる。個人消費も拡大し、景気が一時的に良くなることは間違いない。経済が意図的に成長に転ずれば、自然にインフレが始まる。その結果として、インフレは再度の利上げを招き、株価低迷、個人消費の低迷をもたらす。 ●減税による個人消費の拡大(関税引き上げや規制緩和による増収などを背景に、先行して行われるのが「減税」だ。ポピュリズム(大衆迎合主義)政治の典型的なパターンだが、大幅な減税は個人消費を押し上げて、一時的には景気が良くなりインフレが再燃する。トランプ氏は、減税=国民の支持率が上がることを信じている。) ●移民政策強化による賃金上昇(今回の選挙でもトランプ氏が強くアピールしているのが、移民審査の厳格化だ。移民に対する審査を強化することで、移民人口を大幅に抑えてしまう可能性が高い。アメリカの経済成長の源とも言える人口増加をストップすることになり、短期的には影響が出ないものの、中長期的には賃金が上昇することになり、飲食や運送などのサービス価格が上昇し、やはりインフレを招く。 ●金融緩和政策への大幅転換(アメリカの中央銀行であるFRB議長の任期(2026年5月)が、大統領の任期中に終わるため迫ってきているが、現在のパウエル議長よりハト派=積極的な金融緩和への転換が予想される。必要以上に金利を引き下げて、景気を刺激する政策に転換することが予想され、景気の押し上げ=インフレを招くことになる。 インフレは、ドル高を招くために、日本を含めた海外でのインフレも深刻化する。インフレは、金融引締め、株価の下落などを招くため、最終的には景気が低迷していくことになる』、「トランプ政権がとってきた政策や新たに公約として掲げているものをチェックすると次のようになり・・・・・・保護貿易政策・・・大幅な規制緩和・・・減税による個人消費の拡大・・・移民政策強化による賃金上昇・・・金融緩和政策への大幅転換」いずれも「その結果としてインフレの圧力が高まる」のは確かだ。
・『シナリオ③大統領権限の強化 トランプ氏と言えば、さまざまな裁判を抱えていることで有名だが、この2月16日にはニューヨークの司法当局が、トランプ一族企業に対して約3億5400万ドル(約533億円)の支払いを命じる判決を下している。トランプ氏は「バイデンの政敵に対する魔女狩りであり、選挙妨害だ」と主張することで選挙戦に有利になるように演出。その選挙スタイルが成功しているとはいえ、今回の民事訴訟に加えて議会襲撃など4つの刑事事件でも起訴されている。 トランプ氏は大統領に再選されなければ、犯罪者として収監される可能性が高いと予想されており、亡命するか、あるいは自分が大統領になって、自分自身に恩赦を出して免責するしか道が残っていないとも言われている。さらに、トランプ氏が大統領に返り咲けば、大統領権限をフル活用して強大な権力を獲得しようとすることが予想されている。 たとえば、大統領権限を制限した1974年の「執行留保統制法」についても、トランプ氏は合憲ではないと疑問を呈しており、大統領権限を大幅に強化することが考えられる。大統領権限で、予算執行をストップさせ歳出削減を強制的に可能にし、その財源で減税を実行するかもしれない。ウクライナ支援などアメリカの利益にならないような予算は大幅に削減してくるはずだ。) 行政に限らず、共和党に有利になるような司法制度や議会運営に対してメスを入れてくる可能性も高い。もともとトランプ氏は、前回の選挙戦で陰謀論の「ディープ・ステート(闇の政府)」を打倒するとして、国家統治の本質的な部分にまで踏み込もうとしたものの未遂に終わっている。たとえば、情報機関や連邦政府の要所を占めている官僚を解雇し、汚職を排除すると称して主要な政府職員を一掃する可能性もある。 トランプ氏は、日本製鉄がアメリカの鉄鋼大手「USスチール」を買収する構想について「絶対に阻止する」と発言して注目されたが、大統領権限の強化によって、さまざまな面でアメリカ有利のビジネス体制となり、アメリカとビジネスをするのに大きな時間とコストがかかるようになってしまうかもしれない。 このほか、内政に対しては大統領権限を大幅に強化させる可能性があると報道されている。その範囲は政府内部に限らず、マスメディアなどに対しても支配権を握ろうとしている節がある。たとえば、日経速報ニュース「高関税・脱中国から陰謀論まで『トランプ公約集』要旨」(2024年2月10日配信)などを参考にまとめると、次のような政策が考えられる。 ●大統領が予算執行を停止できる「没収権」を復活させる ●国防総省や国務省、CIA(中央情報局)の人事は忠誠心で判断し支配下に置く ●反トラスト法を監視するFTC(連邦取引委員会)、放送通信事業を所管するFCC(連邦通信委員会)を大統領指揮下において管理する ●多様性を重視した教育を否定、「トランプ大学」の設立構想 ●ジェンダー教育や批判的人種理論(白人至上主義の批判)を強要する学校に対しては補助金カット』、「『トランプ公約集』要旨」の各項目はとんでもないものばかりだ。
・『リスクだらけの「トランプ2」 トランプ政権が誕生するかどうかは、まだまだ微妙だ。そもそも民主党のバイデン大統領も高齢で選挙戦を最後まで戦えるのかさえも疑問だ。そんな状況の中で、はっきりしていることはトランプ氏が共和党の候補者に正式になった場合、11月に行われる大統領選挙後も混乱が深まるということだ。最悪の場合、再びトランプ氏が選挙で負けても敗北を認めず、アメリカ国内で内戦になる可能性も完全には否定できない。つまり、トランプ氏が勝っても、負けても大混乱が避けられないということだ。 内戦が始まらない場合でも、トランプ政権の誕生はリスクだらけの日常になりそうだ。たとえば、株式や為替といった金融市場も、確かに最初は投資家の期待を受けて株価も上昇したものの、新型コロナになってからは大きく下落した。なぜ、前回のトランプ氏が選挙で負けたかと言えば、新型コロナというパンデミックの発生によって、十分な対応力を見せられなかったからだろう。 史上最高値を更新し続けているような、現在の株高の中で、今後もその勢いを維持できるかは甚だ疑問だ。超ワンマン体質では、不測の事態に直面したときに、エビデンスに基づいた正しい選択ができない可能性がある。自分の周囲をイエスマンだけで固めようとする独裁者は、いずれ馬脚を現す。 そんな状況を覚悟のうえで、与えられた時間の中で、トランプ政権の返り咲きという、これまでにない途方もないリスクに対応する方法を考えるしかない』、「超ワンマン体質では、不測の事態に直面したときに、エビデンスに基づいた正しい選択ができない可能性がある。自分の周囲をイエスマンだけで固めようとする独裁者は、いずれ馬脚を現す。 そんな状況を覚悟のうえで、与えられた時間の中で、トランプ政権の返り咲きという、これまでにない途方もないリスクに対応する方法を考えるしかない」、その通りだろう。
次に、3月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した作家・元外務省主任分析官の佐藤 優氏とジャーナリストの池上 彰氏の対談「有名大学から極左を追い出せ!」トランプ氏の主張に支持者が拍手喝采なワケ【佐藤優・池上彰対談】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340905
・『11月に迫る米国大統領選挙で、トランプ前大統領は優勢に戦っている。なぜトランプ氏は支持されるのか。前回に続き、スペシャル版としてジャーナリストの池上彰氏を迎えて最新の世界情勢について語り尽くす』、興味深そうだ。
・『「能力より忠誠心を重視」 トランプの公約の中身 佐藤 今年11月の米国大統領選挙では、トランプ前大統領の返り咲きが現実味を帯びてきました。 池上 トランプ氏は2023年に、「アジェンダ47」という公約を発表しています。その中身を見ていくと、どんな米国を目指しているかが分かります。 まず「ディープステート(闇の政府)」を解体する。トランプ氏は前回、大統領になれば何でも好きにできるだろうと思っていたのに、さまざまな良識派に抵抗されて思い通りにならなかった。「これは闇の政府が牛耳っているからだ」と考えたわけです。 だからディープステートを支えている連中は大統領令で皆、首にする。米国の公務員において政権運営を担う3000人から4000人程度は大統領による政治任用ですが、それ以外は公務員試験に受かって入ってきた人たちです。彼らについても、能力ではなく忠誠心を確かめ、自分の言うことを聞かないやつはすぐに首にできる仕組みを作るというのです。 佐藤 かなりの新陳代謝が起きますね。トランプ氏の第一次政権時代のブレーンは、すでに誰も残っていないでしょう。そもそも、副大統領は誰になるのか。 池上 それが注目の的です。指名争いを途中で撤退した候補者はヘイリーを除いてみんな、自分を副大統領にしてほしいようです。トランプ氏の周囲では、黒人や女性にすればバイデン氏に勝てるという議論があって、トランプ氏は考えている状態です。 「アジェンダ47」には、公正取引委員会を大統領の直属にするという項目もあります。特定企業の独占が過ぎると公正取引委員会がモノ申すわけですが、大統領命令で自由にできるようにすると言っています。 佐藤 競争原理の市場に独禁法みたいな縛りを作って介入するほうが、むしろ不公正だという論理ですね。トランプ一族が経営する複合企業が大きくなりそうです』、「「アジェンダ47」という公約を発表・・・「ディープステート・・・」を解体する。トランプ氏は前回、大統領になれば何でも好きにできるだろうと思っていたのに、さまざまな良識派に抵抗されて思い通りにならなかった。「これは闇の政府が牛耳っているからだ」と考えたわけです。 だからディープステートを支えている連中は大統領令で皆、首にする。米国の公務員において政権運営を担う3000人から4000人程度は大統領による政治任用ですが、それ以外は公務員試験に受かって入ってきた人たちです。彼らについても、能力ではなく忠誠心を確かめ、自分の言うことを聞かないやつはすぐに首にできる仕組みを作るというのです」、「政治任用」以外の人間も「能力ではなく忠誠心を確かめ、自分の言うことを聞かないやつはすぐに首にできる仕組みを作る」、これは画期的だ。
・『トランプの主張にはそれなり説得力がある 池上 巨大な私立大学への多額の寄付金に税金をかける、という項目もあります。トランプ氏が言うには「有名大学には極左がいっぱいいて、共和党を批判している。課税することによって、大学から極左の連中を追い出す」。 佐藤 米国の大学はもうけ過ぎですから、無税はおかしい。また、連邦政府の無駄な支出を削減し、減税という形で国民に還元するというので皆、拍手喝采です。 池上 子どもの性自認やトランスジェンダーについて教えた教師は、公民権違反などで厳罰に処するとも言っています。 州議会で共和党が多数を占めるフロリダ州で、一昨年7月から性的指向や性自認に関して教えることを禁止する州法が施行されました。通称「ゲイと言うな法」です。あれを国家レベルにして、LGBTQについて学校では触れないということです。 佐藤 ローティーンの子どもたちに性自認の判断を迫ったり、性転換の手術を認めたりしていいのか、という議論もあります。トランプ氏の主張は粗野ですが、それなりに説得力があるんです。つまり、ポリティカルコレクトネスを掲げて口に出してはいけないとされている問題が、本当にタブーなんだろうかとトランプ氏は問い掛けている』、「佐藤 米国の大学はもうけ過ぎですから、無税はおかしい。また、連邦政府の無駄な支出を削減し、減税という形で国民に還元するというので皆、拍手喝采です・・・佐藤 ローティーンの子どもたちに性自認の判断を迫ったり、性転換の手術を認めたりしていいのか、という議論もあります。トランプ氏の主張は粗野ですが、それなりに説得力があるんです。つまり、ポリティカルコレクトネスを掲げて口に出してはいけないとされている問題が、本当にタブーなんだろうかとトランプ氏は問い掛けている」、もっともな部分もあるようだ。
・『米国の産業界も金融界もトランプに期待 佐藤 日本では「トランプはとんでもないやつだ。大統領に返り咲いたら、世界は大混乱になる」と思い込んでいて、「なぜ米国人は、彼を再びリーダーに担ごうとしているのか」を真剣に分析しようとしません。 池上 佐藤さんは「ウクライナへ攻め込んだロシアを非難するだけでなく、その内在的論理を理解する必要がある」と言っていますね。「トランプを生み出す米国の内在的論理」についても、知らなければならないということですね。 佐藤 米国社会では過去40年で格差が急激に広がっていて、その上医療費は恐ろしいほど高額。「金がないやつは病気になったら死ね」というのが、今の米国です。こんな社会にしたエスタブリッシュメントには責任がある。それを乱暴な言葉で訴えているのが、トランプ氏じゃないでしょうか。トランプ氏は米国第一主義で輸入に規制をかけると宣言していますから、当然、国内産業が振興し、米国内の景気は良くなるでしょう。 池上 米国の産業界も金融界もトランプ氏に期待していますね。 佐藤 そういう意味では、トランプ氏はレーニンに似ている。陰謀論的な発言は別として、なぜトランプ氏が支持されるのかを考えると、合理性があると思えるんです。 池上 なるほど、トランプ現象とはトランプ革命ですか。優雅に暮らしていた帝政ロシアの貴族たちには教養があったのに、農民や工場労働者、下っ端の兵隊たちで構成されるボルシェビキによって、ひっくり返されました』、「佐藤 米国社会では過去40年で格差が急激に広がっていて、その上医療費は恐ろしいほど高額。「金がないやつは病気になったら死ね」というのが、今の米国です。こんな社会にしたエスタブリッシュメントには責任がある。それを乱暴な言葉で訴えているのが、トランプ氏じゃないでしょうか・・・トランプ氏はレーニンに似ている。陰謀論的な発言は別として、なぜトランプ氏が支持されるのかを考えると、合理性があると思えるんです。 池上 なるほど、トランプ現象とはトランプ革命ですか。優雅に暮らしていた帝政ロシアの貴族たちには教養があったのに、農民や工場労働者、下っ端の兵隊たちで構成されるボルシェビキによって、ひっくり返されました」、確かに主張にもまともな部分もあるようだ。
・『戦争に自国の兵を送らない米国の狡さ 佐藤 ウクライナ戦争について、他国の領土を侵略したロシアは明らかに間違っています。しかし西側は、ウクライナに「われわれの自由や民主主義や価値観を守るために戦え」と言って、お金と武器だけ貸し付ける。死ぬのはウクライナ人とロシア人だけ。これがモラル的に正しいのか。 ひと昔前の米国だったら、自分たちが戦いました。自由社会を守るためにベトナムへ行き、テロと戦うためにアフガニスタンへ行きました。最近の米国には狡さと嘘があるでしょう。トランプ氏は、そこも巧みについていると思います。 池上 米国の狡さでいうと、オバマ時代に過激派組織「イスラム国」(IS)が勢力を拡大したときも、米兵が死なないようにクルド人に武器や金を送って戦わせましたね。クルドの民兵に万単位の犠牲が出て、ようやくISを鎮めることができました。米軍はクルド人を支援するため後方にいたんですが、トランプ氏が大統領になったら撤退させました。 佐藤 台湾有事が現実になれば、ウクライナ戦争の繰り返しになるかもしれません。台湾人が民主主義を守るために、中国人と戦う。気をつけないといけないのは、憲法9条を改正して日本が参戦できるようになれば、「武器と金は提供するから戦ってこい」と言われるかもしれないことです。米国的な価値観を守るために、日本が中国と戦うことになりかねません。 トランプ氏が「自由や民主主義を守るために、米軍が他国へ行く必要はない。北大西洋条約機構(NATO)だって、ロシアが怖いなら自分たちで対応しろ」というのは突き放した表現ですが、素朴な正しさがあります』、「ひと昔前の米国だったら、自分たちが戦いました。自由社会を守るためにベトナムへ行き、テロと戦うためにアフガニスタンへ行きました。最近の米国には狡さと嘘があるでしょう。トランプ氏は、そこも巧みについていると思います・・・台湾人が民主主義を守るために、中国人と戦う。気をつけないといけないのは、憲法9条を改正して日本が参戦できるようになれば、「武器と金は提供するから戦ってこい」と言われるかもしれないことです。米国的な価値観を守るために、日本が中国と戦うことになりかねません」、台湾がらみでは、日本は注意深く行動すべきだ。
・『トランプは常軌を逸しているが「怪しげな人」しか革命は起こせない 池上「なぜ米国人は、トランプの言うことを信じるんですか?」とよく聞かれます。「大統領がおっしゃってるんだから、正しいに違いない」と、米国大統領の権威というものを信じている人たちが多いですね。 佐藤 正当な選挙結果を暴力で覆そうと試みたわけだから、普通の法治国家なら政治劇場への入場券を失うはずです。それなのに彼は、失っていない。そう考えると米国では、規格外のことが起きているんです。 レーニンがインテリで貴族だったように、考えてみればトランプ氏もエスタブリッシュメント側の人です。ところが何かの巡り合わせによって、虐げられた階級の代表者になっています。トランプ氏は常軌を逸したような人物ですが、歴史を振り返ると、こういうタイプにしか革命はできません。歴史を動かすのはいつも怪しげな人たちです。レーニンだって既成概念を否定するダダイストだし、奥さんと愛人と一緒に住んでいました。 池上 スターリンは銀行強盗をやったし、売春宿を経営してすごくもうけた。レーニンから「革命の資金集めのための売春宿経営はいいけど、そっちが本業じゃないからいいかげんにしておけ」とたしなめられたという話があります』、「レーニンがインテリで貴族だったように、考えてみればトランプ氏もエスタブリッシュメント側の人です。ところが何かの巡り合わせによって、虐げられた階級の代表者になっています。トランプ氏は常軌を逸したような人物ですが、歴史を振り返ると、こういうタイプにしか革命はできません。歴史を動かすのはいつも怪しげな人たちです」、なるほど。
・『ディープステートは日本を含めて実在する 佐藤 トランプ氏の発言を、もっと真面目に捉えなければいけないと思います。彼の言うディープステートは、日本を含めて実在します。近代的な国家システムは、選挙によって選ばれた政治家と、資格試験によって登用された官僚で成り立っています。しかし影の陰謀団ではないにせよ、正規の手続きを経ていないのに政治や経済政策の決定に関与する人たちがいます。日本で言えば、しばしば政府の諮問会議や有識者会議のメンバーになっていた、ヤマト運輸の故小倉昌男さんやJR東海の故葛西敬之さん。 池上 古くは、故中曽根康弘元首相のブレーンだった故瀬島龍三さんとか。 佐藤 さらに中高一貫校のつながりなど、表に一切出てこない事実上のブレーンもいます。彼らの主張が政策に採用されたら、誰がどう責任を取るのか。民主的統制を経ていないエスタブリッシュメントたちが国家意思を形成するのは、世界的な傾向ですが、そこには問題も孕んでいます。 われわれは今、時代の転換点にいます。革命家であるトランプ氏に対して忌避感を持つのは、旧世代のエスタブリッシュメントの感覚ではないでしょうか。 池上 4年後にトランプ氏の評価は一変しているかもしれませんね』、「日本」では、「政府の諮問会議や有識者会議のメンバーになっていた、ヤマト運輸の故小倉昌男さんやJR東海の故葛西敬之さん」など大勢いる。「民主的統制を経ていないエスタブリッシュメントたちが国家意思を形成する」のは確かに問題だ。「トランプ氏」の言動を巡って「日本」側の問題まで炙り出されたようだ。
タグ:トランプ イスラエルに関しては、アメリカ国内にいるユダヤ人の献金と票がトランプ氏にとっては最重要課題であり、むしろイスラエルを強く支持する側に回るとされる。「アメリカ・ファースト」ではなく「トランプ・ファースト」が彼の政治的信条の根幹だ」、なるほど。 「前回の在任中は途中で諦めた感があるトランプ氏だが、ここで返り咲けば、前回以上に強権的な姿勢が目立つ政権になることは確実で、米軍を駐留させているNATOや韓国、日本に対しても、これまで以上の高い負担を求めてくることになるはずだ・・・多額の財政赤字を抱える日本にとっては、防衛費の大幅増強を求められるのは大きな負担になる。政府による財政支出に頼りすぎている日本経済にとっては、大きなブレーキになるはずだ・・・ 「ロシア」の「ソーシャルメディアを駆使して(大統領選挙に)介入」は、「特にドナルド・トランプに利益をもたらそうとしていたのは明白だ」、なるほど。 「もしトラ」から「ほぼトラ」に変わりつつあり、「最近は「確トラ」と言われる状況にまで事態は進んでいる」、願わくば「確トラ」は勘弁してもらいたいものだ。 岩崎 博充氏による「トランプが大統領再選したときの「危険シナリオ」 「もしトラ」から「ほぼトラ」に変わりつつある」 東洋経済オンライン (その51)(トランプが大統領再選したときの「危険シナリオ」 「もしトラ」から「ほぼトラ」に変わりつつある、「有名大学から極左を追い出せ!」トランプ氏の主張に支持者が拍手喝采なワケ【佐藤優・池上彰対談】) ダイヤモンド・オンライン 「超ワンマン体質では、不測の事態に直面したときに、エビデンスに基づいた正しい選択ができない可能性がある。自分の周囲をイエスマンだけで固めようとする独裁者は、いずれ馬脚を現す。 そんな状況を覚悟のうえで、与えられた時間の中で、トランプ政権の返り咲きという、これまでにない途方もないリスクに対応する方法を考えるしかない」、その通りだろう。 「『トランプ公約集』要旨」の各項目はとんでもないものばかりだ。 「トランプ政権がとってきた政策や新たに公約として掲げているものをチェックすると次のようになり・・・・・・保護貿易政策・・・大幅な規制緩和・・・減税による個人消費の拡大・・・移民政策強化による賃金上昇・・・金融緩和政策への大幅転換」いずれも「その結果としてインフレの圧力が高まる」のは確かだ。 「佐藤 米国の大学はもうけ過ぎですから、無税はおかしい。また、連邦政府の無駄な支出を削減し、減税という形で国民に還元するというので皆、拍手喝采です・・・佐藤 ローティーンの子どもたちに性自認の判断を迫ったり、性転換の手術を認めたりしていいのか、という議論もあります。トランプ氏の主張は粗野ですが、それなりに説得力があるんです。 だからディープステートを支えている連中は大統領令で皆、首にする。米国の公務員において政権運営を担う3000人から4000人程度は大統領による政治任用ですが、それ以外は公務員試験に受かって入ってきた人たちです。彼らについても、能力ではなく忠誠心を確かめ、自分の言うことを聞かないやつはすぐに首にできる仕組みを作るというのです」、「政治任用」以外の人間も「能力ではなく忠誠心を確かめ、自分の言うことを聞かないやつはすぐに首にできる仕組みを作る」、これは画期的だ。 「「アジェンダ47」という公約を発表・・・「ディープステート・・・」を解体する。トランプ氏は前回、大統領になれば何でも好きにできるだろうと思っていたのに、さまざまな良識派に抵抗されて思い通りにならなかった。「これは闇の政府が牛耳っているからだ」と考えたわけです。 池上 彰氏の対談「有名大学から極左を追い出せ!」トランプ氏の主張に支持者が拍手喝采なワケ【佐藤優・池上彰対談】」 佐藤 優氏 池上 なるほど、トランプ現象とはトランプ革命ですか。優雅に暮らしていた帝政ロシアの貴族たちには教養があったのに、農民や工場労働者、下っ端の兵隊たちで構成されるボルシェビキによって、ひっくり返されました」、確かに主張にもまともな部分もあるようだ。 「佐藤 米国社会では過去40年で格差が急激に広がっていて、その上医療費は恐ろしいほど高額。「金がないやつは病気になったら死ね」というのが、今の米国です。こんな社会にしたエスタブリッシュメントには責任がある。それを乱暴な言葉で訴えているのが、トランプ氏じゃないでしょうか・・・トランプ氏はレーニンに似ている。陰謀論的な発言は別として、なぜトランプ氏が支持されるのかを考えると、合理性があると思えるんです。 つまり、ポリティカルコレクトネスを掲げて口に出してはいけないとされている問題が、本当にタブーなんだろうかとトランプ氏は問い掛けている」、もっともな部分もあるようだ。 「レーニンがインテリで貴族だったように、考えてみればトランプ氏もエスタブリッシュメント側の人です。ところが何かの巡り合わせによって、虐げられた階級の代表者になっています。トランプ氏は常軌を逸したような人物ですが、歴史を振り返ると、こういうタイプにしか革命はできません。歴史を動かすのはいつも怪しげな人たちです」、なるほど。 べきだ。 「ひと昔前の米国だったら、自分たちが戦いました。自由社会を守るためにベトナムへ行き、テロと戦うためにアフガニスタンへ行きました。最近の米国には狡さと嘘があるでしょう。トランプ氏は、そこも巧みについていると思います・・・台湾人が民主主義を守るために、中国人と戦う。気をつけないといけないのは、憲法9条を改正して日本が参戦できるようになれば、「武器と金は提供するから戦ってこい」と言われるかもしれないことです。米国的な価値観を守るために、日本が中国と戦うことになりかねません」、台湾がらみでは、日本は注意深く行動す 「日本」では、「政府の諮問会議や有識者会議のメンバーになっていた、ヤマト運輸の故小倉昌男さんやJR東海の故葛西敬之さん」など大勢いる。「民主的統制を経ていないエスタブリッシュメントたちが国家意思を形成する」のは確かに問題だ。「トランプ氏」の言動を巡って「日本」側の問題まで炙り出されたようだ。
金融政策(その45)(日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か 働き方改革が需給ギャップをタイト化、日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算” 中小地銀はジリ貧の分かれる明暗、パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか 高まる“タカ派転換ショック”リスク) [金融]
今日は、金融政策(その45)(日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か 働き方改革が需給ギャップをタイト化、日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算” 中小地銀はジリ貧の分かれる明暗、パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか 高まる“タカ派転換ショック”リスク)である。なお、番号は異次元緩和政策からの続きとした。
先ずは、本年3月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したBNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミストの河野龍太郎氏による「日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か、働き方改革が需給ギャップをタイト化」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341137
・『マイナス金利解除後の日本銀行の次なる利上げは9月、早ければ7月だろう。人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化させている。共に、2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている』、「人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化。2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている」、0.25%ずつとすれば、利上げは3回だ。
・『マイナス金利だけでなくオーバーシュート型コミットメントもYCCも解除 当初から筆者が予想してきた通り、今春闘での2年連続の高い賃上げ率を確認した後、日本銀行は、3月金融政策決定会合でマイナス金利解除を含め、大規模金融緩和の終了を決定した。 筆者は、日銀が2度目のYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)の上限引き上げを行った直後の昨年7月末から、2024年4月にマイナス金利が解除されると考え、その後、今年1月からは、3月決定会合でのマイナス金利解除をメインシナリオとしていた。 具体的な政策パッケージの内容も、おおむね筆者の予想通りだった。政策金利は無担保コールレート翌日物に戻し、その誘導水準は0~0.1%とされた。マイナス金利政策の下では三層構造とされていた超過準備への付利は一本化され0.1%とした。適用は翌営業日の3月21日からとなった。 年度末を控え金融機関への配慮から、新たな付利の適用は、翌積み期の4月中旬からと筆者は考えていたのだが、直前に市場が政策変更を十分に織り込み、必要なヘッジが完了したと日銀は判断したのだろう。 バランスシートの拡大を約束したオーバーシュート型コミットメント(注)と共に、YCCも完全に解除された。今後の長期国債の買い入れについては、これまでと同程度の買い入れを行うとした上で、長期金利が急騰する場合については、機動的に対応し、指値オペなどで対応するとしている。 筆者自身は、長期金利急騰を回避するため、長期金利の誘導目標の0%程度は撤廃するものの、万が一の保険として何らかの緩いキャップを残し、場合によってはYCCの部分解除にとどめると当初は考えていた。 しかし、今春闘で5%を超える高い賃上げが達成され、2%のインフレ目標の実現が見通せる状況になったとする中で、具体的な数値のキャップを長期金利に残すのは、不自然と日銀は判断したのだろう。 次ページ以降、次なる利上げの時期を予測し、その背景にある要因を検証していく』、「2%のインフレ目標の実現が見通せる状況になったとする中で、具体的な数値のキャップを長期金利に残すのは、不自然と日銀は判断したのだろう」、なるほど。
(注)オーバーシュート型コミットメント:日銀が物価安定の目標とする消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の前年比上昇率2%を一時的に上回ってもすぐに金融緩和政策をやめるのではなく、同実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース(資金供給量)の拡大を継続すること。 物価安定実現を目指し、物価上昇率が目標値を行き過ぎる(オーバーシュートする)まで金融緩和の継続を公約する(コミットメントする)日銀の強い姿勢を示している(野村証券証券用語解説集)。
・『次回利上げは9月 早ければ7月にも 多くの市場参加者は、今後の日銀の国債購入ペースやバランスシートの削減ペースに強い興味を持つが、日銀が最も重視するのは、あくまで長期金利の安定そのものであって、量的な長期の目標を念頭に置いているわけではないと思われる。長期金利が安定する限りにおいては、長期国債の購入を減額し、バランスシートを減少させるというのが日銀のスタンスであろう。 とりわけ、公的債務残高がGDP(国内総生産)比で260%を超え、安定的なプライマリー収支の黒字が全く見通せないわが国の財政事情を考えれば、それもやむを得ないのであろう。 ステートメントの脚注に、月額6兆円の国債購入額の数値を入れたのは、国債購入が「不連続」となることを恐れるマーケットへの配慮だが、今後、グローバル金融市場の動向に応じて、数字は変化していくとみられる。 この他、ETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)購入プログラムも予想された通り廃止され、社債購入は段階的に減額され、1年後に終了するとされた。ただし、保有するETFとJ-REITの処分については議論が棚上げされている。 それでは、今後の政策金利の経路はどのようになるのか。まず、植田総裁は、決定会合後の記者会見で、追加利上げについて問われ、「(2%の持続的・安定的達成の確度が)さらに上昇するということになれば、見通しが変わったという言い方になるかと思いますが、また別の言い方をするとすれば、基調的物価上昇率がもう少し上昇すれば、それはまた短期金利の水準の引き上げにつながるということになるかと思います」と述べている。 また、ステートメントでは、金融政策の先行きに関するガイダンスについて、予想された通り、「現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」とされている。 筆者は従来、3月にマイナス金利を解除した後、半年が経過する9月頃にオーバーナイト金利を0.25%まで引き上げ、その後、半年に一度0.25%の利上げを行い(来年3・9月ごろ)、25年末のオーバーナイト金利の水準を0.75%と予想してきた。 一方、市場は24年末の政策金利を0.25%弱、25年末を0.5%弱とみており、民間エコノミストはさらにハト派的で24年末だけでなく、25年末も現状と同じゼロ金利ないし0.25%と予想する向きが多い。 筆者が市場やほかのエコノミストに比べてタカ派的な政策金利の予想を立てているのは、政府・日銀、市場が想定するよりも、日本経済の需給ギャップがタイト化していると考えていることがある。政府・日銀は需給ギャップがゼロ近傍にあるとしているが、筆者の推計では、既に前回の景気サイクルのピークである18年末のレベルまでタイト化している。 だから、誰もが考えていたより、円安インフレが長引いてインフレが高止まりし、今春闘でも高い賃上げとなったのではないか。今春闘は、当初から強気にみていた筆者の想定よりも高い賃上げ率となっており、今後、物価への波及も強まる可能性がある。 政策金利についても、上記に挙げた想定経路より、利上げペースが加速するリスクがあり、その場合、25年末の政策金利は1.0%かそれ以上となるだろう。また、今後の為替レートや4月以降の人件費の価格転嫁次第では、2度目の利上げが7月に前倒しで行われるリスクもあるだろう』、「筆者が市場やほかのエコノミストに比べてタカ派的な政策金利の予想を立てているのは、政府・日銀、市場が想定するよりも、日本経済の需給ギャップがタイト化していると考えていることがある。政府・日銀は需給ギャップがゼロ近傍にあるとしているが、筆者の推計では、既に前回の景気サイクルのピークである18年末のレベルまでタイト化している・・・利上げペースが加速するリスクがあり、その場合、25年末の政策金利は1.0%かそれ以上となるだろう。また、今後の為替レートや4月以降の人件費の価格転嫁次第では、2度目の利上げが7月に前倒しで行われるリスクもあるだろう」、なるほど。
・『現状の金融緩和を続ければインフレ率2%超え、さらなる円安リスクも ここで需給ギャップがタイト化している背景について簡単に説明しておく。周知の通り、円安でインフレが長引く日本では、経済再開後も欧米のような消費の急回復は起こらなかった。それでもなお人手不足が深刻化しているのは、労働供給の拡大が難しくなっているためである。 まず、少子高齢化が進展する中、日本企業は減り続ける若年・壮年の男性正社員の穴を埋めるべく、高齢者と女性を積極的に採用してきたが、既に10年代終盤には、超短時間・超短期間しか働けない人までかき集める事態に追い込まれていた。 コロナ禍で労働需給の逼迫(ひっぱく)は一時的に緩んだが、さらにコロナ禍後は、団塊世代の完全引退が進み、労働力の最大の供給源であった高齢者の就業拡大も止まってしまった。女性の労働力はまだ増えているが、コロナ禍前より増加ペースが鈍っている。女性も高齢化が進んでいるため、生産年齢人口が減り続けており、就業拡大は限界に近い。 ここまでの話は、大抵の専門家は認識しているが、残業規制が人手不足に拍車をかけている点は見過ごされている。従来、日本企業は、好況期には正社員の残業を増やすことで、増大した労働需要の一部を賄っていた。 しかし、10年代半ば以降は、働き方改革として長時間労働を是正する社会的風潮が広がり、法的にも、残業時間の上限規制が導入された。大企業に残業規制が適用されたのは19年4月、中小企業は20年4月であり、コロナ禍でそのインパクトは当初は現れなかったが、23年にコロナ禍が明け、総需要が持ち直し始めた途端に、その影響があらわになってきたのである。 今年3月末には例外的に認められていた建設・運輸業などの残業規制の猶予も終わる。人手不足が和らぐ兆しは全く見えない。つまり、25年も高めの賃上げが続く可能性が高い。 なお、改めて確認しておきたいのは、今回の金融政策決定会合で、異次元緩和を解除したものの、日銀は2%インフレ目標が安定的・持続的に達成されたという勝利宣言にまで踏み込んではいない点である。25年度以降のインフレについては、まだ相当に不確実性が高く、下振れのリスクがあると判断しているとみられる。 もし、勝利宣言を行うのなら、オーバーナイト金利は、筆者の推計するマイナス0.5%の自然利子率と2%インフレの和である1.5%に早い段階で引き上げなければならない。確信には至っていないから、現在も緩和的な金融環境を維持することが可能だと日銀は判断しているわけである。 とはいえ、一方で、現状の金融緩和を継続すれば、インフレ期待が2%を超えるリスクや円安などの弊害が生じ得ることを、政策判断の上で考慮し始めた可能性がある。 細かな点だが、前述した通り、付利の適用が翌営業日からのスタートになったことや、部分撤廃にとどまると考えていたYCCが完全に撤廃されたことなど、筆者が見通しを外したのは、いずれもタカ派サイドであった。 何より、一部のハト派のボードメンバーに反対者が存在する中で、今回、植田総裁が異次元緩和の解除に踏み切ったのは、円安インフレの個人消費への悪影響など副作用が意識され、利上げを「待つことのコスト」が無視し得なくなっているのだと思われる。 インフレ期待が着実に上がっているのなら、実質金利の一段の低下で金融緩和度が強まることを避けるため、名目金利を引き上げなければならない。金利リスクはアップサイドだと思われる』、「今回、植田総裁が異次元緩和の解除に踏み切ったのは、円安インフレの個人消費への悪影響など副作用が意識され、利上げを「待つことのコスト」が無視し得なくなっているのだと思われる。 インフレ期待が着実に上がっているのなら、実質金利の一段の低下で金融緩和度が強まることを避けるため、名目金利を引き上げなければならない。金利リスクはアップサイドだと思われる」、その通りだ。
次に、3月27日付けダイヤモンド・オンライン「日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算”、中小地銀はジリ貧の分かれる明暗」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341161
・『日本銀行の17年ぶり利上げ決定による恩恵を受け、今後の株価上昇の期待を集めるのが銀行業界だ。金利が復活し、利ざや拡大が見込めるマイナス金利解除は、銀行業界にとって朗報のはず。だがメガバンクや地銀、ネット銀行の状況をつぶさに見ていくと、そうとも言い切れない』、どういうことなのだろう。
・『マイナス金利解除で収益拡大期待 3メガ首脳は日銀の政策変更を歓迎 「ゲームチェンジ」。みずほフィナンシャルグループ(FG)の木原正裕社長は、日本銀行が決めたマイナス金利政策の解除について、そう語って歓迎した。 これまでの「金利のない世界」で銀行が戦ってきた“ゲーム”は、為替業務や投資信託などの金融商品の販売、M&A(企業の合併・買収)アドバイザリー業務などで、ひたすら手数料を稼ぐもので、それが唯一の勝ち筋だった。 だがそれも、マイナス金利解除でゲームセット。金利が復活すれば、企業への貸し出しなどの運用と、預金などの調達の金利差である利ざやの改善が見込め、金利収益の拡大が期待できる。銀行の本業である金利差で稼ぐという、本来のゲームに変わるというわけだ』、「金利が復活すれば、企業への貸し出しなどの運用と、預金などの調達の金利差である利ざやの改善が見込め、金利収益の拡大が期待できる。銀行の本業である金利差で稼ぐという、本来のゲームに変わるというわけだ」、なるほど。
・『日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算”、中小地銀はジリ貧の分かれる明暗 金利上昇により本業が復活すれば、銀行の収益力は格段に増す。日銀の政策転換前から、こうした期待が銀行株の堅調を支えていた。 実際、2022年3月からの米国での金利上昇、さらに23年7月のYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)柔軟化をきっかけとした国内金利の上昇により、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)と三井住友フィナンシャルグループ(FG)、みずほFGの3メガバンクの業績は劇的に改善。中でも三菱UFJFGは、23年度第3四半期の時点で純利益が1兆2979億円に到達し、通期目標の1兆3000億円をわずか9カ月間でほぼ達成してしまうほどの爆発力を見せた。 マイナス金利解除に対する反応を取材していくと、銀行業界の中でも悲喜交々が見えてきた。次ページでは、今回の日銀の政策変更で想定以上の業績上振れが期待できそうな“うれしい誤算”があったメガバンクと、金利復活でジリ貧に陥りそうな地銀の明暗に迫る』、「今回の日銀の政策変更で想定以上の業績上振れが期待できそうな“うれしい誤算”があったメガバンクと、金利復活でジリ貧に陥りそうな地銀の明暗に迫る」、なるほど。
・『日銀の当座預金全体に0.1%の付利 “うれしい誤算”に金融市場も反応 マイナス金利の解除が決まり、3メガの業績がより一層押し上げられることは間違いない。さらに言えば、業績上振れ幅が想定以上になることも考えられる。 銀行各行が日銀に持つ当座預金は、マイナス金利導入で3層(基礎残高、マクロ加算残高、政策金利残高)になっており、3層目の政策金利残高にマイナス0.1%の金利が適用されていた。 三菱UFJ銀行とみずほ銀行は、マイナス金利が解除され、円金利が上昇した際の利益影響を試算していたが、そこでは2層目のマクロ加算残高はこれまで通り付利0%で変わらないという前提を置いていた。 ところが今回の政策変更では、3層構造そのものを1層にした上で、日銀当座預金全体に0.1%の付利を適用する決定がなされた。つまり“うれしい誤算”だったわけだ。 (図表:3カ月TIBORと無担保コールレートの推移 はリンク先参照) これに金融市場は敏感に反応。ゴールドマン・サックス証券の黒田真琴アナリストが「市場でも十分に認識されていなかった」と話すように、無担保コールレート翌日物が急上昇した。さらにそれと連動するTIBOR(タイボー、東京銀行間取引金利)も急騰した(上図参照)。岡三証券の田村晋一アナリストは「日銀当座預金全体へ0.1%の付利が適用されることが、TIBOR上昇を後押しした」と話す。 TIBORは一般的な大企業向け貸し出しの基準金利だ。3メガは金利がTIBORと連動する貸出金の割合が高く、TIBORが上昇したことで利ざやの拡大は確実に期待できる。3メガは今まさに、貸出金利上昇から利ざや拡大へとつながる、好循環の入り口に立っているのだ。 もっとも、全ての銀行が3メガのような好循環に突入できるわけではない。横浜銀行や千葉銀行などの規模の大きな地方銀行を除く中小の地銀は、金利復活をむしろ苦々しく思っているはずだ。 地銀は3メガと違い、金利がTIBORと連動する貸出金の割合が小さい。そのため、足元で金利が上昇し始めていても、その影響は限定的なのだ』、「TIBORは一般的な大企業向け貸し出しの基準金利だ。3メガは金利がTIBORと連動する貸出金の割合が高く、TIBORが上昇したことで利ざやの拡大は確実に期待できる。3メガは今まさに、貸出金利上昇から利ざや拡大へとつながる、好循環の入り口に立っているのだ。 もっとも、全ての銀行が3メガのような好循環に突入できるわけではない。横浜銀行や千葉銀行などの規模の大きな地方銀行を除く中小の地銀は、金利復活をむしろ苦々しく思っているはずだ。 地銀は3メガと違い、金利がTIBORと連動する貸出金の割合が小さい。そのため、足元で金利が上昇し始めていても、その影響は限定的なのだ」、「メガ」は「好循環に突入」できるが、「中小の地銀」は「金利復活をむしろ苦々しく思っている」、なるほど。
・『重要度増す預金、各行金利引き上げへ ネット銀行が競争をリード 地銀は貸出金利を上げたければ、貸出先の中小企業と直接交渉する必要がある。だが、中小企業の多くは人件費や原材料費の高騰などにさらされており、金利負担増を簡単にのむことはできない。ある中堅規模の地銀幹部は「市場金利が上がったから貸出金利を上げさせてくれと頼んでも、『銀行がもうけたいだけだろう』と門前払いを食い、他行に乗り換えられる」と苦しい胸の内を明かす。 一方、そんな状況とは無縁の3メガは、早速次の一手を打った。他行に先手を取られぬよう、普通預金金利を0.001%から0.02%へ、17年ぶりに引き上げたのだ。金利が復活した世界では、預金は銀行にとって利益を生む原資であり、重要度が増すからだ。 地銀は置かれた状況が苦しくても、3メガに追随せざるを得ない。預金金利の引き上げを見送れば、個人顧客の流出を招いてしまうからだ。前出の田村氏は「預金は金利が0.001%高いだけでも、そこに流れる。他行に預金を奪われないためにも、金利は早めに上げる必要があった」と指摘する。こうしてマイナス金利解除決定から3営業日後の3月25日時点で、普通預金金利の引き上げを決めた地銀は実に43行に上った(下表参照)。 (図表:銀行各行の普通預金金利 はリンク先参照) 地銀にとってさらに頭が痛いのは、インターネット銀行のSBI新生銀行とPayPay銀行が、普通預金金利を3メガや地銀よりも高い0.03%に引き上げたことだろう。 金利差はわずか0.01%だが、その差は数字以上だ。ネット銀行には3メガや地銀が一朝一夕には追い付けない、スマートフォンアプリの使い勝手の良さがある。 あるネット銀行幹部は「金利が少し高いことは、アプリの使いやすさや便利さを知ってもらうためのきっかけにすぎない。今回の金利引き上げで金融に対する意識が高くない人もそれに気付き、多くのユーザーを獲得できるだろう」と自信を見せる。 金利復活にもかかわらず、貸出金利は上げられず、預金金利は引き上げざるを得ない。今後はむしろジリ貧になる──。マイナス金利後に始まる新たなゲームは、地銀にとってこれまでにない過酷なものとなりそうだ』、「金利復活にもかかわらず、貸出金利は上げられず、預金金利は引き上げざるを得ない。今後はむしろジリ貧になる──。マイナス金利後に始まる新たなゲームは、地銀にとってこれまでにない過酷なものとなりそうだ」、「TIBOR連動貸出」が少ないことで、「中小地銀」は苦戦を強いられるようだ。
第三に、3月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したみずほリサーチ&テクノロジーズ調査部プリンシパルの小野 亮氏による「パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341204
・『1、2月と続くインフレ率の上振れに「過剰反応はしない」と静観の構えを見せた3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でのパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長に対し、米株式市場は上昇という形で万雷の拍手を送ったようだ。パウエル議長は米景気・雇用の強さを軽視してはいないのか』、興味深そうだ。
・『インフレ見通し上振れもFOMCは年内3回の利下げ予想を維持 3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、最近のCPI(消費者物価指数)統計に見られるインフレ率の上振れに対して顕著な警戒感の強まりを見せることはなかった。 市場参加者の間で最も関心を集めていたとみられる、ドットチャート(FOMC参加者による政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートの水準予想)が示す年内の利下げ幅(現状水準と参加者の予想値の中央値との差)は、前回12月と同様の0.75%(通常は1回につき0.25%なので3回の利下げに相当する)となった。 まず、声明文では雇用情勢の強さを強調する最小限の修正が施されただけにとどまり、最近のインフレ率の上振れに関する文言はない。 次に、声明文と同時に発表された物価見通しでは、2024年末のコアインフレ率が前年比2.4%から2.6%へと0.2ポイント上方修正されたが、12月会合から足元までの実績を反映したゲタ(編集部注:直近の水準がそのまま続いたと仮定した場合の上昇・下落幅)に相当する修正幅にとどまった。 FOMC参加者が、最近のようなインフレ率の上振れが今後も続くとは考えていないことの表れである。その結果、「26年末までのインフレ2%達成」という見通しも維持された。 「物価安定への道は外れていない」という物価見通しと整合的なように、米政策金利については前回と同様「24年内は3回相当の0.75%の利下げ」というシナリオもそのままで、米株式市場は歓喜に沸いている。 しかし、ドットチャートやFOMCの経済・物価見通しを子細に見ていくとそのシナリオの危うさが浮かび上がる。次ページ以降、検証していく』、「「物価安定への道は外れていない」という物価見通しと整合的なように、米政策金利については前回と同様「24年内は3回相当の0.75%の利下げ」というシナリオもそのままで、米株式市場は歓喜に沸いている」、マ―ケットが好感するのは当然だが、果たして大丈夫なのだろうか。
・『経済・物価見通し上振れで米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に 米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に微修正された。 FOMC参加者らの政策金利(現在の水準は5.25~5.5%)見通しの分布(中央値で示される。たとえば5.25~5.5%の場合は5.375%)を見ると、前回ドットチャートが示された23年12月のFOMC時に「24年内に3回を超える利下げが適切」と考えていたハト派のほとんどが「せいぜい3回の利下げ」という考えに変化し、「4.5~4.75%」を底辺とするピラミッド型の分布となった(図表1参照)』、「米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に微修正された・・・23年12月のFOMC時に「24年内に3回を超える利下げが適切」と考えていたハト派のほとんどが「せいぜい3回の利下げ」という考えに変化し、「4.5~4.75%」を底辺とするピラミッド型の分布となった」、なるほど。
・『パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク
また、25年内の利下げ幅(予想値の中央値の24年末と25年末の差)が1.0%(4回の利下げ)から0.75%(3回の利下げ)に縮小し、26年末時点の政策金利の水準(予想値の中央値)は前回より0.25%高い3.0~3.25%となった。長期(Longer run)の政策金利も0.125%上昇している。 小幅ながらも政策金利の分布やパスが上方シフトしたのは、これまで以上に強いペースでの景気拡大と良好な雇用情勢が続きそうだという見通しのためである。成長率見通しは、26年までの3年間にわたって上方修正され、潜在成長率(1%台半ば)を上回るペースの景気拡大が持続する見通しとなった。 失業率に関しても、見通しはほぼ変わらないが、先行きについて「上振れ(悪化)リスク」を挙げる参加者が減り、「リスクは均衡している」と考える参加者が大勢となった。FOMC参加者らが3カ月の間に雇用の先行きに自信を深めた様子がうかがえる』、「25年内の利下げ幅(予想値の中央値の24年末と25年末の差)が1.0%(4回の利下げ)から0.75%(3回の利下げ)に縮小し、26年末時点の政策金利の水準(予想値の中央値)は前回より0.25%高い3.0~3.25%となった。長期(Longer run)の政策金利も0.125%上昇している。 小幅ながらも政策金利の分布やパスが上方シフトしたのは、これまで以上に強いペースでの景気拡大と良好な雇用情勢が続きそうだという見通しのためである・・・FOMC参加者らが3カ月の間に雇用の先行きに自信を深めた様子がうかがえる」、なるほど。
・『景気・雇用の強さを問題視しないパウエル議長 インフレ上振れ時のタカ派転換リスク高まる 印象的だったのは、パウエル議長が足元のインフレ率の上振れに動じない姿勢を見せたことだ。 パウエル議長がインフレ率の推移に関して使うことが多い「6カ月前と比較したインフレ率」で見ると、昨年後半はCPI、PCED(個人消費支出デフレーター)のいずれも落ち着いていた(図表2参照)』、「景気・雇用の強さを問題視しないパウエル議長」、何故なのだろう。
・『パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク
しかし24年に入り、特にCPIが上振れている。米景気が好調な結果、ディスインフレの動きが反転・再加速している恐れがあることを示す動きだ。 ところがパウエル議長は、インフレ率には「年前半に強く、年後半に弱い」という癖があることや、新規契約の賃貸料の動きを踏まえれば、コアインフレ率の中で大きなウエートを占める住宅サービスのインフレ率は今後着実に鈍化すると見込まれることなどを理由に挙げながら、「過剰反応はしない」と述べるにとどまった。 「(1月と2月の)2つの数字を総合してみると、インフレ率が2%に向けて、時には飛び跳ねるような道(bumpy road)を進みながら徐々に低下していくという全体的なストーリーは変わっていない」とパウエル議長は語った。これは「足元の動きは想定の範囲内」という意味である。 パウエル議長のコミュニケーションは、FOMC後の上昇からわかるように米株式市場から万雷の拍手をもって迎えられたようだが、気掛かりなことがある。パウエル議長が、景気や雇用、賃金の強さを無条件に受け入れているように映る点だ。米株式市場が沸くのも当然だろう。 パウエル議長は、最近のインフレ率の上振れが「1回の出っ張り(bump)なのか、それ以上の何かなのかはわからない。それを見極める必要がある」「今後発表されるインフレ率とその内容、そしてそれが何を物語っているのか」を丁寧に見ていく姿勢を強調している。 であれば、インフレ率が再加速する原因となり得る強い景気・雇用・賃金にもっと警戒してもよかったはずだ。ところがパウエル議長は1月会合以降、「これらの強さ自体は問題ではない」と繰り返すようになった。 コロナ禍前のFOMCは、幾度となく、景気・雇用・賃金が強まる度に「予防的利上げ」を行い、結果として、インフレ率が低下し2%のインフレ目標達成を逃してきてしまった。その苦い経験が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」という最近の発言につながっている。 しかし、インフレ率の上振れがこれ以上続けば、パウエル議長はタカ派的姿勢をより鮮明にするはずだ。パウエル議長自身は首尾一貫したコミュニケーションのつもりでも、金融市場参加者にとっては大きなbumpとなり得る。今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「インフレ率が再加速する原因となり得る強い景気・雇用・賃金にもっと警戒してもよかったはずだ。ところがパウエル議長は1月会合以降、「これらの強さ自体は問題ではない」と繰り返すようになった。 コロナ禍前のFOMCは、幾度となく、景気・雇用・賃金が強まる度に「予防的利上げ」を行い、結果として、インフレ率が低下し2%のインフレ目標達成を逃してきてしまった。その苦い経験が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」という最近の発言につながっている。 しかし、インフレ率の上振れがこれ以上続けば、パウエル議長はタカ派的姿勢をより鮮明にするはずだ。パウエル議長自身は首尾一貫したコミュニケーションのつもりでも、金融市場参加者にとっては大きなbumpとなり得る。今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「パウエル議長」が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」との考え方にしがみつく理由は、不明だが、確かに彼の見方が外れた場合の「パウエル・ショックへの警戒が必要だろう」、同感である。
先ずは、本年3月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したBNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミストの河野龍太郎氏による「日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か、働き方改革が需給ギャップをタイト化」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341137
・『マイナス金利解除後の日本銀行の次なる利上げは9月、早ければ7月だろう。人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化させている。共に、2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている』、「人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化。2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている」、0.25%ずつとすれば、利上げは3回だ。
・『マイナス金利だけでなくオーバーシュート型コミットメントもYCCも解除 当初から筆者が予想してきた通り、今春闘での2年連続の高い賃上げ率を確認した後、日本銀行は、3月金融政策決定会合でマイナス金利解除を含め、大規模金融緩和の終了を決定した。 筆者は、日銀が2度目のYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)の上限引き上げを行った直後の昨年7月末から、2024年4月にマイナス金利が解除されると考え、その後、今年1月からは、3月決定会合でのマイナス金利解除をメインシナリオとしていた。 具体的な政策パッケージの内容も、おおむね筆者の予想通りだった。政策金利は無担保コールレート翌日物に戻し、その誘導水準は0~0.1%とされた。マイナス金利政策の下では三層構造とされていた超過準備への付利は一本化され0.1%とした。適用は翌営業日の3月21日からとなった。 年度末を控え金融機関への配慮から、新たな付利の適用は、翌積み期の4月中旬からと筆者は考えていたのだが、直前に市場が政策変更を十分に織り込み、必要なヘッジが完了したと日銀は判断したのだろう。 バランスシートの拡大を約束したオーバーシュート型コミットメント(注)と共に、YCCも完全に解除された。今後の長期国債の買い入れについては、これまでと同程度の買い入れを行うとした上で、長期金利が急騰する場合については、機動的に対応し、指値オペなどで対応するとしている。 筆者自身は、長期金利急騰を回避するため、長期金利の誘導目標の0%程度は撤廃するものの、万が一の保険として何らかの緩いキャップを残し、場合によってはYCCの部分解除にとどめると当初は考えていた。 しかし、今春闘で5%を超える高い賃上げが達成され、2%のインフレ目標の実現が見通せる状況になったとする中で、具体的な数値のキャップを長期金利に残すのは、不自然と日銀は判断したのだろう。 次ページ以降、次なる利上げの時期を予測し、その背景にある要因を検証していく』、「2%のインフレ目標の実現が見通せる状況になったとする中で、具体的な数値のキャップを長期金利に残すのは、不自然と日銀は判断したのだろう」、なるほど。
(注)オーバーシュート型コミットメント:日銀が物価安定の目標とする消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の前年比上昇率2%を一時的に上回ってもすぐに金融緩和政策をやめるのではなく、同実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース(資金供給量)の拡大を継続すること。 物価安定実現を目指し、物価上昇率が目標値を行き過ぎる(オーバーシュートする)まで金融緩和の継続を公約する(コミットメントする)日銀の強い姿勢を示している(野村証券証券用語解説集)。
・『次回利上げは9月 早ければ7月にも 多くの市場参加者は、今後の日銀の国債購入ペースやバランスシートの削減ペースに強い興味を持つが、日銀が最も重視するのは、あくまで長期金利の安定そのものであって、量的な長期の目標を念頭に置いているわけではないと思われる。長期金利が安定する限りにおいては、長期国債の購入を減額し、バランスシートを減少させるというのが日銀のスタンスであろう。 とりわけ、公的債務残高がGDP(国内総生産)比で260%を超え、安定的なプライマリー収支の黒字が全く見通せないわが国の財政事情を考えれば、それもやむを得ないのであろう。 ステートメントの脚注に、月額6兆円の国債購入額の数値を入れたのは、国債購入が「不連続」となることを恐れるマーケットへの配慮だが、今後、グローバル金融市場の動向に応じて、数字は変化していくとみられる。 この他、ETF(上場投資信託)とJ-REIT(不動産投資信託)購入プログラムも予想された通り廃止され、社債購入は段階的に減額され、1年後に終了するとされた。ただし、保有するETFとJ-REITの処分については議論が棚上げされている。 それでは、今後の政策金利の経路はどのようになるのか。まず、植田総裁は、決定会合後の記者会見で、追加利上げについて問われ、「(2%の持続的・安定的達成の確度が)さらに上昇するということになれば、見通しが変わったという言い方になるかと思いますが、また別の言い方をするとすれば、基調的物価上昇率がもう少し上昇すれば、それはまた短期金利の水準の引き上げにつながるということになるかと思います」と述べている。 また、ステートメントでは、金融政策の先行きに関するガイダンスについて、予想された通り、「現時点の経済・物価見通しを前提にすれば、当面、緩和的な金融環境が継続すると考えている」とされている。 筆者は従来、3月にマイナス金利を解除した後、半年が経過する9月頃にオーバーナイト金利を0.25%まで引き上げ、その後、半年に一度0.25%の利上げを行い(来年3・9月ごろ)、25年末のオーバーナイト金利の水準を0.75%と予想してきた。 一方、市場は24年末の政策金利を0.25%弱、25年末を0.5%弱とみており、民間エコノミストはさらにハト派的で24年末だけでなく、25年末も現状と同じゼロ金利ないし0.25%と予想する向きが多い。 筆者が市場やほかのエコノミストに比べてタカ派的な政策金利の予想を立てているのは、政府・日銀、市場が想定するよりも、日本経済の需給ギャップがタイト化していると考えていることがある。政府・日銀は需給ギャップがゼロ近傍にあるとしているが、筆者の推計では、既に前回の景気サイクルのピークである18年末のレベルまでタイト化している。 だから、誰もが考えていたより、円安インフレが長引いてインフレが高止まりし、今春闘でも高い賃上げとなったのではないか。今春闘は、当初から強気にみていた筆者の想定よりも高い賃上げ率となっており、今後、物価への波及も強まる可能性がある。 政策金利についても、上記に挙げた想定経路より、利上げペースが加速するリスクがあり、その場合、25年末の政策金利は1.0%かそれ以上となるだろう。また、今後の為替レートや4月以降の人件費の価格転嫁次第では、2度目の利上げが7月に前倒しで行われるリスクもあるだろう』、「筆者が市場やほかのエコノミストに比べてタカ派的な政策金利の予想を立てているのは、政府・日銀、市場が想定するよりも、日本経済の需給ギャップがタイト化していると考えていることがある。政府・日銀は需給ギャップがゼロ近傍にあるとしているが、筆者の推計では、既に前回の景気サイクルのピークである18年末のレベルまでタイト化している・・・利上げペースが加速するリスクがあり、その場合、25年末の政策金利は1.0%かそれ以上となるだろう。また、今後の為替レートや4月以降の人件費の価格転嫁次第では、2度目の利上げが7月に前倒しで行われるリスクもあるだろう」、なるほど。
・『現状の金融緩和を続ければインフレ率2%超え、さらなる円安リスクも ここで需給ギャップがタイト化している背景について簡単に説明しておく。周知の通り、円安でインフレが長引く日本では、経済再開後も欧米のような消費の急回復は起こらなかった。それでもなお人手不足が深刻化しているのは、労働供給の拡大が難しくなっているためである。 まず、少子高齢化が進展する中、日本企業は減り続ける若年・壮年の男性正社員の穴を埋めるべく、高齢者と女性を積極的に採用してきたが、既に10年代終盤には、超短時間・超短期間しか働けない人までかき集める事態に追い込まれていた。 コロナ禍で労働需給の逼迫(ひっぱく)は一時的に緩んだが、さらにコロナ禍後は、団塊世代の完全引退が進み、労働力の最大の供給源であった高齢者の就業拡大も止まってしまった。女性の労働力はまだ増えているが、コロナ禍前より増加ペースが鈍っている。女性も高齢化が進んでいるため、生産年齢人口が減り続けており、就業拡大は限界に近い。 ここまでの話は、大抵の専門家は認識しているが、残業規制が人手不足に拍車をかけている点は見過ごされている。従来、日本企業は、好況期には正社員の残業を増やすことで、増大した労働需要の一部を賄っていた。 しかし、10年代半ば以降は、働き方改革として長時間労働を是正する社会的風潮が広がり、法的にも、残業時間の上限規制が導入された。大企業に残業規制が適用されたのは19年4月、中小企業は20年4月であり、コロナ禍でそのインパクトは当初は現れなかったが、23年にコロナ禍が明け、総需要が持ち直し始めた途端に、その影響があらわになってきたのである。 今年3月末には例外的に認められていた建設・運輸業などの残業規制の猶予も終わる。人手不足が和らぐ兆しは全く見えない。つまり、25年も高めの賃上げが続く可能性が高い。 なお、改めて確認しておきたいのは、今回の金融政策決定会合で、異次元緩和を解除したものの、日銀は2%インフレ目標が安定的・持続的に達成されたという勝利宣言にまで踏み込んではいない点である。25年度以降のインフレについては、まだ相当に不確実性が高く、下振れのリスクがあると判断しているとみられる。 もし、勝利宣言を行うのなら、オーバーナイト金利は、筆者の推計するマイナス0.5%の自然利子率と2%インフレの和である1.5%に早い段階で引き上げなければならない。確信には至っていないから、現在も緩和的な金融環境を維持することが可能だと日銀は判断しているわけである。 とはいえ、一方で、現状の金融緩和を継続すれば、インフレ期待が2%を超えるリスクや円安などの弊害が生じ得ることを、政策判断の上で考慮し始めた可能性がある。 細かな点だが、前述した通り、付利の適用が翌営業日からのスタートになったことや、部分撤廃にとどまると考えていたYCCが完全に撤廃されたことなど、筆者が見通しを外したのは、いずれもタカ派サイドであった。 何より、一部のハト派のボードメンバーに反対者が存在する中で、今回、植田総裁が異次元緩和の解除に踏み切ったのは、円安インフレの個人消費への悪影響など副作用が意識され、利上げを「待つことのコスト」が無視し得なくなっているのだと思われる。 インフレ期待が着実に上がっているのなら、実質金利の一段の低下で金融緩和度が強まることを避けるため、名目金利を引き上げなければならない。金利リスクはアップサイドだと思われる』、「今回、植田総裁が異次元緩和の解除に踏み切ったのは、円安インフレの個人消費への悪影響など副作用が意識され、利上げを「待つことのコスト」が無視し得なくなっているのだと思われる。 インフレ期待が着実に上がっているのなら、実質金利の一段の低下で金融緩和度が強まることを避けるため、名目金利を引き上げなければならない。金利リスクはアップサイドだと思われる」、その通りだ。
次に、3月27日付けダイヤモンド・オンライン「日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算”、中小地銀はジリ貧の分かれる明暗」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341161
・『日本銀行の17年ぶり利上げ決定による恩恵を受け、今後の株価上昇の期待を集めるのが銀行業界だ。金利が復活し、利ざや拡大が見込めるマイナス金利解除は、銀行業界にとって朗報のはず。だがメガバンクや地銀、ネット銀行の状況をつぶさに見ていくと、そうとも言い切れない』、どういうことなのだろう。
・『マイナス金利解除で収益拡大期待 3メガ首脳は日銀の政策変更を歓迎 「ゲームチェンジ」。みずほフィナンシャルグループ(FG)の木原正裕社長は、日本銀行が決めたマイナス金利政策の解除について、そう語って歓迎した。 これまでの「金利のない世界」で銀行が戦ってきた“ゲーム”は、為替業務や投資信託などの金融商品の販売、M&A(企業の合併・買収)アドバイザリー業務などで、ひたすら手数料を稼ぐもので、それが唯一の勝ち筋だった。 だがそれも、マイナス金利解除でゲームセット。金利が復活すれば、企業への貸し出しなどの運用と、預金などの調達の金利差である利ざやの改善が見込め、金利収益の拡大が期待できる。銀行の本業である金利差で稼ぐという、本来のゲームに変わるというわけだ』、「金利が復活すれば、企業への貸し出しなどの運用と、預金などの調達の金利差である利ざやの改善が見込め、金利収益の拡大が期待できる。銀行の本業である金利差で稼ぐという、本来のゲームに変わるというわけだ」、なるほど。
・『日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算”、中小地銀はジリ貧の分かれる明暗 金利上昇により本業が復活すれば、銀行の収益力は格段に増す。日銀の政策転換前から、こうした期待が銀行株の堅調を支えていた。 実際、2022年3月からの米国での金利上昇、さらに23年7月のYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)柔軟化をきっかけとした国内金利の上昇により、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)と三井住友フィナンシャルグループ(FG)、みずほFGの3メガバンクの業績は劇的に改善。中でも三菱UFJFGは、23年度第3四半期の時点で純利益が1兆2979億円に到達し、通期目標の1兆3000億円をわずか9カ月間でほぼ達成してしまうほどの爆発力を見せた。 マイナス金利解除に対する反応を取材していくと、銀行業界の中でも悲喜交々が見えてきた。次ページでは、今回の日銀の政策変更で想定以上の業績上振れが期待できそうな“うれしい誤算”があったメガバンクと、金利復活でジリ貧に陥りそうな地銀の明暗に迫る』、「今回の日銀の政策変更で想定以上の業績上振れが期待できそうな“うれしい誤算”があったメガバンクと、金利復活でジリ貧に陥りそうな地銀の明暗に迫る」、なるほど。
・『日銀の当座預金全体に0.1%の付利 “うれしい誤算”に金融市場も反応 マイナス金利の解除が決まり、3メガの業績がより一層押し上げられることは間違いない。さらに言えば、業績上振れ幅が想定以上になることも考えられる。 銀行各行が日銀に持つ当座預金は、マイナス金利導入で3層(基礎残高、マクロ加算残高、政策金利残高)になっており、3層目の政策金利残高にマイナス0.1%の金利が適用されていた。 三菱UFJ銀行とみずほ銀行は、マイナス金利が解除され、円金利が上昇した際の利益影響を試算していたが、そこでは2層目のマクロ加算残高はこれまで通り付利0%で変わらないという前提を置いていた。 ところが今回の政策変更では、3層構造そのものを1層にした上で、日銀当座預金全体に0.1%の付利を適用する決定がなされた。つまり“うれしい誤算”だったわけだ。 (図表:3カ月TIBORと無担保コールレートの推移 はリンク先参照) これに金融市場は敏感に反応。ゴールドマン・サックス証券の黒田真琴アナリストが「市場でも十分に認識されていなかった」と話すように、無担保コールレート翌日物が急上昇した。さらにそれと連動するTIBOR(タイボー、東京銀行間取引金利)も急騰した(上図参照)。岡三証券の田村晋一アナリストは「日銀当座預金全体へ0.1%の付利が適用されることが、TIBOR上昇を後押しした」と話す。 TIBORは一般的な大企業向け貸し出しの基準金利だ。3メガは金利がTIBORと連動する貸出金の割合が高く、TIBORが上昇したことで利ざやの拡大は確実に期待できる。3メガは今まさに、貸出金利上昇から利ざや拡大へとつながる、好循環の入り口に立っているのだ。 もっとも、全ての銀行が3メガのような好循環に突入できるわけではない。横浜銀行や千葉銀行などの規模の大きな地方銀行を除く中小の地銀は、金利復活をむしろ苦々しく思っているはずだ。 地銀は3メガと違い、金利がTIBORと連動する貸出金の割合が小さい。そのため、足元で金利が上昇し始めていても、その影響は限定的なのだ』、「TIBORは一般的な大企業向け貸し出しの基準金利だ。3メガは金利がTIBORと連動する貸出金の割合が高く、TIBORが上昇したことで利ざやの拡大は確実に期待できる。3メガは今まさに、貸出金利上昇から利ざや拡大へとつながる、好循環の入り口に立っているのだ。 もっとも、全ての銀行が3メガのような好循環に突入できるわけではない。横浜銀行や千葉銀行などの規模の大きな地方銀行を除く中小の地銀は、金利復活をむしろ苦々しく思っているはずだ。 地銀は3メガと違い、金利がTIBORと連動する貸出金の割合が小さい。そのため、足元で金利が上昇し始めていても、その影響は限定的なのだ」、「メガ」は「好循環に突入」できるが、「中小の地銀」は「金利復活をむしろ苦々しく思っている」、なるほど。
・『重要度増す預金、各行金利引き上げへ ネット銀行が競争をリード 地銀は貸出金利を上げたければ、貸出先の中小企業と直接交渉する必要がある。だが、中小企業の多くは人件費や原材料費の高騰などにさらされており、金利負担増を簡単にのむことはできない。ある中堅規模の地銀幹部は「市場金利が上がったから貸出金利を上げさせてくれと頼んでも、『銀行がもうけたいだけだろう』と門前払いを食い、他行に乗り換えられる」と苦しい胸の内を明かす。 一方、そんな状況とは無縁の3メガは、早速次の一手を打った。他行に先手を取られぬよう、普通預金金利を0.001%から0.02%へ、17年ぶりに引き上げたのだ。金利が復活した世界では、預金は銀行にとって利益を生む原資であり、重要度が増すからだ。 地銀は置かれた状況が苦しくても、3メガに追随せざるを得ない。預金金利の引き上げを見送れば、個人顧客の流出を招いてしまうからだ。前出の田村氏は「預金は金利が0.001%高いだけでも、そこに流れる。他行に預金を奪われないためにも、金利は早めに上げる必要があった」と指摘する。こうしてマイナス金利解除決定から3営業日後の3月25日時点で、普通預金金利の引き上げを決めた地銀は実に43行に上った(下表参照)。 (図表:銀行各行の普通預金金利 はリンク先参照) 地銀にとってさらに頭が痛いのは、インターネット銀行のSBI新生銀行とPayPay銀行が、普通預金金利を3メガや地銀よりも高い0.03%に引き上げたことだろう。 金利差はわずか0.01%だが、その差は数字以上だ。ネット銀行には3メガや地銀が一朝一夕には追い付けない、スマートフォンアプリの使い勝手の良さがある。 あるネット銀行幹部は「金利が少し高いことは、アプリの使いやすさや便利さを知ってもらうためのきっかけにすぎない。今回の金利引き上げで金融に対する意識が高くない人もそれに気付き、多くのユーザーを獲得できるだろう」と自信を見せる。 金利復活にもかかわらず、貸出金利は上げられず、預金金利は引き上げざるを得ない。今後はむしろジリ貧になる──。マイナス金利後に始まる新たなゲームは、地銀にとってこれまでにない過酷なものとなりそうだ』、「金利復活にもかかわらず、貸出金利は上げられず、預金金利は引き上げざるを得ない。今後はむしろジリ貧になる──。マイナス金利後に始まる新たなゲームは、地銀にとってこれまでにない過酷なものとなりそうだ」、「TIBOR連動貸出」が少ないことで、「中小地銀」は苦戦を強いられるようだ。
第三に、3月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したみずほリサーチ&テクノロジーズ調査部プリンシパルの小野 亮氏による「パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/341204
・『1、2月と続くインフレ率の上振れに「過剰反応はしない」と静観の構えを見せた3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でのパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長に対し、米株式市場は上昇という形で万雷の拍手を送ったようだ。パウエル議長は米景気・雇用の強さを軽視してはいないのか』、興味深そうだ。
・『インフレ見通し上振れもFOMCは年内3回の利下げ予想を維持 3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、最近のCPI(消費者物価指数)統計に見られるインフレ率の上振れに対して顕著な警戒感の強まりを見せることはなかった。 市場参加者の間で最も関心を集めていたとみられる、ドットチャート(FOMC参加者による政策金利であるFF(フェデラルファンド)レートの水準予想)が示す年内の利下げ幅(現状水準と参加者の予想値の中央値との差)は、前回12月と同様の0.75%(通常は1回につき0.25%なので3回の利下げに相当する)となった。 まず、声明文では雇用情勢の強さを強調する最小限の修正が施されただけにとどまり、最近のインフレ率の上振れに関する文言はない。 次に、声明文と同時に発表された物価見通しでは、2024年末のコアインフレ率が前年比2.4%から2.6%へと0.2ポイント上方修正されたが、12月会合から足元までの実績を反映したゲタ(編集部注:直近の水準がそのまま続いたと仮定した場合の上昇・下落幅)に相当する修正幅にとどまった。 FOMC参加者が、最近のようなインフレ率の上振れが今後も続くとは考えていないことの表れである。その結果、「26年末までのインフレ2%達成」という見通しも維持された。 「物価安定への道は外れていない」という物価見通しと整合的なように、米政策金利については前回と同様「24年内は3回相当の0.75%の利下げ」というシナリオもそのままで、米株式市場は歓喜に沸いている。 しかし、ドットチャートやFOMCの経済・物価見通しを子細に見ていくとそのシナリオの危うさが浮かび上がる。次ページ以降、検証していく』、「「物価安定への道は外れていない」という物価見通しと整合的なように、米政策金利については前回と同様「24年内は3回相当の0.75%の利下げ」というシナリオもそのままで、米株式市場は歓喜に沸いている」、マ―ケットが好感するのは当然だが、果たして大丈夫なのだろうか。
・『経済・物価見通し上振れで米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に 米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に微修正された。 FOMC参加者らの政策金利(現在の水準は5.25~5.5%)見通しの分布(中央値で示される。たとえば5.25~5.5%の場合は5.375%)を見ると、前回ドットチャートが示された23年12月のFOMC時に「24年内に3回を超える利下げが適切」と考えていたハト派のほとんどが「せいぜい3回の利下げ」という考えに変化し、「4.5~4.75%」を底辺とするピラミッド型の分布となった(図表1参照)』、「米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に微修正された・・・23年12月のFOMC時に「24年内に3回を超える利下げが適切」と考えていたハト派のほとんどが「せいぜい3回の利下げ」という考えに変化し、「4.5~4.75%」を底辺とするピラミッド型の分布となった」、なるほど。
・『パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク
また、25年内の利下げ幅(予想値の中央値の24年末と25年末の差)が1.0%(4回の利下げ)から0.75%(3回の利下げ)に縮小し、26年末時点の政策金利の水準(予想値の中央値)は前回より0.25%高い3.0~3.25%となった。長期(Longer run)の政策金利も0.125%上昇している。 小幅ながらも政策金利の分布やパスが上方シフトしたのは、これまで以上に強いペースでの景気拡大と良好な雇用情勢が続きそうだという見通しのためである。成長率見通しは、26年までの3年間にわたって上方修正され、潜在成長率(1%台半ば)を上回るペースの景気拡大が持続する見通しとなった。 失業率に関しても、見通しはほぼ変わらないが、先行きについて「上振れ(悪化)リスク」を挙げる参加者が減り、「リスクは均衡している」と考える参加者が大勢となった。FOMC参加者らが3カ月の間に雇用の先行きに自信を深めた様子がうかがえる』、「25年内の利下げ幅(予想値の中央値の24年末と25年末の差)が1.0%(4回の利下げ)から0.75%(3回の利下げ)に縮小し、26年末時点の政策金利の水準(予想値の中央値)は前回より0.25%高い3.0~3.25%となった。長期(Longer run)の政策金利も0.125%上昇している。 小幅ながらも政策金利の分布やパスが上方シフトしたのは、これまで以上に強いペースでの景気拡大と良好な雇用情勢が続きそうだという見通しのためである・・・FOMC参加者らが3カ月の間に雇用の先行きに自信を深めた様子がうかがえる」、なるほど。
・『景気・雇用の強さを問題視しないパウエル議長 インフレ上振れ時のタカ派転換リスク高まる 印象的だったのは、パウエル議長が足元のインフレ率の上振れに動じない姿勢を見せたことだ。 パウエル議長がインフレ率の推移に関して使うことが多い「6カ月前と比較したインフレ率」で見ると、昨年後半はCPI、PCED(個人消費支出デフレーター)のいずれも落ち着いていた(図表2参照)』、「景気・雇用の強さを問題視しないパウエル議長」、何故なのだろう。
・『パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク
しかし24年に入り、特にCPIが上振れている。米景気が好調な結果、ディスインフレの動きが反転・再加速している恐れがあることを示す動きだ。 ところがパウエル議長は、インフレ率には「年前半に強く、年後半に弱い」という癖があることや、新規契約の賃貸料の動きを踏まえれば、コアインフレ率の中で大きなウエートを占める住宅サービスのインフレ率は今後着実に鈍化すると見込まれることなどを理由に挙げながら、「過剰反応はしない」と述べるにとどまった。 「(1月と2月の)2つの数字を総合してみると、インフレ率が2%に向けて、時には飛び跳ねるような道(bumpy road)を進みながら徐々に低下していくという全体的なストーリーは変わっていない」とパウエル議長は語った。これは「足元の動きは想定の範囲内」という意味である。 パウエル議長のコミュニケーションは、FOMC後の上昇からわかるように米株式市場から万雷の拍手をもって迎えられたようだが、気掛かりなことがある。パウエル議長が、景気や雇用、賃金の強さを無条件に受け入れているように映る点だ。米株式市場が沸くのも当然だろう。 パウエル議長は、最近のインフレ率の上振れが「1回の出っ張り(bump)なのか、それ以上の何かなのかはわからない。それを見極める必要がある」「今後発表されるインフレ率とその内容、そしてそれが何を物語っているのか」を丁寧に見ていく姿勢を強調している。 であれば、インフレ率が再加速する原因となり得る強い景気・雇用・賃金にもっと警戒してもよかったはずだ。ところがパウエル議長は1月会合以降、「これらの強さ自体は問題ではない」と繰り返すようになった。 コロナ禍前のFOMCは、幾度となく、景気・雇用・賃金が強まる度に「予防的利上げ」を行い、結果として、インフレ率が低下し2%のインフレ目標達成を逃してきてしまった。その苦い経験が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」という最近の発言につながっている。 しかし、インフレ率の上振れがこれ以上続けば、パウエル議長はタカ派的姿勢をより鮮明にするはずだ。パウエル議長自身は首尾一貫したコミュニケーションのつもりでも、金融市場参加者にとっては大きなbumpとなり得る。今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「インフレ率が再加速する原因となり得る強い景気・雇用・賃金にもっと警戒してもよかったはずだ。ところがパウエル議長は1月会合以降、「これらの強さ自体は問題ではない」と繰り返すようになった。 コロナ禍前のFOMCは、幾度となく、景気・雇用・賃金が強まる度に「予防的利上げ」を行い、結果として、インフレ率が低下し2%のインフレ目標達成を逃してきてしまった。その苦い経験が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」という最近の発言につながっている。 しかし、インフレ率の上振れがこれ以上続けば、パウエル議長はタカ派的姿勢をより鮮明にするはずだ。パウエル議長自身は首尾一貫したコミュニケーションのつもりでも、金融市場参加者にとっては大きなbumpとなり得る。今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「パウエル議長」が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」との考え方にしがみつく理由は、不明だが、確かに彼の見方が外れた場合の「パウエル・ショックへの警戒が必要だろう」、同感である。
タグ:利上げペースが加速するリスクがあり、その場合、25年末の政策金利は1.0%かそれ以上となるだろう。また、今後の為替レートや4月以降の人件費の価格転嫁次第では、2度目の利上げが7月に前倒しで行われるリスクもあるだろう」、なるほど。 小野 亮氏による「パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか、高まる“タカ派転換ショック”リスク」 「金利復活にもかかわらず、貸出金利は上げられず、預金金利は引き上げざるを得ない。今後はむしろジリ貧になる──。マイナス金利後に始まる新たなゲームは、地銀にとってこれまでにない過酷なものとなりそうだ」、「TIBOR連動貸出」が少ないことで、「中小地銀」は苦戦を強いられるようだ。 地銀は3メガと違い、金利がTIBORと連動する貸出金の割合が小さい。そのため、足元で金利が上昇し始めていても、その影響は限定的なのだ」、「メガ」は「好循環に突入」できるが、「中小の地銀」は「金利復活をむしろ苦々しく思っている」、なるほど。 「筆者が市場やほかのエコノミストに比べてタカ派的な政策金利の予想を立てているのは、政府・日銀、市場が想定するよりも、日本経済の需給ギャップがタイト化していると考えていることがある。政府・日銀は需給ギャップがゼロ近傍にあるとしているが、筆者の推計では、既に前回の景気サイクルのピークである18年末のレベルまでタイト化している・・・ (注)オーバーシュート型コミットメント:日銀が物価安定の目標とする消費者物価指数(CPI、除く生鮮食品)の前年比上昇率2%を一時的に上回ってもすぐに金融緩和政策をやめるのではなく、同実績値が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース(資金供給量)の拡大を継続すること。 物価安定実現を目指し、物価上昇率が目標値を行き過ぎる(オーバーシュートする)まで金融緩和の継続を公約する(コミットメントする)日銀の強い姿勢を示している(野村証券証券用語解説集)。 「TIBORは一般的な大企業向け貸し出しの基準金利だ。3メガは金利がTIBORと連動する貸出金の割合が高く、TIBORが上昇したことで利ざやの拡大は確実に期待できる。3メガは今まさに、貸出金利上昇から利ざや拡大へとつながる、好循環の入り口に立っているのだ。 もっとも、全ての銀行が3メガのような好循環に突入できるわけではない。横浜銀行や千葉銀行などの規模の大きな地方銀行を除く中小の地銀は、金利復活をむしろ苦々しく思っているはずだ。 河野龍太郎氏による「日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か、働き方改革が需給ギャップをタイト化」 ダイヤモンド・オンライン (その45)(日銀次回利上げは「9月」で25年末政策金利は0.75%か 働き方改革が需給ギャップをタイト化、日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算” 中小地銀はジリ貧の分かれる明暗、パウエル議長のインフレ「過剰反応しない」姿勢は続くのか 高まる“タカ派転換ショック”リスク) 金融政策 しかし、インフレ率の上振れがこれ以上続けば、パウエル議長はタカ派的姿勢をより鮮明にするはずだ。パウエル議長自身は首尾一貫したコミュニケーションのつもりでも、金融市場参加者にとっては大きなbumpとなり得る。今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「今後はパウエル・ショックへの警戒が必要だろう』、「パウエル議長」が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」との考え方にしがみつく理由は、不明だが、確かに彼の見方が外れた場合の「パウエル・ショックへの警戒が必要だろう」、同感である。 「インフレ率が再加速する原因となり得る強い景気・雇用・賃金にもっと警戒してもよかったはずだ。ところがパウエル議長は1月会合以降、「これらの強さ自体は問題ではない」と繰り返すようになった。 コロナ禍前のFOMCは、幾度となく、景気・雇用・賃金が強まる度に「予防的利上げ」を行い、結果として、インフレ率が低下し2%のインフレ目標達成を逃してきてしまった。その苦い経験が「景気や雇用の強さ自体は問題ではない」という最近の発言につながっている。 「今回の日銀の政策変更で想定以上の業績上振れが期待できそうな“うれしい誤算”があったメガバンクと、金利復活でジリ貧に陥りそうな地銀の明暗に迫る」、なるほど。 「2%のインフレ目標の実現が見通せる状況になったとする中で、具体的な数値のキャップを長期金利に残すのは、不自然と日銀は判断したのだろう」、なるほど。 「人口動態と働き方改革による労働供給の限界が需給ギャップをタイト化。2025年以降の賃上げ圧力となり、インフレを上向かせる。25年末には政策金利は0.75%に達するとみている」、0.25%ずつとすれば、利上げは3回だ。 ダイヤモンド・オンライン「日銀マイナス金利解除でメガバンクに“うれしい誤算”、中小地銀はジリ貧の分かれる明暗」 「今回、植田総裁が異次元緩和の解除に踏み切ったのは、円安インフレの個人消費への悪影響など副作用が意識され、利上げを「待つことのコスト」が無視し得なくなっているのだと思われる。 インフレ期待が着実に上がっているのなら、実質金利の一段の低下で金融緩和度が強まることを避けるため、名目金利を引き上げなければならない。金利リスクはアップサイドだと思われる」、その通りだ。 「金利が復活すれば、企業への貸し出しなどの運用と、預金などの調達の金利差である利ざやの改善が見込め、金利収益の拡大が期待できる。銀行の本業である金利差で稼ぐという、本来のゲームに変わるというわけだ」、なるほど。 「米政策金利は「より高く、より長く」維持される方向に微修正された・・・23年12月のFOMC時に「24年内に3回を超える利下げが適切」と考えていたハト派のほとんどが「せいぜい3回の利下げ」という考えに変化し、「4.5~4.75%」を底辺とするピラミッド型の分布となった」、なるほど。 「「物価安定への道は外れていない」という物価見通しと整合的なように、米政策金利については前回と同様「24年内は3回相当の0.75%の利下げ」というシナリオもそのままで、米株式市場は歓喜に沸いている」、マ―ケットが好感するのは当然だが、果たして大丈夫なのだろうか。 どういうことなのだろう。 「景気・雇用の強さを問題視しないパウエル議長」、何故なのだろう。 FOMC参加者らが3カ月の間に雇用の先行きに自信を深めた様子がうかがえる」、なるほど。 「25年内の利下げ幅(予想値の中央値の24年末と25年末の差)が1.0%(4回の利下げ)から0.75%(3回の利下げ)に縮小し、26年末時点の政策金利の水準(予想値の中央値)は前回より0.25%高い3.0~3.25%となった。長期(Longer run)の政策金利も0.125%上昇している。 小幅ながらも政策金利の分布やパスが上方シフトしたのは、これまで以上に強いペースでの景気拡大と良好な雇用情勢が続きそうだという見通しのためである・・・
個人債務問題(その4)(若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)、「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇、住宅ローンのフラット35 金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り 変動金利型に対抗へ) [金融]
個人債務問題については、2021年2月5日に取上げた。今日は、(その4)(若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)、「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇、住宅ローンのフラット35 金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り 変動金利型に対抗へ)である。
先ずは、昨年8月7日付けGirls Channelが転載したテレ東BIZ「若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)」を紹介しよう。
・『佐藤さんが購入した物件は、都心の最寄り駅から徒歩1分の1LDK(約45平方メートル)。築15年(購入時)で4900万円でした。 物件自体に問題はありませんでしたが、「投資用のローンではなく、住宅居住用の『フラット35』を使用してしまった。不動産会社とやり取りをしていて、投資用ローンで購入しているものだと思っていた」(佐藤さん)といいます。 「フラット35」は、最長35年間、一定の金利で借りられる住宅ローン。 問題は、このローンを利用できるのは、本人や親族が住むための物件を購入する場合に限られていることです。佐藤さんのように、投資用物件で使うと、不正利用にあたります。 購入から1年後、佐藤さんの元に届いたのは、住宅金融支援機構からの居住確認でした。 「不動産会社に手紙が来たということを言ったときに、アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」(佐藤さん) 最終的に居住実態がないことが確認され、佐藤さんは住宅支援機構から残ったローンの一括返済を求められました。その後、物件を販売した不動産会社とは、連絡が取れなくなったといいます。 「不動産のプロは詐欺のようなことはしないだろうと思っていた。後悔している」(佐藤さん) 実は今、佐藤さんのように、知らずにフラット35の不正利用をしてしまう事例が相次いでいます』、「購入から1年後、佐藤さんの元に届いたのは、住宅金融支援機構からの居住確認でした。 「不動産会社に手紙が来たということを言ったときに、アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」(佐藤さん) 最終的に居住実態がないことが確認され、佐藤さんは住宅支援機構から残ったローンの一括返済を求められました。その後、物件を販売した不動産会社とは、連絡が取れなくなったといいます」、「物件を販売した不動産会社」も「連絡が取れなくなった」とは無責任の極みだが、「アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」、という佐藤さんにも責任がある。「一括返済」要求に応じる必要がある。
次に、 3月13日付けダイヤモンド・オンライン「「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339691
・『“カジュアル”な債務整理――。本来、債務整理は、貸金業者などと和解して利息を減額してもらうなど“重たい”ものだが、最近では「国が認めた借金減額」などのSNS広告に釣られ、気軽に利用する若年層が急増。しかしその裏には、債務整理をエコシステム化した経営コンサルティング会社や弁護士事務所が存在する。特集『激変!3大士業の仕事&稼ぎ方』(全12回)の#8では、最新の債務整理ビジネスのスキームを明らかにする』、「最新の債務整理ビジネスのスキーム」とは興味深そうだ。
・『「国が認めた借金減額」など 債務整理に誘導する広告が跋扈 「国が認めた借金減額」「借金救済措置」「借金減額シミュレーター」――。スマートフォンでSNSやニュースサイトなどを見ていると、次から次へとこうした広告が目に入る。 しかも、異なる弁護士事務所や司法書士事務所の広告にもかかわらず、似たような文言が書かれているのに加え、色が違うだけで同じ広告としか思えない誘導画面がずらりと並んでいる。 要は、借金救済制度をうたったテンプレートを経営コンサルティング会社や広告会社が用意し、それを多くの士業が利用しているわけだ。そして今、こうしたサイト経由で気軽に債務整理を申し込む若年層が増えている。 ある貸金業者の調査によれば、「20代の若年層が利用者の約30%を占め、特定の経営コンサル会社の案件に限って見れば、若年層が約45%を占める」という。 スマホ経由で手軽なため、ちまたでは「カジュアルな債務整理」と呼ばれており、その裏には、債務整理をエコシステム化した経営コンサル会社や弁護士事務所が存在している。しかも、「かなりずさんな運用がなされているケースが少なくない」と弁護士業界や貸金業界でささやかれている。 では、いったい何が問題なのか。次ページでは、「カジュアルな債務整理」と呼ばれる、このスキームの全貌を明らかにしていこう』、「債務整理」とは暗いイメージだが、「カジュアルな債務整理」には「暗さ」がなく、言い得て妙だ。それにしても「借金救済制度をうたったテンプレートを経営コンサルティング会社や広告会社が用意し、それを多くの士業が利用」、とは恐れ入る。
・『カジュアルな債務整理 高額な弁護士報酬が発生 まずは、下図をご覧いただきたい。カジュアルな債務整理の仕組みを図解したものだ。 (図表:SNS広告を多用した債務整理ビジネスのスキームはリンク先参照) 士業専門の経営コンサル会社や広告会社が、弁護士事務所や司法書士事務所などと手を組み、SNSなどで「国が認めた借金減額」などの不当な広告を大量に打つ。国が新たに多重債務者を救済する制度を作ったかのようにアピールし、その広告を見た多重債務者は、サイト経由で借金額や個人情報を入力し、弁護士事務所などに債務整理を依頼するという流れだ。 最近の若年層は、昔のように遊興費のための借金ではなく、「生活費の補填のための借金が多い」と貸金業者たちは言う。収入が低く増えない中、高額なスマホをBNPLと呼ばれる後払い決済で購入したり、不足した生活費をカードローンや消費者金融などの借金で補填したりして、月々の支払いが10万円を超えてしまうケースが多いのだという。 このように借金に苦しむ若者たちからすれば、国が認めた制度で借金が減額できるならばありがたいが、実はそう単純な話ではない。 一口に債務整理と言っても、任意整理や自己破産、民事再生など複数の方法があり、くだんの債務整理で主に利用されているのが任意整理だ。任意整理とは、弁護士事務所が貸金業者と交渉することで将来発生する利息や遅延損害金を免除してもらい、借金を分割払いにすることで月々の支払いを減額するというものだ。 これならば借金が大きく減りそうだが、実際にはそうとは言い切れない。長期分割払いは認められたとしても、債務者の資産状況によっては利息を減免する必要がないケースもあるからだ。 また、改正貸金業法が本格施行され、貸金業各社が上限金利を引き下げた2010年より前(実際には07年ごろから引き下げている)の借り入れならば、過払い金があるため借金は大きく減るが、それ以降の借り入れならば元本が減ることはない。 しかも、弁護士事務所に債務整理を依頼するには高額な手数料がかかる。着手金が5万円で成功報酬が2万~3万円というのが相場だが、5社から借り入れしていれば計35万~40万円にもなる。 加えて、和解が成立して長期分割払いになった場合には、返済代行に関わる送金管理手数料として、1回当たり約1100円を上乗せした金額を弁護士事務所に支払うことになる。60回払いならば計6万円となり、5社から借り入れがあれば総額30万円にもなる。 要は、着手金と成功報酬に送金管理手数料を足し合わせれば、65万~70万円もの費用がかかる計算だ。故に、「債務整理をしても、実際に支払う総額は減らないか、もしくは借金額が少なければ、弁済総額が増えることすらある」と、別の貸金業者は明かす』、「カジュアルな債務整理 高額な弁護士報酬が発生」、なるほど。
・『経営コンサルが弁護士を主導し「非弁行為」に手を染める例も そもそも債務整理は、過払い金返還請求とは大きく異なるもの。過払い金返還請求は、過去に返済した借金に対する超過利息分を取り返すものだが、債務整理は、借金額や借り入れ社数、現在の収支のバランスや資産額、借り入れに至った理由や今後の見通しなどさまざまな要素を検討した上で、判断しなければならない。 なぜなら、債務整理を行えば、その情報は信用情報機関に登録されることになるからだ。完済してから5年間は登録情報が消えないため、60回払い(5年間)にした場合、合計10年間はクレジットカードの利用や新規発行、住宅ローンなどの借り入れができなくなる。 故に、弁護士事務所が債務整理を受任する際には、「債務者と面談を行い、債務の内容や生活状況等を聴取しなければならない」と、日本弁護士連合会の規定で決められている。ところが、昨今はやりの債務整理では、「弁護士による面談が行われていないと思われるケースが多い」と複数の貸金業者は話す。 というのも、弁護士が少人数しかいない事務所が、24時間フル稼働しても面談し切れないほど多数の債務者を全国から集めている事例があるからだ。こうした事務所では事務員が対応しているもようで、いわゆる「非弁行為」に当たる可能性が高い。 実際、18年に弁護士法違反の容疑で弁護士法人のあゆみ共同法律事務所が大阪地方検察庁特捜部の捜索を受け、所属していた弁護士たちが罪に問われた。経営コンサル会社HIROKEN(ヒロケン)が派遣した事務員に、弁護士の名義を利用させて債務整理を行っていたためだ。 まさに、非弁行為があったわけだが、この事件のポイントは経営コンサル会社が主導していたとみられる点だ。司法制度改革によって弁護士の数が激増し、過当競争により仕事にあぶれる弁護士が急増した。それを機に、非弁行為に取り込まれた可能性が高い。 今はやりのカジュアルな債務整理の激増も、これと似た構図だ。最近、勢力を拡大しているある士業専門の経営コンサル会社は、「送金管理手数料だけで毎月1.5億円を稼ぎ、それを傘下の弁護士事務所と経営コンサル会社で分け合っている」とのうわさもある。 これは弁護士職務基本規定に反する行為であり、債務整理ビジネスをエコシステム化し、生活費に困窮している若年層を食い物にしていると言わざるを得ない。弁護士としての矜持が問われている』、「最近、勢力を拡大しているある士業専門の経営コンサル会社は、「送金管理手数料だけで毎月1.5億円を稼ぎ、それを傘下の弁護士事務所と経営コンサル会社で分け合っている」とのうわさもある。 これは弁護士職務基本規定に反する行為であり、債務整理ビジネスをエコシステム化し、生活費に困窮している若年層を食い物にしていると言わざるを得ない。弁護士としての矜持が問われている」、ここまで酷いビジネスを展開しているとは、初めて知ると同時に、驚いた。
第三に、3月26日付け東洋経済オンライン「住宅ローンのフラット35、金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り、変動金利型に対抗へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/743427
・『住宅金融支援機構が提供する、長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の利用が低迷している。2023年度の利用戸数は、2008年度以来15年ぶりの低水準となる見通しだ。見かねた機構は「身銭」を切って金利を引き下げ、根強い人気を誇る変動金利型との競争に参戦し始めた。 「昨今の金融情勢が続く限り、落ち込みは避けられない」。機構の幹部は肩を落とす』、「長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の利用が低迷・・・見かねた機構は「身銭」を切って金利を引き下げ、根強い人気を誇る変動金利型との競争に参戦し始めた」、「機構」が「「身銭」を切って金利を引き下げ」とは驚かされた。
・『足元は変動金利型が優勢 フラット35の利用戸数は、2023年4~12月の累計で約2.5万戸だった。2024年に入って復調しているものの、通期でも4万戸をやや超える程度となる見通しだ。5万戸割れは2008年度以来となる。 足元の住宅ローン市場は、低金利が売りの変動金利型が優勢だ。機構の調査によれば、2023年4~9月に住宅ローンを利用した人の74.5%は、変動金利型を選んだ。前年同期の69.9%から上昇している。) かつてフラット35は、金利の先高観を懸念する顧客からの底堅い需要があった。ところが、2022年からフラット35の金利が目に見えて上昇し始め、今年3月時点での最頻値は1.84%(返済期間21年〜35年)。0.5%前後で横ばいを保つ変動金利との差が鮮明となり、顧客に敬遠されている。 フラット35の独歩高の背景にあるのが長短金利差だ。固定金利型の住宅ローンは長期金利を、そして変動金利型は短期金利を参照する。 長期金利は2022年から上昇が顕著になり、2022年末や2023年7月、10月と日本銀行が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の運用を柔軟化し、長期金利の上昇を容認したことで拍車がかかった。対照的に、短期金利はマイナス圏に抑え込まれ続け、長短金利差は拡大の一途をたどる』、「短期金利はマイナス圏に抑え込まれ続け、長短金利差は拡大の一途をたどる」、なるほど。
・『固定と変動の金利差は縮まりそうにない 日銀はこのほど、マイナス金利政策の解除を決断したものの、固定と変動の金利差は当分縮まりそうにない。 住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFSの塩澤崇取締役COO(最高執行責任者)は、「変動金利は競争が激しく、各行は金利を上げられないだろう。一方、フラット35のような長期固定金利も、アメリカの利下げが始まるまでは高止まり状態が続く」と話す。 3月21日には、SBI新生銀行が住宅ローンの変動金利を年0.42%から0.29%へと引き下げるキャンペーンを打ち出した。 金利上昇が機構にもたらす影響は大きい。機構は銀行のように預金を集めておらず、代わりに金融機関から買い取った住宅ローン債権を担保に債券(MBS)を発行し、資金を調達している。満期までの期間が長いMBSは、投資家から求められる利回りも長期金利の動向に左右される。 機構が発行するMBSの表面利率は、2022年の秋口までは0.5%前後で推移していたが、2022年末には1%を突破。2024年3月発行分は1.14%にまで上がっている。資金調達費用が上昇した分はフラット35の金利に転嫁せざるを得ず、競争の激しい変動金利型との差は広がる一方だ。 フラット35の退潮は、金融機関側にも対応を迫る。主要取扱金融機関であるSBIアルヒは、2023年8月に変動金利型の新たな住宅ローン商品を投入した。同社の融資実行件数は近年落ち込んでおり、変動金利型の商品で埋め合わせたい考えだ。 こうした「フラット離れ」を、機構も指をくわえて見ているわけではない。2022年秋には、機構の発行するMBSの利率が上昇したにもかかわらず、フラット35の金利をむしろ引き下げた。自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える動きだ』、「「フラット離れ」を、機構も指をくわえて見ているわけではない。2022年秋には、機構の発行するMBSの利率が上昇したにもかかわらず、フラット35の金利をむしろ引き下げた。自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える動きだ」、「機構」も「自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える」とは苦しい対応だ。
・『新商品投入だが「時間稼ぎ」との側面も そして2024年2月、機構が満を持して投入したのが「フラット35子育てプラス」だ。子育て世帯を対象に金利を優遇する新商品で、子どもの人数が多かったり、省エネ住宅の取得や地方移住などの条件を満たしたりすると、借り入れ時から5年間、金利が最大で1%下がる。 変動金利型にも対抗できる優遇幅が奏功してか、機構によれば、子育てプラスの投入後、フラット35の利用件数は回復基調にあるという。 とはいえ、大胆な金利優遇は両刃の剣でもある。子育てプラスによる金利優遇の原資としては、2023年11月に成立した補正予算で国から約15億円が拠出される。ただし全額が賄われるわけではなく、一部は機構の持ち出しとなる。「(子育てプラスは)いつまでも続けられる施策ではない」(機構幹部)とし、予算が尽きた時点で受け付けを終了する。 新商品は子育て世帯の住宅取得支援という意味合いに加えて、長短金利差が縮むまでの「時間稼ぎ」との側面もにじむ。2024年も、機構にとって我慢の年となりそうだ』、「「(子育てプラスは)いつまでも続けられる施策ではない」(機構幹部)とし、予算が尽きた時点で受け付けを終了する。 新商品は子育て世帯の住宅取得支援という意味合いに加えて、長短金利差が縮むまでの「時間稼ぎ」との側面もにじむ。2024年も、機構にとって我慢の年となりそうだ」、「機構」も大変なようだ。
先ずは、昨年8月7日付けGirls Channelが転載したテレ東BIZ「若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)」を紹介しよう。
・『佐藤さんが購入した物件は、都心の最寄り駅から徒歩1分の1LDK(約45平方メートル)。築15年(購入時)で4900万円でした。 物件自体に問題はありませんでしたが、「投資用のローンではなく、住宅居住用の『フラット35』を使用してしまった。不動産会社とやり取りをしていて、投資用ローンで購入しているものだと思っていた」(佐藤さん)といいます。 「フラット35」は、最長35年間、一定の金利で借りられる住宅ローン。 問題は、このローンを利用できるのは、本人や親族が住むための物件を購入する場合に限られていることです。佐藤さんのように、投資用物件で使うと、不正利用にあたります。 購入から1年後、佐藤さんの元に届いたのは、住宅金融支援機構からの居住確認でした。 「不動産会社に手紙が来たということを言ったときに、アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」(佐藤さん) 最終的に居住実態がないことが確認され、佐藤さんは住宅支援機構から残ったローンの一括返済を求められました。その後、物件を販売した不動産会社とは、連絡が取れなくなったといいます。 「不動産のプロは詐欺のようなことはしないだろうと思っていた。後悔している」(佐藤さん) 実は今、佐藤さんのように、知らずにフラット35の不正利用をしてしまう事例が相次いでいます』、「購入から1年後、佐藤さんの元に届いたのは、住宅金融支援機構からの居住確認でした。 「不動産会社に手紙が来たということを言ったときに、アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」(佐藤さん) 最終的に居住実態がないことが確認され、佐藤さんは住宅支援機構から残ったローンの一括返済を求められました。その後、物件を販売した不動産会社とは、連絡が取れなくなったといいます」、「物件を販売した不動産会社」も「連絡が取れなくなった」とは無責任の極みだが、「アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」、という佐藤さんにも責任がある。「一括返済」要求に応じる必要がある。
次に、 3月13日付けダイヤモンド・オンライン「「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339691
・『“カジュアル”な債務整理――。本来、債務整理は、貸金業者などと和解して利息を減額してもらうなど“重たい”ものだが、最近では「国が認めた借金減額」などのSNS広告に釣られ、気軽に利用する若年層が急増。しかしその裏には、債務整理をエコシステム化した経営コンサルティング会社や弁護士事務所が存在する。特集『激変!3大士業の仕事&稼ぎ方』(全12回)の#8では、最新の債務整理ビジネスのスキームを明らかにする』、「最新の債務整理ビジネスのスキーム」とは興味深そうだ。
・『「国が認めた借金減額」など 債務整理に誘導する広告が跋扈 「国が認めた借金減額」「借金救済措置」「借金減額シミュレーター」――。スマートフォンでSNSやニュースサイトなどを見ていると、次から次へとこうした広告が目に入る。 しかも、異なる弁護士事務所や司法書士事務所の広告にもかかわらず、似たような文言が書かれているのに加え、色が違うだけで同じ広告としか思えない誘導画面がずらりと並んでいる。 要は、借金救済制度をうたったテンプレートを経営コンサルティング会社や広告会社が用意し、それを多くの士業が利用しているわけだ。そして今、こうしたサイト経由で気軽に債務整理を申し込む若年層が増えている。 ある貸金業者の調査によれば、「20代の若年層が利用者の約30%を占め、特定の経営コンサル会社の案件に限って見れば、若年層が約45%を占める」という。 スマホ経由で手軽なため、ちまたでは「カジュアルな債務整理」と呼ばれており、その裏には、債務整理をエコシステム化した経営コンサル会社や弁護士事務所が存在している。しかも、「かなりずさんな運用がなされているケースが少なくない」と弁護士業界や貸金業界でささやかれている。 では、いったい何が問題なのか。次ページでは、「カジュアルな債務整理」と呼ばれる、このスキームの全貌を明らかにしていこう』、「債務整理」とは暗いイメージだが、「カジュアルな債務整理」には「暗さ」がなく、言い得て妙だ。それにしても「借金救済制度をうたったテンプレートを経営コンサルティング会社や広告会社が用意し、それを多くの士業が利用」、とは恐れ入る。
・『カジュアルな債務整理 高額な弁護士報酬が発生 まずは、下図をご覧いただきたい。カジュアルな債務整理の仕組みを図解したものだ。 (図表:SNS広告を多用した債務整理ビジネスのスキームはリンク先参照) 士業専門の経営コンサル会社や広告会社が、弁護士事務所や司法書士事務所などと手を組み、SNSなどで「国が認めた借金減額」などの不当な広告を大量に打つ。国が新たに多重債務者を救済する制度を作ったかのようにアピールし、その広告を見た多重債務者は、サイト経由で借金額や個人情報を入力し、弁護士事務所などに債務整理を依頼するという流れだ。 最近の若年層は、昔のように遊興費のための借金ではなく、「生活費の補填のための借金が多い」と貸金業者たちは言う。収入が低く増えない中、高額なスマホをBNPLと呼ばれる後払い決済で購入したり、不足した生活費をカードローンや消費者金融などの借金で補填したりして、月々の支払いが10万円を超えてしまうケースが多いのだという。 このように借金に苦しむ若者たちからすれば、国が認めた制度で借金が減額できるならばありがたいが、実はそう単純な話ではない。 一口に債務整理と言っても、任意整理や自己破産、民事再生など複数の方法があり、くだんの債務整理で主に利用されているのが任意整理だ。任意整理とは、弁護士事務所が貸金業者と交渉することで将来発生する利息や遅延損害金を免除してもらい、借金を分割払いにすることで月々の支払いを減額するというものだ。 これならば借金が大きく減りそうだが、実際にはそうとは言い切れない。長期分割払いは認められたとしても、債務者の資産状況によっては利息を減免する必要がないケースもあるからだ。 また、改正貸金業法が本格施行され、貸金業各社が上限金利を引き下げた2010年より前(実際には07年ごろから引き下げている)の借り入れならば、過払い金があるため借金は大きく減るが、それ以降の借り入れならば元本が減ることはない。 しかも、弁護士事務所に債務整理を依頼するには高額な手数料がかかる。着手金が5万円で成功報酬が2万~3万円というのが相場だが、5社から借り入れしていれば計35万~40万円にもなる。 加えて、和解が成立して長期分割払いになった場合には、返済代行に関わる送金管理手数料として、1回当たり約1100円を上乗せした金額を弁護士事務所に支払うことになる。60回払いならば計6万円となり、5社から借り入れがあれば総額30万円にもなる。 要は、着手金と成功報酬に送金管理手数料を足し合わせれば、65万~70万円もの費用がかかる計算だ。故に、「債務整理をしても、実際に支払う総額は減らないか、もしくは借金額が少なければ、弁済総額が増えることすらある」と、別の貸金業者は明かす』、「カジュアルな債務整理 高額な弁護士報酬が発生」、なるほど。
・『経営コンサルが弁護士を主導し「非弁行為」に手を染める例も そもそも債務整理は、過払い金返還請求とは大きく異なるもの。過払い金返還請求は、過去に返済した借金に対する超過利息分を取り返すものだが、債務整理は、借金額や借り入れ社数、現在の収支のバランスや資産額、借り入れに至った理由や今後の見通しなどさまざまな要素を検討した上で、判断しなければならない。 なぜなら、債務整理を行えば、その情報は信用情報機関に登録されることになるからだ。完済してから5年間は登録情報が消えないため、60回払い(5年間)にした場合、合計10年間はクレジットカードの利用や新規発行、住宅ローンなどの借り入れができなくなる。 故に、弁護士事務所が債務整理を受任する際には、「債務者と面談を行い、債務の内容や生活状況等を聴取しなければならない」と、日本弁護士連合会の規定で決められている。ところが、昨今はやりの債務整理では、「弁護士による面談が行われていないと思われるケースが多い」と複数の貸金業者は話す。 というのも、弁護士が少人数しかいない事務所が、24時間フル稼働しても面談し切れないほど多数の債務者を全国から集めている事例があるからだ。こうした事務所では事務員が対応しているもようで、いわゆる「非弁行為」に当たる可能性が高い。 実際、18年に弁護士法違反の容疑で弁護士法人のあゆみ共同法律事務所が大阪地方検察庁特捜部の捜索を受け、所属していた弁護士たちが罪に問われた。経営コンサル会社HIROKEN(ヒロケン)が派遣した事務員に、弁護士の名義を利用させて債務整理を行っていたためだ。 まさに、非弁行為があったわけだが、この事件のポイントは経営コンサル会社が主導していたとみられる点だ。司法制度改革によって弁護士の数が激増し、過当競争により仕事にあぶれる弁護士が急増した。それを機に、非弁行為に取り込まれた可能性が高い。 今はやりのカジュアルな債務整理の激増も、これと似た構図だ。最近、勢力を拡大しているある士業専門の経営コンサル会社は、「送金管理手数料だけで毎月1.5億円を稼ぎ、それを傘下の弁護士事務所と経営コンサル会社で分け合っている」とのうわさもある。 これは弁護士職務基本規定に反する行為であり、債務整理ビジネスをエコシステム化し、生活費に困窮している若年層を食い物にしていると言わざるを得ない。弁護士としての矜持が問われている』、「最近、勢力を拡大しているある士業専門の経営コンサル会社は、「送金管理手数料だけで毎月1.5億円を稼ぎ、それを傘下の弁護士事務所と経営コンサル会社で分け合っている」とのうわさもある。 これは弁護士職務基本規定に反する行為であり、債務整理ビジネスをエコシステム化し、生活費に困窮している若年層を食い物にしていると言わざるを得ない。弁護士としての矜持が問われている」、ここまで酷いビジネスを展開しているとは、初めて知ると同時に、驚いた。
第三に、3月26日付け東洋経済オンライン「住宅ローンのフラット35、金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り、変動金利型に対抗へ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/743427
・『住宅金融支援機構が提供する、長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の利用が低迷している。2023年度の利用戸数は、2008年度以来15年ぶりの低水準となる見通しだ。見かねた機構は「身銭」を切って金利を引き下げ、根強い人気を誇る変動金利型との競争に参戦し始めた。 「昨今の金融情勢が続く限り、落ち込みは避けられない」。機構の幹部は肩を落とす』、「長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の利用が低迷・・・見かねた機構は「身銭」を切って金利を引き下げ、根強い人気を誇る変動金利型との競争に参戦し始めた」、「機構」が「「身銭」を切って金利を引き下げ」とは驚かされた。
・『足元は変動金利型が優勢 フラット35の利用戸数は、2023年4~12月の累計で約2.5万戸だった。2024年に入って復調しているものの、通期でも4万戸をやや超える程度となる見通しだ。5万戸割れは2008年度以来となる。 足元の住宅ローン市場は、低金利が売りの変動金利型が優勢だ。機構の調査によれば、2023年4~9月に住宅ローンを利用した人の74.5%は、変動金利型を選んだ。前年同期の69.9%から上昇している。) かつてフラット35は、金利の先高観を懸念する顧客からの底堅い需要があった。ところが、2022年からフラット35の金利が目に見えて上昇し始め、今年3月時点での最頻値は1.84%(返済期間21年〜35年)。0.5%前後で横ばいを保つ変動金利との差が鮮明となり、顧客に敬遠されている。 フラット35の独歩高の背景にあるのが長短金利差だ。固定金利型の住宅ローンは長期金利を、そして変動金利型は短期金利を参照する。 長期金利は2022年から上昇が顕著になり、2022年末や2023年7月、10月と日本銀行が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の運用を柔軟化し、長期金利の上昇を容認したことで拍車がかかった。対照的に、短期金利はマイナス圏に抑え込まれ続け、長短金利差は拡大の一途をたどる』、「短期金利はマイナス圏に抑え込まれ続け、長短金利差は拡大の一途をたどる」、なるほど。
・『固定と変動の金利差は縮まりそうにない 日銀はこのほど、マイナス金利政策の解除を決断したものの、固定と変動の金利差は当分縮まりそうにない。 住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFSの塩澤崇取締役COO(最高執行責任者)は、「変動金利は競争が激しく、各行は金利を上げられないだろう。一方、フラット35のような長期固定金利も、アメリカの利下げが始まるまでは高止まり状態が続く」と話す。 3月21日には、SBI新生銀行が住宅ローンの変動金利を年0.42%から0.29%へと引き下げるキャンペーンを打ち出した。 金利上昇が機構にもたらす影響は大きい。機構は銀行のように預金を集めておらず、代わりに金融機関から買い取った住宅ローン債権を担保に債券(MBS)を発行し、資金を調達している。満期までの期間が長いMBSは、投資家から求められる利回りも長期金利の動向に左右される。 機構が発行するMBSの表面利率は、2022年の秋口までは0.5%前後で推移していたが、2022年末には1%を突破。2024年3月発行分は1.14%にまで上がっている。資金調達費用が上昇した分はフラット35の金利に転嫁せざるを得ず、競争の激しい変動金利型との差は広がる一方だ。 フラット35の退潮は、金融機関側にも対応を迫る。主要取扱金融機関であるSBIアルヒは、2023年8月に変動金利型の新たな住宅ローン商品を投入した。同社の融資実行件数は近年落ち込んでおり、変動金利型の商品で埋め合わせたい考えだ。 こうした「フラット離れ」を、機構も指をくわえて見ているわけではない。2022年秋には、機構の発行するMBSの利率が上昇したにもかかわらず、フラット35の金利をむしろ引き下げた。自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える動きだ』、「「フラット離れ」を、機構も指をくわえて見ているわけではない。2022年秋には、機構の発行するMBSの利率が上昇したにもかかわらず、フラット35の金利をむしろ引き下げた。自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える動きだ」、「機構」も「自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える」とは苦しい対応だ。
・『新商品投入だが「時間稼ぎ」との側面も そして2024年2月、機構が満を持して投入したのが「フラット35子育てプラス」だ。子育て世帯を対象に金利を優遇する新商品で、子どもの人数が多かったり、省エネ住宅の取得や地方移住などの条件を満たしたりすると、借り入れ時から5年間、金利が最大で1%下がる。 変動金利型にも対抗できる優遇幅が奏功してか、機構によれば、子育てプラスの投入後、フラット35の利用件数は回復基調にあるという。 とはいえ、大胆な金利優遇は両刃の剣でもある。子育てプラスによる金利優遇の原資としては、2023年11月に成立した補正予算で国から約15億円が拠出される。ただし全額が賄われるわけではなく、一部は機構の持ち出しとなる。「(子育てプラスは)いつまでも続けられる施策ではない」(機構幹部)とし、予算が尽きた時点で受け付けを終了する。 新商品は子育て世帯の住宅取得支援という意味合いに加えて、長短金利差が縮むまでの「時間稼ぎ」との側面もにじむ。2024年も、機構にとって我慢の年となりそうだ』、「「(子育てプラスは)いつまでも続けられる施策ではない」(機構幹部)とし、予算が尽きた時点で受け付けを終了する。 新商品は子育て世帯の住宅取得支援という意味合いに加えて、長短金利差が縮むまでの「時間稼ぎ」との側面もにじむ。2024年も、機構にとって我慢の年となりそうだ」、「機構」も大変なようだ。
タグ:「カジュアルな債務整理 高額な弁護士報酬が発生」、なるほど。 個人債務問題 「債務整理」とは暗いイメージだが、「カジュアルな債務整理」には「暗さ」がなく、言い得て妙だ。それにしても「借金救済制度をうたったテンプレートを経営コンサルティング会社や広告会社が用意し、それを多くの士業が利用」、とは恐れ入る。 「最新の債務整理ビジネスのスキーム」とは興味深そうだ。 ダイヤモンド・オンライン「「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇」 「物件を販売した不動産会社」も「連絡が取れなくなった」とは無責任の極みだが、「アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」、という佐藤さんにも責任がある。「一括返済」要求に応じる必要がある。 「購入から1年後、佐藤さんの元に届いたのは、住宅金融支援機構からの居住確認でした。 「不動産会社に手紙が来たということを言ったときに、アンケートのようなものだから答えなくていいと言われ、私もそういうものなのかと楽観的に捉えてしまった」(佐藤さん) 最終的に居住実態がないことが確認され、佐藤さんは住宅支援機構から残ったローンの一括返済を求められました。その後、物件を販売した不動産会社とは、連絡が取れなくなったといいます」、 「若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)」 テレ東BIZ「若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)」 Girls Channel (その4)(若者が陥る不動産投資のワナ 「フラット35」の不正利用が相次ぐ(テレ東BIZ)、「国が認めた借金減額」SNS広告で若年層を食い物に!経営コンサルと弁護士事務所の深い闇、住宅ローンのフラット35 金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り 変動金利型に対抗へ) 「「(子育てプラスは)いつまでも続けられる施策ではない」(機構幹部)とし、予算が尽きた時点で受け付けを終了する。 新商品は子育て世帯の住宅取得支援という意味合いに加えて、長短金利差が縮むまでの「時間稼ぎ」との側面もにじむ。2024年も、機構にとって我慢の年となりそうだ」、「機構」も大変なようだ。 「「フラット離れ」を、機構も指をくわえて見ているわけではない。2022年秋には、機構の発行するMBSの利率が上昇したにもかかわらず、フラット35の金利をむしろ引き下げた。自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える動きだ」、「機構」も「自らの利ザヤを削って、金利上昇の影響を抑える」とは苦しい対応だ。 「短期金利はマイナス圏に抑え込まれ続け、長短金利差は拡大の一途をたどる」、なるほど。 「長期固定金利の住宅ローン「フラット35」の利用が低迷・・・見かねた機構は「身銭」を切って金利を引き下げ、根強い人気を誇る変動金利型との競争に参戦し始めた」、「機構」が「「身銭」を切って金利を引き下げ」とは驚かされた。 東洋経済オンライン「住宅ローンのフラット35、金利「独歩高」の忍耐期 機構が「身銭」を切り、変動金利型に対抗へ」 「最近、勢力を拡大しているある士業専門の経営コンサル会社は、「送金管理手数料だけで毎月1.5億円を稼ぎ、それを傘下の弁護士事務所と経営コンサル会社で分け合っている」とのうわさもある。 これは弁護士職務基本規定に反する行為であり、債務整理ビジネスをエコシステム化し、生活費に困窮している若年層を食い物にしていると言わざるを得ない。弁護士としての矜持が問われている」、ここまで酷いビジネスを展開しているとは、初めて知ると同時に、驚いた。
NHK問題(その7)(稲葉NHKに喧嘩を売った…前会長の前田晃伸氏はみずほFG出身の「無類の硬骨漢」、「完全に冤罪 よくあんな乱暴な処分をしたな」NHK“前田晃伸前会長の変”に新たな展開、【音声入手】NHK首脳が頼みの綱は「税金」と明言!受信料収入激減で“脱・公共放送”シナリオが浮上) [メディア]
NHK問題については、昨年6月2日に取上げた。今日は、(その7)(稲葉NHKに喧嘩を売った…前会長の前田晃伸氏はみずほFG出身の「無類の硬骨漢」、「完全に冤罪 よくあんな乱暴な処分をしたな」NHK“前田晃伸前会長の変”に新たな展開、【音声入手】NHK首脳が頼みの綱は「税金」と明言!受信料収入激減で“脱・公共放送”シナリオが浮上)である。
先ずは、本年1月20日付け日刊ゲンダイが掲載した金融ジャーナリストの小林佳樹氏による「稲葉NHKに喧嘩を売った…前会長の前田晃伸氏はみずほFG出身の「無類の硬骨漢」」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/334981
・『NHKの次期中期経営計画案(2024~26年度)に対する意見募集(パブリックコメント)に、昨年1月まで会長だった前田晃伸氏(79)が意見を寄せていたことが朝日新聞の取材で明らかになった。 意見書は400字詰めの原稿用紙5枚にボールペンで手書きされており、前田氏時代に導入された人事制度改革が稲葉延雄・現会長の下で見直しが進められていることに対し「新体制となり、改革派の職員は、次々と姿を消す事態となった。(昨年)1月以降、経営改革は止まり、古い体制を維持する方向にカジを切ったことは、誠に残念」と痛烈に批判している。 また、今年度予算で未認可の衛星放送の配信業務に絡む不適切な支出の決定に前田氏が関わっていたとして、退職金が10%減額支給された問題にも言及。決定は専門家が放送法に抵触すると指摘しているが、「『冤罪デッチ上げ事件』だ」「放送法違反のおそれがあるという指摘は、完全に間違い」と記している。 これに対し、1月9日に記者会見した稲葉会長は、前田氏の主張について「私の役割は、(前田氏の)『改革の検証と発展』だ。改革を否定しているわけではないので残念」と述べた』、「前田前会長」の「意見書は400字詰めの原稿用紙5枚にボールペンで手書きされており、前田氏時代に導入された人事制度改革が稲葉延雄・現会長の下で見直しが進められていることに対し「新体制となり、改革派の職員は、次々と姿を消す事態となった。(昨年)1月以降、経営改革は止まり、古い体制を維持する方向にカジを切ったことは、誠に残念」と痛烈に批判」、なるほど。
・前代未聞の聴取 前田氏が「冤罪デッチ上げ」と指摘した事件は、衛星放送番組のインターネット配信の整備費約9億円の支出について、22年12月に前田氏や理事ら計9人が承認した稟議プロセスが不透明だというもの。稲葉会長はその解明のため4月の理事会で特命監査を指示。稟議に関わった前田氏や理事らを5月上旬にかけて聴取した。特命監査での会長経験者の聴取は前代未聞だった。 「この特命監査での遺恨が今回の前田氏の異例の意見書につながっていることは確かだ。前田氏はみずほ時代から超がつく堅物で有名だった。ストイックで、人一倍プライドが高い。特命監査で不正を問われたことに我慢がならなかったのだろう」(メガバンク幹部)という。 前田氏をよく知る財界関係者も、「前田氏はみずほフィナンシャルグループ(FG)の社長・会長時代から誰よりも先に出社し、真冬でも暖房を入れず、ダウンを着込んで我慢するほどの硬骨漢だ」と指摘する。 前田氏の故郷は福沢諭吉ゆかりの大分県中津市。地元の進学校・中津南高校を経て、東大法学部に進学し、みずほFGの前身のひとつ富士銀行に入行した。「みずほ誕生を主導した山本恵朗頭取に可愛がられ、みずほFGのトップに上り詰めた」(みずほ関係者)とされる。実父は弁護士で、「前田氏はみずほFGの社長・会長の後、国家公安委員に就いたことに、これで親孝行ができたと喜んでいた」(同)という。 その前田氏に、こともあろうか法的責任を突き付けた稲葉会長の行動は、終生許すことはできないということだろう』、「衛星放送番組のインターネット配信の整備費約9億円の支出について、22年12月に前田氏や理事ら計9人が承認した稟議プロセスが不透明だというもの。稲葉会長はその解明のため4月の理事会で特命監査を指示。稟議に関わった前田氏や理事らを5月上旬にかけて聴取した。特命監査での会長経験者の聴取は前代未聞・・・前田氏はみずほフィナンシャルグループ(FG)の社長・会長時代から誰よりも先に出社し、真冬でも暖房を入れず、ダウンを着込んで我慢するほどの硬骨漢だ・・・その前田氏に、こともあろうか法的責任を突き付けた稲葉会長の行動は、終生許すことはできないということだろう」、なるほど。
次に、2月15日付け文春オンライン「「完全に冤罪。よくあんな乱暴な処分をしたな」NHK“前田晃伸前会長の変”に新たな展開」を紹介しよう。
・『「完全に冤罪。よくあんな乱暴な処分をしたなと」 こうため息をつくのはNHK前会長の前田晃伸氏(79)。「新旧会長の対立」で揺れるNHK。事件は内部監査室で起こった』、興味深そうだ。
・『「放送法違反に当たる恐れがあった」前田氏に異例の処分が下る ことの発端は、昨年10月にNHKが募集したパブリックコメント(一般からの意見募集)だった。ここに実名で投書し、現経営陣を痛烈に批判したのが、前田氏だ。特に「冤罪デッチ上げ事件」と強い言葉で非難したのが「BS番組のインターネット同時配信をめぐる問題」だった。経済部デスクが解説する。 「まだ放送法で認められておらず、総務省の認可が必要なこの事業に“前田体制”下で約9億円の予算がついた。23年に後任会長に就任した稲葉延雄氏(73)は『そのまま進んでいたら放送法違反に当たる恐れがあった』として、前田氏の退職金を10%減額とする異例の処分を下しました」』、「「まだ放送法で認められておらず、総務省の認可が必要なこの事業(BS番組のインターネット同時配信)に“前田体制”下で約9億円の予算がついた。23年に後任会長に就任した稲葉延雄氏(73)は『そのまま進んでいたら放送法違反に当たる恐れがあった』として、前田氏の退職金を10%減額とする異例の処分、なるほど。
・『前内部監査室長であるA氏に“冤罪疑惑”が浮上 これにパブコメで猛抗議したのが前田氏というわけだ。小誌が前々号で直撃すると、予算をつけたのは「ネット配信の準備のため」であり、なんら法的な問題はなかったと改めて主張。「(稲葉氏は)もっと謙虚に仕事したほうがいい」と吼えた。そして今回、「新旧会長対立」に新展開が。 前内部監査室長であるA氏の“冤罪疑惑”です。昨年12月21日、NHKは内部監査資料を持ち出したことなどを理由として、A氏を含めた内部監査室の職員3名に停職1カ月の懲戒処分を命じた。A氏は『自分は規程違反はしていない』と訴えたのですが、聞き入れられなかった。一連の経緯について口外しないよう、“念書”まで書かされていました」(NHK関係者)』、「昨年12月21日、NHKは内部監査資料を持ち出したことなどを理由として、A氏を含めた内部監査室の職員3名に停職1カ月の懲戒処分を命じた。A氏は『自分は規程違反はしていない』と訴えたのですが、聞き入れられなかった。一連の経緯について口外しないよう、“念書”まで書かされていました」、「“念書”まで書かされていました」とは驚くべきことだ。
第三に、3月25日付けダイヤモンド・オンライン「【音声入手】NHK首脳が頼みの綱は「税金」と明言!受信料収入激減で“脱・公共放送”シナリオが浮上」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340876
・『「道は二つあります。一つは完全民営化。もう一つは税金です」。NHKの井上樹彦副会長は2023年秋、若手職員を前に臆することなく、NHKの今後の選択肢について、そう強調した。人口減とテレビ離れの加速で、NHKの受信料収入の激減は待ったなし。特集『変局!岐路に立つNHK』(全8回)の#1では、NHK首脳が予見する今後のNHKの絵姿に加え、“生き残り策”を発言内容から明らかにしていく』、興味深そうだ。
・『放送法の改正案が閣議決定 スマホでNHK視聴に受信料 東京・渋谷、自然豊かな代々木公園を背にした場所に、その放送局はある。国内唯一の公共放送機関である日本放送協会(NHK)だ。NHKの社員数は1万0343人(2022年3月時点)。日本で最も大きな放送局である。 この巨大組織が今、大きな“転換点”を迎えている。放送法の見直しだ。1950年に制定された放送法は、第64条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、同項の認可を受けた受信契約の条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない」と定めている。受信設備とはテレビを指し、この条文が受信料徴収の根拠となってきた。 一方、視聴者はスマートフォンやパソコンでNHKのニュースサイトや動画を閲覧しても、受信料は徴収されなかった。ネットコンテンツは「理解増進情報」とされており、テレビ放送を補完するものという位置付けだったためだ。 しかし、政府は3月1日に放送法改正案を閣議決定した。今国会で成立すれば、インターネット活用業務は放送と同格の「必須業務」となる。これにより、NHKはウェブ上での同時配信や見逃し配信、番組情報の発信が義務となる。 その上、NHKの今後を大きく左右しかねない変更が、スマホやパソコンなどでのNHKの視聴に対して受信料が徴収できるようになることだ。ただし、NHKのアプリなどの登録者から受信料を徴収するもので、スマホを保有するだけでは契約義務は生じない。 人口減とテレビ離れの加速で、今後、NHKの受信料収入は先細りしていく可能性が高い。放送法改正案に盛り込まれた“ネット受信料解禁”は、公共放送を支える最後の切り札になり得るのだろうか。 実は、NHKの首脳は現状に楽観的ではないようだ。ダイヤモンド編集部は、NHK首脳が昨秋、若手職員に対して今後のNHKについて語った音声を入手した。発言はプロパー職員のトップである現副会長・井上樹彦氏のものだ。 井上氏は、今後の受信料収入に関して悲観的な見方を示した上で、大胆にも今後NHKが取るべき道を開陳している。そこには「税金」というキーワードも登場する。次ページで、井上氏の発言の全容について明らかにしていく』、NHK内部の本音の見方とはますます興味深そうだ。
・『受信料収入は10分の1まで減少も 二つある道のうち一つは「税金」 NHKの受信料収入は、不祥事が続き、不払い運動が起こった05年度を底に、右肩上がりで伸びてきた。しかし、足元では18年度の7122億円をピークに減少傾向が続いている。 (図_NHKの受信料収入の推移 はリンク先参照) 背景にはテレビを持たない世帯の増加などで、受信料の世帯支払率が減少していることだけではなく、そもそも人口減により契約対象世帯数が減っていることもある。23年10月に受信料の1割値下げに踏み切ったことで、24年度の受信料収入は06年度以来の6000億円割れとなる見通しだ。 国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の世帯数の将来推計」によると、40年の総世帯数は23年の5419万世帯から、5076万世帯にまで落ち込むとされる。現在の世帯支払率で単純計算すると、受信料収入は5760億円ほどにとどまる。もちろん、テレビ離れがより加速すれば、さらなる下振れ要因となる。 今回の放送法改正案が成立すれば、ネット視聴に対して受信料を徴収できるようになる。だが、NHKの首脳は、これが悪い方向に作用する事態を想定しているようだ。井上氏はこう語る。 「(アプリはテレビと違って)スマホからもうワンアクション、ツーアクションが必要だ。アクションをしてもらえないと、受信料をもらえないわけだ。そこで何が起きるかというと、消費者、受信者からすると比較考慮する。ヤフーのポータルサイトを見ていれば(記事は)無料だから、NHKのアプリは要らないと(なる)。そしたら、そこで受信料は入ってこなくなる」 つまり、テレビと比べると、アプリはそもそもダウンロードしてもらわないと受信料を徴収できない。そして、その手間が大きな打撃となるということだ。 加えて、井上氏はこんな悲観シナリオを打ち明けた。「今、アプリのダウンロード数は10分の1ですよ。このままいくとね、収入が1割減どころか10分の1まで減少する可能性がある」 将来的に受信料収入が先細るという見通しを前提に、井上氏は続けて、NHKの在り方にすら関わる重大な“選択肢”を挙げる。 「道は二つあります。一つは完全民営化。もう公共放送はなくなる。もう一つは税金ですよ」 税金が意味するところは、「国営化」である。つまり、NHKの最高幹部の口から、将来的な民営化シナリオに加え、国営化シナリオが発せられたのだ。いずれも長く堅持してきた公共放送機関からの脱却である。 ただし、井上氏はこうも語っている。「そうはいっても(NHKを)なくすわけにはいかない。それこそ、何が正しい情報か分からなくなる。そうすると、1世帯1000円以下にして(続けることになる)。これドイツ型っていいます。ドイツの公共放送はこれやってるんですね。そうすると存続はできるんですよ」。 井上氏が例に挙げたドイツには地域ごとに9つの公共放送が存在する。NHKと同じく受信料によって運営される公共放送の形を取っているが、実態はやや異なる。なぜなら、国民はテレビやスマートフォン、パソコンの保有の有無に関わらず、受信料を納める義務を負っているからだ。いわば、“税金”といえる。 井上氏が示した民営化と国営化という二つのシナリオは現実的といえるのだろうか。 仮に完全民営化となれば、広告収入によって運営することになる。だが、現在の放送法は、第83条でNHKが広告収入を得ることを明確に禁止している。広告を導入すれば、番組作りにおいて文化の保存や育成よりも、視聴率が優先されてしまう恐れがあるためだ。 そもそもNHKが公共放送として力を入れる災害報道などは商業ベースでは成立が難しい。完全民営化が広告収入による、受信料制度からの自立を指すのであれば、NHKはコンテンツのみならず、組織そのものの姿も大きく変える必要があるだろう。これは、“存続”といえるだろうか。 一方で、国営化のハードルも高い。井上氏が例に挙げたドイツのように、そもそも受信料を全世帯から徴収する“強制徴収”ですら、事実上は困難だ。そもそも放送法第64条の改正が必要となる。有権者の反発を招きかねない施策に対し、政治家が踏み込むとは考えにくい。 そして、国営化はメディアとしてのNHKを大きく揺るがしかねない。一例が、政治を巡る報道である。税金で運営されるメディアが中立的に国家権力を監視するのは極めて難しい。 井上氏は最後にこう言い放っている。「これからどうやっていくのか。僕らはずいぶん生きてきたからいいんだけどね、20代、30代の人は不安を感じるかもしれない」。発言からは、10年後、20年後の展望を描けない“袋小路”に陥った巨大放送局の苦境がにじんでいる』、「テレビと比べると、アプリはそもそもダウンロードしてもらわないと受信料を徴収できない。そして、その手間が大きな打撃となるということだ。 加えて、井上氏はこんな悲観シナリオを打ち明けた。「今、アプリのダウンロード数は10分の1ですよ。このままいくとね、収入が1割減どころか10分の1まで減少する可能性がある・・・将来的に受信料収入が先細るという見通しを前提に、井上氏は続けて、NHKの在り方にすら関わる重大な“選択肢”を挙げる。 「道は二つあります。一つは完全民営化。もう公共放送はなくなる。もう一つは税金ですよ」 税金が意味するところは、「国営化」である。つまり、NHKの最高幹部の口から、将来的な民営化シナリオに加え、国営化シナリオが発せられたのだ。いずれも長く堅持してきた公共放送機関からの脱却である。 ただし、井上氏はこうも語っている。「そうはいっても(NHKを)なくすわけにはいかない。それこそ、何が正しい情報か分からなくなる。そうすると、1世帯1000円以下にして(続けることになる)。これドイツ型っていいます。ドイツの公共放送はこれやってるんですね。そうすると存続はできるんですよ・・・井上氏が示した民営化と国営化という二つのシナリオは現実的といえるのだろうか。 仮に完全民営化となれば、広告収入によって運営することになる。だが、現在の放送法は、第83条でNHKが広告収入を得ることを明確に禁止している。広告を導入すれば、番組作りにおいて文化の保存や育成よりも、視聴率が優先されてしまう恐れがあるためだ。 そもそもNHKが公共放送として力を入れる災害報道などは商業ベースでは成立が難しい。完全民営化が広告収入による、受信料制度からの自立を指すのであれば、NHKはコンテンツのみならず、組織そのものの姿も大きく変える必要があるだろう。これは、“存続”といえるだろうか。 一方で、国営化のハードルも高い。井上氏が例に挙げたドイツのように、そもそも受信料を全世帯から徴収する“強制徴収”ですら、事実上は困難だ。そもそも放送法第64条の改正が必要となる。有権者の反発を招きかねない施策に対し、政治家が踏み込むとは考えにくい。 そして、国営化はメディアとしてのNHKを大きく揺るがしかねない。一例が、政治を巡る報道である。税金で運営されるメディアが中立的に国家権力を監視するのは極めて難しい。 井上氏は最後にこう言い放っている。「これからどうやっていくのか。僕らはずいぶん生きてきたからいいんだけどね、20代、30代の人は不安を感じるかもしれない」。発言からは、10年後、20年後の展望を描けない“袋小路”に陥った巨大放送局の苦境がにじんでいる」、これはと言う妙案はないようだ。特に、「放送法第64条の改正が必要となる。有権者の反発を招きかねない施策に対し、政治家が踏み込むとは考えにくい」、は残念ながらその通りだ。
先ずは、本年1月20日付け日刊ゲンダイが掲載した金融ジャーナリストの小林佳樹氏による「稲葉NHKに喧嘩を売った…前会長の前田晃伸氏はみずほFG出身の「無類の硬骨漢」」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/334981
・『NHKの次期中期経営計画案(2024~26年度)に対する意見募集(パブリックコメント)に、昨年1月まで会長だった前田晃伸氏(79)が意見を寄せていたことが朝日新聞の取材で明らかになった。 意見書は400字詰めの原稿用紙5枚にボールペンで手書きされており、前田氏時代に導入された人事制度改革が稲葉延雄・現会長の下で見直しが進められていることに対し「新体制となり、改革派の職員は、次々と姿を消す事態となった。(昨年)1月以降、経営改革は止まり、古い体制を維持する方向にカジを切ったことは、誠に残念」と痛烈に批判している。 また、今年度予算で未認可の衛星放送の配信業務に絡む不適切な支出の決定に前田氏が関わっていたとして、退職金が10%減額支給された問題にも言及。決定は専門家が放送法に抵触すると指摘しているが、「『冤罪デッチ上げ事件』だ」「放送法違反のおそれがあるという指摘は、完全に間違い」と記している。 これに対し、1月9日に記者会見した稲葉会長は、前田氏の主張について「私の役割は、(前田氏の)『改革の検証と発展』だ。改革を否定しているわけではないので残念」と述べた』、「前田前会長」の「意見書は400字詰めの原稿用紙5枚にボールペンで手書きされており、前田氏時代に導入された人事制度改革が稲葉延雄・現会長の下で見直しが進められていることに対し「新体制となり、改革派の職員は、次々と姿を消す事態となった。(昨年)1月以降、経営改革は止まり、古い体制を維持する方向にカジを切ったことは、誠に残念」と痛烈に批判」、なるほど。
・前代未聞の聴取 前田氏が「冤罪デッチ上げ」と指摘した事件は、衛星放送番組のインターネット配信の整備費約9億円の支出について、22年12月に前田氏や理事ら計9人が承認した稟議プロセスが不透明だというもの。稲葉会長はその解明のため4月の理事会で特命監査を指示。稟議に関わった前田氏や理事らを5月上旬にかけて聴取した。特命監査での会長経験者の聴取は前代未聞だった。 「この特命監査での遺恨が今回の前田氏の異例の意見書につながっていることは確かだ。前田氏はみずほ時代から超がつく堅物で有名だった。ストイックで、人一倍プライドが高い。特命監査で不正を問われたことに我慢がならなかったのだろう」(メガバンク幹部)という。 前田氏をよく知る財界関係者も、「前田氏はみずほフィナンシャルグループ(FG)の社長・会長時代から誰よりも先に出社し、真冬でも暖房を入れず、ダウンを着込んで我慢するほどの硬骨漢だ」と指摘する。 前田氏の故郷は福沢諭吉ゆかりの大分県中津市。地元の進学校・中津南高校を経て、東大法学部に進学し、みずほFGの前身のひとつ富士銀行に入行した。「みずほ誕生を主導した山本恵朗頭取に可愛がられ、みずほFGのトップに上り詰めた」(みずほ関係者)とされる。実父は弁護士で、「前田氏はみずほFGの社長・会長の後、国家公安委員に就いたことに、これで親孝行ができたと喜んでいた」(同)という。 その前田氏に、こともあろうか法的責任を突き付けた稲葉会長の行動は、終生許すことはできないということだろう』、「衛星放送番組のインターネット配信の整備費約9億円の支出について、22年12月に前田氏や理事ら計9人が承認した稟議プロセスが不透明だというもの。稲葉会長はその解明のため4月の理事会で特命監査を指示。稟議に関わった前田氏や理事らを5月上旬にかけて聴取した。特命監査での会長経験者の聴取は前代未聞・・・前田氏はみずほフィナンシャルグループ(FG)の社長・会長時代から誰よりも先に出社し、真冬でも暖房を入れず、ダウンを着込んで我慢するほどの硬骨漢だ・・・その前田氏に、こともあろうか法的責任を突き付けた稲葉会長の行動は、終生許すことはできないということだろう」、なるほど。
次に、2月15日付け文春オンライン「「完全に冤罪。よくあんな乱暴な処分をしたな」NHK“前田晃伸前会長の変”に新たな展開」を紹介しよう。
・『「完全に冤罪。よくあんな乱暴な処分をしたなと」 こうため息をつくのはNHK前会長の前田晃伸氏(79)。「新旧会長の対立」で揺れるNHK。事件は内部監査室で起こった』、興味深そうだ。
・『「放送法違反に当たる恐れがあった」前田氏に異例の処分が下る ことの発端は、昨年10月にNHKが募集したパブリックコメント(一般からの意見募集)だった。ここに実名で投書し、現経営陣を痛烈に批判したのが、前田氏だ。特に「冤罪デッチ上げ事件」と強い言葉で非難したのが「BS番組のインターネット同時配信をめぐる問題」だった。経済部デスクが解説する。 「まだ放送法で認められておらず、総務省の認可が必要なこの事業に“前田体制”下で約9億円の予算がついた。23年に後任会長に就任した稲葉延雄氏(73)は『そのまま進んでいたら放送法違反に当たる恐れがあった』として、前田氏の退職金を10%減額とする異例の処分を下しました」』、「「まだ放送法で認められておらず、総務省の認可が必要なこの事業(BS番組のインターネット同時配信)に“前田体制”下で約9億円の予算がついた。23年に後任会長に就任した稲葉延雄氏(73)は『そのまま進んでいたら放送法違反に当たる恐れがあった』として、前田氏の退職金を10%減額とする異例の処分、なるほど。
・『前内部監査室長であるA氏に“冤罪疑惑”が浮上 これにパブコメで猛抗議したのが前田氏というわけだ。小誌が前々号で直撃すると、予算をつけたのは「ネット配信の準備のため」であり、なんら法的な問題はなかったと改めて主張。「(稲葉氏は)もっと謙虚に仕事したほうがいい」と吼えた。そして今回、「新旧会長対立」に新展開が。 前内部監査室長であるA氏の“冤罪疑惑”です。昨年12月21日、NHKは内部監査資料を持ち出したことなどを理由として、A氏を含めた内部監査室の職員3名に停職1カ月の懲戒処分を命じた。A氏は『自分は規程違反はしていない』と訴えたのですが、聞き入れられなかった。一連の経緯について口外しないよう、“念書”まで書かされていました」(NHK関係者)』、「昨年12月21日、NHKは内部監査資料を持ち出したことなどを理由として、A氏を含めた内部監査室の職員3名に停職1カ月の懲戒処分を命じた。A氏は『自分は規程違反はしていない』と訴えたのですが、聞き入れられなかった。一連の経緯について口外しないよう、“念書”まで書かされていました」、「“念書”まで書かされていました」とは驚くべきことだ。
第三に、3月25日付けダイヤモンド・オンライン「【音声入手】NHK首脳が頼みの綱は「税金」と明言!受信料収入激減で“脱・公共放送”シナリオが浮上」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340876
・『「道は二つあります。一つは完全民営化。もう一つは税金です」。NHKの井上樹彦副会長は2023年秋、若手職員を前に臆することなく、NHKの今後の選択肢について、そう強調した。人口減とテレビ離れの加速で、NHKの受信料収入の激減は待ったなし。特集『変局!岐路に立つNHK』(全8回)の#1では、NHK首脳が予見する今後のNHKの絵姿に加え、“生き残り策”を発言内容から明らかにしていく』、興味深そうだ。
・『放送法の改正案が閣議決定 スマホでNHK視聴に受信料 東京・渋谷、自然豊かな代々木公園を背にした場所に、その放送局はある。国内唯一の公共放送機関である日本放送協会(NHK)だ。NHKの社員数は1万0343人(2022年3月時点)。日本で最も大きな放送局である。 この巨大組織が今、大きな“転換点”を迎えている。放送法の見直しだ。1950年に制定された放送法は、第64条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、同項の認可を受けた受信契約の条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない」と定めている。受信設備とはテレビを指し、この条文が受信料徴収の根拠となってきた。 一方、視聴者はスマートフォンやパソコンでNHKのニュースサイトや動画を閲覧しても、受信料は徴収されなかった。ネットコンテンツは「理解増進情報」とされており、テレビ放送を補完するものという位置付けだったためだ。 しかし、政府は3月1日に放送法改正案を閣議決定した。今国会で成立すれば、インターネット活用業務は放送と同格の「必須業務」となる。これにより、NHKはウェブ上での同時配信や見逃し配信、番組情報の発信が義務となる。 その上、NHKの今後を大きく左右しかねない変更が、スマホやパソコンなどでのNHKの視聴に対して受信料が徴収できるようになることだ。ただし、NHKのアプリなどの登録者から受信料を徴収するもので、スマホを保有するだけでは契約義務は生じない。 人口減とテレビ離れの加速で、今後、NHKの受信料収入は先細りしていく可能性が高い。放送法改正案に盛り込まれた“ネット受信料解禁”は、公共放送を支える最後の切り札になり得るのだろうか。 実は、NHKの首脳は現状に楽観的ではないようだ。ダイヤモンド編集部は、NHK首脳が昨秋、若手職員に対して今後のNHKについて語った音声を入手した。発言はプロパー職員のトップである現副会長・井上樹彦氏のものだ。 井上氏は、今後の受信料収入に関して悲観的な見方を示した上で、大胆にも今後NHKが取るべき道を開陳している。そこには「税金」というキーワードも登場する。次ページで、井上氏の発言の全容について明らかにしていく』、NHK内部の本音の見方とはますます興味深そうだ。
・『受信料収入は10分の1まで減少も 二つある道のうち一つは「税金」 NHKの受信料収入は、不祥事が続き、不払い運動が起こった05年度を底に、右肩上がりで伸びてきた。しかし、足元では18年度の7122億円をピークに減少傾向が続いている。 (図_NHKの受信料収入の推移 はリンク先参照) 背景にはテレビを持たない世帯の増加などで、受信料の世帯支払率が減少していることだけではなく、そもそも人口減により契約対象世帯数が減っていることもある。23年10月に受信料の1割値下げに踏み切ったことで、24年度の受信料収入は06年度以来の6000億円割れとなる見通しだ。 国立社会保障・人口問題研究所が公表している「日本の世帯数の将来推計」によると、40年の総世帯数は23年の5419万世帯から、5076万世帯にまで落ち込むとされる。現在の世帯支払率で単純計算すると、受信料収入は5760億円ほどにとどまる。もちろん、テレビ離れがより加速すれば、さらなる下振れ要因となる。 今回の放送法改正案が成立すれば、ネット視聴に対して受信料を徴収できるようになる。だが、NHKの首脳は、これが悪い方向に作用する事態を想定しているようだ。井上氏はこう語る。 「(アプリはテレビと違って)スマホからもうワンアクション、ツーアクションが必要だ。アクションをしてもらえないと、受信料をもらえないわけだ。そこで何が起きるかというと、消費者、受信者からすると比較考慮する。ヤフーのポータルサイトを見ていれば(記事は)無料だから、NHKのアプリは要らないと(なる)。そしたら、そこで受信料は入ってこなくなる」 つまり、テレビと比べると、アプリはそもそもダウンロードしてもらわないと受信料を徴収できない。そして、その手間が大きな打撃となるということだ。 加えて、井上氏はこんな悲観シナリオを打ち明けた。「今、アプリのダウンロード数は10分の1ですよ。このままいくとね、収入が1割減どころか10分の1まで減少する可能性がある」 将来的に受信料収入が先細るという見通しを前提に、井上氏は続けて、NHKの在り方にすら関わる重大な“選択肢”を挙げる。 「道は二つあります。一つは完全民営化。もう公共放送はなくなる。もう一つは税金ですよ」 税金が意味するところは、「国営化」である。つまり、NHKの最高幹部の口から、将来的な民営化シナリオに加え、国営化シナリオが発せられたのだ。いずれも長く堅持してきた公共放送機関からの脱却である。 ただし、井上氏はこうも語っている。「そうはいっても(NHKを)なくすわけにはいかない。それこそ、何が正しい情報か分からなくなる。そうすると、1世帯1000円以下にして(続けることになる)。これドイツ型っていいます。ドイツの公共放送はこれやってるんですね。そうすると存続はできるんですよ」。 井上氏が例に挙げたドイツには地域ごとに9つの公共放送が存在する。NHKと同じく受信料によって運営される公共放送の形を取っているが、実態はやや異なる。なぜなら、国民はテレビやスマートフォン、パソコンの保有の有無に関わらず、受信料を納める義務を負っているからだ。いわば、“税金”といえる。 井上氏が示した民営化と国営化という二つのシナリオは現実的といえるのだろうか。 仮に完全民営化となれば、広告収入によって運営することになる。だが、現在の放送法は、第83条でNHKが広告収入を得ることを明確に禁止している。広告を導入すれば、番組作りにおいて文化の保存や育成よりも、視聴率が優先されてしまう恐れがあるためだ。 そもそもNHKが公共放送として力を入れる災害報道などは商業ベースでは成立が難しい。完全民営化が広告収入による、受信料制度からの自立を指すのであれば、NHKはコンテンツのみならず、組織そのものの姿も大きく変える必要があるだろう。これは、“存続”といえるだろうか。 一方で、国営化のハードルも高い。井上氏が例に挙げたドイツのように、そもそも受信料を全世帯から徴収する“強制徴収”ですら、事実上は困難だ。そもそも放送法第64条の改正が必要となる。有権者の反発を招きかねない施策に対し、政治家が踏み込むとは考えにくい。 そして、国営化はメディアとしてのNHKを大きく揺るがしかねない。一例が、政治を巡る報道である。税金で運営されるメディアが中立的に国家権力を監視するのは極めて難しい。 井上氏は最後にこう言い放っている。「これからどうやっていくのか。僕らはずいぶん生きてきたからいいんだけどね、20代、30代の人は不安を感じるかもしれない」。発言からは、10年後、20年後の展望を描けない“袋小路”に陥った巨大放送局の苦境がにじんでいる』、「テレビと比べると、アプリはそもそもダウンロードしてもらわないと受信料を徴収できない。そして、その手間が大きな打撃となるということだ。 加えて、井上氏はこんな悲観シナリオを打ち明けた。「今、アプリのダウンロード数は10分の1ですよ。このままいくとね、収入が1割減どころか10分の1まで減少する可能性がある・・・将来的に受信料収入が先細るという見通しを前提に、井上氏は続けて、NHKの在り方にすら関わる重大な“選択肢”を挙げる。 「道は二つあります。一つは完全民営化。もう公共放送はなくなる。もう一つは税金ですよ」 税金が意味するところは、「国営化」である。つまり、NHKの最高幹部の口から、将来的な民営化シナリオに加え、国営化シナリオが発せられたのだ。いずれも長く堅持してきた公共放送機関からの脱却である。 ただし、井上氏はこうも語っている。「そうはいっても(NHKを)なくすわけにはいかない。それこそ、何が正しい情報か分からなくなる。そうすると、1世帯1000円以下にして(続けることになる)。これドイツ型っていいます。ドイツの公共放送はこれやってるんですね。そうすると存続はできるんですよ・・・井上氏が示した民営化と国営化という二つのシナリオは現実的といえるのだろうか。 仮に完全民営化となれば、広告収入によって運営することになる。だが、現在の放送法は、第83条でNHKが広告収入を得ることを明確に禁止している。広告を導入すれば、番組作りにおいて文化の保存や育成よりも、視聴率が優先されてしまう恐れがあるためだ。 そもそもNHKが公共放送として力を入れる災害報道などは商業ベースでは成立が難しい。完全民営化が広告収入による、受信料制度からの自立を指すのであれば、NHKはコンテンツのみならず、組織そのものの姿も大きく変える必要があるだろう。これは、“存続”といえるだろうか。 一方で、国営化のハードルも高い。井上氏が例に挙げたドイツのように、そもそも受信料を全世帯から徴収する“強制徴収”ですら、事実上は困難だ。そもそも放送法第64条の改正が必要となる。有権者の反発を招きかねない施策に対し、政治家が踏み込むとは考えにくい。 そして、国営化はメディアとしてのNHKを大きく揺るがしかねない。一例が、政治を巡る報道である。税金で運営されるメディアが中立的に国家権力を監視するのは極めて難しい。 井上氏は最後にこう言い放っている。「これからどうやっていくのか。僕らはずいぶん生きてきたからいいんだけどね、20代、30代の人は不安を感じるかもしれない」。発言からは、10年後、20年後の展望を描けない“袋小路”に陥った巨大放送局の苦境がにじんでいる」、これはと言う妙案はないようだ。特に、「放送法第64条の改正が必要となる。有権者の反発を招きかねない施策に対し、政治家が踏み込むとは考えにくい」、は残念ながらその通りだ。
タグ:かねない施策に対し、政治家が踏み込むとは考えにくい」、は残念ながらその通りだ。 そして、国営化はメディアとしてのNHKを大きく揺るがしかねない。一例が、政治を巡る報道である。税金で運営されるメディアが中立的に国家権力を監視するのは極めて難しい。 井上氏は最後にこう言い放っている。「これからどうやっていくのか。僕らはずいぶん生きてきたからいいんだけどね、20代、30代の人は不安を感じるかもしれない」。発言からは、10年後、20年後の展望を描けない“袋小路”に陥った巨大放送局の苦境がにじんでいる」、これはと言う妙案はないようだ。特に、「放送法第64条の改正が必要となる。有権者の反発を招き そもそもNHKが公共放送として力を入れる災害報道などは商業ベースでは成立が難しい。完全民営化が広告収入による、受信料制度からの自立を指すのであれば、NHKはコンテンツのみならず、組織そのものの姿も大きく変える必要があるだろう。これは、“存続”といえるだろうか。 一方で、国営化のハードルも高い。井上氏が例に挙げたドイツのように、そもそも受信料を全世帯から徴収する“強制徴収”ですら、事実上は困難だ。そもそも放送法第64条の改正が必要となる。有権者の反発を招きかねない施策に対し、政治家が踏み込むとは考えにくい。 はこれやってるんですね。そうすると存続はできるんですよ・・・井上氏が示した民営化と国営化という二つのシナリオは現実的といえるのだろうか。 仮に完全民営化となれば、広告収入によって運営することになる。だが、現在の放送法は、第83条でNHKが広告収入を得ることを明確に禁止している。広告を導入すれば、番組作りにおいて文化の保存や育成よりも、視聴率が優先されてしまう恐れがあるためだ。 「道は二つあります。一つは完全民営化。もう公共放送はなくなる。もう一つは税金ですよ」 税金が意味するところは、「国営化」である。つまり、NHKの最高幹部の口から、将来的な民営化シナリオに加え、国営化シナリオが発せられたのだ。いずれも長く堅持してきた公共放送機関からの脱却である。 ただし、井上氏はこうも語っている。「そうはいっても(NHKを)なくすわけにはいかない。それこそ、何が正しい情報か分からなくなる。そうすると、1世帯1000円以下にして(続けることになる)。これドイツ型っていいます。ドイツの公共放送 「テレビと比べると、アプリはそもそもダウンロードしてもらわないと受信料を徴収できない。そして、その手間が大きな打撃となるということだ。 加えて、井上氏はこんな悲観シナリオを打ち明けた。「今、アプリのダウンロード数は10分の1ですよ。このままいくとね、収入が1割減どころか10分の1まで減少する可能性がある・・・将来的に受信料収入が先細るという見通しを前提に、井上氏は続けて、NHKの在り方にすら関わる重大な“選択肢”を挙げる。 NHK内部の本音の見方とはますます興味深そうだ。 ダイヤモンド・オンライン「【音声入手】NHK首脳が頼みの綱は「税金」と明言!受信料収入激減で“脱・公共放送”シナリオが浮上」 「昨年12月21日、NHKは内部監査資料を持ち出したことなどを理由として、A氏を含めた内部監査室の職員3名に停職1カ月の懲戒処分を命じた。A氏は『自分は規程違反はしていない』と訴えたのですが、聞き入れられなかった。一連の経緯について口外しないよう、“念書”まで書かされていました」、「“念書”まで書かされていました」とは驚くべきことだ。 「「まだ放送法で認められておらず、総務省の認可が必要なこの事業(BS番組のインターネット同時配信)に“前田体制”下で約9億円の予算がついた。23年に後任会長に就任した稲葉延雄氏(73)は『そのまま進んでいたら放送法違反に当たる恐れがあった』として、前田氏の退職金を10%減額とする異例の処分、なるほど。 文春オンライン「「完全に冤罪。よくあんな乱暴な処分をしたな」NHK“前田晃伸前会長の変”に新たな展開」 は、終生許すことはできないということだろう」、なるほど。 「衛星放送番組のインターネット配信の整備費約9億円の支出について、22年12月に前田氏や理事ら計9人が承認した稟議プロセスが不透明だというもの。稲葉会長はその解明のため4月の理事会で特命監査を指示。稟議に関わった前田氏や理事らを5月上旬にかけて聴取した。特命監査での会長経験者の聴取は前代未聞・・・前田氏はみずほフィナンシャルグループ(FG)の社長・会長時代から誰よりも先に出社し、真冬でも暖房を入れず、ダウンを着込んで我慢するほどの硬骨漢だ・・・その前田氏に、こともあろうか法的責任を突き付けた稲葉会長の行動 「前田前会長」の「意見書は400字詰めの原稿用紙5枚にボールペンで手書きされており、前田氏時代に導入された人事制度改革が稲葉延雄・現会長の下で見直しが進められていることに対し「新体制となり、改革派の職員は、次々と姿を消す事態となった。(昨年)1月以降、経営改革は止まり、古い体制を維持する方向にカジを切ったことは、誠に残念」と痛烈に批判」、なるほど。 小林佳樹氏による「稲葉NHKに喧嘩を売った…前会長の前田晃伸氏はみずほFG出身の「無類の硬骨漢」」 日刊ゲンダイ (その7)(稲葉NHKに喧嘩を売った…前会長の前田晃伸氏はみずほFG出身の「無類の硬骨漢」、「完全に冤罪 よくあんな乱暴な処分をしたな」NHK“前田晃伸前会長の変”に新たな展開、【音声入手】NHK首脳が頼みの綱は「税金」と明言!受信料収入激減で“脱・公共放送”シナリオが浮上) NHK問題
インフラ輸出(その16)(中国製・高速鉄道がインドネシアで開通!早速乗ってみた…「新幹線が逆転負け」したその実力は?【2023人気記事ベスト4】、入札で不正?欧州向け「中国製車両」に疑惑浮上 ブルガリアの車両案件「外国補助金規制」抵触か) [インフラ輸出]
インフラ輸出については、昨年8月20日に取上げた。今日は、(その16)(中国製・高速鉄道がインドネシアで開通!早速乗ってみた…「新幹線が逆転負け」したその実力は?【2023人気記事ベスト4】、入札で不正?欧州向け「中国製車両」に疑惑浮上 ブルガリアの車両案件「外国補助金規制」抵触か)である。
先ずは、昨年12月28日付け東洋経済オンラインが掲載した中国・ASEAN専門ジャーナリストの舛友雄大氏による「中国製・高速鉄道がインドネシアで開通!早速乗ってみた…「新幹線が逆転負け」したその実力は?【2023人気記事ベスト4】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340973
・『2023年度に「ダイヤモンド・オンライン」で読者の反響が大きかった人気記事ベスト10をお届けします!第7位はこちらの記事です。(記事初出時の公開日:2023年11月30日) ※2023年11月30日に公開した記事をもう一度紹介します。全ての内容は初出時のまま 10月2日、インドネシア初の高速鉄道が開業した。首都ジャカルタとバンドン市の間の約140kmを結ぶ高速鉄道は非常に重要なインフラであり、この建設はインドネシアにとっては一大プロジェクトだ。実はこれ、日本との競争に逆転勝ちして中国が建設を受注したもので、中国にとっては広域経済圏構想「一帯一路」の一環という位置づけになっている。先日筆者はインドネシアで、開業したばかりのこの高速鉄道に乗る機会があった。実際に乗ってみると、中国の影響が予想以上に強い。どんなところに驚かされたのかというと……』、これはいわくつきの「高速鉄道」だ。
・『日中が激しく争ったインドネシア高速鉄道建設 2010年代前半、日本と中国はアジアを舞台に、高速鉄道をはじめとするインフラ輸出分野で激しい競争を繰り広げていた。野心的なリーダーとして登場した中国の習近平国家主席は、2013年から一帯一路構想を強力に推進し、日本が主導するアジア開発銀行(ADB)と競合するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を立ち上げた。 これに対し、日本は2010年からアジア諸国にある複数の日本大使館に、インフラプロジェクト専門官を派遣するようになっていた。2015年には当時の安倍晋三首相がADBと連携して、質の高いインフラを整備するために今後5年で約1100億ドル(当時のレートで約13兆2000億円)を投じると表明。官邸は和泉洋人首相補佐官を中心に前のめりの姿勢でインフラ輸出を主導し、民間企業が消極的に見えるほどだった。 「新幹線を輸出する」――この事業は関係者にとって、愛国的な熱を帯びていた。それだけに、インドネシアの高速鉄道建設を中国が逆転受注したことは、日本の政府関係者に衝撃を与えた。インドネシアのジョコ大統領が派遣した特使との会談中に、菅義偉官房長官(当時)が怒った表情を見せたのもよく知られる。筆者もインドネシア人外交官から、当時なぜか日本政府関係者との食事会で中華レストランを指定され、暗示めいたものを感じたと聞いたことがある。ネット上で、日本の対インドネシア世論が厳しくなるきっかけともなった。 日本は安全性を、中国はスピーディーな工事やコストの安さをアピールしていた。決定的だったのは、中国側がインドネシア政府に対して政府保証(融資などが焦げ付いた時に、国が代わって返済すると約束すること)を求めなかったことだとされる。 だが、結果的には、予定していた2019年の開業には間に合わず4年遅れることになったし、予算も当初予算を約12億ドル上回り、インドネシア政府は国庫からの支出を余儀なくされた。筆者が、建設中の2018年にインドネシアで取材した際は、土地収用の問題が大きくなっていると実感した。また、外国人労働者の流入を警戒するインドネシアにおいて、中国人労働者の存在もセンシティブな問題となっていた。 今回のインドネシア高速鉄道の開業は、中国政府にとっては、投資額が下火になり「債務のわな」(中国への借金が膨らんで返せなくなること)問題が浮上する中であっても、一帯一路は成功しているとアピールするための絶好のプロジェクトとなった。2022年にG20バリサミットが開かれた際は、習近平国家主席がわざわざオンラインで「視察」した。今年9月には、開業前に中国の李強首相が自ら試乗した。 【2023年度人気記事ランキング】結果はこちら! 1位 頭の悪い人が使っている日本語、納得の「3つのフレーズ」とは? 2位 松本人志さんの“罪”を考察したブログに反響広がる「ぐうの音も出ない」「完璧すぎる論破」 3位 「離婚しようと思うねん」明石家さんまに相談したら…“たった5文字”の返答にグッときた 4位 松本人志氏の提訴に元文春編集長が警鐘「これは相当厳しい戦いになる」 5位 医学部9浪の31歳娘が58歳母をバラバラ死体にするまで…話題本の著者が迫った事件の本質 6位 都道府県魅力度ランキング2023【47都道府県・完全版】 7位 中国製・高速鉄道がインドネシアで開通!早速乗ってみた…「新幹線が逆転負け」したその実力は? 8位 刃物を持った人間と遭遇したとき、生死を分ける「初動」とは? 9位 意味が分かると青ざめる…「中国」の公園で運動する高齢者が多い理由 10位 ジャニーズと戦った元文春編集長が、記者会見を見て感じたこと』、「日本は2010年からアジア諸国にある複数の日本大使館に、インフラプロジェクト専門官を派遣」、そこまで熱を上げていたとは初めて知った。「日本は安全性を、中国はスピーディーな工事やコストの安さをアピールしていた。決定的だったのは、中国側がインドネシア政府に対して政府保証・・・を求めなかったことだとされる。 だが、結果的には、予定していた2019年の開業には間に合わず4年遅れることになったし、予算も当初予算を約12億ドル上回り、インドネシア政府は国庫からの支出を余儀なくされた」、本当にいわくつきの「高速鉄道」だ。
・『開業直後のインドネシア高速鉄道に乗ってみた 先日、ジャカルタ滞在中に、筆者もインドネシア高速鉄道に乗ってみることにした。開業直後のキャンペーン料金は、ジャカルタ→バンドンが片道15万ルピア(約1440円)で、通常料金はまだ発表されていない。採算が取れるのか、見通しはまだまだ未知数だ。 10月21日の早朝、ジャカルタ中心部のホテルから配車アプリ「Gojek」で手配した車に乗り、高速鉄道の駅に向かった。高速鉄道の駅はジャカルタ郊外にあるからだ。 市内の高層ビル群の間から太陽が上っている。もやがかっているのは大気汚染のせいなのだろうか。高速道路の舗装が良くなく、車はガタガタと揺れる。「ブーン」とけたたましいエンジン音を響かせてバイクの群れが並走している。車窓から「私のご飯」という看板が見えた。この国で日本のソフトパワーは根強く、こうして日本語で書かれた宣伝文句を目にする機会も多い。 車が目的地に着き、ドアを開けると迎えてくれたのは野良猫だった。見上げると、ピカピカで、空港と見まがうほどの巨大な建物がそびえ立っていた。ジャカルタ側のターミナル、ハリム駅だ。郊外にある巨大駅、まさに中国の高速鉄道を思い出させる。 乗客とおぼしきインドネシア人たちが、あちこちで記念撮影をしている。SNSにアップするのだろう。人生で初めて高速鉄道に乗るという人も少なくないはずだ』、「ジャカルタ郊外」に「ピカピカで、空港と見まがうほどの巨大な建物がそびえ立っていた。ジャカルタ側のターミナル、ハリム駅だ。郊外にある巨大駅」、なるほど。
・『郊外にある駅は中国の高速鉄道の駅にそっくり 駅構内に入ると、レストランやカフェはまだ開業していないところが多かった。一刻も早く高速鉄道を開業したかったのだろう。看板など、駅構内の案内はインドネシア語で、英語も併記されている。 改札で、アプリで買っておいたチケットのQRコードをかざす。紙のチケットでも入場できるのだが、周りのインドネシア人も老若男女みなQRコードで入場していた。インドネシアのデジタル化のスピードは目を見張るほどで、人口の若さを反映してキャッシュレスが当たり前になっている。特にコロナ後は、日本の先を行っていると感じる場面もあるほどだ。 駅の構造が中国国内の高速鉄道そのもので、懐かしく感じる。まず、2階で荷物のX線検査がある。インドネシアではテロが起きたこともあるため、そこまでの違和感はない。青の巨大掲示板で運行情報が表示されているのも、まさに中国式。一方で、インドネシアらしい意匠の内装も見られた。いずれにせよ、これだけ中国式がスタンダードとして浸透すると、これから路線を伸長する際にはなかなか他の国が入ってこられないのではという気がした。実際、バンドン以東の高速鉄道延長計画でも中国の参画が有力視されている。 プラットホームが巨大なのも、日本の新幹線と違うところだ。日本のようなホームドアはない。発車まで先頭車両と記念撮影をする人がいたので、ピーッと笛が鳴り響き「あと10分で出発ですよ!」と駅員らしき人が注意していた』、「周りのインドネシア人も老若男女みなQRコードで入場していた。インドネシアのデジタル化のスピードは目を見張るほどで、人口の若さを反映してキャッシュレスが当たり前になっている・・・駅の構造が中国国内の高速鉄道そのもので、懐かしく感じる。まず、2階で荷物のX線検査がある。インドネシアではテロが起きたこともあるため、そこまでの違和感はない。青の巨大掲示板で運行情報が表示されているのも、まさに中国式・・・これだけ中国式がスタンダードとして浸透すると、これから路線を伸長する際にはなかなか他の国が入ってこられないのではという気がした。実際、バンドン以東の高速鉄道延長計画でも中国の参画が有力視されている」、もはや日本が入り込む余地はなさそうだ。
・『中国語通訳者、警備員、清掃員が同乗 車両に乗り込んでみると、車内は先進的だなという感じがした。座席番号が印刷ではなく、液晶なのかキラキラと光っていたのだ。天井から小さな液晶画面がいくつもぶら下がっていた。ただ、座ってみると気のせいか新幹線と比べて狭い気もした。 アナウンスが面白い。毎回最後に、「Whoosh, Whoosh, Yes!」(ウーッシュ、ウーッシュ、イエス)というのだ。最初にこのアナウンスが流れた時には客席から笑いが漏れた。Whooshは乗り物のスピードを表す擬音語で、この高速鉄道の正式名称ともなっている。YouTuberの挨拶のようで、妙に耳につく。これはバズるのではと思った。 車内をうろうろしていると、うわさに聞いていた常駐の中国語通訳者を発見。アユさんという女性で、中国南京に3年留学していたという。中国語もかなり流暢(りゅうちょう)だ。同乗するインドネシア人車掌と中国人技術者の間で翻訳が必要なため、通訳者が乗っているのだ。アユさんは、車内には警備員が4人、清掃員が4人乗っていると教えてくれた。 先進的な高速鉄道と対照的に、窓の外に目をやると、ヤシの木や棚田といった牧歌的な光景が広がる。そうこうしているうちに、車内電光掲示板に「現在時速349km」の表示があった。これなどは、十数年前に上海のリニアモーターカーに乗った時に見た表示とそっくりだなと思った。 客席に中国人技術者がいたので話しかけてみた。すでにインドネシアには数カ月滞在しており、現地人へのトレーニングが終わらないと中国に帰国できないんだと嘆いていた。この高速鉄道は中国でも「最高規格」だと胸を張っていた。駅の形状を含めた細かい点はインドネシアの美的センスに合わせたのだという。そうして座席に描かれた雲のような模様を指さした。これはインドネシアでメガムンドゥン(Mega Mendung)といい、西ジャワ・チレボンで有名なバティック(インドネシアの民族衣装)のモチーフだ。 「これから中国は東南アジアで高速鉄道をどんどん敷いていくんでしょうか?」と尋ねてみると、まずは、「中国では高速鉄道が4万km敷かれていて、海外の路線全てを足したよりも長い」と中国の優位性についての指摘があった。ただ、「各国の需要にもよる」とあくまで控えめだった。中国としても、これまでのように大盤振る舞いし、海外で高速鉄道を作れる時期は過ぎ去ったということだろう』、「常駐の中国語通訳者を発見。アユさんという女性で、中国南京に3年留学していたという。中国語もかなり流暢(りゅうちょう)だ。同乗するインドネシア人車掌と中国人技術者の間で翻訳が必要なため、通訳者が乗っているのだ・・・中国としても、これまでのように大盤振る舞いし、海外で高速鉄道を作れる時期は過ぎ去ったということだろう」、なるほど。
・『乗務員は中国語が必須? 自分の席に戻ると、バティックを着てにこやかに笑みを浮かべた乗務員が歩いてきた。「乗務員は中国語必須」という情報がインドネシアのSNSに出回り炎上していたので確かめてみたかった。「ニイハオ!」と中国語で声をかけると、「ニイハオ、シエンション。ニイジャオシェンマ?(こんにちは、お客様。お名前は?)」と返ってきた。 詳しく話を聞くと、乗務員は福利厚生の一環として無料で中国語研修が受けられるとのことだった。他の乗務員もあいさつくらいはできるそうだ。 そうこうしているうちにバンドン側のターミナル、テガルアール駅に着いた。あっという間だ。改札は6つあるが、3つしか使っておらず、大行列ができていた。オペレーションはまだまだ試行段階という気がした。 この駅は周囲に何もないような郊外にあり、構内にレストランやカフェなどはまだ一つもできていなかった。駅員に聞くと「(外に)屋台ならある」と教えられ、あぜんとした。 駅のチケット販売機にエラーが出たようで、インドネシア人スタッフと先ほどの中国人技術者がケータイで翻訳サイトを介してやり取りしつつ修理をしていた。どうやらWeChatグループがあるようで、そこで具体的なトラブルシューティングのためのやり取りが行われているようだ。 開業からそろそろ2カ月がたつ。遅れが出るなどの小さなトラブルやオペレーションの不手際はあるようだが、開業したばかりの路線ではよくあることで、今のところ大きな問題は起きていない。中国がこれからも東南アジアで高速鉄道ネットワークを整備していくかどうかは、インドネシア高速鉄道がどれだけ財政面・運用上共に安定して運行していけるのかが一つの試金石となりそうだ』、「乗務員は福利厚生の一環として無料で中国語研修が受けられるとのことだった・・・中国がこれからも東南アジアで高速鉄道ネットワークを整備していくかどうかは、インドネシア高速鉄道がどれだけ財政面・運用上共に安定して運行していけるのかが一つの試金石となりそうだ」、日本側のインフラ輸出熱は、政権交代で冷めたようだ。
次に、本年2月23日付け東洋経済オンラインが掲載した 欧州鉄道フォトライターの橋爪 智之氏による「入札で不正?欧州向け「中国製車両」に疑惑浮上 ブルガリアの車両案件「外国補助金規制」抵触か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/736319
・『驚くようなニュースが飛び込んできた。 2月10日付記事「チェコに登場、欧州初『中国製電車』数々の問題点」で紹介した、世界最大シェアを誇る鉄道メーカーの中国中車(CRRC)に、ブルガリアへの車両納入に関する入札で不正疑惑が浮上、欧州委員会(EC)が調査を行っていると発表したのだ』、興味深そうだ。
・『不当な補助金でダンピング? 欧州委員会の発表によると、今回の調査はCRRCの子会社であるCRRC青島四方機車有限公司が欧州委員会に提出した通知を受けてのもので、ブルガリアの運輸通信省が行った最高時速200km、総座席数300席以上の長距離列車20本の製造と15年の保守管理、および職員研修サービスの提供に関する公共調達手続きについてである。推定契約額は約12億レフ(約6億1000万ユーロ=約990億9080万円)で、CRRCのほかにスペインのCAFが応札していた。 今回の疑惑を簡単に説明すると、ブルガリアの鉄道車両入札案件において、CRRCが異常な低価格でCAFを圧倒したのは、「EU域外の第三国」からの不当な補助金によるダンピングが理由ではないか、というものだ。もちろん、その第三国とは中国政府のことである。 EU外からの補助金に関する規則(外国補助金規制 The Foreign Subsidies Regulation/FSR)によると、公共調達で契約予定額が2億5000万ユーロ(約406億1100万円)を超え、かつ届出前の3年間に少なくとも1つの第三国から400万ユーロ(約6億4985万円)以上の資金提供を受けた場合、その企業は入札に参加することを欧州委員会に通知する義務があるとされる。) 欧州委員会は、CRRC青島四方機車から受領した通知の予備審査を行った結果、同社がEU市場を歪める「外国からの補助金」を受けていたことを示す十分な証拠があったことから、詳細な調査を開始することが正当であると判断した、としている。 そのため欧州委員会は、外国からの資金が同社に利益を与える補助金であるか、そのために同社が不当に有利な条件で応札できたかどうかを評価する必要がある。 欧州委員会のプレスリリースには、「外国からの補助金」がどの国からのものか、といった明確な記述はなく、現時点ではあくまで調査中のため、詳細な情報については明らかにされていない。ただ、ヨーロッパのマスコミの論調は、それが中国政府からのものだということを暗に示している』、「CRRC青島四方機車」が「中国政府からの補助金」を受けて「有利な条件で応札できたかどうか」を「欧州委員会」が「調査」するようだ。
・『「公平な競争」重視するEU 中国政府からの資金でCRRCが不当に有利な条件で応札していたとなれば、これまで厳しい競争ルールが適用されてきた欧州系メーカーは不公平に感じることだろう。とはいえ、CRRCが国家による経済的支援を受けていたことが事実であれば違法とみなされ、入札のやり直しはもちろんのこと、下手をすると欧州市場への参入禁止という厳しいペナルティも否定できない。 外国補助金規制は2023年7月12日に施行され、この新しい規則により、欧州委員会は今回のような外国からの補助金による違反行為に対処できるようになった。その結果、EUは貿易と投資の開放を維持しながら、欧州域内市場で活動するすべての企業にとって公平な競争条件を確保できるようになった。 EUでは加盟国に対する特定企業への補助金を原則的に禁止しているが、外国からの補助金を受けた企業がEU域内の企業を買収したり、公共調達の契約を獲得したりする際に、補助金による不当な優位性でEU域内市場の公正な競争を歪めていることが懸念されていた。規制はそれを受けての施行であった。 CRRCは2024年1月22日に届出書を提出していることから、欧州委員会はそこから起算した110営業日以内となる2024年7月2日までに最終的な決定を下すことになる。) もしCRRCの行為が不正とみなされれば、今後どのような影響が予想されるか。 CRRCは現在、ヨーロッパの鉄道市場においては本格的な参入には至っておらず、先般のチェコ国内における連接電車「シリウス」や、ハンガリー鉄道貨物部門のレールカーゴ・ハンガリア向け汎用型機関車「バイソン」が、走行距離を伸ばすためのテスト営業を行っている。一方、オーストリアの民間企業ウェストバーン向けの2階建て電車は、まだ乗客を乗せたテスト営業には至っていない。 つまり、いずれも仮契約のようなもので、ハンガリーとウェストバーンの場合は中国側が車両を貸し出す「リース契約」という形を採っている。もし、今回の件で違法行為があったと認められた場合、これらの本契約に黄信号が灯ることになる』、「CRRCが国家による経済的支援を受けていたことが事実であれば違法とみなされ、入札のやり直しはもちろんのこと、下手をすると欧州市場への参入禁止という厳しいペナルティも否定できない・・・チェコ国内における連接電車「シリウス」や、ハンガリー鉄道貨物部門のレールカーゴ・ハンガリア向け汎用型機関車「バイソン」が、走行距離を伸ばすためのテスト営業を行っている。一方、オーストリアの民間企業ウェストバーン向けの2階建て電車は、まだ乗客を乗せたテスト営業には至っていない。 つまり、いずれも仮契約のようなもので、ハンガリーとウェストバーンの場合は中国側が車両を貸し出す「リース契約」という形を採っている。もし、今回の件で違法行為があったと認められた場合、これらの本契約に黄信号が灯ることになる」、「中国」側にとっては、「CRRC」への「国家による経済的支援」が認められれば、深刻な打撃を受けることになる。
・『欧州でのCRRCの未来は…? 既報の通り、連接電車シリウスはもともと、チェコの民間企業「レオ・エクスプレス」が導入する予定で契約したが、認可取得の遅れで契約を破棄され、行き場を失っていたところを同じチェコの民間企業「レギオジェット」が救いの手を差し伸べ、走行距離を稼ぐための試験走行に協力することになった。 その結果次第では、レギオジェットがCRRCと正式に契約し、これらの車両を購入する可能性もあっただろう。 ただチェコ共和国は、もともと中国に対する国民感情がいいとは言えず、テスト走行についても「なぜ中国に手を貸すのか」「中国の車両はいらない」といった否定的な意見が市民のコメントのみならず、マスコミからも聞こえてきたほどだ。チェコ政府も政権交代により、「脱・親中」へ舵を切り、中国に厳しい立場を取っている。 この不正疑惑によってチェコ国民の目はより厳しいものとなり、レギオジェットが本契約から手を引く可能性は否定できないだろう。 チェコとは対照的に「親中」といわれるハンガリーの場合は、結果次第では導入へ傾く可能性もあるが、オーストリアのウェストバーンは利用者の感情を配慮した場合、リース契約が破棄される可能性が高まるかもしれない。 地道に努力を重ね、ようやくチェコで乗客を乗せたテスト走行を開始するところまでたどり着いたCRRCだったが、ここで大きな局面の変化を迎えることになった。はたして、この調査結果はいかなるものとなるか、その結果次第で欧州におけるCRRCの未来は大きく変わることになるだろう』、「チェコ政府も政権交代により、「脱・親中」へ舵を切り、中国に厳しい立場を取っている」のであれば、「調査結果」も厳しくなりそうだ。
先ずは、昨年12月28日付け東洋経済オンラインが掲載した中国・ASEAN専門ジャーナリストの舛友雄大氏による「中国製・高速鉄道がインドネシアで開通!早速乗ってみた…「新幹線が逆転負け」したその実力は?【2023人気記事ベスト4】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340973
・『2023年度に「ダイヤモンド・オンライン」で読者の反響が大きかった人気記事ベスト10をお届けします!第7位はこちらの記事です。(記事初出時の公開日:2023年11月30日) ※2023年11月30日に公開した記事をもう一度紹介します。全ての内容は初出時のまま 10月2日、インドネシア初の高速鉄道が開業した。首都ジャカルタとバンドン市の間の約140kmを結ぶ高速鉄道は非常に重要なインフラであり、この建設はインドネシアにとっては一大プロジェクトだ。実はこれ、日本との競争に逆転勝ちして中国が建設を受注したもので、中国にとっては広域経済圏構想「一帯一路」の一環という位置づけになっている。先日筆者はインドネシアで、開業したばかりのこの高速鉄道に乗る機会があった。実際に乗ってみると、中国の影響が予想以上に強い。どんなところに驚かされたのかというと……』、これはいわくつきの「高速鉄道」だ。
・『日中が激しく争ったインドネシア高速鉄道建設 2010年代前半、日本と中国はアジアを舞台に、高速鉄道をはじめとするインフラ輸出分野で激しい競争を繰り広げていた。野心的なリーダーとして登場した中国の習近平国家主席は、2013年から一帯一路構想を強力に推進し、日本が主導するアジア開発銀行(ADB)と競合するアジアインフラ投資銀行(AIIB)を立ち上げた。 これに対し、日本は2010年からアジア諸国にある複数の日本大使館に、インフラプロジェクト専門官を派遣するようになっていた。2015年には当時の安倍晋三首相がADBと連携して、質の高いインフラを整備するために今後5年で約1100億ドル(当時のレートで約13兆2000億円)を投じると表明。官邸は和泉洋人首相補佐官を中心に前のめりの姿勢でインフラ輸出を主導し、民間企業が消極的に見えるほどだった。 「新幹線を輸出する」――この事業は関係者にとって、愛国的な熱を帯びていた。それだけに、インドネシアの高速鉄道建設を中国が逆転受注したことは、日本の政府関係者に衝撃を与えた。インドネシアのジョコ大統領が派遣した特使との会談中に、菅義偉官房長官(当時)が怒った表情を見せたのもよく知られる。筆者もインドネシア人外交官から、当時なぜか日本政府関係者との食事会で中華レストランを指定され、暗示めいたものを感じたと聞いたことがある。ネット上で、日本の対インドネシア世論が厳しくなるきっかけともなった。 日本は安全性を、中国はスピーディーな工事やコストの安さをアピールしていた。決定的だったのは、中国側がインドネシア政府に対して政府保証(融資などが焦げ付いた時に、国が代わって返済すると約束すること)を求めなかったことだとされる。 だが、結果的には、予定していた2019年の開業には間に合わず4年遅れることになったし、予算も当初予算を約12億ドル上回り、インドネシア政府は国庫からの支出を余儀なくされた。筆者が、建設中の2018年にインドネシアで取材した際は、土地収用の問題が大きくなっていると実感した。また、外国人労働者の流入を警戒するインドネシアにおいて、中国人労働者の存在もセンシティブな問題となっていた。 今回のインドネシア高速鉄道の開業は、中国政府にとっては、投資額が下火になり「債務のわな」(中国への借金が膨らんで返せなくなること)問題が浮上する中であっても、一帯一路は成功しているとアピールするための絶好のプロジェクトとなった。2022年にG20バリサミットが開かれた際は、習近平国家主席がわざわざオンラインで「視察」した。今年9月には、開業前に中国の李強首相が自ら試乗した。 【2023年度人気記事ランキング】結果はこちら! 1位 頭の悪い人が使っている日本語、納得の「3つのフレーズ」とは? 2位 松本人志さんの“罪”を考察したブログに反響広がる「ぐうの音も出ない」「完璧すぎる論破」 3位 「離婚しようと思うねん」明石家さんまに相談したら…“たった5文字”の返答にグッときた 4位 松本人志氏の提訴に元文春編集長が警鐘「これは相当厳しい戦いになる」 5位 医学部9浪の31歳娘が58歳母をバラバラ死体にするまで…話題本の著者が迫った事件の本質 6位 都道府県魅力度ランキング2023【47都道府県・完全版】 7位 中国製・高速鉄道がインドネシアで開通!早速乗ってみた…「新幹線が逆転負け」したその実力は? 8位 刃物を持った人間と遭遇したとき、生死を分ける「初動」とは? 9位 意味が分かると青ざめる…「中国」の公園で運動する高齢者が多い理由 10位 ジャニーズと戦った元文春編集長が、記者会見を見て感じたこと』、「日本は2010年からアジア諸国にある複数の日本大使館に、インフラプロジェクト専門官を派遣」、そこまで熱を上げていたとは初めて知った。「日本は安全性を、中国はスピーディーな工事やコストの安さをアピールしていた。決定的だったのは、中国側がインドネシア政府に対して政府保証・・・を求めなかったことだとされる。 だが、結果的には、予定していた2019年の開業には間に合わず4年遅れることになったし、予算も当初予算を約12億ドル上回り、インドネシア政府は国庫からの支出を余儀なくされた」、本当にいわくつきの「高速鉄道」だ。
・『開業直後のインドネシア高速鉄道に乗ってみた 先日、ジャカルタ滞在中に、筆者もインドネシア高速鉄道に乗ってみることにした。開業直後のキャンペーン料金は、ジャカルタ→バンドンが片道15万ルピア(約1440円)で、通常料金はまだ発表されていない。採算が取れるのか、見通しはまだまだ未知数だ。 10月21日の早朝、ジャカルタ中心部のホテルから配車アプリ「Gojek」で手配した車に乗り、高速鉄道の駅に向かった。高速鉄道の駅はジャカルタ郊外にあるからだ。 市内の高層ビル群の間から太陽が上っている。もやがかっているのは大気汚染のせいなのだろうか。高速道路の舗装が良くなく、車はガタガタと揺れる。「ブーン」とけたたましいエンジン音を響かせてバイクの群れが並走している。車窓から「私のご飯」という看板が見えた。この国で日本のソフトパワーは根強く、こうして日本語で書かれた宣伝文句を目にする機会も多い。 車が目的地に着き、ドアを開けると迎えてくれたのは野良猫だった。見上げると、ピカピカで、空港と見まがうほどの巨大な建物がそびえ立っていた。ジャカルタ側のターミナル、ハリム駅だ。郊外にある巨大駅、まさに中国の高速鉄道を思い出させる。 乗客とおぼしきインドネシア人たちが、あちこちで記念撮影をしている。SNSにアップするのだろう。人生で初めて高速鉄道に乗るという人も少なくないはずだ』、「ジャカルタ郊外」に「ピカピカで、空港と見まがうほどの巨大な建物がそびえ立っていた。ジャカルタ側のターミナル、ハリム駅だ。郊外にある巨大駅」、なるほど。
・『郊外にある駅は中国の高速鉄道の駅にそっくり 駅構内に入ると、レストランやカフェはまだ開業していないところが多かった。一刻も早く高速鉄道を開業したかったのだろう。看板など、駅構内の案内はインドネシア語で、英語も併記されている。 改札で、アプリで買っておいたチケットのQRコードをかざす。紙のチケットでも入場できるのだが、周りのインドネシア人も老若男女みなQRコードで入場していた。インドネシアのデジタル化のスピードは目を見張るほどで、人口の若さを反映してキャッシュレスが当たり前になっている。特にコロナ後は、日本の先を行っていると感じる場面もあるほどだ。 駅の構造が中国国内の高速鉄道そのもので、懐かしく感じる。まず、2階で荷物のX線検査がある。インドネシアではテロが起きたこともあるため、そこまでの違和感はない。青の巨大掲示板で運行情報が表示されているのも、まさに中国式。一方で、インドネシアらしい意匠の内装も見られた。いずれにせよ、これだけ中国式がスタンダードとして浸透すると、これから路線を伸長する際にはなかなか他の国が入ってこられないのではという気がした。実際、バンドン以東の高速鉄道延長計画でも中国の参画が有力視されている。 プラットホームが巨大なのも、日本の新幹線と違うところだ。日本のようなホームドアはない。発車まで先頭車両と記念撮影をする人がいたので、ピーッと笛が鳴り響き「あと10分で出発ですよ!」と駅員らしき人が注意していた』、「周りのインドネシア人も老若男女みなQRコードで入場していた。インドネシアのデジタル化のスピードは目を見張るほどで、人口の若さを反映してキャッシュレスが当たり前になっている・・・駅の構造が中国国内の高速鉄道そのもので、懐かしく感じる。まず、2階で荷物のX線検査がある。インドネシアではテロが起きたこともあるため、そこまでの違和感はない。青の巨大掲示板で運行情報が表示されているのも、まさに中国式・・・これだけ中国式がスタンダードとして浸透すると、これから路線を伸長する際にはなかなか他の国が入ってこられないのではという気がした。実際、バンドン以東の高速鉄道延長計画でも中国の参画が有力視されている」、もはや日本が入り込む余地はなさそうだ。
・『中国語通訳者、警備員、清掃員が同乗 車両に乗り込んでみると、車内は先進的だなという感じがした。座席番号が印刷ではなく、液晶なのかキラキラと光っていたのだ。天井から小さな液晶画面がいくつもぶら下がっていた。ただ、座ってみると気のせいか新幹線と比べて狭い気もした。 アナウンスが面白い。毎回最後に、「Whoosh, Whoosh, Yes!」(ウーッシュ、ウーッシュ、イエス)というのだ。最初にこのアナウンスが流れた時には客席から笑いが漏れた。Whooshは乗り物のスピードを表す擬音語で、この高速鉄道の正式名称ともなっている。YouTuberの挨拶のようで、妙に耳につく。これはバズるのではと思った。 車内をうろうろしていると、うわさに聞いていた常駐の中国語通訳者を発見。アユさんという女性で、中国南京に3年留学していたという。中国語もかなり流暢(りゅうちょう)だ。同乗するインドネシア人車掌と中国人技術者の間で翻訳が必要なため、通訳者が乗っているのだ。アユさんは、車内には警備員が4人、清掃員が4人乗っていると教えてくれた。 先進的な高速鉄道と対照的に、窓の外に目をやると、ヤシの木や棚田といった牧歌的な光景が広がる。そうこうしているうちに、車内電光掲示板に「現在時速349km」の表示があった。これなどは、十数年前に上海のリニアモーターカーに乗った時に見た表示とそっくりだなと思った。 客席に中国人技術者がいたので話しかけてみた。すでにインドネシアには数カ月滞在しており、現地人へのトレーニングが終わらないと中国に帰国できないんだと嘆いていた。この高速鉄道は中国でも「最高規格」だと胸を張っていた。駅の形状を含めた細かい点はインドネシアの美的センスに合わせたのだという。そうして座席に描かれた雲のような模様を指さした。これはインドネシアでメガムンドゥン(Mega Mendung)といい、西ジャワ・チレボンで有名なバティック(インドネシアの民族衣装)のモチーフだ。 「これから中国は東南アジアで高速鉄道をどんどん敷いていくんでしょうか?」と尋ねてみると、まずは、「中国では高速鉄道が4万km敷かれていて、海外の路線全てを足したよりも長い」と中国の優位性についての指摘があった。ただ、「各国の需要にもよる」とあくまで控えめだった。中国としても、これまでのように大盤振る舞いし、海外で高速鉄道を作れる時期は過ぎ去ったということだろう』、「常駐の中国語通訳者を発見。アユさんという女性で、中国南京に3年留学していたという。中国語もかなり流暢(りゅうちょう)だ。同乗するインドネシア人車掌と中国人技術者の間で翻訳が必要なため、通訳者が乗っているのだ・・・中国としても、これまでのように大盤振る舞いし、海外で高速鉄道を作れる時期は過ぎ去ったということだろう」、なるほど。
・『乗務員は中国語が必須? 自分の席に戻ると、バティックを着てにこやかに笑みを浮かべた乗務員が歩いてきた。「乗務員は中国語必須」という情報がインドネシアのSNSに出回り炎上していたので確かめてみたかった。「ニイハオ!」と中国語で声をかけると、「ニイハオ、シエンション。ニイジャオシェンマ?(こんにちは、お客様。お名前は?)」と返ってきた。 詳しく話を聞くと、乗務員は福利厚生の一環として無料で中国語研修が受けられるとのことだった。他の乗務員もあいさつくらいはできるそうだ。 そうこうしているうちにバンドン側のターミナル、テガルアール駅に着いた。あっという間だ。改札は6つあるが、3つしか使っておらず、大行列ができていた。オペレーションはまだまだ試行段階という気がした。 この駅は周囲に何もないような郊外にあり、構内にレストランやカフェなどはまだ一つもできていなかった。駅員に聞くと「(外に)屋台ならある」と教えられ、あぜんとした。 駅のチケット販売機にエラーが出たようで、インドネシア人スタッフと先ほどの中国人技術者がケータイで翻訳サイトを介してやり取りしつつ修理をしていた。どうやらWeChatグループがあるようで、そこで具体的なトラブルシューティングのためのやり取りが行われているようだ。 開業からそろそろ2カ月がたつ。遅れが出るなどの小さなトラブルやオペレーションの不手際はあるようだが、開業したばかりの路線ではよくあることで、今のところ大きな問題は起きていない。中国がこれからも東南アジアで高速鉄道ネットワークを整備していくかどうかは、インドネシア高速鉄道がどれだけ財政面・運用上共に安定して運行していけるのかが一つの試金石となりそうだ』、「乗務員は福利厚生の一環として無料で中国語研修が受けられるとのことだった・・・中国がこれからも東南アジアで高速鉄道ネットワークを整備していくかどうかは、インドネシア高速鉄道がどれだけ財政面・運用上共に安定して運行していけるのかが一つの試金石となりそうだ」、日本側のインフラ輸出熱は、政権交代で冷めたようだ。
次に、本年2月23日付け東洋経済オンラインが掲載した 欧州鉄道フォトライターの橋爪 智之氏による「入札で不正?欧州向け「中国製車両」に疑惑浮上 ブルガリアの車両案件「外国補助金規制」抵触か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/736319
・『驚くようなニュースが飛び込んできた。 2月10日付記事「チェコに登場、欧州初『中国製電車』数々の問題点」で紹介した、世界最大シェアを誇る鉄道メーカーの中国中車(CRRC)に、ブルガリアへの車両納入に関する入札で不正疑惑が浮上、欧州委員会(EC)が調査を行っていると発表したのだ』、興味深そうだ。
・『不当な補助金でダンピング? 欧州委員会の発表によると、今回の調査はCRRCの子会社であるCRRC青島四方機車有限公司が欧州委員会に提出した通知を受けてのもので、ブルガリアの運輸通信省が行った最高時速200km、総座席数300席以上の長距離列車20本の製造と15年の保守管理、および職員研修サービスの提供に関する公共調達手続きについてである。推定契約額は約12億レフ(約6億1000万ユーロ=約990億9080万円)で、CRRCのほかにスペインのCAFが応札していた。 今回の疑惑を簡単に説明すると、ブルガリアの鉄道車両入札案件において、CRRCが異常な低価格でCAFを圧倒したのは、「EU域外の第三国」からの不当な補助金によるダンピングが理由ではないか、というものだ。もちろん、その第三国とは中国政府のことである。 EU外からの補助金に関する規則(外国補助金規制 The Foreign Subsidies Regulation/FSR)によると、公共調達で契約予定額が2億5000万ユーロ(約406億1100万円)を超え、かつ届出前の3年間に少なくとも1つの第三国から400万ユーロ(約6億4985万円)以上の資金提供を受けた場合、その企業は入札に参加することを欧州委員会に通知する義務があるとされる。) 欧州委員会は、CRRC青島四方機車から受領した通知の予備審査を行った結果、同社がEU市場を歪める「外国からの補助金」を受けていたことを示す十分な証拠があったことから、詳細な調査を開始することが正当であると判断した、としている。 そのため欧州委員会は、外国からの資金が同社に利益を与える補助金であるか、そのために同社が不当に有利な条件で応札できたかどうかを評価する必要がある。 欧州委員会のプレスリリースには、「外国からの補助金」がどの国からのものか、といった明確な記述はなく、現時点ではあくまで調査中のため、詳細な情報については明らかにされていない。ただ、ヨーロッパのマスコミの論調は、それが中国政府からのものだということを暗に示している』、「CRRC青島四方機車」が「中国政府からの補助金」を受けて「有利な条件で応札できたかどうか」を「欧州委員会」が「調査」するようだ。
・『「公平な競争」重視するEU 中国政府からの資金でCRRCが不当に有利な条件で応札していたとなれば、これまで厳しい競争ルールが適用されてきた欧州系メーカーは不公平に感じることだろう。とはいえ、CRRCが国家による経済的支援を受けていたことが事実であれば違法とみなされ、入札のやり直しはもちろんのこと、下手をすると欧州市場への参入禁止という厳しいペナルティも否定できない。 外国補助金規制は2023年7月12日に施行され、この新しい規則により、欧州委員会は今回のような外国からの補助金による違反行為に対処できるようになった。その結果、EUは貿易と投資の開放を維持しながら、欧州域内市場で活動するすべての企業にとって公平な競争条件を確保できるようになった。 EUでは加盟国に対する特定企業への補助金を原則的に禁止しているが、外国からの補助金を受けた企業がEU域内の企業を買収したり、公共調達の契約を獲得したりする際に、補助金による不当な優位性でEU域内市場の公正な競争を歪めていることが懸念されていた。規制はそれを受けての施行であった。 CRRCは2024年1月22日に届出書を提出していることから、欧州委員会はそこから起算した110営業日以内となる2024年7月2日までに最終的な決定を下すことになる。) もしCRRCの行為が不正とみなされれば、今後どのような影響が予想されるか。 CRRCは現在、ヨーロッパの鉄道市場においては本格的な参入には至っておらず、先般のチェコ国内における連接電車「シリウス」や、ハンガリー鉄道貨物部門のレールカーゴ・ハンガリア向け汎用型機関車「バイソン」が、走行距離を伸ばすためのテスト営業を行っている。一方、オーストリアの民間企業ウェストバーン向けの2階建て電車は、まだ乗客を乗せたテスト営業には至っていない。 つまり、いずれも仮契約のようなもので、ハンガリーとウェストバーンの場合は中国側が車両を貸し出す「リース契約」という形を採っている。もし、今回の件で違法行為があったと認められた場合、これらの本契約に黄信号が灯ることになる』、「CRRCが国家による経済的支援を受けていたことが事実であれば違法とみなされ、入札のやり直しはもちろんのこと、下手をすると欧州市場への参入禁止という厳しいペナルティも否定できない・・・チェコ国内における連接電車「シリウス」や、ハンガリー鉄道貨物部門のレールカーゴ・ハンガリア向け汎用型機関車「バイソン」が、走行距離を伸ばすためのテスト営業を行っている。一方、オーストリアの民間企業ウェストバーン向けの2階建て電車は、まだ乗客を乗せたテスト営業には至っていない。 つまり、いずれも仮契約のようなもので、ハンガリーとウェストバーンの場合は中国側が車両を貸し出す「リース契約」という形を採っている。もし、今回の件で違法行為があったと認められた場合、これらの本契約に黄信号が灯ることになる」、「中国」側にとっては、「CRRC」への「国家による経済的支援」が認められれば、深刻な打撃を受けることになる。
・『欧州でのCRRCの未来は…? 既報の通り、連接電車シリウスはもともと、チェコの民間企業「レオ・エクスプレス」が導入する予定で契約したが、認可取得の遅れで契約を破棄され、行き場を失っていたところを同じチェコの民間企業「レギオジェット」が救いの手を差し伸べ、走行距離を稼ぐための試験走行に協力することになった。 その結果次第では、レギオジェットがCRRCと正式に契約し、これらの車両を購入する可能性もあっただろう。 ただチェコ共和国は、もともと中国に対する国民感情がいいとは言えず、テスト走行についても「なぜ中国に手を貸すのか」「中国の車両はいらない」といった否定的な意見が市民のコメントのみならず、マスコミからも聞こえてきたほどだ。チェコ政府も政権交代により、「脱・親中」へ舵を切り、中国に厳しい立場を取っている。 この不正疑惑によってチェコ国民の目はより厳しいものとなり、レギオジェットが本契約から手を引く可能性は否定できないだろう。 チェコとは対照的に「親中」といわれるハンガリーの場合は、結果次第では導入へ傾く可能性もあるが、オーストリアのウェストバーンは利用者の感情を配慮した場合、リース契約が破棄される可能性が高まるかもしれない。 地道に努力を重ね、ようやくチェコで乗客を乗せたテスト走行を開始するところまでたどり着いたCRRCだったが、ここで大きな局面の変化を迎えることになった。はたして、この調査結果はいかなるものとなるか、その結果次第で欧州におけるCRRCの未来は大きく変わることになるだろう』、「チェコ政府も政権交代により、「脱・親中」へ舵を切り、中国に厳しい立場を取っている」のであれば、「調査結果」も厳しくなりそうだ。
タグ:「チェコ政府も政権交代により、「脱・親中」へ舵を切り、中国に厳しい立場を取っている」のであれば、「調査結果」も厳しくなりそうだ。 一方、オーストリアの民間企業ウェストバーン向けの2階建て電車は、まだ乗客を乗せたテスト営業には至っていない。 つまり、いずれも仮契約のようなもので、ハンガリーとウェストバーンの場合は中国側が車両を貸し出す「リース契約」という形を採っている。もし、今回の件で違法行為があったと認められた場合、これらの本契約に黄信号が灯ることになる」、「中国」側にとっては、「CRRC」への「国家による経済的支援」が認められれば、深刻な打撃を受けることになる。 「CRRCが国家による経済的支援を受けていたことが事実であれば違法とみなされ、入札のやり直しはもちろんのこと、下手をすると欧州市場への参入禁止という厳しいペナルティも否定できない・・・チェコ国内における連接電車「シリウス」や、ハンガリー鉄道貨物部門のレールカーゴ・ハンガリア向け汎用型機関車「バイソン」が、走行距離を伸ばすためのテスト営業を行っている。 「CRRC青島四方機車」が「中国政府からの補助金」を受けて「有利な条件で応札できたかどうか」を「欧州委員会」が「調査」するようだ。 橋爪 智之氏による「入札で不正?欧州向け「中国製車両」に疑惑浮上 ブルガリアの車両案件「外国補助金規制」抵触か」 「乗務員は福利厚生の一環として無料で中国語研修が受けられるとのことだった・・・中国がこれからも東南アジアで高速鉄道ネットワークを整備していくかどうかは、インドネシア高速鉄道がどれだけ財政面・運用上共に安定して運行していけるのかが一つの試金石となりそうだ」、日本側のインフラ輸出熱は、政権交代で冷めたようだ。 「常駐の中国語通訳者を発見。アユさんという女性で、中国南京に3年留学していたという。中国語もかなり流暢(りゅうちょう)だ。同乗するインドネシア人車掌と中国人技術者の間で翻訳が必要なため、通訳者が乗っているのだ・・・中国としても、これまでのように大盤振る舞いし、海外で高速鉄道を作れる時期は過ぎ去ったということだろう」、なるほど。 インドネシアではテロが起きたこともあるため、そこまでの違和感はない。青の巨大掲示板で運行情報が表示されているのも、まさに中国式・・・これだけ中国式がスタンダードとして浸透すると、これから路線を伸長する際にはなかなか他の国が入ってこられないのではという気がした。実際、バンドン以東の高速鉄道延長計画でも中国の参画が有力視されている」、もはや日本が入り込む余地はなさそうだ。 「周りのインドネシア人も老若男女みなQRコードで入場していた。インドネシアのデジタル化のスピードは目を見張るほどで、人口の若さを反映してキャッシュレスが当たり前になっている・・・駅の構造が中国国内の高速鉄道そのもので、懐かしく感じる。まず、2階で荷物のX線検査がある。 「ジャカルタ郊外」に「ピカピカで、空港と見まがうほどの巨大な建物がそびえ立っていた。ジャカルタ側のターミナル、ハリム駅だ。郊外にある巨大駅」、なるほど。 だが、結果的には、予定していた2019年の開業には間に合わず4年遅れることになったし、予算も当初予算を約12億ドル上回り、インドネシア政府は国庫からの支出を余儀なくされた」、本当にいわくつきの「高速鉄道」だ。 「日本は2010年からアジア諸国にある複数の日本大使館に、インフラプロジェクト専門官を派遣」、そこまで熱を上げていたとは初めて知った。「日本は安全性を、中国はスピーディーな工事やコストの安さをアピールしていた。決定的だったのは、中国側がインドネシア政府に対して政府保証・・・を求めなかったことだとされる。 これはいわくつきの「高速鉄道」だ。 舛友雄大氏による「中国製・高速鉄道がインドネシアで開通!早速乗ってみた…「新幹線が逆転負け」したその実力は?【2023人気記事ベスト4】」 東洋経済オンライン (その16)(中国製・高速鉄道がインドネシアで開通!早速乗ってみた…「新幹線が逆転負け」したその実力は?【2023人気記事ベスト4】、入札で不正?欧州向け「中国製車両」に疑惑浮上 ブルガリアの車両案件「外国補助金規制」抵触か) インフラ輸出
日本の構造問題(その31)(実質賃金下落続く日本と上昇する米国 歴史的インフレ下で「格差」の原因は何か、日本のGDP「4位転落」の“犯人”は 政府の間違った経済政策の継続) [経済政治動向]
日本の構造問題については、1月18日に取上げた。今日は、(その31)(実質賃金下落続く日本と上昇する米国 歴史的インフレ下で「格差」の原因は何か、日本のGDP「4位転落」の“犯人”は 政府の間違った経済政策の継続)である。
先ずは、2月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「実質賃金下落続く日本と上昇する米国、歴史的インフレ下で「格差」の原因は何か」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339600
・『近づく?アメリカの利下げ 株価活況でも日米経済の内実に差 いま世界経済の鍵を握っているのは、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が、いつどのように金利引き下げに転じるかだ。 この3年近く、コロナ禍やウクライナ戦争による資源価格などの急騰で歴史的なインフレが続いてきたが、ようやくインフレ率が鈍化、FRBがインフレ抑制から景気重視へと舵を切るタイミングが近づいている。 これを巡ってさまざまな予測や思惑が交錯し、株価や為替レートを大きく変動させている。これを象徴するのが、アメリカや日本などでも株価が歴史的な高水準になっていることだ。 日本では、FRBの緩和政策への転換や日本銀行が金融政策を正常化に踏み出すとしても緩和の方向は変わらいとの見方が、日経平均株価の最高値更新の大きな要因になっている。だがこの流れは続くのか。 アメリカの金融政策の行方を正確に予測することはできないのだが、将来を正しく見通すために、特に重要なのは、アメリカのインフレがどのように発生し、それをどのようにコントロールしたかの経緯を理解しておくことだ。この背後にある経済の状況も金融政策の対応も、日本の場合とは大きく異なる。 表向きは同じでも、いまの“活況”を生み出したものは全く違うことに注意する必要がある』、「背後にある経済の状況も金融政策の対応も、日本の場合とは大きく異なる。 表向きは同じでも、いまの“活況”を生み出したものは全く違うことに注意する必要がある」、どう違うのだろうか。
・『実質賃金は23年6月からプラス アメリカと日本の経済状況は大きく違う 最初にアメリカのマクロ経済的な指標を見ておこう。アメリカの消費者物価の推移は、図表1の通りだ。 物価上昇が始まったのは、2021年の春だ。それまで、1~2%程度だった消費者物価の対前年同月比が、4月に4%になった。そして、22年3月から9月までの期間では8%を超えた。しかし、その後低下して、23年4月から3%台になっている。 一方、総報酬の推移は、図表2に示す通りだ(総報酬は、賃金とボーナスの合計)。実質総報酬の対前年同月比は、21年6月期から23年3月期までの間だけマイナスになったが、23年6月期ですでにプラスになった。このように、実質報酬伸びがマイナスだったのは、一時的だった。 アメリカ長期金利の推移を見ると、図表3の通りだ。19年には2%程度であったが、コロナショックに対応するために大幅な金融緩和がなされ、0.6%程度まで引き下げられた。 その後、21年からは、インフレに対応するために金融引締めに転換し、長期金利はかなり急速に上昇してきた。 これに対して、日本の実質賃金は、2年間にわたって下落を続けている。これがいつ終わるのか、見当がつかない。日米間の経済状況は大きく異なる』、「日米間の経済状況は大きく異なる」、その通りだ。
・『アメリカ経済の強さがインフレを引き起こした 今回の世界的なインフレを当初、主導したのはアメリカでコロナ禍からの回復期に、深刻な人手不足が起きたことによる要素が大きい。人手不足による賃金の上昇が先導する形で物価上昇につながったのだ。この間の推移を見ると、次の通りだ。 コロナショックに対応して、アメリカ連邦政府は、2021年3月、一人当たり最大1400ドルの現金給付を柱とする総額1.9兆ドルの大規模な財政拡大を行なった。 金融の面でも、FRBが政策金利をゼロに引き下げ、国債を無制限に買上げる大規模な量的緩和政策を実施した。 一方、20年末に医療従事者や高齢者へのコロナワクチンの接種が始まり、21年3月ごろから一般接種が始まった。5月以降に接種が加速した。その結果、経済活動が回復、給付金などの消費で需要が拡大した。 ところが、これに供給が追いつくことができなかった。工場だけでなく港湾や運送会社、倉庫などサプライチェーンがフル稼働できるだけの労働力を確保できなかったのだ。 貨物船が入港できず、沖で待機するという事態が多発した。入港できても、荷役労働者やトラックの運転手の不足のために、国内の流通網に入れなかった。このため、生産活動や出荷が停滞した。 労働市場での需要が高まり就職機会が多くなると、労働者は、離職することによって賃金が上昇することを期待するようになった。これは、「Great Resignation(大量退職時代)」と呼ばれた。つまり、意に添わずに失業するという大恐慌とは正反対の事態が起きたのだ。 結局、コロナ期に過剰な景気拡大政策を行ったことが、労働力不足を引き起こして賃金を上昇させ、その結果、物価が上昇したことになる。 この背後には、アメリカが新しい産業、特にIT産業がAIなどで目覚ましい成長を続けているという状況がある。 こうしたアメリカ国内の状況に加え、22年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始し、対ロ制裁やそれへの報復などで資源・エネルギー価格などの急騰が新しい要因として加わりインフレが加速した』、「コロナ期に過剰な景気拡大政策を行ったことが、労働力不足を引き起こして賃金を上昇させ、その結果、物価が上昇したことになる。 この背後には、アメリカが新しい産業、特にIT産業がAIなどで目覚ましい成長を続けているという状況がある。 こうしたアメリカ国内の状況に加え、22年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始し、対ロ制裁やそれへの報復などで資源・エネルギー価格などの急騰が新しい要因として加わりインフレが加速した」、なるほど。
・『インフレ抑制は引き締め策の成功 FRBは正攻法で政策運営 インフレに対処するため、2021年11月、FRBは金融引き締めに転換した。まず、それまでの量的緩和を縮小する「テーパリング」を開始した。そして、22年3月から利上げを開始した。これよって、図表3で見たように長期金利が上昇したのだ。 アメリカがインフレの抑制に成功したのは、このような金融政策の転換による。そしてこれは、政策金利を操作することによって行われた。FRBは金融政策の正統的なやり方をそのまま行ったのであり、日銀のように国債の指値オペなどで長期金利を直接に操作したのではない。 一般に、金融引き締めは政治的に人気がないので、遅れがちになる。FRBの金融引き締めのタイミングが適切であったかどうかについては、議論の余地がある。インフレの初期の段階で、それを一時的なものとみなして重視せず、引き締めが遅れたために、インフレが高進したという評価はあり得るだろう。しかし、その後の金利引き上げは、極めて急速であった』、「インフレの初期の段階で、それを一時的なものとみなして重視せず、引き締めが遅れたために、インフレが高進したという評価はあり得るだろう。しかし、その後の金利引き上げは、極めて急速であった、なるほど。
・『日本のインフレは輸入物価が主導 競争力や経済衰退で賃上げが追い付かず 一方、日本ではインフレは輸入物価の上昇が主導した。アメリカなどのインフレが輸入物価を通して波及し、原材料やエネルギーなどのコスト上昇が転嫁されて国内の消費者物価が上昇した。この過程で、日本の金融政策は奇妙としか考えられない対応をした。 アメリカの金利引き上げに対して世界の多くの国の中央銀行利上げで追随した。ところが、日銀は金融緩和を続けて、金利の引き上げを行わなかった。このため、大幅な円安を招いた。このために、国内物価への伝播を遮断できなかったのだ。 他方で、物価上昇にもかかわらず企業が賃金を十分に引き上げることができないので、実質賃金の対前年伸び率がマイナスになった。この状況はいまに至るまで続いている。 日本では、長期にわたる金融緩和のもとで企業が生産性向上や新ビジネス展開などの取り組みを怠ったことで産業競争力が低下、経済が衰退し、輸入インフレに賃金が追いつかないのだ』、「アメリカの金利引き上げに対して世界の多くの国の中央銀行利上げで追随した。ところが、日銀は金融緩和を続けて、金利の引き上げを行わなかった。このため、大幅な円安を招いた。このために、国内物価への伝播を遮断できなかったのだ。 他方で、物価上昇にもかかわらず企業が賃金を十分に引き上げることができないので、実質賃金の対前年伸び率がマイナスになった。この状況はいまに至るまで続いている。 日本では、長期にわたる金融緩和のもとで企業が生産性向上や新ビジネス展開などの取り組みを怠ったことで産業競争力が低下、経済が衰退し、輸入インフレに賃金が追いつかないのだ」、なるほど。
・『賃上げを実現させる第一の条件は緩和策をやめ企業に変革努力を促すこと 今後、アメリカが金利を引き下げれば、日米金利差が縮小し、為替レートは円高になる可能性がある。それに加えて日銀が金融正常化を行なって金利が上昇すれば、急激な円高が進行する可能性もある。 これは、これまで日本の企業の利益が円安によって増加してきた状況を大きく変えるだろう。日本で株価の急激な上昇が進んだのも、円安による面が強いと思われるので、その状況が変わることがあり得る。 しかし、これを恐れて金融正常化を行なわなければ、経済構造が改善されず、実質賃金上昇率がマイナスである状態から脱出できない状態が続く可能性が強い。 だが賃金について言われるのは、企業は賃金を「引き上げよ」という掛け声ばかりだ。その半面で、有効な政策は何も行われていない。 賃金を引き上げるには、新しい技術や新しいビジネスモデルによって、生産性を引き上げるしかない。それを実現する最初の条件は金融正常化だ。金利を上げることで、企業にそれを上回る収益をあげ、賃上げができるよう変革の努力を促すのだ。日本は経済政策の基本原則に戻る必要がある』、「賃金を引き上げるには、新しい技術や新しいビジネスモデルによって、生産性を引き上げるしかない。それを実現する最初の条件は金融正常化だ。金利を上げることで、企業にそれを上回る収益をあげ、賃上げができるよう変革の努力を促すのだ。日本は経済政策の基本原則に戻る必要がある」、「生産性を引き上げるしかない。それを実現する最初の条件は金融正常化だ」、かなり思い切った提言だ。
次に、3月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した評論家の中野剛志氏による「日本のGDP「4位転落」の“犯人”は、政府の間違った経済政策の継続」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340991
・『23年はGDPでドイツにも抜かれる 人口減少などではない「根本原因」 日本経済は、日経平均株価の34年ぶりのバブル期の最高値更新や初の「4万1000円」台などに沸いているが、直近公表の2023年10~12月期の実質GDP(国内総生産)は2四半期連続で前年比マイナスは免れたものの、低迷は続く。23年のドル建ての名目GDPはドイツに抜かれ、世界4位に転落した。 10年にも世界2位の座を中国に明け渡したが、中国の場合は人口が日本よりはるかに多く、また高度成長期にあったため、人口減少局面にある成熟社会の日本が名目GDPで中国に凌駕(りょうが)されるのは仕方がないというような風潮が当時はあった。 しかし、ドイツは違う。人口は8,300万人と日本より少なく、人口が増加しているわけでもない成熟社会だ。しかも、近年はドイツ経済も停滞が続いており、特に23年はマイナス成長だった。 日本経済の長期停滞の原因や背景として、人口減少や高齢化、成熟社会などが言われているが、したがって、今回はそういった言い訳は通用しない。 より「根本的な原因」がある』、「より「根本的な原因」」とは何なのだろうか。
・『98年以降、日本だけが成長せずデフレを放置した経済政策が原因 そもそも、日本経済は1998年以降、ほとんど成長しない状態が続いているが、これほど長期にわたって成長しない国は、戦後のOECD(経済協力開発機構)加盟国でも、他に例がない。 しかも、91年にバブルが崩壊したとはいえ、日本経済は90年代半ばまでは成長していたのだ。それが98年以降、突如として成長しなくなった。 当時は、アジア通貨危機があったとはいえ、他の国々は、アジア通貨危機であれ、2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)であれ、危機を克服した後は、再び成長している。金融危機が収束した後も、まったく成長しない状態が続いたのは、日本だけと言ってよい。その原因は、産業構造の変化や少子高齢化などではとうてい説明がつかない。 日本経済の停滞の原因については、これまで人口減少などのほかにも、デジタル化で後れを取ったからだとか、グローバル化に乗り遅れたからだとか、雇用制度が硬直的だからといった説明が好まれてきた。しかし、それでは、なぜ98年を境に突如として、20年以上もの長期にわたり、しかも日本だけが成長しなくなり、ドイツにすら抜かれた理由を説明できないのだ。 この異様な現象を説明できるのは、ただ一つ、経済政策という要因だ。90年代半ば以降、継続して、誤った経済政策が行われてきたからとしか考えられないのだ。 では、何をどう間違えたのか。 まず注目すべきは、98年から、日本はデフレーション(デフレ)に陥り、しかも、このデフレが20年以上も続いたということだ。 このことだけでも異様なことだ。戦後、デフレを経験したのは98年以降の日本だけだからだ。 30年代の世界恐慌という大デフレ不況を経験して以降、デフレだけは避けなければならないという認識が政策担当者たちの間での常識となっていたはずだった。しかも、30年代ですら数年でデフレから脱却している。そのデフレを日本は20年以上も放置したのだ』、「30年代の世界恐慌という大デフレ不況を経験して以降、デフレだけは避けなければならないという認識が政策担当者たちの間での常識となっていたはずだった。しかも、30年代ですら数年でデフレから脱却している。そのデフレを日本は20年以上も放置したのだ」、なるほど。
・『デフレ下では、企業は債務を減らし投資をしないのが経済合理的 なぜ、デフレを放置してはならないのか。 デフレとは、需要不足(供給過剰)の状態が継続することで、物価が下落し続ける現象だ。物価が下落し続けるということは、裏を返せば、貨幣の価値が上昇し続けるということだ。 貨幣の価値が上昇し続けるのであれば、企業は、設備投資などをせず、貯蓄をした方が経済合理的となる。特に、貨幣の価値が上昇する中では、借り入れによって債務を負うと、将来、返済する際に債務が実質的に膨らんでいるということになるので、融資を受けようとはしなくなる。むしろ、企業は債務の返済を急ぐだろう。 こうして、デフレ下では、企業は融資を受けず、出資もせず投資をしないということになる。そうなると、需要はさらに縮小するというデフレ・スパイラルが発生し、経済は成長しなくなる。だから、政策担当者たちは、インフレ以上にデフレを恐れてきたのだ』、「デフレ下では、企業は融資を受けず、出資もせず投資をしないということになる。そうなると、需要はさらに縮小するというデフレ・スパイラルが発生し、経済は成長しなくなる。だから、政策担当者たちは、インフレ以上にデフレを恐れてきたのだ」、なるほど。
・『需要不足なのに需要抑制と供給拡大 逆にデフレを起こす政策続ける 日本政府は、このデフレに対してどのような政策をとってきたのか。 1996年に成立した橋本政権以降、政府がしてきた政策は、おおむね、以下のようなものだった。財政健全化や「小さな政府」、消費増税、金融緩和、規制緩和、自由化、民営化、労働市場の流動化、グローバル化の促進。 このうち、財政健全化や「小さな政府」は、公共需要を抑制するものであり、消費増税は民間の消費需要を縮小するものだ。 そして、規制緩和や自由化、民営化、労働市場の流動化は、競争を促進し、生産性を向上させて供給力を拡大しようとするものだ。それをもっと大規模に実施するのが、グローバル化といっていいだろう。 デフレとは、需要が不足し、供給が過剰になる現象なのに、これまで日本政府がしてきたのは、金融緩和を除くと、需要を抑制し供給を拡大する政策ばかりだった。要するにデフレを引き起こす政策を実施してきたのだ。 デフレ対策として、とりわけ重要なのは、積極財政だ。 貨幣価値が上昇するデフレ下では、企業は投資を抑制する方が経済合理的なため、民間主導の経済成長はほぼ不可能なのだ。そこで、企業に代わって、政府が大規模な投資を行って需要を創出しなければならない。 1930年代の世界恐慌という大デフレ不況でも、大規模な公共投資が実施された。日本における高橋財政や米国におけるニューディール政策がその典型だった。 ところが日本の場合、90年代初頭のバブル崩壊の後、5年ほどは公共投資を増やしてデフレを防いだ。しかし、その結果として拡大した財政赤字に恐れをなした政府は、97年以降は、公共投資を抑制しただけでなく、消費増税を行ってしまい、デフレをひどくしたのだ。 しかも、財政支出の抑制は2000年代以降も続けられ、消費税にいたっては、10年代に2度も税率を引き上げた。 このように、デフレにある時にデフレを引き起こす政策を20年以上も実施すれば、デフレが20年以上も続き、経済が成長しなくなるのも当然だ。何も不思議なことはない。 この間、日本企業が、内部留保ばかり積み上げて積極的な投資を躊躇(ちゅうちょ)し、デジタル化の波に乗り遅れたり、魅力のある商品開発や技術革新を怠ったりしたことが指摘される。それは、確かにその通りだろう。しかし、繰り返しになるが、デフレという異常なマクロ環境の下では、内部留保を積み上げることの方が経済合理的なのだ』、「デフレとは、需要が不足し、供給が過剰になる現象なのに、これまで日本政府がしてきたのは、金融緩和を除くと、需要を抑制し供給を拡大する政策ばかりだった。要するにデフレを引き起こす政策を実施してきたのだ。 デフレ対策として、とりわけ重要なのは、積極財政だ。 貨幣価値が上昇するデフレ下では、企業は投資を抑制する方が経済合理的なため、民間主導の経済成長はほぼ不可能なのだ。そこで、企業に代わって、政府が大規模な投資を行って需要を創出しなければならない。 1930年代の世界恐慌という大デフレ不況でも、大規模な公共投資が実施された。日本における高橋財政や米国におけるニューディール政策がその典型だった・・・日本の場合、90年代初頭のバブル崩壊の後、5年ほどは公共投資を増やしてデフレを防いだ。しかし、その結果として拡大した財政赤字に恐れをなした政府は、97年以降は、公共投資を抑制しただけでなく、消費増税を行ってしまい、デフレをひどくしたのだ。 しかも、財政支出の抑制は2000年代以降も続けられ、消費税にいたっては、10年代に2度も税率を引き上げた。 このように、デフレにある時にデフレを引き起こす政策を20年以上も実施すれば、デフレが20年以上も続き、経済が成長しなくなるのも当然だ。何も不思議なことはない。 この間、日本企業が、内部留保ばかり積み上げて積極的な投資を躊躇(ちゅうちょ)し、デジタル化の波に乗り遅れたり、魅力のある商品開発や技術革新を怠ったりしたことが指摘される。それは、確かにその通りだろう。しかし、繰り返しになるが、デフレという異常なマクロ環境の下では、内部留保を積み上げることの方が経済合理的なのだ」、「デフレという異常なマクロ環境の下では、内部留保を積み上げることの方が経済合理的なのだ」、その通りだ。
・『投資を促すにはまずはデフレ脱却だった 「失われた30年」は政策不況 企業に積極的な設備投資や技術開発投資を行わせたければ、デフレから脱却するしかなく、そしてデフレ脱却は政府の経済政策によるしかない。ところが、実際に政府がやり続けたのはデフレを促進する政策だったのだ。 なお、政府が、財政支出を抑制しようとし、消費増税を繰り返した理由は、言うまでもなく、財政赤字を削減しようとしたからだ。しかし、デフレである限り、経済成長はほぼ不可能である。経済が成長しなければ、税率をいくら引き上げたところで、税収は増えず、したがって財政赤字は削減できない。 財政を健全化したければ、デフレを脱却するしかない。そして、デフレを脱却するには、積極財政は不可欠だ。逆説的ではあるが、財政赤字を削減するためには、(一時的に)財政赤字を拡大しなければならないということだ。ところが、日本の政策担当者たちには、この逆説を理解することができなかった。 誤った経済政策の継続、これこそが、日本の名目GDPがドイツに抜かれて世界第4位に転落した理由だ。いわば「失われた30年」とは、「政策不況」に他ならない。その全責任は日本政府にある』、「経済が成長しなければ、税率をいくら引き上げたところで、税収は増えず、したがって財政赤字は削減できない。 財政を健全化したければ、デフレを脱却するしかない。そして、デフレを脱却するには、積極財政は不可欠だ。逆説的ではあるが、財政赤字を削減するためには、(一時的に)財政赤字を拡大しなければならないということだ。ところが、日本の政策担当者たちには、この逆説を理解することができなかった。 誤った経済政策の継続、これこそが、日本の名目GDPがドイツに抜かれて世界第4位に転落した理由だ。いわば「失われた30年」とは、「政策不況」に他ならない。その全責任は日本政府にある」、同感である。
・『コストプッシュ・インフレには減税などで生産性上げる投資の支援を なお、この1~2年は、デフレというよりインフレが顕著だが、他方で実質賃金は下落が続いており、家計消費などの需要は低迷している。2023年10~12月期の実質GDPマイナスもその反映だ。 需要が増えて経済が成長するデマンドプル・インフレではなく、需要が低迷したまま供給がより不足するコストプッシュ・インフレという、デフレよりさらに難しい局面にある。 こうしたコストプッシュ・インフレに対しては、供給不足を克服するため、生産性向上のための設備投資やインフラ投資を積極財政や減税によって促すことで、あわせて投資需要も創出するという経済政策が最も有効だ。 また、燃料費や食料費を抑制する支援策や、賃上げを促す政策も重要であり、いずれも財政支出の拡大が必要だ。 今のところ、岸田政権は、こうした方向性に則った政策をしており、一定の評価ができる。 しかしながら、コロナ禍の対策や物価高対策によって財政赤字が拡大したため、政策担当者たちは、またしても財政健全化を優先させようとしているようだ。もし、そうなったら、「政策不況」が継続し、日本の名目GDPはさらに順位を落とすことになるだろう』、「コストプッシュ・インフレに対しては、供給不足を克服するため、生産性向上のための設備投資やインフラ投資を積極財政や減税によって促すことで、あわせて投資需要も創出するという経済政策が最も有効だ。 また、燃料費や食料費を抑制する支援策や、賃上げを促す政策も重要であり、いずれも財政支出の拡大が必要だ。 今のところ、岸田政権は、こうした方向性に則った政策をしており、一定の評価ができる。 しかしながら、コロナ禍の対策や物価高対策によって財政赤字が拡大したため、政策担当者たちは、またしても財政健全化を優先させようとしているようだ。もし、そうなったら、「政策不況」が継続し、日本の名目GDPはさらに順位を落とすことになるだろう」、その通りだ。
先ずは、2月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「実質賃金下落続く日本と上昇する米国、歴史的インフレ下で「格差」の原因は何か」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339600
・『近づく?アメリカの利下げ 株価活況でも日米経済の内実に差 いま世界経済の鍵を握っているのは、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が、いつどのように金利引き下げに転じるかだ。 この3年近く、コロナ禍やウクライナ戦争による資源価格などの急騰で歴史的なインフレが続いてきたが、ようやくインフレ率が鈍化、FRBがインフレ抑制から景気重視へと舵を切るタイミングが近づいている。 これを巡ってさまざまな予測や思惑が交錯し、株価や為替レートを大きく変動させている。これを象徴するのが、アメリカや日本などでも株価が歴史的な高水準になっていることだ。 日本では、FRBの緩和政策への転換や日本銀行が金融政策を正常化に踏み出すとしても緩和の方向は変わらいとの見方が、日経平均株価の最高値更新の大きな要因になっている。だがこの流れは続くのか。 アメリカの金融政策の行方を正確に予測することはできないのだが、将来を正しく見通すために、特に重要なのは、アメリカのインフレがどのように発生し、それをどのようにコントロールしたかの経緯を理解しておくことだ。この背後にある経済の状況も金融政策の対応も、日本の場合とは大きく異なる。 表向きは同じでも、いまの“活況”を生み出したものは全く違うことに注意する必要がある』、「背後にある経済の状況も金融政策の対応も、日本の場合とは大きく異なる。 表向きは同じでも、いまの“活況”を生み出したものは全く違うことに注意する必要がある」、どう違うのだろうか。
・『実質賃金は23年6月からプラス アメリカと日本の経済状況は大きく違う 最初にアメリカのマクロ経済的な指標を見ておこう。アメリカの消費者物価の推移は、図表1の通りだ。 物価上昇が始まったのは、2021年の春だ。それまで、1~2%程度だった消費者物価の対前年同月比が、4月に4%になった。そして、22年3月から9月までの期間では8%を超えた。しかし、その後低下して、23年4月から3%台になっている。 一方、総報酬の推移は、図表2に示す通りだ(総報酬は、賃金とボーナスの合計)。実質総報酬の対前年同月比は、21年6月期から23年3月期までの間だけマイナスになったが、23年6月期ですでにプラスになった。このように、実質報酬伸びがマイナスだったのは、一時的だった。 アメリカ長期金利の推移を見ると、図表3の通りだ。19年には2%程度であったが、コロナショックに対応するために大幅な金融緩和がなされ、0.6%程度まで引き下げられた。 その後、21年からは、インフレに対応するために金融引締めに転換し、長期金利はかなり急速に上昇してきた。 これに対して、日本の実質賃金は、2年間にわたって下落を続けている。これがいつ終わるのか、見当がつかない。日米間の経済状況は大きく異なる』、「日米間の経済状況は大きく異なる」、その通りだ。
・『アメリカ経済の強さがインフレを引き起こした 今回の世界的なインフレを当初、主導したのはアメリカでコロナ禍からの回復期に、深刻な人手不足が起きたことによる要素が大きい。人手不足による賃金の上昇が先導する形で物価上昇につながったのだ。この間の推移を見ると、次の通りだ。 コロナショックに対応して、アメリカ連邦政府は、2021年3月、一人当たり最大1400ドルの現金給付を柱とする総額1.9兆ドルの大規模な財政拡大を行なった。 金融の面でも、FRBが政策金利をゼロに引き下げ、国債を無制限に買上げる大規模な量的緩和政策を実施した。 一方、20年末に医療従事者や高齢者へのコロナワクチンの接種が始まり、21年3月ごろから一般接種が始まった。5月以降に接種が加速した。その結果、経済活動が回復、給付金などの消費で需要が拡大した。 ところが、これに供給が追いつくことができなかった。工場だけでなく港湾や運送会社、倉庫などサプライチェーンがフル稼働できるだけの労働力を確保できなかったのだ。 貨物船が入港できず、沖で待機するという事態が多発した。入港できても、荷役労働者やトラックの運転手の不足のために、国内の流通網に入れなかった。このため、生産活動や出荷が停滞した。 労働市場での需要が高まり就職機会が多くなると、労働者は、離職することによって賃金が上昇することを期待するようになった。これは、「Great Resignation(大量退職時代)」と呼ばれた。つまり、意に添わずに失業するという大恐慌とは正反対の事態が起きたのだ。 結局、コロナ期に過剰な景気拡大政策を行ったことが、労働力不足を引き起こして賃金を上昇させ、その結果、物価が上昇したことになる。 この背後には、アメリカが新しい産業、特にIT産業がAIなどで目覚ましい成長を続けているという状況がある。 こうしたアメリカ国内の状況に加え、22年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始し、対ロ制裁やそれへの報復などで資源・エネルギー価格などの急騰が新しい要因として加わりインフレが加速した』、「コロナ期に過剰な景気拡大政策を行ったことが、労働力不足を引き起こして賃金を上昇させ、その結果、物価が上昇したことになる。 この背後には、アメリカが新しい産業、特にIT産業がAIなどで目覚ましい成長を続けているという状況がある。 こうしたアメリカ国内の状況に加え、22年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始し、対ロ制裁やそれへの報復などで資源・エネルギー価格などの急騰が新しい要因として加わりインフレが加速した」、なるほど。
・『インフレ抑制は引き締め策の成功 FRBは正攻法で政策運営 インフレに対処するため、2021年11月、FRBは金融引き締めに転換した。まず、それまでの量的緩和を縮小する「テーパリング」を開始した。そして、22年3月から利上げを開始した。これよって、図表3で見たように長期金利が上昇したのだ。 アメリカがインフレの抑制に成功したのは、このような金融政策の転換による。そしてこれは、政策金利を操作することによって行われた。FRBは金融政策の正統的なやり方をそのまま行ったのであり、日銀のように国債の指値オペなどで長期金利を直接に操作したのではない。 一般に、金融引き締めは政治的に人気がないので、遅れがちになる。FRBの金融引き締めのタイミングが適切であったかどうかについては、議論の余地がある。インフレの初期の段階で、それを一時的なものとみなして重視せず、引き締めが遅れたために、インフレが高進したという評価はあり得るだろう。しかし、その後の金利引き上げは、極めて急速であった』、「インフレの初期の段階で、それを一時的なものとみなして重視せず、引き締めが遅れたために、インフレが高進したという評価はあり得るだろう。しかし、その後の金利引き上げは、極めて急速であった、なるほど。
・『日本のインフレは輸入物価が主導 競争力や経済衰退で賃上げが追い付かず 一方、日本ではインフレは輸入物価の上昇が主導した。アメリカなどのインフレが輸入物価を通して波及し、原材料やエネルギーなどのコスト上昇が転嫁されて国内の消費者物価が上昇した。この過程で、日本の金融政策は奇妙としか考えられない対応をした。 アメリカの金利引き上げに対して世界の多くの国の中央銀行利上げで追随した。ところが、日銀は金融緩和を続けて、金利の引き上げを行わなかった。このため、大幅な円安を招いた。このために、国内物価への伝播を遮断できなかったのだ。 他方で、物価上昇にもかかわらず企業が賃金を十分に引き上げることができないので、実質賃金の対前年伸び率がマイナスになった。この状況はいまに至るまで続いている。 日本では、長期にわたる金融緩和のもとで企業が生産性向上や新ビジネス展開などの取り組みを怠ったことで産業競争力が低下、経済が衰退し、輸入インフレに賃金が追いつかないのだ』、「アメリカの金利引き上げに対して世界の多くの国の中央銀行利上げで追随した。ところが、日銀は金融緩和を続けて、金利の引き上げを行わなかった。このため、大幅な円安を招いた。このために、国内物価への伝播を遮断できなかったのだ。 他方で、物価上昇にもかかわらず企業が賃金を十分に引き上げることができないので、実質賃金の対前年伸び率がマイナスになった。この状況はいまに至るまで続いている。 日本では、長期にわたる金融緩和のもとで企業が生産性向上や新ビジネス展開などの取り組みを怠ったことで産業競争力が低下、経済が衰退し、輸入インフレに賃金が追いつかないのだ」、なるほど。
・『賃上げを実現させる第一の条件は緩和策をやめ企業に変革努力を促すこと 今後、アメリカが金利を引き下げれば、日米金利差が縮小し、為替レートは円高になる可能性がある。それに加えて日銀が金融正常化を行なって金利が上昇すれば、急激な円高が進行する可能性もある。 これは、これまで日本の企業の利益が円安によって増加してきた状況を大きく変えるだろう。日本で株価の急激な上昇が進んだのも、円安による面が強いと思われるので、その状況が変わることがあり得る。 しかし、これを恐れて金融正常化を行なわなければ、経済構造が改善されず、実質賃金上昇率がマイナスである状態から脱出できない状態が続く可能性が強い。 だが賃金について言われるのは、企業は賃金を「引き上げよ」という掛け声ばかりだ。その半面で、有効な政策は何も行われていない。 賃金を引き上げるには、新しい技術や新しいビジネスモデルによって、生産性を引き上げるしかない。それを実現する最初の条件は金融正常化だ。金利を上げることで、企業にそれを上回る収益をあげ、賃上げができるよう変革の努力を促すのだ。日本は経済政策の基本原則に戻る必要がある』、「賃金を引き上げるには、新しい技術や新しいビジネスモデルによって、生産性を引き上げるしかない。それを実現する最初の条件は金融正常化だ。金利を上げることで、企業にそれを上回る収益をあげ、賃上げができるよう変革の努力を促すのだ。日本は経済政策の基本原則に戻る必要がある」、「生産性を引き上げるしかない。それを実現する最初の条件は金融正常化だ」、かなり思い切った提言だ。
次に、3月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した評論家の中野剛志氏による「日本のGDP「4位転落」の“犯人”は、政府の間違った経済政策の継続」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340991
・『23年はGDPでドイツにも抜かれる 人口減少などではない「根本原因」 日本経済は、日経平均株価の34年ぶりのバブル期の最高値更新や初の「4万1000円」台などに沸いているが、直近公表の2023年10~12月期の実質GDP(国内総生産)は2四半期連続で前年比マイナスは免れたものの、低迷は続く。23年のドル建ての名目GDPはドイツに抜かれ、世界4位に転落した。 10年にも世界2位の座を中国に明け渡したが、中国の場合は人口が日本よりはるかに多く、また高度成長期にあったため、人口減少局面にある成熟社会の日本が名目GDPで中国に凌駕(りょうが)されるのは仕方がないというような風潮が当時はあった。 しかし、ドイツは違う。人口は8,300万人と日本より少なく、人口が増加しているわけでもない成熟社会だ。しかも、近年はドイツ経済も停滞が続いており、特に23年はマイナス成長だった。 日本経済の長期停滞の原因や背景として、人口減少や高齢化、成熟社会などが言われているが、したがって、今回はそういった言い訳は通用しない。 より「根本的な原因」がある』、「より「根本的な原因」」とは何なのだろうか。
・『98年以降、日本だけが成長せずデフレを放置した経済政策が原因 そもそも、日本経済は1998年以降、ほとんど成長しない状態が続いているが、これほど長期にわたって成長しない国は、戦後のOECD(経済協力開発機構)加盟国でも、他に例がない。 しかも、91年にバブルが崩壊したとはいえ、日本経済は90年代半ばまでは成長していたのだ。それが98年以降、突如として成長しなくなった。 当時は、アジア通貨危機があったとはいえ、他の国々は、アジア通貨危機であれ、2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)であれ、危機を克服した後は、再び成長している。金融危機が収束した後も、まったく成長しない状態が続いたのは、日本だけと言ってよい。その原因は、産業構造の変化や少子高齢化などではとうてい説明がつかない。 日本経済の停滞の原因については、これまで人口減少などのほかにも、デジタル化で後れを取ったからだとか、グローバル化に乗り遅れたからだとか、雇用制度が硬直的だからといった説明が好まれてきた。しかし、それでは、なぜ98年を境に突如として、20年以上もの長期にわたり、しかも日本だけが成長しなくなり、ドイツにすら抜かれた理由を説明できないのだ。 この異様な現象を説明できるのは、ただ一つ、経済政策という要因だ。90年代半ば以降、継続して、誤った経済政策が行われてきたからとしか考えられないのだ。 では、何をどう間違えたのか。 まず注目すべきは、98年から、日本はデフレーション(デフレ)に陥り、しかも、このデフレが20年以上も続いたということだ。 このことだけでも異様なことだ。戦後、デフレを経験したのは98年以降の日本だけだからだ。 30年代の世界恐慌という大デフレ不況を経験して以降、デフレだけは避けなければならないという認識が政策担当者たちの間での常識となっていたはずだった。しかも、30年代ですら数年でデフレから脱却している。そのデフレを日本は20年以上も放置したのだ』、「30年代の世界恐慌という大デフレ不況を経験して以降、デフレだけは避けなければならないという認識が政策担当者たちの間での常識となっていたはずだった。しかも、30年代ですら数年でデフレから脱却している。そのデフレを日本は20年以上も放置したのだ」、なるほど。
・『デフレ下では、企業は債務を減らし投資をしないのが経済合理的 なぜ、デフレを放置してはならないのか。 デフレとは、需要不足(供給過剰)の状態が継続することで、物価が下落し続ける現象だ。物価が下落し続けるということは、裏を返せば、貨幣の価値が上昇し続けるということだ。 貨幣の価値が上昇し続けるのであれば、企業は、設備投資などをせず、貯蓄をした方が経済合理的となる。特に、貨幣の価値が上昇する中では、借り入れによって債務を負うと、将来、返済する際に債務が実質的に膨らんでいるということになるので、融資を受けようとはしなくなる。むしろ、企業は債務の返済を急ぐだろう。 こうして、デフレ下では、企業は融資を受けず、出資もせず投資をしないということになる。そうなると、需要はさらに縮小するというデフレ・スパイラルが発生し、経済は成長しなくなる。だから、政策担当者たちは、インフレ以上にデフレを恐れてきたのだ』、「デフレ下では、企業は融資を受けず、出資もせず投資をしないということになる。そうなると、需要はさらに縮小するというデフレ・スパイラルが発生し、経済は成長しなくなる。だから、政策担当者たちは、インフレ以上にデフレを恐れてきたのだ」、なるほど。
・『需要不足なのに需要抑制と供給拡大 逆にデフレを起こす政策続ける 日本政府は、このデフレに対してどのような政策をとってきたのか。 1996年に成立した橋本政権以降、政府がしてきた政策は、おおむね、以下のようなものだった。財政健全化や「小さな政府」、消費増税、金融緩和、規制緩和、自由化、民営化、労働市場の流動化、グローバル化の促進。 このうち、財政健全化や「小さな政府」は、公共需要を抑制するものであり、消費増税は民間の消費需要を縮小するものだ。 そして、規制緩和や自由化、民営化、労働市場の流動化は、競争を促進し、生産性を向上させて供給力を拡大しようとするものだ。それをもっと大規模に実施するのが、グローバル化といっていいだろう。 デフレとは、需要が不足し、供給が過剰になる現象なのに、これまで日本政府がしてきたのは、金融緩和を除くと、需要を抑制し供給を拡大する政策ばかりだった。要するにデフレを引き起こす政策を実施してきたのだ。 デフレ対策として、とりわけ重要なのは、積極財政だ。 貨幣価値が上昇するデフレ下では、企業は投資を抑制する方が経済合理的なため、民間主導の経済成長はほぼ不可能なのだ。そこで、企業に代わって、政府が大規模な投資を行って需要を創出しなければならない。 1930年代の世界恐慌という大デフレ不況でも、大規模な公共投資が実施された。日本における高橋財政や米国におけるニューディール政策がその典型だった。 ところが日本の場合、90年代初頭のバブル崩壊の後、5年ほどは公共投資を増やしてデフレを防いだ。しかし、その結果として拡大した財政赤字に恐れをなした政府は、97年以降は、公共投資を抑制しただけでなく、消費増税を行ってしまい、デフレをひどくしたのだ。 しかも、財政支出の抑制は2000年代以降も続けられ、消費税にいたっては、10年代に2度も税率を引き上げた。 このように、デフレにある時にデフレを引き起こす政策を20年以上も実施すれば、デフレが20年以上も続き、経済が成長しなくなるのも当然だ。何も不思議なことはない。 この間、日本企業が、内部留保ばかり積み上げて積極的な投資を躊躇(ちゅうちょ)し、デジタル化の波に乗り遅れたり、魅力のある商品開発や技術革新を怠ったりしたことが指摘される。それは、確かにその通りだろう。しかし、繰り返しになるが、デフレという異常なマクロ環境の下では、内部留保を積み上げることの方が経済合理的なのだ』、「デフレとは、需要が不足し、供給が過剰になる現象なのに、これまで日本政府がしてきたのは、金融緩和を除くと、需要を抑制し供給を拡大する政策ばかりだった。要するにデフレを引き起こす政策を実施してきたのだ。 デフレ対策として、とりわけ重要なのは、積極財政だ。 貨幣価値が上昇するデフレ下では、企業は投資を抑制する方が経済合理的なため、民間主導の経済成長はほぼ不可能なのだ。そこで、企業に代わって、政府が大規模な投資を行って需要を創出しなければならない。 1930年代の世界恐慌という大デフレ不況でも、大規模な公共投資が実施された。日本における高橋財政や米国におけるニューディール政策がその典型だった・・・日本の場合、90年代初頭のバブル崩壊の後、5年ほどは公共投資を増やしてデフレを防いだ。しかし、その結果として拡大した財政赤字に恐れをなした政府は、97年以降は、公共投資を抑制しただけでなく、消費増税を行ってしまい、デフレをひどくしたのだ。 しかも、財政支出の抑制は2000年代以降も続けられ、消費税にいたっては、10年代に2度も税率を引き上げた。 このように、デフレにある時にデフレを引き起こす政策を20年以上も実施すれば、デフレが20年以上も続き、経済が成長しなくなるのも当然だ。何も不思議なことはない。 この間、日本企業が、内部留保ばかり積み上げて積極的な投資を躊躇(ちゅうちょ)し、デジタル化の波に乗り遅れたり、魅力のある商品開発や技術革新を怠ったりしたことが指摘される。それは、確かにその通りだろう。しかし、繰り返しになるが、デフレという異常なマクロ環境の下では、内部留保を積み上げることの方が経済合理的なのだ」、「デフレという異常なマクロ環境の下では、内部留保を積み上げることの方が経済合理的なのだ」、その通りだ。
・『投資を促すにはまずはデフレ脱却だった 「失われた30年」は政策不況 企業に積極的な設備投資や技術開発投資を行わせたければ、デフレから脱却するしかなく、そしてデフレ脱却は政府の経済政策によるしかない。ところが、実際に政府がやり続けたのはデフレを促進する政策だったのだ。 なお、政府が、財政支出を抑制しようとし、消費増税を繰り返した理由は、言うまでもなく、財政赤字を削減しようとしたからだ。しかし、デフレである限り、経済成長はほぼ不可能である。経済が成長しなければ、税率をいくら引き上げたところで、税収は増えず、したがって財政赤字は削減できない。 財政を健全化したければ、デフレを脱却するしかない。そして、デフレを脱却するには、積極財政は不可欠だ。逆説的ではあるが、財政赤字を削減するためには、(一時的に)財政赤字を拡大しなければならないということだ。ところが、日本の政策担当者たちには、この逆説を理解することができなかった。 誤った経済政策の継続、これこそが、日本の名目GDPがドイツに抜かれて世界第4位に転落した理由だ。いわば「失われた30年」とは、「政策不況」に他ならない。その全責任は日本政府にある』、「経済が成長しなければ、税率をいくら引き上げたところで、税収は増えず、したがって財政赤字は削減できない。 財政を健全化したければ、デフレを脱却するしかない。そして、デフレを脱却するには、積極財政は不可欠だ。逆説的ではあるが、財政赤字を削減するためには、(一時的に)財政赤字を拡大しなければならないということだ。ところが、日本の政策担当者たちには、この逆説を理解することができなかった。 誤った経済政策の継続、これこそが、日本の名目GDPがドイツに抜かれて世界第4位に転落した理由だ。いわば「失われた30年」とは、「政策不況」に他ならない。その全責任は日本政府にある」、同感である。
・『コストプッシュ・インフレには減税などで生産性上げる投資の支援を なお、この1~2年は、デフレというよりインフレが顕著だが、他方で実質賃金は下落が続いており、家計消費などの需要は低迷している。2023年10~12月期の実質GDPマイナスもその反映だ。 需要が増えて経済が成長するデマンドプル・インフレではなく、需要が低迷したまま供給がより不足するコストプッシュ・インフレという、デフレよりさらに難しい局面にある。 こうしたコストプッシュ・インフレに対しては、供給不足を克服するため、生産性向上のための設備投資やインフラ投資を積極財政や減税によって促すことで、あわせて投資需要も創出するという経済政策が最も有効だ。 また、燃料費や食料費を抑制する支援策や、賃上げを促す政策も重要であり、いずれも財政支出の拡大が必要だ。 今のところ、岸田政権は、こうした方向性に則った政策をしており、一定の評価ができる。 しかしながら、コロナ禍の対策や物価高対策によって財政赤字が拡大したため、政策担当者たちは、またしても財政健全化を優先させようとしているようだ。もし、そうなったら、「政策不況」が継続し、日本の名目GDPはさらに順位を落とすことになるだろう』、「コストプッシュ・インフレに対しては、供給不足を克服するため、生産性向上のための設備投資やインフラ投資を積極財政や減税によって促すことで、あわせて投資需要も創出するという経済政策が最も有効だ。 また、燃料費や食料費を抑制する支援策や、賃上げを促す政策も重要であり、いずれも財政支出の拡大が必要だ。 今のところ、岸田政権は、こうした方向性に則った政策をしており、一定の評価ができる。 しかしながら、コロナ禍の対策や物価高対策によって財政赤字が拡大したため、政策担当者たちは、またしても財政健全化を優先させようとしているようだ。もし、そうなったら、「政策不況」が継続し、日本の名目GDPはさらに順位を落とすことになるだろう」、その通りだ。
タグ:日本の構造問題 (その31)(実質賃金下落続く日本と上昇する米国 歴史的インフレ下で「格差」の原因は何か、日本のGDP「4位転落」の“犯人”は 政府の間違った経済政策の継続) ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「実質賃金下落続く日本と上昇する米国、歴史的インフレ下で「格差」の原因は何か」 「背後にある経済の状況も金融政策の対応も、日本の場合とは大きく異なる。 表向きは同じでも、いまの“活況”を生み出したものは全く違うことに注意する必要がある」、どう違うのだろうか。 「日米間の経済状況は大きく異なる」、その通りだ。 「コロナ期に過剰な景気拡大政策を行ったことが、労働力不足を引き起こして賃金を上昇させ、その結果、物価が上昇したことになる。 この背後には、アメリカが新しい産業、特にIT産業がAIなどで目覚ましい成長を続けているという状況がある。 こうしたアメリカ国内の状況に加え、22年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始し、対ロ制裁やそれへの報復などで資源・エネルギー価格などの急騰が新しい要因として加わりインフレが加速した」、なるほど。 「インフレの初期の段階で、それを一時的なものとみなして重視せず、引き締めが遅れたために、インフレが高進したという評価はあり得るだろう。しかし、その後の金利引き上げは、極めて急速であった、なるほど。 「アメリカの金利引き上げに対して世界の多くの国の中央銀行利上げで追随した。ところが、日銀は金融緩和を続けて、金利の引き上げを行わなかった。このため、大幅な円安を招いた。このために、国内物価への伝播を遮断できなかったのだ。 他方で、物価上昇にもかかわらず企業が賃金を十分に引き上げることができないので、実質賃金の対前年伸び率がマイナスになった。この状況はいまに至るまで続いている。 日本では、長期にわたる金融緩和のもとで企業が生産性向上や新ビジネス展開などの取り組みを怠ったことで産業競争力が低下、経済が衰退し、 輸入インフレに賃金が追いつかないのだ」、なるほど。 「賃金を引き上げるには、新しい技術や新しいビジネスモデルによって、生産性を引き上げるしかない。それを実現する最初の条件は金融正常化だ。金利を上げることで、企業にそれを上回る収益をあげ、賃上げができるよう変革の努力を促すのだ。日本は経済政策の基本原則に戻る必要がある」、「生産性を引き上げるしかない。それを実現する最初の条件は金融正常化だ」、かなり思い切った提言だ。 中野剛志氏による「日本のGDP「4位転落」の“犯人”は、政府の間違った経済政策の継続」 「より「根本的な原因」」とは何なのだろうか。 「30年代の世界恐慌という大デフレ不況を経験して以降、デフレだけは避けなければならないという認識が政策担当者たちの間での常識となっていたはずだった。しかも、30年代ですら数年でデフレから脱却している。そのデフレを日本は20年以上も放置したのだ」、なるほど。 「デフレ下では、企業は融資を受けず、出資もせず投資をしないということになる。そうなると、需要はさらに縮小するというデフレ・スパイラルが発生し、経済は成長しなくなる。だから、政策担当者たちは、インフレ以上にデフレを恐れてきたのだ」、なるほど。 「デフレとは、需要が不足し、供給が過剰になる現象なのに、これまで日本政府がしてきたのは、金融緩和を除くと、需要を抑制し供給を拡大する政策ばかりだった。要するにデフレを引き起こす政策を実施してきたのだ。 デフレ対策として、とりわけ重要なのは、積極財政だ。 貨幣価値が上昇するデフレ下では、企業は投資を抑制する方が経済合理的なため、民間主導の経済成長はほぼ不可能なのだ。そこで、企業に代わって、政府が大規模な投資を行って需要を創出しなければならない。 1930年代の世界恐慌という大デフレ不況でも、大規模な公共投資が実施された。日本における高橋財政や米国におけるニューディール政策がその典型だった・・・日本の場合、90年代初頭のバブル崩壊の後、5年ほどは公共投資を増やしてデフレを防いだ。しかし、その結果として拡大した財政赤字に恐れをなした政府は、97年以降は、公共投資を抑制しただけでなく、消費増税を行ってしまい、デフレをひどくしたのだ。 しかも、財政支出の抑制は2000年代以降も続けられ、消費税にいたっては、10年代に2度も税率を引き上げた。 このように、デフレにある時にデフレを引き起こす政策を20年以上も実施すれば、デフレが20年以上も続き、経済が成長しなくなるのも当然だ。何も不思議なことはない。 この間、日本企業が、内部留保ばかり積み上げて積極的な投資を躊躇(ちゅうちょ)し、デジタル化の波に乗り遅れたり、魅力のある商品開発や技術革新を怠ったりしたことが指摘される。それは、確かにその通りだろう。しかし、繰り返しになるが、デフレという異常なマクロ環境の下では、内部留保を積み上げることの方が経済合理的なのだ」、「デフレという異常なマクロ環境の下で では、内部留保を積み上げることの方が経済合理的なのだ」、その通りだ。 「経済が成長しなければ、税率をいくら引き上げたところで、税収は増えず、したがって財政赤字は削減できない。 財政を健全化したければ、デフレを脱却するしかない。そして、デフレを脱却するには、積極財政は不可欠だ。逆説的ではあるが、財政赤字を削減するためには、(一時的に)財政赤字を拡大しなければならないということだ。ところが、日本の政策担当者たちには、この逆説を理解することができなかった。 誤った経済政策の継続、これこそが、日本の名目GDPがドイツに抜かれて世界第4位に転落した理由だ。いわば「失われた30年」とは 、「政策不況」に他ならない。その全責任は日本政府にある」、同感である。 「コストプッシュ・インフレに対しては、供給不足を克服するため、生産性向上のための設備投資やインフラ投資を積極財政や減税によって促すことで、あわせて投資需要も創出するという経済政策が最も有効だ。 また、燃料費や食料費を抑制する支援策や、賃上げを促す政策も重要であり、いずれも財政支出の拡大が必要だ。 今のところ、岸田政権は、こうした方向性に則った政策をしており、一定の評価ができる。 しかしながら、コロナ禍の対策や物価高対策によって財政赤字が拡大したため、政策担当者たちは、またしても財政健全化を優先させようとしているようだ。もし、そうなったら、「政策不況」が継続し、日本の名目GDPはさらに順位を落とすことになるだろう」、その通りだ。
昨日予告の通り、今日は更新を休むので、明日にご期待を!
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大学(その15)(「林真理子理事長は田中英寿・元理事長派に脅されている」“親友”和田秀樹氏が語る「日大理事辞任」の真相、日大常務理事を電撃辞任した和田秀樹氏が激白 アメフト部“大麻汚染”問題のウラにひそむ「日大改革の“抵抗勢力”と権力の二重構造」、アメフト部問題で日大が前代未聞の志願者数3割減…「日東駒専」から脱落へ崖っぷち、千葉大学長選巡り 国際学術研究院執行部と理学研究院教授会も要望書 選考プロセスに反発) [社会]
大学については、本年1月27日に取上げた。今日は、(その15)(「林真理子理事長は田中英寿・元理事長派に脅されている」“親友”和田秀樹氏が語る「日大理事辞任」の真相、日大常務理事を電撃辞任した和田秀樹氏が激白 アメフト部“大麻汚染”問題のウラにひそむ「日大改革の“抵抗勢力”と権力の二重構造」、アメフト部問題で日大が前代未聞の志願者数3割減…「日東駒専」から脱落へ崖っぷち、千葉大学長選巡り 国際学術研究院執行部と理学研究院教授会も要望書 選考プロセスに反発)である。
先ずは、本年2月7日付けFLASH「「林真理子理事長は田中英寿・元理事長派に脅されている」“親友”和田秀樹氏が語る「日大理事辞任」の真相」を紹介しよう。
https://smart-flash.jp/sociopolitics/272646/1/1/
・『「林先生は立派な小説家なんですから、人をクビにすることの意味を想像してほしかったです」 そう語気を荒らげるのは、作家としても多くのベストセラーを著書に持つ、精神科医の和田秀樹氏だ。 故・田中英寿元理事長が脱税容疑で逮捕されたことを受け、2022年7月、日本大学の理事長に就任した作家の林真理子氏。林氏の推薦によって、同大学の常務理事となったのが和田氏だ。 「林先生とは20年来の友人でしたので、私が教育や大学に多く関わっている実績もご存じでしたし、大学経営に対してのビジョンもあると考えていただき、理事として選出されました」(以下、断わりのない「 」内は和田氏の発言) しかし、アメリカンフットボール部の薬物事件を契機に、日本大学は再び迷走する。 「2023年8月、アメフト部の寮を警視庁が家宅捜査し、大麻と覚醒剤を押収。同部の部員が逮捕され、チームは無期限活動停止処分となりました。さらに、警視庁が家宅捜索する前に、澤田康広副学長(当時)が薬物の存在を把握していたことが判明。林理事長が『私学助成金の交付に悪影響を及ぼす』と、理事会への出席停止を命じたことに対して、澤田氏はマスコミに林理事長との会話内容を持ち込んだのです」(日大関係者) その結果、2023年11月の臨時理事会で、澤田副学長と酒井健夫学長の辞任が諮られた。 「澤田副学長が薬物の存在を隠蔽し、酒井学長も黙認して監督責任を果たさず、理事会に報告しなかった。そのため理事会では、2人の辞任勧告は当然として可決されたのですが、酒井学長は『自分は学部長会議で選ばれたのだから、学部長たちの意見も聞きたい』と言いだしたんです」 その後、学部長会では、驚くことに参加者全員が2人を擁護したという。 「事前に根回しをしたのでしょうが、さすがに自分はあきれて『澤田氏は薬物を隠し持っていたうえに、林理事長との会話をマスコミに暴露し、その直後に補助金の打ち切りが決定したんだから責任を取るべきだ』と言ったんです」 だが、ここから思いもよらぬ展開が――。その場にいた工学部長が、和田氏が日本テレビの取材に対して「澤田副学長の解任は私が理事会で提案した」と明かしていたことを問題視して、追及を始めたのだ。 「『澤田氏はたんなる私的会話でしょう。あなたは理事会の内容をマスコミに漏らしたんだから、そのほうがタチが悪い』と反論されて唖然としました。私は理事会の内容は何も言っていない。私は『そんなことを言われるなら辞めてやるよ』と抗議しました」 誰も工学部長の発言を否定しないことにあきれた和田氏だったが、それから約1カ月後――。突如、思いもよらずはしごを外される。 「林先生から『和田先生には辞めていただくことになりました。“辞めてやるって言った人をなんで置いておくんだ”と言う人がいて、和田先生がいると困るのよ』と、辞任するよう告げられたんです」 20年来の親友から“三顧の礼”で迎えられるも、わずか1年半年足らずの解任劇。和田氏は、日本大学の旧態依然とした体質に失望したという。 「林先生の口ぶりから、学部長たちから私を辞めさせるよう恫喝されたのだと感じました。というのも、林先生が理事長になったとき、“理事長が指名できる理事は2人まで”“経営に専念すべきで教学には口を出さない”といった“足かせ”をはめられたんです。ところが、学部長メンバーは田中時代のまま。日本大学の旧態依然とした既得権益を守ろうとする体質は、田中元理事長がいたころと変わっていません。林先生は、そういった連中に脅されているのかもしれません」 2024年2月2日、新学長に大貫進一郎氏が選出された。 「林先生から学長選が終わるまでは、学部長たちを刺激しないでほしいと聞き沈黙していました。いい学長でよかったけど、今後は問題点の批判を続ける所存です」 和田氏の反撃開始だ』、「工学部長が、和田氏が日本テレビの取材に対して「澤田副学長の解任は私が理事会で提案した」と明かしていたことを問題視して、追及を始めたのだ。 「『澤田氏はたんなる私的会話でしょう。あなたは理事会の内容をマスコミに漏らしたんだから、そのほうがタチが悪い』と反論されて唖然としました」、「工学部長」の言い分は全く筋が通らない学者にあうまじき発言だ。「それから約1カ月後――。突如、思いもよらずはしごを外される。 「林先生から『和田先生には辞めていただくことになりました。“辞めてやるって言った人をなんで置いておくんだ”と言う人がいて、和田先生がいると困るのよ』と、辞任するよう告げられたんです」 20年来の親友から“三顧の礼”で迎えられるも、わずか1年半年足らずの解任劇。和田氏は、日本大学の旧態依然とした体質に失望したという。 「林先生の口ぶりから、学部長たちから私を辞めさせるよう恫喝されたのだと感じました。というのも、林先生が理事長になったとき、“理事長が指名できる理事は2人まで”“経営に専念すべきで教学には口を出さない”といった“足かせ”をはめられたんです。ところが、学部長メンバーは田中時代のまま。日本大学の旧態依然とした既得権益を守ろうとする体質は、田中元理事長がいたころと変わっていません。林先生は、そういった連中に脅されているのかもしれません」、いくら「脅された」としても、唯一の理解者たる「和田氏」に「辞任」を迫るとは、「林理事長」も情けない。呆れ果てた。
次に、2月9日付けデイリー新潮「日大常務理事を電撃辞任した和田秀樹氏が激白 アメフト部“大麻汚染”問題のウラにひそむ「日大改革の“抵抗勢力”と権力の二重構造」」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2024/02090550/?all=1
・『日本大学は次期学長に大貫信一郎・副学長(55)を選出したと2日に発表し、アメフト部問題で揺れた大学の「体制刷新」をアピールした。そんな「新生日大」に期待する声がある一方で、今年1月、突如、同大常務理事を辞した精神科医の和田秀樹氏(63)が辞任の裏にある、日大の「ガバナンス不全の核心部」について初めて口を開いた。 「私の辞任が発表されたのは今年1月12日のことでした。当時、その理由として、“昨秋、和田氏が理事会の内容をテレビ局に話したことが学内で問題視された”と報じられましたが、より正確にいえば、私のほうから『辞めてやる』と啖呵を切ったのが真相です。私を招聘した林真理子・理事長から『進退を考えてほしい』と言われたこともあって、私が職にとどまり続けると改革に支障をきたす恐れもあると判断して、みずから“辞める”と申し出ました」 こう淡々と話すのは、和田秀樹氏本人である。2022年7月、作家の林真理子氏が日大の新理事長に就いた際、和田氏も「理事長推薦候補」として常務理事に就任。悪質タックル問題(18年)や田中英寿・元理事長の背任・脱税事件(21年)を受けて失墜した日大ブランドの再建を託され、林理事長とともにこの間、「日大改革」に奔走してきたという。 「私がテレビ局の取材に答えたのは、私自身が理事会で発言した内容についてのみで、それ以上は話していません。しかし日大の学部長たちから『許されることではない』との声が上がり、林理事長に“進言”する学部長まで現れた。なぜ、そんなに問題視されるのかが分からず、澤田康広・副学長(当時)が昨年9月に林理事長と面会した際の会話を録音し、それが外部に漏洩した件を私が引き合いに出すと、“漏洩よりマスコミに直接話すほうが悪い”と決めつけられました。この漏洩問題で、澤田氏は何ら咎めを受けていなかったことも含め、私は彼らの主張に正当性を見出すことはできませんでした」(和田氏) 和田氏と対立した「学部長」とは、各学部の長として校務をつかさどる立場にある管理職だ。日本大学には16の学部があり、各部長による「学部長会議」が学内で一定の影響力を持っていることを、和田氏は理事就任後に知って驚いたという』、「澤田康広・副学長(当時)が昨年9月に林理事長と面会した際の会話を録音し、それが外部に漏洩した件を私が引き合いに出すと、“漏洩よりマスコミに直接話すほうが悪い”と決めつけられました」、実に論理の片鱗すらない言いがかりを「学部長」あ堂々と主張するとは、茶番だ。
・『「学部長会議」という聖域 日大アメフト部寮 「日大ほど巨大な組織になると、校舎が各地に散らばっていることもあり、各学部が“独立国”のような扱われ方をするケースもありました。田中理事長時代のように“強権”をもってすれば話は別ですが、もともとガバナンスが効きにくい面があったのは事実です。大学の最高意思決定機関は理事会ですが、林理事長の就任以降、その理事会に女性をはじめ新しい人材が登用されたことでメンバーの顔触れも変わりました。しかし学部長会議のメンバーは全員男性で“田中時代”に就任した面子が多く残っていました」(和田氏) 和田氏によると、アメフト部の存続を最後まで主張した澤田氏とその任命権者である酒井健夫・現学長の辞任について、「その必要はない」と声を上げたのが学部長会議だったという。ちなみに澤田氏は、アメフト部の学生寮で大麻と見られる植物片が見つかった際、「学生に自首をさせたい」との考えから警察に提出することなく12日間、学内で保管していた人物だ。 「実際に私も耳にしたことがあるのですが、3月末で退任予定の酒井学長は、林理事長に『経営が教学(現場)に口を出すと、田中(英寿)さんと同じになる』と忠告していました。私には、その言葉が改革に取り組もうとする林理事長の手足を縛る“呪文”のように聞こえた。いろいろな解釈はあると思いますが、“学部長会議が不可侵の存在”と誤認させかねない危うさを秘めていたと思います。事実、学部長会議の決定を理事会が追認するだけのケースも少なくなく、理事会以外にもう一つ、大学の方針に影響を与える組織があったとの印象です」(和田氏) 自身の辞任と昨年から続くアメフト部をめぐる混乱も、この「権力の二重構造」が影響しているという』、「“学部長会議が不可侵の存在”と誤認させかねない危うさを秘めていた」とはガバナンス不全の極みだ。
・『「学部再編」が試金石 「なにより、いざ問題が起きた際、責任を問われるのは学部長会議のメンバーでなく、理事会などの執行部という点に大きな違和感を覚えました。たとえばアメフト部の部長は日大の文理学部長が兼ねていましたが、一連の薬物問題を受け、この学部長は昨年12月に(アメフト部)部長職を解嘱された。しかし彼が林理事長などとともに記者会見に出て批判の矢面に立つことは一度もありませんでした。この歪な構造を変えないかぎり、真の改革は成し遂げられないと痛感しました」(和田氏) アメフト部の“大麻汚染”問題で吹き飛んでしまったが、林理事長が掲げる改革の方向性について、和田氏はこう語る。 「私は今後の日大改革には“学部再編が欠かせない”と考えていて、それは林理事長にも伝えていました。相次ぐ不祥事によって存在意義が問われている危機管理学部の存廃に加え、御茶ノ水と松戸(千葉)にある歯学部の統合の可否など、かねて再編の余地は大きいと指摘されてきた。また具体的に進んでいた改革案の一つが、看護学部の新設計画です。実現すれば、生徒に占める女性比率も上がり、初の女性学部長の誕生に繋がるかもしれない。しかし学部再編の問題は、各学部長の利害と衝突しかねず、一筋縄ではいかない面もありました」』、「いざ問題が起きた際、責任を問われるのは学部長会議のメンバーでなく、理事会などの執行部という点に大きな違和感を覚えました。たとえばアメフト部の部長は日大の文理学部長が兼ねていましたが、一連の薬物問題を受け、この学部長は昨年12月に(アメフト部)部長職を解嘱された。しかし彼が林理事長などとともに解嘱」記者会見に出て批判の矢面に立つことは一度もありませんでした」、「アメフト部の部長」の処分が単に「部長職を解嘱」というだけでは不十分だ。少なくとも「解嘱」を「記者会見」後とすべきだ。
・『「人脈」という武器 澤田康広 一方で4月1日から就任することになる、新学長の大貫氏には期待するところがあるという。 「大貫氏は日大理工学部出身で、大学のDX(デジタル変革)化など改革志向を持っていることは承知しています。昨年12月、林理事長が文科省に追加の改善計画を提出した際に同席していたのも彼でした。ただし大貫氏が学長になったからといって、構造改革にまで踏み込むのは容易でない。だからこそ、林理事長の最大の強みである“人脈”を今こそ発揮してほしいのです。外部の経営者などを集めた“日大経営改革会議”のような第三者機関をつくれば、学内からの干渉を避けられ、改革は前進するはず。私の辞任によって、身を挺してでも林理事長を守る“側近”はいなくなりましたが、いまも改革が成就することを願う気持ちに変わりはありません」 言葉の端々に「志半ば」で去らざるを得なかった無念さを滲ませつつ、それでも希望は捨てていないという』、「外部の経営者などを集めた“日大経営改革会議”のような第三者機関をつくれば、学内からの干渉を避けられ、改革は前進するはず」、との提案は大いに検討に値する。
第三に、3月10日付け日刊ゲンダイ「アメフト部問題で日大が前代未聞の志願者数3割減…「日東駒専」から脱落へ崖っぷち」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/337052
・『2024年度入試も終盤に突入し、各大学の志願者数が出ているが、相次ぐ不祥事で注目されていた日本大学が、予想を超える志願者数減を記録している。大学通信などの速報によれば、全学部の志願者数は6万6763人、昨年最終出願者数から3万1743人減で昨対比67.8%。全体の約3割での志願者数減だ。 一因となったのは、アメフト部を巡る問題と見られている。日大は昨年8月、アメフト部の寮から大麻の植物片と覚せい剤の成分を含む錠剤が見つかり、3年生の部員が逮捕。この学生は今年1月に懲役1年4月、執行猶予3年の有罪判決が確定したが、すでに一連の事件で逮捕や書類送検されたのはこの学生を含む計10人にのぼる。それにより、アメフト部は1月に廃部、2月15日付で関東学生アメリカンフットボール連盟から退会している。 2021年に元理事長の田中英寿氏が脱税事件で逮捕された時も、22年度入試は厳しくなると言われていたが、フタを開けると22年度は9万3770人(21年度は9万7948人)と大きくは減少していない。今年度入試はどれくらい異常なのか。) 大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が言う。 「前回の不祥事は、理事長という学生からは遠い存在の問題でした。今回は学生であるアメフト部員の逮捕と事件を巡る日大の隠ぺいやパワハラ体質が明るみになったのが大きいでしょう。結果的にアメフト部の廃部と酒井健夫学長、澤田康広元副学長の辞任で幕引きをはかったが、部の関係者が処分されるわけではなく問題がうやむやにされた印象。近年ハラスメントという言葉に敏感になったのもあってマイナスに作用しています」 その後、澤田元副学長は薬物事件を巡る対応で、林真理子理事長にパワハラを受けたとして裁判を起こしている。 また、元理事長の脱税事件などを受け不交付になっていた国の補助金も3年連続不交付が決まっており、「学費が上がるのではないか」と疑念を持たれる事態も続いている。 「もうひとつ、日大は学生に魅力を持たれる取り組みが実行できていない点も志願者数に響いています。マンモス大学ですがキャンパスが学部ごとでバラバラで、ほとんどが1学部1キャンパス。東洋、駒沢、専修大は基本複数部を1つのキャンパスに集めていますが、傾向として都心に複数の学部を集める方が志願者が集まりやすい。こうした改革ができるかも今後に響いてきます。日大は10年前までは『日東駒専』のトップでしたが、その後、東洋大が逆転し、駒沢、専修に並んでいました。今年並みの激減が数年続けば、偏差値にも影響しますからグループから離脱する可能性があります」(前出の石渡嶺司氏) かつての勢いを取り戻すことはできるのか』、「元理事長の脱税事件などを受け不交付になっていた国の補助金も3年連続不交付が決まっており、「学費が上がるのではないか」と疑念を持たれる事態も続いている・・・日大は10年前までは『日東駒専』のトップでしたが、その後、東洋大が逆転し、駒沢、専修に並んでいました。今年並みの激減が数年続けば、偏差値にも影響しますからグループから離脱する可能性があります・・・今年並みの激減が数年続けば、偏差値にも影響しますからグループから離脱する可能性があります」、『日東駒専』の「グループから離脱する可能性」、とは本当に深刻だ。以上が日大関連だ。
第四に、2月20日付け産経新聞「千葉大学長選巡り、国際学術研究院執行部と理学研究院教授会も要望書 選考プロセスに反発」を紹介しよう。
https://www.sankei.com/article/20240220-HI5GK6I2PVKENBSAAMM2J5YCJY/
・『千葉大学の新学長選出を巡り、一部の教授会が選考過程が不透明だとして反発している問題で、15日付で同大大学院理学研究院教授会が、16日付で国際学術研究院の執行部が、選考にあたった「学長選考・監察会議」に対し、それぞれ要望書を提出したことが20日、分かった。 要望書では現副学長で医学部付属病院長の横手幸太郎氏(60)を新学長に決めた選考過程の詳細の議事録公開などを求めた。 大学・大学院の教員らによる学内投票で、横手氏は1位の文学系の候補者に次ぐ2位だったが、1月25日に行われた学内外の14人による選考会議で新学長に決まった。 これに反発した大学院人文科学研究院や教育学部の各教授会も既に、選考会議に質問書を出す異例の事態が生じている』、「現副学長で医学部付属病院長の横手幸太郎氏(60)を新学長に決めた選考過程の詳細の議事録公開などを求めた。 大学・大学院の教員らによる学内投票で、横手氏は1位の文学系の候補者に次ぐ2位だったが、1月25日に行われた学内外の14人による選考会議で新学長に決まった』、この記事は余りに短いので、詳細は不明で、「大学・大学院の教員らによる学内投票」と「学内外の14人による選考会議」の関係が不明だが、恐らく後者は前者の結果を尊重するが、独自の判断で決定するのだろう。「新学長」は「現副学長で医学部付属病院長」なのであれば、きっと「1位の文学系の候補者」よりも有力者なのだろう。
なお、明日は更新を休むので、明後日にご期待を!
先ずは、本年2月7日付けFLASH「「林真理子理事長は田中英寿・元理事長派に脅されている」“親友”和田秀樹氏が語る「日大理事辞任」の真相」を紹介しよう。
https://smart-flash.jp/sociopolitics/272646/1/1/
・『「林先生は立派な小説家なんですから、人をクビにすることの意味を想像してほしかったです」 そう語気を荒らげるのは、作家としても多くのベストセラーを著書に持つ、精神科医の和田秀樹氏だ。 故・田中英寿元理事長が脱税容疑で逮捕されたことを受け、2022年7月、日本大学の理事長に就任した作家の林真理子氏。林氏の推薦によって、同大学の常務理事となったのが和田氏だ。 「林先生とは20年来の友人でしたので、私が教育や大学に多く関わっている実績もご存じでしたし、大学経営に対してのビジョンもあると考えていただき、理事として選出されました」(以下、断わりのない「 」内は和田氏の発言) しかし、アメリカンフットボール部の薬物事件を契機に、日本大学は再び迷走する。 「2023年8月、アメフト部の寮を警視庁が家宅捜査し、大麻と覚醒剤を押収。同部の部員が逮捕され、チームは無期限活動停止処分となりました。さらに、警視庁が家宅捜索する前に、澤田康広副学長(当時)が薬物の存在を把握していたことが判明。林理事長が『私学助成金の交付に悪影響を及ぼす』と、理事会への出席停止を命じたことに対して、澤田氏はマスコミに林理事長との会話内容を持ち込んだのです」(日大関係者) その結果、2023年11月の臨時理事会で、澤田副学長と酒井健夫学長の辞任が諮られた。 「澤田副学長が薬物の存在を隠蔽し、酒井学長も黙認して監督責任を果たさず、理事会に報告しなかった。そのため理事会では、2人の辞任勧告は当然として可決されたのですが、酒井学長は『自分は学部長会議で選ばれたのだから、学部長たちの意見も聞きたい』と言いだしたんです」 その後、学部長会では、驚くことに参加者全員が2人を擁護したという。 「事前に根回しをしたのでしょうが、さすがに自分はあきれて『澤田氏は薬物を隠し持っていたうえに、林理事長との会話をマスコミに暴露し、その直後に補助金の打ち切りが決定したんだから責任を取るべきだ』と言ったんです」 だが、ここから思いもよらぬ展開が――。その場にいた工学部長が、和田氏が日本テレビの取材に対して「澤田副学長の解任は私が理事会で提案した」と明かしていたことを問題視して、追及を始めたのだ。 「『澤田氏はたんなる私的会話でしょう。あなたは理事会の内容をマスコミに漏らしたんだから、そのほうがタチが悪い』と反論されて唖然としました。私は理事会の内容は何も言っていない。私は『そんなことを言われるなら辞めてやるよ』と抗議しました」 誰も工学部長の発言を否定しないことにあきれた和田氏だったが、それから約1カ月後――。突如、思いもよらずはしごを外される。 「林先生から『和田先生には辞めていただくことになりました。“辞めてやるって言った人をなんで置いておくんだ”と言う人がいて、和田先生がいると困るのよ』と、辞任するよう告げられたんです」 20年来の親友から“三顧の礼”で迎えられるも、わずか1年半年足らずの解任劇。和田氏は、日本大学の旧態依然とした体質に失望したという。 「林先生の口ぶりから、学部長たちから私を辞めさせるよう恫喝されたのだと感じました。というのも、林先生が理事長になったとき、“理事長が指名できる理事は2人まで”“経営に専念すべきで教学には口を出さない”といった“足かせ”をはめられたんです。ところが、学部長メンバーは田中時代のまま。日本大学の旧態依然とした既得権益を守ろうとする体質は、田中元理事長がいたころと変わっていません。林先生は、そういった連中に脅されているのかもしれません」 2024年2月2日、新学長に大貫進一郎氏が選出された。 「林先生から学長選が終わるまでは、学部長たちを刺激しないでほしいと聞き沈黙していました。いい学長でよかったけど、今後は問題点の批判を続ける所存です」 和田氏の反撃開始だ』、「工学部長が、和田氏が日本テレビの取材に対して「澤田副学長の解任は私が理事会で提案した」と明かしていたことを問題視して、追及を始めたのだ。 「『澤田氏はたんなる私的会話でしょう。あなたは理事会の内容をマスコミに漏らしたんだから、そのほうがタチが悪い』と反論されて唖然としました」、「工学部長」の言い分は全く筋が通らない学者にあうまじき発言だ。「それから約1カ月後――。突如、思いもよらずはしごを外される。 「林先生から『和田先生には辞めていただくことになりました。“辞めてやるって言った人をなんで置いておくんだ”と言う人がいて、和田先生がいると困るのよ』と、辞任するよう告げられたんです」 20年来の親友から“三顧の礼”で迎えられるも、わずか1年半年足らずの解任劇。和田氏は、日本大学の旧態依然とした体質に失望したという。 「林先生の口ぶりから、学部長たちから私を辞めさせるよう恫喝されたのだと感じました。というのも、林先生が理事長になったとき、“理事長が指名できる理事は2人まで”“経営に専念すべきで教学には口を出さない”といった“足かせ”をはめられたんです。ところが、学部長メンバーは田中時代のまま。日本大学の旧態依然とした既得権益を守ろうとする体質は、田中元理事長がいたころと変わっていません。林先生は、そういった連中に脅されているのかもしれません」、いくら「脅された」としても、唯一の理解者たる「和田氏」に「辞任」を迫るとは、「林理事長」も情けない。呆れ果てた。
次に、2月9日付けデイリー新潮「日大常務理事を電撃辞任した和田秀樹氏が激白 アメフト部“大麻汚染”問題のウラにひそむ「日大改革の“抵抗勢力”と権力の二重構造」」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2024/02090550/?all=1
・『日本大学は次期学長に大貫信一郎・副学長(55)を選出したと2日に発表し、アメフト部問題で揺れた大学の「体制刷新」をアピールした。そんな「新生日大」に期待する声がある一方で、今年1月、突如、同大常務理事を辞した精神科医の和田秀樹氏(63)が辞任の裏にある、日大の「ガバナンス不全の核心部」について初めて口を開いた。 「私の辞任が発表されたのは今年1月12日のことでした。当時、その理由として、“昨秋、和田氏が理事会の内容をテレビ局に話したことが学内で問題視された”と報じられましたが、より正確にいえば、私のほうから『辞めてやる』と啖呵を切ったのが真相です。私を招聘した林真理子・理事長から『進退を考えてほしい』と言われたこともあって、私が職にとどまり続けると改革に支障をきたす恐れもあると判断して、みずから“辞める”と申し出ました」 こう淡々と話すのは、和田秀樹氏本人である。2022年7月、作家の林真理子氏が日大の新理事長に就いた際、和田氏も「理事長推薦候補」として常務理事に就任。悪質タックル問題(18年)や田中英寿・元理事長の背任・脱税事件(21年)を受けて失墜した日大ブランドの再建を託され、林理事長とともにこの間、「日大改革」に奔走してきたという。 「私がテレビ局の取材に答えたのは、私自身が理事会で発言した内容についてのみで、それ以上は話していません。しかし日大の学部長たちから『許されることではない』との声が上がり、林理事長に“進言”する学部長まで現れた。なぜ、そんなに問題視されるのかが分からず、澤田康広・副学長(当時)が昨年9月に林理事長と面会した際の会話を録音し、それが外部に漏洩した件を私が引き合いに出すと、“漏洩よりマスコミに直接話すほうが悪い”と決めつけられました。この漏洩問題で、澤田氏は何ら咎めを受けていなかったことも含め、私は彼らの主張に正当性を見出すことはできませんでした」(和田氏) 和田氏と対立した「学部長」とは、各学部の長として校務をつかさどる立場にある管理職だ。日本大学には16の学部があり、各部長による「学部長会議」が学内で一定の影響力を持っていることを、和田氏は理事就任後に知って驚いたという』、「澤田康広・副学長(当時)が昨年9月に林理事長と面会した際の会話を録音し、それが外部に漏洩した件を私が引き合いに出すと、“漏洩よりマスコミに直接話すほうが悪い”と決めつけられました」、実に論理の片鱗すらない言いがかりを「学部長」あ堂々と主張するとは、茶番だ。
・『「学部長会議」という聖域 日大アメフト部寮 「日大ほど巨大な組織になると、校舎が各地に散らばっていることもあり、各学部が“独立国”のような扱われ方をするケースもありました。田中理事長時代のように“強権”をもってすれば話は別ですが、もともとガバナンスが効きにくい面があったのは事実です。大学の最高意思決定機関は理事会ですが、林理事長の就任以降、その理事会に女性をはじめ新しい人材が登用されたことでメンバーの顔触れも変わりました。しかし学部長会議のメンバーは全員男性で“田中時代”に就任した面子が多く残っていました」(和田氏) 和田氏によると、アメフト部の存続を最後まで主張した澤田氏とその任命権者である酒井健夫・現学長の辞任について、「その必要はない」と声を上げたのが学部長会議だったという。ちなみに澤田氏は、アメフト部の学生寮で大麻と見られる植物片が見つかった際、「学生に自首をさせたい」との考えから警察に提出することなく12日間、学内で保管していた人物だ。 「実際に私も耳にしたことがあるのですが、3月末で退任予定の酒井学長は、林理事長に『経営が教学(現場)に口を出すと、田中(英寿)さんと同じになる』と忠告していました。私には、その言葉が改革に取り組もうとする林理事長の手足を縛る“呪文”のように聞こえた。いろいろな解釈はあると思いますが、“学部長会議が不可侵の存在”と誤認させかねない危うさを秘めていたと思います。事実、学部長会議の決定を理事会が追認するだけのケースも少なくなく、理事会以外にもう一つ、大学の方針に影響を与える組織があったとの印象です」(和田氏) 自身の辞任と昨年から続くアメフト部をめぐる混乱も、この「権力の二重構造」が影響しているという』、「“学部長会議が不可侵の存在”と誤認させかねない危うさを秘めていた」とはガバナンス不全の極みだ。
・『「学部再編」が試金石 「なにより、いざ問題が起きた際、責任を問われるのは学部長会議のメンバーでなく、理事会などの執行部という点に大きな違和感を覚えました。たとえばアメフト部の部長は日大の文理学部長が兼ねていましたが、一連の薬物問題を受け、この学部長は昨年12月に(アメフト部)部長職を解嘱された。しかし彼が林理事長などとともに記者会見に出て批判の矢面に立つことは一度もありませんでした。この歪な構造を変えないかぎり、真の改革は成し遂げられないと痛感しました」(和田氏) アメフト部の“大麻汚染”問題で吹き飛んでしまったが、林理事長が掲げる改革の方向性について、和田氏はこう語る。 「私は今後の日大改革には“学部再編が欠かせない”と考えていて、それは林理事長にも伝えていました。相次ぐ不祥事によって存在意義が問われている危機管理学部の存廃に加え、御茶ノ水と松戸(千葉)にある歯学部の統合の可否など、かねて再編の余地は大きいと指摘されてきた。また具体的に進んでいた改革案の一つが、看護学部の新設計画です。実現すれば、生徒に占める女性比率も上がり、初の女性学部長の誕生に繋がるかもしれない。しかし学部再編の問題は、各学部長の利害と衝突しかねず、一筋縄ではいかない面もありました」』、「いざ問題が起きた際、責任を問われるのは学部長会議のメンバーでなく、理事会などの執行部という点に大きな違和感を覚えました。たとえばアメフト部の部長は日大の文理学部長が兼ねていましたが、一連の薬物問題を受け、この学部長は昨年12月に(アメフト部)部長職を解嘱された。しかし彼が林理事長などとともに解嘱」記者会見に出て批判の矢面に立つことは一度もありませんでした」、「アメフト部の部長」の処分が単に「部長職を解嘱」というだけでは不十分だ。少なくとも「解嘱」を「記者会見」後とすべきだ。
・『「人脈」という武器 澤田康広 一方で4月1日から就任することになる、新学長の大貫氏には期待するところがあるという。 「大貫氏は日大理工学部出身で、大学のDX(デジタル変革)化など改革志向を持っていることは承知しています。昨年12月、林理事長が文科省に追加の改善計画を提出した際に同席していたのも彼でした。ただし大貫氏が学長になったからといって、構造改革にまで踏み込むのは容易でない。だからこそ、林理事長の最大の強みである“人脈”を今こそ発揮してほしいのです。外部の経営者などを集めた“日大経営改革会議”のような第三者機関をつくれば、学内からの干渉を避けられ、改革は前進するはず。私の辞任によって、身を挺してでも林理事長を守る“側近”はいなくなりましたが、いまも改革が成就することを願う気持ちに変わりはありません」 言葉の端々に「志半ば」で去らざるを得なかった無念さを滲ませつつ、それでも希望は捨てていないという』、「外部の経営者などを集めた“日大経営改革会議”のような第三者機関をつくれば、学内からの干渉を避けられ、改革は前進するはず」、との提案は大いに検討に値する。
第三に、3月10日付け日刊ゲンダイ「アメフト部問題で日大が前代未聞の志願者数3割減…「日東駒専」から脱落へ崖っぷち」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/337052
・『2024年度入試も終盤に突入し、各大学の志願者数が出ているが、相次ぐ不祥事で注目されていた日本大学が、予想を超える志願者数減を記録している。大学通信などの速報によれば、全学部の志願者数は6万6763人、昨年最終出願者数から3万1743人減で昨対比67.8%。全体の約3割での志願者数減だ。 一因となったのは、アメフト部を巡る問題と見られている。日大は昨年8月、アメフト部の寮から大麻の植物片と覚せい剤の成分を含む錠剤が見つかり、3年生の部員が逮捕。この学生は今年1月に懲役1年4月、執行猶予3年の有罪判決が確定したが、すでに一連の事件で逮捕や書類送検されたのはこの学生を含む計10人にのぼる。それにより、アメフト部は1月に廃部、2月15日付で関東学生アメリカンフットボール連盟から退会している。 2021年に元理事長の田中英寿氏が脱税事件で逮捕された時も、22年度入試は厳しくなると言われていたが、フタを開けると22年度は9万3770人(21年度は9万7948人)と大きくは減少していない。今年度入試はどれくらい異常なのか。) 大学ジャーナリストの石渡嶺司氏が言う。 「前回の不祥事は、理事長という学生からは遠い存在の問題でした。今回は学生であるアメフト部員の逮捕と事件を巡る日大の隠ぺいやパワハラ体質が明るみになったのが大きいでしょう。結果的にアメフト部の廃部と酒井健夫学長、澤田康広元副学長の辞任で幕引きをはかったが、部の関係者が処分されるわけではなく問題がうやむやにされた印象。近年ハラスメントという言葉に敏感になったのもあってマイナスに作用しています」 その後、澤田元副学長は薬物事件を巡る対応で、林真理子理事長にパワハラを受けたとして裁判を起こしている。 また、元理事長の脱税事件などを受け不交付になっていた国の補助金も3年連続不交付が決まっており、「学費が上がるのではないか」と疑念を持たれる事態も続いている。 「もうひとつ、日大は学生に魅力を持たれる取り組みが実行できていない点も志願者数に響いています。マンモス大学ですがキャンパスが学部ごとでバラバラで、ほとんどが1学部1キャンパス。東洋、駒沢、専修大は基本複数部を1つのキャンパスに集めていますが、傾向として都心に複数の学部を集める方が志願者が集まりやすい。こうした改革ができるかも今後に響いてきます。日大は10年前までは『日東駒専』のトップでしたが、その後、東洋大が逆転し、駒沢、専修に並んでいました。今年並みの激減が数年続けば、偏差値にも影響しますからグループから離脱する可能性があります」(前出の石渡嶺司氏) かつての勢いを取り戻すことはできるのか』、「元理事長の脱税事件などを受け不交付になっていた国の補助金も3年連続不交付が決まっており、「学費が上がるのではないか」と疑念を持たれる事態も続いている・・・日大は10年前までは『日東駒専』のトップでしたが、その後、東洋大が逆転し、駒沢、専修に並んでいました。今年並みの激減が数年続けば、偏差値にも影響しますからグループから離脱する可能性があります・・・今年並みの激減が数年続けば、偏差値にも影響しますからグループから離脱する可能性があります」、『日東駒専』の「グループから離脱する可能性」、とは本当に深刻だ。以上が日大関連だ。
第四に、2月20日付け産経新聞「千葉大学長選巡り、国際学術研究院執行部と理学研究院教授会も要望書 選考プロセスに反発」を紹介しよう。
https://www.sankei.com/article/20240220-HI5GK6I2PVKENBSAAMM2J5YCJY/
・『千葉大学の新学長選出を巡り、一部の教授会が選考過程が不透明だとして反発している問題で、15日付で同大大学院理学研究院教授会が、16日付で国際学術研究院の執行部が、選考にあたった「学長選考・監察会議」に対し、それぞれ要望書を提出したことが20日、分かった。 要望書では現副学長で医学部付属病院長の横手幸太郎氏(60)を新学長に決めた選考過程の詳細の議事録公開などを求めた。 大学・大学院の教員らによる学内投票で、横手氏は1位の文学系の候補者に次ぐ2位だったが、1月25日に行われた学内外の14人による選考会議で新学長に決まった。 これに反発した大学院人文科学研究院や教育学部の各教授会も既に、選考会議に質問書を出す異例の事態が生じている』、「現副学長で医学部付属病院長の横手幸太郎氏(60)を新学長に決めた選考過程の詳細の議事録公開などを求めた。 大学・大学院の教員らによる学内投票で、横手氏は1位の文学系の候補者に次ぐ2位だったが、1月25日に行われた学内外の14人による選考会議で新学長に決まった』、この記事は余りに短いので、詳細は不明で、「大学・大学院の教員らによる学内投票」と「学内外の14人による選考会議」の関係が不明だが、恐らく後者は前者の結果を尊重するが、独自の判断で決定するのだろう。「新学長」は「現副学長で医学部付属病院長」なのであれば、きっと「1位の文学系の候補者」よりも有力者なのだろう。
なお、明日は更新を休むので、明後日にご期待を!
タグ:大学 (その15)(「林真理子理事長は田中英寿・元理事長派に脅されている」“親友”和田秀樹氏が語る「日大理事辞任」の真相、日大常務理事を電撃辞任した和田秀樹氏が激白 アメフト部“大麻汚染”問題のウラにひそむ「日大改革の“抵抗勢力”と権力の二重構造」、アメフト部問題で日大が前代未聞の志願者数3割減…「日東駒専」から脱落へ崖っぷち、千葉大学長選巡り 国際学術研究院執行部と理学研究院教授会も要望書 選考プロセスに反発) FLASH「「林真理子理事長は田中英寿・元理事長派に脅されている」“親友”和田秀樹氏が語る「日大理事辞任」の真相」 「工学部長が、和田氏が日本テレビの取材に対して「澤田副学長の解任は私が理事会で提案した」と明かしていたことを問題視して、追及を始めたのだ。 「『澤田氏はたんなる私的会話でしょう。あなたは理事会の内容をマスコミに漏らしたんだから、そのほうがタチが悪い』と反論されて唖然としました」、 「工学部長」の言い分は全く筋が通らない学者にあうまじき発言だ。「それから約1カ月後――。突如、思いもよらずはしごを外される。 「林先生から『和田先生には辞めていただくことになりました。“辞めてやるって言った人をなんで置いておくんだ”と言う人がいて、和田先生がいると困るのよ』と、辞任するよう告げられたんです」 20年来の親友から“三顧の礼”で迎えられるも、わずか1年半年足らずの解任劇。和田氏は、日本大学の旧態依然とした体質に失望したという。 「林先生の口ぶりから、学部長たちから私を辞めさせるよう恫喝されたのだと感じました。というのも、林先生が理事長になったとき、“理事長が指名できる理事は2人まで”“経営に専念すべきで教学には口を出さない”といった“足かせ”をはめられたんです。ところが、学部長メンバーは田中時代のまま。日本大学の旧態依然とした既得権益を守ろうとする体質は、田中元理事長がいたころと変わっていません。林先生は、そういった連中に脅されているのかもしれません」、いくら「脅された」としても、唯一の理解者たる「和田氏」に「辞任」を迫るとは、 デイリー新潮「日大常務理事を電撃辞任した和田秀樹氏が激白 アメフト部“大麻汚染”問題のウラにひそむ「日大改革の“抵抗勢力”と権力の二重構造」」 「澤田康広・副学長(当時)が昨年9月に林理事長と面会した際の会話を録音し、それが外部に漏洩した件を私が引き合いに出すと、“漏洩よりマスコミに直接話すほうが悪い”と決めつけられました」、実に論理の片鱗すらない言いがかりを「学部長」あ堂々と主張するとは、茶番だ。 「“学部長会議が不可侵の存在”と誤認させかねない危うさを秘めていた」とはガバナンス不全の極みだ。 「いざ問題が起きた際、責任を問われるのは学部長会議のメンバーでなく、理事会などの執行部という点に大きな違和感を覚えました。たとえばアメフト部の部長は日大の文理学部長が兼ねていましたが、一連の薬物問題を受け、この学部長は昨年12月に(アメフト部)部長職を解嘱された。しかし彼が林理事長などとともに解嘱」記者会見に出て批判の矢面に立つことは一度もありませんでした」、 「アメフト部の部長」の処分が単に「部長職を解嘱」というだけでは不十分だ。少なくとも「解嘱」を「記者会見」後とすべきだ。 「外部の経営者などを集めた“日大経営改革会議”のような第三者機関をつくれば、学内からの干渉を避けられ、改革は前進するはず」、との提案は大いに検討に値する。 日刊ゲンダイ「アメフト部問題で日大が前代未聞の志願者数3割減…「日東駒専」から脱落へ崖っぷち」 「元理事長の脱税事件などを受け不交付になっていた国の補助金も3年連続不交付が決まっており、「学費が上がるのではないか」と疑念を持たれる事態も続いている・・・日大は10年前までは『日東駒専』のトップでしたが、その後、東洋大が逆転し、駒沢、専修に並んでいました。今年並みの激減が数年続けば、偏差値にも影響しますからグループから離脱する可能性があります・・・今年並みの激減が数年続けば、偏差値にも影響しますからグループから離脱する可能性があります」、『日東駒専』の「グループから離脱する可能性」、とは本当に深刻だ。以 上が日大関連だ。 産経新聞「千葉大学長選巡り、国際学術研究院執行部と理学研究院教授会も要望書 選考プロセスに反発」 この記事は余りに短いので、詳細は不明で、「大学・大学院の教員らによる学内投票」と「学内外の14人による選考会議」の関係が不明だが、恐らく後者は前者の結果を尊重するが、独自の判断で決定するのだろう。「新学長」は「現副学長で医学部付属病院長」なのであれば、きっと「1位の文学系の候補者」よりも有力者なのだろう。 なお、明日は更新を休むので、明後日にご期待を!
株式・為替相場(その21)(ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?、株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本 春闘高賃上げは“悪循環”?、株高は「日本を見る目が変わった」論の正体 株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?) [金融]
株式・為替相場については、本年3月2日に取上げた。今日は、(その21)(ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?、株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本 春闘高賃上げは“悪循環”?、株高は「日本を見る目が変わった」論の正体 株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?)である。
先ずは、本年3月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載sた多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339838
・『3月4日、日経平均株価の終値が史上初めて4万円を超えた。主に海外投資家の積極的な日本株買いによって、株価だけは“失われた30年”の出口にたどり着きつつある。問題は、わが国の実体経済を前に進められるか否かだ。さらなる株価上昇に必要な取り組みとは?』、興味深そうだ。
・『34年ぶり高値更新!4万円台突入の意味 日経平均株価が連日、最高値を更新している。背景にはまず、世界的な金融市場の“カネ余り”がある。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げへの期待も、株価が上昇する支えになっている。わが国だけでなく、景気がかなり厳しいドイツなど欧州諸国の株価も上昇している。一方、不動産バブル崩壊で景気低迷が深刻な中国の株価は下落し、中国から逃避した投資資金がわが国やインド株に流れている。 また、海外投資家の日本経済の見方が変化してもいる。高い賃金を提示し中途採用を増やす企業が増えるなど、日本の労働市場にも徐々に変化が見られ始めたからだ。東証が株価純資産倍率(PBR)1倍割れの企業に、成長戦略の提示と説明などを求めたことも、日本経済の変化への期待につながった。 政府の産業政策の修正も追い風だ。今のところ、米欧以上にわが国の半導体関連の助成金支給スピードは速い。台湾の半導体ファウンドリーTSMCが熊本県に大型工場を開所したことを呼び水に、同県内では半導体および製造装置、関連部材メーカーなどが積極的に設備投資を実施している。自動車けん引型の日本の産業構造が変わると期待する、欧米の機関投資家は増えている。 23年初旬から日本株を購入したある海外投資家は、「インフレ傾向の中、賃上げに対して企業が積極的な姿勢を強めていることや、産業政策の変化で日本経済と日本株は長期停滞から脱却する入り口に到達した」と指摘していた。 米国経済の想定以上の成長も重要だ。米国では労働市場の需給がタイトに推移し、賃金上昇の勢いは強い。それは個人消費の増勢を支えている。生成AIの需要が急増したことで米国の半導体関連株が上昇していることも、日本株上昇にプラスに作用している』、「海外投資家は、「インフレ傾向の中、賃上げに対して企業が積極的な姿勢を強めていることや、産業政策の変化で日本経済と日本株は長期停滞から脱却する入り口に到達した」と指摘」、なるほど。
・『デフレからインフレへ経済環境の変化 株高と併せて何といっても見逃せない変化の一つは、経済がインフレ傾向に変わっていることだ。わが国のインフレは、基本的に円安と資源や食料の価格上昇(コストプッシュ型)ではあるものの、デフレからインフレへと変化したことは事実。ここ数年、企業は収益を守るために値上げを実施していて、家計はそれを受け入れざるを得ず、消費者物価指数の上昇率は2%を上回った。 日経平均株価は、1989年末に当時の高値(3万8915円87銭)を付けたが、90年の年初から下落し、資産バブルは崩壊した。90年以降の経済環境を改めて振り返ると、バブル崩壊により企業は急激な資産価格下落と景気悪化に直面し、極端なリスク回避に傾いた。政府は不良債権処理を加速するよりも、97年度までは公共事業関係費を増やした。こうしてバブルの後始末は遅れ、97年には金融システム不安が起きた。 不良債権問題が深刻化すると、デフレ圧力が高まった。さらに2008年9月のリーマンショックも、景気低迷を長引かせた。賃金水準は低迷して需要が減少し、持続的に物価が下落するという負の循環にわが国は陥った。また、電機産業などで国際分業への対応が遅れたことで、デジタル化への対応も遅れ、企業業績への懸念から国内の株価は低迷した。 ちなみに米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ。 デフレから脱しつつあるのと時を同じくして、新卒一括採用・年功序列・終身雇用の雇用慣行が徐々に崩れ、実力に応じた賃金制度を採用する企業が増えている。労働市場の流動性は高まっており、賃上げできなければ淘汰(とうた)される企業も増えるだろう。 労働市場の流動性が高まり、生産性の高い分野に経営資源が再配分されるようになることは、経済の本来あるべき姿であり、そこにわが国も向かい始めた。「現状維持を優先するだけでは成長は難しい」と考える経営者は増えている。 収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう』、「米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ・・・収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう」、その通りだ。
・『実体経済の回復なき株価上昇、課題は? 株価が最高値を更新する一方、わが国では「景気回復を感じない」との声が多い。「実体経済の力強い回復なき株価上昇」の様相を呈していることは注目すべきだ。今後は、わが国が“失われた30年”から本当に抜け出せるかが重要なポイントとなる。少子高齢化、人口の減少、社会保障関係費の増大による財政悪化など、状況は厳しい。 ただ、希望はあるはずだ。企業で賃上げの重要性が高まっている。賃上げは、従業員の生活の安定のみならず、学び直しやリスキリングへの意欲も支える。これは、企業が成長性を高めることや、雇用の流動化、本来あるべき経済の循環の実現に必要だ。 政府や企業は、限りのある人材が実力を高め、さらに高い賃金を手にできる環境を整備することに注力すべきだ。それは、先端分野へ経営資源を再配分する促進となり、より高付加価値のモノやサービスの創出を支える。こうした変化が本格化すると、今のようなインフレではなく、安定的な物価上昇の可能性が高まり、真の意味でデフレマインドを根本から克服するチャンスとなる。 また、国を挙げて成長産業を育成することは欠かせない。米エヌビディアの好決算を見ても、世界中で生成AIの需要が急増していることは明らかだ。AIチップを製造するTSMCの熊本工場に続けと言わんばかりに、関連する精密機械、パワー半導体などの分野でも工場建設が相次ぐ。北海道ではラピダスが回路線幅1ナノ(ナノは10億分の1)メートルのチップ生産を計画する。わが国で半導体産業が復活を遂げる可能性に期待が高まっている。 23年7~9月期、10~12月期、国内のGDP成長率はマイナスだった。1~3月期もマイナス成長に陥る可能性は高い。中国経済が低迷する懸念が追加的に高まれば、設備投資の下ぶれリスクも上昇する。 今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである。 【訂正】記事の初出時より以下の通り訂正します。 8段落目:日経平均株価は、1987年末に→日経平均株価は、1989年末に(2024年3月5日13:21 ダイヤモンド編集部)』、「今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである」、同感である。
次に、3月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本、春闘高賃上げは“悪循環”?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340415
・『1月も消費者物価2%上昇、実質GDPは低迷 定義どおりのスタグフレレーション 日本の消費者物価上昇率は、一時よりは低下したものの、依然として高い。 2024年1月の生鮮食品を除く総合指数の前年同月比は2.0%だった。日本銀行も現在の状況はインフレーションだと認めている。 他方で、23年10~12月の実質GDP(国内総生産)速報値(1次)は前期比0.1%減(年率0.4%減)となった。3月11日に公表された2次速報では、同0.1%増(同0.4%増)と修正され2四半期連続のマイナス成長は免れたものの、低迷していることは間違いない。 経済が成長せずに物価が上昇するのだから、これは定義どおりの明白なスタグフレーションだ。 日経平均株価が史上最高値を更新しつつあったことから、日本経済が新たな発展の局面に入ったという意見がある。これから新しい発展の時代が始まるという見方だ。 しかし実際に起きているのは、それとは全く逆であり、日本経済がスタグフレーションという「深刻な病」に落ち込んでいることなのだ。 春闘の主要製造業の集中回答日だった13日には、トヨタ自動車や新日本製鉄などで「満額回答」や「最高水準」の賃上げ回答が目立った。 春闘などでの賃上げが経済停滞を抜け出す糸口になることへの期待もあるが、今の状況では賃上げが“逆効果”になることもあり得る』、「経済が成長せずに物価が上昇するのだから、これは定義どおりの明白なスタグフレーションだ。 日経平均株価が史上最高値を更新しつつあったことから、日本経済が新たな発展の局面に入ったという意見がある。これから新しい発展の時代が始まるという見方だ。 しかし実際に起きているのは、それとは全く逆であり、日本経済がスタグフレーションという「深刻な病」に落ち込んでいることなのだ」、その通りだ。
・『さまざまな指標が経済活動停滞を裏付け 家計消費や鉱工業生産も減少 経済活動の停滞は、GDP以外にもさまざまな指標で確かめることができる。 家計調査によると、23年12月の家計消費支出(2人以上の世帯)の実質増減率は、前年同月比で2.5%の減少だった。24年1月は同6.3%減とさらに落ち込んだ。 輸出でも同様の傾向が見られる。22年の輸出額は、円建てでは前年比18.2%増となったものの、ドル建てでは同0.9%の減少となった。輸出数量で見ても、同0.6%減と落ち込んだ。23年も同様の結果で、円建ての輸出額は同2.8%増だったものの、ドル建てでは4.3%減と2年連続で減少。輸出数量も同3.9%減と落ち込んだ(ジェトロの統計による)。 輸出数量が増えないため、国内の生産活動も増加しない。生産活動の落ち込みは鉱工業生産指数で確かめることができる。21年に新型コロナウイルスの感染拡大による落ち込みから回復して以来、指数は104~105程度でほとんど変化がない(2020年=100、季節調整済み)。 最近の計数をみると、1月の鉱工業生産指数速報値は97.6となり前月比で7.5%低下した。低下幅はコロナの感染が広がった20年5月以来の大きさだ。これには、品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響しているが、生産は全15業種のうち14業種で下がったので、自動車だけが問題であるわけではない。 なお、円安が輸出数量や鉱工業生産指数に影響を与えないのは、過去の円安局面でも起きていることだ』、「1月の鉱工業生産指数速報値は97.6となり前月比で7.5%低下した。低下幅はコロナの感染が広がった20年5月以来の大きさだ。これには、品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響しているが、生産は全15業種のうち14業種で下がったので、自動車だけが問題であるわけではない」、確かに1月の落ち込みは深刻だ。
・『輸出企業の利益増は円安効果 円高になれば反転する現象 一方、企業の利益は円安によって増大している。 企業全体としてはあまり大きな増加でないのだが、一部の企業、とくに輸出関連の大企業で利益が顕著に増えている。 その典型がトヨタ自動車だ。22年3月期の営業利益は対前年比36.3%増の2兆9956億円と3兆円に迫った。23年3月期の営業利益は原材料高の影響でやや落ち込んだものの、24年3月期は過去最高の4.9兆円に達する見通しだ(トヨタ自動車、業績ハイライト・財務指標)。 円安が経済活動の実態を変化させずに企業利益だけを増加させるのは、従来の円安局面と同じ現象であり、新しいことではない。輸出数量が増えなくても円安によって円ベースの輸出額が増え、他方で、円安による原材料価格の上昇は製品価格に転嫁するからだ。 24年になってからの円安についても、同じことが起きるとの期待があり、これが株価が上昇している一因と考えられる。だがこれは、円高になれば反転する現象であり、永続的なものでない』、「円安が経済活動の実態を変化させずに企業利益だけを増加させるのは、従来の円安局面と同じ現象であり、新しいことではない。輸出数量が増えなくても円安によって円ベースの輸出額が増え、他方で、円安による原材料価格の上昇は製品価格に転嫁するからだ・・・24年になってからの円安についても、同じことが起きるとの期待があり、これが株価が上昇している一因と考えられる」、なるほど。
・『輸入物価下落しても消費者物価は上昇 価格転嫁のメカニズムが変化? 現在の局面が従来と大きく違うのは、輸入物価と消費者物価の関係だ。 従来の円安局面では、円ベースの輸入物価は上昇することが多かった。しかし、現在は世界的なインフレが収束しつつあるので、契約通貨ベースの輸入物価が下落している。このため、円安が進行しているにもかかわらず、円ベースの輸入物価の対前年同月比が2023年4月以降、下落を続けているのだ。 また輸入物価と消費者物価の関係も従来と違ってきている。 これまでの日本では、消費者物価の動向はほぼ円ベース輸入物価の動向によって決まっていた。具体的には、消費者物価の対前年上昇率は半年ほど前の円ベース輸入物価の対前年上昇率の10分の1程度の値になっていた。 これは、輸入物価の上昇が取引段階ごとに製品価格に転嫁されていくが、下流に行くにしたがってその影響が薄められることから、当然の現象だ。 もしこのメカニズムがいまも働いているとすれば、消費者物価はいま下落しているはずだ。なぜなら、前述のように円ベースの輸入物価指数は2023年4月から、対前年比でマイナスに転じているからだ。 しかし、実際には、消費者物価上昇率は対前年比2%という、かなり高い値だ。だから、従来の価格転嫁メカニズムに変化が生じたと考えざるを得ない。 なぜ変わったのか?その理由として第1に考えられるのは、この数年の輸入物価上昇率があまりに高かったため、転嫁に時間がかかっていることだ。 第2に考えられるのは、賃金上昇の影響だ。実際、調理食品(6.6%)や宿泊費(26.9%)などいくつかの品目で消費者物価の対前年上昇率が高い(2024年1月)。そして、この分野で賃金が上昇している。 毎月勤労統計調査によると、飲食サービス業の現金給与総額の対前年増加率は8.5%というかなり高い値になっている(一般労働者、2023年速報)。だから賃金上昇が価格に転嫁されている可能性がある。 ただし、これが永続的なものなのか一時的なものなのかはわからない』、「従来の価格転嫁メカニズムに変化が生じたと考えざるを得ない。 なぜ変わったのか?その理由として第1に考えられるのは、この数年の輸入物価上昇率があまりに高かったため、転嫁に時間がかかっていることだ。 第2に考えられるのは、賃金上昇の影響だ。実際、調理食品(6.6%)や宿泊費(26.9%)などいくつかの品目で消費者物価の対前年上昇率が高い(2024年1月)」、なるほど。
・『生産性上昇しないコストプッシュインフレで 賃金と物価の「悪循環」が生じるおそれ 日本銀行は、金融政策の正常化の条件として、2%を超える消費者物価上昇率を望んでいる。しかし、重要なのは物価上昇率が2%を超えるかどうかではなく、物価上昇がどのようなメカニズムで起きるかだ。 生産性の上昇に基づいて賃金が上昇し、そのために家計の消費需要が増え、そのために物価が上昇するというルートでなければならない。 しかし、生産性上昇を伴わずに賃金が上昇し、それが売上げ価格に転嫁されるというコストプッシュインフレであれば、賃金上昇も物価上昇も望ましくない現象だということになる。そうしたメカニズムが、少なくとも経済の一部で進行している可能性がある。 今春闘については政府や日銀は高い賃上げを期待しているが、こうした状況下で、春闘などを通じて賃金を無理矢理に引き上げれば、それが物価に転嫁され、コストプッシュインフレが経済全体に広がる危険がある。 つまり、賃金上昇と物価上昇の「悪循環」が始まるわけだ。 その一方で実体経済がマイナス成長を続ければ、日本経済はスタグフレーションの罠から抜け出せなくなるおそれがある』、「春闘などを通じて賃金を無理矢理に引き上げれば、それが物価に転嫁され、コストプッシュインフレが経済全体に広がる危険がある。 つまり、賃金上昇と物価上昇の「悪循環」が始まるわけだ。 その一方で実体経済がマイナス成長を続ければ、日本経済はスタグフレーションの罠から抜け出せなくなるおそれがある」、その通りだ。
第三に、3月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏による「株高は「日本を見る目が変わった」論の正体、株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340555
・『年初からの株高で「日本を見る目が変わっている」論が幅を利かせている。日本経済、日本企業の変革が期待されているというわけである。しかし、株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか』、「株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか」、由々しい出来事だ。
・『年初からの株高はインフレのおかげ 普段、筆者は為替市場を中心とした経済・金融分析を中心としており、株式の専門家ではないが、今年に入ってから日本が直面している株高の真因を問われた場合は「インフレのたまもの」と回答するようにしている。 現在の日本は株や不動産の価格が上がり、自国通貨の値段が下がり、高級外車や高級時計のような輸入品の価格も押し上げられている。それら全てを説明できるフレーズはインフレである。植田日銀総裁を筆頭に日銀から物価目標達成をにおわせるような情報発信が相次ぎ、遂に政府・与党がデフレ脱却宣言に踏み切るという観測報道まで出ている。 これまで慢性的な円高や上がらない株価、低位安定する円金利や停滞する名目賃金などはデフレの象徴のように忌み嫌われてきた。裏を返せば、デフレ脱却の暁にはそれらの現象は逆転しても不思議ではない。 現に、円安は終わらず、株価は急伸、円金利も(政策的に抑えているので、わずかだが)浮揚が見られ、名目賃金も続伸している。もちろん、日本企業の業績改善を織り込んだ部分もあろうが、デフレ脱却というパラダイムシフトを前提として、日本経済に対する「見る目が変わっている」という評価はできる。 だが、「見る目が変わっている」が良い意味とは限らない。次ページ以降、その正体について検証していく』、「円安は終わらず、株価は急伸、円金利も(政策的に抑えているので、わずかだが)浮揚が見られ、名目賃金も続伸している。もちろん、日本企業の業績改善を織り込んだ部分もあろうが、デフレ脱却というパラダイムシフトを前提として、日本経済に対する「見る目が変わっている」という評価はできる。 だが、「見る目が変わっている」が良い意味とは限らない」、どういうことだろうか。
・『「中進国」容疑をかけられる日本 GDPの名実格差が意味するもの 下表は日経平均株価が初めて4万円台に乗せた2024年3月4日について、過去1年間の主要株価指数の上昇率トップ10と当該国通貨の対ドル変化率を並べたものだ。 (図表1:世界の主要株価指数(上昇率トップ10) はリンク先参照) 対ドル変化率に関し、上位10カ国平均が約マイナス26%、上位5カ国平均が約マイナス40%にもなる。また、見ての通り、上位10カ国において先進国は日本だけだ。また、対ドル変化率について、日本より下落幅が小さい国は4カ国、大きい国が5カ国である。濃淡はあるものの、いずれの国も対ドルで下落しているという事実は共通する。 インフレ体質の国では自国通貨が減価しやすく、それにより自国通貨建てで見た株価指数の水準も押し上げられやすくなる。それは理論的に言って正しい姿だ。そのような症状は途上国に多く見られるが、日本のような先進国ではあまり見られるものではない。 結局、日本経済に対する「見る目が変わっている」というのは先進国や途上国といった所属する国グループについて猜疑(さいぎ)心が向けられているという意味ではないか。 発展途上国から脱し、先進国に至る途上にある国を中進国と呼ぶことがあるが、その容疑がかかっている可能性もある。 株高にもかかわらずそれを喜ぶ議論があまり見られず、実体経済の弱さばかりに焦点がいくのはそもそも日本の家計部門において株式・出資金の保有比率が低いという以前に、インフレになった分が、十分家計部門に分配されていないという根本的問題があるだろう。 「株式・出資金保有比率が低い」という点については目下、「資産運用立国」論を旗印として対処中であり、良しあしは別として、今後は違った姿に変わっていくことが期待される。この点は時間の問題であり、待つしかない。 しかし、株高(や円安や不動産価格上昇など)がインフレ由来のものであったと考えた場合、当然、実体経済を分析する上ではGDP(国内総生産)の名実格差に触れないわけにはいかなくなる。 デフレ下の日本ではGDPの名実逆転(実質GDP>名目GDP)が象徴な事実として取り上げられてきた。しかし、インフレ社会となれば、通常想定される姿(実質GDP<名目GDP)が定着することになる。 既に政府見通しが出ているように、24年度の日本経済は第2次安倍政権が掲げていた「GDP600兆円」という目標達成が視野に入るといわれている(※安倍政権が「2020年度までに600兆円」と掲げたのが2015年だ)。この点、好意的な報道が多いと感じるが、そもそも600兆円は名目ベースの目標であり、実質ベースの目標には何も言及されてこなかったことには注意を要する。 周知の通り、インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、端的には実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。実質GDPが成長を伴わず、名目GDPだけが600兆円を達成しても景気実感は生じにくい。 例えば22年から23年にかけて名目GDPは約560兆円から約591兆円へ、約31兆円増えた。しかし、同じ期間に実質GDPは約548兆円から約559兆円へ約11兆円しか増えていない。つまり、残る約20兆円がインフレによる上乗せであり、これは日本国民にとって成長とは言えない。このような状況もあって2023年の日本経済では名目GDP成長率5.7%に対し、実質GDP成長率は1.9%にとどまった。 (図表2:日本のGDP はリンク先参照)』、「インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、端的には実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。実質GDPが成長を伴わず、名目GDPだけが600兆円を達成しても景気実感は生じにくい」、なるほど。
・『輸出企業はインフレを価格転嫁 中進国へのステップダウンが始まったか 身近な例で言えば、家計最終消費は名目ベースでは約11.4兆円伸びているが、このうちインフレによる上乗せは約9.4兆円で、実質ベースでは約2兆円しか増えていない。成長率で見れば、3.8%に対し0.7%なので、ほとんどの消費行動がインフレに食われていることが分かる(下図参照)。 (図表3:日本のGDP はリンク先参照) 当然、インフレになれば短期的には売り上げや利益は増えて、株価も押し上げられやすくなる。しかし、それは消費者が「無い袖を振って」消費している結果でもある。結果、「株高にもかかわらず内需の勢いに乏しい」という今の日本のような状況が生まれる。基本的に「無い袖は振れない」ので、長期的には名目GDPと実質GDPの乖離(かいり)は広がっていく。 ちなみに図表1を見ても分かるように、実質GDPの中でも、輸出だけは健闘しているように見える。名目ベースで約8.1兆円増加しているのに対し、実質ベースでは約3.3兆円、インフレによる上乗せ分は約4.8兆円とやはりインフレ部分が大きいものの、家計最終消費や設備投資と比較すれば相対的にましという印象を受ける。 これは輸出企業が海外においてインフレ部分を価格転嫁できている証拠でもある。関連統計からも確認可能だ。2023年7月以降、輸出物価指数は契約通貨建て(いわゆる現地通貨建て)で見ても上昇基調に入っており、内外のインフレ圧力と整合的に価格転嫁を実現している様子が透ける。 (図表4:輸出物価指数の前年比変化率 はリンク先参照) 理論上、円安が輸出企業に与える影響は「契約通貨建て価格の引き下げ→輸出数量増加」という経路だ。例えば、実勢相場が「1ドル100円」の時に1ドルでボールペンを輸出していたとする。ここから「1ドル=120円」に円安が進めば0.83ドル(0.83×120円≒100円)で輸出しても円建て売上高を維持できる。 しかし、統計を見る限り、今の日本の輸出企業がやっていることはボールペンを1.2ドルや1.5ドルなどに引き上げる動きである。当然、円建て売上高も大きく膨らむ(例:1.2ドル×120円≒144円)。もっと言えば、この例よりもはるかに円安は進んでいるので、輸出企業の円安による業績改善幅はさらに大きいものになる。 結果、輸出企業は実質ベースでの成長も相応に確保できているのだとすると、それを国内の家計部門(≒名目賃金)に還元できるかが焦点になる。 結局、「賃上げはあるのか」といういつも通りの話に戻ってきてしまうわけだが、それが十分ではないからこそ実質ベースで見た家計最終消費がほとんど伸びていないという実情は認めざるを得ないだろう。 日本銀行の言葉を借りれば、賃金・物価の好循環(≒第2の力)が発揮されているとは残念ながら言えない。株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだ、この円安・株高には先があるようにも読める。残念ながら、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのが実情ではないか』、「日本銀行の言葉を借りれば、賃金・物価の好循環(≒第2の力)が発揮されているとは残念ながら言えない。株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだ、この円安・株高には先があるようにも読める。残念ながら、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのが実情ではないか」、「この円安・株高には先があるようにも読める」、どんな先なのだろうか、直ちには思い浮かばないので、じっくり考えてみたい。
先ずは、本年3月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載sた多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/339838
・『3月4日、日経平均株価の終値が史上初めて4万円を超えた。主に海外投資家の積極的な日本株買いによって、株価だけは“失われた30年”の出口にたどり着きつつある。問題は、わが国の実体経済を前に進められるか否かだ。さらなる株価上昇に必要な取り組みとは?』、興味深そうだ。
・『34年ぶり高値更新!4万円台突入の意味 日経平均株価が連日、最高値を更新している。背景にはまず、世界的な金融市場の“カネ余り”がある。米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げへの期待も、株価が上昇する支えになっている。わが国だけでなく、景気がかなり厳しいドイツなど欧州諸国の株価も上昇している。一方、不動産バブル崩壊で景気低迷が深刻な中国の株価は下落し、中国から逃避した投資資金がわが国やインド株に流れている。 また、海外投資家の日本経済の見方が変化してもいる。高い賃金を提示し中途採用を増やす企業が増えるなど、日本の労働市場にも徐々に変化が見られ始めたからだ。東証が株価純資産倍率(PBR)1倍割れの企業に、成長戦略の提示と説明などを求めたことも、日本経済の変化への期待につながった。 政府の産業政策の修正も追い風だ。今のところ、米欧以上にわが国の半導体関連の助成金支給スピードは速い。台湾の半導体ファウンドリーTSMCが熊本県に大型工場を開所したことを呼び水に、同県内では半導体および製造装置、関連部材メーカーなどが積極的に設備投資を実施している。自動車けん引型の日本の産業構造が変わると期待する、欧米の機関投資家は増えている。 23年初旬から日本株を購入したある海外投資家は、「インフレ傾向の中、賃上げに対して企業が積極的な姿勢を強めていることや、産業政策の変化で日本経済と日本株は長期停滞から脱却する入り口に到達した」と指摘していた。 米国経済の想定以上の成長も重要だ。米国では労働市場の需給がタイトに推移し、賃金上昇の勢いは強い。それは個人消費の増勢を支えている。生成AIの需要が急増したことで米国の半導体関連株が上昇していることも、日本株上昇にプラスに作用している』、「海外投資家は、「インフレ傾向の中、賃上げに対して企業が積極的な姿勢を強めていることや、産業政策の変化で日本経済と日本株は長期停滞から脱却する入り口に到達した」と指摘」、なるほど。
・『デフレからインフレへ経済環境の変化 株高と併せて何といっても見逃せない変化の一つは、経済がインフレ傾向に変わっていることだ。わが国のインフレは、基本的に円安と資源や食料の価格上昇(コストプッシュ型)ではあるものの、デフレからインフレへと変化したことは事実。ここ数年、企業は収益を守るために値上げを実施していて、家計はそれを受け入れざるを得ず、消費者物価指数の上昇率は2%を上回った。 日経平均株価は、1989年末に当時の高値(3万8915円87銭)を付けたが、90年の年初から下落し、資産バブルは崩壊した。90年以降の経済環境を改めて振り返ると、バブル崩壊により企業は急激な資産価格下落と景気悪化に直面し、極端なリスク回避に傾いた。政府は不良債権処理を加速するよりも、97年度までは公共事業関係費を増やした。こうしてバブルの後始末は遅れ、97年には金融システム不安が起きた。 不良債権問題が深刻化すると、デフレ圧力が高まった。さらに2008年9月のリーマンショックも、景気低迷を長引かせた。賃金水準は低迷して需要が減少し、持続的に物価が下落するという負の循環にわが国は陥った。また、電機産業などで国際分業への対応が遅れたことで、デジタル化への対応も遅れ、企業業績への懸念から国内の株価は低迷した。 ちなみに米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ。 デフレから脱しつつあるのと時を同じくして、新卒一括採用・年功序列・終身雇用の雇用慣行が徐々に崩れ、実力に応じた賃金制度を採用する企業が増えている。労働市場の流動性は高まっており、賃上げできなければ淘汰(とうた)される企業も増えるだろう。 労働市場の流動性が高まり、生産性の高い分野に経営資源が再配分されるようになることは、経済の本来あるべき姿であり、そこにわが国も向かい始めた。「現状維持を優先するだけでは成長は難しい」と考える経営者は増えている。 収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう』、「米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ・・・収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう」、その通りだ。
・『実体経済の回復なき株価上昇、課題は? 株価が最高値を更新する一方、わが国では「景気回復を感じない」との声が多い。「実体経済の力強い回復なき株価上昇」の様相を呈していることは注目すべきだ。今後は、わが国が“失われた30年”から本当に抜け出せるかが重要なポイントとなる。少子高齢化、人口の減少、社会保障関係費の増大による財政悪化など、状況は厳しい。 ただ、希望はあるはずだ。企業で賃上げの重要性が高まっている。賃上げは、従業員の生活の安定のみならず、学び直しやリスキリングへの意欲も支える。これは、企業が成長性を高めることや、雇用の流動化、本来あるべき経済の循環の実現に必要だ。 政府や企業は、限りのある人材が実力を高め、さらに高い賃金を手にできる環境を整備することに注力すべきだ。それは、先端分野へ経営資源を再配分する促進となり、より高付加価値のモノやサービスの創出を支える。こうした変化が本格化すると、今のようなインフレではなく、安定的な物価上昇の可能性が高まり、真の意味でデフレマインドを根本から克服するチャンスとなる。 また、国を挙げて成長産業を育成することは欠かせない。米エヌビディアの好決算を見ても、世界中で生成AIの需要が急増していることは明らかだ。AIチップを製造するTSMCの熊本工場に続けと言わんばかりに、関連する精密機械、パワー半導体などの分野でも工場建設が相次ぐ。北海道ではラピダスが回路線幅1ナノ(ナノは10億分の1)メートルのチップ生産を計画する。わが国で半導体産業が復活を遂げる可能性に期待が高まっている。 23年7~9月期、10~12月期、国内のGDP成長率はマイナスだった。1~3月期もマイナス成長に陥る可能性は高い。中国経済が低迷する懸念が追加的に高まれば、設備投資の下ぶれリスクも上昇する。 今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである。 【訂正】記事の初出時より以下の通り訂正します。 8段落目:日経平均株価は、1987年末に→日経平均株価は、1989年末に(2024年3月5日13:21 ダイヤモンド編集部)』、「今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである」、同感である。
次に、3月14日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本、春闘高賃上げは“悪循環”?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340415
・『1月も消費者物価2%上昇、実質GDPは低迷 定義どおりのスタグフレレーション 日本の消費者物価上昇率は、一時よりは低下したものの、依然として高い。 2024年1月の生鮮食品を除く総合指数の前年同月比は2.0%だった。日本銀行も現在の状況はインフレーションだと認めている。 他方で、23年10~12月の実質GDP(国内総生産)速報値(1次)は前期比0.1%減(年率0.4%減)となった。3月11日に公表された2次速報では、同0.1%増(同0.4%増)と修正され2四半期連続のマイナス成長は免れたものの、低迷していることは間違いない。 経済が成長せずに物価が上昇するのだから、これは定義どおりの明白なスタグフレーションだ。 日経平均株価が史上最高値を更新しつつあったことから、日本経済が新たな発展の局面に入ったという意見がある。これから新しい発展の時代が始まるという見方だ。 しかし実際に起きているのは、それとは全く逆であり、日本経済がスタグフレーションという「深刻な病」に落ち込んでいることなのだ。 春闘の主要製造業の集中回答日だった13日には、トヨタ自動車や新日本製鉄などで「満額回答」や「最高水準」の賃上げ回答が目立った。 春闘などでの賃上げが経済停滞を抜け出す糸口になることへの期待もあるが、今の状況では賃上げが“逆効果”になることもあり得る』、「経済が成長せずに物価が上昇するのだから、これは定義どおりの明白なスタグフレーションだ。 日経平均株価が史上最高値を更新しつつあったことから、日本経済が新たな発展の局面に入ったという意見がある。これから新しい発展の時代が始まるという見方だ。 しかし実際に起きているのは、それとは全く逆であり、日本経済がスタグフレーションという「深刻な病」に落ち込んでいることなのだ」、その通りだ。
・『さまざまな指標が経済活動停滞を裏付け 家計消費や鉱工業生産も減少 経済活動の停滞は、GDP以外にもさまざまな指標で確かめることができる。 家計調査によると、23年12月の家計消費支出(2人以上の世帯)の実質増減率は、前年同月比で2.5%の減少だった。24年1月は同6.3%減とさらに落ち込んだ。 輸出でも同様の傾向が見られる。22年の輸出額は、円建てでは前年比18.2%増となったものの、ドル建てでは同0.9%の減少となった。輸出数量で見ても、同0.6%減と落ち込んだ。23年も同様の結果で、円建ての輸出額は同2.8%増だったものの、ドル建てでは4.3%減と2年連続で減少。輸出数量も同3.9%減と落ち込んだ(ジェトロの統計による)。 輸出数量が増えないため、国内の生産活動も増加しない。生産活動の落ち込みは鉱工業生産指数で確かめることができる。21年に新型コロナウイルスの感染拡大による落ち込みから回復して以来、指数は104~105程度でほとんど変化がない(2020年=100、季節調整済み)。 最近の計数をみると、1月の鉱工業生産指数速報値は97.6となり前月比で7.5%低下した。低下幅はコロナの感染が広がった20年5月以来の大きさだ。これには、品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響しているが、生産は全15業種のうち14業種で下がったので、自動車だけが問題であるわけではない。 なお、円安が輸出数量や鉱工業生産指数に影響を与えないのは、過去の円安局面でも起きていることだ』、「1月の鉱工業生産指数速報値は97.6となり前月比で7.5%低下した。低下幅はコロナの感染が広がった20年5月以来の大きさだ。これには、品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響しているが、生産は全15業種のうち14業種で下がったので、自動車だけが問題であるわけではない」、確かに1月の落ち込みは深刻だ。
・『輸出企業の利益増は円安効果 円高になれば反転する現象 一方、企業の利益は円安によって増大している。 企業全体としてはあまり大きな増加でないのだが、一部の企業、とくに輸出関連の大企業で利益が顕著に増えている。 その典型がトヨタ自動車だ。22年3月期の営業利益は対前年比36.3%増の2兆9956億円と3兆円に迫った。23年3月期の営業利益は原材料高の影響でやや落ち込んだものの、24年3月期は過去最高の4.9兆円に達する見通しだ(トヨタ自動車、業績ハイライト・財務指標)。 円安が経済活動の実態を変化させずに企業利益だけを増加させるのは、従来の円安局面と同じ現象であり、新しいことではない。輸出数量が増えなくても円安によって円ベースの輸出額が増え、他方で、円安による原材料価格の上昇は製品価格に転嫁するからだ。 24年になってからの円安についても、同じことが起きるとの期待があり、これが株価が上昇している一因と考えられる。だがこれは、円高になれば反転する現象であり、永続的なものでない』、「円安が経済活動の実態を変化させずに企業利益だけを増加させるのは、従来の円安局面と同じ現象であり、新しいことではない。輸出数量が増えなくても円安によって円ベースの輸出額が増え、他方で、円安による原材料価格の上昇は製品価格に転嫁するからだ・・・24年になってからの円安についても、同じことが起きるとの期待があり、これが株価が上昇している一因と考えられる」、なるほど。
・『輸入物価下落しても消費者物価は上昇 価格転嫁のメカニズムが変化? 現在の局面が従来と大きく違うのは、輸入物価と消費者物価の関係だ。 従来の円安局面では、円ベースの輸入物価は上昇することが多かった。しかし、現在は世界的なインフレが収束しつつあるので、契約通貨ベースの輸入物価が下落している。このため、円安が進行しているにもかかわらず、円ベースの輸入物価の対前年同月比が2023年4月以降、下落を続けているのだ。 また輸入物価と消費者物価の関係も従来と違ってきている。 これまでの日本では、消費者物価の動向はほぼ円ベース輸入物価の動向によって決まっていた。具体的には、消費者物価の対前年上昇率は半年ほど前の円ベース輸入物価の対前年上昇率の10分の1程度の値になっていた。 これは、輸入物価の上昇が取引段階ごとに製品価格に転嫁されていくが、下流に行くにしたがってその影響が薄められることから、当然の現象だ。 もしこのメカニズムがいまも働いているとすれば、消費者物価はいま下落しているはずだ。なぜなら、前述のように円ベースの輸入物価指数は2023年4月から、対前年比でマイナスに転じているからだ。 しかし、実際には、消費者物価上昇率は対前年比2%という、かなり高い値だ。だから、従来の価格転嫁メカニズムに変化が生じたと考えざるを得ない。 なぜ変わったのか?その理由として第1に考えられるのは、この数年の輸入物価上昇率があまりに高かったため、転嫁に時間がかかっていることだ。 第2に考えられるのは、賃金上昇の影響だ。実際、調理食品(6.6%)や宿泊費(26.9%)などいくつかの品目で消費者物価の対前年上昇率が高い(2024年1月)。そして、この分野で賃金が上昇している。 毎月勤労統計調査によると、飲食サービス業の現金給与総額の対前年増加率は8.5%というかなり高い値になっている(一般労働者、2023年速報)。だから賃金上昇が価格に転嫁されている可能性がある。 ただし、これが永続的なものなのか一時的なものなのかはわからない』、「従来の価格転嫁メカニズムに変化が生じたと考えざるを得ない。 なぜ変わったのか?その理由として第1に考えられるのは、この数年の輸入物価上昇率があまりに高かったため、転嫁に時間がかかっていることだ。 第2に考えられるのは、賃金上昇の影響だ。実際、調理食品(6.6%)や宿泊費(26.9%)などいくつかの品目で消費者物価の対前年上昇率が高い(2024年1月)」、なるほど。
・『生産性上昇しないコストプッシュインフレで 賃金と物価の「悪循環」が生じるおそれ 日本銀行は、金融政策の正常化の条件として、2%を超える消費者物価上昇率を望んでいる。しかし、重要なのは物価上昇率が2%を超えるかどうかではなく、物価上昇がどのようなメカニズムで起きるかだ。 生産性の上昇に基づいて賃金が上昇し、そのために家計の消費需要が増え、そのために物価が上昇するというルートでなければならない。 しかし、生産性上昇を伴わずに賃金が上昇し、それが売上げ価格に転嫁されるというコストプッシュインフレであれば、賃金上昇も物価上昇も望ましくない現象だということになる。そうしたメカニズムが、少なくとも経済の一部で進行している可能性がある。 今春闘については政府や日銀は高い賃上げを期待しているが、こうした状況下で、春闘などを通じて賃金を無理矢理に引き上げれば、それが物価に転嫁され、コストプッシュインフレが経済全体に広がる危険がある。 つまり、賃金上昇と物価上昇の「悪循環」が始まるわけだ。 その一方で実体経済がマイナス成長を続ければ、日本経済はスタグフレーションの罠から抜け出せなくなるおそれがある』、「春闘などを通じて賃金を無理矢理に引き上げれば、それが物価に転嫁され、コストプッシュインフレが経済全体に広がる危険がある。 つまり、賃金上昇と物価上昇の「悪循環」が始まるわけだ。 その一方で実体経済がマイナス成長を続ければ、日本経済はスタグフレーションの罠から抜け出せなくなるおそれがある」、その通りだ。
第三に、3月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏による「株高は「日本を見る目が変わった」論の正体、株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/340555
・『年初からの株高で「日本を見る目が変わっている」論が幅を利かせている。日本経済、日本企業の変革が期待されているというわけである。しかし、株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか』、「株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか」、由々しい出来事だ。
・『年初からの株高はインフレのおかげ 普段、筆者は為替市場を中心とした経済・金融分析を中心としており、株式の専門家ではないが、今年に入ってから日本が直面している株高の真因を問われた場合は「インフレのたまもの」と回答するようにしている。 現在の日本は株や不動産の価格が上がり、自国通貨の値段が下がり、高級外車や高級時計のような輸入品の価格も押し上げられている。それら全てを説明できるフレーズはインフレである。植田日銀総裁を筆頭に日銀から物価目標達成をにおわせるような情報発信が相次ぎ、遂に政府・与党がデフレ脱却宣言に踏み切るという観測報道まで出ている。 これまで慢性的な円高や上がらない株価、低位安定する円金利や停滞する名目賃金などはデフレの象徴のように忌み嫌われてきた。裏を返せば、デフレ脱却の暁にはそれらの現象は逆転しても不思議ではない。 現に、円安は終わらず、株価は急伸、円金利も(政策的に抑えているので、わずかだが)浮揚が見られ、名目賃金も続伸している。もちろん、日本企業の業績改善を織り込んだ部分もあろうが、デフレ脱却というパラダイムシフトを前提として、日本経済に対する「見る目が変わっている」という評価はできる。 だが、「見る目が変わっている」が良い意味とは限らない。次ページ以降、その正体について検証していく』、「円安は終わらず、株価は急伸、円金利も(政策的に抑えているので、わずかだが)浮揚が見られ、名目賃金も続伸している。もちろん、日本企業の業績改善を織り込んだ部分もあろうが、デフレ脱却というパラダイムシフトを前提として、日本経済に対する「見る目が変わっている」という評価はできる。 だが、「見る目が変わっている」が良い意味とは限らない」、どういうことだろうか。
・『「中進国」容疑をかけられる日本 GDPの名実格差が意味するもの 下表は日経平均株価が初めて4万円台に乗せた2024年3月4日について、過去1年間の主要株価指数の上昇率トップ10と当該国通貨の対ドル変化率を並べたものだ。 (図表1:世界の主要株価指数(上昇率トップ10) はリンク先参照) 対ドル変化率に関し、上位10カ国平均が約マイナス26%、上位5カ国平均が約マイナス40%にもなる。また、見ての通り、上位10カ国において先進国は日本だけだ。また、対ドル変化率について、日本より下落幅が小さい国は4カ国、大きい国が5カ国である。濃淡はあるものの、いずれの国も対ドルで下落しているという事実は共通する。 インフレ体質の国では自国通貨が減価しやすく、それにより自国通貨建てで見た株価指数の水準も押し上げられやすくなる。それは理論的に言って正しい姿だ。そのような症状は途上国に多く見られるが、日本のような先進国ではあまり見られるものではない。 結局、日本経済に対する「見る目が変わっている」というのは先進国や途上国といった所属する国グループについて猜疑(さいぎ)心が向けられているという意味ではないか。 発展途上国から脱し、先進国に至る途上にある国を中進国と呼ぶことがあるが、その容疑がかかっている可能性もある。 株高にもかかわらずそれを喜ぶ議論があまり見られず、実体経済の弱さばかりに焦点がいくのはそもそも日本の家計部門において株式・出資金の保有比率が低いという以前に、インフレになった分が、十分家計部門に分配されていないという根本的問題があるだろう。 「株式・出資金保有比率が低い」という点については目下、「資産運用立国」論を旗印として対処中であり、良しあしは別として、今後は違った姿に変わっていくことが期待される。この点は時間の問題であり、待つしかない。 しかし、株高(や円安や不動産価格上昇など)がインフレ由来のものであったと考えた場合、当然、実体経済を分析する上ではGDP(国内総生産)の名実格差に触れないわけにはいかなくなる。 デフレ下の日本ではGDPの名実逆転(実質GDP>名目GDP)が象徴な事実として取り上げられてきた。しかし、インフレ社会となれば、通常想定される姿(実質GDP<名目GDP)が定着することになる。 既に政府見通しが出ているように、24年度の日本経済は第2次安倍政権が掲げていた「GDP600兆円」という目標達成が視野に入るといわれている(※安倍政権が「2020年度までに600兆円」と掲げたのが2015年だ)。この点、好意的な報道が多いと感じるが、そもそも600兆円は名目ベースの目標であり、実質ベースの目標には何も言及されてこなかったことには注意を要する。 周知の通り、インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、端的には実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。実質GDPが成長を伴わず、名目GDPだけが600兆円を達成しても景気実感は生じにくい。 例えば22年から23年にかけて名目GDPは約560兆円から約591兆円へ、約31兆円増えた。しかし、同じ期間に実質GDPは約548兆円から約559兆円へ約11兆円しか増えていない。つまり、残る約20兆円がインフレによる上乗せであり、これは日本国民にとって成長とは言えない。このような状況もあって2023年の日本経済では名目GDP成長率5.7%に対し、実質GDP成長率は1.9%にとどまった。 (図表2:日本のGDP はリンク先参照)』、「インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、端的には実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。実質GDPが成長を伴わず、名目GDPだけが600兆円を達成しても景気実感は生じにくい」、なるほど。
・『輸出企業はインフレを価格転嫁 中進国へのステップダウンが始まったか 身近な例で言えば、家計最終消費は名目ベースでは約11.4兆円伸びているが、このうちインフレによる上乗せは約9.4兆円で、実質ベースでは約2兆円しか増えていない。成長率で見れば、3.8%に対し0.7%なので、ほとんどの消費行動がインフレに食われていることが分かる(下図参照)。 (図表3:日本のGDP はリンク先参照) 当然、インフレになれば短期的には売り上げや利益は増えて、株価も押し上げられやすくなる。しかし、それは消費者が「無い袖を振って」消費している結果でもある。結果、「株高にもかかわらず内需の勢いに乏しい」という今の日本のような状況が生まれる。基本的に「無い袖は振れない」ので、長期的には名目GDPと実質GDPの乖離(かいり)は広がっていく。 ちなみに図表1を見ても分かるように、実質GDPの中でも、輸出だけは健闘しているように見える。名目ベースで約8.1兆円増加しているのに対し、実質ベースでは約3.3兆円、インフレによる上乗せ分は約4.8兆円とやはりインフレ部分が大きいものの、家計最終消費や設備投資と比較すれば相対的にましという印象を受ける。 これは輸出企業が海外においてインフレ部分を価格転嫁できている証拠でもある。関連統計からも確認可能だ。2023年7月以降、輸出物価指数は契約通貨建て(いわゆる現地通貨建て)で見ても上昇基調に入っており、内外のインフレ圧力と整合的に価格転嫁を実現している様子が透ける。 (図表4:輸出物価指数の前年比変化率 はリンク先参照) 理論上、円安が輸出企業に与える影響は「契約通貨建て価格の引き下げ→輸出数量増加」という経路だ。例えば、実勢相場が「1ドル100円」の時に1ドルでボールペンを輸出していたとする。ここから「1ドル=120円」に円安が進めば0.83ドル(0.83×120円≒100円)で輸出しても円建て売上高を維持できる。 しかし、統計を見る限り、今の日本の輸出企業がやっていることはボールペンを1.2ドルや1.5ドルなどに引き上げる動きである。当然、円建て売上高も大きく膨らむ(例:1.2ドル×120円≒144円)。もっと言えば、この例よりもはるかに円安は進んでいるので、輸出企業の円安による業績改善幅はさらに大きいものになる。 結果、輸出企業は実質ベースでの成長も相応に確保できているのだとすると、それを国内の家計部門(≒名目賃金)に還元できるかが焦点になる。 結局、「賃上げはあるのか」といういつも通りの話に戻ってきてしまうわけだが、それが十分ではないからこそ実質ベースで見た家計最終消費がほとんど伸びていないという実情は認めざるを得ないだろう。 日本銀行の言葉を借りれば、賃金・物価の好循環(≒第2の力)が発揮されているとは残念ながら言えない。株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだ、この円安・株高には先があるようにも読める。残念ながら、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのが実情ではないか』、「日本銀行の言葉を借りれば、賃金・物価の好循環(≒第2の力)が発揮されているとは残念ながら言えない。株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだ、この円安・株高には先があるようにも読める。残念ながら、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのが実情ではないか」、「この円安・株高には先があるようにも読める」、どんな先なのだろうか、直ちには思い浮かばないので、じっくり考えてみたい。
タグ:(その21)(ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?、株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本 春闘高賃上げは“悪循環”?、株高は「日本を見る目が変わった」論の正体 株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?) 株式・為替相場 「海外投資家は、「インフレ傾向の中、賃上げに対して企業が積極的な姿勢を強めていることや、産業政策の変化で日本経済と日本株は長期停滞から脱却する入り口に到達した」と指摘」、なるほど。 真壁昭夫氏による「ついに4万円突破!日経平均株価が大台に乗った意味と「続伸の条件」とは?」 ダイヤモンド・オンライン 「米国は、1929年の大恐慌で株価が暴落した後、当時の高値更新に約25年かかった。一方、わが国の高値更新に要した34年の歳月は、米国に比較してはるかに長い。それだけ80年代後半のわが国では、大規模な資産バブルが発生し崩壊の負の影響も深刻だったということだ・・・収益性の向上に取り組み、株主への価値還元やさらなる賃上げ、研究開発体制の強化など成長戦略を強化する企業も増えている。こうした結果、やっとのことで“失われた30年”から抜け出す入り口に日本はたどり着いたといえるだろう」、その通りだ。 「今後、海外投資家がわが国経済に一段と期待を高めるか否かは、政府や企業のやり方次第だ。決して株高を楽観視せずに、政府は半導体分野などで民間企業のリスクテイクをサポートする。企業はより積極的に収益性の向上を実現する。世界経済の変化を迅速に捉えつつ、この両輪を回すことこそ、わが国経済が真の意味で生まれ変わり、さらなる株価上昇に必要な取り組みである」、同感である。 野口悠紀雄氏による「株価最高値の陰で「スタグフレーション」に落ち込んだ日本、春闘高賃上げは“悪循環”?」 「経済が成長せずに物価が上昇するのだから、これは定義どおりの明白なスタグフレーションだ。 日経平均株価が史上最高値を更新しつつあったことから、日本経済が新たな発展の局面に入ったという意見がある。これから新しい発展の時代が始まるという見方だ。 しかし実際に起きているのは、それとは全く逆であり、日本経済がスタグフレーションという「深刻な病」に落ち込んでいることなのだ」、その通りだ。 「1月の鉱工業生産指数速報値は97.6となり前月比で7.5%低下した。低下幅はコロナの感染が広がった20年5月以来の大きさだ。これには、品質不正による自動車メーカーの工場停止が影響しているが、生産は全15業種のうち14業種で下がったので、自動車だけが問題であるわけではない」、確かに1月の落ち込みは深刻だ。 「円安が経済活動の実態を変化させずに企業利益だけを増加させるのは、従来の円安局面と同じ現象であり、新しいことではない。輸出数量が増えなくても円安によって円ベースの輸出額が増え、他方で、円安による原材料価格の上昇は製品価格に転嫁するからだ・・・24年になってからの円安についても、同じことが起きるとの期待があり、これが株価が上昇している一因と考えられる」、なるほど。 「従来の価格転嫁メカニズムに変化が生じたと考えざるを得ない。 なぜ変わったのか?その理由として第1に考えられるのは、この数年の輸入物価上昇率があまりに高かったため、転嫁に時間がかかっていることだ。 第2に考えられるのは、賃金上昇の影響だ。実際、調理食品(6.6%)や宿泊費(26.9%)などいくつかの品目で消費者物価の対前年上昇率が高い(2024年1月)」、なるほど。 「春闘などを通じて賃金を無理矢理に引き上げれば、それが物価に転嫁され、コストプッシュインフレが経済全体に広がる危険がある。 つまり、賃金上昇と物価上昇の「悪循環」が始まるわけだ。 その一方で実体経済がマイナス成長を続ければ、日本経済はスタグフレーションの罠から抜け出せなくなるおそれがある」、その通りだ。 唐鎌大輔氏による「株高は「日本を見る目が変わった」論の正体、株価上昇は“中進国降格”を織り込み始めた?」 「株高の実態は、円安から波及してきたインフレと輸出企業の業績向上に過ぎない。実質成長率は低迷している。これは、日本が「先進国」ではなく「中進国」であると、見る目が変わってきている証左ではないだろうか」、由々しい出来事だ。 「円安は終わらず、株価は急伸、円金利も(政策的に抑えているので、わずかだが)浮揚が見られ、名目賃金も続伸している。もちろん、日本企業の業績改善を織り込んだ部分もあろうが、デフレ脱却というパラダイムシフトを前提として、日本経済に対する「見る目が変わっている」という評価はできる。 だが、「見る目が変わっている」が良い意味とは限らない」、どういうことだろうか。 「インフレになれば名目GDPは当然膨らむ。本質的に重要になるのはインフレを除いた部分、端的には実質GDPでどの程度の伸びを実現しているかという点だ。実質GDPが成長を伴わず、名目GDPだけが600兆円を達成しても景気実感は生じにくい」、なるほど。 「日本銀行の言葉を借りれば、賃金・物価の好循環(≒第2の力)が発揮されているとは残念ながら言えない。株高の背景にあるものが「インフレに押し負ける実体経済情勢」であり、それが先進国から中進国へステップダウンを織り込む相場だとすれば、まだ、この円安・株高には先があるようにも読める。残念ながら、そのような仮説を覆すだけの十分な材料が無いのが実情ではないか」、「この円安・株高には先があるようにも読める」、どんな先なのだろうか、直ちには思い浮かばないので、じっくり考えてみたい。