日中関係(その8)(「反日テロ」の時代がついに引き起こした深圳日本人学校児童刺殺…いま中国で渦巻く「不満と怨念」 続発する「反日乱行」の異常事態、中国の開き直りに唖然…「日本人男児死亡事件」のごまかしを許さない たった一つの“切り札”とは、《中国・10歳男子刺殺事件》借金苦でブラックリスト入り…前科2犯・鍾容疑者44歳が育んだ「日本人に対する歪んだ憎悪」) [外交]
日中関係については、本年7月19日に取上げた。今日は、(その8)(「反日テロ」の時代がついに引き起こした深圳日本人学校児童刺殺…いま中国で渦巻く「不満と怨念」 続発する「反日乱行」の異常事態、中国の開き直りに唖然…「日本人男児死亡事件」のごまかしを許さない たった一つの“切り札”とは、《中国・10歳男子刺殺事件》借金苦でブラックリスト入り…前科2犯・鍾容疑者44歳が育んだ「日本人に対する歪んだ憎悪」)である。
先ずは、本年9月22日付け現代ビジネスが掲載した評論家の石 平氏による「「反日テロ」の時代がついに引き起こした深圳日本人学校児童刺殺…いま中国で渦巻く「不満と怨念」、続発する「反日乱行」の異常事態」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/137920?imp=0
・『▽深圳刺殺事件、この5カ月で3件目の凶行(9月18日、中国大都会の深圳市で、通学中の10歳の日本人学校の児童が男に凶器で刺されて死亡したという痛ましい事件が起きた。 凶行に及んだ男の動機は「不明」とされており、中国当局は永遠にそれを開示しないと思われる。だが、この9月18日という日は、満洲事変の発端となった「柳条湖事件」発生の日で、中国政府が大いに喧騒している「反日記念日」である。この日の犯行が、日本人を狙った確信犯的な性格を持つものであることは明々白々である。 周知のように、6月28日、江蘇省蘇州でも類似する凶悪事件が起きた。一人の男が凶器を手にして日本人学校のスクールバスを狙って危害を及ぼうそうとしたところ、バスに同乗の中国人スタッフが阻止。しかし、中国人女性は不幸にも刺されて死亡。子供を迎えに来た日本人母と子の2人も負傷した。 また、今年4月、同じ蘇州でも日本人旅行者が何者に刺されて負傷した事件があった。 このようにして、今年春に入ってからの5ヶ月間で、日本人が中国で凶悪犯に襲われる事件が3件も起き、2人の人間の尊い命が奪われた。これは、日中国交正常化以来初めての異常事態の発生であり、中国在留の日本人の安全を大いに脅かすような未曾有の「新局面」の出現である』、「9月18日という日は、満洲事変の発端となった「柳条湖事件」発生の日で、中国政府が大いに喧騒している「反日記念日」である。この日の犯行が、日本人を狙った確信犯的な性格を持つものであることは明々白々である・・・6月28日、江蘇省蘇州でも類似する凶悪事件が起きた。一人の男が凶器を手にして日本人学校のスクールバスを狙って危害を及ぼうそうとしたところ、バスに同乗の中国人スタッフが阻止。しかし、中国人女性は不幸にも刺されて死亡。子供を迎えに来た日本人母と子の2人も負傷した。 また、今年4月、同じ蘇州でも日本人旅行者が何者に刺されて負傷した事件があった。 このようにして、今年春に入ってからの5ヶ月間で、日本人が中国で凶悪犯に襲われる事件が3件も起き、2人の人間の尊い命が奪われた。これは、日中国交正常化以来初めての異常事態の発生であり、中国在留の日本人の安全を大いに脅かすような未曾有の「新局面」の出現である」、なるほど。
・『日本国内でも中国人の反日乱行続発 そしてその一方で、中国人が国境を超えて日本にやってきて広い意味での「テロ行為」を展開する事件が同時期に多発している。 5月31日、中国国内からやってきた中国人男性が、日本在住の中国人と共謀して、靖国神社の石柱に赤いスプレーで「Toilet(トイレ)」と書き、さらに放尿する行為に及んだ。主犯の男は犯行後に早速に中国に逃げ帰ったが、共犯の中国人は後に警視庁によって逮捕された。 8月19日未明、またもや中国人による靖国神社標的の犯罪行為が行われた。前回の事件の標的となった石柱に、今度は、黒いフェルトペンのようなもので、漢字で「厠所」といった、トイレを意味する中国語に似た字など複数の文字が書かれていたことが発見された。犯人は犯行後にはSNSで落書きの画像を投稿し、翌19日に中国に向けて出国したという。 そしてこの同じ8月19日、NHKの国際放送番組で、中国籍の契約キャスターが突如、原稿とは無関係の日本攻撃の妄言・暴言を22秒にもわたって放ち、日本の公共放送を乗っ取っての「言論テロ」を行った。 このように、5月末からのわずか数ヶ月間、中国人たちは中国国内で日本人に対するテロ的犯行を頻繁に行う一方、日本国内でも彼らはいっせいに、日本に対する様々な攻撃行為を展開している。 これはかつて見たことのない、全く新しい「危機的な局面」の出現である。そして、中国人の日本に対する様々な「テロ行為」が、これから頻繁に起こっていく恐ろしい時代の幕開けであるとも捉えられる』、「5月31日、中国国内からやってきた中国人男性が、日本在住の中国人と共謀して、靖国神社の石柱に赤いスプレーで「Toilet(トイレ)」と書き、さらに放尿する行為に及んだ。主犯の男は犯行後に早速に中国に逃げ帰ったが、共犯の中国人は後に警視庁によって逮捕された。 8月19日未明、またもや中国人による靖国神社標的の犯罪行為が行われた。前回の事件の標的となった石柱に、今度は、黒いフェルトペンのようなもので、漢字で「厠所」といった、トイレを意味する中国語に似た字など複数の文字が書かれていたことが発見された。犯人は犯行後にはSNSで落書きの画像を投稿し、翌19日に中国に向けて出国したという。 そしてこの同じ8月19日、NHKの国際放送番組で、中国籍の契約キャスターが突如、原稿とは無関係の日本攻撃の妄言・暴言を22秒にもわたって放ち、日本の公共放送を乗っ取っての「言論テロ」を行った。 このように、5月末からのわずか数ヶ月間、中国人たちは中国国内で日本人に対するテロ的犯行を頻繁に行う一方、日本国内でも彼らはいっせいに、日本に対する様々な攻撃行為を展開している。 これはかつて見たことのない、全く新しい「危機的な局面」の出現である』、「これはかつて見たことのない、全く新しい「危機的な局面」の出現である。そして、中国人の日本に対する様々な「テロ行為」が、これから頻繁に起こっていく恐ろしい時代の幕開けであるとも捉えられる」、なるほど。
・『深圳凶行犯人は江沢民の反日教育世代 このような状況が生じてくる背景にあるのはまず、中国共産党政権が長年に行ってきた反日洗脳教育である。 1989年の天安門事件後に成立した江沢民政権は、若者たちを虐殺したことへの国民の恨みをよその「敵」へと転化していくために、そして事件で失われた共産党政権の求心力を取り戻すために、愛国主義教育とセットした反日洗脳教育を国家的プロジェクトとして全力的に進めた。以来の35年間、中国では根強い反日感情を植え付けられた「反日世代」が生まれた。深圳での日本人児童殺害の犯人は44歳だと発表されているが、天安門事件では9歳、まさに反日教育の中で育った典型的な「反日世代」である。 反日教育の効果が大々的に現れたのは、2005年に中国でおきた全国規模の反日デモ、そしてデモがやがて群衆的な反日暴動にエスカレートした。 2008年の四川大地震で、日本が官民を挙げて震災地を大いに支援したことで、そしてその後、中国人観光客が大勢日本にやってきて日本の実態をその目で見たことで、中国人の反日感情は幾分薄まった時期もある』、「愛国主義教育とセットした反日洗脳教育を国家的プロジェクトとして全力的に進めた。以来の35年間、中国では根強い反日感情を植え付けられた「反日世代」が生まれた。深圳での日本人児童殺害の犯人は44歳だと発表されているが、天安門事件では9歳、まさに反日教育の中で育った典型的な「反日世代」である・・・2008年の四川大地震で、日本が官民を挙げて震災地を大いに支援したことで、そしてその後、中国人観光客が大勢日本にやってきて日本の実態をその目で見たことで、中国人の反日感情は幾分薄まった時期もある」、なるほど。
・『「日本と日本人には何をしてもいい」 しかし2012年から始まった今の習近平政権下では、反米・反日が中国外交の基本戦略となり、好戦的な「戦狼外交」が基本姿勢となっている中で、反日教育と反日宣伝は以前よりも増して盛んになり、「日本敵視」「日本憎悪」が中国社会に蔓延して社会心理の底流となっている。 そしてこの数年間、習近平政権はまた、日本の福島処理水を「核汚染」だと決めづけて日本を徹底的に攻撃し、中国人の反日感情と日本憎悪をさらに強め、新たな反日ブームを作り出した。 こうした中で、中国の「戦狼外交官」たちがいっせいに日本に対する攻撃・恫喝を始めた。その典型例は今年5月20日、中国の呉江浩駐日大使が、台湾問題などとの関連で、「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言したことがあるが、それは中国人の反日感情をより一層刺激するだけでなく、「日本人をぶっ殺しても良い」との暗示的なメッセージを送ることとなった。 この発言の直後の6月に蘇州で日本人母子襲撃事件が起きたのも、今回の殺人事件が起きたのも、決して偶然ではない。まさにこの一連の流れの中で起きたものである。 そして今年になって「反日テロ」が集中的に起きたことの背景にはもう一つの要素がある。近年で起きた中国経済崩壊・大恐慌の中で失業が広がり、貧困層・中間層は生活が破壊されて社会的不満と怨念が高まった中で、こうした不満と怨念を「愛国無罪」を盾に、日本人に向かって発散するのが流行りとなってきている状況である』、「今の習近平政権下では、反米・反日が中国外交の基本戦略となり、好戦的な「戦狼外交」が基本姿勢となっている中で、反日教育と反日宣伝は以前よりも増して盛んになり、「日本敵視」「日本憎悪」が中国社会に蔓延して社会心理の底流となっている。 そしてこの数年間、習近平政権はまた、日本の福島処理水を「核汚染」だと決めづけて日本を徹底的に攻撃し、中国人の反日感情と日本憎悪をさらに強め、新たな反日ブームを作り出した。 こうした中で、中国の「戦狼外交官」たちがいっせいに日本に対する攻撃・恫喝を始めた。その典型例は今年5月20日、中国の呉江浩駐日大使が、台湾問題などとの関連で、「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言したことがあるが、それは中国人の反日感情をより一層刺激するだけでなく、「日本人をぶっ殺しても良い」との暗示的なメッセージを送ることとなった・・・近年で起きた中国経済崩壊・大恐慌の中で失業が広がり、貧困層・中間層は生活が破壊されて社会的不満と怨念が高まった中で、こうした不満と怨念を「愛国無罪」を盾に、日本人に向かって発散するのが流行りとなってきている状況である」、なるほど。
・『中国政府は「反日テロ行為」を容認した このような状況は今後も続くのかとなると、残念ながら答えはやはりYesである。第一に、中国政府には再発防止に取り込むつもりは全くないこと。19日、中国外務省報道官は事件について、「どこの国でも起こりうること」だと強弁したが、その言わんとするところは要するに、「どこの国でも起こりうることだから中国政府の責任ではない」ということだ。 その一方、報道官は亡くなった日本人学校の男子に対して「追悼」の意を表しながらも、犯行自体を非難する言葉は一つも出なかった。政府の意向の忖度に長ける中国人からすれば、それは要するに、中国政府は本心においてはこうした「反日テロ行為」を基本的に容認しているということになっている。 さらに言えば、反日感情が多くの中国国民に蔓延している状況が根底にある以上、経済崩壊に伴う社会的不安の拡大は今後も続くから、そういう構造的な問題に変化がない限り、日本人に対する色な形でのテロ行為は今後も絶えることはないと断言できよう。 こうした中で中国在住の日本人の安全をどう守るかは大きな課題となっているが、中国国内では、どこから起きてくるか全く予測もできない散発的な「反日テロ」に対して満足な防備策はやはり無理。中国で生活している約10万人の日本人とその家族手たちが大使館員のように全く閉鎖された環境の中で暮らすことはできない。「街に出れば危険がある」というのは今後の現状である。 したがって、今にすでに始まった「反日テロの時代」においては、中国在住日本人の安全を守る唯一の最善策とは、日本人全員がこの「テロ国家」から引き上げることである』、「反日感情が多くの中国国民に蔓延している状況が根底にある以上、経済崩壊に伴う社会的不安の拡大は今後も続くから、そういう構造的な問題に変化がない限り、日本人に対する色な形でのテロ行為は今後も絶えることはないと断言できよう・・・すでに始まった「反日テロの時代」においては、中国在住日本人の安全を守る唯一の最善策とは、日本人全員がこの「テロ国家」から引き上げることである』、その通りだ。
次に、
先ずは、本年9月22日付け現代ビジネスが掲載した評論家の石 平氏による「「反日テロ」の時代がついに引き起こした深圳日本人学校児童刺殺…いま中国で渦巻く「不満と怨念」、続発する「反日乱行」の異常事態」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/137920?imp=0
・『▽深圳刺殺事件、この5カ月で3件目の凶行(9月18日、中国大都会の深圳市で、通学中の10歳の日本人学校の児童が男に凶器で刺されて死亡したという痛ましい事件が起きた。 凶行に及んだ男の動機は「不明」とされており、中国当局は永遠にそれを開示しないと思われる。だが、この9月18日という日は、満洲事変の発端となった「柳条湖事件」発生の日で、中国政府が大いに喧騒している「反日記念日」である。この日の犯行が、日本人を狙った確信犯的な性格を持つものであることは明々白々である。 周知のように、6月28日、江蘇省蘇州でも類似する凶悪事件が起きた。一人の男が凶器を手にして日本人学校のスクールバスを狙って危害を及ぼうそうとしたところ、バスに同乗の中国人スタッフが阻止。しかし、中国人女性は不幸にも刺されて死亡。子供を迎えに来た日本人母と子の2人も負傷した。 また、今年4月、同じ蘇州でも日本人旅行者が何者に刺されて負傷した事件があった。 このようにして、今年春に入ってからの5ヶ月間で、日本人が中国で凶悪犯に襲われる事件が3件も起き、2人の人間の尊い命が奪われた。これは、日中国交正常化以来初めての異常事態の発生であり、中国在留の日本人の安全を大いに脅かすような未曾有の「新局面」の出現である』、「9月18日という日は、満洲事変の発端となった「柳条湖事件」発生の日で、中国政府が大いに喧騒している「反日記念日」である。この日の犯行が、日本人を狙った確信犯的な性格を持つものであることは明々白々である・・・6月28日、江蘇省蘇州でも類似する凶悪事件が起きた。一人の男が凶器を手にして日本人学校のスクールバスを狙って危害を及ぼうそうとしたところ、バスに同乗の中国人スタッフが阻止。しかし、中国人女性は不幸にも刺されて死亡。子供を迎えに来た日本人母と子の2人も負傷した。 また、今年4月、同じ蘇州でも日本人旅行者が何者に刺されて負傷した事件があった。 このようにして、今年春に入ってからの5ヶ月間で、日本人が中国で凶悪犯に襲われる事件が3件も起き、2人の人間の尊い命が奪われた。これは、日中国交正常化以来初めての異常事態の発生であり、中国在留の日本人の安全を大いに脅かすような未曾有の「新局面」の出現である」、なるほど。
・『日本国内でも中国人の反日乱行続発 そしてその一方で、中国人が国境を超えて日本にやってきて広い意味での「テロ行為」を展開する事件が同時期に多発している。 5月31日、中国国内からやってきた中国人男性が、日本在住の中国人と共謀して、靖国神社の石柱に赤いスプレーで「Toilet(トイレ)」と書き、さらに放尿する行為に及んだ。主犯の男は犯行後に早速に中国に逃げ帰ったが、共犯の中国人は後に警視庁によって逮捕された。 8月19日未明、またもや中国人による靖国神社標的の犯罪行為が行われた。前回の事件の標的となった石柱に、今度は、黒いフェルトペンのようなもので、漢字で「厠所」といった、トイレを意味する中国語に似た字など複数の文字が書かれていたことが発見された。犯人は犯行後にはSNSで落書きの画像を投稿し、翌19日に中国に向けて出国したという。 そしてこの同じ8月19日、NHKの国際放送番組で、中国籍の契約キャスターが突如、原稿とは無関係の日本攻撃の妄言・暴言を22秒にもわたって放ち、日本の公共放送を乗っ取っての「言論テロ」を行った。 このように、5月末からのわずか数ヶ月間、中国人たちは中国国内で日本人に対するテロ的犯行を頻繁に行う一方、日本国内でも彼らはいっせいに、日本に対する様々な攻撃行為を展開している。 これはかつて見たことのない、全く新しい「危機的な局面」の出現である。そして、中国人の日本に対する様々な「テロ行為」が、これから頻繁に起こっていく恐ろしい時代の幕開けであるとも捉えられる』、「5月31日、中国国内からやってきた中国人男性が、日本在住の中国人と共謀して、靖国神社の石柱に赤いスプレーで「Toilet(トイレ)」と書き、さらに放尿する行為に及んだ。主犯の男は犯行後に早速に中国に逃げ帰ったが、共犯の中国人は後に警視庁によって逮捕された。 8月19日未明、またもや中国人による靖国神社標的の犯罪行為が行われた。前回の事件の標的となった石柱に、今度は、黒いフェルトペンのようなもので、漢字で「厠所」といった、トイレを意味する中国語に似た字など複数の文字が書かれていたことが発見された。犯人は犯行後にはSNSで落書きの画像を投稿し、翌19日に中国に向けて出国したという。 そしてこの同じ8月19日、NHKの国際放送番組で、中国籍の契約キャスターが突如、原稿とは無関係の日本攻撃の妄言・暴言を22秒にもわたって放ち、日本の公共放送を乗っ取っての「言論テロ」を行った。 このように、5月末からのわずか数ヶ月間、中国人たちは中国国内で日本人に対するテロ的犯行を頻繁に行う一方、日本国内でも彼らはいっせいに、日本に対する様々な攻撃行為を展開している。 これはかつて見たことのない、全く新しい「危機的な局面」の出現である』、「これはかつて見たことのない、全く新しい「危機的な局面」の出現である。そして、中国人の日本に対する様々な「テロ行為」が、これから頻繁に起こっていく恐ろしい時代の幕開けであるとも捉えられる」、なるほど。
・『深圳凶行犯人は江沢民の反日教育世代 このような状況が生じてくる背景にあるのはまず、中国共産党政権が長年に行ってきた反日洗脳教育である。 1989年の天安門事件後に成立した江沢民政権は、若者たちを虐殺したことへの国民の恨みをよその「敵」へと転化していくために、そして事件で失われた共産党政権の求心力を取り戻すために、愛国主義教育とセットした反日洗脳教育を国家的プロジェクトとして全力的に進めた。以来の35年間、中国では根強い反日感情を植え付けられた「反日世代」が生まれた。深圳での日本人児童殺害の犯人は44歳だと発表されているが、天安門事件では9歳、まさに反日教育の中で育った典型的な「反日世代」である。 反日教育の効果が大々的に現れたのは、2005年に中国でおきた全国規模の反日デモ、そしてデモがやがて群衆的な反日暴動にエスカレートした。 2008年の四川大地震で、日本が官民を挙げて震災地を大いに支援したことで、そしてその後、中国人観光客が大勢日本にやってきて日本の実態をその目で見たことで、中国人の反日感情は幾分薄まった時期もある』、「愛国主義教育とセットした反日洗脳教育を国家的プロジェクトとして全力的に進めた。以来の35年間、中国では根強い反日感情を植え付けられた「反日世代」が生まれた。深圳での日本人児童殺害の犯人は44歳だと発表されているが、天安門事件では9歳、まさに反日教育の中で育った典型的な「反日世代」である・・・2008年の四川大地震で、日本が官民を挙げて震災地を大いに支援したことで、そしてその後、中国人観光客が大勢日本にやってきて日本の実態をその目で見たことで、中国人の反日感情は幾分薄まった時期もある」、なるほど。
・『「日本と日本人には何をしてもいい」 しかし2012年から始まった今の習近平政権下では、反米・反日が中国外交の基本戦略となり、好戦的な「戦狼外交」が基本姿勢となっている中で、反日教育と反日宣伝は以前よりも増して盛んになり、「日本敵視」「日本憎悪」が中国社会に蔓延して社会心理の底流となっている。 そしてこの数年間、習近平政権はまた、日本の福島処理水を「核汚染」だと決めづけて日本を徹底的に攻撃し、中国人の反日感情と日本憎悪をさらに強め、新たな反日ブームを作り出した。 こうした中で、中国の「戦狼外交官」たちがいっせいに日本に対する攻撃・恫喝を始めた。その典型例は今年5月20日、中国の呉江浩駐日大使が、台湾問題などとの関連で、「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言したことがあるが、それは中国人の反日感情をより一層刺激するだけでなく、「日本人をぶっ殺しても良い」との暗示的なメッセージを送ることとなった。 この発言の直後の6月に蘇州で日本人母子襲撃事件が起きたのも、今回の殺人事件が起きたのも、決して偶然ではない。まさにこの一連の流れの中で起きたものである。 そして今年になって「反日テロ」が集中的に起きたことの背景にはもう一つの要素がある。近年で起きた中国経済崩壊・大恐慌の中で失業が広がり、貧困層・中間層は生活が破壊されて社会的不満と怨念が高まった中で、こうした不満と怨念を「愛国無罪」を盾に、日本人に向かって発散するのが流行りとなってきている状況である』、「今の習近平政権下では、反米・反日が中国外交の基本戦略となり、好戦的な「戦狼外交」が基本姿勢となっている中で、反日教育と反日宣伝は以前よりも増して盛んになり、「日本敵視」「日本憎悪」が中国社会に蔓延して社会心理の底流となっている。 そしてこの数年間、習近平政権はまた、日本の福島処理水を「核汚染」だと決めづけて日本を徹底的に攻撃し、中国人の反日感情と日本憎悪をさらに強め、新たな反日ブームを作り出した。 こうした中で、中国の「戦狼外交官」たちがいっせいに日本に対する攻撃・恫喝を始めた。その典型例は今年5月20日、中国の呉江浩駐日大使が、台湾問題などとの関連で、「日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言したことがあるが、それは中国人の反日感情をより一層刺激するだけでなく、「日本人をぶっ殺しても良い」との暗示的なメッセージを送ることとなった・・・近年で起きた中国経済崩壊・大恐慌の中で失業が広がり、貧困層・中間層は生活が破壊されて社会的不満と怨念が高まった中で、こうした不満と怨念を「愛国無罪」を盾に、日本人に向かって発散するのが流行りとなってきている状況である」、なるほど。
・『中国政府は「反日テロ行為」を容認した このような状況は今後も続くのかとなると、残念ながら答えはやはりYesである。第一に、中国政府には再発防止に取り込むつもりは全くないこと。19日、中国外務省報道官は事件について、「どこの国でも起こりうること」だと強弁したが、その言わんとするところは要するに、「どこの国でも起こりうることだから中国政府の責任ではない」ということだ。 その一方、報道官は亡くなった日本人学校の男子に対して「追悼」の意を表しながらも、犯行自体を非難する言葉は一つも出なかった。政府の意向の忖度に長ける中国人からすれば、それは要するに、中国政府は本心においてはこうした「反日テロ行為」を基本的に容認しているということになっている。 さらに言えば、反日感情が多くの中国国民に蔓延している状況が根底にある以上、経済崩壊に伴う社会的不安の拡大は今後も続くから、そういう構造的な問題に変化がない限り、日本人に対する色な形でのテロ行為は今後も絶えることはないと断言できよう。 こうした中で中国在住の日本人の安全をどう守るかは大きな課題となっているが、中国国内では、どこから起きてくるか全く予測もできない散発的な「反日テロ」に対して満足な防備策はやはり無理。中国で生活している約10万人の日本人とその家族手たちが大使館員のように全く閉鎖された環境の中で暮らすことはできない。「街に出れば危険がある」というのは今後の現状である。 したがって、今にすでに始まった「反日テロの時代」においては、中国在住日本人の安全を守る唯一の最善策とは、日本人全員がこの「テロ国家」から引き上げることである』、「反日感情が多くの中国国民に蔓延している状況が根底にある以上、経済崩壊に伴う社会的不安の拡大は今後も続くから、そういう構造的な問題に変化がない限り、日本人に対する色な形でのテロ行為は今後も絶えることはないと断言できよう・・・すでに始まった「反日テロの時代」においては、中国在住日本人の安全を守る唯一の最善策とは、日本人全員がこの「テロ国家」から引き上げることである』、その通りだ。
次に、
日中関係(その7)(靖国神社の「放尿テロ」をマスコミが頑なに「落書き事件」と矮小化する あまりにもセコい理由、中国・日本人学校のバス襲撃 事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由、「日本人学校はスパイ養成機関」中国スクールバス襲撃を引き起こした“反日デマ動画”が支持される背景) [外交]
日中関係については、2022年6月9日に取上げた。久しぶりの今日は、(その7)(靖国神社の「放尿テロ」をマスコミが頑なに「落書き事件」と矮小化する あまりにもセコい理由、中国・日本人学校のバス襲撃 事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由、「日本人学校はスパイ養成機関」中国スクールバス襲撃を引き起こした“反日デマ動画”が支持される背景)である。
先ずは、本年6月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「靖国神社の「放尿テロ」をマスコミが頑なに「落書き事件」と矮小化する、あまりにもセコい理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/344959
・『「落書きをする前に放尿」 なぜマスコミは報じないのか ちょっと前、「報道の自由度ランキング」で、日本が世界180カ国中70位と先進国の中でずば抜けて低いということが話題になった。マスコミは「国家からの圧力ガー」と毎度お馴染みのサムい言い訳をしているが、海外の専門家たちはずいぶん昔から「記者クラブという日本独自の制度による自主規制が元凶でしょ」と冷ややかに指摘してきた。 わかりやすく言えば、「政府のおえらいさんがそうおっしゃっているんだから、そういう風に報じますね」という感じで、得意先に出入りする営業マンのようなサラリーマン記者の割合が、他国より多いのだ。 そんな「ムラ社会の自主規制」がこれ以上ないほどわかりやすく表れているのが、今回の「靖国神社の落書き事件」である。東京・靖国神社の石柱に中国人ユーチューバーが「toilet」(トイレ)とスプレーで落書きをした事件だが、実はその前にこの男性は「放尿」をしている。本人も日本テレビのインタビューで、「落書きをする前に、便所でやるべきことをやった」(日テレNEWS 6月4日)と認めているのだ。 しかし、マスコミ報道をご覧になるといい。タイトルは申し合わせたように「落書き事件」「落書き男」「靖国落書き」が圧倒的に多い。「放尿」という見出しが踊るのは、週刊誌メディアや個人の寄稿記事など、かなり少数派だ。これは世界の常識に照らし合わせれば、「異常な自主規制」である。 ご存知のように、靖国神社は宗教施設である。日本人の間でも色々な捉え方の違いがあるにしても、そこには亡くなった人たちの魂があるとされ、多くの人が参拝をしている事実がある。そういう「信仰」や「死者の魂」に対して放尿をするという侮辱行為は、「日本政府への抗議」いう次元とまったく異なる犯罪なのだ。 たとえば2012年、アメリカ海兵隊の兵士が、戦闘で亡くなったタリバン兵の遺体に放尿をする動画が流出、さらに米軍基地でイスラムの聖典コーランや宗教文書100点を焼却していたことがわかると国際社会で大きな批判に晒され、アフガニスタンでは抗議デモやテロが多発して多くの人が亡くなった。これを受けて米軍もこの兵士を処分、オバマ大統領(当時)も謝罪に追い込まれている。 つまり、激しく憎しみ合うような国家・民族間であっても、相手の信仰や尊厳を「放尿」で貶めるというのは、「人として超えてはいけない一線」なのだ。激しい紛争が続く中東でも、エルサレムやメッカで「放尿テロ」があったなどと聞かないではないか。) そんな許されざる行為が日本の宗教施設で起きた。本来ならばマスコミはこの蛮行を国内外に広く発信し、個人の犯罪とはいえ、中国政府に「遺憾」くらい言わせなくてはいけない。 が、現実のマスコミは「落書き事件」ばかりを報じて、「放尿」の事実には目をつぶって鎮火しようとしているようにさえ見える。これはさすがに「自主規制」を通り越して、「偏向報道」と言わざるを得ない。 という話を聞くと、ネットやSNS界隈の皆さんは「親中マスゴミのもとに中南海(中国共産党中央幹部)から報道統制のお達しが出たのだ」というストーリーが頭に浮かぶだろう』、「激しく憎しみ合うような国家・民族間であっても、相手の信仰や尊厳を「放尿」で貶めるというのは、「人として超えてはいけない一線」なのだ。激しい紛争が続く中東でも、エルサレムやメッカで「放尿テロ」があったなどと聞かないではないか。) そんな許されざる行為が日本の宗教施設で起きた。本来ならばマスコミはこの蛮行を国内外に広く発信し、個人の犯罪とはいえ、中国政府に「遺憾」くらい言わせなくてはいけない。 が、現実のマスコミは「落書き事件」ばかりを報じて、「放尿」の事実には目をつぶって鎮火しようとしているようにさえ見える。これはさすがに「自主規制」を通り越して、「偏向報道」と言わざるを得ない」、なるほど。
・『警視庁や外務省の顔色をうかがう セコすぎるサラリーマン意識 しかし、実際にマスコミで働いていた経験から言わせていただくと、現実はそういうダイナミックな話ではなく、もっとセコい。今回、マスコミが「落書き事件」を連呼しているのは、会見やレクで世話になっている警視庁や外務省にトンマナ(注)を合わせているだけなのだ。 日本のマスコミ記者たちは新人時代から、警察や役人への「裏取り取材」を叩き込まれるのだが、そこで彼らが使う用語・呼称も忠実に真似ることも徹底させられる。なぜかと言うと、「役所や警察の言う通りのニュースを流しておけばクレームも入らないし、もし誤報でも役所や警察のせいにできる」からだ。要するに、報道機関としての信頼を守るための「企業防衛」の一環だ。) この手の「従業員テロ」が大炎上するのは日本も中国も変わらない。SNSには「気持ち悪い」「もう一生、青島ビールは飲みたくない」「中国の食品の安全性が改めて問われる事件だな」という批判から、「ライバル会社の妨害工作では」なんて陰謀論まで持ち上がり、大騒動になった。その後、地元当局はこの放尿男を行政勾留処分にして、青島ビールも謝罪に追い込まれた。 さて、ここまで言えばもうおわかりだろう。 もし今回の「靖国放尿テロ」に日本政府が大騒ぎをして、国際社会で注目を集めたら、国内外で起きている「放尿トラブル」も脚光を浴びる。そうなると、「中国人=あたり構わず放尿をする民族」というネガイメージが世界に広がってしまう恐れがあるのだ。 ▽習主席が頭を抱える中国人の放尿トラブル(そう聞くと、「いやいや、確かに不名誉な話ではあるけれど、そんなことくらいで習近平に恩を売れないでしょう」と冷笑する人も多いだろうが、「中国人の放尿問題」をナメてはいけない。実は「中国人=あたり構わず放尿をする」というネガイメージは、習近平主席が今最も頭を痛めている「反中感情」に結びついて、「反中デモ」にまで発展してしまうことがわかっている。 わかりやすいのは香港だ。現在は国家安全維持法などにより中国批判への取り締まりがかなり厳しくなったが、2019年の民主化デモのように、かつては「反中感情」が非常に大きな盛り上がりを見せた。「放尿」がそのトリガーになったこともある。 2014年4月、繁華街で中国人観光客が、尿意を催した子どもに路上で立ちションをさせた。その様子を香港人が撮影した動画がネットで拡散して、「本土の連中はもう来ないでくれ」「文明レベルが違いすぎる」という反中感情に一気に火がついたのだ。しかも、話はそれで終わらない。それからほどなくしてあったメーデーの反中デモで、こんなシュプレヒコールが上がった。 「道路で大便、小便をするな!」(AERA 2014年6月9日) 子どもの路上での立ちション動画ですら、香港人の「反中感情」がここまで高まったという事実がある。つまり、今回の「宗教施設に対する放尿テロ動画」も、やりようによっては国際的な反中運動を仕掛けることもできたのだ。) たとえば今、南シナ海問題で中国と緊張が高まっているフィリピンや、脅威が間近に迫る台湾、そしてかつてないほど反中感情が強まっているアメリカなどと連携して、習近平主席への牽制ネタにすることもできた。 もしトランプ氏だったら、「日本の神聖な場所で放尿をするように、最近中国人はよその国でやりたい放題だ。民主主義を守ためにも南シナ海や台湾海峡でこれ以上勝手に“放尿”することは許さない」なんて意地の悪い挑発をするだろう。そして、緊張を極限まで高めておいてから得意の「ディール」(取引)に持っていくはずだ。 しかし、岸田首相と日本政府はそういう道を選ばず、自ら「落書き」と騒ぎを小さくした。なんの考えもなく、中国共産党をかばうほどのバカではないと信じたいので、やはりこれは「習近平に恩を売った」ということではないか。 ▽日中のトップはハッピーだが国民にとってはこの上なく不幸(いずれにせよ、「靖国放尿テロ」を「落書き」として鎮火してくれた岸田首相に、習近平主席は悪印象を抱かないだろう。夏の首脳会談は現実味を帯びてきた。「ご褒美」として、日本産水産物禁輸解除は無理だとしても、金正恩主席への橋渡しくらいはしてくれるだろう。 今回の対応は、岸田首相も続投が見えてハッピーだし、習近平主席も反中感情が盛り上がらずハッピーだが、日本人にとっては「不幸」なことこの上ない。 「スシローペロペロ少年」やバイトテロ動画を例に出すまでもなく、愚かな動画を撮る人たちは、バズった人のアクションを模倣する。つまり、中国や韓国の迷惑系ユーチューバーのような人たちが「靖国放尿テロ」の動画に触発されて、靖国神社で同様の迷惑行為をする恐れが高いのだ。 本来、このようなことが起きれば、香港人が反中デモをしたように、国民が激しい怒りを見せて、不届者たちに「これはさすがにやりすぎだ」と知らしめなくてはいけない。しかし、今回は日本政府が「落書き」などと率先して火消しをしたこともあって、国民もそれほど怒っていない。 中国や韓国の迷惑系ユーチューバーたちは思いっきりナメるだろう。「放尿してもこれだけってことは、靖国でもっと過激なことやっても、ぜんぜんOKじゃん」――。 これから放尿がかわいく思えるような、侮辱的な迷惑行為を仕掛けてくる恐れもある。かつてあったが、放火騒ぎなども想定すべきだろう。 国を滅ぼすのは、「侵略」だけではない。その国の人々が大切にしている宗教や、先祖への想いを侮辱して、誇りを捨てさせることも国家滅亡につながっていく。そのあたりの危機感が岸田政権にはかなり希薄なようで、残念でならない』、
「日本のマスコミ記者たちは新人時代から、警察や役人への「裏取り取材」を叩き込まれるのだが、そこで彼らが使う用語・呼称も忠実に真似ることも徹底させられる。なぜかと言うと、「役所や警察の言う通りのニュースを流しておけばクレームも入らないし、もし誤報でも役所や警察のせいにできる」からだ。要するに、報道機関としての信頼を守るための「企業防衛」の一環だ」、情けない話だ。「今回の対応は、岸田首相も続投が見えてハッピーだし、習近平主席も反中感情が盛り上がらずハッピーだが、日本人にとっては「不幸」なことこの上ない。 「スシローペロペロ少年」やバイトテロ動画を例に出すまでもなく、愚かな動画を撮る人たちは、バズった人のアクションを模倣する。つまり、中国や韓国の迷惑系ユーチューバーのような人たちが「靖国放尿テロ」の動画に触発されて、靖国神社で同様の迷惑行為をする恐れが高いのだ」、その通りだ。
(注)トンマナ:トーン&マナーの略称で、デザインやスタイル、文言などに一貫性をもたせるルールのこと
次に、6月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した中国アジアITライターの山谷剛史氏による「中国・日本人学校のバス襲撃、事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/346298
・『中国・蘇州で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われ、日本人の親子が怪我を負った。親子を守ろうとした中国人女性は亡くなった。中国人男性がバスを襲った動機は明らかになっていないが、中国国内ではいくつかの説が出てきている。実は中国では昨今、SNSで「日本人学校を叩く動画」が人気を得ており、その影響ではないかというものだ。もちろん襲撃との因果関係が立証されたわけではないが、事件を読み解く手がかりとして、動画の中身や拡散されている背景を解説していきたい』、興味深そうだ。
・『「日本人学校を叩く動画」がバズる!? 中国の異様なネット空間 6月24日午後、中国・上海に近い江蘇省蘇州で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った50代男性に襲われ、日本人の親子が負傷する事件があった。そして残念ながら、襲撃を阻止しようと体を張った中国人女性は亡くなってしまった。蘇州市はこの女性に「義勇」の称号を与えて表彰するという。 中国メディアは事件発生当初、この話題について報じなかった。翌25日の午後あたりから報じ始めたが、犯人の動機には言及していないままだ。中国外務省は「偶発的な事件」「外国人を狙ったものではない」と主張しているという。 ただし、こうした襲撃事件が「たまたま起きる」はずがない。中国では先日も、吉林省の公園で米国人が中国人男性に刺される事件が起きたばかりだ。これを踏まえて、経済的な観点から、「不景気による生活苦から襲撃事件が起きたのではないか」という指摘が出てきている。 一方、スクールバス襲撃事件を起こした人物の動機とどこまで関連しているかは分からないが、実は今、一部の中国人や在中日本人の間で「動画を中心とした反日ネット言論が、襲撃者の心理に大きな影響を与えたのではないか」という説が浮上している。 というのも、「TikTok」運営元のByteDanceが中国向けに展開しているショート動画サービス「抖音(ドウイン)」や、その競合サービスに当たる「快手(クワイショウ)」を見てみると、確かに異常な状況になっている。 「中国にある日本人学校」を叩く動画が多数投稿されているのだ』、「一部の中国人や在中日本人の間で「動画を中心とした反日ネット言論が、襲撃者の心理に大きな影響を与えたのではないか」という説が浮上している。 というのも、「TikTok」運営元のByteDanceが中国向けに展開しているショート動画サービス「抖音(ドウイン)」や、その競合サービスに当たる「快手(クワイショウ)」を見てみると、確かに異常な状況になっている。 「中国にある日本人学校」を叩く動画が多数投稿されているのだ」、なるほど。
・『「日本人学校」を叩く動画の阿鼻叫喚のコメント欄とは? そのコメント欄では、今回の襲撃事件を絶賛するコメントや、親子を守って亡くなった中国人女性を非難するコメントが目立つ。もともと反日感情を持っていた人物が、こうした動画を見て恨みを増幅させ、日本人に何らかの危害を加えてもおかしくない状況ではある。 そもそも、なぜ日本人学校が「ネットの中傷」の標的にされているのか。明確なきっかけはないが、まずは2022年9月、ネット上に「日本人学校が中国人の入学を認めていない」ことを批判する動画が投稿された。これは全くといっていいほど反応がなかった。 だが、翌2023年の春節に「日本人学校の運動会の宣誓で、小学生が『上海は我々のもの、浙江省も我々のものだ』と叫んだ」というデマ動画が流れ、大きく拡散された。中国のプラットフォーム側(SNS運営企業など)がデマだと説明して収まったが、それでも一部の中国人は「日本人学校」を不愉快な存在として認識し続けていたのだろう。 その後、悪い意味で行動力のある中国人ネットユーザーが日本人学校を探したり、「日本人学校の前で日本人を倒す」といった趣旨の茶番劇を演じたりするようになった。そして、そうした動画コンテンツにファンがついて盛り上がるようになった。実はスクールバス襲撃事件の10日前にも、日本人学校をネタにする動きが中国のネット上で再燃していた。 もちろん、現時点ではそうした動画と襲撃事件との関連性は立証されていない。だが、ネット上で一連の動きがあった末に、6月24日に痛ましい事件が起きたのは事実である。 それにしても、中国のSNSにおける「日本人学校叩き」には謎が多い。中国での過去の反日運動を振り返ってみると、尖閣諸島の領有権が取り沙汰されたタイミングや、歴代首相が靖国神社に参拝したタイミングで盛り上がっていた。福島第一原子力発電所における「処理水の海洋放出問題」が議論されていた時期も同様だ。このように、何らかのトリガー(きっかけ)があったからこそ反日運動が過熱したと言える。 だが今回は、日本叩きのトリガーになるような出来事はほとんどない。むしろ、Huaweiへの制裁を加速させている米国のほうが、中国人の反感をかき立てるような政策を展開している』、「悪い意味で行動力のある中国人ネットユーザーが日本人学校を探したり、「日本人学校の前で日本人を倒す」といった趣旨の茶番劇を演じたりするようになった。そして、そうした動画コンテンツにファンがついて盛り上がるようになった。実はスクールバス襲撃事件の10日前にも、日本人学校をネタにする動きが中国のネット上で再燃していた。 もちろん、現時点ではそうした動画と襲撃事件との関連性は立証されていない。だが、ネット上で一連の動きがあった末に、6月24日に痛ましい事件が起きたのは事実である・・・今回は、日本叩きのトリガーになるような出来事はほとんどない。むしろ、Huaweiへの制裁を加速させている米国のほうが、中国人の反感をかき立てるような政策を展開している」、なるほど。
・『過激な動画でファンを集めれば ネット通販で稼げる!? 実際、中国のECサイトを見てみても、米国のトランプ前大統領やバイデン現大統領を模したパンチングマシンなど、米国をなじるための商品が多く売られている。その一方で、岸田文雄首相をなじるグッズはほぼない。政策面や政府要人の動きに関して、ここ最近の日本は反日運動のトリガーを引いていないのだ。 にもかかわらず、なぜ「日本人学校」をネタにする動画が拡散されるようになったのか。その一因として考えられるのが、中国の独特なネット空間の在り方である。 中国はスマホ社会だ。新型コロナウイルスの感染が広がっていた時期は、世界でも珍しい「デジタルを徹底活用した監視」によってゼロコロナ政策を持続しようとした。 結局は感染拡大を抑えられずやめてしまったが、このゼロコロナ政策は中国人のスマホ利用を促進する効果を生んだ。スマホユーザーは中高年を中心に都市農村を問わず増え、2023年末時点で11億人弱に達した(CNNIC調べ)。そして、そのほとんどが、前述したドウインやクワイショウ、メッセンジャーアプリの微信(WeChat)を利用するようになった。 ご存じの通り、中国は政府の情報統制によってYouTubeやX(旧Twitter)などの利用が禁じられている。一般読者はこの点について、「中国人はVPNなどを駆使して『ネットの壁』を超え、YouTubeやXを楽しんでいるのでは」と思っているかもしれない。だが実際はそうとは限らず、中国人はあまり「壁の外」に出ようとしない。SNSは知人がいてこそ楽しく、動画サイトも自分たちの趣味嗜好に合うコンテンツがあってこそ楽しめるからだ。 中国国内で満足できるサービスとコンテンツが十分にあるため、特に目的がない限り、「壁の外」に行こうとする人はいないのである。 このガラパゴス化したネット社会では、新たなECの手法が普及しつつある。ドウインなどの動画配信プラットフォームが「ECサイト」としての機能を持ち、動画配信者が商品を販売できるのだ。配信者がドウインで商品を売って儲けるためには、多くの人々に刺さるテーマで面白い動画を配信し、ファン(YouTubeでいうところのチャンネル登録者数)を増やす必要がある』、「ガラパゴス化したネット社会では、新たなECの手法が普及しつつある。ドウインなどの動画配信プラットフォームが「ECサイト」としての機能を持ち、動画配信者が商品を販売できるのだ。配信者がドウインで商品を売って儲けるためには、多くの人々に刺さるテーマで面白い動画を配信し、ファン(YouTubeでいうところのチャンネル登録者数)を増やす必要がある」、なるほど。
・『事件後に動画削除… 人気反日インフルエンサー「凌一」とは 動画を配信してファンを集めれば、単に再生数を稼げるだけでなく、その動画をきっかけに商品を買ってもらえる。この手法がコロナ禍以降(特に去年)から広く知られるようになった。中国のECサイトはAlibabaが手掛ける「淘宝網(タオバオ)」が主流だと思っている人もいるかもしれないが、それは昔の話。今はタオバオのライバルは多数ある。 なぜECの話をしたかというと、ドウイン上で活動している反日系インフルエンサーも、この手法で稼いでいるからだ。特に「凌一」という人物は60万人を超えるフォロワーを獲得し、ファンにとっては痛快な「抗日茶番動画」を出しながら商品を売っていたことが分かっている。 ちなみに、「凌一」は名門である「中央民族大学」の学生だとされている。だが冒頭のスクールバス襲撃事件後、この人物の動画は削除された。 中国政府によるコンテンツ規定では、暴力・ポルノ・ギャンブル・自国(中国)の否定・民族蔑視・誹謗中傷などは禁じられている。ドウインやクワイショウなど、全てのプラットフォームがそれに従っている。年に一度、あらゆるサービスから不良コンテンツを一掃する「浄網」という取り組みも行われ、規定違反の動画は全て消されている。 ところが、この「民族蔑視や誹謗中傷の禁止」は外国には当てはまらないようだ。反日系動画はずっと放置されたままで、このことがファンをさらに喜ばせている。 日本以外の国に関しては「何でもかんでも動画のネタにする」いうわけではなく、イスラエルによるガザ侵攻に心を痛めている中国人も多い。だが困ったことに、反日系コンテンツは動画プラットフォームで受け入れられやすい。 なぜかと言うと、中国人は日本のことを古くからよく知っているからだ。 そもそもSNSが普及する前の時代から、第二次世界大戦などを舞台にした「母国の英雄が日本兵を倒す」という趣旨の作品がテレビドラマでよく流れていた。中国人が日常的に触れてきたものであり、知人との共通の話題にもなりやすい。 また50代以上の人は文化大革命を経験した結果、ハイテクや新しい知識にやや弱いという傾向がある。悪い日本人を倒すというシンプルで分かりやすいストーリーを真に受け、嘘の寸劇を嘘と見抜けないまま、のめり込んでいる人もいるだろう』、「ドウイン上で活動している反日系インフルエンサーも、この手法で稼いでいるからだ。特に「凌一」という人物は60万人を超えるフォロワーを獲得し、ファンにとっては痛快な「抗日茶番動画」を出しながら商品を売っていたことが分かっている・・・反日系コンテンツは動画プラットフォームで受け入れられやすい。 なぜかと言うと、中国人は日本のことを古くからよく知っているからだ。 そもそもSNSが普及する前の時代から、第二次世界大戦などを舞台にした「母国の英雄が日本兵を倒す」という趣旨の作品がテレビドラマでよく流れていた。中国人が日常的に触れてきたものであり、知人との共通の話題にもなりやすい」、なるほど。
・『中国のネット空間で回り続ける「反日動画で稼ぐ」サイクル 今では家電からゲーム・アニメ・ポルノに至るまで、中国では日本のものがよく知られている。だからこそ、日本のネガティブな側面についても、さらに関心を持たれやすくなっている。 インフルエンサーが日本を茶化した動画を作り、視聴者が日本に腹を立てれば立てるほど、反日動画はさらに拡散される。動画が話題になってフォロワーが増えると、商品がさらに売れる。中国の独特なネット社会では今、そうしたサイクルが回っているのだ。 日本では少し前に、靖国神社に落書きして小便をかけた中国人男性「鉄頭」が批判を集めた。この行動は日本人にとっては大迷惑だったかもしれないが、「鉄頭」にとっては、中国のネット社会で一部ユーザーに支持される「悪い国への勧善懲悪」を行ったにすぎない。実は彼もSNSユーザーであり、こうした行動でファンを集めていた。 いわば今の中国人にとって、「カネ」や「フォロワー獲得」が反日運動のトリガーになっているのである。カネ目当てでつくられた動画が、視聴者の問題行動を誘発したとしてもおかまいなしだ。抜本的な対策が講じられない限り、日本は今後も中国人インフルエンサーのネタにされ続けるだろう。 なお中国の主要メディア各社は、日本人親子を体を張って守り抜いた中国人女性が、蘇州市から表彰されたことを報道している。これは彼女の行動が勇敢なものであり、相手が日本人であれ、他人を傷つけるのは間違いだというメッセージを中国のネットユーザーに発信したものだと筆者は解釈している。今回の報道を機に、中国の対日ネット世論の「常識」が少しでも変わることを願うばかりだ』、「いわば今の中国人にとって、「カネ」や「フォロワー獲得」が反日運動のトリガーになっているのである。カネ目当てでつくられた動画が、視聴者の問題行動を誘発したとしてもおかまいなしだ。抜本的な対策が講じられない限り、日本は今後も中国人インフルエンサーのネタにされ続けるだろう」、困ったことだが、覚悟する必要がある。
第三に、7月7日付けYahooニュースが転載したダイヤモンド・オンライン、日中福祉プランニング代表の王 青氏による「「日本人学校はスパイ養成機関」中国スクールバス襲撃を引き起こした“反日デマ動画”が支持される背景」を紹介しよう。
・『中国・蘇州で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われる事件があり、犯人の男に立ち向かった中国人女性が亡くなった。この他にも中国では、外国人を対象にした無差別殺傷事件が起きている。背景にあるのは、中国社会の閉塞感や経済不況、そして今も続く反日教育だ。中国では今も反日ドラマや映画がたくさん放映されているほか、SNSも閉鎖的で海外の情報に触れることが難しい。さらに昨今は「日本人学校はスパイを養成している」といったデマ動画が拡散されSNSで人気を集めている。なぜ反日動画は多くの中国人に支持され、デマを信じる人が減らないのか、その理由と実態を紹介したい』、興味深そうだ。
・『日本人学校のスクールバスが襲われ、中国人女性が亡くなった 6月24日、中国の江蘇省蘇州市で、痛ましい事件が起きた。日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子2人が刃物を持った中国人男性に襲われ、怪我を負ったのである。バスの案内係で、身を挺して男の犯行を止めようとした中国人女性・胡友平さんは、男に何度も刺されて2日後に命を落とした。この悲劇的なニュースは、日中両国に大きな衝撃を与えた。 SNSでは胡さんを悼み、たたえる声が溢れた。日本では、「日本の子どもたちを守る勇気と行動に感謝いたします。亡くなられたことは残念でなりません。ご冥福をお祈りします」「日本人をかばい、身を挺して亡くなられた胡さん、あなたの名前は忘れません」といったコメントが殺到した。 中国でも同様に、胡さんへの哀悼と感謝の意を示す書き込みが多数寄せられた。「私のような男でも、あの場面に遭遇したら、胡さんのように身の危険を顧みず、犯人を制止できるか、自信を持って言えない。胡さんの勇気に敬意を表します」「一人の普通の女性が、自分の命で暴徒と戦い、彼女が救ったのは日本の子どもたちだけではなく、わが国の体面も保ったのだ。我が国にも善良で勇気のある人がいるということを世界に示すことができた」といった声が上がっている。また、最近の中国では、高齢者や急病人が道で倒れていても誰も助けないという社会現象もある中で、胡さんの行動は多くの人に感動を与えたというコメントも多く見られた。 このように、日中両国において胡さんへの賛美の声が上がり、涙を誘うような雰囲気が広がっている』、「最近の中国では、高齢者や急病人が道で倒れていても誰も助けないという社会現象もある中で、胡さんの行動は多くの人に感動を与えた」、なるほど。
・『日本人学校についてのデマ動画が拡散、その内容は…… しかし、なぜこのような事件が起きたのか、犯人はどんな心境でどういう目的で犯行に及んだのか、それらを検証しないと、また同じことが繰り返される恐れがある。実際、この事件のわずか2週間前に、中国吉林省の公園で米国人大学講師4人が中国人男性に刃物で刺され負傷する事件が起きている。1か月のうちに2回も似たような事件が発生したことから、これらを単なる「偶発的な事件」とは考えにくい。 今回の事件で標的になったのが日本人学校であることは注目に値する。近年、中国のSNSでは日本を貶める過激な書き込みや動画が増加している。特に一部の人々が閲覧数を稼ぎ、フォロワー数を増やし、最終的にはライブ配信での商品販売につなげるため、手段を選ばず、根拠のない情報を動画に盛り込むケースが目立っている。 約2年前から、日本人学校をめぐって、SNSではさまざまなデマが飛び交うようになっている。それらは主に次のようなものだ。 「日本人学校は実はスパイの養成機関、あるいは軍事基地だ。日本人の学生だけを受け入れ、中国人が入学できないのはなぜだ」 「日本人の学生たちは、中国で測量や地図作成をしている。戦争の準備のためだ」 「日本人学校が制裁対象となった。すべての海外の教育機関が我が国の関連部門によって監督され、学生の愛国心教育を強化することが求められている」 さらに、昨年頃から流布している動画は、上海にある日本人学校と思われる場所の映像で、2人の学生代表が「上海はわれわれのもの、浙江省もわれわれのものだ、もうすぐ中国もわれわれのものだ」と叫んだとされる映像だ。この動画には中国語のナレーションが付けられ、「日本人の学生は我が領土で、われわれの食べ物を食べ、水を飲む。われわれを死なせるがん細胞のようにわれわれの体に寄生している。消滅すべきだ」という内容だった。この動画のアクセス数は1億回に上ったという』、「この事件のわずか2週間前に、中国吉林省の公園で米国人大学講師4人が中国人男性に刃物で刺され負傷する事件が起きている。1か月のうちに2回も似たような事件が発生したことから、これらを単なる「偶発的な事件」とは考えにくい・・・昨年頃から流布している動画は、上海にある日本人学校と思われる場所の映像で、2人の学生代表が「上海はわれわれのもの、浙江省もわれわれのものだ、もうすぐ中国もわれわれのものだ」と叫んだとされる映像だ。この動画には中国語のナレーションが付けられ、「日本人の学生は我が領土で、われわれの食べ物を食べ、水を飲む。われわれを死なせるがん細胞のようにわれわれの体に寄生している。消滅すべきだ」という内容だった。この動画のアクセス数は1億回に上ったという」、デマ動画でも「アクセス数は1億回」とは恐ろしいことだ。
・『デマ動画の元になった動画の投稿者に話を聞いた 今回、このデマ動画の元になった動画の製作者である東京在住の中国人男性インフルエンサー、Aさんに話を聞くことができた。 Aさんは次のように語った。「この動画は、2019年秋に、娘が通う小学校の運動会の一部を撮影したものです。日本の小学校の運動会でよく見られる儀式で、学生代表が先生たちに向かって宣誓するシーンでした。子どもたちの頑張っている姿に感動し、動画をWeChatにアップロードしたのです。その後、現在のように字幕を付けられて、まったく違うものとなってしまいました。夢にも思わなかった。恐ろしすぎて言葉が出ません……」 さらにAさんは、「実は、この動画は別のバージョンにも使われています。いずれも、動画の中の小学生がファシストの敬礼をしているとか、軍国主義思想を植え付けているといった内容です」と付け加え、深くためいきをついた。 その後、Aさんは自分のSNSアカウントにこの経緯を説明する動画を投稿。すると、「そうだったのか!?騙されたところだった」といったコメントがたくさん書き込まれた。 Aさんは、「国内のネットユーザーが、このように歪曲された動画に振り回され、憎悪と恐怖の中で生きるように仕向けられ、やがては暴力へと変貌して、罪の無い人々に害を与える。デマの餌食にならないよう、私は真実を伝えていく」と話している。 このような日本人学校を歪曲する動画は、他にも多数存在している。 周知の通り、中国にある日本人学校は、中国政府の法律規定に従って設立されたものだ。中国に滞在する日系企業駐在員の子どもたちが日本の教育を受けるための場所であり、日本国内の小中高と同等の教育課程が提供されている』、「この動画は、2019年秋に、娘が通う小学校の運動会の一部を撮影したものです。日本の小学校の運動会でよく見られる儀式で、学生代表が先生たちに向かって宣誓するシーンでした。子どもたちの頑張っている姿に感動し、動画をWeChatにアップロードしたのです。その後、現在のように字幕を付けられて、まったく違うものとなってしまいました。夢にも思わなかった。恐ろしすぎて言葉が出ません……・・・このような日本人学校を歪曲する動画は、他にも多数存在している」、本当に困ったことだ。
・『5歳児が「日本に行ったら殺されない?」今も続く反日教育 日本人学校に対する誤った認識が広がる背景には、大多数の中国人がFacebookやYouTubeなどの海外のコンテンツにアクセスできないという事情がある。中国国内では「抖音(ドウイン)」や「快手(クアイショウ)」「WeChat動画」などのプラットフォームしか利用できない。 さらに、中国のテレビでは今でも抗日映画やドラマが日常的に放送されている。中国にいるとき、ホテルの部屋でテレビを付けると、視聴可能な40以上のチャンネルのうち、約半数で抗日をテーマにした長編ドラマが放送されていた。こうした環境に日々さらされれば、人々の反日感情があおられるのも無理はないと感じた。 中国では反日教育が行われてきたことは日本でも広く知られているが、残念ながらそれは過去の話ではなく、今ももちろん続いている。 先日、久しぶりに会った友人の話には考えさせられた。彼女はもともと中国の出身だが、日本国籍を取り、今は中国で仕事をしている。彼女には中国で生まれ育った5歳の娘がいるのだが、日々、抗日戦争の物語や抗日映画などにより、「日本が中国を侵略した歴史」を教えられているという。 今回、彼女は娘を連れて夏休み期間中に日本に一時帰国することにしたのだが、幼稚園のお友だちから「○○ちゃんは、日本に行ったら殺されない?大丈夫?」と心配されたというのだ。彼女はその話を聞いて怖くなってきたと話す。「もう子どもを連れて日本に帰った方がいいかな」と悩んでいた』、「大多数の中国人がFacebookやYouTubeなどの海外のコンテンツにアクセスできないという事情がある・・・中国のテレビでは今でも抗日映画やドラマが日常的に放送されている。中国にいるとき、ホテルの部屋でテレビを付けると、視聴可能な40以上のチャンネルのうち、約半数で抗日をテーマにした長編ドラマが放送されていた。こうした環境に日々さらされれば、人々の反日感情があおられるのも無理はないと感じた」、なるほど。
・『外国人をターゲットに無差別殺傷事件を起こせば注目される コロナ禍が終息しても、中国経済の回復は思うように進んでおらず、失業率は高止まりしたままである。「以前より生活が苦しくなった」という声をよく耳にする。そうした中で、生活苦に陥った人々が一種の「社会への報復」として無差別殺傷事件を起こすケースが、最近中国各地で発生している。 攻撃の対象が同じ中国人であれば、ニュースになってもすぐに消されるし、あまり注目もされない。一方で、「外国人をターゲットにすれば、海外メディアに取り上げられて話題になる」という思惑があるという指摘もある。 蘇州の日本人親子や吉林省の米国人教師への襲撃事件は、中国から外資企業の撤退を加速させてしまう可能性がある。タイミングの悪いことに、蘇州の事件の1週間前、東京のホテルニューオータニでは蘇州市政府による「投資誘致イベント」が開催されたばかりだった。蘇州市副市長が出席し、「多方面にわたる蘇州の優れた投資環境」をアピールしたという。出席した関係者の一人は、「実質的で具体的な内容がほとんどなく、出席した日本企業もそれほど多くなかった。冷めた様子だった」と語っている。 蘇州だけではなく、昨年から中国各地の地方政府が相次いで日本を訪れ、日本の経済界に「我が省・市へ積極的な投資を」と呼びかけている。しかしその一方で、外国人に危害を加える国内の環境は周知の通りである。反米や反日といった言論や動きは、ブーメランのように経済に打撃を与えるスパイラルに陥る可能性があると、中国国内の経済専門家らは危惧している』「外国人に危害を加える国内の環境は周知の通りである。反米や反日といった言論や動きは、ブーメランのように経済に打撃を与えるスパイラルに陥る可能性があると、中国国内の経済専門家らは危惧」、大いに「危惧」すべきだ。
・『中国のIT大手各社が、SNSへの反日的な投稿の規制を始めた こうした動きを受け、6月末、テンセントやウェイポ、ドウインといった中国のIT大手各社が、SNSへの反日投稿の規制を始めたと報じられている。 冒頭で紹介したSNSの声が胡友平さんを悼み、たたえるものが多く、犯人を支持したり日本人の子どもたちを貶めるものが少なくなったのは、その影響もあるのかもしれない。 SNSでは「胡さんは、外資の流出を食い止めてくれた。わが国の雇用に貢献した。ありがとう!」といったコメントも多く見られる。せめて、胡さんの死を無駄にしないよう、日中関係が少しでも改善されることを祈るばかりだ』、「中国のIT大手各社が、SNSへの反日投稿の規制を始めたと報じられている」、「日中関係が少しでも改善されることを祈るばかりだ」、同感である。
先ずは、本年6月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「靖国神社の「放尿テロ」をマスコミが頑なに「落書き事件」と矮小化する、あまりにもセコい理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/344959
・『「落書きをする前に放尿」 なぜマスコミは報じないのか ちょっと前、「報道の自由度ランキング」で、日本が世界180カ国中70位と先進国の中でずば抜けて低いということが話題になった。マスコミは「国家からの圧力ガー」と毎度お馴染みのサムい言い訳をしているが、海外の専門家たちはずいぶん昔から「記者クラブという日本独自の制度による自主規制が元凶でしょ」と冷ややかに指摘してきた。 わかりやすく言えば、「政府のおえらいさんがそうおっしゃっているんだから、そういう風に報じますね」という感じで、得意先に出入りする営業マンのようなサラリーマン記者の割合が、他国より多いのだ。 そんな「ムラ社会の自主規制」がこれ以上ないほどわかりやすく表れているのが、今回の「靖国神社の落書き事件」である。東京・靖国神社の石柱に中国人ユーチューバーが「toilet」(トイレ)とスプレーで落書きをした事件だが、実はその前にこの男性は「放尿」をしている。本人も日本テレビのインタビューで、「落書きをする前に、便所でやるべきことをやった」(日テレNEWS 6月4日)と認めているのだ。 しかし、マスコミ報道をご覧になるといい。タイトルは申し合わせたように「落書き事件」「落書き男」「靖国落書き」が圧倒的に多い。「放尿」という見出しが踊るのは、週刊誌メディアや個人の寄稿記事など、かなり少数派だ。これは世界の常識に照らし合わせれば、「異常な自主規制」である。 ご存知のように、靖国神社は宗教施設である。日本人の間でも色々な捉え方の違いがあるにしても、そこには亡くなった人たちの魂があるとされ、多くの人が参拝をしている事実がある。そういう「信仰」や「死者の魂」に対して放尿をするという侮辱行為は、「日本政府への抗議」いう次元とまったく異なる犯罪なのだ。 たとえば2012年、アメリカ海兵隊の兵士が、戦闘で亡くなったタリバン兵の遺体に放尿をする動画が流出、さらに米軍基地でイスラムの聖典コーランや宗教文書100点を焼却していたことがわかると国際社会で大きな批判に晒され、アフガニスタンでは抗議デモやテロが多発して多くの人が亡くなった。これを受けて米軍もこの兵士を処分、オバマ大統領(当時)も謝罪に追い込まれている。 つまり、激しく憎しみ合うような国家・民族間であっても、相手の信仰や尊厳を「放尿」で貶めるというのは、「人として超えてはいけない一線」なのだ。激しい紛争が続く中東でも、エルサレムやメッカで「放尿テロ」があったなどと聞かないではないか。) そんな許されざる行為が日本の宗教施設で起きた。本来ならばマスコミはこの蛮行を国内外に広く発信し、個人の犯罪とはいえ、中国政府に「遺憾」くらい言わせなくてはいけない。 が、現実のマスコミは「落書き事件」ばかりを報じて、「放尿」の事実には目をつぶって鎮火しようとしているようにさえ見える。これはさすがに「自主規制」を通り越して、「偏向報道」と言わざるを得ない。 という話を聞くと、ネットやSNS界隈の皆さんは「親中マスゴミのもとに中南海(中国共産党中央幹部)から報道統制のお達しが出たのだ」というストーリーが頭に浮かぶだろう』、「激しく憎しみ合うような国家・民族間であっても、相手の信仰や尊厳を「放尿」で貶めるというのは、「人として超えてはいけない一線」なのだ。激しい紛争が続く中東でも、エルサレムやメッカで「放尿テロ」があったなどと聞かないではないか。) そんな許されざる行為が日本の宗教施設で起きた。本来ならばマスコミはこの蛮行を国内外に広く発信し、個人の犯罪とはいえ、中国政府に「遺憾」くらい言わせなくてはいけない。 が、現実のマスコミは「落書き事件」ばかりを報じて、「放尿」の事実には目をつぶって鎮火しようとしているようにさえ見える。これはさすがに「自主規制」を通り越して、「偏向報道」と言わざるを得ない」、なるほど。
・『警視庁や外務省の顔色をうかがう セコすぎるサラリーマン意識 しかし、実際にマスコミで働いていた経験から言わせていただくと、現実はそういうダイナミックな話ではなく、もっとセコい。今回、マスコミが「落書き事件」を連呼しているのは、会見やレクで世話になっている警視庁や外務省にトンマナ(注)を合わせているだけなのだ。 日本のマスコミ記者たちは新人時代から、警察や役人への「裏取り取材」を叩き込まれるのだが、そこで彼らが使う用語・呼称も忠実に真似ることも徹底させられる。なぜかと言うと、「役所や警察の言う通りのニュースを流しておけばクレームも入らないし、もし誤報でも役所や警察のせいにできる」からだ。要するに、報道機関としての信頼を守るための「企業防衛」の一環だ。) この手の「従業員テロ」が大炎上するのは日本も中国も変わらない。SNSには「気持ち悪い」「もう一生、青島ビールは飲みたくない」「中国の食品の安全性が改めて問われる事件だな」という批判から、「ライバル会社の妨害工作では」なんて陰謀論まで持ち上がり、大騒動になった。その後、地元当局はこの放尿男を行政勾留処分にして、青島ビールも謝罪に追い込まれた。 さて、ここまで言えばもうおわかりだろう。 もし今回の「靖国放尿テロ」に日本政府が大騒ぎをして、国際社会で注目を集めたら、国内外で起きている「放尿トラブル」も脚光を浴びる。そうなると、「中国人=あたり構わず放尿をする民族」というネガイメージが世界に広がってしまう恐れがあるのだ。 ▽習主席が頭を抱える中国人の放尿トラブル(そう聞くと、「いやいや、確かに不名誉な話ではあるけれど、そんなことくらいで習近平に恩を売れないでしょう」と冷笑する人も多いだろうが、「中国人の放尿問題」をナメてはいけない。実は「中国人=あたり構わず放尿をする」というネガイメージは、習近平主席が今最も頭を痛めている「反中感情」に結びついて、「反中デモ」にまで発展してしまうことがわかっている。 わかりやすいのは香港だ。現在は国家安全維持法などにより中国批判への取り締まりがかなり厳しくなったが、2019年の民主化デモのように、かつては「反中感情」が非常に大きな盛り上がりを見せた。「放尿」がそのトリガーになったこともある。 2014年4月、繁華街で中国人観光客が、尿意を催した子どもに路上で立ちションをさせた。その様子を香港人が撮影した動画がネットで拡散して、「本土の連中はもう来ないでくれ」「文明レベルが違いすぎる」という反中感情に一気に火がついたのだ。しかも、話はそれで終わらない。それからほどなくしてあったメーデーの反中デモで、こんなシュプレヒコールが上がった。 「道路で大便、小便をするな!」(AERA 2014年6月9日) 子どもの路上での立ちション動画ですら、香港人の「反中感情」がここまで高まったという事実がある。つまり、今回の「宗教施設に対する放尿テロ動画」も、やりようによっては国際的な反中運動を仕掛けることもできたのだ。) たとえば今、南シナ海問題で中国と緊張が高まっているフィリピンや、脅威が間近に迫る台湾、そしてかつてないほど反中感情が強まっているアメリカなどと連携して、習近平主席への牽制ネタにすることもできた。 もしトランプ氏だったら、「日本の神聖な場所で放尿をするように、最近中国人はよその国でやりたい放題だ。民主主義を守ためにも南シナ海や台湾海峡でこれ以上勝手に“放尿”することは許さない」なんて意地の悪い挑発をするだろう。そして、緊張を極限まで高めておいてから得意の「ディール」(取引)に持っていくはずだ。 しかし、岸田首相と日本政府はそういう道を選ばず、自ら「落書き」と騒ぎを小さくした。なんの考えもなく、中国共産党をかばうほどのバカではないと信じたいので、やはりこれは「習近平に恩を売った」ということではないか。 ▽日中のトップはハッピーだが国民にとってはこの上なく不幸(いずれにせよ、「靖国放尿テロ」を「落書き」として鎮火してくれた岸田首相に、習近平主席は悪印象を抱かないだろう。夏の首脳会談は現実味を帯びてきた。「ご褒美」として、日本産水産物禁輸解除は無理だとしても、金正恩主席への橋渡しくらいはしてくれるだろう。 今回の対応は、岸田首相も続投が見えてハッピーだし、習近平主席も反中感情が盛り上がらずハッピーだが、日本人にとっては「不幸」なことこの上ない。 「スシローペロペロ少年」やバイトテロ動画を例に出すまでもなく、愚かな動画を撮る人たちは、バズった人のアクションを模倣する。つまり、中国や韓国の迷惑系ユーチューバーのような人たちが「靖国放尿テロ」の動画に触発されて、靖国神社で同様の迷惑行為をする恐れが高いのだ。 本来、このようなことが起きれば、香港人が反中デモをしたように、国民が激しい怒りを見せて、不届者たちに「これはさすがにやりすぎだ」と知らしめなくてはいけない。しかし、今回は日本政府が「落書き」などと率先して火消しをしたこともあって、国民もそれほど怒っていない。 中国や韓国の迷惑系ユーチューバーたちは思いっきりナメるだろう。「放尿してもこれだけってことは、靖国でもっと過激なことやっても、ぜんぜんOKじゃん」――。 これから放尿がかわいく思えるような、侮辱的な迷惑行為を仕掛けてくる恐れもある。かつてあったが、放火騒ぎなども想定すべきだろう。 国を滅ぼすのは、「侵略」だけではない。その国の人々が大切にしている宗教や、先祖への想いを侮辱して、誇りを捨てさせることも国家滅亡につながっていく。そのあたりの危機感が岸田政権にはかなり希薄なようで、残念でならない』、
「日本のマスコミ記者たちは新人時代から、警察や役人への「裏取り取材」を叩き込まれるのだが、そこで彼らが使う用語・呼称も忠実に真似ることも徹底させられる。なぜかと言うと、「役所や警察の言う通りのニュースを流しておけばクレームも入らないし、もし誤報でも役所や警察のせいにできる」からだ。要するに、報道機関としての信頼を守るための「企業防衛」の一環だ」、情けない話だ。「今回の対応は、岸田首相も続投が見えてハッピーだし、習近平主席も反中感情が盛り上がらずハッピーだが、日本人にとっては「不幸」なことこの上ない。 「スシローペロペロ少年」やバイトテロ動画を例に出すまでもなく、愚かな動画を撮る人たちは、バズった人のアクションを模倣する。つまり、中国や韓国の迷惑系ユーチューバーのような人たちが「靖国放尿テロ」の動画に触発されて、靖国神社で同様の迷惑行為をする恐れが高いのだ」、その通りだ。
(注)トンマナ:トーン&マナーの略称で、デザインやスタイル、文言などに一貫性をもたせるルールのこと
次に、6月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した中国アジアITライターの山谷剛史氏による「中国・日本人学校のバス襲撃、事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/346298
・『中国・蘇州で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われ、日本人の親子が怪我を負った。親子を守ろうとした中国人女性は亡くなった。中国人男性がバスを襲った動機は明らかになっていないが、中国国内ではいくつかの説が出てきている。実は中国では昨今、SNSで「日本人学校を叩く動画」が人気を得ており、その影響ではないかというものだ。もちろん襲撃との因果関係が立証されたわけではないが、事件を読み解く手がかりとして、動画の中身や拡散されている背景を解説していきたい』、興味深そうだ。
・『「日本人学校を叩く動画」がバズる!? 中国の異様なネット空間 6月24日午後、中国・上海に近い江蘇省蘇州で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った50代男性に襲われ、日本人の親子が負傷する事件があった。そして残念ながら、襲撃を阻止しようと体を張った中国人女性は亡くなってしまった。蘇州市はこの女性に「義勇」の称号を与えて表彰するという。 中国メディアは事件発生当初、この話題について報じなかった。翌25日の午後あたりから報じ始めたが、犯人の動機には言及していないままだ。中国外務省は「偶発的な事件」「外国人を狙ったものではない」と主張しているという。 ただし、こうした襲撃事件が「たまたま起きる」はずがない。中国では先日も、吉林省の公園で米国人が中国人男性に刺される事件が起きたばかりだ。これを踏まえて、経済的な観点から、「不景気による生活苦から襲撃事件が起きたのではないか」という指摘が出てきている。 一方、スクールバス襲撃事件を起こした人物の動機とどこまで関連しているかは分からないが、実は今、一部の中国人や在中日本人の間で「動画を中心とした反日ネット言論が、襲撃者の心理に大きな影響を与えたのではないか」という説が浮上している。 というのも、「TikTok」運営元のByteDanceが中国向けに展開しているショート動画サービス「抖音(ドウイン)」や、その競合サービスに当たる「快手(クワイショウ)」を見てみると、確かに異常な状況になっている。 「中国にある日本人学校」を叩く動画が多数投稿されているのだ』、「一部の中国人や在中日本人の間で「動画を中心とした反日ネット言論が、襲撃者の心理に大きな影響を与えたのではないか」という説が浮上している。 というのも、「TikTok」運営元のByteDanceが中国向けに展開しているショート動画サービス「抖音(ドウイン)」や、その競合サービスに当たる「快手(クワイショウ)」を見てみると、確かに異常な状況になっている。 「中国にある日本人学校」を叩く動画が多数投稿されているのだ」、なるほど。
・『「日本人学校」を叩く動画の阿鼻叫喚のコメント欄とは? そのコメント欄では、今回の襲撃事件を絶賛するコメントや、親子を守って亡くなった中国人女性を非難するコメントが目立つ。もともと反日感情を持っていた人物が、こうした動画を見て恨みを増幅させ、日本人に何らかの危害を加えてもおかしくない状況ではある。 そもそも、なぜ日本人学校が「ネットの中傷」の標的にされているのか。明確なきっかけはないが、まずは2022年9月、ネット上に「日本人学校が中国人の入学を認めていない」ことを批判する動画が投稿された。これは全くといっていいほど反応がなかった。 だが、翌2023年の春節に「日本人学校の運動会の宣誓で、小学生が『上海は我々のもの、浙江省も我々のものだ』と叫んだ」というデマ動画が流れ、大きく拡散された。中国のプラットフォーム側(SNS運営企業など)がデマだと説明して収まったが、それでも一部の中国人は「日本人学校」を不愉快な存在として認識し続けていたのだろう。 その後、悪い意味で行動力のある中国人ネットユーザーが日本人学校を探したり、「日本人学校の前で日本人を倒す」といった趣旨の茶番劇を演じたりするようになった。そして、そうした動画コンテンツにファンがついて盛り上がるようになった。実はスクールバス襲撃事件の10日前にも、日本人学校をネタにする動きが中国のネット上で再燃していた。 もちろん、現時点ではそうした動画と襲撃事件との関連性は立証されていない。だが、ネット上で一連の動きがあった末に、6月24日に痛ましい事件が起きたのは事実である。 それにしても、中国のSNSにおける「日本人学校叩き」には謎が多い。中国での過去の反日運動を振り返ってみると、尖閣諸島の領有権が取り沙汰されたタイミングや、歴代首相が靖国神社に参拝したタイミングで盛り上がっていた。福島第一原子力発電所における「処理水の海洋放出問題」が議論されていた時期も同様だ。このように、何らかのトリガー(きっかけ)があったからこそ反日運動が過熱したと言える。 だが今回は、日本叩きのトリガーになるような出来事はほとんどない。むしろ、Huaweiへの制裁を加速させている米国のほうが、中国人の反感をかき立てるような政策を展開している』、「悪い意味で行動力のある中国人ネットユーザーが日本人学校を探したり、「日本人学校の前で日本人を倒す」といった趣旨の茶番劇を演じたりするようになった。そして、そうした動画コンテンツにファンがついて盛り上がるようになった。実はスクールバス襲撃事件の10日前にも、日本人学校をネタにする動きが中国のネット上で再燃していた。 もちろん、現時点ではそうした動画と襲撃事件との関連性は立証されていない。だが、ネット上で一連の動きがあった末に、6月24日に痛ましい事件が起きたのは事実である・・・今回は、日本叩きのトリガーになるような出来事はほとんどない。むしろ、Huaweiへの制裁を加速させている米国のほうが、中国人の反感をかき立てるような政策を展開している」、なるほど。
・『過激な動画でファンを集めれば ネット通販で稼げる!? 実際、中国のECサイトを見てみても、米国のトランプ前大統領やバイデン現大統領を模したパンチングマシンなど、米国をなじるための商品が多く売られている。その一方で、岸田文雄首相をなじるグッズはほぼない。政策面や政府要人の動きに関して、ここ最近の日本は反日運動のトリガーを引いていないのだ。 にもかかわらず、なぜ「日本人学校」をネタにする動画が拡散されるようになったのか。その一因として考えられるのが、中国の独特なネット空間の在り方である。 中国はスマホ社会だ。新型コロナウイルスの感染が広がっていた時期は、世界でも珍しい「デジタルを徹底活用した監視」によってゼロコロナ政策を持続しようとした。 結局は感染拡大を抑えられずやめてしまったが、このゼロコロナ政策は中国人のスマホ利用を促進する効果を生んだ。スマホユーザーは中高年を中心に都市農村を問わず増え、2023年末時点で11億人弱に達した(CNNIC調べ)。そして、そのほとんどが、前述したドウインやクワイショウ、メッセンジャーアプリの微信(WeChat)を利用するようになった。 ご存じの通り、中国は政府の情報統制によってYouTubeやX(旧Twitter)などの利用が禁じられている。一般読者はこの点について、「中国人はVPNなどを駆使して『ネットの壁』を超え、YouTubeやXを楽しんでいるのでは」と思っているかもしれない。だが実際はそうとは限らず、中国人はあまり「壁の外」に出ようとしない。SNSは知人がいてこそ楽しく、動画サイトも自分たちの趣味嗜好に合うコンテンツがあってこそ楽しめるからだ。 中国国内で満足できるサービスとコンテンツが十分にあるため、特に目的がない限り、「壁の外」に行こうとする人はいないのである。 このガラパゴス化したネット社会では、新たなECの手法が普及しつつある。ドウインなどの動画配信プラットフォームが「ECサイト」としての機能を持ち、動画配信者が商品を販売できるのだ。配信者がドウインで商品を売って儲けるためには、多くの人々に刺さるテーマで面白い動画を配信し、ファン(YouTubeでいうところのチャンネル登録者数)を増やす必要がある』、「ガラパゴス化したネット社会では、新たなECの手法が普及しつつある。ドウインなどの動画配信プラットフォームが「ECサイト」としての機能を持ち、動画配信者が商品を販売できるのだ。配信者がドウインで商品を売って儲けるためには、多くの人々に刺さるテーマで面白い動画を配信し、ファン(YouTubeでいうところのチャンネル登録者数)を増やす必要がある」、なるほど。
・『事件後に動画削除… 人気反日インフルエンサー「凌一」とは 動画を配信してファンを集めれば、単に再生数を稼げるだけでなく、その動画をきっかけに商品を買ってもらえる。この手法がコロナ禍以降(特に去年)から広く知られるようになった。中国のECサイトはAlibabaが手掛ける「淘宝網(タオバオ)」が主流だと思っている人もいるかもしれないが、それは昔の話。今はタオバオのライバルは多数ある。 なぜECの話をしたかというと、ドウイン上で活動している反日系インフルエンサーも、この手法で稼いでいるからだ。特に「凌一」という人物は60万人を超えるフォロワーを獲得し、ファンにとっては痛快な「抗日茶番動画」を出しながら商品を売っていたことが分かっている。 ちなみに、「凌一」は名門である「中央民族大学」の学生だとされている。だが冒頭のスクールバス襲撃事件後、この人物の動画は削除された。 中国政府によるコンテンツ規定では、暴力・ポルノ・ギャンブル・自国(中国)の否定・民族蔑視・誹謗中傷などは禁じられている。ドウインやクワイショウなど、全てのプラットフォームがそれに従っている。年に一度、あらゆるサービスから不良コンテンツを一掃する「浄網」という取り組みも行われ、規定違反の動画は全て消されている。 ところが、この「民族蔑視や誹謗中傷の禁止」は外国には当てはまらないようだ。反日系動画はずっと放置されたままで、このことがファンをさらに喜ばせている。 日本以外の国に関しては「何でもかんでも動画のネタにする」いうわけではなく、イスラエルによるガザ侵攻に心を痛めている中国人も多い。だが困ったことに、反日系コンテンツは動画プラットフォームで受け入れられやすい。 なぜかと言うと、中国人は日本のことを古くからよく知っているからだ。 そもそもSNSが普及する前の時代から、第二次世界大戦などを舞台にした「母国の英雄が日本兵を倒す」という趣旨の作品がテレビドラマでよく流れていた。中国人が日常的に触れてきたものであり、知人との共通の話題にもなりやすい。 また50代以上の人は文化大革命を経験した結果、ハイテクや新しい知識にやや弱いという傾向がある。悪い日本人を倒すというシンプルで分かりやすいストーリーを真に受け、嘘の寸劇を嘘と見抜けないまま、のめり込んでいる人もいるだろう』、「ドウイン上で活動している反日系インフルエンサーも、この手法で稼いでいるからだ。特に「凌一」という人物は60万人を超えるフォロワーを獲得し、ファンにとっては痛快な「抗日茶番動画」を出しながら商品を売っていたことが分かっている・・・反日系コンテンツは動画プラットフォームで受け入れられやすい。 なぜかと言うと、中国人は日本のことを古くからよく知っているからだ。 そもそもSNSが普及する前の時代から、第二次世界大戦などを舞台にした「母国の英雄が日本兵を倒す」という趣旨の作品がテレビドラマでよく流れていた。中国人が日常的に触れてきたものであり、知人との共通の話題にもなりやすい」、なるほど。
・『中国のネット空間で回り続ける「反日動画で稼ぐ」サイクル 今では家電からゲーム・アニメ・ポルノに至るまで、中国では日本のものがよく知られている。だからこそ、日本のネガティブな側面についても、さらに関心を持たれやすくなっている。 インフルエンサーが日本を茶化した動画を作り、視聴者が日本に腹を立てれば立てるほど、反日動画はさらに拡散される。動画が話題になってフォロワーが増えると、商品がさらに売れる。中国の独特なネット社会では今、そうしたサイクルが回っているのだ。 日本では少し前に、靖国神社に落書きして小便をかけた中国人男性「鉄頭」が批判を集めた。この行動は日本人にとっては大迷惑だったかもしれないが、「鉄頭」にとっては、中国のネット社会で一部ユーザーに支持される「悪い国への勧善懲悪」を行ったにすぎない。実は彼もSNSユーザーであり、こうした行動でファンを集めていた。 いわば今の中国人にとって、「カネ」や「フォロワー獲得」が反日運動のトリガーになっているのである。カネ目当てでつくられた動画が、視聴者の問題行動を誘発したとしてもおかまいなしだ。抜本的な対策が講じられない限り、日本は今後も中国人インフルエンサーのネタにされ続けるだろう。 なお中国の主要メディア各社は、日本人親子を体を張って守り抜いた中国人女性が、蘇州市から表彰されたことを報道している。これは彼女の行動が勇敢なものであり、相手が日本人であれ、他人を傷つけるのは間違いだというメッセージを中国のネットユーザーに発信したものだと筆者は解釈している。今回の報道を機に、中国の対日ネット世論の「常識」が少しでも変わることを願うばかりだ』、「いわば今の中国人にとって、「カネ」や「フォロワー獲得」が反日運動のトリガーになっているのである。カネ目当てでつくられた動画が、視聴者の問題行動を誘発したとしてもおかまいなしだ。抜本的な対策が講じられない限り、日本は今後も中国人インフルエンサーのネタにされ続けるだろう」、困ったことだが、覚悟する必要がある。
第三に、7月7日付けYahooニュースが転載したダイヤモンド・オンライン、日中福祉プランニング代表の王 青氏による「「日本人学校はスパイ養成機関」中国スクールバス襲撃を引き起こした“反日デマ動画”が支持される背景」を紹介しよう。
・『中国・蘇州で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われる事件があり、犯人の男に立ち向かった中国人女性が亡くなった。この他にも中国では、外国人を対象にした無差別殺傷事件が起きている。背景にあるのは、中国社会の閉塞感や経済不況、そして今も続く反日教育だ。中国では今も反日ドラマや映画がたくさん放映されているほか、SNSも閉鎖的で海外の情報に触れることが難しい。さらに昨今は「日本人学校はスパイを養成している」といったデマ動画が拡散されSNSで人気を集めている。なぜ反日動画は多くの中国人に支持され、デマを信じる人が減らないのか、その理由と実態を紹介したい』、興味深そうだ。
・『日本人学校のスクールバスが襲われ、中国人女性が亡くなった 6月24日、中国の江蘇省蘇州市で、痛ましい事件が起きた。日本人学校のスクールバスを待っていた日本人母子2人が刃物を持った中国人男性に襲われ、怪我を負ったのである。バスの案内係で、身を挺して男の犯行を止めようとした中国人女性・胡友平さんは、男に何度も刺されて2日後に命を落とした。この悲劇的なニュースは、日中両国に大きな衝撃を与えた。 SNSでは胡さんを悼み、たたえる声が溢れた。日本では、「日本の子どもたちを守る勇気と行動に感謝いたします。亡くなられたことは残念でなりません。ご冥福をお祈りします」「日本人をかばい、身を挺して亡くなられた胡さん、あなたの名前は忘れません」といったコメントが殺到した。 中国でも同様に、胡さんへの哀悼と感謝の意を示す書き込みが多数寄せられた。「私のような男でも、あの場面に遭遇したら、胡さんのように身の危険を顧みず、犯人を制止できるか、自信を持って言えない。胡さんの勇気に敬意を表します」「一人の普通の女性が、自分の命で暴徒と戦い、彼女が救ったのは日本の子どもたちだけではなく、わが国の体面も保ったのだ。我が国にも善良で勇気のある人がいるということを世界に示すことができた」といった声が上がっている。また、最近の中国では、高齢者や急病人が道で倒れていても誰も助けないという社会現象もある中で、胡さんの行動は多くの人に感動を与えたというコメントも多く見られた。 このように、日中両国において胡さんへの賛美の声が上がり、涙を誘うような雰囲気が広がっている』、「最近の中国では、高齢者や急病人が道で倒れていても誰も助けないという社会現象もある中で、胡さんの行動は多くの人に感動を与えた」、なるほど。
・『日本人学校についてのデマ動画が拡散、その内容は…… しかし、なぜこのような事件が起きたのか、犯人はどんな心境でどういう目的で犯行に及んだのか、それらを検証しないと、また同じことが繰り返される恐れがある。実際、この事件のわずか2週間前に、中国吉林省の公園で米国人大学講師4人が中国人男性に刃物で刺され負傷する事件が起きている。1か月のうちに2回も似たような事件が発生したことから、これらを単なる「偶発的な事件」とは考えにくい。 今回の事件で標的になったのが日本人学校であることは注目に値する。近年、中国のSNSでは日本を貶める過激な書き込みや動画が増加している。特に一部の人々が閲覧数を稼ぎ、フォロワー数を増やし、最終的にはライブ配信での商品販売につなげるため、手段を選ばず、根拠のない情報を動画に盛り込むケースが目立っている。 約2年前から、日本人学校をめぐって、SNSではさまざまなデマが飛び交うようになっている。それらは主に次のようなものだ。 「日本人学校は実はスパイの養成機関、あるいは軍事基地だ。日本人の学生だけを受け入れ、中国人が入学できないのはなぜだ」 「日本人の学生たちは、中国で測量や地図作成をしている。戦争の準備のためだ」 「日本人学校が制裁対象となった。すべての海外の教育機関が我が国の関連部門によって監督され、学生の愛国心教育を強化することが求められている」 さらに、昨年頃から流布している動画は、上海にある日本人学校と思われる場所の映像で、2人の学生代表が「上海はわれわれのもの、浙江省もわれわれのものだ、もうすぐ中国もわれわれのものだ」と叫んだとされる映像だ。この動画には中国語のナレーションが付けられ、「日本人の学生は我が領土で、われわれの食べ物を食べ、水を飲む。われわれを死なせるがん細胞のようにわれわれの体に寄生している。消滅すべきだ」という内容だった。この動画のアクセス数は1億回に上ったという』、「この事件のわずか2週間前に、中国吉林省の公園で米国人大学講師4人が中国人男性に刃物で刺され負傷する事件が起きている。1か月のうちに2回も似たような事件が発生したことから、これらを単なる「偶発的な事件」とは考えにくい・・・昨年頃から流布している動画は、上海にある日本人学校と思われる場所の映像で、2人の学生代表が「上海はわれわれのもの、浙江省もわれわれのものだ、もうすぐ中国もわれわれのものだ」と叫んだとされる映像だ。この動画には中国語のナレーションが付けられ、「日本人の学生は我が領土で、われわれの食べ物を食べ、水を飲む。われわれを死なせるがん細胞のようにわれわれの体に寄生している。消滅すべきだ」という内容だった。この動画のアクセス数は1億回に上ったという」、デマ動画でも「アクセス数は1億回」とは恐ろしいことだ。
・『デマ動画の元になった動画の投稿者に話を聞いた 今回、このデマ動画の元になった動画の製作者である東京在住の中国人男性インフルエンサー、Aさんに話を聞くことができた。 Aさんは次のように語った。「この動画は、2019年秋に、娘が通う小学校の運動会の一部を撮影したものです。日本の小学校の運動会でよく見られる儀式で、学生代表が先生たちに向かって宣誓するシーンでした。子どもたちの頑張っている姿に感動し、動画をWeChatにアップロードしたのです。その後、現在のように字幕を付けられて、まったく違うものとなってしまいました。夢にも思わなかった。恐ろしすぎて言葉が出ません……」 さらにAさんは、「実は、この動画は別のバージョンにも使われています。いずれも、動画の中の小学生がファシストの敬礼をしているとか、軍国主義思想を植え付けているといった内容です」と付け加え、深くためいきをついた。 その後、Aさんは自分のSNSアカウントにこの経緯を説明する動画を投稿。すると、「そうだったのか!?騙されたところだった」といったコメントがたくさん書き込まれた。 Aさんは、「国内のネットユーザーが、このように歪曲された動画に振り回され、憎悪と恐怖の中で生きるように仕向けられ、やがては暴力へと変貌して、罪の無い人々に害を与える。デマの餌食にならないよう、私は真実を伝えていく」と話している。 このような日本人学校を歪曲する動画は、他にも多数存在している。 周知の通り、中国にある日本人学校は、中国政府の法律規定に従って設立されたものだ。中国に滞在する日系企業駐在員の子どもたちが日本の教育を受けるための場所であり、日本国内の小中高と同等の教育課程が提供されている』、「この動画は、2019年秋に、娘が通う小学校の運動会の一部を撮影したものです。日本の小学校の運動会でよく見られる儀式で、学生代表が先生たちに向かって宣誓するシーンでした。子どもたちの頑張っている姿に感動し、動画をWeChatにアップロードしたのです。その後、現在のように字幕を付けられて、まったく違うものとなってしまいました。夢にも思わなかった。恐ろしすぎて言葉が出ません……・・・このような日本人学校を歪曲する動画は、他にも多数存在している」、本当に困ったことだ。
・『5歳児が「日本に行ったら殺されない?」今も続く反日教育 日本人学校に対する誤った認識が広がる背景には、大多数の中国人がFacebookやYouTubeなどの海外のコンテンツにアクセスできないという事情がある。中国国内では「抖音(ドウイン)」や「快手(クアイショウ)」「WeChat動画」などのプラットフォームしか利用できない。 さらに、中国のテレビでは今でも抗日映画やドラマが日常的に放送されている。中国にいるとき、ホテルの部屋でテレビを付けると、視聴可能な40以上のチャンネルのうち、約半数で抗日をテーマにした長編ドラマが放送されていた。こうした環境に日々さらされれば、人々の反日感情があおられるのも無理はないと感じた。 中国では反日教育が行われてきたことは日本でも広く知られているが、残念ながらそれは過去の話ではなく、今ももちろん続いている。 先日、久しぶりに会った友人の話には考えさせられた。彼女はもともと中国の出身だが、日本国籍を取り、今は中国で仕事をしている。彼女には中国で生まれ育った5歳の娘がいるのだが、日々、抗日戦争の物語や抗日映画などにより、「日本が中国を侵略した歴史」を教えられているという。 今回、彼女は娘を連れて夏休み期間中に日本に一時帰国することにしたのだが、幼稚園のお友だちから「○○ちゃんは、日本に行ったら殺されない?大丈夫?」と心配されたというのだ。彼女はその話を聞いて怖くなってきたと話す。「もう子どもを連れて日本に帰った方がいいかな」と悩んでいた』、「大多数の中国人がFacebookやYouTubeなどの海外のコンテンツにアクセスできないという事情がある・・・中国のテレビでは今でも抗日映画やドラマが日常的に放送されている。中国にいるとき、ホテルの部屋でテレビを付けると、視聴可能な40以上のチャンネルのうち、約半数で抗日をテーマにした長編ドラマが放送されていた。こうした環境に日々さらされれば、人々の反日感情があおられるのも無理はないと感じた」、なるほど。
・『外国人をターゲットに無差別殺傷事件を起こせば注目される コロナ禍が終息しても、中国経済の回復は思うように進んでおらず、失業率は高止まりしたままである。「以前より生活が苦しくなった」という声をよく耳にする。そうした中で、生活苦に陥った人々が一種の「社会への報復」として無差別殺傷事件を起こすケースが、最近中国各地で発生している。 攻撃の対象が同じ中国人であれば、ニュースになってもすぐに消されるし、あまり注目もされない。一方で、「外国人をターゲットにすれば、海外メディアに取り上げられて話題になる」という思惑があるという指摘もある。 蘇州の日本人親子や吉林省の米国人教師への襲撃事件は、中国から外資企業の撤退を加速させてしまう可能性がある。タイミングの悪いことに、蘇州の事件の1週間前、東京のホテルニューオータニでは蘇州市政府による「投資誘致イベント」が開催されたばかりだった。蘇州市副市長が出席し、「多方面にわたる蘇州の優れた投資環境」をアピールしたという。出席した関係者の一人は、「実質的で具体的な内容がほとんどなく、出席した日本企業もそれほど多くなかった。冷めた様子だった」と語っている。 蘇州だけではなく、昨年から中国各地の地方政府が相次いで日本を訪れ、日本の経済界に「我が省・市へ積極的な投資を」と呼びかけている。しかしその一方で、外国人に危害を加える国内の環境は周知の通りである。反米や反日といった言論や動きは、ブーメランのように経済に打撃を与えるスパイラルに陥る可能性があると、中国国内の経済専門家らは危惧している』「外国人に危害を加える国内の環境は周知の通りである。反米や反日といった言論や動きは、ブーメランのように経済に打撃を与えるスパイラルに陥る可能性があると、中国国内の経済専門家らは危惧」、大いに「危惧」すべきだ。
・『中国のIT大手各社が、SNSへの反日的な投稿の規制を始めた こうした動きを受け、6月末、テンセントやウェイポ、ドウインといった中国のIT大手各社が、SNSへの反日投稿の規制を始めたと報じられている。 冒頭で紹介したSNSの声が胡友平さんを悼み、たたえるものが多く、犯人を支持したり日本人の子どもたちを貶めるものが少なくなったのは、その影響もあるのかもしれない。 SNSでは「胡さんは、外資の流出を食い止めてくれた。わが国の雇用に貢献した。ありがとう!」といったコメントも多く見られる。せめて、胡さんの死を無駄にしないよう、日中関係が少しでも改善されることを祈るばかりだ』、「中国のIT大手各社が、SNSへの反日投稿の規制を始めたと報じられている」、「日中関係が少しでも改善されることを祈るばかりだ」、同感である。
タグ:日中関係 (その7)(靖国神社の「放尿テロ」をマスコミが頑なに「落書き事件」と矮小化する あまりにもセコい理由、中国・日本人学校のバス襲撃 事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由、「日本人学校はスパイ養成機関」中国スクールバス襲撃を引き起こした“反日デマ動画”が支持される背景) ダイヤモンド・オンライン 窪田順生氏による「靖国神社の「放尿テロ」をマスコミが頑なに「落書き事件」と矮小化する、あまりにもセコい理由」 「激しく憎しみ合うような国家・民族間であっても、相手の信仰や尊厳を「放尿」で貶めるというのは、「人として超えてはいけない一線」なのだ。激しい紛争が続く中東でも、エルサレムやメッカで「放尿テロ」があったなどと聞かないではないか。) そんな許されざる行為が日本の宗教施設で起きた。本来ならばマスコミはこの蛮行を国内外に広く発信し、個人の犯罪とはいえ、中国政府に「遺憾」くらい言わせなくてはいけない。 が、現実のマスコミは「落書き事件」ばかりを報じて、「放尿」の事実には目をつぶって鎮火しようとしているようにさえ見える。これはさすがに「自主規制」を通り越して、「偏向報道」と言わざるを得ない」、なるほど。 「日本のマスコミ記者たちは新人時代から、警察や役人への「裏取り取材」を叩き込まれるのだが、そこで彼らが使う用語・呼称も忠実に真似ることも徹底させられる。なぜかと言うと、「役所や警察の言う通りのニュースを流しておけばクレームも入らないし、もし誤報でも役所や警察のせいにできる」からだ。要するに、報道機関としての信頼を守るための「企業防衛」の一環だ」、情けない話だ。 「今回の対応は、岸田首相も続投が見えてハッピーだし、習近平主席も反中感情が盛り上がらずハッピーだが、日本人にとっては「不幸」なことこの上ない。 「スシローペロペロ少年」やバイトテロ動画を例に出すまでもなく、愚かな動画を撮る人たちは、バズった人のアクションを模倣する。つまり、中国や韓国の迷惑系ユーチューバーのような人たちが「靖国放尿テロ」の動画に触発されて、靖国神社で同様の迷惑行為をする恐れが高いのだ」、その通りだ。 (注)トンマナ:トーン&マナーの略称で、デザインやスタイル、文言などに一貫性をもたせるルールのこと 山谷剛史氏による「中国・日本人学校のバス襲撃、事件後に削除された「反日動画」…中国人が「日本人学校バッシング」に走るおぞましい理由」 「一部の中国人や在中日本人の間で「動画を中心とした反日ネット言論が、襲撃者の心理に大きな影響を与えたのではないか」という説が浮上している。 というのも、「TikTok」運営元のByteDanceが中国向けに展開しているショート動画サービス「抖音(ドウイン)」や、その競合サービスに当たる「快手(クワイショウ)」を見てみると、確かに異常な状況になっている。 「中国にある日本人学校」を叩く動画が多数投稿されているのだ」、なるほど。 「悪い意味で行動力のある中国人ネットユーザーが日本人学校を探したり、「日本人学校の前で日本人を倒す」といった趣旨の茶番劇を演じたりするようになった。そして、そうした動画コンテンツにファンがついて盛り上がるようになった。実はスクールバス襲撃事件の10日前にも、日本人学校をネタにする動きが中国のネット上で再燃していた。 もちろん、現時点ではそうした動画と襲撃事件との関連性は立証されていない。だが、ネット上で一連の動きがあった末に、6月24日に痛ましい事件が起きたのは事実である・・・ 今回は、日本叩きのトリガーになるような出来事はほとんどない。むしろ、Huaweiへの制裁を加速させている米国のほうが、中国人の反感をかき立てるような政策を展開している」、なるほど。 「ガラパゴス化したネット社会では、新たなECの手法が普及しつつある。ドウインなどの動画配信プラットフォームが「ECサイト」としての機能を持ち、動画配信者が商品を販売できるのだ。配信者がドウインで商品を売って儲けるためには、多くの人々に刺さるテーマで面白い動画を配信し、ファン(YouTubeでいうところのチャンネル登録者数)を増やす必要がある」、なるほど。 「ドウイン上で活動している反日系インフルエンサーも、この手法で稼いでいるからだ。特に「凌一」という人物は60万人を超えるフォロワーを獲得し、ファンにとっては痛快な「抗日茶番動画」を出しながら商品を売っていたことが分かっている・・・反日系コンテンツは動画プラットフォームで受け入れられやすい。 なぜかと言うと、中国人は日本のことを古くからよく知っているからだ。 そもそもSNSが普及する前の時代から、第二次世界大戦などを舞台にした「母国の英雄が日本兵を倒す」という趣旨の作品がテレビドラマでよく流れていた。中国人が日常的に触れてきたものであり、知人との共通の話題にもなりやすい」、なるほど。 「いわば今の中国人にとって、「カネ」や「フォロワー獲得」が反日運動のトリガーになっているのである。カネ目当てでつくられた動画が、視聴者の問題行動を誘発したとしてもおかまいなしだ。抜本的な対策が講じられない限り、日本は今後も中国人インフルエンサーのネタにされ続けるだろう」、困ったことだが、覚悟する必要がある。 yahooニュース 王 青氏による「「日本人学校はスパイ養成機関」中国スクールバス襲撃を引き起こした“反日デマ動画”が支持される背景」 「最近の中国では、高齢者や急病人が道で倒れていても誰も助けないという社会現象もある中で、胡さんの行動は多くの人に感動を与えた」、なるほど。 「この事件のわずか2週間前に、中国吉林省の公園で米国人大学講師4人が中国人男性に刃物で刺され負傷する事件が起きている。1か月のうちに2回も似たような事件が発生したことから、これらを単なる「偶発的な事件」とは考えにくい・・・昨年頃から流布している動画は、上海にある日本人学校と思われる場所の映像で、2人の学生代表が「上海はわれわれのもの、浙江省もわれわれのものだ、もうすぐ中国もわれわれのものだ」と叫んだとされる映像だ。 この動画には中国語のナレーションが付けられ、「日本人の学生は我が領土で、われわれの食べ物を食べ、水を飲む。われわれを死なせるがん細胞のようにわれわれの体に寄生している。消滅すべきだ」という内容だった。この動画のアクセス数は1億回に上ったという」、デマ動画でも「アクセス数は1億回」とは恐ろしいことだ。 「この動画は、2019年秋に、娘が通う小学校の運動会の一部を撮影したものです。日本の小学校の運動会でよく見られる儀式で、学生代表が先生たちに向かって宣誓するシーンでした。子どもたちの頑張っている姿に感動し、動画をWeChatにアップロードしたのです。その後、現在のように字幕を付けられて、まったく違うものとなってしまいました。夢にも思わなかった。恐ろしすぎて言葉が出ません……・・・このような日本人学校を歪曲する動画は、他にも多数存在している」、本当に困ったことだ。 「大多数の中国人がFacebookやYouTubeなどの海外のコンテンツにアクセスできないという事情がある・・・中国のテレビでは今でも抗日映画やドラマが日常的に放送されている。中国にいるとき、ホテルの部屋でテレビを付けると、視聴可能な40以上のチャンネルのうち、約半数で抗日をテーマにした長編ドラマが放送されていた。こうした環境に日々さらされれば、人々の反日感情があおられるのも無理はないと感じた」、なるほど。 「外国人に危害を加える国内の環境は周知の通りである。反米や反日といった言論や動きは、ブーメランのように経済に打撃を与えるスパイラルに陥る可能性があると、中国国内の経済専門家らは危惧」、大いに「危惧」すべきだ。 「中国のIT大手各社が、SNSへの反日投稿の規制を始めたと報じられている」、「日中関係が少しでも改善されることを祈るばかりだ」、同感である。
米中経済戦争(その18)(米当局 NYで中国「秘密警察」運営疑いの男2人逮捕 反体制派を弾圧する活動行う?、キッシンジャー訪中が示唆するのは アメリカ「世界覇権」終わりの始まりだ 50年前とは何もかも違う) [外交]
米中経済戦争については、昨年6月17日に取上げた。今日は、(その18)(米当局 NYで中国「秘密警察」運営疑いの男2人逮捕 反体制派を弾圧する活動行う?、キッシンジャー訪中が示唆するのは アメリカ「世界覇権」終わりの始まりだ 50年前とは何もかも違う)である。
先ずは、本年4月18日付けNewsweek日本版「米当局、NYで中国「秘密警察」運営疑いの男2人逮捕 反体制派を弾圧する活動行う?」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/04/ny2.php
・『米当局は17日、ニューヨーク市マンハッタンのチャイナタウンで中国の「秘密警察署」を運営していた疑いで、同市在住の男2人を逮捕した。 2人は米当局に知らせることなく中国政府の代わりに活動することを共謀した罪のほか、司法妨害の罪に問われている。17日にブルックリンの連邦裁判所に初出廷した後、保釈された。 スペインの人権団体は昨年、中国がニューヨークなどに在外拠点を設け、中国警察と違法に連携して亡命者に中国への帰国を迫っていたとする報告書をまとめた。 米司法省は、中国やイランなど敵対国が米在住の反体制派を脅迫するため「国境をまたぐ弾圧」を行っているとして調査を拡大している。 ブルックリンのブレオン・ピース連邦検事は「この国に逃れてきた民主化活動家に対する中国政府の迫害を容認することはできない」と記者団に述べた。 検察当局によると、男2人はともに米国籍で、中国の福建省出身者向けの懇親会開催などを手掛ける非営利団体を率いている。2018年には男1人が中国から亡命者とみられる人物を説得し帰国させようとしたほか、22年には秘密警察署の開設を手伝い、中国政府からカリフォルニア州に住む民主化運動活動家とされる個人の居場所を特定するよう依頼されたという。 また2人は米連邦捜査局(FBI)に対し、中国政府関係者との通信記録を削除したことを認めたという。秘密警察署は22年秋に閉鎖されたとしている。 検察当局はこの日、米テクノロジープラットフォームでの集会を妨害するなどインターネット上で反体制派に嫌がらせをした疑いで、中国の当局者34人を訴追したことも明らかにした。 さらに、天安門事件に関するビデオ集会を妨害したとして2020年に中国在住のズーム・ビデオ・コミュニケーションズ元幹部を起訴した事件を巡り、新たに中国政府当局者8人を被告に追加した。 在米中国大使館の劉鵬宇報道官は「『国境をまたぐ弾圧』を口実に中国の市民を起訴することで、米国側は捏造した罪状に基づくロングアーム(管轄外への)司法権を行使している。これは全くの政治的ごまかしであり、中国のイメージを傷つけることが目的だ」と非難した』、「チャイナタウンで中国の「秘密警察署」を運営していた疑いで、同市在住の男2人を逮捕した。 2人は米当局に知らせることなく中国政府の代わりに活動することを共謀した罪のほか、司法妨害の罪に問われている」、「スペインの人権団体は昨年、中国がニューヨークなどに在外拠点を設け、中国警察と違法に連携して亡命者に中国への帰国を迫っていたとする報告書をまとめた」、「ブルックリンのブレオン・ピース連邦検事は「この国に逃れてきた民主化活動家に対する中国政府の迫害を容認することはできない」と記者団に述べた。 検察当局によると、男2人はともに米国籍で、中国の福建省出身者向けの懇親会開催などを手掛ける非営利団体を率いている。2018年には男1人が中国から亡命者とみられる人物を説得し帰国させようとしたほか、22年には秘密警察署の開設を手伝い、中国政府からカリフォルニア州に住む民主化運動活動家とされる個人の居場所を特定するよう依頼されたという。 また2人は米連邦捜査局(FBI)に対し、中国政府関係者との通信記録を削除したことを認めたという。秘密警察署は22年秋に閉鎖されたとしている」、「中国」が米国の司法権を犯して、独自に警察活動をするとはとんでもないことだ。さきほど観たNHKのニュース7で、あるNGOの調査によれば、中国が「秘密警察」活動をしている国は日本も含め100カ国以上になるようだ。
次に、7月26日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「キッシンジャー訪中が示唆するのは、アメリカ「世界覇権」終わりの始まりだ 50年前とは何もかも違う」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/113794?imp=0
・『米国きっての親中派とされ、米中国交正常化の立役者でもあったキッシンジャー元国務長官が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。バイデン政権は中国の封じ込め策を強化しているはずだったが、本格的な米中分断を恐れた経済界首脳が相次いで中国を訪問。 その後、ブリンケン国務長官やイエレン財務長官など主要閣僚も続々と訪中するなど、チグハグな対応となっている。挙げ句の果てに親中派の重鎮であるキッシンジャー氏まで訪中したことで、米国の焦りが顕在化してしまった格好だ』、「キッシンジャー氏まで訪中」とは初めて知ったが、まだ生きていたのも驚きだ。
・『デカップリングに焦る米国 年配の読者の方であればキッシンジャー氏について説明は不要だろうが、若い世代の読者にとっては、もはや教科書で名前を見る人物になっているかもしれない。 1971年7月、ニクソン大統領の補佐官であったキッシンジャー氏は極秘裏に中国を訪問し、米中国交正常化の道筋を付けた。以後、50年にわたって米国と中国は、利害の対立こそあれパートナーというのが基本的な関係だったが、こうした米中協調路線のきっかけを作ったのがキッシンジャー氏(と、その後に続くニクソン大統領の訪中)である。 当時の米国は、国民党関係者を中心とする親台湾の政治勢力(いわゆるチャイナロビー)が圧倒的な力を持っており、中国と国交を結ぶなど言語道断であった。通常の手法で中国を訪問することは不可能に近いと判断したキッシンジャー氏は、国務省(日本の外務省に相当)には一切知らせず、密かに中国に入国したとされる。 国交正常化から50年が経過し、トランプ政権が中国からの輸入に高関税をかけたことで、両国は事実上の貿易戦争に突入した。民主党のバイデン政権は対中強硬路線をさらに進め、人的交流の制限も含む、強力な輸出規制を発動。中国もこれに対抗したことから、両国の貿易は急激に停滞している。 米国の輸入における中国のシェアは2018年には20%を超えていたが、米中貿易戦争後は中国のシェアが急低下し、2022年には16%まで落ち込んでいる。この結果、多くの専門家が米国と中国の分断(デカップリング)が進むと考えるようになった。 こうした状況に焦りを感じたのが、中国市場を必要としている米国の産業界である。) 米国の産業界は政府に対して慎重な対応を求めるようになり、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、「(米国政府は)米中のデカップリングを求めているわけではない」として、沈静化を図ったが、ほとんど効果はなく、それどころか、しびれを切らした産業界は続々と中国詣でを開始。 2023年5月にはテスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏が、6月にはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が相次いで訪中。ゲイツ氏に至っては習氏との直接会談を行った。 その後、ブリンケン国務長官やイエレン財務長官など政府高官までもが訪中したことで、政財界がこぞって中国詣でを繰り返す状況となった。 バイデン政権は中国に対する譲歩ではなく、対話の継続が目的と苦しい弁明をしているが、米国を出し抜き、習氏と直接会談を行ったフランスの動きに焦りを感じ、中国にスリ寄ったのは明からだ』、「バイデン政権は中国に対する譲歩ではなく、対話の継続が目的と苦しい弁明をしているが、米国を出し抜き、習氏と直接会談を行ったフランスの動きに焦りを感じ、中国にスリ寄ったのは明からだ」、その通りだ。
・『キッシンジャー外交がもたらしたドル覇権 キッシンジャー氏は、「両国は対抗ではなく、対等な付き合いが必要」と、解釈次第ではバイデン政権の対中方針を否定する発言も行ったとされる。 氏はすでに民間人であり、高い知名度ほどには政界への影響力はないという冷めた見方もある。だが、米中関係のキーマンであり、米国きっての親中派として知られる人物がわざわざ中国を訪問し、習氏と直接会談したことの影響は大きい。 奇しくも今年はオイルショックからちょうど50年という節目の年であり、国際社会は再びオイルショックの危機に見舞われている。産油国の強引な原油価格引き上げに対して、外交手段の限りを尽くして交渉を行い、現在のドル覇権を確立したのもキッシンジャー氏である。 50年の時間を経て、米中協調路線が瓦解寸前となり、同じタイミングでオイルショックが発生し、キッシンジャー氏が再び訪中したことは単なる偶然ではない。背景には、弱体化しつつある米国のドル覇権という厳しい現実があると考えるべきだろう。ではオイルショックと米中国交正常化、そしてドル覇権にはどのような関係があるのだろうか。) 1973年、サウジアラビアをはじめとする中東の産油国は突如、原油価格を引き上げ、世界経済はパニックに陥った。ニクソン政権はその2年前に金とドルの兌換停止(いわゆるニクソンショック)を実施しており、ドルは大幅に値を下げていた。ここにオイルショックが加わったことで、米国は深厚なインフレという最悪の事態に対処せざるを得なくなった。 一連の状態からドルを守るためにニクソン政権が選択したのは、米ドルと石油取引のリンクを強化するとともに、垂れ流されたドルを米国内に還流させ、ドルの暴落を防ぐという戦略だった。 もともと中東の石油は米国の石油メジャーと呼ばれる企業が独占的に支配しており、石油取引は慣例的に米ドルで行われるとともに、産油国の主な資産もドル建てだった。産油国がいきなり原油価格を引き上げた背景には、第4次中東戦争への反発という面があるものの、一方でニクソンショックに伴うドル建て資産の目減りを防ぐという実利上の目的もあった。 キシジンジャー氏はニクソン氏の意を受け中東各国を歴訪。一定の石油価格上昇を米国が受け入れる代わりに、石油取引を引き続き米ドルで行うことを確約させるとともに、石油の販売で得たドルを米国の市場に投資させ、米国はバラ撒いたドルを回収するスキームを確立した。 これによって米国はドルを過剰に発行して輸入を拡大しても、最終的には自国に戻ってくるので、ドルの価値毀損を防げるようになった。米国が膨大な貿易赤字を抱えていてもドル不安が発生しないことの背景には、基軸通貨国としての一連の仕組みが関係している』、「米国が膨大な貿易赤字を抱えていてもドル不安が発生しないことの背景には、基軸通貨国としての一連の仕組みが関係している」、その通りだ。
・『米国の覇権は弱体化しつつある キッシンジャー氏は、前後して米国の穀物輸出も外交戦略上の武器にするという戦略に打って出た。折しも旧ソ連が食糧危機に陥り、自給を原則としてきた小麦が不足するという前代未聞の事態が発生。米国の穀物商社カーギルは、旧ソ連に対して小麦を緊急輸出し、これによってカーギルは穀物市場において圧倒的な地位を確立したとされる。 米国の穀物輸出が外交上の武器になることがハッキリしたことから、ニクソン政権は'72年、米ソ穀物協定を締結。大量の穀物が旧ソ連や中国に輸出された。当然のことながら穀物の取引もドル建てで行われる。一連の出来事をきっかけに、石油と同様、食糧輸出も世界に溢れ返ったドルを米国内に還流させる役割を果たすようになる。) 一連の取り組みが功を奏し、米国は基軸通貨国としていくらでもドルを発行することが可能となり、ほぼ無尽蔵に製品を輸入できるようになった。そして米国の旺盛な輸入に世界の工場として応えたのが中国であり、中国の大国化と米国のドル覇権はセットで考えるべきだろう。 つまり、米国はニクソンショックによるドル暴落と、オイルショックという極めて危機的な状況に直面したにもかかわらず、キッシンジャー氏の巧みな外交戦略によってピンチを逆手に取り、強大なドル覇権を確立できたことになる。同時に米国は中国の大国化を手助けしたとも解釈できる。 オイルショックから50年が経過し、中国は米国と覇権を争うほどに成長し、米国と中国は再び対立に向けて動き出そうとしている。米国の産業界は中国市場を失うのではないかと焦りを感じており、米国政府は、今回もキッシンジャー氏のような巧みな外交で、事態を切り抜けたいと考えているのかもしれない。 100歳を超えてもキッシンジャーは元気な様子だったが、残念なことに当時と今とでは米国が置かれた状況はあまりにも違っている。当時の中国は新興国であり圧倒的に立場が弱かった。今後の成長に米国の支援が必要なことは明白であり、中国の側にも妥協の余地が大きかったといえるだろう。 だが今回は、米国が妥協しなければならない部分が多く、当時と比較すると米国は圧倒的に不利な状況にある。何より米国はドル覇権をさらに強化する新しい武器を持っていない。 キッシンジャー氏の訪中がバイデン政権の外交にどれほどの影響を及ぼすのか現時点では何とも言えない。だが、今回、米国が見せた外交上のドタバタに関して、米国が築いてきた世界覇権の終わりの始まりを示唆していると感じた関係者は多いのではないだろうか』、「米国はニクソンショックによるドル暴落と、オイルショックという極めて危機的な状況に直面したにもかかわらず、キッシンジャー氏の巧みな外交戦略によってピンチを逆手に取り、強大なドル覇権を確立できたことになる。同時に米国は中国の大国化を手助けしたとも解釈できる」、「キッシンジャー氏の訪中がバイデン政権の外交にどれほどの影響を及ぼすのか現時点では何とも言えない。だが、今回、米国が見せた外交上のドタバタに関して、米国が築いてきた世界覇権の終わりの始まりを示唆していると感じた関係者は多いのではないだろうか」、なるほど。
先ずは、本年4月18日付けNewsweek日本版「米当局、NYで中国「秘密警察」運営疑いの男2人逮捕 反体制派を弾圧する活動行う?」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/04/ny2.php
・『米当局は17日、ニューヨーク市マンハッタンのチャイナタウンで中国の「秘密警察署」を運営していた疑いで、同市在住の男2人を逮捕した。 2人は米当局に知らせることなく中国政府の代わりに活動することを共謀した罪のほか、司法妨害の罪に問われている。17日にブルックリンの連邦裁判所に初出廷した後、保釈された。 スペインの人権団体は昨年、中国がニューヨークなどに在外拠点を設け、中国警察と違法に連携して亡命者に中国への帰国を迫っていたとする報告書をまとめた。 米司法省は、中国やイランなど敵対国が米在住の反体制派を脅迫するため「国境をまたぐ弾圧」を行っているとして調査を拡大している。 ブルックリンのブレオン・ピース連邦検事は「この国に逃れてきた民主化活動家に対する中国政府の迫害を容認することはできない」と記者団に述べた。 検察当局によると、男2人はともに米国籍で、中国の福建省出身者向けの懇親会開催などを手掛ける非営利団体を率いている。2018年には男1人が中国から亡命者とみられる人物を説得し帰国させようとしたほか、22年には秘密警察署の開設を手伝い、中国政府からカリフォルニア州に住む民主化運動活動家とされる個人の居場所を特定するよう依頼されたという。 また2人は米連邦捜査局(FBI)に対し、中国政府関係者との通信記録を削除したことを認めたという。秘密警察署は22年秋に閉鎖されたとしている。 検察当局はこの日、米テクノロジープラットフォームでの集会を妨害するなどインターネット上で反体制派に嫌がらせをした疑いで、中国の当局者34人を訴追したことも明らかにした。 さらに、天安門事件に関するビデオ集会を妨害したとして2020年に中国在住のズーム・ビデオ・コミュニケーションズ元幹部を起訴した事件を巡り、新たに中国政府当局者8人を被告に追加した。 在米中国大使館の劉鵬宇報道官は「『国境をまたぐ弾圧』を口実に中国の市民を起訴することで、米国側は捏造した罪状に基づくロングアーム(管轄外への)司法権を行使している。これは全くの政治的ごまかしであり、中国のイメージを傷つけることが目的だ」と非難した』、「チャイナタウンで中国の「秘密警察署」を運営していた疑いで、同市在住の男2人を逮捕した。 2人は米当局に知らせることなく中国政府の代わりに活動することを共謀した罪のほか、司法妨害の罪に問われている」、「スペインの人権団体は昨年、中国がニューヨークなどに在外拠点を設け、中国警察と違法に連携して亡命者に中国への帰国を迫っていたとする報告書をまとめた」、「ブルックリンのブレオン・ピース連邦検事は「この国に逃れてきた民主化活動家に対する中国政府の迫害を容認することはできない」と記者団に述べた。 検察当局によると、男2人はともに米国籍で、中国の福建省出身者向けの懇親会開催などを手掛ける非営利団体を率いている。2018年には男1人が中国から亡命者とみられる人物を説得し帰国させようとしたほか、22年には秘密警察署の開設を手伝い、中国政府からカリフォルニア州に住む民主化運動活動家とされる個人の居場所を特定するよう依頼されたという。 また2人は米連邦捜査局(FBI)に対し、中国政府関係者との通信記録を削除したことを認めたという。秘密警察署は22年秋に閉鎖されたとしている」、「中国」が米国の司法権を犯して、独自に警察活動をするとはとんでもないことだ。さきほど観たNHKのニュース7で、あるNGOの調査によれば、中国が「秘密警察」活動をしている国は日本も含め100カ国以上になるようだ。
次に、7月26日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「キッシンジャー訪中が示唆するのは、アメリカ「世界覇権」終わりの始まりだ 50年前とは何もかも違う」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/113794?imp=0
・『米国きっての親中派とされ、米中国交正常化の立役者でもあったキッシンジャー元国務長官が中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。バイデン政権は中国の封じ込め策を強化しているはずだったが、本格的な米中分断を恐れた経済界首脳が相次いで中国を訪問。 その後、ブリンケン国務長官やイエレン財務長官など主要閣僚も続々と訪中するなど、チグハグな対応となっている。挙げ句の果てに親中派の重鎮であるキッシンジャー氏まで訪中したことで、米国の焦りが顕在化してしまった格好だ』、「キッシンジャー氏まで訪中」とは初めて知ったが、まだ生きていたのも驚きだ。
・『デカップリングに焦る米国 年配の読者の方であればキッシンジャー氏について説明は不要だろうが、若い世代の読者にとっては、もはや教科書で名前を見る人物になっているかもしれない。 1971年7月、ニクソン大統領の補佐官であったキッシンジャー氏は極秘裏に中国を訪問し、米中国交正常化の道筋を付けた。以後、50年にわたって米国と中国は、利害の対立こそあれパートナーというのが基本的な関係だったが、こうした米中協調路線のきっかけを作ったのがキッシンジャー氏(と、その後に続くニクソン大統領の訪中)である。 当時の米国は、国民党関係者を中心とする親台湾の政治勢力(いわゆるチャイナロビー)が圧倒的な力を持っており、中国と国交を結ぶなど言語道断であった。通常の手法で中国を訪問することは不可能に近いと判断したキッシンジャー氏は、国務省(日本の外務省に相当)には一切知らせず、密かに中国に入国したとされる。 国交正常化から50年が経過し、トランプ政権が中国からの輸入に高関税をかけたことで、両国は事実上の貿易戦争に突入した。民主党のバイデン政権は対中強硬路線をさらに進め、人的交流の制限も含む、強力な輸出規制を発動。中国もこれに対抗したことから、両国の貿易は急激に停滞している。 米国の輸入における中国のシェアは2018年には20%を超えていたが、米中貿易戦争後は中国のシェアが急低下し、2022年には16%まで落ち込んでいる。この結果、多くの専門家が米国と中国の分断(デカップリング)が進むと考えるようになった。 こうした状況に焦りを感じたのが、中国市場を必要としている米国の産業界である。) 米国の産業界は政府に対して慎重な対応を求めるようになり、サリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、「(米国政府は)米中のデカップリングを求めているわけではない」として、沈静化を図ったが、ほとんど効果はなく、それどころか、しびれを切らした産業界は続々と中国詣でを開始。 2023年5月にはテスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏が、6月にはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が相次いで訪中。ゲイツ氏に至っては習氏との直接会談を行った。 その後、ブリンケン国務長官やイエレン財務長官など政府高官までもが訪中したことで、政財界がこぞって中国詣でを繰り返す状況となった。 バイデン政権は中国に対する譲歩ではなく、対話の継続が目的と苦しい弁明をしているが、米国を出し抜き、習氏と直接会談を行ったフランスの動きに焦りを感じ、中国にスリ寄ったのは明からだ』、「バイデン政権は中国に対する譲歩ではなく、対話の継続が目的と苦しい弁明をしているが、米国を出し抜き、習氏と直接会談を行ったフランスの動きに焦りを感じ、中国にスリ寄ったのは明からだ」、その通りだ。
・『キッシンジャー外交がもたらしたドル覇権 キッシンジャー氏は、「両国は対抗ではなく、対等な付き合いが必要」と、解釈次第ではバイデン政権の対中方針を否定する発言も行ったとされる。 氏はすでに民間人であり、高い知名度ほどには政界への影響力はないという冷めた見方もある。だが、米中関係のキーマンであり、米国きっての親中派として知られる人物がわざわざ中国を訪問し、習氏と直接会談したことの影響は大きい。 奇しくも今年はオイルショックからちょうど50年という節目の年であり、国際社会は再びオイルショックの危機に見舞われている。産油国の強引な原油価格引き上げに対して、外交手段の限りを尽くして交渉を行い、現在のドル覇権を確立したのもキッシンジャー氏である。 50年の時間を経て、米中協調路線が瓦解寸前となり、同じタイミングでオイルショックが発生し、キッシンジャー氏が再び訪中したことは単なる偶然ではない。背景には、弱体化しつつある米国のドル覇権という厳しい現実があると考えるべきだろう。ではオイルショックと米中国交正常化、そしてドル覇権にはどのような関係があるのだろうか。) 1973年、サウジアラビアをはじめとする中東の産油国は突如、原油価格を引き上げ、世界経済はパニックに陥った。ニクソン政権はその2年前に金とドルの兌換停止(いわゆるニクソンショック)を実施しており、ドルは大幅に値を下げていた。ここにオイルショックが加わったことで、米国は深厚なインフレという最悪の事態に対処せざるを得なくなった。 一連の状態からドルを守るためにニクソン政権が選択したのは、米ドルと石油取引のリンクを強化するとともに、垂れ流されたドルを米国内に還流させ、ドルの暴落を防ぐという戦略だった。 もともと中東の石油は米国の石油メジャーと呼ばれる企業が独占的に支配しており、石油取引は慣例的に米ドルで行われるとともに、産油国の主な資産もドル建てだった。産油国がいきなり原油価格を引き上げた背景には、第4次中東戦争への反発という面があるものの、一方でニクソンショックに伴うドル建て資産の目減りを防ぐという実利上の目的もあった。 キシジンジャー氏はニクソン氏の意を受け中東各国を歴訪。一定の石油価格上昇を米国が受け入れる代わりに、石油取引を引き続き米ドルで行うことを確約させるとともに、石油の販売で得たドルを米国の市場に投資させ、米国はバラ撒いたドルを回収するスキームを確立した。 これによって米国はドルを過剰に発行して輸入を拡大しても、最終的には自国に戻ってくるので、ドルの価値毀損を防げるようになった。米国が膨大な貿易赤字を抱えていてもドル不安が発生しないことの背景には、基軸通貨国としての一連の仕組みが関係している』、「米国が膨大な貿易赤字を抱えていてもドル不安が発生しないことの背景には、基軸通貨国としての一連の仕組みが関係している」、その通りだ。
・『米国の覇権は弱体化しつつある キッシンジャー氏は、前後して米国の穀物輸出も外交戦略上の武器にするという戦略に打って出た。折しも旧ソ連が食糧危機に陥り、自給を原則としてきた小麦が不足するという前代未聞の事態が発生。米国の穀物商社カーギルは、旧ソ連に対して小麦を緊急輸出し、これによってカーギルは穀物市場において圧倒的な地位を確立したとされる。 米国の穀物輸出が外交上の武器になることがハッキリしたことから、ニクソン政権は'72年、米ソ穀物協定を締結。大量の穀物が旧ソ連や中国に輸出された。当然のことながら穀物の取引もドル建てで行われる。一連の出来事をきっかけに、石油と同様、食糧輸出も世界に溢れ返ったドルを米国内に還流させる役割を果たすようになる。) 一連の取り組みが功を奏し、米国は基軸通貨国としていくらでもドルを発行することが可能となり、ほぼ無尽蔵に製品を輸入できるようになった。そして米国の旺盛な輸入に世界の工場として応えたのが中国であり、中国の大国化と米国のドル覇権はセットで考えるべきだろう。 つまり、米国はニクソンショックによるドル暴落と、オイルショックという極めて危機的な状況に直面したにもかかわらず、キッシンジャー氏の巧みな外交戦略によってピンチを逆手に取り、強大なドル覇権を確立できたことになる。同時に米国は中国の大国化を手助けしたとも解釈できる。 オイルショックから50年が経過し、中国は米国と覇権を争うほどに成長し、米国と中国は再び対立に向けて動き出そうとしている。米国の産業界は中国市場を失うのではないかと焦りを感じており、米国政府は、今回もキッシンジャー氏のような巧みな外交で、事態を切り抜けたいと考えているのかもしれない。 100歳を超えてもキッシンジャーは元気な様子だったが、残念なことに当時と今とでは米国が置かれた状況はあまりにも違っている。当時の中国は新興国であり圧倒的に立場が弱かった。今後の成長に米国の支援が必要なことは明白であり、中国の側にも妥協の余地が大きかったといえるだろう。 だが今回は、米国が妥協しなければならない部分が多く、当時と比較すると米国は圧倒的に不利な状況にある。何より米国はドル覇権をさらに強化する新しい武器を持っていない。 キッシンジャー氏の訪中がバイデン政権の外交にどれほどの影響を及ぼすのか現時点では何とも言えない。だが、今回、米国が見せた外交上のドタバタに関して、米国が築いてきた世界覇権の終わりの始まりを示唆していると感じた関係者は多いのではないだろうか』、「米国はニクソンショックによるドル暴落と、オイルショックという極めて危機的な状況に直面したにもかかわらず、キッシンジャー氏の巧みな外交戦略によってピンチを逆手に取り、強大なドル覇権を確立できたことになる。同時に米国は中国の大国化を手助けしたとも解釈できる」、「キッシンジャー氏の訪中がバイデン政権の外交にどれほどの影響を及ぼすのか現時点では何とも言えない。だが、今回、米国が見せた外交上のドタバタに関して、米国が築いてきた世界覇権の終わりの始まりを示唆していると感じた関係者は多いのではないだろうか」、なるほど。
タグ:Newsweek日本版「米当局、NYで中国「秘密警察」運営疑いの男2人逮捕 反体制派を弾圧する活動行う?」 (その18)(米当局 NYで中国「秘密警察」運営疑いの男2人逮捕 反体制派を弾圧する活動行う?、キッシンジャー訪中が示唆するのは アメリカ「世界覇権」終わりの始まりだ 50年前とは何もかも違う) 米中経済戦争 「チャイナタウンで中国の「秘密警察署」を運営していた疑いで、同市在住の男2人を逮捕した。 2人は米当局に知らせることなく中国政府の代わりに活動することを共謀した罪のほか、司法妨害の罪に問われている」、「スペインの人権団体は昨年、中国がニューヨークなどに在外拠点を設け、中国警察と違法に連携して亡命者に中国への帰国を迫っていたとする報告書をまとめた」、 「ブルックリンのブレオン・ピース連邦検事は「この国に逃れてきた民主化活動家に対する中国政府の迫害を容認することはできない」と記者団に述べた。 検察当局によると、男2人はともに米国籍で、中国の福建省出身者向けの懇親会開催などを手掛ける非営利団体を率いている。2018年には男1人が中国から亡命者とみられる人物を説得し帰国させようとしたほか、22年には秘密警察署の開設を手伝い、中国政府からカリフォルニア州に住む民主化運動活動家とされる個人の居場所を特定するよう依頼されたという。 また2人は米連邦捜査局(FBI)に対し、中国政府関係者との通信記録を削除したことを認めたという。秘密警察署は22年秋に閉鎖されたとしている」、「中国」が米国の司法権を犯して、独自に警察活動をするとはとんでもないことだ。さきほど観たNHKの番組で、あるNGOの調査によれば、中国が「秘密警察」活動をしている国は日本も含め100カ国以上になるようだ。 現代ビジネス 加谷 珪一氏による「キッシンジャー訪中が示唆するのは、アメリカ「世界覇権」終わりの始まりだ 50年前とは何もかも違う」 「キッシンジャー氏まで訪中」とは初めて知ったが、まだ生きていたのも驚きだ。 「バイデン政権は中国に対する譲歩ではなく、対話の継続が目的と苦しい弁明をしているが、米国を出し抜き、習氏と直接会談を行ったフランスの動きに焦りを感じ、中国にスリ寄ったのは明からだ」、その通りだ。 「米国が膨大な貿易赤字を抱えていてもドル不安が発生しないことの背景には、基軸通貨国としての一連の仕組みが関係している」、その通りだ。 「米国はニクソンショックによるドル暴落と、オイルショックという極めて危機的な状況に直面したにもかかわらず、キッシンジャー氏の巧みな外交戦略によってピンチを逆手に取り、強大なドル覇権を確立できたことになる。同時に米国は中国の大国化を手助けしたとも解釈できる」、 「キッシンジャー氏の訪中がバイデン政権の外交にどれほどの影響を及ぼすのか現時点では何とも言えない。だが、今回、米国が見せた外交上のドタバタに関して、米国が築いてきた世界覇権の終わりの始まりを示唆していると感じた関係者は多いのではないだろうか」、なるほど。
日韓関係(その17)(韓国人記者も「耳を疑った」…日本人住職が渡韓で再加熱 対馬“仏像盗難”裁判の奇妙すぎるゆくえ、国際社会も注目 対馬の仏像を巡る日韓の所有権争いにピリオド、韓国軍「レーダー照射問題」で日本が妥協した理由 元駐韓大使が解説) [外交]
日韓関係については、昨年6月10日に取上げた。今日は、(その17)(韓国人記者も「耳を疑った」…日本人住職が渡韓で再加熱 対馬“仏像盗難”裁判の奇妙すぎるゆくえ、国際社会も注目 対馬の仏像を巡る日韓の所有権争いにピリオド、韓国軍「レーダー照射問題」で日本が妥協した理由 元駐韓大使が解説)である。
先ずは、昨年6月18日付け文春オンラインが掲載したノンフィクションライターの菅野 朋子氏による「韓国人記者も「耳を疑った」…日本人住職が渡韓で再加熱、対馬“仏像盗難”裁判の奇妙すぎるゆくえ」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/55279
・『6月15日、対馬から盗まれ、韓国に持ち込まれた「観世音菩薩坐像」の所有権を巡る控訴審が韓国中部の大田高等裁判所で開かれた。 2017年3月に始まった控訴審の実に12回目。対馬・観音寺の田中節竜住職が被告側(韓国政府)の補助参加人として初めて出廷したこともあり、傍聴には整理券が配布され、中に入れない人のために別室で中継もされた。 当日夜にはさっそく原告側の浮石寺の前住職がテレビ出演して現状を訴えるなど韓国でも再び注目が集まっている』、「対馬・観音寺の田中節竜住職が被告側(韓国政府)の補助参加人として初めて出廷」、「控訴審の実に12回目」に「初めて出廷」とは驚いた。
・『「かつて倭寇に奪われた自寺の仏像である」浮石寺が主張 そもそもの発端は窃盗事件だった。 事件が起きたのは10年前の2012年10月。対馬にある海神神社から国指定の重要文化財「銅造如来立像」が、そして同じく対馬にある観音寺から長崎県指定の有形文化財「観世音菩薩坐像」が盗まれた。ほどなくその年末から翌年にかけて韓国で犯人は逮捕。 窃盗犯から運搬役、売買人と盗難にかかわった犯人7人の裁判が13年1月末に始まり、主犯格を含めた6人が懲役1~4年の実刑となり収監された。犯人が刑事罰となり、盗難品と確定した仏像は当然、それぞれの寺に返還されると思われたが、「観世音菩薩坐像」返還に待ったをかけたのが、韓国西部、瑞山市にある浮石寺だった。 仏像は「かつて倭寇に奪われた自寺の仏像である」と主張し、大田地方裁判所に「移転禁止の仮処分」を申請。大田地裁はこれを認め、「観世音菩薩坐像」は韓国に留め置かれることになった(「銅造如来立像」は2015年に返還された)』、「仏像は「かつて倭寇に奪われた自寺の仏像である」と主張し、大田地方裁判所に「移転禁止の仮処分」を申請。大田地裁はこれを認め、「観世音菩薩坐像」は韓国に留め置かれることになった」、「倭寇」まで持ち出すとは恐れ入ったが、これを認めた「大田地裁」もどうかしている。
・『まさかの原告勝訴に政府も驚きと困惑 しかしこの仮処分は裁判(本案訴訟)に移行しない場合は3年で効力が消失するもので、16年3月には、観音寺側も韓国政府に嘆願書を送付し、早期の返還を訴えてもいた。ところが、そうした動きに慌てた浮石寺は同年4月、今度は韓国政府を相手に仏像の引き渡しを求める裁判を起こす。 17年1月末に一審判決が出たが、大田地裁は「証言などから仏像は原告(浮石寺)の所有として十分に推定できる」として韓国政府に仏像を寺に引き渡すよう言い渡し、まさかの原告勝訴に。「耳を疑った」と事件をよく知る韓国紙記者は言う。 「当時は弾劾訴追されていた朴槿恵元大統領時代でしたが、政府もまさかの原告勝訴に驚いて、困惑していました。それは当日に控訴したことからも読み取れます」』、「大田地裁は「証言などから仏像は原告(浮石寺)の所有として十分に推定できる」として韓国政府に仏像を寺に引き渡すよう言い渡し、まさかの原告勝訴に」、この事件では、「韓国政府」の立場は「日本側」に近いようだ。
・『原告側が主張する「奪われた根拠」 控訴審は、17年3月から始まった。被告である韓国政府は、仏像に腹蔵されていた記録と仏像を所有していた高麗時代の浮石寺と現在の寺が同一かなどの問題提起をしたが、この間、仏像そのものの真贋まで検証するなど事件の本質とはかけ離れた弁論が繰り返されてきた。 今回の控訴審の後、浮石寺のウォヌ前住職はテレビに出演しこう訴えている。 「わたしたちは一審から一貫して仏像が正当な交流で渡ったものならば観音寺の所有であることを認めるが、そうではなく奪われたのであれば浮石寺の所有であると主張してきました。 浮石寺がある端山市一帯が高麗時代に倭寇の襲撃を受けていたという歴史的な記録と、日本の九州大学の教授が記した書物に観音寺を建て仏像を奉った人々が倭寇の家門であるという記述があり、これを(仏像が)倭寇に奪われた有力な証拠としています。そうした証拠と歴史的な記録に基づいて所有権を主張している」(KBS大田、6月15日)』、「証拠と歴史的な記録」といっても間接的なもののようだ。
・『判決がどちらの勝訴になっても上告は必至か この事件は犯人が仏像を売り飛ばそうとしていたことからも分かるように、本来はあくまでも窃盗事件だ。 観音寺の田中住職は控訴審で「浮石寺の法的な意味での所有権成立の立証が不十分であり、日本および韓国の民法において取得時効が成立しており、仏像の所有権は観音寺にある」と訴えた。 そして、1950年代に観音寺を建てた人物が当時、朝鮮に渡って譲り受けたと代々伝えられて来たと話し、「仏像は檀家の拠り所で長い間大切に守られ、幼い頃には寺の本堂で溢れんばかりのこどもたちと檀家の人々と一緒に観世音菩薩坐像に祈りを捧げてきた」とその歴史も語った。 裁判では、浮石寺が観音寺設立の際の証拠となる記録を観音寺側に求め終了した。しかし、浮石寺とて仏像が奪われたとする確固たる証拠はない。大田高裁はあと1回の弁論で結審に持ち込むとされるが、判決がどちらの勝訴になっても上告は必至だろう。仏像返還にはまだ時間がかかりそうだ。 ※一部表現を変更しました(2022/6/18 23:05)』、「裁判」の行方が注目される。
次に、本年2月6日付けJAPAN ARTnews「国際社会も注目。対馬の仏像を巡る日韓の所有権争いにピリオド」を紹介しよう。
https://artnewsjapan.com/article/739
・『海外メディアも注目していた、韓国人窃盗団が日本の寺院から盗んだ仏像の所有権をめぐる裁判。この度、韓国の高等裁判所は、仏像の所有権は観音寺(長崎)にあると認めた。 渦中の仏像は、450年以上前につくられた観世音菩薩坐像だ。観世音菩薩は、仏教では「世の人々の音を聞き分け、苦悩する者に救いを与える」と言われている。 英字版朝日新聞によると、この菩薩像を巡る一件は、国際的な主導権争いの中心になっている。同像は、2012年に韓国の窃盗団によって長崎県対馬の観音寺から盗まれたが、翌年、韓国捜査当局はこの窃盗犯を逮捕。仏像は韓国政府に没収された。そして2016年、観音寺は日本政府の支援を受け、返還を求めて提訴した。 しかし、韓国瑞山市の浮石寺も、この像の所有権を要求。同寺によると、観世音菩薩は14世紀、倭寇(わこう)によって盗まれたという。 2017年、韓国の大田地方裁判所は、仏像が「窃盗・略奪 によって日本に移ったとみなすのが妥当」とする判決を下し、韓国政府が即日控訴していた。 そして2023年2月1日、韓国の高等裁判所は、この像が浮石寺から略奪された可能性が高いと判断したが、現在までに同寺は一度廃寺されており、現在の浮石寺が14世紀に存在した寺と同じであるという証拠はないとして、所有権を否定した。 一方、観音寺は、日韓両国の民法上の所有権取得に必要な期間である20年以上仏像を所有しており、「取得時効」が成立している。 観音寺の現住職である田中節竜は2022年、韓国の裁判所に対し、「伝説によると、1526年に観音寺を創建した僧侶が朝鮮半島を旅した際に、この像を受け取った」と証言した。 観世音菩薩は「国際法の原則を考慮しながら日本に返還される」判決だったと英字版朝日新聞は報じている。しかし、浮石寺は高等裁判所に上告する方針だという』、「韓国の高等裁判所は、この像が浮石寺から略奪された可能性が高いと判断したが、現在までに同寺は一度廃寺されており、現在の浮石寺が14世紀に存在した寺と同じであるという証拠はないとして、所有権を否定した」、「観世音菩薩は「国際法の原則を考慮しながら日本に返還される」判決だった」、「浮石寺は高等裁判所に上告する方針」、しかし、タイトルにある「対馬の仏像を巡る日韓の所有権争いにピリオド」では最終的な確定判決のようにも思える。なにかスッキリしない結末だ。
第三に、6月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「韓国軍「レーダー照射問題」で日本が妥協した理由、元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324074
・『レーダー照射問題で韓国側は事実を歪曲 浜田靖一防衛相と韓国の李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防相は6月4日、アジア安全保障会議が開催されているシンガポールで約40分会談し、韓国海軍が自衛隊機に火器管制レーダーを照射した問題を巡り、再発防止で合意した。具体策を詰める実務者協議を近く始める。日韓の防衛相会談は、2019年以来およそ3年半ぶりとなる。 日韓は対立してきた事実認識に関する見解の相違を残したまま、具体策の調整を始める。 この点に関し、日本国内には保守層を中心に、岸田政権がレーダー照射問題のけじめをつけず、なし崩しで事態収拾を図るものであるとする批判が強く起きている。 レーダー照射問題とは、日本の海上自衛隊の哨戒機「P1」が18年12月20日、竹島北東160kmの海上で、韓国軍の3900トン級駆逐艦「広開土王」によって攻撃を意図する火器管制レーダーを照射された事件である。事態を重く見た当時の岩屋毅防衛相は、記者会見を開いて事件の内容を公表し、「極めて危険な行為だ」と批判した。その上で12月22日、韓国側に再発防止を求めた。 日本側が火器管制レーダーの照射があったと抗議したのに対し、韓国側は「使用したのは探索レーダーで、哨戒機を追跡する目的ではない」「北朝鮮の遭難船のためにレーダーを稼働したのを日本側が誤解した」と弁明した。さらに韓国側は、海自の哨戒機が高度150m、距離500mにまで接近し、「威嚇飛行」を行ったと主張している。 日本側は、P1が撮影した事件当時の映像、音声記録を公開している。さらに12月27日に行われた実務者協議において、韓国側と証拠を突き合わせて共同で検証することを提案したが、韓国側は拒否した。「レーダー照射を一貫して否定してきた韓国側の引っ込みがつかなくなった」という見方が出ていた。 日本側は19年1月、「韓国側が事実とは全く異なる主張を繰り返している。客観的、中立的な事実認定に応じる姿勢が見られない」という最終見解を発表した』、「日本国内には保守層を中心に、岸田政権がレーダー照射問題のけじめをつけず、なし崩しで事態収拾を図るものであるとする批判が強く起きている」、しかし、改善傾向にある日韓関係のノドに刺さった骨を抜いた「岸田政権」の判断は正しいとみるべきだ。
・『文前政権の防衛対象は北朝鮮よりも日本の竹島侵攻 文在寅(ムン・ジェイン)前政権が国防の重点に置いたのは、北朝鮮よりも日本、特に日本の竹島侵攻への防衛だったのではないかと疑われる節がある。 文前政権は、18年平壌で行われた南北首脳会談で、軍事境界線付近の偵察飛行の中止と大規模軍事演習の協議などを取り決め、韓国側の安保体制を一方的に弱体化させた。 そればかりでなく同年、「国防改革2.0」を策定した。これは今後の国防体制に関し、国防省が大統領に報告し、確定したものである。 この「国防改革2.0」では「攻撃的新作戦概念」が削除されている。その概念とは「韓国軍が北朝鮮との全面的な戦争に陥った場合、韓国軍が平壌を2週間以内に占領して、短期間で戦争に勝利する」というものである。国防省が最初に大統領府に提出した報告には、その作戦概念が含まれていた。だが、大統領府が、北朝鮮の嫌う作戦構想を廃棄させたとのことである。 また、「国防改革2.0」には韓国軍の総兵力を22年までに61万8000人から50万人に削減する計画が盛り込まれており、削減する兵力のすべては北朝鮮に直接対峙(たいじ)する陸軍である。なお北朝鮮は128万人の兵力を保持している』、「文前政権」の「「国防改革2.0」では「攻撃的新作戦概念」が削除されている。その概念とは「韓国軍が北朝鮮との全面的な戦争に陥った場合、韓国軍が平壌を2週間以内に占領して、短期間で戦争に勝利する」というものである。国防省が最初に大統領府に提出した報告には、その作戦概念が含まれていた。だが、大統領府が、北朝鮮の嫌う作戦構想を廃棄させた」、「韓国軍の総兵力を22年までに61万8000人から50万人に削減する計画が盛り込まれており、削減する兵力のすべては北朝鮮に直接対峙・・・する陸軍」、「文前政権の防衛対象は北朝鮮よりも日本の竹島侵攻」、確かに「文前政権」の対日政策は腹立たしいものだった。
・『文前政権時代の国防力増強は日本を意識したもの 文前政権は、こうした北朝鮮に対する防衛体制の弱体化とは対照的に、対日防衛の強化に取り組んできた。 韓国海軍が手に入れようとしている軍艦の中には、日本を仮想敵国と意識しているのではないかと勘ぐらざるを得ないものが含まれている。 海軍増強計画で建造が予定されている軍艦の中で注目されるのは航空母艦である。海上自衛隊の「いずも」型より若干大型の3万トン級空母が建造されることになっている。しかし、韓国軍は、現時点ではSTOVL戦闘機をはじめとする艦載固定翼機を保有していないし、国産戦闘機(KXK)開発計画にもSTOVL機は含まれていないようである。 艦載固定翼機を保有しておらず、開発計画にも含まれていないのに、韓国はなぜ航空母艦を建造するのか。それは日本の軽空母保有に対抗するためであろう。 東亜日報は21年2月11日、「韓国国防部は竹島を巡る日本の仮想戦闘シナリオを作成し、国会で非公開報告を行った」と報じた。これは、軍が最新型軍備導入の必要性を説明する文書の一部であり「自衛隊による軍事的脅威からの防衛のため、新たな戦略資産が必要だ」と強調したという。 文前政権時代、韓国は竹島での軍事演習を拡大してきた。GSOMIA破棄を通告した19年の訓練には初めてイージス艦を投入、海軍の兵士がヘリコプターで竹島に上陸する訓練も実施した。訓練規模は例年の2倍だったという』、「艦載固定翼機を保有しておらず、開発計画にも含まれていないのに、韓国はなぜ航空母艦を建造するのか。それは日本の軽空母保有に対抗するためであろう」、これには苦笑せざるを得ない。
・『日本を仮想敵国とした特別な指針を作成 与党「国民の力」の申源シク(シン・ウォンシク)議員によれば、19年2月、軍当局は「日航空機対応指針」を海軍に通達した。同通達で、自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定した。追跡レーダーは艦艇で艦砲やミサイルを狙うために標的の方向や距離、高度を測定するレーダーであり、日本では火器管制レーダーとしても使う。 追跡レーダーを稼働し、レーダービームを航空機に照射するのは、攻撃する意思があると相手に伝える行為である。 中央日報によれば、「日航空機対応指針」は日本を韓国の軍事管轄権に対して友好的でない中国・ロシアよりも厳しく扱っている。軍当局が「日航空機対応指針」を作った際、軍内部から「日本と戦争をしろということか」という批判が多く出ていたという。 関連事情を知る匿名の政府筋は、同指針は大統領府安保室が主導したという。申議員は「日本の海上哨戒機を特定して、別の指針で現場指揮官に軍事的対応まで委任したというのは非常に危険な政策」だと指摘している。 これまで頻繁に韓国の領空を侵犯しているのはロシアの軍用機である。それでもロシアの軍用機への対応には日本のような特別なものはない。 文前政権が従北、親中ロであるとはいえ、常識では考えられない暴挙である。 ただ、実際の前線では対立状況を作らないように相互の動きを事前に知らせていたという。また、別の政府筋は「韓国と日本の政治家が国内政治を意識して強硬基調を取る場合も、両国安保当局では偶発的な衝突は大きな禍根を残す場合があるので、とりわけ注意が必要だという認識があった」と述べている』、「「日航空機対応指針」は日本を韓国の軍事管轄権に対して友好的でない中国・ロシアよりも厳しく扱っている。軍当局が「日航空機対応指針」を作った際、軍内部から「日本と戦争をしろということか」という批判が多く出ていたという。 関連事情を知る匿名の政府筋は、同指針は大統領府安保室が主導したという。申議員は「日本の海上哨戒機を特定して、別の指針で現場指揮官に軍事的対応まで委任したというのは非常に危険な政策」だと指摘している」、「ただ、実際の前線では対立状況を作らないように相互の動きを事前に知らせていたという。また、別の政府筋は「韓国と日本の政治家が国内政治を意識して強硬基調を取る場合も、両国安保当局では偶発的な衝突は大きな禍根を残す場合があるので、とりわけ注意が必要だという認識があった」、「両国安保当局では偶発的な衝突は大きな禍根を残す場合があるので、とりわけ注意が必要だという認識があった」というので一安心だ。
・『尹錫悦政権の防衛対象は北朝鮮であることが明白 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、昨年5月に発効した国防白書で、北朝鮮の核・ミサイル開発に対応、3軸体系で防衛していくことを明らかにした。3軸体系とは、北朝鮮のミサイル発射の兆候を探知して先制攻撃するキルチェーン、発射されたミサイルを迎撃する韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)、北朝鮮から攻撃された場合に指導部などに報復攻撃を行う大量反撃報復(KMPR)の戦力を備えるという戦力増強計画を意味する。 韓国は23年度国防費として57兆1268億ウォン(5兆8000億円)の予算を組んでいる。中でも北朝鮮の核・ミサイル脅威に対応するため、「韓国版3軸体系」の予算を9.4%増加させた。文前政権が推進していた軽空母事業は予算に反映されなかった。 また、尹錫悦大統領が4月に訪米した際に、首脳会談において北朝鮮の核に対する拡大抑止に合意した。それに先立つ3月13日には米韓合同軍事演習が再開され、5年ぶりに大規模な野外機動訓練が行われた。 その半面、竹島での演習は尹錫悦政権になってから規模を縮小している。 韓国軍は昨年12月22日、竹島の防衛を想定した訓練を周辺海域で行った。ほぼ半年ごとに行ってきた定例訓練であるが、7月に行った前回同様、例年より規模を縮小し、非公開で、兵員の竹島への上陸もなかった。航空機も動員されず、海軍艦艇などが参加した。ただ、それでも日本としては、竹島での訓練は受け入れることができないと抗議している。 こうしたことを総合するに、韓国の仮想敵国であった日本は、北朝鮮の核・ミサイルに対抗する協力国となり、主敵は北朝鮮に回帰したといえるだろう』、「尹錫悦政権になってから」、「韓国の仮想敵国であった日本は、北朝鮮の核・ミサイルに対抗する協力国となり、主敵は北朝鮮に回帰したといえるだろう』、ようやく落ち着くところに落ち着いたようだ。
・『レーダー照射問題の事実認定に焦点を当てなかった背景 浜田防衛相は4日の韓国との防衛省会談で、レーダー照射問題に関する事実認定の表明は求めなかった。韓国側には「日航空機対応指針」を撤回する用意があるとの判断であろう。防衛当局間の最大の懸案が解決し日韓の安保協力は4年半ぶりに本格化する。 浜田防衛相と李国防相は3日、オースティン米国防長官と日米韓国防相会談を開催。これに先立ち3カ国首脳が合意した、北朝鮮ミサイル警報情報リアルタイム共有体系を年内に稼働することを確定した。 情報共有には国家間の信頼関係が重要であり、日韓の関係改善は必須要件となる。閣僚レベルではあえて事実関係の解明に焦点を当てず、未来志向での解決を目指す。今後は防衛当局間で信頼構築を図ることになる』、「情報共有には国家間の信頼関係が重要であり、日韓の関係改善は必須要件となる。閣僚レベルではあえて事実関係の解明に焦点を当てず、未来志向での解決を目指す。今後は防衛当局間で信頼構築を図ることになる」、賢明なやり方だ。
・『国民の意識の変化が日韓防衛協力を後押し 日韓で防衛協力をする上で重要なことの一つは、国民レベルでの支持である。 政府系のシンクタンク統一研究院が5日に公表した「統一意識調査」によると、米韓首脳会談で核に対する拡大抑止に合意して以降、韓国自身が核を保有すべきとの意見は2年前より10ポイント余り下落し60.2%となった。 その一方で、日本との軍事同盟に同意するとの回答は52.4%となり、国民の多数が日韓軍事協力を地域安保の観点から理解していることが示された。このようなことはこれまでなかったことである。 これは尹錫悦大統領の外交が評価された結果であり、文前政権時代の仮想敵国日本の意識が薄れたことを意味しよう。 海自哨戒機へのレーダー照射問題で事実関係の解明を避けたことは遺憾であるが、韓国の日本を見る視線が大きく変わった。これはレーダー照射事件の再発を防止するための重要な支援材料となるであろう』、「韓国自身が核を保有すべきとの意見は2年前より10ポイント余り下落し60.2%となった。 その一方で、日本との軍事同盟に同意するとの回答は52.4%となり、国民の多数が日韓軍事協力を地域安保の観点から理解していることが示された」、「韓国の日本を見る視線が大きく変わった。これはレーダー照射事件の再発を防止するための重要な支援材料となるであろう」、同感である。
先ずは、昨年6月18日付け文春オンラインが掲載したノンフィクションライターの菅野 朋子氏による「韓国人記者も「耳を疑った」…日本人住職が渡韓で再加熱、対馬“仏像盗難”裁判の奇妙すぎるゆくえ」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/55279
・『6月15日、対馬から盗まれ、韓国に持ち込まれた「観世音菩薩坐像」の所有権を巡る控訴審が韓国中部の大田高等裁判所で開かれた。 2017年3月に始まった控訴審の実に12回目。対馬・観音寺の田中節竜住職が被告側(韓国政府)の補助参加人として初めて出廷したこともあり、傍聴には整理券が配布され、中に入れない人のために別室で中継もされた。 当日夜にはさっそく原告側の浮石寺の前住職がテレビ出演して現状を訴えるなど韓国でも再び注目が集まっている』、「対馬・観音寺の田中節竜住職が被告側(韓国政府)の補助参加人として初めて出廷」、「控訴審の実に12回目」に「初めて出廷」とは驚いた。
・『「かつて倭寇に奪われた自寺の仏像である」浮石寺が主張 そもそもの発端は窃盗事件だった。 事件が起きたのは10年前の2012年10月。対馬にある海神神社から国指定の重要文化財「銅造如来立像」が、そして同じく対馬にある観音寺から長崎県指定の有形文化財「観世音菩薩坐像」が盗まれた。ほどなくその年末から翌年にかけて韓国で犯人は逮捕。 窃盗犯から運搬役、売買人と盗難にかかわった犯人7人の裁判が13年1月末に始まり、主犯格を含めた6人が懲役1~4年の実刑となり収監された。犯人が刑事罰となり、盗難品と確定した仏像は当然、それぞれの寺に返還されると思われたが、「観世音菩薩坐像」返還に待ったをかけたのが、韓国西部、瑞山市にある浮石寺だった。 仏像は「かつて倭寇に奪われた自寺の仏像である」と主張し、大田地方裁判所に「移転禁止の仮処分」を申請。大田地裁はこれを認め、「観世音菩薩坐像」は韓国に留め置かれることになった(「銅造如来立像」は2015年に返還された)』、「仏像は「かつて倭寇に奪われた自寺の仏像である」と主張し、大田地方裁判所に「移転禁止の仮処分」を申請。大田地裁はこれを認め、「観世音菩薩坐像」は韓国に留め置かれることになった」、「倭寇」まで持ち出すとは恐れ入ったが、これを認めた「大田地裁」もどうかしている。
・『まさかの原告勝訴に政府も驚きと困惑 しかしこの仮処分は裁判(本案訴訟)に移行しない場合は3年で効力が消失するもので、16年3月には、観音寺側も韓国政府に嘆願書を送付し、早期の返還を訴えてもいた。ところが、そうした動きに慌てた浮石寺は同年4月、今度は韓国政府を相手に仏像の引き渡しを求める裁判を起こす。 17年1月末に一審判決が出たが、大田地裁は「証言などから仏像は原告(浮石寺)の所有として十分に推定できる」として韓国政府に仏像を寺に引き渡すよう言い渡し、まさかの原告勝訴に。「耳を疑った」と事件をよく知る韓国紙記者は言う。 「当時は弾劾訴追されていた朴槿恵元大統領時代でしたが、政府もまさかの原告勝訴に驚いて、困惑していました。それは当日に控訴したことからも読み取れます」』、「大田地裁は「証言などから仏像は原告(浮石寺)の所有として十分に推定できる」として韓国政府に仏像を寺に引き渡すよう言い渡し、まさかの原告勝訴に」、この事件では、「韓国政府」の立場は「日本側」に近いようだ。
・『原告側が主張する「奪われた根拠」 控訴審は、17年3月から始まった。被告である韓国政府は、仏像に腹蔵されていた記録と仏像を所有していた高麗時代の浮石寺と現在の寺が同一かなどの問題提起をしたが、この間、仏像そのものの真贋まで検証するなど事件の本質とはかけ離れた弁論が繰り返されてきた。 今回の控訴審の後、浮石寺のウォヌ前住職はテレビに出演しこう訴えている。 「わたしたちは一審から一貫して仏像が正当な交流で渡ったものならば観音寺の所有であることを認めるが、そうではなく奪われたのであれば浮石寺の所有であると主張してきました。 浮石寺がある端山市一帯が高麗時代に倭寇の襲撃を受けていたという歴史的な記録と、日本の九州大学の教授が記した書物に観音寺を建て仏像を奉った人々が倭寇の家門であるという記述があり、これを(仏像が)倭寇に奪われた有力な証拠としています。そうした証拠と歴史的な記録に基づいて所有権を主張している」(KBS大田、6月15日)』、「証拠と歴史的な記録」といっても間接的なもののようだ。
・『判決がどちらの勝訴になっても上告は必至か この事件は犯人が仏像を売り飛ばそうとしていたことからも分かるように、本来はあくまでも窃盗事件だ。 観音寺の田中住職は控訴審で「浮石寺の法的な意味での所有権成立の立証が不十分であり、日本および韓国の民法において取得時効が成立しており、仏像の所有権は観音寺にある」と訴えた。 そして、1950年代に観音寺を建てた人物が当時、朝鮮に渡って譲り受けたと代々伝えられて来たと話し、「仏像は檀家の拠り所で長い間大切に守られ、幼い頃には寺の本堂で溢れんばかりのこどもたちと檀家の人々と一緒に観世音菩薩坐像に祈りを捧げてきた」とその歴史も語った。 裁判では、浮石寺が観音寺設立の際の証拠となる記録を観音寺側に求め終了した。しかし、浮石寺とて仏像が奪われたとする確固たる証拠はない。大田高裁はあと1回の弁論で結審に持ち込むとされるが、判決がどちらの勝訴になっても上告は必至だろう。仏像返還にはまだ時間がかかりそうだ。 ※一部表現を変更しました(2022/6/18 23:05)』、「裁判」の行方が注目される。
次に、本年2月6日付けJAPAN ARTnews「国際社会も注目。対馬の仏像を巡る日韓の所有権争いにピリオド」を紹介しよう。
https://artnewsjapan.com/article/739
・『海外メディアも注目していた、韓国人窃盗団が日本の寺院から盗んだ仏像の所有権をめぐる裁判。この度、韓国の高等裁判所は、仏像の所有権は観音寺(長崎)にあると認めた。 渦中の仏像は、450年以上前につくられた観世音菩薩坐像だ。観世音菩薩は、仏教では「世の人々の音を聞き分け、苦悩する者に救いを与える」と言われている。 英字版朝日新聞によると、この菩薩像を巡る一件は、国際的な主導権争いの中心になっている。同像は、2012年に韓国の窃盗団によって長崎県対馬の観音寺から盗まれたが、翌年、韓国捜査当局はこの窃盗犯を逮捕。仏像は韓国政府に没収された。そして2016年、観音寺は日本政府の支援を受け、返還を求めて提訴した。 しかし、韓国瑞山市の浮石寺も、この像の所有権を要求。同寺によると、観世音菩薩は14世紀、倭寇(わこう)によって盗まれたという。 2017年、韓国の大田地方裁判所は、仏像が「窃盗・略奪 によって日本に移ったとみなすのが妥当」とする判決を下し、韓国政府が即日控訴していた。 そして2023年2月1日、韓国の高等裁判所は、この像が浮石寺から略奪された可能性が高いと判断したが、現在までに同寺は一度廃寺されており、現在の浮石寺が14世紀に存在した寺と同じであるという証拠はないとして、所有権を否定した。 一方、観音寺は、日韓両国の民法上の所有権取得に必要な期間である20年以上仏像を所有しており、「取得時効」が成立している。 観音寺の現住職である田中節竜は2022年、韓国の裁判所に対し、「伝説によると、1526年に観音寺を創建した僧侶が朝鮮半島を旅した際に、この像を受け取った」と証言した。 観世音菩薩は「国際法の原則を考慮しながら日本に返還される」判決だったと英字版朝日新聞は報じている。しかし、浮石寺は高等裁判所に上告する方針だという』、「韓国の高等裁判所は、この像が浮石寺から略奪された可能性が高いと判断したが、現在までに同寺は一度廃寺されており、現在の浮石寺が14世紀に存在した寺と同じであるという証拠はないとして、所有権を否定した」、「観世音菩薩は「国際法の原則を考慮しながら日本に返還される」判決だった」、「浮石寺は高等裁判所に上告する方針」、しかし、タイトルにある「対馬の仏像を巡る日韓の所有権争いにピリオド」では最終的な確定判決のようにも思える。なにかスッキリしない結末だ。
第三に、6月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「韓国軍「レーダー照射問題」で日本が妥協した理由、元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/324074
・『レーダー照射問題で韓国側は事実を歪曲 浜田靖一防衛相と韓国の李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防相は6月4日、アジア安全保障会議が開催されているシンガポールで約40分会談し、韓国海軍が自衛隊機に火器管制レーダーを照射した問題を巡り、再発防止で合意した。具体策を詰める実務者協議を近く始める。日韓の防衛相会談は、2019年以来およそ3年半ぶりとなる。 日韓は対立してきた事実認識に関する見解の相違を残したまま、具体策の調整を始める。 この点に関し、日本国内には保守層を中心に、岸田政権がレーダー照射問題のけじめをつけず、なし崩しで事態収拾を図るものであるとする批判が強く起きている。 レーダー照射問題とは、日本の海上自衛隊の哨戒機「P1」が18年12月20日、竹島北東160kmの海上で、韓国軍の3900トン級駆逐艦「広開土王」によって攻撃を意図する火器管制レーダーを照射された事件である。事態を重く見た当時の岩屋毅防衛相は、記者会見を開いて事件の内容を公表し、「極めて危険な行為だ」と批判した。その上で12月22日、韓国側に再発防止を求めた。 日本側が火器管制レーダーの照射があったと抗議したのに対し、韓国側は「使用したのは探索レーダーで、哨戒機を追跡する目的ではない」「北朝鮮の遭難船のためにレーダーを稼働したのを日本側が誤解した」と弁明した。さらに韓国側は、海自の哨戒機が高度150m、距離500mにまで接近し、「威嚇飛行」を行ったと主張している。 日本側は、P1が撮影した事件当時の映像、音声記録を公開している。さらに12月27日に行われた実務者協議において、韓国側と証拠を突き合わせて共同で検証することを提案したが、韓国側は拒否した。「レーダー照射を一貫して否定してきた韓国側の引っ込みがつかなくなった」という見方が出ていた。 日本側は19年1月、「韓国側が事実とは全く異なる主張を繰り返している。客観的、中立的な事実認定に応じる姿勢が見られない」という最終見解を発表した』、「日本国内には保守層を中心に、岸田政権がレーダー照射問題のけじめをつけず、なし崩しで事態収拾を図るものであるとする批判が強く起きている」、しかし、改善傾向にある日韓関係のノドに刺さった骨を抜いた「岸田政権」の判断は正しいとみるべきだ。
・『文前政権の防衛対象は北朝鮮よりも日本の竹島侵攻 文在寅(ムン・ジェイン)前政権が国防の重点に置いたのは、北朝鮮よりも日本、特に日本の竹島侵攻への防衛だったのではないかと疑われる節がある。 文前政権は、18年平壌で行われた南北首脳会談で、軍事境界線付近の偵察飛行の中止と大規模軍事演習の協議などを取り決め、韓国側の安保体制を一方的に弱体化させた。 そればかりでなく同年、「国防改革2.0」を策定した。これは今後の国防体制に関し、国防省が大統領に報告し、確定したものである。 この「国防改革2.0」では「攻撃的新作戦概念」が削除されている。その概念とは「韓国軍が北朝鮮との全面的な戦争に陥った場合、韓国軍が平壌を2週間以内に占領して、短期間で戦争に勝利する」というものである。国防省が最初に大統領府に提出した報告には、その作戦概念が含まれていた。だが、大統領府が、北朝鮮の嫌う作戦構想を廃棄させたとのことである。 また、「国防改革2.0」には韓国軍の総兵力を22年までに61万8000人から50万人に削減する計画が盛り込まれており、削減する兵力のすべては北朝鮮に直接対峙(たいじ)する陸軍である。なお北朝鮮は128万人の兵力を保持している』、「文前政権」の「「国防改革2.0」では「攻撃的新作戦概念」が削除されている。その概念とは「韓国軍が北朝鮮との全面的な戦争に陥った場合、韓国軍が平壌を2週間以内に占領して、短期間で戦争に勝利する」というものである。国防省が最初に大統領府に提出した報告には、その作戦概念が含まれていた。だが、大統領府が、北朝鮮の嫌う作戦構想を廃棄させた」、「韓国軍の総兵力を22年までに61万8000人から50万人に削減する計画が盛り込まれており、削減する兵力のすべては北朝鮮に直接対峙・・・する陸軍」、「文前政権の防衛対象は北朝鮮よりも日本の竹島侵攻」、確かに「文前政権」の対日政策は腹立たしいものだった。
・『文前政権時代の国防力増強は日本を意識したもの 文前政権は、こうした北朝鮮に対する防衛体制の弱体化とは対照的に、対日防衛の強化に取り組んできた。 韓国海軍が手に入れようとしている軍艦の中には、日本を仮想敵国と意識しているのではないかと勘ぐらざるを得ないものが含まれている。 海軍増強計画で建造が予定されている軍艦の中で注目されるのは航空母艦である。海上自衛隊の「いずも」型より若干大型の3万トン級空母が建造されることになっている。しかし、韓国軍は、現時点ではSTOVL戦闘機をはじめとする艦載固定翼機を保有していないし、国産戦闘機(KXK)開発計画にもSTOVL機は含まれていないようである。 艦載固定翼機を保有しておらず、開発計画にも含まれていないのに、韓国はなぜ航空母艦を建造するのか。それは日本の軽空母保有に対抗するためであろう。 東亜日報は21年2月11日、「韓国国防部は竹島を巡る日本の仮想戦闘シナリオを作成し、国会で非公開報告を行った」と報じた。これは、軍が最新型軍備導入の必要性を説明する文書の一部であり「自衛隊による軍事的脅威からの防衛のため、新たな戦略資産が必要だ」と強調したという。 文前政権時代、韓国は竹島での軍事演習を拡大してきた。GSOMIA破棄を通告した19年の訓練には初めてイージス艦を投入、海軍の兵士がヘリコプターで竹島に上陸する訓練も実施した。訓練規模は例年の2倍だったという』、「艦載固定翼機を保有しておらず、開発計画にも含まれていないのに、韓国はなぜ航空母艦を建造するのか。それは日本の軽空母保有に対抗するためであろう」、これには苦笑せざるを得ない。
・『日本を仮想敵国とした特別な指針を作成 与党「国民の力」の申源シク(シン・ウォンシク)議員によれば、19年2月、軍当局は「日航空機対応指針」を海軍に通達した。同通達で、自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定した。追跡レーダーは艦艇で艦砲やミサイルを狙うために標的の方向や距離、高度を測定するレーダーであり、日本では火器管制レーダーとしても使う。 追跡レーダーを稼働し、レーダービームを航空機に照射するのは、攻撃する意思があると相手に伝える行為である。 中央日報によれば、「日航空機対応指針」は日本を韓国の軍事管轄権に対して友好的でない中国・ロシアよりも厳しく扱っている。軍当局が「日航空機対応指針」を作った際、軍内部から「日本と戦争をしろということか」という批判が多く出ていたという。 関連事情を知る匿名の政府筋は、同指針は大統領府安保室が主導したという。申議員は「日本の海上哨戒機を特定して、別の指針で現場指揮官に軍事的対応まで委任したというのは非常に危険な政策」だと指摘している。 これまで頻繁に韓国の領空を侵犯しているのはロシアの軍用機である。それでもロシアの軍用機への対応には日本のような特別なものはない。 文前政権が従北、親中ロであるとはいえ、常識では考えられない暴挙である。 ただ、実際の前線では対立状況を作らないように相互の動きを事前に知らせていたという。また、別の政府筋は「韓国と日本の政治家が国内政治を意識して強硬基調を取る場合も、両国安保当局では偶発的な衝突は大きな禍根を残す場合があるので、とりわけ注意が必要だという認識があった」と述べている』、「「日航空機対応指針」は日本を韓国の軍事管轄権に対して友好的でない中国・ロシアよりも厳しく扱っている。軍当局が「日航空機対応指針」を作った際、軍内部から「日本と戦争をしろということか」という批判が多く出ていたという。 関連事情を知る匿名の政府筋は、同指針は大統領府安保室が主導したという。申議員は「日本の海上哨戒機を特定して、別の指針で現場指揮官に軍事的対応まで委任したというのは非常に危険な政策」だと指摘している」、「ただ、実際の前線では対立状況を作らないように相互の動きを事前に知らせていたという。また、別の政府筋は「韓国と日本の政治家が国内政治を意識して強硬基調を取る場合も、両国安保当局では偶発的な衝突は大きな禍根を残す場合があるので、とりわけ注意が必要だという認識があった」、「両国安保当局では偶発的な衝突は大きな禍根を残す場合があるので、とりわけ注意が必要だという認識があった」というので一安心だ。
・『尹錫悦政権の防衛対象は北朝鮮であることが明白 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は、昨年5月に発効した国防白書で、北朝鮮の核・ミサイル開発に対応、3軸体系で防衛していくことを明らかにした。3軸体系とは、北朝鮮のミサイル発射の兆候を探知して先制攻撃するキルチェーン、発射されたミサイルを迎撃する韓国型ミサイル防衛体系(KAMD)、北朝鮮から攻撃された場合に指導部などに報復攻撃を行う大量反撃報復(KMPR)の戦力を備えるという戦力増強計画を意味する。 韓国は23年度国防費として57兆1268億ウォン(5兆8000億円)の予算を組んでいる。中でも北朝鮮の核・ミサイル脅威に対応するため、「韓国版3軸体系」の予算を9.4%増加させた。文前政権が推進していた軽空母事業は予算に反映されなかった。 また、尹錫悦大統領が4月に訪米した際に、首脳会談において北朝鮮の核に対する拡大抑止に合意した。それに先立つ3月13日には米韓合同軍事演習が再開され、5年ぶりに大規模な野外機動訓練が行われた。 その半面、竹島での演習は尹錫悦政権になってから規模を縮小している。 韓国軍は昨年12月22日、竹島の防衛を想定した訓練を周辺海域で行った。ほぼ半年ごとに行ってきた定例訓練であるが、7月に行った前回同様、例年より規模を縮小し、非公開で、兵員の竹島への上陸もなかった。航空機も動員されず、海軍艦艇などが参加した。ただ、それでも日本としては、竹島での訓練は受け入れることができないと抗議している。 こうしたことを総合するに、韓国の仮想敵国であった日本は、北朝鮮の核・ミサイルに対抗する協力国となり、主敵は北朝鮮に回帰したといえるだろう』、「尹錫悦政権になってから」、「韓国の仮想敵国であった日本は、北朝鮮の核・ミサイルに対抗する協力国となり、主敵は北朝鮮に回帰したといえるだろう』、ようやく落ち着くところに落ち着いたようだ。
・『レーダー照射問題の事実認定に焦点を当てなかった背景 浜田防衛相は4日の韓国との防衛省会談で、レーダー照射問題に関する事実認定の表明は求めなかった。韓国側には「日航空機対応指針」を撤回する用意があるとの判断であろう。防衛当局間の最大の懸案が解決し日韓の安保協力は4年半ぶりに本格化する。 浜田防衛相と李国防相は3日、オースティン米国防長官と日米韓国防相会談を開催。これに先立ち3カ国首脳が合意した、北朝鮮ミサイル警報情報リアルタイム共有体系を年内に稼働することを確定した。 情報共有には国家間の信頼関係が重要であり、日韓の関係改善は必須要件となる。閣僚レベルではあえて事実関係の解明に焦点を当てず、未来志向での解決を目指す。今後は防衛当局間で信頼構築を図ることになる』、「情報共有には国家間の信頼関係が重要であり、日韓の関係改善は必須要件となる。閣僚レベルではあえて事実関係の解明に焦点を当てず、未来志向での解決を目指す。今後は防衛当局間で信頼構築を図ることになる」、賢明なやり方だ。
・『国民の意識の変化が日韓防衛協力を後押し 日韓で防衛協力をする上で重要なことの一つは、国民レベルでの支持である。 政府系のシンクタンク統一研究院が5日に公表した「統一意識調査」によると、米韓首脳会談で核に対する拡大抑止に合意して以降、韓国自身が核を保有すべきとの意見は2年前より10ポイント余り下落し60.2%となった。 その一方で、日本との軍事同盟に同意するとの回答は52.4%となり、国民の多数が日韓軍事協力を地域安保の観点から理解していることが示された。このようなことはこれまでなかったことである。 これは尹錫悦大統領の外交が評価された結果であり、文前政権時代の仮想敵国日本の意識が薄れたことを意味しよう。 海自哨戒機へのレーダー照射問題で事実関係の解明を避けたことは遺憾であるが、韓国の日本を見る視線が大きく変わった。これはレーダー照射事件の再発を防止するための重要な支援材料となるであろう』、「韓国自身が核を保有すべきとの意見は2年前より10ポイント余り下落し60.2%となった。 その一方で、日本との軍事同盟に同意するとの回答は52.4%となり、国民の多数が日韓軍事協力を地域安保の観点から理解していることが示された」、「韓国の日本を見る視線が大きく変わった。これはレーダー照射事件の再発を防止するための重要な支援材料となるであろう」、同感である。
タグ:日韓関係 (その17)(韓国人記者も「耳を疑った」…日本人住職が渡韓で再加熱 対馬“仏像盗難”裁判の奇妙すぎるゆくえ、国際社会も注目 対馬の仏像を巡る日韓の所有権争いにピリオド、韓国軍「レーダー照射問題」で日本が妥協した理由 元駐韓大使が解説) 菅野 朋子氏による「韓国人記者も「耳を疑った」…日本人住職が渡韓で再加熱、対馬“仏像盗難”裁判の奇妙すぎるゆくえ」 文春オンライン 「対馬・観音寺の田中節竜住職が被告側(韓国政府)の補助参加人として初めて出廷」、「控訴審の実に12回目」に「初めて出廷」とは驚いた。 「仏像は「かつて倭寇に奪われた自寺の仏像である」と主張し、大田地方裁判所に「移転禁止の仮処分」を申請。大田地裁はこれを認め、「観世音菩薩坐像」は韓国に留め置かれることになった」、「倭寇」まで持ち出すとは恐れ入ったが、これを認めた「大田地裁」もどうかしている。 「大田地裁は「証言などから仏像は原告(浮石寺)の所有として十分に推定できる」として韓国政府に仏像を寺に引き渡すよう言い渡し、まさかの原告勝訴に」、この事件では、「韓国政府」の立場は「日本側」に近いようだ。 「証拠と歴史的な記録」といっても間接的なもののようだ。 「裁判」の行方が注目される。 JAPAN ARTnews「国際社会も注目。対馬の仏像を巡る日韓の所有権争いにピリオド」 「韓国の高等裁判所は、この像が浮石寺から略奪された可能性が高いと判断したが、現在までに同寺は一度廃寺されており、現在の浮石寺が14世紀に存在した寺と同じであるという証拠はないとして、所有権を否定した」、「観世音菩薩は「国際法の原則を考慮しながら日本に返還される」判決だった」、 「浮石寺は高等裁判所に上告する方針」、しかし、タイトルにある「対馬の仏像を巡る日韓の所有権争いにピリオド」では最終的な確定判決のようにも思える。なにかスッキリしない結末だ。 ダイヤモンド・オンライン 武藤正敏氏による「韓国軍「レーダー照射問題」で日本が妥協した理由、元駐韓大使が解説」 「日本国内には保守層を中心に、岸田政権がレーダー照射問題のけじめをつけず、なし崩しで事態収拾を図るものであるとする批判が強く起きている」、しかし、改善傾向にある日韓関係のノドに刺さった骨を抜いた「岸田政権」の判断は正しいとみるべきだ。 「文前政権」の「「国防改革2.0」では「攻撃的新作戦概念」が削除されている。その概念とは「韓国軍が北朝鮮との全面的な戦争に陥った場合、韓国軍が平壌を2週間以内に占領して、短期間で戦争に勝利する」というものである。国防省が最初に大統領府に提出した報告には、その作戦概念が含まれていた。だが、大統領府が、北朝鮮の嫌う作戦構想を廃棄させた」、 「韓国軍の総兵力を22年までに61万8000人から50万人に削減する計画が盛り込まれており、削減する兵力のすべては北朝鮮に直接対峙・・・する陸軍」、「文前政権の防衛対象は北朝鮮よりも日本の竹島侵攻」、確かに「文前政権」の対日政策は腹立たしいものだった。 「艦載固定翼機を保有しておらず、開発計画にも含まれていないのに、韓国はなぜ航空母艦を建造するのか。それは日本の軽空母保有に対抗するためであろう」、これには苦笑せざるを得ない。 「「日航空機対応指針」は日本を韓国の軍事管轄権に対して友好的でない中国・ロシアよりも厳しく扱っている。軍当局が「日航空機対応指針」を作った際、軍内部から「日本と戦争をしろということか」という批判が多く出ていたという。 関連事情を知る匿名の政府筋は、同指針は大統領府安保室が主導したという。申議員は「日本の海上哨戒機を特定して、別の指針で現場指揮官に軍事的対応まで委任したというのは非常に危険な政策」だと指摘している」、 「ただ、実際の前線では対立状況を作らないように相互の動きを事前に知らせていたという。また、別の政府筋は「韓国と日本の政治家が国内政治を意識して強硬基調を取る場合も、両国安保当局では偶発的な衝突は大きな禍根を残す場合があるので、とりわけ注意が必要だという認識があった」、「両国安保当局では偶発的な衝突は大きな禍根を残す場合があるので、とりわけ注意が必要だという認識があった」というので一安心だ。 「尹錫悦政権になってから」、「韓国の仮想敵国であった日本は、北朝鮮の核・ミサイルに対抗する協力国となり、主敵は北朝鮮に回帰したといえるだろう』、ようやく落ち着くところに落ち着いたようだ。 「情報共有には国家間の信頼関係が重要であり、日韓の関係改善は必須要件となる。閣僚レベルではあえて事実関係の解明に焦点を当てず、未来志向での解決を目指す。今後は防衛当局間で信頼構築を図ることになる」、賢明なやり方だ。 「韓国自身が核を保有すべきとの意見は2年前より10ポイント余り下落し60.2%となった。 その一方で、日本との軍事同盟に同意するとの回答は52.4%となり、国民の多数が日韓軍事協力を地域安保の観点から理解していることが示された」、「韓国の日本を見る視線が大きく変わった。これはレーダー照射事件の再発を防止するための重要な支援材料となるであろう」、同感である。
韓国「徴用工」問題(その2)(日韓"急接近"でも「徴用工問題」が解決しない真因 韓国側は岸田首相の「お返し」に注目している、韓国で「元徴用工問題」の公開討論会が大紛糾 解決の課題を元駐韓大使が解説、元徴用工問題のボールは韓国から日本に移った 外交が韓国司法から主導権を奪い返せるか) [外交]
韓国「徴用工」問題については、2018年11月17日付けで取上げた。久しぶりの今日hさ、(その2)(日韓"急接近"でも「徴用工問題」が解決しない真因 韓国側は岸田首相の「お返し」に注目している、韓国で「元徴用工問題」の公開討論会が大紛糾 解決の課題を元駐韓大使が解説、元徴用工問題のボールは韓国から日本に移った 外交が韓国司法から主導権を奪い返せるか)である。
先ずは、昨年10月14日付け東洋経済オンラインが掲載した スタンフォード大学講師のダニエル・スナイダー 氏による「日韓"急接近"でも「徴用工問題」が解決しない真因 韓国側は岸田首相の「お返し」に注目している」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/625847
・『10月4日に日本上空を通過した弾道ミサイルを含む、北朝鮮による容赦ない頻度でのミサイル発射が日本と韓国を接近させる、という北朝鮮にとっては皮肉な影響をもたらしている。加えて、アメリカもこの日本と韓国という同盟国に対して、3国間安全保障協力への参加をより積極的に要請している。 この兆候が最も顕著に現れたのは、6日のことだ。 日本と韓国の間の海域で、アメリカの誘導ミサイル艦2隻、日本の海上自衛隊の駆逐艦2隻、韓国海軍の最新鋭駆逐艦1隻が合同で、3国による初の弾道ミサイル防衛演習を行ったのである。日米韓は同じ週に合同航空演習も行った』、「北朝鮮による容赦ない頻度でのミサイル発射が日本と韓国を接近させる、という北朝鮮にとっては皮肉な影響をもたらしている」、その通りだ。
・『日本と韓国が危機感を「共有」 これは、アメリカインド太平洋軍が言うところの「われわれの集団的軍事力の相互運用性」に向けた極めて象徴的な動きだった。演習では、ミサイル飛来を想定して、日米韓の海軍の間でほぼ瞬時に情報を共有しながら、探知・追跡・迎撃の訓練を行った。 この種のミサイル防衛における密かな協力は数年前から続けられており、北朝鮮が発射したミサイルの追跡データを韓国が、横田基地に設置されている事実上の日米合同航空防衛司令部に提供している。 「北朝鮮による前例のない一連の弾道ミサイル発射、新たに法制化された核兵器政策と先制核攻撃の脅威、7回目の核実験の可能性(8回目以降も)、これらが日本と韓国に、共通に直面する危機を強く意識させている」と、元アメリカ国務省高官のエヴァンズ・リヴィア氏は指摘する。) 「この危機は、韓国と日本の連携を促進するだけでなく、アメリカと共に防衛力を強化し、即応態勢を高め、2国間・3国間安全保障協力を強めることで共通の脅威に立ち向かうよう促している」(リヴィア氏) より正式な形での3国間ミサイル防衛体制の構築が次の段階として当然考えられるわけだが、そうした構想は韓国と日本の両方で大きな政治的障害に直面している』、「より正式な形での3国間ミサイル防衛体制の構築が次の段階として当然考えられるわけだが、そうした構想は韓国と日本の両方で大きな政治的障害に直面している」、「大きな政治的障害」とはどういうことだろう。
・『日本との接近に野党が「懸念」 韓国では、野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が、3国間演習を軍事同盟の形成へと向かう「親日行為」だと非難したことがニュースになった。李代表は、「日本軍が韓半島に進駐してきて旭日旗が再び半島に掲げられる日は想像できないが、あり得ることだ」と発言した。 これに対して、与党・国民の力は即座に、李代表の扇動的な発言を「軽薄な歴史認識」と非難した。しかし尹大統領は支持率低下に見舞われているため、依然として国会を支配し大統領を鋭く批判している民主党からの攻撃にさらされている。 「韓国人は一般的に、中国には警戒感を抱く一方、アメリカとの関係改善を支持し、日本についても支持している」と外交問題評議会で朝鮮半島プログラムを担当するスコット・スナイダー氏は指摘する。「全体として尹大統領は国民が望む外交政策を実行しているが、その功績を認められないおそれが高まっている。彼自身の不人気のせいだ」。 こうした問題はあるものの、日韓関係の打開に向けた尹大統領の努力は国内で広く支持を集めている。最近発表された、日本の「言論NPO」と韓国の「東アジア研究院」が毎年共同で実施している日韓世論調査のレポートによると、両国では互いの国に対して好意的な見方をする人が大きく増えている。) これは10年前の調査開始以来最も大きな改善で、特に韓国の変化が著しい。特筆すべきは、韓国人の間で中国への警戒が高まっており、日本人が以前から抱いている印象に近づき始めていることである。 とはいえ、3国間安全保障協力は依然として、日本の朝鮮植民地支配から生じた戦時中の歴史問題の解決にかかっている。日米韓の政権関係者は未来に目を向けることの必要性を強調する一方、歴史問題が日韓関係を再び冷え込ませかねない「ダモクレスの剣(つねに存在する危険)」だということも理解している』、「韓国では、野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が、3国間演習を軍事同盟の形成へと向かう「親日行為」だと非難」、「李代表は、「日本軍が韓半島に進駐してきて旭日旗が再び半島に掲げられる日は想像できないが、あり得ることだ」と発言」、「共に民主党」の反日姿勢にも困ったものだ。
・『問題解決に向けた話し合いは行われている 目下の注目は「徴用工問題」だろう。戦時中に日本の鉱山や工場で徴用工として働かされた朝鮮人に対する賠償の問題を解決しようとする試みはいまだ行き詰まっており、徴用工を用いた日本企業の資産について韓国の裁判所が下した現金化命令の確定が迫っている。 日本当局は公式には、韓国が徴用工問題解決に向けて具体的な提案をするのを待っていると主張し続けている。しかし、この問題に携わる複数の韓国当局者や関係者によると、提案はすでに出され、両国の外務省の局長レベルで活発に議論されており、直近には11日にソウルでそうした場が持たれたという。 案は、趙賢東(チョ・ヒョンドン)外交部第1次官の主導により今年夏に設立された官民協議会から出されたものだ。韓国の案は、最大300人の韓国人被害者を対象に、2014年に韓国政府が設立した既存の基金「日帝強制動員被害者支援財団」を通して賠償金を支払うというものである。) 同基金にはすでに、韓国の鉄鋼メーカー大手ポスコから多額の寄付が寄せられている。同社は、両国の国交正常化に伴う1965年の「日韓請求権協定」のもとで提供された日本からの経済支援の恩恵を受けた企業である。 同基金を利用した場合、賠償問題は1965年の協定で解決済みであるという日本側の主張を間接的に認めることになる。基金にはすでに十分過ぎるほどの金額が集まっている。しかし、韓国の裁判所に訴えを起こした被害者ら、および官民協議会に参加した被害者側の法定代理人は、日本企業もこの基金への寄付を行うことを主張している。 長年この問題に取り組んでいる韓国政府高官によると、朴長官は日本が取るべき2つの対応を提案しているという。「1つは、日本政府と関係企業が謝罪の態度を示すこと。もう1つは、民間企業が自主的に賠償基金に寄付することを日本政府が認めることだ」』、「基金にはすでに十分過ぎるほどの金額が集まっている」、しかし、「被害者ら、および官民協議会に参加した被害者側の法定代理人は、日本企業もこの基金への寄付を行うことを主張」、彼らにしたら、韓国企業が寄付しただけでは、腹の虫が治まらないということなのだろう。
・『「金額の問題ではなく、感情の問題」 現時点では、この交渉に関与している日本の当局者は、この解決策を排除していない。「日本側は日本企業による自主的寄付に否定的な姿勢を示していない」と、元外交部高官で「共に民主党」の李代表の外交政策ブレーンである魏聖洛(ウィ・ソンナク)氏は語る。これらの取り組みに積極的に関与している魏氏は、その程度までには「2国間協議は前進している」と言う。 こうした中、韓国当局者が懸念しているのは、この機を捉えようという意識が岸田文雄首相とそのブレーン側に欠けているように見えることである。韓国政府が国内で(間違いなく革新派からの激しい攻撃を受けるであろう)この提案を売り込むためには、日本が一歩踏み出すことが不可欠だからだ。 「資金自体が問題なのではない」と、前出の韓国政府高官は言う。「むしろ、プライドと感情の問題だ。しかし、日本政府は問題解決に向けた取引への合意を渋っているようだ」。日本側は、この問題が1965年の協定で解決済みであるという立場を変えておらず、いかなる形でもそれを蒸し返すことには乗り気ではない。 合意に向けた最大の障害となっているのは、両国の国内政治である。「尹大統領と岸田首相の政治基盤の弱さが、このプロセスに影響を与える要因となっている」と指摘するのは、最も影響力のある韓国の日本研究者であり、尹政権のブレーンでもある朴喆熙(パク・チョルヒ)教授だ。 韓国の野党「共に民主党」はこの解決策に反対の構えを見せている。魏氏は、この解決策を支持する同党の幹部らを含む超党派グループを作ることを提案しており、尹大統領に対しこのアプローチを取るよう公に求めている』、「合意に向けた最大の障害となっているのは」、「「尹大統領と岸田首相の政治基盤の弱さ」だ困ったことだ。
・『岸田首相による「お返しのジェスチャー」が必要 しかし、同様に重要なのが、岸田首相が何らかのジェスチャーを示すことだ。そうすれば、韓国で国民の幅広い支持を得られるかもしれない。日本側は協定遵守に過度にこだわる立場を乗り越える必要があると、韓国専門家であるスナイダー氏も主張する。「韓国側は、交渉を持続的なものにするために、日本側からの何らかの"お返しのジェスチャー"を必要としている」。 残念ながら、岸田首相は依然として、韓国に対する根深い不信感を持った自民党の右派にとらわれている。さらに事態を悪化させているのは、岸田首相の政治基盤の弱さである。 実行可能な妥協案が欠如しているのではなく、国内政治こそが、日韓の正常な関係の回復に向かう狭い道をふさぐ真の障害となっているのだ。 「今後は、尹大統領と岸田首相はそれぞれの国民を置いていかないように、ゆっくりと事を進める可能性が高い」と、アメリカの外交官として両国で務めた経験の長いリヴィア氏は言う。 しかし、絶好の機会はそう長くは続かないかもしれないため、現在協議にあたっている日韓の当局者は年末までに合意をまとめたい考えだ。その"期限"までに「北朝鮮がきっと、協力することが強い共通の利益であることを日韓に思い出させてくれるだろう」』、「日韓の当局者は年末までに合意をまとめたい考えだ」、残念ながら「年末までに合意」は無理だったようだ。こじれた関係を解きほぐすには、時間がかかるようだ。
次に、本年1月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「韓国で「元徴用工問題」の公開討論会が大紛糾、解決の課題を元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/316198
・『政府の解決案に対する韓国メディアの反応 韓国政府は12日、元徴用工(元朝鮮半島出身労働者)訴訟問題を議論する公開討論会を行った。これについて多くの韓国メディアは、公開討論会で韓国政府が示した解決案に対し、元徴用工団体(以下、団体)がこぞって反発したことを伝えている。 たとえば韓国日報や京郷日報は、政府が元徴用工の意思を無視すれば、2015年の慰安婦合意が元慰安婦団体の反発を受け、元慰安婦に補償金を支払ってきた財団が解散させられ事実上活動を止められた「前例」を再現する恐れがあると批判している。 また、ハンギョレ新聞は、「被害者らの苦痛に対する謝罪と慰労を無視し、解決案を押し付けるならば、韓日関係は一層悪化し、逆風を受けることになるだろう」としている。 その一方で、朝鮮日報などは、日本も応えるべきとしつつも「これ以外現実的な解決策がないのも事実である」とコメントしている。 さらに韓国経済新聞は「政府案は根本的な解決策ではないが、被害者らもひたすらにそっぽを向いている時ではない」とし、日本に対しても「隣国に不幸をもたらした歴史に対する加害者の不断の謝罪と解決努力が必要である」と注文を付けている』、「公開討論会で韓国政府が示した解決案に対し、元徴用工団体(以下、団体)がこぞって反発」、これは織り込み済だろう。
・『解決案の実行を具体化するための課題 団体の反発はもともと予想されていたものである。問題は、この解決案を実行できるかである。 韓国政府は、解決案の実行に当たっては、元徴用工と個別に面会してその方針を説明し、理解を求めるとしている。それを踏まえ、元徴用工が判決金を受領することになるのだろう。 だが、団体は、自らが窓口となり、政府と元徴用工の接触を妨害し、元徴用工が判決金を受領するのを妨げるであろう。したがって、政府がいかに団体の妨害を回避できるかが最大の焦点である。 また、この解決案を実行するに当たり、寄付を行う企業が世論の反発を受けないようなスキームを作れるかも重要である』、「団体は、自らが窓口となり、政府と元徴用工の接触を妨害し、元徴用工が判決金を受領するのを妨げるであろう。したがって、政府がいかに団体の妨害を回避できるかが最大の焦点である」、その通りだ。
・『公開討論会に対して団体側は激しく反発 公開討論会では、外交部の徐旻廷(ソ・ミンジョン)アジア大洋州局長が政府の解決案を説明した。また、パネル討論では、高麗大学の朴鴻圭(パク・ホンギュ)教授とチェ・ウギュン弁護士が、韓国政府の解決案を擁護する発言を行った。 しかし、一般討論演説に差し掛かり、討論者の人数が制限されると討論会は紛糾し、座長を務めた日本専門家の朴喆煕(パク・チョルヒ)ソウル大学国際大学院教授は、討論会を終了せざるを得なくなった。 団体の一部は「外交部が事前に発題文(発表資料)すら提供していない」として、参加しなかった。民族問題研究所と代理人側は参加したが、不参加を決めた一部の団体を支持すると述べた。 市民団体で作る「歴史正義と平和な韓日関係のための共同行動(韓日歴史正義平和行動)」と革新系野党の「共に民主党」(24人)、「正義党」(6人)、無所属(2人)の計32人の議員は、国会前で、「非常時局宣言」とする記者会見を開催した。 同会見では、政府案は「司法府の判決を行政府が無力化する措置で、三権分立に反し、憲法を否定するもの」であり、「韓国の司法の主権を放棄するも同然だ」と非難し、同案の撤回を要求した。 しかし、こうした元徴用工側の反発は想定内だろう。彼らがおとなしく納得するはずはない。それを承知の上で、これしか解決の道はないと確信してのことだろう』、「こうした元徴用工側の反発は想定内だろう。彼らがおとなしく納得するはずはない。それを承知の上で、これしか解決の道はないと確信してのことだろう」、大人の対応だ。
・『解決案に対する団体の対決手段 韓国政府は、行政安全部傘下の日帝強制動員被害者支援財団(財団)が基金を募金して元徴用工に判決金を支給するとしているが、団体は、元徴用工に判決金を受領させない方針である。団体は、戦犯企業による基金への拠出と日本側の謝罪が前提になってこそ、今回の解決案を受け入れるという立場を固守している。 中央日報は、団体による対抗手段を次のように分析している。 判決金を肩代わりしようとする財団と元徴用工側の衝突は結局、裁判所供託手続きに帰結する可能性が高い。この場合、財団は判決金を裁判所に供託して法的に債務を終了させようとするはずで、これに対抗して元徴用工側は「供託無効訴訟」を提起する可能性がある。解決案は結局、問題を解決できないまま、法律紛争につながるという懸念が出ている。 さらに中央日報は、そうなれば「葛藤が長く続く混乱した状況が続くだろう」と指摘。そのため韓国政府と財団は、元徴用工との法律紛争などを懸念し、ひとまず判決金は準備しておくものの、実際の支給は日本企業の拠出が確定した後に先延ばしする案を検討している。 しかし、日本政府は、解決案に対する韓国国内での反応を見守っている状況である。韓国の財団が判決金の支払いを遅らせる場合、日本企業の基金への拠出を認めるとしても、韓国の財団の判決金支払いが始まるまで、日本側の拠出の黙認をちゅうちょすることも考えられる。韓国政府は、団体の反対をいかに回避するか考えるのが先決であろう』、「日本政府は、解決案に対する韓国国内での反応を見守っている状況である。韓国の財団が判決金の支払いを遅らせる場合、日本企業の基金への拠出を認めるとしても、韓国の財団の判決金支払いが始まるまで、日本側の拠出の黙認をちゅうちょすることも考えられる」、その通りだろう。
・『具体的支給の手続きはどのように行うのか 現在の判決金の支給対象は、大法院が2018年に三菱重工業や日本製鉄(旧新日鉄住金)などに支給するよう命じた15人の元徴用工が対象であり、支給すべき判決金は1億~1億5000万ウォン(約1033万円~1550万円)とその遅延利息である。 その後、日本企業に対する損害賠償訴訟2審が進行中の元徴用工(約140人)と、大法院で審理中の元徴用工(約110人)が最終的に勝訴すれば、追加的に基金を増やす必要がある。ただ、訴訟には時効があるため、判決金支給対象者が無限に増えるわけではない。 現在政府は、ポスコが当初拠出する予定だった100億ウォン(約10億3333万円)の残金40億ウォン(約4億1333万円)の拠出を、同社に求めている。だが、支給対象者が増える場合には、日韓請求権協定から恩恵を受けた韓国電力、KORAIL(韓国鉄道公社)、ハナ銀行(旧韓国外換銀行)、KT&Gなど16の企業、公共機関を選定し、拠出を求める考えだという。 財団が寄付金を集めるに当たっては、「韓国企業が肩代わりした」との批判を和らげるため、全国経済人連合会(全経連)内に別途機構を選定し、基金の管理を委託する方向で検討しているという。 判決金の受領対象となるのは当面最初の確定判決を受けた15人だが、そのうち12人は既にこの世を去っている。団体が元徴用工とその遺族に判決金の受領を拒否させることも、この15人の中核的な元徴用工であれば、それほど難しくないかもしれない。 しかし、訴訟の2審が進行中の人々、大法院で審理中の人々は今後訴訟を通じて、受け取りが可能となるまでには相当な時間が必要だろう。団体がこうした人々と政府の接触を全て妨害することは容易ではない。政府と財団が根気よくこうした人々を説得していくならば見通しは開けてくるであろう。 朝鮮日報は、「日本企業が韓国に持つ資産を強制的に処分したとしてもたいした額にはならず、判決額には程遠い。強制処分に伴う深刻な韓日の摩擦も懸念せざるを得ない」「日本との対立をただ続けることが本当に被害者のためになるのか、改めて考えるべき時期に来ているようだ」と指摘している。 さらに「『今の状況では、かつて日本から受け取った請求権資金で実際に成長した韓国企業が動くべきだ』との世論が大勢を占める」とも述べている。 韓国でマスコミが伝える世論、世論調査の結果に示される世論は日本に対して厳しいものが多い。しかし、韓国人は本音と建て前を使い分ける。本音は案外、朝鮮日報の報道に近いのかもしれない』、「『今の状況では、かつて日本から受け取った請求権資金で実際に成長した韓国企業が動くべきだ』との世論が大勢を占める」、これは本音なのだろう。
・『日本企業が基金に参加で日韓政府が一致か 東亜日報は、政府筋の話として、日韓両政府が昨年末、元徴用工問題で韓国企業による寄付で判決金を肩代わりする一方、その基金の設立に日本企業が参加することで一致したことが判明したと報じている。 ただし、最終合意ではないため、日本内の政治的状況など変数によって変わる可能性があるとも伝えている。日本政府は、韓国政府が解決策を公表した後、元徴用工の反発など韓国内の世論の動向を注視しているという。 韓国の朴振(パク・チン)外相は日本の林芳正外相に、韓国の解決案について説明した。外交部は「韓日関係の発展および韓日間の諸般の懸案解決に向け、外交当局の各レベルで緊密に意思疎通を行うことで一致した」と発表した。林外相は解決策について具体的な言及は避けたが「韓国政府と緊密に意思疎通を行いたい」と述べた。 さらに、16日には日韓局長協議でより詰めた協議をした。 また、公開討論会を共催した韓日議員連盟の鄭鎮碩(チョン・ジンソク)会長は、麻生太郎自民党副総裁、松野博一官房長官と相次いで会談し、解決案について意見交換した。鄭鎮碩会長は「元徴用工問題をはじめとする両国間の懸案問題について虚心坦懐に話をした」「一方の努力だけでは困難な『弧掌難鶏』(何かを成し遂げようとしても一人ではどうすることもできない)と訴え、(日本側も)誠意ある努力を行うべきだと強調した」と明らかにした。 また、中央日報は、日韓両政府が公式解決案を発表した後、日本が過去に出した談話の精神を継承するという趣旨の立場表明を発表する案まで話し合ったと報じている。ただ、どの談話を継承するかについては立場が歩み寄ってはおらず、「過去の談話を継承する」という包括的な表現に落ち着く可能性もあると伝えている』、「日韓両政府が昨年末、元徴用工問題で韓国企業による寄付で判決金を肩代わりする一方、その基金の設立に日本企業が参加することで一致したことが判明したと報じている」、「基金の設立」への「参加」であれば、「判決金の肩代わり」より少額で済むのだろうか。
・『日本政府側も現実的な案と評価 共同通信は日本の首相官邸筋の話として、韓国側の解決案は「現実的だ」と評価したと報じている。同筋はさらに「日本政府内では、日本企業が判決金を支払う財団に寄付できるようにする法案が浮上している」と伝えている。 岸田文雄首相は1月13日(現地時間。日本時間14日未明)、米ワシントンにおける記者会見で、韓国の解決案に対するコメントを求められ、「韓国内の具体的な動きについてコメントすることは控える」と即答を避けた。その一方で、「自身と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が懸案の早期解決を図ることで一致した」とし、「日韓関係を健全な形に戻して発展させたい」と明らかにした。 AFPは岸田首相が、徴用工問題を解決しようとする韓国との今後の関係に対する希望を表明したと伝えている。 元徴用工問題の解決は、韓国政府による解決案によって一歩を踏み出した。今後の課題は、それをどう具体化するか、団体の妨害を乗り越え、元徴用工本人およびその遺族にどう接触し、理解を求めるか、日本側の誠意ある措置がどうなるかにかかっている』、折角、「元徴用工問題の解決は、韓国政府による解決案によって一歩を踏み出した」。「日本側」も「誠意」を示すべきときだろう。
第三に、1月23日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋大学教授の薬師寺 克行氏による「元徴用工問題のボールは韓国から日本に移った 外交が韓国司法から主導権を奪い返せるか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/647464
・『元徴用工問題 日本統治下で動員された労働者が日本企業に対する訴訟を起こした問題)について、韓国政府が解決に向けて積極的な動きを見せている。 韓国政府の解決案はまず、損害賠償請求を認める判決が確定した元徴用工に対しては、日本企業に代わって韓国の財団が賠償金を支払う。さらに係争中の元徴用工に対しても同じ方法をとって、この問題を一気に解決しようという内容だ。 この解決策が実現すれば、日韓間で最大の懸念となっている日本企業の資産の現金化を回避できるだけでなく、李明博(イ・ミョンバク)大統領の時から続く日韓関係の「停滞の10年」を終わらせることも期待できるだろう。 日本企業に代わって原告に損害賠償金を支払うとされているのは韓国の「日帝強制動員被害者支援財団」だ。この財団は日本による植民地支配時代、軍人や労働者、慰安婦として動員された人たちの福祉支援、追悼、さらに強制動員被害に関する文化・学術研究、調査などを目的に2014年に設立された。 韓国政府案ではこの財団に韓国企業が寄付し、それを財源として財団が元徴用工に賠償金などを払う。既に韓国最大の製鉄会社ポスコが100億ウォン(約10億円)の拠出を約束し、すでに60億ウォンを寄付している』、興味深そうだ。
・『日本の資金で発展した韓国企業が賠償金を寄付 1965年、日韓請求権協定が結ばれ日韓の国交が正常化した際、日本政府は韓国に対し合計5億ドルの経済協力資金を支払った。当時の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領はこの資金も活用して「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長を実現した。 ポスコの前身である浦項総合製鉄はこうした朴大統領の政策の下、日本からの資金を使って作られた企業で韓国最大の製鉄会社となっている。ポスコのほかにも日本からの経済協力資金を使った大手企業が合わせて10社ほどあり、財団はこれらの企業に寄付を要請し、元徴用工に渡すお金の原資に充てるつもりだ。 また財団は政府の動きに合わせて1月、定款に新たに「国外強制動員被害者と遺族に対する被害補償と弁済」という条文を追加し、元徴用工への賠償金支払いを可能にする措置をとっている。解決案実現に向けて着々と動いているのだ。) 対象となる元徴用工は、すでに判決が確定している人が15人で、賠償合計金額は数億円となる。このほか現在係争中の訴訟は約70件あり原告の数は約250人になるといわれている。韓国政府は判決が確定した元徴用工だけでなく、係争中の人たちについてもすべて解決しようという方針のようだ。 2018年に大法院が三菱重工業など日本企業に損害賠償金の支払いを命じる判決を出して以後、当時の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は問題解決のために一切、動こうとしなかったことを思えば、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の積極的な姿勢は高く評価できるだろう。 もちろん韓国政府が積極的に解決策を示したからと言って、その通りに進むわけではない。 原告やその支援団体は政府案に強く反対し、お金の受け取りを拒否するとしている。長い年月をかけて勝ち取った判決であるにもかかわらず、日本の政府や企業が何もしないで韓国企業が肩代わりするだけの決着を受け入れるわけにはいかないだろう。 韓国メディアは、原告らは韓国企業が日本企業に代わって資金を提供することを阻止するために形を変えた法廷闘争も検討していると報じており、今後の展開を予測することは難しい』、「日本からの資金を使って作られた企業で韓国最大の製鉄会社となっている。ポスコのほかにも日本からの経済協力資金を使った大手企業が合わせて10社ほどあり、財団はこれらの企業に寄付を要請し、元徴用工に渡すお金の原資に充てるつもりだ」、なかなか上手い仕組みだ。
・『外交の成果を司法がひっくり返した 一方、日本政府や企業の対応だが今のところ表立った動きはない。しかし、韓国政府がこれだけ積極的に動いている一方で、日本側がなにもしなくて済むのだろうか。 大法院判決について日本政府は一貫して、「元徴用工問題はすでに外交的に決着済みの問題であり、判決は国際法違反である」という主張をしている。賠償金支払い問題は韓国国内の問題であって、韓国政府が対応すべきだという立場だ。三菱重工など日本企業も同じで、賠償金を支払うことを拒否している。 そもそも大法院判決は植民地支配が違法という前提に立っている。その植民地支配に直結する日本企業の活動も違法であるから、徴用工の賠償請求が成り立つという論理を展開している。 植民地支配が違法か合法かは、「日韓国交正常化交渉での最大のポイントだった。双方が容易に妥協できない中で、両国政府は国交正常化を優先して、日韓併合条約など「すべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される」という表現で外交的妥協をはかった。これを受けて韓国政府は2度にわたって法律を整備し元徴用工に対する補償を実施してきた。 ところが大法院判決はこうした外交的成果を一気にひっくり返してしまったのだ。 大法院判決はすでに確定しており、類似の訴訟に対して拘束力を持つことになる。それは植民地支配に関する韓国の行政府と司法の認識の違いが固定化することを意味する。 韓国政府案は判決が確定した原告だけでなく、係争中の元徴用工に対する補償まで含んでいる。このことは、当面の懸案である日本企業の資産の現金化を回避することだけが目的ではないことを示している。) 韓国政府には、大法院で新たな判決が出る前に行政府主導で包括的に解決するとともに、日本側から何らかの対応を引き出そうという狙いもあるのではないか。 大法院は今後も同じ論理で元徴用工に対する損害賠償を認めることになるだろう。そうなると日本政府や企業は拒否するしかない。同じことの繰り返しが続く。 しかし、判決前であれば司法の判断に受動的に対応するのではなく、両国の行政府が話し合って打開策を見出すことが可能になる。実際、外交部幹部は韓国の国会で「韓国政府の対応に対して、日本の対応措置がなければ協議する必要はない」などと発言しており、これからは日本側の対応が重要になりそうだ。 ここで問題になるのは、韓国の対応をどこまで信じられるのかという問題だ』、「判決前であれば司法の判断に受動的に対応するのではなく、両国の行政府が話し合って打開策を見出すことが可能になる。実際、外交部幹部は韓国の国会で「韓国政府の対応に対して、日本の対応措置がなければ協議する必要はない」などと発言しており、これからは日本側の対応が重要になりそうだ」、なるほど。
・『岸田首相は慰安婦合意を反故にされた当事者 尹錫悦大統領が日韓関係改善に本気なことは自民党のタカ派議員でも理解している。しかし、日本側には「政権が代わってもこの政策は維持されるのか」という懸念は強い。 2015年、保守系の朴槿恵(パク・クネ)大統領の下で従軍慰安婦についての合意が実現した。ところが大統領が進歩系の文在寅氏に交代すると、「国民世論の理解が得られていない」などという理由であっさりと反故にされてしまった。 この時、合意内容を韓国外相とともに記者会見で発表したのが、当時外相だった岸田文雄首相だ。同じ誤りを繰り返すわけにはいかず、岸田首相が日韓関係についてはことさら慎重な対応をしているのも頷ける。 事実、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、政府の対応を「国民の常識とかけ離れた反民族的で、反歴史的な態度だ」と強い調子で批判しており、保守勢力と進歩勢力の対立は以前にも増して激しくなっている。 しかし、韓国の次期大統領選(2027年予定)までにすべてを決着させてしまえば、政権交代を気にする必要はなくなる。韓国企業とともに日本企業が自発的に財団に寄付し、係争中の元徴用工に渡すような対応が実現すれば、政権交代で反故にすることもできなくなる。 それは同時に元徴用工問題についての主導権を韓国司法の手から外交の世界に引き戻すことにもなる。 日韓の間には元徴用工問題に加えて、韓国側が強く反発している半導体素材などの輸出規制問題や、韓国が一方的に終了を通告し、その後「終了通知の効力停止」を宣言したまま中途半端な状態となっている軍事情報包括保護協定(GSOMIA)問題も残っている。 さらに視野を広げると、ウクライナ戦争の余波で北東アジア地域でも、中国による軍事的脅威や北朝鮮の核の脅威が現実味を持ってきている。さらに世界経済が低迷し、各国が自国の利益追求を強める時代を迎えつつある。そんなときに日韓という中規模国家が長期間、足を引っ張り合っている場合ではない。 尹錫悦大統領が思い切って踏み出した今、次は岸田首相の番だろう』、「2015年、保守系の朴槿恵(パク・クネ)大統領の下で従軍慰安婦についての合意が実現した。ところが大統領が進歩系の文在寅氏に交代すると、「国民世論の理解が得られていない」などという理由であっさりと反故にされてしまった。 この時、合意内容を韓国外相とともに記者会見で発表したのが、当時外相だった岸田文雄首相だ。同じ誤りを繰り返すわけにはいかず、岸田首相が日韓関係についてはことさら慎重な対応をしているのも頷ける」、しかし、「日韓という中規模国家が長期間、足を引っ張り合っている場合ではない。 尹錫悦大統領が思い切って踏み出した今、次は岸田首相の番だろう」、同感である。
先ずは、昨年10月14日付け東洋経済オンラインが掲載した スタンフォード大学講師のダニエル・スナイダー 氏による「日韓"急接近"でも「徴用工問題」が解決しない真因 韓国側は岸田首相の「お返し」に注目している」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/625847
・『10月4日に日本上空を通過した弾道ミサイルを含む、北朝鮮による容赦ない頻度でのミサイル発射が日本と韓国を接近させる、という北朝鮮にとっては皮肉な影響をもたらしている。加えて、アメリカもこの日本と韓国という同盟国に対して、3国間安全保障協力への参加をより積極的に要請している。 この兆候が最も顕著に現れたのは、6日のことだ。 日本と韓国の間の海域で、アメリカの誘導ミサイル艦2隻、日本の海上自衛隊の駆逐艦2隻、韓国海軍の最新鋭駆逐艦1隻が合同で、3国による初の弾道ミサイル防衛演習を行ったのである。日米韓は同じ週に合同航空演習も行った』、「北朝鮮による容赦ない頻度でのミサイル発射が日本と韓国を接近させる、という北朝鮮にとっては皮肉な影響をもたらしている」、その通りだ。
・『日本と韓国が危機感を「共有」 これは、アメリカインド太平洋軍が言うところの「われわれの集団的軍事力の相互運用性」に向けた極めて象徴的な動きだった。演習では、ミサイル飛来を想定して、日米韓の海軍の間でほぼ瞬時に情報を共有しながら、探知・追跡・迎撃の訓練を行った。 この種のミサイル防衛における密かな協力は数年前から続けられており、北朝鮮が発射したミサイルの追跡データを韓国が、横田基地に設置されている事実上の日米合同航空防衛司令部に提供している。 「北朝鮮による前例のない一連の弾道ミサイル発射、新たに法制化された核兵器政策と先制核攻撃の脅威、7回目の核実験の可能性(8回目以降も)、これらが日本と韓国に、共通に直面する危機を強く意識させている」と、元アメリカ国務省高官のエヴァンズ・リヴィア氏は指摘する。) 「この危機は、韓国と日本の連携を促進するだけでなく、アメリカと共に防衛力を強化し、即応態勢を高め、2国間・3国間安全保障協力を強めることで共通の脅威に立ち向かうよう促している」(リヴィア氏) より正式な形での3国間ミサイル防衛体制の構築が次の段階として当然考えられるわけだが、そうした構想は韓国と日本の両方で大きな政治的障害に直面している』、「より正式な形での3国間ミサイル防衛体制の構築が次の段階として当然考えられるわけだが、そうした構想は韓国と日本の両方で大きな政治的障害に直面している」、「大きな政治的障害」とはどういうことだろう。
・『日本との接近に野党が「懸念」 韓国では、野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が、3国間演習を軍事同盟の形成へと向かう「親日行為」だと非難したことがニュースになった。李代表は、「日本軍が韓半島に進駐してきて旭日旗が再び半島に掲げられる日は想像できないが、あり得ることだ」と発言した。 これに対して、与党・国民の力は即座に、李代表の扇動的な発言を「軽薄な歴史認識」と非難した。しかし尹大統領は支持率低下に見舞われているため、依然として国会を支配し大統領を鋭く批判している民主党からの攻撃にさらされている。 「韓国人は一般的に、中国には警戒感を抱く一方、アメリカとの関係改善を支持し、日本についても支持している」と外交問題評議会で朝鮮半島プログラムを担当するスコット・スナイダー氏は指摘する。「全体として尹大統領は国民が望む外交政策を実行しているが、その功績を認められないおそれが高まっている。彼自身の不人気のせいだ」。 こうした問題はあるものの、日韓関係の打開に向けた尹大統領の努力は国内で広く支持を集めている。最近発表された、日本の「言論NPO」と韓国の「東アジア研究院」が毎年共同で実施している日韓世論調査のレポートによると、両国では互いの国に対して好意的な見方をする人が大きく増えている。) これは10年前の調査開始以来最も大きな改善で、特に韓国の変化が著しい。特筆すべきは、韓国人の間で中国への警戒が高まっており、日本人が以前から抱いている印象に近づき始めていることである。 とはいえ、3国間安全保障協力は依然として、日本の朝鮮植民地支配から生じた戦時中の歴史問題の解決にかかっている。日米韓の政権関係者は未来に目を向けることの必要性を強調する一方、歴史問題が日韓関係を再び冷え込ませかねない「ダモクレスの剣(つねに存在する危険)」だということも理解している』、「韓国では、野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が、3国間演習を軍事同盟の形成へと向かう「親日行為」だと非難」、「李代表は、「日本軍が韓半島に進駐してきて旭日旗が再び半島に掲げられる日は想像できないが、あり得ることだ」と発言」、「共に民主党」の反日姿勢にも困ったものだ。
・『問題解決に向けた話し合いは行われている 目下の注目は「徴用工問題」だろう。戦時中に日本の鉱山や工場で徴用工として働かされた朝鮮人に対する賠償の問題を解決しようとする試みはいまだ行き詰まっており、徴用工を用いた日本企業の資産について韓国の裁判所が下した現金化命令の確定が迫っている。 日本当局は公式には、韓国が徴用工問題解決に向けて具体的な提案をするのを待っていると主張し続けている。しかし、この問題に携わる複数の韓国当局者や関係者によると、提案はすでに出され、両国の外務省の局長レベルで活発に議論されており、直近には11日にソウルでそうした場が持たれたという。 案は、趙賢東(チョ・ヒョンドン)外交部第1次官の主導により今年夏に設立された官民協議会から出されたものだ。韓国の案は、最大300人の韓国人被害者を対象に、2014年に韓国政府が設立した既存の基金「日帝強制動員被害者支援財団」を通して賠償金を支払うというものである。) 同基金にはすでに、韓国の鉄鋼メーカー大手ポスコから多額の寄付が寄せられている。同社は、両国の国交正常化に伴う1965年の「日韓請求権協定」のもとで提供された日本からの経済支援の恩恵を受けた企業である。 同基金を利用した場合、賠償問題は1965年の協定で解決済みであるという日本側の主張を間接的に認めることになる。基金にはすでに十分過ぎるほどの金額が集まっている。しかし、韓国の裁判所に訴えを起こした被害者ら、および官民協議会に参加した被害者側の法定代理人は、日本企業もこの基金への寄付を行うことを主張している。 長年この問題に取り組んでいる韓国政府高官によると、朴長官は日本が取るべき2つの対応を提案しているという。「1つは、日本政府と関係企業が謝罪の態度を示すこと。もう1つは、民間企業が自主的に賠償基金に寄付することを日本政府が認めることだ」』、「基金にはすでに十分過ぎるほどの金額が集まっている」、しかし、「被害者ら、および官民協議会に参加した被害者側の法定代理人は、日本企業もこの基金への寄付を行うことを主張」、彼らにしたら、韓国企業が寄付しただけでは、腹の虫が治まらないということなのだろう。
・『「金額の問題ではなく、感情の問題」 現時点では、この交渉に関与している日本の当局者は、この解決策を排除していない。「日本側は日本企業による自主的寄付に否定的な姿勢を示していない」と、元外交部高官で「共に民主党」の李代表の外交政策ブレーンである魏聖洛(ウィ・ソンナク)氏は語る。これらの取り組みに積極的に関与している魏氏は、その程度までには「2国間協議は前進している」と言う。 こうした中、韓国当局者が懸念しているのは、この機を捉えようという意識が岸田文雄首相とそのブレーン側に欠けているように見えることである。韓国政府が国内で(間違いなく革新派からの激しい攻撃を受けるであろう)この提案を売り込むためには、日本が一歩踏み出すことが不可欠だからだ。 「資金自体が問題なのではない」と、前出の韓国政府高官は言う。「むしろ、プライドと感情の問題だ。しかし、日本政府は問題解決に向けた取引への合意を渋っているようだ」。日本側は、この問題が1965年の協定で解決済みであるという立場を変えておらず、いかなる形でもそれを蒸し返すことには乗り気ではない。 合意に向けた最大の障害となっているのは、両国の国内政治である。「尹大統領と岸田首相の政治基盤の弱さが、このプロセスに影響を与える要因となっている」と指摘するのは、最も影響力のある韓国の日本研究者であり、尹政権のブレーンでもある朴喆熙(パク・チョルヒ)教授だ。 韓国の野党「共に民主党」はこの解決策に反対の構えを見せている。魏氏は、この解決策を支持する同党の幹部らを含む超党派グループを作ることを提案しており、尹大統領に対しこのアプローチを取るよう公に求めている』、「合意に向けた最大の障害となっているのは」、「「尹大統領と岸田首相の政治基盤の弱さ」だ困ったことだ。
・『岸田首相による「お返しのジェスチャー」が必要 しかし、同様に重要なのが、岸田首相が何らかのジェスチャーを示すことだ。そうすれば、韓国で国民の幅広い支持を得られるかもしれない。日本側は協定遵守に過度にこだわる立場を乗り越える必要があると、韓国専門家であるスナイダー氏も主張する。「韓国側は、交渉を持続的なものにするために、日本側からの何らかの"お返しのジェスチャー"を必要としている」。 残念ながら、岸田首相は依然として、韓国に対する根深い不信感を持った自民党の右派にとらわれている。さらに事態を悪化させているのは、岸田首相の政治基盤の弱さである。 実行可能な妥協案が欠如しているのではなく、国内政治こそが、日韓の正常な関係の回復に向かう狭い道をふさぐ真の障害となっているのだ。 「今後は、尹大統領と岸田首相はそれぞれの国民を置いていかないように、ゆっくりと事を進める可能性が高い」と、アメリカの外交官として両国で務めた経験の長いリヴィア氏は言う。 しかし、絶好の機会はそう長くは続かないかもしれないため、現在協議にあたっている日韓の当局者は年末までに合意をまとめたい考えだ。その"期限"までに「北朝鮮がきっと、協力することが強い共通の利益であることを日韓に思い出させてくれるだろう」』、「日韓の当局者は年末までに合意をまとめたい考えだ」、残念ながら「年末までに合意」は無理だったようだ。こじれた関係を解きほぐすには、時間がかかるようだ。
次に、本年1月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「韓国で「元徴用工問題」の公開討論会が大紛糾、解決の課題を元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/316198
・『政府の解決案に対する韓国メディアの反応 韓国政府は12日、元徴用工(元朝鮮半島出身労働者)訴訟問題を議論する公開討論会を行った。これについて多くの韓国メディアは、公開討論会で韓国政府が示した解決案に対し、元徴用工団体(以下、団体)がこぞって反発したことを伝えている。 たとえば韓国日報や京郷日報は、政府が元徴用工の意思を無視すれば、2015年の慰安婦合意が元慰安婦団体の反発を受け、元慰安婦に補償金を支払ってきた財団が解散させられ事実上活動を止められた「前例」を再現する恐れがあると批判している。 また、ハンギョレ新聞は、「被害者らの苦痛に対する謝罪と慰労を無視し、解決案を押し付けるならば、韓日関係は一層悪化し、逆風を受けることになるだろう」としている。 その一方で、朝鮮日報などは、日本も応えるべきとしつつも「これ以外現実的な解決策がないのも事実である」とコメントしている。 さらに韓国経済新聞は「政府案は根本的な解決策ではないが、被害者らもひたすらにそっぽを向いている時ではない」とし、日本に対しても「隣国に不幸をもたらした歴史に対する加害者の不断の謝罪と解決努力が必要である」と注文を付けている』、「公開討論会で韓国政府が示した解決案に対し、元徴用工団体(以下、団体)がこぞって反発」、これは織り込み済だろう。
・『解決案の実行を具体化するための課題 団体の反発はもともと予想されていたものである。問題は、この解決案を実行できるかである。 韓国政府は、解決案の実行に当たっては、元徴用工と個別に面会してその方針を説明し、理解を求めるとしている。それを踏まえ、元徴用工が判決金を受領することになるのだろう。 だが、団体は、自らが窓口となり、政府と元徴用工の接触を妨害し、元徴用工が判決金を受領するのを妨げるであろう。したがって、政府がいかに団体の妨害を回避できるかが最大の焦点である。 また、この解決案を実行するに当たり、寄付を行う企業が世論の反発を受けないようなスキームを作れるかも重要である』、「団体は、自らが窓口となり、政府と元徴用工の接触を妨害し、元徴用工が判決金を受領するのを妨げるであろう。したがって、政府がいかに団体の妨害を回避できるかが最大の焦点である」、その通りだ。
・『公開討論会に対して団体側は激しく反発 公開討論会では、外交部の徐旻廷(ソ・ミンジョン)アジア大洋州局長が政府の解決案を説明した。また、パネル討論では、高麗大学の朴鴻圭(パク・ホンギュ)教授とチェ・ウギュン弁護士が、韓国政府の解決案を擁護する発言を行った。 しかし、一般討論演説に差し掛かり、討論者の人数が制限されると討論会は紛糾し、座長を務めた日本専門家の朴喆煕(パク・チョルヒ)ソウル大学国際大学院教授は、討論会を終了せざるを得なくなった。 団体の一部は「外交部が事前に発題文(発表資料)すら提供していない」として、参加しなかった。民族問題研究所と代理人側は参加したが、不参加を決めた一部の団体を支持すると述べた。 市民団体で作る「歴史正義と平和な韓日関係のための共同行動(韓日歴史正義平和行動)」と革新系野党の「共に民主党」(24人)、「正義党」(6人)、無所属(2人)の計32人の議員は、国会前で、「非常時局宣言」とする記者会見を開催した。 同会見では、政府案は「司法府の判決を行政府が無力化する措置で、三権分立に反し、憲法を否定するもの」であり、「韓国の司法の主権を放棄するも同然だ」と非難し、同案の撤回を要求した。 しかし、こうした元徴用工側の反発は想定内だろう。彼らがおとなしく納得するはずはない。それを承知の上で、これしか解決の道はないと確信してのことだろう』、「こうした元徴用工側の反発は想定内だろう。彼らがおとなしく納得するはずはない。それを承知の上で、これしか解決の道はないと確信してのことだろう」、大人の対応だ。
・『解決案に対する団体の対決手段 韓国政府は、行政安全部傘下の日帝強制動員被害者支援財団(財団)が基金を募金して元徴用工に判決金を支給するとしているが、団体は、元徴用工に判決金を受領させない方針である。団体は、戦犯企業による基金への拠出と日本側の謝罪が前提になってこそ、今回の解決案を受け入れるという立場を固守している。 中央日報は、団体による対抗手段を次のように分析している。 判決金を肩代わりしようとする財団と元徴用工側の衝突は結局、裁判所供託手続きに帰結する可能性が高い。この場合、財団は判決金を裁判所に供託して法的に債務を終了させようとするはずで、これに対抗して元徴用工側は「供託無効訴訟」を提起する可能性がある。解決案は結局、問題を解決できないまま、法律紛争につながるという懸念が出ている。 さらに中央日報は、そうなれば「葛藤が長く続く混乱した状況が続くだろう」と指摘。そのため韓国政府と財団は、元徴用工との法律紛争などを懸念し、ひとまず判決金は準備しておくものの、実際の支給は日本企業の拠出が確定した後に先延ばしする案を検討している。 しかし、日本政府は、解決案に対する韓国国内での反応を見守っている状況である。韓国の財団が判決金の支払いを遅らせる場合、日本企業の基金への拠出を認めるとしても、韓国の財団の判決金支払いが始まるまで、日本側の拠出の黙認をちゅうちょすることも考えられる。韓国政府は、団体の反対をいかに回避するか考えるのが先決であろう』、「日本政府は、解決案に対する韓国国内での反応を見守っている状況である。韓国の財団が判決金の支払いを遅らせる場合、日本企業の基金への拠出を認めるとしても、韓国の財団の判決金支払いが始まるまで、日本側の拠出の黙認をちゅうちょすることも考えられる」、その通りだろう。
・『具体的支給の手続きはどのように行うのか 現在の判決金の支給対象は、大法院が2018年に三菱重工業や日本製鉄(旧新日鉄住金)などに支給するよう命じた15人の元徴用工が対象であり、支給すべき判決金は1億~1億5000万ウォン(約1033万円~1550万円)とその遅延利息である。 その後、日本企業に対する損害賠償訴訟2審が進行中の元徴用工(約140人)と、大法院で審理中の元徴用工(約110人)が最終的に勝訴すれば、追加的に基金を増やす必要がある。ただ、訴訟には時効があるため、判決金支給対象者が無限に増えるわけではない。 現在政府は、ポスコが当初拠出する予定だった100億ウォン(約10億3333万円)の残金40億ウォン(約4億1333万円)の拠出を、同社に求めている。だが、支給対象者が増える場合には、日韓請求権協定から恩恵を受けた韓国電力、KORAIL(韓国鉄道公社)、ハナ銀行(旧韓国外換銀行)、KT&Gなど16の企業、公共機関を選定し、拠出を求める考えだという。 財団が寄付金を集めるに当たっては、「韓国企業が肩代わりした」との批判を和らげるため、全国経済人連合会(全経連)内に別途機構を選定し、基金の管理を委託する方向で検討しているという。 判決金の受領対象となるのは当面最初の確定判決を受けた15人だが、そのうち12人は既にこの世を去っている。団体が元徴用工とその遺族に判決金の受領を拒否させることも、この15人の中核的な元徴用工であれば、それほど難しくないかもしれない。 しかし、訴訟の2審が進行中の人々、大法院で審理中の人々は今後訴訟を通じて、受け取りが可能となるまでには相当な時間が必要だろう。団体がこうした人々と政府の接触を全て妨害することは容易ではない。政府と財団が根気よくこうした人々を説得していくならば見通しは開けてくるであろう。 朝鮮日報は、「日本企業が韓国に持つ資産を強制的に処分したとしてもたいした額にはならず、判決額には程遠い。強制処分に伴う深刻な韓日の摩擦も懸念せざるを得ない」「日本との対立をただ続けることが本当に被害者のためになるのか、改めて考えるべき時期に来ているようだ」と指摘している。 さらに「『今の状況では、かつて日本から受け取った請求権資金で実際に成長した韓国企業が動くべきだ』との世論が大勢を占める」とも述べている。 韓国でマスコミが伝える世論、世論調査の結果に示される世論は日本に対して厳しいものが多い。しかし、韓国人は本音と建て前を使い分ける。本音は案外、朝鮮日報の報道に近いのかもしれない』、「『今の状況では、かつて日本から受け取った請求権資金で実際に成長した韓国企業が動くべきだ』との世論が大勢を占める」、これは本音なのだろう。
・『日本企業が基金に参加で日韓政府が一致か 東亜日報は、政府筋の話として、日韓両政府が昨年末、元徴用工問題で韓国企業による寄付で判決金を肩代わりする一方、その基金の設立に日本企業が参加することで一致したことが判明したと報じている。 ただし、最終合意ではないため、日本内の政治的状況など変数によって変わる可能性があるとも伝えている。日本政府は、韓国政府が解決策を公表した後、元徴用工の反発など韓国内の世論の動向を注視しているという。 韓国の朴振(パク・チン)外相は日本の林芳正外相に、韓国の解決案について説明した。外交部は「韓日関係の発展および韓日間の諸般の懸案解決に向け、外交当局の各レベルで緊密に意思疎通を行うことで一致した」と発表した。林外相は解決策について具体的な言及は避けたが「韓国政府と緊密に意思疎通を行いたい」と述べた。 さらに、16日には日韓局長協議でより詰めた協議をした。 また、公開討論会を共催した韓日議員連盟の鄭鎮碩(チョン・ジンソク)会長は、麻生太郎自民党副総裁、松野博一官房長官と相次いで会談し、解決案について意見交換した。鄭鎮碩会長は「元徴用工問題をはじめとする両国間の懸案問題について虚心坦懐に話をした」「一方の努力だけでは困難な『弧掌難鶏』(何かを成し遂げようとしても一人ではどうすることもできない)と訴え、(日本側も)誠意ある努力を行うべきだと強調した」と明らかにした。 また、中央日報は、日韓両政府が公式解決案を発表した後、日本が過去に出した談話の精神を継承するという趣旨の立場表明を発表する案まで話し合ったと報じている。ただ、どの談話を継承するかについては立場が歩み寄ってはおらず、「過去の談話を継承する」という包括的な表現に落ち着く可能性もあると伝えている』、「日韓両政府が昨年末、元徴用工問題で韓国企業による寄付で判決金を肩代わりする一方、その基金の設立に日本企業が参加することで一致したことが判明したと報じている」、「基金の設立」への「参加」であれば、「判決金の肩代わり」より少額で済むのだろうか。
・『日本政府側も現実的な案と評価 共同通信は日本の首相官邸筋の話として、韓国側の解決案は「現実的だ」と評価したと報じている。同筋はさらに「日本政府内では、日本企業が判決金を支払う財団に寄付できるようにする法案が浮上している」と伝えている。 岸田文雄首相は1月13日(現地時間。日本時間14日未明)、米ワシントンにおける記者会見で、韓国の解決案に対するコメントを求められ、「韓国内の具体的な動きについてコメントすることは控える」と即答を避けた。その一方で、「自身と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が懸案の早期解決を図ることで一致した」とし、「日韓関係を健全な形に戻して発展させたい」と明らかにした。 AFPは岸田首相が、徴用工問題を解決しようとする韓国との今後の関係に対する希望を表明したと伝えている。 元徴用工問題の解決は、韓国政府による解決案によって一歩を踏み出した。今後の課題は、それをどう具体化するか、団体の妨害を乗り越え、元徴用工本人およびその遺族にどう接触し、理解を求めるか、日本側の誠意ある措置がどうなるかにかかっている』、折角、「元徴用工問題の解決は、韓国政府による解決案によって一歩を踏み出した」。「日本側」も「誠意」を示すべきときだろう。
第三に、1月23日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋大学教授の薬師寺 克行氏による「元徴用工問題のボールは韓国から日本に移った 外交が韓国司法から主導権を奪い返せるか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/647464
・『元徴用工問題 日本統治下で動員された労働者が日本企業に対する訴訟を起こした問題)について、韓国政府が解決に向けて積極的な動きを見せている。 韓国政府の解決案はまず、損害賠償請求を認める判決が確定した元徴用工に対しては、日本企業に代わって韓国の財団が賠償金を支払う。さらに係争中の元徴用工に対しても同じ方法をとって、この問題を一気に解決しようという内容だ。 この解決策が実現すれば、日韓間で最大の懸念となっている日本企業の資産の現金化を回避できるだけでなく、李明博(イ・ミョンバク)大統領の時から続く日韓関係の「停滞の10年」を終わらせることも期待できるだろう。 日本企業に代わって原告に損害賠償金を支払うとされているのは韓国の「日帝強制動員被害者支援財団」だ。この財団は日本による植民地支配時代、軍人や労働者、慰安婦として動員された人たちの福祉支援、追悼、さらに強制動員被害に関する文化・学術研究、調査などを目的に2014年に設立された。 韓国政府案ではこの財団に韓国企業が寄付し、それを財源として財団が元徴用工に賠償金などを払う。既に韓国最大の製鉄会社ポスコが100億ウォン(約10億円)の拠出を約束し、すでに60億ウォンを寄付している』、興味深そうだ。
・『日本の資金で発展した韓国企業が賠償金を寄付 1965年、日韓請求権協定が結ばれ日韓の国交が正常化した際、日本政府は韓国に対し合計5億ドルの経済協力資金を支払った。当時の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領はこの資金も活用して「漢江の奇跡」と呼ばれる高度経済成長を実現した。 ポスコの前身である浦項総合製鉄はこうした朴大統領の政策の下、日本からの資金を使って作られた企業で韓国最大の製鉄会社となっている。ポスコのほかにも日本からの経済協力資金を使った大手企業が合わせて10社ほどあり、財団はこれらの企業に寄付を要請し、元徴用工に渡すお金の原資に充てるつもりだ。 また財団は政府の動きに合わせて1月、定款に新たに「国外強制動員被害者と遺族に対する被害補償と弁済」という条文を追加し、元徴用工への賠償金支払いを可能にする措置をとっている。解決案実現に向けて着々と動いているのだ。) 対象となる元徴用工は、すでに判決が確定している人が15人で、賠償合計金額は数億円となる。このほか現在係争中の訴訟は約70件あり原告の数は約250人になるといわれている。韓国政府は判決が確定した元徴用工だけでなく、係争中の人たちについてもすべて解決しようという方針のようだ。 2018年に大法院が三菱重工業など日本企業に損害賠償金の支払いを命じる判決を出して以後、当時の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は問題解決のために一切、動こうとしなかったことを思えば、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の積極的な姿勢は高く評価できるだろう。 もちろん韓国政府が積極的に解決策を示したからと言って、その通りに進むわけではない。 原告やその支援団体は政府案に強く反対し、お金の受け取りを拒否するとしている。長い年月をかけて勝ち取った判決であるにもかかわらず、日本の政府や企業が何もしないで韓国企業が肩代わりするだけの決着を受け入れるわけにはいかないだろう。 韓国メディアは、原告らは韓国企業が日本企業に代わって資金を提供することを阻止するために形を変えた法廷闘争も検討していると報じており、今後の展開を予測することは難しい』、「日本からの資金を使って作られた企業で韓国最大の製鉄会社となっている。ポスコのほかにも日本からの経済協力資金を使った大手企業が合わせて10社ほどあり、財団はこれらの企業に寄付を要請し、元徴用工に渡すお金の原資に充てるつもりだ」、なかなか上手い仕組みだ。
・『外交の成果を司法がひっくり返した 一方、日本政府や企業の対応だが今のところ表立った動きはない。しかし、韓国政府がこれだけ積極的に動いている一方で、日本側がなにもしなくて済むのだろうか。 大法院判決について日本政府は一貫して、「元徴用工問題はすでに外交的に決着済みの問題であり、判決は国際法違反である」という主張をしている。賠償金支払い問題は韓国国内の問題であって、韓国政府が対応すべきだという立場だ。三菱重工など日本企業も同じで、賠償金を支払うことを拒否している。 そもそも大法院判決は植民地支配が違法という前提に立っている。その植民地支配に直結する日本企業の活動も違法であるから、徴用工の賠償請求が成り立つという論理を展開している。 植民地支配が違法か合法かは、「日韓国交正常化交渉での最大のポイントだった。双方が容易に妥協できない中で、両国政府は国交正常化を優先して、日韓併合条約など「すべての条約及び協定は、もはや無効であることが確認される」という表現で外交的妥協をはかった。これを受けて韓国政府は2度にわたって法律を整備し元徴用工に対する補償を実施してきた。 ところが大法院判決はこうした外交的成果を一気にひっくり返してしまったのだ。 大法院判決はすでに確定しており、類似の訴訟に対して拘束力を持つことになる。それは植民地支配に関する韓国の行政府と司法の認識の違いが固定化することを意味する。 韓国政府案は判決が確定した原告だけでなく、係争中の元徴用工に対する補償まで含んでいる。このことは、当面の懸案である日本企業の資産の現金化を回避することだけが目的ではないことを示している。) 韓国政府には、大法院で新たな判決が出る前に行政府主導で包括的に解決するとともに、日本側から何らかの対応を引き出そうという狙いもあるのではないか。 大法院は今後も同じ論理で元徴用工に対する損害賠償を認めることになるだろう。そうなると日本政府や企業は拒否するしかない。同じことの繰り返しが続く。 しかし、判決前であれば司法の判断に受動的に対応するのではなく、両国の行政府が話し合って打開策を見出すことが可能になる。実際、外交部幹部は韓国の国会で「韓国政府の対応に対して、日本の対応措置がなければ協議する必要はない」などと発言しており、これからは日本側の対応が重要になりそうだ。 ここで問題になるのは、韓国の対応をどこまで信じられるのかという問題だ』、「判決前であれば司法の判断に受動的に対応するのではなく、両国の行政府が話し合って打開策を見出すことが可能になる。実際、外交部幹部は韓国の国会で「韓国政府の対応に対して、日本の対応措置がなければ協議する必要はない」などと発言しており、これからは日本側の対応が重要になりそうだ」、なるほど。
・『岸田首相は慰安婦合意を反故にされた当事者 尹錫悦大統領が日韓関係改善に本気なことは自民党のタカ派議員でも理解している。しかし、日本側には「政権が代わってもこの政策は維持されるのか」という懸念は強い。 2015年、保守系の朴槿恵(パク・クネ)大統領の下で従軍慰安婦についての合意が実現した。ところが大統領が進歩系の文在寅氏に交代すると、「国民世論の理解が得られていない」などという理由であっさりと反故にされてしまった。 この時、合意内容を韓国外相とともに記者会見で発表したのが、当時外相だった岸田文雄首相だ。同じ誤りを繰り返すわけにはいかず、岸田首相が日韓関係についてはことさら慎重な対応をしているのも頷ける。 事実、最大野党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)代表は、政府の対応を「国民の常識とかけ離れた反民族的で、反歴史的な態度だ」と強い調子で批判しており、保守勢力と進歩勢力の対立は以前にも増して激しくなっている。 しかし、韓国の次期大統領選(2027年予定)までにすべてを決着させてしまえば、政権交代を気にする必要はなくなる。韓国企業とともに日本企業が自発的に財団に寄付し、係争中の元徴用工に渡すような対応が実現すれば、政権交代で反故にすることもできなくなる。 それは同時に元徴用工問題についての主導権を韓国司法の手から外交の世界に引き戻すことにもなる。 日韓の間には元徴用工問題に加えて、韓国側が強く反発している半導体素材などの輸出規制問題や、韓国が一方的に終了を通告し、その後「終了通知の効力停止」を宣言したまま中途半端な状態となっている軍事情報包括保護協定(GSOMIA)問題も残っている。 さらに視野を広げると、ウクライナ戦争の余波で北東アジア地域でも、中国による軍事的脅威や北朝鮮の核の脅威が現実味を持ってきている。さらに世界経済が低迷し、各国が自国の利益追求を強める時代を迎えつつある。そんなときに日韓という中規模国家が長期間、足を引っ張り合っている場合ではない。 尹錫悦大統領が思い切って踏み出した今、次は岸田首相の番だろう』、「2015年、保守系の朴槿恵(パク・クネ)大統領の下で従軍慰安婦についての合意が実現した。ところが大統領が進歩系の文在寅氏に交代すると、「国民世論の理解が得られていない」などという理由であっさりと反故にされてしまった。 この時、合意内容を韓国外相とともに記者会見で発表したのが、当時外相だった岸田文雄首相だ。同じ誤りを繰り返すわけにはいかず、岸田首相が日韓関係についてはことさら慎重な対応をしているのも頷ける」、しかし、「日韓という中規模国家が長期間、足を引っ張り合っている場合ではない。 尹錫悦大統領が思い切って踏み出した今、次は岸田首相の番だろう」、同感である。
タグ:しかし、「日韓という中規模国家が長期間、足を引っ張り合っている場合ではない。 尹錫悦大統領が思い切って踏み出した今、次は岸田首相の番だろう」、同感である。 「2015年、保守系の朴槿恵(パク・クネ)大統領の下で従軍慰安婦についての合意が実現した。ところが大統領が進歩系の文在寅氏に交代すると、「国民世論の理解が得られていない」などという理由であっさりと反故にされてしまった。 この時、合意内容を韓国外相とともに記者会見で発表したのが、当時外相だった岸田文雄首相だ。同じ誤りを繰り返すわけにはいかず、岸田首相が日韓関係についてはことさら慎重な対応をしているのも頷ける」、 折角、「元徴用工問題の解決は、韓国政府による解決案によって一歩を踏み出した」。「日本側」も「誠意」を示すべきときだろう。 「日韓両政府が昨年末、元徴用工問題で韓国企業による寄付で判決金を肩代わりする一方、その基金の設立に日本企業が参加することで一致したことが判明したと報じている」、「基金の設立」への「参加」であれば、「判決金の肩代わり」より少額で済むのだろうか。 「『今の状況では、かつて日本から受け取った請求権資金で実際に成長した韓国企業が動くべきだ』との世論が大勢を占める」、これは本音なのだろう。 「判決前であれば司法の判断に受動的に対応するのではなく、両国の行政府が話し合って打開策を見出すことが可能になる。実際、外交部幹部は韓国の国会で「韓国政府の対応に対して、日本の対応措置がなければ協議する必要はない」などと発言しており、これからは日本側の対応が重要になりそうだ」、なるほど。 「日本からの資金を使って作られた企業で韓国最大の製鉄会社となっている。ポスコのほかにも日本からの経済協力資金を使った大手企業が合わせて10社ほどあり、財団はこれらの企業に寄付を要請し、元徴用工に渡すお金の原資に充てるつもりだ」、なかなか上手い仕組みだ。 薬師寺 克行氏による「元徴用工問題のボールは韓国から日本に移った 外交が韓国司法から主導権を奪い返せるか」 「より正式な形での3国間ミサイル防衛体制の構築が次の段階として当然考えられるわけだが、そうした構想は韓国と日本の両方で大きな政治的障害に直面している」、「大きな政治的障害」とはどういうことだろう。 「北朝鮮による容赦ない頻度でのミサイル発射が日本と韓国を接近させる、という北朝鮮にとっては皮肉な影響をもたらしている」、その通りだ。 ダニエル・スナイダー 氏による「日韓"急接近"でも「徴用工問題」が解決しない真因 韓国側は岸田首相の「お返し」に注目している」 「基金にはすでに十分過ぎるほどの金額が集まっている」、しかし、「被害者ら、および官民協議会に参加した被害者側の法定代理人は、日本企業もこの基金への寄付を行うことを主張」、彼らにしたら、韓国企業が寄付しただけでは、腹の虫が治まらないということなのだろう。 「韓国では、野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表が、3国間演習を軍事同盟の形成へと向かう「親日行為」だと非難」、「李代表は、「日本軍が韓半島に進駐してきて旭日旗が再び半島に掲げられる日は想像できないが、あり得ることだ」と発言」、「共に民主党」の反日姿勢にも困ったものだ。 武藤正敏氏による「韓国で「元徴用工問題」の公開討論会が大紛糾、解決の課題を元駐韓大使が解説」 ダイヤモンド・オンライン 「日韓の当局者は年末までに合意をまとめたい考えだ」、残念ながら「年末までに合意」は無理だったようだ。こじれた関係を解きほぐすには、時間がかかるようだ。 「合意に向けた最大の障害となっているのは」、「「尹大統領と岸田首相の政治基盤の弱さ」だ困ったことだ。 「日本政府は、解決案に対する韓国国内での反応を見守っている状況である。韓国の財団が判決金の支払いを遅らせる場合、日本企業の基金への拠出を認めるとしても、韓国の財団の判決金支払いが始まるまで、日本側の拠出の黙認をちゅうちょすることも考えられる」、その通りだろう。 「こうした元徴用工側の反発は想定内だろう。彼らがおとなしく納得するはずはない。それを承知の上で、これしか解決の道はないと確信してのことだろう」、大人の対応だ。 「団体は、自らが窓口となり、政府と元徴用工の接触を妨害し、元徴用工が判決金を受領するのを妨げるであろう。したがって、政府がいかに団体の妨害を回避できるかが最大の焦点である」、その通りだ。 「公開討論会で韓国政府が示した解決案に対し、元徴用工団体(以下、団体)がこぞって反発」、これは織り込み済だろう。 (その2)(日韓"急接近"でも「徴用工問題」が解決しない真因 韓国側は岸田首相の「お返し」に注目している、韓国で「元徴用工問題」の公開討論会が大紛糾 解決の課題を元駐韓大使が解説、元徴用工問題のボールは韓国から日本に移った 外交が韓国司法から主導権を奪い返せるか) 東洋経済オンライン 韓国「徴用工」問題
ミャンマー(その7)(人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも、ミャンマー情勢 日本外交の選択肢、ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク) [外交]
ミャンマーについては、2月17日に取上げた。今日は、(その7)(人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも、ミャンマー情勢 日本外交の選択肢、ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク)である。
先ずは、7月15日付け東洋経済オンライン「人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/603730
・『日本のODA(政府開発援助)を担う独立行政法人の国際協力機構(JICA)が、農業やインフラ整備などの技術協力に関わる専門家を7月中旬以降、ミャンマーに順次派遣する方針であることがわかった。JICAは人数を明らかにしていないが、数十人規模とみられる。 渡航要請を受けた専門家から、「安全が担保されていないのではないか」「専門家の本格的な派遣はクーデター政権の容認につながりかねない」との疑問の声が挙がっている』、軍事クーデター後、アウンサンスーチー氏を事実上拘束、民主派リーダー4人を死刑にするなど、軍政の暴挙が激化するなかでのJICA支援再開は、信じられない弱腰外交だ。
・『渡航制限を見直し、専門家を再派遣 ミャンマーでは2021年2月に軍事クーデターが発生し、それからしばらくしてJICAは専門家を一時帰国させていた。その後、ミャンマー国軍はクーデターに反対する市民への弾圧をエスカレートさせており、少数民族の居住地区への空爆や市民の逮捕・拘束や殺害も相次いでいる。 そうした中、JICAはミャンマーへの渡航制限を見直し、専門家を再び派遣する方針を6月に決定した。6月24日には専門家を対象としたオンライン形式での説明会が開かれ、専門家の再渡航を速やかに進めることが専門家に伝えられた。 同説明会でJICAが示した内容は、「任地は最大都市ヤンゴンに限定し、首都ネピドーでの業務は当面、短期滞在の出張で対応すること。また、地方への渡航は一部の地域を除いて原則として禁止し、不要不急の夜間外出を避けること」などだった。 JICAは4月中旬に日本から専門の調査団を派遣して現地の安全状況を調査している。しかし、6月24日の説明会では「派遣本格化の前提であるはずの治安や人権状況に関する詳しい説明はなかった」(参加者)という。) 他方、JICAミャンマー事務所が作成した「ミャンマー国内の安全対策と健康管理について」と題した2022年5月付の文書は、「外出に当たっては、特に爆発、銃撃事案等に巻き込まれるリスクを十分意識したうえで、身の回りの安全に十分注意して行動してください」と注意を促している。まさに安全が担保されているとは言いがたい状況にある。報道によれば、7月12日、専門家の赴任地であるヤンゴン市内では7件の爆発事件が発生。これまでに2人の死亡が確認されている。 では、JICAの要請を専門家が拒否した場合、どうなるのか。 JICAが6月に配付した文書では、「事情により再渡航を希望しない専門家については、任期短縮・要員交代や派遣形態の変更により対応する」と記されている。「専門家はJICAとの間で業務委託契約を締結しており、任期は2年程度。そのため、任期短縮は早晩、失職につながりかねない」と前出の関係者は危惧する。そのうえで「専門家の多くは家族を抱え、断りにくい状況にある」(同関係者)という』、「「専門家はJICAとの間で業務委託契約を締結しており、任期は2年程度。そのため、任期短縮は早晩、失職につながりかねない」と前出の関係者は危惧する。そのうえで「専門家の多くは家族を抱え、断りにくい状況」、そうした「断りにくい状況」を踏まえて危険な任務を押し付けるとは、「JICA」のやり方も汚い。
・『悪化するミャンマーの人権状況 ミャンマーの人権状況は悪化している。ミャンマーの人権問題を担当する国連人権理事会のトーマス・アンドリュース特使は6月29日付の声明文で、「国軍による暴力はさらにひどくなっている。空爆で村を焼き払い、子どもまで殺害している。これは戦争犯罪に相当する」と非難している。 クーデターを起こした国軍は国家統治評議会を組織し、ミン・アウン・フライン国軍総司令官自らが暫定首相に就任。だが、日本政府はこのクーデター政権を正式に承認しておらず、クーデターを非難するとともに、新規のODA供与も見合わせている。 その一方で2022年5月、民間の経済協力団体である日本ミャンマー協会の渡邉秀央会長とともに、日本政府の内閣官房内閣審議官がミャンマーを訪問し、クーデター政権の労働相などと会談していた事実がミャンマー国営紙によって報じられている。この件を問題視する日本や海外など110の市民団体は岸田文雄首相宛てに抗議文を送付し、同審議官の訪問の目的や対談相手、対談内容などを明らかにするように求めている。 そうしたさなかにJICAによる専門家のミャンマー派遣再開が明らかになったことで、その活動がクーデター政権に宣伝材料として悪用されるリスクも持ち上がっている。 東洋経済が入手したJICAの内部文書では、「(局長以上の現地関係者との)会合を開催する場合、国営メディア等で報道されないよう留意する」「JICAとカウンターパート(相手方)との共同活動が国軍のプロパガンダに活用される懸念がある」との記述もみられ、JICA自身がこうしたリスクを懸念していることがわかる。 JICAのホームページでは7月14日現在、専門家の派遣について何の情報も掲載されていない。東洋経済の取材に対し、JICA報道課は「安全に活動できるとの判断に基づいて専門家に現地での業務をお願いしている。専門家本人が不安を感じているのであれば、関係部署や現地事務所がいつでも相談に応じる」などと説明。 クーデター政権を利する恐れがあるとの懸念が持たれていることについては、「専門家にはできるだけ目立たないように活動してもらう」(同課)という。ただ、なぜ今、派遣しなければならないのかも含めてJICAの説明内容はあいまいだ。 国民の理解と支持が必要な開発協力には高い透明性が求められている。理由を含め十分な説明なしに人権侵害が横行している国にODAを担う専門家を派遣するやり方に問題はないのか。JICAはこの間のいきさつをきちんと明らかにすべきだ』、「東洋経済が入手したJICAの内部文書では、「(局長以上の現地関係者との)会合を開催する場合、国営メディア等で報道されないよう留意する」「JICAとカウンターパート(相手方)との共同活動が国軍のプロパガンダに活用される懸念がある」との記述もみられ、JICA自身がこうしたリスクを懸念していることがわかる」、「国民の理解と支持が必要な開発協力には高い透明性が求められている。理由を含め十分な説明なしに人権侵害が横行している国にODAを担う専門家を派遣するやり方に問題はないのか。JICAはこの間のいきさつをきちんと明らかにすべきだ」、その通りだ。
次に、8月3日付けNewsweek日本版が掲載した在米作家の冷泉彰彦氏による「ミャンマー情勢、日本外交の選択肢」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2022/08/post-1281_1.php
・『<国軍が独裁体制を強化し中ロに接近するなか、日本の外交政策は行き詰まっている> 2021年の2月に国軍が実権を掌握して、事実上の軍政に戻っているミャンマーでは、最大都市のヤンゴンで7月30日、日本人ジャーナリストが治安当局に拘束されました。この事件については、この間起きている一連の流れの中で理解する必要があると思います。 まず6月22日には、クーデター以来軟禁されていた、アウンサンスーチー氏がネピドーの自宅から、「刑務所敷地内に新築された施設」に移動させられています。事実上の収監と言えます。 7月2日には、中国の王毅外相がクーデター後、初の要人訪問として、ミャンマーを訪問し、国際会議に参加しています。 さらに、7月11日には、国軍の最高指導者である、ミンアウンフラインが、ロシアを訪問し、国防省の高官と会談しました。この会談について、ロシア国防省は12日になって声明を発表し「戦略的なパートナーシップの精神に基づき、軍事面や技術協力を深めていくことを再確認した」としています』、「中国」や「ロシア」とは既に強固な関係を築いているようだ。
・『民主活動家処刑の衝撃 7月25日には、民主活動家4人に対する死刑が執行され世界を震撼させました。罪状はテロ行為に関わったなどというもので、ミャンマーでは久々の死刑執行でした。死刑が執行されたのはNLD(国民民主連盟)の元国会議員で、スーチー氏の側近だったピョーゼヤートー氏や、民主活動家として有名なチョーミンユ氏など4人だということです。 つまり、この1カ月間に、フライン体制の国軍は、より独裁的な性格を強め、とりわけスーチー氏率いるNLDへの弾圧を強めています。また、同時に中国とロシアに接近しているようです。 日本としては、今後のミャンマー外交をどうしたらいいのか、非常に難しい選択となってきました。ミャンマーに対する日本外交は、どう考えても行き詰まっているからです。NLDと国軍が和解したことで2015年に民主体制が確立して以来、日本からは多くの企業がミャンマーに進出しました。現在でも数百社という日本企業が残っています。事実上、内戦状態となった現在、その経済的な活動は非常に限定されています。 また、民主化後に投資が増えたとはいえ、それ以前から日本政府はミャンマー国軍とは関係を築いており、21年のクーデターで民主制が壊された後も、国軍との関係を保っているのは事実です。一方で、国軍からもNLDからも「ミャンマー人ではない」とされて厳しい差別を受けているロヒンギャの人々に対する人道支援については、日本はこの間ずっと模索を続けてきましたが事態は改善していません。) そんななかで、今回の死刑執行やスーチー氏収監、日本人拘束、そして中ロ接近という一連の事件で、流れはますます悪化しているように見えます。今後の日本外交の方向性についても、方向性を見極めるのは難しくなっています。 まず、このような軍政と内戦が続くのであれば、日本の進出企業は総撤退、ビジネスチャンスを求めてミャンマーに渡航した日本の人々も一斉に引き揚げというのが合理的なように思えます。 ですが、仮に日本の経済プレゼンスが消えてしまえば、ミャンマーは中国とロシアの陣営により傾斜していくと思います。そうなれば、ベンガル湾にロシアの海軍基地が建設されるなど、地政学的なバランスは一変してしまいます。それこそ安全なインド太平洋などという戦略は大きく揺さぶられることになります。また、日本が総撤退してしまうと、ミャンマー経済が民主化以前の貧困状態に戻ってしまうことも考えられます』、「仮に日本の経済プレゼンスが消えてしまえば、ミャンマーは中国とロシアの陣営により傾斜していくと思います。そうなれば、ベンガル湾にロシアの海軍基地が建設されるなど、地政学的なバランスは一変してしまいます。それこそ安全なインド太平洋などという戦略は大きく揺さぶられることに」、確かにこのシナリオは是非避けたいものだ。
・『軍政との関係維持の理由 ロヒンギャの人々の問題も難題です。彼らに対しては、民主派のNLDも軍政も同じように差別と弾圧を加える側です。かといって、隣国バングラデシュには彼らを支える力はありません。そんな中で、日本が全ての努力を放棄してしまうと、より深刻な人道危機が発生する可能性があります。 このように、日本外交が現在取っている方向性には、一応の理屈はあるわけです。国際的な非難を浴びている軍政に対して、一定の2国間関係を維持しているということにも、それなりの背景があるという見方も可能です。 そうではあるのですが、問題はそろそろ全体的に行き詰まりに来ていることです。今後のミャンマー外交をどうするのか、この辺りで総括をして国会などで包括的な審議を行なうべきです。安倍政権で外相を務めていた岸田首相は、この間のミャンマー外交について、当事者として深い理解をしているはずです。総理は、少なくともその全体像を世論に説明をする必要があると思います』、「総理は、少なくともその全体像を世論に説明をする必要がある」、その通りだ。
第三に、10月2日付け日刊ゲンダイ「ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/312211
・『何とも後味が悪い。日本政府は安倍元首相の国葬に、国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーを招待。軍事政権に“お墨付き”を与えた愚行には、国外から厳しい批判が寄せられている。国軍下のミャンマー外務省は早速、国葬参列を国内外に周知して正当性のアピールに余念がない。 ミャンマーからは、ソー・ハン駐日大使夫妻が参列。駐日大使といえど、国軍支配下の政府代表である。国葬後に、ミャンマー外務省が公式ホームページとフェイスブックに、祭壇や大使夫妻の写真を添えて〈ミャンマー政府を代表して出席した〉などと掲載。 日本政府はミャンマーの参列を認めたことにより、軍事政権に「公式の政府」としての正当性を国際社会へアピールする機会を与えてしまった格好だ。 林外相は9月30日、ミャンマー国軍関係者の参列について「さまざまな意見があることは承知している」「(国葬という)行事の性質に鑑み、外交関係を有する国にはすべて通報を行った」などと釈明。「クーデターの正当性を認めないというわが国の立場は、駐日大使の参列によって変わるものではない」と説明したが、そんな理屈は国際社会に通用しない。 「たとえ日本側が公式に承認していない未承認の国であっても、その代表を自国の行事に招いたり、親書を送ったりすれば、外交上は『黙示の承認』を行ったことになります。つまり、林外相が『わが国の立場は変わらない』と言い張ったところで、国際社会からは『日本は事実上、軍事政権を承認した』とみなされるわけです。軍事政権にとって宣伝効果を生む行為は厳に慎まねばならなかったのに、まったくもって外交上の配慮に欠けていました。軍事政権が正当性を訴えるプロパガンダに、日本政府がくみしているとみなされても仕方ありません」(高千穂大教授の五野井郁夫氏=国際政治学)』、「「たとえ日本側が公式に承認していない未承認の国であっても、その代表を自国の行事に招いたり、親書を送ったりすれば、外交上は『黙示の承認』を行ったことになります。つまり、林外相が『わが国の立場は変わらない』と言い張ったところで、国際社会からは『日本は事実上、軍事政権を承認した』とみなされるわけです。軍事政権にとって宣伝効果を生む行為は厳に慎まねばならなかったのに、まったくもって外交上の配慮に欠けていました。軍事政権が正当性を訴えるプロパガンダに、日本政府がくみしているとみなされても仕方ありません」、お粗末極まりない。
・『「人権意識の低さ、外交オンチぶりを露呈した」 村の焼き打ちや空爆を繰り返すミャンマー国軍の非人道ぶりを黙認するかのような日本政府の姿勢に、SNS上は大荒れ。特に国外のアカウントから、怒りの声が続出している。英語のツイートを訳してみる。 〈違法なミャンマー軍事政権の代表者を安倍元首相の国葬に招いた日本政府は恥を知れ。軍事政権は残虐行為を犯しているのに、罰せられない。彼らに正当性を与えることは、非人道行為を助長することになる〉) 〈在日ミャンマー人や人権団体の抗議があったにもかかわらず、軍事政権のソー・ハン駐日大使が国葬に出席した〉 米シンクタンクの研究員のツイッターを訳すと、〈日本政府のミャンマー軍事政権への接し方を鑑みれば、(国葬招待は)驚くことではない。1988年にミャンマー国軍がクーデターを起こした直後、軍政を公式に承認した最初の国が日本だからだ〉と皮肉交じりに投稿していた。まさに世界中から大ヒンシュクを買っている状況だ。 「岸田政権は人権意識の低さ、外交オンチぶりを国内外に露呈してしまいました。外交上の立ち振る舞いがどんな意味を持つのか、もっと真剣に考えてほしいものです」(五野井郁夫氏) 岸田首相は安倍国葬の意義について、「暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜く決意を示す」と意気込んでいた。ただでさえ決断力に欠ける岸田首相だが、その「決意」とやらも薄っぺらである』、「まさに世界中から大ヒンシュクを買っている状況だ。 「岸田政権は人権意識の低さ、外交オンチぶりを国内外に露呈してしまいました。外交上の立ち振る舞いがどんな意味を持つのか、もっと真剣に考えてほしいものです」、同感である。
先ずは、7月15日付け東洋経済オンライン「人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/603730
・『日本のODA(政府開発援助)を担う独立行政法人の国際協力機構(JICA)が、農業やインフラ整備などの技術協力に関わる専門家を7月中旬以降、ミャンマーに順次派遣する方針であることがわかった。JICAは人数を明らかにしていないが、数十人規模とみられる。 渡航要請を受けた専門家から、「安全が担保されていないのではないか」「専門家の本格的な派遣はクーデター政権の容認につながりかねない」との疑問の声が挙がっている』、軍事クーデター後、アウンサンスーチー氏を事実上拘束、民主派リーダー4人を死刑にするなど、軍政の暴挙が激化するなかでのJICA支援再開は、信じられない弱腰外交だ。
・『渡航制限を見直し、専門家を再派遣 ミャンマーでは2021年2月に軍事クーデターが発生し、それからしばらくしてJICAは専門家を一時帰国させていた。その後、ミャンマー国軍はクーデターに反対する市民への弾圧をエスカレートさせており、少数民族の居住地区への空爆や市民の逮捕・拘束や殺害も相次いでいる。 そうした中、JICAはミャンマーへの渡航制限を見直し、専門家を再び派遣する方針を6月に決定した。6月24日には専門家を対象としたオンライン形式での説明会が開かれ、専門家の再渡航を速やかに進めることが専門家に伝えられた。 同説明会でJICAが示した内容は、「任地は最大都市ヤンゴンに限定し、首都ネピドーでの業務は当面、短期滞在の出張で対応すること。また、地方への渡航は一部の地域を除いて原則として禁止し、不要不急の夜間外出を避けること」などだった。 JICAは4月中旬に日本から専門の調査団を派遣して現地の安全状況を調査している。しかし、6月24日の説明会では「派遣本格化の前提であるはずの治安や人権状況に関する詳しい説明はなかった」(参加者)という。) 他方、JICAミャンマー事務所が作成した「ミャンマー国内の安全対策と健康管理について」と題した2022年5月付の文書は、「外出に当たっては、特に爆発、銃撃事案等に巻き込まれるリスクを十分意識したうえで、身の回りの安全に十分注意して行動してください」と注意を促している。まさに安全が担保されているとは言いがたい状況にある。報道によれば、7月12日、専門家の赴任地であるヤンゴン市内では7件の爆発事件が発生。これまでに2人の死亡が確認されている。 では、JICAの要請を専門家が拒否した場合、どうなるのか。 JICAが6月に配付した文書では、「事情により再渡航を希望しない専門家については、任期短縮・要員交代や派遣形態の変更により対応する」と記されている。「専門家はJICAとの間で業務委託契約を締結しており、任期は2年程度。そのため、任期短縮は早晩、失職につながりかねない」と前出の関係者は危惧する。そのうえで「専門家の多くは家族を抱え、断りにくい状況にある」(同関係者)という』、「「専門家はJICAとの間で業務委託契約を締結しており、任期は2年程度。そのため、任期短縮は早晩、失職につながりかねない」と前出の関係者は危惧する。そのうえで「専門家の多くは家族を抱え、断りにくい状況」、そうした「断りにくい状況」を踏まえて危険な任務を押し付けるとは、「JICA」のやり方も汚い。
・『悪化するミャンマーの人権状況 ミャンマーの人権状況は悪化している。ミャンマーの人権問題を担当する国連人権理事会のトーマス・アンドリュース特使は6月29日付の声明文で、「国軍による暴力はさらにひどくなっている。空爆で村を焼き払い、子どもまで殺害している。これは戦争犯罪に相当する」と非難している。 クーデターを起こした国軍は国家統治評議会を組織し、ミン・アウン・フライン国軍総司令官自らが暫定首相に就任。だが、日本政府はこのクーデター政権を正式に承認しておらず、クーデターを非難するとともに、新規のODA供与も見合わせている。 その一方で2022年5月、民間の経済協力団体である日本ミャンマー協会の渡邉秀央会長とともに、日本政府の内閣官房内閣審議官がミャンマーを訪問し、クーデター政権の労働相などと会談していた事実がミャンマー国営紙によって報じられている。この件を問題視する日本や海外など110の市民団体は岸田文雄首相宛てに抗議文を送付し、同審議官の訪問の目的や対談相手、対談内容などを明らかにするように求めている。 そうしたさなかにJICAによる専門家のミャンマー派遣再開が明らかになったことで、その活動がクーデター政権に宣伝材料として悪用されるリスクも持ち上がっている。 東洋経済が入手したJICAの内部文書では、「(局長以上の現地関係者との)会合を開催する場合、国営メディア等で報道されないよう留意する」「JICAとカウンターパート(相手方)との共同活動が国軍のプロパガンダに活用される懸念がある」との記述もみられ、JICA自身がこうしたリスクを懸念していることがわかる。 JICAのホームページでは7月14日現在、専門家の派遣について何の情報も掲載されていない。東洋経済の取材に対し、JICA報道課は「安全に活動できるとの判断に基づいて専門家に現地での業務をお願いしている。専門家本人が不安を感じているのであれば、関係部署や現地事務所がいつでも相談に応じる」などと説明。 クーデター政権を利する恐れがあるとの懸念が持たれていることについては、「専門家にはできるだけ目立たないように活動してもらう」(同課)という。ただ、なぜ今、派遣しなければならないのかも含めてJICAの説明内容はあいまいだ。 国民の理解と支持が必要な開発協力には高い透明性が求められている。理由を含め十分な説明なしに人権侵害が横行している国にODAを担う専門家を派遣するやり方に問題はないのか。JICAはこの間のいきさつをきちんと明らかにすべきだ』、「東洋経済が入手したJICAの内部文書では、「(局長以上の現地関係者との)会合を開催する場合、国営メディア等で報道されないよう留意する」「JICAとカウンターパート(相手方)との共同活動が国軍のプロパガンダに活用される懸念がある」との記述もみられ、JICA自身がこうしたリスクを懸念していることがわかる」、「国民の理解と支持が必要な開発協力には高い透明性が求められている。理由を含め十分な説明なしに人権侵害が横行している国にODAを担う専門家を派遣するやり方に問題はないのか。JICAはこの間のいきさつをきちんと明らかにすべきだ」、その通りだ。
次に、8月3日付けNewsweek日本版が掲載した在米作家の冷泉彰彦氏による「ミャンマー情勢、日本外交の選択肢」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2022/08/post-1281_1.php
・『<国軍が独裁体制を強化し中ロに接近するなか、日本の外交政策は行き詰まっている> 2021年の2月に国軍が実権を掌握して、事実上の軍政に戻っているミャンマーでは、最大都市のヤンゴンで7月30日、日本人ジャーナリストが治安当局に拘束されました。この事件については、この間起きている一連の流れの中で理解する必要があると思います。 まず6月22日には、クーデター以来軟禁されていた、アウンサンスーチー氏がネピドーの自宅から、「刑務所敷地内に新築された施設」に移動させられています。事実上の収監と言えます。 7月2日には、中国の王毅外相がクーデター後、初の要人訪問として、ミャンマーを訪問し、国際会議に参加しています。 さらに、7月11日には、国軍の最高指導者である、ミンアウンフラインが、ロシアを訪問し、国防省の高官と会談しました。この会談について、ロシア国防省は12日になって声明を発表し「戦略的なパートナーシップの精神に基づき、軍事面や技術協力を深めていくことを再確認した」としています』、「中国」や「ロシア」とは既に強固な関係を築いているようだ。
・『民主活動家処刑の衝撃 7月25日には、民主活動家4人に対する死刑が執行され世界を震撼させました。罪状はテロ行為に関わったなどというもので、ミャンマーでは久々の死刑執行でした。死刑が執行されたのはNLD(国民民主連盟)の元国会議員で、スーチー氏の側近だったピョーゼヤートー氏や、民主活動家として有名なチョーミンユ氏など4人だということです。 つまり、この1カ月間に、フライン体制の国軍は、より独裁的な性格を強め、とりわけスーチー氏率いるNLDへの弾圧を強めています。また、同時に中国とロシアに接近しているようです。 日本としては、今後のミャンマー外交をどうしたらいいのか、非常に難しい選択となってきました。ミャンマーに対する日本外交は、どう考えても行き詰まっているからです。NLDと国軍が和解したことで2015年に民主体制が確立して以来、日本からは多くの企業がミャンマーに進出しました。現在でも数百社という日本企業が残っています。事実上、内戦状態となった現在、その経済的な活動は非常に限定されています。 また、民主化後に投資が増えたとはいえ、それ以前から日本政府はミャンマー国軍とは関係を築いており、21年のクーデターで民主制が壊された後も、国軍との関係を保っているのは事実です。一方で、国軍からもNLDからも「ミャンマー人ではない」とされて厳しい差別を受けているロヒンギャの人々に対する人道支援については、日本はこの間ずっと模索を続けてきましたが事態は改善していません。) そんななかで、今回の死刑執行やスーチー氏収監、日本人拘束、そして中ロ接近という一連の事件で、流れはますます悪化しているように見えます。今後の日本外交の方向性についても、方向性を見極めるのは難しくなっています。 まず、このような軍政と内戦が続くのであれば、日本の進出企業は総撤退、ビジネスチャンスを求めてミャンマーに渡航した日本の人々も一斉に引き揚げというのが合理的なように思えます。 ですが、仮に日本の経済プレゼンスが消えてしまえば、ミャンマーは中国とロシアの陣営により傾斜していくと思います。そうなれば、ベンガル湾にロシアの海軍基地が建設されるなど、地政学的なバランスは一変してしまいます。それこそ安全なインド太平洋などという戦略は大きく揺さぶられることになります。また、日本が総撤退してしまうと、ミャンマー経済が民主化以前の貧困状態に戻ってしまうことも考えられます』、「仮に日本の経済プレゼンスが消えてしまえば、ミャンマーは中国とロシアの陣営により傾斜していくと思います。そうなれば、ベンガル湾にロシアの海軍基地が建設されるなど、地政学的なバランスは一変してしまいます。それこそ安全なインド太平洋などという戦略は大きく揺さぶられることに」、確かにこのシナリオは是非避けたいものだ。
・『軍政との関係維持の理由 ロヒンギャの人々の問題も難題です。彼らに対しては、民主派のNLDも軍政も同じように差別と弾圧を加える側です。かといって、隣国バングラデシュには彼らを支える力はありません。そんな中で、日本が全ての努力を放棄してしまうと、より深刻な人道危機が発生する可能性があります。 このように、日本外交が現在取っている方向性には、一応の理屈はあるわけです。国際的な非難を浴びている軍政に対して、一定の2国間関係を維持しているということにも、それなりの背景があるという見方も可能です。 そうではあるのですが、問題はそろそろ全体的に行き詰まりに来ていることです。今後のミャンマー外交をどうするのか、この辺りで総括をして国会などで包括的な審議を行なうべきです。安倍政権で外相を務めていた岸田首相は、この間のミャンマー外交について、当事者として深い理解をしているはずです。総理は、少なくともその全体像を世論に説明をする必要があると思います』、「総理は、少なくともその全体像を世論に説明をする必要がある」、その通りだ。
第三に、10月2日付け日刊ゲンダイ「ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/312211
・『何とも後味が悪い。日本政府は安倍元首相の国葬に、国軍がクーデターで実権を握ったミャンマーを招待。軍事政権に“お墨付き”を与えた愚行には、国外から厳しい批判が寄せられている。国軍下のミャンマー外務省は早速、国葬参列を国内外に周知して正当性のアピールに余念がない。 ミャンマーからは、ソー・ハン駐日大使夫妻が参列。駐日大使といえど、国軍支配下の政府代表である。国葬後に、ミャンマー外務省が公式ホームページとフェイスブックに、祭壇や大使夫妻の写真を添えて〈ミャンマー政府を代表して出席した〉などと掲載。 日本政府はミャンマーの参列を認めたことにより、軍事政権に「公式の政府」としての正当性を国際社会へアピールする機会を与えてしまった格好だ。 林外相は9月30日、ミャンマー国軍関係者の参列について「さまざまな意見があることは承知している」「(国葬という)行事の性質に鑑み、外交関係を有する国にはすべて通報を行った」などと釈明。「クーデターの正当性を認めないというわが国の立場は、駐日大使の参列によって変わるものではない」と説明したが、そんな理屈は国際社会に通用しない。 「たとえ日本側が公式に承認していない未承認の国であっても、その代表を自国の行事に招いたり、親書を送ったりすれば、外交上は『黙示の承認』を行ったことになります。つまり、林外相が『わが国の立場は変わらない』と言い張ったところで、国際社会からは『日本は事実上、軍事政権を承認した』とみなされるわけです。軍事政権にとって宣伝効果を生む行為は厳に慎まねばならなかったのに、まったくもって外交上の配慮に欠けていました。軍事政権が正当性を訴えるプロパガンダに、日本政府がくみしているとみなされても仕方ありません」(高千穂大教授の五野井郁夫氏=国際政治学)』、「「たとえ日本側が公式に承認していない未承認の国であっても、その代表を自国の行事に招いたり、親書を送ったりすれば、外交上は『黙示の承認』を行ったことになります。つまり、林外相が『わが国の立場は変わらない』と言い張ったところで、国際社会からは『日本は事実上、軍事政権を承認した』とみなされるわけです。軍事政権にとって宣伝効果を生む行為は厳に慎まねばならなかったのに、まったくもって外交上の配慮に欠けていました。軍事政権が正当性を訴えるプロパガンダに、日本政府がくみしているとみなされても仕方ありません」、お粗末極まりない。
・『「人権意識の低さ、外交オンチぶりを露呈した」 村の焼き打ちや空爆を繰り返すミャンマー国軍の非人道ぶりを黙認するかのような日本政府の姿勢に、SNS上は大荒れ。特に国外のアカウントから、怒りの声が続出している。英語のツイートを訳してみる。 〈違法なミャンマー軍事政権の代表者を安倍元首相の国葬に招いた日本政府は恥を知れ。軍事政権は残虐行為を犯しているのに、罰せられない。彼らに正当性を与えることは、非人道行為を助長することになる〉) 〈在日ミャンマー人や人権団体の抗議があったにもかかわらず、軍事政権のソー・ハン駐日大使が国葬に出席した〉 米シンクタンクの研究員のツイッターを訳すと、〈日本政府のミャンマー軍事政権への接し方を鑑みれば、(国葬招待は)驚くことではない。1988年にミャンマー国軍がクーデターを起こした直後、軍政を公式に承認した最初の国が日本だからだ〉と皮肉交じりに投稿していた。まさに世界中から大ヒンシュクを買っている状況だ。 「岸田政権は人権意識の低さ、外交オンチぶりを国内外に露呈してしまいました。外交上の立ち振る舞いがどんな意味を持つのか、もっと真剣に考えてほしいものです」(五野井郁夫氏) 岸田首相は安倍国葬の意義について、「暴力に屈せず、民主主義を断固として守り抜く決意を示す」と意気込んでいた。ただでさえ決断力に欠ける岸田首相だが、その「決意」とやらも薄っぺらである』、「まさに世界中から大ヒンシュクを買っている状況だ。 「岸田政権は人権意識の低さ、外交オンチぶりを国内外に露呈してしまいました。外交上の立ち振る舞いがどんな意味を持つのか、もっと真剣に考えてほしいものです」、同感である。
タグ:ミャンマー (その7)(人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも、ミャンマー情勢 日本外交の選択肢、ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク) 東洋経済オンライン「人権弾圧のミャンマーにJICA専門家派遣の是非 内部文書で判明、国軍の宣伝に悪用の恐れも」 軍事クーデター後、アウンサンスーチー氏を事実上拘束、民主派リーダー4人を死刑にするなど、軍政の暴挙が激化するなかでのJICA支援再開は、信じられない弱腰外交だ。 「「専門家はJICAとの間で業務委託契約を締結しており、任期は2年程度。そのため、任期短縮は早晩、失職につながりかねない」と前出の関係者は危惧する。そのうえで「専門家の多くは家族を抱え、断りにくい状況」、そうした「断りにくい状況」を踏まえて危険な任務を押し付けるとは、「JICA」のやり方も汚い。 「東洋経済が入手したJICAの内部文書では、「(局長以上の現地関係者との)会合を開催する場合、国営メディア等で報道されないよう留意する」「JICAとカウンターパート(相手方)との共同活動が国軍のプロパガンダに活用される懸念がある」との記述もみられ、JICA自身がこうしたリスクを懸念していることがわかる」、 「国民の理解と支持が必要な開発協力には高い透明性が求められている。理由を含め十分な説明なしに人権侵害が横行している国にODAを担う専門家を派遣するやり方に問題はないのか。JICAはこの間のいきさつをきちんと明らかにすべきだ」、その通りだ。 Newsweek日本版 冷泉彰彦氏による「ミャンマー情勢、日本外交の選択肢」 「中国」や「ロシア」とは既に強固な関係を築いているようだ。 「仮に日本の経済プレゼンスが消えてしまえば、ミャンマーは中国とロシアの陣営により傾斜していくと思います。そうなれば、ベンガル湾にロシアの海軍基地が建設されるなど、地政学的なバランスは一変してしまいます。それこそ安全なインド太平洋などという戦略は大きく揺さぶられることに」、確かにこのシナリオは是非避けたいものだ。 「総理は、少なくともその全体像を世論に説明をする必要がある」、その通りだ。 日刊ゲンダイ「ミャンマー軍事政権が安倍氏国葬に参列…岸田政権に「恥を知れ!」と世界から大ヒンシュク」 「「たとえ日本側が公式に承認していない未承認の国であっても、その代表を自国の行事に招いたり、親書を送ったりすれば、外交上は『黙示の承認』を行ったことになります。つまり、林外相が『わが国の立場は変わらない』と言い張ったところで、国際社会からは『日本は事実上、軍事政権を承認した』とみなされるわけです。軍事政権にとって宣伝効果を生む行為は厳に慎まねばならなかったのに、まったくもって外交上の配慮に欠けていました。軍事政権が正当性を訴えるプロパガンダに、日本政府がくみしているとみなされても仕方ありません」、お粗末極 まりない。 「まさに世界中から大ヒンシュクを買っている状況だ。 「岸田政権は人権意識の低さ、外交オンチぶりを国内外に露呈してしまいました。外交上の立ち振る舞いがどんな意味を持つのか、もっと真剣に考えてほしいものです」、同感である。
日韓関係(その17)(韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが、韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは 元駐韓大使が解説、「韓国に怒ってる日本人」に多い 超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ 元寇の謝罪」と言われても…) [外交]
日韓関係については、6月10日に取上げた。今日は、(その17)(韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが、韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは 元駐韓大使が解説、「韓国に怒ってる日本人」に多い 超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ 元寇の謝罪」と言われても…)である。
先ずは、8月9日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋大学教授の薬師寺 克行氏による「韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/609965
・『日韓関係が悪化した最大の原因となっている徴用工問題について尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後、韓国政府の動きが活発になっている。 5月の新政権誕生後、韓国側はそれまでとは打って変わって日本側に首脳会談の実現や外務相訪日を積極的に働きかけてきた。その結果、林外相と韓国の朴振(パク・チン)外相の会談は2回おこなわれ、スペインで開かれたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議出席の機会を生かして岸田首相と尹錫悦大統領の数分間の立ち話も実現した。 いずれの機会も徴用工問題が取り上げられ、問題解決に向けで協議を加速することで一致している。首脳や外相レベルがほとんど没交渉だった文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に比べると様変わりだ。 一方、韓国内では7月初めに外交部主宰で専門家のほかに原告側代表も参加する官民協議会がスタートした。問題解決に向けての対応策などを協議する場で、すでに2回、開催されている』、「尹錫悦大統領」の登場で、日韓関係は一気に前進すると思っていたが、ペースは予想外にスローだ。
・『尹錫悦政権は大法院に意見書を提出 徴用工問題は文政権下で複雑化し両国の国民感情も加わってにわかに解決することは困難とみられる。いったい、韓国政府はどうしようとしているのか、日本政府関係者も尹錫悦政権の一連の動きの意図をはかりかねていた。しかし、7月26日に韓国政府が最高裁判所にあたる大法院に徴用工問題に関する意見書を提出したことで、その意図や狙いが明らかになった。 大法院に提出する意見書というのは法的に規定されており、「国家機関や地方自治体が公益に関連した事項に関し、大法院に裁判に関する意見書を提出することを認める」とされている。 そして今回の意見書には徴用工問題に関連して、「韓国政府は韓日両国の共通の利益に合致する合理的な解決策を模索するため対日外交を続けており、被害者への賠償問題の解決策を探る官民協議会を通じて原告の意見を聴くなど多角的な外交努力を傾けている」と書かれている。 この記述の意味するところは、韓国政府は問題解決に向けて最大限の努力をしている。だから日本企業の資産の現金化を認める判断は当面、待ってほしいということなのだ。 徴用工問題に関する裁判は、原告である元徴用工の主張が認められ日本企業に損害賠償金を支払う大法院の判決が確定している。そして三菱重工など日本企業の資産が差し押さえられ現金化手続きに入ることも認められた。 これに対して日本企業側が異議を唱えて再抗告した。それに対する大法院の判断が早ければ8月中にも出される見通しとなっている。再抗告が棄却されると、日本企業の資産が競売にかけられ現金化が現実のものとなるわけで、徴用工裁判はギリギリの最終段階にきているのだ』、「大法院の判断」は9月25日付けの聯合ニュースによれば、担当判事の退官により最終決定が遅れる見通しになった、とのことである。
・『現金化をとりあえず止めて、解決策を模索する構え 徴用工問題の抜本的な解決策を短期間でまとめることは不可能に近い。しかし、現金化のタイムリミットが目の前に近づいている。現金化によって日韓関係を決定的に悪化させることは回避しなければならない。そう考えた韓国政府は、原告側との話し合いの場を動かすとともに日本政府との協議にも積極的に取り組み、その実績を意見書として大法院に伝えることで現金化決定の先送りを実現する。そのうえで少し時間をかけて当事者が合意できるような解決策を模索する、という二段構えの対応に出たのだ。 尹錫悦政権の意図が明らかになると、当然のことだが原告側は激しく反発した。原告側にとって大法院の判断延期は救済措置の延期でもある。「憲法が保障した迅速な裁判を受ける権利を侵害したものだ」「意見書提出は被害者側の権利行使を制約する重大な行為」などと批判し、発足間もない官民協議会からの離脱を決めてしまった。 当面の問題は大法院がどういう判断をするかだ。大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない。 仮に現金化が現実のものとなれば、日本政府は対抗措置を取らざるをえなくなり、日韓関係改善の機運は一気に消えてしまう。ウクライナ戦争に加え台湾をめぐる中国の動きが緊迫している中、日韓関係の崩壊は中国を利するだけでなく地域の安全保障にとっても深刻な問題になるだろう。それだけに現金化阻止に向けた尹錫悦政権の活発な動きは歓迎すべきことだ。 しかし、韓国政府の思惑通り当面の現金化が先送りされても、その先の見通しは甘くない。最大の理由は尹錫悦大統領の極端な不人気である。 5月に就任してわずか2カ月余りしかたっていないのだが、尹錫悦政権の支持率は当初の5割超が一気に低下し、8月初めには20%台前半まで落ち込んだ。国民感情の動きが激しいと言われる韓国でもあまり前例のないことだ』、「大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない」、当面の注目点は、退官した「担当判事」の後任の判断だ。
・『身内を多く登用、エリート意識が強い 不人気の理由がさらに深刻だ。世論調査結果が指摘するのは、大学時代などの同級生や検察官時代の部下など身内を数多く登用する人事、政治家としての経験や資質の不足、国民が直面している不景気やインフレなどの問題への取り組みの欠如といった政権の体質批判だ。 尹錫悦大統領は文在寅政権時代に検事総長に抜擢されたが、文大統領の側近の法相に対する捜査を進め辞任に追い込むと、一転して大統領側からの反撃にあい職務停止命令を受けるなど文大統領と戦い続けてきた経験を持つ。いかなる困難に直面してもくじけない芯の強さやエリート意識は大統領になっても変わらないようだ。 マスコミに支持率低下についての感想を聞かれると尹大統領は、「大統領選挙の時も支持率は別に気にしなかった。特に意味がない」「支持率低下の原因がわかればどの政府もうまく解決したでしょう」などと応じている。また、閣僚候補から相次いで不祥事が発覚した時には、「前政権で指名された長官の中でそれほど立派な人を見ましたか」と記者を指さして不快感を表したという。その様子がそのまま報道されるのであるから、支持率が上がりようはないだろう。 特に人事は大統領府の秘書官らに検察官や元検事を多数起用し、「ソ・オ・ナム」(ソウル大学出身の50代の男性という意味)と揶揄されている。権力中枢が同質性の高いエリートだけで構成される政権は、必然的に国民との距離ができてしまう恐れがある。 つまり発足間もない尹政権は安定的なハネムーン期間もないまま、政権基盤が不安定な状況に陥っているのだ。しかし、韓国は日本以上に政権の支持率の浮き沈みが激しく、尹政権がこのまま低迷を続けるとはかぎらない』、「「ソ・オ・ナム」・・・と揶揄」されるような側近政治は止める方がよさそうだ。
・『日本政府もできる範囲で積極的に動くべき 徴用工問題の全面的解決には、韓国政府と被害者やその支援団体などが解決案に合意すること、日韓両国政府さらには日本企業も合意すること、さらには必要に応じて韓国議会で予算などの手続きが進められることなど、この先乗り越えなければならないハードルが多い。 日本政府は、表向き徴用工問題は韓国側が一方的に起こした問題であるから、韓国側の出方を見守るという姿勢で一貫している。日本側から提案はしないというのだ。しかし、韓国政府が問題解決に積極的に取り組み始めたことは評価すべきであるし、問題解決が日本の国益に沿うものであるとともに地域の安定にも寄与することは言うまでもない。韓国側の前向きな対応を好機ととらえ、日本政府も可能な範囲で積極的に動くべきときであろう』、「韓国政府が問題解決に積極的に取り組み始めたことは評価すべきであるし、問題解決が日本の国益に沿うものであるとともに地域の安定にも寄与することは言うまでもない。韓国側の前向きな対応を好機ととらえ、日本政府も可能な範囲で積極的に動くべきときであろう」、同感である。
次に、9月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは、元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309195
・『日韓関係改善のために尹錫悦政権が行うべきこと 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は対日関係の改善に苦悩している。それは文在寅(ムン・ジェイン)政権が日韓の歴史問題において過去の合意を無視、安全保障問題において日本との協力をほごにし、日本に反目する行動を取ってきたからである。 具体的には、次のことが挙げられる。) 元徴用工の個人補償問題は未解決だと主張し、司法による日本企業資産の差し押さえの動きを助長し、それが現金化に進もうとする現状を放置してきた。 元慰安婦に関する2015年の合意を事実上ほごにし、日本から10億円の支出で設立された「和解・癒やし財団」を事実上解散した。 韓国海軍が海上自衛隊のP1哨戒機に対し、射撃統制用の火器レーダーを照射し、その事実を隠蔽(いんぺい)した。 海上自衛隊旗と戦前の日本軍の旭日旗と同一視、それを掲揚した自衛隊艦船を韓国の国際観艦式から締め出した。 GSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)の一方的終了を通告した。その後米国の圧力を受け終了通告の効力を停止した。 東京オリンピックの際、豊臣秀吉の水軍を撃破した李舜臣将軍の言葉を引用した横断幕を掲揚、また東京オリンピック組織委員会の聖火リレーマップに竹島の記載が小さくあるのを政治宣伝として削除を求めた。 福島第一原子力発電所から出た処理水の海洋放出を非難し続けている。 竹島周辺での海洋調査など一方的な行動を取り続けている。 文在寅前大統領は日本に対して対決姿勢を取り続けてきた。その過程で反日世論を盛り上げ、日本製品に対する不買運動も展開した。その結果、日本の嫌韓感情は最高潮に達し、「文在寅政権を相手にせず」の雰囲気が日本の政府内ばかりでなく国民感情としても沸き上がった。 尹錫悦政権は就任以来、政府ベースでは過去最悪となったこうした日韓関係を改善するべく取り組んできた。しかし、文在寅政権によって積み上げられた反日・嫌韓感情は容易には改善しない。当面は、これ以上の悪化を防ぎつつ、対話を増やしていく中で、関係改善を模索していくことになるだろう。 そのために急を要するものは、徴用工問題で日本企業資産の現金化を防ぐことである。もしも現金化されれば、日韓関係はしばらく修復不可能になろう。 そして東アジアの安全保障にとって障害となっている日韓関係の不安要素を除去することが必要だ。日韓の不信を助長しているのは、自衛隊機に対する射撃統制レーダーの照射、海上自衛隊旗を旭日旗として排除する姿勢、GSOMIAの終了通告などである』、「文在寅政権によって積み上げられた反日・嫌韓感情は容易には改善しない。当面は、これ以上の悪化を防ぎつつ、対話を増やしていく中で、関係改善を模索していくことになるだろう。 そのために急を要するものは、徴用工問題で日本企業資産の現金化を防ぐことである。もしも現金化されれば、日韓関係はしばらく修復不可能になろう」、「現金化」の阻止は至上課題だ。
・『日本企業資産の現金化を防ぐため 韓国政府は懸命の努力 徴用工を巡る三菱重工業への賠償命令を不服とする同社の再抗告について、審理をさらに続けるか判断する期限(8月19日)が迫る中、大法院(日本の最高裁に相当)は同日までに決定を出す可能性がある、と複数の韓国のメディアが報じていた。 その一方で、日本政府は韓国で日本企業に対する資産売却など現金化措置が取られる場合、厳しい「対抗措置」を準備しているとも報じられていた。 このため、韓国政府は、日本企業の資産の現金化を防ぐため、懸命の努力を行ってきた。 まず、韓国政府は解決策を見いだすべく、外交部(日本の外務省に相当)の趙賢東(チョ・ヒョンドン)第1次官の主宰で、徴用工支援者団体、法律代理人、学会専門家、言論・経済界から12人が参加する官民協議会を設立し、これまでに3回の会合を行った。しかし、元徴用工団体からは協力が得られていない。 外交部は大法院に対し、「徴用工問題解決に向けた外交的努力」を説明する意見書を提出した。これは、国家間の利害関係が対立する外交的事案の場合、行政府の立場が優先して反映されるべきという「司法自制の原則」を要請するメッセージだ。 朴振(パク・チン)外相は7月18日から20日まで訪日し、林芳正外相と会談し、岸田文雄首相を表敬した。両外相は会談で「韓国裁判所が日本企業の資産を現金化する最終結論を下す前に解決策を模索しなければならない」ということで認識を共有したが、具体策にまでは踏み込めなかった。日本側からはまず韓国が解決策を提示すべきと念押しされた。 尹錫悦大統領も、就任100日目の会見で、徴用工は大法院の判決で法による補償を受けることになっているが、「日本が懸念する主権問題の衝突なしに債権者が補償を受けることができる方法を模索している」と主張した。尹錫悦大統領自身が解決に努力していることを明言することで大統領の責任に転嫁し、批判を免れることができるようになった。 尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日韓国大使は、韓国特派員との懇談会で、日本企業の資産を現金化した場合、「韓国企業と日本企業との間で数百兆ウォン(数十兆円)とも言われるビジネスチャンスを失うこともあり得る」と述べたことの重大さを訴えた。 大法院は韓国政府の努力に期待し、決定を先延ばしした。それでも韓国のメディアは、この問題を担当してきた金哉衡(キム・ジェヒョン)大法官(最高裁判事)が9月4日に退官するので、その前に決定があるはずだと一斉に報じた。 しかし、結論から言えば筆者が主張した通り、金大法官は退官後にその決定が韓国経済に甚大な被害が及ぶことは望まず、決定は行わなかった。 金大法官の退官に伴い、後任の裁判部がいつ構成されるかもわからない状況となっている。オ・ソクジュン大法官候補に対する国会人事聴聞会特別委員会の報告書採択が与野党の合意の不発により、大法官の空白も長期化する展望である。 こうした事態の進展によって、尹錫悦政権は時間稼ぎをすることができるようになった。 それ以上に重要なことは、元徴用工団体として裁判を通じて早期解決の見通しが立たなくなったことで、尹錫悦政権との話し合いに応じる期待が出てくる可能性があることであろう。 こうした中、朴振外相は2日、光州を訪問、元徴用工と面会した。元徴用工を支援する市民の会は当初、外交部は朴外相との面会を求めるよりも先に大法院に出した意見書に対する謝罪が先であると主張していた。それでも朴外相と元徴用工は面会を行った。 朴外相は元徴用工と面会し、「強制徴用被害者の方々の問題をできる限り早期に誠意を持って解決していくという強い意思を持っている」「問題がうまく合理的に解決するようにしたい」と伝えた。 しかし、面会後、記者団から「意見書を撤回する意思があるのか」と問われ、「大法院の民事訴訟規則など法令と手続きに基づいて正当にしたものであり、撤回する考えはない」と回答した。 さらに「韓日交渉を通じてこの問題を合理的に解決していくため、近く日本を訪問して林外相と協議する」と述べた。 韓国政府が徴用工問題の解決を模索して設立した官民協議会の第4回会合は5日に開催される予定であるが、元徴用工支援団体はこれには参加しない予定だという。徴用工を巡る問題の解決策づくりはまだしばらく時間がかかりそうである』、「韓国政府が徴用工問題の解決を模索して設立した官民協議会の第4回会合は5日に開催される予定であるが、元徴用工支援団体はこれには参加しない予定だという。徴用工を巡る問題の解決策づくりはまだしばらく時間がかかりそうである」、なるほど。
・『レーダー照射問題は包括的に解決する意向 2018年、日本海で遭難した北朝鮮漁船を捜査中だった韓国の駆逐艦「広開土大王」は近くを飛行する日本海上自衛隊のP1哨戒機に向けて射撃統制レーダーを照射した。これに対し、韓国海軍は、日本に向けたレーダー照射は誤解、レーダー照射はしていないなど、弁明が二転三転していた。 しかし、 与党「国民の力」の申源シク(シン・ウォンシク)議員は、韓国軍当局が2019年2月に海軍へ通達した「日哨戒機対応指針」を暴露した。これは日本の自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定したものである。しかも、同指針は青瓦台国家安保室が主導したものの由である。事件は指針の出る前であるが、日本のP1に対してレーダーが照射された高い可能性を裏付けるものだろう。 (シン・ボムチョル)国防次官は2日に報道された毎日新聞とのインタビューで「公式的に(韓国艦艇の日本哨戒機に向けた射撃統制)レーダー照射はなかったというのがわれわれの立場だが、両国関係の改善と国防協力の観点で包括的に解決する意思がある」と述べた。 この発言は韓国政府の公式の立場としてはっきりと過ちを認めたわけではないが、今後の話し合いの中で、説明するとの意向が含まれているのではないか。 申次官は、文在寅政権当時の指示について「指針ではないが、文政権は日本に対してのみ追加手続きを実施した」「適切かどうかは疑問だ」と述べた。これは事実上誤りを認めたものではないか。 日韓で安保協力を進めていくためには、自衛隊機に対するレーダー照射事件について決着をつけることは不可欠であり、韓国の国防次官の発言はその一歩となるかもしれない』、「韓国軍当局が2019年2月に海軍へ通達した「日哨戒機対応指針」を暴露した。これは日本の自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定したものである。しかも、同指針は青瓦台国家安保室が主導したものの由である。事件は指針の出る前であるが、日本のP1に対してレーダーが照射された高い可能性を裏付けるもの」、やはり「青瓦台国家安保室が主導」したとは、「文在寅政権」らしい行動だ。
・『海上自衛隊観艦式への出席は日韓協力の再出発の象徴に 8月23日、日本政府は「11月に開かれる海上自衛隊創設70周年国際観艦式に韓国海軍を招待した」と発表した。前回2019年の観艦式の折には、自衛隊哨戒機への韓国駆逐艦からのレーダー照射問題などで日韓関係が緊迫しており、韓国海軍は招待されなかった。今回の招待は2015年以来7年ぶりのことである。 しかし、韓国海軍の参加は韓国にとっても難しい決定である。韓国では日本の海上自衛隊旗が旭日旗であり、日本帝国主義の象徴とみる向きがある。特に文在寅政権は、韓国軍の出席する行事から旭日旗の排除を求めていた。18年10月に韓国・済州島で開かれた国際観艦式では、韓国が日本に対し、旭日旗の掲揚自粛を要請。日本は参加を取りやめた経緯がある。 海自の観艦式では、旭日旗が掲揚されることから、参加には慎重であるべきとの声も韓国では少なくない。 しかし、尹錫悦政権は日本側の招待を受けて観艦式に参加し、海上捜索・救難共同訓練も行うことを前向きに検討している模様だ。 今回、韓国海軍が観艦式に出席することは、尹錫悦政権が文在寅政権の束縛から解放され、安全保障面で日韓協力の再出発の象徴となるのではないか』、「今回、韓国海軍が観艦式に出席することは」、「安全保障面で日韓協力の再出発の象徴と」なってほしいものだ。
・『尹錫悦政権への交代で高まるGSOMIA復活の可能性 日本政府は19年7月、韓国に輸出した戦略物資が不正に中国や北朝鮮に再輸出されている懸念があるとして、韓国を包括的な輸出許可の対象から除外し、個別に許可を得る必要がある国に指定替えした。文在寅政権はこれに反発し、日本に対しGSOMIAの終了を一方的に通告した。 しかし、日韓のGSOMIAは北朝鮮の核・ミサイル実験の際の情報共有に効果を発してきたものであり、北朝鮮の核・ミサイル開発が極めて進展しているときに破棄するのは北朝鮮や中国の思うつぼである。北朝鮮の核・ミサイル開発に対して危機感の足りなかった文在寅政権ならではの判断だろう。 尹錫悦政権に代わり、韓国から中国や北朝鮮に対し戦略物資が不正に輸出される可能性は極めて低くなっている。文在寅政権の頃の戦略物資の管理体制とは根本的に改善が見られるだろう。 したがって、戦略物資の輸出問題について韓国政府と建設的な調整を行う余地は広がっており、それを受けてGSOMIAの終了を一時停止している状況を改め、完全復活させることは可能であろうし、日韓首脳会談が開かれれば、その方向で話し合いが行われるのではないか。 文在寅政権の後遺症がいまだ残る中、日韓の関係改善は一朝一夕には実現しないだろう。その第一歩として日韓首脳会談が実現したときに多くの問題を同時に解決できるよう外交当局の根回しが必要である。いずれにせよ、関係改善の糸口をつかむ前に、関係を悪化させることはぜひとも避けたいものである』、「尹錫悦政権に代わり、韓国から中国や北朝鮮に対し戦略物資が不正に輸出される可能性は極めて低くなっている」、「戦略物資の輸出問題について韓国政府と建設的な調整を行う余地は広がっており、それを受けてGSOMIAの終了を一時停止している状況を改め、完全復活させることは可能であろうし、日韓首脳会談が開かれれば、その方向で話し合いが行われるのではないか」』、「韓国を包括的な輸出許可の対象」に復活させ、「GSOMIAの」「完全復活」させてほしいものだ。
第三に、9月17日付け東洋経済オンラインが掲載した『最強の働き方』『一流の育て方』著者 のムーギー・キム氏による「「韓国に怒ってる日本人」に多い、超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ、元寇の謝罪」と言われても…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/618365
・『「そっか、日本と韓国って」と検索したことがあるだろうか? 「韓国へのイライラ、日本へのモヤモヤがいっきに解消する」「グローバルな視点で、確かな学術論文に依拠して書かれている」「爆笑エピソードが満載で、絶対にこの著者にしか書けない」と話題を呼び、『週刊ダイヤモンド』『PRESIDENT』等のビジネス誌の書評でも評価されているのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』だ。 著者は、『最強の働き方』『一流の育て方』などのベストセラーでもよく知られる、著作累計70万部のムーギー・キム氏。京都に生まれ、日韓両国の文化の中で育ち、フランス・香港・シンガポールで学び働いてきた。同書は、著者が「人生を通じて最も書きたかった1冊」という。 以下では、そのムーギー氏が、「なぜか行ったこともない韓国に大激怒している人たちにありがちな、よくある4つの残念な誤解」について考える』、「ムーギー・キム氏」は「日韓」関係を述べるには最適の人物のようだ。
・『どちらの「研究結果」を信じるかは、あなた次第 「そっか、日本と韓国って」と検索したら、韓国へのモヤモヤのすべてがクリアに解決するというのが、近頃の私の中での定説になっている。 しかし、皆様そうなされないからか、日韓関係および私、ムーギー・キムへの誤解は根強い。 前回のコラムに対しても、おそらく遺伝子研究のイの字も知らないだろう方々が、2012年の日本人類遺伝学会による発表や、2019年5月13日の国立科学博物館による発表に異を唱え、それはそれは得意げに「Y染色体D系統は、日本人が韓国人と別人種であることの証だ」などなどと1000件くらいの批判コメントを寄せられるのだ。これを読んだ私の開いた口は塞がらず、逆に閉じた瞼が二度と開くことはないのである。 D系統の割合が日本は他の東アジアより高いというだけで、それでも韓国と同様にO系統が一番多いことなど細かいことを書くと果てしないので、やめておこう。人は所詮、信じたいことを信じる生き物だ(「それはお前のことだろ!」と数多くのブーメランがコメント欄で飛び交う姿が目に浮かぶ)。 それでもネットのどこぞで目にした怪しげな「研究結果」か、2019年という最近の、我らが国立科学博物館の「研究結果」のどちらに信憑性を感じるかは、読者の皆様に委ねるしかないのだ。 それにしても、この連載コラムを書けば書くほど、ネットで熱心にコメントを書き込んでくださる皆様と私の溝が広がっているのでは、と心配になっている。 そこで、皆様の温かい、時に熱すぎる叱咤激励に感謝の気持ちを捧げつつ、今日も元気に、深すぎる教養コラムを書かせていただこう。) 日韓関係でよく問題になるのが、「韓国は国際合意を遵守していない」という議論である。 「日本政府は合意を守っている。守っていないのは韓国のほうだ」と思っている人は多いだろう。しかし韓国では、日本の政治家こそ「国際合意を無視し、過去を蒸し返す」と思っている。 こう書くと早くも大激怒されそうだが、念のため血圧を下げる薬を飲みながら、以下を読み進めていただきたい。 【誤解1】
「日本政府は国際合意を守っているのに、韓国政府が一方的に破棄してきた」 1993年の河野談話や1995年の村山談話では、「戦争の悲惨さを若い世代に語り伝え」「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ」と語られた。 ところが、実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された。これで、合意を守っていると言えるだろうか?』、「実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された」、そんな事実は知らなかったので、愕然とした。
・『日本は政権がなかなか変わらないだけ 「韓国は政権が変わるたびにコロコロ変わる」と言われる。しかし、日本はたんに政権がなかなか変わらないだけで、政権を担う勢力が変われば、外交政策や歴史認識、約束ですら、コロコロ変わるのである。 2015年の慰安婦合意では、「最終的かつ不可逆的に解決される」と相互に確認された。 これは韓国側からすれば、日本政府や政権に影響のある政治家たちから、「慰安婦は嘘だった」などと、また村山談話に実質的に反する声が出てくることを牽制するものだった(ただし、私は慰安婦合意に対する韓国政府の対応を擁護するものではない)。 2015年に世界文化遺産に登録された軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。 しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があったのである。 また、元徴用工への慰謝料の支払い問題については、1965年の日韓基本条約での曖昧な合意が根底にある。日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。 その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。 しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である』、「軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。 しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があった」、「日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。 その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。 しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である」、いずれも恥ずかしながら知らなかった。日本のマスコミももっと丁寧に説明すべきだ。
・『「正当性」と「合法性」は違う問題 しかも韓国では、この日韓基本条約が結ばれたとき、民意を代表しない軍事独裁政権が、国民の反対を押し切ってこの問題を棚上げにしたのだった。 日韓併合の実態や経緯に関する学術的証拠に関しては、長くなるので詳細は新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』に譲ることにする。 ただし考えてみていただきたいのは、イギリスが清国に仕掛けたアヘン戦争も、侵略した側にとってみれば「合法」だった。 アメリカによるイラク侵攻も、ロシアによるウクライナ侵攻も、やっている側としては「合法」という主張である。 「正義」と「合法」、そして「正当性」と「合法性」は、また違う問題なのである。 次によく目にするのは、「日本から金をせびるために、歴史問題を蒸し返す」という言説だ。 【誤解2】「韓国は、日本から金をゆするために歴史問題を蒸し返す」 しかしながら、たとえば慰安婦合意で日本が拠出した10億円は、韓国の200兆円に迫るGDPの何%だというのだろうか(念のために言っておくと、20万分の1=0.00005%である)。 韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰していたし、村山談話のときの民間からの寄付金に関しても、「国家賠償という性質ではないので、受け取るな!」という反発が強かったのをご存じだろうか。 もし、いま問題になっている元徴用工への賠償で差し押さえられた資産を現金化したとしても、その時に得られる金額は全体的にはごくわずかだ。 その後の経済紛争で生じる損失に比べれば微々たる金額であり、「経済的な観点からも、この現金化は合理的ではない」と韓国国内でも議論されている』、「慰安婦合意で日本が拠出した10億円は」「韓国の200兆円に迫るGDPの」「20万分の1」、「韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰」、なるほど。
・『では、韓国が求めているのは? 韓国側の当事者が求めているのは、「お金」よりも「許し、前に進むための名分」であり、村山談話や河野談話のときのように、あとでその趣旨を覆すような発言をしたり、骨抜きにされたりすることがない、「真心」すなわち「チンジョンソン(真の意志)」がこもった謝罪の気持ちなのである。 ちなみに、日韓基本条約のときに日本から韓国に「経済協力金」が流れているが、その資金の使途は、特定の日本企業からの購入費用に充てられることになっていた。 その後、毎年のように何兆円もの巨額の貿易黒字を日本が韓国からずっと獲得することの遠因になっていることも、理解しておきたい。日韓基本条約で、結果的に日本側も恒常的に儲けていたともいえるのだ。 また、「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか? これを鑑みたとき、日韓基本条約で払った金額ばかりに目を向けるのではなく、巨額の分断・統一コストにも目を向けた、歴史に対する謙虚さは必要であろう。 そして一番多い誤解にもとづく批判は、なんと「『元寇』のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」というものである。 これらの怒りも「誤解」に基づくか、重要な文脈を省いてしまっている。 【誤解3】「『元寇』と『応永の外寇』は朝鮮側起点の一方的侵略だったから、秀吉の朝鮮出兵も正当化でき、そもそも朝鮮側が悪い!」 そもそも「元寇」では、高麗軍および三別抄(さんべつしょう/モンゴルへの服属を拒んだ高麗国軍の一部の勢力)が約40年にわたってモンゴル軍に対抗したおかげで、日本へのモンゴル(元)の襲来は大幅に遅れた。 当初高麗は、モンゴルが日本を攻めれば自分たちが巻き込まれるので、日本にモンゴルに服属するよう遣いを送っていた。また、これとは別に三別抄は、モンゴルに対抗していたときに、日本に「モンゴルへの共闘」を呼び掛けた。 鎌倉幕府はこの相反する状況を理解できず、幕府と朝廷で指揮系統が混乱していたこともあって、回答しなかった。 そんな文脈のなか、当時の高麗王朝はモンゴルに対する姿勢で派閥争いがあったので、モンゴルをバックに高麗王朝に君臨しようとした忠烈王(ちゅうれつおう)が、フビライハンの歓心を買うべく自国民を犠牲にし、日本の大宰府攻めを進言したと言われている。 これは、日本にとっては大迷惑だが、反モンゴル派の高麗人にとってもたまったものではなかっただろう。 「元寇」から約150年後の室町時代にあった「応永の外寇」は、倭寇が朝鮮を襲い、これに対抗するために朝鮮軍が遠征したものである。 そのどちらも、秀吉による朝鮮出兵や、明治政府による「日韓併合」を正当化する類のものでもないのだが、近年ネットで「元寇と応永の外寇は朝鮮側起点の一方的侵略だったから、秀吉の朝鮮出兵も正当化でき、そもそも朝鮮側が悪い!」などという誤解がかなり広まっているので、念のため解説しておくこととした。 それにしても、「元寇」や「応永の外寇」で、なんで私が非難されなければならないのだろうか』、「「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか?」、「分断コストと統一コスト」を日本に責任があるとする考えにはついてゆけない。「『元寇』のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」、こんな馬鹿な主張をしている日本人は仮にいたとしても、ごく少数で、こんなところで取上げるべきなのだろうか。
・『なんと筆者に「元寇」の賠償要求も! なかでも私に対する批判の中でも衝撃的なケースでは、「元寇のとき、高麗軍に私の先祖が4人殺されたので、1人1億円で合計4億円、筆者(つまり私)が賠償せよ!」というものもあった。 さらに、比較的面倒見のいい私でも付き合いきれないのが、「刀伊(とい)の入寇」への謝罪要求だ。これ、1000年くらい前に中国大陸に住む北方民族の女真族(じょしんぞく)を中心とした海賊が攻め込んできたときの話だから、いくら何でも私には関係ないのではなかろうか。 それでも、私が謝ることで気が済むのなら、謝罪いたしましょう。「刀伊の入寇、なんか知らないけど、ごめんね」。 ここまでお読みくださったかたの中には、プンスカ激怒されている人もいらっしゃることだろう。「反日韓国人が、また嘘を垂れ流している!」と。 ちなみに私は、「北朝鮮のスパイ」とも書かれている。「一人南北統一」で、八面六臂の大活躍ではないか。 【誤解4】「ムーギー・キムは在日だから韓国批判はしない」 しかし私は『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』では、韓国の擁護だけでなく、数多くの韓国批判も行っている。 韓国側は、ぜひ次のような点をきちんと記憶すべきであろう。 ・韓国は、戦後の日本からの経済協力がなければ、漢江の奇跡をあの速さで起こせなかった ・日本には、韓国が感謝すべき「有り難い人」がたくさんいる ・韓国は的外れな怒り方で自爆している ・当事者でもない今の若い日本人に、いつまでも謝罪を求めるのは的外れ ・過度な旭日旗批判は、私が見ても失笑ものの言いがかりに見える ・元徴用工への慰謝料は、日本に支払わせるべきでない 他にも、高麗王朝の魂を元に売った忠列王は大迷惑などうしようもない人物だと思うし、ベトナム戦争での民間人虐殺にも、私は極めて批判的である。 私はこれまでも、一部の韓国人にとっては私が「親日派の嫌韓主義者」と批判されるようなこともたくさん書いているし、韓国人コミュニティの掲示板で私が猛批判をされることもある』、間に立っている人間が、双方から批判されるのは、よくあることだ。
・『日本と韓国双方に愛情を抱くからこそ書けた1冊 私は重ね重ね、日本側の読者にさえおもねればいい一部の作家や、韓国側の読者さえ喜ばせればいい韓国の一部の政治家は、なんとラクな商売かと思ってきたものである。 しかし、両国双方の読者に認知不協和を起こし、猛批判と罵詈雑言を受けようとも、両国の「言い分」と「誤解」をそれぞれ知っている私が、そして何よりも日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である。 今回のコラムをお読みくださったあなたは、「そっか、日本と韓国って」と検索しながらすっくと立ち上がり、「ムーギー・キムよ、見直した、その通りや!」とスタンディングオベーションをして、周りの人に奇異な目で見られているだろうか。 それとも、「やはり『反日韓国人』とはわかり合えない。国際合意を無視した裁判所の判決を、私は忘れていませんよ?(ニヤリ)国交断絶に限ります」とネットでコメントして、コメント欄を焦土にされているだろうか? その答えは、いま本コラムを読んでおられる、あなたのみぞ知る、である』、「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である」、前述のように、同氏が記述する韓国人の日本批判には、私が知らなかった点もあり、興味深いが、日本人の韓国批判には、そんな批判が本当にあるのかと疑問に思うものもある。それでも、全治としては、「「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている」筆者らしい力作だ。今後のさらなる著作に期待したい。
先ずは、8月9日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋大学教授の薬師寺 克行氏による「韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/609965
・『日韓関係が悪化した最大の原因となっている徴用工問題について尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後、韓国政府の動きが活発になっている。 5月の新政権誕生後、韓国側はそれまでとは打って変わって日本側に首脳会談の実現や外務相訪日を積極的に働きかけてきた。その結果、林外相と韓国の朴振(パク・チン)外相の会談は2回おこなわれ、スペインで開かれたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議出席の機会を生かして岸田首相と尹錫悦大統領の数分間の立ち話も実現した。 いずれの機会も徴用工問題が取り上げられ、問題解決に向けで協議を加速することで一致している。首脳や外相レベルがほとんど没交渉だった文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に比べると様変わりだ。 一方、韓国内では7月初めに外交部主宰で専門家のほかに原告側代表も参加する官民協議会がスタートした。問題解決に向けての対応策などを協議する場で、すでに2回、開催されている』、「尹錫悦大統領」の登場で、日韓関係は一気に前進すると思っていたが、ペースは予想外にスローだ。
・『尹錫悦政権は大法院に意見書を提出 徴用工問題は文政権下で複雑化し両国の国民感情も加わってにわかに解決することは困難とみられる。いったい、韓国政府はどうしようとしているのか、日本政府関係者も尹錫悦政権の一連の動きの意図をはかりかねていた。しかし、7月26日に韓国政府が最高裁判所にあたる大法院に徴用工問題に関する意見書を提出したことで、その意図や狙いが明らかになった。 大法院に提出する意見書というのは法的に規定されており、「国家機関や地方自治体が公益に関連した事項に関し、大法院に裁判に関する意見書を提出することを認める」とされている。 そして今回の意見書には徴用工問題に関連して、「韓国政府は韓日両国の共通の利益に合致する合理的な解決策を模索するため対日外交を続けており、被害者への賠償問題の解決策を探る官民協議会を通じて原告の意見を聴くなど多角的な外交努力を傾けている」と書かれている。 この記述の意味するところは、韓国政府は問題解決に向けて最大限の努力をしている。だから日本企業の資産の現金化を認める判断は当面、待ってほしいということなのだ。 徴用工問題に関する裁判は、原告である元徴用工の主張が認められ日本企業に損害賠償金を支払う大法院の判決が確定している。そして三菱重工など日本企業の資産が差し押さえられ現金化手続きに入ることも認められた。 これに対して日本企業側が異議を唱えて再抗告した。それに対する大法院の判断が早ければ8月中にも出される見通しとなっている。再抗告が棄却されると、日本企業の資産が競売にかけられ現金化が現実のものとなるわけで、徴用工裁判はギリギリの最終段階にきているのだ』、「大法院の判断」は9月25日付けの聯合ニュースによれば、担当判事の退官により最終決定が遅れる見通しになった、とのことである。
・『現金化をとりあえず止めて、解決策を模索する構え 徴用工問題の抜本的な解決策を短期間でまとめることは不可能に近い。しかし、現金化のタイムリミットが目の前に近づいている。現金化によって日韓関係を決定的に悪化させることは回避しなければならない。そう考えた韓国政府は、原告側との話し合いの場を動かすとともに日本政府との協議にも積極的に取り組み、その実績を意見書として大法院に伝えることで現金化決定の先送りを実現する。そのうえで少し時間をかけて当事者が合意できるような解決策を模索する、という二段構えの対応に出たのだ。 尹錫悦政権の意図が明らかになると、当然のことだが原告側は激しく反発した。原告側にとって大法院の判断延期は救済措置の延期でもある。「憲法が保障した迅速な裁判を受ける権利を侵害したものだ」「意見書提出は被害者側の権利行使を制約する重大な行為」などと批判し、発足間もない官民協議会からの離脱を決めてしまった。 当面の問題は大法院がどういう判断をするかだ。大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない。 仮に現金化が現実のものとなれば、日本政府は対抗措置を取らざるをえなくなり、日韓関係改善の機運は一気に消えてしまう。ウクライナ戦争に加え台湾をめぐる中国の動きが緊迫している中、日韓関係の崩壊は中国を利するだけでなく地域の安全保障にとっても深刻な問題になるだろう。それだけに現金化阻止に向けた尹錫悦政権の活発な動きは歓迎すべきことだ。 しかし、韓国政府の思惑通り当面の現金化が先送りされても、その先の見通しは甘くない。最大の理由は尹錫悦大統領の極端な不人気である。 5月に就任してわずか2カ月余りしかたっていないのだが、尹錫悦政権の支持率は当初の5割超が一気に低下し、8月初めには20%台前半まで落ち込んだ。国民感情の動きが激しいと言われる韓国でもあまり前例のないことだ』、「大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない」、当面の注目点は、退官した「担当判事」の後任の判断だ。
・『身内を多く登用、エリート意識が強い 不人気の理由がさらに深刻だ。世論調査結果が指摘するのは、大学時代などの同級生や検察官時代の部下など身内を数多く登用する人事、政治家としての経験や資質の不足、国民が直面している不景気やインフレなどの問題への取り組みの欠如といった政権の体質批判だ。 尹錫悦大統領は文在寅政権時代に検事総長に抜擢されたが、文大統領の側近の法相に対する捜査を進め辞任に追い込むと、一転して大統領側からの反撃にあい職務停止命令を受けるなど文大統領と戦い続けてきた経験を持つ。いかなる困難に直面してもくじけない芯の強さやエリート意識は大統領になっても変わらないようだ。 マスコミに支持率低下についての感想を聞かれると尹大統領は、「大統領選挙の時も支持率は別に気にしなかった。特に意味がない」「支持率低下の原因がわかればどの政府もうまく解決したでしょう」などと応じている。また、閣僚候補から相次いで不祥事が発覚した時には、「前政権で指名された長官の中でそれほど立派な人を見ましたか」と記者を指さして不快感を表したという。その様子がそのまま報道されるのであるから、支持率が上がりようはないだろう。 特に人事は大統領府の秘書官らに検察官や元検事を多数起用し、「ソ・オ・ナム」(ソウル大学出身の50代の男性という意味)と揶揄されている。権力中枢が同質性の高いエリートだけで構成される政権は、必然的に国民との距離ができてしまう恐れがある。 つまり発足間もない尹政権は安定的なハネムーン期間もないまま、政権基盤が不安定な状況に陥っているのだ。しかし、韓国は日本以上に政権の支持率の浮き沈みが激しく、尹政権がこのまま低迷を続けるとはかぎらない』、「「ソ・オ・ナム」・・・と揶揄」されるような側近政治は止める方がよさそうだ。
・『日本政府もできる範囲で積極的に動くべき 徴用工問題の全面的解決には、韓国政府と被害者やその支援団体などが解決案に合意すること、日韓両国政府さらには日本企業も合意すること、さらには必要に応じて韓国議会で予算などの手続きが進められることなど、この先乗り越えなければならないハードルが多い。 日本政府は、表向き徴用工問題は韓国側が一方的に起こした問題であるから、韓国側の出方を見守るという姿勢で一貫している。日本側から提案はしないというのだ。しかし、韓国政府が問題解決に積極的に取り組み始めたことは評価すべきであるし、問題解決が日本の国益に沿うものであるとともに地域の安定にも寄与することは言うまでもない。韓国側の前向きな対応を好機ととらえ、日本政府も可能な範囲で積極的に動くべきときであろう』、「韓国政府が問題解決に積極的に取り組み始めたことは評価すべきであるし、問題解決が日本の国益に沿うものであるとともに地域の安定にも寄与することは言うまでもない。韓国側の前向きな対応を好機ととらえ、日本政府も可能な範囲で積極的に動くべきときであろう」、同感である。
次に、9月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは、元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309195
・『日韓関係改善のために尹錫悦政権が行うべきこと 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は対日関係の改善に苦悩している。それは文在寅(ムン・ジェイン)政権が日韓の歴史問題において過去の合意を無視、安全保障問題において日本との協力をほごにし、日本に反目する行動を取ってきたからである。 具体的には、次のことが挙げられる。) 元徴用工の個人補償問題は未解決だと主張し、司法による日本企業資産の差し押さえの動きを助長し、それが現金化に進もうとする現状を放置してきた。 元慰安婦に関する2015年の合意を事実上ほごにし、日本から10億円の支出で設立された「和解・癒やし財団」を事実上解散した。 韓国海軍が海上自衛隊のP1哨戒機に対し、射撃統制用の火器レーダーを照射し、その事実を隠蔽(いんぺい)した。 海上自衛隊旗と戦前の日本軍の旭日旗と同一視、それを掲揚した自衛隊艦船を韓国の国際観艦式から締め出した。 GSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)の一方的終了を通告した。その後米国の圧力を受け終了通告の効力を停止した。 東京オリンピックの際、豊臣秀吉の水軍を撃破した李舜臣将軍の言葉を引用した横断幕を掲揚、また東京オリンピック組織委員会の聖火リレーマップに竹島の記載が小さくあるのを政治宣伝として削除を求めた。 福島第一原子力発電所から出た処理水の海洋放出を非難し続けている。 竹島周辺での海洋調査など一方的な行動を取り続けている。 文在寅前大統領は日本に対して対決姿勢を取り続けてきた。その過程で反日世論を盛り上げ、日本製品に対する不買運動も展開した。その結果、日本の嫌韓感情は最高潮に達し、「文在寅政権を相手にせず」の雰囲気が日本の政府内ばかりでなく国民感情としても沸き上がった。 尹錫悦政権は就任以来、政府ベースでは過去最悪となったこうした日韓関係を改善するべく取り組んできた。しかし、文在寅政権によって積み上げられた反日・嫌韓感情は容易には改善しない。当面は、これ以上の悪化を防ぎつつ、対話を増やしていく中で、関係改善を模索していくことになるだろう。 そのために急を要するものは、徴用工問題で日本企業資産の現金化を防ぐことである。もしも現金化されれば、日韓関係はしばらく修復不可能になろう。 そして東アジアの安全保障にとって障害となっている日韓関係の不安要素を除去することが必要だ。日韓の不信を助長しているのは、自衛隊機に対する射撃統制レーダーの照射、海上自衛隊旗を旭日旗として排除する姿勢、GSOMIAの終了通告などである』、「文在寅政権によって積み上げられた反日・嫌韓感情は容易には改善しない。当面は、これ以上の悪化を防ぎつつ、対話を増やしていく中で、関係改善を模索していくことになるだろう。 そのために急を要するものは、徴用工問題で日本企業資産の現金化を防ぐことである。もしも現金化されれば、日韓関係はしばらく修復不可能になろう」、「現金化」の阻止は至上課題だ。
・『日本企業資産の現金化を防ぐため 韓国政府は懸命の努力 徴用工を巡る三菱重工業への賠償命令を不服とする同社の再抗告について、審理をさらに続けるか判断する期限(8月19日)が迫る中、大法院(日本の最高裁に相当)は同日までに決定を出す可能性がある、と複数の韓国のメディアが報じていた。 その一方で、日本政府は韓国で日本企業に対する資産売却など現金化措置が取られる場合、厳しい「対抗措置」を準備しているとも報じられていた。 このため、韓国政府は、日本企業の資産の現金化を防ぐため、懸命の努力を行ってきた。 まず、韓国政府は解決策を見いだすべく、外交部(日本の外務省に相当)の趙賢東(チョ・ヒョンドン)第1次官の主宰で、徴用工支援者団体、法律代理人、学会専門家、言論・経済界から12人が参加する官民協議会を設立し、これまでに3回の会合を行った。しかし、元徴用工団体からは協力が得られていない。 外交部は大法院に対し、「徴用工問題解決に向けた外交的努力」を説明する意見書を提出した。これは、国家間の利害関係が対立する外交的事案の場合、行政府の立場が優先して反映されるべきという「司法自制の原則」を要請するメッセージだ。 朴振(パク・チン)外相は7月18日から20日まで訪日し、林芳正外相と会談し、岸田文雄首相を表敬した。両外相は会談で「韓国裁判所が日本企業の資産を現金化する最終結論を下す前に解決策を模索しなければならない」ということで認識を共有したが、具体策にまでは踏み込めなかった。日本側からはまず韓国が解決策を提示すべきと念押しされた。 尹錫悦大統領も、就任100日目の会見で、徴用工は大法院の判決で法による補償を受けることになっているが、「日本が懸念する主権問題の衝突なしに債権者が補償を受けることができる方法を模索している」と主張した。尹錫悦大統領自身が解決に努力していることを明言することで大統領の責任に転嫁し、批判を免れることができるようになった。 尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日韓国大使は、韓国特派員との懇談会で、日本企業の資産を現金化した場合、「韓国企業と日本企業との間で数百兆ウォン(数十兆円)とも言われるビジネスチャンスを失うこともあり得る」と述べたことの重大さを訴えた。 大法院は韓国政府の努力に期待し、決定を先延ばしした。それでも韓国のメディアは、この問題を担当してきた金哉衡(キム・ジェヒョン)大法官(最高裁判事)が9月4日に退官するので、その前に決定があるはずだと一斉に報じた。 しかし、結論から言えば筆者が主張した通り、金大法官は退官後にその決定が韓国経済に甚大な被害が及ぶことは望まず、決定は行わなかった。 金大法官の退官に伴い、後任の裁判部がいつ構成されるかもわからない状況となっている。オ・ソクジュン大法官候補に対する国会人事聴聞会特別委員会の報告書採択が与野党の合意の不発により、大法官の空白も長期化する展望である。 こうした事態の進展によって、尹錫悦政権は時間稼ぎをすることができるようになった。 それ以上に重要なことは、元徴用工団体として裁判を通じて早期解決の見通しが立たなくなったことで、尹錫悦政権との話し合いに応じる期待が出てくる可能性があることであろう。 こうした中、朴振外相は2日、光州を訪問、元徴用工と面会した。元徴用工を支援する市民の会は当初、外交部は朴外相との面会を求めるよりも先に大法院に出した意見書に対する謝罪が先であると主張していた。それでも朴外相と元徴用工は面会を行った。 朴外相は元徴用工と面会し、「強制徴用被害者の方々の問題をできる限り早期に誠意を持って解決していくという強い意思を持っている」「問題がうまく合理的に解決するようにしたい」と伝えた。 しかし、面会後、記者団から「意見書を撤回する意思があるのか」と問われ、「大法院の民事訴訟規則など法令と手続きに基づいて正当にしたものであり、撤回する考えはない」と回答した。 さらに「韓日交渉を通じてこの問題を合理的に解決していくため、近く日本を訪問して林外相と協議する」と述べた。 韓国政府が徴用工問題の解決を模索して設立した官民協議会の第4回会合は5日に開催される予定であるが、元徴用工支援団体はこれには参加しない予定だという。徴用工を巡る問題の解決策づくりはまだしばらく時間がかかりそうである』、「韓国政府が徴用工問題の解決を模索して設立した官民協議会の第4回会合は5日に開催される予定であるが、元徴用工支援団体はこれには参加しない予定だという。徴用工を巡る問題の解決策づくりはまだしばらく時間がかかりそうである」、なるほど。
・『レーダー照射問題は包括的に解決する意向 2018年、日本海で遭難した北朝鮮漁船を捜査中だった韓国の駆逐艦「広開土大王」は近くを飛行する日本海上自衛隊のP1哨戒機に向けて射撃統制レーダーを照射した。これに対し、韓国海軍は、日本に向けたレーダー照射は誤解、レーダー照射はしていないなど、弁明が二転三転していた。 しかし、 与党「国民の力」の申源シク(シン・ウォンシク)議員は、韓国軍当局が2019年2月に海軍へ通達した「日哨戒機対応指針」を暴露した。これは日本の自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定したものである。しかも、同指針は青瓦台国家安保室が主導したものの由である。事件は指針の出る前であるが、日本のP1に対してレーダーが照射された高い可能性を裏付けるものだろう。 (シン・ボムチョル)国防次官は2日に報道された毎日新聞とのインタビューで「公式的に(韓国艦艇の日本哨戒機に向けた射撃統制)レーダー照射はなかったというのがわれわれの立場だが、両国関係の改善と国防協力の観点で包括的に解決する意思がある」と述べた。 この発言は韓国政府の公式の立場としてはっきりと過ちを認めたわけではないが、今後の話し合いの中で、説明するとの意向が含まれているのではないか。 申次官は、文在寅政権当時の指示について「指針ではないが、文政権は日本に対してのみ追加手続きを実施した」「適切かどうかは疑問だ」と述べた。これは事実上誤りを認めたものではないか。 日韓で安保協力を進めていくためには、自衛隊機に対するレーダー照射事件について決着をつけることは不可欠であり、韓国の国防次官の発言はその一歩となるかもしれない』、「韓国軍当局が2019年2月に海軍へ通達した「日哨戒機対応指針」を暴露した。これは日本の自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定したものである。しかも、同指針は青瓦台国家安保室が主導したものの由である。事件は指針の出る前であるが、日本のP1に対してレーダーが照射された高い可能性を裏付けるもの」、やはり「青瓦台国家安保室が主導」したとは、「文在寅政権」らしい行動だ。
・『海上自衛隊観艦式への出席は日韓協力の再出発の象徴に 8月23日、日本政府は「11月に開かれる海上自衛隊創設70周年国際観艦式に韓国海軍を招待した」と発表した。前回2019年の観艦式の折には、自衛隊哨戒機への韓国駆逐艦からのレーダー照射問題などで日韓関係が緊迫しており、韓国海軍は招待されなかった。今回の招待は2015年以来7年ぶりのことである。 しかし、韓国海軍の参加は韓国にとっても難しい決定である。韓国では日本の海上自衛隊旗が旭日旗であり、日本帝国主義の象徴とみる向きがある。特に文在寅政権は、韓国軍の出席する行事から旭日旗の排除を求めていた。18年10月に韓国・済州島で開かれた国際観艦式では、韓国が日本に対し、旭日旗の掲揚自粛を要請。日本は参加を取りやめた経緯がある。 海自の観艦式では、旭日旗が掲揚されることから、参加には慎重であるべきとの声も韓国では少なくない。 しかし、尹錫悦政権は日本側の招待を受けて観艦式に参加し、海上捜索・救難共同訓練も行うことを前向きに検討している模様だ。 今回、韓国海軍が観艦式に出席することは、尹錫悦政権が文在寅政権の束縛から解放され、安全保障面で日韓協力の再出発の象徴となるのではないか』、「今回、韓国海軍が観艦式に出席することは」、「安全保障面で日韓協力の再出発の象徴と」なってほしいものだ。
・『尹錫悦政権への交代で高まるGSOMIA復活の可能性 日本政府は19年7月、韓国に輸出した戦略物資が不正に中国や北朝鮮に再輸出されている懸念があるとして、韓国を包括的な輸出許可の対象から除外し、個別に許可を得る必要がある国に指定替えした。文在寅政権はこれに反発し、日本に対しGSOMIAの終了を一方的に通告した。 しかし、日韓のGSOMIAは北朝鮮の核・ミサイル実験の際の情報共有に効果を発してきたものであり、北朝鮮の核・ミサイル開発が極めて進展しているときに破棄するのは北朝鮮や中国の思うつぼである。北朝鮮の核・ミサイル開発に対して危機感の足りなかった文在寅政権ならではの判断だろう。 尹錫悦政権に代わり、韓国から中国や北朝鮮に対し戦略物資が不正に輸出される可能性は極めて低くなっている。文在寅政権の頃の戦略物資の管理体制とは根本的に改善が見られるだろう。 したがって、戦略物資の輸出問題について韓国政府と建設的な調整を行う余地は広がっており、それを受けてGSOMIAの終了を一時停止している状況を改め、完全復活させることは可能であろうし、日韓首脳会談が開かれれば、その方向で話し合いが行われるのではないか。 文在寅政権の後遺症がいまだ残る中、日韓の関係改善は一朝一夕には実現しないだろう。その第一歩として日韓首脳会談が実現したときに多くの問題を同時に解決できるよう外交当局の根回しが必要である。いずれにせよ、関係改善の糸口をつかむ前に、関係を悪化させることはぜひとも避けたいものである』、「尹錫悦政権に代わり、韓国から中国や北朝鮮に対し戦略物資が不正に輸出される可能性は極めて低くなっている」、「戦略物資の輸出問題について韓国政府と建設的な調整を行う余地は広がっており、それを受けてGSOMIAの終了を一時停止している状況を改め、完全復活させることは可能であろうし、日韓首脳会談が開かれれば、その方向で話し合いが行われるのではないか」』、「韓国を包括的な輸出許可の対象」に復活させ、「GSOMIAの」「完全復活」させてほしいものだ。
第三に、9月17日付け東洋経済オンラインが掲載した『最強の働き方』『一流の育て方』著者 のムーギー・キム氏による「「韓国に怒ってる日本人」に多い、超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ、元寇の謝罪」と言われても…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/618365
・『「そっか、日本と韓国って」と検索したことがあるだろうか? 「韓国へのイライラ、日本へのモヤモヤがいっきに解消する」「グローバルな視点で、確かな学術論文に依拠して書かれている」「爆笑エピソードが満載で、絶対にこの著者にしか書けない」と話題を呼び、『週刊ダイヤモンド』『PRESIDENT』等のビジネス誌の書評でも評価されているのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』だ。 著者は、『最強の働き方』『一流の育て方』などのベストセラーでもよく知られる、著作累計70万部のムーギー・キム氏。京都に生まれ、日韓両国の文化の中で育ち、フランス・香港・シンガポールで学び働いてきた。同書は、著者が「人生を通じて最も書きたかった1冊」という。 以下では、そのムーギー氏が、「なぜか行ったこともない韓国に大激怒している人たちにありがちな、よくある4つの残念な誤解」について考える』、「ムーギー・キム氏」は「日韓」関係を述べるには最適の人物のようだ。
・『どちらの「研究結果」を信じるかは、あなた次第 「そっか、日本と韓国って」と検索したら、韓国へのモヤモヤのすべてがクリアに解決するというのが、近頃の私の中での定説になっている。 しかし、皆様そうなされないからか、日韓関係および私、ムーギー・キムへの誤解は根強い。 前回のコラムに対しても、おそらく遺伝子研究のイの字も知らないだろう方々が、2012年の日本人類遺伝学会による発表や、2019年5月13日の国立科学博物館による発表に異を唱え、それはそれは得意げに「Y染色体D系統は、日本人が韓国人と別人種であることの証だ」などなどと1000件くらいの批判コメントを寄せられるのだ。これを読んだ私の開いた口は塞がらず、逆に閉じた瞼が二度と開くことはないのである。 D系統の割合が日本は他の東アジアより高いというだけで、それでも韓国と同様にO系統が一番多いことなど細かいことを書くと果てしないので、やめておこう。人は所詮、信じたいことを信じる生き物だ(「それはお前のことだろ!」と数多くのブーメランがコメント欄で飛び交う姿が目に浮かぶ)。 それでもネットのどこぞで目にした怪しげな「研究結果」か、2019年という最近の、我らが国立科学博物館の「研究結果」のどちらに信憑性を感じるかは、読者の皆様に委ねるしかないのだ。 それにしても、この連載コラムを書けば書くほど、ネットで熱心にコメントを書き込んでくださる皆様と私の溝が広がっているのでは、と心配になっている。 そこで、皆様の温かい、時に熱すぎる叱咤激励に感謝の気持ちを捧げつつ、今日も元気に、深すぎる教養コラムを書かせていただこう。) 日韓関係でよく問題になるのが、「韓国は国際合意を遵守していない」という議論である。 「日本政府は合意を守っている。守っていないのは韓国のほうだ」と思っている人は多いだろう。しかし韓国では、日本の政治家こそ「国際合意を無視し、過去を蒸し返す」と思っている。 こう書くと早くも大激怒されそうだが、念のため血圧を下げる薬を飲みながら、以下を読み進めていただきたい。 【誤解1】
「日本政府は国際合意を守っているのに、韓国政府が一方的に破棄してきた」 1993年の河野談話や1995年の村山談話では、「戦争の悲惨さを若い世代に語り伝え」「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ」と語られた。 ところが、実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された。これで、合意を守っていると言えるだろうか?』、「実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された」、そんな事実は知らなかったので、愕然とした。
・『日本は政権がなかなか変わらないだけ 「韓国は政権が変わるたびにコロコロ変わる」と言われる。しかし、日本はたんに政権がなかなか変わらないだけで、政権を担う勢力が変われば、外交政策や歴史認識、約束ですら、コロコロ変わるのである。 2015年の慰安婦合意では、「最終的かつ不可逆的に解決される」と相互に確認された。 これは韓国側からすれば、日本政府や政権に影響のある政治家たちから、「慰安婦は嘘だった」などと、また村山談話に実質的に反する声が出てくることを牽制するものだった(ただし、私は慰安婦合意に対する韓国政府の対応を擁護するものではない)。 2015年に世界文化遺産に登録された軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。 しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があったのである。 また、元徴用工への慰謝料の支払い問題については、1965年の日韓基本条約での曖昧な合意が根底にある。日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。 その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。 しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である』、「軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。 しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があった」、「日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。 その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。 しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である」、いずれも恥ずかしながら知らなかった。日本のマスコミももっと丁寧に説明すべきだ。
・『「正当性」と「合法性」は違う問題 しかも韓国では、この日韓基本条約が結ばれたとき、民意を代表しない軍事独裁政権が、国民の反対を押し切ってこの問題を棚上げにしたのだった。 日韓併合の実態や経緯に関する学術的証拠に関しては、長くなるので詳細は新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』に譲ることにする。 ただし考えてみていただきたいのは、イギリスが清国に仕掛けたアヘン戦争も、侵略した側にとってみれば「合法」だった。 アメリカによるイラク侵攻も、ロシアによるウクライナ侵攻も、やっている側としては「合法」という主張である。 「正義」と「合法」、そして「正当性」と「合法性」は、また違う問題なのである。 次によく目にするのは、「日本から金をせびるために、歴史問題を蒸し返す」という言説だ。 【誤解2】「韓国は、日本から金をゆするために歴史問題を蒸し返す」 しかしながら、たとえば慰安婦合意で日本が拠出した10億円は、韓国の200兆円に迫るGDPの何%だというのだろうか(念のために言っておくと、20万分の1=0.00005%である)。 韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰していたし、村山談話のときの民間からの寄付金に関しても、「国家賠償という性質ではないので、受け取るな!」という反発が強かったのをご存じだろうか。 もし、いま問題になっている元徴用工への賠償で差し押さえられた資産を現金化したとしても、その時に得られる金額は全体的にはごくわずかだ。 その後の経済紛争で生じる損失に比べれば微々たる金額であり、「経済的な観点からも、この現金化は合理的ではない」と韓国国内でも議論されている』、「慰安婦合意で日本が拠出した10億円は」「韓国の200兆円に迫るGDPの」「20万分の1」、「韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰」、なるほど。
・『では、韓国が求めているのは? 韓国側の当事者が求めているのは、「お金」よりも「許し、前に進むための名分」であり、村山談話や河野談話のときのように、あとでその趣旨を覆すような発言をしたり、骨抜きにされたりすることがない、「真心」すなわち「チンジョンソン(真の意志)」がこもった謝罪の気持ちなのである。 ちなみに、日韓基本条約のときに日本から韓国に「経済協力金」が流れているが、その資金の使途は、特定の日本企業からの購入費用に充てられることになっていた。 その後、毎年のように何兆円もの巨額の貿易黒字を日本が韓国からずっと獲得することの遠因になっていることも、理解しておきたい。日韓基本条約で、結果的に日本側も恒常的に儲けていたともいえるのだ。 また、「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか? これを鑑みたとき、日韓基本条約で払った金額ばかりに目を向けるのではなく、巨額の分断・統一コストにも目を向けた、歴史に対する謙虚さは必要であろう。 そして一番多い誤解にもとづく批判は、なんと「『元寇』のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」というものである。 これらの怒りも「誤解」に基づくか、重要な文脈を省いてしまっている。 【誤解3】「『元寇』と『応永の外寇』は朝鮮側起点の一方的侵略だったから、秀吉の朝鮮出兵も正当化でき、そもそも朝鮮側が悪い!」 そもそも「元寇」では、高麗軍および三別抄(さんべつしょう/モンゴルへの服属を拒んだ高麗国軍の一部の勢力)が約40年にわたってモンゴル軍に対抗したおかげで、日本へのモンゴル(元)の襲来は大幅に遅れた。 当初高麗は、モンゴルが日本を攻めれば自分たちが巻き込まれるので、日本にモンゴルに服属するよう遣いを送っていた。また、これとは別に三別抄は、モンゴルに対抗していたときに、日本に「モンゴルへの共闘」を呼び掛けた。 鎌倉幕府はこの相反する状況を理解できず、幕府と朝廷で指揮系統が混乱していたこともあって、回答しなかった。 そんな文脈のなか、当時の高麗王朝はモンゴルに対する姿勢で派閥争いがあったので、モンゴルをバックに高麗王朝に君臨しようとした忠烈王(ちゅうれつおう)が、フビライハンの歓心を買うべく自国民を犠牲にし、日本の大宰府攻めを進言したと言われている。 これは、日本にとっては大迷惑だが、反モンゴル派の高麗人にとってもたまったものではなかっただろう。 「元寇」から約150年後の室町時代にあった「応永の外寇」は、倭寇が朝鮮を襲い、これに対抗するために朝鮮軍が遠征したものである。 そのどちらも、秀吉による朝鮮出兵や、明治政府による「日韓併合」を正当化する類のものでもないのだが、近年ネットで「元寇と応永の外寇は朝鮮側起点の一方的侵略だったから、秀吉の朝鮮出兵も正当化でき、そもそも朝鮮側が悪い!」などという誤解がかなり広まっているので、念のため解説しておくこととした。 それにしても、「元寇」や「応永の外寇」で、なんで私が非難されなければならないのだろうか』、「「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか?」、「分断コストと統一コスト」を日本に責任があるとする考えにはついてゆけない。「『元寇』のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」、こんな馬鹿な主張をしている日本人は仮にいたとしても、ごく少数で、こんなところで取上げるべきなのだろうか。
・『なんと筆者に「元寇」の賠償要求も! なかでも私に対する批判の中でも衝撃的なケースでは、「元寇のとき、高麗軍に私の先祖が4人殺されたので、1人1億円で合計4億円、筆者(つまり私)が賠償せよ!」というものもあった。 さらに、比較的面倒見のいい私でも付き合いきれないのが、「刀伊(とい)の入寇」への謝罪要求だ。これ、1000年くらい前に中国大陸に住む北方民族の女真族(じょしんぞく)を中心とした海賊が攻め込んできたときの話だから、いくら何でも私には関係ないのではなかろうか。 それでも、私が謝ることで気が済むのなら、謝罪いたしましょう。「刀伊の入寇、なんか知らないけど、ごめんね」。 ここまでお読みくださったかたの中には、プンスカ激怒されている人もいらっしゃることだろう。「反日韓国人が、また嘘を垂れ流している!」と。 ちなみに私は、「北朝鮮のスパイ」とも書かれている。「一人南北統一」で、八面六臂の大活躍ではないか。 【誤解4】「ムーギー・キムは在日だから韓国批判はしない」 しかし私は『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』では、韓国の擁護だけでなく、数多くの韓国批判も行っている。 韓国側は、ぜひ次のような点をきちんと記憶すべきであろう。 ・韓国は、戦後の日本からの経済協力がなければ、漢江の奇跡をあの速さで起こせなかった ・日本には、韓国が感謝すべき「有り難い人」がたくさんいる ・韓国は的外れな怒り方で自爆している ・当事者でもない今の若い日本人に、いつまでも謝罪を求めるのは的外れ ・過度な旭日旗批判は、私が見ても失笑ものの言いがかりに見える ・元徴用工への慰謝料は、日本に支払わせるべきでない 他にも、高麗王朝の魂を元に売った忠列王は大迷惑などうしようもない人物だと思うし、ベトナム戦争での民間人虐殺にも、私は極めて批判的である。 私はこれまでも、一部の韓国人にとっては私が「親日派の嫌韓主義者」と批判されるようなこともたくさん書いているし、韓国人コミュニティの掲示板で私が猛批判をされることもある』、間に立っている人間が、双方から批判されるのは、よくあることだ。
・『日本と韓国双方に愛情を抱くからこそ書けた1冊 私は重ね重ね、日本側の読者にさえおもねればいい一部の作家や、韓国側の読者さえ喜ばせればいい韓国の一部の政治家は、なんとラクな商売かと思ってきたものである。 しかし、両国双方の読者に認知不協和を起こし、猛批判と罵詈雑言を受けようとも、両国の「言い分」と「誤解」をそれぞれ知っている私が、そして何よりも日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である。 今回のコラムをお読みくださったあなたは、「そっか、日本と韓国って」と検索しながらすっくと立ち上がり、「ムーギー・キムよ、見直した、その通りや!」とスタンディングオベーションをして、周りの人に奇異な目で見られているだろうか。 それとも、「やはり『反日韓国人』とはわかり合えない。国際合意を無視した裁判所の判決を、私は忘れていませんよ?(ニヤリ)国交断絶に限ります」とネットでコメントして、コメント欄を焦土にされているだろうか? その答えは、いま本コラムを読んでおられる、あなたのみぞ知る、である』、「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である」、前述のように、同氏が記述する韓国人の日本批判には、私が知らなかった点もあり、興味深いが、日本人の韓国批判には、そんな批判が本当にあるのかと疑問に思うものもある。それでも、全治としては、「「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている」筆者らしい力作だ。今後のさらなる著作に期待したい。
タグ:『最強の働き方』『一流の育て方』著者 「韓国政府が問題解決に積極的に取り組み始めたことは評価すべきであるし、問題解決が日本の国益に沿うものであるとともに地域の安定にも寄与することは言うまでもない。韓国側の前向きな対応を好機ととらえ、日本政府も可能な範囲で積極的に動くべきときであろう」、同感である。 「「ソ・オ・ナム」・・・と揶揄」されるような側近政治は止める方がよさそうだ。 「大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない」、当面の注目点は、退官した「担当判事」の後任の判断だ。 ムーギー・キム氏による「「韓国に怒ってる日本人」に多い、超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ、元寇の謝罪」と言われても…」 「尹錫悦政権に代わり、韓国から中国や北朝鮮に対し戦略物資が不正に輸出される可能性は極めて低くなっている」、「戦略物資の輸出問題について韓国政府と建設的な調整を行う余地は広がっており、それを受けてGSOMIAの終了を一時停止している状況を改め、完全復活させることは可能であろうし、日韓首脳会談が開かれれば、その方向で話し合いが行われるのではないか」』、「韓国を包括的な輸出許可の対象」に復活させ、「GSOMIAの」「完全復活」させてほしいものだ。 「今回、韓国海軍が観艦式に出席することは」、「安全保障面で日韓協力の再出発の象徴と」なってほしいものだ。 「韓国軍当局が2019年2月に海軍へ通達した「日哨戒機対応指針」を暴露した。これは日本の自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定したものである。しかも、同指針は青瓦台国家安保室が主導したものの由である。事件は指針の出る前であるが、日本のP1に対してレーダーが照射された高い可能性を裏付けるもの」、やはり「青瓦台国家安保室が主導」したとは、「文在寅政権」らしい行動だ。 「大法院の判断」は9月25日付けの聯合ニュースによれば、担当判事の退官により最終決定が遅れる見通しになった、とのことである。 「尹錫悦大統領」の登場で、日韓関係は一気に前進すると思っていたが、ペースは予想外にスローだ。 「慰安婦合意で日本が拠出した10億円は」「韓国の200兆円に迫るGDPの」「20万分の1」、「韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰」、なるほど。 「日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。 その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。 しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である」、いずれも恥ずかしながら知らなかった。日本のマスコミももっと丁寧に説明すべきだ。 「軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。 しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があった」、 「実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された」、そんな事実は知らなかったので、愕然とした。 それでも、全治としては、「「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている」筆者らしい力作だ。今後のさらなる著作に期待したい。 「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である」、前述のように、同氏が記述する韓国人の日本批判には、私が知らなかった点もあり、興味深いが、日本人の韓国批判には、そんな批判が本当にあるのかと疑問に思うものもある。 間に立っている人間が、双方から批判されるのは、よくあることだ。 「『元寇』のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」、こんな馬鹿な主張をしている日本人は仮にいたとしても、ごく少数で、こんなところで取上げるべきなのだろうか。 「「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか?」、「分断コストと統一コスト」を日本に責任があるとする考えにはついてゆけない。 「ムーギー・キム氏」は「日韓」関係を述べるには最適の人物のようだ。 「韓国政府が徴用工問題の解決を模索して設立した官民協議会の第4回会合は5日に開催される予定であるが、元徴用工支援団体はこれには参加しない予定だという。徴用工を巡る問題の解決策づくりはまだしばらく時間がかかりそうである」、なるほど。 「文在寅政権によって積み上げられた反日・嫌韓感情は容易には改善しない。当面は、これ以上の悪化を防ぎつつ、対話を増やしていく中で、関係改善を模索していくことになるだろう。 そのために急を要するものは、徴用工問題で日本企業資産の現金化を防ぐことである。もしも現金化されれば、日韓関係はしばらく修復不可能になろう」、「現金化」の阻止は至上課題だ。 武藤正敏氏による「韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは、元駐韓大使が解説」 ダイヤモンド・オンライン 薬師寺 克行氏による「韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが」 東洋経済オンライン (その17)(韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが、韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは 元駐韓大使が解説、「韓国に怒ってる日本人」に多い 超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ 元寇の謝罪」と言われても…) 日韓関係
米中経済戦争(その17)(知らぬ間に中国の国民抑圧に加担する 日米欧の民間企業、池上氏解説「米国vs中国が険悪」日本はどうなる? 両国の厳しい対立は日本にも大きく関係する、「自衛隊に中国系メーカーのPCが配られて唖然」「LINEの情報もダダ漏れ」“ファーウェイ排除”を進めない日本の超危険 『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』 #3) [外交]
米中経済戦争については、昨年8月6日に取上げた。今日は、(その17)(知らぬ間に中国の国民抑圧に加担する 日米欧の民間企業、池上氏解説「米国vs中国が険悪」日本はどうなる? 両国の厳しい対立は日本にも大きく関係する、「自衛隊に中国系メーカーのPCが配られて唖然」「LINEの情報もダダ漏れ」“ファーウェイ排除”を進めない日本の超危険 『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』 #3)である。
先ずは、昨年10月12日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元アメリカ国家安全保障担当大統領補佐のH・R・マクマスター氏による「知らぬ間に中国の国民抑圧に加担する、日米欧の民間企業」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00373/100400002/
・『中国側と技術開発などで協業している日本や欧米の企業は数多いが、いつの間にか技術を転用され、中国共産党が国民を監視したり人民解放軍の能力を向上させたりするために利用されているケースがある。また、新技術の開発や投資でも、日米欧は中国に後れをとっている。対抗するためにはどのような政策が必要なのか。 トランプ政権の国家安全保障担当大統領補佐官を務め、歴史的な対中政策の転換を主導したH・R・マクマスター氏の著作『戦場としての世界 自由世界を守るための闘い』から一部抜粋して紹介する。 ※本記事の内容は本書からの抜粋で著者個人の見解。タイトル、見出し、写真選定は編集部によるもの。写真はイメージ』、「歴史的な対中政策の転換を主導した」人物の著作とは興味深そうだ。
・『開かれた社会に付け入ろうとする中国共産党 中国共産党は、自分たちの中央集権型の国家主義的な経済システムには優位性が備わっていて、特に官、産、学、軍を巧みに調整する能力で並ぶものはないと自負している。そして、アメリカなどの分権的で自由市場を中心とする経済システムは中央から指令を下す中国の戦略、例えば「中国製造2025」の産業政策や「一帯一路」構想、軍民融合の政策に太刀打ちできないと見る。 これに対抗するため、アメリカをはじめとする自由市場型の経済システムを持つ国々は、中国からの侵略の手をはねのけつつ、分権的な構造と制約のない起業家精神の発露こそが競争上、優位にあることを示さなければならない。 ここで大きなカギを握るのは民間セクターである。新しい技術の開発と実用化の最前線にいる企業や学術機関にとって、中国に対する油断は禁物であり、彼らがルールを破ってでも、開かれた社会と自由市場型の経済に付け入ろうと企(たくら)んでいることを認識する必要がある。 競争上の優位性を維持するための最初のステップは、中国による我々の技術の窃盗を取り締まることである。海外からの対米投資の影響を国家安全保障上の観点から検証する作業を経て大がかりな改革が実現したものの、効果的な防御策を継続的に追加していくことが求められる。 具体的には、アメリカ企業に対して、中国に関連した法人から投資を受け入れたり、中国側から技術移転の要請があったり、また、自らが中国共産党の中核的な技術の開発や人民解放軍の近代化のプログラムに参加したりする場合には報告させることである。 中国は国家資本主義のモデルを広めることだけでなく、監視警察国家の完成を目指してアメリカ経済の開放性に乗じようとしている。それを防ぐ取り組みには改善の余地が大いにある。 法の支配と個人の権利を重視する国々では、多くの大学、研究機関、そして企業が承知の上で、あるいは知らないうちに中国側に加担し、中国共産党が国民を抑圧する技術を実際に使い、また、人民解放軍が自らの能力を引き上げることに手を貸している。これらは軍民両用の技術があるために生じている。 民間セクターは新たな協力先を探し、自由市場型の経済や代議制、法の支配を尊重する姿勢を共有できる相手と組むべきである。多くの企業が監視技術、人工知能(AI)、遺伝子工学などの分野で中国側と合弁や提携を進め、結果的に中国共産党が国内の治安対策に適した技術を開発することを助けている。他にも複数の企業が中国からの投資を受け入れ、中国共産党はそれらを糸口に必要な技術にアクセスしている。 多くの事例からもう一つ挙げれば、マサチューセッツ州に本社を置くある企業が提供した遺伝子抽出装置は、中国共産党が新疆でウイグル族の住民を追跡するのに役立った。また、グーグルは中国からハッカー攻撃を受け、中国共産党によって国民が情報にアクセスできないようにサービスを遮断されたが、同社はアメリカの国防総省とのAIでの協業は拒んだ。 中国の国民を抑圧するための取り組みだと分かった上で、あるいは、いつの日にか同じアメリカ市民に対して行使されかねない軍事能力を構築する計画だと分かった上で中国共産党に協力する企業は、罰せられなければならない』、「民間セクターは新たな協力先を探し、自由市場型の経済や代議制、法の支配を尊重する姿勢を共有できる相手と組むべきである。多くの企業が監視技術、人工知能(AI)、遺伝子工学などの分野で中国側と合弁や提携を進め、結果的に中国共産党が国内の治安対策に適した技術を開発することを助けている。他にも複数の企業が中国からの投資を受け入れ、中国共産党はそれらを糸口に必要な技術にアクセスしている」、「中国の国民を抑圧するための取り組みだと分かった上で、あるいは、いつの日にか同じアメリカ市民に対して行使されかねない軍事能力を構築する計画だと分かった上で中国共産党に協力する企業は、罰せられなければならない」、その通りだ。
・『新しい技術の採用で優位に立つ中国 アメリカ、ヨーロッパ、日本の資本市場での審査の厳格化も、企業が中国共産党の権威主義的な目標に向けた動きに加担することを制限する上で役立つだろう。国内での人権侵害や国際条約への違反行為に直接的に、あるいは間接的に関与している多くの中国企業がアメリカの証券取引所に上場している。これらの企業は、アメリカおよび他の西側諸国の投資家たちからの恩恵に与っている。 上場中国企業は全部で700社余り。このうちニューヨーク証券取引所に86社、ナスダック市場に62社が上場し、規制の緩い店頭市場では500を超す銘柄が取引されている。上場廃止の候補の1社がハイクビジョン(杭州海康威視数字技術)だ。ウイグル族の住民たちを特定し、行動を監視するための顔認証技術を持ち、同社が生産する監視カメラは新疆の強制収容所の壁に並んでいる。 同社は、親会社で国有の中国電子科技集団と共にアメリカの商務省のエンティティ・リスト(多くの人々が「ブラック・リスト」と呼ぶもの)に掲載されている。我々が持つ自由市場型の経済は世界の資本の大半を管理しているという意味では、中国の経済よりもはるかに大きな影響力がある。 しかし、防衛のための態勢はまだ不十分だ。自由で開かれた国々は、改革と投資を通じて装備面での競争力をテコ入れする必要がある。中国のほうが新しい技術の採用という点では明らかに優勢だ。上意下達型の意思決定システム、政府の補助金の存在、リスクを恐れない姿勢、アメリカやその他の民主主義の国々でよく見られるような規制や官僚制度の壁が比較的少ないこと、倫理的な障害がないこと(例えば遺伝子工学や自立型兵器の分野で)など、これらすべてが民生分野と人民解放軍の現場での技術の迅速な利用を促している。 アメリカもその他の国々も倫理面で妥協してはならないが、中国と比べた場合の弱点の多くは、実は自分で作り出したものだ。一例を示せば、アメリカの国家安全保障にかかわる機関には官僚的な硬直性という病状が長年、表れていた。国防関連の予算計上と装備の調達が遅くて柔軟性に欠ける点も長らく対策が検討されてきたが、効果のある見直しはほとんど実現していない。今度も改革を実現できなかった場合、代償はあまりに大きい。 装備の調達計画を複数年の継続予算に組み入れて予測可能性を持たせることができずにいることや、込み入ったままになっている装備調達の仕組み、そして防衛近代化策が先送りになっていることはもはや許容できないほどだ。 また、国防総省と取引を始めることは本当に難しく、それが最も革新的な中小企業にこの国の防衛能力への貢献を思いとどまらせ、ひいては新しい技術が日の目を見ずに終わる結果をもたらしている。何年も時間をかけて研究開発を進め、能力を一つずつ設計・検証していくやり方はもはや通用しない。 人民解放軍はこれまで続いたアメリカの軍事的優位を無効にするべく、新たな能力や対抗手段を開発している。つまり、国防総省と米軍は優雅に存在感を失っていくリスクに直面している。民間セクターと国家安全保障に関連した機関・産業との間の障壁を減らせば、この重要な分野での自由市場型のイノベーションの可能性を解き放てるだろう』、「民間セクターと国家安全保障に関連した機関・産業との間の障壁を減らせば、この重要な分野での自由市場型のイノベーションの可能性を解き放てるだろう」、「障壁を減ら」してもらいたいものだ。
・『先端技術分野での投資が重要になる 官僚的なやり方を合理化しても、中国の巨額の投資に対抗するにはまだ足りない。中国は新興の軍民両用の技術に投資して、データ主導の経済と軍事力を前進させている。アメリカが一段と能力を高め、攻撃的になる人民解放軍に対して格の違いを見せつけるほどの優位性を保つには、政府と民間セクターによるAIやロボット工学、拡張・仮想現実、材料工学といった技術分野への投資が重要となるだろう。 インド太平洋地域にまたがる多国間の防衛協力も焦点であり、将来をにらんだ防衛能力の共同開発にまで広げる必要がある。その最終的なゴールは、武力の行使によって目的を達成することは不可能だと中国共産党を納得させることである。宇宙やサイバー空間を防衛する能力の開発における多国間協力も、これらのせめぎ合いの対象となっている領域(ドメイン)への中国の侵略を食い止める効果が期待される。 また、台湾の防衛能力は中国を遠ざけておくのに十分なほど強固でなければならない。中国が台湾に対して抱く計画は多くの犠牲をもたらす戦争につながりかねず、戦火は東アジアの大部分に広がる可能性もある』、「アメリカが一段と能力を高め、攻撃的になる人民解放軍に対して格の違いを見せつけるほどの優位性を保つには、政府と民間セクターによるAIやロボット工学、拡張・仮想現実、材料工学といった技術分野への投資が重要となるだろう」、「台湾の防衛能力は中国を遠ざけておくのに十分なほど強固でなければならない」、その通りだ。
・『「法の支配」を民主主義国の弱みと捉える中国 我々の自由市場を劣後した経済システムだとみなす中国共産党は、アメリカやその他の民主主義の国々における法の支配という原理も我々の相対的な弱みだと位置づけている。中国共産党にとって法を至上なものとする考え方は受け入れがたい障害物であり、法の前ではすべての人々を平等に扱うという要件も、法の適用にあたっては主観を排して公平にあたるという基準も中国共産党は退ける。 しかし、ここでも中国が相手の弱みと捉えているものは、実際には自由で開かれた国々の優位性の基盤をなしており、我々はそれを中国共産党との競争に適用しなければならない。 例えば、中国のスパイ行為に対抗するために必要な情報を各国の国民や企業、政府に与えるのも法の支配であり、具体的には法的に適正な手続きの下で行われる捜査(その結果は公表される)である。 2019年になって、中国製の通信機器で構築されたインフラと、持続的なサイバー攻撃によるスパイ活動の組み合わせは、経済の安定や国家の安全保障に深刻な脅威となることが判明した。そこで、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、台湾はそろって中国の通信関連企業のファーウェイ(華為技術)を自らの通信網から排除し、他の国々も追随するようにと訴えた。 2020年2月になると、アメリカの司法省はファーウェイとその複数の子会社が謀議の上で企業秘密を盗み出し、不当な利益を得たとして起訴した。法執行機関による捜査は引き続き重要な役割を果たすだろう。ただし、中国共産党はあまりに多くの大学や研究機関、企業に浸透しており、中国の産業スパイの全容を暴くには、調査報道のジャーナリストたちを含めた総がかりの対応が求められる。 表現の自由、起業の自由、そして法の下での保護は互いに欠かせない関係にある。そして、これらが一体となって我々に競争上の優位性を与える。それは、中国の産業スパイやその他の中国からの経済的な攻勢に対抗する上で役立つばかりか、中国共産党の政策への批判を控えさせ、逆に支持させることを狙って仕掛けてくる影響力拡大のための活動を打ち負かす際にも有効だ』、「表現の自由、起業の自由、そして法の下での保護は互いに欠かせない関係にある。そして、これらが一体となって我々に競争上の優位性を与える。それは、中国の産業スパイやその他の中国からの経済的な攻勢に対抗する上で役立つばかりか、中国共産党の政策への批判を控えさせ、逆に支持させることを狙って仕掛けてくる影響力拡大のための活動を打ち負かす際にも有効だ」、その通りである。
次に、本年5月9日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの池上 彰氏による「池上氏解説「米国vs中国が険悪」日本はどうなる? 両国の厳しい対立は日本にも大きく関係する」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/584132
・『今、アメリカと中国の関係がここ数十年で一番険悪になっているといわれています。米中対立はアメリカのトランプ前大統領の時代に激しくなりましたが、バイデン大統領に代わってからも一向に収まる気配がありません。 「2つの大国がもめてるだけ。自分には関係ないや」と思っている人がいるかもしれませんが、それは違います。世界は「米中新冷戦」の時代に入ったともいわれています。両国の厳しい対立は日本にも大きく関係してくるのです。 そもそもこんな事態になったのはなぜでしょうか。米中の対立で、日本はどうなるのか?『20歳の自分に教えたい現代史のきほん』(池上彰+「池上彰のニュースそうだったのか!!」スタッフ・著)より、一部を紹介します』、興味深そうだ。
・『台湾有事で米中戦争が勃発!? 2021年1月、中国側からこんな発言が飛び出しました。「台湾独立を目指す勢力に本気で告げる。(中略)台湾独立は戦争を意味する」。 極めて稀なことですが、中国国防省の呉謙報道官が「戦争」に言及しました。台湾は独立したほうがいいのではないかと言っている人も台湾の中にはいます。しかし、もしそんなことをやろうとしたら戦争になるぞと中国が脅したわけです。 中国と台湾が戦争になったら台湾を助けに駆けつけるのはアメリカです。 ①アメリカは台湾を守るために様々な武器を台湾に売ることができる。 ②台湾が軍事攻撃などを受けた場合、アメリカはそれに適切に対応する。 アメリカが1979年に制定した台湾関係法という法律に、こういった内容が盛り込まれています。これは条約ではありませんが、この法律ができたことでアメリカと台湾の関係は事実上の軍事同盟になったのです。 したがって、いざというときは、アメリカは国内の法律に基づいて台湾を助けようとします。そうなれば必然的に台湾をめぐってアメリカと中国が衝突することになり、米中間の戦争になりかねないということです。 2021年3月、アメリカ軍の司令官が「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する恐れがある」と発言してニュースになりました。侵攻するとは、軍事攻撃を行うということ。もし中国が台湾に軍事攻撃を仕掛けたら、アメリカはどう動くでしょうか』、国交がないので、条約を結ぶことが出来ず、代わりに「台湾関係法という法律」で定めたようだ。
・『日本にある米軍基地から出動 アメリカ軍が台湾を応援するために出動するとなると、どこから出動すると思いますか?台湾に一番近い沖縄や佐世保、横須賀などの米軍基地から出動するはずです。 今、沖縄からアメリカ軍の船が台湾に向かって出動したとします。中国から見たとき、台湾を攻める上でアメリカの船は邪魔になるため、おそらくこれを攻撃するでしょう。もし沖縄から出港した直後にアメリカの船が中国から攻撃されたら、日本の自衛隊はどうしますか?黙って見ていますか? 別のシナリオも考えられます。沖縄からアメリカ軍が出動するということになれば、中国はその前に沖縄の基地にいるアメリカ軍を叩こうとするかもしれない。そのときは沖縄の基地にミサイルが飛んでくることもあり得ます。 この例からもわかるように、私たちは「これはアメリカと中国の台湾をめぐる対立だ」と何となく他人事のように思っているところがありますが、台湾で軍事衝突が起きたら日本も巻き込まれるのです。 そこで近年、日本や世界の国々である取り組みが進んでいます。それが中国包囲網の形成です。 まず、ファイブアイズというのがあります。文字通り「5つの目」のことで、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが機密情報を共有するために結んだ協定です。この5カ国がお互いに情報を交換しながらスパイ活動での連携を取り合っています。 もう1つが、最近よくニュースに出てくるクアッドです。 クアッド(quad)は英語で「4つの」を意味する言葉。日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国で中国に対抗していこうという枠組みです。ただ、4カ国のうちインドの立場は特殊です。 というのは、伝統的にインドは「非同盟主義」といって、特定の陣営に肩入れしない、いわば全方位外交をとってきたからです。中国は脅威ではあるけれども、できれば敵対したくないと考えています。 そこでアメリカは21年9月、イギリス、オーストラリアと3カ国でオーカスという枠組みを発足させました。それぞれの国(「Australia」「United Kingdom」「UnitedStates」)の頭文字を取ってオーカス(AUKUS)です。 日本は憲法上の制約から軍事面での協力には限度があり、インドは非同盟主義です。この点を考慮して、中国の動きを抑えるため3カ国で軍事同盟を作ったのです』、「ファイブアイズ」は「5カ国がお互いに情報を交換しながらスパイ活動での連携を取り合っています」、「クアッド」は「4カ国で中国に対抗していこうという枠組み」、「AUKUS」は「中国の動きを抑えるため3カ国で軍事同盟」、対中国では3つの枠組みが出来たようだ。
・『一連の動きに中国も反応し始めている 一連の動きに中国も反応し、早速新たな動きを見せ始めました。 アメリカが中国包囲網を作るというなら、その中国包囲網をさらに外側から包囲するような新たな包囲網を作ろうということで、反米ネットワーク作りに余念がありません。 ロシアとの関係を強化し、トルコやイラン、さらに中東のアラブ諸国の中でバイデン政権になってからアメリカとの関係がギクシャクしている国などを取り込んで、アメリカ包囲網を作ろうとしています。 世界を舞台にアメリカと中国がそれぞれ包囲網を作ろうと動いていて、地球レベルで今、それぞれが陣地の取り合いをしている。それが現在の状況です。そういうなかで日本はどう行動するのかが今まさに問われているのです』、「中国」は南太平洋諸島に王毅外相を派遣して安保条約を結ぼうとしたが、ギリギリになって米豪が巻き返したことで、不発に終わった。このように米中間の摩擦は極度に緊張しつぁ段階にあるようだ。
第三に、5月30日付け文春オンラインが掲載した国際ジャーナリストの山田敏弘氏による「「自衛隊に中国系メーカーのPCが配られて唖然」「LINEの情報もダダ漏れ」“ファーウェイ排除”を進めない日本の超危険 『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』 #3」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/54499
・『中国への情報漏えいを恐れて、本格的な「ファーウェイ排除」を進めるのがアメリカだ。2018年から同盟国に対し、5G通信機器などでファーウェイ製品の排除を要請している。ところが、この問題に対して日本はいまだに明確な対策を打てていない。 危機意識の低いこの国はどうなってしまうのか? 国際ジャーナリストの山田敏弘氏による新刊『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/#1、#2を読む)』、興味深そうだ。
・『世界が進める「ファーウェイ排除」 ここまで見てきたアメリカとロシア・中国の争い。そしてそこに巻き込まれる欧州。もちろん日本も他人事ではない。世界規模の覇権争いが続く中で、日本はどういう立場を取るべきなのか。実は日本は非常に中途半端な姿勢を見せている。 その一例が、ファーウェイ排除である。アメリカは2018年成立の国防権限法により本格的にファーウェイ排除措置がとられるようになってから、同盟国に5G通信機器などでファーウェイ製品の排除を要請した。10年も前から米政府はファーウェイを安全保障のリスクだと結論づけて警戒しており、国防権限法の前から国防総省などは米軍基地での使用禁止措置などをとっていた。 オーストラリアはすぐに反応し、同年のうちに安全保障への脅威からファーウェイを禁止にする予定であると発表した。 では、日本はどう対応したのか。米政府のファーウェイ排除要請の直後、「読売新聞」など大手メディアは、日本政府もファーウェイなどの製品を政府調達から排除すると報じた。 ロイター通信や香港の「サウス・チャイナ・モーニングポスト」、オーストラリアの「シドニー・モーニング・ヘラルド」など海外のメディアでも大きく報じられている。この動きを受けて、中国商務省は日本政府に対して、「日中関係に悪影響を及ぼす可能性がある」と脅しもかけてきた。 こうした動きをみれば、多くの人が日本政府もファーウェイ製品を排除したと考えるだろう。 ところが、である』、「中国商務省は日本政府に対して、「日中関係に悪影響を及ぼす可能性がある」と脅しもかけてきた」、初めて知った。
・『自衛隊に中国系PCが支給される始末 先日、日本のサイバーセキュリティの司令塔である内閣サイバーセキュリティセンター(NISC=ニスク)の関係者に話を聞いたところ、「各省庁の調達時に、ある特定メーカーを名指しして排除はしていない」と言うのだ。さらに2020年12月に平井卓也デジタル改革担当相(当時)も記者会見で「我が国のこの申し合わせでは、特定の事業者とか機器を名指しで排除するような記載はしていません」と発言している。 防衛省関係者もこう話す。 「機会均等という観点で、調達にも特定の企業を排除するということはしないのが防衛省。さらに備品などもなるべく安く購入できるならそちらを選ぶこともあり、セキュリティがトッププライオリティになっていない現実がある」 さる自衛隊関係者も最近、「これだけ(スパイ疑惑が)言われているのに、職員に中国系のメーカーのノートパソコンが配られて唖然とした」と嘆いていた。 日本政府の危機意識は欧米に比べて圧倒的に低いのが現実なのだ。 あらためてファーウェイの日本語公式サイトをチェックしてみた(2022年3月22日閲覧)。すると、Q&Aの項目にこんな記述が掲載されていた。 Q:ファーウェイは日本の5Gネットワーク構築から排除されているのですか? A:日本政府が発表した調達ガイドラインは、特定の国や会社について詳細を述べたものではありません。 この記述を見ると日本からは、ファーウェイ製品が排除されていないとしか読めない。 ファーウェイについては、さらにこんな話もある。 中国には「国家情報法」という、個人も企業もスパイ組織に協力しなければいけない法律がある。実はこれが思いがけず、日本人にも影響を及ぼす問題が発生しているのだ』、「自衛隊に中国系PCが支給される始末」、「備品などもなるべく安く購入できるならそちらを選ぶこともあり、セキュリティがトッププライオリティになっていない現実がある」、とんでもないことだ。
・『「LINEのユーザーデータ」も中国にダダ漏れ それが、2021年3月に「朝日新聞」の報道で発覚した、無料通信アプリLINEのサーバー問題である。通信アプリとして国内最大の8600万人のユーザーをもつLINEのユーザーデータが、中国の関連企業で閲覧可能になっていたと判明し、大きな騒ぎになった。実際に中国人4人がLINEの技術開発に関わる際にデータにアクセスできていたと、LINE側は認めている。 もともと韓国ネイバー社の下に作られたLINEだが、本国の韓国よりも日本で人気のアプリになった。 LINEの運営会社幹部は筆者にこう話す。 「LINEの開発部門を韓国側が担ってきた。日本の運営会社からは開発をコントロールしづらい環境にありました。その韓国側が中国法人に下請けさせ、そこで働く中国人たちが日本人のデータにアクセスできるようになっていたのが実態です」 言うまでもなく、中国の国家情報法によれば、こうした中国法人の扱うデータも政府が手に入れることが可能になる。 ただこの幹部はこれまで明らかになっていなかった事実をこう暴露する。 「LINEの開発部門はAIの開発も進めており、できる限りのデータを蓄積させたがっていたのです。そのために、LINEを使う大勢の日本人の写真や動画、ファイルといったデータを韓国に置いているサーバーに保存していました。今回、批判を浴びたことから、現在はすべて日本で保存するように変わりました。ですがそれよりも問題なのは、日本人のデータを保存していた韓国側のサーバーなどの機器が、中国のファーウェイ製だったことです」 ここまで見てきたように、ファーウェイへの疑惑を顧みると、この事実の重みがわかるだろう。我々、個人がファーウェイ製品を使わないと決めていても、世界がインターネットでつながっている現在、どこで情報が把握されているのかわからないのだ』、「LINE」は「サーバー」を「韓国」から「日本」に移したが、「サーバーなどの機器が、中国のファーウェイ製だった」、とはどこまでいっても安さ優先の企業のようだ。
先ずは、昨年10月12日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元アメリカ国家安全保障担当大統領補佐のH・R・マクマスター氏による「知らぬ間に中国の国民抑圧に加担する、日米欧の民間企業」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00373/100400002/
・『中国側と技術開発などで協業している日本や欧米の企業は数多いが、いつの間にか技術を転用され、中国共産党が国民を監視したり人民解放軍の能力を向上させたりするために利用されているケースがある。また、新技術の開発や投資でも、日米欧は中国に後れをとっている。対抗するためにはどのような政策が必要なのか。 トランプ政権の国家安全保障担当大統領補佐官を務め、歴史的な対中政策の転換を主導したH・R・マクマスター氏の著作『戦場としての世界 自由世界を守るための闘い』から一部抜粋して紹介する。 ※本記事の内容は本書からの抜粋で著者個人の見解。タイトル、見出し、写真選定は編集部によるもの。写真はイメージ』、「歴史的な対中政策の転換を主導した」人物の著作とは興味深そうだ。
・『開かれた社会に付け入ろうとする中国共産党 中国共産党は、自分たちの中央集権型の国家主義的な経済システムには優位性が備わっていて、特に官、産、学、軍を巧みに調整する能力で並ぶものはないと自負している。そして、アメリカなどの分権的で自由市場を中心とする経済システムは中央から指令を下す中国の戦略、例えば「中国製造2025」の産業政策や「一帯一路」構想、軍民融合の政策に太刀打ちできないと見る。 これに対抗するため、アメリカをはじめとする自由市場型の経済システムを持つ国々は、中国からの侵略の手をはねのけつつ、分権的な構造と制約のない起業家精神の発露こそが競争上、優位にあることを示さなければならない。 ここで大きなカギを握るのは民間セクターである。新しい技術の開発と実用化の最前線にいる企業や学術機関にとって、中国に対する油断は禁物であり、彼らがルールを破ってでも、開かれた社会と自由市場型の経済に付け入ろうと企(たくら)んでいることを認識する必要がある。 競争上の優位性を維持するための最初のステップは、中国による我々の技術の窃盗を取り締まることである。海外からの対米投資の影響を国家安全保障上の観点から検証する作業を経て大がかりな改革が実現したものの、効果的な防御策を継続的に追加していくことが求められる。 具体的には、アメリカ企業に対して、中国に関連した法人から投資を受け入れたり、中国側から技術移転の要請があったり、また、自らが中国共産党の中核的な技術の開発や人民解放軍の近代化のプログラムに参加したりする場合には報告させることである。 中国は国家資本主義のモデルを広めることだけでなく、監視警察国家の完成を目指してアメリカ経済の開放性に乗じようとしている。それを防ぐ取り組みには改善の余地が大いにある。 法の支配と個人の権利を重視する国々では、多くの大学、研究機関、そして企業が承知の上で、あるいは知らないうちに中国側に加担し、中国共産党が国民を抑圧する技術を実際に使い、また、人民解放軍が自らの能力を引き上げることに手を貸している。これらは軍民両用の技術があるために生じている。 民間セクターは新たな協力先を探し、自由市場型の経済や代議制、法の支配を尊重する姿勢を共有できる相手と組むべきである。多くの企業が監視技術、人工知能(AI)、遺伝子工学などの分野で中国側と合弁や提携を進め、結果的に中国共産党が国内の治安対策に適した技術を開発することを助けている。他にも複数の企業が中国からの投資を受け入れ、中国共産党はそれらを糸口に必要な技術にアクセスしている。 多くの事例からもう一つ挙げれば、マサチューセッツ州に本社を置くある企業が提供した遺伝子抽出装置は、中国共産党が新疆でウイグル族の住民を追跡するのに役立った。また、グーグルは中国からハッカー攻撃を受け、中国共産党によって国民が情報にアクセスできないようにサービスを遮断されたが、同社はアメリカの国防総省とのAIでの協業は拒んだ。 中国の国民を抑圧するための取り組みだと分かった上で、あるいは、いつの日にか同じアメリカ市民に対して行使されかねない軍事能力を構築する計画だと分かった上で中国共産党に協力する企業は、罰せられなければならない』、「民間セクターは新たな協力先を探し、自由市場型の経済や代議制、法の支配を尊重する姿勢を共有できる相手と組むべきである。多くの企業が監視技術、人工知能(AI)、遺伝子工学などの分野で中国側と合弁や提携を進め、結果的に中国共産党が国内の治安対策に適した技術を開発することを助けている。他にも複数の企業が中国からの投資を受け入れ、中国共産党はそれらを糸口に必要な技術にアクセスしている」、「中国の国民を抑圧するための取り組みだと分かった上で、あるいは、いつの日にか同じアメリカ市民に対して行使されかねない軍事能力を構築する計画だと分かった上で中国共産党に協力する企業は、罰せられなければならない」、その通りだ。
・『新しい技術の採用で優位に立つ中国 アメリカ、ヨーロッパ、日本の資本市場での審査の厳格化も、企業が中国共産党の権威主義的な目標に向けた動きに加担することを制限する上で役立つだろう。国内での人権侵害や国際条約への違反行為に直接的に、あるいは間接的に関与している多くの中国企業がアメリカの証券取引所に上場している。これらの企業は、アメリカおよび他の西側諸国の投資家たちからの恩恵に与っている。 上場中国企業は全部で700社余り。このうちニューヨーク証券取引所に86社、ナスダック市場に62社が上場し、規制の緩い店頭市場では500を超す銘柄が取引されている。上場廃止の候補の1社がハイクビジョン(杭州海康威視数字技術)だ。ウイグル族の住民たちを特定し、行動を監視するための顔認証技術を持ち、同社が生産する監視カメラは新疆の強制収容所の壁に並んでいる。 同社は、親会社で国有の中国電子科技集団と共にアメリカの商務省のエンティティ・リスト(多くの人々が「ブラック・リスト」と呼ぶもの)に掲載されている。我々が持つ自由市場型の経済は世界の資本の大半を管理しているという意味では、中国の経済よりもはるかに大きな影響力がある。 しかし、防衛のための態勢はまだ不十分だ。自由で開かれた国々は、改革と投資を通じて装備面での競争力をテコ入れする必要がある。中国のほうが新しい技術の採用という点では明らかに優勢だ。上意下達型の意思決定システム、政府の補助金の存在、リスクを恐れない姿勢、アメリカやその他の民主主義の国々でよく見られるような規制や官僚制度の壁が比較的少ないこと、倫理的な障害がないこと(例えば遺伝子工学や自立型兵器の分野で)など、これらすべてが民生分野と人民解放軍の現場での技術の迅速な利用を促している。 アメリカもその他の国々も倫理面で妥協してはならないが、中国と比べた場合の弱点の多くは、実は自分で作り出したものだ。一例を示せば、アメリカの国家安全保障にかかわる機関には官僚的な硬直性という病状が長年、表れていた。国防関連の予算計上と装備の調達が遅くて柔軟性に欠ける点も長らく対策が検討されてきたが、効果のある見直しはほとんど実現していない。今度も改革を実現できなかった場合、代償はあまりに大きい。 装備の調達計画を複数年の継続予算に組み入れて予測可能性を持たせることができずにいることや、込み入ったままになっている装備調達の仕組み、そして防衛近代化策が先送りになっていることはもはや許容できないほどだ。 また、国防総省と取引を始めることは本当に難しく、それが最も革新的な中小企業にこの国の防衛能力への貢献を思いとどまらせ、ひいては新しい技術が日の目を見ずに終わる結果をもたらしている。何年も時間をかけて研究開発を進め、能力を一つずつ設計・検証していくやり方はもはや通用しない。 人民解放軍はこれまで続いたアメリカの軍事的優位を無効にするべく、新たな能力や対抗手段を開発している。つまり、国防総省と米軍は優雅に存在感を失っていくリスクに直面している。民間セクターと国家安全保障に関連した機関・産業との間の障壁を減らせば、この重要な分野での自由市場型のイノベーションの可能性を解き放てるだろう』、「民間セクターと国家安全保障に関連した機関・産業との間の障壁を減らせば、この重要な分野での自由市場型のイノベーションの可能性を解き放てるだろう」、「障壁を減ら」してもらいたいものだ。
・『先端技術分野での投資が重要になる 官僚的なやり方を合理化しても、中国の巨額の投資に対抗するにはまだ足りない。中国は新興の軍民両用の技術に投資して、データ主導の経済と軍事力を前進させている。アメリカが一段と能力を高め、攻撃的になる人民解放軍に対して格の違いを見せつけるほどの優位性を保つには、政府と民間セクターによるAIやロボット工学、拡張・仮想現実、材料工学といった技術分野への投資が重要となるだろう。 インド太平洋地域にまたがる多国間の防衛協力も焦点であり、将来をにらんだ防衛能力の共同開発にまで広げる必要がある。その最終的なゴールは、武力の行使によって目的を達成することは不可能だと中国共産党を納得させることである。宇宙やサイバー空間を防衛する能力の開発における多国間協力も、これらのせめぎ合いの対象となっている領域(ドメイン)への中国の侵略を食い止める効果が期待される。 また、台湾の防衛能力は中国を遠ざけておくのに十分なほど強固でなければならない。中国が台湾に対して抱く計画は多くの犠牲をもたらす戦争につながりかねず、戦火は東アジアの大部分に広がる可能性もある』、「アメリカが一段と能力を高め、攻撃的になる人民解放軍に対して格の違いを見せつけるほどの優位性を保つには、政府と民間セクターによるAIやロボット工学、拡張・仮想現実、材料工学といった技術分野への投資が重要となるだろう」、「台湾の防衛能力は中国を遠ざけておくのに十分なほど強固でなければならない」、その通りだ。
・『「法の支配」を民主主義国の弱みと捉える中国 我々の自由市場を劣後した経済システムだとみなす中国共産党は、アメリカやその他の民主主義の国々における法の支配という原理も我々の相対的な弱みだと位置づけている。中国共産党にとって法を至上なものとする考え方は受け入れがたい障害物であり、法の前ではすべての人々を平等に扱うという要件も、法の適用にあたっては主観を排して公平にあたるという基準も中国共産党は退ける。 しかし、ここでも中国が相手の弱みと捉えているものは、実際には自由で開かれた国々の優位性の基盤をなしており、我々はそれを中国共産党との競争に適用しなければならない。 例えば、中国のスパイ行為に対抗するために必要な情報を各国の国民や企業、政府に与えるのも法の支配であり、具体的には法的に適正な手続きの下で行われる捜査(その結果は公表される)である。 2019年になって、中国製の通信機器で構築されたインフラと、持続的なサイバー攻撃によるスパイ活動の組み合わせは、経済の安定や国家の安全保障に深刻な脅威となることが判明した。そこで、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、日本、台湾はそろって中国の通信関連企業のファーウェイ(華為技術)を自らの通信網から排除し、他の国々も追随するようにと訴えた。 2020年2月になると、アメリカの司法省はファーウェイとその複数の子会社が謀議の上で企業秘密を盗み出し、不当な利益を得たとして起訴した。法執行機関による捜査は引き続き重要な役割を果たすだろう。ただし、中国共産党はあまりに多くの大学や研究機関、企業に浸透しており、中国の産業スパイの全容を暴くには、調査報道のジャーナリストたちを含めた総がかりの対応が求められる。 表現の自由、起業の自由、そして法の下での保護は互いに欠かせない関係にある。そして、これらが一体となって我々に競争上の優位性を与える。それは、中国の産業スパイやその他の中国からの経済的な攻勢に対抗する上で役立つばかりか、中国共産党の政策への批判を控えさせ、逆に支持させることを狙って仕掛けてくる影響力拡大のための活動を打ち負かす際にも有効だ』、「表現の自由、起業の自由、そして法の下での保護は互いに欠かせない関係にある。そして、これらが一体となって我々に競争上の優位性を与える。それは、中国の産業スパイやその他の中国からの経済的な攻勢に対抗する上で役立つばかりか、中国共産党の政策への批判を控えさせ、逆に支持させることを狙って仕掛けてくる影響力拡大のための活動を打ち負かす際にも有効だ」、その通りである。
次に、本年5月9日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの池上 彰氏による「池上氏解説「米国vs中国が険悪」日本はどうなる? 両国の厳しい対立は日本にも大きく関係する」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/584132
・『今、アメリカと中国の関係がここ数十年で一番険悪になっているといわれています。米中対立はアメリカのトランプ前大統領の時代に激しくなりましたが、バイデン大統領に代わってからも一向に収まる気配がありません。 「2つの大国がもめてるだけ。自分には関係ないや」と思っている人がいるかもしれませんが、それは違います。世界は「米中新冷戦」の時代に入ったともいわれています。両国の厳しい対立は日本にも大きく関係してくるのです。 そもそもこんな事態になったのはなぜでしょうか。米中の対立で、日本はどうなるのか?『20歳の自分に教えたい現代史のきほん』(池上彰+「池上彰のニュースそうだったのか!!」スタッフ・著)より、一部を紹介します』、興味深そうだ。
・『台湾有事で米中戦争が勃発!? 2021年1月、中国側からこんな発言が飛び出しました。「台湾独立を目指す勢力に本気で告げる。(中略)台湾独立は戦争を意味する」。 極めて稀なことですが、中国国防省の呉謙報道官が「戦争」に言及しました。台湾は独立したほうがいいのではないかと言っている人も台湾の中にはいます。しかし、もしそんなことをやろうとしたら戦争になるぞと中国が脅したわけです。 中国と台湾が戦争になったら台湾を助けに駆けつけるのはアメリカです。 ①アメリカは台湾を守るために様々な武器を台湾に売ることができる。 ②台湾が軍事攻撃などを受けた場合、アメリカはそれに適切に対応する。 アメリカが1979年に制定した台湾関係法という法律に、こういった内容が盛り込まれています。これは条約ではありませんが、この法律ができたことでアメリカと台湾の関係は事実上の軍事同盟になったのです。 したがって、いざというときは、アメリカは国内の法律に基づいて台湾を助けようとします。そうなれば必然的に台湾をめぐってアメリカと中国が衝突することになり、米中間の戦争になりかねないということです。 2021年3月、アメリカ軍の司令官が「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する恐れがある」と発言してニュースになりました。侵攻するとは、軍事攻撃を行うということ。もし中国が台湾に軍事攻撃を仕掛けたら、アメリカはどう動くでしょうか』、国交がないので、条約を結ぶことが出来ず、代わりに「台湾関係法という法律」で定めたようだ。
・『日本にある米軍基地から出動 アメリカ軍が台湾を応援するために出動するとなると、どこから出動すると思いますか?台湾に一番近い沖縄や佐世保、横須賀などの米軍基地から出動するはずです。 今、沖縄からアメリカ軍の船が台湾に向かって出動したとします。中国から見たとき、台湾を攻める上でアメリカの船は邪魔になるため、おそらくこれを攻撃するでしょう。もし沖縄から出港した直後にアメリカの船が中国から攻撃されたら、日本の自衛隊はどうしますか?黙って見ていますか? 別のシナリオも考えられます。沖縄からアメリカ軍が出動するということになれば、中国はその前に沖縄の基地にいるアメリカ軍を叩こうとするかもしれない。そのときは沖縄の基地にミサイルが飛んでくることもあり得ます。 この例からもわかるように、私たちは「これはアメリカと中国の台湾をめぐる対立だ」と何となく他人事のように思っているところがありますが、台湾で軍事衝突が起きたら日本も巻き込まれるのです。 そこで近年、日本や世界の国々である取り組みが進んでいます。それが中国包囲網の形成です。 まず、ファイブアイズというのがあります。文字通り「5つの目」のことで、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが機密情報を共有するために結んだ協定です。この5カ国がお互いに情報を交換しながらスパイ活動での連携を取り合っています。 もう1つが、最近よくニュースに出てくるクアッドです。 クアッド(quad)は英語で「4つの」を意味する言葉。日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国で中国に対抗していこうという枠組みです。ただ、4カ国のうちインドの立場は特殊です。 というのは、伝統的にインドは「非同盟主義」といって、特定の陣営に肩入れしない、いわば全方位外交をとってきたからです。中国は脅威ではあるけれども、できれば敵対したくないと考えています。 そこでアメリカは21年9月、イギリス、オーストラリアと3カ国でオーカスという枠組みを発足させました。それぞれの国(「Australia」「United Kingdom」「UnitedStates」)の頭文字を取ってオーカス(AUKUS)です。 日本は憲法上の制約から軍事面での協力には限度があり、インドは非同盟主義です。この点を考慮して、中国の動きを抑えるため3カ国で軍事同盟を作ったのです』、「ファイブアイズ」は「5カ国がお互いに情報を交換しながらスパイ活動での連携を取り合っています」、「クアッド」は「4カ国で中国に対抗していこうという枠組み」、「AUKUS」は「中国の動きを抑えるため3カ国で軍事同盟」、対中国では3つの枠組みが出来たようだ。
・『一連の動きに中国も反応し始めている 一連の動きに中国も反応し、早速新たな動きを見せ始めました。 アメリカが中国包囲網を作るというなら、その中国包囲網をさらに外側から包囲するような新たな包囲網を作ろうということで、反米ネットワーク作りに余念がありません。 ロシアとの関係を強化し、トルコやイラン、さらに中東のアラブ諸国の中でバイデン政権になってからアメリカとの関係がギクシャクしている国などを取り込んで、アメリカ包囲網を作ろうとしています。 世界を舞台にアメリカと中国がそれぞれ包囲網を作ろうと動いていて、地球レベルで今、それぞれが陣地の取り合いをしている。それが現在の状況です。そういうなかで日本はどう行動するのかが今まさに問われているのです』、「中国」は南太平洋諸島に王毅外相を派遣して安保条約を結ぼうとしたが、ギリギリになって米豪が巻き返したことで、不発に終わった。このように米中間の摩擦は極度に緊張しつぁ段階にあるようだ。
第三に、5月30日付け文春オンラインが掲載した国際ジャーナリストの山田敏弘氏による「「自衛隊に中国系メーカーのPCが配られて唖然」「LINEの情報もダダ漏れ」“ファーウェイ排除”を進めない日本の超危険 『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』 #3」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/54499
・『中国への情報漏えいを恐れて、本格的な「ファーウェイ排除」を進めるのがアメリカだ。2018年から同盟国に対し、5G通信機器などでファーウェイ製品の排除を要請している。ところが、この問題に対して日本はいまだに明確な対策を打てていない。 危機意識の低いこの国はどうなってしまうのか? 国際ジャーナリストの山田敏弘氏による新刊『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/#1、#2を読む)』、興味深そうだ。
・『世界が進める「ファーウェイ排除」 ここまで見てきたアメリカとロシア・中国の争い。そしてそこに巻き込まれる欧州。もちろん日本も他人事ではない。世界規模の覇権争いが続く中で、日本はどういう立場を取るべきなのか。実は日本は非常に中途半端な姿勢を見せている。 その一例が、ファーウェイ排除である。アメリカは2018年成立の国防権限法により本格的にファーウェイ排除措置がとられるようになってから、同盟国に5G通信機器などでファーウェイ製品の排除を要請した。10年も前から米政府はファーウェイを安全保障のリスクだと結論づけて警戒しており、国防権限法の前から国防総省などは米軍基地での使用禁止措置などをとっていた。 オーストラリアはすぐに反応し、同年のうちに安全保障への脅威からファーウェイを禁止にする予定であると発表した。 では、日本はどう対応したのか。米政府のファーウェイ排除要請の直後、「読売新聞」など大手メディアは、日本政府もファーウェイなどの製品を政府調達から排除すると報じた。 ロイター通信や香港の「サウス・チャイナ・モーニングポスト」、オーストラリアの「シドニー・モーニング・ヘラルド」など海外のメディアでも大きく報じられている。この動きを受けて、中国商務省は日本政府に対して、「日中関係に悪影響を及ぼす可能性がある」と脅しもかけてきた。 こうした動きをみれば、多くの人が日本政府もファーウェイ製品を排除したと考えるだろう。 ところが、である』、「中国商務省は日本政府に対して、「日中関係に悪影響を及ぼす可能性がある」と脅しもかけてきた」、初めて知った。
・『自衛隊に中国系PCが支給される始末 先日、日本のサイバーセキュリティの司令塔である内閣サイバーセキュリティセンター(NISC=ニスク)の関係者に話を聞いたところ、「各省庁の調達時に、ある特定メーカーを名指しして排除はしていない」と言うのだ。さらに2020年12月に平井卓也デジタル改革担当相(当時)も記者会見で「我が国のこの申し合わせでは、特定の事業者とか機器を名指しで排除するような記載はしていません」と発言している。 防衛省関係者もこう話す。 「機会均等という観点で、調達にも特定の企業を排除するということはしないのが防衛省。さらに備品などもなるべく安く購入できるならそちらを選ぶこともあり、セキュリティがトッププライオリティになっていない現実がある」 さる自衛隊関係者も最近、「これだけ(スパイ疑惑が)言われているのに、職員に中国系のメーカーのノートパソコンが配られて唖然とした」と嘆いていた。 日本政府の危機意識は欧米に比べて圧倒的に低いのが現実なのだ。 あらためてファーウェイの日本語公式サイトをチェックしてみた(2022年3月22日閲覧)。すると、Q&Aの項目にこんな記述が掲載されていた。 Q:ファーウェイは日本の5Gネットワーク構築から排除されているのですか? A:日本政府が発表した調達ガイドラインは、特定の国や会社について詳細を述べたものではありません。 この記述を見ると日本からは、ファーウェイ製品が排除されていないとしか読めない。 ファーウェイについては、さらにこんな話もある。 中国には「国家情報法」という、個人も企業もスパイ組織に協力しなければいけない法律がある。実はこれが思いがけず、日本人にも影響を及ぼす問題が発生しているのだ』、「自衛隊に中国系PCが支給される始末」、「備品などもなるべく安く購入できるならそちらを選ぶこともあり、セキュリティがトッププライオリティになっていない現実がある」、とんでもないことだ。
・『「LINEのユーザーデータ」も中国にダダ漏れ それが、2021年3月に「朝日新聞」の報道で発覚した、無料通信アプリLINEのサーバー問題である。通信アプリとして国内最大の8600万人のユーザーをもつLINEのユーザーデータが、中国の関連企業で閲覧可能になっていたと判明し、大きな騒ぎになった。実際に中国人4人がLINEの技術開発に関わる際にデータにアクセスできていたと、LINE側は認めている。 もともと韓国ネイバー社の下に作られたLINEだが、本国の韓国よりも日本で人気のアプリになった。 LINEの運営会社幹部は筆者にこう話す。 「LINEの開発部門を韓国側が担ってきた。日本の運営会社からは開発をコントロールしづらい環境にありました。その韓国側が中国法人に下請けさせ、そこで働く中国人たちが日本人のデータにアクセスできるようになっていたのが実態です」 言うまでもなく、中国の国家情報法によれば、こうした中国法人の扱うデータも政府が手に入れることが可能になる。 ただこの幹部はこれまで明らかになっていなかった事実をこう暴露する。 「LINEの開発部門はAIの開発も進めており、できる限りのデータを蓄積させたがっていたのです。そのために、LINEを使う大勢の日本人の写真や動画、ファイルといったデータを韓国に置いているサーバーに保存していました。今回、批判を浴びたことから、現在はすべて日本で保存するように変わりました。ですがそれよりも問題なのは、日本人のデータを保存していた韓国側のサーバーなどの機器が、中国のファーウェイ製だったことです」 ここまで見てきたように、ファーウェイへの疑惑を顧みると、この事実の重みがわかるだろう。我々、個人がファーウェイ製品を使わないと決めていても、世界がインターネットでつながっている現在、どこで情報が把握されているのかわからないのだ』、「LINE」は「サーバー」を「韓国」から「日本」に移したが、「サーバーなどの機器が、中国のファーウェイ製だった」、とはどこまでいっても安さ優先の企業のようだ。
タグ:米中経済戦争 (その17)(知らぬ間に中国の国民抑圧に加担する 日米欧の民間企業、池上氏解説「米国vs中国が険悪」日本はどうなる? 両国の厳しい対立は日本にも大きく関係する、「自衛隊に中国系メーカーのPCが配られて唖然」「LINEの情報もダダ漏れ」“ファーウェイ排除”を進めない日本の超危険 『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』 #3) 日経ビジネスオンライン H・R・マクマスター氏による「知らぬ間に中国の国民抑圧に加担する、日米欧の民間企業」 「歴史的な対中政策の転換を主導した」人物の著作とは興味深そうだ。 「民間セクターは新たな協力先を探し、自由市場型の経済や代議制、法の支配を尊重する姿勢を共有できる相手と組むべきである。多くの企業が監視技術、人工知能(AI)、遺伝子工学などの分野で中国側と合弁や提携を進め、結果的に中国共産党が国内の治安対策に適した技術を開発することを助けている。他にも複数の企業が中国からの投資を受け入れ、中国共産党はそれらを糸口に必要な技術にアクセスしている」、「中国の国民を抑圧するための取り組みだと分かった上で、あるいは、いつの日にか同じアメリカ市民に対して行使されかねない軍事能力を構 「民間セクターと国家安全保障に関連した機関・産業との間の障壁を減らせば、この重要な分野での自由市場型のイノベーションの可能性を解き放てるだろう」、「障壁を減ら」してもらいたいものだ。 「アメリカが一段と能力を高め、攻撃的になる人民解放軍に対して格の違いを見せつけるほどの優位性を保つには、政府と民間セクターによるAIやロボット工学、拡張・仮想現実、材料工学といった技術分野への投資が重要となるだろう」、「台湾の防衛能力は中国を遠ざけておくのに十分なほど強固でなければならない」、その通りだ。 「表現の自由、起業の自由、そして法の下での保護は互いに欠かせない関係にある。そして、これらが一体となって我々に競争上の優位性を与える。それは、中国の産業スパイやその他の中国からの経済的な攻勢に対抗する上で役立つばかりか、中国共産党の政策への批判を控えさせ、逆に支持させることを狙って仕掛けてくる影響力拡大のための活動を打ち負かす際にも有効だ」、その通りである。 東洋経済オンライン 池上 彰氏による「池上氏解説「米国vs中国が険悪」日本はどうなる? 両国の厳しい対立は日本にも大きく関係する」 国交がないので、条約を結ぶことが出来ず、代わりに「台湾関係法という法律」で定めたようだ。 「ファイブアイズ」は「5カ国がお互いに情報を交換しながらスパイ活動での連携を取り合っています」、「クアッド」は「4カ国で中国に対抗していこうという枠組み」、「AUKUS」は「中国の動きを抑えるため3カ国で軍事同盟」、対中国では3つの枠組みが出来たようだ。 「中国」は南太平洋諸島に王毅外相を派遣して安保条約を結ぼうとしたが、ギリギリになって米豪が巻き返したことで、不発に終わった。このように米中間の摩擦は極度に緊張しつぁ段階にあるようだ。 文春オンライン 山田敏弘氏による「「自衛隊に中国系メーカーのPCが配られて唖然」「LINEの情報もダダ漏れ」“ファーウェイ排除”を進めない日本の超危険 『プーチンと習近平 独裁者のサイバー戦争』 #3」 「中国商務省は日本政府に対して、「日中関係に悪影響を及ぼす可能性がある」と脅しもかけてきた」、初めて知った。 「自衛隊に中国系PCが支給される始末」、「備品などもなるべく安く購入できるならそちらを選ぶこともあり、セキュリティがトッププライオリティになっていない現実がある」、とんでもないことだ。 「LINE」は「サーバー」を「韓国」から「日本」に移したが、「サーバーなどの機器が、中国のファーウェイ製だった」、とはどこまでいっても安さ優先の企業のようだ。
日韓関係(その16)(アメリカが「日韓関係改善」を強く迫れない背景 バイデン大統領のアジア訪問で進展はあるか、駐日韓国大使に“知日派”内定も 慰安婦・徴用工の「問題発言」で波紋、在日韓国人差別を描いた国際的大ヒットドラマ「パチンコ」に、在日韓国人が抱く違和感) [外交]
日韓関係については、昨年10月18日に取上げた。今日は、(その16)(アメリカが「日韓関係改善」を強く迫れない背景 バイデン大統領のアジア訪問で進展はあるか、駐日韓国大使に“知日派”内定も 慰安婦・徴用工の「問題発言」で波紋、在日韓国人差別を描いた国際的大ヒットドラマ「パチンコ」に、在日韓国人が抱く違和感)である。
先ずは、本年5月20日付け東洋経済オンラインが掲載したスタンフォード大学講師のダニエル・スナイダー 氏による「アメリカが「日韓関係改善」を強く迫れない背景 バイデン大統領のアジア訪問で進展はあるか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/590592
・『就任してから初めてアジアを訪問するアメリカのジョー・バイデン大統領は、日本と韓国と5日間かけてめぐる、検討課題満載の日程を組んでいる。 ロシアの侵略、中国の大国主義、北朝鮮のミサイルや核実験などに直面し、同盟関係の深化や抑止力の強化について多くの議論を交わす見込みだ。今回はまた、アメリカが経済的関与をないがしろにしているという印象に対処するための緩やかな新しい構想である、インド太平洋経済枠組みの発足も予定されている。 さらに、来訪の最後は、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの準同盟である「クワッド」の首脳が日本で行う首脳会談で締めくくられる予定だ』、確かに「検討課題満載の日程」のようだ。
・『「世界連合をまとめた」と主張できる 元ブッシュ大統領国家安全保障顧問で、ジョージタウン大学のマイケル・グリーン教授は、「大統領の訪問を成功させるための体制は整っている」と話す。 「ウクライナに対応しながら、インド太平洋に注力できる政権であることを、今回訪問することだけでも誇示することができる。そればかりか、ウクライナに侵攻したプーチンに対して、経済的、地政学的、外交的に実に前例のない結果をもたらした世界的連合をまとめ上げることができたのは、アメリカだけだったと主張することもできる」 しかし、バイデン大統領の野心的なアジェンダに明確に含まれていない項目がある。それは、同氏が今回訪問するアメリカの2つの同盟国、日本と韓国の間に依然として横たわるギャップを修復することだ。 韓国の政権が保守派の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に移ったことで、関係の悪化に歯止めをかける機会は生まれている。尹大統領は日本との関係を優先させると公言しており、最初のうちは積極的な交流があった。より重要なことは、尹大統領が、バイデン政権が形成した世界と地域の枠組みに沿って、韓国を再配置しようと動いていることだ。 チャンスはあるとアメリカの高官らは考えているが、アメリカを含むすべての関係諸国がそれを生かすために十分な行動をとるかという疑問は残る。 サプライチェーンの回復力から北朝鮮の脅威まで、ほかの領域では多くの利益を共有しているにもかかわらず、韓国における戦争の歴史と日本の植民地支配の負の遺産という問題は、依然として難しい障壁となっている。日韓両政府は膠着状態にある。両者とも、事態を打開するための次の一手は相手が取るべき、と考えているのだ』、「バイデン大統領の野心的なアジェンダに明確に含まれていない項目がある。それは、・・・日本と韓国の間に依然として横たわるギャップを修復すること」、「日韓両政府は膠着状態にある。両者とも、事態を打開するための次の一手は相手が取るべき、と考えている」、これでは難しそうだ。
・『日韓関係の悪化はアメリカにもマイナス 日本と韓国が正常な関係を回復できないことは、インド太平洋においてアメリカがいる場で価値主導の意図を主張しようとするアメリカの努力を損なうものだ。 同盟国の2カ国が協力できないことで、「日米豪印戦略対話」をより広範な同盟に昇格させることであれ、日本の「自由で開かれたインド太平洋」の構想であれ、この戦略が損なわれてしまう。それによって、中国やロシアにアメリカとその同盟諸国の関係を悪化させるチャンスを与えかねない。 ロシアがウクライナに侵攻したことで、アメリカとヨーロッパが世界中の、特にアジアの同盟諸国を共通の大義に結集しようとしている中、こうした課題の緊急性が一層高まっている。もし、これが民主主義と権威主義の間の闘いであるならば、この日韓の目に見える隔たりは明らかな問題だ。 日韓関係の悪化が始まったのはトランプ政権時代のことだが、その当時はこの問題が関心を集めることはほとんどなかった。バイデン政権が登場し、各同盟関係を復活させ強化していくとの方針が打ち出されたことで状況が一変し、この問題が再び関心を集めることとなった。 ここ最近ではアメリカ、日本、韓国の3国間の協力関係の重要性を強調する発言や政府関係者の会合が相次ぐようになっている。しかし、いまだ韓国と日本は戦時中からの負の遺産を克服できておらず、そのことにアメリカ政府関係者は強いフラストレーションを感じており、愚痴を耳にすることもよくある。 バイデン政権には、オバマ政権での要職経験者が多く参画している。中には安倍政権および朴政権の初期に韓日関係の悪化が始まった際に、その関係改善に取り組んだ者もいる。 そして、当時繰り広げられた議論の一部が今また繰り返されている。政府関係者の中には日本と韓国に、両国が連携するのは戦略的に非常に重要なことなのだということを思い返させることに焦点を置きたいと考えている者がいれば、地政学上のメリットで無理やり連携したとしても、関係悪化の根本的な原因である、戦時中の歴史的問題に真正面から取り組んでいくことなくして成功は覚束ないというように考える関係者もいる』、「日韓関係の悪化が始まったのはトランプ政権時代のことだが、その当時はこの問題が関心を集めることはほとんどなかった。バイデン政権が登場し、各同盟関係を復活させ強化していくとの方針が打ち出されたことで状況が一変し、この問題が再び関心を集めることとなった」、(米国)「政府関係者の中には日本と韓国に、両国が連携するのは戦略的に非常に重要なことなのだということを思い返させることに焦点を置きたいと考えている者がいれば、地政学上のメリットで無理やり連携したとしても、関係悪化の根本的な原因である、戦時中の歴史的問題に真正面から取り組んでいくことなくして成功は覚束ないというように考える関係者もいる」、米国側の姿勢も一枚岩ではないようだ。
・『楽観的観測が持たれる状況に 今回、韓国に保守政権が誕生したこと、そして、日本では外務相にワシントン通の林芳正氏を擁する岸田文雄政権に政権運営が移行したということもあり、一部で多少なりの楽観的観測が持たれる状況を生んでいる。 北朝鮮でミサイル発射実験が活発化してきており、さらに核実験再開の準備が着々と進んでいるという状況、そしてウクライナ戦争という世界的に緊迫した情勢が組み合わさることで、日本と韓国が両国の関係を改善し、アメリカを含めた3国間の安全保障協力関係を緊密化していこうとする機運が醸成されることになっているように思われる。 だが、バイデン政権の幹部の中にはーーこれには以前に深く関与した経験を有する者も含まれるのだがーー関係正常化は係争となっている歴史問題についてアメリカの積極的関与、といってもこれは必ずしも仲介を意味するわけではないが、それがなくとも起こりうるものであり、まして和解となればなおさら起こりうるものであるとして、この案に反対する者もいる。 筆者が最近参加した日米関係に関するある非公開の会合で、バイデン政権のある幹部は、「われわれは関与すべきではないとの考えに私は反対する。これはある程度喫緊の事柄である」と述べている。 この幹部は、オフレコを条件に、日韓関係は、クアッドを推進する努力や地域の「自由で開かれたインド太平洋」関係を推進する努力よりはるかに重要であるとまで主張した。加えて、それには第二次世界大戦時代の歴史問題と取り組むことが必要になるであろうことも示唆した。 「アメリカに可能なことのうちで最も重要なことを1つ挙げるとすれば、それは両国関係の本物の改善が実現するよう支援することである。これは高貴かつ重要な努力であり、われわれはこうした努力を払うことを避けて通るべきではない」この幹部は話す』、「バイデン政権のある幹部は、「われわれは関与すべきではないとの考えに私は反対する。これはある程度喫緊の事柄である」」、「日韓関係は、クアッドを推進する努力や地域の「自由で開かれたインド太平洋」関係を推進する努力よりはるかに重要であるとまで主張した。加えて、それには第二次世界大戦時代の歴史問題と取り組むことが必要になるであろうことも示唆」、この「幹部」が「日韓関係」をここまで重視しているとは驚かされた。
・『アメリカが圧力をかけない理由 だがこれまでのところ、今回の歴訪においてバイデン大統領が取り組む予定の1つに加えようとする試みが目に見える形でなされている形跡はまったくない。 それどころか、強調されているのはアメリカが有する計画のうちの別の分野であって、日本と韓国がもしかしたら協力するかもしれないことである。例えば、サプライチェーン(供給網)の強靭さを高めることやインド太平洋におけるデジタルサービス枠組の合意といったこととなっている。 アメリカが目に見える形で圧力をかけていないのは、日韓両国に内政問題があるがゆえに、両国の政府がこの問題を前進させる力が制限されていることが影響しているのかもしれない。 日本の公式見解は、最初の一歩を進める責任は韓国にあるというものだ。日本政府は、韓国が植民地時代及び戦時期に強制労働をさせられた韓国人に補償するため、日本企業の資産を接収する旨の裁判所の判決の執行をたとえ中止させないとしても、遅らせるよう要求している。 日本の政府高官は韓国政府に対し、2015年の両国間合意を復活させることも望んでいる。その合意とは、日本側の資金により基金を創設し、第二次世界大戦中、旧日本軍によって性的奴隷状態に置かれた韓国女性の生存者に補償金を支払うというものだ。 以前の文在寅・前大統領が率いる革新系政権は事実上、この合意を破棄してしまった。結果として、両国による報復措置の連鎖が生じた。この措置には、日本側による韓国向け半導体素材の輸出規制強化が含まれる』、「アメリカが目に見える形で圧力をかけていないのは、日韓両国に内政問題があるがゆえに、両国の政府がこの問題を前進させる力が制限されていることが影響しているのかもしれない」、なるほど。
・『国内問題で大変な尹大統領 尹大統領率いる新政権はすでに、2015年の日韓合意がなお有効であるとの立場を表明している。そして現在、日本企業の資産の差し押さえを阻止する努力が行われていることは明らかだ。ただ、尹大統領は、韓国国民の声を考慮し、日本政府側からの明確な意思表示がないままで、こうした問題に深入りする姿勢は示していない。 同大統領は早くも、野党が多数を占める国会から提起されている重要課題に直面しており、世論調査における大統領の支持率は50%を切っている。この数字は新大統領としては異例の低さであり、6月1日に行われる地方選では大きな試練を迎えることになる。 アジア問題の専門家で、安倍元首相の伝記の著者でもあるトバイアス・ハリス氏は、尹大統領が、岸田首相と比べて政治的に「自由が利かない」状態にあるとみており、次のように話す。 「もし岸田首相が政治家としての勇気を持っているのであれば、同氏側からの意思表示はより踏み込んだものとなり、政治的にもより実行可能なものとなるだろう」 日本政府はなお、文政権との苦い経験を引きずっている。「日本国民は、うまく騙されたと感じている」。この問題に詳しい人物で、バイデン政権に近いアメリカの元高官はこのように話す。そして、「日本人は今、傍観者の立場を取っている」としながらも、「ボールは日本側のコートにある」と付言している。 岸田首相は自民党内部から批判を受けている。首相は党内において、主に、外相時代の2015年に日韓合意の交渉に携わった自身の役目により「親韓派」とみなされてきたのだ。 4月末にドイツのオラフ・ショルツ首相が訪日した際、ベルリンにある「慰安婦」の被害者を記念する銅像の問題を、首相が異例ながら提起する決定を下した背景には、そうした事情があるのかもしれない』、「尹大統領が、岸田首相と比べて政治的に「自由が利かない」状態にあるとみており、次のように話す。 「もし岸田首相が政治家としての勇気を持っているのであれば、同氏側からの意思表示はより踏み込んだものとなり、政治的にもより実行可能なものとなるだろう」」、「「日本人は今、傍観者の立場を取っている」としながらも、「ボールは日本側のコートにある」と付言」、「尹大統領」がそんなに苦しい立場にあるとは初めて知った。そうであれば、「岸田首相」からのアクションの方がカギになりそうだ。
・『アメリカからの「圧力」が必要か 「日本の右派は、日本にとって韓国は必要でないとすでに腹を決めている」とハリス氏は言う。「岸田首相が韓国との協力が重要だと考えているのであれば、それ相応の明確な説明をしなければならないだろう」。 ところで日本の政治指導者らはこれまで、韓国との関係改善というリスクを取るにあたり、特に戦時中の歴史的問題に対処する際にはしばしば、アメリカからの明白な圧力を必要としてきた。バイデン大統領は、この問題に関して個人的な経験を有している。自身が副大統領であった時代、当時の安倍首相と朴大統領との仲裁において主要な役割を果たしたのだ。 今回の訪韓の中で「日韓の歴史問題が再優先課題として議論されることを示唆するものはなにもない」とハリス氏。しかし、水面下で実際の行動が取られる可能性はあると、同氏は言う。「バイデン大統領が同席する中で、歴史問題が大きな比重を占めたとしても、私は驚かない」』、「バイデン大統領は、この問題(戦時中の歴史的問題)に関して個人的な経験を有している」、「水面下で実際の行動が取られる可能性はある」、「バイデン大統領が同席する中で、歴史問題が大きな比重を占めたとしても、私は驚かない」、「水面下」とはいえ、「歴史問題が大きな比重を占め」る「可能性」があるのだろうか。
次に、6月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したビジネスライターの羽田真代氏による「駐日韓国大使に“知日派”内定も、慰安婦・徴用工の「問題発言」で波紋」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304175
・『韓国・尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の初代駐日大使に内定した尹徳敏(ユン・ドクミン)氏は、知日派として知られる国際政治学者だ。尹錫悦政権では日韓関係の改善が期待されるが、中でも大きな課題である慰安婦問題と徴用工問題について、尹徳敏氏が語ったこととは……。 韓国・尹錫悦政権の駐日大使に内定している尹徳敏氏は“知日派”と言われる人物だ。就任前であるが、彼の発言がにわかに物議を醸している。尹徳敏氏とはどんな人物なのか、彼の経歴を踏まえつつ、問題の発言について見ていきたいと思う』、興味深そうだ。
・『専門は政治学。米国で修士号、日本で博士号を取得 まずは、彼の経歴についてざっくりと紹介しよう。尹徳敏氏は1959年12月生まれの62歳、ソウル出身だ。ソウル市内にある徐羅伐(ソラボル)高校、韓国外国語大学政治外交学科を卒業。その後は、米国のウィスコンシン大学で学んで政治学修士号を、慶応義塾大学で法学博士号を取得した。彼が“知日派”と言われる理由がこれだ。日本語も堪能だといわれている。 彼は、外交安保研究院安保統一研究部で教授を歴任し、国立外交院が開設された後も教授職として再任された。2013年5月から2017年7月まで、朴槿恵(パク・クネ)政権下で第2代国立外交院長を務めた経験もある。 国立外交院長退任後は、母校である韓国外国語大学LD(Language&Diplomacyの略。言語と外交、国際外交について学習する学科)学部の碩座教授(せきざ、正式に採用された教授ではなく、寄付金などで研究活動をするよう大学が指定した教授)として在任している。 尹錫烈氏の大統領選挙キャンプ政策諮問団で活動し、外交政策樹立に関与した。4月下旬に日本に派遣された「韓日政策協議代表団」の7人のメンバーのうちの1人でもある』、文字通りの「“知日派”」だ。
・『日韓関係悪化は日本のせい? 物議を醸した尹徳敏氏の発言は、5月26日に東京の帝国ホテルで開かれた国際交流会議「アジアの未来」の場で出たものだ。彼はこの会議にオンラインで出席し、約30分講演している。 慰安婦問題について話題になった際、彼は「責任のある日本側が、『カネですべての問題を解決した』というような発言をしたことから、世論が大きく悪化して状況が変わった」と、日韓関係悪化を日本のせいにした。謝罪と補償の両方が解決のためには必要なのに、日本側は補償金を払ったのだから問題は解決しただろう、という態度だというのだ。 さらに徴用工問題については、「強制徴用現金化問題に対し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が現金化は望まないとの発言をしたが、尹錫悦政府はどのように見ているか」という質問に対し、「ここ数年、さまざまな解決案が出てきたが、実行しなかっただけ」と、徴用工問題が解決に向かっているかのような発言もした。 確かに、韓国側で救済案がいくつか出ていたことはメディアでも報じられた。2019年にはこれが日本政府にも提示され、救済案を提示する南官杓(ナム・グァンピョ)元駐日大使の発言を遮って「韓国側の提案はまったく受け入れられるものではない、と以前に韓国側に伝えている。それを知らないふりをして改めて提案するのは極めて無礼だ」と、怒りを露わにした河野太郎元外相の姿が話題になったほどだ。 解決案が出ていたというのは韓国内だけの話で、日本が納得できる案など一つもなかった。だから「実行しなかった」ではなく、正しくは「実行できなかった」のはずだ』、「国際交流会議「アジアの未来」の場で出た」、「尹徳敏氏の発言は」確かに極めて問題が多く、失望させるものだ。
・『“知日派”在日大使は、日韓関係向上に貢献するか 知日派と言われる人物であってもこの程度の認識だ。尹錫烈政権下で日韓問題を完全に解決することは、日本が再び妥協しない限り難しいだろう。 ただ、尹徳敏氏は朴槿恵政権時の国立外交院長だった人物だから、2015年の日韓慰安婦合意を否定できず、苦し紛れに日本に責任転嫁をして、韓国民からの批判を避けた可能性はある。就任前から国民に批判されていては、駐日大使の就任が危うくなるからだ。 彼の腹の内は彼本人にしか分からないが、それでも大使就任前からこのような発言をしているようでは、日本に良い影響をもたらす人物でないと思われる。 そういえば、知日派の駐日大使といわれていた人物の中に、現大使の姜昌一(カン・チャンイル)氏という人がいた。彼は2021年5月、正式に駐日大使に就任したが、韓国国会議員だった時の反日言動が影響して、就任から1年がたった今でも、日本の首相どころか外相にすら面会できていない。駐日大使史上、最も日韓関係向上に貢献しなかった大使と言えるだろう。 新たに駐日大使に就任予定の尹徳敏氏は、少なくとも姜昌一氏より日韓関係に寄与できるはずだ。なぜなら、岸田首相や林外相は関係改善に前向きで、韓国側の要人と面会することに拒否感を示さないからだ』、「新たに駐日大使に就任予定の尹徳敏氏は、少なくとも姜昌一氏より日韓関係に寄与できるはずだ」、喜ばしいことだ。
・『日韓問題を解決させないことが、日韓関係改善につながる 筆者は「日韓問題を解決させないことが、日韓の関係改善につながる」と考えている。 日本と韓国の間に「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約(日韓基本条約/1965年締結)」しかなかった頃、徴用工問題・慰安婦問題・竹島問題など、実際にはさまざまな問題があったが、それなりに良好な関係を築いていた。 日韓慰安婦合意で韓国側の要求を聞き入れて以降、いろいろな問題が浮上して関係がこじれたのだ。これらの問題を解決しようとするから双方から不満の声が上がる。日本と韓国はつかず離れず、一定の距離を保った関係を維持することが望ましい。 韓国人にとっての問題解決とは、日本が韓国の要求に文句を言わずに応じることだ。だが、1965年の日韓請求権協定でも、2015年の日韓慰安婦合意でも彼らは満足しなかった。 朴槿恵元大統領が「被害者の立場、千年不変」と発言したことが日本でも話題になったが、その言葉が示す通り、大多数の韓国人は「日本は韓国に対して半永久的に補償・謝罪を繰り返さなければならない」と考える。 このような韓国人の主張がまかり通れば、日韓間の合意など何の効力も発揮しない。締結したところで無効にされるのなら、国際法などないに等しい。それならば、これ以上の要求は聞き流すべきだ。韓国側の言い分を聞き入れることは、すなわち日本が対等な関係を放棄したことになる』、「日韓慰安婦合意で韓国側の要求を聞き入れて以降、いろいろな問題が浮上して関係がこじれたのだ。これらの問題を解決しようとするから双方から不満の声が上がる。日本と韓国はつかず離れず、一定の距離を保った関係を維持することが望ましい」、これで「日韓問題を解決させないことが、日韓関係改善につながる」との逆説的主張が理解出来た。
・『尹徳敏氏が駐日大使に就任後、やるべきこと 尹徳敏氏が駐日大使に就任すれば、悪化した日韓問題を解決しようと慰安婦問題や徴用工問題を持ち出して日本に妥協を迫るだろうが、岸田政権はこれを受け入れないはずだ(と信じたい)。 尹徳敏氏が動きだすことによって、収まりつつある韓国人の反日感情に再び火がともる可能性がある。もしかすると、日本製品不買運動が再開するかもしれない。 それなら、互いに関与しない方がお互いのためだ。韓国人の中には日本旅行をしたい人がたくさんいる。6月以降の航空券が飛ぶように売れているのだ。不買運動が再開すれば、2019年の時のように、再び周囲に隠れて日本旅行しなければならなくなるだろう。 韓国の駐日大使は、慰安婦問題や徴用工問題を解決しろと騒がない方が、むしろ多くの韓国人にメリットをもたらすはずだ。尹徳敏氏が駐日大使に就任したら、日本に賠償や謝罪を要求するのではなく、韓国民の感情コントロールに尽力すべきだろう』、「韓国の駐日大使は、慰安婦問題や徴用工問題を解決しろと騒がない方が、むしろ多くの韓国人にメリットをもたらすはずだ。尹徳敏氏が駐日大使に就任したら、日本に賠償や謝罪を要求するのではなく、韓国民の感情コントロールに尽力すべきだろう」、その通りだ。
第三に、6月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した北送在日コリアン協会会長の李 泰炅氏による「在日韓国人差別を描いた国際的大ヒットドラマ「パチンコ」に、在日韓国人が抱く違和感」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304080
・『Apple TV+で独占配信されているオリジナルドラマ「Pachinko パチンコ」が、海外で大評判となっている。イ・ミンホ、ユン・ヨジョン、チョン・ウンチェといった韓国の実力派俳優のほか、南果歩、澤井杏奈(アンナ・サワイ)といった俳優も出演している。原作の同名小説は2017年の全米ベストセラーになったほか、バラク・オバマ元大統領も推薦した話題作で、著者は韓国系米国人、イ・ミンジン氏である。 1910~1989年まで、4世代の在日韓国人一家を描いたこの物語の中では、戦中・戦後の日本での在日コリアンの暮らしがいかに厳しく、日本人からの差別がどれほど激烈だったかが描かれる。しかし、在日コリアンとして日本で生まれた李泰炅(イ・テギョン)氏は、このドラマに違和感を覚えるし、もっと知ってほしい“差別”がある、と話す』、「もっと知ってほしい“差別”がある」とはどういうことだろう。
・『大ヒット小説&ドラマ「パチンコ」に対する世界の反応 「パチンコ」の主人公ソンジャは、当時、日本の植民地であった釜山の影島で1910年代に生まれ、歴史の荒波にのまれた後、日本に定着する。「パチンコ」は、朝鮮人という“二等国民”として、民族差別の中で孤独や苦難を乗り越えてきた彼女の生涯を骨子にした、小説およびドラマである。 1923年9月の関東大震災での朝鮮人虐殺事件をはじめ、敗戦後の日本における在日コリアンに対するあらゆる差別と蔑視を受けながら生きたソンジャは、パチンコをなりわいとするしかなかった。この悲惨な物語に、米国だけでなく世界中が感動しているという。確かに、良心をひとかけらでも持っている者なら、植民地下で非常に過酷な生活を送るソンジャの姿に心を打たれずにはいられないだろう』、「関東大震災での朝鮮人虐殺事件をはじめ、敗戦後の日本における在日コリアンに対するあらゆる差別と蔑視を受けながら生きたソンジャは、パチンコをなりわいとするしかなかった」、「植民地下で非常に過酷な生活を送るソンジャの姿に心を打たれずにはいられないだろう」、なるほど。
・『日本で暮らす在日コリアンの苦しさ 歴史的に日本は、地震、大雪、火山、津波など、数多くの自然災害に遭い、被害を受けてきた。それだけでなく、狭い平地に多くの人が住み、山が多く、耕作に適した農地が少なく、昔から必死で働かねば、生きることが難しい国であった。弱肉強食と適者生存の手本のような土地だといえるかもしれない。 もし、世界中に散らばった朝鮮民族の人々が集まって、移民生活の経験を語りあうとしたら、おそらく在日コリアンの生活が一番大変だったということになるだろう。土地が広く、人口密度が低いアメリカやロシアに比べ、いや中国に比べても、在日コリアンの生活は厳しかったし、差別もまた激しかったという。今でも日本で暮らす在日コリアンは、市民権を持たない特別永住者、外国人登録証を所有する脱北者、そして韓国国籍者として暮らしている(最悪の場合は無国籍で暮らす者もいるようだ)。彼らは、韓国および朝鮮国籍なので就職も難しく、社会生活では差別を受けている。それゆえに外国の同胞社会で、在日コリアンは民族という血を中心にし、一つになってこそ暮らせるのだ。彼らは自立意識が強く、さらに理念によって、北朝鮮系の「朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)」と大韓民国系の「民団(在日本大韓民国民団)」に分かれている。 「パチンコ」は、植民地時代と敗戦後の日本を舞台にして、在日コリアン社会、アメリカへの移民、1980年代の日本社会などの背景を網羅した物語である。4世代にわたり、それぞれの人生で、差別や蔑視に対抗し、力強く生活を切り開いてゆく。日本という一種独特な社会と、韓国人に対する差別意識を、パチンコを通して、赤裸々につづる。100年もの歳月に連なる、悲惨な在日コリアンの人生に対して、世界中が涙を流しているのだ』、「100年もの歳月に連なる、悲惨な在日コリアンの人生に対して、世界中が涙を流しているのだ」、なるほど。
・『在日3世が「パチンコ」を見た感想は…… ただ、私の友人の在日3世は、ドラマの8話(シーズン1の最後)まで見て、物語の背景にある日本社会の演出には違った感想を持っていた。彼は1965年(昭和40年)に日本に生まれ、現在は韓国に住んでいるが、生まれた時には親がパチンコ店を3軒経営していた。ドラマでは日本のパチンコ店の多くは在日コリアンが経営していることになっているが、「1970~80年代当時、韓国系パチンコ店は全国の5%もなかったはずだ」と彼は話す。 その他にもツッコミどころは満載だが、特に「祖国に帰りたい」という望郷の心情を演出する部分に引っかかったという。「我々在日にとっては意味が違う。故郷(韓国)の家族、親戚には会いたいが、それは決して『帰りたい』という意味ではない」というのだ。 なぜ彼は望郷の念はあっても、「帰りたいとは思わないはず」というのか。その理由はシンプルで、「韓国に比べて、今も日本の方が暮らしが豊かで自由だから」だという。特に彼は、文(ムン)前政権のこの5年間を韓国で過ごしたから、たまらないはずである。 彼に限らず私の多くの在日コリアンの友人たちは、特別永住権を持っていることが前提ではあるが「在日の多くは、日本に感謝しながら暮らしている。もちろん祖父、父親の時代にはキツイ差別もあったが、今では投票権以外は日本国民と同等の権利で暮らしていける」と話す。友人自身も80年代以降、日本人からの日常的な差別や、生活に不自由さを感じたことはないという』、「帰りたいとは思わないはず」、「その理由はシンプルで、「韓国に比べて、今も日本の方が暮らしが豊かで自由だから」だ」、「「在日の多くは、日本に感謝しながら暮らしている。もちろん祖父、父親の時代にはキツイ差別もあったが、今では投票権以外は日本国民と同等の権利で暮らしていける」と話す。友人自身も80年代以降、日本人からの日常的な差別や、生活に不自由さを感じたことはないという」、現在は1人当たりGDPは韓国の方が上だが、自由さは日本の方が上なのかも知れない。
・『日朝共同の帰国事業で、大勢の在日コリアンが北朝鮮へ送られた 小説とドラマを合わせれば、世界各地の数千万人もの人々が「パチンコ」に感動し、在日コリアンへの差別について知ったことになるだろう。しかし実際には、日本に暮らした同胞だけが苦労したわけではない。ここからは、「北へ送還された在日コリアン」の、決して話すことができない心情について話したい。 北へ送還された在日コリアンとは、1959~1984年の間に朝鮮総連の口車に乗せられ、日本政府も後押しした帰国事業によって北朝鮮に移住した在日コリアンのことだ。私もその一人で、1960年、7歳のときに帰国事業で北朝鮮に渡った。 在日コリアン1世である私の両親と在日コリアン2世の我々兄弟は、北へ送還されたその瞬間から、朝鮮民族が蹂躙(じゅうりん)されたという日本を懐かしがり、死ぬ前に一度でいいから母国である日本に行きたいと、それを一生の願いとして、胸に刻んで生きてきた。「パチンコ」の主人公ソンジャが、4世代にわたって差別されたという、がめつく険しい日本を、そのように懐かしがってきたのだ。 1960~80年代に日本でソンジャが体験したという、民族的差別と不平等は北朝鮮にもあった。加えて、北朝鮮金氏王朝の独裁と粛清、飢餓と死、出身成分(編注:北朝鮮独特の身分制度)による弾圧、移動の自由と生命権まで奪われ、まさに奴隷のような生活を送っていた「北へ送還された在日コリアン」の一生を想像してみてほしい。 日本で体験したという民族的差別より、もっと深刻な、死ぬほど劣悪な生活。生きても生きても終わりがない絶望、殺しても殺しても終わりがない粛清、国中どこへ行っても息の詰まる監視と独裁……こうした北朝鮮の暮らしをもし皆さんが経験したら、おそらく血の涙を流さずにはいられないだろう』、「帰国事業によって北朝鮮に移住した在日コリアン」は確かに悲惨だ。
・『移動の自由もない、首領様の命令には絶対服従の北朝鮮生活 まさに「パチンコ」で描かれているように、他国である日本でも、在日コリアンは差別や蔑視に耐えながら力強く生き抜き、パチンコ業界で成功をつかむことができたし、小さな食堂も持つことができた。 しかし、韓民族の住む祖国だといわれ、誘拐されるように渡ってきた北朝鮮の地では、党が定めた場所で暮らさなければならず、首領様という王の命令には絶対服従であった。(北朝鮮国民ではなく)北へ送還された在日コリアンなので、航海漁船(外国に行くことができる漁船)に乗ることはできなかったし、党幹部にもなれず、志望する大学にも行けなかった。北へ送還された在日コリアンは、就職の自由もなく、望む大学には行けず、参政権もなく、あらゆる面で差別を受けなければならなかったし、監視と弾圧を受けなければならなかった。在日コリアンが、日本で就職や社会生活で受けた民族差別と、北朝鮮で受けた死ぬほどの弾圧とは、天と地の差がある。 日本は他国なので在日コリアンは差別され、いじめに遭ったというのならば、同じ韓民族であり同胞である北朝鮮で、なぜ差別と弾圧に苦しまねばならなかったのだろうか? 母国である日本と、故郷である韓国への自由な往来と移動は、夢見ることすらできなかった。故郷が懐かしく、自由と人権の願いを成就するために脱北しようとすれば、「反逆者」として粛清された。) ▽死ぬ前に、一度でもいいから日本に行きたい(北朝鮮は「祖国に早く来い、歓迎する」と言っていたのに、実際には、内臓をすべて溶かされ殻だけになったさなぎのように、人権はもちろん、身体と意識までも奪われた“植物状態”にさせられた。死にたいほどつらい弾圧を受けた北朝鮮で、我々は、腹いっぱいに食べることができ、差別すら自由意思に基づいている日本を「死ぬ前に一度でも行きたい」と夢に見て、本当に一生の願いとして胸に刻んで生きていたのだ。 私の母は亡くなる直前に、痩せこけて真っ白になった弱々しい手で、私の手を握ってこう言った。「テギョンよ! もしもの話だ。もし、未来に、外国に出て行くことができる機会が来たなら、必ず日本に行きなさい!」。今でも、虫の息で語った母の最期の言葉は、私の耳から決して離れることはなく、胸の中に永遠に刻み込まれている。「自由を勝ち取りなさい!」と』、「北へ送還された在日コリアンは、就職の自由もなく、望む大学には行けず、参政権もなく、あらゆる面で差別を受けなければならなかったし、監視と弾圧を受けなければならなかった。在日コリアンが、日本で就職や社会生活で受けた民族差別と、北朝鮮で受けた死ぬほどの弾圧とは、天と地の差がある」、その通りだ。
・『厳しい身分制度、在日コリアンに対する差別と蔑視 ドラマ「パチンコ」を見た人たちが、100年余りの在日コリアンの差別の歴史に涙を流したのだとすれば、北へ送還された在日コリアンが、日本でソンジャが受けた差別と蔑視の歴史に加えて、北朝鮮で味わわされた粛清、弾圧、奴隷の歴史を知ったなら、世界は血の涙を流すことになるだろう。 北朝鮮政府は、古代インドのカースト制度のような、金氏王朝式による成分制度によって、北へ送還された在日コリアンを公的に差別した。結果、志望する大学も、望む就職も、真の愛で成り立つ結婚も、党が関与した。一挙一動を監視される北朝鮮では、行動と意識まで統制される「操り人形」にならなければならなかった。北朝鮮の子どもは、皆、生まれてすぐ洗脳される。子どもたちは、世界はすべてそうなのだと信じ込み、「忠誠ロボット」となる。「苦痛だ」と一言でも話せば、少しは慰安を受ける自由がなければならないはずなのに、暗黒の北朝鮮では、そんな小さなうめき声も許されることはなく、反動的な言葉を言ったとして、政治犯収容所へ消えていった人々も多かった。) 北へ送還された在日コリアンは、「パチンコ」の主人公のソンジャ世代が民族的な差別と蔑視を受けた時期の日本が良かったと回想する。日本では、在日コリアンが差別された、蔑視されたと、安心して話せる。そんな自由が懐かしいのだ。 北へ送還された在日コリアンこそ、ソンジャの言う民族的な差別と蔑視に加えて、北朝鮮金氏王朝の弾圧、独裁、粛清、奴隷生活を合わせて受けた、まさに「虫けら人生」だ。在日コリアンの北への送還は、1959年12月14日から1985年3月25日まで、合計186回行われ、9万3340人を積み出した。あたかも昔の米国で黒人奴隷が売られたように、「地上の楽園」という偽りの文句で日本から北朝鮮へと誘拐されたのだ。 作家イ・ミンジンが、米国ではなくもし北朝鮮に移住していたら、小説「パチンコ」では、金氏王朝の独裁と窓のない監獄で、殺し、殺され、生き馬の目を抜く北朝鮮社会が描かれたのではなかろうか? 世の中のすべてを死ぬほど我慢して耐えなければならない、どん詰まりの連続が、北朝鮮生活だ。北へ送還された在日コリアンにとっては、日本での差別と蔑視は、人生の中でほんの一瞬通り過ぎた夏の日の夕立のようなものだ。日本で差別を受けたけれど、抵抗する自由があったあの頃を、本当に幸せな時期だったと懐古するのである』、「世の中のすべてを死ぬほど我慢して耐えなければならない、どん詰まりの連続が、北朝鮮生活だ。北へ送還された在日コリアンにとっては、日本での差別と蔑視は、人生の中でほんの一瞬通り過ぎた夏の日の夕立のようなものだ。日本で差別を受けたけれど、抵抗する自由があったあの頃を、本当に幸せな時期だったと懐古するのである」、「北朝鮮」への「帰還」を促した日本政府も罪作りなことをしたものだ。
先ずは、本年5月20日付け東洋経済オンラインが掲載したスタンフォード大学講師のダニエル・スナイダー 氏による「アメリカが「日韓関係改善」を強く迫れない背景 バイデン大統領のアジア訪問で進展はあるか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/590592
・『就任してから初めてアジアを訪問するアメリカのジョー・バイデン大統領は、日本と韓国と5日間かけてめぐる、検討課題満載の日程を組んでいる。 ロシアの侵略、中国の大国主義、北朝鮮のミサイルや核実験などに直面し、同盟関係の深化や抑止力の強化について多くの議論を交わす見込みだ。今回はまた、アメリカが経済的関与をないがしろにしているという印象に対処するための緩やかな新しい構想である、インド太平洋経済枠組みの発足も予定されている。 さらに、来訪の最後は、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの準同盟である「クワッド」の首脳が日本で行う首脳会談で締めくくられる予定だ』、確かに「検討課題満載の日程」のようだ。
・『「世界連合をまとめた」と主張できる 元ブッシュ大統領国家安全保障顧問で、ジョージタウン大学のマイケル・グリーン教授は、「大統領の訪問を成功させるための体制は整っている」と話す。 「ウクライナに対応しながら、インド太平洋に注力できる政権であることを、今回訪問することだけでも誇示することができる。そればかりか、ウクライナに侵攻したプーチンに対して、経済的、地政学的、外交的に実に前例のない結果をもたらした世界的連合をまとめ上げることができたのは、アメリカだけだったと主張することもできる」 しかし、バイデン大統領の野心的なアジェンダに明確に含まれていない項目がある。それは、同氏が今回訪問するアメリカの2つの同盟国、日本と韓国の間に依然として横たわるギャップを修復することだ。 韓国の政権が保守派の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領に移ったことで、関係の悪化に歯止めをかける機会は生まれている。尹大統領は日本との関係を優先させると公言しており、最初のうちは積極的な交流があった。より重要なことは、尹大統領が、バイデン政権が形成した世界と地域の枠組みに沿って、韓国を再配置しようと動いていることだ。 チャンスはあるとアメリカの高官らは考えているが、アメリカを含むすべての関係諸国がそれを生かすために十分な行動をとるかという疑問は残る。 サプライチェーンの回復力から北朝鮮の脅威まで、ほかの領域では多くの利益を共有しているにもかかわらず、韓国における戦争の歴史と日本の植民地支配の負の遺産という問題は、依然として難しい障壁となっている。日韓両政府は膠着状態にある。両者とも、事態を打開するための次の一手は相手が取るべき、と考えているのだ』、「バイデン大統領の野心的なアジェンダに明確に含まれていない項目がある。それは、・・・日本と韓国の間に依然として横たわるギャップを修復すること」、「日韓両政府は膠着状態にある。両者とも、事態を打開するための次の一手は相手が取るべき、と考えている」、これでは難しそうだ。
・『日韓関係の悪化はアメリカにもマイナス 日本と韓国が正常な関係を回復できないことは、インド太平洋においてアメリカがいる場で価値主導の意図を主張しようとするアメリカの努力を損なうものだ。 同盟国の2カ国が協力できないことで、「日米豪印戦略対話」をより広範な同盟に昇格させることであれ、日本の「自由で開かれたインド太平洋」の構想であれ、この戦略が損なわれてしまう。それによって、中国やロシアにアメリカとその同盟諸国の関係を悪化させるチャンスを与えかねない。 ロシアがウクライナに侵攻したことで、アメリカとヨーロッパが世界中の、特にアジアの同盟諸国を共通の大義に結集しようとしている中、こうした課題の緊急性が一層高まっている。もし、これが民主主義と権威主義の間の闘いであるならば、この日韓の目に見える隔たりは明らかな問題だ。 日韓関係の悪化が始まったのはトランプ政権時代のことだが、その当時はこの問題が関心を集めることはほとんどなかった。バイデン政権が登場し、各同盟関係を復活させ強化していくとの方針が打ち出されたことで状況が一変し、この問題が再び関心を集めることとなった。 ここ最近ではアメリカ、日本、韓国の3国間の協力関係の重要性を強調する発言や政府関係者の会合が相次ぐようになっている。しかし、いまだ韓国と日本は戦時中からの負の遺産を克服できておらず、そのことにアメリカ政府関係者は強いフラストレーションを感じており、愚痴を耳にすることもよくある。 バイデン政権には、オバマ政権での要職経験者が多く参画している。中には安倍政権および朴政権の初期に韓日関係の悪化が始まった際に、その関係改善に取り組んだ者もいる。 そして、当時繰り広げられた議論の一部が今また繰り返されている。政府関係者の中には日本と韓国に、両国が連携するのは戦略的に非常に重要なことなのだということを思い返させることに焦点を置きたいと考えている者がいれば、地政学上のメリットで無理やり連携したとしても、関係悪化の根本的な原因である、戦時中の歴史的問題に真正面から取り組んでいくことなくして成功は覚束ないというように考える関係者もいる』、「日韓関係の悪化が始まったのはトランプ政権時代のことだが、その当時はこの問題が関心を集めることはほとんどなかった。バイデン政権が登場し、各同盟関係を復活させ強化していくとの方針が打ち出されたことで状況が一変し、この問題が再び関心を集めることとなった」、(米国)「政府関係者の中には日本と韓国に、両国が連携するのは戦略的に非常に重要なことなのだということを思い返させることに焦点を置きたいと考えている者がいれば、地政学上のメリットで無理やり連携したとしても、関係悪化の根本的な原因である、戦時中の歴史的問題に真正面から取り組んでいくことなくして成功は覚束ないというように考える関係者もいる」、米国側の姿勢も一枚岩ではないようだ。
・『楽観的観測が持たれる状況に 今回、韓国に保守政権が誕生したこと、そして、日本では外務相にワシントン通の林芳正氏を擁する岸田文雄政権に政権運営が移行したということもあり、一部で多少なりの楽観的観測が持たれる状況を生んでいる。 北朝鮮でミサイル発射実験が活発化してきており、さらに核実験再開の準備が着々と進んでいるという状況、そしてウクライナ戦争という世界的に緊迫した情勢が組み合わさることで、日本と韓国が両国の関係を改善し、アメリカを含めた3国間の安全保障協力関係を緊密化していこうとする機運が醸成されることになっているように思われる。 だが、バイデン政権の幹部の中にはーーこれには以前に深く関与した経験を有する者も含まれるのだがーー関係正常化は係争となっている歴史問題についてアメリカの積極的関与、といってもこれは必ずしも仲介を意味するわけではないが、それがなくとも起こりうるものであり、まして和解となればなおさら起こりうるものであるとして、この案に反対する者もいる。 筆者が最近参加した日米関係に関するある非公開の会合で、バイデン政権のある幹部は、「われわれは関与すべきではないとの考えに私は反対する。これはある程度喫緊の事柄である」と述べている。 この幹部は、オフレコを条件に、日韓関係は、クアッドを推進する努力や地域の「自由で開かれたインド太平洋」関係を推進する努力よりはるかに重要であるとまで主張した。加えて、それには第二次世界大戦時代の歴史問題と取り組むことが必要になるであろうことも示唆した。 「アメリカに可能なことのうちで最も重要なことを1つ挙げるとすれば、それは両国関係の本物の改善が実現するよう支援することである。これは高貴かつ重要な努力であり、われわれはこうした努力を払うことを避けて通るべきではない」この幹部は話す』、「バイデン政権のある幹部は、「われわれは関与すべきではないとの考えに私は反対する。これはある程度喫緊の事柄である」」、「日韓関係は、クアッドを推進する努力や地域の「自由で開かれたインド太平洋」関係を推進する努力よりはるかに重要であるとまで主張した。加えて、それには第二次世界大戦時代の歴史問題と取り組むことが必要になるであろうことも示唆」、この「幹部」が「日韓関係」をここまで重視しているとは驚かされた。
・『アメリカが圧力をかけない理由 だがこれまでのところ、今回の歴訪においてバイデン大統領が取り組む予定の1つに加えようとする試みが目に見える形でなされている形跡はまったくない。 それどころか、強調されているのはアメリカが有する計画のうちの別の分野であって、日本と韓国がもしかしたら協力するかもしれないことである。例えば、サプライチェーン(供給網)の強靭さを高めることやインド太平洋におけるデジタルサービス枠組の合意といったこととなっている。 アメリカが目に見える形で圧力をかけていないのは、日韓両国に内政問題があるがゆえに、両国の政府がこの問題を前進させる力が制限されていることが影響しているのかもしれない。 日本の公式見解は、最初の一歩を進める責任は韓国にあるというものだ。日本政府は、韓国が植民地時代及び戦時期に強制労働をさせられた韓国人に補償するため、日本企業の資産を接収する旨の裁判所の判決の執行をたとえ中止させないとしても、遅らせるよう要求している。 日本の政府高官は韓国政府に対し、2015年の両国間合意を復活させることも望んでいる。その合意とは、日本側の資金により基金を創設し、第二次世界大戦中、旧日本軍によって性的奴隷状態に置かれた韓国女性の生存者に補償金を支払うというものだ。 以前の文在寅・前大統領が率いる革新系政権は事実上、この合意を破棄してしまった。結果として、両国による報復措置の連鎖が生じた。この措置には、日本側による韓国向け半導体素材の輸出規制強化が含まれる』、「アメリカが目に見える形で圧力をかけていないのは、日韓両国に内政問題があるがゆえに、両国の政府がこの問題を前進させる力が制限されていることが影響しているのかもしれない」、なるほど。
・『国内問題で大変な尹大統領 尹大統領率いる新政権はすでに、2015年の日韓合意がなお有効であるとの立場を表明している。そして現在、日本企業の資産の差し押さえを阻止する努力が行われていることは明らかだ。ただ、尹大統領は、韓国国民の声を考慮し、日本政府側からの明確な意思表示がないままで、こうした問題に深入りする姿勢は示していない。 同大統領は早くも、野党が多数を占める国会から提起されている重要課題に直面しており、世論調査における大統領の支持率は50%を切っている。この数字は新大統領としては異例の低さであり、6月1日に行われる地方選では大きな試練を迎えることになる。 アジア問題の専門家で、安倍元首相の伝記の著者でもあるトバイアス・ハリス氏は、尹大統領が、岸田首相と比べて政治的に「自由が利かない」状態にあるとみており、次のように話す。 「もし岸田首相が政治家としての勇気を持っているのであれば、同氏側からの意思表示はより踏み込んだものとなり、政治的にもより実行可能なものとなるだろう」 日本政府はなお、文政権との苦い経験を引きずっている。「日本国民は、うまく騙されたと感じている」。この問題に詳しい人物で、バイデン政権に近いアメリカの元高官はこのように話す。そして、「日本人は今、傍観者の立場を取っている」としながらも、「ボールは日本側のコートにある」と付言している。 岸田首相は自民党内部から批判を受けている。首相は党内において、主に、外相時代の2015年に日韓合意の交渉に携わった自身の役目により「親韓派」とみなされてきたのだ。 4月末にドイツのオラフ・ショルツ首相が訪日した際、ベルリンにある「慰安婦」の被害者を記念する銅像の問題を、首相が異例ながら提起する決定を下した背景には、そうした事情があるのかもしれない』、「尹大統領が、岸田首相と比べて政治的に「自由が利かない」状態にあるとみており、次のように話す。 「もし岸田首相が政治家としての勇気を持っているのであれば、同氏側からの意思表示はより踏み込んだものとなり、政治的にもより実行可能なものとなるだろう」」、「「日本人は今、傍観者の立場を取っている」としながらも、「ボールは日本側のコートにある」と付言」、「尹大統領」がそんなに苦しい立場にあるとは初めて知った。そうであれば、「岸田首相」からのアクションの方がカギになりそうだ。
・『アメリカからの「圧力」が必要か 「日本の右派は、日本にとって韓国は必要でないとすでに腹を決めている」とハリス氏は言う。「岸田首相が韓国との協力が重要だと考えているのであれば、それ相応の明確な説明をしなければならないだろう」。 ところで日本の政治指導者らはこれまで、韓国との関係改善というリスクを取るにあたり、特に戦時中の歴史的問題に対処する際にはしばしば、アメリカからの明白な圧力を必要としてきた。バイデン大統領は、この問題に関して個人的な経験を有している。自身が副大統領であった時代、当時の安倍首相と朴大統領との仲裁において主要な役割を果たしたのだ。 今回の訪韓の中で「日韓の歴史問題が再優先課題として議論されることを示唆するものはなにもない」とハリス氏。しかし、水面下で実際の行動が取られる可能性はあると、同氏は言う。「バイデン大統領が同席する中で、歴史問題が大きな比重を占めたとしても、私は驚かない」』、「バイデン大統領は、この問題(戦時中の歴史的問題)に関して個人的な経験を有している」、「水面下で実際の行動が取られる可能性はある」、「バイデン大統領が同席する中で、歴史問題が大きな比重を占めたとしても、私は驚かない」、「水面下」とはいえ、「歴史問題が大きな比重を占め」る「可能性」があるのだろうか。
次に、6月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したビジネスライターの羽田真代氏による「駐日韓国大使に“知日派”内定も、慰安婦・徴用工の「問題発言」で波紋」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304175
・『韓国・尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の初代駐日大使に内定した尹徳敏(ユン・ドクミン)氏は、知日派として知られる国際政治学者だ。尹錫悦政権では日韓関係の改善が期待されるが、中でも大きな課題である慰安婦問題と徴用工問題について、尹徳敏氏が語ったこととは……。 韓国・尹錫悦政権の駐日大使に内定している尹徳敏氏は“知日派”と言われる人物だ。就任前であるが、彼の発言がにわかに物議を醸している。尹徳敏氏とはどんな人物なのか、彼の経歴を踏まえつつ、問題の発言について見ていきたいと思う』、興味深そうだ。
・『専門は政治学。米国で修士号、日本で博士号を取得 まずは、彼の経歴についてざっくりと紹介しよう。尹徳敏氏は1959年12月生まれの62歳、ソウル出身だ。ソウル市内にある徐羅伐(ソラボル)高校、韓国外国語大学政治外交学科を卒業。その後は、米国のウィスコンシン大学で学んで政治学修士号を、慶応義塾大学で法学博士号を取得した。彼が“知日派”と言われる理由がこれだ。日本語も堪能だといわれている。 彼は、外交安保研究院安保統一研究部で教授を歴任し、国立外交院が開設された後も教授職として再任された。2013年5月から2017年7月まで、朴槿恵(パク・クネ)政権下で第2代国立外交院長を務めた経験もある。 国立外交院長退任後は、母校である韓国外国語大学LD(Language&Diplomacyの略。言語と外交、国際外交について学習する学科)学部の碩座教授(せきざ、正式に採用された教授ではなく、寄付金などで研究活動をするよう大学が指定した教授)として在任している。 尹錫烈氏の大統領選挙キャンプ政策諮問団で活動し、外交政策樹立に関与した。4月下旬に日本に派遣された「韓日政策協議代表団」の7人のメンバーのうちの1人でもある』、文字通りの「“知日派”」だ。
・『日韓関係悪化は日本のせい? 物議を醸した尹徳敏氏の発言は、5月26日に東京の帝国ホテルで開かれた国際交流会議「アジアの未来」の場で出たものだ。彼はこの会議にオンラインで出席し、約30分講演している。 慰安婦問題について話題になった際、彼は「責任のある日本側が、『カネですべての問題を解決した』というような発言をしたことから、世論が大きく悪化して状況が変わった」と、日韓関係悪化を日本のせいにした。謝罪と補償の両方が解決のためには必要なのに、日本側は補償金を払ったのだから問題は解決しただろう、という態度だというのだ。 さらに徴用工問題については、「強制徴用現金化問題に対し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が現金化は望まないとの発言をしたが、尹錫悦政府はどのように見ているか」という質問に対し、「ここ数年、さまざまな解決案が出てきたが、実行しなかっただけ」と、徴用工問題が解決に向かっているかのような発言もした。 確かに、韓国側で救済案がいくつか出ていたことはメディアでも報じられた。2019年にはこれが日本政府にも提示され、救済案を提示する南官杓(ナム・グァンピョ)元駐日大使の発言を遮って「韓国側の提案はまったく受け入れられるものではない、と以前に韓国側に伝えている。それを知らないふりをして改めて提案するのは極めて無礼だ」と、怒りを露わにした河野太郎元外相の姿が話題になったほどだ。 解決案が出ていたというのは韓国内だけの話で、日本が納得できる案など一つもなかった。だから「実行しなかった」ではなく、正しくは「実行できなかった」のはずだ』、「国際交流会議「アジアの未来」の場で出た」、「尹徳敏氏の発言は」確かに極めて問題が多く、失望させるものだ。
・『“知日派”在日大使は、日韓関係向上に貢献するか 知日派と言われる人物であってもこの程度の認識だ。尹錫烈政権下で日韓問題を完全に解決することは、日本が再び妥協しない限り難しいだろう。 ただ、尹徳敏氏は朴槿恵政権時の国立外交院長だった人物だから、2015年の日韓慰安婦合意を否定できず、苦し紛れに日本に責任転嫁をして、韓国民からの批判を避けた可能性はある。就任前から国民に批判されていては、駐日大使の就任が危うくなるからだ。 彼の腹の内は彼本人にしか分からないが、それでも大使就任前からこのような発言をしているようでは、日本に良い影響をもたらす人物でないと思われる。 そういえば、知日派の駐日大使といわれていた人物の中に、現大使の姜昌一(カン・チャンイル)氏という人がいた。彼は2021年5月、正式に駐日大使に就任したが、韓国国会議員だった時の反日言動が影響して、就任から1年がたった今でも、日本の首相どころか外相にすら面会できていない。駐日大使史上、最も日韓関係向上に貢献しなかった大使と言えるだろう。 新たに駐日大使に就任予定の尹徳敏氏は、少なくとも姜昌一氏より日韓関係に寄与できるはずだ。なぜなら、岸田首相や林外相は関係改善に前向きで、韓国側の要人と面会することに拒否感を示さないからだ』、「新たに駐日大使に就任予定の尹徳敏氏は、少なくとも姜昌一氏より日韓関係に寄与できるはずだ」、喜ばしいことだ。
・『日韓問題を解決させないことが、日韓関係改善につながる 筆者は「日韓問題を解決させないことが、日韓の関係改善につながる」と考えている。 日本と韓国の間に「日本国と大韓民国との間の基本関係に関する条約(日韓基本条約/1965年締結)」しかなかった頃、徴用工問題・慰安婦問題・竹島問題など、実際にはさまざまな問題があったが、それなりに良好な関係を築いていた。 日韓慰安婦合意で韓国側の要求を聞き入れて以降、いろいろな問題が浮上して関係がこじれたのだ。これらの問題を解決しようとするから双方から不満の声が上がる。日本と韓国はつかず離れず、一定の距離を保った関係を維持することが望ましい。 韓国人にとっての問題解決とは、日本が韓国の要求に文句を言わずに応じることだ。だが、1965年の日韓請求権協定でも、2015年の日韓慰安婦合意でも彼らは満足しなかった。 朴槿恵元大統領が「被害者の立場、千年不変」と発言したことが日本でも話題になったが、その言葉が示す通り、大多数の韓国人は「日本は韓国に対して半永久的に補償・謝罪を繰り返さなければならない」と考える。 このような韓国人の主張がまかり通れば、日韓間の合意など何の効力も発揮しない。締結したところで無効にされるのなら、国際法などないに等しい。それならば、これ以上の要求は聞き流すべきだ。韓国側の言い分を聞き入れることは、すなわち日本が対等な関係を放棄したことになる』、「日韓慰安婦合意で韓国側の要求を聞き入れて以降、いろいろな問題が浮上して関係がこじれたのだ。これらの問題を解決しようとするから双方から不満の声が上がる。日本と韓国はつかず離れず、一定の距離を保った関係を維持することが望ましい」、これで「日韓問題を解決させないことが、日韓関係改善につながる」との逆説的主張が理解出来た。
・『尹徳敏氏が駐日大使に就任後、やるべきこと 尹徳敏氏が駐日大使に就任すれば、悪化した日韓問題を解決しようと慰安婦問題や徴用工問題を持ち出して日本に妥協を迫るだろうが、岸田政権はこれを受け入れないはずだ(と信じたい)。 尹徳敏氏が動きだすことによって、収まりつつある韓国人の反日感情に再び火がともる可能性がある。もしかすると、日本製品不買運動が再開するかもしれない。 それなら、互いに関与しない方がお互いのためだ。韓国人の中には日本旅行をしたい人がたくさんいる。6月以降の航空券が飛ぶように売れているのだ。不買運動が再開すれば、2019年の時のように、再び周囲に隠れて日本旅行しなければならなくなるだろう。 韓国の駐日大使は、慰安婦問題や徴用工問題を解決しろと騒がない方が、むしろ多くの韓国人にメリットをもたらすはずだ。尹徳敏氏が駐日大使に就任したら、日本に賠償や謝罪を要求するのではなく、韓国民の感情コントロールに尽力すべきだろう』、「韓国の駐日大使は、慰安婦問題や徴用工問題を解決しろと騒がない方が、むしろ多くの韓国人にメリットをもたらすはずだ。尹徳敏氏が駐日大使に就任したら、日本に賠償や謝罪を要求するのではなく、韓国民の感情コントロールに尽力すべきだろう」、その通りだ。
第三に、6月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した北送在日コリアン協会会長の李 泰炅氏による「在日韓国人差別を描いた国際的大ヒットドラマ「パチンコ」に、在日韓国人が抱く違和感」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304080
・『Apple TV+で独占配信されているオリジナルドラマ「Pachinko パチンコ」が、海外で大評判となっている。イ・ミンホ、ユン・ヨジョン、チョン・ウンチェといった韓国の実力派俳優のほか、南果歩、澤井杏奈(アンナ・サワイ)といった俳優も出演している。原作の同名小説は2017年の全米ベストセラーになったほか、バラク・オバマ元大統領も推薦した話題作で、著者は韓国系米国人、イ・ミンジン氏である。 1910~1989年まで、4世代の在日韓国人一家を描いたこの物語の中では、戦中・戦後の日本での在日コリアンの暮らしがいかに厳しく、日本人からの差別がどれほど激烈だったかが描かれる。しかし、在日コリアンとして日本で生まれた李泰炅(イ・テギョン)氏は、このドラマに違和感を覚えるし、もっと知ってほしい“差別”がある、と話す』、「もっと知ってほしい“差別”がある」とはどういうことだろう。
・『大ヒット小説&ドラマ「パチンコ」に対する世界の反応 「パチンコ」の主人公ソンジャは、当時、日本の植民地であった釜山の影島で1910年代に生まれ、歴史の荒波にのまれた後、日本に定着する。「パチンコ」は、朝鮮人という“二等国民”として、民族差別の中で孤独や苦難を乗り越えてきた彼女の生涯を骨子にした、小説およびドラマである。 1923年9月の関東大震災での朝鮮人虐殺事件をはじめ、敗戦後の日本における在日コリアンに対するあらゆる差別と蔑視を受けながら生きたソンジャは、パチンコをなりわいとするしかなかった。この悲惨な物語に、米国だけでなく世界中が感動しているという。確かに、良心をひとかけらでも持っている者なら、植民地下で非常に過酷な生活を送るソンジャの姿に心を打たれずにはいられないだろう』、「関東大震災での朝鮮人虐殺事件をはじめ、敗戦後の日本における在日コリアンに対するあらゆる差別と蔑視を受けながら生きたソンジャは、パチンコをなりわいとするしかなかった」、「植民地下で非常に過酷な生活を送るソンジャの姿に心を打たれずにはいられないだろう」、なるほど。
・『日本で暮らす在日コリアンの苦しさ 歴史的に日本は、地震、大雪、火山、津波など、数多くの自然災害に遭い、被害を受けてきた。それだけでなく、狭い平地に多くの人が住み、山が多く、耕作に適した農地が少なく、昔から必死で働かねば、生きることが難しい国であった。弱肉強食と適者生存の手本のような土地だといえるかもしれない。 もし、世界中に散らばった朝鮮民族の人々が集まって、移民生活の経験を語りあうとしたら、おそらく在日コリアンの生活が一番大変だったということになるだろう。土地が広く、人口密度が低いアメリカやロシアに比べ、いや中国に比べても、在日コリアンの生活は厳しかったし、差別もまた激しかったという。今でも日本で暮らす在日コリアンは、市民権を持たない特別永住者、外国人登録証を所有する脱北者、そして韓国国籍者として暮らしている(最悪の場合は無国籍で暮らす者もいるようだ)。彼らは、韓国および朝鮮国籍なので就職も難しく、社会生活では差別を受けている。それゆえに外国の同胞社会で、在日コリアンは民族という血を中心にし、一つになってこそ暮らせるのだ。彼らは自立意識が強く、さらに理念によって、北朝鮮系の「朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)」と大韓民国系の「民団(在日本大韓民国民団)」に分かれている。 「パチンコ」は、植民地時代と敗戦後の日本を舞台にして、在日コリアン社会、アメリカへの移民、1980年代の日本社会などの背景を網羅した物語である。4世代にわたり、それぞれの人生で、差別や蔑視に対抗し、力強く生活を切り開いてゆく。日本という一種独特な社会と、韓国人に対する差別意識を、パチンコを通して、赤裸々につづる。100年もの歳月に連なる、悲惨な在日コリアンの人生に対して、世界中が涙を流しているのだ』、「100年もの歳月に連なる、悲惨な在日コリアンの人生に対して、世界中が涙を流しているのだ」、なるほど。
・『在日3世が「パチンコ」を見た感想は…… ただ、私の友人の在日3世は、ドラマの8話(シーズン1の最後)まで見て、物語の背景にある日本社会の演出には違った感想を持っていた。彼は1965年(昭和40年)に日本に生まれ、現在は韓国に住んでいるが、生まれた時には親がパチンコ店を3軒経営していた。ドラマでは日本のパチンコ店の多くは在日コリアンが経営していることになっているが、「1970~80年代当時、韓国系パチンコ店は全国の5%もなかったはずだ」と彼は話す。 その他にもツッコミどころは満載だが、特に「祖国に帰りたい」という望郷の心情を演出する部分に引っかかったという。「我々在日にとっては意味が違う。故郷(韓国)の家族、親戚には会いたいが、それは決して『帰りたい』という意味ではない」というのだ。 なぜ彼は望郷の念はあっても、「帰りたいとは思わないはず」というのか。その理由はシンプルで、「韓国に比べて、今も日本の方が暮らしが豊かで自由だから」だという。特に彼は、文(ムン)前政権のこの5年間を韓国で過ごしたから、たまらないはずである。 彼に限らず私の多くの在日コリアンの友人たちは、特別永住権を持っていることが前提ではあるが「在日の多くは、日本に感謝しながら暮らしている。もちろん祖父、父親の時代にはキツイ差別もあったが、今では投票権以外は日本国民と同等の権利で暮らしていける」と話す。友人自身も80年代以降、日本人からの日常的な差別や、生活に不自由さを感じたことはないという』、「帰りたいとは思わないはず」、「その理由はシンプルで、「韓国に比べて、今も日本の方が暮らしが豊かで自由だから」だ」、「「在日の多くは、日本に感謝しながら暮らしている。もちろん祖父、父親の時代にはキツイ差別もあったが、今では投票権以外は日本国民と同等の権利で暮らしていける」と話す。友人自身も80年代以降、日本人からの日常的な差別や、生活に不自由さを感じたことはないという」、現在は1人当たりGDPは韓国の方が上だが、自由さは日本の方が上なのかも知れない。
・『日朝共同の帰国事業で、大勢の在日コリアンが北朝鮮へ送られた 小説とドラマを合わせれば、世界各地の数千万人もの人々が「パチンコ」に感動し、在日コリアンへの差別について知ったことになるだろう。しかし実際には、日本に暮らした同胞だけが苦労したわけではない。ここからは、「北へ送還された在日コリアン」の、決して話すことができない心情について話したい。 北へ送還された在日コリアンとは、1959~1984年の間に朝鮮総連の口車に乗せられ、日本政府も後押しした帰国事業によって北朝鮮に移住した在日コリアンのことだ。私もその一人で、1960年、7歳のときに帰国事業で北朝鮮に渡った。 在日コリアン1世である私の両親と在日コリアン2世の我々兄弟は、北へ送還されたその瞬間から、朝鮮民族が蹂躙(じゅうりん)されたという日本を懐かしがり、死ぬ前に一度でいいから母国である日本に行きたいと、それを一生の願いとして、胸に刻んで生きてきた。「パチンコ」の主人公ソンジャが、4世代にわたって差別されたという、がめつく険しい日本を、そのように懐かしがってきたのだ。 1960~80年代に日本でソンジャが体験したという、民族的差別と不平等は北朝鮮にもあった。加えて、北朝鮮金氏王朝の独裁と粛清、飢餓と死、出身成分(編注:北朝鮮独特の身分制度)による弾圧、移動の自由と生命権まで奪われ、まさに奴隷のような生活を送っていた「北へ送還された在日コリアン」の一生を想像してみてほしい。 日本で体験したという民族的差別より、もっと深刻な、死ぬほど劣悪な生活。生きても生きても終わりがない絶望、殺しても殺しても終わりがない粛清、国中どこへ行っても息の詰まる監視と独裁……こうした北朝鮮の暮らしをもし皆さんが経験したら、おそらく血の涙を流さずにはいられないだろう』、「帰国事業によって北朝鮮に移住した在日コリアン」は確かに悲惨だ。
・『移動の自由もない、首領様の命令には絶対服従の北朝鮮生活 まさに「パチンコ」で描かれているように、他国である日本でも、在日コリアンは差別や蔑視に耐えながら力強く生き抜き、パチンコ業界で成功をつかむことができたし、小さな食堂も持つことができた。 しかし、韓民族の住む祖国だといわれ、誘拐されるように渡ってきた北朝鮮の地では、党が定めた場所で暮らさなければならず、首領様という王の命令には絶対服従であった。(北朝鮮国民ではなく)北へ送還された在日コリアンなので、航海漁船(外国に行くことができる漁船)に乗ることはできなかったし、党幹部にもなれず、志望する大学にも行けなかった。北へ送還された在日コリアンは、就職の自由もなく、望む大学には行けず、参政権もなく、あらゆる面で差別を受けなければならなかったし、監視と弾圧を受けなければならなかった。在日コリアンが、日本で就職や社会生活で受けた民族差別と、北朝鮮で受けた死ぬほどの弾圧とは、天と地の差がある。 日本は他国なので在日コリアンは差別され、いじめに遭ったというのならば、同じ韓民族であり同胞である北朝鮮で、なぜ差別と弾圧に苦しまねばならなかったのだろうか? 母国である日本と、故郷である韓国への自由な往来と移動は、夢見ることすらできなかった。故郷が懐かしく、自由と人権の願いを成就するために脱北しようとすれば、「反逆者」として粛清された。) ▽死ぬ前に、一度でもいいから日本に行きたい(北朝鮮は「祖国に早く来い、歓迎する」と言っていたのに、実際には、内臓をすべて溶かされ殻だけになったさなぎのように、人権はもちろん、身体と意識までも奪われた“植物状態”にさせられた。死にたいほどつらい弾圧を受けた北朝鮮で、我々は、腹いっぱいに食べることができ、差別すら自由意思に基づいている日本を「死ぬ前に一度でも行きたい」と夢に見て、本当に一生の願いとして胸に刻んで生きていたのだ。 私の母は亡くなる直前に、痩せこけて真っ白になった弱々しい手で、私の手を握ってこう言った。「テギョンよ! もしもの話だ。もし、未来に、外国に出て行くことができる機会が来たなら、必ず日本に行きなさい!」。今でも、虫の息で語った母の最期の言葉は、私の耳から決して離れることはなく、胸の中に永遠に刻み込まれている。「自由を勝ち取りなさい!」と』、「北へ送還された在日コリアンは、就職の自由もなく、望む大学には行けず、参政権もなく、あらゆる面で差別を受けなければならなかったし、監視と弾圧を受けなければならなかった。在日コリアンが、日本で就職や社会生活で受けた民族差別と、北朝鮮で受けた死ぬほどの弾圧とは、天と地の差がある」、その通りだ。
・『厳しい身分制度、在日コリアンに対する差別と蔑視 ドラマ「パチンコ」を見た人たちが、100年余りの在日コリアンの差別の歴史に涙を流したのだとすれば、北へ送還された在日コリアンが、日本でソンジャが受けた差別と蔑視の歴史に加えて、北朝鮮で味わわされた粛清、弾圧、奴隷の歴史を知ったなら、世界は血の涙を流すことになるだろう。 北朝鮮政府は、古代インドのカースト制度のような、金氏王朝式による成分制度によって、北へ送還された在日コリアンを公的に差別した。結果、志望する大学も、望む就職も、真の愛で成り立つ結婚も、党が関与した。一挙一動を監視される北朝鮮では、行動と意識まで統制される「操り人形」にならなければならなかった。北朝鮮の子どもは、皆、生まれてすぐ洗脳される。子どもたちは、世界はすべてそうなのだと信じ込み、「忠誠ロボット」となる。「苦痛だ」と一言でも話せば、少しは慰安を受ける自由がなければならないはずなのに、暗黒の北朝鮮では、そんな小さなうめき声も許されることはなく、反動的な言葉を言ったとして、政治犯収容所へ消えていった人々も多かった。) 北へ送還された在日コリアンは、「パチンコ」の主人公のソンジャ世代が民族的な差別と蔑視を受けた時期の日本が良かったと回想する。日本では、在日コリアンが差別された、蔑視されたと、安心して話せる。そんな自由が懐かしいのだ。 北へ送還された在日コリアンこそ、ソンジャの言う民族的な差別と蔑視に加えて、北朝鮮金氏王朝の弾圧、独裁、粛清、奴隷生活を合わせて受けた、まさに「虫けら人生」だ。在日コリアンの北への送還は、1959年12月14日から1985年3月25日まで、合計186回行われ、9万3340人を積み出した。あたかも昔の米国で黒人奴隷が売られたように、「地上の楽園」という偽りの文句で日本から北朝鮮へと誘拐されたのだ。 作家イ・ミンジンが、米国ではなくもし北朝鮮に移住していたら、小説「パチンコ」では、金氏王朝の独裁と窓のない監獄で、殺し、殺され、生き馬の目を抜く北朝鮮社会が描かれたのではなかろうか? 世の中のすべてを死ぬほど我慢して耐えなければならない、どん詰まりの連続が、北朝鮮生活だ。北へ送還された在日コリアンにとっては、日本での差別と蔑視は、人生の中でほんの一瞬通り過ぎた夏の日の夕立のようなものだ。日本で差別を受けたけれど、抵抗する自由があったあの頃を、本当に幸せな時期だったと懐古するのである』、「世の中のすべてを死ぬほど我慢して耐えなければならない、どん詰まりの連続が、北朝鮮生活だ。北へ送還された在日コリアンにとっては、日本での差別と蔑視は、人生の中でほんの一瞬通り過ぎた夏の日の夕立のようなものだ。日本で差別を受けたけれど、抵抗する自由があったあの頃を、本当に幸せな時期だったと懐古するのである」、「北朝鮮」への「帰還」を促した日本政府も罪作りなことをしたものだ。
タグ:(その16)(アメリカが「日韓関係改善」を強く迫れない背景 バイデン大統領のアジア訪問で進展はあるか、駐日韓国大使に“知日派”内定も 慰安婦・徴用工の「問題発言」で波紋、在日韓国人差別を描いた国際的大ヒットドラマ「パチンコ」に、在日韓国人が抱く違和感) 日韓関係 東洋経済オンライン ダニエル・スナイダー 氏による「アメリカが「日韓関係改善」を強く迫れない背景 バイデン大統領のアジア訪問で進展はあるか」 確かに「検討課題満載の日程」のようだ。 「バイデン大統領の野心的なアジェンダに明確に含まれていない項目がある。それは、・・・日本と韓国の間に依然として横たわるギャップを修復すること」、「日韓両政府は膠着状態にある。両者とも、事態を打開するための次の一手は相手が取るべき、と考えている」、これでは難しそうだ。 「日韓関係の悪化が始まったのはトランプ政権時代のことだが、その当時はこの問題が関心を集めることはほとんどなかった。バイデン政権が登場し、各同盟関係を復活させ強化していくとの方針が打ち出されたことで状況が一変し、この問題が再び関心を集めることとなった」、(米国)「政府関係者の中には日本と韓国に、両国が連携するのは戦略的に非常に重要なことなのだということを思い返させることに焦点を置きたいと考えている者がいれば、地政学上のメリットで無理やり連携したとしても、関係悪化の根本的な原因である、戦時中の歴史的問題に真正 「バイデン政権のある幹部は、「われわれは関与すべきではないとの考えに私は反対する。これはある程度喫緊の事柄である」」、「日韓関係は、クアッドを推進する努力や地域の「自由で開かれたインド太平洋」関係を推進する努力よりはるかに重要であるとまで主張した。加えて、それには第二次世界大戦時代の歴史問題と取り組むことが必要になるであろうことも示唆」、この「幹部」が「日韓関係」をここまで重視しているとは驚かされた。 「アメリカが目に見える形で圧力をかけていないのは、日韓両国に内政問題があるがゆえに、両国の政府がこの問題を前進させる力が制限されていることが影響しているのかもしれない」、なるほど。 「尹大統領が、岸田首相と比べて政治的に「自由が利かない」状態にあるとみており、次のように話す。 「もし岸田首相が政治家としての勇気を持っているのであれば、同氏側からの意思表示はより踏み込んだものとなり、政治的にもより実行可能なものとなるだろう」」、「「日本人は今、傍観者の立場を取っている」としながらも、「ボールは日本側のコートにある」と付言」、「尹大統領」がそんなに苦しい立場にあるとは初めて知った。そうであれば、「岸田首相」からのアクションの方がカギになりそうだ。 「バイデン大統領は、この問題(戦時中の歴史的問題)に関して個人的な経験を有している」、「水面下で実際の行動が取られる可能性はある」、「バイデン大統領が同席する中で、歴史問題が大きな比重を占めたとしても、私は驚かない」、「水面下」とはいえ、「歴史問題が大きな比重を占め」る「可能性」があるのだろうか。 ダイヤモンド・オンライン 羽田真代氏による「駐日韓国大使に“知日派”内定も、慰安婦・徴用工の「問題発言」で波紋」 「国際交流会議「アジアの未来」の場で出た」、「尹徳敏氏の発言は」確かに極めて問題が多く、失望させるものだ。 「新たに駐日大使に就任予定の尹徳敏氏は、少なくとも姜昌一氏より日韓関係に寄与できるはずだ」、喜ばしいことだ。 「日韓慰安婦合意で韓国側の要求を聞き入れて以降、いろいろな問題が浮上して関係がこじれたのだ。これらの問題を解決しようとするから双方から不満の声が上がる。日本と韓国はつかず離れず、一定の距離を保った関係を維持することが望ましい」、これで「日韓問題を解決させないことが、日韓関係改善につながる」との逆説的主張が理解出来た。 「韓国の駐日大使は、慰安婦問題や徴用工問題を解決しろと騒がない方が、むしろ多くの韓国人にメリットをもたらすはずだ。尹徳敏氏が駐日大使に就任したら、日本に賠償や謝罪を要求するのではなく、韓国民の感情コントロールに尽力すべきだろう」、その通りだ。 李 泰炅氏による「在日韓国人差別を描いた国際的大ヒットドラマ「パチンコ」に、在日韓国人が抱く違和感」 「もっと知ってほしい“差別”がある」とはどういうことだろう。 「関東大震災での朝鮮人虐殺事件をはじめ、敗戦後の日本における在日コリアンに対するあらゆる差別と蔑視を受けながら生きたソンジャは、パチンコをなりわいとするしかなかった」、「植民地下で非常に過酷な生活を送るソンジャの姿に心を打たれずにはいられないだろう」、なるほど。 「100年もの歳月に連なる、悲惨な在日コリアンの人生に対して、世界中が涙を流しているのだ」、なるほど。 「帰りたいとは思わないはず」、「その理由はシンプルで、「韓国に比べて、今も日本の方が暮らしが豊かで自由だから」だ」、「「在日の多くは、日本に感謝しながら暮らしている。もちろん祖父、父親の時代にはキツイ差別もあったが、今では投票権以外は日本国民と同等の権利で暮らしていける」と話す。友人自身も80年代以降、日本人からの日常的な差別や、生活に不自由さを感じたことはないという」、現在は1人当たりGDPは韓国の方が上だが、自由さは日本の方が上なのかも知れない。 「帰国事業によって北朝鮮に移住した在日コリアン」は確かに悲惨だ。 「北へ送還された在日コリアンは、就職の自由もなく、望む大学には行けず、参政権もなく、あらゆる面で差別を受けなければならなかったし、監視と弾圧を受けなければならなかった。在日コリアンが、日本で就職や社会生活で受けた民族差別と、北朝鮮で受けた死ぬほどの弾圧とは、天と地の差がある」、その通りだ。 「世の中のすべてを死ぬほど我慢して耐えなければならない、どん詰まりの連続が、北朝鮮生活だ。北へ送還された在日コリアンにとっては、日本での差別と蔑視は、人生の中でほんの一瞬通り過ぎた夏の日の夕立のようなものだ。日本で差別を受けたけれど、抵抗する自由があったあの頃を、本当に幸せな時期だったと懐古するのである」、「北朝鮮」への「帰還」を促した日本政府も罪作りなことをしたものだ。
日中関係(その6)(元中国大使・丹羽宇一郎氏に聞く 日本は対中国でどう対応するべきか、「やっと人間の世界に戻った」と涙…中国で日本移住の人気が急上昇の事情、日本と中国「経済安全保障」の概念が台頭した事情 「政経分離」の原則は何を境に霧消してしまったか) [外交]
日中関係については、2020年10月15日に取上げた。久しぶりの今日は、(その6)(元中国大使・丹羽宇一郎氏に聞く 日本は対中国でどう対応するべきか、「やっと人間の世界に戻った」と涙…中国で日本移住の人気が急上昇の事情、日本と中国「経済安全保障」の概念が台頭した事情 「政経分離」の原則は何を境に霧消してしまったか)である。
先ずは、本年2月21日付け日刊ゲンダイ「元中国大使・丹羽宇一郎氏に聞く 日本は対中国でどう対応するべきか」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/301465
・『今年2022年は日中国交正常化50周年。1972年9月29日、当時の田中角栄首相が北京で周恩来首相とともに「日中共同声明」に調印してから50年の記念すべき年なのだが、お祝いムードはなく、日中関係はいまや戦後最悪にまで冷え込んでいる。それは政治や外交の現場だけではない。日本国民の対中感情の悪化も極まり、世論調査では9割が中国に良い印象を持っていない。米中対立のエスカレートに伴い「台湾有事」も語られ、不穏な空気も漂う。現状を憂い、永続的な日中友好を願う元中国大使に話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aは丹羽氏の回答)。 Q:開催中の北京冬季五輪では、欧米各国が外交的ボイコットをし、日本も政府関係者を派遣しませんでした。この状況を、どうご覧になっていますか? A:私自身、五輪にまったく関心がないわけではありませんが、政府関係者が欠席ということもあり、関係者以外はいつもと違う感じを持っておられる人が多く、国を挙げてという日本の元気がいまひとつという印象を受けます。 Q:日本の世論の9割が中国に対して良い印象を持っていない、ということですからね。 A:どうして中国に良い感情を持てないかというと、ひとつは中国をいまだ侮蔑しているからではないでしょうか。「シナシナチャンコロ」という言葉があるじゃないかというように。「シナ」という言葉は、司馬遷の「史記」などを読みますと、紀元前3世紀ごろにあった「秦(シン)」という王朝が「シナ」になっていったので、必ずしも侮辱する言葉ではないんです。しかし「チャンコロ」ってのは一体なんなんだ、と。お金のことを「チェン」って言ったんです。それがいつの間にか「チャン」に変わった。それに「コロ」が付いて「チャンコロ」。要するに、小さなお金がコロコロする連中、という意味で、「小さくて取るに足らない」という侮辱的な言葉になった。2つ目は最近の中国の政治的な尖閣への威圧的行動や一部の人権侵害報道にどこか嫌悪感や威圧感を抱くようになった人がいる気がします。しかし、中国はいまや世界第2位の経済大国だし、貿易では世界一の国となっています。時代も違うし、また報道だけで中国のことを軽蔑したり、怖がったりする必要はないでしょう。いろいろな意見を聞いて、現場を見て考えましょう』、「どうして中国に良い感情を持てないかというと」、「ひとつは中国をいまだ侮蔑している」人が高齢者には多いかも知れないが、全体ではそれほどでもないような気もする。
・『米中対立は茶番劇、乗っかってはいけない Q:中国大使の時代に中国全土をほぼくまなく歩きまわったそうですが、新疆ウイグル自治区の人権問題については、どうお考えですか? A:私が新疆ウイグル自治区を訪れたのは、2010年か11年ごろです。今から10年ほど前ですね。中国政府から「ウイグルの人たちに会ってくれ。会って話を聞いてくれ」と言われました。そりゃあ行けば、良いことが多いですよ。中国語を話すウイグル族のトップの人が、非常に丁寧に我々をもてなしてくれました。新疆ウイグル自治区では、学校で中国語を教え、ウイグル族の言葉は教えないと怒る人がいますが、自治区の住民の半分は漢民族ですから、中国語を話せなければお金を稼ぐことも、中国人と話すこともできません。 Q:今年は「日中国交正常化50周年」です。しかし、日中関係は冷え切っています。 A:まずはっきりさせておきたいのは、米国は台湾問題で中国と茶番劇みたいなことをやっているということです。巷間言われているような「台湾有事」となって、台湾のために米国の軍隊が台湾に入っていったとしても、結果は見えている。米国は絶対に勝てません。米国は世界全体の軍事力で言えば、中国の3倍ぐらいの軍事力があります。しかし、対ロシアなど欧州、中東、アジアにも軍隊を展開しており、東南アジアや台湾海峡には、中国に勝るような軍事力を持っていない。戦闘機などの数を見れば、それは明確です。米国も中国には勝てないことが分かったうえで、ちょっかいをかけている。米国の威信のためです』、「台湾のために米国の軍隊が台湾に入っていったとしても、結果は見えている。米国は絶対に勝てません」、その通りだが、かといって日本も「台湾」を見捨てることは出来ないのではなかろうか。
・『中国はこの先も隣国、喧嘩しても仕方ない Q:そうなると、日本は対中国でどのような対応をすべきでしょう? A:国家副主席・習近平(現国家主席)は私に「住所変更はできませんよ。これから何百年も、隣国としてお付き合いしていくのです」と言いました。喧嘩しても仕方ないでしょう、という意味です。たとえ米国が台湾有事で日本に協力を求めてきたとしても、日本は茶番劇だということを頭に入れて行動する必要があります。米国から「おい、ちゃんと台湾を支援してやってくれ」と言われても、真に受けて乗っかってはいけない。日本は独立国です。米国には、「いやいや、アメリカさん。それは分かりますけど、日本は中国と、今後も何百年と隣国として仲良くやっていくのだから、我々は簡単に応援できません。武器を持って戦うのはお互いやめてください」と言えばいい。隣国というのは往々にして仲の悪いものです。しかし、歴史的にずっと戦争ばかりやっていた日本と中国が、この50年は平和にやってきたのです。こんなところで武器を取ってはいけない。 Q:外務大臣ですら訪中しにくい、という今の日本の雰囲気はおかしいですよね? A:日本も中国も頭の良い外務大臣ですから、お互いに茶番劇だと分かっていると思います。この先の50年も平和にやっていくためには、日本も茶番劇をやればいいんです。「中国と喧嘩なんかしたくないよ。でもアメリカの顔も立てないといけないから、君たちもそうしてくれよ」と、お互いに話し合いで。大事なのは喧嘩や戦争ではなく外交です。できれば日中に韓国も入れて3カ国で話ができればいいのですがね』、「習近平(現国家主席)は私に「住所変更はできませんよ。これから何百年も、隣国としてお付き合いしていくのです」と言いました」、「住所変更はできません」とは言い得て妙だ。「この先の50年も平和にやっていくためには、日本も茶番劇をやればいいんです。「中国と喧嘩なんかしたくないよ。でもアメリカの顔も立てないといけないから、君たちもそうしてくれよ」と、お互いに話し合いで。大事なのは喧嘩や戦争ではなく外交です」、同感である。
・『日本は米国の言いなりになって軍事費を増やしている Q:現状は、そうした平和な方向とは逆に進んでいるように見えます。 A:日本でいま一番の懸案材料は、米国の言いなりになって軍事費を増やしていることです。我々は武器を持てば持つほどに、武器を使いたくなるものです。良いおもちゃを持つと、それで遊びたくなる子供と一緒。これが戦争なんです。今の若い人が何と言っているか。「年寄りや大人は、あちこちに戦争の種みたいなものばっかり作るだけ作って、食い散らかしたまま逃げるのか」と怒っていますよ。若い人たちに、そう思われないような国にしなければいけません。 Q:日本国内で大きくなる「反中感情」については、丹羽さんが編集・解説された「現代語訳 暗黒日記」(外交評論家・清沢洌が太平洋戦争中に記した日記)で指摘されていらっしゃるように、戦争当時と似た空気感があります。「多数が同じ方向を向くのはあまりよろしくない」とも書かれていました。 A:日本はやはり少数民族で日本人ばかりですから、権限が不明確で、誰も責任を取らなくていいような言い方で物事が進められる。それは戦前も今も変わっていません。「きっと天皇はそういうつもりだよ」「総理はそういうつもりだよ」「社長はそのつもりだよ」で決まっていく。実際には、総理も社長も何も言っていない。言って失敗したら責任を取らなきゃいけませんからね。誰も決定をしないのに「そうだろう」って決めてしまうわけです。これでは日本は世界ののけ者になってしまう。SNSとかそういうものばかり信用して「スマホではこう書いてあった」「SNSではこう言っている」ではダメ。自分の目で確かめ、自分で考え、自分でこうするんだと決める。そうした姿勢にならないと、いつまでたっても日本は良くなりません。 Q:習近平国家主席が、今秋の党大会で異例の3期目に突入するといわれています。習主席については、どんな印象をお持ちですか? A:習近平は頭の良い男です。いろんなことを念頭に置いて、「これをやってくれ」と指示し、「こういう報酬を約束する」「やらないやつは罰だ」と信賞必罰を実行しています。日本のように「まあ仲良くやってよ」では、14億の民は統治できません。まずはお互いに信頼し合って、良いものは良い、悪いものは悪い、というのが、習近平の考え方だと思います。中国との付き合い方の肝もそこにある。人は自分のかがみ。あなたが人を信頼すれば、人もあなたを信頼する。平和に暮らしていくためには、自らまず平和への第一歩です』、「我々は武器を持てば持つほどに、武器を使いたくなるものです。良いおもちゃを持つと、それで遊びたくなる子供と一緒。これが戦争なんです」、その通りだ。「日本はやはり少数民族で日本人ばかりですから、権限が不明確で、誰も責任を取らなくていいような言い方で物事が進められる。それは戦前も今も変わっていません」、「誰も決定をしないのに「そうだろう」って決めてしまうわけです。これでは日本は世界ののけ者になってしまう。SNSとかそういうものばかり信用して「スマホではこう書いてあった」「SNSではこう言っている」ではダメ。自分の目で確かめ、自分で考え、自分でこうするんだと決める。そうした姿勢にならないと、いつまでたっても日本は良くなりません」、「中国との付き合い方の肝もそこにある。人は自分のかがみ。あなたが人を信頼すれば、人もあなたを信頼する。平和に暮らしていくためには、自らまず平和への第一歩です」、さすが丹羽氏の平和主義的主張、同感である。
次に、5月31日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した日中福祉プランニング代表の王 青氏による「「やっと人間の世界に戻った」と涙…中国で日本移住の人気が急上昇の事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/303937
・『新型コロナウイルス感染拡大の影響でロックダウンが開始されてから、2カ月が経過した中国・上海。厳しい制限下の生活に疲れ果て、将来に不安を抱える人が少なくないという。そうした市民の中で、「中国国外への移住」に対する関心が高まっている。中でも、「日本へ移住したい」という人が相次いでいるのだ。突如、移住先として日本人気が高まっている理由とは何か』、「突如、移住先として日本人気が高まっている」、とは驚かされた。
・『中国で「国外脱出」への関心高まる ロックダウン下の上海で移住希望者急増 この頃、中国ではネット上で「潤学」という言葉がはやりはじめ、注目を集めている。 中国語で「潤」は、漢字の通り「潤い、利益」などを意味する。ピンインの発音は「run」になるが、これが英語の「run」と同じなので、昨今は「海外へ脱出する、逃げ出す」という意味を持つようになった。冒頭の「潤学」はこの意味から派生した言葉で、「いつ、どの国へ、どんな手段で」など、海外移住を成功に導く知識とノウハウのことを指す。 中国では今、海外への移住を検討する人が急激に増えている。 中国最大の検索エンジン百度(バイドゥ)や最大手のメッセンジャーアプリ「ウィーチャット」では、3月下旬から、「移民」というキーワードの検索数が爆増したという。例えば、ウィーチャットでの検索数は、4月3日の1日だけで5000万以上となった。単純計算で全人口のうち、約30人に1人が「移民」に関心を持っていることとなる。特に4月3日は、政府がゼロコロナ政策の継続姿勢を明らかにしたこともあり、国民の間で“脱出”への関心が高まったようだ。 とりわけ移民への関心が高まっているのが、上海だ。日本でも報道されていた通り、上海では新型コロナウイルス感染拡大を背景に3月末からロックダウンが行われている。その期間は2カ月を超えた。 常住人口約2600万人を有する上海は、世界有数の国際ビジネス都市である。市政府の都市管理水準が中国国内で最も高いといわれており、異文化にも寛容的だ。ゆえに、国内外から多くの人材が集まり、上海は他の都市と比べものにならないくらい急激な成長を遂げてきた。 コロナ対策においても、当初は中国国内でも「優等生」の都市だった。そんな上海がまさかのロックダウン。筆者も何度か現地の惨状を記事にまとめたが、厳しい規制が敷かれる中、市民の忍耐力は限界にあるといえる。 今回のロックダウンで、上海というブランドは大きく傷ついた。現在の状況に疲れ果て、将来に不安に感じる上海市民が急増している。 筆者は日頃、公私ともに上海と密接な関係があるため、ほぼ毎晩遅くまで仕事先の関係者や友人たちから電話で「愚痴を聞く」生活が続いている。皆、口をそろえて、「こういうことが上海で起こっているのがどうしても信じられない。あり得ない」と言う。中には、「海外へ脱出したい」という人も多い。そして、筆者の周りでは、その行き先として「日本」を希望する人が増えている』、「4月3日は、政府がゼロコロナ政策の継続姿勢を明らかにしたこともあり、国民の間で“脱出”への関心が高まったようだ。 とりわけ移民への関心が高まっているのが、上海だ」、「今回のロックダウンで、上海というブランドは大きく傷ついた。現在の状況に疲れ果て、将来に不安に感じる上海市民が急増している。 筆者は日頃、公私ともに上海と密接な関係があるため、ほぼ毎晩遅くまで仕事先の関係者や友人たちから電話で「愚痴を聞く」生活が続いている。皆、口をそろえて、「こういうことが上海で起こっているのがどうしても信じられない。あり得ない」と言う。中には、「海外へ脱出したい」という人も多い。そして、筆者の周りでは、その行き先として「日本」を希望する人が増えている」、なるほど。
・『移住先として日本の人気が急増? その理由とは 筆者の仲の良い友人(40代女性)は2人の子持ちだが、「上の娘を日本に留学させたい」と言ってきたので筆者は驚いた。なぜなら、彼女も彼女の夫もアメリカ国籍の中国人。上海で大きなレストランを経営しており、子どもは将来、アメリカに留学させるのだろうとてっきり思っていたからだ。ところが、彼女は「アメリカは銃社会で怖いし、最近アジア系の人への差別や暴力事件も増えている。一方で、日本は安全で上海にも近い」と言う。 これまで中国人の中で人気の移住先は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスなど英語圏の国に加えて、アジアではシンガポールやマレーシアなどだった。日本はもともと移民の国や英語圏ではないので、人気国リストの上位に入っていなかった。 しかし先日、東京で中国人向けの来日留学や各種ビザ取得のコンサル会社を経営する知人男性、張さん(仮名)から、筆者のもとに上機嫌で連絡があった。「最近、上海を中心に日本へ移住したいとの問い合わせ急増している。昨年に比べて10倍以上に増えた。対応に追われ、うれしい悲鳴だ」という。) なぜ、日本に移住したい人が増えているのか。 その背景について張さんは、最大の要因は中国の厳しいゼロコロナ政策にあるのではないか、と分析する。長らく続くロックダウンに我慢の限界が来たのだ。また、経済の減退を身近に感じるようになり、特に中間層は将来に不安を感じはじめている。 加えて、これまで人気の移住先上位に入っていた国々で、「中国人の移住に関するハードルが上がっている」ことも間接的な要因となっているようだ。 「例えば、シンガポールでは一部の『投資移民』の条件を変更。今年4月から、富裕層向けの移住の際に活用されてきたファミリーオフィスについて、最低投資額を1000万シンガポールドル(約9億円)に引き上げた。また、英語圏の国へ留学や移住支援を行う関係者からは、『イギリスは今年2月から移民の手続きをストップしてしまっている』『オーストラリアは、中国からの今年の移民申請枠はもう定員に達して終了した』という話も聞いている」(張さん) ただ、他国の受け入れの門戸が狭まったからといって、日本には簡単に来られるのだろうか。ビザ取得のサポートをする張さんは、日本でのビザ取得について以下のように説明する。 「現在、来日のビザは主に1.留学、2.経営・管理、3.高度な人材の3種類に分かれる。今回は問い合わせのほとんどが、2の経営・管理に当たる。つまり、会社を設立することだ。500万円以上の出資金や日本でのオフィス、住居の確保などの条件をそろえれば、ビザは簡単に取れる。 その後きちんとビジネスが成り立って、日本の納税や雇用規定などを順守すれば、ビザの更新ができ、将来的には永住権を得たり帰化したりもできる」 日本でのビジネスが成功するか否かという問題はあるが、資産が豊富な上海在住の中国人にとって来日ビザを取得すること自体は、それほど高いハードルではないといえる』。「これまで中国人の中で人気の移住先は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスなど英語圏の国に加えて、アジアではシンガポールやマレーシアなどだった。日本はもともと移民の国や英語圏ではないので、人気国リストの上位に入っていなかった」、「最大の要因は中国の厳しいゼロコロナ政策にあるのではないか、と分析する。長らく続くロックダウンに我慢の限界が来たのだ。また、経済の減退を身近に感じるようになり、特に中間層は将来に不安を感じはじめている。 加えて、これまで人気の移住先上位に入っていた国々で、「中国人の移住に関するハードルが上がっている」ことも間接的な要因となっているようだ」、「今回は問い合わせのほとんどが、2の経営・管理に当たる。つまり、会社を設立することだ。500万円以上の出資金や日本でのオフィス、住居の確保などの条件をそろえれば、ビザは簡単に取れる。 その後きちんとビジネスが成り立って、日本の納税や雇用規定などを順守すれば、ビザの更新ができ、将来的には永住権を得たり帰化したりもできる」 日本でのビジネスが成功するか否かという問題はあるが、資産が豊富な上海在住の中国人にとって来日ビザを取得すること自体は、それほど高いハードルではないといえる」、なるほど。
・『日本に行きたがる中国のエリートたち 「日本にはどうやったら行けるのか」という問い合わせが急増しているのは、こうした専門の会社だけではなさそうだ。 都内で20年以上貿易会社を営む上海出身の友人夫婦は、上海の知り合いから「『経営・管理』のビザを申請したい」「手続きの手伝いをしてほしい」といった依頼が、今年に入って十数件はあったという。そして、そのうちの2組は先日、ロックダウン下の上海から無事に日本に到着したそうだ。 また、東京に住む30代の上海出身男性・馬さん(仮名)は、日本での日常生活や自身の体験などを中国向けに発信しているのだが、上海のロックダウン以降、フォロワーが急増したのだという。「日本に行きたい」「アドバイスが欲しい」といったメッセージが多数寄せられた。 馬さんは、「日本へ行きたい」人が増えていることについて、これまでとは違う傾向があると感じているという。 「これまでも日本を目指す人もいたが、今回は明らかに層が違う。高学歴、超お金持ち、そして教授や医師などのエリートが多くなったと感じ、実に驚いている。しかも、彼らはもうすでに移住の手続きを始めているのだ」(馬さん) 馬さんは、日本は中国と距離的に近いこと、同じアジアの国であり、文化や生活習慣も比較的似ていることなどが移住を希望する理由なのではないかとみている。治安が良いイメージもある。 また張さんと同じく、上海のロックダウンは中国人の心境に大きな変化を与えたとみる。 「ロックダウン中はずっと部屋から出られない。陽性になれば、家族全員がコンテナ隔離施設に送り込まれてしまう。その上、家の鍵を渡せと言われ、勝手に消毒されて家の中はビショビショ……。多くの人がこの現状に希望を失ったと思う」(馬さん) ただ移住に関しては、適している国は人それぞれという冷静な考え方を持っている。 「日本はいい国だと思うが、これまで僕からは今まで一度も移住先として日本を勧めることはしなかった。なぜなら、完璧な国は世界中どこにもないし、価値観は人はそれぞれ。どの国が自分に適しているのかは、本人にしか分からないからだ。何を大切にしたいか、どんな暮らしをしたいのかはよく考えてほしい」(馬さん)』、「上海のロックダウンは中国人の心境に大きな変化を与えたとみる」、しかし、「上海」を「脱出」して、「日本」に「移住」したいというのは、あくまで一時的な現象に過ぎず、やがて「脱出」熱も冷めるのではなかろうか。
・『ロックダウン下の上海から日本に“脱出”した人も「やっと人間の世界に戻った」 筆者は、前出の友人夫婦の紹介で、先日来日し都内のホテルで隔離期間を送っている40代の男性、汪さん(仮名)に、上海を脱出し日本の地に着いた経緯や心境を直接聞くことができた。 「成田空港に着いた途端、人間の世界に戻ったと思った!」と話す汪さん。 それもそのはず、ロックダウン下の上海の自宅から浦東空港までの移動中は、人影がほとんど見られなかったという。 「空港に入ってからも、白い防護服を着ているスタッフばかり、お店の扉も全て閉じていて……まるで幽霊の世界のようで寒けがした。機内に搭乗してもCA全員が防護服姿だった。 成田に着くと、働いているスタッフが普通の服を着ていて新鮮だった。自分は白い防護服を見慣れてしまったようだ。成田空港内外のお店では、久しぶりに買い物ができた」(汪さん) 日本で久々に感じた“日常”に安堵したという。同時に、これまでの苦労が走馬灯のように思い出され、思わず涙があふれた。汪さんは、「これからは上海に残った家族と日本で合流することに集中したい」と今後を見据えた。 彼の言葉を聞いて、筆者も一日も早く家族と日本で再会できる日が来るように祈った。一方で、日本社会に定着することにも別の苦難があるだろうとも思った。 長引くロックダウンは、上海に住む多くの人にとってこれからの暮らしを不安にさせる出来事だった。そうした中、少なからぬ人たちにとって、「日本への移住」が選択肢に入り始めたようだ。日本在住の中国人が100万人を超える日も、そう遠くないのかもしれない』、「日本社会に定着することにも別の苦難があるだろう」、特に「『経営・管理』のビザ」に見合った仕事がどれだけあるかは疑問だ。いずれにしろ、課題は多そうだ。
第三に、6月6日付け東洋経済オンラインが掲載した独立したグローバルなシンクタンクAPI地経学ブリーフィングによる「日本と中国「経済安全保障」の概念が台頭した事情 「政経分離」の原則は何を境に霧消してしまったか」を紹介しよう。
・『米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。 独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。 日中国交正常化の歴史的な意義は、冷戦の枠組みの中で共産主義陣営の分断による国際秩序の再編にあるとみられることが多いが、この国交正常化は中国の改革開放を推し進める下地となり、その後の世界経済の構造にも大きく影響を与えるものでもあった。ここでは、国交正常化前から日中関係を形作ってきた「政経分離」の仕組みが2010年を境に変化し、経済安全保障の概念を導入せざるをえなくなった過程を明らかにしていく』、「政経分離」から「経済安全保障」とは興味深そうだ。
・『中国の経済発展における日本の役割 サンフランシスコ講和会議以降、日本は台湾を中国の代表として認めたが、当時の吉田内閣の反対を押し切って中国の招待を受けた緑風会の議員が日中民間貿易協定を結び、1950年代に4次にわたって更新された。しかし、国交回復前であり、CHINCOM(対中国輸出統制委員会)の制約や決済方法の複雑さなど、さまざまな障害を抱えたうえでの貿易であり、その経済的なインパクトは大きくなかった。 それが大きく転換するのが石橋湛山内閣、池田勇人内閣が対中貿易に前向きになり、中国も「友好貿易」を進める姿勢を強める中での、LT貿易の開始である。LTとは中国の中華人民共和国アジア・アフリカ団結委員会主席廖承志(Liao)と元通産大臣の高碕達之助(Takasaki)の間で結ばれた覚書に基づくものであり、国交回復前から「政経分離」の原則に基づいて貿易関係が築かれていったのである。 国交正常化後の日中経済関係は、それ以前からの関係に加え、鄧小平が1978年に来日し、日本の産業やインフラの整備状況を視察したことが、「改革開放」路線に大きな影響を与え、日本の産業発展モデルに対する関心が高まったことで大きく展開する。) この時期は中国が日本にキャッチアップする段階ではあったが、後の飛躍的な経済発展の基礎作りに日本が大きく貢献した時期でもある。文化大革命後の旺盛なインフラ需要や農業改革などへの支援、さらには賠償請求の問題を不問にした一方で、中国に対するODA(政府開発援助)として円借款を中心とする援助を行った。こうして、日中経済関係は、「政経分離」の原則を貫くことで、日本側にとっては、中国への進出によるビジネス上の利益と日中関係の安定化に寄与し、中国側にとっては技術指導などを通じた近代化の推進と経済発展を実現するものとして双方にメリットのあるものとなった』、「日中経済関係は、「政経分離」の原則を貫くことで、日本側にとっては、中国への進出によるビジネス上の利益と日中関係の安定化に寄与し、中国側にとっては技術指導などを通じた近代化の推進と経済発展を実現するものとして双方にメリットのあるものとなった」、なるほど。
・『天安門事件とWTO加盟 1989年6月の天安門事件は、中国の経済発展が民主化に向かっていくという楽観的な見通しを否定する衝撃的な事件であり、その経済発展を支えてきた西側諸国が中国と距離を置く出来事であった。天安門事件直後に開かれたG7アルシュサミットでは、武器禁輸や世界銀行の融資凍結などが合意され、日本も円借款を停止した。 しかし、近年公開された外交文書で、日本は当初から中国を孤立化させることに反対し、制裁に消極的であったことが明らかになっている。当時のアメリカのブッシュ(父)政権は日本が中国を擁護する立場を取ったことで日本が孤立化する恐れがあるとして、中国の孤立化に関する表現を緩和するよう働きかけた。なお、サミット直後に行った円借款凍結も1990年11月には解除している。 日本にとって、中国との関係を良好に保つこと、とりわけ国交正常化以前から進めてきた「政経分離」の原則を踏まえた経済関係の継続を優先した。日本が中国を擁護する立場を取ったのは、経済的な利益だけでなく、中国の孤立化による暴走を懸念したという側面もあるだろう。 中国が天安門事件による孤立化を避け、グローバルなサプライチェーンに組み込まれていく中で、飛躍的な経済発展を可能にしたのが2001年のWTO加盟であった。日本にとって、中国のWTO加盟は二国間貿易の枠組みから、多国間貿易の枠組みに転換することを意味し、東南アジア諸国に広がるサプライチェーンと中国を結び付けることで、さらに多角的な経済的結びつきの枠組みを作ることを目指していた。 中国もWTO加盟を跳躍台として「改革開放」を推し進め、「社会主義市場経済」を高度化していくことにコミットしていた。つまり、中国はWTO加盟を通じて一層市場経済に接近する姿勢を明らかにしたことで、日本を含む西側諸国に対して、中国も「西側の一員」のように振る舞うことを期待させた』、「中国が天安門事件による孤立化を避け、グローバルなサプライチェーンに組み込まれていく中で、飛躍的な経済発展を可能にしたのが2001年のWTO加盟であった」、「中国はWTO加盟を通じて一層市場経済に接近する姿勢を明らかにしたことで、日本を含む西側諸国に対して、中国も「西側の一員」のように振る舞うことを期待させた」、なるほど。
・『レアアース禁輸の衝撃 日本は一貫して中国との貿易を推進し、歴史認識問題や天安門事件のような民主化抑圧を含む、政治的な対立があった場合でも「政経分離」を原則として中国との経済関係を強化してきた。しかし、2005年の小泉純一郎首相の靖国神社参拝を契機として激しくなった反日運動が燃え盛り、日中関係が急速に悪化した。そんな中で2010年の中国によるレアアース禁輸が発令された。 これまで「政経分離」を原則としてきたと認識していた日本にとって、尖閣諸島周辺海域における中国漁船と海上保安庁船舶の衝突で、漁船の船長を逮捕したことは、貿易と切り離された問題であるはずだった。しかし、中国は(名目上は環境問題であったが)日本の自動車産業にとって不可欠であり、その輸入の90%近くを中国に依存していたレアアースの輸出を止めたのである。 この事件を皮切りに、中国との貿易関係は政治と切り離されたものではなく、政治的目的のために貿易を「武器化」することが現実となることが認識されるようになった。中国のレアアース禁輸は日本がWTOに提訴し、勝訴したが、こうした貿易の「武器化」は日本だけでなく、台湾の果物やオーストラリアの農産物や鉄鉱石、石炭、ノルウェーのサーモン禁輸、リトアニア製部品を使ったEU製品の禁輸など、例を挙げればきりがないほど続いている。この事件から「政経分離」の原則は消滅し、経済安全保障が日中関係の焦点となっていく』、「2010年の中国によるレアアース禁輸」を「を皮切りに、中国との貿易関係は政治と切り離されたものではなく、政治的目的のために貿易を「武器化」することが現実となることが認識されるようになった」、「貿易の「武器化」は日本だけでなく、台湾の果物やオーストラリアの農産物や鉄鉱石、石炭、ノルウェーのサーモン禁輸、リトアニア製部品を使ったEU製品の禁輸など、例を挙げればきりがないほど続いている」、なるほど。
・『経済安全保障の時代 レアアース禁輸事件後も「政経分離」の原則が維持されるという希望をわずかに持っていた日本だが、その希望が断たれたのは、第一にトランプ政権のアメリカがファーウェイ製品をはじめとする中国製品を使うことのリスクを強調し、クリーンネットワークなどのイニシアチブで圧力をかけてきたことがある。日本は明示的に中国製品を排除したわけではないが、事実上中国製品を調達しないことで排除し、日本の通信ネットワークに「信頼できない」ベンダーからの製品やアプリケーションがないことを証明することで、アメリカとの関係を優先した対応を選んだ。 第二に、新型コロナによるパンデミックは、マスクや医療防護具、ワクチンなどの世界的な需要が急増したが、その供給が中国に過度に偏っていることで、中国は「マスク外交」や「ワクチン外交」を展開し、生命や健康にかかわる製品にまで経済的強制を仕掛けてくる可能性が高まり、実際、欧州や南米諸国に経済的強制を実施したことである。同時にマスクやワクチンを優先的に輸出して中国の好感度を上げるという戦略も展開した。 こうした中国による「エコノミック・ステイトクラフト(注)」の影響を軽減し、貿易を「武器化」することで政治的な圧力をかけられないようにするためにも、サプライチェーンの強靭化が求められるようになった』、「トランプ政権のアメリカがファーウェイ製品をはじめとする中国製品を使うことのリスクを強調し、クリーンネットワークなどのイニシアチブで圧力をかけてきたことがある。日本は明示的に中国製品を排除したわけではないが、事実上中国製品を調達しないことで排除し、日本の通信ネットワークに「信頼できない」ベンダーからの製品やアプリケーションがないことを証明することで、アメリカとの関係を優先した対応を選んだ」、確かに「トランプ政権」も「経済安全保障」的行動を採った。
(注)エコノミック・ステイトクラフト:経済安全保障。
・『WTOの機能不全が明らかに 第三に、トランプ政権期にアメリカが自由貿易に背を向け、WTOの上級委員の任命を拒むなど、WTOの機能不全が明らかになったことがある。2010年のレアアース禁輸はWTOで勝訴することで、少なくとも中国は自国からの禁輸といった措置は取らなくなったが、貿易を「武器化」しても、WTOを通じて歯止めをかけることができなくなった。そのため、国際法的な対処が難しくなり、自己防衛のための措置を取らざるをえなくなったのである。 こうした背景から、中国への警戒心を隠さない自民党の重鎮である甘利明が中心となって、「『経済安全保障戦略策定』に向けて」と題する提言書が2020年12月に出され、2021年5月にも経済安全保障戦略を「骨太の方針」に加えることを求める提言が出された。これらの提言を受けて、2021年に発足した岸田内閣では経済安全保障担当大臣を設け、若手の小林鷹之を大臣に据えて、経済安全保障推進法案の策定に注力し、2022年5月に同法案が国会で可決された。 しかし、こうした経済安全保障への傾斜が、対中経済関係を遮断する、いわゆるデカップリングに向かうわけではないという点には注意が必要である。日本はこの間も中国を含む多国間枠組みであるRCEPを批准し、中国との自由貿易を推進する立場も取っている。日本にとって、これからの対中経済関係は、一方では国交正常化以前から続く経済関係を維持し、自由貿易による双方の利益を追求しつつ、中国によるエコノミック・ステイトクラフトから自らを守るべく、基幹インフラや戦略的重要物資に関しては自律性を高めていくという措置を取る、という二階建ての対応をしていくことにならざるをえなくなるだろう。 (鈴木一人/東京大学公共政策大学院教授、アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)』、「日本にとって、これからの対中経済関係は、一方では国交正常化以前から続く経済関係を維持し、自由貿易による双方の利益を追求しつつ、中国によるエコノミック・ステイトクラフトから自らを守るべく、基幹インフラや戦略的重要物資に関しては自律性を高めていくという措置を取る、という二階建ての対応をしていくことにならざるをえなくなるだろう」、ずいぶん複雑な対応だが、その通りなのだろう。間違わずに、ちゃんと出来るのかは、いささか心もとない感じがするが・・・。
先ずは、本年2月21日付け日刊ゲンダイ「元中国大使・丹羽宇一郎氏に聞く 日本は対中国でどう対応するべきか」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/301465
・『今年2022年は日中国交正常化50周年。1972年9月29日、当時の田中角栄首相が北京で周恩来首相とともに「日中共同声明」に調印してから50年の記念すべき年なのだが、お祝いムードはなく、日中関係はいまや戦後最悪にまで冷え込んでいる。それは政治や外交の現場だけではない。日本国民の対中感情の悪化も極まり、世論調査では9割が中国に良い印象を持っていない。米中対立のエスカレートに伴い「台湾有事」も語られ、不穏な空気も漂う。現状を憂い、永続的な日中友好を願う元中国大使に話を聞いた(Qは聞き手の質問、Aは丹羽氏の回答)。 Q:開催中の北京冬季五輪では、欧米各国が外交的ボイコットをし、日本も政府関係者を派遣しませんでした。この状況を、どうご覧になっていますか? A:私自身、五輪にまったく関心がないわけではありませんが、政府関係者が欠席ということもあり、関係者以外はいつもと違う感じを持っておられる人が多く、国を挙げてという日本の元気がいまひとつという印象を受けます。 Q:日本の世論の9割が中国に対して良い印象を持っていない、ということですからね。 A:どうして中国に良い感情を持てないかというと、ひとつは中国をいまだ侮蔑しているからではないでしょうか。「シナシナチャンコロ」という言葉があるじゃないかというように。「シナ」という言葉は、司馬遷の「史記」などを読みますと、紀元前3世紀ごろにあった「秦(シン)」という王朝が「シナ」になっていったので、必ずしも侮辱する言葉ではないんです。しかし「チャンコロ」ってのは一体なんなんだ、と。お金のことを「チェン」って言ったんです。それがいつの間にか「チャン」に変わった。それに「コロ」が付いて「チャンコロ」。要するに、小さなお金がコロコロする連中、という意味で、「小さくて取るに足らない」という侮辱的な言葉になった。2つ目は最近の中国の政治的な尖閣への威圧的行動や一部の人権侵害報道にどこか嫌悪感や威圧感を抱くようになった人がいる気がします。しかし、中国はいまや世界第2位の経済大国だし、貿易では世界一の国となっています。時代も違うし、また報道だけで中国のことを軽蔑したり、怖がったりする必要はないでしょう。いろいろな意見を聞いて、現場を見て考えましょう』、「どうして中国に良い感情を持てないかというと」、「ひとつは中国をいまだ侮蔑している」人が高齢者には多いかも知れないが、全体ではそれほどでもないような気もする。
・『米中対立は茶番劇、乗っかってはいけない Q:中国大使の時代に中国全土をほぼくまなく歩きまわったそうですが、新疆ウイグル自治区の人権問題については、どうお考えですか? A:私が新疆ウイグル自治区を訪れたのは、2010年か11年ごろです。今から10年ほど前ですね。中国政府から「ウイグルの人たちに会ってくれ。会って話を聞いてくれ」と言われました。そりゃあ行けば、良いことが多いですよ。中国語を話すウイグル族のトップの人が、非常に丁寧に我々をもてなしてくれました。新疆ウイグル自治区では、学校で中国語を教え、ウイグル族の言葉は教えないと怒る人がいますが、自治区の住民の半分は漢民族ですから、中国語を話せなければお金を稼ぐことも、中国人と話すこともできません。 Q:今年は「日中国交正常化50周年」です。しかし、日中関係は冷え切っています。 A:まずはっきりさせておきたいのは、米国は台湾問題で中国と茶番劇みたいなことをやっているということです。巷間言われているような「台湾有事」となって、台湾のために米国の軍隊が台湾に入っていったとしても、結果は見えている。米国は絶対に勝てません。米国は世界全体の軍事力で言えば、中国の3倍ぐらいの軍事力があります。しかし、対ロシアなど欧州、中東、アジアにも軍隊を展開しており、東南アジアや台湾海峡には、中国に勝るような軍事力を持っていない。戦闘機などの数を見れば、それは明確です。米国も中国には勝てないことが分かったうえで、ちょっかいをかけている。米国の威信のためです』、「台湾のために米国の軍隊が台湾に入っていったとしても、結果は見えている。米国は絶対に勝てません」、その通りだが、かといって日本も「台湾」を見捨てることは出来ないのではなかろうか。
・『中国はこの先も隣国、喧嘩しても仕方ない Q:そうなると、日本は対中国でどのような対応をすべきでしょう? A:国家副主席・習近平(現国家主席)は私に「住所変更はできませんよ。これから何百年も、隣国としてお付き合いしていくのです」と言いました。喧嘩しても仕方ないでしょう、という意味です。たとえ米国が台湾有事で日本に協力を求めてきたとしても、日本は茶番劇だということを頭に入れて行動する必要があります。米国から「おい、ちゃんと台湾を支援してやってくれ」と言われても、真に受けて乗っかってはいけない。日本は独立国です。米国には、「いやいや、アメリカさん。それは分かりますけど、日本は中国と、今後も何百年と隣国として仲良くやっていくのだから、我々は簡単に応援できません。武器を持って戦うのはお互いやめてください」と言えばいい。隣国というのは往々にして仲の悪いものです。しかし、歴史的にずっと戦争ばかりやっていた日本と中国が、この50年は平和にやってきたのです。こんなところで武器を取ってはいけない。 Q:外務大臣ですら訪中しにくい、という今の日本の雰囲気はおかしいですよね? A:日本も中国も頭の良い外務大臣ですから、お互いに茶番劇だと分かっていると思います。この先の50年も平和にやっていくためには、日本も茶番劇をやればいいんです。「中国と喧嘩なんかしたくないよ。でもアメリカの顔も立てないといけないから、君たちもそうしてくれよ」と、お互いに話し合いで。大事なのは喧嘩や戦争ではなく外交です。できれば日中に韓国も入れて3カ国で話ができればいいのですがね』、「習近平(現国家主席)は私に「住所変更はできませんよ。これから何百年も、隣国としてお付き合いしていくのです」と言いました」、「住所変更はできません」とは言い得て妙だ。「この先の50年も平和にやっていくためには、日本も茶番劇をやればいいんです。「中国と喧嘩なんかしたくないよ。でもアメリカの顔も立てないといけないから、君たちもそうしてくれよ」と、お互いに話し合いで。大事なのは喧嘩や戦争ではなく外交です」、同感である。
・『日本は米国の言いなりになって軍事費を増やしている Q:現状は、そうした平和な方向とは逆に進んでいるように見えます。 A:日本でいま一番の懸案材料は、米国の言いなりになって軍事費を増やしていることです。我々は武器を持てば持つほどに、武器を使いたくなるものです。良いおもちゃを持つと、それで遊びたくなる子供と一緒。これが戦争なんです。今の若い人が何と言っているか。「年寄りや大人は、あちこちに戦争の種みたいなものばっかり作るだけ作って、食い散らかしたまま逃げるのか」と怒っていますよ。若い人たちに、そう思われないような国にしなければいけません。 Q:日本国内で大きくなる「反中感情」については、丹羽さんが編集・解説された「現代語訳 暗黒日記」(外交評論家・清沢洌が太平洋戦争中に記した日記)で指摘されていらっしゃるように、戦争当時と似た空気感があります。「多数が同じ方向を向くのはあまりよろしくない」とも書かれていました。 A:日本はやはり少数民族で日本人ばかりですから、権限が不明確で、誰も責任を取らなくていいような言い方で物事が進められる。それは戦前も今も変わっていません。「きっと天皇はそういうつもりだよ」「総理はそういうつもりだよ」「社長はそのつもりだよ」で決まっていく。実際には、総理も社長も何も言っていない。言って失敗したら責任を取らなきゃいけませんからね。誰も決定をしないのに「そうだろう」って決めてしまうわけです。これでは日本は世界ののけ者になってしまう。SNSとかそういうものばかり信用して「スマホではこう書いてあった」「SNSではこう言っている」ではダメ。自分の目で確かめ、自分で考え、自分でこうするんだと決める。そうした姿勢にならないと、いつまでたっても日本は良くなりません。 Q:習近平国家主席が、今秋の党大会で異例の3期目に突入するといわれています。習主席については、どんな印象をお持ちですか? A:習近平は頭の良い男です。いろんなことを念頭に置いて、「これをやってくれ」と指示し、「こういう報酬を約束する」「やらないやつは罰だ」と信賞必罰を実行しています。日本のように「まあ仲良くやってよ」では、14億の民は統治できません。まずはお互いに信頼し合って、良いものは良い、悪いものは悪い、というのが、習近平の考え方だと思います。中国との付き合い方の肝もそこにある。人は自分のかがみ。あなたが人を信頼すれば、人もあなたを信頼する。平和に暮らしていくためには、自らまず平和への第一歩です』、「我々は武器を持てば持つほどに、武器を使いたくなるものです。良いおもちゃを持つと、それで遊びたくなる子供と一緒。これが戦争なんです」、その通りだ。「日本はやはり少数民族で日本人ばかりですから、権限が不明確で、誰も責任を取らなくていいような言い方で物事が進められる。それは戦前も今も変わっていません」、「誰も決定をしないのに「そうだろう」って決めてしまうわけです。これでは日本は世界ののけ者になってしまう。SNSとかそういうものばかり信用して「スマホではこう書いてあった」「SNSではこう言っている」ではダメ。自分の目で確かめ、自分で考え、自分でこうするんだと決める。そうした姿勢にならないと、いつまでたっても日本は良くなりません」、「中国との付き合い方の肝もそこにある。人は自分のかがみ。あなたが人を信頼すれば、人もあなたを信頼する。平和に暮らしていくためには、自らまず平和への第一歩です」、さすが丹羽氏の平和主義的主張、同感である。
次に、5月31日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した日中福祉プランニング代表の王 青氏による「「やっと人間の世界に戻った」と涙…中国で日本移住の人気が急上昇の事情」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/303937
・『新型コロナウイルス感染拡大の影響でロックダウンが開始されてから、2カ月が経過した中国・上海。厳しい制限下の生活に疲れ果て、将来に不安を抱える人が少なくないという。そうした市民の中で、「中国国外への移住」に対する関心が高まっている。中でも、「日本へ移住したい」という人が相次いでいるのだ。突如、移住先として日本人気が高まっている理由とは何か』、「突如、移住先として日本人気が高まっている」、とは驚かされた。
・『中国で「国外脱出」への関心高まる ロックダウン下の上海で移住希望者急増 この頃、中国ではネット上で「潤学」という言葉がはやりはじめ、注目を集めている。 中国語で「潤」は、漢字の通り「潤い、利益」などを意味する。ピンインの発音は「run」になるが、これが英語の「run」と同じなので、昨今は「海外へ脱出する、逃げ出す」という意味を持つようになった。冒頭の「潤学」はこの意味から派生した言葉で、「いつ、どの国へ、どんな手段で」など、海外移住を成功に導く知識とノウハウのことを指す。 中国では今、海外への移住を検討する人が急激に増えている。 中国最大の検索エンジン百度(バイドゥ)や最大手のメッセンジャーアプリ「ウィーチャット」では、3月下旬から、「移民」というキーワードの検索数が爆増したという。例えば、ウィーチャットでの検索数は、4月3日の1日だけで5000万以上となった。単純計算で全人口のうち、約30人に1人が「移民」に関心を持っていることとなる。特に4月3日は、政府がゼロコロナ政策の継続姿勢を明らかにしたこともあり、国民の間で“脱出”への関心が高まったようだ。 とりわけ移民への関心が高まっているのが、上海だ。日本でも報道されていた通り、上海では新型コロナウイルス感染拡大を背景に3月末からロックダウンが行われている。その期間は2カ月を超えた。 常住人口約2600万人を有する上海は、世界有数の国際ビジネス都市である。市政府の都市管理水準が中国国内で最も高いといわれており、異文化にも寛容的だ。ゆえに、国内外から多くの人材が集まり、上海は他の都市と比べものにならないくらい急激な成長を遂げてきた。 コロナ対策においても、当初は中国国内でも「優等生」の都市だった。そんな上海がまさかのロックダウン。筆者も何度か現地の惨状を記事にまとめたが、厳しい規制が敷かれる中、市民の忍耐力は限界にあるといえる。 今回のロックダウンで、上海というブランドは大きく傷ついた。現在の状況に疲れ果て、将来に不安に感じる上海市民が急増している。 筆者は日頃、公私ともに上海と密接な関係があるため、ほぼ毎晩遅くまで仕事先の関係者や友人たちから電話で「愚痴を聞く」生活が続いている。皆、口をそろえて、「こういうことが上海で起こっているのがどうしても信じられない。あり得ない」と言う。中には、「海外へ脱出したい」という人も多い。そして、筆者の周りでは、その行き先として「日本」を希望する人が増えている』、「4月3日は、政府がゼロコロナ政策の継続姿勢を明らかにしたこともあり、国民の間で“脱出”への関心が高まったようだ。 とりわけ移民への関心が高まっているのが、上海だ」、「今回のロックダウンで、上海というブランドは大きく傷ついた。現在の状況に疲れ果て、将来に不安に感じる上海市民が急増している。 筆者は日頃、公私ともに上海と密接な関係があるため、ほぼ毎晩遅くまで仕事先の関係者や友人たちから電話で「愚痴を聞く」生活が続いている。皆、口をそろえて、「こういうことが上海で起こっているのがどうしても信じられない。あり得ない」と言う。中には、「海外へ脱出したい」という人も多い。そして、筆者の周りでは、その行き先として「日本」を希望する人が増えている」、なるほど。
・『移住先として日本の人気が急増? その理由とは 筆者の仲の良い友人(40代女性)は2人の子持ちだが、「上の娘を日本に留学させたい」と言ってきたので筆者は驚いた。なぜなら、彼女も彼女の夫もアメリカ国籍の中国人。上海で大きなレストランを経営しており、子どもは将来、アメリカに留学させるのだろうとてっきり思っていたからだ。ところが、彼女は「アメリカは銃社会で怖いし、最近アジア系の人への差別や暴力事件も増えている。一方で、日本は安全で上海にも近い」と言う。 これまで中国人の中で人気の移住先は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスなど英語圏の国に加えて、アジアではシンガポールやマレーシアなどだった。日本はもともと移民の国や英語圏ではないので、人気国リストの上位に入っていなかった。 しかし先日、東京で中国人向けの来日留学や各種ビザ取得のコンサル会社を経営する知人男性、張さん(仮名)から、筆者のもとに上機嫌で連絡があった。「最近、上海を中心に日本へ移住したいとの問い合わせ急増している。昨年に比べて10倍以上に増えた。対応に追われ、うれしい悲鳴だ」という。) なぜ、日本に移住したい人が増えているのか。 その背景について張さんは、最大の要因は中国の厳しいゼロコロナ政策にあるのではないか、と分析する。長らく続くロックダウンに我慢の限界が来たのだ。また、経済の減退を身近に感じるようになり、特に中間層は将来に不安を感じはじめている。 加えて、これまで人気の移住先上位に入っていた国々で、「中国人の移住に関するハードルが上がっている」ことも間接的な要因となっているようだ。 「例えば、シンガポールでは一部の『投資移民』の条件を変更。今年4月から、富裕層向けの移住の際に活用されてきたファミリーオフィスについて、最低投資額を1000万シンガポールドル(約9億円)に引き上げた。また、英語圏の国へ留学や移住支援を行う関係者からは、『イギリスは今年2月から移民の手続きをストップしてしまっている』『オーストラリアは、中国からの今年の移民申請枠はもう定員に達して終了した』という話も聞いている」(張さん) ただ、他国の受け入れの門戸が狭まったからといって、日本には簡単に来られるのだろうか。ビザ取得のサポートをする張さんは、日本でのビザ取得について以下のように説明する。 「現在、来日のビザは主に1.留学、2.経営・管理、3.高度な人材の3種類に分かれる。今回は問い合わせのほとんどが、2の経営・管理に当たる。つまり、会社を設立することだ。500万円以上の出資金や日本でのオフィス、住居の確保などの条件をそろえれば、ビザは簡単に取れる。 その後きちんとビジネスが成り立って、日本の納税や雇用規定などを順守すれば、ビザの更新ができ、将来的には永住権を得たり帰化したりもできる」 日本でのビジネスが成功するか否かという問題はあるが、資産が豊富な上海在住の中国人にとって来日ビザを取得すること自体は、それほど高いハードルではないといえる』。「これまで中国人の中で人気の移住先は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスなど英語圏の国に加えて、アジアではシンガポールやマレーシアなどだった。日本はもともと移民の国や英語圏ではないので、人気国リストの上位に入っていなかった」、「最大の要因は中国の厳しいゼロコロナ政策にあるのではないか、と分析する。長らく続くロックダウンに我慢の限界が来たのだ。また、経済の減退を身近に感じるようになり、特に中間層は将来に不安を感じはじめている。 加えて、これまで人気の移住先上位に入っていた国々で、「中国人の移住に関するハードルが上がっている」ことも間接的な要因となっているようだ」、「今回は問い合わせのほとんどが、2の経営・管理に当たる。つまり、会社を設立することだ。500万円以上の出資金や日本でのオフィス、住居の確保などの条件をそろえれば、ビザは簡単に取れる。 その後きちんとビジネスが成り立って、日本の納税や雇用規定などを順守すれば、ビザの更新ができ、将来的には永住権を得たり帰化したりもできる」 日本でのビジネスが成功するか否かという問題はあるが、資産が豊富な上海在住の中国人にとって来日ビザを取得すること自体は、それほど高いハードルではないといえる」、なるほど。
・『日本に行きたがる中国のエリートたち 「日本にはどうやったら行けるのか」という問い合わせが急増しているのは、こうした専門の会社だけではなさそうだ。 都内で20年以上貿易会社を営む上海出身の友人夫婦は、上海の知り合いから「『経営・管理』のビザを申請したい」「手続きの手伝いをしてほしい」といった依頼が、今年に入って十数件はあったという。そして、そのうちの2組は先日、ロックダウン下の上海から無事に日本に到着したそうだ。 また、東京に住む30代の上海出身男性・馬さん(仮名)は、日本での日常生活や自身の体験などを中国向けに発信しているのだが、上海のロックダウン以降、フォロワーが急増したのだという。「日本に行きたい」「アドバイスが欲しい」といったメッセージが多数寄せられた。 馬さんは、「日本へ行きたい」人が増えていることについて、これまでとは違う傾向があると感じているという。 「これまでも日本を目指す人もいたが、今回は明らかに層が違う。高学歴、超お金持ち、そして教授や医師などのエリートが多くなったと感じ、実に驚いている。しかも、彼らはもうすでに移住の手続きを始めているのだ」(馬さん) 馬さんは、日本は中国と距離的に近いこと、同じアジアの国であり、文化や生活習慣も比較的似ていることなどが移住を希望する理由なのではないかとみている。治安が良いイメージもある。 また張さんと同じく、上海のロックダウンは中国人の心境に大きな変化を与えたとみる。 「ロックダウン中はずっと部屋から出られない。陽性になれば、家族全員がコンテナ隔離施設に送り込まれてしまう。その上、家の鍵を渡せと言われ、勝手に消毒されて家の中はビショビショ……。多くの人がこの現状に希望を失ったと思う」(馬さん) ただ移住に関しては、適している国は人それぞれという冷静な考え方を持っている。 「日本はいい国だと思うが、これまで僕からは今まで一度も移住先として日本を勧めることはしなかった。なぜなら、完璧な国は世界中どこにもないし、価値観は人はそれぞれ。どの国が自分に適しているのかは、本人にしか分からないからだ。何を大切にしたいか、どんな暮らしをしたいのかはよく考えてほしい」(馬さん)』、「上海のロックダウンは中国人の心境に大きな変化を与えたとみる」、しかし、「上海」を「脱出」して、「日本」に「移住」したいというのは、あくまで一時的な現象に過ぎず、やがて「脱出」熱も冷めるのではなかろうか。
・『ロックダウン下の上海から日本に“脱出”した人も「やっと人間の世界に戻った」 筆者は、前出の友人夫婦の紹介で、先日来日し都内のホテルで隔離期間を送っている40代の男性、汪さん(仮名)に、上海を脱出し日本の地に着いた経緯や心境を直接聞くことができた。 「成田空港に着いた途端、人間の世界に戻ったと思った!」と話す汪さん。 それもそのはず、ロックダウン下の上海の自宅から浦東空港までの移動中は、人影がほとんど見られなかったという。 「空港に入ってからも、白い防護服を着ているスタッフばかり、お店の扉も全て閉じていて……まるで幽霊の世界のようで寒けがした。機内に搭乗してもCA全員が防護服姿だった。 成田に着くと、働いているスタッフが普通の服を着ていて新鮮だった。自分は白い防護服を見慣れてしまったようだ。成田空港内外のお店では、久しぶりに買い物ができた」(汪さん) 日本で久々に感じた“日常”に安堵したという。同時に、これまでの苦労が走馬灯のように思い出され、思わず涙があふれた。汪さんは、「これからは上海に残った家族と日本で合流することに集中したい」と今後を見据えた。 彼の言葉を聞いて、筆者も一日も早く家族と日本で再会できる日が来るように祈った。一方で、日本社会に定着することにも別の苦難があるだろうとも思った。 長引くロックダウンは、上海に住む多くの人にとってこれからの暮らしを不安にさせる出来事だった。そうした中、少なからぬ人たちにとって、「日本への移住」が選択肢に入り始めたようだ。日本在住の中国人が100万人を超える日も、そう遠くないのかもしれない』、「日本社会に定着することにも別の苦難があるだろう」、特に「『経営・管理』のビザ」に見合った仕事がどれだけあるかは疑問だ。いずれにしろ、課題は多そうだ。
第三に、6月6日付け東洋経済オンラインが掲載した独立したグローバルなシンクタンクAPI地経学ブリーフィングによる「日本と中国「経済安全保障」の概念が台頭した事情 「政経分離」の原則は何を境に霧消してしまったか」を紹介しよう。
・『米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。 独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。 日中国交正常化の歴史的な意義は、冷戦の枠組みの中で共産主義陣営の分断による国際秩序の再編にあるとみられることが多いが、この国交正常化は中国の改革開放を推し進める下地となり、その後の世界経済の構造にも大きく影響を与えるものでもあった。ここでは、国交正常化前から日中関係を形作ってきた「政経分離」の仕組みが2010年を境に変化し、経済安全保障の概念を導入せざるをえなくなった過程を明らかにしていく』、「政経分離」から「経済安全保障」とは興味深そうだ。
・『中国の経済発展における日本の役割 サンフランシスコ講和会議以降、日本は台湾を中国の代表として認めたが、当時の吉田内閣の反対を押し切って中国の招待を受けた緑風会の議員が日中民間貿易協定を結び、1950年代に4次にわたって更新された。しかし、国交回復前であり、CHINCOM(対中国輸出統制委員会)の制約や決済方法の複雑さなど、さまざまな障害を抱えたうえでの貿易であり、その経済的なインパクトは大きくなかった。 それが大きく転換するのが石橋湛山内閣、池田勇人内閣が対中貿易に前向きになり、中国も「友好貿易」を進める姿勢を強める中での、LT貿易の開始である。LTとは中国の中華人民共和国アジア・アフリカ団結委員会主席廖承志(Liao)と元通産大臣の高碕達之助(Takasaki)の間で結ばれた覚書に基づくものであり、国交回復前から「政経分離」の原則に基づいて貿易関係が築かれていったのである。 国交正常化後の日中経済関係は、それ以前からの関係に加え、鄧小平が1978年に来日し、日本の産業やインフラの整備状況を視察したことが、「改革開放」路線に大きな影響を与え、日本の産業発展モデルに対する関心が高まったことで大きく展開する。) この時期は中国が日本にキャッチアップする段階ではあったが、後の飛躍的な経済発展の基礎作りに日本が大きく貢献した時期でもある。文化大革命後の旺盛なインフラ需要や農業改革などへの支援、さらには賠償請求の問題を不問にした一方で、中国に対するODA(政府開発援助)として円借款を中心とする援助を行った。こうして、日中経済関係は、「政経分離」の原則を貫くことで、日本側にとっては、中国への進出によるビジネス上の利益と日中関係の安定化に寄与し、中国側にとっては技術指導などを通じた近代化の推進と経済発展を実現するものとして双方にメリットのあるものとなった』、「日中経済関係は、「政経分離」の原則を貫くことで、日本側にとっては、中国への進出によるビジネス上の利益と日中関係の安定化に寄与し、中国側にとっては技術指導などを通じた近代化の推進と経済発展を実現するものとして双方にメリットのあるものとなった」、なるほど。
・『天安門事件とWTO加盟 1989年6月の天安門事件は、中国の経済発展が民主化に向かっていくという楽観的な見通しを否定する衝撃的な事件であり、その経済発展を支えてきた西側諸国が中国と距離を置く出来事であった。天安門事件直後に開かれたG7アルシュサミットでは、武器禁輸や世界銀行の融資凍結などが合意され、日本も円借款を停止した。 しかし、近年公開された外交文書で、日本は当初から中国を孤立化させることに反対し、制裁に消極的であったことが明らかになっている。当時のアメリカのブッシュ(父)政権は日本が中国を擁護する立場を取ったことで日本が孤立化する恐れがあるとして、中国の孤立化に関する表現を緩和するよう働きかけた。なお、サミット直後に行った円借款凍結も1990年11月には解除している。 日本にとって、中国との関係を良好に保つこと、とりわけ国交正常化以前から進めてきた「政経分離」の原則を踏まえた経済関係の継続を優先した。日本が中国を擁護する立場を取ったのは、経済的な利益だけでなく、中国の孤立化による暴走を懸念したという側面もあるだろう。 中国が天安門事件による孤立化を避け、グローバルなサプライチェーンに組み込まれていく中で、飛躍的な経済発展を可能にしたのが2001年のWTO加盟であった。日本にとって、中国のWTO加盟は二国間貿易の枠組みから、多国間貿易の枠組みに転換することを意味し、東南アジア諸国に広がるサプライチェーンと中国を結び付けることで、さらに多角的な経済的結びつきの枠組みを作ることを目指していた。 中国もWTO加盟を跳躍台として「改革開放」を推し進め、「社会主義市場経済」を高度化していくことにコミットしていた。つまり、中国はWTO加盟を通じて一層市場経済に接近する姿勢を明らかにしたことで、日本を含む西側諸国に対して、中国も「西側の一員」のように振る舞うことを期待させた』、「中国が天安門事件による孤立化を避け、グローバルなサプライチェーンに組み込まれていく中で、飛躍的な経済発展を可能にしたのが2001年のWTO加盟であった」、「中国はWTO加盟を通じて一層市場経済に接近する姿勢を明らかにしたことで、日本を含む西側諸国に対して、中国も「西側の一員」のように振る舞うことを期待させた」、なるほど。
・『レアアース禁輸の衝撃 日本は一貫して中国との貿易を推進し、歴史認識問題や天安門事件のような民主化抑圧を含む、政治的な対立があった場合でも「政経分離」を原則として中国との経済関係を強化してきた。しかし、2005年の小泉純一郎首相の靖国神社参拝を契機として激しくなった反日運動が燃え盛り、日中関係が急速に悪化した。そんな中で2010年の中国によるレアアース禁輸が発令された。 これまで「政経分離」を原則としてきたと認識していた日本にとって、尖閣諸島周辺海域における中国漁船と海上保安庁船舶の衝突で、漁船の船長を逮捕したことは、貿易と切り離された問題であるはずだった。しかし、中国は(名目上は環境問題であったが)日本の自動車産業にとって不可欠であり、その輸入の90%近くを中国に依存していたレアアースの輸出を止めたのである。 この事件を皮切りに、中国との貿易関係は政治と切り離されたものではなく、政治的目的のために貿易を「武器化」することが現実となることが認識されるようになった。中国のレアアース禁輸は日本がWTOに提訴し、勝訴したが、こうした貿易の「武器化」は日本だけでなく、台湾の果物やオーストラリアの農産物や鉄鉱石、石炭、ノルウェーのサーモン禁輸、リトアニア製部品を使ったEU製品の禁輸など、例を挙げればきりがないほど続いている。この事件から「政経分離」の原則は消滅し、経済安全保障が日中関係の焦点となっていく』、「2010年の中国によるレアアース禁輸」を「を皮切りに、中国との貿易関係は政治と切り離されたものではなく、政治的目的のために貿易を「武器化」することが現実となることが認識されるようになった」、「貿易の「武器化」は日本だけでなく、台湾の果物やオーストラリアの農産物や鉄鉱石、石炭、ノルウェーのサーモン禁輸、リトアニア製部品を使ったEU製品の禁輸など、例を挙げればきりがないほど続いている」、なるほど。
・『経済安全保障の時代 レアアース禁輸事件後も「政経分離」の原則が維持されるという希望をわずかに持っていた日本だが、その希望が断たれたのは、第一にトランプ政権のアメリカがファーウェイ製品をはじめとする中国製品を使うことのリスクを強調し、クリーンネットワークなどのイニシアチブで圧力をかけてきたことがある。日本は明示的に中国製品を排除したわけではないが、事実上中国製品を調達しないことで排除し、日本の通信ネットワークに「信頼できない」ベンダーからの製品やアプリケーションがないことを証明することで、アメリカとの関係を優先した対応を選んだ。 第二に、新型コロナによるパンデミックは、マスクや医療防護具、ワクチンなどの世界的な需要が急増したが、その供給が中国に過度に偏っていることで、中国は「マスク外交」や「ワクチン外交」を展開し、生命や健康にかかわる製品にまで経済的強制を仕掛けてくる可能性が高まり、実際、欧州や南米諸国に経済的強制を実施したことである。同時にマスクやワクチンを優先的に輸出して中国の好感度を上げるという戦略も展開した。 こうした中国による「エコノミック・ステイトクラフト(注)」の影響を軽減し、貿易を「武器化」することで政治的な圧力をかけられないようにするためにも、サプライチェーンの強靭化が求められるようになった』、「トランプ政権のアメリカがファーウェイ製品をはじめとする中国製品を使うことのリスクを強調し、クリーンネットワークなどのイニシアチブで圧力をかけてきたことがある。日本は明示的に中国製品を排除したわけではないが、事実上中国製品を調達しないことで排除し、日本の通信ネットワークに「信頼できない」ベンダーからの製品やアプリケーションがないことを証明することで、アメリカとの関係を優先した対応を選んだ」、確かに「トランプ政権」も「経済安全保障」的行動を採った。
(注)エコノミック・ステイトクラフト:経済安全保障。
・『WTOの機能不全が明らかに 第三に、トランプ政権期にアメリカが自由貿易に背を向け、WTOの上級委員の任命を拒むなど、WTOの機能不全が明らかになったことがある。2010年のレアアース禁輸はWTOで勝訴することで、少なくとも中国は自国からの禁輸といった措置は取らなくなったが、貿易を「武器化」しても、WTOを通じて歯止めをかけることができなくなった。そのため、国際法的な対処が難しくなり、自己防衛のための措置を取らざるをえなくなったのである。 こうした背景から、中国への警戒心を隠さない自民党の重鎮である甘利明が中心となって、「『経済安全保障戦略策定』に向けて」と題する提言書が2020年12月に出され、2021年5月にも経済安全保障戦略を「骨太の方針」に加えることを求める提言が出された。これらの提言を受けて、2021年に発足した岸田内閣では経済安全保障担当大臣を設け、若手の小林鷹之を大臣に据えて、経済安全保障推進法案の策定に注力し、2022年5月に同法案が国会で可決された。 しかし、こうした経済安全保障への傾斜が、対中経済関係を遮断する、いわゆるデカップリングに向かうわけではないという点には注意が必要である。日本はこの間も中国を含む多国間枠組みであるRCEPを批准し、中国との自由貿易を推進する立場も取っている。日本にとって、これからの対中経済関係は、一方では国交正常化以前から続く経済関係を維持し、自由貿易による双方の利益を追求しつつ、中国によるエコノミック・ステイトクラフトから自らを守るべく、基幹インフラや戦略的重要物資に関しては自律性を高めていくという措置を取る、という二階建ての対応をしていくことにならざるをえなくなるだろう。 (鈴木一人/東京大学公共政策大学院教授、アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)』、「日本にとって、これからの対中経済関係は、一方では国交正常化以前から続く経済関係を維持し、自由貿易による双方の利益を追求しつつ、中国によるエコノミック・ステイトクラフトから自らを守るべく、基幹インフラや戦略的重要物資に関しては自律性を高めていくという措置を取る、という二階建ての対応をしていくことにならざるをえなくなるだろう」、ずいぶん複雑な対応だが、その通りなのだろう。間違わずに、ちゃんと出来るのかは、いささか心もとない感じがするが・・・。
タグ:「どうして中国に良い感情を持てないかというと」、「ひとつは中国をいまだ侮蔑している」人が高齢者には多いかも知れないが、全体ではそれほどでもないような気もする。 日刊ゲンダイ「元中国大使・丹羽宇一郎氏に聞く 日本は対中国でどう対応するべきか」 (その6)(元中国大使・丹羽宇一郎氏に聞く 日本は対中国でどう対応するべきか、「やっと人間の世界に戻った」と涙…中国で日本移住の人気が急上昇の事情、日本と中国「経済安全保障」の概念が台頭した事情 「政経分離」の原則は何を境に霧消してしまったか) 日中関係 「台湾のために米国の軍隊が台湾に入っていったとしても、結果は見えている。米国は絶対に勝てません」、その通りだが、かといって日本も「台湾」を見捨てることは出来ないのではなかろうか。 「習近平(現国家主席)は私に「住所変更はできませんよ。これから何百年も、隣国としてお付き合いしていくのです」と言いました」、「住所変更はできません」とは言い得て妙だ。「この先の50年も平和にやっていくためには、日本も茶番劇をやればいいんです。「中国と喧嘩なんかしたくないよ。でもアメリカの顔も立てないといけないから、君たちもそうしてくれよ」と、お互いに話し合いで。大事なのは喧嘩や戦争ではなく外交です」、同感である。 「我々は武器を持てば持つほどに、武器を使いたくなるものです。良いおもちゃを持つと、それで遊びたくなる子供と一緒。これが戦争なんです」、その通りだ。「日本はやはり少数民族で日本人ばかりですから、権限が不明確で、誰も責任を取らなくていいような言い方で物事が進められる。それは戦前も今も変わっていません」、「誰も決定をしないのに「そうだろう」って決めてしまうわけです。これでは日本は世界ののけ者になってしまう。SNSとかそういうものばかり信用して「スマホではこう書いてあった」「SNSではこう言っている」ではダメ。自 ダイヤモンド・オンライン 王 青氏による「「やっと人間の世界に戻った」と涙…中国で日本移住の人気が急上昇の事情」 「突如、移住先として日本人気が高まっている」、とは驚かされた。 「4月3日は、政府がゼロコロナ政策の継続姿勢を明らかにしたこともあり、国民の間で“脱出”への関心が高まったようだ。 とりわけ移民への関心が高まっているのが、上海だ」、「今回のロックダウンで、上海というブランドは大きく傷ついた。現在の状況に疲れ果て、将来に不安に感じる上海市民が急増している。 筆者は日頃、公私ともに上海と密接な関係があるため、ほぼ毎晩遅くまで仕事先の関係者や友人たちから電話で「愚痴を聞く」生活が続いている。皆、口をそろえて、「こういうことが上海で起こっているのがどうしても信じられない。あり得 「これまで中国人の中で人気の移住先は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスなど英語圏の国に加えて、アジアではシンガポールやマレーシアなどだった。日本はもともと移民の国や英語圏ではないので、人気国リストの上位に入っていなかった」、「最大の要因は中国の厳しいゼロコロナ政策にあるのではないか、と分析する。長らく続くロックダウンに我慢の限界が来たのだ。また、経済の減退を身近に感じるようになり、特に中間層は将来に不安を感じはじめている。 加えて、これまで人気の移住先上位に入っていた国々で、「中国人の移住に関す 「今回は問い合わせのほとんどが、2の経営・管理に当たる。つまり、会社を設立することだ。500万円以上の出資金や日本でのオフィス、住居の確保などの条件をそろえれば、ビザは簡単に取れる。 その後きちんとビジネスが成り立って、日本の納税や雇用規定などを順守すれば、ビザの更新ができ、将来的には永住権を得たり帰化したりもできる」 日本でのビジネスが成功するか否かという問題はあるが、資産が豊富な上海在住の中国人にとって来日ビザを取得すること自体は、それほど高いハードルではないといえる」、なるほど。 「上海のロックダウンは中国人の心境に大きな変化を与えたとみる」、しかし、「上海」を「脱出」して、「日本」に「移住」したいというのは、あくまで一時的な現象に過ぎず、やがて「脱出」熱も冷めるのではなかろうか。 「日本社会に定着することにも別の苦難があるだろう」、特に「『経営・管理』のビザ」に見合った仕事がどれだけあるかは疑問だ。いずれにしろ、課題は多そうだ。 東洋経済オンライン API地経学ブリーフィングによる「日本と中国「経済安全保障」の概念が台頭した事情 「政経分離」の原則は何を境に霧消してしまったか」 「政経分離」から「経済安全保障」とは興味深そうだ。 「日中経済関係は、「政経分離」の原則を貫くことで、日本側にとっては、中国への進出によるビジネス上の利益と日中関係の安定化に寄与し、中国側にとっては技術指導などを通じた近代化の推進と経済発展を実現するものとして双方にメリットのあるものとなった」、なるほど。 「中国が天安門事件による孤立化を避け、グローバルなサプライチェーンに組み込まれていく中で、飛躍的な経済発展を可能にしたのが2001年のWTO加盟であった」、「中国はWTO加盟を通じて一層市場経済に接近する姿勢を明らかにしたことで、日本を含む西側諸国に対して、中国も「西側の一員」のように振る舞うことを期待させた」、なるほど。 「2010年の中国によるレアアース禁輸」を「を皮切りに、中国との貿易関係は政治と切り離されたものではなく、政治的目的のために貿易を「武器化」することが現実となることが認識されるようになった」、「貿易の「武器化」は日本だけでなく、台湾の果物やオーストラリアの農産物や鉄鉱石、石炭、ノルウェーのサーモン禁輸、リトアニア製部品を使ったEU製品の禁輸など、例を挙げればきりがないほど続いている」、なるほど。 「トランプ政権のアメリカがファーウェイ製品をはじめとする中国製品を使うことのリスクを強調し、クリーンネットワークなどのイニシアチブで圧力をかけてきたことがある。日本は明示的に中国製品を排除したわけではないが、事実上中国製品を調達しないことで排除し、日本の通信ネットワークに「信頼できない」ベンダーからの製品やアプリケーションがないことを証明することで、アメリカとの関係を優先した対応を選んだ」、確かに「トランプ政権」も「経済安全保障」的行動を採った。 (注)エコノミック・ステイトクラフト:経済安全保障。 「日本にとって、これからの対中経済関係は、一方では国交正常化以前から続く経済関係を維持し、自由貿易による双方の利益を追求しつつ、中国によるエコノミック・ステイトクラフトから自らを守るべく、基幹インフラや戦略的重要物資に関しては自律性を高めていくという措置を取る、という二階建ての対応をしていくことにならざるをえなくなるだろう」、ずいぶん複雑な対応だが、その通りなのだろう。間違わずに、ちゃんと出来るのかは、いささか心もとない感じがするが・・・。