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日韓関係(その9)(韓国の“独り相撲”のGSOMIA狂騒を読み解く、GSOMIAで方針転換 動揺する文在寅の支持層、GSOMIA破棄延期 日本は「外交」で勝利したのか 展望描けぬ日韓関係悪化にそろそろ終止符を) [外交]

日韓関係については、9月20日に取上げた。韓国がギリギリになってGSOMIA破棄を延期したことを踏まえた今日は、(その9)(韓国の“独り相撲”のGSOMIA狂騒を読み解く、GSOMIAで方針転換 動揺する文在寅の支持層、GSOMIA破棄延期 日本は「外交」で勝利したのか 展望描けぬ日韓関係悪化にそろそろ終止符を)である。

先ずは、中部大学特任教授(元・経済産業省貿易管理部長)の細川昌彦氏が11月25日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「韓国の“独り相撲”のGSOMIA狂騒を読み解く 国内向けのメンツに腐心する韓国」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00023/?P=1
・『今回の日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄を巡る騒動は韓国の“独り相撲”だった。自ら墓穴を掘っただけで、「日本の完勝」と喜ぶのも適当とは言えないほどだ。 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権はここまでの米国の本気の圧力を想定しておらず、そして日本はそのうち折れてくるだろうと、日本の姿勢も読み違えた。当初、韓国は日本の輸出管理厳格化の措置への対抗措置としてGSOMIA破棄のカードを出してきた。そうすれば、米国はGSOMIA破棄を回避するために韓国だけでなく日本に対しても働きかけ、日本が輸出管理厳格化の措置を撤回するように追い込めると期待していたようだ。そのためには、GSOMIAと輸出管理厳格化という2つの問題を何としてでもリンクさせることが必要だった。 日本側もそこがポイントであることは百も承知で、両問題が別次元で全く無関係であることを徹底的に説明し続けた。結局、米国は韓国が期待する「喧嘩(けんか)両成敗」で調停する動きをせず、韓国のもくろみは外れた。 それどころか、米国はGSOMIAの失効が米国の安全保障を直接的に脅かすものだと受け止めて、米国の韓国への圧力は失効期限が迫るにつれて日に日に激しさを増していった。背景にあったのは対北朝鮮というよりは、対中国である。米議会の対中脅威論も拍車がかかり、GSOMIA継続について米議会上院が全会一致で可決する事態にまで発展した。さらにそこに、米国は在韓米軍の駐留経費の韓国負担を約5倍に増額するという圧力もかけた。 文政権は追い込まれ、GSOMIAを続けざるを得なくなった。あとは国内からの「無能な外交」との批判を避けるために、国内向けにどうメンツを保つかに腐心した。ポイントは韓国がGSOMIAの失効を回避するという方針転換と同時に、日本にも輸出管理で譲歩させたと国内向けに強弁できる状況をつくることだ。 そこで韓国はGSOMIAの方針転換決定の直前のタイミングになって、輸出管理に関して「世界貿易機関(WTO)提訴の手続きを中断する」と外交ルートを通じて日本側に伝えてきた。これをきっかけに局長級の会合の開催を日本側と合意できれば、局長級の会合開催を“日本から引き出した”ということにして、それを大義名分にできる。そして、しかもタイミングをGSOMIAと合わせることによって、両問題がリンクしているかのように見せられるとの思惑だ』、韓国側はメンツ確保に必死だったようだ。
・『「対話」を「協議」にすり替えて強弁する  さらに国内向けのメンツのために、輸出管理での局長級の会合を「協議」と位置付けて説明し、日本が譲歩したように見せかけた。 しかし、これは「協議」ではなく「対話」である。 一般には分かりにくいが、国同士の「協議」と「対話」は、その意味が大きく異なる。きちっと使い分けるのが国際的にも常識になっている。つまり「協議」とは国同士の交渉の場であるのに対して、「対話」は交渉の場ではなく、単に意見交換して理解を深め合うものだ。 韓国は日本の輸出管理厳格化の措置の撤回に向けて交渉する場だと国内的に言えるように、故意に「協議」と言い換えているのだ。 ところが事実は、正確には「輸出管理政策対話」と言われるもので、お互いの輸出管理についての理解を深め合うものだ。しかもこれは、以前から日韓政府間の意見交換の場として局長級で行われてきたもので、特に新しい動きではない。ところが文政権になって以降の過去2年半、韓国が会合の開催に応じてこなかった。これを従前通りに再開したものだ。つまり、日本の措置の撤回に向けた協議ではない』、「「対話」を「協議」にすり替えて強弁する」、苦しい対応だが、韓国マスコミはどう伝えたのだろう。
・『「WTO提訴の中断」のカードで「政策対話の再開」を買った  日本側は何もこれまでの方針を変えていないし、何も譲歩していない。「対話」は輸出管理厳格化についての決定の見直しに何らコミットしていない。これまでも日本政府は「一定の条件が整えば対話を再開する」と言ってきた。その「一定の条件」が満たされたと判断したのだ。それが「WTO手続きの中断」という通報だ。 7月に課長級の「事務的説明会」が開催された。あの冷え冷えとした雰囲気の中で行われた会合の後、韓国側のゆがんだコメント発表に日本政府はあぜんとした。“言った言わない”で相当ギクシャクして、実に後味の悪いものだった。 その後、非公式に役人同士でコミュニケーションを繰り返し、WTOでは長時間の二国間協議も経て、次第に事務レベルでは韓国側の理解も進んだのは間違いない。韓国側が自分たちの輸出管理の問題点も認識し、この間、輸出管理当局同士の意思疎通がある程度進んだのも事実だ。 それでもWTO提訴というけんかを売られているうちは、真摯な「対話」などできるはずがない。今回のWTOプロセスの中断通知があったからこそ、日本側も「韓国が問題点改善の意欲を示した」と認めて、「対話」再開を決めたのだ』、なるほど。
・『ところが韓国は国内へのメンツから、こうした事実を認めたくない。GSOMIAの失効回避と輸出管理厳格化の対話の再開を意図的にリンクさせることで何とかメンツを保とうとしている。それは韓国の報道を見ても明らかだ。 韓国側はGSOMIAと関連付けるために、そう見えるようにタイミングを見計らって「WTO提訴プロセスの中断」というカードを切ってきた。日本はそのカードに対して輸出管理当局として上記のような当然の判断をしただけで、何らGSOMIAとは無関係だ。タイミングも含めて必死に関連付けようとしているのはあくまでも韓国なのだ』、私も初めのうちは「GSOMIA」と「輸出管理」をセットで考えていたが、それが別物というのを改めて理解できた。
・『韓国のメンツ作戦に乗せられた日本の報道  「GSOMIAはいつでも失効可能との前提付き」「条件付きのGSOMIA延長」「日本の輸出管理厳格化の措置の撤回に向けた協議の開始」 韓国側の発表は、国内的にメンツを保つための強弁の文言のオンパレードだ。 韓国は国際的な交渉事の後、自分に都合のいいように事実を歪曲(わいきょく)して発表する常習犯である。どこの国も多少はそういう要素はあるが、韓国の場合、臆面もなく大胆で、米韓自由貿易協定(FTA)交渉時に交渉相手の米国もあぜんとしたのは有名な話だ。日本は7月に行われた「事務的説明会」の後でも韓国側発表で苦い経験をしている。 今回もそうした韓国側の意図的発表を予想して、日本政府も記者会見で明確に2つのポイントを説明している。1つは、GSOMIAの失効回避と輸出管理についての政策対話の再開は無関係であること。そしてもう1つは、あくまでも「対話」であり「協議」ではないことだ。 すると、韓国は「日本政府の発表は合意内容を意図的に歪曲した」と外交ルートで抗議する念の入れようだ。国内向けにメンツを保てなくなることへの焦りだろう。 それにもかかわらず、日本の一部のメディアは意図的にGSOMIAの失効と結びつけ、しかも「協議」と報道しているのだ。まるで日本政府の記者会見よりも韓国政府の記者会見を信じているかのようだ。これでは韓国の思うつぼだ。我々は厳しい目で報道を見極める必要がある。 今後、輸出管理についての対話はどうなるのか。日本の輸出管理厳格化の措置は見直し、撤回されるのだろうか。 韓国側は案の定、「日本の措置の撤回に向けた協議」と国内向けに宣伝している。そして日本のメディアの一部もそういう印象を与える報道をしている。もちろんこの場で措置撤回の要請をするのは韓国の勝手だ。しかしあくまでボールは韓国にあることを忘れてはならない。 韓国の輸出管理を審査する人数が極端に少なく審査体制が脆弱であることは申請をする民間企業の間でも衆目の一致するところだとささやかれている。法制度についても他国と比べて不備も指摘されている。輸出管理をきちっと審査する体制を整え、法制度も不備を直すことを確認して、大丈夫だと日本政府が判断できなければ何も事態は動かない。 そうしたことを見極め、確認する場が「対話」だ。あくまで交渉するわけではない。 それらを判断材料にして日本が自国の輸出管理の運用の意思決定をする。その結果、韓国の扱いが変わる可能性ももちろんないわけではないのは、他国に対してと同様だ。 こうした当たり前のことを日本政府も記者会見で繰り返し説明している。メディアもきちっと報道して欲しいものだ』、韓国寄りの報道をした「日本の一部のメディア」があったようだが、この問題の広報では、GSOMIAと輸出管理をタイミングを合わせることでセットだと巧みに思わせた韓国側に軍配が上がりそうだ。
・『かつての“空騒ぎ”も反省を  半導体製造関連の3品目の個別許可については、これまで通り淡々と継続する方針だ。この点でも日本は何も譲歩していない。 7月に日本の韓国への輸出管理の厳格化措置が発表されると、「韓国の半導体産業に大打撃」「世界の半導体関連の供給網に懸念」と報じられた。そういう不安をあおる論者のコメントをメディアもしきりに取り上げた。 韓国は日本のそうした報道を真に受けて、むしろ利用して日本への反発を強め、韓国産業界も対応に奔走した。 しかし私は当初からそれが「空騒ぎ」で、半導体生産に支障が生じることは杞憂(きゆう)だと指摘してきた(拙稿「なぜ韓国の『ホワイト国除外』で“空騒ぎ”するのか」 )。 ふたを開けてみると、やはり影響はほとんどなく、先日、韓国政府自身も影響は限定的であることを認める発表をしている。今後も問題ない通常の取り引きについては個別許可が積み上がっていくだろう。このため、韓国はWTO提訴という拳を振り上げたことも正直、調子が悪くなったのだ。 「WTO提訴のプロセスの中断」で、メンツを保ちながら拳を下ろしたのも当然の結果だ。当時不安をあおった日本の論者、メディアには検証と反省が必要ではないだろうか。 いずれにしても今回のGSOMIA騒動は、いったんは収まったが、いわゆる元徴用工を巡る本質的な問題に韓国側は依然として向き合っていない。来年早々、訴訟の原告が日本企業の資産売却に動く恐れがある中で、日本には今回のような「軸がぶれない対応」が必要だ』、「徴用工問題」ででは米国の後押しが期待できないだけに、日本政府には頑張って欲しいところだ。

次に、前駐韓大使の武藤 正敏氏が11月27日付けJBPressに掲載した「GSOMIAで方針転換、動揺する文在寅の支持層 革新系支持層へのアピールのため「徴用工問題」を持ち出す可能性も」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58376
・『文在寅氏の支持率は概ね40%台を維持している。政権3年目としては表面上好調な数字ではあるが、革新と保守の対立は激化し、文在寅大統領に反発する人々の抗議活動は勢いづいている。これまで文在寅政権は、自分たちが推進したい政策のために支持者層を煽って、反対派潰しを図ってきたが、文政権の政策失敗は直ちに世論全体が反文在寅に向かう危険性をはらんでいる。 来年4月には国会議員選挙が実施される。これに敗北すれば反対派の勢いは増し、レームダック化が加速する。それを防ぐため、文在寅大統領は現在、ますます革新系の支持を意識した政治を行っているが、そうした政治は最近ことごとく失敗している。GSOMIA破棄から急転直下、破棄撤回に至ったのは失敗の典型例だろう。 今回の破棄撤回は韓国メディアも予測していなかったようであるが、世論調査ではおよそ70%が、延期はよかったと回答している。ただ、文在寅政権の支持層には失望感が漂っている。韓国政府は失敗を隠そうと躍起となっているが、今後行われる輸出管理に関する対話は最初から日韓で認識が異なっており、韓国政府の期待通りには進まないだろう。その場合、韓国政府はそれを反省するばかりか、日本に対して新たな強硬策に出てくる可能性がある。 その時、文在寅政権は何をするのか。それが元朝鮮半島出身労働者(以下「元徴用工」)に関するものとなることが懸念される』、「元徴用工」問題で「強硬策に出てくる可能性」、とは穏やかではない。
・『文在寅政権の政策は国内革新系の支持獲得が目当て  文在寅大統領は、当初から保守層には受け入れがたい政策を打ち出していた。 文在寅大統領は就任時の演説で、「わたくしを選ばなかった人も含め、すべての人のための大統領になる」と述べたが、実際にやったことは「積弊の清算」を旗印とする「保守政権の業績否定」と「親日の清算」だった。 最大の「積弊の清算」は「漢江の奇跡」を教科書から抹殺したことである。「漢江の奇跡」は当時の朴正熙大統領が日本との国交正常化資金を活用し、60年代前半には100ドル未満だった1人あたりGDPを、現在の3万ドル水準まで引き上げた成長の原点である。しかし、これを成し遂げたのが、朴槿恵前大統領の父であり、軍出身の朴正熙氏であったため認めたくなかったのだろう。文在寅氏は「歴史の真実を曲げた」のである。 保守の業績の否定は、国内の分断につながる。さらに国内政策の失敗で、中間層の離脱も始まった。そこで、文在寅政権は、国民全体の支持を集めることは諦め、支持基盤である革新層の支持獲得に集中しているわけだ。 文在寅大統領が重視してきた国内政策は、所得主導成長政策、検察改革と曺国氏の法相任命、GSOMIA破棄であり、いずれも革新系支持層の主張に寄り添ったものだった。しかし、革新系が重視する分野での文在寅政権の政策はことごとく失敗している。というのも、それらが国益を無視し、強引に自己の主張を通そうとする政策だからである』、「「漢江の奇跡」を教科書から抹殺」、とは驚いた。「漢江の奇跡」を可能にした日韓基本条約締結と請求権資金・援助金の存在を無視したいのだろう。「歴史認識」の問題は日本にも増して酷いようだ。
・『所得主導政策で韓国経済は崩壊の危機に  このような文在寅大統領の経済政策は、故朴正熙元大統領時代から築き上げてきた韓国経済を崩壊させつつある。 文大統領の経済政策の柱は、所得主導成長政策であり、そのため最低賃金を2020年までに1万ウォンに引き上げることを目指している。ところが韓国経済の命綱である輸出が、文在寅政権がその関係を過剰に重視してきた中国で経済が減速しはじめたことで、苦境に陥り、企業経営に深刻な影を落としているのだ。 韓国経済が過度に財閥に依存している影響で、経済格差がますます拡大している。そこで文在寅大統領はその解消を目指している。その考え方は悪くない。 しかし、文在寅政権が進める所得主導成長政策は、経済学の主流から外れ、経済合理性にも疑問符がつけられている。生産性引き上げ、経済の効率化など最低賃金引き上げ成功の条件を整えないままでの強引な引き上げである。しかも、最初の2年間で実に29%もの引き上げを実施したのだが、企業経営にその弊害が如実に現れ、2020年は2.9%の引き上げに留まることが決定され、政策の非を認めない文在寅氏が初めて謝罪する場面もあった。 生活が苦しくなったと指摘されているのだ。 全体経済を見れば、雇用の悪化に加え、経済成長率は急激に鈍化、投資意欲の減退、生産者、消費者物価の下落となっており、デフレに向かいつつある兆候が表れている。加えて、韓国のGDPの40%を占める輸出が11カ月連続で減少している。) こうした状況から、来年の国会議員選挙の最大の争点は経済になろう。文在寅政権に対しては、すでに20代の人々の支持が離れていると言われる。これらの人々は、現在の生活状況に不満を抱く人々である。若者は保守政権と財閥との密着に不満を抱いていたが、今はむしろ革新系に不満の矛先を向け始めているのだ。 逆に現在、文政権を支持しているのは、30代、40代であるが、この世代の人々も正規職として働く人が減り、非正規職が増えているという。さらに退職した人が自営業で収入の補てんをしようとしているが、次々に倒産している。 こうした経済状態を考えれば、文在寅政権が進める経済政策には期待できない。生活苦は保守、中間層ばかりでなく、革新層にまで広がっている。彼らの政権選択はどうなるのだろうか』、経済悪化にも拘らず、「文在寅氏の支持率は概ね40%台を維持」、とは不思議だ。
・『検察改革の方向性は支持しても、曺国法務部長官には反対  韓国では、警察も検察の指揮下に入っており、検察の権力は絶大である。検察の強い権力と強引な捜査手法に対する批判は国民の間でも共有されており、検察改革に対する支持は幅広い。しかし、これを遂行する司令塔にスキャンダルだらけの「たまねぎ男」曺国氏を任命する非常識。曺国法務部長官は9月9日に任命されてから、35日後の10月14日辞任した。 曺国氏の進めようとした検察改革の内容は詳述しないが、同氏任命が引き起こした国民の葛藤は、文在寅降ろしの出発点となるかも知れない。もちろん朴槿恵前大統領のような弾劾はないと思うが、文在寅氏降ろしの動きは次期大統領選挙で革新系に不利となろう。 文在寅大統領は、腹心とする曺国氏に何としても自身の看板政策である検察改革をやらせたかった。できれば、その功績で曺国氏を次期大統領候補に押し上げたかったのだろう。そのため、曺国氏に対するスキャンダルが深まっていたにも関わらず、任命を強行した。曺氏に検察改革を進めさせることで、曺氏に対する捜査の動きを封じ込めさせようとしたのかも知れない。 しかし、その結果、曺氏に対する検察の捜査はいっそう速度を増し、その動きに呼応するように曺氏辞任、文政権に対する反対の街頭デモが激しさを増した。9月28日に曺氏を守ろうとする検察庁前のデモは、地下鉄乗降客の増減、マスコミによる画像を使った推計では、せいぜい10万くらいのようである。これに対し、曺国氏辞任、文在寅氏の責任を問うデモは同様の推計で30~50万といわれている。この数字は朴槿恵氏弾劾を求めるデモに匹敵するか、あるいはそれを上回るほどの人数であり、文政権には多大なショックを与えた。 文在寅氏の支持層は、「曺国氏に対する検察の捜査は政治的であり、やりすぎだ」として、検察改革の必要性を説いている。しかし、曺氏辞任の声が強まったのは、子弟に対する不正入学や私的ファンドなどで中間層が離反した結果であろう。ただ、この問題は保革対立を反映したものとの見方が強く、核心的な支持層が離反したとまでは言えない。ただ、文在寅氏の支持母体が急激に縮小していることは否定できない。また、曺国氏を辞任させ、かばいきれなかった文在寅氏に対しては、革新層から失望の声が上がろう。 今後の捜査で曺国氏が逮捕されることになれば、文在寅氏に対する批判は高まって来ようし、中間に近い革新の支持は離れていくかもしれない』、「今後の捜査で曺国氏が逮捕されることになれば」、確かに「文在寅氏」にとっては致命傷かも知れない。
・『革新層の期待を裏切るGSOMIA破棄撤回  韓国では、日本との間でGSOMIAを締結することへの抵抗は大きかった。GSOMIAは国会の承認を必要としない行政取り決めではあるが、革新系国会議員の議論を尽くさない合意は認めないとの反対で、1時間前に署名が延期された。文大統領はそもそもGSOMIAには反対だっただろう。 19日にMBCの番組で「国民との対話」に臨んだ文在寅大統領は、何故破棄が必要なのか力説していた。しかし、22日急転直下、破棄が撤回された。それには米国の行政府ばかりでなく、議会を巻き込んだ圧力があったからである。 文氏以前の韓国であれば、米国が反対すれば主張を曲げていたであろう。しかし、文在寅政権は最後まで破棄に固執した。それは、日米韓の連携よりも、国民の「破棄すべきだ」との声を尊重したからである。直前の世論調査でも破棄賛成51%、反対29%であった。 文大統領にとって国民、特に革新系支持層の声を無視したくなかったのであろう。反面、「国民との対話」で「日米韓連携の見地から慎重に検討している」と言えば、これだけの世論調査結果の差は開かなかったのではないか。結果として、国民に寄り添ったつもりが、自身の立場を苦しめる結果となってしまった。 突然撤回を言われれば国民はいっそう反発する。破棄したくない気持ちがあっても、破棄撤回する可能性も考慮するのが政治ではないか。あらかじめ破棄撤回の可能性を指摘しておけば、破棄撤回しなくても支持は減らない。しかし、破棄を強行する姿勢を示したことで最悪の事態を招いたと言えよう。こうした、状況が撤回会見後の発表をめぐる混乱を招いた。 22日、日韓両政府が時刻を合わせて記者会見し、破棄撤回を発表した。その際、発表ぶりについても合意があったと韓国側は主張する。しかし、その内容は日韓の間で局長級の対話をするという簡潔な内容であったのだろう。韓国側は簡潔に説明し、会見を終了している。しかし、日本側は対話は行うが輸出管理の見直しの協議に合意したのではなく、あくまでも韓国側から説明を聞くという点を説明した。これは韓国側からすれば、余計なことを言ってくれたということなのであろうし、韓国側の立場を苦しくしてくれたということであろう』、「日韓両政府が時刻を合わせて記者会見」、通常であれば、互いの発表を擦り合わせるが、今回はそれぞれが言いたい放題となった異例の形だ。
・『大統領府の鄭義溶国家安保室長は24日、記者会見し、GSOMIA破棄撤廃をめぐる合意内容に関し、日本が意図的に歪曲して発表したのは遺憾である、と表明した。鄭氏は、経済産業省が22日、韓国が輸出管理の問題点を改善する意欲を示したとしたのは「完全に事実と異なる」と述べ、日本側が謝罪したと主張した。さらに、日本の輸出規制強化の撤回を協議するというのが合意内容だったと説明した。日本側は韓国の主張の内容にいちいちコメントしないかったものの、謝罪したという事実は否定した。これで十分事態は説明できると言えよう。 破棄撤回を巡って、日本側は泰然自若としていたが、韓国側は右往左往していた。それだけ、韓国側に困難があったということであり、日本側に理解して欲しいという甘えがあったのであろう。しかしこれまでの韓国の対応に鑑み、日本側には韓国に配慮する気持ちはなく、事実を事実として伝えただけである。 発表の当初、韓国の「共に民主党」は「文大統領が展開した原則ある外交の勝利」と礼賛し、外交当局も「強制徴用問題が解決できなければ輸出規制も解除できないという日本の連携戦略を我々は輸出規制とGSOMIAを連携させる戦略で対抗し闘い破った」と成果を持ち上げた。 しかし、韓国のマスコミは違った。中央日報は23日の社説で、文政権の「強硬一辺倒の未熟な対応策が示した限界だ」と指摘し、朝鮮日報も「無能外交が恥ずかしい」と批判している。保守系新聞ばかりか、これまで文在寅政権を擁護してきた革新系のハンギョレも23日の社説で、「政府の発表内容が、日本の輸出規制撤廃を要求してきた私たち国民の目の高さには達し得ないとの指摘は避けがたい」と述べ、革新系もこの合意を支持しないことを明らかにした。 対話の内容に認識の差があれば対話の過程で必ず露見する。韓国側が国内的にどのように説明しようとも、事実は明らかになる。日本側には韓国の輸出管理の強化を変える気持ちはないということである。 韓国側としては、日本からの譲歩がない場合どう出てくるか。今回の流れの中での教訓は、「日本は原則的な問題では降りない」ということである。しかし、韓国政府として全く何も取れずに妥協したとなれば、反日姿勢を有する革新系支持層は納得しないであろう。他方、再度GSOMIA破棄の愚に出ることは米国との関係で難しい。そうなった場合、韓国はどう出るか。元徴用工問題で日本に対抗しようとするかもしれない。韓国の動きには目を離せない』、「韓国のマスコミ」が「革新系もこの合意を支持しないことを明らかにした」、文在寅政権にとっては大打撃だろう。「来年4月には国会議員選挙」はどうなるのだろう。

第三に、東洋大学教授の薬師寺 克行氏が11月27日付け東洋経済オンラインに掲載した「GSOMIA破棄延期、日本は「外交」で勝利したのか 展望描けぬ日韓関係悪化にそろそろ終止符を」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/316472
・『協定失効のわずか6時間前に韓国政府が「破棄通告の効力を停止する」と発表して事なきを得たかに見えた「GSOMIA(軍事情報包括保護協定)騒動」だが、日韓の間では早くも、日本側の説明に韓国政府が抗議し、「謝罪した」「謝罪していない」というレベルでもめている。 安倍晋三首相が「日本は一切、譲歩していない」と発言したなどという報道に、韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安全保障室長が予定外の記者会見で「良心の呵責を感じずに言える発言なのか」と批判したのだ。輸出管理問題で局長級の協議が始まり、日韓の関係悪化が一息つくのではと期待されたが、内実はそんな生易しいものではなさそうだ』、「内実」を知りたいところだ。
・『撤回求め、アメリカが韓国に強い圧力  日韓の政府関係者に聞いてみると、今回はアメリカの韓国に対する圧力がそうとう強烈だったようだ。しかも、ホワイトハウスと国務省、国防省、議会が珍しく足並みをそろえ、次々と韓国に撤回を求めてきた。ここぞというときは腕力を振りかざし、有無を言わせず相手を従わせるアメリカらしい手法だ。これでは韓国はひとたまりもなかっただろう。 エスパー国防長官をはじめ、国務、国防両省の幹部が相次いで訪韓し、文在寅(ムン・ジェイン)大統領はじめ韓国政府要人に激しい言葉で撤回を求めた。表には出ていないが、日本批判の急先鋒で今回のGSOMIA破棄の旗振り役だった金鉉宗(キム・ヒョンジョン)国家安保室第2次長に対しては、ホワイトハウスのポッティンジャー大統領副補佐官らが繰り返し撤回を要求したという。 国防省は同時に、在韓米軍経費の韓国の負担を一気に5倍の50億ドルに増やせと要求した。韓国が硬い姿勢を見せると、3回目の協議で開始わずか80分で席を立つというパフォーマンスも見せた。 また、軍人出身のハリス駐韓米大使は韓国議会幹部とのお茶の席で「5billion」という言葉を20回以上も繰り返し、韓国側を「こんな無礼な大使は初めてだ」とあきれさせた。11月21日にはアメリカ議会上院が「域内の安全保障協力を阻害しかねない」と、韓国を一方的に批判する決議を採択した。 普段はトランプ大統領の暴走への反発から足並みのそろわないアメリカ政府や議会だが、今回は珍しく歩調を合わせて韓国に対応した。大統領選を控え、対中貿易摩擦や米朝協議などで成果を上げたいトランプ大統領は、中国や北朝鮮を利するような韓国の行動を受け入れられなかった。 一方、国務省や国防省は、安全保障政策の観点から中国やロシア、北朝鮮を勢いづけ、アメリカ軍の負担が増えるような韓国の対応を容認できなかった。つまり主要プレーヤーの利害が一致したということだ』、「アメリカ議会上院が・・・韓国を一方的に批判する決議を採択」、韓国系のロビイストは慰安婦問題などで強力といわれるが、今回ばかりは神通力は及ばなかったようだ。「在韓米軍経費の韓国の負担を一気に5倍の50億ドルに増やせと要求」、日本に対しても同様の要求をしているが、トランプ政権としては、同盟関係よりもアメリカ・ファーストなのだろう。
・『行き詰まる韓国の外交  一方の韓国だが、外交面ではこのところ、やることなすことすべてがうまくいかず、完全に行き詰まっている。文在寅政権は「起承転北」と揶揄されるほど北朝鮮との関係改善を最優先し、さまざまなアプローチを続けているが、まったく相手にされていない。 日韓がGSOMIAでもめている最中の10月下旬には、金正恩委員長が金剛山観光地区を視察し、韓国側が建設し、南北協力の象徴的存在でもある観光施設の撤去を命じた。文在寅大統領の母親の葬儀の日には、ミサイル発射実験をぶつけてきた。 そして、GSOMIA撤回期限ギリギリの11月21日には、文大統領が金委員長に呼びかけていた釜山で開催される予定の「韓国ーASEAN特別徴用首脳会談」への招待に対し、金委員長は「釜山に行くしかるべき理由を見つけられなかった」と拒否してきた。 韓国に対する嫌がらせの連続だが、金委員長にしてみれば、トランプ大統領との交渉を最重視しているときに、韓国にあれこれ余計なことをされたくないということなのだろう。 中国との間もTHAADミサイル配備以後、関係は悪化したままだ。7月には中国とロシアの戦闘機などが韓国の防空識別圏(KADIZ)に無断侵入する軍事演習を行い、韓国政府関係者を驚かせた。 日本は、韓国が自由や民主主義を共有する仲間であり、経済のみならず安全保障の分野でも日米韓3カ国が緊密な連携を取るのは当たり前だと考えている。しかし、韓国の外交的立ち位置は複雑だ』、「行き詰まる韓国の外交」、は確かに明らかだ。
・『韓国の置かれた特殊な外交環境  アメリカ、中国、ロシア、そして日本という大国に囲まれた韓国は、どこか1つの国とだけ緊密な関係を構築する外交路線を選びにくい。アメリカは韓国に対し、GSOMIA継続以外にも、ファーウェイ製品の使用禁止やホルムズ海峡への軍隊の派遣、さらに中国を意識したインド太平洋戦略への参加や中距離ミサイル配備などを公式、非公式に求めている。しかし、文在寅政権はいずれの要求に対しても躊躇している。 もし韓国が日本と同じようにアメリカとの同盟関係に完全に依拠する政策を打ち出せば、中国との関係は決定的に悪化する。中国が最大の貿易相手国でもある韓国にとって韓中関係の悪化は、軍事的緊張が高まるだけでなく、経済的に深刻なダメージを被ることになる。それとは逆に中国依存度を高めれば、さらに大変なことになるだろう。 文在寅政権は米中いずれか一方に偏った対外政策は、結果的に韓国の国益を害すると考えているのだ。それだけに今回、アメリカの圧力に屈するような形でGSOMIA撤回を延期することは、文政権にとっては屈辱的なことであろう。 日本政府の中には「今回は韓国の自作自演に終わった」「日本政府は完全に筋を通しており、何も譲歩していない」と、まるで交渉に勝ったような声が出ている。しかし、事はそれほど単純ではない。そもそもGSOMIA破棄を当面、回避したからと言って、日韓両国間に横たわる深刻な問題の解決の糸口が見いだせたわけではない。 最大の問題である大法院の徴用工判決と日韓合意に基づく「和解・癒し財団」の一方的解散などの問題について、安倍政権は韓国の対応を見守るだけで日本からは動かないというのが基本姿勢だ。12月の日中韓首脳会談の機会を捉え、日韓首脳会談も検討されているが、あくまでもボールは韓国側にあるとして静観の構えだ。 今回はアメリカが積極的に動いたことで最悪の事態は免れた。しかし、すでに紹介したようにアメリカは日韓両国のために動いたわけではなく、あくまでも自国の利益のためであり、それがたまたま日本の要求と合致しただけのことだ』、確かにアメリカにとっては、「徴用工」問題はどうでもいいことで、日韓いずれかに肩入れする理由はないだろう。
・『展望の見えない日韓関係  過去にもアメリカは、日韓関係が悪くなると調整役を果たしている。1965年の日韓国交正常化もアメリカの働きかけが背後にあった。アメリカが動いたのは、冷戦を背景にソ連に対峙するために日韓両国との連携を重視するという国益追求が理由だった。 安倍首相とトランプ大統領が緊密な関係にあるから、アメリカはいつでも日本の求めに応じて動いてくれると考えるのは間違いである。とくに徴用工や慰安婦問題などの歴史問題について、アメリカが積極的に関与することはないだろう。むしろ安倍首相が靖国神社参拝をしたとき、アメリカの国務省が「失望した」という厳しいコメントを出すなど、日本に対して批判的だったことを忘れてはならない。 日韓間の懸案がこのまま何の進展もなければ、2020年に入ると徴用工判決に基づいて差し押さえられた日本企業の資産の現金化が現実のものになる。そうなると日韓対立はさらに激しくなるだろう。直後の4月に韓国の総選挙が予定されていることから、文大統領はこのタイミングで妥協することはできまい。そうなると、いよいよ展望の描けない深刻な状況に陥ってしまう。 今、韓国内では文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が中心になって、「韓日両国企業と国民の自発的な寄付で作った基金を通した賠償案」が検討されている。また日本企業側もいつまでもこの問題を抱えていたくないと、早期決着を望んでいるとも聞く。お互いに疑心暗鬼の中で合意を形成することは困難極まりないことであろうが、そろそろ両国関係者が知恵を絞って、包括的に慰安婦や徴用工問題を決着させる方策を見出すべき時に来ている。 日韓両国間の局長級協議や首脳会談は、そうした道を描くための生産的なものにするべきであろう』、「包括的に慰安婦や徴用工問題を決着させる方策を見出すべき時に来ている」、正論だが、当面、韓国国会議員選挙の結果や、文在寅政権の出方を見極めるのが先決だろう。
タグ:日韓関係 東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン JBPRESS 細川昌彦 薬師寺 克行 (その9)(韓国の“独り相撲”のGSOMIA狂騒を読み解く、GSOMIAで方針転換 動揺する文在寅の支持層、GSOMIA破棄延期 日本は「外交」で勝利したのか 展望描けぬ日韓関係悪化にそろそろ終止符を) 「韓国の“独り相撲”のGSOMIA狂騒を読み解く 国内向けのメンツに腐心する韓国」 (GSOMIA)破棄を巡る騒動は韓国の“独り相撲”だった 「対話」を「協議」にすり替えて強弁する 「WTO提訴の中断」のカードで「政策対話の再開」を買った 韓国のメンツ作戦に乗せられた日本の報道 かつての“空騒ぎ”も反省を 韓国の半導体産業に大打撃」「世界の半導体関連の供給網に懸念」と報じられた。そういう不安をあおる論者のコメントをメディアもしきりに取り上げた 武藤 正敏 「GSOMIAで方針転換、動揺する文在寅の支持層 革新系支持層へのアピールのため「徴用工問題」を持ち出す可能性も」 文在寅政権の政策は国内革新系の支持獲得が目当て 所得主導政策で韓国経済は崩壊の危機に 検察改革の方向性は支持しても、曺国法務部長官には反対 革新層の期待を裏切るGSOMIA破棄撤回 「GSOMIA破棄延期、日本は「外交」で勝利したのか 展望描けぬ日韓関係悪化にそろそろ終止符を」 撤回求め、アメリカが韓国に強い圧力 行き詰まる韓国の外交 韓国の置かれた特殊な外交環境 展望の見えない日韓関係 そろそろ両国関係者が知恵を絞って、包括的に慰安婦や徴用工問題を決着させる方策を見出すべき時に来ている
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中国での日本人拘束問題 スパイ(?)(その3)(犠牲になるのは民間人…政府の“お忍び”スパイ派遣の事情、「中国最強商社」伊藤忠を襲った身柄拘束、伊藤忠社員はなぜ中国で拘束されたのか、中国 北大教授「拘束」の狙いとは? 識者「米中の情報戦に…日本が圧力受けた可能性」) [外交]

中国での日本人拘束問題 スパイ(?)については、2016年8月9日に取上げたままだった。久しぶりの今日は、(その3)(犠牲になるのは民間人…政府の“お忍び”スパイ派遣の事情、「中国最強商社」伊藤忠を襲った身柄拘束、伊藤忠社員はなぜ中国で拘束されたのか、中国 北大教授「拘束」の狙いとは? 識者「米中の情報戦に…日本が圧力受けた可能性」)である。

先ずは、昨年7月13日付け日刊ゲンダイ「犠牲になるのは民間人…政府の“お忍び”スパイ派遣の事情」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/233188
・『中国でスパイ容疑で拘束されていた愛知県の男性(54)が、懲役12年の実刑判決を受けた。2015年以降、中国各地でスパイ行為などを疑われた日本人が相次いで拘束され、8人が起訴されている。判決が出たのは初めてだ。 菅官房長官は10日の定例会見で、日本政府が中国にスパイを送り込んだ事実は「一切ない」と日本政府の関与を否定したが、怪しいものだ。 ある政府関係者は、『公安調査庁が男性らに写真撮影や情報収集を依頼した』と言っています。中国当局は、日本からのスパイ目的での訪中者リストを入手しており、一網打尽の検挙ができた。今回の手続きも自信満々です」(外務省担当記者) 今回、判決が下った男性はコンサルト業務で日中を往来しており、起訴された8人のうち最も早い15年5月に、浙江省温州市沖の南麂列島沖で市当局に拘束され、翌年6月に非公開で初公判が開かれた。同列島は軍用ヘリポートや埠頭建設など軍事施設の整備が進み、男性は施設周辺で写真を撮影したとの情報もある』、「ある政府関係者は、『公安調査庁が男性らに写真撮影や情報収集を依頼した』と言っています」、ありそうなことだ。「軍事施設の整備が進み、男性は施設周辺で写真を撮影したとの情報もある」、事実とすれば言い逃れできそうもなさそうだ。
・『日本の地裁にあたる中級人民法院は、刑法のスパイ罪などで、男性に懲役12年のほか、約850万円の個人財産没収を言い渡したが、中国の外国人スパイ事件では重い方だという。今後、残る7人にも判決が出るものとみられる。 「表沙汰にはできないですが、政府が民間の訪中者に軍事施設などの情報収集を依頼することは、これまでも行われています。菅官房長官は認めるわけにはいかないので、『関与なし』と答えざるを得ないのでしょう。しかし、今回、政府からのミッションを引き受けた民間人が拘束されて、12年もの長期の懲役を受けたわけです。ある種の国家の犠牲者ですよ。日本政府が、国内での中国民間人によるスパイ活動をしっかり取り締まっていれば、“交換交渉”もできるのですが、全くの無防備。これではやられっ放しです」(国際ジャーナリスト・春名幹男氏) 菅長官は「日本人保護の立場から、政府としてできる限り支援していく」と語ったが、交渉材料は持ち合わせているのか。あまりにも頼りなさ過ぎる』、「約850万円の個人財産没収を言い渡した」、旅行者ではなく、現地で生活していたのだろうか。「表沙汰にはできないですが、政府が民間の訪中者に軍事施設などの情報収集を依頼することは、これまでも行われています・・・日本政府が、国内での中国民間人によるスパイ活動をしっかり取り締まっていれば、“交換交渉”もできるのですが、全くの無防備。これではやられっ放しです」、海外でのスパイ合戦では、“交換交渉”が当たり前だ。日本も対抗するため、対スパイの防諜活動に力を入れるべきだろう。

次に、本年2月15日付け日経ビジネスオンライン「「中国最強商社」伊藤忠を襲った身柄拘束」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/021500092/?P=1
・『伊藤忠商事の日本人男性社員がおよそ1年間にわたり中国当局に拘束されていることがわかった。昨年2月に中国の国家安全を害した疑いでスパイ行為などを取り締まる広東省広州市の国家安全局で拘束され、同6月に国家機密情報窃盗罪で起訴されたという。伊藤忠は拘束されている事実を認めている。 伊藤忠は国有企業の中国中信集団(CITIC)と資本業務提携を結び、丹羽宇一郎元社長が2010~12年に民間出身として初めて駐中国大使を務めたこともある。広州では中国企業と共同でリニア地下鉄車両を受注するといった実績がある。「中国最強商社」を自認し、関係強化に力を注いできた同社を襲った突然の出来事に、衝撃が広がっている。現地の伊藤忠社員は「拘束の事実はまったく知らなかった」と動揺した様子で語った。 中国では2014年に「反スパイ法」が施行され、国内での外国人の取り締まりが強化された。国外の組織などのために違法な手段で国家の機密や情報を取得する行為には国家機密情報窃盗罪が適用され、最高刑は死刑という重罪だ。今回の事例を含めて合計で少なくとも9人の邦人が拘束された。他の8人もすでに起訴されており、そのうち4人には懲役5〜12年などの実刑判決が下されている』、「伊藤忠商事の日本人男性社員がおよそ1年間にわたり中国当局に拘束」、という事件は、私にも目を疑うような衝撃だった。
・『どのような行動をすると、中国の国内法に触れる可能性があるのか。過去の事例で問題となった点を見ると、軍事拠点として整備されていた島の周辺で写真を撮影していたり、温泉開発の調査をする中で機密に当たる地形を調べていたりと様々だ。 今回、同社員は中国入国時に捕まったとの報道もあり、以前の中国国内での行動で当局に目をつけられていた可能性がある。中国では日本人には一見わからないような場所が軍の管理地域になっていることがあるほか、地図情報なども国家機密に当たることに注意が必要だ。 中国外務省の華春瑩副報道局長は14日の記者会見で「状況を把握していない。主管部門に聞いてほしい」と述べるにとどめており、詳細は明らかになっていない。拘束されたのは日中関係が改善に向かっている時期のことで、政治的な思惑があるとは考えにくい。中国政府は拘束や起訴に至る明確な基準を対外的に示していない。友好的な位置付けにあるとみられる企業の社員をその対象としたことは、中国での日系企業の活動を萎縮させる可能性もある』、この記事では、実態はさっぱり分からないが、これまではスパイと疑われてもやむを得ない場合が多かったが、今回はどうなのだろうか。それにある程度言及したのが、次の記事である。

第三に、外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演した2月15日付けニッポン放送 grape「伊藤忠社員はなぜ中国で拘束されたのか」を紹介しよう。
・『ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」(2月15日放送)に外交評論家・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の宮家邦彦が出演。中国で伊藤忠商事社員が拘束され、起訴された情報について解説した』、宮家氏は、在中国公使も務めた元外交官だけに、突っ込んだ話が期待できそうだ。
・『中国が伊藤忠の社員を去年2月に拘束  中国広東省広州市の国家安全局が去年2月、スパイ行為の疑いで大手商社 伊藤忠商事の40代の男性社員を拘束していたことが分かった。この男性は中国広州市で中国企業と合同で行っているリニア地下鉄の事業に携わっていたということです。 飯田)去年2月に起こって発覚から1年です。この社員は、拘束当時は東京本社の所属で直前までリニアの仕事をしていて、中国には旅行で滞在していたということです。 宮家)中国にとって、外国人は基本的にみんなスパイだと思われています。 飯田)そうなのですか? 宮家)なぜかというと、中国のシステムでは外国に行っている中国人は誰でもスパイになり得ると思っているからです。まして通信社なんて絶対スパイだと思っています。日本の通信社の人には可哀想だけど、彼らは日本のスパイだと思われているわけです。これがまず違う。でも、日本にでは対外スパイ組織、諜報機関は無いです。ですから定義上は日本にはスパイはいないわけで、まずここで日中はぶつかります』、どうも「リニア地下鉄」に関する出張で広州市を訪ねていたようだ。「中国にとって、外国人は基本的にみんなスパイだと思われています」、恐ろしい話だ。「日本にでは対外スパイ組織、諜報機関は無いです。ですから定義上は日本にはスパイはいない」、内閣情報室や自衛隊にも情報組織はあるので、元官僚らしい強弁に過ぎない。
・『中国では経済の情報も国家機密  宮家)次に、中国の場合は内政の延長としてこの問題が取り上げられるケースが多いのですが、結局は2015年あたりから、習近平政権が(注:正しくは「に」)変わって、新しい政権の下で締め付けが中国国内でも厳しくなっています。それに連座しているやつとか変なやつがみんな、外国の人も外国にいる中国人も、嫌疑を受けるわけです。そういう流れがあって、さらに最近ではファーウェイのケースのようにがあって、スパイ罪でカナダ人を10数人捕まえています。そういう形で外国への報復にも使えると言う意味で、は彼らにとっては当たり前の行為なのことです。でも日本の企業が中国に対してそんなことをするとは思えない。商社の人たちが政治的な機微の話をしても、何の儲けにもならないわけだから、やる必要はあまり無い。普通のビジネスの仕事をしていたのだと思いますが、中国にとっては経済の情報も国家機密だから、当然スパイになるわけです。どう考えても可哀想だと思います。 飯田)日本人の感覚だとまったく問題無いことが、向こうでは問題になってしまう可能性があるということですか? 宮家)だと思います。ときと場合、TPO間違えたらそうなります。同情するし、日本政府もおそらく過去1年間早い段階で知っていたかもしれません。だけどそれはプライバシーの問題もあるし、いろいろな問題があるから静かに水面下で働き掛けをやっていたのだと思います。 ただこういう形で出るということは、彼らも中国側も何かの次のステップを取るための動きものなのかもしれません。それは考えたくないですけれどね。 彼らは平気でこういうことをやるような国だということは理解していかなくてはいけません。どんなことがあっても、どんなときにどういう形で捕まってもおかしくないと思っていただいた方が良いと思います。 飯田)既に何の容疑か分からりませんが、初公判が行われている。ただ判決がまだ出てない。そうすると次のステップ、判決の部分が近付いている…。 宮家)そういうことですよね、嫌ですよね。 飯田)しかし、公安部の下部組織が動いているようなことですよね。そうすると外交部、外務省からすると手出しできないということですよね? 宮家)外交部は力ありませんから。 飯田)力が無い。ここが日本と違うところですね。 宮家)日本の外務省が全面的に力があるとは思わないけれども。それなりの政策の立案と実施を両方やっているのが日本でありアメリカの外交当局です。中国の外交部は政策の立案権限が無いと思います。それはおそらく党が全部握っている。ですからその意味でこのような問題、特に自分の所掌訴訟の問題でも無いことについて外交部に期待してもあまり・・・という感じですね』、「中国の外交部は政策の立案権限が無い」、というのは大いにありそうだが、とすると選択肢は限られそうだ。
・『中国では外国人は全員スパイだと思われているという現実  飯田)そうすると日中雪解けみたいなことを殊更に報道する新聞もありますけれども、ただその文脈とは別のトラックで走っている。 宮家)違うロジックで違う人たちが違う目的のために動いていると思います。だからと言って中国の外務省がダメだと言っているわけではありません。立派な人もたくさんいます。だけど如何せん、所詮は日本以下だということです。 飯田)そうすると、向こうでビジネスをするというのは、かつてないほどリスクが高まっているのではないですか? 宮家)と思います。だけどそれは日本だけの問題ではありません。 飯田)外国人みんな。 宮家)みんなそうです。基本的に彼らにとって、外国人は全員スパイだと思っていますから。 日本だけが目の敵にされているわけではない。 飯田)それを思って向こうで行動しなくてはいけないということですね。 宮家)残念ながら。一部の国にでは、そういうことがあり得るということです。これは昔からそうです。 飯田)港で不用意にスマホを出してカシャッて・・・。 宮家)やめて下さい、お願いだから』、「2014年に「反スパイ法」が施行」されて以降は、かなりビジネスのリスクが高まってしまったようだが、どれだけの日本企業がこれを理解しているのだろうか。

第四に、10月20日付けZAKZAK「中国、北大教授「拘束」の狙いとは? 識者「米中の情報戦に…日本が圧力受けた可能性」」を紹介しよう。
https://www.zakzak.co.jp/soc/news/191020/for1910200002-n1.html
・『またも邦人への人権侵害か-。9月に中国を訪問していた北海道大学の40代男性教授を拘束していたことが19日までに日中関係筋の話で分かった。男性は防衛省防衛研究所や外務省に勤務した経験があり、準公務員である国立大学の教員の拘束が認められたのは初めて。中国による不明瞭な拘束には、隠れた狙いがありそうだ。 容疑はスパイ活動など「国家安全危害罪」に関連するとみられ、中国当局は拘束理由について「国内法に違反した」と説明している。9月に訪中した際、北京国際空港で拘束されたとの情報もある。男性教授は中国政治が専門で、これまでに日中戦争の論文などを数多く発表している。 習近平指導部は社会統制を図るため「反スパイ法」や「国家安全法」を制定し、外国人の締め付けを強めている。17日には、中国外務省が米国人2人の拘束を説明したと米ブルームバーグが伝えたばかりだった。 中国では不透明なままに拘束され、人権侵害が続いている。中国事情に詳しいノンフィクション作家の河添恵子氏は「情報が少なく、推察するしかない」としつつ、2つの可能性を指摘した。 「この教授が現地で公安の仕事をしていたために拘束した可能性と、現在米中で行われている情報戦において米国の同盟国である日本が圧力を受けた可能性だ。香港を舞台にして米中は工作員を導入した“戦争”を行っており、日本も動き出しているとして、見せしめのために拘束されたと考えることもできる」 2015年以降、邦人の拘束は男女合わせて13人確認されており、いずれも民間人。昨年3月に伊藤忠商事の社員が拘束された際には、李克強首相が日本に公式訪問を3カ月後に控えていた。来春には習主席が国賓として来日する予定で、今月は「即位礼正殿の儀」に王岐山国家副主席が出席予定だ。 日中の関係改善に向けた動きが進んでいるという声もある中、今後の関係に影を落としそうだ』、第三の記事にあったように、外交部には発言力がないのであれば外交日程は配慮されない筈だ。なお、10月22日の日経新聞は菅官房長官が「邦人保護の観点から領事面会や家族との連絡などできる限りの支援と語った」ことを伝えた。ただ、表立って抗議した様子はない。「外交の安倍政権」がとんだ「弱腰」を見せているようだ。
タグ:日刊ゲンダイ 宮家邦彦 日経ビジネスオンライン ZAKZAK 中国での日本人拘束問題 スパイ(?)(その3)(犠牲になるのは民間人…政府の“お忍び”スパイ派遣の事情、「中国最強商社」伊藤忠を襲った身柄拘束、伊藤忠社員はなぜ中国で拘束されたのか、中国 北大教授「拘束」の狙いとは? 識者「米中の情報戦に…日本が圧力受けた可能性」) 「犠牲になるのは民間人…政府の“お忍び”スパイ派遣の事情」 スパイ容疑で拘束されていた愛知県の男性(54)が、懲役12年の実刑判決 ある政府関係者は、『公安調査庁が男性らに写真撮影や情報収集を依頼した』と言っています 軍事施設の整備が進み、男性は施設周辺で写真を撮影したとの情報も 表沙汰にはできないですが、政府が民間の訪中者に軍事施設などの情報収集を依頼することは、これまでも行われています 日本政府が、国内での中国民間人によるスパイ活動をしっかり取り締まっていれば、“交換交渉”もできるのですが、全くの無防備。これではやられっ放しです 「「中国最強商社」伊藤忠を襲った身柄拘束」 2014年に「反スパイ法」が施行さ ニッポン放送 grape 「飯田浩司のOK! Cozy up!」 中国が伊藤忠の社員を去年2月に拘束 リニア地下鉄の事業に携わっていた 拘束当時は東京本社の所属で直前までリニアの仕事をしていて、中国には旅行で滞在 中国にとって、外国人は基本的にみんなスパイだと思われています 中国では経済の情報も国家機密 中国の外交部は政策の立案権限が無いと思います。それはおそらく党が全部握っている 中国では外国人は全員スパイだと思われているという現実 「中国、北大教授「拘束」の狙いとは? 識者「米中の情報戦に…日本が圧力受けた可能性」」 北海道大学の40代男性教授を拘束 防衛省防衛研究所や外務省に勤務した経験 中国政治が専門で、これまでに日中戦争の論文などを数多く発表
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トランプと日米関係(その5)(日米貿易協定 「WTO違反」までして譲歩するのか?!日本側は“守り一辺倒”になってしまった、日米貿易協定で日本がWTOルールの‟抜け穴”つくる?、安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想) [外交]

トランプと日米関係については、6月5日に取上げた。今日は、(その5)(日米貿易協定 「WTO違反」までして譲歩するのか?!日本側は“守り一辺倒”になってしまった、日米貿易協定で日本がWTOルールの‟抜け穴”つくる?、安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想)である。

先ずは、元・経済産業省貿易管理部長で中部大学特任教授の細川昌彦氏が9月3日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「日米貿易協定、「WTO違反」までして譲歩するのか?!日本側は“守り一辺倒”になってしまった」を紹介しよう。なお、文中の関連記事は省略した。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00019/?P=1
・『日米交渉はまたもや“守り一辺倒”になってしまったようだ。しかも、世界貿易機関(WTO)のルールに違反する協定を締結させられる可能性が高い。 日米は貿易交渉で基本合意に達し、9月中の署名を目指すことになった。交渉責任者の茂木敏充経済再生担当大臣は「国益を守り、バランスの取れたとりまとめができた」と胸を張る。はたしてそうだろうか。 内容はまだ公表されていないので報道をベースに論じざるを得ない。その報道の目は2点にばかり注がれている。1点目は米国から輸入する農産品に対する関税引き下げを環太平洋経済連携協定(TPP)の範囲内に収められるかどうか。2点目が米国による日本の自動車に対する追加関税を回避できるかどうかだ。 これは日本側がこの2点に交渉の勝敗ラインを設定したからである。しかしこうした2点を交渉の目標設定にしたこと自体、妥当なのだろうか。 まず結論を言おう。 その結果、いずれも米国の思惑通りの交渉を許してしまった。これは日本が交渉戦略よりも国内への見え方、見せ方を優先した結果だとも言える。 そしてさらに深刻な問題がある。それは大本営発表によってこの2点以外に報道の目が向かず、協定の内容がWTO違反になるかもしれないという大問題を報じていないことだ。むしろ、不都合には目を向けさせないようにしているのではないか、とさえ勘ぐってしまう。 これまでの日米通商交渉の歴史を振り返ると、今回の交渉ほど日本にとって地合いのいい、有利な交渉はなかっただろう。それにもかかわらず、なぜ、こうした結論になったのか。 以下ではそれを説きほぐしていこう』、細川昌彦氏は日本の韓国向け輸出規制では、安倍政権を支持したが、自らの専門領域である日米通商問題では、味方は極めて厳しいようだ。
・『先にカードを切ってしまった農産物  米国のTPP離脱によって、米国の農家は相対的に競争相手国と比べて日本市場で不利になっている。米大統領選を前にして、この不満を早急に解消するための成果を得たい米国にとって、競争相手と対等の水準にさえなれば不満はない。交渉前にあえて米農務長官がTPPの水準以上の要求発言をしたのも、単なる交渉戦術だ。 しかし日本はそれをまともに受け取ってしまった。国内の農業関係者の懸念を払拭するために「TPPの水準以上の譲歩はできない」と、交渉のスタート時点である2018年9月の日米首脳会談での共同声明に書き込むことに懸命になった。いわゆる「交渉でこれ以上米国に押し込まれないためのピン止め」だ。そして国内にはそれを成果として誇示した。 しかしこれは逆に、米国に対して「TPPの水準までは譲歩する」と最初からカードを切ったことになる。米国は何の代償も支払わずして、このカードを手に入れることに成功したのだ。 関税交渉は本来ギブ・アンド・テークが原則で、一方的な譲歩はあり得ない。かつてTPP交渉でも関税引き下げについては、日米間では日本の農産物関税の引き下げと米国の自動車関税の引き下げがパッケージで合意されたことを忘れてはならない。これは当時、甘利明担当大臣(当時)が米国との難交渉の結果、妥結した成果である。従って日本の農産物関税の引き下げだけという米国の“いいとこ取り”はあり得ないのだ』、農産物では、「米国に対して「TPPの水準までは譲歩する」と最初からカードを切ったことになる。米国は何の代償も支払わずして、このカードを手に入れることに成功した」、という安倍政権の今回の交渉は、信じられないようなお粗末さだ。
・『自動車の「継続協議」は“気休め”か?  本来、米国も日本に対して相応の対価を差し出さなければならない。ところが今回の合意では一部の自動車部品の関税撤廃のみで、完成車の関税撤廃には応じていない。これでは「相応の対価」とは言えないのは明らかだ。 もともと、米国がTPPから離脱するという自ら招いた不利な状況を早急に解消したいことから交渉ポジションは日本が圧倒的に有利であった。にもかかわらず、交渉は最初から日本がカードを切ったせいで、立場が逆転してしまったのだ。 今回の基本合意においては、米農産物に対する関税をTPP水準の範囲内で引き下げることだけが合意されて、本来パッケージで合意すべき日本の完成車に対する米国の自動車関税の撤廃については「継続協議」になったという。前述した昨年9月の交渉当初における日本の対応から、私が懸念していた通りの結果になってしまったようだ・・・今後継続協議といっても、農産物でカードを切ってしまって交渉のレバレッジを失った後では、残念ながら“気休め”にすぎない。自動車部品の関税撤廃を米国にある程度認めさせることはできても、本丸の完成車は譲らないだろう。これは米国の思惑通りの展開だ』、「農産物でカードを切ってしまって交渉のレバレッジを失った」、これでは交渉とは名ばかりで、米国側に美味しいお土産を献上しただけだ。
・『WTO違反の追加関税は“空脅し”だ  自動車の追加関税の回避についてもそうだ。 米国は通商拡大法232条を活用して自国の安全保障を脅かすとの理由で輸入車に追加関税を課すことを検討しているが、日本側はこれを日本に対して発動しないとの確約を取り付けることを目標にしている。しかし米国は自動車の追加関税を交渉戦術として使っているのだ。追加関税を脅しに、対米輸出の数量規制に追い込むことはメキシコ、カナダとの交渉で味をしめたライトハイザー通商代表の手法だ。 前述の日米首脳会談での共同声明でも日本の農産物に関する“ピン止め”と引き換えに、米国の関心として、「自動車の生産、雇用の拡大」を明記させてきっちり自動車関税への布石を打っている。 しかし忘れてはならないのは、この通商拡大法232条による追加関税のWTO違反の措置である。既に米国は鉄鋼・アルミニウムについて発動しているが、欧州連合(EU)など各国からWTO違反として提訴されている。日本も本来共同歩調を取るべきであるにもかかわらず、トランプ大統領との蜜月を崩すことを恐れてか、提訴はしていない。 鉄鋼問題で実害は限定的だからといって、そうしたけん制球をきっちり投げないでいると、本丸の自動車への追加関税で駆け引きを弱めることになることは、かつて拙稿で指摘した通りである・・・しかもこの脅しは“空脅し”だということも忘れてはならない・・・「日本の中には、トランプ大統領による25%の自動車関税の引き上げを回避することが最重要課題であるので、早期に妥結した方がよいと主張する向きもある。これはとんでもない見当違いだ。自動車関税の引き上げの脅しは『抜けない刀』で“空脅し”だからだ」「仮に自動車関税を引き上げれば、経済への打撃が大きく、株価暴落の引き金を引きかねない。(略)大統領再選に向けてトランプ大統領が重視するのが株価である限り、採れない選択だ」 問題はこうしたWTO違反の空脅しを回避するためにどれだけの代償を支払うのかだ。これは相手の犯罪行為から逃れるためにお金を支払うようなものだ。同様の脅しを受けているEUは日本が毅然とした対応をするのかどうか当然注視している。 日本の自動車業界に聞けば、商売としては当然直面している追加関税のリスク回避を優先したいと言うだろう。そして自動車の追加関税を回避することを交渉の優先目標にした結果、米国の自動車関税の撤廃という日本の本来の要求の優先度が下がって、継続協議になったのだ。 これも米国の思惑通りの展開だろう。 こうして見てくると、日本にとってどうバランスが取れているのか、率直に言って私には理解できない。設定した2点の交渉目標のうち、前者で農業関係者が納得し、後者で自動車業界が納得すればよしとしているようだ。しかし関係業界さえ納得させられれば、日本国民全体にとってバランスの取れたものだと思っているのだろうか』、「通商拡大法232条による追加関税のWTO違反の措置である。既に米国は鉄鋼・アルミニウムについて発動しているが、欧州連合(EU)など各国からWTO違反として提訴されている。 日本も本来共同歩調を取るべきであるにもかかわらず、トランプ大統領との蜜月を崩すことを恐れてか、提訴はしていない」、弱腰外交の極みだ。
・『完成車が含まれない限りWTO違反になる?!  もっと深刻な問題が、食い」「いいとこ取り」ができないことはかねて指摘してきた通りだ・・・特定国への関税引き下げは、「実質的にすべての貿易」について関税引き下げになるものでなければできない。それがWTO協定上のルールだ。米国の農産物に対してだけ関税を引き下げるといった“つまみ食い”は許されないのだ。それは日本が物品貿易協定(TAG)と呼ぼうが関係ない。「実質的にすべての貿易」とは国際的な相場観があって少なくとも9割以上をカバーしているのが通常だ。TPPでは日本は95%、離脱前の米国は100%の関税撤廃率であった。途上国に対しても、例えば東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を見ると、85%以上の関税撤廃を要求している。 日本の対米輸出を見ると、ざっくり言って、自動車の完成車3割、自動車部品2割、その他工業品5割だ。報道によると完成車は先送りで自動車部品の一部とその他の工業品の多くで関税を撤廃するという。それでは関税撤廃率は6〜7割といったところだ。完成車が含まれない限り、明らかにWTO違反となるのだ。 それでもあえて締結するのは大問題だ。 今後日本はアジア諸国をはじめ途上国と自由貿易協定(FTA)を締結するに当たって、およそ高い関税撤廃率を求めることは難しくなる。米国相手のときだけ基準を変える「二重基準だ」との批判も免れない。各国は日本の対応を厳しい目で見ていることを忘れてはならない。 数量規制に比べれば同じWTO違反といっても違反の程度は軽いとでも言いたいのかもしれないが、そういう問題ではない。 貿易の国際秩序が崩壊しかねない危機に直面している現在、ルール重視、WTO重視を主導すべき立場にあるのが日本だ。またこれまでの先人の努力もあって、そういう国際的な評価も得つつある。WTOを軽視している米国が違反するのとはわけが違う。 トランプ政権との蜜月関係を維持することはもちろん大事だ。しかし、短期的な日米関係のために中長期の日本の国際的な立ち位置を見失ってはならない。 報道によると、先日の自民党会合での説明で、この問題を問われると、茂木大臣は事務方に説明させている。メディアも大本営発表に従って、WTO違反かどうかについてはほとんど報道していない。 この問題を役人レベルの技術的な問題だとしているならば大きな間違いだ。「国内の業界が納得すればよい」「国内的な見せ方で乗り切ろう」という国内政治だけでは本質を見失う。日本の通商政策の根幹を揺るがす問題なのだ。 自動車の追加関税の確約が得られるかどうかばかりに目を奪われずに、メディアも国会もしっかりこの点をチェックしてもらいたい。今後内容が公表されてからすぐに協定署名の予定になっているだけに、今こそ、この問題をきっちり議論しておく必要があるだろう。 WTO違反でないことは、交渉のバランスが取れているかどうかを議論する以前の、大前提の必要条件なのだ。日本が大きな財産を失うとともに、将来に大きな禍根を残すことにならないよう願うばかりだ』、「特定国への関税引き下げは、「実質的にすべての貿易」について関税引き下げになるものでなければできない。それがWTO協定上のルールだ。米国の農産物に対してだけ関税を引き下げるといった“つまみ食い”は許されないのだ。それは日本が物品貿易協定(TAG)と呼ぼうが関係ない」、日本自らWTO違反をしたことは、「日本が大きな財産を失うとともに、将来に大きな禍根を残す」、それをマスコミは大本営発表だけで褒めそやしているとは嘆かわしいことだ。

次に、上記の続きを、9月30日付け日経ビジネスオンライン「日米貿易協定で日本がWTOルールの‟抜け穴”つくる?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00133/00020/?P=1
・『日米貿易交渉の合意内容は本当に双方にメリットがある「ウィン・ウィン」と言えるのだろうか。結果を見ると、米国にとっては思惑通りだろう。 日本が米国産の牛肉や豚肉、小麦にかけている関税率の引き下げは、トランプ米大統領にとって最も実現したかった分野だ。2020年の大統領選で支持基盤となる中西部の農家にアピールできる。大統領選に間に合うよう妥結を急いだ。大枠合意から3週間で署名というのは、これまでの日米交渉にない異例の速さだ。通常、大筋合意から署名に至るプロセスでは、精緻な協定文に落とし込む作業があるために早くても3カ月はかかる』、安倍政権は「ウィン・ウィン」と強弁しているが、明らかに「ウィン・ルーズ」だ。
・『米国の“脅し”から設定された交渉目標  日本が成果として誇るのは、農産物の関税引き下げを環太平洋経済連携協定(TPP)の水準以内にとどめたことと、自動車の制裁関税を回避できたことだ。 これらが日本の交渉目標になったのは、米国が日本に対して、(1)農産物でTPP以上の要求をする、(2)自動車の制裁関税を検討する、という2つの“脅し”が背景にあってのことだ。 こうした“脅し”を振りかざして交渉するのが、米国の常とう手段である。その結果、交渉は日本の守り一辺倒になってしまった。これは米国のゲームプラン通りだろう。 ただし、これらの“脅し”を冷静に見極める必要がある』、「ディール好き」なトランプ政権に見事に乗せられたようだ。
・『“毒まんじゅう”を回避した意義は大きい  米国はTPPから離脱したために、農産物について競争相手のTPP参加国と比べて相対的に不利になってしまっている。こうした事態に対して、トランプ大統領は農家の不満を早急に解消したいはずだ。TPPの水準以上の要求は、単なる交渉術だろう。 自動車の制裁関税も仮に発動すれば、輸入車だけでなく、米国車のコストも大幅に上がることになる。その結果、ディーラーなどすそ野の広い米国自身の自動車関連産業に打撃になり、自分の首を絞めることになる。それは、米国の様々なシンクタンクの試算でも示されている。そうなれば、株価の暴落を招きかねない。 トランプ氏が大統領に再選されるためには株価の維持が不可欠だ。そのため、制裁関税を課すことが再選にとってプラスと判断するかどうか、慎重に見極めるはずだ。そうした意味で、これは実行できない“空脅し”となる可能性が高い。 ただしトランプ氏は予測不可能なので、こうした合理的な判断をするかどうかがわからない。それが大問題なのだ。そうした意味で今回は、「有事」の交渉だったと言える。トランプ氏を怒らせて、万が一でも日本車が25%の制裁関税をかけられるような事態を招きたくないと思うのは、自然な反応だ。 日本にとって、自動車への制裁関税が課されれば深刻な打撃になる。そのため、これを避けることが自動車業界にとっても最優先課題となった。そこで「協定の精神に反する行動を取らない」と共同声明に盛り込んだ。 さらに、「米国・メキシコ・カナダ協定」(USMCA)や米韓自由貿易協定(FTA)では追加関税を回避するため、米国に輸出する自動車や鉄鋼に数量制限が設けられたのに対し、日本は貿易を歪曲(わいきょく)する数量制限を受け入れなかったことは大事なことだ。数量制限は“毒まんじゅう”のようなもので、一旦飲まされると、後で嵩(かさ)にかかって米国の要求がエスカレートするのを覚悟しなければならない。これを回避した意義は大きい』、確かに「数量制限を受け入れなかった」のは数少ない成果のようだ。
・『日本が越えてはならない一線とは  だが、米国が日本から輸入している自動車と自動車部品にかけている関税の撤廃は実現しなかった。日本の自動車業界も25%の制裁関税の回避を優先して、これらの関税撤廃にかかわらなかったようだ。2.5%の関税なので、為替変動と比較すれば業界としてもそれほど実害がないとの判断だ。それは業界としては正しい判断だろう。しかし通商政策としてどうかは別問題だ。 メディアは今回の交渉で、日米間でバランスがとれたかに注目する。日本の大幅譲歩ではないかとの指摘も見られる。しかしこれまでの日米の貿易交渉を振り返ると、残念ながらバランスを目指してもそうならない歴史がある。安全保障を米国に依存している日本の置かれた状況からはやむを得ない。むしろ貿易交渉だけを取り出してバランス、勝敗を議論すること自体、あまり意味がない。 しかし国民感情もあるので、国内政治的には、「ウィン・ウィンだ」「バランスを確保した」と言わざるを得ない。 現実は日米貿易交渉での日本側の譲歩にはやむを得ないものと理解している。ただし、そこには越えてはならない一線もあることを忘れてはならない。今後の日本のあり方を考えた時、日本が守るべきものがあるのだ』、前回の厳しい論調と比べ、安倍政権への理解を幾分示したようだ。
・『日米は明らかに「同床異夢」  自動車・自動車部品は米国への輸出額の多くを占めている。これらを除外すると関税の撤廃率は貿易額の60%台にとどまることになり、世界貿易機関(WTO)のルールで目安とされる90%程度に遠く及ばない。 これまで日本は、米国が離脱したTPPで主導的な役割を果たし、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)も発効にこぎ着けた。国際貿易機関(WTO)ルールの重視をうたい、インドや中国にも高い水準での自由化を呼びかけてきた。だが、米国との協定が「二重基準」とみなされれば、今後は他国に高い水準の関税撤廃率を強く要求できなくなる。 米国の自動車や自動車部品の関税については「更なる交渉による撤廃」が明記された。これは「WTO違反ではない」と説明するために大枠合意後、日本側が書き込む努力をしたものだ。そしてこれらも含めて、今回の合意の関税撤廃率を計算して、米側で92%、日本側で84%と発表して胸を張る。 米国は撤廃時期も書いていないし、米国も交渉を合意しただけで譲歩したわけではないとして、米国議会の承認も必要ないと判断したようだ。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表も記者会見で、「米国の自動車関税の撤廃はこの協定に含まれていない」とコメントしている。明らかにこれは同床異夢だ。 もちろん日本の交渉者の努力は評価する。だが、この一文の挿入によってWTO違反の“クロ”を多少なりとも“グレー”にしようという知恵だろうが、本質はそこではない。これで良いならばWTOルールにとって「抜け道」となり、他国にも同じやり方がまん延しかねない。その結果、日本がWTOルールを空文化する先鞭(せんべん)をつけることになってしまう。 米国と中国はWTOのルールを無視して、制裁・報復関税の応酬を続けている。その結果、戦後築き上げてきた国際秩序が崩壊の危機にさらされている。そうした状況だからこそ、日本はWTOやルールの重要性を訴え、それを主導する必要がある。そもそも米中のような巨大な国内市場を持たない日本のような国は、ルールを重視しなければ生き延びることはできない。その生命線を自ら崩してはならない』、「米国の自動車や自動車部品の関税については「更なる交渉による撤廃」が明記された。これは「WTO違反ではない」と説明するために大枠合意後、日本側が書き込む努力をしたものだ。そしてこれらも含めて、今回の合意の関税撤廃率を計算して、米側で92%、日本側で84%と発表して胸を張る」、見え透いた小細工だ。「同床異夢」というより、日本側が国内向けに嘘で塗り固めた虚構といえる。
・『今後の展開を読む  日米は2020年1月にも協定を発効させて、来春以降に「第2ラウンドの交渉」に入るとしている。しかしこれも額面通り受け取ってはならない。これは米国議会が「包括的な協定にすべし」としていることから、トランプ政権としては、今は「包括的な協定にするべく、さらに交渉する」と言わざるを得ないからだ。来年になって大統領選が佳境に入って、すぐに大統領選にプラスになるような果実を得られない交渉にトランプ大統領が果たして興味を示すだろうか疑問だ。 仮に第2ラウンドがあったとしても、米側は物品貿易の交渉は終わったとして、薬価制度の見直しやサービス分野の市場開放に焦点を移すだろう。百歩譲って、継続協議となった米国の自動車関税の撤廃を議論できたとしても、日本の農産物の関税引き下げという交渉のレバレッジを失ってしまって、果たして米国から譲歩を得られるだろうか。 残念ながら淡い期待はしない方がよさそうだ』、「日本の農産物の関税引き下げという交渉のレバレッジを失ってしまっ」たとは、本当に馬鹿なことをしたものだ。

第三に、スタンフォード大学講師のダニエル・スナイダー氏が9月27日付け東洋経済オンラインに掲載した「安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/305106
・『安倍晋三首相はひょっとしてドナルド・トランプ大統領の再選キャンペーンに加わったのだろう? これが、ニューヨークで開かれた安倍首相とトランプ大統領の首脳会談を見て、彼らが発表した貿易協定を読んだ後、筆者の頭に浮かんだ疑問である。 安倍首相は日本の記者団に対し、これは「お互いにメリットがあること」だと強調した。しかし、アメリカの貿易政策の専門家は、これをアメリカ大統領の勝利、より正確には、トランプ大統領の再選キャンペーンを後押しするものだと考えている』、「安倍晋三首相はひょっとしてドナルド・トランプ大統領の再選キャンペーンに加わったのだろう?」、というのは最大限の皮肉だ。
・『自らの成果として大いに喧伝する  「これによって、大統領選挙の年を迎えるトランプ氏に対する政治的圧力がいくらか緩和されるだろう」と、国際戦略研究センターのマット・グッドマン氏は話す。「農業部門以外の経済的利益は限られているが、トランプ氏は、彼にとって最初の、そして唯一の新たな二国間取引である合意を、大きな勝利であり、貿易については厳しく詰め寄る彼のアプローチの正当性が立証されたものとして大いに宣伝するだろう」。 茂木敏充外務相のもとで働いていた日本の交渉担当者は、協議に入るに当たりに非常に厳しい立場をとっていた。日本側は、アメリカがすでに欧州連合(EU)および環太平洋パートナーシップ参加国(TPP-11)に与えているのと同じレベルの農産物市場へのアクセスと、関税引き下げをアメリカにも認めるよう、アメリカ側が求めていることを知っていた。日本側がオバマ政権事も同じ問題を交渉していたことを踏まえると、今回は予想以上に譲歩したと言える。 ただし日本側は、自国の要求を通すために農産物を「交渉材料」として使った。その要求とは、いわゆる米通商拡大法232条に基づいて日本の自動車輸出へ追加関税を発動しない、あるいは数量規制を設けないとする、トランプ大統領による明確で文書化された約束だ。日本のある政府高官は、これが今回の交渉における彼らの「越えてはならない一線」であると打ち明ける。 その代わり、今回の共同声明では、農産物に関しては前もって譲歩を見せ、これにについては臨時国会で承認を得る予定だ。一方、自動車およびその他の主要品目についての合意は先延ばしにされ、はっきりとしたスケジュールがないままこの先も交渉が続く。 日本は、交渉中、および協定が履行されている間は、協定の「精神に反する」行動はとらないという言質をとりつけた。これは2018年9月に出された共同声明に記された文言と同じだが、これは232条に基づく訴えへの歯止めにはならなかった。 前述の政府高官は、日本側はこれを「十分な保証」と考えており、安倍首相との2人だけの会談においてトランプ大統領自身が、これは232条に基づく関税が発動されないことを意味する、と明言したと話す。茂木外相も日本の記者団に対し、協定の履行中はこの約束が尊重されるものと理解していると話した。 ニューヨークに拠点を置くコンサルティング会社テネオの日本専門家、トバイアス・ハリス氏も基本的には同じ見方だ。「交渉が始まった1年前の共同声明と同様に、この合意もまた、安倍首相の時間稼ぎ、そして最も有利とは言えない状況をコントロールする動きの1つなのかもしれない」と書いている』、「「精神に反する」行動はとらないという言質」、はどうとでも解釈できるので、「十分な保証」とはとても言えないだろう。
・『追加関税のリスクは持続する  だが、多くのアメリカ人の通商問題専門家たちはより懐疑的だ。 ブルッキングス研究所のミレーヤ・ソリス氏は、「日本政府がこれをどのようにウィンウィンとして描写するのか想像し難しい」と話す。 「自動車部門は除外されている。また、トランプ大統領は、追加関税という脅威により、日本の農業市場への優先的アクセス条件が脅かされる可能性があると警告されたとは考えていない。これまでの状況から考えると、声明における非常に曖昧な約束に潜在的な問題があることがわかる。自動車関連は今回の協定に含まれないため、トランプ大統領は232条に基づく追加関税を、協定の精神を侵害するものと考えることはないだろう。従って、保証はなく、そのリスクは持続する」 実際、トランプ大統領と政府高官は、この協定について限定的な説明しかしていない。「現時点で、第232条に基づいた措置を、日本の自動車に対して行う意図は、われわれ、つまり大統領にはない」と、アメリカの首席貿易交渉官ロバート・ライトハイザーは発言した。 一方、トランプ大統領は、この誓約や第232条の問題についてはまったく言及しなかった。さらに重要なのは、日本側はトランプ大統領の誠実さを保つために持っていた最も効果的な“武器”をすでに手放してしまっていることである。 日本の政府高官らは、トランプ大統領の“不確実性”をよく心得ている。「トランプ大統領が確実に機嫌よくいられるようにしたい」とニューヨーク在住の日本の高官は話す。「貿易交渉についての報道は、トランプ大統領の予測不可能な感情的反応につながることがないように、合意で得たもの(または避けたもの)を強調しない」。 首脳会談に先駆けて、ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙などは、自動車関税問題に関してアメリカ側が明確に誓約することを拒否したため、この協議が行き詰まったと報じた。 ニューヨーク・タイムズ紙などは、日本側が「サンセット条項」、または、「スナップバック合意」と呼ばれる方法によってこの問題を回避しようと試みたと報道。これにより、アメリカが話を進めて、自動車関税を課した場合、農産物に対する関税免除は一時停止または撤廃される可能性がでることになるだろう』、「トランプ大統領は、この誓約や第232条の問題についてはまったく言及しなかった」、というのは将来の火種となる可能性を示唆している。「サンセット条項」は入ったのだろうか、記事ではどうも入らなかったようだ。
・『トランプ大統領側は成果を強調  今回発表された声明やアメリカ側の資料からは、今後こうした自動車関税について議論される兆し、ましてや合意にたどり着く兆候はまったく感じられない。それなのに日本の政府関係者は、まだ議論を続けようとしている。 「232条が課された場合、われわれは本協定を終了させる」と、日本の交渉担当の1人は語る。だが、日本の貿易政策専門家に言わせると、そのような措置が日本の法律において合法かどうかは微妙だ。本協定が国会を通過した場合、簡単に差し止めたり無効にしたりすることはできるのだろうか。 一方、トランプ大統領がアメリカ国民に伝えたかったことは非常に明確だった。ホワイトハウスとアメリカ通商代表部は、日本から得ようとしていたすべての農業利権についてアメリカの記者団に詳細に伝えていた。 「この第一段階である最初の関税合意により、日本はさらに72億ドル分のアメリカの食料および農産物への関税を撤廃あるいは減税することになるだろう」と、通商代表部は報告書に明記している。「協定が実施されれば、日本が輸入する食料と農産物の90%以上が非関税になるか、特恵関税の権利を受けることになるだろう」と。 今回の貿易交渉が、トランプ大統領の再選に向けたキャンペーンの一環であることは明らかだ。中国との貿易戦争によって重大な打撃を受けている農家からの支持は大きく下がっているうえ、貿易戦争は当面収まりそうにない。 翻って今回の声明は、トランプ大統領を支持するアメリカの農業関連団体の意見が大きく反映されている。文字どおり発表から数分以内に、ウォールストリート・ジャーナル紙や、他紙の記者は、トウモロコシ、小麦、その他製品の業界団体からこの偉大な「勝利」を称賛しているといったいくつものプレスリリースを受け取った』、確かにトランプ大統領にとっては、大きな勝利のようだ。
・『「ご機嫌取りをする日本に心底うんざり」  「これはアメリカの農家、牧場経営者、生産者にとって大きな勝利である」とトランプ大統領は語る。「そして私にとって非常に重要なことだ。また君たちがこのニュースを報道することが重要だ。なぜなら知ってのとおり、農家や牧場経営者や、ほかの多くの人々にとって、これはすばらしいことだからだ」 成果を強調しようと、こうした団体の代表者たちを伴った安倍首相を前に大統領はテレビ番組向けの一芝居をうち、それぞれにとって協定がどれほど得策であるかを証言するよう要求したのだった。「日本は特別な存在になる 」。トランプ大統領はそう結び、「そしてこれが私の特別な友達だ」と言って安倍首相に頷いてみせた。 皮肉なことに、こうしたこれ見よがしの愛情表現、そして安倍首相がトランプ大統領の政治目的に身を投じたのと時を同じくして、トランプ大統領が大々的にやり玉に上がった。民主党の大統領ナンバーワン候補であるジョー・バイデン氏を貶めるスキャンダルを渡すよう、ウクライナに対して圧力をかけようとしたというのだ。安倍首相に伴ってニューヨークに来ている日本人記者団は、安倍首相がトランプ大統領と会談している間にそんな騒ぎとなっている事実にはほとんどどこ吹く風という様子であった。 「ニクソン以来、(そしてトランプ大統領の日々の非道な振る舞いの度合いを考えても)、アメリカの政治・憲法上最大の危機的状況の真っ最中に安倍首相はのこのこやって来て、またしてもトランプ大統領にへつらうのか?」と、知日家のアメリカ人識者は話す。 「二国間自由貿易協定合意はいいことかもしれないが、世論のほうは最悪だ。貿易協定が締結されつつある時に、日本人がトランプ大統領がまたもや一大スキャンダルに直面しようとしていることを知る由もなかったのは事実なのだから。それにしても日本がトランプ大統領にご機嫌とりをする様にはもう心底うんざりする。日本の政策が世界の目から見てどれほど不愉快なものか、日本はまったくわかっていない」』、「「ニクソン以来、・・・・アメリカの政治・憲法上最大の危機的状況の真っ最中に安倍首相はのこのこやって来て、またしてもトランプ大統領にへつらうのか?」と、知日家のアメリカ人識者は話す」、「日本の政策が世界の目から見てどれほど不愉快なものか、日本はまったくわかっていない」、などは厳しいアメリカの見方なのだろう。いずれにしろ、「「ウィンウィン」という幻想」を振りまいた安倍政権、大本営発表を無批判に垂れ流した日本のマスコミの罪は深い。せめて国会での野党の追及に期待したい。
タグ:東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン ダニエル・スナイダー 細川昌彦 トランプと日米関係 (その5)(日米貿易協定 「WTO違反」までして譲歩するのか?!日本側は“守り一辺倒”になってしまった、日米貿易協定で日本がWTOルールの‟抜け穴”つくる?、安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想) 「日米貿易協定、「WTO違反」までして譲歩するのか?!日本側は“守り一辺倒”になってしまった」 日米交渉はまたもや“守り一辺倒”に 先にカードを切ってしまった農産物 交渉前にあえて米農務長官がTPPの水準以上の要求発言をしたのも、単なる交渉戦術だ。 しかし日本はそれをまともに受け取ってしまった 米国に対して「TPPの水準までは譲歩する」と最初からカードを切ったことになる。米国は何の代償も支払わずして、このカードを手に入れることに成功したのだ 自動車の「継続協議」は“気休め”か? 今後継続協議といっても、農産物でカードを切ってしまって交渉のレバレッジを失った後では、残念ながら“気休め”にすぎない WTO違反の追加関税は“空脅し”だ 追加関税を脅しに、対米輸出の数量規制に追い込むことはメキシコ、カナダとの交渉で味をしめたライトハイザー通商代表の手法 通商拡大法232条による追加関税のWTO違反の措置である。既に米国は鉄鋼・アルミニウムについて発動しているが、欧州連合(EU)など各国からWTO違反として提訴されている 日本も本来共同歩調を取るべきであるにもかかわらず、トランプ大統領との蜜月を崩すことを恐れてか、提訴はしていない 自動車関税の引き上げの脅しは『抜けない刀』で“空脅し”だからだ 自動車の追加関税を回避することを交渉の優先目標にした結果、米国の自動車関税の撤廃という日本の本来の要求の優先度が下がって、継続協議になったのだ。 これも米国の思惑通りの展開だろう 完成車が含まれない限りWTO違反になる?! 特定国への関税引き下げは、「実質的にすべての貿易」について関税引き下げになるものでなければできない。それがWTO協定上のルール 米国の農産物に対してだけ関税を引き下げるといった“つまみ食い”は許されない 関税撤廃率は6〜7割といったところだ。完成車が含まれない限り、明らかにWTO違反となる アジア諸国をはじめ途上国と自由貿易協定(FTA)を締結するに当たって、およそ高い関税撤廃率を求めることは難しくなる。米国相手のときだけ基準を変える「二重基準だ」との批判も免れない 「日米貿易協定で日本がWTOルールの‟抜け穴”つくる?」 米国の“脅し”から設定された交渉目標 米国が日本に対して、(1)農産物でTPP以上の要求をする、(2)自動車の制裁関税を検討する、という2つの“脅し”が背景 “毒まんじゅう”を回避した意義は大きい 数量制限は“毒まんじゅう”のようなもので、一旦飲まされると、後で嵩(かさ)にかかって米国の要求がエスカレートするのを覚悟しなければならない。これを回避した意義は大きい 日本が越えてはならない一線とは 米国の自動車や自動車部品の関税については「更なる交渉による撤廃」が明記された。これは「WTO違反ではない」と説明するために大枠合意後、日本側が書き込む努力をしたものだ。そしてこれらも含めて、今回の合意の関税撤廃率を計算して、米側で92%、日本側で84%と発表して胸を張る ライトハイザー代表も記者会見で、「米国の自動車関税の撤廃はこの協定に含まれていない」とコメント 今後の展開を読む 日本の農産物の関税引き下げという交渉のレバレッジを失ってしまって、果たして米国から譲歩を得られるだろうか 「安倍首相はトランプに「使われて」いないか 日米貿易協定は「ウィンウィン」という幻想」 安倍晋三首相はひょっとしてドナルド・トランプ大統領の再選キャンペーンに加わったのだろう? 自らの成果として大いに喧伝する 大統領選挙の年を迎えるトランプ氏に対する政治的圧力がいくらか緩和されるだろう 交渉中、および協定が履行されている間は、協定の「精神に反する」行動はとらないという言質をとりつけた 追加関税のリスクは持続する トランプ大統領は、この誓約や第232条の問題についてはまったく言及しなかった 日本側はトランプ大統領の誠実さを保つために持っていた最も効果的な“武器”をすでに手放してしまっていることである トランプ大統領側は成果を強調 今回の貿易交渉が、トランプ大統領の再選に向けたキャンペーンの一環 「ご機嫌取りをする日本に心底うんざり」 ニクソン以来、(そしてトランプ大統領の日々の非道な振る舞いの度合いを考えても)、アメリカの政治・憲法上最大の危機的状況の真っ最中に安倍首相はのこのこやって来て、またしてもトランプ大統領にへつらうのか?」と、知日家のアメリカ人識者は話す 日本の政策が世界の目から見てどれほど不愉快なものか、日本はまったくわかっていない
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イラン問題(その3)(ホルムズ海峡の日本船舶 守るのは有志連合ではない、有志連合によるイラク包囲網への参加は「百害あって一利なし」、数千億円かけたサウジ防空システムに欠陥 わずか数万円のドローン攻撃に無防備) [外交]

イラン問題については、6月27日に取上げた。今日は、(その3)(ホルムズ海峡の日本船舶 守るのは有志連合ではない、有志連合によるイラク包囲網への参加は「百害あって一利なし」、数千億円かけたサウジ防空システムに欠陥 わずか数万円のドローン攻撃に無防備)である。

先ずは、7月12日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元衛艦隊司令官(海将)の香田洋二氏へのインタビュー「ホルムズ海峡の日本船舶、守るのは有志連合ではない」を紹介しよう(Qは聞き手の質問)。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/071200077/
・『米国のダンフォード統合参謀本部議長が7月9日、ホルムズ海峡の安全確保などを目的とする有志連合を結成すべく、関係国と調整していると明らかにした。日本政府も打診を受けたとされる。日本はこれにどう対応すべきなのか。安倍晋三首相が取り組むイラン・米国の仲介に影響はないのか。海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた香田洋二氏に聞いた。 Q:イランとの緊張が高まる中、米国が関係国との連携に動き始めました。 香田:今回の件で、強調しておきたいことが2つあります。1つは、ホルムズ海峡の周辺を航行する日本の民間船舶を守るのは誰なのか、をしっかり考える必要があること。日本の船舶に従事する船員の命を誰が守るのか、石油をはじめとするエネルギーの安定供給に誰が責任を持つのか、ということです。これはダンフォード氏に言われて始めるようなことではありません。この点について政府が議論していないとしたら、無責任のそしりを免れ得ません。 2つ目は、今回、米国が提唱する有志連合は、アフガニスタン戦争やイラク戦争の時に結成されたものとは全く異なる性格のものです。この2つの有志連合は、それぞれの国に攻め込むことを前提にしていました。しかし、今回の有志連合はホルムズ海峡周辺の安全確保と、航行秩序の維持が目的。武力行使を意図とした有志連合ではありません。集団的自衛権を持ち出すなど、両者を混同した議論が見受けられます』、議論の混迷を解きほぐしてもらいたいものだ。
・『軍事行動の可能性は低い  そもそもの話として、私は、米国もイランも軍事力に訴える可能性は低いと考えます。まずイランの側に立って考えてみましょう。イランにとって最悪なのは、国際社会の中で孤立することです。ホルムズ海峡で過激な行動を取れば、西側諸国などから経済支援を受けられなくなってしまいます。軍事攻撃を目的とする新たな有志連合の結成に正当な理由を与えることにもなりかねません。イランはそんなことはしないでしょう。 6月13日に日本とノルウェーのタンカーが攻撃される事態がありました。イランが過激な行動を取ったとしても、あの程度がせいぜいでしょう。私は、あの事件を起こしたのは革命防衛隊などの孫請け組織だと見ています。場所は、イラン領海の外縁から2カイリほど。イランが厳しく管理をしている海域ですから、イラン関連の組織がやったのは間違いありません。ただし、そのやり方は素人然としたものでした。今のタンカーは二重船体になっています。日本のタンカーへの攻撃は内側のタンクに及ぶものでなく、火災を発生させることもできなかった。 さらに、日本のタンカーと意識することなく攻撃したものとみられます。その場にいた、やりやすそうな船を選んだ。安倍首相がイランを訪問していた時ですから、イラン政府としては孫請け組織が「とんでもないことをしてくれた」と見ていたでしょう。 一方、米国にとっても、今の段階で軍事行動を起こすのは時期尚早です。イランが核合意を破り、低濃縮ウランの貯蔵量が2015年の核合意で規定した300kgを超えても、濃縮度を合意を上回る4~5%に上げることがあっても、核兵器の開発を始めるには、まだいくつものステップが残っています。軍事行動を要する事態には至っていません。 また、米国にとって現在の最大の脅威は中国です。イランに対処するために、北東アジアに置くべき軍事アセットを中東に回すのは考えづらいことです。加えて、軍事行動は一度始めたら、どこまでエスカレートするか分かりません。中東にくぎ付けになる可能性があり、リスクが大きすぎます』、さすが軍人らしく冷静な判断だ。
・『米国の狙いは中東の安定維持  Q:米国が有志連合の結成に向けて、動き始めたのはなぜでしょう。 香田:米国は、中東地域の安定を国益と考えているからです。冒頭でお話しした、考えておくべきことの2つ目と関連します。 シェール革命が起きて、エネルギー供給における中東依存度は下がっています。このため、米軍が中東に直接関与する必要性は小さくなっている。それでも、この地域の面としての安定を維持し、海上交通の秩序を維持することは依然として重要と見ているのです。先ほど触れたタンカーへの攻撃のようなイランの冒険を抑止する意図もあるでしょう。 ただし、そのための行動のすべてを米国が単独で賄うことはできません。なので、自国の船を護衛する力のある国は自分でやってほしいということです。 Q:先ほど、イランに軍事行動を起こす気はないと説明していただきました。そうであれば、米国が中心となって有志連合を結成することが、かえってイランを刺激することになりませんか。 香田:確かに、イランが態度を硬化させる可能性はあるかもしれません。ただし「刺激」はすでにしています。その一方で、毅然とした態度を取ることで、イランを増長させない効果が期待できます。 「刺激」が元でイランが軍事行動を起こすことがあれば、イランにとって虎の子である核関連施設を攻撃される恐れが生じ自殺行為です。そんなことはしないでしょう。また、刺激しようがしまいが、軍事行動を起こす時は起こすものです。 Q:ダンフォード氏は「米国が警戒活動を指揮する」と発言しています。具体的には何をするのでしょう。 香田:民間船舶の運航統制を考えているでしょう。自国の船を護衛する力のない国の民間船舶が、武装することなくペルシャ湾周辺を航行するのは好ましいことではありません。日本やNATO(北大西洋条約機構)加盟国の民間船舶の間に、こうした国の船を割り当てて航行すれば、これらにも警戒の目を及ぼすことができます』、日本がチャーターした船への攻撃が偶発的なものだとすれば、「有志連合」への参加の必要性はない筈だ。
・『日本は、日本の船を守るのか  Q:日本は有志連合に加わるべきでしょうか。 香田:これは、考えておくべきことの1つ目と関連します。日本の船を日本の政府や自衛隊が守るべきか否かを決心する必要がある。 自衛隊を海外に出すことに依然として抵抗があるようです。しかし、日本の船舶を守るのは日本しかありません。もちろん、憲法の枠内で行動するのが前提です。 政治的判断として「守らない」という選択もあり得ます。ただし、その時は船員の生命をどう考えるのか、という問題が生じます。エネルギーの安定供給も保証できません。 日本の船舶を日本政府が護衛するのに、集団的自衛権の議論は必要ありません。日本政府も自衛隊もイランの現状において集団的自衛権を行使することは考えていないでしょう。やってはいけないことです。 Q:日本の船は日本が守る、と決心した場合、どのような法的根拠で護衛艦を派遣することになるのでしょうか。 香田:まずは海上警備行動。この時、武器の使用については、警察官職務執行法第7条(正当防衛・緊急避難)にのっとることになります。 場合によっては、特別措置法を制定することになるかもしれません。 武力攻撃に至らない侵害に迅速に対処し、不法行為に切れ目なく対応すべく、政府は2015年、海上警備行動の発令手続きを迅速化するための閣議決定をしました。 Q:先ほど、第三国の船舶も護衛対象にする可能性をお話しいただきました。これは、海上警備行動で可能ですか。 自衛隊法 第82条 防衛大臣は、海上における人命若(も)しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。 香田:無防備の第三国の船舶が、護衛艦の至近距離において武装勢力に襲われるケースですね。こうした事態への対処は事前に決めておく必要があります。憲法違反の疑義があるならば、「助けない」という選択になります。 ただし、遭難など、海の上で困っている人がいたらお互いに助け合うという不文律があります。「海員の常務」と呼ばれるものです。これを適用することは可能です。自力で自国の船舶を守る力を持たない国と外交交渉をし、護衛対象にすることもあり得るでしょう。人道支援と考えることもできます』、なるほど。
・『「米艦防護」の必要はない  Q:ダンフォード氏は、「警戒活動を指揮する米国の艦船」も護衛の対象に想定しているようです。自衛隊が「米艦防護」を求められることはありませんか。2015年に成立した安保法制で、平時において自衛隊自身が保有する武器などを防護するために武器が使用できるのと同様に、米軍の艦船や航空機を防護するための武器使用が可能になりました。 香田:それはありません。米国の艦船は、自衛隊に護衛してもらわなくても、自力で守れます。 考える必要があるとすれば、極めてまれなケースですが、エンジンが故障した、電力が供給できなくなった、といった不慮の事故に米国の艦船が見舞われた時でしょう。これについては、どのように対処するか、政府は事前にルールを決めておく必要があります。先ほど触れた「海員の常務」と解釈することもできます。 Q:護衛艦を派遣する場合の任務と法的根拠について「国際平和支援法」に基づく後方支援を提供する可能性はありますか。安保法制の一環として、新たに制定された法律です。アフガニスタン戦争の際、日本は特別措置法を制定して、インド洋において多国籍軍に給油を実施しました。国際平和支援法はこうした措置を恒久法で定めるものです。 国際平和支援法1条 この法律は、国際社会の平和及び安全を脅かす事態であって、その脅威を除去するために国際社会が国際連合憲章の目的に従い共同して対処する活動を行い、かつ、我が国が国際社会の一員としてこれに主体的かつ積極的に寄与する必要があるもの(以下「国際平和共同対処事態」という。)に際し、当該活動を行う諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等を行うことにより、国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的とする。 香田:今回のケースにはなじまないと思います。今回の有志連合の目的はあくまで、ホルムズ海峡周辺の安全確保と航行秩序の維持です。武力攻撃が目的ではないので、国連安保理決議を必ずしも必要とする措置ではありません。もちろん、あった方が好ましくはありますが。 他国の部隊への給油などの支援措置があり得るとしたら、ペルシャ湾に艦船を派遣するものの資金がなく燃料の確保に困る国を支援するケースでしょう。その場合は、特別措置法を制定し、物品役務相互提供協定(ACSA)*を締結した国を支援できるようにすることになると思います。 *:自衛隊と他の国との間で物資や役務を融通しあう取り決め。食料、燃料、弾薬などの物品や、輸送、医療などの役務が対象。安全保障・防衛協力をスムーズに実施し、協力の実効性を高めることが狙い。国連平和維持活動(PKO)や共同訓練、大規模災害における協力を想定している』、「「米艦防護」の必要はない」というのは当然だろう。
・『日本の船舶を守ることに専念するなら、「仲介」に悪影響はない  Q:安倍首相が6月にイランを訪問し、米国・イラン間の緊張を緩和すべく仲介に乗り出しました。9月の国連総会で、イランのロウハニ大統領と再び会談することを検討し始めています。 米国が主導する有志連合に参加すると、仲介者としての中立を放棄しているようにイランからは見えるでしょう。仲介に支障をきたしませんか。 香田:リスクはあります。だからこそ、自衛隊の護衛艦は日本の船舶を護衛することに専念すべきです。この点を明確にする。それでもイランは日本の姿勢を難詰するかもしれません。しかし、日本の自衛隊が日本の船舶を護衛するのは当たり前のことです。クレームを付けられる筋の行動ではありません。 加えて、有志連合の目的がホルムズ海峡周辺の安全確保と航行秩序の維持であることを明瞭にすべきです。イランに攻め込む意図のものではない、と。ダンフォード氏の現在の言動だけでは不明瞭です。日本の外務省はこの点で努力する必要があると思います』、「有志連合の目的」をいくら「明瞭」にしたつもりでも、イランにとっては敵対行動と捉えられる可能性は大きく、やはり「仲介」が難しくなるとみておくべきではなかろうか。

次に、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が7月18日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「有志連合によるイラク包囲網への参加は「百害あって一利なし」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/208948
・『急浮上した「有志連合」 政府は対応に苦慮するが  7月9日、米統合参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード海兵大将は記者団に対し、ペルシャ湾の出入り口であるホルムズ海峡などの航海の安全確保のため「有志連合」結成を目指し関係諸国と調整中であることを表明した。11日には米国務次官補デビッド・スティルウェル空軍准将(予備役)が来日、外務省、防衛省などとイランや北朝鮮情勢につき意見交換を行った。 これに先立つ6月24日、トランプ米大統領はツイッターで「ホルムズ海峡を主たる原油輸入路としている日本、中国などが自国の船を自ら守るべきだ」と述べた。ダンフォード統参議長の「有志連合」結成論や、スティルウェル国務次官補の訪日は、トランプ大統領の意向を受けたものだと考えられる。日本政府は対応に苦慮しているが、「イラン包囲網」に参加する「大義」はあるのか』、さしもの安倍政権も今度ばかりは慎重姿勢のようだ。
・『米・イラン対立はトランプ政権が引き起こした  現在起きているイラン核合意をめぐる米国とイランの対立は、ひとえにトランプ政権が引き起こしたものだ。米・露・英・仏・中・独の6ヵ国とEUはイランの穏健派政府との2年以上の交渉の結果、2015年7月「イラン核合意」に達した。この合意では、イランは少なくとも15年間は、原子炉の燃料用の3.67%以上の濃縮ウランやプルトニウムを製造せず、濃縮用の遠心分離機の大幅な削減をし、その見返りにイランに対する経済制裁は解除することを定めている。 国連安全保障理事会もそれを支持する決議をし、IAEA(国際原子力機関)は2016年1月、イランが合意を完全に履行したことを確認した。これで経済制裁は解除に向かい、話し合いによる解決の成功例となった。 ところがトランプ大統領は2018年5月、一方的にイラン核合意離脱を宣言、経済制裁をすべて再発動した。米国はイランと取引をする外国金融機関等の企業にも制裁を再導入するとしている。それまでの対話の努力をすべてひっくり返す米国の離脱にはイランはもちろん、他の合意署名国も怒り、英、仏、独が遺憾の意を共同で表明したのは当然だ。 このためイランは7月7日、核合意で上限とされたウラン濃縮3.67%を超えた4.5%濃縮を行うことを宣言したが、核兵器用の濃縮ウランはウラン235の比率が90%以上であり、4.5%は核兵器開発には程遠い。経済制裁が解除されないことへのイランの不満を示すジェスチャーにすぎない。 米国はこれを「核合意違反」と非難するが、自国は核合意離脱を宣言。経済制裁を再開し、合意をほごにしたのだから、まるで契約を破棄して商品の代価は支払わず、「納入しないのは契約違反」と騒ぐようなものだ』、そもそも「米・イラン対立はトランプ政権が引き起こした」、というのはその通りだ。
・『「日本タンカー襲撃」でも米国の主張は不自然  6月13日にホルムズ海峡の出口であるオマーン湾で日本の国革産業が運航するタンカー「コクカ・カレイジャス」(パナマ船籍、1万9000総トン)と、ノルウェー企業が運航していたタンカー「フロント・アルタイル」(マーシャル諸島船籍、6万3000総トン)が爆発物による攻撃を受けたこの事件につき、米国は「イランに責任がある」と主張、中東地域を担当する米中央軍は「攻撃は吸着水雷(Limpet Mine)によるものだ」との声明を出した。また「イランの革命防衛隊が不発だった水雷を日本のタンカーから回収し、証拠隠滅している状況を米軍が撮影した」とする“証拠写真”を公表した。だがこの主張には極めて不自然、矛盾した点がある。 吸着水雷は強力な磁石を付けた小型爆弾で、アクアラングを背負ったダイバーがボートや小型潜水艇で港に潜入、停泊中の敵艦船の水線(海面の線)下に取り付け、時限信管で爆発させる。 第2次世界大戦中の1943年9月、英軍特殊部隊の14人がカヌー3隻でシンガポールの港に潜入、吸着水雷で日本の貨物船7隻を沈没、または破損させた。1945年7月には英軍の超小型潜水艇でシンガポールに潜入したダイバーが重巡洋艦「高雄」の船底に吸着水雷を付け、大亀裂を生じさせた。人が抱えて泳げるような小型水雷でも、水中では爆発の圧力が周囲の水に抑えられ、船に向かって集中するから相当な威力を発揮する。 だが「コクカ・カレイジャス」の破孔は1回目の午前6時45分頃の爆発によるもので、右舷船尾の水線より少し上だった。その約3時間後に起きた2回目の爆発は、右舷中央部の水線よりはるかに高い位置に小さな穴を生じさせた。 泳いで船に接近するダイバーは、目標の船の水線下には比較的容易に吸着水雷を付けられるが、泳ぎながら水線より上に爆弾を持ち上げて付けるのはシンクロナイズドスイミングより難しいし、水線下に穴をあけないと効果は乏しい。 まして2回目の攻撃の破孔は、水面から手が届かないような高い舷側に生じている。何のために、どうやって水雷を高い場所に取り付けたか、極めて不自然な話だ。もしヘリコプターか無人機が搭載する小型のミサイルを誤射すれば、このような被害が生じる可能性がある』、確かに米国の主張には、かなりの無理があるようだ。
・『つじつま合わない「証拠写真」 「反イラク感情」抱かせる狙い?  「コクカ・カレイジャス」の航海速力は14.3ノット(時速26キロ)、航行中にダイバーが泳いで水雷を取り付けるのはまず不可能だ。サウジアラビアのジュベイル港に停泊中か、あるいは10日に出港したのちカタールのムサイード港に寄港した際に付けられた、ということになる。 複数の水雷を付けるならほぼ同時に爆発するようにするはずで、3時間もの差があるのもおかしい。「コクカ・カレイジャス」の乗組員は「砲弾のような物が飛来した」と報告している。1回目の爆発は突然だから思い違いが起きる可能性もあるが、それによる右舷後部の火災を消し、緊張しているはずだから、もし右舷にもう1個異様な物体が付いていれば気付くだろう。「砲弾のような物が飛来した」との乗組員の証言は無視できない。 イランの巡視艇が「コクカ・カレイジャス」に接舷し、革命防衛隊員が不発の水雷を回収している」とする米軍の“証拠写真”はつじつまが合わない。不発があったか否か、は事件後はじめて分かる。事件発生後にはタグボートが駆けつけてアラブ首長国連邦のカルバ港へ曳航し、米駆逐艦「ベインブリッジ」も来て同船の乗組員を一時収容、船内の安全確認を行ったのち乗組員は元の船に戻った。多くの人々の関心が攻撃を受けた船に集中する中、イラン革命防衛隊員が船に乗り込んで証拠隠滅をはかる、と言うのは変だ。まるで火災現場に消防車やパトカーが集まる中、放火犯が現れて証拠品を回収するような話だ。この写真は13日の夜に撮影されたようで、もしイランの巡視艇が来たのなら、米国あるいは他の反イラン勢力の犯行の証拠を探そうとしていたとも考えられる。 米国は「吸着水雷」の磁石の破片を同船から回収し「イラン軍のパレードに出ていた物と酷似している」とも発表した。だが弾道ミサイルや戦車などが行進して威容を誇示するパレードに、特殊部隊が密かに使う小型水雷のようにまったく見栄えのしない物を出すとは考えにくい。 ポンペオ米国務長官は6月13日の記者会見で「イラン政府は日本のタンカーを攻撃、乗組員の生命を危険にさらした。安倍首相がイラン訪問中に事件を起こして日本を侮辱した」と述べた。だが「コクカ・カレイジャス」はパナマ船籍でパナマ国旗を掲げ、船尾にも船籍港の「パナマ」が書かれている。 船の所有者は法的にはパナマ企業で、それが日本企業の子会社であることは攻撃する側には簡単には分からない。ポンペオ国務長官は、米国の対イラン強硬策への国際社会の批判が強い中、なんとか日本人に反イラン感情を抱かせ、イラン包囲網に参加させようとしている様子だ。 米国は「イランがホルムズ海峡の封鎖を目指している」と言うが、それをすればイランは自国の原油輸出を妨げ自分の首を絞める結果となる。一方、米国はシェール・オイルの産出で石油輸出国になったから、ホルムズ海峡の閉鎖で原油価格が上昇すれば、米国を利することになるのは明らかだ。イランが軽々とそのような愚行をするとは考えにくい』、確かに、「ホルムズ海峡」の緊張は、イランにはマイナスの影響しかないが、米国への影響はプラスだ。
・『米国の虫のいい構想 「自衛隊の派遣」否定は当然  ロイター通信によれば、ダンフォード大将が想定している「有志連合」では米軍は指揮統制や警戒監視、情報収集を行い、各国の商船はその国の艦艇が護衛するという。米海軍は護衛の艦艇を出さず、指揮だけするなら、安上がりにイラン包囲ができる虫の良い構想だ。 だが南シナ海の人工島問題で米海軍は中国海軍と張り合っているし、米中は「貿易戦争」のさなかだ。また中国はイラン核合意からの米国の離脱、制裁再開を批判しているから中国軍艦が米軍の指揮下に入ることはまずない。 イランは19世紀から北のロシア、南のインドを支配するイギリスの圧迫を受けたため、、日露戦争での日本の勝利を喜び、伝統的に親日だ。第2次世界大戦では中立を宣言したが、英軍とソ連軍は南北から侵攻し、イランは両国に占領された。皇帝は捕えられ島流しされて死亡した。 日本は米国が1980年に革命後のイランと国交を断絶しても、イランとの友好関係を保ち、国交を続けてきた。イラン核合意についてもそれを支持する立場だ。 「コクカ・カレイジャス」の乗組員の報告を聞いている日本政府は、米国が「イランの犯行」と叫んでも同調せず、「誰が攻撃したのか分からない」(石井国土交通相)「予断をもって発言することは控えたい」(菅官房長官)など慎重で、中立的姿勢を示した。岩屋防衛相も6月14日「我が国の存立を脅かす恐れはない」と述べ、自衛隊の派遣を否定した。岩屋氏は7月16日にも「現時点では有志連合に参加する考えはない」と述べている。 米国が「日本の船は日本が守れ」と海上自衛隊派遣を要求しても、日本の船会社が海外に子会社を作り、外国船籍にしている「便宜置籍」の外航船は2411隻。日本船籍の外航船はわずか219隻だから、日本船籍の船だけを守ってもあまり意味がない。政府は便宜置籍船も合わせて「日本関係船舶」と称しているが、法的にはパナマやリベリアなど、他国の主権下にある船を海上自衛隊が護衛し、必要があれば武力行使をすることが自衛権の範囲と言えるか否かは疑問だ。 日本の船会社はパナマ等の海外子会社の株主にすぎない。外国企業への出資者の権益を守ることが自衛権行使に当たるのならば、諸外国に進出している日系企業の工場等を戦乱や暴動などの際に守るために自衛隊を派遣したり、逆に日本にある中国企業の工場を中国軍が守ることも自衛権の行使ということになりかねない』、最後の部分は、大いに気を付けて考えるべきだ。
・『米国を「核合意復帰」に誘導するのが良策  仮に日本に食糧や石油などを運ぶ船が続々と撃沈され、日本国民の生存が脅かされるような事態になれば、海上自衛隊がどの国の船であろうが、日本に不可欠な物資を運ぶ商船を護衛し、通商路を確保するのは自衛の範囲だろう。だが今回の状況は岩屋防衛相も言う通り国家の存立に関わるような切迫した事態ではない。米国のオバマ政権が賛成して成立したイラン核合意に、米国が復帰さえすれば円満に解決する話だ。 自衛隊法82条(海上警備行動)は「海上の人命、財産の保護、治安維持のため自衛隊に海上で必要な行動をとることを命ずることができる」と定めている。だが武器使用は警察官職務執行法に準じて、正当防衛等の場合以外には人に危害を加えてはならない。 ソマリア沖での海賊退治に海上自衛隊を参加させた際、2009年に制定された海賊対処法(略称)は防護の対象を日本関係船舶に限らず、海賊行為の制止に武器使用も認めている。 だが海賊は「私的目的」で行動するものと定義され、軍艦、公船に対して適用されない。イラン革命防衛隊は正規軍とは別組織だが、同国政府に属するから海賊ではない。 もし日本が米国の要請に従い、ホルムズ海峡等に護衛艦、哨戒機、給油艦などを派遣するなら、新たな立法が必要だが、トランプ政権がイラン核合意から一方的に離脱し、イランと取引する他の諸国の企業にも制裁を加えるとし、空母や爆撃機を派遣して威嚇するのに協力するための新法を制定するならば「横車協力法」と言わざるを得ない。今回は「有志連合」に加わる国は少ないだろう。自衛隊を米軍の指揮下に入れて、日本にとって「百害あって一利なし」の行動を取らせるよりは、他の諸国と連携して米国をイラン核合意への事実上の復帰に誘導するよう努める方が良策であるのは明らかだ』、「米国を「核合意復帰」に誘導するのが良策」というのは筋論だが、トランプ大統領がこれをのむ筈もないだろう。少なくとも、「有志連合」参加は見送るべきだろう。

第三に、9月20日付けNewsweek日本版「数千億円かけたサウジ防空システムに欠陥 わずか数万円のドローン攻撃に無防備」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/09/post-13027_1.php
・『サウジアラビアは、高高度からの攻撃を抑止するため、数十億ドルを費やして西側から最新鋭の防空システムを購入してきた。だが、同国の巨大な石油産業の施設が大打撃を受け、安価な小型無人機ドローンや巡航ミサイルによる攻撃からの防御には、全く役立たないことが、図らずも証明されてしまった。 14日の攻撃で、サウジの原油生産量は約半分に落ち込んだ。隣国・イエメンとの4年半に及ぶ戦争で何度も重要資産が攻撃を受けながら、同国が適切な防衛態勢を整えていない実態を露呈した。 サウジと米国は、恐らく今回の攻撃の背後には、イランがいるとの見方をしている。ある米政府高官は17日、攻撃の起点はイラン南西部だったというのが米政府の考えだと説明した。3人の米政府高官は、攻撃にはドローンと巡航ミサイルの両方が使われたと語った。 イラン側は関与を否定し、サウジが主導する有志連合に敵対しているイエメンの集団が攻撃を実行したと主張。イエメンの親イラン武装勢力フーシ派は、自分たちが単独で攻撃したとする声明を発表している。 米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)によると、イランの弾道ミサイルと巡航ミサイルの発射能力は、中東で最強であり、イランや同国が支援する近隣の武装勢力とサウジの距離の近さを踏まえれば、サウジのいかなるミサイル防衛システムも事実上圧倒する可能性がある。 ただ、より限定的な攻撃でも、サウジにとって手に余ることが分かっている。例えば最近フーシ派は、サウジの民間空港や石油ポンプ設備、同国東部のシェイバー油田などの攻撃に成功した。 サウジのある安全保障関係者は「われわれは無防備だ。どの施設にも実質的な防空態勢が存在しない」と話した。 【関連記事】サウジのムハンマド皇太子、韓国に防空システム構築支援を要請  14日に攻撃されたのは、国営石油会社サウジアラムコの2つの石油精製施設。石油関連施設の被害としては、1990─91年の湾岸危機時にサダム・フセインのイラク軍がクウェートの油田を炎上させて以来の規模となった。 サウジ政府は暫定的な調査結果として、イラン製の兵器が使用されたと分かったが、発射地点はなお不明だと説明している。 当初、専門家はドローンによる攻撃と特定していたが、3人の米政府高官は、ドローンと巡航ミサイルを組み合わせた攻撃方法であり、初めに考えられたよりも複雑で高度な作戦だったことがうかがえると述べた。 サウジの安全保障専門家の1人は「サウジにとってこの攻撃は(米中枢同時攻撃の)9・11のようなものだ。今回の攻撃は、これまでの状況を一変させるゲームチェンジャーだ」と指摘。さらに「われわれが国防のために数十億ドルを投じた防空システムと米国製兵器は、どこにあるのか。これほど精密な攻撃ができるなら、海水淡水化工場などもっと多くの施設が標的になりかねない」と懸念する。 主要な都市や施設にサウジが配備している防空システムでは、長らく米国製の長距離地対空ミサイル「パトリオット」が、主要な役割を果たしてきた。実際、フーシ派がサウジの都市に向けて発射した高高度飛行の弾道ミサイルは、首都・リヤドを含む主要都市で見事に迎撃されてきた。 ところが、ドローンや巡航ミサイルは、より低速かつ飛行高度も低く、パトリオットにとって検知・迎撃が難しい。 ペルシャ湾岸諸国のある高官は「ドローンは、サウジにとって非常に大きな試練だ。なぜなら、しばしばレーダーをかいくぐって飛んでくる上に、イエメンやイラクとの国境線が長いためで、大変脆弱な状況に置かれている」と指摘した』、「サウジ」が自らの脆弱性を認識しながら、イエメンへの軍事介入を強化しているというのは、理解に苦しむ。イラン孤立化を狙って、わざと攻撃させた可能性すら考えられる。
・『安価な攻撃手段  アラムコの操業に詳しい関係者は、今回攻撃を受けたアブカイクの施設は、ドローンに対する防衛態勢が不完全だったと証言した。当局は、レーダーが適切にドローンを捉えたかどうか調査を進めている。 サウジと取引がある西側の防衛企業幹部は、1年前までアブカイクの防衛用にパトリオットが配備されていたと話す。 14日に適切な迎撃ができなかった理由について、記者団から聞かれた有志連合の報道官は「230発を超える弾道ミサイルが有志連合によって迎撃された。われわれはあらゆる脅威に対応しており、サウジの安全保障を確保する防衛能力がある」とだけ答えた。 サウジ政府の報道担当部門は、コメント要請に回答しなかった。 先のサウジ安全保障関係者と2人の業界関係者によると、同国政府は数年前からドローンの脅威を認識し、コンサルタントや関連業者と解決策を話し合っていたものの、新たな具体的措置を講じてこなかった。 米国防総合大学のデーブ・デロッシュ氏は「従来のほとんどの防空レーダーは、高高度からの脅威に向けて設計されている。巡航ミサイルとドローンは地表すれすれを飛んで来るが、地平線が丸い関係でレーダーに映らない。また、ドローンは小さ過ぎて、大半のレーダーに熱源として探知されない」と解説する。 たかだか数百ドル程度のドローンに対し、1発約300万ドルの高額なパトリオットミサイルで撃ち落とすのは、あまりにも割に合わない面がある。 米国の防空専門企業・ディドローンのヨルク・ランプレヒト最高経営責任者(CEO)兼共同創業者は、より有効なドローン迎撃策として、こちらからもドローンのスウォーム(群れ)を向かわせることを提案する。 また、ジャミング(電波妨害)などの技術によって、ドローンを制御不能にできるとしている。 ただ、頻繁にジャミングを行えば、産業活動が損なわれたり、周辺住民に健康被害を与えることにつながる恐れもある。 いずれにしても武装されたドローンは入手しやすくなる一方で、重要なインフラへの脅威は過剰なほどに高まりつつある、と専門家はみている。 サウジの政策担当者がずっと前から恐れているのは、中部と東部に淡水を供給している同国東部・ジュバイルの淡水化施設が攻撃される事態だ。 この施設が破壊されれば、数百万人が水を利用できなくなり、修理に長い期間を要する可能性があるとみられている』、確かに「淡水化施設が攻撃される事態」は、今回の石油産業の施設より打撃は深刻で、イランもさすがに控えたのかも知れない。
タグ:日経ビジネスオンライン ダイヤモンド・オンライン 田岡俊次 Newsweek日本版 香田洋二 イラン問題 (その3)(ホルムズ海峡の日本船舶 守るのは有志連合ではない、有志連合によるイラク包囲網への参加は「百害あって一利なし」、数千億円かけたサウジ防空システムに欠陥 わずか数万円のドローン攻撃に無防備) 「ホルムズ海峡の日本船舶、守るのは有志連合ではない」 ホルムズ海峡の安全確保などを目的とする有志連合を結成すべく、関係国と調整 軍事行動の可能性は低い 米国の狙いは中東の安定維持 日本は、日本の船を守るのか 「海員の常務」 「米艦防護」の必要はない 日本の船舶を守ることに専念するなら、「仲介」に悪影響はない 「有志連合によるイラク包囲網への参加は「百害あって一利なし」」 急浮上した「有志連合」 政府は対応に苦慮するが 米・イラン対立はトランプ政権が引き起こした 「イラン核合意」 トランプ大統領は2018年5月、一方的にイラン核合意離脱を宣言、経済制裁をすべて再発動 「日本タンカー襲撃」でも米国の主張は不自然 つじつま合わない「証拠写真」 「反イラク感情」抱かせる狙い? 米国の虫のいい構想 「自衛隊の派遣」否定は当然 米国を「核合意復帰」に誘導するのが良策 「数千億円かけたサウジ防空システムに欠陥 わずか数万円のドローン攻撃に無防備」 高度からの攻撃を抑止するため、数十億ドルを費やして西側から最新鋭の防空システムを購入 安価な小型無人機ドローンや巡航ミサイルによる攻撃からの防御には、全く役立たないことが、図らずも証明 安価な攻撃手段 中部と東部に淡水を供給している同国東部・ジュバイルの淡水化施設が攻撃される事態 修理に長い期間を要する可能性 数百万人が水を利用できなくなり、修理に長い期間を要する可能性
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日韓関係(その8)(両国に不利益な日韓の軍備競争が起こる形勢、橋下徹「韓国に分捕られた分をこう取り返せ」、日韓が陥る「記憶の政治」の愚、日韓対立の底流にある「2つのリベラリズムの対立」) [外交]

一昨日、昨日に続いて、日韓関係(その8)(両国に不利益な日韓の軍備競争が起こる形勢、橋下徹「韓国に分捕られた分をこう取り返せ」、日韓が陥る「記憶の政治」の愚、日韓対立の底流にある「2つのリベラリズムの対立」)を取上げよう。「またか」とウンザリする向きもあろうかとは思うが、この問題の重要性を考慮すれば、異例の3日連続もアリだと考えた次第だ。

先ずは、軍事評論家、ジャーナリストの田岡俊次氏が9月10日付け日刊ゲンダイに掲載した「【寄稿】両国に不利益な日韓の軍備競争が起こる形勢」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/261887
・『日韓の対立は昨年10月30日、韓国大法院が徴用工への補償を命じたのが発端と言われがちだが、実はそれ以前、10月10日から済州島で行われた国際観艦式に参加予定の日本の護衛艦は艦旗(旭日旗)を掲揚しないよう韓国側が求め亀裂が生じた。 旭日旗は中国が1895年の下関条約で韓国独立を認めた日清戦争でも翻り、今日の海上自衛隊旗章規則も掲揚を定める。「艦旗を掲げるな」と言うのは世界の海軍の礼儀に反し、海上自衛隊は参加を取り消した。 12月20日には韓国の駆逐艦が海上自衛隊のP1哨戒機に火器管制レーダーを照射する事件も発生、今年10月14日の相模湾での観艦式に中国は招くが、韓国海軍は招待されない。今後、韓国が詫びたり、日本の態度が変わることは考えにくく“日韓海軍冷戦”の状態は続くだろう。 これは文在寅大統領の思想傾向だけが原因ではない。韓国海軍は盧武鉉政権下の2005年に進水した1万9000トン級の揚陸艦(ヘリ空母)を「独島」(竹島)と命名、李明博政権下の2008年に進水した1800トン級の潜水艦は「安重根」(伊藤博文の暗殺犯)と名付けるなど、露骨な対決姿勢を示してきた。北朝鮮海・空軍は弱体だから、韓国海・空軍は予算拡大を狙うため、日本を仮想敵視するが、「日本と戦う」と言えば予算がつくのが問題だ。 日本では冷戦的世界観が残り「韓国は味方」と思いがちで、韓国の軍拡に関する報道はまれだが、海軍はヘリ空母1隻、1300~1800トン級の潜水艦16隻、巡洋艦3隻、駆逐艦・フリゲート23隻、1200トン級哨戒艦18隻を持ち、日本のヘリ空母4隻、巡洋艦2隻、その他の護衛艦41隻に数的には迫っている』、日本のヘリ空母に対抗して、ヘリ空母を建造、「潜水艦は「安重根」と名付けるなど、露骨な対決姿勢」、「「日本と戦う」と言えば予算がつく」、「日本では冷戦的世界観が残り「韓国は味方」と思いがち」、韓国が日本を仮想敵国として着々と軍拡にいそしんでいるとは不気味だ。しかも、「文在寅大統領の思想傾向だけが原因ではない」、日本の安全保障の考え方そのものを抜本的に見直す必要があるのかも知れない。
・『「日本と戦う」で予算がつく  2隻目のヘリ空母や3700トン級潜水艦などが続々と進水し、来年度から5年間の中期国防計画では日本の「いずも」級(満載2万6000トン)を上回る3万トン級空母を建造、F35B戦闘機十数機を搭載する。 韓国は弾道ミサイル「玄武2C」(射程800キロ、名古屋に届く)、巡航ミサイル「玄武3C」(同1500キロ、日本全土に届く)の量産を進め、弾道・巡航ミサイルの総数は2000基に近い。核弾頭の代わりに弾道ミサイルは子爆弾約900発を放出し、広い地域の制圧を狙う。潜水艦、水上艦もそれを搭載、ミサイル128発を積む「合同火力艦」も中期防に入れている』、どうも北朝鮮ではなく、日本を仮想敵国と想定した装備のようだ。 空軍は、実質的には爆撃機であるF15K(戦闘行動半径1250キロ)59機など戦闘機500機を超え、航空自衛隊の330機をしのぐ。空中給油機もエアバス330の改装型4機を発注した。 北朝鮮は奥行き約500キロ、北京へも約900キロだから、射程1500キロの巡航ミサイルや空中給油機は何のためか。毎年2回演習をする「独島防衛」に必要とも考え難い。韓国陸軍は米陸軍の47万人より多い49万人だが、11万8000人を削減する。防衛費を増大する一方で北朝鮮に対抗する陸軍を減らし、海・空軍の増強をはかる。 韓国の今年度の国防予算は円換算で約4兆円、日本の8割だが、韓国は5年間に年平均7・5%ずつ増額する計画で日本と並ぶ。韓国のGDPは昨年1・66兆ドルでロシアの1・58兆ドルを上回る。日韓軍備競争は双方に不利益だが、それが起こりつつある形勢だ』、「戦闘機500機を超え、航空自衛隊の330機をしのぐ」、「空中給油機もエアバス330の改装型4機を発注」、「防衛費を増大する一方で北朝鮮に対抗する陸軍を減らし、海・空軍の増強をはかる」、韓国に対抗した軍拡競争に乗るべきではなく、あくまで軍事面を中心とした対話を強化すべきだろう。

次に、9月11日付けPresident Online「橋下徹「韓国に分捕られた分をこう取り返せ」」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/29859
・『今回の日韓関係悪化の大元は、韓国大法院(最高裁)による徴用工判決だ。これに対して日本側は、輸出管理手続きの厳格化といった実質的な利益のない対抗手段ではなく、やられた分だけやり返すための法的な理屈を考えるべき。その手段とは? プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(9月10日配信)から抜粋記事をお届けします』、辣腕弁護士としての提案とは興味深そうだ。
・『韓国側の主張を分析したうえで日本の主張を徹底的に構築せよ  今回の韓国大法院の徴用工判決には、それなりの法的理屈があることを本メルマガで詳論してきた。1965年の日韓基本条約・請求権協定があるからハイ終わり、と簡単に言えるものではない。お互いに解釈の余地が生まれ得る問題だ。ゆえに、その点を踏まえて、日本は日本の立場の法的主張を準備しておくべきだ。 相手の主張を吟味することなく、自分の主張が絶対的に正しいものと信じ込んで法的論戦に臨むと、足元をすくわれる。韓国側の主張もそれなりに成立することを認識した上で、日本側の法的主張を徹底的に構築すべきだ。(略)さらに国際司法裁判所や仲裁委員会での判断を仰ぐ前に、国家の実力行使で解決するやり方もある。もちろん武力行使によらない実力行使だ。現在の日韓双方は、その報復合戦に突入している。ただし、実力行使を行うのであれば、その根拠を法的に構築すると同時に、これまでも散々論じてきたが、実害が最小限にとどまるような方法を採らなければならない』、日本政府は「日韓基本条約・請求権協定があるからハイ終わり」といった余りに単純化した主張から脱するべきだ。「報復合戦」も「実害が最小限にとどまるような方法を採らなければならない」、その通りだ。
・『李承晩ライン拿捕事件を韓国政府に賠償請求できるか  この点、日本の政治家やインテリの一部には、次のような歴史的事実を基に、「韓国政府」への実力行使を叫ぶ者がいる。 1952年発効のサンフランシスコ講和条約によって日本が主権を回復する直前に、当時の李承晩韓国大統領が、日本海に李承晩ラインなるものを一方的に引いて、竹島を実効支配した。今の中国が南シナ海でやっているのと同じようなことをやったのである。日本は当時、主権が回復していなかったのでなす術がなかった。その後、サンフランシスコ講和条約によって日本の主権が回復し、本来であれば日本の漁船が漁業をできる地域においても、韓国は李承晩ラインを盾に、日本漁船を拿捕し、多くの日本人漁師が韓国側に拘束された。拘束時に死亡者まで出ている。 この点について、日本側は韓国に補償請求しようとした。ところが1965年の日韓基本条約・日韓請求権協定時に、日韓の紛争は全て終結させる趣旨から、李承晩ラインに基づく日本漁船拿捕事件の補償は、全て日本政府が日本人漁師に行うことで決着した。自国民への補償は自国政府が行うという原則論である。そして実際、日本政府は日本人漁師に補償を行った。 そこで、日本の政治家やインテリの一部は、この点を蒸し返し、再度「韓国政府」に直接請求すればいいと主張する。 しかし、これは国際法上の「主権免除」という法的理屈を知らない主張だ。国際社会のルールにおいては、自国の裁判所において外国「政府」を直接訴えることはできない。すなわち日本の裁判所において「韓国政府」を直接訴えることはできないのである。「韓国政府」を直接訴えたいなら、「韓国の裁判所」で訴えるほかないのであるが、しかし、李承晩ラインを巡る補償について「韓国の裁判所」に「韓国政府」を訴えたところで、日本側が勝てる見込みはないだろう。韓国の裁判所では韓国側の法的理屈が採用されてしまうだろうから。 この点、韓国の元徴用工側は、うまくやっている。今回の韓国大法院が下した徴用工判決を見て欲しい。これは元徴用工の韓国国民が「韓国の裁判所」において韓国国内の「日本企業」を訴えている。「韓国の裁判所」において「日本政府」を訴えることはできないが、韓国国内の「日本企業」を訴えることはできるのである。 韓国国民が、徴用工問題で、「日本の裁判所」において、「日本政府」や「日本国内の日本企業」を訴えても負ける。先に述べたとおり、日本の裁判所は、元徴用工の個人補償について裁判所に訴えることはできないという立場だからだ。だから元徴用工たちは、自分たちの味方になってくれるだろう「韓国の裁判所」において韓国国内の「日本企業」を訴えて、勝訴判決を得たのである』、「李承晩ライン拿捕事件」はかろうじて思い出したが、「「韓国政府」に直接請求」することは、「国際法上の「主権免除」」で出来ないというのは、残念だがやむを得ない。「元徴用工たちは・・・「韓国の裁判所」において韓国国内の「日本企業」を訴えて、勝訴判決を得た」というのは鮮やかなやり方だ。
・これこそが日本の政治家の役割  日本側にもこのような緻密な戦術が必要である。韓国政府を訴えろ! では完敗する。だからこそ、日本側も、「日本の裁判所」で「日本国内の」「韓国企業」を訴えることはできないか。もっといえば、日本政府が「日本国内の」「韓国企業」の財産を差し押さえることができないか、を徹底的に考えるべきで、それが日本の政治家の役割だ。 李承晩ラインに基づく日本漁船拿捕事件や、その他のもので日本人や日本企業、さらには日本政府が「日本国内の」「韓国企業」を訴えることができるものはないか。最近、日本の外務省は、徴用工判決に基づく差押えやその現金化によって韓国内の日本企業に損害が出れば、日本政府は国際法に基づいて韓国側に損害賠償請求ができる、という見解を発出している。 加えて、韓国側が、徴用工判決とそれに基づく日本企業への差押え・現金化という日韓基本条約・日韓請求権協定に反する行動を貫くというのであれば、それこそ日韓基本条約・日韓請求権協定の破棄ということも視野に入れるべきである。それらを破棄すると日本側が韓国側に提供した5億ドルの資金を韓国側から戻してもらうことになる。ここを精査して、「日本の裁判所」に「韓国政府」を訴えるのではなく、「日本の裁判所」に「日本国内の」「韓国企業」を訴えたり、その財産を差し押さえたりすることができるように知恵を絞るのが日本の政治家の腕の見せどころだ。 (略) 政治家やインテリたちは、日韓関係の悪化で損をすることがないし、むしろそのことで仕事が増えるインテリも多いので、強硬策だけを叫んでいればいい。しかし、損をする民間人にとってはたまったものじゃない。加えて韓国が、日本の要求する輸出管理手続きをきちんと踏んでくれば、日本側は輸出許可を出さざるを得ず、そうなると韓国には何のプレッシャーにもならずに、徴用工判決の問題は何ら解決しない。 徴用工判決問題を解決するというなら、日本側の意図を明確にして、相手を動かす方策を実行すべきである。輸出管理手続きを厳格化し、「それは安全保障の問題だ!」などとごまかすべきではない。 「分捕られたなら、それを分捕り返す」。これが、日本側が採るべき本来の方策だ。(略)』、総論的にはその通りだが、実際には「「日本の裁判所」に「日本国内の」「韓国企業」を訴え」るための不当行為など、いくら頭をひねっても出てこないのではなかろうか。威勢がいい啖呵を切ることにかけては橋下氏は天才的だが、中味が乏しいこともあるようだ。

第三に、キャロル・グラック氏(コロンビア大学教授〔歴史学〕)が9月18日付けNewsweek日本版に掲載した「日韓が陥る「記憶の政治」の愚 どちらの何が正しく、何が間違いか」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/09/post-13004.php
・『<過去を政治の道具にする「記憶の政治」とは何か。泥沼の関係に陥りつつある日韓が仏独から学べること。本誌最新号「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集より> またしても、日本と韓国の間で緊張が高まっている。そして、またも双方が、敵意が膨れ上がる主な原因は「歴史問題」だと言い出している。 韓国人は、日本人が戦時中と植民地時代の行いを十分に認識してないと非難する。日本人は、自国で語られる歴史に欠けている部分を蒸し返されることにうんざりしている。過去を武器にして現在に損失をもたらしているという意味では、どちらの国も同罪だ。 日本人も韓国人もこれは「歴史」論争だと言っているが、実際に話しているのは「記憶」についてだ。 歴史と記憶は同じものではない。歴史とは過去に起きたことであり、記憶とは、そのストーリーをどのように語るかということだ。国家が自らのストーリーを語るときは特に、記憶は選択的、政治的、感情的になりがちだ。 国民の歴史という概念は目新しいものではない。全ての国が、時には英雄として、時には犠牲者として自分に都合よくストーリーを語るが、それらは常にアイデンティティーと国家の誇りに関わっている。 一方で、何が新しいかと言えば、いま私たちは「記憶の政治(メモリー・ポリティクス)」の時代を生きているということだ。記憶の政治では、歴史が国境を超えた問題になる。過去を利用して国内でアイデンティティーを築くだけでなく、国際関係でも過去を政治の道具にするのだ。 国境を超える記憶の政治は、1945年からの数十年間で変化してきた。ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)など戦時中の不正義を事実として認め語ろうという努力を機に、「世界的な記憶の文化」が徐々に生まれてきた。 国の過去の中でより暗い部分とどう向き合うかについての基準には、公に認めること、正式な謝罪、被害者への賠償が含まれるようになった。こうした記憶の基準は、奴隷制や先住民族への暴力など自国民に対してだけでなく、戦争や内戦で対峙した昔の敵や、帝国主義時代の旧植民地にも適用される。 日本と韓国は今まさに、国家の歴史と国際的な記憶の政治の複雑な網にからめ捕られている』、「日本人も韓国人もこれは「歴史」論争だと言っているが、実際に話しているのは「記憶」についてだ。 歴史と記憶は同じものではない。歴史とは過去に起きたことであり、記憶とは、そのストーリーをどのように語るかということだ。国家が自らのストーリーを語るときは特に、記憶は選択的、政治的、感情的になりがちだ」、これが海外からの冷静な見方なのだろう。「日本と韓国は今まさに、国家の歴史と国際的な記憶の政治の複雑な網にからめ捕られている」、というのは言い得て妙だ。
・『日韓双方が正しく間違っている  韓国でリベラルな文在寅(ムン・ジェイン)大統領が「われわれは二度と日本に負けない」と宣言するとき、彼は国家の経済への脅威について訴えている。親日派(「親日反民族行為者」)をやり玉に挙げるとき、彼は韓国の独立を、1948年に南北朝鮮がそれぞれ独立した冷戦下の反共産主義というより1919年の反日独立運動(三・一独立運動)に結び付けようとしている。このようにして、最終的に南北統一を目指す韓国の国民のストーリーに、北朝鮮が取り込まれていく。 こうしたレトリックは、国内的な目的のために日本に対する敵意を振りかざすものだ。) 一方、日本で保守派の安倍晋三首相が従軍慰安婦問題に関する新たな謝罪を拒み、強制連行という解釈を認めないとき、彼は国家のプライドと国内の政治基盤に語り掛けている。日本政府が韓国やアメリカなどに設置された「平和の少女像」の撤去を求めるのは、国際社会で日本の名誉が傷つけられると考えているからだろう。 そこでは記憶についての世界的な基準より、国力に関する愛国主義的な物語のほうが優先されている。これはどちらの国も正しくて、どちらの国も間違っていると言える。 韓国は、日本の戦争と植民地支配の過去は適切に認識されなければならず、将来にわたって日本の歴史の良い面も悪い面も教育しなければならないと主張する。これはそのとおりだ。また、韓国の裁判所が昨年、元徴用工問題で日本企業に賠償を命じる判決を出したことも、ドイツの戦時中の強制労働に関する判例をある程度なぞっていた。 日本は慰安婦問題で、不完全な部分はあるにせよ既に公式に謝罪と賠償をしたにもかかわらず、韓国が受け入れないことに戸惑っている。慰安婦をはじめとする戦争被害者のために市民社会の日本人が尽力していることも、韓国は認めようとしない。これについては日本の言うとおりだ。 一方、韓国は元徴用工への賠償金のために日本企業の資産を差し押さえて売却すると脅しているが、これは間違っている。こういう脅しは記憶についての世界的な基準からは外れている。 そして、日本は記憶をめぐる傷を貿易政策と安全保障政策にすり替えているが、これも間違っている。韓国が「日本の経済侵略対策特別委員会」を設置するなど、同じような報復をするのも間違っている』、日韓双方の主張をともに「間違っている」と切り捨てているが、その通りだろう。
・『仏独のようにはなれなかった  どちらの国も、過去の間違いを現在の間違いにすり替えているだけだ。75年近い年月の間に何も変わっていないかのように。だが実際は、多くのことが変わっている。「歴史問題」に関してもさまざまな変化が起きているのだ。 今から21年前の1998年に、金大中(キム・デジュン)大統領と小渕恵三首相は日韓共同宣言に署名。日本による植民地支配が韓国に多大な損害と苦痛を与えたことを認めた上で、未来志向の両国関係を目指すと約束した。 その後、韓国で日本の映画や音楽、マンガなどが解禁され、J-POPとK-POPが人気を集めた。2002年にはサッカー・ワールドカップを共同開催。日本で韓流ブームが起きて、互いに観光客が増えた。日韓関係は新しい段階を迎えたと思われた。 私はその頃、日本と韓国が、60年代前半の仏独のような和解に向かっているかもしれないと書いた。しかし、私は間違っていた。それでも、長く敵対していたフランスとドイツが第二次大戦後に関係を修復できた理由を検証することは、役に立つのではないか』、「フランスとドイツ」とは事情が相当違いそうだが、まずはみてみよう。
・『【参考記事】韓国に対して、宗主国の日本がなすべきこと) フランスとドイツの関係を変えた要素は3つある。双方の市民社会団体と草の根の運動(初めはドイツのほうが積極的だった)、シャルル・ドゴール仏大統領とコンラート・アデナウアー西独首相という2人の力強い指導者の政治的な意思、冷戦とソ連の脅威という文脈におけるそれぞれの国益だ。 両国は1963年にエリゼ条約(仏独協力条約)を結んで敵対関係に終止符を打った。しかし、その関係を強固にしたのはその後の教育の変化と、若い世代を中心に社会のあらゆるレベルで交流が深まったこと、そして、EUを通じて地域的な力が強まったことだ。 こうした順応はもちろん個人の記憶を消し去りはしなかったが、それでも両国の関係を変え、両国とほかの西欧諸国との関係を変えた。 時代や歴史的背景は異なるが、フランスとドイツの相互理解を深めた要素は今日の日本と韓国にも通じるだろう。 今年6月初めの世論調査では日本人と韓国人の約半数が相手国に良くない印象を抱いているが、その傾向は変化してきており、今後も変わるだろう。両国とも、若者のほうが年長者より互いへの好感度が高い。観光や大衆文化が草の根レベルで影響を与えていると思われる。 金大中が未来志向の日韓関係を宣言したときのように、指導者の姿勢も変化を起こし得る。文大統領は今年8月15日に、日本の植民地支配からの解放を記念する式典で「日本が対話と協力の道に進むなら、われわれは喜んで手をつなぐ」と語った。日本政府もむき出しの敵意にばかり反応せず、こうした前向きの発言を積極的に受け止めることもできるだろう』、「文大統領は今年8月15日に」融和的演説をしたのに、頭に血が上っていた日本政府がこれを無視したのは、確かに外交的には失策だろう。。
・『「帝国の慰安婦」としての記憶  変化の背景には地域的な文脈もあった。仏独は、欧州というコミュニティーに共に参加することに共通の利益を見いだした。現在、日本と韓国の国益も東アジアの域内関係に同じくらい密接に結び付いているのではないか。 ただし、過去の敵が未来の友になるというシナリオには、もう1つ課題がある。フランスとドイツは戦争の敵国同士だったため、仏独の記憶の政治は戦争が軸になっていた。それに対し、韓国は日本の植民地だったため、韓国は慰安婦や徴用工の問題を、戦争というより植民地時代の抑圧として考える。 日本では少なくとも90年代前半以降、戦争の記憶を積極的に呼び起こす動きが広まっているが、帝国主義時代の過去にはあまり向き合ってこなかった。日本人は南京虐殺や七三一部隊、従軍慰安婦を知ってはいるが、例えば慰安婦については帝国主義ではなく戦争の産物と見なす人が多いだろう』、「日本では・・・帝国主義時代の過去にはあまり向き合ってこなかった」、というのは確かに大いに反省すべき材料だ。
・『帝国主義の歴史を持つ多くの国と同じように、日本は長い間、自らの帝政の悲惨な行為について公には沈黙を守ってきた。イギリス、オランダ、ベルギー、ドイツ、フランスでも、今なお帝国主義時代の記憶が問題化している。 確かに帝国主義の過去を乗り越えて和解を目指そうという決然たる努力に、大きな壁が立ちはだかることも多い。例えばフランスと旧植民地のアルジェリアは2003~07年に友好条約の締結を模索したが、かなわなかった。1962年にアルジェリアが独立を果たしてから数十年がたっても、1世紀以上に及んだ植民地支配とアルジェリア戦争の残忍な記憶は重く、「歴史の傷」を癒やすことはできなかった。 日韓の関係はフランスとアルジェリアより近く、より友好的だが、日本の植民地支配に対する韓国の記憶はほかの旧植民地と同じくらい強烈なものも少なくない。日本と韓国が歴史の溝を埋めようとするなら、植民地時代の知識を学んで歴史的事実を認めることがおそらく出発点になるだろう。 記憶の政治の時代を生きる困難について、解決策が分かっているとは言わない。それでも明白なことが2つある。 まず、ナショナリズムは現代の惨劇だ。世界のナショナリズムは、国内外のほぼあらゆる場所で不確実性に対する反応として生まれている。日本と韓国のナショナリズムは、海峡の両側で同じように人々の目を塞ぎ自分たちの国益さえ見失わせている。 そして、過去を政治の武器として利用することは、前向きではなく後ろ向きに生きるということだ。過ぎ去った過去が、これから訪れる未来を危機にさらす──そうした事態を許すということだ。(筆者の専門は日本近現代史。近著に『戦争の記憶 コロンビア大学特別講義──学生との対話──』〔講談社現代新書〕) <本誌2019年9月24日号掲載「日本と韓国:悪いのはどちらか」特集より>・・・』、「日本と韓国が歴史の溝を埋めようとするなら、植民地時代の知識を学んで歴史的事実を認めることがおそらく出発点になるだろう」、というのは正論ではあるが、現在の日本には無理なのではなかろうか。

第四に、作家の橘玲氏が9月17日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「日韓対立の底流にある「2つのリベラリズムの対立」【橘玲の日々刻々】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/215024
・『10日ほど海外を旅行して、帰国してみると日韓対立がさらにヒートアップしていました。慰安婦財団解散、徴用工判決から「ホワイト国」除外、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)破棄へと至る過程はいまさら繰り返すまでもないでしょう。 この問題が難しいのは、日韓両国のアイデンティティに直結していることです。そのため、相手国を擁護するかのような主張をするとたちまち「炎上」し、バッシングの標的にされてしまいます。こうして、まともなひとほどこの問題から距離を置こうとし、残るのは「ポピュリスト」ばかりということになります(事情は韓国も同じでしょう)。 そこでちょっと冷静になって、この問題を「2つのリベラリズムの対立」として読み解いてみましょう。ポイントは、「世界はますますリベラル化している」です。 日本の保守派は、「現在の法律を過去に遡って適用することはできない」といいます。これは一般論としてはそのとおりですが、「歴史問題」にそのまま当てはめることはできません。黒人を奴隷にしたり、新大陸(アメリカ)の土地を原住民から奪ったり、アフリカやアジアを植民地にすることは、西欧の当時の法律ではすべて「合法」だったのですから。現在の「リベラル」な人権概念を過去に適用することによって、はじめて奴隷制度や植民地主義を批判できるのです。 こうした「リベラリズム」の拡張はやっかいな問題を引き起こすため、欧米諸国の圧力でこれまで抑制されてきましたが、新興国の台頭によって「パンドラの箱」が開きかけています。インドではヒンドゥー原理主義者がイギリスの植民地統治を全否定し、「民族の歴史」を新たにつくりなおそうとしています。韓国の「歴史の見直し」は、こうした潮流の最先端として理解できるでしょう。そこでは、現在のリベラルな価値観を時空を超えて拡張し、過去を断罪することができるのです』、「こうした「リベラリズム」の拡張はやっかいな問題を引き起こすため、欧米諸国の圧力でこれまで抑制されてきましたが、新興国の台頭によって「パンドラの箱」が開きかけています・・・韓国の「歴史の見直し」は、こうした潮流の最先端として理解できるでしょう」、なるほど説得力がある説明だ。
・『それに対してもうひとつの「リベラリズム」は個人主義化です。ここでは自由と自己責任の論理が徹底され、自分が自由意思で行なったことにのみ全面的に責任をとることになります。逆にいえば、自分がやっていないことには責任をとる必要はないし、勝手に責任をとってはならないのです。 第二次世界大戦の終結から70年以上がたち、日本でも戦場を経験したひとはごくわずかになりました。とりわけ孫やひ孫の世代にあたる若者は、なぜ自分が生まれるはるか昔の出来事で隣国から執拗に批判されるのか理解できないでしょう。「反韓」ではなく「嫌韓」という言葉は、こうした気分をよく表わしています。 問題なのは、どちらの側にも「リベラルな正義」があることです。お互いが自分たちを「善」、相手を「悪」と思っている以上、そこに妥協の余地はありませんが、その一方で、どれほど批判しても相手の「正義」が揺らぐことはありません。こうして、罵詈雑言をぶつけ合いながら、アメリカや「国際社会」を味方に引き入れようとしてますます袋小路にはまりこんでいくのでしょう。 解決策としては、それぞれの国民が「いつまでもこんなバカバカしいことはやってられない」と気づくことでしょうが、それにはまだ長い時間がかかりそうです』、輸出環境の悪化は、日韓両国経済に打撃を与えるが、相対的に韓国の方がダメージが大きい筈だ。「バカバカ」しさに早目に気づいてもらいたいものだ。日本も早目に気づいてもらいたい点では同様だ。
タグ:橘玲 日韓関係 日刊ゲンダイ ダイヤモンド・オンライン PRESIDENT ONLINE 田岡俊次 Newsweek日本版 (その8)(両国に不利益な日韓の軍備競争が起こる形勢、橋下徹「韓国に分捕られた分をこう取り返せ」、日韓が陥る「記憶の政治」の愚、日韓対立の底流にある「2つのリベラリズムの対立」) 「【寄稿】両国に不利益な日韓の軍備競争が起こる形勢」 国際観艦式に参加予定の日本の護衛艦は艦旗(旭日旗)を掲揚しないよう韓国側が求め亀裂が生じた “日韓海軍冷戦” これは文在寅大統領の思想傾向だけが原因ではない 2008年に進水した1800トン級の潜水艦は「安重根」(伊藤博文の暗殺犯)と名付けるなど、露骨な対決姿勢 「日本と戦う」と言えば予算がつく 日本では冷戦的世界観が残り「韓国は味方」と思いがちで、韓国の軍拡に関する報道はまれ 「日本と戦う」で予算がつく 戦闘機500機を超え、航空自衛隊の330機をしのぐ 空中給油機もエアバス330の改装型4機を発注 防衛費を増大する一方で北朝鮮に対抗する陸軍を減らし、海・空軍の増強をはかる 橋下徹「韓国に分捕られた分をこう取り返せ」」 韓国側の主張を分析したうえで日本の主張を徹底的に構築せよ 韓国側の主張もそれなりに成立することを認識した上で、日本側の法的主張を徹底的に構築すべき 報復合戦 実力行使を行うのであれば、その根拠を法的に構築すると同時に、これまでも散々論じてきたが、実害が最小限にとどまるような方法を採らなければならない 李承晩ライン拿捕事件を韓国政府に賠償請求できるか 国際法上の「主権免除」 日本の裁判所において「韓国政府」を直接訴えることはできない 元徴用工の韓国国民が「韓国の裁判所」において韓国国内の「日本企業」を訴えている。 これこそが日本の政治家の役割 日本政府が「日本国内の」「韓国企業」の財産を差し押さえることができないか、を徹底的に考えるべきで、それが日本の政治家の役割だ 「分捕られたなら、それを分捕り返す」。これが、日本側が採るべき本来の方策だ キャロル・グラック 「日韓が陥る「記憶の政治」の愚 どちらの何が正しく、何が間違いか」 過去を武器にして現在に損失をもたらしているという意味では、どちらの国も同罪だ 日本人も韓国人もこれは「歴史」論争だと言っているが、実際に話しているのは「記憶」についてだ。 歴史と記憶は同じものではない。歴史とは過去に起きたことであり、記憶とは、そのストーリーをどのように語るかということだ いま私たちは「記憶の政治(メモリー・ポリティクス)」の時代を生きている 日韓双方が正しく間違っている 韓国は、日本の戦争と植民地支配の過去は適切に認識されなければならず、将来にわたって日本の歴史の良い面も悪い面も教育しなければならないと主張する。これはそのとおりだ 元徴用工問題で日本企業に賠償を命じる判決を出したことも、ドイツの戦時中の強制労働に関する判例をある程度なぞっていた 仏独のようにはなれなかった 韓国に対して、宗主国の日本がなすべきこと 「帝国の慰安婦」としての記憶 日本と韓国が歴史の溝を埋めようとするなら、植民地時代の知識を学んで歴史的事実を認めることがおそらく出発点になるだろう 日本と韓国のナショナリズムは、海峡の両側で同じように人々の目を塞ぎ自分たちの国益さえ見失わせている。 そして、過去を政治の武器として利用することは、前向きではなく後ろ向きに生きるということだ。過ぎ去った過去が、これから訪れる未来を危機にさらす──そうした事態を許すということだ 「日韓対立の底流にある「2つのリベラリズムの対立」【橘玲の日々刻々】」 日本の保守派は、「現在の法律を過去に遡って適用することはできない」といいます。これは一般論としてはそのとおりですが、「歴史問題」にそのまま当てはめることはできません 現在の「リベラル」な人権概念を過去に適用することによって、はじめて奴隷制度や植民地主義を批判できるのです こうした「リベラリズム」の拡張はやっかいな問題を引き起こすため、欧米諸国の圧力でこれまで抑制されてきましたが、新興国の台頭によって「パンドラの箱」が開きかけています 韓国の「歴史の見直し」は、こうした潮流の最先端として理解できるでしょう もうひとつの「リベラリズム」は個人主義化 自分がやっていないことには責任をとる必要はないし、勝手に責任をとってはならないのです 解決策としては、それぞれの国民が「いつまでもこんなバカバカしいことはやってられない」と気づくことでしょうが、それにはまだ長い時間がかかりそうです
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日韓関係(その7)(対韓輸出規制は 歴史問題の政争に貿易を巻き込んだ「愚策」だ、小田嶋氏:「旗」をめぐる最終的な悪夢) [外交]

昨日に続いて、日韓関係(その7)(対韓輸出規制は 歴史問題の政争に貿易を巻き込んだ「愚策」だ、小田嶋氏:「旗」をめぐる最終的な悪夢)を取上げよう。

先ずは、立教大学大学院特任教授・慶應義塾大学名誉教授の金子 勝氏が8月29日付けダイヤモンド・オンラインに掲載した「対韓輸出規制は、歴史問題の政争に貿易を巻き込んだ「愚策」だ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/213106
・『韓国政府が22日、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決定し、徴用工判決や慰安婦問題を機にした日韓対立は、通商分野に続いて安全保障上の協力にも波及した。 日韓関係が泥沼化しているのは、双方ともに国内の支持率を意識して対外強硬姿勢を続ける政権の思惑が色濃く、現実的な解決策を探ることができなくなっていることがある。 安倍晋三政権の対韓輸出規制も、政治の思惑を色濃く反映している』、金子氏の鋭い安倍政権批判を具体的にみてみよう。
・『変質した通商政策 経済的利益失う恐れ  戦後の自民党政権は、積極的か消極的かにかかわらず、長く憲法9条による平和主義と自由貿易主義を前提とした通商政策をとってきた。少なくとも政治と経済は分離する姿勢を保っていた。 だが、「対韓輸出規制」を境に通商政策は変質したといわざるをえない。 安倍政権は公然と経済的利益を無視しても、歴史修正主義という政治的イデオロギーとナショナリズムを最優先している。これまでの日本の通商政策とは異質のものだ。 一見すると、中国への制裁関税や中国通信大手ファーウェイ排除といったトランプ政権の通商政策をまねているかのように見える。だが、深いところで大きく違っている。 トランプ政権の対中政策は、「安全保障」上の理由を掲げ、実際、中国との覇権争いの性格を帯びてはいるが、中国に市場開放を求めて対中輸出の増加を目指す一方で、輸入製品の流入に歯止めをかけるなど「自国第一主義」の経済利益の追求に重きを置いている。 これに対して、安倍政権の対韓輸出規制は、徴用工判決や慰安婦問題の“報復手段”として、半導体素材の韓国への供給をおさえることで、文在寅政権をけん制する意図が見え隠れする。 すでに日韓の間で半導体分野では、サムスンなどの韓国メーカーに日本企業が素材や部品、製造装置を供給する水平分業や連携が進んでいる。だが政治の思惑や利害が優先されることで、経済的利益を一挙に失う恐れがある』、かつての日本の通商政策は、中国との国交回復以前から「政経分離政策」を一貫して採ってきた。「「対韓輸出規制」を境に通商政策は変質したといわざるをえない。 安倍政権は公然と経済的利益を無視しても、歴史修正主義という政治的イデオロギーとナショナリズムを最優先している」、その通りだ。
・『与党や外交ルートで議論なく官邸主導の「政治判断」  しかもこの間、危うい通商政策に対して与党内はおろか、外務省でさえまともな議論が行われた跡はない。「官邸主導」という名の首相の政治判断だけで物事が進んでいる状況だ。 日韓の対立の直接のきっかけは、2018年10月に、韓国の最高裁にあたる大法院が新日本製鉄(現日本製鉄)に対して、第2次世界大戦中の徴用工の補償について損害賠償を命じたことだった。 日本政府は、1965年、当時の朴政権と結んだ日韓基本協定に基づいて韓国政府が請求権放棄をいったん認めた以上、問題は「解決済み」としてきた。朴政権以降も、個人の請求権問題は国内措置として韓国政府が対処するという合意があったとする。 これに対して、韓国大法院は個人の請求権は消滅していないという判断を下し、文政権はこの問題には介入しない姿勢だ。企業に対する民事補償の請求については裁判所が判断すべきで、政府が介入すべきではないという立場である。 文政権の姿勢にはそれなりに根拠がないわけではない。 例えば、中国人強制連行・強制労働問題では、72年の日中共同声明による中国政府の戦争賠償の放棄後も、中国人元労働者が謝罪や賠償を求めて提訴した。 そして最終的には、2000年に花岡訴訟で鹿島建設が和解に応じたのをはじめ、その後、西松建設(09年)、三菱マテリアル(16年)が和解し、個人賠償は支払われた。 その際、日本政府は、民間同士のことだからとして、一切口を挟まなかった。 同様に、アメリカの裁判所でナチスの元強制労働者に対する賠償決定の判決が出たケースでは、フォルクスワーゲンやダイムラー、シーメンス、イーゲーファルベンら独大手12社が、「記憶・責任および未来」基金(00年7月)を設立して個人補償を支払った。 いずれも法廷内外で当事者が時間をかけて粘り強い折衝をすすめ、最終的には双方が現実的な判断をするという「知恵」を働かせ、問題を解決してきたのである。 だが徴用工判決問題で安倍政権は、外交ルートなどを通じて文政権と時間をかけてでも問題解決のために話し合うという姿勢はみせないまま。とったのは、フッ化水素、EUV用レジスト、フッ化ポリイミドの3品目を対象とする輸出規制という強硬策だった』、「与党や外交ルートで議論なく官邸主導の「政治判断」」というのは政治主導のマイナス面が出たようだ。「中国人元労働者が謝罪や賠償を求めて提訴」した件では、「鹿島建設・・・西松建設、三菱マテリアルが和解し、個人賠償は支払われた。 その際、日本政府は、民間同士のことだからとして、一切口を挟まなかった」、というのは、徴用工問題で日本政府が取っている立場とは真逆だ。「アメリカの裁判所でナチスの元強制労働者に対する賠償決定の判決が出たケースでは、フォルクスワーゲンやダイムラー・・・ら独大手12社が、「記憶・責任および未来」基金(00年7月)を設立して個人補償を支払った」、「だが徴用工判決問題で安倍政権は、外交ルートなどを通じて文政権と時間をかけてでも問題解決のために話し合うという姿勢はみせないまま」、というのは鋭い指摘だ。
・『一貫しない政府説明 曖昧な「安保上の管理」  参議院選挙前の時期を狙って、右翼的なポピュリズムをあおり、支持を得るために強硬姿勢をとることが得策との判断をしたのだと考えられるが、対韓輸出規制は、明らかに「二枚舌」であり説得力に欠けている。 世耕経産相は規制実施の方針を表明した当初から、「友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次いで、残念ながらG20(大阪サミット)までに満足する解決策が全く示されなかった」として、徴用工判決に対する不満を隠さなかった。 その後、安倍首相も「(韓国側が)日韓請求権協定に違反する行為を一方的に行っている」と繰り返し批判した。 しかし、徴用工判決問題を対韓輸出規制に絡めると、WTOルール違反の疑いが強いことに気付いたようだ。その後は、大量破壊兵器等の拡散防止、軍事転用防止とする「安全保障上の輸出管理策の一環」という説明に変えている。 だが、韓国政府の徴用工判決に関する姿勢を批判する中で、打ち出した対韓輸出規制を、「安全保障上の輸出管理」策とするのは明らかに無理がある。 さらに問題なのは、軍事転用や北朝鮮などへの横流しといった3品目に関する輸出規制の根拠が示せていないことだ。 小野寺五典・元防衛相は出演したTV番組で、フッ化水素はVX・サリン・ウラン濃縮過程に使われる素材だと述べたが、こうした化学兵器の製造には市販品で十分だ。 入手が難しい半導体製造に使う超高純度のものを使う必要はないし、韓国の業者がわざわざ北朝鮮に密輸するというのも不自然で根拠が見当たらない。) EUVレジストは、北朝鮮のレーダーに転用される恐れがあると説明されたが、実際にはオランダのASML社が製造した高性能露光機が、半導体の回路を焼き付ける際に使われる素材だ。 台湾のTSMCとサムソンがEUV露光技術の開発競争をしているが、露光機は1台ずつ納入先が追跡できるようになっている。実際、北朝鮮へ出荷すれば、すぐにわかってしまう代物だ。 こうした3品目の「横流し」への疑問が指摘される中で、結局、小野寺元防衛相が輸出規制の「根拠」として持ち出したのは、半導体素材3品目とは別の156件の「不適切な事案があった」ということだった。 しかしそれらの事案は、韓国の産業通商資源省がこの4年間に摘発した156件の事例の話だ。 このほかに、日本側が安全保障貿易管理の「違反の実例」として開示したものは、この4年で11社計約20件ある。 それらの中には、韓国経由で中国に送られたり、中国や香港経由で北朝鮮に輸出されようとしたものもあるが、それらは対韓輸出規制の対象になった3品目とは違うものだ。 こうして日本は対韓輸出規制の具体的な事例や根拠を示せないまま、韓国を「ホワイト国」から除外するという措置に行き着いたのである。 結局、「安全保障上の管理」とは表向きだけで、個別企業の輸出認可を「外交」交渉の手段として利用しているのが実態だと考えざるを得ない』、「対韓輸出規制は、明らかに「二枚舌」」、「徴用工判決問題を対韓輸出規制に絡めると、WTOルール違反の疑いが強いことに気付いたようだ」、「対韓輸出規制の具体的な事例や根拠を示せないまま」、など官邸の対応は拙速でお粗末過ぎる。
・『背景に産業政策の失敗 半導体やディスプレイで韓国に敗退  一連の対韓輸出規制を進めた経産省は、本来なら自由貿易を守り、企業や産業の利益を考えるべき立場だ。なぜ本末転倒の政策にのめりこんでいるのか。 それは、安倍側近の世耕経産相の下にあるからだけではないようにも思われる。背景には、産業政策の失敗を覆い隠す思惑が色濃くにじんでいる。 産業政策の失敗は目を覆いたくなるばかりだが、その象徴が「日の丸半導体」として世界を席巻した半導体産業だった。 日米半導体協定以降、“価格カルテル”(ダンピング禁止と外国製輸入割当)のもとで、日本企業が高収益を謳歌したが、積極的な技術開発や生産投資を進めたサムスンに代表される韓国や台湾メーカーにシェアを奪われた。液晶や有機ELなどのディスプレイも、同じようにサムスン、LGなどにやられた。 その後も、経産省は産業革新機構を通じて半導体のルネサス エレクトロニクスやディスプレイのジャパンディスプレイ(JDI)の事業再生を試みてきたが、うまくいかないまま2社は債務超過や赤字に陥っている。今や日本国内に国際競争力のある先端電子デバイスメーカーがなくなってきた。 次世代産業の育成もうまくいっていない。原発輸出の「原発ルネサンス路線」は東芝を経営危機に陥らせることになり、いまや日立製作所や三菱重工の経営の足を引っ張る。世界は、再生可能エネルギーへの転換を成長の起爆剤にと取り組んでいるなかで日本は大幅遅れだ。 情報通信産業やバイオ医薬産業でも遅れはひどいうえ、ニューライフサイエンスでの「加計問題」やスーパーコンピューターのペジー・コンピューティングの補助金詐欺など、不透明な支援の問題が後を絶たない。 こうした失敗をごまかし、産業競争力で負けてきた“うっぷん晴らし”をするかのように、官邸主導のあまりにレベルの低い外交に同調しているように見える』、「背景に産業政策の失敗 半導体やディスプレイで韓国に敗退」との指摘は、鋭く本質を突いているようだ。
・『日本企業の水平分業に支障 技術開発立ち遅れる恐れ  だが通商政策の変質は、より大きな禍根を残すことになるだろう。 確かに対韓輸出規制によって韓国の半導体企業は一時的には苦境に立たされるが、いずれ代替メーカーを見つけるか、取引先を多様化するに違いない。そして電子素材などの自主開発を加速させるだろう。 日本が将来、輸出規制を取り下げても、韓国企業がいったん覚えた不信感は消えることはない。97年のアジア経済危機の際に、露光機を独占的に供給していたニコンがサムソンらに現金払いを要求した。 それを機にサムソンはオランダのASML社の露光機に替えて、ニコンは切られていった。 今回の規制は、世界の成長の中心はアジアに移っているなか、韓国企業との連携や水平分業で生き残りを目指そうとしている日本の化学産業などの足を引っ張ることにもなりかねない。 対韓輸出規制3品目の1つであるフッ化ポリイミドは有機EL(液晶ガラスの代わりになる樹脂製フィルム)の素材で、日本の住友化学などがサムソン・ディスプレイやLGディスプレイに供給している。 JSRや富士フイルムや三菱マテリアルなども、台湾や韓国のメーカーから信頼を得て、高純度のフッ化水素やレジストなどを開発してきた。 日進月歩の技術進歩のもとで日本企業の素材開発は、韓国や中国メーカーの製造現場の経験やノウハウを踏まえた要求、情報をもとに進められてきた面がある。 だが韓国企業が日本の素材メーカーに情報を出さなくなったとたん、日本のメーカーの開発力も弱くなる』、「ニコンがサムソンらに現金払いを要求・・・それを機にサムソンはオランダのASML社の露光機に替えて、ニコンは切られていった」、というのは初めて知った。「韓国企業が日本の素材メーカーに情報を出さなくなったとたん、日本のメーカーの開発力も弱くなる」、というのも予想外のマイナス効果だ。
・『そして開発競争力の低下は、やがて貿易黒字の減少につながる。このまま日本の産業衰退が進めば、輸出できるものが徐々になくなっていく。 実際に、2018年の日本の貿易収支を見ると、1.2兆円の貿易赤字を記録し、2019年上半期(1~6月期)にも8888億円の貿易赤字に陥っている。7月の速報でも2495億円の貿易赤字となった。全体の輸出額は前年同月比で1.6%減少し、中国は9.3%、韓国は6.9%も減った。 韓国は、日本の貿易相手として中国・アメリカに次いで3位であり、日本は年2~3兆円に及ぶ対韓貿易黒字を得ている。米中貿易戦争の影響だけでなく、自ら仕掛けた“対韓経済戦争” が極めて愚かしい結果を導かない保証はない。 経産省は何があっても日本企業の利益を守らなければならなかったのに、それを突然、「歴史問題」の政争に巻き込み、逆に日本企業の利益を損なう危険性を引き起こした。このままでは日本の産業は滅びていくしかない』、非常に説得力に溢れた分析で、大いに参考になった。

次に、コラムニストの小田嶋 隆氏が9月13日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「「旗」をめぐる最終的な悪夢」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00116/00036/?P=1
・『いささか古い話、というよりも、この話題は、いまのところまだ決着していない、交渉過程の途上にあると思っているからこそ、あえて俎上に載せる気持ちになったわけなのだが、その「話題」というのは、「旭日旗」と五輪の観客席をめぐるお話だ。 発端は、韓国国会の文化体育観光委員会が、8月29日、国際オリンピック委員会(IOC)や東京五輪・パラリンピック組織委員会などに五輪会場内への旭日旗の持ち込み禁止を求める決議を採択したことだった。決議では旭日旗をあしらった道具の持ち込みや応援は「帝国主義に侵略された国家の苦痛の記憶を刺激する」と指摘し、五輪の理念に合わないと訴えた。 この記事中にある、韓国側からの旭日旗持ち込み禁止の申し入れと決議に対して、2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会は3日、「旭日旗は日本国内で広く使用されており、旗の掲示そのものが政治的宣伝とはならないと考えており、持ち込み禁止品とすることは想定していない」との方針を明らかにしている。 この産経新聞の記事が配信されると、ツイッター上の一部クラスタでは、ちょっとした騒動が起こった。 もっとも、ここでいう「ちょっとした騒動」というのは、本当のところ、たいした騒ぎではない。 この2ケ月ほど際立って神経質な展開で推移している日韓関係に、神経を高ぶらせている人々の間で、炎上が起こったというだけのことではある。 おそらく、大多数の日本人は、たいして気にもとめていない。それは韓国側でも同じことだ。 とはいえ、この旭日旗の問題は、この先に勃発するかもしれないより大きな問題の火種になる可能性を秘めている。 そんなわけなので、当欄としては、この問題をこれ以上こじれた話にしないためにも、現段階で論点を整理しておきたいと決意した次第だ。 9月8日の午後9時すぎに、私は以下のようなツイートを発信した。《旭日旗が論外な理由。過去:大日本帝国の軍旗として、侵略と暴虐の記憶を刻んでいるから。現在:排外主義者による街宣活動の象徴として在日コリアンを威圧するいやがらせのツールになっているから。未来:五輪での旭日旗の林立を夢見ているのが、いずれも歴史修正主義の旧軍賛美者ばかりだから。》 このツイートは、当稿執筆の時点で、2624件のRTと5239件の「いいね」を獲得しており、このほか、賛否あわせて109件の返信が寄せられている。いま、「賛否合わせて」と書いたが、正直なところを明かせば、「否」の方がずっと多い。ざっと見たところでは、賛否の比率は1対4くらいではなかろうかと思う。 もっとも、昨今のツイッター上のコミュニケーションでは、話題が何であれ、賛意を示す意味のリプライは、そもそもあまり投稿されないことになっている。このソーシャルメディアに集まる人々は、何かに反発を覚えたり、誰かの言いっぷりに腹を立てたりした時に限って返事を書く仕様になっている。だから、私は賛否の比率はあまり気にしていない。「いいね」の数も、本気で受け止めてはいない。いずれにせよ、ツイッターは議論の場ではない。どちらかといえば、中学生の雪合戦に近い。手にとった雪玉を手近な誰かに投げつけるという動作そのものが目的になっている。雪玉の性質や重さや投げ方の作法は、この際問題にならない。ただただ生身の人間に向かって質量のある物質を投げつけることの爽快感が、このゲームに参加する人間たちが共有している唯一のプロトコルということになる。 さて、私が当該ツイートの中で申し述べた見解は、自分では、現段階の当面のまとめとして、おおむね当を得たものだと思っている。 ただ、補足せねばならない部分もあるといえばある。 私が、今回、当欄で原稿を書き起こす気持ちになったのは、その「補足」のためだと申し上げてもよ い。 それほどに、この問題は、「補足」しなければならないノイズを多量に含んでいる』、「旭日旗が論外な理由」との小田嶋氏のツイートはその通りだ。
・『ツイート内で指摘した「旭日旗をスタジアムに持ち込むことの是非」の部分とは別に、今回のやりとりの中で重要なのは、「そもそもこの問題の発端はどこにあったのか」というお話だったりする。 これは、なかなか厄介な話で、「発端」に当たる事実は、細かい事実を拾っていけば、どこまでもさかのぼることができる。 であるから、「そもそも」という接頭辞の後に、より古い発掘話を提示してみせることで、少なくとも、その場の論争における形式上の勝利はゲットできてしまう。 と、この論争には結末がないことになる。つまり、「論争が続いている」(←言い換えれば「いまだに決着していない」)状態を引き延ばすことで利益を得る側が、論争を断念しない限り、この種の論争は永遠に続くわけだ。なんと不毛な活動だろうか。 思えば、「関東大震災における朝鮮人虐殺の有無」などは、この手法(つまり、出典の怪しい「そもそも」の資料を次々と持ち出すことによって「論争」を引き延ばす手法)によって、朝鮮人虐殺という「史実」を、「論争継続中の事案」すなわち「両論併記で処理すべき虚実不明の事件」に持っていくことに半ば成功してる。かように、不毛な論争に付き合うことは、それだけで極論家に有利なポジションを与えることになる。このことに注意せねばならない。 さて、ごく短いタイムスパンでの話をすれば、五輪組織委が、「旭日旗の競技会場への持ち込みを禁止しない」という昨今の国際常識から考えて異例な決断を公表するに至った理由は、そもそも五輪組織委に「旭日旗の競技場への持ち込み禁止」の申し入れを持ち出してきたのが、韓国国会の文化体育観光委員会だったからだと思われる。しかも韓国側は、同時にIOCにも同じ働きかけをしている。 この数ヶ月間の日韓関係を鑑みるに、日本側が、韓国側から一方的に求められた要求に対して、素直に従うことは考えにくい。仮に韓国側からの申し入れが、真っ当なものであったのだとしても、こちら側としては、「現今の日韓関係において、相手側の言い分をあっさり承諾することは、外交上の失点になる」という感じの判断が先行してしまうからだ。 実際のところ、五輪組織委のメンバーの中にも、今回の韓国側の申し入れが、穏当で常識的な要求であることを承知している人間はたくさんいるはずだ。なにしろ、スタジアムでの政治宣伝は、昨今、国際的なスポーツ団体が等しく悩まされている問題だ。民族融和と国際交流の場であり、世界平和を推進するための重要な機会として語られることの多い競技スポーツの観客席は、その一方、世界各地で、政治宣伝や民族差別感情を煽るための拠点として活発に利用されている。宗教対立や階級間の反発をスタジアムに持ち込む人々が、それぞれに自分たちの立場をシンボライズした旗やプラカードを持ち込む例も後をたたない。 であるから、近年、FIFAをはじめとする競技団体は、その種の政治宣伝に用いられる旗やシンボルを厳しく規制する方向で足並みを揃えている。 わかりやすい一例として、2017年4月25日のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)グループステージ、水原三星(スウォン・サムスン、韓国)対川崎フロンターレの一戦で、川崎フロンターレのサポーターが応援の旭日旗を出した行為に対して、AFCが科した処分の内容とその背景について解説した記事にリンクを張っておく。 本来、旭日旗のスタジアム持ち込みについての様々な議論は、この時点で決着がついている。 細かい点でいまなおくすぶっている論点がいくつかあるといえばあるものの、大筋の結論は、この騒動の際に「カタがついて」いる。 してみると、その、すっかりカタがついていたはずの話をいまさらのように蒸し返して持ち出してきた韓国側の今回のやり方は、あれは「いやがらせ」ではないのかと言えば、そういう見方も成り立つ。むしろ、彼らがこの話を持ち出してきたタイミングからして、「いやがらせ」の成分を含んでいなかったということは考えにくいと言ってもよい。 とはいえ、日韓両国の関係が正常であれば、日本の五輪組織委とて、この程度の神経戦は、軽くスルーして、「おっしゃる通りですね。わかりました。旭日旗の持ち込みは禁止します」と、すんなり韓国側の申し入れを容認していたはずだ。 ところが、現在の日韓関係は、明らかにどうかしている。 てなことになると、五輪組織委としても、「ここですんなり韓国側の言いなりになったら、どれほど非難されるかわかったものじゃない」「匿名電話だの脅迫メールだのは、なんとか処理できるかもしれないけど、昨今の状況だと、官邸やら国交省やら外務省が圧力をかけてくるかもしれない」「というよりも、JOC(日本オリンピック委員会)の上の方の人たちが黙っていてくれないんじゃないかなあ」てな調子の「空気を読んだ」「忖度至上主義的な」判断に傾かざるを得ない。 現実問題として、仮に旭日旗のヤバさを認識していたのだとしても、政権の意向を無視して自分たちだけが「いい子」になることはできない。よって、「断固として」「毅然として」韓国側からの「いやがらせの」申し入れを拒絶して、旭日旗の正当性を容認するという方向で対応することになる。もちろん、これは、むしろ韓国側の思うつぼなのだが、それもこれも、当面の「空気」にはかなわない』、「水原三星対川崎フロンターレの一戦で、川崎フロンターレのサポーターが応援の旭日旗を出した行為」については、サポーターの馬鹿な行為に腹が立ったのをよく覚えている。今回、JOCが「「空気を読んだ」「忖度至上主義的な」判断」をしたのは、明らかに間違いで、国内からどんなに非難を浴びようとも、持ち込みを禁止すべきだったと思う。
・『ただ、組織委ならびに政府の中の人たちも、いくらなんでもこのまま旭日旗OKの方針を貫いて、五輪本番を迎えるつもりではないはずだ。彼らとしては、妥当なタイミングを見計らって、IOCなりほかの欧米諸国の誰かなりの「勧告」なり「助言」なりを受容する形で、旭日旗の持ち込みを「自粛」する(←周辺諸国の国民感情に「配慮」するとかなんとか言いながら、半ば恩に着せつつ)形で軟着陸するシナリオを想定しているはずだ。 つまり、「韓国からのイチャモンは断固として拒絶するが、IOCだとか欧米諸国だとかが示してくる遺憾の意とか憂慮の念には敏感に反応する用意があるよ」ということだ。 私自身も、ことここに至った以上、そのシナリオ(IOCに叱られて静かに尻尾を巻くソリューション)が一番望ましい展開だと思っている。 ただ、このシナリオにはちょっとした穴がある。というのも、IOCがそれはそれで腐った(デカい魚はアタマから腐る。そして、アタマの腐った魚は正常な判断ができない)組織だからだ。 IOCはこの問題を放置するかもしれない。というよりも、彼らが、現場の問題に適正に関与できるだけの能力と責任感を持っていると考える方がむしろどうかしている。彼らは、私の目には、うちの国の五輪組織委以上に無能で無責任で、ただただカネだけを欲しがっているだけの団体に見える。ちなみに、この見方は広く世界中で共有されている。IOCは単に無能なのではない。あれは腐った組織だ。 IOCがこの問題を放置する理由の第一は、単に面倒くさいからだ。当然だ。彼らは、利権につながらない仕事には興味を持たない。旭日旗のような、面倒くさいだけで誰ももうからない話にはハナもひっかけないだろう。 もう一つIOCがこの問題に興味を持たない理由は、日韓両国間の炎上案件に手を突っ込んで火傷をするリスクを取りに行くだけの根性を持っていないからだ。これも大いに考えられる。カネには転んでも状況は読めない。あそこはそういう組織だ。 ということになると、最悪なシナリオが浮上する。つまり、このまま「旭日旗OK」の判断を押し通して、引っ込みがつかないまま五輪本番を迎えてしまうということだ。と、サッカーであれバレーボールであれ、日韓戦の枠組みで処理される競技のスタジアムには、大量の愛国業者の皆さんが群れ集まってこれまた大量の旭日旗を持ち込むことになる。でもって、競技が始まると、観客席には旭日旗が林立乱舞し、その穏やかならぬ絵面(えづら)が、国際映像として世界中に配信される。 これこそが、最終的な悪夢だと思う。 最後に、これも炎上の種にしかならないとは思うのだが、メモ書きとして作ってしまったものなので、乗りかかったタイタニックというのか、歩き始めたインパール作戦の心持ちで書き起こしておくことにする。担当の編集者さんには気の毒な展開だが、私には、現在かかえている病気の症状を除けば、特段に恐れるべきものがない。 冒頭の部分でリンクを張った私のツイートに対して寄せられた返信をざっと読み返してみるに、このたびの五輪組織委による旭日旗容認の判断を擁護している人々の主張は、いくつかに分類できる。 本来なら、この種のクソリプまがいにいちいち反論するのは、ネット上の論争にかかわる人間として、適切な態度ではない。というのも、ここで議論が始まってしまうと、この話題が「議論の余地のある」「論争的な」「対立する二つの陣営の双方がそれなりの論拠を持っているはずの」「どっちもどっちの」「普通の人間は踏み込まない方がよい物騒な」話題であることを認めてしまうことにつながるからだ。実態は違う。本件は論争的な話題ではない』、「競技が始まると、観客席には旭日旗が林立乱舞し、その穏やかならぬ絵面(えづら)が、国際映像として世界中に配信される」、というのは本当に悪夢以外の何物でもない。JOCも他力本願ではなく、自ら持ち込み禁止に切り替えてほしいものだ。
・『旭日旗問題は、「ほとんどまったく議論の余地のない」「責任あるメディアが両論併記でお茶を濁してよいはずのない」「ほぼ100%、旭日旗持ち込み禁止を支持する側だけに正当性が宿っている」「ゼロ対100ないしは1対100の、論争に値しない」 論題だ。 私があえて、こういう場所で愛国業者の皆さんのクソリプに付き合ってさしあげているのは、彼らの偏狭かつ異様な見解に、ほんの少しでも影響を受けてしまう人々の心に、真っ当な反論を届けておくことも、ある種の文化的雪かきとして必要な作業なんではなかろうかと考えたからだ。 賢明な言論人の多くは「旭日旗容認派の主張に反論することは、無駄な炎上に通じることで、かえって彼らのアクロバティックな主張に支持者を増やすことになる。というのも、そもそも彼らの主張は、一部の営業右派メディアが商売として展開しているメディアの中で喧伝されているだけの、一般人の耳には到底届かない極論だからだ。マトモな言論人が彼らの相手をすることは、かえって、一般人の耳目を彼らの主張に集中させる機会をつくることになる。これは望ましくない」 という感じの主張を展開している。もっともだと思う。 ただ、時々はクソリプに一矢報いておかないと、気がついた時には、この国全体がクソリプをそのまま世論として共有するどうしようもない社会になってしまっているかもしれない。なので、以下、箇条書きで、クソリプへの返事を並べておく。 あらかじめ申し上げておくが、クソリプへの反論の反論に返事をするつもりはない。 最後通告として受け止めてほしい。 冒頭に引用した私のツイートへの反論は、おおよそ以下に示す5つの論点に分類することができる。 1.旭日旗に反対しているのは韓国だけで、その理由も多分にわが国へのいやがらせのカードにすぎない。 2.そもそも韓国側がスタジアムへの旭日旗の持ち込みを問題視し始めたのは、2011年1月25日、AFCアジアカップ2011準決勝「日本対韓国戦」において、キ・ソンヨン選手が前半にPKで得点した後、ゴールパフォーマンスで「猿」の物真似を行ったことが発端で、キ・ソンヨン選手が、その際に、メディアからの攻撃に対して、「スタジアムに掲げられていた旭日旗についカッとしてしまった」という趣旨の弁解をしたことに始まる。 3.朝日新聞の社旗だって旭日旗だぞ。 4.旭日旗は、公式に認められた日本の防衛組織である自衛隊の公式の旗であり、どこに出しても恥ずかしくないもので、実際自衛隊が国際的な交流の場所に参加する際には堂々と掲揚されている。 5.かつて軍による侵略の象徴として用いられた旭日旗がダメだというのなら、同じ理由でユニオンジャックや星条旗もNGだろうし、フランスの三色旗も論外だろう。また、「旧軍による侵略の象徴だったから持ち込めない」という文脈からすれば、日章旗だって同罪ということになるのでは?) 以上の5つの返信への私の当面の返信は以下の通りだ。マジメに読んでほしい。 1.韓国が自国民の旭日旗への反発感情や被害者意識を「外交カード」として利用しているのはその通りだと思う。ただ、旭日旗に反発しているのが「韓国だけ」だというのは、歴史を知らない人間の見方だ。正確には、「旭日旗への反発を表立った外交の場で外交カードとして持ち出している国が、いまのところ韓国以外に見当たらない」ということにすぎない。反発感情は、アジア、オセアニアはもとより、日本軍の捕虜となった軍人を数多くかかえるオランダや英国の国民の中にも底流している。 2.キ・ソンヨンの「猿真似パフォーマンス」に関しては、彼の行為の非をまず認定すべきだろう。ただ、それはそれとして、キ・ソンヨン選手が持ち出した「弁解」を発端として、韓国国内での旭日旗への反発が正当化されたと断言するのは、極論の類だと思う。旭日旗への反発感情は、韓国国内でずっと底流していたものだ。それを表立った抗議行動に「表面化」させる結果をもたらしたのが、キ・ソンヨン選手の「弁解」だったと見るのが穏当なところだ。 それまで、表立って語られることのなかった旭日旗への反発がいきなり浮上したように見えるのも、少なくともその時点までは、日韓戦のスタジアムで旭日旗を振るようなファンが登場していなかったから(もっとも、この時に本当に旭日旗が掲げられていたのかどうかについては、いまだに確たる結論が出ていないのだが)ということにすぎない。いずれにせよ、背景には2002年の日韓共催W杯におけるゴタゴタから、両国のサッカーファンの間に過剰な反発感情が醸成されていたことがある。旭日旗の持ち込みも、それに対する反発も、これらの背景を踏まえたものだ。 3.五輪の観客席で朝日新聞の社旗を振るような「まぎらわしい」ないしは「挑発的な」行為は、自粛した方がよい。実際、朝日の社旗を振る必然性はまったくないわけだし。 4.海上自衛隊の艦船が、彼らの公式の旗として旭日旗を掲げるのは当然の所作だ。国際舞台であっても、各国の軍隊の集まりという枠組みの中で、それぞれの国の軍隊が自国の礼法に則った旗を揚げている限りにおいて、何の問題もない。ただ、その海上自衛隊の旗を、わざわざ五輪のスタジアムに持ち込むことについては、なんらの理由も必然性も正当性もない。悪質な政治宣伝であり卑劣な挑発行為だ。 5.「そっちこそどうなんだ主義(Whataboutism)」に基づいた議論には乗らない。あまりにもばかげている。  長い原稿になってしまった。 最後にこんなことを書くのはなさけなくもくだらないのだが、一言だけ言っておく。 寄せられるコメントの中に「オダジマは原稿料欲しさに、やたらと長い原稿を書いている。見苦しい」という感じの批判が時々みかけられる。が、当欄の規定では、私の受け取るギャランティーは、原稿の文字量とは関係していない。2000文字程度であっさり仕上げようが、20000文字の長大なテキストをアップしようが、私が受け取る金額は同じだ。そこのところをわかってほしい。 なお、当欄に寄せられたコメントには返信はしない。その答えは、友達よ、風に吹かれている』、「私のツイートへの反論」もよく整理されており、その通りだと思う。いずれにしろ、JOCの再考を願って止まない。
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日韓関係(その6)(姜尚中「日韓の『求愛ゲーム』のバカバカしさに気づくべき」、「大韓民国は生まれてはいけない国だった」文在寅大統領の“頭の中身”、日韓関係「今は日本の大勝利」でも「長期的には、かなりマズい」ワケ 北朝鮮と「国交正常化」後に待つのは…) [外交]

日韓関係については、8月28日に取上げた。今日は、(その6)(姜尚中「日韓の『求愛ゲーム』のバカバカしさに気づくべき」、「大韓民国は生まれてはいけない国だった」文在寅大統領の“頭の中身”、日韓関係「今は日本の大勝利」でも「長期的には、かなりマズい」ワケ 北朝鮮と「国交正常化」後に待つのは…)である。

先ずは、東大名誉教授の姜尚中が8月28日付けAERA.Dotに掲載した「「日韓の『求愛ゲーム』のバカバカしさに気づくべき」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2019082700039.html?page=1
・『政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします』、姜氏の見解とは興味深そうだ。
・『日韓関係は底が抜けたように悪化の一途を辿りつつあります。韓国大統領府は8月22日、関係閣僚らが出席する国家安全保障会議(NSC)を開いて日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の延長の可否を議論し、協定を延長せず終了させることを決めました。これまで私はGSOMIAの破棄には反対の意を示してきたつもりですし、今も変わりはありません。 日韓が鍔迫(つばぜ)り合いを演じる間隙を縫うように、北朝鮮は立て続けに新型の短距離ミサイル開発に邁進し、貴重な実戦配備のためのデータを獲得しています。北朝鮮によるこの無謀な挑発をトランプ大統領は事実上、黙認しています。 金正恩(キムジョンウン)委員長と「ブロマンス」(「ブラザー」と「ロマンス」の掛け合わせ)の関係にあるらしいトランプ大統領が、米国本土を脅威に晒す大陸間弾道ミサイル(ICBM)以外のミサイルはどうでもいいと高を括っていて、これまで開発された核兵器のフリーズだけを条件に北朝鮮との交渉を進めようとしているのだとしたら、北朝鮮の核とミサイルという「ダモクレスの剣」のもとに常在、危機にさらされる日韓はたまったものではありません』、「ダモクレスの剣」とは、常に身に迫る一触即発の危険な状態をいう(コトバンク)。韓国はそれを危機と捉えてないような気もするが・・・。
・『しかも、トランプ大統領は、在日、在韓ともに駐留米軍経費の大幅な積み上げを要求し、経済的なコストの面から在日、在韓米軍の見直し検討を公言しています。そんなトランプ大統領に日韓が個別的な愛顧関係のさや当てを演じて、一体何の意味があるのでしょう。もはや同盟国に対する米国の寛容な外交・安保政策を期待することはできなくなっています。「ギブ・アンド・テイク」のビジネスライクな同盟関係へと移行せざるをえなくなっているのですから、米国をめぐる日韓の「求愛ゲーム」のバカバカしさに気づくべきでしょう。 たとえ日韓の間に親密な友好関係を築くことが難しいとしても、ビジネスライクな関係を結ぶことは可能ですし、その立場から安全保障上の脅威の削減に向けて協力し合うことはできるはずです。狭量なナショナリズムによる「パトリオット・ゲーム」にうつつを抜かしている余裕などないのです』、「米国をめぐる日韓の「求愛ゲーム」」とは言い得て妙だ。日韓とも冷静になってほしいものだ。

次に、8月30日付け文春オンライン「「大韓民国は生まれてはいけない国だった」文在寅大統領の“頭の中身”」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/13658
・『この夏、韓国の「反日」が止まらない。 これまでの徴用工、慰安婦などの歴史問題を飛び越えて、日本製品の不買運動など経済分野、さらには、GSOMIA破棄という安全保障分野にまで対日強硬策が拡大している。連日のように“暴挙”ともいうべき政策を繰り出す文在寅大統領、そして彼を支持する韓国社会は、いったい何を思っているのか――。 そんな「反日」に埋め尽くされた韓国で一人気を吐くのが、落星台経済研究所の李宇衍(イ・ウヨン)研究委員だ』、韓国“良識派”の見解とは興味深そうだ。
・『韓国“良識派”がクリアに分析  李氏は歴史学者で、いわゆる「徴用工」ら戦時中の朝鮮半島出身の労働者の労働状況などを研究。今年7月にはジュネーブの国連欧州本部で開かれたシンポジウムで、「賃金に民族差別はなかった」と発表したことでも話題となった。 この夏には共著で、韓国社会の反日主義を強く批判した『反日種族主義』(共著)を刊行し、韓国国内で異例のベストセラーとなっている。 韓国の“良識派”は、韓国という国をどのように見つめているのだろうか――。「週刊文春デジタル」では、李氏に単独インタビューを行った。 李氏はインタビューの中で、現在の文在寅政権について、「過去もっとも反日的な政権である上に、自分の政治的利益のために反日的な情緒や認識を利用しようとしている」と指摘。文大統領や周辺の歴史観を次のように説明した』、説明を見てみよう。
・『日本人が疑問に抱かずにはいられない「52の質問」  「もっとも重要な特徴が『大韓民国は生まれてはいけない国だった』と考えていることです。つまり、本来は社会主義の人と手を握って、『統一祖国』を建国しなければいけなかったのに、親日派と手を握ってしまったがために、南と北に国が分かれてしまったという考えです。ですから、その分断の責任がある『親日派』は清算しなくてはいけないという訳です」 そのほか、文在寅大統領の“頭の中身”、北朝鮮にミサイルを撃たれ続ける韓国人の気持ち、朝日新聞などメディアの影響、ベストセラーで訴えた「反日種族主義」とは何か……など、日本人が疑問に抱かずにはいられない「52の質問」について、わかりやすく答えてくれた。約1万4000字にわたる全回答は「週刊文春デジタル」で公開している。 以下に、主な回答を紹介したい』、「『大韓民国は生まれてはいけない国だった』と考えている」、言われてみれば、なるほどと納得した。
・『こじれた理由は、過去もっとも反日的な政権だから(【Q】は質問、【A】は回答)  【Q】日韓関係が緊迫しています。2018年10月に大法院(韓国の最高裁判所)が元徴用工に対しての賠償を命じる判決を下したことなどが契機となり、日本は韓国を「ホワイト国」リストから除外するなど輸出管理規制の強化を打ち出し、それに対抗して韓国が軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄する事態にまで発展しました。これまでも日韓関係が悪化することがありましたが、今回はなぜここまでこじれたのでしょうか。 【A】今回の事態は、これまでと違うと思います。文在寅政権が過去もっとも反日的な政権である上に、自分の政治的利益のために反日的な情緒や認識を利用しようとしている政権です。一方の日本では、安倍政権が「韓国の勝手な言動はこれ以上許さない」という強い立場をとっている。この両極端に位置する政権同士が向かい合っているので、ここまでこじれたのだと思います』、「両極端に位置する政権同士が向かい合っているので、ここまでこじれた」、というのはその通りだろう。
・『「統一祖国」建国のために「親日派」は清算する  【Q】文大統領は、なぜ日本に対して厳しい態度を取り続けるのか。どういう人物だと考えていますか。 【A】彼はまさに「左派の歴史観」を持った人物だと考えています。左派の歴史観において、もっとも重要な特徴が「大韓民国は生まれてはいけない国だった」と考えていることです。 つまり、本来は社会主義の人と手を握って、「統一祖国」を建国しなければいけなかったのに、親日派と手を握ってしまったがために、南と北に国が分かれてしまったという考えです。ですから、その分断の責任がある「親日派」は清算しなくてはいけないという訳です』、従来は「左派」といっても、そこまで極端ではなかったような気もするので、「極左」といえるのかも知れない。
・『文大統領は“永遠の学生運動家”  【Q】文大統領の周辺には「革命家」「左派」が多いというのは本当ですか。 【A】本当です。文政権には、「転向していない革命家」や「左派」が、たくさんいることは常識だと思います。 私は、86学番(1986年に大学入学。反米・親北の学生運動が激しかった世代)の学生ですが、同世代でも国会議員や、青瓦台(韓国大統領府)に近い仕事をしている人がたくさんいます。中でも、文政権の周辺にいるのは、「(学生時代に北朝鮮の主体思想などを信奉して、資本主義に)まだ転向していない学生運動家」ですね』、「“永遠の学生運動家”」とは上手い表現だ。
・『日本は「絶対悪」、韓国は「絶対善」  【Q】李先生らが書いた『反日種族主義』が韓国でベストセラーになっています。現在の韓国社会を支配している「反日」主義を、李先生は「反日種族主義」と定義していますが、どういったものですか。 【A】私は、以前まで韓国社会を覆う「反日」主義を「反日民族主義」と呼んでいました。しかし、今では近代的な性格を持つ「民族主義」ではなく、前近代的な「種族主義」だと位置づけました。 前近代的というのには、3つの理由があります。 1つ目は「観念的な性格」です。いまの韓国社会は、客観的な現実に基づかず、思い込みのレベルで「日本は絶対悪」という一つの総体を作っています。つまり、日本政府や個人、または日本社会が倫理的もしくは政治的に悪い点があるという具体的な話ではなく、観念的に「ただ一つの絶対悪」として日本が存在している。一方で韓国は「絶対善」です。絶対善の韓国は、絶対悪の日本に何をしても良くて、いつまでもその問題を提起して良いと思っているのです。 2つ目の理由は「非科学的な性格」。いまの韓国社会が客観的な事実でないことを主張し、受け入れていることです。例えば、韓国の慰安婦問題の支援者らが言うような、20万人の少女を連行して慰安婦としたというような一連の主張です。合理的、理性的な思考ができず、極めて感情的になっています。 3つ目は「歪んで偏った現実認識」です。韓国社会は、日本については“下”と考える一方、中国や米国に対しては迎合する。その極めて事大主義的な態度によって、国としてバランス感覚を喪失している点です。 これら前近代的な考え方のもとに、実体のない「悪魔としての日本」がイメージとして膨れ上がっている。そのイメージが、反日政策を進める原動力になっています』、「観念的に「ただ一つの絶対悪」として日本が存在している。一方で韓国は「絶対善」です。絶対善の韓国は、絶対悪の日本に何をしても良くて、いつまでもその問題を提起して良いと思っている」、最近の韓国の姿勢から見て、その通りなのだろう。
・『「同じ民族はミサイルを撃ってこないという根拠のない自信を持っています」  【Q】北朝鮮にミサイルを撃たれ続けている韓国人の気持ちはどういうものですか。 【A】「反日種族主義」の中にある韓国社会は、同じ民族である北朝鮮は我々をミサイルや核で攻撃しないだろうという、根拠のない自信を持っています。ですから、近年、北朝鮮がどんなにミサイルを撃っていても、国民の関心は反日活動に向けられます。ですから、北朝鮮がミサイルを東海(日本海)に10発撃つよりも、芸能人がアサヒビールを買って飲んでいる姿が新聞に出る方が、より大きな社会的反発を起こすでしょう』、「根拠のない自信」を一般の国民までが持っているとは信じ難い。
・『約束を破っても「罪悪感は持ちません」  【Q】韓国国民には、1965年の請求権協定という「約束」を守らないことに対する罪悪感や、「何かおかしい」という疑問の気持ちは出てこないのでしょうか。 【A】そんな疑問や罪悪感は持ちません。なぜならば繰り返しになりますが、「反日種族主義」の中では、日本に対しては何をしてもいいのです。「日本には、じゃんけんも勝たなければならない」とまで言います(笑)。日本との条約という約束を覆すことに罪悪感は当然なく、疑問を持つこともないのです』、こんなことでは、話し合いなど無駄なようだ。
・『朝日新聞は韓国に「多分に温情主義的」  【Q】慰安婦、徴用工などの歴史認識問題は、これまでの日本のマスメディアの報じ方に問題があるという指摘もあります。 【A】いわゆる“良識的”知識人らの問題と全く同じだと思います。朝日新聞をはじめ日本のメディアは、韓国に多分に温情主義的です。「そんなこと必要ない」と申し上げたいです・・・』、「日本のメディアは、韓国に多分に温情主義的です。「そんなこと必要ない」と申し上げたいです」、これには違和感がある。全てのメディアが韓国に厳しいい報道をすれば、日本国民の反韓国感情を煽ることになり、長期的な両国関係にはマイナスになるだけだと思う。

第三に、元外務省職員で作家の佐藤 優氏がラジオ番組で対談した内容を9月8日付け現代ビジネスが転載した「日韓関係「今は日本の大勝利」でも「長期的には、かなりマズい」ワケ 北朝鮮と「国交正常化」後に待つのは…」」を紹介しよう。※本記事は『佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」』に収録している文化放送「くにまるジャパン極」の放送内容(2019年8月30日)の一部抜粋です。野村邦丸氏は番組パーソナリティです』、佐藤氏の鋭い切り口が楽しみだ。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/67024
・『文在寅政権の間は、難しい  邦丸:日米韓で軍事の機密情報を共有しましょう、というGSOMIAの枠組みから、韓国は「一抜けた」ということになって、日本はもちろん、アメリカ政府高官が「非常に失望した」とか「無責任だ」とずいぶん非難している。それに今度は韓国側が非難の応酬をしている。 佐藤:韓国は自分から、どんどん袋小路に入っているわけですよね。ただ、ここで重要なのは、ちょっと想定外のことが韓国国内で出てきた。文在寅(ムンジェイン)大統領の側近の不正入試疑惑です。 邦丸:はいはい。 佐藤:日本においても不正入試は深刻ですが、韓国は桁違い。不正入試と兵役拒否は、韓国世論を刺激するんです。極端な形だと、これからデモとか起きてきて、対処方針をうまくとらないと文在寅政権が倒れるかもしれない。 邦丸:ふむ。 佐藤:内政的にそれぐらいの緊張をはらんでいます。ということは、文在寅政権はGSOMIA(軍事情報包括保護協定)の問題で少しナショナリズムを煽って政権基盤を固めようとしていたわけですが、効果がなくなっているんですよ。すると、もう譲歩できない。 大統領がこういう状態だと外務大臣以下、外交当局はなんの妥協もできないので、機械的に自分たちのスタンスを繰り返すだけ……と、こういうふうになっていますよね。 ですから「文在寅政権の間は、日韓関係の改善はない」と日本は腹を括って、とにかく軍事的な衝突だけは起きないようにする。経済的にも関係がそうとう悪くなってきています。特に観光客は極端に減っていますよね。日本の地方経済をかなり疲弊させることになるけれども、韓国との付き合いにはそういうリスクがあるんだ、と思って付き合うしかないですね』、「日本においても不正入試は深刻ですが、韓国は桁違い。不正入試と兵役拒否は、韓国世論を刺激するんです」、これからの捜査の進展が楽しみだ。
・『邦丸:そこでもう一つ、佐藤さんが指摘されているのが、韓国がこのGSOMIAを破棄することを決めたのが8月22日。日本政府に韓国政府が通告したのが翌23日。そしてさらに翌24日の朝、北朝鮮が短距離弾道ミサイルを発射しました。まあ、北朝鮮はよく実験というか、テストをやっているし、アメリカとしても「ああ、あれは大陸間弾道ミサイルじゃないから大丈夫だよ」というふうにトランプさんが言っている。 佐藤:ただ、これは単なる弾道ミサイルじゃなくて誘導装置が付いているので、弾道計算ができない、けっこう面倒くさいやつかもしれません。 ミサイル発射のスケジュール自体は、北朝鮮は前々から決めていて、22日に韓国が決定したから24日にあわてて、ということじゃないと思います。 ただし、あのときに韓国の軍が発射を発表するよりも、日本が発表するほうが確か26分早かった。韓国は今まで、中長距離ミサイルに関しては日本のイージス艦の能力が高いから頼るけども、短距離ミサイルなら韓国が絶対に強い。最近は北朝鮮も短距離しか撃たないから、GSOMIAを破棄したら日本が困るんだ……と、こういうふうに思っていたわけですね。でも、その思惑が外れた。 邦丸:ふむ。 佐藤:26分の時間差というのは、たとえば学力でいうと、小学校高学年と大学生の差ですよ。日本と韓国のミサイルを察知する能力というのは、これは大人と子どもの差だということがはっきりしちゃったんです。 邦丸:どっちが大人なんですか。 佐藤:もちろん、日本です。 邦丸:日本のほうがミサイルを探知する技術においては大学生並み、韓国はまだ小学生並み。 佐藤:そう。それぐらいです』、「日本と韓国のミサイルを察知する能力というのは、これは大人と子どもの差」、事実であれば頼もしい話だ。
・『韓国に国力で追いつかれると…  邦丸:ただ、こういうことをなるべく内緒にしておこうね、というのが今までだったんじゃないですか。 佐藤:もう信頼関係が崩れちゃっているから、この条約自体がもう機能していなかったんです。となると、どっちが先に撃つか──こういうゲームになっていたんですね。 日本はそこのところで韓国に撃たせる方向で、アメリカに向けてアピールしたわけですよ。韓国や日本の国内向けではなくて。アメリカもそれに乘ってきて、「韓国けしからん」となった。だから今回は日本外交の勝利というか、大勝利で、短期的にはうまくいき過ぎているぐらいなんですね。 ただ中長期的には、やはりまずいんですよ。 というのは、1965年の日韓基本条約の締結時点で、韓国の1人当たりGDPは100ドル強ぐらいだったんです。日本はその7倍。2018年時点で韓国が3万1000ドル、日本が3万9000ドル。近づいてきている。 つまり韓国の要求は──徴用工問題も、韓国に国力がついてきたから、今の国力に合わせた形でもう一回仕切り直しをしろ、ということなんですね。しかも、日本はそれに応じざるを得なくなるんです。 邦丸:なぜ? 佐藤:日朝国交正常化がいずれ起きる。これはトランプさんが北朝鮮との関係を調整するでしょ。米朝が国交正常化したら、日朝も国交正常化する。そうなると、日韓基本条約の改定問題が出てくるんです。 邦丸:順番からすると、来年のトランプさん再選というのが条件になると思うんですけど、トランプ政権が続いた場合、大統領選挙が終わった後ぐらいに米朝交渉が進んで、そこで国交樹立ということになる。 佐藤:朝鮮戦争が終わる。 邦丸:休戦状態から終戦になる。 佐藤:はい。それで、38度線の脅威がなくなる。アメリカと北朝鮮が外交関係を持つ。そうした条件が整うと、日本も北朝鮮と外交関係を持つということになってくるわけですよね。 邦丸:東京に北朝鮮の大使館ができる可能性もある。 佐藤:たぶん、朝鮮総連の本部が看板を掛け換えて「朝鮮民主主義人民共和国大使館」になると思います。 邦丸:はあ~』、「1人当たりGDP」が「2018年時点で韓国が3万1000ドル、日本が3万9000ドル」、ここまで近づいているとは改めて驚かされた。「米朝が国交正常化したら、日朝も国交正常化する。そうなると、日韓基本条約の改定問題が出てくるんです」、「文在寅政権」との交渉は出来れば避けたいものだ。
・『北朝鮮からの「莫大な賠償請求」  佐藤:そうなった場合、日韓基本条約の改定問題が出てくるんです。どうしてかというと、日韓基本条約で「大韓民国は朝鮮半島における唯一の合法政府である」という規定があるんです。もし、北朝鮮と日本が外交関係を樹立したら、韓国だけが唯一の合法政府とは言えないですよね。 邦丸:二つになるわけですね。 佐藤:そうです。だから、条約の根幹部分が変わっちゃう。改定しなきゃならないんですよ。 邦丸:あともう一つ言われるのが、もし日朝が国交樹立したときには当然、北朝鮮側としては第二次大戦のころの韓国が要求したのと同じような賠償請求をしてくる。 佐藤:第二次世界大戦だけじゃなくて、日韓併合以降の全体の賠償請求を当然してきます。ただ、賠償という形ではなく「経済協力」と言ってくるでしょうね。 邦丸:莫大なカネが北朝鮮にいく……。 佐藤:兆単位になる可能性もあります。でも、それはほとんど「タイド」になると思う。ひも付き、です。 邦丸:ひも付き。 佐藤:アンタイドで一般競争入札をするんじゃなくて、プロジェクトを決めて日本の企業をつけていく、こういう感じになるんじゃないかと思う。そうするとある意味、これは国内の産業振興政策とあまり変わらないですよね。 邦丸:なるほどね。 佐藤:だから、大きなおカネをつくっても、日本企業は儲かるし、日本から技術指導ができますから雇用の創出にもなる。今、そういった大義名分をかざす形で公共事業におカネを出せないですからね。対北朝鮮公共事業という大きい公共事業ができると思うんです。 邦丸:なるほど』、「日韓基本条約で「大韓民国は朝鮮半島における唯一の合法政府である」という規定があるんです」、というのでは、北朝鮮と日本が外交関係を樹立するには、改定の必要があるというのは初めて知った。北朝鮮側の賠償請求が、「兆単位」で「ひも付き」になるとすれば、新に大きな利権が発生することになりそうだ。、
・『日韓関係は「仕切り直し」になる  佐藤:しかし、そうすると韓国としては「オレたち、ちょっと安い値段で日本と話つけちゃったんじゃないの?」と、こういう感じになる。そうすると、全体を包括したところで、もう本当に最終的に不可逆的な合意を、新日韓基本条約に書き込んじゃえばいいわけですよね。そこで日韓関係を全部仕切り直すことになる。 邦丸:一回リセットしましょうと。 佐藤:しかし、そのときのリセットにおいて、日本はかなり譲歩することになりますよ。理由は簡単。外交の世界というのは、力と力の均衡なんです。 かつて1人当たりのGDPで韓国が日本の7分の1だったときは、人口を考えると十数倍離れているわけです。それが今は2・5倍くらいまで追いついてきている(注:GDP総額で)。そういう状況で、やはり昔のままにはできないですよね。だから日本は、中長期的には韓国に対して譲歩しなければならない、こういう状況に置かれちゃっているんですよ。 邦丸:ということは徴用工問題も、それから慰安婦問題にしても、もう一度歴史的な見直しを一緒にやらないか、ということになっていくんですか。 佐藤:そういう方向に追い込まれる可能性は十分あります。国際的な圧力もかかってきますから。特に、米朝関係が改善することによって、中国が韓国の後ろ盾になって中国・北朝鮮・韓国の三ヵ国連合になってきますからね。 邦丸:でも、そこはアメリカとしてもなんとかクサビを打ちたいところですよね。 佐藤:クサビを打ちたいと思っても、中国の国力が大きくなっているでしょ。アメリカは、貿易とかアメリカ自身のやっている問題で中国と対峙するのが精いっぱい。日韓の歴史認識問題なんて関与する余裕がないし、しかも第二次世界大戦の歴史認識ということになると、アメリカと中国と韓国と北朝鮮は同じ陣営ですから、日本にとってぜんぜん調子よくない。 邦丸:うーむ』、「新日韓基本条約」では、「中国が韓国の後ろ盾になって中国・北朝鮮・韓国の三ヵ国連合になってきます」、日本にとってはかつてないほどの窮地に追い込まれそうだ。
・『エリート教育が日本の急務  佐藤:だから今、日本は短期では大勝利なんですね。でも中長期的には、かなりの試練が待っていて、われわれは譲歩を迫られる。こういう二重の構造ですね。これは新聞を読んでいてもなかなか見えないですが、重要なところです。 邦丸:見誤らないように。 佐藤:そういうことです。それからあともう一つ重要なのは、韓国がこれだけ国力をつけてきたでしょ。韓国にはさまざまな問題があるんですが、それはやはり「教育」ですよ。 金惠京(キムヘギョン)さんの話を聞いても、彼女の『涙と花札』を読んでもわかるように、日本の子どもたちも一生懸命勉強しますけども、韓国の子どもたちはその比じゃないですよね。企業に入ってから、官庁に入ってからの競争も比べ物にならない。 経済もそうですよね。財閥を伸ばす。それでパイを広げていく。格差が広がっても構わないんだ、というやり方だと伸びるんですよ。このままだと、一人当たりのGDPで韓国に日本は抜かれる可能性すらある。向こうは人口が半分ですからね。 そういうことを考えると、韓国との関係でも中国との関係でも、これからわれわれが軽く見られないようにするためには、教育の強化なんですよ。基礎体力を強化して、今の若い人たちに頑張ってもらって、20年後ぐらいに再び中国や韓国を引き離すことができる基礎体力をどれだけ作れるか。だから私は、中長期的な戦略がすごく重要になってくると思います。 邦丸:昨日(政治アナリストの)伊藤惇夫さんも、これからの日本の将来を見据えたときに、いわゆるエリート層を養成するような学校とか組織とか体制が必要になってくるんじゃないか、と言っていました。 佐藤:金持ちを引きずりおろしても、みんなが金持ちになるわけではない。でも、エリート層が北方領土に行って酔っ払って暴れているようじゃ困るわけです。 成績がいいだけのエリートではなくて、ノブレスオブリージュ、すなわちノーブルな者、高貴な者、社会的な責任をまっとうするエリートを育てる。自分がおカネを稼いだら、そのおカネは社会に還元する。自分の能力をきちんと社会と国家のために還元する、そういう人をつくるエリート教育です。 日本は、学力のエリート教育は十分できています。むしろ問題は、ものの見方や考え方、価値観のエリート教育がないところですよね』、将来の打開策に「エリート教育」を上げるのは余りに安易で、違和感がある。今回の問題にも間に合わない。この部分は無視して、それまでの危機的状況だけを参考にしたい。 
タグ:姜尚中 日韓関係 佐藤 優 現代ビジネス 文春オンライン AERA.dot (その6)(姜尚中「日韓の『求愛ゲーム』のバカバカしさに気づくべき」、「大韓民国は生まれてはいけない国だった」文在寅大統領の“頭の中身”、日韓関係「今は日本の大勝利」でも「長期的には、かなりマズい」ワケ 北朝鮮と「国交正常化」後に待つのは…) 「「日韓の『求愛ゲーム』のバカバカしさに気づくべき」」 「ギブ・アンド・テイク」のビジネスライクな同盟関係へと移行せざるをえなくなっているのですから、米国をめぐる日韓の「求愛ゲーム」のバカバカしさに気づくべきでしょう 「「大韓民国は生まれてはいけない国だった」文在寅大統領の“頭の中身”」 この夏、韓国の「反日」が止まらない 落星台経済研究所の李宇衍(イ・ウヨン)研究委員 韓国“良識派”がクリアに分析 現在の文在寅政権について、「過去もっとも反日的な政権である上に、自分の政治的利益のために反日的な情緒や認識を利用しようとしている」 日本人が疑問に抱かずにはいられない「52の質問」 もっとも重要な特徴が『大韓民国は生まれてはいけない国だった』と考えていることです。つまり、本来は社会主義の人と手を握って、『統一祖国』を建国しなければいけなかったのに、親日派と手を握ってしまったがために、南と北に国が分かれてしまったという考えです こじれた理由は、過去もっとも反日的な政権だから 「左派の歴史観」 本来は社会主義の人と手を握って、「統一祖国」を建国しなければいけなかったのに、親日派と手を握ってしまったがために、南と北に国が分かれてしまったという考えです 文大統領は“永遠の学生運動家” 日本は「絶対悪」、韓国は「絶対善」 いまの韓国社会が客観的な事実でないことを主張し、受け入れている 「歪んで偏った現実認識」 同じ民族はミサイルを撃ってこないという根拠のない自信を持っています 約束を破っても「罪悪感は持ちません」 「日韓関係「今は日本の大勝利」でも「長期的には、かなりマズい」ワケ 北朝鮮と「国交正常化」後に待つのは…」」 「くにまるジャパン極」の放送内容 文在寅政権の間は、難しい 日本においても不正入試は深刻ですが、韓国は桁違い。不正入試と兵役拒否は、韓国世論を刺激するんです 「文在寅政権の間は、日韓関係の改善はない」と日本は腹を括って、とにかく軍事的な衝突だけは起きないようにする 日本と韓国のミサイルを察知する能力というのは、これは大人と子どもの差だということがはっきりしちゃった 韓国に国力で追いつかれると… 1人当たりGDP 1965年の日韓基本条約の締結時点で、韓国の1人当たりGDPは100ドル強ぐらいだったんです。日本はその7倍。2018年時点で韓国が3万1000ドル、日本が3万9000ドル。近づいてきている 韓国の要求は──徴用工問題も、韓国に国力がついてきたから、今の国力に合わせた形でもう一回仕切り直しをしろ トランプ政権が続いた場合、大統領選挙が終わった後ぐらいに米朝交渉が進んで、そこで国交樹立ということになる 北朝鮮からの「莫大な賠償請求」 日韓基本条約で「大韓民国は朝鮮半島における唯一の合法政府である」という規定があるんです。もし、北朝鮮と日本が外交関係を樹立したら、韓国だけが唯一の合法政府とは言えないですよね 賠償という形ではなく「経済協力」と言ってくる 兆単位になる可能性も それはほとんど「タイド」になる 対北朝鮮公共事業という大きい公共事業ができると思うんです 日韓関係は「仕切り直し」になる 中国が韓国の後ろ盾になって中国・北朝鮮・韓国の三ヵ国連合になってきます 第二次世界大戦の歴史認識ということになると、アメリカと中国と韓国と北朝鮮は同じ陣営ですから、日本にとってぜんぜん調子よくない
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安倍外交(その6)(安倍首相の外交無力を隠すフェイクニュースに騙されるな、「機能しなかった安倍外交」示すホルムズ湾タンカー攻撃、中東でまったく通用しなかった日本の「架け橋外交」 「新参者」安倍首相のイラン訪問に米国で厳しい評価、日本完敗で達成された 安倍晋三の「戦後外交の総決算」) [外交]

安倍外交については、2月24日に取上げた。今日は、(その6)(安倍首相の外交無力を隠すフェイクニュースに騙されるな、「機能しなかった安倍外交」示すホルムズ湾タンカー攻撃、中東でまったく通用しなかった日本の「架け橋外交」 「新参者」安倍首相のイラン訪問に米国で厳しい評価、日本完敗で達成された 安倍晋三の「戦後外交の総決算」)である。

先ずは、慶応義塾大学経済学部教授の金子勝氏が5月29日付け日刊ゲンダイに掲載した「安倍首相の外交無力を隠すフェイクニュースに騙されるな」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/254848
・『北朝鮮問題を巡り、“蚊帳の外”の安倍首相が焦って日朝首脳会談の「無条件実施」を表明したが、米朝会談の物別れを受けて安倍が“橋渡し役”を果たすとするNHKの岩田明子解説委員の“フェイク解説”には驚いた。 そもそも、Jアラートを鳴らしまくり、断交を叫んでおいて、前提条件なしで会うと言ったところで会談できるはずがない。しかも、「前提条件なし」は北方領土返還交渉を巡る対ロ外交の失敗で実証済みだ。日本のメディアは2島返還が実現するかのように煽ってきたが、全くのウソだった。 米中貿易バトルと日米通商協議を巡る報道もフェイクだらけ。ファーウェイを干上がらせれば米国の完全勝利で、日本は米国の尻馬に乗っていれば万事うまくいくかのように報じられている。コンピューターの先端分野のクラウド事業ではアマゾン、グーグル、マイクロソフトなどの米事業者が強いが、中国ではアリババが強い』、「NHKの岩田明子解説委員」は安倍首相の「お気に入り」なので、平然と“フェイク解説”が出来るのだろう。
・『次世代通信規格の5Gで最も特許を取得しているのはファーウェイなど中国企業で、スウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアを合わせると全体の半数超え。アジアやアフリカでは次々に通信網が敷かれ、中国の政治的、経済的影響力は圧倒的だ。 こうした状況に慌てたトランプ政権は大統領令まで発してファーウェイ排除に動いているが、国家レベルで同調しているのは日本と豪州くらい。このままでは、世界が米国圏と中国圏に分断されかねない。一方のファーウェイは、傘下のハイシリコンから半導体供給を増やし、自前調達で対抗する戦略だ。 このような状況では、米国追従で漁夫の利が得られることはない。日本経済は半導体や電子部品などの対中輸出で支えられてきたが、米中バトルの影響で大きく減少に転じ、先端技術の開発もできずに青息吐息。他方で、北米への自動車輸出でしのぐが、トランプの格好の標的とされている』、「ファーウェイ排除」では、確かに「米国追従で漁夫の利が得られることはない」、というのはその通りだろう。
・『トランプを「令和初の国賓」として招いたが、参院選前までに日米FTA交渉のひどい内容がばれるのは避けたい。そこでゴルフだ、相撲観戦だと、ご機嫌取りの接待漬けにする。しかし、こんな「おもてなし」が通用するわけもなく、間もなく馬脚を現すだろう。 安倍の外交無力によって、日本は輸出先まで失いつつある。現実をしっかり注視しないと、メディアに騙される』、本当は「外交無力」なのに、「外交の安倍」とゴマを擦る一部マスコミの姿勢も問題だ。

次に、6月14日付け日経ビジネスオンラインが掲載した元駐イラン大使孫崎享氏へのインタビュー「「機能しなかった安倍外交」示すホルムズ湾タンカー攻撃」を紹介しよう(Qは聞き手の質問)。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/061400059/
・『イラン沖のホルムズ海峡で6月13日、日本企業が運航するタンカーが攻撃を受けた。日本企業が絡むこともさることながら、安倍首相がハメネイ師と会談するタイミングをとらえて起きた出来事に衝撃が走った。この事態から浮かび上がるメッセージは何か。駐イラン大使を務めた経験を持つ孫崎享氏に聞いた。 Q:孫崎さんは今回の件をどう見ていますか。 孫崎:安倍晋三首相による仲介外交が機能しなかったことを示していると思います。 今回のタンカーへの攻撃が本当にイランによるものかどうかは分かりません。しかし、同様の事態が頻発している事態を見ると、イランにつながる勢力による可能性が高いと思います。現在のイランは穏健派よりも保守強硬派が力を持っている。強硬派が米国に譲歩しない意思を示すために実行したと見ることができます。 安倍首相がイランを訪問し、ロウハニ大統領や最高指導者のハメネイ師と会談しても、強硬派の動きをとどめることはできなかったわけです。 安倍首相が仲介役を果たすつもりなら、トランプ大統領が訪日し、会談した際に、イラン核合意に復帰するよう説得すべきでした。緊張が高まった発端は、米国が2018年5月に同合意から離脱したことですから。しかし、安倍首相とトランプ大統領がイラン核合意復帰をテーマに話し合ったとの報道はありませんでした。 安倍首相と会談した後、ハメネイ師は想像以上に強硬な発言をしました。「トランプ氏を、メッセージを交換するに値する人物とみなしていない」と語り、米国との対話を拒否しました。この発言からも安倍首相のイラン訪問が成果を上げなかったことが分かるでしょう』、イラン側は安倍・トランプ会談に期待していたのに、裏切られたので、「ハメネイ師は想像以上に強硬な発言をしました」となったのかも知れない。
・『Q:今回の攻撃が、イランにつながる勢力だったとして、安倍首相がイランを訪問しているタイミングで、日本企業が運航するタンカーを狙ったことは何を示すでしょう。比較的良好な日本との関係を壊すことになれば、イラン強硬派にとっても好ましい話ではないのでは。 孫崎:私は、日本企業が運航する船であったのは「たまたま」だと見ています。攻撃された船はパナマ籍で、日の丸を掲げていたわけではないでしょう』、イラン側もタンカーが便宜置籍船であることは百も承知で、実質的な所有主の国籍も調べ上げている可能性もあるのではなかろうか。
・『偽装工作の可能性は低い  Q:米国のボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)ら対イラン強硬派が、事態をかく乱するため偽装工作を行った、という陰謀論的な見方があります。 孫崎:私はその可能性は低いと思います。ホルムズ海峡を航行する船舶が5月に最初に攻撃されたとき、私も陰謀論が頭に浮かびました。しかし、同様の事態が頻発しているのを考え合わせると、陰謀論は難しいと思います。暴露する可能性が高くなるようなことをするのは考えづらいですから。 Q:米国ではなく、サウジアラビアなどの反イラン勢力が偽装に手を染めるケースは考えられますか。 孫崎:そちらもないでしょう。理由は米国のケースと同様です。 Q:2015年に成立した安保法制が議論されていた際、ホルムズ海峡が封鎖されるケースが議論の俎上に乗りました。今後、そうした事態が起こる可能性はあるでしょうか。 孫崎:イランが1カ月に1回、一時的に封鎖する、といったことはあるかもしれません。しかし、継続的に行うことはないと思います。イランが取る行動は、警告的なものにとどまると考えています』、米国は「ホルムズ海峡を航行する船舶」護衛のため、有志連合の結成を呼び掛けたが、参加を表明したのはオーストラリアや英国程度で、日本は逡巡しているようだ。

第三に、産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授の古森 義久氏が6月19日付けJBPress:に掲載した「中東でまったく通用しなかった日本の「架け橋外交」 「新参者」安倍首相のイラン訪問に米国で厳しい評価」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56758
・『「中東和平への新参者が苦痛の教訓を得た」──米国の大手紙ウォール・ストリート・ジャーナルが安倍晋三首相の6月中旬のイラン訪問をこのように厳しく批判した。 安倍首相はイランを訪問し、米国・イランの紛争の調停を試みた。米国ではトランプ政権からの否定的な反応こそないが、メディアや専門家からは、安倍首相の調停工作が何も事態を改善せず、かえって日本企業が運航するタンカーが攻撃を受けたことへの冷ややかな評価が出ている。日本の戦後外交の特徴だった「架け橋外交」の限界が期せずして露呈したともいえそうである』、「中東和平への新参者が苦痛の教訓を得た」との米紙の批判は言い得て妙だ。
・『安倍首相の訪問中にタンカー攻撃  安倍首相は6月12日から14日までイランを訪問し、ロウハニ大統領や国家最高指導者のハメネイ師と会談した。イランと米国の険しい対立を緩和し、両国の歩み寄りを促す、という趣旨のイラン訪問だった。だが、こうした目的は現状ではなにも果たされなかったようにみえる。 イラン側は米国との話し合いを拒み、むしろトランプ政権への非難を強めた。そしてなによりも、安倍首相の訪問中に日本企業が運航するタンカーが攻撃を受け、炎上した。 米国政府はイギリス政府とともに、攻撃を行ったのはイランの革命防衛隊だとして、その証拠となるビデオ数点を公表した。一方、イラン側は攻撃の責任を全面的に否定する。だがこの種の見解の対立では過去の事例を見る限り米国や英国の政府の主張のほうが正しい場合が多い。 トランプ政権のポンペオ国務長官は、このタンカー攻撃を疑いなくイラン側の犯行だと断定して、「日本の安倍首相が来訪中にあえて日本のタンカーを攻撃することは、安倍首相や日本への侮辱だ」とまで述べた』、「ポンペオ国務長官」もイラン側が「日本のタンカー」と認識して攻撃したとの立場のようだ。
・『「中東和平への新参者」が得た教訓  こうした動きのなか、6月14日にウォール・ストリート・ジャーナルは以下のような趣旨の記事を掲載した。
 ・安倍首相はイランへの旅の後、米国・イラン紛争が旅の前よりもさらに激しくなるという事態に直面した。イランは米国に対する姿勢をさらに硬化させ、しかも安倍首相の訪問期間中に日本籍のタンカーが攻撃され、大打撃をこうむったからだ。
 ・安倍首相はトランプ大統領の同意を得て、日本の歴代政治指導者が避けてきた中東紛争の緊張緩和工作という領域に足を踏み入れた。安倍氏の動きには、外交面での成果をあげて、来るべき国内の議会選挙で有利な結果を生もうという意図も伺えた
 ・ポンペオ国務長官は「イランは安倍首相の外交努力を完全に拒み、さらに日本籍のタンカーを攻撃することで、安倍首相を侮辱した」と今回の安倍首相のイラン訪問を総括した。
 ・安倍首相はあくまで中立の調停者として振舞ったが、イラン側のメディアは、安倍首相とトランプ大統領の親密な関係や日本の米国との軍事同盟について詳しく報道し、安倍首相は結局米国側に立っているのだという構図を強調した。
 安倍首相のイラン訪問は日本の現職首相として41年ぶりだったが、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事は以上のように述べ、イラン訪問が何の成果も生み出さなかった現実を伝えた。記事には「中東和平への新参者が苦痛な教訓を得た」という見出しがつけられていた』、日本のマスコミの安倍首相に「忖度」した報道とは対照的に鋭く、批判的だ。
・『日本の「架け橋外交」の決定的な弱み  ニューヨーク・タイムズも6月12日の記事で安倍首相のイラン訪問を詳しく報じたが、米国・イランの調停の試みへの評価はやはり厳しい。同記事は、日本の政治や外交に詳しい米国人学者、トビアス・ハリス氏の「軍事という要因にまったく無力な日本はこの種の紛争解決には効果を発揮しえない」という見解を紹介していた。 ハリス氏は次のようにも述べる。「日本にとっては、米国とイランの間の緊張を緩和するという控えめな目標さえも、達成は難しいだろう。日本は確かに米国およびイランの両国と良好な関係にあるが、両国の対決を左右できるテコは持っていない。なぜなら日本には軍事パワーがまったくないからだ」。 米国とイランの対立も、中東紛争全体も、情勢を左右するのは軍事力である、という現実の指摘だろう。それは同時に、日本の「架け橋外交」の決定的な弱みを浮かび上がらせたといってもよい』、「両国の対決を左右できるテコ」が「軍事力である」とのトビアス・ハリス氏の見解には同意しかねる。「架け橋外交」を実効性あるものにするには、欧州諸国の同意を取った上で、トランプにイランとの交渉のテーブル戻らせるよう説得するが本道だが、安倍首相には到底無理だろう。

第四に、作家の適菜収氏が9月14日付け日刊ゲンダイに掲載した「日本完敗で達成された 安倍晋三の「戦後外交の総決算」」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/261802
・『プーチンに全力恭順  ロシア政府がウラジオストクで開いた「東方経済フォーラム」全体会合で安倍晋三が演説。プーチンに向かって、「ウラジーミル。君と僕は、同じ未来を見ている。行きましょう、プーチン大統領」「ゴールまで、ウラジーミル、2人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか」と発言。ネットでは「気色悪いポエム」「青年の主張」などと揶揄されていたが、恋をしているのかもしれない。これまでもプーチンに会えば、体をくねくねと動かし、瞳を潤ませ、全力で恭順の意を示してきた。 一方、プーチンは安倍を「金づる」「ぱしり」くらいにしか思っていない。安倍がウラジオストクに到着した日には、色丹島に建設された水産加工場の稼働式典にテレビ中継で祝辞を述べ、実効支配をアピール。会合翌日には「(北方領土は)スターリンが全てを手に入れた。議論は終わりだ」と切り捨てた。要するに最初から1島たりとも返す気はない』、「気色悪いポエム」だけでなく、「これまでもプーチンに会えば、体をくねくねと動かし、瞳を潤ませ、全力で恭順の意を示してきた」、というには本当に気色悪い感じだ。
・『安倍は演説でロシアの四行詩を紹介。 「ロシアは、頭ではわからない。並の尺度では測れない。何しろいろいろ、特別ゆえ。ただ信じる。それがロシアとの付き合い方だ」 安倍がやっていることはこれだ。ホストに大金を貢ぐおばさんと同じ。プーチンが安倍と27回も会ったのはなぜか。「同じ未来を見ている」からではない。ボンクラが日本の総理をやっているうちに、むしり取れるものはむしり取るためだ。狡猾なプーチンが千載一遇のチャンスを見逃すわけがない。 2018年9月12日、プーチンは、平和条約締結後に2島の引き渡しを明記した日ソ共同宣言に言及した上で、「前提条件をつけずに年内に平和条約を締結し、すべての問題の議論を続けよう」と発言。これは日本とロシアが積み重ねてきた交渉のすべてを反故にするものだが、安倍は拒絶するどころか謎の満面の笑み。この態度が問題になると、「プーチンに対し直接反論した」と嘘までついている。ある意味で安倍の言う「戦後外交の総決算」は達成された。日本の完敗という形で。実際、政府は「北方四島は日本に帰属する」という記述を外交青書から削除している。この期に及んで安倍政権を支持する日本人がいるのだから、戦後の平和ボケもここに極まったと言うべきだろう』、「ボンクラが日本の総理をやっているうちに、むしり取れるものはむしり取るためだ。狡猾なプーチンが千載一遇のチャンスを見逃すわけがない」、ヤレヤレという他ない。「ある意味で安倍の言う「戦後外交の総決算」は達成された。日本の完敗という形で」、最大限の皮肉だ。「この期に及んで安倍政権を支持する日本人がいるのだから、戦後の平和ボケもここに極まったと言うべきだろう」、これには日本のマスコミの姿勢も大いに影響している筈だ。「忖度」は止めて、正々堂々と真実を報道してもらいたい。
タグ:金子勝 日刊ゲンダイ ウォール・ストリート・ジャーナル 日経ビジネスオンライン JBPRESS ホルムズ海峡 孫崎享 適菜収 安倍外交 古森 義久 「東方経済フォーラム」 (その6)(安倍首相の外交無力を隠すフェイクニュースに騙されるな、「機能しなかった安倍外交」示すホルムズ湾タンカー攻撃、中東でまったく通用しなかった日本の「架け橋外交」 「新参者」安倍首相のイラン訪問に米国で厳しい評価、日本完敗で達成された 安倍晋三の「戦後外交の総決算」) 「安倍首相の外交無力を隠すフェイクニュースに騙されるな」 米朝会談の物別れを受けて安倍が“橋渡し役”を果たすとするNHKの岩田明子解説委員の“フェイク解説” Jアラートを鳴らしまくり、断交を叫んでおいて、前提条件なしで会うと言ったところで会談できるはずがない 米中貿易バトルと日米通商協議を巡る報道もフェイクだらけ 次世代通信規格の5Gで最も特許を取得しているのはファーウェイなど中国企業で、スウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキアを合わせると全体の半数超え トランプ政権は大統領令まで発してファーウェイ排除に動いているが、国家レベルで同調しているのは日本と豪州くらい 米国追従で漁夫の利が得られることはない。日本経済は半導体や電子部品などの対中輸出で支えられてきたが、米中バトルの影響で大きく減少に転じ、先端技術の開発もできずに青息吐息 安倍の外交無力によって、日本は輸出先まで失いつつある。現実をしっかり注視しないと、メディアに騙される 「「機能しなかった安倍外交」示すホルムズ湾タンカー攻撃」 日本企業が運航するタンカーが攻撃を受けた 安倍首相がハメネイ師と会談するタイミングをとらえて起きた出来事に衝撃 安倍晋三首相による仲介外交が機能しなかったことを示している 強硬派が米国に譲歩しない意思を示すために実行したと見ることができます 仲介役を果たすつもりなら、トランプ大統領が訪日し、会談した際に、イラン核合意に復帰するよう説得すべき 偽装工作の可能性は低い 「中東でまったく通用しなかった日本の「架け橋外交」 「新参者」安倍首相のイラン訪問に米国で厳しい評価」 中東和平への新参者が苦痛の教訓を得た ポンペオ国務長官 「日本の安倍首相が来訪中にあえて日本のタンカーを攻撃することは、安倍首相や日本への侮辱だ」 日本の「架け橋外交」の決定的な弱み 両国の対決を左右できるテコは持っていない。なぜなら日本には軍事パワーがまったくないからだ 「日本完敗で達成された 安倍晋三の「戦後外交の総決算」」 「ウラジーミル。君と僕は、同じ未来を見ている。行きましょう、プーチン大統領」 気色悪いポエム これまでもプーチンに会えば、体をくねくねと動かし、瞳を潤ませ、全力で恭順の意を示してきた プーチンは安倍を「金づる」「ぱしり」くらいにしか思っていない 安倍は演説でロシアの四行詩を紹介 安倍がやっていることはこれだ。ホストに大金を貢ぐおばさんと同じ ボンクラが日本の総理をやっているうちに、むしり取れるものはむしり取るためだ。狡猾なプーチンが千載一遇のチャンスを見逃すわけがない
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日本・ロシア関係(その8)北方領土6(北方領土「日本人が知らない」真実 占領の黒幕・返還交渉の矛盾、北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”、三井物産が出資するロシア巨大LNG その命運を握る「黒い金庫番」の正体) [外交]

日本・ロシア関係については、2月21日に取上げた。今日は、(その8)北方領土6(北方領土「日本人が知らない」真実 占領の黒幕・返還交渉の矛盾、北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”、三井物産が出資するロシア巨大LNG その命運を握る「黒い金庫番」の正体)である。

先ずは、ジャーナリストの粟野仁雄氏が4月26日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「北方領土「日本人が知らない」真実、占領の黒幕・返還交渉の矛盾…」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/201097
・『ロシアにとっては「南方領土」 北方領土と日本の複雑すぎる関係  「今、日本でニュースになっているクリル列島(千島列島)の問題をどう思いますか。日本じゃ北方領土と呼ぶのだけれど……」 1月末、モスクワでの首脳会談に合わせて旧島民たちの取材に訪れた筆者は、北海道根室市のラーメン店で、隣に座った若いロシア人男性に拙いロシア語でこう尋ねた。サハリンから商売に来ていた体格のよい男は、「北方領土ではないよ。あの島は絶対に我国の『南方領土』なんだ。でも日本はいい国だよ。仲良くしたいね」と笑った。 安倍首相とプーチン大統領による日ロ首脳会談の度に取り沙汰される北方領土問題だが、3月15日、ロシアの『コメルサント』紙が「大きく交渉スピードが後退した」とプーチン大統領が発言していたことを報じた。足もとでは、5月上旬の対ロ協議を前に、河野太郎外相が国会答弁においてロシア側を刺激しない配慮を見せるなど、交渉の「難しさ」が伝わってくる。 近づいたとか思うと離れるブーメランのような「北方領土」とは、日本人にとってどんな存在なのか。筆者が若き記者時代から関わったこのテーマについて、まずは地理や歴史などの基本事項を解説したい。 背の低い白い灯台が立つ根室半島先端の納沙布岬。眼下の岩礁にはかつて作家の三島由紀夫を信奉する国粋主義団体「楯の会」がペンキで描いた「千島を返せ」の文字があったが、積年の波で消えている。沖へ視線をやると、水平線上にまっ平で樹木の1本もない不思議な水晶島が見える。貝殻島の「日本時代」からの古い灯台が見える。右には勇留(ゆり)島。いずれもロシアの実効支配下にある歯舞群島の1つだ。 「うわあ、ロシアが見えるなんて」-――。若いカップルが驚いていたが、寒がって車に引っ込んでしまった。夏のシーズンは濃霧で見にくいため寒い時期がいいのだが、この地域の冬の寒さは半端ではない。見えていた数隻の漁船は、あまりの近さに日本の船かと思いたくなるが、潜水でウニを採るロシアの船である。ここから日露の海上の「中間ライン」(固有の領土、領海を主張してきた国は国境とは言えない)はわずか1.7キロだ。 「ロシア人はウニなんて食べないから、みんな日本に売るんです。この寒いのによく潜るよ」とは食堂兼土産物店「請望苑」を経営する竹村秀夫さんだ。訪問者たちの「北方領土って、こんなに近かったんですか」の言葉に地元民は辟易しているが、北海道旅行も根室まで行く人は少ないから、それも仕方がない』、「訪問者たちの「北方領土って、こんなに近かったんですか」の言葉に地元民は辟易している」、というのは地元民の偽らざる実感だろう。
・『北方領土は、北から択捉島、国後島、並列する歯舞諸島と色丹島の「4島」だが、沖縄本島より大きい最大の択捉島と2番目に大きい国後島が、全面積の93%を占める。国後島は根室市からも見えるが、標津町からはより近く、好天なら主峰の爺々岳も見える。 北方領土をめぐる国際的な取り決めの柱は、(1)1855年の日露通交(和親)条約、(2)1875年の千島樺太交換条約、(3)1904年のポーツマス条約、(4)1951年のサンフランシスコ講和条約、そして(5)1956年の日ソ共同宣言だろう。日ロ間における北方領土を巡るターニングポイントについて、おさらいしてみよう』、歴史をなおざりにしがちな我々にとって、おさらいする意味はありそうだ。
・『開国時にロシアだけは友好な態度だった  1855年2月7日、江戸幕府はロシア帝国と「日露通好条約」を結ぶ。「日露和親条約」ともいう。ロシア語では「貿易と国境の条約」だが、日本語では「貿易」も「国境」も消え、和親だとか通好とか、わけのわからぬ言葉になる。 このとき、ニコライ一世の訓令・プチャーチン提督と対峙したのが、幕府の川路聖謨(かわじ・としあきら)という旗本。NHKの元モスクワ支局長の石川一洋解説委員は、2月に鳥取県倉吉市に招かれた講演会で、川路について「優れた人でしたが、ロシアの交渉団が彼の写真を撮ろうとしたら固辞した。『私のような醜男が貴国に紹介されては日本の恥です』と言ったのです」と素朴な人柄を紹介した。川路は戊辰戦争で幕府軍に殉じて自決した。 この時期、米国のペリー提督が軍艦を連ねて開国を迫るなど、欧米列強が「鎖国日本」を力でこじ開けようとしたが、石川氏は「ロシアだけは非常に友好的な態度で日本に接してきたのです」と強調した。確かにその通りだ。 この条約で国境線が得撫(ウルップ)島と択捉島の間とされ、樺太は「日露混住の地」となるが、20年後の1875年、ペテルブルグ(今のサンクトぺテルブルグ)で締結された「千島樺太交換条約」で、樺太は全島がロシア領、千島列島すべてが日本領となる。日本は大政奉還から7年目の明治8年、ロシア側は革命で銃殺されるロマノフ王朝最後の皇帝ニコライ二世の父、アレクサンドル三世の時代だ。 20世紀初頭、日露戦争で日本が勝利し、1905年に「ポーツマス条約」で樺太の南半分が日本領となる。これはロシア人にとって大変な屈辱だった。南樺太のロシア人は北緯50度以北へ追いやられ、代わりに日本の開拓団が多数樺太へ移住し、石炭生産、製紙産業、林業、農業、漁業などを繁栄させた。樺太や千島の日本人は、第二次大戦末期に日本本土の人たちが空襲などに苦しんでいた頃も平和を謳歌した』、丸山穂高衆議院議員の認識とは異なり、戦争以外でも「千島樺太交換条約」で、領土が動いたことがあったようだ。
・『それが破られたのが、ポツダム宣言受諾後の1945年8月。日ソ中立条約を一方的に破ったソ連軍が、満州、樺太、北方領土へ侵攻したのだ。戦闘らしい戦闘もなかった北方領土では、樺太や満州のような悲劇は少ないが、金品を奪うソ連軍との諍いや、本土への脱走時に船が銃撃を受けるなどして、幾人かが命を落とした。 その後、色丹島などでは2年間ほど日露混住の時代もあった。色丹島の混住時代に小学生時代を過ごした得能宏さん(85)は、「先生は怖がっていたけれど、ロシア兵が黒板のほうに来て、生徒の算数の間違いを直してくれた」と振り返る。 最終的に4島から日本人すべてが追われた。根室や羅臼などに裸一貫で引き揚げた彼らの戦後の苦労は想像に難くない』、戦後も「色丹島などでは2年間ほど日露混住の時代もあった」、というのは初めて知った。
・『意外に知られていないサンフランシスコ平和会議での失態  ソ連の対日参戦は1945年2月の米、英、ソのヤルタ会談で密かに決められた。戦争を早期終結させ、米兵の犠牲を減らしたいルーズベルト・米国大統領の求めによるものだが、スターリン・ソ連書記長の談話録には「問題が起きているわけではない日本と戦争することに国民は納得しない」と、代償に領土拡大を求める巧みな会話が残されている。 後にスターリンは、釧路と留萌を結ぶライン以北の北海道の北半分までも要求したが、米国が拒否した。実現していたら北海道は今頃、どうなっていたのだろうか。 1951年、米国との単独講和だったサンフランシスコ平和条約で、日本は「クリルアイランズ(千島列島)」を放棄した。実はこのときに、現在に至るまで禍根を残す失態が生じる。批准国会で野党議員に「放棄した千島に国後や択捉を含むのか」と訊かれた西村熊雄条約局長が、「含む」と答えてしまったのだ。 外務省はこの大失敗に触れられることを今も嫌がるが、和田春樹・東大名誉教授(ロシア史)は「どんなにつらくとも、放棄したことを認めて交渉すべきだ」と話す。外務省は、「サ条約にはソ連が参加していないから、ロシアのものとされたわけではない」としている』、「批准国会で野党議員に「放棄した千島に国後や択捉を含むのか」と訊かれた西村熊雄条約局長が、「含む」と答えてしまったのだ」、初耳だが、そうなのであれば、「和田春樹・東大名誉教授(ロシア史)は「どんなにつらくとも、放棄したことを認めて交渉すべきだ」、というのが筋だ。「「サ条約にはソ連が参加していないから・・・」は苦しい言い逃れに過ぎない。
・『1956年、鳩山一郎首相とソ連のブルガーニン首相との間で「日ソ共同宣言」が締結された。今、盛んにニュースになっている史実だ。「平和条約締結後に、色丹島と歯舞諸島は日本に引き渡すとされた」が、「引き渡す」(ロシア語では「ペレダーチ」)とは、「返す」ではなく、「私の物ですが差し上げます」というニュアンスだった。 結局、平和条約を結べないまま、世界は冷戦時代に突入。日本を自由主義陣営に引き込みたい米国のダレス国務長官が、「歯舞・色丹の返還を目指してソ連と平和条約を結ぶなら、沖縄を永久に占領する」とした有名な「恫喝」が大きな楔だった。 そして、1960年の日米安保条約延長でソ連は態度を硬化し、「領土問題は解決済み」とされる。1973年、田中角栄首相がブレジネフ書記長に「両国間の未解決諸問題」に領土問題が含まれることを認めさせたが、その後進展はなかった。80年代にゴルバチョフ政権が誕生し、91年にソ連が崩壊、続くエリツィン政権ではロシアが一旦態度を軟化させたものの、日本は何度も好機を逃してきた(これについては、後述する)。 日本人の最も身近にある国際問題の1つ、北方領土問題はこうした経緯を辿って来たのである』、「「日ソ共同宣言」では、「平和条約締結後に、色丹島と歯舞諸島は日本に引き渡すとされた」が、結局、平和条約を結べないまま、世界は冷戦時代に突入日本を自由主義陣営に引き込みたい米国のダレス国務長官が、「歯舞・色丹の返還を目指してソ連と平和条約を結ぶなら、沖縄を永久に占領する」とした有名な「恫喝」が大きな楔だった」、ここまでダレス国務長官に「恫喝」されれば、日本側が断念したのも理解できる。ただ、こうした歴史的経緯を無視・単純化して一方的に返還を要求する日本政府の姿勢にも無理がありそうだ
・『忘れられがちな史実 本当の先住民は誰だったのか  2月7日、筆者は大阪は中の島公会堂の「北方領土返還要求大会」に出かけた。入り口で「アイヌ民族抜きで交渉を進めることはおかしい」と抗議の横断幕を掲げる人たちがいた。 北方領土史で忘れられがちなのは、「本当の先住民は誰だったのか」だ。筆者は1980年代、北海道で知り合いのソ連担当の公安関係者から、「ソ連の学者たちが北海道のアイヌ民族の存在を口実に、北方領土が古来、自分たちの領土だったことにしようとしている」と聞いた経験がある。アイヌはロシア側にも居ることをテコに、「日本人より先にロシアのアイヌが千島にいた」として、日本が主張する「固有の領土」を否定しようとし、「AS協会」という組織を立ち上げたと、といった話だった。 詳細は省くが、国境という観念も希薄だったその昔、千島列島ではアリュート、樺太アイヌ、北海道アイヌら、様々な民族が狩猟生活や物々交換などをしていた。政府は、第二次大戦までは一度も外国の手に渡っていない「固有の領土」と強調している』、確かに「アイヌ民族」という先住民にまで遡れば、「国境」を超えて「アリュート、樺太アイヌ、北海道アイヌら、様々な民族が狩猟生活や物々交換などをしていた」、というのは動かし難い事実で、なかなか難しい問題だ。
・『ソ連の北方領土占領に米国が協力 なぜか後追いされない衝撃の事実  2017年12月30日の北海道新聞に「歴史の常識を覆す」報道があった。タイトルは「ソ連の北方四島占領、米が援助、極秘に艦船貸与、訓練も」というものだ。 概要は、1945年8、9月に行われた旧ソ連軍の北方4島占領作戦に、米国が艦船10隻を貸与していたというものだ。大量の艦船の提供だけではなく、ソ連兵の訓練も行ったといい、4島占領の背景に米国の強力な軍事援助があったことを示唆する内容だった。 ヤルタ会談の直後、連合国だった米ソは「プロジェクト・フラ」という極秘作戦を実施した。米国は45年5月から掃海艇55隻、上陸用舟艇30隻、護衛艦28隻など計145隻の艦船をソ連に無償貸与。ソ連兵1万2000人を米アラスカ州の基地に集め、1500人の米軍人が艦船やレーダーの習熟訓練を行った。 8月28日からソ連兵が攻め込んだ択捉、国後、色丹、歯舞の占領作戦には、米国に借りた艦船10隻を含む17隻が参加。ソ連軍は各島で日本兵の武装解除を行い、4島の占領は9月5日までに完了した。 記事には、和田春樹・東京大学教授が次のような談話を寄せている。 「北方4島を含むソ連の対日作戦を米国が軍事援助していたことは、日本ではほとんど知られておらず、発見と言える。ソ連が勝手に行ったのではなく、米国をリーダーとする連合国の作戦だったことを示す」 日本がポツダム宣言を受諾して降伏した後に、ソ連は日ソ中立条約を破棄して千島列島を南下、樺太からのソ連軍は米軍がいないことを確認して、択捉、国後島、歯舞群島、色丹島に侵攻したという「常識」を覆す話だ』、「ソ連の北方領土占領に米国が協力」というのは、全くの初耳だが、驚くべき話だ。日本のマスコミが政府を「忖度」して、この事実を無視しているとすれば、恥ずべきことだ。
・『ソ連が樺太南部と千島列島での作戦に投入した全艦船を調べた、ロシア・サハリン州戦勝記念館のイーゴリ・サマリン科学部長の論文を、同紙根室振興局が入手した。調査を主導した谷内紀夫前副局長は、「ボリス・スラビンスキーの著書『千島占領・一九四五年夏』(1993年)には、この経緯の一端が出ているが、話題にならなかった」と言う。 記事を見た千島歯舞諸島居住者連盟の宮谷内亮一・根室支部長は、「驚いた。ソ連の占領に関わっていたのなら領土問題はアメリカにも責任がある」と話す。旧島民も初耳の人は多い。一方、連盟の脇紀美夫理事長(元羅臼町長)は、「日本が降伏しているのに攻めて占領したソ連に対して、当時、アメリカが強く非難したということは聞かないから、米国のソ連軍支援は十分考えられる」と話す。 日本政府が「米軍の援助」を知らなかったはずはないが、冷戦下、米国とともに反ソ感情を煽るためにも都合の悪い事実だった。納沙布岬にある北方館の小田嶋英男館長も「ソ連は当時、連合国の一員なのでおかしくはない。引き揚げてきた人は国籍不明の船を見たとか、ロシアの船ではないと話していた。でも、ソ連軍の4島の占領にアメリカが関わった歴史を出さない方がいい、ということだったのでしょう」と推測する。 事実は北海道新聞の報道後、釧路新聞と根室新聞が報じたが、全国紙は無視した。中央メディアも外務省などに問い合わせはしたはずだ。米国に追従する安倍政権に「忖度」したのなら、情けない話だ。現代史の中で語られる出来事は、今の政治に直結しているケースが多いため、こうしたことは多い。日露首脳会談のときだけ賑やかになる北方領土問題も、その実、4島をめぐる現代史の根本事実すら国民には知らされていない』、こんなことでは、「北方領土問題」の解決など夢のまた夢だ。
・『一般人が島へ行くことはできるか?「渡航禁止」にも矛盾はらむ外務省  さて、こうした複雑な歴史を持つ北方領土だが、日本人が島を訪れることはできるのか。結論から言えば、行けないことはないものの、一般人が訪れるのはなかなか困難だ。 時代を遡れば、1989年4月、北海道新聞がメディアとして戦後初めて北方領土、国後島の上陸取材を報じた。まだソ連時代でロシア人でも簡単には入れなかった。歴史的快挙だ。 当時、筆者が親しくしていた札幌領事館のイワノフという副領事(日本語が堪能だった)は、「あんなところに大した秘密も何もないんです。日本のような発展した国の人に、あんな遅れた場所を見せたくないんですよ」と話した。 残留日本人や韓国人などの取材でサハリンに通っていた筆者は、自然やロシア人の素朴さには魅かれたが、「何と後れた場所か、1世紀前に戻ったようだ」と感じていた。戦後初めて故郷を再訪した引揚者の女性も、「ロスケ(筆者注:ロシア人。必ずしも蔑称ではない)は何してたのよ。日本時代の方が進んでたわ」と呆れていた。 ソ連社会の中で、極東地方はモスクワから見放された地域。筆者は「サハリン本島でこれなら、北方領土(同じくサハリン州)なんてどんなに原始的か」と感じていたので、イワノフ氏の話は納得できた。 1992年に「ビザなし交流」が始まった。4島交流、墓参り、自由訪問などがあるが、誰でも行けるわけではない。元居住者(子孫を含む)、返還要求運動関係者、報道関係者、学者などの専門家に限定される。日本政府は一般人の渡航を自粛するように求めている。「旅券や査証を取っての上陸はロシアの領土であることを認めてしまう」というのが言い分だ』、日本政府の言い分は苦しい言い訳に過ぎない。
・『ソ連に億単位のカネを払って北方領土の海域で漁をさせてもらう  とはいえ、北方領土や領海をめぐっては、政府とて「建前と本音」の狭間で矛盾だらけ。たとえば、一時期の中断を含めて1960年代から続く夏場の「貝殻島の昆布漁」は、ロシアに億単位の入漁料を払って北方領土の海域で昆布漁が続く。「日本固有の領土、領海」なら金を払うのは明らかにおかしいが、漁民救済の一助として止むを得ないのだ。 旅券、ビザで上陸した北海道新聞の記事をきっかけに、1990年代はピースボートなど様々な団体が旅券を取って、サハリン経由で北方領土へ渡っている。政府とて、こうした行為を日本の法律で取り締まることはできない。 1988年、アイヌ民族の男性が「国後のアイヌと共同事業をする」と言い、北海道水産部の制止を振り切って小舟で国後島へ渡った騒動があった。仲間と「ウタリ合同」というソ連との合弁会社を立ち上げて、色丹島海域で大量のカニを水揚げしてきた。北方領土を外国と認めてしまうことになる。結局、北海道海面漁業調整規則違反に問われ、国内法がソ連の実効支配海域に及ぶか どうかが最高裁まで争われたが、「及ぶ」と認定され、有罪となった。 検疫も税関も無視だから、戻れば検疫法違反や関税法違反などに問われる可能性があった。しかし、そうすると「北方領土を外国と認めてしまう」ことになるためか、その男性の罪は問われなかった。政府としても「痛し痒し」だったのだ。 日本人にとって「近くて遠い」北方領土――。返還を唱えるならば、まずはかの地を取り巻く状況がどうなっているのかを、日本人一人ひとりが深く知ることから始めるべきではないか』、マスコミは不都合な事実を含めて広く関連した情報を公開すべきだろう。

次に、6月11日付け日刊ゲンダイ「北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/255786
・『いつまで“外交の安倍”の幻想を振りまくつもりなのか。自民党は参院選公約のトップに「外交・防衛」を掲げ、「力強い外交・防衛で、国益を守る」とうたっているが、7年に迫ろうとする安倍政治で国益はむしろ失われる一方だ。ロシアとの平和条約締結交渉が暗礁に乗り上げる中、ロシアは北方領土の実効支配を強めている。 ロシアは国後、択捉両島の軍事拠点化を進め、色丹島では経済開発を進めている。色丹と歯舞群島は、1956年の日ソ共同宣言で平和条約締結後の日本への引き渡しが明記されているにもかかわらず、である。色丹島では7月中旬にもロシア資本の水産加工場が稼働するという。延べ床面積約7750平方メートルにのぼり、マイワシやサバ、スケトウダラを冷凍の切り身などに加工。日量900トンの処理能力を持ち、同じ敷地にある既存工場の日量200トンを合わせると、ロシア最大級となるという。 日ロは先月末、日本が3000億円規模で投資する北方領土での共同経済活動の早期具体化を外相会談で合意したばかりだ。河野外相とラブロフ外相による会談は、平和条約締結に向けた交渉責任者として4回目の協議だったが、こちらは成果なし。ロシアの関心が高い共同経済活動の調整を急ぎ、海産物の養殖、温室野菜の栽培、観光ツアー開発、風力発電の導入、ごみ減らし対策――の5項目の実現促進を確認した』、「ロシアは北方領土の実効支配を強めている」、のは確かで、日本は経済協力だけをタダでさせられているとの懸念が拭えない。
・『オイシイ資源はロ中で分配  筑波大教授の中村逸郎氏(ロシア政治)は言う。 「北方領土は漁業資源の宝庫。色丹島には中国資本の缶詰工場なども展開し、オイシイところはすでにロシアと中国が分け合っています。漁業をめぐって日本側にうまみがあるのは販路が広いコンブやサケ、カニなどですが、中国が権益を握っているため、袖にされてしまった。代わりにウニの養殖が振り分けられたわけですが、これは中国人がほとんどウニを食べないためです。ウニの養殖にしたって、技術提供がメインで加工工場を運営できるわけではない。その上、販売先は日本ですから、日本は支援させられるだけで、カネはロシアに落ちるという青写真なのです」 共同経済活動の具体化に向けた外務省の局長級作業部会が11日、都内で開かれるというが、ロシアの食い物にされるだけなのは目に見えている』、「オイシイ資源はロ中で分配」というのでは日本は「ロシアの食い物にされるだけなのは目に見えている」、これが「外交の安倍」の実態のようだ。

第三に、7月2日付けダイヤモンド・オンライン「三井物産が出資するロシア巨大LNG、その命運を握る「黒い金庫番」の正体」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/207369
・『三井物産がロシアのLNGプロジェクトに出資することを決めた。このプロジェクトに懸ける三井物産の安永竜夫社長の思いと、三井物産の命運を握る男の正体に迫った。 6月6日からロシア・サンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラム。ロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席といった超大物が顔を揃える中、三井物産の安永竜夫社長の姿があった。 ロシアの民間ガス大手ノバテクが北極圏で計画する液化天然ガス(LNG)プロジェクト「アークティックLNG2(アーク2)」へ出資判断の期限が迫っていた。 同じくアーク2への出資要請を受けていた三菱商事の垣内威彦社長の姿はなかった。アーク2に対する三井物産と三菱商事のスタンスの違いが明確に表れていた。 三井物産と政府出資の独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は6月29日、アーク2に出資することを決めた。出資総額は3000億円超で、その出資割合は三井物産が25%、JOGMECが75%となる』、「三井物産」にすれば、リスクの75%はJOGMECが負うので割が良さそうに思えるが、三菱商事が乗ってこなかった裏には理由があるのだろう。
・『思惑絡み、安倍首相とプーチン大統領の前で署名式  アーク2は2023年から年間約2000万トンのLNGを生産する予定の巨大プロジェクトだ。このプロジェクトは日本、米国、ロシアそれぞれの政府の思惑が絡み、極めて政治色が濃いと業界関係者は見ている。 G20サミット(20ヵ国・地域首脳会議)に合わせた日ロ首脳会談後、安倍晋三首相とプーチン大統領の前で署名式が行われたことがそれを物語っている。 シェール革命の恩恵を受けた米国のトランプ政権は、世界のLNG市場で覇権を握ろうとしている。それに対抗するかのように、豊富な天然ガスの埋蔵量を誇るロシアは、アーク2をはじめとする北極圏のLNGプロジェクトで米国の同盟国に揺さぶりをかけている。 アーク2にはすでにノバテク(注)が6割、仏メジャーのトタールが1割、中国海洋石油集団(CNOOC)が1割、中国石油天然気集団(CNPC)の子会社が1割、それぞれ出資することが決まっていた。ノバテクは三井物産、三菱商事に出資を要請し、回答を待っていた。 日本側にも思惑があった。6年以上の長期政権となり、後世に評価されるレガシーをつくりたい安倍晋三首相は、北方領土返還を含む日ロ平和条約の締結に向け、日本企業のアーク2への出資を交渉カードとして切る準備をしていた。だから三井物産と三菱商事の出資を“援護射撃”するかたちで、JOGMECはアーク2に出資を決めたのである。 三井物産と三菱商事は事業性を見極めるだけでなく、政府の思惑も意識しなければならなかった。悩みに悩む三井物産、三菱商事の足下を見て、ノバテクはG20サミット(20ヵ国・地域首脳会議)が開かれる6月末を出資への回答期限とした。もともと出資に前向きだった三井物産は、それに応えた。三菱商事は引き続き、出資の検討を続ける模様だ。 LNGプロジェクトは、数十年にわたって投資を回収する息の長い事業である。物産は大きなリスクを抱えながら、プロジェクトを完遂させていくことになる。このアーク2には、成否の鍵を握り、リスク要因ともなる、キーマンが存在する』、「ノバテク」とは、ロシアの独立系天然ガス生産・販売会社。天然ガス生産量はガスプロムに次いでロシア国内2位。主要株主はプーチン大統領の旧友でもある石油トレーダーのゲンナジー・チムチェンコ(後述)の所有するルクセンブルクのファンド、ヴォルガ・リソーシーズで、同社株の20.77%を保有する。次いでガスプロムが10%の株式を保有(Wikipedia)。
・“黒い金庫番”は米国の制裁対象  キーマンとなる男の名はゲンナジー・ティムチェンコ。プーチン大統領の“黒い金庫番”と呼ばれ、ロシアのクリミア半島併合をきっかけに始まった米国の経済制裁対象に指定されている。 ティムチェンコ氏は急成長を遂げたノバテクを支えたとされ、ノバテクの株を23%超保有する大株主で、取締役も務めている。米経済誌フォーブスの19年の億万長者リストに名を連ね、保有資産は2.2兆円にも上る。 ティムチェンコ氏とプーチン大統領の関係は、プーチン大統領がサンクトペテルブルク市長を務めていた1990年代から始まったとされる。ティムチェンコ氏はサンクトペテルブルクの柔道クラブを創設し、プーチン大統領はその柔道クラブの名誉総裁を務めている。 ティムチェンコ氏は石油トレーダー業の発展に力を入れ、2000年に石油貿易会社のグンヴォルを設立。ロシア産原油の輸出を手掛け、世界第4位の石油トレーダーに成長した。ロシア国内の製油所やパイプラインの建設も引き受け、巨万の富を築いた。 さらに2007年、ルクセンブルクに投資基金「ヴォルガ」を設立し、ノバテクに出資。ノバテクは北極圏のLNGプロジェクトで急成長を遂げた』、「“黒い金庫番”は米国の制裁対象」、でプーチン大統領とは腐れ縁もありそうな人物のようだ。
・『プーチンが退任すれば、キーマンの地位も危うい?  グンヴォル、ノバテクの急成長の陰には、いずれもプーチン大統領の後押しがあったとされている。アーク2を含むノバテクが手掛ける北極圏のLNGプロジェクトは、ロシア政府の補助金や免税措置によって“げた”を履かされている。 米政府はティムチェンコ氏がプーチン大統領の資金源になっていると断定し、民間人ながら制裁対象に加えたのである。 権力闘争が激しいロシアでティムチェンコ氏の隆盛がいつまでも続くか見通せない上、プーチン大統領が退任すれば、ティムチェンコ氏の地位も危うくなる可能性は小さくない。業界関係者は「プーチンの後はプーチンとも言われるが、永遠には続かないはずだ。プーチンがいなくなれば、ノバテクは厳しい立場に追い込まれるに違いない」と指摘する。 物産がアーク2に出資するのは、米政府による経済制裁、ロシアの政策変更のリスクを負うことを意味するわけだ』、三井物産はずいぶん思い切ってリスクを取ったものだ。
・『前のめりになる三井物産社長の思い  三井物産にすれば、ノバテクもティムチェンコ氏についても、大きなリスクがあるのは重々承知の上での判断だ。なぜ、そこまでしてアーク2に賭けたのか。 「サハリンで苦労した安永さんは、ロシアにはよほどの思い入れがある」と三井物産関係者は明かす。 サハリンとは、ロシアの国営ガス会社であるガスプロムが極東で手掛け、物産も参画したLNGプロジェクト「サハリン2」を指す。安永社長は、このサハリン2の事業立ち上げや最終投資決定に携わっていた。 2007年、パイプライン建設をめぐる環境問題をきっかけに、三井物産は上流権益をガスプロムに譲渡せざるを得なくなった。 だからこそ、安永社長には前のめりになってでも、ロシアのプロジェクトを成功させたい思いがあるという。 三井物産はこれまで世界のLNGビジネスを牽引してきた。アーク2に参画することはそのプレゼンスを示す絶好のチャンスでもあり、需要が縮小する日本以外でLNG市場を開拓する物産の戦略に合致する。 物産関係者によれば、アーク2で生産されたLNGの多くは欧州やアジア市場に向かうとされ、物産が二つの市場にさらに食い込むきっかけになるという。 トップ自らが賭けたプロジェクトは果たして吉と出るか、凶と出るか』、三井物産で思い出されるのは、1973にイランで始めたイラン・ジャパン石油化学(IJPC)プロジェクトである。イラン革命、イラン・イラク戦争などを経て、85%まで工事が完成しながら、1988年に合弁事業を解消。プロジェクト総額6000億円のうち、日本側損失は3000億円超とされた。
https://www.nikkei.com/article/DGKDZO57831850X20C13A7TY8000/
無論、三井物産にはその教訓が生きており、二の舞を踏むことはないだろうが、やはり気になるプロジェクトだ。日本・ロシア関係も安倍政権が考えるほど簡単には行かないのではなかろうか。
タグ:日刊ゲンダイ ダイヤモンド・オンライン 日本・ロシア関係 粟野仁雄 (その8)北方領土6(北方領土「日本人が知らない」真実 占領の黒幕・返還交渉の矛盾、北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”、三井物産が出資するロシア巨大LNG その命運を握る「黒い金庫番」の正体) 「北方領土「日本人が知らない」真実、占領の黒幕・返還交渉の矛盾…」 ロシアにとっては「南方領土」 北方領土は、北から択捉島、国後島、並列する歯舞諸島と色丹島の「4島」 開国時にロシアだけは友好な態度だった 「日露和親条約」 国境線が得撫(ウルップ)島と択捉島の間とされ、樺太は「日露混住の地」となる 「千島樺太交換条約」で、樺太は全島がロシア領、千島列島すべてが日本領となる 日露戦争で日本が勝利し、1905年に「ポーツマス条約」で樺太の南半分が日本領となる。これはロシア人にとって大変な屈辱 ポツダム宣言受諾後 ソ連軍が、満州、樺太、北方領土へ侵攻 その後、色丹島などでは2年間ほど日露混住の時代もあった 最終的に4島から日本人すべてが追われた サンフランシスコ平和会議での失態 批准国会で野党議員に「放棄した千島に国後や択捉を含むのか」と訊かれた西村熊雄条約局長が、「含む」と答えてしまったのだ 外務省は、「サ条約にはソ連が参加していないから、ロシアのものとされたわけではない」としている 「日ソ共同宣言」 平和条約締結後に、色丹島と歯舞諸島は日本に引き渡すとされた」 平和条約を結べないまま、世界は冷戦時代に突入 日本を自由主義陣営に引き込みたい米国のダレス国務長官が、「歯舞・色丹の返還を目指してソ連と平和条約を結ぶなら、沖縄を永久に占領する」とした有名な「恫喝」が大きな楔だった 1960年の日米安保条約延長でソ連は態度を硬化し、「領土問題は解決済み」とされる 日本は何度も好機を逃してきた 忘れられがちな史実 本当の先住民は誰だったのか 国境という観念も希薄だったその昔、千島列島ではアリュート、樺太アイヌ、北海道アイヌら、様々な民族が狩猟生活や物々交換などをしていた ソ連の北方領土占領に米国が協力 なぜか後追いされない衝撃の事実 旧ソ連軍の北方4島占領作戦に、米国が艦船10隻を貸与していたというものだ。大量の艦船の提供だけではなく、ソ連兵の訓練も行ったといい、4島占領の背景に米国の強力な軍事援助があったことを示唆する内容 米ソは「プロジェクト・フラ」という極秘作戦を実施 米国は45年5月から掃海艇55隻、上陸用舟艇30隻、護衛艦28隻など計145隻の艦船をソ連に無償貸与。ソ連兵1万2000人を米アラスカ州の基地に集め、1500人の米軍人が艦船やレーダーの習熟訓練を行った ソ連兵が攻め込んだ択捉、国後、色丹、歯舞の占領作戦には、米国に借りた艦船10隻を含む17隻が参加。ソ連軍は各島で日本兵の武装解除を行い、4島の占領は9月5日までに完了した ソ連が勝手に行ったのではなく、米国をリーダーとする連合国の作戦だったことを示す ロシア・サハリン州戦勝記念館のイーゴリ・サマリン科学部長の論文 『千島占領・一九四五年夏』(1993年) 事実は北海道新聞の報道後、釧路新聞と根室新聞が報じたが、全国紙は無視した 一般人が島へ行くことはできるか?「渡航禁止」にも矛盾はらむ外務省 元居住者(子孫を含む)、返還要求運動関係者、報道関係者、学者などの専門家に限定 日本政府は一般人の渡航を自粛するように求めている。「旅券や査証を取っての上陸はロシアの領土であることを認めてしまう」というのが言い分だ ソ連に億単位のカネを払って北方領土の海域で漁をさせてもらう 「北方領土での共同経済活動 日本がつかまされた“残りカス”」 ロシアは北方領土の実効支配を強めている ロシアの関心が高い共同経済活動の調整を急ぎ、海産物の養殖、温室野菜の栽培、観光ツアー開発、風力発電の導入、ごみ減らし対策――の5項目の実現促進を確認した オイシイ資源はロ中で分配 ロシアの食い物にされるだけ 「三井物産が出資するロシア巨大LNG、その命運を握る「黒い金庫番」の正体」 アークティックLNG2(アーク2) 出資総額は3000億円超で、その出資割合は三井物産が25%、JOGMECが75%となる 思惑絡み、安倍首相とプーチン大統領の前で署名式 “黒い金庫番”は米国の制裁対象 ゲンナジー・ティムチェンコ プーチンが退任すれば、キーマンの地位も危うい? 前のめりになる三井物産社長の思い 安永社長は、このサハリン2の事業立ち上げや最終投資決定に携わっていた。 2007年、パイプライン建設をめぐる環境問題をきっかけに、三井物産は上流権益をガスプロムに譲渡せざるを得なくなった イラン・ジャパン石油化学(IJPC)
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日韓関係(その5)(燃え上がる日韓対立 安倍の「圧力外交」は初心者レベル、GSOMIA破棄 日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国、韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法) [外交]

日韓関係については、7月15日に取上げた。今日は、(その5)(燃え上がる日韓対立 安倍の「圧力外交」は初心者レベル、GSOMIA破棄 日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国、韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法)である。

先ずは、東京在住ジャーナリストのウィリアム・スポサト氏が8月8日付けNewsweek日本版に寄稿した「燃え上がる日韓対立、安倍の「圧力外交」は初心者レベル」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/08/post-12729_1.php
・『<米FP特約=戦後、地政学的な「お人好し」と言われてきた経済第一の日本の外交方針を、安倍は貿易を政治の武器にするトランプ流に変えたようだ。ただし、まだまだ未熟なために問題を悪化させている> 激しさを増す日韓の経済対立は、不安定な世界経済にとって厄介な問題というだけでなく、日本が外交のやり方を変えつつあることも示唆している。日本は戦後、地政学的な「お人好し」と見られてきた。論争が起こると、経済とビジネス上の利益を最優先し、政治的には譲歩を促すことで解決を図ってきた。だが安倍晋三首相は、それを変えようとしているようにみえる。ただし、新しい方法にはまだまだ不慣れのようだ。 <参考記事>輸出規制への「期待」に垣間見る日韓関係の「現住所」 今回の日韓対立の発端は、日本政府が下した、少なくとも表向きはテクニカルな2つの判断だった。日本政府は7月4日、3種類の半導体材料について、韓国への輸出審査を厳格化する措置を取った。これらの材料は、サムスン電子やSKハイニックスなど韓国の半導体大手が主に日本から調達してきた。 韓国はこれに対して、電子製品のサプライチェーンに混乱をもたらす恐れがあると抗議。だが日本政府はさらに8月2日、韓国をいわゆる「ホワイト国」のリストから除外することを閣議決定した。ホワイト国とは、大量破壊兵器などに転用されるおそれのある戦略物資について適切な管理を行っていると見なされ、手続き上優遇されている27カ国を指す。 <参考記事>韓国・文在寅大統領は日本との関係には無関心?』、「日本は戦後、地政学的な「お人好し」と見られてきた。論争が起こると、経済とビジネス上の利益を最優先し、政治的には譲歩を促すことで解決を図ってきた。だが安倍晋三首相は、それを変えようとしているようにみえる。ただし、新しい方法にはまだまだ不慣れのようだ」、というのは手厳しい批判だ。
・『韓国はWTOに提訴も  韓国はこれらの戦略物資について、第三国への横流しを防ぐための適切な対策を取っていないと、日本政府は繰り返し主張してきた。複数のメディアが実際に北朝鮮に流れた可能性を報じているが、情報筋は中東に流れた可能性を指摘している。日本政府はまた、この問題について少なくとも数カ月前から韓国側に対話を申し入れてきたものの、そのたびに拒絶されたと怒りを込めて主張した。 韓国政府はこれを否定し、日本政府のやり方を強く非難。この問題を、対北朝鮮制裁の監督を行っている国連に持ち込む計画のほか、WTO(世界貿易機関)の規範にも背いているとして、WTOへの提訴の準備を進めると強調している。市民レベルでも、日本製品の不買運動や日本旅行のキャンセルなどの日本ボイコット運動が広がっている。 <参考記事>日本政府、韓国をホワイト国から除外 文在寅「今後の展開はすべて日本の責任」 一連の問題の背景には、第2次世界大戦中に日本企業が韓国人を強制的に動員して重労働に従事させたといういわゆる徴用工問題で、韓国に圧力をかけたい日本側の思惑がある。事の発端は2018年10月、韓国大法院(最高裁)が、日本企業に元徴用工への損害賠償支払いを命じたこと。日韓が1965年の国交正常化に際して日韓請求権協定を結び、韓国に5億ドルの経済支援を行ったことで、この問題は既に解決済み、というのが日本側の認識だった。 日本政府に近い筋によれば、安倍は徴用工問題に苛立ちを募らせており、韓国に譲歩を迫るための武器を探していた。そして、しばらく前から問題視されていた対韓輸出の問題に目をつけると、経済産業省の管轄だったこの問題を、大きな力を持つ首相官邸が引き継いだ。その結果は、芳しくない。 安倍の行動は、貿易を政治の武器に使うドナルド・トランプ米大統領のやり方と様々な意味で似ていると言われる。7月の一連の政府発表が、声明とその出し直しと戦略変更のミックスである点、まさにトランプ流だ。 こうした類の発表を行う際には、少なくとも自らの主張を裏づける証拠や、メディアや外交関係者への背景説明、それに最も重要なこととして、何が起こっているのかについての明確で一貫性のある説明が必要だ。一貫性を保つため、情報はすべて一つのオフィスを通して発表し、コメントは一人の代表者が行うべきだ。最後に、予想外の展開(その筆頭が日本製品の不買運動だろう)に備える緊急対応策も用意しておく必要がある。 だが今回の日本政府の対応はこの基本を押さえておらず、政府当局者たちは矛盾した声明や曖昧な発言を繰り返した』、その通りだ。日本のマスコミが、安倍政権に「忖度」して、批判を控えているのは残念だ。
・『徴用工判決の報復と認めた安倍  日本政府の基本的な主張は、きわめて実務的なものだ。日本側としては、どの輸出国にも認められている権利として、サプライヤに「今後は個別の出荷ごとに政府の承認が必要になる」と通告しているのだと説明ができる。既に(アメリカと並ぶ)最大の貿易相手国である中国に対しても同じシステムを導入しているが、明らかな悪影響はみられないことも説明できたはずだ。中国も、メモリーチップの生産が盛んな台湾も、日本のホワイト国リストには含まれていない。 かなりの反発を想定して、備えもしておくべきだった。サムスン電子の売上高は、韓国のGDPの約15%を占めている。主要事業に脅威が迫れば、どんな政府だって抵抗するはずだ。だが韓国政府の反応に直面して、日本政府は揺らいだ。世耕弘成経済産業相は、輸出管理は国の安全保障のためだと技術的な側面を強調しているが、政権幹部は彼が否定している徴用工訴訟への報復疑惑を裏付けるような発言をしている。 菅義偉内閣官房長官は、輸出管理は「国の安全保障上の理由」だとしながらも、韓国が「20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)までに、徴用工問題について満足する解決策を示さなかったことで、信頼関係が著しく損なわれた」という考えをちらつかせた。 政府が安全保障上の理由を前面に出し始めた直後に、安倍は再び歴史問題を持ち出した。元徴用工訴訟の最高裁判決への対応で「韓国は国と国との約束を守らないことが明確になった。貿易管理において、守れないと思うのは当然ではないか」と報道番組で語ったのだ。 安倍と菅が、経済に及ぼすダメージの規模を予想していたかどうかは分からない。韓国で180以上の店舗を展開する日本のアパレル大手ユニクロは、韓国市民の不買運動の直撃を受け、デパートなどの売り場で売り上げが30%近く減少した。韓国では外国産ビールのなかで日本産ビールがダントツの人気を誇っていたが、スーパーやコンビニの棚から日本の銘柄が姿を消し、アサヒなど日本のビール大手は痛手を受けている。韓国の旅行会社によると、ここ数週間に日本を訪れる韓国人旅行者は半減したという。昨年日本を訪れた韓国人旅行者は750万人。今やインバウンド客は日本の景気底上げに大きく貢献しているが、なかでも韓国人客は最大のお得意さまだった』、確かに、安倍政権内の説明の不整合さは目に余る。これでは、国際的にも「モノ笑いの種」を提供してしまったようだ。
・『「韓国は大げさに騒ぎすぎ」  日本は昨年、対韓輸出で200億ドル前後の黒字を計上した。これは対米輸出に次いで2番目に大きい貿易黒字だ。だが文大統領は8月2日にテレビで生中継された緊急国務会議で、「2度と日本に負けない」と宣言。日本と経済戦争に突入したとの認識を明確に示した。 一方で、日韓双方とも経済的な打撃は最小限で済むとの見方もある。韓国企業に引き続き購買意欲があればだが、日本政府の措置で輸入できなくなる物品はほとんどないと、米金融大手ゴールドマン・サックスは指摘する。また、貿易が活発なわりに、日本企業の韓国への直接投資は少なく、日本企業の中長期的なリスクは限定的だ。日本銀行の2018会計年度の統計によると、日本企業の韓国向け投資は、グローバルな対外投資の2.3%を占めるにすぎず、対米投資のおよそ10分の1にすぎない。 日本の財界は日韓の摩擦について沈黙しており、潜在的なコストにもかかわらず、安倍政権の取った措置を概ね支持しているようだ。経済同友会の桜田謙悟代表幹事は、経済界は日韓関係の早期の「正常化」を望んでいると、述べている。ある財界人は個人的な見解として、日本が先に強硬姿勢を取ったわけではないと語った。「韓国は大げさに騒ぎ立て、世界経済に与える影響について不正確な発言をしている」 中長期的には、日本企業にとっての懸念材料は、サムスンはじめ韓国企業が調達先を日本からより「信頼できる」ソースに切り替えるかどうか、だ。韓国政府は8月5日、日本への輸入依存を減らすため、研究開発に640億ドルを投じると発表した。だが研究開発には膨大な時間と資金がかかるため、韓国企業は日本の措置により実際にどれだけ輸出が制限されるかを冷静に見極めて、「脱日本」を進めるかどうかを決めるだろうと、専門家はみる。 不買運動や日本離れなど数々のリスクがあるにもかかわらず、安倍は譲歩する構えを見せていない。韓国の南官杓(ナム・グァンピョ)駐日大使を外務省に呼びつけた日本の河野太郎外相は、元徴用工問題で日韓が共同で財団を設立するという解決案を説明する南をさえぎり、日本政府は既にこの案を拒否したのに、「知らないフリをして、改めて提案するのは、極めて無礼だ」と、テレビカメラの前で叱りつけた。 河野の叱責のせいで、強硬に出たのは日本政府だという印象が強まった。南大使は文大統領の側近で、新たに就任した韓国大使として6月に朝日新聞の取材を受け、関係冷え込みを避けるために最善を尽くすのは外交官の務めであり、日韓関係の改善に尽力したいと穏やかに語った人物だ』、穏健な「南大使」にまで「テレビカメラの前で叱りつけた」河野外相も、外相失格だ。今日の朝日新聞によれば、立憲民主党・枝野幸男代表は、「河野外相の対応は韓国を追い込んだ。責任は大きい。これ、外務大臣、代えるしかないですね。この日韓関係を何とかするには。外交ですから、相手の顔も一定程度、立てないとできないのに、あまりにも顔に泥を塗るようなことばかりを河野さんはやり過ぎですね。筋が通っていることの主張は厳しくやるべきですよ。ですが、何も相手のプライドを傷つけるようなやり方でやるのは、明らかに外務大臣の外交の失敗でもあります」と手厳しく批判したようだ。
・『アメリカの仲裁は形だけ  皮肉にも、こじれた関係を立て直す仲介役として期待を託されたのがトランプ政権だ。だが、日韓両国を相次いで訪問したジョン・ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は持ち前の強硬姿勢を引っ込め、この問題には口出しを渋った。マイク・ポンペオ米国務長官も、ASEAN地域フォーラム出席のために訪問したタイの首都バンコクで日米韓外相会談を行なったものの、形ばかりの仲介にとどまり、河野と韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相の歩み寄りはかなわなかった。 次の展開として、韓国が日本と2016年に締結した「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」を破棄すれば、日本は北朝鮮がミサイルを発射しても韓国の情報は直接受け取れなくなるだけでなく、日韓の連携を前提としたアメリカのアジア太平洋戦略も深刻な痛手を被るだろう。それでも今のところアメリカは、日韓双方に「反省」を促すにとどまり、踏み込んだ仲裁を避けている。 参院選で控えめな目標ラインを大幅に上回る議席を確保し、ホッとしたばかりの安倍だが、外交では厄介な状況に直面している。北朝鮮の核問題をめぐる交渉では事実上「蚊帳の外」に置かれ、北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)とは、拉致問題の解決など面会の条件をすべて白紙にして会談を目指すも相手にされず、米政府からは、ホルムズ海峡などの航行の安全確保のための「有志連合」参加と、日米貿易交渉の早期妥結に向け、やいのやいのと圧力をかけられている。 おまけに、中国とロシアが狙い澄ましたように手を組み、日米韓同盟に揺さぶりをかけている。中ロは日本海と東シナ海で合同演習を実施。韓国が実効支配し、日本が領有権を主張する竹島の領空をロシア軍機が侵犯した。次は、日本が支配し、中国が領有権を主張している東シナ海の尖閣諸島でも挑発行動を取りかねないと警戒する声もある。強気の外交には危うさがつきものだ。お人好し外交は実は得策であり、ビジネスに政治を持ち込むのは邪道だったと、安倍は後悔することになるかもしれない』、やはりトランプの真似には無理があったようだ。GSOMIAはその後、破棄されたが、これについては、次の記事を参考にされたい。

次に、元自衛艦隊司令官(海将)香田洋二氏が8月26日付け日経ビジネスオンラインのインタビュー応じた「GSOMIA破棄、日米韓“疑似”同盟を打ち壊す韓国」を紹介しよう(Qは聞き手の質問)。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/082300090/?P=1
・『GSOMIAは日韓の軍事関係における唯一の協定だ。海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた香田洋二氏は、韓国がこれを破棄したことで「日米韓の『疑似』3国同盟が大打撃を受ける」と指摘する。朝鮮半島有事における米国の行動を非効率にしかねない。韓国は、8月14日に防衛戦略を改定し、F-35Bを搭載する軽空母を国内建造する意向などを明らかにした。香田氏は「これにも警戒を要す」という。 Q:韓国が8月22日、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めました。この重要性と今後の影響についてうかがいます。まず、GSOMIAとはどのような協定なのか教えてください。 香田:お互いから得た情報を第三国・第三者に流さない、という取り決めです。細かい部分では、手渡し方法とか保管方法も定めています。例えば二重封筒に入れて保管するとか。これによって日韓両国が安心して情報を共有することができます。締結前よりも機密度の高い軍事情報をやりとりできるようになりました。 Q:日韓が情報を「直接」やりとりできるようになるという説明もありますね。 香田:そういう面もあります。従来は、米国がハブになってサニタイズをして情報を伝達していました。サニタイズとは、米国が韓国から得た情報を、韓国発と分からないようにして、もしくは一般情報として日本に伝えることをいいます。もしくは、サニタイズを経て、日本発の情報を韓国に伝える。 しかし、日本が得たい情報と米国が得たい情報は異なります。GSOMIAがあると、日本が必要とする情報を韓国から直接得られるようになります。 以前に北朝鮮が“人工衛星”を真南に打ち上げたことがありました。日本は当時、発射後しばらく追尾することができませんでした。一方、韓国は発射後しばらくの情報は捕捉していたものの、それ以降の情報は得られなかった。両国間では、それぞれの情報を交換するのかどうかすら決まっていませんでした。GSOMIAの下で、北朝鮮が発射する弾道ミサイルの軌道情報を交換することを決めておけば、両国がこの飛翔体の軌道の全体像を把握することができます。 2016年11月にGSOMIAを締結して以降、日韓で29回の情報交換がなされ、その多くが北朝鮮の弾道ミサイルに関するものでした。ただし、交換する情報の対象は弾道ミサイルに限るものではありません。北朝鮮が弾道ミサイルを発射する頻度を上げたため、これに関する情報交換が多くなりましたが、その時々の環境に応じて、交換・共有する情報の対象は異なります』、確かに、「米国がハブになってサニタイズをして情報を伝達」よりは、直接の情報交換の方が早いし、ニーズに合った情報交換が可能だろう。
・『日本の情報収集能力は自由主義諸国では米国に次ぐ  Q:韓国紙の報道によると、韓国内には「日本が提供する情報の有用性は低い」との見方があるようです。一方で、香田さんは破棄によって韓国が被るダメージの方が大きいとおっしゃっています。 香田:私は韓国が被るダメージの方が大きいと考えています。再び、ミサイル防衛システムを例に話をしましょう。韓国は自前のミサイル防衛システムを持っていません。イージス艦を運用していますが、これは弾道ミサイルを探知するための高性能レーダーは装備しているものの、迎撃用の対空ミサイルは装備していません。 注目されているTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)は在韓米軍が自らを守るためのもので、韓国軍が運用するものではない。 これに対して日本は、海上にはイージス艦を展開、地上にはパトリオットミサイルを配備して自前のシステムを構築しています。これは、米国を除けば、考え得る限りで最高の装備です。 Q:海上自衛隊はイージス艦を2020年度には8隻体制に拡充します。地上配備型のイージスシステムであるイージス・アショアについても、配備することを2017年12月に決定しました 香田:そうですね。つまり、ミサイル防衛システムを自前で行っていない韓国が、自前で運用している日本から、すぐにも使える形の情報を得られるわけです。これは大きいのではないでしょうか。 韓国が日本から得られる情報はミサイル防衛関連にとどまりません。情報収集のための体制は日本がずっと優れています。西側では、米国に次ぐものと言えるでしょう。日本は衛星を7つ運用しているの対し韓国はゼロ。P-1やP-3Cといった洋上哨戒機は日本が73機、韓国が18機。早期警戒管制機(AWACS)は日本が18機、韓国は4機です。日本の方が、「一日の長」ならぬ5日くらいの長があると言うことができる。 一方、北朝鮮に関する情報については、韓国が優れています。両国は地理的に近いですし、同じ民族で同じ言語を話すわけですから。 Q:日韓がGSOMIAを締結した2016年11月以前の状態に戻るだけ、という評価が一部にあります。 香田:私はそうは思いません。北朝鮮の状況が大きく変わっているからです。北朝鮮が弾道ミサイル発射の頻度を上げ、本気で暴れ出したのは2017年からです。 2015年までの弾道ミサイルの発射が15回で約32発なのに対して、2016年は1年間だけで15回で23発。さらに2017年は14回で17発でした。しかもICBM(大陸間弾道ミサイル)級のミサイルが増えています。米軍が北朝鮮を軍事攻撃する可能性が非常に強く懸念されました』、「日本の方が、「一日の長」ならぬ5日くらいの長があると言うことができる。 一方、北朝鮮に関する情報については、韓国が優れています」、というのでは、韓国軍にとっては、ダメージが大きいのではなかろうか。
・『韓国は同盟国として失格  Q:以上のお話しを踏まえて、韓国によるGSOMIA破棄の決定を香田さんはどう評価しますか。 香田:韓国はついにルビコン川を渡った、と理解しています。これは日本との情報の交換・共有を超えた意味を持つからです。 GSOMIAには3つの側面があります。第1は、これまでお話しした機密情報を交換・共有する実利的な側面。第2は、日米韓3国による疑似同盟の象徴としての側面。第3は、同盟関係にない日韓の軍と軍が交流するためのお墨付きとしての側面です。 第1の側面についてはこれまでにお話ししました。第2の側面について、朝鮮半島有事を考えてみましょう。韓国が単独で自国を防衛することはできません。米軍が重要な役割を果たすことになります。そして、米軍が力を発揮するためには、在日米軍基地およびそれを支えるインフラが欠かせません。水道水がそのまま飲める。基地の周囲で購入した糧食をそのまま兵士に提供できる。そんな環境は世界を見渡しても多くはありません。 このようなことは、威勢の良い安保論議では見過ごされがちですが、実際に兵士が命をかけて戦う戦闘を勝ち抜くための死活的要素としてのロジスティクスの意義なのです。つまり、米韓同盟は、日米同盟があってこそ機能する同盟なのです。 日米同盟と米韓同盟には本質的な違いがあります。日米同盟は米軍が世界展開するための基盤を成しており、単独でも存在し得ます。米国から見れば“黒字”の同盟と言えるでしょう。これに対して米韓同盟は北朝鮮に備えるという単目的の同盟で、米国から見れば軍事アセットの持ち出し、即ち“赤字”です。そして、日米同盟がないと機能しない。ここはドナルド・トランプ米大統領にも正確に理解してほしいところですが…… よって、日米韓は疑似的な3国同盟の関係にあるのです。このようなフレームワークの中で日韓関係が悪化し、日本が背を向けたらどうなるでしょうか。米国は米韓同盟によって韓国防衛の責任を負っているので、軍事作戦を展開しなければなりません。しかし、基地やインフラの使用に支障が生じれば、それが非常に非効率でやりづらいものになります。日本の協力が欠かせないのですが、日韓の間に軍事協力をする条約は存在しません。軍事面で唯一存在する協定がGSOMIA。したがって、これは日米韓の疑似同盟を保証する象徴的な存在なのです。 米国を苦境に追いやるような措置を文在寅(ムン・ジェイン)大統領は認めてしまいました。韓国の国益を考えたら、全閣僚が反対しても、GSOMIAを維持すべきでした。それなのに、文大統領は、米韓同盟よりも日韓問題の方に重きを置いたのです。 さらに言えば、米国よりも北朝鮮を選びました。 Q:北朝鮮の宣伝ウェブサイトが、GSOMIAを破棄するよう韓国に求める論評を掲載していました。その一方で、米国は「関係の正常化に向けて日韓が動き出してくれることを期待している」とさんざん求めていました。 香田:そうした中で韓国は、米国ではなく北朝鮮を選択したわけです。米国から見たら、同盟国として「失格」です。これが今後、どのような影響をもたらすのか注視する必要があります。 Q:マイク・ポンペオ米国務長官が「失望した」と述べました。同盟国に対するこうした批判は異例のこと、とされています。 香田:東アジア有事の際に、米国は意に反して非効率な対応を迫られるかもしれないわけです。なので、米国は日韓関係の正常化を日韓のために求めているのではありません。彼らの国益がかかっているのです。 「日本は米国の従属国である」とか「自衛隊は米軍のためにある」とか言われることがあります。なぜ、そのように見えることをしているのか。これは国益を考え、米軍の機能を100%発揮できる状態をつくり、日本の安全を守るためにしていることです。これこそが安全保障上の最大の国益と我が国は考えています。韓国も同じ発想で考えるべきです』、GSOMIAの破棄は、単に軍事情報の交換が出来なくなるだけでなく、「日米韓3国による疑似同盟の象徴としての側面」、「同盟関係にない日韓の軍と軍が交流するためのお墨付きとしての側面」にも大きな影響を与える広がりを持ったもののようだ。
・『日本なしに韓国は守れない  Q:韓国の防衛において、日本が非常に大きな役割を果たしているわけですね。 香田:その通りです。これまでお話ししたように日米韓は疑似的な軍事同盟の下で動いています。しかし、米国を中心とするアジアの安全保障体制は自転車の車輪におけるハブ&スポークに例えられます。米国がハブ。そこから伸びるスポークの先に日本がある。他のスポークの先に韓国やオーストラリア、フィリピンがいるわけです。このスポークに対して、GSOMIAは竹ひごくらいの存在でしかない。それでも存在するのとしないのとでは大違いです。 Q:先ほど、朝鮮半島有事の例をお話しいただきました。朝鮮戦争が勃発した時、ハリー・トルーマン米大統領(当時)は軍事介入を決め、在日米軍の出動を命じました。日本はまだ占領下にあったため、日本にある基地およびインフラを米軍や国連軍は日本人の意向に大きな意を払うことなく利用することができました。 しかし、今、朝鮮半島有事が起きても、同じようにはできません。在日米軍基地を使用するには日米間で事前協議が必要になるなど、日本の協力が不可欠となります。その日韓の軍事協力を保証する唯一の協定が破棄されたことになるわけですね。加えて、日本人の対韓感情が悪化している状況では日本の民間からの協力も得られません。 香田:そういうことです。我が国では、朝鮮戦争といえば戦後の荒廃した経済へのカンフル剤となった特需のことばかりが話題になりますが、朝鮮戦争を休戦にもっていけたのは、日本の基地とインフラ、そして工業力があったからです。 Q:第3の側面、自衛隊と韓国軍の交流についてはいかがですか。 香田:これまで両者の間でさまざまな交流が行われてきましたが、これが細っていくでしょうね。 Q:さっそく、その動きが始まりました。陸軍と自衛隊の幹部候補生が互いの国を訪問する交流の中止を韓国が申し入れたことが8月24日に報道されました。今年は韓国側が日本を訪問する番でした。 香田:そうですね。GSOMIAの破棄は、日韓関係においてUターンできない状況を作ることになったかもしれません。GSOMIAを維持し時間を稼いでいれば、いずれ貿易管理の問題を解決したり、歴史問題で合意をみたりする可能性があります。しかし、韓国はこの“土台”を蹴飛ばしてしまった。交渉の“ドア”を閉めてしまったのです』、「韓国はこの“土台”を蹴飛ばしてしまった。交渉の“ドア”を閉めてしまった」、というのは残念だ。
・『韓国は“冷戦クラブ”の準会員  香田:韓国によるGSOMIAの破棄が与える影響は、日米韓の関係にとどまらず、さらに広く影響を及ぼします。1つには、“冷戦クラブ”における韓国のプレゼンスが下がることでしょう。 Q:冷戦クラブですか。 香田:ええ。日本と米国、西欧諸国は共に冷戦を戦い、目に見えない冷戦クラブのメンバーとして強い仲間意識を持っています。しかし、韓国はこのメンバーに入れていません。軍関係の国際会議に出席すると実感できます。韓国は、国際社会において「冷戦を戦った」とはみなされていないのです。 米韓同盟と日韓GSOMIAがあるので、かろうじて準会員として遇されるようになりました。GSOMIAを破棄したことで、再び元の立場に戻ることになると思います。 Q:日本の自衛隊は冷戦時代、国外で活動することが難しい状況にありました。一方の韓国軍は冷戦下で行われた米ソの代理戦争であるベトナム戦争に参加しています。それなのに、世界は日本の担った役割を重視しているのですね。 香田:冷戦時代、旧ソ連という"大きな熊"の利き腕である右手と右足はNATO(北大西洋条約機構)を押さえていました。そして、左手と左足は日米同盟が押さえていた。この間、韓国はソ連に対峙していたわけではありません。北朝鮮は強い牙を持った猛獣ですが、これとの戦いは戦史において冷戦には入らないのです。韓国はこの点に気づいてないかもしれません』、“冷戦クラブ”とは初耳だが、「韓国はソ連に対峙していたわけではありません」ので、正式のメンバーではないというのも納得した。
・『米ロの核戦略にも影響が及ぶ  Q:日米韓疑似同盟の劣化は、対中国、対ロシア、対北朝鮮でどのような影響が出てくるでしょう。 香田:ロシアは今、極東で戦略核の増強を進めています。超大国
として唯一、米国と張り合えるこの分野で、米国と対等の存在になろうとしている。そのため、カムチャツカ半島東岸のペトロパブロフスク基地に第2撃*用の戦略原子力潜水艦の配備を進めています。これを防護するため、北方領土と千島列島にミサイルの配備を進めているのです。ロシアとしては、“聖域”であるオホーツク海に米国の潜水艦や対潜部隊を入れるわけにはいきません。 *:核兵器を使った戦争において、相手国からの先制攻撃によって第1撃用の核戦力を失った場合、第2撃用の核戦力で報復を図る Q:ロシアは2016年、国後島に地対艦ミサイル「バル」を配備すると決定しています。 香田:そうですね。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が日本との北方領土交渉において強硬な態度を取る理由の1つはここにあります。日本がイネイブラー*になっては困るのです。つまり、日本が北方領土を取り戻すために“善意”でとる行動が、米国を利することになっては困る。 *:「イネイブリング」とは、良かれと思ってやったことが、かえって問題を悪化させること こうした環境において、日本と韓国との関係が悪化し、それによって米国が難渋することになれば、ロシアにとっては願ってもないことです。将棋でいえば、桂馬もしくは銀を取るくらいの価値があるでしょう。飛車や角とまでは言いませんが。 カムチャツカ半島と千島列島を挟んで米ロがにらみ合いになった場合、米国は当然、中国の動向を気に掛けます。本来なら韓国が第1列島線*の中で、黄海における情報を収集し、米国や日本に提供・共有することになります。韓国が背を向けたら、米軍は自らの部隊の一部を割いて情報収集に当たらなければなりません。日韓関係がうまく機能しないと、疑似3国同盟の総合的な監視能力が低下してしまうのです。そうなれば、米軍はその力を100%発揮することができなくなります。 *:中国が考える防衛ラインの1つ。東シナ海から台湾を経て南シナ海にかかる Q:対北朝鮮ではどうでしょう。 香田:北朝鮮にとっては棚からぼた餅といったところでしょう。 北朝鮮は2017年11月以降、弾道ミサイルの発射を控えて“ニュークリアー・ホリデー”(核の休日)の状態にありました。しかし、その間に、朝鮮半島での地上戦を想定した中短距離の通常兵器の開発を着々と進めてきています。 7月以降に発射を続けている兵器は3つのタイプがあると分析しています。いずれも韓国をターゲットにした機動攻撃能力です。第1は、米陸軍が配備する「ATACMS(エイタクムス)」に似たもの。これは韓国の北半分を射程に収めます。第2はロシア製短距離ミサイル「イスカンデル」をコピーしたとみられるもの。これは韓国全土に加えて済州島までカバーできる。第3の多連装ロケットはソウルや、在韓米軍の司令部や駐屯地を面で撃砕する機能を持ちます。いずれも、韓国軍キラー、在韓米軍キラーの役割を担うものです。 北朝鮮がこのように韓国を攻撃する能力を高めているにもかかわらず、米国は韓国に対して不信感を抱かざるを得ない。日韓の絆は弱くなる。韓国の文大統領は北朝鮮に秋波を送り続けている。北朝鮮にとっては願ったりかなったりの状況です。 中国にとっても同様のことが言えます』、日韓の離反で、漁夫の利を得るのが、ロシア、中国、北朝鮮とはやれやれ・・・。
・『日米韓によるミサイル防衛の一体化は期待薄  Q:日本としては、GSOMIAを情報共有の基盤として、韓国と日本のミサイル防衛システムを将来的に連動させる考えがあったのでしょうか。 海上自衛隊は現在建造中の新しいイージス艦に「CEC」を搭載する決定をしました。イージス仕様のレーダーや対空ミサイルをネットワーク化し、相互に情報をやり取りできるようにするソフトです。北朝鮮が発射した弾道ミサイルをイージス艦が自らのレーダーで捉えていなくても、同じくCECを装備する別のレーダーが追尾していれば、その情報を基に迎撃ミサイルを発射できるようになります。 CECの装備と相互接続を進めれば、理屈上は、韓国のイージス艦が搭載するレーダーが得たブースト段階*の情報を基に、日本のイージス艦が迎撃ミサイルを発射できるようになる。迎撃の精度を高められる可能性があります。 *:発射した直後で、速度が遅い段階 香田:それは実行するのは容易ではありません。集団的自衛権の行使に当たる可能性があるからです。米国との間であれば、法的な理由付けがなんとか可能かもしれませんが、韓国は同盟国ではありません。大きな政治判断が必要になります。それに、米国が韓国にCECを提供するかどうかも分かりません』、「日米韓によるミサイル防衛の一体化は期待薄」、当然予想される問題だ。
・『韓国が構想する「空母」を敵に回してはならない  Q:韓国が8月14日に「2020~24年国防中期計画」を発表しました。日本の防衛大綱や中期防衛力整備計画に相当するものです。この中で、F-35B*を搭載する「軽空母」を建造すべく、研究に入る方針を明示しました(関連記事「中国の空母『遼寧』に対抗する意図の艦船は論外」)。3000トン級潜水艦の建造・配備も記述されています。 香田さんが指摘されたように文大統領は北朝鮮に秋波を送り、8月15日に行われた光復節の演説では「2045年までに統一を果たす」考えを示しました。北朝鮮が敵でなくなるのであれば、こうした装備の拡充は何のためなのでしょう。 *:短い滑走で離陸し垂直着陸できる特徴(STOVL)を持つ 香田:空母は、使い道がないのではないでしょうか。韓国軍は地理的に沿岸を主たる活動地域にする内海海軍です。日本のように、海上交通路を確保するための航空優勢を維持する機能はあまり必要ありません。 韓国は防衛戦略がないまま兵力の整備を進める傾向があります。現在運用している迎撃ミサイルを搭載しないイージス艦は何のためにあるのでしょう。潜水艦も20隻程度を整備する計画です。しかし、黄海は浅すぎて潜水艦は使えません。太平洋への口は日本列島にふさがれています。軽空母も潜水艦も、意地悪く見れば、日本以外に使い道がありません。 経済的にある程度の余裕があるので、入手できる装備の中で最も豪華なものを導入しようとしているように見えます。また、海上自衛隊を目標にしている、後れを取りたくない、という心情も見え隠れします。例えば、日本が輸送艦「おおすみ」を建造すると、韓国は「独島(ドクト)」を開発して後追いしました。 韓国がいま本当に取り組むべきは、自前のミサイル防衛システムの構築や、北朝鮮の小型潜水艦の侵入防止策、対機雷掃海部隊の育成などではないでしょうか。 Q:韓国が整備を進める空母や潜水艦が日本の脅威になる可能性はあるでしょうか。GSOMIAの破棄、北朝鮮への秋波などを考えると…… 香田:すべての可能性を考えておく必要があります。日本は外交の力で、韓国を“中間線”よりこちら側に引き留めておかなければなりません。これは政治と外交が果たすべき最大の責任です。貿易管理の問題で正論を振りかざし、強く出るだけではうまくいかないかもしれません。韓国軍はけっこう強いですから、敵に回したら怖いのです』、「軽空母も潜水艦も、意地悪く見れば、日本以外に使い道がありません」、「韓国軍はけっこう強いですから、敵に回したら怖いのです」、などというのは不気味だ。
・『米国が疑う、韓国の情報管理  Q:米国が韓国にF-35Bを売却しない、と判断する可能性があるでしょうか。先ほど話題にしたように、米国は強い不満をあらわにしています。 香田:あり得るかもしれません。米国は時期を見て、韓国の情報保全状況を精査すると思います。北朝鮮が発射した「ATACMS(エイタクムス)」が、漏洩した情報を基に開発されたとしたら、その出どころは韓国である公算が最も高いですから。 日本が韓国に対する輸出管理の厳格化を図ったのも、米国がもたらした基礎情報が元にあったと思われます。米国による精査の“前哨戦”と見ることができるかもしれません。韓国が7月10日に150件を超える不正輸出を公表したのは、米国に察知されたのを知り、先手を打った可能性があります。 Q:米国における対韓感情が悪化し、米韓同盟の劣化につながる可能性を指摘する専門家がいます。 香田:米国が韓国と同盟国の縁を切るというのは考えづらいでしょう。ここでは、米国とトルコの関係が参考になります。ロシアから地対空ミサイル「S400」を導入したトルコに対して米国は怒りをあらわにしました。一時は、米国がトルコをNATOから追い出すのでは、と思えるほどでした。しかし実現には至っていません。ただし、トランプ大統領が7月、「F-35の売却を棚上げする」と発言して対抗措置(制裁)を取っています。 トランプ大統領は、NATOとも同調してアメとムチ両方を使いトルコのS400導入を阻止しようとしましたが、失敗しました。しかし、既にロシアとの関係緊密化を進めるトルコをこれ以上追い詰めてNATOからの離脱、またはNATOからの除名という事態に陥れば、プーチン大統領の最大の狙いであるNATO分断への道を開くことになります。それゆえ、トランプ大統領もNATOも、時間をかけてでもトルコをNATOに残留させる道を探っているのです。 もちろん、トルコと韓国で一対一の比較はできません。しかし、米韓同盟の劣化あるいは解消は、プーチン大統領のみならず、中国の習近平主席や北朝鮮の金正恩委員長が狙うところを、こちらのオウンゴールで実現してあげることになります。彼らは弄することなく目的を達成できる。この観点から、米国、そしてトランプ大統領は自らの思いに蓋をしてでも、韓国をつなぎとめようとする公算が高いと考えます』、トランプにとって、トルコや韓国など、悩みの種は尽きないようだ。

第三に、立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏が8月27日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「韓国が仕掛ける「国際世論戦」で現代日本の誇りを守る方法」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/212900
・『百家争鳴の日韓問題について「国際世論戦」に焦点を当てる  日韓関係の悪化が止まらない。従軍慰安婦問題(本連載第123回)、韓国海軍レーザー照射問題、元徴用工問題、日本にほる対韓半導体部品の輸出管理の「包括管理」から「個別管理」への変更と韓国を「ホワイト国」から除外する決定(第215回)、そしてそれに対する韓国の報復と続き、遂に韓国・文在寅政権は、日韓で防衛秘密を共有する日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めた。 今後、安倍政権はどう行動すべきか、韓国はさらにどう対抗してくるのか、百家争鳴となっている。その中で本稿は、いわゆる「国際世論戦」と呼ばれるものに焦点を当てたい。 日本は歴史的に「国際世論戦」に弱いとされている。古くは満州国建国を巡って日本は中国に敗れて孤立し、最終的に国際連盟を脱退する事態に至った。今年4月にも、世界貿易機関(WTO)を舞台に韓国と「東日本産水産物の禁輸措置の解除」を巡って争い、日本は敗れている(第215回・P.4)。 今回も、韓国はすでに「国際世論戦」を仕掛けているといわれている。米「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙が「トランプ化する日本外交」と論評するなど、「日本の輸出規制は元徴用工問題に対する経済制裁である」という韓国の主張が国際的に広がりつつある。ただし、筆者は今回に関しては、韓国の国際世論戦の巧みさを、あまり警戒する必要はないと考えている』、日本の「国際世論戦」の弱さは、実に腹立たしい。安倍政権も自分の言いなりになる日本のマスコミ相手には威張っていても、海外メディア相手では形なしのようだ。
・『韓国のロビイングには定評ありだが「日本はWTO違反」の反応は?  今回の日韓の「国際世論戦」の争点は大きく2つに整理される。1つは、「日本の韓国に対する半導体部品の輸出管理の見直しは、WTO違反か否か」である。もう1つは、「従軍慰安婦問題」「元徴用工問題」の、いわゆる「歴史認識」を巡るものである。 1つ目については、韓国は非常に熱心に、「日本はWTO違反」であるという主張の正当性を世界各国に訴えているという。韓国のロビイングのうまさは定評があるところだ。だが、今回に関しては、韓国の動きが成功しているという状況証拠はない。韓国の主張は感情的で、実態に即していないからだ(細川昌彦「誤解だらけの韓国に対する輸出規制発動」日経ビジネスオンライン)。また、韓国のロビーを受けた各国は、「日韓の争いに巻き込まれたくない」「二国間で解決してほしい」というのが本音である。 実際、WTOに提訴しても、決着までに数年間かかるという。一方、日本は既に、国内の素材メーカーから申請が出ていた半導体の基板に塗る感光材の「レジスト」を、厳格な審査の上に「軍事転用のおそれがない」として、輸出を許可し始めている。今後、このような輸出の実績が積み重なっていけば、感情的になっている韓国の世論も沈静化するだろう。「WTO違反ではない」という日本の主張も、次第に各国や世界のメディアに理解されていくようになる』、「韓国のロビイングのうまさは定評がある」とはいっても、これはさして問題なさそうだ。
・『より深刻な2つ目の論点「歴史認識をめぐる国際世論戦」  それより深刻にみえるのは、2つ目の「歴史認識をめぐる国際世論戦」だ。しかし、この連載では、ある英国人の学者のコメントを紹介したことがある。 「日本、中国、韓国はなぜ1回戦争したくらいで、これほど険悪な関係なのか。英国や他の国で催されるレセプションやパーティーで、日中韓の大使が非難合戦を繰り広げているらしいじゃないか。会を主催する国に対して失礼極まりないことだ。英国とフランスは、百年戦争も経験したし、何度も戦った。ドイツ、スペインとも戦った。勝った時もあれば、負けたこともある。欧州の大国も小国もいろんな国同士が戦争をした。それぞれの国が、さまざまな感情を持っているが、それを乗り越えるために努力している。日中韓の振る舞いは、未熟な子どもの喧嘩のようにしか見えない」(第94回) 要するに、どんな国でも歴史をたどれば「スネに傷がある」ものだ。それにこだわっていても仕方がないではないか。ましてや、関係のない他国を舞台に喧嘩をするなど愚の骨頂だというのだ。 英国で7年間生活したことがあり、しかも「人権意識」が高い学者・学生が世界中から集まっていた大学に身を置いた筆者の実感だが、個人的には日本の過去の振る舞いを理由に、現在の日本を批判する人に会ったことがない。 確かに従軍慰安婦問題は、今でも世界のメディアで「性奴隷」と表現されている(例えば、"Shinzo Abe to attend Winter Olympics despite ‘comfort women’ row", The Financial Times, 2018年1月24日付)。ただし、それは、あくまで「過去の戦争における負の歴史」という扱いでもある。戦争が繰り返された欧州であれば、どこの国にでもある「過去」だということだ。「現在の日本」まで特別に責められているわけではない。 言い換えれば、世界が関心を持っているのは「現代の女性の人権」である。従軍慰安婦問題に様々な反論を試みることで現在の日本が疑われているのは、いまだに女性の人権に対する意識が低いのではないかということだ。 例えば、安倍晋三首相がかつてよく言っていた「強制はなかった」「狭義の強制、広義の強制」という主張などは、海外からはよく理解できない。そういう細かな主張をすればするほど、「日本は、いまだに女性の人権に対する意識が低いんだな」という誤解を広げてしまうだけなのだ(第123回)』、確かに、(欧州の)「それぞれの国が、さまざまな感情を持っているが、それを乗り越えるために努力している。日中韓の振る舞いは、未熟な子どもの喧嘩のようにしか見えない」、との「ある英国人の学者のコメント」は大いに考えさせられる。
・『韓国による慰安婦像の設置は過剰に反応しても日本に得るものなし  また、韓国が熱心に行っている世界中での慰安婦像の設置についても、過剰に反応しても日本が得るものはない。なぜなら、慰安婦像を受け入れる国の人は「過去の日本」の振る舞いを責めようとしているのではない。「女性の人権を守るための像」だと理解するから、設置を認めているのだ。 例えば、米サンフランシスコ市が慰安婦像の寄贈受け入れを決めた時、大阪市の吉村洋文市長(当時)は、これに抗議するために、サンフランシスコと大阪市の姉妹都市関係の解消を通知する書簡を送った。これに対して、ロンドン・ブリード・サンフランシスコ市長は、解消決定を「残念」とし、大阪市との人的交流を維持する考えを示した。 その上で、ブリード市長は慰安婦像について「奴隷化や性目的の人身売買に耐えることを強いられてきた、そして現在も強いられている全ての女性が直面する苦闘の象徴」「彼女たち犠牲者は尊敬に値するし、この記念碑はわれわれが絶対に忘れてはいけない出来事と教訓の全てを再認識させる」と声明を出している。 ブリード市長は明らかに、慰安婦像の意義を日本の過去の振る舞いよりも、より一般的な問題である、現在も存在する性奴隷・人身売買など女性の人権侵害を根絶するためのものと理解している。そして、仮に過去に不幸な出来事があったとしても、現在の日本を批判してはいない。今後も日本との交流を続けたいとしているのだ。 おそらく、吉村市長の怒りはブリード市長にはまったく伝わっていなかっただろう。女性の人権を守るのは政治家として当然のことなのに、いったい何を一方的に怒っているのか、さっぱり分からないと思っていたのではないか。ましてや、突然の姉妹都市解消の通知には「60年という姉妹都市の歴史を断ち切るほどの問題なのか?」と、ただあぜんとしていたと思う。 結局、吉村市長は、世界中から「人権意識の低いポピュリスト」だという「誤解」を受けるだけとなってしまった。吉村市長は大阪の待機児童問題を解決するなど高い実行力を示しており、将来的に「東の(小泉)進次郎、西の吉村」と並び称される政治家になると筆者は期待している。それだけに、非常に心配だ(第208回)。 日本は確かにかつて戦争を起こした「ならず者国家」としての負の歴史を背負っている。(第166回・P.4)。一方で、日本は戦後70年間、平和国家として行動し、負の歴史を償おうとしてきた。そのことは世界中に認められている。英公共放送「BBC」の調査で示されたように、「世界にいい影響を与える国」と高評価してくれる人々が、世界中に増えてきているのだ(“Sharp Drop in World Views of US, UK: Global Poll,” BBC World, 2017年7月4日付)。 その意味で、たとえ「ならず者」と呼ぶ人がいても目くじら立てることなく謙虚に受け止め、「いい影響を与える国」と言ってくれる国が1つでも増えるよう、誠意のある行動を続けていけばいいのではないだろうか』、これまでサンフランシスコ市などが慰安婦像を受け入れているのは、韓国系のロビーイングのためと思っていたが、「ブリード市長は明らかに、慰安婦像の意義を日本の過去の振る舞いよりも、より一般的な問題である、現在も存在する性奴隷・人身売買など女性の人権侵害を根絶するためのものと理解している。そして、仮に過去に不幸な出来事があったとしても、現在の日本を批判してはいない」、というので理由がより深く理解できた。「大阪市の吉村洋文市長(当時)は、これに抗議するために、サンフランシスコと大阪市の姉妹都市関係の解消を通知する書簡を送った」、「抗議する」理由を明確に述べずに、結論だけの書簡だったので、理解が得られなかったのは当然で、国際的常識を持ち合わせずに、国内パフォーマンスだけを狙う田舎政治家のやることだ。
・『「安倍平和宣言・人権マニフェスト」を世界に発信してはどうか  それでは具体的に、日本がこれからどう行動すべきかを考える。この連載では、従軍慰安婦問題や元徴用工問題について安倍首相が直接、韓国民に会って話をすることを提言してきた(第215回・P.6)。 安倍首相は、元慰安婦・元徴用工の方々に謝罪する必要はない。日本政府の立場の「細かな説明」も必要ない。しかし、両国の間に「不幸な歴史」があったこと、少なくとも「侵略された」韓国側が、より民族・国家としての誇りを深く傷つけられていることを率直に認めるほうがいいと考える。そして、その不幸な歴史に「心が痛みます」というメッセージを発し、世界中のメディアに発信する。その時に、従軍慰安婦問題・元徴用工問題は確かに終わる。 今回は、これをもっと発展させた提案をしたい。安倍首相は、「安倍平和宣言」とでも呼ぶべきメッセージを全世界に向けて発信するのだ。そして、「日本は戦争をしない。戦時における女性の人権侵害という不幸な歴史を二度と繰り返さない」と宣言する。)続いて、現代の日本は「人権を世界で最も守る国になる」とアピールし、「安倍人権マニフェスト」を発表する。現在、日本は人権問題について世界から批判を受けている状況にある。それらを、安倍首相が「自らの任期中に一挙に解決する」という決意を示すのだ。それは例えば、以下のさまざまな問題の解決である。 (1)数々の企業の上級・中級幹部における女性の割合が、わずか12.5%であること(ちなみに、マレーシア 22.2%、ドイツ 29.0%、フランス 31.7%、シンガポール 33.9%、英国 35.4%、スウェーデン 39.7%、米国 43.4%である。https://data.worldbank.org/indicator/SL.EMP.SMGT.FE.ZS) (2)「下院議員または一院制議会における女性議員の比率、193カ国のランキング」で、日本が165位であることの改善(Women in Politics: 2019) (3)国際連合女子差別撤廃委員会から「差別的な規定」と3度にわたって勧告を受けている夫婦同姓をあらためて、「選択的夫婦別姓」の導入 (4)「女性差別撤廃条約」の徹底的な順守を宣言 (5)国連の自由権規約委員会や子どもの権利委員会から法改正の勧告を繰り返し受けている婚外子の相続分差別の撤廃(第144回) (6)外国人技能実習生の人権侵害問題の解決などによる、多様性のある日本社会の実現(第197回) (7)同性結婚などLGBTの権利を保障する) そして、「安倍平和基金」を設立する。「安倍平和基金」は、アフリカや中東、アジアなど世界中の全ての人権侵害問題を援助の対象とし、元従軍慰安婦や元徴用工への援助は当然これに含まれることになる。金額は、従軍慰安婦問題解決の基金10億円の10倍の規模である「100億円」とする。日本政府および趣旨に賛同する企業が資金を拠出する』、「「安倍平和宣言」とでも呼ぶべきメッセージを全世界に向けて発信」、とは検討に値するアイデアだ。「日本政府の立場の「細かな説明」も必要ない」、日本側はすぐ強制性の有無などテクニカルな説明に走りがちだが、国際的にみれば、それは二義的問題に過ぎず、確かに不要である。
・『慰安婦像に代わる「平和の人間像」を世界中に設置  さらに、「平和の人間像」を日本がつくり、世界中に設置する。 「平和の人間像」のイメージ。顔は「ムクゲ」で花言葉は「信念」「新しい美」。右脚に引きちぎられた「赤に白斑の薔薇」の鎖。花言葉は「戦争」「戦い」。筆者の友人が作成。無断転載禁止 現在の慰安婦像は「女性の人権を守るための像」ではある。しかし、その対象は「過去、戦時に人権侵害を受けた韓国人女性」を事例として限定したものだ。それでは、対象が狭いのではないだろうか。 「平和の人間像」は、世界中の男女・LGBTを問わず全ての人に対する人権侵害問題を完全解決することを宣言する像とする。そして、全ての人々を対象とするのにふさわしい、抽象的な造形とする。 「平和の人間像」の第一体目は、ぜひソウル市の「青瓦台」の前に設置させてもらおう。像の除幕式では、文大統領と安倍首相ががっちりと握手をして、両国が世界の人権侵害の歴史の終焉と、現在の人権問題の完全解決を高らかに宣言する。 文大統領と、それを支持する韓国の左派は嫌がるだろう。だが、嫌がれば韓国は「人権意識の低い国」となり、慰安婦像の設置は「単なる反日のための行動」であったと、世界中から批判を浴びることになる。 要するに、「国際世論戦」において、従軍慰安婦問題や元徴用工問題の細かな事実関係を争っても、あまり意味がない。韓国など一部の国を除けば、海外の人たちは、日本の過去についての事実関係などどうでもよく、関心があるのは、現在の「人権問題」なのだ。 日本が「大日本帝国」の誇りを守ろうとすればするほど、いまだに人権意識の低いと「現在の日本」の評価が下がることになる。本当に守るべきことは、「現代の日本」の誇りだと考えるべきである』、「平和の人間像」では慰安婦像に代り得るとも思えない。慰安婦像を駆逐するためとして、韓国からは猛反発を受けるだろう。筆者は通常は参考になる分析をするが、この粗削り過ぎるアイデアを提案するとは、筆者らしからぬ思い込みで、賛成できない。
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