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グローバル化(その2)(スティグリッツ氏「『脱グローバル化』を正しく理解しよう」、エマニュエル・トッドが「グローバル化の夢は死にかけている」と語る真意) [世界経済]

グローバル化については、2020年4月25日に取上げた。久しぶりの今日は、(その2)(スティグリッツ氏「『脱グローバル化』を正しく理解しよう」、エマニュエル・トッドが「グローバル化の夢は死にかけている」と語る真意)である。

先ずは、昨年6月14日付け日経ビジネスオンラインが掲載した米コロンビア大学教授のジョセフ E.スティグリッツ氏による「スティグリッツ氏「『脱グローバル化』を正しく理解しよう」」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00351/060900031/
・『2年以上ぶりに開催された世界経済フォーラムは、1995年以来、私が参加してきたこれまでのダボス会議とは明らかに様子が違っていた。1月の明るい雪と晴天から一転、雪がないスキー場と、5月のどんよりとした霧雨に見舞われた、気候のことではない。 これまでのフォーラムは、グローバル化を擁護してきた。だが今回は、サプライチェーンの寸断、食料やエネルギー価格の高騰、一部の製薬会社が数十億の追加利益を得るために何十億もの人々が新型コロナウイルスワクチンを手にすることができない知的財産権(IP)体制などといった、グローバル化の失敗に主眼を置いていた。 こうした諸問題への対応策として提案されたのは、生産の「再集積」または「友好国化」、さらに「国の生産能力を高めるための産業政策」の制定だ。誰もが国境のない世界を目指しているように見えた時代は過ぎ去り、突然、誰もが少なくともいくつかの国の国境が経済発展と安全保障の鍵であることを認識するようになったのである。 かつて自由なグローバリゼーションの擁護者であった人々にとって、ダボスのこの方向転換は結果として明らかな不協和音をもたらした。「友好国化」と自由で無差別な貿易の原則を両立させることができず、ダボス会議に参加した実業界と政界のリーダーの大半は、ありふれた話に終始した。なぜこのような事態に陥ったのか、あるいは、グローバリゼーションが全盛の時代にまん延していた「欠陥のある超楽観主義的な論理」について、反省の色はほとんど見られなかった。 もちろん、問題はグローバリゼーションだけではない。市場経済全体にレジリエンス(回復力)が欠けているのだ。私たちは、基本的にはスペアタイヤのない車を作り、現在の価格を数ドル下げただけで、将来の緊急事態にはほとんど注意を払ってこなかった。 ジャストインタイムは、経済がわずかな変動にしか直面しない限りにおいては、素晴らしい革新的技術であった。だが、新型コロナウイルスによる操業停止に直面すると、例えばマイクロチップの不足が新車の不足を引き起こすなどといった供給不足の連鎖を引き起こし、大打撃を被ったのだ。 2006年に筆者が『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す(Making Globalization Work)』(徳間書店)で警告したように、市場はリスクの「値付け」をうまくできない(二酸化炭素の排出量に価格を付けないのと同じ理由だ)。例えばドイツは、明らかに信頼がおけない貿易相手国のロシアからガス供給を受け、依存することを選択した。今、ドイツは、予想され、かつ予測可能であった結果に直面している。 18世紀にアダム・スミスが見出したように、資本主義は独占へと自然に向かっていく傾向があるため、自助努力だけで成り立つシステムではない。しかし、米国のレーガン大統領と英国のサッチャー首相が「規制緩和」の時代を築いて以来、市場の集中が常態化し、電子商取引やソーシャルメディアなど注目される分野だけの現象ではなくなった。 今春、米国で起きた悲惨な粉ミルクの品不足は、それ自体が独占の結果であった。アボット・ラボラトリーズが安全性の問題で生産停止に追い込まれた後、米国人はすぐに、たった1社で米国の供給量の半分近くを占めていることに気づいたのである』、「これまでのフォーラムは、グローバル化を擁護してきた。だが今回は、サプライチェーンの寸断、食料やエネルギー価格の高騰、一部の製薬会社が数十億の追加利益を得るために何十億もの人々が新型コロナウイルスワクチンを手にすることができない知的財産権(IP)体制などといった、グローバル化の失敗に主眼を置いていた」、「こうした諸問題への対応策として提案されたのは、生産の「再集積」または「友好国化」、さらに「国の生産能力を高めるための産業政策」の制定だ。誰もが国境のない世界を目指しているように見えた時代は過ぎ去り、突然、誰もが少なくともいくつかの国の国境が経済発展と安全保障の鍵であることを認識するようになった」、「市場はリスクの「値付け」をうまくできない・・・例えばドイツは、明らかに信頼がおけない貿易相手国のロシアからガス供給を受け、依存することを選択した。今、ドイツは、予想され、かつ予測可能であった結果に直面している」、なるほど。
・『米国の偽善に冷ややかな新興国  今年のダボス会議では、グローバリゼーションの失敗が政治に与えた影響も存分に見られた。ロシアがウクライナに侵攻したとき、クレムリンは即座に、しかもほぼ全世界から非難を浴びた。しかしその3カ月後、新興国や途上国(EMDCs)はより曖昧な立場を取るようになった。多くの者が、2003年には偽りの口実でイラクに侵攻したにもかかわらず、ロシアの侵略に説明責任を求める米国の偽善を指摘している。 EMDCsはまた、欧州と米国による最近のワクチンナショナリズムの歴史も強調している。これは、30年前に押し付けられた世界貿易機関(WTO)のIP条項によって維持されてきたものだ。そして、食料とエネルギー価格の上昇の矢面に立たされているのが、EMDCsである。過去の不正義と相まって、こうした最近の動きは、民主主義と国際的な法の支配を提唱する欧米の信用を失墜させるものだ。 確かに、米国による民主主義擁護の支援を拒否する多くの国は、いずれにせよ民主的ではない。しかしほかの国々は民主的だ。この戦いをリードすべく立ち上がったように見える米国は、制度的な人種差別や権威主義者に媚(こ)びたトランプ政権から、投票を抑制して2021年1月6日の米国議会議事堂での暴動から有権者の注意をそらそうとする共和党の執拗な試みまで、自らの失敗によって立場を損なわれてきたのである。 米国にとって最善の方法は、食料とエネルギーのコスト高騰に対処できるよう支援することで、新興国に対してより大きな連帯感を示すことであろう。これは、富裕国の特別引き出し権(国際通貨基金の準備資産)を再配分し、世界貿易機関(WTO)で新型コロナウイルス関連の強力な知的財産権の放棄を支持すれば、可能になる。 さらに、食糧やエネルギー価格の高騰は、多くの貧困国で債務危機を引き起こし、このパンデミック(世界的大流行)による悲劇的な不公平をさらに悪化させる可能性がある。もし米国と欧州が真のグローバル・リーダーシップを発揮したいのであれば、各国が負担しきれないほどの債務を負うようそそのかした大銀行や債権者の味方をするのはやめるべきだ。 40年にわたりグローバリゼーションを擁護してきたダボス会議の面々は、明らかに舵(かじ)取りを誤った。ダボス会議は、先進国、途上国を問わず繁栄を約束してきた。しかし、北半球の巨大企業が豊かになる一方で、すべての人がより良くなるはずのプロセスは、代わりにあらゆる場所で敵を作っただけだった。「トリクルダウン経済学」とは、富裕層が豊かになれば、自動的にすべての人が恩恵を受けるというものだが、理論も根拠もない詐欺のようなものだ。 今年のダボス会議は、残念な結果に終わった。世界に今日のような状況をもたらした意思決定と政策について、真剣に考える機会であり得たはずだ。グローバリゼーションがピークに達した今、その衰退を管理することが、その隆盛を管理したときよりもうまくいくことを願うばかりである』、「米国にとって最善の方法は、食料とエネルギーのコスト高騰に対処できるよう支援することで、新興国に対してより大きな連帯感を示すことであろう。これは、富裕国の特別引き出し権(国際通貨基金の準備資産)を再配分し、世界貿易機関(WTO)で新型コロナウイルス関連の強力な知的財産権の放棄を支持すれば、可能になる」、「40年にわたりグローバリゼーションを擁護してきたダボス会議の面々は、明らかに舵(かじ)取りを誤った。ダボス会議は、先進国、途上国を問わず繁栄を約束してきた。しかし、北半球の巨大企業が豊かになる一方で、すべての人がより良くなるはずのプロセスは、代わりにあらゆる場所で敵を作っただけだった。「トリクルダウン経済学」とは、富裕層が豊かになれば、自動的にすべての人が恩恵を受けるというものだが、理論も根拠もない詐欺のようなものだ」、「グローバリゼーションがピークに達した今、その衰退を管理することが、その隆盛を管理したときよりもうまくいくことを願うばかりである」、同感である。

次に、本年3月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した歴史家・文化人類学者・人口学者のエマニュエル・トッド氏による「エマニュエル・トッドが「グローバル化の夢は死にかけている」と語る真意」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/318698
・『家族制度や識字率、出生率に基づき、現代政治や社会を分析し、「ソ連崩壊」から「米国の金融危機」などを予言した、フランスの歴史家エマニュエル・トッド。彼の分析では、現在起きている戦争の背景に「グローバル化」という私たちのかつての夢があると言います。その真意を、最新刊『2035年の世界地図』(朝日新聞出版)で語った民主主義の未来予想図から一部を抜粋・再編して大公開します(Qは聞き手の質問、Aはトッド氏の回答)』、興味深そうだ。
・『「グローバル化」という夢のあと  Q:中国と米国の対立は深刻化し、両国ともに経済の相互依存を政治的に切り離すデカップリングを進める機運があります。以前、しきりに言われていた「世界がボーダーレスとなり、主権国家は重要性を失う」という言説はどうなったのでしょう。グローバル化は終わったのでしょうか。グローバル化の夢は潰えたのでしょうか。 A:グローバル化の夢は、死にかけています。 もはや人々はグローバル化を天国のようには考えていません。人々はそれが社会にとてつもない格差を生み出したことを知ってしまったからです。しかし一方で、先進国と途上国との間に一定の新たな平等を作り出しました。 私は2つ指摘しておきたい。まず、グローバル化がもたらした現実です。世界の労働者階級の多くは中国にいます。今、世界の労働者階級のおそらく25%は中国にいます。グローバル化の中で国際分業が進み、世界の生産を担っているのは、中国の人々なのです。 もう一つの大きな部分はインドなどです。欧米や日本といった先進国の経済は、工業(に伴う生産活動)から脱却し、サービスや研究などに集中しています。この構造から抜け出せないでしょう。先進国の国民は労働者として生産の現場へ戻れるでしょうか。) 私は、米国でトランプが政権を握ったという事実に大いに興味を持っています。彼は単に中国をやっつけようとしただけではありません。米国の工業生産能力の再構築を目指していたのです。だから、中国との貿易において保護主義的な措置をとりました。 もちろん、オバマ政権がやろうとしたことからの継続的な要素も多くありました。そして、バイデン政権もトランプのとった保護主義的な側面を持つ政策を捨て去ったわけではありません。 しかし、統計的にみると米国が工業での一定の自立を回復する兆しは見られません。 絶対的数値では、モノの取引における米国の赤字、サービスではなく、モノの貿易赤字は増えています。 先日の「ニューヨークタイムズ」の記事では、iPhoneを販売しているアップル社は、自らのサプライチェーンから中国の工場を外すことは不可能と判断した、と書いていました。実際に、iPhoneの付加価値に占める中国の割合は25%に達しています。中国はもはや、単に組み立てラインを担うだけではなく、価値を生み出す場になっているのです』、「世界の労働者階級のおそらく25%は中国にいます・・・もう一つの大きな部分はインドなどです」、「欧米や日本といった先進国の経済は、工業・・・から脱却し、サービスや研究などに集中」、「iPhoneの付加価値に占める中国の割合は25%に達しています。中国はもはや、単に組み立てラインを担うだけではなく、価値を生み出す場になっている」、なるほど。
・『サービス産業社会から工業社会に戻れるか 私たちはそう問われている  その背後には、歴史的な問題があります。非常に重要な歴史的問題です。 西洋――この西洋の中には日本も含まれていますが――の歴史を見ると、農民社会から始まります。そして、農民社会から工業社会に移行します。農民が姿を消し、労働者が登場します。続いて、工業社会からポスト工業社会へ、サービス産業社会へと移行します。 サービス産業社会は多くの労働者を捨て去りますね。基本的な疑問は、この移行の旅には元に戻るための帰りのチケットはありますか、ということです。例えば、工業社会から農民社会へ元に戻すことは可能だと思いますか。答えはノーです。 私たちは、「それはできますか?」と問われています。「サービス産業社会から工業社会に戻ることはできますか?」と。 第三次産業にふさわしい教育を受けた労働者を製造現場の労働者階級に変えることはできますか? われわれには分かりません。いや実は残念ながら知っています。これが不可能であるということを。 この点で、米国の状況は興味をそそります。彼らは生産していないからです。 もちろん教育システムがあり、彼らはあらゆる種類の学位を持っています。しかし彼らは、十分なエンジニアを生み出していません。もはや数学者も十分には生み出しておらず、中国から「輸入」しなければなりません。 最大のジョークですよね? 米国のエンジニアの半数が「輸入」、そしてその大きな部分は中国から「輸入」されています。 米中間の相互依存があります。グローバル化は今も続いており、抜け出すのは非常に困難です。そして、グローバル化にはある要素があります。グローバル化を抽象的なものとして見ることはできません。国家に、そして強大な国家に関係なく存在するものとは見ることができません』、「第三次産業にふさわしい教育を受けた労働者を製造現場の労働者階級に変えることはできますか?」、「これが不可能である」、「もはや数学者も十分には生み出しておらず、中国から「輸入」しなければなりません・・・米国のエンジニアの半数が「輸入」、そしてその大きな部分は中国から「輸入」されています」、「米中間の相互依存があります。グローバル化は今も続いており、抜け出すのは非常に困難です」、なるほど。
・『最初のグローバル化は英国が 第二のグローバル化は米国が担った  最初のグローバル化は、1914年の第一次世界大戦の前でした。それは英国によるものでした。英国は、産業と金融で非常に進んでおり、強力な海軍を持っていました。 英国は最初のグローバル化のリーダーであり、主要なアクターでした。 第二のグローバル化は、まさに米国の力によるものでした。米国の力は現在、弱体化はしたものの、依然として存在します。 ですから、グローバル化から抜け出すということは、先進国、特に米国が労働者階級、つまり工業を担う階級を復活させることを意味します。 問題は、米国の人々にとっては生産の現場で働くより、強力な軍隊を持ち、基軸通貨であるドルを印刷するほうがよっぽど簡単だということです。 繰り返しますが、私は楽観的ではありません。 これが今、われわれが世界規模で直面する大きな戦いの背後にあることだと思います。米国にとって、グローバル化から抜け出すことは簡単ではありません。(エマニュエル・トッド氏の略歴はリンク先参照)』、「最初のグローバル化は、1914年の第一次世界大戦の前でした。それは英国によるものでした。英国は、産業と金融で非常に進んでおり、強力な海軍を持っていました。 英国は最初のグローバル化のリーダーであり、主要なアクターでした」、「第二のグローバル化は、まさに米国の力によるものでした。米国の力は現在、弱体化はしたものの、依然として存在します。 ですから、グローバル化から抜け出すということは、先進国、特に米国が労働者階級、つまり工業を担う階級を復活させることを意味します。 問題は、米国の人々にとっては生産の現場で働くより、強力な軍隊を持ち、基軸通貨であるドルを印刷するほうがよっぽど簡単だということ」、「基軸通貨であるドルを印刷」するといっても、必要以上に「ドルを印刷」すれば、「ドル」は安くなる筈で、全く自由に「印刷」できるわけではない。ただ、「米国の人々にとっては生産の現場で働く」ことに戻るとは考え難い。「米国が労働者階級、つまり工業を担う階級を復活させる」、「グローバル化から抜け出す」、ことも考え難い。
タグ:「40年にわたりグローバリゼーションを擁護してきたダボス会議の面々は、明らかに舵(かじ)取りを誤った。ダボス会議は、先進国、途上国を問わず繁栄を約束してきた。しかし、北半球の巨大企業が豊かになる一方で、すべての人がより良くなるはずのプロセスは、代わりにあらゆる場所で敵を作っただけだった。「トリクルダウン経済学」とは、富裕層が豊かになれば、自動的にすべての人が恩恵を受けるというものだが、理論も根拠もない詐欺のようなものだ」、「グローバリゼーションがピークに達した今、その衰退を管理することが、その隆盛を管理し 「米国にとって最善の方法は、食料とエネルギーのコスト高騰に対処できるよう支援することで、新興国に対してより大きな連帯感を示すことであろう。これは、富裕国の特別引き出し権(国際通貨基金の準備資産)を再配分し、世界貿易機関(WTO)で新型コロナウイルス関連の強力な知的財産権の放棄を支持すれば、可能になる」、 誰もが国境のない世界を目指しているように見えた時代は過ぎ去り、突然、誰もが少なくともいくつかの国の国境が経済発展と安全保障の鍵であることを認識するようになった」、「市場はリスクの「値付け」をうまくできない・・・例えばドイツは、明らかに信頼がおけない貿易相手国のロシアからガス供給を受け、依存することを選択した。今、ドイツは、予想され、かつ予測可能であった結果に直面している」、なるほど。 「これまでのフォーラムは、グローバル化を擁護してきた。だが今回は、サプライチェーンの寸断、食料やエネルギー価格の高騰、一部の製薬会社が数十億の追加利益を得るために何十億もの人々が新型コロナウイルスワクチンを手にすることができない知的財産権(IP)体制などといった、グローバル化の失敗に主眼を置いていた」、「こうした諸問題への対応策として提案されたのは、生産の「再集積」または「友好国化」、さらに「国の生産能力を高めるための産業政策」の制定だ。 ジョセフ E.スティグリッツ氏による「スティグリッツ氏「『脱グローバル化』を正しく理解しよう」」 日経ビジネスオンライン 「最初のグローバル化は、1914年の第一次世界大戦の前でした。それは英国によるものでした。英国は、産業と金融で非常に進んでおり、強力な海軍を持っていました。 英国は最初のグローバル化のリーダーであり、主要なアクターでした」、「第二のグローバル化は、まさに米国の力によるものでした。米国の力は現在、弱体化はしたものの、依然として存在します。 「第三次産業にふさわしい教育を受けた労働者を製造現場の労働者階級に変えることはできますか?」、「これが不可能である」、「もはや数学者も十分には生み出しておらず、中国から「輸入」しなければなりません・・・米国のエンジニアの半数が「輸入」、そしてその大きな部分は中国から「輸入」されています」、「米中間の相互依存があります。グローバル化は今も続いており、抜け出すのは非常に困難です」、なるほど。 「世界の労働者階級のおそらく25%は中国にいます・・・もう一つの大きな部分はインドなどです」、「欧米や日本といった先進国の経済は、工業・・・から脱却し、サービスや研究などに集中」、「iPhoneの付加価値に占める中国の割合は25%に達しています。中国はもはや、単に組み立てラインを担うだけではなく、価値を生み出す場になっている」、なるほど。 エマニュエル・トッド氏による「エマニュエル・トッドが「グローバル化の夢は死にかけている」と語る真意」 ダイヤモンド・オンライン たときよりもうまくいくことを願うばかりである」、同感である。 (その2)(スティグリッツ氏「『脱グローバル化』を正しく理解しよう」、エマニュエル・トッドが「グローバル化の夢は死にかけている」と語る真意) グローバル化 ですから、グローバル化から抜け出すということは、先進国、特に米国が労働者階級、つまり工業を担う階級を復活させることを意味します。 問題は、米国の人々にとっては生産の現場で働くより、強力な軍隊を持ち、基軸通貨であるドルを印刷するほうがよっぽど簡単だということ」、「基軸通貨であるドルを印刷」するといっても、必要以上に「ドルを印刷」すれば、「ドル」は安くなる筈で、全く自由に「印刷」できるわけではない。ただ、「米国の人々にとっては生産の現場で働く」ことに戻るとは考え難い。 「米国が労働者階級、つまり工業を担う階級を復活させる」、「グローバル化から抜け出す」、ことも考え難い。
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中国経済(その16)(政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が 根本的に分かっていないこと、習近平は「支配を正当化するための経済発展」すら放棄...突き進む「ソ連化」の道、水増しされていた中国の人口 「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出) [世界経済]

中国経済については、本年2月8日に取上げた。今日は、(その16)(政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が 根本的に分かっていないこと、習近平は「支配を正当化するための経済発展」すら放棄...突き進む「ソ連化」の道、水増しされていた中国の人口 「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出)である。特に3番目の記事は衝撃的だ

先ずは、本年2月15日付けNewsweek日本版が掲載した米クレアモント・マッケンナ大学教授のミンシン・ペイ氏による「政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が、根本的に分かっていないこと」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/02/post-100870_1.php
・『<ゼロコロナ政策から抜け出した中国が、本当に経済を成長路線に乗せるために必要なのは威勢のいい掛け声ではない> 中国政府の「経済成長」愛に再び火がついた。ゼロコロナ政策の長い闇から強引に、少なくとも数万の命を犠牲にして抜け出した今、あの国の指導者たちは異口同音に、いざ力強い経済を取り戻すぞと叫び始めた。だが号令だけでは何も変わらない。 昨年末に開かれた共産党の中央経済工作会議で、今年は経済成長を政府の最優先課題とすると定められた。こうした党中央の固い決意を受け、地方の党幹部や首長らも同じ言葉を繰り返し、民間の投資家や実業家らの期待をあおっている。コロナの時代には見られなかった光景だ。 こうした変化の政治的動機は明らかだ。国民が苛酷なゼロコロナ政策への不満を爆発させ、その廃止に伴う混乱にも失望している今は、一刻も早く党に対する信頼と支持を回復したい。だが成長賛歌の合唱だけでは不十分。大事なのは行動だ。 停滞する不動産業界へのテコ入れなど、小手先の対策では足りない。金融緩和やインフラ投資の拡大などの景気刺激策も、せいぜい短期の効果しかあるまい。 ゼロコロナ政策は中国経済に深い傷痕を残した。それ以前には中小零細企業が4400万社もあった。登記された民間企業の約98%を占め、国内の雇用(公務員を除く)の8割前後を支えていた。ほかに、自営業者も9000万人以上いた』、「共産党の中央経済工作会議で、今年は経済成長を政府の最優先課題とすると定められた・・・地方の党幹部や首長らも同じ言葉を繰り返し、民間の投資家や実業家らの期待をあおっている」、「国民が苛酷なゼロコロナ政策への不満を爆発させ、その廃止に伴う混乱にも失望している今は、一刻も早く党に対する信頼と支持を回復したい。だが成長賛歌の合唱だけでは不十分。大事なのは行動だ。停滞する不動産業界へのテコ入れなど、小手先の対策では足りない。金融緩和やインフラ投資の拡大などの景気刺激策も、せいぜい短期の効果しかあるまい」、その通りだ。
・『中国が再び経済成長するのに不可欠なもの  だがゼロコロナ政策で事情は一変した。ロックダウン中も中小零細業者への資金援助はなかったから、多くが廃業に追い込まれた。 そこへ、地政学的な圧力が成長の阻害要因としてのしかかる。アメリカは中国が半導体を入手できないよう、これまで以上に力を入れている。オランダ企業ASMLが半導体製造装置を中国に売らないよう、同国政府に圧力をかけてもいる。米議会の下院で多数派となった共和党が、新たな経済制裁を打ち出す可能性もある。 ウクライナでの戦争に関して、今も中国はロシアを非難していない。当然、EUは腹を立てており、アメリカと同様に経済的なデカップリング(切り離し)を急ぐべきだとの声も上がっている。こんな政治的緊張が続く限り、経済の先は見えない。投資意欲は冷え、外国企業の撤退で製造業の雇用は確実に減っていく。 つまり、中国経済を再び成長軌道に乗せるには欧米諸国との関係改善が不可欠だ。しかし現時点で、米中関係は修復不能なほどに冷え込んでいる。どうすればいいか。プーチン政権下のロシアに対する支持を取り下げるのもいい。台湾に対する軍事的な威嚇をトーンダウンするのもいい。それだけでも投資家の心理は変わるだろう』、「こんな政治的緊張が続く限り、経済の先は見えない。投資意欲は冷え、外国企業の撤退で製造業の雇用は確実に減っていく。 つまり、中国経済を再び成長軌道に乗せるには欧米諸国との関係改善が不可欠だ。しかし現時点で、米中関係は修復不能なほどに冷え込んでいる」、打開は難しそうだ。
・『古典的な共産主義イデオロギーにこだわる習政権  一方で中国は、投資家の信頼を得られる改革に乗り出さねばならない。習近平(シー・チンピン)政権は古典的な共産主義イデオロギーにこだわり、社会と経済に対する党の支配を強化してきた。民間企業に党の支部を置き、貿易相手国への危険な挑発を繰り返したりするようでは、信頼回復など望めない。 本気で成長を取り戻したいなら、かつて鄧小平が推進した政治改革の路線に戻るべきだ。とりわけ大事なのは法治主義の貫徹と司法の独立。さもないと民間事業者が自分の命と財産を守れない。 経済政策では非効率な国有企業を民営化し、企業に優しい規制環境を整えること。中小零細企業に対する支援策も、成長の回復軌道を維持するには欠かせない。 しかし今のところ、中国政府がこうした改革に乗り出す気配はない。成長を口にするだけで、1979年に毛沢東の階級闘争理論と決別した鄧小平のような気概で国の進路を変える兆しは見えない。党の甘言に乗せられてはいけない。この先も当面は、中国経済の息は上がったままだ』、「習近平・・・政権は古典的な共産主義イデオロギーにこだわり、社会と経済に対する党の支配を強化してきた。民間企業に党の支部を置き、貿易相手国への危険な挑発を繰り返したりするようでは、信頼回復など望めない。 本気で成長を取り戻したいなら、かつて鄧小平が推進した政治改革の路線に戻るべきだ。とりわけ大事なのは法治主義の貫徹と司法の独立。さもないと民間事業者が自分の命と財産を守れない」、「習近平」は経済がある程度理解していた李克強を追い出し、イエスマンが首相にしたようでは、「当面は、中国経済の息は上がったままだ」。困ったことだ。

次に、2月16日付けNewsweek日本版が掲載したブルネル大学(ロンドン)ビジネススクール上級講師のティー・クオ氏と、スタンフォード大学中国経済制度センター上級研究員のチョンカン・シュイ氏による「習近平は「支配を正当化するための経済発展」すら放棄...突き進む「ソ連化」の道」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/02/post-100878_1.php
・『<共産党の「完全支配」復活を目指す習近平路線は、民間の活力を奪い、先進国市場を遠ざけ、土地バブルを崩壊させかねない> 中国共産党の第20回党大会(2022年10月開催)では、習近平(シー・チンピン)国家主席が今後5年間も政権を担うことが確認された。ただし、それが中国経済にとって何を意味するかは、3つの要素に左右される。国の制度、過去と現在の経済状況、そして指導者の政治的意図だ。 中国の最も基本的な制度は全体主義であり、経済を含む社会の全領域に共産党の独占的支配が及んでいる。全体主義型統制を支える党=国家の制度は、1949年にソビエト連邦から全面的に移植されたものだ。 ソ連型全体主義は30年前に経済の行き詰まりにより崩壊したが、中国は例外に見えた。いま問われているのは、中国独自の全体主義的実験が今後も長続きするかどうかだ。 この問いに答えるためには、「中国の特色ある全体主義」の構造を理解する必要がある。その重要な柱は政治・思想・人事における高度に中央集権化された全体主義型統制と、行政・経済政策の分権化を合体させた地域分権全体主義(RDT)だ。 この組み合わせはポスト毛沢東時代の改革開放政策の原動力だった。この時期に経済への中央集権的・全体主義的な統制は緩和され、RDTは地域分権権威主義(RDA)へと発展した。だが、習が権力を握った2012年以降は全体主義に回帰し、特に急成長する民間部門への統制を再び強めた。この逆流現象が、22年の急激な経済減速の主な理由だ。 毛の死後、共産党指導部は経済成長こそ生き残りの鍵だと考え、RDTを新たな改革開放政策の制度的基盤に据えた。この新モデルでは、地域経済の状況が地方の党=国家官僚の昇進を左右するため、一部の官僚は民間企業の違法行為を隠蔽したり、そうした企業を支援したりして、民間部門の急成長を促した。 民間企業の存在感が増すと、共産党は憲法を改正し、私有財産権を認める世界初の共産主義国家となった。この時点で統制はある程度緩和され、RDTはRDAに移行し始めた。 RDAモデルでは、共産党の政治面での独占に歯向かわない限り、民間部門や萌芽期の市民社会、非国営マスメディアの成長が許容されていた。加えて01年のWTO(世界貿易機関)加盟を機に外国から巨額の投資が流入し、輸出が飛躍的に伸びた。 だがRDAは、より長期的な問題の根本原因でもある。中国経済の持続的エネルギーは、土地と銀行部門の国家による独占、司法の独立性欠如、民間部門に対する差別、内需不足によって常に脅かされている。08年の世界金融危機は、党による完全支配を再び推進する口実となった。) 党=国家は膨大な債務を積み上げてインフラ整備を推し進め、少なくとも当面は高い経済成長を実現した。しかし、投資のほとんどは非効率で、中国は過剰借り入れと過剰設備の悪循環に陥った。さらに問題なのは、借金に頼った巨額の公共投資が民間部門を素通りしたことだ。 一方、土地の国有制と銀行の国家独占は、直接・間接的にGDPの約3分の1を占める不動産部門に深刻な問題を引き起こした。98年に始まった不動産の「市場化」は、国有地を地方政府の収入源に変えるのが狙いだった。この年の土地管理法改正の柱は、地方政府を管轄域内で唯一の土地所有者とすることにあった。 しかし、地方政府は土地から得られる利益を最大化するため、不動産の供給を絞って価格つり上げに走った。その結果、中国の不動産価格は平均世帯収入に対する比率で見ると、世界で最も高い水準に達した。中国全体の不動産価格はアメリカとEUの合計を上回ったが、この意図的に作られたバブルは今や崩壊寸前だ』、「中国の特色ある全体主義」、「の重要な柱は政治・思想・人事における高度に中央集権化された全体主義型統制と、行政・経済政策の分権化を合体させた地域分権全体主義(RDT)だ。 この組み合わせはポスト毛沢東時代の改革開放政策の原動力だった。この時期に経済への中央集権的・全体主義的な統制は緩和され、RDTは地域分権権威主義(RDA)へと発展した。だが、習が権力を握った2012年以降は全体主義に回帰し、特に急成長する民間部門への統制を再び強めた。この逆流現象が、22年の急激な経済減速の主な理由だ」、なるほど。「中国の不動産価格は平均世帯収入に対する比率で見ると、世界で最も高い水準に達した。中国全体の不動産価格はアメリカとEUの合計を上回ったが、この意図的に作られたバブルは今や崩壊寸前だ」、「中国全体の不動産価格はアメリカとEUの合計を上回った」、とはまさに「バブル」だ。
・『全体主義への回帰が鮮明に  土地と銀行の国家独占は金融・財政システムも不安定化させた。地方政府が土地を担保に国有銀行から巨額の借り入れを続けたこともあり、中国全体の対GDP比債務残高は19年第1四半期には300%に達した。 さらに深刻なのは、その大半が土地や金融商品を担保にした住宅ローンであることだ。経済が減速している今、景気の波を増幅させる効果があるこの種の債務の担保価値低下は経済システム全体の重荷になり始め、金融・財政危機を誘発しかねない。 こうした問題に拍車をかけているのが内需の弱さだ。かつての中国は輸出収入でそれを補えたが、先進国との関係が悪化している現在、輸出頼みの経済成長はもはや望めない。中国の民間消費の対GDP比は21年の時点で38.5%(アメリカは70%近く、日本は58%)。依然として世界最低レベルにとどまっている。 中国経済が新たに直面している最大の問題は、共産党の掲げる目標の変化だ。党の存続のための経済発展という従来の目標は、穏やかな政治の進化とカラー革命(民主化運動)の阻止に代わった。党指導部は12年以降、組織的に中国の政治経済を全体主義に引き戻そうとしている。 中国社会の多元主義的要素(民間企業、市民団体、独立系メディア)は依然として制限されているが、党指導部はこの狭い空間が反抗の拠点になることを恐れている。民間の大物起業家や非国有の大手IT企業は容赦なく弾圧された。こうした動きは民間部門を弱体化させ、先進国市場へのアクセスを低下させている。) 党大会を見る限り、今後の中国で全体主義型統制が強化されることは明らかだろう。穏健なテクノクラートの存在感は低下し、今後の経済政策は政治的に決定されることになる。民間企業と市場への締め付けは着実に強化されるだろう。 1980年代、購買力平価でみたソ連の1人当たりGDPはアメリカの約3分の1だったが、今の中国は4分の1をわずかに超える程度。しかも数十年続いた「一人っ子政策」の結果、人口は減少に転じ、人口構造から労働供給と内需の両面で問題のさらなる悪化が示唆されている。 50年代、共産党の有名なスローガンの1つに「ソ連の今日は私たちの明日」というものがあった。現在の党指導部は今日の中国を昨日のソ連に変えようとしている』、「党指導部は12年以降、組織的に中国の政治経済を全体主義に引き戻そうとしている。 中国社会の多元主義的要素・・・は依然として制限されているが、党指導部はこの狭い空間が反抗の拠点になることを恐れている。民間の大物起業家や非国有の大手IT企業は容赦なく弾圧された。こうした動きは民間部門を弱体化させ、先進国市場へのアクセスを低下させている」、「今後の中国で全体主義型統制が強化されることは明らかだろう。穏健なテクノクラートの存在感は低下し、今後の経済政策は政治的に決定されることになる。民間企業と市場への締め付けは着実に強化されるだろう」、その通りだ。

第三に、3月15日付けNewsweek日本版が掲載した香港出身の経済学者・コラムニストの練乙錚氏による「水増しされていた中国の人口、「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出」を紹介しよう。これは、誠に驚くべき内容だ。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2023/03/post-101105_1.php
・『<労働人口が増え続ければ経済は栄える...。「14億人市場」という売り文句で海外からの投資を呼んできたが、中国の改ざん、捏造の流儀に目をつぶったほうも軽率> 多産多死の時代から多産少死の人口増加期を経て、やがて少産少死の安定期に入る。このプロセスを「人口転換」と呼ぶが、その後半では(今の日本のように)少子高齢化が顕著になり、やがて人口減少の危機を迎えかねない。 それが歴史の常であり、この人口転換からはどの国も逃れられない。まだ人口は増え続けると豪語していた中国政府も、ついにこの1月、従来は「2030年以降」とされていた人口減少が、実は昨年から始まっていたと認めた。 深刻な事態だが、もっと深刻なのは、その背景にある中国ならではの特殊事情だ。 なぜ想定より8年も早く、人口減が始まってしまったのか。中国の人口が「2030年以降」に減り始めるという想定は中国政府の発表してきた過去の公式統計に基づくもので、大多数の国際機関や外国政府もこれを信じ、これによって中国の将来性や国力を推定してきた。 そもそも平時には、一国の人口が激変する事態は考えにくい。しかるべき統計データがあれば、先の予想は十分に可能だ。なのに、なぜ8年も計算が違ったのか。 どう見ても不自然で、基のデータがおかしかったと考えざるを得ない。中国政府の発表する公式統計の信憑性には以前から疑問が提起されていたが、人口統計に関しては明らかに意図的な改ざんがあったと思われる。 かつて中国には「国家衛生計画生育委員会(計生委)」という組織があった。計生委は巨大な官僚機構で、1980年代に急激に力を付け、国民からは最も嫌われ、軽蔑される組織の1つとなった。 なぜか。1980年頃に始まる悪名高い「一人っ子政策」の実行部隊として、計生委は強制的に妊娠を規制し、2人目以降の妊娠に関しては人工中絶を強要してきたからだ。 一方で組織内には腐敗が蔓延し、無能な共産党幹部が違法出産を見逃す代わりに私腹を肥やしていた。一人っ子政策の下でも人口が増え続けるのは、計生委の指導下でのデータ改ざんが原因だった(こちらの記事参照、なお計生委は18年に廃止されている)』、「人口統計に関しては明らかに意図的な改ざんがあった」、「かつて中国には「国家衛生計画生育委員会(計生委)」という組織があった。計生委は巨大な官僚機構で、1980年代に急激に力を付け、国民からは最も嫌われ、軽蔑される組織の1つとなった。 なぜか。1980年頃に始まる悪名高い「一人っ子政策」の実行部隊として、計生委は強制的に妊娠を規制し、2人目以降の妊娠に関しては人工中絶を強要してきた」、「一人っ子政策の下でも人口が増え続けるのは、計生委の指導下でのデータ改ざんが原因」、酷い組織だったようだ。
・『共産党が神話を主導  だが党の指導者──最初は江沢民(チアン・ツォーミン)、次いで胡錦濤(フー・チンタオ)──が旗を振らなければ、データの改ざんがこれほど組織的に行われることはなかっただろう。 江沢民も胡錦濤も、中国経済の成長を支えるには外国資本の誘致が不可欠と考えていた。だから中国には今でも10億人を超える巨大市場があり、その規模は何十年も先まで拡大を続けるし、安価な労働力もたっぷりあるという「神話」をつくり上げた。 データの改ざんは習近平(シー・チンピン)体制になってからも続いた。「14億の民」という標語を振りかざせば、軍事面でも外交面でも虚勢を張り、諸外国を威圧することが可能だった。 しかし偽りの楽観的な人口統計に基づく経済成長は持続不能だ。だから習近平は、あの「ゼロコロナ政策」を放棄したときと同様、唐突に「30年以降の人口減少」説を放棄した。そして中国の人口は既にピークに達し、減少に転じていると認めた。 それでも中国は、全てを白状したわけではない。22年の人口総数は約14億1000万人だったと、今も主張し続けているが、ここ数年の人口データの修正から考えて、極めて疑わしい数字だ。 なお米ウィスコンシン大学の人口統計学者である易富賢(イー・フーシェン)は、水増しされる前の出生データを基に、中国のピーク人口は約12億8000万人だったと推定している(ちなみに彼の著書は、中国国内では発売を禁じられている)。 だが昨年起きたハッキング事件により、中国の人口は彼の推定値よりもずっと少ない可能性が出てきた』、「江沢民も胡錦濤も、中国経済の成長を支えるには外国資本の誘致が不可欠と考えていた。だから中国には今でも10億人を超える巨大市場があり、その規模は何十年も先まで拡大を続けるし、安価な労働力もたっぷりあるという「神話」をつくり上げた。 データの改ざんは習近平・・・体制になってからも続いた」、昔から「改ざん」を続けていたことに驚かされた。
・『データ流出で嘘が露呈?  昨年6月、中国は史上最悪のデータ流出事件に見舞われた。上海警察のデータベースがハッカー攻撃を受けたのだ。 ハッカー集団は、個人を特定できる最新の情報を含む10億人分(23テラバイト相当)のデータセットを盗み、それをダークウェブで1セット10ビットコイン(約20万ドル)で売りに出した。 これを購入した研究者たちが分析してみると、その数値は中国の実際の人口動態プロファイルと酷似していた。つまりデータは本物と考えていいのだが、統計処理に当たって総人口の70%(総数を14億とすれば10億)ものサンプルを使うことはあり得ない。 一般論として、そんな必要はないし、手間も費用もかかりすぎる。普通はどんなに多くても10%程度だ。中国政府は毎年、サンプル調査を基に人口の変動を推計しているが、その際に用いられるサンプル数は総人口の1%だ。 そう考えると、昨年のハッキングで流出したデータセットには(国民の70%ではなく)全国民の個人識別情報が含まれていた可能性が高い。つまり、中国の本当の人口は14億でも12億8000万でもなく、せいぜい10億人程度という可能性が出てくる。 この国の政治は依然として一枚岩のトップダウン型で、それがデータ改ざんを助長する体質を生んだ。人口の水増しを伴うようでは、中央政府の進める壮大な建設プロジェクトも無用なものとなろう。 高速道路や新幹線の建設を急ぎ、人口増を見込んで不動産を開発しても、入居者のいない新築物件のゴーストタウンを生み出すだけだ。関連業界も含め、収益性を欠く無用の事業ばかりで、今や不良債権が山積みされている。 統計偽装の弊害は高齢者の医療保険や年金にも及ぶ。1960年代に生まれたベビーブーム世代には、労働力の増加を前提として潤沢な支給が約束されていた。 ところが今、武漢などの大都市では「白髪革命」と呼ばれる抗議デモが起きている。医療保険の給付金減額に、高齢者が怒りの声を上げているのだ。 外交の分野では虚栄心に満ちた「一帯一路構想」が同じく持続不能となり、挫折しかけている。労働人口が増え続ければ経済は栄え、政府の資金も潤沢になる──。そんな前提で金をつぎ込んできたのだが、今や人口は減少に転じ、経済の先行きも暗い。 こういう展開は、同じような人口問題を抱える他の国々ではあり得ない。いわゆる計画経済に縛られていないから、誰も人口統計を改ざんする必要を感じないからだ。 しかし偽データの影響は他国にも及ぶ。外国の自動車メーカーや携帯電話の製造会社は、人口増という見込みがあればこそ中国に投資してきた。中国市場の拡大に期待し、安価な労働力を搾取して輸出品の生産もしてきた。これらも持続不能になる。) ブラジル、オーストラリア、カナダ、アメリカなどでは、中国を巨大な成長市場と信じて鉱業や農業の分野で生産規模を拡大してきた。これらの業界のもくろみも外れる。 だました中国が悪いとは言える。ただし長期プランを策定する際に中国の公式統計に頼ってきた企業側も、まあ自業自得だろう。 それは各国政府の罪でもあるかもしれない。改ざん・捏造といった、知らないわけではない中国の流儀に目をつぶっていたのは軽率だった。 習近平は最近、中国の人口危機に取り組むことを約束した。だが元紅衛兵ゆえに、かつての一人っ子政策より過激な政策に傾くかもしれない。今度は逆方向、つまり強制妊娠という方向へだ。 そんな発想は狂気の沙汰としか思えないが、世界では現に(毛沢東時代の中国と緊密な関係にあった)カンボジアのポル・ポト政権とルーマニアのチャウシェスク政権がそれを実行に移している。 参考となるのは1966年にルーマニアで制定された政令770号だろう。女性の月経を厳しく監視し、妊娠を中絶した者に厳罰を科した。望まない妊娠が増え、親に捨てられた子供たちで満杯の孤児院がいくつも出現している。習近平がそこまで愚かではないことを願おう。 (リアン・イーゼン氏の略歴はリンク先参照)』、「データ流出で嘘が露呈」、「中国の本当の人口は14億でも12億8000万でもなく、せいぜい10億人程度という可能性が出てくる」、ずいぶんサバを読んだものだ。「高速道路や新幹線の建設を急ぎ、人口増を見込んで不動産を開発しても、入居者のいない新築物件のゴーストタウンを生み出すだけだ。関連業界も含め、収益性を欠く無用の事業ばかりで、今や不良債権が山積みされている。 統計偽装の弊害は高齢者の医療保険や年金にも及ぶ。1960年代に生まれたベビーブーム世代には、労働力の増加を前提として潤沢な支給が約束されていた。 ところが今、武漢などの大都市では「白髪革命」と呼ばれる抗議デモが起きている。医療保険の給付金減額に、高齢者が怒りの声を上げているのだ」、国内での各種歪みは深刻だ。「偽データの影響は他国にも及ぶ。外国の自動車メーカーや携帯電話の製造会社は、人口増という見込みがあればこそ中国に投資してきた。中国市場の拡大に期待し、安価な労働力を搾取して輸出品の生産もしてきた。これらも持続不能になる。 ブラジル、オーストラリア、カナダ、アメリカなどでは、中国を巨大な成長市場と信じて鉱業や農業の分野で生産規模を拡大してきた。これらの業界のもくろみも外れる」、海外にも影響するとは・・・。「習近平は最近、中国の人口危機に取り組むことを約束した。だが元紅衛兵ゆえに、かつての一人っ子政策より過激な政策に傾くかもしれない。今度は逆方向、つまり強制妊娠という方向へだ。 そんな発想は狂気の沙汰としか思えないが、世界では現に(毛沢東時代の中国と緊密な関係にあった)カンボジアのポル・ポト政権とルーマニアのチャウシェスク政権がそれを実行に移している」、「強制妊娠」はやはり無理だろう。それにしても、迷惑な種を世界中に蒔いてくれたものだ。やれやれ・・・。
タグ:中国経済 (その16)(政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が 根本的に分かっていないこと、習近平は「支配を正当化するための経済発展」すら放棄...突き進む「ソ連化」の道、水増しされていた中国の人口 「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出) Newsweek日本版 ミンシン・ペイ氏による「政府が「経済成長せよ!」と叫ぶだけの中国が、根本的に分かっていないこと」 「共産党の中央経済工作会議で、今年は経済成長を政府の最優先課題とすると定められた・・・地方の党幹部や首長らも同じ言葉を繰り返し、民間の投資家や実業家らの期待をあおっている」、「国民が苛酷なゼロコロナ政策への不満を爆発させ、その廃止に伴う混乱にも失望している今は、一刻も早く党に対する信頼と支持を回復したい。だが成長賛歌の合唱だけでは不十分。 大事なのは行動だ。停滞する不動産業界へのテコ入れなど、小手先の対策では足りない。金融緩和やインフラ投資の拡大などの景気刺激策も、せいぜい短期の効果しかあるまい」、その通りだ。 「こんな政治的緊張が続く限り、経済の先は見えない。投資意欲は冷え、外国企業の撤退で製造業の雇用は確実に減っていく。 つまり、中国経済を再び成長軌道に乗せるには欧米諸国との関係改善が不可欠だ。しかし現時点で、米中関係は修復不能なほどに冷え込んでいる」、打開は難しそうだ。 「習近平・・・政権は古典的な共産主義イデオロギーにこだわり、社会と経済に対する党の支配を強化してきた。民間企業に党の支部を置き、貿易相手国への危険な挑発を繰り返したりするようでは、信頼回復など望めない。 本気で成長を取り戻したいなら、かつて鄧小平が推進した政治改革の路線に戻るべきだ。 とりわけ大事なのは法治主義の貫徹と司法の独立。さもないと民間事業者が自分の命と財産を守れない」、「習近平」は経済がある程度理解していた李克強を追い出し、イエスマンが首相にしたようでは、「当面は、中国経済の息は上がったままだ」。困ったことだ。 チョンカン・シュイ氏による「習近平は「支配を正当化するための経済発展」すら放棄...突き進む「ソ連化」の道」 ソ連型全体主義は30年前に経済の行き詰まりにより崩壊したが、中国は例外に見えた。いま問われているのは、中国独自の全体主義的実験が今後も長続きするかどうかだ。 「中国の特色ある全体主義」、「の重要な柱は政治・思想・人事における高度に中央集権化された全体主義型統制と、行政・経済政策の分権化を合体させた地域分権全体主義(RDT)だ。 この組み合わせはポスト毛沢東時代の改革開放政策の原動力だった。 この時期に経済への中央集権的・全体主義的な統制は緩和され、RDTは地域分権権威主義(RDA)へと発展した。だが、習が権力を握った2012年以降は全体主義に回帰し、特に急成長する民間部門への統制を再び強めた。この逆流現象が、22年の急激な経済減速の主な理由だ」、なるほど。「中国の不動産価格は平均世帯収入に対する比率で見ると、世界で最も高い水準に達した。中国全体の不動産価格はアメリカとEUの合計を上回ったが、この意図的に作られたバブルは今や崩壊寸前だ」、「中国全体の不動産価格はアメリカとEUの合計を上回った」 、とはまさに「バブル」だ。 「党指導部は12年以降、組織的に中国の政治経済を全体主義に引き戻そうとしている。 中国社会の多元主義的要素・・・は依然として制限されているが、党指導部はこの狭い空間が反抗の拠点になることを恐れている。民間の大物起業家や非国有の大手IT企業は容赦なく弾圧された。こうした動きは民間部門を弱体化させ、先進国市場へのアクセスを低下させている」、 「今後の中国で全体主義型統制が強化されることは明らかだろう。穏健なテクノクラートの存在感は低下し、今後の経済政策は政治的に決定されることになる。民間企業と市場への締め付けは着実に強化されるだろう」、その通りだ。 練乙錚氏による「水増しされていた中国の人口、「本当は10億人だった説」の衝撃──ハッキングでデータ流出」 「人口統計に関しては明らかに意図的な改ざんがあった」、「かつて中国には「国家衛生計画生育委員会(計生委)」という組織があった。計生委は巨大な官僚機構で、1980年代に急激に力を付け、国民からは最も嫌われ、軽蔑される組織の1つとなった。 なぜか。1980年頃に始まる悪名高い「一人っ子政策」の実行部隊として、計生委は強制的に妊娠を規制し、2人目以降の妊娠に関しては人工中絶を強要してきた」、 「一人っ子政策の下でも人口が増え続けるのは、計生委の指導下でのデータ改ざんが原因」、酷い組織だったようだ。 「江沢民も胡錦濤も、中国経済の成長を支えるには外国資本の誘致が不可欠と考えていた。だから中国には今でも10億人を超える巨大市場があり、その規模は何十年も先まで拡大を続けるし、安価な労働力もたっぷりあるという「神話」をつくり上げた。 データの改ざんは習近平・・・体制になってからも続いた」、昔から「改ざん」を続けていたことに驚かされた。 「データ流出で嘘が露呈」、「中国の本当の人口は14億でも12億8000万でもなく、せいぜい10億人程度という可能性が出てくる」、ずいぶんサバを読んだものだ。 「高速道路や新幹線の建設を急ぎ、人口増を見込んで不動産を開発しても、入居者のいない新築物件のゴーストタウンを生み出すだけだ。関連業界も含め、収益性を欠く無用の事業ばかりで、今や不良債権が山積みされている。 統計偽装の弊害は高齢者の医療保険や年金にも及ぶ。1960年代に生まれたベビーブーム世代には、労働力の増加を前提として潤沢な支給が約束されていた。 ところが今、武漢などの大都市では「白髪革命」と呼ばれる抗議デモが起きている。医療保険の給付金減額に、高齢者が怒りの声を上げているのだ」、国内での各種歪みは深刻だ。「偽データの影響は他国にも及ぶ。外国の自動車メーカーや携帯電話の製造会社は、人口増という見込みがあればこそ中国に投資してきた。中国市場の拡大に期待し、安価な労働力を搾取して輸出品の生産もしてきた。これらも持続不能になる。 ブラジル、オーストラリア、カナダ、アメリカなどでは、中国を巨大な成長市場と信じて鉱業や農業の分野で生産規模を拡大してきた。これらの業界のもくろみも外れる」、海外にも影響するとは・・・。「習近平は最近、中国の人口危機に取り組むことを約束した。だが元紅衛兵ゆえに、かつての一人っ子政策より過激な政策に傾くかもしれない。今度は逆方向、つまり強制妊娠という方向へだ。 そんな発想は狂気の沙汰としか思えないが、世界では現に(毛沢東時代の中国と緊密な関係にあった)カンボジアのポル・ポト政権とルーマニアのチャウシェスク政権がそれを実行に移している」、「強制妊娠」はやはり無理だろう。それにしても、迷惑な種を世界中に蒔いてくれたものだ。やれやれ・・・。
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中国経済(その15)(習近平が大ピンチ……!中国「ゼロコロナ大不況」が「世界金融危機」へと波及する悪夢のシナリオ、中国の医療・葬儀の修羅場 39℃の救急車運転手と38.5℃の医師が38℃の患者の元へ、中国「習近平体制」がもたらす「経済“大失速”の深層」と 中国型「全体主義」が限界をむかえる「あぶない兆候」、これは宿命なのか・・・「習近平体制」に富裕層が海外逃亡!「先の見えた中国」に国民があいそをつかす日) [世界経済]

中国経済については、昨年2月19日に取上げた。今日は、(その15)(習近平が大ピンチ……!中国「ゼロコロナ大不況」が「世界金融危機」へと波及する悪夢のシナリオ、中国の医療・葬儀の修羅場 39℃の救急車運転手と38.5℃の医師が38℃の患者の元へ、中国「習近平体制」がもたらす「経済“大失速”の深層」と 中国型「全体主義」が限界をむかえる「あぶない兆候」、これは宿命なのか・・・「習近平体制」に富裕層が海外逃亡!「先の見えた中国」に国民があいそをつかす日)である。

先ずは、一昨年12月26日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェロの藤 和彦氏による「習近平が大ピンチ……!中国「ゼロコロナ大不況」が「世界金融危機」へと波及する悪夢のシナリオ」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103701?imp=0
・『国民の大反発にあった習近平がついに「ゼロコロナ政策」を解除した。しかし、今これまで無菌室だった中国で、猛烈な感染拡大が懸念されている。 それは中国経済を「コロナ大不況」に陥れ、リーマンショック級の金融危機を誘発しかねない状況だ。世界は中国に対して決して警戒を怠ってはならないのだ。 前編「習近平の大誤算…!「ゼロコロナ」がいざなう、中国発「世界大不況」の巨大すぎるインパクト」に続き、詳報する』、「ゼロコロナ政策」に対する国民の不満が高まり、突如、「解除」したが、政策の振れの大きさには驚かされる。
・『すでに瀕死の「中国経済」  ゼロコロナ解除以前の中国経済は既にひどい状態だった。 中国経済の屋台骨と言える不動産投資は11月、前年比19.9%となり、2000年の統計開始以来、最大の落ち込みとなった。住宅価格も14か月連続で低下しており、「先行き悲観」の状況に変わりはない。 新築住宅販売は政府の支援策で持ち直しの兆しを見せていたが、新型コロナの感染拡大のせいで「元の木阿弥」になりつつある。 不動産不況のあおりを受けて、中国の11月の生産者物価指数は10月に続いてマイナスとなった(前年比1.3%減)。中国企業の景況感指数(調査期間は12月1日から16日)は2013年1月以来の低水準だった。 中でもサービス業の雇用指数は深刻な状態になっている。 中国の11月の小売売上高は前年比5.9%減と記録的な落ち込み幅となった。同じく輸出額も前年比8.7%減だった(対米輸出は約3割減少)。 中国のすべての経済指標が絶不調だったところに政府の大失政(ゼロコロナ解除)が猛烈な下押し圧力となって、経済は未曾有の危機に直面してしまうのではないだろうか』、中国のGDP成長率は、2022年は3.0%と目標の5.5%を大きく下回った。10-12月期は前年同期比2.9%と7-9月期の同3.9%より低くなった。
・『「ゼロコロナ」のヤバすぎる影響  ゼロコロナ解除の悪影響は早くも出ている。 市場参加者の間で新型コロナの感染が急拡大したことから、中国の金融市場の取引が低調になっており、好調だった新規株式公開(IPO)にも影響が及んでいる。事実上の「鎖国」状態が解かれたことで中国から大量の資金が流出するリスクも指摘されている。 一方、コロナ禍から抜け出したとされる米国経済にも暗い影が忍び寄っている。 米国の12月の購買担当者景気指数(PMI)は44.6と前月から1.8ポイント悪化し、好不況となる50を6ヶ月連続で下回った。 米国企業の収益はリーマンショック以降で最悪になる見込みだ(12月19日付ブルームバーグ)。 米国のインフレ率は高止まりの状況が続いているが、債券投資家は「来年のインフレ率はリーマンショック直後のペースまで鈍化する」と予想しており(12月13日付ブルームバーグ)、米ウオール街の心配は「インフレ」から「リセッション(景気後退)」にシフトしつつある(12月19日付ZeroHedge)。 米国の金融市場の関心がリセッションに集まる中、中国経済への期待は高まるばかりだ』、リーマン・ショック時は確かに「中国」がプラス成長で世界をリードしたが、もはやそんな底力はなさそうだ。
・『中国経済バブル崩壊の序曲  国際金融協会(IIF)は「来年の世界経済の成長率はリーマンショック後の2009年並みの低水準(1.2%増)となる。牽引役は中国だ」と予測している。 だが、中国が「コロナ大不況」となれば、来年の世界経済は21世紀初のマイナス成長になってしまい、米国の金融市場全体のセンチメントは急速に悪化すると言っても過言ではない。 リセッション懸念で米国の銀行株に対する売り圧力が既に生じているが、最も警戒すべきはリーマンショックの震源地となったクレジット市場だろう。クレジット市場とは信用リスク(資金の借り手の信用度が変化するリスク)を内包する金融商品が取引される市場のことだ。 クレジット商品には、貸出債権や社債など様々な信用リスクを加工して証券の形で売買する「証券化商品」や信用リスクを原資産とする派生商品である「クレジット・デリバテイブ」などが代表的だ』、ちなみに国債のデフォルト確率を示すクレジット・デフォルト・スワップのスプレッドは、米国、日本は低いが、中国、韓国は高水準である。
https://finance-gfp.com/?p=6447
・『「金融危機」への警戒感が高まっている  「米国のジャンク債(低格付け債)バブルが今後崩壊する」との警戒感が強まっており(12月16日付日本経済新聞)、米国消費者ローンの延滞率も来年13年ぶりの高水準になる見通しだ。足元が揺らぎ始めているクレジット市場に外的ショックが直撃すれば、金融市場に大きな混乱が起こる可能性は排除できない。 「金融危機が勃発する」と断言するつもりはないが、中国のコロナ大不況が米国の金融市場に与える負のインパクトを見逃してはならないのではないだろうか。 さらに連載記事「2022年エネルギー危機の正体…!プーチンが招いた「最悪のインフレ」と「原油高騰」がこれからも続く深刻なワケ」では、来年にかけてのエネルギー価格の状況についてレポートしていく』、「中国のコロナ大不況が米国の金融市場に与える負のインパクトを見逃してはならないのではないだろうか」、その通りだ。

次に、昨年2月4日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した日中福祉プランニング代表の王 青氏による「中国の医療・葬儀の修羅場、39℃の救急車運転手と38.5℃の医師が38℃の患者の元へ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317160
・『2022年12月に、ロックダウンなど厳しい行動制限を伴う「ゼロコロナ」政策を突然解除した中国。それから約2カ月弱、「累計感染者数9億人」「1週間で6000人以上が死亡」など感染が急激に広がったことを示す数字やニュースが世界中で報じられている。実際のところ、中国の医療と葬儀の最前線はどうだったのか。上海の葬儀場や、大学付属病院に勤める友人たちに話を聞いた』、
・『突然のゼロコロナ政策解除から2カ月弱 中国で何が起こっていたのか  昨年12月、これまで約3年間厳格に実施されてきた中国のゼロコロナ政策が解除された。突然の政策転換で、感染者が爆発的に増え、医療機関は崩壊寸前だった。病院にあふれかえった患者の様子や、寒風の中、葬儀場にできた長蛇の列などを撮影した動画が広まり、世の中に衝撃を与えた。 12~1月にかけて、中国の医療や葬儀の現場ではどのようなことが起こっていたのか。今年の春節連休(1月22~28日)、筆者は日頃仕事で交流のある上海の医療業界や葬儀業界の関係者とオンラインで新年会を行った。そこで、第一線でコロナと戦う彼らが話していた、コロナ政策転換後約2カ月弱の間の体験談をご紹介したい』、興味深そうだ。
・『従業員が倒れて「減員厳重」、しかし「39℃以下なら勤務せよ」  話を聞かせてくれたのは、葬儀場に勤務の男性・呉輝さん(仮名、40代)と李海辰さん(仮名、40代)、大学付属病院で看護師として勤める女性・段玲さん(仮名、30代)、そして彼らの職場の友人数人である。 「ここにいる全員、(コロナに)感染したよ、ハハハ……」 オンライン新年会はそんな全員の笑い声から始まった。「今でこそ笑えるが、その時は死も覚悟した。うちの病院の職員の9割が感染した。病棟がいっぱいになったのはいうまでもなく、病院の入り口や廊下まで発熱患者であふれていた。簡易ベッドや点滴用の椅子で埋め尽くされ、病院中、足の踏み場もない状態。これだけ患者がどんどん増えている一方で、スタッフは厳しい減員となった」(段さん) 「減員厳重」――。これはゼロコロナ政策が緩和されて以来、中国でよく使われていた言葉である。つまり、爆発的に拡大した感染で従業員がバタバタと倒れ、働き手が極めて足りなくなった状況を指す。 このような状況下、国家衛生健康委員会(衛生と健康を担当する政府機関)は、「いかなる理由であれ、陽性患者の受け入れを拒否してはいけない。減員による診察の停止や欠勤は断固として禁止する」という通知を出した。そして医療従事者に「熱が39℃以下であれば、勤務を続けよ」と命じた。 そのため、「せき込む人や熱で真っ赤な顔をしている人、点滴の管をつったままの人など、極限状況で同僚たちは働き続けた。突然失神して地べたに倒れた人もいた。今思えば、まるで地獄だった」と段さんは振り返る』、「「いかなる理由であれ、陽性患者の受け入れを拒否してはいけない。減員による診察の停止や欠勤は断固として禁止する」という通知を出した。そして医療従事者に「熱が39℃以下であれば、勤務を続けよ」と命じた」、医療の世界でも強権的指導が一般化しているようだ。
・『39℃の救急車運転手が38.5℃の医者と看護師を乗せて38℃の患者を迎えに行く  中国のSNSでも、この話はブラックジョークの形で拡散されていた。「熱が39℃の救急車のドライバーが、38.5℃の医者と看護師を乗せて、38℃の患者を迎えに行っている」というのだ。そして、多くのネットユーザーは、「これは決してジョークではない。現実に起こっている話だ」と同意するのだった。 「この3年間、まともな休日はなかった。最長だと4カ月間1日も休めない時もあった。そして、ずっと防護服のままだった。病院内だけでなく、1年の半分以上はあちこちのPCR検査に出張した。そこでももちろん終日防護服。できるだけトイレへ行かないように、食事や水を極力控えめにしていた。ダイエットにはちょうどいいかもしれないね」と段さんは苦笑しながら話す』、「39℃の救急車運転手が38.5℃の医者と看護師を乗せて38℃の患者を迎えに行く」、「多くのネットユーザーは、「これは決してジョークではない。現実に起こっている話だ」と同意する」、なるほど。
・『年末年始を挟んだ2カ月弱、新型コロナで亡くなった人は約8万人?  1月28日に中国疾病予防センターは、1月20~26日の1週間で、新型コロナに感染し、国内の医療機関で死亡したのは6364人と発表した。感染対策が大幅に緩和された12月8日から1月26日までの2カ月弱の死者数は合わせて約8万人となったが、これには自宅で死亡した人は含まれておらず、実際にはもっと多いという指摘もあり、国内外のメディアやSNSではさまざまな臆測が飛び交っている。 この数字について、葬儀場の職員として働いている呉さんと李さんに尋ねてみた。「日本を含めて海外の多くのメディアは、中国では高齢者を中心にものすごい数の人が亡くなったと報道していた。それは本当? あと、葬儀場に長蛇の列ができている様子も報じられていたけど、あれはなぜ?」 呉さんの答えは、「自分の肌感覚では、例年同時期に比べると、2割ぐらい増えたと思う」というもの。「もともと12月下旬から春節までは、高齢者の死亡が一番多い時期。しかし、今回はオミクロン株の感染により、高齢者の死亡者数が例年を上回っていたのは事実だ」(呉さん) ちなみに、呉さんと李さんが勤める葬儀場は、年間3万近くの遺体を扱っている巨大な葬儀施設である。職員は300人以上おり、告別式用のホールは20以上、一番大きいホールは1000人以上が入る規模だ』、「自分の肌感覚では、例年同時期に比べると、2割ぐらい増えたと思う」、やはり、「例年同時期に比べると」、「増えた」ようだ。
・『葬儀場の前に長蛇の列ができていた理由は?  上海市では、人が亡くなると、親族から葬儀会社に連絡して、自宅や病院から遺体を引き取ってもらい、告別式までの間は葬儀場に安置される。親族は葬儀場と、告別式の詳細や火葬の日程について打ち合わせし、後日、告別式と火葬を行うというのが一般的な流れである。葬儀場で告別式が終わったら、遺体は火葬場に送られる。親族が火葬場に同行するかしないかは選択できるが、大概は同行しない。そのため、日本のように火葬後に親族による収骨という過程はない。お骨はその後葬儀場に戻り、親族が葬儀場でお骨を引き取り、納棺する。 「もともと一年でもっとも忙しい時期な上に、(昨年末から今年の春節にかけては)職員の3分の2が陽性になった。管理職から事務方、食堂の担当まですべての職員を現場に総動員し、みんな帰宅できず職場に泊まり込んでいた。それでも人手がまったく足りず、業務がたまりにたまって、まるで戦場のようだった。遺体を引き取りにいく人手が足りなくなったため、多くの遺体が病院の霊安室やご家庭に長く安置されていた。ネットで拡散されていた、病院の霊安室に遺体が重ねて安置されている写真はそのためだ。通常なら遺体の引き取りは電話一本で済むが、電話の対応もできなくなったので、手続きは葬儀場で行わなければならない。そのため、市民たちが夜中の1時から並び始めた。列が長い時には、200メートル以上先まで続いていたよ」(李さん) 「国のウィズコロナへの政策転換は賛成だが、緩和するタイミングをもうちょっと考えてほしかった。今回は葬儀場の職員が不在のため、告別式もできなくなった。親族がご遺体とまともなお別れができないままで、遺体が火葬された」(呉さん)』、「職員の3分の2が陽性になった。管理職から事務方、食堂の担当まですべての職員を現場に総動員し、みんな帰宅できず職場に泊まり込んでいた。それでも人手がまったく足りず、業務がたまりにたまって、まるで戦場のようだった。遺体を引き取りにいく人手が足りなくなったため、多くの遺体が病院の霊安室やご家庭に長く安置されていた。ネットで拡散されていた、病院の霊安室に遺体が重ねて安置されている写真はそのためだ。通常なら遺体の引き取りは電話一本で済むが、電話の対応もできなくなったので、手続きは葬儀場で行わなければならない」、大混乱のようだ。
・『「6歳の息子が、会えないまま火葬される」 路地裏で秘密裏に遺体と面会させてあげることも……  「コロナ禍の3年間は、多くの家庭がこのような境遇だった。昨年4月から2カ月間のロックダウンの期間中も、たくさんの凄惨な状況を見てきた。その時は、病院で亡くなった人は火葬場に直送されていたので、入院中はもちろん、亡くなってからも親族との対面が許されなかった。 ある時、6歳の男の子が病院で亡くなったことがあった。両親も祖父母も、入院中ずっと会えずにいた。せめて火葬される前に一目会いたいと相談されて、遺体を火葬場に送る途中、事前に家族と約束したある路地裏でこっそりと会わせたのだ」(李さん) ロックダウン中はこうしたケースが珍しくなかったため「あまりに気の毒で、ロックダウンの間に、親族が遺体と対面したいという要望があれば、規定があるとしても、我々はできるだけ対応していた」と李さんは話す』、「あまりに気の毒で、ロックダウンの間に、親族が遺体と対面したいという要望があれば、規定があるとしても、我々はできるだけ対応していた」、やはり中国でも弾力的な対応をするようだ。
・『第一線の医療関係者に一時奨励金を支給 しかしそれよりも……  彼らの体験談を聞いて、筆者は改めて心から尊敬の意を抱いた。この3年間、新型コロナウイルスと国の政策に翻弄されつつも、呉さんや李さん、段さんのように善良な人たちの献身的な支えがあったからこそ、中国の人々は救われていたのだ。 1月初旬、上海市政府は、コロナ感染治療にあたる第一線の医療関係者らに6000元(約12万円)を一時奨励金として支給した。これは、市民から絶大な支持を得た。「6000元は少ない。もっと差し上げるべきだ!」「医療従事者は我々の救いの神だ」などの声がSNSにあふれたのだ。そしてマスコミも、大きな災害の後、いつも第一線で大きな犠牲を払うこれらの人々に賛辞を惜しまない。「最美医生、最美睡姿」(もっとも美しい女医、もっとも美しい寝顔。あまりの疲れでつい寝てしまったという意味)など称賛の言葉が飛びかっていた。 その話をすると、新年会に出た人たちは皆、「そんなに感謝されなくて結構だ。私たちの仕事にケチをつけたり、差別したりしないで、理解してくれるだけで十分満足」と口をそろえていた。なぜなら中国では、葬儀や介護などの職種に対しての偏見が強く残っている。さらには病院を破壊したり、医師や看護師を襲って大けがを負わせたりといった事件まで起こっているからだ(参考記事:中国医療の過酷な現実、エリート中間層でも一寸先は医療費破産)。 中国における新型コロナウイルスの感染者数や死者数は12月末~1月上旬にピークとなり、春節を迎えるころにはかなり低いレベルに落ち着いた。新年会で話を聞かせてくれた友人だけでなく、中国中の医療従事者や葬儀場で働く人たちがゆっくり体を休めていることを願うばかりだ』、「中国における新型コロナウイルスの感染者数や死者数は12月末~1月上旬にピークとなり、春節を迎えるころにはかなり低いレベルに落ち着いた」、一安心だ。

第三に、2月6日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「中国「習近平体制」がもたらす「経済“大失速”の深層」と、中国型「全体主義」が限界をむかえる「あぶない兆候」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/105564
・『絶対君主の習近平  ゼロコロナ政策の解除を機に、中国経済への期待が高まっているが、果たして本当だろうか。 中国は本格的な人口減少の時代に突入するなど構造的な問題を抱えており、中長期の見通しについて悲観的な見方を示す専門家もまた、増えているからだ。 中国は、肝心かなめの「統治のあり方」に疑問が呈されるようになっている。 このポリティカルリスクのネガティブインパクトは、想像以上に大きいようだ。 中国の習近平国家主席は昨年10月の第20回共産党大会で最高指導部の政治局常務委員に側近を引き上げた。常務委員会の総意による意志決定をやめ、毛沢東以来でもっとも強力な指導者になったと言われている。 習氏の経済分野への介入強化はかねてから懸念されていた』、「習氏」はどうみても「経済」に対する見識には欠けるようだ。
・『習近平で限界を迎えた中国型「全体主義」  「国内の情報の流れを把握するなど影響力を持ちすぎる」との警戒から民間IT企業を厳しく取り締まったことで、世界の投資家の中国に対する信頼が揺らいだ。 その結果、民間部門で最も効率的なセクターの時価総額が数兆ドル規模で消失した。 不動産市場の低迷など経済が悪化していることから、短期的には締め付けが緩和されるだろうが、抜本的な方針転換が図られるとの期待は薄い。 むしろ、習氏への権力集中に伴い、専門家の意見を聞かずに密室で決定される政策が増加し、経済への悪影響がさらに拡大すると危惧されている。 そもそも中国の統治制度はどのような特色を有しているのだろうか。 米スタンフォード大学の許成鋼客員研究員は、中国の統治制度を「地方分権的全体主義」と定義している(1月27日付日本経済新聞)。 中国共産党は1950年代初期、政治・経済を含むあらゆる分野の支配権を中央に集中させる全体主義の制度をソ連(当時)から導入したが、50年代半ば以降、「郡県制」という伝統的な統治手法を加え、その制度を改めた。 個人崇拝などで最高指導者の絶対的権威を確立する一方、行政の立案・運営の権限のほとんどを最高指導者が任命する地方の指導者に与えるものだ。 これにより、中国共産党はソ連より強固な一極集中の体制をつくり上げたことに成功した。 この制度の下に、地方の指導者は最高指導者の意向に沿った取り組みを競い、切磋琢磨してその実現に邁進したのだが、最高の成功事例は改革開放だったことは言うまでもない。 経済成長を巡る地方間の激しい競争が民間セクターの発展を可能にし、政治改革を伴わずに中国は高度成長を長年にわたり享受することができた。 しかし、こうした競争は環境破壊や所得格差の拡大、不動産バブルといった問題をもたらし、改革開放は今や負の側面の方が大きくなっている。 習近平の独裁下のネガティブインパクトはあまりにも大きいようだ。さらに後編記事『これは宿命なのか・・・「習近平体制」に富裕層が海外逃亡!「先の見えた中国」に国民があいそをつかす日』では、中国の政府不信の高まりについて、詳しくレポートする!』、以前は経済は李克強前首相が主に担当していた。現在は、「習氏」の部下だった李強氏が次期首相候補とされている。「習氏」の「独裁」が強化されるようだ。しかし、「独裁」の「強化」は、失政のリスクも高くなることを意味。

第四に、この続きを、2月7日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの 藤 和彦氏による「これは宿命なのか・・・「習近平体制」に富裕層が海外逃亡!「先の見えた中国」に国民があいそをつかす日」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/105565
・『中国経済が復活するという楽観論が広がっているが、本当だろうか。 少なくとも中長期的には、ネガティブな情報にあふれている。 長らく「地方分権的全体主義」で機能して「改革開放」に成功した中国だが、いまや経済大失速が顕著になっている。習近平の独裁体制が始動したことで、さら(注)に数々のひずみが明らかとなった。 果たして、中国はこれからどうなってしまうのか。 前編『中国「習近平体制」がもたらす「経済“大失速”の深層」と、中国型「全体主義」が限界をむかえる「あぶない兆候」』に続きレポートする』、興味深そうだ。
(注):「び」ではなく「に」
・『絶対権力者の「落とし穴」  現在、習近平体制が敷こうとしている統治制度の根本的な問題は、最高指導者と地方の間の意思疎通が迅速かつ正確に行われず、カリスマ化した最高指導者に対するチェック機能が働かないことだ。 広大な国土と世界最大級の人口を擁する中国では「鶴の一声」が往々にして極端な結果を招いた。) カリスマ化した前例である毛沢東統治下で起きた「大躍進」や「文化大革命」の悲劇はあまりに有名だ。1979年から実施された「1人っ子政策」でも極端な人口減少を生じさせる結果となった。 習金平のやり方は伝統的な統治制度を復活させた感が強いが、「ゼロコロナ政策の突然の解除によってもう一つの悲劇が生まれるのではないか」との不安が脳裏をよぎる。 習近平の歓心を得るため、これまでゼロコロナ政策を墨守してきた地方政府だが、不動産市場の低迷で土地売却収入が激減し、ゼロコロナ政策を維持するのに必要な巨額の資金を捻出することができなくなってしまった。 台所が「火の車」になった地方政府からの突然の悲鳴に驚いた習近平が、なんら対策を講じることなくゼロコロナ政策を解除してしまったのが内情だろう』、「地方政府だが、不動産市場の低迷で土地売却収入が激減し、ゼロコロナ政策を維持するのに必要な巨額の資金を捻出することができなくなってしまった。 台所が「火の車」になった地方政府からの突然の悲鳴に驚いた習近平が、なんら対策を講じることなくゼロコロナ政策を解除してしまった」、突然の解除の背景がよく理解できた。
・『国民は「政府発信」の情報が信じられない  中国政府は「新型コロナの感染は収束しつつある」と喧伝しているが、専門家の間では「中国の感染爆発は長期にわたって続く」との見方が有力だ。 農村部の高齢者の犠牲を防ぐことがゼロコロナ政策を正当化する根拠だったことから、中国では今後、農村部を中心に100万人以上の死者が出るかもしれない。 中国政府が「不都合な真実」を隠蔽する可能性が高いが、このような姿勢は「人民の安全を守る」という政府の最も重要な責任を放棄したとのそしりを免れないだろう。 ゼロコロナ政策の解除により、政府の存在感が急速に薄れているのが気になるところだ。 新型コロナの感染が急拡大する中、政府から支援を得られない都市部の住民は医薬品などを融通し、助け合いで生き抜こうとしている(1月19日付ブルームバーグ)。 新型コロナの治療についても、保健当局者の発言よりもソーシャルメデイアのインフルエンサーの意見に頼るようになっている(1月24日付ブルームバーグ) ゼロコロナ下で非常に大きな存在感を示していた政府は「今は昔」だ。人々は政府抜きの生活を実感していると言っても過言ではない』、「政府から支援を得られない都市部の住民は医薬品などを融通し、助け合いで生き抜こうとしている」、「新型コロナの治療についても、保健当局者の発言よりもソーシャルメデイアのインフルエンサーの意見に頼るようになっている」、「人々は政府抜きの生活を実感していると言っても過言ではない」、なるほど。
・『富裕層が逃げだした  政府がゼロコロナ政策に伴う渡航制限を解除したことで富裕層の海外移住の動きも加速している(1月26日付ブルームバーグ)。 共産党に楯を突かない限り、富を増やし続けられることができた富裕層は、習近平の経済活動への締め付けや「共同富裕」の動きに辟易としているからだ。 「政府による一党支配を受け入れる代わりに、国民の安全を維持し生活を向上させる」という、これまでの社会契約が無効になりつつある。 慣れ親しんできた統治制度を抜本的に見直すことは困難だ。 だが、そうしない限り、体制の危機が進んでしまうのではないだろうか。 さらに連載記事『習近平が大ピンチ……!中国「ゼロコロナ大不況」が「世界金融危機」へと波及する悪夢のシナリオ』では、負の側面があらわとなった中国経済の深層を詳しくレポートする』、「富裕層は、習近平の経済活動への締め付けや「共同富裕」の動きに辟易としている」、「渡航制限を解除したことで富裕層の海外移住の動きも加速」、「富裕層」が逃げ出すような「中国経済」には展望がなさそうだ。
タグ:中国経済 (その15)(習近平が大ピンチ……!中国「ゼロコロナ大不況」が「世界金融危機」へと波及する悪夢のシナリオ、中国の医療・葬儀の修羅場 39℃の救急車運転手と38.5℃の医師が38℃の患者の元へ、中国「習近平体制」がもたらす「経済“大失速”の深層」と 中国型「全体主義」が限界をむかえる「あぶない兆候」、これは宿命なのか・・・「習近平体制」に富裕層が海外逃亡!「先の見えた中国」に国民があいそをつかす日) 現代ビジネス 藤 和彦氏による「習近平が大ピンチ……!中国「ゼロコロナ大不況」が「世界金融危機」へと波及する悪夢のシナリオ」 「ゼロコロナ政策」に対する国民の不満が高まり、突如、「解除」したが、政策の振れの大きさには驚かされる。 中国のGDP成長率は、2022年は3.0%と目標の5.5%を大きく下回った。10-12月期は前年同期比2.9%と7-9月期の同3.9%より低くなった。 リーマン・ショック時は確かに「中国」がプラス成長で世界をリードしたが、もはやそんな底力はなさそうだ。 ちなみに国債のデフォルト確率を示すクレジット・デフォルト・スワップのスプレッドは、米国、日本は低いが、中国、韓国は高水準である。 https://finance-gfp.com/?p=6447 「中国のコロナ大不況が米国の金融市場に与える負のインパクトを見逃してはならないのではないだろうか」、その通りだ。 ダイヤモンド・オンライン 王 青氏による「中国の医療・葬儀の修羅場、39℃の救急車運転手と38.5℃の医師が38℃の患者の元へ」 「「いかなる理由であれ、陽性患者の受け入れを拒否してはいけない。減員による診察の停止や欠勤は断固として禁止する」という通知を出した。そして医療従事者に「熱が39℃以下であれば、勤務を続けよ」と命じた」、医療の世界でも強権的指導が一般化しているようだ。 「39℃の救急車運転手が38.5℃の医者と看護師を乗せて38℃の患者を迎えに行く」、「多くのネットユーザーは、「これは決してジョークではない。現実に起こっている話だ」と同意する」、なるほど。 「自分の肌感覚では、例年同時期に比べると、2割ぐらい増えたと思う」、やはり、「例年同時期に比べると」、「増えた」ようだ。 「職員の3分の2が陽性になった。管理職から事務方、食堂の担当まですべての職員を現場に総動員し、みんな帰宅できず職場に泊まり込んでいた。それでも人手がまったく足りず、業務がたまりにたまって、まるで戦場のようだった。遺体を引き取りにいく人手が足りなくなったため、多くの遺体が病院の霊安室やご家庭に長く安置されていた。ネットで拡散されていた、病院の霊安室に遺体が重ねて安置されている写真はそのためだ。通常なら遺体の引き取りは電話一本で済むが、電話の対応もできなくなったので、手続きは葬儀場で行わなければならない」、大 「あまりに気の毒で、ロックダウンの間に、親族が遺体と対面したいという要望があれば、規定があるとしても、我々はできるだけ対応していた」、やはり中国でも弾力的な対応をするようだ。 「中国における新型コロナウイルスの感染者数や死者数は12月末~1月上旬にピークとなり、春節を迎えるころにはかなり低いレベルに落ち着いた」、一安心だ。 藤 和彦氏による「中国「習近平体制」がもたらす「経済“大失速”の深層」と、中国型「全体主義」が限界をむかえる「あぶない兆候」」 「習氏」はどうみても「経済」に対する見識には欠けるようだ。 以前は経済は李克強前首相が主に担当していた。現在は、「習氏」の部下だった李強氏が次期首相候補とされている。「習氏」の「独裁」が強化されるようだ。しかし、「独裁」の「強化」は、失政のリスクも高くなることを意味。 藤 和彦氏による「これは宿命なのか・・・「習近平体制」に富裕層が海外逃亡!「先の見えた中国」に国民があいそをつかす日」 「地方政府だが、不動産市場の低迷で土地売却収入が激減し、ゼロコロナ政策を維持するのに必要な巨額の資金を捻出することができなくなってしまった。 台所が「火の車」になった地方政府からの突然の悲鳴に驚いた習近平が、なんら対策を講じることなくゼロコロナ政策を解除してしまった」、突然の解除の背景がよく理解できた。 「政府から支援を得られない都市部の住民は医薬品などを融通し、助け合いで生き抜こうとしている」、「新型コロナの治療についても、保健当局者の発言よりもソーシャルメデイアのインフルエンサーの意見に頼るようになっている」、「人々は政府抜きの生活を実感していると言っても過言ではない」、なるほど。 「富裕層は、習近平の経済活動への締め付けや「共同富裕」の動きに辟易としている」、「渡航制限を解除したことで富裕層の海外移住の動きも加速」、「富裕層」が逃げ出すような「中国経済」には展望がなさそうだ。
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中国経済(その17)(中国で まさか「長江が干上った」…! 習近平が焦る「ヤバすぎる異常気象」の現実と “中国14億人”を襲う「恐ろしい悲劇」…!、習近平が ついに「禁じ手」…! 中国の「人工雨」と「地球環境破壊」の“ヤバすぎる真実”、「中国の経済成長神話は崩壊しつつある」と断言できるこれだけの理由) [世界経済]

中国経済については、8月27日に取上げた。今日は、(その17)(中国で まさか「長江が干上った」…! 習近平が焦る「ヤバすぎる異常気象」の現実と “中国14億人”を襲う「恐ろしい悲劇」…!、習近平が ついに「禁じ手」…! 中国の「人工雨」と「地球環境破壊」の“ヤバすぎる真実”、「中国の経済成長神話は崩壊しつつある」と断言できるこれだけの理由)である。

先ずは、9月4日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「中国で、まさか「長江が干上った」…! 習近平が焦る「ヤバすぎる異常気象」の現実と、“中国14億人”を襲う「恐ろしい悲劇」…!」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/99269?imp=0
・『中国で、まさか「長江の水」が干上がった…! 世界で同時多発的に厳しい干ばつ被害が起きている。 欧州委員会は8月23日「欧州全土の6割以上が干ばつ被害を受けている。過去500年間で最悪レベルだ」との見解を示した。ライン川の水位が劇的に低下し、域内物流への影響が懸念されている。 米国でも「ホット・アンド・ドライ(高温乾燥)」と呼ばれる干ばつ型の異常気象が報告されているが、大変なことになっているのは中国である。 中国ではいま、観測史上最悪の熱波に見舞われているのだ。 そんな中国で最も深刻な打撃を受けているのは中部と南部を流れる長江流域だ。 約4億5000万人が生活している長江流域の今年の夏は、70日以上にわたって異常な高温と雨不足に襲われた。 上海のビルは一斉に明かりを消し、エアコンを使えない人々は涼を求めて地下壕に逃げたという。 さらに、長江の一部で川底が露呈するほど水位が下がったことで、600年前の仏様が発見されるなどの“異常事態”が相次いでいるのだ』、10月8日付け日経新聞でも、干ばつは続いているようだ。
・『工場停止、食糧危機…「危ない」のはこれからだ!  長江流域では電力不足で工場が操業停止に追い込まれるなど経済への悪影響がすでに出ている。 そこへきて、秋に収穫される農産物の被害が甚大になるとの危惧も生じている。 中国では秋に収穫される穀物が年間の穀物生産の75%を占めている。 中国の農業生産の3分の1を支える長江流域の不調は中国全体の食糧危機に直結すると言っても過言ではない。当然、習近平国家主席にとって頭痛の種になってきたわけだ。 さらに後編記事『習近平が、ついに「禁じ手」…! 中国の「人工雨」と「地球環境破壊」の“ヤバすぎる真実”』では、そうした中で中国が取り組み始めた「人口雨」とその危ない実態についてレポートしよう』、「中国では秋に収穫される穀物が年間の穀物生産の75%を占めている」のであれば、影響は極めて深刻だろう。

次に、この続きを、9月4日付け現代ビジネスが掲載した経済産業研究所コンサルティングフェローの藤 和彦氏による「習近平が、ついに「禁じ手」…! 中国の「人工雨」と「地球環境破壊」の“ヤバすぎる真実”」を紹介しよう。
・『世界で同時多発的に厳しい干ばつ被害が起きている中で、いま中国が観測史上最悪の熱波に見舞われている。そんな中国で最も深刻な打撃を受けているのは中部と南部を流れる長江流域で、約4億5000万人が生活している長江流域では、今夏に70日以上にわたって異常な高温と雨不足に襲われた。 中国の農業生産の3分の1を支える長江流域の不調は中国全体の食糧危機に直結すると言っても過言ではない事態にあって、ここへきて中国がとんでもない「対策」に出始めた。それはなんと「人工降雨」を降らせるというもの――。 当然、気候を人工的に操作するために計り知れないリスクや影響が出る可能性もある。いまいったい、何が起きているのか。そしてリスクは……? その最前線をレポートしよう』、「人工降雨」にはどんなリスクがあるのだろうか。
・『中国で、まさか「人工降雨」で連日の豪雨…!  危機感を高める長江流域の地方政府は、長引く干ばつの影響を緩和するため、人工的に雨を降らせる取り組みを開始した。 その先鞭を切ったのは例年に比べ50%以上も降水量が減った四川省だ。 四川省は8月25日から29日にかけて人工降雨の取り組みに着手したのだ。 6000平方キロメートルに及ぶ範囲で大型ドローン2機がヨウ化銀を雨雲の中に散布した結果、「恵みの雨」が降ったが、皮肉なことに今度は連日の豪雨で洪水の発生が警戒されている』、「四川省」では、「「恵みの雨」が降ったが、皮肉なことに今度は連日の豪雨で洪水の発生が警戒されている」、なかなか思うようにはいかないようだ。
・『「ヨウ化銀」をばらまく…  雲の中にヨウ化銀を散布し人工的に雨を降らせる技術は、クラウドシーデイング(雲の種まき)と呼ばれている。雲の中に雨粒の種となるヨウ化銀をばらまき、周囲の小さな水の粒を集めて大きな雨粒に成長させ、雨を降らせるというものだ。 ヨウ化銀を使って雨を降らせる技術は、1960年代に米国のゼネラル・エレクトリックの化学者によって発明された。 中国は早くからこの技術に注目し、その習得に熱心に取り組んできた。北西部の広大な乾燥地帯にこの技術で雨を降らせ、耕作地を拡大することが狙いだった(2001年から実施された「西部大開発」の原動力となった)。 2008年の北京五輪で開会式の降雨を回避するために、中国政府がヨウ化銀を積んだ多数の砲弾を発射して周辺地域に人工的に雨を降らせたことでその存在は一躍有名となった。 世界規模での気候危機が今後も多発することが予想される中で、大規模な工学的手法で猛暑や干ばつに対処する必要性が生じているが、クラウドシーデイングを始め気候改変技術の利用に伴うリスクを十分に考慮しなければならないのは言うまでもない』、「北京五輪で開会式の降雨を回避するために、中国政府がヨウ化銀を積んだ多数の砲弾を発射して周辺地域に人工的に雨を降らせた」、記憶に新しいところだ。
・『「人工降雨」、本当に大丈夫なのか?  まず、第一に挙げられるのは人体や環境への悪影響だ。 ヨウ化銀から発生する有毒な銀イオンが生態系を汚染し、人体を脅かす懸念がある。中国政府は「使用されるヨウ化銀の量はわずかであり、人体などに害はない」としているが、1回に散布されるヨウ化銀はわずかでも、特定の地域で繰り返しこの技術が使用すれば、安全な基準値を超える可能性は十分にある。 この技術はトータルの降水量を変えることはできないことから、ある地域に人工的に雨を降らせると、それによって周辺地域で降水量が減るという問題もある。 中国政府は「天候に影響を与えるのは短時間で非常に限定的である」と説明しているが、ここ数年、夏の豪雨災害に悩まされてきた中国が、今年は一変して極端な雨不足となっている。筆者は気象学の専門家ではないが、気候改変技術の濫用が大本の原因なのではないかと思えてならない。 「ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきが米テキサス州で竜巻を引き起こす」というバタフライ効果が指摘される気象の世界では、わずかな人為的介入によって状態が激変することがありうるからだ』、「ヨウ化銀から発生する有毒な銀イオンが生態系を汚染し、人体を脅かす懸念がある。中国政府は「使用されるヨウ化銀の量はわずかであり、人体などに害はない」としているが、1回に散布されるヨウ化銀はわずかでも、特定の地域で繰り返しこの技術が使用すれば、安全な基準値を超える可能性は十分にある」、「この技術はトータルの降水量を変えることはできないことから、ある地域に人工的に雨を降らせると、それによって周辺地域で降水量が減るという問題もある」、「トータルの降水量を変えることはできない」、というのは初めて知った。
・『「偏西風の蛇行」に影響か…?  21世紀に入り、世界で異常気象が多発しているが、その共通の原因は偏西風(北半球の上空を西から東へ吹くジェット気流)の蛇行だ。高気圧や低気圧の移動に大きな影響を与える偏西風が大きく蛇行することで世界各地に異常気象が発生している。 偏西風の蛇行の原因は解明されていないが、中国の気候改変技術が影響しているのかもしれない。その導入の規模があまりにも巨大だからだ。 中国政府は2012年から大量の資金を投入して気候改変プログラムの開発に取り組み、「2025年までに気候改変プログラムの対象地域を550万平方キロメートルに拡大する」との方針を明らかにしている。550万平方キメートルという規模は中国の国土面積の5割以上であり、日本の国土面積の10倍以上に相当する。 米軍がベトナム戦争で人工的に雨を降らせる作戦を展開したことが問題となり、1978年に「軍事的又はその他の敵対的な気候改変技術の使用禁止に関する国際条約」が発効した。 中国もこの条約を2005年に批准したが、軍事目的ではない同国内の気候改変技術の利用にはまったく歯止めがかかっていないのが現状だ』、「偏西風の蛇行の原因は解明されていないが、中国の気候改変技術が影響しているのかもしれない。その導入の規模があまりにも巨大だからだ」、「1978年に「軍事的又はその他の敵対的な気候改変技術の使用禁止に関する国際条約」が発効した。 中国もこの条約を2005年に批准したが、軍事目的ではない同国内の気候改変技術の利用にはまったく歯止めがかかっていないのが現状だ」、「中国の気候改変技術」はまだ多くの課題を抱えたままのようだ。ついては、「2025年までに気候改変プログラムの対象地域を550万平方キロメートルに拡大する」、とはいっても「拡大」は、効果を見極めつつ、徐々に広げてもらいたいものだ。
・『対岸の火事では済まされない  気候変動が中国国内にとどまるのであれば「自業自得」だろう。 が、世界全体の気候へ悪影響を及ぼしているのあれば「対岸の火事」では済まされない。 日本を始め世界の関係機関は中国の気候改変技術についてノーマークのようだが、その動向把握にもっと真剣に取り組むべきではないだろうか。 さらに連載記事『三峡ダム「大崩壊」の原因…? 中国政府がひっそり仕込む「気象兵器」のヤバすぎる中身』では、そんな中国の“気象兵器”をめぐる最前線をレポートしよう』、この「連載記事」は2021年10月12日付けの記事だが、やや陰謀論的色彩も濃いので、ここでは紹介を省略する。

第三に、9月27日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「「中国の経済成長神話は崩壊しつつある」と断言できるこれだけの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310188
・『習近平主席は、台湾侵攻のチャンスをうかがっているようにも見える。それは地政学的リスクを高める要因だ。海外投資家にとって、下落リスクの高まる人民元を保有する意義は低下している。債券などの売却資金をドルに替える海外の投資家は急速に増えている。そうした傾向は、当面続くだろう』、興味深そうだ。
・『中国の経済成長神話は崩壊しつつある  ここへ来て、人民元の下落に歯止めがかからない。最大の要因として、海外投資家が人民元建ての債券などを売却していることがある。それによって、投資資金が海外に流出している。 中国人民銀行(中央銀行)は、人民元の下落阻止のため人民元の買い支えを行っているとみられる。それに伴い8月の中国の外貨準備残高は予想以上に減少した。 それでも、人民元の下落は止まらない。9月中旬には、一時、共産党政権が防衛ラインとしてきた1ドル=7.00元を下回る水準まで人民元が売られた。 今後も資金流出に歯止めがかからないと、人民元の下落基調は続く可能性が高い。資金流出の背景には、不動産バブル崩壊の負の影響が深刻化し、中国経済が一時の信認を失っていることがある。 中国の経済成長神話は、崩壊しつつあるといっても過言ではないだろう。当面、海外投資家は人民元建ての金融資産を売却し、中国本土市場からの資本逃避はさらに加速する可能性が高い』、「オンショア人民元」相場は現在、7.19ドルまで持ち直しているようだが、これは後述の「外貨の預金準備率引き下げ」の効果の可能性がある。
・『海外投資家の債券売却で人民元安が加速  9月15日、オフショア人民元(CNH)は、2020年7月以来の1ドル=7元台を付けた。翌16日には、オンショア人民元(CNY)も7元台に下落した。中国本土市場の取引が終わりロンドン時間に入ると、オフショア人民元の下落が鮮明化する場面が増えた。人民元を手放そうとする海外投資家は増え、資本流出の動きが強まっている。 中国中央国債登記結算(CCDC)によると、22年2月から6月まで5カ月連続で、海外の投資家は中国の債券を売り越した。また、国際金融協会(IIF)によると、7月も中国の債券市場からは資金が流出した。人民元建てで発行された民間不動産会社などの社債、地方政府や傘下の投資会社が発行した債券、さらには中国の国債などを手放す外国人投資家は増えている。 海外投資家が人民元を売るのは、景気後退や台湾問題などの懸念が一段と高まって、中国経済に対する信認が大きく低下しているからだ。経済面では、不動産バブル崩壊、ゼロコロナ政策、IT先端企業への締め付け強化によって、中国経済の成長率の低下は鮮明だ。 特に、不動産セクターでは社債のデフォルト懸念が急速に高まっている。不動産市況の悪化にも歯止めがかからない。8月の不動産販売額は前年同月比で22.58%減少した。減少は13カ月連続だ。土地の譲渡益は減少し、財政運営の逼迫(ひっぱく)に直面する地方政府も増えた。 ゼロコロナ政策も継続され、個人消費の回復は弱い。世界的な物価高騰によって各国の需要は下押しされ、輸出の伸びも鈍化している。共産党政権はインフラ投資の積み増しなど景気刺激策を打ち出しているが、目立った効果は出ていない。 また、習近平主席は、台湾侵攻のチャンスをうかがっているようにも見える。それは地政学的リスクを高める要因だ。海外投資家にとって、下落リスクの高まる人民元を保有する意義は低下している。債券などの売却資金をドルに替える海外の投資家は急速に増えている。そうした傾向は、当面続くだろう』、確かに「海外投資家にとって、下落リスクの高まる人民元を保有する意義は低下している。債券などの売却資金をドルに替える海外の投資家は急速に増えている。そうした傾向は、当面続くだろう」、その通りだ。
・『人民元防衛に取り組む共産党政権  習近平政権は、資金流出に伴う人民元の下落に危機感を一段と強めているはずだ。共産党政権は、「外貨預金準備率引き下げ」「口先介入」「基準値の予想外引き上げ」「基準値から2%を超える元安阻止のドル売り」などによって人民元防衛を強化している。 まず、4月に続いて9月にも中国人民銀行は、市中銀行の外貨の預金準備率を引き下げた。9月15日から8%だった外貨の預金準備率は、6%に引き下げられる。こうした措置は、人民元の為替レート下支えにつながる可能性がある。 次に、口先介入に関して、中国国家外為管理局(SAFE)は、国有銀行などに人民元売りを自粛するよう求めると報じられている。事実上の元売り手控え指示といってもよい。特に、8月下旬に米ワイオミング州で開催されたジャクソンホール会合の後、米国の金利上昇観測が急速に高まった。 その一方、中国は景気下支えのため金融緩和を強化せざるを得ない。米中の金融政策の差は、これまで以上に明確になっている。それは米ドル高・人民元安の圧力を強める。それに歯止めをかけるため、SAFEは銀行に人民元の売りを控えるよう、より強く求めているようだ。 さらに、人民銀行は9月16日まで17営業日連続で、人民元の対ドル基準値を予想外に引き上げた。何としても、人民元安に歯止めをかけるとの共産党政権の危機感は強い。 しかし、そうした防衛策をとっても、足元の人民元の売りを抑えることは難しそうだ。苦肉の策として、人民銀行は、元の買い支えを行わざるを得ない状況だ。 そうした事情もあり、8月の中国の外貨準備残高は3兆549億ドル(約441兆円)と、18年10月以来の低水準に減少した。減少額は予想を上回った。共産党政権は外貨準備減少の主たる要因はドル安によるものと説明している。それに加えて、基準値から2%を超える元安進行を阻止するためにドル売り・元買いが増えているだろう』、「9月にも中国人民銀行は、市中銀行の外貨の預金準備率を引き下げた」「こうした措置は、人民元の為替レート下支えにつながる可能性がある」、「苦肉の策として、人民銀行は、元の買い支えを行わざるを得ない状況だ。 そうした事情もあり、8月の中国の外貨準備残高は3兆549億ドル(約441兆円)と、18年10月以来の低水準に減少した。減少額は予想を上回った」、なるほど。
・『さらに厳しい状況が懸念される中国経済  今後、中国の実質ベースの国内総生産(GDP)の成長率はさらに低下する可能性が高い。特に、不動産バブル崩壊の負の影響は大きい。 これまで共産党政権は、海外からの直接投資を誘致して不動産事業の拡張や工業化を進め、地方政府にGDPの成長目標を課した。そうしたメカニズムの中で、不動産価格上昇が経済成長に重要な役割を果たしてきた。不動産バブル膨張によって、地方政府の収入源である土地譲渡益は増え、高速鉄道などのインフラ投資が積み増され、経済成長率は人為的にかさ上げされてきた。不動産投資の増加は、中国の雇用・所得環境の安定と共産党による一党独裁体制の維持に決定的に重要だった。 しかし、不動産バブル崩壊によって、共産党政権の経済運営は困難な局面を迎えつつある。過剰投資によって、資本の効率性は低下している。家計、民間企業、地方政府、金融機関まで不良債権は増えている。 民間企業などのデフォルトはさらに増加すると予想される。ウクライナ危機の発生以降、台湾問題の緊迫化などの懸念も一段と高まった。中国の生産年齢人口の減少もインドやベトナムなどに生産拠点を移転する企業の増加要因になっている。その結果、中国に投資した資金を引き揚げる海外投資家は急増している。 今後、ネットベースで中国から流出する資金はさらに増える可能性が高い。資産価格のさらなる下落や規制強化など政策の不透明感を嫌い、人民元建ての債券などを売る海外投資家は増え、資金流出はより拡大することが想定される。財産を守るため、海外に資金を移そうとする中国の国民が増えることも考えられる。 状況によっては、急速に人民元安が進んで中国の外貨準備が減少し、中国経済の本格的な後退懸念が急速に高まる展開も否定できない。海外投資家による資本逃避などによって、中国経済がさらに厳しい状況を迎える恐れは高まっている』、「過剰投資によって、資本の効率性は低下している。家計、民間企業、地方政府、金融機関まで不良債権は増えている」、「中国の生産年齢人口の減少もインドやベトナムなどに生産拠点を移転する企業の増加要因になっている。その結果、中国に投資した資金を引き揚げる海外投資家は急増」、「海外投資家による資本逃避などによって、中国経済がさらに厳しい状況を迎える恐れは高まっている」、やはり「中国の経済成長神話は崩壊しつつある」ようだ。 
タグ:(その17)(中国で まさか「長江が干上った」…! 習近平が焦る「ヤバすぎる異常気象」の現実と “中国14億人”を襲う「恐ろしい悲劇」…!、習近平が ついに「禁じ手」…! 中国の「人工雨」と「地球環境破壊」の“ヤバすぎる真実”、「中国の経済成長神話は崩壊しつつある」と断言できるこれだけの理由) 中国経済 現代ビジネス 藤 和彦氏による「中国で、まさか「長江が干上った」…! 習近平が焦る「ヤバすぎる異常気象」の現実と、“中国14億人”を襲う「恐ろしい悲劇」…!」 10月8日付け日経新聞でも、干ばつは続いているようだ。 「中国では秋に収穫される穀物が年間の穀物生産の75%を占めている」のであれば、影響は極めて深刻だろう。 藤 和彦氏による「習近平が、ついに「禁じ手」…! 中国の「人工雨」と「地球環境破壊」の“ヤバすぎる真実”」 「人工降雨」にはどんなリスクがあるのだろうか。 「四川省」では、「「恵みの雨」が降ったが、皮肉なことに今度は連日の豪雨で洪水の発生が警戒されている」、なかなか思うようにはいかないようだ。 「北京五輪で開会式の降雨を回避するために、中国政府がヨウ化銀を積んだ多数の砲弾を発射して周辺地域に人工的に雨を降らせた」、記憶に新しいところだ。 「ヨウ化銀から発生する有毒な銀イオンが生態系を汚染し、人体を脅かす懸念がある。中国政府は「使用されるヨウ化銀の量はわずかであり、人体などに害はない」としているが、1回に散布されるヨウ化銀はわずかでも、特定の地域で繰り返しこの技術が使用すれば、安全な基準値を超える可能性は十分にある」、「この技術はトータルの降水量を変えることはできないことから、ある地域に人工的に雨を降らせると、それによって周辺地域で降水量が減るという問題もある」、「トータルの降水量を変えることはできない」、というのは初めて知った。 「偏西風の蛇行の原因は解明されていないが、中国の気候改変技術が影響しているのかもしれない。その導入の規模があまりにも巨大だからだ」、「1978年に「軍事的又はその他の敵対的な気候改変技術の使用禁止に関する国際条約」が発効した。 中国もこの条約を2005年に批准したが、軍事目的ではない同国内の気候改変技術の利用にはまったく歯止めがかかっていないのが現状だ」、 「中国の気候改変技術」はまだ多くの課題を抱えたままのようだ。ついては、「2025年までに気候改変プログラムの対象地域を550万平方キロメートルに拡大する」、とはいっても「拡大」は、効果を見極めつつ、徐々に広げてもらいたいものだ。 この「連載記事」は2021年10月12日付けの記事だが、やや陰謀論的色彩も濃いので、ここでは紹介を省略する。 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫氏による「「中国の経済成長神話は崩壊しつつある」と断言できるこれだけの理由」 「オンショア人民元」相場は現在、7.19ドルまで持ち直しているようだが、これは後述の「外貨の預金準備率引き下げ」の効果の可能性がある。 確かに「海外投資家にとって、下落リスクの高まる人民元を保有する意義は低下している。債券などの売却資金をドルに替える海外の投資家は急速に増えている。そうした傾向は、当面続くだろう」、その通りだ。 「9月にも中国人民銀行は、市中銀行の外貨の預金準備率を引き下げた」「こうした措置は、人民元の為替レート下支えにつながる可能性がある」、「苦肉の策として、人民銀行は、元の買い支えを行わざるを得ない状況だ。 そうした事情もあり、8月の中国の外貨準備残高は3兆549億ドル(約441兆円)と、18年10月以来の低水準に減少した。減少額は予想を上回った」、なるほど。 「過剰投資によって、資本の効率性は低下している。家計、民間企業、地方政府、金融機関まで不良債権は増えている」、「中国の生産年齢人口の減少もインドやベトナムなどに生産拠点を移転する企業の増加要因になっている。その結果、中国に投資した資金を引き揚げる海外投資家は急増」、 「海外投資家による資本逃避などによって、中国経済がさらに厳しい状況を迎える恐れは高まっている」、やはり「中国の経済成長神話は崩壊しつつある」ようだ。
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中国経済(その16)(中国で「住宅ローン支払い拒否宣言」続出の理由 救済が待たれる事情とは、中国で「不動産バブル崩壊・失業」が深刻化 習近平政権は正念場に、中国の高度経済成長 予想より早く終わる可能性 成長を押し下げる中長期的構造要因と日本企業の対応策) [世界経済]

中国経済については、7月10日に取上げた。今日は、(その16)(中国で「住宅ローン支払い拒否宣言」続出の理由 救済が待たれる事情とは、中国で「不動産バブル崩壊・失業」が深刻化 習近平政権は正念場に、中国の高度経済成長 予想より早く終わる可能性 成長を押し下げる中長期的構造要因と日本企業の対応策)である。

先ずは、7月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したフリーランスライターのふるまいよしこ氏による「中国で「住宅ローン支払い拒否宣言」続出の理由、救済が待たれる事情とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307181
・『中国各地で、建設途中のマンションで工事が止まったまま放置されるという事態が起きている。全国に300以上あるという未完成マンションの中でも多いのが、経営危機に陥った恒大グループが関わっている開発案件だという。できる見込みがないマンションでもローンは払わねばならず、補償もされないため、中には「不払い宣言」をする人も……中国の不動産界隈で何が起こっているのか』、「中国の不動産」事情に疎い我々にとっては興味深そうだ。
・『中国で300以上のマンションが、未完成のまま放置されている  中国で「爛尾楼」(らんびろう)騒ぎが拡大中だ。 「爛尾」とは「尾っぽ部分がずさん」という意味で、「爛尾楼」は「尻切れトンボ状態になった不動産」を指す。つまり、建設途中に開発業者の資金がショートしてしまい、未完成のまま放置されているマンションのことだ。そんな爛尾楼が、中国各地ですでに300以上あることが分かっている。 近年、中国政府も過熱が続く不動産ブームを抑制すべく、2軒目、3軒目購入には頭金を引き上げたり、銀行ローンに規制をかけたりしてきた。だが、それでもやすやすとそのハードルを超えたり、さらには住宅購入のためにわざわざ離婚手続きまでとって(元)家族が別々に不動産を購入したりするなど、文字通りの「上には政策、下には対策」※が展開されてきた。 ※「上有政策、下有対策」。中国のことわざで、政府がいかに政策を施行しても、庶民は何らかの対策を編み出して政策を骨抜きにする、という意味。 しかし同じタイミングでコロナ対策による都市封鎖や行動規制が繰り返されて、消費意欲が激減してしまった。慌てた政府は今年に入って積極的に不動産開発用地の競売を進めているが、当の不動産開発業者がここにきて青息吐息になっていることが報告されている』、「不動産開発業者がここにきて青息吐息になっている」、これではテコ入れは難しそうだ。
・『恒大グループの債務危機がきっかけに  香港の不動産王が中国市場から撤退するなどの動きから業界内では静かに「バブル崩壊」が長年語られ続けていたが、目に見える形で事態が人々の前に現れたのは、昨年一挙に噴き出した、不動産開発の大手「恒大グループ」の債務危機がきっかけだった。 恒大といえば、創設者でグループ会長の許家印氏は中国の富豪トップランキングの常連。ほんの数年前までは、国内の人気サッカークラブを所有し、一時はそのクラブとヨーロッパの名門サッカークラブ「レアル・マドリード」が提携するなど、本業以外にも派手なパフォーマンスで注目されていた。ところが昨年春からささやかれていた「恒大不安」が9月になって事実上のデフォルトへと発展、あっという間に大騒ぎになった。 現在「爛尾楼」物件としてリストアップされているマンションのうち、4分の1、あるいは3分の1が恒大グループの開発マンションという報道もある。こうした報道が引き起こした連鎖反応もさることながら、その他にもともと「あまり良いうわさのなかった開発業者」がコロナ対策期間中に資金崩れを起こしたのだ。 経済メディア「財新網」によると、分かっているだけで「爛尾楼」の総面積は2.31億平方メートル、今年上半期における全国住宅不動産市場の3.85%を占めている。さらにそんな「爛尾楼」関連のローン規模は0.9兆元(約18兆円)と、全国の金融機関ローン残高の1.7%に当たるとされる』、「「爛尾楼」の総面積は2.31億平方メートル、今年上半期における全国住宅不動産市場の3.85%を占めている」、比重が予想以上に大きいのには驚かされた。
・『被害者たちが「ローン不払い」宣言  爛尾楼の被害者たちはこれまでも、開発業者、銀行、地方政府に陳情を繰り返してきた。しかし何の進展もなく、逆に拘束されてしまうことも日常茶飯事だった。だが、とうとう不満を爆発させた江西省のマンション購入者たちがこの6月末に、「ローン不払い」声明を銀行や政府の不動産政策担当局に送りつけたことが報道されるや、またたくまに他の地区の爛尾楼被害者たちにも広がり、各地で「ローン不払い」宣言が行われた。 すると、それまで「爛尾楼」騒ぎに対して知らん顔をしてきた金融業界もにわかに慌て始め、それと同時に政府当局が対策に乗り出し始めたことで、やっと事態が注目を集めるようになったのだ』、腰の重い「金融業界」や「政府当局」を動かすには、「「ローン不払い」宣言」のようなショック療法も必要だったようだ。
・『原因は、中国ではおなじみの「住宅プレ販売」制度  爛尾楼騒ぎの根本的な原因は、中国ではすっかりおなじみの不動産販売手法になっている「住宅プレ販売制度」にある。開発業者は美麗なモデルルームと完成図で客を引き寄せ、まだ建設予定地は基礎工事も済んでいない状況から、熱心に販売を開始する。 一般的に、こうしたプレ販売でマンションを購入すると、現物購入(=完成後購入)よりも選択肢が広く、また希望の間取りや内装も簡単に実現でき、さらには10~20%安になるとうたわれているために、マイホーム、あるいは投機のための住宅購入を考える人たちは、さっさと頭金を払ってローンを組む。あとはローンを払いながら、1~2年後のマンションの完成を待つだけである。 開発業者はプレ販売に力を入れ、建物を建設する前にその売却金を先に手に入れることができる。手に入れた資金を元に次の建設予定地を買い付け、そこに建設するマンションの図面とモデルルームで再びプレ販売をし……という自転車操業が繰り返されてきた。 しかし、コロナがこの自転車のチェーンを叩き切った。社会的な不安や失業の懸念、収入の減少などから消費者の不動産購買欲が減退、大型消費を控え始めたことでプレ販売が進まず、予想された資金が開発業者に入らなくなり、そして資金がショートし、デフォルトを起こす。その結果、建設が止まった。 建設が止まっても、購入者は金融機関と交わした契約通り、でき上がるはずのマンションを夢見てローンを支払い続けなければならない。コロナの地区封鎖や強制隔離の影響で工事が遅れ、引き渡し時期がずれ込む程度ならまだ良いほうで、どう見ても現地の建設作業が止まっている場合、購入者たちは当然不安にかられる。開発業者に問い合わせてもらちが明かない、あるいはすでに開発業者と連絡が取れなくなっている……これが大規模な爛尾楼騒ぎへと発展した。 中にはもう、元の開発業者との対応を諦め、一方で自分の購入した物件・権利をどこか他の業者が買い取ったり、工事を続けたりしてくれないか探し求めるケースもあるという。もっと悲惨なのは、自分が購入した階や建物まで建設が進まないまま中断してしまったケースだ。毎月生活を切り詰めて契約通りにローンを支払い続けているのに、自分が買ったはずのマイホームは中空に浮いたまま……』、「プレ販売でマンションを購入すると、現物購入(=完成後購入)よりも選択肢が広く、また希望の間取りや内装も簡単に実現でき、さらには10~20%安になるとうたわれているために、マイホーム、あるいは投機のための住宅購入を考える人たちは、さっさと頭金を払ってローンを組む。あとはローンを払いながら、1~2年後のマンションの完成を待つだけである。 開発業者はプレ販売に力を入れ、建物を建設する前にその売却金を先に手に入れることができる」、「コロナがこの自転車のチェーンを叩き切った。社会的な不安や失業の懸念、収入の減少などから消費者の不動産購買欲が減退、大型消費を控え始めたことでプレ販売が進まず、予想された資金が開発業者に入らなくなり、そして資金がショートし、デフォルトを起こす。その結果、建設が止まった」、「建設が止まっても、購入者は金融機関と交わした契約通り、でき上がるはずのマンションを夢見てローンを支払い続けなければならない」、購入者保護の仕組みが殆どないリスキーな手法だ。
・『プレ販売制度は、都合のいい部分だけ香港から輸入された手法  こうしたプレ販売制度は本来、香港から導入されたシステムだったといわれる。だが、多くの報道が指摘するように、参考にされた香港の制度は「半分だけ」で、香港がかつての経験から培ったバックアップ体制の残り半分は中国には導入されなかった。 例えば、香港ではプレ販売で得た顧客側の支払いを、開発業者が直接、懐に入れることはできない。銀行と開発業者の間で信託基金が作られ、そこにプールされるのである。 もし業者が建設中に資金不足となれば、それをもとに銀行から融資を受けることができる。業者が不動産代金全額を手に入れられるのは、物件が完成し、正式な引き渡し完了が証明されたあと。開発業者は不動産建設の前にそれにふさわしい資金をもっていることが証明されなければ、香港政府が建設許可を出さない仕組みにもなっている。) また香港では開発業者は土地を手に入れた時点で、政府にその地代を全額一括で支払わなければならない。このため、中国のように土地の所在地である地方政府と使用権を得た開発業者が、「開発」を挟んで持ちつ持たれつの曖昧な関係を取ることはできない。 こうした爛尾楼防止策はすべて、中国への導入時には無視された。プレ販売した購入代金はそのままするりと開発業者の口座に入り、銀行は別途購入者と結んだローン契約に従って粛々とローンを回収するスタイルが一般化された。そのため、銀行側にも業者に対する責任感が非常に薄かった』、「こうした爛尾楼防止策はすべて、中国への導入時には無視された。プレ販売した購入代金はそのままするりと開発業者の口座に入り、銀行は別途購入者と結んだローン契約に従って粛々とローンを回収するスタイルが一般化された。そのため、銀行側にも業者に対する責任感が非常に薄かった」、香港の仕組みのうち、「ローン契約」者保護につながる部分が無視されて導入したとは、初めから欠陥のある制度だったようだ。
・『「ローン不払い」宣言には大きな危険が伴う  今回の「ローン不払い」運動は、そんな不良開発業者とローン提携を結んだことへの責任は銀行にあると突きつけたものだ。 だが、この「ローン不払い」を実行すると、購買者も大きな枷(かせ)を負う。というのも、今やデータによる「信用クレジット」が大きく生活に影響する中国で、「ローン踏み倒し」は間違いなくネガティブ評価になるからだ。そうなれば銀行業務以外にも、高速鉄道や飛行機のチケットすら買えなくなる恐れもある。 なぜそんな危険を冒してまで「ローンを踏み倒す」と宣言するのか? そこには、「生活を切り詰めて切り詰めて、やっと家を買ったと思ったら、それが爛尾楼だった。このままローン支払いで未来もない切り詰め生活を送り続けるのと、個人クレジットに黒がつくのとどっちが大変だと思う?」というギリギリの追い詰められた思いがあった』、「個人クレジットに黒が」ついてでも、「「ローン不払い」を実行」する覚悟でやっているようだ。
・『プレ販売に代わり、現物販売の導入が始まった  実は政府もこの爛尾楼問題にはとっくに気がついていたようだ。 というのも、すでに昨年あたりから各地方政府が、住宅用地競売参加条件に不動産開発業者に「現物販売」を義務付け始めていたことが、その後の報道から明らかになってきたからだ。 プレ販売に代わり最も早く「現物販売」が導入されたのは、中国最南端にある島まるごと新しく開発が進む海南省で、2020年3月から「新たに土地を取得して建設される商品不動産は現物販売制度とする」ことが不動産開発政策に明記されている。もちろん、現物とは水道、電気、ガス、通信設備がすべて揃った状態のことを指す。 だが、昨年4月に同様の義務付けを行った浙江省では、その数カ月後に不動産用地10地区の競売がすべて流札となったと大きく報道された。それでも、今後この方法は進められるはずで、北京市や杭州市などの住宅需要の高い大都市でも導入される予定だという。 そんなところに7月下旬、中国国務院(内閣に相当)が3000億元(約6兆円)を投じて政府肝いりの不動産基金を設立することを決めたと、ロイターがすっぱ抜いた。 記事によると、政府と中央銀行、そして中国建設銀行などの主要国有銀行がそれぞれ資金を出し合う形で約3000億元を集め、爛尾楼を買い取って完成させてから政府の賃貸住宅にするという。明らかに危機に瀕している主要不動産開発業者と銀行の共倒れ回避策だ。 しかし、この報道を読んで不安になった。そこにはマイホームの夢を見て、頭金を手渡し、ローンを支払い続けている人たちへの救済については触れられていない。またもや個人は見捨てられてしまうのか? 爛尾楼事件の今後が気がかりである』、「不動産基金」の行方、「爛尾楼事件」での「個人債務者」の動向を注視していきたい。

次に、8月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁 昭夫氏による「中国で「不動産バブル崩壊・失業」が深刻化、習近平政権は正念場に」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307365
・『中国で不動産バブルの後始末が深刻化している。大手デベロッパーは資産売却を加速しているが、資産価格の下落スピードはそれを上回る。習近平政権は銀行に不動産業界向けの融資を増やすよう規制を緩めているが、相場底打ちの兆しが見えない。1~6月期の不動産開発投資は前年同期比5.4%減り、分譲住宅の売上高は同28.9%も減少した。懸念されるのが失業の増加だ。6月、中国の若年層(16~24歳)の調査失業率は19.30%に上昇、調査開始以来最高だった』、確かに「不動産バブルの後始末」は「深刻」なようだ。
・『深刻化する不動産バブル崩壊の後始末 企業業績が悪化、失業率は上昇する  中国経済が、かなり厳しい状況を迎えている。主因は不動産バブル崩壊だ。共産党政権の厳格な融資規制は、人々のリスク許容度を急低下させた。債務問題は悪化している。 加えて、ゼロコロナ政策は建設活動を停滞させている。他方、成長期待の高いIT先端企業の規制強化が先行き懸念をさらに高める。それらの結果として、若年層を中心に失業者が急増。ローンの返済を拒む住宅購入者も急増している。 地方政府の財政悪化も鮮明だ。債務返済の延期を銀行に求める地方政府まで、出現しはじめた。 中国の不動産バブルの後始末は拡大するだろう。今後、大手不動産デベロッパーの資金繰りはさらに行き詰まる可能性が高い。ゼロコロナ政策も続き、個人消費は減少基調で推移する。 他方、世界のインフレも深刻だ。中国企業のコストプッシュ圧力は一段と強まり、企業業績は悪化するだろう。生き残りをかけて多くの企業が雇用を削減せざるを得なくなり、若年層を中心に失業率は追加的に上昇するだろう。失業問題は、共産党政権にとって無視できない問題だ』、秋の共産党大会を控えて指導部もヒヤヒヤだろう。
・『長きにわたる不動産バブル膨張「三つのレッドライン」導入後の誤算  中国で不動産バブルの後始末が深刻化している。長い期間にわたって、中国では不動産バブルが膨張した。根底には、共産党の経済政策があった。 共産党指導部は地方政府に経済成長目標を課す。達成のために地方の共産党幹部は土地の利用権を中国恒大集団(エバーグランデ)などのデベロッパーに売却する。それは地方政府の主要財源となった。デベロッパーはマンションを建設する。建設活動の増加が、雇用を生み出し、建材の需要も増える。インフラ投資も加速する。 そうして地方政府はGDP成長率目標を達成し、幹部は出世を遂げた。中国全体で「党の指示に従えば豊かになれる」という価値観が形成され、「不動産価格は上昇し続ける」という神話が出来上がった。さらに、リーマンショック後は世界的なカネ余りが価格上昇を支えた。上がるから買う、買うから上がる、という根拠なき熱狂が不動産バブルを膨張させた。 しかし、いつまでも価格が上昇し続けることはない。2020年8月、共産党政権は「三つのレッドライン」を導入。金融機関は不動産デベロッパー向けの融資を減らし、デベロッパーは資産売却による資金捻出に追い込まれた。そうすることで共産党政権は経済全体での債務残高を削減し、資産価格の過熱を解消しようとした。 問題は、三つのレッドラインが想定以上の負の影響を経済に与えたことだ。急速な融資規制は神話を打ち壊し、不動産バブルは崩壊した。それ以降、売るから下がる、下がるから売るという負の連鎖が止まらない。  エバーグランデなどは資産売却を加速しているが、資産価格の下落スピードはそれを上回る。習近平政権は銀行に不動産業界向けの融資を増やすよう規制を緩めているが、相場底打ちの兆しが見えない。1~6月期の不動産開発投資は前年同期比5.4%減り、分譲住宅の売上高は同28.9%も減少した。不良債権問題が深刻化し始めている』、「習近平政権は銀行に不動産業界向けの融資を増やすよう規制を緩めているが、相場底打ちの兆しが見えない」、一旦、下落を始めたのを政策的にテコ入れしようとしても、上手くはいかないものだ。
・『企業・個人・地方政府に拡大する不良債権問題  不良債権問題を三つに分けて考えてみる。まず、企業に関して。エバーグランデなど大手のデフォルト(債務不履行)が相次いでいる。銀行セクターでは、ずさんなリスク管理の実態が浮上した。 河南省では41万人の銀行預金が凍結された。貸し倒れ、担保資産の価値急落によって、銀行の資金繰りが急激に悪化している。同省では3000人が参加して、預金の支払いを求めるデモが起きた。取り付け騒ぎだ。それを阻止しようとした当局との衝突も発生した。 中国の金融システムの現況は、わが国の1990年代中頃を想起させる。連鎖倒産が起き、不良債権は雪だるま式に増え、金融システムの不安定感が高まる一連の流れだ。 次に、個人(家計)について。住宅ローンの返済拒否が増加している。例えば江西省では、不動産デベロッパーが経営体力を失ったせいで、1年以上建設が止まったままのマンションがある。ゼロコロナ政策も拍車をかけて、建設現場に作業員が集まることすら難しい。一部の購入者は、10月までに工事が再開されない場合、翌月から返済を停止すると表明した。購入した住宅がいつ完成するのか、不安視する人が増えるのは当然だ。支払い拒否は、他の地域でも急増している。 最後に、地方政府の返済能力が低下している問題だ。一例として、貴州省政府は債務返済の先送りを金融機関に求め始めた。鉄道などインフラ事業の収益性は低く、土地利用権の売却収入も減っている。結果、同省政府は債務返済負担に耐えられなくなったようだ。 インフラ投資積み増しのために債権発行などを増やす地方政府が増えている。債権者に返済期間の延長、さらには一部債務減免(ヘアカット)を求める地方政府が急増する可能性が高まっている。 かくして、「灰色のサイ」と呼ばれる中国の債務問題は深刻化している』、「深刻」さは日本のバブル期の「債務問題」をはるかに上回るようだ。
・『失業問題の深刻化 貧富の格差拡大も避けられない  懸念されるのが失業の増加だ。6月、中国の若年層(16~24歳)の調査失業率は19.30%に上昇、調査開始以来最高だった。建国以来で見ても、新卒学生を取り巻く雇用環境は最悪だろう。中国人留学生の中には、帰国せず日本での就職を目指す者が多い。 今後、中国では銀行の貸しはがしや貸し渋りが増える。不動産をはじめ民間企業の資金繰りは切迫する。ウクライナ危機をきっかけに、世界全体でインフレも深刻だ。中国では生き残りをかけてリストラに踏み切る企業が増え、若年層を中心に失業率は上昇するだろう。となると、共産党政権に不満を持つ人が増える展開が予想される。 その展開を回避するために、習政権は高速鉄道などの公共事業を積み増すだろう。しかし、経済全体で資本効率性は低下基調にある。高速鉄道計画では、ほとんどの路線が赤字だ。追加のインフラ投資は、地方政府の借り入れ増を必要とする。結果として、経済対策は不良債権の温床になる。 強引なゼロコロナ政策の継続で、個人の消費や投資は減少せざるを得ない。他方、成長期待の高いIT先端企業の締め付けも強まる。8月からは改正版の独占禁止法が施行される。連鎖反応のように、中国全体で企業の業績は悪化するだろう。 逆に言えば、一時的な失業増を伴う構造改革の実行は容易ではない。今のところ、共産党政権は公的資金を注入し、エバーグランデなどを救済する姿勢も示していない。 中国では、追い込まれる企業・個人・地方政府が増える。その結果、資金流出が加速し、人民元の先安観は強まり、ドル建てをはじめ債務のデフォルトリスクは高まるはずだ。資産売却などリストラを強行せざるを得ない企業は、追加的に増えるだろう。 失業問題が深刻化することで、貧富の格差拡大も避けられない。中国は不動産バブル膨張によって、過剰な債務・雇用・生産能力が出現した。今後は、その整理が不可避だ』、何やら本当に深刻な調整局面が不可避のようだが、なるべく軽く済んでほしいものだ。

第三に、8月17日付けJBPressが掲載したキヤノングローバル戦略研究所 研究主幹の瀬口 清之氏による「中国の高度経済成長、予想より早く終わる可能性 成長を押し下げる中長期的構造要因と日本企業の対応策」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71411
・『1.高度成長時代の終焉を迎えている可能性  1989年6月の天安門事件の後、一時的に国家による経済統制が強化され、中国経済の市場経済化、自由競争導入の動きに急ブレーキがかかった。 そのため、1989~90年の中国経済は厳しい景気停滞に陥った。 先行きの不透明感が強まっていた状況下、1992年1~2月に鄧小平氏が南巡講話を行い、市場経済化推進の大方針を示した。 その後、朱鎔基総理のリーダーシップの下、市場メカニズムを積極的に導入していく経済政策運営により、従来の計画経済に基づく非効率な経済体制を改革し、様々な構造問題を克服していった。 それ以来約30年間、中国経済は多くの困難に直面しながらも市場経済化の推進をバネに高度成長を力強く持続した。 2009年後半に中国のGDP(国内総生産)の規模は日本に追いつき、2021年には日本の3.5倍に達した。 2010年の実質成長率は10.6%。2桁成長はこの年が最後となった。2010年代の中国経済は1978年以降の40年以上にわたる高度成長時代の終盤局面である。 そして今、いよいよ高度成長時代の終焉を迎えようとしている。 実質GDP成長率の40年間余りの推移(図表1参照)を見れば、現在の中国経済が置かれている局面がよく分かる。 2010年代は1桁台後半で推移する安定的な成長率下降局面だった。 1978年の改革開放政策開始後、年間成長率が5%を下回ったのは天安門事件の1989年(4.2%)と翌年の90年(3.9%)しかなく、2020年(2.2%)はそれ以来初めての5%割れである。 そして今年も5%に届かず、4%程度の成長率となる見通しである。 広い意味で高度成長と言えるのは実質成長率が平均的に5%を上回る期間と考えれば、中国経済は2020年を境にすでに高度成長時代に終わりを告げた可能性がある。 もちろん、今後、中国の成長率が再び数年間5%以上を保つ可能性があることは否定できないが、その可能性は低いと考えられる。 ただし、この話は数字の問題であり、筆者が中国国内の経済専門家、企業経営者などとの意見交換を通じて得ていた印象では、多くの有識者の認識は、昨年までは高度成長の延長線上にあったと感じていたように思われる。 大半の経営者もこれまでの高度成長が続くことを前提に経済活動を行っていたように見える。 しかし、今年に入りその前提が崩れ始めたように感じられる。 まだ高度成長時代の終焉が確定したわけではないが、中国経済の局面が変化したと感じさせるいくつかの要因が生じている。以下ではその点について整理してみたい。 (図表1:実質GDP成長率(単位・前年比%)の推移はリンク先参照)』、興味深そうだ。
・『2.足許の成長率を低下させた短期的要因  高度成長期と安定成長期の一つの大きな違いは期待成長率の差である。 人々が常に5~10%の経済成長を実現できると信じていれば、それに合わせて生産、投資、雇用などの計画を立てる。 しかし、成長率が5%に達しないという期待が広く共有されれば、生産計画は縮小し、投資規模も抑制され、賃金上昇率も低下し、購買意欲も低下する。 こうして経済は安定成長期に入る。 2020年以降の成長率の低下の原因が、短期的な特殊要因であれば、その要因が解消するとともに、再び5%台の成長に戻る可能性が高い。 そうした観点から足許の経済下押し要因を見ると、短期的な特殊要因であると考えられるものが2つある。 1つ目は、ゼロコロナ政策の有効性低下と経済への悪影響のリスクの高まりである。 2020年の第1四半期にも武漢を中心に厳しいロックダウンが実施され、経済が急落したが、その直後から厳格なゼロコロナ政策の徹底により、中国経済は急回復した。この時、人々は武漢のロックダウンが終われば、中国経済は再び元に戻ると信じていた。 2022年入り、感染力が強く無症状患者の比率が高いオミクロン株の感染拡大により、ゼロコロナ政策の有効性が低下した。 それでも中央政府はゼロコロナ政策を堅持したため、上海市は長期のロックダウンを余儀なくされ、その影響で中国経済全体が深刻な停滞に陥った。 2つ目は、若年層の失業率の増大である。 全体の失業率は2022年4月に6.1%に上昇したが、6月には5.5%に低下した。しかし、16~24歳の若年層の失業率は6月に19.3%に達した。 これは、第1に今年の大学卒業者数が1076万人と昨年に比べて一気に167万人も増加したこと。 第2に大卒者に人気があるIT、教育、不動産など比較的賃金が高い産業が、昨年の政府の締め付け強化などの要因から業績が悪化し、リストラが続いていること。 第3に、経済の先行きに対する不透明感の強まりから、企業の採用姿勢が慎重化していることなどが影響した。 以上2つの経済下押し要因は、いずれも短期的な特殊要因であるため、コロナに対する有効な対策の導入や大卒者の雇用機会の確保が実現すれば、下押し圧力が弱まる可能性が高い。 ただし、これらが短期的要因であるにもかかわらず、こうした問題が再び繰り返されるのではないかという不安を抱く人々が増えているという話を聞くことが多い。 これは中国国民が高度成長時代には当然のように共有していた経済のレジリアンスに対する自信がやや後退していることを反映していると解釈することもできる』、「16~24歳の若年層の失業率は6月に19.3%に達した」のは、今年の大学卒業者数が1076万人と昨年に比べて一気に167万人も増加したこと」による部分もあるとはいえ、やはり深刻だ。
・『3.中国の成長率を押し下げる中長期要因  中国経済の局面が変化したと感じさせる要因の中には、短期的な特殊要因とは言えないものが含まれており、しかもそれぞれが相互に関係し合っている。具体的には以下のとおりである。 第1に少子高齢化の加速。 2022年1月、国家統計局は、2021年末の人口が14億1260万人で、前年同期比48万人増にとどまったと発表した(図表2参照)。 これを受けて、従来人口のピークは2028年と予想されていたが、2022年がピークとなる可能性が指摘されている。 経済活動への影響が大きい生産年齢人口(中国の定義では15歳以上60歳未満)は2011年の9億4072万人をピークに緩やかに減少し始めており、2020年代後半に減少が加速する見通しであることは従来から指摘されていた。 第2に都市化のスローダウン。 北京、上海、広州、深圳などの1級都市やそれに準ずる2級都市への人口集中は今後も続くが、3~4級都市の多くは人口流入による人口の増加が期待できなくなっている。 第3に大規模インフラ建設投資の減少。 特に中央政府が不良債権増大リスク抑制のために公共事業の審査基準を厳しくしていることが、この傾向を加速している。 第4に不動産市場停滞の長期化。 これは中央政府の不動産投機抑制策の強化が直接的要因である。 それに加えて、人口減少予想や都市化のスローダウン予想などが将来の不動産需要下押し要因として意識されていることも影響している。 不動産市場の停滞長期化は、財政面では、地方財政の財源難と中央政府の負担増大をもたらす。 金融面では、地方の中小金融機関の不良債権問題を引き起こし、破綻金融機関救済のための各種金融・財政負担が増大する。 (図表2:総人口(単位・万人)の推移はリンク先参照) 第5に米中対立の長期化。 中国マクロ経済への直接的な影響はそれほど大きくないが、経済人に与える心理的影響は無視できない。 第6に期待成長率の下方屈折。 上述の要因が合わさって将来の経済に対する期待を弱気化させ、それが企業経営者の投資姿勢の慎重化と消費者の購買意欲の低下を招く。 第7に以上の要因を背景に成長率が低下すれば、経営効率の低い国有企業の業績が悪化し、中央・地方政府による赤字補填が拡大し、財政負担の増大を招く。 これらの中長期的要因は従来2025年前後から表面化すると予想されていた。 しかし、新たな統計データの発表や政府の政策運営の影響などから表面化の時期が3年ほど早まったように感じられる』、ということは、「表面化」は2022年から始まったようだ。
・『4.中国経済の下支え要因  以上のマイナス要因しかなければ中国経済の成長率は今後急速な低下を余儀なくされるはずである。 しかし、次のような下支え要因も存在するため、成長率の低下はいくぶん緩やかなものに留まると考えられる。 第1に外資企業の対中投資拡大の持続。 中国国民の急速な所得水準の上昇とともに高付加価値製品の需要が拡大し、中国国内市場の魅力はますます増大しつつある。 加えて、内需の伸び鈍化を懸念する中国政府が、優良外資企業に対する誘致姿勢を一段と積極化し、手厚いサポートを提供することも外資企業の投資拡大にとって追い風となる。 このため、グローバル市場で高い競争力を持つ日米欧主要企業の大部分は中国市場での積極姿勢を変えない方針。 第2に中国企業の国際競争力の増大。 大学卒業者数の急速な増加により高学歴人材が大幅に増加しつつある。 こうした豊富な高学歴人材の支えを背景に、EV、リチウム電池、太陽光パネル、半導体、PC、スマートフォンなどの分野における中国企業の競争力が着実に向上してきている。 今後も中国企業が優位性を持つ産業分野の拡大が続くことが予想される。 第3にアジア域内の発展途上国との経済交流の増加。 中国はこれまで一帯一路政策を強力に推進し、周辺の発展途上国、特にアジア域内の連携を強化してきた。 今後、中長期にわたり、ASEAN(東南アジア諸国連合)およびインドの長期的な経済発展が続く見通しであることから、それらの国々と中国経済との相互連携は一段と深まり、水平分業などの協力関係がさらに拡大していくことが予想される。 第4に大規模な不良債権問題の回避。 中国は日本の不動産バブルの経験を深く研究し、リスク回避のための政策を積み重ねてきた。 その成果は1~2級都市の不動産市場における投機抑制策の成功といった形で表れている。 こうした状況から見て、日本の1990年代のようなバブル経済崩壊に伴う国家経済全体の長期停滞は回避できる可能性が高いと見られている。 以上の要因から見て、2020年代に中国の経済成長率の低下が続く局面においても、日本および世界の企業にとって中国市場の魅力が急速に低下する可能性は低いと考えられる。 日本企業としては、経済成長率低下を強調するメディア報道などに振り回されず、中国市場の分野別の市場ニーズの変化を冷静かつ詳細に把握し、的確なマーケティングと迅速な経営判断により中国市場での競争に勝ち残る努力が不可欠である。 中国市場での競争相手は、一段と技術力を高めてきている中国企業とグローバル市場で高い競争力を保持する欧米・韓国台湾の一流企業である。 その厳しい競争の中で生き残るためには、高い専門能力を備えた高学歴人材の育成と、グローバル市場での競争に大胆にチャレンジする人材を生み出すリーダーシップ教育が今後の日本企業の生き残りのカギとなる』、「日本の1990年代のようなバブル経済崩壊に伴う国家経済全体の長期停滞は回避できる可能性が高いと見られている」、というのは甘過ぎるようで、もっと厳しくみるべきだろう。「厳しい競争の中で生き残るためには、高い専門能力を備えた高学歴人材の育成と、グローバル市場での競争に大胆にチャレンジする人材を生み出すリーダーシップ教育が今後の日本企業の生き残りのカギとなる」、同感である。
タグ:「日本の1990年代のようなバブル経済崩壊に伴う国家経済全体の長期停滞は回避できる可能性が高いと見られている」、というのは甘過ぎるようで、もっと厳しくみるべきだろう。「厳しい競争の中で生き残るためには、高い専門能力を備えた高学歴人材の育成と、グローバル市場での競争に大胆にチャレンジする人材を生み出すリーダーシップ教育が今後の日本企業の生き残りのカギとなる」、同感である。 2.足許の成長率を低下させた短期的要因 1.高度成長時代の終焉を迎えている可能性 瀬口 清之氏による「中国の高度経済成長、予想より早く終わる可能性 成長を押し下げる中長期的構造要因と日本企業の対応策」 JBPRESS 「こうした爛尾楼防止策はすべて、中国への導入時には無視された。プレ販売した購入代金はそのままするりと開発業者の口座に入り、銀行は別途購入者と結んだローン契約に従って粛々とローンを回収するスタイルが一般化された。そのため、銀行側にも業者に対する責任感が非常に薄かった」、香港の仕組みのうち、「ローン契約」者保護につながる部分が無視されて導入したとは、初めから欠陥のある制度だったようだ。 「建設が止まっても、購入者は金融機関と交わした契約通り、でき上がるはずのマンションを夢見てローンを支払い続けなければならない」、購入者保護の仕組みが殆どないリスキーな手法だ。 「プレ販売でマンションを購入すると、現物購入(=完成後購入)よりも選択肢が広く、また希望の間取りや内装も簡単に実現でき、さらには10~20%安になるとうたわれているために、マイホーム、あるいは投機のための住宅購入を考える人たちは、さっさと頭金を払ってローンを組む。あとはローンを払いながら、1~2年後のマンションの完成を待つだけである。 開発業者はプレ販売に力を入れ、建物を建設する前にその売却金を先に手に入れることができる」、「コロナがこの自転車のチェーンを叩き切った。社会的な不安や失業の懸念、収入の減少な 確かに「不動産バブルの後始末」は「深刻」なようだ。 真壁 昭夫氏による「中国で「不動産バブル崩壊・失業」が深刻化、習近平政権は正念場に」 「不動産基金」の行方、「爛尾楼事件」での「個人債務者」の動向を注視していきたい。 「個人クレジットに黒が」ついてでも、「「ローン不払い」を実行」する覚悟でやっているようだ。 何やら本当に深刻な調整局面が不可避のようだが、なるべく軽く済んでほしいものだ。 腰の重い「金融業界」や「政府当局」を動かすには、「「ローン不払い」宣言」のようなショック療法も必要だったようだ。 「「爛尾楼」の総面積は2.31億平方メートル、今年上半期における全国住宅不動産市場の3.85%を占めている」、比重が予想以上に大きいのには驚かされた。 「不動産開発業者がここにきて青息吐息になっている」、これではテコ入れは難しそうだ。 「中国の不動産」事情に疎い我々にとっては興味深そうだ。 ふるまいよしこ氏による「中国で「住宅ローン支払い拒否宣言」続出の理由、救済が待たれる事情とは」 ダイヤモンド・オンライン 「深刻」さは日本のバブル期の「債務問題」をはるかに上回るようだ。 「習近平政権は銀行に不動産業界向けの融資を増やすよう規制を緩めているが、相場底打ちの兆しが見えない」、一旦、下落を始めたのを政策的にテコ入れしようとしても、上手くはいかないものだ。 秋の共産党大会を控えて指導部もヒヤヒヤだろう。 中国経済 ということは、「表面化」は2022年から始まったようだ。 「16~24歳の若年層の失業率は6月に19.3%に達した」のは、今年の大学卒業者数が1076万人と昨年に比べて一気に167万人も増加したこと」による部分もあるとはいえ、やはり深刻だ。 3.中国の成長率を押し下げる中長期要因 4.中国経済の下支え要因 (その16)(中国で「住宅ローン支払い拒否宣言」続出の理由 救済が待たれる事情とは、中国で「不動産バブル崩壊・失業」が深刻化 習近平政権は正念場に、中国の高度経済成長 予想より早く終わる可能性 成長を押し下げる中長期的構造要因と日本企業の対応策)
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中国経済(その15)(「こんな要求は前代未聞」中国ビジネスに異変続出で 日本の中小企業が困惑、「奇跡の都市」深センが暗転 中国経済の未来を暗示か、習近平のゼロコロナ政策が新卒大学生を空前の就職難に突き落とす、中国で「大学卒業=失業だ」の悲鳴…中国の失業問題に建国以来最悪の恐れ) [世界経済]

中国経済については、本年2月19日に取上げた。今日は、(その15)(「こんな要求は前代未聞」中国ビジネスに異変続出で 日本の中小企業が困惑、「奇跡の都市」深センが暗転 中国経済の未来を暗示か、習近平のゼロコロナ政策が新卒大学生を空前の就職難に突き落とす、中国で「大学卒業=失業だ」の悲鳴…中国の失業問題に建国以来最悪の恐れ)である。

先ずは、6月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの姫田小夏氏による「「こんな要求は前代未聞」中国ビジネスに異変続出で、日本の中小企業が困惑」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/304536
・『中国の対外貿易の窓口といわれる上海で断行されたロックダウンは、一部の日本の経営者の心理にも微妙な影を落とした。新型コロナウイルス感染拡大から約2年半が経過した今、中小・零細企業の対中ビジネスには微妙な変化が表れ、中国との距離が一段と広がっている』、「中国との距離が一段と広がっている」とは穏やかではない。
・『「海外からの輸入品は要注意」 比較的自由だった貿易も“終わり”の兆候  今年3月末から上海で強行されたロックダウンによって、世界の物流網が大混乱したことは報道のとおりだ。上海は2021年に4.3兆元(約85兆円)のGDPをたたき出した中国最大の経済都市だが、同市における物流のまひは多くの日本企業に打撃を与えた。 夫婦で貿易業(本社・東京都)を営む林田和夫さん(仮名)も、上海のロックダウンで通関を待たされた一人だ。中国向けに日本製の生活雑貨を輸出している林田さんは、「貨物は3月中旬に上海に到着しましたが、通関したのは6月1日。2カ月半も止められていました」と打ち明ける。 林田さんの対中貿易はこれまでトラブルもなく順調だった。ところが今回は、上海の税関から「製品に含まれる成分について、追加資料を提出せよ」と要求され、植物由来の成分についてはラテン語の学術名訳まで求められたという。 約20年にわたり対中貿易に携わってきた林田さんだが「こんな要求は前代未聞です。コロナ禍の2年半で、対中貿易がとてもやりにくくなりました」と嘆く。輸出製品は毎月同じだが、抜き取り検査(ランダムに一部を抜き取って検査)も頻度を増した。 一方、2020年に武漢のロックダウンが解除され、「中国はコロナの感染拡大を抑え込んだ」と宣言して以降、中国では「感染ルートは海外から輸入した貨物にある」という解釈が定着した。 その後も中国内で局所的に感染者が出るが、中国政府はその原因を「海外からもたらされたものだ」と主張し、今春の上海市におけるオミクロン株の拡大についても、同様の説明を行った。習近平指導部は「海外からの輸入品は要注意だ」と警告して国内の防疫体制を強化したが、“海外”を過剰に意識したアナウンスは「別の目的があるのではないか」と疑う声もある。) コロナ禍直前まで、林田さんのビジネスは、中国での日本製品ブームを追い風に上昇気流に乗っていたが、この2年半で大きく狂ってしまった。林田さんは“時計の針の逆戻り現象”を敏感に感じ取り、「中国が対外貿易のハードルを高めているのは明らか。比較的自由になった対中貿易も、この2年半ですっかり後退してしまいました」と語る』、「上海の税関から「製品に含まれる成分について、追加資料を提出せよ」と要求され、植物由来の成分についてはラテン語の学術名訳まで求められた」、明らかな嫌がらせだ。
・『中国に呑み込まれる前に、国内事業に軸足をシフト  ササキ製作所(本社・埼玉県、佐々木久雄代表取締役)は、自動車・家電部品を中心としたプラスチック材料の金型を製作する中小企業だ。 50年近い歴史を持つが、10年ほど前から中国に加工拠点を設け、仕事をシフトさせてきた。日本で受注した金型を中国で製作し、最終加工を日本で行うというモデルを構築するために、佐々木社長自らが中国に何度も訪れ、現地企業に技術指導を行ってきた。 長江デルタ地帯を中心に同社が築いてきた中国の加工拠点は、約10年の歳月とともに成熟期を迎え、上海のロックダウンでも長年培った信頼関係が力を発揮した。中国からの貨物の遅れに気をもむこともあったが、「中国人パートナーが奔走してくれて、4月23日に上海港を出る船に金型を積んでくれた」(佐々木社長)と、胸をなでおろす場面もあった。 中国には自動運転やEVなど金型の仕事が山のようにある――と語る佐々木社長だが、そこにのめり込むつもりはない。「我々のような金型業界はいずれ苦境に陥る」と楽観を許さない理由を次のように説明する。 「中国の金型業界は資金力もあれば、設備もすごい。早晩ものづくりの主流は中国になり、我々はいずれ中国から金型の仕事をもらうようになるでしょう。放っておけば“お払い箱”になりかねない。そのためにも事業構造の転換を急がなくてはいけないのです」 今、同社が心血を注ぐのは、日本の国内工場での新規事業だ。コロナ禍の混乱とはいえ、そこでつかんだのは、長期安定性が見込める日本の鉄道インフラに関わる通信機器の製造だった。 「不謹慎かもしれないですが、弊社はコロナに助けられた面もあります。銀行から調達できなかった資金を国の支援制度で工面できたおかげで、今は日本国内の3工場がフル稼働しています」(同) 事業構造の転換を進める中、同社の中国事業もメインからサブに存在価値を変えつつある』、「武漢のロックダウンが解除され、「中国はコロナの感染拡大を抑え込んだ」と宣言して以降、中国では「感染ルートは海外から輸入した貨物にある」という解釈が定着した。 その後も中国内で局所的に感染者が出るが、中国政府はその原因を「海外からもたらされたものだ」と主張し、今春の上海市におけるオミクロン株の拡大についても、同様の説明を行った。習近平指導部は「海外からの輸入品は要注意だ」と警告して国内の防疫体制を強化したが、“海外”を過剰に意識したアナウンスは「別の目的があるのではないか」と疑う声も」、「「海外からの輸入品は要注意だ」と警告」、とは完全な責任転嫁だ。
・『中国企業とオープンな会話は不可能 “まるごと中国生産”を見直す  2020年上半期、日本はコロナ感染拡大により、医療用品や衛生用品が品薄となった。 当時、「人命にかかわる医療・衛生用品の中国依存は見直すべきだ」という世論が強まった。 こうした中でも、東京に拠点を置く衛生用品メーカーのA社は、上海からマスクを調達し続けていた。今回の上海ロックダウンを経ても、長年のパートナーである上海企業のB社とは安定的な取引が続いているという。 目下、“サプライチェーンの脱中国”が取り沙汰されているが、A社は「高品質を実現できる中国の生産拠点を別の国にシフトさせる考えはない」という。 その一方、A社管理職の坂場健氏(仮名)は、上海のパートナーであるB社とのやりとりに微妙な変化が生じていることを感じ取っていた。 「今回の上海ロックダウンもそうでしたが、B社の歯切れの悪さを感じています。ロックダウン中も『大丈夫ですか』の一言さえ掛けられませんでした。答えにくいことが想像できるからです。今の中国の状況を思えば、当社としてもメールやチャットに余計な履歴を残さないよう用心しなければなりません。コロナの2年半はB社への忖度(そんたく)ばかりが増え、これまでのようなオープンな会話は、ほとんどできなくなってしまいました」(坂場氏) 長年の協力先でありながらも、日本のA社が上海パートナーB社に対し “虎の尾”を踏まないよう神経を使う様子がうかがえる。幸い、A社がB社から輸入する製品は、長年のリピート注文がベースだ。リピート注文であれば、新たな問題や交渉が生じる余地はほとんどない。 しかし、仮にA社がB社との間で新たな事業を一から立ち上げるとなると話は別だ。中国の地方政府の介入やB社の緊張が高まる中で、取引条件はさまざまな制約を受けることが目に見えているからだ。坂場氏は、今後の方向性をこう見据えている。 「新規事業については、原材料のみ中国から調達して、日本国内で製造する計画です。これができれば、為替リスクも減らせます。確かに中国は“安定したパートナー”ではあるのですが、新たな製品を企画しそれを完成品として生産する場所ではなくなりました」 ちなみに、海外現地法人を持つ日本企業を対象に、国際協力銀行(JBIC)が行った「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告(2021年度海外直接投資アンケート調査結果・第33回)」を見ると、2020~2021年度にかけて「海外事業は現状維持」「国内事業は強化・拡大」する傾向が高まっていることがわかる。 一昔前、「中国を制する者が世界を制す」といった言葉も流行したものだが、最近は「中国をあてにしていたら、食いはぐれる」という正反対の受け止め方を耳にするようになった。 “コロナの2年半”を経て転換点を迎えた中小企業の中国ビジネスは、今後ますます国内回帰を進める気配だ』、「コロナの2年半はB社への忖度・・・ばかりが増え、これまでのようなオープンな会話は、ほとんどできなくなってしまいました」(坂場氏) 長年の協力先でありながらも、日本のA社が上海パートナーB社に対し “虎の尾”を踏まないよう神経を使う様子がうかがえる」、信じ難い取引関係の変化だ。「“コロナの2年半”を経て転換点を迎えた中小企業の中国ビジネスは、今後ますます国内回帰を進める気配だ」、その通りなのだろう。

次に、6月22日付け日経ビジネスオンラインが転載したロイター「「奇跡の都市」深センが暗転 中国経済の未来を暗示か」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00030/062000388/
・『デービッド・フォンさんが中国中部の貧しい村を出て、急発展を遂げる南部の深センに移り住んだのは、若かった1997年のことだ。それから25年間、外資系メーカーを転々とした末、通学かばんから歯ブラシまで幅広い製品を手がける数百万ドル(数億円)規模の企業設立にこぎ着けた。 47歳になったフォンさんには、インターネットに接続できる消費者向け機器を製造して海外進出する計画がある。しかし新型コロナウイルス対策で2年にわたってロックダウン(都市封鎖)が繰り返されたことで、出荷コストは上がって消費者心理は冷え込んでしまった。今では会社が存続できるかどうかを心配している。 「この1年、持ちこたえられればよいのだが」とフォンさん。高層ビルが立ち並ぶ街を見下ろす最上階のオフィスで、商品に囲まれながら「商売の正念場だ」と語った。 フォンさんの出世物語は、深センそのものの歩みと重なる。 深セン市は、中国が経済改革に乗り出した1979年に誕生。経済特区に指定された同市は、農村が集まる地域から主要な国際港湾都市へと変貌を遂げ、中国の名だたるハイテク、金融、不動産、製造企業が拠点を置くようになった。 過去40年間は、毎年少なくとも20%の経済成長を記録。オックスフォード・エコノミクスは昨年10月時点で、2020年から22年に深センが世界トップの成長率を達成すると予想していた。 しかし今では、米カリフォルニアのシリコンバレーにあるサンノゼにその地位を奪われた。深センの今年第1・四半期の経済成長率はわずか2%と、新型コロナの第一波で中国経済が停止状態となった20年第1・四半期を除くと、過去最低となった。 深センは今も中国最大の輸出都市ではあるが、3月にはロックダウンの影響で海外向け出荷が14%近く落ち込んだ。 深センは長年、中国の改革開放政策の成功ぶりを示す都市と見なされてきた。習近平・国家主席は19年に同市を訪問した際、「奇跡の都市」と呼んだ。 オックスフォード・エコノミクスの世界都市調査ディレクター、リチャード・ホルト氏は、深センは「炭鉱のカナリア」であり、ここが苦しくなることは中国経済全体への警戒信号だと指摘する』、「習近平・国家主席は19年に・・・「奇跡の都市」と呼んだ」のが、いまや「「炭鉱のカナリア」であり、ここが苦しくなることは中国経済全体への警戒信号だと指摘」されるまでになったようだ。
・『ロックダウンで魅力あせる  人口約1800万人の深センではここ数年、地元を拠点とする大手企業が次々と災難に見舞われた。通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)は米国の制裁を受け、不動産開発大手、中国恒大集団は経営危機に陥った。 加えて3月には深センその他の都市で新型コロナ感染対策のロックダウンが敷かれ、深センで製造される製品への国内需要が落ち込んだ。 政府系シンクタンク、中国開発研究所のディレクター、ソン・ディン氏は5月のエッセーに、「深センの経済はぐらつき、傾き、低迷している。深センは十分な勢いを失ったのではないかとの見方もある」と記した。 ロイターは深セン政府にコメントを要請したが、回答は得られなかった。 しかし市当局者らは内々に、深センの「奇跡」を持続させることが日増しに難しくなっていると認めている。 中国行きの国際便はほとんど停止し、ロックダウンにより港湾の作業は滞り、かつてにぎわった香港との境界も閉鎖同然となった今、深センはビジネスに向かない都市になってしまった。深セン、香港、マカオなどを結ぶ中国の「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア、GBA)」構想は棚上げになったようにみえる。 かつて自社デザインを製品化しようと深センに押しかけていた海外企業家らの来訪も途絶え、数十軒の駐在員向けバーやレストランは閉店、もしくは地元民の嗜好に合わせた店に変わった。 外国の商工会議所は中国政府に対し、海外人材が大量流出すると警告している。 「中国のシリコンバレー」とも言われる深センは、野心と才能を備えた新卒者が中国全土から集まる都市でもあり、平均年齢は34歳と全国屈指の若さだ。しかし景気減速によって新卒者の職探しも難しくなった。 ハイテク企業が集まる「ハイ・テク・パーク」地区近くにはアパートが密集しており、例年5月には不動産屋が家探しの新卒者でごった返す。しかしある不動産代理店経営者は先月ロイターに対し、取り扱い件数が昨年の半分になったと明かした。「貸します」の看板も目立つようになっている。 低賃金で働く出稼ぎ労働者の状況は厳しい。生計費の上昇に苦しみ、不動産価格は全国有数の高さとあって家を持つこともかなわない。 マッサージ師のシュー・ジュアンさん(44)の友達は最近、成都市の故郷に帰って火鍋屋を始めた。シューさん自身もそうしようかと考えている。 「飲食代ですら値上がりし過ぎているし、仕事はきついし、他の地方の生活水準はすごく良くなった。そろそろここを離れる時かもしれない」とシューさんは語った』、「中国行きの国際便はほとんど停止し、ロックダウンにより港湾の作業は滞り、かつてにぎわった香港との境界も閉鎖同然となった今、深センはビジネスに向かない都市になってしまった」、「景気減速によって新卒者の職探しも難しくなった。 ハイテク企業が集まる「ハイ・テク・パーク」地区近くにはアパートが密集しており・・・しかしある不動産代理店経営者は先月ロイターに対し、取り扱い件数が昨年の半分になったと明かした」、「カナリア」は生き続けられるだろうか。

第三に、6月27日付けNewsweek日本版「習近平のゼロコロナ政策が新卒大学生を空前の就職難に突き落とす」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2022/06/post-98970_1.php
・『ジェニー・バイさんは、北京のあるインターネット企業の厳しい面接を4回もくぐり抜け、最終的に内定を勝ち取った優秀なコンピューター科学専攻の10人の大学生の1人だった。 しかし、5月になってこの企業から内定取り消しを通告された。新型コロナウイルスの感染拡大や中国経済全般の悪化が理由だ。この点に今年1080万人と過去最高となった中国の大学新卒者が直面している大きな問題がある。 今月卒業したバイさんは「心配だ。就職先を見つけられない場合、どうすれば良いか分からない」と不安を隠せない。ただ、内定を取り消された企業名については、今後もその企業と良好な関係を維持したいと明らかにしなかった』、「内定取り消し」とは深刻だ。
・『若者の失業率は18.4%  中国経済は昨年の不動産市場の冷え込みや地政学的問題、当局によるハイテク、教育など幅広い産業への締め付けで既に減速していた。そこに追い打ちをかけたのが、新型コロナウイルスを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ政策」と言える。 一方で、数十年来で最悪の状況となった労働市場に、ポルトガルの全人口を上回る規模の中国の大学新卒者が、一斉に参入しようとしている。足元の若者の失業率は、全世代の3倍以上で過去最高の18.4%に達している。 こうした就職できない若者の大量発生が、中国社会にどう影響するかは全く読めない。 中国が何十年も高成長を続けてきた後で、職探しに苦労するという事態は、せっかく高等教育を受けてきた若者にとって全くの想定外だ。 社会の安定を最優先に考える共産党指導部にとっても、特に今年は習近平国家主席の続投が秋に正式に決まろうかという局面で、若者の雇用不安が起きるのはあまりにも間が悪い。 北京大学のマイケル・ペティス教授(ファイナンス)は「(中国の)政府と人民が交わした社会契約では、人民が政治に参加しない代わりに、生活水準が年々向上すると保証されている。だから、懸念されるのはいったんこの保証が崩れれば、契約の他の部分も変わらざるを得なくなるのではないか、という点にある」と述べた』、「足元の若者の失業率は、全世代の3倍以上で過去最高の18.4%」、「中国が何十年も高成長を続けてきた後で、職探しに苦労するという事態は、せっかく高等教育を受けてきた若者にとって全くの想定外だ」、「北京大学のマイケル・ペティス教授(ファイナンス)は「(中国の)政府と人民が交わした社会契約では、人民が政治に参加しない代わりに、生活水準が年々向上すると保証されている。だから、懸念されるのはいったんこの保証が崩れれば、契約の他の部分も変わらざるを得なくなるのではないか、という点にある」と述べた」、「習近平国家主席の続投が秋に正式に決まろうかという局面で、若者の雇用不安が起きるのはあまりにも間が悪い」、その通りだ。
・『ハイテク雇用が大幅縮小  李克強首相は、大学新卒者の雇用確保が政府の最優先課題だと明言している。実際、新卒者向けにインターンシップ枠を設けている企業には、他の一般的な雇用支援措置を差し置いて補助金が支給される。 一部の地方政府は、起業する新卒者に低利の融資を提供。いくつかの国有企業は、民間で余剰化した非熟練雇用の一部を吸収する見通しだ。) 総合人材サービス企業・ランドスタッドの広域中華圏マネジングディレクター、ロッキー・チャン氏は、中国の非熟練雇用市場は2008─09年の世界金融危機時よりも悪化しており、新規雇用は昨年比で20─30%減ると見積もっている。 20年にわたって求人業務に携わってきた同氏は、今年はこれまで見てきた中で市場が最も低調だと指摘した。 大手求人サイト、智辯招聘によると、予想給与水準も6.2%低下するとみられる。 最近まで中国の大学新卒者の大量採用してきたのが、ハイテクセクターだった。ところが、業界全体では今、雇用を縮小する動きが広がっている。 インターネットサービスのテンセント(騰訊控股)から電子商取引のアリババまで、多くの大手IT企業は規制当局の取り締まり強化のあおりで、大規模な人員削減を強いられた。ハイテクセクター全体で今年、何万人もが職を失った、と5人の業界関係者がロイターに明かした。 上海を拠点する人材管理サービスの許姆四達集団が4月に公表したリポートを見ると、ハイテク大手約10社のほぼ全てが最低でも10%の人員を減らし、動画配信の愛奇芸などさらに削減幅が大きくなったケースもあった。 教育サービスも当局からにらまれた業界の1つで、やはり何万人も解雇した。最大手の新東方教育科技集団は6万人の削減を発表している。 逆に新規採用の動きは鈍い。テンセントの人事部門幹部の1人は、「数十人」の新卒者採用を検討中と話した。以前の同社は年間に約200人を採用していた。 人材紹介会社ロバート・ウォルターズのジュリア・ジュー氏は「インターネット企業は多くの雇用を減らしている。今、彼らに採用資金があるなら、新卒者よりも経験者を選んでいる」と説明した』、「新規雇用は昨年比で20─30%減る」、「20年にわたって求人業務に携わってきた同氏は、今年はこれまで見てきた中で市場が最も低調」、「多くの大手IT企業は規制当局の取り締まり強化のあおりで、大規模な人員削減を強いられた。ハイテクセクター全体で今年、何万人もが職を失った」、「規制当局の取り締まり強化」も最悪のタイミングだ。
・『ヘッドハンターも政府系企業に鞍替え  近年はハイテク企業との仕事がほとんどだった北京拠点のヘッドハンター、ジェーソンウォン氏は目下、政府系通信企業が主な顧客だ。「インターネット企業の採用が、活発化する黄金時代は終わりを迎えた」と言い切る。 中国では大学を出た後、しばらく仕事がないまま過ごす若者は企業側から歓迎されないのが普通だ。多くの家庭もそれを不運とみなすより「一家の恥」と考える。 かといって学士号を得ながらブルーカラーの仕事に就くというのも社会的に認められにくいため、大学院などの研究職に応募する人数が過去最高に上ったことが、公式統計から確認できる。 昨年大学を卒業したビセンテ・ユーさんは、その暮れにメディア企業での仕事を失って以来、再就職できていない。貯金は1─2カ月の家賃と生活費を賄える程度。不安感や不眠症と向き合う毎日で「父親には二度と家に帰るなと言われた。私の代わりに犬を育てた方がましだったという言葉も浴びせられた」とやつれた様子で語った。 ユーさんが夜間に訪れるのがソーシャルメディア。そこには同じ境遇の若者が集う。「私のように、仕事が見つからない人たちばかりで、それが多少慰めになる」という』、「ヘッドハンターも政府系企業に鞍替え」、さすが先読みの鋭さでならすだけある。「大学院などの研究職に応募する人数が過去最高に上った」、そこでの吸収力は僅かの筈だ。「ソーシャルメディア」の動向は当局も神経質に目を光らせているのだろうが、突如、爆発しかねないだけに要注意だ。

第四に、7月5日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「中国で「大学卒業=失業だ」の悲鳴…中国の失業問題に建国以来最悪の恐れ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305892
・『中国で16~24歳の失業率が上昇し続けている。2022年5月の水準は18.4%と統計開始来の最高水準を更新した。SNS上では、「大学卒業イコール失業者生活の始まりだ」などと将来の悲観を吐露する若者が増えている。より自由かつ安心できる生活の基盤を手に入れたいと考え、わが国での就職を目指す人も増えているようだ』、興味深そうだ。
・『建国以来最悪の中国の失業問題  中国で失業者が急増している。その状況はかなり深刻で、中国の労働市場は1949年の建国以来、最悪期を迎える懸念が高い。特に、16~24歳の若年層の雇用環境の厳しさが増している。中国の新卒者の中には、わが国での就職を目指す若者も増えていると聞く。 失業者急増の最大の要因は、経済成長が限界を迎えていることだ。改革開放以来、天安門事件という大きな混乱を挟みつつ、共産党政権は党の指揮によって需要増加が期待される分野に生産要素を再配分し、実質GDP成長率が10%を超える高度経済成長期を実現した。しかし、2017年の党大会以降、成長率の低下は鮮明だ。米中対立やゼロコロナ政策の徹底、ウクライナ危機などが成長率低下に拍車をかけている。 当面の間、世界の供給制約は深刻化する。資源価格の高騰も長引くだろう。中国では石炭不足などによって電力供給も不安定だ。在来分野から先端分野、中小零細企業から大企業までコスト削減を優先せざるを得ず、追加的に雇用を削減する企業が増えるだろう。中国の失業問題の深刻化が懸念される』、「建国以来最悪の中国の失業問題」とは深刻だ。
・『「大学卒業イコール失業者生活の始まりだ」  中国では、全国を対象とした失業率ではなく、都市部の調査ベースによる失業率が発表されている。21年10月に4.9%だった失業率は、11月以降に急上昇。特に、ゼロコロナ政策による物流・人流寸断のインパクトは大きく、22年4月に失業率は6.1%に達した。5月は5.9%に低下したが、状況は楽観できない。 特に、16~24歳の失業率が上昇し続けていることは深刻だ。18年5月に9.6%だった若年層の失業率は、20年2月に13.6%に上昇。22年5月の水準は18.4%と統計開始来の最高水準を更新した。若年層が労働市場から勢いよくはじき出されるかのような構図が鮮明になっている。 中国では科学技術の向上のために高等教育が強化され、22年の学部卒業生は1000万人を超えるといわれている。新卒学生の多くは、外国語やプログラミングなどの専門スキルを身に付けるなどしてより良い条件での就職を目指す。しかし、本来であれば成長期待の高いIT先端分野の企業であっても、新卒学生を雇い入れることが難しくなっている。IT企業で内定の取り消しに直面する新卒学生も増えているようだ。 中国のSNS上では、「大学卒業イコール失業者生活の始まりだ」などと将来の悲観を吐露する若者が増えている。より自由かつ安心できる生活の基盤を手に入れたいと考え、わが国での就職を目指す人も増えているようだ。 IT以外の業種でも雇用環境は厳しい。過剰生産能力の削減、ゼロコロナ政策や不動産バブルの崩壊、それらによる債務問題の深刻化によって、鉄鋼や不動産など在来分野の雇用環境が悪化している。 15~64歳の生産年齢人口の減少を背景とする労働コストの増加、トランプ政権以降の米中対立などを背景に中国での生産を見直し、ベトナムなどのASEAN地域やインドなどに事業拠点を移す海外の企業も増えた。都市への人口流出に直面してきた内陸部では需要が急速に縮小均衡していると考えられる。黒竜江省鶴崗市のように事実上の財政破綻に陥る地方政府も出始めた』、「16~24歳の失業率が18.4%」とは本当に深刻だ。「事実上の財政破綻に陥る地方政府」はこの他にも出てきそうだ。
・『限界を迎えている共産党主導の雇用創出  深刻化する失業問題の主たる要因として、改革開放以来の共産党政権の雇用政策が限界を迎えたことが大きい。 共産党政権は、人々の雇用・所得環境の安定を実現することによって求心力を維持してきた。1978年12月に改革開放路線が策定されて以降、共産党政権は一党独裁体制を維持したまま経済特区を設けて海外の企業の直接投資を呼び込んだ。それによって軽工業の基盤が整備され製鉄など重工業化も進み、社会インフラ整備によって雇用が生み出された。 さらに、国有・国営企業が事業活動を行なっていない分野では民間企業の設立を認め、今日のアリババやテンセント、ファーウェイなどの先端企業が急成長を遂げた。その結果、共産党政権による経済運営の下で雇用が増えて所得も伸びた。膨大な消費需要の獲得と生産コストの引き下げを目指してより多くの海外企業が対中直接投資を積み増すという流れも連鎖反応的に強まった。 中国の国民は、党の指示に従うことによって豊かになることができるという考えを強めたはずだ。それがあったからこそ、89年の天安門事件の後も、中国では共産党政権が一党独裁体制を維持し、党の指揮による経済運営が続いた。リーマンショック後、共産党政権はインフラ整備や不動産開発など投資を積み増すことによって景気を押し上げ、雇用の創出に励んだ。 しかし、2018年頃から党主導で雇用を生み出すことが難しくなっている。17年の党大会の終了後に公共事業が絞られた結果、想定外に景気が減速した。投資に頼った経済運営が限界を迎えた。その中で米中対立が先鋭化し、中国をはじめ世界の企業がサプライチェーンの混乱と寸断に陥った。 さらに、コロナ禍におけるゼロコロナ政策が経済成長率を低下させ、失業問題が輪をかけて深刻化している。習近平政権は金融の緩和を進め、公共事業の積み増しなど企業の経営体力を支えて雇用を増やそうとしているが十分な効果は出ていない。習政権の経済運営は正念場を迎えている』、「コロナ禍におけるゼロコロナ政策が経済成長率を低下させ、失業問題が輪をかけて深刻化している」、「ゼロコロナ政策」へのこだわりが強いようだ。
・『今後もヒト・モノ・カネの海外流出は増加  今後も若年層を中心に中国の失業問題は深刻化するだろう。中国では経済全体で資本の効率性が低下している。 まず、不動産バブル崩壊によって「灰色のサイ」と呼ばれる債務問題の厳しさが増している。共産党政権は恒大集団など債務返済能力が大きく低下した不動産デベロッパーに公的資金を注入して金融システムの健全化を目指さなければならない。 しかし、公的な救済措置の発動は民間企業の創業経営者を救済することになるため、共同富裕の考えに逆行する。結果的に不動産バブル崩壊はさらに深刻化せざるを得ない。それによって、土地の利用権の売却益は減少し、財政運営が難航する地方政府も増えるだろう。 IT先端分野の民間企業の締め付けも強められる。8月からは改正独占禁止法が施行され、データ利用などに関する罰則が強化される。貧富の格差の拡大をなんとしても阻止するために、共産党政権は改革開放の果実として成長した民間企業に対する統制を強めなければならない。 習近平政権の経済運営は、成長期待の高い分野のアニマルスピリットを伸ばすのではなく、カンナでそぎ落としているかのようにみえる。そうして浮き出た資金を、貧困や失業問題に直面する層に配分し、社会の閉塞感の解消を目指す「ポーズ」を示している。 他方で、ゼロコロナ政策の長期化懸念、台湾海峡の緊迫感の高まり、半導体や人工知能など先端分野を中心とする米中対立の先鋭化リスク上昇などを背景に、中国から逃避する資本は増えるだろう。ウクライナ危機によるインフレ懸念の高まりが加わることによって、人民元で保有してきた財産を海外に持ち出し、その価値を守らなければならないと危機感を急速に強める国民も増えるだろう。 習政権にとって、人々の自由な発言や行動を認め、人材や資本を中国国内につなぎ留めることは容易ではない。それよりも習氏は長期の支配体制の確立に向けて社会と経済の統制を強化している。今後も、中国のアニマルスピリットは減殺されてヒト・モノ・カネの海外流出は増加し、雇用・所得環境は悪化するだろう』、「習氏は長期の支配体制の確立に向けて社会と経済の統制を強化」、「中国のアニマルスピリットは減殺されてヒト・モノ・カネの海外流出は増加し、雇用・所得環境は悪化するだろう」、同感である。
タグ:ダイヤモンド・オンライン 姫田小夏氏による「「こんな要求は前代未聞」中国ビジネスに異変続出で、日本の中小企業が困惑」 「中国との距離が一段と広がっている」とは穏やかではない。 「武漢のロックダウンが解除され、「中国はコロナの感染拡大を抑え込んだ」と宣言して以降、中国では「感染ルートは海外から輸入した貨物にある」という解釈が定着した。 その後も中国内で局所的に感染者が出るが、中国政府はその原因を「海外からもたらされたものだ」と主張し、今春の上海市におけるオミクロン株の拡大についても、同様の説明を行った。習近平指導部は「海外からの輸入品は要注意だ」と警告して国内の防疫体制を強化したが、“海外”を過剰に意識したアナウンスは「別の目的があるのではないか」と疑う声も」、「「海外からの輸入 「コロナの2年半はB社への忖度・・・ばかりが増え、これまでのようなオープンな会話は、ほとんどできなくなってしまいました」(坂場氏) 長年の協力先でありながらも、日本のA社が上海パートナーB社に対し “虎の尾”を踏まないよう神経を使う様子がうかがえる」、信じ難い取引関係の変化だ。「“コロナの2年半”を経て転換点を迎えた中小企業の中国ビジネスは、今後ますます国内回帰を進める気配だ」、その通りなのだろう。 次に、6月22日付け日経ビジネスオンラインが転載したロイター「「奇跡の都市」深センが暗転 中国経済の未来 日経ビジネスオンライン ロイター「「奇跡の都市」深センが暗転 中国経済の未来を暗示か」 「習近平・国家主席は19年に・・・「奇跡の都市」と呼んだ」のが、いまや「「炭鉱のカナリア」であり、ここが苦しくなることは中国経済全体への警戒信号だと指摘」されるまでになったようだ。 「中国行きの国際便はほとんど停止し、ロックダウンにより港湾の作業は滞り、かつてにぎわった香港との境界も閉鎖同然となった今、深センはビジネスに向かない都市になってしまった」、「景気減速によって新卒者の職探しも難しくなった。 ハイテク企業が集まる「ハイ・テク・パーク」地区近くにはアパートが密集しており・・・しかしある不動産代理店経営者は先月ロイターに対し、取り扱い件数が昨年の半分になったと明かした」、「カナリア」は生き続けられるだろうか。 Newsweek日本版「習近平のゼロコロナ政策が新卒大学生を空前の就職難に突き落とす」 「内定取り消し」とは深刻だ。 「足元の若者の失業率は、全世代の3倍以上で過去最高の18.4%」、「中国が何十年も高成長を続けてきた後で、職探しに苦労するという事態は、せっかく高等教育を受けてきた若者にとって全くの想定外だ」、「北京大学のマイケル・ペティス教授(ファイナンス)は「(中国の)政府と人民が交わした社会契約では、人民が政治に参加しない代わりに、生活水準が年々向上すると保証されている。だから、懸念されるのはいったんこの保証が崩れれば、契約の他の部分も変わらざるを得なくなるのではないか、という点にある」と述べた」、「習近平国家主席 「新規雇用は昨年比で20─30%減る」、「20年にわたって求人業務に携わってきた同氏は、今年はこれまで見てきた中で市場が最も低調」、「多くの大手IT企業は規制当局の取り締まり強化のあおりで、大規模な人員削減を強いられた。ハイテクセクター全体で今年、何万人もが職を失った」、「規制当局の取り締まり強化」も最悪のタイミングだ。 「ヘッドハンターも政府系企業に鞍替え」、さすが先読みの鋭さでならすだけある。「大学院などの研究職に応募する人数が過去最高に上った」、そこでの吸収力は僅かの筈だ。「ソーシャルメディア」の動向は当局も神経質に目を光らせているのだろうが、突如、爆発しかねないだけに要注意だ。 真壁昭夫氏による「中国で「大学卒業=失業だ」の悲鳴…中国の失業問題に建国以来最悪の恐れ」 「建国以来最悪の中国の失業問題」とは深刻だ。 「16~24歳の失業率が18.4%」とは本当に深刻だ。「事実上の財政破綻に陥る地方政府」はこの他にも出てきそうだ。 「コロナ禍におけるゼロコロナ政策が経済成長率を低下させ、失業問題が輪をかけて深刻化している」、「ゼロコロナ政策」へのこだわりが強いようだ。 「習氏は長期の支配体制の確立に向けて社会と経済の統制を強化」、「中国のアニマルスピリットは減殺されてヒト・モノ・カネの海外流出は増加し、雇用・所得環境は悪化するだろう」、同感である。
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中国経済(その13)(中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた 駐在員は歓迎されなくなった、三峡ダム2題:世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由、決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性) [世界経済]

中国経済については、10月25日に取上げた。今日は、(その13)(中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた 駐在員は歓迎されなくなった、三峡ダム2題:世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由、決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性)である。

先ずは、10月26日付けPRESIDENT Onlineがニューズウィーク日本版を転載した「「ニューズウィーク日本版」現地取材:中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた 駐在員は歓迎されなくなった」を照会しよう。
https://president.jp/articles/-/51153
・『<人質外交に新たな規制、そして「自給自足」体制の構築。中国に限界を感じる外資企業の幹部があげる悲鳴が聞こえ始めてきた:メリンダ・リウ> 中国の特色ある企業ミステリー——沈棟の著書はそんな本だ。沈と元妻の段偉紅は、かつては全てを手に入れた大金持ちだった。だが温家宝前首相の親族関連の資産をめぐり、段の名前がニュースの見出しになった。そして2017年9月、段は消息を絶った。 沈は外国に移住し、中国の富裕層と権力者の汚職を告発する回顧録を書いた。本の出版直前、段は出し抜けに元夫に電話して出版中止を懇願した。さもないと息子が危険だ、と。 その後『レッド・ルーレット——現代中国の富・権力・腐敗・報復についてのインサイダー物語』は出版され、評判を呼んだ。中国のVIPに焦点を当てた内容だったが、外国人の経営幹部も警告を読み取った。中国の「人質外交」である。 現地駐在の経営幹部は「中国での潜在的ビジネスパートナーが4年間も行方不明になりかねない」現実を認識しつつあると、米シンクタンク、アトランティック・カウンシルのアジア安全保障イニシアチブ上級研究員のデクスター・ロバーツは言う』、「「中国での潜在的ビジネスパートナーが4年間も行方不明になりかねない」現実を認識しつつある」、のであれば、商売上がったりだ。
・『相次ぐ規制強化とスローガンの刷新  外国人経営者が不安と混乱を覚えるのも無理はない。中国では今年に入ってから、規制強化とスローガンの刷新が相次いでいる。テクノロジー業界の大物、暗号資産、過剰なスター崇拝、外国への依存度が高過ぎるサプライチェーンなど、締め付けのターゲットはさまざまだ。 8月には、左派ブロガーの李光満が「深遠なる変革」を予言した。「資本市場は成り金資本家の天国ではなくなる。文化市場は女々しい男性アイドルの天国ではなくなり、ニュースや評論は……欧米文化を崇拝することはなくなるだろう」 この予言が話題になると、一部の政府当局者は事態の沈静化に動いた。財政・通商担当の劉鶴副首相は、「民間企業、イノベーション、起業家の発展を支援する」と宣言し、中国の都市雇用の80%は民間企業が生み出していると指摘した。 こうした複雑なメッセージは、複雑な臆測を呼んだ。ある視点から見ると、目先の未来は明るく見える。ユニバーサル・スタジオは北京近郊に新しいテーマパークを開園。スターバックスは7~9月に162店舗をオープンし、コロナ禍以前の水準を回復した。上海の米国商工会議所が発表した21年の報告書によれば、調査回答企業の60%が対中投資を昨年から増やしたと答えた。 最も劇的だったのは9月25日、1028日間にわたり中国の対米・カナダ関係を緊張させてきた騒動が終結したことだ。カナダで拘束・保釈中だった通信機器大手・華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)が、米司法省との司法取引に合意して中国への帰国が認められたのだ。ほぼ同時に、スパイ容疑で中国に身柄を拘束されていた2人のカナダ人も釈放され、母国に送還された。 だが視点を変えると、この一件は「人質外交」の露骨な事例だ。中国当局は何年もの間、カナダ人2人の拘束と孟の逮捕は無関係だと主張していた。だが孟が自由の身になると、2人をすぐに釈放した。「中国の国力がこの結果をもたらしたのだ」と、人民日報系タブロイド紙・環球時報の論説は勝ち誇った。 中国駐在の外国企業幹部の中には、習近平国家主席が唱え始めた「共同富裕」という新しいスローガンに不安を感じている向きもある。中国の知識人の間でも論争が起こり、北京大学の張維迎教授(経済学)は、「(これでは政府の)市場介入がますます増え……中国を共同貧困へと導くだけだ」と批判している』、「(これでは政府の)市場介入がますます増え……中国を共同貧困へと導くだけだ」と批判」、その通りだ。
・『新しい「文革」の始まり?  このスローガンは「美しいフレーズだが、見ていて心配だ」と、上海の多国籍企業に所属する日本人幹部(匿名希望)は言った。「60年代の中国のように暴力的でも感情的でもないが、もっと洗練された形で『文化大革命』が始まるのではないか。今回は規制を使って外国企業を徐々に追い出そうとしている」 この幹部は3年前、中国当局が外資系企業内部に共産党の支部を作るよう党員に促す告知を目にしたという。「党は究極の権威だ。会社に何か要求してきたら? それは依頼であって既に依頼ではない」 そのため、現地駐在の外資幹部の間には不安と疑念が広がっている。「不安を抱えて息を潜めている会社もある」と、アトランティック・カウンシルのロバーツは言う。「駐在員は歓迎されなくなったと感じている。いずれ、もうここにいたくないと思うようになるだろう」 中国に残りたいと望む人々も、変化を痛感している。数十年かけて地方でいくつも企業を立ち上げた欧米人起業家は、規制の山や裏切り、官僚主義の壁に疲れ果てたという。撤退する気はないが、「私は中国を愛している。だが中国が私を愛してくれなければ何もできない」と語る。 半導体、金融、医療など、当面は大事にされる分野もあるだろうが、中国政府の最終目標は技術的な「自給自足」だ。さらにデータの使用や送信に関する規制が強化されていることもあり、外国企業は厳しい選択に直面している。 在中国EU商工会議所が9月初めに公表した年次報告書にはこうある。「国家安全保障の概念が中国経済の多くの分野に拡大され、自給自足の方針が強化されるなか、ますます多くの欧州企業が技術の現地化とサプライチェーンの国内完結か、市場からの退場かの選択を迫られている」 EU商工会議所が半年足らず前に出した報告書のトーンは今回とは全く異なる。前回はコロナ禍が収まり(デルタ株はまだ広がっていなかった)、中国経済は急回復しつつあるように見えたため楽観的なムードが支配的だった。だが今はどうか。EU商工会議所のイエルク・ブトケ会頭に悲観的な気分を1から10までで表すとどのくらいかと聞くと「8くらいだ」との答えが返ってきた。 こうした悲観論の根底には複雑に絡み合ったさまざまな事情があるが、中国のエネルギー危機もその1つだ。中国東北部の3省は「予想外で前例のない」大停電に見舞われ、電力使用の割当制を導入したと、環球時報は報じた。工場が操業停止に追い込まれたり、妊婦が高層マンションの20階まで歩いて上がる羽目になったりと、このところ停電の話題が中国メディアをにぎわせている。 電力不足の原因の1つは、中国経済、特に電力を大量に消費する建設・製造業がコロナ後の急回復を遂げている点にある。建設ブームの余波で、21年第1四半期に中国の二酸化炭素(CO2)排出量はこの10年間で最大級の増加率を記録したと中国の研究所は報告している』、「自給自足の方針が強化されるなか、ますます多くの欧州企業が技術の現地化とサプライチェーンの国内完結か、市場からの退場かの選択を迫られている」、「中国東北部の3省は「予想外で前例のない」大停電に見舞われ、電力使用の割当制を導入」、これでは。「市場からの退場」を選択するEU系企業も増えるだろう。
・『炭素排出ゼロを目指す中国政府  一方で、習は炭素排出量を30年までに減少に転じさせ、60年には実質的な排出ゼロを達成すると宣言。中国政府は主要地域の自治体に年末までGDP単位当たりの電力消費量を監視するよう命じた。 「グリーン化」に成功すれば、習の大きな功績となる。そのため地方の党官僚は習に忖度して過剰なまでに排出量減らしに努めているようだ。それでもピークアウト目標の30年までには炭素排出量が「制御不能なほど急増する」時期が多くあるだろうと、EU商工会議所はみている。 同会議所の加盟企業には、自国の法律などで排出削減を義務付けられた企業が少なくない。その場合、どこから電力を調達するかが問題になる。「中国で排出ゼロを達成できなければ、本国などで法令遵守義務を果たせなくなり、中国からの撤退を余儀なくされる場合もあり得る」と、報告書は指摘している。 今はまだ中国からの外国企業の大脱出は起きていないが、コロナ下での強権的な規制に嫌気が差したり、以前ほど歓迎されていないと感じて中国を去った外国人は少なくない。 外国人の流出が最も顕著なのは大都市だ。外国のパスポートを所持する上海在住者(16万3954人)と北京在住者(6万2812人)は、1年前に比べて28%超も減った。中国の税制が変わり、家賃や学費の税控除が受けられなくなったため、年末までにはさらに多くの外国人が中国から出て行くとみられる。 中国の大都市で働く外国人の減少は看過できない問題だとEU商工会議所の報告書は指摘している。「先進国出身のグローバルな人材の流出が止まらなければ、イノベーションに支障を来す」恐れがあるからだ。 「中国では多様な人材がイノベーションを支えてきた」と、ブトケは言う。「だが今では外国人の居住率は世界の最低レベルだ。ルクセンブルクのような小国でも外国人人口は上海と北京を合わせたよりも多い」) 一方で、中国経済は今年に入ってコロナ後の力強い回復基調を見せたものの、今は足踏み状態に陥っている。国内消費が期待されたほど伸びていないのは、家計所得、特に低賃金の出稼ぎ労働者の所得が伸び悩んでいるためだろう』、「外国のパスポートを所持する上海在住者・・・と北京在住者・・・は、1年前に比べて28%超も減った」、「「先進国出身のグローバルな人材の流出が止まらなければ、イノベーションに支障を来す」恐れがある」、その通りだ。
・『「ほとんど階級闘争」の言説  上海在住の日本企業の幹部は、問題の根源には極端に大きい貧富の格差があると話す。「上海では配達員が10元(約170円)で昼食を済ます横で、ビジネスマンが500元を惜しみなくはたいて豪勢な食事をしている。これは危険な状況だ」 この幹部が指摘するように、中国では所得格差の指標であるジニ係数がアジア諸国の平均の0.34よりはるかに高く、アメリカの0.41よりもさらに高い0.47前後で、「極めて不平等な状態」だ(1.0が最も不平等な状態)。 彼が恐れる最悪のシナリオは、経済が不安定になるかバブルがはじけて低所得層の不満が爆発することだ。当局は民衆の怒りをそらすため外国人を格好の標的に仕立てるだろう。 既に持てる者と持たざる者の対立をあおるような政治的レトリックが飛び交っている。最近ブルームバーグ主催のフォーラムで、PR会社アプコの中国法人会長、ジム・マクレガーは左派ブロガーの李の主張を問題にした。 李は、最近の中国政府の規制強化の動きを文化大革命を彷彿させる「社会主義の本質への回帰」だと賛美したのだ。「富豪は階級の敵だと言わんばかりの……ほとんど階級闘争のような」言説だと、マクレガーは危惧する。 もっとも、今の状況を毛沢東時代の文革に例えれば、重要な違いを見逃すことになる。「毛は(集団的な指導)体制を壊して権力を一手に握るため、混乱を引き起こそうとした」と、調査会社ガベカル・ドラゴノミクスの共同創業者アーサー・クローバーは言う。それに対し「習は儒教的な国家の復興を目指している」というのだ。 文革のトラウマゆえ、中国の人々は混乱よりは極端な儒教的統治のほうがましだと思っているのかもしれない。どちらも、中国の持続的な成長を支える創造性とイノベーションを育むには役立ちそうにないが』、「中国では所得格差の指標であるジニ係数がアジア諸国の平均の0.34よりはるかに高く、アメリカの0.41よりもさらに高い0.47前後で、「極めて不平等な状態」だ」、「アメリカ」より「格差」が大きいとは危険な兆候だ。

次に、昨年10月24日付けNewsweek日本版が掲載したノンフィクション作家の譚璐美(たん・ろみ)氏による「世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由」を紹介しよう。見逃していたため、遅れたことをお詫びする。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/10/post-94797_1.php
・『<世界最大のダムが「決壊する!」と注目を浴びたが、今も決壊しないまま。そこで専門家に話を聞き、堤体の構造や今夏の洪水時に何が行われたかを検証した。三峡ダムは本当に大丈夫なのか。なぜ決壊しないのか> (本記事は2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集収録の記事の前編です) 中国では今年6月半ばの梅雨入り以来、62日間にわたって大雨と集中豪雨が続き、190以上の河川が氾濫し、四川省から江蘇省まで至る所で洪水が発生した。6300万人以上が被災し、5万棟以上の家屋が倒壊する被害が出た。 ネット上では、長江沿川の町や村が冠水する様子や、世界最大の三峡ダムの放流状況が刻一刻と伝えられ、今しもダムが決壊するのではと不安視する声があふれた。 YouTubeには「三峡ダムの決壊シミュレーション」まで登場し、もし決壊すれば、約30億立方メートルの濁流が下流を襲い、武漢、南京が水没し、上海付近の原子力発電所や軍事基地まで甚大な被害を受けるだろうと危機感をあおった。4億人が被災するとの試算もあった。 幸いにも三峡ダムは決壊しなかったが、たまたま決壊を免れただけで、いつかまた危機が訪れるのか。それともダムの構造は強固で、決壊は杞憂にすぎないのか。豪雨の季節が過ぎた9月上旬になっても、長江上流域ではまだ洪水が続いていた。 三峡ダムは70万キロワットの発電機32基を備え、総発電量は2250万キロワット。放流量を調節して下流の洪水被害を防ぐ機能も持つ、世界最大の多目的ダムだ。堤体(ダムの本体)の重さで水の力を支える構造の重力式コンクリートダムで、2009年に長江中流域の湖北省宜昌市に近い三峡地区に建設された。 いま振り返れば、三峡ダムの決壊説に沸いていたのは主として欧米や台湾の中国系メディアと日本メディア(私も記事を書いた)だけで、コメントしているのもごく限られた人物ばかりだった。あるいは科学的考察が不十分だったのではないか。日本や欧米の水利専門家はこの状況をどう捉えていたのだろうか。 そんな疑問に駆られ、改めて信頼できる専門家に話を聞き、中国ダム事情と三峡ダムについて検証した。 京都大学防災研究所水資源環境研究センターの角哲也教授は、日本の河川、特にダム工学研究の第一人者で、黄河の環境問題を扱った『生命体「黄河」の再生』の編著者の1人として中国の事情にも明るい。 角教授は「決壊説」を一蹴する。その説明に入る前に、やや遠回りになるが黄河の話から始めよう』、「ダム工学研究の第一人者で・・・中国の事情にも明るい」、とは信頼できそうだ。
・『ビルと違って半永久的に堅牢  黄河は長江に次ぐ中国第2の河川で、水源の青海省からチベット高原、黄土高原を横切り、西安や洛陽を経て、渤海湾へ注ぐ。 その中流域にあるのが三門峡ダムだ。1960年代に中国が社会主義の兄貴と慕うソ連(当時)の設計で建設されたダムだったが、竣工直後から貯水池(ダム湖)に黄砂がたまり、20年で約40%が埋まった。 私の記憶では、1980年代に「黄河は死んだ」と聞かされた。水量が減り、生活用水や工業用水を垂れ流した揚げ句、毒々しい赤色や紫色の溜水ができて大量の魚が死滅したからだ。 「黄河の最大の特徴は、シルトと呼ばれる細かい粒子の土砂が黄土高原から運ばれて高密度で河川に含まれていること。上流域の開発が断流と呼ばれる流れの変化をもたらし、下流に(流れ切れない)土砂が堆積して河床が上昇し、洪水を多発させました」と、角教授は口火を切った。 そこで三門峡ダムに土砂を通過させる改修工事が行われ、その後、下流に水と土砂の調節を目的として小浪底ダムが建設された。 日本ではダムに堆積する土砂を排出する方法を「通砂」「排砂」と呼ぶが、中国では「調水調砂」と呼び、下流の河床の調整と「通砂」を同時に行う考え方をするという。 「小浪底ダムは三門峡ダムと連携して調水調砂を行い、また密度流(ダム湖の底をはう高濃度の土砂の流れ。これを利用して通砂が行われる)の効果を高めるために、世界初の『人工密度流』という排砂方法も実施されました」 「人工密度流」とは、上流ダム群の放流に合わせて、下流ダムの貯水池内に堆積した土砂を高圧水ジェットで攪拌し、より高密度の流れを人工的につくり出してダムの底部にある排砂管から下流へ排出することだ。黄河は特にシルトが圧倒的に多く、その特徴を生かした方法と言える。 ここから分かるのは、中国の河川管理・洪水管理の技術が決して劣っているわけではないということだ。では、実際のところ、長江の三峡ダムはどうだったのか。 長江は中国最長の河川で全長約6300キロ。チベット高原を水源とし、四川盆地から東へ流れて、河口部の上海で東シナ海へ注ぐ。 上流域の成都や重慶、中流域の武漢は中国屈指の工業都市で、中下流域の安徽省、江蘇省は全中国の農産物の約40%を占める穀倉地帯だ。下流域の南京から上海までは商業都市がひしめき、長江はこれら19の省・市・自治区を結ぶ水運の大動脈である。 噂されている三峡ダム決壊説について質問すると、角教授は「コンクリートダムは決壊しません!」と、明快に言い切った。 コンクリートは砂と砂利と水とセメントを混ぜた自然素材で、アルカリ性である。空気に触れると中性に変化し、劣化する。例えばビルを建てた場合、コンクリートの中には鉄筋を入れるので、鉄筋が腐食するとコンクリートも劣化してもろくなるし外気に触れる部分は風化する。 一方、ダムには鉄筋がほとんど入っていないので、堤体の水につかっていない下流側の表面など劣化する部分はあっても、水につかった部分や堤体内部はアルカリ性のまま変化せず、半永久的に堅牢だと言ってもよい。 「コンクリートダムの決壊というのは、基礎岩盤が脆弱だったり、地震や水圧で河床部が変形したり、岩盤との接合部分がズレたりすることで起こります」) では、三峡ダムの岩盤は安全なのか。調べてみると、三峡ダムは先カンブリア紀の花崗岩中に造られたとされており、どうやら良好だ。先カンブリア紀は地質時代の年代区分の1つで約5億4100万年前(諸説ある)までのおよそ40億年間を指し、花崗岩は御影石とも呼ばれて堅牢な性質を持っている。 2019年にグーグルアースの航空写真で、「三峡ダムが歪(ゆが)んでいる」という噂が広まったこともある。あれは本当なのだろうか。 「笑い話でしょう」と、角教授はにべもない。「でも、ダムは本来、動くようにできています」 コンクリートは温度により膨張・収縮するため、堤体は建設時の温度対策として、15メートル幅のブロックをジョイントでつなぎ合わせて造られる。ジョイントにはゴム製の止水板を設けてある。その後も、水圧や気温の変化などの影響で、ダムは年間数ミリ単位で常に上下流方向に動いている。 ただし、これは「動いている」と体感できるほどのものではない。 既に多くの専門家が指摘しているが、グーグルアースの写真は航空カメラで撮影され、レンズの中心に光束が集まる中心投影になるため、レンズの中心から対象物までの距離の違いによって対象物の像にズレが生じる。 三峡ダムの「歪み」はこのズレだったようだ。現在は正しく修正されている』、「コンクリートダムは決壊しません!」、一安心だ。「ダムには鉄筋がほとんど入っていないので、堤体の水につかっていない下流側の表面など劣化する部分はあっても、水につかった部分や堤体内部はアルカリ性のまま変化せず、半永久的に堅牢」、初めて知った。
・『放流量を操作し洪水をならす  それよりもっと気になっていたことがある。中国中央電視台(CCTV)によると、8月17日、「第5号洪水」(洪水に番号が付けられていた)の発生が発表された後、三峡ダムの流入量は過去最大の毎秒7万5000立方メートルに達し、11門全ての放水ゲートから過去最大となる毎秒4万8000立方メートルを放流した。 それでも追い付かず、水位は夏期の実績最高の167メートルを記録。堤頂の標高は185メートルだから、間もなく越水するのではないかとの声が高まった。実態はどうだったのだろうか。 「いいえ、越水はしません。(定められた)最高水位の175メートルになれば、ゲートを全て開けて、洪水を通過させればよいのです。このグラフを見てください」と、差し出されたのは、中国側の公式記録を基に角教授の研究室で作成した、5月12日から9月12日までの日別の記録だった(下図参照)。 角教授は次のように分析した。 前提として、ダムの役割には(1)洪水調節、(2)水資源の確保、(3)発電、(4)河川の環境保全の4つがある。これらを担うのが管理者(この場合は長江水利委員会)の役目だ。 洪水調節において管理者は、平時から気象情報をチェックして今後の予測雨量や台風情報を収集し、気象の変化に合わせて、流入量に応じた放流量を調節する。ここで重要なのはダムの貯水容量である。) 先日、角教授らの属するダム工学会が公開した動画によれば、洪水時のダムの操作には3段階あり、第1段階の平常時(下流へ必要な水量だけ放流する)、第2段階の大雨時(あらかじめ確保したダムの洪水調節容量を用いて、流入量に応じて放流量を調節する)、第3段階の異常豪雨時(緊急放流とも呼ばれ、ダムの容量では処理し切れない際、上部のゲートを開けて洪水をそのまま通過させる)に分けられる。 三峡ダムのデータを見ると、平常時から大雨時、異常豪雨時へと段階を踏んで、操作方法を変化させていった様子がはっきり見て取れる。 まず6月上旬に、大雨が予想される梅雨期に備えて、あらかじめ貯水池の貯水量を減らす事前放流を行った。7月中旬に長江中下流で洪水が発生したことから、ダムでは洪水をため込んで増水を防いだ。 特に7月18日のピーク時には毎秒6万立方メートルの流入量を毎秒3万5000立方メートルまで減らす放流を行った。この際に水位は一時164メートルまで高まったが、その後流入量が低下した際に、再度事前放流を行って容量回復を行ったことにより、7月27日の次の洪水ピーク時にも放流量を低減させた。 それでも豪雨はやまず、最後のピークは8月19日に訪れた。ダム流入量で毎秒7万立方メートルを超えて記録的に増加し、11門の放水ゲートを全て開放して放流を行った。ただしその間も、流入量から毎秒2万立方メートルを差し引いた程度の放流を保ち続け、これにより貯水位は165メートルを超えたが、その後流入量が減少した。 「洪水ピーク時の複数回の事前放流がなければ、水位はもっと上昇していた危険性もあった。長江水利委員会は下流の洪水と上流の洪水を見ながら放流量を巧みに操作し、洪水をならしながら無事に通過させました」と、角教授は太鼓判を押した。 ※後編:「決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性」に続く』、「長江水利委員会は下流の洪水と上流の洪水を見ながら放流量を巧みに操作し、洪水をならしながら無事に通過させました」、日本のお粗末なダムの「放流量」調節より遥かに上手そうだ。 

第三に、この続きを、昨年10月24日付けNewsweek日本版が掲載したノンフィクション作家の譚璐美(たん・ろみ)氏による「決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/10/post-94801_1.php
・『<「決壊説」が繰り返されてきたが、専門家によれば、中国の河川管理・洪水管理の技術は決して劣ってはいない。だが、問題は他にある。汚職と環境破壊、三峡ダムの相反する「致命的な欠陥」も明らかになった> (本記事は2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集収録の記事の後編です)※前編:「世界が騒いだ中国・三峡ダムが『決壊し得ない』理由」から続く』、相反する「致命的な欠陥」とは何なのだろう。
・『黄河と異なる「河床低下」問題  なるほど。三峡ダムは当面は決壊しそうにない。だが問題がないわけではない。 例えば、三峡ダムの周辺では地質のもろさが問題になっている。2005年の土木学会「第34回岩盤力学に関するシンポジウム講演論文集」には、三峡ダム周辺の地区は「砂岩、泥岩、砂泥互層、頁岩(石灰を含む)、ジュラ紀と三畳紀上統の地層が分布し......長江周辺の90%以上の地滑りは、ジュラ紀と三畳紀の地層に発生している」とする論文がある。 そして貯水池周辺で計283カ所の地滑りと斜面崩壊が起きていることが報告されている。岩盤は安全でも、周辺の地質が緩ければ、貯水池に土砂が流入するなど影響が及びそうだ。 また、角教授の話では、黄河の三門峡ダムなどでの経験を生かし、長江でも土砂管理に取り組んでいるものの、黄河とは違った堆砂(堆積する土砂)の問題があるという。 長江は土砂の粒径が粗く、ダム湖にとどまりやすいために、ダムからの放流水は土砂が少ない清水となります。黄河では調水調砂でダム下流の『河床上昇』がうまくコントロールされたが、長江ではむしろ土砂が不足するために『河床低下』、さらに河口部まで土砂が供給されずに『海岸浸食』が起きている。河床が低下することで、長江に接続する湖との水の交換が変化したり、上海の海岸線が年々減退したりしているのです」と、角先生は眉をひそめた。 これは重大な指摘だ。土砂の供給量が減少すると、河口デルタが縮小するだけでなく、川が運ぶ栄養豊富な土壌がもたらす河口や沿岸域の干潟が劣化し、さらには河床低下が海からの塩水遡上(そじょう)をもたらし、塩分濃度が高まって魚類が死滅したり、農作物が塩害を受けたりするなど、甚大な悪影響を及ぼすことになる。 これはメコン川などでも大きな課題となってきており、広域的な課題解決のための連携が必要だ。 一方、上智大学大学院地球環境学研究科の黄光偉教授は、三峡ダムの問題点について「重慶市にもっと着目すべき」と指摘する。 「重慶は人口3000万人の工業都市です。世界でどこのダムの上流にこんな重要都市がありますか? 中国だけです。その重慶で堆砂による河床上昇が起こり、洪水が頻発しているのです」 浮遊砂と掃流砂という、大粒で重い堆砂が貯水池に大量にたまるのは大きな問題だ。しかも、三峡ダムの上流には狭い峡谷が連なり、地質がもろく、崖崩れや地滑りが頻発して岩石や土砂が長江に流れ込む。 その結果、全長660キロにも及ぶ、ダム湖からバックウォーター(背水池)に掃流砂が大量にたまる。 重慶はそのバックウォーターの先端にある。堆砂がたまって河床が上がった重慶では、水位が上がり、水害が頻繁に起きているのだ。これは見過ごせない一大事である。 2020年現在、バックウォーターの堆砂は16億トンに上るという推量もあり、2030年には40億トンまで増えて、どうにも対処できなくなる。「そうなる前に三峡ダムを破壊すべきだ」と、一部の三峡ダム批判派が主張するゆえんでもある』、「長江は土砂の粒径が粗く、ダム湖にとどまりやすいために、ダムからの放流水は土砂が少ない清水となります。黄河では調水調砂でダム下流の『河床上昇』がうまくコントロールされたが、長江ではむしろ土砂が不足するために『河床低下』、さらに河口部まで土砂が供給されずに『海岸浸食』が起きている」、「長江」と「黄河」でずいぶん異なるようだ。「重慶はそのバックウォーターの先端にある。堆砂がたまって河床が上がった重慶では、水位が上がり、水害が頻繁に起きているのだ・・・2020年現在、バックウォーターの堆砂は16億トンに上るという推量もあり、2030年には40億トンまで増えて、どうにも対処できなくなる。「そうなる前に三峡ダムを破壊すべきだ」と、一部の三峡ダム批判派が主張するゆえんでもある」、大変だ。
・『建設への意見書は発禁処分に  ところで、日本のダムは「異常洪水時」の緊急放流に際して、事前警報でサイレンを鳴らし、沿川の自治体に事前通告して、住民が避難する時間をつくることが鉄則だという。では、中国はどうだったか。 中国のSNS上には、「ダムが警報なしに放流した」「堤防をブルドーザーで破壊したが、住民に予告しなかった」「深夜に急に浸水し、着の身着のまま逃げ出した」などという不満が相次いだ。 被災者は避難する十分な時間も与えられずに、家も田畑も財産も失って逃げ出したことが推察できる。これは行政の怠慢で、政治の問題ではないのか。 三峡ダムは1912年、孫文が国家建設のために「鉱山開発」「鉄道網の普及」「三峡ダムによる発電」を構想したことに始まるが、日中戦争で計画倒れに終わった。 1949年に中華人民共和国が誕生した後も、長引く政治運動で手を付けられず、文化大革命が終息した後の80年代にようやく現実味を帯びてきた。だが、発展途上の中国ではまだ「時期尚早」との声が高かった。 1989年1月、光明日報の記者の戴晴(タイ・チン)が編纂した『長江 長江』が出版された。三峡ダム建設計画について水利専門家や有識者、政治家に取材して編纂した意見書だ。「資金不足」「技術力不足」「生態系の破壊」「大量の移住者が出る」などの理由で、慎重論がほとんどだった。 その中で、戦前、米イリノイ大学で工学博士号を取得した著名な水利学者で、清華大学の黄万里(ホアン・ワンリー)教授は、堆砂の深刻さを問題視した。 「長江の三峡地区は堆積性河段(土砂が沈殿・堆積する河床部分)で、このような場所にダムを造ってはいけない。宜昌市の砂礫の年間流動量を推算すると、およそ1億トンに上る。上流域にも土砂が堆積し、ダム完成後10年以内に重慶港が土砂で塞がれる事態が発生する恐れがある」 同書をきっかけに、三峡ダムプロジェクト論争が熱を帯びた。李鵬(リー・ポン)首相を中心とする中国政府が強引に計画を推し進めるなか、同年6月4日、天安門事件が起きた。政府は民主化運動を武力で弾圧し、戴晴は「騒乱と暴乱の世論作りのために準備した」との罪で逮捕・拘禁され、今に至るまで中国では意思発表の場はない。 『長江 長江』も出版を禁止され、焼却処分になった。同書で取材を受けた有識者らも共産党から除名、降格、失業、亡命を余儀なくされた』、「「ダムが警報なしに放流した」「堤防をブルドーザーで破壊したが、住民に予告しなかった」・・・被災者は避難する十分な時間も与えられずに、家も田畑も財産も失って逃げ出したことが推察できる」、こんな荒っぽい行政を続けることは出来ない筈だ。「李鵬・・・首相を中心とする中国政府が強引に計画を推し進めるなか、同年6月4日、天安門事件が起きた。政府は民主化運動を武力で弾圧し、戴晴は「騒乱と暴乱の世論作りのために準備した」との罪で逮捕・拘禁され・・・『長江 長江』も出版を禁止され、焼却処分に」、「天安門事件」をはさんでいたとは初めて知った。
・『日本企業が知った「環境無視」  そして1992年4月、徹底した言論統制の下、全国人民代表大会で「三峡プロジェクト建設決議」が、強行採択された。 1994年12月、着工式が盛大に挙行された。当初予算の総工費約2000億元(約232億ドル)は、1年で2500億元に増え、インフレでさらに膨らみつつあった。大幅な不足資金は外資に頼り、建設技術と重要機材も外国製を購入、技術移転も強要するという「おんぶにだっこ」のスタイルだった。 国際入札が始まると、世界中の企業の注目が集まった。最初は870件で合計38億ドルの発注だった。ゼネラル・エレクトリック(GE)のカナダ子会社や米キャタピラー、ドイツのデマーグ、クルップなどが受注した。 1995年の建設機械、1997年の水力発電機の国際入札でも日本企業は敗退した。 1999年5月、総額2億ドルの水力発電所変電変圧施設の国際入札。満を持して応札した日本の三菱電機・住友商事連合は、計17グループがひしめくなかで最も技術的に優れ、最低価格で応札した。 ところが、中国は9月、日本より数千万ドル高いドイツのシーメンスとスイスのABBの連合が落札したと発表した。 衝撃を受けた日本は、各種ルートをたどって理由を問いただし、11月末、日中投資促進機構の訪中団が北京を訪れた際、個別に会談した中国の呉儀(ウー・イー)国務委員と対外貿易省の常暁村(チャン・シアオツン)機電局長から、こう告げられた。 「日本企業連合を排したのは、融資条件の中に環境保護規定の遵守が入っていたからだ」 この前年、アメリカは国内の環境保護機運の高まりを背景に、国際入札からの撤退を表明していた。それに動揺した日本は、入札前日に急きょ「環境保護規定」を盛り込んだのだ。 中国はその規定が邪魔だと判断して日本を退けた。当初から環境保護などまるで無視していたのである。 中国政府はダム建設予定地に住む120万人以上を強制移転させたが、2000年1月、移転費用の1割に当たる4億7300万元(5700万ドル)を地元政府や移転企業が不正流用した事実が発覚した。 だがこれは氷山の一角にすぎなかった。李鵬以下、中央から地方へ建設予算が振り分けられるたびに、各レベルの役人が着服し、果ては現場で工事を請け負う建設会社もコンクリートの品質をごまかしていた疑いが持たれたのだ。李の息子と娘は、長江三峡集団傘下の長江電力グループの企業トップに就任し、「電力ファミリー」の異名をとどろかせた。 2009年、三峡ダムが完成すると、竣工式はわずか8分で終了した。汚職の責任を押し付けられたくない政府高官がみな出席しなかったからだ。その様子を見て、地元の人々は「豆腐渣(トウフーチャー、おから)」ダムだと揶揄した』、「総額2億ドルの水力発電所変電変圧施設の国際入札。満を持して応札した日本の三菱電機・住友商事連合は、計17グループがひしめくなかで最も技術的に優れ、最低価格で応札した。 ところが、中国は9月、日本より数千万ドル高いドイツのシーメンスとスイスのABBの連合が落札」、「アメリカは国内の環境保護機運の高まりを背景に、国際入札からの撤退を表明していた。それに動揺した日本は、入札前日に急きょ「環境保護規定」を盛り込んだのだ。 中国はその規定が邪魔だと判断して日本を退けた」、「日本」の対米追随の足元を見られたようだ。
・『相反する課題をどう解決する  環境破壊と汚職にまみれた三峡ダムの「悲劇」は、取りも直さず、今夏の豪雨による被災者の悲劇に通じている。 今年7月下旬、香港メディアが豪雨の甚大な被害を報じる一方、管制メディアの新華社ネットは洪水を擬人化し、ちゃかしてみせた。人民網は、湖南省で水没した名所、鳳凰古城の惨状を「まるで桃源郷にいるようだ」と美化した。 無論、SNSには人々の怒りの声があふれ返ったが、それらは瞬時に中国政府によって削除された。戦前、魯迅が慈しんだ「声なき民の声」は今も昔と同じように記録に残ることはない。 現在、中国では長江上流の金沙江に巨大なダムを次々に建設している。最先端技術を誇る烏東徳ダムは一部稼働を始めた。渓洛渡ダムは発電量1万3860メガワットで世界第3位だ。これに向家覇ダムと白鶴灘ダムを加えたダム4基の発電量は、三峡ダムの発電量の2倍になる。 こうしたスーパーダム群が、三峡ダムの堆砂を少しでも減少させるために役立つのか。あるいは、中国のはるか奥地まで堆砂問題を拡大させようとしているのだろうか。 「これらのダムには、三峡ダムの堆砂を軽減する目的もありました」と、前出の黄光偉教授は言う。 「しかしダムをいくつ造っても、堆砂や洪水、水質汚染、水問題などをバラバラに研究していては問題解決にならない。問題を1つ解決しても、さらに出てくる問題のほうが多いのが現状です。研究者は『学融合』して協力し合い、統合的なアプローチをすることが大事。私自身は、今後は生態系の復元が最も大切なポイントだと考えています」 三峡ダムは、今後も決壊するかどうかに関心が集まるだろう。だが真の問題は、上流の河床上昇と下流の河床低下という、相反する課題をどう解決するかだ。海岸浸食と生態系の破壊という根深い問題も秘めていることが浮き彫りになった。 国民不在の政治体質はさらに根深い。容易ならざる事態はこれからも続く。 <2020年10月13日号「中国ダムは時限爆弾なのか」特集より>』、「ダム4基の発電量は、三峡ダムの発電量の2倍になる。 こうしたスーパーダム群が、三峡ダムの堆砂を少しでも減少させるために役立つのか。あるいは、中国のはるか奥地まで堆砂問題を拡大させようとしているのだろうか」、「真の問題は、上流の河床上昇と下流の河床低下という、相反する課題をどう解決するかだ。海岸浸食と生態系の破壊という根深い問題も秘めていることが浮き彫りになった。 国民不在の政治体質はさらに根深い。容易ならざる事態はこれからも続く」、習近平氏の強権政治のもとでは、問題解決は難しそうだ。
タグ:中国経済 (その13)(中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた 駐在員は歓迎されなくなった、三峡ダム2題:世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由、決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性) PRESIDENT ONLINE ニューズウィーク日本版 「ニューズウィーク日本版」現地取材:中国から外国企業が「大脱出」する予兆が見え始めた 駐在員は歓迎されなくなった 『レッド・ルーレット——現代中国の富・権力・腐敗・報復についてのインサイダー物語』 「「中国での潜在的ビジネスパートナーが4年間も行方不明になりかねない」現実を認識しつつある」、のであれば、商売上がったりだ。 「(これでは政府の)市場介入がますます増え……中国を共同貧困へと導くだけだ」と批判」、その通りだ。 「自給自足の方針が強化されるなか、ますます多くの欧州企業が技術の現地化とサプライチェーンの国内完結か、市場からの退場かの選択を迫られている」、「中国東北部の3省は「予想外で前例のない」大停電に見舞われ、電力使用の割当制を導入」、これでは。「市場からの退場」を選択するEU系企業も増えるだろう。 「外国のパスポートを所持する上海在住者・・・と北京在住者・・・は、1年前に比べて28%超も減った」、「「先進国出身のグローバルな人材の流出が止まらなければ、イノベーションに支障を来す」恐れがある」、その通りだ。 「中国では所得格差の指標であるジニ係数がアジア諸国の平均の0.34よりはるかに高く、アメリカの0.41よりもさらに高い0.47前後で、「極めて不平等な状態」だ」、「アメリカ」より「格差」が大きいとは危険な兆候だ。 Newsweek日本版 譚璐美 「世界が騒いだ中国・三峡ダムが「決壊し得ない」理由」 「ダム工学研究の第一人者で・・・中国の事情にも明るい」、とは信頼できそうだ。 「コンクリートダムは決壊しません!」、一安心だ。「ダムには鉄筋がほとんど入っていないので、堤体の水につかっていない下流側の表面など劣化する部分はあっても、水につかった部分や堤体内部はアルカリ性のまま変化せず、半永久的に堅牢」、初めて知った。 「長江水利委員会は下流の洪水と上流の洪水を見ながら放流量を巧みに操作し、洪水をならしながら無事に通過させました」、日本のお粗末なダムの「放流量」調節より遥かに上手そうだ。 「決壊のほかにある、中国・三峡ダムの知られざる危険性」 相反する「致命的な欠陥」とは何なのだろう。 「長江は土砂の粒径が粗く、ダム湖にとどまりやすいために、ダムからの放流水は土砂が少ない清水となります。黄河では調水調砂でダム下流の『河床上昇』がうまくコントロールされたが、長江ではむしろ土砂が不足するために『河床低下』、さらに河口部まで土砂が供給されずに『海岸浸食』が起きている」、 「長江」と「黄河」でずいぶん異なるようだ。「重慶はそのバックウォーターの先端にある。堆砂がたまって河床が上がった重慶では、水位が上がり、水害が頻繁に起きているのだ・・・2020年現在、バックウォーターの堆砂は16億トンに上るという推量もあり、2030年には40億トンまで増えて、どうにも対処できなくなる。「そうなる前に三峡ダムを破壊すべきだ」と、一部の三峡ダム批判派が主張するゆえんでもある」、大変だ。 「「ダムが警報なしに放流した」「堤防をブルドーザーで破壊したが、住民に予告しなかった」・・・被災者は避難する十分な時間も与えられずに、家も田畑も財産も失って逃げ出したことが推察できる」、こんな荒っぽい行政を続けることは出来ない筈だ。 「李鵬・・・首相を中心とする中国政府が強引に計画を推し進めるなか、同年6月4日、天安門事件が起きた。政府は民主化運動を武力で弾圧し、戴晴は「騒乱と暴乱の世論作りのために準備した」との罪で逮捕・拘禁され・・・『長江 長江』も出版を禁止され、焼却処分に」、「天安門事件」をはさんでいたとは初めて知った。 「総額2億ドルの水力発電所変電変圧施設の国際入札。満を持して応札した日本の三菱電機・住友商事連合は、計17グループがひしめくなかで最も技術的に優れ、最低価格で応札した。 ところが、中国は9月、日本より数千万ドル高いドイツのシーメンスとスイスのABBの連合が落札」、「アメリカは国内の環境保護機運の高まりを背景に、国際入札からの撤退を表明していた。それに動揺した日本は、入札前日に急きょ「環境保護規定」を盛り込んだのだ。 中国はその規定が邪魔だと判断して日本を退けた」、「日本」の対米追随の足元を見られたようだ。 「ダム4基の発電量は、三峡ダムの発電量の2倍になる。 こうしたスーパーダム群が、三峡ダムの堆砂を少しでも減少させるために役立つのか。あるいは、中国のはるか奥地まで堆砂問題を拡大させようとしているのだろうか」、「真の問題は、上流の河床上昇と下流の河床低下という、相反する課題をどう解決するかだ。海岸浸食と生態系の破壊という根深い問題も秘めていることが浮き彫りになった。 国民不在の政治体質はさらに根深い。容易ならざる事態はこれからも続く」、習近平氏の強権政治のもとでは、問題解決は難しそうだ。
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中国経済(その7)(中国「AAA社債」デフォルト 不正容疑で当局介入 国有大手の永煤集団、財務諸表を違法に改竄か、アントはなぜ「上場延期」に追い込まれたのか?、危機を脱したのは本当?、コロナ禍「一人勝ち」の中国・習近平体制が 揺らぎかねない難問) [世界経済]

中国経済については、10月5日に取上げた。今日は、(その7)(中国「AAA社債」デフォルト 不正容疑で当局介入 国有大手の永煤集団、財務諸表を違法に改竄か、アントはなぜ「上場延期」に追い込まれたのか?、コロナ禍「一人勝ち」の中国・習近平体制が 揺らぎかねない難問)である。

先ずは、昨年12月9日付け東洋経済オンラインが財新 Biz&Techを転載した「中国「AAA社債」デフォルト、不正容疑で当局介入 国有大手の永煤集団、財務諸表を違法に改竄か」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/392417
・『国河南省の国有石炭大手、永城煤電控股集団(永煤集団)が発行した社債が、発行体として「AAA」の格付けを得ていたにもかかわらずデフォルトした事件が波紋を広げている。同社が財務の実態を隠すため不正行為に手を染めていた疑いが強まり、当局が調査に乗り出した(訳注:事件の経緯は『中国の石炭大手、格付け「AAA」の社債デフォルト』を参照)。 11月27日夜、中国証券監督管理委員会 (証監会)は永煤集団および監査法人の希格瑪会計事務所を証券法違反などの容疑で立件・調査すると発表した。中国国務院金融安定発展委員会の「不正は一切容赦しない」という方針に基づき、関係部門と協力して厳しく取り調べる。 当局介入の引き金となった額面10億元(約159億円)の超短期社債「20永煤SCP003」のデフォルトは、中国の債券市場に大きな衝撃を与えた。永煤集団は償還期限の11月10日に「元利の支払いができない」と唐突に発表。その直後から、中国各地の石炭関連企業や(資金繰りの悪化がささやかれている)地方の国有企業が社債発行のキャンセルを迫られたり、発行済み社債の取引価格が急落したりするなどの連鎖反応を引き起こした』、「格付け「AAA」の社債デフォルト」、とは確かに衝撃的だ。
・『債務踏み倒しや市場操縦の嫌疑も  市場関係者の疑心暗鬼を招いた最大の要因は、永煤集団がデフォルトの20日前にも中期社債を発行したばかりで、その目論見書で開示した財務諸表には十分な資金が計上されていたことだ。 財務諸表によれば、同社には2020年9月末時点で328億2100万元(約5205億円)の現金および現金等価物があった。また、格付け会社の中債資信評估は「永煤集団の石炭事業は月間10億元を超える営業キャッシュフローを生み出しており、短期的な流動性は良好」との評価を付与していた。これらが事実なら、10億元程度の支払いは何ら問題ないはずだったのだ。 永煤集団の不正疑惑をめぐっては、証監会の介入に先立ち、銀行間債券市場の自主規制機関である中国銀行間市場交易商協会が自主調査を進めてきた。 関係者に対する財新記者の取材によれば、永煤集団には債務の踏み倒し、自社の社債を担保にした銀行借入、詐欺、市場操縦、不適切なデューデリジェンス(投資のリスクやリターンの適正評価手続き)、財務諸表の改竄、虚偽の格付け、ウソの情報開示など、多数の違法行為の嫌疑がかかっているという』、「デフォルトの20日前にも中期社債を発行したばかりで、その目論見書で開示した財務諸表には十分な資金が計上されていた」、というのでは、不正は「永煤集団」だけでなく、「格付け会社の中債資信評估」にも広がる可能性がありそうだ。

次に、12月9日付け日経ビジネスオンラインが掲載した中国の対外経済貿易大学教授の西村 友作氏による「アントはなぜ「上場延期」に追い込まれたのか?」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00109/00026/?P=1
・『アリババグループ傘下の金融テクノロジー企業「アント・グループ(螞蟻集団)」が計画していた上海と香港での新規株式公開(IPO)が延期された。 「決済」というアリババ経済圏の中核を担うアントの上場は注目度も極めて高く、個人投資家も殺到し、調達額も史上最大になると期待されていた。上場2日前の延期発表は市場に大きな衝撃を与えた。 突然の延期の理由は何だったのだろうか。 上海証券取引所の発表によると、同社の幹部が関連規制当局から聴取を受け、金融テクノロジー規制環境の変化を含む重要事項が報告されており、公募・上場の条件や情報開示の要件を満たさなくなる可能性があるためだという。 聴取を受けた幹部には、アントの議決権の5割強を握るアリババ創業者のジャック・マー(馬雲)氏も含まれており、10月下旬の講演会での彼の発言が問題視されている』、私も「上場2日前の延期発表」には驚かされ、中国の未熟さを再認識させられた。
・『ジャック・マー氏は何を語ったのか?  問題の講演は10月24日に上海市で開催された「第2回外灘金融サミット」の開幕式。王岐山・国家副主席がオンラインで祝辞を寄せ、周小川・中国人民銀行前行長(総裁)が基調講演を行うなど、中国の金融関係者が一堂に会する場だった。 そのような場でジャック・マー氏が展開したのは、金融業界に対する痛烈な批判だった。 マー氏は、「中国の金融は未熟」で「銀行は考えが古い」だから「イノベーションが必要」だと説いた。その上で、中国は「管理能力は強いが、監督能力が欠乏している」「昨日の方法では未来は管理できない」とし、古い規制で新しい取り組みを縛るとイノベーションは生まれないという考えを示した。 私が注目したのが、「バーゼル合意は老人クラブのようなものだ」と、多くの国で導入され、中国でも採用されている銀行規制を批判した点だ。バーゼル合意は、ヨーロッパでは金融デジタル化といったイノベーションの足かせとなっており、中国には合わないとも述べている。 中国ではフィンテック企業に対する規制強化の声が高まってきているが、上場を控えたアントに対しては規制で縛らずに自由にやらせるべきだ、と言いたかったのだろう。 金融とテクノロジーを融合したフィンテック企業は比較的新しい概念であり、新しいサービスも次々と開発され、事業の領域が複雑で曖昧だ。「フィン(金融)」企業と見るか、「テック(技術)」企業と見るかによって当然規制の在り方が変わってくる』、「マー氏」が「第2回外灘金融サミット」の開幕式で、「金融業界に対する痛烈な批判」を展開したとは、ずいぶん思い切った本音を語ったものだ。自分の名声に自信があったのだろうが、それは裏切られたようだ。
・『アントはフィン企業かテック企業か?  アリペイが代名詞のアントであるが、上場目論見書のセグメント情報を見ると、2020年上期(1~6月)の売り上げの63.4%を占めるのが「融資・投資・保険」事業だ。中でも、中小・零細事業者や個人向けの融資を行う部門が同39.4%と最も高い。 これを見る限り銀行業を営んでいるようにも見えるが、実際に融資を実施しているのは、アントではなく、提携先の金融機関だ。アントは、AIを駆使して自身が持つ膨大な顧客データの分析を行い、与信枠や金利などを算出、それを提携金融機関に提供して技術サービス料を得て稼いでいる。 つまり、アントは情報を提供しているにすぎず、実際の融資はほとんど行っていない。そのため、講演でマー氏も述べているように、アントは自らを「テクノロジー企業」と標榜している。 一方、実際に融資を行い、信用リスクを負うのは銀行だ。アントの情報が融資先の与信判断を左右するのは事実であり、それに対しアントがリスクを負わないというのは確かに不自然だろう。そして、金融規制を受けるのもアントではなく銀行というゆがみも生じる。そのため、金融当局はアントを「金融企業」と見なし、他の金融機関同様の規制強化が必要だと考えていた。 アントと当局の間でこのような綱引きが展開されていたと想像できるが、マー氏の講演直後に事態は急展開する。 国務院金融安定発展委員会は10月31日に会議を開催し、「フィンテックと金融イノベーションは急速に発展を遂げており、金融の発展、安定、安全のバランスを図る必要がある」とした上で、「イノベーションを奨励し、企業家精神を発揚させると同時に、監督管理を強化し、法に基づき金融活動を全面的に監督管理に組み込み、効果的にリスクを防止しなければならない」と表明した。つまり、フィンテック企業を「フィン」企業と位置づけ、金融規制の対象としたのである。 アントが上場を予定していたのは新興企業向け株式市場「科創板」。「科創」とは中国語で「科学技術・イノベーション」を指し、その名の通り、多くのテクノロジー企業が上場する。また、スタートアップ向けということで、上場基準も比較的緩やかだ。アントも「テクノロジー企業」として上場しようとしていたし、実際に、証券監督管理委員会からは認可も出ていた。 それが、土壇場で「金融企業」と見なされ、「公募・上場の条件や情報開示の要件を満たさなくなる可能性」(上海証券取引所)が出てきたため、急きょ上場延期となったと考えられる。 今後は金融企業としての条件を満たした上で、再度上場を目指すことになるだろう』、「テクノロジー企業」ではなく、「金融企業としての条件」とは厳しそうだ。
・『時間を要するアントの上場  上場で調達できる資金はアントの中長期的発展に欠かせない。フィンテックに対する規制強化が進む中、国内業務の多角化が必要であり、「ノウハウ輸出+戦略投資」モデルによる国際市場の開拓にも巨額の資金を要する。 ※上場した場合の調達資金の運用方法に関しては、「アリババ傘下アント、上場資金3.7兆円で『世界展開』へ」を参照。 アントは上場に向けすでに準備を始めている。中国メディアによると、新たに最高コンプライアンス責任者(CCO)の役職を設け、規制に対するコンプライアンス強化を図っているという。 しかし、上場の見通しは全く立っていない。中国証券監督管理委員会の方星海副主席は11月17日に開催されたフォーラムで、アント・グループの上場に関して、「政府がいかにフィンテック企業の監督管理の枠組みを再構築するかによるし、企業がいかにその環境に対応するかにもよる」と述べている。つまり、これから政府がフィンテック企業に対する規制を再構築するのを待ち、それに対するアントの対応が終わってようやくめどが立つ。 アントにとって悲願の上場は、長く険しい道となりそうだ』、「テクノロジー企業」ではなく、「金融企業としての条件」というのは、当然のことだ。

第三に、本年1月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元外務審議官で日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中 均氏による「コロナ禍「一人勝ち」の中国・習近平体制が、揺らぎかねない難問」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/260204
・『経済は回復軌道に乗ったが共産党統治と成長モデルの矛盾課題に  中国国家計画局が18日、発表した2020年の国内総生産(GDP)の実質成長率は前年比2.3%増で、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない主要国がマイナス成長の中で、いち早く経済回復軌道に戻りつつある。 他方で、中国経済を引っ張ってきたファーウェイやアリババなどの巨大IT関連企業は米国市場では中国当局とのつながりを疑われて排除の傾向が強まる一方で、中国国内では当局のより強い監視下に置かれようとしている。 グローバルな市場経済と結び付く中で高い成長を維持してきた中国の経済モデルは、「中国排除」の動きに対抗して国内の締め付けを強めようとする共産党独裁の政治体制との矛盾の中で重大な岐路にあるようだ。 共産党の統治がこれまで揺らぐことはなかったのは経済成長が維持されてきたことが大きいが、指導部は体制を守るために経済にブレーキをかけることになるのだろうか。場合によっては指導部内での路線闘争となり得る。 中国はどのような選択をしていくのか、世界に与える影響は大きい』、「中国の経済モデルは、「中国排除」の動きに対抗して国内の締め付けを強めようとする共産党独裁の政治体制との矛盾の中で重大な岐路にあるようだ」、その通りだろう。
・『公の場から姿を消したアリババ創業者 グローバルIT企業も監視下に  アジア最大のIT企業グループとなったアリババの創設者ジャック・マー氏がここ数カ月、公の場から姿を消している。 それに先立ち、昨年10月に上海で行われた金融サミットでは、ジャック・マー氏は中国には金融システムが存在せず市場の改革が急務であるとして中国の金融当局や国有銀行を激しく非難した。 その後、11月に香港・上海市場で予定されていたアリババ・グループの金融会社であるアント・フィナンシャルの調達額350億ドル(3兆6000億円)に上るといわれた史上最大規模のIPO(新規株式公開)が予定の2日前に突如、延期された。 これら一連の出来事から読み取れるのは、アリババに代表される巨大IT関連企業が中国の発展に大きく貢献していることは認識しつつも、共産党のコントロールが利かなくなることへの中国当局の強い警戒心だ。 昨年末の民主派議員の大量逮捕など、香港で起こっていることも同じような文脈で理解できる。 昨年6月に香港国家安全維持法(国安法)が導入されて以降、「香港の中国化」が急速に進んでいる。中国の思惑は今年9月に予定される立法会選挙までに民主派を事実上、排除することだろう。 国安法に基づき多数の民主派を逮捕拘束するのもその一環であり、中国政府を批判するメディアに対しても厳しいコントロールを行っている。 「一国二制度」に沿った香港の自治と自由な資本主義は形骸化した。中国にとって香港は、中継貿易や投資基地として、或いは人民元の国際化を図る上で大きなメリットをもたらしてきたが、国内でも上海や深センなどの金融拠点は育ちつつあり香港の重要性は下がった。 一方で香港の民主化運動が中国本土へ波及する可能性がある。中国の指導部はそのことを危惧し、経済的にはマイナスでも政治的には共産党のコントロール下に置くことが重要と考えたのだろう』、「アリババに代表される巨大IT関連企業が中国の発展に大きく貢献していることは認識しつつも、共産党のコントロールが利かなくなることへの中国当局の強い警戒心だ」、習近平指導部は規律強化にカジを切ったようだ。
・『「中国排除」に備え民営企業にも党の指導強化  米中対立も直接のきっかけは膨大な貿易不均衡を中心とした経済摩擦だったが、対立の本質は、貿易の量的バランスの問題から経済システムの問題にシフトした。 米国をはじめとする自由主義諸国から見れば、中国の共産党統治の下での「国家資本主義」は、補助金などによる国営企業優遇、さらには進出外国企業に対する技術移転の強要など、市場メカニズムを害する構造的問題となった。 それだけではなくファーウェイ排除にも見られるように、中国の情報通信機器を通じて情報が中国政府に筒抜けになってしまうことを危惧し、経済安全保障の観点からも中国排除の動きが進んできた。 こうした中で、中国はハイテク産業を中心に部品や素材も外国に依存しない国内生産体制の強化を掲げ、昨年秋の5中全会で決まった2021年からの「第14次5カ年計画」でも内需と外需の「双循環」を維持しつつも、内需への重点化が中心概念となっている』、かつて毛沢東時代に「自力更生路線」を採ったが、改革開放以降は、相互の結びつきの高まりから、もはや「自力更生」など出来る筈がない。
・『改革開放路線か、共産党の規律強化か 指導部で路線闘争再燃の可能性  中国は1970年代後半以降、鄧小平(とうしょうへい)氏によって唱えられた改革開放路線に従って外国資本・技術を取り入れ、安い労働力を駆使し「世界の工場」として輸出先導型経済成長を遂げ、世界2位の経済大国に上り詰めた。 韓国や香港、台湾、シンガポールといった欧米先進国に次いで経済成長を達成したアジア諸国・地域が、当初はいわゆる「開発独裁」といわれ、権力が政府・当局に集中する形で計画的に経済成長を達成したのと似ているが、中国の場合は共産党一党独裁の下での飛躍的な経済成長達成だった。 だが一方で、今の中国の成長はグローバリゼーションで圧倒的に深まった国際経済との相互依存関係を切り離して考えるわけにはいかない。 むしろ今の状況では、共産党の強い監督下で資本主義的発展を追求するのは限界に来ているのではないか。 グローバルな市場で民営企業が自由な経済活動を行うためには、共産党の締め付けは緩和していかざるを得ない。共産党の規律を強化し厳しい規制の下でしか経済活動も認められないのであれば、アリババのようなグローバル企業はなりたたない。 一方で他国からは、中国企業は中国当局との結び付きを疑われ、市場から排除されていく傾向がますます強くなるのだろう。 今後、中国の指導部内で路線の対立があるとすれば、最大の対立点はおそらくこの経済ガバナンスの問題なのだろう。 改革開放路線は基本的には民営大企業にグローバルな活動を認め、グローバルスタンダードに従った規制にとどめることを基本にする。これまで習近平体制では李克強首相らがこの路線の強力な推進者と考えられてきた。 しかし昨今の習近平路線は、民営企業でも共産党がより大きな指導力を発揮すべきという姿勢だ。 科学技術力強化の国家戦略、食料安全保障戦略など、米国への依存からの脱却を図り、内需を重視し、自由な経済活動に制約を設け、共産党体制を強化していくという方向性が明確に示されている。 この路線の下で「第14次5カ年計画」は進められていくのだろう』、「共産党の規律を強化し厳しい規制の下でしか経済活動も認められないのであれば、アリババのようなグローバル企業はなりたたない」、「他国からは、中国企業は中国当局との結び付きを疑われ、市場から排除されていく傾向がますます強くなるのだろう」、「習近平路線」は大きな試練に直面せざるを得ないだろう。
・『成長が失速すれば習体制の権力基盤揺らぐ  習近平体制が今後、安定を保つのかどうかのカギは、共産党の指導強化の下で経済発展が順調に続けられるのかどうかだ。 この点ではコロナ後の経済パフォーマンスが重要な意味を持つ。 世界銀行は中国の2021年の実質GDP成長率を前年比+7.9%と予測しているが、これはコロナ禍で成長率が落ち込んだ20年からの回復期なので、おのずと高い成長率になる面がある。 問題は2022年以降だろう。 22年以降も年率平均5%程度の成長を続けられれば、「ビジョン2035」に掲げられた1人当たりGDPを2035年までに中程度の先進国並みにするという中期目標や、中華人民共和国創立100周年の2049年までに「最も豊かな社会主義現代化強国」になることを掲げる「中国の夢」も達成可能だ。 しかし、いずれ米国の強い締め付けやハイテクを中心とした中国排除(デカップリング)の影響が出てくると予想される。加えて国内での金融・ITバブルの崩壊などで経済停滞の事態に陥る可能性は払拭できない。 もしそうなれば共産党の強い規律の下での資本主義的経済成長はやはり無理だということで、改革開放路線に基づき経済システムの再調整を余儀なくされるだろう。 このような状況になれば習近平国家主席(共産党総書記)の権力基盤は揺らぐだろうし、共産党統治の正統性に疑問符がつけられることになる。 2022年に共産党大会が予定されているが、過去2代の総書記の例に従えば、2期10年の任期を終える習近平総書記は引退することになるのだが、現状では中国ウオッチャーや専門家の多くは留任を予想している。 コロナ禍の経済回復が順調なことも背景にあるが、しかし経済に対するガバナンスが崩れていけば、シナリオ通りにいくのかどうかは予断を許さなくなる。 さらにより深刻な事態にもなり得る。共産党内で強硬路線が台頭し、権力闘争が激化することだ。 いまだ習近平総書記の後継候補が明らかになっていないこともあり、そうなれば中国は相当な混乱に陥るだろう』、「共産党内で強硬路線が台頭し、権力闘争が激化」、イヤなシナリオだ。
・『懸念されるのは台湾情勢 日本は開放路線支持を明確  習近平体制が揺らいだ時、最も懸念すべきは台湾情勢だ。 トランプ政権下の米国の台湾問題に対する姿勢は急速に変わってきており、閣僚や国務次官を含む政権幹部の訪台や武器売却が行われてきた。最近でもポンぺオ国務長官は、「一つの中国」に米国がコミットしているわけではなく、米国の台湾に対する自制はもはや存在しないと発言した。 バイデン政権がどのような軌道修正を行うのかを見守る必要があるが、香港問題もあって台湾の独立志向は一層、強まるだろう。 一方で中国にとって台湾統一は「核心的利益」とみなされ、平和的統一が無理であれば軍事的統一も辞さず、という強硬論が人民解放軍を中心に台頭する余地は大きく、中台間の軍事的衝突の可能性が出てくる。 これは何としてでも避けなければならない。 中国のガバナンスの唐突な崩壊は国際社会にとっても影響は大きい。隣国であり中国市場への依存度が大きい日本にとっても最も好ましいシナリオは、中国が改革開放路線を一層強化して企業の自由度、ひいては個人の自由度が拡大していくことだろう。 外から変化を促すには限界はあるにしても、中国内には改革を求める勢力も存在している。二国間の対話のほかにも、東アジアサミットやAPEC、さらには最近成立した「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」の枠組みを通じて改革開放路線の推進支持を明確にしていくことは重要だ』、「日本にとっても最も好ましいシナリオは、中国が改革開放路線を一層強化して企業の自由度、ひいては個人の自由度が拡大していくことだろう」、その通りだ。しかし、「中国内には改革を求める勢力も存在している。二国間の対話のほかにも、東アジアサミットやAPEC、さらには最近成立した「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」の枠組みを通じて改革開放路線の推進支持を明確にしていくことは重要だ」、正論ではあるが、残念ながら実効性は乏しそうだ。
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バブル(最近)(その1)(今は「リーマンショック物語」の続編が進行中だ バブルに乗る「悪質な確信犯」と犠牲者は誰か、2020年 意外なところからバブル崩壊は始まる ウォールストリートの一部も巻き込まれる?) [世界経済]

今日は、バブル(最近)(その1)(今は「リーマンショック物語」の続編が進行中だ バブルに乗る「悪質な確信犯」と犠牲者は誰か、2020年 意外なところからバブル崩壊は始まる ウォールストリートの一部も巻き込まれる?)を取上げよう。

先ずは、 経済評論家の山崎 元氏が10月19日付け東洋経済オンラインに掲載した「今は「リーマンショック物語」の続編が進行中だ バブルに乗る「悪質な確信犯」と犠牲者は誰か」のうち4頁目までを紹介しよう。
・『はじめに言っておくが、筆者は、現在進行中のバブルが近いうちに弾けるとは思っていない。全体の構造を考えると、「風船」は幸か不幸か、まだまだ膨らむ余地を残している。相場格言風に言うと「もうは、まだなり」がしばらく続く状況だろう』、一安心できる予言だ。
・『現在は「リーマンショック物語」続編の企画が進行中  だが、バブルの構造は見えて来た。 一般に言える教訓なのだが、「これがバブルだ!」と少し敏感な人が気付いた頃から、バブルが実際に弾けて、それがバブルであったことを証明するまでには、かなりの時間(典型的には2~3年)を要する。 じれったいと思ったり、イライラしたりする向きもあろうが、これが相場というものなので仕方がない。さて、前回の記事「ぐっちーさんは『リーマンショック』を予言した」で申し上げたが、今回のバブルのネタは株式や不動産といった古典的なリスク資産であるよりも、どうやら債券であるらしい。 どう見てもクレジットリスクが大きいのではないかと思われる企業の社債などがそこそこに人気を集めていて、こうした企業向けの貸し付けを多数集めて証券化した「CLO」(担保付ローン債務)が投資対象として販売されており、低金利で運用に困っている機関投資家がこれを大量に購入している。 この状況はリーマンショック以前の時期に、サブプライムローンを証券化した金融商品(CDO)を内外の金融機関が大量に保有していた状況によく似ている。言わば、「リーマンショック物語」の続編が企画されていて、目下着々と進行中なのだ。今のところ筋書きに工夫のない「2番煎じのドラマ」だが、スポンサーの了解は得られており、配役が固まりつつある。 民放のドラマや映画と一緒で、スポンサーがいないとバブルの物語は製作出来ない。バブルは「借金して、投資しすぎること」によって起こるので、借金が容易である必要があり、金融政策が緩和的であることがその生成の「必要条件」だ。今回は、スポンサーとして、FRB(米連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)、日銀など、錚々たる大手が競うように金を出している。  当欄の巡回筆者だったぐっちーさん(山口正洋氏)が9月24日に亡くなったことを、前回の当欄でお伝えした。 もう一人の連載筆者であるかんべえ先生(吉崎達彦氏)が書かれていたように、外資系金融マンであった当時のぐっちーさんは、かつて、日本の機関投資家などにCDOを売っていた。当時のぐっちーさんが「良いもの」を売っていたとは言いがたいが、これを買った金融機関も一応は「プロ」なのであり、彼らが心底阿呆だったのだと言っておく』、今回のクレジット・バブルは主要中央銀行が火つけ役だけに、彼らの罪は深い。日本以外では、せっかく出口に向かい始めたのに、トランプに脅されて、再び緩和強化に向かうとは・・・。
・『ぐっちーさんなら、今の問題をこう分析するかも  ここは、架空のぐっちーさん(故山口正洋氏)にご登場頂こう(もちろん、以下の山口氏の台詞は、彼の口調を借りた筆者の意見だ)。 山崎「ぐっちーさん、いきなり死なれると、さびしいよ」 山口「あいさつもなしに死んでスミマセン。ツイていなかったんです」 山崎「運は仕方がないね。お気の毒でした。『ご冥福』っていうのがそっちの世界にあるのなら、是非それをゲットして下さい。ところで、最近のCLOって、サブプライムの頃のCDOと変わらない代物だよね?」 山口「おっしゃる通りでございます。わたくし、昔、CDOを売っていた張本人なんで、それは、その通りだと断言致しますよ」 山崎「あの種の仕組み物は、100億円売れると利益が数億円みたいな感じで儲かるから、セールスマンは必死に売るよね」 山口「その通りです。あいつらは、稼がないとクビになるし、稼ぐとボーナスをいっぱいもらえる。泳いでいないと生きられないマグロみたいなものなんでございますよ」 山崎「あんな毒まんじゅうを、今回は、誰が買っているの?」 山口「金は集まるけれども、運用に困っていて、中途半端に専門家を気取っている分外資のセールスには弱い日本の大手金融機関は、前回以上に買っていますね。あれを売るのは、私はもう嫌だけど、彼らは相変わらずいいお客さんですよ」 山崎「○○○○金庫とか、×××××銀行、なんて名前をよく聞くけど、あの辺り?」 山口「お客様の名前は、私の口からは言えませんよ。死人に口なしってことで勘弁して下さい」 天国に行ってもぐっちーさんは、骨の髄までプロの金融マンだった。顧客の名前は死んでも言えない。しかし、今回、日本の金融機関はゼロ金利・マイナス金利で運用に困っており、どうやら「毒まんじゅう」の大手の買い手であるようだ。 ドラマの筋書きでは、事件のスケールを感じさせるために無駄にたくさんの人が死ぬような形で、あまり同情されない被害者がよく出て来るが、今回はその種の役に多くの日本人(日系金融機関)がキャスティングされている』、死んだぐっちーさん(山口氏)と対談して、語らせるとは面白い試みだ。「山口氏の台詞は、彼の口調を借りた筆者の意見」とはいえ、いかにも「ぐっちーさん」らしい。
・『信用度の低い社債を発行しまくる「ずる賢い経営者たち」  一方、前回のサブプライム問題のストーリーには、住宅ローンを返せなくて家を手放すアメリカの低所得層が「同情を買う可哀想な人の役」で出て来た。CDOは、彼らに向けた住宅ローンを束ねて、一見低リスクに見えるように作り込まれた商品だった。 ところが、今回のCLOの中に組み込まれているブツは、信用度の低い企業が発行した社債であり、その担い手は企業の経営者だ。はっきり言って、お金をたくさんもらっているずる賢い人達だ。社債がデフォルトしたり、企業が破産したりした時には、すでに企業から逃げているか、少なくとも個人資産は別の場所に逃がしているかなので、全く同情出来ない。 東日本に台風が来ていた10月13日の日曜日の『日本経済新聞』の朝刊一面に、「資金吐き出す株式市場」、「過去5年『自己株買い>調達』200兆円」と、世界の(ということは主にアメリカのなのだが)株式市場で、企業が自己株買いに励んでいることが報じられていた。) この記事の後の方に「低迷する株式発行と対照的なのが年間2兆ドル規模と過去最高の発行ペースになっている社債市場だ」、「アメリカでは債務超過でありながら自己株買いを実施する企業すら存在する」とあるように、社債で資金を調達してでも、自己株買いを行って、株価を上げようとする経営者が多数いて、それが経営者自身の個人的な利益にもつながっているという構図が見える。 彼らは、金融マンと同じくらい強欲で自分本位だから、現在の環境と自らが持っているチャンスを徹底的に利用するはずだ』、ジャンク級の低格付け企業までが起債できるのは、超金融緩和で投資先発掘に必死になる機関投資家が投資するからだ。
・『「壮大な悪の物語」が進行、「正義の味方」は誰か?  今回のバブルの物語は、同情される可哀想な大衆が登場するのではなく、借金をしている連中も確信犯であるという、「壮大な悪の物語」だ。 ちなみに、日本の企業経営者達は彼らほどまだ悪に染まっていないが、「コーポレートガバナンス改革」を旗印に、何周回か遅れて、アメリカ企業の経営者のような企業経営を目指しているのが、現在の日本企業の姿である。地味すぎて、注目されない。今回も台詞があるような役は振ってもらえそうにない。 今のところ、将来起こる大ピンチを救う、正義の味方のキャスティングが決まっていない点が気懸かりだ。スポンサー達が前のめりであるだけに、脚本家もエンディングを決められないが、命懸けのアクションになるだろうから、引き受け手がいない。大穴として、世界経済を救う正義の味方は、ジャッキー・チェンのような東洋人かも知れないと想像しておこう。 ハリウッドの映画だと、始まってから1時間50分くらいでクライマックスになって問題が解決するのだが、今回の物語はもう少し長尺になりそうだ。 個人投資家の皆さん(読者の多くが、実質的に個人投資家のはずだ)は、物語の構造を頭に入れて、じっくりとストーリーに付き合って欲しい。凄惨な場面に出くわしても、決して視聴を止めずに、「地球が救われる日」を信じてスクリーンを見続けて下さい。万が一損をしても、お金で済む話である(本編はここで終了です。次ページでは競馬好きの筆者が週末のレースを予想します。あらかじめご了承下さい)』、「世界経済を救う正義の味方」は、リーマン・ショック時には中国だったが、今回は自らバブルで疲弊し切っているので、無理そうだ。「今回の物語はもう少し長尺になりそうだ・・・じっくりとストーリーに付き合って欲しい」、到底、新年のお楽しみとは言えないが、注視だけはしていきたい。

次に、財務省出身で慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏が12月31日付け東洋経済オンラインに掲載した「2020年、意外なところからバブル崩壊は始まる ウォールストリートの一部も巻き込まれる?」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/322543
・『「株は高すぎる」「世界中の中央銀行による債券バブルだ」「アベノミクスは中身のないマーケティングキャッチコピーだからすぐに行き詰る」「ビットコインはバブルそのものだ」。 私はここ数年、数々の資産市場の過熱現象を指摘してきた。長いものに巻かれるという世間の風潮に反発していたからではない。単に、事実を指摘してきたまでだ』、小幡 績氏の見方も興味深そうだ。
・『株とオリンピックは全くの無関係  しかし、これらのバブルは、いくつかの仮想通貨(暗号資産)以外は破綻しなかった。ビットコインでさえ、いまだ一定の価値を残している。そのほかの資産市場のバブルは、バブルとしては僅かではあるが、むしろ膨らみを増した。私の悲観予想は外れたのである。 なぜ私の悲観予想は外れたのか。理由は一つだ。2020年に当たるからである。バブルはついに2020年崩壊する。 なぜか。東京オリンピックが終わって株が下落するからではない。素人はオリンピック、オリンピックと騒ぐが、株とオリンピックは全くの無関係。また、不動産は訪日観光客がらみの特殊なエリアが上昇したこともあったが、不動産はすでにピークアウトしている。オリンピックまで、などと言っているのは無知の極みで、お祭り騒ぎが終わったときにはもう下落は進んでいるのである。しかし、日本人はいつからこんなに祭り好きになったのだろうか。 では、中央銀行、とりわけ日本銀行の量的緩和により国債バブルが極限まで膨らみ、ついに崩壊するのだろうか。それでもない。確かに、もっとも膨らんでおり、異常であり、前代未聞であり、金融市場と実体経済に最も大きな打撃を与えるのは、国債バブルの崩壊である。しかし、重大で巨大なバブルである一方、だからこそ、このバブルはしぶとい。なかなか崩壊しない』、「なぜ私の悲観予想は外れたのか。理由は一つだ。2020年に当たるからである。バブルはついに2020年崩壊する」、これだけ自信を持って言い切れるのは、ある意味でうらやましい。
・『ヘッジファンドは日本国債の売り仕掛けをやめた  1990年代後半以降、海外のヘッジファンドは日本国債の暴落は必至とみて、空売りを何度も仕掛けてきた。日本銀行がゼロ金利を採用した2000年以降、そして量的緩和の始まった2001年以降は、日本銀行自らが最大の買い手に回る日本国債バブルを膨らませてきたが、これに対してヘッジファンドは悲惨なまでに売り負けてきた。返り討ちにあって、彼らは大きな損失を出して退散していった。彼らが、ポジションを清算し、買い戻しを余儀なくされ、日本国債はさらに値上がりしていった。黒田東彦日銀総裁の異次元緩和という異常な緩和が始まってからは、彼らはついに学習し、一緒に買うことにした。バブルに乗ることにしたのである。 中央銀行が最後の買い手になっているバブル。これは崩壊しにくい。なぜなら、中央銀行は儲けるために買っているわけではないから、暴落懸念が出たときに売り逃げるどころか、その時こそ暴落を阻止するために買いまくるからである。暴落懸念で売りが殺到することでしかバブルは崩壊しないのだから、これではバブルは永遠に崩壊しない。 崩壊するのは中央銀行がつぶれたとき、あるいは彼らの使命が変わった時で、日本国債よりも日本経済を守るべきであると気づいたときに、あるいはそう行動することが許されたときに、国債を買うのをやめる。その時初めてバブルは崩壊するのだ。ふつうは、一国の中央銀行よりも世界中のトレーダーの方が強いのであるが、アメリカと日本、そして中国は例外である』、「ヘッジファンドは日本国債の売り仕掛けをやめた」、「中央銀行が最後の買い手になっているバブル。これは崩壊しにくい・・・暴落懸念で売りが殺到することでしかバブルは崩壊しないのだから、これではバブルは永遠に崩壊しない」、もっともらしく思えるが、私見では、バブルが崩壊する1つのルートが残っている筈だ。それは、なんらかのきっかけで円が信認を失って、円からドルへの大量の資金逃避が発生する場合で、国債利回りも暴騰する懸念もあり、そうなればまさに「日本沈没」だ。
・『一方で、ソフトバンクグループの投資先の一つである、シェアオフィス大手のウィーワークの親会社、ウィーカンパニーの破綻の可能性が指摘されている。この企業は、ユニコーン(すなわち上場前に10億ドルの企業価値を持った世界の企業群)のトップを走っている、とされていた。ところが、上場直前になって上場を延期し、それにとどまらず市場での信用リスクまで言及されるようになっている。事実上救済が必要となり、ソフトバンクグループが約1兆円を突っ込んで最大の株主となり、再建を主導することとなった。「ソフトバンクグループのバブル崩壊」が始まったと言えるのではないか。 しかし、問題はそこではない。バブルが崩壊するのはソフトバンクグループではなく、シリコンバレーであり、ユニコーン市場であり、すなわち、現在の資本主義の中心地アメリカだ。そのなかでももっとも最先端と思われる、大規模未上場新興企業市場である。資本主義のど真ん中のバブルが崩壊するのである。 2008年のリーマンショックによる投資銀行のバブル崩壊、それによる投資銀行の消滅に続き、もう一つのアメリカ金融社会の中心である起業市場のバブル崩壊は、ユニコーンの消滅となり、今後、起業市場は急速に縮小していくだろう。アメリカ金融市場の二つの柱が21世紀に立て続けに崩壊するのである。それはなぜか』、ソフトバンクGについては、このブログでは11月27日付けで取上げたが、ここでの主題は、「資本主義のど真ん中のバブルが崩壊するのである」、確かに広がりも大きく深刻だ。
・『ウィーワークは「ただの不動産のサブリース」  まず、ウィーワークのバブルがなぜここまで膨らんだかを解明しなくてはならない。これは普通に考えるとあり得ないことである。同社は筆者に言わせれば、いかなる面においても長所のない企業であった。そもそもビジネスモデルが駄目である。アダム・ニューマン氏という創業者のイカレ振りが話題となっているが、それ以前の問題である。 まず、このビジネスはつきつめれば、ただの又貸しビジネスに近く、サブリースである。そして不動産のサブリースはあまり儲からない。儲けるには、愚かな消費者を見つけて、彼らからむしり取らなくてはならない。ここではシェアオフィスに喜んで入居する自称起業家たちであるが、机を一つ借りるのに月20万円などありえない。数人でスペースとともに借りれば、すぐに100万円となってしまう。 リモートオフィスが可能になって世界が広がったのに、あえて、もっとも高いところに集まって、高い金を払ってオフィスにしがみつく必要はない。一時のファッションであり、そもそも実質的な需要は大きくないのである。 これがプラットフォームビジネスなら話は別だ。業界1位のポジションを取って、独占的立場から顧客を支配し、ブランドとして高価格をチャージするのがプラットフォームビジネスの基本だ。ここから拡大していけば(いわゆるスケールしていけば)利益は急激に増えていく。 しかし、ウィーワークはプラットフォームビジネスでない。ただのサブリースのようなものである。だから、スケールするためには、つまり、顧客が増えれば、ビルを借りるか買うかしないといけないから、スケールしないのである。この場合、売り上げもコストも比例的に伸びていくだけであり、普通の企業の売り上げ増加と同じである。 そもそも儲かっていない。黒字になったのは立ち上げ当時の2012年くらいで、後は赤字が拡大していった。売り上げが増えれば増えるほど赤字になったのである。なぜ儲からないのか。 サブリースはそもそも儲からない、理由は簡単で、オフィスをサブリースするだけなので、アイデアの価値はゼロ、誰でもできるビジネスであり、誰でも参入できるのであり、実際、参入したのである。となると、顧客獲得競争が起きる。顧客を取るために、マンハッタンなどの一等地(起業家に受けそうな、あるいはほかのテナントに受けそうな)が奪い合いになる。仕入れコストは急激に上がる。広告宣伝費もいる。マーケティングの優秀な人材が必要になる。コストがかさむ』、言われてみれば、その通りだが、これを見抜けなかった「ソフトバンクG」の底の浅さが露呈した形だ。
・『アドバンテージはブランドだけ  一方で、ライバルに対するアドバンテージは何もない。ブランドだけである。ブランドと言っても、先に有名になっただけだから、ブランドポジションを維持するためには、ひたすらオフィスを増やし、顧客を増やし、業界1位を確保しなければならない。だから、体力勝負になる。そうなると、カネや資本がある方が勝つ。逆に言うと、カネの差しかない。だから、増資を繰り返し、借り入れも最大限行う。だから、カネが詰まればすぐに破綻するのであり、それを避けるためにはカネを注入し続けなければいけない。ソフトバンクグループは、出資者としてこの罠にはまったのである。 ではソフトバンクグループはそんなに馬鹿なのか。やはり、日本でお山の大将だっただけで、シリコンバレーでは通用しなかったのか。そうではない。シリコンバレー、ベンチャーファンド、ウォールストリートの金融マン、ファンドすべてが馬鹿だったのである』、「馬鹿なの」は、「ソフトバンクG」だけでなく、「シリコンバレー、ベンチャーファンド、ウォールストリートの金融マン、ファンドすべてが馬鹿だった」、なるほど。
・『彼らは、なぜウィーワークに群がったか。バブルだったからである。バブルでは馬鹿になって、合理性を捨てて群がることが勝利の法則である。しかし、ここではバブルに簡単に参入できなかった。上場していなかったからである。ニューマン氏に新たに株を売ってもらわなくてはいけない。増資するか、彼の持ち分を売ってもらうかしないといけない。そして、この売り出しに、ファンドやウォールストリートの一流金融機関は群がったのである。 売り出すたびに、価格は切り上げられていった。バブルだからである。後から来るものはより高い入場料を支払わないといけない。そして最後にバカ高い入場料を払ったのがソフトバンクグループではなかったか。これはウォールストリートやシリコンバレーのファンドは(中国のファンドも)嫌がるはずだったが、ソフトバンクグループを嫌いながらも甘受した。なぜなら、同社が高い価格で出資または買えば、時価が上がり、自分たちの保有する株式に高い時価が付き、ファンドに含み益が生じ、それが客観性を持つようになるからである。 しかし、彼らは、最後はどうなると思っていたのか。そんな高い価格に吊り上げるゲームが持続できると思っていたのか。ソフトバンクグループのさらに後から来る大バカ者、クレイジーな投資家がいると思ったのだろうか。いた。いると思っていた。それが上場である。公開時に株を買ってくれる一般の個人投資家である』、「バブルでは馬鹿になって、合理性を捨てて群がることが勝利の法則である」、言い得て妙だ。「ソフトバンクグループのさらに後から来る大バカ者、クレイジーな投資家がいると思った」、公開が流れて、「ソフトバンクG」そのものが「大バカ者」になったようだ。
・『上場が延期になると一気に厳しい状況が目の前に  しかし、個人投資家はそれほど甘くなかった。いや、上場のプロセスはまだ常識を残していた。客観的にウィーワークの業績をチェックすると、6兆円とも7兆円とも言われていた企業価値は幻で、せいぜいゼロ円、素直に査定すれば赤字が膨らむ一方であるからマイナスの価値しか生まないのではないか、などと指摘されたからである。 さらに、彼らは資金繰りに問題を抱えていた。だから早めに上場を決断せざるをえなかったのである。ニューマン氏にとっても楽しい非上場でのバブルゲームを終える時が迫られていたのである。しかし、上場が延期になると一気に資金の問題が目の前に迫ってきた。そこで、ようやくガバナンスが効き始めたのである。 初めてニューマン氏は企業の支配権を手放し、ソフトバンクグループがそれを入手したのである。ガバナンスも滅茶苦茶であったのは、報道されている通りだが(ニューマン氏が議決権を支配し、親族やあらゆる仲間たちにカネを流出させていたなど)、なぜそれを一流のベテラン投資家たちが放置していたのか。 その理由は簡単だ。バブルだと認識していたからである。バブルに乗るには理屈は言っていられない。ニューマン氏に気に入られて、バブルゲーム参入チケットを分けてもらわないといけない。だから、老獪なベテラン投資家たちは、ニューマン氏の言いなりになってしまったのである。 ニューマン氏もそれを知って、彼らを競わせた。「自分の言うことを聞かなければ株は分けてやらないぞ」、と。都合がいいことに、中国のファンド、日本のファンドという新参者が興奮していた。老獪な投資家たちは、彼ら初心者が荒っぽいことを知っていたから、仲間内だけなら、自分たちが結束して、ニューマン氏に譲歩させたはずだが、それができず、奪い合いに参加した。だからバブルは膨らんでいったのである。 ここに起業家が「起業している」という独占的な地位を利用して、わざと上場を遅らせた。だからユニコーンという不思議な上場しない巨大新興企業が生まれたのである、起業家にとっては、取引所という頭の固い、バブルに興味のない人々のチェックを受けずにバブルを煽ることができる。そのバブルに乗ったファンドも後で上場時により馬鹿な投資家に売りつけることができるから、馬鹿のふりをしてバブルゲームに興じていた』、「都合がいいことに、中国のファンド、日本のファンドという新参者が興奮していた」、「ユニコーン」に踊らされ、煽っていたのは、日経新聞である。日経はどう自己批判するのだろうか、恐らく沈黙を守るだろう。
・『バブルゲームは終わった  このバブルゲームが事実上ウィーワークで終わったのである。ウーバーはなんとか上場できた。こちらは上場もできなかった。残っているユニコーンはほとんどすべて衰退していくだろう。少なくとも、赤字に見合った企業価値に評価が下がっていくだろう。そうなると誰も引き取る人はいないから、多くの企業、特に大きな未上場新興企業は行き詰っていくだろう。このように、ソフトバンクグループの試練は、シリコンバレーの一部を困難な状況に追い込み、ウォールストリートの一部も巻き込まれるのではないか。 これが2020年のバブル崩壊だ。そうなれば、普通の株式市場も盛り上がることは難しいだろう。だから、株式バブルはこれで終わる。不動産も同じだ。低金利で無理して投資している投資家も行き詰まるか、少なくとも苦境に陥るだろう。 実はソフトバンクグループは、まだアリババの含み益などがある。だから、バブル崩壊のきっかけはソフトバンクの周辺なのに、アメリカの中心の金融市場のバブルが崩壊するということがおこりうる。なぜなら、ソフトバンクグループや他の買い手が積極的に買わなければ、彼らは参加したバブルゲームから、投資した資金の大半を諦めて、撤退しなければいけないからである。 2020年、良いお年をお迎えください』、「バブルゲーム」の今後の行方は要注意だ。
タグ:サブリースはそもそも儲からない、理由は簡単で、オフィスをサブリースするだけなので、アイデアの価値はゼロ、誰でもできるビジネスであり、誰でも参入できるのであり、実際、参入したのである ウィーカンパニーの破綻の可能性が指摘 「ソフトバンクグループのバブル崩壊」が始まった 問題はそこではない。バブルが崩壊するのはソフトバンクグループではなく、シリコンバレーであり、ユニコーン市場であり、すなわち、現在の資本主義の中心地アメリカだ。そのなかでももっとも最先端と思われる、大規模未上場新興企業市場である ウィーワークは「ただの不動産のサブリース」 資本主義のど真ん中のバブルが崩壊するのである 借金をしている連中も確信犯であるという、「壮大な悪の物語」 円が信認を失って、円からドルへの大量の資金逃避が発生する場合 なぜなら、中央銀行は儲けるために買っているわけではないから、暴落懸念が出たときに売り逃げるどころか、その時こそ暴落を阻止するために買いまくるからである ヘッジファンドは日本国債の売り仕掛けをやめた 暴落懸念で売りが殺到することでしかバブルは崩壊しないのだから、これではバブルは永遠に崩壊しない 中央銀行が最後の買い手になっているバブル。これは崩壊しにくい 金融市場と実体経済に最も大きな打撃を与えるのは、国債バブルの崩壊である。しかし、重大で巨大なバブルである一方、だからこそ、このバブルはしぶとい。なかなか崩壊しない 「CLO」(担保付ローン債務) ビジネスモデルが駄目 なぜ私の悲観予想は外れたのか。理由は一つだ。2020年に当たるからである。バブルはついに2020年崩壊する 株とオリンピックは全くの無関係 世界経済を救う正義の味方 小幡 績 「2020年、意外なところからバブル崩壊は始まる ウォールストリートの一部も巻き込まれる?」 「今は「リーマンショック物語」の続編が進行中だ バブルに乗る「悪質な確信犯」と犠牲者は誰か」 クレジットリスクが大きい 「壮大な悪の物語」が進行、「正義の味方」は誰か? 信用度の低い社債を発行しまくる「ずる賢い経営者たち」 今回のバブルのネタは株式や不動産といった古典的なリスク資産であるよりも、どうやら債券であるらしい ぐっちーさんなら、今の問題をこう分析するかも バブルは「借金して、投資しすぎること」によって起こるので、借金が容易である必要があり、金融政策が緩和的であることがその生成の「必要条件」だ バブルが実際に弾けて、それがバブルであったことを証明するまでには、かなりの時間(典型的には2~3年)を要する 東洋経済オンライン 現在は「リーマンショック物語」続編の企画が進行中 ぐっちーさん(山口正洋氏) 山崎 元 「もうは、まだなり」がしばらく続く状況だろう 今回は、スポンサーとして、FRB(米連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)、日銀など、錚々たる大手が競うように金を出している (その1)(今は「リーマンショック物語」の続編が進行中だ バブルに乗る「悪質な確信犯」と犠牲者は誰か、2020年 意外なところからバブル崩壊は始まる ウォールストリートの一部も巻き込まれる?) シリコンバレー、ベンチャーファンド、ウォールストリートの金融マン、ファンドすべてが馬鹿だったのである アドバンテージはブランドだけ ソフトバンクグループのさらに後から来る大バカ者、クレイジーな投資家がいると思ったのだろうか バブルでは馬鹿になって、合理性を捨てて群がることが勝利の法則である 都合がいいことに、中国のファンド、日本のファンドという新参者が興奮していた バブルゲーム 上場が延期になると一気に厳しい状況が目の前に バブルゲームは終わった バブル(最近)
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中国経済(その4)(中国が経常赤字に転落 日本への影響は 「爆買い」の減少に警戒必要、追いつめられた中国経済 2019年の動向を占う 習近平重要講話と中央経済工作会議から読み解く、中国経済「崩壊」の始まりを感じさせるこれだけの理由) [世界経済]

中国経済については、2016年9月7日に取上げたままだった。2年以上経った今日は、(その4)(中国が経常赤字に転落 日本への影響は 「爆買い」の減少に警戒必要、追いつめられた中国経済 2019年の動向を占う 習近平重要講話と中央経済工作会議から読み解く、中国経済「崩壊」の始まりを感じさせるこれだけの理由)である。

先ずは、小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEOの小宮 一慶氏が昨年12月21日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「中国が経常赤字に転落、日本への影響は 「爆買い」の減少に警戒必要」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/011000037/122000049/?P=1
・『今年上半期、中国の経常収支が赤字に転落しました。中国国家外貨管理局が発表した2018年1~6月の経常収支は、283億ドル(約3兆1500億円)の赤字となりました。 経常収支とは、貿易収支・サービス収支・所得収支(海外から得た利子や配当など)を合計したもの。海外との総合的な取引状況を示します。これが赤字になったということは、海外から稼げなくなりつつあるということと同義です。これは中国経済には大きな問題となります。 2000年代から急成長を遂げ、世界第2位の経済大国に成長した中国が、なぜ今になって経常赤字に陥ったのか。日本への影響はどのように考えればいいのか。今回は、中国経済の現状と展望について考えます』、中国の経常収支赤字化は、確かに目をひく数字だった。
・『18年1~3月期、17年ぶりの経常赤字に  まずは、経常収支の中でも最も大きなウェイトを占める「貿易収支」の推移から見てみましょう。 貿易収支は大幅な黒字を続けています。2016年は5097億ドル(約57兆円)、2017年も4215億ドル(約47兆円)の黒字です。そのかなりの部分は対米黒字です。米国が不満を持つのも分かります。特にここ数カ月は、米中貿易摩擦による関税率の引き上げを見込んだ駆け込み需要が発生しており、中国側の貿易収支の黒字幅が増加しやすい傾向があります。 ところが、中国の経常収支は2018年1~3月におよそ17年ぶりの赤字に転落し、4~6月は黒字となったものの、1~6月では赤字となりました。 一体、何が原因だったのでしょうか。 経常収支は、貿易収支、サービス収支、第一次所得収支(海外からの金利や配当等)、第二次所得収支(政府開発援助や国際機関への分担金等)の合計です。 中国の内訳を見ますと、先ほども見たように貿易収支は順調ですが、それと同時に「サービス収支」の赤字が拡大しているのです。サービス収支の赤字は2010年あたりから増加し始め、季節要因によって貿易黒字が縮小した2018年1~3月にはカバーしきれず経常赤字になりました。 1~3月期は春節の時期が含まれているため、毎年、この四半期の貿易黒字は一時的に減る傾向がありますが、サービス収支赤字が拡大し続けていることには変わりありません。なぜでしょうか。 主な原因は、中国人による海外旅行の増加による「旅行収支」の悪化です。これは、旅行者の滞在先での宿泊費や交通費などが主なものです。中国からの海外旅行者の増加により、旅行収支の赤字が拡大しているというわけです。 中国経済が成長してくるにつれ国民の生活は豊かになり、海外への旅行熱が高まり、さらには、高品質な海外製品に対する需要が高まりました。税制上、輸入品よりも海外で購入した方が安いこともあり、海外旅行先で爆買いする中国人も多くいます。これらは経常収支の悪化をもたらすのです』、旅行収支赤字が主因であれば、対策は簡単だが、影響は日本にも及ぶ。
・『中国政府が旅行収支赤字を縮小しようとする可能性がある  日本経済もそんな中国人旅行客による恩恵を受けてきました。しかし、それもいつまで続くのかは分かりません。 というのは、中国政府がこの先、旅行収支赤字を縮小しようと動き出す可能性があるからです。 中国の成長率の推移を見ますと、かつては二ケタ成長を続けていましたが、直近の2018年7~9月期は前年同期比6.5%まで鈍化しています。今後は米中貿易摩擦の影響もありますから、ますます厳しい状況に陥るでしょう。長期的には、一人っ子政策の影響で労働力人口が長期的に減少しますから、これも経済成長を鈍化させます。このことは、中国の成長を見込んでの海外からの投資を鈍化させることにつながります。 その中で中国人旅行客が世界各国に旅行を続け、爆買いをすれば、経常収支を悪化させ、人民元売りが起こります。ただでさえ、国内経済の鈍化によって人民元安の傾向が続いている上に、海外旅行や爆買いの影響が重なるのです。 さらに、米中貿易摩擦によって貿易黒字が縮小していく可能性もあります。米国は、それを狙っているわけですからね。貿易黒字の縮小によって経常赤字が拡大すれば、人民元がますます下落し、下手をすれば暴落する可能性も否定できません。 中国政府としては、こういった状況を看過できるはずがありません。人民元安が進みすぎるのを防ぐため、せめて旅行収支赤字だけでも縮小して人民元安に歯止めをかけようと対策を打ち出す可能性は大いにあるでしょう。旅行そのものを規制すれば、当然、爆買いもなくなります。 そうなれば、日本経済への影響も避けられません。2017年の訪日客による消費額は、16年に比べて18%増加し約4兆4000億円に上り、5年連続で最高額を更新し続けています。中でも、中国人観光客による消費は約1兆7000億円と首位に位置しています。 消費額自体は4兆4000億円ですが、波及効果も加味すれば、GDPベースで約10兆円の経済効果があるとの見方もあります。 中国政府が旅行収支赤字の縮小を視野に入れ始めると、この莫大な観光収入が大幅に減少する可能性も少なくありません。 訪日客数の推移を見ますと、2018年8月は前年同月比4.1%増の257万8021人、9月は北海道での地震の影響もあり5.3%減の215万9600人、10月は1.8%増の264万600人となっています。2018年の訪日客数は3000万人を超えましたが、2017年は前年同月比で20%前後の伸びを維持していたことを考えますと、増加ペースが鈍化していると言えるでしょう。 中国政府が手を打ち始めたら、この伸びは止まるどころか、減少に転じる可能性もあります。台湾は反中国政権の影響もあり、中国本土からの旅行客が減少し、経済にも悪影響が出ています』、インバウンド・ブームについては、影の部分の指摘も増えていることから、「中国本土からの旅行客が減少」はやむを得ないことなのだろう。
・『東京のマンション投資、地方の観光地にも影響  さらに言えば、単純に旅行収支だけではなく、海外への投資、例えば不動産投資などを抑制することも考えられます。そうなると、中国人投資家による日本国内、特に東京都内のマンションへの投資、あるいは北海道などでの観光地への投資などに影響が出るでしょう。 しかもここへきて日本経済のトレンドが変わり始めています。2018年7~9月期のGDP実質成長率はマイナス2.5%(季節調整済み、年率換算)と、減少幅は前回の消費増税後の2014年4~6月期以来の大きさとなりました。2019年1月まで成長が続けば、戦後最長の景気拡大となると期待されていますが、その先は黄信号が灯っているのです。 ここで中国からの訪日客が急減するようなことがあれば、日本の景気に大きな影響があることは間違いありません。 米中貿易摩擦の解決の仕方にもよりますが、この先、中国の経常収支は悪化してゆく可能性があります。日本企業も中国を大きな市場としているところも多く、また、訪日客の動向によっては、日本への影響の度合いも大きく変わってきますので、注意が必要です』、既に弱まり始めている日本の景気をさらに下押ししたり、不動産市況に悪影響があることは覚悟する必要があるが、インバウンドに過度に依存した姿こそが異常なのであり、持続性ある成長路線に戻すためには、不可避なことであるように思う。

次に、元産経新聞北京特派員でジャーナリストの福島 香織氏が12月26日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「追いつめられた中国経済、2019年の動向を占う 習近平重要講話と中央経済工作会議から読み解く」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/opinion/15/218009/122500193/?P=1
・『新華社が21日に報じたところによれば、19-21日に中央経済工作会議が開催された。中央委員会総会(四中全会、政治政策の決定を中央委員会によって可決する)を開かずに経済政策を決める中央経済工作会議を先に開くのはやはり異例だ。しかも、その直前に行われた改革開放40周年記念の習近平重要講話を仔細に読めば、経済の習近平路線は大きく変わりそうにない。中国の来年の経済動向を、習近平重要講話と中央経済工作会議の中身から占ってみたい』、これまでからバブルの歪みが指摘されてきた中国経済も、いよいよ「弾ける」とすれば、影響は深刻だ。
・『倒産500万件、失業200万人か  簡単に2018年の中国経済を概観すると、今年の経済鈍化は、庶民が肌身で切実に感じるレベルである。党大会後から始まった債務圧縮政策は中国の雇用を支えてきた民営中小零細企業を直撃、報道ベースでざっくり500万件が倒産し200万人が路頭に迷い、740万人の出稼ぎ者が都市部から農村に戻った。その原因を習近平路線にあるとする声は党内でも大きい。習近平の政策の一番強烈なところは「習近平を核心とする党中央」が一切を指導する独裁路線であり、株式市場も為替市場も民営企業も債務も、党(習近平の意向)が完璧にコントロールしてやろう、という点だ。そんなものを完璧にコントロールできる天才的指導者などいるか、という話だ。 これは鄧小平の改革開放路線(資本主義を経済の手段として容認し、経済活動については政治的制約を極限まで減らし、結果的に豊かになった企業家および中間層を党に取り込むことで共産党の権力を強くする)とは真逆。だから、習近平路線の呼び名は「逆走路線」あるいは「改毛超鄧」(毛沢東のやり方を改良して鄧小平を超越する)と表現される。 胡錦濤政権末期を振り返ると、鄧小平路線を長年継続してきた結果、(資本家を受け入れた)共産党の腐敗と風紀の乱れが激化し、貧富の差の拡大によって大衆の不満が膨らみ、経済が資本主義(自由主義)、政治が社会主義(全体主義)という不均衡によって、共産党は経済の資本主義化にブレーキをかけるか、政治の社会主義体制の看板を下ろすかの選択の岐路に立たされていた。この選択をできずにいた胡錦濤政権から、矛盾が極限まで膨らんだ状態の中国を受けついだ習近平政権は、高度経済成長の持続を諦め、成長減速を「新常態」(ニューノーマル)と受け入れて、経済構造の大改革を行うとした。だが、文革時代に思春期を過ごし、大した経験や知識をもたない習近平には参考となる政治家手本は毛沢東しかおらず、毛沢東のやり方を模倣する以外なかった。 結果として起きた現象を上げれば、安邦保険や海南航空集団といったメガ民営企業の事実上の国有化などによる民営企業のパニック、2015年上海“株災”から始まった中国株式市場の信用失墜、意見の対立する政治家、官僚排除による党内組織機能の硬直化やサボタージュ、中国製造2025(製造業の高度化)や一帯一路(国内余剰生産などの矛盾を国外に移転、拡大することによる問題解消を狙った中華式経済圏の拡大)といった戦略を中国の覇権主義台頭と警戒した米国との貿易戦争などが重なって、中国経済は急減速した。外資引き上げが加速し、キャピタルフライトはとどまらず、人民元は急落を続け、不動産バブル、地方債務ははじける寸前であり、社会消費の鈍化が目立つようになった』、改革開放以来の経済政策の流れが理解できたが、習近平にとっては、内憂外患の極致にあるようだ。
・『「鄧小平路線に戻すべき」との声も  2017年暮れごろから中国政府内の金融官僚たちは「ミンスキーモーメント」という言葉を口にし始めた。これを警戒し、習近平政権は金融バブル崩壊圧力を緩めるために2018年6月、P2P金融業者(ネットなどをプラットフォームに使った個人間融資)を選んで破綻させたのだが、大量の自殺者、失踪者が出て数百万単位の金融難民を出した苛酷なものだった。ネット上で怨嗟の声が渦巻き、習近平政権に対する大衆、特に中間層の敵意を形成することになった。しかも、P2Pを破綻させたところで、中国の巨大な金融破たんリスクが解消されるわけもなく、むしろ次はより大きなショックがくると国内外のアナリストたちは恐怖を感じるようになった。ここに、米国との貿易戦争が重なり、中国経済は改革開放以来、例をみないほどに追いつめられている。 党内では現状を改善するためには路線を旧鄧小平路線に戻すべきだと主張する声が強くなっていた。だが、習近平にとって旧鄧小平路線に戻ることは自身の敗北を認め、下手をすれば引退という形で責任を取らされる可能性があり、簡単には認められない。習近平は最終的にどうするのか、その答えが改革開放40周年記念日に行われた演説であった。 演説の内容を簡単にいえば、旧鄧小平路線には戻らない、という習近平の決意が打ち出されている。見出し的には「改革開放路線の継続宣言」と報じてるメディアもあるが、中身はあくまで習近平路線維持を押し通したものだった。鄧小平の言葉よりも毛沢東の言葉を多く引用しているし、なにより胡錦濤政権時代の2008年に行われた改革開放30周年記念行事には江沢民ら長老が勢ぞろいしたが、今回、長老連は軒並み欠席。現役指導部と習近平の取り巻きだけが参加した習近平独演ショーのようになっていた。 まず「党が一切を指導する」(経済、市場を含めた国家占有至上主義路線)の維持を繰り返した。 また中国を国際秩序の擁護者としながら、「中国人民にあごで偉そうに指図できる教師様はいない」と毛沢東風に語り、中国が目指すのは米国はじめ西洋社会が示す民主主義モデルではなく、中国が独自の道をいくのだと主張している。これは既存の国際秩序への挑戦姿勢と受け取れよう。米国を暗にさして「覇権主義と強権主義に旗幟鮮明に反対する」と牽制している。また国有経済優先姿勢も明確にし、「公有経済制はみじんもゆるがさない」としている。改革開放路線継続といいながら、実は逆走路線である。党内改革派からは鄧小平路線に回帰し、国際社会との融和・妥協点を探るべきだという意見が出ているが、それにも習近平はノーだということだ。 「改革すべきところ、改革できるところは必ず改革する、改革すべきでないところ、改革できないところは絶対改革しない」とのべているが、これは事実上の「これ以上改革開放しない」宣言といえるだろう。習近平の本音はもとのまま毛沢東時代逆走路線ということだ。とりあえず、鄧小平を少し持ち上げてみせるが、「できないものはできない」と、開き直ったようにもみえる。さらに一流の軍隊を作って中華民族の復興路線の後ろ盾とする社会主義現代強国化路線の堅持を訴えた。 また「党の集中統一指導により、我々は歴史の偉大なる転換を実現し、改革開放新時代と中華民族の偉大なる復興の新たな道のりを切り開くことができる。一連の重大なリスクの挑戦を受けて立つことができる。無限の艱難辛苦を克服し、変局、風波、洪水、パンデミック、地震、危機もろもろに対応でき防止できる能力がある。古臭くなった過去のやり方でもなく、旗印を安易に挿げ替えただけの邪道でもなく、ゆるぎない中国社会主義路線を堅持するのだ」と語っている』、「習近平の本音はもとのまま毛沢東時代逆走路線」とはいうものの、毛沢東時代とは比較にならないほど経済構造が複雑化したなかで、統制強化路線が機能するのだろうか。
・『「旗印を安易に挿げ替えた邪道」とは  「旗印を安易に挿げ替えた邪道」とは、経済の資本主義化を社会主義初級段階に言い換えて自由主義路線を推し進めた鄧小平を念頭に置いているとすれば、習近平の本音がどこにあるかは明らかだ。しかも、習近平が考えうるリスクの羅列の筆頭に「変局」「風波」が挙がっている。変局を直訳すれば非常事態だが、これには政治的意味が含まれており、革命や政変、戦争などを連想させる言葉である。風波は動乱、天安門事件のような社会や政治の動乱を差す言葉だ。習近平が自分の路線を押し通す先に、政変や動乱のリスクも想定しているともとれる。この重要講話を読む限り、習近平は妥協しないつもりであり、いざとなったら政変も動乱も受けてたつ、といわんばかりのやけっぱちで暴走気味であるとも受け取れるのではないか。 さて、この重要講話発表の翌日に中央経済工作会議が開催された。新華社によれば会議では「世界は百年に一度の大変局に直面している。変局中には危機と同時にチャンスが併存しており、これは中華民族の偉大なる復興に重大なチャンスをもたらす」と指摘されたという。ここでも、「変局」が意識されている。とにかく来年は、世界も中国も政治体制、経済や秩序のフレームワークが激変するような非常事態がおきうる危険な一年という意識がにじみでている。だから、経済工作会議の前に開かれた政治局会議で2019年、2020年経済成長目標は6.1%に設定すべしと提言された。今年の経済成長は6.6%前後の見込みで、それでも肌身に厳しい状況を感じるのだから、来年の厳しさは想像以上だろう。ちなみに国家統計局内の特別チームが内部報告用に取りまとめた統計によれば今年の本当の成長率は1.67%という(向松祚・人民大学貨幣研究所副所長、NYT)。 会議ではマクロ政策方針は積極財政、穏健通貨政策をとり、よりカウンターシクリカル(逆周期調節)な対応を強化する、とした。さらに積極財政を効果的にするために、大幅減税を実施し、地方政府の専項債権(インフラプロジェクトなどの資金調達のための特別債)規模を大幅に拡大させる、とした。同時に地方債務リスクを穏健に妥当にコントロールする。貨幣政策は適度に緩め、流動性を確保し貨幣政策メカニズムの改善を図りつつ、直接融資比重を上げて民営の中小零細企業の融資困難問題を解決するとした。穏当をキーワードにした慎重な政策で痛みを最小限にとどめるつもりなのか。 構造改革については、国有企業改革が首位におかれた。珍しく踏み込んできたと思える発言は「政企分開、政資分開と公平競争原則を堅持する。国有資本を強く優位に大きくし、企業を管理することから資本を管理することへの転換実現を加速する」とした点だ。国有企業の競争力を強化することを政策の基礎として、党と国有企業の関係を、あくまで国有資本の管理者として、企業自体の管理は政治と切り離す、という意味だとしたら、これは習近平路線の逆をいく話だ。しかも、「民営企業の発展を支持し、制度環境を法治化し、民営企業家人身の安全と財産の安全を保護する」としている。民営企業家の不審死、自殺が相次ぎ、不自然なやり方で民営企業の国有化を進めた、習近平のこれまでのやり方を改める、という意味にもとれる』、ここには触れられてないが、財政赤字はさらに大きく拡大し、中央銀行がそれを支えることになるのだろう。その場合、資本主義国であれば、インフレが激化するが、統計操作では、安倍政権より遥かに手慣れているので、そんな気配も見せないのだろう。不思議な国だ。
・『米中貿易戦争が再燃したら…  こうして見てみると、経済政策に関していえば、習近平路線と離れて独自に動きだしているように見える。だが改革開放記念演説に見た習近平の自分のやり方への執着をみれば、本当に経済工作会議のもとに打ち出された方針で運営されるのかも定かではない。そもそも、中央委員会総会によって次の5年の政策の大枠の方向性が可決されていないのだ。 ちなみに会議に国家副主席の王岐山が欠席したのは、党内で意見分裂があったからだ、という見方もあった。すでに中央委員でもない王岐山の欠席に意味があるかどうか別として、党内で習近平派とアンチ習近平派に分かれて、政策の方向性が紛糾しているという話は私も各方面から仄聞(そくぶん)している。習近平の権力への執念が経済政策の方向性の定まりがたさの原因とすると、今後の見通しは不確定きわまりない。しかも90日停戦を経て3月1日には、米国との貿易戦争が再燃するかもしれない。そうなれば、中国経済のハードランディング回避は難しくなろう。今年のP2P破綻のような選択的破綻でしのぐにしても、規模はリーマンショック級以上、という予想をいうアナリストたちは少なくない』、ただ、トランプも本格的な貿易戦争は望んでないと見られることから、貿易戦争再燃はかろうじて避けられるのではなかろうか。それでも、国内での歪み蓄積による経済悪化といったリスクは十分あり得るだろう。

第三に、ジャーナリストの姫田小夏氏が1月11日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「中国経済「崩壊」の始まりを感じさせるこれだけの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/190528
・『実態と乖離した不動産価格の裏側  中国経済がおかしくなっている。「IT、製造業、不動産業で雇用削減」「消費が曲がり角」――年明け早々、日本経済新聞は中国経済の変調をこう報じた。中国の主要な経済紙を開いても、「債務危機」「連鎖破綻」「不良資産処理」など、先行きの不穏さを暗示する経済用語が目を引く。2019年の中国経済は見通しが悪い。 昨冬、筆者が訪れた上海の街は「真っ暗」だった。その元凶は不動産市況だろう。もとより上海では、マンションの乱開発と投機が生んだ「空室」が社会問題になっていたが、その数が激増し、夜間マンションにともる灯りが減ったのだ。 上海在住で複数の事業用マンションを持つ富裕層のひとりは「売りに出した住宅を見に来る客はいても契約には至りません」と語る。上海では2017年以降、住宅の中古市場が動かなくなった。 上海市黄浦区の不動産屋に張り出された住宅情報を見ると、1000万元台、2000万元台のマンションが目に付く。特別な仕様でも立地でもないごく普通の住宅だが、1億円はざら、2億円、3億円の高値がつくのだ。 その不動産屋の前に、近隣居住者とおぼしき老人が立っていたので話かけた。この老人は最近、所有していた物件を680万元(約1億1000万円)でやっとの思いで売却したという。このエリアでの成約額といえば680万元がせいぜいなのだ。2000万元越えの “バブル物件”など簡単には売れはしない。 その売却で手にしたお金は何に投資したのかと聞いたら、「借金返済ですべて消えてなくなった」と上海なまりの中国語で明かした。金融機関のみならず、親戚や友人から借りまくって買ったまではよかったが、老人の手元には何も残らなかったのだ。 インターネットでは「房奴」「車奴」など、「~奴」という言葉を見るようになった。住宅ローン、自動車ローン、カードローンを返せない個人が増えているのだ。中国人民銀行は2018年第3四半期末、クレジットカード支払いの不良債権(半年の遅延)額は880億元になったと発表した。2011年同期の106億元と比べると8倍以上の増加だ。 高額な負債を負った生活者は急増する中、中国では今、「個人破産制度を設けよ」という声が高まっている』、個人破産制度がないということは、返済できない個人はどうなってしまうのだろう。
・『改革開放のシンボル民営企業も八方ふさがり  中央政府は今、民営企業の救済と金融破綻の回避に必死だ。中国では企業の倒産が増えている。 中国の改革開放のシンボルとしての役割を背負った民営企業。その数は2017年末までに2726万社に増えた。これに「個体戸」と呼ばれる自営業を加えると、実に中国企業の95%が私企業で成り立っている計算になる。しかしこれら民営企業の多くは、経営コスト増、資金調達難、構造転換の困難という三重苦で経営難に直面している。 筆者は中国で、ある民営企業経営者と面会した。中国の民営企業トップ500の上位にランキングする、中国では有名なアパレル企業の経営陣である。 仮に彼を陳氏と呼ぶことにしよう。陳氏一族は浙江省温州市で、それぞれ工程ごとに独立したグループ会社を経営する同族企業だ。1970年代生まれの陳氏は、製造販売に従事し、全国チェーンを発展させた。そのブランド名は中国人なら誰もが知るところだが、中国の経営環境に対する陳氏の見通しは悲観的だ。 「生存競争があまりに激しい。中国では今、年商1億元規模の企業がバタバタと倒産しています。その原因の1つは、一瞬で価格の比較ができるネット販売。消費者は同じものなら少しでも安いものを選ぶため、競争力のない多くのアパレル工場がつぶれてしまったのです」 同社製品は「タオバオ」でも販売し、大きな商機につながったという。しかし、同時にこれがデフレを招き、2005年前後に高額衣料品の値段はどんどん落ちていった。 一方で、陳氏は経営環境を悲観するもう1つの要因を「信用破綻」だと指摘する。 「温州ではもともと『民間借貸』(個人や企業間での融資)が発達しており、銀行からの借り入れなしに独自に資金調達ができましたが、これが2011年に破綻してしまったのです」 この信用破綻は連鎖を呼び、陳氏のビジネスも一気に暗転した。自社ブランドを持ち、店舗展開を一気に加速させようとした矢先、店舗開発は行き詰まり、数億円の資金を投じて大量生産した商品は瞬く間に在庫の山と化した。その痛手は8年を経た現在も癒えてはいないという。その理由を陳氏は次のように語っている。 「2011年までは中央政府も『民間借貸』を認めていました。商業銀行が中小の民営企業に貸したがらない環境の中で、『民間借貸』は唯一の血流だったのです。けれども2011年に不動産バブルが崩壊すると、住宅を担保に高利で借り入れていた経営者はもはや夜逃げするしかありませんでした」「この破綻の元凶を『民間借貸』にあるとした中央政府は、その後の金融改革の中で、『民間貸借』を規制し、銀行融資を奨励するようになりました。しかし表向きの政策とは違い、銀行は貸したがらない。結局、資金が行き渡らず、多くの企業が今なお厳しい状況に置かれているのです」』、金融面の傷は極めて深そうだ。
・『信用破綻の元凶は不動産バブル崩壊  温州といえば、陳氏のように商才ある経営者を数多く輩出し、民間経済が発達した土地柄だ。改革開放の初期、軽工業が盛んだった温州は“脱国有”のモデル都市として注目を集めた。先に富んだ温州人たちは2000年代に入ると一早く沿海部の不動産に手を出した。地元温州のみならず、上海を含む中国各地の住宅価格は、彼らの大胆なマネーゲームで“身の丈”をはるかに超えるバブルと化した。 身から出た錆とはこのことである。バブル化した不動産市場に浙江省政府が購入を制限する「限購」を発令すると、市場は一気に冷えた。2011年、温州市では事実上、不動産バブルが崩壊した。買い手を市場に参入させないことでバブル抑制を試みたまではよかったが、その「劇薬」が、不動産価格の予想外のハードランディングを招いてしまい、不動産を担保に資金繰りをつけていた温州経済を破綻させてしまったのである。 2014年、筆者は不動産価格が激しく暴落した温州市を訪れた。その温州で目の当たりにしたのは、3年を経てもなお高止まりしたまま売れ残るマンションと、膨大な借金を抱えたまま経営者が戻らない工場だった。不動産価格が高騰したといわれる中心部の宿から見えるのは、数えるほどしか灯りがつかない真っ暗な高級住宅街だった。 さらにそれから4年経った2018年、温州は2019年明けの税率引き上げを前に“駆け込み特需”で製造業が活気づいていた。だが、温州を頻繁に訪れる日本人ビジネスマンによれば「温州経済は今なお暗中模索だ」という。 「温州経済は立ち直たっとは言い難い。抵当に押さえられたままの不動産も少なくありません。主力のアパレルや日用品などの産業も縮小し、次の産業は育っていないのが現状です」』、「「劇薬」が、不動産価格の予想外のハードランディングを招いてしまい」というのは、日本のバブル潰しで、不動産融資の総量規制導入で、不動産市場の崩壊、金融機関の不良債権問題深刻化を招いたオーバーキル策と似ている。
・『突き抜けた民営企業は一握り  日本でもその名をよく聞くアリババやテンセント、OPPOやシャオミなども民営企業だが、こうした“突き抜けた企業”は、実はほんの一握りだ。他方、シェアサイクルでも民営企業が大きなリードを見せたが、3年を経ずして参入企業の多くが消えた。「多産多死」で強者を生み出すのが中国流ともいえるが、上海在住の一部の消費者は「決断は大胆だが経営は問題が多い」と不安を隠さない。ちなみにシェアサイクルのofoは昨年日本から撤退したが、「その後日本支社と連絡がつかなくなった」と協力した自治体を困惑させている。 そんな民営企業に特効薬はないと踏んだのか、昨年、「私営経済退場論」「新公私合営論」といった論文が相次いで発表された。共産党の支配が強まる近年、これらは「中国を再び公有経済に戻すのか」という不安すら煽った。 民営企業は結局のところシャドーバンクから資金調達するしかなく、またしても借りた金の不良債権化が問題になっている。中国の有力経済紙「21世紀経済報道」は、「ここ数年の借り入れが返済期を迎えるが、返済できない企業は多い」、「違約に陥る民営企業が信用破綻を生んでいる」と報じる。 振り返れば2011年、中国のメディアはこぞって温州企業のこげつきと経営者の夜逃げを取り上げた。あれから8年を経た今、上海で感じるのは当時の“温州クラッシュ”の再現だ。 「政府がコントロールできる限りにおいてバブル崩壊はない」とする強気の中国だが、果たして市場は有効に制御されているといえるのだろうか。あるいは温州のバブル崩壊の検証を十分に行ったといえるのだろうか。もしかすると中国経済は今まさに、暗くて長いトンネルの入り口に立たされているのかもしれない』、不良債権といっても、その定義が緩く、処理も先送りが認められていれば、マイナス効果は裏で累積されるだけで、表に出てこない状態なのだろう。しかし、そうした危険な状態はやがて崩壊せざるを得ないが、現政権は先送りを優先するのだろう。
タグ:中国経済は今まさに、暗くて長いトンネルの入り口に立たされているのかもしれない 中国経済 「中国経済「崩壊」の始まりを感じさせるこれだけの理由」 今年上半期、中国の経常収支が赤字に転落 ダイヤモンド・オンライン 倒産500万件、失業200万人か 東京のマンション投資、地方の観光地にも影響 「鄧小平路線に戻すべき」との声も 日経ビジネスオンライン 突き抜けた民営企業は一握り 信用破綻の元凶は不動産バブル崩壊 実態と乖離した不動産価格の裏側 中国政府が旅行収支赤字を縮小しようとする可能性 「追いつめられた中国経済、2019年の動向を占う 習近平重要講話と中央経済工作会議から読み解く」 (その4)(中国が経常赤字に転落 日本への影響は 「爆買い」の減少に警戒必要、追いつめられた中国経済 2019年の動向を占う 習近平重要講話と中央経済工作会議から読み解く、中国経済「崩壊」の始まりを感じさせるこれだけの理由) 「中国が経常赤字に転落、日本への影響は 「爆買い」の減少に警戒必要」 「旗印を安易に挿げ替えた邪道」とは 姫田小夏 米中貿易戦争が再燃したら 福島 香織 18年1~3月期、17年ぶりの経常赤字に 小宮 一慶 改革開放のシンボル民営企業も八方ふさがり
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