中国国内政治(その14)(戦争したくて仕方ない軍部と 共産党幹部の離反...習近平に迫る「権力闘争」の時、習近平と李克強の戦いはずるずる続くのか? どうなる秋の中国共産党大会 鄧小平路線と毛沢東路線 決着がつかない中国のたどる道) [世界情勢]
中国国内政治については、2月18日に取上げた。今日は、(その14)(戦争したくて仕方ない軍部と 共産党幹部の離反...習近平に迫る「権力闘争」の時、習近平と李克強の戦いはずるずる続くのか? どうなる秋の中国共産党大会 鄧小平路線と毛沢東路線 決着がつかない中国のたどる道)である。
先ずは、3月17日付けNewsweek日本版が掲載した在米ジャーナリストのゴードン・チャン氏による「戦争したくて仕方ない軍部と、共産党幹部の離反...習近平に迫る「権力闘争」の時」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/03/post-98308_1.php
・『<冬季オリンピックをどうにか終えて、異例の「3期目」党総書記を狙う習近平が直面する党上層部と軍の批判派、そして莫大な債務の山という時限爆弾> 中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、オリンピックによってトップの座に上り詰めたと言っても過言ではない。そして今、オリンピックによって、その座を失う可能性がある。 2008年夏に北京夏季五輪が開催されたとき、習は党幹部として実務面の責任を担った。中国でのオリンピック初開催となったこの大会は経済成長を遂げた中国を世界にお披露目する機会にもなり、人々の愛国心と自尊心を大いに高めた。その成功をバネに、習は2012年秋の中国共産党第18回党大会で党総書記(国家主席)の座へと駆け上がった。 今年の冬、習は再びオリンピック開催を仕切った。華やかな開会式を見守りながら、多くの専門家は、14年前と比べて中国政府が著しく強権的になったことを指摘した。だが、実のところ現体制の基盤は2008年よりもはるかに脆弱になっている。 習自身も、党内からの激しい突き上げに遭っている。今秋開催予定の第20回党大会で、党総書記として前代未聞の3期目に突入する計画も必ずしも盤石ではない。冬季五輪の失敗が許されないのはもちろん、スキャンダルもテロもウイグル問題への抗議行動も起こさせず、何より「ゼロコロナ」戦略を成功させなければならない』、「多くの専門家は、14年前と比べて中国政府が著しく強権的になったことを指摘した。だが、実のところ現体制の基盤は2008年よりもはるかに脆弱になっている。 習自身も、党内からの激しい突き上げに遭っている」、「著しく強権的になった」が、「現体制の基盤は2008年よりもはるかに脆弱になっている」、どういうことだろうか。
・『集団指導体制を廃止したツケ だからだろう。習は準備段階から細かなことにまで目を配ってきた。「オリンピックの準備作業は習の統治スタイルそのものだ」と、ニューヨーク・タイムズ紙は報じた。「選手村の配置からスキーやスキーウエアのブランドまで、あらゆる決定の中心に習がいた」。建設中のオリンピック関連施設を視察に訪れ、現場監督に指示を与えることもあった。 何か間違いがあれば、自分が責任を問われる状況をつくったのは習自身だ。習が党総書記に就任するときまで、中国共産党は集団指導体制を堅持していた。建国初期に権力者の暴走を許したことへの反省から、重要な決定は最高指導部のコンセンサスを図った上で下される仕組みが確立され、特定の物事について党総書記個人が称賛されることもなければ、非難されることもなかった。 習はこの集団指導体制を廃止して、トップダウン式の意思決定システムをつくり出すとともに、「反腐敗運動」の名の下に政敵を次々と粛清した。それは習の権力基盤を強化すると同時に、権力闘争に敗北したときの政治的コストを大きくした。) 実際、習の弱肉強食のメンタリティーは多くの党員を震え上がらせた。そして習は「もしその時が来たら、去るべき人物」と彼らに見なされるようになった。絶対的服従を求める習の統治スタイルは、中国の台頭が好調な間は機能した。だが今、長年放置した問題が無視できないものとなり、習の立場を脆弱にしている。 中国が抱える最大の問題は、巨額の債務だ。経営危機に陥った中国恒大集団など、複数の大手不動産デベロッパーは昨年9月以降、相次ぎ債務返済に窮してきた。政府も、とりわけ2008年のリーマン・ショック後に打ち出した大型景気対策のツケに苦しんでいる。中国が抱える債務はGDP比350%との推測もあり、もはや小手先の対策では危機は回避できなくなっている。 その一方で、実体経済は停滞している。食料不足も深刻で、資源は枯渇し、新型コロナウイルス感染症の拡大を加速させる一因となった。さらに中国の人口動態は持続不可能なトレンドをたどっている。西安交通大学の研究チームが昨秋発表した予測では、中国の人口は45年後に現在の半分になる可能性があるという』、「習が党総書記に就任するときまで、中国共産党は集団指導体制を堅持していた。建国初期に権力者の暴走を許したことへの反省から、重要な決定は最高指導部のコンセンサスを図った上で下される仕組みが確立され、特定の物事について党総書記個人が称賛されることもなければ、非難されることもなかった。 習はこの集団指導体制を廃止して、トップダウン式の意思決定システムをつくり出すとともに、「反腐敗運動」の名の下に政敵を次々と粛清した。それは習の権力基盤を強化すると同時に、権力闘争に敗北したときの政治的コストを大きくした」、自ら蒔いたタネだ。
・『露呈する内紛と、公然と表明される異論 習の強権的な統治スタイルを考えれば、指導部内に不和が生じている明らかな兆候があっても驚きではない。いい例が、共産党の汚職摘発を主導する中央規律検査委員会の機関紙、中国紀検監察報が昨年12月号に掲載した記事だ。 「党中央に反する意見を公然と表明する独善的な幹部がいる」と、同記事は述べている。党中央とは一般的に、習その人を指す用語だ。一部の幹部は「党中央の決定や政策を拒否し、ゆがめ」ており「大それた野心の下で公然と、またはひそかに党中央に背く者もいる」という。 政府のプロパガンダ機関が国家指導者へのあからさまな反抗を報じるのだから、内紛がよほど激烈になっているのは間違いない。 この数週間、中国では複数の高官が習と一致しない見解を公表している。国政助言機関、中国人民政治協商会議の賈慶国(チア・チンクオ)常務委員は、過剰な費用を投じて安全保障を追求する姿勢に警告を発した。これは明らかに、習の路線に対する批判だ。 昨年12月には、共産党機関紙の人民日報が経済改革の特集記事を掲載したが、習には全く触れていなかった。英文メディアの日経アジアが指摘するように「中国の主要紙が習を無視するなら、全ては未知数」だ。 こうした不和への反応として、習は軍の支持獲得に力を入れている。共産主義青年団(共青団)とつながっていた前任者の胡錦濤(フー・チンタオ)、胡の前任者で「上海閥」に支えられた江沢民(チアン・ツォーミン)と異なり、国家主席就任以前の習は党内のいずれの派閥とも密接に結び付く存在ではなかった。 だからこそ、どの派閥からも許容され得る人物として、習は国家主席に選ばれた。だがトップに上り詰めると、権力掌握と効果的な支配には支持基盤が不可欠だと判断し、政治的支援の中核として特定の将軍や司令長官に目を向けるようになった。 今や習の派閥は軍だ。将官クラスの「腐敗分子」処分や人民解放軍の全面的再編を通じて、習は軍を手中に収めたと広く見なされている。 とはいえ、軍が習を手中にしている可能性もある。共産党内で最も統制の取れた派閥である軍が習の行動を指示しているか、軍には望みどおりにさせなければならないと、習は承知しているのではないか』、「国家主席就任以前の習は党内のいずれの派閥とも密接に結び付く存在ではなかった。 だからこそ、どの派閥からも許容され得る人物として、習は国家主席に選ばれた。だがトップに上り詰めると、権力掌握と効果的な支配には支持基盤が不可欠だと判断し、政治的支援の中核として特定の将軍や司令長官に目を向けるようになった。 今や習の派閥は軍だ」、「軍が習を手中にしている可能性もある」、「習の派閥は軍」とは危険な気がする。
・『政治体制内で最も好戦的な集団が得た力 いずれにしても、この力学は危険だ。急速な影響力拡大を受けて、人民解放軍には、より多くの国家資源が割かれている。制服組が多くを占める強硬派が政府の方針を決定していると見受けられ、彼らの「軍事外交」が外交政策になっている。 軍トップの一部は戦いたくてうずうずしており、中国の文民統制はごく緩やかなものでしかない。その結果、軍部が台頭した1930年代の日本と似た不穏な事態が起きている。習が力を与えているのは、中国の政治体制内で最も好戦的な集団だ。 オリンピック・パラリンピックが終わったら中国で何が起きるのか。オーストラリアの元外交官で中国専門家のロジャー・アーレンが言う「際限のない無意味な権力闘争」を、共産党幹部が再開するのは確実だ。 だが今度ばかりは、少なくとも中国の最高指導者にとって、党内争いが重要な結果を伴うことはほぼ間違いない。習が国家主席の座にとどまれば、共産党は事実上、制度として成り立たなくなる。 毛沢東時代の絶対的権力の恐怖を経験した共産党は80年代以降、指導者を制約する規定や慣行の確立に動いてきた。だが毛の強権的システムへの回帰こそ、習が望むものだ。 そんな習の運命は、今秋の党大会で決まる。2018年の憲法改正で国家主席の任期制限が撤廃され、「終身国家主席」も夢ではなくなったが、中国で真の権力を握り続けるためには、共産党総書記の座を維持できなければ意味がない。そして習がその座を維持するためには、冬季オリンピックの成功が不可欠だった。 そのために中国は、世界一厳しいゼロコロナ政策を実施してきた。だが、それでもデルタ株とオミクロン株の感染拡大は封じ込められなかったし、ゼロコロナ政策は中国社会に計り知れないダメージを与えるとともに、経済成長も減速させてきた。さらに、妥協のない防疫措置は、中国が全体主義の国であることを世界中に印象付けることにもなった。 「中国共産党の絶対的指導者である習は、オリンピックで壮大なスペクタクルを見せつければ、自分の体制の正当性を国内外にアピールして名声を獲得できると思ったのだろう」と、マクドナルド・ローリエ研究所(カナダ)のチャールズ・バートン上級研究員は言う。「ところが逆に、国民を隅々まで監視する異常な体制や、人道に反する罪、そして新型コロナのパンデミックを引き起こした責任といった中国の暗い側面に世界の注目を集めることになった」』、「冬季オリンピック」は「国民を隅々まで監視する異常な体制や、人道に反する罪、そして新型コロナのパンデミックを引き起こした責任といった中国の暗い側面に世界の注目を集めることになった」、皮肉な結果だ。
・『五輪で世界の人々が体感した中国の闇 冬季オリンピックは、世界中から集まった競技関係者やジャーナリストが中国のシステムを「体感」する機会にもなったと、バートンは指摘する。ウイグル人やチベット人などの人種的・宗教的マイノリティーに対する虐殺や長期収容、拷問、レイプ、奴隷化、臓器摘出といった残虐行為は話題にさえできない。 だが、こうしたおぞましい行為は、中国共産党の本質であり、今後大衆の目から隠し続けるのは難しくなるだろう。過去3回オリンピックに出場している中国のプロテニス選手の彭帥(ポン・シュアイ)が、昨年11月に前政治局常務委員・副首相をレイプで告発して以来、沈黙を強いられていることに世界の注目が集まったのは、オリンピック開催国だったからでもある。 習は批判の声には直接応えないし、自分に都合のいい現実をつくり出すのがうまい。だが、今後はそのやり方や体制に疑問を投げ掛けるのは、反体制派だけではない。批判の一部は、チャンスをずっとうかがってきた党内上層部から出てくる可能性もある。習は、党と軍の敵対派閥に対する粛清を強化してきたが、敵対派閥もオリンピックで習を粛清する理由を見つけたかもしれない。 3月13日のパラリンピック閉会式をもって「オリンピック期間中の停戦」も終わり、中国政治はますます不穏な時期に突入した。秦剛(チン・カン)駐米大使は今年1月、米メディアのインタビューでアメリカとの「軍事衝突」の可能性を口にした。 冬季オリンピックの評価次第では、習は国内の批判派や政敵を黙らせるために、台湾か近隣諸国に対して何らかの攻撃的措置を取る恐れもある。逆に、オリンピックが成功と評価されたとしても、習はそれに勢いづいて大胆な行動に出る恐れがある。 習が権力を維持するために、決定的な勝利を必要としているのは明らかだ。かねてから、自分には中国だけでなく世界を統治する権利と義務があると主張してきたし、中国は領土獲得を永遠に延期することはできないとも言ってきた。台湾併合によってトップとしての自らの正当性を証明したがっているとも言われる。 昨年7月の中国共産党創立100年の大演説で習は、中国の行く手を阻む者は「打ちのめされる」とし、「中国人民は古い世界を打ち破るだけでなく、新しい世界を建設することにも優れている」と語った。 オリンピックは終わったが、本当の競争は始まったばかりだ』、「冬季オリンピックの評価次第では、習は国内の批判派や政敵を黙らせるために、台湾か近隣諸国に対して何らかの攻撃的措置を取る恐れもある。逆に、オリンピックが成功と評価されたとしても、習はそれに勢いづいて大胆な行動に出る恐れがある」、「台湾併合によってトップとしての自らの正当性を証明したがっているとも言われる」、「中国の行く手を阻む者は「打ちのめされる」とし、「中国人民は古い世界を打ち破るだけでなく、新しい世界を建設することにも優れている」、こうした思い上がった考え方をトップがしているとは、恐ろしい国だ。
次に、9月1日付けJBPressが掲載したジャーナリストの福島 香織氏による「習近平と李克強の戦いはずるずる続くのか? どうなる秋の中国共産党大会 鄧小平路線と毛沢東路線、決着がつかない中国のたどる道」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71641
・『秋の中国共産党大会の日程が8月30日に発表された。七中全会(第7回中央委員会全体会議)が10月9日に始まり、党大会は10月16日から始まる。 思ったより早い開催となったのは、おそらく人事に大きな波乱の要素が今のところない、ということだろう。おそらく習近平の総書記任期継続となりそうだ。 ただ、5年、その権力を保てるかは別だ。周辺の状況をみるに、習近平が圧倒的な権力を掌握しての3期目続投ではなく、今の「習近平 vs.李克強」という党内に「2つの司令部」の権力闘争状況を含めた集団指導体制の継続ということではないだろうか。つまり、党大会で決着がつくと思われていた権力闘争が党大会では終わらず、継続するということだ。 台湾の親中紙の「聯合報」と「経済日報」が8月25日に、「『李上習不下』(李克強が総書記になり、習近平は国家主席と軍事委主席の職位を維持して、権力闘争が継続すること)が“確定”した」と党内筋の話として報じていたが、このニュースはすぐに削除された。可能性としてはこういう形もゼロではないが、このような人事が実現するならば、もう少し周辺がざわつくのではないかと思われる。 では、どのような人事で、どのような路線が党大会後に展開されるのだろう。ちょっと気が早いが、今の段階でありえそうな想定を出してみよう』、興味深そうだ。
・『李克強と習近平がアピールする鄧小平路線と毛沢東路線 河北省で8月1日から15日まで行われた夏の非公式会議、北戴河会議では、習近平が外交、経済、新型コロナ政策、一帯一路などの失敗について、かなり厳しい批判の矢面に立ったとみられている。 内容ははっきりとはわかっていないが、明確にされたのは、8月16日に李克強が経済特区の深圳を視察し、同じ日に習近平が遼寧省錦州市の遼瀋戦役革命記念館を訪れたことだ。 深圳では李克強が鄧小平像に献花し、自ら鄧小平路線の継承者であることをアピールし、企業家や南東部沿海省市の経済官僚を集めて経済座談会も行った。 一方、遼瀋戦役、つまり国共内戦三大戦役の1つである1948年の遼瀋戦役の現場を視察した習近平は、毛沢東路線の継承者であることをアピールしたといえる。遼瀋戦役は毛沢東の戦争であり、国共内戦は今の台湾問題の根源となる戦争だったので、習近平としては、毛沢東の成しえなかった夢を受け継ぐ、つまり台湾を中華民国から「解放」し統一する、というシグナルを発したとみられている。 この北戴河会議直後、李克強と習近平が、それぞれ鄧小平路線と毛沢東路線の両極端をアピールした背景を想像力逞しくすると、北戴河会議で、習近平は様々な政策の失敗について批判を受け、少なくとも経済は李克強主導で鄧小平路線に回帰すべきだ、と迫られた。それに対して習近平が、台湾統一を実現してみせるからもう1期おれに任せろ、と反論したのではないか。武力で台湾統一が実現できるとは党内でもあまり信じられていないので、やれるもんならやってみろとばかりに、ある意味、匙を投げる形で、現状の権力闘争状態がなし崩し的に継続されることになったのかもしれない。 ただ、鄧小平路線と毛沢東路線は正反対の路線であり、共存できる可能性はない。鄧小平の改革開放路線は国際社会、特に西側先進国との融和外交による国内経済の振興であるが、毛沢東路線は、武力やそれを使った恫喝とイデオロギーコントロール強化による個人独裁、個人の権威強化であり、西側経済・外交から自らデカップリングしていく方向性だ。習近平の毛沢東回帰路線が続く限り、中国は外交的に孤立し、経済は急減速し、社会の不安定化と低迷が続くことになるだろう。) おそらくは李克強はそれに抵抗する形で、鄧小平的経済路線を進めようとするだろう。この路線闘争の勝敗の結果が、最終的に権力闘争の勝敗を決することになる』、「北戴河会議で、習近平は様々な政策の失敗について批判を受け、少なくとも経済は李克強主導で鄧小平路線に回帰すべきだ、と迫られた。それに対して習近平が、台湾統一を実現してみせるからもう1期おれに任せろ、と反論したのではないか。武力で台湾統一が実現できるとは党内でもあまり信じられていないので、やれるもんならやってみろとばかりに、ある意味、匙を投げる形で、現状の権力闘争状態がなし崩し的に継続されることになったのかもしれない」、あくまで筆者の福島氏の独断的な見方だ。「ただ、鄧小平路線と毛沢東路線は正反対の路線であり、共存できる可能性はない。鄧小平の改革開放路線は国際社会、特に西側先進国との融和外交による国内経済の振興であるが、毛沢東路線は、武力やそれを使った恫喝とイデオロギーコントロール強化による個人独裁、個人の権威強化であり、西側経済・外交から自らデカップリングしていく方向性だ。習近平の毛沢東回帰路線が続く限り、中国は外交的に孤立し、経済は急減速し、社会の不安定化と低迷が続くことになるだろう。 おそらくは李克強はそれに抵抗する形で、鄧小平的経済路線を進めようとするだろう。この路線闘争の勝敗の結果が、最終的に権力闘争の勝敗を決することになる」、「路線闘争」はさぞかし激しいいものになるだろう。
・『「劣化版」の戦いはずるずる続く では、最終的に習近平と李克強の路線闘争はどちらが勝つか。 次の党大会の指導部の陣容を想像すると、これまでの5年の間に、きちんと能力のある後継者を育成できなかった習近平の分が悪いのではないか、と思われる。 政治局常務委員7人のうち、習近平を除く68歳以上の老人が引退し、67歳以下が全員残るとすると、引退するのは72歳の栗戦書と68歳の韓正の2人。政治局常務委員の定員数が拡大されないなら、新たに昇進するのは2人で、常識的な予想であれば、現政治局委員で副首相を務める胡春華と丁薛祥の2人だろう。 胡春華は李克強、汪洋の両方から可愛がられている共青団派のエースであり、鄧小平路線の継承者だ。丁薛祥は習近平の秘書役をしてきた習近平の側近で、頭はいいが、党内で重視される、いわゆる行政実務経験が十分ではない。つまり総理や総書記が務まる器ではない。 そうすると、政治局常務委員7人は、習近平、李克強、汪洋、王滬寧、趙楽際、丁薛祥、胡春華となる。李克強派(鄧小平路線継承)が李克強、汪洋、趙楽際、胡春華の4人、習近平派が習近平、王滬寧、丁薛祥の3人で、李克強派が有利になる。 仮に汚職の噂が絶えない趙楽際が引退するとしてもう1人あがるとしたら、宣伝部長で習近平派の黄坤明の可能性があるが、丁薛祥にしても黄坤明にしても小粒感が否めない。また、そもそも王滬寧自身は、江沢民、胡錦涛、習近平という、派閥の色合いの違う3人の指導者とうまくやってきた玉虫色のキャラクターであり、単純に習近平派ともいえない。 政治局25人の面子を考えると、年齢的に11人が引退することになる。この引退者の中に劉鶴(副首相、習近平の経済ブレーン)、栗戦書(全人代常務委員長)、陳希(中央組織部長)が含まれる。この3人は習近平の側近の中で、比較的能力が高く、しかも習近平が心から信頼を置いている人物だ。この3人が政治局を引退することは習近平に大きな痛手となろう。 なぜなら、この3人を除けばその他の習近平派の政治局委員は「七人の小人」と呼ばれるほど小粒ぞろいで、しかも習近平の権力におもねって近寄ってくるに過ぎず、いまいち信用されていないからだ。具体的には蔡奇(北京市書記)、李強(上海市書記)、陳敏爾(重慶市書記)、李希(広東省書記)、丁薛祥(中央弁公庁主任)、黄坤明(中央宣伝部長)、李鴻忠(天津市書記)の7人である。この中で本来、政治局常務委員への出世が期待されていた蔡奇、李強、陳敏爾、李希は全員、新型コロナ対応や電力問題などで行政評価にミソがつき、その無能ぶりを露呈してしまった。彼らが政治局常務委員に出世できるとはちょっと考えにくい。 こうした状況で、権力闘争が継続することになっても、かつての「毛沢東 vs.鄧小平」のような、ダイナミックなものではなく、路線対立軸は同じでもその劣化版の戦いがずるずる続くと思われる。 すでに李克強は首相退任を発表しているので、考えられる職位は総書記か全人代常務委員長くらいだ。李克強は能力的に総書記も十分に務められるので、聯合報の特ダネのような「李克強総書記説」が流れるのだろう。ただ、李克強が総書記になってしまうと、総書記を引退した習近平が首相や全人代委員長など格下の職位に就くことは党内的にはありえないので、政治局常務委員7人では足りなくなる。 中国経済にとって重要なのは、誰が首相を務めるか、だ。能力的には汪洋も胡春華も可能だろう。汪洋が全人代委員長、胡春華が首相、あるいはその反対はあるかもしれない。少なくとも王滬寧や丁薛祥に首相は難しいだろう』、「首相」候補は「李克強派」が有力なようだ。
・『習近平が台湾統一を試みる可能性 こういう状況なので、党大会のあとに展開する中国の状況としては、現在の路線矛盾を抱えながら、外交の孤立化、経済の停滞、社会の混乱が長期化するだろうとの予測が出ている。 つまりは、習近平総書記のまま行き詰まるところまで行き詰まってしまい、その責任を取る形で習近平が総書記を引退する。それが次の党大会の5年後なのかあるいはもう少し早い3年くらい後なのかは分からない。 要するに習近平には毛沢東ほどカリスマ性はなく、李克強には鄧小平ほどの実力はないので、お互いにどちらかを失脚に追い込めるほどの力がない。なので、対立しながら相手の自滅を待つしかないのだ。 そこで一番簡単な予想としては、中国の状況は、5年前後の長い経済・社会停滞期を経験して、社会の不満が習近平政権に向かい、共産党のレジティマシー自体が揺らぐような事態になって初めて習近平が責任を取る形で引退して、新たな集団指導体制で米国はじめ西側社会との外交・経済関係修復をはかる、というパターンか。 だが、習近平が本当に常人に理解しがたいほどの権力欲の塊であったなら、本当に武力による台湾統一を試みようとする可能性はゼロではないだろう。台湾ではロシア・ウクライナ戦争後、防衛費増強と徴兵制延長の問題がかなりホットな話題として議論されているが 8月上旬、ペロシ米下院議長の訪台後に行われた中華民意研究協会の世論調査では、74.7%が徴兵制を現在の4カ月から1年に延長することに賛成している。 知り合いの台湾メディア記者は、「5年以内に台湾海峡危機はありうる。台湾の防衛能力を強化すればするほど、その危機を遠ざけることができると思う」と話していた。 党大会まであと1カ月半、今後どのような変化があるかまだ分からないが、なかなか厳しく不穏な時代が始まろうとしているといえよう』、「習近平には毛沢東ほどカリスマ性はなく、李克強には鄧小平ほどの実力はないので、お互いにどちらかを失脚に追い込めるほどの力がない。なので、対立しながら相手の自滅を待つしかないのだ。 そこで一番簡単な予想としては、中国の状況は、5年前後の長い経済・社会停滞期を経験して、社会の不満が習近平政権に向かい、共産党のレジティマシー自体が揺らぐような事態になって初めて習近平が責任を取る形で引退して、新たな集団指導体制で米国はじめ西側社会との外交・経済関係修復をはかる、というパターンか」、「習近平が本当に常人に理解しがたいほどの権力欲の塊であったなら、本当に武力による台湾統一を試みようとする可能性はゼロではないだろう」、「武力による台湾統一」は起きてほしくないシナリオだ。いずれにせよ中国経済の不振は続き、雇用をめぐる社会不安が高まりそうだ。大混乱に堕ち入らないことを願うばかりだ。
先ずは、3月17日付けNewsweek日本版が掲載した在米ジャーナリストのゴードン・チャン氏による「戦争したくて仕方ない軍部と、共産党幹部の離反...習近平に迫る「権力闘争」の時」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/03/post-98308_1.php
・『<冬季オリンピックをどうにか終えて、異例の「3期目」党総書記を狙う習近平が直面する党上層部と軍の批判派、そして莫大な債務の山という時限爆弾> 中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は、オリンピックによってトップの座に上り詰めたと言っても過言ではない。そして今、オリンピックによって、その座を失う可能性がある。 2008年夏に北京夏季五輪が開催されたとき、習は党幹部として実務面の責任を担った。中国でのオリンピック初開催となったこの大会は経済成長を遂げた中国を世界にお披露目する機会にもなり、人々の愛国心と自尊心を大いに高めた。その成功をバネに、習は2012年秋の中国共産党第18回党大会で党総書記(国家主席)の座へと駆け上がった。 今年の冬、習は再びオリンピック開催を仕切った。華やかな開会式を見守りながら、多くの専門家は、14年前と比べて中国政府が著しく強権的になったことを指摘した。だが、実のところ現体制の基盤は2008年よりもはるかに脆弱になっている。 習自身も、党内からの激しい突き上げに遭っている。今秋開催予定の第20回党大会で、党総書記として前代未聞の3期目に突入する計画も必ずしも盤石ではない。冬季五輪の失敗が許されないのはもちろん、スキャンダルもテロもウイグル問題への抗議行動も起こさせず、何より「ゼロコロナ」戦略を成功させなければならない』、「多くの専門家は、14年前と比べて中国政府が著しく強権的になったことを指摘した。だが、実のところ現体制の基盤は2008年よりもはるかに脆弱になっている。 習自身も、党内からの激しい突き上げに遭っている」、「著しく強権的になった」が、「現体制の基盤は2008年よりもはるかに脆弱になっている」、どういうことだろうか。
・『集団指導体制を廃止したツケ だからだろう。習は準備段階から細かなことにまで目を配ってきた。「オリンピックの準備作業は習の統治スタイルそのものだ」と、ニューヨーク・タイムズ紙は報じた。「選手村の配置からスキーやスキーウエアのブランドまで、あらゆる決定の中心に習がいた」。建設中のオリンピック関連施設を視察に訪れ、現場監督に指示を与えることもあった。 何か間違いがあれば、自分が責任を問われる状況をつくったのは習自身だ。習が党総書記に就任するときまで、中国共産党は集団指導体制を堅持していた。建国初期に権力者の暴走を許したことへの反省から、重要な決定は最高指導部のコンセンサスを図った上で下される仕組みが確立され、特定の物事について党総書記個人が称賛されることもなければ、非難されることもなかった。 習はこの集団指導体制を廃止して、トップダウン式の意思決定システムをつくり出すとともに、「反腐敗運動」の名の下に政敵を次々と粛清した。それは習の権力基盤を強化すると同時に、権力闘争に敗北したときの政治的コストを大きくした。) 実際、習の弱肉強食のメンタリティーは多くの党員を震え上がらせた。そして習は「もしその時が来たら、去るべき人物」と彼らに見なされるようになった。絶対的服従を求める習の統治スタイルは、中国の台頭が好調な間は機能した。だが今、長年放置した問題が無視できないものとなり、習の立場を脆弱にしている。 中国が抱える最大の問題は、巨額の債務だ。経営危機に陥った中国恒大集団など、複数の大手不動産デベロッパーは昨年9月以降、相次ぎ債務返済に窮してきた。政府も、とりわけ2008年のリーマン・ショック後に打ち出した大型景気対策のツケに苦しんでいる。中国が抱える債務はGDP比350%との推測もあり、もはや小手先の対策では危機は回避できなくなっている。 その一方で、実体経済は停滞している。食料不足も深刻で、資源は枯渇し、新型コロナウイルス感染症の拡大を加速させる一因となった。さらに中国の人口動態は持続不可能なトレンドをたどっている。西安交通大学の研究チームが昨秋発表した予測では、中国の人口は45年後に現在の半分になる可能性があるという』、「習が党総書記に就任するときまで、中国共産党は集団指導体制を堅持していた。建国初期に権力者の暴走を許したことへの反省から、重要な決定は最高指導部のコンセンサスを図った上で下される仕組みが確立され、特定の物事について党総書記個人が称賛されることもなければ、非難されることもなかった。 習はこの集団指導体制を廃止して、トップダウン式の意思決定システムをつくり出すとともに、「反腐敗運動」の名の下に政敵を次々と粛清した。それは習の権力基盤を強化すると同時に、権力闘争に敗北したときの政治的コストを大きくした」、自ら蒔いたタネだ。
・『露呈する内紛と、公然と表明される異論 習の強権的な統治スタイルを考えれば、指導部内に不和が生じている明らかな兆候があっても驚きではない。いい例が、共産党の汚職摘発を主導する中央規律検査委員会の機関紙、中国紀検監察報が昨年12月号に掲載した記事だ。 「党中央に反する意見を公然と表明する独善的な幹部がいる」と、同記事は述べている。党中央とは一般的に、習その人を指す用語だ。一部の幹部は「党中央の決定や政策を拒否し、ゆがめ」ており「大それた野心の下で公然と、またはひそかに党中央に背く者もいる」という。 政府のプロパガンダ機関が国家指導者へのあからさまな反抗を報じるのだから、内紛がよほど激烈になっているのは間違いない。 この数週間、中国では複数の高官が習と一致しない見解を公表している。国政助言機関、中国人民政治協商会議の賈慶国(チア・チンクオ)常務委員は、過剰な費用を投じて安全保障を追求する姿勢に警告を発した。これは明らかに、習の路線に対する批判だ。 昨年12月には、共産党機関紙の人民日報が経済改革の特集記事を掲載したが、習には全く触れていなかった。英文メディアの日経アジアが指摘するように「中国の主要紙が習を無視するなら、全ては未知数」だ。 こうした不和への反応として、習は軍の支持獲得に力を入れている。共産主義青年団(共青団)とつながっていた前任者の胡錦濤(フー・チンタオ)、胡の前任者で「上海閥」に支えられた江沢民(チアン・ツォーミン)と異なり、国家主席就任以前の習は党内のいずれの派閥とも密接に結び付く存在ではなかった。 だからこそ、どの派閥からも許容され得る人物として、習は国家主席に選ばれた。だがトップに上り詰めると、権力掌握と効果的な支配には支持基盤が不可欠だと判断し、政治的支援の中核として特定の将軍や司令長官に目を向けるようになった。 今や習の派閥は軍だ。将官クラスの「腐敗分子」処分や人民解放軍の全面的再編を通じて、習は軍を手中に収めたと広く見なされている。 とはいえ、軍が習を手中にしている可能性もある。共産党内で最も統制の取れた派閥である軍が習の行動を指示しているか、軍には望みどおりにさせなければならないと、習は承知しているのではないか』、「国家主席就任以前の習は党内のいずれの派閥とも密接に結び付く存在ではなかった。 だからこそ、どの派閥からも許容され得る人物として、習は国家主席に選ばれた。だがトップに上り詰めると、権力掌握と効果的な支配には支持基盤が不可欠だと判断し、政治的支援の中核として特定の将軍や司令長官に目を向けるようになった。 今や習の派閥は軍だ」、「軍が習を手中にしている可能性もある」、「習の派閥は軍」とは危険な気がする。
・『政治体制内で最も好戦的な集団が得た力 いずれにしても、この力学は危険だ。急速な影響力拡大を受けて、人民解放軍には、より多くの国家資源が割かれている。制服組が多くを占める強硬派が政府の方針を決定していると見受けられ、彼らの「軍事外交」が外交政策になっている。 軍トップの一部は戦いたくてうずうずしており、中国の文民統制はごく緩やかなものでしかない。その結果、軍部が台頭した1930年代の日本と似た不穏な事態が起きている。習が力を与えているのは、中国の政治体制内で最も好戦的な集団だ。 オリンピック・パラリンピックが終わったら中国で何が起きるのか。オーストラリアの元外交官で中国専門家のロジャー・アーレンが言う「際限のない無意味な権力闘争」を、共産党幹部が再開するのは確実だ。 だが今度ばかりは、少なくとも中国の最高指導者にとって、党内争いが重要な結果を伴うことはほぼ間違いない。習が国家主席の座にとどまれば、共産党は事実上、制度として成り立たなくなる。 毛沢東時代の絶対的権力の恐怖を経験した共産党は80年代以降、指導者を制約する規定や慣行の確立に動いてきた。だが毛の強権的システムへの回帰こそ、習が望むものだ。 そんな習の運命は、今秋の党大会で決まる。2018年の憲法改正で国家主席の任期制限が撤廃され、「終身国家主席」も夢ではなくなったが、中国で真の権力を握り続けるためには、共産党総書記の座を維持できなければ意味がない。そして習がその座を維持するためには、冬季オリンピックの成功が不可欠だった。 そのために中国は、世界一厳しいゼロコロナ政策を実施してきた。だが、それでもデルタ株とオミクロン株の感染拡大は封じ込められなかったし、ゼロコロナ政策は中国社会に計り知れないダメージを与えるとともに、経済成長も減速させてきた。さらに、妥協のない防疫措置は、中国が全体主義の国であることを世界中に印象付けることにもなった。 「中国共産党の絶対的指導者である習は、オリンピックで壮大なスペクタクルを見せつければ、自分の体制の正当性を国内外にアピールして名声を獲得できると思ったのだろう」と、マクドナルド・ローリエ研究所(カナダ)のチャールズ・バートン上級研究員は言う。「ところが逆に、国民を隅々まで監視する異常な体制や、人道に反する罪、そして新型コロナのパンデミックを引き起こした責任といった中国の暗い側面に世界の注目を集めることになった」』、「冬季オリンピック」は「国民を隅々まで監視する異常な体制や、人道に反する罪、そして新型コロナのパンデミックを引き起こした責任といった中国の暗い側面に世界の注目を集めることになった」、皮肉な結果だ。
・『五輪で世界の人々が体感した中国の闇 冬季オリンピックは、世界中から集まった競技関係者やジャーナリストが中国のシステムを「体感」する機会にもなったと、バートンは指摘する。ウイグル人やチベット人などの人種的・宗教的マイノリティーに対する虐殺や長期収容、拷問、レイプ、奴隷化、臓器摘出といった残虐行為は話題にさえできない。 だが、こうしたおぞましい行為は、中国共産党の本質であり、今後大衆の目から隠し続けるのは難しくなるだろう。過去3回オリンピックに出場している中国のプロテニス選手の彭帥(ポン・シュアイ)が、昨年11月に前政治局常務委員・副首相をレイプで告発して以来、沈黙を強いられていることに世界の注目が集まったのは、オリンピック開催国だったからでもある。 習は批判の声には直接応えないし、自分に都合のいい現実をつくり出すのがうまい。だが、今後はそのやり方や体制に疑問を投げ掛けるのは、反体制派だけではない。批判の一部は、チャンスをずっとうかがってきた党内上層部から出てくる可能性もある。習は、党と軍の敵対派閥に対する粛清を強化してきたが、敵対派閥もオリンピックで習を粛清する理由を見つけたかもしれない。 3月13日のパラリンピック閉会式をもって「オリンピック期間中の停戦」も終わり、中国政治はますます不穏な時期に突入した。秦剛(チン・カン)駐米大使は今年1月、米メディアのインタビューでアメリカとの「軍事衝突」の可能性を口にした。 冬季オリンピックの評価次第では、習は国内の批判派や政敵を黙らせるために、台湾か近隣諸国に対して何らかの攻撃的措置を取る恐れもある。逆に、オリンピックが成功と評価されたとしても、習はそれに勢いづいて大胆な行動に出る恐れがある。 習が権力を維持するために、決定的な勝利を必要としているのは明らかだ。かねてから、自分には中国だけでなく世界を統治する権利と義務があると主張してきたし、中国は領土獲得を永遠に延期することはできないとも言ってきた。台湾併合によってトップとしての自らの正当性を証明したがっているとも言われる。 昨年7月の中国共産党創立100年の大演説で習は、中国の行く手を阻む者は「打ちのめされる」とし、「中国人民は古い世界を打ち破るだけでなく、新しい世界を建設することにも優れている」と語った。 オリンピックは終わったが、本当の競争は始まったばかりだ』、「冬季オリンピックの評価次第では、習は国内の批判派や政敵を黙らせるために、台湾か近隣諸国に対して何らかの攻撃的措置を取る恐れもある。逆に、オリンピックが成功と評価されたとしても、習はそれに勢いづいて大胆な行動に出る恐れがある」、「台湾併合によってトップとしての自らの正当性を証明したがっているとも言われる」、「中国の行く手を阻む者は「打ちのめされる」とし、「中国人民は古い世界を打ち破るだけでなく、新しい世界を建設することにも優れている」、こうした思い上がった考え方をトップがしているとは、恐ろしい国だ。
次に、9月1日付けJBPressが掲載したジャーナリストの福島 香織氏による「習近平と李克強の戦いはずるずる続くのか? どうなる秋の中国共産党大会 鄧小平路線と毛沢東路線、決着がつかない中国のたどる道」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/71641
・『秋の中国共産党大会の日程が8月30日に発表された。七中全会(第7回中央委員会全体会議)が10月9日に始まり、党大会は10月16日から始まる。 思ったより早い開催となったのは、おそらく人事に大きな波乱の要素が今のところない、ということだろう。おそらく習近平の総書記任期継続となりそうだ。 ただ、5年、その権力を保てるかは別だ。周辺の状況をみるに、習近平が圧倒的な権力を掌握しての3期目続投ではなく、今の「習近平 vs.李克強」という党内に「2つの司令部」の権力闘争状況を含めた集団指導体制の継続ということではないだろうか。つまり、党大会で決着がつくと思われていた権力闘争が党大会では終わらず、継続するということだ。 台湾の親中紙の「聯合報」と「経済日報」が8月25日に、「『李上習不下』(李克強が総書記になり、習近平は国家主席と軍事委主席の職位を維持して、権力闘争が継続すること)が“確定”した」と党内筋の話として報じていたが、このニュースはすぐに削除された。可能性としてはこういう形もゼロではないが、このような人事が実現するならば、もう少し周辺がざわつくのではないかと思われる。 では、どのような人事で、どのような路線が党大会後に展開されるのだろう。ちょっと気が早いが、今の段階でありえそうな想定を出してみよう』、興味深そうだ。
・『李克強と習近平がアピールする鄧小平路線と毛沢東路線 河北省で8月1日から15日まで行われた夏の非公式会議、北戴河会議では、習近平が外交、経済、新型コロナ政策、一帯一路などの失敗について、かなり厳しい批判の矢面に立ったとみられている。 内容ははっきりとはわかっていないが、明確にされたのは、8月16日に李克強が経済特区の深圳を視察し、同じ日に習近平が遼寧省錦州市の遼瀋戦役革命記念館を訪れたことだ。 深圳では李克強が鄧小平像に献花し、自ら鄧小平路線の継承者であることをアピールし、企業家や南東部沿海省市の経済官僚を集めて経済座談会も行った。 一方、遼瀋戦役、つまり国共内戦三大戦役の1つである1948年の遼瀋戦役の現場を視察した習近平は、毛沢東路線の継承者であることをアピールしたといえる。遼瀋戦役は毛沢東の戦争であり、国共内戦は今の台湾問題の根源となる戦争だったので、習近平としては、毛沢東の成しえなかった夢を受け継ぐ、つまり台湾を中華民国から「解放」し統一する、というシグナルを発したとみられている。 この北戴河会議直後、李克強と習近平が、それぞれ鄧小平路線と毛沢東路線の両極端をアピールした背景を想像力逞しくすると、北戴河会議で、習近平は様々な政策の失敗について批判を受け、少なくとも経済は李克強主導で鄧小平路線に回帰すべきだ、と迫られた。それに対して習近平が、台湾統一を実現してみせるからもう1期おれに任せろ、と反論したのではないか。武力で台湾統一が実現できるとは党内でもあまり信じられていないので、やれるもんならやってみろとばかりに、ある意味、匙を投げる形で、現状の権力闘争状態がなし崩し的に継続されることになったのかもしれない。 ただ、鄧小平路線と毛沢東路線は正反対の路線であり、共存できる可能性はない。鄧小平の改革開放路線は国際社会、特に西側先進国との融和外交による国内経済の振興であるが、毛沢東路線は、武力やそれを使った恫喝とイデオロギーコントロール強化による個人独裁、個人の権威強化であり、西側経済・外交から自らデカップリングしていく方向性だ。習近平の毛沢東回帰路線が続く限り、中国は外交的に孤立し、経済は急減速し、社会の不安定化と低迷が続くことになるだろう。) おそらくは李克強はそれに抵抗する形で、鄧小平的経済路線を進めようとするだろう。この路線闘争の勝敗の結果が、最終的に権力闘争の勝敗を決することになる』、「北戴河会議で、習近平は様々な政策の失敗について批判を受け、少なくとも経済は李克強主導で鄧小平路線に回帰すべきだ、と迫られた。それに対して習近平が、台湾統一を実現してみせるからもう1期おれに任せろ、と反論したのではないか。武力で台湾統一が実現できるとは党内でもあまり信じられていないので、やれるもんならやってみろとばかりに、ある意味、匙を投げる形で、現状の権力闘争状態がなし崩し的に継続されることになったのかもしれない」、あくまで筆者の福島氏の独断的な見方だ。「ただ、鄧小平路線と毛沢東路線は正反対の路線であり、共存できる可能性はない。鄧小平の改革開放路線は国際社会、特に西側先進国との融和外交による国内経済の振興であるが、毛沢東路線は、武力やそれを使った恫喝とイデオロギーコントロール強化による個人独裁、個人の権威強化であり、西側経済・外交から自らデカップリングしていく方向性だ。習近平の毛沢東回帰路線が続く限り、中国は外交的に孤立し、経済は急減速し、社会の不安定化と低迷が続くことになるだろう。 おそらくは李克強はそれに抵抗する形で、鄧小平的経済路線を進めようとするだろう。この路線闘争の勝敗の結果が、最終的に権力闘争の勝敗を決することになる」、「路線闘争」はさぞかし激しいいものになるだろう。
・『「劣化版」の戦いはずるずる続く では、最終的に習近平と李克強の路線闘争はどちらが勝つか。 次の党大会の指導部の陣容を想像すると、これまでの5年の間に、きちんと能力のある後継者を育成できなかった習近平の分が悪いのではないか、と思われる。 政治局常務委員7人のうち、習近平を除く68歳以上の老人が引退し、67歳以下が全員残るとすると、引退するのは72歳の栗戦書と68歳の韓正の2人。政治局常務委員の定員数が拡大されないなら、新たに昇進するのは2人で、常識的な予想であれば、現政治局委員で副首相を務める胡春華と丁薛祥の2人だろう。 胡春華は李克強、汪洋の両方から可愛がられている共青団派のエースであり、鄧小平路線の継承者だ。丁薛祥は習近平の秘書役をしてきた習近平の側近で、頭はいいが、党内で重視される、いわゆる行政実務経験が十分ではない。つまり総理や総書記が務まる器ではない。 そうすると、政治局常務委員7人は、習近平、李克強、汪洋、王滬寧、趙楽際、丁薛祥、胡春華となる。李克強派(鄧小平路線継承)が李克強、汪洋、趙楽際、胡春華の4人、習近平派が習近平、王滬寧、丁薛祥の3人で、李克強派が有利になる。 仮に汚職の噂が絶えない趙楽際が引退するとしてもう1人あがるとしたら、宣伝部長で習近平派の黄坤明の可能性があるが、丁薛祥にしても黄坤明にしても小粒感が否めない。また、そもそも王滬寧自身は、江沢民、胡錦涛、習近平という、派閥の色合いの違う3人の指導者とうまくやってきた玉虫色のキャラクターであり、単純に習近平派ともいえない。 政治局25人の面子を考えると、年齢的に11人が引退することになる。この引退者の中に劉鶴(副首相、習近平の経済ブレーン)、栗戦書(全人代常務委員長)、陳希(中央組織部長)が含まれる。この3人は習近平の側近の中で、比較的能力が高く、しかも習近平が心から信頼を置いている人物だ。この3人が政治局を引退することは習近平に大きな痛手となろう。 なぜなら、この3人を除けばその他の習近平派の政治局委員は「七人の小人」と呼ばれるほど小粒ぞろいで、しかも習近平の権力におもねって近寄ってくるに過ぎず、いまいち信用されていないからだ。具体的には蔡奇(北京市書記)、李強(上海市書記)、陳敏爾(重慶市書記)、李希(広東省書記)、丁薛祥(中央弁公庁主任)、黄坤明(中央宣伝部長)、李鴻忠(天津市書記)の7人である。この中で本来、政治局常務委員への出世が期待されていた蔡奇、李強、陳敏爾、李希は全員、新型コロナ対応や電力問題などで行政評価にミソがつき、その無能ぶりを露呈してしまった。彼らが政治局常務委員に出世できるとはちょっと考えにくい。 こうした状況で、権力闘争が継続することになっても、かつての「毛沢東 vs.鄧小平」のような、ダイナミックなものではなく、路線対立軸は同じでもその劣化版の戦いがずるずる続くと思われる。 すでに李克強は首相退任を発表しているので、考えられる職位は総書記か全人代常務委員長くらいだ。李克強は能力的に総書記も十分に務められるので、聯合報の特ダネのような「李克強総書記説」が流れるのだろう。ただ、李克強が総書記になってしまうと、総書記を引退した習近平が首相や全人代委員長など格下の職位に就くことは党内的にはありえないので、政治局常務委員7人では足りなくなる。 中国経済にとって重要なのは、誰が首相を務めるか、だ。能力的には汪洋も胡春華も可能だろう。汪洋が全人代委員長、胡春華が首相、あるいはその反対はあるかもしれない。少なくとも王滬寧や丁薛祥に首相は難しいだろう』、「首相」候補は「李克強派」が有力なようだ。
・『習近平が台湾統一を試みる可能性 こういう状況なので、党大会のあとに展開する中国の状況としては、現在の路線矛盾を抱えながら、外交の孤立化、経済の停滞、社会の混乱が長期化するだろうとの予測が出ている。 つまりは、習近平総書記のまま行き詰まるところまで行き詰まってしまい、その責任を取る形で習近平が総書記を引退する。それが次の党大会の5年後なのかあるいはもう少し早い3年くらい後なのかは分からない。 要するに習近平には毛沢東ほどカリスマ性はなく、李克強には鄧小平ほどの実力はないので、お互いにどちらかを失脚に追い込めるほどの力がない。なので、対立しながら相手の自滅を待つしかないのだ。 そこで一番簡単な予想としては、中国の状況は、5年前後の長い経済・社会停滞期を経験して、社会の不満が習近平政権に向かい、共産党のレジティマシー自体が揺らぐような事態になって初めて習近平が責任を取る形で引退して、新たな集団指導体制で米国はじめ西側社会との外交・経済関係修復をはかる、というパターンか。 だが、習近平が本当に常人に理解しがたいほどの権力欲の塊であったなら、本当に武力による台湾統一を試みようとする可能性はゼロではないだろう。台湾ではロシア・ウクライナ戦争後、防衛費増強と徴兵制延長の問題がかなりホットな話題として議論されているが 8月上旬、ペロシ米下院議長の訪台後に行われた中華民意研究協会の世論調査では、74.7%が徴兵制を現在の4カ月から1年に延長することに賛成している。 知り合いの台湾メディア記者は、「5年以内に台湾海峡危機はありうる。台湾の防衛能力を強化すればするほど、その危機を遠ざけることができると思う」と話していた。 党大会まであと1カ月半、今後どのような変化があるかまだ分からないが、なかなか厳しく不穏な時代が始まろうとしているといえよう』、「習近平には毛沢東ほどカリスマ性はなく、李克強には鄧小平ほどの実力はないので、お互いにどちらかを失脚に追い込めるほどの力がない。なので、対立しながら相手の自滅を待つしかないのだ。 そこで一番簡単な予想としては、中国の状況は、5年前後の長い経済・社会停滞期を経験して、社会の不満が習近平政権に向かい、共産党のレジティマシー自体が揺らぐような事態になって初めて習近平が責任を取る形で引退して、新たな集団指導体制で米国はじめ西側社会との外交・経済関係修復をはかる、というパターンか」、「習近平が本当に常人に理解しがたいほどの権力欲の塊であったなら、本当に武力による台湾統一を試みようとする可能性はゼロではないだろう」、「武力による台湾統一」は起きてほしくないシナリオだ。いずれにせよ中国経済の不振は続き、雇用をめぐる社会不安が高まりそうだ。大混乱に堕ち入らないことを願うばかりだ。
タグ:「多くの専門家は、14年前と比べて中国政府が著しく強権的になったことを指摘した。だが、実のところ現体制の基盤は2008年よりもはるかに脆弱になっている。 習自身も、党内からの激しい突き上げに遭っている」、「著しく強権的になった」が、「現体制の基盤は2008年よりもはるかに脆弱になっている」、どういうことだろうか。 ゴードン・チャン氏による「戦争したくて仕方ない軍部と、共産党幹部の離反...習近平に迫る「権力闘争」の時」 Newsweek日本版 「習近平が本当に常人に理解しがたいほどの権力欲の塊であったなら、本当に武力による台湾統一を試みようとする可能性はゼロではないだろう」、「武力による台湾統一」は起きてほしくないシナリオだ。いずれにせよ中国経済の不振は続き、雇用をめぐる社会不安が高まりそうだ。大混乱に堕ち入らないことを願うばかりだ。 「習近平には毛沢東ほどカリスマ性はなく、李克強には鄧小平ほどの実力はないので、お互いにどちらかを失脚に追い込めるほどの力がない。なので、対立しながら相手の自滅を待つしかないのだ。 そこで一番簡単な予想としては、中国の状況は、5年前後の長い経済・社会停滞期を経験して、社会の不満が習近平政権に向かい、共産党のレジティマシー自体が揺らぐような事態になって初めて習近平が責任を取る形で引退して、新たな集団指導体制で米国はじめ西側社会との外交・経済関係修復をはかる、というパターンか」、 「首相」候補は「李克強派」が有力なようだ。 「ただ、鄧小平路線と毛沢東路線は正反対の路線であり、共存できる可能性はない。鄧小平の改革開放路線は国際社会、特に西側先進国との融和外交による国内経済の振興であるが、毛沢東路線は、武力やそれを使った恫喝とイデオロギーコントロール強化による個人独裁、個人の権威強化であり、西側経済・外交から自らデカップリングしていく方向性だ。習近平の毛沢東回帰路線が続く限り、中国は外交的に孤立し、経済は急減速し、社会の不安定化と低迷が続くことになるだろう。 おそらくは李克強はそれに抵抗する形で、鄧小平的経済路線を進めようとする 「北戴河会議で、習近平は様々な政策の失敗について批判を受け、少なくとも経済は李克強主導で鄧小平路線に回帰すべきだ、と迫られた。それに対して習近平が、台湾統一を実現してみせるからもう1期おれに任せろ、と反論したのではないか。武力で台湾統一が実現できるとは党内でもあまり信じられていないので、やれるもんならやってみろとばかりに、ある意味、匙を投げる形で、現状の権力闘争状態がなし崩し的に継続されることになったのかもしれない」、あくまで筆者の福島氏の独断的な見方だ。 福島 香織氏による「習近平と李克強の戦いはずるずる続くのか? どうなる秋の中国共産党大会 鄧小平路線と毛沢東路線、決着がつかない中国のたどる道」 JBPRESS 「中国の行く手を阻む者は「打ちのめされる」とし、「中国人民は古い世界を打ち破るだけでなく、新しい世界を建設することにも優れている」、こうした思い上がった考え方をトップがしているとは、恐ろしい国だ。 「冬季オリンピックの評価次第では、習は国内の批判派や政敵を黙らせるために、台湾か近隣諸国に対して何らかの攻撃的措置を取る恐れもある。逆に、オリンピックが成功と評価されたとしても、習はそれに勢いづいて大胆な行動に出る恐れがある」、「台湾併合によってトップとしての自らの正当性を証明したがっているとも言われる」、 「冬季オリンピック」は「国民を隅々まで監視する異常な体制や、人道に反する罪、そして新型コロナのパンデミックを引き起こした責任といった中国の暗い側面に世界の注目を集めることになった」、皮肉な結果だ。 「国家主席就任以前の習は党内のいずれの派閥とも密接に結び付く存在ではなかった。 だからこそ、どの派閥からも許容され得る人物として、習は国家主席に選ばれた。だがトップに上り詰めると、権力掌握と効果的な支配には支持基盤が不可欠だと判断し、政治的支援の中核として特定の将軍や司令長官に目を向けるようになった。 今や習の派閥は軍だ」、「軍が習を手中にしている可能性もある」、「習の派閥は軍」とは危険な気がする。 「習が党総書記に就任するときまで、中国共産党は集団指導体制を堅持していた。建国初期に権力者の暴走を許したことへの反省から、重要な決定は最高指導部のコンセンサスを図った上で下される仕組みが確立され、特定の物事について党総書記個人が称賛されることもなければ、非難されることもなかった。 習はこの集団指導体制を廃止して、トップダウン式の意思決定システムをつくり出すとともに、「反腐敗運動」の名の下に政敵を次々と粛清した。それは習の権力基盤を強化すると同時に、権力闘争に敗北したときの政治的コストを大きくした」、自ら蒔 (その14)(戦争したくて仕方ない軍部と 共産党幹部の離反...習近平に迫る「権力闘争」の時、習近平と李克強の戦いはずるずる続くのか? どうなる秋の中国共産党大会 鄧小平路線と毛沢東路線 決着がつかない中国のたどる道) 中国国内政治
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