2023年展望(その1)(「来年の予測」を投資家が信じてはいけない3つの理由、2023年の「ドル円相場シナリオ」はどうなるのか 知っておくべき円高、円安の両方向のリスク、2023年は混迷の「新時代」に突入、日本経済の命運握る卯年の“活路”) [経済政治動向]
今年も残すところ僅か1日、今日は、2023年展望(その1)(「来年の予測」を投資家が信じてはいけない3つの理由、2023年の「ドル円相場シナリオ」はどうなるのか 知っておくべき円高、円安の両方向のリスク、2023年は混迷の「新時代」に突入、日本経済の命運握る卯年の“活路”)を取上げよう。
先ずは、11月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「「来年の予測」を投資家が信じてはいけない3つの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/313667
・『経済メディアによる「来年の経済・マーケット予測」特集の季節が近づいてきた。それを読んで資産運用に役立てようと思っている読者は、いったん冷静になって考え直す方がいい。予測を信じて投資してはいけない「三つの理由」があるからだ』、冒頭の記事でいきなり「2023年展望」に水をさすような内容で恐縮だが、事前のワクチンのつもりでお読み下さい。
・『年末の風物詩「予測特集号」は楽しい読み物だが… 12月が間近に迫ってきた。12月は、多くのメディアにとって来年の予測がテーマとなる季節だ。特に経済系の雑誌メディアでは、「来年の経済とマーケットはどうなるか?」を通常の号で何度も取り上げる。 さらに、それとは別に「○○○○年総予測/大予測」などと銘打った特集号が発売されることが多い。筆者の聞くところによると、この種の予測特集号は通常の号よりもはるかに発行部数が多く、かつよく売れるのだそうだ。 せっかくの「よく売れるコンテンツ」に水を差すのは申し訳ないのだが、投資家の皆さんにとっては、この種の特集の、特にマーケット予測には大いに注意が必要だ。正直なところ、筆者もその類いの原稿を書くことがあるので、「天に唾する」感を覚えぬでもないのだが、「予測特集」のマーケット予測を信じて投資しない方がいいことに気付いてほしい』、「予測特集号は通常の号よりもはるかに発行部数が多く、かつよく売れる」ようだが、「投資家の皆さんにとっては、この種の特集の、特にマーケット予測には大いに注意が必要だ」、どういうことだろう。
・『なぜだろうか? それは、大半の特集の予測記事の流れが、まず経済全体の景気やインフレ率、これらに対する経済政策、さらには業界ごとの事情などを予測した上で、株価や為替レートなど市場の変数を予想するような論理構成になっているからだ。) 「まず、背景となる経済を分析する。その上で、マーケットに関する予測を行う。これが普通の手順であり王道ではないか」と思われる読者が多いに違いない。確かに、「普通の手順」であることはその通りだ。しかし、「普通」であることと、その手段が「有効」であることとの間には大きな差があるのだ』、「「普通の手順」であることと、その手段が「有効」であることとの間には大きな差がある」、言われてみればその通りだ。
・『経済予測に基づく運用は困難 プロの世界では半ば常識に まずは世界および各国・地域の経済環境を予測して、株式にせよ為替レートにせよ、マーケットの予測につなげる。これが「自然な」流れだと普通の人は思うだろう。 正直に言うと、筆者自身がファンドマネージャーの仕事について数年たつくらいの頃までは(すなわち20代の大半は)、そのように思っていた。むしろ経済予測を強化することこそ運用を改善する王道だと思っていた。 そう思った理由は、運用に入門したての若手社員だった頃の筆者の強みが、経済の知識が豊富で議論に強いことだったからだろう。1985年のプラザ合意前後の円高や世界の金利低下を予測できていたように感じていたし、88年ごろには日本の資産価格が「バブル」の状態だという強い確信を持っていた。そしてこれらの知見は、筆者自身が担当する資金の運用に何がしか生かされていた。 自分をサンプルとして振り返って思うに、人は自分が力を入れている事柄を重要だと思いがちだ。それに2、3の成功事例が加わると、自分の仮説(=経済分析こそが運用に重要だ)をかなり強く信じてしまうものだ。何と素朴な。 しかし、経済を予測してアセットアロケーション(資産配分)を変更することによって運用パフォーマンスを改善しようとする「マーケットタイミング」を利用するアプローチは、大規模な年金資金の運用などプロの運用の世界では、うまくいかないことが業界内の半ば常識になっている。 例えば、公的年金も企業年金も、「基本ポートフォリオ」などと称するアセットアロケーションを、ほぼ変更せずにじっと維持し続ける運用方法を基本としている。マクロ経済の変化に合わせて配分を大きく変更するような運用はほとんど行われていない。 今回はその理由を詳しく説明しよう。 サンプルとしての自分に立ち返ると、筆者は10年、20年、30年と運用の世界を見続けているうちに、「経済予測で運用を改善する」ことは無理なのだと、実感を強化しながら認識するようになった。早い話が、その方針で大規模かつ長期的にうまくいっているプレーヤーが見当たらないのだ。 なお、個人として世界経済を論じることから運用方針を考えるばかばかしさを痛感した最初の経験は、勤めていた運用機関の上司(部長)が運用方針の会議で、ベルリンの壁崩壊についてとうとうと述べるのを聞いていた時だった。「経済予測が資産運用にとって重要だという考えは、単なる自己満足の補足材料なのではないか」と思った。そして、その思いは全く間違っていなかった』、「経済を予測してアセットアロケーション(資産配分)を変更することによって運用パフォーマンスを改善しようとする「マーケットタイミング」を利用するアプローチは、大規模な年金資金の運用などプロの運用の世界では、うまくいかないことが業界内の半ば常識になっている。 例えば、公的年金も企業年金も、「基本ポートフォリオ」などと称するアセットアロケーションを、ほぼ変更せずにじっと維持し続ける運用方法を基本としている」、「「経済予測が資産運用にとって重要だという考えは、単なる自己満足の補足材料なのではないか」と思った。そして、その思いは全く間違っていなかった」、「単なる自己満足の補足材料」とは手厳しい批判だ。
・『経済予測自体が実は「難事」である 経済予測で運用方針を決めることがうまくいかない大きな理由の一つは、経済予測自体が難しいからだ。 運用業界には、「予測は難しい。特に、将来のことに関しては」という、かつてのニューヨーク・ヤンキースの名捕手ヨギ・ベラ(味わい深い名言を吐くタイプの人物だったらしい)によるものとされる言葉が伝えられている。人を喰った印象を与える言葉だが、その通り、経済に関する予測は大変難しい。 世間に多くの職業エコノミストがいて、さらに経済学者がいるにもかかわらず、経済予測はなかなか当たらないし、特に肝心な局面で当たらない。 例えば、昨今のインフレに関して、少なくとも2021年の初頭くらいの段階で米連邦準備制度理事会(FRB)は「物価上昇は、一時的に2%をはっきり超えるかもしれないが一時的なものだ」と考えていた。おそらくは、世界のエネルギー・資源の価格に対する需給の読みを誤ったことに加えて、コロナ対策の財政支出の影響を過小評価したのだろう、などと事後的に評することはできる。ただ、そうだとしても、こと米国の景気や物価を調査する上では最高レベルの人材と情報(近い将来の金融政策まで予測できる「インサイダー」だ)を持ち合わせているはずのFRBでさえ、一番肝心の局面で物価予測が当たらなかった。 専門家の予測力の貧しさに関しては、世界的な金融危機についてエリザベス女王にご進講した超一流の経済学者たちが、「ところで、皆さんたちはこのようなことになると、誰も予測できなかったのですか」と問われて絶句したというエピソードなども有名だ。 より小さな研究所、金融機関・運用会社の調査部門、さらには市井の経済研究家が卑下する必要は少しもないが、彼らも、資産運用に有効なレベルで経済予測を行うことには成功していないように見える。 率直に認めようではないか。経済予測は難しいのだ』、「世間に多くの職業エコノミストがいて、さらに経済学者がいるにもかかわらず、経済予測はなかなか当たらないし、特に肝心な局面で当たらない」、残念ながらその通りだ。
・『経済変数とマーケット変数の「関係」が不安定 前言を翻すようで恐縮だが、経済は「全く予測できないわけではない」。国内総生産(GDP)や鉱工業生産指数、あるいは雇用などについて、われわれは将来の予想数字を持っているし、それが現実から極端に離れているわけでもない。だから、つい当てにしてしまうという意味で、「ある程度当たる予測」にはかえって厄介な面がある。 しかし資産運用との関係で言うと、経済の変数と、マーケットの変数(例えば株式の期待リターン)との間の「関係」が不安定であることが、経済予測からマーケット予測を構成し、その上で運用戦略を考えようとするアプローチへの障害になっている。 なぜ両者の関係が不安定なのかに関しては、複数の理由が考えられる。 例えば、GDPに代表される景気に関する来年の数字を「当てる」ことができても、来年の株式のリターンの予測に役立てることができるかは大いに疑問だ。 一つには、株式のリターンに影響する要素がGDPや景気以外にもあるからだろうか。だが、われわれには多変量を解析する手段があるはずだ。 しかし、複数の変数と株式のリターンとの関係が分析できても、例えば、現在の株価に将来の予想情報がどの程度「織り込まれているか」という別の問題がある。これについての「程度」が安定しないと、経済変数の将来予測からマーケット関係の変数を予想することは難しい。 また、仮に経済変数とマーケット変数との間の関係がある程度分かったとすると、この情報に対して市場参加者の行動が変化してしまうので、「将来のリターン」の予測は再び困難になってしまう。 このように、マーケットの仕組みを考えると、経済予測から始めて市場のリターンを予想しようとするアプローチは、複数の関節が緩くて制御の効かないマジックハンドで離れた場所にある物を取ろうとするくらいの難事であることが想像できる。実際にエコノミストは、ゲームセンターのUFOキャッチャーほどにも役に立たない。 エコノミストの側は悔しいから次のように言う。 「他の条件を一定とすると、○○が××なら、株価は△△になってもおかしくない」等々。しかし、現実の世の中では「他の条件」はじっとしていない。 かくして、誰も傷つかないし、しかし誰も役に立たない、独特の均衡状態が生まれる』、「仮に経済変数とマーケット変数との間の関係がある程度分かったとすると、この情報に対して市場参加者の行動が変化してしまうので、「将来のリターン」の予測は再び困難になってしまう」、その通りだ。
・『「他人の予測を把握する」こともほぼ不可能なくらい難しい もう一点、経済予測から市場予測を構成するアプローチの有用性を損なうファクターを指摘しておこう。 それは、「他のプレイヤー(市場参加者)の予想」を把握することが難しいからだ。 仮に、それなりに正しい経済予測ができて、経済変数とマーケット変数との間の相関関係についてそこそこに有効と思える推定ができたとしよう。 次の問題は、市場に参加する他のプレイヤーがどのような予測を持っているかだ。 運用者にとって理想的なのは、他のプレイヤーが当面「誤った予測」を持っていて、しばらくした後に「間違いに気付いて、後追いしてくれる」状況だ。しかし、普通、世の中はなかなかそこまで幸運にはできていない。 そこで、自分の予想の価値を把握するために、他の市場参加者の予想をぜひ知りたいと思うのだが、これがほとんど不可能なくらい難しい。 いわゆるコンセンサス調査のようなデータは世間にある。市場参加者はこれを見て自分の予想の世間的な位置を知ろうとするのだが、それは、他の参加者もやっていることだ。そして、それで他の参加者の本音の予測が分かるわけではない。 かくして、多くの困難を乗り越えて、正しい経済予想と経済変数とマーケット変数の関係の推定とにたまたまたどり着けたとしても、自分の予想の相対的な位置や価値を正しく知ることが難しい。そして、そもそも元の予想が合っているのかどうかに自信がないのだ。脳みそが冷静でさえあれば、市場参加者は「経済予測から運用戦略を作るのは無理だ」と気が付くことになる』、「脳みそが冷静でさえあれば、市場参加者は「経済予測から運用戦略を作るのは無理だ」と気が付くことになる」、なるほど。
・『売買手数料は「重い!」 当たらない予測ならなおさら 経済予測から運用戦略を考えることに関しては、以上のような「困難」があるわけなのだが、これらに加えて現実の資産運用では、アセットアロケーションを調整するために手数料や市場に与えるインパクトなどから生じる「売買コスト」の存在が重大だ。 売買コストは、それ自体がたとえ小さいとしても「確実なマイナスの影響要素」だ。努力の結果生み出した予測だとしても「平均的には無価値な判断」に対してこれを割り当てることは合理的ではない。 ここで述べたような諸々の事情は、兆円単位の資産を運用する機関投資家にとっても、数百万円レベルのお金を運用する個人投資家にとっても、基本的には同じだ。 以上のような訳で、読者は、これから数多出るだろう「2023年の大予測特集」の記事を読んで、これを実際の運用に生かそうとしているなら、いったん冷静になって考え直す方がいい。 筆者が思うに、読者は、こうした予測特集の内容を、投資の参考にするために読むのではなく、分析者のアイデアを楽しむエンターテインメントとして読むべきだ。大切なお金の運用とは切り離して考えた方がいい。 付け加えると、そのように割り切った「大人の読者」が読んでくれるなら、記事を書く側ももっと腕の振るいようがあるのではないだろうか。 「予想(ヨソウ)」は反対方向から「ウソヨ」と読むくらいがちょうどいいのだ』、「現実の資産運用では、アセットアロケーションを調整するために手数料や市場に与えるインパクトなどから生じる「売買コスト」の存在が重大だ。 売買コストは、それ自体がたとえ小さいとしても「確実なマイナスの影響要素」だ。努力の結果生み出した予測だとしても「平均的には無価値な判断」に対してこれを割り当てることは合理的ではない」、「読者は、こうした予測特集の内容を、投資の参考にするために読むのではなく、分析者のアイデアを楽しむエンターテインメントとして読むべきだ」、「「予想(ヨソウ)」は反対方向から「ウソヨ」と読むくらいがちょうどいいのだ」、最後の部分は山崎氏のユーモアのセンスはまだまだ健在のようだ。
次に、12月18日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「2023年の「ドル円相場シナリオ」はどうなるのか 知っておくべき円高、円安の両方向のリスク」を:2022年も残すところあと半月になった。2023年のドル円相場はどうなるのか。筆者の考えるメインシナリオやリスクシナリオを示してみよう。 年明け以降のドル円相場は、1~3月期まではFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利上げ幅や利上げ停止がテーマとして注目される中、アメリカ金利低下とドル安に応じた円高が促されやすいと考えている。この辺りは多くの市場参加者が共有する問題意識ではないかと思われる。 この際、下値目途は2022年の値幅の半値戻しである1ドル=130円前後をイメージしている。なぜ半値しか戻らないのかと言えば、筆者は今般の円安を「ドル全面高」と「円全面安」が併発した結果だと考えているからだ。 ドル全面高はFRBのハト派転換(pivot)とともに修正される余地があるにしても、史上最大の貿易赤字などを背景に歪んだ円全面安の部分は解消されないだろう。直感的にも巨大な貿易赤字を擁する世界で唯一のマイナス金利採用国の通貨が買われ続けるというイメージは湧きにくい。 では、2023年4~6月期以降はどうなるか。金融市場ではそのまま円高傾向が続き、2022年初頭の水準(1ドル=112~113円付近)に戻るという意見が多いように見受けられる。だが、筆者はそう思っていない。 これは上述した日本の金利・需給環境も加味した結論だが、それだけではない。金融市場のコンセンサスどおりの展開となれば、おそらく2023年4~6月期以降はFRBの利上げ停止を確認することになる。しかし、「次の一手」としての利下げが現実的に市場予想の範囲に入ってくるのは2023年中の話ではないだろう。 とすると、金融市場には当面、FRBの大きな政策変更を予想しないで済む穏当な時間帯が生まれる可能性がある。象徴的にはボラティリティ低下とともに株高という地合いに至る可能性がある。利下げをするわけではないので日本から見た内外金利差も相応に高止まりする公算が大きい。これは対ドルだけではなく、対クロス円通貨に対しても同様のことがいえる』、12月21日付けで日銀は異次元緩和を微修正した。長期金利の上限を0.5%に、円も131円台に上昇。
・『2023年終盤に1ドル=140円台に戻る? 「十分な金利差」と「低いボラティリティ」はキャリー取引が行われるための2大条件である。2022年中は日米金利差が円売りの材料として注目されたが、本当の意味で円安を駆動するとしたら2023年のほうが好ましい環境に思える。「円だけマイナス金利」という状況下、貿易赤字大国の通貨が上昇一辺倒という軌道を辿るのは非常に難しく説明に窮する。2023年10~12月期には再び1ドル=140円台を主戦場とするような地合いに至るのではないか。) 以上はメインシナリオだが、そうならないリスクも当然ある。リスクは上下双方向に拡がっており、それぞれ複数考えられるが、主だったものを1つずつ挙げておきたい』、「リスクは上下双方向に拡がっており、それぞれ複数考えられるが、主だったものを1つずつ挙げておきたい」、なるほど。
・『アメリカ利上げは本当に1~3月期に止まるのか まず、筆者の想定以上に円安がいきすぎるリスクだが、これはFRBの利上げ継続である。アメリカのインフレ率がピークアウトしていることはもはや自明であるとしても、多くの市場参加者が抱く「1~3月期中に利上げが停止する」という前提がそこまで確実なものなのか。 足元では、FRBが2%のインフレ目標で参照する個人消費支出(PCE)デフレーターはダラス地区連銀が試算するトリム平均指数(変動が非常に大きな異常値を除外して求める平均)で見ても前年比+4.7%程度、食料・エネルギーを除くコアベースでは+5%超、総合ベースでは+6%超である。PCEデフレーターが安定的に+2%程度になるという状況にまで、エネルギー情勢が年初3カ月間で収束するだろうか。 現状、利上げの終点と目される政策金利水準(以下ターミナルレート)のコンセンサスは4.75~5.25%というレンジにあるが、例えば「6月以降は四半期に1度、+25bp」というペースで利上げが継続する可能性もある。そうなった場合、ターミナルレートは6%に接近するだろう。 パウエルFRB議長は1年前(2021年11月末)、「インフレは一時的」という認識を急遽撤回し、市場に大きなショックを与えた経緯がある。当時の翻意に比べれば、利上げが1~3月期で停止せずに緩やかなペースで持続するという展開はさほど不自然ではない。メインシナリオではないが、円安方向のリスクシナリオとしては検討する価値がある。) 片や、筆者の想定とは逆方向に円高がいきすぎるリスクもある。これも複数考えられるが、やはり新体制への移行に伴う日本銀行のタカ派転換がその筆頭であろう。可能性としては上記の円安リスクよりは低いと思われるが、念頭に入れたいシナリオではある。 市場が抱く新体制へのイメージは「現状より緩和姿勢が強まることはない」程度であり、新総裁の候補者が複数名挙がっているものの、どの候補者になればどういった政策修正に至るのかというコンセンサスはない』、「市場が抱く新体制へのイメージは「現状より緩和姿勢が強まることはない」程度」、その通りだ。
・『岸田政権はアベノミクスと距離を取る? 12月13日に木原誠二官房副長官がブルームバーグとのインタビューで大規模金融緩和を正当化する政府・日銀による共同声明の修正に関し「新たな合意を結ぶ可能性はあるものの、現在の合意内容と異なるものになるかどうかはわからない」と語っている。言質は取らせていないが、ここは「修正は考えていない」と回答すべきだったように思えた。やはりアベノミクスとは距離を取る政策運営が志向されるのではないか。 具体策として想定されるものに関しては、引き締めの度合いが弱い順にフォワードガイダンスの修正、イールドカーブコントロール(YCC)における変幅拡大、YCCにおける操作年限の短期化、YCC廃止、利上げ(マイナス金利解除)などが考えられる。 このうち「新体制移行とともに利上げ」というような展開はほとんど想定されていない話と言える。2013年4月、黒田総裁が就任後初の会合で量的・質的金融緩和を決定し強烈なリフレ思想を煽った記憶を辿れば、その逆の展開が2023年4月に起きることはないのか。注目したい点である。 もちろん、保守的な岸田文雄政権の意向も相応に影響するであろうことを踏まえれば、日銀が家計部門にも大きな影響をもたらす利上げという決断に踏み切れる可能性は低い。また、リフレ思想を持たない(≒タカ派色の強い)市場参加者として注目される新任の高田創審議委員も日経新聞(12月10日)に掲載されたインタビューで、「(YCC解除に関して)残念ながらそういう局面になっていない」と述べている。 もちろん、現行体制と新体制では情報発信の意味も異なるだろうが、少なくとも現状の政策委員会の中では利上げを主張するような空気はまったく感じられないのが実情だろう。しかし、積極的な円買い材料に乏しいと言われる状況下、「日銀の利上げ」という為替市場参加者のほとんどが想定していない展開はリスクシナリオから外すべきではない、非常に重要な論点であるように思われる』、「「日銀の利上げ」という為替市場参加者のほとんどが想定していない展開はリスクシナリオから外すべきではない、非常に重要な論点であるように思われる」、その通りだ。
第三に、12月19日付けダイヤモンド・オンライン「2023年は混迷の「新時代」に突入、日本経済の命運握る卯年の“活路”」を紹介しよう。
https://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29881
・『『週刊ダイヤモンド』12月24日・12月31日新年合併特大号の第一特集は「2023 総予測」だ。過去1年を総括し、翌年のゆくえを見通すという、年末年始の恒例企画だが、2022年は国内外ともに近年類を見ない大波乱の1年となった。来る23年はどうなるのか?経済はもちろん政治、社会、文化まで特集を通じて「総予測」する』、興味深そうだ。
・『混迷の時代に突入する2023年 日本と世界の“活路”を探る 来る2023年。景気と株価はどうなる?円安とインフレは続くのか?金利上昇や不動産暴落は起きるのか?そして、歴史に刻まれる出来事が相次いだ22年を経て、日本と世界はどうなってしまうのか――。 年末年始におけるメディアの定番企画が翌年の「予測」だ。経済メディアにおいては、新たな1年の経済や企業の予測に各媒体が総力を挙げるのが恒例となっている。 『週刊ダイヤモンド』では年末年始の超特大特集「総予測」がそれだ。今回も企業トップやアナリスト、学者ほか多数の専門家を直撃し、23年の見通しや注目キーワードなどを徹底分析した。 今特集を俯瞰して浮かび上がるのは、23年の日本と世界が、これまでの“前提”が崩れた混迷の「新時代」に突入するということだ。ことの発端は22年に起きた、100年先の日本史、世界史の教科書にも記されるだろう国内外における二つの歴史的事件にある』、それは、「ロシアによるウクライナ侵攻」、「安倍晋三元首相銃撃事件」、である。
・『岸田政権はダッチロール状態 統一地方選と日銀総裁人事が焦点 まず国外では、2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻だ。片や国内の方は、7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件がそれである。 前者は、21年から続いていた世界的なインフレのアクセルを踏み込み、目下のエネルギー価格や食料価格の高騰を招いている。 資源高騰は無論のこと、とりわけ米国におけるインフレは日本経済に甚大な影響を及ぼす。目下の日米金利差に起因する超円安の命運は、米国のインフレ対策──、利上げ動向に懸かっているからだ。 問題は経済面にとどまらない。戦況の泥沼化によって、周知のようにロシアによる核兵器使用という第二次大戦以降、最悪の事態さえ懸念されている。 ところが、この世界情勢の混迷に対し、日本の岸田政権はまさにダッチロール状態だ。 安倍氏暗殺でクローズアップされたのが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自由民主党の“蜜月”関係だ。いわゆる「旧統一教会被害者救済法」が自民党と公明党など賛成多数で22年12月に成立したが、遅きに失した感は否めない。23年4月の統一地方選挙を岸田首相が乗り越えられるかどうかが、今後の政局を占う一つの焦点となる。 安倍氏の急逝は、政治のみならず金融政策のかじ取り役、日本銀行のトップ人事にも影響を与えそうだ。22年12月現在、23年4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任者選びが最終局面にある。「リフレ派」の黒田氏が、アベノミクスの目玉として官邸主導で送り込まれてから10年。安倍氏不在の今、現在の政策を踏襲する新総裁が誕生するのかに注目が集まっている。 こうした国内外の経営環境の激変を踏まえ、各産業、企業業績は23年どうなるのか。本特集では、ダイヤモンド編集部記者による日本企業「八大テーマ」座談会や、数多の日本を代表する企業トップや専門家への直撃インタビューなど徹底取材で明らかにする。 混迷の「新時代」が到来する中、卯年に倣って“跳躍”できるのか──。特集を通じて日本と世界の“活路”を探る』、「23年4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任者選びが最終局面にある。「リフレ派」の黒田氏が、アベノミクスの目玉として官邸主導で送り込まれてから10年。安倍氏不在の今、現在の政策を踏襲する新総裁が誕生するのかに注目」、「特集を通じて日本と世界の“活路”を探る」、なるほど。
・『「生前贈与」がダメになる前に得できる! 超豪華付録「駆け込み贈与・相続術カレンダー」つき(『週刊ダイヤモンド』12月24日・12月31日新年合併特大号の第一特集は「2023 総予測」です。 ページ数は、なんと物理的限界ギリギリの264ページ!295人の人物の名前が登場し、ダイヤモンド編集部の総力と多数の超一流の専門家の英知を結集させ、経済の先行きを徹底的に予測。株価、為替、企業業績のみならず、国際関係、政治、社会、文化、スポーツまで抜かりなく完全網羅しました。 さらに今回は、万人が無関係ではいられない“タイムリー”な豪華付録つきです。 相続税の節税術の王道だった生前贈与がもうすぐ事実上の禁じ手になることを踏まえて、人気税理士たちの監修の下に作成した「駆け込み贈与・相続術カレンダー」です。12カ月で後悔しない贈与と相続のやり方が学べること請け合いです。 家族が集う年末年始という絶好の機会に、贈与・相続を話し合いにお役立てください!』、「家族が集う年末年始という絶好の機会に、贈与・相続を話し合いにお役立てください!」、実にタイムリーな企画だ。
先ずは、11月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「「来年の予測」を投資家が信じてはいけない3つの理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/313667
・『経済メディアによる「来年の経済・マーケット予測」特集の季節が近づいてきた。それを読んで資産運用に役立てようと思っている読者は、いったん冷静になって考え直す方がいい。予測を信じて投資してはいけない「三つの理由」があるからだ』、冒頭の記事でいきなり「2023年展望」に水をさすような内容で恐縮だが、事前のワクチンのつもりでお読み下さい。
・『年末の風物詩「予測特集号」は楽しい読み物だが… 12月が間近に迫ってきた。12月は、多くのメディアにとって来年の予測がテーマとなる季節だ。特に経済系の雑誌メディアでは、「来年の経済とマーケットはどうなるか?」を通常の号で何度も取り上げる。 さらに、それとは別に「○○○○年総予測/大予測」などと銘打った特集号が発売されることが多い。筆者の聞くところによると、この種の予測特集号は通常の号よりもはるかに発行部数が多く、かつよく売れるのだそうだ。 せっかくの「よく売れるコンテンツ」に水を差すのは申し訳ないのだが、投資家の皆さんにとっては、この種の特集の、特にマーケット予測には大いに注意が必要だ。正直なところ、筆者もその類いの原稿を書くことがあるので、「天に唾する」感を覚えぬでもないのだが、「予測特集」のマーケット予測を信じて投資しない方がいいことに気付いてほしい』、「予測特集号は通常の号よりもはるかに発行部数が多く、かつよく売れる」ようだが、「投資家の皆さんにとっては、この種の特集の、特にマーケット予測には大いに注意が必要だ」、どういうことだろう。
・『なぜだろうか? それは、大半の特集の予測記事の流れが、まず経済全体の景気やインフレ率、これらに対する経済政策、さらには業界ごとの事情などを予測した上で、株価や為替レートなど市場の変数を予想するような論理構成になっているからだ。) 「まず、背景となる経済を分析する。その上で、マーケットに関する予測を行う。これが普通の手順であり王道ではないか」と思われる読者が多いに違いない。確かに、「普通の手順」であることはその通りだ。しかし、「普通」であることと、その手段が「有効」であることとの間には大きな差があるのだ』、「「普通の手順」であることと、その手段が「有効」であることとの間には大きな差がある」、言われてみればその通りだ。
・『経済予測に基づく運用は困難 プロの世界では半ば常識に まずは世界および各国・地域の経済環境を予測して、株式にせよ為替レートにせよ、マーケットの予測につなげる。これが「自然な」流れだと普通の人は思うだろう。 正直に言うと、筆者自身がファンドマネージャーの仕事について数年たつくらいの頃までは(すなわち20代の大半は)、そのように思っていた。むしろ経済予測を強化することこそ運用を改善する王道だと思っていた。 そう思った理由は、運用に入門したての若手社員だった頃の筆者の強みが、経済の知識が豊富で議論に強いことだったからだろう。1985年のプラザ合意前後の円高や世界の金利低下を予測できていたように感じていたし、88年ごろには日本の資産価格が「バブル」の状態だという強い確信を持っていた。そしてこれらの知見は、筆者自身が担当する資金の運用に何がしか生かされていた。 自分をサンプルとして振り返って思うに、人は自分が力を入れている事柄を重要だと思いがちだ。それに2、3の成功事例が加わると、自分の仮説(=経済分析こそが運用に重要だ)をかなり強く信じてしまうものだ。何と素朴な。 しかし、経済を予測してアセットアロケーション(資産配分)を変更することによって運用パフォーマンスを改善しようとする「マーケットタイミング」を利用するアプローチは、大規模な年金資金の運用などプロの運用の世界では、うまくいかないことが業界内の半ば常識になっている。 例えば、公的年金も企業年金も、「基本ポートフォリオ」などと称するアセットアロケーションを、ほぼ変更せずにじっと維持し続ける運用方法を基本としている。マクロ経済の変化に合わせて配分を大きく変更するような運用はほとんど行われていない。 今回はその理由を詳しく説明しよう。 サンプルとしての自分に立ち返ると、筆者は10年、20年、30年と運用の世界を見続けているうちに、「経済予測で運用を改善する」ことは無理なのだと、実感を強化しながら認識するようになった。早い話が、その方針で大規模かつ長期的にうまくいっているプレーヤーが見当たらないのだ。 なお、個人として世界経済を論じることから運用方針を考えるばかばかしさを痛感した最初の経験は、勤めていた運用機関の上司(部長)が運用方針の会議で、ベルリンの壁崩壊についてとうとうと述べるのを聞いていた時だった。「経済予測が資産運用にとって重要だという考えは、単なる自己満足の補足材料なのではないか」と思った。そして、その思いは全く間違っていなかった』、「経済を予測してアセットアロケーション(資産配分)を変更することによって運用パフォーマンスを改善しようとする「マーケットタイミング」を利用するアプローチは、大規模な年金資金の運用などプロの運用の世界では、うまくいかないことが業界内の半ば常識になっている。 例えば、公的年金も企業年金も、「基本ポートフォリオ」などと称するアセットアロケーションを、ほぼ変更せずにじっと維持し続ける運用方法を基本としている」、「「経済予測が資産運用にとって重要だという考えは、単なる自己満足の補足材料なのではないか」と思った。そして、その思いは全く間違っていなかった」、「単なる自己満足の補足材料」とは手厳しい批判だ。
・『経済予測自体が実は「難事」である 経済予測で運用方針を決めることがうまくいかない大きな理由の一つは、経済予測自体が難しいからだ。 運用業界には、「予測は難しい。特に、将来のことに関しては」という、かつてのニューヨーク・ヤンキースの名捕手ヨギ・ベラ(味わい深い名言を吐くタイプの人物だったらしい)によるものとされる言葉が伝えられている。人を喰った印象を与える言葉だが、その通り、経済に関する予測は大変難しい。 世間に多くの職業エコノミストがいて、さらに経済学者がいるにもかかわらず、経済予測はなかなか当たらないし、特に肝心な局面で当たらない。 例えば、昨今のインフレに関して、少なくとも2021年の初頭くらいの段階で米連邦準備制度理事会(FRB)は「物価上昇は、一時的に2%をはっきり超えるかもしれないが一時的なものだ」と考えていた。おそらくは、世界のエネルギー・資源の価格に対する需給の読みを誤ったことに加えて、コロナ対策の財政支出の影響を過小評価したのだろう、などと事後的に評することはできる。ただ、そうだとしても、こと米国の景気や物価を調査する上では最高レベルの人材と情報(近い将来の金融政策まで予測できる「インサイダー」だ)を持ち合わせているはずのFRBでさえ、一番肝心の局面で物価予測が当たらなかった。 専門家の予測力の貧しさに関しては、世界的な金融危機についてエリザベス女王にご進講した超一流の経済学者たちが、「ところで、皆さんたちはこのようなことになると、誰も予測できなかったのですか」と問われて絶句したというエピソードなども有名だ。 より小さな研究所、金融機関・運用会社の調査部門、さらには市井の経済研究家が卑下する必要は少しもないが、彼らも、資産運用に有効なレベルで経済予測を行うことには成功していないように見える。 率直に認めようではないか。経済予測は難しいのだ』、「世間に多くの職業エコノミストがいて、さらに経済学者がいるにもかかわらず、経済予測はなかなか当たらないし、特に肝心な局面で当たらない」、残念ながらその通りだ。
・『経済変数とマーケット変数の「関係」が不安定 前言を翻すようで恐縮だが、経済は「全く予測できないわけではない」。国内総生産(GDP)や鉱工業生産指数、あるいは雇用などについて、われわれは将来の予想数字を持っているし、それが現実から極端に離れているわけでもない。だから、つい当てにしてしまうという意味で、「ある程度当たる予測」にはかえって厄介な面がある。 しかし資産運用との関係で言うと、経済の変数と、マーケットの変数(例えば株式の期待リターン)との間の「関係」が不安定であることが、経済予測からマーケット予測を構成し、その上で運用戦略を考えようとするアプローチへの障害になっている。 なぜ両者の関係が不安定なのかに関しては、複数の理由が考えられる。 例えば、GDPに代表される景気に関する来年の数字を「当てる」ことができても、来年の株式のリターンの予測に役立てることができるかは大いに疑問だ。 一つには、株式のリターンに影響する要素がGDPや景気以外にもあるからだろうか。だが、われわれには多変量を解析する手段があるはずだ。 しかし、複数の変数と株式のリターンとの関係が分析できても、例えば、現在の株価に将来の予想情報がどの程度「織り込まれているか」という別の問題がある。これについての「程度」が安定しないと、経済変数の将来予測からマーケット関係の変数を予想することは難しい。 また、仮に経済変数とマーケット変数との間の関係がある程度分かったとすると、この情報に対して市場参加者の行動が変化してしまうので、「将来のリターン」の予測は再び困難になってしまう。 このように、マーケットの仕組みを考えると、経済予測から始めて市場のリターンを予想しようとするアプローチは、複数の関節が緩くて制御の効かないマジックハンドで離れた場所にある物を取ろうとするくらいの難事であることが想像できる。実際にエコノミストは、ゲームセンターのUFOキャッチャーほどにも役に立たない。 エコノミストの側は悔しいから次のように言う。 「他の条件を一定とすると、○○が××なら、株価は△△になってもおかしくない」等々。しかし、現実の世の中では「他の条件」はじっとしていない。 かくして、誰も傷つかないし、しかし誰も役に立たない、独特の均衡状態が生まれる』、「仮に経済変数とマーケット変数との間の関係がある程度分かったとすると、この情報に対して市場参加者の行動が変化してしまうので、「将来のリターン」の予測は再び困難になってしまう」、その通りだ。
・『「他人の予測を把握する」こともほぼ不可能なくらい難しい もう一点、経済予測から市場予測を構成するアプローチの有用性を損なうファクターを指摘しておこう。 それは、「他のプレイヤー(市場参加者)の予想」を把握することが難しいからだ。 仮に、それなりに正しい経済予測ができて、経済変数とマーケット変数との間の相関関係についてそこそこに有効と思える推定ができたとしよう。 次の問題は、市場に参加する他のプレイヤーがどのような予測を持っているかだ。 運用者にとって理想的なのは、他のプレイヤーが当面「誤った予測」を持っていて、しばらくした後に「間違いに気付いて、後追いしてくれる」状況だ。しかし、普通、世の中はなかなかそこまで幸運にはできていない。 そこで、自分の予想の価値を把握するために、他の市場参加者の予想をぜひ知りたいと思うのだが、これがほとんど不可能なくらい難しい。 いわゆるコンセンサス調査のようなデータは世間にある。市場参加者はこれを見て自分の予想の世間的な位置を知ろうとするのだが、それは、他の参加者もやっていることだ。そして、それで他の参加者の本音の予測が分かるわけではない。 かくして、多くの困難を乗り越えて、正しい経済予想と経済変数とマーケット変数の関係の推定とにたまたまたどり着けたとしても、自分の予想の相対的な位置や価値を正しく知ることが難しい。そして、そもそも元の予想が合っているのかどうかに自信がないのだ。脳みそが冷静でさえあれば、市場参加者は「経済予測から運用戦略を作るのは無理だ」と気が付くことになる』、「脳みそが冷静でさえあれば、市場参加者は「経済予測から運用戦略を作るのは無理だ」と気が付くことになる」、なるほど。
・『売買手数料は「重い!」 当たらない予測ならなおさら 経済予測から運用戦略を考えることに関しては、以上のような「困難」があるわけなのだが、これらに加えて現実の資産運用では、アセットアロケーションを調整するために手数料や市場に与えるインパクトなどから生じる「売買コスト」の存在が重大だ。 売買コストは、それ自体がたとえ小さいとしても「確実なマイナスの影響要素」だ。努力の結果生み出した予測だとしても「平均的には無価値な判断」に対してこれを割り当てることは合理的ではない。 ここで述べたような諸々の事情は、兆円単位の資産を運用する機関投資家にとっても、数百万円レベルのお金を運用する個人投資家にとっても、基本的には同じだ。 以上のような訳で、読者は、これから数多出るだろう「2023年の大予測特集」の記事を読んで、これを実際の運用に生かそうとしているなら、いったん冷静になって考え直す方がいい。 筆者が思うに、読者は、こうした予測特集の内容を、投資の参考にするために読むのではなく、分析者のアイデアを楽しむエンターテインメントとして読むべきだ。大切なお金の運用とは切り離して考えた方がいい。 付け加えると、そのように割り切った「大人の読者」が読んでくれるなら、記事を書く側ももっと腕の振るいようがあるのではないだろうか。 「予想(ヨソウ)」は反対方向から「ウソヨ」と読むくらいがちょうどいいのだ』、「現実の資産運用では、アセットアロケーションを調整するために手数料や市場に与えるインパクトなどから生じる「売買コスト」の存在が重大だ。 売買コストは、それ自体がたとえ小さいとしても「確実なマイナスの影響要素」だ。努力の結果生み出した予測だとしても「平均的には無価値な判断」に対してこれを割り当てることは合理的ではない」、「読者は、こうした予測特集の内容を、投資の参考にするために読むのではなく、分析者のアイデアを楽しむエンターテインメントとして読むべきだ」、「「予想(ヨソウ)」は反対方向から「ウソヨ」と読むくらいがちょうどいいのだ」、最後の部分は山崎氏のユーモアのセンスはまだまだ健在のようだ。
次に、12月18日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「2023年の「ドル円相場シナリオ」はどうなるのか 知っておくべき円高、円安の両方向のリスク」を:2022年も残すところあと半月になった。2023年のドル円相場はどうなるのか。筆者の考えるメインシナリオやリスクシナリオを示してみよう。 年明け以降のドル円相場は、1~3月期まではFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の利上げ幅や利上げ停止がテーマとして注目される中、アメリカ金利低下とドル安に応じた円高が促されやすいと考えている。この辺りは多くの市場参加者が共有する問題意識ではないかと思われる。 この際、下値目途は2022年の値幅の半値戻しである1ドル=130円前後をイメージしている。なぜ半値しか戻らないのかと言えば、筆者は今般の円安を「ドル全面高」と「円全面安」が併発した結果だと考えているからだ。 ドル全面高はFRBのハト派転換(pivot)とともに修正される余地があるにしても、史上最大の貿易赤字などを背景に歪んだ円全面安の部分は解消されないだろう。直感的にも巨大な貿易赤字を擁する世界で唯一のマイナス金利採用国の通貨が買われ続けるというイメージは湧きにくい。 では、2023年4~6月期以降はどうなるか。金融市場ではそのまま円高傾向が続き、2022年初頭の水準(1ドル=112~113円付近)に戻るという意見が多いように見受けられる。だが、筆者はそう思っていない。 これは上述した日本の金利・需給環境も加味した結論だが、それだけではない。金融市場のコンセンサスどおりの展開となれば、おそらく2023年4~6月期以降はFRBの利上げ停止を確認することになる。しかし、「次の一手」としての利下げが現実的に市場予想の範囲に入ってくるのは2023年中の話ではないだろう。 とすると、金融市場には当面、FRBの大きな政策変更を予想しないで済む穏当な時間帯が生まれる可能性がある。象徴的にはボラティリティ低下とともに株高という地合いに至る可能性がある。利下げをするわけではないので日本から見た内外金利差も相応に高止まりする公算が大きい。これは対ドルだけではなく、対クロス円通貨に対しても同様のことがいえる』、12月21日付けで日銀は異次元緩和を微修正した。長期金利の上限を0.5%に、円も131円台に上昇。
・『2023年終盤に1ドル=140円台に戻る? 「十分な金利差」と「低いボラティリティ」はキャリー取引が行われるための2大条件である。2022年中は日米金利差が円売りの材料として注目されたが、本当の意味で円安を駆動するとしたら2023年のほうが好ましい環境に思える。「円だけマイナス金利」という状況下、貿易赤字大国の通貨が上昇一辺倒という軌道を辿るのは非常に難しく説明に窮する。2023年10~12月期には再び1ドル=140円台を主戦場とするような地合いに至るのではないか。) 以上はメインシナリオだが、そうならないリスクも当然ある。リスクは上下双方向に拡がっており、それぞれ複数考えられるが、主だったものを1つずつ挙げておきたい』、「リスクは上下双方向に拡がっており、それぞれ複数考えられるが、主だったものを1つずつ挙げておきたい」、なるほど。
・『アメリカ利上げは本当に1~3月期に止まるのか まず、筆者の想定以上に円安がいきすぎるリスクだが、これはFRBの利上げ継続である。アメリカのインフレ率がピークアウトしていることはもはや自明であるとしても、多くの市場参加者が抱く「1~3月期中に利上げが停止する」という前提がそこまで確実なものなのか。 足元では、FRBが2%のインフレ目標で参照する個人消費支出(PCE)デフレーターはダラス地区連銀が試算するトリム平均指数(変動が非常に大きな異常値を除外して求める平均)で見ても前年比+4.7%程度、食料・エネルギーを除くコアベースでは+5%超、総合ベースでは+6%超である。PCEデフレーターが安定的に+2%程度になるという状況にまで、エネルギー情勢が年初3カ月間で収束するだろうか。 現状、利上げの終点と目される政策金利水準(以下ターミナルレート)のコンセンサスは4.75~5.25%というレンジにあるが、例えば「6月以降は四半期に1度、+25bp」というペースで利上げが継続する可能性もある。そうなった場合、ターミナルレートは6%に接近するだろう。 パウエルFRB議長は1年前(2021年11月末)、「インフレは一時的」という認識を急遽撤回し、市場に大きなショックを与えた経緯がある。当時の翻意に比べれば、利上げが1~3月期で停止せずに緩やかなペースで持続するという展開はさほど不自然ではない。メインシナリオではないが、円安方向のリスクシナリオとしては検討する価値がある。) 片や、筆者の想定とは逆方向に円高がいきすぎるリスクもある。これも複数考えられるが、やはり新体制への移行に伴う日本銀行のタカ派転換がその筆頭であろう。可能性としては上記の円安リスクよりは低いと思われるが、念頭に入れたいシナリオではある。 市場が抱く新体制へのイメージは「現状より緩和姿勢が強まることはない」程度であり、新総裁の候補者が複数名挙がっているものの、どの候補者になればどういった政策修正に至るのかというコンセンサスはない』、「市場が抱く新体制へのイメージは「現状より緩和姿勢が強まることはない」程度」、その通りだ。
・『岸田政権はアベノミクスと距離を取る? 12月13日に木原誠二官房副長官がブルームバーグとのインタビューで大規模金融緩和を正当化する政府・日銀による共同声明の修正に関し「新たな合意を結ぶ可能性はあるものの、現在の合意内容と異なるものになるかどうかはわからない」と語っている。言質は取らせていないが、ここは「修正は考えていない」と回答すべきだったように思えた。やはりアベノミクスとは距離を取る政策運営が志向されるのではないか。 具体策として想定されるものに関しては、引き締めの度合いが弱い順にフォワードガイダンスの修正、イールドカーブコントロール(YCC)における変幅拡大、YCCにおける操作年限の短期化、YCC廃止、利上げ(マイナス金利解除)などが考えられる。 このうち「新体制移行とともに利上げ」というような展開はほとんど想定されていない話と言える。2013年4月、黒田総裁が就任後初の会合で量的・質的金融緩和を決定し強烈なリフレ思想を煽った記憶を辿れば、その逆の展開が2023年4月に起きることはないのか。注目したい点である。 もちろん、保守的な岸田文雄政権の意向も相応に影響するであろうことを踏まえれば、日銀が家計部門にも大きな影響をもたらす利上げという決断に踏み切れる可能性は低い。また、リフレ思想を持たない(≒タカ派色の強い)市場参加者として注目される新任の高田創審議委員も日経新聞(12月10日)に掲載されたインタビューで、「(YCC解除に関して)残念ながらそういう局面になっていない」と述べている。 もちろん、現行体制と新体制では情報発信の意味も異なるだろうが、少なくとも現状の政策委員会の中では利上げを主張するような空気はまったく感じられないのが実情だろう。しかし、積極的な円買い材料に乏しいと言われる状況下、「日銀の利上げ」という為替市場参加者のほとんどが想定していない展開はリスクシナリオから外すべきではない、非常に重要な論点であるように思われる』、「「日銀の利上げ」という為替市場参加者のほとんどが想定していない展開はリスクシナリオから外すべきではない、非常に重要な論点であるように思われる」、その通りだ。
第三に、12月19日付けダイヤモンド・オンライン「2023年は混迷の「新時代」に突入、日本経済の命運握る卯年の“活路”」を紹介しよう。
https://dw.diamond.ne.jp/articles/-/29881
・『『週刊ダイヤモンド』12月24日・12月31日新年合併特大号の第一特集は「2023 総予測」だ。過去1年を総括し、翌年のゆくえを見通すという、年末年始の恒例企画だが、2022年は国内外ともに近年類を見ない大波乱の1年となった。来る23年はどうなるのか?経済はもちろん政治、社会、文化まで特集を通じて「総予測」する』、興味深そうだ。
・『混迷の時代に突入する2023年 日本と世界の“活路”を探る 来る2023年。景気と株価はどうなる?円安とインフレは続くのか?金利上昇や不動産暴落は起きるのか?そして、歴史に刻まれる出来事が相次いだ22年を経て、日本と世界はどうなってしまうのか――。 年末年始におけるメディアの定番企画が翌年の「予測」だ。経済メディアにおいては、新たな1年の経済や企業の予測に各媒体が総力を挙げるのが恒例となっている。 『週刊ダイヤモンド』では年末年始の超特大特集「総予測」がそれだ。今回も企業トップやアナリスト、学者ほか多数の専門家を直撃し、23年の見通しや注目キーワードなどを徹底分析した。 今特集を俯瞰して浮かび上がるのは、23年の日本と世界が、これまでの“前提”が崩れた混迷の「新時代」に突入するということだ。ことの発端は22年に起きた、100年先の日本史、世界史の教科書にも記されるだろう国内外における二つの歴史的事件にある』、それは、「ロシアによるウクライナ侵攻」、「安倍晋三元首相銃撃事件」、である。
・『岸田政権はダッチロール状態 統一地方選と日銀総裁人事が焦点 まず国外では、2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻だ。片や国内の方は、7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件がそれである。 前者は、21年から続いていた世界的なインフレのアクセルを踏み込み、目下のエネルギー価格や食料価格の高騰を招いている。 資源高騰は無論のこと、とりわけ米国におけるインフレは日本経済に甚大な影響を及ぼす。目下の日米金利差に起因する超円安の命運は、米国のインフレ対策──、利上げ動向に懸かっているからだ。 問題は経済面にとどまらない。戦況の泥沼化によって、周知のようにロシアによる核兵器使用という第二次大戦以降、最悪の事態さえ懸念されている。 ところが、この世界情勢の混迷に対し、日本の岸田政権はまさにダッチロール状態だ。 安倍氏暗殺でクローズアップされたのが、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自由民主党の“蜜月”関係だ。いわゆる「旧統一教会被害者救済法」が自民党と公明党など賛成多数で22年12月に成立したが、遅きに失した感は否めない。23年4月の統一地方選挙を岸田首相が乗り越えられるかどうかが、今後の政局を占う一つの焦点となる。 安倍氏の急逝は、政治のみならず金融政策のかじ取り役、日本銀行のトップ人事にも影響を与えそうだ。22年12月現在、23年4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任者選びが最終局面にある。「リフレ派」の黒田氏が、アベノミクスの目玉として官邸主導で送り込まれてから10年。安倍氏不在の今、現在の政策を踏襲する新総裁が誕生するのかに注目が集まっている。 こうした国内外の経営環境の激変を踏まえ、各産業、企業業績は23年どうなるのか。本特集では、ダイヤモンド編集部記者による日本企業「八大テーマ」座談会や、数多の日本を代表する企業トップや専門家への直撃インタビューなど徹底取材で明らかにする。 混迷の「新時代」が到来する中、卯年に倣って“跳躍”できるのか──。特集を通じて日本と世界の“活路”を探る』、「23年4月に任期満了を迎える黒田東彦総裁の後任者選びが最終局面にある。「リフレ派」の黒田氏が、アベノミクスの目玉として官邸主導で送り込まれてから10年。安倍氏不在の今、現在の政策を踏襲する新総裁が誕生するのかに注目」、「特集を通じて日本と世界の“活路”を探る」、なるほど。
・『「生前贈与」がダメになる前に得できる! 超豪華付録「駆け込み贈与・相続術カレンダー」つき(『週刊ダイヤモンド』12月24日・12月31日新年合併特大号の第一特集は「2023 総予測」です。 ページ数は、なんと物理的限界ギリギリの264ページ!295人の人物の名前が登場し、ダイヤモンド編集部の総力と多数の超一流の専門家の英知を結集させ、経済の先行きを徹底的に予測。株価、為替、企業業績のみならず、国際関係、政治、社会、文化、スポーツまで抜かりなく完全網羅しました。 さらに今回は、万人が無関係ではいられない“タイムリー”な豪華付録つきです。 相続税の節税術の王道だった生前贈与がもうすぐ事実上の禁じ手になることを踏まえて、人気税理士たちの監修の下に作成した「駆け込み贈与・相続術カレンダー」です。12カ月で後悔しない贈与と相続のやり方が学べること請け合いです。 家族が集う年末年始という絶好の機会に、贈与・相続を話し合いにお役立てください!』、「家族が集う年末年始という絶好の機会に、贈与・相続を話し合いにお役立てください!」、実にタイムリーな企画だ。
終末期(その9)(「こんなに急に悪化するとは思わなかった」これから親を看取る人は知っておきたい"老衰死の経過" いつ墜落するかわからない低空飛行中の飛行機の状態、96歳で崩御、エリザベス女王の死因「老衰」の意味 医師が解説「持病があってもPPKは叶うもの」、欧米では絶対にそんな治療はしない…現役医師が「日本の終末医療はほぼ虐待」と語るワケ 会話もできない寝たきりの状態で胃に栄養を流し込む) [人生]
終末期については、9月6日に取上げた。今日は、(その9)(「こんなに急に悪化するとは思わなかった」これから親を看取る人は知っておきたい"老衰死の経過" いつ墜落するかわからない低空飛行中の飛行機の状態、96歳で崩御、エリザベス女王の死因「老衰」の意味 医師が解説「持病があってもPPKは叶うもの」、欧米では絶対にそんな治療はしない…現役医師が「日本の終末医療はほぼ虐待」と語るワケ 会話もできない寝たきりの状態で胃に栄養を流し込む)である。
先ずは、10月6日付けPRESIDENT Onlineが掲載した内科医の名取 宏氏による「「こんなに急に悪化するとは思わなかった」これから親を看取る人は知っておきたい"老衰死の経過" いつ墜落するかわからない低空飛行中の飛行機の状態」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/62190
・『家族の看取りに際して後悔しないためにどんな準備ができるだろうか。内科医の名取宏さんは「老衰による死は、ご家族にとって突然に思えることが多い。だから心の準備をするために、どのような経過をたどるのか知っておいてほしい」という――』、興味深そうだ。
・『高齢化でかえって忘れられがちな老衰死 親世代のお看取りは、他人事ではありません。私個人にとっても、です。義父は老衰ではなく病気でしたが、自宅で看取りました。本人の希望で点滴もせず、経口摂取できなくなって数日で亡くなりました。義父本人も義理の息子(私)も医師で、どういう経過をたどるかわかっていたためスムーズにいきましたが、そうではない場合は家族が慌ててしまうことが多いでしょう。 ご存じの通り、今、日本はますますの超高齢化社会になっています。2020年(令和2年)の平均寿命は、女性が87.71歳、男性は81.56歳。2019年(令和元年)の平均寿命を女性は0.26年、男性は0.15年も上回っていて、今後ますます寿命が延びることが予想されています。高齢者である65歳以上の割合は、すでに28.9%です(※1)。 少子化なのは問題ですが、平均寿命と同時に健康寿命も延びていますから良いことですね。元気な高齢者が多いので、永遠に生きられるような気がするほどです。しかし実際はそうではなく、平均寿命はあくまで平均。そして誰もが老衰からは逃れられず、いつかは亡くなる時がくるのです。ですから「そんなの知らなかった」なんてことがないよう、これから親世代を見送る人たちに、老衰死の経過を知っておいてほしいと思います。(【図表1】平均寿命の推移と将来推計出所=内閣府「令和4年版高齢社会白書」はリンク先参照)』、「老衰死の経過」を知っておくことは、確かに役立ちそうだ。
・『高齢者の体調は「低空飛行中の飛行機」 私が勤務している病院はいわゆる慢性期病院で、入院患者さんのほとんどが高齢者です。90歳台は珍しくなく、100歳を超える患者さんもいらっしゃいます。高齢ですから、治療のかいなく亡くなることもよくあります。死亡診断書に記載する直接死因は「誤嚥ごえん性肺炎」や「心不全」などの病名がつくこともありますが、その背景には老衰があります。 何らかの病気ならば、適切に治療しても治らないことがあるものの、もちろん治ることもあります。一方で、老衰はどんな名医も治せません。医師にできることは、苦痛を和らげて、穏やかな最期を迎えていただくお手伝いをすることくらいです。ご家族の反応はさまざまで、医療従事者からみれば平均的な経過でも「こんなに急に悪くなるとは思わなかった」と言われることがよくあります。ごくまれに「病院に入院した以上は、必ず回復すると思っていた」とおっしゃるご家族も……。 そんな時に私がご家族への説明でよく使うたとえは「いつ墜落するかわからない低空飛行中の飛行機」です。何もなければ低空ながらずっと飛んでいられるように見えますが、食欲低下などの何らかの問題があれば急に墜落する恐れがあります。それが老衰というものなのです』、「高齢者の体調は「低空飛行中の飛行機」とは言い得て妙だ。
・『病気やケガは最後の一押しに過ぎない ご自宅や施設で暮らしていた高齢者が入院するきっかけは、食欲低下、発熱、転倒などですが、これが低空を飛んでいる飛行機の高度が急激に下がったことに相当します。熱中症や脱水なら点滴、肺炎なら抗菌薬の投与といった治療は十分にします。 それで高度が回復するならいいのですが、回復しなければ亡くなります。亡くなった最期だけを見ると急に悪くなったように見えますが、何年もかけてゆっくりと飛行機の高度は下がってきたのです。病気は、最後の一押しに過ぎません。 肺炎などの病気が治って、当面は命の危険がなくなっても、十分には回復しないこともあります。たとえば、誤嚥性肺炎の治療後に口から物を食べられなくなるケースです。物を飲み込む機能は複雑で、筋肉や神経の機能が衰えると、食道に送られるはずの食べ物が誤って気管や肺に送られ、肺炎を起こします。これが誤嚥性肺炎です。 肺炎自体は抗菌薬で治っても、体力が低下して衰えた「飲み込む機能」はなかなか元に戻りません。リハビリで回復するケースもないわけではありませんが、老衰が背景にある場合はまず回復しません』、「飲み込む機能」は「老衰が背景にある場合はまず回復しません」、厳しい現実だ。
・『食事をとれなくなったらどうするか 食事の経口摂取ができなくても「経鼻経管栄養」や「胃瘻いろう栄養」などといった栄養を補給する方法はあります。「経鼻経管栄養」は鼻から細いチューブを胃に通して栄養剤を入れる方法で、生命維持に必要なカロリーが補給できます。ただ、鼻にずっとチューブが入ったままなので不快感や苦痛を伴いますし、定期的にチューブの入れ替えが必要です。一方の「胃瘻栄養」は、胃に穴をあけてチューブを通して栄養剤を入れる方法で、長期的にはこちらのほうが負担は小さいといえます。神経難病などで飲み込む機能が衰えた患者さんにとっての胃瘻栄養は、命をつなぎ、生活の質を上げる重要な治療法です。 ですが、老衰で亡くなる恐れのある患者さんの胃瘻栄養は議論になるところです。日本では、自分で意思決定ができなくなった認知症の高齢者に対して胃瘻栄養が行われてきました。一方、海外の多くの国ではあまり行われていません。たとえばアメリカ老人医学会は、重度の認知症患者に対して胃瘻栄養は推奨せず、代わりに注意深く食事介助を行うとしています(※2)。 このことは欧米で寝たきり老人が少ない一因として挙げられます。「日本では胃瘻を造って強制的に栄養を取らせ高齢者を不自然に延命させる。欧米では口から食べられなくなったら自然で平穏な死を迎える」といった主張もあるほどです』、「「日本では胃瘻を造って強制的に栄養を取らせ高齢者を不自然に延命させる。欧米では口から食べられなくなったら自然で平穏な死を迎える」といった主張もあるほどです」、「胃瘻を造る」については、本人や家族からの強い要望がある場合に限定すべきだ。
・『胃瘻栄養を行わなければ点滴を行う とはいえ、胃瘻栄養を悪と見なすのも一方的すぎます。「胃瘻を造って長生きしたい」と考える患者さんの価値観も尊重されるべきです。ただし、患者さんの価値観や死生観を確認しないまま、漫然と胃瘻栄養を開始するのはよくありません。 最近は、日本でも胃瘻栄養を行うことは減りました。胃瘻を造る手術には、ご本人やご家族の同意が必要です。本来、治療方針はご本人が決めるべきですが、その意思確認が不可能な場合は、胃瘻栄養の利点や欠点や代替案について説明した上でご家族に選択していただきます。胃瘻栄養を行わない場合、末梢まっしょう点滴をすることがほとんどですが、十分なカロリーは入りませんから、患者さんは数週間から数カ月で亡くなります。 カロリーだけを考えればブドウ糖濃度の高い点滴を多めに入れたほうがいいのですが、濃い点滴は静脈炎を起こしやすく、水分を多く入れると体がむくみます。点滴は血液と同じ濃さ(等浸透圧)のものを選び、徐々に量を減らします。等浸透圧の輸液を少量行うのなら静脈注射ではなく皮下注射も可能です。血管が細い患者さんに静脈注射を試みると、何度も血管を刺されることになりやすいですが、皮下注射ならそんなことはなくなります』、「胃瘻栄養を行わない場合、末梢まっしょう点滴をすることがほとんどですが、十分なカロリーは入りませんから、患者さんは数週間から数カ月で亡くなります」、やむを得ないことだ。
・『人工呼吸や胸骨圧迫を行うかどうか 呼吸や心臓が止まったときの対応も、ご家族に選んでいただくことがあります。もともと元気な若い患者さんが心肺停止した場合の対応は迷いません。意思を確認するまでもなく、速やかに人工呼吸や胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始します。 ですが、老衰死が予測される患者さんに対しては心肺蘇生をせず、そのまま看取ることも多いのです。当院で老衰死が予想される入院患者さんに対しては、原則として前もってご家族と話し合い、心臓や呼吸が止まっても心肺蘇生を行わない方針を定めておきます。 私が医師になったばかりの頃は、こうした心肺蘇生を試みない方針は、それほど多くありませんでした。命を助けることは医療の目的の一つです。今にも死にそうな患者さんに対して何もしないことは、医師にとって抵抗感があります。ご家族も「できる限りのことはやってください」とおっしゃいました。すると患者さんは胸骨圧迫をされ、チューブを喉に入れられ、人工呼吸器につながれることになります』、「老衰死が予測される患者さんに対しては心肺蘇生をせず、そのまま看取ることも多いのです。当院で老衰死が予想される入院患者さんに対しては、原則として前もってご家族と話し合い、心臓や呼吸が止まっても心肺蘇生を行わない方針を定めておきます」、無駄な「心肺蘇生」を避けるためにも、必須だ。
・『死を迎えるお手伝いも医療の役割 高齢者に対して本気で胸骨圧迫を行えば、間違いなく肋骨は折れます。命を救うためなら肋骨が折れようともためらわずにやるべきなのですが、老衰死するような患者さんが心肺停止に陥った場合、心肺蘇生をしても治ることはありません。 もしかしたら一時的に呼吸や脈拍が戻ることはあるかもしれません。ですが、また同じことが起こるでしょう。多くは意識がないので苦痛を感じないはずですが、もしも意識があるなら、肋骨が折れたり、喉にチューブを入れられたりすれば苦痛を伴います。では、誰のために心肺蘇生をしたり、人工呼吸器につないだりするのでしょうか。以前は、本人のためではなく、医療者の自己満足やご家族の納得のためにやっていた側面が確かにありました。 人はみな、必ず死にます。死を「医療の敗北」と考えると、医療は必ず負けるのです。死を避けようとするだけではなく、死を迎えるお手伝いをすることも医療の大切な役割のはずです。いざというときに心肺蘇生を行わない方針であれば、入院や施設入所をせず、ご自宅でお看取りをするという選択肢もあります』、「人はみな、必ず死にます。死を「医療の敗北」と考えると、医療は必ず負けるのです。死を避けようとするだけではなく、死を迎えるお手伝いをすることも医療の大切な役割のはずです」、その通りだ。
・『訪問看護・診療を受けて自宅で看取る 自宅にいても、訪問看護や訪問診療によって抗菌薬や酸素の投与、鎮痛・鎮静といった医療は受けられます。義父を含めて私の親族の幾人かは、信頼できる在宅医と巡り会えたということもあって、在宅で看取りました。特に新型コロナウイルス感染症の流行によって病院や施設での面会が制限されている現在では、住み慣れた自宅で家族に最期を見届けてもらえるのは大きな利点です。 一方、入院と違って在宅のお看取りでは可能な医療行為は限られます。病態が急に悪化しても医師がかけつけるまでには時間がかかりますし、夜中に息を引き取った場合、医師が訪問して死亡を確認するのはたいてい翌日の朝になります。 在宅でお看取りする方針であったはずなのに、心肺停止時にご家族が救急車を呼んでしまった事例もときどき聞きます。この場合、心肺蘇生を行わない方針だとしても、その事実が確認できるまで救急隊員は心肺蘇生を行うことになります』、「在宅でお看取りする方針」の場合には、「心肺蘇生を行わない方針」を家族中で徹底しておく必要がありそうだ。
・『どのようなお看取りが最善なのか どのようなお看取りが良いのかという絶対の正解はありません。ケース・バイ・ケースで判断するしかないのです。患者さん本人が心肺蘇生を希望されるなら、その選択肢を尊重して十分な心肺蘇生を行います。十分な説明をされた上で、ご本人やご家族が少しでも納得のいく最期を迎えられるようにするしかありません。 高齢者ご本人が理解できるうちに十分な説明をし、胃瘻を造るかどうか、延命治療を行うかどうかを確認しておくのが理想的です。でも、もしもそれができなければ、ご家族が「ご本人だったらどうしたかったのか」をよく考えた上で選択されれば、それが最善だろうと私は思います。 最後に、死亡確認も医師の仕事です。聴診器で心音と呼吸音の停止を、ペンライトで対光反射の消失を確認し、死亡時刻を述べます。そのあとに「お疲れさまでした」と述べることが多くなりました。長く生きてこられた患者さまに対しての言葉でもありますし、長く看病されてきたご家族に対する言葉でもあります。何歳であってもご臨終はご家族にとってつらい瞬間です。悲しみや後悔を少しでも減らせるよう心がけています』、「何歳であってもご臨終はご家族にとってつらい瞬間です。悲しみや後悔を少しでも減らせるよう心がけています」、こうした丁寧な医師に看取ってもらいたいものだ。
次に、10月26日付け東洋経済オンラインが掲載した医療未来学者・医師の奥 真也氏による「96歳で崩御、エリザベス女王の死因「老衰」の意味 医師が解説「持病があってもPPKは叶うもの」」を紹介しよう。
・『この秋、英王室のエリザベス女王が亡くなりました。 その気高さ、成し遂げられた数々の人類への貢献は、多くの人が心から敬意を表するものだったと思い返します。1万キロに近い距離を隔て、日本人の多くも喪失の悲しみに打ちひしがれました。 9月30日、スコットランド当局は、エリザベス女王の死因が「老衰」であると発表しました。エリザベス女王の命を奪った「老衰」とは一体何なのでしょうか』、「「老衰」とは一体何なのでしょうか」、興味深そうだ。
・『人はなかなか死ねなくなった 人類の平均寿命が延びている。そのことにはみんな気づいていますよね。いえ、意識しなくても、誰しもがついつい気づいてしまうほどに著明に延びています。人間はなかなか死ねなくなりました。 現在の日本の平均寿命は男性が約82歳、女性は約88歳です。昔の話をしますと、戦後(1945年)すぐの頃には日本人の平均寿命は50歳を少し超えたくらいでした。当時は、戦争の影響で下がっていた面が多少はあったにせよ、今と大きな違いがあります。かつての60代、70代の人は、現代の同世代とは比べられないくらいに「老人」だったのです。 ところで、老衰、って何でしょうか。 医学的に「老衰」というのは案外に難しい概念です。「老化」ならば比較的わかりやすい。人間を含む生物は、代替わりを繰り返して成立するもの。新しい世代が生まれる前提として、老兵は去らなくてはならない。生物の定めとして、メンバーの新陳代謝を図るわけです。そして、その新陳代謝のために自然が用意した答えこそが「老化」だったのです。このことは古来の共通理解であったと思われます。つまり、去って行くために「老化」して心身機能が細胞レベルから後退し、やがて生命を閉じる方向に向かうということです。 翻って「老衰」です。老衰は老化によってだんだんと衰えていく状態を指す言葉です。しかし、「老衰」と聞くと、それ自体が病気の名前のように感じられると思います。そのことには理由があって、「老衰」は長い間、高齢者が起こす不調をざっくりと表す魔法の言葉のように使われてきました。医学が老化にともなう人間の現象をはっきりとわかっていなくて、曖昧な用語を使っていたという面があるのです。) 高齢になるに伴い、人間の機能は低下してきます。いろいろな低下が起こるのは、完全に自然のなせる業、節理です。 冒頭に書いたように、我々は誰しも、次の世代にバトンタッチして自らは消えていく使命を帯びて生まれてきています。世代継承のために必要な寿命は最短なら20歳、子育てまで含めても50年あればお釣りがきます。そのため、我々が持つ身体はもともと50年仕様なのです(身体の部品が50年仕様である話は、拙著『人は死ねない』〈晶文社〉でも詳しく書いています)。 さて、その50年仕様を大きく超えて高齢を極めた人間が亡くなる頃、身体のさまざまな機能がちょっとずつ、生命の維持に十分に耐えうる状態ではなくなってきます。心臓も悪く、肺も悪く、腎臓の機能も足りない……一個一個の臓器の異常が特に顕著なわけではなくても、全体としての「チーム力」が足りなくなるのです。そして、チーム力のせいで生命の灯がついえる状況を、我々は老衰と呼ぶのです』、「一個一個の臓器の異常が特に顕著なわけではなくても、全体としての「チーム力」が足りなくなるのです。そして、チーム力のせいで生命の灯がついえる状況を、我々は老衰と呼ぶのです」、なるほど。
・『各臓器の総力が足りなくなる なお、チーム力、と言いましたが、チーム力が足りなくなるときの最後の決定的な部分は、腎臓であったり肺であったり、また、心臓であったりします。野球でいうならば(野球に喩えるのが適切かどうかもわかりませんが)、4番バッターが打てなくなったから負けた、ピッチャーの層が薄いのが原因でリリーフの切り札の心身がボロボロになって打ち込まれた……というようなことでしょうか。ともかく、ひとりの人間全体の生命活動を支えるには各臓器の総力が足りなくなるのが老衰なのです。 そういう状況であることから、例えば高血圧や糖尿病の持病を抱えた、あるいはがんから回復したあとの「一病息災」「多病息災」の状況であっても、それらの病気が命を奪うことなく、「老衰」によって命を閉じることは十分にあり得ます。高齢でも目立った病気もなく日々の活動ができ、元気なままで、いわば、ピンピンピンピンピンピンコロリ(PPPPPPK)ということも高望みではありません。 国立国語研究所が運営するコーパスで調べてみます。コーパスとは、ごく簡単にいうと、検索しやすいように構造化された用例データベースです。コーパスで調べると、「老衰」が現代の意味で使われ始めたのは、少なくとも1878年生まれの小説家、有島武郎の『小さき者へ』までは遡れます。それより遙か以前、8世紀に著わされた書物にも「老衰」は使われています。しかし、その当時から18世紀までの間、同語の使われ方は、「齢を取って衰弱」という程度にとどまり、現代のような、病気に言及する意味はなさそうです。 ちょっと周辺の事情をお話ししたいと思います。 江戸時代から明治にかけて、日本に大量の西洋医学が入ってきました。蘭学医であった杉田玄白の『解体新書』などは、その文脈でよく知られる代表的な存在です。 当時、日本にはまだ存在しないモノや考え方が入ってきました。その結果、日本語の語彙として必要ないろいろな言葉が「転用」ないし「発明」されることになりました。「解剖」や「細胞」「侵襲」……といった医学用語が昔の語彙から蘇らされたり、たくさん作られたりしました。そのときに作られた言葉の見事さ、漢字の使われ方の完膚なきまでの技術を見ると、時代の知識層が漢文に大きな素養を持っていたことが見てとれます。現代人として恥ずかしくもなります。21世紀の日本語に定着しているさまざまな用語がこの時期に作られているのです。) そして、「老衰」もこの時期に使われ始めた「リバイバル語」であったと思われます。対応する西洋の言葉は「senility」(あえて普通に訳すなら、老化)、あるいは単純に「aging」あたりであったと想像されるものです。老いてだんだんと衰弱していく、まさにその状態をよく反映しています。 死亡診断書の話をしましょう。死亡診断書は、医師が人の臨終を看取ったときに書く書類です。この書類がないと、火葬することも、お葬式を出すこともできません。そして、医師は、死亡診断書を書くにあたり、死の原因をあれこれと医学的に判断し、1つの病名を書く決まりになっています。 仮にもし、その判断の時点で、死亡原因に不審な点があれば、「司法解剖」というものが行われるようになります。このあたりのシーンはテレビドラマなどでご覧になった方も多いのではないでしょうか。 さて、上段の話を裏付けるかのように、厚生労働省は、死亡診断書において、「老衰」という死因の記載を正式に認めています。 <死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います。ただし、老衰から他の病態を併発して死亡した場合は、医学的因果関係に従って記入することになります。> 下図はその公式文書ですが、こういう文書にありがちな、素人には少しとっつきにくいものであると思います。要は「ほかに死因として書けるものがなければ老衰を使っていいよ」ということです。 平成30年度版「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」より抜粋 さて、ひと時代を美しくしなやかに導いたエリザベス女王が亡くなったことは、英国民ならず世界の人々を悲しみの淵に追いやります。私とてその例外ではもちろんありません。 女王の死の報に接したときは海外出張の地で同僚(主に欧州人)たちと会食の盛りであったのですが、1人が速報をつかみ、その話は瞬く間にテーブルにいきわたりました。ひとしきり、食卓の話題は女王とその時代に関するものに占められることになったのです。それぞれの人の中にエリザベス女王はありました。大きな位置を占めているといってよい状態でした。 エリザベス女王が君臨した美しい20世紀の終焉が、時を十分に経た今、そして、老衰というかたちであったことに私は深い感慨を禁じ得ません。医学がいかに発展しようが、人の自然な先行きに老衰があるということは変えようがないものであると改めて認識します。老衰とはまさにそういう存在だと私は思うのです』、「厚生労働省は、死亡診断書において、<死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います。ただし、老衰から他の病態を併発して死亡した場合は、医学的因果関係に従って記入することになります』、「エリザベス女王」の「老衰」、について、「医学がいかに発展しようが、人の自然な先行きに老衰があるということは変えようがないものであると改めて認識します」、同感である。
第三に、11月28日付けPRESIDENT Onlineが掲載した臨床内科認定医の杉浦 敏之氏による「欧米では絶対にそんな治療はしない…現役医師が「日本の終末医療はほぼ虐待」と語るワケ 会話もできない寝たきりの状態で胃に栄養を流し込む」を紹介しよう。
・『日本では終末期の患者に点滴や人工栄養による延命措置を行うことがある。臨床内科認定医の杉浦敏之さんは「欧米では終末期に無理な延命を行わない方針が取られており、オーストラリアでは『栄養状態改善のための積極的介入は、倫理的に問題がある』と明確に指摘されている。家族や医療者ではなく『患者さんの最善の利益』を求める治療を整備していくべきだ」という――。(第2回) ※本稿は、杉浦敏之『死ねない老人』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『「患者さんが亡くなる=敗北」であれば医師はつねに全敗 医師は病と闘い、人の命を救うのが仕事です。 そのため医師にとっては、患者さんが亡くなることは医療の力が及ばなかった「敗北」という感覚があるのも事実です。だから死を認められない、認めたくない気持ちが働くのかもしれません。しかし、どれだけ医療が発展しても、生物としての死を免れることはできません。人の致死率は100%です。医師にとって「死が敗北」なら、確実に「全敗」なのです。 「全敗」というのは、90歳まで現役の医師として臨床の現場に出ていた私の父の言葉です。父は生前、医療の究極の目的は「いかに患者さんが満足して死んでいけるか」だとも語っていたことがあります。医師として半世紀以上、患者さんの生死を見つめてきた経験、そして自分自身が年齢を重ねてきたなかで行き着いた、一つの結論だと思います。 私自身も在宅医療や看取りを行うようになってから、つくづく父の言葉は真理だと思うようになりました。「満足のいく最期」ということを考えたとき、人工呼吸器や人工栄養などの望まない延命医療を施し、高齢者の苦痛を増やすのは満足とは正反対の、明らかに患者さんの利益に反する行為です。 にもかかわらず、終末期に至っても濃厚な医療が続けられてきた背景について、東京大学大学院人文社会系研究科附属死生学・応用倫理センターの特任教授・会田薫子氏は、次のように指摘しています。 「なぜ終末期の高齢者に人工栄養(胃瘻いろう)を行うかというと、『自然死についての社会のコンセンサスがない』『法律上の問題がある』『家族の希望である』『遠くの親戚が口を出す』などの様々な理由が出てくるが、実は『人工栄養の差し控えは餓死させることと同じだと思う』という医師の意識が一番大きいものだった」(ブックレット『高齢者の終末期医療を考える』生産性出版) 現在の日本では高齢者医療に携わる医師ですら、より苦痛が少なく、満足度の高い終末期医療についての正確な知識や理解がない、ということです。これは世界的に見ても異様な状況です』、「「なぜ終末期の高齢者に人工栄養(胃瘻いろう)を行うかというと」、「実は『人工栄養の差し控えは餓死させることと同じだと思う』という医師の意識が一番大きいものだった」、「現在の日本では高齢者医療に携わる医師ですら、より苦痛が少なく、満足度の高い終末期医療についての正確な知識や理解がない、ということです。これは世界的に見ても異様な状況です」、ショッキングな事実だ。
・『欧米では事前に終末医療のマニュアルを医師と本人が作成する アメリカや欧州、オーストラリアなどの先進諸国では、人として尊厳のある死やそのための終末期医療について、もうずいぶん前から議論がなされてきています。それにより、どのようなときにどのような医療・ケアを行うか(行わないか)という具体的な指針も既につくられています。 たとえばアメリカでは、人生の最期のときまで本人の意思決定、自己決定権を尊重することが、尊厳のある死という考え方があります。そのため、高齢や病気によって終末期に至った人が治療を望まないという意思表示をしたとき、医療者はもちろん、家族ですらそれに反対することはありません。万一、本人の意思に反して治療を行えば、医師が家族に訴えられることもあります。 ただ一般の患者さんの意思表示だけでは、希望する医療の内容があいまいだったり、家に保管していていざというときに役立たなかったりすることから、医師と相談して治療内容を確認しておく「生命維持治療のための医師指示書(通称POLST)」というものが活用されるようになっています。 これは1991年にオレゴン・ヘルスサイエンス大学病院のリチャードソン博士が開発したものです。終末期の人(病気や加齢で余命1年程度と診断された人)が、次の医療行為を受けるかどうかについて、患者本人あるいは医療代理人と、医師とが相談して決めます。 医療行為は①心肺停止時の蘇生、②脈拍あるいは呼吸があるときの積極的治療、③抗生剤投与、④人工栄養、の4つです。そしてオリジナルの医師指示書は患者さんが保管し、医師もコピーを所持したり、情報をカルテに保持したりします。これがあれば、患者さんの状態が変わったときにも医師は治療方法に迷うことはありません。 実際の医療現場で、患者さんの意思が確実に反映されるしくみといえます』、「生命維持治療のための医師指示書(通称POLST)」は、「終末期の人・・・が、次の医療行為を受けるかどうかについて、患者本人あるいは医療代理人と、医師とが相談して決めます」、「オリジナルの医師指示書は患者さんが保管し、医師もコピーを所持したり、情報をカルテに保持したりします。これがあれば、患者さんの状態が変わったときにも医師は治療方法に迷うことはありません。 実際の医療現場で、患者さんの意思が確実に反映されるしくみ」、進んだ仕組みだ。
・『最も大切なことは「入所者の満足感」である またオーストラリアでは、政府が2006年に「高齢者介護施設における緩和医療のガイドライン」を策定しています。そこでは、終末期の医療・ケアについて次のような方針が明確に示されています(以下、『高齢者の終末期医療を考える』より引用)。 ・無理に食事をさせてはいけない ・栄養状態改善のための積極的介入は、倫理的に問題がある ・脱水のまま死ぬことは悲惨であると思い点滴を行うが、緩和医療の専門家は経管栄養や点滴は有害と考える ・最も大切なことは入所者の満足感であり、最良の点滴をすることではない)・『終末期の高齢者が食事をしなくなることは自然なこと 世界各国の終末期医療を調査し、札幌で「高齢者の終末期医療を考える会」を立ち上げているのが、宮本顕二医師と宮本礼子医師のご夫妻です。認知症が専門の宮本礼子医師は、2007年に初めてスウェーデンの終末期医療を目にしたときの驚きを率直に著書に綴つづり、現地の医師の話をこう紹介しています(『欧米に寝たきり老人はいない』中央公論新社)。 「タークマン先生は、『スウェーデンでは、高齢者が食べなくなっても、点滴や経管栄養を行いません。食べられるだけ、飲めるだけですが、安らかに亡くなります。私の父もそうして亡くなりました。亡くなる前日まで話すことができて穏やかな最期でした』と言いました。日本では高齢者が人生の終わりに食べなくなると、点滴や経管栄養をするのが当たり前でした。 点滴もしないことに私が驚くと、『ベッドの上で、点滴で生きている人生なんて、何の意味があるのですか?』と逆に聞かれてしまいました。そして『スウェーデンも昔は高齢者が食べなくなると点滴や経管栄養を行っていましたが、20年かけてしなくなりました』と言っていました」 終末期の高齢者が食べなくなるのは、死に向かうとき自然な体の変化です。死が近づくと体が食べ物を受け付けなくなるのです』、「スウェーデンも昔は高齢者が食べなくなると点滴や経管栄養を行っていましたが、20年かけてしなくなりました」、「終末期の高齢者が食べなくなるのは、死に向かうとき自然な体の変化です。死が近づくと体が食べ物を受け付けなくなるのです」、なるほど。
・『無理やり食事をとらせるのは虐待しているようなもの 日本でも昔は医師にも社会にも「食べられなくなったらそこまで」という感覚があったものです。そしてときどき口に水やリンゴの搾り汁などを含ませる程度で、それだけでお年寄りは穏やかに亡くなっていました。 それに対し、現代の医師や介護者は高齢者が食べなくなると空腹やのどの渇きで苦痛なのではないかと考えてしまい、いつまでも必死に食べさせようとします。そして自力で食べられなくなれば、人工栄養や点滴を施します。宮本礼子医師も、日本で欧米式の人工栄養も点滴もしない終末期医療を提案すると、必ず医師たちから「患者さんを餓死させるのか」「見殺しにするのか」という質問や反発を受けると記しています。 しかし終末期に至った人は、健康な私たちが想像するような空腹やのどの渇きによる苦痛は感じなくなっています。体内の栄養や水分が少なくなるとβエンドルフィンやケトン体が多く分泌され、自然に鎮静鎮痛効果が働くともいわれています。むしろ食べられなくなった患者さんに無理に食事をとらせ、誤嚥ごえん性肺炎を繰り返すようなことは欧米の感覚でいえば「虐待」に相当します。 会話もできない寝たきりの状態で褥瘡じょくそうをつくりながら胃瘻で命をつなぐというのもそうかもしれません。点滴にしても、体に水分を多く入れれば痰が増えて吸引が多く必要になりますし、浮腫や肺水腫が増え、溺死と同じように肺に水が溜まって亡くなる患者さんも多くいます。私も在宅看取りでは点滴を減らし、水分を抜いて“乾かす”ようにしたほうが、患者さんの苦痛が少なく穏やかな最期になることを、確かに実感しています』、「現代の医師や介護者は高齢者が食べなくなると空腹やのどの渇きで苦痛なのではないかと考えてしまい、いつまでも必死に食べさせようとします。そして自力で食べられなくなれば、人工栄養や点滴を施します」、「終末期に至った人は、健康な私たちが想像するような空腹やのどの渇きによる苦痛は感じなくなっています。体内の栄養や水分が少なくなるとβエンドルフィンやケトン体が多く分泌され、自然に鎮静鎮痛効果が働くともいわれています。むしろ食べられなくなった患者さんに無理に食事をとらせ、誤嚥ごえん性肺炎を繰り返すようなことは欧米の感覚でいえば「虐待」に相当します」、「欧米の感覚でいえば「虐待」に相当」とはショッキングだ。
・『家族や医療者ではなく「患者さんの最善の利益」を求めるべき 欧米のほか、歴史的・文化的な背景の近いアジアでも、台湾や韓国は25年近く前から、患者本人の希望があれば積極的延命をしない方向になっており、法的にもそれが保証されてきています。 台湾では、2000年に「安寧緩和医療法」という尊厳死を法的に認める法案が100%の賛成で可決しています。台湾でも尊厳死法制化の前は、終末期の人に対して心臓マッサージ、人工呼吸、人工栄養、点滴などの処置が行われていたそうです。しかし現在は患者本人、または代理人のリビング・ウィルがあれば、延命治療の非開始も中止も、どちらも合法になりました。 また台湾には「終末期退院」と呼ばれる慣行があり、本人が希望すれば病院で緩和ケアを受けることも、自宅で在宅ホスピスを受けることもできるようになっています。一方の韓国では、終末期医療中止等を法的に認める「ホスピス・緩和医療および終末期患者の延命医療の決定に関する法律」が2016年1月に可決成立。2018年に施行されました。 患者さんの意思表明については「事前延命医療意向書」を作成し、登録します。登録先の医療機関やリビング・ウィル事業者を管理する、国立延命医療管理機関も設置されています。私も以前、海外の終末期患者のための病室を見学したある先生の講演で次のようなことを聞きました。 そこは天国に一番近いという意味で病院の最上階にあり、室内の内装も、天国や極楽浄土を思わせるような明るく、居心地のいい雰囲気になっていました。そこでお年寄りたちは家族と自由に交流をしたり、苦痛を取り除くケアを受けたりしながら最期の日々を過ごすのです。病院で亡くなるにしても、こうした環境と適切な終末期医療・ケアがあれば、その人らしい尊厳のある死を実現することはできるのです。 世界一の超高齢社会である日本でも、家族や医療者が納得するための終末期医療ではなく、「患者さんの最善の利益」のための終末期医療が整備され、広まっていく必要があるのはいうまでもありません』、「世界一の超高齢社会である日本でも、家族や医療者が納得するための終末期医療ではなく、「患者さんの最善の利益」のための終末期医療が整備され、広まっていく必要がある」、強く同意する。
先ずは、10月6日付けPRESIDENT Onlineが掲載した内科医の名取 宏氏による「「こんなに急に悪化するとは思わなかった」これから親を看取る人は知っておきたい"老衰死の経過" いつ墜落するかわからない低空飛行中の飛行機の状態」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/62190
・『家族の看取りに際して後悔しないためにどんな準備ができるだろうか。内科医の名取宏さんは「老衰による死は、ご家族にとって突然に思えることが多い。だから心の準備をするために、どのような経過をたどるのか知っておいてほしい」という――』、興味深そうだ。
・『高齢化でかえって忘れられがちな老衰死 親世代のお看取りは、他人事ではありません。私個人にとっても、です。義父は老衰ではなく病気でしたが、自宅で看取りました。本人の希望で点滴もせず、経口摂取できなくなって数日で亡くなりました。義父本人も義理の息子(私)も医師で、どういう経過をたどるかわかっていたためスムーズにいきましたが、そうではない場合は家族が慌ててしまうことが多いでしょう。 ご存じの通り、今、日本はますますの超高齢化社会になっています。2020年(令和2年)の平均寿命は、女性が87.71歳、男性は81.56歳。2019年(令和元年)の平均寿命を女性は0.26年、男性は0.15年も上回っていて、今後ますます寿命が延びることが予想されています。高齢者である65歳以上の割合は、すでに28.9%です(※1)。 少子化なのは問題ですが、平均寿命と同時に健康寿命も延びていますから良いことですね。元気な高齢者が多いので、永遠に生きられるような気がするほどです。しかし実際はそうではなく、平均寿命はあくまで平均。そして誰もが老衰からは逃れられず、いつかは亡くなる時がくるのです。ですから「そんなの知らなかった」なんてことがないよう、これから親世代を見送る人たちに、老衰死の経過を知っておいてほしいと思います。(【図表1】平均寿命の推移と将来推計出所=内閣府「令和4年版高齢社会白書」はリンク先参照)』、「老衰死の経過」を知っておくことは、確かに役立ちそうだ。
・『高齢者の体調は「低空飛行中の飛行機」 私が勤務している病院はいわゆる慢性期病院で、入院患者さんのほとんどが高齢者です。90歳台は珍しくなく、100歳を超える患者さんもいらっしゃいます。高齢ですから、治療のかいなく亡くなることもよくあります。死亡診断書に記載する直接死因は「誤嚥ごえん性肺炎」や「心不全」などの病名がつくこともありますが、その背景には老衰があります。 何らかの病気ならば、適切に治療しても治らないことがあるものの、もちろん治ることもあります。一方で、老衰はどんな名医も治せません。医師にできることは、苦痛を和らげて、穏やかな最期を迎えていただくお手伝いをすることくらいです。ご家族の反応はさまざまで、医療従事者からみれば平均的な経過でも「こんなに急に悪くなるとは思わなかった」と言われることがよくあります。ごくまれに「病院に入院した以上は、必ず回復すると思っていた」とおっしゃるご家族も……。 そんな時に私がご家族への説明でよく使うたとえは「いつ墜落するかわからない低空飛行中の飛行機」です。何もなければ低空ながらずっと飛んでいられるように見えますが、食欲低下などの何らかの問題があれば急に墜落する恐れがあります。それが老衰というものなのです』、「高齢者の体調は「低空飛行中の飛行機」とは言い得て妙だ。
・『病気やケガは最後の一押しに過ぎない ご自宅や施設で暮らしていた高齢者が入院するきっかけは、食欲低下、発熱、転倒などですが、これが低空を飛んでいる飛行機の高度が急激に下がったことに相当します。熱中症や脱水なら点滴、肺炎なら抗菌薬の投与といった治療は十分にします。 それで高度が回復するならいいのですが、回復しなければ亡くなります。亡くなった最期だけを見ると急に悪くなったように見えますが、何年もかけてゆっくりと飛行機の高度は下がってきたのです。病気は、最後の一押しに過ぎません。 肺炎などの病気が治って、当面は命の危険がなくなっても、十分には回復しないこともあります。たとえば、誤嚥性肺炎の治療後に口から物を食べられなくなるケースです。物を飲み込む機能は複雑で、筋肉や神経の機能が衰えると、食道に送られるはずの食べ物が誤って気管や肺に送られ、肺炎を起こします。これが誤嚥性肺炎です。 肺炎自体は抗菌薬で治っても、体力が低下して衰えた「飲み込む機能」はなかなか元に戻りません。リハビリで回復するケースもないわけではありませんが、老衰が背景にある場合はまず回復しません』、「飲み込む機能」は「老衰が背景にある場合はまず回復しません」、厳しい現実だ。
・『食事をとれなくなったらどうするか 食事の経口摂取ができなくても「経鼻経管栄養」や「胃瘻いろう栄養」などといった栄養を補給する方法はあります。「経鼻経管栄養」は鼻から細いチューブを胃に通して栄養剤を入れる方法で、生命維持に必要なカロリーが補給できます。ただ、鼻にずっとチューブが入ったままなので不快感や苦痛を伴いますし、定期的にチューブの入れ替えが必要です。一方の「胃瘻栄養」は、胃に穴をあけてチューブを通して栄養剤を入れる方法で、長期的にはこちらのほうが負担は小さいといえます。神経難病などで飲み込む機能が衰えた患者さんにとっての胃瘻栄養は、命をつなぎ、生活の質を上げる重要な治療法です。 ですが、老衰で亡くなる恐れのある患者さんの胃瘻栄養は議論になるところです。日本では、自分で意思決定ができなくなった認知症の高齢者に対して胃瘻栄養が行われてきました。一方、海外の多くの国ではあまり行われていません。たとえばアメリカ老人医学会は、重度の認知症患者に対して胃瘻栄養は推奨せず、代わりに注意深く食事介助を行うとしています(※2)。 このことは欧米で寝たきり老人が少ない一因として挙げられます。「日本では胃瘻を造って強制的に栄養を取らせ高齢者を不自然に延命させる。欧米では口から食べられなくなったら自然で平穏な死を迎える」といった主張もあるほどです』、「「日本では胃瘻を造って強制的に栄養を取らせ高齢者を不自然に延命させる。欧米では口から食べられなくなったら自然で平穏な死を迎える」といった主張もあるほどです」、「胃瘻を造る」については、本人や家族からの強い要望がある場合に限定すべきだ。
・『胃瘻栄養を行わなければ点滴を行う とはいえ、胃瘻栄養を悪と見なすのも一方的すぎます。「胃瘻を造って長生きしたい」と考える患者さんの価値観も尊重されるべきです。ただし、患者さんの価値観や死生観を確認しないまま、漫然と胃瘻栄養を開始するのはよくありません。 最近は、日本でも胃瘻栄養を行うことは減りました。胃瘻を造る手術には、ご本人やご家族の同意が必要です。本来、治療方針はご本人が決めるべきですが、その意思確認が不可能な場合は、胃瘻栄養の利点や欠点や代替案について説明した上でご家族に選択していただきます。胃瘻栄養を行わない場合、末梢まっしょう点滴をすることがほとんどですが、十分なカロリーは入りませんから、患者さんは数週間から数カ月で亡くなります。 カロリーだけを考えればブドウ糖濃度の高い点滴を多めに入れたほうがいいのですが、濃い点滴は静脈炎を起こしやすく、水分を多く入れると体がむくみます。点滴は血液と同じ濃さ(等浸透圧)のものを選び、徐々に量を減らします。等浸透圧の輸液を少量行うのなら静脈注射ではなく皮下注射も可能です。血管が細い患者さんに静脈注射を試みると、何度も血管を刺されることになりやすいですが、皮下注射ならそんなことはなくなります』、「胃瘻栄養を行わない場合、末梢まっしょう点滴をすることがほとんどですが、十分なカロリーは入りませんから、患者さんは数週間から数カ月で亡くなります」、やむを得ないことだ。
・『人工呼吸や胸骨圧迫を行うかどうか 呼吸や心臓が止まったときの対応も、ご家族に選んでいただくことがあります。もともと元気な若い患者さんが心肺停止した場合の対応は迷いません。意思を確認するまでもなく、速やかに人工呼吸や胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始します。 ですが、老衰死が予測される患者さんに対しては心肺蘇生をせず、そのまま看取ることも多いのです。当院で老衰死が予想される入院患者さんに対しては、原則として前もってご家族と話し合い、心臓や呼吸が止まっても心肺蘇生を行わない方針を定めておきます。 私が医師になったばかりの頃は、こうした心肺蘇生を試みない方針は、それほど多くありませんでした。命を助けることは医療の目的の一つです。今にも死にそうな患者さんに対して何もしないことは、医師にとって抵抗感があります。ご家族も「できる限りのことはやってください」とおっしゃいました。すると患者さんは胸骨圧迫をされ、チューブを喉に入れられ、人工呼吸器につながれることになります』、「老衰死が予測される患者さんに対しては心肺蘇生をせず、そのまま看取ることも多いのです。当院で老衰死が予想される入院患者さんに対しては、原則として前もってご家族と話し合い、心臓や呼吸が止まっても心肺蘇生を行わない方針を定めておきます」、無駄な「心肺蘇生」を避けるためにも、必須だ。
・『死を迎えるお手伝いも医療の役割 高齢者に対して本気で胸骨圧迫を行えば、間違いなく肋骨は折れます。命を救うためなら肋骨が折れようともためらわずにやるべきなのですが、老衰死するような患者さんが心肺停止に陥った場合、心肺蘇生をしても治ることはありません。 もしかしたら一時的に呼吸や脈拍が戻ることはあるかもしれません。ですが、また同じことが起こるでしょう。多くは意識がないので苦痛を感じないはずですが、もしも意識があるなら、肋骨が折れたり、喉にチューブを入れられたりすれば苦痛を伴います。では、誰のために心肺蘇生をしたり、人工呼吸器につないだりするのでしょうか。以前は、本人のためではなく、医療者の自己満足やご家族の納得のためにやっていた側面が確かにありました。 人はみな、必ず死にます。死を「医療の敗北」と考えると、医療は必ず負けるのです。死を避けようとするだけではなく、死を迎えるお手伝いをすることも医療の大切な役割のはずです。いざというときに心肺蘇生を行わない方針であれば、入院や施設入所をせず、ご自宅でお看取りをするという選択肢もあります』、「人はみな、必ず死にます。死を「医療の敗北」と考えると、医療は必ず負けるのです。死を避けようとするだけではなく、死を迎えるお手伝いをすることも医療の大切な役割のはずです」、その通りだ。
・『訪問看護・診療を受けて自宅で看取る 自宅にいても、訪問看護や訪問診療によって抗菌薬や酸素の投与、鎮痛・鎮静といった医療は受けられます。義父を含めて私の親族の幾人かは、信頼できる在宅医と巡り会えたということもあって、在宅で看取りました。特に新型コロナウイルス感染症の流行によって病院や施設での面会が制限されている現在では、住み慣れた自宅で家族に最期を見届けてもらえるのは大きな利点です。 一方、入院と違って在宅のお看取りでは可能な医療行為は限られます。病態が急に悪化しても医師がかけつけるまでには時間がかかりますし、夜中に息を引き取った場合、医師が訪問して死亡を確認するのはたいてい翌日の朝になります。 在宅でお看取りする方針であったはずなのに、心肺停止時にご家族が救急車を呼んでしまった事例もときどき聞きます。この場合、心肺蘇生を行わない方針だとしても、その事実が確認できるまで救急隊員は心肺蘇生を行うことになります』、「在宅でお看取りする方針」の場合には、「心肺蘇生を行わない方針」を家族中で徹底しておく必要がありそうだ。
・『どのようなお看取りが最善なのか どのようなお看取りが良いのかという絶対の正解はありません。ケース・バイ・ケースで判断するしかないのです。患者さん本人が心肺蘇生を希望されるなら、その選択肢を尊重して十分な心肺蘇生を行います。十分な説明をされた上で、ご本人やご家族が少しでも納得のいく最期を迎えられるようにするしかありません。 高齢者ご本人が理解できるうちに十分な説明をし、胃瘻を造るかどうか、延命治療を行うかどうかを確認しておくのが理想的です。でも、もしもそれができなければ、ご家族が「ご本人だったらどうしたかったのか」をよく考えた上で選択されれば、それが最善だろうと私は思います。 最後に、死亡確認も医師の仕事です。聴診器で心音と呼吸音の停止を、ペンライトで対光反射の消失を確認し、死亡時刻を述べます。そのあとに「お疲れさまでした」と述べることが多くなりました。長く生きてこられた患者さまに対しての言葉でもありますし、長く看病されてきたご家族に対する言葉でもあります。何歳であってもご臨終はご家族にとってつらい瞬間です。悲しみや後悔を少しでも減らせるよう心がけています』、「何歳であってもご臨終はご家族にとってつらい瞬間です。悲しみや後悔を少しでも減らせるよう心がけています」、こうした丁寧な医師に看取ってもらいたいものだ。
次に、10月26日付け東洋経済オンラインが掲載した医療未来学者・医師の奥 真也氏による「96歳で崩御、エリザベス女王の死因「老衰」の意味 医師が解説「持病があってもPPKは叶うもの」」を紹介しよう。
・『この秋、英王室のエリザベス女王が亡くなりました。 その気高さ、成し遂げられた数々の人類への貢献は、多くの人が心から敬意を表するものだったと思い返します。1万キロに近い距離を隔て、日本人の多くも喪失の悲しみに打ちひしがれました。 9月30日、スコットランド当局は、エリザベス女王の死因が「老衰」であると発表しました。エリザベス女王の命を奪った「老衰」とは一体何なのでしょうか』、「「老衰」とは一体何なのでしょうか」、興味深そうだ。
・『人はなかなか死ねなくなった 人類の平均寿命が延びている。そのことにはみんな気づいていますよね。いえ、意識しなくても、誰しもがついつい気づいてしまうほどに著明に延びています。人間はなかなか死ねなくなりました。 現在の日本の平均寿命は男性が約82歳、女性は約88歳です。昔の話をしますと、戦後(1945年)すぐの頃には日本人の平均寿命は50歳を少し超えたくらいでした。当時は、戦争の影響で下がっていた面が多少はあったにせよ、今と大きな違いがあります。かつての60代、70代の人は、現代の同世代とは比べられないくらいに「老人」だったのです。 ところで、老衰、って何でしょうか。 医学的に「老衰」というのは案外に難しい概念です。「老化」ならば比較的わかりやすい。人間を含む生物は、代替わりを繰り返して成立するもの。新しい世代が生まれる前提として、老兵は去らなくてはならない。生物の定めとして、メンバーの新陳代謝を図るわけです。そして、その新陳代謝のために自然が用意した答えこそが「老化」だったのです。このことは古来の共通理解であったと思われます。つまり、去って行くために「老化」して心身機能が細胞レベルから後退し、やがて生命を閉じる方向に向かうということです。 翻って「老衰」です。老衰は老化によってだんだんと衰えていく状態を指す言葉です。しかし、「老衰」と聞くと、それ自体が病気の名前のように感じられると思います。そのことには理由があって、「老衰」は長い間、高齢者が起こす不調をざっくりと表す魔法の言葉のように使われてきました。医学が老化にともなう人間の現象をはっきりとわかっていなくて、曖昧な用語を使っていたという面があるのです。) 高齢になるに伴い、人間の機能は低下してきます。いろいろな低下が起こるのは、完全に自然のなせる業、節理です。 冒頭に書いたように、我々は誰しも、次の世代にバトンタッチして自らは消えていく使命を帯びて生まれてきています。世代継承のために必要な寿命は最短なら20歳、子育てまで含めても50年あればお釣りがきます。そのため、我々が持つ身体はもともと50年仕様なのです(身体の部品が50年仕様である話は、拙著『人は死ねない』〈晶文社〉でも詳しく書いています)。 さて、その50年仕様を大きく超えて高齢を極めた人間が亡くなる頃、身体のさまざまな機能がちょっとずつ、生命の維持に十分に耐えうる状態ではなくなってきます。心臓も悪く、肺も悪く、腎臓の機能も足りない……一個一個の臓器の異常が特に顕著なわけではなくても、全体としての「チーム力」が足りなくなるのです。そして、チーム力のせいで生命の灯がついえる状況を、我々は老衰と呼ぶのです』、「一個一個の臓器の異常が特に顕著なわけではなくても、全体としての「チーム力」が足りなくなるのです。そして、チーム力のせいで生命の灯がついえる状況を、我々は老衰と呼ぶのです」、なるほど。
・『各臓器の総力が足りなくなる なお、チーム力、と言いましたが、チーム力が足りなくなるときの最後の決定的な部分は、腎臓であったり肺であったり、また、心臓であったりします。野球でいうならば(野球に喩えるのが適切かどうかもわかりませんが)、4番バッターが打てなくなったから負けた、ピッチャーの層が薄いのが原因でリリーフの切り札の心身がボロボロになって打ち込まれた……というようなことでしょうか。ともかく、ひとりの人間全体の生命活動を支えるには各臓器の総力が足りなくなるのが老衰なのです。 そういう状況であることから、例えば高血圧や糖尿病の持病を抱えた、あるいはがんから回復したあとの「一病息災」「多病息災」の状況であっても、それらの病気が命を奪うことなく、「老衰」によって命を閉じることは十分にあり得ます。高齢でも目立った病気もなく日々の活動ができ、元気なままで、いわば、ピンピンピンピンピンピンコロリ(PPPPPPK)ということも高望みではありません。 国立国語研究所が運営するコーパスで調べてみます。コーパスとは、ごく簡単にいうと、検索しやすいように構造化された用例データベースです。コーパスで調べると、「老衰」が現代の意味で使われ始めたのは、少なくとも1878年生まれの小説家、有島武郎の『小さき者へ』までは遡れます。それより遙か以前、8世紀に著わされた書物にも「老衰」は使われています。しかし、その当時から18世紀までの間、同語の使われ方は、「齢を取って衰弱」という程度にとどまり、現代のような、病気に言及する意味はなさそうです。 ちょっと周辺の事情をお話ししたいと思います。 江戸時代から明治にかけて、日本に大量の西洋医学が入ってきました。蘭学医であった杉田玄白の『解体新書』などは、その文脈でよく知られる代表的な存在です。 当時、日本にはまだ存在しないモノや考え方が入ってきました。その結果、日本語の語彙として必要ないろいろな言葉が「転用」ないし「発明」されることになりました。「解剖」や「細胞」「侵襲」……といった医学用語が昔の語彙から蘇らされたり、たくさん作られたりしました。そのときに作られた言葉の見事さ、漢字の使われ方の完膚なきまでの技術を見ると、時代の知識層が漢文に大きな素養を持っていたことが見てとれます。現代人として恥ずかしくもなります。21世紀の日本語に定着しているさまざまな用語がこの時期に作られているのです。) そして、「老衰」もこの時期に使われ始めた「リバイバル語」であったと思われます。対応する西洋の言葉は「senility」(あえて普通に訳すなら、老化)、あるいは単純に「aging」あたりであったと想像されるものです。老いてだんだんと衰弱していく、まさにその状態をよく反映しています。 死亡診断書の話をしましょう。死亡診断書は、医師が人の臨終を看取ったときに書く書類です。この書類がないと、火葬することも、お葬式を出すこともできません。そして、医師は、死亡診断書を書くにあたり、死の原因をあれこれと医学的に判断し、1つの病名を書く決まりになっています。 仮にもし、その判断の時点で、死亡原因に不審な点があれば、「司法解剖」というものが行われるようになります。このあたりのシーンはテレビドラマなどでご覧になった方も多いのではないでしょうか。 さて、上段の話を裏付けるかのように、厚生労働省は、死亡診断書において、「老衰」という死因の記載を正式に認めています。 <死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います。ただし、老衰から他の病態を併発して死亡した場合は、医学的因果関係に従って記入することになります。> 下図はその公式文書ですが、こういう文書にありがちな、素人には少しとっつきにくいものであると思います。要は「ほかに死因として書けるものがなければ老衰を使っていいよ」ということです。 平成30年度版「死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」より抜粋 さて、ひと時代を美しくしなやかに導いたエリザベス女王が亡くなったことは、英国民ならず世界の人々を悲しみの淵に追いやります。私とてその例外ではもちろんありません。 女王の死の報に接したときは海外出張の地で同僚(主に欧州人)たちと会食の盛りであったのですが、1人が速報をつかみ、その話は瞬く間にテーブルにいきわたりました。ひとしきり、食卓の話題は女王とその時代に関するものに占められることになったのです。それぞれの人の中にエリザベス女王はありました。大きな位置を占めているといってよい状態でした。 エリザベス女王が君臨した美しい20世紀の終焉が、時を十分に経た今、そして、老衰というかたちであったことに私は深い感慨を禁じ得ません。医学がいかに発展しようが、人の自然な先行きに老衰があるということは変えようがないものであると改めて認識します。老衰とはまさにそういう存在だと私は思うのです』、「厚生労働省は、死亡診断書において、<死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います。ただし、老衰から他の病態を併発して死亡した場合は、医学的因果関係に従って記入することになります』、「エリザベス女王」の「老衰」、について、「医学がいかに発展しようが、人の自然な先行きに老衰があるということは変えようがないものであると改めて認識します」、同感である。
第三に、11月28日付けPRESIDENT Onlineが掲載した臨床内科認定医の杉浦 敏之氏による「欧米では絶対にそんな治療はしない…現役医師が「日本の終末医療はほぼ虐待」と語るワケ 会話もできない寝たきりの状態で胃に栄養を流し込む」を紹介しよう。
・『日本では終末期の患者に点滴や人工栄養による延命措置を行うことがある。臨床内科認定医の杉浦敏之さんは「欧米では終末期に無理な延命を行わない方針が取られており、オーストラリアでは『栄養状態改善のための積極的介入は、倫理的に問題がある』と明確に指摘されている。家族や医療者ではなく『患者さんの最善の利益』を求める治療を整備していくべきだ」という――。(第2回) ※本稿は、杉浦敏之『死ねない老人』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『「患者さんが亡くなる=敗北」であれば医師はつねに全敗 医師は病と闘い、人の命を救うのが仕事です。 そのため医師にとっては、患者さんが亡くなることは医療の力が及ばなかった「敗北」という感覚があるのも事実です。だから死を認められない、認めたくない気持ちが働くのかもしれません。しかし、どれだけ医療が発展しても、生物としての死を免れることはできません。人の致死率は100%です。医師にとって「死が敗北」なら、確実に「全敗」なのです。 「全敗」というのは、90歳まで現役の医師として臨床の現場に出ていた私の父の言葉です。父は生前、医療の究極の目的は「いかに患者さんが満足して死んでいけるか」だとも語っていたことがあります。医師として半世紀以上、患者さんの生死を見つめてきた経験、そして自分自身が年齢を重ねてきたなかで行き着いた、一つの結論だと思います。 私自身も在宅医療や看取りを行うようになってから、つくづく父の言葉は真理だと思うようになりました。「満足のいく最期」ということを考えたとき、人工呼吸器や人工栄養などの望まない延命医療を施し、高齢者の苦痛を増やすのは満足とは正反対の、明らかに患者さんの利益に反する行為です。 にもかかわらず、終末期に至っても濃厚な医療が続けられてきた背景について、東京大学大学院人文社会系研究科附属死生学・応用倫理センターの特任教授・会田薫子氏は、次のように指摘しています。 「なぜ終末期の高齢者に人工栄養(胃瘻いろう)を行うかというと、『自然死についての社会のコンセンサスがない』『法律上の問題がある』『家族の希望である』『遠くの親戚が口を出す』などの様々な理由が出てくるが、実は『人工栄養の差し控えは餓死させることと同じだと思う』という医師の意識が一番大きいものだった」(ブックレット『高齢者の終末期医療を考える』生産性出版) 現在の日本では高齢者医療に携わる医師ですら、より苦痛が少なく、満足度の高い終末期医療についての正確な知識や理解がない、ということです。これは世界的に見ても異様な状況です』、「「なぜ終末期の高齢者に人工栄養(胃瘻いろう)を行うかというと」、「実は『人工栄養の差し控えは餓死させることと同じだと思う』という医師の意識が一番大きいものだった」、「現在の日本では高齢者医療に携わる医師ですら、より苦痛が少なく、満足度の高い終末期医療についての正確な知識や理解がない、ということです。これは世界的に見ても異様な状況です」、ショッキングな事実だ。
・『欧米では事前に終末医療のマニュアルを医師と本人が作成する アメリカや欧州、オーストラリアなどの先進諸国では、人として尊厳のある死やそのための終末期医療について、もうずいぶん前から議論がなされてきています。それにより、どのようなときにどのような医療・ケアを行うか(行わないか)という具体的な指針も既につくられています。 たとえばアメリカでは、人生の最期のときまで本人の意思決定、自己決定権を尊重することが、尊厳のある死という考え方があります。そのため、高齢や病気によって終末期に至った人が治療を望まないという意思表示をしたとき、医療者はもちろん、家族ですらそれに反対することはありません。万一、本人の意思に反して治療を行えば、医師が家族に訴えられることもあります。 ただ一般の患者さんの意思表示だけでは、希望する医療の内容があいまいだったり、家に保管していていざというときに役立たなかったりすることから、医師と相談して治療内容を確認しておく「生命維持治療のための医師指示書(通称POLST)」というものが活用されるようになっています。 これは1991年にオレゴン・ヘルスサイエンス大学病院のリチャードソン博士が開発したものです。終末期の人(病気や加齢で余命1年程度と診断された人)が、次の医療行為を受けるかどうかについて、患者本人あるいは医療代理人と、医師とが相談して決めます。 医療行為は①心肺停止時の蘇生、②脈拍あるいは呼吸があるときの積極的治療、③抗生剤投与、④人工栄養、の4つです。そしてオリジナルの医師指示書は患者さんが保管し、医師もコピーを所持したり、情報をカルテに保持したりします。これがあれば、患者さんの状態が変わったときにも医師は治療方法に迷うことはありません。 実際の医療現場で、患者さんの意思が確実に反映されるしくみといえます』、「生命維持治療のための医師指示書(通称POLST)」は、「終末期の人・・・が、次の医療行為を受けるかどうかについて、患者本人あるいは医療代理人と、医師とが相談して決めます」、「オリジナルの医師指示書は患者さんが保管し、医師もコピーを所持したり、情報をカルテに保持したりします。これがあれば、患者さんの状態が変わったときにも医師は治療方法に迷うことはありません。 実際の医療現場で、患者さんの意思が確実に反映されるしくみ」、進んだ仕組みだ。
・『最も大切なことは「入所者の満足感」である またオーストラリアでは、政府が2006年に「高齢者介護施設における緩和医療のガイドライン」を策定しています。そこでは、終末期の医療・ケアについて次のような方針が明確に示されています(以下、『高齢者の終末期医療を考える』より引用)。 ・無理に食事をさせてはいけない ・栄養状態改善のための積極的介入は、倫理的に問題がある ・脱水のまま死ぬことは悲惨であると思い点滴を行うが、緩和医療の専門家は経管栄養や点滴は有害と考える ・最も大切なことは入所者の満足感であり、最良の点滴をすることではない)・『終末期の高齢者が食事をしなくなることは自然なこと 世界各国の終末期医療を調査し、札幌で「高齢者の終末期医療を考える会」を立ち上げているのが、宮本顕二医師と宮本礼子医師のご夫妻です。認知症が専門の宮本礼子医師は、2007年に初めてスウェーデンの終末期医療を目にしたときの驚きを率直に著書に綴つづり、現地の医師の話をこう紹介しています(『欧米に寝たきり老人はいない』中央公論新社)。 「タークマン先生は、『スウェーデンでは、高齢者が食べなくなっても、点滴や経管栄養を行いません。食べられるだけ、飲めるだけですが、安らかに亡くなります。私の父もそうして亡くなりました。亡くなる前日まで話すことができて穏やかな最期でした』と言いました。日本では高齢者が人生の終わりに食べなくなると、点滴や経管栄養をするのが当たり前でした。 点滴もしないことに私が驚くと、『ベッドの上で、点滴で生きている人生なんて、何の意味があるのですか?』と逆に聞かれてしまいました。そして『スウェーデンも昔は高齢者が食べなくなると点滴や経管栄養を行っていましたが、20年かけてしなくなりました』と言っていました」 終末期の高齢者が食べなくなるのは、死に向かうとき自然な体の変化です。死が近づくと体が食べ物を受け付けなくなるのです』、「スウェーデンも昔は高齢者が食べなくなると点滴や経管栄養を行っていましたが、20年かけてしなくなりました」、「終末期の高齢者が食べなくなるのは、死に向かうとき自然な体の変化です。死が近づくと体が食べ物を受け付けなくなるのです」、なるほど。
・『無理やり食事をとらせるのは虐待しているようなもの 日本でも昔は医師にも社会にも「食べられなくなったらそこまで」という感覚があったものです。そしてときどき口に水やリンゴの搾り汁などを含ませる程度で、それだけでお年寄りは穏やかに亡くなっていました。 それに対し、現代の医師や介護者は高齢者が食べなくなると空腹やのどの渇きで苦痛なのではないかと考えてしまい、いつまでも必死に食べさせようとします。そして自力で食べられなくなれば、人工栄養や点滴を施します。宮本礼子医師も、日本で欧米式の人工栄養も点滴もしない終末期医療を提案すると、必ず医師たちから「患者さんを餓死させるのか」「見殺しにするのか」という質問や反発を受けると記しています。 しかし終末期に至った人は、健康な私たちが想像するような空腹やのどの渇きによる苦痛は感じなくなっています。体内の栄養や水分が少なくなるとβエンドルフィンやケトン体が多く分泌され、自然に鎮静鎮痛効果が働くともいわれています。むしろ食べられなくなった患者さんに無理に食事をとらせ、誤嚥ごえん性肺炎を繰り返すようなことは欧米の感覚でいえば「虐待」に相当します。 会話もできない寝たきりの状態で褥瘡じょくそうをつくりながら胃瘻で命をつなぐというのもそうかもしれません。点滴にしても、体に水分を多く入れれば痰が増えて吸引が多く必要になりますし、浮腫や肺水腫が増え、溺死と同じように肺に水が溜まって亡くなる患者さんも多くいます。私も在宅看取りでは点滴を減らし、水分を抜いて“乾かす”ようにしたほうが、患者さんの苦痛が少なく穏やかな最期になることを、確かに実感しています』、「現代の医師や介護者は高齢者が食べなくなると空腹やのどの渇きで苦痛なのではないかと考えてしまい、いつまでも必死に食べさせようとします。そして自力で食べられなくなれば、人工栄養や点滴を施します」、「終末期に至った人は、健康な私たちが想像するような空腹やのどの渇きによる苦痛は感じなくなっています。体内の栄養や水分が少なくなるとβエンドルフィンやケトン体が多く分泌され、自然に鎮静鎮痛効果が働くともいわれています。むしろ食べられなくなった患者さんに無理に食事をとらせ、誤嚥ごえん性肺炎を繰り返すようなことは欧米の感覚でいえば「虐待」に相当します」、「欧米の感覚でいえば「虐待」に相当」とはショッキングだ。
・『家族や医療者ではなく「患者さんの最善の利益」を求めるべき 欧米のほか、歴史的・文化的な背景の近いアジアでも、台湾や韓国は25年近く前から、患者本人の希望があれば積極的延命をしない方向になっており、法的にもそれが保証されてきています。 台湾では、2000年に「安寧緩和医療法」という尊厳死を法的に認める法案が100%の賛成で可決しています。台湾でも尊厳死法制化の前は、終末期の人に対して心臓マッサージ、人工呼吸、人工栄養、点滴などの処置が行われていたそうです。しかし現在は患者本人、または代理人のリビング・ウィルがあれば、延命治療の非開始も中止も、どちらも合法になりました。 また台湾には「終末期退院」と呼ばれる慣行があり、本人が希望すれば病院で緩和ケアを受けることも、自宅で在宅ホスピスを受けることもできるようになっています。一方の韓国では、終末期医療中止等を法的に認める「ホスピス・緩和医療および終末期患者の延命医療の決定に関する法律」が2016年1月に可決成立。2018年に施行されました。 患者さんの意思表明については「事前延命医療意向書」を作成し、登録します。登録先の医療機関やリビング・ウィル事業者を管理する、国立延命医療管理機関も設置されています。私も以前、海外の終末期患者のための病室を見学したある先生の講演で次のようなことを聞きました。 そこは天国に一番近いという意味で病院の最上階にあり、室内の内装も、天国や極楽浄土を思わせるような明るく、居心地のいい雰囲気になっていました。そこでお年寄りたちは家族と自由に交流をしたり、苦痛を取り除くケアを受けたりしながら最期の日々を過ごすのです。病院で亡くなるにしても、こうした環境と適切な終末期医療・ケアがあれば、その人らしい尊厳のある死を実現することはできるのです。 世界一の超高齢社会である日本でも、家族や医療者が納得するための終末期医療ではなく、「患者さんの最善の利益」のための終末期医療が整備され、広まっていく必要があるのはいうまでもありません』、「世界一の超高齢社会である日本でも、家族や医療者が納得するための終末期医療ではなく、「患者さんの最善の利益」のための終末期医療が整備され、広まっていく必要がある」、強く同意する。
タグ:(その9)(「こんなに急に悪化するとは思わなかった」これから親を看取る人は知っておきたい"老衰死の経過" いつ墜落するかわからない低空飛行中の飛行機の状態、96歳で崩御、エリザベス女王の死因「老衰」の意味 医師が解説「持病があってもPPKは叶うもの」、欧米では絶対にそんな治療はしない…現役医師が「日本の終末医療はほぼ虐待」と語るワケ 会話もできない寝たきりの状態で胃に栄養を流し込む) 終末期 PRESIDENT ONLINE 名取 宏氏による「「こんなに急に悪化するとは思わなかった」これから親を看取る人は知っておきたい"老衰死の経過" いつ墜落するかわからない低空飛行中の飛行機の状態」 「老衰死の経過」を知っておくことは、確かに役立ちそうだ。 「高齢者の体調は「低空飛行中の飛行機」とは言い得て妙だ。 「飲み込む機能」は「老衰が背景にある場合はまず回復しません」、厳しい現実だ。 「「日本では胃瘻を造って強制的に栄養を取らせ高齢者を不自然に延命させる。欧米では口から食べられなくなったら自然で平穏な死を迎える」といった主張もあるほどです」、「胃瘻を造る」については、本人や家族からの強い要望がある場合に限定すべきだ。 「胃瘻栄養を行わない場合、末梢まっしょう点滴をすることがほとんどですが、十分なカロリーは入りませんから、患者さんは数週間から数カ月で亡くなります」、やむを得ないことだ。 「老衰死が予測される患者さんに対しては心肺蘇生をせず、そのまま看取ることも多いのです。当院で老衰死が予想される入院患者さんに対しては、原則として前もってご家族と話し合い、心臓や呼吸が止まっても心肺蘇生を行わない方針を定めておきます」、無駄な「心肺蘇生」を避けるためにも、必須だ。 「人はみな、必ず死にます。死を「医療の敗北」と考えると、医療は必ず負けるのです。死を避けようとするだけではなく、死を迎えるお手伝いをすることも医療の大切な役割のはずです」、その通りだ。 「在宅でお看取りする方針」の場合には、「心肺蘇生を行わない方針」を家族中で徹底しておく必要がありそうだ。 「何歳であってもご臨終はご家族にとってつらい瞬間です。悲しみや後悔を少しでも減らせるよう心がけています」、こうした丁寧な医師に看取ってもらいたいものだ。 東洋経済オンライン 奥 真也氏による「96歳で崩御、エリザベス女王の死因「老衰」の意味 医師が解説「持病があってもPPKは叶うもの」」 「「老衰」とは一体何なのでしょうか」、興味深そうだ。 「一個一個の臓器の異常が特に顕著なわけではなくても、全体としての「チーム力」が足りなくなるのです。そして、チーム力のせいで生命の灯がついえる状況を、我々は老衰と呼ぶのです」、なるほど。 「厚生労働省は、死亡診断書において、<死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用います。ただし、老衰から他の病態を併発して死亡した場合は、医学的因果関係に従って記入することになります』、「エリザベス女王」の「老衰」、について、「医学がいかに発展しようが、人の自然な先行きに老衰があるということは変えようがないものであると改めて認識します」、同感である。 杉浦 敏之氏による「欧米では絶対にそんな治療はしない…現役医師が「日本の終末医療はほぼ虐待」と語るワケ 会話もできない寝たきりの状態で胃に栄養を流し込む」 杉浦敏之『死ねない老人』(幻冬舎新書) 「「なぜ終末期の高齢者に人工栄養(胃瘻いろう)を行うかというと」、「実は『人工栄養の差し控えは餓死させることと同じだと思う』という医師の意識が一番大きいものだった」、「現在の日本では高齢者医療に携わる医師ですら、より苦痛が少なく、満足度の高い終末期医療についての正確な知識や理解がない、ということです。これは世界的に見ても異様な状況です」、ショッキングな事実だ。 「生命維持治療のための医師指示書(通称POLST)」は、「終末期の人・・・が、次の医療行為を受けるかどうかについて、患者本人あるいは医療代理人と、医師とが相談して決めます」、「オリジナルの医師指示書は患者さんが保管し、医師もコピーを所持したり、情報をカルテに保持したりします。これがあれば、患者さんの状態が変わったときにも医師は治療方法に迷うことはありません。 実際の医療現場で、患者さんの意思が確実に反映されるしくみ」、進んだ仕組みだ。 「スウェーデンも昔は高齢者が食べなくなると点滴や経管栄養を行っていましたが、20年かけてしなくなりました」、「終末期の高齢者が食べなくなるのは、死に向かうとき自然な体の変化です。死が近づくと体が食べ物を受け付けなくなるのです」、なるほど。 「現代の医師や介護者は高齢者が食べなくなると空腹やのどの渇きで苦痛なのではないかと考えてしまい、いつまでも必死に食べさせようとします。そして自力で食べられなくなれば、人工栄養や点滴を施します」、 「終末期に至った人は、健康な私たちが想像するような空腹やのどの渇きによる苦痛は感じなくなっています。体内の栄養や水分が少なくなるとβエンドルフィンやケトン体が多く分泌され、自然に鎮静鎮痛効果が働くともいわれています。むしろ食べられなくなった患者さんに無理に食事をとらせ、誤嚥ごえん性肺炎を繰り返すようなことは欧米の感覚でいえば「虐待」に相当します」、「欧米の感覚でいえば「虐待」に相当」とはショッキングだ。 「世界一の超高齢社会である日本でも、家族や医療者が納得するための終末期医療ではなく、「患者さんの最善の利益」のための終末期医療が整備され、広まっていく必要がある」、強く同意する。
日本の政治情勢(その65)(国民民主「連立政権入り報道」なぜこのタイミング…情報戦の背後に「麻生vs菅」の覇権争いか、「二階幹事長」が受け取った政策活動費は48億円 自民党内から冷たい視線を浴びるワケ、杉並区長・岸本聡子氏が取り組む“新しい政治”のカタチ「住民が行政 街づくりにかかわり続ける」、ガーシーへの国策捜査開始は「異物排除」が目的だった…突然「司法の総意」が襲った理由) [国内政治]
日本の政治情勢については、11月20日に取上げた。今日は、(その65)(国民民主「連立政権入り報道」なぜこのタイミング…情報戦の背後に「麻生vs菅」の覇権争いか、「二階幹事長」が受け取った政策活動費は48億円 自民党内から冷たい視線を浴びるワケ、杉並区長・岸本聡子氏が取り組む“新しい政治”のカタチ「住民が行政 街づくりにかかわり続ける」、ガーシーへの国策捜査開始は「異物排除」が目的だった…突然「司法の総意」が襲った理由)である。
先ずは、12月6日付け日刊ゲンダイ「国民民主「連立政権入り報道」なぜこのタイミング…情報戦の背後に「麻生vs菅」の覇権争いか」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/315446
・『2022年度第2次補正予算が成立した2日、降ってわいたように報道された新たな連立政権構想。国民民主党が自公連立政権に加わり、玉木代表が年明けにも入閣するというのだ。 報道の直後に岸田首相は「どこからそういった情報が出たのか知りませんが、(国民民主との連立は)私はまったく知りませんし、考えてはおりません」と否定。玉木代表もわざわざ会見を開いて「報道されたような事実はない」と言い、「今は野党の立場なので是々非々でやっていく」と話したが、「今は」そうでも、年明けにはどうなっているか分からない』、火のないところには煙は立たないと言われるように、さもありなんと思われるような何らかの事情がある筈だ。
・『与党の一翼に 実際、国民民主はすでに「ゆ党(注)」からも逸脱し、完全に与党の一翼として動いている。今年度の当初予算や補正予算にすべて賛成。旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題の被害者救済法案でも、他の野党が「ザル法」と批判する政府案を高く評価している。 「国民民主党との連立プランは、今夏の参院選以前から水面下で進んでいました。司令塔は麻生副総裁です。麻生さんの大宏池会構想の一環でもあるし、政権基盤を固め直すために、友好的な野党を取り込むのは岸田総理にとっても悪くない話です。3党連立というのはバランスがいいんですよ。連立を組む公明党にも必要以上に配慮しなくて済む。菅前総理や安倍派など、岸田総理にあまり協力的でない党内勢力に対する牽制にもなります」(自民党閣僚経験者)』、「司令塔は麻生副総裁です。麻生さんの大宏池会構想の一環でもある」、なるほど。公明党への強力な牽制にもなりそうだ。
(注)ゆ党:野党として対立するわけでもなく、与党と連立を組むほどでもない、中途半端な政策方針を掲げる政党を揶揄 (やゆ) した言葉(goo辞書)
・『政権側の目くらましか? 国民民主との連立は、支持率低迷に苦しむ岸田政権の打開策になるという見方がある一方、「なぜ、このタイミングで表に出たのか」といぶかしがる声もある。 「自民党内にも異論があるし、公明党は反発必至です。国民民主党内でも喜んで連立入りしそうなのは数人程度で、党分裂は避けられません。連合など支援団体との関係もあり、政権入りは簡単ではない。こういう話は、生煮えの段階で表に出れば潰されるのが常で、国民民主との連立をよく思わない勢力がリークした線は考えられます。あるいは、政権側が不都合なことを隠す目くらましに連立話をブチ上げた可能性もある。自民の一部では立憲民主党との連立構想が進んでいるという情報もあり、それぞれが勝手な動きをしているようにも見えます。官邸がグリップできているのか疑問です」(政治ジャーナリスト・角谷浩一氏)) 国民民主との連立報道が永田町を駆け巡った2日の夜、茂木幹事長は日本維新の会の馬場代表と会食。自民側からは梶山幹事長代行と高木国対委員長、維新側は藤田幹事長と遠藤国対委員長が同席したという。 「安倍政権、菅政権で友好的だった維新は、岸田政権に批判的で、国会では立憲民主党と連携している。政権が弱体化している現状では、維新との良好な関係を取り戻して野党を分断する必要がある。維新と親密な菅さんの復権にクギを刺す狙いもあるでしょう」(自民党関係者) 自民が野党との個別交渉に蠢いている裏には、麻生氏と菅氏の覇権争いがあるということか。自民党内の政局に利用されるだけの野党では、どうしようもない』、「国民民主党内でも喜んで連立入りしそうなのは数人程度で、党分裂は避けられません。連合など支援団体との関係もあり、政権入りは簡単ではない。こういう話は、生煮えの段階で表に出れば潰されるのが常で、国民民主との連立をよく思わない勢力がリークした線は考えられます」、「「安倍政権、菅政権で友好的だった維新は、岸田政権に批判的で、国会では立憲民主党と連携している。政権が弱体化している現状では、維新との良好な関係を取り戻して野党を分断する必要がある。維新と親密な菅さんの復権にクギを刺す狙いもあるでしょう」、「維新は、岸田政権に批判的」、とは初めて知った。「自民党内の政局に利用されるだけの野党では、どうしようもない」、その通りで情けない限りだ。
次に、12月6日付けデイリー新潮「「二階幹事長」が受け取った政策活動費は48億円 自民党内から冷たい視線を浴びるワケ」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/12060601/?all=1
・『5年間で50億円など、庶民には想像もつかない額だ──朝日新聞の調査報道が話題を呼んでいる。同紙電子版は11月26日、「使途公表不要の政策活動費、20年で456億円 二階氏には50億円」の記事を配信した。担当記者が言う。 実は歴代最長の約5年にわたって幹事長を務めた 「『政策活動費』は政党が政治家に『使い道を明らかにしなくてもいい政治資金』として渡しています。与野党とも多額のカネが動き、東京(中日)新聞は21年8月、自民党、国民民主党、日本維新の会、社民党、れいわ新選組の5党が19年、政策活動費や組織活動費の名目で党幹部ら30人に総額約22億円を渡していたことを明らかにしました(註)」 朝日新聞の調査では、政治家個人に巨額のカネが手渡されていた実態が明らかにされた。 《議員では、二階氏が最も多額となる計約50億6千万円を受け取っていた。うち約47億7千万円は幹事長時代(16年8月~21年9月)に計160回にわたって支払われ、1回あたり30万~7210万円だった》 《次いで谷垣禎一元総裁が23億1千万円、安倍晋三元首相が20億5千万円と多く、いずれも幹事長在任時期に集中していた》 TBSも独自調査を行い、その結果を11月29日放送のBS-TBS「報道1930」(平日・19:30)で報じた。番組はTBS NEWS DIGでも「『「政策活動費」の見えない使い道 岸田総理 終盤国会の舞台裏』【11月29日(火)報道1930】」のタイトルで配信されている』、幹事長の特権で自由に使える「政策活動費や組織活動費の名目」で渡されるカネが、二階氏には「約47億7千万円」とは、幹事長在任が長かったこともあるにせよ、結構な身分だ。
・『首相は会長、幹事長は社長 「朝日新聞の調査で、政策活動費は党の幹事長に集中していることが分かりました。そこでTBSは、21年の1年間、自民党の幹事長に政策活動費がいくら渡っていたかを調べたのです。それによると、同年10月1日まで幹事長だった二階俊博氏(83)には4億3910万円。10月2日から11月3日まで幹事長だった甘利明氏(73)には3億8000万円、11月4日に就任した現幹事長の茂木敏充氏(67)には12月末までに2億4520万円が渡っていました」(同・記者) なぜ「使途を明らかにしなくていいカネ」が幹事長に集中して渡されるのか、そもそも幹事長とはどんな仕事をしているのか、政治アナリストの伊藤惇夫氏に取材を依頼した。 「与党である自民党に限った説明になりますが、本来は自民党総裁が党のトップです。しかし自民党総裁は、一般的に首相を務めます。大手企業にたとえると、会長が経団連会長に就任したため財界活動に忙殺されるという状況に似ているでしょう。そのため社長である幹事長が、自民党という会社の実務全般を取り仕切るわけです」 言うまでもなく、企業の使命は収益の最大化だ。政党の場合は議席の獲得になる。幹事長にとって最大の仕事は、選挙を仕切り、勝利を収めることだ』、「首相は会長、幹事長は社長」、なるほど上手い喩えだ。
・『首相と幹事長の人間関係 「自民党の幹事長は、選挙資金や候補の公認権を手中に収めます。絶大な権力であることは言うまでもありません。衆院選や参院選で勝利を収めれば、手柄は幹事長が独占します。敗北の責任を取るのも幹事長です。ただ、時の首相と幹事長の人間関係は、様々なパターンがあるので注意が必要でしょう」(同・伊藤氏) 例えば、小泉純一郎氏(80)が首相だった際に幹事長を務めた武部勤氏(81)が、「偉大なるイエスマン」を自称していたのは有名だ。 「先のたとえを用いると、武部社長は小泉会長に絶対服従だったわけです。現首相の岸田文雄さん(65)は、幹事長である茂木さんを立てています。安倍晋三さん(1954~2022)と二階さんは微妙な力関係が働いており、いわば“戦略的互恵関係”とでも言うべきものでした。本来は相いれない会長と社長だけれど、互いが互いを利用するような関係でした」(同・伊藤氏) 選挙資金は表に出せるカネもあれば、表に出せないカネもある。こうした“裏金”の使い道も多岐にわたるという』、「自民党の幹事長は、選挙資金や候補の公認権を手中に収めます。絶大な権力であることは言うまでもありません。衆院選や参院選で勝利を収めれば、手柄は幹事長が独占します。敗北の責任を取るのも幹事長です」、「ただ、時の首相と幹事長の人間関係は、様々なパターンがあるので注意が必要でしょう」、なるほど。
・『二階幹事長の机 「どんな政党でも、基本的には領収書のあるカネしか出せません。ただし、有権者には許しがたいことでしょうが、選挙などでは表に出せないカネを必要としているのも事実です。例えば、あと少しで当選するAさんという候補者がいます。一方のBさんは落選確実です。幹事長が表立ってAさんに追加の選挙資金を渡すと、Bさんは『自分にくれなかったから落選した』と言い出すでしょう。そこで幹事長は、こっそりとAさんに、『あと少しで当選だ。このカネを使え』と裏で手渡すわけです」(同・伊藤氏) 首相と幹事長の関係も様々なパターンがあるように、幹事長の“カネの使い方”も人それぞれだという。 「具体的な名前は差し控えますが、私が自民党本部に勤務していた時、様々な幹事長を間近で見てきました。選挙用だけという“綺麗な”使い方をする幹事長もいれば、公私混同が見受けられる幹事長もいました」(同・伊藤氏) 実際、二階氏が幹事長だった際、カネの使い先に疑問の声が上がったことがあったという。ベテランの政治記者が言う。 「幹事長室の机の上に、二階派の議員が飲み食いした請求書が置いてあったのを見たという自民党議員がいました。政務調査費が使途を明らかにしなくていいことを悪用し、二階派議員の飲み食いにも使われたというわけです。政策活動費が突出して多いことにも驚きはないですね。とにかく幹事長時代の二階氏は金遣いが荒いという話をよく聞きました」』、「幹事長時代の二階氏は金遣いが荒いという話をよく聞きました」、「二階派議員の飲み食いにも使われた」、酷い話だ。
・『透明化が急務 前出の伊藤氏も「さもありなん、という話だと思います」と頷く。 「二階派と言えば、自民党で最も古い体質が残っていることで有名です。二階派に入れば、親分がカネの面倒は絶対に見てくれます。ポストも確保してくれます。その代わり、親分の言うことには絶対服従です。かつて中選挙区制の時代ではよく見られた光景ですが、小選挙区制で同じことを続けているのには驚かされます」 いずれにしても、有権者にとって「政策活動費」は看過できない問題であるのは言うまでもない。 「改革の第一歩は、使途の透明化です。アメリカの大統領選は巨額の選挙資金が動きますが、透明性も担保されています。日本の国会議員は『選挙にはカネがいる』と口癖のように弁解しますが、ならば実態を開示すべきでしょう。それで有権者の理解が得られれば問題ありませんし、有権者が怒るのなら選挙制度を改めるべきではないでしょうか」(同・伊藤氏) 註:5党、幹部に22億円支出 「政策活動費」など名目、使途報告不要(中日新聞・電子版:2021年8月31日)』、「日本の国会議員は『選挙にはカネがいる』と口癖のように弁解しますが、ならば実態を開示すべきでしょう。それで有権者の理解が得られれば問題ありませんし、有権者が怒るのなら選挙制度を改めるべきではないでしょうか」、同感である。
第三に、12月26日付け日刊ゲンダイ「杉並区長・岸本聡子氏が取り組む“新しい政治”のカタチ「住民が行政、街づくりにかかわり続ける」」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/316322
・『今年6月の杉並区長選で、4選を目指した現職を187票差で制した。区政刷新を求める市民団体の要請で公共政策研究者から転身。同区初となる女性区長が掲げるのは、住民主導型の区政だ。今月9日に開かれた市民団体主催の「ローカル・イニシアチブ・ミーティング」では、来春の統一地方選に向け、志を共にする都内の首長や地方議員、立候補予定者との連携で合意。地方自治から政治を変えるビジョンとは何か。ざっくばらんに聞いた(Qは聞き手の質問、Aは岸本氏の回答)。 Q:区長就任から半年が経ちました。 A:日々新しい課題や気付きがあります。就任以来、区内の児童館や学校などの再編や、西荻窪と高円寺で進んでいる道路計画について、住民と対話集会や説明会を繰り返してきました。すべての会に参加しているので大変ですが、住民との対話が私にとって最も大切な仕事だと思っています』、「今年6月の杉並区長選」では自公がバックアップした現職の田中良氏(61)が、野党統一候補の岸本聡子氏(47)に約190票差で敗れた。昨年の衆院選で落選した石原伸晃・自民党元幹事長の地盤。田中区長と伸晃氏は蜜月関係だけに、「敗因はノブテルの呪いか」なんて声も上がっている。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/307069
・『保育民営化で見えた国の政策誘導 Q:区政において公共政策研究のプロとして積んだ経験が生かされている? A:公共政策を行政の外側から研究して見える問題点と、内側から見える問題点は異なります。例えば、保育園の民営化問題。水道などと同様、保育園もコモンズ(公共財)のひとつであるにもかかわらず、民営化が進んでいます。保育需要の逼迫や待機児童問題は何年も前から全国的に横たわってきたのに、民間事業者にお願いして急いで対策しなくてはいけない状態まで手をこまねいていたことが問題です。共働き世帯が増えるなど、生活様式の変化に対応しきれなかったのです。 労働集約的であり、決して儲かる産業ではない保育事業を民営化したことによって、労働条件の悪化や保育の質が低下する可能性が高まります。民営の場合、収益やコスト削減を優先して、非正規や非常勤の若い職員に頼らざるを得なくなってしまう。つまり、経験や技能の継承が難しくなってしまうのです。しかし、保育園の運営は民営でも公営でも、かかる費用は基本的に変わりません。ほとんどが施設維持費や人件費です。 だったら、同じ施設を使って保育職員を区職員として雇用し、区がきちんと人件費を払っていけばよい。それにもかかわらず、民営化が進んでいるのは、民営化をすれば、国から補助が出るからです。本当に国が待機児童ゼロを目指すのであれば、民営だろうが公営だろうが、同じ額の補助金を出せばいいのに、国は保育分野にまで民営化の手法を持ち込みたい。このような国の政策誘導は、行政の内側にいなかったら見えてこなかっただろうと思います。 Q:収益性を優先する民間の論理は、保育事業になじまない。 A:保育士さんの雇用の安定や保育の質の維持は、公営でも改善できるはずです。「民」に委ねるのではなく、「公」を良くしていく。これが私の研究テーマでもあった「公の民主化」です。公を良くしていくためには、積極的に情報を公開し、いろんな意見を吸い上げていくことが重要です。公の改善はいくらでも可能なのに、保育園を民営化して公から民にオーナーシップを変えてしまうと、公共政策の及ぶ範囲が著しく減ってしまいます。地域社会や保育士さん、子どもたちにとって何が最善なのか、民営化ありきではなく、立ち止まって検証するべきです』、「民営化が進んでいるのは、民営化をすれば、国から補助が出るからです。本当に国が待機児童ゼロを目指すのであれば、民営だろうが公営だろうが、同じ額の補助金を出せばいいのに、国は保育分野にまで民営化の手法を持ち込みたい」、「保育園を民営化して公から民にオーナーシップを変えてしまうと、公共政策の及ぶ範囲が著しく減ってしまいます。地域社会や保育士さん、子どもたちにとって何が最善なのか、民営化ありきではなく、立ち止まって検証するべきです」、その通りだ。
・『政治の優先順位を変え「ケア中心」に Q:保育士や福祉士など、誰かをケアする側の職業において、待遇の悪さが目立ちます。 A:問題は、国や自治体が社会的なビジョンをきちんと描けているのかどうか。私が言い続けているひとつのビジョンが、脱炭素化社会はケア社会であるということ。これから先、化石燃料を使い、二酸化炭素を排出するような生産や輸送、仕事などは減っていかざるを得ません。時代の要請です。 その一方、どう考えても、ケアの仕事は増えていく。ニーズも多様化しています。発達障害や引きこもりの子に丁寧に寄り添う専門職が必要ですし、認知症の高齢者が患者として収容されるのではなく、のびのびと生活できる環境づくりも大事。政治家は、そういうケア社会のビジョンを持たなければいけないと思います。ケアする側として働く若い世代が、仕事に誇りを持ち、専門性を持って続けられるようにしなければなりません。 そのためには、政治の優先順位を変える必要があります。脱炭素化社会に向け、政治の優先順位をケア中心に変えて、ケアする側にお金が払われるような社会にする。人の命を中心にして政治の優先順位を変えることが「ミュニシパリズム(注)」の根幹です。 Q:岸田政権は防衛増税を推し進める一方、子ども予算倍増の財源確保を先送りしました。 A:「命の政治」とは何かを考えなければいけません。だからこそ、民主主義の最高の練習場である地方自治が大切なのです。結局、住民の命を最後に守るのは、防災も含め自治体です。地域単位から政治の順位を変えていき、首長として国のアジェンダに物申していきたいですね。 *この記事の関連【動画】もご覧いただけます。 (岸本聡子氏の略歴はリンク先参照)』、「政治の優先順位を変え「ケア中心」に」、大賛成だ
(注)ミュニシパリズム:地域主義。アルゼンチン、スペイン、イタリアなどから広がり、フランス、東欧でも勢いをつけている(トランスナショナル研究所研究員 岸本聡子)
第四に、12月29日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの伊藤 博敏氏による「ガーシーへの国策捜査開始は「異物排除」が目的だった…突然「司法の総意」が襲った理由」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/104167?imp=0
・『すでに検察への根回しは済んでいる 警視庁捜査2課が、NHK党のガーシー(本名・東谷義和)参議院議員(51歳)に、任意の事情聴取に応ずるよう要請していたことが判明した。 ガーシー氏は暴露系ユーチューバーとして、歯に衣着せぬ語り口が受けていたものの、「ガーシーch」というYouTubeを始めた今年2月から過激過ぎる内容のためにBAN(凍結)される今年8月までの間に、攻撃対象とした複数の著名人が刑事告訴し、それを受理した捜査2課が出頭を求めた。 通常の捜査なら、「被害者がいて告訴がなされ、法に抵触する可能性が高いから当局として着手した」という流れである』、「捜査2課が出頭を求めた」、といっても、ドバイから帰国する気はあるのだろうか。
・『オンラインサロン「GASYLE」を通じての暴露は続く だが、ガーシー氏には国会議員という身分があり、国会会期中なら逮捕されないという不逮捕特権もある。さらにSNS時代を象徴する政治家という「立ち位置」があり、今後の選挙や政治の在り方に影響を及ぼすという意味で、捜査着手には高度な政治判断も求められた。 こうした「政治絡みの案件」に詳しい検察OB弁護士が解説する。 「国会議員を捜査するんだから検察への根回しは済んでいる。三木谷(浩史・楽天社長)や木原(誠二・内閣官房副長官)といった有力者も攻撃対象としていたから、内閣官房に連絡もしているだろう。ガーシー当選がある種の社会現象だということを考えれば、その捜査には慎重でなければならない。本格着手した段階で国策捜査となる」 本人が著書の『死なばもろとも』(幻冬舎)で明かしているように、ガーシー氏は昨年12月17日、ポケットに110円しかない状態で片道の航空チケットを購入してアラブ首長国連邦のドバイに出国した。 “逃亡”の理由は単純で、ガーシー氏は闇カジノなど違法賭博にハマって3億円以上の借金を抱えたうえ、韓国人気アイドルBTSに会わせるという名目で詐欺を働き、被害者が警察に相談しており、捜査が迫っていた。 〈逮捕したくてもできんように、ガラ(身柄)をかわそう。逃げるんや。それもうんと遠いところへ〉(『死なばもろとも』) 今は、被害弁済が済み、詐欺事件として捜査されているわけではない。しかし、無一文からの出国から約半年で国会議員となり、そのまた半年後に「国策捜査」を受ける立場となった。その鮮やか過ぎる変化に、われわれは時代を重ね合わせるべきだろう』、これまで「詐欺」などしたが、「今は、被害弁済が済み、詐欺事件として捜査されているわけではない」、「無一文からの出国から約半年で国会議員となり、そのまた半年後に「国策捜査」を受ける立場となった」、ずいぶん大きなスイングだ。
・『若年層の不満が後押し ガーシー人気は爆発的だった。日本では女性を芸能人などにアテンド(世話)することで人脈を築いていただけに、そこで得た情報をSNSで発信すると、過激な内幕と関西弁の速射砲のような語り口が受け、アッという間に登録者数が100万人を突破するユーチューバーとなった。 その人気をもとに今年7月の参院選に立候補すると、参院比例区で約28万8000人もの有権者が投票用紙に「ガーシー」と書き、当選した。 ガーシー氏が証明したのは、新聞・テレビといったマスメディアに採り上げられることなく一般には無名でも、そうしたマスメディアの情報に依拠しないSNS層の人気を得れば国会議員にもなれることだ。 同時にそれは、65歳以上の年金世代が有権者の4割に達し、その老人世代が高い投票率で政治の方向性を決めることへの若年層の不満の“ハケ口”にも見えた。 常識から考えれば、ガーシー氏は議会制民主主義の「異物」である。 詐欺事件捜査への恐れから、ガーシー氏は日本に帰国しないと選挙期間中から「宣言」していた。実際、10月に入って始まった臨時国会には登院しなかった。 国会に出席しないで海外に在住する国会議員──。議会で討議し、法律を作り、税金の配分(予算)を決める役割を果さないという意味で、国会議員とはいえまい。 同様に、NHKのスクランブル化(受信料を支払う人だけが見る)によって強制徴収の被害者をなくすことを党の最大公約に掲げるNHK党もまた、ワンイシュー(ひとつの論点)を目標にする特異な政党である。 「NHKをぶっ壊す!」というキャッチフレーズと、青と黄色のウクライナカラーのスーツを身にまとった立花孝志党首の派手なパフォーマンスで知られるものの、マスメディアに採り上げられないミニ政党(ガーシーと合わせ参院議員が2人)の悲しさで、NHK問題以外に「国政で何を果したいのか」という具体的イメージが伝わってこない。 だが、ガーシー議員の誕生という事態を含め、時代は確実に変わっている。政党要件を満たしてはいるものの、マスメディアが相手にしないれいわ新選組、参政党、そしてNHK党は、ほぼSNSの拡散だけで3党合わせて約10%の得票率を得た。既存の政治の在り方と、そこに依拠した報道に批判的な層が、着実に増えている。 それゆえ国家秩序の側が行う「異物排除」は、簡単には進まなくなった』、「ほぼSNSの拡散だけで3党合わせて約10%の得票率を得た。既存の政治の在り方と、そこに依拠した報道に批判的な層が、着実に増えている。 それゆえ国家秩序の側が行う「異物排除」は、簡単には進まなくなった」、確かに「SNS」時代の選挙は難しいものだ。
・『「逮捕も当然」の機運を醸成するために 「ガーシー捜査報道」は、12月27日、「独占」と銘打った『読売新聞』のスクープによって始まった。 捜査主体は警視庁だが、前述の検察OBの弁にあるように検察の了解を得た国会議員捜査である以上、従来の政治家狙いの「特捜部案件」と同様に、捜査当局とマスメディアが一体となってガーシー議員の「負」を、あるいは場合によってはNHK党の「負」まで暴き出し、「逮捕も当然」という機運を醸成してのものになるハズだ。 だが、SNS時代はその「閉じられた行程」を許さない。立花氏は、報道の直後に記者会見を決め、27日午後1時から会見を開き、しかもそれをネットで同時配信し、後でも再生できるようにした。 会見の様子は、通常、マスメディアを通じ、切り取られて報じられるが、1時間に及ぶ会見のなかで、立花氏は「芸能界、政治家、カネ持ち(芸能界や政治家のスポンサーとなる企業家)のトライアングルに対して、メディアは異議を突きつけられない。そこにSNSを通じて切り込むのがガーシーの役割。それを28万8000人の選挙民は認めた」と、ガーシー氏の存在意義を訴えた。 警視庁の不可解な対応は、ガーシー氏の“知り合い”である高橋裕樹弁護士が持つYouTubeチャンネル「リーガルチェックちゃんねる」によっても暴かれた。 読売報道では「弁護士を通じて任意聴取への協力を求めた」となっていたが、高橋氏はYouTubeのなかで、詐欺事件の際は「弁護人選任届け出」を提出していたので弁護人だが、今、問われている脅迫や名誉毀損については弁護人として依頼を受けているわけでもなく、「あなた方は、単なる“知り合い”に連絡しているだけ」と、しつこくガーシー氏への“仲介”を求めた警視庁捜査2課の担当者に伝えたという。 立花氏や高橋氏の対応で判明するのは、「国会に出ない国会議員を許していいのか」という世論を背にした捜査当局の「手順を踏んで異物を排除したい」という意志である。 だが、SNS選挙の浸透で政治の在り方が変わり始めた今、同じ追い詰め方が通用するものかどうか。 ワンイシューのNHK党も、政治家女子48党の立ち上げに見られるように、ワンイシューの政党を国政政党NHK党(この党名も変える)の下に幾つもぶら下げる諸派党構想で若い世代の支持を得て、老年層が支配する政治を変えようとしている。 「政治家ガーシー誕生」は、善くも悪しくも時代の流れだった。現段階で被害者が特定できないため“悪質”さを計りようもないが、「投票」という民意で選ばれた政治家を、従来の価値観で「異物」と捉え、国策として排除する動きがあるなら、やはり慎重であるべきだと言わざるを得ない』、「「投票」という民意で選ばれた政治家を、従来の価値観で「異物」と捉え、国策として排除する動きがあるなら、やはり慎重であるべきだと言わざるを得ない」、同感である。
先ずは、12月6日付け日刊ゲンダイ「国民民主「連立政権入り報道」なぜこのタイミング…情報戦の背後に「麻生vs菅」の覇権争いか」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/315446
・『2022年度第2次補正予算が成立した2日、降ってわいたように報道された新たな連立政権構想。国民民主党が自公連立政権に加わり、玉木代表が年明けにも入閣するというのだ。 報道の直後に岸田首相は「どこからそういった情報が出たのか知りませんが、(国民民主との連立は)私はまったく知りませんし、考えてはおりません」と否定。玉木代表もわざわざ会見を開いて「報道されたような事実はない」と言い、「今は野党の立場なので是々非々でやっていく」と話したが、「今は」そうでも、年明けにはどうなっているか分からない』、火のないところには煙は立たないと言われるように、さもありなんと思われるような何らかの事情がある筈だ。
・『与党の一翼に 実際、国民民主はすでに「ゆ党(注)」からも逸脱し、完全に与党の一翼として動いている。今年度の当初予算や補正予算にすべて賛成。旧統一教会(世界平和統一家庭連合)問題の被害者救済法案でも、他の野党が「ザル法」と批判する政府案を高く評価している。 「国民民主党との連立プランは、今夏の参院選以前から水面下で進んでいました。司令塔は麻生副総裁です。麻生さんの大宏池会構想の一環でもあるし、政権基盤を固め直すために、友好的な野党を取り込むのは岸田総理にとっても悪くない話です。3党連立というのはバランスがいいんですよ。連立を組む公明党にも必要以上に配慮しなくて済む。菅前総理や安倍派など、岸田総理にあまり協力的でない党内勢力に対する牽制にもなります」(自民党閣僚経験者)』、「司令塔は麻生副総裁です。麻生さんの大宏池会構想の一環でもある」、なるほど。公明党への強力な牽制にもなりそうだ。
(注)ゆ党:野党として対立するわけでもなく、与党と連立を組むほどでもない、中途半端な政策方針を掲げる政党を揶揄 (やゆ) した言葉(goo辞書)
・『政権側の目くらましか? 国民民主との連立は、支持率低迷に苦しむ岸田政権の打開策になるという見方がある一方、「なぜ、このタイミングで表に出たのか」といぶかしがる声もある。 「自民党内にも異論があるし、公明党は反発必至です。国民民主党内でも喜んで連立入りしそうなのは数人程度で、党分裂は避けられません。連合など支援団体との関係もあり、政権入りは簡単ではない。こういう話は、生煮えの段階で表に出れば潰されるのが常で、国民民主との連立をよく思わない勢力がリークした線は考えられます。あるいは、政権側が不都合なことを隠す目くらましに連立話をブチ上げた可能性もある。自民の一部では立憲民主党との連立構想が進んでいるという情報もあり、それぞれが勝手な動きをしているようにも見えます。官邸がグリップできているのか疑問です」(政治ジャーナリスト・角谷浩一氏)) 国民民主との連立報道が永田町を駆け巡った2日の夜、茂木幹事長は日本維新の会の馬場代表と会食。自民側からは梶山幹事長代行と高木国対委員長、維新側は藤田幹事長と遠藤国対委員長が同席したという。 「安倍政権、菅政権で友好的だった維新は、岸田政権に批判的で、国会では立憲民主党と連携している。政権が弱体化している現状では、維新との良好な関係を取り戻して野党を分断する必要がある。維新と親密な菅さんの復権にクギを刺す狙いもあるでしょう」(自民党関係者) 自民が野党との個別交渉に蠢いている裏には、麻生氏と菅氏の覇権争いがあるということか。自民党内の政局に利用されるだけの野党では、どうしようもない』、「国民民主党内でも喜んで連立入りしそうなのは数人程度で、党分裂は避けられません。連合など支援団体との関係もあり、政権入りは簡単ではない。こういう話は、生煮えの段階で表に出れば潰されるのが常で、国民民主との連立をよく思わない勢力がリークした線は考えられます」、「「安倍政権、菅政権で友好的だった維新は、岸田政権に批判的で、国会では立憲民主党と連携している。政権が弱体化している現状では、維新との良好な関係を取り戻して野党を分断する必要がある。維新と親密な菅さんの復権にクギを刺す狙いもあるでしょう」、「維新は、岸田政権に批判的」、とは初めて知った。「自民党内の政局に利用されるだけの野党では、どうしようもない」、その通りで情けない限りだ。
次に、12月6日付けデイリー新潮「「二階幹事長」が受け取った政策活動費は48億円 自民党内から冷たい視線を浴びるワケ」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/12060601/?all=1
・『5年間で50億円など、庶民には想像もつかない額だ──朝日新聞の調査報道が話題を呼んでいる。同紙電子版は11月26日、「使途公表不要の政策活動費、20年で456億円 二階氏には50億円」の記事を配信した。担当記者が言う。 実は歴代最長の約5年にわたって幹事長を務めた 「『政策活動費』は政党が政治家に『使い道を明らかにしなくてもいい政治資金』として渡しています。与野党とも多額のカネが動き、東京(中日)新聞は21年8月、自民党、国民民主党、日本維新の会、社民党、れいわ新選組の5党が19年、政策活動費や組織活動費の名目で党幹部ら30人に総額約22億円を渡していたことを明らかにしました(註)」 朝日新聞の調査では、政治家個人に巨額のカネが手渡されていた実態が明らかにされた。 《議員では、二階氏が最も多額となる計約50億6千万円を受け取っていた。うち約47億7千万円は幹事長時代(16年8月~21年9月)に計160回にわたって支払われ、1回あたり30万~7210万円だった》 《次いで谷垣禎一元総裁が23億1千万円、安倍晋三元首相が20億5千万円と多く、いずれも幹事長在任時期に集中していた》 TBSも独自調査を行い、その結果を11月29日放送のBS-TBS「報道1930」(平日・19:30)で報じた。番組はTBS NEWS DIGでも「『「政策活動費」の見えない使い道 岸田総理 終盤国会の舞台裏』【11月29日(火)報道1930】」のタイトルで配信されている』、幹事長の特権で自由に使える「政策活動費や組織活動費の名目」で渡されるカネが、二階氏には「約47億7千万円」とは、幹事長在任が長かったこともあるにせよ、結構な身分だ。
・『首相は会長、幹事長は社長 「朝日新聞の調査で、政策活動費は党の幹事長に集中していることが分かりました。そこでTBSは、21年の1年間、自民党の幹事長に政策活動費がいくら渡っていたかを調べたのです。それによると、同年10月1日まで幹事長だった二階俊博氏(83)には4億3910万円。10月2日から11月3日まで幹事長だった甘利明氏(73)には3億8000万円、11月4日に就任した現幹事長の茂木敏充氏(67)には12月末までに2億4520万円が渡っていました」(同・記者) なぜ「使途を明らかにしなくていいカネ」が幹事長に集中して渡されるのか、そもそも幹事長とはどんな仕事をしているのか、政治アナリストの伊藤惇夫氏に取材を依頼した。 「与党である自民党に限った説明になりますが、本来は自民党総裁が党のトップです。しかし自民党総裁は、一般的に首相を務めます。大手企業にたとえると、会長が経団連会長に就任したため財界活動に忙殺されるという状況に似ているでしょう。そのため社長である幹事長が、自民党という会社の実務全般を取り仕切るわけです」 言うまでもなく、企業の使命は収益の最大化だ。政党の場合は議席の獲得になる。幹事長にとって最大の仕事は、選挙を仕切り、勝利を収めることだ』、「首相は会長、幹事長は社長」、なるほど上手い喩えだ。
・『首相と幹事長の人間関係 「自民党の幹事長は、選挙資金や候補の公認権を手中に収めます。絶大な権力であることは言うまでもありません。衆院選や参院選で勝利を収めれば、手柄は幹事長が独占します。敗北の責任を取るのも幹事長です。ただ、時の首相と幹事長の人間関係は、様々なパターンがあるので注意が必要でしょう」(同・伊藤氏) 例えば、小泉純一郎氏(80)が首相だった際に幹事長を務めた武部勤氏(81)が、「偉大なるイエスマン」を自称していたのは有名だ。 「先のたとえを用いると、武部社長は小泉会長に絶対服従だったわけです。現首相の岸田文雄さん(65)は、幹事長である茂木さんを立てています。安倍晋三さん(1954~2022)と二階さんは微妙な力関係が働いており、いわば“戦略的互恵関係”とでも言うべきものでした。本来は相いれない会長と社長だけれど、互いが互いを利用するような関係でした」(同・伊藤氏) 選挙資金は表に出せるカネもあれば、表に出せないカネもある。こうした“裏金”の使い道も多岐にわたるという』、「自民党の幹事長は、選挙資金や候補の公認権を手中に収めます。絶大な権力であることは言うまでもありません。衆院選や参院選で勝利を収めれば、手柄は幹事長が独占します。敗北の責任を取るのも幹事長です」、「ただ、時の首相と幹事長の人間関係は、様々なパターンがあるので注意が必要でしょう」、なるほど。
・『二階幹事長の机 「どんな政党でも、基本的には領収書のあるカネしか出せません。ただし、有権者には許しがたいことでしょうが、選挙などでは表に出せないカネを必要としているのも事実です。例えば、あと少しで当選するAさんという候補者がいます。一方のBさんは落選確実です。幹事長が表立ってAさんに追加の選挙資金を渡すと、Bさんは『自分にくれなかったから落選した』と言い出すでしょう。そこで幹事長は、こっそりとAさんに、『あと少しで当選だ。このカネを使え』と裏で手渡すわけです」(同・伊藤氏) 首相と幹事長の関係も様々なパターンがあるように、幹事長の“カネの使い方”も人それぞれだという。 「具体的な名前は差し控えますが、私が自民党本部に勤務していた時、様々な幹事長を間近で見てきました。選挙用だけという“綺麗な”使い方をする幹事長もいれば、公私混同が見受けられる幹事長もいました」(同・伊藤氏) 実際、二階氏が幹事長だった際、カネの使い先に疑問の声が上がったことがあったという。ベテランの政治記者が言う。 「幹事長室の机の上に、二階派の議員が飲み食いした請求書が置いてあったのを見たという自民党議員がいました。政務調査費が使途を明らかにしなくていいことを悪用し、二階派議員の飲み食いにも使われたというわけです。政策活動費が突出して多いことにも驚きはないですね。とにかく幹事長時代の二階氏は金遣いが荒いという話をよく聞きました」』、「幹事長時代の二階氏は金遣いが荒いという話をよく聞きました」、「二階派議員の飲み食いにも使われた」、酷い話だ。
・『透明化が急務 前出の伊藤氏も「さもありなん、という話だと思います」と頷く。 「二階派と言えば、自民党で最も古い体質が残っていることで有名です。二階派に入れば、親分がカネの面倒は絶対に見てくれます。ポストも確保してくれます。その代わり、親分の言うことには絶対服従です。かつて中選挙区制の時代ではよく見られた光景ですが、小選挙区制で同じことを続けているのには驚かされます」 いずれにしても、有権者にとって「政策活動費」は看過できない問題であるのは言うまでもない。 「改革の第一歩は、使途の透明化です。アメリカの大統領選は巨額の選挙資金が動きますが、透明性も担保されています。日本の国会議員は『選挙にはカネがいる』と口癖のように弁解しますが、ならば実態を開示すべきでしょう。それで有権者の理解が得られれば問題ありませんし、有権者が怒るのなら選挙制度を改めるべきではないでしょうか」(同・伊藤氏) 註:5党、幹部に22億円支出 「政策活動費」など名目、使途報告不要(中日新聞・電子版:2021年8月31日)』、「日本の国会議員は『選挙にはカネがいる』と口癖のように弁解しますが、ならば実態を開示すべきでしょう。それで有権者の理解が得られれば問題ありませんし、有権者が怒るのなら選挙制度を改めるべきではないでしょうか」、同感である。
第三に、12月26日付け日刊ゲンダイ「杉並区長・岸本聡子氏が取り組む“新しい政治”のカタチ「住民が行政、街づくりにかかわり続ける」」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/316322
・『今年6月の杉並区長選で、4選を目指した現職を187票差で制した。区政刷新を求める市民団体の要請で公共政策研究者から転身。同区初となる女性区長が掲げるのは、住民主導型の区政だ。今月9日に開かれた市民団体主催の「ローカル・イニシアチブ・ミーティング」では、来春の統一地方選に向け、志を共にする都内の首長や地方議員、立候補予定者との連携で合意。地方自治から政治を変えるビジョンとは何か。ざっくばらんに聞いた(Qは聞き手の質問、Aは岸本氏の回答)。 Q:区長就任から半年が経ちました。 A:日々新しい課題や気付きがあります。就任以来、区内の児童館や学校などの再編や、西荻窪と高円寺で進んでいる道路計画について、住民と対話集会や説明会を繰り返してきました。すべての会に参加しているので大変ですが、住民との対話が私にとって最も大切な仕事だと思っています』、「今年6月の杉並区長選」では自公がバックアップした現職の田中良氏(61)が、野党統一候補の岸本聡子氏(47)に約190票差で敗れた。昨年の衆院選で落選した石原伸晃・自民党元幹事長の地盤。田中区長と伸晃氏は蜜月関係だけに、「敗因はノブテルの呪いか」なんて声も上がっている。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/307069
・『保育民営化で見えた国の政策誘導 Q:区政において公共政策研究のプロとして積んだ経験が生かされている? A:公共政策を行政の外側から研究して見える問題点と、内側から見える問題点は異なります。例えば、保育園の民営化問題。水道などと同様、保育園もコモンズ(公共財)のひとつであるにもかかわらず、民営化が進んでいます。保育需要の逼迫や待機児童問題は何年も前から全国的に横たわってきたのに、民間事業者にお願いして急いで対策しなくてはいけない状態まで手をこまねいていたことが問題です。共働き世帯が増えるなど、生活様式の変化に対応しきれなかったのです。 労働集約的であり、決して儲かる産業ではない保育事業を民営化したことによって、労働条件の悪化や保育の質が低下する可能性が高まります。民営の場合、収益やコスト削減を優先して、非正規や非常勤の若い職員に頼らざるを得なくなってしまう。つまり、経験や技能の継承が難しくなってしまうのです。しかし、保育園の運営は民営でも公営でも、かかる費用は基本的に変わりません。ほとんどが施設維持費や人件費です。 だったら、同じ施設を使って保育職員を区職員として雇用し、区がきちんと人件費を払っていけばよい。それにもかかわらず、民営化が進んでいるのは、民営化をすれば、国から補助が出るからです。本当に国が待機児童ゼロを目指すのであれば、民営だろうが公営だろうが、同じ額の補助金を出せばいいのに、国は保育分野にまで民営化の手法を持ち込みたい。このような国の政策誘導は、行政の内側にいなかったら見えてこなかっただろうと思います。 Q:収益性を優先する民間の論理は、保育事業になじまない。 A:保育士さんの雇用の安定や保育の質の維持は、公営でも改善できるはずです。「民」に委ねるのではなく、「公」を良くしていく。これが私の研究テーマでもあった「公の民主化」です。公を良くしていくためには、積極的に情報を公開し、いろんな意見を吸い上げていくことが重要です。公の改善はいくらでも可能なのに、保育園を民営化して公から民にオーナーシップを変えてしまうと、公共政策の及ぶ範囲が著しく減ってしまいます。地域社会や保育士さん、子どもたちにとって何が最善なのか、民営化ありきではなく、立ち止まって検証するべきです』、「民営化が進んでいるのは、民営化をすれば、国から補助が出るからです。本当に国が待機児童ゼロを目指すのであれば、民営だろうが公営だろうが、同じ額の補助金を出せばいいのに、国は保育分野にまで民営化の手法を持ち込みたい」、「保育園を民営化して公から民にオーナーシップを変えてしまうと、公共政策の及ぶ範囲が著しく減ってしまいます。地域社会や保育士さん、子どもたちにとって何が最善なのか、民営化ありきではなく、立ち止まって検証するべきです」、その通りだ。
・『政治の優先順位を変え「ケア中心」に Q:保育士や福祉士など、誰かをケアする側の職業において、待遇の悪さが目立ちます。 A:問題は、国や自治体が社会的なビジョンをきちんと描けているのかどうか。私が言い続けているひとつのビジョンが、脱炭素化社会はケア社会であるということ。これから先、化石燃料を使い、二酸化炭素を排出するような生産や輸送、仕事などは減っていかざるを得ません。時代の要請です。 その一方、どう考えても、ケアの仕事は増えていく。ニーズも多様化しています。発達障害や引きこもりの子に丁寧に寄り添う専門職が必要ですし、認知症の高齢者が患者として収容されるのではなく、のびのびと生活できる環境づくりも大事。政治家は、そういうケア社会のビジョンを持たなければいけないと思います。ケアする側として働く若い世代が、仕事に誇りを持ち、専門性を持って続けられるようにしなければなりません。 そのためには、政治の優先順位を変える必要があります。脱炭素化社会に向け、政治の優先順位をケア中心に変えて、ケアする側にお金が払われるような社会にする。人の命を中心にして政治の優先順位を変えることが「ミュニシパリズム(注)」の根幹です。 Q:岸田政権は防衛増税を推し進める一方、子ども予算倍増の財源確保を先送りしました。 A:「命の政治」とは何かを考えなければいけません。だからこそ、民主主義の最高の練習場である地方自治が大切なのです。結局、住民の命を最後に守るのは、防災も含め自治体です。地域単位から政治の順位を変えていき、首長として国のアジェンダに物申していきたいですね。 *この記事の関連【動画】もご覧いただけます。 (岸本聡子氏の略歴はリンク先参照)』、「政治の優先順位を変え「ケア中心」に」、大賛成だ
(注)ミュニシパリズム:地域主義。アルゼンチン、スペイン、イタリアなどから広がり、フランス、東欧でも勢いをつけている(トランスナショナル研究所研究員 岸本聡子)
第四に、12月29日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの伊藤 博敏氏による「ガーシーへの国策捜査開始は「異物排除」が目的だった…突然「司法の総意」が襲った理由」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/104167?imp=0
・『すでに検察への根回しは済んでいる 警視庁捜査2課が、NHK党のガーシー(本名・東谷義和)参議院議員(51歳)に、任意の事情聴取に応ずるよう要請していたことが判明した。 ガーシー氏は暴露系ユーチューバーとして、歯に衣着せぬ語り口が受けていたものの、「ガーシーch」というYouTubeを始めた今年2月から過激過ぎる内容のためにBAN(凍結)される今年8月までの間に、攻撃対象とした複数の著名人が刑事告訴し、それを受理した捜査2課が出頭を求めた。 通常の捜査なら、「被害者がいて告訴がなされ、法に抵触する可能性が高いから当局として着手した」という流れである』、「捜査2課が出頭を求めた」、といっても、ドバイから帰国する気はあるのだろうか。
・『オンラインサロン「GASYLE」を通じての暴露は続く だが、ガーシー氏には国会議員という身分があり、国会会期中なら逮捕されないという不逮捕特権もある。さらにSNS時代を象徴する政治家という「立ち位置」があり、今後の選挙や政治の在り方に影響を及ぼすという意味で、捜査着手には高度な政治判断も求められた。 こうした「政治絡みの案件」に詳しい検察OB弁護士が解説する。 「国会議員を捜査するんだから検察への根回しは済んでいる。三木谷(浩史・楽天社長)や木原(誠二・内閣官房副長官)といった有力者も攻撃対象としていたから、内閣官房に連絡もしているだろう。ガーシー当選がある種の社会現象だということを考えれば、その捜査には慎重でなければならない。本格着手した段階で国策捜査となる」 本人が著書の『死なばもろとも』(幻冬舎)で明かしているように、ガーシー氏は昨年12月17日、ポケットに110円しかない状態で片道の航空チケットを購入してアラブ首長国連邦のドバイに出国した。 “逃亡”の理由は単純で、ガーシー氏は闇カジノなど違法賭博にハマって3億円以上の借金を抱えたうえ、韓国人気アイドルBTSに会わせるという名目で詐欺を働き、被害者が警察に相談しており、捜査が迫っていた。 〈逮捕したくてもできんように、ガラ(身柄)をかわそう。逃げるんや。それもうんと遠いところへ〉(『死なばもろとも』) 今は、被害弁済が済み、詐欺事件として捜査されているわけではない。しかし、無一文からの出国から約半年で国会議員となり、そのまた半年後に「国策捜査」を受ける立場となった。その鮮やか過ぎる変化に、われわれは時代を重ね合わせるべきだろう』、これまで「詐欺」などしたが、「今は、被害弁済が済み、詐欺事件として捜査されているわけではない」、「無一文からの出国から約半年で国会議員となり、そのまた半年後に「国策捜査」を受ける立場となった」、ずいぶん大きなスイングだ。
・『若年層の不満が後押し ガーシー人気は爆発的だった。日本では女性を芸能人などにアテンド(世話)することで人脈を築いていただけに、そこで得た情報をSNSで発信すると、過激な内幕と関西弁の速射砲のような語り口が受け、アッという間に登録者数が100万人を突破するユーチューバーとなった。 その人気をもとに今年7月の参院選に立候補すると、参院比例区で約28万8000人もの有権者が投票用紙に「ガーシー」と書き、当選した。 ガーシー氏が証明したのは、新聞・テレビといったマスメディアに採り上げられることなく一般には無名でも、そうしたマスメディアの情報に依拠しないSNS層の人気を得れば国会議員にもなれることだ。 同時にそれは、65歳以上の年金世代が有権者の4割に達し、その老人世代が高い投票率で政治の方向性を決めることへの若年層の不満の“ハケ口”にも見えた。 常識から考えれば、ガーシー氏は議会制民主主義の「異物」である。 詐欺事件捜査への恐れから、ガーシー氏は日本に帰国しないと選挙期間中から「宣言」していた。実際、10月に入って始まった臨時国会には登院しなかった。 国会に出席しないで海外に在住する国会議員──。議会で討議し、法律を作り、税金の配分(予算)を決める役割を果さないという意味で、国会議員とはいえまい。 同様に、NHKのスクランブル化(受信料を支払う人だけが見る)によって強制徴収の被害者をなくすことを党の最大公約に掲げるNHK党もまた、ワンイシュー(ひとつの論点)を目標にする特異な政党である。 「NHKをぶっ壊す!」というキャッチフレーズと、青と黄色のウクライナカラーのスーツを身にまとった立花孝志党首の派手なパフォーマンスで知られるものの、マスメディアに採り上げられないミニ政党(ガーシーと合わせ参院議員が2人)の悲しさで、NHK問題以外に「国政で何を果したいのか」という具体的イメージが伝わってこない。 だが、ガーシー議員の誕生という事態を含め、時代は確実に変わっている。政党要件を満たしてはいるものの、マスメディアが相手にしないれいわ新選組、参政党、そしてNHK党は、ほぼSNSの拡散だけで3党合わせて約10%の得票率を得た。既存の政治の在り方と、そこに依拠した報道に批判的な層が、着実に増えている。 それゆえ国家秩序の側が行う「異物排除」は、簡単には進まなくなった』、「ほぼSNSの拡散だけで3党合わせて約10%の得票率を得た。既存の政治の在り方と、そこに依拠した報道に批判的な層が、着実に増えている。 それゆえ国家秩序の側が行う「異物排除」は、簡単には進まなくなった」、確かに「SNS」時代の選挙は難しいものだ。
・『「逮捕も当然」の機運を醸成するために 「ガーシー捜査報道」は、12月27日、「独占」と銘打った『読売新聞』のスクープによって始まった。 捜査主体は警視庁だが、前述の検察OBの弁にあるように検察の了解を得た国会議員捜査である以上、従来の政治家狙いの「特捜部案件」と同様に、捜査当局とマスメディアが一体となってガーシー議員の「負」を、あるいは場合によってはNHK党の「負」まで暴き出し、「逮捕も当然」という機運を醸成してのものになるハズだ。 だが、SNS時代はその「閉じられた行程」を許さない。立花氏は、報道の直後に記者会見を決め、27日午後1時から会見を開き、しかもそれをネットで同時配信し、後でも再生できるようにした。 会見の様子は、通常、マスメディアを通じ、切り取られて報じられるが、1時間に及ぶ会見のなかで、立花氏は「芸能界、政治家、カネ持ち(芸能界や政治家のスポンサーとなる企業家)のトライアングルに対して、メディアは異議を突きつけられない。そこにSNSを通じて切り込むのがガーシーの役割。それを28万8000人の選挙民は認めた」と、ガーシー氏の存在意義を訴えた。 警視庁の不可解な対応は、ガーシー氏の“知り合い”である高橋裕樹弁護士が持つYouTubeチャンネル「リーガルチェックちゃんねる」によっても暴かれた。 読売報道では「弁護士を通じて任意聴取への協力を求めた」となっていたが、高橋氏はYouTubeのなかで、詐欺事件の際は「弁護人選任届け出」を提出していたので弁護人だが、今、問われている脅迫や名誉毀損については弁護人として依頼を受けているわけでもなく、「あなた方は、単なる“知り合い”に連絡しているだけ」と、しつこくガーシー氏への“仲介”を求めた警視庁捜査2課の担当者に伝えたという。 立花氏や高橋氏の対応で判明するのは、「国会に出ない国会議員を許していいのか」という世論を背にした捜査当局の「手順を踏んで異物を排除したい」という意志である。 だが、SNS選挙の浸透で政治の在り方が変わり始めた今、同じ追い詰め方が通用するものかどうか。 ワンイシューのNHK党も、政治家女子48党の立ち上げに見られるように、ワンイシューの政党を国政政党NHK党(この党名も変える)の下に幾つもぶら下げる諸派党構想で若い世代の支持を得て、老年層が支配する政治を変えようとしている。 「政治家ガーシー誕生」は、善くも悪しくも時代の流れだった。現段階で被害者が特定できないため“悪質”さを計りようもないが、「投票」という民意で選ばれた政治家を、従来の価値観で「異物」と捉え、国策として排除する動きがあるなら、やはり慎重であるべきだと言わざるを得ない』、「「投票」という民意で選ばれた政治家を、従来の価値観で「異物」と捉え、国策として排除する動きがあるなら、やはり慎重であるべきだと言わざるを得ない」、同感である。
タグ:(その65)(国民民主「連立政権入り報道」なぜこのタイミング…情報戦の背後に「麻生vs菅」の覇権争いか、「二階幹事長」が受け取った政策活動費は48億円 自民党内から冷たい視線を浴びるワケ、杉並区長・岸本聡子氏が取り組む“新しい政治”のカタチ「住民が行政 街づくりにかかわり続ける」、ガーシーへの国策捜査開始は「異物排除」が目的だった…突然「司法の総意」が襲った理由) 日本の政治情勢 日刊ゲンダイ「国民民主「連立政権入り報道」なぜこのタイミング…情報戦の背後に「麻生vs菅」の覇権争いか」 火のないところには煙は立たないと言われるように、さもありなんと思われるような何らかの事情がある筈だ。 「司令塔は麻生副総裁です。麻生さんの大宏池会構想の一環でもある」、なるほど。公明党への強力な牽制にもなりそうだ。 (注)ゆ党:野党として対立するわけでもなく、与党と連立を組むほどでもない、中途半端な政策方針を掲げる政党を揶揄 (やゆ) した言葉(goo辞書) 「国民民主党内でも喜んで連立入りしそうなのは数人程度で、党分裂は避けられません。連合など支援団体との関係もあり、政権入りは簡単ではない。こういう話は、生煮えの段階で表に出れば潰されるのが常で、国民民主との連立をよく思わない勢力がリークした線は考えられます」、 「「安倍政権、菅政権で友好的だった維新は、岸田政権に批判的で、国会では立憲民主党と連携している。政権が弱体化している現状では、維新との良好な関係を取り戻して野党を分断する必要がある。維新と親密な菅さんの復権にクギを刺す狙いもあるでしょう」、「維新は、岸田政権に批判的」、とは初めて知った。「自民党内の政局に利用されるだけの野党では、どうしようもない」、その通りで情けない限りだ。 デイリー新潮「「二階幹事長」が受け取った政策活動費は48億円 自民党内から冷たい視線を浴びるワケ」 幹事長の特権で自由に使える「政策活動費や組織活動費の名目」で渡されるカネが、二階氏には「約47億7千万円」とは、幹事長在任が長かったこともあるにせよ、結構な身分だ。 「首相は会長、幹事長は社長」、なるほど上手い喩えだ。 「自民党の幹事長は、選挙資金や候補の公認権を手中に収めます。絶大な権力であることは言うまでもありません。衆院選や参院選で勝利を収めれば、手柄は幹事長が独占します。敗北の責任を取るのも幹事長です」、「ただ、時の首相と幹事長の人間関係は、様々なパターンがあるので注意が必要でしょう」、なるほど。 「幹事長時代の二階氏は金遣いが荒いという話をよく聞きました」、「二階派議員の飲み食いにも使われた」、酷い話だ。 「日本の国会議員は『選挙にはカネがいる』と口癖のように弁解しますが、ならば実態を開示すべきでしょう。それで有権者の理解が得られれば問題ありませんし、有権者が怒るのなら選挙制度を改めるべきではないでしょうか」、同感である。 日刊ゲンダイ「杉並区長・岸本聡子氏が取り組む“新しい政治”のカタチ「住民が行政、街づくりにかかわり続ける」」 「今年6月の杉並区長選」では自公がバックアップした現職の田中良氏(61)が、野党統一候補の岸本聡子氏(47)に約190票差で敗れた。昨年の衆院選で落選した石原伸晃・自民党元幹事長の地盤。田中区長と伸晃氏は蜜月関係だけに、「敗因はノブテルの呪いか」なんて声も上がっている。 https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/307069 「民営化が進んでいるのは、民営化をすれば、国から補助が出るからです。本当に国が待機児童ゼロを目指すのであれば、民営だろうが公営だろうが、同じ額の補助金を出せばいいのに、国は保育分野にまで民営化の手法を持ち込みたい」、「保育園を民営化して公から民にオーナーシップを変えてしまうと、公共政策の及ぶ範囲が著しく減ってしまいます。地域社会や保育士さん、子どもたちにとって何が最善なのか、民営化ありきではなく、立ち止まって検証するべきです」、その通りだ。 「政治の優先順位を変え「ケア中心」に」、大賛成だ (注)ミュニシパリズム:地域主義。アルゼンチン、スペイン、イタリアなどから広がり、フランス、東欧でも勢いをつけている(トランスナショナル研究所研究員 岸本聡子) 現代ビジネス 伊藤 博敏氏による「ガーシーへの国策捜査開始は「異物排除」が目的だった…突然「司法の総意」が襲った理由」 「捜査2課が出頭を求めた」、といっても、ドバイから帰国する気はあるのだろうか。 これまで「詐欺」などしたが、「今は、被害弁済が済み、詐欺事件として捜査されているわけではない」、「無一文からの出国から約半年で国会議員となり、そのまた半年後に「国策捜査」を受ける立場となった」、ずいぶん大きなスイングだ。 「ほぼSNSの拡散だけで3党合わせて約10%の得票率を得た。既存の政治の在り方と、そこに依拠した報道に批判的な層が、着実に増えている。 それゆえ国家秩序の側が行う「異物排除」は、簡単には進まなくなった」、確かに「SNS」時代の選挙は難しいものだ。 「「投票」という民意で選ばれた政治家を、従来の価値観で「異物」と捉え、国策として排除する動きがあるなら、やはり慎重であるべきだと言わざるを得ない」、同感である。
半導体産業(その9)(日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】、日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由、岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ) [イノベーション]
半導体産業については、8月25日に取上げた。今日は、(その9)(日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】、日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由、岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ)である。
先ずは、11月22日付けデイリー新潮「日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/11220555/?all=1
・『国家の安全保障を左右する戦略物資としてますます重みを増す半導体。このサプライチェーンをめぐって各国で激しい駆け引きが行われている。かつて日本は半導体大国だった。それがなぜこうまで凋落してしまったのか。そして今後、復活の可能性はあるのか。半導体産業を知悉するジャーナリストの提言』、「半導体産業を知悉するジャーナリストの提言」とは興味深そうだ。
・『佐藤 ここ数年、半導体は常に経済ニュースの主役です。コロナや米中デカップリング(分離)でサプライチェーンが分断され、深刻な半導体不足が生じて家電製品や自動車の生産ラインが止まりました。ただ、この物資の実態は極めてわかりにくい。その全体像を理解するのに、太田さんの『2030半導体の地政学』は格好のテキストでした。 太田 ありがとうございます。おっしゃる通りで、半導体はあらゆる電気製品に組み込まれており、サプライチェーンはグローバルに広がって複雑です。その上、いまや国家の安全保障を左右する戦略物資となり、半導体を制する者が世界を制すという状況になっています。 佐藤 まずはこの半導体がどこでどう作られているのか、そこからお話しいただきたいと思います。 太田 半導体チップが製品として世に送り出されるまでには、千近くの工程があります。大雑把にまとめると、半導体にどのように仕事をさせるかを考える人、設計する人、実際に作る人がいます。それらが別々の地域、会社で行われています。 佐藤 国を跨いでもいる。 太田 はい。最上流にいるのが、電子回路の基本パターンやデジタル信号を処理する仕様を考え、ライセンスの形で供与する会社です。「IPベンダー」とも呼ばれますが、一番有名なのはイギリスのアームです。 佐藤 2016年に孫正義さんのソフトバンクが買収した会社ですね。 太田 そうです。次に基本設計を買って組み合わせて自社のチップの図面を描く人たちがいます。アメリカならクアルコム、エヌビディアなどの会社で、中国ならファーウェイ傘下のハイシリコンがそうです。またアメリカのインテルやAMDのようにアームとは異なる自前の仕様を採っている会社もあります。 佐藤 はっきり分けられない会社もある。 太田 ただ、これらの企業の多くはファブ(工場)を持たず、「ファブレス」と呼ばれています。 佐藤 つまり頭脳ですね。工場ではなく、オフィスで仕事をしている。 太田 製造を請け負うのは、「ファウンドリー」と呼ばれる企業です。アメリカのグローバルファウンドリーズや韓国のサムスン電子などがありますが、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)の一人勝ち状態です。技術力も規模も圧倒的で、世界の60%近いシェアを占めています。 佐藤 世界中でTSMCの工場を誘致していますね。アメリカではアリゾナ州に工場を造ることになりましたが、日本も国を挙げて誘致し、熊本に造ることが決まりました。 太田 製造だけ請け負うというと下請け企業のように見えますが、設計メーカーの方がTSMCに依存しているのが実態です。というのも半導体の仕様が非常に高度になり、設計はできても、製造・量産することが極めて難しくなっているからです。 佐藤 回路にはナノ(10億分の1)単位で描線が引かれるといいますね。 太田 5ナノ~3ナノで量産できるのはTSMCとサムスン電子の2社で、2ナノまで微細化を進めているのはTSMCだけです。 佐藤 このTSMCはいつできた会社なのですか。 太田 1987年です。そもそも設計と製造を分離させたファウンドリーは、TSMCの創業者・張忠謀が発展させてきたビジネスモデルです。アメリカ企業にしてみれば、工場を建てて設備投資すれば1兆円単位でカネがかかりますから、自分で持ちたくはない。安く作ってくれるところがあれば、任せたいわけです。 佐藤 両者の思惑が一致した。 太田 自由貿易と市場原理の一つの均衡点として生まれたモデルといえます。これらを地域で見ていくと、IPベンダーはイギリス、ファブレスはアメリカのシリコンバレー、そしてファウンドリーは台湾、韓国の東アジアと、大西洋も太平洋も跨ぐ形で、広大で複雑なサプライチェーンが広がっています』、「ファウンドリー」は、「製造だけ請け負うというと下請け企業のように見えますが、設計メーカーの方がTSMCに依存しているのが実態です。というのも半導体の仕様が非常に高度になり、設計はできても、製造・量産することが極めて難しくなっているからです」、「2ナノまで微細化を進めているのはTSMCだけ」、「ファウンドリー」はすごい力を持ったものだ。
・『日本はなぜ衰退したか 藤 その中で、いま日本はどんな位置にあるのですか。 太田 半導体を作るには、当然、材料が必要ですし、半導体に特化した製造装置が要ります。この分野は日本が強い。回路を載せるシリコンウエハーなら信越化学工業とSUMCOが世界で大きなシェアを占めていますし、製造装置では東京エレクトロンなどが有名です。 佐藤 日本の半導体産業はかつてメモリが非常に強く、製造機器は露光機なども大きなシェアを占めていました。それが衰退してしまったのは、どこに原因があったのでしょうか。 太田 三つあると思います。一つは1980年代の日米半導体摩擦で、不平等条約に近い不利な協定を結ばされてしまったことです。アメリカは当時から半導体が国家安全保障に関わる戦略物資だと考えていたので、業界を必死に守ろうとしました。これに対し、日本は「安くていいものを作ればいい」くらいにナイーブに考えていたんですね。これで時間を失ってしまった。 佐藤 ここぞ、という時には、アメリカは国家のすごみを出します。 太田 それからやはり政策の失敗も大きい。半導体産業はアップダウンが激しく、苦しい時もあるのですが、それでも投資すべき局面があります。そこは政府が後押ししなければならない。 佐藤 支援が適切な時期に適切な規模でなされなかったのですね。 太田 三つ目は、日本では半導体を総合電機メーカーが作っていたことです。日立も東芝も、重電から家電まで扱い、さらに半導体も作っていました。私はこれが衰退の最大の要因だと思います。 佐藤 確かに総合電機メーカーの事業は幅広く、家庭用洗濯機から原子炉まで作っています。 太田 彼らの主力事業である重電では、電力会社や鉄道会社などの需要を5年先、10年先まで見ながら設備投資をしていきますね。 佐藤 計画経済に近い。 太田 その通りです。でも半導体は、儲かったり儲からなかったり、振幅が大きいシリコンサイクルに振り回されます。すると、総合電機メーカーの中の部門としては浮いてしまう。結果として事業を続けられなくなった。 佐藤 つまりリストラの対象となる。 太田 総合電機メーカーという形態である以上、致し方ないことかもしれないですが、それが日本の半導体産業の悲劇だったと思います。 佐藤 日本でもファウンドリーを作ろうとしたことはあるのですか。 太田 1990年代末に台湾のある企業と総合電機メーカーが組んで始めようとしています。でも数年でやめてしまったんですよ』、「日本では半導体を総合電機メーカーが作っていたことです。日立も東芝も、重電から家電まで扱い、さらに半導体も作っていました。私はこれが衰退の最大の要因」、「振幅が大きいシリコンサイクルに振り回されます。すると、総合電機メーカーの中の部門としては浮いてしまう」、なるほど。
・『半導体と中国人 佐藤 米中のデカップリングで、いまこうした半導体のサプライチェーンが再編されつつあります。 太田 アメリカは、まずトランプ前大統領がファーウェイに制裁を科しました。それをバイデン政権も引き継いでいる。 佐藤 米中間はもちろん、台湾と中国のサプライチェーンも切断しました。 太田 ただすべてではないんですよ。ワシントンでは政府・議会・軍で形成される国防コミュニティーと企業が、常にせめぎ合っています。彼らは、この技術はダメだけども、ここまでは輸出できるとはっきり線を引く。その線は動くこともありますが、決められた範囲内ならほぼ自由に輸出できる。 佐藤 ビジネスを続けている。 太田 先端技術でデカップリングが進んでも、完全に分離するのは難しいでしょう。価値観としてのグローバリズムは終わりましたが、現象としてのグローバリゼーションは止まらない。その中で、多くの日本企業はアメリカが引いた線の一歩も二歩も手前の製品まで輸出しないようにしました。米中対立の実像がよくわかっていないんですよ。 佐藤 忖度ですね。何か言われると嫌だから、自主規制してしまった。それに官僚たちは本性として規制が大好きですから。 太田 安倍政権時代の日韓のけんかでは、日本政府が徴用工問題で韓国の文在寅政権に対抗する形で、韓国への化学素材の輸出管理を厳格化する措置を取りました。半導体のエッチングガスやシリコンの洗浄剤に使われるフッ化水素、有機ELの材料であるフッ化ポリイミド、半導体の基板に塗る感光剤のフォトレジストの3品目です。これによって韓国は悲鳴を上げましたが、同時に輸出を止められた日本の会社も激怒した。 佐藤 国から商売相手を切られたわけですからね。 太田 この時に、政府は輸出規制が強い武器であると確信したのだと思います。そして企業側はサプライチェーンが国家によって簡単に断ち切られるリスクを考慮しなければならなくなった。 佐藤 この対談にご登場いただいたパソコンメーカー・VAIOの山野正樹社長は、1~2ドルの安い半導体が中国から入ってこなくて困った、とお話しされていました。だからデカップリングでも、最先端で高価なものだけが重要なのではない。 太田 そこが大事なところで、どうしても最先端の技術競争に目が行きますが、1ドルのチップだって、欠けたら製品は完成しません。 佐藤 ご著作の中でバイデン大統領の言葉が紹介されていましたね。「釘が1本足りないため、馬の蹄鉄が駄目になった」と。 太田 あれはマザーグースからの引用で、その後は馬が走れず、騎士が乗れず、戦ができないので王国は滅びたと続きます。釘は最先端の部品とは限らない。そうしたチョークポイント(物事の進行を左右する部分)をどれだけ握れるかが、これから国家にとっての眼目になると思います。 佐藤 それをきちんと把握しなければならない。 太田 実はいま中国が10ナノにも届かない一般的な半導体に莫大な設備投資をしています。数年後には間違いなく過剰供給になる。鉄鋼がそうだったように、中国の過剰供給で値段がグンと下がりますから、日本の半導体産業が一気に掃討される可能性だってあります。最先端の領域だけでなく、ボリュームゾーンにも目を配っていかねばなりません。 佐藤 デカップリングでないところでも、危機が生じるのですね。 太田 私は産業を三つの階層から見るべきだと考えています。国家と企業と個人です。国家には安全保障の責務があり、各国の政府は国を守るためにゲームを繰り広げる。一方、企業は利潤を追求して、国境を越えてビジネスを展開します。そして個人は、国家や企業の価値観は関係なく、自分の人生を一番大切にする。 佐藤 それはそうです。 太田 日米半導体摩擦後に、日本のエリート技術者たちが数多く中国や韓国の企業にリクルートされ、技術流出が問題になりましたね。給料を2倍、3倍出すと言われて海を渡った人も多い。でも彼らを「国賊」とか「裏切り者」と言うのは間違っています。2倍3倍の給料が払えなかった企業の経営と、企業が稼げる仕組みを作れなかった政策が悪いのであって、彼らではない。 佐藤 その人たちにそれだけのマーケットバリューがあったということですからね。ただ一方で、イスラエルでは、シリコンバレーに行けば10倍の年収になる人も、国にとどまります。ユダヤ人国家を存続させるには、能力がある者は自国にいるべきだと考えているからです。それはロシアのシリコンバレーといわれるゼレノグラードでも同じです。 太田 なるほど。そうした国では、国家と企業、個人の距離感が違うのでしょうね。 佐藤 国家と個人が非常に近い。その点でイスラエルとロシアは似ていて、共通の感覚があります。だから、イスラエルはアメリカの最重要同盟国なのに、ロシアに経済制裁を行っていません。 太田 かつて日本人も、国や企業との距離が近かったですね。私は1990年代にアメリカに留学しましたが、駐在員や留学生たちはいつも「私の会社では」とか「私の国では」という話し方をしていました。 佐藤 その逆が中国人ですね。 太田 彼らは自分の幸せ、家族の存続を第一に考えますね。また現実主義者で、どこにでも移っていきます。 佐藤 国籍を変えることに抵抗がない。どこの国民になっても自分たちの宗族でまとまりますし、中国人の意識を持ち続けている。 太田 半導体を取材して感じたのは、その中国人、華人たちの活躍ぶりです。シリコンバレーのデジタル企業には、トップ層でマネジメントを担っている華人が多いんです。TSMCの張忠謀もマサチューセッツ工科大学を出て、アメリカの半導体企業テキサスインスツルメンツの幹部でした。彼らはあらゆるところにいる。華人の視点から見ていかないと、半導体はわからないと思うに至りました。ですから次は華人についてもっと研究したいと思っているんです。 佐藤 それは重要な視点です。国家ではないのに、国家のような様相を呈す集団ですね。ユダヤ人に近いかもしれない。 太田 そうですね。ただ彼らの取材は難しいんです。なかなかそのコミュニティーに入っていけませんから』、「中国人」、「彼らは自分の幸せ、家族の存続を第一に考えますね。また現実主義者で、どこにでも移っていきます。 佐藤 国籍を変えることに抵抗がない。どこの国民になっても自分たちの宗族でまとまりますし、中国人の意識を持ち続けている。 太田 半導体を取材して感じたのは、その中国人、華人たちの活躍ぶりです。シリコンバレーのデジタル企業には、トップ層でマネジメントを担っている華人が多いんです。TSMCの張忠謀もマサチューセッツ工科大学を出て、アメリカの半導体企業テキサスインスツルメンツの幹部でした。彼らはあらゆるところにいる。華人の視点から見ていかないと、半導体はわからないと思うに至りました」、その通りだ。
・『エンジニアに敬意を 佐藤 ご著作には、半導体の重要地域として、アルメニアが出てきました。このアルメニア人も国外にいる数の方が多い。その一部は武器商人として知られています。 太田 アルメニアには、アメリカのシノプシスという会社の開発拠点があります。半導体設計の自動支援システムを提供する会社は世界に3社しかなく、その最大手です。アルメニアはロシアと緊密な関係がありますから、ウクライナ侵攻でどうなっているのかと思ったら、シノプシスは以前と変わらず首都エレバンで人を募集していました。 佐藤 ここに注目されたのは慧眼だと思いました。 太田 デジタル技術から見た地政学上の重要地域の一つはASEANで、もう一つはコーカサスだと思っています。アルメニアは人口300万人弱の小国でありながら、IT分野の雇用者数は1万7千人に及ぶと聞きます。アメリカからは他にも、計測・制御ソフトのナショナルインスツルメンツやマイクロソフト、ネットワーク機器最大手のシスコなどが進出しました。 佐藤 もうサプライチェーンの一角を占めているわけですね。アルメニアは、ロシアはもちろん、イランとの関係も極めて深い。戦略上、注目すべき地域です。 太田 アルメニアは資源がないため、デジタル産業で国を興そうとしたんですね。その時、まだ半導体産業が輝いていた時代の日本人エンジニアが現地に行って教えているんですよ。 佐藤 それが基礎になっている。逆に日本は存在感がなくなってしまったわけです。日本はこれからどうすればいいとお考えですか。 太田 私はシンガポール駐在時代、ファーウェイの本社がある中国・深センに通ったんです。この都市の中心にある華強北という一区画には、畳1~2畳ほどの電子部品店が詰まったビルが林立していて、その熱気の中から新しい発想が次々と生み出されてくる。華強北でよく日本の若者にも会いましたが、もう日本にはこんな場所はないと言うんですね。秋葉原はいまやメイドとアニメの街ですから。 佐藤 私は小学生の頃、部品のジャンクショップで真空管やコンデンサーを買いラジオを組み立てていました。3球のラジオを作りましたね。 太田 私もやりました。真空管は、1球、2球と呼び、トランジスタになると1石、2石となる。 佐藤 あれは楽しかった。ワクワクしながら作っていました。 太田 私もそうです。モノ作りに熱量があったんですね。同じものを華強北には感じました。でもいまの日本にはそれがない。 佐藤 私もそう感じます。 太田 だからいま必要なのは、モノを作る人、エンジニアがいろいろなことを、生き生きと面白がってやれるようにすることだと思うのです。それにはエンジニアに対する社会の敬意が必要です。 佐藤 日本では「理系」と十把一絡げにして、狭い世界に閉じ込めてしまうところがありますからね。 太田 同時にエンジニアの方々には、もっと自分の経済価値に目覚めてほしいんですよ。先日、日本の素材サプライヤーを訪ねたんです。世界中でこの会社しかできない金属加工技術を持っていて、インテルやTSMC、サムスンが毎日のように「こっちに回せ」と言ってくる。そんなに需要があれば値段が上がるはずなのですが、むしろ値切られている。 佐藤 どうしてですか。 太田 商慣習だそうです。お客さんを大切にするとおっしゃっていましたが、どうにも腑に落ちない。なぜだろうと考えていて「あっ」と気がついたんです、彼らは幸せなのだと。すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない、とも思いました。 佐藤 非常に日本的ですね。そこに経済合理性を取り入れた方が、持続可能性にもつながるでしょう。 太田 そうですね。日本には優れたエンジニアたちがいます。彼ら、彼女らの価値を正しく認める舞台を作っていかなければいけない。エンジニアが夢を抱けなければ、日本の未来は明るくならないと思いますね。 太田氏の略歴はリンク先参照)』、「そんなに需要があれば値段が上がるはずなのですが、むしろ値切られている・・・商慣習だそうです。お客さんを大切にするとおっしゃっていましたが、どうにも腑に落ちない。なぜだろうと考えていて「あっ」と気がついたんです、彼らは幸せなのだと。すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない、とも思いました。 佐藤 非常に日本的ですね。そこに経済合理性を取り入れた方が、持続可能性にもつながるでしょう。 太田 そうですね。日本には優れたエンジニアたちがいます。彼ら、彼女らの価値を正しく認める舞台を作っていかなければいけない。エンジニアが夢を抱けなければ、日本の未来は明るくならないと思いますね』、「日本」の「エンジニア」は、「すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない」、同感である。
次に、11月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/313421
・『「ビヨンド2ナノ」に向けたラピダス設立に感じる課題 ビヨンド2ナノ(回路幅が2ナノクラスの次世代半導体)に向けて、台湾への半導体投資というプランBが必要なのではないか。 先日、トヨタ自動車やNTTなどが立ち上げたラピダス(Rapidus)は、国産半導体復興を目指した共同出資企業だ。ただ、ラピダスは規模を追わずに小規模で最先端半導体の開発をするという。しかし、技術開発は固定費であるし、半導体製造は巨大な装置産業であって、規模の経済性が重要な産業だ。どちらも大量に生産し、販売した方が、次の投資がしやすくなる。 とかく日本人は「いたずらに規模を追わず、技術で勝負する」「金儲けだけが目的ではない」ということを言いがちだが、経営学的に見れば、こんな危うい発言はない。言い換えれば、「入ってくるお金や資源は少ないが、日本人は優秀なので気合いで頑張れる」といった精神論にしか聞こえない。 20世紀のような、変動費の要素が大きいエレクトロニクス製品などの開発においては、数を追わない製品差別化戦略は可能であったと思う。しかし、様々なエレクトロニクス産業の製品がデジタル化し、ソフトウエアと半導体で構成されるようになると、固定費の要素が大半になるので、数を一番多く作ったところが総取りになるような競争が多く見られる。 MIT流の技術経営の考え方に、イノベーションとは新たな価値を産み出す価値創造のプロセスと、産み出した価値からしっかり収益を獲得する価値獲得のプロセスからなる、という考え方がある。価値創造は専ら開発の仕事であるが、価値獲得には製造、標準化、マーケティング、販売、PRなど様々な手段で自社の収益化に結びつけるあの手この手のアイデアが必要となる。日本は価値創造が得意だが、価値獲得が苦手な企業があまりに多い。 液晶パネル、太陽光パネル、NAND型フラッシュメモリ、最近でいえば日本のノーベル賞受賞技術であるリチウムイオン電池など、日本が価値創造に大きく貢献をしながら、価値獲得はよりビジネスの上手い諸外国企業に獲られているという状況が続いている。 これまでも、一度日本が失った市場を取り戻すべく、日の丸連合を作ったケースは多々あった。エルピーダメモリやジャパンディスプレイなど、いずれも規模を追わない日の丸連合で失敗をしている。ラピダスもこれらの失敗は意識しているのか、「日米連携による新会社は日の丸連合ではない」としているが、IBMも苦戦する半導体産業において、台湾や韓国の勢いにどれだけ対抗できるのであろうか。 そもそも規模の経済性を無視して、小規模で最先端ということが可能なのだろうか。最先端のことをやるには開発費がかかる、一方で、数を追って莫大な既存事業の利益を上げている会社と、細々と小規模な売り上げを立てている会社のどちらがその先の投資に有利かは、火を見るよりも明らかだ。 ただし、ここでいう規模というのはIDM(自社で設計、製造、販売まで手がけるメーカー)による少品種大量生産を意味するわけではない。ファウンドリービジネスでは、多品種少量生産をひとつのファウンドリーで集約して大量生産のメリットを活かすことができるので、ファウンドリーが半導体ビジネスの主流になった。ファウンドリーの多品種少量はあくまで大量生産の規模の経済性を最大限活かしているケースだ』、「液晶パネル、太陽光パネル、NAND型フラッシュメモリ、最近でいえば日本のノーベル賞受賞技術であるリチウムイオン電池など、日本が価値創造に大きく貢献をしながら、価値獲得はよりビジネスの上手い諸外国企業に獲られているという状況が続いている」、その通りだ。
・『半導体製造装置の優位性に不安材料も もうひとつの不安材料は、製造設備だ。今でも半導体の部材や製造設備で日本には優位性のある分野が多いが、半導体製造に必要な露光装置に関していえば、かつて日本のキヤノンなどがアメリカのキャスパーから近接露光方式で優位を勝ち取ったのに対して、近年ではオランダのASMLがより高性能なEUVリソグラフィ露光装置で日本のニコンやキヤノンよりも優位に立っている。 現時点でASMLの露光装置なくして、ビヨンド2ナノの製造は不可能であろう。ASMLが新世代露光装置を独占している状況は、米国にとって必ずしも好ましいことではない。ASMLが中国に露光装置を輸出するのを禁止するよう、米国政府がオランダ政府に圧力をかけたほどであり、より与しやすい日本がこの分野で優位に立つことは米国の利益にもかなう。とはいえ、政府の思惑通りに企業の競争力が高まるわけでもない。) だからといって、日本がこの分野を簡単に諦めてしまっていいということではないだろう。26ナノプロセスの汎用性の高い技術については、熊本に台湾TSMCを誘致したように、日本はすでに日の丸連合にこだわらない半導体施策を進めている。 にもかかわらず、日本が最先端半導体の開発に乗り出すのは、半導体技術が安全保障に直結しているということもあるだろう。ウクライナでの紛争において民間のドローンが活躍しているように、民生用技術と軍事技術の垣根が低くなっている今日、AIやIoT技術に必須となる最先端半導体の国産化は、経済だけでなく安全保障上も重要になるだろう。とはいえ、国際競争力がつかなければ絵に描いた餅に過ぎない』、「日本が最先端半導体の開発に乗り出すのは、半導体技術が安全保障に直結しているということもあるだろう。ウクライナでの紛争において民間のドローンが活躍しているように、民生用技術と軍事技術の垣根が低くなっている今日、AIやIoT技術に必須となる最先端半導体の国産化は、経済だけでなく安全保障上も重要になるだろう」、その通りだ。
・『日本が台湾に学ぶべきビジネスでの「価値獲得」 冒頭で述べた台湾との連携というのも、簡単な話ではない。ラピダスの小池淳義社長は、日立製作所と台湾第2位の半導体ファウンドリー・UMCとの合弁でファウンドリーの立ち上げを目指したトレセンティにおいて量産を指揮したが、それでも上手くいかなかった。その要因は様々指摘されているが、日本は台湾と組むときに、台湾の生産能力だけを活用しようとしているからではないか。 日本が台湾から学ぶべきは、いかに制約条件が大きい中でビジネスの構想力によって課題を突破し、収益化に結びつけるかというビジネスの能力であろう。日本は価値創造が得意であるが、台湾が得意なのは価値獲得である。台湾を単に日本の製造手段として見ていると、台湾を過小評価することになる。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業がシャープを再建したり、熊本の汎用性の高い半導体事業にTSMCを誘致したりと、台湾の価値獲得の能力を活かす日台アライアンスの事例も増えてきている。 また、政策としての海外との連携という点では、日本は台湾と公式の外交関係がなく、日本の政府機関は、出先の民間組織として日本台湾交流協会を通じた外交政策を行っている。各省庁がひとつの出先機関に集中しているのは台湾だけであり、交流協会というひとつの組織で関係省庁が連携をとりやすい環境ができているのも、日台アライアンスを進める上でのメリットだ。) さらにいえば、近年の良好な日台関係も両者のアライアンスを後押しするだろう。米中対立や、ロシアのウクライナ侵攻、3期目に入る中国習近平政権と、東アジアの安全保障に緊張状態をもたらすイベントが多い中で、日本と台湾は同じ脅威に接しており、両者の連携はますます重要になってくるといえる。 また、台湾には日本が必要とする産業も多く、台湾企業への投資は国際的に見ても極めて利回りが良いが、これだけ日台関係が良好で経済的な結びつきもあるのに、日本から台湾企業への投資はほとんど行われていない。台湾側が望んでいないかといえばそうではなく、むしろ「なぜ日本はもっと台湾企業に投資をしないのか」という声が、台湾の財界からは聞こえてくる』、「日本は価値創造が得意であるが、台湾が得意なのは価値獲得である。台湾を単に日本の製造手段として見ていると、台湾を過小評価することになる」、その通りだ。「日本から台湾企業への投資はほとんど行われていない」、「中国政府」に遠慮しているためだろう。
・『単なる連携ではなく台湾の技術や能力を吸収せよ 現在はもっと積極的に台湾との連携を深める好機であり、半導体はその最も有望な候補と言えるだろう。ラピダスもまだその設立が発表されたばかりで、量産に向けてどのような体制を築くのかは不明なところもある。今発表されている米国企業との連携だけで進むということもあるのかもしれない。 しかし、最先端のプロセスでリードする台湾の半導体産業を巻き込むという意味でも、また日本が得意ではない価値獲得の領域でいかに戦略的に立ち回るべきかという意味でも、日本は台湾との関係をもう一度考えてもよいのではないだろうか。 そのときは、単なる業務提携ではなく、日本から台湾の有望な企業への投資を増やし、台湾の技術やビジネスの能力を日本のものにしていくということも、重要ではないだろうか』、「単なる業務提携ではなく、日本から台湾の有望な企業への投資を増やし、台湾の技術やビジネスの能力を日本のものにしていくということも、重要ではないだろうか」、その通りだが、中国本土との関係が悪化しないよう巧みに立ち回る必要がある。
第三に、12月21日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ」を紹介しよう』、興味深そうだ。
https://gendai.media/articles/-/103634?imp=0
・『中国の脅威が増大し、半導体確保のリスクが高まってきたことから、政府は国策半導体企業ラピダスの設立に乗り出した。だが日本は最先端半導体の製造技術において、他国より10年以上遅れており、一足飛びに世界トップを目指す方針には疑問の声も出ている。日本は90年代以降、半導体分野で完膚なきまでに敗北したが、すべての原因は「戦略の不在」である』、「日本は90年代以降、半導体分野で完膚なきまでに敗北したが、すべての原因は「戦略の不在」である」、その通りだ。
・『じつは「海外頼み」 ラピダスは、トヨタ自動車やNTTなど国内企業8社が出資し、次世代半導体の国産化を目指す国策企業である。同社が目指しているのは2ナノメートル(もしくはそれ以下)という最先端の製造プロセスだが、この技術を確立できる見通しが立っているのは、現時点では米インテル、台湾TSMC、韓国サムスンの3社だけである。 日本は現時点において、最先端の製造プロセス技術を持っておらず、2ナノの製造プロセスを実用化するためには、長い時間をかけて研究開発を行うか、他国から技術導入するしかない。 政府は基礎技術の開発を目指し、次世代半導体の研究開発拠点となる「技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)」を設立することも併せて発表している。 LSTCには、多くの研究所や大学が名を連ねているが、日本は長年、最先端半導体の製造分野から遠ざかっており、LSTC単体で技術を確立することは困難と言われる。LSTCは米IBMなど各国の研究機関と連携することが大前提の組織と考えてよいだろう。製造装置についても同様である。 日本メーカーは、2ナノメートルの半導体を製造できる装置を持っておらず、こちらも欧州メーカーから装置を導入する必要がある。基礎技術については米国から、製造装置については欧州から支援を受けるという形であり、自国による生産基盤の確立とは言い難い。) 資金面でも見通しが立っているわけではない。 2ナノメートルの量産体制を確立するためには、最低でも5兆円程度の先行投資が必要となり、上記3社はこの水準の巨額投資を行う方針を明らかにしている。だがラピダスについては、資金のメドが立っているとはいえず、政府も明確に全面支援するとは表明していない。 半導体産業というのは、巨額の先行投資が必要であると同時に、技術が陳腐化するスピードが速く、経営戦略的には極めてやっかいな分野である。十分な成果を上げるためには、完璧な戦略と資金の裏付けが必要であり、これは簡単なことではない。 最先端半導体の分野では圧倒的なナンバーワンである台湾TSMCは、今でこそ、圧倒的な地位を築いているが、同社がここまでの地位に上り詰めるまでには、想像を絶する苦労があった。ラピダスを成功させるためには、TSMCかそれ以上の取り組みが必要となるが、果たしてその覚悟が日本政府や産業界にあるのかは疑問である』、「ラピダスを成功させるためには、TSMCかそれ以上の取り組みが必要となるが、果たしてその覚悟が日本政府や産業界にあるのかは疑問である」、その通りだ。
・『日本の半導体産業の「戦略のミス」 台湾TSMCは半導体のファウンドリ(受託生産)分野のナンバーワン企業である。今でこそ半導体というのは、国際分業が当たり前であり、設計に特化する企業(ファブレス)と製造に特化する企業(ファウンドリ)に分かれ、それぞれが当該分野に特化している(インテルのような企業は例外で、設計から量産まですべて自前で完結できる)。 だが、TSMCが創業した1990年前後、こうした国際分業体制は確立されていなかった。80年代までは日本の半導体産業は圧倒的な競争力を持っており、メモリー(一時記憶を行う半導体)分野のシェアは8割を突破していた。当時の半導体は主に大型コンピュータ用の高価な製品だったが、ここに到来したのが全世界的なIT革命(パソコンの普及)である。パソコンの登場でコンピュータの価格は最終的に数十分の1になり、搭載する部品についても価格破壊が発生した。) パソコンの驚異的な普及は誰の目にも明らかだったにもかかわらず、日本勢は大型コンピュータ用のメモリーにこだわり続け、最終的にはほぼすべてのシェアを失ってしまった。日本勢が敗れたのは、すべて市場動向を見誤った戦略ミスであり、この事実は覆しようがない。いくら技術はすばらしいが商売で負けたと言い訳しても、ビジネスには勝ち負けしかないというのが現実だ。 実際、半導体以外の業界では、日本電産のようにパソコンの驚異的な普及という現実を見据え、パソコンに搭載するハードディスク用モーターに特化して大成功した企業もある。日本電産が世界企業に成長できたのは、世界的なIT革命という市場の流れを的確にとらえたからであり、すべては経営者(創業者の永守重信氏)の戦略性によるものだ。 パソコンの普及による産業構造の変化は、半導体業界にも及ぶことになり、米国では設計に特化するファブレス企業が活発になってきた。こうした状況を受けて製造に特化する企業として設立されたのがTSMCである』、「日本勢が敗れたのは、すべて市場動向を見誤った戦略ミスであり、この事実は覆しようがない。いくら技術はすばらしいが商売で負けたと言い訳しても、ビジネスには勝ち負けしかないというのが現実だ」、その通りだ。
・『台湾の驚くべき半導体戦略 TSMCが設立されたのは1987年だが、同社は半導体の製造を下請けとして受託する小さな新興メーカーに過ぎなかった。筆者はかつてジャーナリストをしていたが、1990年代の初頭、設立間もないTSMCに取材に行った数少ない日本人記者の一人である。 TSMCは台北郊外の新竹にあるサイエンスパークに巨大な生産ラインを構えており、今の新竹はさながら東洋のシリコンバレーといった状況になっている。だが当時の新竹にはTSMCの本社工場がポツンとあるだけだった。新竹は風が強いことで知られ、米粉(ビーフン)が名産だが、殺風景な場所という強烈な印象が残っている。 当時、TSMCが世界をリードする半導体企業になるとは業界の誰もが考えていなかったし、そもそもファウンドリという業態もうまく機能するのか疑問視する声が多かった(単なる下請けなので儲からないという見解が圧倒的に多かった)。そうした中で、無謀ともいえるチャレンジを行っているTSMCに興味が湧き、わざわざ取材に行ったのだが、TSMC幹部が筆者に語った戦略は驚くべきものだった。 同社は当時の段階から、IT業界が完璧な水平分業に体制にシフトし、半導体分野においてもファウンドリが業界の中核になるという見通しを描いていた。加えて、単なる下請け企業に陥らないよう、顧客となる半導体設計企業の業務を徹底的に分析し、彼らが必要とする機能をあらかじめモジュール化して提供する体制を整えるなど、今で言うところのソリューション型ビジネス(問題解決型)を実現する明確な戦略を立案していたのだ。 台湾の凄味は、精神論を排除した冷徹な合理主義と、一方で無謀ともいえる計画を政府が全面的に後押しし、巨額の資金と人材を支援するというリスクテイクの感覚が見事に同居している点だろう。日本の産業界や政府にこうした気概はなく、前例踏襲に終始した結果、半導体産業は壊滅的な状況まで追い込まれてしまった』、「台湾の凄味は、精神論を排除した冷徹な合理主義と、一方で無謀ともいえる計画を政府が全面的に後押しし、巨額の資金と人材を支援するというリスクテイクの感覚が見事に同居している点だろう。日本の産業界や政府にこうした気概はなく、前例踏襲に終始した結果、半導体産業は壊滅的な状況まで追い込まれてしまった」、日台は好対照だ。
・『もっと現実的な対策が必要 TSMCの事例を見ても分かるように、半導体業界において後発企業が大きな実績を上げるためには、極めて高い先見性と想像を超える努力、莫大な資金が必要となる。 日本はこうした生き馬の目を抜く半導体業界において敗北し、10年以上の技術力の差を付けられた状態にある。次の世代が2ナノメートルの製造プロセスが主流になることは誰もが知る事実であり、その技術を確立できる見通しがあり、かつ十分な資金を用意出来る立場にあるのは、冒頭にも述べたようにTSMC、インテル、サムスンの3社だけである。) 後発となった日本が3社に追い付くためには、彼らの何倍も資金を投入して物量で勝負するか、もしくはゲームのルールを自ら変えるゲームチェンジャーになるしかない。 ラピダスはあくまで後発として先行企業に挑むというモデルなので、市場そのものをひっくり返すことを目論んでいるわけではない。だが、ラピダスが後発企業として、先行3社に追い付くための具体的な方策は見えていないのが現実だ。 ラピダスの最大の問題点は、なぜ国策企業を設立するのかという基本戦略が曖昧なことである。 一連のプロジェクトには、中国の台湾侵攻など、地政学的リスクに対処するという意味合いもある。もし経済安全保障が目的であれば、日本にはニーズがない最先端プロセスの半導体を量産するよりも(日本には高度なAIを開発できる企業がないので、最先端半導体を購入する企業が存在していない)、家電や自動車など、具体的ニーズがある汎用的な半導体の国内生産体制を強化した方が圧倒的に効果が高い。 政府は、TSMCに補助金を出し、熊本県に工場を誘致することに成功した。同様に、米国の半導体大手マイクロンテクノロジーにも補助金を出し、広島県の工場での生産体制強化を実現している。 中国の脅威は現実問題であり、台湾有事となれば、国内で半導体が枯渇する可能性は十分にある。一般的な半導体の国内生産体制を確立することも立派な国家戦略である。政府はもっと地に足の着いた戦略を描く必要があるだろう』、「もし経済安全保障が目的であれば、日本にはニーズがない最先端プロセスの半導体を量産するよりも(日本には高度なAIを開発できる企業がないので、最先端半導体を購入する企業が存在していない)、家電や自動車など、具体的ニーズがある汎用的な半導体の国内生産体制を強化した方が圧倒的に効果が高い」、「台湾有事となれば、国内で半導体が枯渇する可能性は十分にある。一般的な半導体の国内生産体制を確立することも立派な国家戦略である。政府はもっと地に足の着いた戦略を描く必要があるだろう」、同感である。
先ずは、11月22日付けデイリー新潮「日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/11220555/?all=1
・『国家の安全保障を左右する戦略物資としてますます重みを増す半導体。このサプライチェーンをめぐって各国で激しい駆け引きが行われている。かつて日本は半導体大国だった。それがなぜこうまで凋落してしまったのか。そして今後、復活の可能性はあるのか。半導体産業を知悉するジャーナリストの提言』、「半導体産業を知悉するジャーナリストの提言」とは興味深そうだ。
・『佐藤 ここ数年、半導体は常に経済ニュースの主役です。コロナや米中デカップリング(分離)でサプライチェーンが分断され、深刻な半導体不足が生じて家電製品や自動車の生産ラインが止まりました。ただ、この物資の実態は極めてわかりにくい。その全体像を理解するのに、太田さんの『2030半導体の地政学』は格好のテキストでした。 太田 ありがとうございます。おっしゃる通りで、半導体はあらゆる電気製品に組み込まれており、サプライチェーンはグローバルに広がって複雑です。その上、いまや国家の安全保障を左右する戦略物資となり、半導体を制する者が世界を制すという状況になっています。 佐藤 まずはこの半導体がどこでどう作られているのか、そこからお話しいただきたいと思います。 太田 半導体チップが製品として世に送り出されるまでには、千近くの工程があります。大雑把にまとめると、半導体にどのように仕事をさせるかを考える人、設計する人、実際に作る人がいます。それらが別々の地域、会社で行われています。 佐藤 国を跨いでもいる。 太田 はい。最上流にいるのが、電子回路の基本パターンやデジタル信号を処理する仕様を考え、ライセンスの形で供与する会社です。「IPベンダー」とも呼ばれますが、一番有名なのはイギリスのアームです。 佐藤 2016年に孫正義さんのソフトバンクが買収した会社ですね。 太田 そうです。次に基本設計を買って組み合わせて自社のチップの図面を描く人たちがいます。アメリカならクアルコム、エヌビディアなどの会社で、中国ならファーウェイ傘下のハイシリコンがそうです。またアメリカのインテルやAMDのようにアームとは異なる自前の仕様を採っている会社もあります。 佐藤 はっきり分けられない会社もある。 太田 ただ、これらの企業の多くはファブ(工場)を持たず、「ファブレス」と呼ばれています。 佐藤 つまり頭脳ですね。工場ではなく、オフィスで仕事をしている。 太田 製造を請け負うのは、「ファウンドリー」と呼ばれる企業です。アメリカのグローバルファウンドリーズや韓国のサムスン電子などがありますが、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)の一人勝ち状態です。技術力も規模も圧倒的で、世界の60%近いシェアを占めています。 佐藤 世界中でTSMCの工場を誘致していますね。アメリカではアリゾナ州に工場を造ることになりましたが、日本も国を挙げて誘致し、熊本に造ることが決まりました。 太田 製造だけ請け負うというと下請け企業のように見えますが、設計メーカーの方がTSMCに依存しているのが実態です。というのも半導体の仕様が非常に高度になり、設計はできても、製造・量産することが極めて難しくなっているからです。 佐藤 回路にはナノ(10億分の1)単位で描線が引かれるといいますね。 太田 5ナノ~3ナノで量産できるのはTSMCとサムスン電子の2社で、2ナノまで微細化を進めているのはTSMCだけです。 佐藤 このTSMCはいつできた会社なのですか。 太田 1987年です。そもそも設計と製造を分離させたファウンドリーは、TSMCの創業者・張忠謀が発展させてきたビジネスモデルです。アメリカ企業にしてみれば、工場を建てて設備投資すれば1兆円単位でカネがかかりますから、自分で持ちたくはない。安く作ってくれるところがあれば、任せたいわけです。 佐藤 両者の思惑が一致した。 太田 自由貿易と市場原理の一つの均衡点として生まれたモデルといえます。これらを地域で見ていくと、IPベンダーはイギリス、ファブレスはアメリカのシリコンバレー、そしてファウンドリーは台湾、韓国の東アジアと、大西洋も太平洋も跨ぐ形で、広大で複雑なサプライチェーンが広がっています』、「ファウンドリー」は、「製造だけ請け負うというと下請け企業のように見えますが、設計メーカーの方がTSMCに依存しているのが実態です。というのも半導体の仕様が非常に高度になり、設計はできても、製造・量産することが極めて難しくなっているからです」、「2ナノまで微細化を進めているのはTSMCだけ」、「ファウンドリー」はすごい力を持ったものだ。
・『日本はなぜ衰退したか 藤 その中で、いま日本はどんな位置にあるのですか。 太田 半導体を作るには、当然、材料が必要ですし、半導体に特化した製造装置が要ります。この分野は日本が強い。回路を載せるシリコンウエハーなら信越化学工業とSUMCOが世界で大きなシェアを占めていますし、製造装置では東京エレクトロンなどが有名です。 佐藤 日本の半導体産業はかつてメモリが非常に強く、製造機器は露光機なども大きなシェアを占めていました。それが衰退してしまったのは、どこに原因があったのでしょうか。 太田 三つあると思います。一つは1980年代の日米半導体摩擦で、不平等条約に近い不利な協定を結ばされてしまったことです。アメリカは当時から半導体が国家安全保障に関わる戦略物資だと考えていたので、業界を必死に守ろうとしました。これに対し、日本は「安くていいものを作ればいい」くらいにナイーブに考えていたんですね。これで時間を失ってしまった。 佐藤 ここぞ、という時には、アメリカは国家のすごみを出します。 太田 それからやはり政策の失敗も大きい。半導体産業はアップダウンが激しく、苦しい時もあるのですが、それでも投資すべき局面があります。そこは政府が後押ししなければならない。 佐藤 支援が適切な時期に適切な規模でなされなかったのですね。 太田 三つ目は、日本では半導体を総合電機メーカーが作っていたことです。日立も東芝も、重電から家電まで扱い、さらに半導体も作っていました。私はこれが衰退の最大の要因だと思います。 佐藤 確かに総合電機メーカーの事業は幅広く、家庭用洗濯機から原子炉まで作っています。 太田 彼らの主力事業である重電では、電力会社や鉄道会社などの需要を5年先、10年先まで見ながら設備投資をしていきますね。 佐藤 計画経済に近い。 太田 その通りです。でも半導体は、儲かったり儲からなかったり、振幅が大きいシリコンサイクルに振り回されます。すると、総合電機メーカーの中の部門としては浮いてしまう。結果として事業を続けられなくなった。 佐藤 つまりリストラの対象となる。 太田 総合電機メーカーという形態である以上、致し方ないことかもしれないですが、それが日本の半導体産業の悲劇だったと思います。 佐藤 日本でもファウンドリーを作ろうとしたことはあるのですか。 太田 1990年代末に台湾のある企業と総合電機メーカーが組んで始めようとしています。でも数年でやめてしまったんですよ』、「日本では半導体を総合電機メーカーが作っていたことです。日立も東芝も、重電から家電まで扱い、さらに半導体も作っていました。私はこれが衰退の最大の要因」、「振幅が大きいシリコンサイクルに振り回されます。すると、総合電機メーカーの中の部門としては浮いてしまう」、なるほど。
・『半導体と中国人 佐藤 米中のデカップリングで、いまこうした半導体のサプライチェーンが再編されつつあります。 太田 アメリカは、まずトランプ前大統領がファーウェイに制裁を科しました。それをバイデン政権も引き継いでいる。 佐藤 米中間はもちろん、台湾と中国のサプライチェーンも切断しました。 太田 ただすべてではないんですよ。ワシントンでは政府・議会・軍で形成される国防コミュニティーと企業が、常にせめぎ合っています。彼らは、この技術はダメだけども、ここまでは輸出できるとはっきり線を引く。その線は動くこともありますが、決められた範囲内ならほぼ自由に輸出できる。 佐藤 ビジネスを続けている。 太田 先端技術でデカップリングが進んでも、完全に分離するのは難しいでしょう。価値観としてのグローバリズムは終わりましたが、現象としてのグローバリゼーションは止まらない。その中で、多くの日本企業はアメリカが引いた線の一歩も二歩も手前の製品まで輸出しないようにしました。米中対立の実像がよくわかっていないんですよ。 佐藤 忖度ですね。何か言われると嫌だから、自主規制してしまった。それに官僚たちは本性として規制が大好きですから。 太田 安倍政権時代の日韓のけんかでは、日本政府が徴用工問題で韓国の文在寅政権に対抗する形で、韓国への化学素材の輸出管理を厳格化する措置を取りました。半導体のエッチングガスやシリコンの洗浄剤に使われるフッ化水素、有機ELの材料であるフッ化ポリイミド、半導体の基板に塗る感光剤のフォトレジストの3品目です。これによって韓国は悲鳴を上げましたが、同時に輸出を止められた日本の会社も激怒した。 佐藤 国から商売相手を切られたわけですからね。 太田 この時に、政府は輸出規制が強い武器であると確信したのだと思います。そして企業側はサプライチェーンが国家によって簡単に断ち切られるリスクを考慮しなければならなくなった。 佐藤 この対談にご登場いただいたパソコンメーカー・VAIOの山野正樹社長は、1~2ドルの安い半導体が中国から入ってこなくて困った、とお話しされていました。だからデカップリングでも、最先端で高価なものだけが重要なのではない。 太田 そこが大事なところで、どうしても最先端の技術競争に目が行きますが、1ドルのチップだって、欠けたら製品は完成しません。 佐藤 ご著作の中でバイデン大統領の言葉が紹介されていましたね。「釘が1本足りないため、馬の蹄鉄が駄目になった」と。 太田 あれはマザーグースからの引用で、その後は馬が走れず、騎士が乗れず、戦ができないので王国は滅びたと続きます。釘は最先端の部品とは限らない。そうしたチョークポイント(物事の進行を左右する部分)をどれだけ握れるかが、これから国家にとっての眼目になると思います。 佐藤 それをきちんと把握しなければならない。 太田 実はいま中国が10ナノにも届かない一般的な半導体に莫大な設備投資をしています。数年後には間違いなく過剰供給になる。鉄鋼がそうだったように、中国の過剰供給で値段がグンと下がりますから、日本の半導体産業が一気に掃討される可能性だってあります。最先端の領域だけでなく、ボリュームゾーンにも目を配っていかねばなりません。 佐藤 デカップリングでないところでも、危機が生じるのですね。 太田 私は産業を三つの階層から見るべきだと考えています。国家と企業と個人です。国家には安全保障の責務があり、各国の政府は国を守るためにゲームを繰り広げる。一方、企業は利潤を追求して、国境を越えてビジネスを展開します。そして個人は、国家や企業の価値観は関係なく、自分の人生を一番大切にする。 佐藤 それはそうです。 太田 日米半導体摩擦後に、日本のエリート技術者たちが数多く中国や韓国の企業にリクルートされ、技術流出が問題になりましたね。給料を2倍、3倍出すと言われて海を渡った人も多い。でも彼らを「国賊」とか「裏切り者」と言うのは間違っています。2倍3倍の給料が払えなかった企業の経営と、企業が稼げる仕組みを作れなかった政策が悪いのであって、彼らではない。 佐藤 その人たちにそれだけのマーケットバリューがあったということですからね。ただ一方で、イスラエルでは、シリコンバレーに行けば10倍の年収になる人も、国にとどまります。ユダヤ人国家を存続させるには、能力がある者は自国にいるべきだと考えているからです。それはロシアのシリコンバレーといわれるゼレノグラードでも同じです。 太田 なるほど。そうした国では、国家と企業、個人の距離感が違うのでしょうね。 佐藤 国家と個人が非常に近い。その点でイスラエルとロシアは似ていて、共通の感覚があります。だから、イスラエルはアメリカの最重要同盟国なのに、ロシアに経済制裁を行っていません。 太田 かつて日本人も、国や企業との距離が近かったですね。私は1990年代にアメリカに留学しましたが、駐在員や留学生たちはいつも「私の会社では」とか「私の国では」という話し方をしていました。 佐藤 その逆が中国人ですね。 太田 彼らは自分の幸せ、家族の存続を第一に考えますね。また現実主義者で、どこにでも移っていきます。 佐藤 国籍を変えることに抵抗がない。どこの国民になっても自分たちの宗族でまとまりますし、中国人の意識を持ち続けている。 太田 半導体を取材して感じたのは、その中国人、華人たちの活躍ぶりです。シリコンバレーのデジタル企業には、トップ層でマネジメントを担っている華人が多いんです。TSMCの張忠謀もマサチューセッツ工科大学を出て、アメリカの半導体企業テキサスインスツルメンツの幹部でした。彼らはあらゆるところにいる。華人の視点から見ていかないと、半導体はわからないと思うに至りました。ですから次は華人についてもっと研究したいと思っているんです。 佐藤 それは重要な視点です。国家ではないのに、国家のような様相を呈す集団ですね。ユダヤ人に近いかもしれない。 太田 そうですね。ただ彼らの取材は難しいんです。なかなかそのコミュニティーに入っていけませんから』、「中国人」、「彼らは自分の幸せ、家族の存続を第一に考えますね。また現実主義者で、どこにでも移っていきます。 佐藤 国籍を変えることに抵抗がない。どこの国民になっても自分たちの宗族でまとまりますし、中国人の意識を持ち続けている。 太田 半導体を取材して感じたのは、その中国人、華人たちの活躍ぶりです。シリコンバレーのデジタル企業には、トップ層でマネジメントを担っている華人が多いんです。TSMCの張忠謀もマサチューセッツ工科大学を出て、アメリカの半導体企業テキサスインスツルメンツの幹部でした。彼らはあらゆるところにいる。華人の視点から見ていかないと、半導体はわからないと思うに至りました」、その通りだ。
・『エンジニアに敬意を 佐藤 ご著作には、半導体の重要地域として、アルメニアが出てきました。このアルメニア人も国外にいる数の方が多い。その一部は武器商人として知られています。 太田 アルメニアには、アメリカのシノプシスという会社の開発拠点があります。半導体設計の自動支援システムを提供する会社は世界に3社しかなく、その最大手です。アルメニアはロシアと緊密な関係がありますから、ウクライナ侵攻でどうなっているのかと思ったら、シノプシスは以前と変わらず首都エレバンで人を募集していました。 佐藤 ここに注目されたのは慧眼だと思いました。 太田 デジタル技術から見た地政学上の重要地域の一つはASEANで、もう一つはコーカサスだと思っています。アルメニアは人口300万人弱の小国でありながら、IT分野の雇用者数は1万7千人に及ぶと聞きます。アメリカからは他にも、計測・制御ソフトのナショナルインスツルメンツやマイクロソフト、ネットワーク機器最大手のシスコなどが進出しました。 佐藤 もうサプライチェーンの一角を占めているわけですね。アルメニアは、ロシアはもちろん、イランとの関係も極めて深い。戦略上、注目すべき地域です。 太田 アルメニアは資源がないため、デジタル産業で国を興そうとしたんですね。その時、まだ半導体産業が輝いていた時代の日本人エンジニアが現地に行って教えているんですよ。 佐藤 それが基礎になっている。逆に日本は存在感がなくなってしまったわけです。日本はこれからどうすればいいとお考えですか。 太田 私はシンガポール駐在時代、ファーウェイの本社がある中国・深センに通ったんです。この都市の中心にある華強北という一区画には、畳1~2畳ほどの電子部品店が詰まったビルが林立していて、その熱気の中から新しい発想が次々と生み出されてくる。華強北でよく日本の若者にも会いましたが、もう日本にはこんな場所はないと言うんですね。秋葉原はいまやメイドとアニメの街ですから。 佐藤 私は小学生の頃、部品のジャンクショップで真空管やコンデンサーを買いラジオを組み立てていました。3球のラジオを作りましたね。 太田 私もやりました。真空管は、1球、2球と呼び、トランジスタになると1石、2石となる。 佐藤 あれは楽しかった。ワクワクしながら作っていました。 太田 私もそうです。モノ作りに熱量があったんですね。同じものを華強北には感じました。でもいまの日本にはそれがない。 佐藤 私もそう感じます。 太田 だからいま必要なのは、モノを作る人、エンジニアがいろいろなことを、生き生きと面白がってやれるようにすることだと思うのです。それにはエンジニアに対する社会の敬意が必要です。 佐藤 日本では「理系」と十把一絡げにして、狭い世界に閉じ込めてしまうところがありますからね。 太田 同時にエンジニアの方々には、もっと自分の経済価値に目覚めてほしいんですよ。先日、日本の素材サプライヤーを訪ねたんです。世界中でこの会社しかできない金属加工技術を持っていて、インテルやTSMC、サムスンが毎日のように「こっちに回せ」と言ってくる。そんなに需要があれば値段が上がるはずなのですが、むしろ値切られている。 佐藤 どうしてですか。 太田 商慣習だそうです。お客さんを大切にするとおっしゃっていましたが、どうにも腑に落ちない。なぜだろうと考えていて「あっ」と気がついたんです、彼らは幸せなのだと。すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない、とも思いました。 佐藤 非常に日本的ですね。そこに経済合理性を取り入れた方が、持続可能性にもつながるでしょう。 太田 そうですね。日本には優れたエンジニアたちがいます。彼ら、彼女らの価値を正しく認める舞台を作っていかなければいけない。エンジニアが夢を抱けなければ、日本の未来は明るくならないと思いますね。 太田氏の略歴はリンク先参照)』、「そんなに需要があれば値段が上がるはずなのですが、むしろ値切られている・・・商慣習だそうです。お客さんを大切にするとおっしゃっていましたが、どうにも腑に落ちない。なぜだろうと考えていて「あっ」と気がついたんです、彼らは幸せなのだと。すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない、とも思いました。 佐藤 非常に日本的ですね。そこに経済合理性を取り入れた方が、持続可能性にもつながるでしょう。 太田 そうですね。日本には優れたエンジニアたちがいます。彼ら、彼女らの価値を正しく認める舞台を作っていかなければいけない。エンジニアが夢を抱けなければ、日本の未来は明るくならないと思いますね』、「日本」の「エンジニア」は、「すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない」、同感である。
次に、11月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した早稲田大学大学院経営管理研究科教授の長内 厚氏による「日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/313421
・『「ビヨンド2ナノ」に向けたラピダス設立に感じる課題 ビヨンド2ナノ(回路幅が2ナノクラスの次世代半導体)に向けて、台湾への半導体投資というプランBが必要なのではないか。 先日、トヨタ自動車やNTTなどが立ち上げたラピダス(Rapidus)は、国産半導体復興を目指した共同出資企業だ。ただ、ラピダスは規模を追わずに小規模で最先端半導体の開発をするという。しかし、技術開発は固定費であるし、半導体製造は巨大な装置産業であって、規模の経済性が重要な産業だ。どちらも大量に生産し、販売した方が、次の投資がしやすくなる。 とかく日本人は「いたずらに規模を追わず、技術で勝負する」「金儲けだけが目的ではない」ということを言いがちだが、経営学的に見れば、こんな危うい発言はない。言い換えれば、「入ってくるお金や資源は少ないが、日本人は優秀なので気合いで頑張れる」といった精神論にしか聞こえない。 20世紀のような、変動費の要素が大きいエレクトロニクス製品などの開発においては、数を追わない製品差別化戦略は可能であったと思う。しかし、様々なエレクトロニクス産業の製品がデジタル化し、ソフトウエアと半導体で構成されるようになると、固定費の要素が大半になるので、数を一番多く作ったところが総取りになるような競争が多く見られる。 MIT流の技術経営の考え方に、イノベーションとは新たな価値を産み出す価値創造のプロセスと、産み出した価値からしっかり収益を獲得する価値獲得のプロセスからなる、という考え方がある。価値創造は専ら開発の仕事であるが、価値獲得には製造、標準化、マーケティング、販売、PRなど様々な手段で自社の収益化に結びつけるあの手この手のアイデアが必要となる。日本は価値創造が得意だが、価値獲得が苦手な企業があまりに多い。 液晶パネル、太陽光パネル、NAND型フラッシュメモリ、最近でいえば日本のノーベル賞受賞技術であるリチウムイオン電池など、日本が価値創造に大きく貢献をしながら、価値獲得はよりビジネスの上手い諸外国企業に獲られているという状況が続いている。 これまでも、一度日本が失った市場を取り戻すべく、日の丸連合を作ったケースは多々あった。エルピーダメモリやジャパンディスプレイなど、いずれも規模を追わない日の丸連合で失敗をしている。ラピダスもこれらの失敗は意識しているのか、「日米連携による新会社は日の丸連合ではない」としているが、IBMも苦戦する半導体産業において、台湾や韓国の勢いにどれだけ対抗できるのであろうか。 そもそも規模の経済性を無視して、小規模で最先端ということが可能なのだろうか。最先端のことをやるには開発費がかかる、一方で、数を追って莫大な既存事業の利益を上げている会社と、細々と小規模な売り上げを立てている会社のどちらがその先の投資に有利かは、火を見るよりも明らかだ。 ただし、ここでいう規模というのはIDM(自社で設計、製造、販売まで手がけるメーカー)による少品種大量生産を意味するわけではない。ファウンドリービジネスでは、多品種少量生産をひとつのファウンドリーで集約して大量生産のメリットを活かすことができるので、ファウンドリーが半導体ビジネスの主流になった。ファウンドリーの多品種少量はあくまで大量生産の規模の経済性を最大限活かしているケースだ』、「液晶パネル、太陽光パネル、NAND型フラッシュメモリ、最近でいえば日本のノーベル賞受賞技術であるリチウムイオン電池など、日本が価値創造に大きく貢献をしながら、価値獲得はよりビジネスの上手い諸外国企業に獲られているという状況が続いている」、その通りだ。
・『半導体製造装置の優位性に不安材料も もうひとつの不安材料は、製造設備だ。今でも半導体の部材や製造設備で日本には優位性のある分野が多いが、半導体製造に必要な露光装置に関していえば、かつて日本のキヤノンなどがアメリカのキャスパーから近接露光方式で優位を勝ち取ったのに対して、近年ではオランダのASMLがより高性能なEUVリソグラフィ露光装置で日本のニコンやキヤノンよりも優位に立っている。 現時点でASMLの露光装置なくして、ビヨンド2ナノの製造は不可能であろう。ASMLが新世代露光装置を独占している状況は、米国にとって必ずしも好ましいことではない。ASMLが中国に露光装置を輸出するのを禁止するよう、米国政府がオランダ政府に圧力をかけたほどであり、より与しやすい日本がこの分野で優位に立つことは米国の利益にもかなう。とはいえ、政府の思惑通りに企業の競争力が高まるわけでもない。) だからといって、日本がこの分野を簡単に諦めてしまっていいということではないだろう。26ナノプロセスの汎用性の高い技術については、熊本に台湾TSMCを誘致したように、日本はすでに日の丸連合にこだわらない半導体施策を進めている。 にもかかわらず、日本が最先端半導体の開発に乗り出すのは、半導体技術が安全保障に直結しているということもあるだろう。ウクライナでの紛争において民間のドローンが活躍しているように、民生用技術と軍事技術の垣根が低くなっている今日、AIやIoT技術に必須となる最先端半導体の国産化は、経済だけでなく安全保障上も重要になるだろう。とはいえ、国際競争力がつかなければ絵に描いた餅に過ぎない』、「日本が最先端半導体の開発に乗り出すのは、半導体技術が安全保障に直結しているということもあるだろう。ウクライナでの紛争において民間のドローンが活躍しているように、民生用技術と軍事技術の垣根が低くなっている今日、AIやIoT技術に必須となる最先端半導体の国産化は、経済だけでなく安全保障上も重要になるだろう」、その通りだ。
・『日本が台湾に学ぶべきビジネスでの「価値獲得」 冒頭で述べた台湾との連携というのも、簡単な話ではない。ラピダスの小池淳義社長は、日立製作所と台湾第2位の半導体ファウンドリー・UMCとの合弁でファウンドリーの立ち上げを目指したトレセンティにおいて量産を指揮したが、それでも上手くいかなかった。その要因は様々指摘されているが、日本は台湾と組むときに、台湾の生産能力だけを活用しようとしているからではないか。 日本が台湾から学ぶべきは、いかに制約条件が大きい中でビジネスの構想力によって課題を突破し、収益化に結びつけるかというビジネスの能力であろう。日本は価値創造が得意であるが、台湾が得意なのは価値獲得である。台湾を単に日本の製造手段として見ていると、台湾を過小評価することになる。台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業がシャープを再建したり、熊本の汎用性の高い半導体事業にTSMCを誘致したりと、台湾の価値獲得の能力を活かす日台アライアンスの事例も増えてきている。 また、政策としての海外との連携という点では、日本は台湾と公式の外交関係がなく、日本の政府機関は、出先の民間組織として日本台湾交流協会を通じた外交政策を行っている。各省庁がひとつの出先機関に集中しているのは台湾だけであり、交流協会というひとつの組織で関係省庁が連携をとりやすい環境ができているのも、日台アライアンスを進める上でのメリットだ。) さらにいえば、近年の良好な日台関係も両者のアライアンスを後押しするだろう。米中対立や、ロシアのウクライナ侵攻、3期目に入る中国習近平政権と、東アジアの安全保障に緊張状態をもたらすイベントが多い中で、日本と台湾は同じ脅威に接しており、両者の連携はますます重要になってくるといえる。 また、台湾には日本が必要とする産業も多く、台湾企業への投資は国際的に見ても極めて利回りが良いが、これだけ日台関係が良好で経済的な結びつきもあるのに、日本から台湾企業への投資はほとんど行われていない。台湾側が望んでいないかといえばそうではなく、むしろ「なぜ日本はもっと台湾企業に投資をしないのか」という声が、台湾の財界からは聞こえてくる』、「日本は価値創造が得意であるが、台湾が得意なのは価値獲得である。台湾を単に日本の製造手段として見ていると、台湾を過小評価することになる」、その通りだ。「日本から台湾企業への投資はほとんど行われていない」、「中国政府」に遠慮しているためだろう。
・『単なる連携ではなく台湾の技術や能力を吸収せよ 現在はもっと積極的に台湾との連携を深める好機であり、半導体はその最も有望な候補と言えるだろう。ラピダスもまだその設立が発表されたばかりで、量産に向けてどのような体制を築くのかは不明なところもある。今発表されている米国企業との連携だけで進むということもあるのかもしれない。 しかし、最先端のプロセスでリードする台湾の半導体産業を巻き込むという意味でも、また日本が得意ではない価値獲得の領域でいかに戦略的に立ち回るべきかという意味でも、日本は台湾との関係をもう一度考えてもよいのではないだろうか。 そのときは、単なる業務提携ではなく、日本から台湾の有望な企業への投資を増やし、台湾の技術やビジネスの能力を日本のものにしていくということも、重要ではないだろうか』、「単なる業務提携ではなく、日本から台湾の有望な企業への投資を増やし、台湾の技術やビジネスの能力を日本のものにしていくということも、重要ではないだろうか」、その通りだが、中国本土との関係が悪化しないよう巧みに立ち回る必要がある。
第三に、12月21日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ」を紹介しよう』、興味深そうだ。
https://gendai.media/articles/-/103634?imp=0
・『中国の脅威が増大し、半導体確保のリスクが高まってきたことから、政府は国策半導体企業ラピダスの設立に乗り出した。だが日本は最先端半導体の製造技術において、他国より10年以上遅れており、一足飛びに世界トップを目指す方針には疑問の声も出ている。日本は90年代以降、半導体分野で完膚なきまでに敗北したが、すべての原因は「戦略の不在」である』、「日本は90年代以降、半導体分野で完膚なきまでに敗北したが、すべての原因は「戦略の不在」である」、その通りだ。
・『じつは「海外頼み」 ラピダスは、トヨタ自動車やNTTなど国内企業8社が出資し、次世代半導体の国産化を目指す国策企業である。同社が目指しているのは2ナノメートル(もしくはそれ以下)という最先端の製造プロセスだが、この技術を確立できる見通しが立っているのは、現時点では米インテル、台湾TSMC、韓国サムスンの3社だけである。 日本は現時点において、最先端の製造プロセス技術を持っておらず、2ナノの製造プロセスを実用化するためには、長い時間をかけて研究開発を行うか、他国から技術導入するしかない。 政府は基礎技術の開発を目指し、次世代半導体の研究開発拠点となる「技術研究組合最先端半導体技術センター(LSTC)」を設立することも併せて発表している。 LSTCには、多くの研究所や大学が名を連ねているが、日本は長年、最先端半導体の製造分野から遠ざかっており、LSTC単体で技術を確立することは困難と言われる。LSTCは米IBMなど各国の研究機関と連携することが大前提の組織と考えてよいだろう。製造装置についても同様である。 日本メーカーは、2ナノメートルの半導体を製造できる装置を持っておらず、こちらも欧州メーカーから装置を導入する必要がある。基礎技術については米国から、製造装置については欧州から支援を受けるという形であり、自国による生産基盤の確立とは言い難い。) 資金面でも見通しが立っているわけではない。 2ナノメートルの量産体制を確立するためには、最低でも5兆円程度の先行投資が必要となり、上記3社はこの水準の巨額投資を行う方針を明らかにしている。だがラピダスについては、資金のメドが立っているとはいえず、政府も明確に全面支援するとは表明していない。 半導体産業というのは、巨額の先行投資が必要であると同時に、技術が陳腐化するスピードが速く、経営戦略的には極めてやっかいな分野である。十分な成果を上げるためには、完璧な戦略と資金の裏付けが必要であり、これは簡単なことではない。 最先端半導体の分野では圧倒的なナンバーワンである台湾TSMCは、今でこそ、圧倒的な地位を築いているが、同社がここまでの地位に上り詰めるまでには、想像を絶する苦労があった。ラピダスを成功させるためには、TSMCかそれ以上の取り組みが必要となるが、果たしてその覚悟が日本政府や産業界にあるのかは疑問である』、「ラピダスを成功させるためには、TSMCかそれ以上の取り組みが必要となるが、果たしてその覚悟が日本政府や産業界にあるのかは疑問である」、その通りだ。
・『日本の半導体産業の「戦略のミス」 台湾TSMCは半導体のファウンドリ(受託生産)分野のナンバーワン企業である。今でこそ半導体というのは、国際分業が当たり前であり、設計に特化する企業(ファブレス)と製造に特化する企業(ファウンドリ)に分かれ、それぞれが当該分野に特化している(インテルのような企業は例外で、設計から量産まですべて自前で完結できる)。 だが、TSMCが創業した1990年前後、こうした国際分業体制は確立されていなかった。80年代までは日本の半導体産業は圧倒的な競争力を持っており、メモリー(一時記憶を行う半導体)分野のシェアは8割を突破していた。当時の半導体は主に大型コンピュータ用の高価な製品だったが、ここに到来したのが全世界的なIT革命(パソコンの普及)である。パソコンの登場でコンピュータの価格は最終的に数十分の1になり、搭載する部品についても価格破壊が発生した。) パソコンの驚異的な普及は誰の目にも明らかだったにもかかわらず、日本勢は大型コンピュータ用のメモリーにこだわり続け、最終的にはほぼすべてのシェアを失ってしまった。日本勢が敗れたのは、すべて市場動向を見誤った戦略ミスであり、この事実は覆しようがない。いくら技術はすばらしいが商売で負けたと言い訳しても、ビジネスには勝ち負けしかないというのが現実だ。 実際、半導体以外の業界では、日本電産のようにパソコンの驚異的な普及という現実を見据え、パソコンに搭載するハードディスク用モーターに特化して大成功した企業もある。日本電産が世界企業に成長できたのは、世界的なIT革命という市場の流れを的確にとらえたからであり、すべては経営者(創業者の永守重信氏)の戦略性によるものだ。 パソコンの普及による産業構造の変化は、半導体業界にも及ぶことになり、米国では設計に特化するファブレス企業が活発になってきた。こうした状況を受けて製造に特化する企業として設立されたのがTSMCである』、「日本勢が敗れたのは、すべて市場動向を見誤った戦略ミスであり、この事実は覆しようがない。いくら技術はすばらしいが商売で負けたと言い訳しても、ビジネスには勝ち負けしかないというのが現実だ」、その通りだ。
・『台湾の驚くべき半導体戦略 TSMCが設立されたのは1987年だが、同社は半導体の製造を下請けとして受託する小さな新興メーカーに過ぎなかった。筆者はかつてジャーナリストをしていたが、1990年代の初頭、設立間もないTSMCに取材に行った数少ない日本人記者の一人である。 TSMCは台北郊外の新竹にあるサイエンスパークに巨大な生産ラインを構えており、今の新竹はさながら東洋のシリコンバレーといった状況になっている。だが当時の新竹にはTSMCの本社工場がポツンとあるだけだった。新竹は風が強いことで知られ、米粉(ビーフン)が名産だが、殺風景な場所という強烈な印象が残っている。 当時、TSMCが世界をリードする半導体企業になるとは業界の誰もが考えていなかったし、そもそもファウンドリという業態もうまく機能するのか疑問視する声が多かった(単なる下請けなので儲からないという見解が圧倒的に多かった)。そうした中で、無謀ともいえるチャレンジを行っているTSMCに興味が湧き、わざわざ取材に行ったのだが、TSMC幹部が筆者に語った戦略は驚くべきものだった。 同社は当時の段階から、IT業界が完璧な水平分業に体制にシフトし、半導体分野においてもファウンドリが業界の中核になるという見通しを描いていた。加えて、単なる下請け企業に陥らないよう、顧客となる半導体設計企業の業務を徹底的に分析し、彼らが必要とする機能をあらかじめモジュール化して提供する体制を整えるなど、今で言うところのソリューション型ビジネス(問題解決型)を実現する明確な戦略を立案していたのだ。 台湾の凄味は、精神論を排除した冷徹な合理主義と、一方で無謀ともいえる計画を政府が全面的に後押しし、巨額の資金と人材を支援するというリスクテイクの感覚が見事に同居している点だろう。日本の産業界や政府にこうした気概はなく、前例踏襲に終始した結果、半導体産業は壊滅的な状況まで追い込まれてしまった』、「台湾の凄味は、精神論を排除した冷徹な合理主義と、一方で無謀ともいえる計画を政府が全面的に後押しし、巨額の資金と人材を支援するというリスクテイクの感覚が見事に同居している点だろう。日本の産業界や政府にこうした気概はなく、前例踏襲に終始した結果、半導体産業は壊滅的な状況まで追い込まれてしまった」、日台は好対照だ。
・『もっと現実的な対策が必要 TSMCの事例を見ても分かるように、半導体業界において後発企業が大きな実績を上げるためには、極めて高い先見性と想像を超える努力、莫大な資金が必要となる。 日本はこうした生き馬の目を抜く半導体業界において敗北し、10年以上の技術力の差を付けられた状態にある。次の世代が2ナノメートルの製造プロセスが主流になることは誰もが知る事実であり、その技術を確立できる見通しがあり、かつ十分な資金を用意出来る立場にあるのは、冒頭にも述べたようにTSMC、インテル、サムスンの3社だけである。) 後発となった日本が3社に追い付くためには、彼らの何倍も資金を投入して物量で勝負するか、もしくはゲームのルールを自ら変えるゲームチェンジャーになるしかない。 ラピダスはあくまで後発として先行企業に挑むというモデルなので、市場そのものをひっくり返すことを目論んでいるわけではない。だが、ラピダスが後発企業として、先行3社に追い付くための具体的な方策は見えていないのが現実だ。 ラピダスの最大の問題点は、なぜ国策企業を設立するのかという基本戦略が曖昧なことである。 一連のプロジェクトには、中国の台湾侵攻など、地政学的リスクに対処するという意味合いもある。もし経済安全保障が目的であれば、日本にはニーズがない最先端プロセスの半導体を量産するよりも(日本には高度なAIを開発できる企業がないので、最先端半導体を購入する企業が存在していない)、家電や自動車など、具体的ニーズがある汎用的な半導体の国内生産体制を強化した方が圧倒的に効果が高い。 政府は、TSMCに補助金を出し、熊本県に工場を誘致することに成功した。同様に、米国の半導体大手マイクロンテクノロジーにも補助金を出し、広島県の工場での生産体制強化を実現している。 中国の脅威は現実問題であり、台湾有事となれば、国内で半導体が枯渇する可能性は十分にある。一般的な半導体の国内生産体制を確立することも立派な国家戦略である。政府はもっと地に足の着いた戦略を描く必要があるだろう』、「もし経済安全保障が目的であれば、日本にはニーズがない最先端プロセスの半導体を量産するよりも(日本には高度なAIを開発できる企業がないので、最先端半導体を購入する企業が存在していない)、家電や自動車など、具体的ニーズがある汎用的な半導体の国内生産体制を強化した方が圧倒的に効果が高い」、「台湾有事となれば、国内で半導体が枯渇する可能性は十分にある。一般的な半導体の国内生産体制を確立することも立派な国家戦略である。政府はもっと地に足の着いた戦略を描く必要があるだろう」、同感である。
タグ:デイリー新潮「日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】」 (その9)(日本の半導体産業を復活させるには何が必要か――太田泰彦(日本経済新聞編集委員)【佐藤優の頂上対決】、日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由、岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ) 半導体産業 「半導体産業を知悉するジャーナリストの提言」とは興味深そうだ。 「ファウンドリー」は、「製造だけ請け負うというと下請け企業のように見えますが、設計メーカーの方がTSMCに依存しているのが実態です。というのも半導体の仕様が非常に高度になり、設計はできても、製造・量産することが極めて難しくなっているからです」、「2ナノまで微細化を進めているのはTSMCだけ」、「ファウンドリー」はすごい力を持ったものだ。 「日本では半導体を総合電機メーカーが作っていたことです。日立も東芝も、重電から家電まで扱い、さらに半導体も作っていました。私はこれが衰退の最大の要因」、「振幅が大きいシリコンサイクルに振り回されます。すると、総合電機メーカーの中の部門としては浮いてしまう」、なるほど。 「中国人」、「彼らは自分の幸せ、家族の存続を第一に考えますね。また現実主義者で、どこにでも移っていきます。 佐藤 国籍を変えることに抵抗がない。どこの国民になっても自分たちの宗族でまとまりますし、中国人の意識を持ち続けている。 太田 半導体を取材して感じたのは、その中国人、華人たちの活躍ぶりです。シリコンバレーのデジタル企業には、トップ層でマネジメントを担っている華人が多いんです 。TSMCの張忠謀もマサチューセッツ工科大学を出て、アメリカの半導体企業テキサスインスツルメンツの幹部でした。彼らはあらゆるところにいる。華人の視点から見ていかないと、半導体はわからないと思うに至りました」、その通りだ。 「日本」の「エンジニア」は、「すごいものを作り、きちんと納期までに仕上げ、それで満足し、喜びを感じているのではないか。それは美しい話ですが、同時にもったいない」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 長内 厚氏による「日本の「次世代半導体連合」に台湾が必要不可欠な理由」 「液晶パネル、太陽光パネル、NAND型フラッシュメモリ、最近でいえば日本のノーベル賞受賞技術であるリチウムイオン電池など、日本が価値創造に大きく貢献をしながら、価値獲得はよりビジネスの上手い諸外国企業に獲られているという状況が続いている」、その通りだ。 「日本が最先端半導体の開発に乗り出すのは、半導体技術が安全保障に直結しているということもあるだろう。ウクライナでの紛争において民間のドローンが活躍しているように、民生用技術と軍事技術の垣根が低くなっている今日、AIやIoT技術に必須となる最先端半導体の国産化は、経済だけでなく安全保障上も重要になるだろう」、その通りだ。 「日本は価値創造が得意であるが、台湾が得意なのは価値獲得である。台湾を単に日本の製造手段として見ていると、台湾を過小評価することになる」、その通りだ。「日本から台湾企業への投資はほとんど行われていない」、「中国政府」に遠慮しているためだろう。 「単なる業務提携ではなく、日本から台湾の有望な企業への投資を増やし、台湾の技術やビジネスの能力を日本のものにしていくということも、重要ではないだろうか」、その通りだが、中国本土との関係が悪化しないよう巧みに立ち回る必要がある。 現代ビジネス 加谷 珪一氏による「岸田政権・日本政府が主導して「半導体会社」を設立したが…「戦略不在」でまったく「成功を期待できない」ワケ」 「日本は90年代以降、半導体分野で完膚なきまでに敗北したが、すべての原因は「戦略の不在」である」、その通りだ。 「ラピダスを成功させるためには、TSMCかそれ以上の取り組みが必要となるが、果たしてその覚悟が日本政府や産業界にあるのかは疑問である」、その通りだ。 「日本勢が敗れたのは、すべて市場動向を見誤った戦略ミスであり、この事実は覆しようがない。いくら技術はすばらしいが商売で負けたと言い訳しても、ビジネスには勝ち負けしかないというのが現実だ」、その通りだ。 「台湾の凄味は、精神論を排除した冷徹な合理主義と、一方で無謀ともいえる計画を政府が全面的に後押しし、巨額の資金と人材を支援するというリスクテイクの感覚が見事に同居している点だろう。日本の産業界や政府にこうした気概はなく、前例踏襲に終始した結果、半導体産業は壊滅的な状況まで追い込まれてしまった」、日台は好対照だ。 「もし経済安全保障が目的であれば、日本にはニーズがない最先端プロセスの半導体を量産するよりも(日本には高度なAIを開発できる企業がないので、最先端半導体を購入する企業が存在していない)、家電や自動車など、具体的ニーズがある汎用的な半導体の国内生産体制を強化した方が圧倒的に効果が高い」、 「台湾有事となれば、国内で半導体が枯渇する可能性は十分にある。一般的な半導体の国内生産体制を確立することも立派な国家戦略である。政府はもっと地に足の着いた戦略を描く必要があるだろう」、同感である。
保育園問題(その14)(園児をたたく ご飯を口に突っ込む…保育園で虐待・暴力が繰り返される「構造的問題」 空前の保育士不足が招く深刻すぎる事態、このままでは子どもが死ぬ…あまりに質の低い保育士の「残念すぎる実態」 点呼のチェックすらめんどくさいと言う、子どもが従わないので腹を立てる…「不適切保育」をする保育士の信じられない言い分 発達に合わない要求をして従わない子どもに"しつけ"をする) [生活]
保育園問題については、8月16日に取上げた。今日は、(その14)(園児をたたく ご飯を口に突っ込む…保育園で虐待・暴力が繰り返される「構造的問題」 空前の保育士不足が招く深刻すぎる事態、このままでは子どもが死ぬ…あまりに質の低い保育士の「残念すぎる実態」 点呼のチェックすらめんどくさいと言う、子どもが従わないので腹を立てる…「不適切保育」をする保育士の信じられない言い分 発達に合わない要求をして従わない子どもに"しつけ"をする)である。なお、タイトルから待機児童はカットした。
先ずは、12月9日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの小林 美希氏による「園児をたたく、ご飯を口に突っ込む…保育園で虐待・暴力が繰り返される「構造的問題」 空前の保育士不足が招く深刻すぎる事態」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103028?imp=0
・『評判の良い保育園でさえも、食事介助で保育士がまるで餌やりのようにご飯やおかずを乳児の口に突っ込むことが見られるようになった。咀嚼が考えられていないうえ、窒息の危険もあるが、人手不足、経験不足の人員体制のなかで保育士の頭のなかは「早く食べ終わらせて、眠らせて、お昼寝の間に日誌や連絡帳を書かなきゃ」。だから、早く食べてと急かすようになる。 同様にお昼寝の時間は、なかなか眠れない子をどうにか寝かせようとする。園児の生活時間はバラバラで、朝起きる時間も違う。遅く登園する子は当然、眠れないこともある。しかし、一斉に寝てほしいという気持ちが保育士に働けば「寝なさい」と園児を威圧し、起き上がる子がいれば羽交い締めにして眠らせることが多発するように。 そうした恐怖で園児が泣けば、先輩保育士が「泣かせておけば、泣き疲れて眠る」と後輩に指導する。そのような、「不適切な保育」、いや、「虐待」や「ネグレクト」と言っていいような保育が散見されるようになった』、待機児童問題、送迎バス置き去り問題のあとには、「虐待」問題まで出てくるとは、まさに社会の縮図だ。
・『1歳児に向かって「なんで泣くのよ!」 筆者が知る限り、約20年前の保育園では0歳児クラスから5歳児クラス全てを経験して一人前。新卒でいきなり担任は持たずに、先輩を見ながら学ぶ機会に恵まれていた。しかし今は、経験2年ほどでもクラスのリーダー保育士に配置される。 経験の浅いリーダー保育士が、登園して泣く1歳児に向かって「なんで泣くのよ!」と大声で怒る保育になっているケースも少なくない。保育がマニュアル化して「壁にぺったん!」と軍隊のように指令して姿勢をよくすることを強制する。 保育士が過重労働で長時間働いて疲弊し、保育が流れ作業と化す。離職が相次ぎ、そこに、現場で指導できる中堅・ベテラン保育士がいないことで、不適切な保育が継承されていく。こうしたことが、社会福祉法人や株式会社の私立や公立、保育士が正職員・正社員か非正規雇用かであるかを問わずに起こっている』、「経験の浅いリーダー保育士が、登園して泣く1歳児に向かって「なんで泣くのよ!」と大声で怒る」、「保育がマニュアル化して「壁にぺったん!」と軍隊のように指令して姿勢をよくすることを強制する。 保育士が過重労働で長時間働いて疲弊し、保育が流れ作業と化す。離職が相次ぎ、そこに、現場で指導できる中堅・ベテラン保育士がいないことで、不適切な保育が継承されていく」、信じ難いが、これが現実のようだ。
・『「てめー!お前なんかに食べさせない!」 これまでの取材からも、虐待あるいは虐待寸前の現場の実態が浮かび上がっている。 都内のある認可保育園では、虐待が横行していた。何十年と歴史のある社会福祉法人が運営する認可保育園で派遣保育士として働いていた女性が、約5年前に現場の実情を明かした。 「4歳児のクラスの担任が、『てめー!お前なんかに食べさせない!』と言って、二人がかりで扉を押さえて園児を部屋から閉め出していました。保育士が思うようなスピードで着替えをしなかったことの制裁でした。その状態が1時間以上続き、その子は嗚咽して、白目になって過呼吸になっていました。 また、担任の保育士から見て食事前の準備がスムーズにできない、友達とおしゃべりしていただけで、“ふざけていた”と言われて園児は保育室で立たされ、『あんたにご飯あげない』と言われていました。 リーダー役の正社員の保育士は、後輩の保育士に『(園児に)なめられているから、しめてこい』と命じ、後輩保育士は誰もいない部屋で男児の腕をつかんで、ぶんぶんと振り回し、勢い余って男児が振り落とされ転がってしまったのです。 給食の時間は、1歳児が行儀よく食べられないからと、椅子にベルトで括り付けられていました。行政の監査が入る時は事前に分かるので、ベルトは隠していました」 この派遣保育士の女性は、現場で起こる虐待に耐え切れず、派遣契約が満了になると逃げるように去った。保育の世界は、上下関係が厳しい面がある。クラスのなかでは先輩と後輩の関係。園全体では、たとえ年齢が若くても保育士が正職員であり担任であると、非常勤の保育士や保育補助者が年上でベテランであっても、「担任や正職員に注意できない」という暗黙のルールが少なからず存在する。 前述した虐待の起こる保育現場では、心ある非正規の保育士が次々と辞め、虐待する保育士が居残っていたという。園長はそれが分かっていても、指導はしなかったという。保育園の配置基準を守るために、辞められると困るからだ。それでも離職が激しく、派遣が辞めると園長は「(派遣会社に)オーダー、オーダー。ああ、またお金がかかる」という軽い感覚に陥っていたという』、「4歳児のクラスの担任が、『てめー!お前なんかに食べさせない!』と言って、二人がかりで扉を押さえて園児を部屋から閉め出していました。保育士が思うようなスピードで着替えをしなかったことの制裁でした。その状態が1時間以上続き、その子は嗚咽して、白目になって過呼吸になっていました」、可哀想だとは思わないのだろうか。「たとえ年齢が若くても保育士が正職員であり担任であると、非常勤の保育士や保育補助者が年上でベテランであっても、「担任や正職員に注意できない」という暗黙のルールが少なからず存在する」、「虐待の起こる保育現場では、心ある非正規の保育士が次々と辞め、虐待する保育士が居残っていたという」、こうなると悪循環だ。
次に、この続きを、12月9日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの小林 美希氏による「このままでは子どもが死ぬ…あまりに質の低い保育士の「残念すぎる実態」 点呼のチェックすらめんどくさいと言う」を紹介しよう。
・『静岡県裾野市の私立「さくら保育園」で、30代の保育士3人が園児に虐待を繰り返していた事件が大きな話題となっている。 なぜ、保育士による虐待・暴力が起きてしまうのか。新刊『年収443万円』でも保育現場の残念な実態についてレポートしているジャーナリストの小林美希氏が、前編「園児をたたき、ご飯を口に突っ込む…保育園で虐待・暴力が繰り返される『構造的問題』」につづいて深刻な問題の深層に迫る』、「さくら保育園」で「30代の保育士3人が園児に虐待を繰り返していた事件」は衝撃的だった。
・『退職をチラつかせる保育士たち 暴力や暴言、冷淡に接するなど明白な虐待ではなくても、見過ごしてしまいがちな「心理的虐待」である保育は蔓延しつつある。 新型コロナウイルス感染症が流行する前は、夏のプールの時間は子どもたちの楽しみでもあったが、都内のある社会福祉法人の認可保育園では、“親教育”の思想の下に、水着はあってもタオルひとつ忘れると「忘れ物をしたらプールは見学です」と、一律にプール遊びをさせてもらえなかった。 ある社会法人が運営する認可保育園の2歳児クラスでは、朝の会で園児が友達とおしゃべりとしたり、ちょっと後ろや横を向いただけで、保育士がその子を立たせて指さし、「〇〇くん、おしゃべり、悪いことー!」と煽動して他の園児らにもその子を指ささせ、全員に「あー。〇〇くん、悪いことー!」と言わせていた。 また、同保育園では保育士が絵本を読んでいる間に少しでもおしゃべりをする子がいると、担任が「今日は、〇〇ちゃんが話を聞けないので、〇〇ちゃんのせいで、お散歩には行きません」とクラスの園児に言い渡していた。遅れて登園した子の保護者は目の前で起こったことに唖然とし、すぐに園長に問題を指摘して、保育士への指導が行われたという。 筆者の新刊『年収443万円』で登場した保育運営会社の傘下の保育園の状況について、元園長はこう語る。 「保育士はすぐ辞めて入れ替わるため、皆若いです。1歳児を滑り台で遊ばせてケガをしても保育士は平気な顔をしていました。公園に子どもを置き去りにするミスを防ぐため、園児の点呼をチェック表につけましょうと指導すれば、『ええー、めんどくさーい』と言った具合で、『じゃあ辞める』と退職をチラつかせるのです。 指導しても、暖簾に腕押し。次々に園を作るので、資格さえあれば誰でもいい状態で採用するため、保育の「ほ」の字の基本も分からないような、あり得ない質の低さでした」) 大手や中堅の保育会社では保育士が辞めると、園長の査定に響いてボーナスなどの報酬が下げられるケースもある。また、保育業界では、受け持ったクラスに責任を果たそうと、年度末までは働いて辞めるというのが慣例とされてきたが、ここ数年は、それが崩れて年度途中での退職が増えていった。入社してわずか数ヵ月で辞めていくなど、今や珍しくない。 何の連絡もなしに欠勤して音信不通になるケースもある。1年程度で転籍を繰り返し、30歳くらいの時点で10ヵ所あまりの保育園運営法人を渡り歩くため、履歴書の職歴欄が1ページでは足りないというケースもザラになっている。前述の園長は続ける。 「そもそも資質のない保育士が急増しています。若い正社員の保育士は、『この子、ウンチしてまーす』と言って、パートの保育士や保育補助者に任せてしまいます。嘔吐の処理も、食事の後片付けも清掃も全て『汚いからやらない』といわんばかり。パートに任せて自分たちはおしゃべりに夢中なんです。 トイレの介助にしても、遠くに聞こえるような大声で『〇〇ちゃんっ!ちょっと、ねーっ、パンツあげてっ!パンツ上げてって言ってんでしょっ!』と怒っているのが聞こえてくる。 園児が咳き込むのが聞こえてきたので私が顔を出すと、園児が本の切れ端を誤飲していました。一事が万事、指導が必要なんです。私が事務室にいない時、『園長うるさいんですよねー』と事務員に不満を言っているようでしたが、園児の安全には変えらないので指導し続け、園長の私も保育室に入って保育しました」』、「若い正社員の保育士は、『この子、ウンチしてまーす』と言って、パートの保育士や保育補助者に任せてしまいます。嘔吐の処理も、食事の後片付けも清掃も全て『汚いからやらない』といわんばかり。パートに任せて自分たちはおしゃべりに夢中なんです」、「正社員」というだけで、汚い作業は「パートの保育士や保育補助者に任せてしまいます」、困ったものだ。
・『問題を知った保育士や保護者はどうする? 保育士の有効求人倍率は、保育園の建設ラッシュがひと段落している2022年7月でも2.21倍あり、全職種平均の1.26倍を大きく上回る。2019年のピーク時には3.86倍もあったのだから、保育士1人が手をあげれば約4ヵ所の園が門戸を開いていることになる。) そうした空前の保育士不足で、配置基準を守るため「資格があるなら誰でもいい」という状態で採用している園が少なからず存在している。人材紹介会社を通じた転職で、就職すると出る『お祝い金』を狙って短期間で勤め先を変えるような保育士も出現するなかで、保育の質を守ることが難しい背景もある。こうしたなか、何か問題を知り得た保育士や保護者は、行政などに「公益通報」する手段がある。 「公益通報者保護法」によって、児童福祉法や労働関係の法律などで罰則の対象となる不正行為や虐待・暴行について、保育士や保護者は「公益通報」することができるのだ。 公益通報とは、職場で「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律」に違反する犯罪行為、または最終的に刑罰につながる行為が生じている。あるいは、まさにそれが生じようとしていることを、従業員が、(1)事業者の内部、(2)権限のある行政機関、(3)マスコミ、労働組合などの事業者外部、に通報することをいう。 一方で、裾野市の保育園での虐待・暴行の疑いの事件では、園側が職員全員に対して「業務上知り得た情報や機密事項など漏洩しない」という誓約書にサインさせていたという。 他の事業者側が起こした問題についても、「秘密保持」や「守秘義務」を強調して保育士や園長に口外を禁じるサインをさせ、口外すれば解雇する、左遷する、訴えるなどと言って職員を黙らせようとする悪質なケースが後を絶たない。しかし、経営者のそうした報復人事などは、無効になる』、「裾野市の保育園での虐待・暴行の疑いの事件では、園側が職員全員に対して「業務上知り得た情報や機密事項など漏洩しない」という誓約書にサインさせていたという」、しかし、「職員」は「公益通報」できるので、「誓約書」は無効な筈だ。
・『「ほいくえん、いきたくない」 ただ、保護者にとっては「子どもは人質」。何か言って、冷遇されることが怖くて言い出せない保護者もいる。勇気を出して行政に相談、通報しても、自治体の保育課の対応には差がある。「保育に口を出せない」「証拠がないと虐待の判断が難しい」など、曖昧にされることが少なくない。今回の静岡県警による保育士の逮捕、裾野市長による園長の刑事告発は、迅速な対応だったのではないだろうか。 不適切な保育、虐待、暴行を放置すれば、やがて子どもの死につながる可能性がある。子どもの命を亡くしてからでは遅い。その前兆を知った時にどうするのか。この問題を機に真剣に向き合い、行政は覚悟をもって対応しなければならない。 「ほいくえん、いきたくない。せんせい、やさしくない」 もし、子どもがそう言った時、その言葉がSOSである場合もあり、注意を払う必要がある。 人手不足などを背景に「良い保育」を実践できる現場が減りつつあるなかで、裾野市のケースを機に、何が不適切な保育で何が虐待なのか、正面から見つめ直す時がきている。そして何より、何か疑問を持った保護者と保育園側が、気軽に話し合い、お互いに学び合おうとする雰囲気作りも必要だ。 次回以降、保育の質を劣化させる制度の問題や少なすぎる保育士配置基準について、改めて解説する』、「「ほいくえん、いきたくない。せんせい、やさしくない」 もし、子どもがそう言った時、その言葉がSOSである場合もあり、注意を払う必要がある」、その通りだ。
第三に、12月13日付けPRESIDENT Onlineが掲載した保育園を考える親の会顧問(アドバイザー)の 普光院 亜紀氏による「子どもが従わないので腹を立てる…「不適切保育」をする保育士の信じられない言い分 発達に合わない要求をして従わない子どもに"しつけ"をする」を紹介しよう。
・『静岡県裾野市のさくら保育園で保育士3人が暴行容疑で逮捕され、その後も別の園で不適切保育があったことが報道されている。保育園を考える親の会顧問の普光院亜紀さんは「類似した問題行為について相談されることは少なくありません。不適切保育をしてしまう保育者の多くが『しつけ』のつもりだったと言います。それらのケースを見ると、子どもの発達や状態に合わない要求をして、従わないので腹を立てているケースが多いようです」という――』、「不適切保育をしてしまう保育者の多くが『しつけ』のつもりだったと言います」、「それらのケースを見ると、子どもの発達や状態に合わない要求をして、従わないので腹を立てているケースが多いようです」、「従わないので腹を立てているケースが多い」、とんでもないことだ。
・『保育園・こども園の「不適切保育」の実際 11月30日、静岡県裾野市のさくら保育園で繰り返された虐待保育の実態が、市によって公表されました。その内容のひどさに衝撃を受けた方も多かったと思います。 筆者は保育園を考える親の会で保育園・こども園に関するさまざまな相談を受けていますが、類似した問題行為について相談されることは少なくありません。 裾野市の保育園の事件は「虐待保育」として報道されましたが、虐待を含め、子どもの人権を侵害し、心身の安全・安心や健やかな育ちに悪影響を与える保育のことを「不適切保育」と呼びます。 保育園を考える親の会にも訴えが届いている「不適切保育」を挙げると、たたく・押す・引っ張るなど子どもの心身に苦痛を与える、恫喝する・怒鳴るなどこわい叱り方で脅す、保育室の外に出す・年齢が下のクラスに行かせる・トイレや押し入れに閉じ込める・食事やおやつを取り上げるなどの罰を与える、食事を無理強いする、容姿などについて子どもを言葉で侮辱するなどがあります。 いずれも体に傷が残らないので、やっている本人も周囲も軽く考えてしまう傾向がありますが、子どもが感じる苦痛や恐怖を想像すれば、明らかな人権侵害に当たります』、「たたく・押す・引っ張るなど子どもの心身に苦痛を与える、恫喝する・怒鳴るなどこわい叱り方で脅す、保育室の外に出す・年齢が下のクラスに行かせる・トイレや押し入れに閉じ込める・食事やおやつを取り上げるなどの罰を与える、食事を無理強いする、容姿などについて子どもを言葉で侮辱するなど」、は「明らかな人権侵害に当たります」、その通りだ。
・『心身を脅かすことと「しつけ」は違う 全国保育士会では、「不適切保育」の定義を次のようにまとめています。 ① 子ども一人ひとりの人格を尊重しないかかわり ② 物事を強要するようなかかわり・脅迫的な言葉がけ ③ 罰を与える・乱暴なかかわり ④ 一人ひとりの子どもの育ちや家庭環境を考慮しないかかわり ⑤ 差別的なかかわり こうして抽象的な言葉で聞くと、「しつけのために必要なこともあるのではないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、その考えが、不適切保育を容認してしまうことがあることに注意が必要です。 虐待をしてしまう親、不適切保育をしてしまう保育者の多くが「しつけ」のつもりだったと言います。それらのケースを見ると、子どもの発達や状態に合わない要求をして、従わないので腹を立てているケースが多いようです。大人は子どもが従わないことをわがままだと言い、罰を与えてもよいと考えがちですが、子どもの側から見ると、まったく違う風景が見えています』、「子どもの側から見ると、まったく違う風景」とはどのような「風景」なのだろう。
・『子どもは大人の要求の意味がわからない 大人は体も巨大で力が強く、小さな子どもにとっては抵抗できない相手です。子どもは時間感覚や先のことを予測する力も未熟ですから、大人の要求の意味がわからない場合が多いし、子どもなりの理由で従えない場合もあると思うのですが、そのことを大人に伝える力をもっていません。 大人は、「時間どおりに給食の後片付けをしたい」「人手が足りないからトイレは一斉に行かせたい」など大人の都合で子どもに無理を強いて、それが子どもにとってつらい要求になっていることに気づかなかったりします。そうなると、子どもはただ大人にされるがままになり、泣くしかありません。もしも大人が同じこと(食事を無理やり口に押し込まれる、監禁されてトイレに行かせてもらえない)をされたら、警察に行くでしょう。 「しつけ」というのは本来、「大人に従わせること」ではなく「生活習慣や社会性を身につけること」なのですが、勘違いしている大人は多いと思います。保育園やこども園は子どもが長時間にわたって共同生活をする場なので、このような勘違いをしている保育者に支配されたら、子どもは大きな苦痛を味わいます。 保育内容の基準を示す「保育所保育指針」は、それぞれの子どもの発達や個性に応じて生活習慣を無理なく身につけられるよう、保育者が適切にかかわることを求めています。具体的には、園生活の中で、子どもが保育者から励まされたりさりげなく援助されたりしながら、自分のペースで「できる」体験を積み重ね、自然に生活習慣を身につけていけるような保育が望まれているのです』、「「しつけ」というのは本来、「大人に従わせること」ではなく「生活習慣や社会性を身につけること」なのですが、勘違いしている大人は多いと思います。保育園やこども園は子どもが長時間にわたって共同生活をする場なので、このような勘違いをしている保育者に支配されたら、子どもは大きな苦痛を味わいます」、「「保育所保育指針」は、それぞれの子どもの発達や個性に応じて生活習慣を無理なく身につけられるよう、保育者が適切にかかわることを求めています」、なるほど。
・『「不適切保育」は暴力の教育 暴力をふるわれたり、体を邪険に扱われたり、恫喝されたり、集団から排除されたりといった体験は、子どもの自尊心の育ち、積極的に活動する意欲など、子どもの心の発達にネガティブな影響を与えます。 「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」は、幼児期の教育は子どもの主体的な活動(遊び)を通して実現されることを示していますが、保育者が一方的に従わせるような保育では、子どもは萎縮してしまうので、教育的な観点からもネガティブです。 また、保育者のふるまいからも子どもは学びます。たとえば、子どもを集めて、「今日、お片付けができなくて先生に叱られた子は誰?」と尋ね、子どもたちに名前を言わせる保育者がいますが、私からは、いじめのやり方を教えているようにしか見えません。 国連の子どもの権利委員会は、一般的意見8号(2006年)で「子どもは、おとなの言葉だけではなくおとなの行動からも学ぶ。子どもがもっとも緊密な関係を持っている大人が、その子どもとの関係において暴力および屈辱を用いるとき、その大人は人権の軽視を実演するとともに、それが紛争を解決したり行動を変えたりするための正当な方法であるという、危険な教訓を与えている可能性がある」と指摘しています』、「保育者が一方的に従わせるような保育では、子どもは萎縮してしまうので、教育的な観点からもネガティブです。 また、保育者のふるまいからも子どもは学びます。たとえば、子どもを集めて、「今日、お片付けができなくて先生に叱られた子は誰?」と尋ね、子どもたちに名前を言わせる保育者がいますが、私からは、いじめのやり方を教えているようにしか見えません」、その通りだ。
・『保護者が子どもを守るために 保育園やこども園の多くは、子どもの人格を尊重する保育を行ってくれているはずです。保育園・こども園に不信感をもち、保護者が細かいことを気にしすぎるのもあまりお勧めできません。保育現場に「圧」をかけることは、保育者の余裕を奪い、保育の質に悪影響を与える場合もあるからです。 「不適切保育」から子どもを守るために保護者にできることとしては、次のようなことが考えられます。 ① 園選びを子ども中心の目線で行う(園見学などで、保育者が子どもに接する様子、園長が保育について語る内容から、子どもを尊重する意識があるかどうかを感じ取ってください。保育施設の中の人たちの信頼性を、親の利便性や習い事などよりも重視して選ぶことが大切です。 ② 入園後、子どもの様子に注意を払い、保育者とコミュニケーションを深める(送迎時の子どもの様子に注意します。子どもが保育士におびえる様子があった場合は注意が必要です。言葉が話せる子どもとは、日々の会話を大切にし、子どもの言うことに耳を傾けましょう。ただし、保護者から保育者をネガティブに見る発言を繰り返すと、子どもも影響を受けてしまいます。また、子どもはまだ事実を正確に伝えられない場合があるので、気になることがあったら担任に相談するなど、まずは信頼関係を基本にしたアプローチをしたほうがよいでしょう。 連絡ノートや送迎時の会話などで保育者とコミュニケーションをとり、保育参加や保護者懇談会などの行事にもできるだけ参加して関係を深めることは、「不適切保育」の防止につながります。 ③ 「不適切保育」を見聞きしてしまったら(疑いをもったという程度であれば、保育者に「こうするのはなぜなんですか?」と保育の意図を確認したほうがよいと思います。その答えがおかしい場合や、明らかな行為を見聞きしてしまった場合は、園長や主任に相談したほうがよいでしょう。怒りをぶつけるのではなく、見聞きした問題行為や問題と思う理由を具体的に説明する、子どもが苦痛を感じている事実を伝えるなど、冷静に交渉することが重要です。 それでも「しつけです」と言われるなど不誠実な対応しかない場合は、します。市区町村が頼りにならない場合は、都道府県の指導監査部門に連絡をします』、「園長や主任に相談」、「市区町村の担当課などに通報」、「都道府県の指導監査部門に連絡」、これだけやれば、何らかの反応があるのではなかろうか。
・『保護者同志の情報交換で見えてくることがある ④ 保護者同士のつながりも大切に(日頃から保護者同士のつながりをつくっておくことも大切です。父母会などの組織がない場合も、クラスごとにSNSでつながるなどできれば安心です。「不適切保育」なのかどうか、保護者同士の情報交換から判断できる場合もあります。そのような事態にならなくても、保育のよい面を見つけて園を応援していくことにも活用できます。 ⑤ 保育の制度にも関心をもつ(「不適切保育」が発生したりエスカレートしたりする背景には、保育士に適格な人材が不足していたり、保育士の仕事の負担が重すぎたりする構造的な問題もあると思います。改善するためには、保育士の待遇改善や配置人数をふやすことが必要です。そういった保育制度の問題に保護者も関心を持ち、保育施設を応援していくことも防止に役立つと思います』、「「不適切保育」なのかどうか、保護者同士の情報交換から判断できる場合もあります。そのような事態にならなくても、保育のよい面を見つけて園を応援していくことにも活用できます」、保護者同士のつながりも大切に」、「保育士の待遇改善や配置人数をふやすことが必要です。そういった保育制度の問題に保護者も関心を持ち、保育施設を応援していくことも防止に役立つ」、確かにその通りだ。
先ずは、12月9日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの小林 美希氏による「園児をたたく、ご飯を口に突っ込む…保育園で虐待・暴力が繰り返される「構造的問題」 空前の保育士不足が招く深刻すぎる事態」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103028?imp=0
・『評判の良い保育園でさえも、食事介助で保育士がまるで餌やりのようにご飯やおかずを乳児の口に突っ込むことが見られるようになった。咀嚼が考えられていないうえ、窒息の危険もあるが、人手不足、経験不足の人員体制のなかで保育士の頭のなかは「早く食べ終わらせて、眠らせて、お昼寝の間に日誌や連絡帳を書かなきゃ」。だから、早く食べてと急かすようになる。 同様にお昼寝の時間は、なかなか眠れない子をどうにか寝かせようとする。園児の生活時間はバラバラで、朝起きる時間も違う。遅く登園する子は当然、眠れないこともある。しかし、一斉に寝てほしいという気持ちが保育士に働けば「寝なさい」と園児を威圧し、起き上がる子がいれば羽交い締めにして眠らせることが多発するように。 そうした恐怖で園児が泣けば、先輩保育士が「泣かせておけば、泣き疲れて眠る」と後輩に指導する。そのような、「不適切な保育」、いや、「虐待」や「ネグレクト」と言っていいような保育が散見されるようになった』、待機児童問題、送迎バス置き去り問題のあとには、「虐待」問題まで出てくるとは、まさに社会の縮図だ。
・『1歳児に向かって「なんで泣くのよ!」 筆者が知る限り、約20年前の保育園では0歳児クラスから5歳児クラス全てを経験して一人前。新卒でいきなり担任は持たずに、先輩を見ながら学ぶ機会に恵まれていた。しかし今は、経験2年ほどでもクラスのリーダー保育士に配置される。 経験の浅いリーダー保育士が、登園して泣く1歳児に向かって「なんで泣くのよ!」と大声で怒る保育になっているケースも少なくない。保育がマニュアル化して「壁にぺったん!」と軍隊のように指令して姿勢をよくすることを強制する。 保育士が過重労働で長時間働いて疲弊し、保育が流れ作業と化す。離職が相次ぎ、そこに、現場で指導できる中堅・ベテラン保育士がいないことで、不適切な保育が継承されていく。こうしたことが、社会福祉法人や株式会社の私立や公立、保育士が正職員・正社員か非正規雇用かであるかを問わずに起こっている』、「経験の浅いリーダー保育士が、登園して泣く1歳児に向かって「なんで泣くのよ!」と大声で怒る」、「保育がマニュアル化して「壁にぺったん!」と軍隊のように指令して姿勢をよくすることを強制する。 保育士が過重労働で長時間働いて疲弊し、保育が流れ作業と化す。離職が相次ぎ、そこに、現場で指導できる中堅・ベテラン保育士がいないことで、不適切な保育が継承されていく」、信じ難いが、これが現実のようだ。
・『「てめー!お前なんかに食べさせない!」 これまでの取材からも、虐待あるいは虐待寸前の現場の実態が浮かび上がっている。 都内のある認可保育園では、虐待が横行していた。何十年と歴史のある社会福祉法人が運営する認可保育園で派遣保育士として働いていた女性が、約5年前に現場の実情を明かした。 「4歳児のクラスの担任が、『てめー!お前なんかに食べさせない!』と言って、二人がかりで扉を押さえて園児を部屋から閉め出していました。保育士が思うようなスピードで着替えをしなかったことの制裁でした。その状態が1時間以上続き、その子は嗚咽して、白目になって過呼吸になっていました。 また、担任の保育士から見て食事前の準備がスムーズにできない、友達とおしゃべりしていただけで、“ふざけていた”と言われて園児は保育室で立たされ、『あんたにご飯あげない』と言われていました。 リーダー役の正社員の保育士は、後輩の保育士に『(園児に)なめられているから、しめてこい』と命じ、後輩保育士は誰もいない部屋で男児の腕をつかんで、ぶんぶんと振り回し、勢い余って男児が振り落とされ転がってしまったのです。 給食の時間は、1歳児が行儀よく食べられないからと、椅子にベルトで括り付けられていました。行政の監査が入る時は事前に分かるので、ベルトは隠していました」 この派遣保育士の女性は、現場で起こる虐待に耐え切れず、派遣契約が満了になると逃げるように去った。保育の世界は、上下関係が厳しい面がある。クラスのなかでは先輩と後輩の関係。園全体では、たとえ年齢が若くても保育士が正職員であり担任であると、非常勤の保育士や保育補助者が年上でベテランであっても、「担任や正職員に注意できない」という暗黙のルールが少なからず存在する。 前述した虐待の起こる保育現場では、心ある非正規の保育士が次々と辞め、虐待する保育士が居残っていたという。園長はそれが分かっていても、指導はしなかったという。保育園の配置基準を守るために、辞められると困るからだ。それでも離職が激しく、派遣が辞めると園長は「(派遣会社に)オーダー、オーダー。ああ、またお金がかかる」という軽い感覚に陥っていたという』、「4歳児のクラスの担任が、『てめー!お前なんかに食べさせない!』と言って、二人がかりで扉を押さえて園児を部屋から閉め出していました。保育士が思うようなスピードで着替えをしなかったことの制裁でした。その状態が1時間以上続き、その子は嗚咽して、白目になって過呼吸になっていました」、可哀想だとは思わないのだろうか。「たとえ年齢が若くても保育士が正職員であり担任であると、非常勤の保育士や保育補助者が年上でベテランであっても、「担任や正職員に注意できない」という暗黙のルールが少なからず存在する」、「虐待の起こる保育現場では、心ある非正規の保育士が次々と辞め、虐待する保育士が居残っていたという」、こうなると悪循環だ。
次に、この続きを、12月9日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの小林 美希氏による「このままでは子どもが死ぬ…あまりに質の低い保育士の「残念すぎる実態」 点呼のチェックすらめんどくさいと言う」を紹介しよう。
・『静岡県裾野市の私立「さくら保育園」で、30代の保育士3人が園児に虐待を繰り返していた事件が大きな話題となっている。 なぜ、保育士による虐待・暴力が起きてしまうのか。新刊『年収443万円』でも保育現場の残念な実態についてレポートしているジャーナリストの小林美希氏が、前編「園児をたたき、ご飯を口に突っ込む…保育園で虐待・暴力が繰り返される『構造的問題』」につづいて深刻な問題の深層に迫る』、「さくら保育園」で「30代の保育士3人が園児に虐待を繰り返していた事件」は衝撃的だった。
・『退職をチラつかせる保育士たち 暴力や暴言、冷淡に接するなど明白な虐待ではなくても、見過ごしてしまいがちな「心理的虐待」である保育は蔓延しつつある。 新型コロナウイルス感染症が流行する前は、夏のプールの時間は子どもたちの楽しみでもあったが、都内のある社会福祉法人の認可保育園では、“親教育”の思想の下に、水着はあってもタオルひとつ忘れると「忘れ物をしたらプールは見学です」と、一律にプール遊びをさせてもらえなかった。 ある社会法人が運営する認可保育園の2歳児クラスでは、朝の会で園児が友達とおしゃべりとしたり、ちょっと後ろや横を向いただけで、保育士がその子を立たせて指さし、「〇〇くん、おしゃべり、悪いことー!」と煽動して他の園児らにもその子を指ささせ、全員に「あー。〇〇くん、悪いことー!」と言わせていた。 また、同保育園では保育士が絵本を読んでいる間に少しでもおしゃべりをする子がいると、担任が「今日は、〇〇ちゃんが話を聞けないので、〇〇ちゃんのせいで、お散歩には行きません」とクラスの園児に言い渡していた。遅れて登園した子の保護者は目の前で起こったことに唖然とし、すぐに園長に問題を指摘して、保育士への指導が行われたという。 筆者の新刊『年収443万円』で登場した保育運営会社の傘下の保育園の状況について、元園長はこう語る。 「保育士はすぐ辞めて入れ替わるため、皆若いです。1歳児を滑り台で遊ばせてケガをしても保育士は平気な顔をしていました。公園に子どもを置き去りにするミスを防ぐため、園児の点呼をチェック表につけましょうと指導すれば、『ええー、めんどくさーい』と言った具合で、『じゃあ辞める』と退職をチラつかせるのです。 指導しても、暖簾に腕押し。次々に園を作るので、資格さえあれば誰でもいい状態で採用するため、保育の「ほ」の字の基本も分からないような、あり得ない質の低さでした」) 大手や中堅の保育会社では保育士が辞めると、園長の査定に響いてボーナスなどの報酬が下げられるケースもある。また、保育業界では、受け持ったクラスに責任を果たそうと、年度末までは働いて辞めるというのが慣例とされてきたが、ここ数年は、それが崩れて年度途中での退職が増えていった。入社してわずか数ヵ月で辞めていくなど、今や珍しくない。 何の連絡もなしに欠勤して音信不通になるケースもある。1年程度で転籍を繰り返し、30歳くらいの時点で10ヵ所あまりの保育園運営法人を渡り歩くため、履歴書の職歴欄が1ページでは足りないというケースもザラになっている。前述の園長は続ける。 「そもそも資質のない保育士が急増しています。若い正社員の保育士は、『この子、ウンチしてまーす』と言って、パートの保育士や保育補助者に任せてしまいます。嘔吐の処理も、食事の後片付けも清掃も全て『汚いからやらない』といわんばかり。パートに任せて自分たちはおしゃべりに夢中なんです。 トイレの介助にしても、遠くに聞こえるような大声で『〇〇ちゃんっ!ちょっと、ねーっ、パンツあげてっ!パンツ上げてって言ってんでしょっ!』と怒っているのが聞こえてくる。 園児が咳き込むのが聞こえてきたので私が顔を出すと、園児が本の切れ端を誤飲していました。一事が万事、指導が必要なんです。私が事務室にいない時、『園長うるさいんですよねー』と事務員に不満を言っているようでしたが、園児の安全には変えらないので指導し続け、園長の私も保育室に入って保育しました」』、「若い正社員の保育士は、『この子、ウンチしてまーす』と言って、パートの保育士や保育補助者に任せてしまいます。嘔吐の処理も、食事の後片付けも清掃も全て『汚いからやらない』といわんばかり。パートに任せて自分たちはおしゃべりに夢中なんです」、「正社員」というだけで、汚い作業は「パートの保育士や保育補助者に任せてしまいます」、困ったものだ。
・『問題を知った保育士や保護者はどうする? 保育士の有効求人倍率は、保育園の建設ラッシュがひと段落している2022年7月でも2.21倍あり、全職種平均の1.26倍を大きく上回る。2019年のピーク時には3.86倍もあったのだから、保育士1人が手をあげれば約4ヵ所の園が門戸を開いていることになる。) そうした空前の保育士不足で、配置基準を守るため「資格があるなら誰でもいい」という状態で採用している園が少なからず存在している。人材紹介会社を通じた転職で、就職すると出る『お祝い金』を狙って短期間で勤め先を変えるような保育士も出現するなかで、保育の質を守ることが難しい背景もある。こうしたなか、何か問題を知り得た保育士や保護者は、行政などに「公益通報」する手段がある。 「公益通報者保護法」によって、児童福祉法や労働関係の法律などで罰則の対象となる不正行為や虐待・暴行について、保育士や保護者は「公益通報」することができるのだ。 公益通報とは、職場で「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律」に違反する犯罪行為、または最終的に刑罰につながる行為が生じている。あるいは、まさにそれが生じようとしていることを、従業員が、(1)事業者の内部、(2)権限のある行政機関、(3)マスコミ、労働組合などの事業者外部、に通報することをいう。 一方で、裾野市の保育園での虐待・暴行の疑いの事件では、園側が職員全員に対して「業務上知り得た情報や機密事項など漏洩しない」という誓約書にサインさせていたという。 他の事業者側が起こした問題についても、「秘密保持」や「守秘義務」を強調して保育士や園長に口外を禁じるサインをさせ、口外すれば解雇する、左遷する、訴えるなどと言って職員を黙らせようとする悪質なケースが後を絶たない。しかし、経営者のそうした報復人事などは、無効になる』、「裾野市の保育園での虐待・暴行の疑いの事件では、園側が職員全員に対して「業務上知り得た情報や機密事項など漏洩しない」という誓約書にサインさせていたという」、しかし、「職員」は「公益通報」できるので、「誓約書」は無効な筈だ。
・『「ほいくえん、いきたくない」 ただ、保護者にとっては「子どもは人質」。何か言って、冷遇されることが怖くて言い出せない保護者もいる。勇気を出して行政に相談、通報しても、自治体の保育課の対応には差がある。「保育に口を出せない」「証拠がないと虐待の判断が難しい」など、曖昧にされることが少なくない。今回の静岡県警による保育士の逮捕、裾野市長による園長の刑事告発は、迅速な対応だったのではないだろうか。 不適切な保育、虐待、暴行を放置すれば、やがて子どもの死につながる可能性がある。子どもの命を亡くしてからでは遅い。その前兆を知った時にどうするのか。この問題を機に真剣に向き合い、行政は覚悟をもって対応しなければならない。 「ほいくえん、いきたくない。せんせい、やさしくない」 もし、子どもがそう言った時、その言葉がSOSである場合もあり、注意を払う必要がある。 人手不足などを背景に「良い保育」を実践できる現場が減りつつあるなかで、裾野市のケースを機に、何が不適切な保育で何が虐待なのか、正面から見つめ直す時がきている。そして何より、何か疑問を持った保護者と保育園側が、気軽に話し合い、お互いに学び合おうとする雰囲気作りも必要だ。 次回以降、保育の質を劣化させる制度の問題や少なすぎる保育士配置基準について、改めて解説する』、「「ほいくえん、いきたくない。せんせい、やさしくない」 もし、子どもがそう言った時、その言葉がSOSである場合もあり、注意を払う必要がある」、その通りだ。
第三に、12月13日付けPRESIDENT Onlineが掲載した保育園を考える親の会顧問(アドバイザー)の 普光院 亜紀氏による「子どもが従わないので腹を立てる…「不適切保育」をする保育士の信じられない言い分 発達に合わない要求をして従わない子どもに"しつけ"をする」を紹介しよう。
・『静岡県裾野市のさくら保育園で保育士3人が暴行容疑で逮捕され、その後も別の園で不適切保育があったことが報道されている。保育園を考える親の会顧問の普光院亜紀さんは「類似した問題行為について相談されることは少なくありません。不適切保育をしてしまう保育者の多くが『しつけ』のつもりだったと言います。それらのケースを見ると、子どもの発達や状態に合わない要求をして、従わないので腹を立てているケースが多いようです」という――』、「不適切保育をしてしまう保育者の多くが『しつけ』のつもりだったと言います」、「それらのケースを見ると、子どもの発達や状態に合わない要求をして、従わないので腹を立てているケースが多いようです」、「従わないので腹を立てているケースが多い」、とんでもないことだ。
・『保育園・こども園の「不適切保育」の実際 11月30日、静岡県裾野市のさくら保育園で繰り返された虐待保育の実態が、市によって公表されました。その内容のひどさに衝撃を受けた方も多かったと思います。 筆者は保育園を考える親の会で保育園・こども園に関するさまざまな相談を受けていますが、類似した問題行為について相談されることは少なくありません。 裾野市の保育園の事件は「虐待保育」として報道されましたが、虐待を含め、子どもの人権を侵害し、心身の安全・安心や健やかな育ちに悪影響を与える保育のことを「不適切保育」と呼びます。 保育園を考える親の会にも訴えが届いている「不適切保育」を挙げると、たたく・押す・引っ張るなど子どもの心身に苦痛を与える、恫喝する・怒鳴るなどこわい叱り方で脅す、保育室の外に出す・年齢が下のクラスに行かせる・トイレや押し入れに閉じ込める・食事やおやつを取り上げるなどの罰を与える、食事を無理強いする、容姿などについて子どもを言葉で侮辱するなどがあります。 いずれも体に傷が残らないので、やっている本人も周囲も軽く考えてしまう傾向がありますが、子どもが感じる苦痛や恐怖を想像すれば、明らかな人権侵害に当たります』、「たたく・押す・引っ張るなど子どもの心身に苦痛を与える、恫喝する・怒鳴るなどこわい叱り方で脅す、保育室の外に出す・年齢が下のクラスに行かせる・トイレや押し入れに閉じ込める・食事やおやつを取り上げるなどの罰を与える、食事を無理強いする、容姿などについて子どもを言葉で侮辱するなど」、は「明らかな人権侵害に当たります」、その通りだ。
・『心身を脅かすことと「しつけ」は違う 全国保育士会では、「不適切保育」の定義を次のようにまとめています。 ① 子ども一人ひとりの人格を尊重しないかかわり ② 物事を強要するようなかかわり・脅迫的な言葉がけ ③ 罰を与える・乱暴なかかわり ④ 一人ひとりの子どもの育ちや家庭環境を考慮しないかかわり ⑤ 差別的なかかわり こうして抽象的な言葉で聞くと、「しつけのために必要なこともあるのではないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、その考えが、不適切保育を容認してしまうことがあることに注意が必要です。 虐待をしてしまう親、不適切保育をしてしまう保育者の多くが「しつけ」のつもりだったと言います。それらのケースを見ると、子どもの発達や状態に合わない要求をして、従わないので腹を立てているケースが多いようです。大人は子どもが従わないことをわがままだと言い、罰を与えてもよいと考えがちですが、子どもの側から見ると、まったく違う風景が見えています』、「子どもの側から見ると、まったく違う風景」とはどのような「風景」なのだろう。
・『子どもは大人の要求の意味がわからない 大人は体も巨大で力が強く、小さな子どもにとっては抵抗できない相手です。子どもは時間感覚や先のことを予測する力も未熟ですから、大人の要求の意味がわからない場合が多いし、子どもなりの理由で従えない場合もあると思うのですが、そのことを大人に伝える力をもっていません。 大人は、「時間どおりに給食の後片付けをしたい」「人手が足りないからトイレは一斉に行かせたい」など大人の都合で子どもに無理を強いて、それが子どもにとってつらい要求になっていることに気づかなかったりします。そうなると、子どもはただ大人にされるがままになり、泣くしかありません。もしも大人が同じこと(食事を無理やり口に押し込まれる、監禁されてトイレに行かせてもらえない)をされたら、警察に行くでしょう。 「しつけ」というのは本来、「大人に従わせること」ではなく「生活習慣や社会性を身につけること」なのですが、勘違いしている大人は多いと思います。保育園やこども園は子どもが長時間にわたって共同生活をする場なので、このような勘違いをしている保育者に支配されたら、子どもは大きな苦痛を味わいます。 保育内容の基準を示す「保育所保育指針」は、それぞれの子どもの発達や個性に応じて生活習慣を無理なく身につけられるよう、保育者が適切にかかわることを求めています。具体的には、園生活の中で、子どもが保育者から励まされたりさりげなく援助されたりしながら、自分のペースで「できる」体験を積み重ね、自然に生活習慣を身につけていけるような保育が望まれているのです』、「「しつけ」というのは本来、「大人に従わせること」ではなく「生活習慣や社会性を身につけること」なのですが、勘違いしている大人は多いと思います。保育園やこども園は子どもが長時間にわたって共同生活をする場なので、このような勘違いをしている保育者に支配されたら、子どもは大きな苦痛を味わいます」、「「保育所保育指針」は、それぞれの子どもの発達や個性に応じて生活習慣を無理なく身につけられるよう、保育者が適切にかかわることを求めています」、なるほど。
・『「不適切保育」は暴力の教育 暴力をふるわれたり、体を邪険に扱われたり、恫喝されたり、集団から排除されたりといった体験は、子どもの自尊心の育ち、積極的に活動する意欲など、子どもの心の発達にネガティブな影響を与えます。 「保育所保育指針」や「幼稚園教育要領」は、幼児期の教育は子どもの主体的な活動(遊び)を通して実現されることを示していますが、保育者が一方的に従わせるような保育では、子どもは萎縮してしまうので、教育的な観点からもネガティブです。 また、保育者のふるまいからも子どもは学びます。たとえば、子どもを集めて、「今日、お片付けができなくて先生に叱られた子は誰?」と尋ね、子どもたちに名前を言わせる保育者がいますが、私からは、いじめのやり方を教えているようにしか見えません。 国連の子どもの権利委員会は、一般的意見8号(2006年)で「子どもは、おとなの言葉だけではなくおとなの行動からも学ぶ。子どもがもっとも緊密な関係を持っている大人が、その子どもとの関係において暴力および屈辱を用いるとき、その大人は人権の軽視を実演するとともに、それが紛争を解決したり行動を変えたりするための正当な方法であるという、危険な教訓を与えている可能性がある」と指摘しています』、「保育者が一方的に従わせるような保育では、子どもは萎縮してしまうので、教育的な観点からもネガティブです。 また、保育者のふるまいからも子どもは学びます。たとえば、子どもを集めて、「今日、お片付けができなくて先生に叱られた子は誰?」と尋ね、子どもたちに名前を言わせる保育者がいますが、私からは、いじめのやり方を教えているようにしか見えません」、その通りだ。
・『保護者が子どもを守るために 保育園やこども園の多くは、子どもの人格を尊重する保育を行ってくれているはずです。保育園・こども園に不信感をもち、保護者が細かいことを気にしすぎるのもあまりお勧めできません。保育現場に「圧」をかけることは、保育者の余裕を奪い、保育の質に悪影響を与える場合もあるからです。 「不適切保育」から子どもを守るために保護者にできることとしては、次のようなことが考えられます。 ① 園選びを子ども中心の目線で行う(園見学などで、保育者が子どもに接する様子、園長が保育について語る内容から、子どもを尊重する意識があるかどうかを感じ取ってください。保育施設の中の人たちの信頼性を、親の利便性や習い事などよりも重視して選ぶことが大切です。 ② 入園後、子どもの様子に注意を払い、保育者とコミュニケーションを深める(送迎時の子どもの様子に注意します。子どもが保育士におびえる様子があった場合は注意が必要です。言葉が話せる子どもとは、日々の会話を大切にし、子どもの言うことに耳を傾けましょう。ただし、保護者から保育者をネガティブに見る発言を繰り返すと、子どもも影響を受けてしまいます。また、子どもはまだ事実を正確に伝えられない場合があるので、気になることがあったら担任に相談するなど、まずは信頼関係を基本にしたアプローチをしたほうがよいでしょう。 連絡ノートや送迎時の会話などで保育者とコミュニケーションをとり、保育参加や保護者懇談会などの行事にもできるだけ参加して関係を深めることは、「不適切保育」の防止につながります。 ③ 「不適切保育」を見聞きしてしまったら(疑いをもったという程度であれば、保育者に「こうするのはなぜなんですか?」と保育の意図を確認したほうがよいと思います。その答えがおかしい場合や、明らかな行為を見聞きしてしまった場合は、園長や主任に相談したほうがよいでしょう。怒りをぶつけるのではなく、見聞きした問題行為や問題と思う理由を具体的に説明する、子どもが苦痛を感じている事実を伝えるなど、冷静に交渉することが重要です。 それでも「しつけです」と言われるなど不誠実な対応しかない場合は、します。市区町村が頼りにならない場合は、都道府県の指導監査部門に連絡をします』、「園長や主任に相談」、「市区町村の担当課などに通報」、「都道府県の指導監査部門に連絡」、これだけやれば、何らかの反応があるのではなかろうか。
・『保護者同志の情報交換で見えてくることがある ④ 保護者同士のつながりも大切に(日頃から保護者同士のつながりをつくっておくことも大切です。父母会などの組織がない場合も、クラスごとにSNSでつながるなどできれば安心です。「不適切保育」なのかどうか、保護者同士の情報交換から判断できる場合もあります。そのような事態にならなくても、保育のよい面を見つけて園を応援していくことにも活用できます。 ⑤ 保育の制度にも関心をもつ(「不適切保育」が発生したりエスカレートしたりする背景には、保育士に適格な人材が不足していたり、保育士の仕事の負担が重すぎたりする構造的な問題もあると思います。改善するためには、保育士の待遇改善や配置人数をふやすことが必要です。そういった保育制度の問題に保護者も関心を持ち、保育施設を応援していくことも防止に役立つと思います』、「「不適切保育」なのかどうか、保護者同士の情報交換から判断できる場合もあります。そのような事態にならなくても、保育のよい面を見つけて園を応援していくことにも活用できます」、保護者同士のつながりも大切に」、「保育士の待遇改善や配置人数をふやすことが必要です。そういった保育制度の問題に保護者も関心を持ち、保育施設を応援していくことも防止に役立つ」、確かにその通りだ。
タグ:保育園問題 (その14)(園児をたたく ご飯を口に突っ込む…保育園で虐待・暴力が繰り返される「構造的問題」 空前の保育士不足が招く深刻すぎる事態、このままでは子どもが死ぬ…あまりに質の低い保育士の「残念すぎる実態」 点呼のチェックすらめんどくさいと言う、子どもが従わないので腹を立てる…「不適切保育」をする保育士の信じられない言い分 発達に合わない要求をして従わない子どもに"しつけ"をする) 現代ビジネス 小林 美希氏による「園児をたたく、ご飯を口に突っ込む…保育園で虐待・暴力が繰り返される「構造的問題」 空前の保育士不足が招く深刻すぎる事態」 待機児童問題、送迎バス置き去り問題のあとには、「虐待」問題まで出てくるとは、まさに社会の縮図だ。 「経験の浅いリーダー保育士が、登園して泣く1歳児に向かって「なんで泣くのよ!」と大声で怒る」、「保育がマニュアル化して「壁にぺったん!」と軍隊のように指令して姿勢をよくすることを強制する。 保育士が過重労働で長時間働いて疲弊し、保育が流れ作業と化す。離職が相次ぎ、そこに、現場で指導できる中堅・ベテラン保育士がいないことで、不適切な保育が継承されていく」、信じ難いが、これが現実のようだ。 「4歳児のクラスの担任が、『てめー!お前なんかに食べさせない!』と言って、二人がかりで扉を押さえて園児を部屋から閉め出していました。保育士が思うようなスピードで着替えをしなかったことの制裁でした。その状態が1時間以上続き、その子は嗚咽して、白目になって過呼吸になっていました」、可哀想だとは思わないのだろうか。 「たとえ年齢が若くても保育士が正職員であり担任であると、非常勤の保育士や保育補助者が年上でベテランであっても、「担任や正職員に注意できない」という暗黙のルールが少なからず存在する」、「虐待の起こる保育現場では、心ある非正規の保育士が次々と辞め、虐待する保育士が居残っていたという」、こうなると悪循環だ。 小林 美希氏による「このままでは子どもが死ぬ…あまりに質の低い保育士の「残念すぎる実態」 点呼のチェックすらめんどくさいと言う」 「さくら保育園」で「30代の保育士3人が園児に虐待を繰り返していた事件」は衝撃的だった。 「若い正社員の保育士は、『この子、ウンチしてまーす』と言って、パートの保育士や保育補助者に任せてしまいます。嘔吐の処理も、食事の後片付けも清掃も全て『汚いからやらない』といわんばかり。パートに任せて自分たちはおしゃべりに夢中なんです」、「正社員」というだけで、汚い作業は「パートの保育士や保育補助者に任せてしまいます」、困ったものだ。 「裾野市の保育園での虐待・暴行の疑いの事件では、園側が職員全員に対して「業務上知り得た情報や機密事項など漏洩しない」という誓約書にサインさせていたという」、しかし、「職員」は「公益通報」できるので、「誓約書」は無効である。 「「ほいくえん、いきたくない。せんせい、やさしくない」 もし、子どもがそう言った時、その言葉がSOSである場合もあり、注意を払う必要がある」、その通りだ。 PRESIDENT ONLINE 普光院 亜紀氏による「子どもが従わないので腹を立てる…「不適切保育」をする保育士の信じられない言い分 発達に合わない要求をして従わない子どもに"しつけ"をする」 「不適切保育をしてしまう保育者の多くが『しつけ』のつもりだったと言います」、「それらのケースを見ると、子どもの発達や状態に合わない要求をして、従わないので腹を立てているケースが多いようです」、「従わないので腹を立てているケースが多い」、とんでもないことだ。 「たたく・押す・引っ張るなど子どもの心身に苦痛を与える、恫喝する・怒鳴るなどこわい叱り方で脅す、保育室の外に出す・年齢が下のクラスに行かせる・トイレや押し入れに閉じ込める・食事やおやつを取り上げるなどの罰を与える、食事を無理強いする、容姿などについて子どもを言葉で侮辱するなど」、は「明らかな人権侵害に当たります」、その通りだ。 「子どもの側から見ると、まったく違う風景」とはどのような「風景」なのだろう。 「「しつけ」というのは本来、「大人に従わせること」ではなく「生活習慣や社会性を身につけること」なのですが、勘違いしている大人は多いと思います。保育園やこども園は子どもが長時間にわたって共同生活をする場なので、このような勘違いをしている保育者に支配されたら、子どもは大きな苦痛を味わいます」、「「保育所保育指針」は、それぞれの子どもの発達や個性に応じて生活習慣を無理なく身につけられるよう、保育者が適切にかかわることを求めています」、なるほど。 「保育者が一方的に従わせるような保育では、子どもは萎縮してしまうので、教育的な観点からもネガティブです。 また、保育者のふるまいからも子どもは学びます。たとえば、子どもを集めて、「今日、お片付けができなくて先生に叱られた子は誰?」と尋ね、子どもたちに名前を言わせる保育者がいますが、私からは、いじめのやり方を教えているようにしか見えません」、その通りだ。 「園長や主任に相談」、「市区町村の担当課などに通報」、「都道府県の指導監査部門に連絡」、これだけやれば、何らかの反応があるのではなかろうか。 「「不適切保育」なのかどうか、保護者同士の情報交換から判断できる場合もあります。そのような事態にならなくても、保育のよい面を見つけて園を応援していくことにも活用できます」、保護者同士のつながりも大切に」、「保育士の待遇改善や配置人数をふやすことが必要です。そういった保育制度の問題に保護者も関心を持ち、保育施設を応援していくことも防止に役立つ」、確かにその通りだ。
心理学(その5)(脳に良い習慣と「脳に悪い心理状態」の決定的事実 ストレスや不安は海馬や前頭葉を萎縮させてしまう、精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」、鴻上尚史氏と中野信子氏が対談 日本は「好きなことをしていると叩かれる国」) [生活]
心理学については、6月29日に取上げた。今日は、(その5)(脳に良い習慣と「脳に悪い心理状態」の決定的事実 ストレスや不安は海馬や前頭葉を萎縮させてしまう、精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」、鴻上尚史氏と中野信子氏が対談 日本は「好きなことをしていると叩かれる国」)である。
先ずは、9月3日付け東洋経済オンラインが掲載した精神科医のアンデシュ・ハンセン氏による「脳に良い習慣と「脳に悪い心理状態」の決定的事実 ストレスや不安は海馬や前頭葉を萎縮させてしまう」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/614884
・『ストレスは脳にダメージを与え、海馬や前頭葉が小さくなることも。『運動脳』著者で世界的精神科医のアンデシュ・ハンセン氏が「ちょっとしたイライラ」が脳に静かに与えるダメージ、とっておきのストレス解毒剤として運動の効果を解説します。散歩からストレス解消効果が期待できます。 ストレスは脳を小さくする。そして記憶や発話、感情の制御といった機能に問題を生じさせる。 ストレスを感じると、まず脳の扁桃体が反応し、視床下部→下垂体→副腎へと身体の上から下へ刺激が伝わる。副腎から「コルチゾール」というホルモンが分泌されると、動悸は激しくなる。この一連の反応はほんの1秒ほどで起きるが、これは人類の生存に欠かせないからだ。生存の可能性を増やすものがあるとすれば、危険な状況に出くわしたとき、ただちに逃走をうながす警報システム。扁桃体の機能が、まさにそれにあたる。 扁桃体は、ストレス反応を引き起こすだけでなく、そのストレス反応によっても刺激を受けてしまう。扁桃体が危険を知らせ、それに反応してコルチゾールの血中濃度が上がると、扁桃体がさらに興奮する。ストレスがストレスを呼ぶ悪循環だ。 体内には、このストレス反応を緩和し、興奮やパニック発作を防ぐブレーキペダルが備わっている。その1つが「海馬」だ。海馬は記憶中枢として知られるが、感情を暴走させないブレーキとしても働いている』、「ストレスを感じると、まず脳の扁桃体が反応し、視床下部→下垂体→副腎へと身体の上から下へ刺激が伝わる。副腎から「コルチゾール」というホルモンが分泌されると、動悸は激しくなる。この一連の反応はほんの1秒ほどで起きるが、これは人類の生存に欠かせないからだ」、「扁桃体は、ストレス反応を引き起こすだけでなく、そのストレス反応によっても刺激を受けてしまう・・・ストレスがストレスを呼ぶ悪循環だ」、「体内には、このストレス反応を緩和し、興奮やパニック発作を防ぐブレーキペダルが備わっている。その1つが「海馬」だ。海馬は記憶中枢として知られるが、感情を暴走させないブレーキとしても働いている」、実によく出来た仕組みだ。
・『イライラで海馬が縮小する ストレスそのものは生存に必要な機能だ。闘争、あるいは逃走しなくてはならない重大な局面では、エネルギーが余計に必要となるためコルチゾールが増えることは役に立つ。しかし、海馬の細胞は、コルチゾールに長時間さらされると死んでしまう。慢性的にコルチゾールが分泌されると、海馬は萎縮してしまうのだ。 これは記憶に直結する問題で、重いストレス反応を抱えた状態が続くと、言葉がうまく出てこなかったり、場所の認識ができなくなったりする。海馬は空間認識にも関わっているため、自分の場所や方向がわからなくなる可能性も出てくる。) 扁桃体がストレス反応を引き起こしつづけると、海馬のブレーキはすり減ってしまう。アクセルである扁桃体は、海馬が萎縮してブレーキが利かなくなると暴走を始める。こうして、ストレスがさらにストレスを生むサイクルに入る。 長期的なストレスは脳に損傷を与える。重いストレスや不安を抱える人の脳を調べると、実際に海馬が平均よりわずかに小さいことがわかる。おそらくコルチゾールによって、ゆっくりと蝕まれたためだろう』、「扁桃体がストレス反応を引き起こしつづけると、海馬のブレーキはすり減ってしまう。アクセルである扁桃体は、海馬が萎縮してブレーキが利かなくなると暴走を始める。こうして、ストレスがさらにストレスを生むサイクルに入る」、恐ろしいことだ。
・『心配するたび「前頭葉」が小さくなる ストレスや不安で小さくなるのは海馬だけでない。抽象的思考や分析的思考を行う、額のすぐうしろ「前頭葉」も萎縮する。実際、極度の心配性の人は前頭葉の各部位が小さい。 前頭葉もまた、感情を暴走させず、理性を失った行動に出ないよう働くクールダウンの器官だ。その前頭葉が萎縮すれば、ストレスが長引いて脳はみずからを蝕み、歯止めはさらに利かなくなる。扁桃体がやたらと警告を発し、前頭葉がそれを打ち消すことができなければ、ほんの些細なことにも大げさに反応するようになる。 では、ストレス反応を抑えるにはどうすればいいのか。「磁気による刺激を前頭葉に与えて活動を促す」療法が実在するように、ストレスを抑えたければ、脳の思考領域、つまり海馬と前頭葉の機能をうながせばいい。この2つの部位は、ともに体を活発に動かすことで何より刺激を受ける部位である。 まず、ランニングやサイクリングなどの運動をすると、それを続けている間はコルチゾールの分泌量が増える。体に負荷がかかる運動は一種のストレスだからだ。 筋肉を適切に動かすには、より多くのエネルギーや酸素が必要なので、血流を増やそうとして心臓の鼓動は激しくなる。そして心拍数と血圧が上昇する。この場合のコルチゾールの働きは正常で、体を動かすために必要な反応だ。 しかし運動が終われば、体はもうストレス反応を必要としないので、コルチゾールの分泌量は減り、さらにランニング前のレベルにまで下がっていく。ランニングを習慣づけると、走っているときのコルチゾールの分泌量は次第に増えにくくなり、走り終えたときに下がる量は逆に増えていく。) ここからがおもしろいところで、定期的に運動を続けると、運動以外のことが原因のストレスでも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなる。運動によるものでも仕事に関わるものでも、ストレスに対する反応は、体が運動で鍛えられるにしたがって徐々に抑えられるのだ。つまり運動が、ストレスに対して過剰に反応しないよう体をしつけるのである。体を活発に動かしたことでストレスに対する抵抗力が高まる。 運動は前頭葉を強くもする。体を活発に動かすと脳の血流が増える。前頭葉にたちまち大量に血液が流れ、機能が促進される。さらに、運動を長期にわたって続けると、前頭葉に新しい血管がつくられ、血液や酸素の供給量が増加、それによって老廃物がしっかり取り除かれる。 加えて、定期的に運動すれば、前頭葉と扁桃体の連携も強化される。そうなると、前頭葉はさらに効率よく扁桃体を制御できるようになる。教師が離れた場所から生徒を監督するのではなく、教室にいて直接指導するようなものだ。 定期的な運動を続ければ、前頭葉は物理的に成長までする。1時間程度の散歩を習慣にしている成人の前頭葉を定期的に測定した結果、前頭葉を含む大脳皮質が成長していたのだ。歩くと前頭葉が大きくなる。信じられないような事実である』、「ストレスに対する反応は、体が運動で鍛えられるにしたがって徐々に抑えられるのだ。つまり運動が、ストレスに対して過剰に反応しないよう体をしつけるのである」、「運動が」「体をしつける」とは面白い表現だ。「1時間程度の散歩を習慣にしている成人の前頭葉を定期的に測定した結果、前頭葉を含む大脳皮質が成長していた」、私も「1時間程度の散歩」を日課にしているので、「大脳皮質が成長」している筈だ。なんだか嬉しくなる。
・『運動とストレスは「正反対」に作用する 運動とストレスに関するさまざまな研究論文に目を通していると、ある事実が浮かび上がってくる。ストレスと運動は、ほぼ正反対の作用を脳に与えているのだ。 ・ストレスが増してコルチゾールの血中濃度が高くなると、脳内で情報を伝達する機能が妨げられる。運動は逆にその機能を高める。 ・ストレスは脳の変化する特性(可塑性)を損なわせるが、運動はそれを高める。 ・ストレスが高まると短期記憶(数分から数時間の記憶)が長期記憶に変わる仕組みにブレーキがかかる。運動はその逆に作用を促す。 運動は、ストレスや不安を消し去る本物の解毒剤だ。週に2,3回は心拍数が増えるようなランニングなどの有酸素運動をお勧めしたい。たとえ動悸が激しくなっても、脳はそれがストレスから来るものではなく、プラスの変化をもたらすものだと学習する。ただ散歩に出かけるだけでもいい。活発に体を動かしたときほどではないにしても、ストレスを抑える効果は望める』、「週に2,3回は心拍数が増えるようなランニングなどの有酸素運動をお勧めしたい」、私の場合は、「ランニング」の代わりに速足をしている。
次に、10月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した書籍オンライン編集部による「精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310726
・『コロナ禍、ウクライナ危機、急激なインフレ…。いつ何が起こるかわからない世界を生きる私たちは、どんな変化にも対応できるようにストレスへの対処法を知っておく必要がある。そこでおすすめしたいのが、『ストレスフリー超大全』。多くの人がストレスを感じる「人間関係」「プライベート」「仕事」「健康」「メンタル」の5つのテーマに対して科学的ファクトと対処するためのToDoがまとまった1冊だ。本書を執筆した精神科医の樺沢紫苑氏は、「ストレスは耐え忍ぶものではなく、しなやかに受け流すことが必要である」と言う。本記事では、本書をもとに現代人に必須のストレスの対処法をご紹介する』、「「ストレスは耐え忍ぶものではなく、しなやかに受け流すことが必要である」、というのは興味深い見解だ。
・『精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」 不安になるのは、なぜか? ストレスはマイナスなイメージがあるが、「いいストレス」もあると本書で樺沢氏は述べている。 適度なストレスは、脳の働きを活性化し、集中力を研ぎ澄まし、記憶力を高めます(P.3) しかし注意しなければいけないのは、「過剰なストレス」だ。 仕事、人間関係、将来不安などで悩み続けると思考停止に陥る。そして、その状態で耐え忍んでしまうとストレスが蓄積していく。やがて、心身をむしばむ「悪いストレス」に変化してしまう。 ではなぜ、人は不安になるのだろうか? 人間が緊張、不安、恐怖の感情を持つと脳内物質の「ノルアドレナリン」が分泌される。 このノルアドレナリンは「闘争か、競争か」の物質と言われている。この物質について、本書にはこう書かれている。 ノルアドレナリンが分泌されると脳が研ぎ澄まされ、集中力が高まり、どうすればいいのか一瞬で判断できるようになります(P.20) 不安や恐怖といったピンチに対して、「さっさと行動しろ!」とノルアドレナリンは私たちに警告してくれているのだ』、「分泌されると脳が研ぎ澄まされ、集中力が高まり、どうすればいいのか一瞬で判断できるようになります」、有難い効用があるようだ。
・『「行動すること」が不安を減らす しかし、ノルアドレナリンの警告を無視し、思考停止になったまま行動を起こさないと、不安は増えていく。 月曜日に大切な会議があるあなたは不安で不安で仕方がない。最悪の事態を想像してしまい、何もする気になれず家に閉じこもっていたのに、休んだ気がしない。不安は増すばかり。そんな日曜の夜を過ごしたことはないだろうか。 しかし、不測の事態に備えた前向きな行動を起こしていたらどうなるか。 前向きな行動を始めると、ノルアドレナリンという行動するためのガソリンが消費され、「行動によるガソリン消費→ノルアドレナリン減少→不安逓減→気持ちが楽になる」という流れが起こる。 本書には、このように書かれている。 不安を消すことは簡単です。「行動する」ことです。いきなり不安が「ゼロ」にならないまでも、行動することで、不安は必ず軽くなります。「何もしない」と強まるだけなので、何かするだけで気分は変わります(P21)』、「前向きな行動を始めると、ノルアドレナリンという行動するためのガソリンが消費され、「行動によるガソリン消費→ノルアドレナリン減少→不安逓減→気持ちが楽になる」という流れが起こる」、なるほど。
・『「行動を細分化」して悩みを解決! 「行動する」ことが大切だとは分かった。しかし、不安や悩みを抱えた状況で前向きな行動ができないのも正直なところだ。 それについて著者は、「すべての『行動』を細分化して行動のハードルを下げることで、苦しい状況でも『できる』ことを見つけられる」とし、3つの「確実に行動できる対処法(ToDo)」を提案している。 1.「話す」(人に話してみたら、心がスッキリしたことはないだろうか。別にアドバイスがもらえなくてもいいのだ。 悩みや不安について同じことをグルグル考え悶々としているより、不安な気持ちを放出することで少しばかりスッキリした気持ちが味わえるものだ。 しかし注意しなければならないのは、不安や悩みを話すのも加減する必要があることだ。延々と聞かされる相手の身になり、不安や悩みは簡潔にまとめ、最後は前向きな言葉で終えることを心掛けたい。) 2.「書く」(不安や悩みというのは、ぼんやりとしたものになりがちだ。そんなときは、無心になって書き出してみよう。 「何について悩んでいるのか」「なぜ悩んでいるのか」を書き出すことで案外、不要な悩みだったことに気づくかもしれない。 手を動かし紙に書き出すという行動は、自分を冷静に見つめ直す作業となる。) 3.「体を動かす」(何をしても不安が拭えないときは、思い切って体を動かしてみよう。じっと椅子に座って考え込んだり、不安だからと布団にくるまっていてもどんどん悪い方向に思考が傾いてしまうだけだ。 それよりも、体を動かしたほうがいい。セロトニンが活性化し、脳が沈静化されてマイナスな思考が薄まってくれる。 これら3つの行動をすべて取り入れる必要はない。その時の自分に合ったものをどれかひとつでもいいので試してみれば、ノルアドレナリンという不安物質が消費されて、心は軽やかになってくれる』、「「すべての『行動』を細分化して行動のハードルを下げることで、苦しい状況でも『できる』ことを見つけられる」とし、3つの「確実に行動できる対処法(ToDo)」を提案」、「1.「話す」」、「2.「書く」、「3.「体を動かす」」、「これら3つの行動をすべて取り入れる必要はない。その時の自分に合ったものをどれかひとつでもいいので試してみれば、ノルアドレナリンという不安物質が消費されて、心は軽やかになってくれる」、なるほど。
・『「悩みの正体」を知れば、解決への道が見える ここで改めて「悩み」とは何か考えてみよう。 悩みとは、ある問題について、苦しみ、思い煩う状態であると著者は述べている。そして、その問題について「どうしたらいいのか」分からないから、人は悩むのだ。 つまり、その問題の対処法や解決法を知り(Know)、それを実行する、行動する(Do)といった悩み解決のプロセスを踏めば解決への道が見えてくる。 解決のプロセスに入る前に、自分が悩み不安に思っている問題を冷静に見つめ直すことが必要であり、それにはこれまでにお伝えしたように、書き出す作業が必要となってくる』、「自分が悩み不安に思っている問題を冷静に見つめ直すことが必要であり、それにはこれまでにお伝えしたように、書き出す作業が必要となってくる」、その通りだ。
・『悩みの対処法を調べ、ToDoに落とし込む 書き出した悩みについて、どのような対処法があるのか調べてみよう。調べると聞くと、ついインターネットで検索しがちだが、そこには誤った情報が書かれている場合があるので、必ず「本」で調べることが大切だ。 悩みの対処法が書かれている本から「ToDo」を3つ探し、1~2週間は実行し進捗具合を評価する。本書には次のような評価の手順が書かれている。 評価の手順1 うまくいっていない理由を3つ書く 評価の手順2 うまくいっている点を3つ書く 評価の手順3 次のToDoを3つ書く(P.27) 翌週は、手順3「次のToDo」を目標とする。これらを繰り返し習慣化することで、悩みはいつか消え去るというわけだ。 このように、自分の悩みを書き出し、その対処法を調べ、やるべきことを知り、行動することを2~3週間行うだけで、悩みの解決にかなりの効果があるという。 頭の中だけで考えているのではなく、行動することが大切なことは分かったが、それすらも億劫に感じるときもあるだろう。そんな時は、家から出て外の光を浴び、近所を散歩するだけでも気が晴れるものだ。 もしくは、友人や知人、その他の助けてくれそうな人を頼ってみればいい。そうやって他人の力を上手に利用して、話を聞いてもらうことで、負のループから抜け出すことができるかもしれない』、「家から出て外の光を浴び、近所を散歩するだけでも気が晴れるものだ。 もしくは、友人や知人、その他の助けてくれそうな人を頼ってみればいい。そうやって他人の力を上手に利用して、話を聞いてもらうことで、負のループから抜け出すことができるかもしれない」、なるほど。
・『コロナ禍に圧倒的に売れたストレス対処法 「読者からの感想」も続々! 「この本を読んで『死なないでほしい』という樺沢先生の言葉に助けられました。」(Mさん) 「紫苑さんの本や動画などはとても分かりやすい言葉になっているので多くの方がフォローしてるのだなと思います。」(Aさん) 「『行動』すれば『ストレスフリー』になることができる。ストレスの原因を取り除かなくとも、ストレスに振り回されない程度に小さくしてハッピーな毎日を送ることができる」(Hさん)』、なるほど。
・『精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」 著者からのメッセージ 私の臨床経験では、「几帳面でまじめな人ほどうつになりやすい」傾向を感じます。なぜなら、ストレスの原因を真正面から受け止め、不安になり、悩み続け、リセットできないからです。 悪いストレスをなくしていくことが、「ストレスフリーな人」になるためには重要です。 あなたの「考え方」「受け止め方」を少し変えるだけで、ストレスを受け流せるようになります。それだけで、「不安」や「悩み」の9割は消すことができます。 本書では、誰しもが悪いストレスを感じる「人間関係」「プライベート」「仕事」「メンタル」「健康」という5つのテーマに対し、「科学的なファクト」と「今すぐできるToDo」を示します。「いま何をすべきか」が明確になるでしょう。 精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」『ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社) 2年の歳月をかけて書き下ろした集大成! 超・現実的で役に立つノウハウ! 多くのビジネス書では、「ストレスから逃げろ」「ストレスなんか気にするな」という精神論が書かれていますが、そのようなアドバイスは非現実的です。 本書では、私の精神科医としての経験から、現実的であり、かつ、効果抜群のノウハウだけを紹介します。 不安、悩み、ストレスにとらわれない生き方。それができると、あなたの人生は間違いなく楽しく、明るく、達成感と自己成長が感じられる、幸せなものになります。生き方を変えるのは「今」です!』、「あなたの「考え方」「受け止め方」を少し変えるだけで、ストレスを受け流せるようになります。それだけで、「不安」や「悩み」の9割は消すことができます」、「生き方を変えるのは「今」です!」、いかにも効果がありそうだ。
第三に、12月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した演出家の鴻上尚史氏と脳科学者の中野信子氏による対談「鴻上尚史氏と中野信子氏が対談、日本は「好きなことをしていると叩かれる国」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/313766
・『不安がちで群れたり、集団からはみ出す人を攻撃したりしやすいのは日本人の特性…と諦めぎみによく言われます。日本人を縛る「同調圧力」とどう向き合えばいいのでしょうか?日々人間関係について考え続ける演出家の鴻上尚史氏と脳科学者の中野信子氏が、現代社会の息苦しさから抜け出し、心地良く生きるためのコミュニケーションについて語り尽くしました。鴻上氏はコロナ禍で「好きなことをしていてたたかれる国になった」と感じたそうです。また、サッカーW杯の日本代表選手への誹謗中傷も話題となりましたが、その根底にあるものについて考える、『同調圧力のトリセツ』(小学館新書)からの抜粋です』、興味深そうだ。
・『大人になった今だから言えること 鴻上 この国の閉塞感やレッテルの貼り方に対する抗議の挙げ方から考えると、僕と中野さんはそんなに違う方向を向いているとは感じられないんです。でも同じ方向を向いている人同士の対談は、実は面白くなかったりするんですよね。何を言っても、お互い、そのとおり、そのとおりで終わっちゃうから(笑)。 中野 そうですね。ある問題がタワーのように真ん中にあったとして、その問題を私が東側から見ていて、鴻上さんは西側から見てるような感じの対談になったらいいですよね。 鴻上 そうなるといいです。同じ方向、同じサイドからだとダメなので。 中野 私はずっと集団と個の関係に興味があるんです。鴻上さんは、作品の中で、排除されている人の視点で、どうして集団が生贄を必要とするのかを、すごく詩的に情緒的に書かれていますよね。まだ高校生くらいの頃に鴻上さんのスクリプトを読んで、これは同じ問題意識を持った人だ!と感銘を受けて、ボロボロになるまで読みました。あまりに読むので、もう3冊同じのを買っていると思います。 同じ軋(きし)みを見ている。でも私は何とか科学でこれを解決できないか、と取り組んできた。一方で、鴻上さんは経験的に、血の通う言葉を紡ぐことでそれを解決しようとしてこられたんじゃないかと思っています。その視点が組み合わさると、いわゆる上級国民になろうとする必要はないということや、自分のいるべきとされているところに長く留まり続ける必要はなく移動してもいいといった、柔軟な生き方のヒントを、若い人が見つけていけるように思うんです。 鴻上 でも、「上級国民にならなくてもいい」と言うと、屈折している読者の中には「中野信子が何を言ってんだ」と思う人がいるかもしれませんよ。中野さんは、家庭の事情で国立大学しか選択できなかったとしても、結局、東大に入ったわけですから』、「中野氏」が「高校生くらいの頃に鴻上さんのスクリプトを読んで、これは同じ問題意識を持った人だ!と感銘を受けて、ボロボロになるまで読みました。あまりに読むので、もう3冊同じのを買っていると思います」、さすがませた「高校生」だ。
・『浪人する人が激減した理由 中野 いやいや、私は勉強ができるという本当に一枚のカードしか持っていなかったんです。それも、中途半端ですよ。貧乏だし、両親もそこまで教育熱心かというとそうでもない。地位も名声も体力もない。背水の陣で受けた東大に受かったからよかったんですけど。本当のところは、早稲田カルチャーで育った卒業生の皆さんに多くの素敵な人がいて、憧れがあったので、お金があって早稲田に行ける人がうらやましかったですよ。 鴻上 何を言ってるんですか。中野さんみたいに、美人で勉強できるって、最強のカードですよ。ところで、予備校の先生に話を聞くと、僕や中野さんの時代に比べて、浪人をする人が十分の一以下に減っているそうです。 中野 そんなに減ったんですか。 鴻上 なぜ減ったかというと、一年浪人をして大学の偏差値を上げて、ワンランク上の大学に入る意味を見いだしにくくなってきたからだそうです。昔は、東大から早稲田・慶應…という大学のランクにグラデーションがありましたが、今は、浪人するなら、医学部か東大に入らない限りは意義がない。ぶっちゃけて言うと、今は東大とそれ以外の大学という認識なんです。 中野 そこに疑義が呈される時代なんですね。でも長者番付を見てもテレビを見ても、そんなに東大出身の方はいないじゃないですか?目立っている東大生は、東大に行ったことに甘えず、それ以上のことを自分でやってきた人達。大学名には大した価値はなく、自分で何をやるかが大切。大学名に甘えるように思考停止してしまって、若いうちから自分を磨くことをやめてしまった人たちの中年以降って、結構悲しいですよ。50歳になって、自慢できるのがセンター試験の点数しかないみたいな。30年以上も何やってたの。大人になった今だから言えることが、もっと若い人達に響いてほしいですね』、「予備校の先生に話を聞くと、僕や中野さんの時代に比べて、浪人をする人が十分の一以下に減っているそうです・・・ なぜ減ったかというと、一年浪人をして大学の偏差値を上げて、ワンランク上の大学に入る意味を見いだしにくくなってきたからだそうです」、そうであれば、「予備校」ビジネスも様変わりしたのだろう。
・『ハイコンテクストな日本のコミュニケーション 中野 編集の方のお話だと、今、コミュニケーションに関する本が売れているようです。みなさん、コミュニケーションに関して、悩んでるんですよね。鴻上さんの見立てでは、どうしてだと思いますか? 鴻上 僕の言葉で言うと、日本人が生きてきた「世間」が中途半端に壊れてきているからだと思います。「世間」とは、現在、もしくは将来の自分に関係のある人たち。学校のクラスメイトや会社の同僚、地域のサークルや親しい近所の人など自分が知っている人達によって作られている世界です。「世間」の反対語は「社会」だと僕は言ってるんですが、「社会」というのは現在も未来も何の関係もない人達で構成された世界です。道ですれ違った人とか、たまたま入ったコンビニの店員さん、電車で隣に座った人など、自分の知らない人達が作っている世界。日本人の多くは「世間」に生きて、「社会」とは接点が少ないのです。日本人は自分に関係のない「社会」の人とはなるべく関わらず、同時に関わり方がわからず、自分と関係のある「世間」の人を大切にします。結果、圧倒的に「世間」の中でしかコミュニケーションしていないんですが、この「世間」がどんどん中途半端に壊れてきているんです。 僕がよく例に出すのは、NHK紅白歌合戦。前の東京オリンピックがあった前年の1963年(昭和38年)には、視聴率はなんと81.3%もあったんです。それを頂点に1980年代前半までは、75%前後を維持していました。若い奴は信じませんが、ほぼ全部の歌をみんな歌えました。みんなが同じものを見て楽しんでいたんです。そんな時代は(本当は自分を抑えていた人が確実にいたでしょうが)コミュニケーションの断絶に悩んでいなくて、ツーと言えばカーで、なんとなくわかってしまっていた。 しかし、今は、大晦日に紅白歌合戦を見るかどうかだけでなく、そもそも、テレビを見るかどうか、動画をネットで見るかなど視聴行為だけみても多様化してきています。「同質であること」を維持できなくなっているんです。けれど、コミュニケーションのやり方は今までの「世間」のものを応用しているから、あちこちで軋(きし)みが生まれてしまっている。さらに、もう一方の「社会」とどう繋がっていいのかわからないまま、みんなが混乱して、なんとかしようと新たなコミュニケーションのやり方を探して、そういう本を求めているんじゃないかな。 中野 そうなんですね。私はずっと、人間がどうして個の意志と集団の意志が並列に存在する「不完全な社会性」しか持たず、共同体が一個体であるかのように振る舞う蟻や蜂のような「真社会性」を持たないんだろうと思っているんです。 鴻上 蟻や蜂は、すごく頑張って従う個体もいれば、全く働かない個体が二割くらいいて、働く蟻がバーンアウトしたり、動かなくなった時には、働かない蟻が登場して働きだすって言いますよね。 中野 個が「意志をもって働かない」のでなく、単に働かない蟻は、全体のバッファーの役割なんです。繰り返しになりますが、蟻や蜂は巣の全体が一つの生き物みたいなものなんです。) 鴻上 なるほど。僕のフィールドである劇団という集団で考えてみると、一番周りから能力が低いと評価されている人が、伸び伸びと生きられているかどうかが、その劇団の集団としての健全さの目安だと僕は思っています。30人の集団がいれば、一人くらいは遅刻の常習犯だったり、作業を頼んでもできなかったり、必ずオーダーを間違えてしまう人がいる。そういう人達がプレッシャーを受けていられなくなる集団は、とても息苦しい集団だと言えます。 中野 でも、そんなに集団が大事なら、どうして人間にはそれに反するように、個人に強い意志や意識があるのか不思議なんですよね。 鴻上 集団に奉仕するためだったら、個人の意志なんていらないんじゃないかということですか? 中野 いえ、個人の意志を否定したいのではなくて、なぜ真社会性にならないんだろう?という単純な興味です。まあ効率重視なら真社会性ですよね。蟻や蜂と同じ。でも人間は個人の自由に価値を重く置いていたりする。それなのに、みんなのためにと思って個人の意志を時には潰したりもしていて、その間を揺れ動いている不完全な社会性が面白く見えるんです。一貫性を求めるわりには、柔軟に対応しろと言われることもあって、コミュニケーションを介して個体同士が複雑に絡み合っているように見えます。 そもそも、私は「どうして人と同じような振る舞いができないの?」と言われたり、「変わってるね」と言われたりして、集団になじめないところがあったんですが、自分自身はあまり変わったところはなく、凡庸な人間だと思うんです。 鴻上 変わっていることと凡庸はイコールではないんじゃないですか。「変わってる」ということは、他人の言葉の受け取り方が変だということで、変わっていて凡庸じゃない人と、変わっていて凡庸な人がいる気がします』、「日本人の多くは「世間」に生きて、「社会」とは接点が少ないのです。日本人は自分に関係のない「社会」の人とはなるべく関わらず、同時に関わり方がわからず、自分と関係のある「世間」の人を大切にします。結果、圧倒的に「世間」の中でしかコミュニケーションしていないんですが、この「世間」がどんどん中途半端に壊れてきているんです」、「中野 ・・・私はずっと、人間がどうして個の意志と集団の意志が並列に存在する「不完全な社会性」しか持たず、共同体が一個体であるかのように振る舞う蟻や蜂のような「真社会性」を持たないんだろうと思っているんです。 鴻上 蟻や蜂は、すごく頑張って従う個体もいれば、全く働かない個体が二割くらいいて、働く蟻がバーンアウトしたり、動かなくなった時には、働かない蟻が登場して働きだすって言いますよね。 中野 個が「意志をもって働かない」のでなく、単に働かない蟻は、全体のバッファーの役割なんです。繰り返しになりますが、蟻や蜂は巣の全体が一つの生き物みたいなものなんです」、なるほど。
・『日本人がコミュニケーションに悩む脳科学的な理由とは 中野 おそらく一般的な意見の受け取り方が、私は下手くそなんですよね。でも私みたいに受け取り方が下手なほうが、なぜかコミュニケーションに悩まずにいられて、受け取り方が上手な人のほうがめちゃくちゃ巻き込まれて、大変な思いをして悩んでいる。むしろ受け取れない側からすると、悩んでいることがうらやましい感じさえします。 鴻上 脳科学的には、日本人がコミュニケーションに悩むというのは、どういった分析になりますか?) 中野 脳科学的に、というよりは比較言語論のような話になってしまいますが、日本の、あるいは日本語話者のコミュニケーションのあり方は、ハイコンテクストだと言われますよね。まさに「空気を読む」という表現もありますけど、こんなの日本語だけ。一つの単語が表す意味が重層的であったり、同音異義語も多くて、意味をあえて特定しにくくしているフシすらある。表情や声のトーンなど言葉以外の情報に頼ることも頻繁にあります。受け取る側のリテラシーが試される言語です。さらに、失敗してしまった時のペナルティも大きい。このペナルティの大きさは「社会性の強さ」とも言えます。日本がこのような独特の社会を形成した要因の一つには、災害が多いことも関連していると思います。 鴻上 「社会性の強さ」とは僕の言う「世間性の強さ」ということですよね。同じ「世間」に生きているなら、言葉がハイコンテクストでも成立します。逆に言うと、「世間」の団結を強めるためには、ほかの集団には通じない符牒(ふちょう)、独特な言葉を使うことが大事になる。ほかの集団には通じない言葉を使えば使うほど、同じ集団に属す我々は一つだという快感を覚えることになります。 中野 思考停止していても安全、ということですしね。 鴻上 その符牒を読み間違えてしまうと、我々の「世間」には所属していない者だと認定され、強烈な制裁がやってくるわけです。 中野 共同体を破壊し、安全な思考停止状態を破る危険な異物として排除されてしまうんですよね』、「「社会性の強さ」とは僕の言う「世間性の強さ」ということ」、「「世間」の団結を強めるためには、ほかの集団には通じない符牒(ふちょう)、独特な言葉を使うことが大事になる。ほかの集団には通じない言葉を使えば使うほど、同じ集団に属す我々は一つだという快感を覚えることになります・・・鴻上 その符牒を読み間違えてしまうと、我々の「世間」には所属していない者だと認定され、強烈な制裁がやってくるわけです。 中野 共同体を破壊し、安全な思考停止状態を破る危険な異物として排除されてしまうんですよね」、さすがに深い考察だ。
・『好きなことをしているとたたかれる国 鴻上 コロナの影響で国から自粛を求められた時に、「演劇界を含め、自粛要請でダメージを受けた業界には、休業補償をお願いしたい」とインタビューで話したら、そのインタビューをネットで読んだ人から「好きなことをやっているんだから、貧乏でいいだろう」という反応があったんです。 中野 同じ時期に、日本俳優連合の理事長を務める西田敏行(にしだとしゆき)さんが、俳優の窮状を訴える要望書を国に提出したら、同じようにバッシングされてしまったことをよく覚えています。「好きなことをやっていると責められてしまう国って何なのかな…」とすごくモヤモヤとした気持ちになりました。) 鴻上 好きなことをやっていると、ネットで攻撃されるのはどうしてだろうと疑問を感じて、エッセイに「街のラーメン屋さんを含め、自分で事業を始めた個人事業主は、今はコロナ禍で苦しいかもしれないけれど、たぶん好きなことをやろうとした人達。サラリーマンは半分半分くらいで、今増えている非正規雇用の人たちは、好きなこととは遠いことをやっているんじゃないだろうか」と、書いたんです。そうしたらそのエッセイがネットにアップされた数時間後には、「好きなことをやっていないのは非正規」と僕が言っているというスレッドがネット上に立っていて驚きました。 中野 え…! 鴻上 そのスレッドをよく読んでみると、僕のエッセイの一部分しか抜粋していないんですよ。だから、それを元にして呟いていた人に、「全文を読んでください」と丁寧に一人一人レスポンスをしたんですが、今度は「鴻上が憑(つ)いた」というツイートが出てきて、その瞬間、「なんでこの暗闇に僕は石を投げてるんだろう?」と我に返りました。 中野 書かれていることを、意図的に歪めて読み取ったり、アクセス数を伸ばすために敢(あ)えて人の気持ちを逆なでするように切りとったりする人はいますよね。それにしても、好きなことをやっている人がとがめられる時代というのは、本当に闇だなと…。 鴻上 自分が好きなことをしていないから、好きなことをやっていると思われる人を見たら、許せないと感じてしまうんだとしたら、これは脳科学的にはいわゆる嫉妬になるんですか? 中野 はい。嫉妬、というか正確には妬みですね。自分は我慢をしているのに、あの人だけは好きなことをやっていて「ずるい」と認識すると、その人を攻撃せずにはいられなくなる。 私はその点で標的になりやすい人達の代表例として、スポーツ選手が挙げられるのではないかと感じています。「国のために頑張ります」と言うのは許されても、「楽しんできます」と言うのは許されない。もし楽しんで結果を出せば、賞賛されるかもしれませんが、結果が出ないと、成績とは関係がない、例えば、ファッションや化粧のことまで槍(や)り玉(だま)に挙げられて非難されてしまう。好きなように生きていることが、これほど罪のようにとがめられてしまうことに、危惧を覚えます』、「自分が好きなことをしていないから、好きなことをやっていると思われる人を見たら、許せないと感じてしまうんだとしたら、これは脳科学的にはいわゆる嫉妬になるんですか? 中野 はい。嫉妬、というか正確には妬みですね」、「妬み」が根底にあるとはイヤな社会だ。
・『色眼鏡をかけるほうが人間にとって快適 鴻上 確かに僕は好きな演劇を仕事にしているのですが、好きなことを仕事にすることは、ただ「楽しい」とか「嬉しい」ということではないんです。好きなことを仕事にした人なら、みんな直面すると思うんですが、好きなことを仕事にするために、やらなければいけない「好きでないこと」が、かなりの量あるんです。 演劇で言えば、よくファンの人達が使う「大人の事情」というものも実際にあって、思ったとおりにできないことも多々ある。うかうかしていると演劇そのものをどんどん嫌いになるような出来事もある。そういったことを全部無視されて「好きなことをやってるんだから文句を言うな」と言われてしまうと、すごい無力感にとらわれますね。) 中野 「好きなことをやっている」ということにマスクされてしまって、その人が実際どんな状況にあり、なにを考えているのかまで見えていない。解像度がすごく粗くなっているんですよね。私たちの脳は、自分の身の回りの人のことはよく見えるんですが、自分の集団にはいない人のことは、記号のようにしか認知できません。つまりよそ者のことは、記号だから攻撃してもいいんだと思ってしまうんです。 鴻上 そこをどう乗り越えていくか、ということですよね。 万が一、自分が攻撃の標的になってしまった時は 中野 「努力して変えていきましょう」というのは、基本的に機能しない呼びかけだと思っているんです。場合によっては、より悪い状況にもなる。努力できる人だけが損をし続けていく仕組みだからです。努力できない時間はそれができないということ。何か一つ努力しだすと他のことができなくなるくらい、人間の脳というのは努力には向いていません。さらに、仲間として認知できる人数は、百五十人と言われていて、それ以上の人たちは、記号としてしか扱えない残念な脳なんですよ。私達はそもそも色眼鏡をかけて生まれてきている、ということを知るしか方法はないように思います。 鴻上 人間はそうやって色眼鏡をかけるほうが快感というか、快適だから、色眼鏡をかけるわけですよね。 中野 ええ。だから、自分が気持ちよさに負けて誰かを攻撃しそうになった時に、「いけない、私、色眼鏡をかけてたわ」と気づくきっかけをどこかに置いておくことが大事です。逆に、万が一、自分がその攻撃の標的になってしまった時は、「あの人、色眼鏡が外せてないな」と思えるよう、心算をしておくことをおすすめしたいです』、「自分が気持ちよさに負けて誰かを攻撃しそうになった時に、「いけない、私、色眼鏡をかけてたわ」と気づくきっかけをどこかに置いておくことが大事です。逆に、万が一、自分がその攻撃の標的になってしまった時は、「あの人、色眼鏡が外せてないな」と思えるよう、心算をしておくことをおすすめしたいです」、さすが中野氏だけに味わいのある言葉だ。
先ずは、9月3日付け東洋経済オンラインが掲載した精神科医のアンデシュ・ハンセン氏による「脳に良い習慣と「脳に悪い心理状態」の決定的事実 ストレスや不安は海馬や前頭葉を萎縮させてしまう」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/614884
・『ストレスは脳にダメージを与え、海馬や前頭葉が小さくなることも。『運動脳』著者で世界的精神科医のアンデシュ・ハンセン氏が「ちょっとしたイライラ」が脳に静かに与えるダメージ、とっておきのストレス解毒剤として運動の効果を解説します。散歩からストレス解消効果が期待できます。 ストレスは脳を小さくする。そして記憶や発話、感情の制御といった機能に問題を生じさせる。 ストレスを感じると、まず脳の扁桃体が反応し、視床下部→下垂体→副腎へと身体の上から下へ刺激が伝わる。副腎から「コルチゾール」というホルモンが分泌されると、動悸は激しくなる。この一連の反応はほんの1秒ほどで起きるが、これは人類の生存に欠かせないからだ。生存の可能性を増やすものがあるとすれば、危険な状況に出くわしたとき、ただちに逃走をうながす警報システム。扁桃体の機能が、まさにそれにあたる。 扁桃体は、ストレス反応を引き起こすだけでなく、そのストレス反応によっても刺激を受けてしまう。扁桃体が危険を知らせ、それに反応してコルチゾールの血中濃度が上がると、扁桃体がさらに興奮する。ストレスがストレスを呼ぶ悪循環だ。 体内には、このストレス反応を緩和し、興奮やパニック発作を防ぐブレーキペダルが備わっている。その1つが「海馬」だ。海馬は記憶中枢として知られるが、感情を暴走させないブレーキとしても働いている』、「ストレスを感じると、まず脳の扁桃体が反応し、視床下部→下垂体→副腎へと身体の上から下へ刺激が伝わる。副腎から「コルチゾール」というホルモンが分泌されると、動悸は激しくなる。この一連の反応はほんの1秒ほどで起きるが、これは人類の生存に欠かせないからだ」、「扁桃体は、ストレス反応を引き起こすだけでなく、そのストレス反応によっても刺激を受けてしまう・・・ストレスがストレスを呼ぶ悪循環だ」、「体内には、このストレス反応を緩和し、興奮やパニック発作を防ぐブレーキペダルが備わっている。その1つが「海馬」だ。海馬は記憶中枢として知られるが、感情を暴走させないブレーキとしても働いている」、実によく出来た仕組みだ。
・『イライラで海馬が縮小する ストレスそのものは生存に必要な機能だ。闘争、あるいは逃走しなくてはならない重大な局面では、エネルギーが余計に必要となるためコルチゾールが増えることは役に立つ。しかし、海馬の細胞は、コルチゾールに長時間さらされると死んでしまう。慢性的にコルチゾールが分泌されると、海馬は萎縮してしまうのだ。 これは記憶に直結する問題で、重いストレス反応を抱えた状態が続くと、言葉がうまく出てこなかったり、場所の認識ができなくなったりする。海馬は空間認識にも関わっているため、自分の場所や方向がわからなくなる可能性も出てくる。) 扁桃体がストレス反応を引き起こしつづけると、海馬のブレーキはすり減ってしまう。アクセルである扁桃体は、海馬が萎縮してブレーキが利かなくなると暴走を始める。こうして、ストレスがさらにストレスを生むサイクルに入る。 長期的なストレスは脳に損傷を与える。重いストレスや不安を抱える人の脳を調べると、実際に海馬が平均よりわずかに小さいことがわかる。おそらくコルチゾールによって、ゆっくりと蝕まれたためだろう』、「扁桃体がストレス反応を引き起こしつづけると、海馬のブレーキはすり減ってしまう。アクセルである扁桃体は、海馬が萎縮してブレーキが利かなくなると暴走を始める。こうして、ストレスがさらにストレスを生むサイクルに入る」、恐ろしいことだ。
・『心配するたび「前頭葉」が小さくなる ストレスや不安で小さくなるのは海馬だけでない。抽象的思考や分析的思考を行う、額のすぐうしろ「前頭葉」も萎縮する。実際、極度の心配性の人は前頭葉の各部位が小さい。 前頭葉もまた、感情を暴走させず、理性を失った行動に出ないよう働くクールダウンの器官だ。その前頭葉が萎縮すれば、ストレスが長引いて脳はみずからを蝕み、歯止めはさらに利かなくなる。扁桃体がやたらと警告を発し、前頭葉がそれを打ち消すことができなければ、ほんの些細なことにも大げさに反応するようになる。 では、ストレス反応を抑えるにはどうすればいいのか。「磁気による刺激を前頭葉に与えて活動を促す」療法が実在するように、ストレスを抑えたければ、脳の思考領域、つまり海馬と前頭葉の機能をうながせばいい。この2つの部位は、ともに体を活発に動かすことで何より刺激を受ける部位である。 まず、ランニングやサイクリングなどの運動をすると、それを続けている間はコルチゾールの分泌量が増える。体に負荷がかかる運動は一種のストレスだからだ。 筋肉を適切に動かすには、より多くのエネルギーや酸素が必要なので、血流を増やそうとして心臓の鼓動は激しくなる。そして心拍数と血圧が上昇する。この場合のコルチゾールの働きは正常で、体を動かすために必要な反応だ。 しかし運動が終われば、体はもうストレス反応を必要としないので、コルチゾールの分泌量は減り、さらにランニング前のレベルにまで下がっていく。ランニングを習慣づけると、走っているときのコルチゾールの分泌量は次第に増えにくくなり、走り終えたときに下がる量は逆に増えていく。) ここからがおもしろいところで、定期的に運動を続けると、運動以外のことが原因のストレスでも、コルチゾールの分泌量はわずかしか上がらなくなる。運動によるものでも仕事に関わるものでも、ストレスに対する反応は、体が運動で鍛えられるにしたがって徐々に抑えられるのだ。つまり運動が、ストレスに対して過剰に反応しないよう体をしつけるのである。体を活発に動かしたことでストレスに対する抵抗力が高まる。 運動は前頭葉を強くもする。体を活発に動かすと脳の血流が増える。前頭葉にたちまち大量に血液が流れ、機能が促進される。さらに、運動を長期にわたって続けると、前頭葉に新しい血管がつくられ、血液や酸素の供給量が増加、それによって老廃物がしっかり取り除かれる。 加えて、定期的に運動すれば、前頭葉と扁桃体の連携も強化される。そうなると、前頭葉はさらに効率よく扁桃体を制御できるようになる。教師が離れた場所から生徒を監督するのではなく、教室にいて直接指導するようなものだ。 定期的な運動を続ければ、前頭葉は物理的に成長までする。1時間程度の散歩を習慣にしている成人の前頭葉を定期的に測定した結果、前頭葉を含む大脳皮質が成長していたのだ。歩くと前頭葉が大きくなる。信じられないような事実である』、「ストレスに対する反応は、体が運動で鍛えられるにしたがって徐々に抑えられるのだ。つまり運動が、ストレスに対して過剰に反応しないよう体をしつけるのである」、「運動が」「体をしつける」とは面白い表現だ。「1時間程度の散歩を習慣にしている成人の前頭葉を定期的に測定した結果、前頭葉を含む大脳皮質が成長していた」、私も「1時間程度の散歩」を日課にしているので、「大脳皮質が成長」している筈だ。なんだか嬉しくなる。
・『運動とストレスは「正反対」に作用する 運動とストレスに関するさまざまな研究論文に目を通していると、ある事実が浮かび上がってくる。ストレスと運動は、ほぼ正反対の作用を脳に与えているのだ。 ・ストレスが増してコルチゾールの血中濃度が高くなると、脳内で情報を伝達する機能が妨げられる。運動は逆にその機能を高める。 ・ストレスは脳の変化する特性(可塑性)を損なわせるが、運動はそれを高める。 ・ストレスが高まると短期記憶(数分から数時間の記憶)が長期記憶に変わる仕組みにブレーキがかかる。運動はその逆に作用を促す。 運動は、ストレスや不安を消し去る本物の解毒剤だ。週に2,3回は心拍数が増えるようなランニングなどの有酸素運動をお勧めしたい。たとえ動悸が激しくなっても、脳はそれがストレスから来るものではなく、プラスの変化をもたらすものだと学習する。ただ散歩に出かけるだけでもいい。活発に体を動かしたときほどではないにしても、ストレスを抑える効果は望める』、「週に2,3回は心拍数が増えるようなランニングなどの有酸素運動をお勧めしたい」、私の場合は、「ランニング」の代わりに速足をしている。
次に、10月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した書籍オンライン編集部による「精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/310726
・『コロナ禍、ウクライナ危機、急激なインフレ…。いつ何が起こるかわからない世界を生きる私たちは、どんな変化にも対応できるようにストレスへの対処法を知っておく必要がある。そこでおすすめしたいのが、『ストレスフリー超大全』。多くの人がストレスを感じる「人間関係」「プライベート」「仕事」「健康」「メンタル」の5つのテーマに対して科学的ファクトと対処するためのToDoがまとまった1冊だ。本書を執筆した精神科医の樺沢紫苑氏は、「ストレスは耐え忍ぶものではなく、しなやかに受け流すことが必要である」と言う。本記事では、本書をもとに現代人に必須のストレスの対処法をご紹介する』、「「ストレスは耐え忍ぶものではなく、しなやかに受け流すことが必要である」、というのは興味深い見解だ。
・『精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」 不安になるのは、なぜか? ストレスはマイナスなイメージがあるが、「いいストレス」もあると本書で樺沢氏は述べている。 適度なストレスは、脳の働きを活性化し、集中力を研ぎ澄まし、記憶力を高めます(P.3) しかし注意しなければいけないのは、「過剰なストレス」だ。 仕事、人間関係、将来不安などで悩み続けると思考停止に陥る。そして、その状態で耐え忍んでしまうとストレスが蓄積していく。やがて、心身をむしばむ「悪いストレス」に変化してしまう。 ではなぜ、人は不安になるのだろうか? 人間が緊張、不安、恐怖の感情を持つと脳内物質の「ノルアドレナリン」が分泌される。 このノルアドレナリンは「闘争か、競争か」の物質と言われている。この物質について、本書にはこう書かれている。 ノルアドレナリンが分泌されると脳が研ぎ澄まされ、集中力が高まり、どうすればいいのか一瞬で判断できるようになります(P.20) 不安や恐怖といったピンチに対して、「さっさと行動しろ!」とノルアドレナリンは私たちに警告してくれているのだ』、「分泌されると脳が研ぎ澄まされ、集中力が高まり、どうすればいいのか一瞬で判断できるようになります」、有難い効用があるようだ。
・『「行動すること」が不安を減らす しかし、ノルアドレナリンの警告を無視し、思考停止になったまま行動を起こさないと、不安は増えていく。 月曜日に大切な会議があるあなたは不安で不安で仕方がない。最悪の事態を想像してしまい、何もする気になれず家に閉じこもっていたのに、休んだ気がしない。不安は増すばかり。そんな日曜の夜を過ごしたことはないだろうか。 しかし、不測の事態に備えた前向きな行動を起こしていたらどうなるか。 前向きな行動を始めると、ノルアドレナリンという行動するためのガソリンが消費され、「行動によるガソリン消費→ノルアドレナリン減少→不安逓減→気持ちが楽になる」という流れが起こる。 本書には、このように書かれている。 不安を消すことは簡単です。「行動する」ことです。いきなり不安が「ゼロ」にならないまでも、行動することで、不安は必ず軽くなります。「何もしない」と強まるだけなので、何かするだけで気分は変わります(P21)』、「前向きな行動を始めると、ノルアドレナリンという行動するためのガソリンが消費され、「行動によるガソリン消費→ノルアドレナリン減少→不安逓減→気持ちが楽になる」という流れが起こる」、なるほど。
・『「行動を細分化」して悩みを解決! 「行動する」ことが大切だとは分かった。しかし、不安や悩みを抱えた状況で前向きな行動ができないのも正直なところだ。 それについて著者は、「すべての『行動』を細分化して行動のハードルを下げることで、苦しい状況でも『できる』ことを見つけられる」とし、3つの「確実に行動できる対処法(ToDo)」を提案している。 1.「話す」(人に話してみたら、心がスッキリしたことはないだろうか。別にアドバイスがもらえなくてもいいのだ。 悩みや不安について同じことをグルグル考え悶々としているより、不安な気持ちを放出することで少しばかりスッキリした気持ちが味わえるものだ。 しかし注意しなければならないのは、不安や悩みを話すのも加減する必要があることだ。延々と聞かされる相手の身になり、不安や悩みは簡潔にまとめ、最後は前向きな言葉で終えることを心掛けたい。) 2.「書く」(不安や悩みというのは、ぼんやりとしたものになりがちだ。そんなときは、無心になって書き出してみよう。 「何について悩んでいるのか」「なぜ悩んでいるのか」を書き出すことで案外、不要な悩みだったことに気づくかもしれない。 手を動かし紙に書き出すという行動は、自分を冷静に見つめ直す作業となる。) 3.「体を動かす」(何をしても不安が拭えないときは、思い切って体を動かしてみよう。じっと椅子に座って考え込んだり、不安だからと布団にくるまっていてもどんどん悪い方向に思考が傾いてしまうだけだ。 それよりも、体を動かしたほうがいい。セロトニンが活性化し、脳が沈静化されてマイナスな思考が薄まってくれる。 これら3つの行動をすべて取り入れる必要はない。その時の自分に合ったものをどれかひとつでもいいので試してみれば、ノルアドレナリンという不安物質が消費されて、心は軽やかになってくれる』、「「すべての『行動』を細分化して行動のハードルを下げることで、苦しい状況でも『できる』ことを見つけられる」とし、3つの「確実に行動できる対処法(ToDo)」を提案」、「1.「話す」」、「2.「書く」、「3.「体を動かす」」、「これら3つの行動をすべて取り入れる必要はない。その時の自分に合ったものをどれかひとつでもいいので試してみれば、ノルアドレナリンという不安物質が消費されて、心は軽やかになってくれる」、なるほど。
・『「悩みの正体」を知れば、解決への道が見える ここで改めて「悩み」とは何か考えてみよう。 悩みとは、ある問題について、苦しみ、思い煩う状態であると著者は述べている。そして、その問題について「どうしたらいいのか」分からないから、人は悩むのだ。 つまり、その問題の対処法や解決法を知り(Know)、それを実行する、行動する(Do)といった悩み解決のプロセスを踏めば解決への道が見えてくる。 解決のプロセスに入る前に、自分が悩み不安に思っている問題を冷静に見つめ直すことが必要であり、それにはこれまでにお伝えしたように、書き出す作業が必要となってくる』、「自分が悩み不安に思っている問題を冷静に見つめ直すことが必要であり、それにはこれまでにお伝えしたように、書き出す作業が必要となってくる」、その通りだ。
・『悩みの対処法を調べ、ToDoに落とし込む 書き出した悩みについて、どのような対処法があるのか調べてみよう。調べると聞くと、ついインターネットで検索しがちだが、そこには誤った情報が書かれている場合があるので、必ず「本」で調べることが大切だ。 悩みの対処法が書かれている本から「ToDo」を3つ探し、1~2週間は実行し進捗具合を評価する。本書には次のような評価の手順が書かれている。 評価の手順1 うまくいっていない理由を3つ書く 評価の手順2 うまくいっている点を3つ書く 評価の手順3 次のToDoを3つ書く(P.27) 翌週は、手順3「次のToDo」を目標とする。これらを繰り返し習慣化することで、悩みはいつか消え去るというわけだ。 このように、自分の悩みを書き出し、その対処法を調べ、やるべきことを知り、行動することを2~3週間行うだけで、悩みの解決にかなりの効果があるという。 頭の中だけで考えているのではなく、行動することが大切なことは分かったが、それすらも億劫に感じるときもあるだろう。そんな時は、家から出て外の光を浴び、近所を散歩するだけでも気が晴れるものだ。 もしくは、友人や知人、その他の助けてくれそうな人を頼ってみればいい。そうやって他人の力を上手に利用して、話を聞いてもらうことで、負のループから抜け出すことができるかもしれない』、「家から出て外の光を浴び、近所を散歩するだけでも気が晴れるものだ。 もしくは、友人や知人、その他の助けてくれそうな人を頼ってみればいい。そうやって他人の力を上手に利用して、話を聞いてもらうことで、負のループから抜け出すことができるかもしれない」、なるほど。
・『コロナ禍に圧倒的に売れたストレス対処法 「読者からの感想」も続々! 「この本を読んで『死なないでほしい』という樺沢先生の言葉に助けられました。」(Mさん) 「紫苑さんの本や動画などはとても分かりやすい言葉になっているので多くの方がフォローしてるのだなと思います。」(Aさん) 「『行動』すれば『ストレスフリー』になることができる。ストレスの原因を取り除かなくとも、ストレスに振り回されない程度に小さくしてハッピーな毎日を送ることができる」(Hさん)』、なるほど。
・『精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」 著者からのメッセージ 私の臨床経験では、「几帳面でまじめな人ほどうつになりやすい」傾向を感じます。なぜなら、ストレスの原因を真正面から受け止め、不安になり、悩み続け、リセットできないからです。 悪いストレスをなくしていくことが、「ストレスフリーな人」になるためには重要です。 あなたの「考え方」「受け止め方」を少し変えるだけで、ストレスを受け流せるようになります。それだけで、「不安」や「悩み」の9割は消すことができます。 本書では、誰しもが悪いストレスを感じる「人間関係」「プライベート」「仕事」「メンタル」「健康」という5つのテーマに対し、「科学的なファクト」と「今すぐできるToDo」を示します。「いま何をすべきか」が明確になるでしょう。 精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」『ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社) 2年の歳月をかけて書き下ろした集大成! 超・現実的で役に立つノウハウ! 多くのビジネス書では、「ストレスから逃げろ」「ストレスなんか気にするな」という精神論が書かれていますが、そのようなアドバイスは非現実的です。 本書では、私の精神科医としての経験から、現実的であり、かつ、効果抜群のノウハウだけを紹介します。 不安、悩み、ストレスにとらわれない生き方。それができると、あなたの人生は間違いなく楽しく、明るく、達成感と自己成長が感じられる、幸せなものになります。生き方を変えるのは「今」です!』、「あなたの「考え方」「受け止め方」を少し変えるだけで、ストレスを受け流せるようになります。それだけで、「不安」や「悩み」の9割は消すことができます」、「生き方を変えるのは「今」です!」、いかにも効果がありそうだ。
第三に、12月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した演出家の鴻上尚史氏と脳科学者の中野信子氏による対談「鴻上尚史氏と中野信子氏が対談、日本は「好きなことをしていると叩かれる国」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/313766
・『不安がちで群れたり、集団からはみ出す人を攻撃したりしやすいのは日本人の特性…と諦めぎみによく言われます。日本人を縛る「同調圧力」とどう向き合えばいいのでしょうか?日々人間関係について考え続ける演出家の鴻上尚史氏と脳科学者の中野信子氏が、現代社会の息苦しさから抜け出し、心地良く生きるためのコミュニケーションについて語り尽くしました。鴻上氏はコロナ禍で「好きなことをしていてたたかれる国になった」と感じたそうです。また、サッカーW杯の日本代表選手への誹謗中傷も話題となりましたが、その根底にあるものについて考える、『同調圧力のトリセツ』(小学館新書)からの抜粋です』、興味深そうだ。
・『大人になった今だから言えること 鴻上 この国の閉塞感やレッテルの貼り方に対する抗議の挙げ方から考えると、僕と中野さんはそんなに違う方向を向いているとは感じられないんです。でも同じ方向を向いている人同士の対談は、実は面白くなかったりするんですよね。何を言っても、お互い、そのとおり、そのとおりで終わっちゃうから(笑)。 中野 そうですね。ある問題がタワーのように真ん中にあったとして、その問題を私が東側から見ていて、鴻上さんは西側から見てるような感じの対談になったらいいですよね。 鴻上 そうなるといいです。同じ方向、同じサイドからだとダメなので。 中野 私はずっと集団と個の関係に興味があるんです。鴻上さんは、作品の中で、排除されている人の視点で、どうして集団が生贄を必要とするのかを、すごく詩的に情緒的に書かれていますよね。まだ高校生くらいの頃に鴻上さんのスクリプトを読んで、これは同じ問題意識を持った人だ!と感銘を受けて、ボロボロになるまで読みました。あまりに読むので、もう3冊同じのを買っていると思います。 同じ軋(きし)みを見ている。でも私は何とか科学でこれを解決できないか、と取り組んできた。一方で、鴻上さんは経験的に、血の通う言葉を紡ぐことでそれを解決しようとしてこられたんじゃないかと思っています。その視点が組み合わさると、いわゆる上級国民になろうとする必要はないということや、自分のいるべきとされているところに長く留まり続ける必要はなく移動してもいいといった、柔軟な生き方のヒントを、若い人が見つけていけるように思うんです。 鴻上 でも、「上級国民にならなくてもいい」と言うと、屈折している読者の中には「中野信子が何を言ってんだ」と思う人がいるかもしれませんよ。中野さんは、家庭の事情で国立大学しか選択できなかったとしても、結局、東大に入ったわけですから』、「中野氏」が「高校生くらいの頃に鴻上さんのスクリプトを読んで、これは同じ問題意識を持った人だ!と感銘を受けて、ボロボロになるまで読みました。あまりに読むので、もう3冊同じのを買っていると思います」、さすがませた「高校生」だ。
・『浪人する人が激減した理由 中野 いやいや、私は勉強ができるという本当に一枚のカードしか持っていなかったんです。それも、中途半端ですよ。貧乏だし、両親もそこまで教育熱心かというとそうでもない。地位も名声も体力もない。背水の陣で受けた東大に受かったからよかったんですけど。本当のところは、早稲田カルチャーで育った卒業生の皆さんに多くの素敵な人がいて、憧れがあったので、お金があって早稲田に行ける人がうらやましかったですよ。 鴻上 何を言ってるんですか。中野さんみたいに、美人で勉強できるって、最強のカードですよ。ところで、予備校の先生に話を聞くと、僕や中野さんの時代に比べて、浪人をする人が十分の一以下に減っているそうです。 中野 そんなに減ったんですか。 鴻上 なぜ減ったかというと、一年浪人をして大学の偏差値を上げて、ワンランク上の大学に入る意味を見いだしにくくなってきたからだそうです。昔は、東大から早稲田・慶應…という大学のランクにグラデーションがありましたが、今は、浪人するなら、医学部か東大に入らない限りは意義がない。ぶっちゃけて言うと、今は東大とそれ以外の大学という認識なんです。 中野 そこに疑義が呈される時代なんですね。でも長者番付を見てもテレビを見ても、そんなに東大出身の方はいないじゃないですか?目立っている東大生は、東大に行ったことに甘えず、それ以上のことを自分でやってきた人達。大学名には大した価値はなく、自分で何をやるかが大切。大学名に甘えるように思考停止してしまって、若いうちから自分を磨くことをやめてしまった人たちの中年以降って、結構悲しいですよ。50歳になって、自慢できるのがセンター試験の点数しかないみたいな。30年以上も何やってたの。大人になった今だから言えることが、もっと若い人達に響いてほしいですね』、「予備校の先生に話を聞くと、僕や中野さんの時代に比べて、浪人をする人が十分の一以下に減っているそうです・・・ なぜ減ったかというと、一年浪人をして大学の偏差値を上げて、ワンランク上の大学に入る意味を見いだしにくくなってきたからだそうです」、そうであれば、「予備校」ビジネスも様変わりしたのだろう。
・『ハイコンテクストな日本のコミュニケーション 中野 編集の方のお話だと、今、コミュニケーションに関する本が売れているようです。みなさん、コミュニケーションに関して、悩んでるんですよね。鴻上さんの見立てでは、どうしてだと思いますか? 鴻上 僕の言葉で言うと、日本人が生きてきた「世間」が中途半端に壊れてきているからだと思います。「世間」とは、現在、もしくは将来の自分に関係のある人たち。学校のクラスメイトや会社の同僚、地域のサークルや親しい近所の人など自分が知っている人達によって作られている世界です。「世間」の反対語は「社会」だと僕は言ってるんですが、「社会」というのは現在も未来も何の関係もない人達で構成された世界です。道ですれ違った人とか、たまたま入ったコンビニの店員さん、電車で隣に座った人など、自分の知らない人達が作っている世界。日本人の多くは「世間」に生きて、「社会」とは接点が少ないのです。日本人は自分に関係のない「社会」の人とはなるべく関わらず、同時に関わり方がわからず、自分と関係のある「世間」の人を大切にします。結果、圧倒的に「世間」の中でしかコミュニケーションしていないんですが、この「世間」がどんどん中途半端に壊れてきているんです。 僕がよく例に出すのは、NHK紅白歌合戦。前の東京オリンピックがあった前年の1963年(昭和38年)には、視聴率はなんと81.3%もあったんです。それを頂点に1980年代前半までは、75%前後を維持していました。若い奴は信じませんが、ほぼ全部の歌をみんな歌えました。みんなが同じものを見て楽しんでいたんです。そんな時代は(本当は自分を抑えていた人が確実にいたでしょうが)コミュニケーションの断絶に悩んでいなくて、ツーと言えばカーで、なんとなくわかってしまっていた。 しかし、今は、大晦日に紅白歌合戦を見るかどうかだけでなく、そもそも、テレビを見るかどうか、動画をネットで見るかなど視聴行為だけみても多様化してきています。「同質であること」を維持できなくなっているんです。けれど、コミュニケーションのやり方は今までの「世間」のものを応用しているから、あちこちで軋(きし)みが生まれてしまっている。さらに、もう一方の「社会」とどう繋がっていいのかわからないまま、みんなが混乱して、なんとかしようと新たなコミュニケーションのやり方を探して、そういう本を求めているんじゃないかな。 中野 そうなんですね。私はずっと、人間がどうして個の意志と集団の意志が並列に存在する「不完全な社会性」しか持たず、共同体が一個体であるかのように振る舞う蟻や蜂のような「真社会性」を持たないんだろうと思っているんです。 鴻上 蟻や蜂は、すごく頑張って従う個体もいれば、全く働かない個体が二割くらいいて、働く蟻がバーンアウトしたり、動かなくなった時には、働かない蟻が登場して働きだすって言いますよね。 中野 個が「意志をもって働かない」のでなく、単に働かない蟻は、全体のバッファーの役割なんです。繰り返しになりますが、蟻や蜂は巣の全体が一つの生き物みたいなものなんです。) 鴻上 なるほど。僕のフィールドである劇団という集団で考えてみると、一番周りから能力が低いと評価されている人が、伸び伸びと生きられているかどうかが、その劇団の集団としての健全さの目安だと僕は思っています。30人の集団がいれば、一人くらいは遅刻の常習犯だったり、作業を頼んでもできなかったり、必ずオーダーを間違えてしまう人がいる。そういう人達がプレッシャーを受けていられなくなる集団は、とても息苦しい集団だと言えます。 中野 でも、そんなに集団が大事なら、どうして人間にはそれに反するように、個人に強い意志や意識があるのか不思議なんですよね。 鴻上 集団に奉仕するためだったら、個人の意志なんていらないんじゃないかということですか? 中野 いえ、個人の意志を否定したいのではなくて、なぜ真社会性にならないんだろう?という単純な興味です。まあ効率重視なら真社会性ですよね。蟻や蜂と同じ。でも人間は個人の自由に価値を重く置いていたりする。それなのに、みんなのためにと思って個人の意志を時には潰したりもしていて、その間を揺れ動いている不完全な社会性が面白く見えるんです。一貫性を求めるわりには、柔軟に対応しろと言われることもあって、コミュニケーションを介して個体同士が複雑に絡み合っているように見えます。 そもそも、私は「どうして人と同じような振る舞いができないの?」と言われたり、「変わってるね」と言われたりして、集団になじめないところがあったんですが、自分自身はあまり変わったところはなく、凡庸な人間だと思うんです。 鴻上 変わっていることと凡庸はイコールではないんじゃないですか。「変わってる」ということは、他人の言葉の受け取り方が変だということで、変わっていて凡庸じゃない人と、変わっていて凡庸な人がいる気がします』、「日本人の多くは「世間」に生きて、「社会」とは接点が少ないのです。日本人は自分に関係のない「社会」の人とはなるべく関わらず、同時に関わり方がわからず、自分と関係のある「世間」の人を大切にします。結果、圧倒的に「世間」の中でしかコミュニケーションしていないんですが、この「世間」がどんどん中途半端に壊れてきているんです」、「中野 ・・・私はずっと、人間がどうして個の意志と集団の意志が並列に存在する「不完全な社会性」しか持たず、共同体が一個体であるかのように振る舞う蟻や蜂のような「真社会性」を持たないんだろうと思っているんです。 鴻上 蟻や蜂は、すごく頑張って従う個体もいれば、全く働かない個体が二割くらいいて、働く蟻がバーンアウトしたり、動かなくなった時には、働かない蟻が登場して働きだすって言いますよね。 中野 個が「意志をもって働かない」のでなく、単に働かない蟻は、全体のバッファーの役割なんです。繰り返しになりますが、蟻や蜂は巣の全体が一つの生き物みたいなものなんです」、なるほど。
・『日本人がコミュニケーションに悩む脳科学的な理由とは 中野 おそらく一般的な意見の受け取り方が、私は下手くそなんですよね。でも私みたいに受け取り方が下手なほうが、なぜかコミュニケーションに悩まずにいられて、受け取り方が上手な人のほうがめちゃくちゃ巻き込まれて、大変な思いをして悩んでいる。むしろ受け取れない側からすると、悩んでいることがうらやましい感じさえします。 鴻上 脳科学的には、日本人がコミュニケーションに悩むというのは、どういった分析になりますか?) 中野 脳科学的に、というよりは比較言語論のような話になってしまいますが、日本の、あるいは日本語話者のコミュニケーションのあり方は、ハイコンテクストだと言われますよね。まさに「空気を読む」という表現もありますけど、こんなの日本語だけ。一つの単語が表す意味が重層的であったり、同音異義語も多くて、意味をあえて特定しにくくしているフシすらある。表情や声のトーンなど言葉以外の情報に頼ることも頻繁にあります。受け取る側のリテラシーが試される言語です。さらに、失敗してしまった時のペナルティも大きい。このペナルティの大きさは「社会性の強さ」とも言えます。日本がこのような独特の社会を形成した要因の一つには、災害が多いことも関連していると思います。 鴻上 「社会性の強さ」とは僕の言う「世間性の強さ」ということですよね。同じ「世間」に生きているなら、言葉がハイコンテクストでも成立します。逆に言うと、「世間」の団結を強めるためには、ほかの集団には通じない符牒(ふちょう)、独特な言葉を使うことが大事になる。ほかの集団には通じない言葉を使えば使うほど、同じ集団に属す我々は一つだという快感を覚えることになります。 中野 思考停止していても安全、ということですしね。 鴻上 その符牒を読み間違えてしまうと、我々の「世間」には所属していない者だと認定され、強烈な制裁がやってくるわけです。 中野 共同体を破壊し、安全な思考停止状態を破る危険な異物として排除されてしまうんですよね』、「「社会性の強さ」とは僕の言う「世間性の強さ」ということ」、「「世間」の団結を強めるためには、ほかの集団には通じない符牒(ふちょう)、独特な言葉を使うことが大事になる。ほかの集団には通じない言葉を使えば使うほど、同じ集団に属す我々は一つだという快感を覚えることになります・・・鴻上 その符牒を読み間違えてしまうと、我々の「世間」には所属していない者だと認定され、強烈な制裁がやってくるわけです。 中野 共同体を破壊し、安全な思考停止状態を破る危険な異物として排除されてしまうんですよね」、さすがに深い考察だ。
・『好きなことをしているとたたかれる国 鴻上 コロナの影響で国から自粛を求められた時に、「演劇界を含め、自粛要請でダメージを受けた業界には、休業補償をお願いしたい」とインタビューで話したら、そのインタビューをネットで読んだ人から「好きなことをやっているんだから、貧乏でいいだろう」という反応があったんです。 中野 同じ時期に、日本俳優連合の理事長を務める西田敏行(にしだとしゆき)さんが、俳優の窮状を訴える要望書を国に提出したら、同じようにバッシングされてしまったことをよく覚えています。「好きなことをやっていると責められてしまう国って何なのかな…」とすごくモヤモヤとした気持ちになりました。) 鴻上 好きなことをやっていると、ネットで攻撃されるのはどうしてだろうと疑問を感じて、エッセイに「街のラーメン屋さんを含め、自分で事業を始めた個人事業主は、今はコロナ禍で苦しいかもしれないけれど、たぶん好きなことをやろうとした人達。サラリーマンは半分半分くらいで、今増えている非正規雇用の人たちは、好きなこととは遠いことをやっているんじゃないだろうか」と、書いたんです。そうしたらそのエッセイがネットにアップされた数時間後には、「好きなことをやっていないのは非正規」と僕が言っているというスレッドがネット上に立っていて驚きました。 中野 え…! 鴻上 そのスレッドをよく読んでみると、僕のエッセイの一部分しか抜粋していないんですよ。だから、それを元にして呟いていた人に、「全文を読んでください」と丁寧に一人一人レスポンスをしたんですが、今度は「鴻上が憑(つ)いた」というツイートが出てきて、その瞬間、「なんでこの暗闇に僕は石を投げてるんだろう?」と我に返りました。 中野 書かれていることを、意図的に歪めて読み取ったり、アクセス数を伸ばすために敢(あ)えて人の気持ちを逆なでするように切りとったりする人はいますよね。それにしても、好きなことをやっている人がとがめられる時代というのは、本当に闇だなと…。 鴻上 自分が好きなことをしていないから、好きなことをやっていると思われる人を見たら、許せないと感じてしまうんだとしたら、これは脳科学的にはいわゆる嫉妬になるんですか? 中野 はい。嫉妬、というか正確には妬みですね。自分は我慢をしているのに、あの人だけは好きなことをやっていて「ずるい」と認識すると、その人を攻撃せずにはいられなくなる。 私はその点で標的になりやすい人達の代表例として、スポーツ選手が挙げられるのではないかと感じています。「国のために頑張ります」と言うのは許されても、「楽しんできます」と言うのは許されない。もし楽しんで結果を出せば、賞賛されるかもしれませんが、結果が出ないと、成績とは関係がない、例えば、ファッションや化粧のことまで槍(や)り玉(だま)に挙げられて非難されてしまう。好きなように生きていることが、これほど罪のようにとがめられてしまうことに、危惧を覚えます』、「自分が好きなことをしていないから、好きなことをやっていると思われる人を見たら、許せないと感じてしまうんだとしたら、これは脳科学的にはいわゆる嫉妬になるんですか? 中野 はい。嫉妬、というか正確には妬みですね」、「妬み」が根底にあるとはイヤな社会だ。
・『色眼鏡をかけるほうが人間にとって快適 鴻上 確かに僕は好きな演劇を仕事にしているのですが、好きなことを仕事にすることは、ただ「楽しい」とか「嬉しい」ということではないんです。好きなことを仕事にした人なら、みんな直面すると思うんですが、好きなことを仕事にするために、やらなければいけない「好きでないこと」が、かなりの量あるんです。 演劇で言えば、よくファンの人達が使う「大人の事情」というものも実際にあって、思ったとおりにできないことも多々ある。うかうかしていると演劇そのものをどんどん嫌いになるような出来事もある。そういったことを全部無視されて「好きなことをやってるんだから文句を言うな」と言われてしまうと、すごい無力感にとらわれますね。) 中野 「好きなことをやっている」ということにマスクされてしまって、その人が実際どんな状況にあり、なにを考えているのかまで見えていない。解像度がすごく粗くなっているんですよね。私たちの脳は、自分の身の回りの人のことはよく見えるんですが、自分の集団にはいない人のことは、記号のようにしか認知できません。つまりよそ者のことは、記号だから攻撃してもいいんだと思ってしまうんです。 鴻上 そこをどう乗り越えていくか、ということですよね。 万が一、自分が攻撃の標的になってしまった時は 中野 「努力して変えていきましょう」というのは、基本的に機能しない呼びかけだと思っているんです。場合によっては、より悪い状況にもなる。努力できる人だけが損をし続けていく仕組みだからです。努力できない時間はそれができないということ。何か一つ努力しだすと他のことができなくなるくらい、人間の脳というのは努力には向いていません。さらに、仲間として認知できる人数は、百五十人と言われていて、それ以上の人たちは、記号としてしか扱えない残念な脳なんですよ。私達はそもそも色眼鏡をかけて生まれてきている、ということを知るしか方法はないように思います。 鴻上 人間はそうやって色眼鏡をかけるほうが快感というか、快適だから、色眼鏡をかけるわけですよね。 中野 ええ。だから、自分が気持ちよさに負けて誰かを攻撃しそうになった時に、「いけない、私、色眼鏡をかけてたわ」と気づくきっかけをどこかに置いておくことが大事です。逆に、万が一、自分がその攻撃の標的になってしまった時は、「あの人、色眼鏡が外せてないな」と思えるよう、心算をしておくことをおすすめしたいです』、「自分が気持ちよさに負けて誰かを攻撃しそうになった時に、「いけない、私、色眼鏡をかけてたわ」と気づくきっかけをどこかに置いておくことが大事です。逆に、万が一、自分がその攻撃の標的になってしまった時は、「あの人、色眼鏡が外せてないな」と思えるよう、心算をしておくことをおすすめしたいです」、さすが中野氏だけに味わいのある言葉だ。
タグ:(その5)(脳に良い習慣と「脳に悪い心理状態」の決定的事実 ストレスや不安は海馬や前頭葉を萎縮させてしまう、精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」、鴻上尚史氏と中野信子氏が対談 日本は「好きなことをしていると叩かれる国」) 「家から出て外の光を浴び、近所を散歩するだけでも気が晴れるものだ。 もしくは、友人や知人、その他の助けてくれそうな人を頼ってみればいい。そうやって他人の力を上手に利用して、話を聞いてもらうことで、負のループから抜け出すことができるかもしれない」、なるほど。 「自分が悩み不安に思っている問題を冷静に見つめ直すことが必要であり、それにはこれまでにお伝えしたように、書き出す作業が必要となってくる」、その通りだ。 「「すべての『行動』を細分化して行動のハードルを下げることで、苦しい状況でも『できる』ことを見つけられる」とし、3つの「確実に行動できる対処法(ToDo)」を提案」、「1.「話す」」、「2.「書く」、「3.「体を動かす」」、「これら3つの行動をすべて取り入れる必要はない。その時の自分に合ったものをどれかひとつでもいいので試してみれば、ノルアドレナリンという不安物質が消費されて、心は軽やかになってくれる」、なるほど。 「前向きな行動を始めると、ノルアドレナリンという行動するためのガソリンが消費され、「行動によるガソリン消費→ノルアドレナリン減少→不安逓減→気持ちが楽になる」という流れが起こる」、なるほど。 「分泌されると脳が研ぎ澄まされ、集中力が高まり、どうすればいいのか一瞬で判断できるようになります」、有難い効用があるようだ。 「「ストレスは耐え忍ぶものではなく、しなやかに受け流すことが必要である」、というのは興味深い見解だ。 書籍オンライン編集部による「精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」」 ダイヤモンド・オンライン 「週に2,3回は心拍数が増えるようなランニングなどの有酸素運動をお勧めしたい」、私の場合は、「ランニング」の代わりに速足をしている。 「ストレスに対する反応は、体が運動で鍛えられるにしたがって徐々に抑えられるのだ。つまり運動が、ストレスに対して過剰に反応しないよう体をしつけるのである」、「運動が」「体をしつける」とは面白い表現だ。「1時間程度の散歩を習慣にしている成人の前頭葉を定期的に測定した結果、前頭葉を含む大脳皮質が成長していた」、私も「1時間程度の散歩」を日課にしているので、「大脳皮質が成長」している筈だ。なんだか嬉しくなる。 「扁桃体がストレス反応を引き起こしつづけると、海馬のブレーキはすり減ってしまう。アクセルである扁桃体は、海馬が萎縮してブレーキが利かなくなると暴走を始める。こうして、ストレスがさらにストレスを生むサイクルに入る」、恐ろしいことだ。 「体内には、このストレス反応を緩和し、興奮やパニック発作を防ぐブレーキペダルが備わっている。その1つが「海馬」だ。海馬は記憶中枢として知られるが、感情を暴走させないブレーキとしても働いている」、実によく出来た仕組みだ。 「ストレスを感じると、まず脳の扁桃体が反応し、視床下部→下垂体→副腎へと身体の上から下へ刺激が伝わる。副腎から「コルチゾール」というホルモンが分泌されると、動悸は激しくなる。この一連の反応はほんの1秒ほどで起きるが、これは人類の生存に欠かせないからだ」、「扁桃体は、ストレス反応を引き起こすだけでなく、そのストレス反応によっても刺激を受けてしまう・・・ストレスがストレスを呼ぶ悪循環だ」、 アンデシュ・ハンセン氏による「脳に良い習慣と「脳に悪い心理状態」の決定的事実 ストレスや不安は海馬や前頭葉を萎縮させてしまう」 東洋経済オンライン 心理学 精神科医が教える「一瞬で不安を打ち消すたった1つの方法」『ストレスフリー超大全』(ダイヤモンド社) 「あなたの「考え方」「受け止め方」を少し変えるだけで、ストレスを受け流せるようになります。それだけで、「不安」や「悩み」の9割は消すことができます」、「生き方を変えるのは「今」です!」、いかにも効果がありそうだ。 「鴻上尚史氏と中野信子氏が対談、日本は「好きなことをしていると叩かれる国」」 『同調圧力のトリセツ』(小学館新書) 「中野氏」が「高校生くらいの頃に鴻上さんのスクリプトを読んで、これは同じ問題意識を持った人だ!と感銘を受けて、ボロボロになるまで読みました。あまりに読むので、もう3冊同じのを買っていると思います」、さすがませた「高校生」だ。 「予備校の先生に話を聞くと、僕や中野さんの時代に比べて、浪人をする人が十分の一以下に減っているそうです・・・ なぜ減ったかというと、一年浪人をして大学の偏差値を上げて、ワンランク上の大学に入る意味を見いだしにくくなってきたからだそうです」、そうであれば、「予備校」ビジネスも様変わりしたのだろう。 「日本人の多くは「世間」に生きて、「社会」とは接点が少ないのです。日本人は自分に関係のない「社会」の人とはなるべく関わらず、同時に関わり方がわからず、自分と関係のある「世間」の人を大切にします。結果、圧倒的に「世間」の中でしかコミュニケーションしていないんですが、この「世間」がどんどん中途半端に壊れてきているんです」、 「中野 ・・・私はずっと、人間がどうして個の意志と集団の意志が並列に存在する「不完全な社会性」しか持たず、共同体が一個体であるかのように振る舞う蟻や蜂のような「真社会性」を持たないんだろうと思っているんです。 鴻上 蟻や蜂は、すごく頑張って従う個体もいれば、全く働かない個体が二割くらいいて、働く蟻がバーンアウトしたり、動かなくなった時には、働かない蟻が登場して働きだすって言いますよね。 中野 個が「意志をもって働かない」のでなく、単に働かない蟻は、全体のバッファーの役割なんです。繰り返しになりますが、蟻や蜂は巣の全体が一つの生き物みたいなものなんです」、なるほど。 「「社会性の強さ」とは僕の言う「世間性の強さ」ということ」、「「世間」の団結を強めるためには、ほかの集団には通じない符牒(ふちょう)、独特な言葉を使うことが大事になる。ほかの集団には通じない言葉を使えば使うほど、同じ集団に属す我々は一つだという快感を覚えることになります・・・鴻上 その符牒を読み間違えてしまうと、我々の「世間」には所属していない者だと認定され、強烈な制裁がやってくるわけです。 中野 共同体を破壊し、安全な思考停止状態を破る危険な異物として排除されてしまうんですよね」、さすがに深い考察だ。 「自分が好きなことをしていないから、好きなことをやっていると思われる人を見たら、許せないと感じてしまうんだとしたら、これは脳科学的にはいわゆる嫉妬になるんですか? 中野 はい。嫉妬、というか正確には妬みですね」、「妬み」が根底にあるとはイヤな社会だ。
中国経済(その18)(中国 ゼロコロナ解除で「困難に直面」 WHOが指摘、抗議活動に負けてのゼロコロナ政策撤廃でコロナ感染爆発の危機、習近平政権「ダブル敗戦」の大打撃、一気に大緩和?中国・ゼロコロナ政策撤廃の現実 音楽家ファンキー末吉が経験した緩和直後のドタバタ劇、【習近平の大誤算】若者の失業率約18% 富裕層の国外脱出加速 米輸出規制で“科学技術立国の夢”が泡に) [世界情勢]
中国経済については、10月13日に取上げた。今日は、(その18)(中国 ゼロコロナ解除で「困難に直面」 WHOが指摘、抗議活動に負けてのゼロコロナ政策撤廃でコロナ感染爆発の危機、習近平政権「ダブル敗戦」の大打撃、一気に大緩和?中国・ゼロコロナ政策撤廃の現実 音楽家ファンキー末吉が経験した緩和直後のドタバタ劇、【習近平の大誤算】若者の失業率約18% 富裕層の国外脱出加速 米輸出規制で“科学技術立国の夢”が泡に)である。
先ずは、12月14日付けNewsweek日本版 がロイターを転載した「中国、ゼロコロナ解除で「困難に直面」 WHOが指摘」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/12/who-138.php
・『世界保健機関(WHO)のハリス報道官は13日、中国が新型コロナウイルス感染抑制に向けた厳格な「ゼロコロナ」政策を解除し、コロナとの「共生」を選択する中、「非常に厳しく、困難な時期」に直面するという認識を示した。 中国のコロナ規制緩和は国内で歓迎されつつも、感染急拡大を巡る懸念も高まっている。 ハリス報道官は「非常に厳格な管理体制からの脱却はどの国にとっても非常に難しい」と指摘。課題は国民のワクチン接種を確実にし、病院の受け入れ態勢を整えることとし、「移行を維持するためには、地域社会や病院、国家レベルで多くの措置を講じる必要がある」と述べた』、「中国が新型コロナウイルス感染抑制に向けた厳格な「ゼロコロナ」政策を解除し、コロナとの「共生」を選択する中、「非常に厳しく、困難な時期」に直面するという認識」、まして国産ワクチンは効果を疑問視されているのでは、本当に大変だろうと、同情を禁じざるを得ない。
次に、12月15日付け現代ビジネスが掲載した評論家の石 平氏による「抗議活動に負けてのゼロコロナ政策撤廃でコロナ感染爆発の危機、習近平政権「ダブル敗戦」の大打撃」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103314?imp=0
・『事実上の「ゼロコロナ」政策放棄 12月7日、中国の国家衛生健康委員会は、10の項目からなるコロナ対策の新しいガイドライン「新十条」を発表した。その注目すべきいくつかの重要内容を羅列すれば以下のものである。 1)各地における「強制的な全員PCR検査の定期実施」は廃止。 2)公共交通機関と病院・学校を除く公共施設、商店、スーパー、オフィスビルなどを利用する際のPCR検査陰性証明の提示は廃止。 3)省や自治区などを超えて移動する際の陰性証明提示は廃止。 4)すべての感染者を隔離施設や病院に移す措置は廃止、無症状あるいは軽症の感染者の自宅隔離を認める。 5)感染拡大への封鎖措置に関しては、都市全体あるいは住宅団地全体の封鎖はやめ、封鎖は感染が確認された建物やフロアに限定される。 以上の内容からすれば、この新しいガイドラインの発表と実施はもはや「ゼロコロナ」政策の「緩和」程度のものではない。それは事実上、「ゼロコロナ」政策の放棄であって、180度の政策の大転換である。 「ゼロコロナ」政策というのは文字通り、コロナ感染をゼロにすること、つまりコロナの完全撲滅を目指した政策である。この政策実施の前提は、まさに「強制的・定期的なPCR全員検査」である。例えば都市部なら、地方によっては48時間内に一度、あるいは72時間内に一度、政府当局の手によって、市民全員に対するPCR検査は徹底的に行われるのである。 このような徹底的なPCR検査の実施によって、陽性者と感染者は漏れることなく迅速に割り出されて隔離施設へ送られることになるから、どこかでコロナが出たところ、それは直ちに「撲滅」されて感染の拡大は最小限に封じ込められるのである。 封鎖なくして中国のコロナ制圧なし、だったが その一方、市民全員はPCR検査を受ける度に、陽性でなければ、有効期間限定の「陰性証明」を発行してもらうが、市民の方は48時間か72時間という有効期限内に、この「陰性証明」を提示することによって初めて電車やバスなどの公共交通機関を利用できるし、病院や学校、スーパーやオフィスビルなどの公共施設に入れる。このような措置が取られることによって、陽性者や感染者が市中に出回って公共施設に出没するようなことは基本的に無くされているから、コロナの感染拡大は極力避けられている。 それでもコロナの感染拡大が発見された場合、最後の手段として政府当局は住宅団地の1つ、あるいは町1つ、都市1つを丸ごと封鎖するという極端な措置をとる。例えば筆者の出身地である四川省成都市(人口2100万人)の場合、今年8月31日に新規感染者数が156名になったところで、翌日の9月1日からまる2週間、都市全体がロックタウンされた。 こうしてみると、「強制的・定期的なPCR全員検査」と、あらゆる公共施設に出入りする場合の陰性証明提示、そして極端な封鎖策は、中国政府の「ゼロコロナ」政策の実効性を支える3本の柱であって政策が成り立つ前提であることが分かる。 しかし、前述の「新十条」の内容を点検してみると、特に1、2、5を点検してみると、「3本の柱」となる政策措置は完全に廃止されたり大幅に緩和されたりしていることが明々白々である。それでは「ゼロコロナ」政策はもはや成り立たない。政策そのものが放棄されてしまったと見て良い。 つまり、前述の「新十条」の発表と実施は、「ゼロコロナ」政策の単なる「緩和」ではなく、むしろ思い切った政策の大転換であることがよく分かる。しかし問題は、この政策転換は決して、「コロナの撲滅」という「ゼロコロナ」政策当初の目標を達成した上での政策転換ではない、という点である』、「前述の「新十条」の発表と実施は、「ゼロコロナ」政策の単なる「緩和」ではなく、むしろ思い切った政策の大転換である」、本当に「思い切った政策の大転換」だ。
・『最悪のタイミングで そもそも、オミクロンという新しい変異株が世界的に広がった時から、コロナの完全撲滅はすでに不可能になっている。実際、中国であれほど厳しい封じ込め策が実施されてきていても、感染拡大を完全に阻止できたわけではない。今年12月6日までの28日間連続、中国国内の新規感染者数は1万人を超えている。 そうすると、12月7日からの政策転換、すなわち「ゼロコロナ」政策の放棄は、まさに目標が全くできなかった中での政策の放棄であって、その意味するところはすなわち、「ゼロコロナ」政策そのものの敗退であって、約3年間にわたって政治権力によって強行された「ゼロコロナ政策」は結局、失敗に終わったわけである。 しかも、「ゼロコロナ」政策が放棄されたところ、今後の中国全土において再びコロナの感染拡大が起きてくることも予想されているから、国民に大きな犠牲と不自由を強いた「ゼロコロナ」政策は結局何の意味もない。政策の完全失敗である。 それでは習近平政権は、自らの宣言した「コロナとの戦い」にすでに敗戦していることは明らかであるが、さらに問題となってくるのは、今回の「ゼロコロナ」政策の転換が行われたタイミングである。 12月7日といえば、中国でも冬期の始まりである。周知のように、冬期というのはまさにコロナの感染しやすい季節だ。冬期の到来と同時に行われた中国政府のコロナ政策の大転換は拙速というしかないが、ましてや中国の場合、来年1月22日からは旧正月(春節)が始まって帰省などによる恒例の「民族大移動」は始まるという特別の事情もある。 このようなタイミングでの政策転換はどう考えても無謀かつ危険であろう。今月から来年1月にかけて、中国全土で爆発的な感染拡大が起きてくる確率は非常に高い。政策転換のタイミングはあまりにも悪すぎる』、「国民に大きな犠牲と不自由を強いた「ゼロコロナ」政策は結局何の意味もない。政策の完全失敗」、「今月から来年1月にかけて、中国全土で爆発的な感染拡大が起きてくる確率は非常に高い。政策転換のタイミングはあまりにも悪すぎる」、その通りだ。
・『民衆の抗議に負けてしまった しかし習政権は一体どうして、上述のような危険も承知の上で拙速な政策転換に踏み切ったのか。時間列的に見ればその理由は実に簡単である。11月25日から29日までに全国で勃発した「反ゼロコロナ政策」の抗議運動こそは、政策の転換を促した主な要因の1つではないのか。 抗議運動の実態は12月1日掲載の本欄が詳しく伝えたところだが、政権の「ゼロコロナ」政策に対する強い反発から始まった民衆運動はあっという間に全国に広がり、同時に「反習近平・反体制運動」的革命運動にまで発展した。その後、当局は警察力を動員して抗議デモを封じ込めその鎮静化に成功したものの、運動の全国的拡大と先鋭化はやはり、習政権に大きな衝撃を与えたはずである。 そして運動収束直後の12月7日、当局は上述の「新十条」を発表しそれを直ちに実施に移した。やはり習政権は、抗議運動の拡大と継続化を恐れて民衆の不平不満を和らげるために急遽「ゼロコロナ政策」からの転換を断行した、と思われる。そういう意味では、「ゼロコロナ」政策からの政権の撤退あるいは敗退は、民衆は自分たちの力で勝ち取った勝利でもある。 しかし、もしそうであれば、このことの政治的意味は実に重大である。要するに一党独裁体制下の中国で、政権は民衆の抗議運動に押された形で政策の大転換、大後退を余儀なくされたわけであり、立ち上がった民衆の力を前にして、政権が敗退したのである。言ってみれば、今の習政権は、コロナとの戦いに敗退したのと同時に民衆の力にも敗退してしまった。まさに屈辱の「ダブル敗戦」というものである』、「一党独裁体制下の中国で、政権は民衆の抗議運動に押された形で政策の大転換、大後退を余儀なくされたわけであり、立ち上がった民衆の力を前にして、政権が敗退したのである。言ってみれば、今の習政権は、コロナとの戦いに敗退したのと同時に民衆の力にも敗退してしまった。まさに屈辱の「ダブル敗戦」というものである」、「ダブル敗戦」とは言い得て妙だ。
・『政権への不信とコロナ感染再拡大と この「ダブル敗戦」は、今後の中国政治に及ぼす影響は決して小さくはない。それがもたらす政治的結果の1つはまず、習近平主席と習政権のさらなる権威失墜である。政権があれほど固執してきた「ゼロコロナ」政策は結果的に失敗に終わり、中国国民はもう一度、全国的感染拡大に直面していかなければならない。 この厳重な事実は、愚かな政策を強行した習主席自身と政権の愚かさをより一層露呈したのと同時に、国民一般の習主席と政権に対する不信感をさらに増幅させることとなろう。 その一方、民衆の抗議運動に押されたて行なった今回の政策大転換は実は、習近平政権の今後の政治に1つ、大きな「禍根」を残すとことなろう。政権が民衆の力に屈した形で政策転換を余儀なくされたのであれば、民衆側はこれで政権の足元を見てしまい、自分たちの力に対して大きな自信を持つこととなるに違いない。 それでは今後、政権のさまざまな政策に対してその不平不満が限界に達したとき、今回の「反ゼロコロナ政策運動」の成功に勇気つけられた民衆が新たな抗議運動に立ち上がる可能性は、以前より大きくなることは予想できる。つまり、習政権の「ダブル敗戦」は結局、今後における民衆運動あるいは反乱の発生を誘発する火種を自ら撒いた訳である。 中国国民と習政権にとっての大問題はもう1つがある。 今回、医療施設の充実や高齢者層へのワクチン接種の普及などの十分な準備はまだ整えられていない状況下で、主に政治的要因により「ゼロコロナ」政策が放棄されたことの結果、感染しやすい冬期の到来と相まって中国全国で爆発的な感染拡大が起きてくる確率は非常に高い。その中で重症者や死亡者が増える一方、医療機関の逼迫が深刻化してくるのであろう。 それでは政権は感染拡大をそのまま容認するのか、それとも「ゼロコロナ」政策に逆戻りするのかの選択を迫られることとなるが、封じ込めからやっと解放された中国国民はもう一度、広範囲な感染拡大に耐えていかなければならない。中国にとっての「コロナ問題」は、まさにこれからである』、「習政権の「ダブル敗戦」は結局、今後における民衆運動あるいは反乱の発生を誘発する火種を自ら撒いた」、「今回、医療施設の充実や高齢者層へのワクチン接種の普及などの十分な準備はまだ整えられていない状況下で、主に政治的要因により「ゼロコロナ」政策が放棄されたことの結果、感染しやすい冬期の到来と相まって中国全国で爆発的な感染拡大が起きてくる確率は非常に高い・・・政権は感染拡大をそのまま容認するのか、それとも「ゼロコロナ」政策に逆戻りするのかの選択を迫られることとなるが、封じ込めからやっと解放された中国国民はもう一度、広範囲な感染拡大に耐えていかなければならない。中国にとっての「コロナ問題」は、まさにこれからである」、本当にどうなるのか、大いに注目される。
第三に、12月16日付け東洋経済オンライン が掲載した音楽家のファンキー末吉氏による「一気に大緩和?中国・ゼロコロナ政策撤廃の現実 音楽家ファンキー末吉が経験した緩和直後のドタバタ劇」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/639893
・『新型コロナウイルス感染症に対し「ゼロコロナ」政策を厳しく続けてきた中国が一転、政策を緩和したのは12月上旬。全国に抗議活動が広がるなど混乱を受けて、習近平・国家主席の鶴の一声で緩和されることになった。 ロックバンド「爆風スランプ」のメンバーで現在は中国を中心に活動しているミュージシャンのファンキー末吉氏は、緩和された直後の北京に出向き、ゼロコロナ政策緩和直後の状況を目の当たりにする。これまでの中国のコロナ監視体制を経験、「IT武装も最後は『人力』頼みの中国コロナ監視体制」などを執筆したファンキー末吉氏は、PCR検査が必要だったりそうでなかったり、場所によって対応が変わったり……そんなドタバタ劇が起きている。中国社会の現実はいかに。 私は「布衣楽隊」という、中国で最も多くのツアーを行うバンドのドラマー兼プロデューサーとして中国全土をツアーして回っている。 2022年のツアーはコロナ禍のため例年より少なく57本を予定していたが、結局は14本がコロナのためにキャンセルとなって2022年9月末に終了。メンバーはそのまま、拠点として居住する中国西部・寧夏回族自治区の銀川(ぎんせん)市に帰ったのだが、私はレコーディング仕事があったのでそのまま北京に行った。 そうしたら、運のいいことに銀川市がロックダウン。しかし新たな感染者数が10人ほどで200万都市(周辺小都市を含めると700万人)をロックダウンして住民の自由を奪うのだから、中国のこのゼロコロナ政策というのはすさまじいと言うしかない』、「ロックバンド「爆風スランプ」のメンバーで現在は中国を中心に活動」、とは興味深い存在だ。コロナ問題を新聞とは違った角度で伝えてくれるだろう。
・『12月7日、突然訪れた「ゼロコロナ」緩和 銀川には帰れないのでそのまま1カ月半ほど北京に滞在していたら、北京がどんどん危なくなってきた。 私が銀川に帰った翌日にはすべての北京市民は毎日のPCR検査が義務付けられ、検査結果がスマートフォンにインストールする健康アプリに反映され、そこでのQRコードが緑色にならなければ商店や施設、タクシーにも乗れないというありさまである。 銀川はそれほど厳しくなく、外地から帰って来た人は3日間のうち2回PCR検査を受ければ健康アプリのQRコードは緑色のままとなり、それを施設入り口のリーダーにかざせばどこにでも自由に出入りすることができた。 帰ってきてから半月ほどは平和に過ごしていたのだが、2022年11月25日にいきなり都市封鎖の通達が来た。これは銀川の感染者数というより、中国全土の感染者数がこれまでになく増えたことで地方政府もそれぞれに危機感を高めたためではないかと思う。 今回のロックダウンは、いわば「ソフトロックダウン」程度のもので、飲食店はデリバリー以外の営業は禁止。私の住むマンション群は出入り禁止だが、そうでもなく自由に出入りできる地区もあり、どうやらマンション群の社区と呼ばれる自治体に判断を任されているようだ。 ところが、1週間の隔離も終わりにさしかかった11月24日に新疆ウイグル自治区で発生した火災で死亡者が出た。死亡者が出たのは、防疫用柵で消防隊の到着遅れたためではないかと考えられ、これをきっかけに中国全土でゼロコロナ政策に反対する抗議活動が起きた。 「第2の天安門事件(1989年)に発展するかも」と心配していたのだが、一転、政府はゼロコロナ政策を大幅に緩和することを発表した。2022年12月7日のことである。 これを受けて銀川では、スーパーや商業施設に入る際に必要だった48時間以内の陰性証明の提示が不必要となった。そんな頃である。北京でレコーディングの話が来た。 いや、話はだいぶ前からあったのだが、ゼロコロナ政策による厳しい行動制限や、外地からの流入規制、そして都会よりいつも1テンポ遅れて対策が変わるこの銀川に、北京から帰ってきてちゃんと入れるのかという心配があったので、「今は北京には行けない」と言うしかなかったのだ。 ところが、12月7日の規制緩和発表に続いて、中国で省をまたいで移動する際の陰性証明の提示が撤廃された。これはコロナ禍で長くツアーを回っていた私にとってはとてもうれしいニュースである』、「新疆ウイグル自治区で発生した火災で死亡者が出た。死亡者が出たのは、防疫用柵で消防隊の到着遅れたためではないかと考えられ、これをきっかけに中国全土でゼロコロナ政策に反対する抗議活動」、「政府はゼロコロナ政策を大幅に緩和することを発表した。2022年12月7日のことである。 これを受けて銀川では、スーパーや商業施設に入る際に必要だった48時間以内の陰性証明の提示が不必要となった」、「ゼロコロナ政策」も終わりはあっさりしたものだ。
・『PCR検査を課しても検査場は次々閉鎖 実はIT大国とされる中国で、便利に思えるそのアプリの数々、とくに省ごとに違う健康アプリのほとんどが、外国人には対応していないのだ。 そして、北京に住む友人の話によると、規制が緩和されたといっても飲食店などに入るためには48時間以内の陰性証明がいまだに必要なのに、12月7日の規制緩和によってPCR検査場が次々と閉鎖されたため、今度はその検査をきちんと受けられる検査場を探すのがたいへんになってしまった。とくに外国人にとっては、外国人に対応していないPCRR検査場というのがあるから、さらに探すのに一苦労、二苦労させられる。 こんな笑い話も伝わってくる。 「陰性証明が必要なんだけど、検査をやっているところがないじゃない!」「検査なら病院行ってやれ」 「その病院に入るのに、陰性証明が必要なんだよ!!」 銀川のような地方都市は対応が遅く、まだそこまで切羽詰まった状況にはならないが、北京などの大都市では急激な政策転換によってかなりの混乱が起こっているようだ。 そんな大混乱の中、12月9日に北京行きが決まった。出発の頃には北京で爆発的に感染者数が増えているという噂も聞くが、銀川の友人たちなんかは「お、いいじゃん!帰ってきたらメシ食おう」と笑う。感染したらメシどころじゃないのに何を言っているんだろうと不思議に思ったが、後にその意味がわかることになる。 さて、北京に行くとなると、心配なのはPCR検査をどう受けるかである。北京の友人夫婦は久しぶりに私と飲むことを楽しみにしてPCR検査を受けているのだが、毎日検査しても結果が健康アプリにまったく反映されず、結局8日間も検査を受けてないことになっており、飲食店どころかどこの施設にも入れないのだ。 そこで、北京で陰性証明をゲットするのは難しいだろうと思い、私は出発前に銀川でPCR検査をすることにした。 噂通り、PCR検査場が減ってきているので長蛇の列である。 検査は今までは無料だったのだが、今回から有料になっていた。3.5元。円安とはいえ70円程度で安い!10人分の検体を1つの試験管にまとめる方式の検査だ。 結果はだいたい半日後には出る。夜汽車に乗って北京に向かい、朝着くころには検査結果がアプリに反映されていることだろう。外国人はQRコードをかざして読み取るだけではダメで、さらにパスポート情報などを自分で入力するのだが、スペルなどちょっと間違えただけで結果は反映されない。私も実際、PCR検査を受けているのに反映されずにQRコードが黄色になってしまって困ったことがあったが、この検査場はいつも必ず反映されるので安心なのである。 さて、いつものように夜汽車に乗ったらすぐに眠れるようにガンガンに酒を飲んで銀川駅へ向かう。これまでは厳重な健康アプリや行動アプリのチェックがあったのだが、それらがまったくなくなり何もチェックされなかった』、「PCR検査」で「10人分の検体を1つの試験管にまとめる方式の検査」、1人でも陽性の人間がいると、何回か組み合わせを変えて検査を繰り返して、陽性の人間を絞り込むのだろう。これでも、個々人に検査をするより効率的なのだろう。
・『陰性証明が必要だったりなかったり 北京に着いた。スマホの地図アプリを開いたら、見慣れない赤いものがたくさんある。「疫情高??」。つまり「ここには感染者がいるからたいへんだよ」という意味だ。 北京西駅に着いてからもなんらチェックもまったくなく、以前検査場だった場所に看板だけが撤去されず残っていた。そこからは地下鉄に乗り換えるのだが、みればきっと同じ列車に乗ってきたのだろう、防護服を着ている親子連れらしき乗客もいた。 きっと感染爆発と言われている北京へ行くのに、娘だけには感染させないようにという親心なのだろう。「コロナは怖い病気だよ」と宣伝してゼロコロナ政策をやっていた中国政府が、いきなり「オミクロン株はまったく怖くない」と言い始めた。人民は自分の身は自分で守るしかない。全国の薬局から解熱剤などの風邪薬がすべて売り切れたという噂である。 地下鉄も、一時期はガラガラだったと聞いたがそうでもなくそこそこの乗客がいた。時間もあるので、先日大規模なデモがあったという北京市内東部の「亮馬橋」地区に行ってみたが、別にいつもと変わらない感じだった。上海では、デモが発生した場所の歩道が厳重に封鎖されたと聞いていたが……。 レコーディングまでには時間があるので、スターバックスにコーヒーを飲みに行ったら陰性証明の提出を求められた。それから、知り合いの中国人がやっている日本料理屋に行ったのだが、そこはホテルの施設内にあり、普段はより厳格な検査を行うのだが陰性証明の提出は必要なく、QRコードをスキャンして「この場所に来た」という足跡を残すのみであった。規制緩和を受けての対応が店によって違うのだろう。 日本語が上手な女将は病気で出勤してないということだが、来たことを告げると喜んでメッセージを送ってきた。「実はコロナにかかってしまったんです」と泣いている。女将さんはガンの闘病生活もしており、それにコロナはたいへんだろう。 「もうね、家とスーパーマーケットだけしか行ってなかったのに感染しちゃうなんて、なんてひどい国なの!」と怒っているが、女将さん、ここはあなたの国です……、といったメッセージをしばらくやり取りした後、スタジオに向かう。 出迎えてくれたのはドラムをレコーディングする歌手本人とエンジニアの2人。手にはアルコール噴霧器を持っていて、握手のたびに消毒したり、マスクを決して外さなかったり、とてもコロナを恐れているように見えて緊張した。ところが、理由はほかにあったことが後に判明する。 レコーディングは順調で、午後5時にはすべての作業を終えて「飲みに行こう」となった。歌手も一緒に行くのかと思ったら「帰る」というので、結局エンジニアと2人で飲むことに。場所は日本風の居酒屋だったのだが、そこでも陰性証明の提出は必要ではなくQRコードをスキャンして足跡を残すのみであった』、「全国の薬局から解熱剤などの風邪薬がすべて売り切れたという噂である」、最近は日本の薬局でも中国人が「風邪薬」を爆買いしているようだ。
・『どっぷりと濃い濃厚接触者になる 前述の友人ご夫婦も招待しようと連絡したら、ショッキングな事実を伝えられた。私と一緒に飲むのを楽しみにして飲み屋に入れるように毎日PCR検査を受けて、結果が出ないので毎日毎日検査を受け続けていたのだが、先日出た結果が「陽性」。厳密には「1つの試験管で検査した10人の中に陽性者がいた」というもので、彼ら自身が陽性なのかどうかはわからない。 そもそも10人が1つの試験管で検査するなんて、まるで毎日ロシアンルーレットをやっているようなものである。せめてもの救いが、昔なら有無をいわさず収容所のような隔離施設に送られるのだが、今は緩和されて自宅で自主隔離となっているようだ。 エンジニアと盛り上がって飲んでいるときに、またショッキングな事実を聞いた。 「歌手が『一緒に飲めなくてすみません』と謝ってましたよ。実は彼も陽性で」 それって陽性なのにスタジオ来てたの?というより、一瞬でそこまで緩くなったということか……。そして彼自身も私にショッキングなことを言った。 「実は妻も陽性で家で寝てるんです」 ということは、今の私は陽性者と同居している男とマスクを外して酒を飲んでいるのか!あれほど厳格に行われていた中国のゼロコロナ政策が、一瞬のうちにここまで緩くなっているのが信じられなかった。) 酔いも覚めてしまったので帰ろうと、北京の院子の同居人に連絡を取る。院子というのは中国伝統的な長屋式住居で、1つの庭(院子)を囲むように三方、もしくは四方の建物が建っており、院子を共有してそれぞれの棟は独立して緩い共同生活を営むという、友人と暮らすなら願ってもない生活環境である。 北京市内には、今ではこういった伝統的住居はなくなってしまい、すべて高層マンションになってしまったが、郊外などの辺鄙な場所にはまだ残っていて、私が住む院子も市内から30キロメートルほど離れた村の中にある。 連絡をしてみると、同居人は「村にはタクシーの乗り入れもできなければ、この村の住人である証明書(出入証)がなければ入れない」というのだ。もう緩いのか厳しいのかわからないゼロコロナ政策。あるところではとてつもなく厳しく、あるところではとてつもなく緩い』、「ゼロコロナ政策。あるところではとてつもなく厳しく、あるところではとてつもなく緩い」、これが緩め始めの実態だろう。
・『「早く帰ってきてうつしてよ!」 その日は友人宅に泊めてもらい、翌朝冷静になって考えてみて怖くなった。たとえマスクをしていたとしても、感染者と一緒に丸1日スタジオにいて、その後は感染者の同居人と一緒にマスクを外して酒を飲んでいた私は、普通で考えると当然感染しているのではないか。 少なくとも濃厚接触者であることだけは確かである。ほんの最近までなら、これだけで隔離施設行きである。私はもうすでに6回の隔離を経験していて、病気よりなにより隔離が怖い。また、もし感染していたとしたら、今度は人にうつしてしまうのが怖い。とくに一緒にバンドをやっているメンバーに、である。 スマホをみると、ちょうどバンドのメンバーによるグループチャットでは、感染についていろいろと面白おかしいやり取りがされていた。北京のスタッフに対して、「北京は大変なの?じゃあ、なんか菌が付いているのを郵送してよ」とか何の冗談なのかよくわからない。私だけ大真面目に前日のレコーディングの話をして、「このまま北京に滞在して様子を見ようか?」と提案してみる。 ところが、シリアスになっている私をよそに「イエィ!!」と盛り上がっている。「Funky、早く帰ってきてうつしてよ」とか「Funkyはぼくらの救世主だ」といったメッセージが来て、まったく訳がわからない。こちらは「とりあえず銀川に帰ったら1週間ぐらいは自主隔離かな」と思っていたのに、「じゃあ、火曜日のリハが終わったらみんなでFunkyを囲んでメシに行くからな!」と大盛り上がり……。 過去のチャット履歴を見ると、どうやらどこかのバンドのメンバーが感染してツアーが中止になったらしい。布衣楽隊の冬のツアーは本来ならもう始まっている予定だったが、2022年11月のゼロコロナ政策による締め付けのため、2023年1月から開始となった。だから、この12月の間にできればメンバー全員感染しておきたいのだ。) 「コロナは一度感染すると半年は感染しない」という医者の発言がネットで出回っている。もう、いったい何を信じていいのやらわからない。 銀川に戻ったが、私はまだ感染しているのかどうかはわからない。PCR検査を受ければ、もっといろんな面倒くさいことが起きるであろうから、怖くて受けられないのだ。 今ではPCR検査を受けなくても、この国で生きていける。省をまたぐ移動も何の障害もなくできる。このような無症状の感染者が平気で中国国内を自由に飛び回っているという事例はもっともっとたくさんあるのだ』、「省をまたぐ移動も何の障害もなくできる。このような無症状の感染者が平気で中国国内を自由に飛び回っているという事例はもっともっとたくさんあるのだ」、恐ろしいことだ。
・『自分の身は自分で守る それなのに、政府発表による中国のコロナ感染者の数は減っていく一方である。もう誰もPCR検査を受けないのに、いったい何を根拠にこの数字を出しているのか。そのうち中国政府はこう発表するかもしれない。 「わが国の偉大なるゼロコロナ政策は大成功を収め、ついにこの国ではひとりのコロナ患者もいなくなりました!」 上に政策あれば下に対策あり。この国の人民は、政府の発表に翻弄されながらもたくましく「自分の身は自分で守って」生きていくのだ。 銀川に着いたその日、政府は「行動アプリ」の撤廃を発表した。これまで、過去1週間(ちょっと前までは2週間だった)に行った都市の一覧が出るアプリだ。仲間内は大喜びで、このニュースを拡散した。 しかし、だからといって国民の行動の監視が緩まるわけではない。「コロナに関して」ということだけであることに間違いはなかろう。ゼロコロナ政策の緩和。まだまだ混乱は続きそうだが、このままうまく着地して収束してくれることを願うのみである』、今日のニュースでは、コロナ感染者の数や死亡者数の発表は止めたようである。医療体制が不十分な「中国」で医療崩壊が激化するようであれば、まさに悲劇だ。
第四に、11月21日付け現代ビジネス 「【習近平の大誤算】若者の失業率約18%、富裕層の国外脱出加速、米輸出規制で“科学技術立国の夢”が泡に」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103521?imp=0
・『前編『「中国の地殻変動」と「習近平の大誤算」コロナPCR受診者16倍、不動産競売市場崩壊、検閲ソフトをかいくぐる白紙デモ』では、今中国で起きている劇的な地殻変動についてレポートしてきた。後編では、さらに連鎖的に発生している深刻な事態と、中国の未来の姿が窺い知れる分析についてお届けする』、興味深そうだ。
・『将来を見限った人々 経済成長の足かせになっているのは、長引く不動産不況だ。恒大集団をはじめとする多くの不動産デベロッパーが資金繰りに窮し、住宅の完成と引き渡しが滞る事例が各地で発生。これに対抗する形で、住宅購入者たちがローンの支払いを拒否する動きも頻発している。直近10月の不動産販売は前年同月比23・2%減と、不調ぶりが著しい。 「不良債権処理の市場となる競売すら機能していない」と語るのは、ジャーナリストの姫田小夏氏だ。 「これまで、ある程度の不動産はアリババなどが運営するオークションサイトといった競売市場に出せば、買い手がつく傾向にありました。ところが昨今は、市場が動かず、在庫が積みあがっている状況です。 たとえば、破産した巨大民営企業が手放した、上海の一等地にある、建築面積1万㎡を超える20戸の高級戸建て群が'21年8月に競売にかけられました。査定額は総額16億元(約320億円)と、上海競売史上、屈指の高額案件です。昔なら投資物件として人気を集めそうなものですが、誰一人入札者は出ませんでした」 当然、国も低迷する不動産市場に対して金融面の救済措置に動いた。11月21日には、政府の指示により国有銀行が相次いで不動産会社向け融資枠を設定。その額は3兆1950億元(約63兆円)とケタ違いの規模に上った。しかし、これで市場が回復するかといえば、そう簡単な話ではない。中国の不動産大手幹部は弱音を漏らす。 「今回の支援策の対象は最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)など有力な企業に限った話。恒大集団など過剰債務に陥っている企業はことごとく対象外です。習近平は問題を先送りにしたに過ぎませんよ。実際、支援策発表後も住宅販売は相変わらず低調です」』、「「今回の支援策の対象は最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)など有力な企業に限った話。恒大集団など過剰債務に陥っている企業はことごとく対象外です。習近平は問題を先送りにしたに過ぎませんよ」、「恒大集団」が「対象外」ということは、殆どの不動産企業も「対象外」になってしまう。
・『科学的分野の危機 せっかくのテコ入れも空振りに終わってしまいかねない不動産市場。同様に危機感を抱いているのがテクノロジー市場だ。習近平が夢見た「科学技術立国」も昔の話、今やその道は閉ざされている。 決定打となったのは、アメリカ・バイデン政権による対中輸出規制の強化だ。そこには先端的な半導体を製造するのに不可欠な米国製の装置や人的資本が含まれていた。この輸出規制が続けば、それだけハイテク分野の技術も発想力も削がれていく。科学的技術で世界をリードするという野心の実現も難しくなる。 経済が停滞し、これ以上の技術発展も見込めないとなれば、もう中国に将来はない—先見の明がある者ほど、こう考えて祖国を見限り、国外に脱出していくという。ITベンチャー企業を経営していた深圳から'21年に日本に移住してきた40代男性はこう語る。 「'22年は『中国を脱出する』という意味の『潤』という単語がSNSで流行し、資産をシンガポールや日本などに移し、脱出を図る富裕層が急増しました。さらに最近、企業レベルでも将来性の乏しい国内での事業を切り捨て、海外に出て行こうとする向きがあります。 その一つが、民間企業の海外視察ブームです。12月6日には、浙江省が1万社以上の企業を率いて、6日間の欧州視察ツアーを行ったことが報じられました。表向きは省レベルの海外投資戦略の一環ですが、経営者の中にはこれを機に、拠点の海外移転を決める者も多いと聞きます」 中国人経営者たちの憂いの目は、急速な少子高齢化の波にも向けられている。国連が発表した最新の中国の人口予測によれば、2047年までの人口の減少幅は総人口の6%にあたる約9000万人に上る。また、平均年齢も現在の38・5歳から50歳に急上昇する』、「資産をシンガポールや日本などに移し、脱出を図る富裕層が急増しました。さらに最近、企業レベルでも将来性の乏しい国内での事業を切り捨て、海外に出て行こうとする向きがあります。 その一つが、民間企業の海外視察ブームです」、「経営者の中にはこれを機に、拠点の海外移転を決める者も多いと聞きます」、これでは大変だ。
・『党内部もバラバラ それでいて、これから有望な働き手となるであろう16〜24歳の若年層の失業率が高止まりを続けているのも問題だ。背景には求職者と求人側とのミスマッチがある。 10月の失業率は5・5%とほぼ横ばいですが、一方で若年層は17・9%と高い水準にあります。原因は、1000万人の大台を超えた大卒者にあります。彼らには『大学に入った以上、こういう仕事に就きたい』という希望がある。特に習近平政権下の教育政策によって、『ブルーカラー=社会の底辺』という固定観念が根付いてしまったばかりに、仕事を選別するようになってしまった。結果として、ミスマッチが常態化しているわけです」(前出・阿古氏) ゼロコロナ、経済、そして教育。習近平が主導したあらゆる政策がことごとく裏目に出ている。それが今になって様々な問題を引き起こしているのは明らかだ。にもかかわらず、習近平の暴走は止まらない。最高指導部を構成する党政治局常務委員や下部組織の政治局員は、自らの側近とイエスマンで固められている。習近平が「これをやれ」と言えば、拒否できる者などいない。 中国問題グローバル研究所所長で筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は、共産党指導体制内の信頼関係の欠如が、中国の地殻変動の根底にあると指摘する。 「ゼロコロナ政策の規制緩和も、実際には'21年1月には出されていました。しかし、現場を指揮する地方政府の役人たちは、『お上の指示に従って失敗したら自分が感染再拡大の責任を取らされる』と、自分自身が処罰される可能性に怯え、自らの保身のために2年近く動かなかったわけです」 そこで、中央は「規制緩和を守らない者は処罰する」と宣言。ここでようやく、各地方政府は「逮捕されるくらいなら」と緩和を実行に移したのだ。もはや信頼関係など存在しない。遠藤氏が続ける。 「そこにあるのは恐怖心です。恐怖による強権統治をやめないかぎり、どんな政策も現場との連携は取れないままで、中国は救われません」 幾多の危機に直面する中国。この国の地下で煮えたぎるマグマが噴出する日は近い』、「「ゼロコロナ政策の規制緩和も、実際には'21年1月には出されていました。しかし、現場を指揮する地方政府の役人たちは、『お上の指示に従って失敗したら自分が感染再拡大の責任を取らされる』と、自分自身が処罰される可能性に怯え、自らの保身のために2年近く動かなかったわけです」、「規制緩和」の「指示」の「実行」に「自らの保身のために2年近く動かなかった」、とは官僚主義もここに極まれりだ。急に「規制緩和」したことによる「感染爆発」による医療崩壊、死者急増の嵐が早く収まってくれることを期待する。
先ずは、12月14日付けNewsweek日本版 がロイターを転載した「中国、ゼロコロナ解除で「困難に直面」 WHOが指摘」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/12/who-138.php
・『世界保健機関(WHO)のハリス報道官は13日、中国が新型コロナウイルス感染抑制に向けた厳格な「ゼロコロナ」政策を解除し、コロナとの「共生」を選択する中、「非常に厳しく、困難な時期」に直面するという認識を示した。 中国のコロナ規制緩和は国内で歓迎されつつも、感染急拡大を巡る懸念も高まっている。 ハリス報道官は「非常に厳格な管理体制からの脱却はどの国にとっても非常に難しい」と指摘。課題は国民のワクチン接種を確実にし、病院の受け入れ態勢を整えることとし、「移行を維持するためには、地域社会や病院、国家レベルで多くの措置を講じる必要がある」と述べた』、「中国が新型コロナウイルス感染抑制に向けた厳格な「ゼロコロナ」政策を解除し、コロナとの「共生」を選択する中、「非常に厳しく、困難な時期」に直面するという認識」、まして国産ワクチンは効果を疑問視されているのでは、本当に大変だろうと、同情を禁じざるを得ない。
次に、12月15日付け現代ビジネスが掲載した評論家の石 平氏による「抗議活動に負けてのゼロコロナ政策撤廃でコロナ感染爆発の危機、習近平政権「ダブル敗戦」の大打撃」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103314?imp=0
・『事実上の「ゼロコロナ」政策放棄 12月7日、中国の国家衛生健康委員会は、10の項目からなるコロナ対策の新しいガイドライン「新十条」を発表した。その注目すべきいくつかの重要内容を羅列すれば以下のものである。 1)各地における「強制的な全員PCR検査の定期実施」は廃止。 2)公共交通機関と病院・学校を除く公共施設、商店、スーパー、オフィスビルなどを利用する際のPCR検査陰性証明の提示は廃止。 3)省や自治区などを超えて移動する際の陰性証明提示は廃止。 4)すべての感染者を隔離施設や病院に移す措置は廃止、無症状あるいは軽症の感染者の自宅隔離を認める。 5)感染拡大への封鎖措置に関しては、都市全体あるいは住宅団地全体の封鎖はやめ、封鎖は感染が確認された建物やフロアに限定される。 以上の内容からすれば、この新しいガイドラインの発表と実施はもはや「ゼロコロナ」政策の「緩和」程度のものではない。それは事実上、「ゼロコロナ」政策の放棄であって、180度の政策の大転換である。 「ゼロコロナ」政策というのは文字通り、コロナ感染をゼロにすること、つまりコロナの完全撲滅を目指した政策である。この政策実施の前提は、まさに「強制的・定期的なPCR全員検査」である。例えば都市部なら、地方によっては48時間内に一度、あるいは72時間内に一度、政府当局の手によって、市民全員に対するPCR検査は徹底的に行われるのである。 このような徹底的なPCR検査の実施によって、陽性者と感染者は漏れることなく迅速に割り出されて隔離施設へ送られることになるから、どこかでコロナが出たところ、それは直ちに「撲滅」されて感染の拡大は最小限に封じ込められるのである。 封鎖なくして中国のコロナ制圧なし、だったが その一方、市民全員はPCR検査を受ける度に、陽性でなければ、有効期間限定の「陰性証明」を発行してもらうが、市民の方は48時間か72時間という有効期限内に、この「陰性証明」を提示することによって初めて電車やバスなどの公共交通機関を利用できるし、病院や学校、スーパーやオフィスビルなどの公共施設に入れる。このような措置が取られることによって、陽性者や感染者が市中に出回って公共施設に出没するようなことは基本的に無くされているから、コロナの感染拡大は極力避けられている。 それでもコロナの感染拡大が発見された場合、最後の手段として政府当局は住宅団地の1つ、あるいは町1つ、都市1つを丸ごと封鎖するという極端な措置をとる。例えば筆者の出身地である四川省成都市(人口2100万人)の場合、今年8月31日に新規感染者数が156名になったところで、翌日の9月1日からまる2週間、都市全体がロックタウンされた。 こうしてみると、「強制的・定期的なPCR全員検査」と、あらゆる公共施設に出入りする場合の陰性証明提示、そして極端な封鎖策は、中国政府の「ゼロコロナ」政策の実効性を支える3本の柱であって政策が成り立つ前提であることが分かる。 しかし、前述の「新十条」の内容を点検してみると、特に1、2、5を点検してみると、「3本の柱」となる政策措置は完全に廃止されたり大幅に緩和されたりしていることが明々白々である。それでは「ゼロコロナ」政策はもはや成り立たない。政策そのものが放棄されてしまったと見て良い。 つまり、前述の「新十条」の発表と実施は、「ゼロコロナ」政策の単なる「緩和」ではなく、むしろ思い切った政策の大転換であることがよく分かる。しかし問題は、この政策転換は決して、「コロナの撲滅」という「ゼロコロナ」政策当初の目標を達成した上での政策転換ではない、という点である』、「前述の「新十条」の発表と実施は、「ゼロコロナ」政策の単なる「緩和」ではなく、むしろ思い切った政策の大転換である」、本当に「思い切った政策の大転換」だ。
・『最悪のタイミングで そもそも、オミクロンという新しい変異株が世界的に広がった時から、コロナの完全撲滅はすでに不可能になっている。実際、中国であれほど厳しい封じ込め策が実施されてきていても、感染拡大を完全に阻止できたわけではない。今年12月6日までの28日間連続、中国国内の新規感染者数は1万人を超えている。 そうすると、12月7日からの政策転換、すなわち「ゼロコロナ」政策の放棄は、まさに目標が全くできなかった中での政策の放棄であって、その意味するところはすなわち、「ゼロコロナ」政策そのものの敗退であって、約3年間にわたって政治権力によって強行された「ゼロコロナ政策」は結局、失敗に終わったわけである。 しかも、「ゼロコロナ」政策が放棄されたところ、今後の中国全土において再びコロナの感染拡大が起きてくることも予想されているから、国民に大きな犠牲と不自由を強いた「ゼロコロナ」政策は結局何の意味もない。政策の完全失敗である。 それでは習近平政権は、自らの宣言した「コロナとの戦い」にすでに敗戦していることは明らかであるが、さらに問題となってくるのは、今回の「ゼロコロナ」政策の転換が行われたタイミングである。 12月7日といえば、中国でも冬期の始まりである。周知のように、冬期というのはまさにコロナの感染しやすい季節だ。冬期の到来と同時に行われた中国政府のコロナ政策の大転換は拙速というしかないが、ましてや中国の場合、来年1月22日からは旧正月(春節)が始まって帰省などによる恒例の「民族大移動」は始まるという特別の事情もある。 このようなタイミングでの政策転換はどう考えても無謀かつ危険であろう。今月から来年1月にかけて、中国全土で爆発的な感染拡大が起きてくる確率は非常に高い。政策転換のタイミングはあまりにも悪すぎる』、「国民に大きな犠牲と不自由を強いた「ゼロコロナ」政策は結局何の意味もない。政策の完全失敗」、「今月から来年1月にかけて、中国全土で爆発的な感染拡大が起きてくる確率は非常に高い。政策転換のタイミングはあまりにも悪すぎる」、その通りだ。
・『民衆の抗議に負けてしまった しかし習政権は一体どうして、上述のような危険も承知の上で拙速な政策転換に踏み切ったのか。時間列的に見ればその理由は実に簡単である。11月25日から29日までに全国で勃発した「反ゼロコロナ政策」の抗議運動こそは、政策の転換を促した主な要因の1つではないのか。 抗議運動の実態は12月1日掲載の本欄が詳しく伝えたところだが、政権の「ゼロコロナ」政策に対する強い反発から始まった民衆運動はあっという間に全国に広がり、同時に「反習近平・反体制運動」的革命運動にまで発展した。その後、当局は警察力を動員して抗議デモを封じ込めその鎮静化に成功したものの、運動の全国的拡大と先鋭化はやはり、習政権に大きな衝撃を与えたはずである。 そして運動収束直後の12月7日、当局は上述の「新十条」を発表しそれを直ちに実施に移した。やはり習政権は、抗議運動の拡大と継続化を恐れて民衆の不平不満を和らげるために急遽「ゼロコロナ政策」からの転換を断行した、と思われる。そういう意味では、「ゼロコロナ」政策からの政権の撤退あるいは敗退は、民衆は自分たちの力で勝ち取った勝利でもある。 しかし、もしそうであれば、このことの政治的意味は実に重大である。要するに一党独裁体制下の中国で、政権は民衆の抗議運動に押された形で政策の大転換、大後退を余儀なくされたわけであり、立ち上がった民衆の力を前にして、政権が敗退したのである。言ってみれば、今の習政権は、コロナとの戦いに敗退したのと同時に民衆の力にも敗退してしまった。まさに屈辱の「ダブル敗戦」というものである』、「一党独裁体制下の中国で、政権は民衆の抗議運動に押された形で政策の大転換、大後退を余儀なくされたわけであり、立ち上がった民衆の力を前にして、政権が敗退したのである。言ってみれば、今の習政権は、コロナとの戦いに敗退したのと同時に民衆の力にも敗退してしまった。まさに屈辱の「ダブル敗戦」というものである」、「ダブル敗戦」とは言い得て妙だ。
・『政権への不信とコロナ感染再拡大と この「ダブル敗戦」は、今後の中国政治に及ぼす影響は決して小さくはない。それがもたらす政治的結果の1つはまず、習近平主席と習政権のさらなる権威失墜である。政権があれほど固執してきた「ゼロコロナ」政策は結果的に失敗に終わり、中国国民はもう一度、全国的感染拡大に直面していかなければならない。 この厳重な事実は、愚かな政策を強行した習主席自身と政権の愚かさをより一層露呈したのと同時に、国民一般の習主席と政権に対する不信感をさらに増幅させることとなろう。 その一方、民衆の抗議運動に押されたて行なった今回の政策大転換は実は、習近平政権の今後の政治に1つ、大きな「禍根」を残すとことなろう。政権が民衆の力に屈した形で政策転換を余儀なくされたのであれば、民衆側はこれで政権の足元を見てしまい、自分たちの力に対して大きな自信を持つこととなるに違いない。 それでは今後、政権のさまざまな政策に対してその不平不満が限界に達したとき、今回の「反ゼロコロナ政策運動」の成功に勇気つけられた民衆が新たな抗議運動に立ち上がる可能性は、以前より大きくなることは予想できる。つまり、習政権の「ダブル敗戦」は結局、今後における民衆運動あるいは反乱の発生を誘発する火種を自ら撒いた訳である。 中国国民と習政権にとっての大問題はもう1つがある。 今回、医療施設の充実や高齢者層へのワクチン接種の普及などの十分な準備はまだ整えられていない状況下で、主に政治的要因により「ゼロコロナ」政策が放棄されたことの結果、感染しやすい冬期の到来と相まって中国全国で爆発的な感染拡大が起きてくる確率は非常に高い。その中で重症者や死亡者が増える一方、医療機関の逼迫が深刻化してくるのであろう。 それでは政権は感染拡大をそのまま容認するのか、それとも「ゼロコロナ」政策に逆戻りするのかの選択を迫られることとなるが、封じ込めからやっと解放された中国国民はもう一度、広範囲な感染拡大に耐えていかなければならない。中国にとっての「コロナ問題」は、まさにこれからである』、「習政権の「ダブル敗戦」は結局、今後における民衆運動あるいは反乱の発生を誘発する火種を自ら撒いた」、「今回、医療施設の充実や高齢者層へのワクチン接種の普及などの十分な準備はまだ整えられていない状況下で、主に政治的要因により「ゼロコロナ」政策が放棄されたことの結果、感染しやすい冬期の到来と相まって中国全国で爆発的な感染拡大が起きてくる確率は非常に高い・・・政権は感染拡大をそのまま容認するのか、それとも「ゼロコロナ」政策に逆戻りするのかの選択を迫られることとなるが、封じ込めからやっと解放された中国国民はもう一度、広範囲な感染拡大に耐えていかなければならない。中国にとっての「コロナ問題」は、まさにこれからである」、本当にどうなるのか、大いに注目される。
第三に、12月16日付け東洋経済オンライン が掲載した音楽家のファンキー末吉氏による「一気に大緩和?中国・ゼロコロナ政策撤廃の現実 音楽家ファンキー末吉が経験した緩和直後のドタバタ劇」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/639893
・『新型コロナウイルス感染症に対し「ゼロコロナ」政策を厳しく続けてきた中国が一転、政策を緩和したのは12月上旬。全国に抗議活動が広がるなど混乱を受けて、習近平・国家主席の鶴の一声で緩和されることになった。 ロックバンド「爆風スランプ」のメンバーで現在は中国を中心に活動しているミュージシャンのファンキー末吉氏は、緩和された直後の北京に出向き、ゼロコロナ政策緩和直後の状況を目の当たりにする。これまでの中国のコロナ監視体制を経験、「IT武装も最後は『人力』頼みの中国コロナ監視体制」などを執筆したファンキー末吉氏は、PCR検査が必要だったりそうでなかったり、場所によって対応が変わったり……そんなドタバタ劇が起きている。中国社会の現実はいかに。 私は「布衣楽隊」という、中国で最も多くのツアーを行うバンドのドラマー兼プロデューサーとして中国全土をツアーして回っている。 2022年のツアーはコロナ禍のため例年より少なく57本を予定していたが、結局は14本がコロナのためにキャンセルとなって2022年9月末に終了。メンバーはそのまま、拠点として居住する中国西部・寧夏回族自治区の銀川(ぎんせん)市に帰ったのだが、私はレコーディング仕事があったのでそのまま北京に行った。 そうしたら、運のいいことに銀川市がロックダウン。しかし新たな感染者数が10人ほどで200万都市(周辺小都市を含めると700万人)をロックダウンして住民の自由を奪うのだから、中国のこのゼロコロナ政策というのはすさまじいと言うしかない』、「ロックバンド「爆風スランプ」のメンバーで現在は中国を中心に活動」、とは興味深い存在だ。コロナ問題を新聞とは違った角度で伝えてくれるだろう。
・『12月7日、突然訪れた「ゼロコロナ」緩和 銀川には帰れないのでそのまま1カ月半ほど北京に滞在していたら、北京がどんどん危なくなってきた。 私が銀川に帰った翌日にはすべての北京市民は毎日のPCR検査が義務付けられ、検査結果がスマートフォンにインストールする健康アプリに反映され、そこでのQRコードが緑色にならなければ商店や施設、タクシーにも乗れないというありさまである。 銀川はそれほど厳しくなく、外地から帰って来た人は3日間のうち2回PCR検査を受ければ健康アプリのQRコードは緑色のままとなり、それを施設入り口のリーダーにかざせばどこにでも自由に出入りすることができた。 帰ってきてから半月ほどは平和に過ごしていたのだが、2022年11月25日にいきなり都市封鎖の通達が来た。これは銀川の感染者数というより、中国全土の感染者数がこれまでになく増えたことで地方政府もそれぞれに危機感を高めたためではないかと思う。 今回のロックダウンは、いわば「ソフトロックダウン」程度のもので、飲食店はデリバリー以外の営業は禁止。私の住むマンション群は出入り禁止だが、そうでもなく自由に出入りできる地区もあり、どうやらマンション群の社区と呼ばれる自治体に判断を任されているようだ。 ところが、1週間の隔離も終わりにさしかかった11月24日に新疆ウイグル自治区で発生した火災で死亡者が出た。死亡者が出たのは、防疫用柵で消防隊の到着遅れたためではないかと考えられ、これをきっかけに中国全土でゼロコロナ政策に反対する抗議活動が起きた。 「第2の天安門事件(1989年)に発展するかも」と心配していたのだが、一転、政府はゼロコロナ政策を大幅に緩和することを発表した。2022年12月7日のことである。 これを受けて銀川では、スーパーや商業施設に入る際に必要だった48時間以内の陰性証明の提示が不必要となった。そんな頃である。北京でレコーディングの話が来た。 いや、話はだいぶ前からあったのだが、ゼロコロナ政策による厳しい行動制限や、外地からの流入規制、そして都会よりいつも1テンポ遅れて対策が変わるこの銀川に、北京から帰ってきてちゃんと入れるのかという心配があったので、「今は北京には行けない」と言うしかなかったのだ。 ところが、12月7日の規制緩和発表に続いて、中国で省をまたいで移動する際の陰性証明の提示が撤廃された。これはコロナ禍で長くツアーを回っていた私にとってはとてもうれしいニュースである』、「新疆ウイグル自治区で発生した火災で死亡者が出た。死亡者が出たのは、防疫用柵で消防隊の到着遅れたためではないかと考えられ、これをきっかけに中国全土でゼロコロナ政策に反対する抗議活動」、「政府はゼロコロナ政策を大幅に緩和することを発表した。2022年12月7日のことである。 これを受けて銀川では、スーパーや商業施設に入る際に必要だった48時間以内の陰性証明の提示が不必要となった」、「ゼロコロナ政策」も終わりはあっさりしたものだ。
・『PCR検査を課しても検査場は次々閉鎖 実はIT大国とされる中国で、便利に思えるそのアプリの数々、とくに省ごとに違う健康アプリのほとんどが、外国人には対応していないのだ。 そして、北京に住む友人の話によると、規制が緩和されたといっても飲食店などに入るためには48時間以内の陰性証明がいまだに必要なのに、12月7日の規制緩和によってPCR検査場が次々と閉鎖されたため、今度はその検査をきちんと受けられる検査場を探すのがたいへんになってしまった。とくに外国人にとっては、外国人に対応していないPCRR検査場というのがあるから、さらに探すのに一苦労、二苦労させられる。 こんな笑い話も伝わってくる。 「陰性証明が必要なんだけど、検査をやっているところがないじゃない!」「検査なら病院行ってやれ」 「その病院に入るのに、陰性証明が必要なんだよ!!」 銀川のような地方都市は対応が遅く、まだそこまで切羽詰まった状況にはならないが、北京などの大都市では急激な政策転換によってかなりの混乱が起こっているようだ。 そんな大混乱の中、12月9日に北京行きが決まった。出発の頃には北京で爆発的に感染者数が増えているという噂も聞くが、銀川の友人たちなんかは「お、いいじゃん!帰ってきたらメシ食おう」と笑う。感染したらメシどころじゃないのに何を言っているんだろうと不思議に思ったが、後にその意味がわかることになる。 さて、北京に行くとなると、心配なのはPCR検査をどう受けるかである。北京の友人夫婦は久しぶりに私と飲むことを楽しみにしてPCR検査を受けているのだが、毎日検査しても結果が健康アプリにまったく反映されず、結局8日間も検査を受けてないことになっており、飲食店どころかどこの施設にも入れないのだ。 そこで、北京で陰性証明をゲットするのは難しいだろうと思い、私は出発前に銀川でPCR検査をすることにした。 噂通り、PCR検査場が減ってきているので長蛇の列である。 検査は今までは無料だったのだが、今回から有料になっていた。3.5元。円安とはいえ70円程度で安い!10人分の検体を1つの試験管にまとめる方式の検査だ。 結果はだいたい半日後には出る。夜汽車に乗って北京に向かい、朝着くころには検査結果がアプリに反映されていることだろう。外国人はQRコードをかざして読み取るだけではダメで、さらにパスポート情報などを自分で入力するのだが、スペルなどちょっと間違えただけで結果は反映されない。私も実際、PCR検査を受けているのに反映されずにQRコードが黄色になってしまって困ったことがあったが、この検査場はいつも必ず反映されるので安心なのである。 さて、いつものように夜汽車に乗ったらすぐに眠れるようにガンガンに酒を飲んで銀川駅へ向かう。これまでは厳重な健康アプリや行動アプリのチェックがあったのだが、それらがまったくなくなり何もチェックされなかった』、「PCR検査」で「10人分の検体を1つの試験管にまとめる方式の検査」、1人でも陽性の人間がいると、何回か組み合わせを変えて検査を繰り返して、陽性の人間を絞り込むのだろう。これでも、個々人に検査をするより効率的なのだろう。
・『陰性証明が必要だったりなかったり 北京に着いた。スマホの地図アプリを開いたら、見慣れない赤いものがたくさんある。「疫情高??」。つまり「ここには感染者がいるからたいへんだよ」という意味だ。 北京西駅に着いてからもなんらチェックもまったくなく、以前検査場だった場所に看板だけが撤去されず残っていた。そこからは地下鉄に乗り換えるのだが、みればきっと同じ列車に乗ってきたのだろう、防護服を着ている親子連れらしき乗客もいた。 きっと感染爆発と言われている北京へ行くのに、娘だけには感染させないようにという親心なのだろう。「コロナは怖い病気だよ」と宣伝してゼロコロナ政策をやっていた中国政府が、いきなり「オミクロン株はまったく怖くない」と言い始めた。人民は自分の身は自分で守るしかない。全国の薬局から解熱剤などの風邪薬がすべて売り切れたという噂である。 地下鉄も、一時期はガラガラだったと聞いたがそうでもなくそこそこの乗客がいた。時間もあるので、先日大規模なデモがあったという北京市内東部の「亮馬橋」地区に行ってみたが、別にいつもと変わらない感じだった。上海では、デモが発生した場所の歩道が厳重に封鎖されたと聞いていたが……。 レコーディングまでには時間があるので、スターバックスにコーヒーを飲みに行ったら陰性証明の提出を求められた。それから、知り合いの中国人がやっている日本料理屋に行ったのだが、そこはホテルの施設内にあり、普段はより厳格な検査を行うのだが陰性証明の提出は必要なく、QRコードをスキャンして「この場所に来た」という足跡を残すのみであった。規制緩和を受けての対応が店によって違うのだろう。 日本語が上手な女将は病気で出勤してないということだが、来たことを告げると喜んでメッセージを送ってきた。「実はコロナにかかってしまったんです」と泣いている。女将さんはガンの闘病生活もしており、それにコロナはたいへんだろう。 「もうね、家とスーパーマーケットだけしか行ってなかったのに感染しちゃうなんて、なんてひどい国なの!」と怒っているが、女将さん、ここはあなたの国です……、といったメッセージをしばらくやり取りした後、スタジオに向かう。 出迎えてくれたのはドラムをレコーディングする歌手本人とエンジニアの2人。手にはアルコール噴霧器を持っていて、握手のたびに消毒したり、マスクを決して外さなかったり、とてもコロナを恐れているように見えて緊張した。ところが、理由はほかにあったことが後に判明する。 レコーディングは順調で、午後5時にはすべての作業を終えて「飲みに行こう」となった。歌手も一緒に行くのかと思ったら「帰る」というので、結局エンジニアと2人で飲むことに。場所は日本風の居酒屋だったのだが、そこでも陰性証明の提出は必要ではなくQRコードをスキャンして足跡を残すのみであった』、「全国の薬局から解熱剤などの風邪薬がすべて売り切れたという噂である」、最近は日本の薬局でも中国人が「風邪薬」を爆買いしているようだ。
・『どっぷりと濃い濃厚接触者になる 前述の友人ご夫婦も招待しようと連絡したら、ショッキングな事実を伝えられた。私と一緒に飲むのを楽しみにして飲み屋に入れるように毎日PCR検査を受けて、結果が出ないので毎日毎日検査を受け続けていたのだが、先日出た結果が「陽性」。厳密には「1つの試験管で検査した10人の中に陽性者がいた」というもので、彼ら自身が陽性なのかどうかはわからない。 そもそも10人が1つの試験管で検査するなんて、まるで毎日ロシアンルーレットをやっているようなものである。せめてもの救いが、昔なら有無をいわさず収容所のような隔離施設に送られるのだが、今は緩和されて自宅で自主隔離となっているようだ。 エンジニアと盛り上がって飲んでいるときに、またショッキングな事実を聞いた。 「歌手が『一緒に飲めなくてすみません』と謝ってましたよ。実は彼も陽性で」 それって陽性なのにスタジオ来てたの?というより、一瞬でそこまで緩くなったということか……。そして彼自身も私にショッキングなことを言った。 「実は妻も陽性で家で寝てるんです」 ということは、今の私は陽性者と同居している男とマスクを外して酒を飲んでいるのか!あれほど厳格に行われていた中国のゼロコロナ政策が、一瞬のうちにここまで緩くなっているのが信じられなかった。) 酔いも覚めてしまったので帰ろうと、北京の院子の同居人に連絡を取る。院子というのは中国伝統的な長屋式住居で、1つの庭(院子)を囲むように三方、もしくは四方の建物が建っており、院子を共有してそれぞれの棟は独立して緩い共同生活を営むという、友人と暮らすなら願ってもない生活環境である。 北京市内には、今ではこういった伝統的住居はなくなってしまい、すべて高層マンションになってしまったが、郊外などの辺鄙な場所にはまだ残っていて、私が住む院子も市内から30キロメートルほど離れた村の中にある。 連絡をしてみると、同居人は「村にはタクシーの乗り入れもできなければ、この村の住人である証明書(出入証)がなければ入れない」というのだ。もう緩いのか厳しいのかわからないゼロコロナ政策。あるところではとてつもなく厳しく、あるところではとてつもなく緩い』、「ゼロコロナ政策。あるところではとてつもなく厳しく、あるところではとてつもなく緩い」、これが緩め始めの実態だろう。
・『「早く帰ってきてうつしてよ!」 その日は友人宅に泊めてもらい、翌朝冷静になって考えてみて怖くなった。たとえマスクをしていたとしても、感染者と一緒に丸1日スタジオにいて、その後は感染者の同居人と一緒にマスクを外して酒を飲んでいた私は、普通で考えると当然感染しているのではないか。 少なくとも濃厚接触者であることだけは確かである。ほんの最近までなら、これだけで隔離施設行きである。私はもうすでに6回の隔離を経験していて、病気よりなにより隔離が怖い。また、もし感染していたとしたら、今度は人にうつしてしまうのが怖い。とくに一緒にバンドをやっているメンバーに、である。 スマホをみると、ちょうどバンドのメンバーによるグループチャットでは、感染についていろいろと面白おかしいやり取りがされていた。北京のスタッフに対して、「北京は大変なの?じゃあ、なんか菌が付いているのを郵送してよ」とか何の冗談なのかよくわからない。私だけ大真面目に前日のレコーディングの話をして、「このまま北京に滞在して様子を見ようか?」と提案してみる。 ところが、シリアスになっている私をよそに「イエィ!!」と盛り上がっている。「Funky、早く帰ってきてうつしてよ」とか「Funkyはぼくらの救世主だ」といったメッセージが来て、まったく訳がわからない。こちらは「とりあえず銀川に帰ったら1週間ぐらいは自主隔離かな」と思っていたのに、「じゃあ、火曜日のリハが終わったらみんなでFunkyを囲んでメシに行くからな!」と大盛り上がり……。 過去のチャット履歴を見ると、どうやらどこかのバンドのメンバーが感染してツアーが中止になったらしい。布衣楽隊の冬のツアーは本来ならもう始まっている予定だったが、2022年11月のゼロコロナ政策による締め付けのため、2023年1月から開始となった。だから、この12月の間にできればメンバー全員感染しておきたいのだ。) 「コロナは一度感染すると半年は感染しない」という医者の発言がネットで出回っている。もう、いったい何を信じていいのやらわからない。 銀川に戻ったが、私はまだ感染しているのかどうかはわからない。PCR検査を受ければ、もっといろんな面倒くさいことが起きるであろうから、怖くて受けられないのだ。 今ではPCR検査を受けなくても、この国で生きていける。省をまたぐ移動も何の障害もなくできる。このような無症状の感染者が平気で中国国内を自由に飛び回っているという事例はもっともっとたくさんあるのだ』、「省をまたぐ移動も何の障害もなくできる。このような無症状の感染者が平気で中国国内を自由に飛び回っているという事例はもっともっとたくさんあるのだ」、恐ろしいことだ。
・『自分の身は自分で守る それなのに、政府発表による中国のコロナ感染者の数は減っていく一方である。もう誰もPCR検査を受けないのに、いったい何を根拠にこの数字を出しているのか。そのうち中国政府はこう発表するかもしれない。 「わが国の偉大なるゼロコロナ政策は大成功を収め、ついにこの国ではひとりのコロナ患者もいなくなりました!」 上に政策あれば下に対策あり。この国の人民は、政府の発表に翻弄されながらもたくましく「自分の身は自分で守って」生きていくのだ。 銀川に着いたその日、政府は「行動アプリ」の撤廃を発表した。これまで、過去1週間(ちょっと前までは2週間だった)に行った都市の一覧が出るアプリだ。仲間内は大喜びで、このニュースを拡散した。 しかし、だからといって国民の行動の監視が緩まるわけではない。「コロナに関して」ということだけであることに間違いはなかろう。ゼロコロナ政策の緩和。まだまだ混乱は続きそうだが、このままうまく着地して収束してくれることを願うのみである』、今日のニュースでは、コロナ感染者の数や死亡者数の発表は止めたようである。医療体制が不十分な「中国」で医療崩壊が激化するようであれば、まさに悲劇だ。
第四に、11月21日付け現代ビジネス 「【習近平の大誤算】若者の失業率約18%、富裕層の国外脱出加速、米輸出規制で“科学技術立国の夢”が泡に」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103521?imp=0
・『前編『「中国の地殻変動」と「習近平の大誤算」コロナPCR受診者16倍、不動産競売市場崩壊、検閲ソフトをかいくぐる白紙デモ』では、今中国で起きている劇的な地殻変動についてレポートしてきた。後編では、さらに連鎖的に発生している深刻な事態と、中国の未来の姿が窺い知れる分析についてお届けする』、興味深そうだ。
・『将来を見限った人々 経済成長の足かせになっているのは、長引く不動産不況だ。恒大集団をはじめとする多くの不動産デベロッパーが資金繰りに窮し、住宅の完成と引き渡しが滞る事例が各地で発生。これに対抗する形で、住宅購入者たちがローンの支払いを拒否する動きも頻発している。直近10月の不動産販売は前年同月比23・2%減と、不調ぶりが著しい。 「不良債権処理の市場となる競売すら機能していない」と語るのは、ジャーナリストの姫田小夏氏だ。 「これまで、ある程度の不動産はアリババなどが運営するオークションサイトといった競売市場に出せば、買い手がつく傾向にありました。ところが昨今は、市場が動かず、在庫が積みあがっている状況です。 たとえば、破産した巨大民営企業が手放した、上海の一等地にある、建築面積1万㎡を超える20戸の高級戸建て群が'21年8月に競売にかけられました。査定額は総額16億元(約320億円)と、上海競売史上、屈指の高額案件です。昔なら投資物件として人気を集めそうなものですが、誰一人入札者は出ませんでした」 当然、国も低迷する不動産市場に対して金融面の救済措置に動いた。11月21日には、政府の指示により国有銀行が相次いで不動産会社向け融資枠を設定。その額は3兆1950億元(約63兆円)とケタ違いの規模に上った。しかし、これで市場が回復するかといえば、そう簡単な話ではない。中国の不動産大手幹部は弱音を漏らす。 「今回の支援策の対象は最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)など有力な企業に限った話。恒大集団など過剰債務に陥っている企業はことごとく対象外です。習近平は問題を先送りにしたに過ぎませんよ。実際、支援策発表後も住宅販売は相変わらず低調です」』、「「今回の支援策の対象は最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)など有力な企業に限った話。恒大集団など過剰債務に陥っている企業はことごとく対象外です。習近平は問題を先送りにしたに過ぎませんよ」、「恒大集団」が「対象外」ということは、殆どの不動産企業も「対象外」になってしまう。
・『科学的分野の危機 せっかくのテコ入れも空振りに終わってしまいかねない不動産市場。同様に危機感を抱いているのがテクノロジー市場だ。習近平が夢見た「科学技術立国」も昔の話、今やその道は閉ざされている。 決定打となったのは、アメリカ・バイデン政権による対中輸出規制の強化だ。そこには先端的な半導体を製造するのに不可欠な米国製の装置や人的資本が含まれていた。この輸出規制が続けば、それだけハイテク分野の技術も発想力も削がれていく。科学的技術で世界をリードするという野心の実現も難しくなる。 経済が停滞し、これ以上の技術発展も見込めないとなれば、もう中国に将来はない—先見の明がある者ほど、こう考えて祖国を見限り、国外に脱出していくという。ITベンチャー企業を経営していた深圳から'21年に日本に移住してきた40代男性はこう語る。 「'22年は『中国を脱出する』という意味の『潤』という単語がSNSで流行し、資産をシンガポールや日本などに移し、脱出を図る富裕層が急増しました。さらに最近、企業レベルでも将来性の乏しい国内での事業を切り捨て、海外に出て行こうとする向きがあります。 その一つが、民間企業の海外視察ブームです。12月6日には、浙江省が1万社以上の企業を率いて、6日間の欧州視察ツアーを行ったことが報じられました。表向きは省レベルの海外投資戦略の一環ですが、経営者の中にはこれを機に、拠点の海外移転を決める者も多いと聞きます」 中国人経営者たちの憂いの目は、急速な少子高齢化の波にも向けられている。国連が発表した最新の中国の人口予測によれば、2047年までの人口の減少幅は総人口の6%にあたる約9000万人に上る。また、平均年齢も現在の38・5歳から50歳に急上昇する』、「資産をシンガポールや日本などに移し、脱出を図る富裕層が急増しました。さらに最近、企業レベルでも将来性の乏しい国内での事業を切り捨て、海外に出て行こうとする向きがあります。 その一つが、民間企業の海外視察ブームです」、「経営者の中にはこれを機に、拠点の海外移転を決める者も多いと聞きます」、これでは大変だ。
・『党内部もバラバラ それでいて、これから有望な働き手となるであろう16〜24歳の若年層の失業率が高止まりを続けているのも問題だ。背景には求職者と求人側とのミスマッチがある。 10月の失業率は5・5%とほぼ横ばいですが、一方で若年層は17・9%と高い水準にあります。原因は、1000万人の大台を超えた大卒者にあります。彼らには『大学に入った以上、こういう仕事に就きたい』という希望がある。特に習近平政権下の教育政策によって、『ブルーカラー=社会の底辺』という固定観念が根付いてしまったばかりに、仕事を選別するようになってしまった。結果として、ミスマッチが常態化しているわけです」(前出・阿古氏) ゼロコロナ、経済、そして教育。習近平が主導したあらゆる政策がことごとく裏目に出ている。それが今になって様々な問題を引き起こしているのは明らかだ。にもかかわらず、習近平の暴走は止まらない。最高指導部を構成する党政治局常務委員や下部組織の政治局員は、自らの側近とイエスマンで固められている。習近平が「これをやれ」と言えば、拒否できる者などいない。 中国問題グローバル研究所所長で筑波大学名誉教授の遠藤誉氏は、共産党指導体制内の信頼関係の欠如が、中国の地殻変動の根底にあると指摘する。 「ゼロコロナ政策の規制緩和も、実際には'21年1月には出されていました。しかし、現場を指揮する地方政府の役人たちは、『お上の指示に従って失敗したら自分が感染再拡大の責任を取らされる』と、自分自身が処罰される可能性に怯え、自らの保身のために2年近く動かなかったわけです」 そこで、中央は「規制緩和を守らない者は処罰する」と宣言。ここでようやく、各地方政府は「逮捕されるくらいなら」と緩和を実行に移したのだ。もはや信頼関係など存在しない。遠藤氏が続ける。 「そこにあるのは恐怖心です。恐怖による強権統治をやめないかぎり、どんな政策も現場との連携は取れないままで、中国は救われません」 幾多の危機に直面する中国。この国の地下で煮えたぎるマグマが噴出する日は近い』、「「ゼロコロナ政策の規制緩和も、実際には'21年1月には出されていました。しかし、現場を指揮する地方政府の役人たちは、『お上の指示に従って失敗したら自分が感染再拡大の責任を取らされる』と、自分自身が処罰される可能性に怯え、自らの保身のために2年近く動かなかったわけです」、「規制緩和」の「指示」の「実行」に「自らの保身のために2年近く動かなかった」、とは官僚主義もここに極まれりだ。急に「規制緩和」したことによる「感染爆発」による医療崩壊、死者急増の嵐が早く収まってくれることを期待する。
タグ:中国経済 (その18)(中国 ゼロコロナ解除で「困難に直面」 WHOが指摘、抗議活動に負けてのゼロコロナ政策撤廃でコロナ感染爆発の危機、習近平政権「ダブル敗戦」の大打撃、一気に大緩和?中国・ゼロコロナ政策撤廃の現実 音楽家ファンキー末吉が経験した緩和直後のドタバタ劇、【習近平の大誤算】若者の失業率約18% 富裕層の国外脱出加速 米輸出規制で“科学技術立国の夢”が泡に) Newsweek日本版 ロイターを転載した「中国、ゼロコロナ解除で「困難に直面」 WHOが指摘」 「中国が新型コロナウイルス感染抑制に向けた厳格な「ゼロコロナ」政策を解除し、コロナとの「共生」を選択する中、「非常に厳しく、困難な時期」に直面するという認識」、まして国産ワクチンは効果を疑問視されているのでは、本当に大変だろうと、同情を禁じざるを得ない。 現代ビジネス 石 平氏による「抗議活動に負けてのゼロコロナ政策撤廃でコロナ感染爆発の危機、習近平政権「ダブル敗戦」の大打撃」 「前述の「新十条」の発表と実施は、「ゼロコロナ」政策の単なる「緩和」ではなく、むしろ思い切った政策の大転換である」、本当に「思い切った政策の大転換」だ。 「国民に大きな犠牲と不自由を強いた「ゼロコロナ」政策は結局何の意味もない。政策の完全失敗」、「今月から来年1月にかけて、中国全土で爆発的な感染拡大が起きてくる確率は非常に高い。政策転換のタイミングはあまりにも悪すぎる」、その通りだ。 「一党独裁体制下の中国で、政権は民衆の抗議運動に押された形で政策の大転換、大後退を余儀なくされたわけであり、立ち上がった民衆の力を前にして、政権が敗退したのである。言ってみれば、今の習政権は、コロナとの戦いに敗退したのと同時に民衆の力にも敗退してしまった。まさに屈辱の「ダブル敗戦」というものである」、「ダブル敗戦」とは言い得て妙だ。 「習政権の「ダブル敗戦」は結局、今後における民衆運動あるいは反乱の発生を誘発する火種を自ら撒いた」、「今回、医療施設の充実や高齢者層へのワクチン接種の普及などの十分な準備はまだ整えられていない状況下で、主に政治的要因により「ゼロコロナ」政策が放棄されたことの結果、感染しやすい冬期の到来と相まって中国全国で爆発的な感染拡大が起きてくる確率は非常に高い・・・ 政権は感染拡大をそのまま容認するのか、それとも「ゼロコロナ」政策に逆戻りするのかの選択を迫られることとなるが、封じ込めからやっと解放された中国国民はもう一度、広範囲な感染拡大に耐えていかなければならない。中国にとっての「コロナ問題」は、まさにこれからである」、本当にどうなるのか、大いに注目される。 東洋経済オンライン ファンキー末吉氏による「一気に大緩和?中国・ゼロコロナ政策撤廃の現実 音楽家ファンキー末吉が経験した緩和直後のドタバタ劇」 「ロックバンド「爆風スランプ」のメンバーで現在は中国を中心に活動」、とは興味深い存在だ。コロナ問題を新聞とは違った角度で伝えてくれるだろう。 「新疆ウイグル自治区で発生した火災で死亡者が出た。死亡者が出たのは、防疫用柵で消防隊の到着遅れたためではないかと考えられ、これをきっかけに中国全土でゼロコロナ政策に反対する抗議活動」、「政府はゼロコロナ政策を大幅に緩和することを発表した。2022年12月7日のことである。 これを受けて銀川では、スーパーや商業施設に入る際に必要だった48時間以内の陰性証明の提示が不必要となった」、「ゼロコロナ政策」も終わりはあっさりしたものだ。 「PCR検査」で「10人分の検体を1つの試験管にまとめる方式の検査」、1人でも陽性の人間がいると、何回か組み合わせを変えて検査を繰り返して、陽性の人間を絞り込むのだろう。これでも、個々人に検査をするより効率的なのだろう。 「全国の薬局から解熱剤などの風邪薬がすべて売り切れたという噂である」、最近は日本の薬局でも中国人が「風邪薬」を爆買いしているようだ。 「ゼロコロナ政策。あるところではとてつもなく厳しく、あるところではとてつもなく緩い」、これが緩め始めの実態だろう。 「省をまたぐ移動も何の障害もなくできる。このような無症状の感染者が平気で中国国内を自由に飛び回っているという事例はもっともっとたくさんあるのだ」、恐ろしいことだ。 今日のニュースでは、コロナ感染者の数や死亡者数の発表は止めたようである。医療体制が不十分な「中国」で医療崩壊が激化するようであれば、まさに悲劇だ。 現代ビジネス 「【習近平の大誤算】若者の失業率約18%、富裕層の国外脱出加速、米輸出規制で“科学技術立国の夢”が泡に」 「「今回の支援策の対象は最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)など有力な企業に限った話。恒大集団など過剰債務に陥っている企業はことごとく対象外です。習近平は問題を先送りにしたに過ぎませんよ」、「恒大集団」が「対象外」ということは、殆どの不動産企業も「対象外」になってしまう。 「資産をシンガポールや日本などに移し、脱出を図る富裕層が急増しました。さらに最近、企業レベルでも将来性の乏しい国内での事業を切り捨て、海外に出て行こうとする向きがあります。 その一つが、民間企業の海外視察ブームです」、「経営者の中にはこれを機に、拠点の海外移転を決める者も多いと聞きます」、これでは大変だ。 「「ゼロコロナ政策の規制緩和も、実際には'21年1月には出されていました。しかし、現場を指揮する地方政府の役人たちは、『お上の指示に従って失敗したら自分が感染再拡大の責任を取らされる』と、自分自身が処罰される可能性に怯え、自らの保身のために2年近く動かなかったわけです」、 「規制緩和」の「指示」の「実行」に「自らの保身のために2年近く動かなかった」、とは官僚主義もここに極まれりだ。急に「規制緩和」したことによる「感染爆発」による医療崩壊、死者急増の嵐が早く収まってくれることを期待する。
リニア新幹線(その8)(リニア 静岡知事が指摘「他県の不都合な真実」 南アルプスでは長野から静岡県境越え目指す、静岡リニア 数字が示す「62万人の命の水」のウソ 流域7市の大井川からの給水人口は26万人程度、JR東海の危機 リニア推進「静岡市」が反対派に? 川勝知事の懐刀が市長選へ 現職は不出馬表明) [産業動向]
昨日に続いて、リニア新幹線(その8)(リニア 静岡知事が指摘「他県の不都合な真実」 南アルプスでは長野から静岡県境越え目指す、静岡リニア 数字が示す「62万人の命の水」のウソ 流域7市の大井川からの給水人口は26万人程度、JR東海の危機 リニア推進「静岡市」が反対派に? 川勝知事の懐刀が市長選へ 現職は不出馬表明)を取上げよう。
先ずは、9月12日付け東洋経済オンライン「リニア、静岡知事が指摘「他県の不都合な真実」 南アルプスでは長野から静岡県境越え目指す」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/617155
・『「不都合な真実を言わないということがあってはならない」――。 静岡県の川勝平太知事が「不都合な真実」というフレーズを連発した。9月7日に行われた知事への囲み取材での出来事だ。 不都合な真実とは、小林一哉氏による2020年9月11日付記事「リニア提訴を前に露呈、静岡県の不都合な真実」にあるとおり、静岡県側が触れたがらない事実を指したものだが、この日は川勝知事のほうから静岡県以外の関係者が触れたがらない事例として、自ら「不都合な真実」と表現した。 この日、川勝知事は神奈川県相模原市を訪れ、JR東海が建設を進めるリニア中央新幹線・大洞非常口と神奈川県駅を視察した。知事の持論は神奈川県と甲府市を結ぶルートの先行開業である。JR東海の担当者から直接「工事が順調に進んでいる」という話を聞くことで、先行開業を迫るという狙いがあったと思われる。しかし、川勝知事の表情は固かった。現状が予想と違っていたのだ』、どういうことなのだろうか。
・『車両基地「完成は2034年じゃないか」 大洞非常口から神奈川県駅に向かう道中で、川勝知事は「ルート近くに作られる関東車両基地の予定地も見てみたい」と言い出した。品川―名古屋間に車両基地は2カ所設けられる。知事は岐阜県中津川市にある中部車両基地を今年6月1日に訪れている。その意味で関東基地を見たいというのは当然である。 同行する事務局の担当者は「説明できる人がいない」と躊躇したが、川勝知事は「現場を見るだけでいい」と主張。現場に到着すると、川勝知事は驚いた。「JR東海管理地と書かれた看板がところどころにあったものの、多くの人家があった」。しかも、事務局に確認すると造成から完成まで11年かかるという。関東車両基地がなければ神奈川県と甲府市を結ぶルートの先行開業はできない。川勝氏が憤った。「ちゃんとやっていらっしゃると思っていたのに、土地買収がすぐ終わって来年に工事着手しても完成は2034年じゃないか」。 川勝知事は、視察後に相模原市の本村賢太郎市長と面談した際、この話を持ち出した。本村市長は「土地買収は市ではなく県の仕事だ」と話したという。) もっとも、11年という数字は今回明らかになったわけではない。JR東海は2014年8月の環境影響評価書で関東車両基地の工事が11年かかることを明らかにしている。 JR東海に確認すると、「環境影響評価書で示した後、施工計画を深度化し、工程の短縮を図っている。2027年開業は厳しい工程ではあるが、全体として影響が出ないように努めていく」という回答があった。川勝知事も「工事は前倒しできるかもしれない」としており、11年という数字そのものにこだわっている様子はない。 むしろ、川勝知事の怒りの矛先が向かった先は神奈川県の黒岩祐治知事である。黒岩知事は川勝知事の主張する部分開業論に反対し、2027年品川―名古屋開業の立場を取る。川勝知事は言う。「(黒岩知事が)土地買収が完了していないことや工事に11年かかることを知らないとしたら大問題。知っているのに知らせないならさらに問題だ」』、「関東車両基地」は「土地買収が終わっていない」ので、「2027年開業」は到底、無理だ。「不都合な真実を言わないということがあってはならない」、と言うのも理解できる。「黒岩知事」が「2027年品川―名古屋開業の立場」を取っているようだが、恐らく余り関心がなく、最近の状況をチェックしてないのではなかろうか。
・『南アルプストンネル「長野工区」の現状 川勝知事は積極的にリニアルート上の工事現場の視察を続けている。山梨―静岡―長野の3県にまたがる全長25kmの南アルプストンネルについても、今月中には山梨県早川町にある工事現場を訪れたいとしている。しかし、長野県内の工事現場については、「現場に行くまでが大変」。隣県ではあるが交通の便が悪いのが理由だと言う。 南アルプストンネルの長野工区は8.4kmの区間だ。2016年11月1日、山田佳臣会長、柘植康英社長(いずれも当時)の出席の下、安全祈願・起工式が行われた。それから約6年後の9月2日、長野工区の現場をJR東海は報道公開した。川勝知事に代わって、どのような状況なのかをお伝えしたい。 長野県の南にある飯田市の人口は9万7562人。長野市、松本市、上田市、佐久市に次ぐ県内第5の都市だ。東京との行き来は高速バスで4時間強。バスで名古屋に出て新幹線に乗り換えてもやはり4時間くらいはかかる。もし飯田市内に造られるリニア長野県駅が開業すると品川―飯田間は40分圏内で結ばれる。リニアの恩恵を最も受ける街の1つだ。 飯田市から車で1時間ほど山奥に分け入ると工事現場がある大鹿村が姿を見せる。8月1日時点で人口938人の小さな村だ。そんな大鹿村でリニアの工事が進んでいる。 リニアのトンネル工事では、まず斜坑と呼ばれるトンネルを掘る。斜坑は先進坑や本線トンネルに機材を運び込んだり、工事で発生する土砂を運び出したりするために使われる。斜坑は掘削完了後、作業用トンネルや非常口として活用される。 長野工区では小渋沢、釜沢、除山という3つの斜坑が2019年4月から今年3月にかけて相次いで完成した。これらの斜坑を使って本線トンネルや先進坑の工事が始まっている。工事は1グループ10人で2交代制による24時間体制。長野工区では3カ所で同時に作業が行われているので計60人が働いていることになる。 報道陣を乗せたバスは除山斜坑から品川方面に掘り進む先進坑に入った。先進坑は幅約7m、高さ約6m。断面積は約35平方メートルで本線トンネルの3分の1程度だ。品川方面に290m進むと切羽と呼ばれる最先端部に到着した。 都市部の大深度地下で行われるシールド工法とは異なり、山岳部では一般的なNATM工法で工事が行われる。ドリルジャンボが1.2m掘り進んでは支保工で側壁を支え、長さ3mのロックボルトを放射状に打ち込んだあと、表面にコンクリートを吹き付けて側壁を固める。これを1日当たり最大4サイクル行う。つまり、順調なら1日に4.8m進める計算だ』、「飯田市内に造られるリニア長野県駅が開業すると品川―飯田間は40分圏内で結ばれる。リニアの恩恵を最も受ける街の1つだ」、確かにこのケースでは、「リニアの恩恵」は極めて大きい。しかし、東海道新幹線沿いでは当然のことながら、「恩恵」は大きく縮小する。
・『煌々と照らされたトンネル内 トンネルの切羽は白いライトで煌々と照らされていた。トンネル工事というと真っ暗な中を小さいランプで掘り進むイメージがあるが、まったく違う。ライトの明るさは300ルクス以上あり、ガイドラインで示されている基準である「150ルクス以上」の2倍の明るさだ。切羽の状況を確認しやすいようにするためだ。ドリルジャンボと呼ばれる掘削機の横には監視員が立っており、天井などの状況に変化がないかどうかをチェックしていた。 リニアのトンネル工事では昨年10月に岐阜県中津川市で掘削中のトンネルで、地山が崩れて作業員2人が死傷した。長野県内でも昨年11月、今年3月、4月と3回にわたって豊丘村の伊那山地トンネルの工事で作業員が負傷する事故が起きた。JR東海は再発防止に向け施工会社と協議を行い、安全対策の強化に動いている。切羽監視者の配置に加え、低所作業において、防護ネットを張って天井からの万一の落石を防いでいる。 これだけ対策を講じていてもトラブルは起きる。9月8日0時15分頃、伊那山地トンネルの工事においてトンネル構内での作業中、重機を移動した際に、重機の後方にいた作業員に気づかず、作業員の足を引き左足を骨折するという事象があった。JR東海は「同工区でのトンネル掘削は一時的に中断しており、安全対策を行ったうえで再開する予定」という。安全への取り組みにゴールはない。 続いて、バスはルートを引き返し、釜沢斜坑から本線トンネルの現場に入った。本線トンネルはリニア車両が上りと下りの2本が走るため、幅約13m、高さ約8m。断面積は約100平方メートルで先進坑よりも巨大だ。先進坑は1サイクルあたり1.2m掘進していたが、本線トンネルは1.0m。やや短いのは山の状態や断面積が大きいことを考慮してのことだ。本線トンネルの切羽部分も明るいライトで照らされ、監視員が切羽の状況を見守っていた。) トンネルの地盤は粘板岩が中心で、見た目では湧水はほとんど確認できなかった。2021年5月に報道公開された南アルプストンネル山梨工区の広河原非常口では、トンネル外壁に水滴がうっすらと浮かび、天井から時折、水滴がぽたりと落ちていたが、それでもこれらの水滴を集めても湧水量は毎分400リットル(0.4トン)程度で、JR東海によれば「湧水と呼べるほどでもない」と話していた。今回は広河原非常口よりもさらに少ない。これに対して、静岡工区ではトンネル掘削により大井川の流量が最大で毎秒2トン(毎分120トン)減ると予想されている。まさに桁違いだ。 長野工区全体の工期は2026年11月30日まで。2020年の豪雨災害(令和2年7月豪雨)などの影響により、工事説明会での説明から1年5カ月程度遅れ気味だというが、「工夫をして掘削の遅れを取り戻し、予定どおり終わらせたい」とJR東海中央新幹線建設部の古谷佳久名古屋建設部担当部長は意気込む。現在は地表面からの深さは100〜200m程度だが、今後は標高が高い山の尾根の下を掘削するため、深さは最大約1400mになる予定。トンネルにかかる岩の重みが増して、壁面などへの圧力が高まる難工事となる。「岩の様子を見ながら慎重に工事を進める」(古谷部長)。 しかし、JR東海の努力だけではどうもできない問題が立ちはだかる。この日公開された先進坑の切羽のおよそ4km先は静岡県との県境なのだ。長野工区と銘打ちつつも、作業の効率面などを考慮して実際は静岡県内に700mほど入ったところまでトンネル掘削が続けられる。 静岡県はトンネル工事で発生する湧水が大井川流域の利水者に影響を与えかねないなどの理由から着工を認めていない。仮に1日4mずつ堀り進めば3年後くらいに県境に到達することになるが、そこから先はどうなるか。古谷部長は「(掘削が県境に到達する頃には)湧水の問題は利水者の理解が得られているだろう」と心配する様子を見せなかったが、もし水問題が解決していなければ掘削作業は県境でストップする』、「仮に1日4mずつ堀り進めば3年後くらいに県境に到達することになるが、そこから先はどうなるか。古谷部長は「(掘削が県境に到達する頃には)湧水の問題は利水者の理解が得られているだろう」と心配する様子を見せなかったが、もし水問題が解決していなければ掘削作業は県境でストップする」、まあ「3年後くらい」までには、静岡県も同意しているだろう。
・『「不都合な真実はみなさん言わない」 9月7日には川勝知事とは今日初めて会ったという本村市長も取材に応じた。静岡県と同じく、相模原市も水の問題を抱えている。「私自身、水問題には非常に関心があり、JR東海には水が枯れたりしないようにしてほしいと会うたびに話をしているし、水問題で影響を受ける住民には丁寧に説明している。住民の間では慎重な意見も出ているが、どうすれば2027年開業に向けて動いていけるかを考える意見も多い。静岡県も当市も水の問題が重要だという点では共通している。今後も協調してJR東海や国に対して言うべきことを言っていきたい」。 川勝知事は関東車両基地のスケジュールの一件を引き合いに、「2027年に開業できるか、どの県の知事さんも知ってらっしゃるはず。でも不都合な真実はみなさん言わない」と発言した。ルート上の各県がそれぞれの課題を表に出して共有すべきという川勝知事の考え方は正しい。 おそらく、川勝知事は「工事の遅れの原因が静岡県だけにあるのではない。各県の遅れの状況を明らかにして新たなタイムスケジュールを設定すべきだ」と言いたいのだろう。そうであるなら、各県がどのように水問題や生物多様性などの課題に取り組んできたのかについても耳を傾ける必要がある。他県や自治体の意見を取り入れ、静岡県内の工事開始に向けて尽力すべきだ』、「ルート上の各県がそれぞれの課題を表に出して共有すべきという川勝知事の考え方は正しい」、「おそらく、川勝知事は「工事の遅れの原因が静岡県だけにあるのではない。各県の遅れの状況を明らかにして新たなタイムスケジュールを設定すべきだ」と言いたいのだろう。そうであるなら、各県がどのように水問題や生物多様性などの課題に取り組んできたのかについても耳を傾ける必要がある。他県や自治体の意見を取り入れ、静岡県内の工事開始に向けて尽力すべきだ」、この記事はこのあとの2つとは違って、中立的立場で書かれており、同意したい。
次に、10月25日付け東洋経済オンラインが掲載した「静岡経済新聞」編集長 の小林 一哉氏による「静岡リニア、数字が示す「62万人の命の水」のウソ 流域7市の大井川からの給水人口は26万人程度」を紹介しよう。これと次の記事の著者、小林 一哉氏はリニア建設推進派である。
https://toyokeizai.net/articles/-/626767
・『県大井川広域水道(企業団)が県企業局所管の榛南水道を統合する実施協定が9月16日に結ばれた。静岡県の川勝平太知事は、リニアトンネル工事静岡工区の着工を認めない最大の理由を「下流域の利水に支障があり、県民の生死に関わる」などとしてきたが、今回の締結でトンネル工事の影響にかかわらず、大井川広域水道に十分な余裕があり、下流域の利水に何ら問題ないことが明らかになった』、なるほど。
・『大井川の給水には十分な余裕がある 県大井川広域水道は毎秒2立方メートルの水利権を有し、7市(島田、藤枝、焼津、牧之原、掛川、菊川、御前崎)約62万人の利水を担う目的で設置された。 一方、榛南水道は1969年から大井川河口近くの吉田町を地下水の取水地として、牧之原市、御前崎市の2市に給水事業を行い、日量約2万7000立方メートルの給水能力に対して、現状、日量約1万5000立方メートルを給水している。 今回の統合の目的は、人口減少による水需要の減少、総事業費約260億円という榛南水道の更新費用の確保などの課題に対応するもの。榛南水道を廃止して、大井川広域水道から2市へ約1万5000立方メートルを供給する。 大井川広域水道への連結、榛南水道の廃止に伴う費用を含めて総事業費は約100億円で、榛南水道を更新するよりも約160億円削減される。本年度から基本設計が始まり、2029年4月に給水が切り換えられる予定だ。 10月6日に開かれた県議会産業委員会で、県企業局は「大井川広域水道が水不足に悩まされたことはない。給水に十分な余裕がある」と説明した。榛南水道が枯渇状態にあり、やむをえず、統合するわけではなく、老朽化に伴う事業費の大幅な削減に伴い、給水能力に十分な余裕のある大井川広域水道に全面依存するほうが合理的と県は判断した。 これは、「大井川は毎年のように水不足で悩まされている」とする川勝知事の説明とは異なる。 2013年9月、JR東海が作成した環境アセスメント準備書で、リニアトンネル建設によって毎秒2立方メートルの河川流量が減少すると予測したため、川勝知事は毎秒2立方メートルの減少で約62万人の水道水に影響するとして、「全量戻し」をJR東海に要請した。 JR東海は当初、リニアトンネルから大井川まで導水路トンネルを設置して、湧水減少の毎秒2立方メートルのうち1.3立方メートルを回復させ、残りの0.7立方メートルについては必要に応じてポンプアップで戻す対策を発表した。これに対して、川勝知事は「水道水として62万人が利用している。毎年のように渇水で水不足に悩まされている。毎秒2立方メートルの全量を戻せ」とJR東海に求めた。 JR東海は2018年10月、「原則的に県外に流出する湧水全量を戻す」と表明、導水路トンネル、ポンプアップで、トンネル内で発生する湧水全量の毎秒2.67立方メートルを戻すとした。ところが、川勝知事は「南アルプスは62万人の『命の水』を育む。『命の水』を守らなければならない」などと静岡工区着工を認めない姿勢を崩さなかった。 ところが実際には、大井川左岸の島田、藤枝、焼津の3市とも地下水による自己水源を有しているため、大井川広域水道からの受水割合は20%程度にとどまり、受水割合の高い右岸でも牧之原市が30%、御前崎市が70%程度である。大井川広域水道給水人口は、約62万人ではなく、7市合計で26万人程度にすぎなかった。 県企業局は「大井川広域水道の給水には十分な余裕がある」と言い、流域7市の大井川広域水道からの受水割合も決して高くない。つまり、川勝知事が口ぐせにしていた「62万人の『命の水』を守る」は事実ではないことになる』、「川勝知事」は反対のため、大げさに騒いでいる印象も受ける。
・『トンネル湧水の影響は軽微 JR東海がリニアトンネル工事後に、毎秒2.67立方メートルの湧水全量を戻す方策を明らかにしたことでも、下流域の水環境問題は解決しているはずだが、静岡県は今年1月の大井川利水関係協議会で「工事期間中を含めトンネル湧水の全量戻しが必要」であり、「トンネル工事を認めることはできない」姿勢を崩さなかった。 南アルプス断層帯が続く山梨県境付近の工事で、静岡県側から下り勾配で掘削すると突発湧水が起きた場合、水没の可能性があり、作業員の安全に危険があり、山梨県側から上り勾配で掘削すると説明、まったく対策を取らなければ、県境付近の工事期間中(約10カ月間)最大500万立方メートルの湧水が静岡県から流出するとJR東海は推計した。 国交省が設置した専門家による有識者会議は、「人命安全」を最優先とするのが当然であり、トンネル湧水が静岡県外に流出するJR東海の工法を認めたうえで、山梨県へ流出する最大500万立方メートルについて「静岡県外への流出量は非常に微々たる値であり、中下流域への影響はほぼない」とする結論を出している。 それにもかかわらず、川勝知事は「水1滴も県外流出は許可できない。全量戻しができないならば、工事中止が約束だ」などとJR東海に「全量戻し」を迫っている。 ところが、今回、静岡県に甚大な被害をもたらした台風15号の影響で静岡市清水区の約6万3000世帯が断水、9月27日から8日間、川勝知事は富士川の水を急きょ「水道水」とする“超法規的措置”を取った。この結果、山梨県の釜無川を源流とする約1万立方メートルの水が毎日、被災地域に送られた。山梨県からの“命の水”に静岡県民が救われたのである。 9月23日に静岡県を襲った台風15号で、静岡市清水区は水道水源とする興津川取水口が流木などでふさがれてしまい、取水が一切できずに清水区全域が断水した。静岡市は静岡県に富士川からの緊急受水を要請した。 静岡県は、富士川河口付近に富士川浄水場を設けて、「ふじさん工業用水道」として地域の工場などに水を送っている。工業用水専用だから、一般の水道水としての使用はできない。 1985年と1996年の異常渇水の際、富士川の水が興津川の浄水場に送水され、水道水に転用された。この緊急時に、水道管が設置されている。 工業用水を水道水に転用するには、河川管理者・国交省関東地方整備局と協議を行い、河川法第53条(渇水時における水利用の調整)許可が必要となる。過去2回はその面倒な手続きで難航している』、「専門家による有識者会議は、「人命安全」を最優先とするのが当然であり、トンネル湧水が静岡県外に流出するJR東海の工法を認めたうえで、山梨県へ流出する最大500万立方メートルについて「静岡県外への流出量は非常に微々たる値であり、中下流域への影響はほぼない」とする結論を出している」、「それにもかかわらず、川勝知事は「水1滴も県外流出は許可できない。全量戻しができないならば、工事中止が約束だ」などとJR東海に「全量戻し」を迫っている」、これでは単なる嫌がらせに近い。「今回、静岡県に甚大な被害をもたらした台風15号の影響で静岡市清水区の約6万3000世帯が断水、9月27日から8日間、川勝知事は富士川の水を急きょ「水道水」とする“超法規的措置”を取った。この結果、山梨県の釜無川を源流とする約1万立方メートルの水が毎日、被災地域に送られた。山梨県からの“命の水”に静岡県民が救われたのである」、なるほど。
・『健全な水循環とは、各県で融通しあうことだ 今回の場合、興津川の取水口に流木がつまり、清水区全域が断水という想定外のトラブルであり、関東地方整備局は文書等による手続きを後回しにして、工業用水の水道水転用を許可した。静岡県企業局は「超法規的な措置によって、目的外使用が許可された」と話した。 川勝知事は「水1滴も県外流出は認められない」とするが、山梨県の水で静岡県は救われたのである。県外へ流出する湧水を「県内に全量戻せ」とする法的根拠を、静岡県は県水循環保全条例に求めている。同条例第5条(事業者の責務)「事業者は事業活動を行うに当たって、健全な水循環の保全に十分配慮する」とあるが、この条例を根拠に、川勝知事の「全量戻し」の求めにJR東海が応じなければならないのか疑問は大きい。湧水に県境はなく、健全な水循環とは静岡県、山梨県で困ったときには融通しあうことが、今回の台風被災で明らかになった。 「命の水を守る」、「工事中の全量戻し」などが、川勝知事の“反リニア”姿勢の象徴となっている。国交省は、早急にリニア問題の水環境に関する不毛な議論に終止符を打つよう静岡県を強く指導すべきだ』、「湧水に県境はなく、健全な水循環とは静岡県、山梨県で困ったときには融通しあうことが、今回の台風被災で明らかになった。 「命の水を守る」、「工事中の全量戻し」などが、川勝知事の“反リニア”姿勢の象徴となっている。国交省は、早急にリニア問題の水環境に関する不毛な議論に終止符を打つよう静岡県を強く指導すべきだ」、同感である。
第三に、12月4日付け東洋経済オンラインが掲載した「静岡経済新聞」編集長 の小林 一哉氏による「JR東海の危機、リニア推進「静岡市」が反対派に? 川勝知事の懐刀が市長選へ、現職は不出馬表明」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/637291
・『来春の静岡市長選に向けて、4期目を目指していた現職の田辺信宏市長は12月2日の静岡市議会で突然、不出馬を表明した。 自民党静岡支部(旧静岡市)は全会一致で田辺氏の推薦を決め、市長選出馬を要請していた。「反リニア」の旗頭、川勝平太静岡県知事の最側近だった難波喬司・元副知事の出馬表明に恐れをなして、撤退を決めた格好となってしまった。 田辺氏が「リニア推進」へ積極的な姿勢を見せてきたのに対して、県のリニア問題責任者として、難波氏は川勝知事同様に静岡工区着工を許可しない対応を取り続けてきた。難波氏が新市長に就けば、行政権限を駆使して、JR東海にさらなる厳しい姿勢で臨むことは確実だ』、「県のリニア問題責任者として、難波氏は川勝知事同様に静岡工区着工を許可しない対応を取り続けてきた。難波氏が新市長に就けば、行政権限を駆使して、JR東海にさらなる厳しい姿勢で臨むことは確実だ」、その通りだ。
・『川勝知事は田辺市長を批判 「反リニア」を掲げる市長が誕生すれば、JR東海はまさに絶体絶命の危機に追い込まれる。 川勝知事は事あるごとに田辺氏を批判してきた。静岡市を廃止して県の特別区を設置する珍妙な「静岡型県都構想」を掲げ、「県都に2人の船頭は不要だ」とぶち上げるなど、田辺氏を一方的に嫌い続けてきた。 このため、川勝知事は2019年4月の静岡市長選に難波氏を出馬させようと画策したが、経済界の支援などを得ることができず、結局、難波氏は県政記者クラブで不出馬会見を行った。 当時の市長選には、難波氏の代わりに元静岡市長の県議が辞職して出馬、川勝知事が支援に回った。元市長、共産党候補との三つ巴の選挙戦で、田辺氏は薄氷の勝利をおさめた。 来春の静岡市長選を控え、田辺氏の政治環境は最悪だった。9月の台風15号の大きな被害を受けた清水区約6万3000世帯の断水による初動態勢の遅れなどで市民の評価は著しく下がっていた。 10月末、酒井公夫・静岡鉄道代表取締役会長は静岡商工会議所会頭を辞任するに当たって、田辺氏を訪ね、「難波氏を支援するから、市長選出馬を断念するよう求める」などと宣言した。 さらに11月11日の難波氏の出馬会見で、清水港に関連した有力企業の責任者ら6人が顔をそろえ、地元経済界は難波氏支援を見せつけた。 田辺氏の不出馬によって、有力な自民系候補が現れなければ、リニア問題は大きな転換点を迎えることになる。「反リニア」川勝知事だけでなく、リニアトンネル工事の現場を抱える静岡市が「反リニア」を掲げることになるからだ。 約20年前、難波氏は運輸省(現在の国土交通省)港湾局企画官時代に川勝知事と懇意となり、一般的な役所ルートではなく、個人的な指名を受けて2014年5月副知事に就任、2022年5月まで2期(8年間)務めた。 岡山県出身で、静岡県と何の縁もなかった難波氏が静岡市長となれば、最大の恩人は川勝知事となる。副知事時代、清水港への多額の公共事業などを決めている。今後も県とのパイプ役を経済界は期待するから、川勝知事との深い関係を断ち切ることなどできるはずもない。 となれば、「反リニア」に奔走する川勝知事と難波氏が連携を組むことは明らかである』、「難波氏は運輸省・・・港湾局企画官時代に川勝知事と懇意となり、一般的な役所ルートではなく、個人的な指名を受けて2014年5月副知事に就任、2022年5月まで2期(8年間)務めた」、「となれば、「反リニア」に奔走する川勝知事と難波氏が連携を組むことは明らかである」、なるほど。
・『川勝知事は「難波氏を応援しない」と言うが… 川勝知事は、市長選で難波氏を応援しないと明言している。これは表面的な話であり、水面下の応援まで否定しているわけではない。 11月11日に続いて、29日の会見で、リニア問題で果たした難波氏の業績について、「市長選に出馬することを念頭に仕事をした」とたたえ、今後の連携に含みを持たせた。 特に、「いわゆる高速ボーリング(高速長尺先進ボーリング)に横串を刺す、明快な説明文書をJR東海に送った」などと難波氏の要請文を取り上げ、「やるべきことは、全部やられた」と高く評価している。 県リニア問題責任者として最後にJR東海へ送った「高速長尺先進ボーリング及びトンネル掘削に伴う大井川の水資源への影響について」という難波氏の要請文は、川勝知事の“横串を刺す”という表現通りのもので、今後の連携を象徴するものとなった。 難波氏は、先行調査を役割とする高速長尺先進ボーリングを串刺しにして刺し貫くほどに厳しく否定したのだ。 高速長尺先進ボーリングは先行調査ではなく、掘削工事の一部という川勝知事の指摘がそのままに文書になっているからだ。 10月31日県庁で開かれた県地質構造・水資源専門部会では、「静岡県境に向けた山梨県内の工事をどの場所で止めるのか」決定する必要があるとして、JR東海に山梨県での工事の進捗状況の説明を求めた。 現在、静岡県境まで約920mまで山梨県内の掘削工事が進んでいると説明、その先端部分で大量湧水の発生などは確認されておらず、「締め固まった地質で安定している。断層帯は静岡県境の西側にある」として、JR東海は高速長尺先進ボーリングで先行調査しながら、県境まで掘り進めていく予定を示した。 県専門部会で高速長尺先進ボーリングの是非についての結論は得られなかったにもかかわらず、難波氏は11月9日付の要請文で、高速長尺先進ボーリングが静岡県内の地下水に影響を与えるおそれがあるとして、回避策を示すよう求めた。つまり、高速長尺先進ボーリングをやめろということである。 11月30日開かれた静岡県中央新幹線環境保全連絡会議で、県地質構造・水資源専門部会の森下祐一・部会長が「高速長尺先進ボーリングは水抜きのために使われる。前方の地質がわかるとJR東海は説明しているが、岩中の一部がわかるが、地質のごく一部で、科学的なデータが得られるわけではない」などと難波氏の要請文に沿った発言をした。 前日、29日の会見で川勝知事が難波氏の要請文を取り上げ、「高速長尺先進ボーリングではなく、垂直でのコアボーリング調査を行う必要がある」と強調した内容と同じだった』、「高速長尺先進ボーリング」の是非は私には正直なところ、よく分からない。
・『高速長尺先進ボーリングの必要性は? ところが、森下部会長の発言に対して、トンネル工学を専門とする安井成豊委員は「高速長尺先進ボーリングは調査ボーリングとして開発された。(森下氏は)誤解しているのではないか」などと専門的な知見を交えて反論した。 今回新たに委員に加わった村上正志委員(群集生態学)も「専門性は高いが、安井委員の主張はよくわかる。トンネルを掘る場合、科学的に議論するのがスタンスであり、地表から何本も(垂直でコアボーリングを)打つのはムリだ」など他の委員も、森下部会長の見解に異議を唱えた。 30日の県リニア環境保全連絡会議の議論だけでなく、JR東海の金子慎社長、大井川流域の島田、藤枝、掛川、牧之原の市長らも高速長尺先進ボーリングを事前調査として必要だという認識を示している。 難波氏は要請文で、「山梨県内の先進坑が山梨・静岡県境から約920mの地点に達しているため、静岡県内の水がトンネル内に引っ張られ、山梨県側に流出する懸念が高まっている」、「本来、地質調査は、工事実施前に地表からのコアボーリングを行うべき」、「県境を越えて高速長尺先進ボーリングを行うと、静岡県内の地下水に影響を与える懸念があるので回避策を示せ」などと何の根拠を示さないで、JR東海へ“無理難題”を投げつけて、辞めてしまったのだ。 高速長尺先進ボーリングに“横串を刺した”難波氏である。静岡市長に就けば、リニア開業に向けて大きな障害になることを、JR東海は十分、承知している。 南アルプスのふもと、リニアトンネル工事の本拠地となる、静岡市井川地区の代表者3人が11月30日の会議に出席して、「ユネスコエコパークの自然を生かした経済活動を行っている。着工しながら問題解決ができるのではないか」「このままではユネスコエコパークを守る(過疎の)井川地区がなくなってしまい、工事に間に合わない」などいたずらに議論を長引かせる県の姿勢を厳しく批判した』、「難波氏」の「要請文」は、「何の根拠を示さないで、JR東海へ“無理難題”を投げつけ」た形だ。
・『難波氏の対抗馬は? 難波氏は清水港関連の経済界の全面支援を受けるが、井川地区を含めて大票田となる葵区、駿河区の旧静岡市の経済界、商店街、自治会などの支持は取りつけてはいない。 自民党党籍を持つ山田誠・元県議がすでに出馬表明しているが、自民党静岡市議団は、周囲の状況を踏まえない山田氏への支援に消極的だ。 難波氏に対抗できる有力な候補を擁立できるのか、自民党静岡支部は対応を急ぐ必要がある』、「静岡市長選挙」の行方は、いまだ不透明だ。私は、「川勝知事」や「難波氏」の言い分には問題が多いと思うが、リニアの建設自体には、新幹線との競合の観点から反対である。
先ずは、9月12日付け東洋経済オンライン「リニア、静岡知事が指摘「他県の不都合な真実」 南アルプスでは長野から静岡県境越え目指す」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/617155
・『「不都合な真実を言わないということがあってはならない」――。 静岡県の川勝平太知事が「不都合な真実」というフレーズを連発した。9月7日に行われた知事への囲み取材での出来事だ。 不都合な真実とは、小林一哉氏による2020年9月11日付記事「リニア提訴を前に露呈、静岡県の不都合な真実」にあるとおり、静岡県側が触れたがらない事実を指したものだが、この日は川勝知事のほうから静岡県以外の関係者が触れたがらない事例として、自ら「不都合な真実」と表現した。 この日、川勝知事は神奈川県相模原市を訪れ、JR東海が建設を進めるリニア中央新幹線・大洞非常口と神奈川県駅を視察した。知事の持論は神奈川県と甲府市を結ぶルートの先行開業である。JR東海の担当者から直接「工事が順調に進んでいる」という話を聞くことで、先行開業を迫るという狙いがあったと思われる。しかし、川勝知事の表情は固かった。現状が予想と違っていたのだ』、どういうことなのだろうか。
・『車両基地「完成は2034年じゃないか」 大洞非常口から神奈川県駅に向かう道中で、川勝知事は「ルート近くに作られる関東車両基地の予定地も見てみたい」と言い出した。品川―名古屋間に車両基地は2カ所設けられる。知事は岐阜県中津川市にある中部車両基地を今年6月1日に訪れている。その意味で関東基地を見たいというのは当然である。 同行する事務局の担当者は「説明できる人がいない」と躊躇したが、川勝知事は「現場を見るだけでいい」と主張。現場に到着すると、川勝知事は驚いた。「JR東海管理地と書かれた看板がところどころにあったものの、多くの人家があった」。しかも、事務局に確認すると造成から完成まで11年かかるという。関東車両基地がなければ神奈川県と甲府市を結ぶルートの先行開業はできない。川勝氏が憤った。「ちゃんとやっていらっしゃると思っていたのに、土地買収がすぐ終わって来年に工事着手しても完成は2034年じゃないか」。 川勝知事は、視察後に相模原市の本村賢太郎市長と面談した際、この話を持ち出した。本村市長は「土地買収は市ではなく県の仕事だ」と話したという。) もっとも、11年という数字は今回明らかになったわけではない。JR東海は2014年8月の環境影響評価書で関東車両基地の工事が11年かかることを明らかにしている。 JR東海に確認すると、「環境影響評価書で示した後、施工計画を深度化し、工程の短縮を図っている。2027年開業は厳しい工程ではあるが、全体として影響が出ないように努めていく」という回答があった。川勝知事も「工事は前倒しできるかもしれない」としており、11年という数字そのものにこだわっている様子はない。 むしろ、川勝知事の怒りの矛先が向かった先は神奈川県の黒岩祐治知事である。黒岩知事は川勝知事の主張する部分開業論に反対し、2027年品川―名古屋開業の立場を取る。川勝知事は言う。「(黒岩知事が)土地買収が完了していないことや工事に11年かかることを知らないとしたら大問題。知っているのに知らせないならさらに問題だ」』、「関東車両基地」は「土地買収が終わっていない」ので、「2027年開業」は到底、無理だ。「不都合な真実を言わないということがあってはならない」、と言うのも理解できる。「黒岩知事」が「2027年品川―名古屋開業の立場」を取っているようだが、恐らく余り関心がなく、最近の状況をチェックしてないのではなかろうか。
・『南アルプストンネル「長野工区」の現状 川勝知事は積極的にリニアルート上の工事現場の視察を続けている。山梨―静岡―長野の3県にまたがる全長25kmの南アルプストンネルについても、今月中には山梨県早川町にある工事現場を訪れたいとしている。しかし、長野県内の工事現場については、「現場に行くまでが大変」。隣県ではあるが交通の便が悪いのが理由だと言う。 南アルプストンネルの長野工区は8.4kmの区間だ。2016年11月1日、山田佳臣会長、柘植康英社長(いずれも当時)の出席の下、安全祈願・起工式が行われた。それから約6年後の9月2日、長野工区の現場をJR東海は報道公開した。川勝知事に代わって、どのような状況なのかをお伝えしたい。 長野県の南にある飯田市の人口は9万7562人。長野市、松本市、上田市、佐久市に次ぐ県内第5の都市だ。東京との行き来は高速バスで4時間強。バスで名古屋に出て新幹線に乗り換えてもやはり4時間くらいはかかる。もし飯田市内に造られるリニア長野県駅が開業すると品川―飯田間は40分圏内で結ばれる。リニアの恩恵を最も受ける街の1つだ。 飯田市から車で1時間ほど山奥に分け入ると工事現場がある大鹿村が姿を見せる。8月1日時点で人口938人の小さな村だ。そんな大鹿村でリニアの工事が進んでいる。 リニアのトンネル工事では、まず斜坑と呼ばれるトンネルを掘る。斜坑は先進坑や本線トンネルに機材を運び込んだり、工事で発生する土砂を運び出したりするために使われる。斜坑は掘削完了後、作業用トンネルや非常口として活用される。 長野工区では小渋沢、釜沢、除山という3つの斜坑が2019年4月から今年3月にかけて相次いで完成した。これらの斜坑を使って本線トンネルや先進坑の工事が始まっている。工事は1グループ10人で2交代制による24時間体制。長野工区では3カ所で同時に作業が行われているので計60人が働いていることになる。 報道陣を乗せたバスは除山斜坑から品川方面に掘り進む先進坑に入った。先進坑は幅約7m、高さ約6m。断面積は約35平方メートルで本線トンネルの3分の1程度だ。品川方面に290m進むと切羽と呼ばれる最先端部に到着した。 都市部の大深度地下で行われるシールド工法とは異なり、山岳部では一般的なNATM工法で工事が行われる。ドリルジャンボが1.2m掘り進んでは支保工で側壁を支え、長さ3mのロックボルトを放射状に打ち込んだあと、表面にコンクリートを吹き付けて側壁を固める。これを1日当たり最大4サイクル行う。つまり、順調なら1日に4.8m進める計算だ』、「飯田市内に造られるリニア長野県駅が開業すると品川―飯田間は40分圏内で結ばれる。リニアの恩恵を最も受ける街の1つだ」、確かにこのケースでは、「リニアの恩恵」は極めて大きい。しかし、東海道新幹線沿いでは当然のことながら、「恩恵」は大きく縮小する。
・『煌々と照らされたトンネル内 トンネルの切羽は白いライトで煌々と照らされていた。トンネル工事というと真っ暗な中を小さいランプで掘り進むイメージがあるが、まったく違う。ライトの明るさは300ルクス以上あり、ガイドラインで示されている基準である「150ルクス以上」の2倍の明るさだ。切羽の状況を確認しやすいようにするためだ。ドリルジャンボと呼ばれる掘削機の横には監視員が立っており、天井などの状況に変化がないかどうかをチェックしていた。 リニアのトンネル工事では昨年10月に岐阜県中津川市で掘削中のトンネルで、地山が崩れて作業員2人が死傷した。長野県内でも昨年11月、今年3月、4月と3回にわたって豊丘村の伊那山地トンネルの工事で作業員が負傷する事故が起きた。JR東海は再発防止に向け施工会社と協議を行い、安全対策の強化に動いている。切羽監視者の配置に加え、低所作業において、防護ネットを張って天井からの万一の落石を防いでいる。 これだけ対策を講じていてもトラブルは起きる。9月8日0時15分頃、伊那山地トンネルの工事においてトンネル構内での作業中、重機を移動した際に、重機の後方にいた作業員に気づかず、作業員の足を引き左足を骨折するという事象があった。JR東海は「同工区でのトンネル掘削は一時的に中断しており、安全対策を行ったうえで再開する予定」という。安全への取り組みにゴールはない。 続いて、バスはルートを引き返し、釜沢斜坑から本線トンネルの現場に入った。本線トンネルはリニア車両が上りと下りの2本が走るため、幅約13m、高さ約8m。断面積は約100平方メートルで先進坑よりも巨大だ。先進坑は1サイクルあたり1.2m掘進していたが、本線トンネルは1.0m。やや短いのは山の状態や断面積が大きいことを考慮してのことだ。本線トンネルの切羽部分も明るいライトで照らされ、監視員が切羽の状況を見守っていた。) トンネルの地盤は粘板岩が中心で、見た目では湧水はほとんど確認できなかった。2021年5月に報道公開された南アルプストンネル山梨工区の広河原非常口では、トンネル外壁に水滴がうっすらと浮かび、天井から時折、水滴がぽたりと落ちていたが、それでもこれらの水滴を集めても湧水量は毎分400リットル(0.4トン)程度で、JR東海によれば「湧水と呼べるほどでもない」と話していた。今回は広河原非常口よりもさらに少ない。これに対して、静岡工区ではトンネル掘削により大井川の流量が最大で毎秒2トン(毎分120トン)減ると予想されている。まさに桁違いだ。 長野工区全体の工期は2026年11月30日まで。2020年の豪雨災害(令和2年7月豪雨)などの影響により、工事説明会での説明から1年5カ月程度遅れ気味だというが、「工夫をして掘削の遅れを取り戻し、予定どおり終わらせたい」とJR東海中央新幹線建設部の古谷佳久名古屋建設部担当部長は意気込む。現在は地表面からの深さは100〜200m程度だが、今後は標高が高い山の尾根の下を掘削するため、深さは最大約1400mになる予定。トンネルにかかる岩の重みが増して、壁面などへの圧力が高まる難工事となる。「岩の様子を見ながら慎重に工事を進める」(古谷部長)。 しかし、JR東海の努力だけではどうもできない問題が立ちはだかる。この日公開された先進坑の切羽のおよそ4km先は静岡県との県境なのだ。長野工区と銘打ちつつも、作業の効率面などを考慮して実際は静岡県内に700mほど入ったところまでトンネル掘削が続けられる。 静岡県はトンネル工事で発生する湧水が大井川流域の利水者に影響を与えかねないなどの理由から着工を認めていない。仮に1日4mずつ堀り進めば3年後くらいに県境に到達することになるが、そこから先はどうなるか。古谷部長は「(掘削が県境に到達する頃には)湧水の問題は利水者の理解が得られているだろう」と心配する様子を見せなかったが、もし水問題が解決していなければ掘削作業は県境でストップする』、「仮に1日4mずつ堀り進めば3年後くらいに県境に到達することになるが、そこから先はどうなるか。古谷部長は「(掘削が県境に到達する頃には)湧水の問題は利水者の理解が得られているだろう」と心配する様子を見せなかったが、もし水問題が解決していなければ掘削作業は県境でストップする」、まあ「3年後くらい」までには、静岡県も同意しているだろう。
・『「不都合な真実はみなさん言わない」 9月7日には川勝知事とは今日初めて会ったという本村市長も取材に応じた。静岡県と同じく、相模原市も水の問題を抱えている。「私自身、水問題には非常に関心があり、JR東海には水が枯れたりしないようにしてほしいと会うたびに話をしているし、水問題で影響を受ける住民には丁寧に説明している。住民の間では慎重な意見も出ているが、どうすれば2027年開業に向けて動いていけるかを考える意見も多い。静岡県も当市も水の問題が重要だという点では共通している。今後も協調してJR東海や国に対して言うべきことを言っていきたい」。 川勝知事は関東車両基地のスケジュールの一件を引き合いに、「2027年に開業できるか、どの県の知事さんも知ってらっしゃるはず。でも不都合な真実はみなさん言わない」と発言した。ルート上の各県がそれぞれの課題を表に出して共有すべきという川勝知事の考え方は正しい。 おそらく、川勝知事は「工事の遅れの原因が静岡県だけにあるのではない。各県の遅れの状況を明らかにして新たなタイムスケジュールを設定すべきだ」と言いたいのだろう。そうであるなら、各県がどのように水問題や生物多様性などの課題に取り組んできたのかについても耳を傾ける必要がある。他県や自治体の意見を取り入れ、静岡県内の工事開始に向けて尽力すべきだ』、「ルート上の各県がそれぞれの課題を表に出して共有すべきという川勝知事の考え方は正しい」、「おそらく、川勝知事は「工事の遅れの原因が静岡県だけにあるのではない。各県の遅れの状況を明らかにして新たなタイムスケジュールを設定すべきだ」と言いたいのだろう。そうであるなら、各県がどのように水問題や生物多様性などの課題に取り組んできたのかについても耳を傾ける必要がある。他県や自治体の意見を取り入れ、静岡県内の工事開始に向けて尽力すべきだ」、この記事はこのあとの2つとは違って、中立的立場で書かれており、同意したい。
次に、10月25日付け東洋経済オンラインが掲載した「静岡経済新聞」編集長 の小林 一哉氏による「静岡リニア、数字が示す「62万人の命の水」のウソ 流域7市の大井川からの給水人口は26万人程度」を紹介しよう。これと次の記事の著者、小林 一哉氏はリニア建設推進派である。
https://toyokeizai.net/articles/-/626767
・『県大井川広域水道(企業団)が県企業局所管の榛南水道を統合する実施協定が9月16日に結ばれた。静岡県の川勝平太知事は、リニアトンネル工事静岡工区の着工を認めない最大の理由を「下流域の利水に支障があり、県民の生死に関わる」などとしてきたが、今回の締結でトンネル工事の影響にかかわらず、大井川広域水道に十分な余裕があり、下流域の利水に何ら問題ないことが明らかになった』、なるほど。
・『大井川の給水には十分な余裕がある 県大井川広域水道は毎秒2立方メートルの水利権を有し、7市(島田、藤枝、焼津、牧之原、掛川、菊川、御前崎)約62万人の利水を担う目的で設置された。 一方、榛南水道は1969年から大井川河口近くの吉田町を地下水の取水地として、牧之原市、御前崎市の2市に給水事業を行い、日量約2万7000立方メートルの給水能力に対して、現状、日量約1万5000立方メートルを給水している。 今回の統合の目的は、人口減少による水需要の減少、総事業費約260億円という榛南水道の更新費用の確保などの課題に対応するもの。榛南水道を廃止して、大井川広域水道から2市へ約1万5000立方メートルを供給する。 大井川広域水道への連結、榛南水道の廃止に伴う費用を含めて総事業費は約100億円で、榛南水道を更新するよりも約160億円削減される。本年度から基本設計が始まり、2029年4月に給水が切り換えられる予定だ。 10月6日に開かれた県議会産業委員会で、県企業局は「大井川広域水道が水不足に悩まされたことはない。給水に十分な余裕がある」と説明した。榛南水道が枯渇状態にあり、やむをえず、統合するわけではなく、老朽化に伴う事業費の大幅な削減に伴い、給水能力に十分な余裕のある大井川広域水道に全面依存するほうが合理的と県は判断した。 これは、「大井川は毎年のように水不足で悩まされている」とする川勝知事の説明とは異なる。 2013年9月、JR東海が作成した環境アセスメント準備書で、リニアトンネル建設によって毎秒2立方メートルの河川流量が減少すると予測したため、川勝知事は毎秒2立方メートルの減少で約62万人の水道水に影響するとして、「全量戻し」をJR東海に要請した。 JR東海は当初、リニアトンネルから大井川まで導水路トンネルを設置して、湧水減少の毎秒2立方メートルのうち1.3立方メートルを回復させ、残りの0.7立方メートルについては必要に応じてポンプアップで戻す対策を発表した。これに対して、川勝知事は「水道水として62万人が利用している。毎年のように渇水で水不足に悩まされている。毎秒2立方メートルの全量を戻せ」とJR東海に求めた。 JR東海は2018年10月、「原則的に県外に流出する湧水全量を戻す」と表明、導水路トンネル、ポンプアップで、トンネル内で発生する湧水全量の毎秒2.67立方メートルを戻すとした。ところが、川勝知事は「南アルプスは62万人の『命の水』を育む。『命の水』を守らなければならない」などと静岡工区着工を認めない姿勢を崩さなかった。 ところが実際には、大井川左岸の島田、藤枝、焼津の3市とも地下水による自己水源を有しているため、大井川広域水道からの受水割合は20%程度にとどまり、受水割合の高い右岸でも牧之原市が30%、御前崎市が70%程度である。大井川広域水道給水人口は、約62万人ではなく、7市合計で26万人程度にすぎなかった。 県企業局は「大井川広域水道の給水には十分な余裕がある」と言い、流域7市の大井川広域水道からの受水割合も決して高くない。つまり、川勝知事が口ぐせにしていた「62万人の『命の水』を守る」は事実ではないことになる』、「川勝知事」は反対のため、大げさに騒いでいる印象も受ける。
・『トンネル湧水の影響は軽微 JR東海がリニアトンネル工事後に、毎秒2.67立方メートルの湧水全量を戻す方策を明らかにしたことでも、下流域の水環境問題は解決しているはずだが、静岡県は今年1月の大井川利水関係協議会で「工事期間中を含めトンネル湧水の全量戻しが必要」であり、「トンネル工事を認めることはできない」姿勢を崩さなかった。 南アルプス断層帯が続く山梨県境付近の工事で、静岡県側から下り勾配で掘削すると突発湧水が起きた場合、水没の可能性があり、作業員の安全に危険があり、山梨県側から上り勾配で掘削すると説明、まったく対策を取らなければ、県境付近の工事期間中(約10カ月間)最大500万立方メートルの湧水が静岡県から流出するとJR東海は推計した。 国交省が設置した専門家による有識者会議は、「人命安全」を最優先とするのが当然であり、トンネル湧水が静岡県外に流出するJR東海の工法を認めたうえで、山梨県へ流出する最大500万立方メートルについて「静岡県外への流出量は非常に微々たる値であり、中下流域への影響はほぼない」とする結論を出している。 それにもかかわらず、川勝知事は「水1滴も県外流出は許可できない。全量戻しができないならば、工事中止が約束だ」などとJR東海に「全量戻し」を迫っている。 ところが、今回、静岡県に甚大な被害をもたらした台風15号の影響で静岡市清水区の約6万3000世帯が断水、9月27日から8日間、川勝知事は富士川の水を急きょ「水道水」とする“超法規的措置”を取った。この結果、山梨県の釜無川を源流とする約1万立方メートルの水が毎日、被災地域に送られた。山梨県からの“命の水”に静岡県民が救われたのである。 9月23日に静岡県を襲った台風15号で、静岡市清水区は水道水源とする興津川取水口が流木などでふさがれてしまい、取水が一切できずに清水区全域が断水した。静岡市は静岡県に富士川からの緊急受水を要請した。 静岡県は、富士川河口付近に富士川浄水場を設けて、「ふじさん工業用水道」として地域の工場などに水を送っている。工業用水専用だから、一般の水道水としての使用はできない。 1985年と1996年の異常渇水の際、富士川の水が興津川の浄水場に送水され、水道水に転用された。この緊急時に、水道管が設置されている。 工業用水を水道水に転用するには、河川管理者・国交省関東地方整備局と協議を行い、河川法第53条(渇水時における水利用の調整)許可が必要となる。過去2回はその面倒な手続きで難航している』、「専門家による有識者会議は、「人命安全」を最優先とするのが当然であり、トンネル湧水が静岡県外に流出するJR東海の工法を認めたうえで、山梨県へ流出する最大500万立方メートルについて「静岡県外への流出量は非常に微々たる値であり、中下流域への影響はほぼない」とする結論を出している」、「それにもかかわらず、川勝知事は「水1滴も県外流出は許可できない。全量戻しができないならば、工事中止が約束だ」などとJR東海に「全量戻し」を迫っている」、これでは単なる嫌がらせに近い。「今回、静岡県に甚大な被害をもたらした台風15号の影響で静岡市清水区の約6万3000世帯が断水、9月27日から8日間、川勝知事は富士川の水を急きょ「水道水」とする“超法規的措置”を取った。この結果、山梨県の釜無川を源流とする約1万立方メートルの水が毎日、被災地域に送られた。山梨県からの“命の水”に静岡県民が救われたのである」、なるほど。
・『健全な水循環とは、各県で融通しあうことだ 今回の場合、興津川の取水口に流木がつまり、清水区全域が断水という想定外のトラブルであり、関東地方整備局は文書等による手続きを後回しにして、工業用水の水道水転用を許可した。静岡県企業局は「超法規的な措置によって、目的外使用が許可された」と話した。 川勝知事は「水1滴も県外流出は認められない」とするが、山梨県の水で静岡県は救われたのである。県外へ流出する湧水を「県内に全量戻せ」とする法的根拠を、静岡県は県水循環保全条例に求めている。同条例第5条(事業者の責務)「事業者は事業活動を行うに当たって、健全な水循環の保全に十分配慮する」とあるが、この条例を根拠に、川勝知事の「全量戻し」の求めにJR東海が応じなければならないのか疑問は大きい。湧水に県境はなく、健全な水循環とは静岡県、山梨県で困ったときには融通しあうことが、今回の台風被災で明らかになった。 「命の水を守る」、「工事中の全量戻し」などが、川勝知事の“反リニア”姿勢の象徴となっている。国交省は、早急にリニア問題の水環境に関する不毛な議論に終止符を打つよう静岡県を強く指導すべきだ』、「湧水に県境はなく、健全な水循環とは静岡県、山梨県で困ったときには融通しあうことが、今回の台風被災で明らかになった。 「命の水を守る」、「工事中の全量戻し」などが、川勝知事の“反リニア”姿勢の象徴となっている。国交省は、早急にリニア問題の水環境に関する不毛な議論に終止符を打つよう静岡県を強く指導すべきだ」、同感である。
第三に、12月4日付け東洋経済オンラインが掲載した「静岡経済新聞」編集長 の小林 一哉氏による「JR東海の危機、リニア推進「静岡市」が反対派に? 川勝知事の懐刀が市長選へ、現職は不出馬表明」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/637291
・『来春の静岡市長選に向けて、4期目を目指していた現職の田辺信宏市長は12月2日の静岡市議会で突然、不出馬を表明した。 自民党静岡支部(旧静岡市)は全会一致で田辺氏の推薦を決め、市長選出馬を要請していた。「反リニア」の旗頭、川勝平太静岡県知事の最側近だった難波喬司・元副知事の出馬表明に恐れをなして、撤退を決めた格好となってしまった。 田辺氏が「リニア推進」へ積極的な姿勢を見せてきたのに対して、県のリニア問題責任者として、難波氏は川勝知事同様に静岡工区着工を許可しない対応を取り続けてきた。難波氏が新市長に就けば、行政権限を駆使して、JR東海にさらなる厳しい姿勢で臨むことは確実だ』、「県のリニア問題責任者として、難波氏は川勝知事同様に静岡工区着工を許可しない対応を取り続けてきた。難波氏が新市長に就けば、行政権限を駆使して、JR東海にさらなる厳しい姿勢で臨むことは確実だ」、その通りだ。
・『川勝知事は田辺市長を批判 「反リニア」を掲げる市長が誕生すれば、JR東海はまさに絶体絶命の危機に追い込まれる。 川勝知事は事あるごとに田辺氏を批判してきた。静岡市を廃止して県の特別区を設置する珍妙な「静岡型県都構想」を掲げ、「県都に2人の船頭は不要だ」とぶち上げるなど、田辺氏を一方的に嫌い続けてきた。 このため、川勝知事は2019年4月の静岡市長選に難波氏を出馬させようと画策したが、経済界の支援などを得ることができず、結局、難波氏は県政記者クラブで不出馬会見を行った。 当時の市長選には、難波氏の代わりに元静岡市長の県議が辞職して出馬、川勝知事が支援に回った。元市長、共産党候補との三つ巴の選挙戦で、田辺氏は薄氷の勝利をおさめた。 来春の静岡市長選を控え、田辺氏の政治環境は最悪だった。9月の台風15号の大きな被害を受けた清水区約6万3000世帯の断水による初動態勢の遅れなどで市民の評価は著しく下がっていた。 10月末、酒井公夫・静岡鉄道代表取締役会長は静岡商工会議所会頭を辞任するに当たって、田辺氏を訪ね、「難波氏を支援するから、市長選出馬を断念するよう求める」などと宣言した。 さらに11月11日の難波氏の出馬会見で、清水港に関連した有力企業の責任者ら6人が顔をそろえ、地元経済界は難波氏支援を見せつけた。 田辺氏の不出馬によって、有力な自民系候補が現れなければ、リニア問題は大きな転換点を迎えることになる。「反リニア」川勝知事だけでなく、リニアトンネル工事の現場を抱える静岡市が「反リニア」を掲げることになるからだ。 約20年前、難波氏は運輸省(現在の国土交通省)港湾局企画官時代に川勝知事と懇意となり、一般的な役所ルートではなく、個人的な指名を受けて2014年5月副知事に就任、2022年5月まで2期(8年間)務めた。 岡山県出身で、静岡県と何の縁もなかった難波氏が静岡市長となれば、最大の恩人は川勝知事となる。副知事時代、清水港への多額の公共事業などを決めている。今後も県とのパイプ役を経済界は期待するから、川勝知事との深い関係を断ち切ることなどできるはずもない。 となれば、「反リニア」に奔走する川勝知事と難波氏が連携を組むことは明らかである』、「難波氏は運輸省・・・港湾局企画官時代に川勝知事と懇意となり、一般的な役所ルートではなく、個人的な指名を受けて2014年5月副知事に就任、2022年5月まで2期(8年間)務めた」、「となれば、「反リニア」に奔走する川勝知事と難波氏が連携を組むことは明らかである」、なるほど。
・『川勝知事は「難波氏を応援しない」と言うが… 川勝知事は、市長選で難波氏を応援しないと明言している。これは表面的な話であり、水面下の応援まで否定しているわけではない。 11月11日に続いて、29日の会見で、リニア問題で果たした難波氏の業績について、「市長選に出馬することを念頭に仕事をした」とたたえ、今後の連携に含みを持たせた。 特に、「いわゆる高速ボーリング(高速長尺先進ボーリング)に横串を刺す、明快な説明文書をJR東海に送った」などと難波氏の要請文を取り上げ、「やるべきことは、全部やられた」と高く評価している。 県リニア問題責任者として最後にJR東海へ送った「高速長尺先進ボーリング及びトンネル掘削に伴う大井川の水資源への影響について」という難波氏の要請文は、川勝知事の“横串を刺す”という表現通りのもので、今後の連携を象徴するものとなった。 難波氏は、先行調査を役割とする高速長尺先進ボーリングを串刺しにして刺し貫くほどに厳しく否定したのだ。 高速長尺先進ボーリングは先行調査ではなく、掘削工事の一部という川勝知事の指摘がそのままに文書になっているからだ。 10月31日県庁で開かれた県地質構造・水資源専門部会では、「静岡県境に向けた山梨県内の工事をどの場所で止めるのか」決定する必要があるとして、JR東海に山梨県での工事の進捗状況の説明を求めた。 現在、静岡県境まで約920mまで山梨県内の掘削工事が進んでいると説明、その先端部分で大量湧水の発生などは確認されておらず、「締め固まった地質で安定している。断層帯は静岡県境の西側にある」として、JR東海は高速長尺先進ボーリングで先行調査しながら、県境まで掘り進めていく予定を示した。 県専門部会で高速長尺先進ボーリングの是非についての結論は得られなかったにもかかわらず、難波氏は11月9日付の要請文で、高速長尺先進ボーリングが静岡県内の地下水に影響を与えるおそれがあるとして、回避策を示すよう求めた。つまり、高速長尺先進ボーリングをやめろということである。 11月30日開かれた静岡県中央新幹線環境保全連絡会議で、県地質構造・水資源専門部会の森下祐一・部会長が「高速長尺先進ボーリングは水抜きのために使われる。前方の地質がわかるとJR東海は説明しているが、岩中の一部がわかるが、地質のごく一部で、科学的なデータが得られるわけではない」などと難波氏の要請文に沿った発言をした。 前日、29日の会見で川勝知事が難波氏の要請文を取り上げ、「高速長尺先進ボーリングではなく、垂直でのコアボーリング調査を行う必要がある」と強調した内容と同じだった』、「高速長尺先進ボーリング」の是非は私には正直なところ、よく分からない。
・『高速長尺先進ボーリングの必要性は? ところが、森下部会長の発言に対して、トンネル工学を専門とする安井成豊委員は「高速長尺先進ボーリングは調査ボーリングとして開発された。(森下氏は)誤解しているのではないか」などと専門的な知見を交えて反論した。 今回新たに委員に加わった村上正志委員(群集生態学)も「専門性は高いが、安井委員の主張はよくわかる。トンネルを掘る場合、科学的に議論するのがスタンスであり、地表から何本も(垂直でコアボーリングを)打つのはムリだ」など他の委員も、森下部会長の見解に異議を唱えた。 30日の県リニア環境保全連絡会議の議論だけでなく、JR東海の金子慎社長、大井川流域の島田、藤枝、掛川、牧之原の市長らも高速長尺先進ボーリングを事前調査として必要だという認識を示している。 難波氏は要請文で、「山梨県内の先進坑が山梨・静岡県境から約920mの地点に達しているため、静岡県内の水がトンネル内に引っ張られ、山梨県側に流出する懸念が高まっている」、「本来、地質調査は、工事実施前に地表からのコアボーリングを行うべき」、「県境を越えて高速長尺先進ボーリングを行うと、静岡県内の地下水に影響を与える懸念があるので回避策を示せ」などと何の根拠を示さないで、JR東海へ“無理難題”を投げつけて、辞めてしまったのだ。 高速長尺先進ボーリングに“横串を刺した”難波氏である。静岡市長に就けば、リニア開業に向けて大きな障害になることを、JR東海は十分、承知している。 南アルプスのふもと、リニアトンネル工事の本拠地となる、静岡市井川地区の代表者3人が11月30日の会議に出席して、「ユネスコエコパークの自然を生かした経済活動を行っている。着工しながら問題解決ができるのではないか」「このままではユネスコエコパークを守る(過疎の)井川地区がなくなってしまい、工事に間に合わない」などいたずらに議論を長引かせる県の姿勢を厳しく批判した』、「難波氏」の「要請文」は、「何の根拠を示さないで、JR東海へ“無理難題”を投げつけ」た形だ。
・『難波氏の対抗馬は? 難波氏は清水港関連の経済界の全面支援を受けるが、井川地区を含めて大票田となる葵区、駿河区の旧静岡市の経済界、商店街、自治会などの支持は取りつけてはいない。 自民党党籍を持つ山田誠・元県議がすでに出馬表明しているが、自民党静岡市議団は、周囲の状況を踏まえない山田氏への支援に消極的だ。 難波氏に対抗できる有力な候補を擁立できるのか、自民党静岡支部は対応を急ぐ必要がある』、「静岡市長選挙」の行方は、いまだ不透明だ。私は、「川勝知事」や「難波氏」の言い分には問題が多いと思うが、リニアの建設自体には、新幹線との競合の観点から反対である。
タグ:(その8)(リニア 静岡知事が指摘「他県の不都合な真実」 南アルプスでは長野から静岡県境越え目指す、静岡リニア 数字が示す「62万人の命の水」のウソ 流域7市の大井川からの給水人口は26万人程度、JR東海の危機 リニア推進「静岡市」が反対派に? 川勝知事の懐刀が市長選へ 現職は不出馬表明) リニア新幹線 東洋経済オンライン「リニア、静岡知事が指摘「他県の不都合な真実」 南アルプスでは長野から静岡県境越え目指す」 どういうことなのだろうか。 「関東車両基地」は「土地買収が終わっていない」ので、「2027年開業」は到底、無理だ。「不都合な真実を言わないということがあってはならない」、と言うのも理解できる。「黒岩知事」が「2027年品川―名古屋開業の立場」を取っているようだが、恐らく余り関心がなく、最近の状況をチェックしてないのではなかろうか。 「飯田市内に造られるリニア長野県駅が開業すると品川―飯田間は40分圏内で結ばれる。リニアの恩恵を最も受ける街の1つだ」、確かにこのケースでは、「リニアの恩恵」は極めて大きい。しかし、東海道新幹線沿いでは当然のことながら、「恩恵」は大きく縮小する。 「仮に1日4mずつ堀り進めば3年後くらいに県境に到達することになるが、そこから先はどうなるか。古谷部長は「(掘削が県境に到達する頃には)湧水の問題は利水者の理解が得られているだろう」と心配する様子を見せなかったが、もし水問題が解決していなければ掘削作業は県境でストップする」、まあ「3年後くらい」までには、静岡県も同意しているだろう。 「ルート上の各県がそれぞれの課題を表に出して共有すべきという川勝知事の考え方は正しい」、「おそらく、川勝知事は「工事の遅れの原因が静岡県だけにあるのではない。各県の遅れの状況を明らかにして新たなタイムスケジュールを設定すべきだ」と言いたいのだろう。そうであるなら、各県がどのように水問題や生物多様性などの課題に取り組んできたのかについても耳を傾ける必要がある。他県や自治体の意見を取り入れ、静岡県内の工事開始に向けて尽力すべきだ」、この記事はこのあとの2つとは違って、中立的立場で書かれており、同意したい。 東洋経済オンライン 小林 一哉氏による「静岡リニア、数字が示す「62万人の命の水」のウソ 流域7市の大井川からの給水人口は26万人程度」 「川勝知事」は反対のため、大げさに騒いでいる印象も受ける。 「専門家による有識者会議は、「人命安全」を最優先とするのが当然であり、トンネル湧水が静岡県外に流出するJR東海の工法を認めたうえで、山梨県へ流出する最大500万立方メートルについて「静岡県外への流出量は非常に微々たる値であり、中下流域への影響はほぼない」とする結論を出している」、「それにもかかわらず、川勝知事は「水1滴も県外流出は許可できない。全量戻しができないならば、工事中止が約束だ」などとJR東海に「全量戻し」を迫っている」、これでは単なる嫌がらせに近い。 「今回、静岡県に甚大な被害をもたらした台風15号の影響で静岡市清水区の約6万3000世帯が断水、9月27日から8日間、川勝知事は富士川の水を急きょ「水道水」とする“超法規的措置”を取った。この結果、山梨県の釜無川を源流とする約1万立方メートルの水が毎日、被災地域に送られた。山梨県からの“命の水”に静岡県民が救われたのである」、なるほど。 「湧水に県境はなく、健全な水循環とは静岡県、山梨県で困ったときには融通しあうことが、今回の台風被災で明らかになった。 「命の水を守る」、「工事中の全量戻し」などが、川勝知事の“反リニア”姿勢の象徴となっている。国交省は、早急にリニア問題の水環境に関する不毛な議論に終止符を打つよう静岡県を強く指導すべきだ」、同感である。 小林 一哉氏による「JR東海の危機、リニア推進「静岡市」が反対派に? 川勝知事の懐刀が市長選へ、現職は不出馬表明」 「県のリニア問題責任者として、難波氏は川勝知事同様に静岡工区着工を許可しない対応を取り続けてきた。難波氏が新市長に就けば、行政権限を駆使して、JR東海にさらなる厳しい姿勢で臨むことは確実だ」、その通りだ。 「難波氏は運輸省・・・港湾局企画官時代に川勝知事と懇意となり、一般的な役所ルートではなく、個人的な指名を受けて2014年5月副知事に就任、2022年5月まで2期(8年間)務めた」、「となれば、「反リニア」に奔走する川勝知事と難波氏が連携を組むことは明らかである」、なるほど。 「高速長尺先進ボーリング」の是非は私には正直なところ、よく分からない。 「難波氏」の「要請文」は、「何の根拠を示さないで、JR東海へ“無理難題”を投げつけ」た形だ。 「静岡市長選挙」の行方は、いまだ不透明だ。私は、「川勝知事」や「難波氏」の言い分には問題が多いと思うが、リニアの建設自体には、新幹線との競合の観点から反対である。
リニア新幹線(その7)(安倍晋三を裏で操った「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之4話:①「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之の知られざる正体…安倍が「国士」と称えた男が最期に抱えていた“爆弾”、②「安倍政権最大の後見人」JR東海・葛西敬之が安倍晋三よりも昵懇だった“意外な政治家の名前”、③政界を牛耳る「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之が安倍晋三と密談して国から「3兆円」を引っ張るまでの一部始終、④安倍政権が政界を牛耳る「最後のフィクサー」の“野望”に3兆円を注ぎ込むまでの「全内幕」) [産業動向]
リニア新幹線については、4月25日に取上げた。今日は、(その7)(安倍晋三を裏で操った「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之4話:①「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之の知られざる正体…安倍が「国士」と称えた男が最期に抱えていた“爆弾”、②「安倍政権最大の後見人」JR東海・葛西敬之が安倍晋三よりも昵懇だった“意外な政治家の名前”、③政界を牛耳る「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之が安倍晋三と密談して国から「3兆円」を引っ張るまでの一部始終、④安倍政権が政界を牛耳る「最後のフィクサー」の“野望”に3兆円を注ぎ込むまでの「全内幕」)である。
先ずは、12月12日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの森 功氏による「安倍晋三を裏で操った「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之の知られざる正体…安倍が「国士」と称えた男が最期に抱えていた“爆弾”」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103134?imp=0
・『2022年は、この10年のあいだ日本を動かしてきた「二人の大物」が続けざまに死んだ年として、後世語られるかもしれない。一人は安倍晋三。もう一人が、安倍のブレインにして安倍政権の「フィクサー」と呼ばれた、JR東海名誉会長の葛西敬之だ。 講談社から12月14日に発売される本格ノンフィクション、 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』では、硬派のジャーナリスト森功氏が、そんな葛西の知られざる素顔に迫る。JR東海は日本を代表する広告主のため、葛西については新聞テレビはもちろん、文春砲を筆頭とする週刊誌メディアもこれまで触れることができなかった。タブーの扉が、いま開く。 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』連載第1回前編』、「JR東海は日本を代表する広告主のため、葛西については新聞テレビはもちろん、文春砲を筆頭とする週刊誌メディアもこれまで触れることができなかった」、忖度抜きで取上げてほしいものだ。
・『安倍が死ぬ1ヵ月半前に世を去った「フィクサー」 葛西敬之(かさいよしゆき)が死の床についた。5月25日朝に息絶えたという。27日になって東海旅客鉄道(JR東海)が公表し、多くの人が新聞、テレビで訃報に接したが、ごく親しい知人は少し前から病状を知っていたようだ。安倍晋三もまた、その一人かもしれない。真っ先に国会内でこう哀悼の意を発表した。 「濃密なおつきあいをさせていただき、本当に残念で、さみしい気持ちです。(故人は)ひとことで言えば国士で、常に国家のことを考えている人だった。安倍政権では有識者会議のメンバーとして集団的自衛権の行使を可能とする解釈の変更について、取りまとめをおこなっていただいた。先見性と実行力のある方で、心からご冥福をお祈りしたい」』、「国士で、常に国家のことを考えている人だった。安倍政権では有識者会議のメンバーとして集団的自衛権の行使を可能とする解釈の変更について、取りまとめをおこなっていただいた」、政府に都合のいい便利な財界人だったようだ。
・『死を覚悟していた 唐突な死のように見える。だが、本人はすでに死を覚悟していたに違いない。実は葛西は6年前に間質性肺炎を発症し、余命宣告を受けていたという。訃報に接したあるJR関係者はこの間の事情について冷静に打ち明けた。 「葛西さんは主治医から5年の命だと告げられていたと聞きます。余命はご本人も自覚されていました。死の宣告より、1年長く命がもったということでしょう。ご家族にもある程度の心構えがあったのではないでしょうか」 葛西の命を奪った間質性肺炎は、肺の間質部分に炎症や線維化病変などが起きる疾患の総称である。病気の原因は多岐にわたり、現代医学でも解明できていない。皮膚や筋肉、関節、血管、骨などのたんぱく質に慢性的な炎症が広がる膠原病(こうげんびょう)、あるいは眩しい光を受けて目が痛くなるようなサルコイドーシスと呼ばれる疾患のあとに発症するとされる。 原因が特定できない患者も数多くいる。原因を特定できない症状は特発性間質性肺炎(IIPs)と呼ばれ、難病指定されている特発性肺線維症(IPF)など7疾患に分類される。IPFと診断された後の平均生存期間は3~5年と報告されている。 葛西は恐ろしい爆弾を抱えたまま病魔と闘ってきた。6年前にそう診断されたとなれば、間質性肺炎に見舞われたのは2016(平成28)年以前となる。 奇しくもJR東海はその2016年の11月、リニア中央新幹線の建設費として国交省所管の独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」(鉄道・運輸機構)に総額3兆円の財政投融資による長期借り入れを申請している。 あれほど徹底的に政府の介入を嫌ってきた葛西が、なぜ旧国鉄時代に赤字の元凶と呼ばれた財投を受け入れたのか。ずっと謎だったが、それは当人の病気と無縁ではないように感じる。葛西は財投の受け入れと同時に、それまでの東京~名古屋間の開通を優先する方針から一転、東京~大阪間の全線開通の前倒しを表明した。 記事後編『「安倍政権最大の後見人」JR東海・葛西敬之が安倍晋三よりも懇意にしていた“意外な政治家の名前”』に続きます』、「旧国鉄時代に赤字の元凶と呼ばれた財投を受け入れたのか。ずっと謎だったが、それは当人の病気と無縁ではないように感じる」、「財投を受け入れた」理由としてはやはり不明なままだ。
・『葛西敬之 政官財界人脈図 確かに人脈は極めて幅広いようだ。
次に、12月12日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの森 功氏による「「安倍政権最大の後見人」JR東海・葛西敬之が安倍晋三よりも昵懇だった“意外な政治家の名前”」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103142?imp=0
・『2022年は、この10年のあいだ日本を動かしてきた「二人の大物」が続けざまに死んだ年として、後世語られるかもしれない。一人は安倍晋三。もう一人が、安倍のブレインにして安倍政権の「フィクサー」と呼ばれた、JR東海名誉会長の葛西敬之だ。 講談社から12月14日に発売される本格ノンフィクション、 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』では、硬派のジャーナリスト森功氏が、そんな葛西の知られざる素顔に迫る。JR東海は日本を代表する広告主のため、葛西については新聞テレビはもちろん、文春砲を筆頭とする週刊誌メディアもこれまで触れることができなかった。タブーの扉が、いま開く。 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』連載第1回後編 前編記事【安倍晋三を裏で操った「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之の知られざる正体…安倍が「国士」と称えた男が最期に抱えていた“爆弾”】』、「JR東海は日本を代表する広告主のため、葛西については新聞テレビはもちろん、文春砲を筆頭とする週刊誌メディアもこれまで触れることができなかった。タブーの扉が、いま開く」、楽しみだ
・『政界の黒幕と呼ばれてきた大物財界人 現首相の岸田文雄は葛西の訃報が流れた明くる5月28日、山梨県都留(つる)市にあるリニアの実験線を視察した。もとよりあらかじめスケジュールに入っていたのだろう。岸田は記者団を前に、未着工区間である名古屋~大阪間の環境影響評価(アセスメント)を進める、と次のように述べた。 「(リニア中央新幹線の)全線開業の前倒しを図るため、来年から着手できるよう、沿線自治体と連携しつつ指導、支援していく」 超電導リニアは、葛西の悲願であった。享年81。日本国有鉄道の民営化を成し遂げた「国鉄改革三人組」の一人と称された。国鉄民営化以降、JR東海を率いた葛西は近年、政界の黒幕と呼ばれてきた大物財界人である』、「超電導リニアは、葛西の悲願」、私自身は、東海道新幹線で十分だと「リニア」には批判的だ。
・『安倍のカムバックを強力に後押し 葛西は2度首相の座に就き、日本の憲政史上最長となった安倍晋三政権における最大の後見人と目されてきた。それゆえ政界とのつながりが深いようにイメージされてきたかもしれない。だが、実のところはそうでもない。 国鉄の民営化に奔走した頃は、自民党の運輸・鉄道族議員たちを動かした。半面、懇意の政治家はそう多くはない。最も篤(あつ)く結ばれてきた国会議員は、自民党と民主党を渡り歩いた与謝野馨(かおる)だ。与謝野との縁で安倍と知り合い、互いの親米、保守タカ派の思想が共鳴し合い、安倍を首相にしようと支援するようになった。 葛西は小泉純一郎が安倍に政権を譲る少し前に国家公安委員に選ばれ、教育再生会議のメンバーとしてときの内閣との結びつきを深めていく。自民党が下野したあとの民主党政権時代にも、東日本大震災に見舞われた政府の政策に関与していった。葛西は福島第一原発事故により、経営危機に陥った東京電力の経営・財務調査委員会ならびに原子力損害賠償支援機構運営委員会の委員に就任する。そこでも独特の持論を展開した。 「社会インフラである電力事業を政府の役人に任せきりではろくなことにならない」 脱原発や電力自由化の気運が高まるなか、葛西はそこに異を唱え、むしろ原発再稼働の旗を振るようになる。そうして安倍の政権カムバックを強力に後押しし、実際にそれを実現させた』、「安倍の政権カムバックを強力に後押しし、実際にそれを実現させた」、安倍にとっても「葛西」は極めて重要な人物だったようだ。
・『閣僚や官僚の人事も葛西の指示だった 第二次安倍政権の発足にあたり、安倍の側近として旧知の官邸官僚を送り込んだ。その一人が警察庁出身の杉田和博であり、経産省出身の今井尚哉(たかや)だった。警察庁でもっぱら警備・公安畑を歩んできた杉田は、国鉄改革時代から極左の労働組合運動と対峙してきた葛西にとって頼りになる友人といえた。 また、今井は第一次安倍政権時代に事務担当の首相秘書官を務め、政権の奪還に汗をかいてきた。葛西が信を置く経産官僚の一人でもあり、交友を重ねてきた。ときに葛西は安倍から内閣の主要閣僚や官僚人事の相談を受け、アドバイスしてきたといわれる。 葛西の悲願だった超電導リニアの実現は、安倍政権の経済政策アベノミクスにおける成長戦略の目玉に位置付けられた。リニア事業はここからまさに政治と一体化したビジネスとなる。財投という政府の資金を使うことになったJR東海は工事を急いだ。 そして葛西と政権との蜜月は、安倍のあとを引き継いで首相に就いた菅義偉にも受け継がれる。岸田政権が誕生したあとも、葛西の影がさまざまな場面でちらついてきた。 奇しくも岸田が参議院選挙に臨んだ投票日2日前の7月8日、安倍は奈良県近鉄大和(やまと)西大寺(さいだいじ)駅前で応援演説をしている最中に凶弾に見舞われ、命を落とした。葛西の死からわずかひと月半後の出来事である。この10年のあいだ、葛西と安倍の二人は日本の中心にいて、 この国を動かしてきた。それは疑いようのない事実であろう。 一国の首相が「憂国の士」と敬愛してやまない葛西は、財界のなかでも類を見ない愛国者に違いない。半面、日本という国を舞台にビジネスを展開し、政府や政策を操ろうとしてきた。政策の表舞台に立たない黒幕だけにその実像はほとんど伝えられなかった。最後のフィクサーと呼ばれる。 講談社から12月14日に発売される、『国商 最後のフィクサー葛西敬之』は、葛西敬之の知られざる素顔に迫るノンフィクションである』、「安倍は奈良県近鉄大和・・・西大寺・・駅前で応援演説をしている最中に凶弾に見舞われ、命を落とした。葛西の死からわずかひと月半後の出来事である。この10年のあいだ、葛西と安倍の二人は日本の中心にいて、 この国を動かしてきた。それは疑いようのない事実であろう」、偶然の一致でしかないとはいえ、何か運命的なめぐり合わせを示唆しているようにも思える。
第三に、12月13日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの森 功氏による「政界を牛耳る「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之が安倍晋三と密談して国から「3兆円」を引っ張るまでの一部始終」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103251?imp=0
・『安倍・菅政権の「フィクサー」として政界を牛耳っていたJR東海名誉会長の葛西敬之。ついにはリニア中央新幹線のために、財政投融資3兆円が注ぎ込まれることになる。融資なので返済するとはいえ、市場金利より安く抑えられていることを思えば、金利分の国家のカネがJR東海につぎ込まれた、と見ることもできる。 ジャーナリスト森功氏の新刊『国商 最後のフィクサー葛西敬之』では、安倍と葛西によって「3兆円財投」が決まるまでの政権内部の動きが、生々しく明かされている。 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』連載第2回前編 連載第1回から読む【安倍晋三を裏で操った「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之の知られざる正体…安倍が「国士」と称えた男が最期に抱えていた“爆弾”】』、興味深そうだ。
・『ブレーンは財務省の事務次官ライン 葛西は数多くの政府審議会の委員となり、霞が関の高級官僚たちと政策勉強会を兼ねた懇親会を開いてきた。なかでも葛西の大事にしてきた省庁が財務省であり、財務官僚には葛西を取り巻くブレーンが少なくない。ざっとあげれば、元国税庁長官の牧野治郎にはじまり、勝(かつ)栄二郎や香川俊介、岡本薫明(しげあき)といった事務次官ラインが葛西と懇親を深めてきた。 1980(昭和55)年6月から82年6月まで2年間、防衛庁に出向して経理局会計課に勤めた牧野は思想的に葛西と近く、主計局総務課時代に公共事業担当として旧国鉄の窓口となる。その後、牧野は97年7月に主計局総務課長に就任し、24兆円にのぼる旧国鉄の債務処理を担った。 JR東日本社長の松田昌士やJR西日本社長の井手正敬は、政府の主張したJRの債務負担法案に反対した。彼らは、株式を上場している民間企業が旧国鉄時代の債務を背負うのは株主に対して理屈が立たない、と主張した』、「松田昌士」や「井手正敬」の主張の方が筋が通っている。
・『葛西の歯に衣着せぬ過激な発言 ちなみにJR本州3社の株式上場は、JR東日本が93年10月、JR西日本が96年10月、JR東海が97年10月という順番だ。その3社のなかで最後に上場したJR東海の葛西だけが、政府案に賛成した。JRによる債務負担は、国の財政をあずかる財務省にとっても好都合だ。結果、JR側の負担は政府案の半額にあたる1800億円で決着した。 また75年大蔵省入省の勝は小泉純一郎政権時代、2年先輩の牧野に葛西を紹介され、国鉄改革を進めた自民党代議士の野呂田芳成(ほうせい)とも知り合いだったことから葛西と親しくなっていく。 勝は民主党の菅直人内閣や野田佳彦内閣で財務事務次官となり、後輩次官となる香川を葛西に引き合わせ、さらに岡本へと省内の葛西人脈が引き継がれていった。 勝は民主党政権で活動を止めていた「財政制度等審議会」(財政審)復活の声が高まったことを受け、事務次官退官の置き土産として復活後の財政審入りを葛西に働きかけた。 財政審は政府予算や決算をはじめとする国の財政全般の審議をする財務大臣の諮問機関だ。勝から香川、岡本と葛西人脈が引き継がれていった財務省では、岡本が第二次安倍政権で財政審担当の主計局次長となる。 葛西はその財政審で歯に衣着せぬ過激な発言をして政府に対する影響力を増していった。岡本は葛西が催した朝食会や夜の会合に呼ばれ、付き合いを深めていった。 リニア新幹線に対する財投投入は、その岡本が官房長のときに決まる。むろんそれは関西出身の国会議員に迫られたからではない。第二次安倍政権時代のある官邸関係者が打ち明けてくれた。 「早くから関西の自民党議員たちが、『リニアは大阪まで一気通貫で早く造るべきだ』と言い出してきたのはたしかです。しかしそれは前々からあった話でした。JR東海の副社長だった金子慎(しん)さんが自民党の集まりに呼ばれ、『財投は受け入れられません』と弁明していた記憶があります。大阪の早期開業についてJR東海は自民党議員に押し切られたわけではなく、むしろその逆。のらりくらりとかわしていました」 記事後編【安倍政権が「最後のフィクサー」の“野望”に3兆円を注ぎ込むまでの「全内幕」】に続きます』、早く次に進もう。
第四に、12月13日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの森 功氏による「安倍政権が政界を牛耳る「最後のフィクサー」の“野望”に3兆円を注ぎ込むまでの「全内幕」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103252?imp=0
・『安倍・菅政権の「フィクサー」として政界を牛耳っていたJR東海名誉会長の葛西敬之。ついにはリニア中央新幹線のために、財政投融資3兆円が注ぎ込まれることになる。融資なので返済するとはいえ、市場金利より安く抑えられていることを思えば、金利分の国家のカネがJR東海につぎ込まれた、と見ることもできる。 ジャーナリスト森功氏の新刊『国商 最後のフィクサー葛西敬之』では、安倍と葛西によって「3兆円財投」が決まるまでの政権内部の動きが、生々しく明かされている。 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』連載第2回後編 前編記事【政界を牛耳る「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之が安倍晋三と密談して国から「3兆円」を引っ張るまでの一部始終】 前編に引き続き、第二次安倍政権時代のある官邸関係者の証言をみていく』、興味深そうだ。
・『官邸の介入 情勢が変わったのは、やはり官邸が介入してからだ、とこう続けた。 「ある日、安倍首相自身が、『経済政策の大きな目玉としてリニアの大阪延伸を早めてほしい』と自民党の稲田(朋美)政調会長を訪ね、依頼したのです。安倍首相が葛西さんに直接伝えればいいようにも感じましたが、その前の根回しのつもりなのかもしれないし、あるいはまず葛西さんの意向を確かめたかったのかもしれません。それで、稲田さんが早期大阪延伸案を葛西さんに投げた。といっても稲田さんには葛西さんとのパイプがなく、経産官僚があいだをつないだと聞いています。葛西さんは宇宙開発に関心があり、宇宙政策委員会という内閣府の審議会にも参加していて、窓口になってきた片瀬(裕文元経産審議官)という親しい経産官僚がいるんです」』、人づてで調べるのはかなりの手間だが、やむを得ないのだろう。
・『3兆円を捻り出す「3つのやり方」 ここから官邸や自民党は、大阪までの工事を一挙に進めるために3兆円が必要になる、と試算した。むろん財務省としては想定外の“予算”であり、決して乗り気ではなかった。実のところ、当初財務省で3兆円を捻り出す方法は、財投の活用だけではなく、3通り検討されたという。 一つは「整備新幹線並みの公共事業予算に組み入れる方法」、もう一つが「税制上の特別な措置」、そして「財投」だ。本来、鉄道の建設事業認可は国交省所管のはずだが、3兆円の捻出方法を説明するため、財務省の官房長だった岡本が葛西のいる品川のJR東海東京本社を何度も訪ねた。 「リニア計画を予算化するには、国会で審議しなければなりません」「税制の優遇措置をするにも、税法の改正案を国会へ提出しなければなりません」 岡本は葛西にそう説明した。財投以外の2案はどちらも国会審議を経なければならないため、注目を浴びて批判の矛先がJR東海に向かいかねない。残るは財投しかない。官邸関係者は財投決定までの内幕を明かした。 「そこにも課題はあります。かつての財投は使い道がないので無理やり貸し付けてきましたが、今はなぜ必要かという説明責任が政府にあります。本来は、現状のまま名古屋までの開通を先行させてJR東海にやってもらったほうがいい。でも、この問題については官邸がらみで稲田政調会長まで介入してきている。国交省は何も口を出さない。それで、気心の知れている財務省の岡本さんが葛西さんのところへ説明に通ったのです。葛西さんに選択肢を与え、向こうに決めてもらうという形になった。その答えは財務省経由ではなく、稲田政調会長を通して安倍総理に直接返ってきたと聞いています」』、「この問題については官邸がらみで稲田政調会長まで介入してきている。国交省は何も口を出さない。それで、気心の知れている財務省の岡本さんが葛西さんのところへ説明に通ったのです。葛西さんに選択肢を与え、向こうに決めてもらうという形になった。その答えは財務省経由ではなく、稲田政調会長を通して安倍総理に直接返ってきたと聞いています」、ずいぶん丁寧にやったようだ。
・『「稲田政調会長が一所懸命やってくださった」 そうして葛西は財投しか方法がないと決めたのだという。その真意は、安倍政権の経済政策をバックアップするためだったのだろうか。あるいは首相のメンツを重んじた結果だろうか。 財投の投入に関しては、国鉄改革の取材の流れで、初代JR東海社長の須田寛にも尋ねたことがある。須田は苦笑いしながら、現在の3兆円の財投投入について評価した。 「無利子ではありませんが、昔の8%と比べたら平均0・8%なんてないようなものです。JRはコロナで大減収になっていますけど、財投を活用した借入金を使用して工事を進めることができるので、工事を止めずに済んだ。そういう意味でも非常に意味があったのです。稲田政調会長が一所懸命やってくださったというのは聞きました」 もっとも、葛西が財投を受け入れた背景は資金繰りの事情だけではない。財投を使った3兆円の融資を申請した16年の春、葛西は病魔に襲われた。命を奪った間質性肺炎である。あまり知られていないが、難病指定されているこの病気は、実は国鉄の動労委員長だった仇敵の松崎明からも命を奪っている。) そんな恐ろしい病気にかかって余命5年を宣告された時期が、まさに財投申請の半年ほど前の出来事なのである。自らの余命を知らされた葛西は、焦り始めていたのではないだろうか。 一方、リニア中央新幹線の終点となる大阪では、日本維新の会が2025年の大阪・関西万博とカジノIRの同時オープンをぶち上げてきた。結果的にカジノ計画はうしろにずれ込んだが、安倍は政権発足以来ずっと維新の会の政策を後押ししてきた。リニア計画の前倒しとともに大阪の政策は、行き詰まりを見せ始めたアベノミクスの起爆剤とも位置付けられた。 財投受け入れは、支援してきた首相を助ける有効な一手――。限られた命を告げられた葛西敬之には、そう映ったのではないだろうか』、「そんな恐ろしい病気にかかって余命5年を宣告された時期が、まさに財投申請の半年ほど前の出来事なのである。自らの余命を知らされた葛西は、焦り始めていたのではないだろうか」、「リニア計画の前倒しとともに大阪の政策は、行き詰まりを見せ始めたアベノミクスの起爆剤とも位置付けられた。 財投受け入れは、支援してきた首相を助ける有効な一手――。限られた命を告げられた葛西敬之には、そう映ったのではないだろうか」、その通りなのだろう。
明日は、リニア全般について、取上げる予定である。
先ずは、12月12日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの森 功氏による「安倍晋三を裏で操った「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之の知られざる正体…安倍が「国士」と称えた男が最期に抱えていた“爆弾”」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103134?imp=0
・『2022年は、この10年のあいだ日本を動かしてきた「二人の大物」が続けざまに死んだ年として、後世語られるかもしれない。一人は安倍晋三。もう一人が、安倍のブレインにして安倍政権の「フィクサー」と呼ばれた、JR東海名誉会長の葛西敬之だ。 講談社から12月14日に発売される本格ノンフィクション、 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』では、硬派のジャーナリスト森功氏が、そんな葛西の知られざる素顔に迫る。JR東海は日本を代表する広告主のため、葛西については新聞テレビはもちろん、文春砲を筆頭とする週刊誌メディアもこれまで触れることができなかった。タブーの扉が、いま開く。 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』連載第1回前編』、「JR東海は日本を代表する広告主のため、葛西については新聞テレビはもちろん、文春砲を筆頭とする週刊誌メディアもこれまで触れることができなかった」、忖度抜きで取上げてほしいものだ。
・『安倍が死ぬ1ヵ月半前に世を去った「フィクサー」 葛西敬之(かさいよしゆき)が死の床についた。5月25日朝に息絶えたという。27日になって東海旅客鉄道(JR東海)が公表し、多くの人が新聞、テレビで訃報に接したが、ごく親しい知人は少し前から病状を知っていたようだ。安倍晋三もまた、その一人かもしれない。真っ先に国会内でこう哀悼の意を発表した。 「濃密なおつきあいをさせていただき、本当に残念で、さみしい気持ちです。(故人は)ひとことで言えば国士で、常に国家のことを考えている人だった。安倍政権では有識者会議のメンバーとして集団的自衛権の行使を可能とする解釈の変更について、取りまとめをおこなっていただいた。先見性と実行力のある方で、心からご冥福をお祈りしたい」』、「国士で、常に国家のことを考えている人だった。安倍政権では有識者会議のメンバーとして集団的自衛権の行使を可能とする解釈の変更について、取りまとめをおこなっていただいた」、政府に都合のいい便利な財界人だったようだ。
・『死を覚悟していた 唐突な死のように見える。だが、本人はすでに死を覚悟していたに違いない。実は葛西は6年前に間質性肺炎を発症し、余命宣告を受けていたという。訃報に接したあるJR関係者はこの間の事情について冷静に打ち明けた。 「葛西さんは主治医から5年の命だと告げられていたと聞きます。余命はご本人も自覚されていました。死の宣告より、1年長く命がもったということでしょう。ご家族にもある程度の心構えがあったのではないでしょうか」 葛西の命を奪った間質性肺炎は、肺の間質部分に炎症や線維化病変などが起きる疾患の総称である。病気の原因は多岐にわたり、現代医学でも解明できていない。皮膚や筋肉、関節、血管、骨などのたんぱく質に慢性的な炎症が広がる膠原病(こうげんびょう)、あるいは眩しい光を受けて目が痛くなるようなサルコイドーシスと呼ばれる疾患のあとに発症するとされる。 原因が特定できない患者も数多くいる。原因を特定できない症状は特発性間質性肺炎(IIPs)と呼ばれ、難病指定されている特発性肺線維症(IPF)など7疾患に分類される。IPFと診断された後の平均生存期間は3~5年と報告されている。 葛西は恐ろしい爆弾を抱えたまま病魔と闘ってきた。6年前にそう診断されたとなれば、間質性肺炎に見舞われたのは2016(平成28)年以前となる。 奇しくもJR東海はその2016年の11月、リニア中央新幹線の建設費として国交省所管の独立行政法人「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」(鉄道・運輸機構)に総額3兆円の財政投融資による長期借り入れを申請している。 あれほど徹底的に政府の介入を嫌ってきた葛西が、なぜ旧国鉄時代に赤字の元凶と呼ばれた財投を受け入れたのか。ずっと謎だったが、それは当人の病気と無縁ではないように感じる。葛西は財投の受け入れと同時に、それまでの東京~名古屋間の開通を優先する方針から一転、東京~大阪間の全線開通の前倒しを表明した。 記事後編『「安倍政権最大の後見人」JR東海・葛西敬之が安倍晋三よりも懇意にしていた“意外な政治家の名前”』に続きます』、「旧国鉄時代に赤字の元凶と呼ばれた財投を受け入れたのか。ずっと謎だったが、それは当人の病気と無縁ではないように感じる」、「財投を受け入れた」理由としてはやはり不明なままだ。
・『葛西敬之 政官財界人脈図 確かに人脈は極めて幅広いようだ。
次に、12月12日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの森 功氏による「「安倍政権最大の後見人」JR東海・葛西敬之が安倍晋三よりも昵懇だった“意外な政治家の名前”」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103142?imp=0
・『2022年は、この10年のあいだ日本を動かしてきた「二人の大物」が続けざまに死んだ年として、後世語られるかもしれない。一人は安倍晋三。もう一人が、安倍のブレインにして安倍政権の「フィクサー」と呼ばれた、JR東海名誉会長の葛西敬之だ。 講談社から12月14日に発売される本格ノンフィクション、 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』では、硬派のジャーナリスト森功氏が、そんな葛西の知られざる素顔に迫る。JR東海は日本を代表する広告主のため、葛西については新聞テレビはもちろん、文春砲を筆頭とする週刊誌メディアもこれまで触れることができなかった。タブーの扉が、いま開く。 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』連載第1回後編 前編記事【安倍晋三を裏で操った「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之の知られざる正体…安倍が「国士」と称えた男が最期に抱えていた“爆弾”】』、「JR東海は日本を代表する広告主のため、葛西については新聞テレビはもちろん、文春砲を筆頭とする週刊誌メディアもこれまで触れることができなかった。タブーの扉が、いま開く」、楽しみだ
・『政界の黒幕と呼ばれてきた大物財界人 現首相の岸田文雄は葛西の訃報が流れた明くる5月28日、山梨県都留(つる)市にあるリニアの実験線を視察した。もとよりあらかじめスケジュールに入っていたのだろう。岸田は記者団を前に、未着工区間である名古屋~大阪間の環境影響評価(アセスメント)を進める、と次のように述べた。 「(リニア中央新幹線の)全線開業の前倒しを図るため、来年から着手できるよう、沿線自治体と連携しつつ指導、支援していく」 超電導リニアは、葛西の悲願であった。享年81。日本国有鉄道の民営化を成し遂げた「国鉄改革三人組」の一人と称された。国鉄民営化以降、JR東海を率いた葛西は近年、政界の黒幕と呼ばれてきた大物財界人である』、「超電導リニアは、葛西の悲願」、私自身は、東海道新幹線で十分だと「リニア」には批判的だ。
・『安倍のカムバックを強力に後押し 葛西は2度首相の座に就き、日本の憲政史上最長となった安倍晋三政権における最大の後見人と目されてきた。それゆえ政界とのつながりが深いようにイメージされてきたかもしれない。だが、実のところはそうでもない。 国鉄の民営化に奔走した頃は、自民党の運輸・鉄道族議員たちを動かした。半面、懇意の政治家はそう多くはない。最も篤(あつ)く結ばれてきた国会議員は、自民党と民主党を渡り歩いた与謝野馨(かおる)だ。与謝野との縁で安倍と知り合い、互いの親米、保守タカ派の思想が共鳴し合い、安倍を首相にしようと支援するようになった。 葛西は小泉純一郎が安倍に政権を譲る少し前に国家公安委員に選ばれ、教育再生会議のメンバーとしてときの内閣との結びつきを深めていく。自民党が下野したあとの民主党政権時代にも、東日本大震災に見舞われた政府の政策に関与していった。葛西は福島第一原発事故により、経営危機に陥った東京電力の経営・財務調査委員会ならびに原子力損害賠償支援機構運営委員会の委員に就任する。そこでも独特の持論を展開した。 「社会インフラである電力事業を政府の役人に任せきりではろくなことにならない」 脱原発や電力自由化の気運が高まるなか、葛西はそこに異を唱え、むしろ原発再稼働の旗を振るようになる。そうして安倍の政権カムバックを強力に後押しし、実際にそれを実現させた』、「安倍の政権カムバックを強力に後押しし、実際にそれを実現させた」、安倍にとっても「葛西」は極めて重要な人物だったようだ。
・『閣僚や官僚の人事も葛西の指示だった 第二次安倍政権の発足にあたり、安倍の側近として旧知の官邸官僚を送り込んだ。その一人が警察庁出身の杉田和博であり、経産省出身の今井尚哉(たかや)だった。警察庁でもっぱら警備・公安畑を歩んできた杉田は、国鉄改革時代から極左の労働組合運動と対峙してきた葛西にとって頼りになる友人といえた。 また、今井は第一次安倍政権時代に事務担当の首相秘書官を務め、政権の奪還に汗をかいてきた。葛西が信を置く経産官僚の一人でもあり、交友を重ねてきた。ときに葛西は安倍から内閣の主要閣僚や官僚人事の相談を受け、アドバイスしてきたといわれる。 葛西の悲願だった超電導リニアの実現は、安倍政権の経済政策アベノミクスにおける成長戦略の目玉に位置付けられた。リニア事業はここからまさに政治と一体化したビジネスとなる。財投という政府の資金を使うことになったJR東海は工事を急いだ。 そして葛西と政権との蜜月は、安倍のあとを引き継いで首相に就いた菅義偉にも受け継がれる。岸田政権が誕生したあとも、葛西の影がさまざまな場面でちらついてきた。 奇しくも岸田が参議院選挙に臨んだ投票日2日前の7月8日、安倍は奈良県近鉄大和(やまと)西大寺(さいだいじ)駅前で応援演説をしている最中に凶弾に見舞われ、命を落とした。葛西の死からわずかひと月半後の出来事である。この10年のあいだ、葛西と安倍の二人は日本の中心にいて、 この国を動かしてきた。それは疑いようのない事実であろう。 一国の首相が「憂国の士」と敬愛してやまない葛西は、財界のなかでも類を見ない愛国者に違いない。半面、日本という国を舞台にビジネスを展開し、政府や政策を操ろうとしてきた。政策の表舞台に立たない黒幕だけにその実像はほとんど伝えられなかった。最後のフィクサーと呼ばれる。 講談社から12月14日に発売される、『国商 最後のフィクサー葛西敬之』は、葛西敬之の知られざる素顔に迫るノンフィクションである』、「安倍は奈良県近鉄大和・・・西大寺・・駅前で応援演説をしている最中に凶弾に見舞われ、命を落とした。葛西の死からわずかひと月半後の出来事である。この10年のあいだ、葛西と安倍の二人は日本の中心にいて、 この国を動かしてきた。それは疑いようのない事実であろう」、偶然の一致でしかないとはいえ、何か運命的なめぐり合わせを示唆しているようにも思える。
第三に、12月13日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの森 功氏による「政界を牛耳る「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之が安倍晋三と密談して国から「3兆円」を引っ張るまでの一部始終」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103251?imp=0
・『安倍・菅政権の「フィクサー」として政界を牛耳っていたJR東海名誉会長の葛西敬之。ついにはリニア中央新幹線のために、財政投融資3兆円が注ぎ込まれることになる。融資なので返済するとはいえ、市場金利より安く抑えられていることを思えば、金利分の国家のカネがJR東海につぎ込まれた、と見ることもできる。 ジャーナリスト森功氏の新刊『国商 最後のフィクサー葛西敬之』では、安倍と葛西によって「3兆円財投」が決まるまでの政権内部の動きが、生々しく明かされている。 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』連載第2回前編 連載第1回から読む【安倍晋三を裏で操った「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之の知られざる正体…安倍が「国士」と称えた男が最期に抱えていた“爆弾”】』、興味深そうだ。
・『ブレーンは財務省の事務次官ライン 葛西は数多くの政府審議会の委員となり、霞が関の高級官僚たちと政策勉強会を兼ねた懇親会を開いてきた。なかでも葛西の大事にしてきた省庁が財務省であり、財務官僚には葛西を取り巻くブレーンが少なくない。ざっとあげれば、元国税庁長官の牧野治郎にはじまり、勝(かつ)栄二郎や香川俊介、岡本薫明(しげあき)といった事務次官ラインが葛西と懇親を深めてきた。 1980(昭和55)年6月から82年6月まで2年間、防衛庁に出向して経理局会計課に勤めた牧野は思想的に葛西と近く、主計局総務課時代に公共事業担当として旧国鉄の窓口となる。その後、牧野は97年7月に主計局総務課長に就任し、24兆円にのぼる旧国鉄の債務処理を担った。 JR東日本社長の松田昌士やJR西日本社長の井手正敬は、政府の主張したJRの債務負担法案に反対した。彼らは、株式を上場している民間企業が旧国鉄時代の債務を背負うのは株主に対して理屈が立たない、と主張した』、「松田昌士」や「井手正敬」の主張の方が筋が通っている。
・『葛西の歯に衣着せぬ過激な発言 ちなみにJR本州3社の株式上場は、JR東日本が93年10月、JR西日本が96年10月、JR東海が97年10月という順番だ。その3社のなかで最後に上場したJR東海の葛西だけが、政府案に賛成した。JRによる債務負担は、国の財政をあずかる財務省にとっても好都合だ。結果、JR側の負担は政府案の半額にあたる1800億円で決着した。 また75年大蔵省入省の勝は小泉純一郎政権時代、2年先輩の牧野に葛西を紹介され、国鉄改革を進めた自民党代議士の野呂田芳成(ほうせい)とも知り合いだったことから葛西と親しくなっていく。 勝は民主党の菅直人内閣や野田佳彦内閣で財務事務次官となり、後輩次官となる香川を葛西に引き合わせ、さらに岡本へと省内の葛西人脈が引き継がれていった。 勝は民主党政権で活動を止めていた「財政制度等審議会」(財政審)復活の声が高まったことを受け、事務次官退官の置き土産として復活後の財政審入りを葛西に働きかけた。 財政審は政府予算や決算をはじめとする国の財政全般の審議をする財務大臣の諮問機関だ。勝から香川、岡本と葛西人脈が引き継がれていった財務省では、岡本が第二次安倍政権で財政審担当の主計局次長となる。 葛西はその財政審で歯に衣着せぬ過激な発言をして政府に対する影響力を増していった。岡本は葛西が催した朝食会や夜の会合に呼ばれ、付き合いを深めていった。 リニア新幹線に対する財投投入は、その岡本が官房長のときに決まる。むろんそれは関西出身の国会議員に迫られたからではない。第二次安倍政権時代のある官邸関係者が打ち明けてくれた。 「早くから関西の自民党議員たちが、『リニアは大阪まで一気通貫で早く造るべきだ』と言い出してきたのはたしかです。しかしそれは前々からあった話でした。JR東海の副社長だった金子慎(しん)さんが自民党の集まりに呼ばれ、『財投は受け入れられません』と弁明していた記憶があります。大阪の早期開業についてJR東海は自民党議員に押し切られたわけではなく、むしろその逆。のらりくらりとかわしていました」 記事後編【安倍政権が「最後のフィクサー」の“野望”に3兆円を注ぎ込むまでの「全内幕」】に続きます』、早く次に進もう。
第四に、12月13日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの森 功氏による「安倍政権が政界を牛耳る「最後のフィクサー」の“野望”に3兆円を注ぎ込むまでの「全内幕」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/103252?imp=0
・『安倍・菅政権の「フィクサー」として政界を牛耳っていたJR東海名誉会長の葛西敬之。ついにはリニア中央新幹線のために、財政投融資3兆円が注ぎ込まれることになる。融資なので返済するとはいえ、市場金利より安く抑えられていることを思えば、金利分の国家のカネがJR東海につぎ込まれた、と見ることもできる。 ジャーナリスト森功氏の新刊『国商 最後のフィクサー葛西敬之』では、安倍と葛西によって「3兆円財投」が決まるまでの政権内部の動きが、生々しく明かされている。 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』連載第2回後編 前編記事【政界を牛耳る「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之が安倍晋三と密談して国から「3兆円」を引っ張るまでの一部始終】 前編に引き続き、第二次安倍政権時代のある官邸関係者の証言をみていく』、興味深そうだ。
・『官邸の介入 情勢が変わったのは、やはり官邸が介入してからだ、とこう続けた。 「ある日、安倍首相自身が、『経済政策の大きな目玉としてリニアの大阪延伸を早めてほしい』と自民党の稲田(朋美)政調会長を訪ね、依頼したのです。安倍首相が葛西さんに直接伝えればいいようにも感じましたが、その前の根回しのつもりなのかもしれないし、あるいはまず葛西さんの意向を確かめたかったのかもしれません。それで、稲田さんが早期大阪延伸案を葛西さんに投げた。といっても稲田さんには葛西さんとのパイプがなく、経産官僚があいだをつないだと聞いています。葛西さんは宇宙開発に関心があり、宇宙政策委員会という内閣府の審議会にも参加していて、窓口になってきた片瀬(裕文元経産審議官)という親しい経産官僚がいるんです」』、人づてで調べるのはかなりの手間だが、やむを得ないのだろう。
・『3兆円を捻り出す「3つのやり方」 ここから官邸や自民党は、大阪までの工事を一挙に進めるために3兆円が必要になる、と試算した。むろん財務省としては想定外の“予算”であり、決して乗り気ではなかった。実のところ、当初財務省で3兆円を捻り出す方法は、財投の活用だけではなく、3通り検討されたという。 一つは「整備新幹線並みの公共事業予算に組み入れる方法」、もう一つが「税制上の特別な措置」、そして「財投」だ。本来、鉄道の建設事業認可は国交省所管のはずだが、3兆円の捻出方法を説明するため、財務省の官房長だった岡本が葛西のいる品川のJR東海東京本社を何度も訪ねた。 「リニア計画を予算化するには、国会で審議しなければなりません」「税制の優遇措置をするにも、税法の改正案を国会へ提出しなければなりません」 岡本は葛西にそう説明した。財投以外の2案はどちらも国会審議を経なければならないため、注目を浴びて批判の矛先がJR東海に向かいかねない。残るは財投しかない。官邸関係者は財投決定までの内幕を明かした。 「そこにも課題はあります。かつての財投は使い道がないので無理やり貸し付けてきましたが、今はなぜ必要かという説明責任が政府にあります。本来は、現状のまま名古屋までの開通を先行させてJR東海にやってもらったほうがいい。でも、この問題については官邸がらみで稲田政調会長まで介入してきている。国交省は何も口を出さない。それで、気心の知れている財務省の岡本さんが葛西さんのところへ説明に通ったのです。葛西さんに選択肢を与え、向こうに決めてもらうという形になった。その答えは財務省経由ではなく、稲田政調会長を通して安倍総理に直接返ってきたと聞いています」』、「この問題については官邸がらみで稲田政調会長まで介入してきている。国交省は何も口を出さない。それで、気心の知れている財務省の岡本さんが葛西さんのところへ説明に通ったのです。葛西さんに選択肢を与え、向こうに決めてもらうという形になった。その答えは財務省経由ではなく、稲田政調会長を通して安倍総理に直接返ってきたと聞いています」、ずいぶん丁寧にやったようだ。
・『「稲田政調会長が一所懸命やってくださった」 そうして葛西は財投しか方法がないと決めたのだという。その真意は、安倍政権の経済政策をバックアップするためだったのだろうか。あるいは首相のメンツを重んじた結果だろうか。 財投の投入に関しては、国鉄改革の取材の流れで、初代JR東海社長の須田寛にも尋ねたことがある。須田は苦笑いしながら、現在の3兆円の財投投入について評価した。 「無利子ではありませんが、昔の8%と比べたら平均0・8%なんてないようなものです。JRはコロナで大減収になっていますけど、財投を活用した借入金を使用して工事を進めることができるので、工事を止めずに済んだ。そういう意味でも非常に意味があったのです。稲田政調会長が一所懸命やってくださったというのは聞きました」 もっとも、葛西が財投を受け入れた背景は資金繰りの事情だけではない。財投を使った3兆円の融資を申請した16年の春、葛西は病魔に襲われた。命を奪った間質性肺炎である。あまり知られていないが、難病指定されているこの病気は、実は国鉄の動労委員長だった仇敵の松崎明からも命を奪っている。) そんな恐ろしい病気にかかって余命5年を宣告された時期が、まさに財投申請の半年ほど前の出来事なのである。自らの余命を知らされた葛西は、焦り始めていたのではないだろうか。 一方、リニア中央新幹線の終点となる大阪では、日本維新の会が2025年の大阪・関西万博とカジノIRの同時オープンをぶち上げてきた。結果的にカジノ計画はうしろにずれ込んだが、安倍は政権発足以来ずっと維新の会の政策を後押ししてきた。リニア計画の前倒しとともに大阪の政策は、行き詰まりを見せ始めたアベノミクスの起爆剤とも位置付けられた。 財投受け入れは、支援してきた首相を助ける有効な一手――。限られた命を告げられた葛西敬之には、そう映ったのではないだろうか』、「そんな恐ろしい病気にかかって余命5年を宣告された時期が、まさに財投申請の半年ほど前の出来事なのである。自らの余命を知らされた葛西は、焦り始めていたのではないだろうか」、「リニア計画の前倒しとともに大阪の政策は、行き詰まりを見せ始めたアベノミクスの起爆剤とも位置付けられた。 財投受け入れは、支援してきた首相を助ける有効な一手――。限られた命を告げられた葛西敬之には、そう映ったのではないだろうか」、その通りなのだろう。
明日は、リニア全般について、取上げる予定である。
タグ:「JR東海は日本を代表する広告主のため、葛西については新聞テレビはもちろん、文春砲を筆頭とする週刊誌メディアもこれまで触れることができなかった」、忖度抜きで取上げてほしいものだ。 森 功氏による「安倍晋三を裏で操った「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之の知られざる正体…安倍が「国士」と称えた男が最期に抱えていた“爆弾”」 現代ビジネス (その7)(安倍晋三を裏で操った「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之4話:①「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之の知られざる正体…安倍が「国士」と称えた男が最期に抱えていた“爆弾”、②「安倍政権最大の後見人」JR東海・葛西敬之が安倍晋三よりも昵懇だった“意外な政治家の名前”、③政界を牛耳る「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之が安倍晋三と密談して国から「3兆円」を引っ張るまでの一部始終、④安倍政権が政界を牛耳る「最後のフィクサー」の“野望”に3兆円を注ぎ込むまでの「全内幕」) リニア新幹線 明日は、リニア全般について、取上げる予定である。 森 功氏による「政界を牛耳る「最後のフィクサー」JR東海・葛西敬之が安倍晋三と密談して国から「3兆円」を引っ張るまでの一部始終」 早く次に進もう。 「松田昌士」や「井手正敬」の主張の方が筋が通っている。 「そんな恐ろしい病気にかかって余命5年を宣告された時期が、まさに財投申請の半年ほど前の出来事なのである。自らの余命を知らされた葛西は、焦り始めていたのではないだろうか」、「リニア計画の前倒しとともに大阪の政策は、行き詰まりを見せ始めたアベノミクスの起爆剤とも位置付けられた。 財投受け入れは、支援してきた首相を助ける有効な一手――。限られた命を告げられた葛西敬之には、そう映ったのではないだろうか」、その通りなのだろう。 「この問題については官邸がらみで稲田政調会長まで介入してきている。国交省は何も口を出さない。それで、気心の知れている財務省の岡本さんが葛西さんのところへ説明に通ったのです。葛西さんに選択肢を与え、向こうに決めてもらうという形になった。その答えは財務省経由ではなく、稲田政調会長を通して安倍総理に直接返ってきたと聞いています」、ずいぶん丁寧にやったようだ。 人づてで調べるのはかなりの手間だが、やむを得ないのだろう。 森 功氏による「安倍政権が政界を牛耳る「最後のフィクサー」の“野望”に3兆円を注ぎ込むまでの「全内幕」」 「安倍は奈良県近鉄大和・・・西大寺・・駅前で応援演説をしている最中に凶弾に見舞われ、命を落とした。葛西の死からわずかひと月半後の出来事である。この10年のあいだ、葛西と安倍の二人は日本の中心にいて、 この国を動かしてきた。それは疑いようのない事実であろう」、偶然の一致でしかないとはいえ、何か運命的なめぐり合わせを示唆しているようにも思える。 「安倍の政権カムバックを強力に後押しし、実際にそれを実現させた」、安倍にとっても「葛西」は極めて重要な人物だったようだ。 「超電導リニアは、葛西の悲願」、私自身は、東海道新幹線で十分だと「リニア」には批判的だ。 「JR東海は日本を代表する広告主のため、葛西については新聞テレビはもちろん、文春砲を筆頭とする週刊誌メディアもこれまで触れることができなかった。タブーの扉が、いま開く」、楽しみだ 森 功氏による「「安倍政権最大の後見人」JR東海・葛西敬之が安倍晋三よりも昵懇だった“意外な政治家の名前”」 「旧国鉄時代に赤字の元凶と呼ばれた財投を受け入れたのか。ずっと謎だったが、それは当人の病気と無縁ではないように感じる」、「財投を受け入れた」理由としてはやはり不明なままだ。 ・『葛西敬之 政官財界人脈図 確かに人脈は極めて幅広いようだ。 「国士で、常に国家のことを考えている人だった。安倍政権では有識者会議のメンバーとして集団的自衛権の行使を可能とする解釈の変更について、取りまとめをおこなっていただいた」、政府に都合のいい便利な財界人だったようだ。