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台湾(その5)(レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問 その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情、ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音 日本に覚悟はあるか) [世界情勢]

台湾については、6月25日に取上げた。今日は、(その5)(レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問 その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情、ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音 日本に覚悟はあるか)である。

先ずは、8月8日付け現代ビジネスが掲載した双日総合研究所 官民連携室 副主任研究員 米国経済・産業調査・経済安全保障担当の安田 佐和子氏による「レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問、その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/98333?imp=0
・『バイデンは止めようとしたものの  「敵を過小評価するな、過大評価してもいけない」とは、1997年以降、25年ぶりに下院議長として台湾を訪問したナンシー・ペロシ氏の名言のひとつだ。5人の子供を産んだ後、1987年に下院議員に初当選してから18期連続、35年にわたって選挙区を守ってきた同氏の言葉は、米中関係が台湾海峡をめぐり緊迫するなか、ひときわ重みを増す。 ペロシ氏の訪台計画は、7月19日付けの英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙でリークされた。バイデン氏は報道を受け7月21日、要人輸送機が空軍に属するためか「軍は良いアイデアと考えていない」と発言。 その後、CNNなど、バイデン政権がペロシ氏に訪台を断念するよう説得中などの報道が飛び交った。バイデン政権としては米中オンライン会談を予定していただけに、一段の関係悪化を回避したかったとされる。 ブルームバーグによれば、ペロシ氏の訪台計画にバイデン政権は怒り心頭で、国家安全保障会議(NSC)や国務省の高官がペロシ陣営に赴き、地政学的リスクを事前に説明したという。しかし、ペロシ氏は訪台を敢行。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官が8月2日、「下院議長には訪台の権利がある」と述べ、三権分立の下で行政府の制御が及ぶ範囲内ではないと一線を画すにとどめた。 問題は、本当にバイデン政権がペロシ氏の訪台を説得できなかったのかという点にある。ペロシ氏といえば82歳で、1973年に上院議員に当選した79歳のバイデン氏より政治キャリアでは短いが、年上だ。そのペロシ氏は中間選挙で民主党が野党に転じれば引退する公算が大きく、天安門事件後の1991年に訪中し抗議活動を展開するなど対中強硬派で知られるだけに、自身のレガシー作りへの算段が働いたのだろう』、「ペロシ氏の訪台計画にバイデン政権は怒り心頭で、国家安全保障会議(NSC)や国務省の高官がペロシ陣営に赴き、地政学的リスクを事前に説明したという。しかし、ペロシ氏は訪台を敢行。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官が8月2日、「下院議長には訪台の権利がある」と述べ、三権分立の下で行政府の制御が及ぶ範囲内ではないと一線を画すにとどめた」、「バイデン」の政治力のなさを如実に示した形だ。
・『噂飛び交うペロシ自身の「事情」  しかし、中間選挙で敗北が色濃く、ペロシ氏が議長の座を下りることを視野に自身のレガシー作りを狙ったかというと、話はそう単純ではなさそうだ。 米中のさらなる分断はただでさえロシアによるウクライナ侵攻で脆弱な世界経済を一段と混迷させかねない。結果的に、米国の信頼を失墜させるだけでなく、4~6月期まで2四半期連続でマイナス成長に落ち込む米経済に、さらなる打撃を与えうる。そのような危険を冒すにしては、リターンが余りにも小さく、最終的に自身のレガシーにも傷が付く』、「自身のレガシー作りを狙った」のではないとすると、真の狙いは何なのだろう。
・『米実質GDP成長率は2四半期連続でマイナス  中台問題が取り沙汰されるなか「ペロシ氏の夫が、半導体産業支援法案成立の前に500万ドル相当の関連株を売却した」との報道が流れたため、保守派からは、ペロシ氏がスキャンダルから話題を逸らすべく訪台という大舞台を演出したとの批判も聞かれる。 過去を紐解けば、確かにそのように受け止められるケースがあった。1998年12月にクリントン大統領(当時)がホワイトハウス実習生との不倫問題をもみ消した問題で弾劾訴追に直面した際、国連の武器査察を拒否し続けた報復として、イラクの武器関連施設を空爆した。奇しくも、同年5月公開の映画「ウワサの真相/ワグ・ザ・ドッグ」のストーリーの一部が現実化し、騒然となったものだ。事実は小説より奇なりというが、さすがに邪推が過ぎるというものだろう』、「ペロシ氏がスキャンダルから話題を逸らすべく訪台という大舞台を演出したとの批判も」、そんなみみっちい理由ではなかっと思うしかなさそうだ。
・『米国の大義名分は  英FT紙がペロシ訪台計画のスクープを飛ばした直後、中国外務省は即座に「重大な影響を及ぼす」と反発。北戴河会議を控え、7月28日に行われた米中首脳電話会談後に公表された声明でも、ペロシ訪台をめぐり中国側は「火遊びをすれば、必ずやけどする」と警告した。ペロシ氏が台湾を訪問することが確実になった8月2日には、台湾企業の約100社に対し食品の輸入禁止を決定。 中国軍は8月4日から台湾周辺で過去最大規模の軍事演習を開始し、発射されたミサイルは日本の排他的経済水域(EEZ)内にも落下した。NSCのカービー氏は、ペロシ訪台による中国側の対抗措置として、台湾海峡や台湾近辺でのミサイル発射や大規模な軍事演習などを挙げたが、その通りになった。 米国のアジア専門家の間では、中国にとってペロシ訪台は「越えてはならない一線を越えた」との見方が優勢だ。 米戦略国際問題研究所(CSIS)の専任研究員を経て、ジャーマン・マーシャル・ファンド・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツのアジア地域所長を務めるボニー・グラッサー氏は「米中は極めて危険で、険悪な状態に陥った」と分析。その上で、中国政府の行動が「単なる報復を超え、現状の変更を引き起こしかねない」との懸念を寄せていた。 ペロシ氏がバイデン政権や専門家の懸念を無視して訪台を断行したのならば、大義名分があったに違いない。それこそ、中間選挙だけでなく2024年の米大統領選を見据えた“強い米国”の再構築ではないか。 ロシアのウクライナ侵攻を受け、中国の“力による現状変更”が警戒される状況で、中国の威嚇を跳ね除け「台湾を支える米国の揺るぎない米国の関与を守る」意思を伝えることは、国内だけでなく海外で“強い米国”を印象づける利点もある。インド太平洋など、米国が主導する多国間での対中包囲網へのコミットメントの強化とも捉えられよう』、「中国の威嚇を跳ね除け「台湾を支える米国の揺るぎない米国の関与を守る」意思を伝えることは、国内だけでなく海外で“強い米国”を印象づける利点も」、これなら立派な「大義名分」だ。
・『軽く見られているバイデンの二転三転  そもそも、バイデン氏の支持率はジリ貧が続く。ギャラップが7月5~26日に実施した世論調査によれば、支持率は38%と就任以来の最低を更新した。それだけでなく、4月20日から7月19日までの平均支持率も40%と、1954年以降、1期目の大統領としては同期間中の平均値で過去最低を塗り替えた。つまり、トランプ前大統領の42%すら下回ったことになる。民主党寄りの有権者からも、そっぽを向かれている。 CNNが7月28日に公表した世論調査では、彼らの間でも「バイデン氏以外の候補者を擁立すべき」との回答が75%と、1~2月時点の51%から急伸していた』、 バイデン氏の失点と言えば、21年8月、イスラム主義組織タリバン勢力によるカブール陥落が真っ先に挙げられる。以降はインフレ高進が仇となったが、ロシアによるウクライナ侵攻についても「トランプが大統領ならば、ロシアはウクライナ侵攻しなかった」との回答が62%に達したことも、記憶に新しい。(3月10日公開「『危機の大統領』? ウクライナ侵攻でも支持率低迷のバイデン政権」』、確かに「バイデン」はモーロクした印象が強過ぎる。「「トランプが大統領ならば、ロシアはウクライナ侵攻しなかった」との回答」は、どこまで国際政治の実態を反映したものかは不明だが、頼りない印象だけは抜群だ。
・『議員たちの台湾問題  5月の台湾防衛に関して「イエス」と応じたバイデン氏の発言は、真の意図はともかく失言とされる。しかし、民主党や共和党の有力上院議員は歓迎した。 民主党のロバート・メネンデス上院外交委員長(ニュージャージー州)は「バイデン氏は正しい。信頼できる抑止には勇気と明快さが必要だ」と評価した。共和党のミッチ・マコーネル院内総務(ケンタッキー州)は、「台湾への侵攻を米国が座視しないと中国は知るべき」と発言。同党のリック・スコット上院議員(フロリダ州)も「大統領は2回も台湾を防衛すると発言したが、ホワイトハウスはその度に修正した」とツイートし、上院は混乱を終わらせるべきだと主張した。その上で「私が推進する“台湾侵略防止法案”を可決し、米国による台湾支援を明確化すべきだ」と訴えた。 なお、スコット氏は2019年にフロリダ州知事から上院議員に転じたばかりだが、21年から全国共和党上院委員会の委員長を務め、24年の米大統領選での出馬が囁かれる一人である』、親「台湾」の「上院議員」が、「24年の米大統領選での出馬が囁かれる一人」とは、「中国外交」の苦戦はしばらく続きそうだ。
・『台湾防衛発言に対するスコット議員のツイート  米国は、1979年に成立した“台湾関係法”と1982年に制定された“6つの保証”に基づき、台湾の自衛能力貢献に寄与してきた。半面、米軍の介入を確約していない。長年“曖昧戦略”を展開したわけだが、中国の脅威が眼前に迫り、2030年頃に中国はGDPで米国を追い抜く見通しだ。米議会の対中警戒は、否が応でも高まらざるを得ない。約520億ドル規模の補助金を含む半導体生産支援法案(CHIPSプラス)が超党派で成立したのも、そうした背景がある。 その上院は足元、スコット氏が法案を提出するだけでなく、メネンデス氏が同じく上院外交委員会のリンゼー・グラム議員(共和党)と連名で“2022年版台湾政策法”を提案。ロシアによるウクライナ侵攻を受け、台湾関係法を刷新するもので、向こう4年間の台湾への外交軍事支援を含め、台湾を“重要な北大西洋条約機構(NATO)非加盟の同盟地域”に指定し米国からの武器納入を容易にしつつ、相互防衛の約束は盛り込まない』、「相互防衛の約束は盛り込まない」、ということで「中国」のメンツをかろうじて守った形だ。
・『切実、民主党の24年大統領選挙  1995~96年の第3次台湾海峡危機では、96年3月の中国の大規模軍事演習を展開、米国は台湾近海に原子力空母2隻を派遣するまで緊張が高まった。しかし、クリントン政権(当時)は同年7月にレーク安全保障担当大統領補佐官が中国に送り出し、翌97年5月にクリントン氏が最恵国待遇の更新支持を表明。1997年10月には江沢民主席が国賓として米国を訪問し、1998年6月には、クリントン氏が約9年ぶりに訪中するなど、現在の米国人にしてみれば米国が歩み寄った印象は拭えない。 現状、ピュー・リサーチ・センターの米世論調査で、米国人の89%が「中国を競争相手あるいは敵」とみなし、中国と台湾における緊張も「深刻」と受け止める米国人も78%だ。米世論での対中警戒が高まるだけに、米議会が当時のような姿勢を認めるはずはない。ペロシ氏の訪台は、中国の力による現状変更に屈しない立法府の力強い意志と結束を象徴したと言えよう。 何より民主党にしてみれば、中間選挙だけでなく、次の米大統領選を見据えた布石だったとしてもおかしくない。バイデン陣営にしても、行政府として距離を置けば中国側が何と言おうが説明可能という逃げ道が残る。一方で、民主党の大統領候補が誰であっても、中国に24年の米大統領選を制するには“弱腰”でいられない。 ニューズウィーク誌がペロシ訪台計画について“トランプ前大統領による強硬な対中政策転換のさらなる勝利”と伝えていた。米大統領選を控え、民主党は中国や米世論を過小評価も過大評価もせず、淡々と“強い米国”のイメージ作りに励む必要がありそうだ) バイデン氏の台湾を防衛すると3度にわたって発言しつつ、その度に撤回しているのも、米国の有権者にすれば高等な“曖昧戦略”(「1つの中国」を認め台湾と正式な国交を結ばず、武器輸出などを行う状態)というより、“優柔不断”に映るのだろう。 ワシントン・ポスト紙は5月24日に“二転三転するバイデン氏の台湾防衛宣言は米国を弱くみせる”との論説を掲載。そこで、リチャード・ハース外交問題評議会(CFR)会長の「戦略的曖昧さとして知られる政策は……その役割を終えた。今こそ米国は、戦略的明確化政策を導入すべき時だ」との発言を引用し、曖昧戦略からの脱却を訴えた』、「「戦略的曖昧さとして知られる政策は……その役割を終えた。今こそ米国は、戦略的明確化政策を導入すべき時だ」との発言を引用し、曖昧戦略からの脱却を訴えた」、注目すべき発言だ。

次に、8月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館大学政策科学部教授の上久保誠人氏による「ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音、日本に覚悟はあるか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307778
・『米国のナンシー・ペロシ下院議長が台湾を訪れ、世界中で議論を呼んでいる。経済危機を避けるため、米中が対話の可能性を模索しつつあった中、その努力を無に帰したからだ。中国はペロシ議長の訪台を受けて大規模な軍事演習を実施し、台湾だけでなく米国を挑発している。このことは、もし今後の世界で「新冷戦」があるならば、その主戦場が「北東アジア」であることを明示したといえる。冷戦といえば、ウクライナ戦争の渦中にあるロシアを想起し、意外に思う読者がいるかもしれないが、ロシアの脅威はもはや幻想にすぎない。そういえる要因を詳しく解説する』、「新冷戦」「の主戦場が「北東アジア」」とは興味深そうだ。
・『米ペロシ議長の訪台を受け中国が大規模軍事演習に走ったワケ  米国のナンシー・ペロシ下院議長が8月2日夜に台湾を訪れて、蔡英文台湾総統と会談した。ペロシ議長は会談で、世界的に「民主主義VS権威主義」の対立構造が鮮明になっていると指摘し、「米国は揺るぎない決意で台湾と世界の民主主義を守る」と強調した。 また、ペロシ議長は今回、中国民主化運動の元学生リーダー、ウアルカイシ氏ら人権・民主運動関係者と会談したという。加えて、半導体受託生産世界最大手・台湾積体電路製造(TSMC)の劉徳音会長とも会談したと報じられている。 だが中国は、ペロシ議長の訪台に強く反発した。中国軍は、台湾周辺で実弾射撃を伴う大規模な軍事演習を行い、台湾北方、東方、南方の各海域に向けて弾道ミサイル「東風」を11発発射した。重要なことは、史上初めて、日本の排他的経済水域(EEZ)内に5発、中国軍のミサイルが着弾したことだ。 ペロシ議長の訪台を受け、中国が強気な態度を取った要因については、専門家の間でさまざまな見方がある。 その一つは、「習近平国家主席がペロシ議長の訪台を許したことについての、国民からの批判を抑えたかったのではないか」というものだ。 というのも、2022年は中国と習主席にとって重要な時期である。8月1日は中国人民解放軍の「建軍95周年記念日」だった。8月には他にも、長老らの意見を聞いて共産党の方針を決める「北戴河会議」がある。また、22年秋には5年に一度の党大会を控えている。 重要な会議や式典が相次ぐ時期に、国内で弱腰の姿勢を見せられなかったというのだ。 もう一つの見方は、「台湾を取り囲み、武力侵攻を想定した軍事演習を行うことで、中国の軍事能力の向上を米国に見せつける狙いがあった」というものだ。 これまでの中国は、軍事演習の他にも、米国に対するサイバー攻撃など多岐にわたる作戦領域を展開してきた。その背景には、米国が武器売却や軍事演習を通じて、粛々と台湾との関係を強化してきたことへの強い不満があるという。 今回もこうした不満が原因となり、軍事演習によって米国を挑発・威嚇しようとした可能性は大いにあるだろう』、「2022年は中国と習主席にとって重要な時期である。8月1日は中国人民解放軍の「建軍95周年記念日」だった。8月には他にも、長老らの意見を聞いて共産党の方針を決める「北戴河会議」がある。また、22年秋には5年に一度の党大会を控えている。 重要な会議や式典が相次ぐ時期に、国内で弱腰の姿勢を見せられなかったというのだ」、「中国の軍事能力の向上を米国に見せつける狙い」、いずれももっともな見方だ。
・『ペロシ議長の訪台は米中の歩み寄りを無に帰した  しかし、「中国は米国とのこれ以上の緊張拡大を望んでいるわけではなく、それを慎重に避けている」という見方もある。 また、ペロシ議長の訪台自体についても、各方面から厳しい批判がある。米ジョー・バイデン政権は対中強硬姿勢を強化しながらも、並行して中国との対話も進め、対中関係を安定させようとしてきた。 特に、ウクライナ戦争勃発後は、欧米のロシアに対する経済制裁が、中国を含む国際経済に悪影響を与えつつある。その中で経済危機を避けるために、米中は対話の可能性を模索しつつあった。 だが、ペロシ議長の訪台は、これらの米中両政府の努力を無に帰したかもしれない。たとえ前述の通り、中国がこれ以上の緊張拡大を望んでいなかったとしても、訪台を機に米中関係が明らかに悪い方向に向かうのは間違いない。 また、台湾や日本にとっても、議長の訪台の意義を見いだすことは難しい。「結局、議長のレガシー(遺産)づくりでしかない」といった厳しい報道も出ている。“遺産”という表現が使われた理由は、米国で22年11月に行われる中間選挙で、民主党が厳しい戦いを強いられ、敗北によってペロシ議長が退任する可能性が考えられるからだ。 しかし、不可解なペロシ議長の訪台と、中国からの反発が意味することが一つある。それは、もし今後の世界で「新冷戦」があるならば、その主戦場が「北東アジア」であることがはっきりしたことだ。 逆にいえば、欧州には「新冷戦」など存在せず、その主戦場になり得ないことが明確になった。 新冷戦といえば、ウクライナ戦争の渦中にあるロシアを想起し、意外に思う読者が多いかもしれない。だが、ウクライナ戦争によって、現在の欧米諸国におけるロシアの劣勢は明確になっている。もはや、対立構図で論じられるレベルではないのだ。 この連載では、ウクライナ戦争開戦前から、ロシアはユーラシア大陸の勢力争いで、米英仏独などNATO(北大西洋要約機構)に敗北していると指摘してきた(本連載第306回・p2)。 振り返ると、東西冷戦期にドイツは東西に分裂し、「ベルリンの壁」で東西両陣営が対峙(たいじ)した。当時、旧ソ連の影響圏は「東ドイツ」まで広がっていた。しかし東西冷戦終結後、旧共産圏の東欧諸国や、旧ソ連領だった国が次々と民主化した。その結果、約30年間にわたってNATOやEU(欧州連合)は東方に拡大してきた。 ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音、日本に覚悟はあるか ヨーロッパの地図(出典:123RF)。ポーランドやチェコ、ハンガリー、「バルト三国」などは冷戦後にNATOに加わった ベラルーシ、ウクライナなど数カ国を除き、旧ソ連の影響圏だったほとんどの国がNATO、EU加盟国になった。ウクライナ戦争の開戦前、ロシアの勢力圏は、東ベルリンからウクライナ・ベラルーシのラインまで大きく後退していた。 ウクライナ戦争の開戦時、プーチン大統領は「NATOがこれ以上拡大しないという法的拘束力のある確約をする」「NATOがロシア国境の近くに攻撃兵器を配備しない」「1997年以降にNATOに加盟した国々からNATOが部隊や軍事機構を撤去する」の3つを要求した(第297回)。これらの内容からは、ロシアがNATOの東方拡大によって、いかに追い込まれていたかが見て取れる。 そして、ウクライナ戦争開戦から5カ月がたった現在、ロシアはウクライナ東部を占領し、大攻勢に出ていると報じられている。だが欧州全体の地図を眺めれば、NATOの勢力圏が開戦前より拡大し、ロシアがさらに追い込まれていることがわかる』、「欧州全体の地図を眺めれば、NATOの勢力圏が開戦前より拡大し、ロシアがさらに追い込まれていることがわかる」、その通りだ。
・『ロシアの不利は明確 欧州は「新冷戦」の舞台ではない  そう言い切れる要因は、長年NATOとロシアの間で「中立」を守ってきたスウェーデン、フィンランドのNATO加盟決定である(第306回・p3)。加盟交渉は当初、NATO加盟国の一つでありながら、ロシアとも密接な関係を保ってきたトルコが反対し、難航するかと思われた。だが、トルコはあっさりと翻意した。 トルコはウクライナ戦争を巡り、最もしたたかに振る舞っている国だ。かつては、ウクライナとロシアの停戦交渉の仲介役を担おうとしたこともあった。そのトルコが、スウェーデンとフィンランドのNATO加盟を認めたのは、相当の「実利」を得られると踏んだからだろう。 スウェーデン・フィンランドのNATO加盟によって、地上におけるNATO加盟国とロシアの間の国境は2倍以上に延びる。海上においても、「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になる。単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与えることになるのだ』、「スウェーデン・フィンランドのNATO加盟によって、地上におけるNATO加盟国とロシアの間の国境は2倍以上に延びる。海上においても、「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になる。単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与える」、そんな影響があったことをクリアに示してくれた。
・『事実上「戦勝」状態にあるNATOの不安要素とは?  その上、今後はウクライナ、モルドバ、ジョージアもNATOに加わる可能性がある。確かにこれらの国は今、ロシアに領土の一部を占領されている。だが、そのままの状態でも、3カ国がもしNATOに加盟すれば、NATOの東方拡大はより多くの旧ソ連国に及ぶことになる。 戦争で苦しんでいるウクライナ国民にとっては大変申し訳ないことだが、NATOからすれば、すでにロシアに完勝し、得るものを得たということだといえる。これが、欧州には「新冷戦」など存在しないと言い切れる根拠である。 ただし、事実上の「戦勝」状態にあるNATOだが、わずかに不安要素もある。 ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まって以降、ロシアからの石油・ガスパイプラインに依存していない米英を中心に、欧米諸国は一枚岩となってロシアに経済制裁を科してきた(第303回)。だが現在は、米英と欧州諸国の間に不協和音が生じているようにみえる。 その理由は、ロシアが欧州へのエネルギー供給を大幅に削減したからだ。ロシアの国営エネルギー会社ガスプロムが先月末、ドイツにつながるパイプライン「ノルドストリーム1」の流量を半分に減らし、輸送能力の20%にすると発表した。そのため、今冬に深刻な天然ガス不足が起こる懸念が出て、欧州諸国に動揺が走っているのだ。 そのため欧州諸国は、今冬のエネルギー不安を回避する目的で、ロシアがウクライナの領土を占領した状態のまま、停戦の実現に動くかもしれない。各国はウクライナへの武器供与などを行っているものの、NATOのロシアに対する「完勝」が決定的となった今、エネルギー供給不安を我慢してまで戦争を継続する意義がなくなってしまった。 一方の米英は、ロシアからの輸入に依存しておらず、「ノルドストリーム1」の流量減によるダメージは相対的に小さい。ウクライナ戦争をこれ以上継続する積極的な理由はないが、戦争が長引くほどにプーチン政権が追い込まれるメリットもある。他の欧州諸国ほど停戦を急いでいるわけではなく、温度差が生じている(第304回)。 とはいえ、ロシアの不利に変わりはない。今後のウクライナ戦争は、世界を巻き込む大問題ではなく、あくまでユーラシア大陸の一地域で起こった「局地戦」となっていくだろう。 戦況が現状のまま停戦交渉が進めば、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」を容認することになるが、欧州諸国にとってはエネルギー面の不安が解消される。 停戦が実現しても、ウクライナの領土をロシアが占領し続ける限り、経済制裁は続くが、ロシア産石油ガスは制裁対象から外されるだろう。プーチン政権を一挙に倒すことはできないが、それでもジワジワと追い詰めることはできる。温度差はあるものの、欧米諸国にとっては、それでも十分な成果なのだ』、「戦況が現状のまま停戦交渉が進めば、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」を容認することになるが、欧州諸国にとってはエネルギー面の不安が解消される。 停戦が実現しても、ウクライナの領土をロシアが占領し続ける限り、経済制裁は続くが、ロシア産石油ガスは制裁対象から外されるだろう・・・温度差はあるものの、欧米諸国にとっては、それでも十分な成果なのだ」、なるほど。
・『ロシアの脅威は幻想にすぎない 日本が真に警戒すべきは中国だ  要するに、「大国ロシア」とは「幻想」にすぎない(第297回)。ロシアへのウクライナ侵攻をボクシングに例えるならば、リング上で攻め込まれ、ロープ際まで追い込まれてダウン寸前のボクサーが、かろうじて繰り出したジャブのようなものなのだ。 こうした要因により、欧米諸国の関心はロシアから離れ、中国との真の「新冷戦」に向かっている。幻想にすぎない「大国ロシア」と違い、中国との対立は多岐にわたっており、リアリティーのある危機であるからだ。 台湾を巡る軋轢(あつれき)の他にも、中国による「東シナ海や南シナ海における力による一方的な現状変更の動き」「知的財産権の侵害など経済安全保障の問題」「新疆ウイグル自治区や香港などでの人権侵害」などを欧米側は厳しく批判し、対立している。 なにより問題なのは、中国を中心とする権威主義体制は世界中に広がり、自由民主主義に対抗する勢力になりつつあることだ。 特に中国は、新型コロナウイルス感染拡大への対応について、自国のトップダウンによる意思決定の早さを「権威主義の優位性」と誇り、世界中の権威主義体制や軍事政権の指導者がそれを支持するようになった(第263回)。 また、アフリカ諸国や南米諸国など、中国から支援を受けて経済的な結び付きを強めることで、中国を支持する国家も増えている(第267回)。 これに対して、米国は、日米同盟など二国間関係に加えて「主要7カ国首脳会議(G7)」「日米豪印戦略対話(クアッド)」「米英豪の安全保障パートナーシップ(AUKUS)」など、さまざまな戦略性のある多国間の枠組みを強化。重層的な「対中国包囲網」を築くことで対抗しようとしている。 日本は、これらのさまざまな枠組みの中で、米国をサポートする役割があるのはいうまでもない。地政学上、日本が「新冷戦」の最前線に位置しているからだ。 尖閣諸島侵攻の懸念といった軍事面の安全保障のみならず、半導体、電気自動車、人工知能、量子コンピューターの開発といった経済面の安全保障においても、日本にとって中国は大きな脅威である(第306回・p5)。 ペロシ議長の訪台は、北東アジアで「新冷戦」が本格化する狼煙(のろし)となった可能性がある。日本には、その戦いに身を投じる覚悟が求められている』、「日本は、これらのさまざまな枠組みの中で、米国をサポートする役割があるのはいうまでもない。地政学上、日本が「新冷戦」の最前線に位置しているからだ。 尖閣諸島侵攻の懸念といった軍事面の安全保障のみならず、半導体、電気自動車、人工知能、量子コンピューターの開発といった経済面の安全保障においても、日本にとって中国は大きな脅威」、「ペロシ議長の訪台は、北東アジアで「新冷戦」が本格化する狼煙・・・となった可能性」、同感である。
タグ:現代ビジネス 台湾 (その5)(レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問 その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情、ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音 日本に覚悟はあるか) 安田 佐和子氏による「レガシー作り?議会の圧力?お騒がせペロシの台湾訪問、その裏を読む 24年大統領選を見据えた民主党の事情」 「ペロシ氏の訪台計画にバイデン政権は怒り心頭で、国家安全保障会議(NSC)や国務省の高官がペロシ陣営に赴き、地政学的リスクを事前に説明したという。しかし、ペロシ氏は訪台を敢行。国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官が8月2日、「下院議長には訪台の権利がある」と述べ、三権分立の下で行政府の制御が及ぶ範囲内ではないと一線を画すにとどめた」、「バイデン」の政治力のなさを如実に示した形だ。 「自身のレガシー作りを狙った」のではないとすると、真の狙いは何なのだろう。 「ペロシ氏がスキャンダルから話題を逸らすべく訪台という大舞台を演出したとの批判も」、そんなみみっちい理由ではなかっと思うしかなさそうだ。 「中国の威嚇を跳ね除け「台湾を支える米国の揺るぎない米国の関与を守る」意思を伝えることは、国内だけでなく海外で“強い米国”を印象づける利点も」、これなら立派な「大義名分」だ。 バイデン氏の失点と言えば、21年8月、イスラム主義組織タリバン勢力によるカブール陥落が真っ先に挙げられる。以降はインフレ高進が仇となったが、ロシアによるウクライナ侵攻についても「トランプが大統領ならば、ロシアはウクライナ侵攻しなかった」との回答が62%に達したことも、記憶に新しい。(3月10日公開「『危機の大統領』? ウクライナ侵攻でも支持率低迷のバイデン政権」』、確かに「バイデン」はモーロクした印象が強過ぎる。「「トランプが大統領ならば、ロシアはウクライナ侵攻しなかった」との回答」は、どこまで国際政治の 親「台湾」の「上院議員」が、「24年の米大統領選での出馬が囁かれる一人」とは、「中国外交」の苦戦はしばらく続きそうだ。 「相互防衛の約束は盛り込まない」、ということで「中国」のメンツをかろうじて守った形だ。 「「戦略的曖昧さとして知られる政策は……その役割を終えた。今こそ米国は、戦略的明確化政策を導入すべき時だ」との発言を引用し、曖昧戦略からの脱却を訴えた」、注目すべき発言だ。 ダイヤモンド・オンライン 上久保誠人氏による「ペロシ氏訪台で「アジア主戦場の米中新冷戦」の足音、日本に覚悟はあるか」 「新冷戦」「の主戦場が「北東アジア」」とは興味深そうだ。 「2022年は中国と習主席にとって重要な時期である。8月1日は中国人民解放軍の「建軍95周年記念日」だった。8月には他にも、長老らの意見を聞いて共産党の方針を決める「北戴河会議」がある。また、22年秋には5年に一度の党大会を控えている。 重要な会議や式典が相次ぐ時期に、国内で弱腰の姿勢を見せられなかったというのだ」、「中国の軍事能力の向上を米国に見せつける狙い」、いずれももっともな見方だ。 「欧州全体の地図を眺めれば、NATOの勢力圏が開戦前より拡大し、ロシアがさらに追い込まれていることがわかる」、その通りだ。 「スウェーデン・フィンランドのNATO加盟によって、地上におけるNATO加盟国とロシアの間の国境は2倍以上に延びる。海上においても、「不凍港」があるバルト海に接する国が、ほぼすべてNATO加盟国になる。単にNATOの勢力圏が東方拡大したという以上に、ロシアの安全保障体制に深刻な影響を与える」、そんな影響があったことをクリアに示してくれた。 「戦況が現状のまま停戦交渉が進めば、ロシアによるウクライナ領の占領という「力による一方的な現状変更」を容認することになるが、欧州諸国にとってはエネルギー面の不安が解消される。 停戦が実現しても、ウクライナの領土をロシアが占領し続ける限り、経済制裁は続くが、ロシア産石油ガスは制裁対象から外されるだろう・・・温度差はあるものの、欧米諸国にとっては、それでも十分な成果なのだ」、なるほど。 「日本は、これらのさまざまな枠組みの中で、米国をサポートする役割があるのはいうまでもない。地政学上、日本が「新冷戦」の最前線に位置しているからだ。 尖閣諸島侵攻の懸念といった軍事面の安全保障のみならず、半導体、電気自動車、人工知能、量子コンピューターの開発といった経済面の安全保障においても、日本にとって中国は大きな脅威」、「ペロシ議長の訪台は、北東アジアで「新冷戦」が本格化する狼煙・・・となった可能性」、同感である。
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