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半導体産業(その8)(ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石、半導体製造装置の対中輸出規制は日本にとって良い?悪い?日本企業がやるべきことは、[新連載]2ナノ半導体「日本でやるしかない」 ラピダス生んだ辛酸と落胆 敗れざる工場【1】) [産業動向]

半導体産業については、昨年2月8日に取上げた。今日は、(その8)(ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石、半導体製造装置の対中輸出規制は日本にとって良い?悪い?日本企業がやるべきことは、[新連載]2ナノ半導体「日本でやるしかない」 ラピダス生んだ辛酸と落胆 敗れざる工場【1】)である。

先ずは、昨年2月20日付け現代ビジネスが掲載した一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石」
を紹介しよう。
・『1990年代中頃まで、半導体露光装置で、キヤノンとニコンは世界を制覇した。しかし、その後、オランダのASMLがシェアを伸ばし、現在では、EUVと呼ばれる半導体製造装置の生産をほぼ独占している。日本のメーカーは、なぜASMLに負けたのか?』、興味深そうだ。
・『ASMLとは何者?  オランダにASMLという会社がある。時価総額2642.2億ドル。これは、オランダの企業中でトップだ。オランダのトップ企業はフィリップスだと思っていた人にとっては驚きだ。「そんな会社、聞いたこともない」という人が多いだろう。 実際、ASMLは、歴史の長い企業ではない。生まれたのは1984年。フィリップスの1部門とASM Internationalが出資する合弁会社として設立された。フィリップスのゴミ捨て場の隣に建てたプレハブで、31人でスタートした。 しかし、いまの時価総額は、日本のトヨタ自動車2742.5億ドルとほぼ同じだ。世界第678位のフィリップス(293.5億ドル)の10倍近い。世界の時価総額ランキングで32位。29位のトヨタとほぼ並ぶ。 ASMLの2020年の売上は160億ドル(約1兆8000億円)、利益(EBIT)は46.3億ドルだ。トヨタの場合には、売上が2313.2 億ドル。利益(EBIT)は169.9億ドルだ。売上に対する利益の比率は、ASLMが遙かに高い。 しかも従業員数は28000人しかいない(2020年)。トヨタ自動車(37万人)の7.6%でしかない。 ASMLは、最先端の半導体製造装置を作っている。極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれる装置だ。この技術は、 ASMLがほぼ独占している。 年間の製造台数は50台ほどだ(2020年度は31台。2021年は約40台、2022年は約55台の見通し)。1台あたりの平均価格が3億4000万ドル(約390億円)にもなる。大型旅客機が1機180億円程度と言われるので、その2機分ということになる。 主なクライアントは、インテル、サムスン、TSMCなどだ』、「創業1984年」「フィリップスのゴミ捨て場の隣に建てたプレハブで、31人でスタート」、「いまの時価総額は、日本のトヨタ自動車2742.5億ドルとほぼ同じだ。世界第678位のフィリップス(293.5億ドル)の10倍近い。世界の時価総額ランキングで32位。29位のトヨタとほぼ並ぶ」、「極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれる装置だ。この技術は、 ASMLがほぼ独占」、実に凄い企業だ。
・『かつてのニコン、キヤノンの優位をASMLが崩した  半導体露光装置は、もともとは、日本の得意分野だった。ニコンが1980年にはじめて国産化し、1990年にはシェアが世界一になった。 キヤノンも参入し、1995年ごろまで、ニコンとキヤノンで世界の70~75%のシェアを占めた。 ASMLの最初の製品は、やはり半導体露光装置だった。しかし、この時代、キヤノンやニコンは、ゴミ捨て場に誕生した会社のことなど、歯牙にも掛けなかっただろう。 しかし、ニコン・キヤノンのシェアは、90年代後半に低下していった。その半面で、1990年には10%にも満たなかったASMLのシェアは、1995年には14%にまで上昇、2000年には30%になった。 2010年頃には、ASMLのシェアが約8割、ニコンは約2割と逆転した。そして、キヤノンはEUV露光装置分野から撤退した。ニコンも、2010年代初頭に、EUV露光装置の開発から撤退した』、「半導体露光装置は、もともとは、日本の得意分野だった。ニコンが1980年にはじめて国産化し、1990年にはシェアが世界一になった。 キヤノンも参入し、1995年ごろまで、ニコンとキヤノンで世界の70~75%のシェアを占めた」、「キヤノンはEUV露光装置分野から撤退した。ニコンも、2010年代初頭に、EUV露光装置の開発から撤退」、日本勢の退潮ぶりは惨めだ。
・『日本メーカーの自社主義がASMLの分業主義に負けた  ASMLとニコン、キヤノンの違いは何だったのか? それは、中核部品を外注するか、内製するかだ。 ASMLは中核部品を外注した。投影レンズと照明系はカールツァイスに、制御ステージはフィリップスに外注した。自社で担当しているのは、ソフトウェアだけだ。 製造機械なのに、なぜソフトウエアが必要なのか? 半導体露光装置は「史上最も精密な装置」と呼ばれるほど複雑な機械であり、安定したレンズ収差と高精度なレンズ制御が重要だ。装置として完成させるには、高度にシステム化されたソフトウエアが不可欠なのだ。 自動車の組み立てのように人間が手作業で作るのではなく、ロボットが作業するようなものだから、そのロボットを動かすためのソフトウェアが必要なのだと考えれば良いだろう。 それに対して、ニコンは、レンズはもちろんのこと、制御ステージ、ボディー、さらに、ソフトウェアまで自社で生産した。外部から調達したのは、光源だけだ。 このように、ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みにこだわるという問題が生じたと言われる。 また、レンズをどう活用して全体の性能を上げるかというよりは、どうやってレンズの性能を引き出すかが優先されるというような問題が発生したといわれる。 結局、日本型縦割り組織を反映して全てを自社で内製化しようとする考えが、負けたということだ』、「日本メーカー」は「ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みにこだわるという問題が生じた・・・レンズをどう活用して全体の性能を上げるかというよりは、どうやってレンズの性能を引き出すかが優先されるというような問題」、結局、「日本メーカーの自社主義がASMLの分業主義に負けた」、情けない限りだ。
・『核になる技術を持っていたことで躓いた  キヤノンもニコンも核になる技術、つまり「レンズ」を持っていた。それに対してASMLは、部品については、核になる技術を持っていない。レンズすらも外注しているのだ。他社が作っているものを、ただ寄せ集めているだけのようにさえ見える。 しかし、それにもかかわらず、売上の3割という利益を稼ぎ出すことができるのだ。このことは、ビジネスモデルに関する従来の考えに反するものだろう。 いままでは、企業は核になる技術を持っていなければならず、その価値を発揮できるようなビジネスモデルを開発することが重要だと言われてきた。しかし、ASMLは、このルールには当てはまらない。 部品について、ASMLは製造者ではなく購入者であったため、品質評価が客観的であったと言われる。 また、多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながったと言われる。 それに対して、技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いたというのだ』、「ASMLは、部品については、核になる技術を持っていない。レンズすらも外注しているのだ。他社が作っているものを、ただ寄せ集めているだけのようにさえ見える。 しかし、それにもかかわらず、売上の3割という利益を稼ぎ出すことができるのだ。このことは、ビジネスモデルに関する従来の考えに反するものだろう」、「多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながったと言われる」、「技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いたというのだ」、「日本メーカー」の独自性へのこだわりが敗因になったようだ。
・『ASMLの時価総額は、キヤノンの10倍、ニコンの60倍  現在のキヤノン、ニコンはどのような状態か? キヤノンは、時価総額が255.9億ドル、世界第759位だ。2007年には784 億ドルだったのだが、このように減少した。 ニコンは、時価総額が41.8億ドルで、 世界第 2593位だ。 2007年には126億ドルだった。 2007年には、ASMLの時価総額は126億ドル程度で、ニコンとほぼ同じ、キヤノンの6分の1だった。しかし、いまでは、キヤノンの10倍程度、ニコンの60倍程度になってしまったのだ。 こうした状態では、日本の賃金が上がらないのも、当然のことと言える』、これは、日本の経営者の判断の間違いが原因だ。
・『もしデジタルカメラを生産しなかったら  日本企業敗退の原因は、自社主義だけではない。 もう一つは、ビジネスモデル選択の誤りだ。つまり、カメラという消費財に注力したことだ。 もし、2000年代の初めに、キヤノンやニコンがデジタルカメラに注力するのでなく、半導体製造装置に注力していたら、世界は大きく変っていただろう。 2010年頃、日本では、円高などが6重苦になっているといわれた。そして、「ボリュームゾーン」を目指した戦略を展開すべきだと言われた。これは、勃興してくる新興国の中間層をターゲットに、安価な製品を大量に供給しようというものだ。ASMLとは正反対のビジネスモデルだ。 そして、日本ではこの方向が受入れられ、企業の経営者もそれを目指した。その結果が、いまの日本の惨状なのだ。 もちろん、将来がどうなるかは分からない。半導体の微細化をさらに進めるために、3次元の回路を作るということも考えられている。そうした技術が実用化された時に、はたしてASMLが生き残れるかどうかは、誰にも分からない。 日本企業が再逆転してほしいが、果たしてできるだろうか? 奇跡が起こることを祈る他はない』、「ビジネスモデル選択の誤りだ。つまり、カメラという消費財に注力したこと」、その通りである。「日本企業が再逆転」という「奇跡が起こることを祈る他はない」というのも、寂しい限りだ。

次に、本年2月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「半導体製造装置の対中輸出規制は日本にとって良い?悪い?日本企業がやるべきことは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/317265
・『半導体製造装置の対中輸出規制は、日本にどんな影響を及ぼすのか。今後、わが国の半導体製造装置メーカーに求められるのは、他国の企業に先駆けて、新しい製造技術を創出することだ。その成否は、わが国経済の展開に大きな影響を及ぼすだろう』、興味深そうだ。
・『半導体サプライチェーンの地殻変動が激化  ここへ来て、米国は中国の半導体製造能力向上を食い止めるため、輸出規制を一段と強化している。その一つとして、1月下旬、わが国とオランダは半導体製造装置の輸出規制に関して米国と合意したと報じられた。半導体などの先端分野において、米国は対中制裁をさらに強化する可能性が高い。 今後、台湾から米国、わが国、その他の国と地域へ、半導体サプライチェーンの地殻変動が一段と激化するだろう。米国だけでなく主要先進国が半導体などにおける対中規制を追加的に引き締める公算も大きい。それは短期的というよりも、中長期的な世界経済の構造変化と考えたほうがよさそうだ。 それに伴い、わが国の半導体関連企業にとって、中国ビジネスに関する不確定要素が増える。一方、これまで以上に世界の半導体産業は、わが国の製造技術を必要とするだろう。世界の半導体産業の劇的な変化に対応するために、わが国企業はこれまで以上に最先端の製造技術の実現に取り組むべきだ』、第一の記事に比べ、なにやら甘い認識だ。
・『中国に対する半導体輸出を厳格化する米国  トランプ前政権の発足以降、米国は半導体の対中輸出規制を強化してきた。その背景には、戦略物資として半導体の重要性が急速に高まっていることがある。安全保障、経済、宇宙、脱炭素など、半導体を抜きに新しい考えを実現することは困難な時代だ。脱炭素に伴うパワー半導体の需要増加など、これまで半導体との関係性が薄かった分野でも、より多くのチップが必要とされている。 そうした状況下、中国では習近平政権が半導体産業の強化策を推進した。中国のファウンドリである中芯国際集成電路製造(SMIC)は、先端分野に分類される回路線幅7ナノメートル(ナノは10億分の1)のチップ生産を開始したようだ。チップの設計、製造技術やライン構築のノウハウを、中国は日米欧および台湾の企業から吸収してきた。 2016年頃、米国ではインテルが14から10ナノメートルへの微細化につまずいた。アップルはチップの設計・開発体制を強化し、製造を台湾積体電路製造(TSMC)により多く委託した。インテルも先端、および最先端チップの製造技術をTSMCに依存するようになった。 1990年代半ばに日米半導体摩擦が終わって以降、半導体産業の盟主の地位を確立したインテルなど、米半導体企業の製造能力の向上は鈍化した。対照的に世界経済への半導体供給地として台湾の存在感が高まった。その後、習政権は台湾に対する圧力を強めている。米国にとって台湾にチップ供給を依存するリスクは一段と高まっている。 経済安全保障体制の強化のため、バイデン政権は中国向けの半導体輸出規制を一段と強化している。2022年10月に米商務省産業安全保障局は、16または14ナノメートル以下のロジック半導体などの製造装置の対中輸出を事実上禁止した。 そしてこの度、米国は日蘭にも製造装置の対中輸出管理で足並みをそろえるよう求めた。バイデン政権はTSMCなどに補助金を支給し、米国内での生産能力増強も要求している』、「バイデン政権はTSMCなどに補助金を支給し、米国内での生産能力増強も要求」、その通りだ。
・『激化する世界の半導体産業の地殻変動  台湾に集積した世界の半導体製造能力は、他の国と地域に急速に分散し始めている。米国の要請に応じて、TSMCは24年から米国で回路線幅3ナノメートルのロジック半導体の量産を開始する予定だ。このことで、米国は世界経済の盟主としての立場を守ろうとしているように思える。 また、インテルは米国内外で、必ずしも先端分野の製造技術を必要としない車載用のチップなどの生産体制を強化し始めている。 一方、米国の規制強化などによって、中国の半導体自給率向上は遅れ始めた。要因の一つに、先端分野の半導体製造に不可欠な「深紫外線」(DUV)」と、回路線幅5ナノメートルよりも先の微細化に必要な「極端紫外線」(EUV)を用いた製造技術が十分ではないことがある。 中国の露光装置メーカーである上海微電子装備においては、28ナノメートルの回路形成の歩留まり向上の余地が大きいようだ。また、他の半導体製造装置や検査装置に関しても、中国の製造技術は旧世代のものが多い。 特に、EUVを用いた露光装置に関しては、今のところ、オランダのASMLの独壇場である。その他、感光剤であるレジストの塗布と現像を行う装置(コータ・デベロッパ)は、東京エレクトロンのシェアが高い。ガスを用いてウエハー表面から不要な部分を除去する「ドライ・エッチング」の装置は、米ラムリサーチなどのシェアが高い。 今回、日蘭が米国と半導体製造装置の対中輸出管理の厳格化に合意したことによって、中国の半導体の自給率向上は一段と遅れるだろう。それは、急速に需要拡大してきた中国の半導体製造装置市場において、わが国やオランダの半導体製造装置メーカーが、収益を獲得しづらくなることを意味する。 そうしたことから短期的に、日米欧の半導体製造装置メーカーによる、中国以外の市場におけるシェア争いが激化する公算は大きい。なお、日米蘭政府の合意に関する報道の後、ASMLは「業績の見通しに重大な影響はない」とした。背景には、中国以外の市場におけるEUV露光装置の需要拡大があるとみられる』、「今回、日蘭が米国と半導体製造装置の対中輸出管理の厳格化に合意したことによって、中国の半導体の自給率向上は一段と遅れるだろう。それは、急速に需要拡大してきた中国の半導体製造装置市場において、わが国やオランダの半導体製造装置メーカーが、収益を獲得しづらくなることを意味」、なるほど。
・『本邦企業に必要な新しい製造技術創出  今後、わが国の半導体製造装置メーカーに求められるのは、他国の企業に先駆けて、新しい製造技術を創出することだ。その成否は、わが国経済の展開に大きな影響を及ぼすだろう。 中長期的に考えると、中国は産業補助金政策をさらに強化し、半導体製造装置の国産化を急ぐだろう。製造装置は分解すれば、その仕組みを模倣できる。 共産党政権が海外企業に国有・国営企業との合弁設立を呼びかけ、これまで以上に生産技術の移転を急ぐ可能性もあるだろう。とりわけ近年、共産党政権は「専精特新」の考えを重視している。この考えは、先端分野で独創的な製造技術の実現に取り組む中小企業の支援を強化する産業政策である。 中長期的に、中国の半導体製造装置などの創出力が高まる可能性は軽視できない。そうした展開を防ぐために、米国政府は対中禁輸措置などを強化し、先端分野での米中対立は先鋭化するだろう。 将来的に、世界の半導体産業における製造装置などハードウエア創出力の重要性はさらに増すはずだ。1990年代以降の米国経済では、ハードよりもソフトウエアの開発を強化し、IT先端分野を中心に経済運営の効率性を向上してきた。それを受けて、台湾TSMCはファウンドリ専業のビジネスモデルを確立し、最新チップの製造需要を取り込んだ。 こうした流れをつくるのに必要不可欠な、超高純度の半導体部材、製造装置の供給において、わが国企業は大きな役割を果たしてきた。 ただ、次世代の回路線幅2ナノメートルのロジック半導体の製造に関しては、これまでとは異なる製造技術が求められるとの見方は多い。 また、半導体産業育成によって産業構造の転換を目指すインドは、より多くの部材や製造装置を求めるはずだ。新しい製造技術実現のためにも、本邦の半導体製造装置、関連部材メーカーはこれまで以上に研究開発を強化すべき局面を迎えている』、「新しい製造技術実現のためにも、本邦の半導体製造装置、関連部材メーカーはこれまで以上に研究開発を強化すべき局面を迎えている」、ややキレイゴトめいた感はあるが、その通りだ。

第三に、2月8日付け日経ビジネスオンライン「[新連載]2ナノ半導体「日本でやるしかない」、ラピダス生んだ辛酸と落胆 敗れざる工場【1】」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00478/020600042/
・『ウクライナ情勢などの地政学リスクや、それを機に進んだ円安、米中対立による経済のデカップリング(分断)への対応などで、日本の製造業が「国内回帰」の姿勢を強めている。かつて、バブル経済崩壊やリーマン・ショックが誘発した円高を背景に、安い人件費などを求めて生産拠点は海外に移った。今起きているのは、国内生産のメリットを再認識し、拠点を強化する動きだ。人手不足やエネルギーの確保など課題も多いが、敗れざる工場によって「メード・イン・ジャパン」はかつての輝きを取り戻せるのか』、興味深そうだ。
・『連載予定  タイトルや回数は変わる可能性があります ・2ナノ半導体「日本でやるしかない」、ラピダス生んだ辛酸と落胆(今回) ・「明治維新のようにもう一度やり直す」。ラピダス東会長 ・設備投資2割増、盛り上がる国内投資、経済安保が背中押す ・九州シリコンアイランド、TSMC特需に沸く熊本、経済効果は4兆円 ・有名ラーメン店も誘引、特需連鎖の突破力、地価上昇率全国トップに ・海外生産に勝つ「拠点集約」、クボタ、日機装の開発力強化 ・SUBARU、平田機工、DX進めて改善や提案が異次元のスピードに ・同じ屋根の下「究極の連携生産」など、SMC、東京エレクトロン ・ファナックに学ぶ国産哲学、「完全無人化」真の狙い ・「大事なのはTCO。国内一極集中生産を続ける」。ファナック山口社長 ・「製造業はかつての『日の丸半導体』に学べ」 混沌とする世界情勢を受けて経済安全保障の意識が急速に高まり、国内で工場新設や生産能力増強のニュースが相次いでいる。こうした国内製造回帰は、長らく空洞化に苦しんできたニッポン製造業の復権への序章だ。その象徴の1つが、国内では製造できなくなっていた最先端半導体の国産化を再び目指そうとするラピダス(東京・千代田)の挑戦だ。 2019年、東京エレクトロン元社長の東哲郎氏は、半導体メーカーからの断りの返事に落胆した。「ご提案の半導体は、我々が製造できる技術世代のはるか先。現状でも精いっぱいで、そこにジャンプするのは難しい」。実は、東氏は世界最先端の半導体を国内で量産しようと、半導体メーカー数社に打診をしていた。「これでは脈はない。深追いしてもしょうがない」。東氏はすぐに気持ちを切り替え、最先端半導体の国産化を目指す新会社の立ち上げに動き出した』、「2019年、東京エレクトロン元社長の東哲郎氏は、半導体メーカーからの断りの返事に落胆した。「ご提案の半導体は、我々が製造できる技術世代のはるか先。現状でも精いっぱいで、そこにジャンプするのは難しい」。実は、東氏は世界最先端の半導体を国内で量産しようと、半導体メーカー数社に打診をしていた。「これでは脈はない。深追いしてもしょうがない」。東氏はすぐに気持ちを切り替え、最先端半導体の国産化を目指す新会社の立ち上げに動き出した」、「半導体メーカー」は投資に極めて慎重なようだ。
・『米IBMとの連携に商機  きっかけはビジネス関係が深い米IBM幹部から持ち掛けられた提携構想だ。「回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの最先端半導体の開発にめどがついた。日本で製造できないか」。東氏は思わず身を乗り出した。「最先端半導体を国産化する、またとないチャンスだ」 1980年代、記憶用半導体DRAMで世界シェア5割を誇った国内半導体産業。だが米国の強烈な巻き返しに遭い、水平分業の流れについていけず国際競争から脱落した。2000年代、電機大手は半導体部門の赤字に苦しみ再編を繰り返す。そして研究開発や量産に巨額費用がかかる最先端分野から一斉に手を引いた。 その結果、日本は最先端半導体の空白地帯となった。国内工場では40ナノの成熟品までしか生産できない。モバイル端末やパソコン、データセンター、自動車向け最先端半導体は、半導体受託生産(ファウンドリー)を担う台湾積体電路製造(TSMC)などに生産委託している。 TSMCはファウンドリー市場の過半を握る巨大企業だが、他に最先端半導体の受託生産をできる企業がほとんどない。世界中の半導体メーカーからTSMCに注文が押し寄せ、半導体メーカーは何年も先の分を発注して行列を作って出来上がるのを待つ。 限られたパイを世界中の有力顧客が奪い合うなか、例えば日本の通信事業者が新規事業のため最先端半導体の量産を依頼しようとしても、小規模の発注量では対応してもらいにくい。今後、人工知能(AI)や高速通信、ビッグデータ活用など、最先端半導体のニーズは高まり、デジタル社会の「頭脳」として欠かせなくなる。日本企業が最先端半導体を試作段階から入手できなければ、製品開発や事業の速度が遅くなる』、「今後、人工知能(AI)や高速通信、ビッグデータ活用など、最先端半導体のニーズは高まり、デジタル社会の「頭脳」として欠かせなくなる。日本企業が最先端半導体を試作段階から入手できなければ、製品開発や事業の速度が遅くなる」、その通りだ。
・『「国の産業競争力が落ちる」。東氏の懸念  「あらゆる産業のデジタル化が進むなか、最先端半導体を生産できる能力がなければ日本全体の産業競争力が現状よりさらに落ちてしまう」。東氏はこう危惧した。国内に最先端半導体の量産拠点がなければ、それらを使う新規事業も育たず、日本の地盤沈下に波及してしまうという懸念があった。 さらに米国と中国の技術覇権争いを背景に、欧州、韓国、台湾、インドなど各国・地域が半導体産業強化やサプライチェーン(供給網)の自立化を急いでいる。半導体の国内製造回帰という世界の潮流を逃せば、しばらく浮上のきっかけはないかもしれない。 だが、焦燥感を抱く東氏に呼応して挑戦する経営者はついぞ現れなかった。「だったら、自分でやるしかない」。国内の装置、材料メーカーの技術と、IBMから供与される技術を組み合わせれば、実現可能だ。東氏はそう判断し、日立製作所出身で半導体製造技術に詳しい旧知の小池淳義氏らに技術の検証を頼んだ。 「本当にものになる技術か、日本で製造できるか、そしてファウンドリーの事業化が可能か、検討に検討を重ねた」(東氏)。経済産業省に相談し、トヨタ自動車やNTTなど8社の経営陣を説得して出資を依頼。22年8月に設立されたのがラピダスである。IBMと技術を共同開発し、20年代後半に2ナノ品の生産工場を国内に設けて、ファウンドリー事業を展開する。小池氏を社長に据え、東氏は自ら会長を務める。 ラピダスは「国からの支援のほか、新規株式公開も検討」(東氏)しつつ、今後10年で開発と量産ラインの建設などに約5兆円の資金を投下し「日の丸半導体」の復権を期す。 東氏は半導体製造装置の経営トップとして、米インテルやTSMC、韓国のサムスン電子など世界の半導体メーカーと豊富な人脈を培ってきた。「世界の最先端の技術に接してきたなかで、日本の半導体メーカーは『諦めすぎ』ではないかと感じていた」。日本企業は決して技術力で負けていない。にもかかわらず、自信がない。そこに歯がゆさを感じていた。 終戦ムードが漂っていたのは、周辺もそうだ。半導体を使う側の産業界、政界、省庁の間にも、「半導体は輸入品でいい、という意識がずっとあった。でも自由貿易で何でも手に入る状態ではなくなってきている」(東氏)。 また新型コロナウイルス禍やウクライナ危機によって世界のサプライチェーンは混乱し、半導体不足が製造業の足元を揺さぶった。 東氏は「出資企業とは、最先端半導体が手に入らなくなることへの危機感を共有できている」と話す。幅広い産業の技術革新を左右する最先端半導体の開発や量産を国家が競い合う今、その国内生産は日本企業の競争力を担保するには欠かせない』、「「国内に最先端半導体の量産拠点がなければ、それらを使う新規事業も育たず、日本の地盤沈下に波及してしまうという懸念があった。 さらに米国と中国の技術覇権争いを背景に、欧州、韓国、台湾、インドなど各国・地域が半導体産業強化やサプライチェーン(供給網)の自立化を急いでいる。半導体の国内製造回帰という世界の潮流を逃せば、しばらく浮上のきっかけはないかもしれない。 だが、焦燥感を抱く東氏に呼応して挑戦する経営者はついぞ現れなかった」、「「だったら、自分でやるしかない」。国内の装置、材料メーカーの技術と、IBMから供与される技術を組み合わせれば、実現可能だ。東氏はそう判断し、日立製作所出身で半導体製造技術に詳しい旧知の小池淳義氏らに技術の検証を頼んだ。 「本当にものになる技術か、日本で製造できるか、そしてファウンドリーの事業化が可能か、検討に検討を重ねた」(東氏)。経済産業省に相談し、トヨタ自動車やNTTなど8社の経営陣を説得して出資を依頼。22年8月に設立されたのがラピダスである。IBMと技術を共同開発し、20年代後半に2ナノ品の生産工場を国内に設けて、ファウンドリー事業を展開する。小池氏を社長に据え、東氏は自ら会長を務める。 ラピダスは「国からの支援のほか、新規株式公開も検討」(東氏)しつつ、今後10年で開発と量産ラインの建設などに約5兆円の資金を投下し「日の丸半導体」の復権を期す」、「ラピダス」の今後の発展を大いに期待したい。
タグ:半導体産業 (その8)(ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石、半導体製造装置の対中輸出規制は日本にとって良い?悪い?日本企業がやるべきことは、[新連載]2ナノ半導体「日本でやるしかない」 ラピダス生んだ辛酸と落胆 敗れざる工場【1】) 現代ビジネス 野口 悠紀雄 「ASMLーゴミ捨て場に生まれた企業が世界の半導体製造を制覇した 技術力がニコン・キヤノンの躓きの石」 「創業1984年」「フィリップスのゴミ捨て場の隣に建てたプレハブで、31人でスタート」、「いまの時価総額は、日本のトヨタ自動車2742.5億ドルとほぼ同じだ。世界第678位のフィリップス(293.5億ドル)の10倍近い。世界の時価総額ランキングで32位。29位のトヨタとほぼ並ぶ」、「極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれる装置だ。この技術は、 ASMLがほぼ独占」、実に凄い企業だ。 「半導体露光装置は、もともとは、日本の得意分野だった。ニコンが1980年にはじめて国産化し、1990年にはシェアが世界一になった。 キヤノンも参入し、1995年ごろまで、ニコンとキヤノンで世界の70~75%のシェアを占めた」、「キヤノンはEUV露光装置分野から撤退した。ニコンも、2010年代初頭に、EUV露光装置の開発から撤退」、日本勢の退潮ぶりは惨めだ。 「日本メーカー」は「ほとんどを自前で作ったため、過去の仕組みにこだわるという問題が生じた・・・レンズをどう活用して全体の性能を上げるかというよりは、どうやってレンズの性能を引き出すかが優先されるというような問題」、結局、「日本メーカーの自社主義がASMLの分業主義に負けた」、情けない限りだ。 「ASMLは、部品については、核になる技術を持っていない。レンズすらも外注しているのだ。他社が作っているものを、ただ寄せ集めているだけのようにさえ見える。 しかし、それにもかかわらず、売上の3割という利益を稼ぎ出すことができるのだ。このことは、ビジネスモデルに関する従来の考えに反するものだろう」、 「多くの技術を他社に依存する必要があったため、他社と信頼関係を築く必要があった。そして、顧客であるTSMCやサムスン、インテルなどと連携して、技術と知識が蓄積された。それが成功につながったと言われる」、「技術力が高いニコンは、他社と協業するという意識が低かった。それが開発スピードを低下させ、開発コスト負担増を招いたというのだ」、「日本メーカー」の独自性へのこだわりが敗因になったようだ。 これは、日本の経営者の判断の間違いが原因だ。 「ビジネスモデル選択の誤りだ。つまり、カメラという消費財に注力したこと」、その通りである。「日本企業が再逆転」という「奇跡が起こることを祈る他はない」というのも、寂しい限りだ。 ダイヤモンド・オンライン 真壁昭夫氏による「半導体製造装置の対中輸出規制は日本にとって良い?悪い?日本企業がやるべきことは」 第一の記事に比べ、なにやら甘い認識だ。 「バイデン政権はTSMCなどに補助金を支給し、米国内での生産能力増強も要求」、その通りだ。 「今回、日蘭が米国と半導体製造装置の対中輸出管理の厳格化に合意したことによって、中国の半導体の自給率向上は一段と遅れるだろう。それは、急速に需要拡大してきた中国の半導体製造装置市場において、わが国やオランダの半導体製造装置メーカーが、収益を獲得しづらくなることを意味」、なるほど。 「新しい製造技術実現のためにも、本邦の半導体製造装置、関連部材メーカーはこれまで以上に研究開発を強化すべき局面を迎えている」、ややキレイゴトめいた感はあるが、その通りだ。 日経ビジネスオンライン「[新連載]2ナノ半導体「日本でやるしかない」、ラピダス生んだ辛酸と落胆 敗れざる工場【1】」 「2019年、東京エレクトロン元社長の東哲郎氏は、半導体メーカーからの断りの返事に落胆した。「ご提案の半導体は、我々が製造できる技術世代のはるか先。現状でも精いっぱいで、そこにジャンプするのは難しい」。実は、東氏は世界最先端の半導体を国内で量産しようと、半導体メーカー数社に打診をしていた。「これでは脈はない。深追いしてもしょうがない」。東氏はすぐに気持ちを切り替え、最先端半導体の国産化を目指す新会社の立ち上げに動き出した」、「半導体メーカー」は投資に極めて慎重なようだ。 「今後、人工知能(AI)や高速通信、ビッグデータ活用など、最先端半導体のニーズは高まり、デジタル社会の「頭脳」として欠かせなくなる。日本企業が最先端半導体を試作段階から入手できなければ、製品開発や事業の速度が遅くなる」、その通りだ。 「「国内に最先端半導体の量産拠点がなければ、それらを使う新規事業も育たず、日本の地盤沈下に波及してしまうという懸念があった。 さらに米国と中国の技術覇権争いを背景に、欧州、韓国、台湾、インドなど各国・地域が半導体産業強化やサプライチェーン(供給網)の自立化を急いでいる。半導体の国内製造回帰という世界の潮流を逃せば、しばらく浮上のきっかけはないかもしれない。 だが、焦燥感を抱く東氏に呼応して挑戦する経営者はついぞ現れなかった」、「「だったら、自分でやるしかない」。国内の装置、材料メーカーの技術と、IBMから 供与される技術を組み合わせれば、実現可能だ。東氏はそう判断し、日立製作所出身で半導体製造技術に詳しい旧知の小池淳義氏らに技術の検証を頼んだ。 「本当にものになる技術か、日本で製造できるか、そしてファウンドリーの事業化が可能か、検討に検討を重ねた」(東氏)。経済産業省に相談し、トヨタ自動車やNTTなど8社の経営陣を説得して出資を依頼。22年8月に設立されたのがラピダスである。 IBMと技術を共同開発し、20年代後半に2ナノ品の生産工場を国内に設けて、ファウンドリー事業を展開する。小池氏を社長に据え、東氏は自ら会長を務める。 ラピダスは「国からの支援のほか、新規株式公開も検討」(東氏)しつつ、今後10年で開発と量産ラインの建設などに約5兆円の資金を投下し「日の丸半導体」の復権を期す」、「ラピダス」の今後の発展を大いに期待したい。
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