医療問題(その33)(「幽霊病床」問題で露呈した 日本の病院に根付く深刻な不正受給体質、今うつ病 老いては認知症? 精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」、がん治療で世界に取り残される日本 なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02) [生活]
医療問題については、7月24日に取上げた。今日は、(その33)(「幽霊病床」問題で露呈した 日本の病院に根付く深刻な不正受給体質、今うつ病 老いては認知症? 精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」、がん治療で世界に取り残される日本 なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02)である。
先ずは、9月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「幽霊病床」問題で露呈した、日本の病院に根付く深刻な不正受給体質」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/281676
・『「幽霊病床」に感じる病院の不正の匂い 「新型コロナ患者をすぐに受け入れできます!」と自己申告しておきながら、実は「病床使用率0%」。そんな「幽霊病床」の実態が明らかになった。 日本テレビが入手した、コロナ患者をすぐに受け入れ可能な「即応病床」と申告している東京都内172の病院の病床使用率をまとめたリストによれば、病床使用率が100%を超えている医療機関は50施設、40%未満が27施設。0%が7施設あったという。 ご存じのように、「即応病床」には国から補助金が支払われている。コロナ患者の治療には、医療従事者の確保などで病院経営的に負担が重い。そこで、重症用ベッド1床につき最大1950万円、重症以外でも最大900万円、さらに緊急時に備えてベッドを空けておく「空床確保料」まで支払われる。 つまり、この補助金を申請した病院というのは、「人手不足だ」とか「施設が古い」などの言い訳をせず積極的にコロナ患者を受け入れなくてはいけないのだ。が、現実は使用率40%にも満たない病院がゴロゴロある。もちろん、たまたま同じタイミングで回復して一斉に退院したということもあるかもしれないが、あの四文字が頭に浮かぶ方も多いのではないか。 そう、「不正受給」である』、「重症用ベッド1床につき最大1950万円、重症以外でも最大900万円、さらに緊急時に備えてベッドを空けておく「空床確保料」まで支払われる」、「補助金」がこんなにも手厚いとは初めて知った。それを「不正受給」するとは悪質だ。「不正受給」があれば、当然返還請求すべきだ。
・『過去にも繰り返されてきた「幽霊スキーム」で不正受給 「我々の命を救ってくださるお医者様になんて失礼なことを言うのだ!」と怒りでワナワナと震える方も多いだろうが、持続化給付金の不正受給が後を立たないことからもわかるように、世の中には「もらえるもんはちょっとズルしてでももらったほうが得じゃん」と補助金・助成金制度を悪用するような人が一定数存在する。それは、病院経営者といえども変わらない。 そこに加えて、歴史の教訓もある。現実には存在しないものを「ある」と虚偽の申告して、国からカネをせしめる、いわば「幽霊スキーム」というのは、かなり古くから報告されている病院経営者の伝統的な不正テクニックなのだ。 ●『“幽霊看護婦”で水増し報酬 1年半で5000万円 「悪質」と都カンカン 立ち入り検査へ』(読売新聞1975年2月18日) ●『安田系3病院 “幽霊医師・職員”168人 大阪府が「保険医療」取り消しへ』(同上1997年5月20日) ●『医療界の黙認(幽霊医師 診療報酬不正請求:上)』(朝日新聞西部本社版 2000年5月26日) これらの不正に登場する「幽霊」とは、要は「水増し」のことだ。診療報酬をより高く請求できるように、医師や看護師の人員数を粉飾する。ちなみに、医師の水増しの場合、大学医学部の大学院生や研修医が「名義貸し」をするスタイルも多かった。 もちろん、このような不正は発覚後、さまざまな再発防止策がなされたので、近年になるとかなり減少している。しかし、手を替え、品を替え今もひっそりと似たようなことが続けられている可能性は高い。 例えば、2012年に約23億円と当時で過去最大規模の診療報酬不正受給が発覚した愛知県の医療法人が用いた幽霊看護師スキームは、「看護師の配置が手厚い病棟では入院料が高くなる制度を悪用、看護師の数を水増しし請求していた」(日本経済新聞2012年3月21日)というものである。 いかがだろう。今回の「幽霊病床」と微妙に被って見えないか。それも当然で、「幽霊病床」が仮に不正であるとすれば、これは「即応病床の水増し」によって補助金を不正受給しているということだ。制度が異なるだけで、これまでの数多とあった診療報酬不正受給とフォーマットはそれほど変わらないのだ。 さらに筆者が「幽霊病床」に不正の匂いを感じてしまうのは、これがコロナ禍のはるか以前から、日本に医療崩壊を引き起こしかねないと指摘されていた、ある構造的な問題と根っこの部分で同じということが大きい。 それは、「なんちゃって急性期病床」だ』、「病院経営者の伝統的な不正テクニック」、改めてよくやるものだと呆れた。「なんちゃって急性期病床」とは、どういうことなのだろう。
・『「なんちゃって急性期病床」とは? 日本の脆弱な医療体制の根本原因 なじみのない言葉に戸惑う方も多いと思うので、ひとつずつ順を追って説明しよう。まず、「急性期病床」とは、重症患者用の病床のことで、今回コロナ重症患者などはここに収容される。実はこの急性期病床が人口あたりの数において、日本は他の先進国と比べてケタ違いに多いのだ。 だったら、コロロ患者のたらい回しや、入院を断られて自宅療養で死ぬなんてことが起きないじゃないか」と思うだろうが、そこに日本の医療特有の「病巣」がある。 急性期病床は他国を圧倒するほど大量にあふれているが、そこで治療にあたる医療従事者数は他国とそれほど変わらない水準だ。病床というのは医療従事者がいなくては機能しないので、他国より多い病床に人員を振り分けていくと当然、一つひとつの病床は他国よりも人手不足になる。それはつまり、他国よりも医療体制が「脆弱」ということだ。 これが他の先進国よりも医療インフラが充実している日本で、コロナ患者が入院できずに門前払いにされる根本的な原因だ。 「急性期病床」を名乗ってはいるが、現実問題として医師も看護師も不足しているので、重症者を受け入れることができない。救急患者受け入れの要請があっても断らないといけないし、治療に多くの人的リソースを割かねばならぬコロナ患者などは論外だ。 このような「名ばかり急性期病床」のことを「なんちゃって急性期病床」と呼ぶ。初耳だという人もいるだろうが、医療行政の世界では当たり前のように使われている。例えば今年4月15日の財政制度分科会の財務省資料にはこんな説明がある。 <急性期を選択して報告しながら実際には医療資源投入量が少ない低密度医療しか行わない病床(いわゆる「なんちゃって急性期」の病床)のあり方を見直す必要> ここで言う「低密度医療」とは要するに、検査入院などのムダな入院だ。海外では1日で退院させるようなものでも、日本では1週間入院させるなどの問題がかねてから指摘されている。日本の現行の医療制度では、空きベッドをなるべく埋めて、診療報酬を多くもらうことが病院の経営だ。そのため、元気な人や軽症者にさまざまな理由をこじつけて、なるべく長くベッドに寝てもらう、というおかしなバイアスがかかってしまうのだ。 ちなみに、この「見直し」はコロナで医療がひっ迫しているからということで唱えられているわけではない。遥か以前からずっと、「なんちゃって急性期病床」を減らすべきだということが言われていたのだ』、「急性期病床は他国を圧倒するほど大量にあふれているが、そこで治療にあたる医療従事者数は他国とそれほど変わらない水準だ・・・他国より多い病床に人員を振り分けていくと当然、一つひとつの病床は他国よりも人手不足になる。それはつまり、他国よりも医療体制が「脆弱」ということだ。 これが他の先進国よりも医療インフラが充実している日本で、コロナ患者が入院できずに門前払いにされる根本的な原因だ」、その通りなのだろう。「「名ばかり急性期病床」のことを「なんちゃって急性期病床」と呼ぶ」、なるほど。
・『「病床再編」に反対する一部の病院経営者 「おいしい病床」を保持したい 冷静に考えれば当然だ。「急性期病床」と申告しておきながら、重症患者を受け入れてくれないのでは税金の無駄遣い以外の何ものでもない。「なんちゃって急性期病床」が増えても、地域内の限られた医療従事者の分散が進行するだけで、救急患者のたらい回しなどは一向に解消されない。 そこで、都道府県では2025年の医療体制を示す「地域医療構想」を策定し、急性期病床の比率を下げて、リハビリなどを施す回復期病床に切り替えるという、「病床再編」というシナリオを描いていた(参照:厚労省資料PDF:)。地域内の「なんちゃって急性期病床」が減れば、本当の急性期医療を行う病院に医師や看護師など医療資源を集中できるはずだ。医療費の無駄も削減できるので、一石二鳥だ。 しかし、これにノーを突きつけているのが、一部の病院経営者である。 「多くの病院はベッドの役割分担に抵抗している。医療スタッフの配置が手厚い急性期病床は1日4〜5万程度と、回復期より2割ほど入院代が高いといわれる。急性期を減らすと収入減につながるのを懸念しているのだ」(日本経済新聞2019年3月3日) もっとストレートに言ってしまえば、「急性期病床の方がおいしい」のである。インセンティブがつけば当然、自分たちの医療資源を度外視して、無理をしてでも急性期病床をつくっていく病院も増える。この結果が、「世界一急性期病床が多い」という日本の異常な状態を招いたというのは容易に想像できよう。 そして、これは裏を返せば、一部の病院にとって、「なんちゃって急性期病床」というものが、もはやなくてはならないものになっているという現実を物語っている』、「急性期病床は・・・回復期より2割ほど入院代が高いといわれる。急性期を減らすと収入減につながるのを懸念」、抵抗があるかえ¥らといって、「病床再編」が進んでいないのは問題だ。
・『そうでもしないと病院経営が立ち行かなくなるという現実 先ほども申し上げたように、「なんちゃって急性期病床」は医療従事者不足や、設備が古いなどの理由で、実際は急性期患者を受け入れることが不可能だ。そのため、重症の患者の受け入れを断って、本来ならば日帰りで済むような手術をした患者や、検査入院、リハビリなどに転用されている。 重症患者なのに医療を受けられないという点では、医療機関としては倫理的にも間違っていることは言うまでもない。しかし、そうでもしないと存続できないほど、経営が行き詰まっている病院があるのもまた事実なのだ。 過去にあった、幽霊医師、幽霊看護師も実は同じことがいえる。これらは私腹を肥やすためというよりも、傾いた病院を存続させるための「水増し」というパターンが多い。 この構造は、持続化給付金など中小企業向けの補助金の不正受給でもまったく同じだ。中には、最初からパクる気マンマンの悪人もいるが、多くは経営に行き詰まった中小零細企業だ。時代に対応できず競争力もない。事業を転換するだけの力もない。厳しい言い方だが、経営者として資質のない人が最後にたどりつくのが「不正受給」という、シビアな現実があるのだ。 このような経営者の厳しい現実があるからこそ、「幽霊病床」に不正の匂いを感じてしまう。 現在、多くの病院が大変厳しい経営環境に追い込まれているが、中でも特に深刻な事態に追い込まれているのが、「なんちゃって急性期病床」で生計を立ててきた病院だ。 コロナによって通常医療は激減している。マスクと手洗いでインフルエンザも風邪も劇的に減少し、自粛によって、子どもたちの部活の怪我や、交通事故も減少。高齢者のムダな検査入院なども減っている。これまでのように「なんちゃって急性期病床」を埋める機会が減って、経営危機に陥っているのだ。 さりとて、「なんちゃって急性期病床」なので、ガチンコでコロナ患者を受け入れるだけの能力はない。受け入れたくても受け入れることができない。しかし、背に腹はかえられないので、「即応病床」という申告だけをした。実際に受け入れなくても、これで補助金さえもらえれば、どうにか存続できるからだ。 そんな「なんちゃって急性期病床」のスキームを応用しなんちゃってコロナ病床」が今、日本の病院には山ほどあるはずだ。その中のほんの氷山の一角が、「幽霊病床」として表面化しているのではないか。 つまり、この現象は、それだけ日本の病院が壊滅的な状態に陥っているというSOSである可能性が高いのだ。 データを客観的に精査していけば、日本の医療体制を強化するには、「世界一、急性期病床が多い」という異常事態を改善していくしかないことは明らかだ。 病床を増やせ、増やせと叫ぶ人もいるが、それは過重労働のブラック企業が、人員拡充せずに新規事業を始めるようなもので、疲弊する現場の医療従事者をさらに追い詰めることになりかねない。 日本の医療を長く蝕んできた「なんちゃって急性期病床」というシステムエラーにもつながる「幽霊病床」が注目を集めた今こそ、日本政府はぜひ抜本的な「病床再編」を進めていただきたい』、同感だが、総裁選挙に血道を挙げている自民党にはそんな力や意思はなさそうだ。
次に 9月11日付けForbesが掲載したコラムニストの小出 将則氏による「今うつ病、老いては認知症? 精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」を紹介しよう。
https://forbesjapan.com/articles/detail/43213/1/1/1
・『もうすぐ敬老の日。わが国では65歳以上が3600万人を超え、総人口の3割近くを占める世界一の高齢社会。これに伴って増えているのが認知症で、長寿を喜べぬ現実に医療がどう関わるかは重苦しい課題だ。 一方、がんや糖尿病などと並び、精神疾患が五大疾病となって10年。精神疾患の中心となるうつ病の対策も待ったなしだが、認知症とうつ病との関係はまだ十分に周知されていないように思われる。今回は私が経験した両疾患を同時に抱える患者像を通して、「認知症とうつ病のあいだ」をお伝えする』、興味深そうだ。
・『冬木昭子さん(仮名)の場合 冬木昭子さん(仮名)は70代前半の元教師。4年前、不眠と動悸を訴えて、私のクリニックを訪れた。仲のよかった知人とささいなことですれ違いとなり、連絡が取れなくなってから不安になったという。ちょうどその時、歯が悪くなり、歯医者で義歯(入れ歯)を考えないといけないと言われ、「自分の老い」を実感。不安が徐々に大きくなるにつれて動悸が増え、眠れなくなった。 経歴や診察室での様子から、老齢期に入り、精神的、身体的ストレスが重なって反応性抑うつに陥ったものと診断した。 しっかりと話を聴き、抗うつ薬と依存性の無いタイプの睡眠導入薬を処方して経過を見守った。 当初は大好物のシャインマスカットを食べる気も失せていたのが、何回か調子の波を乗り越え、半年後には自作童話を自費出版したいと語るまでに回復した。2時間物の映画にも出かけられるようになり、1年半でいったん診察終了とした。 その1年後、コロナ第1波のさなかに「寝つきの悪いときがある」と冬木さんが受診した。 ただ前回と違って読書はできるし、食事もおいしい。「元気です。旦那とけんかしなければ。アハハ」と、テンションはむしろ高めに感じ取れた。
診察して双極性うつ病と判断した。うつ病は落ち込みの時期だけがある単極性と、気分の高揚する時期もある双極性に大別されるが、彼女は後者だった。治療ではあえて本格的な薬を使わず、話を傾聴しながらフォローした。 診察室での話題はもっぱらコロナ。ところが今年に入り、家族から電話が入った。本人には内緒でと断り、「最近、認知が入ってきているみたいです」と心配する声が受話器から伝わってきた。同じことを繰り返し家族に聞くことが目立ってきたという。 次の診察で冬木さんに問いかけた。「最近、物忘れなどで困ることは?」。返事は「そうなんです。初期です。自分で思います」。 そこで、長谷川式認知症スケール(HDS-R)というスクリーニング検査をした。年月日がすべて答えられず、直前の記憶力をみる問題も6点中2点と低下。さらにアルツハイマー型認知症に使う検査ADASを実施したところ、基準点より少し悪かった。初期認知症の疑いが強まったため、地元の認知症センターを紹介すると、こちらと同じ結果だった。 センター受診後、当院に現れた時の冬木さんの言葉にどきっとした。「ショックが大きかった。それで“うつ”になった」 おそらく、豊富な知識を武器に教壇に立ってきた冬木さんにとって、「記憶が無くなっていく」認知症になることは恐怖以外の何物でもなかったのだろう。もし、自分が同じ状況に陥ったらと想像すると、よく分かる』、確かに「豊富な知識を武器に教壇に立ってきた冬木さんにとって、「記憶が無くなっていく」認知症になることは恐怖以外の何物でもなかったのだろう」、その通りだ。
・『うつ病の人が認知症になるとはどういうことか? うつ病や認知症にもいろいろなタイプがあるが、ここでは代表的な「内因性うつ病」と「アルツハイマー型認知症」の場合を考えてみよう。 誰でも憂うつになったり、物忘れをしたりということはある。ときおり、当院にも「僕はうつ病です」とか「私は認知症です」と治療を求めてくる人がいるが、そういったケースの大半は違う。当人に病気の自覚のないことが両疾患の特徴だからだ。 だから、本人に病気であることを知ってもらうことが治療のスタートラインとなる。 内因性うつ病では、はっきりとした原因がなくとも気分の沈みや興味の減退が2週間以上にわたって続く。患者はうつ病の原因を環境についていけない自身の弱さに求め、「できない自分が悪い」とみずからを責める。彼らにはまず「これは脳の機能不全による病気で、あなたのせいではない」と伝える。 一方アルツハイマー型認知症では、直近の記憶を失うため、たとえば今日が何月何日か答えられない。物忘れの自覚がなく、取り繕おうとして嘘の話を作る。朝食を済ませた後に何を食べたか、すぐに思い出せないのは生理的な物忘れだが、「ご飯はまだかね」と真顔で家族に尋ねたら認知症だ。財布をどこに置いたか分からなくなり、家族が隠したと訴える「物盗られ妄想」もよくある症状だ。 ただ、初期のうちは本人も物忘れに自覚的で不安になるケースは多い。冬木さんの場合もこれに当てはまる。 彼女は症状が進む前に家族が「発見」し、診断につながったわけだが、それ以前の診察でははっきりとした徴候は見当たらなかった。 初期の認知症では物忘れが軽いので、診察場面だけでは病状を察知しにくい。八千代病院の川畑信也神経内科部長によると、アルツハイマー病患者520人のうち、異変に気付いて1年以内に物忘れ外来を受診したのは9%に過ぎない(「『認知症の正体 診断・治療・予防の最前線』飯島裕一著、佐古泰司著、PHP研究所刊」より)』、「初期のうちは本人も物忘れに自覚的で不安になるケースは多い」、しかし、「アルツハイマー病患者520人のうち、異変に気付いて1年以内に物忘れ外来を受診したのは9%に過ぎない」、なるほど。
・『海馬の働き。うつ病では元に戻るが、認知症では「戻らない」 ここで押さえておくべきは、認知症の初期症状のひとつに抑うつがあることだ。しかもうつ病の抑うつとの見分けが難しい。 高齢者の抑うつは意欲の減退(アパシーと呼ぶ)が前面に出ることが多い。涙あふれる悲しみというよりは、枯山水のようなエネルギー低下といえば、理解しやすいだろうか。 違いを見分けるには、やはり認知症の中核症状である物忘れに注目するのがよい。 うつ病が悪化すると、一時的に認知症(とくにアルツハイマー型)と同じ「海馬」がやられる。 海馬は大脳辺縁系という脳の中心部にあり、短期記憶が蓄えられる場所だが、うつ病では海馬の働きが元に戻るのに対し、認知症では戻らない点が異なる。抑うつが治まっても物忘れが回復しなければ認知症といえる。 このため、精神科医は高齢者の抑うつ症状がうつ病から来るのか、初期認知症から来るのかどうしても迷った場合、まずうつ病の治療をする。それで改善しなければ、さらに認知症の精査治療をしていくという具合だ。 もうひとつ、大事なことがある』、「うつ病では海馬の働きが元に戻るのに対し、認知症では戻らない点が異なる。抑うつが治まっても物忘れが回復しなければ認知症といえる」、なるほど。
・『若いころのうつ病は、認知症を「通常の3.76倍」引き起こす? それはうつ病自体が認知症のリスク因子になることだ。 専門家の研究では、若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる。また、病院受診したアルツハイマー型認知症患者のうち半数近くがうつ病かそれに近い状態との報告もある。 冬木さんばかりでなく、うつ病の患者が後に認知症となるケースは当院でも数多く経験している。 60代の男性Aさん。スーパーの副店長をしていた40代の頃、過労でうつ病になり、仕事を辞めることになった。その後、いらいらがひどくなり、隣人ともめ警察沙汰となって、当院を受診。若年性認知症を疑い、頭部MRIを撮ったところ、大脳が萎縮していた。今では毎朝、日付を妻に確認しながら生活している。 若いころのうつ病は、認知症を「通常の3.76倍」引き起こす? それはうつ病自体が認知症のリスク因子になることだ。 専門家の研究では、若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる。また、病院受診したアルツハイマー型認知症患者のうち半数近くがうつ病かそれに近い状態との報告もある。 冬木さんばかりでなく、うつ病の患者が後に認知症となるケースは当院でも数多く経験している。 60代の男性Aさん。スーパーの副店長をしていた40代の頃、過労でうつ病になり、仕事を辞めることになった。その後、いらいらがひどくなり、隣人ともめ警察沙汰となって、当院を受診。若年性認知症を疑い、頭部MRIを撮ったところ、大脳が萎縮していた。今では毎朝、日付を妻に確認しながら生活している。 80代の女性Bさんは2年半前、頭がもやもやすると当院を訪ねてきた。もともと神経質で、老年期のうつ病と診断し、抗うつ薬で改善した。しばらくして物忘れが目立ち始め、HDS-Rで10点しか取れず、認知症の治療を開始した。その後はむしろ抗うつ薬を止めたほうが気分は落ち着いた』、「若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる」、「うつ病」と「アルツハイマー型認知症」に、こんなに相関があるとは初めて知った。
・『生活習慣病、70代Cさんの場合 複雑な要因がからんで、診断や治療に悩むこともある。 70代の男性Cさん。胃潰瘍や高血圧、脂質異常などの生活習慣病で治療していた。ことし7月、新型コロナワクチン接種2回目を終えた2週間後から「頭がボーっとなり、体がだるくて」かかりつけ医受診。内科的異常はないのに眠れず、食欲不振で体重が減り、集中力も低下した。 内科治療で改善しないため、当院に紹介された。HDS-Rでは軽度認知症領域の18点。だが、これだけで診断するのは危険だ。うつ病の悪化時には認知症スクリーニングの検査結果が低く出ることがあるからだ。 さらにビタミン測定やADAS検査を行い、それでも確定しないため、原則に従って抗うつ薬処方から開始した。そもそもコロナワクチン後遺症の可能性も捨てきれない。臨床現場は難しい』、「臨床現場」の難しさが理解できた。
・『194万部のベストセラー「恍惚の人」…… ここまでうつ病と認知症の関係を述べてきて気になることがある。それは「認知症」という用語だ。 認知症という言葉が使われ始めたのは2004年と比較的新しい。それ以前に使われていた「痴呆」は言葉の意味が侮蔑的で病気の本質を正確に表していないとして、識者会議に諮(はか)られ、認知症に取って代えられた。 痴呆(ちほう)は確かに、耳に強く残る言葉だった。ただ、より記憶に残る言葉がある──「恍惚」 高度経済成長晩期の1972年、有吉佐和子の小説「恍惚の人」は年間売上げ194万部のベストセラーとなった。「こうこつ」という響きが、当時小学5年生だった私の耳に文字通りうっとりと残った。これがきっかけで認知症高齢者の介護問題に陽が当たった。 「恍惚」の出典は江戸時代の国史書「日本外史」で、頼山陽が戦国時代の武将三好長慶を称した「老いて病み、恍惚として人を知らず」から来ているという』、「「恍惚の人」は年間売上げ194万部のベストセラーとなった」、よく覚えている。
・『太宰治は認知症になっていたか? ただ、読書好きの私にとって恍惚といえば、むしろ太宰治だ。 「撰ばれてあることの恍惚と不安と二つ我にあり」(「晩年『葉』」より) 処女作の、しかも冒頭にフランスの詩人ヴェルレエヌを持ってくるなんてと思うが、太宰の人生を知るにつれ、このエピグラム(注)にうなずいた。 新宿の歩道で石がひとりでに歩くのを見て不思議に思わず、直後に子どもが糸を結んで引きずっていたのを知り、欺かれたことにさびしさを感じるでもなく、ただ「そんな天変地異をも平気で受け入れ得た彼自身の自棄(やけ)が淋しかった」と書いた太宰。 2020年の日本人男性の平均寿命は81.64歳。歴史に「もし」はないが、40歳まで1年を残して入水した太宰が天寿を全うしたら、うつ病と認知症の関係に従って「恍惚の人」となっていたかどうか──』、私には「天寿を全う」するような「太宰」は想像できない。
(注)エピグラム:警句(Wikipedia)
第三に、8月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した金田信一郎氏(肩書下記)による「がん治療で世界に取り残される日本。なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278928
・『元日経ビジネス記者でジャーナリスト歴30年の金田信一郎は2020年3月、突然ステージ3の食道癌に襲われた。紹介された東京大学医学部附属病院(東大病院)に入院し、癌手術の第一人者で病院長が主治医になったが、曖昧な治療方針に違和感を拭えず、セカンドオピニオンを求めて転院。しかし転院先でも土壇場で手術をせず放射線による治療を選択し、今では以前とほぼ同じ日常を取り戻した。金田は先頃、自らの体験を題材にしたノンフィクション『ドキュメント がん治療選択』(ダイヤモンド社)を上梓した。2021年7月20日発売のニューズウィーク日本版(7月27日号)「ドキュメント 癌からの生還」特集では、200日の闘病記を16ページのルポルタージュにして収録。金田の闘いは、思考停止に陥った日本の医療体制、そして患者にも強烈な問いを投げ掛けている。「それが本当に最適な治療なのですか」と。どうすれば、この流れに歯止めをかけられるのか。以下に続く記事で金田は、その糸口を探るべく、元主治医たちのもとを訪ねる(本記事は2021年7月20日発売のニューズウィーク日本版(7月27日号)「ドキュメント 癌からの生還」の記事を転載しました、本文は敬称略)』、興味深そうだ。
・『日本特有の手術至上主義 こんな調査結果がある。 がん治療で世界に取り残される日本。なぜ手術至上主義から抜け出せないのか(先進各国で、肺癌ステージ1期の患者が、どのような治療を受けたか比較したデータだ。数字を見渡すと、欧米では「手術から放射線治療(SBRT)へ」という流れが見て取れる。 アメリカでは手術比率が71.9%(2005年)から60.3%(2012年)に減少し、逆に放射線治療が13.5%から25.8%に上昇している。欧州の調査(2015~16年)では、オランダで手術が47%に対して、放射線治療が41%と拮抗していることが分かる。 一方、日本の医療は全く様相が異なる。日本の肺癌1期の手術数は3万件(2014年)に上るが、同期間に放射線治療を受けた患者は1600人と全体の5%程度にとどまった。 「その後も、この比率は大きく変化していない」 この比較表を作成した大船中央病院放射線治療センター長(放射線医師)の武田篤也は、危機感を覚えている。日本の放射線治療が、欧米諸国に比べて劣っているわけではない。「もっと放射線治療のメリットを広めていかないと、『癌は切除するもの』が常識となって、本来、放射線を受けたかった人が手術に回されていく」 なぜ、日本だけが手術に偏った治療を続けているのか。外科の力が強く、「癌は切除したほうがいい」という考え方が根強いという理由だけではない。その背景には、医療を硬直化させている構図がある。 その原点をたどっていくと、ある転換点が浮かび上がってくる。 かつて日本の医療現場は、医師の裁量と自由度が高い「聖域」とされていた。診療所や開業医を中心に医療が展開され、彼らを中核に据えた日本医師会が強い政治的発言力を持つ時代が続いた。 だが、1990年を境にして様相が一変する。それまでの経済成長期には医療費の上昇をGDPの成長が覆い隠していたが、バブル崩壊で経済が停滞するなかで、医療費だけが膨らみ続けた。1990年に国民医療費のGDP比は4.6%だったが、2000年には約6%、2011年には8%近くまで上昇する。 2000年以降の急上昇の局面で医療の効率化が求められ、医師の裁量に大きく委ねられていた状態が問題視されるようになった。この時期、開業医比率が大きく減少し、抵抗力を失っていくなか、データによって成果が高いとされる治療に絞り込む、「標準化」の波が襲ってくる。 既に欧米では、1990年代初頭から「エビデンス革命」が吹き荒れていた。1991年、カナダの医師ゴードン・ガイヤットが「エビデンスに基づく医療(EBM)」を提唱。続いて第一人者のカナダの医師デービッド・サケットが論文(「エビデンスに基づく医療 それは何であり、何でないのか」)を発表し、世界に広まっていく。 経験知による医療の死角を克服するためにも、臨床試験等による結果(エビデンス)を重視して治療法を決める──。その方法論は、医療費の肥大化に悩む日本にも到来する。 2000年代、日本ではエビデンスを基にした「標準治療」を確立する動きが加速する。06年には「がん医療の均てん化(全国どこでも癌の標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること)」を謳ったがん対策基本法が成立。実績が高い治療法を示した「診療ガイドライン」がネット上で公開され、全国の医療現場に広まっていった。 そこに日本独特の、全国で一本化された診療報酬制度が「総額の上限」として機能し、医療費の抑制に成功する。2011年以降も、国民医療費はGDP比8%以下の水準で推移している。 その決定システムには、政官業の微妙な力学が働いている。まず、官(財務省)が医療費の引き下げを要請するが、一方で業(医療界)が引き上げの必要性を訴える。すると、官(厚生労働省)が調整し、政(内閣)が妥結策を最終決定する。この政官業のトライアングルがバランスを取り、医療費を一定の比率に保つ。 だが、この決定過程には、医療の中心にいるはずの患者の視点が欠落している。そして、一見すると均衡しているかに見える医療は、「患者不在」のまま、その中身が大きな変化を遂げることになる。(2021年8月15日公開記事へ続く)』、「日本ではエビデンスを基にした「標準治療」を確立」、「実績が高い治療法を示した「診療ガイドライン」がネット上で公開」、などは好ましいことだが、「患者不在」は確かに問題だ。「日本特有の手術至上主義」も困ったことだが、何故なのだろう。
・『どうしたら、自分に合った「がん治療」にめぐり合えるのか――。 突然、告げられた進行がん。 最初に入院した東大病院からは、抗がん剤1クールを終えて逃亡。 ようやく見つけた“神の手”を持つ外科医のいる転院先では、土壇場になって手術を回避。 抗がん剤治療の最中、執念で多くの名医に話を聞きながら、自分に合った治療を探し求めていく。 「切らずに治す方法はないのか」。 自分にぴったり合う治療法を探し求めて、奮闘した記録をすべて残した『ドキュメントがん治療選択』。 もがき、苦しみ、身体にメスを入れる直前、自分に合う治療法を探し当てた。だから、生き延びた――。 多くのがん患者や家族が悩む「治療選択」。それを考え抜く一つの道筋を描いたノンフィクション』、筆者は「手術至上主義」から脱出して、いろいろ経験して、結果も良かったのは幸運だ。
・『【ポイント1】突然のがん告知で焦るすべての人に向けた、自分に合う治療法の選び方が分かる 【ポイント2】セカンドオピニオン、転院するときのリアルなやり取りが分かる 【ポイント3】手術、放射線、抗がん剤で迷ったときのヒントが分かる 【ポイント4】本書を読み終えたら、きっと自分で治療法を選びたくなる ▽がんと告知されたら、まず読もう(【目次】■まえがき「東大病院をやめることにした」。その一言に、周囲は驚愕した。ステージ3のがんを抱えて、コロナ禍の中を「最適な医療」を求める旅がスタートする。 ■第一章 罹患 突然の嘔吐、そして地元のクリニックで胃カメラを入れると、そこには火山のように突起したガンがあった。「すぐに東大病院に行くように」。いきなり、最高の医療が提供されたかに思ったが……。 ■第二章 東大病院918号室 豪華な病棟のベッドに横たわっていた。強烈な抗がん剤が5日間連続で投与される。だが、病状も治療も納得できる説明がない。 ■第三章 逃亡 「何かがおかしい」。決裂覚悟で、セカンドオピニオンの紹介状を手に、東大病院を去る。 ■第四章 がんセンター5A病棟 資料を読みあさり、専門家を訪ね、「神の手」の名医に辿り着いた。だが、ふと疑問が沸いてくる。「手術でいいのか?」 ■第五章 疑念 「壮絶ですよ」。同じ食道がんの手術をした先輩から、生々しい話を聞かされる。なんとか、臓器を失わない方法はないのだろうか。 ■第六章 大転換 偶然知った放射線の名医から「できる」と言われて、メスが入る直前に、「放射線に転換する」と宣言する。 ■第七章 再々検査 前例の少ない抗がん剤5クールと放射線28回。副作用で免疫が急降下して、ドクターストップがかかる寸前に追い込まれる。そして、ついに最後の治療がスタートすることが決まる。 ■第八章 最後の夜 5回目となる入院で、がん告知から7ヵ月目にしてすべての治療を終えた。最後の点滴を終えて針が抜けると、夜が明けて、がんセンターの病棟に日が昇ってくる。 ■あとがき 同じ時期にガンの闘病をした友人が、病院が示す治療を拒否して半年で命を落とした。今も、年に100万人を数える新規がん患者たち。その人々が、納得できる「医療選択」ができる時代を考える』、全体として、バランスの取れた力作だ。特に、「同じ時期にガンの闘病をした友人が、病院が示す治療を拒否して半年で命を落とした」ケースも取上げているのは公平だ。
先ずは、9月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「「幽霊病床」問題で露呈した、日本の病院に根付く深刻な不正受給体質」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/281676
・『「幽霊病床」に感じる病院の不正の匂い 「新型コロナ患者をすぐに受け入れできます!」と自己申告しておきながら、実は「病床使用率0%」。そんな「幽霊病床」の実態が明らかになった。 日本テレビが入手した、コロナ患者をすぐに受け入れ可能な「即応病床」と申告している東京都内172の病院の病床使用率をまとめたリストによれば、病床使用率が100%を超えている医療機関は50施設、40%未満が27施設。0%が7施設あったという。 ご存じのように、「即応病床」には国から補助金が支払われている。コロナ患者の治療には、医療従事者の確保などで病院経営的に負担が重い。そこで、重症用ベッド1床につき最大1950万円、重症以外でも最大900万円、さらに緊急時に備えてベッドを空けておく「空床確保料」まで支払われる。 つまり、この補助金を申請した病院というのは、「人手不足だ」とか「施設が古い」などの言い訳をせず積極的にコロナ患者を受け入れなくてはいけないのだ。が、現実は使用率40%にも満たない病院がゴロゴロある。もちろん、たまたま同じタイミングで回復して一斉に退院したということもあるかもしれないが、あの四文字が頭に浮かぶ方も多いのではないか。 そう、「不正受給」である』、「重症用ベッド1床につき最大1950万円、重症以外でも最大900万円、さらに緊急時に備えてベッドを空けておく「空床確保料」まで支払われる」、「補助金」がこんなにも手厚いとは初めて知った。それを「不正受給」するとは悪質だ。「不正受給」があれば、当然返還請求すべきだ。
・『過去にも繰り返されてきた「幽霊スキーム」で不正受給 「我々の命を救ってくださるお医者様になんて失礼なことを言うのだ!」と怒りでワナワナと震える方も多いだろうが、持続化給付金の不正受給が後を立たないことからもわかるように、世の中には「もらえるもんはちょっとズルしてでももらったほうが得じゃん」と補助金・助成金制度を悪用するような人が一定数存在する。それは、病院経営者といえども変わらない。 そこに加えて、歴史の教訓もある。現実には存在しないものを「ある」と虚偽の申告して、国からカネをせしめる、いわば「幽霊スキーム」というのは、かなり古くから報告されている病院経営者の伝統的な不正テクニックなのだ。 ●『“幽霊看護婦”で水増し報酬 1年半で5000万円 「悪質」と都カンカン 立ち入り検査へ』(読売新聞1975年2月18日) ●『安田系3病院 “幽霊医師・職員”168人 大阪府が「保険医療」取り消しへ』(同上1997年5月20日) ●『医療界の黙認(幽霊医師 診療報酬不正請求:上)』(朝日新聞西部本社版 2000年5月26日) これらの不正に登場する「幽霊」とは、要は「水増し」のことだ。診療報酬をより高く請求できるように、医師や看護師の人員数を粉飾する。ちなみに、医師の水増しの場合、大学医学部の大学院生や研修医が「名義貸し」をするスタイルも多かった。 もちろん、このような不正は発覚後、さまざまな再発防止策がなされたので、近年になるとかなり減少している。しかし、手を替え、品を替え今もひっそりと似たようなことが続けられている可能性は高い。 例えば、2012年に約23億円と当時で過去最大規模の診療報酬不正受給が発覚した愛知県の医療法人が用いた幽霊看護師スキームは、「看護師の配置が手厚い病棟では入院料が高くなる制度を悪用、看護師の数を水増しし請求していた」(日本経済新聞2012年3月21日)というものである。 いかがだろう。今回の「幽霊病床」と微妙に被って見えないか。それも当然で、「幽霊病床」が仮に不正であるとすれば、これは「即応病床の水増し」によって補助金を不正受給しているということだ。制度が異なるだけで、これまでの数多とあった診療報酬不正受給とフォーマットはそれほど変わらないのだ。 さらに筆者が「幽霊病床」に不正の匂いを感じてしまうのは、これがコロナ禍のはるか以前から、日本に医療崩壊を引き起こしかねないと指摘されていた、ある構造的な問題と根っこの部分で同じということが大きい。 それは、「なんちゃって急性期病床」だ』、「病院経営者の伝統的な不正テクニック」、改めてよくやるものだと呆れた。「なんちゃって急性期病床」とは、どういうことなのだろう。
・『「なんちゃって急性期病床」とは? 日本の脆弱な医療体制の根本原因 なじみのない言葉に戸惑う方も多いと思うので、ひとつずつ順を追って説明しよう。まず、「急性期病床」とは、重症患者用の病床のことで、今回コロナ重症患者などはここに収容される。実はこの急性期病床が人口あたりの数において、日本は他の先進国と比べてケタ違いに多いのだ。 だったら、コロロ患者のたらい回しや、入院を断られて自宅療養で死ぬなんてことが起きないじゃないか」と思うだろうが、そこに日本の医療特有の「病巣」がある。 急性期病床は他国を圧倒するほど大量にあふれているが、そこで治療にあたる医療従事者数は他国とそれほど変わらない水準だ。病床というのは医療従事者がいなくては機能しないので、他国より多い病床に人員を振り分けていくと当然、一つひとつの病床は他国よりも人手不足になる。それはつまり、他国よりも医療体制が「脆弱」ということだ。 これが他の先進国よりも医療インフラが充実している日本で、コロナ患者が入院できずに門前払いにされる根本的な原因だ。 「急性期病床」を名乗ってはいるが、現実問題として医師も看護師も不足しているので、重症者を受け入れることができない。救急患者受け入れの要請があっても断らないといけないし、治療に多くの人的リソースを割かねばならぬコロナ患者などは論外だ。 このような「名ばかり急性期病床」のことを「なんちゃって急性期病床」と呼ぶ。初耳だという人もいるだろうが、医療行政の世界では当たり前のように使われている。例えば今年4月15日の財政制度分科会の財務省資料にはこんな説明がある。 <急性期を選択して報告しながら実際には医療資源投入量が少ない低密度医療しか行わない病床(いわゆる「なんちゃって急性期」の病床)のあり方を見直す必要> ここで言う「低密度医療」とは要するに、検査入院などのムダな入院だ。海外では1日で退院させるようなものでも、日本では1週間入院させるなどの問題がかねてから指摘されている。日本の現行の医療制度では、空きベッドをなるべく埋めて、診療報酬を多くもらうことが病院の経営だ。そのため、元気な人や軽症者にさまざまな理由をこじつけて、なるべく長くベッドに寝てもらう、というおかしなバイアスがかかってしまうのだ。 ちなみに、この「見直し」はコロナで医療がひっ迫しているからということで唱えられているわけではない。遥か以前からずっと、「なんちゃって急性期病床」を減らすべきだということが言われていたのだ』、「急性期病床は他国を圧倒するほど大量にあふれているが、そこで治療にあたる医療従事者数は他国とそれほど変わらない水準だ・・・他国より多い病床に人員を振り分けていくと当然、一つひとつの病床は他国よりも人手不足になる。それはつまり、他国よりも医療体制が「脆弱」ということだ。 これが他の先進国よりも医療インフラが充実している日本で、コロナ患者が入院できずに門前払いにされる根本的な原因だ」、その通りなのだろう。「「名ばかり急性期病床」のことを「なんちゃって急性期病床」と呼ぶ」、なるほど。
・『「病床再編」に反対する一部の病院経営者 「おいしい病床」を保持したい 冷静に考えれば当然だ。「急性期病床」と申告しておきながら、重症患者を受け入れてくれないのでは税金の無駄遣い以外の何ものでもない。「なんちゃって急性期病床」が増えても、地域内の限られた医療従事者の分散が進行するだけで、救急患者のたらい回しなどは一向に解消されない。 そこで、都道府県では2025年の医療体制を示す「地域医療構想」を策定し、急性期病床の比率を下げて、リハビリなどを施す回復期病床に切り替えるという、「病床再編」というシナリオを描いていた(参照:厚労省資料PDF:)。地域内の「なんちゃって急性期病床」が減れば、本当の急性期医療を行う病院に医師や看護師など医療資源を集中できるはずだ。医療費の無駄も削減できるので、一石二鳥だ。 しかし、これにノーを突きつけているのが、一部の病院経営者である。 「多くの病院はベッドの役割分担に抵抗している。医療スタッフの配置が手厚い急性期病床は1日4〜5万程度と、回復期より2割ほど入院代が高いといわれる。急性期を減らすと収入減につながるのを懸念しているのだ」(日本経済新聞2019年3月3日) もっとストレートに言ってしまえば、「急性期病床の方がおいしい」のである。インセンティブがつけば当然、自分たちの医療資源を度外視して、無理をしてでも急性期病床をつくっていく病院も増える。この結果が、「世界一急性期病床が多い」という日本の異常な状態を招いたというのは容易に想像できよう。 そして、これは裏を返せば、一部の病院にとって、「なんちゃって急性期病床」というものが、もはやなくてはならないものになっているという現実を物語っている』、「急性期病床は・・・回復期より2割ほど入院代が高いといわれる。急性期を減らすと収入減につながるのを懸念」、抵抗があるかえ¥らといって、「病床再編」が進んでいないのは問題だ。
・『そうでもしないと病院経営が立ち行かなくなるという現実 先ほども申し上げたように、「なんちゃって急性期病床」は医療従事者不足や、設備が古いなどの理由で、実際は急性期患者を受け入れることが不可能だ。そのため、重症の患者の受け入れを断って、本来ならば日帰りで済むような手術をした患者や、検査入院、リハビリなどに転用されている。 重症患者なのに医療を受けられないという点では、医療機関としては倫理的にも間違っていることは言うまでもない。しかし、そうでもしないと存続できないほど、経営が行き詰まっている病院があるのもまた事実なのだ。 過去にあった、幽霊医師、幽霊看護師も実は同じことがいえる。これらは私腹を肥やすためというよりも、傾いた病院を存続させるための「水増し」というパターンが多い。 この構造は、持続化給付金など中小企業向けの補助金の不正受給でもまったく同じだ。中には、最初からパクる気マンマンの悪人もいるが、多くは経営に行き詰まった中小零細企業だ。時代に対応できず競争力もない。事業を転換するだけの力もない。厳しい言い方だが、経営者として資質のない人が最後にたどりつくのが「不正受給」という、シビアな現実があるのだ。 このような経営者の厳しい現実があるからこそ、「幽霊病床」に不正の匂いを感じてしまう。 現在、多くの病院が大変厳しい経営環境に追い込まれているが、中でも特に深刻な事態に追い込まれているのが、「なんちゃって急性期病床」で生計を立ててきた病院だ。 コロナによって通常医療は激減している。マスクと手洗いでインフルエンザも風邪も劇的に減少し、自粛によって、子どもたちの部活の怪我や、交通事故も減少。高齢者のムダな検査入院なども減っている。これまでのように「なんちゃって急性期病床」を埋める機会が減って、経営危機に陥っているのだ。 さりとて、「なんちゃって急性期病床」なので、ガチンコでコロナ患者を受け入れるだけの能力はない。受け入れたくても受け入れることができない。しかし、背に腹はかえられないので、「即応病床」という申告だけをした。実際に受け入れなくても、これで補助金さえもらえれば、どうにか存続できるからだ。 そんな「なんちゃって急性期病床」のスキームを応用しなんちゃってコロナ病床」が今、日本の病院には山ほどあるはずだ。その中のほんの氷山の一角が、「幽霊病床」として表面化しているのではないか。 つまり、この現象は、それだけ日本の病院が壊滅的な状態に陥っているというSOSである可能性が高いのだ。 データを客観的に精査していけば、日本の医療体制を強化するには、「世界一、急性期病床が多い」という異常事態を改善していくしかないことは明らかだ。 病床を増やせ、増やせと叫ぶ人もいるが、それは過重労働のブラック企業が、人員拡充せずに新規事業を始めるようなもので、疲弊する現場の医療従事者をさらに追い詰めることになりかねない。 日本の医療を長く蝕んできた「なんちゃって急性期病床」というシステムエラーにもつながる「幽霊病床」が注目を集めた今こそ、日本政府はぜひ抜本的な「病床再編」を進めていただきたい』、同感だが、総裁選挙に血道を挙げている自民党にはそんな力や意思はなさそうだ。
次に 9月11日付けForbesが掲載したコラムニストの小出 将則氏による「今うつ病、老いては認知症? 精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」を紹介しよう。
https://forbesjapan.com/articles/detail/43213/1/1/1
・『もうすぐ敬老の日。わが国では65歳以上が3600万人を超え、総人口の3割近くを占める世界一の高齢社会。これに伴って増えているのが認知症で、長寿を喜べぬ現実に医療がどう関わるかは重苦しい課題だ。 一方、がんや糖尿病などと並び、精神疾患が五大疾病となって10年。精神疾患の中心となるうつ病の対策も待ったなしだが、認知症とうつ病との関係はまだ十分に周知されていないように思われる。今回は私が経験した両疾患を同時に抱える患者像を通して、「認知症とうつ病のあいだ」をお伝えする』、興味深そうだ。
・『冬木昭子さん(仮名)の場合 冬木昭子さん(仮名)は70代前半の元教師。4年前、不眠と動悸を訴えて、私のクリニックを訪れた。仲のよかった知人とささいなことですれ違いとなり、連絡が取れなくなってから不安になったという。ちょうどその時、歯が悪くなり、歯医者で義歯(入れ歯)を考えないといけないと言われ、「自分の老い」を実感。不安が徐々に大きくなるにつれて動悸が増え、眠れなくなった。 経歴や診察室での様子から、老齢期に入り、精神的、身体的ストレスが重なって反応性抑うつに陥ったものと診断した。 しっかりと話を聴き、抗うつ薬と依存性の無いタイプの睡眠導入薬を処方して経過を見守った。 当初は大好物のシャインマスカットを食べる気も失せていたのが、何回か調子の波を乗り越え、半年後には自作童話を自費出版したいと語るまでに回復した。2時間物の映画にも出かけられるようになり、1年半でいったん診察終了とした。 その1年後、コロナ第1波のさなかに「寝つきの悪いときがある」と冬木さんが受診した。 ただ前回と違って読書はできるし、食事もおいしい。「元気です。旦那とけんかしなければ。アハハ」と、テンションはむしろ高めに感じ取れた。
診察して双極性うつ病と判断した。うつ病は落ち込みの時期だけがある単極性と、気分の高揚する時期もある双極性に大別されるが、彼女は後者だった。治療ではあえて本格的な薬を使わず、話を傾聴しながらフォローした。 診察室での話題はもっぱらコロナ。ところが今年に入り、家族から電話が入った。本人には内緒でと断り、「最近、認知が入ってきているみたいです」と心配する声が受話器から伝わってきた。同じことを繰り返し家族に聞くことが目立ってきたという。 次の診察で冬木さんに問いかけた。「最近、物忘れなどで困ることは?」。返事は「そうなんです。初期です。自分で思います」。 そこで、長谷川式認知症スケール(HDS-R)というスクリーニング検査をした。年月日がすべて答えられず、直前の記憶力をみる問題も6点中2点と低下。さらにアルツハイマー型認知症に使う検査ADASを実施したところ、基準点より少し悪かった。初期認知症の疑いが強まったため、地元の認知症センターを紹介すると、こちらと同じ結果だった。 センター受診後、当院に現れた時の冬木さんの言葉にどきっとした。「ショックが大きかった。それで“うつ”になった」 おそらく、豊富な知識を武器に教壇に立ってきた冬木さんにとって、「記憶が無くなっていく」認知症になることは恐怖以外の何物でもなかったのだろう。もし、自分が同じ状況に陥ったらと想像すると、よく分かる』、確かに「豊富な知識を武器に教壇に立ってきた冬木さんにとって、「記憶が無くなっていく」認知症になることは恐怖以外の何物でもなかったのだろう」、その通りだ。
・『うつ病の人が認知症になるとはどういうことか? うつ病や認知症にもいろいろなタイプがあるが、ここでは代表的な「内因性うつ病」と「アルツハイマー型認知症」の場合を考えてみよう。 誰でも憂うつになったり、物忘れをしたりということはある。ときおり、当院にも「僕はうつ病です」とか「私は認知症です」と治療を求めてくる人がいるが、そういったケースの大半は違う。当人に病気の自覚のないことが両疾患の特徴だからだ。 だから、本人に病気であることを知ってもらうことが治療のスタートラインとなる。 内因性うつ病では、はっきりとした原因がなくとも気分の沈みや興味の減退が2週間以上にわたって続く。患者はうつ病の原因を環境についていけない自身の弱さに求め、「できない自分が悪い」とみずからを責める。彼らにはまず「これは脳の機能不全による病気で、あなたのせいではない」と伝える。 一方アルツハイマー型認知症では、直近の記憶を失うため、たとえば今日が何月何日か答えられない。物忘れの自覚がなく、取り繕おうとして嘘の話を作る。朝食を済ませた後に何を食べたか、すぐに思い出せないのは生理的な物忘れだが、「ご飯はまだかね」と真顔で家族に尋ねたら認知症だ。財布をどこに置いたか分からなくなり、家族が隠したと訴える「物盗られ妄想」もよくある症状だ。 ただ、初期のうちは本人も物忘れに自覚的で不安になるケースは多い。冬木さんの場合もこれに当てはまる。 彼女は症状が進む前に家族が「発見」し、診断につながったわけだが、それ以前の診察でははっきりとした徴候は見当たらなかった。 初期の認知症では物忘れが軽いので、診察場面だけでは病状を察知しにくい。八千代病院の川畑信也神経内科部長によると、アルツハイマー病患者520人のうち、異変に気付いて1年以内に物忘れ外来を受診したのは9%に過ぎない(「『認知症の正体 診断・治療・予防の最前線』飯島裕一著、佐古泰司著、PHP研究所刊」より)』、「初期のうちは本人も物忘れに自覚的で不安になるケースは多い」、しかし、「アルツハイマー病患者520人のうち、異変に気付いて1年以内に物忘れ外来を受診したのは9%に過ぎない」、なるほど。
・『海馬の働き。うつ病では元に戻るが、認知症では「戻らない」 ここで押さえておくべきは、認知症の初期症状のひとつに抑うつがあることだ。しかもうつ病の抑うつとの見分けが難しい。 高齢者の抑うつは意欲の減退(アパシーと呼ぶ)が前面に出ることが多い。涙あふれる悲しみというよりは、枯山水のようなエネルギー低下といえば、理解しやすいだろうか。 違いを見分けるには、やはり認知症の中核症状である物忘れに注目するのがよい。 うつ病が悪化すると、一時的に認知症(とくにアルツハイマー型)と同じ「海馬」がやられる。 海馬は大脳辺縁系という脳の中心部にあり、短期記憶が蓄えられる場所だが、うつ病では海馬の働きが元に戻るのに対し、認知症では戻らない点が異なる。抑うつが治まっても物忘れが回復しなければ認知症といえる。 このため、精神科医は高齢者の抑うつ症状がうつ病から来るのか、初期認知症から来るのかどうしても迷った場合、まずうつ病の治療をする。それで改善しなければ、さらに認知症の精査治療をしていくという具合だ。 もうひとつ、大事なことがある』、「うつ病では海馬の働きが元に戻るのに対し、認知症では戻らない点が異なる。抑うつが治まっても物忘れが回復しなければ認知症といえる」、なるほど。
・『若いころのうつ病は、認知症を「通常の3.76倍」引き起こす? それはうつ病自体が認知症のリスク因子になることだ。 専門家の研究では、若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる。また、病院受診したアルツハイマー型認知症患者のうち半数近くがうつ病かそれに近い状態との報告もある。 冬木さんばかりでなく、うつ病の患者が後に認知症となるケースは当院でも数多く経験している。 60代の男性Aさん。スーパーの副店長をしていた40代の頃、過労でうつ病になり、仕事を辞めることになった。その後、いらいらがひどくなり、隣人ともめ警察沙汰となって、当院を受診。若年性認知症を疑い、頭部MRIを撮ったところ、大脳が萎縮していた。今では毎朝、日付を妻に確認しながら生活している。 若いころのうつ病は、認知症を「通常の3.76倍」引き起こす? それはうつ病自体が認知症のリスク因子になることだ。 専門家の研究では、若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる。また、病院受診したアルツハイマー型認知症患者のうち半数近くがうつ病かそれに近い状態との報告もある。 冬木さんばかりでなく、うつ病の患者が後に認知症となるケースは当院でも数多く経験している。 60代の男性Aさん。スーパーの副店長をしていた40代の頃、過労でうつ病になり、仕事を辞めることになった。その後、いらいらがひどくなり、隣人ともめ警察沙汰となって、当院を受診。若年性認知症を疑い、頭部MRIを撮ったところ、大脳が萎縮していた。今では毎朝、日付を妻に確認しながら生活している。 80代の女性Bさんは2年半前、頭がもやもやすると当院を訪ねてきた。もともと神経質で、老年期のうつ病と診断し、抗うつ薬で改善した。しばらくして物忘れが目立ち始め、HDS-Rで10点しか取れず、認知症の治療を開始した。その後はむしろ抗うつ薬を止めたほうが気分は落ち着いた』、「若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる」、「うつ病」と「アルツハイマー型認知症」に、こんなに相関があるとは初めて知った。
・『生活習慣病、70代Cさんの場合 複雑な要因がからんで、診断や治療に悩むこともある。 70代の男性Cさん。胃潰瘍や高血圧、脂質異常などの生活習慣病で治療していた。ことし7月、新型コロナワクチン接種2回目を終えた2週間後から「頭がボーっとなり、体がだるくて」かかりつけ医受診。内科的異常はないのに眠れず、食欲不振で体重が減り、集中力も低下した。 内科治療で改善しないため、当院に紹介された。HDS-Rでは軽度認知症領域の18点。だが、これだけで診断するのは危険だ。うつ病の悪化時には認知症スクリーニングの検査結果が低く出ることがあるからだ。 さらにビタミン測定やADAS検査を行い、それでも確定しないため、原則に従って抗うつ薬処方から開始した。そもそもコロナワクチン後遺症の可能性も捨てきれない。臨床現場は難しい』、「臨床現場」の難しさが理解できた。
・『194万部のベストセラー「恍惚の人」…… ここまでうつ病と認知症の関係を述べてきて気になることがある。それは「認知症」という用語だ。 認知症という言葉が使われ始めたのは2004年と比較的新しい。それ以前に使われていた「痴呆」は言葉の意味が侮蔑的で病気の本質を正確に表していないとして、識者会議に諮(はか)られ、認知症に取って代えられた。 痴呆(ちほう)は確かに、耳に強く残る言葉だった。ただ、より記憶に残る言葉がある──「恍惚」 高度経済成長晩期の1972年、有吉佐和子の小説「恍惚の人」は年間売上げ194万部のベストセラーとなった。「こうこつ」という響きが、当時小学5年生だった私の耳に文字通りうっとりと残った。これがきっかけで認知症高齢者の介護問題に陽が当たった。 「恍惚」の出典は江戸時代の国史書「日本外史」で、頼山陽が戦国時代の武将三好長慶を称した「老いて病み、恍惚として人を知らず」から来ているという』、「「恍惚の人」は年間売上げ194万部のベストセラーとなった」、よく覚えている。
・『太宰治は認知症になっていたか? ただ、読書好きの私にとって恍惚といえば、むしろ太宰治だ。 「撰ばれてあることの恍惚と不安と二つ我にあり」(「晩年『葉』」より) 処女作の、しかも冒頭にフランスの詩人ヴェルレエヌを持ってくるなんてと思うが、太宰の人生を知るにつれ、このエピグラム(注)にうなずいた。 新宿の歩道で石がひとりでに歩くのを見て不思議に思わず、直後に子どもが糸を結んで引きずっていたのを知り、欺かれたことにさびしさを感じるでもなく、ただ「そんな天変地異をも平気で受け入れ得た彼自身の自棄(やけ)が淋しかった」と書いた太宰。 2020年の日本人男性の平均寿命は81.64歳。歴史に「もし」はないが、40歳まで1年を残して入水した太宰が天寿を全うしたら、うつ病と認知症の関係に従って「恍惚の人」となっていたかどうか──』、私には「天寿を全う」するような「太宰」は想像できない。
(注)エピグラム:警句(Wikipedia)
第三に、8月13日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した金田信一郎氏(肩書下記)による「がん治療で世界に取り残される日本。なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/278928
・『元日経ビジネス記者でジャーナリスト歴30年の金田信一郎は2020年3月、突然ステージ3の食道癌に襲われた。紹介された東京大学医学部附属病院(東大病院)に入院し、癌手術の第一人者で病院長が主治医になったが、曖昧な治療方針に違和感を拭えず、セカンドオピニオンを求めて転院。しかし転院先でも土壇場で手術をせず放射線による治療を選択し、今では以前とほぼ同じ日常を取り戻した。金田は先頃、自らの体験を題材にしたノンフィクション『ドキュメント がん治療選択』(ダイヤモンド社)を上梓した。2021年7月20日発売のニューズウィーク日本版(7月27日号)「ドキュメント 癌からの生還」特集では、200日の闘病記を16ページのルポルタージュにして収録。金田の闘いは、思考停止に陥った日本の医療体制、そして患者にも強烈な問いを投げ掛けている。「それが本当に最適な治療なのですか」と。どうすれば、この流れに歯止めをかけられるのか。以下に続く記事で金田は、その糸口を探るべく、元主治医たちのもとを訪ねる(本記事は2021年7月20日発売のニューズウィーク日本版(7月27日号)「ドキュメント 癌からの生還」の記事を転載しました、本文は敬称略)』、興味深そうだ。
・『日本特有の手術至上主義 こんな調査結果がある。 がん治療で世界に取り残される日本。なぜ手術至上主義から抜け出せないのか(先進各国で、肺癌ステージ1期の患者が、どのような治療を受けたか比較したデータだ。数字を見渡すと、欧米では「手術から放射線治療(SBRT)へ」という流れが見て取れる。 アメリカでは手術比率が71.9%(2005年)から60.3%(2012年)に減少し、逆に放射線治療が13.5%から25.8%に上昇している。欧州の調査(2015~16年)では、オランダで手術が47%に対して、放射線治療が41%と拮抗していることが分かる。 一方、日本の医療は全く様相が異なる。日本の肺癌1期の手術数は3万件(2014年)に上るが、同期間に放射線治療を受けた患者は1600人と全体の5%程度にとどまった。 「その後も、この比率は大きく変化していない」 この比較表を作成した大船中央病院放射線治療センター長(放射線医師)の武田篤也は、危機感を覚えている。日本の放射線治療が、欧米諸国に比べて劣っているわけではない。「もっと放射線治療のメリットを広めていかないと、『癌は切除するもの』が常識となって、本来、放射線を受けたかった人が手術に回されていく」 なぜ、日本だけが手術に偏った治療を続けているのか。外科の力が強く、「癌は切除したほうがいい」という考え方が根強いという理由だけではない。その背景には、医療を硬直化させている構図がある。 その原点をたどっていくと、ある転換点が浮かび上がってくる。 かつて日本の医療現場は、医師の裁量と自由度が高い「聖域」とされていた。診療所や開業医を中心に医療が展開され、彼らを中核に据えた日本医師会が強い政治的発言力を持つ時代が続いた。 だが、1990年を境にして様相が一変する。それまでの経済成長期には医療費の上昇をGDPの成長が覆い隠していたが、バブル崩壊で経済が停滞するなかで、医療費だけが膨らみ続けた。1990年に国民医療費のGDP比は4.6%だったが、2000年には約6%、2011年には8%近くまで上昇する。 2000年以降の急上昇の局面で医療の効率化が求められ、医師の裁量に大きく委ねられていた状態が問題視されるようになった。この時期、開業医比率が大きく減少し、抵抗力を失っていくなか、データによって成果が高いとされる治療に絞り込む、「標準化」の波が襲ってくる。 既に欧米では、1990年代初頭から「エビデンス革命」が吹き荒れていた。1991年、カナダの医師ゴードン・ガイヤットが「エビデンスに基づく医療(EBM)」を提唱。続いて第一人者のカナダの医師デービッド・サケットが論文(「エビデンスに基づく医療 それは何であり、何でないのか」)を発表し、世界に広まっていく。 経験知による医療の死角を克服するためにも、臨床試験等による結果(エビデンス)を重視して治療法を決める──。その方法論は、医療費の肥大化に悩む日本にも到来する。 2000年代、日本ではエビデンスを基にした「標準治療」を確立する動きが加速する。06年には「がん医療の均てん化(全国どこでも癌の標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること)」を謳ったがん対策基本法が成立。実績が高い治療法を示した「診療ガイドライン」がネット上で公開され、全国の医療現場に広まっていった。 そこに日本独特の、全国で一本化された診療報酬制度が「総額の上限」として機能し、医療費の抑制に成功する。2011年以降も、国民医療費はGDP比8%以下の水準で推移している。 その決定システムには、政官業の微妙な力学が働いている。まず、官(財務省)が医療費の引き下げを要請するが、一方で業(医療界)が引き上げの必要性を訴える。すると、官(厚生労働省)が調整し、政(内閣)が妥結策を最終決定する。この政官業のトライアングルがバランスを取り、医療費を一定の比率に保つ。 だが、この決定過程には、医療の中心にいるはずの患者の視点が欠落している。そして、一見すると均衡しているかに見える医療は、「患者不在」のまま、その中身が大きな変化を遂げることになる。(2021年8月15日公開記事へ続く)』、「日本ではエビデンスを基にした「標準治療」を確立」、「実績が高い治療法を示した「診療ガイドライン」がネット上で公開」、などは好ましいことだが、「患者不在」は確かに問題だ。「日本特有の手術至上主義」も困ったことだが、何故なのだろう。
・『どうしたら、自分に合った「がん治療」にめぐり合えるのか――。 突然、告げられた進行がん。 最初に入院した東大病院からは、抗がん剤1クールを終えて逃亡。 ようやく見つけた“神の手”を持つ外科医のいる転院先では、土壇場になって手術を回避。 抗がん剤治療の最中、執念で多くの名医に話を聞きながら、自分に合った治療を探し求めていく。 「切らずに治す方法はないのか」。 自分にぴったり合う治療法を探し求めて、奮闘した記録をすべて残した『ドキュメントがん治療選択』。 もがき、苦しみ、身体にメスを入れる直前、自分に合う治療法を探し当てた。だから、生き延びた――。 多くのがん患者や家族が悩む「治療選択」。それを考え抜く一つの道筋を描いたノンフィクション』、筆者は「手術至上主義」から脱出して、いろいろ経験して、結果も良かったのは幸運だ。
・『【ポイント1】突然のがん告知で焦るすべての人に向けた、自分に合う治療法の選び方が分かる 【ポイント2】セカンドオピニオン、転院するときのリアルなやり取りが分かる 【ポイント3】手術、放射線、抗がん剤で迷ったときのヒントが分かる 【ポイント4】本書を読み終えたら、きっと自分で治療法を選びたくなる ▽がんと告知されたら、まず読もう(【目次】■まえがき「東大病院をやめることにした」。その一言に、周囲は驚愕した。ステージ3のがんを抱えて、コロナ禍の中を「最適な医療」を求める旅がスタートする。 ■第一章 罹患 突然の嘔吐、そして地元のクリニックで胃カメラを入れると、そこには火山のように突起したガンがあった。「すぐに東大病院に行くように」。いきなり、最高の医療が提供されたかに思ったが……。 ■第二章 東大病院918号室 豪華な病棟のベッドに横たわっていた。強烈な抗がん剤が5日間連続で投与される。だが、病状も治療も納得できる説明がない。 ■第三章 逃亡 「何かがおかしい」。決裂覚悟で、セカンドオピニオンの紹介状を手に、東大病院を去る。 ■第四章 がんセンター5A病棟 資料を読みあさり、専門家を訪ね、「神の手」の名医に辿り着いた。だが、ふと疑問が沸いてくる。「手術でいいのか?」 ■第五章 疑念 「壮絶ですよ」。同じ食道がんの手術をした先輩から、生々しい話を聞かされる。なんとか、臓器を失わない方法はないのだろうか。 ■第六章 大転換 偶然知った放射線の名医から「できる」と言われて、メスが入る直前に、「放射線に転換する」と宣言する。 ■第七章 再々検査 前例の少ない抗がん剤5クールと放射線28回。副作用で免疫が急降下して、ドクターストップがかかる寸前に追い込まれる。そして、ついに最後の治療がスタートすることが決まる。 ■第八章 最後の夜 5回目となる入院で、がん告知から7ヵ月目にしてすべての治療を終えた。最後の点滴を終えて針が抜けると、夜が明けて、がんセンターの病棟に日が昇ってくる。 ■あとがき 同じ時期にガンの闘病をした友人が、病院が示す治療を拒否して半年で命を落とした。今も、年に100万人を数える新規がん患者たち。その人々が、納得できる「医療選択」ができる時代を考える』、全体として、バランスの取れた力作だ。特に、「同じ時期にガンの闘病をした友人が、病院が示す治療を拒否して半年で命を落とした」ケースも取上げているのは公平だ。
タグ:医療問題 (その33)(「幽霊病床」問題で露呈した 日本の病院に根付く深刻な不正受給体質、今うつ病 老いては認知症? 精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」、がん治療で世界に取り残される日本 なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02) ダイヤモンド・オンライン 窪田順生 「「幽霊病床」問題で露呈した、日本の病院に根付く深刻な不正受給体質」 「重症用ベッド1床につき最大1950万円、重症以外でも最大900万円、さらに緊急時に備えてベッドを空けておく「空床確保料」まで支払われる」、「補助金」がこんなにも手厚いとは初めて知った。それを「不正受給」するとは悪質だ。「不正受給」があれば、当然返還請求すべきだ。 「病院経営者の伝統的な不正テクニック」、改めてよくやるものだと呆れた。「なんちゃって急性期病床」とは、どういうことなのだろう。 「急性期病床は他国を圧倒するほど大量にあふれているが、そこで治療にあたる医療従事者数は他国とそれほど変わらない水準だ・・・他国より多い病床に人員を振り分けていくと当然、一つひとつの病床は他国よりも人手不足になる。それはつまり、他国よりも医療体制が「脆弱」ということだ。 これが他の先進国よりも医療インフラが充実している日本で、コロナ患者が入院できずに門前払いにされる根本的な原因だ」、その通りなのだろう。「「名ばかり急性期病床」のことを「なんちゃって急性期病床」と呼ぶ」、なるほど。 「急性期病床は・・・回復期より2割ほど入院代が高いといわれる。急性期を減らすと収入減につながるのを懸念」、抵抗があるかえ¥らといって、「病床再編」が進んでいないのは問題だ。 同感だが、総裁選挙に血道を挙げている自民党にはそんな力や意思はなさそうだ。 Forbes 小出 将則 「今うつ病、老いては認知症? 精神科医が見た3.76倍の「なりやすさ」 、確かに「豊富な知識を武器に教壇に立ってきた冬木さんにとって、「記憶が無くなっていく」認知症になることは恐怖以外の何物でもなかったのだろう」、その通りだ。 「初期のうちは本人も物忘れに自覚的で不安になるケースは多い」、しかし、「アルツハイマー病患者520人のうち、異変に気付いて1年以内に物忘れ外来を受診したのは9%に過ぎない」、なるほど。 「うつ病では海馬の働きが元に戻るのに対し、認知症では戻らない点が異なる。抑うつが治まっても物忘れが回復しなければ認知症といえる」、なるほど。 「若いころにうつ病になると、アルツハイマー型認知症になる可能性は通常の3.76倍、老年期にうつ病になると2.34倍も高くなる」、「うつ病」と「アルツハイマー型認知症」に、こんなに相関があるとは初めて知った。 「臨床現場」の難しさが理解できた。 「「恍惚の人」は年間売上げ194万部のベストセラーとなった」、よく覚えている。 私には「天寿を全う」するような「太宰」は想像できない。 (注)エピグラム:警句(Wikipedia) 金田信一郎 「がん治療で世界に取り残される日本。なぜ手術至上主義から抜け出せないのか ドキュメント「癌からの生還」#02」 「日本ではエビデンスを基にした「標準治療」を確立」、「実績が高い治療法を示した「診療ガイドライン」がネット上で公開」、などは好ましいことだが、「患者不在」は確かに問題だ。「日本特有の手術至上主義」も困ったことだが、何故なのだろう。 筆者は「手術至上主義」から脱出して、いろいろ経験して、結果も良かったのは幸運だ。 全体として、バランスの取れた力作だ。特に、「同じ時期にガンの闘病をした友人が、病院が示す治療を拒否して半年で命を落とした」ケースも取上げているのは公平だ。
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