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資本市場(その11)(SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択、80代高齢者から荒稼ぎ、三木証券のあきれた実態 口座数減で業績低迷の小規模証券会社が暴走、高齢者にリスク 十分説明せず外国株式販売 三木証券に過怠金、企業財務の論客が激論【前編】「PBR1倍割れ」の真因と解決策を示す) [金融]

資本市場については、本年8月17日に取上げた。今日は、(その11)(SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択、80代高齢者から荒稼ぎ、三木証券のあきれた実態 口座数減で業績低迷の小規模証券会社が暴走、高齢者にリスク 十分説明せず外国株式販売 三木証券に過怠金、企業財務の論客が激論【前編】「PBR1倍割れ」の真因と解決策を示す)である。

先ずは、9月4日付け東洋経済オンライン「SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/699113
・『「いよいよ来たか」。あるネット証券関係者は業界大手2社の発表を聞きつぶやいた。それはネット証券の地殻変動の号砲となるものだった。 最大手のSBI証券は8月31日、オンラインでの国内株式売買の手数料を9月30日発注分から無料にすると発表した。取引報告書などの各種交付書面を電子交付にすることが条件だが、ほとんどの利用者が手数料ゼロで日本株取引をできるようになる。 対抗するように同日、2位の楽天証券も10月2日約定分から国内株式の取引手数料無料コースを新設すると発表した。ネット証券の上位2社がそろって手数料無料化に踏み込んだことで、顧客の囲い込み競争は一層熱をおびることは間違いない』、「最大手のSBI証券」が仕掛けた「オンラインでの国内株式売買の手数料」「無料化」に、「2位の楽天証券も」やむなく追随せざるを得なかったのだろう。
・『楽天証券の追随には驚き  SBI証券の親会社であるSBIホールディングス(HD)の北尾吉孝会長兼社長は、2022年11月の決算説明会で「来年度(2023年度)の上半期にはオンラインの国内株式取引の売買手数料無料化を図る」と、発言していた。 それ以来、予定通りの無料化は可能なのか、関係者は固唾をのんで見守っていた。結局、公約通りの時期に無料化を実施することになった。 1年前の段階で、無料化方針を打ち出したにもかかわらず、具体的なプランの発表は実施1カ月前にずれ込んだ。その理由を広報担当は、「大量の顧客増が見込まれ、システム対応などを万全にするよう準備した結果」と説明する。 衝撃を与えたのは、ライバルである楽天証券も同じタイミングで無料化に踏み込んだことだ。楽天グループの傘下にあり、楽天証券や楽天投信投資顧問などを抱える楽天証券HDは7月に東証へ上場申請をしている。) 「この時期に無料化という大きな方針転換はできないのではないか」(大手証券幹部)という見方もあった。楠雄治社長は直前まで「検討はしているが、決まったことは何もない」と説明していたが、内部では着々と準備に動いていた。 個人の株取引において、2社の存在感は圧倒的だ。東証における個人の売買代金のうち、2022年度でSBI証券が占める割合は43.7%、楽天証券も33.5%ある(ETFやREIT含む)。この売買にかかる手数料が無料になれば日本市場の活性化にもつながる可能性がある。 折しも岸田政権が「資産運用立国」を掲げ、2024年1月からは新NISA(少額投資非課税制度)が始まるなど、個人の株式投資活発化に対する期待は高い。 SBI証券は8月31日のリリースで「『ゼロ革命』(国内株式売買手数料無料化)の意義は、『証券投資の大衆化』にあります」と説明。「『貯蓄から投資へ』の流れを加速し、広く国民一般の証券市場への積極的な参加を促進できるものと期待」すると謳った』、「東証における個人の売買代金のうち、2022年度でSBI証券が占める割合は43.7%、楽天証券も33.5%ある」、2社のシェアは本当に圧倒的だ。
・『路線修正を迫られた松井証券  こうした動きに対し、ほかのネット証券各社もすぐさま反応した。ある関係者は「黙って指をくわえて見ているわけにはいかない」と話す。 SBI証券、楽天証券に次ぐ規模を誇る松井証券は来年始まる新NISAでの日本株、米国株、投資信託の売買手数料を無料化すると発表した。 和里田聰社長はかねて「無料化には追随しない」と宣言。独自の情報提供やサポート体制を充実することで顧客をつなぎ止めることに注力してきた。しかし、路線の修正を迫られた。 松井証券は営業収益に占める株式委託手数料の割合が46%(2023年4~6月期)と高い。すべての手数料を無料にはできないものの、SBIの動きを看過できないという姿勢をにじませた。 マネックス証券もNISA対象の国内株売買手数料の無料化など現在行っている施策を今後も継続することや、米国株取引のサービス強化などをアピールするリリースを発表。現時点で手数料無料化に追随するとはしなかったものの、今後の検討課題になっている。 手数料無料化が経営に与える影響は重大だ。株取引の委託手数料は証券会社の収益にとって最も重要な柱のひとつでもある。) SBI証券の場合、2023年4~6月期の国内株式取引委託手数料は64億円だった。1年間同じ成績だったとすると250億円程度の収益だ。この分の収益がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた。さらには親会社であるSBIHDが銀行や資産運用など多くの事業を抱えている。 こうしたことから、本来ならば痛手となる「無料化」に踏み切れた。実際、SBIHDの年間利益予想は非開示だが、無料化を前提にしても少なくとも2024年3月期は前期並みの税前利益(IFRS)を確保できる見通しだ』、「SBI証券の場合、2023年4~6月期の国内株式取引委託手数料は64億円だった。1年間同じ成績だったとすると250億円程度の収益だ。この分の収益がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた・・・SBIHDの年間利益予想は非開示だが、無料化を前提にしても少なくとも2024年3月期は前期並みの税前利益(IFRS)を確保できる見通しだ」、なるほど。
・『楽天証券HDの公開価格に影響懸念  一方の楽天証券。同様に収益源の多様化を進めており、2023年1~6月期の収益に占める国内株式委託手数料は17.4%。 具体的な金額は非開示だが、この間の営業収益が540億円なので約94億円程度、年間の手数料収入は190億円程度になる計算だ。プラン選択により、一部手数料収入が残るが、その多くが無料化でゼロになる。 (SBI証券の委託手数料収入の比率、楽天証券の委託手数料収入の比率はリンク先参照) さらに楽天証券は悩ましい固有の事情を抱えている。先述したように、楽天証券HDが東証への上場手続きの真っ最中である点だ。「楽天証券として大きな減収が避けられない中、思うような株価で上場できないのではないか」。ある業界関係者はそう分析する。 親会社の楽天グループは、上場にあたって 放出する楽天証券HD株に一定水準の株価がつくことを期待している。楽天証券の手数料無料化による業績影響を織り込んで、株価が期待より低くなれば、楽天グループが手にする資金はその分だけ減る。 「モバイル事業に是が非でも資金を手にしたい楽天グループにとっては痛手になるはずだ」。前出の関係者はそう語る。 また、楽天証券にはみずほ証券が2022年11月、800億円で約20%出資している。楽天証券の収益が大きく下がれば、みずほ証券の出資分の価値が損なわれることになる。 それらの懸念を払拭するためには、楽天証券が単独かつ短期で収益を上向かせる「秘策」を練り上げなくてはならない。ただでさえ、ポイント制度の改正などの影響で新規口座数の伸びが鈍化している。2023年1~6月の新規口座数は60.9万口座。前年同期比で33.6%マイナスの状況だ。 手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない』、「楽天証券の収益が大きく下がれば、みずほ証券の出資分の価値が損なわれることになる。 それらの懸念を払拭するためには、楽天証券が単独かつ短期で収益を上向かせる「秘策」を練り上げなくてはならない。ただでさえ、ポイント制度の改正などの影響で新規口座数の伸びが鈍化している。2023年1~6月の新規口座数は60.9万口座。前年同期比で33.6%マイナスの状況だ。 手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない」、確かに「楽天証券」の今後は大変だ。

次に、9月24日付け東洋経済オンライン「80代高齢者から荒稼ぎ、三木証券のあきれた実態 口座数減で業績低迷の小規模証券会社が暴走」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/703707
・『営業員と話した内容を覚えていないととれる発言を繰り返す。勧誘内容とはまったく関係のない話を繰り返す。過去の担当者のことを突然話し始める。直前の会話を覚えていないために何度も同じ問答を繰り返す――。 そのような会話の成立しない高齢者に外国株の取引を行わせ、取引手数料を稼いでいた証券会社があった。 証券取引等監視委員会は9月15日、関東を地盤に活動する三木証券が不適切な営業を行っていたとして行政処分するよう金融庁に勧告した。勧告を受けて金融庁は、業務改善命令などの行政処分を検討する』、「行政処分」は次の記事で紹介する。
・『80歳~90歳代の客に不適切営業  監視委によると、三木証券は2020年4月以降、80歳~90歳代の顧客18人に、リスクを十分に理解させることなくアメリカのIT銘柄など外国株の取引を行わせていた。 ある顧客は8カ月で33回の売り買いをしていた。支払った手数料は、最も多い人で1460万円程度。数百万円を払った顧客も複数いた。ほかにも、新興国のテクノロジー関連企業に投資する投資信託の勧誘でも不適切な取り扱いがあった。 認知能力の衰えた高齢者に向けて、このような営業活動を行うよう、三木証券内部で組織的な指示があったわけではないという。一方で、多くの営業員が関わっており、事態の深刻さを物語っている。) 証券業界全体で顧客本位の業務運営が叫ばれている。それに逆行する三木証券の営業姿勢に驚きが広がった。 金融商品取引法は、顧客の知識や経験に照らして不適切な勧誘を行い、投資者の保護に欠けるおそれのある業務を行ってはならないとしている。これを「適合性の原則」という。 今回はこの適合性の原則に反した営業活動だったと、監視委は認定した。適合性原則違反での勧告は、今年6月のちばぎん証券に対するものに続く。 相次ぐ証券営業での不祥事に対し、日本証券業協会(日証協)の森田敏夫会長は、9月20日の会見で「非常に残念。報告書を見てきちんと対応を考えたい」とコメントした』、いまだに「適合性の原則に反した営業活動」が行われていたとは驚かされた。
・『「極端な収益至上主義」  ただ、こうした姿勢を改めるには一筋縄ではいかなさそうだ。 監視委は、無理な営業が横行した背景として「経営陣による極端な収益至上主義への転換」を挙げる。 顧客の高齢化により口座数が減少傾向にあったことなどで、三木証券は2016年度から4期連続の営業赤字に陥った。経営改善が喫緊の課題になっていた。そこで2020年4月以降、経営陣主導の下、主にアメリカ株への販売に注力した。 (三木証券の業績推移のグラフはリンク先参照) 経営資源が限られている中、販売商品を絞り込むことはほかの会社でもよくあることだ。アメリカ株販売の強化で三木証券は2020年度に営業黒字化を果たす。ところがこの黒字は、経営陣が率先してコンプライアンスを軽視したことにより実現したものだった。) 2019年6月に営業員評価制度を見直し、手数料収入実績を評価に直接反映するようにした。2022年1月には法令違反行為などを行った営業員の評価を下げる仕組みを撤廃。手数料収入に偏った不適切な営業を助長するような評価体制に移行していった。 こうした制度変更に批判的な社員に対するパワハラまがいの行為も横行していたという。営業車の使用を禁じ営業成績が下がったところで、降格処分をしていた。 外部からの指摘にも耳を傾けなかった。2018年には自主規制機関である日証協の検査で、コンプライアンス部門の人員不足を指摘されていた。 それにもかかわらず、赤字体質からの脱却と継続的な黒字化を図るため、社長自らが主導してコンプライアンス部門の担当社員を削減。2018年9月に14人いた監査部の社員が2022年9月には6人になっていた。 結果、日証協の高齢顧客ガイドラインで定められた確認事項も十分に確かめることなく「承認手続きは形骸化していた」(監視委勧告)』、「2018年には自主規制機関である日証協の検査で、コンプライアンス部門の人員不足を指摘されていた。 それにもかかわらず、赤字体質からの脱却と継続的な黒字化を図るため、社長自らが主導してコンプライアンス部門の担当社員を削減。2018年9月に14人いた監査部の社員が2022年9月には6人になっていた」、これは「社長」の確信犯だ。
・『顧客説明は正式処分後に  こうした状況に、日証協幹部もため息をつく。「顧客からの信頼がすべての地場証券でこんな営業をしていると広まったら、顧客はすぐに逃げていく。なぜここまでひどいことになったんだ」。 裏を返せば、背に腹を変えられないほど追い詰められていたのだろうか。 三木証券は、監視委が勧告を出した9月15日に「厳粛に受け止め、深く反省し、根本的な原因分析とその改善を図り、(中略)再発防止に努めてまいります」とのコメントを発表した。 ただ、コンプライアンス体制の見直しや顧客への説明といった具体的な対応は、金融庁からの処分を待ってから行う予定だ。 過度に手数料収益を追う施策をやめた後、経営を安定させられるかは未知数だ。顧客層の高齢化や契約口座数の減少は、避けがたい現状として立ちはだかっている。道を誤った中小証券会社の更生はあまりにも厳しい』、「過度に手数料収益を追う施策をやめた後、経営を安定させられるかは未知数だ。顧客層の高齢化や契約口座数の減少は、避けがたい現状として立ちはだかっている。道を誤った中小証券会社の更生はあまりにも厳しい」、その通りだ。

第三に、行政処分について、11月15日付けNHK「高齢者にリスク 十分説明せず外国株式販売 三木証券に過怠金」を紹介しよう。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231115/k10014258721000.html
・『リスクを判断する能力がない高齢者に対して、十分な説明をせずに外国の株式を販売したとして行政処分を受けた東京の証券会社「三木証券」に対し、日本証券業協会は、15日、8000万円の過怠金の支払いなどを命じる処分を出しました。 東京 中央区に本店がある三木証券は、数分前の会話を覚えていないといった顧客の様子からリスクを判断する能力がないと認識していながら、少なくとも18人の高齢者に対しリスクを十分に説明せずに外国の株式を販売したとして先月、関東財務局から一部の業務の停止を命じられるなどの行政処分を受けました。 これについて日本証券業協会は、この会社が手数料収入に偏った不適切な勧誘行為を助長する評価や報酬の仕組みを導入していたほか、顧客の利益を軽視した極端な営業優先の企業風土が形成されていたなどと指摘しました。 その上で、顧客の知識や経験、財産の状況などに照らして不適当と認められる勧誘を行ったことは投資家の保護に欠け、金融商品取引法に反するとして、三木証券に対し、8000万円の過怠金を支払うよう命じました。 さらに再発防止策などを盛り込んだ業務改善計画を実施し、その状況を書面で報告するよう勧告しました』、「8000万円の過怠金を支払うよう命じました」、さらに「顧客の知識や経験、財産の状況などに照らして不適当と認められる勧誘」した結果の取引が無効とされ、その分の損失も負担する必要がありそうだ。

第四に、11月9日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経営戦略デザインラボによる「企業財務の論客が激論【前編】「PBR1倍割れ」の真因と解決策を示す」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/331654
・『上場企業の「PBR1倍割れ」が取り沙汰されて久しい。企業価値向上が経営者の努めであることは論をまたず、1を超えて事足れりではむろんない。では、何が問題か。どう対処すべきか。早稲田大学経営管理研究科の西山茂教授、デュポン元CFOの橋本勝則氏、オムロン元執行役員グローバル理財本部長の大上高充氏と、当代きっての企業財務の論客が、CFO協会シニア・エグゼクティブの日置圭介氏のモデレートのもと、PBR1倍割れ問題を起点に、日本企業の構造的な経営課題、成長性を阻害する要因について語り合った。2回に分けてレポートする前編では、成長手段としての新規事業創出やM&A活用における桎梏、IR(投資家向け広報)での課題を分析し、それぞれの経験を踏まえた解決策を提示する。明日公開の後編では、コングロマリット・ディスカウントをどう考え、事業整理はどうすべきかの具体論から、日本全体としての経済成長論へと広がった議論の詳細をお伝えする』、興味深そうだ。
・『PBR1倍割れ問題の本質は何か  日置 東京証券取引所が今年3月、PBR(時価総額÷自己資本)1倍割れ等に関して上場企業への対応を要請して以来、この問題が投資家や経営者の間でよく取り沙汰されます。「1倍割れ=悪」との論調が大勢です。確かにコーポレートファイナンスの観点では、1倍割れは企業価値を毀損しているのでよくないことではあります。ただ、だからといって数値を上げるためだけに配当を上げるとか、自社株買いをするというのはあまりにも短絡的です。根本には、日本企業や産業の構造的な問題があると考えますが、いかがでしょうか。 西山 PBR1倍割れは企業価値を毀損していると言えますが、テクニカルにレバレッジを利かせればいいとか、配当を多くして株主還元すればいい、という話ではありません。これをひとつのきっかけとして、ROE(純利益÷自己資本)とPER(時価総額÷純利益)の問題として捉え(PBR=ROE×PER)、それぞれを上げていく、成長性も考えながら、事業の収益性や投資効率をしっかりレベルアップしていくことが肝要だと思います。 (西山 茂 教授の略歴はリンク先参照) 橋本 対症療法として1倍以上にするのではなく、実質的な成長が伴うように体質改善すべきです。また、株価形成に際しては、経営者がIRを通じてそのメッセージやストーリーをマーケットにしっかりと伝え、評価してもらう努力が必要です。その際、実現可能性のないストーリーを語って大風呂敷を広げるのではなく、確固たるビジネスプランがあることが大切です。アナリストには、そこをしっかり見極める目を持ってほしい。 大上 PBRの分子、すなわち企業価値そのものをいかにあげていくかが大切です。企業価値は将来のキャッシュフローを現在に割り戻した現在価値ですから、そのシナリオがきちんと描けているかどうかが本質ですね。 橋本 1.0は合格ラインでもなんでもない。PBRが1.1だったらセーフなどと考えている経営者はさすがにいないとは思いますが(笑)』、「PBR1倍割れは企業価値を毀損していると言えますが、テクニカルにレバレッジを利かせればいいとか、配当を多くして株主還元すればいい、という話ではありません。これをひとつのきっかけとして、ROE・・・とPER・・・の問題として捉え(PBR=ROE×PER)、それぞれを上げていく、成長性も考えながら、事業の収益性や投資効率をしっかりレベルアップしていくことが肝要」、確かにその通りだ。
・『新規事業はイシュー・ドリブンで  日置 小手先の数値ではなく、企業価値を本質的に上げようとする場合、その手段として、オーガニック成長とM&Aという二つがあると思います。いずれにしても、橋本さんがおっしゃったように、新しい成長のストーリーをうち出していく必要があるが、日本企業はそれがない。 PBRの分子を大きくする、すなわち成長を考えるに当たっての新規事業に関してですが、日本の大企業の構造問題のひとつとして、新規事業が生まれにくいということがあります。大上さんは、実際オムロンの中でCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)なども関わった経験がおありで、そのあたりはどうご覧になりますか。 大上 スタートアップに関わる仕事をしていますが、今の時代は、社会・経済システムの移行期にあり、新旧の価値観がぶつかり合ってさまざまな社会課題が噴出して、新しい事業のネタは豊富です。ESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス))、とりわけ環境に関する問題には、多くのスタートアップが様々な手段で社会課題の解決にチャレンジしています。 大手企業でも新規事業に取り組まれていますが、どのように経営資源をマネジメントするかが、企業の成長にとって重要になってきます。高い技術を持ちながらも、技術を事業化していくところが、日本企業が下手な部分であると思います。 大上 高充氏の略歴はリンク先参照) 日置 その原因をどのように見ていますか。 大上 起点が社会課題でなく、自社の強みが先に立ってしまいがちなところではないでしょうか。まず、解決したい大きな社会的課題を採り上げ、それに対して、どのように自社の資産を生かしていくかという、逆方向の発想が必要ではないかと思います。 日置 テクノロジー・ドリブンではなく、イシュー・ドリブンということですね。たとえば、橋本さんがいらしたデュポンは、2002年に200周年を迎えたタイミングで、300周年を迎えるときにはどういう会社でありたいかを検討した際にメガトレンド分析をして、自社が取り組むべき社会課題を特定。その後はそれに照らしながら、大きく既存事業を外しながら、小さく新規事業を興してという形で、事業の入れ替えを盛んにやってきていますね。どういうメカニズムで行われていたのですか。 橋本 新規事業開発(ニュー・ビジネス・デベロップメント)みたいなイニシアチブに、その仕組みがありました。日本企業と違うポイントは、日本ではR&Dなど開発ドリブンからスタートしがちなところを、デュポンでは早い段階から、いかにビジネスにつなげていくかという観点で、将来性のあるアイデアを見つけようとしていました。 デュポンの開発部門では、ある程度上のクラスの社員は専門分野のPhDを持っている人が多く、加えてMBAも持っているので、ビジネスをどう回していくかという基盤があるのです。テクノロジーとビジネスの両方がわかっていないと、ビジネスに結びつく研究開発にはなりにくい。 橋本 勝則氏の略歴はリンク先参照) 日置 一人の社員が併せ持っていないなら、そこは組織として両方の側の人材を担保するという作り込みが必要ですね。 橋本 デュポンでは開発チームの中に、ビジネスマインドを持った人物が早い段階で入ります。R&D部門付きのFP&A(Financial Planning & Analysis。財務や会計の知識をもとに企業戦略のアドバイスを行う職種)のような、ファイナンスの担当者が必ずいます。そこが日本企業の開発部門との大きな違いですね。デュポンではその担当者をビジネス・ファイナンスという言い方をしていました。 日置 IBMのファイナンスも同様の動きをしていると聞きました。ファイナンスの担当者は事業部門に対して統制もするけれど、事業部門にやりたいことがあるときは、やらせてあげられるようリソース調整を試みる。そうしないと、ファイナンス部門の言うことを聞いてくれなくなるから。そこはうまくバランスをとりながらやっていると。 大上 ある意味、その構図はスタートアップとVC(ベンチャーキャピタル)の構図に通じるところがあると思います。スタートアップのディープテック(研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術)に対して、トータルでのリスクとリターンというファイナンス的な価値思考で、出資を判断し、場合によっては支援します。 西山 日本企業の新規事業の探索や立ち上げに関する難しさを考えるとき、三つほどポイントがあると思います。第一に、企業側が社会や顧客のニーズからというよりも、既存のビジネスから発想しがちなこと。第二に、従来と発想を変えるためには、内部の人材だけでは限界があること。第三に、「3年で成果を出しなさい」といった評価軸の問題があること。一つ目と二つ目については、オープンイノベーションなども試みていると思いますが、もっと外部との連携をうまくやっていくことが必要だと思います。最近は、優秀な若手で新規事業やスタートアップをやりたい人も多いですから。 日置 オープンイノベーションが下手な企業は、外部に何かを探しに行ってしまう。それこそオープンに(笑)。もちろん「飛び地」みたいな話もあるかもしれませんが、単に飛び地を求めただけでは、そこからビジネスに仕立て上げることは到底できませんよね。さきほどから話に出ているようにビジネスとしてのストーリーがあり、その中でうまく発展させていく視点がないとダメですね。 橋本 評価のお話が出ましたが、一般論として、そもそも大企業は多くの人が安定を求めて入社している。新規事業では、多少山っ気があって博打をうてるくらいの人がいないと(笑)。なおかつ人事考課が減点方式なので、どちらかというと、何もしないでじっとしていたほうが減点されずに相対的に評価が高くなってしまう。 日置 そうしたときに、問題になるのが多様性です。多様性と言うと、日本企業の場合、まだまだ管理職の男女比率などデモグラフィー型で、かつ数値的なことに注力しがちですが、ダイバーシティを考える時にはタスク型の発想が大事です。中途採用は拡大していますが、新卒一括採用のあり方についても本気で再考すべきですね。 大上さんが指摘されたようなVCの役割は、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターのイノベーションの理論でも、銀行の役割の大切さが論じられています。いかにリスクをとって、きちんとレバレッジがかけられるかを含めたファイナンス感覚を、組織の基本動作の中に収めておくことが大事だなと感じます。 大上 いまや電池などハードの開発にも必ずAIが関わってくる。そうすると、まったく分野の違う技術者同士が混ざらないとやっていけない。シリコンバレーはそうしたエコシステムもよくできています。異質な人同士が出会う「場づくり」のようなこと、異質な研究者同士をつなぐ役割もVCが担っているところがある。もっと幅広く、交わるというか、多様性をつくっていかなければこれからの競争に負けてしまうという危機感があります。 日置 新規事業には、図のような「シックスパック」が必要だと考えています。きちんと腹筋が鍛えられてないと代謝を高めたりまともな運動ができなかったりというように、「いくらイノベーションの掛け声を上げたところで、企業の体質が整っていないと強い新規事業を生み出すことはできないでしょう?」という意味です。 図表の「ならではの眼差し」は、メガトレンドなど長期的な社会動向を追いかけること自体はよいのですが、コンサルや調査会社からやみくもに情報を集め、それを整理整頓するだけでは差別化を生み出すためのインプットにはなりません。自社で持つリレーションを最大限活用して一次情報に当たるとか、これまでの経営のコンテクストの中で培ってきたものの見方などによって、独自の知見やインテリジェンスとして積み上げられるかが問われます。 「小さく起こし、大きくたたむ」は、デュポンがまさにそうですが、新陳代謝を絶えず起こして、リソースをきちんとシフトする。例えば、新しい事業のためのリソースは、既存の事業の売却により調達するといった企業行動です。 「共通言語」は、難しいリソース配分の判断をブラさないように、各事業の持つキャッシュ創出力や成長率などをきちんと数字で表し、各事業の位置付けに関して共通認識を持てるようにするということです。ただし、全てを数字で表現できるわけでもありません。新規事業に限らず全ての経営判断のベースとなる自社の価値観や、自社の保有する技術やビジネモデルなどの強みやその裏にある弱みも共通言語として重要です。現実の判断は数字というハードと価値観のようなソフト、両方の共通言語を加味して行われます。 「自由と規律のバランス」は、ステージゲート法などのように、新規事業のプロジェクトの進捗をがっちり管理する体制がありつつ、他方で博打が打てる人材を擁するといった、「遊び」の部分というかアローワンスもなければならないということ。両者のバランスをどう取るか。勤務時間の一定割合を自分独自のプロジェクトに充てるよう奨励する、スリーエムの15%ルールやグーグルの20%ルールに近い話かもしれません。 「キャッシュ思考」は、単年のPL思考ではなく、キャッシュで物事を考えて、この企業が将来どうなるかというビジョンを持つ。 また、評価はもちろん大事なのですが、それ以上にエンジニアが称賛され尊敬される環境であることも大切です。エンジニアが楽しそうに働いている企業は、イノベーティブである確率が高いのではないでしょうか。 橋本 デュポンをはじめ欧米企業では、エンジニアには「フェロー」という肩書きをつけています。「大学の特別研究員」「最上位」のニュアンスを持つ言葉であり、一種の名誉ですね』、「日本企業と違うポイントは、日本ではR&Dなど開発ドリブンからスタートしがちなところを、デュポンでは早い段階から、いかにビジネスにつなげていくかという観点で、将来性のあるアイデアを見つけようとしていました。 デュポンの開発部門では、ある程度上のクラスの社員は専門分野のPhDを持っている人が多く、加えてMBAも持っているので、ビジネスをどう回していくかという基盤があるのです。テクノロジーとビジネスの両方がわかっていないと、ビジネスに結びつく研究開発にはなりにくい」、「ある程度上のクラスの社員は専門分野のPhDを持っている人が多く、加えてMBAも持っている」、これは大きなハンディキャップだ。「自由と規律のバランス」は、ステージゲート法などのように、新規事業のプロジェクトの進捗をがっちり管理する体制がありつつ、他方で博打が打てる人材を擁するといった、「遊び」の部分というかアローワンスもなければならないということ。両者のバランスをどう取るか。勤務時間の一定割合を自分独自のプロジェクトに充てるよう奨励する、スリーエムの15%ルールやグーグルの20%ルールに近い話かもしれません・・・評価はもちろん大事なのですが、それ以上にエンジニアが称賛され尊敬される環境であることも大切です。エンジニアが楽しそうに働いている企業は、イノベーティブである確率が高いのではないでしょうか。 橋本 デュポンをはじめ欧米企業では、エンジニアには「フェロー」という肩書きをつけています。「大学の特別研究員」「最上位」のニュアンスを持つ言葉であり、一種の名誉ですね」、なるほど。
・『M&A成功の肝はコア・バリューの浸透  日置 続いて、成長のための、もう一つの手段としてのM&Aについて、日本企業の構造的な問題について議論したいと思います。デュポンから学べるところをまずお聞きしたいのですが。 橋本 PMI(M&A後の統合プロセス)で、一番肝になるのはコア・バリューの浸透ですね。それができてこそ同じ傘の下でビジネスをやるという共通認識につながります。買収会社と被買収会社の両者が同じようなコア・バリューを持っているのです。一方、日本企業の多くは、買収企業と被買収企業の間に占領軍と植民地のような上下関係が歴然とある。デュポンではそれはなくて、同等です」、これは致命的な格差だ。「デュポンのアニュアルレポートを昔から見ているのですが、そのときどきで、事業ごとに比較対象の同業他社をベンチマークしていますよね。買収前の段階から「この会社なら合いそうだ」ということも議論するのでしょうか。 橋本 ベンチマークは出していますね。買収は、相手先の技術が欲しいということが最初の取っかかりとなりますが、副次的にはそういう企業文化もしっかり見ています。 大上 コア・バリューの浸透はとても大事だと思います。もうひとつ、買収先会社の価値を上げられているのかという発想も欠かせないと思います。その会社の価値を数年後にいくらまで上げられるか。 買収する側のシナジー効果も重要ですが、買収元会社が持つ有形・無形資産を使って、買収先会社の価値をどれだけ上げられるかという発想が必要です。買収先の企業の価値が上がってこそ、買収元会社のシナジー効果も出てくる。 大企業がスタートアップ企業へ投資していく際にも同じことが言えます。「投資先の企業価値をわれわれは上げることができるのか」、を問わなければならない」、その通りだ。「CVCが出資する場合、最初から大企業の論理で、自分たちに取り込むという考え方をしているとうまくいかない。スタートアップファーストで考えて、お金だけでなく、大企業が持つチームとか技術などの無形資産を活用して、買収先のスタートアップ企業の価値をいかに上げていくかという発想が要る。社会課題解決を目的に、キャピタルゲイン最大化をKPIとして投資をしていく会社も少しずつ出てきているかなと思います。 日置 大企業側はシーズを探しているし、スタートアップ側はリソース、キャパシティを探しているので、そこのマッチングをすることで、よりお互いに入り込んだ議論ができて、ビジネス展開も進みそうですね。 橋本 デュポンの経験でいうと、シナジーでこれだけ見込めるということを、M&Aの際に必ず算出しますが、それは決して安直な数字ではありません。1項目ずつリスト化されたものを足し上げたものです。それを内部監査が入ってチェックするプロセスがあります。バリデーション(validation)ですね。 日置 ダウ・ケミカルと統合したときも、そこは相当やっていたという印象があります。アップサイドとダウンサイド、成功シナリオと失敗シナリオの数字が出ていましたね」、作成するのは大変そうだ。 「「M&A人口は多いけど、M&A人材は少ないのではないか」ということをよく話します。社内のスプレッドシートに数字を入力して、投資承認が通るか通らないか、それこそゲームのようなことをしておしまい。その会社を買って、それをどのように事業として育て上げるのかとか、エグジットとしてどうするのかというところまで、一貫して責任を持ってやっている感じがしないM&Aが時々ある。投資銀行ならそれでもいいのかもしれませんが、事業会社では問題ですね。 (日置 圭介氏の略歴はリンク先参照) 大上 日本企業はリスクサイドのデューデリジェンスは一生懸命やっているのに、ビジネスの成長、ビジネスデューデリジェンスについては、事業部に任せているケースが多い印象があります。 日置 安易に外部の証券会社や投資銀行から持ってこられた案件に飛びつかないといったことも含めて、いかにM&Aを自分事として位置づけられるか。企業の中でのM&Aの位置づけをもっと明確にしたほうがいいですね」、なるほど。 「PMI(M&A後の統合プロセス)で、一番肝になるのはコア・バリューの浸透ですね。それができてこそ同じ傘の下でビジネスをやるという共通認識につながります。買収会社と被買収会社の両者が同じようなコア・バリューを持っているのです。一方、日本企業の多くは、買収企業と被買収企業の間に占領軍と植民地のような上下関係が歴然とある。デュポンではそれはなくて、同等です」、これはデュポンの考え方の方が優れている。「デュポンのアニュアルレポートを昔から見ているのですが、そのときどきで、事業ごとに比較対象の同業他社をベンチマークしていますよね。買収前の段階から「この会社なら合いそうだ」ということも議論するのでしょうか。 橋本 ベンチマークは出していますね。買収は、相手先の技術が欲しいということが最初の取っかかりとなりますが、副次的にはそういう企業文化もしっかり見ています・・・買収先会社の価値を上げられているのかという発想も欠かせないと思います。その会社の価値を数年後にいくらまで上げられるか。 買収する側のシナジー効果も重要ですが、買収元会社が持つ有形・無形資産を使って、買収先会社の価値をどれだけ上げられるかという発想が必要です。買収先の企業の価値が上がってこそ、買収元会社のシナジー効果も出てくる。 大企業がスタートアップ企業へ投資していく際にも同じことが言えます・・・日本企業はリスクサイドのデューデリジェンスは一生懸命やっているのに、ビジネスの成長、ビジネスデューデリジェンスについては、事業部に任せているケースが多い印象があります。 日置 安易に外部の証券会社や投資銀行から持ってこられた案件に飛びつかないといったことも含めて、いかにM&Aを自分事として位置づけられるか。企業の中でのM&Aの位置づけをもっと明確にしたほうがいいですね・・・」、同感である。
・『自社のスタンスを市場に明確に伝える  日置 ここまでは実際に成長するための手段の話でしたが、ではそれをどうやってアピールしていくかという観点で、マーケットとの対話について考えてみたいと思います。これはオムロンが日本企業のなかでは早い段階から意識的にしてきたことで、学べる教訓がたくさんあると思います。 大上 オムロンは、1990年代からステークホルダーとの対話を重視するスタンスでした。そこから世の中の流れを捉えて多くを学び、それを社内で消化しながらガバナンスを進化させてきました。求められているのは、SDGsなりダイバーシティなり、時々の社会要請を横並び的に「やらねばならない」と議論をするのでなく、本質を掘り下げたうえで、「Comply or Explain(「ルールに従え(comply)、従わないのであれば、その理由を説明せよ(explain)」することです。受け身でなく、きちんと自分たちのスタンスを明確にして自ら行動し、対話するとことが大事だと思います。 日置 受け身だと、アナリストや株主から追い込まれる一方になりますよね。投資家との対話もなんだかちぐはぐで、comply しているのにさらにexplainしている会社もあったりする(笑)」。「「Comply or Explain(」をきちんとしているとはたいしたものだ。「海外のアナリストの場合、自分の予想が外れると、自分の予測モデルの問題にも関わってくるので、日本に比べて「ツッコミ」が激しい。それで必要に迫られて上手にならざるを得ないという感じですね。 一度、苦い経験があって、四半期決算発表日の2、3日前に業績が予想レンジから外れてしまうという開示をしたところ、アナリストから、「なぜもっと早い段階で市場に伝えられなかったのか?」と業績の下方修正もさることながら、適時に業績を把握できているのかという経営陣の手腕を随分たたかれました。アナリストは予想がぶれれば、いち早くマーケットに伝えるということが求められていますので。そういう意味で、経営者に対するアナリストを中心としたマーケットの見方は本当に厳しいものがあります。 もう一点、海外は、前年の4~6月と今年の4~6月、前年の7~9月と今年の7~9月という形で、純粋に四半期の結果を見比べますが、日本は四半期ごとに累計されて、第3四半期なら、4月〜12月までを見る。 日置 累計で比べると、以前に開示した時の差分に今期間の差分が相まって要因分析が分かりにくくなりそうですね。一方で、長期のビジネスの方向感というのも投資家とのコミュニケーションに必要だと思うのですが、この点はどうですか。 橋本 デュポンでは、ビジネスセグメントごとに、翌年の単年はもちろん、向こう3年ぐらいについても、成長率や、収益のトップラインとボトムラインの両方を公表します。社内の業績管理では、3×6=18カ月の6クオーターのローリング予測数字を出すのです。この数字の根拠はまず、いわゆるS&OP(販売・生産計画)があり、その延長が18カ月まで延びているイメージです。オペレーションと計画が一気通貫になっているので、日本企業のように、業績数字と関連のない中計の数字が浮いているということはない。 大上 オムロンでは10年ごとに長期ビジョンを策定していますが、世の中がどのように変わっていくかということを予測し、その中で自分たちの目指す姿を描き、そこからバックキャストで自分たちがやるべきことを示します。根底にある投資家との対話の共通言語はファイナンスの考え方や企業価値そのものです。 たとえば、資本コスト8%、つまり期待収益率8%といった時、10年間経つと、株価上昇+配当を合わせた累計でだいたい当初の投資額の2倍くらいになりますよね。 西山 利回りを複利で積み重ねれば、だいたい10年で投資額の2倍+αぐらいになる感じですね。 大上 それが共通言語として根底にあって、ここを意識して投資家と対話をするということですね。企業価値の向上ということを掲げている会社は多いですが、具体的に資本コストを意識してできているかが重要です。 橋本 それをキャッシュフローで。 大上 ええ。その水準まで企業価値を上げられていないのなら、配当や自己株取得という形のリターンで報いていくということも選択肢としてあるわけです。 日置 日本企業は投資家に話すときに、客観的な視点が足りない気がします。投資家に話しているのに、自分たちの目標の話に終始している。投資家にしてみれば、その企業は同じ業種の中での選択肢の一つでしかないのに、企業側は同業間で比べられた時、自社がどう見られているのかという想像が足りない。統合報告書のボリュームがどんどん増えていることも気になっているのですが、投資家から「どこも社会課題を掲げ、新規事業もやっているが、皆、同じテーマを掲げていて特徴がない」と見えてしまう。目線は広げつつも、少しメッセージを絞る、それだけで違う風景が見えてくると思うのですが。 橋本 かつて経営者の中に、「短期の投資家のために、なぜ手間をかけて四半期決算の開示をしなくてはならないのか」と不満気だった人がいましたが、不思議なことを言うなと思いました。「最低限、四半期で業績を互いに開示することで、同業の中での位置づけがわかる。他社の結果がわからなくて、どういう戦略を立てるのですか」と言いたくなりました(笑)。 自社の数字を出し、同業の競争相手の数字を見て、万一下回っているなら、競合に勝つ戦略を立てなくてはいけない。そういう見方がなかなかできていないですね。先程のお話の通り、投資家から見れば同じセグメントの中で競合他社のA社に張るのか、自社に張るのか、どちらをオーバーウェイトするかの判断材料になるわけですから、そうした舞台裏をもっと意識しながら戦略を立てるべきです。 西山 私も、日本企業のIRはやや受け身の傾向が強いように感じます。また、CEOやCFOと、他の役員との間にIRに対する温度差もあるように感じています。 橋本 日本企業の多くは投資家説明会にCFOとせいぜいその下にいるコントローラー(経営管理担当者)ぐらいしか出席しない。デュポンでは、CEOとCFOが必ず出て、加えてそのときどきでトピックスのある事業部のリーダーとスタッフが出席します。 日置 市場が評価する企業価値は、企業への期待値ということであるので、その期待値をどうつくっていくか。根拠を持った上で、客観的に自社を評価し、しっかりアピールすることが大事ですね。 →後編は11月10日に公開いたします』、「オムロンは、1990年代からステークホルダーとの対話を重視するスタンスでした。そこから世の中の流れを捉えて多くを学び、それを社内で消化しながらガバナンスを進化させてきました。求められているのは、SDGsなりダイバーシティなり、時々の社会要請を横並び的に「やらねばならない」と議論をするのでなく、本質を掘り下げたうえで、「Comply or Explain(「ルールに従え(comply)、従わないのであれば、その理由を説明せよ(explain)」することです。受け身でなく、きちんと自分たちのスタンスを明確にして自ら行動し、対話するとことが大事だと思います」、「オムロン」がそんな進んだ姿勢で「ステークホルダーとの対話を重視」してきたとは初めて知った。今後、そうした目でみてみよう。
タグ:資本市場 経営戦略デザインラボによる「企業財務の論客が激論【前編】「PBR1倍割れ」の真因と解決策を示す」 ダイヤモンド・オンライン 「8000万円の過怠金を支払うよう命じました」、さらに「顧客の知識や経験、財産の状況などに照らして不適当と認められる勧誘」した結果の取引が無効とされ、その分の損失も負担する必要がありそうだ。 「PMI(M&A後の統合プロセス)で、一番肝になるのはコア・バリューの浸透ですね。それができてこそ同じ傘の下でビジネスをやるという共通認識につながります。買収会社と被買収会社の両者が同じようなコア・バリューを持っているのです。一方、日本企業の多くは、買収企業と被買収企業の間に占領軍と植民地のような上下関係が歴然とある。デュポンではそれはなくて、同等です」、これはデュポンの考え方の方が優れている。 PMI(M&A後の統合プロセス)で、一番肝になるのはコア・バリューの浸透ですね。それができてこそ同じ傘の下でビジネスをやるという共通認識につながります。買収会社と被買収会社の両者が同じようなコア・バリューを持っているのです。一方、日本企業の多くは、買収企業と被買収企業の間に占領軍と植民地のような上下関係が歴然とある。デュポンではそれはなくて、同等です」、これは致命的な格差だ。 時々の社会要請を横並び的に「やらねばならない」と議論をするのでなく、本質を掘り下げたうえで、「Comply or Explain(「ルールに従え(comply)、従わないのであれば、その理由を説明せよ(explain)」することです。受け身でなく、きちんと自分たちのスタンスを明確にして自ら行動し、対話するとことが大事だと思います」、「オムロン」がそんな進んだ姿勢で「ステークホルダーとの対話を重視」してきたとは初めて知った。今後、そうした目でみてみよう。 日置 安易に外部の証券会社や投資銀行から持ってこられた案件に飛びつかないといったことも含めて、いかにM&Aを自分事として位置づけられるか。企業の中でのM&Aの位置づけをもっと明確にしたほうがいいですね・・・」、同感である。 買収する側のシナジー効果も重要ですが、買収元会社が持つ有形・無形資産を使って、買収先会社の価値をどれだけ上げられるかという発想が必要です。買収先の企業の価値が上がってこそ、買収元会社のシナジー効果も出てくる。 大企業がスタートアップ企業へ投資していく際にも同じことが言えます・・・日本企業はリスクサイドのデューデリジェンスは一生懸命やっているのに、ビジネスの成長、ビジネスデューデリジェンスについては、事業部に任せているケースが多い印象があります。 種の名誉ですね」、なるほど。 両者のバランスをどう取るか。勤務時間の一定割合を自分独自のプロジェクトに充てるよう奨励する、スリーエムの15%ルールやグーグルの20%ルールに近い話かもしれません・・・評価はもちろん大事なのですが、それ以上にエンジニアが称賛され尊敬される環境であることも大切です。エンジニアが楽しそうに働いている企業は、イノベーティブである確率が高いのではないでしょうか。 橋本 デュポンをはじめ欧米企業では、エンジニアには「フェロー」という肩書きをつけています。「大学の特別研究員」「最上位」のニュアンスを持つ言葉であり、一 「ある程度上のクラスの社員は専門分野のPhDを持っている人が多く、加えてMBAも持っている」、これは大きなハンディキャップだ。「自由と規律のバランス」は、ステージゲート法などのように、新規事業のプロジェクトの進捗をがっちり管理する体制がありつつ、他方で博打が打てる人材を擁するといった、「遊び」の部分というかアローワンスもなければならないということ。 「日本企業と違うポイントは、日本ではR&Dなど開発ドリブンからスタートしがちなところを、デュポンでは早い段階から、いかにビジネスにつなげていくかという観点で、将来性のあるアイデアを見つけようとしていました。 デュポンの開発部門では、ある程度上のクラスの社員は専門分野のPhDを持っている人が多く、加えてMBAも持っているので、ビジネスをどう回していくかという基盤があるのです。テクノロジーとビジネスの両方がわかっていないと、ビジネスに結びつく研究開発にはなりにくい」、 「PBR1倍割れは企業価値を毀損していると言えますが、テクニカルにレバレッジを利かせればいいとか、配当を多くして株主還元すればいい、という話ではありません。これをひとつのきっかけとして、ROE・・・とPER・・・の問題として捉え(PBR=ROE×PER)、それぞれを上げていく、成長性も考えながら、事業の収益性や投資効率をしっかりレベルアップしていくことが肝要」、確かにその通りだ。 NHK「高齢者にリスク 十分説明せず外国株式販売 三木証券に過怠金」 「過度に手数料収益を追う施策をやめた後、経営を安定させられるかは未知数だ。顧客層の高齢化や契約口座数の減少は、避けがたい現状として立ちはだかっている。道を誤った中小証券会社の更生はあまりにも厳しい」、その通りだ。 「2018年には自主規制機関である日証協の検査で、コンプライアンス部門の人員不足を指摘されていた。 それにもかかわらず、赤字体質からの脱却と継続的な黒字化を図るため、社長自らが主導してコンプライアンス部門の担当社員を削減。2018年9月に14人いた監査部の社員が2022年9月には6人になっていた」、これは「社長」の確信犯だ。 いまだに「適合性の原則に反した営業活動」が行われていたとは驚かされた。 「行政処分」は次の記事で紹介する。 東洋経済オンライン「80代高齢者から荒稼ぎ、三木証券のあきれた実態 口座数減で業績低迷の小規模証券会社が暴走」 「楽天証券の収益が大きく下がれば、みずほ証券の出資分の価値が損なわれることになる。 それらの懸念を払拭するためには、楽天証券が単独かつ短期で収益を上向かせる「秘策」を練り上げなくてはならない。ただでさえ、ポイント制度の改正などの影響で新規口座数の伸びが鈍化している。2023年1~6月の新規口座数は60.9万口座。前年同期比で33.6%マイナスの状況だ。 手数料無料化で最も追い込まれたのは楽天証券かもしれない」、確かに「楽天証券」の今後は大変だ。 「SBI証券の場合、2023年4~6月期の国内株式取引委託手数料は64億円だった。1年間同じ成績だったとすると250億円程度の収益だ。この分の収益がなくなる一方、システム維持コストなどは引き続きかかるため、減収分がそのまま利益の押し下げ圧力になる。 こうした衝撃を和らげるため、投資信託や外国株、FXなど収益源の多様化を進めてきた・・・SBIHDの年間利益予想は非開示だが、無料化を前提にしても少なくとも2024年3月期は前期並みの税前利益(IFRS)を確保できる見通しだ」、なるほど。 「東証における個人の売買代金のうち、2022年度でSBI証券が占める割合は43.7%、楽天証券も33.5%ある」、2社のシェアは本当に圧倒的だ。 「最大手のSBI証券」が仕掛けた「オンラインでの国内株式売買の手数料」「無料化」に、「2位の楽天証券も」やむなく追随せざるを得なかったのだろう。 東洋経済オンライン「SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択」 (その11)(SBIvs.楽天で開幕!「国内株売買手数料ゼロ」競争 楽天証券は上場控える時期に収益減を自ら選択、80代高齢者から荒稼ぎ、三木証券のあきれた実態 口座数減で業績低迷の小規模証券会社が暴走、高齢者にリスク 十分説明せず外国株式販売 三木証券に過怠金、企業財務の論客が激論【前編】「PBR1倍割れ」の真因と解決策を示す)
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