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統計問題(その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ) [経済問題]

統計問題については、2019年3月3日に取上げた。今日は、(その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ)である。なお、タイトルから「不正」はカット。

先ずは、2021年12月29日付け東洋経済オンラインが掲載した ジャーナリストの黒崎 亜弓氏による「建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/479789
・『建設業の月々の受注状況を推計し、GDP(国内総生産)算出にも使われる「建設工事受注動態統計」で、国土交通省があきれるばかりの不正を行っていた。遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ』、「遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ」、なるほど。
・『ユーザー軽視、何のための統計なのか  建設受注統計そのものの金額は二重計上でどのくらい増えていたのだろうか。 これはわからない。2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」(所管は厚生労働省)の問題よりも深刻といえる。 ただ、国交省が会計検査院の指摘を受けた後、自ら合算を行っていた2020年1月分?2021年3月分については、当月に入力した調査票データと、書き換え合算を行ったデータの2つがあり、他の条件をそろえて受注高を算出比較すれば、二重計上のインパクトがわかるはずだ。 2020年1月分?2021年3月分については、参考値との差額として「平均して1月あたり1.2兆円」という数字が国会答弁で出ているが、これは二重計上によって生じた数字ではない。二重計上のとりやめで生じたマイナスと同時に行われた推計方法の変更によるプラスとを合わせた数字だ。) 建設受注統計で国交省は、2021年4月分から二重計上をやめると同時に、調査先を選ぶ母集団となる「建設施工統計調査」で捕捉漏れをカバーする変更を行っている。2020年1月分?2021年3月分の参考値とは、この2つの変更を反映したものだ。金額は捕捉漏れカバーで増え、二重計上をやめたことで減る。これを差し引きすると1.2兆円のプラスというわけだ。 この母集団の捕捉漏れカバーは、カバレッジ(推計が網羅する範囲)を拡大して統計精度を上げるため、つまり、より実態を表す統計にするために行われたものと思われるが、国交省のホームページではきちんと説明がなされておらず、誤解を招いている。 「ユーザーには何が変わったのかわからない。統計は調査方法や推計方法を公開し、推計方法を変えたら『数字の見方に気をつけてください』とアナウンスするのが基本だ。国交省はユーザーを軽視している」。こう指摘するのは、日本銀行で統計畑を歩んだ肥後雅博・東京大学大学院教授だ。総務省の統計委員会担当室に出向していた3年前には、厚労省の毎月勤労統計における不正を明らかにした。 国交省はどう改善すべきなのか、不正続きの公的統計を立て直すにはどうすればいいか、肥後教授に聞いた』、「2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」・・・の問題よりも深刻といえる」、酷い話だ。「肥後教授」は「日本銀行で統計畑を歩んだ」だけあって、適任だ。
・『回答してくれた大事なデータを生かせ  Q:国交省は、遅れて届く調査票をどう扱うべきだったのでしょうか。 肥後月次の作業に遅れて届いた前月分の数字は前月分として入力し、前月分の受注高を推計し直して改訂すべきだ。多くの統計は、締め切り時点で推計して速報を出し、1カ月ほど遅れて届いた分については確報段階で反映している。 Q:国交省は2021年4月分からは遅れて届いた調査票を合算せず、「年度報」のタイミングで反映させるとのことですが、それでは不十分なのですか。 肥後遅れて回答する人が多ければ、それでは統計精度が確保できない。建設受注統計はもともと回収率が60%台と低いのだから、遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる。) Q:公的統計は回答が義務であることから、未回答者に罰金を科すべきという声もあります。 肥後法的には正しいかもしれないが、現実的ではない。 Q:日銀が作成する統計は回答義務がないのに回収率が高い。日銀短観も企業物価指数(確報)も回収率は90%台です。 肥後それは企業に回答してもらえるまで電話をかけ続けるからだ。短観の締め切り直前は、未回答企業に毎朝かけてお願いする。それが日銀では当たり前で、それを部下に徹底させるのが上司としての私の仕事だった。 金融政策を適切に判断するには、経済情勢を見極めなければならず、そのためには統計がきちんと作成されていなければならない。その認識が総裁から全員に共有されている』、「遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる」、なるほど。
・『外部の有識者からの厳しい批判に応えた  Q:日銀の統計には定評がありますね。 肥後日銀が作成する企業物価指数や企業向けサービス価格指数だって、四半世紀前は問題が多かった。物価下落局面に差し掛かった1990年代、製品の品質向上による実質価格の低下や特売、リベートといった実勢を反映できていなかった。また、価格の捕捉が難しくカバーしていない品目もかなりの数に上っていた。 学者の先生方からは厳しい批判を受けた。物価指数の作成方法について説明したら、「こんな調査をやっているからダメなんだ」と言われ、私は恥ずかしかった。そこから必死に長い時間をかけて直してきた。 Q:日銀内部からも「政策判断が狂う」と非難されたのではないですか。 肥後問題があることを逆手にとって「改善が必要だ」と主張し、統計部署の人員と予算をなんとか確保した。それで今がある。 Q:いっそのこと、日銀が政府の統計作成を請け負えばいいのではと思ったりします。 肥後日銀に限らず、統計調査を担うリサーチ会社はいくつもあるが、統計作成をフルに民間委託にすれば、いま公的統計に費やしている費用よりもはるかに高くつくだろう。) Q:会計検査院の報告書によると、現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる。 Q:民間委託とすることにも問題点はありますか。 肥後公的統計を民間にどこまで任せていいのかという問題はある。個別の契約で守秘義務を遵守するように民間業者を縛っているとはいえ、調査対象者は、企業や個人の情報が漏れるのではないかと心配になるだろう。 それに、統計作成を民間任せにすると、役所の中でどんな統計を、どのように作成するかという企画立案ができなくなる。調査対象者が回答できないような調査項目を作ったりする。役所が統計の作成にしっかり関与して、外注するのは末端の業務だけにしなければ、統計部署が空洞化してしまう』、「現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる」、なるほど。
・『「不正」よりも「欠陥統計」が問題  Q:統計をめぐる体制の問題としては、3年前の毎月勤労統計問題を受けて、統計委員会が基幹統計を一斉点検していたのに、建設受注統計の不正は見過ごされていました。 肥後統計委員会にマンパワーが足りない。常勤の委員はおらず、事務局は委員会の運営で手一杯だ。点検対象とする統計を絞り、徹底的に調べるべきだと意見したのは私だけではなかったが、基幹統計を網羅することが優先された。56もの基幹統計を限られた期間で見るには、各省庁に統計ごとに調査票を記入させ、問題が見つかったと自己申告してきたものを取り上げるしかなかった。自己点検だった。 Q:どうすれば不正を見つけられるのでしょうか。 肥後チェック体制には3段階ある。現在の自己点検、相手の同意をもとにした点検、それに強制力を持った検査だ。自己点検では実効性がないことが今回わかった。 Q:今回、調査票の書き換えを発見したのは、検査権限を持つ会計検査院でした。 肥後強制力を持つ統計監督機関を設けるには、法体系を変えなければならない。不正があまりに多く、摘発が最優先であれば検討されるべきだろうが、強制力のある組織では統計精度の改善はできない。不正がそこまで多くなく、省庁と協力して統計精度を改善する必要があるのなら、統計委員会のようにフレンドリーな組織のほうがいい。) 私は、摘発を優先しなければならないほど不正が多いとは思っていない。むしろ、公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる。毎月勤労統計でも、公表データで整合性のつかない点について厚労省に質問したら、全数調査のところ3分の1に抽出していたと告白した』、「公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる」、なるほど。
・『3省合体「統計庁」で統計の専門人材育成を  Q:各省庁の専門人材不足に対しては、統計部署の一元化が必要と言われます。 肥後私が考えているのは、部分的な一元化だ。総務省統計局と統計行政部署、内閣府のGDPを作る部署、それに経済産業省の統計部署の3つが合体する。名付けるなら「統計庁」だろうか。統計委員会もそこに入る。統計庁は、GDP、産業連関表に加え、国勢調査、経済センサス、消費者物価指数、鉱工業指数など主要統計を作成する。 最大の目的は、統計人材を集め、育てることだ。3?4の局がある800~900人規模の組織であれば、統計を志す人を採用できる。内部で人事ローテーションができ、さまざまな統計を作るのでノウハウが蓄積する。 他の省庁から統計を集めるわけではない。各省庁の所管業務に密着した統計は、その省庁でなければ作れない。たとえば医療施設についての統計であれば、厚労省しか分類方法などわからない。雇用統計は労働行政と結びついているし、建設関連の統計は、国交省の許認可権や公共工事の発注と関わっている。 ただし、所管官庁では統計の専門人材が不足する。それを統計庁がサポート・監督することで補い、統計全体の質を確保する。統計庁にノウハウが蓄積されれば、他省庁の統計がどのように作られているのかもわかる。 Q:現実味はあるのでしょうか。 肥後省庁再編が相当困難な作業であることは承知している。統計庁が誕生したとしても、元の省庁から人員を交互に派遣するのでは形だけになる。 統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ』、「統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ」、同感である。

次に、2022年3月17日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏による「「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/299287
・『飲食サービス業の年収は141万円でしかない!  毎月勤労統計調査は、賃金に関する基本的なデータを提供する統計だ。 2021年確報によると、21年の現金給与総額は全産業計で年収383万円だ。これもずいぶん低い値だと感じるが、業種によっては驚くほど低いところもある。 例えば、「飲食サービス業等」の年収は141万円でしかない。一見したところ、極貧としか言いようがない状態だ。なぜこんなに低いのか? 本当にこんなに低いのだろうか? 実は、日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる』、「日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる」、なるほど。
・『パートタイム労働者の比率が鍵 飲食サービス業は77.7%と多い  パートタイム労働者の比率を業種別に見ると、図表1(後出)のとおりだ。産業計で31.28%だが、「飲食サービス業等」では77.66%と非常に高い。それに対して、建設業は5.67%、製造業は13.45%と低い。 (図表1:業種別のパート比率とFTE賃金など(2021年)はリンク先参照) そして、現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる。 ただ、労働時間が半分しかないのだから、複数の事業所で働いていることもあるだろう。それを考えれば、格差はもう少し縮まる』、「現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる」、なるほど。
・『「フルタイム当量」を計算すると 平均賃金は統計の数字ほど低くない  フルタイム労働者の約半分しか働かない人が約3割もいるということになれば、その人たちを含めた全体の平均賃金が低くなるのは当然だ。 そこで、これを調整するのに、FTE(full-time equivalent:フルタイム当量)という考えがある。 これについては、本コラム(2022年2月24日付)「日本の賃金『韓国の77%』は本当か、時代遅れの日本の賃金統計」で説明した。 例えば半分の時間しか働かない人は、1人とカウントするのではなくて、0.5人とカウントする方式である。) FTEの考え方を詳しく言えば、つぎのとおりだ。 労働時間比=(パートの労働時間)÷(一般労働者の労働時間) α=(一般労働者比率)+(パート比率)×(労働時間比) 実際の労働者数をnとすれば、FTEベースでの労働者数はαnだ。 賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる』、「賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる」、なるほど。
・『業種間の賃金格差は、統計で見るほど大きくない  この考え方に従って産業ごとにFTEベースでの労働者数を算出して賃金の修正をすると、図表1の右端欄のようになる。 これでもまだ飲食サービス業や小売業の平均賃金は低い。しかし、事態はだいぶ変わる。これは、政府の統計にあるのとはかなり違った姿だ。 αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ。 だから、FTEベースの賃金を求めるのは単に機械的な作業ではなく、政策判断には重要な意味を持つ作業だ。 日本企業の生産性は低いといわれてきた。とくに、サービス産業の生産性が低いといわれてきた。そのこと自体はこのような計算を行なっても変わらない。しかし、産業間の格差はこれまで考えられてきたよりはだいぶ縮まる』、「αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ」、「パート比率」の調整は実態に近づける。
・『パートが多いのは、ファミレスとコンビニ  パートタイム労働者の事業所規模別、企業規模別の就業状況については、「パートタイム労働者総合実態調査」(厚生労働省)がある。2016年のものでやや古いが、これを見ると、つぎのとおりだ。 (図表2 事業所規模別パート比率はリンク先参照) 図表2に見るように、パート比率は事業所規模と明確な相関がある。小規模事業所で高く、大規模事業所で低い。それに対して、企業規模別にはあまり大きな差が見られない。 つまり、パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している。 本来はこの点も考慮すべきだろうが、業種別・規模別のデータが得られなかったので、ここではその分析は行なわなかった』、「パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している」、その通りだ。
・『適切な政策のためには、 雇用形態の変化に応じる統計が必要  OECDの賃金統計はFTEベースのものだ。 日本政府が作成している統計に比べると、労働者の数は減る。また平均賃金は高くなる(ただし、これで計算しても、賃金が韓国に抜かれていること、時間的に上昇していないことに変わりはない)。 どの国でもパートタイム労働者が増えているので、FTEでないと、事態を正確につかめなくなっている。 アメリカの国民所得統計では、「フルタイム労働者」や「フルタイム賃金」が計算されている。 ILOは、コロナが雇用に与えた影響に関するレポートで、FTEによるデータで分析している。 日本でも、パートタイム労働者の増加が著しい。この変化に即した統計を作る必要がある。そうでないと、事態を正確に把握できず、適切な政策を行なえない。 いま、建設工事受注動態統計での不正な集計方法が問題とされている。毎月勤労統計調査でも、2019年に不正な集計方法が問題にされた。 確かにこれらは大きな問題だ。統計は、「正しい」手続きで作成されなければならない。ただし、それとともに、統計が「適切」なものかどうか、そして、それらが政策決定に使われているのかどうかも重要な問題だ。 適切な統計でなければ、政策に使うことができない。コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?』、「コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?」、「データ」を「活用」するためには、「統計が現実を適切に把握」するべくなるべく早目に「適切」に調整するべきだ。
タグ:統計問題 (その3)(建設受注統計で国交省が不正 その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く、「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ) 東洋経済オンライン 黒崎 亜弓氏による「建設受注統計で国交省が不正、その実態と問題点 統計のプロ・肥後雅博東大教授に改善策を聞く」 「遅れて届いた調査票の数字を書き換えて合算し、2013年4月分?2021年3月分は未回答分を平均値で補完したものとの二重計上となっていたのだ。 まず気になるのはGDPへの影響だが、これはあまり大きくはなさそうだ。 建設受注統計の内訳は土木と建築がほぼ半々だが、土木の部分だけが、月々の出来高を推計する建設総合統計に使われ、それがGDPに反映される。土木のうち公共事業の部分は後から財政データで上書きされる。二重計上の影響が残っている民間土木は建設投資の1割程度で年間6兆~7兆円、GDP全体の1%程度だ」、なる 「2019年分までは国交省は、都道府県に調査票の数字を消しゴムで消して書き換えさせていたといい、月ごとの数字が失われてしまっているからだ。調査票の元データが失われて復元推計ができない点は、3年前の「毎月勤労統計」・・・の問題よりも深刻といえる」、酷い話だ。「肥後教授」は「日本銀行で統計畑を歩んだ」だけあって、適任だ。 「遅れた数字を反映できるような公表体制を作るしかない。速報、確報、それに確々報と3段階で反映させ、あとは年度報で改訂するのが望ましいだろう。そのためにシステム改修を行い、作成・公表に必要な人員を確保する必要がある。 遅れても数字が届いたら、きちんと使うべきだ。遅れて出すのが悪いとよく言われるが、出さないよりは出してくれるほうがいい。未回答の欠測値をどれほど精緻なやり方で補完しても、回答者が提出する数字が一番正しい。出したのに数字を書き換えられたり、捨てられたりするのなら、誰も回答しなくなる」、なるほど。 「現在は都道府県の経費をのぞいて年間600億円程度です。 肥後その値段では民間ではとても作れない。きちんとした統計を作るにはお金がかかることを理解してほしい。今は安上がりである分、問題が多い。統計部署に限らないが、行政では人事ローテーションが短いうえに任期制職員も多く、専門的知識を組織のなかで継承することが難しくなっている。民間のほうが人材は充実しているから品質が上がる」、なるほど。 「公的統計が抱える最大の問題は、各省庁の専門人材の不足による「欠陥統計」の作成だ。 検査は、現行の統計委員会に、一定の統計の知見を持つ実務部隊が10人いれば機能するはずだ。強制力がなくても、公表資料を丹念に読み込み、疑問点を担当部署に質問していけば、問題はあぶり出せる」、なるほど。 「統計人材を育成するシステムを作らなければ、日本の公的統計はどんどん劣化して使い物にならなくなってしまう。今回の問題を機に、立て直しについて議論が行われることを期待している。これから10年間が正念場だ」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄氏による「「年収141万円」の飲食サービスは“極貧産業”なのか?日本の賃金統計のカラクリ」 「日本の賃金統計にある平均賃金の値は、実感に比べてかなり低いのだ。 パートタイムの労働者の比率が高いからで、これを調整する計算を行なってみると、統計にあるのとはかなり違う姿が現れる」、なるほど。 「現金給与総額(月額)は、一般労働者の41万9500円に対して、パートタイム労働者は9万9532円と、4分の1以下でしかない。 月間実労働時間は、一般労働者の162.1時間に対して、パートタイム労働者は78.8時間と、48.6%でしかない。 飲食サービス業ではパートタイム労働者が多く、その賃金が低いから、平均賃金が低くなるのだ。 もっとも、パートタイム労働者は一般の労働者に比べて労働時間が約半分で給与が約4分の1なのだから、時間給も一般労働者の半分程度ということになる」、なるほど。 「賃金支払い総額をPとすれば、これまでの統計では、平均賃金AはP/nと算出している。 FTEベースでの平均賃金は、P/(αn)=A/αだ。 例えば、「飲食サービス業等」は77.66%の人が40.46%の時間しか働かないのだから、αは0.54になる。 FTEベースでの平均賃金は、統計の数字の0.54分の1。つまり1.85倍になる。 したがって、現金給与総額は140.6万円ではなく、261.6万円ということになる」、なるほど。 「αの値は産業によって異なるので、あらゆる産業が一様に改訂されるのでなく、パート比率の高い業種の改定率が高くなる。 一番大きな修正になるのは飲食サービス業で、すでに述べたように1.85倍になる。それに対して電気・ガス業のαは0.99なので、ほとんど変らない。 だから、業種間の賃金格差は毎月勤労統計調査で見るより縮小することになる。 電気業と飲食サービス業の賃金を比べると、元の統計では4.9倍もある。しかし、FTEベースでは2.7倍だ」、「パート比率」の調整は実態に近づける。 「パートは小さな飲食店、あるいはファミリーレストランで多く、また小売業ではコンビニエンスストアで多いということだ。これは、われわれの実感に合致している」、その通りだ。 「コロナ禍でさまざまな給付が行なわれた。あるいは、雇用調整助成金がいまだに支給されている。 その際に、どれだけ賃金や雇用統計のデータが活用されただろうか? 十分に活用されているようには思えない。その一つの理由は、現在の統計が現状を適切に把握していないからではないだろうか?」、「データ」を「活用」するためには、「統計が現実を適切に把握」するべくなるべく早目に「適切」に調整するべきだ。
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