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リベラリズム(その2)(F・フクヤマ、極論を排したリベラリズムの議論 『リベラリズムへの不満』書評、フランシス・フクヤマ「リベラリズムが侵食されている」 急激に広がる反リベラリズムと「寛容」が損なわれた世界) [政治]

リベラリズムについては、2022年2月1日に取上げた。今日は、(その2)(F・フクヤマ、極論を排したリベラリズムの議論 『リベラリズムへの不満』書評、フランシス・フクヤマ「リベラリズムが侵食されている」 急激に広がる反リベラリズムと「寛容」が損なわれた世界)である。

先ずは、本年5/21東洋経済オンラインが掲載した早稲田大学 教授の柿沼 陽平氏による「F・フクヤマ、極論を排したリベラリズムの議論 『リベラリズムへの不満』書評」を紹介しよう。
・『著者は米国屈指のリベラリスト系論客だ。1989年の論文「歴史の終わり?」で一躍名を馳(は)せて以来、『歴史の終わり』『政治の起源』『政治の衰退』『アイデンティティ』などの著書がある。 ソ連崩壊とその後の世界情勢を予言した前掲論文は、耳目を集めた。一方、共産主義勢力減退後の世界を過度に楽観視しているとか、彼の師サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』のほうが9.11後の世界に合致しているなどと批判されることもあった。 だが彼の著作をよく読むと、どれも決して極論に走っているわけではない。むしろ、行き過ぎたリベラリズムを批判しているほどだ。折しも21世紀初頭の米国では世界各地に民主と自由を広め、逆らえば武力攻撃も辞さない、いわゆるネオコンが台頭したが、著者はそれにも反対していた』、「彼の著作をよく読むと、どれも決して極論に走っているわけではない。むしろ、行き過ぎたリベラリズムを批判しているほどだ。折しも21世紀初頭の米国では世界各地に民主と自由を広め、逆らえば武力攻撃も辞さない、いわゆるネオコンが台頭したが、著者はそれにも反対していた」、なるほど。
・『リベラリズムの歴史  本書も、昨今左右から攻撃されやすいリベラリズムの歴史と背景を検討し、やはり極論を排しつつ議論を展開しているところに特徴がある。 さかのぼれば、ヨーロッパでは長きにわたる宗教戦争から脱却すべく、古典的リベラリズムが成立。精神の価値、良心、寛容さを皆が持ち、さらに個人の尊厳を尊重する社会を目指し始めた。20世紀に世界大戦が起こり、ナショナリズムとぶつかった結果、リベラリズムは狂っていったが、今一度真摯な吟味が必要だ。) もっとも、民主主義・自由主義・市場主義にはバラ色の側面だけでなく、むしろ人間にとって不可欠な気概・優越願望・誇り・名誉をめぐる闘争を助長する面もある。著者の支持するヘーゲル思想(精確にはコジェーヴの解釈を経た思想)はまさにこの点を重視している。 また冷戦以降の経済的なネオリベラリズムが個々人の経済的格差を是認し、資本主義に対する貧困層の怒りを生んだ。さらに個人の自律性(選択の自由)の過度な重視は、個人主義や普遍主義に対する批判的論調を先鋭化させ、本来リベラリズムの根幹にあった寛容さの概念が失われた。 加えて、人々が政治に参加することを民主主義というならば、ロシアのプーチン大統領もそれによって選ばれた政治家ではあるが、問題はロシアのそれが寛容さを欠く非リベラリズム的民主主義であることだ。テクノロジーの発展により言論の自由やプライバシーもおびやかされている』、「民主主義・自由主義・市場主義にはバラ色の側面だけでなく、むしろ人間にとって不可欠な気概・優越願望・誇り・名誉をめぐる闘争を助長する面もある・・・冷戦以降の経済的なネオリベラリズムが個々人の経済的格差を是認し、資本主義に対する貧困層の怒りを生んだ。さらに個人の自律性(選択の自由)の過度な重視は、個人主義や普遍主義に対する批判的論調を先鋭化させ、本来リベラリズムの根幹にあった寛容さの概念が失われた・・・人々が政治に参加することを民主主義というならば、ロシアのプーチン大統領もそれによって選ばれた政治家ではあるが、問題はロシアのそれが寛容さを欠く非リベラリズム的民主主義であることだ。テクノロジーの発展により言論の自由やプライバシーもおびやかされている」、なるほど。
・『最低限のナショナリズムが必要  それでもなおリベラリズムとそれに基づく民主主義は復権されねばならない。そのためにはナショナリズムが不可欠だ。ナショナリズムとリベラリズムは「国に尽くすよりは個人の自由」のごとく対立的に捉えられがちだが、実はそうではない。リベラリズムを維持するために、最低限のナショナリズムが必要なのだ。 著者はそう論ずるだけでなく、2020年10月以来、オンライン雑誌『American Purpose』を運営し、論陣を張っている。目的は、米国におけるトランプの台頭や英国のEU離脱、さらにはウクライナ戦争を視野に、寛容さに基づくリベラルデモクラシーを復権することにある。 著者は理論一辺倒に走ることなく、眼前に広がる社会問題の解決策を模索し、かつての楽観的側面は相当後退している。円熟期の著作として翫味(がんみ)したい』、「リベラリズムを維持するために、最低限のナショナリズムが必要なのだ」、何故なのだろう。「オンライン雑誌『American Purpose』を運営し、論陣を張っている。目的は、米国におけるトランプの台頭や英国のEU離脱、さらにはウクライナ戦争を視野に、寛容さに基づくリベラルデモクラシーを復権することにある。 著者は理論一辺倒に走ることなく、眼前に広がる社会問題の解決策を模索し、かつての楽観的側面は相当後退している。円熟期の著作として翫味したい」、今後の『American Purpose』などを通じた同氏の活動に期待したい。

次に、5月27日付けAERAdot「フランシス・フクヤマ「リベラリズムが侵食されている」 急激に広がる反リベラリズムと「寛容」が損なわれた世界」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/articles/-/194563?page=1
・『30年前、著書『歴史の終わり』で安定的な政治体制のあり方を論じた、政治学者のフランシス・フクヤマ氏。最新刊『リベラリズムへの不満』では、リベラリズムに批判的な声を分析している。フクヤマ氏が、世界に急激に広がる反リベラルについて語った。AERA 2023年5月29日号の記事を紹介する。  近著『リベラリズムへの不満』を執筆した動機は、今あらゆる国で「寛容」が損なわれているのを目の当たりにしたことです。多くの国でリベラリズムが左派からも右派からも攻撃されています。その中で重要なトレンドとなっているのが、ナショナリズムとポピュリズムの台頭です。この二つの要素は確立された宗教や文化にとっては大きな脅威になります。とりわけインドではナショナリズムが顕著です。 インドはガンジーとネールによって建国され、宗教的にも言語的にも多様性に富んだ国です。しかしながら現在のインド与党は宗教的に団結し、ヒンドゥー教のナショナリストの国に変えようとしています。これはまさに“formula for disaster”(最悪の事態になる公式)であって“formula for violence”(必ず暴力が起きる)の脅威となります。 ポピュリズムが広まった要因は、グローバリゼーションの結果、格差が拡大したことでしょう。多くの労働者階級の仕事が消えていく中で、エリート層はそんなことなど一向に気にかけていないように彼らは感じた。社会的・文化的な面で言えば、保守的な人たちにとってLGBTへの理解は容易には受け入れられないものです。経済成長もできず、社会的・文化的に従来とは異なる規範が拡大し続けていることが積もり積もって、それを打破してくれるかのようにふるまうポピュリストの急激な台頭を招いたのです。 その最たる象徴の一人であるドナルド・トランプは、熱狂的な支持を受けながらも、大統領選の結果を受け入れず、嘘のストーリーを流し続けるという形でアメリカの民主主義を大きく傷つけ、脅威となりました』、「ポピュリズムが広まった要因は、グローバリゼーションの結果、格差が拡大したことでしょう。多くの労働者階級の仕事が消えていく中で、エリート層はそんなことなど一向に気にかけていないように彼らは感じた。社会的・文化的な面で言えば、保守的な人たちにとってLGBTへの理解は容易には受け入れられないものです。経済成長もできず、社会的・文化的に従来とは異なる規範が拡大し続けていることが積もり積もって、それを打破してくれるかのようにふるまうポピュリストの急激な台頭を招いたのです」、なるほど。 
・『最大の政治的挑戦は  私が本の中で主張していることは、反リベラルの声の多くが、リベラリズムに対する歪んだ理解からきていることです。 その一つが、経済政策におけるいわゆるネオリベラリズム(新自由主義)です。80年代にレーガン大統領とサッチャー首相の下で拡大したイデオロギーで、自由競争を持ち込み、国家の役割は規制緩和や民営化によって縮小された。その結果、格差が生まれました。) もう一つは、左派の人々が「個々人は自分の望むことを自由に選択できるべきである」と信じてきた自律性が揺らいでいることです。例えば今、多くの若者は、リベラリズムとは親世代や祖父母の世代が信じている古臭い考え方であると考えています。上の世代が「表現の自由」として認めていることに対し、彼らは人種差別主義者や性差別主義者による差別的な発言(ヘイト)を黙らせるようにしたいと思っています。こうした二つの要素がリベラリズムを侵食し始めたと思います。 民主主義にとって、独裁主義の中国を相手にすることが、これから50年の最大の政治的チャレンジになるでしょう。グローバルパワーがこれだけの速さで大きくシフトすると、世界を不安定にするからです。習近平政権は中国史上初の3期目に入り独裁的な傾向をますます強めています。 習近平はこれまでずっとレーニン主義者だったと思います。権力を集中化させるレーニン主義の野心を着々と満たしていることは間違いありません。将来ある時点で、国際的にも国内的にも自分のやり方をソフトにしなければならないと判断する可能性はあります。ゼロコロナ政策では社会が不安定になるとわかった途端、すぐに舵を切った。アメリカとの緊張も、ある程度緩めたいと思っているでしょう』、「習近平政権は中国史上初の3期目に入り独裁的な傾向をますます強めています・・・ゼロコロナ政策では社会が不安定になるとわかった途端、すぐに舵を切った。アメリカとの緊張も、ある程度緩めたいと思っているでしょう」、なるほど。
・『タモリの「新しい戦前」  日本で著名なタレントのタモリという人が、テレビで「新しい戦前」と発言して話題になったと聞きました。今、ウクライナでは戦争状態にあります。このことはアジアでの戦争がどのようなものになりうるか、非常にビビッドな印象を人々に与えたと思います。それまで人々は中国が台湾に軍事侵攻する可能性をまともに考えていなかったでしょう。しかし今は、戦争がどのようなものになるかリアルに想像することができます。そういう意味でタモリ氏の発言は意味があります。もちろん、台湾侵攻が実際に起きるかどうかは全く別の問題です。 中国の台湾侵攻で、日本は直接戦争に行くことはできませんが、少なくともアメリカ支援という形で台湾への支援ができると思います。アメリカは、特に沖縄に米軍基地を置いていることで日本に依存しています。アメリカの航空機や船舶がこの基地を使えなければ、アメリカは台湾を支援することはできません。そのレベルまで日本が積極的にアメリカ支援を行わなければならないのかどうか。きわめて重要な決断の一つになるでしょう』、「アメリカは、特に沖縄に米軍基地を置いていることで日本に依存しています。アメリカの航空機や船舶がこの基地を使えなければ、アメリカは台湾を支援することはできません。そのレベルまで日本が積極的にアメリカ支援を行わなければならないのかどうか。きわめて重要な決断の一つになるでしょう」、その通りだ。
タグ:柿沼 陽平氏による「F・フクヤマ、極論を排したリベラリズムの議論 『リベラリズムへの不満』書評」 東洋経済オンライン リベラリズム (その2)(F・フクヤマ、極論を排したリベラリズムの議論 『リベラリズムへの不満』書評、フランシス・フクヤマ「リベラリズムが侵食されている」 急激に広がる反リベラリズムと「寛容」が損なわれた世界) 「彼の著作をよく読むと、どれも決して極論に走っているわけではない。むしろ、行き過ぎたリベラリズムを批判しているほどだ。折しも21世紀初頭の米国では世界各地に民主と自由を広め、逆らえば武力攻撃も辞さない、いわゆるネオコンが台頭したが、著者はそれにも反対していた」、なるほど。 「民主主義・自由主義・市場主義にはバラ色の側面だけでなく、むしろ人間にとって不可欠な気概・優越願望・誇り・名誉をめぐる闘争を助長する面もある・・・冷戦以降の経済的なネオリベラリズムが個々人の経済的格差を是認し、資本主義に対する貧困層の怒りを生んだ。 さらに個人の自律性(選択の自由)の過度な重視は、個人主義や普遍主義に対する批判的論調を先鋭化させ、本来リベラリズムの根幹にあった寛容さの概念が失われた・・・人々が政治に参加することを民主主義というならば、ロシアのプーチン大統領もそれによって選ばれた政治家ではあるが、問題はロシアのそれが寛容さを欠く非リベラリズム的民主主義であることだ。テクノロジーの発展により言論の自由やプライバシーもおびやかされている」、なるほど。 「リベラリズムを維持するために、最低限のナショナリズムが必要なのだ」、何故なのだろう。「オンライン雑誌『American Purpose』を運営し、論陣を張っている。目的は、米国におけるトランプの台頭や英国のEU離脱、さらにはウクライナ戦争を視野に、寛容さに基づくリベラルデモクラシーを復権することにある。 著者は理論一辺倒に走ることなく、眼前に広がる社会問題の解決策を模索し、かつての楽観的側面は相当後退している。円熟期の著作として翫味したい」、今後の『American Purpose』などを通じた同氏の活動に期待したい。 AERAdot「フランシス・フクヤマ「リベラリズムが侵食されている」 急激に広がる反リベラリズムと「寛容」が損なわれた世界」 「ポピュリズムが広まった要因は、グローバリゼーションの結果、格差が拡大したことでしょう。多くの労働者階級の仕事が消えていく中で、エリート層はそんなことなど一向に気にかけていないように彼らは感じた。社会的・文化的な面で言えば、保守的な人たちにとってLGBTへの理解は容易には受け入れられないものです。経済成長もできず、社会的・文化的に従来とは異なる規範が拡大し続けていることが積もり積もって、それを打破してくれるかのようにふるまうポピュリストの急激な台頭を招いたのです」、なるほど。 「習近平政権は中国史上初の3期目に入り独裁的な傾向をますます強めています・・・ゼロコロナ政策では社会が不安定になるとわかった途端、すぐに舵を切った。アメリカとの緊張も、ある程度緩めたいと思っているでしょう」、なるほど。 「アメリカは、特に沖縄に米軍基地を置いていることで日本に依存しています。アメリカの航空機や船舶がこの基地を使えなければ、アメリカは台湾を支援することはできません。そのレベルまで日本が積極的にアメリカ支援を行わなければならないのかどうか。きわめて重要な決断の一つになるでしょう」、その通りだ。
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