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アベノミクス(その25)(完全雇用なのに賃金が伸びない理由、「消費増税で教育無償化」の本末転倒、働く人を貧しくしたアベノミクスが総選挙で争われない理由) [経済政策]

アベノミクスについては、8月23日に取上げた。今回の総選挙では、さすがに殆どこれをPRしてないようだが、今日は、(その25)(完全雇用なのに賃金が伸びない理由、「消費増税で教育無償化」の本末転倒、働く人を貧しくしたアベノミクスが総選挙で争われない理由) を取上げよう。

先ずは、クレディ・アグリコル証券チーフエコノミストの森田京平氏が9月6日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「アベノミクスで完全雇用なのに賃金が伸びない理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・しばしばアベノミクスについては、雇用を改善させたことが成果とされてきた。本当にそうだろうか。確かに一部の業種では人手不足が問題になり、雇用統計は完全雇用に近いが、賃金は伸びていない。まずはアベノミクス下の労働市場で何が起きているかを見極めることが重要だ。その際の焦点は労働生産性である。労働生産性が上がれば、企業にとって賃金を上げやすくなるからだ。
▽労働生産性の伸びを伴わない雇用増では賃金は伸びない
・雇用増と賃金の伸びの関係はどうなっているのかを見てみよう。 企業にとって、賃金を上げることがメリットと認識されれば、放っておいても賃金は上がるはずだ。ところが賃金の上昇ペースは鈍い。実際、失業率(ここでは構造的な失業を除いた循環的失業を用いる)の水準に対応する賃金の上昇率はアベノミクスの前と比べると、後の方が明らかに低い(図表1参照)。
・なぜならば、労働生産性を念頭に置いたとき、雇用の増え方には2通りあることにを留意する必要があるからだ(図表2参照)。 1つ目が、経済成長あるいは景気回復を背景とする雇用の増加である。 この場合は、実質GDP(国民総生産)、つまり経済活動で生み出される付加価値自体が増える中での雇用増であるため、労働生産性の改善を伴いやすい。
・2つ目が、経済の軸が労働集約的な産業(例えば非製造業)に移る場合だ。 この場合は、一定のGDPを創出する上で必要となる労働量が増えるため、GDPが増えていなくても雇用は増える。ただし、GDPの伸びを伴わないため、一定の雇用量が生み出すGDP、すなわち労働生産性は伸びない。
・結局、雇用の増え方には、(1)経済成長を背景とする雇用の増加(=労働生産性の改善を伴いやすい雇用の増加)、(2)労働集約的な産業へのシフトを背景とする雇用の増加(=労働生産性の改善を伴いにくい雇用の増加)、という2通りがある。
▽アベノミクス下で伸び悩む労働生産性 雇用が増えたのは労働集約型産業
・このように整理した時、アベノミクス下の雇用の増加はどちらのタイプだろうか。 労働生産性を就業者1人当たりの実質GDPと定義すると、アベノミクスが始まった2012年末以降、労働生産性の伸びがピタリと止まっていることが分かる(図表3参照)。
・ここから、アベノミクス下の雇用の増加が2つ目のタイプ、つまり産業構造の軸が非製造業など労働集約的な産業に移ったことを背景とする、労働生産性の改善を伴いにくい雇用の増加だと、分析できる。 経済成長を裏付けとする第1のタイプとは異なるわけだ。
・これほどまでに労働生産性の伸びが欠けている中では、企業にとってベースアップという形で固定費を増やすことのハードルは依然、高いということだろう。これが雇用と賃金の関係、つまり「賃金版フィリップス曲線」(前出図表1)の形状や切片(y軸切片)の位置を変えたと考えられる。
・アベノミクス下での雇用の増加が、非製造業という労働集約的な産業への軸足のシフトを背景としたものだとすれば、そもそも賃金の伸びを失業率の改善などをもとに考えること自体に疑問が生じる。 なぜならば、非製造業の雇用形態は実に多様であり、「就業」(employment)と「失業」(unemployment:就業を希望しながらも就業できていない状態)という単純な二分法では、賃金の増勢を推し量ることはできなくなるからだ。
・雇用の軸が非製造業に移り、就業形態が多様化する中では、むしろ就業と失業の間にある「不完全雇用」(underemployment:正社員を希望しながらもパートでの就業を余儀なくされるなど、希望する形での就業に至っていない状態)が賃金の趨勢を見極める上でも重要性を増す。
▽宿泊・飲食サービス業で働く人は400万人か、480万人か?
・就業形態の多様化が顕著に進んでいる業種の一例として、「宿泊・飲食サービス業」に注目してみよう。  業種ごとの就業者数を捉える際、総務省『労働力調査』あるいは厚労省『毎月勤労統計』がしばしば参照される。 そこで、これら2つの統計を用いて宿泊・飲食サービス業の就業者数を捉えると、実に不思議な現象が浮かび上がる。
・総務省『労働力調査』によると、2010年頃に400万人弱であった宿泊・飲食サービス業の就業者数は、足元でもほぼ同水準にとどまっている(図表4参照)。 ところが、厚労省『毎月勤労統計』によると、宿泊・飲食サービス業の就業者数(常用労働者数)は、2010年は約370万人と労働力調査に近い水準だったが、足元では480万人と、労働力調査(400万人)よりも20%も多くなっている。
・これは何を意味するのだろうか。 ポイントは、『労働力調査』が家計(働く側)の調査であるのに対して、『毎月勤労統計』は事業所(雇う側)の調査だということにある。 例えば、Aさんは、午前中はレストランBで働き、午後はホテルCで働いているとしよう 。このとき、家計(働く側)を対象とする労働力調査では、あくまで宿泊・飲食サービス業で働いている人としてはAさん1人が計上される。ところが事業所(雇う側)を対象とする毎月勤労統計では、レストランBで1人、ホテルCで1人、合わせて2人が宿泊・飲食サービス業で働いていると計上される。
・その結果、同じ宿泊・飲食サービス業の就業者でも、労働力調査では1人、毎月勤労統計では2人として表れる。これが前出図表4に見る両統計の大幅な乖離の主因だ。 ただし、これは単なる統計上の問題ではない。それは、いわゆる「プチ勤務」などに代表される雇用形態の多様化を如実に映し出す経済現象そのものだからだ。
▽「就業」と失業」の二分法は単純すぎる 賃金の鍵を握る「不完全雇用」の動向
・宿泊・飲食サービス業など非製造業では、このように雇用形態が多様化しており、就業か失業かという単純な二分法では賃金の趨勢を捉えられない。 これは、労働市場において非製造業の存在感が高まっている中では、従来の失業率と賃金の関係を表した「賃金版フィリップス曲線」では、十分な分析ができないということと同義である。 今後は、賃金の趨勢を見定める上で、就業と失業の間に位置する「不完全雇用」水準や実態により注目する必要がある。
http://diamond.jp/articles/-/141124

次に、BNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミストの河野龍太郎氏が9月27日付けロイターに寄稿した「コラム:「消費増税で教育無償化」の本末転倒=河野龍太郎氏」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍晋三首相は2019年10月の10%への消費増税について、その使途を広げ、幼児教育の無償化など、新たな歳出拡大の財源に充てる意向を示した。衆院選挙で国民の信を問うという。筆者がかねてより懸念していた通りの展開になってきた。
・しかし、驚いたことに、エコノミストの間でも、今回の見直し論に賛同する人が少なくないのだという。10%から先の増税の必要性を考えると、「希望の党」の小池百合子代表が主張する増税凍結など再度先送りに比べれば、まだましということなのだろうか。 あるいは、税収増の全てを新たな歳出の財源に充てるという民進党の大盤振る舞いの主張に比べればまだまし、ということなのだろうか。確かに皆が思い描いていた最悪の事態よりは、まだましな選択ということなのかもしれない。
・とはいえ、政治的に容易ではないとしても、あるべき最善の政策について提言をするのが、我々エコノミストの役割でもある。政治的に容易な政策にお墨付きを与えることであってはならない。 仮に目先の経済状況が改善しても、長期的な均衡から遠ざかり、あるいは社会制度の持続性が損なわれ、国民の経済厚生を低下させるような政策は何としても避けなければならない。今回は消費増税の使途変更について考える。
▽どこから見ても財政赤字による歳出拡大
・もともと、2012年の民主党政権(野田佳彦内閣)で取り決められた民主党・自民党・公明党の三党合意では、消費税率の5%から10%への引き上げによって得られる14.0兆円について、社会保障の充実として2.8兆円、基礎年金の国庫負担引き上げの財源として3.2兆円、後代への負担のつけ回しの軽減として7.3兆円、消費増税に伴う費用増として0.8兆円をそれぞれ充てることになっていた。
・今回、幼児教育の無償化など新たな歳出は、「後代への負担のつけ回しの軽減」に充てる財源を減少させて捻出するという。つまり、後代への負担のつけ回しで、新たな歳出を拡大するのである。言葉尻を捕らえたわけではない。新たな歳出拡大は、以下述べるように、文字通り、後代への負担のつけ回しとなる。
・報道の中には、借金返済(公的債務削減)に充てるはずの財源を新たな歳出に割り当てると、説明しているものもある。しかし、これはやや誤解がある。お金に色は付いていないが、そもそも日本のプライマリー収支は赤字が続いているのであって、このことは、経常収入によって経常費用が賄われていないことを意味する。
・利払い費などの国債費も借金によって賄われている。もともと、借金返済には充てられていないのだ。このため、正しくは、借金膨張(公的債務膨張)の抑制に充てるはずだった財源を新たな歳出に割り当てると説明すべきである。もちろん、どのような説明を行おうと、公的債務が新たに増えることに変わりはない。
・実際、プライマリー収支赤字が増大する最大の要因である社会保障関係費は、2000年度に17.6兆円だったが、2010年度は28.2兆円に達し、2017年度は当初予算で32.5兆円と見込まれている。この間、社会保障関係費の増大は、景気の循環的な拡大による税収増や2014年度の消費増税による税収増を除くと、財政赤字によって賄われてきた。 つまり、増大する社会保障関係費は、「後代への負担のつけ回し」で賄われてきたと言える。その「後代への負担のつけ回し」を軽減するというのが、5%から10%への消費増税を決めた三党合意の目的だった。
・しかし、今回、増税による税収増の一部を社会保障関係費に割り当てず、新たな歳出拡大の財源とすることは、文字通り、後代への負担のつけ回しによって、歳出を拡大することに他ならない。経常収入を新たに確保しないまま、経常費用を新たに決定することであり、どの角度から見ても、財政赤字による歳出の拡大である。
・消費税収を教育費に充てるのは、全てを社会保障関係費に限定するとした三党合意に反するという批判もあるが、それ以前の問題として、消費増税の使途見直しということ自体が、実は単なるレトリックなのである。幼児教育の無償化など次世代のための政策と言いつつ、負担を後代へつけ回ししていたのでは、本末転倒である。
▽「全世代型社会保障」が画餅に帰す恐れ
・念のために言っておくと、筆者自身、安倍首相が掲げる「全世代型社会保障」を目指すことの意義は大いに認める。グローバリゼーションが進む中で、現役世代でも困窮する人が増え、高齢者向けを中心とした現行の社会保障制度では、とっくの昔に対応できなくなっている。
・例えば、増大する非正規雇用に対し、セーフティーネットが不十分であるため、マクロ経済ショックが日本経済を襲うと、社会の最も弱い部分に大きな調整圧力が加わる。人々の将来不安を拭うことができないのは、社会全体でリスクを分担できなくなったからであり、それゆえ、所得が多少増えても、なかなか消費回復につながらないのである。財源が確保できるのなら、教育費を含めた上で、社会保障の対象を困窮する現役世代に広げるという発想は望ましい。
・また、成長戦略として、多くの人が迂遠だと退けてきた教育投資についても、筆者は、人的資本の蓄積が最も確実で効果的な生産性改善、ひいては実質所得の改善につながると常々主張してきた(とりわけ、大学院教育の普及による人的資本の底上げが有効というのが筆者の持論である)。  仮に設備投資を促す政策を行っても、単に労働が機械やソフトウェアに置き換わるだけなら、生産性が上昇しても、増加した付加価値のほとんどが資本の出し手に帰属することになるかもしれない。しかし、人的資本が増えた結果、新たな付加価値が増大するのなら、その多くを働く人が手にすることができる。
・もちろん、人的資本の底上げと言っても、大学教育や大学院教育がもたらすメリットはあくまで私的なものだから、費用を国がカバーすることについては相当慎重でなくてはならない。ただ、教育制度の基盤拡充にとどまらず、能力がありながらも財政的な余裕が十分ではない学生に対する資金の貸し付けであれば、機会均等の観点からも容認され得るのではないか。ばら撒きとならないよう警戒しつつ、数少ないワイズスペンディングとして検討する余地はある。
・しかし、いずれにしても問題は財源だ。既存の社会保障制度をこのまま放置したままでは、年金だけでなく、今後、医療費、介護費の大膨張が続く。そうなると、新たな歳出のための財源確保どころではなくなる。新たな歳出は今回の幼児教育の無償化に終わり、財源難を理由に、それ以外は頓挫し、「全世代型社会保障」は絵に描いた餅に終わりかねない。それだけでなく、このままでは、いずれ既存の高齢者を中心とした社会保障制度の存続も危うくなる。
・では、どうすればよいのか。唯一の解決策は、既存の社会保障制度を全面的に見直し、世代にかかわらず困窮した人をサポートすると同時に、世代にかかわらずゆとりのある人はサポートする側に回るという制度に移行することである。つまり、高齢者であっても、ゆとりのある人はサポートする側に回り、給付の抑制、負担増を甘受する。高齢者向け中心の既存の社会保障関係費が抑制されることで、財源が捻出され、現役世代向けの新たな歳出の拡大が可能となる。
・もちろん、大幅な見直しは容易ではないが、世代にかかわらず困窮した人をサポートするという社会保障制度の本来の理念に回帰しなければ、超高齢化社会の中で、日本の社会保障制度は存続できなくなる。 これまで論じたように、今回の消費増税の使途見直しの本質は、財政赤字、すなわち赤字国債による教育無償化に他ならず、筆者は反対である。時代が要請する新たな歳出であれば、財源として新たに課税するか、あるいは相対的に優先順位が低下した歳出を削減すべきだ。
・また、増税の度に、政治的理解を得るため、新たに歳出を広げていったのでは、増税を続けても、プライマリー収支の黒字化はいつまで経ってもおぼつかない。政治的に可能な消費税率の上限は存在する。 もし、今回は政治的にやむを得ないのだとしても、今後も「全世代型社会保障」を掲げるのなら、次回の新たな歳出の拡大の際には、同時に、世代にこだわらず困窮する人をサポートする制度への移行を開始しなければならない。
・いうまでもないことだが、日本には、ゆとりのある人をサポートする財政的余裕は存在しない。また、世代にかかわらず困窮する人をサポートするというのは、新たな財政健全化プランの理念となり得る。
▽景気拡大だけではプラマリー収支赤字は解消しない
・最後に言い添えれば、財政問題を論じる際、驚くことがあるのは、アベノミクスの成果でプライマリー収支が着実に改善しているのだから、公的債務問題を心配する必要がないと主張する政権関係者がいまだに少なくないことである。 確かに景気拡大が続いているから、税収は増え、プライマリー収支も、マイナスの領域ではあるが、改善傾向にある。もし、このまま景気拡大が続けば、多少後ずれしても、いずれ黒字化が達成できると考えているのだろうか。しかし、景気拡大は永続しない。拡大期もあれば、後退期も訪れる。
・世界経済の拡大はすでに丸8年が経過しており、今後何年も続くとは言えない状況にある。2016年度は景気拡大が続いていたにもかかわらず、円高が進んだことで、税収減となった。 もちろん、日本経済に大きなスラック(余剰)が残っているのなら、税収増はまだ期待できる。しかし、現在の日本経済はすでに完全雇用にあり、人手不足傾向は相当に強まっている。それにもかかわらず、2017年度のプライマリー収支は国内総生産(GDP)比でマイナス3.4%と推計されている。このことは、景気循環を調整した構造的なプライマリー収支は、現在よりかなり低い水準にあるということだ。
・2014年度の消費増税によって若干水準は改善したが、客観的事実として構造的プライマリー収支は大きな赤字のままであり、公的債務は明確な発散経路にある。つまり、過去5年間のアベノミクスの実験で明らかになったのは、循環的な景気拡大だけでは、プライマリー収支の赤字が解消できないという厳然たる事実である。
・念のために言っておくと、1980年代末から90年代初頭にGDPギャップが大きく改善し、税収も大幅に増えたのは、バブルだったからだ。バブルを醸成することは、当然にして解決策にはならない。
https://jp.reuters.com/article/column-forexforum-ryutaro-kono-idJPKCN1C1058

第三に、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏が10月12日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「働く人を貧しくしたアベノミクスが総選挙で争われない理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・アベノミクスの評価は、働く人からの評価と、株式保有者や企業からの評価で、まったく違う。以下に見るように、家計の収入も消費も増えていないが、企業利益は著しく増加し、株価も顕著に上昇した。立場により評価が違うのだから、アベノミクスを継続すべきか否かは、政治的なイシューだ。だから、総選挙で重要な争点とすべきだ。 以下では、いくつかの側面で、アベノミクス以前と現在を比べてみることとしよう。
▽働く人の立場からの評価基準は消費支出が増えているか?
・まず働く人の立場から評価しよう。 評価の基準は、一言で言えば、「生活が楽になったか?」だ。 それには、消費支出を見るのがよい。 まず、家計調査で見ると、1世帯当たり1ヵ月間の消費支出の推移は、図表1のとおりだ。
・2000年以降、消費支出は長期的な減少傾向にあった。アベノミクスは、この傾向を逆転しただろうか?  12年から14年にかけては、消費支出は増加した。 しかし、15年から再び減少した。16年を12年と比べると、28万6169円 から28万2188円へと減少している。 家計調査の各項目の金額には、消費税が含まれている。この間に消費税の増税があったので、消費税分を除いた消費額は、上で見たよりもっと減ったことになる。
・16年から12年にかけて、世帯人員は3.07人から2.99人へと減っている。だから、1人当たりで見れば1.2%増えたことになる。しかし、消費税抜きで見れば、減少だ。 なお、GDP統計で見ると、名目家計最終消費は、12年度から16年度にかけて増加している。ただし、増加率は3.3%にすぎない。消費税増税の影響を除けば、ほとんど増加していないことになる。 以上から結論できるのは、「アベノミクスは、働く人の生活を豊かにしてはいない」ということだ。
▽主婦がパートで働きに出るが消費は伸びず
・図表2に示すように、名目賃金指数は、長期的に下落傾向にある。アベノミクスは、この傾向を逆転できただろうか? 年平均の指数は、2013年をボトムとして、その後は上昇している。しかし、上昇率はごくわずかだ。16年の指数100.6は、11年の100.8に及ばない。 そして、円安などによって消費者物価が上昇したため、労働者の実質賃金は減少した(実質賃金指数は、13年3月の91.8から17年3月の88.9まで低下した)。
・家計調査で、12年と16年を比較すると、1世帯当たりの有業人員(働く人の数)は、1.33人から1.34人に増えた。収入が増えないため、主婦がパートで働きに出るようになったのだ。実際、世帯主の配偶者のうち女性の有業率は、34.1%から36.7%に上昇している。 このことは、雇用統計で非正規労働者が増えたことを見ても確かめられる。家計の側のこうした努力にもかかわらず、上で見たように、消費が減少しているのだ。
▽「金融資産ゼロ世帯」と富裕層世帯が増えている
・「家計の金融行動に関する世論調査(二人以上世帯調査)」によると、金融資産を保有していない世帯の比率は、2003年以降12年までは20%台だった(12年では26.0%)。 ところが、図表3のように13年にこの比率が31.0%となり、それ以降16年まで30%台の数字が続いている。 資産保有について、貧しい世帯の比率が上昇しているのである。アベノミクスの成果が働く人に及んでいないのは明らかだ。
・他方で、金融資産保有額3000万円以上の世帯が金融資産保有世帯に占める比率は、増えている。この比率は、12年には13.6%であったが、13年に14.2%に上昇した。その後、14年に15.6%、15年に15.4%、16年に14.8%となっている。つまり、富裕層の比率も上昇しているのだ。
▽豊かな人はますます豊かになり二極化が進んだ
・高額資産保有者が増えたのは、株価が上昇したためだ。株式や株式投資信託の保有者は、労せずして利益を得たことになる。 実際の数字は、家計調査報告(貯蓄・負債編、2016年平均結果速報、二人以上の世帯)で見られる。それによると、株式・株式投資信託は、2012年から16年の間に、56.3%も増加した。 他方、これ以外の資産は、同期間で5.9%増加したにすぎない。
・同様の傾向は、日本銀行の資金循環勘定でも見られる。すなわち、家計が保有する株式・株式投資信託は、12年から16年の間に、38.1%増加した。 他方、これら以外は、同期間で6.6%増加したにすぎない。
・つまり、この期間に株や投信を持っていた人は資産を大幅に増やしたが、そうでない人の資産はほとんど不変だったわけだ。 一般に、株や投信の保有者は、資産が多い人だ。だから、金融資産ゼロ世帯と巨額の資産を持つ世帯の二極化が進行し、格差が拡大したことになる。
▽企業利益は大幅に増えた
・株価上昇の背後には、企業の利益増がある。 法人企業統計で見ると、企業の営業利益の推移は、図表4のとおりだ。2012年度から16年度にかけて、46.7%も増加した。 ところが、売上高は、図表5に見るように、この期間に増加はしたものの、増加率は5.9%と、それほど大きくない。 それにもかかわらず利益が大きく増えたのは、売上原価の増加率が3.3%に留まったからである。
・売上と原価の変化の差は、それほど大きくない。そのため、売上の増加率が低くても、原価の増加率がそれより低ければ、利益は大幅に増えるのである。 では、売上高が伸びたにもかかわらず、売上原価が増加しなかったのはなぜだろうか?
・第1の理由は、売上高の増加が円安によって生じたことだ。これは、製造業の輸出産業において顕著に働いた。 原材料の一部には輸入品が含まれており、円安は輸入物価の上昇を通じて原材料を引き上げる。しかし、輸入原材料は全体の一部でしかないので、売上高ほどには増加しないのだ。 さらに、14年秋からは、原油価格の下落により、原価の増加が抑えられた。 円安期に売上高も原価も増加するのは、04年からの円安期にも見られたことだ。今回は、原油価格下落の影響があったため、売上高の増加率に比べて原価の増加率が抑えられた。
▽産業構造を変えられないなら法人税引き上げが必要
・企業利益が増加した第2の要因は、原価の中に人件費が含まれており、これは円安の影響を受けないことである。 実は、従業員給与は、「増えない」というだけでなく、圧縮された。これが、輸出産業以外の分野で利益を増大させた大きな要因だ。 図表6に示すように、日本の企業の従業員給与は、長期的に減少傾向にある。 そして、アベノミクスは、この過程に影響を与えることができなかった。これが、図表2で見た名目賃金下落や図表1で見た消費支出減少の背後にある。
・「利益が増えたから賃金を上げよ」と要求しても無理だ。それは、経済合理性に反する要請であり、それに従えば、企業は倒産してしまう。 経済全体の賃金を引き上げるには、生産性の高い産業が登場するしか方法はない。 現在の産業構造が変えられないなら、法人税の負担を引き上げることが必要だ。 法人税の二重課税になってしまう内部留保課税ではなく、法人税率そのものを引き上げるべきだ。
▽多数の声、利害反映されない 政治的なバイアス
・単純な数で言えば、株式の保有者や大企業の経営者に比べて、一般労働者のほうがはるかに多い。そして、上で見たように、アベノミクスは前者の人々に恩恵を与え、後者の人々の生活を貧しくした。 だから、人々が自分の生活と経済政策の関係を正しく理解し、そして、人々の意向が正しく選挙結果に反映されるシステムになっていれば、多数決によってアベノミクスは否定されるはずである。
・それにもかかわらず、今回の総選挙では、金融緩和政策や円安政策に反対する声はほとんど上がっていない。 これは、働く人々が自分の生活と経済政策の関係を正しく理解していないからではなく、政治制度にバイアスがあるからだろう。 本当に働く人の立場に立つ政治勢力が存在しないのだ。「労働者側」を標榜する政治勢力は、実は大企業の組合をバックとしており、労働者一般の利害というよりは、大企業の利害に近い立場にいる。 日本の政治制度がこうしたバイアスを持っていることは、悲劇と言わざるを得ない。
http://diamond.jp/articles/-/145356?utm_source=daily&utm_medium=email&utm_campaign=doleditor

第一の記事で、 『労働市場において非製造業の存在感が高まっている中では、従来の失業率と賃金の関係を表した「賃金版フィリップス曲線」では、十分な分析ができないということと同義である。 今後は、賃金の趨勢を見定める上で、就業と失業の間に位置する「不完全雇用」水準や実態により注目する必要がある』、という謎解きは見事だ。安部首相は、有効求人倍率の上昇などを成果として挙げるが、中身は低賃金の非製造業の雇用増加、ということでは、威張れた話ではない。
第二の記事で、 『政治的に容易ではないとしても、あるべき最善の政策について提言をするのが、我々エコノミストの役割でもある。政治的に容易な政策にお墨付きを与えることであってはならない。 仮に目先の経済状況が改善しても、長期的な均衡から遠ざかり、あるいは社会制度の持続性が損なわれ、国民の経済厚生を低下させるような政策は何としても避けなければならない』、との河野氏のスタンスはさすがである。 『問題は財源だ。既存の社会保障制度をこのまま放置したままでは、年金だけでなく、今後、医療費、介護費の大膨張が続く。そうなると、新たな歳出のための財源確保どころではなくなる。新たな歳出は今回の幼児教育の無償化に終わり、財源難を理由に、それ以外は頓挫し、「全世代型社会保障」は絵に描いた餅に終わりかねない。それだけでなく、このままでは、いずれ既存の高齢者を中心とした社会保障制度の存続も危うくなる・・・唯一の解決策は、既存の社会保障制度を全面的に見直し、世代にかかわらず困窮した人をサポートすると同時に、世代にかかわらずゆとりのある人はサポートする側に回るという制度に移行することである』、というのは、まさに正論である。個人的には負担増を迫られるのは、困るが、持続可能な制度にしていくためにはやむを得ない。
第三の記事で、 『現在の産業構造が変えられないなら、法人税の負担を引き上げることが必要だ』、というのは筋論としてはその通りだ。トランプ大統領が思い切った引下げを検討するなど、世界的には法人税引下げ競争になっているなかでは、政治的には難しいだろうが、筋論としてはあくまで日本の事情で引き上げるべきだろう。その場合、企業が海外に流出するのと議論は「脅し」に過ぎないと考えるべきだ。  『本当に働く人の立場に立つ政治勢力が存在しないのだ。「労働者側」を標榜する政治勢力は、実は大企業の組合をバックとしており、労働者一般の利害というよりは、大企業の利害に近い立場にいる。 日本の政治制度がこうしたバイアスを持っていることは、悲劇と言わざるを得ない』、というのは、立憲民主党も連合の支援があるという現状を顧みると、残念ながらその通りだ。
タグ:野口悠紀雄 ロイター 幼児教育の無償化 河野龍太郎 ダイヤモンド・オンライン 消費増税 アベノミクス 安倍晋三首相 (その25)(完全雇用なのに賃金が伸びない理由、「消費増税で教育無償化」の本末転倒、働く人を貧しくしたアベノミクスが総選挙で争われない理由) 森田京平 アベノミクスで完全雇用なのに賃金が伸びない理由 アベノミクスについては、雇用を改善させたことが成果とされてきた 雇用の増え方には2通りある 1つ目が、経済成長あるいは景気回復を背景とする雇用の増加 労働生産性の改善を伴いやすい 2つ目が、経済の軸が労働集約的な産業(例えば非製造業)に移る場合 労働生産性は伸びない アベノミクス下で伸び悩む労働生産性 雇用が増えたのは労働集約型産業 そもそも賃金の伸びを失業率の改善などをもとに考えること自体に疑問が生じる 雇用の軸が非製造業に移り、就業形態が多様化する中では、むしろ就業と失業の間にある「不完全雇用」(underemployment:正社員を希望しながらもパートでの就業を余儀なくされるなど、希望する形での就業に至っていない状態)が賃金の趨勢を見極める上でも重要性を増す 消費増税で教育無償化」の本末転倒=河野龍太郎氏 新たな歳出拡大の財源に充てる意向 、政治的に容易ではないとしても、あるべき最善の政策について提言をするのが、我々エコノミストの役割でもある。政治的に容易な政策にお墨付きを与えることであってはならない 仮に目先の経済状況が改善しても、長期的な均衡から遠ざかり、あるいは社会制度の持続性が損なわれ、国民の経済厚生を低下させるような政策は何としても避けなければならない どこから見ても財政赤字による歳出拡大 幼児教育の無償化など新たな歳出は 後代への負担のつけ回しで、新たな歳出を拡大するのである 増大する社会保障関係費は、「後代への負担のつけ回し」で賄われてきたと言える その「後代への負担のつけ回し」を軽減するというのが、5%から10%への消費増税を決めた三党合意の目的だった 消費増税の使途見直しということ自体が、実は単なるレトリック 幼児教育の無償化など次世代のための政策と言いつつ、負担を後代へつけ回ししていたのでは、本末転倒である 安倍首相が掲げる「全世代型社会保障」を目指すことの意義は大いに認める 財源が確保できるのなら、教育費を含めた上で、社会保障の対象を困窮する現役世代に広げるという発想は望ましい 人的資本の底上げと言っても、大学教育や大学院教育がもたらすメリットはあくまで私的なものだから、費用を国がカバーすることについては相当慎重でなくてはならない 問題は財源だ。既存の社会保障制度をこのまま放置したままでは、年金だけでなく、今後、医療費、介護費の大膨張が続く。そうなると、新たな歳出のための財源確保どころではなくなる。新たな歳出は今回の幼児教育の無償化に終わり、財源難を理由に、それ以外は頓挫し、「全世代型社会保障」は絵に描いた餅に終わりかねない。それだけでなく、このままでは、いずれ既存の高齢者を中心とした社会保障制度の存続も危うくなる 既存の社会保障制度を全面的に見直し、世代にかかわらず困窮した人をサポートすると同時に、世代にかかわらずゆとりのある人はサポートする側に回るという制度に移行することである 景気拡大だけではプラマリー収支赤字は解消しない 働く人を貧しくしたアベノミクスが総選挙で争われない理由 2000年以降、消費支出は長期的な減少傾向 アベノミクスは、働く人の生活を豊かにしてはいない 主婦がパートで働きに出るが消費は伸びず 金融資産ゼロ世帯」と富裕層世帯が増えている 豊かな人はますます豊かになり二極化が進んだ 企業利益は大幅に増えた 産業構造を変えられないなら法人税引き上げが必要 法人税の二重課税になってしまう内部留保課税ではなく、法人税率そのものを引き上げるべきだ 政治制度にバイアスがあるからだろう 本当に働く人の立場に立つ政治勢力が存在しないのだ。「労働者側」を標榜する政治勢力は、実は大企業の組合をバックとしており、労働者一般の利害というよりは、大企業の利害に近い立場にいる。 日本の政治制度がこうしたバイアスを持っていることは、悲劇と言わざるを得ない
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