人生論(その12)(若年性アルツハイマーを発症した元東大教授が デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは、「性の営みはホルモンを分泌する」「自慰も素晴らしいこと」現役精神科医・和田秀樹氏が提唱する 80歳からの“我慢しない愉しみ方” 『80歳の壁』より #2、「学校秀才」が二流の人材で終わるのは当たり前…野中郁次郎が「知的な野蛮人をめざせ」と訴える理由 「○○シンキング」や「○○思考」は人間を劣化させるだけ) [人生]
人生論については、3月29日に取上げた。今日は、(その12)(若年性アルツハイマーを発症した元東大教授が デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは、「性の営みはホルモンを分泌する」「自慰も素晴らしいこと」現役精神科医・和田秀樹氏が提唱する 80歳からの“我慢しない愉しみ方” 『80歳の壁』より #2、「学校秀才」が二流の人材で終わるのは当たり前…野中郁次郎が「知的な野蛮人をめざせ」と訴える理由 「○○シンキング」や「○○思考」は人間を劣化させるだけ)である。
先ずは、4月3日付け現代ビジネスが掲載した主婦の若井 克子氏による「若年性アルツハイマーを発症した元東大教授が、デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/92672?imp=0
・『若年性アルツハイマー病で、東京大学を早期退官した若井晋。沖縄での療養などを経て病を公表し、それがきっかけで「認知症当事者としての講演」という生きがいを見つけた彼だったが、症状の悪化からついに講演は不可能となった。妻とともに日常に戻った彼は、介護保険サービスを利用してデイサービスに通い始める。そこで明らかになった、認知症の当事者だからこその苦悩とは? 近刊『東大教授、若年性アルツハイマーになる』(若井克子・著、講談社)よりお届けする。 【第1回】54歳で「若年性アルツハイマー」になった東大教授が書き残していた「日記の中身」 【第2回】手術上手な脳外科医が一転、ネクタイが結べず…東大教授を襲った「若年性アルツハイマー」の現実 【第3回】文字が書けない…54歳で「若年性アルツハイマー」になった東大教授の苦悩 【第4回】失意の元・東大教授は、なぜ「若年性アルツハイマー」を公表したのか? 【第5回】「ぼくは、エイリアン」54歳で若年性アルツハイマーになった東大教授が見た世界 【第6回】元・東大教授が「若年性アルツハイマー」になって見つけた「意外な楽しみ」 【第7回】アルツハイマーを発症した元・東大教授が、言葉を失いつつも講演を続けた理由』、興味深そうだ。
・『弱っていく体、澄んでいく心 講演行脚をやめる少し前から、晋(すすむ)の体は目に見えて衰えていき、それにつれて私たちの生活も変化していきました。 ■2010年 この年に介護保険を使い始めたことはすでに書きました。家で私たちは畳に布団を敷いて寝ていましたが、晋が立ち上がるのが難しくなったのがこの頃です。 幸い、ケアマネジャーさんが介護ベッドの導入を提案してくれたおかげで、解決することができました。 ■2012年 講演を通じて偶然知り合った医師の助言をきっかけに、デイサービス(デイ)に通い始めました(後で書く通り、うまくなじめず、いくつかのデイを転々とするのですが)。 この頃から、入浴に危険を感じるようになりました。滑りやすいタイル張りの浴室で、晋の大きな体を支えられるか、それだけの力が私に残っているか、不安になったのです。 ケアマネジャーさんに相談したところ、さっそく屈強なヘルパーさんを紹介してもらうことができ、見守りと介助を受けられるようになりました。 ■2015年(晋の要介護度は、最重度の「5」に引き上げられました。 そして、この年のある日、ついに晋が立ち上がれなくなります。 以前から足が上がりにくくなり、車にも乗れず、外出が減っていました。 ソファに座っても、自分の力だけでは立ち上がることができません。それでも、私が晋の前に立ち、両足で彼の足をしっかり踏んで固定し、手を握って全体重をかけて引っ張り上げれば、まだ立たせることができたのです。 しかし2015年のある冬の日、ついに手伝っても立てなくなりました。私が引っ張り上げるのに合わせて、晋も立とうとします。でも足に力が入らないのか、くにゃ、となってしまうのです。 それまでの「立てない」とは、明らかに様子が違いました。そこで私はまず、彼をなんとか座布団の上に座らせ、その座布団を引っ張って寝室へ移動し、ベッドの横に敷いた布団に彼を転がすように寝かせました。 私は力自慢ではありませんし、晋とはだいぶ体格差があるのですが、これが「火事場の……」というものでしょうか。 ともかく、翌朝ケアマネジャーさんに連絡をとると、さっそく訪問看護師が3人、我が家に飛んできて、晋を布団からベッドに移してくれました。 夏には誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)も経験し、1ヵ月半にわたって入院。 晋にとっては多難な年でした。 ■2016年(肺炎で再び入院。しかし前回の入院で、晋には病院での生活が負担になると痛感していたので、自宅での療養を選びました。抗生剤が効き前後10日ほどでデイサービスに通えるくらい回復したのは幸いでした。 こうして晋は、ベッド中心の生活になっていきました。いわゆる「寝たきり」です。 言葉を失い、寝たきりになった晋。 生きていて、幸せなのでしょうか。 尋ねてみたいと思うこともありますが、聞くまでもない、そうも感じます。 南向きの部屋で寝ている彼のもとに、朝日がガラス戸越しに射す。 そのとき彼の目は、重荷をすべて下ろしたかのように澄み切って、平穏に満ちています。その幸せそうな顔を見ていると、問うこと自体が無意味にも思えるのです。 ただ、この静けさに至るまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした』、「東大教授」から「寝たきり」になることを受け入れるには相当の時間が必要だった筈だ。
・『デイサービスになじめない 少し話が戻りますが、晋がデイに行き始めたのは、些細なことがきっかけでした。2012年に招かれた日本老年精神医学会の講演で、M先生という医師から、 「ぜひ、診断に使ったMRIの画像を見せてほしい」と申し出がありました。さっそく一式お送りすると、しばらくしてお便りが届きます。 その手紙のなかでM先生は、晋は「緩徐進行性非流暢性失語症(かんじょしんこうせいひりゅうちょうせいしつごしょう)」かもしれないと指摘したうえで、それでも、 「アルツハイマー病の可能性は否定できない。言葉を出してください」と書いてあったのです。そのことを説明しながら、私は彼にこうすすめたのでした。 「晋さん、言葉のリハビリだと思って、デイサービスへ行ってみたら」 「行くよ」 即答でした。リハビリという言葉が気に入ったのでしょうか。あとで子どもたちにこの一部始終を話すと、 「やっぱり、医者に言われると行くんだねえ」と納得顔。さっそくケアマネジャーさんに相談し、とりあえずデイに週1回、半日通うところから始めます。 これまで晋とふたりきりで、あまりにも密な生活を続けていた私は、晋が留守の間どう過ごそうか、あれこれ考えて夢を膨(ふく)らませていました。 晋も当初は、デイを楽しんでいました。 早くから支度をして外に出て、迎えの車を待つ、なんてこともしていたほどです。気持ちよく入浴させてもらい、笑顔で帰ってくる日が続いていました。 ところが、通い始めて3ヵ月ほど過ぎたころから、時折、暗く険しい顔つきが目立つようになりました。ついにある日、送りのデイ職員から、 「今日は職員の髪をひっぱりました」という報告が――。 「どうしたの? 何があったの?」尋ねても、晋はうつむいたままです。それでもしつこく問うと、たどたどしくはありましたが、彼の言葉からようやく事情がつかめました。 同じデイを利用するお年寄りから、「あの人は何もできない」と言われたそうなのです。 「それくらいのことで、落ち込んじゃだめだよ」 「落ち込んじゃいけないね」――そう言う晋は、しかし、うなだれたままです。 「もう、無理して行かなくていいよ。行きたくなかったら、やめていいんだよ」 私はたまらずこう声をかけました。 ケアマネジャー経由でデイに聞いても、「悪口」があった事実は確認できませんでしたが、こうして晋は、初めてのデイを去ることになったのです』、本人が嫌がる事情を聴き出せないというのも、ケアする奥さんにはストレスだろう。
・『心に刻まれる苦しさ この時期の晋は、ふだんから「何もできない」ことを気にしていました。小さな悪口にみえるかもしれませんが、本人にとっては「無能」の烙印(らくいん)を押されたようなもので、何にもまして屈辱的だったのではないでしょうか。 実際、デイでの一件は、彼の中でずっと尾を引いていたのです。ある夜、布団に入った晋が言います。 「僕は何もできない」 「何もできないのが病人じゃない? でも晋さんは散歩にも行ける。電車にも乗れる。歌も歌えるじゃない」 「ありがとう」 ようやく眠りに入るのでした。 また、こんなこともありました。デイをやめた少しあと、私が発熱して一日家で寝ていたことがありました。晋がそばに来て、おろおろしながら尋ねます。 「誰かに何か、言われたんじゃないの」 「誰も何も言わないよ」私はあわてて打ち消しましたが、内心、驚きでいっぱいでした。 晋は、かつての自分と今の私を重ねていたのです。私が寝込んでいるのは、誰かに酷いことを言われて傷ついたからではないか――そう推測していたのです。 その時の彼にできる、最大限のお見舞いだったに違いありません。人を思いやる心は、損なわれていませんでした。 認知症は物忘れの病気だといわれます。確かに、具体的なことは時間とともに忘れてしまうのでしょう。でも、苦しさは深く心に刻みこまれるのだと痛感した出来事でした』、「晋は、かつての自分と今の私を重ねていたのです。私が寝込んでいるのは、誰かに酷いことを言われて傷ついたからではないか――そう推測していたのです。 その時の彼にできる、最大限のお見舞いだったに違いありません。人を思いやる心は、損なわれていませんでした」、なるほど。
・『「ちがうんだよ」と騒いでしまう理由 それでも、しばらくすると晋は、また別のデイに通うようになりました。家で退屈そうにしているのを見かねて、私がすすめたのです。もちろん、私自身にも、骨休めしたいという気持ちがありました。 2つめのデイ。ここでも晋は、当初ごきげんで通っていました。職員からは「先生」と呼ばれ、ほかの利用者と歌ったり踊ったり、楽しめていたようです。 「僕って面白いでしょ」 これが当時の、彼の口癖でした。しかし残念ですが、いい時間は長く続きません。) デイは毎回、行った日の詳しい出来事を「連絡ノート」で報告してくれます。そのノートからは、晋が次第に疲れをためていることが伝わりました。 「うるさい!」 そう大声を出すようにもなっていきました。 通い始めて5ヵ月ほど過ぎた、6月のある日。ついにこんな電話が入ります。 「先生が興奮しているので、来てくれませんか」 デイからでした。急いで迎えに行き、連れ帰りました。 何があったのか……「連絡ノート」を開くと、こんなくだりが目に飛び込んできます。 ■6月×日 9時15分(ホーム着です。室内を歩かれています。「うるさい!」を連発して言っています。 ずっと、「ちがうんだよ、ちがうんだから」 「何度も言ってるじゃないか。わかってください。場所がちがうんだ、やめてくれ」と大きな声で言われています。 「人がちがうんだから、ボクはボクで一人でやってるの、わかった?」 「わかったか! やめてよ!」とずっと興奮されています。まわりのことは見えてないようです。 ■11時40分(早めの昼食にしました(鶏の天ぷら、春菊のごま和え、リンゴ、トマト、レタス)。鶏の天ぷら、トマトは完食です。リンゴは2人分食べました。ごはん、みそ汁、春菊は残っています。 ■12時(歩きながら食べています。だいたい食べると 「うるさーい!」を連発して歩いています。 「ちがうんだからやめてよ本当に!!」 「だからいいよ、もう」 デイで「ちがう」としきりに口にしていることがわかります。 「晋さん、どうしたの、何かあったの?」 「僕はひとりなんだよ」 「いったい、何が『ちがう』の?」 「僕は今までの僕とはちがうんだから、わかってほしい。相手の言うことを一生懸命理解しようとすると、頭が疲れてきて、何が何だかわからなくなる。わかるように話してほしい」 「『場所がちがうんだ、やめてくれ』っていうのは、どういうこと?」 「場所が我が家とちがったり、知らない人に何か言われても、さっと理解できないし、言葉が出ない」 ゆっくりとではありましたが、晋が理路整然と説明することに、私は驚きを隠せませんでした。 このとき彼から聞き取ったことを私なりにまとめると、次のようになります。 「自分は理解力が落ちている。だから、自宅を離れてデイに行き、よく知らない職員に声をかけられても、わかるまでに時間がかかる」 問題が起こった時期、晋は週2回のペースでデイに通っていました。そんな頻度で顔を合わせる職員であっても、いつも初めて会う気がするらしいのです。だから5ヵ月たった時点でも「まだ人と場所に慣れない」のでした。 最高学府の教授でもあった夫・若井晋。その彼が若年性認知症になるとき、本人は、そして家族は、どうしたのか。病を受け入れてもなお歩き続けた夫婦の軌跡を、妻・若井克子が克明に描き出す新刊『東大教授、若年性アルツハイマーになる』は、全国の書店・ネット書店にて好評発売!』、「「自分は理解力が落ちている。だから、自宅を離れてデイに行き、よく知らない職員に声をかけられても、わかるまでに時間がかかる」 問題が起こった時期、晋は週2回のペースでデイに通っていました。そんな頻度で顔を合わせる職員であっても、いつも初めて会う気がするらしいのです。だから5ヵ月たった時点でも「まだ人と場所に慣れない」のでした」、「東大教授」であっても、「若年性アルツハイマー」になると、ここまで苦しむということに、改めて驚かされた。
次に、7月9日付け文春オンラインが掲載した精神科医の和田秀樹氏による「「性の営みはホルモンを分泌する」「自慰も素晴らしいこと」現役精神科医・和田秀樹氏が提唱する、80歳からの“我慢しない愉しみ方” 『80歳の壁』より #2」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/55489
・『「人生100年時代」と言われているが、心身ともに自立して健康でいられる「健康寿命」の平均は、男性72歳、女性75歳となっている。これは、「80歳の壁」を超える前に寝たきりや要介護になってしまう人が多いことを示しているのだ。 ここでは、30年以上にわたり、高齢者医療の現場に携わる精神科医・和田秀樹氏の著書『80歳の壁』(幻冬舎新書)から一部を抜粋。老化を防ぎながら「80歳の壁」を超えるために、和田氏が提唱する“我慢しなくていい生活方法”を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)』、「80歳からの“我慢しない愉しみ方”」とは興味深そうだ。
・『食事は我慢しない。食べたいものは食べる 食べたいものを我慢している人は多いでしょう。食べる量を減らす、塩辛いものや甘いものを避ける、脂っこいものを控えるなどは、よくあるケースです。 世間の常識では、太っていると健康が損なわれ、「塩分、糖分、脂質」は3大害悪のように言われているからです。 でも、本当にそうなのでしょうか? 「食べたい」と思うのは体が求めている、とも考えられます。高齢者は臓器の働きが落ちるため、これが欲求を生んでいる可能性があるのです。 たとえば、塩分がそうです。人間は、ナトリウム(塩)がないと生きていけませんが、高齢者の腎臓は塩分を排出し、血中の塩分不足を起こすことがあるのです。 腎臓にはナトリウムを貯留する働きがあり、足りなければキープしようとします。ところが老化するとキープする能力が落ち、吐き出してしまう。この現象によって、塩分不足になってしまうというわけです。 すると、低ナトリウム血症(血液のナトリウム濃度が不足した状態)が起こりやすくなります。これを防ぐため、体が塩分を欲しがることがあるわけです。 食事の量もそうです。くどいですが「少し太っている人のほうが長生き」というデータは世界中にあります。つまり、太り気味であるほうが好調だと体のほうが知っていて、脳を通して「食べたい」という信号を伝えているとも考えられるわけです』、「腎臓にはナトリウムを貯留する働きがあり、足りなければキープしようとします。ところが老化するとキープする能力が落ち、吐き出してしまう。この現象によって、塩分不足になってしまうというわけです。 すると、低ナトリウム血症(血液のナトリウム濃度が不足した状態)が起こりやすくなります。これを防ぐため、体が塩分を欲しがることがあるわけです」、「老化するとキープする能力が落ち、吐き出してしまう。この現象によって、塩分不足になってしまう」、とは初めて知った。
・『「食べたいものを我慢してダイエット」は寿命を縮める? たしかに60代くらいまでは、塩分の摂り過ぎも太り過ぎも、健康を損なう原因になるかもしれません。しかし80歳も目前の幸齢者(編注:書籍内では、80歳を超えた高齢者を「幸齢者」と呼ぶ)になったのなら、その常識は一度忘れたほうがいいと思います。 「食べたいものを我慢してダイエット」など自ら寿命を縮める行為です。栄養不足は、確実に老化を進めるからです。 もちろん、無理に食べる必要はありませんが「食べたい」と思うなら、我慢せずに食べたらいいのです。 体の声を素直に聞く――。80歳を過ぎた幸齢者には、これが一番の健康法です。 人間の体は、じつによくできています。それを信じればいいのです。 ちなみに、前述の低ナトリウム血症は、意識障害や痙けいれん攣などを引き起こします。 ふだんは逆走や暴走をしない高齢ドライバーによる逆走事故や暴走事故などは、もしかすると低ナトリウム血症が原因で意識が飛んだのではないか。あるいは、血糖値や血圧を下げ過ぎて頭がぼーっとしたのかも……などと、複数の原因が考えられるのです』、「体の声を素直に聞く――。80歳を過ぎた幸齢者には、これが一番の健康法です」、まだその年齢に達してはいないが、そのうち、「体の声を素直に聞」いてもよくなるとは、待ち遠しい気もする。
・『興味あることは我慢しない。どんどんおやりなさい 本当はしたいのに「いい年をして」という言葉が頭に浮かび、我慢してしまうことはありませんか? でもやはり、したいことは我慢せず、やったらいいと思います。 たとえば、性的なこともその1つかもしれません。世間の常識では「年甲斐もなく」と非難されそうなことです。しかし健康面から言えば、積極的になっていいと思います。なぜなら、男性ホルモンが増えるからです。 数年前、歌舞伎町で違法なわいせつDVDを販売して、店員が逮捕される事件がありました。この事件で話題になったのが、常連客に高齢の男性が多かったこと。店には老眼鏡やルーペが常備されており、警察官が踏み込んだ際にも80歳を過ぎた男性客がいたと報道されています。この1月末にも同様の逮捕劇がありました。 「違法なDVD」は推奨できませんが、児童ポルノとは違い、欧米では合法のものです。それ以上にそれを見たいと思うのは健康の証です。また、このような性的映像は男性ホルモンの分泌を高めるので、「元気の源」になっている側面もあると思うのです。 もちろん「したいこと」は、エロティックなものだけではありませんし、男性に限った話でもありません。 「楽しいな」とか「面白そうだな」と思うなら、自分にブレーキをかけず、どんどんやってみたらいいのです』、「「楽しいな」とか「面白そうだな」と思うなら、自分にブレーキをかけず、どんどんやってみたらいいのです」、「ブレーキ」をかけるというつまらないことをする必要はない、というのは嬉しい限りだ。
・『男性ホルモンは元気の源。したいことをして脳も体も元気に 何かに興味を持つということは、脳が若い証拠です。実際、それを実行することで、脳は活性化し、体も元気になります。 それは男性ホルモンから見ても明らかです。年を取ると、体内の男性ホルモン量は自然に低下していきますが、多い人のほうが元気なことは、医学的にも証明されています。 男性ホルモンは、タンパク質の多い食事や運動習慣によっても、ある程度保つことができます。たとえば肉には、男性ホルモンの材料になるコレステロールが含まれており、肉をしっかり食べる人のほうが元気を維持できます。コレステロール値を下げる薬を飲み続けるとED(勃起障害)になりやすいのは、このためです。 80歳にしてエベレスト登山を成功させた三浦雄一郎さんは、まさに「元気」の代名詞のような方ですが、男性ホルモンの一種であるテストステロンを注入していることは有名な話です。 三浦さんは76歳のときにスキーで転倒し、大腿骨と骨盤を骨折する大ケガをします。入院で筋力も低下し、トレーニングの気力も削がれたそうですが、その状態から回復できたのは、男性ホルモンの注入やED治療薬「シアリス」を服用したことも大きかったと語っておられます。シアリスやバイアグラのようなPDE5阻害剤は、動脈硬化を和らげる作用があることが知られています』、「三浦雄一郎さん」が、「大腿骨と骨盤を骨折する大ケガ・・・その状態から回復できたのは、男性ホルモンの注入やED治療薬「シアリス」を服用したことも大きかった」、初めて知った。
・『衰えるに任せておけばどんどん衰退するが…… もちろん、トレーニング(運動)を継続していたことや、エベレスト登頂の目標を見失わなかったことも、三浦さんの元気の秘訣だったことは間違いありません。 年を取ると、筋力や臓器だけでなく、脳も老化します。認知症はそうした老化現象の1つです。なかでも一番多いのはアルツハイマー型で、「脳が縮む」と言われているタイプです。 実際に脳を解剖すると、海馬や前頭葉に萎縮が見られます。海馬は記憶を司つかさどる部分、前頭葉は思考や感情、行動や判断を司る部分です。人間が人間らしく生きるために、最も必要な部分が前頭葉なのです。 前頭葉の働きが衰えると、日常生活では次のような変化が生じてきます。 たとえば、考えることが面倒になる、感情をうまくコントロールできなくなる、 喜怒哀楽が激しくなる、意欲が衰える、集中できなくなる、などです。 人間の体はよくできており、使わない機能は退化していきますが(廃用性萎縮と言います)、使えば活性化していきます。とくに脳はその傾向が顕著です。 つまり、衰えるに任せておけばどんどん衰退しますが、奮起して使えば活性化させることができるわけです。 そして、最も効果があるのが「したいことをする」ということです。前頭葉にとって、それはとても刺激的なことで、脳が活性化するのです。 楽しいこと、面白そうだと思うことほど、脳にとっては刺激的です。反対に、つまらないことや、我慢を強いると、脳の働きは鈍ります。 我慢をして毎日をつまらなく生き、脳を萎しぼませていくか、したいことをして毎日を元気ハツラツと生き、脳を活性化させていくか――。 したいことをすることは、脳の老化を防ぐためにも必要なのです』、言うまでもなく、「したいことをして毎日を元気ハツラツと生き、脳を活性化させていく」方を選択したい。
・『エロティックは否定しない。いくつになっても刺激を求めていい 性欲についても再度話しておきましょう。日本人はタブー視しがちですが、本来、性欲は自然な欲求であり、とても大切なことです。 残念ながら、性欲は年齢と共に落ちていきます。とくに男性は、男性ホルモンが減るため如実に低下します。女性は、年を取ると男性ホルモンが増えるため、性欲が多少上がる人もいます。 性欲があることは、恥ずかしいことではありません。男性も女性も可能なら、積極的に性の営みをしたらいいと思っています。 少し前に新聞の「悩み相談」に、79歳の男性の投稿がありました。「毎日のように自慰をする自分は異常なのか?」という悩みでした』、「男性は、男性ホルモンが減るため如実に低下します。女性は、年を取ると男性ホルモンが増えるため、性欲が多少上がる人もいます」、こんなに男女差があるとは初めて知った。
・『自分の性欲を「不謹慎だ」と考える必要はない 回答者のコメントは忘れてしまいましたが、私が答えるならこうです。 「異常ではありません。素晴らしいことだと思います。男性ホルモンが十分分泌されている証拠です。恥ずかしがるより、楽しみましょう。いつまで続けられるかはわかりません。でも、いつ終わるかわからないことを楽しむのも、この年代ならではの楽しみ方ではないでしょうか。楽しめるうちに楽しんでおかなければ、損だと思います。しかも男性ホルモンが多いことは、判断力や筋力も高めるので若さを保つことにつながりますよ」 女性も同じです。「不謹慎だ」などと考える必要はありません。ある人も、まったくない人もいますが、それは個人差です。新たなパートナーを求めたり、年下を相手にしたりすることにも躊躇する必要はないと思います』、「恥ずかしがるより、楽しみましょう。いつまで続けられるかはわかりません。でも、いつ終わるかわからないことを楽しむのも、この年代ならではの楽しみ方ではないでしょうか。楽しめるうちに楽しんでおかなければ、損だと思います。しかも男性ホルモンが多いことは、判断力や筋力も高めるので若さを保つことにつながります」、誠に嬉しい限りだ。
第三に、9月22日付けPRESIDENT Onlineが掲載した一橋大学名誉教授の野中 郁次郎氏による「「学校秀才」が二流の人材で終わるのは当たり前…野中郁次郎が「知的な野蛮人をめざせ」と訴える理由 「○○シンキング」や「○○思考」は人間を劣化させるだけ」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60930
・『ビジネスパーソンに必要な能力とはいったいなにか。一橋大学の野中郁次郎名誉教授は「私は『知的バーバリアン(野蛮人)たれ』と繰り返してきた。学校秀才は予測不可能な変化や危機に対応できない。ビジネスの現場でこそ、人類が狩猟民族時代から発揮してきた『野性』の発揮が重要になる」という――。※本稿は、野中郁次郎『野性の経営 極限のリーダーシップが未来を変える』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです』、「野中」氏の見方とは興味深そうだ。
・『マニュアル頼りの“学校秀才”は突然の危機に弱い 昨今の世界情勢を念頭に置けば、予測不可能な変化や危機が次々と訪れる複雑性に満ちた世界を我々が生きていることは自明である。ロシアのウクライナ侵攻は、過去の常識や前例から見ればありえない、想定外の事象が起こりうる現実をわれわれに否応なく突きつけた。 突然の天災は、人間がコントロールすることはできない。しかしコロナ禍が示したように、極限状態において間違った対応の連鎖が続けば、それが人災になってしまうことがある。状況変化に応じた判断は、後戻りできない「一回性」という性質をもつ。ほんの一瞬の判断が、のちの大きな出来事の引き金につながり、将来の差異を生む。 足元の日本を見れば、世の中でもてはやされるのは手早く物事を解決してくれそうな「ハウツーもの」だ。極限の状況にあっても、流行の○○シンキングや○○思考、○○テクノロジーを駆使すれば、うまく対処できるのだろうか。 答えは否だ。むしろ、これらは人間が本来もっている直観や創造性を劣化させるかもしれない。 ハウツーやマニュアル頼みの人は、現場のリアルな危機に直面したとき、その知識を応用できず役に立てられない。「ストリート・スマート」という言葉があるが、彼らは、その反対語である「ブック・スマート」や「アカデミック・スマート」で、日本語でいえば「学校秀才」だ。彼らは、現実の只中で「いま・ここ」で起きている状況を、全身全霊で五感を使って感じるということをしない』、「ハウツーやマニュアル頼みの人は、現場のリアルな危機に直面したとき、その知識を応用できず役に立てられない」、「「学校秀才」だ。彼らは、現実の只中で「いま・ここ」で起きている状況を、全身全霊で五感を使って感じるということをしない」、その通りなのだろう。
・『分析・計画・統制の行き過ぎは野性を殺してしまう 混沌とした状況に対し、机上の空論や定石は役に立たない。一方の「ストリート・スマート」は、すべての現場・現実・現物にありのままに向き合う。一切の先入観を排除して、表象の背後にある意味を見抜き、臨機応変に対応する。思えば、人類は狩猟民族時代からそうやって生き抜いてきたのではないだろうか。 危機に絶対解はない。データ解析したところで、正解が得られるとは限らない。現場の文脈や質的な側面が削ぎ落とされた数値分析だけでは、暗黙的なものを含めた全体像を捉えられず、正しい判断はできない。刻々と動いていく状況のなかで、目の前の現実に向き合い、「何をなすべきか」という本質を見抜く。その起点となるのは、現場の直接経験のなかで「いま・ここ・私だけ」が感じる質感(クオリア)だ。これは、人間が誰もが持ち合わせている感覚である。合理性への過信は、局面の大きな変化を察知する嗅覚を劣化させ、現象の背後にある意味を見抜く機会を失わせてしまう。合理や数値に還元できないものを封じ込めてはならない。 オーバーアナリシス(過剰分析)、オーバープラニング(過剰計画)、オーバーコンプライアンス(過剰統制)は、人間や組織のもっている野性味、創造性、あるいは機動力などを棄損する。日本の「失われた30年」におけるイノベーション力の劣化の原因は、ここにある。 「人的資本経営」がまた再注目されているが、人間を資本というモノとして扱っている限り、イノベーションは起きない。本来、人は未来に向かって意味をつくり出す動的存在だ。論理のみにフォーカスする流行りの経営モデルからは、イノベーション創造の主体として人間観が見えてこない。だからこそ、異なる主観を持つ人間同士の共感を出発点にし、生き方(a way of life)の意味を追求する、もっと人間くさい戦略(ヒューマナイジング・ストラテジー)が必要ではないか』、「刻々と動いていく状況のなかで、目の前の現実に向き合い、「何をなすべきか」という本質を見抜く。その起点となるのは、現場の直接経験のなかで「いま・ここ・私だけ」が感じる質感(クオリア)だ。これは、人間が誰もが持ち合わせている感覚である。合理性への過信は、局面の大きな変化を察知する嗅覚を劣化させ、現象の背後にある意味を見抜く機会を失わせてしまう」、「オーバーアナリシス(過剰分析)、オーバープラニング(過剰計画)、オーバーコンプライアンス(過剰統制)は、人間や組織のもっている野性味、創造性、あるいは機動力などを棄損する。日本の「失われた30年」におけるイノベーション力の劣化の原因は、ここにある」、「論理のみにフォーカスする流行りの経営モデルからは、イノベーション創造の主体として人間観が見えてこない。だからこそ、異なる主観を持つ人間同士の共感を出発点にし、生き方(a way of life)の意味を追求する、もっと人間くさい戦略(ヒューマナイジング・ストラテジー)が必要ではないか」、その通りだ。
・『なぜアナログがいま再評価されているのか いまやコンピュータ・テクノロジーは我々の生活を激変させ、インターネットは生活に深く入り込んでいる。今世紀に入るとバイオテクノロジーや人工知能(AI)などが日々発展し、メタバース、デジタルツインなど、仮想現実や疑似現実の世界も生まれ、空飛ぶクルマや宇宙旅行など、ひと昔前のSF小説に描かれた空想も現実となってきている。現代に生きる我々の生活が、科学やテクノロジーに依存していることは間違いない。 デジタルの波が押し寄せる一方で、一度は廃盤になったアナログな製品やサービスが復活し、若い人にも売れている。フィルムカメラは、現像に時間がかかり、どう映っているかわからないが、ワクワクする。レコードには、デジタル音源にはない味わいがある。フィジカルなモノと経験(コト)は、身体感覚を揺さぶるのだ。そこには、デジタルの世界では体験できない質感(クオリア)がある。アナログは、不便で不安定であり、不完全だ。アナログが再評価されるのは、デジタルやテクノロジーの進化で失われつつある、自分の肌感覚や感性など、人間が生まれつき備え持つ生きる力である「野性」を取り戻そうとしているからではないか』、「アナログが再評価されるのは、デジタルやテクノロジーの進化で失われつつある、自分の肌感覚や感性など、人間が生まれつき備え持つ生きる力である「野性」を取り戻そうとしているからではないか」、なるほど。
・『失敗や葛藤こそが人間の創造性を高める 人間は、生身の身体で五感を使って身体知を得ている。気配や空気感、という言葉があるが、それは数値化できない世界だ。日常生活のなか、全身で無意識に浴びているものすべてが暗黙知を豊かにし、感覚を磨いてくれる。「あうんの呼吸」も野性の最たるものだ。人間には自然に間合いを計る創造的な知が身についている。いわばクオリアを互いにやりとりしながら、「いま・ここ」の絶好のタイミングで呼吸を合わせる野性が人間には存在する。 人間は情報処理マシンではない。行間を読み、ニュアンスを感じられる人間とは異なり、AIは情報を機械的に処理することしかできない。人間は無限に広がる世界のなかで、環境と無意識のレベルも含めて相互作用し、共鳴しながら、全身で浴びた経験や感覚を主体的に意味づけられる。永遠の命が保証されない限りある人生のなかで、「過去・現在・未来」という流れを生き、創造性を発揮するのが人間だ。人間の生き方は、因果関係でプログラミングされた決定的なものでない。失敗や葛藤、愚直な試行錯誤は、人間の創造性を豊かにする。偶然性や予測不可能性に「わくわく」したり「どきどき」したりするのが人間らしさであり、そのクオリアが人間の創造力を刺激する』、「人間の生き方は、因果関係でプログラミングされた決定的なものでない。失敗や葛藤、愚直な試行錯誤は、人間の創造性を豊かにする。偶然性や予測不可能性に「わくわく」したり「どきどき」したりするのが人間らしさであり、そのクオリアが人間の創造力を刺激する」、その通りのようだ。
・『集合知化していくために必要なこと アップル創業者スティーブ・ジョブズは、かの有名なスタンフォード大学卒業式でのスピーチで、「点と点をつなぐ」ことの大切さを説いた。人間は、まったく無関係の点であったはずの経験や知識をつなぎ合わせ、「いま・ここ」での文脈に応じて何かに転換する力をもっている。身体知など過去から蓄積してきた豊かな暗黙知が無意識に結びつくことによってブレークスルーが起きる「セレンディピティ」の力である。「フレーム問題」を持ち認識枠の限界があるAIとは大きく異なる点だ。AIには不可能な、共感と本質直観を同時にこなすことを、人間は「いま・ここ」で自然に行なっている。 人間は一人では生きていけない。一人ひとり(一人称)が感じたクオリアや直観を言語化・形式知化し、既存の科学もテクノロジーも含めてあらゆる知を総動員して集合知にしないと、社会や組織(三人称)で価値あるものとして共有できない。人間は、出会ったものとの関係性を一つひとつ育み、そのかかわりを通じて、一人ではなしえないことを共創し、達成してきた。一人称と三人称を媒介するのは、他者や環境の存在との相互作用における「共感」(二人称)だ。 しかし、真の共感は、たんに相手に同情したり、遠慮して忖度そんたくすることでも、妥協することでもない。もっと厳しいものだ。新たな境地にともに達するためには、相手になりきって一緒になって悩み苦しんだうえで、お互い殻を破ってとことん言葉を尽くして対話をし、どうすればよいかを考えるのである』、「真の共感は、たんに相手に同情したり、遠慮して忖度そんたくすることでも、妥協することでもない。もっと厳しいものだ。新たな境地にともに達するためには、相手になりきって一緒になって悩み苦しんだうえで、お互い殻を破ってとことん言葉を尽くして対話をし、どうすればよいかを考えるのである」、余り簡単なことではなさそうだ。
・『真の共感を生むことが組織の基盤になる 前例・慣例や手続きを優先したり、セクショナリズムで権限や既得権益にこだわったりすると、健全な議論は起こらず、機動的な対応は阻害される。同調圧力を退け、役職や立場や出自を超え、みなが知恵を持ち寄って徹底的に対話しなければならない。同じものが重なり合っても何も生まれないのは当然だ。異なる思いや意見を歓迎し、エゴを超えた無我の境地で、命懸けの熟議をすれば、自ずと集団として生き残るための善後策は自ずと見えてくる。 組織であれば、そのような場を意図的につくれるか、あるいは自然発生的に生まれるような仕掛けをすることがリーダーの役割になる。このような場は、一人ひとりの潜在能力である野性を解放し、自律分散的にリーダーシップが発揮される全員経営を下支えするだろう』、「異なる思いや意見を歓迎し、エゴを超えた無我の境地で、命懸けの熟議をすれば、自ずと集団として生き残るための善後策は自ずと見えてくる。 組織であれば、そのような場を意図的につくれるか、あるいは自然発生的に生まれるような仕掛けをすることがリーダーの役割になる。このような場は、一人ひとりの潜在能力である野性を解放し、自律分散的にリーダーシップが発揮される全員経営を下支えするだろう」、「野中先生」の理想とする姿だ。
・『正解のない世界で「知的野蛮人」が生き残ってきた 筆者は、長らく「知的バーバリアン(野蛮人)たれ」と訴えてきた。「知的バーバリアン」は「知性」と「野蛮」を総合する「野性」を有する。正解もなく、定石が通じないこの世の中で、「知的バーバリアン」として必要なのは、二項動態(dynamic duality)思考と実践であろう。アナログとデジタル、暗黙知と形式知、安定と変化、アートとサイエンス、理想と現実など一見相反する事象の狭間で思い悩むことがあるかもしれない。対立項を対立項のまま扱って、どちらを棄却したり、予定調和で中途半端に妥協するべきでもない。もっと言えば、対立軸は意図的に作り出していることがあることも見抜かなければならない。本当は、これらは両極のあいだで、グラデーションで緩やかにつながっている。 まずは、ありのままに現実の只中で、先入観なく「感じる」ことだ。考えるのではなく、全身全霊で感じるのだ。そこで生まれる共感を媒介に、忖度なしに徹底的に対話する。共感を基盤とした知的コンバットという二項動態の方法論は、弁証法を超えるものではないだろうか。 矛盾や葛藤、不均衡は、新たな知へと変革(transformation)する契機になる。「あれかこれか」の二元論(dichotomy)ではなく、「あれもこれも」と突き詰めるなかで、ちょうどよいバランスが取れる、突破口となる跳ぶ発想が降りてくる。一度決めたら機動的に実践し、やり抜いてみる。その試行錯誤のなかで変化を察知し、「いま・ここ」で直観し、決定的瞬間を逃さずに柔軟に対応する。 こうして瞬時に局面が変化しても臨機応変な打開策を繰り出し、現実的に試行錯誤しながらも、理想高くより善い方向へ向かおうとする組織や人間が生き残ってきた。「生き抜くための知恵」である「野性」は人間の直観や潜在能力から生まれ、そして生き抜くことにより、人間の「野性」は磨かれるのだ』、「正解のない世界で「知的野蛮人」が生き残ってきた」、「「生き抜くための知恵」である「野性」は人間の直観や潜在能力から生まれ、そして生き抜くことにより、人間の「野性」は磨かれるのだ」、実践するのは難しそうだが、その通りなのだろう。
先ずは、4月3日付け現代ビジネスが掲載した主婦の若井 克子氏による「若年性アルツハイマーを発症した元東大教授が、デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/92672?imp=0
・『若年性アルツハイマー病で、東京大学を早期退官した若井晋。沖縄での療養などを経て病を公表し、それがきっかけで「認知症当事者としての講演」という生きがいを見つけた彼だったが、症状の悪化からついに講演は不可能となった。妻とともに日常に戻った彼は、介護保険サービスを利用してデイサービスに通い始める。そこで明らかになった、認知症の当事者だからこその苦悩とは? 近刊『東大教授、若年性アルツハイマーになる』(若井克子・著、講談社)よりお届けする。 【第1回】54歳で「若年性アルツハイマー」になった東大教授が書き残していた「日記の中身」 【第2回】手術上手な脳外科医が一転、ネクタイが結べず…東大教授を襲った「若年性アルツハイマー」の現実 【第3回】文字が書けない…54歳で「若年性アルツハイマー」になった東大教授の苦悩 【第4回】失意の元・東大教授は、なぜ「若年性アルツハイマー」を公表したのか? 【第5回】「ぼくは、エイリアン」54歳で若年性アルツハイマーになった東大教授が見た世界 【第6回】元・東大教授が「若年性アルツハイマー」になって見つけた「意外な楽しみ」 【第7回】アルツハイマーを発症した元・東大教授が、言葉を失いつつも講演を続けた理由』、興味深そうだ。
・『弱っていく体、澄んでいく心 講演行脚をやめる少し前から、晋(すすむ)の体は目に見えて衰えていき、それにつれて私たちの生活も変化していきました。 ■2010年 この年に介護保険を使い始めたことはすでに書きました。家で私たちは畳に布団を敷いて寝ていましたが、晋が立ち上がるのが難しくなったのがこの頃です。 幸い、ケアマネジャーさんが介護ベッドの導入を提案してくれたおかげで、解決することができました。 ■2012年 講演を通じて偶然知り合った医師の助言をきっかけに、デイサービス(デイ)に通い始めました(後で書く通り、うまくなじめず、いくつかのデイを転々とするのですが)。 この頃から、入浴に危険を感じるようになりました。滑りやすいタイル張りの浴室で、晋の大きな体を支えられるか、それだけの力が私に残っているか、不安になったのです。 ケアマネジャーさんに相談したところ、さっそく屈強なヘルパーさんを紹介してもらうことができ、見守りと介助を受けられるようになりました。 ■2015年(晋の要介護度は、最重度の「5」に引き上げられました。 そして、この年のある日、ついに晋が立ち上がれなくなります。 以前から足が上がりにくくなり、車にも乗れず、外出が減っていました。 ソファに座っても、自分の力だけでは立ち上がることができません。それでも、私が晋の前に立ち、両足で彼の足をしっかり踏んで固定し、手を握って全体重をかけて引っ張り上げれば、まだ立たせることができたのです。 しかし2015年のある冬の日、ついに手伝っても立てなくなりました。私が引っ張り上げるのに合わせて、晋も立とうとします。でも足に力が入らないのか、くにゃ、となってしまうのです。 それまでの「立てない」とは、明らかに様子が違いました。そこで私はまず、彼をなんとか座布団の上に座らせ、その座布団を引っ張って寝室へ移動し、ベッドの横に敷いた布団に彼を転がすように寝かせました。 私は力自慢ではありませんし、晋とはだいぶ体格差があるのですが、これが「火事場の……」というものでしょうか。 ともかく、翌朝ケアマネジャーさんに連絡をとると、さっそく訪問看護師が3人、我が家に飛んできて、晋を布団からベッドに移してくれました。 夏には誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)も経験し、1ヵ月半にわたって入院。 晋にとっては多難な年でした。 ■2016年(肺炎で再び入院。しかし前回の入院で、晋には病院での生活が負担になると痛感していたので、自宅での療養を選びました。抗生剤が効き前後10日ほどでデイサービスに通えるくらい回復したのは幸いでした。 こうして晋は、ベッド中心の生活になっていきました。いわゆる「寝たきり」です。 言葉を失い、寝たきりになった晋。 生きていて、幸せなのでしょうか。 尋ねてみたいと思うこともありますが、聞くまでもない、そうも感じます。 南向きの部屋で寝ている彼のもとに、朝日がガラス戸越しに射す。 そのとき彼の目は、重荷をすべて下ろしたかのように澄み切って、平穏に満ちています。その幸せそうな顔を見ていると、問うこと自体が無意味にも思えるのです。 ただ、この静けさに至るまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした』、「東大教授」から「寝たきり」になることを受け入れるには相当の時間が必要だった筈だ。
・『デイサービスになじめない 少し話が戻りますが、晋がデイに行き始めたのは、些細なことがきっかけでした。2012年に招かれた日本老年精神医学会の講演で、M先生という医師から、 「ぜひ、診断に使ったMRIの画像を見せてほしい」と申し出がありました。さっそく一式お送りすると、しばらくしてお便りが届きます。 その手紙のなかでM先生は、晋は「緩徐進行性非流暢性失語症(かんじょしんこうせいひりゅうちょうせいしつごしょう)」かもしれないと指摘したうえで、それでも、 「アルツハイマー病の可能性は否定できない。言葉を出してください」と書いてあったのです。そのことを説明しながら、私は彼にこうすすめたのでした。 「晋さん、言葉のリハビリだと思って、デイサービスへ行ってみたら」 「行くよ」 即答でした。リハビリという言葉が気に入ったのでしょうか。あとで子どもたちにこの一部始終を話すと、 「やっぱり、医者に言われると行くんだねえ」と納得顔。さっそくケアマネジャーさんに相談し、とりあえずデイに週1回、半日通うところから始めます。 これまで晋とふたりきりで、あまりにも密な生活を続けていた私は、晋が留守の間どう過ごそうか、あれこれ考えて夢を膨(ふく)らませていました。 晋も当初は、デイを楽しんでいました。 早くから支度をして外に出て、迎えの車を待つ、なんてこともしていたほどです。気持ちよく入浴させてもらい、笑顔で帰ってくる日が続いていました。 ところが、通い始めて3ヵ月ほど過ぎたころから、時折、暗く険しい顔つきが目立つようになりました。ついにある日、送りのデイ職員から、 「今日は職員の髪をひっぱりました」という報告が――。 「どうしたの? 何があったの?」尋ねても、晋はうつむいたままです。それでもしつこく問うと、たどたどしくはありましたが、彼の言葉からようやく事情がつかめました。 同じデイを利用するお年寄りから、「あの人は何もできない」と言われたそうなのです。 「それくらいのことで、落ち込んじゃだめだよ」 「落ち込んじゃいけないね」――そう言う晋は、しかし、うなだれたままです。 「もう、無理して行かなくていいよ。行きたくなかったら、やめていいんだよ」 私はたまらずこう声をかけました。 ケアマネジャー経由でデイに聞いても、「悪口」があった事実は確認できませんでしたが、こうして晋は、初めてのデイを去ることになったのです』、本人が嫌がる事情を聴き出せないというのも、ケアする奥さんにはストレスだろう。
・『心に刻まれる苦しさ この時期の晋は、ふだんから「何もできない」ことを気にしていました。小さな悪口にみえるかもしれませんが、本人にとっては「無能」の烙印(らくいん)を押されたようなもので、何にもまして屈辱的だったのではないでしょうか。 実際、デイでの一件は、彼の中でずっと尾を引いていたのです。ある夜、布団に入った晋が言います。 「僕は何もできない」 「何もできないのが病人じゃない? でも晋さんは散歩にも行ける。電車にも乗れる。歌も歌えるじゃない」 「ありがとう」 ようやく眠りに入るのでした。 また、こんなこともありました。デイをやめた少しあと、私が発熱して一日家で寝ていたことがありました。晋がそばに来て、おろおろしながら尋ねます。 「誰かに何か、言われたんじゃないの」 「誰も何も言わないよ」私はあわてて打ち消しましたが、内心、驚きでいっぱいでした。 晋は、かつての自分と今の私を重ねていたのです。私が寝込んでいるのは、誰かに酷いことを言われて傷ついたからではないか――そう推測していたのです。 その時の彼にできる、最大限のお見舞いだったに違いありません。人を思いやる心は、損なわれていませんでした。 認知症は物忘れの病気だといわれます。確かに、具体的なことは時間とともに忘れてしまうのでしょう。でも、苦しさは深く心に刻みこまれるのだと痛感した出来事でした』、「晋は、かつての自分と今の私を重ねていたのです。私が寝込んでいるのは、誰かに酷いことを言われて傷ついたからではないか――そう推測していたのです。 その時の彼にできる、最大限のお見舞いだったに違いありません。人を思いやる心は、損なわれていませんでした」、なるほど。
・『「ちがうんだよ」と騒いでしまう理由 それでも、しばらくすると晋は、また別のデイに通うようになりました。家で退屈そうにしているのを見かねて、私がすすめたのです。もちろん、私自身にも、骨休めしたいという気持ちがありました。 2つめのデイ。ここでも晋は、当初ごきげんで通っていました。職員からは「先生」と呼ばれ、ほかの利用者と歌ったり踊ったり、楽しめていたようです。 「僕って面白いでしょ」 これが当時の、彼の口癖でした。しかし残念ですが、いい時間は長く続きません。) デイは毎回、行った日の詳しい出来事を「連絡ノート」で報告してくれます。そのノートからは、晋が次第に疲れをためていることが伝わりました。 「うるさい!」 そう大声を出すようにもなっていきました。 通い始めて5ヵ月ほど過ぎた、6月のある日。ついにこんな電話が入ります。 「先生が興奮しているので、来てくれませんか」 デイからでした。急いで迎えに行き、連れ帰りました。 何があったのか……「連絡ノート」を開くと、こんなくだりが目に飛び込んできます。 ■6月×日 9時15分(ホーム着です。室内を歩かれています。「うるさい!」を連発して言っています。 ずっと、「ちがうんだよ、ちがうんだから」 「何度も言ってるじゃないか。わかってください。場所がちがうんだ、やめてくれ」と大きな声で言われています。 「人がちがうんだから、ボクはボクで一人でやってるの、わかった?」 「わかったか! やめてよ!」とずっと興奮されています。まわりのことは見えてないようです。 ■11時40分(早めの昼食にしました(鶏の天ぷら、春菊のごま和え、リンゴ、トマト、レタス)。鶏の天ぷら、トマトは完食です。リンゴは2人分食べました。ごはん、みそ汁、春菊は残っています。 ■12時(歩きながら食べています。だいたい食べると 「うるさーい!」を連発して歩いています。 「ちがうんだからやめてよ本当に!!」 「だからいいよ、もう」 デイで「ちがう」としきりに口にしていることがわかります。 「晋さん、どうしたの、何かあったの?」 「僕はひとりなんだよ」 「いったい、何が『ちがう』の?」 「僕は今までの僕とはちがうんだから、わかってほしい。相手の言うことを一生懸命理解しようとすると、頭が疲れてきて、何が何だかわからなくなる。わかるように話してほしい」 「『場所がちがうんだ、やめてくれ』っていうのは、どういうこと?」 「場所が我が家とちがったり、知らない人に何か言われても、さっと理解できないし、言葉が出ない」 ゆっくりとではありましたが、晋が理路整然と説明することに、私は驚きを隠せませんでした。 このとき彼から聞き取ったことを私なりにまとめると、次のようになります。 「自分は理解力が落ちている。だから、自宅を離れてデイに行き、よく知らない職員に声をかけられても、わかるまでに時間がかかる」 問題が起こった時期、晋は週2回のペースでデイに通っていました。そんな頻度で顔を合わせる職員であっても、いつも初めて会う気がするらしいのです。だから5ヵ月たった時点でも「まだ人と場所に慣れない」のでした。 最高学府の教授でもあった夫・若井晋。その彼が若年性認知症になるとき、本人は、そして家族は、どうしたのか。病を受け入れてもなお歩き続けた夫婦の軌跡を、妻・若井克子が克明に描き出す新刊『東大教授、若年性アルツハイマーになる』は、全国の書店・ネット書店にて好評発売!』、「「自分は理解力が落ちている。だから、自宅を離れてデイに行き、よく知らない職員に声をかけられても、わかるまでに時間がかかる」 問題が起こった時期、晋は週2回のペースでデイに通っていました。そんな頻度で顔を合わせる職員であっても、いつも初めて会う気がするらしいのです。だから5ヵ月たった時点でも「まだ人と場所に慣れない」のでした」、「東大教授」であっても、「若年性アルツハイマー」になると、ここまで苦しむということに、改めて驚かされた。
次に、7月9日付け文春オンラインが掲載した精神科医の和田秀樹氏による「「性の営みはホルモンを分泌する」「自慰も素晴らしいこと」現役精神科医・和田秀樹氏が提唱する、80歳からの“我慢しない愉しみ方” 『80歳の壁』より #2」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/55489
・『「人生100年時代」と言われているが、心身ともに自立して健康でいられる「健康寿命」の平均は、男性72歳、女性75歳となっている。これは、「80歳の壁」を超える前に寝たきりや要介護になってしまう人が多いことを示しているのだ。 ここでは、30年以上にわたり、高齢者医療の現場に携わる精神科医・和田秀樹氏の著書『80歳の壁』(幻冬舎新書)から一部を抜粋。老化を防ぎながら「80歳の壁」を超えるために、和田氏が提唱する“我慢しなくていい生活方法”を紹介する。(全2回の2回目/1回目から続く)』、「80歳からの“我慢しない愉しみ方”」とは興味深そうだ。
・『食事は我慢しない。食べたいものは食べる 食べたいものを我慢している人は多いでしょう。食べる量を減らす、塩辛いものや甘いものを避ける、脂っこいものを控えるなどは、よくあるケースです。 世間の常識では、太っていると健康が損なわれ、「塩分、糖分、脂質」は3大害悪のように言われているからです。 でも、本当にそうなのでしょうか? 「食べたい」と思うのは体が求めている、とも考えられます。高齢者は臓器の働きが落ちるため、これが欲求を生んでいる可能性があるのです。 たとえば、塩分がそうです。人間は、ナトリウム(塩)がないと生きていけませんが、高齢者の腎臓は塩分を排出し、血中の塩分不足を起こすことがあるのです。 腎臓にはナトリウムを貯留する働きがあり、足りなければキープしようとします。ところが老化するとキープする能力が落ち、吐き出してしまう。この現象によって、塩分不足になってしまうというわけです。 すると、低ナトリウム血症(血液のナトリウム濃度が不足した状態)が起こりやすくなります。これを防ぐため、体が塩分を欲しがることがあるわけです。 食事の量もそうです。くどいですが「少し太っている人のほうが長生き」というデータは世界中にあります。つまり、太り気味であるほうが好調だと体のほうが知っていて、脳を通して「食べたい」という信号を伝えているとも考えられるわけです』、「腎臓にはナトリウムを貯留する働きがあり、足りなければキープしようとします。ところが老化するとキープする能力が落ち、吐き出してしまう。この現象によって、塩分不足になってしまうというわけです。 すると、低ナトリウム血症(血液のナトリウム濃度が不足した状態)が起こりやすくなります。これを防ぐため、体が塩分を欲しがることがあるわけです」、「老化するとキープする能力が落ち、吐き出してしまう。この現象によって、塩分不足になってしまう」、とは初めて知った。
・『「食べたいものを我慢してダイエット」は寿命を縮める? たしかに60代くらいまでは、塩分の摂り過ぎも太り過ぎも、健康を損なう原因になるかもしれません。しかし80歳も目前の幸齢者(編注:書籍内では、80歳を超えた高齢者を「幸齢者」と呼ぶ)になったのなら、その常識は一度忘れたほうがいいと思います。 「食べたいものを我慢してダイエット」など自ら寿命を縮める行為です。栄養不足は、確実に老化を進めるからです。 もちろん、無理に食べる必要はありませんが「食べたい」と思うなら、我慢せずに食べたらいいのです。 体の声を素直に聞く――。80歳を過ぎた幸齢者には、これが一番の健康法です。 人間の体は、じつによくできています。それを信じればいいのです。 ちなみに、前述の低ナトリウム血症は、意識障害や痙けいれん攣などを引き起こします。 ふだんは逆走や暴走をしない高齢ドライバーによる逆走事故や暴走事故などは、もしかすると低ナトリウム血症が原因で意識が飛んだのではないか。あるいは、血糖値や血圧を下げ過ぎて頭がぼーっとしたのかも……などと、複数の原因が考えられるのです』、「体の声を素直に聞く――。80歳を過ぎた幸齢者には、これが一番の健康法です」、まだその年齢に達してはいないが、そのうち、「体の声を素直に聞」いてもよくなるとは、待ち遠しい気もする。
・『興味あることは我慢しない。どんどんおやりなさい 本当はしたいのに「いい年をして」という言葉が頭に浮かび、我慢してしまうことはありませんか? でもやはり、したいことは我慢せず、やったらいいと思います。 たとえば、性的なこともその1つかもしれません。世間の常識では「年甲斐もなく」と非難されそうなことです。しかし健康面から言えば、積極的になっていいと思います。なぜなら、男性ホルモンが増えるからです。 数年前、歌舞伎町で違法なわいせつDVDを販売して、店員が逮捕される事件がありました。この事件で話題になったのが、常連客に高齢の男性が多かったこと。店には老眼鏡やルーペが常備されており、警察官が踏み込んだ際にも80歳を過ぎた男性客がいたと報道されています。この1月末にも同様の逮捕劇がありました。 「違法なDVD」は推奨できませんが、児童ポルノとは違い、欧米では合法のものです。それ以上にそれを見たいと思うのは健康の証です。また、このような性的映像は男性ホルモンの分泌を高めるので、「元気の源」になっている側面もあると思うのです。 もちろん「したいこと」は、エロティックなものだけではありませんし、男性に限った話でもありません。 「楽しいな」とか「面白そうだな」と思うなら、自分にブレーキをかけず、どんどんやってみたらいいのです』、「「楽しいな」とか「面白そうだな」と思うなら、自分にブレーキをかけず、どんどんやってみたらいいのです」、「ブレーキ」をかけるというつまらないことをする必要はない、というのは嬉しい限りだ。
・『男性ホルモンは元気の源。したいことをして脳も体も元気に 何かに興味を持つということは、脳が若い証拠です。実際、それを実行することで、脳は活性化し、体も元気になります。 それは男性ホルモンから見ても明らかです。年を取ると、体内の男性ホルモン量は自然に低下していきますが、多い人のほうが元気なことは、医学的にも証明されています。 男性ホルモンは、タンパク質の多い食事や運動習慣によっても、ある程度保つことができます。たとえば肉には、男性ホルモンの材料になるコレステロールが含まれており、肉をしっかり食べる人のほうが元気を維持できます。コレステロール値を下げる薬を飲み続けるとED(勃起障害)になりやすいのは、このためです。 80歳にしてエベレスト登山を成功させた三浦雄一郎さんは、まさに「元気」の代名詞のような方ですが、男性ホルモンの一種であるテストステロンを注入していることは有名な話です。 三浦さんは76歳のときにスキーで転倒し、大腿骨と骨盤を骨折する大ケガをします。入院で筋力も低下し、トレーニングの気力も削がれたそうですが、その状態から回復できたのは、男性ホルモンの注入やED治療薬「シアリス」を服用したことも大きかったと語っておられます。シアリスやバイアグラのようなPDE5阻害剤は、動脈硬化を和らげる作用があることが知られています』、「三浦雄一郎さん」が、「大腿骨と骨盤を骨折する大ケガ・・・その状態から回復できたのは、男性ホルモンの注入やED治療薬「シアリス」を服用したことも大きかった」、初めて知った。
・『衰えるに任せておけばどんどん衰退するが…… もちろん、トレーニング(運動)を継続していたことや、エベレスト登頂の目標を見失わなかったことも、三浦さんの元気の秘訣だったことは間違いありません。 年を取ると、筋力や臓器だけでなく、脳も老化します。認知症はそうした老化現象の1つです。なかでも一番多いのはアルツハイマー型で、「脳が縮む」と言われているタイプです。 実際に脳を解剖すると、海馬や前頭葉に萎縮が見られます。海馬は記憶を司つかさどる部分、前頭葉は思考や感情、行動や判断を司る部分です。人間が人間らしく生きるために、最も必要な部分が前頭葉なのです。 前頭葉の働きが衰えると、日常生活では次のような変化が生じてきます。 たとえば、考えることが面倒になる、感情をうまくコントロールできなくなる、 喜怒哀楽が激しくなる、意欲が衰える、集中できなくなる、などです。 人間の体はよくできており、使わない機能は退化していきますが(廃用性萎縮と言います)、使えば活性化していきます。とくに脳はその傾向が顕著です。 つまり、衰えるに任せておけばどんどん衰退しますが、奮起して使えば活性化させることができるわけです。 そして、最も効果があるのが「したいことをする」ということです。前頭葉にとって、それはとても刺激的なことで、脳が活性化するのです。 楽しいこと、面白そうだと思うことほど、脳にとっては刺激的です。反対に、つまらないことや、我慢を強いると、脳の働きは鈍ります。 我慢をして毎日をつまらなく生き、脳を萎しぼませていくか、したいことをして毎日を元気ハツラツと生き、脳を活性化させていくか――。 したいことをすることは、脳の老化を防ぐためにも必要なのです』、言うまでもなく、「したいことをして毎日を元気ハツラツと生き、脳を活性化させていく」方を選択したい。
・『エロティックは否定しない。いくつになっても刺激を求めていい 性欲についても再度話しておきましょう。日本人はタブー視しがちですが、本来、性欲は自然な欲求であり、とても大切なことです。 残念ながら、性欲は年齢と共に落ちていきます。とくに男性は、男性ホルモンが減るため如実に低下します。女性は、年を取ると男性ホルモンが増えるため、性欲が多少上がる人もいます。 性欲があることは、恥ずかしいことではありません。男性も女性も可能なら、積極的に性の営みをしたらいいと思っています。 少し前に新聞の「悩み相談」に、79歳の男性の投稿がありました。「毎日のように自慰をする自分は異常なのか?」という悩みでした』、「男性は、男性ホルモンが減るため如実に低下します。女性は、年を取ると男性ホルモンが増えるため、性欲が多少上がる人もいます」、こんなに男女差があるとは初めて知った。
・『自分の性欲を「不謹慎だ」と考える必要はない 回答者のコメントは忘れてしまいましたが、私が答えるならこうです。 「異常ではありません。素晴らしいことだと思います。男性ホルモンが十分分泌されている証拠です。恥ずかしがるより、楽しみましょう。いつまで続けられるかはわかりません。でも、いつ終わるかわからないことを楽しむのも、この年代ならではの楽しみ方ではないでしょうか。楽しめるうちに楽しんでおかなければ、損だと思います。しかも男性ホルモンが多いことは、判断力や筋力も高めるので若さを保つことにつながりますよ」 女性も同じです。「不謹慎だ」などと考える必要はありません。ある人も、まったくない人もいますが、それは個人差です。新たなパートナーを求めたり、年下を相手にしたりすることにも躊躇する必要はないと思います』、「恥ずかしがるより、楽しみましょう。いつまで続けられるかはわかりません。でも、いつ終わるかわからないことを楽しむのも、この年代ならではの楽しみ方ではないでしょうか。楽しめるうちに楽しんでおかなければ、損だと思います。しかも男性ホルモンが多いことは、判断力や筋力も高めるので若さを保つことにつながります」、誠に嬉しい限りだ。
第三に、9月22日付けPRESIDENT Onlineが掲載した一橋大学名誉教授の野中 郁次郎氏による「「学校秀才」が二流の人材で終わるのは当たり前…野中郁次郎が「知的な野蛮人をめざせ」と訴える理由 「○○シンキング」や「○○思考」は人間を劣化させるだけ」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60930
・『ビジネスパーソンに必要な能力とはいったいなにか。一橋大学の野中郁次郎名誉教授は「私は『知的バーバリアン(野蛮人)たれ』と繰り返してきた。学校秀才は予測不可能な変化や危機に対応できない。ビジネスの現場でこそ、人類が狩猟民族時代から発揮してきた『野性』の発揮が重要になる」という――。※本稿は、野中郁次郎『野性の経営 極限のリーダーシップが未来を変える』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです』、「野中」氏の見方とは興味深そうだ。
・『マニュアル頼りの“学校秀才”は突然の危機に弱い 昨今の世界情勢を念頭に置けば、予測不可能な変化や危機が次々と訪れる複雑性に満ちた世界を我々が生きていることは自明である。ロシアのウクライナ侵攻は、過去の常識や前例から見ればありえない、想定外の事象が起こりうる現実をわれわれに否応なく突きつけた。 突然の天災は、人間がコントロールすることはできない。しかしコロナ禍が示したように、極限状態において間違った対応の連鎖が続けば、それが人災になってしまうことがある。状況変化に応じた判断は、後戻りできない「一回性」という性質をもつ。ほんの一瞬の判断が、のちの大きな出来事の引き金につながり、将来の差異を生む。 足元の日本を見れば、世の中でもてはやされるのは手早く物事を解決してくれそうな「ハウツーもの」だ。極限の状況にあっても、流行の○○シンキングや○○思考、○○テクノロジーを駆使すれば、うまく対処できるのだろうか。 答えは否だ。むしろ、これらは人間が本来もっている直観や創造性を劣化させるかもしれない。 ハウツーやマニュアル頼みの人は、現場のリアルな危機に直面したとき、その知識を応用できず役に立てられない。「ストリート・スマート」という言葉があるが、彼らは、その反対語である「ブック・スマート」や「アカデミック・スマート」で、日本語でいえば「学校秀才」だ。彼らは、現実の只中で「いま・ここ」で起きている状況を、全身全霊で五感を使って感じるということをしない』、「ハウツーやマニュアル頼みの人は、現場のリアルな危機に直面したとき、その知識を応用できず役に立てられない」、「「学校秀才」だ。彼らは、現実の只中で「いま・ここ」で起きている状況を、全身全霊で五感を使って感じるということをしない」、その通りなのだろう。
・『分析・計画・統制の行き過ぎは野性を殺してしまう 混沌とした状況に対し、机上の空論や定石は役に立たない。一方の「ストリート・スマート」は、すべての現場・現実・現物にありのままに向き合う。一切の先入観を排除して、表象の背後にある意味を見抜き、臨機応変に対応する。思えば、人類は狩猟民族時代からそうやって生き抜いてきたのではないだろうか。 危機に絶対解はない。データ解析したところで、正解が得られるとは限らない。現場の文脈や質的な側面が削ぎ落とされた数値分析だけでは、暗黙的なものを含めた全体像を捉えられず、正しい判断はできない。刻々と動いていく状況のなかで、目の前の現実に向き合い、「何をなすべきか」という本質を見抜く。その起点となるのは、現場の直接経験のなかで「いま・ここ・私だけ」が感じる質感(クオリア)だ。これは、人間が誰もが持ち合わせている感覚である。合理性への過信は、局面の大きな変化を察知する嗅覚を劣化させ、現象の背後にある意味を見抜く機会を失わせてしまう。合理や数値に還元できないものを封じ込めてはならない。 オーバーアナリシス(過剰分析)、オーバープラニング(過剰計画)、オーバーコンプライアンス(過剰統制)は、人間や組織のもっている野性味、創造性、あるいは機動力などを棄損する。日本の「失われた30年」におけるイノベーション力の劣化の原因は、ここにある。 「人的資本経営」がまた再注目されているが、人間を資本というモノとして扱っている限り、イノベーションは起きない。本来、人は未来に向かって意味をつくり出す動的存在だ。論理のみにフォーカスする流行りの経営モデルからは、イノベーション創造の主体として人間観が見えてこない。だからこそ、異なる主観を持つ人間同士の共感を出発点にし、生き方(a way of life)の意味を追求する、もっと人間くさい戦略(ヒューマナイジング・ストラテジー)が必要ではないか』、「刻々と動いていく状況のなかで、目の前の現実に向き合い、「何をなすべきか」という本質を見抜く。その起点となるのは、現場の直接経験のなかで「いま・ここ・私だけ」が感じる質感(クオリア)だ。これは、人間が誰もが持ち合わせている感覚である。合理性への過信は、局面の大きな変化を察知する嗅覚を劣化させ、現象の背後にある意味を見抜く機会を失わせてしまう」、「オーバーアナリシス(過剰分析)、オーバープラニング(過剰計画)、オーバーコンプライアンス(過剰統制)は、人間や組織のもっている野性味、創造性、あるいは機動力などを棄損する。日本の「失われた30年」におけるイノベーション力の劣化の原因は、ここにある」、「論理のみにフォーカスする流行りの経営モデルからは、イノベーション創造の主体として人間観が見えてこない。だからこそ、異なる主観を持つ人間同士の共感を出発点にし、生き方(a way of life)の意味を追求する、もっと人間くさい戦略(ヒューマナイジング・ストラテジー)が必要ではないか」、その通りだ。
・『なぜアナログがいま再評価されているのか いまやコンピュータ・テクノロジーは我々の生活を激変させ、インターネットは生活に深く入り込んでいる。今世紀に入るとバイオテクノロジーや人工知能(AI)などが日々発展し、メタバース、デジタルツインなど、仮想現実や疑似現実の世界も生まれ、空飛ぶクルマや宇宙旅行など、ひと昔前のSF小説に描かれた空想も現実となってきている。現代に生きる我々の生活が、科学やテクノロジーに依存していることは間違いない。 デジタルの波が押し寄せる一方で、一度は廃盤になったアナログな製品やサービスが復活し、若い人にも売れている。フィルムカメラは、現像に時間がかかり、どう映っているかわからないが、ワクワクする。レコードには、デジタル音源にはない味わいがある。フィジカルなモノと経験(コト)は、身体感覚を揺さぶるのだ。そこには、デジタルの世界では体験できない質感(クオリア)がある。アナログは、不便で不安定であり、不完全だ。アナログが再評価されるのは、デジタルやテクノロジーの進化で失われつつある、自分の肌感覚や感性など、人間が生まれつき備え持つ生きる力である「野性」を取り戻そうとしているからではないか』、「アナログが再評価されるのは、デジタルやテクノロジーの進化で失われつつある、自分の肌感覚や感性など、人間が生まれつき備え持つ生きる力である「野性」を取り戻そうとしているからではないか」、なるほど。
・『失敗や葛藤こそが人間の創造性を高める 人間は、生身の身体で五感を使って身体知を得ている。気配や空気感、という言葉があるが、それは数値化できない世界だ。日常生活のなか、全身で無意識に浴びているものすべてが暗黙知を豊かにし、感覚を磨いてくれる。「あうんの呼吸」も野性の最たるものだ。人間には自然に間合いを計る創造的な知が身についている。いわばクオリアを互いにやりとりしながら、「いま・ここ」の絶好のタイミングで呼吸を合わせる野性が人間には存在する。 人間は情報処理マシンではない。行間を読み、ニュアンスを感じられる人間とは異なり、AIは情報を機械的に処理することしかできない。人間は無限に広がる世界のなかで、環境と無意識のレベルも含めて相互作用し、共鳴しながら、全身で浴びた経験や感覚を主体的に意味づけられる。永遠の命が保証されない限りある人生のなかで、「過去・現在・未来」という流れを生き、創造性を発揮するのが人間だ。人間の生き方は、因果関係でプログラミングされた決定的なものでない。失敗や葛藤、愚直な試行錯誤は、人間の創造性を豊かにする。偶然性や予測不可能性に「わくわく」したり「どきどき」したりするのが人間らしさであり、そのクオリアが人間の創造力を刺激する』、「人間の生き方は、因果関係でプログラミングされた決定的なものでない。失敗や葛藤、愚直な試行錯誤は、人間の創造性を豊かにする。偶然性や予測不可能性に「わくわく」したり「どきどき」したりするのが人間らしさであり、そのクオリアが人間の創造力を刺激する」、その通りのようだ。
・『集合知化していくために必要なこと アップル創業者スティーブ・ジョブズは、かの有名なスタンフォード大学卒業式でのスピーチで、「点と点をつなぐ」ことの大切さを説いた。人間は、まったく無関係の点であったはずの経験や知識をつなぎ合わせ、「いま・ここ」での文脈に応じて何かに転換する力をもっている。身体知など過去から蓄積してきた豊かな暗黙知が無意識に結びつくことによってブレークスルーが起きる「セレンディピティ」の力である。「フレーム問題」を持ち認識枠の限界があるAIとは大きく異なる点だ。AIには不可能な、共感と本質直観を同時にこなすことを、人間は「いま・ここ」で自然に行なっている。 人間は一人では生きていけない。一人ひとり(一人称)が感じたクオリアや直観を言語化・形式知化し、既存の科学もテクノロジーも含めてあらゆる知を総動員して集合知にしないと、社会や組織(三人称)で価値あるものとして共有できない。人間は、出会ったものとの関係性を一つひとつ育み、そのかかわりを通じて、一人ではなしえないことを共創し、達成してきた。一人称と三人称を媒介するのは、他者や環境の存在との相互作用における「共感」(二人称)だ。 しかし、真の共感は、たんに相手に同情したり、遠慮して忖度そんたくすることでも、妥協することでもない。もっと厳しいものだ。新たな境地にともに達するためには、相手になりきって一緒になって悩み苦しんだうえで、お互い殻を破ってとことん言葉を尽くして対話をし、どうすればよいかを考えるのである』、「真の共感は、たんに相手に同情したり、遠慮して忖度そんたくすることでも、妥協することでもない。もっと厳しいものだ。新たな境地にともに達するためには、相手になりきって一緒になって悩み苦しんだうえで、お互い殻を破ってとことん言葉を尽くして対話をし、どうすればよいかを考えるのである」、余り簡単なことではなさそうだ。
・『真の共感を生むことが組織の基盤になる 前例・慣例や手続きを優先したり、セクショナリズムで権限や既得権益にこだわったりすると、健全な議論は起こらず、機動的な対応は阻害される。同調圧力を退け、役職や立場や出自を超え、みなが知恵を持ち寄って徹底的に対話しなければならない。同じものが重なり合っても何も生まれないのは当然だ。異なる思いや意見を歓迎し、エゴを超えた無我の境地で、命懸けの熟議をすれば、自ずと集団として生き残るための善後策は自ずと見えてくる。 組織であれば、そのような場を意図的につくれるか、あるいは自然発生的に生まれるような仕掛けをすることがリーダーの役割になる。このような場は、一人ひとりの潜在能力である野性を解放し、自律分散的にリーダーシップが発揮される全員経営を下支えするだろう』、「異なる思いや意見を歓迎し、エゴを超えた無我の境地で、命懸けの熟議をすれば、自ずと集団として生き残るための善後策は自ずと見えてくる。 組織であれば、そのような場を意図的につくれるか、あるいは自然発生的に生まれるような仕掛けをすることがリーダーの役割になる。このような場は、一人ひとりの潜在能力である野性を解放し、自律分散的にリーダーシップが発揮される全員経営を下支えするだろう」、「野中先生」の理想とする姿だ。
・『正解のない世界で「知的野蛮人」が生き残ってきた 筆者は、長らく「知的バーバリアン(野蛮人)たれ」と訴えてきた。「知的バーバリアン」は「知性」と「野蛮」を総合する「野性」を有する。正解もなく、定石が通じないこの世の中で、「知的バーバリアン」として必要なのは、二項動態(dynamic duality)思考と実践であろう。アナログとデジタル、暗黙知と形式知、安定と変化、アートとサイエンス、理想と現実など一見相反する事象の狭間で思い悩むことがあるかもしれない。対立項を対立項のまま扱って、どちらを棄却したり、予定調和で中途半端に妥協するべきでもない。もっと言えば、対立軸は意図的に作り出していることがあることも見抜かなければならない。本当は、これらは両極のあいだで、グラデーションで緩やかにつながっている。 まずは、ありのままに現実の只中で、先入観なく「感じる」ことだ。考えるのではなく、全身全霊で感じるのだ。そこで生まれる共感を媒介に、忖度なしに徹底的に対話する。共感を基盤とした知的コンバットという二項動態の方法論は、弁証法を超えるものではないだろうか。 矛盾や葛藤、不均衡は、新たな知へと変革(transformation)する契機になる。「あれかこれか」の二元論(dichotomy)ではなく、「あれもこれも」と突き詰めるなかで、ちょうどよいバランスが取れる、突破口となる跳ぶ発想が降りてくる。一度決めたら機動的に実践し、やり抜いてみる。その試行錯誤のなかで変化を察知し、「いま・ここ」で直観し、決定的瞬間を逃さずに柔軟に対応する。 こうして瞬時に局面が変化しても臨機応変な打開策を繰り出し、現実的に試行錯誤しながらも、理想高くより善い方向へ向かおうとする組織や人間が生き残ってきた。「生き抜くための知恵」である「野性」は人間の直観や潜在能力から生まれ、そして生き抜くことにより、人間の「野性」は磨かれるのだ』、「正解のない世界で「知的野蛮人」が生き残ってきた」、「「生き抜くための知恵」である「野性」は人間の直観や潜在能力から生まれ、そして生き抜くことにより、人間の「野性」は磨かれるのだ」、実践するのは難しそうだが、その通りなのだろう。
タグ:人生論 (その12)(若年性アルツハイマーを発症した元東大教授が デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは、「性の営みはホルモンを分泌する」「自慰も素晴らしいこと」現役精神科医・和田秀樹氏が提唱する 80歳からの“我慢しない愉しみ方” 『80歳の壁』より #2、「学校秀才」が二流の人材で終わるのは当たり前…野中郁次郎が「知的な野蛮人をめざせ」と訴える理由 「○○シンキング」や「○○思考」は人間を劣化させるだけ) 現代ビジネス 若井 克子氏による「若年性アルツハイマーを発症した元東大教授が、デイサービスに入って経験したこと 失語の当事者が語った胸の内とは」 「東大教授」から「寝たきり」になることを受け入れるには相当の時間が必要だった筈だ。 本人が嫌がる事情を聴き出せないというのも、ケアする奥さんにはストレスだろう。 「晋は、かつての自分と今の私を重ねていたのです。私が寝込んでいるのは、誰かに酷いことを言われて傷ついたからではないか――そう推測していたのです。 その時の彼にできる、最大限のお見舞いだったに違いありません。人を思いやる心は、損なわれていませんでした」、なるほど。 「「自分は理解力が落ちている。だから、自宅を離れてデイに行き、よく知らない職員に声をかけられても、わかるまでに時間がかかる」 問題が起こった時期、晋は週2回のペースでデイに通っていました。そんな頻度で顔を合わせる職員であっても、いつも初めて会う気がするらしいのです。だから5ヵ月たった時点でも「まだ人と場所に慣れない」のでした」、 「東大教授」であっても、「若年性アルツハイマー」になると、ここまで苦しむということに、改めて驚かされた。 文春オンライン 和田秀樹氏による「「性の営みはホルモンを分泌する」「自慰も素晴らしいこと」現役精神科医・和田秀樹氏が提唱する、80歳からの“我慢しない愉しみ方” 『80歳の壁』より #2」 和田秀樹氏の著書『80歳の壁』(幻冬舎新書) 「80歳からの“我慢しない愉しみ方”」とは興味深そうだ。 「腎臓にはナトリウムを貯留する働きがあり、足りなければキープしようとします。ところが老化するとキープする能力が落ち、吐き出してしまう。この現象によって、塩分不足になってしまうというわけです。 すると、低ナトリウム血症(血液のナトリウム濃度が不足した状態)が起こりやすくなります。これを防ぐため、体が塩分を欲しがることがあるわけです」、 「老化するとキープする能力が落ち、吐き出してしまう。この現象によって、塩分不足になってしまう」、とは初めて知った。 「体の声を素直に聞く――。80歳を過ぎた幸齢者には、これが一番の健康法です」、まだその年齢に達してはいないが、そのうち、「体の声を素直に聞」いてもよくなるとは、待ち遠しい気もする。 「「楽しいな」とか「面白そうだな」と思うなら、自分にブレーキをかけず、どんどんやってみたらいいのです」、「ブレーキ」をかけるというつまらないことをする必要はない、というのは嬉しい限りだ。 「三浦雄一郎さん」が、「大腿骨と骨盤を骨折する大ケガ・・・その状態から回復できたのは、男性ホルモンの注入やED治療薬「シアリス」を服用したことも大きかった」、初めて知った。 言うまでもなく、「したいことをして毎日を元気ハツラツと生き、脳を活性化させていく」方を選択したい。 「男性は、男性ホルモンが減るため如実に低下します。女性は、年を取ると男性ホルモンが増えるため、性欲が多少上がる人もいます」、こんなに男女差があるとは初めて知った。 「恥ずかしがるより、楽しみましょう。いつまで続けられるかはわかりません。でも、いつ終わるかわからないことを楽しむのも、この年代ならではの楽しみ方ではないでしょうか。楽しめるうちに楽しんでおかなければ、損だと思います。しかも男性ホルモンが多いことは、判断力や筋力も高めるので若さを保つことにつながります」、誠に嬉しい限りだ。 PRESIDENT ONLINE 野中 郁次郎氏による「「学校秀才」が二流の人材で終わるのは当たり前…野中郁次郎が「知的な野蛮人をめざせ」と訴える理由 「○○シンキング」や「○○思考」は人間を劣化させるだけ」 野中郁次郎『野性の経営 極限のリーダーシップが未来を変える』(KADOKAWA) 「野中」氏の見方とは興味深そうだ。 「ハウツーやマニュアル頼みの人は、現場のリアルな危機に直面したとき、その知識を応用できず役に立てられない」、「「学校秀才」だ。彼らは、現実の只中で「いま・ここ」で起きている状況を、全身全霊で五感を使って感じるということをしない」、その通りなのだろう。 「刻々と動いていく状況のなかで、目の前の現実に向き合い、「何をなすべきか」という本質を見抜く。その起点となるのは、現場の直接経験のなかで「いま・ここ・私だけ」が感じる質感(クオリア)だ。これは、人間が誰もが持ち合わせている感覚である。合理性への過信は、局面の大きな変化を察知する嗅覚を劣化させ、現象の背後にある意味を見抜く機会を失わせてしまう」、 「オーバーアナリシス(過剰分析)、オーバープラニング(過剰計画)、オーバーコンプライアンス(過剰統制)は、人間や組織のもっている野性味、創造性、あるいは機動力などを棄損する。日本の「失われた30年」におけるイノベーション力の劣化の原因は、ここにある」、 「論理のみにフォーカスする流行りの経営モデルからは、イノベーション創造の主体として人間観が見えてこない。だからこそ、異なる主観を持つ人間同士の共感を出発点にし、生き方(a way of life)の意味を追求する、もっと人間くさい戦略(ヒューマナイジング・ストラテジー)が必要ではないか」、その通りだ。 「アナログが再評価されるのは、デジタルやテクノロジーの進化で失われつつある、自分の肌感覚や感性など、人間が生まれつき備え持つ生きる力である「野性」を取り戻そうとしているからではないか」、なるほど。 「人間の生き方は、因果関係でプログラミングされた決定的なものでない。失敗や葛藤、愚直な試行錯誤は、人間の創造性を豊かにする。偶然性や予測不可能性に「わくわく」したり「どきどき」したりするのが人間らしさであり、そのクオリアが人間の創造力を刺激する」、その通りのようだ。 「真の共感は、たんに相手に同情したり、遠慮して忖度そんたくすることでも、妥協することでもない。もっと厳しいものだ。新たな境地にともに達するためには、相手になりきって一緒になって悩み苦しんだうえで、お互い殻を破ってとことん言葉を尽くして対話をし、どうすればよいかを考えるのである」、余り簡単なことではなさそうだ。 「異なる思いや意見を歓迎し、エゴを超えた無我の境地で、命懸けの熟議をすれば、自ずと集団として生き残るための善後策は自ずと見えてくる。 組織であれば、そのような場を意図的につくれるか、あるいは自然発生的に生まれるような仕掛けをすることがリーダーの役割になる。このような場は、一人ひとりの潜在能力である野性を解放し、自律分散的にリーダーシップが発揮される全員経営を下支えするだろう」、「野中先生」の理想とする姿だ。 「正解のない世界で「知的野蛮人」が生き残ってきた」、「「生き抜くための知恵」である「野性」は人間の直観や潜在能力から生まれ、そして生き抜くことにより、人間の「野性」は磨かれるのだ」、実践するのは難しそうだが、その通りなのだろう。
キシダノミクス(その8)(岸田首相の「リモートぶら下がり会見」のシュールな光景、都合の悪いことはいつも先送り…岸田首相の「補助金のインフレ対策」は最悪の有事対応といえる理由 マーケットに勝てると思っているのか、「安倍印」の官邸官僚が次々に外され…ついに霞が関にも「安倍時代の終わり」が訪れた) [国内政治]
キシダノミクスについては、8月20日に取上げた。今日は、(その8)(岸田首相の「リモートぶら下がり会見」のシュールな光景、都合の悪いことはいつも先送り…岸田首相の「補助金のインフレ対策」は最悪の有事対応といえる理由 マーケットに勝てると思っているのか、「安倍印」の官邸官僚が次々に外され…ついに霞が関にも「安倍時代の終わり」が訪れた)である。
先ずは、8月24h付けNewsweek日本版が掲載した在米作家の冷泉彰彦氏による「岸田首相の「リモートぶら下がり会見」のシュールな光景」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2022/08/post-1283_1.php
・『<効率化が実現できるデジタルツールを、強引にアナログ空間に押し込めようという究極の非効率> 新型コロナウイルスで陽性反応が出たために、首相官邸で隔離療養しながら公務を続けている岸田首相は、23日にリモートでの「ぶら下がり会見」を行いました。リモートというのであれば、記者もリモート参加し、映像もビデオ会議のアプリから生成されると考えるのが常識ですが、そうではありませんでした。 官邸内に設けられた会場には、大型モニターが設置されて総理の顔はそこに映し出されていました。その映像を官邸記者クラブの若手記者が左右に分かれて覗き込んでおり、記者が前に出過ぎないように、ご丁寧に赤いロープのバリアが設置されていました。 テレビや新聞の映像は、そのような記者たちのリアルな様子と、彼らに見守られたモニター上の岸田首相の顔の全体を紹介していました。結果的に、極めてシュール(超現実的)な、不思議な映像になっていました。何が不思議かというと、モニター上の仮想空間にいる総理と、大真面目でその映像を見つめる記者の姿の対比というのが、かなり強烈な「不自然さ」を醸し出していたからだと思います。 では、その光景はどうして「シュール」だったのかというと、2つ指摘ができると思います。まず、デジタルという「簡素化・合理化」を実現できるツールを、アナログ空間に押し込めるという究極の非効率が、ごまかしようのないレベルで表現されていたからです。もう1つは、両側に並んだ記者と、中央のモニター上の総理という構図が示す「形式性」であり、そこには総理と記者の決定的に非対称な関係性が投影されています。この2つがシンクロすることで、押しても引いても変わらない、この社会の絶望的な保守性のようなものが構図からストレートに刺さって来ます。シュールというのはそのような意味です』、「デジタルという「簡素化・合理化」を実現できるツールを、アナログ空間に押し込めるという究極の非効率が、ごまかしようのないレベルで表現されていた」、「両側に並んだ記者と、中央のモニター上の総理という構図が示す「形式性」であり、そこには総理と記者の決定的に非対称な関係性が投影されています。この2つがシンクロすることで、押しても引いても変わらない、この社会の絶望的な保守性のようなものが構図からストレートに刺さって来ます」、確かに「シュール」だ。
・『どうしてこんなことになったのでしょうか。原因としては3つ考えられると思います。 問題意識の欠落 1つは、官邸、そして首相自身、さらには官邸記者クラブなど関係者の全てが、この構図が「シュール」だとか「違和感を感じる」という感性を持っていないということです。このシュール感は圧倒的なので、これは「おかしい」という感性があれば、あの手この手で阻止しようとするはずですが、結果的にこんな形になってしまったというのは、周囲に問題意識のある人がいなかったのだと思います。 2つ目は、総理の健康問題です。ただでさえ支持率低下に悩んでいる岸田政権としては、首相の健康問題でさらに内閣への支持が下がるというのは何としても避けねばなりません。であるならば、「健康問題で公務に支障が出てはならない」ということになります。その結果「通常のぶら下がり会見」と「同じこと」を支障なく実施できている、ということにこだわった可能性はあります。 3つ目は、100%デジタルにする際の「演出」ができなかった可能性です。パンデミックの初期に、見よう見まねでリモート会議をやってみたところ、「自分が上に映っていないと不愉快」だと「ダダこね」した管理職がいたなどという騒動が起きました。本当はレイアウトなどは瑣末な話なのですが、首相会見となると、気にする人の存在を否定はできません。 では、仮に、ZOOMやTEAMSのようなオンライン会議ツールの画面上で「ぶら下がり会見」をしたとして、総理の顔をどこにどの大きさに表示した映像を流すのか、質問者の顔をどう処理するのかなど、映像に関する演出に関して官邸としては簡単に答えが出なかったのかもしれません。 結論を言えば、リモートでの「ぶら下がり」などという無理な形式にはこだわらず、例えば事前に質問を受けておいて、総理のしっかりしたビデオメッセージを公開するという方法が一番良かったのだと思います。各国の首脳が、自分が感染した場合や、あるいは感染拡大が激しくてリアル会見が不可能な場合には、内容と表現を込めたメッセージをビデオで流すことで対応しています。 例えば、アメリカのバイデン大統領の場合は、演出が今ひとつであったために、高齢批判を抑えることができていません。一方で、最終的には辞任に至ったにせよ、イギリスのジョンソン首相が一時期行っていたビデオメッセージの発信や、退任したドイツのメルケル前首相のものなどは、作り方として参考になると思います。重要なのは「検討使」的な先送りや組織防衛的な日本語を徹底的に排除して、歯切れの良い表現にすることです』、「原因としては3つ。①官邸、そして首相自身、さらには官邸記者クラブなど関係者の全てが、この構図が「シュール」だとか「違和感を感じる」という感性を持っていない、②「健康問題で公務に支障が出てはならない」・・・「通常のぶら下がり会見」と「同じこと」を支障なく実施できている、ということにこだわった。③100%デジタルにする際の「演出」ができなかった可能性」、「重要なのは「検討使」的な先送りや組織防衛的な日本語を徹底的に排除して、歯切れの良い表現にすることです」、確かに「シュール」なものは、これだけで打ち止めにしてほしいものだ。
次に、8月26日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの磯山 友幸氏による「都合の悪いことはいつも先送り…岸田首相の「補助金のインフレ対策」は最悪の有事対応といえる理由 マーケットに勝てると思っているのか」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60987
・『「有事に対応する内閣」のはずだが、動きは鈍い 「有事の内閣を速やかに整えていくため、内閣改造を断行いたしました」 8月10日に内閣を改造した岸田文雄首相は記者会見に臨んで、こう改造の狙いを述べた。まさに日本を取り巻く状況は「有事」に他ならない。岸田首相自身、「新型コロナ、ウクライナ危機、台湾をめぐる米中関係の緊張、そして国際的な物価高」を挙げ、「わが国の内外で歴史を画するようなさまざまな課題」が生じているとした。その上で改造内閣を「有事に対応する政策断行内閣」だと位置付けた。 内閣改造前の8月5〜7日にNHKが行った世論調査では、内閣支持率が46%と前回7月の59%から急落しており、急遽前倒しで行ったとされる内閣改造は、支持率のテコ入れも期待された。 ところが、改造を受けて8月20〜21日に毎日新聞が行った世論調査では、支持率が36%と前回の52%から16ポイントも下落、内閣発足以降、最低になった。また、不支持率が54%と17ポイント上昇、支持を上回った。 政権発足時から最大の懸案としてきた7月の参議院選挙で大きく勝利したためか、「有事」という言葉とは裏腹に、内閣の動きは鈍い。新型コロナ対策では明確な方針を打ち出さないまま感染者数が激増、病床の逼迫ひっぱくを招いた。内閣を改造しても旧統一教会関係団体とのつながりが判明する大臣副大臣が相次ぎ、内閣の信頼自体が揺らいでいる』、まったく不可解な「内閣改造」だった。
・『物価対策で岸田首相が出した3つの指示は正しいのか そんな中で、国民生活に大きく関わる物価対策については、8月15日に自らが本部長を務め関係閣僚が参加する「物価・賃金・生活総合対策本部」の20分ほどの会合に顔を出し、3つの指示を出した。 1つは小麦の輸入価格の上昇で、政府から国内製粉会社への売渡価格が10月から引き上げる見通しだったものを、「据え置くよう指示する」と発言。「早急に、対応策を具体化」するよう求めた。 2つ目は、エネルギー価格対策。ガソリンなどの「激変緩和事業」つまり、石油元売会社に助成金を出して小売価格を抑えている現在の政策を、期限の9月末で止めず、「10月以降の対策を具体化すること」を求めた。 また、3つ目として、「地域の実情を踏まえた効果的な電力料金対策を講じること」とし、電気代の負担軽減に向けて「地方創生臨時交付金」1兆円の増額を指示した。 その上で、「9月上旬をめどに、この本部において追加策をとりまとめる」とした』、3つとも財政資金の投入で価格を人為的に抑制しようとするものだ。
・『ガソリンにも小麦にも政府が資金をつぎ込む ガソリンに対する補助金については、当欄でも「岸田首相が『ガソリン補助金』にこだわり続ける“危険すぎる理由”」と題して解説したが、案の定、9月末では廃止できず、危惧したように、永遠に「出口」が見えなくなりそうな気配だ。 ところが、今度はガソリンに加えて小麦でも同様に輸入価格の上昇が国内での販売価格に跳ね返らないよう、政府が資金をつぎ込む、というのだ。 もともと小麦の輸入大半は、商社を通じて国が買い取り、国から国内製粉会社に売り渡す「国家貿易」が行われてきた。ウクライナ戦争前までは、輸入価格にマークアップと呼ばれる売買差益を上乗せした価格で製粉会社に売り渡されてきた。その差益は国内の小麦生産に補助金として出されていた。もちろん輸入価格は国際相場に連動するので、年に2回、4月と10月に売り渡し価格が改定され、2022年4月には平均17.3%の引き上げが行われた。 小麦の国際相場はひと時に比べ落ち着きを取り戻しつつあるとはいえ、輸入の平均価格は1年前に比べて高い状態が続いている。本来ならば10月からはさらに20%程度の引き上げが行われる見通しだった。それを岸田首相は「据え置け」と命じたのである』、「今度はガソリンに加えて小麦でも同様に輸入価格の上昇が国内での販売価格に跳ね返らないよう、政府が資金をつぎ込む、というのだ」、資本主義国とは思えないような愚策だ。
・『補助金をどんどん出したツケは国民に回ってくる 小麦の国家貿易による売買差益は農林水産省にとっては、「もう一つの財布」だった。米や麦は特別会計として別枠になっており、麦の売買差益は2019年度に815億円、2020年度に674億円にのぼる。2020年度の麦の損益のトータルは249億円の赤字だが、これは「管理経費」として1000億円近くを使っているためだ。麦と米が別々の勘定だったものを2014年度に統合して「食糧管理勘定」とした。これによって、麦の収益を米の補助金に回すことができるようになった。 小麦価格の高騰は、従来の特別勘定にも大きな影響を与える。売買収益を得るのが当たり前になっていた麦を、コストよりも低価格で売り渡す、つまり「逆ザヤ」になるとなれば、財政が赤字になる。特別会計の枠内でやりくりは難しく、コロナ対策や物価対策を名目に確保してある「予備費」などを使うほか、補正予算を組んで、別枠で予算を確保することになるだろう。そうなると原資は国債しかない。 ガソリンにも、小麦にも、国が補助金をどんどん出してくれることは一見、ありがたいことのようにみえる。そうでなくても小麦価格の上昇でパンや麺類などの値上がりが著しい。これ以上の値上がりを抑えるために、国が安く売るというのだから、こんな良い話はない、というわけだ。岸田首相も、補助金をせっせと出すことが、国民の生活を守ることにつながると信じて疑わないのだろう。 だが、そのツケは確実に国民に回ってくる。ガソリン同様、いつまで国が補助金で価格を統制することができるのか、である。政府が補助金を出せなくなれば、ガソリン価格は一気に国際価格に連動して跳ね上がる。小麦も補助金を出せなくなれば、国際相場に連動して売り渡し価格を一気に上げなければならない。その時の消費者へのインパクト、経済へのインパクトは計り知れないだろう』、「政府が補助金を出せなくなれば、ガソリン価格は一気に国際価格に連動して跳ね上がる。小麦も補助金を出せなくなれば、国際相場に連動して売り渡し価格を一気に上げなければならない。その時の消費者へのインパクト、経済へのインパクトは計り知れないだろう」、その通りだ。
・『オレンジの輸入自由化を思い出してほしい 仮に国内の小麦価格が国際相場並みに上昇し、パンや麺類の原材料費が大幅に上昇したとしよう。当然、企業やお店はそれを製品価格に上乗せする。ギリギリの企業努力もするだろうが、それでも吸収できなければ値上げするしかない。当然、値上げすれば、販売量に影響するだろう。高くて買えないという人が出てくるからだ。その結果、小麦の使用量は減り、価格は下落する。そうなるとどこかのタイミングで需要が増えてくるわけだ。これが経済原理、市場原理である。 政府が補助金でそこに介入すると、市場が歪む。価格を強引に据え置けば需要が減らないから価格も下がらない。企業がコストを製品価格に転嫁するタイミングも難しくなる。 もともと、小麦のような「国家貿易」は極めて歪なやり方だ。国産小麦に多額の補助金を出しているのは輸入品に勝てないと思っているからだ。農家がいくら努力をして高品質で安全安心な小麦を作ろうとしても海外に輸出して国際競争力を持つ商品になっていくことはできないだろう。 かつて、オレンジの輸入自由化で、日本のみかん農家は全滅すると言われたものだ。だが、国際競争に晒された結果、品質で輸入品と戦えるさまざまな高級柑橘類が国内で育った。補助金漬けになっている麦や米も、品質で勝負できるものはあるが、戦いに踏み出せない』、「オレンジの輸入自由化で」、「国際競争に晒された結果、品質で輸入品と戦えるさまざまな高級柑橘類が国内で育った」、「補助金漬けになっている麦や米も・・・戦いに踏み出」すか真剣に検討すべきだ。
・『補助金を出せば財政が悪化し、円安に拍車がかかる ガソリンも小麦も、補助金は一時的な激変緩和対策というのが建前だ。現状は、円安が一服し、国際市況もやや落ち着いているので、危機感は遠のいているが、マーケットは生き物。いつ再び動き出して、猛烈な円安、猛烈な価格上昇が始まらないとも限らない。そうなった時に、政府は資金を注ぎ込んでマーケットに勝てると思っているのだろうか。 もともと日本は巨額の財政赤字の国である。補助金を出し、しかもそれを借金で賄えば、さらに財政が悪化し、円安に拍車がかかるだろう。円安で価格が上昇している国際市況商品の価格を引き下げようと財政を使えば、さらに円安に拍車がかかり、円建ての国際商品価格が上昇するというジレンマに陥ることになりかねない。 世界は物価上昇(インフレ)を抑えるのは中央銀行の役目で、金利の引き上げなど金融引き締めを行うのが常道だ。日本銀行が政府の子会社だというのなら、今こそ、インフレ対策に金利を引き上げるべきで、政府が財政で価格を引き下げようとするのは邪道だろう』、「今こそ、インフレ対策に金利を引き上げるべきで、政府が財政で価格を引き下げようとするのは邪道だろう」、同感である。
第三に、9月22日付け現代ビジネス「「安倍印」の官邸官僚が次々に外され…ついに霞が関にも「安倍時代の終わり」が訪れた」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/99596?imp=0
・『「第2の島田問題になる」 外務省ナンバー2の鈴木浩外務審議官('85年入省)が退き、後任に小野啓一経済局長('88年同)が就いた。 故・安倍晋三元首相の首相秘書官を7年半務めた鈴木氏の去就は、霞が関で大きな注目を集めていた。安倍氏の生前から「第2の島田問題に発展しかねない」と見られていたためだ。 島田問題とは今年7月、第2次安倍政権下で首相秘書官を6年半務めた島田和久防衛事務次官が退任した一件。安倍氏は島田氏の続投を要求したが、岸田官邸は「次官は一期2年」との原則論を盾に交代させ、安倍氏の怒りを買った』、「岸田官邸は「次官は一期2年」との原則論を盾に交代させ」たというのは、大したものだ。
・『鈴木氏の今後は… 鈴木氏もまた、安倍氏の官房長官時代から秘書官を務め、第1次安倍内閣でも内閣副広報官を歴任した「安倍印」の官邸官僚だ。延べ9年にわたって安倍氏に仕え、外務審議官として'20年7月に首相官邸から外務省へ戻った。局長を経ずに次官級の審議官に就任するのは極めて異例だ。 今年6月にドイツで開かれたG7サミットでは、岸田首相の補佐役として首脳宣言の取りまとめに奔走した。来年5月には首相のお膝元の広島でサミットが開催されることから、省内では鈴木氏の留任説も出ていた。 だが安倍氏が凶弾に倒れた直後の人事で、鈴木氏も退任し大臣官房付となった。今後は大使に転出するとの見方が強いが、「鈴木氏は安倍カラーが強すぎて、花形の米国大使で遇されることはない。おそらく英国あたりだろう」(外務省キャリア)と言われる。 霞が関にも「安倍時代の終焉」が訪れている』、「鈴木氏は安倍カラーが強すぎて、花形の米国大使で遇されることはない。おそらく英国あたりだろう」、「霞が関にも「安倍時代の終焉」が訪れている」、いいことだ。
先ずは、8月24h付けNewsweek日本版が掲載した在米作家の冷泉彰彦氏による「岸田首相の「リモートぶら下がり会見」のシュールな光景」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/reizei/2022/08/post-1283_1.php
・『<効率化が実現できるデジタルツールを、強引にアナログ空間に押し込めようという究極の非効率> 新型コロナウイルスで陽性反応が出たために、首相官邸で隔離療養しながら公務を続けている岸田首相は、23日にリモートでの「ぶら下がり会見」を行いました。リモートというのであれば、記者もリモート参加し、映像もビデオ会議のアプリから生成されると考えるのが常識ですが、そうではありませんでした。 官邸内に設けられた会場には、大型モニターが設置されて総理の顔はそこに映し出されていました。その映像を官邸記者クラブの若手記者が左右に分かれて覗き込んでおり、記者が前に出過ぎないように、ご丁寧に赤いロープのバリアが設置されていました。 テレビや新聞の映像は、そのような記者たちのリアルな様子と、彼らに見守られたモニター上の岸田首相の顔の全体を紹介していました。結果的に、極めてシュール(超現実的)な、不思議な映像になっていました。何が不思議かというと、モニター上の仮想空間にいる総理と、大真面目でその映像を見つめる記者の姿の対比というのが、かなり強烈な「不自然さ」を醸し出していたからだと思います。 では、その光景はどうして「シュール」だったのかというと、2つ指摘ができると思います。まず、デジタルという「簡素化・合理化」を実現できるツールを、アナログ空間に押し込めるという究極の非効率が、ごまかしようのないレベルで表現されていたからです。もう1つは、両側に並んだ記者と、中央のモニター上の総理という構図が示す「形式性」であり、そこには総理と記者の決定的に非対称な関係性が投影されています。この2つがシンクロすることで、押しても引いても変わらない、この社会の絶望的な保守性のようなものが構図からストレートに刺さって来ます。シュールというのはそのような意味です』、「デジタルという「簡素化・合理化」を実現できるツールを、アナログ空間に押し込めるという究極の非効率が、ごまかしようのないレベルで表現されていた」、「両側に並んだ記者と、中央のモニター上の総理という構図が示す「形式性」であり、そこには総理と記者の決定的に非対称な関係性が投影されています。この2つがシンクロすることで、押しても引いても変わらない、この社会の絶望的な保守性のようなものが構図からストレートに刺さって来ます」、確かに「シュール」だ。
・『どうしてこんなことになったのでしょうか。原因としては3つ考えられると思います。 問題意識の欠落 1つは、官邸、そして首相自身、さらには官邸記者クラブなど関係者の全てが、この構図が「シュール」だとか「違和感を感じる」という感性を持っていないということです。このシュール感は圧倒的なので、これは「おかしい」という感性があれば、あの手この手で阻止しようとするはずですが、結果的にこんな形になってしまったというのは、周囲に問題意識のある人がいなかったのだと思います。 2つ目は、総理の健康問題です。ただでさえ支持率低下に悩んでいる岸田政権としては、首相の健康問題でさらに内閣への支持が下がるというのは何としても避けねばなりません。であるならば、「健康問題で公務に支障が出てはならない」ということになります。その結果「通常のぶら下がり会見」と「同じこと」を支障なく実施できている、ということにこだわった可能性はあります。 3つ目は、100%デジタルにする際の「演出」ができなかった可能性です。パンデミックの初期に、見よう見まねでリモート会議をやってみたところ、「自分が上に映っていないと不愉快」だと「ダダこね」した管理職がいたなどという騒動が起きました。本当はレイアウトなどは瑣末な話なのですが、首相会見となると、気にする人の存在を否定はできません。 では、仮に、ZOOMやTEAMSのようなオンライン会議ツールの画面上で「ぶら下がり会見」をしたとして、総理の顔をどこにどの大きさに表示した映像を流すのか、質問者の顔をどう処理するのかなど、映像に関する演出に関して官邸としては簡単に答えが出なかったのかもしれません。 結論を言えば、リモートでの「ぶら下がり」などという無理な形式にはこだわらず、例えば事前に質問を受けておいて、総理のしっかりしたビデオメッセージを公開するという方法が一番良かったのだと思います。各国の首脳が、自分が感染した場合や、あるいは感染拡大が激しくてリアル会見が不可能な場合には、内容と表現を込めたメッセージをビデオで流すことで対応しています。 例えば、アメリカのバイデン大統領の場合は、演出が今ひとつであったために、高齢批判を抑えることができていません。一方で、最終的には辞任に至ったにせよ、イギリスのジョンソン首相が一時期行っていたビデオメッセージの発信や、退任したドイツのメルケル前首相のものなどは、作り方として参考になると思います。重要なのは「検討使」的な先送りや組織防衛的な日本語を徹底的に排除して、歯切れの良い表現にすることです』、「原因としては3つ。①官邸、そして首相自身、さらには官邸記者クラブなど関係者の全てが、この構図が「シュール」だとか「違和感を感じる」という感性を持っていない、②「健康問題で公務に支障が出てはならない」・・・「通常のぶら下がり会見」と「同じこと」を支障なく実施できている、ということにこだわった。③100%デジタルにする際の「演出」ができなかった可能性」、「重要なのは「検討使」的な先送りや組織防衛的な日本語を徹底的に排除して、歯切れの良い表現にすることです」、確かに「シュール」なものは、これだけで打ち止めにしてほしいものだ。
次に、8月26日付けPRESIDENT Onlineが掲載した経済ジャーナリストの磯山 友幸氏による「都合の悪いことはいつも先送り…岸田首相の「補助金のインフレ対策」は最悪の有事対応といえる理由 マーケットに勝てると思っているのか」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60987
・『「有事に対応する内閣」のはずだが、動きは鈍い 「有事の内閣を速やかに整えていくため、内閣改造を断行いたしました」 8月10日に内閣を改造した岸田文雄首相は記者会見に臨んで、こう改造の狙いを述べた。まさに日本を取り巻く状況は「有事」に他ならない。岸田首相自身、「新型コロナ、ウクライナ危機、台湾をめぐる米中関係の緊張、そして国際的な物価高」を挙げ、「わが国の内外で歴史を画するようなさまざまな課題」が生じているとした。その上で改造内閣を「有事に対応する政策断行内閣」だと位置付けた。 内閣改造前の8月5〜7日にNHKが行った世論調査では、内閣支持率が46%と前回7月の59%から急落しており、急遽前倒しで行ったとされる内閣改造は、支持率のテコ入れも期待された。 ところが、改造を受けて8月20〜21日に毎日新聞が行った世論調査では、支持率が36%と前回の52%から16ポイントも下落、内閣発足以降、最低になった。また、不支持率が54%と17ポイント上昇、支持を上回った。 政権発足時から最大の懸案としてきた7月の参議院選挙で大きく勝利したためか、「有事」という言葉とは裏腹に、内閣の動きは鈍い。新型コロナ対策では明確な方針を打ち出さないまま感染者数が激増、病床の逼迫ひっぱくを招いた。内閣を改造しても旧統一教会関係団体とのつながりが判明する大臣副大臣が相次ぎ、内閣の信頼自体が揺らいでいる』、まったく不可解な「内閣改造」だった。
・『物価対策で岸田首相が出した3つの指示は正しいのか そんな中で、国民生活に大きく関わる物価対策については、8月15日に自らが本部長を務め関係閣僚が参加する「物価・賃金・生活総合対策本部」の20分ほどの会合に顔を出し、3つの指示を出した。 1つは小麦の輸入価格の上昇で、政府から国内製粉会社への売渡価格が10月から引き上げる見通しだったものを、「据え置くよう指示する」と発言。「早急に、対応策を具体化」するよう求めた。 2つ目は、エネルギー価格対策。ガソリンなどの「激変緩和事業」つまり、石油元売会社に助成金を出して小売価格を抑えている現在の政策を、期限の9月末で止めず、「10月以降の対策を具体化すること」を求めた。 また、3つ目として、「地域の実情を踏まえた効果的な電力料金対策を講じること」とし、電気代の負担軽減に向けて「地方創生臨時交付金」1兆円の増額を指示した。 その上で、「9月上旬をめどに、この本部において追加策をとりまとめる」とした』、3つとも財政資金の投入で価格を人為的に抑制しようとするものだ。
・『ガソリンにも小麦にも政府が資金をつぎ込む ガソリンに対する補助金については、当欄でも「岸田首相が『ガソリン補助金』にこだわり続ける“危険すぎる理由”」と題して解説したが、案の定、9月末では廃止できず、危惧したように、永遠に「出口」が見えなくなりそうな気配だ。 ところが、今度はガソリンに加えて小麦でも同様に輸入価格の上昇が国内での販売価格に跳ね返らないよう、政府が資金をつぎ込む、というのだ。 もともと小麦の輸入大半は、商社を通じて国が買い取り、国から国内製粉会社に売り渡す「国家貿易」が行われてきた。ウクライナ戦争前までは、輸入価格にマークアップと呼ばれる売買差益を上乗せした価格で製粉会社に売り渡されてきた。その差益は国内の小麦生産に補助金として出されていた。もちろん輸入価格は国際相場に連動するので、年に2回、4月と10月に売り渡し価格が改定され、2022年4月には平均17.3%の引き上げが行われた。 小麦の国際相場はひと時に比べ落ち着きを取り戻しつつあるとはいえ、輸入の平均価格は1年前に比べて高い状態が続いている。本来ならば10月からはさらに20%程度の引き上げが行われる見通しだった。それを岸田首相は「据え置け」と命じたのである』、「今度はガソリンに加えて小麦でも同様に輸入価格の上昇が国内での販売価格に跳ね返らないよう、政府が資金をつぎ込む、というのだ」、資本主義国とは思えないような愚策だ。
・『補助金をどんどん出したツケは国民に回ってくる 小麦の国家貿易による売買差益は農林水産省にとっては、「もう一つの財布」だった。米や麦は特別会計として別枠になっており、麦の売買差益は2019年度に815億円、2020年度に674億円にのぼる。2020年度の麦の損益のトータルは249億円の赤字だが、これは「管理経費」として1000億円近くを使っているためだ。麦と米が別々の勘定だったものを2014年度に統合して「食糧管理勘定」とした。これによって、麦の収益を米の補助金に回すことができるようになった。 小麦価格の高騰は、従来の特別勘定にも大きな影響を与える。売買収益を得るのが当たり前になっていた麦を、コストよりも低価格で売り渡す、つまり「逆ザヤ」になるとなれば、財政が赤字になる。特別会計の枠内でやりくりは難しく、コロナ対策や物価対策を名目に確保してある「予備費」などを使うほか、補正予算を組んで、別枠で予算を確保することになるだろう。そうなると原資は国債しかない。 ガソリンにも、小麦にも、国が補助金をどんどん出してくれることは一見、ありがたいことのようにみえる。そうでなくても小麦価格の上昇でパンや麺類などの値上がりが著しい。これ以上の値上がりを抑えるために、国が安く売るというのだから、こんな良い話はない、というわけだ。岸田首相も、補助金をせっせと出すことが、国民の生活を守ることにつながると信じて疑わないのだろう。 だが、そのツケは確実に国民に回ってくる。ガソリン同様、いつまで国が補助金で価格を統制することができるのか、である。政府が補助金を出せなくなれば、ガソリン価格は一気に国際価格に連動して跳ね上がる。小麦も補助金を出せなくなれば、国際相場に連動して売り渡し価格を一気に上げなければならない。その時の消費者へのインパクト、経済へのインパクトは計り知れないだろう』、「政府が補助金を出せなくなれば、ガソリン価格は一気に国際価格に連動して跳ね上がる。小麦も補助金を出せなくなれば、国際相場に連動して売り渡し価格を一気に上げなければならない。その時の消費者へのインパクト、経済へのインパクトは計り知れないだろう」、その通りだ。
・『オレンジの輸入自由化を思い出してほしい 仮に国内の小麦価格が国際相場並みに上昇し、パンや麺類の原材料費が大幅に上昇したとしよう。当然、企業やお店はそれを製品価格に上乗せする。ギリギリの企業努力もするだろうが、それでも吸収できなければ値上げするしかない。当然、値上げすれば、販売量に影響するだろう。高くて買えないという人が出てくるからだ。その結果、小麦の使用量は減り、価格は下落する。そうなるとどこかのタイミングで需要が増えてくるわけだ。これが経済原理、市場原理である。 政府が補助金でそこに介入すると、市場が歪む。価格を強引に据え置けば需要が減らないから価格も下がらない。企業がコストを製品価格に転嫁するタイミングも難しくなる。 もともと、小麦のような「国家貿易」は極めて歪なやり方だ。国産小麦に多額の補助金を出しているのは輸入品に勝てないと思っているからだ。農家がいくら努力をして高品質で安全安心な小麦を作ろうとしても海外に輸出して国際競争力を持つ商品になっていくことはできないだろう。 かつて、オレンジの輸入自由化で、日本のみかん農家は全滅すると言われたものだ。だが、国際競争に晒された結果、品質で輸入品と戦えるさまざまな高級柑橘類が国内で育った。補助金漬けになっている麦や米も、品質で勝負できるものはあるが、戦いに踏み出せない』、「オレンジの輸入自由化で」、「国際競争に晒された結果、品質で輸入品と戦えるさまざまな高級柑橘類が国内で育った」、「補助金漬けになっている麦や米も・・・戦いに踏み出」すか真剣に検討すべきだ。
・『補助金を出せば財政が悪化し、円安に拍車がかかる ガソリンも小麦も、補助金は一時的な激変緩和対策というのが建前だ。現状は、円安が一服し、国際市況もやや落ち着いているので、危機感は遠のいているが、マーケットは生き物。いつ再び動き出して、猛烈な円安、猛烈な価格上昇が始まらないとも限らない。そうなった時に、政府は資金を注ぎ込んでマーケットに勝てると思っているのだろうか。 もともと日本は巨額の財政赤字の国である。補助金を出し、しかもそれを借金で賄えば、さらに財政が悪化し、円安に拍車がかかるだろう。円安で価格が上昇している国際市況商品の価格を引き下げようと財政を使えば、さらに円安に拍車がかかり、円建ての国際商品価格が上昇するというジレンマに陥ることになりかねない。 世界は物価上昇(インフレ)を抑えるのは中央銀行の役目で、金利の引き上げなど金融引き締めを行うのが常道だ。日本銀行が政府の子会社だというのなら、今こそ、インフレ対策に金利を引き上げるべきで、政府が財政で価格を引き下げようとするのは邪道だろう』、「今こそ、インフレ対策に金利を引き上げるべきで、政府が財政で価格を引き下げようとするのは邪道だろう」、同感である。
第三に、9月22日付け現代ビジネス「「安倍印」の官邸官僚が次々に外され…ついに霞が関にも「安倍時代の終わり」が訪れた」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/99596?imp=0
・『「第2の島田問題になる」 外務省ナンバー2の鈴木浩外務審議官('85年入省)が退き、後任に小野啓一経済局長('88年同)が就いた。 故・安倍晋三元首相の首相秘書官を7年半務めた鈴木氏の去就は、霞が関で大きな注目を集めていた。安倍氏の生前から「第2の島田問題に発展しかねない」と見られていたためだ。 島田問題とは今年7月、第2次安倍政権下で首相秘書官を6年半務めた島田和久防衛事務次官が退任した一件。安倍氏は島田氏の続投を要求したが、岸田官邸は「次官は一期2年」との原則論を盾に交代させ、安倍氏の怒りを買った』、「岸田官邸は「次官は一期2年」との原則論を盾に交代させ」たというのは、大したものだ。
・『鈴木氏の今後は… 鈴木氏もまた、安倍氏の官房長官時代から秘書官を務め、第1次安倍内閣でも内閣副広報官を歴任した「安倍印」の官邸官僚だ。延べ9年にわたって安倍氏に仕え、外務審議官として'20年7月に首相官邸から外務省へ戻った。局長を経ずに次官級の審議官に就任するのは極めて異例だ。 今年6月にドイツで開かれたG7サミットでは、岸田首相の補佐役として首脳宣言の取りまとめに奔走した。来年5月には首相のお膝元の広島でサミットが開催されることから、省内では鈴木氏の留任説も出ていた。 だが安倍氏が凶弾に倒れた直後の人事で、鈴木氏も退任し大臣官房付となった。今後は大使に転出するとの見方が強いが、「鈴木氏は安倍カラーが強すぎて、花形の米国大使で遇されることはない。おそらく英国あたりだろう」(外務省キャリア)と言われる。 霞が関にも「安倍時代の終焉」が訪れている』、「鈴木氏は安倍カラーが強すぎて、花形の米国大使で遇されることはない。おそらく英国あたりだろう」、「霞が関にも「安倍時代の終焉」が訪れている」、いいことだ。
タグ:「デジタルという「簡素化・合理化」を実現できるツールを、アナログ空間に押し込めるという究極の非効率が、ごまかしようのないレベルで表現されていた」、 冷泉彰彦氏による「岸田首相の「リモートぶら下がり会見」のシュールな光景」 (その8)(岸田首相の「リモートぶら下がり会見」のシュールな光景、都合の悪いことはいつも先送り…岸田首相の「補助金のインフレ対策」は最悪の有事対応といえる理由 マーケットに勝てると思っているのか、「安倍印」の官邸官僚が次々に外され…ついに霞が関にも「安倍時代の終わり」が訪れた) キシダノミクス 「両側に並んだ記者と、中央のモニター上の総理という構図が示す「形式性」であり、そこには総理と記者の決定的に非対称な関係性が投影されています。この2つがシンクロすることで、押しても引いても変わらない、この社会の絶望的な保守性のようなものが構図からストレートに刺さって来ます」、確かに「シュール」だ。 「原因としては3つ。①官邸、そして首相自身、さらには官邸記者クラブなど関係者の全てが、この構図が「シュール」だとか「違和感を感じる」という感性を持っていない、②「健康問題で公務に支障が出てはならない」・・・「通常のぶら下がり会見」と「同じこと」を支障なく実施できている、ということにこだわった。③100%デジタルにする際の「演出」ができなかった可能性」、 「重要なのは「検討使」的な先送りや組織防衛的な日本語を徹底的に排除して、歯切れの良い表現にすることです」、確かに「シュール」なものは、これだけで打ち止めにしてほしいものだ。 PRESIDENT ONLINE 磯山 友幸氏による「都合の悪いことはいつも先送り…岸田首相の「補助金のインフレ対策」は最悪の有事対応といえる理由 マーケットに勝てると思っているのか」 まったく不可解な「内閣改造」だった。 3つとも財政資金の投入で価格を人為的に抑制しようとするものだ。 「今度はガソリンに加えて小麦でも同様に輸入価格の上昇が国内での販売価格に跳ね返らないよう、政府が資金をつぎ込む、というのだ」、資本主義国とは思えないような愚策だ。 「政府が補助金を出せなくなれば、ガソリン価格は一気に国際価格に連動して跳ね上がる。小麦も補助金を出せなくなれば、国際相場に連動して売り渡し価格を一気に上げなければならない。その時の消費者へのインパクト、経済へのインパクトは計り知れないだろう」、その通りだ。 「オレンジの輸入自由化で」、「国際競争に晒された結果、品質で輸入品と戦えるさまざまな高級柑橘類が国内で育った」、「補助金漬けになっている麦や米も・・・戦いに踏み出」すか真剣に検討すべきだ。 「今こそ、インフレ対策に金利を引き上げるべきで、政府が財政で価格を引き下げようとするのは邪道だろう」、同感である。 現代ビジネス「「安倍印」の官邸官僚が次々に外され…ついに霞が関にも「安倍時代の終わり」が訪れた」 「岸田官邸は「次官は一期2年」との原則論を盾に交代させ」たというのは、大したものだ。 「鈴木氏は安倍カラーが強すぎて、花形の米国大使で遇されることはない。おそらく英国あたりだろう」、「霞が関にも「安倍時代の終焉」が訪れている」、いいことだ。
事業再生(その3)(マレリHDが「異例の法的整理」を選んだ理由 帝国データバンクが解説(無料部分)、H.I.S.が「ハウステンボス」を投資会社に売却へ 澤田会長にとって売却額800億円は高いか安いか、旅行業界の風雲児・HIS澤田秀雄会長がハウステンボス売却へとつながった40億円の詐欺被害 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(6)、【ギリシャ元財務大臣が解説する】「借金をチャラにする」のが経済にとても役立つワケ)
事業再生については、3月23日に取上げた。今日は、(その3)(マレリHDが「異例の法的整理」を選んだ理由 帝国データバンクが解説(無料部分)、H.I.S.が「ハウステンボス」を投資会社に売却へ 澤田会長にとって売却額800億円は高いか安いか、旅行業界の風雲児・HIS澤田秀雄会長がハウステンボス売却へとつながった40億円の詐欺被害 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(6)、【ギリシャ元財務大臣が解説する】「借金をチャラにする」のが経済にとても役立つワケ)である。
先ずは、7月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した帝国データバンク 情報統括部 情報取材課長の内藤 修氏による「マレリHDが「異例の法的整理」を選んだ理由、帝国データバンクが解説」の無料部分を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305949
・『経営再建中の大手自動車部品メーカーの持ち株会社「マレリホールディングス」は6月24日、民事再生法に基づく簡易再生に向けた手続きを東京地裁に申し立てた。私的整理の一つである事業再生ADRを申請したものの不成立となったことから、法的整理に移行する。従来、大型案件では会社更生法を選ぶケースが多かったが、マレリは異例ともいえる簡易再生を選ぶこととなった。その背景とは』、「事業再生ADR」でやるには、「案件」が大型過ぎたのだろう。
・『マレリのADRは成立せず 民事再生法適用を申請 経営再建中の大手自動車部品メーカーの持ち株会社「マレリホールディングス」(以下マレリHD、さいたま市)は6月24日、東京地裁へ民事再生法を申請し、同日再生手続き開始決定を受けた。 帝国データバンクによれば、負債総額は1兆1856億円(2020年12月末時点)。1兆円を超える負債を抱え、2017年6月に民事再生法を申し立てたエアバッグ大手の「タカタ」(元・東証1部上場)と並び、製造業で国内最大級の負債額となった。なお、債権カットの対象は金融機関のみで、一般の商取引債権は全額弁済される見通し。 3月1日にグループ会社5社で私的整理の一種「事業再生ADR手続き(裁判外紛争解決手続き)」を申請していた。その後はスポンサー候補に対して支援要請するとともに、金融機関との交渉を進め、抜本的な合理化を内容とする事業再生計画を作成していた。 しかし、6月24日開催の第3回債権者会議において、必要となる全金融機関の同意が得られず、ADR手続きが不成立となり、マレリHDのみ民事再生法を申請。「簡易型」の民事再生手続きを選択することとなった。(以下有料)』、「負債総額は1兆1856億円」と超「大型」なのであれば、「必要となる全金融機関の同意が得られず」、「民事再生手続きを選択」したのは当然だろう。
次に、7月28日付けデイリー新潮「H.I.S.が「ハウステンボス」を投資会社に売却へ 澤田会長にとって売却額800億円は高いか安いか」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/07281101/?all=1
・『7月21日、大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(H.I.S.)が傘下のテーマパーク「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)を売却すると報じられた。すでに香港の投資会社PAGが株式の9割の取得を希望し、買収価格は800億円になる予定という。 新型コロナの影響で赤字が続いていたハウステンボスは、花火やパレードなどのイベントが功を奏し、2022年3月中間連結決算は3億9200万円の営業利益を計上、中間期で3年ぶりに黒字に転じた。 「なぜハウステンボスを売却しなければならないのか?それはH.I.S.の財務状況をみれば一目瞭然です」と解説するのは、ビジネス評論家の山田修氏。 「H.I.S.は、コロナ前の2019年10月期で、売上が8080億円ありました。毎年右肩上がりに成長し、いよいよ売上1兆円企業になるかと言われていました。ところがコロナの影響をもろに受け、2021年10月期の売上は1180億円まで落ち込んでしまいました」』、「売上1兆円企業になるかと言われていました。ところがコロナの影響をもろに受け、2021年10月期の売上は1180億円まで落ち込んでしまいました」、打撃は深刻だ。
・『自己資本比率は5.8% H.I.S.の経常利益はどうか。 「2019年10月期で経常利益は170億円ありました。それが2020年10月期で310億円の赤字、2021年10月期は、630億円の赤字と倍増しています。かなり厳しい状況ですね。2021年には、コロナ対策の雇用調整助成金が207億円出ましたから、これで何とか救われた形です」 財務状況の健全性を示す自己資本比率も厳しい数値を示している。 「2019年10月期は、16.8%でした。2021年10月期は9.9%と落ち込み、直近の2022年4月の4半期は5.8%にまで落ち込んでいます。通常、健全な数値は40%で、50%が優良となっています。20%以下は厳しく、5.8%まで下がると、何らかの手を打たなければなりません。今回のハウステンボス売却は必然的な選択と言えるでしょう」 さらにH.I.S.グループには、大手クルーズ会社が2つある。 「1つは1999年に設立したクルーズプラネットで、社長はH.I.S.の澤田秀雄会長の妻、まゆみさんです。もう1つは2005年に設立したベストワンドットコム(ベストワンクルーズ)で、会長は澤田会長の長男・秀太氏です。新型コロナの感染拡大が始まった頃、ダイヤモンド・プリンセス号で700人以上が感染、14人が死亡しました。その影響で2社ともかなりの業績不振となっています」 H.I.S.グループはコロナの影響をもろに受けた形だが、そもそも、H.I.S.はどういう経緯でハウステンボスを買収したのか』、「自己資本比率は5.8%」とは土俵際まで追い込まれていたようだ。
・『資産は420億円 「1992年の開業以来、ハウステンボスは赤字が続き、2003年には会社更生法を申請して経営破綻。そこで野村証券系のファンドの傘下になりました。それでも赤字状態を抜け出せませんでした。実は2008年、私もハウステンボスの経営を打診されました。地方に転勤するつもりがなかったのでお断りしましたが……。そこで2010年、佐世保市長が三顧の礼で澤田会長を招いたのです。ハウステンボスの資本金は15億円でしたが、そのうちH.I.S.は67%の10億500万円を出資しています」 ハウステンボスがH.I.S.の傘下になると、わずか半年で黒字に転化した。 「イルミネーションに力を入れて集客を高めました。でも黒字になった一番の理由は、佐世保港に大型クルーズ船が接岸できるように工事を行ったことです。これで中国や韓国、台湾からのクルーズ客が一気に増えて黒字になったのです。佐世保港はインバウンドの九州の入り口となり、H.I.S.のクルーズ会社もかなり潤いました。この経営手腕は見事でしたね」 ハウステンボスの売却額は800億円程度と報じられている。 「10億500万円で買って800億円で売れたら、澤田会長としては万々歳でしょう。これで今期の赤字も解消できますからね。H.I.S.が2010年に買収した時は、ハウステンボスの資産は93億円でした。ところが現在は420億円まで増えています。800億円はその倍となるわけですから、妥当な金額だと思います。コロナの影響がなくなれば、海外からのインバウンドも増えて、ハウステンボスは大きな利益が見込めると香港の投資会社は試算しているのでしょう」』、「H.I.S.の傘下になると、わずか半年で黒字に転化」、「黒字になった一番の理由は、佐世保港に大型クルーズ船が接岸できるように工事を行ったことです。これで中国や韓国、台湾からのクルーズ客が一気に増えて黒字になったのです。佐世保港はインバウンドの九州の入り口となり、H.I.S.のクルーズ会社もかなり潤いました」、さすが見事だ。
第三に、9月21日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの高橋 篤史氏による「旅行業界の風雲児・HIS澤田秀雄会長がハウステンボス売却へとつながった40億円の詐欺被害 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(6)」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/99865?imp=0
・『日本を代表する有名企業をつくった「創業社長」には、どこか共通するカリスマ性がある。しかし、創業社長のカリスマ性が大きければ大きいほど、その去り際、そして去ったあとには、巨大な陥穽が残されることになる。 経済事件取材のトップランナーである筆者が、その圧倒的な取材力と筆力によって構成する最上級の経済ノンフィクション『亀裂 創業家の悲劇』から、旅行業界の風雲児・HIS澤田秀雄会長の詐欺被害をお届け。 リア王やマクベスを地で行く、裏切りと転落のドラマ』、興味深そうだ。
・『秘密取引に魅入られて じつは、(HIS創業者・)澤田(秀雄)も前章で詳述したコロワイドの蔵人金男と同様、巨額資金提供話で大火傷を負ったところだったのである。話は2018年2月に遡る。「先生」から要求された審査関係者への賄賂1億8000万円について、蔵人がはたして払うべきかどうか悩んでいた頃だ。関係者がエクセルで作成した詳細な時系列のメモがあり、それに従って事実経過を記していくことにしよう。 その月の5日、「東京プリンスホテル」の3階にある喫茶ラウンジに4人の男が集まった。まだ30歳そこそこながら香港を拠点に金取引業を手掛ける石川雄太がこの日、初めて会ったのは都内の金融コンサルティング会社で社長を務める男性で、その場には石川の古くからの知人と、その縁で2年ほど前に面識を得ていた名古屋在住の経営者も同席していた』、「4人」ともいかがわしそうだ。
・『「財務省とのミーティングを毎週水曜に霞が関で行っている」 金融コンサル会社社長はそう話し、リクルートホールディングス株の取引を持ち掛けてきた。財務省が極秘に保管する大量のリクルート株が存在し、それを1株1650円の破格値で売り渡すことが可能なのだという。さらにそれを野村證券が市場で付いた株価の1割引きで買い取る出口まで用意されているらしい。その頃の株価からすると、1株600円もの利ざやが抜ける計算だった。ただし、この取引に参加するには「復興支援金」としてデポジット4億5000万円が必要とのことである。 当たり前のことだが、財務省が極秘に保管するリクルート株などあるはずもない。言ってみれば、「M資金詐欺」の一種であり、その商材として「リクルート株」の名が騙られるというのは、じつのところ、その道ではかなりポピュラーな話だった。だがこの時、石川は得も言われぬ秘密取引にすっかり魅入られてしまう。 さっそく3日後に必要資金を用立てるため話をつないだ先が澤田だった。両者はそれ以前から金取引で親しい関係にあった。澤田が本拠とするエイチ・アイ・エスのテーマパーク子会社「ハウステンボス」は50億円相当の純金を購入し、集客の目玉として「黄金の館」なる絢爛豪華な展示施設を開業するなどしていた。石川から話を聞いた澤田は秘書の海津誠之を交渉に当たらせることにした。 3月18日、海津は新宿のエイチ・アイ・エス本社で石川と金融コンサル会社社長に会い、取引の詳細について説明を受けた。かつて石川を澤田につないだ若手経営者もその場には同席していた。この時、海津に行われた説明では、リクルート株取引が実行されるのは3月末だという。後日、「リクルートH株式売買スキーム」なる資料もメールで送信されてきている。もっともこの時、澤田はあまりに時間が短いことを理由に同月28日夕方に取引を見合わせたい旨を連絡し、いったんは話を断っている。 ただその後も金融コンサル会社社長からは例のデポジットを支払うよう催促が続いた。4月13日、石川は自身で2億円を用意し、約束の場所である三菱UFJ信託銀行本店の社員通用口付近に使いをやり、それを手渡している。このことを石川は澤田に伝えた。その結果、断ったはずのリクルート株取引は仕切り直されることとなった』、「「ハウステンボス」は50億円相当の純金を購入し、集客の目玉として「黄金の館」なる絢爛豪華な展示施設を開業するなどしていた」、「澤田は秘書の海津誠之を交渉に当たらせることにした」、「澤田はあまりに時間が短いことを理由に同月28日夕方に取引を見合わせたい旨を連絡し、いったんは話を断っている」、「石川は自身で2億円を用意し、約束の場所である三菱UFJ信託銀行本店の社員通用口付近に使いをやり、それを手渡している。このことを石川は澤田に伝えた。その結果、断ったはずのリクルート株取引は仕切り直されることとなった」、ずいぶん二転三転したようだ。
・『土壇場でひっくり返される取引 5月1日午前、澤田は海津とともに皇居近くの「パレスホテル東京」に入った。リクルート株取引について話し合いを持つためである。その場に集まったのは石川、前出の若手経営者、それに金融コンサル会社社長をあわせた計5人だ。澤田は自らが署名押印した業務委託契約書を金融コンサル会社社長に手渡した。買い手となることを決めたのだ。必要資金は50億円である。万事がつつがなく運べば、野村證券への転売で5億円が瞬時に得られる皮算用だった。もし本当ならこんな美味しい話はない。 その日の午後、金融コンサル会社社長の口座に50億円が送金された。澤田の手元にそれだけのキャッシュがあったわけではない。創業社長の一声で、子会社ハウステンボスの余裕資金を流用したのである。リクルート株の受け渡しは連休明けの月曜日とされた。 5月7日、受け渡し場所である三菱UFJ信託銀行本店1階の窓口前に海津と石川らは向かった。取引当事者の代理人である海津だけが2階の応接室に通された。しかし、その海津を前に、金融コンサル会社社長は「株がまとまらない」と土壇場になって言い始める始末だ。結局この日の取引は流れた。 翌8日、海津と石川らは再び同じ場所に赴いた。しかしこの時も金融コンサル会社社長は取引ができないと煮え切らない態度である。財務省の担当者が折から国会で論戦となっていた森友学園問題に関する大臣答弁の準備のため来られなくなったのだという。 さらに9日と10日の2日間、海津らはパレスホテル東京に集まったが、やはり取引に進展はなかった。ただこの時、新たな関係者が登場する。都内で「QUALITY」なる会社を経営する社長だという。金融コンサル会社社長の紹介によれば「取引の仲介者」とのことだった。 結局、5月14日、リクルート株取引は中止された。この時、50億円はハウステンボスに返金されている。しかしそれでも金融コンサル会社社長は石川に対し取引の仕切り直しを求めてきた。4日後、石川は言われるまま東京駅八重洲口から歩いて数分のところにある雑居ビルに向かった。そこの3階に入るQUALITYの事務所を訪ねるためだ。社長のほか取締役の計2人が対応に出てきた。 2日後、石川はQUALITYの両名と再び会った。すると、唐突にひとりの女を紹介される。年齢は50歳前後といったところだ。何でも、例のリクルート株取引は海外在住の日本人にしか認められていないのだという。そこでその資格を持つ件の女が直接あたることになったらしく、いったんはリクルート株をその名義にするらしい。そこで石川には共同事業契約を結んでほしいという。今後のメールやメッセージアプリのやりとりはすべて英語で行うとのことだ。この後、交渉の中心はなぜか金融コンサル会社社長らからこの50がらみの女に移っていく。 5月23日、石川は澤田の名代たる海津にあらためて会い、取引への協力を求めた。その後、両者はメールで手続きなどについて確認作業を行い、翌24日夕方までに海津は送金を約束した。「先ほど、澤田に確認をし、お取引に同行させて頂くことになりました」―。海津はメールにそう記していた。 5月25日、ハウステンボスから石川の金取引会社に再び50億円が送金された。石川は三井住友銀行本店で額面50億円の小切手を振り出してもらい、それを女に手渡した。その場にはQUALITYの両名もいた。女は小切手を窓口に持ち込み、50億円を自分の口座に入金した。しかし当たり前の話だが、その後、リクルート株取引が実行されることはない。そうした間の同月26〜30日、女の銀行通帳と印鑑は夕方から翌朝まで海津が預かることとなった。保全のためのせめてもの措置である』、なるほど。
・『40億円の大損害 石川が取引に不審の念をようやく抱き始めたのは50億円の小切手を手渡してから2週間近くが経った6月6日になってからだ。 「共同資金者に説明を入れないといけないのですが……本当に困ってます」 石川は例の50がらみの女宛てにそうメールを送っている。「共同資金者」とは言うまでもなく澤田のことだ。しかし、女は森友学園問題で財務省職員の処分があり取引が遅れているなどと、のらりくらりとかわすばかりだった。この後、石川はリクルート株取引を諦め、50億円の返金を求めていくこととなる。 6月15日、石川の口座にようやく女から返金があった。しかし、それは11億4230万円だけだった。しかも送金してきたのは「エヌ・エス・ティー」という見ず知らずの会社だ。前日夕方にQUALITYのふたりから会社事務所で受けた説明によると、残りは海外から3500万ドルが送金されてくるという。これに伴い石川は要求されるままQUALITYに対し報酬として1億円を別途送金している。 続く同月22 日、ここでまた新たな関係者が登場する。女と親しい間柄にある男で、その肩書は前述したエヌ・エス・ティーなる会社の「海外事業部部長」なのだという。この後、石川は残金回収のため、この海外事業部部長を名乗る男と頻繁にメールのやりとりを行うようになる。 とはいえ、両者のやりとりは嚙み合わなかった。たとえば、こんな調子だ。 石川「●●様(=海外事業部部長のこと)、一点確認です。Citi bank NYから送金済みですか? それとも送金予約済みですか? 説明が大きく異なりますので、回答お願いいたします」 海外事業部部長「了解致しました。確認をし回答致します!」 石川「お手数おかけ致します」 海外事業部部長「上記のシティバンクの件にての回答です。送金予約の書類はサイン済みにて完了してます。現在、送金にはなって無いとの事で、送金スタートの連絡待ちとの事でした。どうぞ宜しくお願い致します」 石川「何故、送金されてないのでしょうか? 理由はなぜでしょうか? 50億の資金を預けている身なので説明頂きたいのですが! 一度、お電話可能でしょうか?」 海外事業部部長「申し訳ございません。理由等は私聞けて無いので……再度確認いたします」 1ヵ月以上が経った7月24日、石川は東京・恵比寿の「ウェスティンホテル東京」で海外事業部部長を名乗る男とようやく初めて会うことができた。男は残金分として西武信用金庫を引受人とする額面40億円の為替手形を持参していた。しかしその後、この為替手形が現金化されることはなかった。真っ赤な偽物だったからだ。事ここに至り、石川、そして金主である澤田は騙されたことを悟るが、もはや後の祭りである。(文中敬称略)』、「澤田」も結局、「騙されて「40億円」を騙し取られたようだ。第二の記事の「ハウステンボス」の売却代金で埋めるのだろう。そもそも「M資金」もどきの詐欺事件に引っかかるとは、責任重大だ。
第四に、9月22日付けダイヤモンド・オンライン「【ギリシャ元財務大臣が解説する】「借金をチャラにする」のが経済にとても役立つワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309325
・『混沌を極める世界情勢のなかで、将来に不安を感じている人が多いのではないだろうか。世界で起きていることを理解するには、経済を正しく学ぶことが重要だ。とはいえ、経済を学ぶのは難しい印象があるかもしれない。そこでお薦めするのが、2015年のギリシャ財政危機のときに財務大臣を務めたヤニス・バルファキス氏の著書『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』だ。本書は、これからの時代を生きていくために必要な「知識・考え方・価値観」をわかりやすいたとえを織り交ぜて、経済の本質について丁寧にひも解いてくれる。2022年8月放送のNHK『100分de名著 for ティーンズ』も大きな話題となった。本稿では本書の内容から、なぜ市場社会の中で借金が免除されることがあるのかを伝えていく』、興味深そうだ。
・『借金が返せなくなったらどうする? あなたが借金を返済できなくなった場合について考えてみよう。 最初は努力して一生懸命返していくけれど、利子がかさんで返済ができなくなったら最終的にはどうなるだろう? 正解は、この借金はチャラになる。法律用語で言えば「債務免除」が適用される。 複数の金融機関から借りて多重債務になり、莫大になった借金を払えずに「自己破産」した人の話を聞いたことがあるのではないだろうか。 この処置は、「あなたはもう払えないのだから許してあげますよ」という多重債務者に対する温情や倫理的なことのように見えるが、そうではない。もちろん、債務者が借りたお金を踏み倒して良いということでもない。 債務免除は、単なる実務的な処理でしかない。 お金がなくて借金を返済できない人に、いつまでも「金を返せ」と催促し続けても、ないものは払えない。 借金をした側も貸した側も手間と時間が無駄になるだけだから、事務的にご破算にするということだ』、「債務免除は、単なる実務的な処理でしかない。 お金がなくて借金を返済できない人に、いつまでも「金を返せ」と催促し続けても、ないものは払えない。 借金をした側も貸した側も手間と時間が無駄になるだけだから、事務的にご破算にするということだ」、いわば生活の知恵のようなものだ。
・『「チャラにする」のは社会にとっても有益なこと もしあなたが、借金の返済を免除されないままになっていたら、永久に破綻した状態で生きていかなければならなくなる。 再起するために新しい事業を立ち上げることもできないし、当然どこからも借金はできない。 カードも作れないし、家や車をローンで買うこともできなくなってしまう。生活に支障をきたすところまで追い込まれる可能性がある。 返済不可能な借金に永遠に囚われていたら、企業も個人も国家も復活できない。聖書の中で、借金を定期的に棒引きにすべきだと書いてあるのも、同じ理由からだ(P.109) 「借金をしたら必ず返済しなければならない」と債務者をいつまでも責めていたら、市場社会でのお金の循環は滞り、結局誰も得をしないことになる。 ならば債務者には、ある程度返済したら無罪放免にしてあげて、できるだけ早く再起してもらった方が良い。 その人がふたたび事業を起こしてお金を回すようになれば、社会にとってよほど有益である』、「返済不可能な借金に永遠に囚われていたら、企業も個人も国家も復活できない。聖書の中で、借金を定期的に棒引きにすべきだと書いてあるのも、同じ理由からだ」、「聖書の中で、借金を定期的に棒引きにすべきだと書いてある」、初めて知った。
・『「借りた側」にも「貸した側」にも責任がある そんなことを言うと、お金を貸した側が黙っていないだろう。 債権者は「債務免除」という言葉を耳にするだけでわめき散らして抗議する。中でも一番大きな声で反対するのが銀行だ。(P.109) 返済不可能な状況になってしまったならば、借りた側に悪い部分があるのは事実だろう。 しかし、貸した側も相手の状況を正確に把握せずに貸付を行っている点で、非があるのは否めない。 債務免除を言い渡される状況に追い込んだのは、債権者自身とも言えるのではないか。 そこで、借金が返済不可能になってしまったことに関しては、債務者にも債権者にもお互いに悪い点があったことを認めることが大切だ』、「借金が返済不可能になってしまったことに関しては、債務者にも債権者にもお互いに悪い点があったことを認めることが大切だ」、その通りだろう。
・『「すべてを失わない」ためのルール作り かつて、借金を返済できない人や会社を倒産させた起業家は、投獄された上に財産を身ぐるみはがされたという。 そんな仕打ちを受けてしまうのでは、多額の借金を背負うことになる大規模な事業なんてリスクが高くて誰もやろうとは思わなくなってしまう。 そこで市場社会では、起業家が発電所や鉄道といった大規模な施設を作った後に事業に失敗したとしても、その事業に関わる所有物が没収されるだけで済むような法律が作られた。 これにより、起業家は事業がうまくいかず会社が倒産した場合でも、個人の所有財産までは取られないようになり、リスクの高い大事業にも安心して取り組めるようになった』、「起業家は事業がうまくいかず会社が倒産した場合でも、個人の所有財産までは取られないようになり、リスクの高い大事業にも安心して取り組めるようになった」、その通りだ。
・『19世紀に金融危機や不況を乗り越えられた理由 事実、19世紀に市場社会が金融危機や不況を乗り越えられたのは、事業に関わる部分だけ責任を取れば良いという「有限責任」が適用されたからだ。 事業の部分だけ責任を取れば良いというのは、市場社会を成長させる意味でも重要なことなのである。 こんな苦境に陥った時に我々市民を救済してくれるのは国家しかない。国家に介入してもらって借金を帳消しにしてもらって初めて債務が消えて回復の道を歩めるようになる。(P.109) 借金したらすべて返さなければならないという考えに固執しすぎると、何も生み出さないし、進歩を遅らせてしまう。債務免除や有限責任は、それを防ぐための施策なのである』、「借金したらすべて返さなければならないという考えに固執しすぎると、何も生み出さないし、進歩を遅らせてしまう。債務免除や有限責任は、それを防ぐための施策なのである」、上手い知恵だ。
・『経済を自分の問題として捉える――訳者より 本書は、ギリシャで財務大臣を務めたヤニス・バルファキスが、十代半ばの娘に向けて、「経済についてきちんと話すことができるように」という想いから、できるだけ専門用語を使わず、地に足のついた、血の通った言葉で経済について語ったものです。 本書を原書で読み、「圧倒された」というブレイディみかこさんは、「優しく、易しく、そして面白く資本主義について語った愛と叡智の書」と評しています。 その語りは、娘からの「なぜ格差が存在するのか」という問いに、著者なりの答えを出していくかたちで進んでいきます。その過程で、経済がどのように生まれたかにさかのぼり、金融の役割や資本主義の歴史と功罪について、小説やSF映画などの例を挙げながら平易な言葉で説いていきます。 原書の評判は経済を論じた本らしくなく、「一気読みしてしまった」「読むのを止められない」といった声が多数あがっていますが、実際、本書はまるで小説のように章を追うごとに話が深まっていき、ついついページをめくり続けてしまうみごとな構成になっています。 バルファキスは本書で、「誰もが経済についてしっかりと意見を言えること」が「真の民主主義の前提」であり、「専門家に経済をゆだねることは、自分にとって大切な判断をすべて他人にまかせてしまうこと」だと言っています。 大切な判断を他人まかせにしないためには、経済とは何か、資本主義がどのように生まれ、どんな歴史を経ていまの経済の枠組みが存在するようになったのかを、自分の頭で理解する必要があるのです。 本書のバルファキスのこの言葉を、私も若い人たちに贈りたいと思います。 「君には、いまの怒りをそのまま持ち続けてほしい。でも賢く、戦略的に怒り続けてほしい。そして、機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために」』、「ギリシャ」は2010年以降、債務危機に見舞われ、最終的には債務の一部切り捨て、財政緊縮化などでかろうじて乗り切った。この際の債務切り捨てはやはり大きな問題となった。
先ずは、7月7日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した帝国データバンク 情報統括部 情報取材課長の内藤 修氏による「マレリHDが「異例の法的整理」を選んだ理由、帝国データバンクが解説」の無料部分を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/305949
・『経営再建中の大手自動車部品メーカーの持ち株会社「マレリホールディングス」は6月24日、民事再生法に基づく簡易再生に向けた手続きを東京地裁に申し立てた。私的整理の一つである事業再生ADRを申請したものの不成立となったことから、法的整理に移行する。従来、大型案件では会社更生法を選ぶケースが多かったが、マレリは異例ともいえる簡易再生を選ぶこととなった。その背景とは』、「事業再生ADR」でやるには、「案件」が大型過ぎたのだろう。
・『マレリのADRは成立せず 民事再生法適用を申請 経営再建中の大手自動車部品メーカーの持ち株会社「マレリホールディングス」(以下マレリHD、さいたま市)は6月24日、東京地裁へ民事再生法を申請し、同日再生手続き開始決定を受けた。 帝国データバンクによれば、負債総額は1兆1856億円(2020年12月末時点)。1兆円を超える負債を抱え、2017年6月に民事再生法を申し立てたエアバッグ大手の「タカタ」(元・東証1部上場)と並び、製造業で国内最大級の負債額となった。なお、債権カットの対象は金融機関のみで、一般の商取引債権は全額弁済される見通し。 3月1日にグループ会社5社で私的整理の一種「事業再生ADR手続き(裁判外紛争解決手続き)」を申請していた。その後はスポンサー候補に対して支援要請するとともに、金融機関との交渉を進め、抜本的な合理化を内容とする事業再生計画を作成していた。 しかし、6月24日開催の第3回債権者会議において、必要となる全金融機関の同意が得られず、ADR手続きが不成立となり、マレリHDのみ民事再生法を申請。「簡易型」の民事再生手続きを選択することとなった。(以下有料)』、「負債総額は1兆1856億円」と超「大型」なのであれば、「必要となる全金融機関の同意が得られず」、「民事再生手続きを選択」したのは当然だろう。
次に、7月28日付けデイリー新潮「H.I.S.が「ハウステンボス」を投資会社に売却へ 澤田会長にとって売却額800億円は高いか安いか」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2022/07281101/?all=1
・『7月21日、大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(H.I.S.)が傘下のテーマパーク「ハウステンボス」(長崎県佐世保市)を売却すると報じられた。すでに香港の投資会社PAGが株式の9割の取得を希望し、買収価格は800億円になる予定という。 新型コロナの影響で赤字が続いていたハウステンボスは、花火やパレードなどのイベントが功を奏し、2022年3月中間連結決算は3億9200万円の営業利益を計上、中間期で3年ぶりに黒字に転じた。 「なぜハウステンボスを売却しなければならないのか?それはH.I.S.の財務状況をみれば一目瞭然です」と解説するのは、ビジネス評論家の山田修氏。 「H.I.S.は、コロナ前の2019年10月期で、売上が8080億円ありました。毎年右肩上がりに成長し、いよいよ売上1兆円企業になるかと言われていました。ところがコロナの影響をもろに受け、2021年10月期の売上は1180億円まで落ち込んでしまいました」』、「売上1兆円企業になるかと言われていました。ところがコロナの影響をもろに受け、2021年10月期の売上は1180億円まで落ち込んでしまいました」、打撃は深刻だ。
・『自己資本比率は5.8% H.I.S.の経常利益はどうか。 「2019年10月期で経常利益は170億円ありました。それが2020年10月期で310億円の赤字、2021年10月期は、630億円の赤字と倍増しています。かなり厳しい状況ですね。2021年には、コロナ対策の雇用調整助成金が207億円出ましたから、これで何とか救われた形です」 財務状況の健全性を示す自己資本比率も厳しい数値を示している。 「2019年10月期は、16.8%でした。2021年10月期は9.9%と落ち込み、直近の2022年4月の4半期は5.8%にまで落ち込んでいます。通常、健全な数値は40%で、50%が優良となっています。20%以下は厳しく、5.8%まで下がると、何らかの手を打たなければなりません。今回のハウステンボス売却は必然的な選択と言えるでしょう」 さらにH.I.S.グループには、大手クルーズ会社が2つある。 「1つは1999年に設立したクルーズプラネットで、社長はH.I.S.の澤田秀雄会長の妻、まゆみさんです。もう1つは2005年に設立したベストワンドットコム(ベストワンクルーズ)で、会長は澤田会長の長男・秀太氏です。新型コロナの感染拡大が始まった頃、ダイヤモンド・プリンセス号で700人以上が感染、14人が死亡しました。その影響で2社ともかなりの業績不振となっています」 H.I.S.グループはコロナの影響をもろに受けた形だが、そもそも、H.I.S.はどういう経緯でハウステンボスを買収したのか』、「自己資本比率は5.8%」とは土俵際まで追い込まれていたようだ。
・『資産は420億円 「1992年の開業以来、ハウステンボスは赤字が続き、2003年には会社更生法を申請して経営破綻。そこで野村証券系のファンドの傘下になりました。それでも赤字状態を抜け出せませんでした。実は2008年、私もハウステンボスの経営を打診されました。地方に転勤するつもりがなかったのでお断りしましたが……。そこで2010年、佐世保市長が三顧の礼で澤田会長を招いたのです。ハウステンボスの資本金は15億円でしたが、そのうちH.I.S.は67%の10億500万円を出資しています」 ハウステンボスがH.I.S.の傘下になると、わずか半年で黒字に転化した。 「イルミネーションに力を入れて集客を高めました。でも黒字になった一番の理由は、佐世保港に大型クルーズ船が接岸できるように工事を行ったことです。これで中国や韓国、台湾からのクルーズ客が一気に増えて黒字になったのです。佐世保港はインバウンドの九州の入り口となり、H.I.S.のクルーズ会社もかなり潤いました。この経営手腕は見事でしたね」 ハウステンボスの売却額は800億円程度と報じられている。 「10億500万円で買って800億円で売れたら、澤田会長としては万々歳でしょう。これで今期の赤字も解消できますからね。H.I.S.が2010年に買収した時は、ハウステンボスの資産は93億円でした。ところが現在は420億円まで増えています。800億円はその倍となるわけですから、妥当な金額だと思います。コロナの影響がなくなれば、海外からのインバウンドも増えて、ハウステンボスは大きな利益が見込めると香港の投資会社は試算しているのでしょう」』、「H.I.S.の傘下になると、わずか半年で黒字に転化」、「黒字になった一番の理由は、佐世保港に大型クルーズ船が接岸できるように工事を行ったことです。これで中国や韓国、台湾からのクルーズ客が一気に増えて黒字になったのです。佐世保港はインバウンドの九州の入り口となり、H.I.S.のクルーズ会社もかなり潤いました」、さすが見事だ。
第三に、9月21日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの高橋 篤史氏による「旅行業界の風雲児・HIS澤田秀雄会長がハウステンボス売却へとつながった40億円の詐欺被害 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(6)」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/99865?imp=0
・『日本を代表する有名企業をつくった「創業社長」には、どこか共通するカリスマ性がある。しかし、創業社長のカリスマ性が大きければ大きいほど、その去り際、そして去ったあとには、巨大な陥穽が残されることになる。 経済事件取材のトップランナーである筆者が、その圧倒的な取材力と筆力によって構成する最上級の経済ノンフィクション『亀裂 創業家の悲劇』から、旅行業界の風雲児・HIS澤田秀雄会長の詐欺被害をお届け。 リア王やマクベスを地で行く、裏切りと転落のドラマ』、興味深そうだ。
・『秘密取引に魅入られて じつは、(HIS創業者・)澤田(秀雄)も前章で詳述したコロワイドの蔵人金男と同様、巨額資金提供話で大火傷を負ったところだったのである。話は2018年2月に遡る。「先生」から要求された審査関係者への賄賂1億8000万円について、蔵人がはたして払うべきかどうか悩んでいた頃だ。関係者がエクセルで作成した詳細な時系列のメモがあり、それに従って事実経過を記していくことにしよう。 その月の5日、「東京プリンスホテル」の3階にある喫茶ラウンジに4人の男が集まった。まだ30歳そこそこながら香港を拠点に金取引業を手掛ける石川雄太がこの日、初めて会ったのは都内の金融コンサルティング会社で社長を務める男性で、その場には石川の古くからの知人と、その縁で2年ほど前に面識を得ていた名古屋在住の経営者も同席していた』、「4人」ともいかがわしそうだ。
・『「財務省とのミーティングを毎週水曜に霞が関で行っている」 金融コンサル会社社長はそう話し、リクルートホールディングス株の取引を持ち掛けてきた。財務省が極秘に保管する大量のリクルート株が存在し、それを1株1650円の破格値で売り渡すことが可能なのだという。さらにそれを野村證券が市場で付いた株価の1割引きで買い取る出口まで用意されているらしい。その頃の株価からすると、1株600円もの利ざやが抜ける計算だった。ただし、この取引に参加するには「復興支援金」としてデポジット4億5000万円が必要とのことである。 当たり前のことだが、財務省が極秘に保管するリクルート株などあるはずもない。言ってみれば、「M資金詐欺」の一種であり、その商材として「リクルート株」の名が騙られるというのは、じつのところ、その道ではかなりポピュラーな話だった。だがこの時、石川は得も言われぬ秘密取引にすっかり魅入られてしまう。 さっそく3日後に必要資金を用立てるため話をつないだ先が澤田だった。両者はそれ以前から金取引で親しい関係にあった。澤田が本拠とするエイチ・アイ・エスのテーマパーク子会社「ハウステンボス」は50億円相当の純金を購入し、集客の目玉として「黄金の館」なる絢爛豪華な展示施設を開業するなどしていた。石川から話を聞いた澤田は秘書の海津誠之を交渉に当たらせることにした。 3月18日、海津は新宿のエイチ・アイ・エス本社で石川と金融コンサル会社社長に会い、取引の詳細について説明を受けた。かつて石川を澤田につないだ若手経営者もその場には同席していた。この時、海津に行われた説明では、リクルート株取引が実行されるのは3月末だという。後日、「リクルートH株式売買スキーム」なる資料もメールで送信されてきている。もっともこの時、澤田はあまりに時間が短いことを理由に同月28日夕方に取引を見合わせたい旨を連絡し、いったんは話を断っている。 ただその後も金融コンサル会社社長からは例のデポジットを支払うよう催促が続いた。4月13日、石川は自身で2億円を用意し、約束の場所である三菱UFJ信託銀行本店の社員通用口付近に使いをやり、それを手渡している。このことを石川は澤田に伝えた。その結果、断ったはずのリクルート株取引は仕切り直されることとなった』、「「ハウステンボス」は50億円相当の純金を購入し、集客の目玉として「黄金の館」なる絢爛豪華な展示施設を開業するなどしていた」、「澤田は秘書の海津誠之を交渉に当たらせることにした」、「澤田はあまりに時間が短いことを理由に同月28日夕方に取引を見合わせたい旨を連絡し、いったんは話を断っている」、「石川は自身で2億円を用意し、約束の場所である三菱UFJ信託銀行本店の社員通用口付近に使いをやり、それを手渡している。このことを石川は澤田に伝えた。その結果、断ったはずのリクルート株取引は仕切り直されることとなった」、ずいぶん二転三転したようだ。
・『土壇場でひっくり返される取引 5月1日午前、澤田は海津とともに皇居近くの「パレスホテル東京」に入った。リクルート株取引について話し合いを持つためである。その場に集まったのは石川、前出の若手経営者、それに金融コンサル会社社長をあわせた計5人だ。澤田は自らが署名押印した業務委託契約書を金融コンサル会社社長に手渡した。買い手となることを決めたのだ。必要資金は50億円である。万事がつつがなく運べば、野村證券への転売で5億円が瞬時に得られる皮算用だった。もし本当ならこんな美味しい話はない。 その日の午後、金融コンサル会社社長の口座に50億円が送金された。澤田の手元にそれだけのキャッシュがあったわけではない。創業社長の一声で、子会社ハウステンボスの余裕資金を流用したのである。リクルート株の受け渡しは連休明けの月曜日とされた。 5月7日、受け渡し場所である三菱UFJ信託銀行本店1階の窓口前に海津と石川らは向かった。取引当事者の代理人である海津だけが2階の応接室に通された。しかし、その海津を前に、金融コンサル会社社長は「株がまとまらない」と土壇場になって言い始める始末だ。結局この日の取引は流れた。 翌8日、海津と石川らは再び同じ場所に赴いた。しかしこの時も金融コンサル会社社長は取引ができないと煮え切らない態度である。財務省の担当者が折から国会で論戦となっていた森友学園問題に関する大臣答弁の準備のため来られなくなったのだという。 さらに9日と10日の2日間、海津らはパレスホテル東京に集まったが、やはり取引に進展はなかった。ただこの時、新たな関係者が登場する。都内で「QUALITY」なる会社を経営する社長だという。金融コンサル会社社長の紹介によれば「取引の仲介者」とのことだった。 結局、5月14日、リクルート株取引は中止された。この時、50億円はハウステンボスに返金されている。しかしそれでも金融コンサル会社社長は石川に対し取引の仕切り直しを求めてきた。4日後、石川は言われるまま東京駅八重洲口から歩いて数分のところにある雑居ビルに向かった。そこの3階に入るQUALITYの事務所を訪ねるためだ。社長のほか取締役の計2人が対応に出てきた。 2日後、石川はQUALITYの両名と再び会った。すると、唐突にひとりの女を紹介される。年齢は50歳前後といったところだ。何でも、例のリクルート株取引は海外在住の日本人にしか認められていないのだという。そこでその資格を持つ件の女が直接あたることになったらしく、いったんはリクルート株をその名義にするらしい。そこで石川には共同事業契約を結んでほしいという。今後のメールやメッセージアプリのやりとりはすべて英語で行うとのことだ。この後、交渉の中心はなぜか金融コンサル会社社長らからこの50がらみの女に移っていく。 5月23日、石川は澤田の名代たる海津にあらためて会い、取引への協力を求めた。その後、両者はメールで手続きなどについて確認作業を行い、翌24日夕方までに海津は送金を約束した。「先ほど、澤田に確認をし、お取引に同行させて頂くことになりました」―。海津はメールにそう記していた。 5月25日、ハウステンボスから石川の金取引会社に再び50億円が送金された。石川は三井住友銀行本店で額面50億円の小切手を振り出してもらい、それを女に手渡した。その場にはQUALITYの両名もいた。女は小切手を窓口に持ち込み、50億円を自分の口座に入金した。しかし当たり前の話だが、その後、リクルート株取引が実行されることはない。そうした間の同月26〜30日、女の銀行通帳と印鑑は夕方から翌朝まで海津が預かることとなった。保全のためのせめてもの措置である』、なるほど。
・『40億円の大損害 石川が取引に不審の念をようやく抱き始めたのは50億円の小切手を手渡してから2週間近くが経った6月6日になってからだ。 「共同資金者に説明を入れないといけないのですが……本当に困ってます」 石川は例の50がらみの女宛てにそうメールを送っている。「共同資金者」とは言うまでもなく澤田のことだ。しかし、女は森友学園問題で財務省職員の処分があり取引が遅れているなどと、のらりくらりとかわすばかりだった。この後、石川はリクルート株取引を諦め、50億円の返金を求めていくこととなる。 6月15日、石川の口座にようやく女から返金があった。しかし、それは11億4230万円だけだった。しかも送金してきたのは「エヌ・エス・ティー」という見ず知らずの会社だ。前日夕方にQUALITYのふたりから会社事務所で受けた説明によると、残りは海外から3500万ドルが送金されてくるという。これに伴い石川は要求されるままQUALITYに対し報酬として1億円を別途送金している。 続く同月22 日、ここでまた新たな関係者が登場する。女と親しい間柄にある男で、その肩書は前述したエヌ・エス・ティーなる会社の「海外事業部部長」なのだという。この後、石川は残金回収のため、この海外事業部部長を名乗る男と頻繁にメールのやりとりを行うようになる。 とはいえ、両者のやりとりは嚙み合わなかった。たとえば、こんな調子だ。 石川「●●様(=海外事業部部長のこと)、一点確認です。Citi bank NYから送金済みですか? それとも送金予約済みですか? 説明が大きく異なりますので、回答お願いいたします」 海外事業部部長「了解致しました。確認をし回答致します!」 石川「お手数おかけ致します」 海外事業部部長「上記のシティバンクの件にての回答です。送金予約の書類はサイン済みにて完了してます。現在、送金にはなって無いとの事で、送金スタートの連絡待ちとの事でした。どうぞ宜しくお願い致します」 石川「何故、送金されてないのでしょうか? 理由はなぜでしょうか? 50億の資金を預けている身なので説明頂きたいのですが! 一度、お電話可能でしょうか?」 海外事業部部長「申し訳ございません。理由等は私聞けて無いので……再度確認いたします」 1ヵ月以上が経った7月24日、石川は東京・恵比寿の「ウェスティンホテル東京」で海外事業部部長を名乗る男とようやく初めて会うことができた。男は残金分として西武信用金庫を引受人とする額面40億円の為替手形を持参していた。しかしその後、この為替手形が現金化されることはなかった。真っ赤な偽物だったからだ。事ここに至り、石川、そして金主である澤田は騙されたことを悟るが、もはや後の祭りである。(文中敬称略)』、「澤田」も結局、「騙されて「40億円」を騙し取られたようだ。第二の記事の「ハウステンボス」の売却代金で埋めるのだろう。そもそも「M資金」もどきの詐欺事件に引っかかるとは、責任重大だ。
第四に、9月22日付けダイヤモンド・オンライン「【ギリシャ元財務大臣が解説する】「借金をチャラにする」のが経済にとても役立つワケ」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309325
・『混沌を極める世界情勢のなかで、将来に不安を感じている人が多いのではないだろうか。世界で起きていることを理解するには、経済を正しく学ぶことが重要だ。とはいえ、経済を学ぶのは難しい印象があるかもしれない。そこでお薦めするのが、2015年のギリシャ財政危機のときに財務大臣を務めたヤニス・バルファキス氏の著書『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』だ。本書は、これからの時代を生きていくために必要な「知識・考え方・価値観」をわかりやすいたとえを織り交ぜて、経済の本質について丁寧にひも解いてくれる。2022年8月放送のNHK『100分de名著 for ティーンズ』も大きな話題となった。本稿では本書の内容から、なぜ市場社会の中で借金が免除されることがあるのかを伝えていく』、興味深そうだ。
・『借金が返せなくなったらどうする? あなたが借金を返済できなくなった場合について考えてみよう。 最初は努力して一生懸命返していくけれど、利子がかさんで返済ができなくなったら最終的にはどうなるだろう? 正解は、この借金はチャラになる。法律用語で言えば「債務免除」が適用される。 複数の金融機関から借りて多重債務になり、莫大になった借金を払えずに「自己破産」した人の話を聞いたことがあるのではないだろうか。 この処置は、「あなたはもう払えないのだから許してあげますよ」という多重債務者に対する温情や倫理的なことのように見えるが、そうではない。もちろん、債務者が借りたお金を踏み倒して良いということでもない。 債務免除は、単なる実務的な処理でしかない。 お金がなくて借金を返済できない人に、いつまでも「金を返せ」と催促し続けても、ないものは払えない。 借金をした側も貸した側も手間と時間が無駄になるだけだから、事務的にご破算にするということだ』、「債務免除は、単なる実務的な処理でしかない。 お金がなくて借金を返済できない人に、いつまでも「金を返せ」と催促し続けても、ないものは払えない。 借金をした側も貸した側も手間と時間が無駄になるだけだから、事務的にご破算にするということだ」、いわば生活の知恵のようなものだ。
・『「チャラにする」のは社会にとっても有益なこと もしあなたが、借金の返済を免除されないままになっていたら、永久に破綻した状態で生きていかなければならなくなる。 再起するために新しい事業を立ち上げることもできないし、当然どこからも借金はできない。 カードも作れないし、家や車をローンで買うこともできなくなってしまう。生活に支障をきたすところまで追い込まれる可能性がある。 返済不可能な借金に永遠に囚われていたら、企業も個人も国家も復活できない。聖書の中で、借金を定期的に棒引きにすべきだと書いてあるのも、同じ理由からだ(P.109) 「借金をしたら必ず返済しなければならない」と債務者をいつまでも責めていたら、市場社会でのお金の循環は滞り、結局誰も得をしないことになる。 ならば債務者には、ある程度返済したら無罪放免にしてあげて、できるだけ早く再起してもらった方が良い。 その人がふたたび事業を起こしてお金を回すようになれば、社会にとってよほど有益である』、「返済不可能な借金に永遠に囚われていたら、企業も個人も国家も復活できない。聖書の中で、借金を定期的に棒引きにすべきだと書いてあるのも、同じ理由からだ」、「聖書の中で、借金を定期的に棒引きにすべきだと書いてある」、初めて知った。
・『「借りた側」にも「貸した側」にも責任がある そんなことを言うと、お金を貸した側が黙っていないだろう。 債権者は「債務免除」という言葉を耳にするだけでわめき散らして抗議する。中でも一番大きな声で反対するのが銀行だ。(P.109) 返済不可能な状況になってしまったならば、借りた側に悪い部分があるのは事実だろう。 しかし、貸した側も相手の状況を正確に把握せずに貸付を行っている点で、非があるのは否めない。 債務免除を言い渡される状況に追い込んだのは、債権者自身とも言えるのではないか。 そこで、借金が返済不可能になってしまったことに関しては、債務者にも債権者にもお互いに悪い点があったことを認めることが大切だ』、「借金が返済不可能になってしまったことに関しては、債務者にも債権者にもお互いに悪い点があったことを認めることが大切だ」、その通りだろう。
・『「すべてを失わない」ためのルール作り かつて、借金を返済できない人や会社を倒産させた起業家は、投獄された上に財産を身ぐるみはがされたという。 そんな仕打ちを受けてしまうのでは、多額の借金を背負うことになる大規模な事業なんてリスクが高くて誰もやろうとは思わなくなってしまう。 そこで市場社会では、起業家が発電所や鉄道といった大規模な施設を作った後に事業に失敗したとしても、その事業に関わる所有物が没収されるだけで済むような法律が作られた。 これにより、起業家は事業がうまくいかず会社が倒産した場合でも、個人の所有財産までは取られないようになり、リスクの高い大事業にも安心して取り組めるようになった』、「起業家は事業がうまくいかず会社が倒産した場合でも、個人の所有財産までは取られないようになり、リスクの高い大事業にも安心して取り組めるようになった」、その通りだ。
・『19世紀に金融危機や不況を乗り越えられた理由 事実、19世紀に市場社会が金融危機や不況を乗り越えられたのは、事業に関わる部分だけ責任を取れば良いという「有限責任」が適用されたからだ。 事業の部分だけ責任を取れば良いというのは、市場社会を成長させる意味でも重要なことなのである。 こんな苦境に陥った時に我々市民を救済してくれるのは国家しかない。国家に介入してもらって借金を帳消しにしてもらって初めて債務が消えて回復の道を歩めるようになる。(P.109) 借金したらすべて返さなければならないという考えに固執しすぎると、何も生み出さないし、進歩を遅らせてしまう。債務免除や有限責任は、それを防ぐための施策なのである』、「借金したらすべて返さなければならないという考えに固執しすぎると、何も生み出さないし、進歩を遅らせてしまう。債務免除や有限責任は、それを防ぐための施策なのである」、上手い知恵だ。
・『経済を自分の問題として捉える――訳者より 本書は、ギリシャで財務大臣を務めたヤニス・バルファキスが、十代半ばの娘に向けて、「経済についてきちんと話すことができるように」という想いから、できるだけ専門用語を使わず、地に足のついた、血の通った言葉で経済について語ったものです。 本書を原書で読み、「圧倒された」というブレイディみかこさんは、「優しく、易しく、そして面白く資本主義について語った愛と叡智の書」と評しています。 その語りは、娘からの「なぜ格差が存在するのか」という問いに、著者なりの答えを出していくかたちで進んでいきます。その過程で、経済がどのように生まれたかにさかのぼり、金融の役割や資本主義の歴史と功罪について、小説やSF映画などの例を挙げながら平易な言葉で説いていきます。 原書の評判は経済を論じた本らしくなく、「一気読みしてしまった」「読むのを止められない」といった声が多数あがっていますが、実際、本書はまるで小説のように章を追うごとに話が深まっていき、ついついページをめくり続けてしまうみごとな構成になっています。 バルファキスは本書で、「誰もが経済についてしっかりと意見を言えること」が「真の民主主義の前提」であり、「専門家に経済をゆだねることは、自分にとって大切な判断をすべて他人にまかせてしまうこと」だと言っています。 大切な判断を他人まかせにしないためには、経済とは何か、資本主義がどのように生まれ、どんな歴史を経ていまの経済の枠組みが存在するようになったのかを、自分の頭で理解する必要があるのです。 本書のバルファキスのこの言葉を、私も若い人たちに贈りたいと思います。 「君には、いまの怒りをそのまま持ち続けてほしい。でも賢く、戦略的に怒り続けてほしい。そして、機が熟したらそのときに、必要な行動をとってほしい。この世界を本当に公正で理にかなった、あるべき姿にするために」』、「ギリシャ」は2010年以降、債務危機に見舞われ、最終的には債務の一部切り捨て、財政緊縮化などでかろうじて乗り切った。この際の債務切り捨てはやはり大きな問題となった。
タグ:内藤 修氏による「マレリHDが「異例の法的整理」を選んだ理由、帝国データバンクが解説」 ダイヤモンド・オンライン 「石川は自身で2億円を用意し、約束の場所である三菱UFJ信託銀行本店の社員通用口付近に使いをやり、それを手渡している。このことを石川は澤田に伝えた。その結果、断ったはずのリクルート株取引は仕切り直されることとなった」、ずいぶん二転三転したようだ。 「「ハウステンボス」は50億円相当の純金を購入し、集客の目玉として「黄金の館」なる絢爛豪華な展示施設を開業するなどしていた」、「澤田は秘書の海津誠之を交渉に当たらせることにした」、「澤田はあまりに時間が短いことを理由に同月28日夕方に取引を見合わせたい旨を連絡し、いったんは話を断っている」、 「4人」ともいかがわしそうだ。 高橋 篤史氏による「旅行業界の風雲児・HIS澤田秀雄会長がハウステンボス売却へとつながった40億円の詐欺被害 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(6)」 高橋 篤史 現代ビジネス 「黒字になった一番の理由は、佐世保港に大型クルーズ船が接岸できるように工事を行ったことです。これで中国や韓国、台湾からのクルーズ客が一気に増えて黒字になったのです。佐世保港はインバウンドの九州の入り口となり、H.I.S.のクルーズ会社もかなり潤いました」、さすが見事だ。 「自己資本比率は5.8%」とは土俵際まで追い込まれていたようだ。 「売上1兆円企業になるかと言われていました。ところがコロナの影響をもろに受け、2021年10月期の売上は1180億円まで落ち込んでしまいました」、打撃は深刻だ。 ダイヤモンド・オンライン「【ギリシャ元財務大臣が解説する】「借金をチャラにする」のが経済にとても役立つワケ」 デイリー新潮「H.I.S.が「ハウステンボス」を投資会社に売却へ 澤田会長にとって売却額800億円は高いか安いか」 「負債総額は1兆1856億円」と超「大型」なのであれば、「必要となる全金融機関の同意が得られず」、「民事再生手続きを選択」したのは当然だろう。 「事業再生ADR」でやるには、「案件」が大型過ぎたのだろう。 「澤田」も結局、「騙されて「40億円」を騙し取られたようだ。第二の記事の「ハウステンボス」の売却代金で埋めるのだろう。そもそも「M資金」もどきの詐欺事件に引っかかるとは、責任重大だ。 (その3)(マレリHDが「異例の法的整理」を選んだ理由 帝国データバンクが解説(無料部分)、H.I.S.が「ハウステンボス」を投資会社に売却へ 澤田会長にとって売却額800億円は高いか安いか、旅行業界の風雲児・HIS澤田秀雄会長がハウステンボス売却へとつながった40億円の詐欺被害 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(6)、【ギリシャ元財務大臣が解説する】「借金をチャラにする」のが経済にとても役立つワケ) 事業再生 「債務免除は、単なる実務的な処理でしかない。 お金がなくて借金を返済できない人に、いつまでも「金を返せ」と催促し続けても、ないものは払えない。 借金をした側も貸した側も手間と時間が無駄になるだけだから、事務的にご破算にするということだ」、いわば生活の知恵のようなものだ。 「返済不可能な借金に永遠に囚われていたら、企業も個人も国家も復活できない。聖書の中で、借金を定期的に棒引きにすべきだと書いてあるのも、同じ理由からだ」、「聖書の中で、借金を定期的に棒引きにすべきだと書いてある」、初めて知った。 「借金が返済不可能になってしまったことに関しては、債務者にも債権者にもお互いに悪い点があったことを認めることが大切だ」、その通りだろう。 「起業家は事業がうまくいかず会社が倒産した場合でも、個人の所有財産までは取られないようになり、リスクの高い大事業にも安心して取り組めるようになった」、その通りだ。 「借金したらすべて返さなければならないという考えに固執しすぎると、何も生み出さないし、進歩を遅らせてしまう。債務免除や有限責任は、それを防ぐための施策なのである」、上手い知恵だ。 「ギリシャ」は2010年以降、債務危機に見舞われ、最終的には債務の一部切り捨て、財政緊縮化などでかろうじて乗り切った。この際の債務切り捨てはやはり大きな問題となった。
ウクライナ(その7)(ウクライナ軍の反転攻勢に焦るプーチン…「核ミサイルを撃つタイミングは今しかない」、「はったりではない」との核の脅しも動員令も プーチンが「負け戦」を認識した証拠、「部分的動員」という賭けに出たプーチンの苦渋 米欧はロシアの核使用示唆に強力な報復を警告) [世界情勢]
ウクライナについては、8月11日に取上げた。今日は、(その7)(ウクライナ軍の反転攻勢に焦るプーチン…「核ミサイルを撃つタイミングは今しかない」、「はったりではない」との核の脅しも動員令も プーチンが「負け戦」を認識した証拠、「部分的動員」という賭けに出たプーチンの苦渋 米欧はロシアの核使用示唆に強力な報復を警告)である。
先ずは、9月22日付け現代ビジネス「ウクライナ軍の反転攻勢に焦るプーチン…「核ミサイルを撃つタイミングは今しかない」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/100050?imp=0
・『奇襲作戦で北東部・ハルキウ州の大半を奪還したウクライナ軍。しかし、油断してはいけない。プーチンはまさに今、最終兵器を放とうとしている。最悪のシナリオを徹底的にシミュレーションする』、興味深そうだ。
・『ウクライナ軍が仕掛けた罠 ウクライナ戦争が重大な転換点を迎えている。9月11日、ウクライナ軍は北東部のハルキウ州のほぼ全域を奪還した。取り戻した領土は4000~6000平方キロメートルとされ、東京都の面積の1.8倍にあたる。ロシア軍は守勢に回り、部隊の再編制を余儀なくされた。被害も甚大で主力兵器である戦車『T-80』を100台以上破壊され、ロシア軍の重要な補給地点であったイジューム、クピャンスクも失った。'14年の東部ドンバス紛争で指揮を取った元ロシア軍司令官のイゴール・ガーキンは此度の敗走についてこう語っている。 「現在の状況を日露戦争になぞらえて表現するならば、奉天会戦という言葉しか思い浮かばない。ロシアは負けつつあるかもしれない」 奉天会戦は日露戦争において、圧倒的に兵力差があったロシア軍を日本軍が破り、後の勝利を決定的とした戦いだ。国内からそんな声が出るほど、ロシアは窮地に立たされているのだ。 ハルキウ州の奪還は用意周到に仕組まれた奇襲作戦だった。8月9日、ウクライナ軍はクリミア半島西部のサキ航空基地を砲撃し、20日には軍港都市セバストポリでロシア黒海艦隊司令部を爆撃した。 その際、黒海艦隊が所有する戦闘機の半数以上を破壊した。ロシア軍は南西部の要衝へルソンで反攻が始まると予測し、北部、東部に駐留していた兵力を南部に移送し、守備を固めた。 しかし、それが罠だった。ウクライナ軍は手薄になったハルキウ州を一気に攻め立てた。軍事評論家の高部正樹氏が語る』、「罠」としては極めて大規模な仕掛けだ。
・『ウクライナが求めていた戦果 「NATO諸国にウクライナへの『支援疲れ』が漂うなか、戦地はほどなく冬を迎えようとしている。積雪や極寒で前線が膠着するし、天然ガス不足に悩むドイツなどヨーロッパ諸国からの支援が滞るかもしれない。ウクライナは、更なる支援を求めるにあたって、何としても戦果を上げたかったのでしょう」 奪還作戦において、成功のカギを担ったのが主に米国から供与された最新兵器である。まずは制空権を確保するために、攻守両面で重要な役割を果たすレーダーを破壊するミサイル『AGM-88 HARM』を導入した。 そして、それを正確に撃ち込むのに一役買ったのが高性能偵察ドローンの『スキャンイーグル』だ。昼夜問わず、24時間航行することが可能で、ロシア軍の砲撃の射程外から電子光学、赤外線を使ったセンサーで敵レーダーの位置を捉えていたのだ。 さらに、自爆特攻ドローン『スイッチブレード』『フェニックスゴースト』が装甲車両などを攻撃し、兵力を弱らせていった。 「特に戦果をあげたのは、高機動ロケット砲システム『HIMARS』です。静止したものを目標にすればGPS誘導でほぼ100%命中させることができます。1~2ヵ月前まで戦況は膠着状態で、ロシア軍がじりじりと前進していましたが、 HIMARSにより司令部、弾薬庫などが攻撃され、前線への補給が滞った。ロシア軍の圧力が弱くなったことで、ウクライナ軍が反撃するための時間・空間的余裕が生まれたのです」(防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄氏) 北東部を解放したウクライナ軍は、南部でも攻勢を強めていくだろう。ゼレンスキー大統領も独立記念日の前日にあたる8月23日、こう宣言している。 「クリミア半島はわれわれの領土であり、他国との協議なしにわれわれが正しいと決めた方法で取り戻す。奪還は、欧州における安全と正義の回復に向けた歴史的な反戦の一歩となる」』、「奪還作戦において、成功のカギを担ったのが主に米国から供与された最新兵器」、やはりロシア製よりはいいようだ。
・『領土を失うくらいなら ロシア軍はクリミア半島を死守すると同時に、ウクライナ軍を押し戻すために北部の防衛ラインを急いで再構築しなければならない。10月下旬になれば、雪が降り始め前線は動けなくなるからだ。ロシア軍は主力部隊をへルソンに配置しているが、ドニプロ川周辺の橋を『HIMARS』により破壊されて輸送路が断たれている。 自軍が敗退するさまを眺めるプーチン大統領は冷酷な表情を崩さない。だが、その内面は怒りと屈辱、焦りで煮えたぎっているだろう。 プーチンにとって、この戦争の大義名分は「ウクライナに跋扈するネオナチを排除するための祖国防衛」だ。しかし、現状を見てみれば、実効支配していたウクライナ東部のドンバス地方、クリミア半島を失う恐れすらある。 そして、侵攻以前より領土を減らすことになれば、それはプーチンにとって明白な敗北であり、ロシア史上最大の恥となる。 19世紀にナポレオンがロシアに侵攻したとき、政治家たちは自らの指示でモスクワを燃やした。ナポレオンは『占領する意味がない』と撤退。プーチンはその逸話を『ロシアの勝利』とし、何度もプロパガンダとして利用してきた。プーチンは極端な愛国主義者だ。そして、奇しくも、その状況が現代に再現されている。 欧米の息がかかったウクライナ軍が、さらなる侵攻を企てようものなら、自国領土での損害や国際社会からの猛反発も厭わず、常軌を逸した反撃に出るだろう。そのために必要な兵器は、一つしかない。核兵器だ。 「まさに今が使用のタイミングではあります。プーチンが現在、動員している陸軍、空軍の兵力で巻き返すことができないと判断すれば、核兵器を使用する可能性は否定できません」(軍事ジャーナリストの菊池雅之氏) 後編記事『「11月までに決着をつけろ!」…怒り狂うプーチンが「核ミサイルで狙う都市」』では、プーチンが核ミサイルを落とし得ると言われる理由、核を落とし得る場所について紹介する』、「欧米の息がかかったウクライナ軍が、さらなる侵攻を企てようものなら、自国領土での損害や国際社会からの猛反発も厭わず、常軌を逸した反撃に出るだろう。そのために必要な兵器は、一つしかない。核兵器だ。 「まさに今が使用のタイミングではあります」、恐ろしい話だ。「後編」を見てみよう。
次に、この続きを、9月22日付け現代ビジネス「「11月までに決着をつけろ!」…怒り狂うプーチンが「核ミサイルで狙う都市」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/100052?imp=0
・『前編記事『ウクライナ軍の反転攻勢に焦るプーチン…「核ミサイルを撃つタイミングは今しかない」』に続き、プーチンが核ミサイルを落とし得る場所とその理由について、迫っていく』、「核ミサイルを落とし得る場所とその理由」、穏やかではないが、見てみよう。
・『側近はますます強硬に 国内で活発化し始めた反戦運動も核使用の現実味を高める一因となっている。ロシア軍が守勢に回っているという情報が徐々に伝わり、9月11日に行われた統一地方選では、公然と反戦の声を上げる野党政治家や有権者が目立った。 さらに「プーチンの頭脳」と呼ばれるロシアの極右思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリア氏が暗殺された事件でも、反プーチンを掲げる『国民共和国軍』が犯行声明を発表した。 今、ロシア国内ではプーチン更迭を求める動きがかつてないほどに大きくなっているのだ。筑波大学名誉教授の中村逸郎氏が言う。 「プーチンは、11月にバリ島で開かれる予定のG20までに、なんとしても『特別軍事作戦』を終わらせたいという思惑が強い。今の状況のまま出席すると、当然、欠席する国は多くなり、国際社会での孤立が浮き彫りになってしまいます。そうなれば、厭戦気分が漂い始めた国内でも世論に押され、プーチン陣営の支持基盤も揺らいでくる。 一方で、ウクライナ侵攻を主導したロシア連邦安全保障会議書記のパトルシェフら側近はより強硬な手段を主張し始めています。核兵器を使い、強引にでも作戦を終わらせることもあり得なくはありません」』、「11月にバリ島で開かれる予定のG20までに、なんとしても『特別軍事作戦』を終わらせたいという思惑が強い」とはいうものの、「核兵器を使」えば、「G20」から締め出されることは確実だ。
・『プーチンが「狙う」場所 ウクライナ軍が米国から供与された最新兵器で攻勢を続けるなか、プーチンは一発の核ミサイルで戦況をひっくり返そうとしている。いったい、どこが狙われるのか。 「『威嚇』として人的被害が少なく、かつロシアの領土に放射能の影響が及びにくい地方の原野などに、広島原爆の3分の1程度の威力を持った核ミサイルを落とす可能性があります。首都・キーウとオデーサを結んだ直線から東に離れたウクライナ中央部が着弾地点になると思います」(軍事評論家の高部正樹氏) 人的被害を避けるという意味では海上で爆発させる可能性もある。その際、狙われるのはオデーサ沖合の黒海だ。海上ならば人的被害もなく、北風で放射能は南に流れていき、クリミア半島に放射能の影響が及ぶことはない。NATO諸国も報復はしてこないと踏んでいるのだ。 プーチンは原発を使った「核攻撃」を行う怖れもある。特殊部隊などの手で故意に事故を発生させ、放射能をバラまくのだ。標的になるのは南ウクライナ原発だろう。 現在ロシアが実効支配している地域にあるザポリージャ原発とちがって、ここならば、支配地域や周辺国の汚染は最小限となる。国際社会からの反発は必至だが、ロシアは「偶発的な事故」としてシラを切るだろう。いずれにしても、南部で攻勢を仕掛けようとしているウクライナ軍に対して強烈な牽制となる。 だが、さらにおぞましいシナリオもある。奪還された都市に駐留するウクライナ軍をターゲットに核ミサイルを撃ち込むことだ。先述したように、プーチンは戦争に負けるくらいなら、自国の領土を放射能で汚染させても勝利をもぎ取ろうとするかもしれない』、「広島原爆の3分の1程度の威力を持った核ミサイル」を、「人的被害が少なく、かつロシアの領土に放射能の影響が及びにくい地方の原野」、或いは「オデーサ沖合の黒海だ」、さらに、「原発を使った「核攻撃」を行う怖れもある。特殊部隊などの手で故意に事故を発生させ、放射能をバラまくのだ。標的になるのは南ウクライナ原発」、いずれも恐ろしいシナリオだ。
・『「早すぎる撤退」の不気味 現在、ロシア側にとって、最も窮地に立たされている戦線は東部のドンバス地方だ。ウクライナ軍は徹甲部隊を投入し、米国から新たに供与された対地雷装甲車『マックスプロ』を駆使して一気に領土奪還を目論んでいる。 「このような状況での核兵器の使われ方はごく単純に言うと二つがあり得ます。一つは相手を引き下がらせるために『使うぞ!』と脅して、相手が引き下がらなかった場合に使うパターン。もう一つは黙って奇襲的に使うパターンです。軍事的には黙って使うほうが効果は高い」(防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄氏) その場合に狙われる地域として、候補に挙げられるのはハルキウ、イジュームなどウクライナ軍が今回の奇襲作戦で奪還した補給の重要拠点だ。ここを叩けば、ウクライナ軍の勢いは止まることになるだろう。 一つ気にかかるのが、これらの都市を奪還されたあとのロシア軍の動きである。異様に早いスピードで撤退したのだ。この急ぎ方は、核ミサイルを撃つための準備ではないかと指摘する専門家も少なくない。 「使用される核兵器は短距離弾道ミサイル『イスカンデル』と見て、間違いないでしょう。射程は500km程度で、東部の国境地帯に配備すれば、現在、戦闘が行われている地域のほとんどの主要都市が射程圏内に収まります」(前出・高部氏) このミサイルの恐ろしいところは、複雑な軌道を描きながら超音速で巡航し、さらに本命の核弾頭を確実に着弾させるために囮の爆弾をバラまくことだ。敵の防空システムは攪乱され、迎撃が非常に難しい。また、機動性も高く、装甲車両に積み込んで敵の攻撃が届かない地域へ短時間で移動させることができる。 ウクライナ軍の奇襲作戦で敗走した3日後、ロシア大統領報道官のペスコフはこう強調した。 「特別軍事作戦は継続しており、当初の目標を達成するまで継続する」 これが本気の発言なら、目標達成のため使われる兵器はもはや一つしか残されていない。77年の歳月を経て、再び世界は核の炎による悲劇を目の当たりにするのか』、「ハルキウ、イジュームなどウクライナ軍が今回の奇襲作戦で奪還した補給の重要拠点だ。ここを叩けば、ウクライナ軍の勢いは止まることになるだろう。 一つ気にかかるのが、これらの都市を奪還されたあとのロシア軍の動きである。異様に早いスピードで撤退したのだ。この急ぎ方は、核ミサイルを撃つための準備ではないかと指摘する専門家も少なくない」、このシナリオも注目される。
第三に、9月23日付け東洋経済オンラインが掲載した新聞通信調査会理事・共同通信ロシア・東欧ファイル編集長の吉田 成之氏による「「部分的動員」という賭けに出たプーチンの苦渋 米欧はロシアの核使用示唆に強力な報復を警告」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/620861
・『プーチン大統領が2022年9月21日、ついに「部分的動員」という大きな賭けに出た。兵力不足が露呈したロシア軍がウクライナ軍の巧妙な反攻作戦で崖っぷちに追い込まれた中、30万人規模の予備役投入で戦局の好転を図った苦肉の策だ。 しかし、予備役の戦線投入は早くて数カ月先とみられ、戦況をただちに有利に転換する可能性は低い。おまけにこれまで「戦争は支持するが、従軍はお断り」と考えてきたノンポリのロシア国民の間で、「プーチン離れ」が進む兆候もすでに出始めている。今回の決定がプーチン氏にとって逆噴射する可能性もある』、「予備役の戦線投入は早くて数カ月先とみられ、戦況をただちに有利に転換する可能性は低い」、「これまで「戦争は支持するが、従軍はお断り」と考えてきたノンポリのロシア国民の間で、「プーチン離れ」が進む兆候もすでに出始めている。今回の決定がプーチン氏にとって逆噴射する可能性もある」、既に、自治共和国などへの出国なども増加、招集逃れへの厳罰化なども相次いでとられているようだ。
・『ためらいがちな「部分的動員」発令 今回のプーチン氏の決定は、「ためらい」の色が濃いものだった。当初前日の2022年9月20日夜に行われると言われていた国民向けの声明は延期され、モスクワ時間の同21日朝にテレビ放送された。もともと大統領は、政権内で「戦争党」とも呼ばれる強硬派や民族派が求めていた国民総動員には消極的だった。クレムリンが独自に秘密裡に行う世論調査で否定的な意見が強かったからだ。 しかし、東北部ハルキウ(ハリコフ)州の要衝イジュムがウクライナ軍の奇襲によってあっという間に陥落するなど日々悪化する戦局に対し、クレムリン内では何らかの手を打つべきとの圧力が高まった。一方で大統領の個人的友人でもある新興財閥の中では「平和党」と呼ばれるグループがいて、総動員に反対していた。 このままでは政権内に大きな亀裂が走ることを恐れたプーチン氏は結局、両派の主張の間をとった妥協策として今回の部分的動員になったとみられる。 「戦争党」には政権ナンバー2のパトルシェフ安全保障会議書記やメドベージェフ前大統領、ウォロジン下院議長など大物政治家が揃っている。平和党と比べ、政治的権力は圧倒的に強い。今回の決定でプーチン氏は政権内でのガス抜きを図ったと言えよう。) しかし、実際の戦局を好転させるだけの結果を出せるかとなると疑問が残る。30万人の予備役招集は発表当日から有効とされたが、いくら軍務経験者といってもこれから訓練をし、装備・軍服を配備し戦線に送れるようになるには今後数カ月かかるとの見方が一般的だ。現在ウクライナに派兵されているロシア軍は20万人以下とみられ、それから比べると30万人という規模はかなりのものだ。 一方でウクライナ軍は、2022年末から2023年初めにかけての冬季期間中でのロシア軍への決定的勝利を目指して反攻作戦を急いでおり、ロシア側の動員が間に合わない可能性もある。おまけにロシア軍の東部・南部での士気低下や指揮系統のマヒは隠しようもないほどだ。予備役が配備されても一度壊れた態勢が回復するとはとても思えない。 現在ウクライナ軍は現在ドネツク州陥落に力点を置いており、隣のルハンシク(ルガンスク)州にはもはや重点を置いていない。ロシア軍の士気があまりに低いからだ。ドネツク州でロシア軍部隊は要衝のバフムトへの攻撃を続けているが、ウクライナ側は「無駄な攻撃」と嘲笑している。軍事的に攻略が不可能なためだ。 しかしプーチン氏はドネツク州の早期の全面的制圧を軍に厳命しており、ロシア軍の現地司令官は「不可能であることをプーチン氏に報告できずに惰性で攻撃しているだけ」とウクライナ側はみている。さらに、ミサイルなどの主力兵器の不足も決定的だ。兵力だけ増やしても戦死者を増やすだけとの批判がウクライナ側からも出ている』、「いくら軍務経験者といってもこれから訓練をし、装備・軍服を配備し戦線に送れるようになるには今後数カ月かかるとの見方が一般的だ。現在ウクライナに派兵されているロシア軍は20万人以下とみられ、それから比べると30万人という規模はかなりのものだ。 一方でウクライナ軍は、2022年末から2023年初めにかけての冬季期間中でのロシア軍への決定的勝利を目指して反攻作戦を急いでおり、ロシア側の動員が間に合わない可能性もある」、「ドネツク州でロシア軍部隊は要衝のバフムトへの攻撃を続けているが、ウクライナ側は「無駄な攻撃」と嘲笑している。軍事的に攻略が不可能なためだ。 しかしプーチン氏はドネツク州の早期の全面的制圧を軍に厳命しており、ロシア軍の現地司令官は「不可能であることをプーチン氏に報告できずに惰性で攻撃しているだけ」とウクライナ側はみている」、実情を知らない「プーチン」が口出しするのも考えものだ。
・『部分動員が国内政治にもたらすリスク 今回の部分動員の発表と合わせ、プーチン氏はロシアへの編入を問う「住民投票」がウクライナ東部や南部の計4州で2022年9月23日から27日までの日程で実施されることを初めて認めた。編入支持が「圧倒的多数」で承認されることは確実で、プーチン氏は新たな領土拡大という戦果を誇示する狙いだろう。 しかし、部分動員という折衷的措置であっても、より広い層の国民を戦場に駆り出すことになる今回の決定は、プーチン氏にとって国内政治的にも大きなリスクをもたらした。多くのロシア国民、とくにモスクワやサンクトペテルブルクといった大都市の住民の多くは、自分たちが戦場に送られない限りにおいて、侵攻を支持するという消極的支持派だからだ。 プーチン政権の内部事情に精通する元クレムリンのスピーチライターで政治評論家のアッバス・ガリャモフ氏は「プーチン氏が国民との社会契約を破った」と指摘する。つまり、社会契約とは「プーチン政権はこれまで志願兵の募集を地方中心で行って、都市部住民にはほとんど触らずに来た。彼らには快適な生活を保障する代わりに、戦争への支持を集めてきた」ことだと説明する。) 戦争中も都市部の住民は旅行したり、通常とほぼ変わらぬ生活を謳歌している。この平和な生活が破られることで、今後国民の間で政権への抗議の機運が広がる可能性も出てきた。同時に既にモスクワなどでは招集される前に国外に脱出を図るパニック的動きが出ている。 一方でウクライナ側としては、ロシア軍の追加派兵によって早期勝利への青写真が狂うことを警戒している。今後米欧に追加の軍事支援を求めることになるだろう。 同時に、ウクライナは巧妙な戦略を別途に検討し始めている。それは、前線のロシア将兵に対し、投降と同時にウクライナへの亡命を呼び掛ける作戦だ。戦線ではすでに投降の動きが出始めている。これを受け、ロシア議会では投降を処罰する法が制定された。 このため、ウクライナ軍はロシア兵に対し、プーチン体制がなくなり、徴兵も投降への処罰もなくなるまでウクライナに留まることを許す方針だ。戦死や投獄よりマシと考えるロシア兵が出てくる可能性はある』、「社会契約とは「プーチン政権はこれまで志願兵の募集を地方中心で行って、都市部住民にはほとんど触らずに来た。彼らには快適な生活を保障する代わりに、戦争への支持を集めてきた」ことだと説明する。) 戦争中も都市部の住民は旅行したり、通常とほぼ変わらぬ生活を謳歌している。この平和な生活が破られることで、今後国民の間で政権への抗議の機運が広がる可能性も出てきた。同時に既にモスクワなどでは招集される前に国外に脱出を図るパニック的動きが出ている」、「これまで志願兵の募集を地方中心で行って、都市部住民にはほとんど触らずに来た」、初めて知った。「都市部住民」はまだ余裕がありそうだ。
・『米欧はプーチン執務室への報復も示唆 今回、国際的に衝撃をもたらしたプーチン氏による核兵器使用の警告について、アメリカをはじめとする西側は警戒しつつも、ロシアに対し、水面下で強く警告している。軍事筋によると、2022年3月の段階で米欧は核をウクライナに使用した場合、ロシア軍核部隊のみならず、「使用を決定した場所」、つまりプーチン氏の執務場所も核で報復攻撃するという警告をバックチャンネルを通してしている。今回のプーチン発言後も同様の警告をしたとみられる。 それでもプーチン氏が核使用に踏み切る可能性があるのか否か。それは本人にしかわからない。しかし、通常戦で苦境にあるクレムリンが核の脅しで米欧やウクライナを威嚇し、自国に有利な形での交渉開始を迫る戦略の可能性が高いと筆者はみる。国際社会は冷静に行動すべきだ』、「2022年3月の段階で米欧は核をウクライナに使用した場合、ロシア軍核部隊のみならず、「使用を決定した場所」、つまりプーチン氏の執務場所も核で報復攻撃するという警告をバックチャンネルを通してしている」、「通常戦で苦境にあるクレムリンが核の脅しで米欧やウクライナを威嚇し、自国に有利な形での交渉開始を迫る戦略の可能性が高い」、「核」が「脅し」ではなく、現実化する可能性もあるだけに、こんな綱渡り戦術は避けてもらいたいものだ。
先ずは、9月22日付け現代ビジネス「ウクライナ軍の反転攻勢に焦るプーチン…「核ミサイルを撃つタイミングは今しかない」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/100050?imp=0
・『奇襲作戦で北東部・ハルキウ州の大半を奪還したウクライナ軍。しかし、油断してはいけない。プーチンはまさに今、最終兵器を放とうとしている。最悪のシナリオを徹底的にシミュレーションする』、興味深そうだ。
・『ウクライナ軍が仕掛けた罠 ウクライナ戦争が重大な転換点を迎えている。9月11日、ウクライナ軍は北東部のハルキウ州のほぼ全域を奪還した。取り戻した領土は4000~6000平方キロメートルとされ、東京都の面積の1.8倍にあたる。ロシア軍は守勢に回り、部隊の再編制を余儀なくされた。被害も甚大で主力兵器である戦車『T-80』を100台以上破壊され、ロシア軍の重要な補給地点であったイジューム、クピャンスクも失った。'14年の東部ドンバス紛争で指揮を取った元ロシア軍司令官のイゴール・ガーキンは此度の敗走についてこう語っている。 「現在の状況を日露戦争になぞらえて表現するならば、奉天会戦という言葉しか思い浮かばない。ロシアは負けつつあるかもしれない」 奉天会戦は日露戦争において、圧倒的に兵力差があったロシア軍を日本軍が破り、後の勝利を決定的とした戦いだ。国内からそんな声が出るほど、ロシアは窮地に立たされているのだ。 ハルキウ州の奪還は用意周到に仕組まれた奇襲作戦だった。8月9日、ウクライナ軍はクリミア半島西部のサキ航空基地を砲撃し、20日には軍港都市セバストポリでロシア黒海艦隊司令部を爆撃した。 その際、黒海艦隊が所有する戦闘機の半数以上を破壊した。ロシア軍は南西部の要衝へルソンで反攻が始まると予測し、北部、東部に駐留していた兵力を南部に移送し、守備を固めた。 しかし、それが罠だった。ウクライナ軍は手薄になったハルキウ州を一気に攻め立てた。軍事評論家の高部正樹氏が語る』、「罠」としては極めて大規模な仕掛けだ。
・『ウクライナが求めていた戦果 「NATO諸国にウクライナへの『支援疲れ』が漂うなか、戦地はほどなく冬を迎えようとしている。積雪や極寒で前線が膠着するし、天然ガス不足に悩むドイツなどヨーロッパ諸国からの支援が滞るかもしれない。ウクライナは、更なる支援を求めるにあたって、何としても戦果を上げたかったのでしょう」 奪還作戦において、成功のカギを担ったのが主に米国から供与された最新兵器である。まずは制空権を確保するために、攻守両面で重要な役割を果たすレーダーを破壊するミサイル『AGM-88 HARM』を導入した。 そして、それを正確に撃ち込むのに一役買ったのが高性能偵察ドローンの『スキャンイーグル』だ。昼夜問わず、24時間航行することが可能で、ロシア軍の砲撃の射程外から電子光学、赤外線を使ったセンサーで敵レーダーの位置を捉えていたのだ。 さらに、自爆特攻ドローン『スイッチブレード』『フェニックスゴースト』が装甲車両などを攻撃し、兵力を弱らせていった。 「特に戦果をあげたのは、高機動ロケット砲システム『HIMARS』です。静止したものを目標にすればGPS誘導でほぼ100%命中させることができます。1~2ヵ月前まで戦況は膠着状態で、ロシア軍がじりじりと前進していましたが、 HIMARSにより司令部、弾薬庫などが攻撃され、前線への補給が滞った。ロシア軍の圧力が弱くなったことで、ウクライナ軍が反撃するための時間・空間的余裕が生まれたのです」(防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄氏) 北東部を解放したウクライナ軍は、南部でも攻勢を強めていくだろう。ゼレンスキー大統領も独立記念日の前日にあたる8月23日、こう宣言している。 「クリミア半島はわれわれの領土であり、他国との協議なしにわれわれが正しいと決めた方法で取り戻す。奪還は、欧州における安全と正義の回復に向けた歴史的な反戦の一歩となる」』、「奪還作戦において、成功のカギを担ったのが主に米国から供与された最新兵器」、やはりロシア製よりはいいようだ。
・『領土を失うくらいなら ロシア軍はクリミア半島を死守すると同時に、ウクライナ軍を押し戻すために北部の防衛ラインを急いで再構築しなければならない。10月下旬になれば、雪が降り始め前線は動けなくなるからだ。ロシア軍は主力部隊をへルソンに配置しているが、ドニプロ川周辺の橋を『HIMARS』により破壊されて輸送路が断たれている。 自軍が敗退するさまを眺めるプーチン大統領は冷酷な表情を崩さない。だが、その内面は怒りと屈辱、焦りで煮えたぎっているだろう。 プーチンにとって、この戦争の大義名分は「ウクライナに跋扈するネオナチを排除するための祖国防衛」だ。しかし、現状を見てみれば、実効支配していたウクライナ東部のドンバス地方、クリミア半島を失う恐れすらある。 そして、侵攻以前より領土を減らすことになれば、それはプーチンにとって明白な敗北であり、ロシア史上最大の恥となる。 19世紀にナポレオンがロシアに侵攻したとき、政治家たちは自らの指示でモスクワを燃やした。ナポレオンは『占領する意味がない』と撤退。プーチンはその逸話を『ロシアの勝利』とし、何度もプロパガンダとして利用してきた。プーチンは極端な愛国主義者だ。そして、奇しくも、その状況が現代に再現されている。 欧米の息がかかったウクライナ軍が、さらなる侵攻を企てようものなら、自国領土での損害や国際社会からの猛反発も厭わず、常軌を逸した反撃に出るだろう。そのために必要な兵器は、一つしかない。核兵器だ。 「まさに今が使用のタイミングではあります。プーチンが現在、動員している陸軍、空軍の兵力で巻き返すことができないと判断すれば、核兵器を使用する可能性は否定できません」(軍事ジャーナリストの菊池雅之氏) 後編記事『「11月までに決着をつけろ!」…怒り狂うプーチンが「核ミサイルで狙う都市」』では、プーチンが核ミサイルを落とし得ると言われる理由、核を落とし得る場所について紹介する』、「欧米の息がかかったウクライナ軍が、さらなる侵攻を企てようものなら、自国領土での損害や国際社会からの猛反発も厭わず、常軌を逸した反撃に出るだろう。そのために必要な兵器は、一つしかない。核兵器だ。 「まさに今が使用のタイミングではあります」、恐ろしい話だ。「後編」を見てみよう。
次に、この続きを、9月22日付け現代ビジネス「「11月までに決着をつけろ!」…怒り狂うプーチンが「核ミサイルで狙う都市」」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/100052?imp=0
・『前編記事『ウクライナ軍の反転攻勢に焦るプーチン…「核ミサイルを撃つタイミングは今しかない」』に続き、プーチンが核ミサイルを落とし得る場所とその理由について、迫っていく』、「核ミサイルを落とし得る場所とその理由」、穏やかではないが、見てみよう。
・『側近はますます強硬に 国内で活発化し始めた反戦運動も核使用の現実味を高める一因となっている。ロシア軍が守勢に回っているという情報が徐々に伝わり、9月11日に行われた統一地方選では、公然と反戦の声を上げる野党政治家や有権者が目立った。 さらに「プーチンの頭脳」と呼ばれるロシアの極右思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘ダリア氏が暗殺された事件でも、反プーチンを掲げる『国民共和国軍』が犯行声明を発表した。 今、ロシア国内ではプーチン更迭を求める動きがかつてないほどに大きくなっているのだ。筑波大学名誉教授の中村逸郎氏が言う。 「プーチンは、11月にバリ島で開かれる予定のG20までに、なんとしても『特別軍事作戦』を終わらせたいという思惑が強い。今の状況のまま出席すると、当然、欠席する国は多くなり、国際社会での孤立が浮き彫りになってしまいます。そうなれば、厭戦気分が漂い始めた国内でも世論に押され、プーチン陣営の支持基盤も揺らいでくる。 一方で、ウクライナ侵攻を主導したロシア連邦安全保障会議書記のパトルシェフら側近はより強硬な手段を主張し始めています。核兵器を使い、強引にでも作戦を終わらせることもあり得なくはありません」』、「11月にバリ島で開かれる予定のG20までに、なんとしても『特別軍事作戦』を終わらせたいという思惑が強い」とはいうものの、「核兵器を使」えば、「G20」から締め出されることは確実だ。
・『プーチンが「狙う」場所 ウクライナ軍が米国から供与された最新兵器で攻勢を続けるなか、プーチンは一発の核ミサイルで戦況をひっくり返そうとしている。いったい、どこが狙われるのか。 「『威嚇』として人的被害が少なく、かつロシアの領土に放射能の影響が及びにくい地方の原野などに、広島原爆の3分の1程度の威力を持った核ミサイルを落とす可能性があります。首都・キーウとオデーサを結んだ直線から東に離れたウクライナ中央部が着弾地点になると思います」(軍事評論家の高部正樹氏) 人的被害を避けるという意味では海上で爆発させる可能性もある。その際、狙われるのはオデーサ沖合の黒海だ。海上ならば人的被害もなく、北風で放射能は南に流れていき、クリミア半島に放射能の影響が及ぶことはない。NATO諸国も報復はしてこないと踏んでいるのだ。 プーチンは原発を使った「核攻撃」を行う怖れもある。特殊部隊などの手で故意に事故を発生させ、放射能をバラまくのだ。標的になるのは南ウクライナ原発だろう。 現在ロシアが実効支配している地域にあるザポリージャ原発とちがって、ここならば、支配地域や周辺国の汚染は最小限となる。国際社会からの反発は必至だが、ロシアは「偶発的な事故」としてシラを切るだろう。いずれにしても、南部で攻勢を仕掛けようとしているウクライナ軍に対して強烈な牽制となる。 だが、さらにおぞましいシナリオもある。奪還された都市に駐留するウクライナ軍をターゲットに核ミサイルを撃ち込むことだ。先述したように、プーチンは戦争に負けるくらいなら、自国の領土を放射能で汚染させても勝利をもぎ取ろうとするかもしれない』、「広島原爆の3分の1程度の威力を持った核ミサイル」を、「人的被害が少なく、かつロシアの領土に放射能の影響が及びにくい地方の原野」、或いは「オデーサ沖合の黒海だ」、さらに、「原発を使った「核攻撃」を行う怖れもある。特殊部隊などの手で故意に事故を発生させ、放射能をバラまくのだ。標的になるのは南ウクライナ原発」、いずれも恐ろしいシナリオだ。
・『「早すぎる撤退」の不気味 現在、ロシア側にとって、最も窮地に立たされている戦線は東部のドンバス地方だ。ウクライナ軍は徹甲部隊を投入し、米国から新たに供与された対地雷装甲車『マックスプロ』を駆使して一気に領土奪還を目論んでいる。 「このような状況での核兵器の使われ方はごく単純に言うと二つがあり得ます。一つは相手を引き下がらせるために『使うぞ!』と脅して、相手が引き下がらなかった場合に使うパターン。もう一つは黙って奇襲的に使うパターンです。軍事的には黙って使うほうが効果は高い」(防衛研究所・防衛政策研究室長の高橋杉雄氏) その場合に狙われる地域として、候補に挙げられるのはハルキウ、イジュームなどウクライナ軍が今回の奇襲作戦で奪還した補給の重要拠点だ。ここを叩けば、ウクライナ軍の勢いは止まることになるだろう。 一つ気にかかるのが、これらの都市を奪還されたあとのロシア軍の動きである。異様に早いスピードで撤退したのだ。この急ぎ方は、核ミサイルを撃つための準備ではないかと指摘する専門家も少なくない。 「使用される核兵器は短距離弾道ミサイル『イスカンデル』と見て、間違いないでしょう。射程は500km程度で、東部の国境地帯に配備すれば、現在、戦闘が行われている地域のほとんどの主要都市が射程圏内に収まります」(前出・高部氏) このミサイルの恐ろしいところは、複雑な軌道を描きながら超音速で巡航し、さらに本命の核弾頭を確実に着弾させるために囮の爆弾をバラまくことだ。敵の防空システムは攪乱され、迎撃が非常に難しい。また、機動性も高く、装甲車両に積み込んで敵の攻撃が届かない地域へ短時間で移動させることができる。 ウクライナ軍の奇襲作戦で敗走した3日後、ロシア大統領報道官のペスコフはこう強調した。 「特別軍事作戦は継続しており、当初の目標を達成するまで継続する」 これが本気の発言なら、目標達成のため使われる兵器はもはや一つしか残されていない。77年の歳月を経て、再び世界は核の炎による悲劇を目の当たりにするのか』、「ハルキウ、イジュームなどウクライナ軍が今回の奇襲作戦で奪還した補給の重要拠点だ。ここを叩けば、ウクライナ軍の勢いは止まることになるだろう。 一つ気にかかるのが、これらの都市を奪還されたあとのロシア軍の動きである。異様に早いスピードで撤退したのだ。この急ぎ方は、核ミサイルを撃つための準備ではないかと指摘する専門家も少なくない」、このシナリオも注目される。
第三に、9月23日付け東洋経済オンラインが掲載した新聞通信調査会理事・共同通信ロシア・東欧ファイル編集長の吉田 成之氏による「「部分的動員」という賭けに出たプーチンの苦渋 米欧はロシアの核使用示唆に強力な報復を警告」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/620861
・『プーチン大統領が2022年9月21日、ついに「部分的動員」という大きな賭けに出た。兵力不足が露呈したロシア軍がウクライナ軍の巧妙な反攻作戦で崖っぷちに追い込まれた中、30万人規模の予備役投入で戦局の好転を図った苦肉の策だ。 しかし、予備役の戦線投入は早くて数カ月先とみられ、戦況をただちに有利に転換する可能性は低い。おまけにこれまで「戦争は支持するが、従軍はお断り」と考えてきたノンポリのロシア国民の間で、「プーチン離れ」が進む兆候もすでに出始めている。今回の決定がプーチン氏にとって逆噴射する可能性もある』、「予備役の戦線投入は早くて数カ月先とみられ、戦況をただちに有利に転換する可能性は低い」、「これまで「戦争は支持するが、従軍はお断り」と考えてきたノンポリのロシア国民の間で、「プーチン離れ」が進む兆候もすでに出始めている。今回の決定がプーチン氏にとって逆噴射する可能性もある」、既に、自治共和国などへの出国なども増加、招集逃れへの厳罰化なども相次いでとられているようだ。
・『ためらいがちな「部分的動員」発令 今回のプーチン氏の決定は、「ためらい」の色が濃いものだった。当初前日の2022年9月20日夜に行われると言われていた国民向けの声明は延期され、モスクワ時間の同21日朝にテレビ放送された。もともと大統領は、政権内で「戦争党」とも呼ばれる強硬派や民族派が求めていた国民総動員には消極的だった。クレムリンが独自に秘密裡に行う世論調査で否定的な意見が強かったからだ。 しかし、東北部ハルキウ(ハリコフ)州の要衝イジュムがウクライナ軍の奇襲によってあっという間に陥落するなど日々悪化する戦局に対し、クレムリン内では何らかの手を打つべきとの圧力が高まった。一方で大統領の個人的友人でもある新興財閥の中では「平和党」と呼ばれるグループがいて、総動員に反対していた。 このままでは政権内に大きな亀裂が走ることを恐れたプーチン氏は結局、両派の主張の間をとった妥協策として今回の部分的動員になったとみられる。 「戦争党」には政権ナンバー2のパトルシェフ安全保障会議書記やメドベージェフ前大統領、ウォロジン下院議長など大物政治家が揃っている。平和党と比べ、政治的権力は圧倒的に強い。今回の決定でプーチン氏は政権内でのガス抜きを図ったと言えよう。) しかし、実際の戦局を好転させるだけの結果を出せるかとなると疑問が残る。30万人の予備役招集は発表当日から有効とされたが、いくら軍務経験者といってもこれから訓練をし、装備・軍服を配備し戦線に送れるようになるには今後数カ月かかるとの見方が一般的だ。現在ウクライナに派兵されているロシア軍は20万人以下とみられ、それから比べると30万人という規模はかなりのものだ。 一方でウクライナ軍は、2022年末から2023年初めにかけての冬季期間中でのロシア軍への決定的勝利を目指して反攻作戦を急いでおり、ロシア側の動員が間に合わない可能性もある。おまけにロシア軍の東部・南部での士気低下や指揮系統のマヒは隠しようもないほどだ。予備役が配備されても一度壊れた態勢が回復するとはとても思えない。 現在ウクライナ軍は現在ドネツク州陥落に力点を置いており、隣のルハンシク(ルガンスク)州にはもはや重点を置いていない。ロシア軍の士気があまりに低いからだ。ドネツク州でロシア軍部隊は要衝のバフムトへの攻撃を続けているが、ウクライナ側は「無駄な攻撃」と嘲笑している。軍事的に攻略が不可能なためだ。 しかしプーチン氏はドネツク州の早期の全面的制圧を軍に厳命しており、ロシア軍の現地司令官は「不可能であることをプーチン氏に報告できずに惰性で攻撃しているだけ」とウクライナ側はみている。さらに、ミサイルなどの主力兵器の不足も決定的だ。兵力だけ増やしても戦死者を増やすだけとの批判がウクライナ側からも出ている』、「いくら軍務経験者といってもこれから訓練をし、装備・軍服を配備し戦線に送れるようになるには今後数カ月かかるとの見方が一般的だ。現在ウクライナに派兵されているロシア軍は20万人以下とみられ、それから比べると30万人という規模はかなりのものだ。 一方でウクライナ軍は、2022年末から2023年初めにかけての冬季期間中でのロシア軍への決定的勝利を目指して反攻作戦を急いでおり、ロシア側の動員が間に合わない可能性もある」、「ドネツク州でロシア軍部隊は要衝のバフムトへの攻撃を続けているが、ウクライナ側は「無駄な攻撃」と嘲笑している。軍事的に攻略が不可能なためだ。 しかしプーチン氏はドネツク州の早期の全面的制圧を軍に厳命しており、ロシア軍の現地司令官は「不可能であることをプーチン氏に報告できずに惰性で攻撃しているだけ」とウクライナ側はみている」、実情を知らない「プーチン」が口出しするのも考えものだ。
・『部分動員が国内政治にもたらすリスク 今回の部分動員の発表と合わせ、プーチン氏はロシアへの編入を問う「住民投票」がウクライナ東部や南部の計4州で2022年9月23日から27日までの日程で実施されることを初めて認めた。編入支持が「圧倒的多数」で承認されることは確実で、プーチン氏は新たな領土拡大という戦果を誇示する狙いだろう。 しかし、部分動員という折衷的措置であっても、より広い層の国民を戦場に駆り出すことになる今回の決定は、プーチン氏にとって国内政治的にも大きなリスクをもたらした。多くのロシア国民、とくにモスクワやサンクトペテルブルクといった大都市の住民の多くは、自分たちが戦場に送られない限りにおいて、侵攻を支持するという消極的支持派だからだ。 プーチン政権の内部事情に精通する元クレムリンのスピーチライターで政治評論家のアッバス・ガリャモフ氏は「プーチン氏が国民との社会契約を破った」と指摘する。つまり、社会契約とは「プーチン政権はこれまで志願兵の募集を地方中心で行って、都市部住民にはほとんど触らずに来た。彼らには快適な生活を保障する代わりに、戦争への支持を集めてきた」ことだと説明する。) 戦争中も都市部の住民は旅行したり、通常とほぼ変わらぬ生活を謳歌している。この平和な生活が破られることで、今後国民の間で政権への抗議の機運が広がる可能性も出てきた。同時に既にモスクワなどでは招集される前に国外に脱出を図るパニック的動きが出ている。 一方でウクライナ側としては、ロシア軍の追加派兵によって早期勝利への青写真が狂うことを警戒している。今後米欧に追加の軍事支援を求めることになるだろう。 同時に、ウクライナは巧妙な戦略を別途に検討し始めている。それは、前線のロシア将兵に対し、投降と同時にウクライナへの亡命を呼び掛ける作戦だ。戦線ではすでに投降の動きが出始めている。これを受け、ロシア議会では投降を処罰する法が制定された。 このため、ウクライナ軍はロシア兵に対し、プーチン体制がなくなり、徴兵も投降への処罰もなくなるまでウクライナに留まることを許す方針だ。戦死や投獄よりマシと考えるロシア兵が出てくる可能性はある』、「社会契約とは「プーチン政権はこれまで志願兵の募集を地方中心で行って、都市部住民にはほとんど触らずに来た。彼らには快適な生活を保障する代わりに、戦争への支持を集めてきた」ことだと説明する。) 戦争中も都市部の住民は旅行したり、通常とほぼ変わらぬ生活を謳歌している。この平和な生活が破られることで、今後国民の間で政権への抗議の機運が広がる可能性も出てきた。同時に既にモスクワなどでは招集される前に国外に脱出を図るパニック的動きが出ている」、「これまで志願兵の募集を地方中心で行って、都市部住民にはほとんど触らずに来た」、初めて知った。「都市部住民」はまだ余裕がありそうだ。
・『米欧はプーチン執務室への報復も示唆 今回、国際的に衝撃をもたらしたプーチン氏による核兵器使用の警告について、アメリカをはじめとする西側は警戒しつつも、ロシアに対し、水面下で強く警告している。軍事筋によると、2022年3月の段階で米欧は核をウクライナに使用した場合、ロシア軍核部隊のみならず、「使用を決定した場所」、つまりプーチン氏の執務場所も核で報復攻撃するという警告をバックチャンネルを通してしている。今回のプーチン発言後も同様の警告をしたとみられる。 それでもプーチン氏が核使用に踏み切る可能性があるのか否か。それは本人にしかわからない。しかし、通常戦で苦境にあるクレムリンが核の脅しで米欧やウクライナを威嚇し、自国に有利な形での交渉開始を迫る戦略の可能性が高いと筆者はみる。国際社会は冷静に行動すべきだ』、「2022年3月の段階で米欧は核をウクライナに使用した場合、ロシア軍核部隊のみならず、「使用を決定した場所」、つまりプーチン氏の執務場所も核で報復攻撃するという警告をバックチャンネルを通してしている」、「通常戦で苦境にあるクレムリンが核の脅しで米欧やウクライナを威嚇し、自国に有利な形での交渉開始を迫る戦略の可能性が高い」、「核」が「脅し」ではなく、現実化する可能性もあるだけに、こんな綱渡り戦術は避けてもらいたいものだ。
タグ:「2022年3月の段階で米欧は核をウクライナに使用した場合、ロシア軍核部隊のみならず、「使用を決定した場所」、つまりプーチン氏の執務場所も核で報復攻撃するという警告をバックチャンネルを通してしている」、「通常戦で苦境にあるクレムリンが核の脅しで米欧やウクライナを威嚇し、自国に有利な形での交渉開始を迫る戦略の可能性が高い」、「核」が「脅し」ではなく、現実化する可能性もあるだけに、こんな綱渡り戦術は避けてもらいたいものだ。 「これまで志願兵の募集を地方中心で行って、都市部住民にはほとんど触らずに来た」、初めて知った。「都市部住民」はまだ余裕がありそうだ。 「社会契約とは「プーチン政権はこれまで志願兵の募集を地方中心で行って、都市部住民にはほとんど触らずに来た。彼らには快適な生活を保障する代わりに、戦争への支持を集めてきた」ことだと説明する。) 戦争中も都市部の住民は旅行したり、通常とほぼ変わらぬ生活を謳歌している。この平和な生活が破られることで、今後国民の間で政権への抗議の機運が広がる可能性も出てきた。同時に既にモスクワなどでは招集される前に国外に脱出を図るパニック的動きが出ている」、 ない「プーチン」が口出しするのも考えものだ。 一方でウクライナ軍は、2022年末から2023年初めにかけての冬季期間中でのロシア軍への決定的勝利を目指して反攻作戦を急いでおり、ロシア側の動員が間に合わない可能性もある」、「ドネツク州でロシア軍部隊は要衝のバフムトへの攻撃を続けているが、ウクライナ側は「無駄な攻撃」と嘲笑している。軍事的に攻略が不可能なためだ。 しかしプーチン氏はドネツク州の早期の全面的制圧を軍に厳命しており、ロシア軍の現地司令官は「不可能であることをプーチン氏に報告できずに惰性で攻撃しているだけ」とウクライナ側はみている」、実情を知ら 「いくら軍務経験者といってもこれから訓練をし、装備・軍服を配備し戦線に送れるようになるには今後数カ月かかるとの見方が一般的だ。現在ウクライナに派兵されているロシア軍は20万人以下とみられ、それから比べると30万人という規模はかなりのものだ。 「予備役の戦線投入は早くて数カ月先とみられ、戦況をただちに有利に転換する可能性は低い」、「これまで「戦争は支持するが、従軍はお断り」と考えてきたノンポリのロシア国民の間で、「プーチン離れ」が進む兆候もすでに出始めている。今回の決定がプーチン氏にとって逆噴射する可能性もある」、既に、自治共和国などへの出国なども増加、招集逃れへの厳罰化なども相次いでとられているようだ。 「11月にバリ島で開かれる予定のG20までに、なんとしても『特別軍事作戦』を終わらせたいという思惑が強い」とはいうものの、「核兵器を使」えば、「G20」から締め出されることは確実だ。 「核ミサイルを落とし得る場所とその理由」、穏やかではないが、見てみよう。 現代ビジネス「「11月までに決着をつけろ!」…怒り狂うプーチンが「核ミサイルで狙う都市」」 「欧米の息がかかったウクライナ軍が、さらなる侵攻を企てようものなら、自国領土での損害や国際社会からの猛反発も厭わず、常軌を逸した反撃に出るだろう。そのために必要な兵器は、一つしかない。核兵器だ。 「まさに今が使用のタイミングではあります」、恐ろしい話だ。「後編」を見てみよう。 「奪還作戦において、成功のカギを担ったのが主に米国から供与された最新兵器」、やはりロシア製よりはいいようだ。 吉田 成之氏による「「部分的動員」という賭けに出たプーチンの苦渋 米欧はロシアの核使用示唆に強力な報復を警告」 東洋経済オンライン 「ハルキウ、イジュームなどウクライナ軍が今回の奇襲作戦で奪還した補給の重要拠点だ。ここを叩けば、ウクライナ軍の勢いは止まることになるだろう。 一つ気にかかるのが、これらの都市を奪還されたあとのロシア軍の動きである。異様に早いスピードで撤退したのだ。この急ぎ方は、核ミサイルを撃つための準備ではないかと指摘する専門家も少なくない」、このシナリオも注目される。 「罠」としては極めて大規模な仕掛けだ。 「広島原爆の3分の1程度の威力を持った核ミサイル」を、「人的被害が少なく、かつロシアの領土に放射能の影響が及びにくい地方の原野」、或いは「オデーサ沖合の黒海だ」、さらに、「原発を使った「核攻撃」を行う怖れもある。特殊部隊などの手で故意に事故を発生させ、放射能をバラまくのだ。標的になるのは南ウクライナ原発」、いずれも恐ろしいシナリオだ。 (その7)(ウクライナ軍の反転攻勢に焦るプーチン…「核ミサイルを撃つタイミングは今しかない」、「はったりではない」との核の脅しも動員令も プーチンが「負け戦」を認識した証拠、「部分的動員」という賭けに出たプーチンの苦渋 米欧はロシアの核使用示唆に強力な報復を警告) ウクライナ 現代ビジネス「ウクライナ軍の反転攻勢に焦るプーチン…「核ミサイルを撃つタイミングは今しかない」」
ソニーの経営問題(その10)(EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは ROIC導入でどのように復活したか、ソニーがウェブ3.0時代にAR技術開発で圧倒的に期待される理由、「スキー場、F1…ソニー盛田昭夫の長男・英夫 蕩尽の果て――そしてすべてを失った 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(8)/終) [企業経営]
ソニーの経営問題については、3月27日に取上げた。今日は、(その10)(EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは ROIC導入でどのように復活したか、ソニーがウェブ3.0時代にAR技術開発で圧倒的に期待される理由、「スキー場、F1…ソニー盛田昭夫の長男・英夫 蕩尽の果て――そしてすべてを失った 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(8)/終)である。
先ずは、3月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したビジネス・ブレークスルー(BBT)大学大学院客員教授の大津広一氏による「EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは、ROIC導入でどのように復活したか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/299929
・『「資本コスト」「コーポレートガバナンス改革」「ROIC」といった言葉を新聞で見ない日は少ない。伊藤レポートやコーポレートガバナンス・コード発表以来、企業には「資本コスト」を強く意識した経営が求められている。では、具体的に何をすればいいのか。どの経営指標を採用し、どのように設定のロジックを公表すれば、株主や従業員が納得してくれるのだろうか? そこで役立つのが『企業価値向上のための経営指標大全』だ。「ニトリ驚異の『ROA15%』の源泉は『仕入原価』にあり」「M&Aを繰り返すリクルートがEBITDAを採用すると都合がいいのはなぜか?」といった生きたケーススタディを用いながら、無数の経営指標の根幹をなす主要指標10を網羅的に解説している。すでに役員向け研修教材として続々採用が決まっている。 そんな『経営指標大全』から、その一部を特別に公開する』、興味深そうだ。
・『EVAを使いこなせなかったソニーの「恨み節」 2000年代初頭、花王と並んでEVA(経済付加価値)採用企業としてもっとも著名であった日本企業は、おそらくソニー(現ソニーグループ)であろう。当時の会長兼グループCEOの出井伸之氏が肝いりで始めたソニーのEVAは、ソニーの先端的なイメージと重なり、経営指標として大きな脚光を浴びた。総合電機業界の多くの企業がEVA、またはそれに準ずる経営指標を導入する流れを作り出したといっても過言でない。 しかし、ソニーはその後の業績の急速な悪化により、2003年にはソニーショックと呼ばれるソニー株の暴落を引き起こした。道半ばで2005年6月に退任した出井氏とともに、EVAはソニーから完全に姿を消した。 出井氏は退任後に出版したソニー時代を振り返る著書『迷いと決断』の中で、EVAに対する思いを2ページにもわたって以下のように綴っている(*1)』、「EVA」の何が「ソニー」に適していなかったのだろう。
・『理解されなかったEVA ソニーのように、全く性質の異なる事業をいくつも抱えている企業にとっては、それぞれの事業を出来るだけ公平に評価するための「共通の尺度」が求められます。 そこで私は、EVA(経済的付加価値)という指標の導入を試みました。EVAはアメリカ生まれのコンセプトですが、ソニーのような複合企業には大変適した尺度です。複数の性質の異なる事業を1つの企業が統治している場合に、通常のバランスシートでは内実が見えにくいので、事業ごとに「仮想的に」バランスシートを分離して評価してみようというのが、このEVAの考え方です。 EVAで重要視されるのは「資本コスト」。平たく言えば、その事業にどれだけの資本が投入され、どれだけのスピードでその資本が回転して、どれだけの利益を生み出しているか、という点です。例えば、パソコンなどの組み立て産業には、投下資本はあまり必要ありませんが、販売・サポートなどには沢山の人手が必要になります。反対に、半導体の生産には大きな設備投資が必要で、変化のスピードも速いので、短期に資本を償却してしまいます。こうした性質の異なる事業を、「売上げ」と「利益率」という2つの尺度だけで評価するのではなく、売上げを立てるためにどれだけの「資本」が必要だったのかに注目したのがEVAなのです。 大規模な投資が必要な事業では資本回収のスピードを速くするなど、EVAは具体的施策にも直結する優れた指標なのです。またこれは、事業の性格を責任者に理解させ、事業のスピードアップを促すためのもので、毎月の売上げ数値の競争を誘発するような性質のものではありません。ところが、この基本が理解されずに、「ソニーはEVAを指標に使っているから長期的な投資が出来なくなった」などと、頓珍漢な批判が内部からも出されたりしたのは残念なことでした。 出井氏が記述している大部分は、EVAが資本コストを重視した、いかに優れた経営指標であるかという点と、特にソニーのように事業が多岐にわたる企業にもっとも適した経営指標であるという点であろう。これらはなんら否定するものではない。しかし、出井氏がこの文章の中でもっとも言いたかったのは、最後の一文ではないかと考える。 「ソニーはEVAを指標に使っているから長期的な投資が出来なくなった」などと、頓珍漢な批判が内部からも出されたりしたのは残念なことでした。 EVAを短期的に上げることは非常に簡単である。儲かっている事業において、できるだけ投資を抑制すればよい。そうすることで、NOPAT(税引後営業利益)から差し引く投下資本は減少し、EVAは上昇する。それで部門の評価や部門長の賞与が決まるとあっては、事業責任者がそうした行動に偏向することは否めない。 安定した事業環境にあれば、すべてをEVAで意思決定する経営も悪くないが、大きな市場や技術の変化が起きているときには最大の注意を要する。将来の果実をつかむための先行投資を禁止する指標となってしまうからだ。 おそらくソニーは過度にEVAを重視した経営、短期的な評価もEVAに基づいて決定されるといった経営をやりすぎたのであろう。それを社員は指摘していたのだから、「頓珍漢な批判」で片づけられる代物でない。 経営指標でありながら、過度にやりすぎてはいけない。まるで矛盾するような示唆だが、ブラウン管から液晶へとテレビの市場や技術が大きな変化を遂げており、サムスン電子をはじめとしたライバル企業が虎視眈々と巨額の設備投資を液晶に向けて行っている下で、EVAを軸にして短期的に業績を評価する企業であっては、取り返しのつかない事態を引き起こす。短期の果実を得た代償として、長期的な優位性を失うトリガーとして、ソニーのEVAは寄与してしまったのではないだろうか。 これはEVAの限界ではなく、本書で紹介しているすべての経営指標の限界である。会計数値に基づいて計算する経営指標である以上、単年度ベースでの算出が基本となる。それが金科玉条だと言われれば、短期的な費用や投資の抑制によって、目標は達成できてしまうだろう。ROE、ROA、ROIC、営業利益、フリー・キャッシュフロー……、すべて同一である。 市場や技術、顧客といった環境変化によって大きな先行投資が必要とされる企業や部門にあっては、経営指標のターゲットの時期や水準の設定において、熟考しなくてはならないことの示唆を与える。イメージセンサーに代表されるソニーの世界的にシェアの高い半導体事業を捕まえて、ソニーの資産が膨らんでいるのは問題だ、などと批判する人があれば、事業内容をまったく理解していない「頓珍漢な批判」と一蹴されることだろう。 5年後のターゲットとしての設定や、3年間累計としての設定など、手法はいくらでもある。経営指標が社員の行動特性を導くのだから、社員に期待する行動特性を見据えたターゲットの設定が不可欠である』、「EVAを短期的に上げることは非常に簡単である。儲かっている事業において、できるだけ投資を抑制すればよい。そうすることで、NOPAT(税引後営業利益)から差し引く投下資本は減少し、EVAは上昇する。それで部門の評価や部門長の賞与が決まるとあっては、事業責任者がそうした行動に偏向することは否めない」、「短期の果実を得た代償として、長期的な優位性を失うトリガーとして、ソニーのEVAは寄与してしまったのではないだろうか。 これはEVAの限界ではなく、本書で紹介しているすべての経営指標の限界である。会計数値に基づいて計算する経営指標である以上、単年度ベースでの算出が基本となる。それが金科玉条だと言われれば、短期的な費用や投資の抑制によって、目標は達成できてしまうだろう。ROE、ROA、ROIC、営業利益、フリー・キャッシュフロー……、すべて同一である。 市場や技術、顧客といった環境変化によって大きな先行投資が必要とされる企業や部門にあっては、経営指標のターゲットの時期や水準の設定において、熟考しなくてはならないことの示唆を与える」、なるほど。
・『ROICの流行は「EVA経営」の再来 さて、出井氏が書籍の中で語っていた文章に今一度目をやり、「EVA」の個所を「ROIC」に置き換えて読んでみてほしい。いかがだろう。まったく違和感なく、文章としてすべて成立していることが確認できよう。 EVAが悪者だという方がもしあれば、それはROICが悪者だと言っていることに等しい。もちろん短期的にはROICやEVAを重視しない成長著しい企業であればそれでも良かろう。しかし第7章で触れたROIC導入を進める日本企業の増大は、形を変えた「EVA経営の再来」と見ることもできるのである。 かくいうソニーもまた、ROIC経営で復活を遂げた企業である。ソニーは2015年に発表した第二次中期計画(2015~17年度)において、図表1の1枚のスライドを示し、ROE重視の経営と、そのためのROICによる事業管理を明確化した。 図表1 ソニーグループのROEとROIC重視の経営 事業領域1 成長牽引領域 “成長に向けた施策と集中的な投資により、売上成長と利益を実現” デバイス、ゲーム&ネットワークサービス、映画、音楽 事業領域2 安定収益領域 “大規模な投資は行わず、着実な利益計上、キャッシュフロー創出を目指す” イメージング・プロダクツ&ソリューション、ビデオ&サウンド 事業領域3 事業変動リスクコントロール領域 “事業の変動性や競争環境を踏まえ、リスクの低減と収益性を最優先” モバイル・コミュニケーション、テレビ EVA時代と異なるのは、事業を大きく3つの領域に切り分け、P/L(売上、利益)とB/S(投下資本)に関する方向性について、対外的に明示したことであろう。時間軸は記載されていないものの、デバイス、ゲーム、映画、音楽が含まれる成長牽引領域は、投下資本を積極的に増加するとしており、短期的にはROICは悪化することもいとわない方針とも読み取れる。 イメージング(主にカメラ)やビデオが含まれる安定収益領域は、売上は横ばい、利益は微増、投下資本は微減と、正に「安定」であることを求めており、過度な成長や投資は、もはや期待していない。
そして最大の特徴は、事業変動リスクコントロール領域と呼ばれる3つめの領域に、従来のソニーの中心事業でもあったモバイルとテレビが含まれていることである。売上と投下資本は減少させ、利益は黒字化・改善を目指すとされている。 これら市場にはアップルやサムスン電子など、世界で強力なライバルが出現し、2015年時点ではソニーはどちらも赤字が継続する事業であった。もはや規模やシェアの競争では勝ちえない。選択と集中やコストの徹底的な削減、アセットライトの推進によって、確実にROICを生み出す事業にしていきたいという意思表明である。 ソニーのモバイルやテレビに携わる社員からすれば、もはや投資はできるだけ抑制して利益を出しなさいという、ショッキングな経営方針かもしれない。しかし長年にわたって赤字を計上してきた事業であり、ソニー全社のROEへの強いコミットメントに基づいて各事業に対して求められたROIC経営である。 EVA時代はすべてまとめてEVA、かつ足元からの単年度ベースで厳しく管理、といった印象であったが、ROIC経営では、各事業においてどのようにROICを作り出していくのかが経営方針として明示された。社員は自分たちの各事業において何を実行し、どういった数値を作り出すことが求められ、そして実現した際に評価されるのか。道筋は明らかになったものと推察する。 EVAで失われた15年を作り出したソニーが、実質的には同じ経営指標であるROICで復活を果たした。経営指標そのものが良い者、悪い者では決してない。すべてはその運用の仕方だということを明示する好例であろう。 ROIC経営の浸透によって、EVAは影を潜めた印象にあるが、本質的にはROIC経営が目指すところとまったく同一である。資本コストはパーセントで示されるので、同じパーセントであるROICのほうが比較上もわかりやすいというメリットはあるだろう。また、ROICは必ずしも資本コストという言葉を使わなくても、「目標10%」のように具体的な数値で目標を設定してしまっても構わない。 これに対してEVAは計算式の中にWACC(加重平均資本コスト)が存在するため、WACCの設定に苦慮し、計算されたEVAも実額なのでこれを時系列での成長率や、将来予測EVAの現在価値で考えるなど、もう一段の手間を要する。一般の社員からすれば、EVAよりROICのほうが理解しやすい、という面は否めない。 しかし、出井氏の文章で試みたように、EVAをROICと置き換えても意味はすべて通じる。両者の目指す姿、すなわち資本コストに基づいて事業を評価し、企業価値の向上を実現するための経営指標という点において、両者は寸分たがわないのだ。 姿を消したと思われた日本のEVA経営は、ROIC経営という形で、現在進行系で隆盛を極めているのである』、「一般の社員からすれば、EVAよりROICのほうが理解しやすい、という面は否めない」、「EVAをROICと置き換えても意味はすべて通じる。両者の目指す姿、すなわち資本コストに基づいて事業を評価し、企業価値の向上を実現するための経営指標という点において、両者は寸分たがわないのだ。 姿を消したと思われた日本のEVA経営は、ROIC経営という形で、現在進行系で隆盛を極めているのである」、よく理解できた。
次に、9月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「ソニーがウェブ3.0時代にAR技術開発で圧倒的に期待される理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309919
・『ソニーは、ウェブ3.0に欠かせないAR技術など最先端分野での勝機を狙っている。具体的には、ゲームや音響などの既存技術とARを新しく結合させようと強化している。その一つの成果として、「ToF(Time of Flight)AR」と呼ばれるソフトウエアを公開した。ToF ARによって、スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる。ARの世界は一段と身近になるだろう』、「ToF AR」は初耳だが、「スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる」、とは凄そうだ。
・『ソニーが「拡張現実=AR」で期待されるワケ 世界各国のIT先端分野で「拡張現実=AR」に関する技術開発が加速している。背景には、ITビジネスの成長が鈍化しているという世界的な懸念がある。一例として、米国ではサブスクリプション・ビジネスの成長が鈍化している。そうした状況下、「ウェブ3.0」時代の本格到来を狙い、米アマゾンやマイクロソフト、グーグルなどはクラウド事業の強化に集中し始めている。 わが国も、そうした変化に確実に対応しなければならない。先行きは楽観できないが、ウェブ3.0は、わが国経済が成長を目指すチャンスになるだろう。そのために重要な役割を発揮すると期待される本邦企業の一つがソニーである。 現在、ソニーはマイクロソフト、米マジックリープに次いで世界第3位のAR関連特許件数を持つ。また、超高純度の半導体部材などの分野でも本邦企業の競争力は高い。日本政府は、労働市場の構造改革などを徹底して進め、成長期待の高いAR分野など世界経済の先端分野にヒト・モノ・カネを再配分する環境の整備を急ぐべきだ』、「現在、ソニーはマイクロソフト、米マジックリープに次いで世界第3位のAR関連特許件数を持つ」とは大したものだ。
・『世界のIT分野はどのような転換点を迎えているのか 各国のIT先端分野において、ビジネスモデルの変革が加速している。背景にはまず、リーマンショック後の世界経済の成長を支えたスマートフォンの普及と、SNSなどのプラットフォームを経由したサブスクリプション型ビジネスモデルの成長が、鈍化していることが挙げられる。 2022年4~6月期まで、4四半期連続で世界のスマホ出荷台数は減少している。スマホの機能向上が人々に与える満足感は逓減したといえる。また、一定の料金を支払うことで特定サービスの利用権を享受するサブスクリプション・ビジネスの収益性は低下している。類似のサービスが乱立し、競争が激化したからだ。加えて、米欧を中心に世界各国で個人データ保護に関する規制が強化された。そうした結果、メタ(旧Facebook)などの広告ビジネスの収益性は低下した。 その一方で、米国や中国でクラウド事業の強化に一段と集中する有力なIT先端企業が急増している。背景に、世界がウェブ2.0からウェブ3.0の時代へ向かっていることは大きい。 ウェブ2.0では、人々は必要に応じてインターネットにアクセスし、情報などを得る。関連サービスはGAFA(Google、Apple、Facebook〈現meta〉、Amazon)、など一部の有力企業によって提供される。 それがウェブ3.0では、人々は常にネットとつながる。例えば、リアルな世界で日々の業務をこなすと同時にクラウドなどのネット空間で「アバター(分身)」が他者と交流する。バーチャルな世界と現実が一体化する、「複合現実(Mixed Reality、MR)」が当たり前になるだろう。 ウェブ3.0の構成要件の一つが、拡張現実=ARに関する技術だ。現実の社会にAR関連技術が作り出すバーチャルな世界を重ねることによって、より鮮烈な体験を人々に与える。そのための画像処理半導体などの製造技術の強化、ソフトウエア開発をめぐる競争が激化している。ソニーはそうした環境変化に対応するために、専用ゲーム機の「プレイステーション」を前提としたゲーム事業の運営を見直している』、「世界がウェブ2.0からウェブ3.0の時代へ向かっている」、「ウェブ3.0では、人々は常にネットとつながる。例えば、リアルな世界で日々の業務をこなすと同時にクラウドなどのネット空間で「アバター(分身)」が他者と交流する。バーチャルな世界と現実が一体化する、「複合現実(Mixed Reality、MR)」が当たり前になるだろう」、「複合現実」が夢物語ではなく、現実化するようだ。
・『AR分野におけるソニーと本邦企業のチャンス ソニーは、ウェブ3.0に欠かせないAR技術など最先端分野での勝機を狙っている。具体的には、ゲームや音響などの既存技術とARを新しく結合させようと強化している。その一つの成果として、「ToF(Time of Flight)AR」と呼ばれるソフトウエアを公開した。ToF ARによって、スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる。ARの世界は一段と身近になるだろう。 ToF ARアプリは、まず、スマホに搭載されたLiDAR(ライダー)などのセンサによって対象物体までの距離や、その形状を計測する。その上で、独自の人工知能(AI)処理によって、体の滑らかな動きやハンドジェスチャーなどをデジタル画像として表現する。画像処理半導体などの製造技術向上と、AIなどのソフトウエア開発力の強化が、ソニーのAR技術の革新を支えている。 ソニーのAR事業の強化には、わが国産業界の一部が持つ比較優位性が大きな影響を与えていると考えられる。ソニーは現在、台湾積体電路製造(TSMC)やデンソーと合弁で、熊本県に半導体工場を建設している。 回路線幅5ナノメートルの最先端のチップ生産などにおいて、わが国産業界の競争力は失われた。しかし、画像処理半導体の多くは、最先端ではなく、汎用型の生産設備で製造される。その分野でわが国は競争力を保っている。加えて、超高純度の半導体部材や半導体の製造装置などの分野でも本邦企業の競争力は高い。 特に、シリコンウエハーなどの半導体部材に関しては、分解してその構造を模倣することは難しい。微細かつ精緻なモノづくりの力を磨き上げることで、本邦企業は加速化する世界経済のデジタル化に対応し、より効率的に収益を獲得することができるだろう。 このように、ソニーのAR関連技術はわが国産業界が磨いてきたモノづくりの力の向上に支えられている部分が大きいと考えられる。そうした力にさらなる磨きをかけることによって、わが国産業界がARなど新しい発想の実現に不可欠な半導体関連の部材や製造装置の需要を取り込み、成長を加速することは可能なはずだ』、「ToF ARによって、スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる。ARの世界は一段と身近になるだろう」、「ソニーのAR関連技術はわが国産業界が磨いてきたモノづくりの力の向上に支えられている部分が大きいと考えられる。そうした力にさらなる磨きをかけることによって、わが国産業界がARなど新しい発想の実現に不可欠な半導体関連の部材や製造装置の需要を取り込み、成長を加速することは可能なはずだ」、楽しみな分野のようだ。
・『ソフトウエアの創出力強化に不可欠な労働市場改革 モノづくりの力に加えてわが国は、ソフトウエア創出力を強化しなければならない。そのためには、個々の企業の事業運営体制の改革に加えて、政府による構造改革が必要だ。特に、労働市場の改革は急務だ。 1990年代以降、経済のグローバル化により国境のハードルは低下し、世界全体で生産コストは低下した。アップルやエヌビディアは、チップの設計開発などに集中する一方、韓国や台湾の企業は、米国企業が設計したチップや最終製品の生産を受託し、国際分業が加速した。他方で、バブル崩壊の負の影響も重なり、わが国では終身雇用・年功序列など過去の価値観の温存が重視された。その結果、世界的に見てわが国のデジタル後進国ぶりは鮮明だ。 ウェブ3.0時代の本格到来を見据え、世界各国で新しい発想の実現に取り組む企業は急増している。そうした状況下、ソニーは社員に対して個々人の価値観や発想を重視し、それを成果主義に落とし込むことによってハードとソフトの両面で成長を加速しようとしている。 半導体製造装置分野などでも、報酬によって社員の成果に応える企業が増えている。これは、日本経済の実力向上に決定的に重要だ。政府は、労働市場の構造改革を進めて、ミクロレベルでの変革をより強力にサポートするべきだ。 具体的には、事業運営体制の変革に必要な解雇を行いやすくなるよう規制を緩和する。その一方で、新しい理論の習得などをサポートするために学び直しの制度を強化する。そうした改革を徹底かつスピーディーに進めなければならない。 このように考えると、ウェブ3.0によってわが国経済の環境は大きく変化する可能性がある。自己変革を加速し、先端分野での取り組みを強化する企業が増えれば、ウェブ3.0はわが国経済が産業構造の転換を進め、成長を実現する起爆剤になり得る。それとは反対に、変化への対応が遅れれば、デジタル化の遅れはさらに深刻化する恐れが高い』、「ソニーは社員に対して個々人の価値観や発想を重視し、それを成果主義に落とし込むことによってハードとソフトの両面で成長を加速しようとしている。 半導体製造装置分野などでも、報酬によって社員の成果に応える企業が増えている。これは、日本経済の実力向上に決定的に重要だ。政府は、労働市場の構造改革を進めて、ミクロレベルでの変革をより強力にサポートするべきだ」、大筋としては、その通りだ。
第三に、9月23日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの高橋 篤史氏による「スキー場、F1…ソニー盛田昭夫の長男・英夫 蕩尽の果て――そしてすべてを失った 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(8)/終」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/99962?imp=0
・『日本を代表する有名企業をつくった「創業社長」には、どこか共通するカリスマ性がある。しかし、創業社長のカリスマ性が大きければ大きいほど、その去り際、そして去ったあとには、巨大な陥穽が残されることになる。 経済事件取材のトップランナーである筆者が、その圧倒的な取材力と筆力によって構成する最上級の経済ノンフィクション『亀裂 創業家の悲劇』から、「ソニー創業者・盛田昭夫の長男の巨額浪費」後編をお届け(前編はこちら)。 リア王やマクベスを地で行く、裏切りと転落のドラマ』、かねてから噂にはのぼっていたが、詳しい話とは、興味深そうだ。
・『特別な思いでスキー場開発に乗り出して (盛田)英夫はいよいよ没落の色を濃くしていく。 2011年10月、英夫が所有する神奈川県箱根町の別荘について横浜地裁小田原支部は強制競売の開始を決定した。申し立てた債権者は国であり、さらに言えば東京国税局だ。芦ノ湖に面し遠く富士山を望むこの別荘はもともと父・昭夫が求めたもので、テニスコートだけでなくヘリポートまで備えたそこはマイケル・ジャクソンはじめ海外の名だたる賓客を過去にもてなした一族自慢の場所だった。それがいまや差し押さえられてしまったのである。 つまりは、こういうことだった。 遡ること4年前の2007年1月、英夫は三井住友銀行から約23億円を期限80日で個人的に借りていた。その大金を散財してしまったのだろう、英夫は返済ができなくなる。同年9月、借金を肩代わりしたのは清算手続き中のガラヒ産業だった。拠り所としたのは2002年10月の取締役会決議とされる。当時のレイケイは英夫の「現在及び将来負担する一切の債務」について約61億円を限度額に銀行に対し根保証を差し入れていた。 肩代わりの3年後、前述した税務訴訟でガラヒ産業の敗訴が確定する。この時点で同社の金庫は空っぽで、一方、追徴税は未納付となっていた。2010年9月、東京国税局は取り立てのためガラヒ産業が持つ英夫に対する求償権(根保証実行の見返り債権)を差し押さえ、英夫も債務承諾書を差し入れた。その実行がなされないため、東京国税局は箱根の別荘について競売手続きに踏み切ったわけである。 もっともこの時、英夫はすんでのところで一族誇りの別荘を手放す事態だけは回避している。母・良子に譲渡することで納税資金を工面したのである。とはいえ、良子のほうでもそれほど潤沢に資産が残っていたわけではなかったと見える。直前、良子は所有していた絵画を東京国立近代美術館に売却していた。手放したのはジョルジュ・ブラックが描いた「女のトルソ」ほか2点で、この時についた値段は5億8000万円だった。 美術品放出はさらに続く。箱根の別荘を英夫から買った半年後にはホアン・ミロの「絵画詩」を2億1000万円でやはり東京国立近代美術館に売り払い、2013年11月にはアレクサンダー・カルダー作「モンスター」を同様に売却した。2015年3月、昭夫亡き後も東京・青葉台の邸宅に住まい続けた良子は85歳で天寿を全うするが、喪主を務めたのは長男の英夫ではなく、ソニーで国内音楽部門のトップなどを歴任した二男の昌夫だった。 競売の危機を乗り切ったものの、英夫の資金繰りが火の車であることに変わりはなく、公私混同ぶりは極まっていた。英夫はあたり構わずカネがあるところからそれを毟り取っていた。早くも2008年頃から手を染めていたのは関連公益法人からの借財である。盛田株式会社の流れを汲み英夫が代表を務める個人会社「盛田アセットマネジメント」がまず流用したのは「鈴渓学術財団」の基本財産だった。1978年に父・昭夫の肝いりで設立された財団の目的は歴史社会研究に対する助成であり、本来なら基本財産はそのために使われなければならない。英夫はそれを拝借することにしたのである。 2008年3月期、その額は4億円近くに上った。同じように翌年からは「盛田国際教育振興財団」の資金にも手をつける。同年8月までに流用額は5億3000万円に上った。財団が貸し付ける際、形式上それらには年間数%の利子が課されることとされたが、実際にそれらが払われることはなく、ましてや元本が戻ってくることもなかった』、「まず流用したのは・・・財団」の基本財産」、「本来なら基本財産はそのために使われなければならない。英夫はそれを拝借」、「数%の利子・・・実際にそれらが払われることはなく、ましてや元本が戻ってくることもなかった」、ボンボンは無駄遣いの尻拭いをこんな違法な手段でしたとは酷いものだ。
・『それでも止まらない散財 ある時から英夫は東京の住まいを首相官邸近くにそびえ立つ「東急キャピトルタワー」の高層階に定めたが、2014年初頭、その賃料支払いは滞った。クレジットカードも同様である。その年の5月から6月にかけ英夫は相次ぎ提訴される。未払い賃料は600万円余り、カードの未払いは1100万円余りに上っていた。英夫は代理人弁護士を立てず、裁判所に答弁書を出すことさえしなかった。 裁判に証拠提出されたカードの利用明細を見ると、未払い直前である2013年暮れの段階でも英夫の蕩尽ぶりは少しも改まっていないことが分かる。12月10日には銀座の「バーニーズニューヨーク」と「銀座かねまつ」でショッピングを楽しみ約56万円を支払い、同月16日には名古屋で高級ブランドの「ロエベ」と「ルイ・ヴィトン」に計66万円、さらに同月20日には「ザ・プリンスパークタワー東京」で約98万円を利用――そんな具合である。これらはほんの一例で、この月にはほかにも高級料亭で数十万円単位の支出を複数回行っている。とてもではないが資金繰りに詰まった人間の使い方ではなく、もはや呆れるしかない。 やがて英夫が家業からも追われる日がやって来る。 2015年11月、ジャパン・フード&リカー・アライアンス(JFLA)は突如としてその年9月期決算の公表を延期した。会社は4ヵ月前、監査法人からある指摘を受けていた。会長である英夫の交通費や経費の支出が異常であり、さらにはその実質支配企業である「モリタフードサービス」に対する貸付金の回収に関し看過できない疑義があり、ほかにも個人的な関係先への業務委託料などについて不合理な点があるとされたのだ。会社は弁護士らからなる調査委員会を設置して調査を依頼し、その結果は10月中旬に報告された。ただ、それでもまだ解明すべき点は残り、追加調査が必要だった。経営体制刷新も迫られていたが、その調整は途上だった。そこで決算発表が延期となったのだ。 疑義のなかでももっとも金額が大きいモリタフードサービスへの貸付金に関し明らかになったのは次のような経緯だった』、「英夫は相次ぎ提訴される。未払い賃料は600万円余り、カードの未払いは1100万円余りに上っていた。英夫は代理人弁護士を立てず、裁判所に答弁書を出すことさえしなかった」、ふてぶてしい。「2月10日には銀座の「バーニーズニューヨーク」と「銀座かねまつ」でショッピングを楽しみ約56万円を支払い、同月16日には名古屋で高級ブランドの「ロエベ」と「ルイ・ヴィトン」に計66万円、さらに同月20日には「ザ・プリンスパークタワー東京」で約98万円を利用――そんな具合である。これらはほんの一例で、この月にはほかにも高級料亭で数十万円単位の支出を複数回行っている。とてもではないが資金繰りに詰まった人間の使い方ではなく、もはや呆れるしかない」、よくぞここまで無駄遣いを放置したものだ。
・『そしてすべてを失った 同社は英夫がハワイの資産管理会社を通じて全株を握る個人会社で、JFLAは2012年9月末の段階で2億4600万円を貸し付けていた。その年10月9日、モリタフードサービスは一部事業を名古屋の飲食会社「子の日」に譲渡する。子の日は英夫の叔父・和昭が根城とするイズミックの子会社だ。譲渡代金は3億3000万円だった。JFLAによる貸し付け条件は定かでないが、本来ならこの時点で返済を求めてもよかったはずだ。ところが、モリタフードサービスは6日後、譲渡代金のうち2億6000万円を盛田アセットマネジメントに貸し付けてしまった。財団から基本財産を借用した英夫が代表のあの会社である。結局、翌年12月以降、モリタフードサービスからの弁済はストップしてしまう。JFLAの貸付金が取り立て不能となったことは言うまでもない。 こうした構図はこれまで何度も見てきた英夫による公私混同ぶりの典型例である。個人の借金を会社に肩代わりさせ、公益法人の財産を金詰まりの会社に流用するといった話と同じだ。しかし、上場企業であるJFLAとして許されるものではない。決算発表延期から1ヵ月後の12月9日、英夫はJFLAの会長を辞任した。実質的には追放である。翌年2月には小林武司社長ら長年の子飼い役員も退任に追い込まれ、JFLAは新興飲食グループ「阪神酒販」の傘下に入ることとなる。 盛田家16代当主の英夫はこうしてほぼすべての資産や地位肩書を失ったのである。(文中敬称略)』、「英夫による公私混同ぶりの典型例である。個人の借金を会社に肩代わりさせ、公益法人の財産を金詰まりの会社に流用するといった話と同じだ。しかし、上場企業であるJFLAとして許されるものではない。決算発表延期から1ヵ月後の12月9日、英夫はJFLAの会長を辞任した。実質的には追放である。翌年2月には小林武司社長ら長年の子飼い役員も退任に追い込まれ、JFLAは新興飲食グループ「阪神酒販」の傘下に入ることとなる。 盛田家16代当主の英夫はこうしてほぼすべての資産や地位肩書を失ったのである」、本来ならもっと早く会社から追放しておくべきだった。この前編では、スキー場開発、F1などでさらに巨額の損失を出したようだ。ソニーとは関係ないとはいえ、創業者の放蕩息子にも困ったものだ。
先ずは、3月25日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したビジネス・ブレークスルー(BBT)大学大学院客員教授の大津広一氏による「EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは、ROIC導入でどのように復活したか」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/299929
・『「資本コスト」「コーポレートガバナンス改革」「ROIC」といった言葉を新聞で見ない日は少ない。伊藤レポートやコーポレートガバナンス・コード発表以来、企業には「資本コスト」を強く意識した経営が求められている。では、具体的に何をすればいいのか。どの経営指標を採用し、どのように設定のロジックを公表すれば、株主や従業員が納得してくれるのだろうか? そこで役立つのが『企業価値向上のための経営指標大全』だ。「ニトリ驚異の『ROA15%』の源泉は『仕入原価』にあり」「M&Aを繰り返すリクルートがEBITDAを採用すると都合がいいのはなぜか?」といった生きたケーススタディを用いながら、無数の経営指標の根幹をなす主要指標10を網羅的に解説している。すでに役員向け研修教材として続々採用が決まっている。 そんな『経営指標大全』から、その一部を特別に公開する』、興味深そうだ。
・『EVAを使いこなせなかったソニーの「恨み節」 2000年代初頭、花王と並んでEVA(経済付加価値)採用企業としてもっとも著名であった日本企業は、おそらくソニー(現ソニーグループ)であろう。当時の会長兼グループCEOの出井伸之氏が肝いりで始めたソニーのEVAは、ソニーの先端的なイメージと重なり、経営指標として大きな脚光を浴びた。総合電機業界の多くの企業がEVA、またはそれに準ずる経営指標を導入する流れを作り出したといっても過言でない。 しかし、ソニーはその後の業績の急速な悪化により、2003年にはソニーショックと呼ばれるソニー株の暴落を引き起こした。道半ばで2005年6月に退任した出井氏とともに、EVAはソニーから完全に姿を消した。 出井氏は退任後に出版したソニー時代を振り返る著書『迷いと決断』の中で、EVAに対する思いを2ページにもわたって以下のように綴っている(*1)』、「EVA」の何が「ソニー」に適していなかったのだろう。
・『理解されなかったEVA ソニーのように、全く性質の異なる事業をいくつも抱えている企業にとっては、それぞれの事業を出来るだけ公平に評価するための「共通の尺度」が求められます。 そこで私は、EVA(経済的付加価値)という指標の導入を試みました。EVAはアメリカ生まれのコンセプトですが、ソニーのような複合企業には大変適した尺度です。複数の性質の異なる事業を1つの企業が統治している場合に、通常のバランスシートでは内実が見えにくいので、事業ごとに「仮想的に」バランスシートを分離して評価してみようというのが、このEVAの考え方です。 EVAで重要視されるのは「資本コスト」。平たく言えば、その事業にどれだけの資本が投入され、どれだけのスピードでその資本が回転して、どれだけの利益を生み出しているか、という点です。例えば、パソコンなどの組み立て産業には、投下資本はあまり必要ありませんが、販売・サポートなどには沢山の人手が必要になります。反対に、半導体の生産には大きな設備投資が必要で、変化のスピードも速いので、短期に資本を償却してしまいます。こうした性質の異なる事業を、「売上げ」と「利益率」という2つの尺度だけで評価するのではなく、売上げを立てるためにどれだけの「資本」が必要だったのかに注目したのがEVAなのです。 大規模な投資が必要な事業では資本回収のスピードを速くするなど、EVAは具体的施策にも直結する優れた指標なのです。またこれは、事業の性格を責任者に理解させ、事業のスピードアップを促すためのもので、毎月の売上げ数値の競争を誘発するような性質のものではありません。ところが、この基本が理解されずに、「ソニーはEVAを指標に使っているから長期的な投資が出来なくなった」などと、頓珍漢な批判が内部からも出されたりしたのは残念なことでした。 出井氏が記述している大部分は、EVAが資本コストを重視した、いかに優れた経営指標であるかという点と、特にソニーのように事業が多岐にわたる企業にもっとも適した経営指標であるという点であろう。これらはなんら否定するものではない。しかし、出井氏がこの文章の中でもっとも言いたかったのは、最後の一文ではないかと考える。 「ソニーはEVAを指標に使っているから長期的な投資が出来なくなった」などと、頓珍漢な批判が内部からも出されたりしたのは残念なことでした。 EVAを短期的に上げることは非常に簡単である。儲かっている事業において、できるだけ投資を抑制すればよい。そうすることで、NOPAT(税引後営業利益)から差し引く投下資本は減少し、EVAは上昇する。それで部門の評価や部門長の賞与が決まるとあっては、事業責任者がそうした行動に偏向することは否めない。 安定した事業環境にあれば、すべてをEVAで意思決定する経営も悪くないが、大きな市場や技術の変化が起きているときには最大の注意を要する。将来の果実をつかむための先行投資を禁止する指標となってしまうからだ。 おそらくソニーは過度にEVAを重視した経営、短期的な評価もEVAに基づいて決定されるといった経営をやりすぎたのであろう。それを社員は指摘していたのだから、「頓珍漢な批判」で片づけられる代物でない。 経営指標でありながら、過度にやりすぎてはいけない。まるで矛盾するような示唆だが、ブラウン管から液晶へとテレビの市場や技術が大きな変化を遂げており、サムスン電子をはじめとしたライバル企業が虎視眈々と巨額の設備投資を液晶に向けて行っている下で、EVAを軸にして短期的に業績を評価する企業であっては、取り返しのつかない事態を引き起こす。短期の果実を得た代償として、長期的な優位性を失うトリガーとして、ソニーのEVAは寄与してしまったのではないだろうか。 これはEVAの限界ではなく、本書で紹介しているすべての経営指標の限界である。会計数値に基づいて計算する経営指標である以上、単年度ベースでの算出が基本となる。それが金科玉条だと言われれば、短期的な費用や投資の抑制によって、目標は達成できてしまうだろう。ROE、ROA、ROIC、営業利益、フリー・キャッシュフロー……、すべて同一である。 市場や技術、顧客といった環境変化によって大きな先行投資が必要とされる企業や部門にあっては、経営指標のターゲットの時期や水準の設定において、熟考しなくてはならないことの示唆を与える。イメージセンサーに代表されるソニーの世界的にシェアの高い半導体事業を捕まえて、ソニーの資産が膨らんでいるのは問題だ、などと批判する人があれば、事業内容をまったく理解していない「頓珍漢な批判」と一蹴されることだろう。 5年後のターゲットとしての設定や、3年間累計としての設定など、手法はいくらでもある。経営指標が社員の行動特性を導くのだから、社員に期待する行動特性を見据えたターゲットの設定が不可欠である』、「EVAを短期的に上げることは非常に簡単である。儲かっている事業において、できるだけ投資を抑制すればよい。そうすることで、NOPAT(税引後営業利益)から差し引く投下資本は減少し、EVAは上昇する。それで部門の評価や部門長の賞与が決まるとあっては、事業責任者がそうした行動に偏向することは否めない」、「短期の果実を得た代償として、長期的な優位性を失うトリガーとして、ソニーのEVAは寄与してしまったのではないだろうか。 これはEVAの限界ではなく、本書で紹介しているすべての経営指標の限界である。会計数値に基づいて計算する経営指標である以上、単年度ベースでの算出が基本となる。それが金科玉条だと言われれば、短期的な費用や投資の抑制によって、目標は達成できてしまうだろう。ROE、ROA、ROIC、営業利益、フリー・キャッシュフロー……、すべて同一である。 市場や技術、顧客といった環境変化によって大きな先行投資が必要とされる企業や部門にあっては、経営指標のターゲットの時期や水準の設定において、熟考しなくてはならないことの示唆を与える」、なるほど。
・『ROICの流行は「EVA経営」の再来 さて、出井氏が書籍の中で語っていた文章に今一度目をやり、「EVA」の個所を「ROIC」に置き換えて読んでみてほしい。いかがだろう。まったく違和感なく、文章としてすべて成立していることが確認できよう。 EVAが悪者だという方がもしあれば、それはROICが悪者だと言っていることに等しい。もちろん短期的にはROICやEVAを重視しない成長著しい企業であればそれでも良かろう。しかし第7章で触れたROIC導入を進める日本企業の増大は、形を変えた「EVA経営の再来」と見ることもできるのである。 かくいうソニーもまた、ROIC経営で復活を遂げた企業である。ソニーは2015年に発表した第二次中期計画(2015~17年度)において、図表1の1枚のスライドを示し、ROE重視の経営と、そのためのROICによる事業管理を明確化した。 図表1 ソニーグループのROEとROIC重視の経営 事業領域1 成長牽引領域 “成長に向けた施策と集中的な投資により、売上成長と利益を実現” デバイス、ゲーム&ネットワークサービス、映画、音楽 事業領域2 安定収益領域 “大規模な投資は行わず、着実な利益計上、キャッシュフロー創出を目指す” イメージング・プロダクツ&ソリューション、ビデオ&サウンド 事業領域3 事業変動リスクコントロール領域 “事業の変動性や競争環境を踏まえ、リスクの低減と収益性を最優先” モバイル・コミュニケーション、テレビ EVA時代と異なるのは、事業を大きく3つの領域に切り分け、P/L(売上、利益)とB/S(投下資本)に関する方向性について、対外的に明示したことであろう。時間軸は記載されていないものの、デバイス、ゲーム、映画、音楽が含まれる成長牽引領域は、投下資本を積極的に増加するとしており、短期的にはROICは悪化することもいとわない方針とも読み取れる。 イメージング(主にカメラ)やビデオが含まれる安定収益領域は、売上は横ばい、利益は微増、投下資本は微減と、正に「安定」であることを求めており、過度な成長や投資は、もはや期待していない。
そして最大の特徴は、事業変動リスクコントロール領域と呼ばれる3つめの領域に、従来のソニーの中心事業でもあったモバイルとテレビが含まれていることである。売上と投下資本は減少させ、利益は黒字化・改善を目指すとされている。 これら市場にはアップルやサムスン電子など、世界で強力なライバルが出現し、2015年時点ではソニーはどちらも赤字が継続する事業であった。もはや規模やシェアの競争では勝ちえない。選択と集中やコストの徹底的な削減、アセットライトの推進によって、確実にROICを生み出す事業にしていきたいという意思表明である。 ソニーのモバイルやテレビに携わる社員からすれば、もはや投資はできるだけ抑制して利益を出しなさいという、ショッキングな経営方針かもしれない。しかし長年にわたって赤字を計上してきた事業であり、ソニー全社のROEへの強いコミットメントに基づいて各事業に対して求められたROIC経営である。 EVA時代はすべてまとめてEVA、かつ足元からの単年度ベースで厳しく管理、といった印象であったが、ROIC経営では、各事業においてどのようにROICを作り出していくのかが経営方針として明示された。社員は自分たちの各事業において何を実行し、どういった数値を作り出すことが求められ、そして実現した際に評価されるのか。道筋は明らかになったものと推察する。 EVAで失われた15年を作り出したソニーが、実質的には同じ経営指標であるROICで復活を果たした。経営指標そのものが良い者、悪い者では決してない。すべてはその運用の仕方だということを明示する好例であろう。 ROIC経営の浸透によって、EVAは影を潜めた印象にあるが、本質的にはROIC経営が目指すところとまったく同一である。資本コストはパーセントで示されるので、同じパーセントであるROICのほうが比較上もわかりやすいというメリットはあるだろう。また、ROICは必ずしも資本コストという言葉を使わなくても、「目標10%」のように具体的な数値で目標を設定してしまっても構わない。 これに対してEVAは計算式の中にWACC(加重平均資本コスト)が存在するため、WACCの設定に苦慮し、計算されたEVAも実額なのでこれを時系列での成長率や、将来予測EVAの現在価値で考えるなど、もう一段の手間を要する。一般の社員からすれば、EVAよりROICのほうが理解しやすい、という面は否めない。 しかし、出井氏の文章で試みたように、EVAをROICと置き換えても意味はすべて通じる。両者の目指す姿、すなわち資本コストに基づいて事業を評価し、企業価値の向上を実現するための経営指標という点において、両者は寸分たがわないのだ。 姿を消したと思われた日本のEVA経営は、ROIC経営という形で、現在進行系で隆盛を極めているのである』、「一般の社員からすれば、EVAよりROICのほうが理解しやすい、という面は否めない」、「EVAをROICと置き換えても意味はすべて通じる。両者の目指す姿、すなわち資本コストに基づいて事業を評価し、企業価値の向上を実現するための経営指標という点において、両者は寸分たがわないのだ。 姿を消したと思われた日本のEVA経営は、ROIC経営という形で、現在進行系で隆盛を極めているのである」、よく理解できた。
次に、9月20日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏による「ソニーがウェブ3.0時代にAR技術開発で圧倒的に期待される理由」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309919
・『ソニーは、ウェブ3.0に欠かせないAR技術など最先端分野での勝機を狙っている。具体的には、ゲームや音響などの既存技術とARを新しく結合させようと強化している。その一つの成果として、「ToF(Time of Flight)AR」と呼ばれるソフトウエアを公開した。ToF ARによって、スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる。ARの世界は一段と身近になるだろう』、「ToF AR」は初耳だが、「スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる」、とは凄そうだ。
・『ソニーが「拡張現実=AR」で期待されるワケ 世界各国のIT先端分野で「拡張現実=AR」に関する技術開発が加速している。背景には、ITビジネスの成長が鈍化しているという世界的な懸念がある。一例として、米国ではサブスクリプション・ビジネスの成長が鈍化している。そうした状況下、「ウェブ3.0」時代の本格到来を狙い、米アマゾンやマイクロソフト、グーグルなどはクラウド事業の強化に集中し始めている。 わが国も、そうした変化に確実に対応しなければならない。先行きは楽観できないが、ウェブ3.0は、わが国経済が成長を目指すチャンスになるだろう。そのために重要な役割を発揮すると期待される本邦企業の一つがソニーである。 現在、ソニーはマイクロソフト、米マジックリープに次いで世界第3位のAR関連特許件数を持つ。また、超高純度の半導体部材などの分野でも本邦企業の競争力は高い。日本政府は、労働市場の構造改革などを徹底して進め、成長期待の高いAR分野など世界経済の先端分野にヒト・モノ・カネを再配分する環境の整備を急ぐべきだ』、「現在、ソニーはマイクロソフト、米マジックリープに次いで世界第3位のAR関連特許件数を持つ」とは大したものだ。
・『世界のIT分野はどのような転換点を迎えているのか 各国のIT先端分野において、ビジネスモデルの変革が加速している。背景にはまず、リーマンショック後の世界経済の成長を支えたスマートフォンの普及と、SNSなどのプラットフォームを経由したサブスクリプション型ビジネスモデルの成長が、鈍化していることが挙げられる。 2022年4~6月期まで、4四半期連続で世界のスマホ出荷台数は減少している。スマホの機能向上が人々に与える満足感は逓減したといえる。また、一定の料金を支払うことで特定サービスの利用権を享受するサブスクリプション・ビジネスの収益性は低下している。類似のサービスが乱立し、競争が激化したからだ。加えて、米欧を中心に世界各国で個人データ保護に関する規制が強化された。そうした結果、メタ(旧Facebook)などの広告ビジネスの収益性は低下した。 その一方で、米国や中国でクラウド事業の強化に一段と集中する有力なIT先端企業が急増している。背景に、世界がウェブ2.0からウェブ3.0の時代へ向かっていることは大きい。 ウェブ2.0では、人々は必要に応じてインターネットにアクセスし、情報などを得る。関連サービスはGAFA(Google、Apple、Facebook〈現meta〉、Amazon)、など一部の有力企業によって提供される。 それがウェブ3.0では、人々は常にネットとつながる。例えば、リアルな世界で日々の業務をこなすと同時にクラウドなどのネット空間で「アバター(分身)」が他者と交流する。バーチャルな世界と現実が一体化する、「複合現実(Mixed Reality、MR)」が当たり前になるだろう。 ウェブ3.0の構成要件の一つが、拡張現実=ARに関する技術だ。現実の社会にAR関連技術が作り出すバーチャルな世界を重ねることによって、より鮮烈な体験を人々に与える。そのための画像処理半導体などの製造技術の強化、ソフトウエア開発をめぐる競争が激化している。ソニーはそうした環境変化に対応するために、専用ゲーム機の「プレイステーション」を前提としたゲーム事業の運営を見直している』、「世界がウェブ2.0からウェブ3.0の時代へ向かっている」、「ウェブ3.0では、人々は常にネットとつながる。例えば、リアルな世界で日々の業務をこなすと同時にクラウドなどのネット空間で「アバター(分身)」が他者と交流する。バーチャルな世界と現実が一体化する、「複合現実(Mixed Reality、MR)」が当たり前になるだろう」、「複合現実」が夢物語ではなく、現実化するようだ。
・『AR分野におけるソニーと本邦企業のチャンス ソニーは、ウェブ3.0に欠かせないAR技術など最先端分野での勝機を狙っている。具体的には、ゲームや音響などの既存技術とARを新しく結合させようと強化している。その一つの成果として、「ToF(Time of Flight)AR」と呼ばれるソフトウエアを公開した。ToF ARによって、スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる。ARの世界は一段と身近になるだろう。 ToF ARアプリは、まず、スマホに搭載されたLiDAR(ライダー)などのセンサによって対象物体までの距離や、その形状を計測する。その上で、独自の人工知能(AI)処理によって、体の滑らかな動きやハンドジェスチャーなどをデジタル画像として表現する。画像処理半導体などの製造技術向上と、AIなどのソフトウエア開発力の強化が、ソニーのAR技術の革新を支えている。 ソニーのAR事業の強化には、わが国産業界の一部が持つ比較優位性が大きな影響を与えていると考えられる。ソニーは現在、台湾積体電路製造(TSMC)やデンソーと合弁で、熊本県に半導体工場を建設している。 回路線幅5ナノメートルの最先端のチップ生産などにおいて、わが国産業界の競争力は失われた。しかし、画像処理半導体の多くは、最先端ではなく、汎用型の生産設備で製造される。その分野でわが国は競争力を保っている。加えて、超高純度の半導体部材や半導体の製造装置などの分野でも本邦企業の競争力は高い。 特に、シリコンウエハーなどの半導体部材に関しては、分解してその構造を模倣することは難しい。微細かつ精緻なモノづくりの力を磨き上げることで、本邦企業は加速化する世界経済のデジタル化に対応し、より効率的に収益を獲得することができるだろう。 このように、ソニーのAR関連技術はわが国産業界が磨いてきたモノづくりの力の向上に支えられている部分が大きいと考えられる。そうした力にさらなる磨きをかけることによって、わが国産業界がARなど新しい発想の実現に不可欠な半導体関連の部材や製造装置の需要を取り込み、成長を加速することは可能なはずだ』、「ToF ARによって、スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる。ARの世界は一段と身近になるだろう」、「ソニーのAR関連技術はわが国産業界が磨いてきたモノづくりの力の向上に支えられている部分が大きいと考えられる。そうした力にさらなる磨きをかけることによって、わが国産業界がARなど新しい発想の実現に不可欠な半導体関連の部材や製造装置の需要を取り込み、成長を加速することは可能なはずだ」、楽しみな分野のようだ。
・『ソフトウエアの創出力強化に不可欠な労働市場改革 モノづくりの力に加えてわが国は、ソフトウエア創出力を強化しなければならない。そのためには、個々の企業の事業運営体制の改革に加えて、政府による構造改革が必要だ。特に、労働市場の改革は急務だ。 1990年代以降、経済のグローバル化により国境のハードルは低下し、世界全体で生産コストは低下した。アップルやエヌビディアは、チップの設計開発などに集中する一方、韓国や台湾の企業は、米国企業が設計したチップや最終製品の生産を受託し、国際分業が加速した。他方で、バブル崩壊の負の影響も重なり、わが国では終身雇用・年功序列など過去の価値観の温存が重視された。その結果、世界的に見てわが国のデジタル後進国ぶりは鮮明だ。 ウェブ3.0時代の本格到来を見据え、世界各国で新しい発想の実現に取り組む企業は急増している。そうした状況下、ソニーは社員に対して個々人の価値観や発想を重視し、それを成果主義に落とし込むことによってハードとソフトの両面で成長を加速しようとしている。 半導体製造装置分野などでも、報酬によって社員の成果に応える企業が増えている。これは、日本経済の実力向上に決定的に重要だ。政府は、労働市場の構造改革を進めて、ミクロレベルでの変革をより強力にサポートするべきだ。 具体的には、事業運営体制の変革に必要な解雇を行いやすくなるよう規制を緩和する。その一方で、新しい理論の習得などをサポートするために学び直しの制度を強化する。そうした改革を徹底かつスピーディーに進めなければならない。 このように考えると、ウェブ3.0によってわが国経済の環境は大きく変化する可能性がある。自己変革を加速し、先端分野での取り組みを強化する企業が増えれば、ウェブ3.0はわが国経済が産業構造の転換を進め、成長を実現する起爆剤になり得る。それとは反対に、変化への対応が遅れれば、デジタル化の遅れはさらに深刻化する恐れが高い』、「ソニーは社員に対して個々人の価値観や発想を重視し、それを成果主義に落とし込むことによってハードとソフトの両面で成長を加速しようとしている。 半導体製造装置分野などでも、報酬によって社員の成果に応える企業が増えている。これは、日本経済の実力向上に決定的に重要だ。政府は、労働市場の構造改革を進めて、ミクロレベルでの変革をより強力にサポートするべきだ」、大筋としては、その通りだ。
第三に、9月23日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの高橋 篤史氏による「スキー場、F1…ソニー盛田昭夫の長男・英夫 蕩尽の果て――そしてすべてを失った 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(8)/終」を紹介しよう。
https://gendai.media/articles/-/99962?imp=0
・『日本を代表する有名企業をつくった「創業社長」には、どこか共通するカリスマ性がある。しかし、創業社長のカリスマ性が大きければ大きいほど、その去り際、そして去ったあとには、巨大な陥穽が残されることになる。 経済事件取材のトップランナーである筆者が、その圧倒的な取材力と筆力によって構成する最上級の経済ノンフィクション『亀裂 創業家の悲劇』から、「ソニー創業者・盛田昭夫の長男の巨額浪費」後編をお届け(前編はこちら)。 リア王やマクベスを地で行く、裏切りと転落のドラマ』、かねてから噂にはのぼっていたが、詳しい話とは、興味深そうだ。
・『特別な思いでスキー場開発に乗り出して (盛田)英夫はいよいよ没落の色を濃くしていく。 2011年10月、英夫が所有する神奈川県箱根町の別荘について横浜地裁小田原支部は強制競売の開始を決定した。申し立てた債権者は国であり、さらに言えば東京国税局だ。芦ノ湖に面し遠く富士山を望むこの別荘はもともと父・昭夫が求めたもので、テニスコートだけでなくヘリポートまで備えたそこはマイケル・ジャクソンはじめ海外の名だたる賓客を過去にもてなした一族自慢の場所だった。それがいまや差し押さえられてしまったのである。 つまりは、こういうことだった。 遡ること4年前の2007年1月、英夫は三井住友銀行から約23億円を期限80日で個人的に借りていた。その大金を散財してしまったのだろう、英夫は返済ができなくなる。同年9月、借金を肩代わりしたのは清算手続き中のガラヒ産業だった。拠り所としたのは2002年10月の取締役会決議とされる。当時のレイケイは英夫の「現在及び将来負担する一切の債務」について約61億円を限度額に銀行に対し根保証を差し入れていた。 肩代わりの3年後、前述した税務訴訟でガラヒ産業の敗訴が確定する。この時点で同社の金庫は空っぽで、一方、追徴税は未納付となっていた。2010年9月、東京国税局は取り立てのためガラヒ産業が持つ英夫に対する求償権(根保証実行の見返り債権)を差し押さえ、英夫も債務承諾書を差し入れた。その実行がなされないため、東京国税局は箱根の別荘について競売手続きに踏み切ったわけである。 もっともこの時、英夫はすんでのところで一族誇りの別荘を手放す事態だけは回避している。母・良子に譲渡することで納税資金を工面したのである。とはいえ、良子のほうでもそれほど潤沢に資産が残っていたわけではなかったと見える。直前、良子は所有していた絵画を東京国立近代美術館に売却していた。手放したのはジョルジュ・ブラックが描いた「女のトルソ」ほか2点で、この時についた値段は5億8000万円だった。 美術品放出はさらに続く。箱根の別荘を英夫から買った半年後にはホアン・ミロの「絵画詩」を2億1000万円でやはり東京国立近代美術館に売り払い、2013年11月にはアレクサンダー・カルダー作「モンスター」を同様に売却した。2015年3月、昭夫亡き後も東京・青葉台の邸宅に住まい続けた良子は85歳で天寿を全うするが、喪主を務めたのは長男の英夫ではなく、ソニーで国内音楽部門のトップなどを歴任した二男の昌夫だった。 競売の危機を乗り切ったものの、英夫の資金繰りが火の車であることに変わりはなく、公私混同ぶりは極まっていた。英夫はあたり構わずカネがあるところからそれを毟り取っていた。早くも2008年頃から手を染めていたのは関連公益法人からの借財である。盛田株式会社の流れを汲み英夫が代表を務める個人会社「盛田アセットマネジメント」がまず流用したのは「鈴渓学術財団」の基本財産だった。1978年に父・昭夫の肝いりで設立された財団の目的は歴史社会研究に対する助成であり、本来なら基本財産はそのために使われなければならない。英夫はそれを拝借することにしたのである。 2008年3月期、その額は4億円近くに上った。同じように翌年からは「盛田国際教育振興財団」の資金にも手をつける。同年8月までに流用額は5億3000万円に上った。財団が貸し付ける際、形式上それらには年間数%の利子が課されることとされたが、実際にそれらが払われることはなく、ましてや元本が戻ってくることもなかった』、「まず流用したのは・・・財団」の基本財産」、「本来なら基本財産はそのために使われなければならない。英夫はそれを拝借」、「数%の利子・・・実際にそれらが払われることはなく、ましてや元本が戻ってくることもなかった」、ボンボンは無駄遣いの尻拭いをこんな違法な手段でしたとは酷いものだ。
・『それでも止まらない散財 ある時から英夫は東京の住まいを首相官邸近くにそびえ立つ「東急キャピトルタワー」の高層階に定めたが、2014年初頭、その賃料支払いは滞った。クレジットカードも同様である。その年の5月から6月にかけ英夫は相次ぎ提訴される。未払い賃料は600万円余り、カードの未払いは1100万円余りに上っていた。英夫は代理人弁護士を立てず、裁判所に答弁書を出すことさえしなかった。 裁判に証拠提出されたカードの利用明細を見ると、未払い直前である2013年暮れの段階でも英夫の蕩尽ぶりは少しも改まっていないことが分かる。12月10日には銀座の「バーニーズニューヨーク」と「銀座かねまつ」でショッピングを楽しみ約56万円を支払い、同月16日には名古屋で高級ブランドの「ロエベ」と「ルイ・ヴィトン」に計66万円、さらに同月20日には「ザ・プリンスパークタワー東京」で約98万円を利用――そんな具合である。これらはほんの一例で、この月にはほかにも高級料亭で数十万円単位の支出を複数回行っている。とてもではないが資金繰りに詰まった人間の使い方ではなく、もはや呆れるしかない。 やがて英夫が家業からも追われる日がやって来る。 2015年11月、ジャパン・フード&リカー・アライアンス(JFLA)は突如としてその年9月期決算の公表を延期した。会社は4ヵ月前、監査法人からある指摘を受けていた。会長である英夫の交通費や経費の支出が異常であり、さらにはその実質支配企業である「モリタフードサービス」に対する貸付金の回収に関し看過できない疑義があり、ほかにも個人的な関係先への業務委託料などについて不合理な点があるとされたのだ。会社は弁護士らからなる調査委員会を設置して調査を依頼し、その結果は10月中旬に報告された。ただ、それでもまだ解明すべき点は残り、追加調査が必要だった。経営体制刷新も迫られていたが、その調整は途上だった。そこで決算発表が延期となったのだ。 疑義のなかでももっとも金額が大きいモリタフードサービスへの貸付金に関し明らかになったのは次のような経緯だった』、「英夫は相次ぎ提訴される。未払い賃料は600万円余り、カードの未払いは1100万円余りに上っていた。英夫は代理人弁護士を立てず、裁判所に答弁書を出すことさえしなかった」、ふてぶてしい。「2月10日には銀座の「バーニーズニューヨーク」と「銀座かねまつ」でショッピングを楽しみ約56万円を支払い、同月16日には名古屋で高級ブランドの「ロエベ」と「ルイ・ヴィトン」に計66万円、さらに同月20日には「ザ・プリンスパークタワー東京」で約98万円を利用――そんな具合である。これらはほんの一例で、この月にはほかにも高級料亭で数十万円単位の支出を複数回行っている。とてもではないが資金繰りに詰まった人間の使い方ではなく、もはや呆れるしかない」、よくぞここまで無駄遣いを放置したものだ。
・『そしてすべてを失った 同社は英夫がハワイの資産管理会社を通じて全株を握る個人会社で、JFLAは2012年9月末の段階で2億4600万円を貸し付けていた。その年10月9日、モリタフードサービスは一部事業を名古屋の飲食会社「子の日」に譲渡する。子の日は英夫の叔父・和昭が根城とするイズミックの子会社だ。譲渡代金は3億3000万円だった。JFLAによる貸し付け条件は定かでないが、本来ならこの時点で返済を求めてもよかったはずだ。ところが、モリタフードサービスは6日後、譲渡代金のうち2億6000万円を盛田アセットマネジメントに貸し付けてしまった。財団から基本財産を借用した英夫が代表のあの会社である。結局、翌年12月以降、モリタフードサービスからの弁済はストップしてしまう。JFLAの貸付金が取り立て不能となったことは言うまでもない。 こうした構図はこれまで何度も見てきた英夫による公私混同ぶりの典型例である。個人の借金を会社に肩代わりさせ、公益法人の財産を金詰まりの会社に流用するといった話と同じだ。しかし、上場企業であるJFLAとして許されるものではない。決算発表延期から1ヵ月後の12月9日、英夫はJFLAの会長を辞任した。実質的には追放である。翌年2月には小林武司社長ら長年の子飼い役員も退任に追い込まれ、JFLAは新興飲食グループ「阪神酒販」の傘下に入ることとなる。 盛田家16代当主の英夫はこうしてほぼすべての資産や地位肩書を失ったのである。(文中敬称略)』、「英夫による公私混同ぶりの典型例である。個人の借金を会社に肩代わりさせ、公益法人の財産を金詰まりの会社に流用するといった話と同じだ。しかし、上場企業であるJFLAとして許されるものではない。決算発表延期から1ヵ月後の12月9日、英夫はJFLAの会長を辞任した。実質的には追放である。翌年2月には小林武司社長ら長年の子飼い役員も退任に追い込まれ、JFLAは新興飲食グループ「阪神酒販」の傘下に入ることとなる。 盛田家16代当主の英夫はこうしてほぼすべての資産や地位肩書を失ったのである」、本来ならもっと早く会社から追放しておくべきだった。この前編では、スキー場開発、F1などでさらに巨額の損失を出したようだ。ソニーとは関係ないとはいえ、創業者の放蕩息子にも困ったものだ。
タグ:かねてから噂にはのぼっていたが、詳しい話とは、興味深そうだ。 盛田家16代当主の英夫はこうしてほぼすべての資産や地位肩書を失ったのである」、本来ならもっと早く会社から追放しておくべきだった。この前編では、スキー場開発、F1などでさらに巨額の損失を出したようだ。ソニーとは関係ないとはいえ、創業者の放蕩息子にも困ったものだ。 高橋 篤史氏による「スキー場、F1…ソニー盛田昭夫の長男・英夫 蕩尽の果て――そしてすべてを失った 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(8)/終」 「ソニーは社員に対して個々人の価値観や発想を重視し、それを成果主義に落とし込むことによってハードとソフトの両面で成長を加速しようとしている。 半導体製造装置分野などでも、報酬によって社員の成果に応える企業が増えている。これは、日本経済の実力向上に決定的に重要だ。政府は、労働市場の構造改革を進めて、ミクロレベルでの変革をより強力にサポートするべきだ」、大筋としては、その通りだ。 「ToF AR」は初耳だが、「スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる」、とは凄そうだ。 真壁昭夫氏による「ソニーがウェブ3.0時代にAR技術開発で圧倒的に期待される理由」 「一般の社員からすれば、EVAよりROICのほうが理解しやすい、という面は否めない」、「EVAをROICと置き換えても意味はすべて通じる。両者の目指す姿、すなわち資本コストに基づいて事業を評価し、企業価値の向上を実現するための経営指標という点において、両者は寸分たがわないのだ。 姿を消したと思われた日本のEVA経営は、ROIC経営という形で、現在進行系で隆盛を極めているのである」、よく理解できた。 市場や技術、顧客といった環境変化によって大きな先行投資が必要とされる企業や部門にあっては、経営指標のターゲットの時期や水準の設定において、熟考しなくてはならないことの示唆を与える」、なるほど。 「英夫による公私混同ぶりの典型例である。個人の借金を会社に肩代わりさせ、公益法人の財産を金詰まりの会社に流用するといった話と同じだ。しかし、上場企業であるJFLAとして許されるものではない。決算発表延期から1ヵ月後の12月9日、英夫はJFLAの会長を辞任した。実質的には追放である。翌年2月には小林武司社長ら長年の子飼い役員も退任に追い込まれ、JFLAは新興飲食グループ「阪神酒販」の傘下に入ることとなる。 亭で数十万円単位の支出を複数回行っている。とてもではないが資金繰りに詰まった人間の使い方ではなく、もはや呆れるしかない」、よくぞここまで無駄遣いを放置したものだ。 「英夫は相次ぎ提訴される。未払い賃料は600万円余り、カードの未払いは1100万円余りに上っていた。英夫は代理人弁護士を立てず、裁判所に答弁書を出すことさえしなかった」、ふてぶてしい。「2月10日には銀座の「バーニーズニューヨーク」と「銀座かねまつ」でショッピングを楽しみ約56万円を支払い、同月16日には名古屋で高級ブランドの「ロエベ」と「ルイ・ヴィトン」に計66万円、さらに同月20日には「ザ・プリンスパークタワー東京」で約98万円を利用――そんな具合である。これらはほんの一例で、この月にはほかにも高級料 「まず流用したのは・・・財団」の基本財産」、「本来なら基本財産はそのために使われなければならない。英夫はそれを拝借」、「数%の利子・・・実際にそれらが払われることはなく、ましてや元本が戻ってくることもなかった」、ボンボンは無駄遣いの尻拭いをこんな違法な手段でしたとは酷いものだ。 「ToF ARによって、スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる。ARの世界は一段と身近になるだろう」、「ソニーのAR関連技術はわが国産業界が磨いてきたモノづくりの力の向上に支えられている部分が大きいと考えられる。そうした力にさらなる磨きをかけることによって、わが国産業界がARなど新しい発想の実現に不可欠な半導体関連の部材や製造装置の需要を取り込み、成長を加速することは可能なはずだ」、楽しみな分野のようだ。 「世界がウェブ2.0からウェブ3.0の時代へ向かっている」、「ウェブ3.0では、人々は常にネットとつながる。例えば、リアルな世界で日々の業務をこなすと同時にクラウドなどのネット空間で「アバター(分身)」が他者と交流する。バーチャルな世界と現実が一体化する、「複合現実(Mixed Reality、MR)」が当たり前になるだろう」、「複合現実」が夢物語ではなく、現実化するようだ。 「現在、ソニーはマイクロソフト、米マジックリープに次いで世界第3位のAR関連特許件数を持つ」とは大したものだ。 これはEVAの限界ではなく、本書で紹介しているすべての経営指標の限界である。会計数値に基づいて計算する経営指標である以上、単年度ベースでの算出が基本となる。それが金科玉条だと言われれば、短期的な費用や投資の抑制によって、目標は達成できてしまうだろう。ROE、ROA、ROIC、営業利益、フリー・キャッシュフロー……、すべて同一である。 「EVAを短期的に上げることは非常に簡単である。儲かっている事業において、できるだけ投資を抑制すればよい。そうすることで、NOPAT(税引後営業利益)から差し引く投下資本は減少し、EVAは上昇する。それで部門の評価や部門長の賞与が決まるとあっては、事業責任者がそうした行動に偏向することは否めない」、「短期の果実を得た代償として、長期的な優位性を失うトリガーとして、ソニーのEVAは寄与してしまったのではないだろうか。 「EVA」の何が「ソニー」に適していなかったのだろう。 (その10)(EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは ROIC導入でどのように復活したか、ソニーがウェブ3.0時代にAR技術開発で圧倒的に期待される理由、「スキー場、F1…ソニー盛田昭夫の長男・英夫 蕩尽の果て――そしてすべてを失った 巨額の資産をめぐる骨肉の争い(8)/終) ソニーの経営問題 『企業価値向上のための経営指標大全』 大津広一氏による「EVAで「失われた15年」を作り出したソニーは、ROIC導入でどのように復活したか」 ダイヤモンド・オンライン
日韓関係(その17)(韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが、韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは 元駐韓大使が解説、「韓国に怒ってる日本人」に多い 超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ 元寇の謝罪」と言われても…) [外交]
日韓関係については、6月10日に取上げた。今日は、(その17)(韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが、韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは 元駐韓大使が解説、「韓国に怒ってる日本人」に多い 超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ 元寇の謝罪」と言われても…)である。
先ずは、8月9日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋大学教授の薬師寺 克行氏による「韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/609965
・『日韓関係が悪化した最大の原因となっている徴用工問題について尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後、韓国政府の動きが活発になっている。 5月の新政権誕生後、韓国側はそれまでとは打って変わって日本側に首脳会談の実現や外務相訪日を積極的に働きかけてきた。その結果、林外相と韓国の朴振(パク・チン)外相の会談は2回おこなわれ、スペインで開かれたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議出席の機会を生かして岸田首相と尹錫悦大統領の数分間の立ち話も実現した。 いずれの機会も徴用工問題が取り上げられ、問題解決に向けで協議を加速することで一致している。首脳や外相レベルがほとんど没交渉だった文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に比べると様変わりだ。 一方、韓国内では7月初めに外交部主宰で専門家のほかに原告側代表も参加する官民協議会がスタートした。問題解決に向けての対応策などを協議する場で、すでに2回、開催されている』、「尹錫悦大統領」の登場で、日韓関係は一気に前進すると思っていたが、ペースは予想外にスローだ。
・『尹錫悦政権は大法院に意見書を提出 徴用工問題は文政権下で複雑化し両国の国民感情も加わってにわかに解決することは困難とみられる。いったい、韓国政府はどうしようとしているのか、日本政府関係者も尹錫悦政権の一連の動きの意図をはかりかねていた。しかし、7月26日に韓国政府が最高裁判所にあたる大法院に徴用工問題に関する意見書を提出したことで、その意図や狙いが明らかになった。 大法院に提出する意見書というのは法的に規定されており、「国家機関や地方自治体が公益に関連した事項に関し、大法院に裁判に関する意見書を提出することを認める」とされている。 そして今回の意見書には徴用工問題に関連して、「韓国政府は韓日両国の共通の利益に合致する合理的な解決策を模索するため対日外交を続けており、被害者への賠償問題の解決策を探る官民協議会を通じて原告の意見を聴くなど多角的な外交努力を傾けている」と書かれている。 この記述の意味するところは、韓国政府は問題解決に向けて最大限の努力をしている。だから日本企業の資産の現金化を認める判断は当面、待ってほしいということなのだ。 徴用工問題に関する裁判は、原告である元徴用工の主張が認められ日本企業に損害賠償金を支払う大法院の判決が確定している。そして三菱重工など日本企業の資産が差し押さえられ現金化手続きに入ることも認められた。 これに対して日本企業側が異議を唱えて再抗告した。それに対する大法院の判断が早ければ8月中にも出される見通しとなっている。再抗告が棄却されると、日本企業の資産が競売にかけられ現金化が現実のものとなるわけで、徴用工裁判はギリギリの最終段階にきているのだ』、「大法院の判断」は9月25日付けの聯合ニュースによれば、担当判事の退官により最終決定が遅れる見通しになった、とのことである。
・『現金化をとりあえず止めて、解決策を模索する構え 徴用工問題の抜本的な解決策を短期間でまとめることは不可能に近い。しかし、現金化のタイムリミットが目の前に近づいている。現金化によって日韓関係を決定的に悪化させることは回避しなければならない。そう考えた韓国政府は、原告側との話し合いの場を動かすとともに日本政府との協議にも積極的に取り組み、その実績を意見書として大法院に伝えることで現金化決定の先送りを実現する。そのうえで少し時間をかけて当事者が合意できるような解決策を模索する、という二段構えの対応に出たのだ。 尹錫悦政権の意図が明らかになると、当然のことだが原告側は激しく反発した。原告側にとって大法院の判断延期は救済措置の延期でもある。「憲法が保障した迅速な裁判を受ける権利を侵害したものだ」「意見書提出は被害者側の権利行使を制約する重大な行為」などと批判し、発足間もない官民協議会からの離脱を決めてしまった。 当面の問題は大法院がどういう判断をするかだ。大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない。 仮に現金化が現実のものとなれば、日本政府は対抗措置を取らざるをえなくなり、日韓関係改善の機運は一気に消えてしまう。ウクライナ戦争に加え台湾をめぐる中国の動きが緊迫している中、日韓関係の崩壊は中国を利するだけでなく地域の安全保障にとっても深刻な問題になるだろう。それだけに現金化阻止に向けた尹錫悦政権の活発な動きは歓迎すべきことだ。 しかし、韓国政府の思惑通り当面の現金化が先送りされても、その先の見通しは甘くない。最大の理由は尹錫悦大統領の極端な不人気である。 5月に就任してわずか2カ月余りしかたっていないのだが、尹錫悦政権の支持率は当初の5割超が一気に低下し、8月初めには20%台前半まで落ち込んだ。国民感情の動きが激しいと言われる韓国でもあまり前例のないことだ』、「大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない」、当面の注目点は、退官した「担当判事」の後任の判断だ。
・『身内を多く登用、エリート意識が強い 不人気の理由がさらに深刻だ。世論調査結果が指摘するのは、大学時代などの同級生や検察官時代の部下など身内を数多く登用する人事、政治家としての経験や資質の不足、国民が直面している不景気やインフレなどの問題への取り組みの欠如といった政権の体質批判だ。 尹錫悦大統領は文在寅政権時代に検事総長に抜擢されたが、文大統領の側近の法相に対する捜査を進め辞任に追い込むと、一転して大統領側からの反撃にあい職務停止命令を受けるなど文大統領と戦い続けてきた経験を持つ。いかなる困難に直面してもくじけない芯の強さやエリート意識は大統領になっても変わらないようだ。 マスコミに支持率低下についての感想を聞かれると尹大統領は、「大統領選挙の時も支持率は別に気にしなかった。特に意味がない」「支持率低下の原因がわかればどの政府もうまく解決したでしょう」などと応じている。また、閣僚候補から相次いで不祥事が発覚した時には、「前政権で指名された長官の中でそれほど立派な人を見ましたか」と記者を指さして不快感を表したという。その様子がそのまま報道されるのであるから、支持率が上がりようはないだろう。 特に人事は大統領府の秘書官らに検察官や元検事を多数起用し、「ソ・オ・ナム」(ソウル大学出身の50代の男性という意味)と揶揄されている。権力中枢が同質性の高いエリートだけで構成される政権は、必然的に国民との距離ができてしまう恐れがある。 つまり発足間もない尹政権は安定的なハネムーン期間もないまま、政権基盤が不安定な状況に陥っているのだ。しかし、韓国は日本以上に政権の支持率の浮き沈みが激しく、尹政権がこのまま低迷を続けるとはかぎらない』、「「ソ・オ・ナム」・・・と揶揄」されるような側近政治は止める方がよさそうだ。
・『日本政府もできる範囲で積極的に動くべき 徴用工問題の全面的解決には、韓国政府と被害者やその支援団体などが解決案に合意すること、日韓両国政府さらには日本企業も合意すること、さらには必要に応じて韓国議会で予算などの手続きが進められることなど、この先乗り越えなければならないハードルが多い。 日本政府は、表向き徴用工問題は韓国側が一方的に起こした問題であるから、韓国側の出方を見守るという姿勢で一貫している。日本側から提案はしないというのだ。しかし、韓国政府が問題解決に積極的に取り組み始めたことは評価すべきであるし、問題解決が日本の国益に沿うものであるとともに地域の安定にも寄与することは言うまでもない。韓国側の前向きな対応を好機ととらえ、日本政府も可能な範囲で積極的に動くべきときであろう』、「韓国政府が問題解決に積極的に取り組み始めたことは評価すべきであるし、問題解決が日本の国益に沿うものであるとともに地域の安定にも寄与することは言うまでもない。韓国側の前向きな対応を好機ととらえ、日本政府も可能な範囲で積極的に動くべきときであろう」、同感である。
次に、9月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは、元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309195
・『日韓関係改善のために尹錫悦政権が行うべきこと 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は対日関係の改善に苦悩している。それは文在寅(ムン・ジェイン)政権が日韓の歴史問題において過去の合意を無視、安全保障問題において日本との協力をほごにし、日本に反目する行動を取ってきたからである。 具体的には、次のことが挙げられる。) 元徴用工の個人補償問題は未解決だと主張し、司法による日本企業資産の差し押さえの動きを助長し、それが現金化に進もうとする現状を放置してきた。 元慰安婦に関する2015年の合意を事実上ほごにし、日本から10億円の支出で設立された「和解・癒やし財団」を事実上解散した。 韓国海軍が海上自衛隊のP1哨戒機に対し、射撃統制用の火器レーダーを照射し、その事実を隠蔽(いんぺい)した。 海上自衛隊旗と戦前の日本軍の旭日旗と同一視、それを掲揚した自衛隊艦船を韓国の国際観艦式から締め出した。 GSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)の一方的終了を通告した。その後米国の圧力を受け終了通告の効力を停止した。 東京オリンピックの際、豊臣秀吉の水軍を撃破した李舜臣将軍の言葉を引用した横断幕を掲揚、また東京オリンピック組織委員会の聖火リレーマップに竹島の記載が小さくあるのを政治宣伝として削除を求めた。 福島第一原子力発電所から出た処理水の海洋放出を非難し続けている。 竹島周辺での海洋調査など一方的な行動を取り続けている。 文在寅前大統領は日本に対して対決姿勢を取り続けてきた。その過程で反日世論を盛り上げ、日本製品に対する不買運動も展開した。その結果、日本の嫌韓感情は最高潮に達し、「文在寅政権を相手にせず」の雰囲気が日本の政府内ばかりでなく国民感情としても沸き上がった。 尹錫悦政権は就任以来、政府ベースでは過去最悪となったこうした日韓関係を改善するべく取り組んできた。しかし、文在寅政権によって積み上げられた反日・嫌韓感情は容易には改善しない。当面は、これ以上の悪化を防ぎつつ、対話を増やしていく中で、関係改善を模索していくことになるだろう。 そのために急を要するものは、徴用工問題で日本企業資産の現金化を防ぐことである。もしも現金化されれば、日韓関係はしばらく修復不可能になろう。 そして東アジアの安全保障にとって障害となっている日韓関係の不安要素を除去することが必要だ。日韓の不信を助長しているのは、自衛隊機に対する射撃統制レーダーの照射、海上自衛隊旗を旭日旗として排除する姿勢、GSOMIAの終了通告などである』、「文在寅政権によって積み上げられた反日・嫌韓感情は容易には改善しない。当面は、これ以上の悪化を防ぎつつ、対話を増やしていく中で、関係改善を模索していくことになるだろう。 そのために急を要するものは、徴用工問題で日本企業資産の現金化を防ぐことである。もしも現金化されれば、日韓関係はしばらく修復不可能になろう」、「現金化」の阻止は至上課題だ。
・『日本企業資産の現金化を防ぐため 韓国政府は懸命の努力 徴用工を巡る三菱重工業への賠償命令を不服とする同社の再抗告について、審理をさらに続けるか判断する期限(8月19日)が迫る中、大法院(日本の最高裁に相当)は同日までに決定を出す可能性がある、と複数の韓国のメディアが報じていた。 その一方で、日本政府は韓国で日本企業に対する資産売却など現金化措置が取られる場合、厳しい「対抗措置」を準備しているとも報じられていた。 このため、韓国政府は、日本企業の資産の現金化を防ぐため、懸命の努力を行ってきた。 まず、韓国政府は解決策を見いだすべく、外交部(日本の外務省に相当)の趙賢東(チョ・ヒョンドン)第1次官の主宰で、徴用工支援者団体、法律代理人、学会専門家、言論・経済界から12人が参加する官民協議会を設立し、これまでに3回の会合を行った。しかし、元徴用工団体からは協力が得られていない。 外交部は大法院に対し、「徴用工問題解決に向けた外交的努力」を説明する意見書を提出した。これは、国家間の利害関係が対立する外交的事案の場合、行政府の立場が優先して反映されるべきという「司法自制の原則」を要請するメッセージだ。 朴振(パク・チン)外相は7月18日から20日まで訪日し、林芳正外相と会談し、岸田文雄首相を表敬した。両外相は会談で「韓国裁判所が日本企業の資産を現金化する最終結論を下す前に解決策を模索しなければならない」ということで認識を共有したが、具体策にまでは踏み込めなかった。日本側からはまず韓国が解決策を提示すべきと念押しされた。 尹錫悦大統領も、就任100日目の会見で、徴用工は大法院の判決で法による補償を受けることになっているが、「日本が懸念する主権問題の衝突なしに債権者が補償を受けることができる方法を模索している」と主張した。尹錫悦大統領自身が解決に努力していることを明言することで大統領の責任に転嫁し、批判を免れることができるようになった。 尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日韓国大使は、韓国特派員との懇談会で、日本企業の資産を現金化した場合、「韓国企業と日本企業との間で数百兆ウォン(数十兆円)とも言われるビジネスチャンスを失うこともあり得る」と述べたことの重大さを訴えた。 大法院は韓国政府の努力に期待し、決定を先延ばしした。それでも韓国のメディアは、この問題を担当してきた金哉衡(キム・ジェヒョン)大法官(最高裁判事)が9月4日に退官するので、その前に決定があるはずだと一斉に報じた。 しかし、結論から言えば筆者が主張した通り、金大法官は退官後にその決定が韓国経済に甚大な被害が及ぶことは望まず、決定は行わなかった。 金大法官の退官に伴い、後任の裁判部がいつ構成されるかもわからない状況となっている。オ・ソクジュン大法官候補に対する国会人事聴聞会特別委員会の報告書採択が与野党の合意の不発により、大法官の空白も長期化する展望である。 こうした事態の進展によって、尹錫悦政権は時間稼ぎをすることができるようになった。 それ以上に重要なことは、元徴用工団体として裁判を通じて早期解決の見通しが立たなくなったことで、尹錫悦政権との話し合いに応じる期待が出てくる可能性があることであろう。 こうした中、朴振外相は2日、光州を訪問、元徴用工と面会した。元徴用工を支援する市民の会は当初、外交部は朴外相との面会を求めるよりも先に大法院に出した意見書に対する謝罪が先であると主張していた。それでも朴外相と元徴用工は面会を行った。 朴外相は元徴用工と面会し、「強制徴用被害者の方々の問題をできる限り早期に誠意を持って解決していくという強い意思を持っている」「問題がうまく合理的に解決するようにしたい」と伝えた。 しかし、面会後、記者団から「意見書を撤回する意思があるのか」と問われ、「大法院の民事訴訟規則など法令と手続きに基づいて正当にしたものであり、撤回する考えはない」と回答した。 さらに「韓日交渉を通じてこの問題を合理的に解決していくため、近く日本を訪問して林外相と協議する」と述べた。 韓国政府が徴用工問題の解決を模索して設立した官民協議会の第4回会合は5日に開催される予定であるが、元徴用工支援団体はこれには参加しない予定だという。徴用工を巡る問題の解決策づくりはまだしばらく時間がかかりそうである』、「韓国政府が徴用工問題の解決を模索して設立した官民協議会の第4回会合は5日に開催される予定であるが、元徴用工支援団体はこれには参加しない予定だという。徴用工を巡る問題の解決策づくりはまだしばらく時間がかかりそうである」、なるほど。
・『レーダー照射問題は包括的に解決する意向 2018年、日本海で遭難した北朝鮮漁船を捜査中だった韓国の駆逐艦「広開土大王」は近くを飛行する日本海上自衛隊のP1哨戒機に向けて射撃統制レーダーを照射した。これに対し、韓国海軍は、日本に向けたレーダー照射は誤解、レーダー照射はしていないなど、弁明が二転三転していた。 しかし、 与党「国民の力」の申源シク(シン・ウォンシク)議員は、韓国軍当局が2019年2月に海軍へ通達した「日哨戒機対応指針」を暴露した。これは日本の自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定したものである。しかも、同指針は青瓦台国家安保室が主導したものの由である。事件は指針の出る前であるが、日本のP1に対してレーダーが照射された高い可能性を裏付けるものだろう。 (シン・ボムチョル)国防次官は2日に報道された毎日新聞とのインタビューで「公式的に(韓国艦艇の日本哨戒機に向けた射撃統制)レーダー照射はなかったというのがわれわれの立場だが、両国関係の改善と国防協力の観点で包括的に解決する意思がある」と述べた。 この発言は韓国政府の公式の立場としてはっきりと過ちを認めたわけではないが、今後の話し合いの中で、説明するとの意向が含まれているのではないか。 申次官は、文在寅政権当時の指示について「指針ではないが、文政権は日本に対してのみ追加手続きを実施した」「適切かどうかは疑問だ」と述べた。これは事実上誤りを認めたものではないか。 日韓で安保協力を進めていくためには、自衛隊機に対するレーダー照射事件について決着をつけることは不可欠であり、韓国の国防次官の発言はその一歩となるかもしれない』、「韓国軍当局が2019年2月に海軍へ通達した「日哨戒機対応指針」を暴露した。これは日本の自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定したものである。しかも、同指針は青瓦台国家安保室が主導したものの由である。事件は指針の出る前であるが、日本のP1に対してレーダーが照射された高い可能性を裏付けるもの」、やはり「青瓦台国家安保室が主導」したとは、「文在寅政権」らしい行動だ。
・『海上自衛隊観艦式への出席は日韓協力の再出発の象徴に 8月23日、日本政府は「11月に開かれる海上自衛隊創設70周年国際観艦式に韓国海軍を招待した」と発表した。前回2019年の観艦式の折には、自衛隊哨戒機への韓国駆逐艦からのレーダー照射問題などで日韓関係が緊迫しており、韓国海軍は招待されなかった。今回の招待は2015年以来7年ぶりのことである。 しかし、韓国海軍の参加は韓国にとっても難しい決定である。韓国では日本の海上自衛隊旗が旭日旗であり、日本帝国主義の象徴とみる向きがある。特に文在寅政権は、韓国軍の出席する行事から旭日旗の排除を求めていた。18年10月に韓国・済州島で開かれた国際観艦式では、韓国が日本に対し、旭日旗の掲揚自粛を要請。日本は参加を取りやめた経緯がある。 海自の観艦式では、旭日旗が掲揚されることから、参加には慎重であるべきとの声も韓国では少なくない。 しかし、尹錫悦政権は日本側の招待を受けて観艦式に参加し、海上捜索・救難共同訓練も行うことを前向きに検討している模様だ。 今回、韓国海軍が観艦式に出席することは、尹錫悦政権が文在寅政権の束縛から解放され、安全保障面で日韓協力の再出発の象徴となるのではないか』、「今回、韓国海軍が観艦式に出席することは」、「安全保障面で日韓協力の再出発の象徴と」なってほしいものだ。
・『尹錫悦政権への交代で高まるGSOMIA復活の可能性 日本政府は19年7月、韓国に輸出した戦略物資が不正に中国や北朝鮮に再輸出されている懸念があるとして、韓国を包括的な輸出許可の対象から除外し、個別に許可を得る必要がある国に指定替えした。文在寅政権はこれに反発し、日本に対しGSOMIAの終了を一方的に通告した。 しかし、日韓のGSOMIAは北朝鮮の核・ミサイル実験の際の情報共有に効果を発してきたものであり、北朝鮮の核・ミサイル開発が極めて進展しているときに破棄するのは北朝鮮や中国の思うつぼである。北朝鮮の核・ミサイル開発に対して危機感の足りなかった文在寅政権ならではの判断だろう。 尹錫悦政権に代わり、韓国から中国や北朝鮮に対し戦略物資が不正に輸出される可能性は極めて低くなっている。文在寅政権の頃の戦略物資の管理体制とは根本的に改善が見られるだろう。 したがって、戦略物資の輸出問題について韓国政府と建設的な調整を行う余地は広がっており、それを受けてGSOMIAの終了を一時停止している状況を改め、完全復活させることは可能であろうし、日韓首脳会談が開かれれば、その方向で話し合いが行われるのではないか。 文在寅政権の後遺症がいまだ残る中、日韓の関係改善は一朝一夕には実現しないだろう。その第一歩として日韓首脳会談が実現したときに多くの問題を同時に解決できるよう外交当局の根回しが必要である。いずれにせよ、関係改善の糸口をつかむ前に、関係を悪化させることはぜひとも避けたいものである』、「尹錫悦政権に代わり、韓国から中国や北朝鮮に対し戦略物資が不正に輸出される可能性は極めて低くなっている」、「戦略物資の輸出問題について韓国政府と建設的な調整を行う余地は広がっており、それを受けてGSOMIAの終了を一時停止している状況を改め、完全復活させることは可能であろうし、日韓首脳会談が開かれれば、その方向で話し合いが行われるのではないか」』、「韓国を包括的な輸出許可の対象」に復活させ、「GSOMIAの」「完全復活」させてほしいものだ。
第三に、9月17日付け東洋経済オンラインが掲載した『最強の働き方』『一流の育て方』著者 のムーギー・キム氏による「「韓国に怒ってる日本人」に多い、超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ、元寇の謝罪」と言われても…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/618365
・『「そっか、日本と韓国って」と検索したことがあるだろうか? 「韓国へのイライラ、日本へのモヤモヤがいっきに解消する」「グローバルな視点で、確かな学術論文に依拠して書かれている」「爆笑エピソードが満載で、絶対にこの著者にしか書けない」と話題を呼び、『週刊ダイヤモンド』『PRESIDENT』等のビジネス誌の書評でも評価されているのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』だ。 著者は、『最強の働き方』『一流の育て方』などのベストセラーでもよく知られる、著作累計70万部のムーギー・キム氏。京都に生まれ、日韓両国の文化の中で育ち、フランス・香港・シンガポールで学び働いてきた。同書は、著者が「人生を通じて最も書きたかった1冊」という。 以下では、そのムーギー氏が、「なぜか行ったこともない韓国に大激怒している人たちにありがちな、よくある4つの残念な誤解」について考える』、「ムーギー・キム氏」は「日韓」関係を述べるには最適の人物のようだ。
・『どちらの「研究結果」を信じるかは、あなた次第 「そっか、日本と韓国って」と検索したら、韓国へのモヤモヤのすべてがクリアに解決するというのが、近頃の私の中での定説になっている。 しかし、皆様そうなされないからか、日韓関係および私、ムーギー・キムへの誤解は根強い。 前回のコラムに対しても、おそらく遺伝子研究のイの字も知らないだろう方々が、2012年の日本人類遺伝学会による発表や、2019年5月13日の国立科学博物館による発表に異を唱え、それはそれは得意げに「Y染色体D系統は、日本人が韓国人と別人種であることの証だ」などなどと1000件くらいの批判コメントを寄せられるのだ。これを読んだ私の開いた口は塞がらず、逆に閉じた瞼が二度と開くことはないのである。 D系統の割合が日本は他の東アジアより高いというだけで、それでも韓国と同様にO系統が一番多いことなど細かいことを書くと果てしないので、やめておこう。人は所詮、信じたいことを信じる生き物だ(「それはお前のことだろ!」と数多くのブーメランがコメント欄で飛び交う姿が目に浮かぶ)。 それでもネットのどこぞで目にした怪しげな「研究結果」か、2019年という最近の、我らが国立科学博物館の「研究結果」のどちらに信憑性を感じるかは、読者の皆様に委ねるしかないのだ。 それにしても、この連載コラムを書けば書くほど、ネットで熱心にコメントを書き込んでくださる皆様と私の溝が広がっているのでは、と心配になっている。 そこで、皆様の温かい、時に熱すぎる叱咤激励に感謝の気持ちを捧げつつ、今日も元気に、深すぎる教養コラムを書かせていただこう。) 日韓関係でよく問題になるのが、「韓国は国際合意を遵守していない」という議論である。 「日本政府は合意を守っている。守っていないのは韓国のほうだ」と思っている人は多いだろう。しかし韓国では、日本の政治家こそ「国際合意を無視し、過去を蒸し返す」と思っている。 こう書くと早くも大激怒されそうだが、念のため血圧を下げる薬を飲みながら、以下を読み進めていただきたい。 【誤解1】
「日本政府は国際合意を守っているのに、韓国政府が一方的に破棄してきた」 1993年の河野談話や1995年の村山談話では、「戦争の悲惨さを若い世代に語り伝え」「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ」と語られた。 ところが、実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された。これで、合意を守っていると言えるだろうか?』、「実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された」、そんな事実は知らなかったので、愕然とした。
・『日本は政権がなかなか変わらないだけ 「韓国は政権が変わるたびにコロコロ変わる」と言われる。しかし、日本はたんに政権がなかなか変わらないだけで、政権を担う勢力が変われば、外交政策や歴史認識、約束ですら、コロコロ変わるのである。 2015年の慰安婦合意では、「最終的かつ不可逆的に解決される」と相互に確認された。 これは韓国側からすれば、日本政府や政権に影響のある政治家たちから、「慰安婦は嘘だった」などと、また村山談話に実質的に反する声が出てくることを牽制するものだった(ただし、私は慰安婦合意に対する韓国政府の対応を擁護するものではない)。 2015年に世界文化遺産に登録された軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。 しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があったのである。 また、元徴用工への慰謝料の支払い問題については、1965年の日韓基本条約での曖昧な合意が根底にある。日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。 その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。 しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である』、「軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。 しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があった」、「日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。 その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。 しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である」、いずれも恥ずかしながら知らなかった。日本のマスコミももっと丁寧に説明すべきだ。
・『「正当性」と「合法性」は違う問題 しかも韓国では、この日韓基本条約が結ばれたとき、民意を代表しない軍事独裁政権が、国民の反対を押し切ってこの問題を棚上げにしたのだった。 日韓併合の実態や経緯に関する学術的証拠に関しては、長くなるので詳細は新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』に譲ることにする。 ただし考えてみていただきたいのは、イギリスが清国に仕掛けたアヘン戦争も、侵略した側にとってみれば「合法」だった。 アメリカによるイラク侵攻も、ロシアによるウクライナ侵攻も、やっている側としては「合法」という主張である。 「正義」と「合法」、そして「正当性」と「合法性」は、また違う問題なのである。 次によく目にするのは、「日本から金をせびるために、歴史問題を蒸し返す」という言説だ。 【誤解2】「韓国は、日本から金をゆするために歴史問題を蒸し返す」 しかしながら、たとえば慰安婦合意で日本が拠出した10億円は、韓国の200兆円に迫るGDPの何%だというのだろうか(念のために言っておくと、20万分の1=0.00005%である)。 韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰していたし、村山談話のときの民間からの寄付金に関しても、「国家賠償という性質ではないので、受け取るな!」という反発が強かったのをご存じだろうか。 もし、いま問題になっている元徴用工への賠償で差し押さえられた資産を現金化したとしても、その時に得られる金額は全体的にはごくわずかだ。 その後の経済紛争で生じる損失に比べれば微々たる金額であり、「経済的な観点からも、この現金化は合理的ではない」と韓国国内でも議論されている』、「慰安婦合意で日本が拠出した10億円は」「韓国の200兆円に迫るGDPの」「20万分の1」、「韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰」、なるほど。
・『では、韓国が求めているのは? 韓国側の当事者が求めているのは、「お金」よりも「許し、前に進むための名分」であり、村山談話や河野談話のときのように、あとでその趣旨を覆すような発言をしたり、骨抜きにされたりすることがない、「真心」すなわち「チンジョンソン(真の意志)」がこもった謝罪の気持ちなのである。 ちなみに、日韓基本条約のときに日本から韓国に「経済協力金」が流れているが、その資金の使途は、特定の日本企業からの購入費用に充てられることになっていた。 その後、毎年のように何兆円もの巨額の貿易黒字を日本が韓国からずっと獲得することの遠因になっていることも、理解しておきたい。日韓基本条約で、結果的に日本側も恒常的に儲けていたともいえるのだ。 また、「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか? これを鑑みたとき、日韓基本条約で払った金額ばかりに目を向けるのではなく、巨額の分断・統一コストにも目を向けた、歴史に対する謙虚さは必要であろう。 そして一番多い誤解にもとづく批判は、なんと「『元寇』のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」というものである。 これらの怒りも「誤解」に基づくか、重要な文脈を省いてしまっている。 【誤解3】「『元寇』と『応永の外寇』は朝鮮側起点の一方的侵略だったから、秀吉の朝鮮出兵も正当化でき、そもそも朝鮮側が悪い!」 そもそも「元寇」では、高麗軍および三別抄(さんべつしょう/モンゴルへの服属を拒んだ高麗国軍の一部の勢力)が約40年にわたってモンゴル軍に対抗したおかげで、日本へのモンゴル(元)の襲来は大幅に遅れた。 当初高麗は、モンゴルが日本を攻めれば自分たちが巻き込まれるので、日本にモンゴルに服属するよう遣いを送っていた。また、これとは別に三別抄は、モンゴルに対抗していたときに、日本に「モンゴルへの共闘」を呼び掛けた。 鎌倉幕府はこの相反する状況を理解できず、幕府と朝廷で指揮系統が混乱していたこともあって、回答しなかった。 そんな文脈のなか、当時の高麗王朝はモンゴルに対する姿勢で派閥争いがあったので、モンゴルをバックに高麗王朝に君臨しようとした忠烈王(ちゅうれつおう)が、フビライハンの歓心を買うべく自国民を犠牲にし、日本の大宰府攻めを進言したと言われている。 これは、日本にとっては大迷惑だが、反モンゴル派の高麗人にとってもたまったものではなかっただろう。 「元寇」から約150年後の室町時代にあった「応永の外寇」は、倭寇が朝鮮を襲い、これに対抗するために朝鮮軍が遠征したものである。 そのどちらも、秀吉による朝鮮出兵や、明治政府による「日韓併合」を正当化する類のものでもないのだが、近年ネットで「元寇と応永の外寇は朝鮮側起点の一方的侵略だったから、秀吉の朝鮮出兵も正当化でき、そもそも朝鮮側が悪い!」などという誤解がかなり広まっているので、念のため解説しておくこととした。 それにしても、「元寇」や「応永の外寇」で、なんで私が非難されなければならないのだろうか』、「「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか?」、「分断コストと統一コスト」を日本に責任があるとする考えにはついてゆけない。「『元寇』のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」、こんな馬鹿な主張をしている日本人は仮にいたとしても、ごく少数で、こんなところで取上げるべきなのだろうか。
・『なんと筆者に「元寇」の賠償要求も! なかでも私に対する批判の中でも衝撃的なケースでは、「元寇のとき、高麗軍に私の先祖が4人殺されたので、1人1億円で合計4億円、筆者(つまり私)が賠償せよ!」というものもあった。 さらに、比較的面倒見のいい私でも付き合いきれないのが、「刀伊(とい)の入寇」への謝罪要求だ。これ、1000年くらい前に中国大陸に住む北方民族の女真族(じょしんぞく)を中心とした海賊が攻め込んできたときの話だから、いくら何でも私には関係ないのではなかろうか。 それでも、私が謝ることで気が済むのなら、謝罪いたしましょう。「刀伊の入寇、なんか知らないけど、ごめんね」。 ここまでお読みくださったかたの中には、プンスカ激怒されている人もいらっしゃることだろう。「反日韓国人が、また嘘を垂れ流している!」と。 ちなみに私は、「北朝鮮のスパイ」とも書かれている。「一人南北統一」で、八面六臂の大活躍ではないか。 【誤解4】「ムーギー・キムは在日だから韓国批判はしない」 しかし私は『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』では、韓国の擁護だけでなく、数多くの韓国批判も行っている。 韓国側は、ぜひ次のような点をきちんと記憶すべきであろう。 ・韓国は、戦後の日本からの経済協力がなければ、漢江の奇跡をあの速さで起こせなかった ・日本には、韓国が感謝すべき「有り難い人」がたくさんいる ・韓国は的外れな怒り方で自爆している ・当事者でもない今の若い日本人に、いつまでも謝罪を求めるのは的外れ ・過度な旭日旗批判は、私が見ても失笑ものの言いがかりに見える ・元徴用工への慰謝料は、日本に支払わせるべきでない 他にも、高麗王朝の魂を元に売った忠列王は大迷惑などうしようもない人物だと思うし、ベトナム戦争での民間人虐殺にも、私は極めて批判的である。 私はこれまでも、一部の韓国人にとっては私が「親日派の嫌韓主義者」と批判されるようなこともたくさん書いているし、韓国人コミュニティの掲示板で私が猛批判をされることもある』、間に立っている人間が、双方から批判されるのは、よくあることだ。
・『日本と韓国双方に愛情を抱くからこそ書けた1冊 私は重ね重ね、日本側の読者にさえおもねればいい一部の作家や、韓国側の読者さえ喜ばせればいい韓国の一部の政治家は、なんとラクな商売かと思ってきたものである。 しかし、両国双方の読者に認知不協和を起こし、猛批判と罵詈雑言を受けようとも、両国の「言い分」と「誤解」をそれぞれ知っている私が、そして何よりも日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である。 今回のコラムをお読みくださったあなたは、「そっか、日本と韓国って」と検索しながらすっくと立ち上がり、「ムーギー・キムよ、見直した、その通りや!」とスタンディングオベーションをして、周りの人に奇異な目で見られているだろうか。 それとも、「やはり『反日韓国人』とはわかり合えない。国際合意を無視した裁判所の判決を、私は忘れていませんよ?(ニヤリ)国交断絶に限ります」とネットでコメントして、コメント欄を焦土にされているだろうか? その答えは、いま本コラムを読んでおられる、あなたのみぞ知る、である』、「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である」、前述のように、同氏が記述する韓国人の日本批判には、私が知らなかった点もあり、興味深いが、日本人の韓国批判には、そんな批判が本当にあるのかと疑問に思うものもある。それでも、全治としては、「「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている」筆者らしい力作だ。今後のさらなる著作に期待したい。
先ずは、8月9日付け東洋経済オンラインが掲載した東洋大学教授の薬師寺 克行氏による「韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/609965
・『日韓関係が悪化した最大の原因となっている徴用工問題について尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足後、韓国政府の動きが活発になっている。 5月の新政権誕生後、韓国側はそれまでとは打って変わって日本側に首脳会談の実現や外務相訪日を積極的に働きかけてきた。その結果、林外相と韓国の朴振(パク・チン)外相の会談は2回おこなわれ、スペインで開かれたNATO(北大西洋条約機構)首脳会議出席の機会を生かして岸田首相と尹錫悦大統領の数分間の立ち話も実現した。 いずれの機会も徴用工問題が取り上げられ、問題解決に向けで協議を加速することで一致している。首脳や外相レベルがほとんど没交渉だった文在寅(ムン・ジェイン)政権時代に比べると様変わりだ。 一方、韓国内では7月初めに外交部主宰で専門家のほかに原告側代表も参加する官民協議会がスタートした。問題解決に向けての対応策などを協議する場で、すでに2回、開催されている』、「尹錫悦大統領」の登場で、日韓関係は一気に前進すると思っていたが、ペースは予想外にスローだ。
・『尹錫悦政権は大法院に意見書を提出 徴用工問題は文政権下で複雑化し両国の国民感情も加わってにわかに解決することは困難とみられる。いったい、韓国政府はどうしようとしているのか、日本政府関係者も尹錫悦政権の一連の動きの意図をはかりかねていた。しかし、7月26日に韓国政府が最高裁判所にあたる大法院に徴用工問題に関する意見書を提出したことで、その意図や狙いが明らかになった。 大法院に提出する意見書というのは法的に規定されており、「国家機関や地方自治体が公益に関連した事項に関し、大法院に裁判に関する意見書を提出することを認める」とされている。 そして今回の意見書には徴用工問題に関連して、「韓国政府は韓日両国の共通の利益に合致する合理的な解決策を模索するため対日外交を続けており、被害者への賠償問題の解決策を探る官民協議会を通じて原告の意見を聴くなど多角的な外交努力を傾けている」と書かれている。 この記述の意味するところは、韓国政府は問題解決に向けて最大限の努力をしている。だから日本企業の資産の現金化を認める判断は当面、待ってほしいということなのだ。 徴用工問題に関する裁判は、原告である元徴用工の主張が認められ日本企業に損害賠償金を支払う大法院の判決が確定している。そして三菱重工など日本企業の資産が差し押さえられ現金化手続きに入ることも認められた。 これに対して日本企業側が異議を唱えて再抗告した。それに対する大法院の判断が早ければ8月中にも出される見通しとなっている。再抗告が棄却されると、日本企業の資産が競売にかけられ現金化が現実のものとなるわけで、徴用工裁判はギリギリの最終段階にきているのだ』、「大法院の判断」は9月25日付けの聯合ニュースによれば、担当判事の退官により最終決定が遅れる見通しになった、とのことである。
・『現金化をとりあえず止めて、解決策を模索する構え 徴用工問題の抜本的な解決策を短期間でまとめることは不可能に近い。しかし、現金化のタイムリミットが目の前に近づいている。現金化によって日韓関係を決定的に悪化させることは回避しなければならない。そう考えた韓国政府は、原告側との話し合いの場を動かすとともに日本政府との協議にも積極的に取り組み、その実績を意見書として大法院に伝えることで現金化決定の先送りを実現する。そのうえで少し時間をかけて当事者が合意できるような解決策を模索する、という二段構えの対応に出たのだ。 尹錫悦政権の意図が明らかになると、当然のことだが原告側は激しく反発した。原告側にとって大法院の判断延期は救済措置の延期でもある。「憲法が保障した迅速な裁判を受ける権利を侵害したものだ」「意見書提出は被害者側の権利行使を制約する重大な行為」などと批判し、発足間もない官民協議会からの離脱を決めてしまった。 当面の問題は大法院がどういう判断をするかだ。大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない。 仮に現金化が現実のものとなれば、日本政府は対抗措置を取らざるをえなくなり、日韓関係改善の機運は一気に消えてしまう。ウクライナ戦争に加え台湾をめぐる中国の動きが緊迫している中、日韓関係の崩壊は中国を利するだけでなく地域の安全保障にとっても深刻な問題になるだろう。それだけに現金化阻止に向けた尹錫悦政権の活発な動きは歓迎すべきことだ。 しかし、韓国政府の思惑通り当面の現金化が先送りされても、その先の見通しは甘くない。最大の理由は尹錫悦大統領の極端な不人気である。 5月に就任してわずか2カ月余りしかたっていないのだが、尹錫悦政権の支持率は当初の5割超が一気に低下し、8月初めには20%台前半まで落ち込んだ。国民感情の動きが激しいと言われる韓国でもあまり前例のないことだ』、「大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない」、当面の注目点は、退官した「担当判事」の後任の判断だ。
・『身内を多く登用、エリート意識が強い 不人気の理由がさらに深刻だ。世論調査結果が指摘するのは、大学時代などの同級生や検察官時代の部下など身内を数多く登用する人事、政治家としての経験や資質の不足、国民が直面している不景気やインフレなどの問題への取り組みの欠如といった政権の体質批判だ。 尹錫悦大統領は文在寅政権時代に検事総長に抜擢されたが、文大統領の側近の法相に対する捜査を進め辞任に追い込むと、一転して大統領側からの反撃にあい職務停止命令を受けるなど文大統領と戦い続けてきた経験を持つ。いかなる困難に直面してもくじけない芯の強さやエリート意識は大統領になっても変わらないようだ。 マスコミに支持率低下についての感想を聞かれると尹大統領は、「大統領選挙の時も支持率は別に気にしなかった。特に意味がない」「支持率低下の原因がわかればどの政府もうまく解決したでしょう」などと応じている。また、閣僚候補から相次いで不祥事が発覚した時には、「前政権で指名された長官の中でそれほど立派な人を見ましたか」と記者を指さして不快感を表したという。その様子がそのまま報道されるのであるから、支持率が上がりようはないだろう。 特に人事は大統領府の秘書官らに検察官や元検事を多数起用し、「ソ・オ・ナム」(ソウル大学出身の50代の男性という意味)と揶揄されている。権力中枢が同質性の高いエリートだけで構成される政権は、必然的に国民との距離ができてしまう恐れがある。 つまり発足間もない尹政権は安定的なハネムーン期間もないまま、政権基盤が不安定な状況に陥っているのだ。しかし、韓国は日本以上に政権の支持率の浮き沈みが激しく、尹政権がこのまま低迷を続けるとはかぎらない』、「「ソ・オ・ナム」・・・と揶揄」されるような側近政治は止める方がよさそうだ。
・『日本政府もできる範囲で積極的に動くべき 徴用工問題の全面的解決には、韓国政府と被害者やその支援団体などが解決案に合意すること、日韓両国政府さらには日本企業も合意すること、さらには必要に応じて韓国議会で予算などの手続きが進められることなど、この先乗り越えなければならないハードルが多い。 日本政府は、表向き徴用工問題は韓国側が一方的に起こした問題であるから、韓国側の出方を見守るという姿勢で一貫している。日本側から提案はしないというのだ。しかし、韓国政府が問題解決に積極的に取り組み始めたことは評価すべきであるし、問題解決が日本の国益に沿うものであるとともに地域の安定にも寄与することは言うまでもない。韓国側の前向きな対応を好機ととらえ、日本政府も可能な範囲で積極的に動くべきときであろう』、「韓国政府が問題解決に積極的に取り組み始めたことは評価すべきであるし、問題解決が日本の国益に沿うものであるとともに地域の安定にも寄与することは言うまでもない。韓国側の前向きな対応を好機ととらえ、日本政府も可能な範囲で積極的に動くべきときであろう」、同感である。
次に、9月6日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元・在韓国特命全権大使の武藤正敏氏による「韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは、元駐韓大使が解説」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309195
・『日韓関係改善のために尹錫悦政権が行うべきこと 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は対日関係の改善に苦悩している。それは文在寅(ムン・ジェイン)政権が日韓の歴史問題において過去の合意を無視、安全保障問題において日本との協力をほごにし、日本に反目する行動を取ってきたからである。 具体的には、次のことが挙げられる。) 元徴用工の個人補償問題は未解決だと主張し、司法による日本企業資産の差し押さえの動きを助長し、それが現金化に進もうとする現状を放置してきた。 元慰安婦に関する2015年の合意を事実上ほごにし、日本から10億円の支出で設立された「和解・癒やし財団」を事実上解散した。 韓国海軍が海上自衛隊のP1哨戒機に対し、射撃統制用の火器レーダーを照射し、その事実を隠蔽(いんぺい)した。 海上自衛隊旗と戦前の日本軍の旭日旗と同一視、それを掲揚した自衛隊艦船を韓国の国際観艦式から締め出した。 GSOMIA(日韓秘密軍事情報保護協定)の一方的終了を通告した。その後米国の圧力を受け終了通告の効力を停止した。 東京オリンピックの際、豊臣秀吉の水軍を撃破した李舜臣将軍の言葉を引用した横断幕を掲揚、また東京オリンピック組織委員会の聖火リレーマップに竹島の記載が小さくあるのを政治宣伝として削除を求めた。 福島第一原子力発電所から出た処理水の海洋放出を非難し続けている。 竹島周辺での海洋調査など一方的な行動を取り続けている。 文在寅前大統領は日本に対して対決姿勢を取り続けてきた。その過程で反日世論を盛り上げ、日本製品に対する不買運動も展開した。その結果、日本の嫌韓感情は最高潮に達し、「文在寅政権を相手にせず」の雰囲気が日本の政府内ばかりでなく国民感情としても沸き上がった。 尹錫悦政権は就任以来、政府ベースでは過去最悪となったこうした日韓関係を改善するべく取り組んできた。しかし、文在寅政権によって積み上げられた反日・嫌韓感情は容易には改善しない。当面は、これ以上の悪化を防ぎつつ、対話を増やしていく中で、関係改善を模索していくことになるだろう。 そのために急を要するものは、徴用工問題で日本企業資産の現金化を防ぐことである。もしも現金化されれば、日韓関係はしばらく修復不可能になろう。 そして東アジアの安全保障にとって障害となっている日韓関係の不安要素を除去することが必要だ。日韓の不信を助長しているのは、自衛隊機に対する射撃統制レーダーの照射、海上自衛隊旗を旭日旗として排除する姿勢、GSOMIAの終了通告などである』、「文在寅政権によって積み上げられた反日・嫌韓感情は容易には改善しない。当面は、これ以上の悪化を防ぎつつ、対話を増やしていく中で、関係改善を模索していくことになるだろう。 そのために急を要するものは、徴用工問題で日本企業資産の現金化を防ぐことである。もしも現金化されれば、日韓関係はしばらく修復不可能になろう」、「現金化」の阻止は至上課題だ。
・『日本企業資産の現金化を防ぐため 韓国政府は懸命の努力 徴用工を巡る三菱重工業への賠償命令を不服とする同社の再抗告について、審理をさらに続けるか判断する期限(8月19日)が迫る中、大法院(日本の最高裁に相当)は同日までに決定を出す可能性がある、と複数の韓国のメディアが報じていた。 その一方で、日本政府は韓国で日本企業に対する資産売却など現金化措置が取られる場合、厳しい「対抗措置」を準備しているとも報じられていた。 このため、韓国政府は、日本企業の資産の現金化を防ぐため、懸命の努力を行ってきた。 まず、韓国政府は解決策を見いだすべく、外交部(日本の外務省に相当)の趙賢東(チョ・ヒョンドン)第1次官の主宰で、徴用工支援者団体、法律代理人、学会専門家、言論・経済界から12人が参加する官民協議会を設立し、これまでに3回の会合を行った。しかし、元徴用工団体からは協力が得られていない。 外交部は大法院に対し、「徴用工問題解決に向けた外交的努力」を説明する意見書を提出した。これは、国家間の利害関係が対立する外交的事案の場合、行政府の立場が優先して反映されるべきという「司法自制の原則」を要請するメッセージだ。 朴振(パク・チン)外相は7月18日から20日まで訪日し、林芳正外相と会談し、岸田文雄首相を表敬した。両外相は会談で「韓国裁判所が日本企業の資産を現金化する最終結論を下す前に解決策を模索しなければならない」ということで認識を共有したが、具体策にまでは踏み込めなかった。日本側からはまず韓国が解決策を提示すべきと念押しされた。 尹錫悦大統領も、就任100日目の会見で、徴用工は大法院の判決で法による補償を受けることになっているが、「日本が懸念する主権問題の衝突なしに債権者が補償を受けることができる方法を模索している」と主張した。尹錫悦大統領自身が解決に努力していることを明言することで大統領の責任に転嫁し、批判を免れることができるようになった。 尹徳敏(ユン・ドクミン)駐日韓国大使は、韓国特派員との懇談会で、日本企業の資産を現金化した場合、「韓国企業と日本企業との間で数百兆ウォン(数十兆円)とも言われるビジネスチャンスを失うこともあり得る」と述べたことの重大さを訴えた。 大法院は韓国政府の努力に期待し、決定を先延ばしした。それでも韓国のメディアは、この問題を担当してきた金哉衡(キム・ジェヒョン)大法官(最高裁判事)が9月4日に退官するので、その前に決定があるはずだと一斉に報じた。 しかし、結論から言えば筆者が主張した通り、金大法官は退官後にその決定が韓国経済に甚大な被害が及ぶことは望まず、決定は行わなかった。 金大法官の退官に伴い、後任の裁判部がいつ構成されるかもわからない状況となっている。オ・ソクジュン大法官候補に対する国会人事聴聞会特別委員会の報告書採択が与野党の合意の不発により、大法官の空白も長期化する展望である。 こうした事態の進展によって、尹錫悦政権は時間稼ぎをすることができるようになった。 それ以上に重要なことは、元徴用工団体として裁判を通じて早期解決の見通しが立たなくなったことで、尹錫悦政権との話し合いに応じる期待が出てくる可能性があることであろう。 こうした中、朴振外相は2日、光州を訪問、元徴用工と面会した。元徴用工を支援する市民の会は当初、外交部は朴外相との面会を求めるよりも先に大法院に出した意見書に対する謝罪が先であると主張していた。それでも朴外相と元徴用工は面会を行った。 朴外相は元徴用工と面会し、「強制徴用被害者の方々の問題をできる限り早期に誠意を持って解決していくという強い意思を持っている」「問題がうまく合理的に解決するようにしたい」と伝えた。 しかし、面会後、記者団から「意見書を撤回する意思があるのか」と問われ、「大法院の民事訴訟規則など法令と手続きに基づいて正当にしたものであり、撤回する考えはない」と回答した。 さらに「韓日交渉を通じてこの問題を合理的に解決していくため、近く日本を訪問して林外相と協議する」と述べた。 韓国政府が徴用工問題の解決を模索して設立した官民協議会の第4回会合は5日に開催される予定であるが、元徴用工支援団体はこれには参加しない予定だという。徴用工を巡る問題の解決策づくりはまだしばらく時間がかかりそうである』、「韓国政府が徴用工問題の解決を模索して設立した官民協議会の第4回会合は5日に開催される予定であるが、元徴用工支援団体はこれには参加しない予定だという。徴用工を巡る問題の解決策づくりはまだしばらく時間がかかりそうである」、なるほど。
・『レーダー照射問題は包括的に解決する意向 2018年、日本海で遭難した北朝鮮漁船を捜査中だった韓国の駆逐艦「広開土大王」は近くを飛行する日本海上自衛隊のP1哨戒機に向けて射撃統制レーダーを照射した。これに対し、韓国海軍は、日本に向けたレーダー照射は誤解、レーダー照射はしていないなど、弁明が二転三転していた。 しかし、 与党「国民の力」の申源シク(シン・ウォンシク)議員は、韓国軍当局が2019年2月に海軍へ通達した「日哨戒機対応指針」を暴露した。これは日本の自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定したものである。しかも、同指針は青瓦台国家安保室が主導したものの由である。事件は指針の出る前であるが、日本のP1に対してレーダーが照射された高い可能性を裏付けるものだろう。 (シン・ボムチョル)国防次官は2日に報道された毎日新聞とのインタビューで「公式的に(韓国艦艇の日本哨戒機に向けた射撃統制)レーダー照射はなかったというのがわれわれの立場だが、両国関係の改善と国防協力の観点で包括的に解決する意思がある」と述べた。 この発言は韓国政府の公式の立場としてはっきりと過ちを認めたわけではないが、今後の話し合いの中で、説明するとの意向が含まれているのではないか。 申次官は、文在寅政権当時の指示について「指針ではないが、文政権は日本に対してのみ追加手続きを実施した」「適切かどうかは疑問だ」と述べた。これは事実上誤りを認めたものではないか。 日韓で安保協力を進めていくためには、自衛隊機に対するレーダー照射事件について決着をつけることは不可欠であり、韓国の国防次官の発言はその一歩となるかもしれない』、「韓国軍当局が2019年2月に海軍へ通達した「日哨戒機対応指針」を暴露した。これは日本の自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定したものである。しかも、同指針は青瓦台国家安保室が主導したものの由である。事件は指針の出る前であるが、日本のP1に対してレーダーが照射された高い可能性を裏付けるもの」、やはり「青瓦台国家安保室が主導」したとは、「文在寅政権」らしい行動だ。
・『海上自衛隊観艦式への出席は日韓協力の再出発の象徴に 8月23日、日本政府は「11月に開かれる海上自衛隊創設70周年国際観艦式に韓国海軍を招待した」と発表した。前回2019年の観艦式の折には、自衛隊哨戒機への韓国駆逐艦からのレーダー照射問題などで日韓関係が緊迫しており、韓国海軍は招待されなかった。今回の招待は2015年以来7年ぶりのことである。 しかし、韓国海軍の参加は韓国にとっても難しい決定である。韓国では日本の海上自衛隊旗が旭日旗であり、日本帝国主義の象徴とみる向きがある。特に文在寅政権は、韓国軍の出席する行事から旭日旗の排除を求めていた。18年10月に韓国・済州島で開かれた国際観艦式では、韓国が日本に対し、旭日旗の掲揚自粛を要請。日本は参加を取りやめた経緯がある。 海自の観艦式では、旭日旗が掲揚されることから、参加には慎重であるべきとの声も韓国では少なくない。 しかし、尹錫悦政権は日本側の招待を受けて観艦式に参加し、海上捜索・救難共同訓練も行うことを前向きに検討している模様だ。 今回、韓国海軍が観艦式に出席することは、尹錫悦政権が文在寅政権の束縛から解放され、安全保障面で日韓協力の再出発の象徴となるのではないか』、「今回、韓国海軍が観艦式に出席することは」、「安全保障面で日韓協力の再出発の象徴と」なってほしいものだ。
・『尹錫悦政権への交代で高まるGSOMIA復活の可能性 日本政府は19年7月、韓国に輸出した戦略物資が不正に中国や北朝鮮に再輸出されている懸念があるとして、韓国を包括的な輸出許可の対象から除外し、個別に許可を得る必要がある国に指定替えした。文在寅政権はこれに反発し、日本に対しGSOMIAの終了を一方的に通告した。 しかし、日韓のGSOMIAは北朝鮮の核・ミサイル実験の際の情報共有に効果を発してきたものであり、北朝鮮の核・ミサイル開発が極めて進展しているときに破棄するのは北朝鮮や中国の思うつぼである。北朝鮮の核・ミサイル開発に対して危機感の足りなかった文在寅政権ならではの判断だろう。 尹錫悦政権に代わり、韓国から中国や北朝鮮に対し戦略物資が不正に輸出される可能性は極めて低くなっている。文在寅政権の頃の戦略物資の管理体制とは根本的に改善が見られるだろう。 したがって、戦略物資の輸出問題について韓国政府と建設的な調整を行う余地は広がっており、それを受けてGSOMIAの終了を一時停止している状況を改め、完全復活させることは可能であろうし、日韓首脳会談が開かれれば、その方向で話し合いが行われるのではないか。 文在寅政権の後遺症がいまだ残る中、日韓の関係改善は一朝一夕には実現しないだろう。その第一歩として日韓首脳会談が実現したときに多くの問題を同時に解決できるよう外交当局の根回しが必要である。いずれにせよ、関係改善の糸口をつかむ前に、関係を悪化させることはぜひとも避けたいものである』、「尹錫悦政権に代わり、韓国から中国や北朝鮮に対し戦略物資が不正に輸出される可能性は極めて低くなっている」、「戦略物資の輸出問題について韓国政府と建設的な調整を行う余地は広がっており、それを受けてGSOMIAの終了を一時停止している状況を改め、完全復活させることは可能であろうし、日韓首脳会談が開かれれば、その方向で話し合いが行われるのではないか」』、「韓国を包括的な輸出許可の対象」に復活させ、「GSOMIAの」「完全復活」させてほしいものだ。
第三に、9月17日付け東洋経済オンラインが掲載した『最強の働き方』『一流の育て方』著者 のムーギー・キム氏による「「韓国に怒ってる日本人」に多い、超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ、元寇の謝罪」と言われても…」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/618365
・『「そっか、日本と韓国って」と検索したことがあるだろうか? 「韓国へのイライラ、日本へのモヤモヤがいっきに解消する」「グローバルな視点で、確かな学術論文に依拠して書かれている」「爆笑エピソードが満載で、絶対にこの著者にしか書けない」と話題を呼び、『週刊ダイヤモンド』『PRESIDENT』等のビジネス誌の書評でも評価されているのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』だ。 著者は、『最強の働き方』『一流の育て方』などのベストセラーでもよく知られる、著作累計70万部のムーギー・キム氏。京都に生まれ、日韓両国の文化の中で育ち、フランス・香港・シンガポールで学び働いてきた。同書は、著者が「人生を通じて最も書きたかった1冊」という。 以下では、そのムーギー氏が、「なぜか行ったこともない韓国に大激怒している人たちにありがちな、よくある4つの残念な誤解」について考える』、「ムーギー・キム氏」は「日韓」関係を述べるには最適の人物のようだ。
・『どちらの「研究結果」を信じるかは、あなた次第 「そっか、日本と韓国って」と検索したら、韓国へのモヤモヤのすべてがクリアに解決するというのが、近頃の私の中での定説になっている。 しかし、皆様そうなされないからか、日韓関係および私、ムーギー・キムへの誤解は根強い。 前回のコラムに対しても、おそらく遺伝子研究のイの字も知らないだろう方々が、2012年の日本人類遺伝学会による発表や、2019年5月13日の国立科学博物館による発表に異を唱え、それはそれは得意げに「Y染色体D系統は、日本人が韓国人と別人種であることの証だ」などなどと1000件くらいの批判コメントを寄せられるのだ。これを読んだ私の開いた口は塞がらず、逆に閉じた瞼が二度と開くことはないのである。 D系統の割合が日本は他の東アジアより高いというだけで、それでも韓国と同様にO系統が一番多いことなど細かいことを書くと果てしないので、やめておこう。人は所詮、信じたいことを信じる生き物だ(「それはお前のことだろ!」と数多くのブーメランがコメント欄で飛び交う姿が目に浮かぶ)。 それでもネットのどこぞで目にした怪しげな「研究結果」か、2019年という最近の、我らが国立科学博物館の「研究結果」のどちらに信憑性を感じるかは、読者の皆様に委ねるしかないのだ。 それにしても、この連載コラムを書けば書くほど、ネットで熱心にコメントを書き込んでくださる皆様と私の溝が広がっているのでは、と心配になっている。 そこで、皆様の温かい、時に熱すぎる叱咤激励に感謝の気持ちを捧げつつ、今日も元気に、深すぎる教養コラムを書かせていただこう。) 日韓関係でよく問題になるのが、「韓国は国際合意を遵守していない」という議論である。 「日本政府は合意を守っている。守っていないのは韓国のほうだ」と思っている人は多いだろう。しかし韓国では、日本の政治家こそ「国際合意を無視し、過去を蒸し返す」と思っている。 こう書くと早くも大激怒されそうだが、念のため血圧を下げる薬を飲みながら、以下を読み進めていただきたい。 【誤解1】
「日本政府は国際合意を守っているのに、韓国政府が一方的に破棄してきた」 1993年の河野談話や1995年の村山談話では、「戦争の悲惨さを若い世代に語り伝え」「歴史研究、歴史教育を通じて、このような問題を永く記憶にとどめ」と語られた。 ところが、実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された。これで、合意を守っていると言えるだろうか?』、「実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された」、そんな事実は知らなかったので、愕然とした。
・『日本は政権がなかなか変わらないだけ 「韓国は政権が変わるたびにコロコロ変わる」と言われる。しかし、日本はたんに政権がなかなか変わらないだけで、政権を担う勢力が変われば、外交政策や歴史認識、約束ですら、コロコロ変わるのである。 2015年の慰安婦合意では、「最終的かつ不可逆的に解決される」と相互に確認された。 これは韓国側からすれば、日本政府や政権に影響のある政治家たちから、「慰安婦は嘘だった」などと、また村山談話に実質的に反する声が出てくることを牽制するものだった(ただし、私は慰安婦合意に対する韓国政府の対応を擁護するものではない)。 2015年に世界文化遺産に登録された軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。 しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があったのである。 また、元徴用工への慰謝料の支払い問題については、1965年の日韓基本条約での曖昧な合意が根底にある。日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。 その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。 しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である』、「軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。 しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があった」、「日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。 その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。 しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である」、いずれも恥ずかしながら知らなかった。日本のマスコミももっと丁寧に説明すべきだ。
・『「正当性」と「合法性」は違う問題 しかも韓国では、この日韓基本条約が結ばれたとき、民意を代表しない軍事独裁政権が、国民の反対を押し切ってこの問題を棚上げにしたのだった。 日韓併合の実態や経緯に関する学術的証拠に関しては、長くなるので詳細は新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』に譲ることにする。 ただし考えてみていただきたいのは、イギリスが清国に仕掛けたアヘン戦争も、侵略した側にとってみれば「合法」だった。 アメリカによるイラク侵攻も、ロシアによるウクライナ侵攻も、やっている側としては「合法」という主張である。 「正義」と「合法」、そして「正当性」と「合法性」は、また違う問題なのである。 次によく目にするのは、「日本から金をせびるために、歴史問題を蒸し返す」という言説だ。 【誤解2】「韓国は、日本から金をゆするために歴史問題を蒸し返す」 しかしながら、たとえば慰安婦合意で日本が拠出した10億円は、韓国の200兆円に迫るGDPの何%だというのだろうか(念のために言っておくと、20万分の1=0.00005%である)。 韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰していたし、村山談話のときの民間からの寄付金に関しても、「国家賠償という性質ではないので、受け取るな!」という反発が強かったのをご存じだろうか。 もし、いま問題になっている元徴用工への賠償で差し押さえられた資産を現金化したとしても、その時に得られる金額は全体的にはごくわずかだ。 その後の経済紛争で生じる損失に比べれば微々たる金額であり、「経済的な観点からも、この現金化は合理的ではない」と韓国国内でも議論されている』、「慰安婦合意で日本が拠出した10億円は」「韓国の200兆円に迫るGDPの」「20万分の1」、「韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰」、なるほど。
・『では、韓国が求めているのは? 韓国側の当事者が求めているのは、「お金」よりも「許し、前に進むための名分」であり、村山談話や河野談話のときのように、あとでその趣旨を覆すような発言をしたり、骨抜きにされたりすることがない、「真心」すなわち「チンジョンソン(真の意志)」がこもった謝罪の気持ちなのである。 ちなみに、日韓基本条約のときに日本から韓国に「経済協力金」が流れているが、その資金の使途は、特定の日本企業からの購入費用に充てられることになっていた。 その後、毎年のように何兆円もの巨額の貿易黒字を日本が韓国からずっと獲得することの遠因になっていることも、理解しておきたい。日韓基本条約で、結果的に日本側も恒常的に儲けていたともいえるのだ。 また、「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか? これを鑑みたとき、日韓基本条約で払った金額ばかりに目を向けるのではなく、巨額の分断・統一コストにも目を向けた、歴史に対する謙虚さは必要であろう。 そして一番多い誤解にもとづく批判は、なんと「『元寇』のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」というものである。 これらの怒りも「誤解」に基づくか、重要な文脈を省いてしまっている。 【誤解3】「『元寇』と『応永の外寇』は朝鮮側起点の一方的侵略だったから、秀吉の朝鮮出兵も正当化でき、そもそも朝鮮側が悪い!」 そもそも「元寇」では、高麗軍および三別抄(さんべつしょう/モンゴルへの服属を拒んだ高麗国軍の一部の勢力)が約40年にわたってモンゴル軍に対抗したおかげで、日本へのモンゴル(元)の襲来は大幅に遅れた。 当初高麗は、モンゴルが日本を攻めれば自分たちが巻き込まれるので、日本にモンゴルに服属するよう遣いを送っていた。また、これとは別に三別抄は、モンゴルに対抗していたときに、日本に「モンゴルへの共闘」を呼び掛けた。 鎌倉幕府はこの相反する状況を理解できず、幕府と朝廷で指揮系統が混乱していたこともあって、回答しなかった。 そんな文脈のなか、当時の高麗王朝はモンゴルに対する姿勢で派閥争いがあったので、モンゴルをバックに高麗王朝に君臨しようとした忠烈王(ちゅうれつおう)が、フビライハンの歓心を買うべく自国民を犠牲にし、日本の大宰府攻めを進言したと言われている。 これは、日本にとっては大迷惑だが、反モンゴル派の高麗人にとってもたまったものではなかっただろう。 「元寇」から約150年後の室町時代にあった「応永の外寇」は、倭寇が朝鮮を襲い、これに対抗するために朝鮮軍が遠征したものである。 そのどちらも、秀吉による朝鮮出兵や、明治政府による「日韓併合」を正当化する類のものでもないのだが、近年ネットで「元寇と応永の外寇は朝鮮側起点の一方的侵略だったから、秀吉の朝鮮出兵も正当化でき、そもそも朝鮮側が悪い!」などという誤解がかなり広まっているので、念のため解説しておくこととした。 それにしても、「元寇」や「応永の外寇」で、なんで私が非難されなければならないのだろうか』、「「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか?」、「分断コストと統一コスト」を日本に責任があるとする考えにはついてゆけない。「『元寇』のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」、こんな馬鹿な主張をしている日本人は仮にいたとしても、ごく少数で、こんなところで取上げるべきなのだろうか。
・『なんと筆者に「元寇」の賠償要求も! なかでも私に対する批判の中でも衝撃的なケースでは、「元寇のとき、高麗軍に私の先祖が4人殺されたので、1人1億円で合計4億円、筆者(つまり私)が賠償せよ!」というものもあった。 さらに、比較的面倒見のいい私でも付き合いきれないのが、「刀伊(とい)の入寇」への謝罪要求だ。これ、1000年くらい前に中国大陸に住む北方民族の女真族(じょしんぞく)を中心とした海賊が攻め込んできたときの話だから、いくら何でも私には関係ないのではなかろうか。 それでも、私が謝ることで気が済むのなら、謝罪いたしましょう。「刀伊の入寇、なんか知らないけど、ごめんね」。 ここまでお読みくださったかたの中には、プンスカ激怒されている人もいらっしゃることだろう。「反日韓国人が、また嘘を垂れ流している!」と。 ちなみに私は、「北朝鮮のスパイ」とも書かれている。「一人南北統一」で、八面六臂の大活躍ではないか。 【誤解4】「ムーギー・キムは在日だから韓国批判はしない」 しかし私は『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』では、韓国の擁護だけでなく、数多くの韓国批判も行っている。 韓国側は、ぜひ次のような点をきちんと記憶すべきであろう。 ・韓国は、戦後の日本からの経済協力がなければ、漢江の奇跡をあの速さで起こせなかった ・日本には、韓国が感謝すべき「有り難い人」がたくさんいる ・韓国は的外れな怒り方で自爆している ・当事者でもない今の若い日本人に、いつまでも謝罪を求めるのは的外れ ・過度な旭日旗批判は、私が見ても失笑ものの言いがかりに見える ・元徴用工への慰謝料は、日本に支払わせるべきでない 他にも、高麗王朝の魂を元に売った忠列王は大迷惑などうしようもない人物だと思うし、ベトナム戦争での民間人虐殺にも、私は極めて批判的である。 私はこれまでも、一部の韓国人にとっては私が「親日派の嫌韓主義者」と批判されるようなこともたくさん書いているし、韓国人コミュニティの掲示板で私が猛批判をされることもある』、間に立っている人間が、双方から批判されるのは、よくあることだ。
・『日本と韓国双方に愛情を抱くからこそ書けた1冊 私は重ね重ね、日本側の読者にさえおもねればいい一部の作家や、韓国側の読者さえ喜ばせればいい韓国の一部の政治家は、なんとラクな商売かと思ってきたものである。 しかし、両国双方の読者に認知不協和を起こし、猛批判と罵詈雑言を受けようとも、両国の「言い分」と「誤解」をそれぞれ知っている私が、そして何よりも日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である。 今回のコラムをお読みくださったあなたは、「そっか、日本と韓国って」と検索しながらすっくと立ち上がり、「ムーギー・キムよ、見直した、その通りや!」とスタンディングオベーションをして、周りの人に奇異な目で見られているだろうか。 それとも、「やはり『反日韓国人』とはわかり合えない。国際合意を無視した裁判所の判決を、私は忘れていませんよ?(ニヤリ)国交断絶に限ります」とネットでコメントして、コメント欄を焦土にされているだろうか? その答えは、いま本コラムを読んでおられる、あなたのみぞ知る、である』、「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である」、前述のように、同氏が記述する韓国人の日本批判には、私が知らなかった点もあり、興味深いが、日本人の韓国批判には、そんな批判が本当にあるのかと疑問に思うものもある。それでも、全治としては、「「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている」筆者らしい力作だ。今後のさらなる著作に期待したい。
タグ:『最強の働き方』『一流の育て方』著者 「韓国政府が問題解決に積極的に取り組み始めたことは評価すべきであるし、問題解決が日本の国益に沿うものであるとともに地域の安定にも寄与することは言うまでもない。韓国側の前向きな対応を好機ととらえ、日本政府も可能な範囲で積極的に動くべきときであろう」、同感である。 「「ソ・オ・ナム」・・・と揶揄」されるような側近政治は止める方がよさそうだ。 「大法院は14人の裁判官で構成されているが、その大半が文在寅政権時代に選任されており、進歩系の考えの持ち主で占められている。従って保守系の尹錫悦政権の意向に沿うような判断がなされるかは予断を許さない」、当面の注目点は、退官した「担当判事」の後任の判断だ。 ムーギー・キム氏による「「韓国に怒ってる日本人」に多い、超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ、元寇の謝罪」と言われても…」 「尹錫悦政権に代わり、韓国から中国や北朝鮮に対し戦略物資が不正に輸出される可能性は極めて低くなっている」、「戦略物資の輸出問題について韓国政府と建設的な調整を行う余地は広がっており、それを受けてGSOMIAの終了を一時停止している状況を改め、完全復活させることは可能であろうし、日韓首脳会談が開かれれば、その方向で話し合いが行われるのではないか」』、「韓国を包括的な輸出許可の対象」に復活させ、「GSOMIAの」「完全復活」させてほしいものだ。 「今回、韓国海軍が観艦式に出席することは」、「安全保障面で日韓協力の再出発の象徴と」なってほしいものだ。 「韓国軍当局が2019年2月に海軍へ通達した「日哨戒機対応指針」を暴露した。これは日本の自衛隊機が2次警告通信にも応じず近距離を飛行した場合、「追跡レーダー照射」で対抗するよう規定したものである。しかも、同指針は青瓦台国家安保室が主導したものの由である。事件は指針の出る前であるが、日本のP1に対してレーダーが照射された高い可能性を裏付けるもの」、やはり「青瓦台国家安保室が主導」したとは、「文在寅政権」らしい行動だ。 「大法院の判断」は9月25日付けの聯合ニュースによれば、担当判事の退官により最終決定が遅れる見通しになった、とのことである。 「尹錫悦大統領」の登場で、日韓関係は一気に前進すると思っていたが、ペースは予想外にスローだ。 「慰安婦合意で日本が拠出した10億円は」「韓国の200兆円に迫るGDPの」「20万分の1」、「韓国内でも、「そんなはした金を受け取って、こんな合意を結ぶのか! 全額返せ!」という議論が沸騰」、なるほど。 「日韓基本条約では、植民地支配の合法性・違法性に関して、日韓の間で合意はなく、棚上げされたのをご存じだろうか。 その結果、「合法論」に依拠する日本政府の立場では、元徴用工に支払われたのは「未払い賃金」であり、併合は合法なので「慰謝料は不要」ということになった。 しかし、「違法論」に依拠する韓国政府の立場では、未払い賃金は払われたが、慰謝料は払われていないという理解である」、いずれも恥ずかしながら知らなかった。日本のマスコミももっと丁寧に説明すべきだ。 「軍艦島に関しても、強制連行等について「犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応を取る」と日本政府が国際的に約束している。 しかしそれにもかかわらず、その約束が守られなかったことから、ユネスコから日本政府に遺憾決議が出されて、「合意を履行するように」という批判があった」、 「実際には、その後のタカ派による長期政権の間に、慰安婦の記述などは大半の教科書から削除または削減され、「愛国心教育」が強化された」、そんな事実は知らなかったので、愕然とした。 それでも、全治としては、「「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている」筆者らしい力作だ。今後のさらなる著作に期待したい。 「日韓両国を「自分の故郷」だと思って愛情を抱いている私が、「これを書かなければ誰が書くのか」という覚悟で執筆したのが、新刊『そっか、日本と韓国って、そういう国だったのか。』である」、前述のように、同氏が記述する韓国人の日本批判には、私が知らなかった点もあり、興味深いが、日本人の韓国批判には、そんな批判が本当にあるのかと疑問に思うものもある。 間に立っている人間が、双方から批判されるのは、よくあることだ。 「『元寇』のときに高麗は対馬を侵略した! 『応永の外寇』でも対馬を侵略した! 謝罪せよ!!」、こんな馬鹿な主張をしている日本人は仮にいたとしても、ごく少数で、こんなところで取上げるべきなのだろうか。 「「大日本帝国」に占領され、かつ日本が負けなければ、朝鮮半島が南北に分断されることもなかったわけだが、その分断コストと統一コストは、どれほど巨額だろうか?」、「分断コストと統一コスト」を日本に責任があるとする考えにはついてゆけない。 「ムーギー・キム氏」は「日韓」関係を述べるには最適の人物のようだ。 「韓国政府が徴用工問題の解決を模索して設立した官民協議会の第4回会合は5日に開催される予定であるが、元徴用工支援団体はこれには参加しない予定だという。徴用工を巡る問題の解決策づくりはまだしばらく時間がかかりそうである」、なるほど。 「文在寅政権によって積み上げられた反日・嫌韓感情は容易には改善しない。当面は、これ以上の悪化を防ぎつつ、対話を増やしていく中で、関係改善を模索していくことになるだろう。 そのために急を要するものは、徴用工問題で日本企業資産の現金化を防ぐことである。もしも現金化されれば、日韓関係はしばらく修復不可能になろう」、「現金化」の阻止は至上課題だ。 武藤正敏氏による「韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは、元駐韓大使が解説」 ダイヤモンド・オンライン 薬師寺 克行氏による「韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが」 東洋経済オンライン (その17)(韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが、韓国・尹大統領を苦しめる日韓関係の「負の遺産」とは 元駐韓大使が解説、「韓国に怒ってる日本人」に多い 超残念な4大誤解 「4億円を賠償せよ 元寇の謝罪」と言われても…) 日韓関係
日本の構造問題(その28)(冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている、ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか) [経済政治動向]
日本の構造問題については、7月20日に取上げた。今日は、(その28)(冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている、ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか)である。
先ずは、8月22日付けPRESIDENT Onlineが掲載したHONZ代表の成毛 眞氏と経営共創基盤(IGPI)グループ会長の冨山 和彦氏による「冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60781
・『今の日本では「個人の力」の前に「個人の学ぶ力」を求められる 一人ひとりの日本人が「個人の力」を身につけ、生かしていこうとするとき、やはりそこでも壁として立ちはだかるのは、新陳代謝が進まず固定化した産業構造、社会構造だ。 これからの時代に求められる力は、新しい力である。しかし、古くて固定化した産業構造に身を置いても、あるいは、そこに向けて用意されている古い教育システムに身を置いても、それだけでは新しい力は身につかない。 長年にわたり、あれだけSTEM(ステム)(※1)が大事だと言われながら、相変わらずIT人材が足りない、AI技術者が育たないと嘆いている根本原因は、まさに人材教育、人材投資に関わる仕組みが古い構造に固定化されていることにある。 だから、ここでも自らの頭で考え、自らの頭で判断して、自分にフィットした「個人の力」を身につける道筋を探索しなくてはならない。「個人の力」の前に「個人の学ぶ力」を求められるのが、今の日本なのである。 GDPとは、要するに「付加価値の総計」である。付加価値をつくる能力がなければ、経済成長率も上がらないし、国民所得も増えない。日本のような成熟した先進国において、キャッチアップ型、コストと価格競争力勝負の大量生産工業への先行投資で付加価値が生まれる余地は小さい。しかも、付加価値創出はデジタル化とグローバル化による破壊的イノベーションに牽引される時代だ。 イノベーションの時代の付加価値の源泉は、一人ひとりの人間がもつ発想力、創造力、行動力である。そんな個がチームとなって相乗力が生まれ、新しい企業、さらには産業となってスケールする(※2)。 時代の移り変わりによって付加価値を生み出す力を失った古い産業構造のなか、古い組織のルール、古いお作法のなかでは、新しい付加価値を創造する個が輝くのは難しい。サッカーの天才も野球チームにいる限り、才能を開花させられないのは当たり前の話だ。 そこで古い産業構造が固定化して居座りを決め込めば、新しい付加価値が芽吹き大きく成長するスペースは、なかなか生まれない。 政府がお題目としてベンチャー支援を唱えても、他方で古い産業、古い企業の存続をあの手この手で支援すると、効果は相殺され、結果は現状維持となってしまうのだ。そして日本経済の付加価値創出力は停滞を続ける』、「イノベーションの時代の付加価値の源泉は、一人ひとりの人間がもつ発想力、創造力、行動力である。そんな個がチームとなって相乗力が生まれ、新しい企業、さらには産業となってスケールする」、「付加価値を生み出す力を失った古い産業構造のなか、古い組織のルール、古いお作法のなかでは、新しい付加価値を創造する個が輝くのは難しい・・・そこで古い産業構造が固定化して居座りを決め込めば、新しい付加価値が芽吹き大きく成長するスペースは、なかなか生まれない。 政府がお題目としてベンチャー支援を唱えても、他方で古い産業、古い企業の存続をあの手この手で支援すると、効果は相殺され、結果は現状維持となってしまうのだ。そして日本経済の付加価値創出力は停滞を続ける」、ある意味で真相を突いている。
・『経済危機のたびにゾンビ型企業延命メカニズムが働く理由 ちなみに、2008年のリーマンショックのような経済危機が起こっても、打撃の規模の割に、日本で倒産する企業は世界に類を見ないほど少ない。直近のコロナ禍でも、現在の倒産件数は、日本史上で見ても最低水準で推移している。 倒産する企業が少ないと聞くと、いいことのように思えるかもしれない。しかし、これは政府が巨大な支出をして倒産を回避しているだけの話だ。 要は、この国は個人を直接救う公助能力があまりにも低いのである。制度も弱いし、デジタル化も進んでいないので、有事に迅速に手を差し伸べられない。 だから毎回、企業内共助システム、「二重の保護」構造に頼らざるを得ない。そこで必死に融資や助成金で企業を支えるしか、困窮した国民を支える方法がないのだ。 これしかないので局面的にはやむを得ないのだが、すでに触れたように、この仕組みは大きな副作用を伴う。 すなわち、突然襲ってくる危機的状況において、どこでピンチになっているかわからない困窮者の生活、人生を救うには、とりあえず規模の大小、競争力の強弱、生産性の高低に関係なく、すべての企業を支えるしかない。 すると企業の新陳代謝は妨げられ、しかもここで分不相応に大きな借金を抱えて生き延びた企業の多くが過剰債務企業、すなわちゾンビ企業になってしまう。そしてその後も政府の支援に頼るようになる。結果的に、産業構造の固定化がさらに進んでいくのである』、「突然襲ってくる危機的状況において、どこでピンチになっているかわからない困窮者の生活、人生を救うには、とりあえず規模の大小、競争力の強弱、生産性の高低に関係なく、すべての企業を支えるしかない。 すると企業の新陳代謝は妨げられ、しかもここで分不相応に大きな借金を抱えて生き延びた企業の多くが過剰債務企業、すなわちゾンビ企業になってしまう。そしてその後も政府の支援に頼るようになる。結果的に、産業構造の固定化がさらに進んでいくのである」、その通りだ。
・『政府が無差別にカネを配ってしまった事業の末路 欧米でもコロナ禍に際してかなり大きな政府支出で緊急経済対策を打っているが、失業率も倒産件数も相応に増えている。 もともと、どの国も平時から起業率も廃業率も日本より高いのである。コロナ明けを想定すると、長い目で見ると産業の新陳代謝がさらに進み、デジタル技術を駆使した新しい業態、新しい企業への世代交代が進むだろう。歴史的にも、経済危機の後はイノベーションが加速する場合が多い。 しかし、日本では、むしろ古い産業がゾンビ化したまま生き残り、産業構造の固定化が進んでしまう傾向がある。バブル崩壊の後も、リーマンショックの後もそうだった。 原因が何であれ、稼げない企業は淘汰とうたされるのがビジネスの理ことわりだ。そういう意味では、倒産企業が少ないことは、長期的な経済発展という観点からは決して歓迎すべきことではないのである。 実際、コロナ禍でも、まったく同じ構図になりつつある。2020年に73兆円、2021年には55兆円の巨大な経済対策予算が組まれ、一般的には、10万円の個人向け給付金やGo Toキャンペーンなどが注目された。しかし、実はいろいろな形で企業にも巨額の資金が流れているのだ。 キャッシュ・イズ・キング。名目が補助金だろうが、給付金だろうが、融資だろうが、キャッシュが回っている限り、どんなに大赤字になっても企業は潰れない。だから、企業倒産件数は史上最低水準で推移しているのだ。 しかし、無差別にカネを配った結果、企業のなかにはその使い道がなく、預金額ばかりがどんどん積み上がってしまっているところも多い。 「このままでは潰れるかもしれない」という危機感がなければ、何かを変えよう、新しいことをやってみようという機運も高まりにくい。むしろ政府がいくらでも金を出してくれるのだから、危機が収まるまではじっとしていようと考えるのが人情だ』、「名目が補助金だろうが、給付金だろうが、融資だろうが、キャッシュが回っている限り、どんなに大赤字になっても企業は潰れない。だから、企業倒産件数は史上最低水準で推移しているのだ。 しかし、無差別にカネを配った結果、企業のなかにはその使い道がなく、預金額ばかりがどんどん積み上がってしまっているところも多い。 「このままでは潰れるかもしれない」という危機感がなければ、何かを変えよう、新しいことをやってみようという機運も高まりにくい。むしろ政府がいくらでも金を出してくれるのだから、危機が収まるまではじっとしていようと考えるのが人情だ」、その通りだ。
・『大企業は「戦略的グダグダ」ではなく「真正グダグダ」である しかし、コロナ禍が去ってみると、企業間の格差、産業間の実力格差は広がっているだろう。そして、赤字補塡ほてんの借金を積み上げる一方で未来投資をためらっていた企業はゾンビ化していく可能性が高い。 ゾンビにいくら鮮血を注いでもゾンビとして生きながらえるだけであり、人間には戻らない。それと同じように、生産性の低い企業が、利益を上げる本来あるべき企業として蘇るのではなく、生産性が低いまま延命してしまうことになる。 私は20年前の金融危機に際し、産業再生機構(※3)を率いる立場になった時、現場のプロフェッショナル300名とともに公的資金10兆円を産業と金融の一体再生のために駆使したが、ゾンビ企業の延命にはカネを使わなかった。 そのことで多方面から矢のような非難を浴びたが、企業をゾンビ状態で延命させるべきではない。政府が救うべきはゾンビ企業ではなく、稼ぐ力が残っている事業であり、そこで働く人間なのだ。だから、むしろ経済危機に際して起きる企業の新陳代謝を止めるべきではない。 政府は企業の退出に伴う社会的コストの最小化、すなわちオーナー経営者の個人破産の回避や、労働者の転職や職業訓練、リカレント教育(※4)にこそ金を使うべきだと主張してきた。 要は社会全体として、過度な企業内共助の仕組みを脱却しよう、政府は企業、産業の新陳代謝を前提とした、公助共助連動型の包摂的なセーフティネットを整備すべきと主張してきたのである。 しかし、その後も企業内共助依存と「二重の保護」構造の転換は進まず、ひとたび経済危機が起こって企業が風前の灯になりかけると、毎回、政府が巨額のばらまきで救済する。 そんなズブズブの官民関係が続いているのだ。 バブル崩壊後の金融危機、ITバブルの崩壊、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ禍と、この20年間、日本経済は何度も危機を経験してきた。 そこで淘汰による新陳代謝が起こるなり、徹底的な自己改革によって付加価値生産性が上がるなりしていれば、日本の産業はもっと活発でおもしろいものになっていたかもしれない。 しかし、それを結果的に妨げてきた「二重の保護」構造は政治的にきわめて強固で、これからもなかなか崩せないだろう。官にも民にもその仕組みに寄りかかっている人がたくさんいて、特に、少子高齢化で数はたくさんいる上の世代の選挙民自身に、この構造のまま自分たちは逃げ切れるのではないか、という動機づけが強烈に働いているのだから。 産業再生機構の当時から感じていたのは、政府であれ、大企業であれ、日本の古典的なエスタブリッシュメント組織の体質をひとことで言うなら「グダグダ」であるということだ。すべてが固定的で旧時代的。何かというと「ことなかれ」の保身に走る。悪しき「昭和」である。 のらりくらりと世間の雑音をかわしつつ、やるべきことをしたたかに着々とやる、といった「戦略的グダグダ」ではない。本質的なことを考えていないから有効策を講じられない、大きな効果が見込める政策を断行する勇気もないという、いわば「真正グダグダ」である』、「産業再生機構」で「ゾンビ企業の延命にはカネを使わなかった」と大言壮語しているが、ダイエーは丸紅をスポンサー企業として渡した後も、結局、上手くゆかず、イオンが引き取る形で最終的に処理した。「戦略的グダグダ」はついに実行されなかったようだ。
・『「有事はない」という建前が崩壊し続けた失われた30年 昭和的グダグダ感の根っこの1つには、敗戦後にできた日本国憲法の成立から引き継がれてきた「有事というものは存在しない」という建前路線があるように思う。 憲法はその前文と第9条において、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して戦争放棄を規定している。この憲法が成立した1946年当時は吉田茂内閣の時代だ。吉田は英国流のプラグマティストで自由主義者である。 彼はその後の東西冷戦の時代において、むしろこの憲法を盾に、米国の核の傘の下で軽武装経済重視の国家再建を進めることになる。 いわば、美しい建前を利用して、国家再建という現実政策をプラグマティックに推し進めたのである。 実際、第二次世界大戦が終結してからの20世紀後半、世界はおおむね平和だった。1950年に始まる朝鮮戦争や、1960年代半ばから泥沼化していくベトナム戦争などの局地戦争はあるものの、世界的な戦争は起こっていない。少なくとも日本が当事者として大きな戦争に直接巻き込まれる事態は起きなかった。 そして戦後の日本は、明治時代の「富国強兵」路線マイナス強兵の加工貿易立国による富国路線によって、敗戦による荒廃からみごとに立ち直っていった。 そして長きにわたる平和と経済的繁栄によって、最初はあくまでも建前だった「有事はない」が、40年、50年と経つうちに実体的な前提になっていったのである。 目をつぶれば何も見えないのと同じで、この国のあらゆる仕組みが「有事はない」前提でつくられるようになっていく。 しかし、それほど長期間にわたり平時が続くことのほうが、本来は異常なのだ。現に20世紀末期から21世紀にかけて、元号が昭和から平成に変わると、バブル経済が崩壊し、1995年の阪神淡路、2011年の東日本という2つの大震災が起こり、原発事故も起き、コロナ禍というパンデミックが起こった。 米中対立の動向など国際情勢もきな臭くなる一方だ。南海トラフ地震や富士山噴火と、巨大規模の災害が高い確率で起こる可能性も指摘されている』、「「有事はない」という建前が崩壊し続けた失われた30年」、は安全保障の問題と災害の問題を混同しており、違和感がある。
・『日本の潜在的危機は深まっていく このように「有事がない」なんてことはありえない。万が一、諸国民が公正で信義に溢れる人たちばかりでも激甚な天災は起きるし、新しいウイルスは人間の言うことを聞いてはくれない。 日本も「例外的に有事がなかった時代」が終わり、「いつでも有事が起こりうるという通常の状態」に戻ったのである。 そんなさなかに、この国は、政府もメディアも、ある意味、多くの日本国民さえも、未だに「有事がないという建前は現実でもある」という世界観から脱却できていない。 そんな縁起でもないこと、あってはならないことは起きない、だからそれを前提にした制度や仕組みもあってはならない、という現実歪曲わいきょく空間に閉じこもったままだ。 その結果、有事に直面するたびに有効策を講じられず、大きな効果が見込める施策を断行する勇気もないため、「グダグダ」なパターンを繰り返す。 高度成長期以降の「昭和元禄」天下泰平の時代がもたらした「昭和的グダグダ感」が続く限り、この国の潜在的危機が深まっていく』、平和主義を「現実歪曲わいきょく空間に閉じこもったまま」と批判するのは、安直だ。「高度成長期以降の「昭和元禄」天下泰平の時代がもたらした「昭和的グダグダ感」が続く限り、この国の潜在的危機が深まっていく」、観念的視点からの浮ついた批判で、読むに堪えない。 この後編も8月24日付けであるが、紹介は止めておく。
次に、9月17日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏による「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/619077
・『円安が1ドル=145円にタッチしそうなまでに進み、世間では「日本経済は終わった」「この世の終わりだ」といったような雰囲気になっている。ある月刊誌などは「日本ひとり負けの真犯人は誰か」などという特集まで組んでいる』、元気になる記事を書いてくれるようで、興味深い。
・『日本は世界と「真逆」 この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら 180度逆だ。ついに「日本がひとり勝ちするとき」がやってきたのだ。 当然だ。説明しよう。 世界は何をいま騒いでいるか。インフレである。インフレが大変なことになり、慌てふためいて、欧米を中心に世界中の中央銀行が政策金利を急激に引き上げている。 その結果、株価が暴落している。世中の中央銀行の量的緩和で膨らんだ株式バブルが崩壊している。実体経済は、この金利引き上げで急速に冷え込んでいる。一方、インフレは収まる気配がないから、いちばん嫌なスタグフレーション(経済が停滞する中での物価高)が確実になっている。世界経済は、「長期停滞」局面に入りつつあるのである。 一方、日本はどうか。世間が「ひとり負け」と騒ぐぐらいだから、日本だけが世界と正反対の状況になっている。 まず、世界で唯一と断言できるほど、インフレが起きていない。企業物価は大幅に上昇しているが、それが消費者物価に反映されるまで非常に時間がかかっており、英国の年率10%、アメリカの8%とは次元が違う2%程度となっている。 英国では、一家計あたりの年間エネルギー関連の支出が100万円超の見込みとなり、文字どおりの大騒ぎとなっている。新しく就任したリズ・トラス首相は、補助金をばらまくことによって、実質20万円以下に抑え込む政策を発表した。 だが、これによる財政支出は約25兆円にもなると言われており、これだけで「英国は財政破綻するのではないか」と言われるありさまだ。 これに比べると、日本の岸田政権のバラマキはバラマキでも低所得世帯へ各5万円程度、総額で1兆円弱であり、何の問題もなく見えてくるのである。 日本では、政策的に、電力会社が電気料金の引き上げを徐々にしかできないように規制しており、これが電気代の安定化に寄与している。日本では2%ちょっとの物価上昇でも、一時は大騒ぎになったが、インフレーションが加速するようなことが起きにくい構造になっているのである。 このような物価が安定した経済においては、中央銀行は急いで政策金利を引き上げる必要はない。だから、日本銀行は、世界で唯一、金融政策を現状維持して、のんびりできているのである』、日本だけ利上げに取り残され、円は暴落傾向だったのを、円売り介入で食い止めている状況で、「日本銀行は、世界で唯一、金融政策を現状維持して、のんびりできている」というのは言い過ぎだ。
・『賃金が上がらない経済のほうが望ましい理由 これに対して、大多数のエコノミストたちは、「欧米は物価も上がっているが、賃金も上がっている。賃金が上げられる経済だから、物価が上がっても大丈夫であり、日本のように賃金が上げられない経済は最悪だ」として、日本経済を「世界最悪だ」とこき下ろしている。 間違いだ。 1973年に起きたオイルショックのときは、その後の労使交渉が友好的にまとまり、賃金引き上げを社会全体で抑制できた。これにより経済の過熱を抑え、世界で日本だけがインフレをすばやく押さえ込み、1980年代には日本の経済が世界一となった。 これと同じで、賃金が上がらない経済のほうが、現状では望ましい。アメリカなどはそれこそ賃金上昇を死に物狂いで政府を挙げて抑え込もうとしている。つまり、賃金の上がらない日本経済は、現在のスタグフレーションリスクに襲われている世界経済の中では、うらやましがられる存在であり、世界でもっとも恵まれているのである。 消費者物価が上がらないのも、消費者が貧乏性であることが大きい。そのため、少しの値上げでも拒絶反応が大きく、企業側が企業間取引価格は引き上げても、小売価格を引き上げられない。しかし、このようなインフレが最大の問題となっている状況では、ショックアブソーバーが完備された「安定した経済、消費財市場」であり、望ましいのである。 だから、日本の中央銀行だけが金融政策を引き締めに転じる必要がなく、景気が急速に冷え込む恐れがなく、非常に安定して穏やかな景気拡大を続けており、非常にマクロ経済として良好な状態を保っているのである。 いったい、このような世界でもっとも恵まれた状況の日本経済に何の不満があるのか。 現在、日本を騒がせているのは、円安である。これは、異常な規模と特異な手段で行っている異次元金融緩和を、普通の金融緩和にすれば、直ちに解消する。 「連続指値オペ」という、日銀が毎日10年物の国債金利を指定する利回り(上限0.25%程度)で原則無制限に買う政策は、金融市場を完全に殺すものであり、異常なので、直ちに取りやめる。 また、イールドカーブコントロールと呼ばれる「10年物の金利をゼロ程度に抑え込むことをターゲットとする」という、これまた歴史上ほとんど類を見ない政策をやめれば、異常な円安は直ちに解消する。 要は今の円安で困っているのは、日銀の単純なテクニカルな手段のミスである。特異なことをやめ、普通に金融緩和を続けるだけで異常な円安も解消し、金融緩和も続けられるので、日本経済にはまったく問題がない、ということになる。 しかし、有識者たちは「真の日本経済の問題はもっと根深い。いちばんの問題は、この10数年、アメリカでは高い経済成長率を実現したのに、日本は低成長に甘んじたことだ。賃金、物価が上がらない、つまり変化が起こりにくい、ダイナミズムが不足しているのではないか」と懸念する。「アメリカには圧倒的に差をつけられ、中国にも抜かれてしまった。日本経済からダイナミズム、イノベーション、そして経済成長が失われてしまったことが大問題なのだ」と嘆く』、「円安」「は、異常な規模と特異な手段で行っている異次元金融緩和を、普通の金融緩和にすれば、直ちに解消する。 「連続指値オペ」という、日銀が毎日10年物の国債金利を指定する利回り(上限0.25%程度)で原則無制限に買う政策は、金融市場を完全に殺すものであり、異常なので、直ちに取りやめる。 また、イールドカーブコントロールと呼ばれる「10年物の金利をゼロ程度に抑え込むことをターゲットとする」という、これまた歴史上ほとんど類を見ない政策をやめれば、異常な円安は直ちに解消する」、これを止めるべきというのは正論だが、代わりに長期金利が上昇するのは放置する必要がある。
・『「日本の安定性」にもっと積極的な評価を 確かにこれは、日本経済の弱点と言える。良くはない。しかし、何事も、長所と短所がある。 日本の有識者や世間の議論の悪いところは、世界でいちばんのものを持ってきて「それに日本が劣る」と騒ぎたて、「日本はダメだ、悪い国だ」と自虐して、批判したことで満足してしまうことだ。社会保障はスウェーデンと比較し、イノベーションはアメリカと比較し、市場規模は中国と比較する。そりゃあ、さすがに勝ちようがない。 日本経済の特徴は、流動性に欠け、変化やダイナミズムは少ないが、その一方で、抜群の安定性がある。オイルショックでも物価高騰を抑え込み、リーマンショックでもコロナでも、失業率の上昇は、欧米に比べれば、無視できるほどだ。 21世紀になっても給料が上がっていないことを指摘されるが、その理由は3つある。第1に1990年時点の給料がバブルで高すぎたこと、第2に正規雇用と非正規雇用という不思議な区別があり、1990年時点の前者のグループの給料が高すぎた。そのために、後者のグループを急増させたため、2つのグループを合わせた平均では下がることが必然であることだ。第3に、雇用の安定性を良くも悪くも最重要視していること、である。 第1の問題は賃金が上がらないことが解決策であり、第2の問題は日本のマクロ経済の問題ではなく、日本社会制度の問題であり、非正規雇用というものを消滅させ、すべて平等に扱うことが必要だ。第3の問題は、日本人が、社会として歴史的に選択してきた結果である、ということである。 物価が上がりにくいことは、ある状況の下ではすばらしいことであり、その一例がオイルショックであり、今の2022年である。そして、私の主張は、そういう状況がいずれ21世紀の世界経済を覆うことになるのではないか、ということだ』、「物価が上がりにくいことは、ある状況の下ではすばらしいことであり・・・今の2022年である」、「今の2022年」は決して「すばらしいこと」ではなく、経済の弱みになっていると思う。
・『「膨張しない時代」が始まる つまり、第2次世界大戦後、世界はずっとバブルだったのである。バブルという言葉がいやならば、膨張経済の時代だった。その下で、1990年の冷戦終了により、金融バブルが始まった(これは誰がなんと言おうとバブルだ)。 そして、そのバブルが膨張と破裂を繰り返し、いよいよ最後の「世界量的緩和バブル」が弾けつつあったところに、今度はコロナバブルが起きた。そして、それが今インフレにより、激しく破裂するのではなく、着実に萎み始めているのである。そして、萎んだ後は、長期停滞、膨張しない経済、膨張しない時代が始まるのである。 この「膨張しない時代」においては、日本経済と日本社会の安定性、効率性という強みが発揮されることになるのである。 そもそもイノベーションとは何か。すばらしい技術革新により、新しい必需品、生活になくてはならないものを作るのは、すばらしいイノベーションといえる。 だが、今世の中にあふれているのは、「新しい」必要でないものを生み出し、それを消費者に「欲しい」と思わせることである。次々と新しい「ぜいたく品」、要は余計なものを欲しいと思わせ、売りつけ、それにより人々は「造られた欲望」を満たし、幸せになった気でいるのだ。 しかし、これらは不必要なエンターテイメント物だから、すぐに飽きる。だから、作る側は次の「新しい」ぜいたく品を売りつけるのであり、それがやりやすい。それを繰り返していくのが、生活必需品が満たされた後の豊満経済であり、現代なのである。飽食により生活習慣病になるのと同じく、豊満で飽食で食傷気味になりつつあるのが現代経済なのである。) これらは、人々がすぐ飽きる、よく考えると無駄なぜいたく品、流行物であるから、まだいい。害は無駄というだけにすぎない。現在のイノベーションの大半、特にビジネスとして大成功しているものは、「麻薬」を生み出している企業である。 つまり、本来は不必要なものを必要だと人々に思わせ、そしてみんなで使っているうちに、なくてはならないものにしてしまっている「必需な」ぜいたく品である。そして、その多くは、必需と思わせるために、中毒になりやすい、嗜好を刺激するものになっている。ゲームであり、スマホであり、SNSである。 そして要は広告で儲ける。テレビも、報道からすぐに役割はエンターテイメントに変わった。そして広告ビジネスとなった。それがインターネット、スマホにとって変わられただけだ。しかし、中毒性は強まっており、人間社会を思考停止に追い込み、退廃させる「麻薬度」においては、「新しい」イノベーションであるために、より強力になっている』、「その多くは、必需と思わせるために、中毒になりやすい、嗜好を刺激するものになっている。ゲームであり、スマホであり、SNSである。 そして要は広告で儲ける。テレビも、報道からすぐに役割はエンターテイメントに変わった。そして広告ビジネスとなった。それがインターネット、スマホにとって変わられただけだ。しかし、中毒性は強まっており、人間社会を思考停止に追い込み、退廃させる「麻薬度」においては、「新しい」イノベーションであるために、より強力になっている」、これに関しては、異論はなく、その通りだ。
・『「膨張しない経済」の営みの本質とは? しかし、この時代は終わりつつある。なぜ、いま、インフレになっているか。ぜいたく品と「麻薬」を作りすぎて、必需品の生産に手が回らなくなったからである。 優秀な大学を卒業し(またはしなくても)、金を稼ごうとする人々は、みなぜいたく品を作る側に回る。ブランド企業、独占力のある企業、他にない余計なものを作る企業に就職する。象徴的なのは、広告産業である。いらないものを欲しいと思わせる。それで稼ぐのである。 なぜ唯一無二のものはすべてぜいたく品か。「麻薬」か。それは必需品であれば、必要に迫られて、多くの人が作るからである。まず自分が必要なものは自分で作る。そのものを作るのが得意な人は、周りの人に頼まれて余計に作る。確実にニーズはある。あるに決まっている。必要に迫られている。それが村で評判になり、隣町で話題になる。それなら市場(いちば)で売ろうか、となる。 食料は、みなが必要である。だから作ろうとする人がたくさんいる。必需品は確実にニーズがあり、そして、今後もほぼ永遠に必要である。だから、作る人も多く現れる。人間が一生懸命工夫して作れば、世界でただ一人しか作れない、というものなどない。あってもそれはあきらめて、その次によい質のもの、良質の必需品で済ませる。 もしやる気があれば、必需品でよりよいものを作ろうとする。改善する。現在存在する必需品の延長線上で、よりよいものを作ろうとする。だが、これは一見イノベーションになりにくい。それでも社会に大きく貢献する。人々を確実に幸せにする。 しかし、大半は目新しくないから、今までとほとんど同じ値段でしか売れない。大儲けはできない。独占もできない。広告もあまりいらない。みんな使っているし、必要としているし、よりよいかどうかは使ってみないとわからないから、使ってみて、自分で判断するわけだ。) これが「膨張しない経済」における営みである。必需品の質が上がっていく。基礎的な消費の質が改善する。これが社会にとってもっとも必要であり、社会を豊かにし、社会を持続的に幸せにすることだ。格差は生まれにくい。質の差はあるが、その差に断絶はない。社会として一体性は維持されやすい。 驚くほどの経済成長、急速な規模的拡大はない。同じものを少しずつ改良しているのだから、ゆっくり持続的に質が上がっていく。この中で、景気が悪くなることもある。農業中心なら、干ばつ、洪水、気候変動であり、農業以外であっても、何らかの好不調はあるだろう。そのときに必要なのは、効率化である。苦しいときには、みんなが困らないように、少ないコストで、少ない労働力で、少ないエネルギーで同じものを作る。これは確実に社会に役に立つ。 日本企業は、こうした点は得意だ。改善と効率化。これが日本企業の真骨頂だ。そして、金にならない社会のためのイノベーションの代表格が、JR東日本が発行しているICカードの「Suica」である。 筆者に言わせれば、遅ればせながら、消費者の情報を「奪い取って」、消費者を利用して儲けることの可能性に気づいた。だが当初の目的は「キセル防止」「改札の混雑防止」などだった。社会に確実に役に立つ。みんながそれを求めていたからだ。儲けることはほとんど考えていなかった。情報を奪うこと、独占することなど思いもよらなかったはずだ。 配達をしてくれる人々、料理を作ってくれる人々、清掃員、介護者。別に高く売れるイチゴではなく、安全で普通においしい米、小麦を作ってくれる人々。今、社会では彼ら彼女らが不足している』、「改善と効率化。これが日本企業の真骨頂だ」、その通りだが、問題はイノベーションで新たなサービス・商品の価値を生み出すのが不得手な点だ。
・『日本が「持続目的経済」で「世界一」に われわれは、必需品が作れなくなり、いらないぜいたく品が世の中に溢れ、人々は「麻薬」にお金を使っている。だから、新型コロナウイルスや戦争などなんらかの社会的なショックによって供給不足に陥り、必需品が目に見えて高騰してはじめて、ようやく「今まで必需品をつくることに手を抜いてきた社会」になっていたことに気づくのだ。 これからは、必需品を、資源制約、人材制約、環境制約の下で、効率的に作る。地道に質を改善していく。人々の地に足のついたニーズに基づいた改良を加えたものを作るために、改善に勤しむ。そういう、持続性のある、いや持続そのものが目的となる「持続目的経済」"eternal economy"の時代が始まりつつあるのである。その中では日本経済は、どこの経済よりも強みを発揮するだろう。 唯一の懸念は、この日本経済、日本社会の長所に気づかず、短所ばかりをあげつらい、他の国を真似て日本の長所を破壊しつつあることだ。それが、有識者がやっていることであり、エコノミストの政策提言であり、多くのビジネススクールで教えていることなのである。 もう一度、日本経済の長所を捉えなおし、それを活かす社会、経済、社会システムを構築することを目指す必要がある(ここで本編は終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)』、「持続そのものが目的となる「持続目的経済」"eternal economy"の時代が始まりつつあるのである。その中では日本経済は、どこの経済よりも強みを発揮するだろう」、その通りなのかも知れない。面白い視点だ。
先ずは、8月22日付けPRESIDENT Onlineが掲載したHONZ代表の成毛 眞氏と経営共創基盤(IGPI)グループ会長の冨山 和彦氏による「冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/60781
・『今の日本では「個人の力」の前に「個人の学ぶ力」を求められる 一人ひとりの日本人が「個人の力」を身につけ、生かしていこうとするとき、やはりそこでも壁として立ちはだかるのは、新陳代謝が進まず固定化した産業構造、社会構造だ。 これからの時代に求められる力は、新しい力である。しかし、古くて固定化した産業構造に身を置いても、あるいは、そこに向けて用意されている古い教育システムに身を置いても、それだけでは新しい力は身につかない。 長年にわたり、あれだけSTEM(ステム)(※1)が大事だと言われながら、相変わらずIT人材が足りない、AI技術者が育たないと嘆いている根本原因は、まさに人材教育、人材投資に関わる仕組みが古い構造に固定化されていることにある。 だから、ここでも自らの頭で考え、自らの頭で判断して、自分にフィットした「個人の力」を身につける道筋を探索しなくてはならない。「個人の力」の前に「個人の学ぶ力」を求められるのが、今の日本なのである。 GDPとは、要するに「付加価値の総計」である。付加価値をつくる能力がなければ、経済成長率も上がらないし、国民所得も増えない。日本のような成熟した先進国において、キャッチアップ型、コストと価格競争力勝負の大量生産工業への先行投資で付加価値が生まれる余地は小さい。しかも、付加価値創出はデジタル化とグローバル化による破壊的イノベーションに牽引される時代だ。 イノベーションの時代の付加価値の源泉は、一人ひとりの人間がもつ発想力、創造力、行動力である。そんな個がチームとなって相乗力が生まれ、新しい企業、さらには産業となってスケールする(※2)。 時代の移り変わりによって付加価値を生み出す力を失った古い産業構造のなか、古い組織のルール、古いお作法のなかでは、新しい付加価値を創造する個が輝くのは難しい。サッカーの天才も野球チームにいる限り、才能を開花させられないのは当たり前の話だ。 そこで古い産業構造が固定化して居座りを決め込めば、新しい付加価値が芽吹き大きく成長するスペースは、なかなか生まれない。 政府がお題目としてベンチャー支援を唱えても、他方で古い産業、古い企業の存続をあの手この手で支援すると、効果は相殺され、結果は現状維持となってしまうのだ。そして日本経済の付加価値創出力は停滞を続ける』、「イノベーションの時代の付加価値の源泉は、一人ひとりの人間がもつ発想力、創造力、行動力である。そんな個がチームとなって相乗力が生まれ、新しい企業、さらには産業となってスケールする」、「付加価値を生み出す力を失った古い産業構造のなか、古い組織のルール、古いお作法のなかでは、新しい付加価値を創造する個が輝くのは難しい・・・そこで古い産業構造が固定化して居座りを決め込めば、新しい付加価値が芽吹き大きく成長するスペースは、なかなか生まれない。 政府がお題目としてベンチャー支援を唱えても、他方で古い産業、古い企業の存続をあの手この手で支援すると、効果は相殺され、結果は現状維持となってしまうのだ。そして日本経済の付加価値創出力は停滞を続ける」、ある意味で真相を突いている。
・『経済危機のたびにゾンビ型企業延命メカニズムが働く理由 ちなみに、2008年のリーマンショックのような経済危機が起こっても、打撃の規模の割に、日本で倒産する企業は世界に類を見ないほど少ない。直近のコロナ禍でも、現在の倒産件数は、日本史上で見ても最低水準で推移している。 倒産する企業が少ないと聞くと、いいことのように思えるかもしれない。しかし、これは政府が巨大な支出をして倒産を回避しているだけの話だ。 要は、この国は個人を直接救う公助能力があまりにも低いのである。制度も弱いし、デジタル化も進んでいないので、有事に迅速に手を差し伸べられない。 だから毎回、企業内共助システム、「二重の保護」構造に頼らざるを得ない。そこで必死に融資や助成金で企業を支えるしか、困窮した国民を支える方法がないのだ。 これしかないので局面的にはやむを得ないのだが、すでに触れたように、この仕組みは大きな副作用を伴う。 すなわち、突然襲ってくる危機的状況において、どこでピンチになっているかわからない困窮者の生活、人生を救うには、とりあえず規模の大小、競争力の強弱、生産性の高低に関係なく、すべての企業を支えるしかない。 すると企業の新陳代謝は妨げられ、しかもここで分不相応に大きな借金を抱えて生き延びた企業の多くが過剰債務企業、すなわちゾンビ企業になってしまう。そしてその後も政府の支援に頼るようになる。結果的に、産業構造の固定化がさらに進んでいくのである』、「突然襲ってくる危機的状況において、どこでピンチになっているかわからない困窮者の生活、人生を救うには、とりあえず規模の大小、競争力の強弱、生産性の高低に関係なく、すべての企業を支えるしかない。 すると企業の新陳代謝は妨げられ、しかもここで分不相応に大きな借金を抱えて生き延びた企業の多くが過剰債務企業、すなわちゾンビ企業になってしまう。そしてその後も政府の支援に頼るようになる。結果的に、産業構造の固定化がさらに進んでいくのである」、その通りだ。
・『政府が無差別にカネを配ってしまった事業の末路 欧米でもコロナ禍に際してかなり大きな政府支出で緊急経済対策を打っているが、失業率も倒産件数も相応に増えている。 もともと、どの国も平時から起業率も廃業率も日本より高いのである。コロナ明けを想定すると、長い目で見ると産業の新陳代謝がさらに進み、デジタル技術を駆使した新しい業態、新しい企業への世代交代が進むだろう。歴史的にも、経済危機の後はイノベーションが加速する場合が多い。 しかし、日本では、むしろ古い産業がゾンビ化したまま生き残り、産業構造の固定化が進んでしまう傾向がある。バブル崩壊の後も、リーマンショックの後もそうだった。 原因が何であれ、稼げない企業は淘汰とうたされるのがビジネスの理ことわりだ。そういう意味では、倒産企業が少ないことは、長期的な経済発展という観点からは決して歓迎すべきことではないのである。 実際、コロナ禍でも、まったく同じ構図になりつつある。2020年に73兆円、2021年には55兆円の巨大な経済対策予算が組まれ、一般的には、10万円の個人向け給付金やGo Toキャンペーンなどが注目された。しかし、実はいろいろな形で企業にも巨額の資金が流れているのだ。 キャッシュ・イズ・キング。名目が補助金だろうが、給付金だろうが、融資だろうが、キャッシュが回っている限り、どんなに大赤字になっても企業は潰れない。だから、企業倒産件数は史上最低水準で推移しているのだ。 しかし、無差別にカネを配った結果、企業のなかにはその使い道がなく、預金額ばかりがどんどん積み上がってしまっているところも多い。 「このままでは潰れるかもしれない」という危機感がなければ、何かを変えよう、新しいことをやってみようという機運も高まりにくい。むしろ政府がいくらでも金を出してくれるのだから、危機が収まるまではじっとしていようと考えるのが人情だ』、「名目が補助金だろうが、給付金だろうが、融資だろうが、キャッシュが回っている限り、どんなに大赤字になっても企業は潰れない。だから、企業倒産件数は史上最低水準で推移しているのだ。 しかし、無差別にカネを配った結果、企業のなかにはその使い道がなく、預金額ばかりがどんどん積み上がってしまっているところも多い。 「このままでは潰れるかもしれない」という危機感がなければ、何かを変えよう、新しいことをやってみようという機運も高まりにくい。むしろ政府がいくらでも金を出してくれるのだから、危機が収まるまではじっとしていようと考えるのが人情だ」、その通りだ。
・『大企業は「戦略的グダグダ」ではなく「真正グダグダ」である しかし、コロナ禍が去ってみると、企業間の格差、産業間の実力格差は広がっているだろう。そして、赤字補塡ほてんの借金を積み上げる一方で未来投資をためらっていた企業はゾンビ化していく可能性が高い。 ゾンビにいくら鮮血を注いでもゾンビとして生きながらえるだけであり、人間には戻らない。それと同じように、生産性の低い企業が、利益を上げる本来あるべき企業として蘇るのではなく、生産性が低いまま延命してしまうことになる。 私は20年前の金融危機に際し、産業再生機構(※3)を率いる立場になった時、現場のプロフェッショナル300名とともに公的資金10兆円を産業と金融の一体再生のために駆使したが、ゾンビ企業の延命にはカネを使わなかった。 そのことで多方面から矢のような非難を浴びたが、企業をゾンビ状態で延命させるべきではない。政府が救うべきはゾンビ企業ではなく、稼ぐ力が残っている事業であり、そこで働く人間なのだ。だから、むしろ経済危機に際して起きる企業の新陳代謝を止めるべきではない。 政府は企業の退出に伴う社会的コストの最小化、すなわちオーナー経営者の個人破産の回避や、労働者の転職や職業訓練、リカレント教育(※4)にこそ金を使うべきだと主張してきた。 要は社会全体として、過度な企業内共助の仕組みを脱却しよう、政府は企業、産業の新陳代謝を前提とした、公助共助連動型の包摂的なセーフティネットを整備すべきと主張してきたのである。 しかし、その後も企業内共助依存と「二重の保護」構造の転換は進まず、ひとたび経済危機が起こって企業が風前の灯になりかけると、毎回、政府が巨額のばらまきで救済する。 そんなズブズブの官民関係が続いているのだ。 バブル崩壊後の金融危機、ITバブルの崩壊、リーマンショック、東日本大震災、そしてコロナ禍と、この20年間、日本経済は何度も危機を経験してきた。 そこで淘汰による新陳代謝が起こるなり、徹底的な自己改革によって付加価値生産性が上がるなりしていれば、日本の産業はもっと活発でおもしろいものになっていたかもしれない。 しかし、それを結果的に妨げてきた「二重の保護」構造は政治的にきわめて強固で、これからもなかなか崩せないだろう。官にも民にもその仕組みに寄りかかっている人がたくさんいて、特に、少子高齢化で数はたくさんいる上の世代の選挙民自身に、この構造のまま自分たちは逃げ切れるのではないか、という動機づけが強烈に働いているのだから。 産業再生機構の当時から感じていたのは、政府であれ、大企業であれ、日本の古典的なエスタブリッシュメント組織の体質をひとことで言うなら「グダグダ」であるということだ。すべてが固定的で旧時代的。何かというと「ことなかれ」の保身に走る。悪しき「昭和」である。 のらりくらりと世間の雑音をかわしつつ、やるべきことをしたたかに着々とやる、といった「戦略的グダグダ」ではない。本質的なことを考えていないから有効策を講じられない、大きな効果が見込める政策を断行する勇気もないという、いわば「真正グダグダ」である』、「産業再生機構」で「ゾンビ企業の延命にはカネを使わなかった」と大言壮語しているが、ダイエーは丸紅をスポンサー企業として渡した後も、結局、上手くゆかず、イオンが引き取る形で最終的に処理した。「戦略的グダグダ」はついに実行されなかったようだ。
・『「有事はない」という建前が崩壊し続けた失われた30年 昭和的グダグダ感の根っこの1つには、敗戦後にできた日本国憲法の成立から引き継がれてきた「有事というものは存在しない」という建前路線があるように思う。 憲法はその前文と第9条において、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して戦争放棄を規定している。この憲法が成立した1946年当時は吉田茂内閣の時代だ。吉田は英国流のプラグマティストで自由主義者である。 彼はその後の東西冷戦の時代において、むしろこの憲法を盾に、米国の核の傘の下で軽武装経済重視の国家再建を進めることになる。 いわば、美しい建前を利用して、国家再建という現実政策をプラグマティックに推し進めたのである。 実際、第二次世界大戦が終結してからの20世紀後半、世界はおおむね平和だった。1950年に始まる朝鮮戦争や、1960年代半ばから泥沼化していくベトナム戦争などの局地戦争はあるものの、世界的な戦争は起こっていない。少なくとも日本が当事者として大きな戦争に直接巻き込まれる事態は起きなかった。 そして戦後の日本は、明治時代の「富国強兵」路線マイナス強兵の加工貿易立国による富国路線によって、敗戦による荒廃からみごとに立ち直っていった。 そして長きにわたる平和と経済的繁栄によって、最初はあくまでも建前だった「有事はない」が、40年、50年と経つうちに実体的な前提になっていったのである。 目をつぶれば何も見えないのと同じで、この国のあらゆる仕組みが「有事はない」前提でつくられるようになっていく。 しかし、それほど長期間にわたり平時が続くことのほうが、本来は異常なのだ。現に20世紀末期から21世紀にかけて、元号が昭和から平成に変わると、バブル経済が崩壊し、1995年の阪神淡路、2011年の東日本という2つの大震災が起こり、原発事故も起き、コロナ禍というパンデミックが起こった。 米中対立の動向など国際情勢もきな臭くなる一方だ。南海トラフ地震や富士山噴火と、巨大規模の災害が高い確率で起こる可能性も指摘されている』、「「有事はない」という建前が崩壊し続けた失われた30年」、は安全保障の問題と災害の問題を混同しており、違和感がある。
・『日本の潜在的危機は深まっていく このように「有事がない」なんてことはありえない。万が一、諸国民が公正で信義に溢れる人たちばかりでも激甚な天災は起きるし、新しいウイルスは人間の言うことを聞いてはくれない。 日本も「例外的に有事がなかった時代」が終わり、「いつでも有事が起こりうるという通常の状態」に戻ったのである。 そんなさなかに、この国は、政府もメディアも、ある意味、多くの日本国民さえも、未だに「有事がないという建前は現実でもある」という世界観から脱却できていない。 そんな縁起でもないこと、あってはならないことは起きない、だからそれを前提にした制度や仕組みもあってはならない、という現実歪曲わいきょく空間に閉じこもったままだ。 その結果、有事に直面するたびに有効策を講じられず、大きな効果が見込める施策を断行する勇気もないため、「グダグダ」なパターンを繰り返す。 高度成長期以降の「昭和元禄」天下泰平の時代がもたらした「昭和的グダグダ感」が続く限り、この国の潜在的危機が深まっていく』、平和主義を「現実歪曲わいきょく空間に閉じこもったまま」と批判するのは、安直だ。「高度成長期以降の「昭和元禄」天下泰平の時代がもたらした「昭和的グダグダ感」が続く限り、この国の潜在的危機が深まっていく」、観念的視点からの浮ついた批判で、読むに堪えない。 この後編も8月24日付けであるが、紹介は止めておく。
次に、9月17日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学大学院准教授の小幡 績氏による「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/619077
・『円安が1ドル=145円にタッチしそうなまでに進み、世間では「日本経済は終わった」「この世の終わりだ」といったような雰囲気になっている。ある月刊誌などは「日本ひとり負けの真犯人は誰か」などという特集まで組んでいる』、元気になる記事を書いてくれるようで、興味深い。
・『日本は世界と「真逆」 この連載は競馬をこよなく愛するエコノミスト3人による持ち回り連載です(最終ページには競馬の予想が載っています)。記事の一覧はこちら 180度逆だ。ついに「日本がひとり勝ちするとき」がやってきたのだ。 当然だ。説明しよう。 世界は何をいま騒いでいるか。インフレである。インフレが大変なことになり、慌てふためいて、欧米を中心に世界中の中央銀行が政策金利を急激に引き上げている。 その結果、株価が暴落している。世中の中央銀行の量的緩和で膨らんだ株式バブルが崩壊している。実体経済は、この金利引き上げで急速に冷え込んでいる。一方、インフレは収まる気配がないから、いちばん嫌なスタグフレーション(経済が停滞する中での物価高)が確実になっている。世界経済は、「長期停滞」局面に入りつつあるのである。 一方、日本はどうか。世間が「ひとり負け」と騒ぐぐらいだから、日本だけが世界と正反対の状況になっている。 まず、世界で唯一と断言できるほど、インフレが起きていない。企業物価は大幅に上昇しているが、それが消費者物価に反映されるまで非常に時間がかかっており、英国の年率10%、アメリカの8%とは次元が違う2%程度となっている。 英国では、一家計あたりの年間エネルギー関連の支出が100万円超の見込みとなり、文字どおりの大騒ぎとなっている。新しく就任したリズ・トラス首相は、補助金をばらまくことによって、実質20万円以下に抑え込む政策を発表した。 だが、これによる財政支出は約25兆円にもなると言われており、これだけで「英国は財政破綻するのではないか」と言われるありさまだ。 これに比べると、日本の岸田政権のバラマキはバラマキでも低所得世帯へ各5万円程度、総額で1兆円弱であり、何の問題もなく見えてくるのである。 日本では、政策的に、電力会社が電気料金の引き上げを徐々にしかできないように規制しており、これが電気代の安定化に寄与している。日本では2%ちょっとの物価上昇でも、一時は大騒ぎになったが、インフレーションが加速するようなことが起きにくい構造になっているのである。 このような物価が安定した経済においては、中央銀行は急いで政策金利を引き上げる必要はない。だから、日本銀行は、世界で唯一、金融政策を現状維持して、のんびりできているのである』、日本だけ利上げに取り残され、円は暴落傾向だったのを、円売り介入で食い止めている状況で、「日本銀行は、世界で唯一、金融政策を現状維持して、のんびりできている」というのは言い過ぎだ。
・『賃金が上がらない経済のほうが望ましい理由 これに対して、大多数のエコノミストたちは、「欧米は物価も上がっているが、賃金も上がっている。賃金が上げられる経済だから、物価が上がっても大丈夫であり、日本のように賃金が上げられない経済は最悪だ」として、日本経済を「世界最悪だ」とこき下ろしている。 間違いだ。 1973年に起きたオイルショックのときは、その後の労使交渉が友好的にまとまり、賃金引き上げを社会全体で抑制できた。これにより経済の過熱を抑え、世界で日本だけがインフレをすばやく押さえ込み、1980年代には日本の経済が世界一となった。 これと同じで、賃金が上がらない経済のほうが、現状では望ましい。アメリカなどはそれこそ賃金上昇を死に物狂いで政府を挙げて抑え込もうとしている。つまり、賃金の上がらない日本経済は、現在のスタグフレーションリスクに襲われている世界経済の中では、うらやましがられる存在であり、世界でもっとも恵まれているのである。 消費者物価が上がらないのも、消費者が貧乏性であることが大きい。そのため、少しの値上げでも拒絶反応が大きく、企業側が企業間取引価格は引き上げても、小売価格を引き上げられない。しかし、このようなインフレが最大の問題となっている状況では、ショックアブソーバーが完備された「安定した経済、消費財市場」であり、望ましいのである。 だから、日本の中央銀行だけが金融政策を引き締めに転じる必要がなく、景気が急速に冷え込む恐れがなく、非常に安定して穏やかな景気拡大を続けており、非常にマクロ経済として良好な状態を保っているのである。 いったい、このような世界でもっとも恵まれた状況の日本経済に何の不満があるのか。 現在、日本を騒がせているのは、円安である。これは、異常な規模と特異な手段で行っている異次元金融緩和を、普通の金融緩和にすれば、直ちに解消する。 「連続指値オペ」という、日銀が毎日10年物の国債金利を指定する利回り(上限0.25%程度)で原則無制限に買う政策は、金融市場を完全に殺すものであり、異常なので、直ちに取りやめる。 また、イールドカーブコントロールと呼ばれる「10年物の金利をゼロ程度に抑え込むことをターゲットとする」という、これまた歴史上ほとんど類を見ない政策をやめれば、異常な円安は直ちに解消する。 要は今の円安で困っているのは、日銀の単純なテクニカルな手段のミスである。特異なことをやめ、普通に金融緩和を続けるだけで異常な円安も解消し、金融緩和も続けられるので、日本経済にはまったく問題がない、ということになる。 しかし、有識者たちは「真の日本経済の問題はもっと根深い。いちばんの問題は、この10数年、アメリカでは高い経済成長率を実現したのに、日本は低成長に甘んじたことだ。賃金、物価が上がらない、つまり変化が起こりにくい、ダイナミズムが不足しているのではないか」と懸念する。「アメリカには圧倒的に差をつけられ、中国にも抜かれてしまった。日本経済からダイナミズム、イノベーション、そして経済成長が失われてしまったことが大問題なのだ」と嘆く』、「円安」「は、異常な規模と特異な手段で行っている異次元金融緩和を、普通の金融緩和にすれば、直ちに解消する。 「連続指値オペ」という、日銀が毎日10年物の国債金利を指定する利回り(上限0.25%程度)で原則無制限に買う政策は、金融市場を完全に殺すものであり、異常なので、直ちに取りやめる。 また、イールドカーブコントロールと呼ばれる「10年物の金利をゼロ程度に抑え込むことをターゲットとする」という、これまた歴史上ほとんど類を見ない政策をやめれば、異常な円安は直ちに解消する」、これを止めるべきというのは正論だが、代わりに長期金利が上昇するのは放置する必要がある。
・『「日本の安定性」にもっと積極的な評価を 確かにこれは、日本経済の弱点と言える。良くはない。しかし、何事も、長所と短所がある。 日本の有識者や世間の議論の悪いところは、世界でいちばんのものを持ってきて「それに日本が劣る」と騒ぎたて、「日本はダメだ、悪い国だ」と自虐して、批判したことで満足してしまうことだ。社会保障はスウェーデンと比較し、イノベーションはアメリカと比較し、市場規模は中国と比較する。そりゃあ、さすがに勝ちようがない。 日本経済の特徴は、流動性に欠け、変化やダイナミズムは少ないが、その一方で、抜群の安定性がある。オイルショックでも物価高騰を抑え込み、リーマンショックでもコロナでも、失業率の上昇は、欧米に比べれば、無視できるほどだ。 21世紀になっても給料が上がっていないことを指摘されるが、その理由は3つある。第1に1990年時点の給料がバブルで高すぎたこと、第2に正規雇用と非正規雇用という不思議な区別があり、1990年時点の前者のグループの給料が高すぎた。そのために、後者のグループを急増させたため、2つのグループを合わせた平均では下がることが必然であることだ。第3に、雇用の安定性を良くも悪くも最重要視していること、である。 第1の問題は賃金が上がらないことが解決策であり、第2の問題は日本のマクロ経済の問題ではなく、日本社会制度の問題であり、非正規雇用というものを消滅させ、すべて平等に扱うことが必要だ。第3の問題は、日本人が、社会として歴史的に選択してきた結果である、ということである。 物価が上がりにくいことは、ある状況の下ではすばらしいことであり、その一例がオイルショックであり、今の2022年である。そして、私の主張は、そういう状況がいずれ21世紀の世界経済を覆うことになるのではないか、ということだ』、「物価が上がりにくいことは、ある状況の下ではすばらしいことであり・・・今の2022年である」、「今の2022年」は決して「すばらしいこと」ではなく、経済の弱みになっていると思う。
・『「膨張しない時代」が始まる つまり、第2次世界大戦後、世界はずっとバブルだったのである。バブルという言葉がいやならば、膨張経済の時代だった。その下で、1990年の冷戦終了により、金融バブルが始まった(これは誰がなんと言おうとバブルだ)。 そして、そのバブルが膨張と破裂を繰り返し、いよいよ最後の「世界量的緩和バブル」が弾けつつあったところに、今度はコロナバブルが起きた。そして、それが今インフレにより、激しく破裂するのではなく、着実に萎み始めているのである。そして、萎んだ後は、長期停滞、膨張しない経済、膨張しない時代が始まるのである。 この「膨張しない時代」においては、日本経済と日本社会の安定性、効率性という強みが発揮されることになるのである。 そもそもイノベーションとは何か。すばらしい技術革新により、新しい必需品、生活になくてはならないものを作るのは、すばらしいイノベーションといえる。 だが、今世の中にあふれているのは、「新しい」必要でないものを生み出し、それを消費者に「欲しい」と思わせることである。次々と新しい「ぜいたく品」、要は余計なものを欲しいと思わせ、売りつけ、それにより人々は「造られた欲望」を満たし、幸せになった気でいるのだ。 しかし、これらは不必要なエンターテイメント物だから、すぐに飽きる。だから、作る側は次の「新しい」ぜいたく品を売りつけるのであり、それがやりやすい。それを繰り返していくのが、生活必需品が満たされた後の豊満経済であり、現代なのである。飽食により生活習慣病になるのと同じく、豊満で飽食で食傷気味になりつつあるのが現代経済なのである。) これらは、人々がすぐ飽きる、よく考えると無駄なぜいたく品、流行物であるから、まだいい。害は無駄というだけにすぎない。現在のイノベーションの大半、特にビジネスとして大成功しているものは、「麻薬」を生み出している企業である。 つまり、本来は不必要なものを必要だと人々に思わせ、そしてみんなで使っているうちに、なくてはならないものにしてしまっている「必需な」ぜいたく品である。そして、その多くは、必需と思わせるために、中毒になりやすい、嗜好を刺激するものになっている。ゲームであり、スマホであり、SNSである。 そして要は広告で儲ける。テレビも、報道からすぐに役割はエンターテイメントに変わった。そして広告ビジネスとなった。それがインターネット、スマホにとって変わられただけだ。しかし、中毒性は強まっており、人間社会を思考停止に追い込み、退廃させる「麻薬度」においては、「新しい」イノベーションであるために、より強力になっている』、「その多くは、必需と思わせるために、中毒になりやすい、嗜好を刺激するものになっている。ゲームであり、スマホであり、SNSである。 そして要は広告で儲ける。テレビも、報道からすぐに役割はエンターテイメントに変わった。そして広告ビジネスとなった。それがインターネット、スマホにとって変わられただけだ。しかし、中毒性は強まっており、人間社会を思考停止に追い込み、退廃させる「麻薬度」においては、「新しい」イノベーションであるために、より強力になっている」、これに関しては、異論はなく、その通りだ。
・『「膨張しない経済」の営みの本質とは? しかし、この時代は終わりつつある。なぜ、いま、インフレになっているか。ぜいたく品と「麻薬」を作りすぎて、必需品の生産に手が回らなくなったからである。 優秀な大学を卒業し(またはしなくても)、金を稼ごうとする人々は、みなぜいたく品を作る側に回る。ブランド企業、独占力のある企業、他にない余計なものを作る企業に就職する。象徴的なのは、広告産業である。いらないものを欲しいと思わせる。それで稼ぐのである。 なぜ唯一無二のものはすべてぜいたく品か。「麻薬」か。それは必需品であれば、必要に迫られて、多くの人が作るからである。まず自分が必要なものは自分で作る。そのものを作るのが得意な人は、周りの人に頼まれて余計に作る。確実にニーズはある。あるに決まっている。必要に迫られている。それが村で評判になり、隣町で話題になる。それなら市場(いちば)で売ろうか、となる。 食料は、みなが必要である。だから作ろうとする人がたくさんいる。必需品は確実にニーズがあり、そして、今後もほぼ永遠に必要である。だから、作る人も多く現れる。人間が一生懸命工夫して作れば、世界でただ一人しか作れない、というものなどない。あってもそれはあきらめて、その次によい質のもの、良質の必需品で済ませる。 もしやる気があれば、必需品でよりよいものを作ろうとする。改善する。現在存在する必需品の延長線上で、よりよいものを作ろうとする。だが、これは一見イノベーションになりにくい。それでも社会に大きく貢献する。人々を確実に幸せにする。 しかし、大半は目新しくないから、今までとほとんど同じ値段でしか売れない。大儲けはできない。独占もできない。広告もあまりいらない。みんな使っているし、必要としているし、よりよいかどうかは使ってみないとわからないから、使ってみて、自分で判断するわけだ。) これが「膨張しない経済」における営みである。必需品の質が上がっていく。基礎的な消費の質が改善する。これが社会にとってもっとも必要であり、社会を豊かにし、社会を持続的に幸せにすることだ。格差は生まれにくい。質の差はあるが、その差に断絶はない。社会として一体性は維持されやすい。 驚くほどの経済成長、急速な規模的拡大はない。同じものを少しずつ改良しているのだから、ゆっくり持続的に質が上がっていく。この中で、景気が悪くなることもある。農業中心なら、干ばつ、洪水、気候変動であり、農業以外であっても、何らかの好不調はあるだろう。そのときに必要なのは、効率化である。苦しいときには、みんなが困らないように、少ないコストで、少ない労働力で、少ないエネルギーで同じものを作る。これは確実に社会に役に立つ。 日本企業は、こうした点は得意だ。改善と効率化。これが日本企業の真骨頂だ。そして、金にならない社会のためのイノベーションの代表格が、JR東日本が発行しているICカードの「Suica」である。 筆者に言わせれば、遅ればせながら、消費者の情報を「奪い取って」、消費者を利用して儲けることの可能性に気づいた。だが当初の目的は「キセル防止」「改札の混雑防止」などだった。社会に確実に役に立つ。みんながそれを求めていたからだ。儲けることはほとんど考えていなかった。情報を奪うこと、独占することなど思いもよらなかったはずだ。 配達をしてくれる人々、料理を作ってくれる人々、清掃員、介護者。別に高く売れるイチゴではなく、安全で普通においしい米、小麦を作ってくれる人々。今、社会では彼ら彼女らが不足している』、「改善と効率化。これが日本企業の真骨頂だ」、その通りだが、問題はイノベーションで新たなサービス・商品の価値を生み出すのが不得手な点だ。
・『日本が「持続目的経済」で「世界一」に われわれは、必需品が作れなくなり、いらないぜいたく品が世の中に溢れ、人々は「麻薬」にお金を使っている。だから、新型コロナウイルスや戦争などなんらかの社会的なショックによって供給不足に陥り、必需品が目に見えて高騰してはじめて、ようやく「今まで必需品をつくることに手を抜いてきた社会」になっていたことに気づくのだ。 これからは、必需品を、資源制約、人材制約、環境制約の下で、効率的に作る。地道に質を改善していく。人々の地に足のついたニーズに基づいた改良を加えたものを作るために、改善に勤しむ。そういう、持続性のある、いや持続そのものが目的となる「持続目的経済」"eternal economy"の時代が始まりつつあるのである。その中では日本経済は、どこの経済よりも強みを発揮するだろう。 唯一の懸念は、この日本経済、日本社会の長所に気づかず、短所ばかりをあげつらい、他の国を真似て日本の長所を破壊しつつあることだ。それが、有識者がやっていることであり、エコノミストの政策提言であり、多くのビジネススクールで教えていることなのである。 もう一度、日本経済の長所を捉えなおし、それを活かす社会、経済、社会システムを構築することを目指す必要がある(ここで本編は終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)』、「持続そのものが目的となる「持続目的経済」"eternal economy"の時代が始まりつつあるのである。その中では日本経済は、どこの経済よりも強みを発揮するだろう」、その通りなのかも知れない。面白い視点だ。
タグ:「その多くは、必需と思わせるために、中毒になりやすい、嗜好を刺激するものになっている。ゲームであり、スマホであり、SNSである。 そして要は広告で儲ける。テレビも、報道からすぐに役割はエンターテイメントに変わった。そして広告ビジネスとなった。それがインターネット、スマホにとって変わられただけだ。しかし、中毒性は強まっており、人間社会を思考停止に追い込み、退廃させる「麻薬度」においては、「新しい」イノベーションであるために、より強力になっている」、これに関しては、異論はなく、その通りだ。 「物価が上がりにくいことは、ある状況の下ではすばらしいことであり・・・今の2022年である」、「今の2022年」は決して「すばらしいこと」ではなく、経済の弱みになっていると思う。 代わりに長期金利が上昇するのは放置する必要がある。 (その28)(冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている、ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか) PRESIDENT ONLINE 存続をあの手この手で支援すると、効果は相殺され、結果は現状維持となってしまうのだ。そして日本経済の付加価値創出力は停滞を続ける」、ある意味で真相を突いている。 元気になる記事を書いてくれるようで、興味深い。 「円安」「は、異常な規模と特異な手段で行っている異次元金融緩和を、普通の金融緩和にすれば、直ちに解消する。 「連続指値オペ」という、日銀が毎日10年物の国債金利を指定する利回り(上限0.25%程度)で原則無制限に買う政策は、金融市場を完全に殺すものであり、異常なので、直ちに取りやめる。 また、イールドカーブコントロールと呼ばれる「10年物の金利をゼロ程度に抑え込むことをターゲットとする」という、これまた歴史上ほとんど類を見ない政策をやめれば、異常な円安は直ちに解消する」、これを止めるべきというのは正論だが 日本だけ利上げに取り残され、円は暴落傾向だったのを、円売り介入で食い止めている状況で、「日本銀行は、世界で唯一、金融政策を現状維持して、のんびりできている」というのは言い過ぎだ。 日本の構造問題 平和主義を「現実歪曲わいきょく空間に閉じこもったまま」と批判するのは、安直だ。「高度成長期以降の「昭和元禄」天下泰平の時代がもたらした「昭和的グダグダ感」が続く限り、この国の潜在的危機が深まっていく」、観念的視点からの浮ついた批判で、読むに堪えない。 この後編も8月24日付けであるが、紹介は止めておく。 「「有事はない」という建前が崩壊し続けた失われた30年」、は安全保障の問題と災害の問題を混同しており、違和感がある。 「産業再生機構」で「ゾンビ企業の延命にはカネを使わなかった」と大言壮語しているが、ダイエーは丸紅をスポンサー企業として渡した後も、結局、上手くゆかず、イオンが引き取る形で最終的に処理した。「戦略的グダグダ」はついに実行されなかったようだ。 冨山 和彦氏による「冨山和彦「日本経済を蝕む"昭和的グダグダ"が何度となく繰り返されてしまう根本原因」 政府が"ゾンビ企業"の延命にカネを配り続けている」 成毛 眞氏 「イノベーションの時代の付加価値の源泉は、一人ひとりの人間がもつ発想力、創造力、行動力である。そんな個がチームとなって相乗力が生まれ、新しい企業、さらには産業となってスケールする」、「付加価値を生み出す力を失った古い産業構造のなか、古い組織のルール、古いお作法のなかでは、新しい付加価値を創造する個が輝くのは難しい・・・そこで古い産業構造が固定化して居座りを決め込めば、新しい付加価値が芽吹き大きく成長するスペースは、なかなか生まれない。 政府がお題目としてベンチャー支援を唱えても、他方で古い産業、古い企業の うと考えるのが人情だ」、その通りだ。 「名目が補助金だろうが、給付金だろうが、融資だろうが、キャッシュが回っている限り、どんなに大赤字になっても企業は潰れない。だから、企業倒産件数は史上最低水準で推移しているのだ。 しかし、無差別にカネを配った結果、企業のなかにはその使い道がなく、預金額ばかりがどんどん積み上がってしまっているところも多い。 「このままでは潰れるかもしれない」という危機感がなければ、何かを変えよう、新しいことをやってみようという機運も高まりにくい。むしろ政府がいくらでも金を出してくれるのだから、危機が収まるまではじっとしていよ 「突然襲ってくる危機的状況において、どこでピンチになっているかわからない困窮者の生活、人生を救うには、とりあえず規模の大小、競争力の強弱、生産性の高低に関係なく、すべての企業を支えるしかない。 すると企業の新陳代謝は妨げられ、しかもここで分不相応に大きな借金を抱えて生き延びた企業の多くが過剰債務企業、すなわちゾンビ企業になってしまう。そしてその後も政府の支援に頼るようになる。結果的に、産業構造の固定化がさらに進んでいくのである」、その通りだ。 小幡 績氏による「ついに「日本が独り勝ちする時代」がやってきた なぜ円安が進んでいるのにそこまで言えるのか」 東洋経済オンライン 「持続そのものが目的となる「持続目的経済」"eternal economy"の時代が始まりつつあるのである。その中では日本経済は、どこの経済よりも強みを発揮するだろう」、その通りなのかも知れない。面白い視点だ。 「改善と効率化。これが日本企業の真骨頂だ」、その通りだが、問題はイノベーションで新たなサービス・商品の価値を生み出すのが不得手な点だ。
健康(その23)(労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態 しかも「要再検査を放置している人」が約半数も、急に倒れて救急搬送→集中治療室へ…「健康診断オールA」の人を突然襲う重篤な病気 脳梗塞 不整脈 がんのちょっとした兆候を見逃しがち、認知症と「歯磨き」の意外な関係 35歳以上が絶対やるべき習慣とは) [生活]
健康については、9月7日に取上げたばかりだ。今日は、(その23)(労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態 しかも「要再検査を放置している人」が約半数も、急に倒れて救急搬送?集中治療室へ…「健康診断オールA」の人を突然襲う重篤な病気 脳梗塞 不整脈 がんのちょっとした兆候を見逃しがち、認知症と「歯磨き」の意外な関係 35歳以上が絶対やるべき習慣とは)である。
先ずは、9月13日付け東洋経済オンラインが掲載したえむでぶ倶楽部ニュース編集部 記者の君塚 靖氏と 汲田 玲未衣氏による「労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態 しかも「要再検査を放置している人」が約半数も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/616297
・『健康診断を受けた人のなかで有所見者の占める割合“有所見率”が、今、6割に急接近している。 有所見者とは健診で医師が判定した「異常なし」「要経過観察」「要再検査」「要精密検査」「要治療」のうち、「異常なし」以外の人をいう』、
・『上昇傾向が続く有所見率 有所見率は、厚生労働省がまとめた定期健康診断実施結果でわかる。定期健康診断実施結果は、50人以上が常勤している事業所が実施する定期健康診断、いわゆる“職場の健診”の有所見率などを集計したもの。労働安全衛生法第66条に基づき、事業者は労働者に対して医師による健康診断を実施しなければならない、労働者は事業者が実施する健診を受けなくてはならないとしている。 結果を見ると、2021年は58.7%。1997年までは3割台だったが、2008年に5割を超え、それ以降、上昇傾向を続けている(下の図)。 有所見率の上昇傾向は、加齢に伴い、高血圧症、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病の予備軍が増えていることが要因と考えられる。 社会医療法人若竹会が運営するつくばセントラル病院(茨城県牛久市)健診センター長の神谷英樹医師は、「就業人口の年齢分布は若年者が減少し、高齢者が増加しているので、定期健康診断での有所見率の上昇は高齢者が増加した影響を受けていると考えられる」と話す。そのうえで、「年齢や年代ごとの有所見率の推移を検討する必要があるが、生活習慣病が増加している可能性もある」とコメントする。) なお、定期健康診断結果報告は健診の実施者数と有所見者数を報告することになっているが、性別、年齢を記載するようになっていないため、年齢別の有所見率や年齢調整した有所見率を算出することはできない。 一方で、こんな意見もある。 厚労省のがん検診に関する検討会などで構成員を務めている医師で、公益財団法人福井県健康管理協会(福井市)の松田一夫副理事長・がん検診事業部長は、「有所見率の年次推移は意味があるのかもしれない。ただし、労働安全衛生法に基づく職場の健診の有所見率は、判定する医師のばらつきが大きいと思う」と指摘する』、「定期健康診断結果報告は健診の実施者数と有所見者数を報告することになっているが、性別、年齢を記載するようになっていないため、年齢別の有所見率や年齢調整した有所見率を算出することはできない」、何故、あとから統計処理に必要な項目を記載させないのだろうか。厚労省の新たなお粗末だ。
・『3人に1人が血中脂質の異常 検査項目別の有所見率では、血中脂質が33.0%と最も高く、次いで血圧が17.8%、肝機能が16.6%だった 。 遺伝的な要素や体質だけでなく、食習慣、運動不足、肥満などが影響しているとみられる検査項目が有所見率の上位となり、それぞれ上昇している。こちらについて前出の神谷氏は、「血圧や脂質、血糖、肝機能、心電図で有所見率が徐々に増加しているので、生活習慣病やその予備軍が増加していることが読み取れる。これも、先ほど指摘したように、受診者の年齢の影響を受けるので、単純に、『生活習慣病が増加した』と結論づけることはできない」という。 貧血も徐々に増加しているが、その理由はよくわからないという。そのうえで、「定期健康診断で貧血を認める方の多くは閉経前女性なので、受診者の女性比率の上昇、つまり就業人口に占める女性の割合が増えている可能性がある」と考察する。 かつて地域産業保健センターからの委嘱で複数企業の産業医をしていた千葉大学予防医学センター(千葉市)の坂部貢特任教授は、職場の健診で血圧測定する受診者からよく聞く言葉として、「健診で測定すると血圧は高くなるが、自宅でリラックスして測るとこれほど高くならない」という言葉を挙げ、これには意外なリスクが潜んでいると指摘する。 医療環境下で血圧が高くなる、いわゆる「白衣高血圧」の人は、早朝高血圧や夜間高血圧が生じているケースもあり、常に血圧レベルの高い人と同じように、脳卒中などを発症するリスクを抱えているというのだ。 貧血については、現行はヘモグロビンの数値が中心になっていて、鉄分やフェリチンなどが足りなくなる、いわゆる“隠れ貧血”を見つけ出せていないケースがあることにも注意が必要だという。健診内容全体について、前出の松田氏は「健診項目で最も意味があると世界的に認められているのは、肥満度と血圧、および血糖値のみ」と指摘。また、「職場の健診では、空腹時ではなく午後(食後)にも行われていると思うので、とりわけ、血中脂質や血糖値の判定には疑問が残る」とし、こうアドバイスする。 「(健診は)空腹時に限り、この3つの項目に絞って、医師の判定ではなく、BMI(Body Mass Index:体格指数)、2回実施する血圧測定の平均値、内服薬の有無、空腹時血糖値、あるいは過去1~2カ月間の血糖値を示すHbA1c値のみで比較することで、意味があるかもしれない。医師の判断だけでなく、数値で判断したほうがいいだろう」) 定期健康診断実施結果では、業種別の有所見率もわかる。 最も高かったのは「石炭鉱業」で88.9%。次いで「土石採取」(78.3%)、「道路旅客」(74.9%)となった一方で、最も低いのが48.1%の「鉄道等」で、「他の運輸」(51.3%)、「輸送機械」(52.3%)の順番だ(下の図)。 業種別の有所見率(リンク先参照) これについて坂部氏は、過去の産業医の経験も踏まえ、「当時はほぼ同年代で比較すると、IT関連企業の研究職の有所見率は低い傾向、トラックなど運輸、物流関係の有所見率は高い傾向だった」と指摘する。 建設業の「土木工事」の有所見率は70.9%、「建築工事」は61.9%と、上位3位には入っていないが、高い水準だ。 等潤病院(東京都足立区)などを運営する社会医療法人社団慈生会の伊藤雅史理事長は、医師として外来診療や手術をするかたわら、同院に併設する健診センター等潤で、健診受診者の判定もしている。 「当院のある地域の特性で建設業に従事する人を多く診ているが、有所見で要再検査などと判定するケースは少なくない。建設業は力仕事のストレスを発散するためか、酒を飲み過ぎたり塩分を取り過ぎたりするなど、食生活を起点にした生活習慣病の予備軍が散見される」と話す』、「「白衣高血圧」の人は、早朝高血圧や夜間高血圧が生じているケースもあり、常に血圧レベルの高い人と同じように、脳卒中などを発症するリスクを抱えている」、「白衣高血圧」は初めて知ったが、あり得る話だ。
・『受けっぱなしにしない現場の工夫も 有所見者が自主的に医療機関に行くのが望ましいが、職場などから再検査や治療を受けるようよう促されても、働き盛りの世代は忙しいことを理由に健康管理を後回しにするので、病気を早期発見できなかったり、治療のタイミングを逃したりしてしまう。 有所見となった人が実際にどの程度、再検査や治療を受けたかといったデータの最新のものは見当たらず、厚労省がまとめた2012年「労働者健康状況調査」にまでさかのぼらなくてはならない。 この調査によると定期健康診断で「所見ありと通知された人」を100.0%とすると、「要再検査または要治療の指摘があった人」が75.0%、そのうち「再検査または治療を受けた人」が48.3%、「再検査または治療を受けなかった人」が26.7%だった。) 有所見と判定された人が周りに言われるのではなく、自分の意思で後日、再検査や治療のために医療機関を受診することが望ましいが、前出の伊藤氏は、「例えば、(事業所が実施する定期健康診断にある聴力検査で)聴力に異常があったとしても日常生活に大きな支障を来さないため、医療機関を受診しようという発想にまではいたらないのだろう」と話す。
前出の坂部氏も、「再検査を受けなければ、最初の健診自体の意味がなくなることを真剣に考えなくてはいけない」と強調する。もちろん、職場で有所見の人が再検査を受けることが自然になるような雰囲気の醸成も必要だ。 そんななか、山香病院(大分県杵築市)は健診後に医療機関を受診する「二次検診」の受診率向上に向けた試行的な取り組みをしている。 同院健診センターで健診を受け、生活習慣病(血圧、血糖、脂質)および、がん(肺、胃、大腸、子宮、乳)の項目で要精密検査対象となった人で、健診後3カ月が経過しても二次検診を受けていない人に対しては、従来、郵送の書面を通じて医療機関を受けるよう促す“受診勧奨”をしていたが、2016年から、これまでの3カ月後に加えて、6カ月後にも受診勧奨をはじめた。その効果を、同院健診センター保健師の平早水陽子さんらが調査した。 その結果、2014年に48.4%、2015年に56.0%だった二次検診受診率が、2016年には63.7%に上昇。細かくみると、2016年の受診率は、がんが74.1%だったが、生活習慣病は51.8%にとどまっている。年代別でみると、生活習慣病の受診率は高齢者に比べ若年層で低かった。 この調査では二次検診ついて、そもそも受診しなかった理由も聞いている。その中で最も多いのが、「自覚症状がない」、その後に「前回、受診したが問題なかった」「時間がない」「忘れていた」「自分のことを考える余裕がない」――などと続く。 生活習慣病などでは特に、若年の働く世代は生活全般に余裕がないことなども相まって、自分の健康や未病(発病には至らないものの健康な状態から離れつつある状態)に対して意識を向けにくいことが浮き彫りになった』、「若年の働く世代」にとって、「生活習慣病」の予防が如何に重要かを、健保組合などが徹底的に周知させる努力も必要だ。
・『コロナ禍の受診控えも懸念材料に 健診結果で有所見となっても、新型コロナの感染拡大による受診控えによって再検査や治療を受けていないケースも想定される。コロナ禍は患者や健診受診者の行動に少なからず影響を与えている。 最近の事例としては、特定健診の実施状況が挙げられる。 特定健診とは、生活習慣病の予防のために40~74歳の人を対象とするメタボリックシンドローム(内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさり心臓病や脳卒中などになりやすい病態)に着目した健診だ。メタボ健診とも呼ばれる。 厚労省が発表した2020年度の特定健診の実施状況によると、コロナ禍の受診控えと見られる動きがあった。同年度の特定健診実施率は53.4%となり、2019年度に比べて2.2ポイント低下した。 健診後の受診控えによって、早期発見・治療がしにくい環境になることにも留意する必要がありそうだ』、健保組合などが「健診後の受診控えによって、早期発見・治療がしにくい環境になること」を周知徹底する必要もありそうだ。
次に、9月19日付けPRESIDENT Onlineが掲載した産業医・精神科医の井上 智介氏による「急に倒れて救急搬送→集中治療室へ…「健康診断オールA」の人を突然襲う重篤な病気 脳梗塞、不整脈、がんのちょっとした兆候を見逃しがち」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/61458
・『秋は健康診断の季節だ。産業医の井上智介さんは「“健診でオールA=全く病気がない状態”と思い込んでいる人は本当に多いが、これは大きな誤解。健診でひっかからなくても、心臓や脳の重篤な病気になる可能性はあり、場合によっては急に倒れて救急車で運ばれることもある」という――』、興味深そうだ。
・『健康診断は万能ではない 私は産業医として、担当している企業の従業員の方の健康診断のチェックを行っています。 会社の一般健診は、高血圧や糖尿病、中性脂肪、コレステロールなど脂質異常症に関わる数値、つまり生活習慣病のチェックが主になります。生活習慣病は、悪化すると、心筋梗塞や脳卒中などにつながりますから、こうした検査を定期的に行うことは重要です。 でも、「健診でひっかからなかったから、自分は何も病気がないんだ」という勘違いをしている人が本当に多い。それは大間違いです。 「突然倒れて救急車で運ばれ、緊急手術を受け入院することになった」という人の中にも、「健康診断ではオールAだった」という人は少なくありません。「健診でオールAだったから」と油断して、体の不調に気付いても無視し続け、深刻な状況に陥る人はたくさんいるのです』、「「健診でオールAだったから」と油断して、体の不調に気付いても無視し続け、深刻な状況に陥る人はたくさんいる」、これは大変だ。
・『締めつけるような胸の痛みには注意 健診結果の誤解や過信が、特に深刻な病気につながりやすいのが、心臓や脳の疾患です。 残念ながら、心臓や脳の異常の中には、健診で見つけることが難しいものもたくさんあります。だからこそ、少しでも不調を感じたら、すぐに病院に行く必要があるのですが、「健診でオールAだったから、まさかそんな大変な病気の予兆とは思わなかった」と放置してしまい、倒れて救急車で運ばれ集中治療室……といった例が後を絶ちません。 では、どんな不調に気を付ければよいのでしょうか。 たとえば心臓なら「胸を締めつけられるような痛み」です。 これは、刺すような痛みではなく、胸にとんでもなく重いものがのしかかったかのように、締め付けられるように感じます。「ゾウが乗っているような痛み」と言われることもあります。こうした痛みがある場合、狭心症や心筋梗塞などの可能性があります。 心筋梗塞など、心臓の血管が詰まったときには、一般的に、胸の真ん中にこうした締めつけられるような痛みが出ることが多いですが、左肩や歯、みぞおちなどに痛みが出てくることも珍しくありません。 こうした胸の苦しさがあったら、絶対に見逃してはいけません。できるだけ早く、循環器内科を受診しましょう。たとえ30秒くらいですぐに解消されてたとしても、安心しないでください。すぐに救急車を呼んでください。心臓の血管が詰まりかけていたらカテーテルの治療をしなければいけないので、クリニックでの対応は難しく、施設の整った大きな病院に行くことになるでしょう』、「胸の真ん中にこうした締めつけられるような痛みが出ることが多いですが、左肩や歯、みぞおちなどに痛みが出てくることも珍しくありません。 こうした胸の苦しさがあったら、絶対に見逃してはいけません。できるだけ早く、循環器内科を受診しましょう。 たとえ30秒くらいですぐに解消されてたとしても、安心しないでください。すぐに救急車を呼んでください」、なるほど。
・『頭痛や麻痺は、脳出血や脳梗塞の可能性も 健診では直接的に脳の検査をすることがありません。 ちなみに「脳卒中」というのは病名ではなく、くも膜下出血、脳梗塞、脳出血の3つまとめた1つのカテゴリーを意味します。 よくある、注意したい症状は頭痛です。ただ、頭痛といっても、今までにないような種類の痛みがあらわれます。とくに、くも膜下出血ではじわじわ締めつけられる痛さではなく、急に人生最大の痛みがあらわれます。このような、これまでに経験したことがないような頭痛があった場合は、躊躇せずに救急車を呼んで病院に行ってください。 脳梗塞や脳出血の場合は、頭痛はあまりなく、最初は麻痺まひが目立ちます。体の右側だけ、または左側だけが動きにくくなったり、ろれつが回らずしゃべりにくくなったりという症状は危険信号です。1分間くらい短時間だけ起きて、そのままおさまることもありますが、脳内の血管が詰まりかけている可能性が高いので、これも救急車です。すぐに脳神経外科を受診してください』、「これまでに経験したことがないような頭痛があった場合は、躊躇せずに救急車を呼んで病院に行ってください」、「脳梗塞や脳出血の場合は、頭痛はあまりなく、最初は麻痺まひが目立ちます。体の右側だけ、または左側だけが動きにくくなったり、ろれつが回らずしゃべりにくくなったりという症状は危険信号です・・・これも救急車です。すぐに脳神経外科を受診してください」、なるほど。
・『心電図でキャッチできない不整脈もある 健診では心電図を取ることも多いのですが、これも過信は禁物です。 心臓の疾患でやっかいなのが、心房細動、いわゆる不整脈の一種です。これは、心臓を動かす電気信号の乱れで起こるもので、心臓の上にある心房が小刻みに震えることで、脈拍が乱れて不整脈が起きます。 高血圧や糖尿病などの生活習慣病があると発生しやすくなりますが、生活習慣病がない人でもなる可能性があります。動悸どうきや息切れ、疲れやすいなどの症状があることもありますが、自覚症状がない場合もあり厄介です。 この不整脈があると、心臓の中に血栓、つまり血の塊ができやすくなります。そして、できた血栓が脳に運ばれ、脳の血管に詰まって脳梗塞になる可能性が高まります。 心電図は、心臓の活動の様子を調べるものなので、不整脈があればわかりそうなものなのですが、必ずしもそうではありません。この心房細動は、24時間ずっと出ている人もいれば、発作性心房細動といって一時的にしか出ない人もいるからです。健康診断の心電図検査は、1分ほどの短時間の心臓の動きを見るだけなので、たまたまそのタイミングで異常をとらえなければ「問題なし」という結果になってしまうのです』、「24時間」ホルター心電計であれば、小さな心電計で「24時間」簡単に計測できる。私も装着したことがある。
・『「がんがない」わけではない がんも、健診でひっかからなかったからといって、安心はできません。定期健診はだいたい1年に一度ですから、たまたまその時に見つからなかっただけ、ということもあるからです。 そもそも会社の定期検診は、法律で決められた最低限の項目しかやっていないことも多く、胃や大腸の検査が入っていない可能性があります。胃がんならバリウムや胃カメラを使った検査、大腸がんなら便潜血(便に血が混じっていないか)の検査が必要です。 胸部のレントゲン検査も多くの人が受けていると思います。「『問題なし』だったから、肺がんではないということだろう」と思いたい気持ちはよくわかりますが、これも残念ながらそうとは言えません。 もともと肺のレントゲンは、結核という疾患の有無を確認する目的で始まった検査です。今は精度が上がり、肺がんが見つかることもありますが、それはかなりラッキーなケース。そもそも胸部のレントゲンだけで肺のすみずみを見ることは不可能で、肺がんがあってもレントゲンに写っていないということは、よくあります。がんを調べるためには、やはりがん検診が必要なのです』、「胸部のレントゲンだけで肺のすみずみを見ることは不可能で、肺がんがあってもレントゲンに写っていないということは、よくあります。がんを調べるためには、やはりがん検診が必要」、当然だ。
・『リスクを下げる生活を心掛けて こういった疾患は、発症するまでわからないところがありますが、だからこそ、わずかな不調でも無視せず、病院で診察を受けることが重要です。 人間は「正常化バイアス」の影響を受けやすく、異常があったとしても、「きっと大丈夫だ」「問題ないはずだ」と信じようとしてしまいます。 でも、健診でオールAだったからといって「まったく心配する必要はない」「多少の不調は無視しても大丈夫」というお墨付きをもらったことにはなりません。体の不調を感じたら、とにかく早く病院に行ってください。決してオールAを、「忙しいから後回しにしよう」という言い訳に使わないでほしいと思います。 特に40代、50代の女性は、さまざまな体の不調を「多分更年期のせいだろう」と放置してしまうことがあります。更年期障害の症状は幅広く、動悸や目まい、頭痛、しびれなど、重篤な心疾患や脳疾患の症状と似たものもあります。検査して何もなければそれでいいのですから、早めに受診することをお勧めします。 また、もちろん普段から、血圧を下げる、糖尿病の治療をする、コレステロールを下げるといった、発症リスクを下げる生活を心掛けてください』、「検査して何もなければそれでいいのですから、早めに受診することをお勧めします。 また、もちろん普段から、血圧を下げる、糖尿病の治療をする、コレステロールを下げるといった、発症リスクを下げる生活を心掛けてください」、やはり「発症リスクを下げる生活」が基本だろう。
第三に、9月20日付けダイヤモンド・オンライン「認知症と「歯磨き」の意外な関係、35歳以上が絶対やるべき習慣とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/308554
・『経済協力開発機構(OECD)の2017年の調査によれば、日本は先進国35カ国中、認知症患者の発生率が最も高い国である。2050年には認知症患者が1000万人を超えるともいわれる認知症大国の日本。有効な予防策はあるのか。認知症専門医の長谷川嘉哉医師に聞いた』、「認知症と「歯磨き」の意外な関係」とは興味深そうだ。
・『認知症患者の口の中はまるでゴミ屋敷 まずは、この脳寿命チェックリストをやってみてほしい。 □ 35歳以上である □ 朝起きたときに、口の中がネバネバする □ 口臭がある □ 歯磨きに5分以上の時間をかけない □ 歯磨きをするとき、歯間ブラシやデンタルフロスを使わない □ 歯を磨くと出血することがある □ 抜けたままにしている歯、治療をせず放置している歯がある □ 1年以上、歯科を受診していない 「1つでも当てはまった方は、脳の老化が始まっている可能性があります。なぜなら脳の老化に拍車をかけるのが、脳の運動野と感覚野の3分の1とつながっている口や歯の状態なのです」 こう話すのは『認知症専門医が教える!脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』(かんき出版)の著者で、これまで20万人以上の認知症患者を診察してきた長谷川嘉哉医師だ。長谷川医師によると「35歳」という年齢が、ひとつのターニングポイントになるという。) 「実は35歳を過ぎたころから、認知症の原因物質がたまりやすくなります。原因物質というのは、歯周病菌のこと。35歳を過ぎたタイミングでこれまで行ってきた『歯磨き』を変えなければ、認知症の発症リスクが一気に高くなることが研究で明らかになっているのです」 そもそも長谷川医師が認知症と歯の関係に気づいたのは、多くの患者を診るなかで、ひとつの共通点にたどり着いたからだった。 「認知症患者さんの口の中はビックリするくらい汚れていることが多く、ほとんど歯が残っていません。ケアをしている歯科衛生士さんによると、まるでゴミ屋敷だというのです。実際、残っている歯の数と認知症発症率の相関関係を裏付けるデータも存在します。東北大大学院の研究グループが、70歳以上の高齢者を対象に行った調査によると、『脳が健康な人』の歯は平均14.9本でしたが、『認知症疑いあり』の人は9.4本でした。つまり残っている歯が少ない人ほど、認知症になりやすいことが明らかになったのです」 昔からいわれる「歯がない人はボケやすい」は、科学的に見ても正しかったということになる。そして、大人が歯を失う原因の第1位は、「むし歯」ではなく、前述した「歯周病」なのだという。 「歯磨きが不十分で、口内に食べカスや細菌がたまっていくと口内が炎症を起こし、歯周病が進行します。そのまま放っておくと、歯を支える土台の骨が溶けてグラグラになり、最終的に歯が抜けてしまうのです」 歯を失えば、脳に送られる血流や刺激が減り、脳の老化は加速する。このように「脳の老化」に大きな影響があると考えられる口の中だが、日本ではいまだに歯の重要性が軽視されていると長谷川医師は危惧する。 「海外と違い、日本では『高齢になったら歯は残っていないもの』と考えられています。しかし、アメリカやスウェーデンなど口腔衛生先進国は違います。特に痛みや問題がなくても定期的に歯科に通い、口内の状態が悪くならないよう予防に努めています。2012年の厚生労働省国民健康白書統計では80歳以上で残っている平均の歯の数が、日本9.8本に対してスウェーデンはなんと20本。こうした日頃の意識の違いが、老後使える歯の差として表れているのです」』、「歯を失えば、脳に送られる血流や刺激が減り、脳の老化は加速する」、「アメリカやスウェーデンなど口腔衛生先進国は違います。特に痛みや問題がなくても定期的に歯科に通い、口内の状態が悪くならないよう予防に努めています。2012年の厚生労働省国民健康白書統計では80歳以上で残っている平均の歯の数が、日本9.8本に対してスウェーデンはなんと20本。こうした日頃の意識の違いが、老後使える歯の差として表れている」、日本も「口腔衛生」にもっと力を入れるべきだ。
・『歯周病予防のために 1日4回歯磨きを推奨 歯の状態は健康寿命に密接に関わっている。さらに歯周病は、認知症だけではなく、さまざまな全身疾患リスクにも大きく関わっているという。 「誤嚥(ごえん)性肺炎、糖尿病、動脈硬化、脳梗塞や心筋梗塞などの全身疾患リスクにも、歯周病菌は関係しています。これらのリスクを下げて健康寿命を延ばすためには、歯のケアによって脳を刺激し、原因物質である歯周病菌を予防、改善することが必要です」 実際、長谷川医師のクリニックでは歯のケアを一度行っただけで、認知症患者の症状が改善した例もあるという。 「たとえば、84歳の女性患者Aさんは、食欲や意欲が低下していて、一日中ボーッと座っていることが増えていました。けれどたった1度の歯のケアを受けただけで食欲が改善。徐々に意欲も向上して、『あれがしたい、これがしたい』とご自分の望みを口にするようになったのです。歯のケアをすることで、認知症状を緩和・改善できたことは、専門医である私にとって大きな驚きでした」 大脳の支配領域の3分の1を占める口を歯のケアで刺激したことで脳が活性化し、ヤル気や記憶力を高めることにつながったのではないかと長谷川医師は言う。ただし、自分は1日3回歯磨きをしているから大丈夫だな、と安心するのはまだ早い。 「実は加齢によって口内環境は変わり、歯周病菌が増えやすくなることが判明しています。歯周病の発症率は35歳前後から一気に上がり、40代になるころには約8割もの人が歯周病になる。これが今まで通りのケアではダメ、と私がお話しする理由。歯周病は、ごく軽い炎症から始まるので痛みも自覚もないまま進行し、気づいたころには歯茎も歯根もぼろぼろになります。35歳からは、根本的に歯のケアを変える必要があるのです」 そこで、長谷川医師が推奨するのが、『1日4回歯磨き』だ。 「まずは起床時、最も口内が汚い朝の歯磨きですね。就寝中は唾液が減少し、細菌が繁殖しやすいので、起きたときって便10gと同じだけの細菌が口の中にある状態なんですよ。そう思うと、朝起きてすぐ恋人とキス…なんて汚くて考えられないですよね(笑)。起床時すぐに1回磨いて、あとは毎食後に1回。磨く時間は10分以上が理想的ですが、最低でも5分かけて磨く。忙しくてムリという方は、就寝前だけは15分間しっかり磨くことを意識しましょう。また、日本では歯医者は不具合が出てから行くところ、という意識が根づいていますが、特に問題を感じていなくても3カ月に1回は検診に行き、歯垢や歯石をクリーニングで取ることも大切です」 アンチエイジングのために食生活や運動習慣を見直すことは当たり前になって来たが、それと並行して歯のケアも真剣に考えないといけないようだ』、「84歳の女性患者Aさんは、食欲や意欲が低下していて、一日中ボーッと座っていることが増えていました。けれどたった1度の歯のケアを受けただけで食欲が改善。徐々に意欲も向上して、『あれがしたい、これがしたい』とご自分の望みを口にするようになったのです。歯のケアをすることで、認知症状を緩和・改善できたことは、専門医である私にとって大きな驚きでした」、「大脳の支配領域の3分の1を占める口を歯のケアで刺激したことで脳が活性化し、ヤル気や記憶力を高めることにつながったのではないか」、「口」が「大脳の支配領域の3分の1を占める」、とは初めて知った。「歯のケアをすることで、認知症状を緩和・改善できた」というのも、確かにあり得る話だ。私も3カ月ごとに歯のクリーニングとチェックを受けているが、「認知症」予防効果もあるのであれば、今後も絶対続けよう。
先ずは、9月13日付け東洋経済オンラインが掲載したえむでぶ倶楽部ニュース編集部 記者の君塚 靖氏と 汲田 玲未衣氏による「労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態 しかも「要再検査を放置している人」が約半数も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/616297
・『健康診断を受けた人のなかで有所見者の占める割合“有所見率”が、今、6割に急接近している。 有所見者とは健診で医師が判定した「異常なし」「要経過観察」「要再検査」「要精密検査」「要治療」のうち、「異常なし」以外の人をいう』、
・『上昇傾向が続く有所見率 有所見率は、厚生労働省がまとめた定期健康診断実施結果でわかる。定期健康診断実施結果は、50人以上が常勤している事業所が実施する定期健康診断、いわゆる“職場の健診”の有所見率などを集計したもの。労働安全衛生法第66条に基づき、事業者は労働者に対して医師による健康診断を実施しなければならない、労働者は事業者が実施する健診を受けなくてはならないとしている。 結果を見ると、2021年は58.7%。1997年までは3割台だったが、2008年に5割を超え、それ以降、上昇傾向を続けている(下の図)。 有所見率の上昇傾向は、加齢に伴い、高血圧症、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病の予備軍が増えていることが要因と考えられる。 社会医療法人若竹会が運営するつくばセントラル病院(茨城県牛久市)健診センター長の神谷英樹医師は、「就業人口の年齢分布は若年者が減少し、高齢者が増加しているので、定期健康診断での有所見率の上昇は高齢者が増加した影響を受けていると考えられる」と話す。そのうえで、「年齢や年代ごとの有所見率の推移を検討する必要があるが、生活習慣病が増加している可能性もある」とコメントする。) なお、定期健康診断結果報告は健診の実施者数と有所見者数を報告することになっているが、性別、年齢を記載するようになっていないため、年齢別の有所見率や年齢調整した有所見率を算出することはできない。 一方で、こんな意見もある。 厚労省のがん検診に関する検討会などで構成員を務めている医師で、公益財団法人福井県健康管理協会(福井市)の松田一夫副理事長・がん検診事業部長は、「有所見率の年次推移は意味があるのかもしれない。ただし、労働安全衛生法に基づく職場の健診の有所見率は、判定する医師のばらつきが大きいと思う」と指摘する』、「定期健康診断結果報告は健診の実施者数と有所見者数を報告することになっているが、性別、年齢を記載するようになっていないため、年齢別の有所見率や年齢調整した有所見率を算出することはできない」、何故、あとから統計処理に必要な項目を記載させないのだろうか。厚労省の新たなお粗末だ。
・『3人に1人が血中脂質の異常 検査項目別の有所見率では、血中脂質が33.0%と最も高く、次いで血圧が17.8%、肝機能が16.6%だった 。 遺伝的な要素や体質だけでなく、食習慣、運動不足、肥満などが影響しているとみられる検査項目が有所見率の上位となり、それぞれ上昇している。こちらについて前出の神谷氏は、「血圧や脂質、血糖、肝機能、心電図で有所見率が徐々に増加しているので、生活習慣病やその予備軍が増加していることが読み取れる。これも、先ほど指摘したように、受診者の年齢の影響を受けるので、単純に、『生活習慣病が増加した』と結論づけることはできない」という。 貧血も徐々に増加しているが、その理由はよくわからないという。そのうえで、「定期健康診断で貧血を認める方の多くは閉経前女性なので、受診者の女性比率の上昇、つまり就業人口に占める女性の割合が増えている可能性がある」と考察する。 かつて地域産業保健センターからの委嘱で複数企業の産業医をしていた千葉大学予防医学センター(千葉市)の坂部貢特任教授は、職場の健診で血圧測定する受診者からよく聞く言葉として、「健診で測定すると血圧は高くなるが、自宅でリラックスして測るとこれほど高くならない」という言葉を挙げ、これには意外なリスクが潜んでいると指摘する。 医療環境下で血圧が高くなる、いわゆる「白衣高血圧」の人は、早朝高血圧や夜間高血圧が生じているケースもあり、常に血圧レベルの高い人と同じように、脳卒中などを発症するリスクを抱えているというのだ。 貧血については、現行はヘモグロビンの数値が中心になっていて、鉄分やフェリチンなどが足りなくなる、いわゆる“隠れ貧血”を見つけ出せていないケースがあることにも注意が必要だという。健診内容全体について、前出の松田氏は「健診項目で最も意味があると世界的に認められているのは、肥満度と血圧、および血糖値のみ」と指摘。また、「職場の健診では、空腹時ではなく午後(食後)にも行われていると思うので、とりわけ、血中脂質や血糖値の判定には疑問が残る」とし、こうアドバイスする。 「(健診は)空腹時に限り、この3つの項目に絞って、医師の判定ではなく、BMI(Body Mass Index:体格指数)、2回実施する血圧測定の平均値、内服薬の有無、空腹時血糖値、あるいは過去1~2カ月間の血糖値を示すHbA1c値のみで比較することで、意味があるかもしれない。医師の判断だけでなく、数値で判断したほうがいいだろう」) 定期健康診断実施結果では、業種別の有所見率もわかる。 最も高かったのは「石炭鉱業」で88.9%。次いで「土石採取」(78.3%)、「道路旅客」(74.9%)となった一方で、最も低いのが48.1%の「鉄道等」で、「他の運輸」(51.3%)、「輸送機械」(52.3%)の順番だ(下の図)。 業種別の有所見率(リンク先参照) これについて坂部氏は、過去の産業医の経験も踏まえ、「当時はほぼ同年代で比較すると、IT関連企業の研究職の有所見率は低い傾向、トラックなど運輸、物流関係の有所見率は高い傾向だった」と指摘する。 建設業の「土木工事」の有所見率は70.9%、「建築工事」は61.9%と、上位3位には入っていないが、高い水準だ。 等潤病院(東京都足立区)などを運営する社会医療法人社団慈生会の伊藤雅史理事長は、医師として外来診療や手術をするかたわら、同院に併設する健診センター等潤で、健診受診者の判定もしている。 「当院のある地域の特性で建設業に従事する人を多く診ているが、有所見で要再検査などと判定するケースは少なくない。建設業は力仕事のストレスを発散するためか、酒を飲み過ぎたり塩分を取り過ぎたりするなど、食生活を起点にした生活習慣病の予備軍が散見される」と話す』、「「白衣高血圧」の人は、早朝高血圧や夜間高血圧が生じているケースもあり、常に血圧レベルの高い人と同じように、脳卒中などを発症するリスクを抱えている」、「白衣高血圧」は初めて知ったが、あり得る話だ。
・『受けっぱなしにしない現場の工夫も 有所見者が自主的に医療機関に行くのが望ましいが、職場などから再検査や治療を受けるようよう促されても、働き盛りの世代は忙しいことを理由に健康管理を後回しにするので、病気を早期発見できなかったり、治療のタイミングを逃したりしてしまう。 有所見となった人が実際にどの程度、再検査や治療を受けたかといったデータの最新のものは見当たらず、厚労省がまとめた2012年「労働者健康状況調査」にまでさかのぼらなくてはならない。 この調査によると定期健康診断で「所見ありと通知された人」を100.0%とすると、「要再検査または要治療の指摘があった人」が75.0%、そのうち「再検査または治療を受けた人」が48.3%、「再検査または治療を受けなかった人」が26.7%だった。) 有所見と判定された人が周りに言われるのではなく、自分の意思で後日、再検査や治療のために医療機関を受診することが望ましいが、前出の伊藤氏は、「例えば、(事業所が実施する定期健康診断にある聴力検査で)聴力に異常があったとしても日常生活に大きな支障を来さないため、医療機関を受診しようという発想にまではいたらないのだろう」と話す。
前出の坂部氏も、「再検査を受けなければ、最初の健診自体の意味がなくなることを真剣に考えなくてはいけない」と強調する。もちろん、職場で有所見の人が再検査を受けることが自然になるような雰囲気の醸成も必要だ。 そんななか、山香病院(大分県杵築市)は健診後に医療機関を受診する「二次検診」の受診率向上に向けた試行的な取り組みをしている。 同院健診センターで健診を受け、生活習慣病(血圧、血糖、脂質)および、がん(肺、胃、大腸、子宮、乳)の項目で要精密検査対象となった人で、健診後3カ月が経過しても二次検診を受けていない人に対しては、従来、郵送の書面を通じて医療機関を受けるよう促す“受診勧奨”をしていたが、2016年から、これまでの3カ月後に加えて、6カ月後にも受診勧奨をはじめた。その効果を、同院健診センター保健師の平早水陽子さんらが調査した。 その結果、2014年に48.4%、2015年に56.0%だった二次検診受診率が、2016年には63.7%に上昇。細かくみると、2016年の受診率は、がんが74.1%だったが、生活習慣病は51.8%にとどまっている。年代別でみると、生活習慣病の受診率は高齢者に比べ若年層で低かった。 この調査では二次検診ついて、そもそも受診しなかった理由も聞いている。その中で最も多いのが、「自覚症状がない」、その後に「前回、受診したが問題なかった」「時間がない」「忘れていた」「自分のことを考える余裕がない」――などと続く。 生活習慣病などでは特に、若年の働く世代は生活全般に余裕がないことなども相まって、自分の健康や未病(発病には至らないものの健康な状態から離れつつある状態)に対して意識を向けにくいことが浮き彫りになった』、「若年の働く世代」にとって、「生活習慣病」の予防が如何に重要かを、健保組合などが徹底的に周知させる努力も必要だ。
・『コロナ禍の受診控えも懸念材料に 健診結果で有所見となっても、新型コロナの感染拡大による受診控えによって再検査や治療を受けていないケースも想定される。コロナ禍は患者や健診受診者の行動に少なからず影響を与えている。 最近の事例としては、特定健診の実施状況が挙げられる。 特定健診とは、生活習慣病の予防のために40~74歳の人を対象とするメタボリックシンドローム(内臓肥満に高血圧・高血糖・脂質代謝異常が組み合わさり心臓病や脳卒中などになりやすい病態)に着目した健診だ。メタボ健診とも呼ばれる。 厚労省が発表した2020年度の特定健診の実施状況によると、コロナ禍の受診控えと見られる動きがあった。同年度の特定健診実施率は53.4%となり、2019年度に比べて2.2ポイント低下した。 健診後の受診控えによって、早期発見・治療がしにくい環境になることにも留意する必要がありそうだ』、健保組合などが「健診後の受診控えによって、早期発見・治療がしにくい環境になること」を周知徹底する必要もありそうだ。
次に、9月19日付けPRESIDENT Onlineが掲載した産業医・精神科医の井上 智介氏による「急に倒れて救急搬送→集中治療室へ…「健康診断オールA」の人を突然襲う重篤な病気 脳梗塞、不整脈、がんのちょっとした兆候を見逃しがち」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/61458
・『秋は健康診断の季節だ。産業医の井上智介さんは「“健診でオールA=全く病気がない状態”と思い込んでいる人は本当に多いが、これは大きな誤解。健診でひっかからなくても、心臓や脳の重篤な病気になる可能性はあり、場合によっては急に倒れて救急車で運ばれることもある」という――』、興味深そうだ。
・『健康診断は万能ではない 私は産業医として、担当している企業の従業員の方の健康診断のチェックを行っています。 会社の一般健診は、高血圧や糖尿病、中性脂肪、コレステロールなど脂質異常症に関わる数値、つまり生活習慣病のチェックが主になります。生活習慣病は、悪化すると、心筋梗塞や脳卒中などにつながりますから、こうした検査を定期的に行うことは重要です。 でも、「健診でひっかからなかったから、自分は何も病気がないんだ」という勘違いをしている人が本当に多い。それは大間違いです。 「突然倒れて救急車で運ばれ、緊急手術を受け入院することになった」という人の中にも、「健康診断ではオールAだった」という人は少なくありません。「健診でオールAだったから」と油断して、体の不調に気付いても無視し続け、深刻な状況に陥る人はたくさんいるのです』、「「健診でオールAだったから」と油断して、体の不調に気付いても無視し続け、深刻な状況に陥る人はたくさんいる」、これは大変だ。
・『締めつけるような胸の痛みには注意 健診結果の誤解や過信が、特に深刻な病気につながりやすいのが、心臓や脳の疾患です。 残念ながら、心臓や脳の異常の中には、健診で見つけることが難しいものもたくさんあります。だからこそ、少しでも不調を感じたら、すぐに病院に行く必要があるのですが、「健診でオールAだったから、まさかそんな大変な病気の予兆とは思わなかった」と放置してしまい、倒れて救急車で運ばれ集中治療室……といった例が後を絶ちません。 では、どんな不調に気を付ければよいのでしょうか。 たとえば心臓なら「胸を締めつけられるような痛み」です。 これは、刺すような痛みではなく、胸にとんでもなく重いものがのしかかったかのように、締め付けられるように感じます。「ゾウが乗っているような痛み」と言われることもあります。こうした痛みがある場合、狭心症や心筋梗塞などの可能性があります。 心筋梗塞など、心臓の血管が詰まったときには、一般的に、胸の真ん中にこうした締めつけられるような痛みが出ることが多いですが、左肩や歯、みぞおちなどに痛みが出てくることも珍しくありません。 こうした胸の苦しさがあったら、絶対に見逃してはいけません。できるだけ早く、循環器内科を受診しましょう。たとえ30秒くらいですぐに解消されてたとしても、安心しないでください。すぐに救急車を呼んでください。心臓の血管が詰まりかけていたらカテーテルの治療をしなければいけないので、クリニックでの対応は難しく、施設の整った大きな病院に行くことになるでしょう』、「胸の真ん中にこうした締めつけられるような痛みが出ることが多いですが、左肩や歯、みぞおちなどに痛みが出てくることも珍しくありません。 こうした胸の苦しさがあったら、絶対に見逃してはいけません。できるだけ早く、循環器内科を受診しましょう。 たとえ30秒くらいですぐに解消されてたとしても、安心しないでください。すぐに救急車を呼んでください」、なるほど。
・『頭痛や麻痺は、脳出血や脳梗塞の可能性も 健診では直接的に脳の検査をすることがありません。 ちなみに「脳卒中」というのは病名ではなく、くも膜下出血、脳梗塞、脳出血の3つまとめた1つのカテゴリーを意味します。 よくある、注意したい症状は頭痛です。ただ、頭痛といっても、今までにないような種類の痛みがあらわれます。とくに、くも膜下出血ではじわじわ締めつけられる痛さではなく、急に人生最大の痛みがあらわれます。このような、これまでに経験したことがないような頭痛があった場合は、躊躇せずに救急車を呼んで病院に行ってください。 脳梗塞や脳出血の場合は、頭痛はあまりなく、最初は麻痺まひが目立ちます。体の右側だけ、または左側だけが動きにくくなったり、ろれつが回らずしゃべりにくくなったりという症状は危険信号です。1分間くらい短時間だけ起きて、そのままおさまることもありますが、脳内の血管が詰まりかけている可能性が高いので、これも救急車です。すぐに脳神経外科を受診してください』、「これまでに経験したことがないような頭痛があった場合は、躊躇せずに救急車を呼んで病院に行ってください」、「脳梗塞や脳出血の場合は、頭痛はあまりなく、最初は麻痺まひが目立ちます。体の右側だけ、または左側だけが動きにくくなったり、ろれつが回らずしゃべりにくくなったりという症状は危険信号です・・・これも救急車です。すぐに脳神経外科を受診してください」、なるほど。
・『心電図でキャッチできない不整脈もある 健診では心電図を取ることも多いのですが、これも過信は禁物です。 心臓の疾患でやっかいなのが、心房細動、いわゆる不整脈の一種です。これは、心臓を動かす電気信号の乱れで起こるもので、心臓の上にある心房が小刻みに震えることで、脈拍が乱れて不整脈が起きます。 高血圧や糖尿病などの生活習慣病があると発生しやすくなりますが、生活習慣病がない人でもなる可能性があります。動悸どうきや息切れ、疲れやすいなどの症状があることもありますが、自覚症状がない場合もあり厄介です。 この不整脈があると、心臓の中に血栓、つまり血の塊ができやすくなります。そして、できた血栓が脳に運ばれ、脳の血管に詰まって脳梗塞になる可能性が高まります。 心電図は、心臓の活動の様子を調べるものなので、不整脈があればわかりそうなものなのですが、必ずしもそうではありません。この心房細動は、24時間ずっと出ている人もいれば、発作性心房細動といって一時的にしか出ない人もいるからです。健康診断の心電図検査は、1分ほどの短時間の心臓の動きを見るだけなので、たまたまそのタイミングで異常をとらえなければ「問題なし」という結果になってしまうのです』、「24時間」ホルター心電計であれば、小さな心電計で「24時間」簡単に計測できる。私も装着したことがある。
・『「がんがない」わけではない がんも、健診でひっかからなかったからといって、安心はできません。定期健診はだいたい1年に一度ですから、たまたまその時に見つからなかっただけ、ということもあるからです。 そもそも会社の定期検診は、法律で決められた最低限の項目しかやっていないことも多く、胃や大腸の検査が入っていない可能性があります。胃がんならバリウムや胃カメラを使った検査、大腸がんなら便潜血(便に血が混じっていないか)の検査が必要です。 胸部のレントゲン検査も多くの人が受けていると思います。「『問題なし』だったから、肺がんではないということだろう」と思いたい気持ちはよくわかりますが、これも残念ながらそうとは言えません。 もともと肺のレントゲンは、結核という疾患の有無を確認する目的で始まった検査です。今は精度が上がり、肺がんが見つかることもありますが、それはかなりラッキーなケース。そもそも胸部のレントゲンだけで肺のすみずみを見ることは不可能で、肺がんがあってもレントゲンに写っていないということは、よくあります。がんを調べるためには、やはりがん検診が必要なのです』、「胸部のレントゲンだけで肺のすみずみを見ることは不可能で、肺がんがあってもレントゲンに写っていないということは、よくあります。がんを調べるためには、やはりがん検診が必要」、当然だ。
・『リスクを下げる生活を心掛けて こういった疾患は、発症するまでわからないところがありますが、だからこそ、わずかな不調でも無視せず、病院で診察を受けることが重要です。 人間は「正常化バイアス」の影響を受けやすく、異常があったとしても、「きっと大丈夫だ」「問題ないはずだ」と信じようとしてしまいます。 でも、健診でオールAだったからといって「まったく心配する必要はない」「多少の不調は無視しても大丈夫」というお墨付きをもらったことにはなりません。体の不調を感じたら、とにかく早く病院に行ってください。決してオールAを、「忙しいから後回しにしよう」という言い訳に使わないでほしいと思います。 特に40代、50代の女性は、さまざまな体の不調を「多分更年期のせいだろう」と放置してしまうことがあります。更年期障害の症状は幅広く、動悸や目まい、頭痛、しびれなど、重篤な心疾患や脳疾患の症状と似たものもあります。検査して何もなければそれでいいのですから、早めに受診することをお勧めします。 また、もちろん普段から、血圧を下げる、糖尿病の治療をする、コレステロールを下げるといった、発症リスクを下げる生活を心掛けてください』、「検査して何もなければそれでいいのですから、早めに受診することをお勧めします。 また、もちろん普段から、血圧を下げる、糖尿病の治療をする、コレステロールを下げるといった、発症リスクを下げる生活を心掛けてください」、やはり「発症リスクを下げる生活」が基本だろう。
第三に、9月20日付けダイヤモンド・オンライン「認知症と「歯磨き」の意外な関係、35歳以上が絶対やるべき習慣とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/308554
・『経済協力開発機構(OECD)の2017年の調査によれば、日本は先進国35カ国中、認知症患者の発生率が最も高い国である。2050年には認知症患者が1000万人を超えるともいわれる認知症大国の日本。有効な予防策はあるのか。認知症専門医の長谷川嘉哉医師に聞いた』、「認知症と「歯磨き」の意外な関係」とは興味深そうだ。
・『認知症患者の口の中はまるでゴミ屋敷 まずは、この脳寿命チェックリストをやってみてほしい。 □ 35歳以上である □ 朝起きたときに、口の中がネバネバする □ 口臭がある □ 歯磨きに5分以上の時間をかけない □ 歯磨きをするとき、歯間ブラシやデンタルフロスを使わない □ 歯を磨くと出血することがある □ 抜けたままにしている歯、治療をせず放置している歯がある □ 1年以上、歯科を受診していない 「1つでも当てはまった方は、脳の老化が始まっている可能性があります。なぜなら脳の老化に拍車をかけるのが、脳の運動野と感覚野の3分の1とつながっている口や歯の状態なのです」 こう話すのは『認知症専門医が教える!脳の老化を止めたければ歯を守りなさい!』(かんき出版)の著者で、これまで20万人以上の認知症患者を診察してきた長谷川嘉哉医師だ。長谷川医師によると「35歳」という年齢が、ひとつのターニングポイントになるという。) 「実は35歳を過ぎたころから、認知症の原因物質がたまりやすくなります。原因物質というのは、歯周病菌のこと。35歳を過ぎたタイミングでこれまで行ってきた『歯磨き』を変えなければ、認知症の発症リスクが一気に高くなることが研究で明らかになっているのです」 そもそも長谷川医師が認知症と歯の関係に気づいたのは、多くの患者を診るなかで、ひとつの共通点にたどり着いたからだった。 「認知症患者さんの口の中はビックリするくらい汚れていることが多く、ほとんど歯が残っていません。ケアをしている歯科衛生士さんによると、まるでゴミ屋敷だというのです。実際、残っている歯の数と認知症発症率の相関関係を裏付けるデータも存在します。東北大大学院の研究グループが、70歳以上の高齢者を対象に行った調査によると、『脳が健康な人』の歯は平均14.9本でしたが、『認知症疑いあり』の人は9.4本でした。つまり残っている歯が少ない人ほど、認知症になりやすいことが明らかになったのです」 昔からいわれる「歯がない人はボケやすい」は、科学的に見ても正しかったということになる。そして、大人が歯を失う原因の第1位は、「むし歯」ではなく、前述した「歯周病」なのだという。 「歯磨きが不十分で、口内に食べカスや細菌がたまっていくと口内が炎症を起こし、歯周病が進行します。そのまま放っておくと、歯を支える土台の骨が溶けてグラグラになり、最終的に歯が抜けてしまうのです」 歯を失えば、脳に送られる血流や刺激が減り、脳の老化は加速する。このように「脳の老化」に大きな影響があると考えられる口の中だが、日本ではいまだに歯の重要性が軽視されていると長谷川医師は危惧する。 「海外と違い、日本では『高齢になったら歯は残っていないもの』と考えられています。しかし、アメリカやスウェーデンなど口腔衛生先進国は違います。特に痛みや問題がなくても定期的に歯科に通い、口内の状態が悪くならないよう予防に努めています。2012年の厚生労働省国民健康白書統計では80歳以上で残っている平均の歯の数が、日本9.8本に対してスウェーデンはなんと20本。こうした日頃の意識の違いが、老後使える歯の差として表れているのです」』、「歯を失えば、脳に送られる血流や刺激が減り、脳の老化は加速する」、「アメリカやスウェーデンなど口腔衛生先進国は違います。特に痛みや問題がなくても定期的に歯科に通い、口内の状態が悪くならないよう予防に努めています。2012年の厚生労働省国民健康白書統計では80歳以上で残っている平均の歯の数が、日本9.8本に対してスウェーデンはなんと20本。こうした日頃の意識の違いが、老後使える歯の差として表れている」、日本も「口腔衛生」にもっと力を入れるべきだ。
・『歯周病予防のために 1日4回歯磨きを推奨 歯の状態は健康寿命に密接に関わっている。さらに歯周病は、認知症だけではなく、さまざまな全身疾患リスクにも大きく関わっているという。 「誤嚥(ごえん)性肺炎、糖尿病、動脈硬化、脳梗塞や心筋梗塞などの全身疾患リスクにも、歯周病菌は関係しています。これらのリスクを下げて健康寿命を延ばすためには、歯のケアによって脳を刺激し、原因物質である歯周病菌を予防、改善することが必要です」 実際、長谷川医師のクリニックでは歯のケアを一度行っただけで、認知症患者の症状が改善した例もあるという。 「たとえば、84歳の女性患者Aさんは、食欲や意欲が低下していて、一日中ボーッと座っていることが増えていました。けれどたった1度の歯のケアを受けただけで食欲が改善。徐々に意欲も向上して、『あれがしたい、これがしたい』とご自分の望みを口にするようになったのです。歯のケアをすることで、認知症状を緩和・改善できたことは、専門医である私にとって大きな驚きでした」 大脳の支配領域の3分の1を占める口を歯のケアで刺激したことで脳が活性化し、ヤル気や記憶力を高めることにつながったのではないかと長谷川医師は言う。ただし、自分は1日3回歯磨きをしているから大丈夫だな、と安心するのはまだ早い。 「実は加齢によって口内環境は変わり、歯周病菌が増えやすくなることが判明しています。歯周病の発症率は35歳前後から一気に上がり、40代になるころには約8割もの人が歯周病になる。これが今まで通りのケアではダメ、と私がお話しする理由。歯周病は、ごく軽い炎症から始まるので痛みも自覚もないまま進行し、気づいたころには歯茎も歯根もぼろぼろになります。35歳からは、根本的に歯のケアを変える必要があるのです」 そこで、長谷川医師が推奨するのが、『1日4回歯磨き』だ。 「まずは起床時、最も口内が汚い朝の歯磨きですね。就寝中は唾液が減少し、細菌が繁殖しやすいので、起きたときって便10gと同じだけの細菌が口の中にある状態なんですよ。そう思うと、朝起きてすぐ恋人とキス…なんて汚くて考えられないですよね(笑)。起床時すぐに1回磨いて、あとは毎食後に1回。磨く時間は10分以上が理想的ですが、最低でも5分かけて磨く。忙しくてムリという方は、就寝前だけは15分間しっかり磨くことを意識しましょう。また、日本では歯医者は不具合が出てから行くところ、という意識が根づいていますが、特に問題を感じていなくても3カ月に1回は検診に行き、歯垢や歯石をクリーニングで取ることも大切です」 アンチエイジングのために食生活や運動習慣を見直すことは当たり前になって来たが、それと並行して歯のケアも真剣に考えないといけないようだ』、「84歳の女性患者Aさんは、食欲や意欲が低下していて、一日中ボーッと座っていることが増えていました。けれどたった1度の歯のケアを受けただけで食欲が改善。徐々に意欲も向上して、『あれがしたい、これがしたい』とご自分の望みを口にするようになったのです。歯のケアをすることで、認知症状を緩和・改善できたことは、専門医である私にとって大きな驚きでした」、「大脳の支配領域の3分の1を占める口を歯のケアで刺激したことで脳が活性化し、ヤル気や記憶力を高めることにつながったのではないか」、「口」が「大脳の支配領域の3分の1を占める」、とは初めて知った。「歯のケアをすることで、認知症状を緩和・改善できた」というのも、確かにあり得る話だ。私も3カ月ごとに歯のクリーニングとチェックを受けているが、「認知症」予防効果もあるのであれば、今後も絶対続けよう。
タグ:健保組合などが「健診後の受診控えによって、早期発見・治療がしにくい環境になること」を周知徹底する必要もありそうだ。 「認知症と「歯磨き」の意外な関係」とは興味深そうだ。 「大脳の支配領域の3分の1を占める口を歯のケアで刺激したことで脳が活性化し、ヤル気や記憶力を高めることにつながったのではないか」、「口」が「大脳の支配領域の3分の1を占める」、とは初めて知った。「歯のケアをすることで、認知症状を緩和・改善できた」というのも、確かにあり得る話だ。私も3カ月ごとに歯のクリーニングとチェックを受けているが、「認知症」予防効果もあるのであれば、今後も絶対続けよう。 「84歳の女性患者Aさんは、食欲や意欲が低下していて、一日中ボーッと座っていることが増えていました。けれどたった1度の歯のケアを受けただけで食欲が改善。徐々に意欲も向上して、『あれがしたい、これがしたい』とご自分の望みを口にするようになったのです。歯のケアをすることで、認知症状を緩和・改善できたことは、専門医である私にとって大きな驚きでした」、 「歯を失えば、脳に送られる血流や刺激が減り、脳の老化は加速する」、「アメリカやスウェーデンなど口腔衛生先進国は違います。特に痛みや問題がなくても定期的に歯科に通い、口内の状態が悪くならないよう予防に努めています。2012年の厚生労働省国民健康白書統計では80歳以上で残っている平均の歯の数が、日本9.8本に対してスウェーデンはなんと20本。こうした日頃の意識の違いが、老後使える歯の差として表れている」、日本も「口腔衛生」にもっと力を入れるべきだ。 ダイヤモンド・オンライン「認知症と「歯磨き」の意外な関係、35歳以上が絶対やるべき習慣とは」 「検査して何もなければそれでいいのですから、早めに受診することをお勧めします。 また、もちろん普段から、血圧を下げる、糖尿病の治療をする、コレステロールを下げるといった、発症リスクを下げる生活を心掛けてください」、やはり「発症リスクを下げる生活」が基本だろう。 「胸部のレントゲンだけで肺のすみずみを見ることは不可能で、肺がんがあってもレントゲンに写っていないということは、よくあります。がんを調べるためには、やはりがん検診が必要」、当然だ。 「24時間」ホルター心電計であれば、小さな心電計で「24時間」簡単に計測できる。私も装着したことがある。 「これまでに経験したことがないような頭痛があった場合は、躊躇せずに救急車を呼んで病院に行ってください」、「脳梗塞や脳出血の場合は、頭痛はあまりなく、最初は麻痺まひが目立ちます。体の右側だけ、または左側だけが動きにくくなったり、ろれつが回らずしゃべりにくくなったりという症状は危険信号です・・・これも救急車です。すぐに脳神経外科を受診してください」、なるほど。 「胸の真ん中にこうした締めつけられるような痛みが出ることが多いですが、左肩や歯、みぞおちなどに痛みが出てくることも珍しくありません。 こうした胸の苦しさがあったら、絶対に見逃してはいけません。できるだけ早く、循環器内科を受診しましょう。 たとえ30秒くらいですぐに解消されてたとしても、安心しないでください。すぐに救急車を呼んでください」、なるほど。 「「健診でオールAだったから」と油断して、体の不調に気付いても無視し続け、深刻な状況に陥る人はたくさんいる」、これは大変だ。 井上 智介氏による「急に倒れて救急搬送→集中治療室へ…「健康診断オールA」の人を突然襲う重篤な病気 脳梗塞、不整脈、がんのちょっとした兆候を見逃しがち」 PRESIDENT ONLINE 「若年の働く世代」にとって、「生活習慣病」の予防が如何に重要かを、健保組合などが徹底的に周知させる努力も必要だ。 「「白衣高血圧」の人は、早朝高血圧や夜間高血圧が生じているケースもあり、常に血圧レベルの高い人と同じように、脳卒中などを発症するリスクを抱えている」、「白衣高血圧」は初めて知ったが、あり得る話だ。 「定期健康診断結果報告は健診の実施者数と有所見者数を報告することになっているが、性別、年齢を記載するようになっていないため、年齢別の有所見率や年齢調整した有所見率を算出することはできない」、何故、あとから統計処理に必要な項目を記載させないのだろうか。厚労省の新たなお粗末だ。 君塚 靖氏と 汲田 玲未衣氏による「労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態 しかも「要再検査を放置している人」が約半数も」 東洋経済オンライン (その23)(労働者の6割が健康診断「異常あり」の深刻な事態 しかも「要再検査を放置している人」が約半数も、急に倒れて救急搬送→集中治療室へ…「健康診断オールA」の人を突然襲う重篤な病気 脳梗塞 不整脈 がんのちょっとした兆候を見逃しがち、認知症と「歯磨き」の意外な関係 35歳以上が絶対やるべき習慣とは) 健康
生命科学(その3)(【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】、【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】、恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み) [科学]
生命科学については、1月7日に取上げた。今日は、(その3)(【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】、【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】、恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み)である。
先ずは、8月8日付けダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307355
・『NHK『100分de名著 for ティーンズ』(2022年8月放送)で話題沸騰! ノーベル生理学・医学賞を受賞した生物学者ポール・ナースの初の著書『WHAT IS LIFE? (ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』が世界各国で話題作となっている。 ポール・ナースが、生物学について真剣に考え始めたきっかけは一羽の蝶だった。12歳か13歳のある春の日、ひらひらと庭の垣根を飛び越えた黄色い蝶の、複雑で、完璧に作られた姿を見て、著者は思った。生きているっていったいどういうことだろう? 生命って、なんなのだろう? 著者は旺盛な好奇心から生物の世界にのめり込み、生物学分野の最前線に立った。本書ではその経験をもとに、生物学の5つの重要な考え方をとりあげながら、生命の仕組みについての、はっきりとした見通しを、語りかけるようなやさしい文章で提示する。 養老孟司氏「生命とは何か。この疑問はだれでも一度は感じたことがあろう。本書は現代生物学の知見を十分に踏まえたうえで、その疑問に答えようとする。現代生物学の入門書、教科書としても使えると思う。」、池谷裕二氏「著名なノーベル賞学者が初めて著した本。それだけで瞠目すべきだが、初心者から専門家まで読者の間口が広く、期待をはるかに超える充実度だ。誠実にして大胆な生物学譚は、この歴史の中核を担った当事者にしか書けまい。」、更科功氏「近代科学四百年の集大成、時代の向こう側まで色褪せない新しい生命論だ。」、さらには、ブライアン・コックス(素粒子物理学者 マンチェスター大学教授)、シッダールタ・ムカジー(医師、がん研究者 コロンビア大学准教授)、アリス・ロバーツ(人類学者 バーミンガム大学教授)など、世界の第一人者から絶賛されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。(初出:2021年3月7日)』、「地球上の生命の始まりは「たった1回」だけ」、とはどういう意味なのだろう。
・『生命の樹 生き物には、全面的に他に依存するウイルスから、自給自足の生活を送るシアノバクテリアや古細菌や植物まで、境目のないグラデーションがある。こうした異なる形態はすべて生きている、と私は言いたい。すべての形態は、程度の差こそあれ、他の生き物に依存しつつ、自然淘汰で進化し、自らを律する物理的存在であることに変わりないからだ。 この広い視野に立って生命を眺めてみると、生物界に対する広々とした視界が開ける。地球上の生命は一つの生態系に属している。そこには、あらゆる生き物が組み込まれ、相互にあまねくつながっている。 このつながりは本質的なものだ。それは、相互依存の深さだけでなく、あらゆる生命が共通の進化のルーツを通して遺伝的に親戚であることによってもたらされる。 こうした深い関連性と相互のつながりという見方は、ずっと以前から生態学者が主張し続けてきたものだ。元をたどれば、一九世紀初めの探検家で博物学者アレクサンダー・フォン・フンボルトの考えに端を発している。 彼は「あらゆる生命は、全体がつながったクモの巣のようなもの」と主張した。思いがけないことかもしれないが、こうした相互のつながりこそが、生命の中核なのだ。だからこそ、人間の活動が他の生物界に与えてきた影響について、われわれは、立ち止まって、じっくり考えるべきなのだ。 生命が共有する家系図、生命の樹のたくさんの枝の生き物たちは、驚くほど多様だ。しかし、そんな「多様性」も、視点を変えれば、もっと本質的な「類似性」の前では光が失せる。化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ。 たとえば、同じ小さなATP分子を「エネルギー貨幣」として利用し、同じく基本的なDNAとRNAとタンパク質のあいだをつなぐ関係に頼り、リボソームを使ってタンパク質を作る。 フランシス・クリックは、DNAからRNA、そしてタンパク質への情報の流れが、生命にとって非常に根本的なものだと主張し、それを分子生物学の「セントラルドグマ」と呼んだ。それ以来、このルールに従わない、小さな例外を指摘した人もいたが、クリックの要点は依然として破られていない』、「そんな「多様性」も、視点を変えれば、もっと本質的な「類似性」の前では光が失せる。化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ」、「フランシス・クリックは、DNAからRNA、そしてタンパク質への情報の流れが、生命にとって非常に根本的なものだと主張し、それを分子生物学の「セントラルドグマ」と呼んだ。・・・クリックの要点は依然として破られていない」、なるほど。
・『物語のはじまり 生命の化学的基礎におけるこうした深い共通性は、驚くべき結論を指し示している。なんと、今日地球上にある生命の始まりは「たった一回」だけだったのだ。もし異なる生命体が、それぞれ何回かにわたって別々に出現し、生き延びてきたとしたら、その全子孫が、これほどまで同じ基本機能で動いている可能性はきわめて低い。 あらゆる生命が、巨大な同じ生命の樹の一部だとすれば、その樹はどんな種類の種子から成長したのだろう? どういうわけか、どこかで、はるか昔に、無生物の無秩序な化学物質が、より秩序だった形態に自分を配置した。 自らを永続させ、自らをコピーし、最終的に自然淘汰によって進化するという、きわめて重要な能力を獲得したのだ。しかし、われわれも登場人物の一人である、この物語は、実際にはどのようにして始まったのだろう? 地球は四五億年ちょっと前、太陽系の黎明期に形成された。初めの五億年ほどは、この惑星の表面は熱すぎて不安定で、われわれが知るような生命は物理的、化学的に出現できなかった。 これまでに曖昧さを残さない形で特定された、最も古い生命体の化石は、三五億年前に生息していたものだ。生命が立ち上がって走り出すまで、数億年かかったわけだ。想像を絶する、悠久の時の広がりだが、地球上の生命の歴史から見れば、僅かな時間にすぎない。フランシス・クリックは、その時間内で、生命がこの地球で始まった可能性は非常に低いと考えた。 だから彼は、生命は宇宙のどこかで誕生し、(部分的にか完全に形成された状態かは別として)地球まで運ばれてきたにちがいないと示唆したのだ。しかし、彼は、生命がどのようにして慎ましい発端から始まったのか、という重要な疑問に答えるどころか、はぐらかしてしまっている。現在、われわれは、未だ検証できないにしても、この物語について信用できる説明をすることができる。 最も古い化石は、現在の細菌のいくつかに似ている。これは、その時点で生命がすでに、膜に包まれた細胞、DNAに基づく遺伝システム、タンパク質に基づく代謝作用などを備え、充分に確立されていたことを意味する。 しかし、どれが最初だったのだろう? DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる。 しかし、酵素タンパク質は、DNAが保持する命令によってしか作ることができない。どうすれば片方ぬきで、もう片方を手に入れることができるのか? さらに、遺伝子と代謝作用は、どちらも、必須の化学物質を集めたり、エネルギーを得たり、環境から自らを守るために、細胞の外膜に頼っている。 ところが、現在、生きている細胞は、遺伝子と酵素を使って自分たちの精緻な細胞膜を形成するのだ。遺伝子とタンパク質と細胞膜。このきわめて重要な三位一体の一つが、どうやって単独で発生できたのか、想像がつかない。なにしろ、一つの要素を取り除いたら、システム全体があっという間にバラバラになってしまうのだから。 細胞膜の形成を説明するのがいちばん簡単かもしれない。細胞分子を作り上げている脂質分子は、できたてほやほやの地球に存在していたと思われる材料や条件のもと、自然発生的な化学反応で形成されうることが分かっている。科学者が脂質を水に浸けると、それは思いがけないふるまいをする。膜で包まれた空洞の球体が自然にできるのだ。その大きさや形は、細菌細胞にきわめて近い。 (本原稿は、ポール・ナース氏の略歴はリンク先参照)。 (訳者:竹内 薫氏の略歴もリンク先参照)』、「DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる」、「現在、生きている細胞は、遺伝子と酵素を使って自分たちの精緻な細胞膜を形成するのだ。遺伝子とタンパク質と細胞膜。このきわめて重要な三位一体の一つが、どうやって単独で発生できたのか、想像がつかない。なにしろ、一つの要素を取り除いたら、システム全体があっという間にバラバラになってしまうのだから」、確かに不思議だ。
・『これだけ心を打たれた本は、初めてだ――訳者より ポール・ナースは生物学の世界における巨人である。二〇〇一年にノーベル生理学・医学賞も受賞している。 本書を翻訳していて感じたことを書きたいと思う。 驚いたのは、この本がポール・ナースにとって初めての「本」の出版だということ。これだけ科学的な実績があり、二〇〇一年にノーベル賞を受賞しているのだから、何冊も本を書いていても不思議ではないが、ロックフェラー大学学長、王立協会(ロイヤル・ソサエティ)会長といった要職で忙しく、一般向けの本を書く暇がなかったのかもしれない。 これは私の推論にすぎないが、ポール・ナースは、次の世代のため、人類が悲惨な状態に陥らないために、生涯で一冊の一般向け科学書を書いたのではないか。この本はまさに、細胞周期の司会進行役を務めるタンパク質キナーゼと同様、新たな世代への橋渡しの役割を担っている。 私は数々の科学書を翻訳してきたが、これだけ心を打たれた本は、初めてだ。それほど、ポール・ナースという科学者の家族、友人、先輩、同僚、部下、人類、そして生き物への愛情を感じた』、大変な力作のようだ。
次に、8月9日付けダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】」を紹介しよう。
・(この部分は第一の記事と同じなので、紹介省略)
・『最古の化石の年代 光合成とは、ご存じのように、太陽光のエネルギーを利用して、水と二酸化炭素から糖と酸素を作る一連の化学反応だ。 光合成に必要な酵素は、葉緑体を取り巻く二層の細胞膜の内側に配置されている。近所の公園に生えている草の葉っぱも、その一つひとつの細胞に、クロロフィル(=葉緑素)と呼ばれるタンパク質を高レベルで含む、ほぼ球体の細胞小器官が一〇〇個ほど収まっている。 草が緑に見えるのは、このクロロフィルが原因だ。光のスペクトルの青と赤の部分からエネルギーを吸収し、そのエネルギーを光合成の動力に利用するため、結果として緑の波長を反射するのだ。 光合成を行うことができる植物や藻、そしていくつかの細菌は、光合成によって作り出された単糖を、当面のエネルギー源として、また、自分たちが生き残るために必要な分子を組み立てる材料として利用する。さらに、糖類および炭水化物も生み出し、それをさまざまな生き物が消費する。朽ちてゆく木を餌にする菌類、草を喰む羊、海で何トンもの光合成プランクトンをひと飲みにするクジラ、そして、世界中の人々を支える食用作物などだ。 実際、われわれの身体全体を作るために不可欠な炭素は、元をたどれば、光合成に由来する。すべては、光合成の化学反応によって、大気中から抜き出された二酸化炭素から始まっているんだ。 光合成の化学反応は、今日、地球上に存在する大半の生命を作るためのエネルギーと材料を供給してくれるだけでなく、この惑星の歴史を形作る上で、決定的な役割を果たした。生命は、これまで発見された最古の化石の年代からすると、およそ三五億年前に初めてあらわれたと思われる。 最古の化石は単細胞の微生物で、地熱源からエネルギーを得ていたようだ。地球の生命の最も初期のころ、まだ光合成が行われていなかったため、酸素の大きな供給源はなかった。その結果、大気中には酸素がゼロに等しかった。この惑星の草創期の生命体が実際に酸素と遭遇したとき、数々の問題が生じたはずだ』、「われわれの身体全体を作るために不可欠な炭素は、元をたどれば、光合成に由来する。すべては、光合成の化学反応によって、大気中から抜き出された二酸化炭素から始まっているんだ」、なるほど。
・『驚きの大惨事 酸素は生命を維持するものと考える人は多いだろう。実際にそのとおりなんだが、酸素は、生命に絶対欠くことができないDNAなどのポリマーを含む、他の化学物質を傷つけることもある。酸素は、非常に化学反応性の高い気体なのだ。 微生物たちは、いったん光合成する能力を進化させると、何千年もかけて増殖し、大気中の酸素の量が急上昇するほどまでになった。その後、二〇億年から二四億年前に起きた出来事は「酸素の大惨事」と呼ばれている。そのころ、生き物といえばすべて微生物で、細菌か古細菌のどちらかだったが、そのほとんどが酸素の出現によって全滅してしまったと考える研究者もいる。 生命を作り出した条件が、生命をほぼまるまる終焉させたとは、なんと皮肉なことだろう。生き残った少数の生命体は、酸素に曝されにくい場所、おそらくは海底や地下深部などに退いたか、新しい化学的性質に適応して、酸化された世界でうまくやるために必要な進化を遂げたかのどちらかだったろう。 現在、人間は、未だに酸素を注意して扱っているが、ほぼ完全に酸素に依存している。身体が食べたり、作ったり、吸収したりした、糖、脂肪、タンパク質からエネルギーを得るために酸素が不可欠だからだ。エネルギーは「細胞呼吸」と呼ばれる化学プロセスによってもたらされる。この一連の反応の最終段階は、あらゆる真核生物の細胞にとってきわめて重要な細胞小器官の区画、ミトコンドリア内で起こる。 ミトコンドリアの主な役割は、生命の化学反応に細胞が必要とするエネルギーを生み出すことだ。だから、エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。 全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ四〇パーセントを占める。厳密に化学的な観点から言うと、細胞呼吸は、光合成の中核となる反応を反転させている。糖と酸素が反応して水と二酸化炭素を作り、たくさんのエネルギーを放出し、そのエネルギーは後で使用するために取っておかれる。 (本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)』、(以下は第一の記事と同じなので紹介を省略)「二〇億年から二四億年前に起きた出来事は「酸素の大惨事」と呼ばれている。そのころ、生き物といえばすべて微生物で、細菌か古細菌のどちらかだったが、そのほとんどが酸素の出現によって全滅してしまったと考える研究者もいる・・・生き残った少数の生命体は、酸素に曝されにくい場所、おそらくは海底や地下深部などに退いたか、新しい化学的性質に適応して、酸化された世界でうまくやるために必要な進化を遂げたかのどちらかだったろう」、「エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。 全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ四〇パーセントを占める。厳密に化学的な観点から言うと、細胞呼吸は、光合成の中核となる反応を反転させている。糖と酸素が反応して水と二酸化炭素を作り、たくさんのエネルギーを放出し、そのエネルギーは後で使用するために取っておかれる」、本当によく出来た仕組みだ。
第三に、9月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したヘンリー・ジー氏による「恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309707
・『地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する』、興味深そうだ。
・『恐竜の秘密 獣弓類には、大型はゾウくらいから小型はテリアくらいまでの大きさのものがいたが、恐竜はそのどちらをも超えていた。 なぜ、恐竜はこれほどまでに大きく、そして小さくなれたのだろう? その秘密は、恐竜の呼吸の仕方にある』、どういうことなのだろう。
・『「換気」の効率 羊膜動物の歴史のなかで、深い断絶が起きていたのだ。ほ乳類、つまり三畳紀の生き残りで、恐竜の影で果敢にもまだ頑張って生きていた獣弓類にとって、「換気」とは、息を吸って、また吐き出すことだった。 客観的に考えて、これは体内に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するには効率の悪い方法だ。 口と鼻から新鮮な空気を吸い込み、肺に下ろし、そこでまわりの血管に酸素を吸収させるのは、エネルギーの無駄だ。 しかも、同じ血管から老廃物である二酸化炭素を同じ肺の空間に放出し、新鮮な空気が入ってきたのと同じ穴から吐き出さなければならない』、確かに「「換気」の効率」は悪そうだ。
・『恐竜もトカゲも… つまり、一回の吸気で、よどんだ空気をすべていっぺんに排出することも、隅々まで新鮮な空気で満たすことも非常に難しいのだ。 恐竜やトカゲなどのほかの羊膜類も、同じように鼻や口から息を吸ったり吐いたりしていたが、吸気と呼気のプロセスはかなり異なっていた。 彼らは空気を処理する一方通行のシステムを進化させ、呼吸をとても効率的なものにしていた。 空気は肺に入っても、すぐにまた出ていくわけではなく、逆止め弁に導かれて、全身に張り巡らされた気嚢へと送られた』、「逆止め弁」、「全身に張り巡らされた気嚢へと送られた」、これなら「効率的」にできそうだ。
・『精巧なしくみ 今日でも一部のトカゲに見られるが、このシステムを最高度に精巧なものにしたのは恐竜だった。 気嚢は、究極的には肺の延長であり、内臓を取り囲んで、さらには骨のなかまで入り込んでいた。 恐竜の体は空気でいっぱいだったのだ。 この空気処理システムは、必要にして充分なまでに簡潔で洗練されていた。 強力な神経系を持ち、活動的だった恐竜は、大量のエネルギーを獲得して消費する必要があり、熱を帯びていた』、「気嚢は、究極的には肺の延長であり、内臓を取り囲んで、さらには骨のなかまで入り込んでいた。 恐竜の体は空気でいっぱいだったのだ」、速く走ったりできるのは、このためだったようだ。
・『巨大化と空冷装置 こうしたエネルギー活動のためには、酸素を大量に消費する組織へ、尋常でない方法で、もっとも効率よく空気を送り込むことが不可欠だった。 このエネルギー消費が、大量の余分な熱を発生させた。気嚢はその熱を逃がすのに有効な手段だった。 そしてここに、一部の恐竜が巨大化した秘密があった。彼らは空冷装置を備えていたのだ。 (本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です) 『超圧縮 地球生物全史』には、「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」までの全歴史が紹介されています。ぜひチェックしてみてください。(ヘンリー・ジー氏の略歴はリンク先参照)(訳者:竹内 薫氏の略歴もリンク先参照)』、「このエネルギー消費が、大量の余分な熱を発生させた。気嚢はその熱を逃がすのに有効な手段だった。 そしてここに、一部の恐竜が巨大化した秘密があった。彼らは空冷装置を備えていたのだ」、「気嚢」が「空冷装置」にもなったとは、上手い仕組みだ。
・『地球生命史がわかると、世界の見え方が変わる――訳者より 世界的に権威のある科学雑誌ネイチャーの生物学編集者ヘンリー・ジー(もともと科学者で専門は古生物学と進化生物学)による、その名のとおり『超圧縮 地球生物全史』である。最初、原書を手にしたとき、「ずいぶんと無謀な試みだなぁ」と驚いた覚えがある。 なにしろ、約三八億年にわたる地球生命の誕生から絶滅(?)までをわずか二〇〇ページ(原書)で書くことなど、誰が考えても不可能な所業に思われたからだ。 悠久の時をめぐる歴史書ということで、ずいぶんと読み終えるのに時間がかかるにちがいないとも思った。だが、世界的ノンフィクション作家であり、進化生物学者のジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』倉骨彰訳、草思社文庫)が推薦していることもあり、つらつらとページをめくりはじめたのである。 実際に読みはじめると、不思議なことに、目の前で生命が誕生し、進化し、絶滅するダイナミックな映像が流れていくような錯覚に陥り、どんどん先が読みたくなり、ペルム紀の大量絶滅のあたりからはぐんぐんと読書のスピードが加速し、気がついたらわずか数時間で読み終えていた。 まるでタイムマシンで四六億年を一気に駆け抜けたような新鮮な驚きと感動が残った。 文学に感銘を受けると人生が変わるものだが、本書も同じだ。地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ』、「気がついたらわずか数時間で読み終えていた。 まるでタイムマシンで四六億年を一気に駆け抜けたような新鮮な驚きと感動が残った」、「地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ」、最大限のPRだが、確かに面白そうだ。
先ずは、8月8日付けダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/307355
・『NHK『100分de名著 for ティーンズ』(2022年8月放送)で話題沸騰! ノーベル生理学・医学賞を受賞した生物学者ポール・ナースの初の著書『WHAT IS LIFE? (ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』が世界各国で話題作となっている。 ポール・ナースが、生物学について真剣に考え始めたきっかけは一羽の蝶だった。12歳か13歳のある春の日、ひらひらと庭の垣根を飛び越えた黄色い蝶の、複雑で、完璧に作られた姿を見て、著者は思った。生きているっていったいどういうことだろう? 生命って、なんなのだろう? 著者は旺盛な好奇心から生物の世界にのめり込み、生物学分野の最前線に立った。本書ではその経験をもとに、生物学の5つの重要な考え方をとりあげながら、生命の仕組みについての、はっきりとした見通しを、語りかけるようなやさしい文章で提示する。 養老孟司氏「生命とは何か。この疑問はだれでも一度は感じたことがあろう。本書は現代生物学の知見を十分に踏まえたうえで、その疑問に答えようとする。現代生物学の入門書、教科書としても使えると思う。」、池谷裕二氏「著名なノーベル賞学者が初めて著した本。それだけで瞠目すべきだが、初心者から専門家まで読者の間口が広く、期待をはるかに超える充実度だ。誠実にして大胆な生物学譚は、この歴史の中核を担った当事者にしか書けまい。」、更科功氏「近代科学四百年の集大成、時代の向こう側まで色褪せない新しい生命論だ。」、さらには、ブライアン・コックス(素粒子物理学者 マンチェスター大学教授)、シッダールタ・ムカジー(医師、がん研究者 コロンビア大学准教授)、アリス・ロバーツ(人類学者 バーミンガム大学教授)など、世界の第一人者から絶賛されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する。(初出:2021年3月7日)』、「地球上の生命の始まりは「たった1回」だけ」、とはどういう意味なのだろう。
・『生命の樹 生き物には、全面的に他に依存するウイルスから、自給自足の生活を送るシアノバクテリアや古細菌や植物まで、境目のないグラデーションがある。こうした異なる形態はすべて生きている、と私は言いたい。すべての形態は、程度の差こそあれ、他の生き物に依存しつつ、自然淘汰で進化し、自らを律する物理的存在であることに変わりないからだ。 この広い視野に立って生命を眺めてみると、生物界に対する広々とした視界が開ける。地球上の生命は一つの生態系に属している。そこには、あらゆる生き物が組み込まれ、相互にあまねくつながっている。 このつながりは本質的なものだ。それは、相互依存の深さだけでなく、あらゆる生命が共通の進化のルーツを通して遺伝的に親戚であることによってもたらされる。 こうした深い関連性と相互のつながりという見方は、ずっと以前から生態学者が主張し続けてきたものだ。元をたどれば、一九世紀初めの探検家で博物学者アレクサンダー・フォン・フンボルトの考えに端を発している。 彼は「あらゆる生命は、全体がつながったクモの巣のようなもの」と主張した。思いがけないことかもしれないが、こうした相互のつながりこそが、生命の中核なのだ。だからこそ、人間の活動が他の生物界に与えてきた影響について、われわれは、立ち止まって、じっくり考えるべきなのだ。 生命が共有する家系図、生命の樹のたくさんの枝の生き物たちは、驚くほど多様だ。しかし、そんな「多様性」も、視点を変えれば、もっと本質的な「類似性」の前では光が失せる。化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ。 たとえば、同じ小さなATP分子を「エネルギー貨幣」として利用し、同じく基本的なDNAとRNAとタンパク質のあいだをつなぐ関係に頼り、リボソームを使ってタンパク質を作る。 フランシス・クリックは、DNAからRNA、そしてタンパク質への情報の流れが、生命にとって非常に根本的なものだと主張し、それを分子生物学の「セントラルドグマ」と呼んだ。それ以来、このルールに従わない、小さな例外を指摘した人もいたが、クリックの要点は依然として破られていない』、「そんな「多様性」も、視点を変えれば、もっと本質的な「類似性」の前では光が失せる。化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ」、「フランシス・クリックは、DNAからRNA、そしてタンパク質への情報の流れが、生命にとって非常に根本的なものだと主張し、それを分子生物学の「セントラルドグマ」と呼んだ。・・・クリックの要点は依然として破られていない」、なるほど。
・『物語のはじまり 生命の化学的基礎におけるこうした深い共通性は、驚くべき結論を指し示している。なんと、今日地球上にある生命の始まりは「たった一回」だけだったのだ。もし異なる生命体が、それぞれ何回かにわたって別々に出現し、生き延びてきたとしたら、その全子孫が、これほどまで同じ基本機能で動いている可能性はきわめて低い。 あらゆる生命が、巨大な同じ生命の樹の一部だとすれば、その樹はどんな種類の種子から成長したのだろう? どういうわけか、どこかで、はるか昔に、無生物の無秩序な化学物質が、より秩序だった形態に自分を配置した。 自らを永続させ、自らをコピーし、最終的に自然淘汰によって進化するという、きわめて重要な能力を獲得したのだ。しかし、われわれも登場人物の一人である、この物語は、実際にはどのようにして始まったのだろう? 地球は四五億年ちょっと前、太陽系の黎明期に形成された。初めの五億年ほどは、この惑星の表面は熱すぎて不安定で、われわれが知るような生命は物理的、化学的に出現できなかった。 これまでに曖昧さを残さない形で特定された、最も古い生命体の化石は、三五億年前に生息していたものだ。生命が立ち上がって走り出すまで、数億年かかったわけだ。想像を絶する、悠久の時の広がりだが、地球上の生命の歴史から見れば、僅かな時間にすぎない。フランシス・クリックは、その時間内で、生命がこの地球で始まった可能性は非常に低いと考えた。 だから彼は、生命は宇宙のどこかで誕生し、(部分的にか完全に形成された状態かは別として)地球まで運ばれてきたにちがいないと示唆したのだ。しかし、彼は、生命がどのようにして慎ましい発端から始まったのか、という重要な疑問に答えるどころか、はぐらかしてしまっている。現在、われわれは、未だ検証できないにしても、この物語について信用できる説明をすることができる。 最も古い化石は、現在の細菌のいくつかに似ている。これは、その時点で生命がすでに、膜に包まれた細胞、DNAに基づく遺伝システム、タンパク質に基づく代謝作用などを備え、充分に確立されていたことを意味する。 しかし、どれが最初だったのだろう? DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる。 しかし、酵素タンパク質は、DNAが保持する命令によってしか作ることができない。どうすれば片方ぬきで、もう片方を手に入れることができるのか? さらに、遺伝子と代謝作用は、どちらも、必須の化学物質を集めたり、エネルギーを得たり、環境から自らを守るために、細胞の外膜に頼っている。 ところが、現在、生きている細胞は、遺伝子と酵素を使って自分たちの精緻な細胞膜を形成するのだ。遺伝子とタンパク質と細胞膜。このきわめて重要な三位一体の一つが、どうやって単独で発生できたのか、想像がつかない。なにしろ、一つの要素を取り除いたら、システム全体があっという間にバラバラになってしまうのだから。 細胞膜の形成を説明するのがいちばん簡単かもしれない。細胞分子を作り上げている脂質分子は、できたてほやほやの地球に存在していたと思われる材料や条件のもと、自然発生的な化学反応で形成されうることが分かっている。科学者が脂質を水に浸けると、それは思いがけないふるまいをする。膜で包まれた空洞の球体が自然にできるのだ。その大きさや形は、細菌細胞にきわめて近い。 (本原稿は、ポール・ナース氏の略歴はリンク先参照)。 (訳者:竹内 薫氏の略歴もリンク先参照)』、「DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる」、「現在、生きている細胞は、遺伝子と酵素を使って自分たちの精緻な細胞膜を形成するのだ。遺伝子とタンパク質と細胞膜。このきわめて重要な三位一体の一つが、どうやって単独で発生できたのか、想像がつかない。なにしろ、一つの要素を取り除いたら、システム全体があっという間にバラバラになってしまうのだから」、確かに不思議だ。
・『これだけ心を打たれた本は、初めてだ――訳者より ポール・ナースは生物学の世界における巨人である。二〇〇一年にノーベル生理学・医学賞も受賞している。 本書を翻訳していて感じたことを書きたいと思う。 驚いたのは、この本がポール・ナースにとって初めての「本」の出版だということ。これだけ科学的な実績があり、二〇〇一年にノーベル賞を受賞しているのだから、何冊も本を書いていても不思議ではないが、ロックフェラー大学学長、王立協会(ロイヤル・ソサエティ)会長といった要職で忙しく、一般向けの本を書く暇がなかったのかもしれない。 これは私の推論にすぎないが、ポール・ナースは、次の世代のため、人類が悲惨な状態に陥らないために、生涯で一冊の一般向け科学書を書いたのではないか。この本はまさに、細胞周期の司会進行役を務めるタンパク質キナーゼと同様、新たな世代への橋渡しの役割を担っている。 私は数々の科学書を翻訳してきたが、これだけ心を打たれた本は、初めてだ。それほど、ポール・ナースという科学者の家族、友人、先輩、同僚、部下、人類、そして生き物への愛情を感じた』、大変な力作のようだ。
次に、8月9日付けダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】」を紹介しよう。
・(この部分は第一の記事と同じなので、紹介省略)
・『最古の化石の年代 光合成とは、ご存じのように、太陽光のエネルギーを利用して、水と二酸化炭素から糖と酸素を作る一連の化学反応だ。 光合成に必要な酵素は、葉緑体を取り巻く二層の細胞膜の内側に配置されている。近所の公園に生えている草の葉っぱも、その一つひとつの細胞に、クロロフィル(=葉緑素)と呼ばれるタンパク質を高レベルで含む、ほぼ球体の細胞小器官が一〇〇個ほど収まっている。 草が緑に見えるのは、このクロロフィルが原因だ。光のスペクトルの青と赤の部分からエネルギーを吸収し、そのエネルギーを光合成の動力に利用するため、結果として緑の波長を反射するのだ。 光合成を行うことができる植物や藻、そしていくつかの細菌は、光合成によって作り出された単糖を、当面のエネルギー源として、また、自分たちが生き残るために必要な分子を組み立てる材料として利用する。さらに、糖類および炭水化物も生み出し、それをさまざまな生き物が消費する。朽ちてゆく木を餌にする菌類、草を喰む羊、海で何トンもの光合成プランクトンをひと飲みにするクジラ、そして、世界中の人々を支える食用作物などだ。 実際、われわれの身体全体を作るために不可欠な炭素は、元をたどれば、光合成に由来する。すべては、光合成の化学反応によって、大気中から抜き出された二酸化炭素から始まっているんだ。 光合成の化学反応は、今日、地球上に存在する大半の生命を作るためのエネルギーと材料を供給してくれるだけでなく、この惑星の歴史を形作る上で、決定的な役割を果たした。生命は、これまで発見された最古の化石の年代からすると、およそ三五億年前に初めてあらわれたと思われる。 最古の化石は単細胞の微生物で、地熱源からエネルギーを得ていたようだ。地球の生命の最も初期のころ、まだ光合成が行われていなかったため、酸素の大きな供給源はなかった。その結果、大気中には酸素がゼロに等しかった。この惑星の草創期の生命体が実際に酸素と遭遇したとき、数々の問題が生じたはずだ』、「われわれの身体全体を作るために不可欠な炭素は、元をたどれば、光合成に由来する。すべては、光合成の化学反応によって、大気中から抜き出された二酸化炭素から始まっているんだ」、なるほど。
・『驚きの大惨事 酸素は生命を維持するものと考える人は多いだろう。実際にそのとおりなんだが、酸素は、生命に絶対欠くことができないDNAなどのポリマーを含む、他の化学物質を傷つけることもある。酸素は、非常に化学反応性の高い気体なのだ。 微生物たちは、いったん光合成する能力を進化させると、何千年もかけて増殖し、大気中の酸素の量が急上昇するほどまでになった。その後、二〇億年から二四億年前に起きた出来事は「酸素の大惨事」と呼ばれている。そのころ、生き物といえばすべて微生物で、細菌か古細菌のどちらかだったが、そのほとんどが酸素の出現によって全滅してしまったと考える研究者もいる。 生命を作り出した条件が、生命をほぼまるまる終焉させたとは、なんと皮肉なことだろう。生き残った少数の生命体は、酸素に曝されにくい場所、おそらくは海底や地下深部などに退いたか、新しい化学的性質に適応して、酸化された世界でうまくやるために必要な進化を遂げたかのどちらかだったろう。 現在、人間は、未だに酸素を注意して扱っているが、ほぼ完全に酸素に依存している。身体が食べたり、作ったり、吸収したりした、糖、脂肪、タンパク質からエネルギーを得るために酸素が不可欠だからだ。エネルギーは「細胞呼吸」と呼ばれる化学プロセスによってもたらされる。この一連の反応の最終段階は、あらゆる真核生物の細胞にとってきわめて重要な細胞小器官の区画、ミトコンドリア内で起こる。 ミトコンドリアの主な役割は、生命の化学反応に細胞が必要とするエネルギーを生み出すことだ。だから、エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。 全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ四〇パーセントを占める。厳密に化学的な観点から言うと、細胞呼吸は、光合成の中核となる反応を反転させている。糖と酸素が反応して水と二酸化炭素を作り、たくさんのエネルギーを放出し、そのエネルギーは後で使用するために取っておかれる。 (本原稿は、ポール・ナース著『WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)』、(以下は第一の記事と同じなので紹介を省略)「二〇億年から二四億年前に起きた出来事は「酸素の大惨事」と呼ばれている。そのころ、生き物といえばすべて微生物で、細菌か古細菌のどちらかだったが、そのほとんどが酸素の出現によって全滅してしまったと考える研究者もいる・・・生き残った少数の生命体は、酸素に曝されにくい場所、おそらくは海底や地下深部などに退いたか、新しい化学的性質に適応して、酸化された世界でうまくやるために必要な進化を遂げたかのどちらかだったろう」、「エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。 全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ四〇パーセントを占める。厳密に化学的な観点から言うと、細胞呼吸は、光合成の中核となる反応を反転させている。糖と酸素が反応して水と二酸化炭素を作り、たくさんのエネルギーを放出し、そのエネルギーは後で使用するために取っておかれる」、本当によく出来た仕組みだ。
第三に、9月19日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したヘンリー・ジー氏による「恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/309707
・『地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の発刊を記念して、内容の一部を特別に公開する』、興味深そうだ。
・『恐竜の秘密 獣弓類には、大型はゾウくらいから小型はテリアくらいまでの大きさのものがいたが、恐竜はそのどちらをも超えていた。 なぜ、恐竜はこれほどまでに大きく、そして小さくなれたのだろう? その秘密は、恐竜の呼吸の仕方にある』、どういうことなのだろう。
・『「換気」の効率 羊膜動物の歴史のなかで、深い断絶が起きていたのだ。ほ乳類、つまり三畳紀の生き残りで、恐竜の影で果敢にもまだ頑張って生きていた獣弓類にとって、「換気」とは、息を吸って、また吐き出すことだった。 客観的に考えて、これは体内に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するには効率の悪い方法だ。 口と鼻から新鮮な空気を吸い込み、肺に下ろし、そこでまわりの血管に酸素を吸収させるのは、エネルギーの無駄だ。 しかも、同じ血管から老廃物である二酸化炭素を同じ肺の空間に放出し、新鮮な空気が入ってきたのと同じ穴から吐き出さなければならない』、確かに「「換気」の効率」は悪そうだ。
・『恐竜もトカゲも… つまり、一回の吸気で、よどんだ空気をすべていっぺんに排出することも、隅々まで新鮮な空気で満たすことも非常に難しいのだ。 恐竜やトカゲなどのほかの羊膜類も、同じように鼻や口から息を吸ったり吐いたりしていたが、吸気と呼気のプロセスはかなり異なっていた。 彼らは空気を処理する一方通行のシステムを進化させ、呼吸をとても効率的なものにしていた。 空気は肺に入っても、すぐにまた出ていくわけではなく、逆止め弁に導かれて、全身に張り巡らされた気嚢へと送られた』、「逆止め弁」、「全身に張り巡らされた気嚢へと送られた」、これなら「効率的」にできそうだ。
・『精巧なしくみ 今日でも一部のトカゲに見られるが、このシステムを最高度に精巧なものにしたのは恐竜だった。 気嚢は、究極的には肺の延長であり、内臓を取り囲んで、さらには骨のなかまで入り込んでいた。 恐竜の体は空気でいっぱいだったのだ。 この空気処理システムは、必要にして充分なまでに簡潔で洗練されていた。 強力な神経系を持ち、活動的だった恐竜は、大量のエネルギーを獲得して消費する必要があり、熱を帯びていた』、「気嚢は、究極的には肺の延長であり、内臓を取り囲んで、さらには骨のなかまで入り込んでいた。 恐竜の体は空気でいっぱいだったのだ」、速く走ったりできるのは、このためだったようだ。
・『巨大化と空冷装置 こうしたエネルギー活動のためには、酸素を大量に消費する組織へ、尋常でない方法で、もっとも効率よく空気を送り込むことが不可欠だった。 このエネルギー消費が、大量の余分な熱を発生させた。気嚢はその熱を逃がすのに有効な手段だった。 そしてここに、一部の恐竜が巨大化した秘密があった。彼らは空冷装置を備えていたのだ。 (本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です) 『超圧縮 地球生物全史』には、「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」までの全歴史が紹介されています。ぜひチェックしてみてください。(ヘンリー・ジー氏の略歴はリンク先参照)(訳者:竹内 薫氏の略歴もリンク先参照)』、「このエネルギー消費が、大量の余分な熱を発生させた。気嚢はその熱を逃がすのに有効な手段だった。 そしてここに、一部の恐竜が巨大化した秘密があった。彼らは空冷装置を備えていたのだ」、「気嚢」が「空冷装置」にもなったとは、上手い仕組みだ。
・『地球生命史がわかると、世界の見え方が変わる――訳者より 世界的に権威のある科学雑誌ネイチャーの生物学編集者ヘンリー・ジー(もともと科学者で専門は古生物学と進化生物学)による、その名のとおり『超圧縮 地球生物全史』である。最初、原書を手にしたとき、「ずいぶんと無謀な試みだなぁ」と驚いた覚えがある。 なにしろ、約三八億年にわたる地球生命の誕生から絶滅(?)までをわずか二〇〇ページ(原書)で書くことなど、誰が考えても不可能な所業に思われたからだ。 悠久の時をめぐる歴史書ということで、ずいぶんと読み終えるのに時間がかかるにちがいないとも思った。だが、世界的ノンフィクション作家であり、進化生物学者のジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』倉骨彰訳、草思社文庫)が推薦していることもあり、つらつらとページをめくりはじめたのである。 実際に読みはじめると、不思議なことに、目の前で生命が誕生し、進化し、絶滅するダイナミックな映像が流れていくような錯覚に陥り、どんどん先が読みたくなり、ペルム紀の大量絶滅のあたりからはぐんぐんと読書のスピードが加速し、気がついたらわずか数時間で読み終えていた。 まるでタイムマシンで四六億年を一気に駆け抜けたような新鮮な驚きと感動が残った。 文学に感銘を受けると人生が変わるものだが、本書も同じだ。地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ』、「気がついたらわずか数時間で読み終えていた。 まるでタイムマシンで四六億年を一気に駆け抜けたような新鮮な驚きと感動が残った」、「地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ」、最大限のPRだが、確かに面白そうだ。
タグ:生命科学 「二〇億年から二四億年前に起きた出来事は「酸素の大惨事」と呼ばれている。そのころ、生き物といえばすべて微生物で、細菌か古細菌のどちらかだったが、そのほとんどが酸素の出現によって全滅してしまったと考える研究者もいる・・・生き残った少数の生命体は、酸素に曝されにくい場所、おそらくは海底や地下深部などに退いたか、新しい化学的性質に適応して、酸化された世界でうまくやるために必要な進化を遂げたかのどちらかだったろう」、 「われわれの身体全体を作るために不可欠な炭素は、元をたどれば、光合成に由来する。すべては、光合成の化学反応によって、大気中から抜き出された二酸化炭素から始まっているんだ」、なるほど。 ダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】」 大変な力作のようだ。 「DNAに基づく遺伝子の複製、タンパク質をベースにした代謝作用、それとも包み込む膜組織だろうか? 現在の生体では、これらは、相互に依存するシステムを形成し、まとまって初めて機能する。DNAに基づく遺伝子は、酵素タンパク質の助けを借りることでのみ、自らを複製することができる」、「現在、生きている細胞は、遺伝子と酵素を使って自分たちの精緻な細胞膜を形成するのだ。遺伝子とタンパク質と細胞膜。このきわめて重要な三位一体の一つが、どうやって単独で発生できたのか、想像がつかない。なにしろ、一つの要素を取り除いたら、シ ヘンリー・ジー氏による「恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み」 ダイヤモンド・オンライン 「エネルギーがたくさん必要な細胞にミトコンドリアがたくさんある。あなたの心臓を鼓動させ続けるためには、心臓の筋肉の一つひとつの細胞に何千ものミトコンドリアが必要だ。 全部合わせると、心臓の細胞の体積のおよそ四〇パーセントを占める。厳密に化学的な観点から言うと、細胞呼吸は、光合成の中核となる反応を反転させている。糖と酸素が反応して水と二酸化炭素を作り、たくさんのエネルギーを放出し、そのエネルギーは後で使用するために取っておかれる」、本当によく出来た仕組みだ。 「気がついたらわずか数時間で読み終えていた。 まるでタイムマシンで四六億年を一気に駆け抜けたような新鮮な驚きと感動が残った」、「地球生命の誕生と絶滅の物語を知ると、石油や地球温暖化や絶滅危惧種や顎や耳や更年期などについて深く考えるようになり、世界の見え方が違ってくる。それは人生が変わるということだ」、最大限のPRだが、確かに面白そうだ。 「このエネルギー消費が、大量の余分な熱を発生させた。気嚢はその熱を逃がすのに有効な手段だった。 そしてここに、一部の恐竜が巨大化した秘密があった。彼らは空冷装置を備えていたのだ」、「気嚢」が「空冷装置」にもなったとは、上手い仕組みだ。 「気嚢は、究極的には肺の延長であり、内臓を取り囲んで、さらには骨のなかまで入り込んでいた。 恐竜の体は空気でいっぱいだったのだ」、速く走ったりできるのは、このためだったようだ。 「逆止め弁」、「全身に張り巡らされた気嚢へと送られた」、これなら「効率的」にできそうだ。 確かに「「換気」の効率」は悪そうだ。 「そんな「多様性」も、視点を変えれば、もっと本質的な「類似性」の前では光が失せる。化学的、物理的、および情報の機械として、その機能の基本的な細部は、みんな一緒だ」、「フランシス・クリックは、DNAからRNA、そしてタンパク質への情報の流れが、生命にとって非常に根本的なものだと主張し、それを分子生物学の「セントラルドグマ」と呼んだ。・・・クリックの要点は依然として破られていない」、なるほど。 「地球上の生命の始まりは「たった1回」だけ」、とはどういう意味なのだろう。 ダイヤモンド・オンライン「【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】」 (その3)(【NHK『100分de名著』で話題】地球上の生命の始まりは「たった1回」だけという驚くべき結論【書籍オンライン編集部セレクション】、【NHK『100分de名著』で話題】20億年前、ほとんどの生物が絶滅…「酸素の大惨事」の真相【書籍オンライン編集部セレクション】、恐竜がとてつもなく「巨大化」した秘密…彼らの「臓器」のすごい仕組み)
いじめ問題(その14)(「いじめは犯罪行為」と誤解する親たちの落とし穴 法律の誤解が「解決の可能性」を消す場合も、東大卒ママは問う 「いじめ」という言葉のあいまいさが「助長」しているのでは 偏差値29で東大に合格したなっちゃんの ただいま子育て猛勉強中!、《旭川14歳少女凍死》第三者委員会のイジメ調査“最終報告書”その驚きの詳細「イジメと自殺の因果関係は…」 旭川14歳少女イジメ凍死事件 ♯33、日本ばかり「いじめ加害者に甘い」のはなぜ?厳罰化の海外と広がる格差) [社会]
いじめ問題については、7月16日に取上げた。今日は、(その14)(「いじめは犯罪行為」と誤解する親たちの落とし穴 法律の誤解が「解決の可能性」を消す場合も、東大卒ママは問う 「いじめ」という言葉のあいまいさが「助長」しているのでは 偏差値29で東大に合格したなっちゃんの ただいま子育て猛勉強中!、《旭川14歳少女凍死》「死んだ本人に話を聞けてないから推測の域を出ない」第三者委員会のイジメ調査“最終報告書”その驚きの詳細「イジメと自殺の因果関係は…」 旭川14歳少女イジメ凍死事件 ♯33、日本ばかり「いじめ加害者に甘い」のはなぜ?厳罰化の海外と広がる格差)である。
先ずは、8月14日付け東洋経済オンラインが掲載した教育研究者・ミュージカル俳優の山崎 聡一郎氏による「「いじめは犯罪行為」と誤解する親たちの落とし穴 法律の誤解が「解決の可能性」を消す場合も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/600645
・『法律は、大人だけでなく、子どもにも役立つもの。いじめや虐待に悩んでいる子どもにとっては、自分の心身を守る知識となる場合もあるでしょう。しかし、法律を正しく理解することは簡単ではありません。 法律を学ぶために大事なこととは。大切な子どもを守るために必要な考え方とは。『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!』が話題を呼んでいる、山崎聡一郎氏が解説します』、法律面からのアプローチとは、興味深そうだ。
・『法律の文章を小学生向けに「翻訳」 大人の読者が多いワケ 皆さんは「六法」を読んだことはありますか? 学校で習った日本国憲法を除けば、ほとんどの方の答えがNOだと思います。私たちは法の下で生活しているのに、その法律に関してはまったくといっていいほど知らないのです。 しかし、それも無理はありません。 なぜなら法律は非常にわかりにくく、読みにくいからです。法律用語には必要十分な意味がすべてのせられているために、用語の正しい理解が、法律を理解する前提となってしまっています。法律の文章というのは、読解以前に専門的な勉強がある程度必要となることから、みんなのためのものでありながら事実上、専門家のものになってしまっているのです。 しかし困った状況に陥ったとき、法律の知識は大いに役に立ちます。法律を知っていれば、自分の権利を守るヒントを得ることができるからです。そしてそれは大人だけでなく子どもも同じです。特にいじめにあっている子どもや周りの大人は、知っておくとよいこと、そして知っておかなければならない知識が法律には盛り込まれています。 しかし、大人であっても法律を読むのは難しい。「法律はみんなのためのルールなのに、みんなにわかるように書かれていない」。そんな状況を解決するためにスタートしたのが、法律の条文を子どもでも読める文章に書き換えるという「こども六法プロジェクト」でした。 このプロジェクトを始めたのには、理由があります。 私自身、小学5年生から6年生にかけて手首を骨折するほどの壮絶ないじめを受けていました。にもかかわらず、中学に進学した際にはいじめの加害者になってしまった。そしてそんな自分自身に衝撃を受けました。いじめ問題の複雑さを体感し、いじめを減らすために何かできることはないかと考えてたどり着いた答えが、「こども六法」を作成するということでした。スタートしたのは大学時代ですが、現在では関連書籍の出版だけでなく、体験型の学びとしての「こども六法すごろく」などを作成しています』、「私自身、小学5年生から6年生にかけて手首を骨折するほどの壮絶ないじめを受けていました。にもかかわらず、中学に進学した際にはいじめの加害者になってしまった。そしてそんな自分自身に衝撃を受けました。いじめ問題の複雑さを体感し、いじめを減らすために何かできることはないかと考えてたどり着いた答えが、「こども六法」を作成するということでした」、「いじめ」の被害者、加害者双方の体験を踏まえたもののようだ。
・『子どもの「いじめ」と大人の「セクハラ・パワハラ」の関係 いじめと法律という話になると、多くの人が暴力などの犯罪行為と結びつけて考えます。しかし、いじめと犯罪は別物です。法律でのいじめの定義は、「被害者がいやだと思ったらいじめ」というものです。被害者の感じ方が重要である点はセクハラやパワハラと同じです。そしてセクハラやパワハラが起きないように会社に監督責任があるのと同じように、学校はいじめが起きないように生徒を指導しなければならない責任を負っています。まずはこの部分を理解しておく必要があります。 いじめと犯罪は別とはいえ、もちろん「いじめであり、犯罪である」ということはあります。相手を殴ってケガをさせるなどがそうです。裏を返せば、こういった暴力に該当しない行為など、態様によっては犯罪にはならないいじめも多くあるわけです。例えば集団で無視をするなどは、犯罪にはなりません。つまり「いじめ=犯罪」と考えていると、無視したり、悪口を言ったり、にらんだりといった、認識からこぼれ落ちるいじめが生じてしまいます。これらが「犯罪じゃないから」という理由で横行したら、被害者は追い詰められてしまいます。 ですから「いじめと犯罪はまったく別物だ」ということを、子ども自身も周りの大人も、ちゃんと理解しなければいけないのです。「みんなで無視しているけど、犯罪じゃないからいじめじゃないよね」といったことが起こらないように、犯罪としては対処できないけれども、苦しんでいる子どもを救うために、法律で決められたいじめの定義があるのです。) 「いじめは犯罪」と考えすぎたり、「いじめを法律で解決する」という考えが行きすぎている保護者の中には、法律を盾に学校へ乗り込んできたり、「絶対に裁判にしてやる」と、何が何でも裁判で決着をつけようとする方もいます。 しかし裁判というのは、まず時間がかかります。実際5年以上争っている裁判もあります。大人にとっての5年はたいしたことはないかもしれませんが、子どもにとっての5年というのは、小学生時代のほぼすべて、中学・高校なら卒業してしまいます。いじめ裁判を争っているうちに学校生活が終わってしまうとしたら、子どもにとってはメリットよりもデメリットのほうが多いはずです。 結局子どもが一番長い時間を過ごすのは学校なので、基本的には家庭と学校で協力し合って解決することが理想です。その可能性を、法律の誤解によって摘んでしまってはなりません。もちろん、通っている学校や教員が隠蔽体質である場合など、悪質なケースではやむをえず法律によって争う必要があるかもしれませんが、法律が必要になるのはどんなシーンなのかということを状況に応じて慎重に検討しなければならないのです。 この判断のすべてを保護者だけで行うのは、深刻なケースであればあるほど難しくなるでしょう。そんなときに弁護士のような法の専門家が力になってくれるのですが、そのような状況に陥った際に弁護士に相談するかどうかを判断する手助けをしてくれるのが、最低限の法律の知識なのです』、「法律でのいじめの定義は、「被害者がいやだと思ったらいじめ」というものです。被害者の感じ方が重要である点はセクハラやパワハラと同じです。そしてセクハラやパワハラが起きないように会社に監督責任があるのと同じように、学校はいじめが起きないように生徒を指導しなければならない責任を負っています」、「いじめと犯罪は別とはいえ、もちろん「いじめであり、犯罪である」ということはあります。相手を殴ってケガをさせるなどがそうです。裏を返せば、こういった暴力に該当しない行為など、態様によっては犯罪にはならないいじめも多くあるわけです。例えば集団で無視をするなどは、犯罪にはなりません」、「「いじめと犯罪はまったく別物だ」ということを、子ども自身も周りの大人も、ちゃんと理解しなければいけないのです」、なるほど。
・『被害者も加害者も紙一重どんな方法を選択すべきか お子さんは被害者だけでなく、加害者になる可能性もあります。被害者と加害者は結構紙一重なところがあるからです。 例えば、「ふざけてよだれをみんなにこすりつけていた子を集団で無視したら、無視した子たちが加害者とされた」というようなケースを考えてみましょう。道徳教育だと「いじめられている人がかわいそうだから、ダメ」という話になりますが、「よだれをこすりつける子なんてかわいそうでもなんでもない」と感じる子が多ければ、「相手が悪いんだからいじめていいじゃん」となってしまうでしょう。) それに加害者となった子たちにも、「なんでこっちが加害者にされなければならないんだ」という不満が残ります。このような場合、道徳だけでは限界があります。 そういったときには、ロジカルに考えることが大切です。「相手にやめてほしかったんだよね?」「みんなで無視する以外に、方法はなかった?」「どんな方法を取ったら、いじめにならなかったんだろう?」』、「被害者と加害者は結構紙一重なところがある」、「道徳だけでは限界があります。 そういったときには、ロジカルに考えることが大切です」、なるほど。
・『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ! そんなふうに、「問題解決のためにとった行動が間違っていた。無視じゃダメだった」というところにまで落とし込めれば、同じようないじめは起こらないはずです。 大切なのは、相手の子どもによだれをこすりつける行為をやめて欲しいと伝えることだったはずです。直接相手に伝えたり、どうしてそのような行為をしてしまうのかを探ったり、先生に相談したり、いじめ行為以外に取れる手段を検討できるようになることが、自分と相手の両方の権利を守れるようになることです。 世の中には「いじめは被害者にも原因がある」という言説があふれていますが、法律はこれを明確に否定しています。法定手続きの保障、あるいは私刑の禁止と呼ばれる原則です。ロジカルな問題解決の考え方は、唯一の方法とまでは言わずとも、法律から効果的に学ぶことができるのです。 子ども自らが、「いじめだと非難される行為を選択してしまった。次からは別の方法を考え、同じ選択をしないようにしよう」というところに到達するように支援していくのが、保護者と学校の務めです。いじめの解決は、思考を整理する手伝いでもあります。「法律でダメって書いてある行為をしたからダメ」といった単純な話で終わらせてはなりません。そんなふうに教えたら、法律に書いてない行為でのいじめが増えるだけです』、「世の中には「いじめは被害者にも原因がある」という言説があふれていますが、法律はこれを明確に否定しています。法定手続きの保障、あるいは私刑の禁止と呼ばれる原則です」、「いじめの解決は、思考を整理する手伝いでもあります。「法律でダメって書いてある行為をしたからダメ」といった単純な話で終わらせてはなりません。そんなふうに教えたら、法律に書いてない行為でのいじめが増えるだけです」、その通りだろう。
・『多様な人と生きるために そもそも法というのは、異質な他者と誰もが平和に暮らすことができるような社会を実現するために作られてきたという歴史があります。法律が発展してきたのは、多文化・多言語・多民族の社会でした。日本もこれから国際化が進み、外国をルーツとする人の数は学校のみならず増えていくわけです。 もちろん日本人どうしでも、価値観は多様化しています。そういった意味においても、子どもの頃から法律の考え方に触れ、対立が起きたときに適切な方法がとれるようになっておくことは重要です。そうすることは、ひいては自分自身を守ることにもなるのです』、「子どもの頃から法律の考え方に触れ、対立が起きたときに適切な方法がとれるようになっておくことは重要です。そうすることは、ひいては自分自身を守ることにもなるのです」、同感である。
次に、9月4日付けAERAdotが掲載したコラムニストの杉山奈津子氏による「東大卒ママは問う 「いじめ」という言葉のあいまいさが「助長」しているのでは 偏差値29で東大に合格したなっちゃんの ただいま子育て猛勉強中!」を紹介しよう。
・『うつ病を克服し、偏差値29から東大に合格した杉山奈津子さんも、今や小学生の男の子の母。日々子育てに奮闘する中でとり入れている心理テクニックや教育方法をお届けします。今回は「『いじめ』という言葉のあいまいさ」についてです。杉山さん自身が心理カウンセラーとして学んできた学術的根拠も交えつつ語る『東大ママのラク&サボでも「できる子」になる育児法』も絶賛発売中です。ぜひご覧ください。 私が中学受験をしたときに個人面接があり、先生からこんな質問をされたことを、たまに思い出します。 「あなたはいじめに対してどう思いますか?」 この質問はあまりにも漠然としすぎていて、私は、いじめの何について答えればいいのか分からず、深く考えこんでしまいました。もちろん、いじめは決してすべきことではありませんし、なくすべきものです。とはいえ、なくすための対処方法は一つひとつ異なるでしょうし、簡単にひとことで述べろと言われても、無理でしょう。 さんざん悩んだ末に私は、「分かりません」と答えました。その質問をした先生から、「あなたはいじめに対して何も考えていないのですか」と言われたのを、今でも覚えています。入試の面接なわけですから、何でもいいから、答えるべきだったのでしょう』、「入試の面接」で「「あなたはいじめに対してどう思いますか?」 この質問はあまりにも漠然としすぎていて、私は、いじめの何について答えればいいのか分からず、深く考えこんでしまいました」、「さんざん悩んだ末に私は、「分かりません」と答えました」、いい加減に答えるのではなく、「さんざん悩んだ末に私は、「分かりません」と答えました」、大したものだ。
・『いじめを教師に相談しても、解決しないことが多々ある 帰り道、同じ学校だった友人に聞くと、「いじめが存在することを、先生に言いますって答えたよ」と言っていました。しかし、先生に言ったからといって、解決していないいじめがたくさんあり、悪化する例さえも存在するのです。ですから、やはり私はそれが答えとしてふさわしいのかは「分からない」と思いました。 そんなことがありつつ、無事その中学校には合格できたのですが……入学早々中学1年生のときに、別のクラスで1人の子を仲間外れにしたり、所有物を隠したりする「いじめ」がおきていたそうです。後から聞いた話ですが、その生徒は担任(なんと偶然にも、面接で私にいじめについて聞いてきた先生でした)に、自分が今置かれている状況について相談をしたとのこと。すると担任は、「あなたは生き方が下手くそですね」と答えただけで、何の対応もしてくれなかったのだとか。 この話を聞いた時、私はその先生に対して、「あなた、いじめに対してどう思っているのですか」と問い詰めたいような気持ちに駆られました。 その先生はかなり前に退職していますが……私の記憶には、今でもしっかり残っています。) 現在、故意に相手を傷つけるのも、誰かの所有物を壊したり捨てたりするのも、物理的な暴力を振るうのも、それら全部を一くくりにして「いじめ」という言葉にまとめられています。それならば、もういっそのこと、このあいまいな「いじめ」という言葉を廃止してしまえばいいのではないかと思ってしまいます。 殴ったり蹴ったりしたならば暴行罪、けがをさせてしまったら傷害罪です。物を隠したり壊したりしたら窃盗罪、器物損壊罪になります。一つひとつを、きちんとした名称で呼ぶべきではないでしょうか。 学校側も、もしいじめについて生徒に考えさせたいのならば、面接でいじめについて聞くよりも、入学した初めの時期に授業をして、何をしたらどのような罪に問われるかを教えたほうが良い気がします。そして、警察などを含む外部の組織も積極的に介入できるように、それぞれのいじめの行為を、もっとはっきりとした罪名にして捉え直すべきです』、「現在、故意に相手を傷つけるのも、誰かの所有物を壊したり捨てたりするのも、物理的な暴力を振るうのも、それら全部を一くくりにして「いじめ」という言葉にまとめられています。それならば、もういっそのこと、このあいまいな「いじめ」という言葉を廃止してしまえばいいのではないかと思ってしまいます。 殴ったり蹴ったりしたならば暴行罪、けがをさせてしまったら傷害罪です。物を隠したり壊したりしたら窃盗罪、器物損壊罪になります。一つひとつを、きちんとした名称で呼ぶべきではないでしょうか」、その通りだ。
・『あいまいな表現をやめると、どうすべきかが見えてくる もし今現在、面接で「あなたはいじめについてどう思いますか」と聞かれたら、私はやはり悩むと思います。しかし、「あなたは暴行罪についてどう思いますか」と聞かれたら、キッパリと「警察に連絡します」と答えることができます。 いじめという言葉のあいまいさ、そして軽さこそが、いじめという行為を助長させている部分があるような気がしてなりません。 今後も、子どもたちのいじめに関する、つらいニュースを目にすることがあるでしょう。ただ、その「いじめ」という名称を変更することが、抑止力になり得るのではないかと思います』、「いじめという言葉のあいまいさ、そして軽さこそが、いじめという行為を助長させている部分があるような気がしてなりません」、「「いじめ」という名称を変更することが、抑止力になり得るのではないかと思います」、同感である。
第三に、9月5日付け文春オンライン「《旭川14歳少女凍死》「死んだ本人に話を聞けてないから推測の域を出ない」第三者委員会のイジメ調査“最終報告書”その驚きの詳細「イジメと自殺の因果関係は…」 旭川14歳少女イジメ凍死事件 ♯33」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/57132
・『昨年3月に当時14歳だった廣瀬爽彩(さあや)さんの遺体が見つかって1年半、イジメを受けてから3年半。世間を震撼させた“凄惨な事件”は大詰めを迎えようとしている。 2022年8月31日、イジメについての事実確認や爽彩さんが亡くなったこととの因果関係の再調査を進めてきた第三者委員会は、最終報告書案の一部を遺族側に提出した。文春オンラインの取材で、その最終報告書案には爽彩さんの死とイジメとの因果関係について、検証すらされていなかったことがわかった――』、時間がかかったにも拘らず、「爽彩さんの死とイジメとの因果関係について、検証すらされていなかった」、とは驚かされた。
・『第三者委員会が「8月末までに提出する」はずだった最終報告書は 昨年2月13日に自宅から失踪し、3月に旭川市内の公園で雪の中で亡くなっているのが見つかった爽彩さん。文春オンラインでは2021年4月から記事を公開し、爽彩さんが中学入学直後から凄惨なイジメを受けていたこと、失踪直前までそのイジメによるPTSDに悩まされていた事実などを報じてきた。 再調査を行ってきた第三者委員会は今年4月に公表した中間報告で「イジメとして取り上げる事実があった」として性的なイジメ、深夜の呼び出し、おごらせる行為など中学の先輩7人が関与した6項目をイジメと認定した。それまで「イジメと認知するまでには至らない」としていた旭川市教育委員会もイジメを認め、遺族に謝罪。その席で第三者委員会は最終報告書について、「8月末までに提出する」と遺族側に伝えていた。全国紙社会部記者が打ち明ける。 「期日(8月31日)の6日前の8月25日になって突然、第三者委員会から『報告が間に合わない』と遺族側に通達があったそうです。もともと昨年5月に第三者委員会が発足した当初は、11月までに調査結果をまとめるとの説明でした。しかし、『1000ページ以上の資料の読み込みに時間がかかっている』などの理由で11月の期限は白紙に。その後、昨年9月に今津寛介旭川市長が就任して『年内にまとめてほしい』と要望し、遺族側も『せめて失踪から1年となる2月13日までに』と求めていましたが、第三者委員会が報告時期の見通しやスケジュールなどを示すことはありませんでした。 調査期間が長引くほど関係生徒たちの記憶も薄れ、被害者の同級生たちは今年の春に中学校を卒業してしまいました。高校は道教委の管轄となり、市教委では聞き取り調査を行うことが困難となります」 文部科学省の定める「いじめ重大事態の調査に関するガイドライン」では、調査時期・期間(スケジュール、定期報告)について、「被害児童生徒・保護者に対して、調査を開始する時期や調査結果が出るまでにどのくらいの時期が必要となるのかについて、目途を示すこと」と、明記されている。第三者委員会が最終報告の日程について「8月末」と期限を示したのは今年4月の中間報告後。調査開始から10カ月以上経過してからのスケジュール開示、自ら設定した8月末の期日を反故にするなど、ガイドラインを遵守しない第三者委員会の姿勢に、遺族側は不信感を募らせている』、「昨年5月に第三者委員会が発足した当初は、11月までに調査結果をまとめるとの説明」、「昨年9月に今津寛介旭川市長が就任して『年内にまとめてほしい』と要望し、遺族側も『せめて失踪から1年となる2月13日までに』と求めていましたが、第三者委員会が報告時期の見通しやスケジュールなどを示すことはありませんでした」、「被害者の同級生たちは今年の春に中学校を卒業」、「高校は道教委の管轄となり、市教委では聞き取り調査を行うことが困難となります」、「調査開始から10カ月以上経過してからのスケジュール開示、自ら設定した8月末の期日を反故にするなど、ガイドラインを遵守しない第三者委員会の姿勢」には、「遺族」だけでなく、我々も「不信感」が募る。
・『「迷走」を繰り返した第三者委員会の調査活動 今回の調査の関係者によると、第三者委員会がまとめた最終報告書案は全7章で構成され、遺族側に提出されたのは「廣瀬さんが死亡に至った過程の検証」「いじめの検証及び考察」「認定した事実関係と経緯についての調査結果」の3章分(計120ページ以上)のみ。「当時の学校と市教委の対応」「再発防止策」など残る4章分はさらに時間が必要と説明し、9月5日時点で遺族側には渡っていない。 第三者委員会は小児科医、臨床心理士、大学教授、弁護士ら9名の調査委員で構成されているが、これまで、同委員会の調査活動は文字通り「迷走」を繰り返した。 「イジメ問題に精通した専門家、特にイジメPTSDの治療に当たった臨床経験の豊富な医師や、イジメ被害者のケアに従事した心理士が旭川市内では見つからず、重大事態の調査に必要とされる、遺族の希望していた高度な専門的知見を持った委員は選ばれませんでした。遺族との協議も噛み合わないことが多く、時には激しい怒号が飛び交い“大荒れ”になることもあったそうです」(遺族側の支援者)』、「イジメ問題に精通した専門家、特にイジメPTSDの治療に当たった臨床経験の豊富な医師や、イジメ被害者のケアに従事した心理士が旭川市内では見つからず、重大事態の調査に必要とされる、遺族の希望していた高度な専門的知見を持った委員は選ばれませんでした」、「調査活動は文字通り「迷走」を繰り返した」、やむを得ない面もあるとはいえ、余りにお粗末だ。
・『イジメによるPTSDと“自殺との因果関係”は「疑問」だと判断 さらに遺族側が憤りを感じているのが、予定から大幅に遅れて提出された最終報告書案に爽彩さんの死とイジメの因果関係が全く検証されていないことだった。前出の調査関係者が語る。 「最終報告書案では中間報告通り中学の先輩7人が関与した6項目をイジメと認定しています。また、被害者の死亡についても失踪直前に『きめた』『今日死のうと思う』『ごめんね』とSNSに書き込みを残していたことから、自殺とする見解を示しています。イジメの被害にあってから、天真爛漫だった彼女の表情から笑顔はなくなり、部屋に引きこもるようになった。5月には母親に『ママ、死にたい』と洩らし、ウッペツ川への自殺未遂後はイジメのフラッシュバックに苦しみ、医者からはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断を受けていました。しかし、16カ月もの期間調査を行ってきた“自殺との因果関係”については医学的な観点から説明が示されていません。調査の放棄とも言えます」 第三者委員会は最終報告書案の中で爽彩さんが自殺に至った背景について、遺族の主張していた「イジメによるPTSD」という診断に不可解な判断を下しているという』、「最終報告書案に爽彩さんの死とイジメの因果関係が全く検証されていない」、「16カ月もの期間調査を行ってきた“自殺との因果関係”については医学的な観点から説明が示されていません。調査の放棄とも言えます」、酷い話だ。
・『亡くなった爽彩さんから「直接話が聞けていない」ことを理由に 「最終報告書では『転校後に前の学校の悪夢を見る』『しばらくの期間、イジメにあった事実を語ろうとしなかった』などの爽彩さんの症状から当時、『PTSDを罹患していた可能性は否定できない』との見解を示している一方、イジメによるPTSDと診断を受けていた爽彩さんに対して、『直接話が聞けていない』ことを理由に、『PTSDと診断された経緯が明らかでないことから、推測の域を出ない』としています。つまりPTSDだったかもしれないけど、本人に話を聞けないし、診断の経緯もよくわからないから、PTSDだったと断定はできないということです」(同前) 当時爽彩さんを診断したのはベテランの主治医。第三者委員会は、経験豊富な医師の確定診断を受けた「PTSD」を誤診だったとでもいうのだろうか。その一方で、PTSDとは別に、生前、被害者が患ったことのない“うつ病”の可能性があったとの推測を立てているという。 「第三者委員会は『何らかの契機や心境の急激な変化があった可能性がある』として、自殺の背景に爽彩さんがうつ病に罹患していた可能性を示唆しています。しかし、爽彩さんは医師にうつ病と診断されたこともないし、当然、その診断書も存在しないわけで、それこそ“実際に話を聞いていないため、推測の域を出ない”話です』、「第三者委員会は、経験豊富な医師の確定診断を受けた「PTSD」を誤診だったとでもいうのだろうか。その一方で、PTSDとは別に、生前、被害者が患ったことのない“うつ病”の可能性があったとの推測を立てている」、なんと勝手な判断をするのだろう。
・『「法律の矛盾するところを直してあげたい」と言っていた爽彩さん 16カ月もの期間、調査をしてきたものの、被害者が受けたイジメがどの程度、自殺に影響したのか具体的な説明の記載は一切なく、因果関係についても何も触れられていません。第三者委員会はイジメと自殺の因果関係の検証から逃げたのです」(同前) 最終報告書案は遺族側の確認を経て、第三者委員会が市教委へ最終報告するという。時期は流動的だが、市教委は9月中旬頃までに会見を行う予定だ。 爽彩さんが生きていれば、今日9月5日で16歳となるはずだった。生前、「法律では助けられないことがある。だから、法律の矛盾するところを直してあげたいの」と法務省で働くことを目標にしていた少女の夢は志半ばで途絶えた。天国の爽彩さんはいまのこの状況に何を思うだろうか。残る最終報告書案も遺族にとって辛いものとなってしまうのか』、「生前、「法律では助けられないことがある。だから、法律の矛盾するところを直してあげたいの」と法務省で働くことを目標にしていた少女の夢は志半ばで途絶えた」、まさに悲劇だ。本日付けの日経新聞は、旭川市、いじめ再調査へ 第三者委の最終報告書を公表。所見書で「調査が不十分」と訴えていた遺族側の要望を受け、今津寛介市長は同日、市が再調査を行う方針を表明。報告書は最大の焦点だった「いじめと死亡の関連性」について「明らかにできるだけの情報を得ることができず不明」と判断を回避。再調査でその判断に踏み込むかどうかが注目。
第四に、9月19日付けダイヤモンド・オンライン「日本ばかり「いじめ加害者に甘い」のはなぜ?厳罰化の海外と広がる格差」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/308550
・『人気K-POPアイドルが7月、過去のいじめ疑惑によってグループを脱退した。背景には韓国の「いじめ」厳罰化がある。一方で、日本はいじめが発覚しても加害者は処分されず、被害者の立場は弱いままだ。いじめ問題に詳しいマモル代表・くまゆうこさんに日本がいじめ加害者に甘い理由を聞いた』、「日本がいじめ加害者に甘い理由」とは興味深そうだ。
・『海外ではいじめ加害者に罰金や禁錮刑のケースも 今年7月、K-POPガールズグループ「ルセラフィム」のメンバーが過去のいじめ疑惑で契約解除となり話題となった。メンバーの同級生を名乗るアカウントから「集団いじめに関わっていた」という投稿が相次ぎ、実際に学校側から重い処分を受けていたことも判明。ネット上での批判も重なり、所属事務所が契約解除を発表したのだ。 デビュー間もない人気アイドルの契約解除。厳しいとも取れる対応の背景には韓国のいじめ厳罰化があると、いじめやハラスメントの相談プラットフォーム「マモレポ」を運営するマモル代表・くまゆうこさんは話す。 「韓国での学暴(学生暴力)委処分は、1号から9号まであり、暴力の内容によってその等級が決まります。たとえば1号なら被害生徒への書面による謝罪、4号なら社会奉仕、6号で登校停止。最も重い9号になると退学処分となります。同じく厳罰化が進むフランスでは、学校のいじめを『犯罪』とする法律が新たに施行されたばかり。いじめによって被害者が8日間以上登校できなかった場合は加害者に最大5年の禁錮刑、または罰金が求められます。さらに、被害者が自殺または自殺未遂をしてしまった場合、加害者には最大で10年の禁錮刑が科される可能性もあります」 スコットランドやイギリスも、フランス同様にいじめが多い国だが、いじめに関する法律を定め、加害者に厳しい処分を下しているという。諸外国に共通するのは、「いじめた側に問題がある」として加害者に転校やカウンセリングを勧め、処分を下している点だ。一方、日本ではいじめ被害者が転校を余儀なくされるなど、被害者の立場がいまだに弱い印象がある。 「最近では旭川のいじめ自殺で、『加害者にも未来がある』と教頭が発言したと報道され、批判されていましたよね。日本では『ムラ社会になじめないほうにも問題がある』という意識がまだ残っていて、いじめが起きると被害者の立場がどうしても弱くなってしまうんです」 実際に教育現場では、いじめ加害者に厳しい処分を下すことを反対する教師も多いという。一体なぜなのか。 「なぜ加害者を守るのか不思議だと思うのですが、いじめというのは境界線が曖昧で、認定が難しい。間違った判断をしてはいけないというリスク回避の側面もあるのだと思います。現場の話を聞いていると、クラスでいじめがあると担任の指導力が悪いと評価が下がったり、問題のないクラスの担任は能力が高いと評価されたり、上辺だけの評価基準が日本の教育現場の事なかれ主義を加速させているのではないかと感じます。なかには問題が表面化しないようにしていて、『傍から見れば平和だけど実は陰湿ないじめだらけ』というケースもあります」 いじめに対する教師の感度の鈍さ、教育現場の事なかれ主義や表面的な評価がいじめの深刻化を招いているのだ』、「フランスでは、学校のいじめを『犯罪』とする法律が新たに施行されたばかり。いじめによって被害者が8日間以上登校できなかった場合は加害者に最大5年の禁錮刑、または罰金が求められます。さらに、被害者が自殺または自殺未遂をしてしまった場合、加害者には最大で10年の禁錮刑が科される可能性もあります」、日本とは正反対だ。「「最近では旭川のいじめ自殺で、『加害者にも未来がある』と教頭が発言したと報道され、批判されていましたよね。日本では『ムラ社会になじめないほうにも問題がある』という意識がまだ残っていて、いじめが起きると被害者の立場がどうしても弱くなってしまうんです」、「いじめに対する教師の感度の鈍さ、教育現場の事なかれ主義や表面的な評価がいじめの深刻化を招いている」、「日本」もこのままでは「いじめ」に甘い国として、悪名が立ってしまう。
・『日本のいじめ問題がまったく改善しない理由 山形マット死事件や大津市中2いじめ自殺事件、そして旭川のいじめ自殺…いじめによる悲痛な報道は後を絶たないが、ここ十数年、日本のいじめ問題はまったく進歩を見せていない。 「大々的に報道され教育現場の問題が一時的に糾弾されても、その体質はなかなか変わりません。その原因の一つは、先生の多忙感。実際に教師と話していても、いじめに対応する時間がない、という声は多いですね。時間がないから後回しになってしまう。きちんと対応している教師がいる一方で、忙しいからいじめは後回しという先生にあうと、『だったらなんで教師になったの?』と私は思ってしまいます。教師の心のゆとりは、こどもの笑顔に繋がると信じているので、多忙化をなんとかしないといけないと思っています」 最近はSNSやネットによりいじめはさらに多様化、複雑化している。一元的な見方では、いじめ問題は一向に解決しないだろう。 「教育現場でマモレポの話をすると、『すべての子どもが使うものじゃないからね』なんて言い方をされることもあります。現場の教師ですらいじめは限られた人のなかでしか起こらないと思っているんですね。だけど、いじめってそんなものじゃない。誰もがちょっとしたことをきっかけに、被害者、加害者になります。いじめは弱い人が強い人にいじめられる、という簡単な図式ではないんですね。 同じグループ、同じカースト(*学校において自然発生する生徒間の固定的な序列をスクールカーストと呼ぶ)内でのいじめもあるし、ネットやライン上でだけ攻撃的な加害者もいる。旭川のいじめのように、写真や動画に撮って拡散する、というケースもあります。いじめではなく、犯罪として行為の悪質性がもっと問われるべきだと思います」 複雑で表面化しにくくなっているいじめに対し、どのような対策を取るべきなのか。いじめは当たり前に起きるという前提で動かないと、いつまでも日本の教育現場は変わらないとくま氏は言う。 「いじめは子どもが複数人いれば、高い確率で起こります。いじめをなくそう、とするから、隠蔽(いんぺい)も起きる。人は仲間をつくりたくなる、自分と意見が合わない人を省きたくなる、気が合わない人がいるというのは当然のことです。『いじめをなくそう』ではなく、起こる前提でその感情は受け入れながらも、『こんな事やっていいんだっけ?』『これはやりすぎじゃない?』と『エスカレートしないためには、どうすればいいのか』を考えなければいけない。もっと積極的に授業でいじめのメカニズムを考える時間を作るなど、大人がいかにいじめをエスカレートさせず、食い止めるかが大事」 そのためにも、いじめの厳罰化は、大きな抑止力につながるのではないかと期待を寄せる。 「6月13日にネットの誹謗(ひぼう)中傷が侮辱罪として厳罰化されたのは、一つの抑止力になるのかなと。もう一つ期待しているのは、自民党文部科学部会の「学校現場のいじめ撲滅プロジェクトチーム(PT)」が提出しているプログラムで、校長判断でいじめ加害者に学校の敷地に入らないよう命じることができるというもの。校長に判断を一任するという点は気になりますが、加害者への具体的な処分が明示されるのは大きな一歩だと思います。目を覆いたくなるようないじめを行う加害者には、加害者自身に何かしら問題があると考えます。厳罰化と共に加害者を作らないために何ができるのかを私たちは考えなければなりません」 いじめ加害者への厳しい処分が、日本でも当たり前となる日は来るのだろうか』、「忙しいからいじめは後回しという先生」、多忙を口実に逃げ回る「先生」を許すべきではない。「いじめの厳罰化」は当然だが、「道徳」のようなくだらない科目を止めて、「いじめ」問題を徹底的にグループディスカッションさせることを検討すべきだ。もっとも、グループディスカッションを指導できる先生がいるかは問題だが、研修で指導力を磨くほかないだろう。
先ずは、8月14日付け東洋経済オンラインが掲載した教育研究者・ミュージカル俳優の山崎 聡一郎氏による「「いじめは犯罪行為」と誤解する親たちの落とし穴 法律の誤解が「解決の可能性」を消す場合も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/600645
・『法律は、大人だけでなく、子どもにも役立つもの。いじめや虐待に悩んでいる子どもにとっては、自分の心身を守る知識となる場合もあるでしょう。しかし、法律を正しく理解することは簡単ではありません。 法律を学ぶために大事なこととは。大切な子どもを守るために必要な考え方とは。『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!』が話題を呼んでいる、山崎聡一郎氏が解説します』、法律面からのアプローチとは、興味深そうだ。
・『法律の文章を小学生向けに「翻訳」 大人の読者が多いワケ 皆さんは「六法」を読んだことはありますか? 学校で習った日本国憲法を除けば、ほとんどの方の答えがNOだと思います。私たちは法の下で生活しているのに、その法律に関してはまったくといっていいほど知らないのです。 しかし、それも無理はありません。 なぜなら法律は非常にわかりにくく、読みにくいからです。法律用語には必要十分な意味がすべてのせられているために、用語の正しい理解が、法律を理解する前提となってしまっています。法律の文章というのは、読解以前に専門的な勉強がある程度必要となることから、みんなのためのものでありながら事実上、専門家のものになってしまっているのです。 しかし困った状況に陥ったとき、法律の知識は大いに役に立ちます。法律を知っていれば、自分の権利を守るヒントを得ることができるからです。そしてそれは大人だけでなく子どもも同じです。特にいじめにあっている子どもや周りの大人は、知っておくとよいこと、そして知っておかなければならない知識が法律には盛り込まれています。 しかし、大人であっても法律を読むのは難しい。「法律はみんなのためのルールなのに、みんなにわかるように書かれていない」。そんな状況を解決するためにスタートしたのが、法律の条文を子どもでも読める文章に書き換えるという「こども六法プロジェクト」でした。 このプロジェクトを始めたのには、理由があります。 私自身、小学5年生から6年生にかけて手首を骨折するほどの壮絶ないじめを受けていました。にもかかわらず、中学に進学した際にはいじめの加害者になってしまった。そしてそんな自分自身に衝撃を受けました。いじめ問題の複雑さを体感し、いじめを減らすために何かできることはないかと考えてたどり着いた答えが、「こども六法」を作成するということでした。スタートしたのは大学時代ですが、現在では関連書籍の出版だけでなく、体験型の学びとしての「こども六法すごろく」などを作成しています』、「私自身、小学5年生から6年生にかけて手首を骨折するほどの壮絶ないじめを受けていました。にもかかわらず、中学に進学した際にはいじめの加害者になってしまった。そしてそんな自分自身に衝撃を受けました。いじめ問題の複雑さを体感し、いじめを減らすために何かできることはないかと考えてたどり着いた答えが、「こども六法」を作成するということでした」、「いじめ」の被害者、加害者双方の体験を踏まえたもののようだ。
・『子どもの「いじめ」と大人の「セクハラ・パワハラ」の関係 いじめと法律という話になると、多くの人が暴力などの犯罪行為と結びつけて考えます。しかし、いじめと犯罪は別物です。法律でのいじめの定義は、「被害者がいやだと思ったらいじめ」というものです。被害者の感じ方が重要である点はセクハラやパワハラと同じです。そしてセクハラやパワハラが起きないように会社に監督責任があるのと同じように、学校はいじめが起きないように生徒を指導しなければならない責任を負っています。まずはこの部分を理解しておく必要があります。 いじめと犯罪は別とはいえ、もちろん「いじめであり、犯罪である」ということはあります。相手を殴ってケガをさせるなどがそうです。裏を返せば、こういった暴力に該当しない行為など、態様によっては犯罪にはならないいじめも多くあるわけです。例えば集団で無視をするなどは、犯罪にはなりません。つまり「いじめ=犯罪」と考えていると、無視したり、悪口を言ったり、にらんだりといった、認識からこぼれ落ちるいじめが生じてしまいます。これらが「犯罪じゃないから」という理由で横行したら、被害者は追い詰められてしまいます。 ですから「いじめと犯罪はまったく別物だ」ということを、子ども自身も周りの大人も、ちゃんと理解しなければいけないのです。「みんなで無視しているけど、犯罪じゃないからいじめじゃないよね」といったことが起こらないように、犯罪としては対処できないけれども、苦しんでいる子どもを救うために、法律で決められたいじめの定義があるのです。) 「いじめは犯罪」と考えすぎたり、「いじめを法律で解決する」という考えが行きすぎている保護者の中には、法律を盾に学校へ乗り込んできたり、「絶対に裁判にしてやる」と、何が何でも裁判で決着をつけようとする方もいます。 しかし裁判というのは、まず時間がかかります。実際5年以上争っている裁判もあります。大人にとっての5年はたいしたことはないかもしれませんが、子どもにとっての5年というのは、小学生時代のほぼすべて、中学・高校なら卒業してしまいます。いじめ裁判を争っているうちに学校生活が終わってしまうとしたら、子どもにとってはメリットよりもデメリットのほうが多いはずです。 結局子どもが一番長い時間を過ごすのは学校なので、基本的には家庭と学校で協力し合って解決することが理想です。その可能性を、法律の誤解によって摘んでしまってはなりません。もちろん、通っている学校や教員が隠蔽体質である場合など、悪質なケースではやむをえず法律によって争う必要があるかもしれませんが、法律が必要になるのはどんなシーンなのかということを状況に応じて慎重に検討しなければならないのです。 この判断のすべてを保護者だけで行うのは、深刻なケースであればあるほど難しくなるでしょう。そんなときに弁護士のような法の専門家が力になってくれるのですが、そのような状況に陥った際に弁護士に相談するかどうかを判断する手助けをしてくれるのが、最低限の法律の知識なのです』、「法律でのいじめの定義は、「被害者がいやだと思ったらいじめ」というものです。被害者の感じ方が重要である点はセクハラやパワハラと同じです。そしてセクハラやパワハラが起きないように会社に監督責任があるのと同じように、学校はいじめが起きないように生徒を指導しなければならない責任を負っています」、「いじめと犯罪は別とはいえ、もちろん「いじめであり、犯罪である」ということはあります。相手を殴ってケガをさせるなどがそうです。裏を返せば、こういった暴力に該当しない行為など、態様によっては犯罪にはならないいじめも多くあるわけです。例えば集団で無視をするなどは、犯罪にはなりません」、「「いじめと犯罪はまったく別物だ」ということを、子ども自身も周りの大人も、ちゃんと理解しなければいけないのです」、なるほど。
・『被害者も加害者も紙一重どんな方法を選択すべきか お子さんは被害者だけでなく、加害者になる可能性もあります。被害者と加害者は結構紙一重なところがあるからです。 例えば、「ふざけてよだれをみんなにこすりつけていた子を集団で無視したら、無視した子たちが加害者とされた」というようなケースを考えてみましょう。道徳教育だと「いじめられている人がかわいそうだから、ダメ」という話になりますが、「よだれをこすりつける子なんてかわいそうでもなんでもない」と感じる子が多ければ、「相手が悪いんだからいじめていいじゃん」となってしまうでしょう。) それに加害者となった子たちにも、「なんでこっちが加害者にされなければならないんだ」という不満が残ります。このような場合、道徳だけでは限界があります。 そういったときには、ロジカルに考えることが大切です。「相手にやめてほしかったんだよね?」「みんなで無視する以外に、方法はなかった?」「どんな方法を取ったら、いじめにならなかったんだろう?」』、「被害者と加害者は結構紙一重なところがある」、「道徳だけでは限界があります。 そういったときには、ロジカルに考えることが大切です」、なるほど。
・『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ! そんなふうに、「問題解決のためにとった行動が間違っていた。無視じゃダメだった」というところにまで落とし込めれば、同じようないじめは起こらないはずです。 大切なのは、相手の子どもによだれをこすりつける行為をやめて欲しいと伝えることだったはずです。直接相手に伝えたり、どうしてそのような行為をしてしまうのかを探ったり、先生に相談したり、いじめ行為以外に取れる手段を検討できるようになることが、自分と相手の両方の権利を守れるようになることです。 世の中には「いじめは被害者にも原因がある」という言説があふれていますが、法律はこれを明確に否定しています。法定手続きの保障、あるいは私刑の禁止と呼ばれる原則です。ロジカルな問題解決の考え方は、唯一の方法とまでは言わずとも、法律から効果的に学ぶことができるのです。 子ども自らが、「いじめだと非難される行為を選択してしまった。次からは別の方法を考え、同じ選択をしないようにしよう」というところに到達するように支援していくのが、保護者と学校の務めです。いじめの解決は、思考を整理する手伝いでもあります。「法律でダメって書いてある行為をしたからダメ」といった単純な話で終わらせてはなりません。そんなふうに教えたら、法律に書いてない行為でのいじめが増えるだけです』、「世の中には「いじめは被害者にも原因がある」という言説があふれていますが、法律はこれを明確に否定しています。法定手続きの保障、あるいは私刑の禁止と呼ばれる原則です」、「いじめの解決は、思考を整理する手伝いでもあります。「法律でダメって書いてある行為をしたからダメ」といった単純な話で終わらせてはなりません。そんなふうに教えたら、法律に書いてない行為でのいじめが増えるだけです」、その通りだろう。
・『多様な人と生きるために そもそも法というのは、異質な他者と誰もが平和に暮らすことができるような社会を実現するために作られてきたという歴史があります。法律が発展してきたのは、多文化・多言語・多民族の社会でした。日本もこれから国際化が進み、外国をルーツとする人の数は学校のみならず増えていくわけです。 もちろん日本人どうしでも、価値観は多様化しています。そういった意味においても、子どもの頃から法律の考え方に触れ、対立が起きたときに適切な方法がとれるようになっておくことは重要です。そうすることは、ひいては自分自身を守ることにもなるのです』、「子どもの頃から法律の考え方に触れ、対立が起きたときに適切な方法がとれるようになっておくことは重要です。そうすることは、ひいては自分自身を守ることにもなるのです」、同感である。
次に、9月4日付けAERAdotが掲載したコラムニストの杉山奈津子氏による「東大卒ママは問う 「いじめ」という言葉のあいまいさが「助長」しているのでは 偏差値29で東大に合格したなっちゃんの ただいま子育て猛勉強中!」を紹介しよう。
・『うつ病を克服し、偏差値29から東大に合格した杉山奈津子さんも、今や小学生の男の子の母。日々子育てに奮闘する中でとり入れている心理テクニックや教育方法をお届けします。今回は「『いじめ』という言葉のあいまいさ」についてです。杉山さん自身が心理カウンセラーとして学んできた学術的根拠も交えつつ語る『東大ママのラク&サボでも「できる子」になる育児法』も絶賛発売中です。ぜひご覧ください。 私が中学受験をしたときに個人面接があり、先生からこんな質問をされたことを、たまに思い出します。 「あなたはいじめに対してどう思いますか?」 この質問はあまりにも漠然としすぎていて、私は、いじめの何について答えればいいのか分からず、深く考えこんでしまいました。もちろん、いじめは決してすべきことではありませんし、なくすべきものです。とはいえ、なくすための対処方法は一つひとつ異なるでしょうし、簡単にひとことで述べろと言われても、無理でしょう。 さんざん悩んだ末に私は、「分かりません」と答えました。その質問をした先生から、「あなたはいじめに対して何も考えていないのですか」と言われたのを、今でも覚えています。入試の面接なわけですから、何でもいいから、答えるべきだったのでしょう』、「入試の面接」で「「あなたはいじめに対してどう思いますか?」 この質問はあまりにも漠然としすぎていて、私は、いじめの何について答えればいいのか分からず、深く考えこんでしまいました」、「さんざん悩んだ末に私は、「分かりません」と答えました」、いい加減に答えるのではなく、「さんざん悩んだ末に私は、「分かりません」と答えました」、大したものだ。
・『いじめを教師に相談しても、解決しないことが多々ある 帰り道、同じ学校だった友人に聞くと、「いじめが存在することを、先生に言いますって答えたよ」と言っていました。しかし、先生に言ったからといって、解決していないいじめがたくさんあり、悪化する例さえも存在するのです。ですから、やはり私はそれが答えとしてふさわしいのかは「分からない」と思いました。 そんなことがありつつ、無事その中学校には合格できたのですが……入学早々中学1年生のときに、別のクラスで1人の子を仲間外れにしたり、所有物を隠したりする「いじめ」がおきていたそうです。後から聞いた話ですが、その生徒は担任(なんと偶然にも、面接で私にいじめについて聞いてきた先生でした)に、自分が今置かれている状況について相談をしたとのこと。すると担任は、「あなたは生き方が下手くそですね」と答えただけで、何の対応もしてくれなかったのだとか。 この話を聞いた時、私はその先生に対して、「あなた、いじめに対してどう思っているのですか」と問い詰めたいような気持ちに駆られました。 その先生はかなり前に退職していますが……私の記憶には、今でもしっかり残っています。) 現在、故意に相手を傷つけるのも、誰かの所有物を壊したり捨てたりするのも、物理的な暴力を振るうのも、それら全部を一くくりにして「いじめ」という言葉にまとめられています。それならば、もういっそのこと、このあいまいな「いじめ」という言葉を廃止してしまえばいいのではないかと思ってしまいます。 殴ったり蹴ったりしたならば暴行罪、けがをさせてしまったら傷害罪です。物を隠したり壊したりしたら窃盗罪、器物損壊罪になります。一つひとつを、きちんとした名称で呼ぶべきではないでしょうか。 学校側も、もしいじめについて生徒に考えさせたいのならば、面接でいじめについて聞くよりも、入学した初めの時期に授業をして、何をしたらどのような罪に問われるかを教えたほうが良い気がします。そして、警察などを含む外部の組織も積極的に介入できるように、それぞれのいじめの行為を、もっとはっきりとした罪名にして捉え直すべきです』、「現在、故意に相手を傷つけるのも、誰かの所有物を壊したり捨てたりするのも、物理的な暴力を振るうのも、それら全部を一くくりにして「いじめ」という言葉にまとめられています。それならば、もういっそのこと、このあいまいな「いじめ」という言葉を廃止してしまえばいいのではないかと思ってしまいます。 殴ったり蹴ったりしたならば暴行罪、けがをさせてしまったら傷害罪です。物を隠したり壊したりしたら窃盗罪、器物損壊罪になります。一つひとつを、きちんとした名称で呼ぶべきではないでしょうか」、その通りだ。
・『あいまいな表現をやめると、どうすべきかが見えてくる もし今現在、面接で「あなたはいじめについてどう思いますか」と聞かれたら、私はやはり悩むと思います。しかし、「あなたは暴行罪についてどう思いますか」と聞かれたら、キッパリと「警察に連絡します」と答えることができます。 いじめという言葉のあいまいさ、そして軽さこそが、いじめという行為を助長させている部分があるような気がしてなりません。 今後も、子どもたちのいじめに関する、つらいニュースを目にすることがあるでしょう。ただ、その「いじめ」という名称を変更することが、抑止力になり得るのではないかと思います』、「いじめという言葉のあいまいさ、そして軽さこそが、いじめという行為を助長させている部分があるような気がしてなりません」、「「いじめ」という名称を変更することが、抑止力になり得るのではないかと思います」、同感である。
第三に、9月5日付け文春オンライン「《旭川14歳少女凍死》「死んだ本人に話を聞けてないから推測の域を出ない」第三者委員会のイジメ調査“最終報告書”その驚きの詳細「イジメと自殺の因果関係は…」 旭川14歳少女イジメ凍死事件 ♯33」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/57132
・『昨年3月に当時14歳だった廣瀬爽彩(さあや)さんの遺体が見つかって1年半、イジメを受けてから3年半。世間を震撼させた“凄惨な事件”は大詰めを迎えようとしている。 2022年8月31日、イジメについての事実確認や爽彩さんが亡くなったこととの因果関係の再調査を進めてきた第三者委員会は、最終報告書案の一部を遺族側に提出した。文春オンラインの取材で、その最終報告書案には爽彩さんの死とイジメとの因果関係について、検証すらされていなかったことがわかった――』、時間がかかったにも拘らず、「爽彩さんの死とイジメとの因果関係について、検証すらされていなかった」、とは驚かされた。
・『第三者委員会が「8月末までに提出する」はずだった最終報告書は 昨年2月13日に自宅から失踪し、3月に旭川市内の公園で雪の中で亡くなっているのが見つかった爽彩さん。文春オンラインでは2021年4月から記事を公開し、爽彩さんが中学入学直後から凄惨なイジメを受けていたこと、失踪直前までそのイジメによるPTSDに悩まされていた事実などを報じてきた。 再調査を行ってきた第三者委員会は今年4月に公表した中間報告で「イジメとして取り上げる事実があった」として性的なイジメ、深夜の呼び出し、おごらせる行為など中学の先輩7人が関与した6項目をイジメと認定した。それまで「イジメと認知するまでには至らない」としていた旭川市教育委員会もイジメを認め、遺族に謝罪。その席で第三者委員会は最終報告書について、「8月末までに提出する」と遺族側に伝えていた。全国紙社会部記者が打ち明ける。 「期日(8月31日)の6日前の8月25日になって突然、第三者委員会から『報告が間に合わない』と遺族側に通達があったそうです。もともと昨年5月に第三者委員会が発足した当初は、11月までに調査結果をまとめるとの説明でした。しかし、『1000ページ以上の資料の読み込みに時間がかかっている』などの理由で11月の期限は白紙に。その後、昨年9月に今津寛介旭川市長が就任して『年内にまとめてほしい』と要望し、遺族側も『せめて失踪から1年となる2月13日までに』と求めていましたが、第三者委員会が報告時期の見通しやスケジュールなどを示すことはありませんでした。 調査期間が長引くほど関係生徒たちの記憶も薄れ、被害者の同級生たちは今年の春に中学校を卒業してしまいました。高校は道教委の管轄となり、市教委では聞き取り調査を行うことが困難となります」 文部科学省の定める「いじめ重大事態の調査に関するガイドライン」では、調査時期・期間(スケジュール、定期報告)について、「被害児童生徒・保護者に対して、調査を開始する時期や調査結果が出るまでにどのくらいの時期が必要となるのかについて、目途を示すこと」と、明記されている。第三者委員会が最終報告の日程について「8月末」と期限を示したのは今年4月の中間報告後。調査開始から10カ月以上経過してからのスケジュール開示、自ら設定した8月末の期日を反故にするなど、ガイドラインを遵守しない第三者委員会の姿勢に、遺族側は不信感を募らせている』、「昨年5月に第三者委員会が発足した当初は、11月までに調査結果をまとめるとの説明」、「昨年9月に今津寛介旭川市長が就任して『年内にまとめてほしい』と要望し、遺族側も『せめて失踪から1年となる2月13日までに』と求めていましたが、第三者委員会が報告時期の見通しやスケジュールなどを示すことはありませんでした」、「被害者の同級生たちは今年の春に中学校を卒業」、「高校は道教委の管轄となり、市教委では聞き取り調査を行うことが困難となります」、「調査開始から10カ月以上経過してからのスケジュール開示、自ら設定した8月末の期日を反故にするなど、ガイドラインを遵守しない第三者委員会の姿勢」には、「遺族」だけでなく、我々も「不信感」が募る。
・『「迷走」を繰り返した第三者委員会の調査活動 今回の調査の関係者によると、第三者委員会がまとめた最終報告書案は全7章で構成され、遺族側に提出されたのは「廣瀬さんが死亡に至った過程の検証」「いじめの検証及び考察」「認定した事実関係と経緯についての調査結果」の3章分(計120ページ以上)のみ。「当時の学校と市教委の対応」「再発防止策」など残る4章分はさらに時間が必要と説明し、9月5日時点で遺族側には渡っていない。 第三者委員会は小児科医、臨床心理士、大学教授、弁護士ら9名の調査委員で構成されているが、これまで、同委員会の調査活動は文字通り「迷走」を繰り返した。 「イジメ問題に精通した専門家、特にイジメPTSDの治療に当たった臨床経験の豊富な医師や、イジメ被害者のケアに従事した心理士が旭川市内では見つからず、重大事態の調査に必要とされる、遺族の希望していた高度な専門的知見を持った委員は選ばれませんでした。遺族との協議も噛み合わないことが多く、時には激しい怒号が飛び交い“大荒れ”になることもあったそうです」(遺族側の支援者)』、「イジメ問題に精通した専門家、特にイジメPTSDの治療に当たった臨床経験の豊富な医師や、イジメ被害者のケアに従事した心理士が旭川市内では見つからず、重大事態の調査に必要とされる、遺族の希望していた高度な専門的知見を持った委員は選ばれませんでした」、「調査活動は文字通り「迷走」を繰り返した」、やむを得ない面もあるとはいえ、余りにお粗末だ。
・『イジメによるPTSDと“自殺との因果関係”は「疑問」だと判断 さらに遺族側が憤りを感じているのが、予定から大幅に遅れて提出された最終報告書案に爽彩さんの死とイジメの因果関係が全く検証されていないことだった。前出の調査関係者が語る。 「最終報告書案では中間報告通り中学の先輩7人が関与した6項目をイジメと認定しています。また、被害者の死亡についても失踪直前に『きめた』『今日死のうと思う』『ごめんね』とSNSに書き込みを残していたことから、自殺とする見解を示しています。イジメの被害にあってから、天真爛漫だった彼女の表情から笑顔はなくなり、部屋に引きこもるようになった。5月には母親に『ママ、死にたい』と洩らし、ウッペツ川への自殺未遂後はイジメのフラッシュバックに苦しみ、医者からはPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断を受けていました。しかし、16カ月もの期間調査を行ってきた“自殺との因果関係”については医学的な観点から説明が示されていません。調査の放棄とも言えます」 第三者委員会は最終報告書案の中で爽彩さんが自殺に至った背景について、遺族の主張していた「イジメによるPTSD」という診断に不可解な判断を下しているという』、「最終報告書案に爽彩さんの死とイジメの因果関係が全く検証されていない」、「16カ月もの期間調査を行ってきた“自殺との因果関係”については医学的な観点から説明が示されていません。調査の放棄とも言えます」、酷い話だ。
・『亡くなった爽彩さんから「直接話が聞けていない」ことを理由に 「最終報告書では『転校後に前の学校の悪夢を見る』『しばらくの期間、イジメにあった事実を語ろうとしなかった』などの爽彩さんの症状から当時、『PTSDを罹患していた可能性は否定できない』との見解を示している一方、イジメによるPTSDと診断を受けていた爽彩さんに対して、『直接話が聞けていない』ことを理由に、『PTSDと診断された経緯が明らかでないことから、推測の域を出ない』としています。つまりPTSDだったかもしれないけど、本人に話を聞けないし、診断の経緯もよくわからないから、PTSDだったと断定はできないということです」(同前) 当時爽彩さんを診断したのはベテランの主治医。第三者委員会は、経験豊富な医師の確定診断を受けた「PTSD」を誤診だったとでもいうのだろうか。その一方で、PTSDとは別に、生前、被害者が患ったことのない“うつ病”の可能性があったとの推測を立てているという。 「第三者委員会は『何らかの契機や心境の急激な変化があった可能性がある』として、自殺の背景に爽彩さんがうつ病に罹患していた可能性を示唆しています。しかし、爽彩さんは医師にうつ病と診断されたこともないし、当然、その診断書も存在しないわけで、それこそ“実際に話を聞いていないため、推測の域を出ない”話です』、「第三者委員会は、経験豊富な医師の確定診断を受けた「PTSD」を誤診だったとでもいうのだろうか。その一方で、PTSDとは別に、生前、被害者が患ったことのない“うつ病”の可能性があったとの推測を立てている」、なんと勝手な判断をするのだろう。
・『「法律の矛盾するところを直してあげたい」と言っていた爽彩さん 16カ月もの期間、調査をしてきたものの、被害者が受けたイジメがどの程度、自殺に影響したのか具体的な説明の記載は一切なく、因果関係についても何も触れられていません。第三者委員会はイジメと自殺の因果関係の検証から逃げたのです」(同前) 最終報告書案は遺族側の確認を経て、第三者委員会が市教委へ最終報告するという。時期は流動的だが、市教委は9月中旬頃までに会見を行う予定だ。 爽彩さんが生きていれば、今日9月5日で16歳となるはずだった。生前、「法律では助けられないことがある。だから、法律の矛盾するところを直してあげたいの」と法務省で働くことを目標にしていた少女の夢は志半ばで途絶えた。天国の爽彩さんはいまのこの状況に何を思うだろうか。残る最終報告書案も遺族にとって辛いものとなってしまうのか』、「生前、「法律では助けられないことがある。だから、法律の矛盾するところを直してあげたいの」と法務省で働くことを目標にしていた少女の夢は志半ばで途絶えた」、まさに悲劇だ。本日付けの日経新聞は、旭川市、いじめ再調査へ 第三者委の最終報告書を公表。所見書で「調査が不十分」と訴えていた遺族側の要望を受け、今津寛介市長は同日、市が再調査を行う方針を表明。報告書は最大の焦点だった「いじめと死亡の関連性」について「明らかにできるだけの情報を得ることができず不明」と判断を回避。再調査でその判断に踏み込むかどうかが注目。
第四に、9月19日付けダイヤモンド・オンライン「日本ばかり「いじめ加害者に甘い」のはなぜ?厳罰化の海外と広がる格差」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/308550
・『人気K-POPアイドルが7月、過去のいじめ疑惑によってグループを脱退した。背景には韓国の「いじめ」厳罰化がある。一方で、日本はいじめが発覚しても加害者は処分されず、被害者の立場は弱いままだ。いじめ問題に詳しいマモル代表・くまゆうこさんに日本がいじめ加害者に甘い理由を聞いた』、「日本がいじめ加害者に甘い理由」とは興味深そうだ。
・『海外ではいじめ加害者に罰金や禁錮刑のケースも 今年7月、K-POPガールズグループ「ルセラフィム」のメンバーが過去のいじめ疑惑で契約解除となり話題となった。メンバーの同級生を名乗るアカウントから「集団いじめに関わっていた」という投稿が相次ぎ、実際に学校側から重い処分を受けていたことも判明。ネット上での批判も重なり、所属事務所が契約解除を発表したのだ。 デビュー間もない人気アイドルの契約解除。厳しいとも取れる対応の背景には韓国のいじめ厳罰化があると、いじめやハラスメントの相談プラットフォーム「マモレポ」を運営するマモル代表・くまゆうこさんは話す。 「韓国での学暴(学生暴力)委処分は、1号から9号まであり、暴力の内容によってその等級が決まります。たとえば1号なら被害生徒への書面による謝罪、4号なら社会奉仕、6号で登校停止。最も重い9号になると退学処分となります。同じく厳罰化が進むフランスでは、学校のいじめを『犯罪』とする法律が新たに施行されたばかり。いじめによって被害者が8日間以上登校できなかった場合は加害者に最大5年の禁錮刑、または罰金が求められます。さらに、被害者が自殺または自殺未遂をしてしまった場合、加害者には最大で10年の禁錮刑が科される可能性もあります」 スコットランドやイギリスも、フランス同様にいじめが多い国だが、いじめに関する法律を定め、加害者に厳しい処分を下しているという。諸外国に共通するのは、「いじめた側に問題がある」として加害者に転校やカウンセリングを勧め、処分を下している点だ。一方、日本ではいじめ被害者が転校を余儀なくされるなど、被害者の立場がいまだに弱い印象がある。 「最近では旭川のいじめ自殺で、『加害者にも未来がある』と教頭が発言したと報道され、批判されていましたよね。日本では『ムラ社会になじめないほうにも問題がある』という意識がまだ残っていて、いじめが起きると被害者の立場がどうしても弱くなってしまうんです」 実際に教育現場では、いじめ加害者に厳しい処分を下すことを反対する教師も多いという。一体なぜなのか。 「なぜ加害者を守るのか不思議だと思うのですが、いじめというのは境界線が曖昧で、認定が難しい。間違った判断をしてはいけないというリスク回避の側面もあるのだと思います。現場の話を聞いていると、クラスでいじめがあると担任の指導力が悪いと評価が下がったり、問題のないクラスの担任は能力が高いと評価されたり、上辺だけの評価基準が日本の教育現場の事なかれ主義を加速させているのではないかと感じます。なかには問題が表面化しないようにしていて、『傍から見れば平和だけど実は陰湿ないじめだらけ』というケースもあります」 いじめに対する教師の感度の鈍さ、教育現場の事なかれ主義や表面的な評価がいじめの深刻化を招いているのだ』、「フランスでは、学校のいじめを『犯罪』とする法律が新たに施行されたばかり。いじめによって被害者が8日間以上登校できなかった場合は加害者に最大5年の禁錮刑、または罰金が求められます。さらに、被害者が自殺または自殺未遂をしてしまった場合、加害者には最大で10年の禁錮刑が科される可能性もあります」、日本とは正反対だ。「「最近では旭川のいじめ自殺で、『加害者にも未来がある』と教頭が発言したと報道され、批判されていましたよね。日本では『ムラ社会になじめないほうにも問題がある』という意識がまだ残っていて、いじめが起きると被害者の立場がどうしても弱くなってしまうんです」、「いじめに対する教師の感度の鈍さ、教育現場の事なかれ主義や表面的な評価がいじめの深刻化を招いている」、「日本」もこのままでは「いじめ」に甘い国として、悪名が立ってしまう。
・『日本のいじめ問題がまったく改善しない理由 山形マット死事件や大津市中2いじめ自殺事件、そして旭川のいじめ自殺…いじめによる悲痛な報道は後を絶たないが、ここ十数年、日本のいじめ問題はまったく進歩を見せていない。 「大々的に報道され教育現場の問題が一時的に糾弾されても、その体質はなかなか変わりません。その原因の一つは、先生の多忙感。実際に教師と話していても、いじめに対応する時間がない、という声は多いですね。時間がないから後回しになってしまう。きちんと対応している教師がいる一方で、忙しいからいじめは後回しという先生にあうと、『だったらなんで教師になったの?』と私は思ってしまいます。教師の心のゆとりは、こどもの笑顔に繋がると信じているので、多忙化をなんとかしないといけないと思っています」 最近はSNSやネットによりいじめはさらに多様化、複雑化している。一元的な見方では、いじめ問題は一向に解決しないだろう。 「教育現場でマモレポの話をすると、『すべての子どもが使うものじゃないからね』なんて言い方をされることもあります。現場の教師ですらいじめは限られた人のなかでしか起こらないと思っているんですね。だけど、いじめってそんなものじゃない。誰もがちょっとしたことをきっかけに、被害者、加害者になります。いじめは弱い人が強い人にいじめられる、という簡単な図式ではないんですね。 同じグループ、同じカースト(*学校において自然発生する生徒間の固定的な序列をスクールカーストと呼ぶ)内でのいじめもあるし、ネットやライン上でだけ攻撃的な加害者もいる。旭川のいじめのように、写真や動画に撮って拡散する、というケースもあります。いじめではなく、犯罪として行為の悪質性がもっと問われるべきだと思います」 複雑で表面化しにくくなっているいじめに対し、どのような対策を取るべきなのか。いじめは当たり前に起きるという前提で動かないと、いつまでも日本の教育現場は変わらないとくま氏は言う。 「いじめは子どもが複数人いれば、高い確率で起こります。いじめをなくそう、とするから、隠蔽(いんぺい)も起きる。人は仲間をつくりたくなる、自分と意見が合わない人を省きたくなる、気が合わない人がいるというのは当然のことです。『いじめをなくそう』ではなく、起こる前提でその感情は受け入れながらも、『こんな事やっていいんだっけ?』『これはやりすぎじゃない?』と『エスカレートしないためには、どうすればいいのか』を考えなければいけない。もっと積極的に授業でいじめのメカニズムを考える時間を作るなど、大人がいかにいじめをエスカレートさせず、食い止めるかが大事」 そのためにも、いじめの厳罰化は、大きな抑止力につながるのではないかと期待を寄せる。 「6月13日にネットの誹謗(ひぼう)中傷が侮辱罪として厳罰化されたのは、一つの抑止力になるのかなと。もう一つ期待しているのは、自民党文部科学部会の「学校現場のいじめ撲滅プロジェクトチーム(PT)」が提出しているプログラムで、校長判断でいじめ加害者に学校の敷地に入らないよう命じることができるというもの。校長に判断を一任するという点は気になりますが、加害者への具体的な処分が明示されるのは大きな一歩だと思います。目を覆いたくなるようないじめを行う加害者には、加害者自身に何かしら問題があると考えます。厳罰化と共に加害者を作らないために何ができるのかを私たちは考えなければなりません」 いじめ加害者への厳しい処分が、日本でも当たり前となる日は来るのだろうか』、「忙しいからいじめは後回しという先生」、多忙を口実に逃げ回る「先生」を許すべきではない。「いじめの厳罰化」は当然だが、「道徳」のようなくだらない科目を止めて、「いじめ」問題を徹底的にグループディスカッションさせることを検討すべきだ。もっとも、グループディスカッションを指導できる先生がいるかは問題だが、研修で指導力を磨くほかないだろう。
タグ:「世の中には「いじめは被害者にも原因がある」という言説があふれていますが、法律はこれを明確に否定しています。法定手続きの保障、あるいは私刑の禁止と呼ばれる原則です」、「いじめの解決は、思考を整理する手伝いでもあります。「法律でダメって書いてある行為をしたからダメ」といった単純な話で終わらせてはなりません。そんなふうに教えたら、法律に書いてない行為でのいじめが増えるだけです」、その通りだろう。 「被害者と加害者は結構紙一重なところがある」、「道徳だけでは限界があります。 そういったときには、ロジカルに考えることが大切です」、なるほど。 「「いじめと犯罪はまったく別物だ」ということを、子ども自身も周りの大人も、ちゃんと理解しなければいけないのです」、なるほど。 「法律でのいじめの定義は、「被害者がいやだと思ったらいじめ」というものです。被害者の感じ方が重要である点はセクハラやパワハラと同じです。そしてセクハラやパワハラが起きないように会社に監督責任があるのと同じように、学校はいじめが起きないように生徒を指導しなければならない責任を負っています」、「いじめと犯罪は別とはいえ、もちろん「いじめであり、犯罪である」ということはあります。相手を殴ってケガをさせるなどがそうです。裏を返せば、こういった暴力に該当しない行為など、態様によっては犯罪にはならないいじめも多くある 「「最近では旭川のいじめ自殺で、『加害者にも未来がある』と教頭が発言したと報道され、批判されていましたよね。日本では『ムラ社会になじめないほうにも問題がある』という意識がまだ残っていて、いじめが起きると被害者の立場がどうしても弱くなってしまうんです」、「いじめに対する教師の感度の鈍さ、教育現場の事なかれ主義や表面的な評価がいじめの深刻化を招いている」、「日本」もこのままでは「いじめ」に甘い国として、悪名が立ってしまう。 「忙しいからいじめは後回しという先生」、多忙を口実に逃げ回る「先生」を許すべきではない。「いじめの厳罰化」は当然だが、「道徳」のようなくだらない科目を止めて、「いじめ」問題を徹底的にグループディスカッションさせることを検討すべきだ。もっとも、グループディスカッションを指導できる先生がいるかは問題だが、研修で指導力を磨くほかないだろう。 「私自身、小学5年生から6年生にかけて手首を骨折するほどの壮絶ないじめを受けていました。にもかかわらず、中学に進学した際にはいじめの加害者になってしまった。そしてそんな自分自身に衝撃を受けました。いじめ問題の複雑さを体感し、いじめを減らすために何かできることはないかと考えてたどり着いた答えが、「こども六法」を作成するということでした」、「いじめ」の被害者、加害者双方の体験を踏まえたもののようだ。 法律面からのアプローチとは、興味深そうだ。 『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!』 「日本がいじめ加害者に甘い理由」とは興味深そうだ。 ダイヤモンド・オンライン「日本ばかり「いじめ加害者に甘い」のはなぜ?厳罰化の海外と広がる格差」 「生前、「法律では助けられないことがある。だから、法律の矛盾するところを直してあげたいの」と法務省で働くことを目標にしていた少女の夢は志半ばで途絶えた」、まさに悲劇だ。本日付けの日経新聞は、旭川市、いじめ再調査へ 第三者委の最終報告書を公表。所見書で「調査が不十分」と訴えていた遺族側の要望を受け、今津寛介市長は同日、市が再調査を行う方針を表明。報告書は最大の焦点だった「いじめと死亡の関連性」について「明らかにできるだけの情報を得ることができず不明」と判断を回避。再調査でその判断に踏み込むかどうかが注目。 山崎 聡一郎氏による「「いじめは犯罪行為」と誤解する親たちの落とし穴 法律の誤解が「解決の可能性」を消す場合も」 東洋経済オンライン 「第三者委員会は、経験豊富な医師の確定診断を受けた「PTSD」を誤診だったとでもいうのだろうか。その一方で、PTSDとは別に、生前、被害者が患ったことのない“うつ病”の可能性があったとの推測を立てている」、なんと勝手な判断をするのだろう。 (その14)(「いじめは犯罪行為」と誤解する親たちの落とし穴 法律の誤解が「解決の可能性」を消す場合も、東大卒ママは問う 「いじめ」という言葉のあいまいさが「助長」しているのでは 偏差値29で東大に合格したなっちゃんの ただいま子育て猛勉強中!、《旭川14歳少女凍死》第三者委員会のイジメ調査“最終報告書”その驚きの詳細「イジメと自殺の因果関係は…」 旭川14歳少女イジメ凍死事件 ♯33、日本ばかり「いじめ加害者に甘い」のはなぜ?厳罰化の海外と広がる格差) いじめ問題 「最終報告書案に爽彩さんの死とイジメの因果関係が全く検証されていない」、「16カ月もの期間調査を行ってきた“自殺との因果関係”については医学的な観点から説明が示されていません。調査の放棄とも言えます」、酷い話だ。 「イジメ問題に精通した専門家、特にイジメPTSDの治療に当たった臨床経験の豊富な医師や、イジメ被害者のケアに従事した心理士が旭川市内では見つからず、重大事態の調査に必要とされる、遺族の希望していた高度な専門的知見を持った委員は選ばれませんでした」、「調査活動は文字通り「迷走」を繰り返した」、やむを得ない面もあるとはいえ、余りにお粗末だ。 「調査開始から10カ月以上経過してからのスケジュール開示、自ら設定した8月末の期日を反故にするなど、ガイドラインを遵守しない第三者委員会の姿勢」には、「遺族」だけでなく、我々も「不信感」が募る。 「昨年9月に今津寛介旭川市長が就任して『年内にまとめてほしい』と要望し、遺族側も『せめて失踪から1年となる2月13日までに』と求めていましたが、第三者委員会が報告時期の見通しやスケジュールなどを示すことはありませんでした」、「被害者の同級生たちは今年の春に中学校を卒業」、「高校は道教委の管轄となり、市教委では聞き取り調査を行うことが困難となります」、 「子どもの頃から法律の考え方に触れ、対立が起きたときに適切な方法がとれるようになっておくことは重要です。そうすることは、ひいては自分自身を守ることにもなるのです」、同感である。 時間がかかったにも拘らず、「爽彩さんの死とイジメとの因果関係について、検証すらされていなかった」、とは驚かされた。 文春オンライン「《旭川14歳少女凍死》「死んだ本人に話を聞けてないから推測の域を出ない」第三者委員会のイジメ調査“最終報告書”その驚きの詳細「イジメと自殺の因果関係は…」 旭川14歳少女イジメ凍死事件 ♯33」 「いじめという言葉のあいまいさ、そして軽さこそが、いじめという行為を助長させている部分があるような気がしてなりません」、「「いじめ」という名称を変更することが、抑止力になり得るのではないかと思います」、同感である。 「現在、故意に相手を傷つけるのも、誰かの所有物を壊したり捨てたりするのも、物理的な暴力を振るうのも、それら全部を一くくりにして「いじめ」という言葉にまとめられています。それならば、もういっそのこと、このあいまいな「いじめ」という言葉を廃止してしまえばいいのではないかと思ってしまいます。 殴ったり蹴ったりしたならば暴行罪、けがをさせてしまったら傷害罪です。物を隠したり壊したりしたら窃盗罪、器物損壊罪になります。一つひとつを、きちんとした名称で呼ぶべきではないでしょうか」、その通りだ。 「フランスでは、学校のいじめを『犯罪』とする法律が新たに施行されたばかり。いじめによって被害者が8日間以上登校できなかった場合は加害者に最大5年の禁錮刑、または罰金が求められます。さらに、被害者が自殺または自殺未遂をしてしまった場合、加害者には最大で10年の禁錮刑が科される可能性もあります」、日本とは正反対だ。 「入試の面接」で「「あなたはいじめに対してどう思いますか?」 この質問はあまりにも漠然としすぎていて、私は、いじめの何について答えればいいのか分からず、深く考えこんでしまいました」、「さんざん悩んだ末に私は、「分かりません」と答えました」、いい加減に答えるのではなく、「さんざん悩んだ末に私は、「分かりません」と答えました」、大したものだ。 AERAdot 杉山奈津子氏による「東大卒ママは問う 「いじめ」という言葉のあいまいさが「助長」しているのでは 偏差値29で東大に合格したなっちゃんの ただいま子育て猛勉強中!」