安全保障(その10)(岸田首相が入れ込む「経済安保政策」 日本が生き残るため「決定的に重要なこと」 意外と見落とされているが…、経済安全保障の最強の武器は「技術力」-補助金・自国生産ではない レアアース戦争の勝因を肝に銘じよ、経済安保で経産省vs財務省?上級国民の椅子取りゲームは「百害あって一利なし」) [外交・防衛]
安全保障については、昨年9月20日に取上げた。今日は、(その10)(岸田首相が入れ込む「経済安保政策」 日本が生き残るため「決定的に重要なこと」 意外と見落とされているが…、経済安全保障の最強の武器は「技術力」-補助金・自国生産ではない レアアース戦争の勝因を肝に銘じよ、経済安保で経産省vs財務省?上級国民の椅子取りゲームは「百害あって一利なし」)である。
先ずは、昨年11月24日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「岸田首相が入れ込む「経済安保政策」、日本が生き残るため「決定的に重要なこと」 意外と見落とされているが…」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89587?imp=0
・『岸田政権が提唱する経済安全保障政策が動き始めた。専門家による有識者会議を設置し、経済安全保障推進法案(仮称)の制定を目指す。具体的な内容はこれから議論することになるが、半導体を中心としたサプライチェーンの強化、基幹インフラの機能維持、人工知能(AI)など技術基盤の強化が想定されている。 米中の政治的な対立が激化しており、各国は戦略物資の確保にしのぎを削っている。日本は地政学上、中国の脅威に直接さらされる立場であることを考えると、一連の法整備が必須なのは言うまでもない。だが、防衛力の整備が中心だった従来の安全保障とは異なり、経済安全保障の難易度は高い。経済政策や産業政策とセットにして相乗効果を発揮できなければ、絵に描いた餅に終わってしまう』、興味深そうだ。
・『排除すれば問題が解決するわけではない 日本政府は多くの無人機(ドローン)を保有しているが、その実態を調査したところほとんどが中国製だったという、少々笑えない話があった。ドローンに限らず、通信機器や監視カメラなど多くの分野において中国製品を抜きにシステムを構築するのが難しいのが現状である。 安全保障上の懸念がある製品は排除すべきというのはその通りなのだが、なぜ、そうした製品が使われてきたのかという経緯を考え、それに対応できる十分なソリューションを用意しなければ代替はうまく進まない。 ドローンを購入した各省の部局も好んで中国製のドローンを購入したわけではないだろう。現時点において中国製のドローンは圧倒的な品質と性能、価格であり、日本メーカーの製品では歯が立たない。現実的な選択肢として中国製になってしまったというのが偽らざる現実である。 仮に法案が成立し、懸念のある製品や部品の使用を制限しても、それに代わる十分な製品が日本国内に存在しない場合、性能面で妥協せざるを得なくなる。インテリジェンス(諜報)の世界では、各国がそれぞれの重要分野においてどれほどのケイパビリティ(能力)を持っているのかが極めて重要な意味を持つ。性能面で妥協した可能性があるという事実は、それだけでも諜報活動においてマイナス要因となってしまう。 ドローンの問題について言えば、国内で優秀なドローン製品を開発できる環境作りこそが、もっとも重要な経済安全保障政策であり、この部分を怠った結果として、使用制限などの措置が必要になったと考えるべきだ。通信機器や監視カメラの分野も同じであり、各分野で日本メーカーが競争に敗れたことが中国メーカーの台頭を招いており、従来の競争力を維持できていれば、そもそも中国製を採用する必然性はなかった。今回の主要テーマのひとつである半導体についても同じことが言える』、「ドローンの問題について言えば、国内で優秀なドローン製品を開発できる環境作りこそが、もっとも重要な経済安全保障政策であり、この部分を怠った結果として、使用制限などの措置が必要になったと考えるべきだ。通信機器や監視カメラの分野も同じであり、各分野で日本メーカーが競争に敗れたことが中国メーカーの台頭を招いており、従来の競争力を維持できていれば、そもそも中国製を採用する必然性はなかった・・・半導体についても同じことが言える」、その通りだ。
・『日本の半導体産業は壊滅状態 現在、全世界的な半導体不足が深刻な状況となっているが、半導体チップの多くは台湾メーカーが生産している。半導体業界は熾烈な競争の結果、各社は得意分野に集中せざるを得なくなり、徹底的な分業体制にシフトした。半導体の設計は欧米メーカー、製造は台湾メーカー(および一部の米国メーカー)が圧倒的であり、日本メーカーは製造装置や検査装置、部材の分野でしか存在感がない。 特に台湾メーカーの製造能力は突出しており、台湾メーカーが存在しなければiPhoneの製造もAI(人工知能)システムの構築もままならないというのが現実である。 こうしたところに急浮上してきたのが台湾海峡問題である。万が一、中国が台湾に侵攻した場合、台湾からの半導体供給がストップし、米国の産業が大打撃を受ける可能性がある。バイデン政権は、米国内での製造体制強化を打ち出しており、最大手のインテルは国内工場の大増設を決断した。) ところが日本の場合、半導体の設計や製造という基幹部分においてほぼ壊滅状態となっており、国内で大量の半導体を製造する能力を失っている。政府は台湾の半導体製造大手TSMCに対して日本進出を要請し、8000億円といわれる建設資金の約半額を支援することで熊本県での工場建設が決まったが、自前での半導体確保とはほど遠い状況にある。 米国企業はあくまでコスト対策とスピード感を重視する必要性から台湾に製造を委託しているのであって、高い半導体製造能力は維持している。実際、最大手のインテルは開発から製造までを一貫して行うメーカーであり、いつでも自前調達に切り換えられるポテンシャルがあった。最悪の事態が発生した場合でも、米国は半導体を確保できるが、日本はそうはいかないだろう』、「米国企業はあくまでコスト対策とスピード感を重視する必要性から台湾に製造を委託しているのであって、高い半導体製造能力は維持している・・・最悪の事態が発生した場合でも、米国は半導体を確保できるが、日本はそうはいかないだろう」、確かに「日米企業」の対応は対照的だ。
・『需要がないところには、十分な供給は行われない 結局のところ、自国に高い競争力を持つ企業が存在し、基幹製品を国内調達できる環境がなければ、完全な経済安全保障体制を確立することはできない。もし日本の半導体産業が凋落していなければ、ここまで深刻な状況には陥っていなかった可能性が高い。 つまり経済安全保障を実現するためには、懸念のある製品の排除といった短期的な措置に加え、先端産業の育成という長期的施策が必要であり、そのためには、なぜ過去に失敗したのかという検証が欠かせない。 では日本の半導体産業はなぜここまで凋落してしまったのだろうか。最大の理由は90年代に起きたIT革命の潮流を見誤り、パソコンの台頭を前提にした経営戦略に舵を切ることができなかったからである。 半導体というのは、それを使う最終製品がなければ意味をなさない。80年代は汎用機と呼ばれる大型コンピュータが主流であり、日本メーカーはこの分野で相応の存在感があった。汎用機には大量のメモリが必要となるので、半導体メーカーは汎用機向けのメモリ製造で大きな収益を上げることができた。そして汎用機を製造したコンピュータ・メーカーは、銀行などIT投資を強化している国内企業に製品を販売することができた(第1~3次オンラインシステム)。 80年代の日本においては、汎用機を利用するユーザー企業、そこに汎用機を収めるコンピュータ・メーカー、そしてコンピュータ・メーカーに半導体を収める半導体メーカー(日本は総合メーカーが多く、コンピュータ・メーカーが半導体メーカーを兼ねていた)という、需要と供給のすべてが揃っていた。 現在の米国も同じである。米国には世界最大の消費市場があり、GAFAをはじめ多くの企業が最先端の半導体を搭載したコンピュータを大量購入している。アップルやエヌビディアといった企業は米国の消費者に高性能な半導体を搭載した製品を販売し、半導体メーカーはこうした米国企業に製品を納めているという図式だ。 ところが日本企業は90年代以降のIT革命の流れを見誤り、IT利用という点で、先進国の地位から脱落してしまった。ユーザーが存在しないということは国内には大きな半導体需要が存在しないということであり、当然の結果として半導体産業も衰退してしまう。 台湾や韓国は国内に大きなIT市場が存在しないため、半導体製造に特化し成功したが、これはいわば小国だからこそ実現できる戦略である。日本のように国内に大きな消費市場が存在する大国はそうはいかない。結局のところ、現時点において半導体の確保に苦心しているのは、日本がIT後進国となり、IT需要が消滅したことが大きく影響しているのだ』、「日本企業は90年代以降のIT革命の流れを見誤り、IT利用という点で、先進国の地位から脱落してしまった」、ここはもう少し説明が必要だ。「ユーザーが存在しないということは国内には大きな半導体需要が存在しないということであり、当然の結果として半導体産業も衰退」、その通りだ。
・『「産業競争力の強化」が大前提 以上の話をまとめると、強力な国内消費市場を構築することこそが、経済安全保障の根幹であることが分かる。技術は時代によって変化するので、常に最先端産業の育成を続けなければ、同じことの繰り返しになってしまう。日本がなぜ過去に失敗したのか徹底的に検証し、今後に生かすことが重要だ。 仮に今回の法案によって、半導体の供給や懸念のある製品の排除に成功したとしても、10年後はまったく新しい技術が登場しているだろう。その時点において日本がトッププレイヤーでなければ、やはり製品の確保に事欠くという事態に陥る可能性は高い。 今回、議論の対象となっている経済安全保障政策が目の前に存在するリスクへの対処だとすると、新しい産業の育成は、より本質的・長期的な安全保障政策といってよい。 今後、数十年の経済をリードする基幹技術がAI(人工知能)と再生可能エネルギーであることは、誰の目にも明らかである。この2つの分野において日本がリードできなければ、近い将来、半導体とまったく同じ問題が発生すると予想される。すでに再生可能エネの分野は欧米および中国企業の独壇場となっており、日本メーカーの存在感は皆無に等しい(現時点において風力発電システムの多くは輸入に頼らざるを得ない)。 このままではエネルギーという安全保障上もっとも重要な分野を海外企業に握られるという事態にもなりかねない。新しい産業を育成するという視点を抜きに経済安全保障は成立しないという現実について、全国民で共有していく必要があるだろう』、その通りだが、「経済安全保障」を名目に補助金をバラ蒔くような無駄は避けるべきだ。
次に、2月6日付け現代ビジネスが掲載した大蔵省出身で一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「経済安全保障の最強の武器は「技術力」-補助金・自国生産ではない レアアース戦争の勝因を肝に銘じよ」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92097?imp=0
・『経済安全保障が重要な課題であることは間違いない。しかし、これは弱体化した産業の自国生産を正当化するために用いられることが多い。農産物自給率引上げがその例だったが、今度は半導体の国内生産への補助を正当化するために用いられる可能性がある。しかし、安全保障のためにもっとも重要なのは技術力であり、それは補助で獲得できるものではない』、「安全保障のためにもっとも重要なのは技術力であり、それは補助で獲得できるものではない」、同感である。
・『経済安全保障には補助金ではなく供給源分散を 「経済安全保障」が、岸田内閣の主要な政策として前面に出てきた。 中国の脅威拡大に対抗してサブプライチェーンの強靭化をはかることが主たる目的とされている。中国は輸出制限などの措置によって、他国に経済的な強制力を行使する可能性がある。 新型コロナ発生源との関係で世界保健機関(WHO)に武漢の研究所を調査するよう求めたオーストラリアに対して、農産物や石炭、鉄鉱石の輸入を止めるなどの経済的圧力をかけた例がある。 こうした圧力に対して、いかに対応すべきかが問題とされている。 経済安全保障が重要な課題であることは間違いない。ただし、「安全保障」という言葉は、全てに優先するという響きを持っている。したがってこれを旗印に、様々なことが行われる可能性が強い。 しばらく前には、農産物自給率の確保がいわれた。「食の安全が脅かされるから自給が必要だ。ところが日本の自給率は非常に低い。だから大変だ」との議論だ。 しかし、本当は逆である。自給率を高めれば、食料安全保障の面で大きな問題が発生するのだ。国内生産だけに頼れば、天候不順などで凶作になったときに食料不足になるからだ。 供給先が世界中に分散していれば、そうした事態を避けられる。供給源をできるだけ分散することこそ、食料安全保障の基本だ。 「経済安全保障」という考えは、弱体化した産業の補助に結びつくことが多い。とりわけ、自国内生産への補助金だ。 食料自給率は、国内生産への補助や、輸入農蓄産物に対する高関税を正当化するために強調されたのだ。 サプライチェーンも同じである。解は供給源分散化であって、自国生産ではない。 脱中国化を図ることは、中国の賃金上昇への対処からも望まれる。そして、すでに、かなりの程度進行している』、「供給源をできるだけ分散することこそ、食料安全保障の基本だ」、「食料自給率は、国内生産への補助や、輸入農蓄産物に対する高関税を正当化するために強調された」、「サプライチェーンも同じである。解は供給源分散化であって、自国生産ではない」、その通りだ。
・『今、半導体に焦点が当たっているが 今回は、農産物の代わりに半導体が補助の対象になる可能性が強い。 半導体はあらゆる電化製品に使われる重要な部品だが、供給が停滞したために、世界的な不足が生じている。だから、対処が必要だという議論だ。 前回述べたように、TSMCの熊本工場誘致に多額の補助金を支出することが既に決定されている。今後は、国内の半導体生産に補助金を出すことにもなるかもしれない。これは、農産物の自給率確保と全く同じものである。 現在、半導体不足が世界的な問題になっていることは事実だ。 この大きな原因は、中国の半導体ファンドリーSMICから自動車用の半導体の供給を受けられなくなったことだ。 しかし、これは中国が望んで行なった輸出禁止ではない。そうではなく、アメリカ商務省がSMICをエンティティリストに載せて、取引を禁じたからだ。つまり、これはアメリカが対中制裁のために行った措置である』、「半導体不足」の「大きな原因は、中国の半導体ファンドリーSMICから自動車用の半導体の供給を受けられなくなったこと」、確かに「中国が望んで行なった輸出禁止ではない」。
・『半導体で困っているのは中国 現在、高性能半導体の供給が受けられずに困っているのは、中国だ。 中国の通信機メーカー、ファーウエイが米商務省リストに載せられたため、台湾のTSMCから高性能半導体の供給が受けられなくなったことによる。 では、中国はこの問題を解決するために台湾に侵攻して台湾を統合し、TSMCを自国企業にするだろうか? そうした危険があることが安全保障上問題だという意見がある。つまり高性能半導体の生産が台湾に集中しており、そこが中国の脅威にさらされているというのだ。 しかし、TSMCのために中国が台湾に侵攻することなど、ありえない。まず、あまりにリスクが大きすぎる。しかも、そのような状況が見えたら、TSMCの技術者は外国に逃げてしまうだろう。どんな国でも喜んで迎えるに違いない。 結局のところTSMCの工場を占領したものの、だれも操業することができないことになってしまう可能性が高い』、「TSMCのために中国が台湾に侵攻することなど、ありえない」、「そのような状況が見えたら、TSMCの技術者は外国に逃げてしまうだろう」、「結局のところTSMCの工場を占領したものの、だれも操業することができないことになってしまう可能性が高い」、同感である。。
・『技術こそが最強の取り引き材料 経済安全保障の基本は、(先に述べた供給先の分散化とともに)取引材料を持つことだ。他の国では絶対に提供できないものを作れることである。その国をつぶしたら世界経済が立ちゆかなくなってしまうような技術を持つ企業や産業を作ることだ TSMCはその好例だ。これをつぶせば、最先端の半導体が製造できなくなる。世界にとって、台湾の存在が不可欠なのだ。 では、日本は取引材料にできるような企業や産業を持っているだろうか? 自動車は日本の基幹産業だが、仮に日本の自動車会社がつぶされたとしても、自動車を生産できる会社は世界中に沢山ある。だから、自動車を安全保障のための取引材料に用いることはできない。 半導体について言えば、製造装置や材料では日本は強い。しかし、日本でしか作れないというものではない。 最先端の半導体製造装置は、極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれるものだ。この製造は、オランダのASMLが独占していて、年間50台くらいしか生産されない。こうしたものこそ、取引材料となしうる。 現在、自動車の生産は半導体の生産で制約されている。様々な電子部品もそうだ。ただし、これはいずれは解消されるだろう。 しかし、先端半導体はこれとは別だ。最先端の技術を持つものが主導権を握る。そして世界の製造業を支配することになる。 こうした問題に対処することこそ必要だが、それは、補助金を出すことで実現できるものではない』、「経済安全保障の基本は、(先に述べた供給先の分散化とともに)取引材料を持つことだ。他の国では絶対に提供できないものを作れることである」、「自動車は日本の基幹産業だが、仮に日本の自動車会社がつぶされたとしても、自動車を生産できる会社は世界中に沢山ある。だから、自動車を安全保障のための取引材料に用いることはできない」、予想以上に取引材料となる産業は少ないようだ。
・『技術は補助金より強し 中国が日本に対して、輸出入制限や禁輸措置、あるいは関税引き上げなどの措置をとってくる可能性は、もちろんある。 中国は貿易管理法によって、輸出管理規制を強めるかもしれない。とりわけ問題なのは、レアアース(希土類)の輸出が制限されることだ。 「レアアース戦争」は、実際に起こった。2010年9月に尖閣諸島で中国人船長が日本海上警察に逮捕される事件があり、その後、中国からのレアアース輸出が規制されたのだ。 日本は、これをWTOに提訴した。そして、協定違反の判決を引き出した。 このときの日本の対応は、WTO提訴だけでなく、もっと積極的なものだった。日立製作所やパナソニック、ホンダなどは、都市鉱山(既存部品の廃品)からの回収やリサイクルを行なった。さらに、より少ないレアアースで性能の良い製品を開発した。 これによって、日本の中国レアアースへの依存度は、2009年の86%から2015年には55%まで低下した。レアアースの価格が急落したため、中国のレアアース生産企業は赤字に陥った。こうして、レアアース戦争は、日本の勝利に終わった。 「ペンは剣より強し」とは、19世紀イギリスの小説家・政治家のリットンの言葉だ。 「言論の力は、政治権力や軍隊などの武力よりも民衆に大きな影響を与える」という意味だが、これをつぎのように解釈し直すこともできるだろう。 それは、どんなに強力な武器を持つよりも、強い技術力を持つことのほうが重要ということだ。 レアアース戦争で日本が勝った原因は、日本の技術だ。このような技術を持つことこそが、経済安全保障でもっとも重要なのだ』、「レアアース戦争で日本が勝った原因は、日本の技術だ。このような技術を持つことこそが、経済安全保障でもっとも重要なのだ」、同感である。
第三に、2月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「経済安保で経産省vs財務省?上級国民の椅子取りゲームは「百害あって一利なし」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/295813
・『岸田政権の目玉政策「経済安全保障」のキーマンに文春砲が炸裂 「週刊文春」が、政府が進めている経済安全保障推進法案の準備室長を務めていた、藤井敏彦・国家安全保障局担当内閣審議官に関するスクープを報じた。藤井氏が、兼業届を出さずに私企業で働き報酬を得ていた疑いがあることや、「朝日新聞」の記者と不倫関係にあることがわかったというのだ。2月8日に、国家安全保障局は藤井氏を更迭しているが、それはこの疑惑が原因だと「文春」は報じている。 政府要人が文春や新潮の週刊誌報道でクビを取られるというのは、もはや日本の日常風景となっているので、それほど驚く国民もいないだろう。しかし俗世間とかけ離れた「霞が関ムラ」には衝撃が走っていて、主に2つの「風説」で盛り上がっている。 まず1つ目が、「不倫相手に情報漏洩していたのではないか」というものだ。 2月2日、マスコミ各社は経済安全保障法制に関する有識者会議の提言を報じているのだが、その中でひときわ異彩を放っていたのが朝日新聞だった。各社が提言から抜粋する形で法案のポイントを整理している中で、朝日新聞の記事だけは、「法案には事業者への罰則規定も検討されており」と他紙が掲載していない「特ダネ」がすっぱ抜かれていたのだ。 新聞がこういう書き方をするということは、「ネタ元」(情報源)が立場のある人物であるということに他ならない。それはつまり、経済安保推進法案に関して決定権を持つ政府要人、もしくは法案の準備で中心的な役割を持っている官僚――そう、藤井氏はこの朝日スクープの「ネタ元」の条件にピッタリなのだ。 「文春」が報じたように「不倫」という親密な間柄が事実なら、手柄をあげさせるために特ダネのプレゼントをしたなんてストーリーもありえる。「法案の中身」について寝物語でポロッと漏らしてしまったということだって考えられる。 そんな“男と女のラブゲーム”的な話とうってかわって、もうひとつささやかれているのは霞が関定番のドロドロした“パワーゲーム”だ。それはズバリ、「経済安全保障利権を、財務省が本格的に奪いにきたのではないか」というものだ』、「不倫」による「スクープ」は珍しくもないが、「経済安全保障利権を、財務省が本格的に奪いにきたのではないか」、というのには驚かされた。
・『経産省と財務省の椅子取りゲーム 財務官僚が次々と藤井氏の椅子に座る 報道によれば、藤井氏の更迭を受けて政府は、後任に財務省出身の泉恒有内閣審議官をあてる方向だという。泉氏は昨年7月に財務省に出向するまで、内閣参事官として国家安全保障局にもいたのだから順当といえば順当な話なのだが、なぜこんな話になっているのかというと、経産省出身の藤井氏の後任人事に、財務官僚がとって変わるのは、これが二度目だからだ。 そもそも、藤井氏がなぜ経済安全保障推進法の準備室長になったのかというと、安倍政権時、国家安全保障局の中で経済安全保障を担う専門部署として新設された「経済班」の初代班長だったからだ。では、ここで藤井氏の後任の班長は誰になっているのかというと、財務省国際局出身の高村泰夫内閣審議官である。 つまり、あくまで人事的な見え方に過ぎないが、「経済安保のキーマン」と言われた藤井氏のイスに、財務官僚が次々と座っている構図なのだ。 もちろん、霞が関ではこのような流れになることはある程度予見されていた。岸田政権になってから「安全保障担当」の内閣総理大臣補佐官は、木原誠二官房副長官と寺田稔衆議院議員が担ってきたが、この2人は財務省(旧大蔵省)の出身だからだ。 一般国民の感覚からすれば、「重要なのは政策の中身なんだから、財務官僚が仕切ろうが、経産官僚が主導権を握ろうが、そんなのはどっちでもいい」と思うだろうが、これは経産省からするとなかなか受け入れ難い屈辱的な話である。 「経済安全保障」という国策の遂行、及びそれにまつわる口利きや斡旋、さらに天下りやらという利権は、「経産省と警察で山分けできる」と皮算用がなされていたからだ。 そのあたりをご理解していただくには、そもそもなぜ経済安全保障が目玉政策になったのかを振り返っていく必要がある。「岸田政権肝煎りの」という言葉がつくので、あたかも岸田首相が言い出したことのように誤解をされている方も多いだろうが、実はこの政策をここまでにこぎつけた最大の「功労者」は、甘利明氏だ』、「最大の「功労者」は、甘利明氏だ」、初めて知った。
・『甘利明氏の功績とは? 大企業に「天下り」が続々 安倍政権時代、甘利氏はアメリカのNEC(国家経済会議)にならって、経済安保政策を立案する組織を立ち上げるように首相に提言した。それを受けて、北村滋氏が2代目局長を務めていた国家安全保障局の中に、新たに「経済班」が設置され、藤井氏がその初代班長に就いたという流れだ。 甘利氏といえば、経産相、経済再生担当相を歴任した「商工族のドン」として知られており、経産省にとっては守り神的な存在である。かたや経済班設立に尽力した北村氏は、警察庁で外事畑を歩み、内閣情報調査室のトップを7年以上も務めたことから海外からは「日本のCIA長官」の異名をとるインテリジェンスのプロ。また、安倍元首相からの信頼も厚く、非常に近い間柄だったことでも知られている。 つまり、「経済安全保障」という国策は、安倍・甘利ラインという政治力学の中で産声をあげて、そこにひもづいている経産省と警察庁の官僚たちの手によって、徐々に形づくられていったというわけなのだ。 そんな「経産省+警察」構図を如実に示しているのが、「天下り」である。 昨今の経済安保の重要性が唱えられる世相を受けて、三菱電機、富士通、デンソー、NECなどの大企業に経済安全保障の専門部署が新設されているのだが、その担当役員として迎えられているのが、日下部聡・前資源エネルギー庁長官をはじめとした経産省OBなのだ。 「経済安保バブル」に躍るのは、警察も同じだ。 警察庁では昨年1月、「経済安全保障対策官」を新設。都道府県警と連携しながら、民間企業や大学向けの対策説明会や意見交換といった「経済安全保障コンサルティング」に取り組む方針だという。実際、警視庁では昨年3月、公安部に経済安全保障のプロジェクトチーム(PT)を発足。9月から半導体などの最先端技術を取り扱う製造系の大企業を訪問して、企業を狙ったスパイの具体的な手口などについての情報を提供している。 パッと見、「日本企業の技術を守るために、おまわりさんたちも頑張ってくれている」という美しい話なのだが、全国の警察官の再就職先確保のため、民間企業に「経済安保コンサルタント」を売り込んでいるようにも見える。) 事実、この分野のエキスパートである警察OBの北村氏は現在、「北村エコノミックセキュリティ」という会社を立ち上げて、「コンサルタント」として活躍している。警察庁はこの「北村モデル」を全国規模に拡大しようとしている可能性もゼロではない。日本中の企業に警察OBを「経済安保コンサルタント」として送り込むことができれば今、全国の警察が頭を痛めている「再就職先の確保」問題は一気に解決できる。 このようなオープンになっている情報だけを見ても、経産省と警察庁が「経済安保」というものを、自分たちの既得権益だと考えていることが容易に想像できる。 だからこそ、「経済安全保障利権を、財務省が本格的に奪いにきたのではないか」なんて憶測も飛び交ってしまうのだ』、「「経済安全保障」という国策は、安倍・甘利ラインという政治力学の中で産声をあげて、そこにひもづいている経産省と警察庁の官僚たちの手によって、徐々に形づくられていった」、「日本中の企業に警察OBを「経済安保コンサルタント」として送り込むことができれば今、全国の警察が頭を痛めている「再就職先の確保」問題は一気に解決できる。 このようなオープンになっている情報だけを見ても、経産省と警察庁が「経済安保」というものを、自分たちの既得権益だと考えていることが容易に想像できる」、なるほど。
・『本当の「経済安全保障」はどこへ パワーゲームは「百害あって一利なし」 ただ、一般庶民の立場から言わせていただくと、そのような政治家や官僚という「上級国民」の皆さんが主導権争いなどのパワーゲームにのめりこむ姿を見れば見るほど、「経済安全保障」というものに対しての不安が膨らんでいく。 国益という視点に立てば、経済安全保障というものが必要で「まったなしの課題」というのは同感だ。日本で言われる経済安全保障というのはぶっちゃけ「中国の脅威」にどう立ち向かうのか、という話なので、エネルギー、半導体、サプライチェーン、さらには海洋資源などで、米中対立の影響を受けないよう、日本独自の生産・輸入の体制などを整えるということに対して全く異論はない。 が、先ほどの「天下り」確保のための活発な動きや、霞が関の主導権争いを見ていると、そのせっかくの重要な国策が、特定の人々に利益を誘導するような「利権」となってしまったり、政治的ライバルを貶めるための「政争の具」になって終了、という最悪の結末しか浮かばない。つまり、「経済安保」の法案を通して、官民あげて推進したところで、一部の「上級国民」の皆さんだけが恩恵があって、我々のような市井の一般庶民には「百害あって一利なし」という悪政になってしまうのだ。 実際、これまでも「経済安全保障」や「中国の脅威」というものは、一部の上級国民を利するために、都合よく利用されてきたという動かし難い事実がある。 記憶に新しいのが、自民党総裁選の最中に突如として注目を集めた「日本端子」問題である』、「「経済安保」の法案を通して、官民あげて推進したところで、一部の「上級国民」の皆さんだけが恩恵があって、我々のような市井の一般庶民には「百害あって一利なし」という悪政になってしまうのだ」、要警戒だ。
・『総裁選でデマ浮上 権力闘争で恣意的に利用される「経済安保」 日本端子という会社は、河野太郎衆議院議員の家族が経営している自動車部品会社で、中国にいくつか中国企業との合弁会社がある。河野氏が総裁選に出馬した際、SNS上でこの日本端子について「流言」が飛んだ。曰く、中国の太陽光発電に部品を提供しており、河野家は中国で太陽光利権を一手に握っている。中国の合弁会社は資本の比率などを見ても中国政府から異例の厚遇を受けており、これこそが、河野ファミリーと中国共産党の蜜月の動かぬ証拠である、などさまざまな情報が飛び交った。 結論から言うと、この話は全くのデマだ。日本端子は1960年に設立してから、製品の8割は自動車用のコネクタや圧着端子で、顧客も日本の自動車メーカーが多い。「中国の手先」などの誹謗中傷が多く寄せられたことを受けて、自社HPで「お知らせ」として反論しているが、これまで中国市場で太陽光発電の部品など販売したこともない。また、「異例の厚遇」とやらの資本比率も、中国企業との合弁会社なら石を投げれば当たるほどよくあるものだ。 しかし、こんなデタラメ話が、総裁選の最中にも信憑性をもって語られ、マスコミの中には実際に河野氏に質問をした記者もいた。特定の政治家や、彼らと近しい著名ジャーナリスト、政治評論家がSNSなどで大騒ぎをしていたからだ。当時、これらの人々は「疑惑を徹底追及します」とか「日本の安全保障上大きな問題だ」などと叫んでいたが、今では「そんなことあったっけ?」と何事もなかったような顔をしている。 このように「中国の脅威」や「経済安全保障」というのは、為政者たちの権力闘争で恣意的に利用されることが多い。それは、トランプ前大統領を見てもよくわかるだろう。 自分の都合が悪い問題を追及されると、北朝鮮や中国を痛烈に批判する。今のバイデン大統領も立場が悪くなると、「ウクライナ問題」を持ち出した。それと同じで、日本でも政治や官僚が、自分たちの都合の悪い話が出た時、ここぞとばかりに「経済安全保障」を引っ張り出して、国民の目をそらす恐れがあるのだ。 「そんなのは貴様の妄想だ」という声が聞こえてきそうだが、「経済安保バブル」で天下り拡大にわく霞が関や、熾烈な足の引っ張り合いを見ていると、「妄想」とは言い切れないのではないか。 ただでさえ、経済安全保障というのは、日本の経済成長や景気拡大とは直接的に関係がない政策だ。対象となるのは日本企業の0.3%しかない大企業だけで、しかもナショナリズム丸出しの過度な規制によって、企業活動が足を引っ張られる恐れもある。今のところこの政策で恩恵を受けているのは、一部のコンサルタントと、天下りが拡大できた霞が関だけだ。 経済安全保障を推進するのは結構だが、「国破れて上級国民あり」なんてことだけにはならぬようお願いしたい』、「経済安全保障というのは、日本の経済成長や景気拡大とは直接的に関係がない政策だ。対象となるのは日本企業の0.3%しかない大企業だけで、しかもナショナリズム丸出しの過度な規制によって、企業活動が足を引っ張られる恐れもある。今のところこの政策で恩恵を受けているのは、一部のコンサルタントと、天下りが拡大できた霞が関だけだ」、「国破れて上級国民あり」、言い得て妙だ。
先ずは、昨年11月24日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「岸田首相が入れ込む「経済安保政策」、日本が生き残るため「決定的に重要なこと」 意外と見落とされているが…」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/89587?imp=0
・『岸田政権が提唱する経済安全保障政策が動き始めた。専門家による有識者会議を設置し、経済安全保障推進法案(仮称)の制定を目指す。具体的な内容はこれから議論することになるが、半導体を中心としたサプライチェーンの強化、基幹インフラの機能維持、人工知能(AI)など技術基盤の強化が想定されている。 米中の政治的な対立が激化しており、各国は戦略物資の確保にしのぎを削っている。日本は地政学上、中国の脅威に直接さらされる立場であることを考えると、一連の法整備が必須なのは言うまでもない。だが、防衛力の整備が中心だった従来の安全保障とは異なり、経済安全保障の難易度は高い。経済政策や産業政策とセットにして相乗効果を発揮できなければ、絵に描いた餅に終わってしまう』、興味深そうだ。
・『排除すれば問題が解決するわけではない 日本政府は多くの無人機(ドローン)を保有しているが、その実態を調査したところほとんどが中国製だったという、少々笑えない話があった。ドローンに限らず、通信機器や監視カメラなど多くの分野において中国製品を抜きにシステムを構築するのが難しいのが現状である。 安全保障上の懸念がある製品は排除すべきというのはその通りなのだが、なぜ、そうした製品が使われてきたのかという経緯を考え、それに対応できる十分なソリューションを用意しなければ代替はうまく進まない。 ドローンを購入した各省の部局も好んで中国製のドローンを購入したわけではないだろう。現時点において中国製のドローンは圧倒的な品質と性能、価格であり、日本メーカーの製品では歯が立たない。現実的な選択肢として中国製になってしまったというのが偽らざる現実である。 仮に法案が成立し、懸念のある製品や部品の使用を制限しても、それに代わる十分な製品が日本国内に存在しない場合、性能面で妥協せざるを得なくなる。インテリジェンス(諜報)の世界では、各国がそれぞれの重要分野においてどれほどのケイパビリティ(能力)を持っているのかが極めて重要な意味を持つ。性能面で妥協した可能性があるという事実は、それだけでも諜報活動においてマイナス要因となってしまう。 ドローンの問題について言えば、国内で優秀なドローン製品を開発できる環境作りこそが、もっとも重要な経済安全保障政策であり、この部分を怠った結果として、使用制限などの措置が必要になったと考えるべきだ。通信機器や監視カメラの分野も同じであり、各分野で日本メーカーが競争に敗れたことが中国メーカーの台頭を招いており、従来の競争力を維持できていれば、そもそも中国製を採用する必然性はなかった。今回の主要テーマのひとつである半導体についても同じことが言える』、「ドローンの問題について言えば、国内で優秀なドローン製品を開発できる環境作りこそが、もっとも重要な経済安全保障政策であり、この部分を怠った結果として、使用制限などの措置が必要になったと考えるべきだ。通信機器や監視カメラの分野も同じであり、各分野で日本メーカーが競争に敗れたことが中国メーカーの台頭を招いており、従来の競争力を維持できていれば、そもそも中国製を採用する必然性はなかった・・・半導体についても同じことが言える」、その通りだ。
・『日本の半導体産業は壊滅状態 現在、全世界的な半導体不足が深刻な状況となっているが、半導体チップの多くは台湾メーカーが生産している。半導体業界は熾烈な競争の結果、各社は得意分野に集中せざるを得なくなり、徹底的な分業体制にシフトした。半導体の設計は欧米メーカー、製造は台湾メーカー(および一部の米国メーカー)が圧倒的であり、日本メーカーは製造装置や検査装置、部材の分野でしか存在感がない。 特に台湾メーカーの製造能力は突出しており、台湾メーカーが存在しなければiPhoneの製造もAI(人工知能)システムの構築もままならないというのが現実である。 こうしたところに急浮上してきたのが台湾海峡問題である。万が一、中国が台湾に侵攻した場合、台湾からの半導体供給がストップし、米国の産業が大打撃を受ける可能性がある。バイデン政権は、米国内での製造体制強化を打ち出しており、最大手のインテルは国内工場の大増設を決断した。) ところが日本の場合、半導体の設計や製造という基幹部分においてほぼ壊滅状態となっており、国内で大量の半導体を製造する能力を失っている。政府は台湾の半導体製造大手TSMCに対して日本進出を要請し、8000億円といわれる建設資金の約半額を支援することで熊本県での工場建設が決まったが、自前での半導体確保とはほど遠い状況にある。 米国企業はあくまでコスト対策とスピード感を重視する必要性から台湾に製造を委託しているのであって、高い半導体製造能力は維持している。実際、最大手のインテルは開発から製造までを一貫して行うメーカーであり、いつでも自前調達に切り換えられるポテンシャルがあった。最悪の事態が発生した場合でも、米国は半導体を確保できるが、日本はそうはいかないだろう』、「米国企業はあくまでコスト対策とスピード感を重視する必要性から台湾に製造を委託しているのであって、高い半導体製造能力は維持している・・・最悪の事態が発生した場合でも、米国は半導体を確保できるが、日本はそうはいかないだろう」、確かに「日米企業」の対応は対照的だ。
・『需要がないところには、十分な供給は行われない 結局のところ、自国に高い競争力を持つ企業が存在し、基幹製品を国内調達できる環境がなければ、完全な経済安全保障体制を確立することはできない。もし日本の半導体産業が凋落していなければ、ここまで深刻な状況には陥っていなかった可能性が高い。 つまり経済安全保障を実現するためには、懸念のある製品の排除といった短期的な措置に加え、先端産業の育成という長期的施策が必要であり、そのためには、なぜ過去に失敗したのかという検証が欠かせない。 では日本の半導体産業はなぜここまで凋落してしまったのだろうか。最大の理由は90年代に起きたIT革命の潮流を見誤り、パソコンの台頭を前提にした経営戦略に舵を切ることができなかったからである。 半導体というのは、それを使う最終製品がなければ意味をなさない。80年代は汎用機と呼ばれる大型コンピュータが主流であり、日本メーカーはこの分野で相応の存在感があった。汎用機には大量のメモリが必要となるので、半導体メーカーは汎用機向けのメモリ製造で大きな収益を上げることができた。そして汎用機を製造したコンピュータ・メーカーは、銀行などIT投資を強化している国内企業に製品を販売することができた(第1~3次オンラインシステム)。 80年代の日本においては、汎用機を利用するユーザー企業、そこに汎用機を収めるコンピュータ・メーカー、そしてコンピュータ・メーカーに半導体を収める半導体メーカー(日本は総合メーカーが多く、コンピュータ・メーカーが半導体メーカーを兼ねていた)という、需要と供給のすべてが揃っていた。 現在の米国も同じである。米国には世界最大の消費市場があり、GAFAをはじめ多くの企業が最先端の半導体を搭載したコンピュータを大量購入している。アップルやエヌビディアといった企業は米国の消費者に高性能な半導体を搭載した製品を販売し、半導体メーカーはこうした米国企業に製品を納めているという図式だ。 ところが日本企業は90年代以降のIT革命の流れを見誤り、IT利用という点で、先進国の地位から脱落してしまった。ユーザーが存在しないということは国内には大きな半導体需要が存在しないということであり、当然の結果として半導体産業も衰退してしまう。 台湾や韓国は国内に大きなIT市場が存在しないため、半導体製造に特化し成功したが、これはいわば小国だからこそ実現できる戦略である。日本のように国内に大きな消費市場が存在する大国はそうはいかない。結局のところ、現時点において半導体の確保に苦心しているのは、日本がIT後進国となり、IT需要が消滅したことが大きく影響しているのだ』、「日本企業は90年代以降のIT革命の流れを見誤り、IT利用という点で、先進国の地位から脱落してしまった」、ここはもう少し説明が必要だ。「ユーザーが存在しないということは国内には大きな半導体需要が存在しないということであり、当然の結果として半導体産業も衰退」、その通りだ。
・『「産業競争力の強化」が大前提 以上の話をまとめると、強力な国内消費市場を構築することこそが、経済安全保障の根幹であることが分かる。技術は時代によって変化するので、常に最先端産業の育成を続けなければ、同じことの繰り返しになってしまう。日本がなぜ過去に失敗したのか徹底的に検証し、今後に生かすことが重要だ。 仮に今回の法案によって、半導体の供給や懸念のある製品の排除に成功したとしても、10年後はまったく新しい技術が登場しているだろう。その時点において日本がトッププレイヤーでなければ、やはり製品の確保に事欠くという事態に陥る可能性は高い。 今回、議論の対象となっている経済安全保障政策が目の前に存在するリスクへの対処だとすると、新しい産業の育成は、より本質的・長期的な安全保障政策といってよい。 今後、数十年の経済をリードする基幹技術がAI(人工知能)と再生可能エネルギーであることは、誰の目にも明らかである。この2つの分野において日本がリードできなければ、近い将来、半導体とまったく同じ問題が発生すると予想される。すでに再生可能エネの分野は欧米および中国企業の独壇場となっており、日本メーカーの存在感は皆無に等しい(現時点において風力発電システムの多くは輸入に頼らざるを得ない)。 このままではエネルギーという安全保障上もっとも重要な分野を海外企業に握られるという事態にもなりかねない。新しい産業を育成するという視点を抜きに経済安全保障は成立しないという現実について、全国民で共有していく必要があるだろう』、その通りだが、「経済安全保障」を名目に補助金をバラ蒔くような無駄は避けるべきだ。
次に、2月6日付け現代ビジネスが掲載した大蔵省出身で一橋大学名誉教授の野口 悠紀雄氏による「経済安全保障の最強の武器は「技術力」-補助金・自国生産ではない レアアース戦争の勝因を肝に銘じよ」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/92097?imp=0
・『経済安全保障が重要な課題であることは間違いない。しかし、これは弱体化した産業の自国生産を正当化するために用いられることが多い。農産物自給率引上げがその例だったが、今度は半導体の国内生産への補助を正当化するために用いられる可能性がある。しかし、安全保障のためにもっとも重要なのは技術力であり、それは補助で獲得できるものではない』、「安全保障のためにもっとも重要なのは技術力であり、それは補助で獲得できるものではない」、同感である。
・『経済安全保障には補助金ではなく供給源分散を 「経済安全保障」が、岸田内閣の主要な政策として前面に出てきた。 中国の脅威拡大に対抗してサブプライチェーンの強靭化をはかることが主たる目的とされている。中国は輸出制限などの措置によって、他国に経済的な強制力を行使する可能性がある。 新型コロナ発生源との関係で世界保健機関(WHO)に武漢の研究所を調査するよう求めたオーストラリアに対して、農産物や石炭、鉄鉱石の輸入を止めるなどの経済的圧力をかけた例がある。 こうした圧力に対して、いかに対応すべきかが問題とされている。 経済安全保障が重要な課題であることは間違いない。ただし、「安全保障」という言葉は、全てに優先するという響きを持っている。したがってこれを旗印に、様々なことが行われる可能性が強い。 しばらく前には、農産物自給率の確保がいわれた。「食の安全が脅かされるから自給が必要だ。ところが日本の自給率は非常に低い。だから大変だ」との議論だ。 しかし、本当は逆である。自給率を高めれば、食料安全保障の面で大きな問題が発生するのだ。国内生産だけに頼れば、天候不順などで凶作になったときに食料不足になるからだ。 供給先が世界中に分散していれば、そうした事態を避けられる。供給源をできるだけ分散することこそ、食料安全保障の基本だ。 「経済安全保障」という考えは、弱体化した産業の補助に結びつくことが多い。とりわけ、自国内生産への補助金だ。 食料自給率は、国内生産への補助や、輸入農蓄産物に対する高関税を正当化するために強調されたのだ。 サプライチェーンも同じである。解は供給源分散化であって、自国生産ではない。 脱中国化を図ることは、中国の賃金上昇への対処からも望まれる。そして、すでに、かなりの程度進行している』、「供給源をできるだけ分散することこそ、食料安全保障の基本だ」、「食料自給率は、国内生産への補助や、輸入農蓄産物に対する高関税を正当化するために強調された」、「サプライチェーンも同じである。解は供給源分散化であって、自国生産ではない」、その通りだ。
・『今、半導体に焦点が当たっているが 今回は、農産物の代わりに半導体が補助の対象になる可能性が強い。 半導体はあらゆる電化製品に使われる重要な部品だが、供給が停滞したために、世界的な不足が生じている。だから、対処が必要だという議論だ。 前回述べたように、TSMCの熊本工場誘致に多額の補助金を支出することが既に決定されている。今後は、国内の半導体生産に補助金を出すことにもなるかもしれない。これは、農産物の自給率確保と全く同じものである。 現在、半導体不足が世界的な問題になっていることは事実だ。 この大きな原因は、中国の半導体ファンドリーSMICから自動車用の半導体の供給を受けられなくなったことだ。 しかし、これは中国が望んで行なった輸出禁止ではない。そうではなく、アメリカ商務省がSMICをエンティティリストに載せて、取引を禁じたからだ。つまり、これはアメリカが対中制裁のために行った措置である』、「半導体不足」の「大きな原因は、中国の半導体ファンドリーSMICから自動車用の半導体の供給を受けられなくなったこと」、確かに「中国が望んで行なった輸出禁止ではない」。
・『半導体で困っているのは中国 現在、高性能半導体の供給が受けられずに困っているのは、中国だ。 中国の通信機メーカー、ファーウエイが米商務省リストに載せられたため、台湾のTSMCから高性能半導体の供給が受けられなくなったことによる。 では、中国はこの問題を解決するために台湾に侵攻して台湾を統合し、TSMCを自国企業にするだろうか? そうした危険があることが安全保障上問題だという意見がある。つまり高性能半導体の生産が台湾に集中しており、そこが中国の脅威にさらされているというのだ。 しかし、TSMCのために中国が台湾に侵攻することなど、ありえない。まず、あまりにリスクが大きすぎる。しかも、そのような状況が見えたら、TSMCの技術者は外国に逃げてしまうだろう。どんな国でも喜んで迎えるに違いない。 結局のところTSMCの工場を占領したものの、だれも操業することができないことになってしまう可能性が高い』、「TSMCのために中国が台湾に侵攻することなど、ありえない」、「そのような状況が見えたら、TSMCの技術者は外国に逃げてしまうだろう」、「結局のところTSMCの工場を占領したものの、だれも操業することができないことになってしまう可能性が高い」、同感である。。
・『技術こそが最強の取り引き材料 経済安全保障の基本は、(先に述べた供給先の分散化とともに)取引材料を持つことだ。他の国では絶対に提供できないものを作れることである。その国をつぶしたら世界経済が立ちゆかなくなってしまうような技術を持つ企業や産業を作ることだ TSMCはその好例だ。これをつぶせば、最先端の半導体が製造できなくなる。世界にとって、台湾の存在が不可欠なのだ。 では、日本は取引材料にできるような企業や産業を持っているだろうか? 自動車は日本の基幹産業だが、仮に日本の自動車会社がつぶされたとしても、自動車を生産できる会社は世界中に沢山ある。だから、自動車を安全保障のための取引材料に用いることはできない。 半導体について言えば、製造装置や材料では日本は強い。しかし、日本でしか作れないというものではない。 最先端の半導体製造装置は、極小回路をシリコンウエハーに印刷する極端紫外線リソグラフィ(EUV)と呼ばれるものだ。この製造は、オランダのASMLが独占していて、年間50台くらいしか生産されない。こうしたものこそ、取引材料となしうる。 現在、自動車の生産は半導体の生産で制約されている。様々な電子部品もそうだ。ただし、これはいずれは解消されるだろう。 しかし、先端半導体はこれとは別だ。最先端の技術を持つものが主導権を握る。そして世界の製造業を支配することになる。 こうした問題に対処することこそ必要だが、それは、補助金を出すことで実現できるものではない』、「経済安全保障の基本は、(先に述べた供給先の分散化とともに)取引材料を持つことだ。他の国では絶対に提供できないものを作れることである」、「自動車は日本の基幹産業だが、仮に日本の自動車会社がつぶされたとしても、自動車を生産できる会社は世界中に沢山ある。だから、自動車を安全保障のための取引材料に用いることはできない」、予想以上に取引材料となる産業は少ないようだ。
・『技術は補助金より強し 中国が日本に対して、輸出入制限や禁輸措置、あるいは関税引き上げなどの措置をとってくる可能性は、もちろんある。 中国は貿易管理法によって、輸出管理規制を強めるかもしれない。とりわけ問題なのは、レアアース(希土類)の輸出が制限されることだ。 「レアアース戦争」は、実際に起こった。2010年9月に尖閣諸島で中国人船長が日本海上警察に逮捕される事件があり、その後、中国からのレアアース輸出が規制されたのだ。 日本は、これをWTOに提訴した。そして、協定違反の判決を引き出した。 このときの日本の対応は、WTO提訴だけでなく、もっと積極的なものだった。日立製作所やパナソニック、ホンダなどは、都市鉱山(既存部品の廃品)からの回収やリサイクルを行なった。さらに、より少ないレアアースで性能の良い製品を開発した。 これによって、日本の中国レアアースへの依存度は、2009年の86%から2015年には55%まで低下した。レアアースの価格が急落したため、中国のレアアース生産企業は赤字に陥った。こうして、レアアース戦争は、日本の勝利に終わった。 「ペンは剣より強し」とは、19世紀イギリスの小説家・政治家のリットンの言葉だ。 「言論の力は、政治権力や軍隊などの武力よりも民衆に大きな影響を与える」という意味だが、これをつぎのように解釈し直すこともできるだろう。 それは、どんなに強力な武器を持つよりも、強い技術力を持つことのほうが重要ということだ。 レアアース戦争で日本が勝った原因は、日本の技術だ。このような技術を持つことこそが、経済安全保障でもっとも重要なのだ』、「レアアース戦争で日本が勝った原因は、日本の技術だ。このような技術を持つことこそが、経済安全保障でもっとも重要なのだ」、同感である。
第三に、2月10日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したノンフィクションライターの窪田順生氏による「経済安保で経産省vs財務省?上級国民の椅子取りゲームは「百害あって一利なし」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/295813
・『岸田政権の目玉政策「経済安全保障」のキーマンに文春砲が炸裂 「週刊文春」が、政府が進めている経済安全保障推進法案の準備室長を務めていた、藤井敏彦・国家安全保障局担当内閣審議官に関するスクープを報じた。藤井氏が、兼業届を出さずに私企業で働き報酬を得ていた疑いがあることや、「朝日新聞」の記者と不倫関係にあることがわかったというのだ。2月8日に、国家安全保障局は藤井氏を更迭しているが、それはこの疑惑が原因だと「文春」は報じている。 政府要人が文春や新潮の週刊誌報道でクビを取られるというのは、もはや日本の日常風景となっているので、それほど驚く国民もいないだろう。しかし俗世間とかけ離れた「霞が関ムラ」には衝撃が走っていて、主に2つの「風説」で盛り上がっている。 まず1つ目が、「不倫相手に情報漏洩していたのではないか」というものだ。 2月2日、マスコミ各社は経済安全保障法制に関する有識者会議の提言を報じているのだが、その中でひときわ異彩を放っていたのが朝日新聞だった。各社が提言から抜粋する形で法案のポイントを整理している中で、朝日新聞の記事だけは、「法案には事業者への罰則規定も検討されており」と他紙が掲載していない「特ダネ」がすっぱ抜かれていたのだ。 新聞がこういう書き方をするということは、「ネタ元」(情報源)が立場のある人物であるということに他ならない。それはつまり、経済安保推進法案に関して決定権を持つ政府要人、もしくは法案の準備で中心的な役割を持っている官僚――そう、藤井氏はこの朝日スクープの「ネタ元」の条件にピッタリなのだ。 「文春」が報じたように「不倫」という親密な間柄が事実なら、手柄をあげさせるために特ダネのプレゼントをしたなんてストーリーもありえる。「法案の中身」について寝物語でポロッと漏らしてしまったということだって考えられる。 そんな“男と女のラブゲーム”的な話とうってかわって、もうひとつささやかれているのは霞が関定番のドロドロした“パワーゲーム”だ。それはズバリ、「経済安全保障利権を、財務省が本格的に奪いにきたのではないか」というものだ』、「不倫」による「スクープ」は珍しくもないが、「経済安全保障利権を、財務省が本格的に奪いにきたのではないか」、というのには驚かされた。
・『経産省と財務省の椅子取りゲーム 財務官僚が次々と藤井氏の椅子に座る 報道によれば、藤井氏の更迭を受けて政府は、後任に財務省出身の泉恒有内閣審議官をあてる方向だという。泉氏は昨年7月に財務省に出向するまで、内閣参事官として国家安全保障局にもいたのだから順当といえば順当な話なのだが、なぜこんな話になっているのかというと、経産省出身の藤井氏の後任人事に、財務官僚がとって変わるのは、これが二度目だからだ。 そもそも、藤井氏がなぜ経済安全保障推進法の準備室長になったのかというと、安倍政権時、国家安全保障局の中で経済安全保障を担う専門部署として新設された「経済班」の初代班長だったからだ。では、ここで藤井氏の後任の班長は誰になっているのかというと、財務省国際局出身の高村泰夫内閣審議官である。 つまり、あくまで人事的な見え方に過ぎないが、「経済安保のキーマン」と言われた藤井氏のイスに、財務官僚が次々と座っている構図なのだ。 もちろん、霞が関ではこのような流れになることはある程度予見されていた。岸田政権になってから「安全保障担当」の内閣総理大臣補佐官は、木原誠二官房副長官と寺田稔衆議院議員が担ってきたが、この2人は財務省(旧大蔵省)の出身だからだ。 一般国民の感覚からすれば、「重要なのは政策の中身なんだから、財務官僚が仕切ろうが、経産官僚が主導権を握ろうが、そんなのはどっちでもいい」と思うだろうが、これは経産省からするとなかなか受け入れ難い屈辱的な話である。 「経済安全保障」という国策の遂行、及びそれにまつわる口利きや斡旋、さらに天下りやらという利権は、「経産省と警察で山分けできる」と皮算用がなされていたからだ。 そのあたりをご理解していただくには、そもそもなぜ経済安全保障が目玉政策になったのかを振り返っていく必要がある。「岸田政権肝煎りの」という言葉がつくので、あたかも岸田首相が言い出したことのように誤解をされている方も多いだろうが、実はこの政策をここまでにこぎつけた最大の「功労者」は、甘利明氏だ』、「最大の「功労者」は、甘利明氏だ」、初めて知った。
・『甘利明氏の功績とは? 大企業に「天下り」が続々 安倍政権時代、甘利氏はアメリカのNEC(国家経済会議)にならって、経済安保政策を立案する組織を立ち上げるように首相に提言した。それを受けて、北村滋氏が2代目局長を務めていた国家安全保障局の中に、新たに「経済班」が設置され、藤井氏がその初代班長に就いたという流れだ。 甘利氏といえば、経産相、経済再生担当相を歴任した「商工族のドン」として知られており、経産省にとっては守り神的な存在である。かたや経済班設立に尽力した北村氏は、警察庁で外事畑を歩み、内閣情報調査室のトップを7年以上も務めたことから海外からは「日本のCIA長官」の異名をとるインテリジェンスのプロ。また、安倍元首相からの信頼も厚く、非常に近い間柄だったことでも知られている。 つまり、「経済安全保障」という国策は、安倍・甘利ラインという政治力学の中で産声をあげて、そこにひもづいている経産省と警察庁の官僚たちの手によって、徐々に形づくられていったというわけなのだ。 そんな「経産省+警察」構図を如実に示しているのが、「天下り」である。 昨今の経済安保の重要性が唱えられる世相を受けて、三菱電機、富士通、デンソー、NECなどの大企業に経済安全保障の専門部署が新設されているのだが、その担当役員として迎えられているのが、日下部聡・前資源エネルギー庁長官をはじめとした経産省OBなのだ。 「経済安保バブル」に躍るのは、警察も同じだ。 警察庁では昨年1月、「経済安全保障対策官」を新設。都道府県警と連携しながら、民間企業や大学向けの対策説明会や意見交換といった「経済安全保障コンサルティング」に取り組む方針だという。実際、警視庁では昨年3月、公安部に経済安全保障のプロジェクトチーム(PT)を発足。9月から半導体などの最先端技術を取り扱う製造系の大企業を訪問して、企業を狙ったスパイの具体的な手口などについての情報を提供している。 パッと見、「日本企業の技術を守るために、おまわりさんたちも頑張ってくれている」という美しい話なのだが、全国の警察官の再就職先確保のため、民間企業に「経済安保コンサルタント」を売り込んでいるようにも見える。) 事実、この分野のエキスパートである警察OBの北村氏は現在、「北村エコノミックセキュリティ」という会社を立ち上げて、「コンサルタント」として活躍している。警察庁はこの「北村モデル」を全国規模に拡大しようとしている可能性もゼロではない。日本中の企業に警察OBを「経済安保コンサルタント」として送り込むことができれば今、全国の警察が頭を痛めている「再就職先の確保」問題は一気に解決できる。 このようなオープンになっている情報だけを見ても、経産省と警察庁が「経済安保」というものを、自分たちの既得権益だと考えていることが容易に想像できる。 だからこそ、「経済安全保障利権を、財務省が本格的に奪いにきたのではないか」なんて憶測も飛び交ってしまうのだ』、「「経済安全保障」という国策は、安倍・甘利ラインという政治力学の中で産声をあげて、そこにひもづいている経産省と警察庁の官僚たちの手によって、徐々に形づくられていった」、「日本中の企業に警察OBを「経済安保コンサルタント」として送り込むことができれば今、全国の警察が頭を痛めている「再就職先の確保」問題は一気に解決できる。 このようなオープンになっている情報だけを見ても、経産省と警察庁が「経済安保」というものを、自分たちの既得権益だと考えていることが容易に想像できる」、なるほど。
・『本当の「経済安全保障」はどこへ パワーゲームは「百害あって一利なし」 ただ、一般庶民の立場から言わせていただくと、そのような政治家や官僚という「上級国民」の皆さんが主導権争いなどのパワーゲームにのめりこむ姿を見れば見るほど、「経済安全保障」というものに対しての不安が膨らんでいく。 国益という視点に立てば、経済安全保障というものが必要で「まったなしの課題」というのは同感だ。日本で言われる経済安全保障というのはぶっちゃけ「中国の脅威」にどう立ち向かうのか、という話なので、エネルギー、半導体、サプライチェーン、さらには海洋資源などで、米中対立の影響を受けないよう、日本独自の生産・輸入の体制などを整えるということに対して全く異論はない。 が、先ほどの「天下り」確保のための活発な動きや、霞が関の主導権争いを見ていると、そのせっかくの重要な国策が、特定の人々に利益を誘導するような「利権」となってしまったり、政治的ライバルを貶めるための「政争の具」になって終了、という最悪の結末しか浮かばない。つまり、「経済安保」の法案を通して、官民あげて推進したところで、一部の「上級国民」の皆さんだけが恩恵があって、我々のような市井の一般庶民には「百害あって一利なし」という悪政になってしまうのだ。 実際、これまでも「経済安全保障」や「中国の脅威」というものは、一部の上級国民を利するために、都合よく利用されてきたという動かし難い事実がある。 記憶に新しいのが、自民党総裁選の最中に突如として注目を集めた「日本端子」問題である』、「「経済安保」の法案を通して、官民あげて推進したところで、一部の「上級国民」の皆さんだけが恩恵があって、我々のような市井の一般庶民には「百害あって一利なし」という悪政になってしまうのだ」、要警戒だ。
・『総裁選でデマ浮上 権力闘争で恣意的に利用される「経済安保」 日本端子という会社は、河野太郎衆議院議員の家族が経営している自動車部品会社で、中国にいくつか中国企業との合弁会社がある。河野氏が総裁選に出馬した際、SNS上でこの日本端子について「流言」が飛んだ。曰く、中国の太陽光発電に部品を提供しており、河野家は中国で太陽光利権を一手に握っている。中国の合弁会社は資本の比率などを見ても中国政府から異例の厚遇を受けており、これこそが、河野ファミリーと中国共産党の蜜月の動かぬ証拠である、などさまざまな情報が飛び交った。 結論から言うと、この話は全くのデマだ。日本端子は1960年に設立してから、製品の8割は自動車用のコネクタや圧着端子で、顧客も日本の自動車メーカーが多い。「中国の手先」などの誹謗中傷が多く寄せられたことを受けて、自社HPで「お知らせ」として反論しているが、これまで中国市場で太陽光発電の部品など販売したこともない。また、「異例の厚遇」とやらの資本比率も、中国企業との合弁会社なら石を投げれば当たるほどよくあるものだ。 しかし、こんなデタラメ話が、総裁選の最中にも信憑性をもって語られ、マスコミの中には実際に河野氏に質問をした記者もいた。特定の政治家や、彼らと近しい著名ジャーナリスト、政治評論家がSNSなどで大騒ぎをしていたからだ。当時、これらの人々は「疑惑を徹底追及します」とか「日本の安全保障上大きな問題だ」などと叫んでいたが、今では「そんなことあったっけ?」と何事もなかったような顔をしている。 このように「中国の脅威」や「経済安全保障」というのは、為政者たちの権力闘争で恣意的に利用されることが多い。それは、トランプ前大統領を見てもよくわかるだろう。 自分の都合が悪い問題を追及されると、北朝鮮や中国を痛烈に批判する。今のバイデン大統領も立場が悪くなると、「ウクライナ問題」を持ち出した。それと同じで、日本でも政治や官僚が、自分たちの都合の悪い話が出た時、ここぞとばかりに「経済安全保障」を引っ張り出して、国民の目をそらす恐れがあるのだ。 「そんなのは貴様の妄想だ」という声が聞こえてきそうだが、「経済安保バブル」で天下り拡大にわく霞が関や、熾烈な足の引っ張り合いを見ていると、「妄想」とは言い切れないのではないか。 ただでさえ、経済安全保障というのは、日本の経済成長や景気拡大とは直接的に関係がない政策だ。対象となるのは日本企業の0.3%しかない大企業だけで、しかもナショナリズム丸出しの過度な規制によって、企業活動が足を引っ張られる恐れもある。今のところこの政策で恩恵を受けているのは、一部のコンサルタントと、天下りが拡大できた霞が関だけだ。 経済安全保障を推進するのは結構だが、「国破れて上級国民あり」なんてことだけにはならぬようお願いしたい』、「経済安全保障というのは、日本の経済成長や景気拡大とは直接的に関係がない政策だ。対象となるのは日本企業の0.3%しかない大企業だけで、しかもナショナリズム丸出しの過度な規制によって、企業活動が足を引っ張られる恐れもある。今のところこの政策で恩恵を受けているのは、一部のコンサルタントと、天下りが拡大できた霞が関だけだ」、「国破れて上級国民あり」、言い得て妙だ。
タグ:現代ビジネス 安全保障 (その10)(岸田首相が入れ込む「経済安保政策」 日本が生き残るため「決定的に重要なこと」 意外と見落とされているが…、経済安全保障の最強の武器は「技術力」-補助金・自国生産ではない レアアース戦争の勝因を肝に銘じよ、経済安保で経産省vs財務省?上級国民の椅子取りゲームは「百害あって一利なし」) 加谷 珪一氏による「岸田首相が入れ込む「経済安保政策」、日本が生き残るため「決定的に重要なこと」 意外と見落とされているが…」 「ドローンの問題について言えば、国内で優秀なドローン製品を開発できる環境作りこそが、もっとも重要な経済安全保障政策であり、この部分を怠った結果として、使用制限などの措置が必要になったと考えるべきだ。通信機器や監視カメラの分野も同じであり、各分野で日本メーカーが競争に敗れたことが中国メーカーの台頭を招いており、従来の競争力を維持できていれば、そもそも中国製を採用する必然性はなかった・・・半導体についても同じことが言える」、その通りだ。 「米国企業はあくまでコスト対策とスピード感を重視する必要性から台湾に製造を委託しているのであって、高い半導体製造能力は維持している・・・最悪の事態が発生した場合でも、米国は半導体を確保できるが、日本はそうはいかないだろう」、確かに「日米企業」の対応は対照的だ。 「日本企業は90年代以降のIT革命の流れを見誤り、IT利用という点で、先進国の地位から脱落してしまった」、ここはもう少し説明が必要だ。「ユーザーが存在しないということは国内には大きな半導体需要が存在しないということであり、当然の結果として半導体産業も衰退」、その通りだ。 その通りだが、「経済安全保障」を名目に補助金をバラ蒔くような無駄は避けるべきだ。 野口 悠紀雄氏による「経済安全保障の最強の武器は「技術力」-補助金・自国生産ではない レアアース戦争の勝因を肝に銘じよ」 「安全保障のためにもっとも重要なのは技術力であり、それは補助で獲得できるものではない」、同感である。 「供給源をできるだけ分散することこそ、食料安全保障の基本だ」、「食料自給率は、国内生産への補助や、輸入農蓄産物に対する高関税を正当化するために強調された」、「サプライチェーンも同じである。解は供給源分散化であって、自国生産ではない」、その通りだ。 「半導体不足」の「大きな原因は、中国の半導体ファンドリーSMICから自動車用の半導体の供給を受けられなくなったこと」、確かに「中国が望んで行なった輸出禁止ではない」。 「TSMCのために中国が台湾に侵攻することなど、ありえない」、「そのような状況が見えたら、TSMCの技術者は外国に逃げてしまうだろう」、「結局のところTSMCの工場を占領したものの、だれも操業することができないことになってしまう可能性が高い」、同感である。。 「経済安全保障の基本は、(先に述べた供給先の分散化とともに)取引材料を持つことだ。他の国では絶対に提供できないものを作れることである」、「自動車は日本の基幹産業だが、仮に日本の自動車会社がつぶされたとしても、自動車を生産できる会社は世界中に沢山ある。だから、自動車を安全保障のための取引材料に用いることはできない」、予想以上に取引材料となる産業は少ないようだ。 「レアアース戦争で日本が勝った原因は、日本の技術だ。このような技術を持つことこそが、経済安全保障でもっとも重要なのだ」、同感である。 ダイヤモンド・オンライン 窪田順生氏による「経済安保で経産省vs財務省?上級国民の椅子取りゲームは「百害あって一利なし」 「不倫」による「スクープ」は珍しくもないが、「経済安全保障利権を、財務省が本格的に奪いにきたのではないか」、というのには驚かされた。 「最大の「功労者」は、甘利明氏だ」、初めて知った。 「「経済安全保障」という国策は、安倍・甘利ラインという政治力学の中で産声をあげて、そこにひもづいている経産省と警察庁の官僚たちの手によって、徐々に形づくられていった」、「日本中の企業に警察OBを「経済安保コンサルタント」として送り込むことができれば今、全国の警察が頭を痛めている「再就職先の確保」問題は一気に解決できる。 このようなオープンになっている情報だけを見ても、経産省と警察庁が「経済安保」というものを、自分たちの既得権益だと考えていることが容易に想像できる」、なるほど。 「「経済安保」の法案を通して、官民あげて推進したところで、一部の「上級国民」の皆さんだけが恩恵があって、我々のような市井の一般庶民には「百害あって一利なし」という悪政になってしまうのだ」、要警戒だ。 「経済安全保障というのは、日本の経済成長や景気拡大とは直接的に関係がない政策だ。対象となるのは日本企業の0.3%しかない大企業だけで、しかもナショナリズム丸出しの過度な規制によって、企業活動が足を引っ張られる恐れもある。今のところこの政策で恩恵を受けているのは、一部のコンサルタントと、天下りが拡大できた霞が関だけだ」、「国破れて上級国民あり」、言い得て妙だ。
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