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トランプ大統領(その27)(米国が「世界の警察官を辞める」過程でエルサレム首都承認は起きた、トランプ・習近平・プーチン、2017年の「勝者」は誰か、世界大戦発生の歴史に学べない危うい米国と中国) [世界情勢]

トランプ大統領については、昨年12月11日に取上げた。今日は、(その27)(米国が「世界の警察官を辞める」過程でエルサレム首都承認は起きた、トランプ・習近平・プーチン、2017年の「勝者」は誰か、世界大戦発生の歴史に学べない危うい米国と中国)である。

先ずは、立命館大学政策科学部教授、立命館大学地域情報研究所所長の上久保誠人氏が昨年12月19日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「米国が「世界の警察官を辞める」過程でエルサレム首都承認は起きた」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ドナルド・トランプ米大統領が、エルサレムをイスラエルの首都として正式に承認すると宣言した。1995年制定の米連邦法は、大使館を「分裂していないエルサレム」に置く必要があるとしているが、米大統領が半年ごとに移転先送りを指示することが認められ、歴代大統領は、外交戦略上の影響を懸念して先送りしてきた。トランプ大統領は、米国の外交政策の歴史的大転換を行った。
・トランプ大統領の「宣言」には、イスラム圏から欧州まで、国際社会から「中東和平を遠のかせる暴挙」であると一斉に批判が起こった。日本では、「ドナルド・シンゾー関係」を「過去最高の日米関係」だと誇ってきた安倍晋三政権は沈黙しているが、様々な識者が「面子を捨て、恥も外聞もなく、権力の限りを「自分ファースト」のために活用して、トランプの俺流に徹している」(嶋矢志郎『トランプの「自分ファースト」が日本の中東ビジネスまで破壊する』)など、総じて厳しい論調である。
・しかし、本稿はトランプ大統領の「宣言」は過激ではあるが、決して「自分ファースト」ではなく、「アメリカ第一主義(アメリカファースト)」という米国の党派を超えた新しい国家戦略の枠内の決断だと考える(本連載第170回)。「シェール革命」で中東の石油が必要なくなりつつある米国は、「エルサレム首都承認問題」についても、アラブに気を遣う必要がなくなった。換言すれば、トランプ大統領の「宣言」で「中東和平が遠のいた」というが、そもそも米国は中東和平に関心がなくなったということだ。
▽「世界の警察官を辞める」ことも 国際社会の不安定化も米国の意思
・この連載では、「シェール革命」が米国の国家戦略を根本的に変化させ、それが国際社会の構図を劇的に変えつつあることを指摘してきた(第170回・P4)。「シェール革命」とは、主に米国で生産されるシェール石油・ガスによって、米国が石油の輸入国から輸出国に変わることによって起こる米国内と国際社会の劇的な変化のことである。米国は、2011年にロシアを上回り世界最大の産ガス国になり、2013年にはサウジアラビアを上回り、世界最大の産油国となった。
・重要なことは、米国が「世界の警察官を少しずつやめていく」ことは、前任のバラク・オバマ大統領の時代に決められたということだ。オバマ前大統領は、2013年9月に対シリア内戦への軍事不介入声明を発表した際、「もはやアメリカは世界の警察官ではない」と宣言した。そして、中東からの米軍撤退、将来の韓国からの米軍撤退(公表)、2020年から2026年の間に沖縄から海兵隊を含む全米軍撤退(非公式)、NATO(北大西洋条約機構)の閉鎖又は欧州中央軍への統合、中南米、アフリカ地域からの米軍撤退等々を打ち出してきた。要するに、「世界の警察官」を辞める「アメリカファースト」は、トランプ大統領の個人的な思い付きではない。米国内で党派を超えたコンセンサスなのだ(第145回)。
・オバマ大統領の「宣言」以降、中東においては、ウラジーミル・プーチン大統領によって「大国復活」を目指すロシアが関与を強めている(第149回)。また、サウジアラビアとイランが断交した。明らかに、中東における勢力均衡のバランスが崩れた。また、アジアにおいては、中国の海洋進出が活発化し、南シナ海の実効支配が着々と進行している。これらは、米国の弱体化による国際社会における影響力の低下と見なされることが多い。
・だが、「世界の警察官」を辞めることが米国の明確な意思であり、その背景にエネルギー自給の達成による米国経済の「復活」があるならば、ロシアや中国の国際社会における勢力拡大や、サウジ・イランの対立による中東などの不安定化も、米国の意思によるものと言えるのではないだろうか。
▽「シェール革命」で米国と中東産油国の力関係は逆転した
・このように考えると、トランプ大統領の「エルサレム首都承認」の宣言が国際社会を混乱に陥れていても、中東の石油を必要とせず、「世界の警察官」を辞めた米国にとって、痛くもかゆくもないことだとわかる。トランプ大統領が気にすることがあるとすれば、米国内のユダヤロビーの支持を得ることだけなのかもしれない。
・もっと突き詰めて考えてみると、トランプ大統領は、国際社会にそれほど大きな混乱は起きないと考えているのかもしれない。確かに、サウジアラビア、トルコ、イランなど中東諸国は、トランプ大統領を一斉に非難した。だが、トルコを除いて、イスラエルとの国交断絶を示唆した国は今のところない。また、かつての「石油ショック」の時のような、米国や親米・親イスラエルの国々に対して一致団結して石油禁輸を行おうとする動きは出てこない。
・ここにも、「シェール革命」による、米国と中東産油国の力関係の逆転が示されているのではないだろうか。特に、米軍に守ってもらう代わりに石油の安定供給を約束してきたサウジは、米国にとって戦略的に重要な国ではなくなった。一方、米国との緊密な関係を基に、中東で圧倒的な影響力を誇ってきたサウジの弱体化は顕著となった。米国はサウジに対して、圧倒的に強気に出られる立場となっている。
・現在、サウジは米国を激しく批判しているが、結局は米国に頼らざるを得ない。同様に、エジプト、ヨルダンなど他の親米と見なされてきた中東諸国も同様だ。単純な反米・反イスラエルに舵を切ることはできず、微妙な立場に追い込まれているように見える。
▽中東諸国は「米国に石油を売る」から「米国から武器を買う」へ
・もちろん、米国は国際社会で何が起こっても無関心を決め込むというわけではない。例えば、この連載でも取り上げてきた、「北朝鮮のミサイル開発」である。北朝鮮がミサイル実験を繰り返しても、無関心を決め込んでいた米国が動きだしたのは、北朝鮮の大陸間弾道弾(ICBM)の開発が進み、米本土が攻撃される危機が現実となってきた時であった(第155回)。要は、米国は「世界の警察官」を辞めても、「アメリカファースト」のために立ち上がることはある、ということだ。
・「エルサレム首都承認」が、「アメリカファースト」に触れて、米国を動かすことがあるとすれば、どのような場合であろうか。まず考えられるのが、テロのリスクである。イスラム過激派が「インティファーダ(蜂起)」を呼びかけ、反米蜂起を訴えている。復活を狙うIS(イスラム国)の残党たちが勢力を拡大する恐れもあるかもしれない。米国は、国内でテロの危険性が高まれば、テロ組織の拠点となっている地域、テロ支援国家に対して、北朝鮮に対するように軍事力を展開して圧力をかけることが考えられる。
・また、中東で主に「スンニ派」の親米国の影響力が落ちれば、非アラブの「シーア派」で、反米派のイランの勢力が増すことになる。前述のように、米国の中東でのプレゼンス低下で既に崩れているサウジ・イランのパワーバランスがさらに崩壊することになれば、欧米との核合意を反故にしてでもイランが再び核開発に動き出すかもしれない。
・米国は、ユダヤロビーの意を受けて、イスラエルを守るために中東に米軍を展開し、イランに圧力をかけることになる。イスラエルに加えて、おそらく米側に着くであろうサウジ、エジプト、ヨルダンなどとともに、強力なイラン包囲網を敷くだろう。日本に対して「核武装」を進めたこともあるトランプ大統領のことだ。これら親米国に対して、「米国の武器を買うべきだ」「核武装すべきだ」と圧力をかけることは十分に考えられる。
・換言すれば、「米国に石油を売ってきた中東諸国が、米国から武器を買う」ことになるのだ。このようにシンプルにまとめて考えてみると、どれほど「アメリカファースト」による国際社会の変化が、劇的で大きなものかわかるだろう。
▽日本が「アメリカファースト」に振り回され孤立するリスク
・今年の国際社会は、トランプ大統領の「アメリカファースト」に振り回され続けた一年だったと言えるだろう。この連載も、国際関係の論考は、「アメリカファースト」をどう考えるかを議論するものばかりだった(第149回、第150回、第155回、第166回、第170回)。 トランプ大統領の「アメリカファースト」の特徴は、端的にいえば、一見「思いつき」で「行き当たりばったり」で「過去に積み上げてきた努力を踏みにじり(あるいは、そもそも過去の経緯を知らない)」、「面子」を捨てて、「恥も外聞もなく」権力をすべて「自分ファースト」に使うものと思われがちだ。
・だが、繰り返すが、「アメリカファースト」は党派を超えた米国の国家戦略だ。トランプ大統領の言葉は品格に欠けるが、内容的にはオバマ前大統領とそう変わるものではない。トランプ大統領の実際の行動は、「アメリカファースト」で一貫性があり、決して「自分ファースト」という感情的なものではなく、冷徹な計算に基づいていると考えるべきである。
・日本は、「アメリカファースト」に対して、どう対応すべきであろうか。この連載は、「アメリカファースト」に象徴される世界の「ブロック化」の流れの中では、日本は東洋の一小国の地位に落ちる危険性があると指摘してきた(第149回)。
・そもそも、日本の戦後の発展は、東西冷戦期の米国の国家戦略において、共産主義ブロックと対峙するフロントラインの日本が最重要拠点となったことで、米国に「守ってもらい」「食べさせてもらう」ことができたからである(第170回)。この、奇跡的で幸運な状況がなければ、日本は資源もなく、工業化もできず、最貧国の地位にとどまっていたかもしれないのだ。
・岸信介元首相の孫である安倍晋三首相は、実はこの現実を祖父から教わり、よく理解しているのかもしれない。トランプ大統領の「アメリカファースト」に対して、「超対米従属」に徹する姿勢を示し、過去最高の日米関係と評される「ドナルド・シンゾー関係」を築いてきた。これは、極めて適切な対応だと思う。
・だが、相手に手の内を見せず、突如大胆な行動に出るトランプ大統領が、今後どのように動くかは読めない。例えば、「北朝鮮ミサイル開発」について、レックス・ティラーソン国務長官が「前提なしで北朝鮮と対話する用意がある」という主旨の発言をした。これは、従来の「北朝鮮の核保有を認めず、非核化を実現する」という、日米が堅持してきた方針の転換を示唆するものである。
・この連載は、「北朝鮮ミサイル開発」について、戦争の可能性よりも、その前の外交交渉が重要だと指摘してきた。米国が「アメリカファースト」に基づいて、北朝鮮が米国に核を向けなければいいというディールを行い、日本にだけ核ミサイルが向いた状態で事態を終結させる。そして、トランプ大統領は「シンゾー、大丈夫だ。米国から武器を買って守ればいい」と言い、「米国は常に、同盟国・日本とともにある」と、安倍首相の肩を叩く(第166回)。ティラーソン国務長官の発言は、日本がアメリカファーストに振り回され、結局孤立するリスクを示すものといえるだろう。
▽「米国に食べさせてもらう」同盟国から「米国を食べさせる」同盟国へ
・それでは、日本はただ「超対米従属」に徹することしかできないのだろうか。筆者は日本にも攻め手はあると考える。米国は、今でも同盟国の存在を必要としているからである。これまで米国の同盟国とは、米国が安全保障上の戦略拠点とするために、米国が軍事力を展開して安全を保障し、米国市場への自由な輸出を認めることで経済成長させてきた国々であった。いわば、日本に象徴されるように「米国に守られ」「米国に食べさせてもらった」のが同盟国であった。
・トランプ大統領は、これらの同盟国に対して米国製品の購入を要求している。いわば、「米国を食べさせろ」と言っているのだ。シェール革命によって米国「ものづくり」が復活しているが、儲けるためには輸出先が必要になってくる。つまり、米国は今後も同盟国を必要としている。ただし、それは米国が「食べさせてやる」同盟国ではなく、米国を「食べさせる」同盟国である。
・トランプ大統領が、同盟国・日本を重視してきた理由は、究極的には「米国を食べさせることができる」経済力を持っているからなのではないだろうか。日本の活路は、ここにある。資源のない日本は、貿易立国として国際経済のネットワークを築いて生きていくしかない。ナショナリズムは百害あって一利ない。グローバリゼーションの中で稼ぐ力をつけて、米国を食べさせる続けることである。その意味で、「TPP11」を推進する安倍政権は正しい。
・そして、日本が今後、絶対にやるべきことがある。そのヒントは中国である。トランプ大統領が日本の次に訪問した中国で、習近平中国国家主席は、米国に対して総額28兆円の巨額投資を提示した。その中心は、中国の国有石炭大手と国有発電大手が合併して発足した国家能源投資集団が米ウェストバージニア州で手掛けるシェールガスの開発プロジェクトだ。また、中国石油化工集団(シノペックグループ)がアラスカに430億ドルを投じる液化天然ガス(LNG)事業は1万2千人の雇用を生むという。中国の巨額の投資は、中国製品の流入などが米国の雇用を奪っているとのトランプ大統領の批判に応えたものだ。
・トランプ大統領は、中国の提案に対して非常にご機嫌だった。その後の記者会見で「米国と中国の間には、難しい問題がある。しかし、それは中国の責任ではない。米国の歴代政権の問題である」という主旨の発言をしたほどだ。習近平主席からトランプ大統領への「プレゼント」は、「過去最高の日米関係」に酔う日本に冷や水を浴びせるといえる。
・本来、「シェール石油・ガス」への投資という「プレゼント」は、安倍首相からトランプ大統領に贈るべきものだった。「アメリカファースト」の根幹に「シェール革命」があるならば、そこへの積極的な関与が新しい国際秩序で生き抜くためのカギになってくるからだ。残念ながら、11月のトランプ大統領のアジア歴訪の際、日本よりも中国のほうが、新しい時代に対する感度が優れていたと言わざるを得ないだろう。
・そもそも、資源のない日本にとって、エネルギー資源確保の多角化は国家存亡にかかわる重要課題である。日本の石油輸入の90%以上が、ホルムズ海峡経由だという現状は、世界の「ブロック化」の流れの中で、これまで以上に深刻なリスクとなる。今からでも遅くはない。米国の「シェール石油・ガス」への投資を早急に検討すべきであろう。
・ただ、筆者がここで強く主張しなくても、自然にそういうことになっていくのかもしれない。トランプ大統領の「エルサレム首都承認宣言」によって、今後中東情勢が不安定化し、日本への石油輸出が滞るような事態になれば、トランプ大統領は「シンゾー、大丈夫だ。米国から石油を買えばいい。米国は常に、同盟国・日本とともにある」と言うだろう。来年も、複雑怪奇な国際社会から目が離せそうにない。
【参考資料】大先一正(2016)『最近のシェールガスを巡る情勢について-わが国の天然ガス・LNG政策に対するインプリケーション』(PDF)
http://diamond.jp/articles/-/153459

次に、国際関係アナリストの北野幸伯氏が12月25日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプ・習近平・プーチン、2017年の「勝者」は誰か」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・激動の2017年が、まもなく終わろうとしている。この1年で、世界のパワーバランスは、どう変わったのだろうか?世界を動かす三大国、すなわち米国、中国、ロシアを中心に見てみよう。
▽米中ロの三大国リーダーで2017年の勝者は誰か?
・世界には3つの大国がある。米国、中国、ロシアだ。米国のGDPは2016年、18兆6244億ドル、軍事費は6110億ドルと、共にダントツ世界1位だった。中国のGDPは同年、11兆2321億ドル、軍事費は2150億ドルと、どちらも世界2位。この2国が大国であることに、異議を唱える人はいないだろう。 ロシアのGDPは、1兆2831億ドルで世界12位(韓国の次)。軍事費こそ692億ドルで世界3位の座をキープしているが、経済力で見ると米中と比べて、ずいぶん見劣りする。しかしこの国は、世界一広大な領土と、米国に匹敵する核戦力を持ち、なおかつ超資源大国である。そして、KGB出身の剛腕リーダー、プーチンのおかげで、国力に不相応な影響力を確保している。
▽世界には他にも「大国らしき国々」がある。
・たとえば、日本とドイツは、文句なしの経済大国だ。しかし、この2国は、安全保障を米国に依存している。英国やフランスは核兵器を保有する経済大国だが、それでも安全保障は米国に頼っている。インドは、10年後間違いなく大国になっているだろう。だが現段階では、それほどのパワーはない。
・結局、世界情勢を知りたければ、米中ロの現状を知るのが一番早いのだ。 さて、「この三大国リーダーの中で、2017年の勝者は誰か?」、こう質問されたら正直に「習近平です」と答えざるを得ない。なぜなら、習は「最強の敵を無力化することに成功したから」である。
・中国にとって「最強の敵」とは、いうまでもなく米国だ。 思い出してみよう。トランプが今年1月大統領に就任した時、中国は極めてまずい状況におかれていた。トランプは昨年12月、台湾の蔡英文総統と電話会談した。これは、1979年の米中国交回復、米台断交以来はじめての出来事だった。 さらに、新政権の布陣は反中国だった。まず、「トランプ政権の黒幕」と呼ばれたバノン首席戦略官(8月に辞任)。彼は「中国は、米国の敵」と公言してはばからなかった。国家通商会議の議長は、日本でもベストセラーになった「米中もし戦わば」の著者ピーター・ナヴァロ教授。彼は「米中戦争が起こる可能性は極めて高く、米国はそれに備えなければならない」と主張している。このように、トランプ政権は「反中政権」としてスタートした。
▽わずか数ヵ月でトランプを懐柔! 習近平の「工作」は大成功
・ところが4月、訪米した習近平に会ったトランプは、彼のことが大好きになってしまう。曰く、 「われわれの相性はすごくいい。 互いに好意を持っている。 私は彼のことがとても好きだ。 彼の妻も素晴らしい」 (ウォール・ストリート・ジャーナル 4月13日、太線筆者、以下同じ)
・さらに、11月に訪中したトランプは、こんな発言をしている。 <習氏に向かい、 「あなたに対して信じられないほど温かい感情を持っている。 以前にも話したように、私たちは相性がぴったりだ。 共に米中両国にとって素晴らしいことをしていると思う」と褒めちぎった。>(AFP=時事11月9日) 
・この発言は、トランプの正直な感想と理解していい。トランプの特徴は、「感情がそのまま言葉や態度に出てしまう」こと。それで、ドイツのメルケル首相や、韓国の文大統領など、「合わない人」と会った時にも、露骨に表情に出てしまう。 トランプが習近平を大事にしているのは、もちろん「北朝鮮問題で中国の協力が必要だから」である。 しかし、それだけではない。「中国による工作の結果」そうなっているのだ。中国は、年初から今に至るまで、「国を挙げた工作」を行っている。そのターゲットは、トランプの娘イヴァンカと夫クシュナー、そして彼の親戚も含まれている。この「工作」は、アリババ創業者、馬雲(ジャック・マー)も動員されるほど、大規模なものだ(工作の詳細は「中国がトランプ懐柔攻勢、日米関係が良好でも気を抜くな」を参照)。 結果、トランプは、極めて短期間で中国に懐柔されてしまった。
・これまで繰り返し書いてきたが、中国は、「日本に沖縄の領有権はない!」と主張している。そんな国が、日本の同盟国、米国と親密になるのは、わが国にとってあまり喜ばしいことではない。しかし、日本にとっての「善悪」はともかく、起こっていることは「あるがまま」に知る必要がある。 習近平は今年、反中だったトランプを、見事に親中に変えた。
▽米ロ関係悪化は プーチンの大きな失敗
・次に、プーチンはどうだろうか?こちらは「1勝1敗」といえる。 ロシアの大きな転機は、2014年3月の「クリミア併合」だった。クリミアは、1783年から1954年までロシア領だった。それをプーチンは、「無血」で取り戻した。世界的には「絶対悪」と思われているこの出来事だが、ロシア国内では逆に「歴史的快挙」「絶対善」と捉えられている。
・しかし、クリミア併合の「副作用」は大きい。米国が、日本、欧州を巻き込んで、経済制裁を実施したからだ。さらに、1バレル100ドル台だった原油価格が、一時は30ドル台まで暴落し、ロシア経済を直撃した。 結果、ロシアのGDP成長率は、2015年がマイナス2.83%、16年はマイナス0.23%。17年は原油価格が1バレル60ドル台まで上がったことから1.8%の成長が見込まれているが、ロシアの成長率が2000~08年、年平均7%だったことを思えば、今は「停滞の時代」といえるだろう。
・ロシアがこの苦境から脱出するためには、「米国に対ロ制裁を解除させること」が最重要課題になる。米国が解除すれば、日欧も後に続くだろう。それで、ロシアには「親ロの米国大統領」が必要なのだ。 16年11月、「ロシア愛」を公言するトランプが大統領選でヒラリーに勝利した時、ロシア国民は歓喜した。当時、ロシアでのトランプ支持率は100%近かったはずだ。 そしてトランプの人事も、ロシア国民を喜ばせた。フリン大統領補佐官は親ロシア。そしてティラーソン国務長官は、エクソンモービルの前CEO。ロシア政府から「友好勲章」を与えられた親ロ派で、「プーチンの親友」と呼ばれている。
・しかし、喜びは長く続かなかった。そう、米国で「ロシアゲート」事件が大騒ぎになったのだ。結果、フリンは2月、辞任に追いこまれた。彼は現在、罪を認めて司法取引に応じる意向を示している。今後どんな爆弾発言が飛び出すかが注目される。 親ロ派のもう1人の大物、ティラーソンはトランプとの対立がしばしば報じられ、「解任の噂」が絶えない。トランプ自身は、現在も「親ロシア」「親プーチン」の姿勢を崩していない。しかし、米民主党、共和党内の反ロ派、マスコミの力が強く、ロシアに接近・譲歩できない状態が続いている。
・結果、中国と違いロシアは、米トランプ政権と良好な関係を築くことができなかった。むしろ米ロ関係は、ますます悪化している。これがプーチンの、今年の大きな敗北だろう。
▽ロシアは中東で米国を凌ぐ存在感に
・では、プーチンの「1勝」とはなにか?それは「シリア戦争で勝利したこと」だ。 13年、シリアで内戦が始まった。ロシアはイランと組み、アサド大統領を支援。一方、米国、欧州、サウジアラビア、トルコなどは「反アサド派」を助けた(ISは、もともと反アサド派にいたが、その後独立勢力になった)。 誰もが「アサドは最低でも辞任、最悪の場合は殺される」と思った。しかし、意外にも彼は激戦を耐え抜き、サバイバルすることに成功した。そして17年12月11日、プーチンはシリアで「作戦終了」を宣言する。 <プーチン氏 シリアの露軍訪問、撤退命令 作戦終了を宣言 毎日新聞 12/11(月) 21:49配信  【モスクワ杉尾直哉】ロシアのプーチン大統領は11日、ロシア軍が駐留するシリア西部のヘメイミーム空軍基地を予告なしに訪問した。軍部隊を前にした演説で、シリア空爆作戦の終了を宣言し、軍の撤退を命令した。ロシアが2015年9月末に開始したシリア空爆は「終了」という大きな節目を迎えた。 AP通信によると、プーチン氏のシリア訪問は初めて。露国営テレビによると、プーチン氏は露政府専用機でヘメイミーム空軍基地に到着。タラップの下で待つアサド大統領に抱擁で迎えられた。>
・結果、中東におけるロシアの存在感は、米国を凌駕するようになった。親ロ勢力イラン、シリアだけでなく、従来の親米勢力トルコ、サウジアラビア、エジプトも、ロシアに急接近している。
▽「アメリカファースト」で世界から孤立したトランプ
・最後にトランプはどうだろうか?彼は、安倍総理と仲が良く、北朝鮮問題にも真剣に取り組んでいる。日本にとって、悪くない大統領だろう。 しかし、世界的な評判は、最悪に近い。なぜなら、トランプが「破壊者」に見えるからだ。
・トランプは1月、「TPPからの離脱」を決めた。6月には「パリ協定」からの離脱を宣言している。パリ協定は、言うまでもなく「気候変動を抑制するための国際協定」だ。196か国が参加するこの協定からの離脱は、世界中で非難された。さらに10月には「ユネスコ脱退」を表明している。
・そしてトランプは12月6日、「エルサレムをイスラエルの首都と認める」と宣言した。この発言を支持したのは、世界でイスラエルただ1国。米国と同盟関係にある欧州諸国も、一体化して反対している。  <エルサレム首都認定 米国除く安保理14カ国が非難や懸念 毎日新聞 12/9(土)11:18配信  【ニューヨーク 國枝すみれ】英国のライクロフト国連大使は「エルサレムは最終的にイスラエルとパレスチナの二つの国家の首都であるべきだ」と述べ、米国の決定に「同意しない」と明言した。 フランスのデラトル国連大使も、エルサレムを国際管理下に置き2国家共存を目指すという国際社会の合意を守ることの重要性を強調し、「国際法や安保理の正当性が危機にひんしている」と非難した。 会合終了後、英、仏、スウェーデン、イタリアの安保理メンバーにドイツを加えた欧州5カ国の国連大使は記者会見し、「米国の決定に同意しない。安保理決議に沿わず、地域の平和に寄与しない」と訴える共同声明を読み上げた。>
・そして、米国にとって最大の問題は、トランプが世界16億人のイスラム教徒を敵に回してしまったことだろう。 米国はトランプの言動のせいで、世界から孤立している。そして、彼によって覇権を失いつつある。米国は戦後、常に「国際秩序」の「創造者」かつ「維持者」であった。「自国に都合のいいルール」を作ることで、支配力を維持してきたのだ。
・ところがトランプは現在、「国際秩序の破壊者」になっている。米国は、秩序から離脱することで、秩序への影響力を喪失しているのだ。これは、「アメリカファースト」というトランプの哲学がもたらす必然的な結果だ(筆者は2016年4月、「トランプ大統領誕生なら米国は覇権国家から転落する」という記事を書いた)。 彼が大統領である限り、今後も米国のパワーは低下していくだろう。
▽2018年、注目すべきは中東と北朝鮮
・来年は、どんな年になるのだろうか?カギを握る「2つの地域」に注目することが必要だろう。 1つは中東だ。トランプの「宣言」を受け、パレスチナのイスラム原理組織ハマスは、反イスラエル闘争開始を呼びかけた。この闘争に周辺のイスラム諸国が参加すれば、大戦争に発展する可能性が出てくる。
・もう1つは、言うまでもなく北朝鮮だ。戦争は起こるのだろうか?ティラーソンは、中国と戦中、戦後について話し合っていることを明かしている。 <米中 朝鮮半島有事で協議 核確保手段など詳細に 毎日新聞 12/13(水) 21:29配信  【ワシントン会川晴之】ティラーソン米国務長官は12日、ワシントン市内で講演し、朝鮮半島有事に備え中国と詳細な危機対応策を詰めていることを明らかにした。米軍が休戦ラインの38度線を越え北朝鮮に侵攻した場合、いずれ韓国側に撤退すると中国側に確約したほか、核拡散防止のため、北朝鮮が数十発保有すると見られる核兵器の確保手段についても「中国と既に話し合った」という。>
・北朝鮮との対話で問題が解決すれば一番望ましいのは言うまでもないが、それが難しい以上、米中が一体化して北朝鮮問題を解決することは、世界にとって良いことだ。 そうでなく、中国とロシアが一体化して北朝鮮防衛に動けば、日米韓vs中ロ北の戦争になってしまう。このシナリオは「そんなバカな!」と思えるものだが、プーチンは、欧米を相手にひるむことなくアサドを守った。だから、そういう可能性も完全には否定できない。
・来年も引き続き、激動の年となるだろう。戦争が起こる可能性も、大いにある。日本は、米中ロに関する情報収集と分析を怠らず、慎重かつ柔軟に行動していく必要がある。  「中国に勝つ日本の大戦略」――扶桑社刊、好評発売中! 「戦闘なしで日本が中国に勝つ方法」をより詳しく知りたい方は、一昨日発売になった筆者の最新刊、「中国に勝つ日本の大戦略」をご一読いただきたい。日本の進むべき道が、はっきり理解できるようになるだろう。
http://diamond.jp/articles/-/154158

第三に、元東部方面総監、ハーバード大学アジアセンター・シニアフェローの渡部 悦和氏が昨年12月29日付けJBPressに寄稿した「世界大戦発生の歴史に学べない危うい米国と中国 トランプ大統領の「国家安全保障戦略」とキンドルバーガーの罠」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ドナルド・トランプ米大統領は、米国時間の12月18日、大統領就任以来初めての国家安全保障戦略(NSS: National Security Strategy)を発表した。 トランプ政権はこれまで、戦略や政策と呼べるものを何も発表してこなかっただけに、NSSの中身が注目されたが、妥当だと評価できる点と不適切だと評価をせざるを得ない点の両方が混在している。
・トランプ大統領のNSSを一言で表現すると、「アメリカ・ファースト国家安全保障戦略」だ。NSSでは実際にそのように表現している。 NSSの根底にあるのは国益であり、国益は本来的に自国最優先の特徴があり、その意味でアメリカ・ファーストは本音として当然である。 しかし、その本音むき出しのアメリカ・ファーストをNSSの頭に冠して「アメリカ・ファースト国家安全保障戦略」と表現するのはあまりにも品がない。この品のなさが内容的に妥当な要素を含むNSSの価値を下げている。
・このNSSから「アメリカ・ファースト」という言葉をすべて削除すると、国家安全保障会議(NSC)のハーバード・レイモンド・マクマスター安全保障担当大統領補佐官が本当に書きたかったNSSになるのではないか。  その意味で、「アメリカ・ファースト国家安全保障戦略」は、文字通りにトランプ大統領のNSSである。
・一方、日本の一部メディアは、NSSが重視する「力による平和(peace through strength)」を軍事偏重の軍拡路線だと批判しているが、中国とロシアの脅威を適切に評価しないピント外れの批判だ。 力による平和は、バラク・オバマ前大統領が世界の諸問題の解決に際して、力を背景とした外交を放棄し、まず「軍事行動は行わない」と宣言した後に外交による解決を図り、数々の失敗を犯したことに対するアンチテーゼなのだ。
・大国である中国が南シナ海に人工島を建設しその軍事拠点化を進めたり、ロシアが軍事力をもってクリミアを併合し、2016年米国大統領選挙やフランスやドイツでの選挙に介入するなど、両国は世界秩序を破壊する挑発的行動を行っている。
・トランプ政権の「中国やロシアとの大国間の競争」への言及は、オバマ政権時代のスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官が「米国と中国との大国間の競争」という表現を国防省が使用することにクレームをつけたり、中国に対する過度な関与政策を採用し、結果として南シナ海の人工島建設を許してしまったことへの反省に立っている。
・「中国やロシアとの大国間の競争」を意識した「力による平和」を重視したNSSはその厳しい現実への適切な対応である。このことを理解しないでNSSを批判するのは不適切だ。 また、このNSSを読んでいると、ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が、アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領の誕生を契機として警告している、既存の大国(米国)と台頭する大国(中国)が陥る可能性のある「キンドルバーガーの罠」について触れざるを得ないので、最後に紹介する。
▽1 NSSが強調したかった諸点
●アメリカ・ファーストを最優先
+国家安全保障政策は、アメリカ・ファーストを最優先する。  +死活的に重要な4つの国益((1)国土、米国民、米国の生活様式を守る (2)米国の繁栄を増進する (3)力による平和を堅持する (4)米国の影響力を増大する) +米国民を守り、米国の国益を達成するために国力のあらゆる要素を駆使して競争する。 +米国は、公正と互恵そして競争者との協力を重視するが、米国の国益を最優先し、競争しなければならない。
●大国間の競争の時代
+我々は、競争世界を生きている。 +グローバルな力の均衡は、米国の国益にとって望ましくない方向にシフトしている。NSSは、このトレンドを変え、米国が勢いを取り戻す方策を提示する。 +過去20年間、中国とロシアに対する関与政策により、中ロを国際機関やグローバルな経済秩序に受け入れ、中ロが信頼できるパートナーになることを期待したが、失敗に終わった。 +中国とロシアは、米国のパワー・影響力・国益に挑戦し、米国の安全と繁栄を侵食している。
・中国とロシアは、修正主義勢力(revisionist power)で、米国の価値観および利害と正反対の世界を作り上げようとしている。
・中国は、インド太平洋地域から米国を追い出し、国家主導の経済モデルの影響圏を拡大し、当該地域を自国に都合の良い方向に作り替えようとしている。
●力による平和
+グローバルな力の均衡が決定的に米国に有利になるように競争する。 +米国の競争力(宇宙及びサイバー空間での競争力を含む)を強化し、無視されてきた能力(核の3本柱による核抑止力)を再活性化する。
●米国の同盟国・友好国との協調
+同盟国および友好国と協調し、いかなる敵性国家も欧州、インド太平洋地域、中東を支配しないようにする。 +米国の同盟国と友好国は、米国の国力を増大し、米国と共有する利益を守る存在だ。 我々は、グローバルなコミットメントを続けるが、我々は、同盟国が米国と共通の防衛責務を公正に負担することを期待する。彼らに最も影響を与える分野では、より多くのことを期待する。
●米国の影響力の推進
+米国人を守り、米国の繁栄を増進するために、海外における影響力を拡大し続けなければいけない。 +誰にも米国の生き方を押し付けしない。 +国家の尊厳と独立国家が所属する国際的なシステムを尊重する。
▽2 私のNSSに対する評価
●適切だと評価する諸点
+「大国間の競争が再来した」という危機感。  今回のトランプ大統領のNSSでは、明確に米国と中国やロシアとの大国間の競争の時代であることを指摘している。この点は今回のNSSの最も評価できる点である。 中国は、2050年頃に世界一の強国になることを宣言し勢力を拡大中であるし、ロシアは、偉大なるロシアの復興をスローガンにして、クリミア併合、シリアへの介入、米国をはじめとして欧州の選挙にも介入するなど影響力の拡大を図っている。
 以上の状況から判断して、「大国間の競争が再来した」という認識は妥当である。
+米国の同盟国や友好国との協調を指摘している点も評価できる。
●不適切だと思う諸点
+「米国の影響力の推進」を死活的に重要な国益というのであれば、実際にやっていることは明らかにこの国益に反している。 例えば、気候変動に関するパリ協定やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)からの離脱は米国の影響力を明らかに減じている。米国抜きの秩序作りが始まっている現実は、米国の影響力の低下以外の何物でもない。 米国が本当に影響力を増大しようと思えば、超大国として期待される役割や責任を果たさなければ影響力を増大させることはできない。
+「経済安全保障」こそ「国家安全保障」だという観点に立っているが、経済安全保障を言い過ぎると米国のエゴの押しつけになる。 例えば、2国間交渉による貿易赤字の削減を求めるのであれば、赤字が発生する根源的原因を踏まえた議論をしなければいけない。 つまり、米国が採用してきた過去の戦略、国際法、過去の協定などの経緯を無視して、遮二無二に赤字削減を主張するのは不適切だ。
+貿易などにおいて公正・互恵を言いながら、その公正・互恵がアメリカ・ファーストを根拠にした独りよがりのものであれば問題だ。
+トランプ大統領はこのNSSを真剣に読んでいないし、理解もしていないという指摘がある。 例えば、外交の重要性を記述しているが、トランプ大統領がやってきたことは国務省予算の大幅削減とレックス・ティラーソン国務長官に対するツィッターによる批判などの冷たい仕打ちであり、言っていることとやっていることは明らかに違う。 また、NSSでは、ロシアを修正主義勢力として正当に批判しているが、トランプ大統領は、「ロシアに対してCIA(米中央情報局)情報を提供し、ウラジーミル・プーチン大統領から感謝された」などの発言をしていて、ロシアに対する甘い認識に変化はなく、NSSを読んで理解しているとはとても思えない。
▽3 ジョセフ・ナイ教授が警告する「キンドルバーガーの罠」
・キンドルバーガーの罠は、MITの教授であったチャールズ・キンドルバーガーに由来するが、既存の大国(米国)と台頭する大国(中国)が共に、世界の平和と安定のために貢献しないときに起こる悲劇を警告している。
・トランプ大統領のNSSを読んでいると、キンドルバーガーの罠に触れざるを得ない。ジョセフ・ナイ教授は、米中が陥る可能性のあるキンドルバーガーの罠について以下の様に警告している*1。 トランプ大統領は、歴史が提供する2つの罠(トゥキュディデスの罠とキンドルバーガーの罠)に注意しなければいけない。  中国が強すぎる場合がトゥキュディデスの罠だが、キンドルバーガーの罠は中国が弱すぎて世界に公共財(public goods)を提供できない場合の罠である。
・国内政治において政府が提供する公共財とは、例外なくすべての市民が享受できる治安の維持、クリーンな環境などであり、グローバルな公共財とは、最強国家が主導する有志連合(コアリッション)が提供する金融の安定、航海の自由、安定した気候などだ。 
・1930年代が悲惨な時代になった原因は、米国が世界最大の大国の地位を英国から引き継いだにもかかわらず、世界に公共財を提供する役割を引き継がなかったからである。その結果、グローバル・システムは崩壊し、民族虐殺と世界大戦を惹起させてしまった。
・今日、中国のパワーが増大しているが、中国は米国に代わって世界に公共財を提供できるであろうか?  英国が第1次世界大戦後にその役割を果たすには弱すぎた時に、孤立主義の米国はただ乗りを続け悲惨な結果を招いてしまった。  中国は、自らの国力が増大しても、公共財を提供し国際秩序に貢献することなく、ただ乗りを続けるだろうという意見がある。
・現在のところ、実績は相半ばしている。国連平和維持軍の世界第2位の提供者であり、エボラ熱や気候変動に関する計画に参加していて、国際貢献をしている一面はある。 一方で、南シナ海に関する中国の領有権主張に対するハーグ仲裁裁判所の判決を拒否して顰蹙を買っている。
 *1=Joseph Nye, “The Kindleberger Trap”, Project Syndicate 
▽結言
・トランプ大統領の誕生は、米国内のみならず世界中に大きな影響を与えているが、今回発表されたNSSはトランプ政権の戦略を知り、将来の世界の動向を予測するに際して役に立つ。 一方で、アメリカ・ファーストを最優先にするNSSは、米中がキンドルバーガーの罠に陥る可能性を示唆する文書でもある。
・台頭する中国に米国がいかに対処するかは、今後のインドアジア地域のみならず世界中に大きな影響を与える。 NSSが「米国の影響力を促進すること」を死活的な国益というのであれば、アメリカ・ファーストと主張するのみではなく、超大国としての責任(ノブレス・オブリージュ)を果たし、中国やロシアに適切に対処することを願ってやまない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51950

第一の記事で、 『「アメリカ第一主義(アメリカファースト)」という米国の党派を超えた新しい国家戦略の枠内の決断だと考える』、との指摘は初めて聞いただけに、本当かと首を傾げざるを得ない。 『トランプ大統領の「宣言」で「中東和平が遠のいた」というが、そもそも米国は中東和平に関心がなくなったということだ』、というのはその通りなのかも知れないが、超大国とはいえずいぶん身勝手な話だ。 『米国が「世界の警察官を少しずつやめていく」ことは、前任のバラク・オバマ大統領の時代に決められたということだ。オバマ前大統領は、2013年9月に対シリア内戦への軍事不介入声明を発表した際、「もはやアメリカは世界の警察官ではない」と宣言』、というのは確かに我々が忘れていた事実だ。 『これら親米国に対して、「米国の武器を買うべきだ」「核武装すべきだ」と圧力をかけることは十分に考えられる』、と核拡散を中東でまで繰り広げる深刻なリスクに触れずに、サラリと述べているのは、解せない。 『サウジは米国を激しく批判しているが、結局は米国に頼らざるを得ない。同様に、エジプト、ヨルダンなど他の親米と見なされてきた中東諸国も同様だ。単純な反米・反イスラエルに舵を切ることはできず、微妙な立場に追い込まれているように見える』、はその通りなのだろう。 『米国が「アメリカファースト」に基づいて、北朝鮮が米国に核を向けなければいいというディールを行い、日本にだけ核ミサイルが向いた状態で事態を終結させる。そして、トランプ大統領は「シンゾー、大丈夫だ。米国から武器を買って守ればいい」と言い、「米国は常に、同盟国・日本とともにある」と、安倍首相の肩を叩く』、というのは、日本にとってはまさに悪夢のシナリオだ。 『「米国を食べさせる」同盟国へ』というのは、直接投資を通じてなのか、輸入拡大を通じてなのか、不明だが、『筆者がここで強く主張しなくても、自然にそういうことになっていくのかもしれない』、というのはその通りなのかも知れない。
第二の記事で、『トランプ政権は「反中政権」としてスタートした』が、 『わずか数ヵ月でトランプを懐柔! 習近平の「工作」は大成功』、確かに習近平の手際の良さは端倪すべからざるものがある。ただ、12月20日の日経新聞が、「米、中ロ強硬へ転換 国家安保戦略を公表 力による外交前面に」、と伝えたように、トランプ大統領は中国に対する不満を募らせているようだ。この点に北野氏が触れてないのには、違和感を感じる。『ロシアは中東で米国を凌ぐ存在感に』、 『2018年、注目すべきは中東と北朝鮮』、というのは概ね妥当そうだ。
第三の記事で、『その本音むき出しのアメリカ・ファーストをNSSの頭に冠して「アメリカ・ファースト国家安全保障戦略」と表現するのはあまりにも品がない。この品のなさが内容的に妥当な要素を含むNSSの価値を下げている』、 今回のトランプ大統領のNSSでは、明確に米国と中国やロシアとの大国間の競争の時代であることを指摘している。この点は今回のNSSの最も評価できる点である』、などの指摘は妥当だ。 『ジョセフ・ナイ教授が警告・・・・トランプ大統領は、歴史が提供する2つの罠(トゥキュディデスの罠とキンドルバーガーの罠)に注意しなければいけない。  中国が強すぎる場合がトゥキュディデスの罠だが、キンドルバーガーの罠は中国が弱すぎて世界に公共財(public goods)を提供できない場合の罠である』、というのはとても参考になる面白い見方だ。 『アメリカ・ファーストと主張するのみではなく、超大国としての責任(ノブレス・オブリージュ)を果たし、中国やロシアに適切に対処することを願ってやまない』、との結論はその通りだ。
タグ:イスラム圏から欧州まで、国際社会から「中東和平を遠のかせる暴挙」であると一斉に批判 トランプ大統領は、米国の外交政策の歴史的大転換を行った ・ドナルド・トランプ米大統領 「米国が「世界の警察官を辞める」過程でエルサレム首都承認は起きた」 トランプ大統領 ダイヤモンド・オンライン 上久保誠人 (その27)(米国が「世界の警察官を辞める」過程でエルサレム首都承認は起きた、トランプ・習近平・プーチン、2017年の「勝者」は誰か、世界大戦発生の歴史に学べない危うい米国と中国) 米大統領が半年ごとに移転先送りを指示することが認められ、歴代大統領は、外交戦略上の影響を懸念して先送りしてきた 1995年制定の米連邦法は、大使館を「分裂していないエルサレム」に置く必要があるとしているが エルサレムをイスラエルの首都として正式に承認すると宣言 NSSが「米国の影響力を促進すること」を死活的な国益というのであれば、アメリカ・ファーストと主張するのみではなく、超大国としての責任(ノブレス・オブリージュ)を果たし、中国やロシアに適切に対処することを願ってやまない アメリカ・ファーストを最優先にするNSSは、米中がキンドルバーガーの罠に陥る可能性を示唆する文書でもある 中国は、自らの国力が増大しても、公共財を提供し国際秩序に貢献することなく、ただ乗りを続けるだろうという意見 トランプ大統領は、歴史が提供する2つの罠(トゥキュディデスの罠とキンドルバーガーの罠)に注意しなければいけない。  中国が強すぎる場合がトゥキュディデスの罠だが、キンドルバーガーの罠は中国が弱すぎて世界に公共財(public goods)を提供できない場合の罠である ジョセフ・ナイ教授が警告する「キンドルバーガーの罠」 米国が本当に影響力を増大しようと思えば、超大国として期待される役割や責任を果たさなければ影響力を増大させることはできない 米国と中国やロシアとの大国間の競争の時代であることを指摘している。この点は今回のNSSの最も評価できる点である 力による平和 大国間の競争の時代 ジョセフ・ナイ教授 力による平和は、バラク・オバマ前大統領が世界の諸問題の解決に際して、力を背景とした外交を放棄し、まず「軍事行動は行わない」と宣言した後に外交による解決を図り、数々の失敗を犯したことに対するアンチテーゼなのだ アメリカ・ファーストは本音として当然である。 しかし、その本音むき出しのアメリカ・ファーストをNSSの頭に冠して「アメリカ・ファースト国家安全保障戦略」と表現するのはあまりにも品がない。この品のなさが内容的に妥当な要素を含むNSSの価値を下げている 国家安全保障戦略(NSS: National Security Strategy) 「世界大戦発生の歴史に学べない危うい米国と中国 トランプ大統領の「国家安全保障戦略」とキンドルバーガーの罠」 JBPRESS 渡部 悦和 2018年、注目すべきは中東と北朝鮮 トランプは現在、「国際秩序の破壊者」になっている 米国にとって最大の問題は、トランプが世界16億人のイスラム教徒を敵に回してしまったことだろう 世界的な評判は、最悪に近い。なぜなら、トランプが「破壊者」に見えるからだ ロシアは中東で米国を凌ぐ存在感に 米民主党、共和党内の反ロ派、マスコミの力が強く、ロシアに接近・譲歩できない状態が続いている 「ロシアゲート」事件 米ロ関係悪化は プーチンの大きな失敗 結果、トランプは、極めて短期間で中国に懐柔されてしまった わずか数ヵ月でトランプを懐柔! 習近平の「工作」は大成功 トランプ政権は「反中政権」としてスタート 2017年の勝者は誰か?」、こう質問されたら正直に「習近平です」と答えざるを得ない。なぜなら、習は「最強の敵を無力化することに成功したから」である 米中ロの三大国リーダーで2017年の勝者は誰か? 「トランプ・習近平・プーチン、2017年の「勝者」は誰か」 北野幸伯 米国の「シェール石油・ガス」への投資を早急に検討すべきであろう 習近平主席からトランプ大統領への「プレゼント」は、「過去最高の日米関係」に酔う日本に冷や水を浴びせるといえる 中国の巨額の投資は、中国製品の流入などが米国の雇用を奪っているとのトランプ大統領の批判に応えたものだ 習近平中国国家主席は、米国に対して総額28兆円の巨額投資を提示 米国に食べさせてもらう」同盟国から「米国を食べさせる」同盟国へ そして、トランプ大統領は「シンゾー、大丈夫だ。米国から武器を買って守ればいい」と言い、「米国は常に、同盟国・日本とともにある」と、安倍首相の肩を叩く(第166回)。ティラーソン国務長官の発言は、日本がアメリカファーストに振り回され、結局孤立するリスクを示すものといえるだろう 。米国が「アメリカファースト」に基づいて、北朝鮮が米国に核を向けなければいいというディールを行い、日本にだけ核ミサイルが向いた状態で事態を終結させる 日本の戦後の発展は、東西冷戦期の米国の国家戦略において、共産主義ブロックと対峙するフロントラインの日本が最重要拠点となったことで、米国に「守ってもらい」「食べさせてもらう」ことができたからである 日本が「アメリカファースト」に振り回され孤立するリスク これら親米国に対して、「米国の武器を買うべきだ」「核武装すべきだ」と圧力をかけることは十分に考えられる サウジ・イランのパワーバランスがさらに崩壊することになれば、欧米との核合意を反故にしてでもイランが再び核開発に動き出すかもしれない 中東諸国は「米国に石油を売る」から「米国から武器を買う」へ サウジは米国を激しく批判しているが、結局は米国に頼らざるを得ない。同様に、エジプト、ヨルダンなど他の親米と見なされてきた中東諸国も同様だ。単純な反米・反イスラエルに舵を切ることはできず、微妙な立場に追い込まれているように見える トルコを除いて、イスラエルとの国交断絶を示唆した国は今のところない。また、かつての「石油ショック」の時のような、米国や親米・親イスラエルの国々に対して一致団結して石油禁輸を行おうとする動きは出てこない シェール革命」で米国と中東産油国の力関係は逆転 中東においては、ウラジーミル・プーチン大統領によって「大国復活」を目指すロシアが関与を強めている オバマ前大統領は、2013年9月に対シリア内戦への軍事不介入声明を発表した際、「もはやアメリカは世界の警察官ではない」と宣言した。そして、中東からの米軍撤退、将来の韓国からの米軍撤退(公表)、2020年から2026年の間に沖縄から海兵隊を含む全米軍撤退(非公式)、NATO(北大西洋条約機構)の閉鎖又は欧州中央軍への統合、中南米、アフリカ地域からの米軍撤退等々を打ち出してきた 米国が「世界の警察官を少しずつやめていく」ことは、前任のバラク・オバマ大統領の時代に決められたということだ 2013年にはサウジアラビアを上回り、世界最大の産油国となった 米国が石油の輸入国から輸出国に変わることによって起こる米国内と国際社会の劇的な変化 シェール革命 決して「自分ファースト」ではなく、「アメリカ第一主義(アメリカファースト)」という米国の党派を超えた新しい国家戦略の枠内の決断だと考える 安倍晋三政権は沈黙
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