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格差問題(その7)(貧乏人を排除する「スーパーシティ構想」のヤバさに気付かない日本人の脳天気さ ごく一部の金持ちが街を作り変える、今の40歳前後「非正規・未婚者」が抱く深い憂鬱 生活苦の「新しい中年クライシス」が起きている、養老孟司×井上智洋対談「猛烈な格差を招いた公平・中立な社会の皮肉」) [社会]

格差問題については、7月6日に取上げた。今日は、(その7)(貧乏人を排除する「スーパーシティ構想」のヤバさに気付かない日本人の脳天気さ ごく一部の金持ちが街を作り変える、今の40歳前後「非正規・未婚者」が抱く深い憂鬱 生活苦の「新しい中年クライシス」が起きている、養老孟司×井上智洋対談「猛烈な格差を招いた公平・中立な社会の皮肉」)である。

先ずは、8月23日付けPRESIDENT Onlineが掲載した早稲田大学名誉教授の池田 清彦氏による「貧乏人を排除する「スーパーシティ構想」のヤバさに気付かない日本人の脳天気さ ごく一部の金持ちが街を作り変える」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/38161
・『2020年5月、緊急事態宣言解除の直後の参院本会議で、「スーパーシティ法案」が可決された。生物学者で早稲田大学名誉教授の池田清彦氏は「狙いは経済合理性だけで都市づくりをすること。これから富裕層の思惑のみでいろいろなことが決まるようになり、経済格差はさらに拡大していくだろう。なぜ日本人はそれに怒らないのか」という——。 ※本稿は、池田清彦『自粛バカ』(宝島社)の一部を再編集したものです』、興味深そうだ。
・『コロナでわかった「グローバリズム」の弱点  今回のコロナ騒ぎでわかったのは、経済合理性だけではコロナのような危機に対応できないってことだ。 実は、安倍政権はけっこう前から全国の公的医療機関の統廃合や病床数削減を進めている。2015年に厚生労働省が「2025年までに最大で15%減らす」という目標を掲げ、重症患者を集中治療する高度急性期の病床を13万床、通常の救急医療を担う急性期の病床を40万床、それぞれ3割ほど減らす方向で動いてきた。 この方針に沿って、地方自治体でも大阪なんかもすごく病院を減らしていた。診療実績が少なくて非効率な運営をしている病院は無駄だから潰してしまえというわけだよ。 パンデミックでは病院や病床数が少ないと医療崩壊が起こる。さらに、コロナの指定医療機関になると一般の患者を受け入れられなくなってしまうから、本来なら救急で処置して入院すればなんとかなった人を助けられなくなる。 ヨーロッパで英国に次いで死者が多いイタリアも病床数削減を進めていたことで医療崩壊を起こした。治療を受けられずに自宅で亡くなった人がかなりの数に上ったといわれる。やっぱり新自由主義的な経済合理性だけで医療を運用するのはダメってことだ。医療、そして教育はある程度余裕がある状態で回るようにシステムを最適化する必要がある』、「安倍政権はけっこう前から全国の公的医療機関の統廃合や病床数削減を進めている。2015年に厚生労働省が「2025年までに最大で15%減らす」という目標を掲げ、重症患者を集中治療する高度急性期の病床を13万床、通常の救急医療を担う急性期の病床を40万床、それぞれ3割ほど減らす方向で動いてきた」、医療崩壊の種を蒔いてしまったようだ。
・『アフターコロナ、グローバルキャピタリズムは推進か廃れるか  だから世界は今、このままグローバルキャピタリズム(資本主義)を推し進めていくのか、それともグローバルキャピタリズムが廃れていく方向に進むのか、この2つで揺れていると思う。 たとえば、アメリカは医療費がケタ違いに高額で、医療保険に加入していない人が数千万人もいる。そうした保険証をもたない人がコロナに感染して治療を受けた場合、約470万円から約820万円の自己負担が発生すると試算されている。ちょっと病気になったらたちまち多額の借金を抱える羽目になり、そのまま下層から抜け出せなくなる。 その意味で国民皆保険制度のある日本人は恵まれているけれど、このままグローバルキャピタリズムが進んでいったら日本もアメリカのようになってしまう可能性がある。だから、今後はそれを阻みたい勢力とグローバルキャピタリズムを延命させたい勢力のせめぎ合いになるはずだ』、「アメリカ」では、オバマケアに沿って低所得者向けの「メディケイド」を拡充した州と、しなかった共和党知事の州の間で格差が広がっているようだ。
・『「スーパーシティ法案」緊急事態宣言解除の直後にこっそり可決  そこで出てきたのが「スーパーシティ」構想(※)という法案だ。 ※「スーパーシティ」構想とは、AIやビックデータなどの最先端技術を活用して、国民が住みたいと思うよりよい未来社会を先行実現する「まるごと未来都市」のショーケースを目指すもの。様々なデータを分野横断的に収集・整理し「データ連携基盤」を構築し、地域住民等にサービスを提供することで、住民福祉・利便向上を図る都市と定義されている。 遠隔医療とか完全キャッシュレスとか自動運転とかゴチャゴチャ言っているけれど、これは要するに、自治体ごとグローバルキャピタリズムに組み込み、人の意志なんか関係なく経済合理性だけで都市づくりをするというもの。 大阪あたりが真っ先に手を挙げそうだけれど、このスーパーシティ法案が緊急事態宣言解除の直後に、こっそりと参院本会議で可決されているのにはわけがある(2020年5月27日、「スーパーシティ」構想を含んだ国家戦略特別区域法等の改正法案=スーパーシティ法案が成立)。コロナ禍に遭って崩壊の危険性を察知したグローバルキャピタリズムの焦りの表れだ』、「スーパーシティ」についての、内閣府の解説は下記の通りだが、「緊急事態宣言解除の直後に、こっそりと参院本会議で可決」した理由は、不明だ。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/supercity/openlabo/supercitykaisetsu.html 。
・『富裕層の思惑のみでいろいろなことが決まり経済格差は拡大必至  コロナによってグローバルキャピタリズムの前提であるヒトとモノの移動がリスク要因になったので、一時期に比べればよくはなったけれど、中国からモノが来なくなり、いろいろなモノが値上がりしたり流通が滞ったりしている。 それは、これから世界的なヒトとモノの出入りが不自由になっていく可能性があるということだ。それで、リモートで儲けることを画策しているわけだ。 日本人の感性としては、国民全員が貧乏になるのはわりと平気なんだよね。すでに日本はグローバルキャピタリズムによってそうなっているわけだから。30年ほど前までの日本はまだ一億総中流で、金持ちのレベルもそこまでじゃなかったけれど、安倍晋三が首相に返り咲いて以降、トップクラスの金持ちの資産が約3倍から5倍に増えている。 たとえば、ソフトバンクグループ社長の孫正義とファーストリテイリング社長の柳井正の資産は第二次安倍政権が成立したころ(2012年12月)、孫は5700億円、柳井は8700億円だったが、今はどちらも約3兆円である。トップクラスの金持ちだけがむちゃくちゃ儲かっている。 コロナ後の世界ではさらにごく一部の金持ちとその他大勢の貧乏人というふうに階級が分かれていくかもしれない。スーパーシティ構想が進めば住民の声ではなく富裕層の思惑のみでいろんなことを決めるから、いま以上に階級間の格差が広がっていく。そういうシステムをつくろうとしているわけだ。 そうなったとき、日本人はいつものように自然現象とあきらめて富裕層の言いなりになるのか、それとも江戸時代の百姓一揆や打ち壊しのように反旗を翻し、社会をひっくり返そうとするのか。自分の家族、郷里、母校などに対する愛着から発した、本来の土着の攘夷思想は、はたして日本人の心にどれだけ残っているのだろうか』、一応、住民合意があることが前提になっているようだが、「合意」の確かめ方など不明だ。筆者はこれが格差拡大につながるとしているが、そのためには、より詳しく構想を検討する必要がある。

次に、9月23日付け東洋経済オンラインが掲載した京都女子大学客員教授・京都大学名誉教授の橘木 俊詔氏による「今の40歳前後「非正規・未婚者」が抱く深い憂鬱 生活苦の「新しい中年クライシス」が起きている」を紹介しよう。
・『1990年代半ばから2000年代前半の「就職氷河期」。その影響を全面に受けた世代が今、大きな格差に直面している。一度レールから落ちてしまった人に厳しい日本社会の特徴が、就職時期に「機会の平等」を享受できなかった中年世代の上に重くのしかかっている。 しかし、それは決して特定の世代の問題ではない。格差問題に取り組み続けている橘木俊詔氏の新刊『中年格差』から、本書の一部を抜粋・再編集してお届けする』、「橘木」氏の見解とは興味深そうだ。
・『中年期に人格の形成が確立の方向に向かう  19世紀後半から20世紀初頭にかけて心理学の発展に大きく寄与したフロイトは、幼児期における心理や人格形成がその人のその後の一生を決める上で重要な役割を演じると主張した。すなわち、幼児期の心理的葛藤が、成人期、あるいは中年期まで続くとともに、人格の形成に大きく影響を及ぼすと考えたのである。裏返して言えば、幼年期にある程度の心理特徴が定まれば、それ以降は比較的安定した心理状態が続くのである。 しかしフロイトの弟子であったが、彼から去ったユングは中年になって人間の心理は大きく変容することがあると主張し、中年期における人間の心理を探求することの重要性を説いた。 なぜかといえば、中年になると職業を持って仕事をして所得を稼ぐようになるし、結婚して子どもを持って家族を形成するので、まわりの人との付き合いが多くなる。子どものことで悩むことがあるし、中年後半になると親の介護の問題が発生し、それらが心理的な変容と葛藤を生む可能性があると考えた。それによって自己を見直す機会が与えられるので、人格の形成が確立の方向に向かうと考えたのである。 日本におけるユング心理学の継承者である河合隼雄が、「中年クライシス」を論じたのもその影響であると理解できる。河合の著書『中年クライシス』(朝日文芸文庫)、『多層化するライフサイクル』(岩波書店)によると、若年代や中年前期においては、仕事、社会的地位、財産を築き、そして家庭を持つことに必死になるので、自分は何のために生きているのかとか、自分は何者なのかというアイデンティティの問題、自我が何を基礎としているのかなどを考える余裕がなく過ごしてしまうとする。 特に普通の能力を持った人は、仕事、地位、家族、財産などへの対応に忙殺されてしまい、ここで述べた人間の存在意義やアイデンティティ、自我を考える暇などなかったのである。 そこでユングは、恵まれた能力や環境にいる人々が、仕事、地位、家族、財産などに立ち向かっている時期に、特に人間の存在意義とか自我を考える人物となっていることを明らかにした、と河合は主張している。 すなわち、中年の後半期にこのような考えや反省を持ちがちな「中年クライシス」は、特に能力の高い人や恵まれた環境にいる人に多く発生する事象であると河合はみなした。換言すれば、「中年クライシス」はエリートないし準エリートに特有なことなのである。少なくともユングの時代はそうであった』、確かに「フロイト」よりも「ユング」の方が当てはまりそうだ。
・『「中年クライシス」がごく一般の人々にも  しかし時代は進み、ほとんどの人が義務教育と中等教育を受け、多くの人が高等教育を受ける時代になった今日においては、過去においてはエリート層に起こりがちであった「中年クライシス」が、ごく一般の人々にも及んできたのである。 確かに今の時代でも人々は、仕事、地位、財産、家族に深くコミットしているが、昔と異なってごく普通の人々でもこれらの活動をしながらも、人は何のために生きているのかとか、自分は何者なのか、自我を意識するとか反省するといった思いを抱くようになったのである。これこそが今日における「中年クライシス」を多くの人が体験する時代になっている証拠である。 なぜ日本において「中年クライシス」が顕著になったのか、2つの背景を述べておきたい。 1つは、戦前と戦後の一時期の日本は国民の所得は低く、人々は働くことによってその日暮らしに明け暮れせねばならない時代だったので、「人間とは」とか「自分とは」などを考える余裕がなかったことがある。しかし高度成長期以降に国民の所得も伸びて、ある程度豊かになり、「人間とは」「自分とは」を考え直す余裕ができたので、「中年クライシス」が発生する素地が誕生するようになった。 第2に、日本が格差社会に入ったことは確実で、貧富の格差、教育格差などあらゆる分野で格差の目立つ時代となった。中年層の間で経済的に恵まれていない人々の数が増大した。 これを筆者は、ここで述べてきた「人間とは」とか「自分とは」といった心の問題が中年に発生している「中年クライシス」とは別に、それこそ生活の苦しい中年が多く発生している事実を、これまで心理学者の主張してきた「中年クライシス」とは質の異なる「新しい中年クライシス」が発生していると主張したい。 「新しい中年クライシス」とは、若い時代に望む仕事に就くことができず、その不利さが中年期まで持ち越されてまともな収入のない人々の苦悩である。結婚もままならないといった状況にもある。 中年期には心の問題が生じ、あるいは精神上で苦しむ時期だが、究極の証拠としては中年の自殺が多いことがあげられる。拙著『中年格差』でも詳しく解説しているが、厚生労働省や警察庁の統計から読み解くと、40歳代、50歳代、60歳代という中年世代に自殺は多く、男女別に見ると男性のほうに目立つ。その主な理由は「勤務問題を含む経済・生活問題」「男女問題を含む家庭問題」が考えられる』、「「中年クライシス」とは質の異なる「新しい中年クライシス」が発生」。「「新しい中年クライシス」とは、若い時代に望む仕事に就くことができず、その不利さが中年期まで持ち越されてまともな収入のない人々の苦悩である」、確かに深刻そうだ
・『「新しい中年クライシス」と生涯未婚の増加  関連して生涯にわたって1度も結婚しない生涯未婚者の存在に触れておこう。政府の研究所である「国立社会保障・人口問題研究所」の推計によると、1990(平成2)年頃までの生涯未婚率は男性が1~3%、女性が4%台とかなり低かった。これは日本人の皆婚社会という特徴の反映であった。しかし1990年を過ぎる頃から人生で1度も結婚しない人が急増の傾向を示した。21世紀に入るとそれが男性で10%台、女性で5.8%となり、その後も急増を示して現代では男性で24%を超え、女性で15%前後にまで達している。(出所)『中年格差』(青土社) (外部配信先では図やグラフを全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください) 今後を予想すれば2030年代には男性で30%弱、女性で20%弱である。およそ2~3割の国民が1度も結婚しないと予測されているのである。 なぜ女性より男性のほうが生涯未婚率は高いのか、簡単に述べておこう。第1に、生まれてくる赤ちゃんの性比は、女性を1.0とすると男性は1.05を超えているので、世の中は男性の数が女性の数より多い。一夫一婦制が日本の規範なので、男性で結婚できない人が生じるのは自然である。 第2に、離婚した男性の再婚相手は初婚の女性が多く、これは1人の男性が複数の女性を囲い込むことを意味するので、女性に巡り合えない男性の増加が生じる。 このようにして生涯未婚者の数が増加し、中年期に離婚して再婚しない人がかなりの数存在することになる。こういう人が高齢になってから単身で生活するとなれば、さまざまな問題の生じることは皆の予想できるところである』、「中年期に離婚して再婚しない人がかなりの数存在」、その理由がよく理解できた。 
・『生涯未婚者が高齢になって起こりうる問題  具体的にどういう問題が生じるのかは詳しく論ぜず、箇条書きだけにしておこう。 第1に、非正規社員などが多かったので、賃金収入の低いことがあり、貯蓄額も少ないので高齢になってから生活費に欠乏の生じることがある。 第2に、もし現役労働中に賃金収入の低い仕事をしておれば、社会保険料の支払い額が低かったので、年金、医療、介護などの社会保険給付額が低い。 第3に、孤独死の問題でわかるように、病気や要介護になったときに、一人身なので看護・介護を十分に受けられない場合がある。 第4に、若い頃や中年の頃は1人暮らしをやっていける、と自信に満ちていた人の多いことはすでに紹介したが、そういう人でも高齢になってから心身ともに弱くなるので、心のさびしさや生活上の不便を感じるようになる。 「新しい中年クライシス」の渦中にいる人々は経済的に困窮し、結婚もままならない。将来は不安だらけといった中年期にまつわる不幸は深刻である』、確かに「新しい中年クライシス」は、彼らが高齢化するにつれ大きな問題になる可能性がある。

第三に、10月21日付けダイヤモンド・オンライン「養老孟司×井上智洋対談「猛烈な格差を招いた公平・中立な社会の皮肉」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/251386
・『解剖学者・養老孟司氏は、一次産業が中心だった社会から、「社会システム」の構築が中心となる社会へと変化してきたと指摘する。そうしたシステムを重視する社会において、AIはどのようなインパクトをもたらすのだろうか。『AIの壁 人間の知性を問いなおす』から一部抜粋して、養老氏と経済学者の井上智洋氏との対談をお届けする』、面白そうだ。
・『一次産業の急速な衰退  養老孟司 私は、AIを特別に取り上げるつもりはないんです。昔から言ってきましたから。「意識中心の社会」に移ってきていると。 今、世界の人口の8割は都会に住んでいる。それで一番目立つのは、一次産業の急速な衰退です。一次産業は、直接ものと対面している仕事ですよね。それを技術が補助することによって、日本だと、例えば10家族でやる仕事を1家族で担えるようになった。そうすると、残りの9家族は何をしたらいいか?という話になる。これはある意味、当然の変化であって、僕が生きている間にそうした変化がずっと切れ目なく起きてきたわけです。 実は1940年頃まで、わが国の一次産業従事者の割合は労働人口の4割以上でした。今は、労働人口の4%程度でしょ?10分の1以下なんですよ。 井上智洋 ドラスティックな変化ですよね。) 養老 これは、産業構造の変化に限らないんですよ。例えば、私が専門としてきた解剖学というのは、「一人一人」を、言ってみればバラしていく学問。「一人一人」から得られた情報を論文にする、つまり「情報化」するわけです。その作業というのが、科学の世界でいうところの「一次産業」なんですよ。現物を見て、そこから起こしていく。実験室で行なう実験ならば、その中で一定の論理的な手続きでものを進めることができるんですが、現物が相手だと、均一化・効率化ができないんです。 「虫屋」としての僕の仕事もそうですよ。分類学そのものですから。いろんな種類の虫を手と足を使って集めてきて、それでもって手と目を使って整理するしかない。そこの第一段階のところが、ほとんど経済活動としては認められなくなってるんですね。 一次産業の衰退と同じように、学問の世界にも衰退はある。早い段階からそうだった。僕が若い頃には、すでに「一次産業的な」仕事は時代遅れだよと、生物学の実験室の中にこもるようになっちゃって。だから早いうちから、生物学者は具体的な生き物は見なくなって、細胞を取り出して、モデル化されたシステムを調べていくようになった。 井上 社会構造の変化と同じですね』、「生物学」、「経済・社会学」などが「モデル化されたシステムを調べていくようになった」、というのはやはり一抹の寂しさも覚える。
・『車社会はシステム化の一環である  養老 一方で、社会は「社会システム」の構築の方に中心が移っていった。システムというのは猛烈な初期投資が必要であって、それを先にやってしまった方が勝ちなんですね。今は、GAFAがみんなそうですけれど、いったんシステム化してしまうと、非常に強いんです。 井上 おっしゃるシステムというのは、「プラットフォーム」と言っても良さそうですね。 養老 車社会だって、単体の車造りに忙しいように見えるけれど、実は「システム化」の一環だったんですよ。高速道路の建設にあれだけお金をかけて、道路を全部舗装して、徹底的にやったから。たかだか人一人を運ぶのに、トン単位の重さのものを動かして移動するなんて、地域の枠内の移動に限ってみれば、こんな不合理な話はないでしょう?エネルギー効率的に言えば(笑)。 井上 歩けばいいですよね。エネルギーがかからないし。 養老 人がわざわざ「輸送」されるようになったわけです。その「輸送」のシステム化は、止められなかったわけでしょ?今さら莫大な予算をかけて、でき上がっちゃった輸送網を解体して仕組みを変えようと言ったって、物理でいう慣性能率がものすごく大きくなっちゃって、社会全体をいじくれなくなっちゃった。そういう流れで、「結果的にでき上がっちゃった社会」が勝手にシステムを構築していってしまう傾向って、方向性を変えるとすれば、個人の反抗しかないんです。 井上 アマゾンの不買運動なんかも出てきましたよね』、「物理でいう慣性能率がものすごく大きくなっちゃって、社会全体をいじくれなくなっちゃった。そういう流れで、「結果的にでき上がっちゃった社会」が勝手にシステムを構築していってしまう傾向って、方向性を変えるとすれば、個人の反抗しかないんです」、「養老」氏らしい独創的な見方だ。
・『「理性のみの社会」が抱える欠点  養老 その意味で、国レベルでの「反抗」をやっているのがフランスだと思いますよ。いわゆる「大衆化社会」に対して、国ぐるみで抗っている。フランスって、基本的に農業国ですから、国民の考え方が保守的というか、システム化にはあまり向いていかないところがある。 井上 その意味では、イタリアも独自性のある動きをしますよね? 養老 イタリアなんかは、もっとずいぶん前からふてくされちゃっていますからね。イタリアは、いつも経済危機って言われているんですが、あれは噓ですよ。あれは経済危機じゃなくて、統計の取り方を変えているだけだと思うんです。 井上 目の前で叫ばれる「危機」に囚われるんじゃなくて、大衆化社会というようなキーワードで流れを追っていくことで、本質が見えてくると。 養老 今、大衆化を一番バカ正直にやっちゃっているのがアメリカという国ですよ。つまり、僕の言葉で言えば、国民がこぞって物事すべてを「意識化」してしまう。これは考えると、無理もないなとも最近思えてきた。なぜかというと、「異文化の人をあれだけひと所に集めたら、議論って通用するの?」って。違いを乗り越えるには、普遍的な理性しかないんですよ。例えば日本だったら、家に仏壇か神棚が必ずあるでしょう?それぞれの家には仏壇か神棚を置きましょうという暗黙のルールがある。ところが、もしそれをアメリカの連邦議会で提案したって、「それはローカルなルールだから、×ですよ」って弾かれちゃう(笑)。そうすると、理性的にきちんとみんなを説得できるものを持ってこないといけない。それがアメリカという国の本質ですよね。アメリカの社会システムそのものです。そうすると、当然のことながら、個別性から普遍性へ、そして最後は「永遠なるもの」を求めるようになっていくんです。まがいもなく神ですよね。あれ、理性を突き詰めた究極のものですよ。 井上 そうですね。 養老 だから逆に言うと、今持ってくるシステムと言えば、AIしかないんですよ。 井上 神への崇拝に近い。 養老 ところが人間そのものを見ていくと、個々に感情があったり、それぞれに「0のものを1にしたい」とか「2のものを3にしたい」といった意向があったりする。だから当然摩擦が生まれて、人間関係がぐじゃぐじゃする。そういうものはコンピュータにはありませんからね。だからこそ、コンピュータを駆使して、公平・客観・中立な社会を徹底的に作ってきた。でも皮肉なことに、その結果はなんと、猛烈な格差社会ができ上がっていたという。 井上 摩擦を避けようと思ったら、強烈な摩擦を生む結果になったわけですね。 養老 皮肉だよね。だから僕は、理性のみで強くグイグイ押していく社会には、特有の欠点があるんだとずっと言ってきたんです。その欠点が、今や目に見えてきちゃった。つまり、システムをせこせこ作ってきた結果、人間が置いてきぼりを食っちゃったわけなんです。(両氏の略歴はリンク先参照)』、「コンピュータを駆使して、公平・客観・中立な社会を徹底的に作ってきた。でも皮肉なことに、その結果はなんと、猛烈な格差社会ができ上がっていたという」、「理性のみで強くグイグイ押していく社会には、特有の欠点があるんだとずっと言ってきたんです。その欠点が、今や目に見えてきちゃった。つまり、システムをせこせこ作ってきた結果、人間が置いてきぼりを食っちゃったわけなんです」、なかなか深い見方で、参考になる。
タグ:これまで心理学者の主張してきた「中年クライシス」とは質の異なる「新しい中年クライシス」が発生していると主張したい PRESIDENT ONLINE 池田清彦『自粛バカ』 車社会はシステム化の一環である 生涯未婚者が高齢になって起こりうる問題 池田 清彦 「生物学」、「経済・社会学」などが「モデル化されたシステムを調べていくようになった」 ダイヤモンド・オンライン 1940年頃まで、わが国の一次産業従事者の割合は労働人口の4割以上でした。今は、労働人口の4%程度でしょ 「新しい中年クライシス」とは、若い時代に望む仕事に就くことができず、その不利さが中年期まで持ち越されてまともな収入のない人々の苦悩である 「今の40歳前後「非正規・未婚者」が抱く深い憂鬱 生活苦の「新しい中年クライシス」が起きている」 「新しい中年クライシス」は、彼らが高齢化するにつれ大きな問題になる可能性 日本において「中年クライシス」が顕著になったのか 物理でいう慣性能率がものすごく大きくなっちゃって、社会全体をいじくれなくなっちゃった。そういう流れで、「結果的にでき上がっちゃった社会」が勝手にシステムを構築していってしまう傾向って、方向性を変えるとすれば、個人の反抗しかないんです 「意識中心の社会」に移ってきている 一次産業の急速な衰退 日本が格差社会に入ったことは確実で、貧富の格差、教育格差などあらゆる分野で格差の目立つ時代となった。中年層の間で経済的に恵まれていない人々の数が増大 格差問題 中年期に離婚して再婚しない人がかなりの数存在 コンピュータを駆使して、公平・客観・中立な社会を徹底的に作ってきた。でも皮肉なことに、その結果はなんと、猛烈な格差社会ができ上がっていたという」、「理性のみで強くグイグイ押していく社会には、特有の欠点があるんだとずっと言ってきたんです。その欠点が、今や目に見えてきちゃった。つまり、システムをせこせこ作ってきた結果、人間が置いてきぼりを食っちゃったわけなんです 「中年クライシス」がごく一般の人々にも 中年期に人格の形成が確立の方向に向かう 「理性のみの社会」が抱える欠点 医療崩壊の種を蒔いてしまった 「スーパーシティ法案」緊急事態宣言解除の直後にこっそり可決 コロナでわかった「グローバリズム」の弱点 安倍政権はけっこう前から全国の公的医療機関の統廃合や病床数削減を進めている。2015年に厚生労働省が「2025年までに最大で15%減らす」という目標を掲げ、重症患者を集中治療する高度急性期の病床を13万床、通常の救急医療を担う急性期の病床を40万床、それぞれ3割ほど減らす方向で動いてきた 橘木 俊詔 (その7)(貧乏人を排除する「スーパーシティ構想」のヤバさに気付かない日本人の脳天気さ ごく一部の金持ちが街を作り変える、今の40歳前後「非正規・未婚者」が抱く深い憂鬱 生活苦の「新しい中年クライシス」が起きている、養老孟司×井上智洋対談「猛烈な格差を招いた公平・中立な社会の皮肉」) アフターコロナ、グローバルキャピタリズムは推進か廃れるか 「新しい中年クライシス」と生涯未婚の増加 「スーパーシティ法案」が可決 「貧乏人を排除する「スーパーシティ構想」のヤバさに気付かない日本人の脳天気さ ごく一部の金持ちが街を作り変える」 橘木俊詔氏の新刊『中年格差』 東洋経済オンライン 「アメリカ」では、オバマケアに沿って低所得者向けの「メディケイド」を拡充した州と、しなかった共和党知事の州の間で格差が広がっているようだ 富裕層の思惑のみでいろいろなことが決まり経済格差は拡大必至 「養老孟司×井上智洋対談「猛烈な格差を招いた公平・中立な社会の皮肉」」 高度成長期以降に国民の所得も伸びて、ある程度豊かになり、「人間とは」「自分とは」を考え直す余裕ができたので、「中年クライシス」が発生する素地が誕生
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