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日本郵政(その15)(かんぽ不正「100年史」に刻まれた長く深い病巣 第2次大戦前から蔓延し 告発本も出ていた、日本郵政が豪物流子会社トール売却へ 国際物流から撤退、現場に無理を強いる体質は変わっていない 日本郵便役員の「懺悔」でも止まない現場の不満) [国内政治]

日本郵政については、1月29日に取上げた。今日は、(その15)(かんぽ不正「100年史」に刻まれた長く深い病巣 第2次大戦前から蔓延し 告発本も出ていた、日本郵政が豪物流子会社トール売却へ 国際物流から撤退、現場に無理を強いる体質は変わっていない 日本郵便役員の「懺悔」でも止まない現場の不満)である。

先ずは、7月22日付け東洋経済オンライン「かんぽ不正「100年史」に刻まれた長く深い病巣 第2次大戦前から蔓延し、告発本も出ていた」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/364347
・『かんぽ生命保険の郵便局員による不正募集が発覚してから1年。この問題は郵政民営化や日本郵政グループ企業の上場を契機にはびこったわけではない。前身の簡易保険の時代から何度となく蔓延してきた。 かんぽの不正の蔓延は第2次世界大戦前にまでさかのぼる。かんぽが2017年10月に刊行した『簡易生命保険誕生100周年史』には、「1937年の日中戦争勃発以降に大都市での不正募集が蔓延するようになった」(86ページ。一部要約、以下同)と書いてある。それは「専業募集員による募集競争が繰り広げられた結果」だと指摘している。 この『100周年史』によれば、戦後の高度成長期にも簡易保険の不正募集は蔓延した。「外務員の販売テクニックとして『話法』が開発促進された。『話法』が1960年代後半の契約急伸をもたらしたが、不適切話法の行き過ぎが問題視されるようになり、マスコミでも国会でも取り上げられた」(同書240ページ)ほど全国的な問題と化した』、「かんぽの不正の蔓延は第2次世界大戦前にまでさかのぼる」、「外務員の販売テクニックとして『話法』が開発促進された。『話法』が1960年代後半の契約急伸をもたらした」、とは心底驚かされた。
・『半世紀前に開発済みだった「乗り換え話法」  「話法」の詳細は35年前に刊行された内部告発本『簡易保険・悪の構図』に書いてある。著者は元郵便局員の灘文夫氏。現在、版元に在庫はなく、著者の存否も不明だ。「読んだことがある」という局員に遭遇したことはなく、局員の間で伝説のように語られる、いわば幻の告発本である。 昨年6月に大量発覚した不正募集の代表例は「乗り換え話法」だ。郵便局員が募集手当(通称ボテ)目当てや営業目標の達成のために、既存の保険契約を解約して新たに契約を結び直すものだ。 乗り換えを促す話法として、「乗り換えたほうが節税になる」と持ちかける「節税話法」などさまざまな話法が開発されていったが、灘氏が局員になった1960年代初頭にそれらの話法がすでにあったことが、灘氏の告発本によって裏付けられている。国家公務員だった局員によって全国で広く行われ、旧郵政省(現総務省)も熟知していた悪事だった。 この告発本によれば、1980年代前半にも不正が蔓延した。このことは前述の『100周年史』に記載がないが、旧郵政省は優績者(=営業成績が優秀な局員)らを霞が関に呼びつけて「二度と不正募集をしません」との誓約書を書かせた。不正の温床となった、毎朝恒例の喫茶店での営業成績が優秀な郵便局員ら「軍団」による作戦会議も禁止となった。 ところが現場の管理者は優績者に甘く、現場の管理者は「軍団」の「総帥」(リーダー格)に「作戦会議は規模を縮小し目立たぬように」と耳打ちした。本部や現場の管理者処分も緩かったと、灘氏の告発本に書いてある。それで不正の根絶には至らなかった。 今年2月、日本郵政の増田寛也社長に告発本の内容を示す機会があった。就任から1カ月余りの就任まもないタイミングだった。増田社長は「根の深い問題であると思いますが、対応策を考えます」と応じた』、「「乗り換え話法」・・・の詳細は35年前に刊行された内部告発本『簡易保険・悪の構図』に書いてある」、「増田社長」も当然、目を通している筈なのに、「根の深い問題であると思いますが、対応策を考えます」で、なんとかなると思っているとすれば、余りに楽観的過ぎるのではなかろうか。
・『「再開条件はおおむね満たしている」  今年7月16日に「JP改革実行委員会」が開催された。かんぽ生命保険と日本郵便による保険の不正募集の再発防止策を検証する場で、今回で第4回となる。 営業現場を視察してきたという委員から「かんぽの営業再開の条件は100%ではないが、おおむね満たしている」との報告があり、他の委員からこれといった異論は出なかった。 「100%ではない」というのは、本部や現場の管理者や営業職員の処分が完了していないことを指す。一方で、「走り出さないと(=保険営業を再開しないと)できない改善策もある」と、昨年7月から自粛している保険販売の積極営業を再開すべきだといった意見も委員から出た。 日本郵政の増田寛也社長は「積極営業再開のための必要条件は満たしているということだが、十分条件を満たしているかどうか」と慎重に応じた。 このように増田社長は再開時期を明言しなかったが、「今夏にも営業再開へ」というニュースが全国に流れた。 【2020年7月23日12時00分追記】初出時、営業再開のニュースに関連する一部の記述に不正確な部分があったため、表現を見直しました。 日本郵政は今度こそ保険の不正募集を根絶できるだろうか。不正募集の蔓延は、戦前の1930年代後半、高度成長期の1960年代後半、1980年代前半と繰り返され、そして2010年代後半に大量発覚した。少なくとも戦後の3回については「乗り換え話法」を軸とした不正募集である。不正の根絶には、徹底した現場職員や管理職の処分が必要条件だが、それだけでは十分条件を満たしてはいないように思える』、「保険営業」の停止という重い処分を受けながら、それでも抜本的対策を打たず、弥縫策でお茶を濁そうとしているのは、とんでもないことだ。「不正募集」をさらに掘り下げ、真の再発防止策を策定すべきだ。

次に、8月5日付けダイヤモンド・オンライン「日本郵政が豪物流子会社トール売却へ、国際物流から撤退」を紹介しよう。
・『日本郵政は経営不振の豪物流会社トール・ホールディングスを売却する方針を固め、ファイナンシャル・アドバイザーとして証券会社2社を選定する作業に入った。傘下の日本郵便による国際物流事業への本格進出の足がかりと位置づけていたトールだが、業績不振から脱することができないため、売却の判断に踏み切る。日本郵便の成長戦略は大幅な見直しに直面することになる』、それは大変だ。
・『トールの自力再建を断念 国際物流業務から撤退へ  複数の関係者によると、日本郵政は今週に入って、トール売却の実務を担うファイナンシャル・アドバイザーを選ぶため、野村證券やゴールドマン・サックス証券など国内外の複数の証券会社に打診を始めた。8月までに外資1社、国内証券1社の2社を選び、国内外でトールの買い手を探す作業を本格化させる。 日本郵政グループは2015年の株式上場の際、傘下の日本郵便の成長戦略の一環として、豪州に本社を置き、アジア・オセアニア地域での国際物流業務に強みを持つとされたトールを約6200億円で買収した。しかし、資源価格の下落による豪州経済の停滞がトールの業績を直撃し、日本郵政は17年3月期に4000億円の減損損失を計上。 業績回復のために、トールの経営陣を刷新したほか、日本郵便から幹部を派遣し、テコ入れを図ってきた。人員削減や業務の見直しなども進めてきたが、20年3月期には約86億円の営業損失を計上するなど、業績不振から脱却できていない。日本郵政は今春、野村證券のアドバイスを受けて日本郵便とトールのシナジー効果の検証や、事業売却による再建策などを検討したものの、トールの自力再建は困難と判断したとみられる』、「6200億円で買収」、「17年3月期に4000億円の減損損失を計上」、まだ2000億円強の簿価が残っているようだ。ただ、「野村證券」が「自力再建は困難と判断」したのであれば、簡単に売れる筈もないことになる。
・『トール売却、先行きは不透明 持参金なしでは無理との指摘も  トールの売却に向けて具体的なプロセスに入ったものの、実際に売却できるかどうかは不透明だ。 ある外資系証券幹部は「トールの事業はボロボロ。関心を示す企業が現れたとしても持参金を付けるぐらいでないと、とてもではないが売れない」と指摘する。日本郵政のある幹部は、そもそも2015年の買収当時、上場を前にした成長戦略の打ち出しに焦るあまり「トールの資産査定が甘かった。もともと事業の価値が低い」と打ち明ける。 コロナ下で事業の先行きを見通すのが困難になっている中、M&A案件は将来の事業価値の算定が難しくなっている。「売り案件は特に厳しい」(前述の外資系証券幹部)との声も出ており、トールの引き受け手はすんなりと現れそうにもない。 日本郵政グループは、かんぽの不正販売問題が尾を引いているのに加え、トール売却の方向性は日本郵便の成長路線の主軸と位置づけられていた国際物流業務からの撤退となる。世界的な低金利で運用難に陥っているゆうちょ銀行も収益の壁に直面しており、日本郵政グループは、収益・ガバナンスの各方面で抜本的な改革が不可避な情勢だ』、「買収当時、上場を前にした成長戦略の打ち出しに焦るあまり「トールの資産査定が甘かった。もともと事業の価値が低い」、致命的ミスをしたようだ。「持参金」もかなり必要だろう。「日本郵政グループ」はまさに踏んだり蹴ったりの状況だ。「増田」社長はどう打開していくのだろうか。

第三に、11月20日付け東洋経済プレミアム「現場に無理を強いる体質は変わっていない 日本郵便役員の「懺悔」でも止まない現場の不満」の無料部分を紹介しよう。
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/25254
・『顧客の意向を無視した不適正営業の大量発覚により、日本郵便は2019年7月からかんぽ生命保険の保険商品の販売代行を自粛。2020年1~3月は金融庁による行政処分で保険販売の営業を停止していた。 4月以降も営業を自粛してきたが、外部識者による会議「J P改革実行委員会」の答申を受けて、10月5日からの営業再開を決定。まずは顧客への「お詫び行脚」を優先し、現場の判断で営業を再開している。 その営業再開に先立つ9月24日。1年3カ月ぶりの営業再開に伴う注意事項や「お詫び行脚」の優先であることを徹底するために、日本郵便の東京支社で「緊急保険担当副統括局長、単独マネジメント金融コンサルティング部長会議」が開催された。 この会議の冒頭での荒若仁・執行役員東京支社長の発言を記録した音声を本誌は独自入手した。これは東京支社の管轄の郵便局員なら誰でもアクセスできるようになっている。 荒若支社長は、かんぽ生命保険の不適正募集について、「最大の原因は、私が考えるには、会社の方針」と、営業現場の社員よりも、経営幹部や会社の責任が重いことを全面的に認めている。日本郵政の増田寛也社長が定例会見でのべてきたような、あくまでも募集手当ほしさに現場の社員が法律や社内ルールを犯したという見方とは大きく異なるだけに、重要な発言だ。 以下はその全文である。 「会社に従ってやってきたはずが全否定された」(今回の会議の)中身は(会議の)次第を見てもらえばわかるとおり、信頼回復に向けた業務運営の開始に伴う対応、本社から指示文書が出ましたということです。もう一つには、かんぽのご契約内容確認活動、これが変更になりますというのも、これまた指示が出ているわけでございまして、その2点について説明を申し上げるということです。 「指示文書」とは9月17日付「『信頼回復に向けた業務運営』の開始に伴う対応」を指す。日本郵便本社の金融営業企画部長・金融営業推進部長・経営企画部長が全国の郵便局長に指示した文書だ。 前段で私のほうからお話し申し上げますけど、統括や皆さんには以前からお話しを申し上げているんですけど、今回のかんぽの事案については、本当に皆さんにはいろんな面で、フロントライン(現場)の社員さんたち、いろんな思いがめぐっているんじゃないかと思います。今まで会社の方針に従ってやってきたはずだったものが全否定されたということですね。 荒若支社長のこの発言は、不適正募集が社員個人の過ちではなく、会社の方針自体が誤っていたことを認めていると言える。 確かに一部の社員においては、募集手当だけに頭が行ってしまって、わかっていてやってしまっていた、繰り返していた社員もいるわけです。 またお客さんに迷惑、利益にならないことだとわかっていても、会社全体の方針として新規契約を取りに行くという状況にあったものですから、やりたくはないんだけれども、しょうがなくて(営業ノルマ)数字(の達成)のためにやった社員さんもいるでしょう。 あるいは若手の社員さんでは、先輩方に「こういうやり方で新規を取っていくんだ」というふうに教え込まれて、それが当たり前のような感覚になって、悪いこととも思わずにやっていた社員さんもいるでしょう』、「荒若支社長のこの発言は、不適正募集が社員個人の過ちではなく、会社の方針自体が誤っていたことを認めていると言える」、ずいぶん本音で発言したものだ。
・『かんぽの契約が成立すると、契約を取った社員には募集手当が支払われるほか、営業ノルマの達成数字としてカウントされる。「『かんぽ営業は金になるらしい』と中途入社で入ってきた社員の中には、募集手当を目当てに不適正募集を行ってきた」(ある社員)。 また、郵便局に派遣されてくるかんぽ生命の「保険広域インストラクター」が、かんぽ生命の育成指導部で営業話法を構築して、郵便局の営業現場に伝播した。 例えば「お金にお子さんの名前をつけましょう」とか「家族への愛情表現を保険金の受取人に込めましょう」「保険の内容よりも家族愛へ訴える」といった具合だ。広域インストラクターとは全国に12ある支社をまたいで活動する営業指導者のことだ。 「育成指導部から広域インストラクターへ、そして各支社のインストラクターへと、不適正な営業話法は組織ぐるみで現場の郵便局に伝播していった」(ある局員)。 ある社員によれば、「不適正募集をしなくても優秀な成績を収めていた社員はごくわずか」。不適正募集をしない社員の多くの営業成績は不振を極め、「成長期待社員」という烙印が押され、さまざまな営業研修を受ける憂き目にあった。そうした研修の中には、会議室に集まった各地域の局長の前に立たされ、罵声を浴びせられるようなパワハラ研修もあったという。 なぜ、そんな無理がまかり通ったのか。支社長は以下のように話している。 今、(不適正な営業を行っていた人について)5パターンぐらい申し上げましたけど、しかしやっぱり最大の原因は、私が考えるには、会社の方針ですよね。世の中に合わない、お客さんのニーズに必ずしも沿ってない営業、新規獲得というものを旗を振っていたというのが、最大の原因なんだろうと私は思っています。 「最大の要因は会社の方針」「顧客ニーズに必ずしも沿っていない新規獲得の旗を振っていた」という発言は重大である。近畿、東海、そして東京と支社長を歴任してきた執行役員の荒若氏の発言は、管理責任を認めたものとみなすべきだろう』、「「育成指導部から広域インストラクターへ、そして各支社のインストラクターへと、不適正な営業話法は組織ぐるみで現場の郵便局に伝播していった」、「不適正募集をしない社員の多くの営業成績は不振を極め、「成長期待社員」という烙印が押され、さまざまな営業研修を受ける憂き目にあった」、ありそうな話だ。「近畿、東海、そして東京と支社長を歴任してきた執行役員の荒若氏の発言は、管理責任を認めたものとみなすべきだろう」、その通りだ。
・『「ポンポンやれるものじゃない」  私自身(荒若支社長)のことを申し上げれば、東海支社長、近畿支社長、そして今、東京支社長をやっているわけですけど、東海支社長になる前までは、(1984年に旧郵政省へ)入省してからずっと郵便物流だけ携わっていたわけです。 2016年、東海支社長になってはじめて金融に携わるようになったわけですけど、言ってみれば(保険業務の)素人だったわけです。ですから東海支社の時代も、近畿支社長の1年目も新規獲得に向けて旗を振っていました。 現場においていろんな苦しみがあって、数字を上げるために、今般問題になっているような事案が、一部だけじゃなくて、広がりを見せていたということ、あるいは募集手当のルール、「前3後6(まえさん・あとろく)」とかそういうのがあって、前3後6以内であれば募集手当が2分の1になっちゃうので、前3後6の外、新規扱いにしてというようなことがあったり、いろいろ細かいことがあって、制度的に決めていることも問題があるというようなことを気付くのが、私自身遅かったんだろうと思います。 ここで出てくる「前3後6」という社内用語が重要だ。 「前3」とは、ある保険契約を解約し、その解約した資金をもとに新たな保険契約をする場合、解約と新規の間が3カ月超空いていないと、新規契約とはみなさない、というものだ。「後6」とは、新規契約を結んでから6カ月以内に解約して新たな契約を結んだ場合、元の契約は新規契約とはみなさず、募集手当やノルマ達成数字を半分に減額するというものだ。 正規の手続きを踏まず、同じ顧客に対して次々と契約を乗り換えさせれば募集手当もノルマ数字も稼げる。いわゆる「乗り換え潜脱」と呼ばれる手法が蔓延していたために、それを防ぐためにできた社内ルールだ。 荒若支店長は「新規獲得がポンポンできるものじゃないというのは、少し考えればわかることだった」と反省の弁を以下のように口にする。 (私は日本郵便の執行)役員でありながら支社長である。今般、特定事案、2014~2018年度にかけてのところで、いろんな処分が発生しているわけですが、2016~2018年の3年間、私は支社長であり(執行)役員だったわけです。 いくら、細かいところまで目が行き届いてなかった、知らないことがあったとしても、やっぱり新規獲得ってそんなにポンポンできるものじゃないというのは、少し考えればわかることだった。 ということは、現場ではいろんな苦労があって、いろんな歪みがあってということに、早々に気付くべきだったと、私、大反省しているわけです。 役員としての立場もあるわけですから、本社にそういった現場の苦しみだとか、しょうがなさだとか、そういった実態をしっかりと伝えて、これを是正するということをもっと早くできるポジションに私はいたはずだったのにできなかったということについては、皆さんに心からお詫びを申し上げなきゃいけないと思っております。 本当に申し訳ありませんでした』、「荒若氏の発言は」、ここまで本音で話さないと聴衆の全国の郵便局長に訴えないということなのだろう。
・『「納得いかない部分は、いったん横に置いてもらって・・・」  「現場の歪みに早々に気づくべき」だったと自ら認めて大反省しているのならば、自身の責任に言及するのが自然だが、荒若支社長の発言はそうならなかった。 私もこの大反省の上に立ちまして、今後のまずはお詫びをお客さんにしていくということ、そしてコンサルティング営業、少しずつでもいいからできるようになっていくために、少しでも現場の意見だとか、そういったものを吸い上げながら、本社と対峙していく覚悟というものを強くしているわけであります。 「本社と対峙していく覚悟」が本物かどうか、社員は荒若支社長の今後の言動をつぶさに見ていく必要があるだろう。そして、無理な目標が本社から振ってきた場合、それに対峙してきちんと議論する支社長が全国各地で必要だろう。 無理な営業がまかり通っていると認識し、本社に問題点をきちんと指摘する支社長が何人もいたならば、不適正募集の問題は今回のように大きくはならなかっただろうからだ。 「覚悟」を示した荒若支社長だが、現場に対するある“お願い”を口にする。 もちろんそれだけで許してもらえるわけもなく、そんな状況で皆さんにこれからもよろしくお力添えをお願いするという、今、立場になってしまっているわけですけれども、どうかそういったもろもろの歪みというか、やるせなさというか、納得いかない部分、それをいったん横に置いてもらって、まずは私もそうですが、お客さんのほうを見ましょうということに、心を1つにしていただければと思っております。 「納得がいかない部分を横に置いて、顧客のほうを見るのに心を1つにするなんてことができるはずがない」と、ある社員は憤る。現場に無理を強いるという点では、営業ノルマを毎年厳しくしていった発想と変わらない。 今日説明する資料、本社からの指示文書というのは、私が見てもちょっとわかりにくい面、数多くあります。東京支社としては、従来、先般から補足的な資料をしっかりと皆さんのほうにお伝えしているつもりであります。 信頼回復に向けた業務運営の主旨、あるいは「経営理念、行動憲章との関係はこうなんですよ」とか、あるいは信頼回復に向けたお詫びと約束の説明に関する具体的方法をフロー化したり、そういった資料をフロントラインのほうに示させていただいて、本社から来た指示文書の関係部分をそこに記載して、その流れの中で本社の指示文書の関係のところをしっかり見てもらえば、頭の中が整理しやすくなるんじゃないかなと、指示を整理させていただいたわけですが、今般、本社からまた指示文書が2本来まして、具体的なやり方、お詫びとご説明のやり方に関するものと、あとは、かんぽご契約内容確認活動の対象となるお客さまに対するかんぽ契約確認内容活動自体の変更点も合わさってきているわけで、少し頭の中が混乱する部分もあるんですが、そこについても、さっきお話ししたこれからのお詫び、あるいは約束のご説明活動のフローの中で統一的にお示しすることによって、少しでも現場の皆さんがわかりやすく、全体を鳥瞰した中で理解していただけるようにと配したつもりではありますので、ぜひそれをご活用いただいて、全体像というものをしっかりと頭の中に描いていただいて10月5日からのお詫び活動、そういったものに役立てていただきたいと思います。 具体的にはまた部長のほうからご説明さしあげたいと思いますが、10月5日からの活動再開という、会社としてそういうふうに仕上げた中での今度はお詫び、会社全体としてのお詫び、もちろん今まで皆さんは窓口に来たお客さん、あるいは訪問するお客さんには、いわれるまでもなく、何度となくお詫びをしていただいているはずです。 そしてまた10月5日からは(お詫びをする)対象のお客さんに対して、お詫び活動を始めていきましょうということになります。 今度は会社全体として、もうこの事案が起こってから1年以上たった中で、このタイミングでお詫び、なんでなんでしょう、やっぱり思う方もいらっしゃると思います。 この間の流れを見てみますと、あの事案が起こって、昨年(2019年)末、関係の社長は退任された、責任をとってということであります。新体制に1月からなったということで、その新体制になったときというのは、まず状況の把握、調査をしっかり進めるということでずっとやってきている。​ これまでは営業社員が顧客のもとに行くのも原則禁止されてきた。このために、顧客のもとにお詫びに行くことができなかった。「今さら感は、社員は当然のこと、顧客の側にもあるのではないか」とある社員は話す。 日本郵政の増田社長が就任したのは2020年1月。同時に日本郵便もかんぽ生命も社長が交代している。「新体制」とはこれらのことを指している』、確かに「今さら感は、社員は当然のこと、顧客の側にもあるのではないか」、その通りだ。
・『「大変心苦しいですが、のみ込んでいただき」  まだ調査も終わってない部分もあるわけです。ただ、現時点ではほぼほぼ調査全容も見えてきた、管理者の処分も今進んでいる、こうした状況になったわけで、全容がほぼほぼ見えてきたという中で、新体制として、会社としてしっかりとお詫びを申し上げるというスタンスに、やっとたどり着いたということでありますので、ぜひそこら辺の経緯も理解いただいて、新体制としてしっかりとお客さんに頭を下げていくんだということでございますので、しかしながらフロントライン(=現場)で見れば、新体制もへったくれもなく、同じ社員さんなわけです。そしてまたお詫び、あらためてお詫びと。今度は個人としてのお詫びじゃなくて、会社としてのお詫び。もちろん今までも会社を背負ってお詫びしていただいているんだと思いますけれども、今度は正式にあらためて、新体制、新社長のお詫び、これ、新聞掲載に予定でございますけれども、 そういったもとでのお詫び活動、約束の説明活動となるわけでして、そこら辺の経緯も理解していただき、これまで会社として皆さんにご迷惑を掛けてしまったということも大変心苦しいですが、ある意味理解し、のみ込んでいただきということになるんだろうなと思っています。 荒若支社長は改めて「ある意味理解し、のみ込んでいただき」と、現場に無理を強いるような発言をしている。 お客さんへのお詫びの前に、やっぱり皆さん、そして社員の皆さんに、私からお詫び申し上げなきゃいけないと強く思っております。 私も今いろいろと郵便局訪問する中で、そのことを繰り返し、繰り返し申し上げているところ、もちろんなかなか理解していただける状況ではないということは、十分に私も承知しておりますけれども、そういった姿勢で私も示していきたいと思っておりますので、よろしくお願いしたいなと思います。 具体的な説明に今度は入らせていただきたいと思います。私からは以上です。 以上が荒若支社長の発言の全文である。 「お詫び申し上げなきゃいけないと強く思っております」というコメントからは、営業現場に荒若支社長があたかもお詫び行脚をしているかのような印象を受けるが、実態はそうでもないようだ。 「現場を見に来てくれといっているのに一向に来てくれない点において、荒若支社長の姿勢は本質的に旧経営陣と変わらない」(ある社員)という声も聞かれる。 日本郵便は不適正募集で85人の管理職を処分したが、10月28日の記者会見で質疑に応じた日本郵便の担当部長は、「不適正募集の黙認や不正への関与による管理職の処分はゼロ」としている。不正の手口をインストラクターが教えたという事実も、それまでの調査では見つかっていないとした。 一方で1008人の現場社員を処分している。現場社員の中には懲戒解雇になった者もいるが、管理職で解雇になった者は一人もいない。現場社員と管理職との処分が不公平だという思いを持つ社員は多い。 会社に対する納得いかない部分は「のみ込んで」というような、現場に無理を強いる体質を変えないことには、日本郵便は不正を繰り返すのではないだろうか。 懲戒解雇になった元社員や、生命保険協会に保険募集人の登録が取り消された元社員の間では、処分不当を求める訴訟の準備が水面下で進んでいる。この荒若支社長の発言は、経営幹部が全面的に会社の責任を認めたものとして、法廷に証拠として原告側から申請される可能性すらありそうだ。(以下は有料)』、「不適正募集で85人の管理職を処分したが・・・不適正募集の黙認や不正への関与による管理職の処分はゼロ」。「一方で1008人の現場社員を処分・・・現場社員の中には懲戒解雇になった者もいるが、管理職で解雇になった者は一人もいない」、やはり処分は「管理職」には甘く、「現場社員」には厳しいようだ。これでは、日本郵政グループのモラル向上は期待できそうにない。「増田社長」にはもっと期待していただけに、ガッカリである。
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日本の構造問題(その18)(日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける この国の将来を決める「新monopsony論」とは、日本人に蔓延する「失敗したくない」という病 コロナ禍で浮き彫りになった特有の症状とは、日本人が即刻捨てるべき「経済大国」という幻想 確実に「小国」になる未来がやってくる) [経済政治動向]

日本の構造問題については、9月7日に取上げた。今日は、(その18)(日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける この国の将来を決める「新monopsony論」とは、日本人に蔓延する「失敗したくない」という病 コロナ禍で浮き彫りになった特有の症状とは、日本人が即刻捨てるべき「経済大国」という幻想 確実に「小国」になる未来がやってくる)である。

先ずは、6月11日付け東洋経済オンラインが掲載した元外資系投資銀行のアナリストで小西美術工藝 社社長のデービッド・アトキンソン氏による「日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける この国の将来を決める「新monopsony論」とは」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/355042
・『オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼は、このままでは「①人口減少によって年金と医療は崩壊する」「②100万社単位の中小企業が破綻する」という危機意識から、新刊『日本企業の勝算』で日本企業が抱える「問題の本質」を徹底的に分析し、企業規模の拡大、特に中堅企業の育成を提言している。 今回は、日本ではほとんど知られていないが日本経済を語るうえで欠かせない、「monopsony(モノプソニ―)」という考え方を解説してもらう』、現在は菅政権のブレーンの1人として、政府の成長戦略会議の議員も務めている。「モノプソニ―」とはどういうことなのだろう。
・『「モノプソニ―」を知らずに日本経済は語れない  「monopsony(モノプソニー)」という言葉を検索しても、日本語の検索エンジンではあまり多くヒットしません。この言葉は一部の研究者以外、日本ではあまり知られていないのだろうと推察しています。 しかし、実はこの「モノプソニー」は、日本の産業構造の問題と賃金の議論にあたって、最も重要な経済原則です。この言葉が一般的に知られていないことは、大きな問題だと感じています。 もともとモノプソニーという言葉は、「売り手独占」を意味するモノポリーの対義語で、「買い手独占」という意味で使われていました。 現在では、「労働市場において企業の交渉力が強く、労働者の交渉力が弱いため、企業が労働力を安く買い叩ける状態」を説明するために使われることが多くなっています。特に、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授のアラン・マニングが2003年に発表した『Monopsony in Motion』という有名な本で、広く知られるようになりました。 日本で最低賃金の重要性がわからない人が多いのは、「モノプソニー」を知らず、従来の新古典派経済学の理論に固執してるからだと思います。 新古典派の経済理論は、労働市場は完全競争であると仮定しています。「完全競争」にはさまざまな意味があるのですが、たとえばあらゆる情報が労使双方に共有されていて、労働者は少しでも条件がいい雇用先があれば、即座にコストゼロで転職できるような状況を指します。 このような状況では、各企業の賃金は完全に横並びとなります。要は、企業と労働者は「完全に対等」だと考えられていたのです。 この仮定のもとでは、賃金は需給によって決まるので、最低賃金を引き上げるとその分だけ雇用が減ります。日本で「最低賃金を引き上げると、失業者が増える」と広く信じられているのは、どこかでこの理論を聞きかじった人が多いからでしょう。 しかし、この理論をそのまま現実に当てはめられないのは明らかです。労働市場で完全競争が成立しているならば、私が社長を務めている小西美術工藝社で、全社員の給料を1円でも下げるとただちに全員が辞めて、他社に転職してしまうはずです。しかし、そんなことは起こるはずありません』、「新古典派の経済理論は、労働市場は完全競争であると仮定」、確かに余りに現実離れした考え方のようだ。
・『「モノプソニー」の存在は実証的に測定可能  最近の分析では、「モノプソニー」の存在を実証的に測定しています。ここでは細かい説明は省きますが、賃金が1%変動したときに労働供給が何%変動するかを示す「労働供給の賃金弾力性」を測ることで、「モノプソニー」の存在と強さを確認できます。 「労働供給の賃金弾力性」が0に近くなればなるほどその業種の「モノプソニー」は強く、大きくなるほど弱いとされています。近年、ビッグデータを活用することで、さまざまな国のさまざまな業種で「モノプソニー」の力が働いていることが明らかになっています。 ここに大きなインプリケーションがあります。新古典派では、完全競争の下、労働の価格は常に適性であるとされます。この理屈では、低賃金で働いている人は「スキルがないから低賃金」なのであって、その賃金を国がむりやり上げさせようとすると、経営者はその人を解雇するとされます』、これまでから「アトキンソン氏」は、最低賃金の引上げを主張してきたが、その背景にはこんな強力な理論的裏付けがあったようだ。
・『「モノプソニー」では、労働者は企業に「搾取」される  対して「モノプソニー」とは、労働市場が完全競争ではなく、企業のほうが立場が強くなっているため、企業は本来払うべき給料より低い給料で人を雇うことができる状況を指します。つまり低賃金なのは一種の「搾取の結果」であり、必ずしもその人が低スキルだからではないと考えるのです。 「モノプソニー」の力は、特定の労働者層に特に強く働きます。例えば、低学歴、女性、高齢者、外国人労働者、移動が難しい人など、一般的に労働市場では弱者と考えられている人たちです。 特に、子どもを持った女性に「モノプソニー」の力が最も強く働いていることが、世界中の研究で確認されています。小さな子どもがいる女性は、現実として転職が難しい状況にあります。企業はその「足元を見る」ことができるため、賃金が相対的に低く抑えられるのです。 実は、男女の同一労働・同一賃金が実現しない原因のほとんどが「モノプソニー」だと説明されています。これもビッグデータによって確認されています。女性労働者の「労働供給の賃金弾力性」が年齢とともに下がっていくことが、その証拠です。 先進国では近年、産業構造の変化によって、「モノプソニー」の力が強くなっていると分析されています。 労働組合の力が強ければ「モノプソニー」の力は制限されます。しかし、先進国では過去数十年間、労働組合の機能が低下してきました。そのため、「モノプソニー」の力が強くなっていったと分析されています。 労働者が労働組合に加入しなくなった理由の1つは、労働組合が製造業に最も向いた組織だからです。製造業の場合は、そもそも設備投資が大きく、企業の規模が大きくなる傾向があります。また労働者のスキルが明確で、他の企業でも通用することが多いので、雇用主に対する労働者の交渉力が強くなりやすいとされています。 逆に企業の規模が小さくなりやすいサービス業が発達し、全産業に占める製造業の割合が低下すると、労働組合加入率が低下して「モノプソニー」の力が強くなるとされており、そのとおりのことが現実の世界でも確認されています。 このように、過去数十年間で「モノプソニー」の力が強くなり、労働者の交渉力が弱くなったことが、先進国で労働分配率が下がった原因だとも言われています。 「モノプソニー」による搾取を抑止する手立てとして、先進各国は最低賃金政策を取り入れてきました。先進国が最低賃金を設けたり、その水準を継続的に引き上げている最大の理由は、労働組合の代わりに「モノプソニー」の力を抑えることで、企業が立場の弱い人を「安く買い叩く」のを防ぐためです』、「男女の同一労働・同一賃金が実現しない原因のほとんどが「モノプソニー」だと説明されています。これもビッグデータによって確認されています」、「過去数十年間で「モノプソニー」の力が強くなり、労働者の交渉力が弱くなったことが、先進国で労働分配率が下がった原因だとも言われています」、「先進国が最低賃金を設けたり、その水準を継続的に引き上げている最大の理由は、労働組合の代わりに「モノプソニー」の力を抑えることで、企業が立場の弱い人を「安く買い叩く」のを防ぐためです」、なるほど、深く理解できた。。
・『最低賃金を引き上げると雇用が増えるメカニズム  日本では「最低賃金を引き上げると失業者が増える」という、根強い妄信があります。これは労働市場が完全競争なら確かに正しいのですが、「モノプソニー」の力が働いていると、まったく逆のことが起きます。「モノプソニー」の下では、最低賃金を適切に引き上げることで、失業者はむしろ減らせるのです。 これは、さまざまな国で実際に確認されている事実です。 以下のケースをご覧ください。最低賃金の引き上げによって企業が雇用を増やすメカニズムが明白になります。 時給1000円で1000人を雇用している企業があり、同じ仕事をする人をもう1人新たに雇用すると、1時間あたり1200円の収益が上がるとします。この場合、労働市場が完全競争だと1200円の時給を払わないといけないのですが、「モノプソニー」の力が働くと1000円で雇えるため、利益が200円も余計に増えます(この200円が「搾取」にあたります)。 労働市場の状況が変わって1000円で雇える人がいなくなり、新しい人を雇用するには時給1100円を払わなくてはいけなくなったとします。これでも、この新しい人は高い利益率を生み出すのですが、企業はこの人を雇わないと考えられます。 なぜなら、新しい人に時給1100円を支払うと、すでに雇用されて同じ仕事をしている1000人の時給も、1000円から1100円に引き上げなければならないからです。この場合の人件費の増加は、新しい人に支払う1100円だけではなく、1000人×100円+1100円=10万1100円となります。たとえ赤字にならないとしても、利益が大きく削られることになるので、新しい人が雇われることはありません。 このケースで、仮に政府が最低賃金を1100円に上げると、新しい人を雇うにせよ雇わないにせよ、既存の1000人の時給は1100円にしなくてはいけなくなります。この場合、経営者にとって、新しい労働者を雇うことで生まれる新たなコストは時給分の1100円だけです。1200円の収益は超えていませんから、削られた過剰利益を少しでも取り戻すために、新しく人を雇います。 これが、「モノプソニー」による搾取の範囲内なら、最低賃金を引き上げても、雇用が減るどころか増えることになるメカニズムです。 実際、日本でも世界の先進国でも、過去数年、最低賃金を引き上げてきたのに、雇用はむしろ増えています。最低賃金を引き上げても、企業の倒産は起こらず、給料が増え、個人消費は膨らむのです。 だからこそ私は、データ分析に基づいて「モノプソニー」の力を測り、その範囲内で適切に、毎年最低賃金を引き上げていくと同時に、中小企業の統廃合を進めて規模を拡大し、産業構造を強化するべきだと強調してきました。これこそが日本を救う道であり、韓国ができなかったことです。 次回は、日本が「モノプソニー」の力がきわめて強い「モノプソニー大国」であることを説明します』、現実の「最低賃金」については、8月22日付け日経新聞は40県が上げ、東京など据え置きで決定したと伝えた。「アトキンソン氏」が政権に近いところにいながら、こうした結果になったのは誠に残念だ。

次に、9月19日付け東洋経済オンラインが掲載した漫画家・文筆家のヤマザキ マリ氏による「日本人に蔓延する「失敗したくない」という病 コロナ禍で浮き彫りになった特有の症状とは」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/375574
・『世界を駆けてきた漫画家で文筆家のヤマザキマリ氏。1年の半分を東京で、残りの半分を夫の実家であるイタリアで過ごしているが、コロナ禍で約10カ月東京の自宅に閉じこもることを余儀なくされているそう。そして自宅からは、コロナそのものの症状に加えて、日本人にすでに蔓延していた別の”病”まで見出されたという。自著の『たちどまって考える』を一部抜粋・再構成しお届けする。 「日本のナショナルチームはなぜ、『いよいよゴールだ!』というときにボールをみんなで譲り合うのか、その理由を知りたい。失敗したら責められるのが嫌だからなのかい?」 少し前になりますが、駐日イタリア大使から日本代表のサッカーチームについてこんな質問を受けました。スポーツニュースなどを通じて、ゴール前の決定力の低さがよく指摘されていた頃のことです。 その真偽はその道のプロにお任せしますが、「失敗したくない」というメンタリティーは現代の日本人が抱える大きな病ではないでしょうか。実際、コロナ対策で日本政府が急に方針を変えたり、何かと右往左往している姿を見ていたりしても、失敗したくない、つまり責任を取らなきゃいけない状況をとにかく回避しようとしている気がしてなりません。 この日本人の”失敗したくない病”を、”語学学習”の話を例に考察したいと思います』、「「失敗したくない」というメンタリティー」は、「現代の日本人」に特徴的にみられるが、これが確かに「ゴール前の決定力の低さ」にもつながっていそうだ。
・『語学学習から見える失敗したくない病  私のイタリア語は、美術の学校の勉強やフィレンツェで出会った人たちと接するなかで身につけたものです。学生時代、イタリア語でレポートや論文を書いていましたが、当初スペルは間違いだらけ。 しかし、当時の私にとっては完璧なイタリア語の習得より、付き合っていたイタリア人たちに言いたいことを伝えるほうが大切だったため、とにかく聞き覚えのある言葉から覚え、言語化するのを優先していました。つまり「伝わること」こそ、言語を生かしたコミュニケーションで、文法やスペルの正しさは追いついてくるものと思っていた。実際、それでなんとかなってきました。 しかし、この世界にはそんな荒っぽい語学学習をする私の上をいく人がたくさんいます。イタリアももちろんそうですが、中東や南米など、おおむね積極的に会話する地域で、言語の”ハッタリ”達人に多く出会ってきました。 二言、三言でも知っている言葉があればもう十分で、男性なら「コンニチハ」「サヨウナラ」「アイシテマス」だけで、冗談ではなく日本女性と恋に落ちる。この場合、しゃべりたい意欲と相手への気持ちを少ない語彙に精一杯込めながら、雰囲気で相手に合わせていくわけです。彼らが伝えたいのは、言語よりコミュニケーション力であり、相手を知りたい、わかりたい、と思う気持ちなのでしょう。 言語はその国の文化や考え方を表すものですから、母国語にしている人々と付き合っていくうえで徐々に理解できる表現のニュアンスというものがあります。テキストだけでは学べない部分ですね。そこに暮らして恋愛し、喧嘩もし、仕事に生かして不条理を経験し……。真の言語力を身につけるには、やはり「経験」が不可欠です』、「言語の”ハッタリ”達人」とは言い得て妙だが、きっと上達も早いのだろう。
・『言語を教えるのが難しい  一家でポルトガルに住むことになったとき、リスボン大学の学生に息子の家庭教師を頼みました。彼は外国人に言葉を教えることを専門に勉強していました。その学生いわく、最も言語を教えるのが難しい外国人が日本人、とのことでした。日本人は文法を間違えまいと慎重になりすぎて、なかなかしゃべろうとしない。文法の正しさにこだわるがため、かえって習得率が下がってしまうというのです。 私がかつて日本でイタリア語を教えていた生徒さんにも、とにかく文法の正しさにこだわる方がいて、会話をしたイタリア人が「君は間接代名詞を使うのが好きだねえ」と苦笑いをしつつ、戸惑っていたことがありました。すると途端に躊躇して、もう積極的に会話ができなくなってしまう。もちろん日本人であってもハッタリ力をおおいに発揮する人もいますが、真面目な人ほど表現に引っかかって、会話がブロックされる傾向がある。 逆の立場になればわかりますよね。きちんとした日本語を話せなくても、文法はめちゃくちゃでも、何かを伝えようとしている人なら、こちらも言わんとすることに耳を傾け、理解してあげようと思う。たしかに文法をしっかりと把握することの合理性はあります。しかし言語コミュニケーションでは「伝えたい」という意思と意欲が最優先なのです。) なお、この「失敗してはいけない」メンタルは、言語だけでなく、報道などを通じてもよく感じられます。たとえばイタリアの報道は、自分たちの国で起こることを常に俯瞰で捉え、批判にも容赦がないのがその特徴です。政府や行政によるずさんさが明るみに出れば「イタリアという国はこれだから……」と客観的に捉える。 失敗に対しても同じです。でも同じような報道を日本でやっていたら、きっと非国民的な扱いを受けてしまうでしょう。群れのなかでの一糸乱れぬ統率がとれて完璧な社会というイデオロギー、というか信念が日本には深く染み込んでいると思います。 1964年、オリンピックの東京大会に出場したマラソンの円谷幸吉選手は金メダルへの国民の期待という圧力と、ボロボロになってでもトレーニングを続けなければならないという義務感、好きな人との結婚も許されない立場に絶望し、自ら命を断ったとされます。増田明美さんも、ロサンゼルス大会での競技中に途中棄権したことで「非国民との罵声を浴びた」とお話しされているのをテレビで拝見しました』、「円谷幸吉」は、「オリンピックの東京大会」では日本人陸上界で唯一の銅メダルを獲得したが、所属する自衛隊体育学校の校長が婚約を「次のオリンピックの方が大事」と認めず。オーバーワークで、腰痛が再発、椎間板ヘルニアを発症、メキシコ大会を控えて自殺(Wikipedia)。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86%E8%B0%B7%E5%B9%B8%E5%90%89
・『失敗や挫折するからこそ得られるものも  人間は失敗や挫折、屈辱から得られた苦々しい感情も経験しなければ、成熟しない生き物だと思うのです。それなのに現代の日本では、そうした感情の動きを「世間体」という実態のない戒律で規制してしまっている。それこそ極端な社会主義や、宗教的な戒律のなかで生きる人のごとく、「失敗」を規制されている。 しかし江戸時代まで戻れば様子は変わります。たとえば江戸の町民文化の象徴である落語では、人の失敗談や勘違い話が人気の噺になっています。人間ならではのすっとこどっこいなエピソードを皆でゲラゲラ笑うことで、自分の生き方のヒントにする。列国と肩を並べることに気負う以前の日本は、失敗や挫折や型破りであることが逆に、社会にとっての栄養となっていたように思えるのです』、「列国と肩を並べることに気負う以前の日本は、失敗や挫折や型破りであることが逆に、社会にとっての栄養となっていた」、とはさすが的確な指摘だ。

第三に、11月24日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「日本人が即刻捨てるべき「経済大国」という幻想 確実に「小国」になる未来がやってくる」を紹介しよう。
・『国際競争力の低下と少子高齢化が再三叫ばれる一方、多くの日本人は自国を「大国」であるとなぜか信じている。しかし、数々の統計やランキングは、日本が間違いなく「小国」になることを冷徹に示している。『日本は小国になるが、それは絶望ではない』を上梓した加谷珪一氏が、日本が小国に転じる未来と、「小国・日本」の進む道を論じる』、一般的にも身の丈に合わせた生き方が重要だ。
・『今後、日本の人口が増加することはない  日本の人口が急激に減りつつあることは多くの国民にとって共通認識だが、真の意味で人口減少がもたらす影響についてはあまり知られていない。 2020年、日本の総人口は約1億2600万人。2008年に1億2800万人を突破したのをピークに、人口は減少している。厚生労働省の調査によると、2019年に生まれた子どもの数は86万4000人で、統計開始以来初めて90万人を割った。このまま出生数の低下が続くと、2100年には4906万人にまで人口が減ってしまう。およそ80年で8000万人も減るのだから、これは100万人都市が毎年1つずつ消滅する計算だ。仙台市(109万人)や千葉市(98万人)などが毎年消えると言われれば、そのインパクトがわかるだろう。 この話を聞いて、多くの人が「少子化対策を充実させるべきだ」と考えるだろう。しかしこれを実現するのは容易ではない。人口動態というものは50年、100年という単位で動くものであり、今からではすでにタイミングが遅すぎるのだ。 今、社会では人口減少と高齢化が同時進行している。総人口が減る一方、高齢者の寿命は年々延びており、日本の人口は、老人が多く若者が少ない逆ピラミッド型にシフトしている。現役世代は、昭和時代と比較して、社会保険料や税金などの経済的負担が極めて重くなっていることは明らかである。 例えば、何らかの手段で人為的に出生率を上げたとすると、老人の数は変わらず子どもの数が増え、人口ピラミッドは中央がくぼんだ形となる。単純に出生率を上げるだけでは、子育て世代の国民に想像を絶する過度な負担がかかってしまうのだ。 こうした人口動態による制約条件を考えると、今後、出生率が高まり人口が増加に転じる可能性はほぼゼロに近いと考えたほうがよいだろう』、「2100年」まで「およそ80年で8000万人も減る」のだから、これは100万人都市が毎年1つずつ消滅する計算」、社会的摩擦も大きくならざるを得ないだろう。
・『「大国の条件」が証明する日本の小国化  全世界には200近くの国家が存在するが、5000万人以上の人口を持つ国は28カ国しかない。人口という点に限って言えば、5000万という数が大国の基準と言えるだろう。 もちろん人口が多ければ豊かとは限らないが、人口の多い国はGDPも大きくなる傾向が見られる。次に示す人口のランキングで上位を占めるのは中国とインドで、中国には約14億人、インドには13.5億人の人が住む。次いで、アメリカ、インドネシア、ブラジルと続き、日本は10位。 一方、2019年時点で全世界のGDPは約87兆ドルで、5000億ドル以上の規模を持つ国はたった25カ国。GDPという観点では、5000億ドル以上の規模を持つことが大国の条件と考えられる。 ドイツやイギリス、フランス、イタリアなどのいわゆる先進主要国は、人口は中国などと比較すると多くないが、それでも6000万人から8000万人の人口があり、人口という面においても大国に分類されている。一方、パキスタンやナイジェリア、バングラデシュのGDPは5000億ドルに迫る勢いで、人口の多寡はGDPの規模に大きく影響していると言える。 日本経済研究センターによると、2060年における日本のGDPは4.6兆ドルでほぼゼロ成長の見通しだが、アメリカは34.7兆ドル、中国は32.2兆ドル、インドは25.5兆ドルと日本の5.5~7.5倍にまで規模を拡大させることが予想されている。5000億ドルのボーダーラインを割るには至らないものの、日本の相対的な規模は著しく小さくなってしまう。 人口減少に加え、産業競争力の低下という問題にも直面している日本は、このままでは人口とGDPの両面で、ほぼ確実に小国化するのである』、「日本は、このままでは人口とGDPの両面で、ほぼ確実に小国化する」、やむうぃ得ないだろう。
・『小国になることは、不幸なことなのか  ここまでを読むと、もはや日本の未来に明るい材料はないと思ってしまうかもしれないが、これは「日本が何も変わらない」場合のことである。むしろ、小国となっても豊かな社会を実現できるポテンシャルを日本は持っているのだ。 現に、シンガポールやスウェーデンなど、世界には豊かな社会を実現している小国がいくつもあるが、これらの国々に共通するのは「高い生産性」である。人口が少なくても、国民それぞれが大きく稼ぐことで、豊かな社会を実現しているのだ。 日本の場合、まだ1億人以上の大きな人口(市場)という他国にないアドバンテージを持っている。人口減少は避けられないが、本格的な人口減少が現実のものとなる前に企業の生産性を高めれば、日本は豊かになれるのである。 いま、日本に必要なのは、「日本は経済大国」「日本はものづくり大国」といった幻想から脱却し、生産性を高める産業構造へ変革することだ。それは、これまでの常識をリセットする、大変革である。コロナ禍で世界が大きく変わりつつある現在、日本は最大の転換期を迎えているといっても過言ではないのだ』、「日本に必要なのは、「日本は経済大国」「日本はものづくり大国」といった幻想から脱却し、生産性を高める産業構造へ変革することだ。それは、これまでの常識をリセットする、大変革である」、同感である。「大国」幻想からは一刻も早く脱却すべきだ。
タグ:東洋経済オンライン 円谷幸吉 デービッド・アトキンソン ヤマザキ マリ 加谷 珪一 日本の構造問題 (その18)(日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける この国の将来を決める「新monopsony論」とは、日本人に蔓延する「失敗したくない」という病 コロナ禍で浮き彫りになった特有の症状とは、日本人が即刻捨てるべき「経済大国」という幻想 確実に「小国」になる未来がやってくる) 「日本人の「給料安すぎ問題」はこの理論で解ける この国の将来を決める「新monopsony論」とは」 monopsony(モノプソニ―) 「モノプソニ―」を知らずに日本経済は語れない 労働市場において企業の交渉力が強く、労働者の交渉力が弱いため、企業が労働力を安く買い叩ける状態」を説明するために使われることが多くなっています 新古典派の経済理論は、労働市場は完全競争であると仮定 「モノプソニー」の存在は実証的に測定可能 これまでから「アトキンソン氏」は、最低賃金の引上げを主張してきたが、その背景にはこんな強力な理論的裏付けがあった 「モノプソニー」では、労働者は企業に「搾取」される 男女の同一労働・同一賃金が実現しない原因のほとんどが「モノプソニー」だと説明されています。これもビッグデータによって確認されています 過去数十年間で「モノプソニー」の力が強くなり、労働者の交渉力が弱くなったことが、先進国で労働分配率が下がった原因だとも言われています 先進国が最低賃金を設けたり、その水準を継続的に引き上げている最大の理由は、労働組合の代わりに「モノプソニー」の力を抑えることで、企業が立場の弱い人を「安く買い叩く」のを防ぐためです 最低賃金を引き上げると雇用が増えるメカニズム 日本でも世界の先進国でも、過去数年、最低賃金を引き上げてきたのに、雇用はむしろ増えています。最低賃金を引き上げても、企業の倒産は起こらず、給料が増え、個人消費は膨らむのです 現実の「最低賃金」については、8月22日付け日経新聞は40県が上げ、東京など据え置きで決定したと伝えた。「アトキンソン氏」が政権に近いところにいながら、こうした結果になったのは誠に残念だ 「日本人に蔓延する「失敗したくない」という病 コロナ禍で浮き彫りになった特有の症状とは」 『たちどまって考える』 「失敗したくない」というメンタリティー」は、「現代の日本人」に特徴的にみられるが、これが確かに「ゴール前の決定力の低さ」にもつながっていそうだ 語学学習から見える失敗したくない病 「言語の”ハッタリ”達人」 言語を教えるのが難しい 失敗や挫折するからこそ得られるものも 列国と肩を並べることに気負う以前の日本は、失敗や挫折や型破りであることが逆に、社会にとっての栄養となっていた 「日本人が即刻捨てるべき「経済大国」という幻想 確実に「小国」になる未来がやってくる」 「小国・日本」の進む道 今後、日本の人口が増加することはない 「2100年」まで「およそ80年で8000万人も減る」のだから、これは100万人都市が毎年1つずつ消滅する計算 「大国の条件」が証明する日本の小国化 日本は、このままでは人口とGDPの両面で、ほぼ確実に小国化する 小国になることは、不幸なことなのか 日本に必要なのは、「日本は経済大国」「日本はものづくり大国」といった幻想から脱却し、生産性を高める産業構造へ変革することだ。それは、これまでの常識をリセットする、大変革である
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少子化(その2)(「子供を産まない選択は勝手」発言にモノ申す 日本の出生率が低い責任は政府にある、日本の出生率を上げるたった1つの方法、不妊治療に光明は差すか) [社会]

少子化については、2017年8月4日に取上げたままだった。菅首相が不妊治療の保険適用を表明したのを踏まえた今日は、(その2)(「子供を産まない選択は勝手」発言にモノ申す 日本の出生率が低い責任は政府にある、日本の出生率を上げるたった1つの方法、不妊治療に光明は差すか)である。

先ずは、やや古いが、2018年7月29日付け東洋経済オンラインが掲載した生活経済ジャーナリストの柏木 理佳氏による「「子供を産まない選択は勝手」発言にモノ申す 日本の出生率が低い責任は政府にある」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/248798
・『今年6月26日、自民党の二階俊博幹事長が東京都内で講演し、「子どもを産まないほうが幸せじゃないかと勝手なことを考えている人がいる」と発言したことで、各方面から批判が相次いだ。  この発言を知ったとき、筆者は二階氏の発言は的外れだと思った。そんな状況を招いたのは、国民ではなく政府の責任が大きいからである』、同感である。
・『子育て支援が少ない国ほど「夫婦の幸福度」が低い  2016年6月に、アメリカのワシントン・ポストのサイトに掲載された記事(データの大本は、テキサス州のベイラー大学などの研究)によると、先進国22カ国の子持ち夫婦と子なし夫婦の幸福度の平均値を比較した結果、「子持ち夫婦よりも子なし夫婦のほうが幸福度が高い」という調査結果が、3分の2の国で見られた。  子なし夫婦のほうが幸福度の高い国は、アメリカ、次いでアイルランド、ギリシャ、イギリス、ニュージーランド、スイス、ポーランド、オーストラリア、デンマーク。  一方、子持ち夫婦のほうが幸福度の高い国はポルトガル、ハンガリー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、フランス、ロシアだ。これらの国には「育児・子どものための政策が充実しているという」共通点がある。  たとえば、ロシアでは2007年から「母親資本制度(当時のレートで2人目の出産に100万円、3人目に86万円を支給する制度)」を実施している。出生率は2006年の1.30%から、1.41%(2007年)、1.50%(2008年)、1.54%(2009年)と上がり、2015年には1.75%まで上昇した。  育児支援政策が顕著に影響を与えていることがわかるのがフランスだ。1994年の1.66%から2000年には1.87%、2006年には2%に出生率を上げた。育休手当の導入を正社員だけでなくパート労働者にも拡大し、家族給付の対象となる子どもを18歳から20歳に延長した。  国立社会保障・人口問題研究所の「社会保障費用統計(2014年度)」によれば、フランスは支援予算をGDPの3%近くをあてている。2010年の欧州債務危機以降、支援予算を削減したため、20代の人口1000人あたりの出生数が5年間で1割減るなど、この影響力は大きい。 北欧は社会福祉が充実していることで知られているが、教育費はすべて無料である。少子化対策への予算は、スウェーデンがGDPの3.6%ほどを占めている。 対して、子なし夫婦のほうが幸福度の高い国の場合はどうだろう。アメリカでは、育児休暇は日本のように有給休暇ではなく無給休暇扱いの州がほとんど、女性の5割が出産を機に退職する。出産育児手当なども不十分で、支援予算もGDPの0.68%しかない。  日本も幸福度の高い国と比べると、育児・子育ての支援は薄い。日本の予算はGDPの1.34%しかない』、「日本の」「育児・子育ての支援予算」の少なさは目に余る。
・『日本は「子どものいる女性」の幸福度が低い傾向にある  2013年に発表された内閣府の調査結果「子どもを持つ若年層を対象とした幸福度に関する研究」や、そのほかの民間のアンケート調査結果を総合的にみると、日本でも子どものいない女性に幸福度が高い傾向がある。  日本では待機児童問題も解決せず、生涯出生率も減る一方である。子供を産むことに経済面や精神面から不安を感じている女性も増えている。子育て支援の政策が薄い日本では育児環境に不安があることがわかる。  内閣府の調査では、特に、子供のいる女性の中でも「共働き世帯の忙しい女性」と「若い女性」には顕著に幸福度が低くあらわれた。年齢が低いほど幸福度が低く、生活満足度においても満足度は低い。将来も悲観している傾向がみえた。  常時、雇用されている女性は、経済面に不安を感じているだけでなく、夫などの手助けが足りず自分だけで育児と家事を抱え込んで負担を感じていることが想像できる。  こうした状況が日本で出生率が増えない原因を物語っているのではないか。日本で出産した場合、幸せを感じづらい。だから、産まない選択をする女性が増えるわけだ。生涯独身女性が、5年で10%から14%に増えているのもそのせいかもしれない。そんな状況にあるなら、「子どもを産まないほうが幸せ」と考えることも、「産まない選択」をすることも、決しておかしなことではない』、「常時、雇用されている女性は、経済面に不安を感じているだけでなく、夫などの手助けが足りず自分だけで育児と家事を抱え込んで負担を感じている」、「産まない選択をする女性が増えるわけだ」、困ったことだ。
・『2050年には子どもが生まれる数が半分に  日本の2017年の出生率は1.43で、2年連続低下している。今のような状況が続けば、32年後には、1年間に50万人、つまり現在の半数程度しか子どもが産まれなくなるという統計もある。  子どもを産む、産まないは個人の自由だと考えるのが筆者の立場だ。しかし、今以上に少子化が進むと、年金や医療保険制度が破綻する可能性が高く、日本にとって喫緊の課題であると危惧もしている。 前述したように、フランスやスウェーデンなど、子育て支援政策が充実している国ほど幸福度も出生率も高い。また、幸福度の高い国では、保育園や保育ママなど、育児中の母に喜ばれる充実した政策が実施されており、女性が働き続けることが保障されていることもわかる。 さらに、両国では7割以上の男性が当たり前のように育児休暇を取得し、復帰後は昇進、あるいは元のポジションに就くことが約束されている。どんな夫も、妻の出産後の育児を手伝いやすい環境が整っており、これらが夫婦の幸福度の向上につながっている。  日本でもフランスやスウェーデンを参考に、子育て支援政策の充実や、育児休暇の取得率の向上を目指したほうがいいだろう。日本企業では、まだ高年齢層が中枢を占めるため、若い社員が育児休暇を取ることが理解されづらい。少子化を早急に抑えたければ、法律で強制的に義務化したほうがいい。それと同時に、フランスを真似て、民間企業の労働者の4割を占める非正社員にも1~3年の育児休暇を取得できるようにしなければ、抜本的な解決策にはならないだろう』、「非正社員にも1~3年の育児休暇を取得できるように」、との提言はパンチはあるが、「非正社員」への「育児休暇」とは余りに無理過ぎるのではなかろうか。

次に、本年10月11日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏による「日本の出生率を上げるたった1つの方法」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/248798
・『世界1200都市を訪れ、1万冊超を読破した“現代の知の巨人”、稀代の読書家として知られる出口治明APU(立命館アジア太平洋大学)学長。歴史への造詣が深いことから、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では世界史の講義を受け持った。 その出口学長が、3年をかけて書き上げた大著が、大手書店のベストセラーとなり、話題となっている。BC1000年前後に生まれた世界最古の宗教家・ゾロアスター、BC624年頃に生まれた世界最古の哲学者・タレスから現代のレヴィ=ストロースまで、哲学者・宗教家の肖像100点以上を用いて、世界史を背骨に、日本人が最も苦手とする「哲学と宗教」の全史を初めて体系的に解説した本だ。なぜ、今、哲学だけではなく、宗教を同時に学ぶ必要があるのか? 直木賞作家・作詞家のなかにし礼さんが激賞、脳研究者で東京大学教授の池谷裕二氏が絶賛、小説家の宮部みゆき氏が推薦、某有名書店員が「100年残る王道の1冊」「2019年で一番の本」と断言した、『哲学と宗教全史』が、2400円+税という高額本にもかかわらず9万部を突破。「読者が選ぶビジネス書グランプリ2020」では総合グランプリ第6位、リベラルアーツ部門第2位となった。本連載も累計160万PV(ページビュー)を突破した。 「日経新聞」「日経MJ」「朝日新聞」「読売新聞」「北海道新聞」「中国新聞」「京都新聞」「神戸新聞」「中日新聞」で大きく掲載。“HONZ”『致知』『週刊朝日』『サンデー毎日』「読売新聞」でも書評が掲載され、話題となっている。 今回も6月17日にダイヤモンド経営者倶楽部「特別定例会」で行われた出口氏の講演「グローバル人材と日本の課題」の後に開催された質疑応答の様子を特別にお送りしよう(Qは聞き手の質問)。 ・・・Q:・・・先ほど、日本の最大の課題は人口減少だということですが、まさに2020年に1.36という過去最低の出生率に落ちてしまった中で、80年後に人口が5000万人を切るといわれています。ただフランスの場合は、出生率が2.0に近い状況なので、先進国でもこれほど違うと。 労働時間が影響しているのだと思うのですが、国もそこに関してアクションを起こしています。でも、人口減少ストップ、経済活性化へ、企業側は真剣に取り組んでいるのかが疑問です。収益を上げることや、社員の給料を上げることに関しては一所懸命努力している会社が多い気がしますが、50年後、自社の従業員がいなくなってしまうことを考えたうえで、経営者として何をやらなければいけないのか。参考までに出口先生にご意見いただければと思います。 出口:答えは簡単です。シラク3原則(注)をそのまま導入する、つまりフランスのマネをすればいいのです。 そして育児休業は男性にも3ヵ月ぐらい強制的にとらせる。もちろん根元にある男女差別をなくさなければならない。 男女差別をなくす一番簡単な方法は、性分業にメリットを与える配偶者控除と年金制度の第3号被保険者制度はなくし、女性のロールモデルを創出するクオータ制を導入することだと思います。 ヨーロッパの先進国が実施して、多少なりともうまくいっている取り組みを日本でもそのとおりやればいいだけの話ですよね。 日本のビジネスパーソンが年間2000時間働くということは、経営者のみなさんはそれ以上働いているわけです。このような情報を知る時間がないことが日本の一番の根本原因だと思います。人間がやることは同じですから、フランスのマネをすれば、日本でも出生率が間違いなく上がると思います。 Q:ありがとうございます・・・』、(注)シラク3原則:1つめは、子どもを持っても新たな経済的負担が生じない、2つめは、無料の保育所を完備、3つめは育児休暇から女性が職場復帰する際、ずっと勤務していたものとみなして企業は受け入れる。この3原則と、婚外子を差別しないPACS(民事連帯契約)を、ワンセットの政策パッケージとして導入しました。1994年に1.66%まで下がった出生率は、10年あまりで2%にまで上昇しました(少子化は文化を滅ぼす仏の「シラク3原則」に学べ、2014年2月20日WEDGE Infinity)。3つ目はハードルがやや高そうだが、思い切って導入に踏み切るべきだろう。

第三に、11月25日付けNHK 政治マガジンが掲載した政治部記者の山枡慧氏による「不妊治療に光明は差すか」を紹介しよう。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/48722.html
・『夫婦の5.5組に1組が経験している不妊治療。総理大臣に就任した菅は保険適用の拡大を打ち出した。不妊治療にいま何が求められているのか課題と実情を探った。 不妊治療に「脚光」  不妊治療をする人たちの負担を軽減するための支援。これまでも、議論されてきたが、総理大臣の菅が「不妊治療の保険適用の拡大」を看板政策の一つに掲げたことで、注目を浴びることになった。 日本産科婦人科学会の調査によると、不妊治療の一つで体内から取り出した卵子を体外で精子と受精させる「体外受精」で生まれた子どもは、2018年に5万6979人と過去最多を更新した。この年に生まれた子どもの、実に15人に1人。晩婚化などを背景に、治療件数も過去最多の45万4893件に上っている』、「菅」首相が突然、唱えだしたようだ。
・『今は人工授精などは保険適用外  不妊治療の内容は案外と知られていない。 医療機関での検査の結果、不妊治療は一般に、①「男性不妊」②「女性不妊」③「原因が分からない機能性不妊」に大別され、それぞれ治療内容も異なる。 国内には約600の専門の医療機関があり、多くの場合、治療は男女とも血液や超音波検査などで不妊の原因を調べるところからスタートする。精子が精管を通過できない場合や子宮内膜症などの治療には保険が適用される。また排卵日を予想して性交渉のタイミングを指導する治療も保険適用の対象だ。 一方、保険が適用されないのは、こうした治療を経ても妊娠に至らない場合に行われる治療で、精液を直接、子宮に注入する「人工授精」や精子と卵子を体外で受精させて子宮に戻す「体外受精」などだ』、なるほど。
・『300万円以上かかる現状も  保険適用の対象にならない治療は「自由診療」と呼ばれ、医療機関ごとに治療技術も治療費も異なっている。原則3割の自己負担が基本となる「保険診療」と比べて高額になることが多い。厚生労働省の研究班が2017年度に行った調査では、不妊治療にかかる1回あたりの平均費用は、体外受精が38万円、顕微授精が43万円に上っている。 患者の支援に取り組むNPO法人「Fine」が2018年に行った調査では、治療費の総額は「100万円から200万円未満」という回答が27%と最も多く、「300万円以上」という回答も17%ある。 国は保険適用のほかに不妊治療にかかる費用の一部の助成も行っているが、対象は体外受精や顕微授精など一部に限られている。 その理由として厚生労働省は、「保険適用の治療とするかどうかは、不妊が疾病なのかどうかという問題や治療の安全性や有効性に根拠があるかが前提となる」としている。 また、夫婦で年収730万円未満という所得制限や治療開始時の妻の年齢が43歳未満であることなど一定の条件が課されている。所得制限は、日本全国の世帯所得の9割をカバーできる金額として、年齢制限は妊娠率など医学的な理由から設定されたものだが、こうした条件を満たさない夫婦からは不満の声も聞かれる。 不妊治療への保険適用の拡大が政治的注目を集める背景には、治療にかかる経済的負担に悩んだり支援の対象から漏れたりした多くの人たちの存在がある』、「年齢制限は妊娠率など医学的な理由から設定されたものだが、こうした条件を満たさない夫婦からは不満の声も聞かれる」、年齢別の「妊娠率」データのバラツキにもよるが、やはり一定の「年齢制限」は必要だろう。
・『安くするだけでは…  医師として東京と大阪で専門の医療機関を運営する「リプロダクションクリニック」CEOの石川智基は、関心の高まりは不妊に悩む患者の後押しにつながると期待する。 「非常に好意的に受け止めている。患者の心理的なハードルがかなり低くなったと思う。菅総理大臣が(保険治療の適用拡大)を打ち出してから初診件数が伸びている。患者としては背中を押してもらった部分も大いにあると思う」 一方、患者の支援に取り組むNPO法人「Fine」の理事長の松本亜樹子は、具体的な議論の中身が見えない現状への不安を指摘する。松本も不妊治療の経験者だ。 「不妊治療を議論のテーブルに載せてもらったことはありがたく歓迎しているが、詳細が見えないまま『保険適用の拡大』という言葉だけがひとり歩きしている印象は拭えない。医療の質が担保されることが患者にとっては何より重要で、いくら安い治療を受けられるようになったとしても治療の質が下がれば本末転倒だ」』、「医療の質が担保されることが患者にとっては何より重要」、その通りだ。
・『問われる治療の質  一般に、保険が適用されれば患者の自己負担額が減り、経済的負担の軽減につながる。保険では、疾病ごとの医療行為に価格(診療報酬)が決められているため、適用範囲をどう拡大するかが大きな課題となる。一方で、日本の不妊治療は国内未承認の海外の最先端の治療技術や薬を導入するなど「自由診療」を中心に発展してきたといわれる。 このため、石川は、多くの治療方法が標準化していない不妊治療で、診療報酬を一律に設定することの課題を指摘する。 「日本の不妊治療では、自由診療を軸にそれぞれの夫婦にあったテーラーメイドの治療が行われてきた。新しい医療機器や技術をいち早く導入できることに自由診療の強みがあったが、いたずらに保険適用が拡大されて、他の医療機関と一律の画一的な治療が行われる状況が生まれれば患者のメリットにならないのではないか」 松本も、現状では医療機関ごとに治療の質が大きく異なると指摘した上で、保険適用を拡大しても医療の質が保たれるのか懸念している。 「保険適用の拡大により、出来ない治療が増えてしまえば妊娠が遠のくことになりかねない。保険診療だけでよい人はそれでよいが、『年齢的にも時間が無い』という人や、体への負担から流産を避けるための治療を行いたい人のためにも治療の自由度は高くしてほしい」 保険適用の拡大により、医療の質の低下を懸念する声がある中で、医療界からは「混合診療」の解禁を求める声も出てきている。 「混合診療」は「保険診療」と「自由診療」を組み合わせたもので、これが認められた場合、費用は、保険適用分の治療は保険でまかない、適用外の治療は患者自身が支払うことになる。現在、国は患者の支払い能力によって提供される医療に差ができてはならないとして「混合診療」を認めていない。ただ、ある厚生労働省の幹部は「不妊治療の領域では、例外的に検討の余地はある」と一定の評価をする。 一方、石川は別の見方を示す。 日本の医療界では「混合診療」に対する慎重論が根強くある。こうした中で不妊治療の経済的負担の軽減と治療の質を両立させるためには、自由診療を維持したまま助成金を拡充したほうが現実的だと指摘する』、どちらがいいかは専門的なので、この材料だけでは何ともいえない。
・『“技術に差がない治療を適用対象に”  どんな治療なら、保険適用の拡大の対象となり得るのだろうか。 厚生労働省は体外受精や顕微授精などのうち、有効性や安全性が確認されたものを新たな対象に加える方向で検討を進めている。 今後、専門医の意見も踏まえながらガイドラインも策定し、中医協=中央社会保険医療協議会の審議を経て、令和4年度からの適用拡大を目指す方針だ。 これに対し石川は、専門医の立場から医療施設ごとの治療技術に差がない治療であれば、保険適用の対象に加えられるのではないかと指摘する。 「無精子症の男性患者を対象にした『TESE』と呼ばれる精巣から精子を取り出す手術については、保険診療が考えられる。また女性不妊に関しても、人工授精は施設ごとのレベルの差が少ないので一歩踏み込んで保険適用を拡大するのは考えられる」』、「技術に差がない治療」に限定する理由は何なのだろう。
・『治療のために仕事を休む?  不妊治療を受ける多くの夫婦は、妊娠の可能性をわずかでも高めたいという切実な思いを抱えている。 一方、治療を取り巻く環境は非常に厳しく、なかでも治療と仕事の両立は大きな課題となっている。 松本はその実情をこう指摘する。「不妊治療には、身体的、精神的、経済的、時間的な負担という4つの課題がある。保険適用の拡大は経済的な面にすぎず、そこだけを解決しても全体的な解決にはつながらない。仕事と治療の両立が出来なければ、保険適用を拡大しても結局は治療に行くことができない。休暇制度についても治療の実態に即した制度が必要だ」 2017年の厚生労働省の調査では、治療経験者の離職率は16%に上る。治療のために休暇の頻繁な取得や休職をせざるを得ないケースも相次いでいて、雇用の安定化のため休暇制度の創設を求める声も上がっている。 一方、石川は治療と仕事の両立は医療機関側の努力によっても改善できるのではないかと提言する。 「患者に休めと言うのではなく、医療機関側に平日の夜間や土日に診療を行うよう政策的なインセンティブをつけるやり方もある。患者が休めば企業の生産性も落ちるし、女性のキャリア形成にも影響が出るので、休暇制度を設けるよりも医療機関側を変える方が社会的コストが少なくて済むのではないか」』、「仕事と治療の両立が出来なければ、保険適用を拡大しても結局は治療に行くことができない。休暇制度についても治療の実態に即した制度が必要だ」、「治療と仕事の両立は医療機関側の努力によっても改善できるのではないか」、後者が可能であればよいが、「医療機関側の努力」にも限界があるので、やはり前者が中心となるのではなかろうか。
・『不妊治療は“口コミ”頼み  さらなる課題として、医療機関側の透明性や客観性を求める意見もある。 NPO法人「Fine」の調査では、患者が病院選びで重視した点について「評判(口コミ)がよいから」という回答が49%に上った。 患者の多くが治療先の医療機関を選ぶ際、インターネットの口コミなどを頼りにせざるを得ない実態は、治療を受けるにあたって参考に出来るデータが不足していることを如実に表している。同様に、公表される治療実績の基準が医療機関によって異なることも課題として指摘されている。 石川は、患者に適切な情報を提供する「第三者機関」の必要性を指摘する。「『不妊治療はブラックボックスだ』と言われるが、実際、私たちは隠そうとしているわけではなく、施設ごとに売りが違う。ただ、いろんなクリニックがホームページで情報を出し、患者は悩んだ上で通院先を選ぶが、妊娠率などの基準にも透明性が無いため、患者はクリニックを選ぶことにも苦しみがある。しっかりと第三者機関を作り、透明性を確保することが大切だ」 松本も同じ意見だ。「医療機関ごとの客観的なデータの開示は今すぐ出来ることだし、保険適用の拡大に関係なくやるべきことだ。国が第三者機関を作り、それぞれのクリニックの治療実績などを出すべきだし、クリニックが公表している実績を第三者機関がチェックすべきだ」』、「第三者機関を作り、透明性を確保する」、確かに有効そうだ。
・『晩婚化・晩産化という日本の事情も  政府は保険適用が拡大されるまでの間、現行の助成制度を拡充して対応する方針で、今年度中にも所得制限を撤廃し助成額を引き上げる方針だ。 その検討にあたって気になるデータがある。 日本では、不妊治療の患者のうち治療成績の低い40歳以上の割合が40%を超えて世界で最も高く、結果的に治療成績が世界平均を下回っている。 こうした晩婚化、晩産化という社会的な課題にどう向き合い、いかに取り組んでいくかということも不妊治療の環境整備を進めていく上で欠かせない視点だ』、「不妊治療」には年齢により成功率が大きく開くことを、もっと大々的にPRすべきだ。さらに、将来的には妊娠についての性教育を充実する必要もあるだろう。
タグ:不妊治療 東洋経済オンライン 少子化 出口治明 ダイヤモンド・オンライン 『哲学と宗教全史』 (その2)(「子供を産まない選択は勝手」発言にモノ申す 日本の出生率が低い責任は政府にある、日本の出生率を上げるたった1つの方法、不妊治療に光明は差すか) 柏木 理佳 「「子供を産まない選択は勝手」発言にモノ申す 日本の出生率が低い責任は政府にある」 二階俊博幹事長 「子どもを産まないほうが幸せじゃないかと勝手なことを考えている人がいる」と発言したことで、各方面から批判 的外れだと思った。そんな状況を招いたのは、国民ではなく政府の責任が大きいからである 子育て支援が少ない国ほど「夫婦の幸福度」が低い テキサス州のベイラー大学などの研究 「子持ち夫婦よりも子なし夫婦のほうが幸福度が高い」という調査結果が、3分の2の国で見られた 子持ち夫婦のほうが幸福度の高い国はポルトガル、ハンガリー、スペイン、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、フランス、ロシアだ。これらの国には「育児・子どものための政策が充実しているという」共通点 育児支援政策が顕著に影響を与えていることがわかるのがフランスだ。1994年の1.66%から2000年には1.87%、2006年には2%に出生率を上げた。育休手当の導入を正社員だけでなくパート労働者にも拡大し、家族給付の対象となる子どもを18歳から20歳に延長 「日本の」「育児・子育ての支援予算」の少なさは目に余る 日本は「子どものいる女性」の幸福度が低い傾向にある 常時、雇用されている女性は、経済面に不安を感じているだけでなく、夫などの手助けが足りず自分だけで育児と家事を抱え込んで負担を感じている 産まない選択をする女性が増えるわけだ 2050年には子どもが生まれる数が半分に 非正社員にも1~3年の育児休暇を取得できるように 「日本の出生率を上げるたった1つの方法」 出口氏の講演「グローバル人材と日本の課題」の後に開催された質疑応答の様子 シラク3原則 をそのまま導入する つめは、子どもを持っても新たな経済的負担が生じない 2つめは、無料の保育所を完備 3つめは育児休暇から女性が職場復帰する際、ずっと勤務していたものとみなして企業は受け入れる NHK 政治マガジン 山枡慧 「不妊治療に光明は差すか」 今は人工授精などは保険適用外 ①「男性不妊」 ②「女性不妊」 ③「原因が分からない機能性不妊」 保険が適用されないのは、こうした治療を経ても妊娠に至らない場合に行われる治療で、精液を直接、子宮に注入する「人工授精」や精子と卵子を体外で受精させて子宮に戻す「体外受精」など 300万円以上かかる現状も 夫婦で年収730万円未満という所得制限 治療開始時の妻の年齢が43歳未満 年齢制限は妊娠率など医学的な理由から設定されたものだが、こうした条件を満たさない夫婦からは不満の声も聞かれる 安くするだけでは… 医療の質が担保されることが患者にとっては何より重要 問われる治療の質 “技術に差がない治療を適用対象に” 技術に差がない治療」に限定する理由は何なのだろう 治療のために仕事を休む? 仕事と治療の両立が出来なければ、保険適用を拡大しても結局は治療に行くことができない。休暇制度についても治療の実態に即した制度が必要だ 治療と仕事の両立は医療機関側の努力によっても改善できるのではないか」、後者が可能であればよいが、「医療機関側の努力」にも限界があるので、やはり前者が中心となるのではなかろうか 不妊治療は“口コミ”頼み 第三者機関を作り、透明性を確保する 晩婚化・晩産化という日本の事情も 「不妊治療」には年齢により成功率が大きく開くことを、もっと大々的にPRすべきだ。さらに、将来的には妊娠についての性教育を充実する必要もあるだろう
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パンデミック(経済社会的視点)(その10)(GoToは全廃が筋、コロナ第3波「日本に決定的に足りてない対策」 無症状者への検査と院内感染への備えは不十分、コロナ第3波とGo To見直しは「失政」の当然の帰結) [パンデミック]

パンデミック(経済社会的視点)については、11月8日に取上げた。今日は、(その10)(GoToは全廃が筋、コロナ第3波「日本に決定的に足りてない対策」 無症状者への検査と院内感染への備えは不十分、コロナ第3波とGo To見直しは「失政」の当然の帰結)である。

先ずは、11月21日付けNewsweek日本版が掲載した財務省出身で慶応義塾大学准教授の小幡 績氏による「GoToは全廃が筋」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/obata/2020/11/goto_1.php
・『<国の新規感染者は遂に2500人を超えた。今こそ、もともと 間違っていたGoTo政策をやめて病院や保健所の充実に金を使うべきだ> 全国の新型コロナウイルスの感染者が初めて2500人を超える感染拡大の中で、政府はGoToトラベルやGoToイートの運用を見直すと発表した。感染地域への旅行予約や、食事券発行の一時停止などを検討するという。いっそ全廃すればいいのだ。続けなければならない理由が何かあるだろうか? 何もない。 継続しているのは、感染リスクはどうでもよくとにかく経済を戻したいと思っているか、もしくは、自分の決めた政策に文句を言われるのが嫌か、耳の痛い諫言を聞くのが嫌か、どちらかしか考えられない。 GoToは、どう考えても、即刻終了すべきだ。 理由は3つ。 第一に、GoToの役割は終わった。唯一意味のあった役割は、自粛しすぎていた日本の消費者たちに、遠慮せずに旅行や外食に行っていいんだよ、というきっかけ、自粛自縛からの解放のきっかけをつくってあげたことだ。これに尽きる。 そして、それは十分に効果を発揮した。だから、もうすぐにやめるべきだ。 今は、感染拡大している。一方で自粛を求めつつ、外食、旅行を必要以上にしろ、と税金でバーゲンセールするのは120%意味不明だ』、「GoTo」は菅首相が官房長官時代に取組んだ案件で、政権の後ろ盾である二階幹事長も全国旅行業協会の会長であることもあって、札幌や大阪発の「GoTo」トラベルを一時中止する程度でお茶を濁そうとしているようだ。
・『奪われる教育機会や治療機会  第二に、解放の対象も間違っていた。なぜなら、もともと自粛に熱心でない、むしろ相対的に注意不足、対策不足の人々が大手を振って活動を活発化させた一方、本来はそこまで自粛する必要がないのに、過度に自粛し恐れてしまっている人々の自粛は解けていない。また注意不足の人々が政策によって感染拡大リスクをさら拡大させているのを認識すれば、過剰な自粛はさらに過剰になる。 しかし、9月よりは今の方が慎重になるべきなのは間違いがなく、恐れるのは論理的に正しい。論理的に正しいが、過度に恐れている人々は高齢の富裕層が多く、彼らの活動が委縮していることは、経済にとっても大きなマイナスだ。 普段行ったことのない高級旅館に、一生に一度だけ、感染リスクへの意識が希薄な人々が押し寄せ、税金で値引きされたからとエンジョイし、しかし、税金の値引きで行っているだけだから、税金値引きが効かないものは消費せず、消費拡大効果は限定的だ。もちろん旅行や外食に行かないよりは効果があるが、税金支出のコストパフォーマンスとしては悪く、この2か月だけでなく、この先数年の経済を考えればマイナスの効果で、経済活動以外の教育機会やコロナ以外の治療機会、介護の機会を縮小させているので、社会にとってはとことん悪い。) 実際、人気のある高級旅館は、100%とはいかないが、8割方客は戻っており、GoToのおかげで、優良顧客の常連さんが、混んでるなら行かないということで、GoToの客に押し出されてしまって迷惑をこうむっているという声は強い。人気がやや劣る高級旅館は助かっており、日本人が行かなくなった安いだけのインバウンド向けの宿などは、GoToで一息つけて大変ありがたがっている。そういう構造だ。 飲食も同じで、人気店は予約がとれなかったのが、予約が取りやすくなり、普通に回っていたのだが、GoToで余計な客が押し寄せ、客単価が下がって迷惑している。一方、人気店が予約でいっぱいなので仕方なく人々が行っていた二番手の飲食店は、コロナで、人気店に行きたい人が行けるようになって、流れてこなくなり、悲鳴を上げていた。そういう店は、GoToで客が戻り、非常に喜んでいるそうだ。 地味な高齢の常連さんで細々やっていたところは、何をしようがあまり変わらない。人々の感情的には、そういう店こそ助けたいのだが、そこにGoToは関係ない。あざといサイトとチェーン店とさらにあざとい客が税金の恩恵を受けているだけだ』、同感である。
・『そもそもが間違いだった  第三に、もともと、GoToという政策が間違っている。4月に、適切に恐れ、適切に対応すれば十分なのに、緊急事態宣言を知事たちとメディアが求め、それに人気取り政策で政権が応じてしまったことが間違いで、もともと、あそこまで自粛する必要はなかったのだ。 しかし、日本国民は従順で臆病だから、知事とメディアとそれに登場する、欧州やニューヨークの例を挙げる間違った有識者に(まちがった知識を持っている人も有識者だ)、脅され、おびえて、自粛に励んだ。 しかし、この自粛カードは一回しか通用しなかった。 これは、欧米でも同じで、もはや全面ロックダウンはどのような状況になっても、人々は受け入れず、だから、政治もそれを実行はできない。 日本もまったく同じで、自粛要請は人気取り政策として意味がなくなったから、どの知事も言わなくなった。 過度にリスクを警戒しすぎたが、基本的には自分たちの立場で感染症のことだけ考えてバランスの悪い提言をし続けてきた専門家たちは、今度も感染対策を最優先として提言する。 このアドバイスを政権が聞くはずもないし、メディアに押されて部分的に聞き入れたアリバイ作りをするだけだろう。 そして、人々は自粛に飽きてしまったので、どんなに感染者数が増えても、気にしない人々の割合がすでに増加しており、自粛要請も、メディアの警告も、前述のような恐れすぎる人、自粛しすぎていて、現在でもそれほどそこまで自粛する必要のない人々だけさらに自粛させ、いまはさすがに自粛すべき人々はほぼ自粛せず、感染は少しずつ広がり続けるだろう。 政権は何をしているのか。 離婚するのにはんこを押さなくて済むようにすることには熱心だが、保健所のファックス問題、濃厚接触確認アプリの未普及問題には、何をやってきたのか。デジタル庁の法案を作る前に、保健所、病院のDX(デジタル・トランスフォーメーション)をまずすることが先ではないのか。 いまだに、病院の役割分担も不十分だ。コロナに関係なく人々は医療を適切に受けられず、困ったり死んだりしている。 何がやりたいのか。 政権が維持したいだけか? しかし、このような対応では、それも難しくなってくることに、そろそろ自分自身でも気づいているだろう』、このままでは東京都や大阪市での医療崩壊は時間の問題になって、年明けの解散・総選挙どころではんsくなる筈だ。

次に、11月25日付け東洋経済オンラインが掲載した医療ガバナンス研究所理事長の上 昌広氏による「コロナ第3波「日本に決定的に足りてない対策」 無症状者への検査と院内感染への備えは不十分」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/390991
・『11月21日、菅義偉首相は新型コロナウイルス(以下、コロナ)が拡大している地域での、「Go Toキャンペーン」の運用を見直すことを表明した。遅きに失した感もあるが、時宜を得た対応だ。 冬場を迎え、全国的にコロナ感染が拡大するなか、税金を投じて人の移動を促進させるのはめちゃくちゃだ。こんなことを続けていたら、感染を拡大させるだけでなく、経済も悪化する。いま、政府がやらなければならないのは、国民に移動を自粛するように呼びかけることだ。これが世界の標準的な対応だ。米疾病対策センター(CDC)は、11月26日の感謝祭に合わせた旅行を控えるように促している。 「Go Toキャンペーン」は、日本のコロナ対策を象徴する存在だ。エビデンスに基づく、合理的な対応がなされていない。本稿では、この点について論じたい』、現実には「Go Toキャンペーン」の見直しは極めて小幅に止まった。
・『日本のコロナ対策は科学的か?  11月11日、イギリスの『エコノミスト』誌は「政府のコロナ対策は科学的ですか」という記事を掲載した。この記事では、世界各国の約2万5000人の研究者に対して、24カ国を対象に、政府のコロナ対策が、どの程度科学的かを聞いた研究が紹介されていた。この記事を読めば世界が日本のコロナ対策を、どう評価しているかがわかる。 この研究では、最も科学的と評価された国はニュージーランド、次いで中国だった。70%以上が「科学的」と回答している。一方、最も「非科学的」なのはアメリカ、次いでブラジル、イギリスと続く。 アメリカについて「科学的」と回答した研究者は約20%で、約70%が「非科学的」と回答している。日本に対しては約40%が「科学的」、25%が「非科学的」と回答している。日本は24カ国中17位、アジア5カ国中最低で、日本のコロナ対策の評価は低い。 この評価は日本のコロナ対策の実情を反映している。日本のメディアはあまり報じないが、日本は死者数、経済的ダメージともに大きい。下記の表は東アジア4カ国の人口10万人当たり死者数、GDPの前年同期比を示したものだ。直近の7~9月期の場合、死者数は0.5人、GDPはマイナス5.8%だ。いずれも東アジアで最低である。 7~9月期は、コロナが猛威を振るった欧州の多くの国より、経済ダメージは大きくなっている。10月28日現在、7~9月期の経済統計が公開されていないロシア・ポーランドを除く、人口3000万人以上の欧州5カ国で、日本より経済ダメージが大きいのはイギリスとスペインだけだ。ドイツに関しては、死者数も日本と変わりない。 日本のコロナ対策費の総額は約234兆円で、GDPの42%だ。これは主要先進7カ国で最高だ。ドイツとイタリアは30%台、イギリス、フランス、カナダが20%台、アメリカが15%台だ。日本のコロナ対策の費用対効果は極めて悪い』、「イギリスの『エコノミスト』誌は「政府のコロナ対策は科学的ですか」」を世界各国の約2万5000人の研究者に」アンケートした結果によれば、「日本は24カ国中17位、アジア5カ国中最低で、日本のコロナ対策の評価は低い」、にも拘らず、日本の主要マスコミは政府に忖度して無視したようだ。「日本のコロナ対策費の総額は約234兆円で、GDPの42%だ。これは主要先進7カ国で最高だ・・・日本のコロナ対策の費用対効果は極めて悪い」、その通りだ。
・『日本の検査体制はこのままでいいのか  何が問題か。主要なコロナ対策は、マスク、ソーシャル・ディスタンス、検査だ。 日本がマスク着用、ソーシャル・ディスタンスの点で優等生であることは改めて言うまでもない。問題は検査だ。厚労省の方針で、PCR検査数は、先進国最低のレベルに抑え込まれている。私は、この方針を貫けば第3波でさらに大きな被害を生じると考えている。 それは、第3波では、若年の無症状感染者の占める割合が高まっているからだ。彼らが職場や家庭、さらに「Go Toキャンペーン」などを介して、感染を拡大させている。 このことは世界も注目している。11月12日、アメリカのウォール・ストリート・ジャーナルは「新型コロナの症状観察、無症状感染者をほぼすべて見落とし=研究」という記事を掲載した。 この記事は、11月11日、アメリカの医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』オンライン版に掲載されたアメリカ海軍医学研究センターの臨床研究を紹介したものだ。 この研究の対象は、1848人の海兵隊員の新兵だ。彼らは、サウスカロライナ州のシタデル軍事大学に移動し、訓練を開始するにあたり、14日間の隔離下に置かれた。その際、到着後2日以内に1回、7日目、14日目に1回ずつ合計3回の検査を受けた。この結果、51人(3.4%)が検査陽性となった。 意外だったのは、51人すべてが定期検査で感染が確認され、46人は無症状だったことだ。残る5人も症状は軽微で、あらかじめ定められた検査を必要とするレベルには達していなかった。若年者は感染しても、無症状者が多く、有症状者を中心とした検査体制では、ほとんどの感染者を見落とす可能性が高いことを示唆している。 さらに、51人の検査陽性者のうち、35人は初回のPCR検査で陰性だった。多くは入所後に感染したのだろう。この事実は無症状の感染者を介して、集団内で感染が拡大したことを意味する。この研究は、これまでに実施された無症状者スクリーニングの世界最大の研究だ。信頼性は高い。だからこそ、世界最高峰の医学誌である『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』が掲載し、ウォール・ストリート・ジャーナルが紹介した。 日本でも、無症状感染者の存在は確認されている。10月15日、世田谷区は区内の17の介護施設の職員271人にPCR検査を実施したところ、2人(0.74%)が陽性だったと報告している。流行が拡大した現在、無症状感染者の数はさらに増加している可能性が高い』、確かに日本のように医者が患者を診断して感染の恐れがある者だけをPCR検査するのでは、「無症状感染者」が感染を広げている恐れが強い。
・『厚労省は無症状者への検査に消極的  ところが、厚労省は無症状の人に対する検査に消極的だ。7月16日、コロナ感染症対策分科会は「無症状の人を公費で検査しない」と取りまとめている。現在も、この方針を踏襲している。厚労省はさまざまな通知を濫発しているが、対応を抜本的に見直す気配はない。 飲食店やイベントでの感染リスクに対する考え方も変わってきた。コロナ対策の研究が進んだためだ。 特記すべきは、10月30日~11月1日の3日間、横浜スタジアムで実施された実証実験だ。プロ野球の横浜DeNAベイスターズの公式戦の収容人数を、現行の上限である50%から80%以上に段階的に増やしながら、人の流れや場所ごとの混雑状況、さらに感染拡大に与える影響を調べた。 11月12日に公表された速報によると、来場者は初日が1万6594人で収容率51%、2日目は2万4537人で76%、最終日は2万7850人で86%だった。この中には、少なからぬ無症状感染者がいたはずだ。 ところが、本稿を執筆している11月23日現在、クラスター発生は報告されていない。屋外での大規模イベントを安全に実施できたことになる。そもそも屋外で感染リスクが低いことに加え、声を出しての応援の禁止、マスク着用、人混みを回避しソーシャル・ディスタンスを維持するなど、対策がうまくいったのだろう。 感染リスクが高いとされる飲食店についても同様だ。マスコミ報道では「過去最多となる23人の感染が明らかになった愛媛県では、6人が松山市内のスナック2軒の従業員や客だった」「静岡県内でも飲食店関係者7人の感染を確認した沼津市内の接待を伴う飲食店について新たにクラスターとして認定した」(いずれも日本経済新聞2020年11月23日)などの記事が目立つが、第3波でクラスターの中味は変わってきている。 第2波までは飲食店、とくに接待を伴う飲食店が中心を占めたが、第3波では、医療機関、教育機関、介護施設などに多様化している。 この現象は、コロナ感染拡大を予防するための社会の合理的な反応を反映している。11月10日、アメリカ・スタンフォード大学の研究者たちがイギリスの『ネイチャー』誌に発表した研究が興味深い。 彼らは、人々の動きがコロナの拡大にどのように影響したかを調べるために、アメリカのセーフグラフ社が収集した携帯電話の位置データを用いて、第1波の3~4月の間に、アメリカの10の主要都市で、人々がレストラン、教会、ジムなどの施設をどの程度利用したかマッピングした。 そしてこの期間内に、この地域内で発生した感染の位置データ、感染者数のデータなどと照らし合わせたところ、このような施設の利用者が感染拡大に大きな影響を与えていたことが明らかとなった。彼らが作成したモデルは、感染者数の増加を正確に予測したという。 この事実は、8月、イギリスで”Eat Out to Help Out”というイギリス版「Go To Eat」キャンペーンを実施したところ、レストラン利用者が急増し、コロナの感染を最大で17%増やしたこととも一致する』、「第3波でクラスターの中味は変わってきている。 第2波までは飲食店、とくに接待を伴う飲食店が中心を占めたが、第3波では、医療機関、教育機関、介護施設などに多様化」、確かに「飲食店」叩きは一頃よりは収まったようだ。
・『飲食店でのクラスター発生の報告は少なくなった  ところが最近、状況は変わりつつある。ドイツの接触追跡データの分析によると、レストランは主要な感染源ではなかったし、日本の第3波の状況は前述のとおりだ。第1波で目立った居酒屋、カラオケ、屋形船のような飲食施設でのクラスター発生の報告は少なくなった。 これは飲食店の利用者が減ったからだろう。11月6日に公開された9月の家計調査によれば、2人以上の世帯において一般外食は前年同月比で25.2%減少している。飲食店、とくに接待を伴う飲食店の利用者が激減しているのだろう。 前出のスタンフォード大学の研究では、レストランなどの施設の利用者と感染者数は相関していた。彼らはレストランの利用が20%に制限されれば、感染者数は80%以上低下すると議論している。 日本でも、飲食店の利用者が大幅に減ったことで、このような施設を介したクラスターの発生が減った可能性が高い。飲食店の利用者が減ることで、隣の客との距離が広がり、飲食店内のソーシャル・ディスタンスが強化されるため、第3波では、飲食施設でのクラスター発生は抑制されるだろう。 これは、コロナ対策にとっては吉報だが、飲食店経営者にとってはたまらない。ただ、飲食店の利用者の減少は、コロナへの感染を危惧する人たちの自主的な反応だ。「Go Toキャンペーン」などの形で利用を促進しても、その効果は限定的だ。コロナの流行が拡大する北海道では、11月10日に販売を開始したGo To イートプレミアム付き食事券は、11月16日現在で発行済みの100万冊のうち、16万冊しか販売されていない。 飲食店の利用者を増やすには、「安全」であることを示さねばならない。理想的には、コロナの流行を抑制することだが、次善の策としては、検査で陰性の客だけ利用できるように配慮してはどうだろう。精度のいい簡易検査を開発し、入店前にチェックすることも考えられる。その費用を公費で負担すればいい』、「日本でも、飲食店の利用者が大幅に減ったことで、このような施設を介したクラスターの発生が減った可能性が高い」、なるほど。
・『医療機関や介護施設の院内感染対策が肝  では、第3波で最重視しなければならない点は何だろうか。私は医療機関や介護施設の院内感染対策と考える。11月16日、虎の門病院(東京都港区)は、職員や患者11人が集団感染したと公表した。血液内科病棟で死亡者も出ている。11月20日には、アメリカのメイヨークリニックで、900人の集団感染があったことが明らかとなった。 いずれも日米を代表する巨大病院だ。最高レベルのスタッフと医療設備を備えている。感染対策も最高レベルだ。それでも院内感染を防げなかった。 私が注目するのは、個人経営のクリニックより、このような大病院で集団感染が発生していることだ。両者の違いは職員数だ。個人クリニックの職員は多くて10人程度だが、大病院の職員は1000人を超える。アメリカ海兵隊の研究で示されたように、この中には少なからぬ無症状感染者がいるはずだ。 このような医療機関では、マスクや防護具は使用しているだろうが、病床はいつも満床だろう。飲食店で利用者が減ることで、はからずも「ソーシャル・ディスタンス」が強化されたようなことは期待できない。無症状感染の職員がいれば、院内感染へと発展するリスクが高い。 コロナ対策でやれるとすれば、感染地域の病院職員に対して、定期的にPCR検査を実施することだ。まさに、アメリカ海兵隊が試みようとしていることだ。) 病院職員はコロナが流行するなかでも、働いて社会に貢献しているエッセンシャル・ワーカーだ。PCR検査の費用は公費負担の先進国が多い。このようなエッセンシャル・ワーカーには病院職員だけでなく、介護職員、公務員、警察官、保育士などが含まれることが多い。 ところが、日本では感染症法で公費負担が保障されているのは、感染者と濃厚接触者だけだ。厚労省は通知による拡大解釈で、コロナ流行地域の病院職員のPCR検査を行政検査として、公費を支出するとしているが、はたして、虎の門病院では検査を実施していたのだろうか。私の知る限り、コロナが大流行している都内の医療機関で、無症状の病院職員に対して、公費で定期的にPCR検査をしているところはない』、確かに「エッセンシャル・ワーカー」には「公費負担」で「PCR検査」すべきだ。厚労省はいつまでPCR検査の入り口を狭めておくのだろう。
・『日本中で院内感染が蔓延する?  厚労省の意向と現場の実情に乖離が存在する。コロナ対策における喫緊の課題だ。解決するには、感染症法を改正し、検査対象を拡充するしかない。ところが、厚労省には、そのつもりはなさそうだ。臨時国会で感染症法改正は議論されず、来年の通常国会でも「県と保健所設置市の情報共有等」について改正されるだけだ。これでは、日本中で院内感染が蔓延するのは避けられそうにない。このまま無策を貫けば、介護施設などでも同様の事態に陥るだろう。 コロナ第3波対策の肝は、無症状感染者を早期診断し、隔離することだ。 世界各国は試行錯誤を繰り返し、その結果を学術論文として発表している。日本に求められるのは、海外から学び、合理的な対応をとることだ。 非合理的な「我慢」を国民に強いるのは現実的ではない。毎日新聞11月19日朝刊には「密閉防止でやむない寒さ」という55才男性からの寄稿が掲載されたが、これははたして、どの程度科学的な根拠があるのだろうか。理性的で合理的な議論が必要だ』、いつもながら「上 氏」の主張には説得力が溢れている。厚労省の医療技官の反論を聞きたいものだ。

第三に、11月26日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した立教大学大学院特任教授・慶應義塾大学名誉教授の金子 勝氏による「コロナ第3波とGo To見直しは「失政」の当然の帰結」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/255322
・『東京などの首都圏や大阪、北海道など、全国の新型コロナウイルスの感染拡大が過去最多を更新するなかで、政府はGo Toトラベルの新規予約停止など、「Go To」事業の見直しに追い込まれた。 感染拡大防止と経済社会活動の両立を言いながら、実際は総選挙を意識して経済回復を最優先する菅新政権の戦略は早くも頓挫した形だが、予想されたことだ』、「「Go To」事業の見直し」は、前述のように極めて小幅に止まったようだ。
・『検査や隔離などの対策なおざり 検査数は世界で下位のまま  新型コロナの感染「第3波」は、起こるべくして起きている。徹底してPCR検査を行い、隔離し、追跡し、治療するという基本的な対策をずっとなおざりにしてきたからだ。 検査の徹底を言いながら「37.5度の発熱4日間」といった条件をつけ、外国のように自動化やプール方式でも遅れ、ドライブスルーなどでもできる体制には程遠い。 人口100万人当たりの検査数は世界の219の国と地域の中で、日本は150位前後と低いままで、100万人当たりの死亡率は15人と、感染を比較的に抑え込んでいる中国、韓国、台湾などの東アジア諸国の中でも突出して高くなっている。 検査などがなおざりにされているから、ウイルスが変異するたびに、周期的な感染拡大の波が押し寄せてくる。 徹底検査をしなければ、無症状者を見逃し、そこから感染が拡大するからだ。外出や営業などの自粛で陽性者数が一時的に減っても、自粛によって無症状のまま街中に感染者が潜ることにもなり、経済活動を再開すると感染者数が一気に拡大することになる。 政府は「ウィズ・コロナ」あるいは「新しい生活様式」を掲げてきたが、結局は、自粛か経済活動か、というジレンマに陥ってしまう』、「ウィズ・コロナ」というからには、「徹底検査」のような対抗措置が不可欠だった筈だ。
・『感染防止との「両立」言いながら「Go To」にこだわった首相  菅首相は「感染拡大の防止と社会経済活動の両立に全力で取り組む」と言ってきたが、実際はGo Toキャンペーンをはじめ経済活動を再開することに重点を置いてきた。 「Go To」事業には、医療の専門家だけでなく少なからずの人が感染を拡大させる懸念を指摘してきたが、安倍政権の官房長官時代から自身が旗を振ってきた政策だったこともあり聞く耳を持たなかった。 外食や旅行などの「自粛」で経済的に厳しい状況に追い込まれている事業者の苦境を救う対策は考えるべきだが、徹底した感染防止対策が行われないと、自粛と感染拡大がいたちごっこのようになる。 トランプ前米大統領をはじめボリス・ジョンソン英首相、ブラジルのボルソナーロ大統領らは皆そうした方針をとって、結局、政策が破綻した』、「菅首相」がコロナ抑制に失敗した海外の有力政治家と並ばせられているのを知ったら、どんな顔をするだろうか。
・『巨額の財政赤字で支える限界 ますます異常になる金融緩和  これまで政府が行ってきたコロナ対策は、検査や医療体制の拡充といった抜本対策よりも財政支出や金融政策で需要を支えることに重きが置かれていた。 「Go To」事業のように自らが感染拡大を引き起こしながら、財政で給付金などをばらまいて「救済」する、マッチポンプのような詐欺商法に似ている。 その結果、財政支出も膨らむばかりだ。売り上げが急減した事業者への持続化給付金や雇用調整助成金の拡充など必要なものもあるが、財政でずっと支えるのには限度がある。 当初予算の歳出が約102.6兆円の大規模な2020年度予算は、コロナによって2次にわたる補正予算が追加され結局、歳出規模は約160兆円の巨額に達している。そのうえに12月には「30兆円規模」の第3次補正予算を編成するという。 補正予算の財源は全て国債発行で調達され、日本の政府債務残高はGDPの2倍を超えた。先進国では突出しており、高齢化などによる社会保障費の膨張もあって、財政はすでに危機的な状況だ。 金融政策も異常な状況だ。日銀は8年近くも国債買い入れによる金融緩和策を続けてきた。だが「2%物価目標」はいまだ実現できていないだけでなく、国債買い入れは事実上の財政ファイナンスのようになり、財政規律をゆがめることになっている。 このところは「年間80兆円」という国債買い入れ額を達成できなくなり、2017年は約30兆円、2018年は約29兆円、2019年には約14兆円弱まで国債購入額は落ちている。 コロナ対策では、2次にわたる補正予算の際に、政府は銀行、地方銀行、信用金庫を通じて実質無利子・無担保の貸し付けをさせる企業金融支援を決めたが、日銀は、金融機関の持つ企業や個人に対する民間債務を担保にしてこれら金融機関に対してゼロ金利の貸付金を大量に供給し始めている。 これは、マイナス金利で経営が苦しくなっていた地方銀行や信用金庫の収益支援策でもあるが、一方で地銀などの企業債務や家計債務を日銀に付け替える政策でもある。 実際、その金額は58兆円以上に及び、2020年11月段階の貸付残高は約107兆円まで達している。 全ての金融機関の貸し出しが増えているが、とくに経営的に苦しい第二地銀は3月には貸し出しが前年比で5%以上も減っていたが、4月以降には貸し出しが増加し続け、10月には6.9%も伸びている。同じように、3月前までに貸し出しの伸び率が1%と低迷していた信金も、10月には8.0%も増加している。 こうした日銀の資金供給で、11月17日には株価も一時2万6000円台に到達した。さらに今年5月に8割以上も落ち込んだ首都圏マンションの販売も、7月以降にはほぼ前年水準を上回っている。 コロナ禍でいびつなバブルが起きている状況だといってよい。 だがバブルが崩壊すれば、第二地銀や信金が破綻する危険性は高まる。2020年9月の中間決算でも地銀77行中の49行の決算が赤字か減益を記録した。 仮にこうした金融機関が破綻するとなれば、民間債務担保を日銀に付け替えているので、日銀自体のバランスシートが棄損される可能性がある。) こうした事態を避けようと、菅政権は地方銀行や中小企業の再編統合を進める方針を打ち出し、日銀は経営合理化や統合をする地銀などに、その当座預金に0.1%の付利を与える「補助」を出す新制度を始めるという。 異常な金融緩和が地銀を破綻に追い込んでいき、そのリスクを「回避」するために、さらに日銀から隠れた補助金を支給する。まるでマッチポンプのような「救済」策。 日銀は国債やETF(指数連動型上場株式投信)、社債、CP(コマーシャルペーパー)の買い入れを次々と拡大してきた。その資産は700兆円近くに上り、名目GDPの1.37倍に達している。 だが国債やETFは売るに売れず、一方で株価などが下落すれば買い増しせざるを得ないという“出口のないねずみ講”に陥っている。そのうえに、地域金融機関のリスク管理の弱い貸付債権まで抱えて、過剰な流動性を供給し、バブルを起こしているといってよい』、「国債買い入れは事実上の財政ファイナンスのようになり、財政規律をゆがめることになっている」、放漫財政に対するブレーキ役を働かなくした黒田総裁の責任は重大だ。
・『コロナ感染拡大が続く限り実体経済の悪化は続く  こうして見ると、菅政権の経済政策の本質が見えてくる。 来年秋には衆議院議員の任期満了になり、少なくとも1年以内に総選挙が行われる。それを意識して、なんとかバブルを持たせようということのようだ。 Go To事業の継続や東京オリンピック・パラリンピックの開催にこだわるのも、経済優先で景気を回復させることが政権維持に直結すると考えているからだろう。 無観客だと米国のテレビは放映料を支払わないとしているために、IOCも東京オリンピックの開催に固執している。オリンピックが中止になれば、五輪利権が損なわれ、菅政権にとってもバブル崩壊をもたらすきっかけになるからだ。 だが前述したように、無症状者への徹底検査を怠って、「ウィズ・コロナ」や「新しい生活様式」といった政策をとる限り、感染拡大が続き、結局、経済の回復も遅れる。 企業収益の悪化と倒産・休廃業は止まらず、雇用削減も続く危険性が高い。 つまり、菅政権が「異常」な金融緩和でバブル経済を持たせようとしても、コロナ禍が続く限り、企業収益と雇用という実体経済の悪化が続かざるを得ないのだ。 そして企業や個人への融資の焦げ付きが生じれば、日銀信用まで著しく傷つけてしまう。 最悪の場合、日銀のバランスシートが痛み自己資本の毀損(きそん)となれば資本注入という事態になって、それは国民の負担になる。他方で、円への信認が崩れ、財政不安と増幅する形で円安が加速すれば、超インフレになり、これも結局は国民の負担増ということになる』、「菅政権が「異常」な金融緩和でバブル経済を持たせようとしても、コロナ禍が続く限り、企業収益と雇用という実体経済の悪化が続かざるを得ないのだ。 そして企業や個人への融資の焦げ付きが生じれば、日銀信用まで著しく傷つけてしまう。 最悪の場合、日銀のバランスシートが痛み自己資本の毀損(きそん)となれば資本注入という事態になって、それは国民の負担になる」、「円への信認が崩れ、財政不安と増幅する形で円安が加速すれば、超インフレになり、これも結局は国民の負担増」、最悪のシナリオも覚悟しておくべきだろう。
・『将来の経済ビジョン見えずスカスカの産業政策  本来、コロナ禍から経済を立ち直らせ再び成長軌道に乗せるためには、感染拡大防止を第一義に考えながら、将来の日本経済をけん引する新産業をどう育てるかにかかっている。 だが菅政権が打ち出した経済の目玉政策の特徴は、極めて視野が狭いことにある。 菅首相は7年半にわたって官房長官として安倍政権を裏方で支えてきたが、その間は、森友・加計問題や桜を見る会などの収拾に終始し、多くの国民を説得する将来の社会や経済のビジョンを立てる能力が磨かれてきたとは言い難い。 実際、首相の口からは、人口減少や高齢化が進むなかで日本や日本経済の将来展望が具体的に語られることはない。日本の産業衰退の原因を指摘し、どのような具体的な立て直し策が必要かを語ることが求められているのだが、それはなされない。 菅首相は、総務相の時に「ふるさと納税」創設で「剛腕」をふるったが、本格的な閣僚経験は総務相以外にないゆえに、出てくる政策はほとんど総務省案件が目立っている。 就任早々に打ち出した携帯料金の引き下げやデジタル庁設置などは将来を見据えた産業戦略とは言い難いし、地方銀行や中小企業の統合再編促進という方針にしても何か新しい産業革新をもたらすとは考えにくい。 総務省案件である携帯料金の引き下げについては、時を合わせたかのように、NTTがNTTドコモを完全子会社化した。ライバルの携帯他社に比べてシェアや収益で差をつけられているのを、再びNTTグループに統合することで巻き返しを図ろうということのようだ。 しかし、NTTは財務省が33.93%の株主であることを考えると、NTTドコモを完全「国有化」することによって、政府の命令で携帯料金を引き下げ、ドコモのシェアを上げることになる。だがこれは菅政権が他方で打ち出している規制緩和政策と根本的に矛盾する。 結局、携帯料金の引き下げは、NTTが携帯各社が使っている送信網の利用料金を引き下げ、格安スマホの料金だけが引き下げられるという看板倒れに終わりそうだ。 「デジタル庁」の設立も、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)にはまったく太刀打ちできなくなっている日本の情報通信産業を立て直す方策は見えない。 マイナンバー(社会保障や税に関する個人番号制度)の普及促進が前面に出て、個人情報保護などのセキュリティーは不十分なまま省庁の縦割り打破が最優先の目的かのように何でも詰め込もうとしている印象が否めない。 日本経済の立て直しに本当に必要なのは、米国や中国企業が開発や実用化にしのぎをけずるクラウド・コンピューティングや5Gでもはるかに後ろに置かれている日本の情報通信産業の競争力強化や、エネルギー革命に対応し再生可能エネルギー普及のために小規模電力をIoTで調整するスマートグリッドの開発などだ。 東京オリンピックの開催によって総選挙までは経済を持たせることができても、オリンピックが終われば、株価や不動産バブルを生み出すネタもなくなる。その時、コロナ感染防止の不徹底と産業衰退の深刻さが改めて露呈することになるだろう』、いよいよ経済オンチの「菅首相」の馬脚が表れてくるかも知れない。
タグ:東洋経済オンライン パンデミック ウォール・ストリート・ジャーナル 小幡 績 ダイヤモンド・オンライン Newsweek日本版 上 昌広 金子 勝 (経済社会的視点) (その10)(GoToは全廃が筋、コロナ第3波「日本に決定的に足りてない対策」 無症状者への検査と院内感染への備えは不十分、コロナ第3波とGo To見直しは「失政」の当然の帰結) 「GoToは全廃が筋」 国の新規感染者は遂に2500人を超えた。今こそ、もともと 間違っていたGoTo政策をやめて病院や保健所の充実に金を使うべきだ 「GoTo」は菅首相が官房長官時代に取組んだ案件 政権の後ろ盾である二階幹事長も全国旅行業協会の会長であることもあって、札幌や大阪発の「GoTo」トラベルを一時中止する程度でお茶を濁そうとしているようだ 奪われる教育機会や治療機会 地味な高齢の常連さんで細々やっていたところは、何をしようがあまり変わらない。人々の感情的には、そういう店こそ助けたいのだが、そこにGoToは関係ない。あざといサイトとチェーン店とさらにあざとい客が税金の恩恵を受けているだけだ そもそもが間違いだった このままでは東京都や大阪市での医療崩壊は時間の問題になって、年明けの解散・総選挙どころではんsくなる筈だ 「コロナ第3波「日本に決定的に足りてない対策」 無症状者への検査と院内感染への備えは不十分」 日本のコロナ対策は科学的か? イギリスの『エコノミスト』誌は「政府のコロナ対策は科学的ですか」」を世界各国の約2万5000人の研究者に」アンケートした結果によれば、「日本は24カ国中17位、アジア5カ国中最低で、日本のコロナ対策の評価は低い」 にも拘らず、日本の主要マスコミは政府に忖度して無視 日本のコロナ対策費の総額は約234兆円で、GDPの42%だ。これは主要先進7カ国で最高だ 日本のコロナ対策の費用対効果は極めて悪い 日本の検査体制はこのままでいいのか 「新型コロナの症状観察、無症状感染者をほぼすべて見落とし=研究」 アメリカの医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』オンライン版に掲載されたアメリカ海軍医学研究センターの臨床研究を紹介 若年者は感染しても、無症状者が多く、有症状者を中心とした検査体制では、ほとんどの感染者を見落とす可能性が高いことを示唆 日本のように医者が患者を診断して感染の恐れがある者だけをPCR検査するのでは、「無症状感染者」が感染を広げている恐れが強い 厚労省は無症状者への検査に消極的 アメリカ・スタンフォード大学の研究者たちがイギリスの『ネイチャー』誌に発表した研究 レストラン、教会、ジムなどの施設をどの程度利用したかマッピング このような施設の利用者が感染拡大に大きな影響を与えていたことが明らかとなった 第3波でクラスターの中味は変わってきている。 第2波までは飲食店、とくに接待を伴う飲食店が中心を占めたが、第3波では、医療機関、教育機関、介護施設などに多様化 飲食店でのクラスター発生の報告は少なくなった 医療機関や介護施設の院内感染対策が肝 確かに「エッセンシャル・ワーカー」には「公費負担」で「PCR検査」すべきだ。厚労省はいつまでPCR検査の入り口を狭めておくのだろう 日本中で院内感染が蔓延する? 「上 氏」の主張には説得力 コロナ第3波とGo To見直しは「失政」の当然の帰結 検査や隔離などの対策なおざり 検査数は世界で下位のまま 「ウィズ・コロナ」というからには、「徹底検査」のような対抗措置が不可欠だった筈だ 感染防止との「両立」言いながら「Go To」にこだわった首相 「菅首相」がコロナ抑制に失敗した海外の有力政治家と並ばせられているのを知ったら、どんな顔をするだろうか 巨額の財政赤字で支える限界 ますます異常になる金融緩和 「国債買い入れは事実上の財政ファイナンスのようになり、財政規律をゆがめることになっている」、放漫財政に対するブレーキ役を働かなくした黒田総裁の責任は重大 コロナ感染拡大が続く限り実体経済の悪化は続く 「円への信認が崩れ、財政不安と増幅する形で円安が加速すれば、超インフレになり、これも結局は国民の負担増」、最悪のシナリオも覚悟しておくべきだろう 将来の経済ビジョン見えずスカスカの産業政策 いよいよ経済オンチの「菅首相」の馬脚が表れてくるかも知れない
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ハラスメント(その16)(「胸が大きいだけの萌えキャラ」がセクハラ認定された本当の理由 宇崎ちゃん×日赤コラボが示す教訓、テレワークで増加する「無自覚パワハラ」の惨劇 企業に対策義務付け、告発の標的となる管理職) [社会]

ハラスメントについては、7月20日に取上げた。今日は、(その16)(「胸が大きいだけの萌えキャラ」がセクハラ認定された本当の理由 宇崎ちゃん×日赤コラボが示す教訓、テレワークで増加する「無自覚パワハラ」の惨劇 企業に対策義務付け、告発の標的となる管理職)である。

先ずは、7月27日付けPRESIDENT Onlineが掲載した東京大学教授の瀬地山 角氏による「「胸が大きいだけの萌えキャラ」がセクハラ認定された本当の理由 宇崎ちゃん×日赤コラボが示す教訓」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/37182
・『日本赤十字社が漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』を起用した2019年のポスターは、一部から「セクハラ」と批判され、第2弾では図案が大きく変更された。東京大学教授の瀬地山角氏は「性的なものが必ずしも女性蔑視になるわけではないが、PRする対象と場所によってはセクハラにもなり得る」と指摘する――』、興味深そうだ。
・『見かけなくなったキャンペーンガール  日本では水着のグラビアやヌード写真などが掲載された男性誌やスポーツ新聞を、駅の売店でふつうに購入することができます。ですがこれが許容されるのは、世界的に珍しいことだと考えるべきだと思います。アメリカなら怪しげな特別な店に行かないと手に入れることはできません。2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックを前に、大手コンビニチェーンは成人向け雑誌の販売を原則中止しましたが、今後こうした流れは広がっていくでしょう。 かつては化粧品メーカー、飲料メーカーなどさまざまな企業が、水着キャンペーンガールを自社の宣伝やPRに起用していました。大手繊維メーカーのキャンペーンガールは、モデルや女優の登竜門ともいわれ、毎年話題になってきました。しかしある時期から、キャンペーンガールという宣伝方法そのものをやめる企業や、水着の着用をことさらアピールしない企業も多くなっているようです。 水着の女性の写真やポスターは昔から性的な存在として流通していました。そして、社会に幅を利かせていたおじさん層のおかげで、ふつうにあるものとして許されていたわけです。しかし、水着の女性を取り上げる雑誌は読者とともに年をとり、新しい雑誌も生まれてこなくなりました。ネットという新たな場ができたわけですが、そこでは雑誌だったら起きなかった問題──「見たくない人は見なければいい」というルールが通用しなくなるという問題を抱えることになります。受け手もメディアも変わり、情報の均衡点が変わったわけです』、「見かけなくなったキャンペーンガール」、男の私としては、なんとなく寂しく思うが、時代の流れなのだろう。
・『炎上した日本赤十字社の献血ポスター  日本赤十字社は若い世代へ献血を募るために、漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』とコラボをし、献血協力者に主人公の女性「宇崎ちゃん」をデザインしたクリアファイルを配布するというキャンペーンを展開します。 発端は2019年10月14日、アメリカ人男性が東京・新宿東口駅前の献血ルーム前に掲示されていたキャンペーンポスターを見て、ツイッターで問題提起。2日後、それを引用する形で太田啓子が「日本赤十字社が『宇崎ちゃんは遊びたい』×献血コラボキャンペーンということでこういうポスターを貼ってるようですが、本当に無神経だと思います。なんであえてこういうイラストなのか、もう麻痺してるんでしょうけど公共空間で環境型セクハラしてるようなものですよ」とツイートし、大きな炎上案件に』、何故、あの「日本赤十字社」が巻き込まれたのだろう。第一義的には、PRを受託した広告代理店の責任だろう。
・『性的表現=女性蔑視なのか  まず、議論の出発点で確認しておきたいのは、性的であることが必ずしも女性蔑視であるとは限らないということです。自ら性的なメッセージを発したい、もしくはセックスワークに従事したいと考える女性もいて、それが自由な意思に基づいていれば、それ自体が否定されることではありません。個人が性的である、性的情報を発信する主体となる自由は守られるべきです。当然ですが、そこに強制がないことが前提です。 次に何をもって「わいせつである」「性的である」といえるのでしょうか。ここには刑法175条のわいせつ物頒布等の罪をめぐるポリティクスと、セクシュアルハラスメントの一類型である環境型セクハラが関係しています。 まずわいせつ物頒布等の罪における、「わいせつ」という概念について見てみましょう。これは時代によって大きく変わっていくものです。イギリスの小説『チャタレイ夫人の恋人』の日本語訳本がわいせつ文書かどうかで争われたのは1950年。マルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』の裁判が起きたのは1959年。さほど大昔のことではなく、日本では戦後になってもつい数十年前までは、文字で書かれた性的表現でもわいせつとされ、認められないケースがあったのです』、確かに世間の受け止めは大きく変化したようだ。
・『ロリコン嗜好を犯罪視することはできない  しかし現在ではおそらく、文字作品を「わいせつ物」として立件するのは不可能でしょう。現時点では、映像で性器が映ったら「わいせつ」というルールになっているわけですが、これまた変わったルールです。性器を映さないためにモザイクという処理がされています。このモザイクはアジアには若干ありますが、欧米にはない特殊なルールです。これによってコンドームの装着がきちんと描かれないといった問題点もあり、性器が見えるかどうかに議論が集中することはおかしいと私は考えます。 児童ポルノについては、そこに子どもが映っていたら明確な犯罪です。被害者が存在するわけですから。しかしその意味で逆に、いわゆるロリコン漫画は犯罪にはできません。オタクとかロリコン層をわざわざ礼讃する必要はもちろんありませんが、性的嗜好自体を犯罪視することは、決してやってはならず、犯罪が起きた時点で処罰すべきことです。小児性愛という欲望自体を処罰の対象とするのではなく、実写でないものに留めている限り犯罪にすべきではないと私は考えます。行為に及んだときに犯罪とするということを守らないと、人のファンタジーまで犯罪にすることになるからです』、ただ、ロリコン趣味の人間が小学校などの運動会で写真や動画を撮りまくるのも困ったことだ。
・『公共での性的表現はどの程度許される?  2002年に成人向け漫画がわいせつ物にあたるとして訴えられ、有罪となった「松文館裁判」がありますが、この場合は漫画が「写実的」であることが問題とされました。写真と同じ扱いにされたわけです。ただ写真ではない二次元のものを犯罪にするのはかなり難しいはずです。なぜなら、被写体となる被害者が存在せず、保護法益(その罰則によって守られるもの)が「公序良俗(公共の秩序善良の風俗)」しかないからです。保護法益が公序良俗しかないのなら、基本的には発行そのものを禁止するのではなく、ゾーニングによって見たくない人が見ずにすむように、棲み分けをはかるべきだと考えます。 棲み分けるとなると、発信を禁止しない代わりに、公共の空間での性的情報は、発信する自由よりも、不快だと思う人の感覚を優先すべきだということになります。したがってさまざまな人の目にとまる電車の中で、雑誌広告に水着の写真を使うのはやめるべきでしょう。 いいかえればこれは日本の公共空間における性の露出を、どの程度許すのかという問題になります。駅の売店で売っているスポーツ新聞や週刊誌の性表現は、そうした観点から見たときに、明らかに度が過ぎるといわざるをえません。働く女性が増え通勤の場での女性のプレゼンスが高まったことも踏まえ、公共空間のルールや均衡点を変えていく必要があります。おじさんたちばかりの空間だったから許されたものが、「環境型セクハラ」と呼ばれるようになるのです』、「環境型セクハラ」とは言い得て妙だ。
・『「宇崎ちゃん」ポスターは何が問題だったのか  セクハラは通常「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」の2つに分類されます。前者はたとえば「昇進させてやるから」もしくは逆に「いうことを聞かないとクビだ」といった対価を用いてハラスメントをするケース。これに対し後者、「環境型セクハラ」はたとえば職場にビキニの水着のポスターを貼ることのように、職場で性的メッセージの強いものを人の目に触れるようなところに出す行為です。 後者は厳密には女性差別とは別のものです。性的メッセージを特定の空間でどの程度許容するのかという線引きに関わる問題だからです。不快に感じるのが多くの場合女性なので、重なって見えることになりますが、論理は異なります。女性が職場に男性のセミヌードのポスターを貼ったら、やはり環境型セクハラとなる可能性があります。 そうしたことを踏まえ太田啓子は、公共空間で性的なメッセージが強く出ている『宇崎ちゃんは遊びたい!』の献血ポスターについて、「公共空間で環境型セクハラしてるようなもの」と批判したわけです。親戚に高校生の女の子がいたので聞いたのですが、高校生などの間で献血はノベルティをもらうためのもので、それを目当てに連れ立って行くことがよくあるのだそうです。あの『宇崎ちゃんは遊びたい!』を使った献血の募集は、同人誌を販売する日本有数の大規模イベント、コミックマーケット(通称コミケ)では効果があったとのことで、その意味ではうまく機能したのでしょう』、「コミックマーケット」で「効果があった」、というのは一般の大衆がいる駅のような環境とは全く別だ。
・『老若男女がいる場に持ち込んだ失敗  そういった背景を考えると、批判を浴びたときに日本赤十字が出した「今回のキャンペーンも献血にご協力いただけるファンの方を対象として実施させていただきました。なお、今回のキャンペーンはノベルティの配布を目的としており、ポスターなどによる一般の方へのPRを目的にしたものではありません」というコメントは大変正直なもので、現場としてはその通りだったのだろうと思います。 ところがそれを新宿の駅でやってしまった。この献血センターは新宿の地下街にあり、私も何度も通ったことがある場所です。そこにいきなりあの胸が強調された「宇崎ちゃん」が出てきたら、「環境型セクハラだ」という意見が出るのは少なくとも理解はできます。若いオタク系の人がたくさん集まるコミケなら効果的な広告なのでしょうが、老若男女が通る新宿の地下街に持ってきてしまうのは、さすがにゾーニングとして失敗です。日本社会がゾーニングに甘いことも一因だろうと思われます。 その意味でも、最初のきっかけとなったツイートがアメリカ人の男性からのものだったことは、とてもよく理解できます。アメリカの感覚なら、あの空間にあの性的なメッセージを持つものが出てくるのは、かなり違和感があるはずです。アメリカには性器にモザイクをかけるという規制はありませんが、そうしたものは特定の場所で消費されるもので、公共の空間での性的表現は、日本に比べるとかなり抑制的です。そのため見た瞬間に「いかがなものか」という疑問がわいたのでしょう。しかもそれを民間企業ではなく、公共性の高い日本赤十字社がやってしまった。不買運動もできませんから、反発だけが膨らみます』、「最初のきっかけとなったツイートがアメリカ人の男性からのものだった」、日本人の男性には慣れっこになってしまっていたのかも知れない。
・『「胸がどれ程強調されているか」線引きは難しい  男性向けの性的な商品を不快に感じる女性がたくさんいることは事実で、その人たちが不快に感じないようにするしくみが必要なのですが、それはそうした表現が「女性差別」かどうかということとは、無関係ではないですが、同じではありません。さしあたりは別です。ここで問題なのは表現の内容ではなく、その性描写をどの範囲までオープンにするかが問われており、まさにゾーニングの問題です。そしてそのゾーニングの間違いという意味で「環境型セクハラしてるようなもの」と批判されてしまうのだと思います。 日本赤十字社は宇崎ちゃんとのコラボキャンペーンの第2弾を打ち出し、クリアファイルを胸をあまり強調しないものにしました。これに対し批判の急先鋒だった太田啓子もツイッターで「いい方向になったんだな、赤十字社がはじめからこういう企画でやっていたらよかったですね」とコメント。矛を収めることとなりました。 ただ胸の強調がなくなったわけではなく、逆に私はこれならいいのか、と疑問が残ってしまいました。日本赤十字社を批判したいのではなく、胸の強調がどの程度だったら許されるのかの線引きを、私もはっきりと示すことができないのです。これはマニュアル化できるはずもなく、やはり不愉快に思う人がいることを想定しつつ線を引いていくしかないのでしょう。その均衡点は時代とともに変わっていくのですが』、「環境型セクハラ」に気を付けなくてはならなくなったとは、大変な時代になったものだ。

次に、9月25日付け東洋経済オンラインが掲載した近畿大学教授・ジャーナリストの奥田 祥子氏による「テレワークで増加する「無自覚パワハラ」の惨劇 企業に対策義務付け、告発の標的となる管理職」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/377276
・『今年6月から、パワーハラスメント(パワハラ)防止対策が大企業に義務付けられていることを知っている人はどれだけいるだろうか。この通称「パワハラ防止法」に呼応するかのように、コロナ禍でのテレワーク導入を背景とした、従来にはなかった新種のパワハラが増えている。 加害者として告発される管理職は、無自覚で行為に及んでいる場合も少なくない。管理職は突然訴えられることがないよう、日々のマネジメント業務を遂行しながら、どのような点に気をつければいいのか。取材事例を通して考えたい』、「加害者として告発される管理職は、無自覚で行為に及んでいる場合も少なくない」、恐ろしいことだが、もう少し具体的にはどういうことなのだろう。
・『メール指導が「無自覚パワハラ」に拍車  「異動してきて間もない若手のことを気遣って、手取り足取り指導してきたのに……。それがパワハラだなんて、まったく納得いきません。恩を仇で返されたようなもんですよ」 20歳代後半の男性部下からパワハラを受けたとして訴えられた、大手メーカー勤務の佐々木誠さん(仮名、44)は、無念さをにじませながらこう心境を語った。 営業部次長だった佐々木さんは、かつて上司から「仕事が取れないなら、辞めてしまえ」などと厳しく鍛えられて成長できたと考えている。だが、昔ながらの‟鬼上司”が、本人いわく「打たれ弱い」若い世代に通用するとは思っていなかった。パワハラには、注意を払っていたつもりだったという。足をすくわれたのは、コロナ禍の緊急事態宣言に伴う外出自粛で在宅勤務となっている最中、メールを用いてたびたび行ったある指導だった。 「期待しているのだから、もっと頑張るように」「この間紹介した〇〇社の〇〇さん、会えなくても頻繁に連絡して懐に入るんだ」──。勤務時間外の夜や週末にもメールを送り、長時間労働を強いる結果となった。これがパワハラと認定され、譴責(けんせき)の懲戒処分を受ける。しばらく後、部下のいない総務部の専任部次長に。実質的な降格人事だった。 「メールで指導していると、部下はこうあるべきという思いがエスカレートして歯止めが利かず、感情をぶつけてしまっていた」 テレワークが招いた惨劇を悔やむ。) 6月に大企業を対象に施行された(中小企業は2022年4月施行)改正労働施策総合推進法(通称「パワハラ防止法」)では、パワハラとは職場において「優越的な関係を背景とした言動」で、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」により、「労働者の就業環境が害される」ことと定義づけされている。 だが、業務命令など「業務上必要かつ相当な範囲」と、それを超えたパワハラとの境界線は曖昧でグレーゾーンは広い。その一方で、「優越的な関係」を背景にした行為であることは明確なため、管理職にとっては厄介だ。 パワハラは年々増加の一途をたどり、都道府県労働局などに寄せられた個別労働紛争相談のうち、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は、2019年度は8万7570件と8年連続トップ。2009年度(3万5759件)に比べ2.4倍に増えている。 認識せずに行為に及ぶ‟無自覚パワハラ”も、相当数含まれていると考えられる。‟無自覚パワハラ”は、相手の気持ちを読み取りにくく、体面では抑えていた感情を表に出してしまいがちなメールなどICT(情報通信技術)を活用したテレワークが、拍車をかけているといえるだろう』、「佐々木さん」のケースは組織としてもっと早目に気付いて、対策を打てれば、被害は小さくて済んだと思う。
・『テレワーク下の働き方改革の誤算  働き方改革がパワハラを招くケースもある。業務効率化など仕事量を減らす対策をとらず、上司が部下に「残業するな」と強いるのはいわゆる‟ジタハラ”(時短ハラスメント)として、管理職にもある程度の認識はあるだろう。これがコロナ禍では、業務の効率化が期待されるICT活用により、逆に仕事を抱え込ませるという誤算も生じている。 中小の食品卸業で営業部長を務めていた森健太郎さん(仮名、51)は、コロナ前から出先や移動中にパソコンなどを使って業務を行うモバイルワークを積極導入し、「残業ゼロ」を目指した業務効率化を進めてきた。 ところがコロナ禍の在宅勤務で、部内のコミュニケーションと情報共有が滞り、事業仕分けでなくしたはずの業務に取り掛かる部員や、ほかの部員がすでに着手しているとは知らず同じ業務を複数の部員で行うなど現場が混乱。当然、部員たちの労働時間はみるみるうちに増えていった。 森さんが気づいたときには、大量の仕事を抱え込んだ30歳代前半の男性が「うつ病」の診断書を提出して休職。1カ月半後、職場復帰の直前、この部下からパワハラ告発を受けた。 「働き方改革は、メールやオンライン会議では伝わりにくい微妙なニュアンスを対面でのコミュニケーションでカバーしてこそ、うまくいくことを思い知らされました」 パワハラとは認められなかったものの、マネジメント力不足と部下のうつ病による休職が問題視され、顛末書を書かされた。「近いうちに左遷されるでしょう。働き方改革を率先してきた自分がこんなことになって、まだ現実を受け止めらない」と森さんは沈痛な面持ちで語った』、「在宅勤務で、部内のコミュニケーションと情報共有が滞り、事業仕分けでなくしたはずの業務に取り掛かる部員や、ほかの部員がすでに着手しているとは知らず同じ業務を複数の部員で行うなど現場が混乱。当然、部員たちの労働時間はみるみるうちに増えていった」、これは「在宅勤務」のマネジメントの基本が出来てなかったためだが、これももっと早く気付かなかったのだろうか。
・『女性の管理職登用を推進する過程で、いつしかパワハラ行為に陥っていたケースもある。 中堅建設会社で施工管理部長を務める加藤昌彦さん(仮名、48)は、手厚い指導で能力を身につけさせ、2年前に社内で初めてとなる女性の現場監督(施工管理者)を誕生させた。20歳代後半の女性現場監督との関係に亀裂が生じ始めたのは、コロナ禍でソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保が求められ、以前のように現場には出向かず、メールで指示するようになったときだった。彼女はその半年前に結婚していた。 女性現場監督からパワハラで訴えられたのは、その1カ月後のこと。 「せっかく現場監督にしてやったんだから、しばらくは出産を控えて仕事に専念してくれよ」──。このメール文がパワハラ認定の根拠となった。「出産を機に、責任のある仕事に就くことを拒む女性を見てきたので、そうならないためのアドバイスだった」と、加藤さんは釈明する。 パワハラと認定され、1週間の出勤停止の懲戒処分を受ける。女性部下は告発直後から欠勤が続き、2週間後、退職願を郵送で提出してきた。 「実は彼女から相談を持ちかけられ面談する予定でしたが、コロナ禍に見舞われて実現しなかった。面と向かって話していたら、状況は変わったかもしれません。辞職に追い込み、無念です」 やるせない心情を明かす』、「メールで指示」するなかに「しばらくは出産を控えて仕事に専念してくれよ」、は致命的なミズだ。
・『マニュアルでは対応できない今後のパワハラ防止策  パワハラは被害者の精神と肉体を蝕み、辞職、さらには自殺をも招きかねない。加害者側にもキャリアに大きな傷がつく。非常に深刻な問題だ。一方で、メディア報道やSNSの影響もあり、情報の受け手が十分に理解する前に知ったつもりになり、「パワハラ」というキャッチーな言葉も相まって、本来の深刻な意味を離れ、独り歩きしている感も否めない。 管理職はパワハラ防止に最大限の努力をしなければ、容易に「加害者」になってしまう可能性がある。だからといって、告発を恐れるあまり、部下への指導などができなくなっては元も子もない。管理職はまず、自身の価値観を部下に押し付けないこと。仕事に対する考え方の違いを認識し、それを前提に指導にあたる必要がある。 上司世代は競争心が強く、上司の言うことにたとえ異論があっても従ってきた人が多いだろう。一方、部下の若手世代は競争よりも協調、仕事よりも私生活を重視する人が少なくない。 テレワークは、コロナ禍の一過性のものではない。近い将来、育児、介護に取り組み、またリカレント教育(社会人の学び直し)を受けながら、多様な働き方を実践するために必須となるだろう。対面でコミュニケーションを取らないことによるリスクを踏まえ、ICTをうまく使いこなさない限り、今後も想定外のパワハラは増えていくと考えられる。 パワハラ防止は、単にマニュアルを頭に叩き込めばよいというものではない。新型コロナウイルス感染症がいつ収束するのか不透明な中、管理職にはあらゆる職場環境を想定し、対策を実践できる柔軟性と発想力が求められている』、確かに「マニュアルでは対応できない」ので、組織論の基本を基に、柔軟に考えていく、さらには同僚の「管理職」に相談するなど、あらゆる手段を尽くしていくほかなさそうだ。
タグ:東洋経済オンライン ハラスメント PRESIDENT ONLINE (その16)(「胸が大きいだけの萌えキャラ」がセクハラ認定された本当の理由 宇崎ちゃん×日赤コラボが示す教訓、テレワークで増加する「無自覚パワハラ」の惨劇 企業に対策義務付け、告発の標的となる管理職) 瀬地山 角 「「胸が大きいだけの萌えキャラ」がセクハラ認定された本当の理由 宇崎ちゃん×日赤コラボが示す教訓」 2019年のポスター 見かけなくなったキャンペーンガール 炎上した日本赤十字社の献血ポスター アメリカ人男性が東京・新宿東口駅前の献血ルーム前に掲示されていたキャンペーンポスターを見て、ツイッターで問題提起 PRを受託した広告代理店の責任 性的表現=女性蔑視なのか ロリコン嗜好を犯罪視することはできない ロリコン趣味の人間が小学校などの運動会で写真や動画を撮りまくるのも困ったことだ 公共での性的表現はどの程度許される? 「環境型セクハラ」 「宇崎ちゃん」ポスターは何が問題だったのか 老若男女がいる場に持ち込んだ失敗 「胸がどれ程強調されているか」線引きは難しい 奥田 祥子 「テレワークで増加する「無自覚パワハラ」の惨劇 企業に対策義務付け、告発の標的となる管理職」 今年6月から、パワーハラスメント(パワハラ)防止対策が大企業に義務付けられている 加害者として告発される管理職は、無自覚で行為に及んでいる場合も少なくない メール指導が「無自覚パワハラ」に拍車 「佐々木さん」のケースは組織としてもっと早目に気付いて、対策を打てれば、被害は小さくて済んだと思う テレワーク下の働き方改革の誤算 在宅勤務で、部内のコミュニケーションと情報共有が滞り、事業仕分けでなくしたはずの業務に取り掛かる部員や、ほかの部員がすでに着手しているとは知らず同じ業務を複数の部員で行うなど現場が混乱。当然、部員たちの労働時間はみるみるうちに増えていった 「メールで指示」するなかに「しばらくは出産を控えて仕事に専念してくれよ」、は致命的なミズだ マニュアルでは対応できない今後のパワハラ防止策 組織論の基本を基に、柔軟に考えていく、さらには同僚の「管理職」に相談するなど、あらゆる手段を尽くしていくほかなさそうだ
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中東情勢(その15)(その他)(爆発起きた「レバノン」の手が付けられない惨状 政治的怠慢のツケを国民が払わされている、混迷のレバノン 米仏の最後通牒でも進展しない理由) [世界情勢]

中東情勢(その15)(その他)については、5月18日に取上げた。今日は、(爆発起きた「レバノン」の手が付けられない惨状 政治的怠慢のツケを国民が払わされている、混迷のレバノン 米仏の最後通牒でも進展しない理由)である。

先ずは、8月9日付け東洋経済オンラインが掲載した中東ジャーナリストの池滝 和秀氏による「爆発起きた「レバノン」の手が付けられない惨状 政治的怠慢のツケを国民が払わされている」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/367972
・『内戦での市街戦や自動車爆弾テロによる要人暗殺、イスラエルによる空爆に見舞われてきたレバノン国民も、首都ベイルートの港で8月4日起きた大規模な爆発には度肝を抜かれたはずだ。 港の倉庫で発生した火災が、近くで保管されていた硝酸アンモニウム約2750トンの爆発を引き起こしたこの事件。そもそも、爆発物にも化学肥料にもなる大量の危険物質が人口密集地と接する重要インフラの港に放置されてきた政府の怠慢に、レバノン市民の怒りは頂点に達している』、はじめに「レバノン」の歴史を簡単にみておくと、フェニキア人にとって3000年栄えた海洋文化の拠点。第二次大戦後、フランス支配から独立、自由経済を採用し、金融や観光などの分野で国際市場に進出して経済を急成長させ、首都ベイルートは中東経済の中心地となり、また地中海有数の国際的リゾート地として、数多くのホテルが立ち並ぶなど大いに賑わい、「中東のパリ」と呼ばれるようになった。その後、中東戦争に伴うPLOの流入によって、国内の微妙な宗派間のバランスが崩れ、1975年に内戦が勃発(Wikipedia)。爆発後は「中東のパリ」など見る影もない。
・『1975年〜90年の内戦よりひどい状況  レバノンでは昨年10月以降、政治腐敗や経済失政への不満から反政府デモが続いており、今年3月には償還期限を迎えた外貨建て国債の支払いができずに初めてデフォルト(債務不履行)に。政府の債務は3月にはGDP比約170%に達しており、通貨レバノン・ポンドは大幅下落。金融機関は外貨引き出しを制限するなど、国民は日々の食事にも苦労する困窮状態に陥っている。 さらに、新型コロナウイルスの影響も加わり、失業率は高止まり。停電が長時間に及ぶなど、「1975〜90年の内戦時よりも状況はひどい」との声も漏れてくる。 爆発の衝撃は、ベイルートの広範囲に及び、最大30万人が家を追われ、日本円に換算して3000億円を超す被害が出たもようだ。今後の焦点や市民の関心は、事件のきっかけをつくった人物が司法の裁きを受けるかどうか。 だが、政府主導の調査では、有力政治家の責任を問うのは困難と言える。レバノンでは18の宗派が権力を分け合い、宗派の政治指導者が利権や利益を宗派内に配分する利益誘導型政治が続いており、国民的な視点の欠如は目に余る。今回もこうした政治体質によって国民の安全がないがしろにされた形で、問題の根深さが浮かび上がる。 レバノンでの爆発と聞けば、テロの可能性も疑われるが、現時点ではその可能性は低いと言えそうだ。7月には、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラとイスラエルの衝突が相次ぎ、イスラエルの攻撃により、シリアの首都ダマスカス近郊でヒズボラ戦闘員が死亡。月末にはヒズボラ戦闘員がイスラエル領内に侵入し、イスラエル軍が撃退している。 こうした中での大規模爆発だが、イスラエル軍は関与を否定。大勢の無実の市民を巻き込んでいることからも、ピンポイントで標的を狙うイスラエルの手口とは異なる。 いずれにしても、首都にTNT火薬数百トン相当の爆発物を放置していた怠慢が爆発の原因であり、レバノンの失政ぶりを象徴している。そもそも、こんな危険物がなぜ、放置されることになったのか。ことは2013年9月までさかのぼる。 ロシアの船会社が所有していたモルドバ船籍の貨物船がトラブルでベイルートの港に寄港し、手続き上の問題が重なり、積荷の硝酸アンモニウム約2750トンがレバノン税関によって押収された。船主は、船の所有権を放棄し、この積荷も行き場を失った。 ツイッターに投稿された画像によると、硝酸アンモニウム約2750トンはがら袋に入られて積み上げられ、安全に管理されていたとは言い難い。危険性は、港湾当局や税関当局も認識しており、税関トップから司法当局に5〜6回の対応を促す書簡が送られたとされるが、対処されなかった。書簡では、海外輸出やレバノン軍への供与、ダイナマイトを扱う民間会社への売却が提案されていたという』、危険物の「硝酸アンモニウム約2750トン」が放置されていたとは、統治能力を欠いた政府らしい。
・『早くも責任のなすり合い  ディアブ首相は、司法相や内相、防衛相、軍など4つの治安部門トップによる調査委員会を設置し、数日中に内閣に調査結果を報告するよう命じた。ただ、中東の衛星テレビ局アルジャジーラによると、早くも責任のなすり合いが始まっている。 港湾当局を所管するナッジャール公共事業・運輸相は、危険物の存在は爆発の11日前に知ったと主張し、「倉庫やコンテナに何が入っているのか知っている大臣は存在しない。それを知ることはわたしの職務ではない」と言い切った。 公共事業・運輸省は、司法当局に対応を求める書簡を何度も送ったといい、ナッジャール氏は「司法当局は何も対応しなかった。職務怠慢だ」と主張。これに対し、司法関係者は「主要な法的責任は港を監督している港湾当局やそれを管轄する公共事業・運輸省のほか、税関当局にある」と反論する。 このように責任の押し付け合いが熱を帯びているほか、前述したように、レバノンは宗派による権力配分型政治が続いており、特定の人物や勢力を批判したり、やり玉に上げたりすると、宗派間対立を招いてしまうことから責任追及はあいまいになりがちだ。 レバノンが金融危機に見舞われているのも、政治腐敗による組織的な経済失政の色合いが濃い。政治家や財界重鎮が金融機関を牛耳るレバノンの金融システムは、金融機関が国家に貸し付けて得た利子で、政治家や有力一族ら大口顧客に法外な利息を提供するなど「巨大なポンジ・スキーム」と揶揄されている。 詐欺師チャールズ・ポンジの名に由来するこのスキームとは、実際には資金を運用せずに自転車操業的に行う詐欺行為の一種。レバノンでは、最終的に国家が債務を返済できずに国民がツケを支払わされている。 経済失政を招いた政治腐敗は、今回指摘されるような政府や行政の機能不全の原因ともなる。政治家や省庁の人材登用は、能力よりも宗派や派閥を重視する縁故採用や情実人事という、レバノン政治の上から末端まで浸透する政治体質に基づいて行われているとの不満が多い。だから、政府や行政の仕事は、国民の利益や安全が軽視され、宗派や派閥、個人の利益や利害が優先されがち。 政府組織の中でも、ベイルートの港や税関は、違法な武器も含めて非合法的に動くことがあり、「多くの派閥やヒズボラ系を含めた政治家らが支配する、レバノンの中でも最も腐敗した、うまみのある組織の1つとして知られている」(レバノン紙アンナハール)。 民営化や資金調達の一貫として、港の管理権を海外の企業に売却する可能性も浮上していたとされるが、今回の事件で改革に向けた海外からの投資はますます停滞しそうだ。 政治家や派閥は、港など国のインフラや設備、組織を、利益を吸い上げるために利用するうえ、インフラの劣化も激しい。電力供給や安全性の高い水道の維持などの公的なサービスもままならず、国民は発電機を買うといった自衛策で猛暑を乗り切るしかない。独占的な通信事業によって携帯電話代は高く、利益は有力一族や財界重鎮に吸い上げられる。 政治腐敗に反発したデモでハリリ首相が昨年10月に辞任したものの、その後も改革が進む気配はない。経済危機打開へ国際通貨基金(IMF)に支援を仰いでいるものの、国際支援を受けるための改革は進まず、爆発が起きた前日の3日には、政治家同士の足の引っ張り合いに辟易したとして、ヒッティ外相が辞任している』、これでは「IMF」も手をつけようもなさそうだ。
・『コロナ禍で海外移住の道も閉ざされる  レバノンの政治腐敗は構造的な問題があり、一朝一夕には解決しない。このため、最近のデモでは、銀行が襲撃されるなどデモ隊が暴徒化する様相も呈している。 レバノン政治に詳しい専門家は「レバノン政治は構造的問題を抱えており、政治腐敗や宗派のボスを批判しても問題は解決しない。実際にデモ隊が求めるものを実行するにしても、どこから行っていいか分からない状況だ。銀行襲撃に走るなど明確な批判の対象が見えなくなっている」と分析する。 レバノン人たちは歴史的に、困難に直面した時には海外に活路を見出してきた。日本から逃亡したカルロス・ゴーン被告の先祖も、こうした経緯でブラジルに渡っている。レバノンでは海外に移民した国民が自国に住む国民の数よりも多いが、新型コロナウイルスの感染拡大による移動制限や世界的な景気後退により、移住という選択肢も今は取りづらい。 こうした中でも、レバノン国民は、爆発によって家を追われた人々に空き家や別荘、空き部屋を提供するなど、政府に頼れないために宗派を越えた結束力を見せている。ある市民は「今回の事件の背後に政治腐敗や怠慢があるのは明らか。まずは調査結果を見守りたい」と冷静を努める。ただ、レバノンの政治構造や体質は容易に変わらないとの見方が強い。レバノンの危機は、ますます深刻化することになりそうだ』、事実上、破綻した国家の再建は誰が、どのようにして進めるのだろう。

次に、11月22日付けロイター「アングル:混迷のレバノン、米仏の最後通牒でも進展しない理由」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/lebanon-crisis-idJPKBN27Z0EL
・『 混乱に陥ったレバノン経済の救済を模索する西側有力諸国は、同国指導部に対して最後通牒を突きつけた。財政破綻した国家の全面改革を進める信頼性の高い政府が樹立されない限り、それも迅速に実現しない限り、今後の救済はない──と。 1975─90年のレバノン内戦以来、フランス、米国をはじめとする支援国は、繰り返しレバノンに救いの手を差しのべてきた。だが、レバノンが経済危機に陥る間、政権を担当していた「おなじみの顔ぶれ」を多く含む同国の政界に対し、こうした諸国も愛想を尽かし始めている。 昨年来、レバノンでは支配層に対する大規模な抗議行動が発生している。抗議参加者たちは、国家債務が積み上がっていく一方で、支配層は自らの既得権ばかり追い求めていると非難。COVID-19のパンデミックにより、さらに国内のリソースは窮迫し、8月にベイルートの港湾地区で発生した大規模な爆発事故により、市街は大きな被害を被った。 外貨準備が減っていくなかで、一部の医薬品を含む基本的な商品の供給は不足し、貧困ライン以下に沈むレバノン国民も増加している。 かつての宗主国としてレバノンへの支援が当然視されるフランスは、爆発事故を受けてマクロン大統領が現地に駆けつけ、非常事態に対応するため、少なくとも部分的な改革を導入するよう現地の政治家らの説得に努めた。 だが、対立する党派が泥沼の勢力争いを続ける中で、爆発事故とその余波を受けて前政権が倒れて以来、レバノンでは新たな政府が成立していない。これまでも見られたこう着状態のときと同様に、各党派は組閣不能の責任をお互いに押しつけあっている。 ベイルートで先週行われた協議の席上、デュレル仏大統領補佐官(中東・北アフリカ担当)が、フランス政府はレバノンへの関与を続けるものの「改革が行われない限り救済はない」と明言した。協議に参加していた2人の関係者が明らかにした。「改革なしに救済が行われていた時代は終った」とデュレル補佐官は言った。 西側外交官の1人によれば、フランスは引き続きベイルート復興に関して予定されている会議を11月末までに開催しようと努めているが、なお予断を許さない状況だという。 「全く進展が見られない」と、この外交官は言う。「レバノンの政治家は従来通りの流儀に戻ってしまったし、憂慮すべきことに、国民のことは完全に視野に入っていない」──』、旧「宗主国」「フランス」は・・・マクロン大統領が現地に駆けつけ、非常事態に対応するため、少なくとも部分的な改革を導入するよう現地の政治家らの説得に努めた」、しかし、「フランス」の工作は実を結んでないようだ。
・<「ただ乗りは不可」>  米国のシア駐レバノン大使は13日、ワシントンのシンクタンクCSISによるオンラインカンファレンスにおける発言で「(米国は)レバノンが重要」「国家の破綻を回避することが、何よりも最優先であると認識している」と語った。 、デュレル仏大統領補佐官はヒズボラに対し、友好関係にあるバシル氏を説得して態度を軟化させるよう求めたが、ヒズボラはバシル氏への圧力を強めて同氏の立場をさらに弱めることに消極的だったという。
・<厳しくなる状況>  複数の情報提供者は、外貨準備を急速に使い尽くしつつあるレバノンにとって、現在のようなこう着状態は自殺行為だと話している。現在のレバノンの外貨準備高は、わずか179億ドルと推定されている。 米国による制裁は、退任が迫っているトランプ政権による対イラン「最大の圧力」作戦の一環であることをシア駐レバノン大使が認めており、イラン政府及びその連携勢力は、トランプ大統領の退任まで時機を待つ姿勢を見せている。 だが、レバノンの当局者の間には、こうした模様眺めの戦術について懸念する声もある。 組閣協議に詳しいベテランの政界関係者は「今やフランスが発しているメッセージは明確だ。政権が樹立されず、改革も進まなければ、はい、さようならということだ」と語る。「フランスが手を引いてしまえば、誰がそれ以降、この国を気に掛けてくれるのか。湾岸諸国、米国も含めどこも期待できない」と話す。 「結局のところ、今日のような例外的な時期・課題にどう対応すべきか、分かっている国はない」「それなのに私たちは、平穏な時期と同じように組閣のゴタゴタを演じている」という。 シア大使は「(支援国が)強い信念を持たなければならない」と話す。さもなければ、レバノンの政治エリートは真剣になってくれないからだ。「政権確立を急がなければという切迫感を彼らが持ってくれなければ、どうやって圧力をかけられようか」とシア大使は言う。「彼らは私たちに向かって、我々に改革をさせるとは面白い。お手並み拝見だと言うだろう」と語った』、さて、どうなることやら。亡命中のゴーン氏も、さぞかしハラハラしていることだろう。
タグ:ロイター 東洋経済オンライン 中東情勢 池滝 和秀 (その15)(その他)(爆発起きた「レバノン」の手が付けられない惨状 政治的怠慢のツケを国民が払わされている、混迷のレバノン 米仏の最後通牒でも進展しない理由) 「爆発起きた「レバノン」の手が付けられない惨状 政治的怠慢のツケを国民が払わされている」 「レバノン」の歴史 フェニキア人にとって3000年栄えた海洋文化の拠点 第二次大戦後、フランス支配から独立、自由経済を採用し、金融や観光などの分野で国際市場に進出して経済を急成長させ、首都ベイルートは中東経済の中心地となり、また地中海有数の国際的リゾート地として、数多くのホテルが立ち並ぶなど大いに賑わい、「中東のパリ」と呼ばれるようになった 中東戦争に伴うPLOの流入によって、国内の微妙な宗派間のバランスが崩れ、1975年に内戦が勃発 1975年〜90年の内戦よりひどい状況 首都にTNT火薬数百トン相当の爆発物を放置していた怠慢が爆発の原因であり、レバノンの失政ぶりを象徴 早くも責任のなすり合い 宗派による権力配分型政治 金融機関が国家に貸し付けて得た利子で、政治家や有力一族ら大口顧客に法外な利息を提供するなど「巨大なポンジ・スキーム」と揶揄 国際通貨基金(IMF)に支援を仰いでいるものの、国際支援を受けるための改革は進まず コロナ禍で海外移住の道も閉ざされる 事実上、破綻した国家の再建は誰が、どのようにして進めるのだろう 「アングル:混迷のレバノン、米仏の最後通牒でも進展しない理由」 フランス、米国をはじめとする支援国は、繰り返しレバノンに救いの手を差しのべてきた 一部の医薬品を含む基本的な商品の供給は不足し、貧困ライン以下に沈むレバノン国民も増加している フランスは、爆発事故を受けてマクロン大統領が現地に駆けつけ、非常事態に対応するため、少なくとも部分的な改革を導入するよう現地の政治家らの説得に努めた ただ乗りは不可 厳しくなる状況
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人工知能(AI)(その10)(AIに読解力があると思う人に知ってほしい現実 学生の新常識は「シンギュラリティ=黒歴史」だ、茂木健一郎の「人工知能は人間の仕事を奪うのか」に対する答え 脳科学者・茂木健一郎氏インタビュー、次なるAIのブレークスルーは言語分野で起きる 「GPT-3」が示すイノベーションの新潮流) [イノベーション]

人工知能(AI)については、8月1日に取上げた。今日は、(その10)(AIに読解力があると思う人に知ってほしい現実 学生の新常識は「シンギュラリティ=黒歴史」だ、茂木健一郎の「人工知能は人間の仕事を奪うのか」に対する答え 脳科学者・茂木健一郎氏インタビュー、次なるAIのブレークスルーは言語分野で起きる 「GPT-3」が示すイノベーションの新潮流)である。

先ずは、5月25日付け東洋経済オンラインが掲載した国立情報学研究所教授で 数学者の新井 紀子氏による「AIに読解力があると思う人に知ってほしい現実 学生の新常識は「シンギュラリティ=黒歴史」だ」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/370228
・『「AI(人工知能)が進化して人類を支配する」「AIが人の知能を超える『シンギュラリティ』が2030年に到来する」といった誤解に対して、警鐘を鳴らしてきた新井紀子氏。 2018年に刊行した著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』でも、AIの可能性と限界を明らかにしてきた。ただ、2018年当時、大学院生に対しても「AIの限界」を理解させることは困難だったという。一方、最近になって大学院生たちは「AIの限界」をすんなりと理解し始めた。学生たちにどのような変化があったのだろうか』、興味深そうだ。
・『シンギュラリティ神話が信じられていた2018年  私が所属している国立情報学研究所は研究機関である。一方で、総合研究大学院大学という大学院に特化した教育機関の一翼も担っている。不肖この私も一大学教員として教壇に立つことがある。といっても、今年はコロナ禍のせいですべての講義はオンラインだが。 この春受け持ったのは「メディア概論」。画像処理、音声処理、音声合成といった人工知能技術について、10人を超える研究者が自らの属する専門領域の理論や技術動向を紹介するオムニバス講義だった。 この講義は毎年開講され、人工知能技術を本格的に学び始める大学院生へのイントロダクションとして位置付けられている。私は、自らが率いた「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」と呼ばれる人工知能プロジェクトを紹介しつつ、深層学習(ディープラーニング)が代表する第三次AIブームを牽引した大規模データを用いた統計的手法の可能性とその限界について、例を引きながら解説することにしている。 2018年まで、学生に統計的手法の限界を理解させることは極めて困難だった。メディアやSNSにはシンギュラリティの言葉が躍っており、彼らがフォローするような「エヴァンジェリスト」や「フューチャリスト」、あるいは大学教員でさえ真面目に2030年のシンギュラリティ到来を熱っぽく議論していた。政府の白書ですらシンギュラリティに言及した。 学生たちがその言葉を信じ込まないほうがおかしい。AIがなぜ間違えざるをえないかを、どんなに理論的かつ具体例を挙げて解説しても、学生は「もっとデータがリッチになり、深層学習技術が進化すれば乗り越えられる課題だ」とコメントシートに書いて寄こした。) そうした傾向は、学部からすぐに大学院に入学した日本人学生にとどまらなかった。総合研究大学院大学の学生には、留学生や社会人学生も多い。シンギュラリティを信じる学生はどの層にも同じように分布している印象だった。 ところが、だ。今年、講義をしてみて驚いた。どれほどデータを集めても、AIが「笑っちゃうような誤り」を犯し続けることを、学生たちは当然のこととして受けとめた。講義の中で「シンギュラリティ」に言及したところ、画面の向こうから笑いが漏れた。私が力説しなくても、AI技術を学ぶ平均的な学生にとって、シンギュラリティブームは「過去のあだ花」、悪くすれば「黒歴史」に変わっていたのである。 たった1、2年の間に生じたこの差は、いったい何なのだろう。 2つのことが考えられるだろう。1つは、「人工知能搭載」がうたわれた商品やサービスが溢れ、身近な存在になったことだ。私にとって、2016年は東ロボがMARCH・関関同立の一部の学部に合格可能性80%以上を達成し、東大模試の数学で偏差値76.2を叩き出した年だ。と同時に、Google翻訳にニューラルネットワークが導入され、品質が格段に向上した年でもある。 2016年に大学に入学した学生たちは当然Google翻訳の恩恵を被って学生生活を送ったことだろう。その過程で、信じがたい誤訳を多数目撃したに違いない。 Googleフォトも多くの若者にとって欠かせないツールとなった。日々ありとあらゆるものをスマートフォンで撮る彼らにとって、画像の検索や自動分類はマストアイテムだ。AIに懐疑的な私でさえ、人の顔をほぼミスなく自動分類する機能には驚嘆した。「パリの写真」といえば、パリで撮った写真だけを集めてアルバムを作ってくれる(位置情報も使うのかもしれない)。 だが、「ラーメン」で検索すると、なぜかゆで卵の写真が表示されるし、思い出の「カフェ」の写真を探したくても、ヒットしない。結局のところ、手で分類する以外ないんだな、と私たちは悟らざるをえなかった。期待に胸弾ませて購入したAIスピーカーの「がっかり感」を通じて、AIと「自然な会話」を期待するほうがおかしいという認識が共有された。 いまや、YouTubeではスマートフォンに搭載されている互いのSiriを使って無意味な会話をさせるお笑い芸が流行っている。スマート〇〇と呼ばれるAI搭載家電を使いこなす若者であればあるほど、「いつかAIがマンガや小説を書くのではないか」という期待や怯えを抱かなくなった。否、そもそも、そういう関心の持ち方自体が「古く」なった』、「シンギュラリティブームは「過去のあだ花」、悪くすれば「黒歴史」に変わっていた」、これほど短い命だったとは驚きだ。「AIスピーカー」も確かに「がっかり感」満載だった。
・『AI技術が学部生にも身近な技術になった  それはある意味当然だろう。「電子レンジが自分で調理してくれる日」の到来を期待する主婦/主夫はいない。電子レンジが普及し、一般人がそれを使いこなせば使いこなすほど、そうなる。今の技術限界を前提として「どう使いこなすか」をハックすることこそが関心の的になる。 もう1つは、AI技術がGAFAのような巨大テック企業に占有されている秘儀ではなく、学部生にも手が届く技術として普及したことによる影響だろう。 とくに、Googleが公開した自然言語処理技術であるBERTが果たした役割は大きい。学部の頃からネット上で公開されているビッグデータを使ってプログラミング言語Pythonの演習を経験した学生にとって、もはや深層学習は「深く」もないし、ニューラルネットワークは「脳を模した」ものでもない。データを10万以上そろえないことには、まともに動かないタイプの、1つのアルゴリズムにすぎなくなった。) 学生たちの目下の悩みは、AI技術なるものを追い求めた先に、何らかの答えなり達成感はあるのか、ということである。世界中の研究者が、公開されているベンチマーク(同一課題に対する複数のAIシステムの性能評価、比較を行うためのデータセット)を使って、0.1%単位で精度を競い合っている。 何千人もがターゲットにしている有名なベンチマークで「勝つ」ことは、普通の学生や研究者には難しい。マイナーで手ごろなベンチマークを見つけて、成果を国際会議に通すべく準備する。何週間もラボに泊まり込んでようやく他のAIの性能を上回ったと思って論文を書き始める。だが、書き終わる頃にはすでに誰かに抜かれている。 しかも、機械学習以前のアルゴリズムと違って、数十万単位のデータで学習する最近の統計的機械学習は、精度が出ても出なくても、その理由がわからない。「この教師データ(AIを訓練するための正解付きデータ)が悪さをしている」ことを突き止めようとする研究も進んではいるが、完全ではない』、確かに「数十万単位のデータで学習する最近の統計的機械学習は、精度が出ても出なくても、その理由がわからない」、のは致命的欠陥だ。
・『「東ロボ」、英語大躍進の理由  東ロボもまったく同じ経験をした。2019年、東ロボ英語チームは、同年1月に実施されたセンター入試英語(筆記)において、200点満点中185点を獲得したことを発表した。過去のセンター入試でも安定して90%の正答率を出している。前年まで100~120点しか取れていなかったことを思うと大躍進である。 185点という点数を目にしてふと思い出した。2013年にセンター模試に初めて挑戦したときに、代ゼミから講評を受けたときのことだ。「センター英語で9割取れなければ東大は合格しないと思ってください」。 つまり、東ロボは2019年、ようやく東大入試の前提に立てたということかもしれない。けれども、残念ながら、東ロボは人間ではないので、センター英語で9割取れるようになったのだから、やがて「東大に入れる」という推論は無効だ。 一方で、英語を重視する私大文系学部の存在と、東ロボの英語、数学、世界史の実力を考え合わせると、早慶のどこかの学部には入れてもおかしくない、とは思った。 英語チームの躍進の主因は、BERTを凌ぐと言われるXLNetという自然言語処理技術だと解釈されることが多い。だが、そうまとめてしまっては、この現象の本質を掴み損ねる。BERTやXLNetは先行する深層学習に比べてモデルが複雑だ。まともに動かすためには、膨大な教師データが必要になる。 日本の入試問題や模試の問題は、多くても毎年百単位でしか増えていかない。だからこそ、これ以上複雑な深層学習のモデルを使っても、センター入試英語は攻略できないだろうと、私たちは2016年の段階で考えたのである。 しかし、その時の私たちは見落としていたことがあった。それは英語を第二言語として学ぶのは日本人だけではない、ということだ。世界中の国々のうち、英語を母語として育つ人以外の多くが英語を第二言語として学ぶ。 その中には人口13億を超す中国が含まれる。彼らは日本人以上に英語テスト漬けだった。カーネギーメロン大学の研究チームが中国の中高生向けの英語テスト問題、約10万点を集め、RACEという名前のデータセットとして公開した。 XLNetで学習させたところ、たちどころに150点台に点数が上がった。この結果は何を意味しているのだろう。 統計的アルゴリズムの観点から考えると、答えはシンプルだ。日本のセンター入試英語と中国で実施されている中高校生向けの英語テストが、機械の視点から見ると「とてもよく似ていた」のである(やってみなければわからないが、The New York TimesとかThe Timesの過去50年分の記事に出現する英語は、センター入試英語とは、だいぶ特徴が異なるだろう)。 さらに、英語チームが独自の学習をさせたところ、あっさりと185点をたたき出してしまった。 私は、自分でも2019年のセンター入試を解き、東ロボがどの問題に正答したのか確認した。最もショックを受けたのは、「不要文除去」と呼ばれる次のタイプの問題だった』、「「東ロボ」、英語大躍進」、大したものだ。
・『「東ロボ」、英語大躍進の理由  (2019年解答番号27) 【筆者訳】 「アメリカ合衆国を飛行機で横断する際、コンクリートで作られた巨大な矢印が地上にあるのを目にすることがあるかもしれない。今日では、これらの矢印は単に好奇心をそそるにすぎないが、かつては、アメリカの片側からもう片側に飛ぶパイロットにとっては不可欠なものだった。①この矢印が大変役に立ったため、大西洋上にも浮く矢印を設置してはどうかと提案する人さえいたほどだ。②パイロットたちはニューヨーク - サンフランシスコ間のフライトで矢印を目印として使った。③16キロごとにパイロットたちは鮮やかな黄色に塗られた21メートル長の矢印を通過することになる。④中央の回転灯と両端のライトのおかげで、矢印は夜間でもよく見えた。1940年代に矢印に替わるナビゲーション方式が導入され、矢印は今日では基本的には使われていない。ただし、モンタナ州の山沿いの地方を飛行するパイロットは、いまだにそれらのいくつかに頼っている。」 ③と④は必要だ。取り除くとしたら①か②。私は迷った。①は文脈からすると唐突だ。普通に考えれば①を除去すべきだろう。だが、②も怪しい。なぜなら「アメリカの片側からもう片側に飛ぶパイロットにとっては不可欠」という前文と重複するからだ。 同じような二文を重ねるのは、やぼったい。母校のイリノイ大学で受けた英文添削指導コースならば、きっとそう指摘されただろう。前文を「かつては、ニューヨーク - サンフランシスコ間のように、アメリカの片側からもう片側に飛ぶパイロットにとっては不可欠なものだった」と書くように、と。あれこれ悩んだ挙句②を選んだ。 だが、正解は①だった。東ロボはこの問題に正解した。なぜだ、なぜ正解がわかったんだ。あたかも「(意味を理解して)読解した」ようではないか。東ロボは過去5年分のセンター入試の不要文除去問題を100%正答した。 こういう素敵な手品には必ずタネがある。 英語チームにタネを明かしてもらって感心した。方法はこうだ。RACEから提供されている複数段落で構成される問題文を選び、ある段落の任意の箇所に、次の段落から選んだ任意の文を挿入する。そして、挿入された文を「文脈から外れた不要文だ」と学習させたのである。 同じ著者の手による、同じ文章の次の段落から余計な文を選んでくるのがミソだ。そうすれば、異なる著者の文の癖を誤って学習することがない。同じテーマなのに、ちょっとずれていることを巧く学習させられる。しかも、前段落の任意の場所に、後段落の任意の文を挿入することにより、教師データを爆発的に増やすことができる。 つまり、「①は唐突だな」という第一印象を信じればよかったのだ。同じような文を続けて二回書くのはやぼったい、などと余計なことを考えたのがいけなかった。XLNetが示したセンター英語の不要文除去の攻略法はシンプルだ。英文の巧拙は考えるな。少しでも唐突感のある文を選べ。 とにかく「東ロボ」はセンター英語で9割以上の正答率を安定して出せるようになった。ただ、あまりに突然100%近く正答するようになったため、いったい何が奏功したのか、よくわからなかった。センター入試英語がどのように作られているかは部外者には知る由もないが、先ほどの問題の出典元がどこかにあるのなら、同じ出典元から作られた別の問題がRACEに混じっていた可能性すら残る』、「ある段落の任意の箇所に、次の段落から選んだ任意の文を挿入する。そして、挿入された文を「文脈から外れた不要文だ」と学習させた」、とは巧みに工夫したものだ。
・『AIは意味を理解できない  こうして私たちの目の前には事実だけが残った。RACEとXLNetを使ったところ、いわゆる「長文読解」と呼ばれる問題群の正答率が一気に向上した。次の段落から一文取り出して、前の段落に挿入した文を不要文だ、と学習させたら、センター入試の過去の不要文除去問題は100%解けた。にもかかわらず、人間にとってより易しく見える会話文完成の精度はさほど上がらなかった。以上だ。なぜなのか、正直、わからない。 唯一言えることは、現在の技術の延長線上では、国語で同程度の結果に達することは想像できないということだろう。国語にとってRACEに替わるものは存在しないし、今後も存在しえないからだ。「日本語を母語として学ぶ人口」は、英語を第二言語として学ぶ人口の十分の一どころか、二十分の一未満だろう。しかも、その数は年々減っている。センター国語を作問するのと同様の真剣さと専門性で、類題を10万問作れる研究チームは世界中を探してもどこにも存在しない。 それ以前に、そもそもそんなデータセットを作るモチベーションを誰も持ちようもない。(なにしろ、その「国語」のテストには、現代中国語とは似て非なる「漢文」がなぜか含まれていて、その配点が全体の1/4を占めているのである! 東ロボの英語大躍進のタネ明かしを聞いた読者の多くは、「そんなものは読解ではない。単に一番可能性が高い選択肢を選ぶAIを作ったにすぎない」と不満に思ったことだろう。同感だ。 私は『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』から一貫して、否、東ロボプロジェクトをスタートしたときから、AIには意味がわからない、ただ、一番正しそうな選択肢を統計的に選ぶだけだと伝えてきた。だが、BERTやXLNetなど新手法が出るたびに、「今度こそAIは読解力を身に付けた」と主張する人が後を絶たなかった。 けれども、その喧噪もそろそろ終わることだろう。なにしろ、うちの大学院生が「AIが意味を理解しないのは当然のことだ」と言うようになったのだから』、「東ロボの英語大躍進のタネ明かしを聞いた読者の多くは、「そんなものは読解ではない。単に一番可能性が高い選択肢を選ぶAIを作ったにすぎない」と不満に思ったことだろう。同感だ。「なにしろ、うちの大学院生が「AIが意味を理解しないのは当然のことだ」と言うようになったのだから」、新井氏の自説が通るようになってきたようだ。

次に、7月28日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャーの茂木健一郎氏による「茂木健一郎の「人工知能は人間の仕事を奪うのか」に対する答え 脳科学者・茂木健一郎氏インタビュー」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/244039
・『なぜ私たちには意識があるのか?この問いについて、「クオリア」というワードを鍵に挑んできた脳科学者・茂木健一郎氏が、16年ぶりに「意識」「クオリア」とがっぷり四つに組んだ新著『クオリアと人工意識』(講談社現代新書)を出版した。なぜ今、長年の沈黙を破ったのか?茂木氏の真意に迫った(Qは聞き手の質問、Aは茂木氏の回答)』、「茂木氏」の久しぶりの出版とは興味深そうだ。
・『藤井聡太棋聖はAIと人間の共存のモデルケース  Q:新著、興味深く読みました。「意識」や「クオリア」そのものに真っ向から取り組んだ著作はここ16年間、ありませんでした。なぜ、いま筆を執ったのでしょうか。 A:一番大きな要因は、ここ数年の人工知能(AI)ブームです。僕自身かつて、数理物理学者ロジャー・ペンローズの本を読んで人工知能に興味を持ち、そこから脳科学の研究に入っていったんです。人工知能がきっかけだったんですね。 ここ十数年の間でも人工知能は相当、進展していて、「私たちの生活を根底から覆すかもしれない」「人間の仕事を人工知能が奪っていく」と言われている。僕は、人間と人工知能はうまく共存すべきだと思っていて、その道筋に、ある意味で“補助線”を引くつもりでこの本を書きました。 Q:その文脈でいうと、日本のビジネスシーンでもレイ・カーツワイルによって知られるようになった「シンギュラリティ(技術的特異点)」が話題になっています。「人工知能が人類の知能を超える」としばしば言われます。 ある部分で、それはそうだと思います。でも、人工知能に置き換えることのできる仕事とできない仕事が実際にはあるというか、現在の人工知能にも得意不得意があるんです。 人間の「知能」といっても、それが何なのか中立で正確な定義があるわけではない。「人工知能に」ではなく「人間に」こそ任せるべき仕事がある。その意味で大事なのが、人工知能との「共存」です。 僕は、史上最年少で将棋タイトルを獲得した藤井聡太棋聖は、共存のモデルケースだと思っています。彼は、人工知能を搭載した将棋ソフトで指し手の研究をしていますが、AIが導き出す“定跡”をも、ある意味で覆すのが藤井さんなんですね。 Q:藤井さんの師匠・杉本昌隆八段は、当初、AIの使用に待ったをかけたそうです。将棋ソフトに手軽に「答え」を求めるのではなく、思考力を研ぎ澄ませてほしかったと。藤井さんが小学生のときです。 A:彼は現在の人工知能のネイティブです。将棋の定跡の研究ももちろんするけれど、ゼロから考えて最善の手を導き出す鍛錬も徹底的にしている。 例えば、人工知能はコンセプトワークが不得意なんです。全体を統合するような発想が苦手で、それはAIの翻訳ソフトなんかを使っていても感じます。「GPT-3」という文章を自動生成するシステムがあって、それを動かしていると文章が何かおかしくなっていくんです。意味も通っていて、文法的にも正しい。でも、意図というか意味の焦点がぼやけてきて、「どこにもたどり着かない」という印象になっていく。 Q:それは、一つの人格的なものに言葉が統合されないからでしょうか。 A:人間って話したり物を書いたりするときに、方向性の設定や微妙な調整を行ったり、一言の「含意」の深さを捉えたりしているんです。そういったコンセプトに沿う・沿わせる思考は、人工知能が普通という時代になっても人間の付加価値であり続けると思います』、「人工知能はコンセプトワークが不得意なんです。全体を統合するような発想が苦手」、なるほど。
・『意識やクオリア、直感についていま語るべき理由  Q:あらゆる要素をパッケージにして、このコンセプトで「行く」ということが、まだ人工知能にはできないのですね。 そこに関わっているのが「意識」なんです。ペンローズがいうように、全体を統合して見るものが意識です。ですが、今の人工知能に意識があると考える人はまずいないでしょう。 もしも人間が、自分たちの似姿として人工知能をつくろうとするのなら、意識の問題は避けて通れません。現在の研究はその「意識」には手が出せないでいるんですね。ですので、新刊のタイトルは「人工知能」ではなく「人工意識」にしました。人工知能の可能性をきちんと引き受けつつ、ある意味で人工知能の限界を示すためにそうしました。 Q:茂木さんがライフワークのキーワードにしている「クオリア」もそこに関係してきますね。意識はクオリアに支えられています。 A:わたしたちが赤い色を見るときのあの「赤らしさ」、水にふれたときに腕を伝う流れの感触、冷たさ、バイオリンの音色、バラの香りなどの“質感”がクオリアです。 そのクオリアがどう生成されているのかがまだよく分かっていない。私が持つこの「私」という感じも、どうやって生じているのかが分からない。しかし人工知能の研究はこの問題に向き合う必要があります。 人工知能を人類にとってよりメリットのあるものにする上で、この問いに答えることは必須ですし、そもそも人工知能について考えることは、「知性とは何か」「意識とは何か」「私とは何か」「人間とは何か」といった問いを深めることにもつながります。人工知能がわれわれを映す“鏡”になるんです。 Q:ですが、人工知能がそこまで発展したときに、やはり私たちの生活や労働環境が変わって、仕事がなくなるのでは?と不安を抱く人もいます。 A:計算プロセスに落とせるものは人工知能にとって代替可能だと思います。ですが、計算プロセスに落とせないものもたくさんあります。それこそ仕事の現場から企業合併の判断まで、総合的な判断をしなければならない局面というものは多々あります。定型業務は人工知能が担えても、総合的で高度な判断は人間が担い続けるでしょう。人間の役目がなくなることはない。 先の藤井聡太さんの話でいえば、注目の指し手(棋聖戦第2局、後手3一銀)は、最強将棋ソフトが4億手を読んでも出なかったアウトプットです。6億手に拡大して、やっと候補の1つとして出た。藤井さんは当然、6億手を見渡した上で結論としてその手を指したわけではありません。そこには直感が働いています。その直感は、ある種「総合的」なものなんです』、「藤井聡太さん」の「注目の指し手」は、「最強将棋ソフトが4億手を読んでも出なかったアウトプットです。6億手に拡大して、やっと候補の1つとして出た」、それを「直観」でやる能力はさすがだ。
・『人工知能時代の学びの「あるべき形」とは  Q:人工知能がより浸透していくことで、仕事以外のさまざまな生活面にも影響が出そうです。 A:特に教育は、変わらないといけないと思います。教育改革は待ったなしです。かつて、産業革命によって機械が普及したときに、失業を恐れた人たちが機械や工場を破壊するラッダイト運動というものがありました。そのとき、一方で教育も大きく変わったんです。 Q:いわゆる「マニュアルを理解して働ける人を育てる」教育への変化ですね。 A:クイズ番組などに見られる「いかに早く正解を言うか」みたいな、正解を出すことを重視するやり方を変える必要がある。 2009~12年に、僕は「全国高等学校クイズ選手権」のメインパーソナリティーを務めました。出場者の中には、早押しクイズの練習をして当日に臨む人もいます。優勝候補になるチームは大抵、練習している。 その練習で大事なのが、実は「問いを作る能力」なんです。早押しクイズの練習って、そもそも大量の問題を用意しないとできないじゃないですか。だから自分たちで問題をつくる。しかもその問題は、マニアックすぎてもいけないし簡単すぎてもいけない。面白いと思われる問題をつくらなければならない。現在の人工知能は、そうした面白い問題はつくれないと思います。 Q:総合的な「面白さ」は人工知能に判断できないと。 A:人工知能時代に大事なのは、問いを設定する能力。正解を出すことよりも、です。これは聞いた話ですが、例えばアメリカの話でいうと、ある学校では「ヒップホップ調でラブレターを書きなさい」といった宿題が出たりするそうです。で、翌週には「そのラブレターへの返事をシェイクスピア風の格調高い文で書きなさい」と続く。そんな課題が中学生レベルで出されるんですね。 Q:中学生でシェイクスピアですか。日本の中学生だったら、まず読んでいないかもしれません。 A:これは僕の主観ですが、アメリカと日本のビジネスパーソンを比較して思いますけど、教養の差が圧倒的です。「シェイクスピア風で」というお題が中学で成立するくらい、向こうの人たちはさまざまなことを学んでいます。しかも「ヒップホップ調でラブレター」という課題に正解はない。宿題をやる子どもたちは、こうかな?こうかな?と仮説を立て、問いを立て、いろいろ試すんです。その過程で問いの設定力が増す。 社会が複雑化していけばいくほど正解が見当たらないことって増えていきますから、一朝一夕でできないことは承知の上で、教育を変えるべきだと折々に言っています。ビジネスの研修だって同じです。 Q:人の育み方から変えていく必要性、ですね。 A:いまアートがビジネスでも注目されていますが、アートはクオリアや意識への問いに近接していて影響がある。グローバルエリートはそういったものへの知見、人間というものへの洞察の大切さを知っているので美術館に行くんです。 しかも現代アートはコンセプト重視です。コンセプトを編み上げたものとして作品が生まれる。コンセプトワークでもある。そういったものに触れるという視点は、人工知能時代の人間の強みを生かす上で大事だと思いますね』、「人工知能時代に大事なのは、問いを設定する能力。正解を出すことよりも、です」、その通りだろう。「「シェイクスピア風で」というお題が中学で成立するくらい、向こうの人たちはさまざまなことを学んでいます」、日本の程度の低さにを改めて痛感させられる。「現代アートはコンセプト重視です・・・コンセプトワークでもある。そういったものに触れるという視点は、人工知能時代の人間の強みを生かす上で大事だと思いますね」、同感である。

第三に、11月19日付けダイヤモンド・ハーヴァード・ビジネス・レビュー「次なるAIのブレークスルーは言語分野で起きる 「GPT-3」が示すイノベーションの新潮流」を紹介しよう。
https://www.dhbr.net/articles/-/7225
・『デジタル技術導入がまずます加速する中、早期に対応した企業とそうでない企業の成長スピードには大きな違いが生じている。クラウドシステムを前提にした画期的なテクノロジーを取り入れ、現場で活用することができなければ、今後のイノベーションは望めない。なかでも注目すべきは、自然言語処理の領域における飛躍的な進歩だ。本稿では、オープンAIが開発した文章生成AI「GPT-3」を取り上げながら、これらの新技術がテクノロジー企業に限らず、人間の生産性と独創性を補強し、全社的なイノベーションをもたらす可能性について論じる。 ほとんどの企業が気づいているように、ライバルに対して競争力を持つためには、デジタル技術を果敢に導入することがますます不可欠になってきている。 我々の調査によると、デジタル技術を最も早い時期に導入した10%のアーリーアダプター企業は、最も遅く導入した25%の企業と比べた場合、2倍のペースで成長を遂げている。 また、それらの企業はデジタル技術の導入を推進するに当たり、レガシーシステムではなく、クラウドシステムを用いている場合が多いことも明らかになった。 それぞれの業界の先駆的な企業においては、向こう5年間でこの傾向がいっそう加速すると、我々は予測している。それとは対照的に、凡庸な企業や動きの遅い企業の多くは、今後どのくらいクラウドシステムのリソースが必要になるかをまったくと言ってよいほど理解していない。 最先端の自然言語処理(NLP)ツール「GPT-3」のような画期的なテクノロジーが生み出す次世代のインテリジェントアプリケーションの活用、推進、学習を行うためには、大々的にクラウドシステムに投資することが不可欠だ』、「デジタル技術を最も早い時期に導入した10%のアーリーアダプター企業は、最も遅く導入した25%の企業と比べた場合、2倍のペースで成長を遂げている」、日本には残念ながら「アーリーアダプター企業」はなさそうだ。
・『次なるAIの飛躍的前進は言語領域で  2010年代には、ウェブ上での高精度の画像検索や、医療関連の画像分析や製造・組み立て現場での欠陥品検出のためのコンピュータビジョンなど、視覚関連のテクノロジーが目覚ましい進歩を見せた。この点は、我々の著書で詳しく論じてきた通りだ。 そして、オープンAIが開発したGPT-3を見る限り、2020年代には言語関連の課題処理で飛躍的な進歩が起きそうに見える。 過去の言語処理モデルは、構文解析ルールの手動入力によるコーディングと、統計の手法を土台にしている。この10年ほどは次第に、人工ニューラルネットワークの活用も進んでいた。人工ニューラルネットワークは生データから学習することができ、日常的なデータラベリングと特徴量エンジニアリングの作業負担が既存の手法よりはるかに少なくて済む。 GPT(事前学習済み生成システム)は、このさらに上を行く。これはトランスフォーマー、すなわちテキスト内の言葉と言葉の文脈上の関係を学習するアテンション機構を用いるものだ。 GPT-3の非公開ベータ版へのアクセスを認められた研究者たちは、ショートストーリー、楽曲、プレスリリース、技術マニュアル、特定の作家の文体に準拠した文章、ギターの譜面、さらにはコンピュータのコードまで生み出すことができた。 GPT-3は、完璧なテクノロジーとはとうてい言えない。欠点はきわめて多い。たとえば、意味不明な反応やバイアスに毒された反応を生み出したり、些細な質問に不正確な回答をしたり、もっともらしいけれど誤ったコンテンツを生み出したりする。 オープンAIの上層部も、GPT-3への過剰な期待に釘を刺している。要するに、不十分な点がまだ非常に多い。それでも、大きな流れはもう変わらない。AIの新しいステージは、すぐそこまで来ているのだ。 GPT-3は、いま登場しつつある高度なトランスフォーマーの中の一つにすぎない。マイクロソフト、グーグル、アリババ、フェイスブックといった企業はすべて、独自のトランスフォーマーの開発に取り組んでいる。 これらのツールはクラウド上で学習を行い、クラウド上のアプリケーション・プログラミング・インターフェイス(API)を介してしか利用できない。次世代AIの能力を活用したい企業は、レガシーシステムではなく、GPT-3のようなクラウドのAIサービスにリソースを投入するように転換していくだろう』、「GPT(事前学習済み生成システム)は、このさらに上を行く。これはトランスフォーマー、すなわちテキスト内の言葉と言葉の文脈上の関係を学習するアテンション機構を用いるもの」、GPT(事前学習済み生成システム)は、このさらに上を行く。これはトランスフォーマー、すなわちテキスト内の言葉と言葉の文脈上の関係を学習するアテンション機構を用いるもの。
・『次世代アプリにより全社でのイノベーションが可能に  このようなクラウド上のAIサービスは、新しいタイプのエンタープライズアプリの開発に道を開くだろう。 それは、既存のアプリよりも「生成的」、つまり創造性が高いものだ。そのようなアプリにより、これまでより安価に、言葉や意図、情報をつくり出せるようになる。その結果、多くの企業活動の効率性が高まり、アーリーアダプター企業に匹敵するイノベーションと成長が加速する。 私たちが50以上のビジネス関連のGPT-3の概念実証(デモンストレーション)を分析したところ、未来の最先端のビジネスアプリは、少なくとも3つの創造的活動のカテゴリーに分類でき、すべてが言語理解に関係する。文章作成、コーディング、そして個々の分野固有の推論である。 いくつかの簡単な手掛かりに基づいて、場合によってはたった1つのセンテンスに基づいて、意味を成す文章を生成するGPT-3の能力は、時に薄気味悪く感じられることすらある。 たとえば、GPT-3の非公開ベータ版を試用した人物の一人は、それを使って、ビットコインに関する説得力あるブログを執筆した。我々が分析したデモンストレーションの中には、新しいポッドキャストをつくったり、メールや広告キャンペーンを作成したり、取締役会の運営方法を提案したり、既存の言語システムではうまく対応できないような問いに対して知的な返答をできたりするアプリも含まれていた。 GPT-3は、人間から与えられた手掛かりに基づいて、コーディングも行える。コンピュータやシステムへの指示を記述できるのだ。 それだけにとどまらず、自然言語をプログラミング言語に転換することもできる。具体的には、コンピュータに実行させたいこと(たとえば、社内向けのウェブサイトや顧客向けのウェブサイトを作成する)を、英語やスペイン語、ドイツ語といった自然言語で描写すると、AIがそのためのプログラムを書いてくれるのだ。 また、GPT-3は、特定の科学や技術の分野におけるコンテンツ、手順、知識について考えることができるので、ほかにも極めて有益な用途がありそうだ。たとえば、化学に関する問いにも答えられる。あるデモンストレーションでは、6つの燃焼反応のうちの5つを正確に言い当てた。 別のデモンストレーションでは、言葉による描写に基づいてグラフを自動生成することに成功している。これが実用化されれば、プレゼンの準備をする際などに、面倒な作業をかなり減らすことができる。ベータ版を使って、会計の専門知識を持たない人が財務諸表を作成するのを助けるボットをつくった人物もいる。 別の人物がつくったアプリは、意図的に難易度を高くした医学上の問いに正しく回答し、根底にある生物学的メカニズムを論じることができる。 具体的には、そのアプリに10歳の男の子の呼吸器に関する症状を示し、その子どもが閉塞性呼吸器疾患と診断されて、投薬治療を受けたという情報を与えた。そのうえで、「治療に使われた薬品はどの受容体に作用する可能性が高いと思うか」という問いに答えさせた。 すると、プログラムはこの問いに対して正しい回答を導き出し、その子どもが喘息を患っていて、一般的にはその受容体に作用する気管支拡張薬で治療されることを指摘できた。 このように、文章作成、コーディング、サイエンスの領域にまたがって一般的推論を行う能力があることを考えると、このテクノロジーはジャンルを超えて、マネジメント、データサイエンス、物理学、生命科学など幅広い領域で活用できる可能性がある。 加えて、GPT-3とクラウドを組み合わせることにより、デジタルイノベーションを非技術系の業務に広げていくうえでの障害を縮小できるだろう。このテクノロジーのおかげで、非技術系の人たちもプログラミング言語ではなく自然言語を使って、顧客向けのアプリとソリューションを構築することが可能になるのだ』、「GPT-3は、人間から与えられた手掛かりに基づいて、コーディングも行える。コンピュータやシステムへの指示を記述できるのだ。 それだけにとどまらず、自然言語をプログラミング言語に転換することもできる。具体的には、コンピュータに実行させたいこと(たとえば、社内向けのウェブサイトや顧客向けのウェブサイトを作成する)を、英語やスペイン語、ドイツ語といった自然言語で描写すると、AIがそのためのプログラムを書いてくれるのだ」、「GPT-3は、特定の科学や技術の分野におけるコンテンツ、手順、知識について考えることができるので、ほかにも極めて有益な用途がありそう」、これではプログラマーは不要になりそうだが、日本語がネックだろう。
・『仕事のあり方が変わり、生産性が高まる  このような変化が訪れることを前提にすれば、企業は自社のIT関連の資源を見直すだけでなく、人的資源についても再検討する必要がある。 その出発点として、自社の社員が処理している業務を洗い出し、その中でAIによる増強が可能なものを明らかにして、技術系と非技術系の社員の両方がこれまでより迅速にイノベーションを実行できるようにすればよいだろう。 筆者らは、職業情報ネットワーク(O*NET)を用い、米国政府による職種分類に従って、16分野にわたる73の職種について分析した。すると、すべての分野がGPT-3による影響を受けることがわかった。 さらに掘り下げて検討すると、その職種を構成する業務のうち、少なくとも1つがGPT-3により増強もしくは補完される職は51に上った。複数の業務がGPT-3により補完される職種も30あった。 このテクノロジーが実用化されれば、自動化できる業務も出てくるだろう。しかし、筆者らの分析によれば、人間の生産性と独創性を増強することにこそ、より大きな可能性がある。 たとえば、企業のコミュニケーション担当者の場合であれば、これまで日常的に行ってきた文章作成業務の半分以上が自動化されるだろう。その一方で、広告コピーやソーシャルメディアへの投稿など、より重要性の高いコミュニケーションについては、GPT-3の力を借りることで、担当者の創造性をより高めることができる。 また、企業のサイエンティストは、開発途中の新製品に関して、GPT-3を利用してグラフを自動生成することで、社内での説明の手間が省けるだろう。一方、GPT-3を利用して、科学論文から必要な内容を抽出させることにより、基礎研究と実験を支援することも可能になるかもしれない。 このように、専門分野や業種の壁を越えてこのテクノロジーを応用する道は、社員の想像力次第でどこまでも広がっていくのだ』、「仕事のあり方が変わり、生産性が高まる」ので、欧米企業と日本企業の生産性格差は致命的に拡大する恐れがある。
・『乗り遅れないために  いますぐ、準備を始めなくてはならない。次世代のエンタープライズアプリは、もはやレガシーシステムでは動かない。企業はこれまでよりも積極的に、クラウドへの移行を推し進めなくてはならなくなる。しばらく様子を見ようという姿勢では、好ましい結果を得られない。 2020年10月1日、オープンAIは「サービスとしてのGPT」を開始し、ベータ版ユーザーにAPIを提供し始めた。先駆的な企業は数カ月以内にGPT-3を採用し、修正を加えて、それがどのような用途で最もうまく機能し、どのような用途ではまったく役に立たないかを学んでいくだろう。 そのような企業は、社内の業務のあり方を見直し、AIを取り巻くプライバシー、セキュリティ、社会的責任の問題に対処するうえで、ほかに企業に先んじて一歩を踏み出せる。 これらの企業は向こう2年間に、ありとあらゆる種類のアプリを制作し、イノベーションのチャンスをつかむだろう。その時、後れを取った企業はますます取り残されることになる。 謝辞:本稿の執筆に当たっては、アクセンチュア・リサーチのリサーチチーム、特にティイス・デブラエレ、スルヤ・ムカジー、プラシャント・シュークラの力を借りた。HBR.org原文:The Next Big Breakthrough in AI Will Be Around Language, September 23, 2020.』、こんな画期的な「オープンAI」が出来つつあるとすれば、日本企業には脅威だ。この点を指摘する日本人はまだいないようだが、懸念材料として注目してみていきたい。
タグ:茂木健一郎 人工知能 東洋経済オンライン ダイヤモンド・オンライン 新井 紀子 (AI) (その10)(AIに読解力があると思う人に知ってほしい現実 学生の新常識は「シンギュラリティ=黒歴史」だ、茂木健一郎の「人工知能は人間の仕事を奪うのか」に対する答え 脳科学者・茂木健一郎氏インタビュー、次なるAIのブレークスルーは言語分野で起きる 「GPT-3」が示すイノベーションの新潮流) 「AIに読解力があると思う人に知ってほしい現実 学生の新常識は「シンギュラリティ=黒歴史」だ」 AI(人工知能)が進化して人類を支配する 「AIが人の知能を超える『シンギュラリティ』が2030年に到来する」といった誤解 シンギュラリティ神話が信じられていた2018年 シンギュラリティブームは「過去のあだ花」、悪くすれば「黒歴史」に変わっていた AI技術が学部生にも身近な技術になった 数十万単位のデータで学習する最近の統計的機械学習は、精度が出ても出なくても、その理由がわからない」、のは致命的欠陥 「東ロボ」、英語大躍進の理由 ある段落の任意の箇所に、次の段落から選んだ任意の文を挿入する。そして、挿入された文を「文脈から外れた不要文だ」と学習させた」、とは巧みに工夫したものだ AIは意味を理解できない 東ロボの英語大躍進のタネ明かしを聞いた読者の多くは、「そんなものは読解ではない。単に一番可能性が高い選択肢を選ぶAIを作ったにすぎない」と不満に思ったことだろう。同感だ。「なにしろ、うちの大学院生が「AIが意味を理解しないのは当然のことだ」と言うようになったのだから 茂木健一郎の「人工知能は人間の仕事を奪うのか」に対する答え 脳科学者・茂木健一郎氏インタビュー 『クオリアと人工意識』(講談社現代新書) 藤井聡太棋聖はAIと人間の共存のモデルケース 人工知能はコンセプトワークが不得意なんです。全体を統合するような発想が苦手 意識やクオリア、直感についていま語るべき理由 藤井聡太さん」の「注目の指し手」は、「最強将棋ソフトが4億手を読んでも出なかったアウトプットです。6億手に拡大して、やっと候補の1つとして出た それを「直観」でやる能力はさすがだ 人工知能時代の学びの「あるべき形」とは 「シェイクスピア風で」というお題が中学で成立するくらい、向こうの人たちはさまざまなことを学んでいます 現代アートはコンセプト重視です ンセプトワークでもある。そういったものに触れるという視点は、人工知能時代の人間の強みを生かす上で大事だと思いますね ダイヤモンド・ハーヴァード・ビジネス・レビュー 「次なるAIのブレークスルーは言語分野で起きる 「GPT-3」が示すイノベーションの新潮流」 次なるAIの飛躍的前進は言語領域で GPT(事前学習済み生成システム)は、このさらに上を行く。これはトランスフォーマー、すなわちテキスト内の言葉と言葉の文脈上の関係を学習するアテンション機構を用いるもの 次世代アプリにより全社でのイノベーションが可能に GPT-3は、人間から与えられた手掛かりに基づいて、コーディングも行える。コンピュータやシステムへの指示を記述できるのだ。 それだけにとどまらず、自然言語をプログラミング言語に転換することもできる。具体的には、コンピュータに実行させたいこと(たとえば、社内向けのウェブサイトや顧客向けのウェブサイトを作成する)を、英語やスペイン語、ドイツ語といった自然言語で描写すると、AIがそのためのプログラムを書いてくれるのだ GPT-3は、特定の科学や技術の分野におけるコンテンツ、手順、知識について考えることができるので、ほかにも極めて有益な用途がありそう 仕事のあり方が変わり、生産性が高まる 仕事のあり方が変わり、生産性が高まる」ので、欧米企業と日本企業の生産性格差は致命的に拡大する恐れがある 乗り遅れないために こんな画期的な「オープンAI」が出来つつあるとすれば、日本企業には脅威だ。この点を指摘する日本人はまだいないようだが、懸念材料として注目してみていきたい
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年金制度(その4)(国民年金・厚生年金「積立金統合案」 何が問題か 狙いは年金底上げ、統合案浮上の深刻事情、2020年年金改革は野党炎上商法の潮目になるか コロナ下での与野党協議が示した年金の未来) [国内政治]

年金制度については、2019年12月12日に取上げた。今日は、(その4)(国民年金・厚生年金「積立金統合案」 何が問題か 狙いは年金底上げ、統合案浮上の深刻事情、2020年年金改革は野党炎上商法の潮目になるか コロナ下での与野党協議が示した年金の未来)である。

先ずは、2019年12月16日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学 経済学部教授の土居 丈朗氏による「国民年金・厚生年金「積立金統合案」、何が問題か 狙いは年金底上げ、統合案浮上の深刻事情」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/319685
・『厚生労働省が厚生年金と国民年金の積立金の統合を検討していることが報じられている。今は別々に管理されている積立金を統合することで、将来大きく下がる見込みである国民年金の給付水準の底上げを図るのが、狙いの1つである。 積立金の統合はいったい何を意味するだろうか。 簡単にいえば、厚生年金が国民年金を救済する案である。厚生年金の加入者は正規社員が多く、年金を多く給付できて財政的に恵まれており、非正規雇用者が多く加入する国民年金の給付が今後大きく減るのを防ぐため、助けてあげてほしいというわけだ』、「厚生年金」VS「国民年金」には、「正規」VS「非正規」問題が絡んでいるようだ。
・『厚生年金の加入者が国民年金の加入者を「救済」  わが国の公的年金制度は「2階建て」と言われ、全員加入している基礎年金(1階部分)と、正規雇用の民間企業従業員や公務員が加入している厚生年金(所得比例の2階部分)から成る。自営業者や非正規雇用者は厚生年金には加入せず、基礎年金部分(国民年金)だけだ。 したがって、国民年金に加入している人は厚生年金の保険料を払うこともない。厚生年金の積立金は、厚生年金加入者が払った保険料を原資としている。 つまり、冒頭の案は、厚生年金保険料によって積み立てられた厚生年金の積立金の一部を、厚生年金保険料を払っていない国民年金加入者の給付に充てるということになる。だから、厚生年金が国民年金を「救済」する案なのである。 しかし、厚生年金加入者からすれば、老後に備えて自ら払った保険料を積み立てていたのに、関係のない国民年金加入者の給付に流用されては、自分の保険料で保険料を払っていない人をなぜ助けなければならないのかと思うだろう。それでは保険としての制度の信頼性が失われてしまう。 まさに正論である。国民年金の財政が安定していて、しっかり給付できるなら、厚生年金と国民年金の積立金を統合する必要はない。ところが、そうでない事情があるから悩ましい問題となっている。 それは、今の仕組みのまま何もしないと、国民年金にしか加入していない人の給付が目減りし、低年金になる人やほぼ無年金の人が増えて、老後に生活保護受給者になりかねないことだ。生活保護の財源は税金で、受給者の医療は全額税金で賄われ、生活保護受給者が増加した費用は国民全体で負担することになる』、「厚生年金の加入者が国民年金の加入者を「救済」」するというのは、余りに安易な解決策だ。
「国民年金」側には、低い加入率など問題が山積している。それを、「低年金になる人やほぼ無年金の人が増え」れば、「老後に生活保護受給者に」なる人間が増え、「国民全体で負担」になるからとの理屈で、そうなる前に「救済」しようとするのは、まさに「保険としての制度の信頼性が失われてしまう」結果をもたらすだろう。
・『国民年金はなぜ将来目減りするのか  国民年金にしか加入していない人の年金給付がなぜ目減りするかというと、マクロ経済スライドによって給付を減額されるからである。拙稿「働く人が減れば生産性は向上、賃金も上がる」で述べたように、マクロ経済スライドは年金給付の世代間格差を是正するためのものだ。 今の年金制度は、保険料負担がこれ以上増えないよう、2017年度以降保険料を上げないこととなっている。今後は、少子化が進んで年金保険料を払う現役世代の人口が減るのに伴い、保険料収入が減ると見込まれる。そのため、現役世代の人口が減るのに合わせて、年金の給付水準を減らさないと帳尻が合わなくなる。これが、マクロ経済スライドの仕組みの本質だ。 ただ、将来世代の年金が目減りし過ぎないよう、年金積立金を取り崩して給付を補うこととしている。 今年8月に厚生労働省が公表した年金の財政検証によると、厚生年金はマクロ経済スライドをほとんど発動しなくても、今後100年間の年金財政の収支尻を合わせることができる。しかし、積立金が少ない国民年金はマクロ経済スライドを使って給付を大きく減らさないと、年金財政の収支尻が合わない。 詳しく言うと、受給開始時の年金額が、その時点の現役世代の所得に対してどの程度の割合かを示す所得代替率で測った給付水準は、2047年度以降の高齢者の場合、50.8%となる(財政検証のケースⅢの値)。) ただし、この所得代替率は、40年間厚生年金に加入し、その間に平均的な賃金を受け取る夫と、40年間専業主婦の妻がいる世帯(モデル世帯という)が受け取る給付水準である。それ以外のタイプの世帯が50%を上回るか否かは保証の限りではない。 国民年金のみに加入する単身高齢者は、40年間欠かさず保険料を払っていても、満額の基礎年金しかもらえない。国民年金のみの高齢者は自営業者や農業者だけでなく、職場で厚生年金には入れない非正規雇用の人たちも該当する。 前述のモデル世帯で得られる所得代替率の内訳は、夫の厚生年金が24.6%、夫婦がともに満額でもらえる基礎年金が2人合わせて26.2%となる』、なるほど。
・『将来、生活保護受給者が増える可能性がある  これに従えば、国民年金のみに40年間加入していた単身高齢者は、所得代替率で13.1%(=26.2%の半分)に相当する給付しか受けられない。仮に未納や未加入の期間があれば、給付水準はさらに下がる。ちなみに、2019年度の基礎年金(満額)の所得代替率は、1人分で18.2%である。 就職氷河期世代は長きにわたる非正規雇用者が多く、単身者も多い。40年間欠かさず保険料を納めても給付がこれだけ減るのに、保険料の納付が40年間に満たなければ、所得代替率が13%を下回る人が続出し、生活保護受給者が今以上に増える可能性がある。 2019年度の生活保護給付費は約3.8兆円。これが、2040年には対GDP比で倍増するという推計もある。生活保護給付費が増えるなら、年金とは別に税負担を増やさなければ財源を手当てできない。 とどのつまり、厚生年金積立金の一部を国民年金加入者の給付に充てるべきでないと突き放しても、国民年金にしか加入していない低年金の単身高齢者が生活保護受給者になると、回り回って税金の形で追加的な負担が増えることになる。 低年金の高齢者が、生活保護受給者にならずに年金で自活できる程度に給付を維持できれば、医療保険料や患者負担を自ら負担する分、税負担は少なくて済む。したがって、低年金の高齢者ができるだけ生活保護受給者にならないで済むような年金給付が必要となる。 何らかの追加措置が必要となるが、その一案が冒頭の厚生年金と国民年金の積立金の統合である。国民年金の給付水準の底上げのために、年金保険料を上げることなく、追加的な増税もすることなく、厚生年金(所得比例部分)の給付を減らしつつも基礎年金部分の給付を底上げする案である。そして、モデル世帯でも所得代替率が50%を割らないようにする』、「所得代替率が13%を下回る人が続出し、生活保護受給者が今以上に増える可能性がある」、「所得代替率が13%を下回る」のが、「生活保護受給」になるボーダーなのだろうか。
・『年金生活者支援給付金で年金給付を底上  この利点は、追加的な増税も年金保険料の引き上げも避けられる点である。しかし、自らが払った年金保険料をほかの受給者への給付に充てる形で国民年金を救済する点で、納得が得られにくいという欠点がある。 その代替策となるのは、積立金を使わずに、税財源などで国民年金加入者の給付減に対応して追加的な給付加算をして、給付の底上げをすることが考えられる。消費税率の10%への引き上げ時に創設された「年金生活者支援給付金」はその目的を果たす仕組みである。 ただ、低年金者が今後増えると見込まれているため、支援給付金を維持するにしても、追加の増税がなければ財源を確保できなくなる。 厚生労働省は、冒頭に挙げた案を検討することを通じて、2025年の国会への法案提出を目指すという。これは、次の財政検証が行われる2024年の後を想定している。厚生年金積立金を使うのか、それとも追加の増税をするのか。低年金者が老後に生活保護受給者にならないような対応が問われている』、「追加の増税」よりは、「厚生年金積立金を使う」方法が採られる可能性が大きいが、因果関係が明確になり、望ましいのは、「追加の増税」だろう。

次に、本年6月20日付け東洋経済オンラインが掲載した慶應義塾大学商学部教授の権丈 善一氏による「2020年年金改革は野党炎上商法の潮目になるか コロナ下での与野党協議が示した年金の未来」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/356976
・『先日、学生のレポートを読んでいると、「誰も賞賛しないが(中略)年金に至っては、年金生活者は、ほかの生活者の経済状況が危機的になっている状況に対して、安定した受給が行われている」と書かれていた。 確かに、新型コロナ禍の下でも、公的年金は滞りなく給付されている。一部の週刊誌などは、公的年金の積立金を預かるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用に赤字が出たことを騒ぎ立てたくもなるのだろうが、積立金の年金給付への寄与率は、長期的には1割程度である(「社会保障への不勉強が生み出す『誤報』の正体」2018年7月25日参照)。 積立金の1割程度の損害が出ても、1割の1割の影響しか出ないし、そもそも過去のリーマンショックのときもそうであったように、長期的には、大きなショック時の損失のままでいることもないであろう』、しっかりした「学生」もいたものだ。
・『コロナ禍でも黙々と機能する社会保障制度  社会保障の機能を3つ挙げるとすると、国民の生活安定・向上機能、富裕層から中・低所得者へ、そして中央から地方への所得再分配機能、さらに景気が悪いときには社会保障の支出が増え、景気が過熱してくると支出が減るなどを通じて需要を平準化させることによる経済安定機能ということになるであろう(『ちょっと気になる社会保障V3』第10章「社会保障がはたす3つの機能」参照)。 そして公的年金保険は、今起こっている大きなショック下でも、しっかりと、これら3つの役割を果たしているようである。というよりも、公的年金などは、事前には予測できないような不測の事態――これを不確実性uncertaintyという――が起こっても給付を継続することができるように、はじめから設計されている。 公的年金保険の給付規模はGDP(国内総生産)の1割強であるわけだが、その割合は、高齢化の度合いなどに応じて地域ごとに異なる。島根県、鳥取県などは、公的年金が県民所得の20%ほどを占めており、県民消費支出では島根県は約24%にも上っている。この難局にあっても公的年金は地域経済の安定を大きく支えている。) そうした公的年金保険制度を改正する法案が、先月5月29日に参院本会議で可決成立した。今回の政策形成過程で興味深かったのは、与野党で調整が行われた結果、 +与野党共同提出の修正案は、全会一致で賛成 +修正部分除く政府案は、共産党除き賛成 となったことである。 過去の2回、2004年、2016年の改革時には、年金は与野党対立法案となり、2004年は強行採決であったし、2016年でも野党・民進党は与党案に激しく対抗し、このときも強行採決であった。2004年7月の参院選を年金選挙に仕立てて大勝利を得、そこで1匹目のどじょうを手にした旧民主党の年金担当の議員たちは、選挙のたびに、自分たちには対案としての抜本改革案があると言って政局作りに勤しんできたようである。 だがようやく、民主党、民進党、そして国民民主党・立憲民主党と渡り歩いた彼らも、年金を政争の具とすることに不利を感じてきたのであろう。 共産党を除く与野党で賛成された年金法案が成立した今、改めて、2004年年金改革時の年金騒動からこの16年間を、忘れっぽい民主主義が完全に忘れてしまう前に、ひとつの歴史の記録として整理してみよう』、「年金を政争の具とすることに不利を感じてきたのであろう」、大きな進歩だ。
・『年金破綻論に味を占めた旧民主党  元首相の鳩山由紀夫氏が「年金がこのままではボロボロになって、年を取ってももらえなくなるという語りかけは、非常に政権交代に貢献してくれた」と新聞に答えていたように、2009年の民主党政権獲得のころが年金騒動のピークだろう。 始まりは、2004年4月の枝野幸男氏の発言「(現行制度は)間違いなく破綻して、5年以内にまた替えなければならない」辺りであり、彼はその後も同様の発言を繰り返しながら、年金不安を煽りに煽っていく主役を演じていく(海老原嗣生『年金不信の正体』)。 2005年4月には岡田克也氏も「国民年金制度は壊れている」と公言していたのだが、彼を含め、2009年に政権を獲得した後は発言が変わる。岡田氏は、この発言から7年ほど経った2012年5月には、当時の社会保障・税一体改革担当相として国会で「年金制度破綻というのは私もそれに近いことをかつて申し上げたことがあり、それは大変申し訳ない」と詫びるに至る。 政権交代から2カ月ほど後には厚生労働相になっていた長妻昭氏は、テレビで「年金は破綻しません。国が続く限り必ず支える」と言っていたし、数年後の2012年4月には民主党の野田佳彦総理は、「現行制度が破綻している,あるいは将来破綻するということはない」と国会で答弁していた。 おもしろいことに、民主党と彼らの年金論にお墨付きを与えていた「有識者」たちは、民主党案の財政試算を一度も行うことなく抜本改革を唱え続けていたようなのである。社会保障・税一体改革が動き始めた2011年春に、非公開の場で年金局に依頼して彼らの案の財政試算をやってもらっている。ところが、その試算結果があまりにも厳しい現実を突きつけてしまったために、民主党の要人たちは年金試算を封印するという姑息なこともやっていた。 しかしそのことが2011年5月には報道を通じてリークされ、与野党の間で二転、三転の茶番のあげくに、試算は公表され、当時の野党自民党の格好の攻撃材料となっていた。 こうして、年金破綻論、のみならず政権交代がなされれば、自党の改革案によって翌日からでも7万円の最低保障年金が配られるかのようなキャンペーンで政権を得た民主党は、政策の柱とした年金でも行き詰まる』、「2011年春に、非公開の場で年金局に依頼して彼らの案の財政試算をやってもらっている。ところが、その試算結果があまりにも厳しい現実を突きつけてしまったために、民主党の要人たちは年金試算を封印するという姑息なこともやっていた」、「民主党」も当時の対応はお粗末だったようだ。
・『3党合意の一体改革で落ち着くと見られたが… その後、民主党政権下での2012年6月の民主・自民・公明の3党合意で公的年金は「社会保険方式を基本とする」ことが合意され、翌2013年8月には、社会保障制度改革国民会議が、2004年制度改革のフレームの下で次の4つの課題を設定し、社会経済の変化に応じて将来世代のための給付、特に基礎年金のさらなる充実を図っていくという道筋が確認されていった。 +マクロ経済スライドの仕組みの見直し +被用者保険のさらなる適用拡大 +保険料拠出期間と受給開始年齢の選択制 +高所得者の年金給付の見直し これらが実行されるように、2013年12月には、その後の政策方針を計画するプログラム法も作られた。とはいえ、旧民主党の中で年金叩きを職業にしてきた人たちの言動はその後も選挙のたびに再燃していた。 2016年参院選前の年金改革時には、現在の受給者の給付額から、彼らの孫、ひ孫世代の年金へと仕送りを強化するための改革を、当時民進党国会対策委員長であった山井和則氏は「年金カット法案」と呼んで、彼らよりもはるかに年金を理解している記者たちから一斉に批判されるという失態を演じていた(『ちょっと気になる社会保障V3』254~257ページ、「民進党の『年金カット法案批判』は見当違いだ」2016年10月27日参照)。 そしてこのときも、長妻氏は「今すぐ“抜本改革”に取り組む必要がある」と話しており、記者からは「完全にかつての民主党に先祖返りしつつある」と誌面で批判されていた。 2019年参院選前には、旧民主党議員たちは金融庁審議会の報告書に端を発した「老後2000万円不足」問題でキャンペーンを張ってはみたが、すでに公的年金保険とはどういうものかを理解していた一般の人たちからも一斉に、「2009年に抜本改革を掲げて政権を獲得した後、年金に対して何もできなかった体たらくへの批判がなされてしまった」(「金融庁の報告書が実はとんでもない軽挙なワケ」2019年6月30日参照)』、「民進党の『年金カット法案批判』は見当違いだ」、しかも「長妻氏は「今すぐ“抜本改革”に取り組む必要がある」と話しており」、余りにお粗末だ。
・『もはや揚げ足もとれず、支持基盤からの反発も  そして、彼らの老後2000万円キャンペーンのとき、相も変わらずワイドショーや週刊誌などが年金不安を煽る様子を観ながら、まだわからない人たちが世の中にいることを実感した厚生労働省の年金局は、8月に「2019年財政検証」を発表したのであるが、その報告書は世論の噴出を抑えるべく周到な準備がなされたものであった。 野党は、どうにかして財政検証の揚げ足を取ってメディアでの炎上を狙おうとするも、その願いもむなしく、かなうことはなかった。今回の年金改革の山場は、あの2019年夏の財政検証であったということもできよう。 そして重要な動きは、この数年間、野党の支持基盤である連合やその退職者団体が公的年金保険の学習を深め、政争の具として利用しようとする政治家の言うとおりには動かなくなってきていたことである。時代に取り残される野党政治家に呆れ、諫め、彼らに圧力をかけるという状況にもなっていた。 今回の年金改革が国会審議に入る前の昨年末には、立憲民主党に移っていた山井和則氏は、所得源の種類によって不公平をもたらしているなどの問題を持つ「65歳以上の在職老齢年金制度」(高在老)の見直しを今のうちにしておこうと考えていた与党の考えを批判し、相変わらずの仰々しいパフォーマンスを繰り広げていた。 それを受けた与党は面倒さゆえに、高在老改革からさっさと撤退してしまった。今回の年金改革法案に関して、実は、野党は国会で言うことはなくなっていたのである。 そうした経緯を経て、野党が首相の出席を求める「重要広範議案」に指定していた年金法案ではあったが、3月から「コロナ対策よりも桜の会の追及が大切なのか」とその姿勢を批判された野党は、年金法案においても与野党共同での修正に切り替えていく。 与党も、コロナ禍での緊急事態宣言の下、例年以上に円滑な運営を心がけ、審議日程に気を遣わなければならないため、野党の方針に協力していく立場をとることになる。そして4月半ばから年金法案は審議に入り5月29日、2020年年金改革法は静かに成立した。 今回の年金改革は、公的年金保険が人生100年時代に即するように、社会経済の変化を先読みして、将来の給付のさらなる充実を図ろうとしたものである(改正の概要)。そしてそれは先のプログラム法で計画されていた「被用者保険のさらなる適用拡大と保険料拠出期間と受給開始年齢の選択制」に沿った改革であった。 そうした与党による改革法案に対して、与野党協議の下、共産党を除く与野党での賛成の運びとなった。2004年以来の年金政治上、初めてのことである。 ここでは、公的年金論議の将来のために、今回の与野党協議の経緯を簡単に書き残しておこう。 協議過程を要約すれば、現在世代と将来世代の給付配分を調整するマクロ経済スライドに関して、名目下限の撤廃(デフレ下でのマクロ経済スライドのフル発動化)をも視野から外すことなく引き続き検討していくことを規定していた検討条項の削除を当初、野党は求めた。マクロ経済スライドの適用によって、基礎年金の将来給付水準が厚生年金より大きく低下することを問題視したためだった。 これに対して、与野党ともに、基礎年金と厚生年金のバランスがズレてしまうことによる所得再分配機能の弱体化は意識しているのであるから、その問題を解決するための本筋である基礎年金の被保険者期間の延長をともに目指し、その実現に必須となる財源調達(国庫負担分)の議論を建設的にやっていこうという方向にいなしていって、協議成立に至ったとみることができる。 筆者自身も、与野党協議が残した年金の未来の姿を、これから繰り返し読んでいくことになるのだと思う。 与野党の協議から生まれた修正・附帯決議とそれに関する若干の説明は、「令和2年年金改革・与野党協議事項」を参照してほしい。年金に興味のあるセミプロ以上の人たちには参考になるはずだ』、「野党の支持基盤である連合やその退職者団体が公的年金保険の学習を深め、政争の具として利用しようとする政治家の言うとおりには動かなくなってきていたことである。時代に取り残される野党政治家に呆れ、諫め、彼らに圧力をかけるという状況にもなっていた」、野党より先に労働組合の方が現実路線に切り替えていたとは、なるほどと納得した。
・『本当に潮目になるかは「人」次第  はたして、2020年年金改革は、長年、不毛な対立をしかけ、日本の政治そのものを疲弊させてきた旧民主党議員たちの主戦場、年金政治の潮目になるのか。それとも、法律や国会決議として残されたこれらの文言について、かつての社会保障・税一体改革のときの3党合意のように、「あれは間違いだった」と言う者が出てくる運命を辿るのか。 与野党の修正案を国会に提出して成立させるためには、手続き上、野党は修正案・対案を取り下げなければならない。ゆえに今回、野党は自分たちの修正案・対案を取り下げたうえで、与野党修正案を国会に提出して、その修正案に賛成していた。彼ら野党は、それを忘れることが、将来、本当にないのか――それもこれも、やはり、人次第ということになるのであろう』、「本当に潮目になるかは「人」次第」とはいっても、無用な対立を避け、前向きに共に歩んでいってほしいものだ。
タグ:東洋経済オンライン 年金制度 土居 丈朗 権丈 善一 (その4)(国民年金・厚生年金「積立金統合案」 何が問題か 狙いは年金底上げ、統合案浮上の深刻事情、2020年年金改革は野党炎上商法の潮目になるか コロナ下での与野党協議が示した年金の未来) 「国民年金・厚生年金「積立金統合案」、何が問題か 狙いは年金底上げ、統合案浮上の深刻事情」 「厚生年金」VS「国民年金」には、「正規」VS「非正規」問題が絡んでいるようだ 厚生年金の加入者が国民年金の加入者を「救済」 厚生年金の加入者が国民年金の加入者を「救済」」するというのは、余りに安易な解決策だ 「国民年金」側には、低い加入率など問題が山積している。それを、「低年金になる人やほぼ無年金の人が増え」れば、「老後に生活保護受給者に」なる人間が増え、「国民全体で負担」になるからとの理屈で、そうなる前に「救済」しようとするのは、まさに「保険としての制度の信頼性が失われてしまう」結果をもたらすだろう 国民年金はなぜ将来目減りするのか マクロ経済スライドによって給付を減額される 将来、生活保護受給者が増える可能性がある 所得代替率が13%を下回る人が続出し、生活保護受給者が今以上に増える可能性がある 年金生活者支援給付金で年金給付を底上 因果関係が明確になり、望ましいのは、「追加の増税」だろう。 「2020年年金改革は野党炎上商法の潮目になるか コロナ下での与野党協議が示した年金の未来」 コロナ禍でも黙々と機能する社会保障制度 国民の生活安定・向上機能、富裕層から中・低所得者へ、そして中央から地方への所得再分配機能、さらに景気が悪いときには社会保障の支出が増え、景気が過熱してくると支出が減るなどを通じて需要を平準化させることによる経済安定機能 年金を政争の具とすることに不利を感じてきたのであろう 年金破綻論に味を占めた旧民主党 2011年春に、非公開の場で年金局に依頼して彼らの案の財政試算をやってもらっている。ところが、その試算結果があまりにも厳しい現実を突きつけてしまったために、民主党の要人たちは年金試算を封印するという姑息なこともやっていた 3党合意の一体改革で落ち着くと見られたが 民進党の『年金カット法案批判』は見当違いだ 「長妻氏は「今すぐ“抜本改革”に取り組む必要がある」と話しており」、余りにお粗末だ もはや揚げ足もとれず、支持基盤からの反発も 野党の支持基盤である連合やその退職者団体が公的年金保険の学習を深め、政争の具として利用しようとする政治家の言うとおりには動かなくなってきていたことである。時代に取り残される野党政治家に呆れ、諫め、彼らに圧力をかけるという状況にもなっていた 本当に潮目になるかは「人」次第 本当に潮目になるかは「人」次第」とはいっても、無用な対立を避け、前向きに共に歩んでいってほしいものだ
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バブル(最近)(その4)(「株のバブル崩壊が近い」と言える4つの理由 バブル状態を「バブルだ」と言ってはダメなのか、バブルはコロナの感染拡大でむしろ大きくなる コロナ禍でも株価が上がるのは「極めて自然」だ) [金融]

バブル(最近)については、10月9日に取上げた。今日は、(その4)(「株のバブル崩壊が近い」と言える4つの理由 バブル状態を「バブルだ」と言ってはダメなのか、バブルはコロナの感染拡大でむしろ大きくなる コロナ禍でも株価が上がるのは「極めて自然」だ)である。なお、昨日は、株式・為替相場(その9)を取上げた。

先ずは、11月15日付け東洋経済オンラインが掲載した財務省出身で慶應義塾大学大学院准教授の 小幡 績氏による「「株のバブル崩壊が近い」と言える4つの理由 バブル状態を「バブルだ」と言ってはダメなのか」の5頁目までを紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/388903
・『11月に入って、株価の大幅な上昇が続いている。 これはなぜか。バブルだからだ。 「バブルおじさん」なのにトレーダーに嫌われる理由  「また性懲りもなく言うのか」と指を差されそうだ。私は「バブルおじさん」と呼ばれるほど「今はバブルだ!」などと言い続け、嫌われ者になっている。 だが、バブルおじさんが嫌われる理由はないはずだ。なぜなら、バブルになることは、トレーダーにとって最も望ましいことだからだ。 それなのに、私は嫌われる。「バブルだ、バブルだ」、と言うたびに嫌われる。それは、私に理由があるのではない。「嫌う側」に理由があるのだ。なぜなら、彼らはバブルであることを知っており、さらにバブルが崩壊しそうであることまで知っており、それが来るのをいちばん恐れているからだ。 さらに重要なのは、バブルは「バブルが崩壊する」という認識が広まることで実際に崩壊してしまうからだ。 バブルが膨らむのも「これがバブルだ」と投資家が信じることによって買いが殺到しバブルが膨らむ「自己実現メカニズム」なのだが、バブル崩壊こそ、崩壊すると人々が恐れることがそれを実現させるという「恐怖の自己実現メカニズム」だからだ。 したがって「バブルがそろそろ崩壊するかも」、という恐れが生まれることがいちばん怖い。雲ひとつない晴天に雲がぽっかり浮かび始めるのがいちばん怖いのだ。 しかし、雲と同じように、晴天であればあるほど、雲は生まれやすい。地表の温度が上がり、水蒸気が上昇気流となり、雲となるからだ。バブルも同じで、バブルの上がり方が激しいほど、その上昇の興奮からふと覚めたとき、冷静になったとき、「バブルもそろそろ終わりかも」と一点の曇りが生じ、それが急速に黒雲となり、大雨となりかねないのだ。 だから、私などがネットで吠えるだけでも彼らは怖いのだ。だから、嫌い、叩き、必死で否定する。私は、だからこそ「バブル崩壊が近い」と確信するのだ。 さて、今はそのような状況なのか。ぽっかり浮かんだ雲はあるのか。黒雲の気配はあるのか。「大あり」だ』、「バブルが膨らむのも「これがバブルだ」と投資家が信じることによって買いが殺到しバブルが膨らむ「自己実現メカニズム」なのだが、バブル崩壊こそ、崩壊すると人々が恐れることがそれを実現させるという「恐怖の自己実現メカニズム」だからだ」、膨らむのも、崩壊するのも「自己実現メカニズム」、とは興味深い。
・『「4つの好材料」が出尽くし、今後は悪材料しかない  まず、好材料出尽くしだ。 第1に、アメリカの大統領選挙が終わった。とりあえず当選者は決まった。不透明要因が除去された。最大の好材料だ。 第2に、新型コロナのワクチンが実用化できそうだ、というニュースが飛び込んできた。今回の暴騰の最大の原因だ。人々も株式市場も待ち望んでいた最大、最高のニュースだ。 第3に、GDPや企業の数字の見通しが上方修正されている。経済指標は回復基調で、しかもこの数カ月予想されてきた数字をほとんどの見通しで上回っている。コロナ回復に時間はかかっているが、それは当初懸念されたよりはましなようだ。 第4に、それにもかかわらず各国中央銀行は緩和姿勢を改めようとはしていない。欧州においては、拡大すら見込まれている。 これらの好材料で株価はとことん上げた。さて、次はどんな好材料があるか。もうない。まさに好材料出尽くした。今後は悪いニュースしかない。 いちばん危ないのはワクチンだ。 第1に、新型コロナのワクチンについては、専門家ほど懐疑的だ。まず、新型コロナは変異が速く、次の流行に現在開発するワクチンが適合するかわからない。 第2に、そもそもインフルエンザと同様にワクチン自体の効果が天然痘など「ほぼ完全に効くもの」とは違って効率が悪い。 第3に、生産量が確保されるか、貧しい国、人々へ行き渡るか、という実務上の問題がある。ワクチンの効果は「集団免疫的な効果」であるから、金持ちだけがワクチンを打っても流行は止められない。 だから、私などがネットで吠えるだけでも彼らは怖いのだ。だから、嫌い、叩き、必死で否定する。私は、だからこそ「バブル崩壊が近い」と確信するのだ。 さて、今はそのような状況なのか。ぽっかり浮かんだ雲はあるのか。黒雲の気配はあるのか。「大あり」だ』、「「4つの好材料」が出尽くし、今後は悪材料しかない」、ここまでズバリと言い切るのは、さすが「小幡 績氏」だ。
・『これから垂れ込める「3つの黒雲」  このように、第1の黒雲は、ワクチンのニュースだ。そして、それに飛びつき、確信犯的に相場を盛り上げる市場関係者だ。 黒雲はまだまだある。第2の黒雲は、アメリカの大統領選挙の開票速報に対応した株価の上げ方だ。どんなニュースが出ても、株価は上がった。いや、強引に上げた。これはバブルそのものだ。 そもそも、選挙投票直前は「大統領も上院も下院も、すべて民主党が制す。いわゆる『トリプルブルー』で、ねじれが解消され、政策が一気に動く、ということで株価は上げていた。 ところが「ドナルド・トランプ大統領がまさかの優勢か?」となったら、今度は「トランプなら株式市場にはプラスだ」などと言い出して上げた。結局、トランプは事前予想通り郵便投票が出てくると失速したが、今度は「上院が共和党になりそうだ」というニュースに飛びついた。 市場は「これで民主党の思い通りにはならない。富裕層への増税、金融課税強化はない」と勝手に解釈して、株価はまた上げた。そして、事実上次期大統領がジョー・バイデン候補に決まると、株価はさらに上げた。 要は、大統領選挙は関係ないのだ。ただ、株価を上げたいだけなのだ。そして情勢が二転三転すると、それを利用して「別々の上げる理由」として取り上げ、とことん株価を上げた。これは、バブル以外の何物でもない。まさに、欲望の自己実現だ。 第3の黒雲は、株価の上げ方、取引の動きだ。これは、バブルであることを示しているだけでなく、バブル末期であることを示している。 アメリカの株価上昇は、異常だった。代表的な指標であるNYダウは11月9日、寄り付きで約1600ドルも上げたが、引けにかけては上げ幅を縮め、この日は800ドルあまりの上昇で終わった』、「大統領選挙」に関連した「株式市場」の勝手な解釈は、こうして並べてみると、「ただ、株価を上げたいだけなのだ」というのは確かなようだ。
・『バブル末期の典型的な症状が出ている  こうした乱高下もバブルの典型的な動きだが、それよりも重要なのは、ダウが急伸したのに対し、ナスダックは急落したことだ。 これは数日間続いた。すなわち、ダウやS&P500が上昇すれば、逆にナスダックが下げるという現象だ。日本でも同じで、日経平均株価が大幅上昇する一方で、東証マザーズ指数は大幅に下落した。 一連の値動きの解釈は単純だ。ワクチンのニュースが伝わったことで、これまでコロナで暴落していた航空会社の株価などが急騰する一方、これまでコロナの恩恵を受けていた巣ごもり関連株、ネット関連株が急落したからだ。アメリカのズームなどは20%近くも下げた日があった。 このような動きは、まさにセクターローテーションと言われる。バブル末期には、物色対象を次々と変えて、上がっていないものを狙って「これまで上がっていない」という理由だけで、投資家たちはそれに飛びつく。そして、バブルを作る。 イナゴが農作物を食いついして移動するように、次から次へと物色対象を変えていく。 実際、11月11日は、ダウなどのオールドセクターからもう一度ハイテクセクターに物色を戻した。「上げすぎ、下げすぎ」ということらしいが、これはバブルの末期的な症状だ。 さらに、アメリカでは、暴騰したにもかかわらず、その割に、取引高は増えてはいるものの急増とまでは言えない。これは、もはやこの水準で売買する人々がさほどいないことを示している。 今相場に残っているのは、バブルであるがゆえに投資している異常に強気な人々や、バブルが続くことだけを信じて(祈って)投資、いや取引しているトレーダーだけなのだ。売り手が少ないから、少しの買いで株価は急騰する。一方で、少しの売りで株価は急落する。乱高下を繰り返す、というのはまさに、バブルの末期的な症状なのである。 これから、株価は一段と乱高下を繰り返すだろう。そして、何か明らかなネガティブニュースが出たときに、株価は一気に下落するはずだ。そこからも、乱高下を繰り返しながら、全体としてみると下げ基調になるだろう』、「バブル末期には、物色対象を次々と変えて・・・イナゴが農作物を食いついして移動するように、次から次へと物色対象を変えていく」、「イナゴ」に喩えるとは面白い。
・『ダウの史上最高値更新後、株価は一気に下落する?  そのきっかけの第1は、もしかすると、ダウの史上最高値更新かもしれない。バブルが崩壊する最大の原因は上がりすぎることであり、ナスダックはすでにその領域に入った。後は乱高下の中で下げトレンドが確定するだけだ。ダウもこれに続けば、バブル崩壊は確定となろう。 一方、日本株は、上昇局面で取引高がかなり増えている。これは理由が2つある。ひとつは、日本のトレーダーは気が小さいので、利食いが早く、上がるとすぐ売ってしまうからで、ついこの間買った人々も売っているから売り手が多くいるということだ。 もうひとつは、これと関連するが、日本の個人投資家は、細かい逆張りが好きで「上がれば売り、下がれば買う」という習性があるからだ。 いわゆるボックス圏相場にあれば、これは小銭稼ぎとしてはいいかもしれない。だが現在のような大きな転換局面ではもっとも危険な取引なので、日本の個人投資家には、こまめな売買は当分避けたほうがいい、と言いたい。 なるほど、見方はそれぞれであろうから「買い」だと思うなら、当分保有するつもりで買うべきだ。一方、売るほうは売ったら当分買わないつもりで売るべきだ、とアドバイスしたい(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承下さい)』、「「買い」だと思うなら、当分保有するつもりで買うべきだ。一方、売るほうは売ったら当分買わないつもりで売るべきだ」、との「アドバイス」を心に刻んでおきたい。

次に、11月21日付け東洋経済オンラインが掲載した経済評論家の山崎 元氏による山崎 元の3頁目まで紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/390428
・『株価が高い! マーケットを語る本欄にあって、株価に触れないわけにはいくまい。 「米史上最高値と日経平均29年ぶり」の意味  11月16日、ニューヨークダウは終値で2万9950ドルと3万ドルにあと50ドルまで迫り、史上最高値を更新した。 日経平均株価も17日には2万6000円台に乗せて引けた。こちらは、29年ぶりだという。2万5000円の際にも29年ぶりと報じられたが、こんなに長い間、この下の株価でビジネスをしていたのかと思うと、証券マンとしては涙が出る思いになる。「史上最高値更新」と「29年ぶり」の彼我のギャップに愕然とせざるを得ない。 しかし、感傷は脇に置くとして、株価が上昇していることは間違いない。 株高にアメリカの大統領選挙は関係なさそうだ。ドナルド・トランプ大統領優勢の報道の日も、ジョー・バイデン候補勝勢の報道の際にも、株価は上がった。「節操がない」とも言えるが、株価は別の要因で「上がりたかった」のだろう。 本欄の前回「『株のバブル崩壊が近い』と言える4つの理由」の執筆者であるオバゼキ先生(小幡績・慶応義塾大学大学院准教授)は、今の株価を「バブルだ」と喝破された。筆者もこの株価上昇の構造が「バブル的」であることに同意する。しかし、他方でこれが真性のバブルなのだとすると、「バブルは、この程度で収まるような生やさしいものではない」とも思う。本稿では、その辺りの事情を説明したい。 なお、株価上昇の一因として、大統領選挙終了による不確実性の解消を語る向きもあるが、これは違っていそうに思う。バイデン氏の僅差の当選と上下両院での民主党の意外な不振で、同氏の政権基盤は極めて弱そうだ。彼は共和党のほかに党内左派の不満にも対処しなければならない。 今のところ顕在化していないが、民主党左派の不満と、「トランプ的な共和党の支持者」の間には、意外に共通の利害があるように思われる。端的に言って「反エリート」だ。目下、「左右」の対立が「上下」の対立を覆い隠しているが、「バイデン次期政権」は民主党左派に造反されると思ったように政策が実行できない弱みを抱えている。 それでは、株価が上昇した理由は何か? それは、コロナの感染拡大が続いているからだ』、「「史上最高値更新」と「29年ぶり」の彼我のギャップに愕然とせざるを得ない」、同感である。「「これが真性のバブルなのだとすると、「バブルは、この程度で収まるような生やさしいものではない」とも思う」、どういうことなのだろう。
・『「3つの波」の違いとは  コロナの感染は世界的に拡大している。アメリカでは新規感染者数の記録更新が続いており、感染者累計、死者ともに、圧倒的な世界一だ。同国では、感染「第1波」が収まらずに拡大している。 欧州では感染が再び拡大しており、英国のようにロックダウン(都市封鎖)に至っている国もある。これは、「第2波」だろう。一方、わが国は、欧米ほど深刻ではないとしても、おそらくは、寒気と「Go To」キャンペーンなどに伴う経済活動活発化の影響で、「第3波」と呼べるような状況でコロナの感染が拡大している。 わが国を含む多くの国の7~9月期のGDP成長率は「好調」だが、4~6月期の深い落ち込みを回復するほどではない。そこにコロナ感染の拡大を迎えており、実体経済の現状と先行きは決して良好には見えない。「株価と実体経済の乖離」を心配する向きも少なくない。「これで株価は大丈夫なのか?」と言いたくなるところだが、これで大丈夫だし、むしろこのほうが大丈夫なのだ。 要するに、現在の株価上昇の原動力は金融緩和だ。金融政策が目一杯緩和されて、さらにこれを財政政策が後押しして緩和の効果を拡大している。この状況をもたらしているのは、コロナによる経済の不調であり、例えば政権として許容できない失業率だ。 順番に説明すると以下の通りだ。 まず、3月、4月のコロナの感染状況と経済の急激なストップを受けて、リーマンショック時の教訓を持っている世界の政府と中央銀行は最大限の金融緩和と未曾有の財政拡大に踏み切った。これらは、コロナ最悪期に対応した政策だ。 しかし、各国いずれも経済を止めておくわけにはいかない。経済活動は徐々に再開された。わが国も、コロナ感染の第3波を迎えて、政府が「Go To」の見直しを渋っている様子を見ると、緊急事態宣言時のように経済活動をストップするつもりはなさそうだ。 政治的信条を表すキャッチフレーズ「自助、共助、公助、そして絆」のトップに「自助」が来る菅政権の下にあっては、国民は、感染のリスクはあっても、自己責任の下で経済的な「自助」の努力を行うことが行動の基本方針とならざるをえない。つまり、以前よりも経済は回る。) さて、金融・財政政策はコロナの恐怖イメージが最悪期だった状況のままで、経済活動が部分的にでも復活すると何が起こるか。こと株価に関しては上昇が自然である。ここまでの株価上昇の多くの部分を、政策と経済実態のギャップで説明できるだろう。 こうした構造を踏まえると、ワクチンの開発などでコロナを抑えることができると、経済活動の見通しが良くなるので、株価はさらに上がるのが当面自然な反応だ。 それでは、コロナの問題がおおむね片付いたと認識されると、次には何が起こるだろうか?実は、株価にとっていちばん恐ろしいのは金融の引き締めだ。今の超金融緩和状況が逆転するという見通しが発生したとき、現在形成中のバブルは終了、すなわち「崩壊」を迎える公算が大きい。この点を考えると、現在のコロナの感染拡大は、間接的には株価にとって好材料なのだ。うれしいストーリーではないが、理屈はこうなる』、「現在のコロナの感染拡大は、間接的には株価にとって好材料なのだ」、確かに「うれしいストーリーではないが、理屈は」一応通るようだ。
・『バブルの基本構造とは?  バブルとは、過剰な信用(=借金)の拡大が投資に回ることによって発生するものだ。現在、信用の拡大は中央銀行による金融緩和と、これを資金需要面でさらに後押しする財政支出で、各国の「国家レベル」で行われている。もちろん、金融業をはじめとする民間のビジネスは、こうした金融緩和をとことん利用する方向に進むはずだ。 この構造を前提とすると、コロナの感染が拡がり、死者と失業が増えるような状況になると、さらに財政的な後押しが追加されるし、金融緩和がより長引くと予想されることになる。つまり、コロナは株価の支援材料なのだ。 「バブル」はこうしたメカニズムで生じる金融的な現象だ。典型的なバブル崩壊は金融の引き締めを背景として起こる。つまり、コロナ問題が解決して、金融環境の方向性が変わる時に「パーティー」が終了し、その後に二日酔いのような不良債権問題が残るのが普通の展開なのだ。 もちろんワクチンでコロナの悪影響が軽減される時に株価はこれを好感するだろうし、感染が拡大してロックダウンなどの影響が拡がると下落に転じるような、短期的な反応は普通にあるだろう。また、株価上昇のスピード調整や単なる投機による株価の乱高下もあるにちがいない。しかし、おおもとの構造として、コロナが居座り、現在の経済政策を正当化し続けることがバブルを支えている。 アメリカ国民の対立をあおりたいわけではないのだが、同国で起こっていることは、無保険だったり、貧困だったりして、コロナに罹りやすく、死亡率や失業率が相対的に高い貧困層の苦難が、経済対策の正当化を通じて、多額の株式やストックオプションを持っているエリート層の経済的コロナ太りを支えている。 「左右」よりも、「上下」の対立こそが本来より深刻で本質的なのではないか。バイデン氏がエリート層に気に入られるような政策に傾きすぎると、アメリカの市民もこの構造に気づくだろう。 日本の社会には、アメリカよりも、もう少しマシなところにとどまってほしい。公平で効率的な再分配政策が重要だ(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。あらかじめご了承ください)』、「おおもとの構造として、コロナが居座り、現在の経済政策を正当化し続けることがバブルを支えている」、「アメリカ国・・・で起こっていることは、無保険だったり、貧困だったりして、コロナに罹りやすく、死亡率や失業率が相対的に高い貧困層の苦難が、経済対策の正当化を通じて、多額の株式やストックオプションを持っているエリート層の経済的コロナ太りを支えている。 「左右」よりも、「上下」の対立こそが本来より深刻で本質的なのではないか。バイデン氏がエリート層に気に入られるような政策に傾きすぎると、アメリカの市民もこの構造に気づくだろう』、「バイデン氏」も政策推進に当たっては、細心の注意が必要なようだ。
タグ:バブル 東洋経済オンライン 小幡 績 山崎 元 (最近) (その4)(「株のバブル崩壊が近い」と言える4つの理由 バブル状態を「バブルだ」と言ってはダメなのか、バブルはコロナの感染拡大でむしろ大きくなる コロナ禍でも株価が上がるのは「極めて自然」だ) 「「株のバブル崩壊が近い」と言える4つの理由 バブル状態を「バブルだ」と言ってはダメなのか」 「バブルおじさん」なのにトレーダーに嫌われる理由 バブルが膨らむのも「これがバブルだ」と投資家が信じることによって買いが殺到しバブルが膨らむ「自己実現メカニズム」なのだが、バブル崩壊こそ、崩壊すると人々が恐れることがそれを実現させるという「恐怖の自己実現メカニズム」だからだ 「4つの好材料」が出尽くし、今後は悪材料しかない 好材料出尽くした。今後は悪いニュースしかない これから垂れ込める「3つの黒雲」 第1の黒雲は、ワクチンのニュースだ 第2の黒雲は、アメリカの大統領選挙の開票速報に対応した株価の上げ方だ 大統領選挙は関係ないのだ。ただ、株価を上げたいだけなのだ 第3の黒雲は、株価の上げ方、取引の動きだ 大統領選挙」に関連した「株式市場」の勝手な解釈は、こうして並べてみると、「ただ、株価を上げたいだけなのだ」というのは確かなようだ バブル末期の典型的な症状が出ている バブル末期には、物色対象を次々と変えて イナゴが農作物を食いついして移動するように、次から次へと物色対象を変えていく ダウの史上最高値更新後、株価は一気に下落する? 「買い」だと思うなら、当分保有するつもりで買うべきだ。一方、売るほうは売ったら当分買わないつもりで売るべきだ 「史上最高値更新」と「29年ぶり」の彼我のギャップに愕然とせざるを得ない 「これが真性のバブルなのだとすると、「バブルは、この程度で収まるような生やさしいものではない」とも思う 「3つの波」の違いとは 現在のコロナの感染拡大は、間接的には株価にとって好材料なのだ うれしいストーリーではないが、理屈は バブルの基本構造とは? おおもとの構造として、コロナが居座り、現在の経済政策を正当化し続けることがバブルを支えている アメリカ国 で起こっていることは、無保険だったり、貧困だったりして、コロナに罹りやすく、死亡率や失業率が相対的に高い貧困層の苦難が、経済対策の正当化を通じて、多額の株式やストックオプションを持っているエリート層の経済的コロナ太りを支えている。 「左右」よりも、「上下」の対立こそが本来より深刻で本質的なのではないか。バイデン氏がエリート層に気に入られるような政策に傾きすぎると、アメリカの市民もこの構造に気づくだろう
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株式・為替相場(その9)(リスクオンでもドル安円高 いつまで続くのか JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏に聞く、「株高・債券高・ドル安」が当面の基調となる必然 視界不良の中 決定的なエッセンスを見極める、コロナ再拡大でも株価絶好調の「嫌な理由」) [金融]

株式・為替相場については、2018年12月29日に取上げた。今日は、(その9)(リスクオンでもドル安円高 いつまで続くのか JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏に聞く、「株高・債券高・ドル安」が当面の基調となる必然 視界不良の中 決定的なエッセンスを見極める、コロナ再拡大でも株価絶好調の「嫌な理由」)である。

先ずは、本年11月7日付け東洋経済オンライン「リスクオンでもドル安円高、いつまで続くのか JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏に聞く」を紹介しよう。
・『ドル円相場はコロナ禍の下でのアメリカの金融緩和、大規模財政拡張を背景に3月の1ドル111円台をピークにドル安円高方向に進んできた。このところドルは104~106円の間で推移してきたが、欧米の株価が上昇するリスクオンムードの中でも、足元で104円を割り込んできた。ドル安円高はどこまで進むのか、JPモルガン・チェース銀行・市場調査本部長の佐々木融氏に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは佐々木氏の回答)』、興味深そうだ。
・『中長期でドルが下落していく構造がある  Q:ドル円がアメリカ大統領選挙をきっかけに1ドル104円を割りました。 A:株式市場を見てもわかるようにバイデン優勢でリスクオンモードである。だが、中長期的にみてドル安円高方向へ動いている。これは円高ではなくドル側の要因によるドル安の動きだ。 新型コロナ危機をきっかけに変わった。アメリカが金利をゼロにしているので、ドルは弱くなっていく。ドルの名目実効レートは下落を続けており、2019年の水準まで下がった。 Q:連邦準備制度理事会)の金融緩和政策の転換が大きいということですね。 A:ドル安が長期間続く要因として、3つある。FRBがゼロ金利政策を続けることに加え、さらに今回の危機でアメリカは財政も日本以上に大幅に拡張しているので、期待インフレ率が上昇して、実質金利がマイナスとなっていることだ。そのため、日米実質金利差もアメリカのほうが低くその差は拡大している。さらに、米国は経常赤字国なので、通貨は売られやすいという基本的な構造がある。2~3年はドル安傾向が続くだろう。 リーマンショック(2008年9月)後も同様の動きで、金融緩和が行われ株価が回復していく中でドル円は2011年の1ドル=76円まで下落していった。このときはまだアメリカの長期金利は2%あったが、今は1%を割っている状態だ。 Q:急激に円高が進む可能性はありますか。年内、年明けの相場レンジは? A:円高ではなくドル安の場合はじっくり進む。急激な動きではないだろう。年内は1ドル=102~105円、来年は後半に1ドル=100円割れとみている』、「円高ではなくドル安の場合はじっくり進む。急激な動きではないだろう。年内は1ドル=102~105円、来年は後半に1ドル=100円割れとみている」、この程度の穏やかな円高であれば、まずまずだろう。

次に、11月13日付け東洋経済オンラインが掲載した みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「「株高・債券高・ドル安」が当面の基調となる必然 視界不良の中、決定的なエッセンスを見極める」を紹介しよう。
・『足元では金融市場はアメリカの製薬大手ファイザーが発表した新型コロナウイルスのワクチンの治験結果を好感して、アメリカでは株高・金利高(債券安)・ドル高の地合いが続いている。もはや「アメリカ大統領の交代」という最大級の材料ですらかすんでいる。「史上最大のグレートローテーション」とリスク資産買いをあおる機運が支配している。 しかし、アメリカ大統領選挙の解釈が定まらないところに、待望のワクチン完成報道が重なったことで、「主要資産市場の値動きをどのように解釈すべきか」という論点がかなり散らかった状態になっており、先行きの視界不良を感じる市場参加者は多いだろう。そこで論点を整理してみたい』、「論点がかなり散らかった状態になっており」、「そこで論点を整理してみたい」、タイムリーだ。
・『大きな流れは「株高・債券高(金利低下)・ドル安」  結論から言えば、アメリカ大統領選挙およびワクチン報道を勘案したとしても、大統領選挙前のトレンドであった「株高・債券高(金利低下)・ドル安」という値動きが1つの大きなが流れとしてあると考えたい。 というのも、相場を見通すうえでの本質的な論点(エッセンス)は過去数カ月でさほど変わっていない。もちろん、ワクチン開発が本当に奏功すればゲームチェンジャーになることは間違いないが、まだよくわからないものを織り込むわけにはいかない。ここは黙って吉報を待ち、本当にゲームチェンジャーになって流れが変われば、素直に喜ぶくらいの姿勢でよいだろう。 では大統領選挙はどうか。これも相場の流れを一変させるような材料にはならなかったと考える。トランプ大統領はまだ敗北を受け入れておらず票の再集計が行われている最中だが、金融市場はアフタートランプを見据えている。「バイデン候補が勝利するが、これをトランプ大統領が認めず、結果確定が遅延する」というのは「醜悪だが想定されたシナリオ」でもあり、金融市場として狼狽するほどの話ではない。主要3市場(株、為替、債券)のリアクションからも悲観ムードはまったく感じられず、総じて「株高・債券高(金利低下)・ドル安」の流れが大勢となった。 しかし、選挙前には、バイデントレードとは「株高・債券安(金利上昇)・ドル安」だと言われていた。これは以下のような解釈に基づいていた。「バイデン候補が勝利した場合、民主党政権下での拡張財政路線から金利は上昇するが、公的需要が牽引する格好で実体経済は好調となるため株高となる。為替市場では拡張財政と引き換えに”ドルの過剰感”が強まることからドル安が進む」 だが、既報の通り、上院議会選挙では共和党が過半数を占めたため、バイデン候補が勝利しても財政政策における民主党色は薄まるとの思惑から金利が低下し、それが株高を呼び込んでいるとの解説が散見される。しかし、そもそも選挙前は金利上昇と株高が併存していたのだから、こうした上院選の結果を交えた株高の解説は後講釈である。結局、金融市場は見たいものしか見ない。だからこそ、容易には変わらないエッセンスを捉えておく必要がある』、なるほど。
・『「低金利の長期化、巨額財政赤字」で「ドル過剰感」  現状から将来にかけて「株高・債券高(金利低下)・ドル安」が予想される。そのエッセンスを簡単に図にまとめてみた。 まず、株高。株が買われ続けていることについて政治情勢はたいして関係がない。株が好まれるのは、過剰流動性の下、「定期的にインカムを生むアセットが株しかないから」というのが筆者の基本認識だ。こうした「株の債券化」はコロナショック以前から語られてきたフレーズである。名目GDP(国内総生産)に対する株式時価総額の比率はバフェット指標として知られるが、この上昇は今に始まったことではなく低金利が常態化する中で継続してきたものだ。傾向という意味では過去10年の話とも言える。誰が大統領になるのかがそれほど有力な説明変数になるとは思えない。 金利低下はどうか。この点は多くの解説を要さないだろう。 FRB(連邦準備制度理事会)は2023年末までゼロ金利維持で意見集約しており、利上げはインフレ率が「平均2%」になるのを確認してからだ。であれば、利上げは最速でも2024年後半だろう。大統領が誰であろうと金利の上離れを懸念する必要はない。民主党としてコロナ禍を乗り越えるべく財政政策を緩和したいならば、意図せざる金利上昇で実体経済を痛めつけないためにも金融政策で金利を抑制する必要がある。この時点で株高・金利低下は既定路線となる。 為替市場の読みはつねに難しいが、「ドルの過剰感」をテーマにしたドル全面安という読み筋は6月以降、かなりしっかりと機能している。コロナ禍が収まっていない以上、バイデン政権が景気減速を恐れることなく公約どおりに増税を敢行することはできないだろう。結局、拡張財政路線が前面に押し出され、「ドルの過剰感」は放置されるはずだ。第2次世界大戦直後に匹敵するGDP比30%の財政赤字はドル安を招く材料として十分だ。 まとめると「低金利状態が極まったゆえの株買い、今後3年は動かないゼロ金利、巨額の財政赤字を背景とする『ドルの過剰感』」というエッセンスは見通しの起点であり、これらのエッセンスが働く時間帯がまだまだ続くと考えられる』、これまで働いてきた「エッセンス」は、当面変わらないようだ。
・『金利上昇でもドルは大して買われず  実際の値動きを見ても、そうしたエッセンスから解釈するとわかりやすい。例えばドル円相場は今回のワクチン期待相場にあっても1ドル=105.60円台までしか値を上げることができなかった。また、ユーロドル相場に至っては1ユーロ=1.19ドル付近から1.18ドル付近へ売られただけで、底値の固さを確認した格好になった。ドルは大して買われなかったという整理で良いだろう。 バイデン候補優勢が伝えられて以降、アメリカの金利は一方的に上昇し、日本やドイツとの金利差が緩やかに拡大しているが、これに応じてドルが買われることはなかった。理由はさまざまあろうが、「しょせん、アメリカ金利の継続的な上昇をFRBは容認しない」という事実は衆目の一致するところであり、「金利先高観もないのにわざわざドル買いでついていく必要はない」という思惑がそうとう効いているのではないか。もちろん、巨額の財政出動は止められないから「ドルの過剰感」が重しになる、との思惑もある。 こう議論してくると、アメリカ大統領選挙は重要ではないという結論に至りやすいが、注意すべき政治的な材料もあるので、最後にそれを確認したい。それは今後明らかになる財務長官の人事だ。大統領交代のタイミングで財務長官人事に注目するのは普通の事だが、今回はとりわけ注目度が高い。 事前報道ではラエル・ブレイナードFRB理事もしくはバイデン候補と民主党大統領候補を争ったエリザベス・ウォーレン上院議員の名前が挙げられており、どちらが就任しても女性初の財務長官となる。リベラル色を主張したい民主党としては格好の人事であり、金融市場の外でも注目を集めるだろう。だが、結論から言えば、どちらの候補も日本にとってはあまり嬉しくない未来が予見される』、「どちらの候補も日本にとってはあまり嬉しくない未来が予見」、残念ながら楽しみはなさそうだ。
・『ドル安志向の強さで知られるブレイナード氏  まず、ブレイナード理事は多くの市場参加者が認識するとおり、現在のFOMC(連邦公開市場委員会)ではカシュカリ・ミネアポリス連銀総裁と並んでハト派筆頭格である。そうした志向と整合的に、同理事は前職の米財務次官(国際担当)時代はドル安志向が強い人物としても耳目を集めてきた過去がある。 例えば、アベノミクスの下で円安・ドル高が最も勢いづいていた2013年1月、ブレイナード財務次官(当時)は「ゲームのルールが今後も守られると信じる」と言明し、ドル売り・円買いを招いた。また、為替市場では2014年6月以降、長らくドル高が続いてきたが、こうした動きがアメリカ経済にもたらす引き締め効果についてブレイナード理事が講演で残した有名なフレーズがある。 2016年9月12日、『The "New Normal" and What It Means for Monetary Policy』と題した講演でブレイナード理事は「FRB/USモデルの推計に従えば、2014年6月から今年(2016年)1月までのドル相場上昇はアメリカの経済活動にとって、おおむねフェデラルファンド(FF)金利にして200ベーシスポイントの利上げに相当した」と述べた。講演時点の話だが、「ここまでのドル高は利上げ8回分(25ベーシスポイント<=0.25%ポイント>×8)に相当する」と述べ、ドル高に対する警戒感を露わにしたのである。 今年7月以降は明確にドル安が進んでいるのでこの手の発言を警戒すべきではないとも言えるが、当該講演が言及された2016年1月と比較すれば名目・実質実効ベースのいずれにしても今のドル相場のほうが高いのだ。インフレ率も振るわない現状も踏まえれば、遠慮なくドル安に関心を示してくるかもしれない』、「2014年6月から今年(2016年)1月までのドル相場上昇は」、「FF金利にして200ベーシスポイントの利上げに相当」、ドル高がここまでの金利引上げ効果があるとは改めて驚かされた。
・『ウォール街はブレイナードなら歓迎  片や、ウォーレン議員が反ウォール街の旗手という立ち位置にあることは周知の通りである。ブレイナード理事は為替相場に関連して日本にとっては警戒すべき人選になるが、ウォーレン議員は金融規制強化などをもたらす「金融市場全体にとって最悪の人選」という解釈が大勢である。こうした株安をもたらす人選になるとすれば、やはり円高を招来する材料になる。 人事は水物であり予想してもせんなき事である。トランプ政権の株価至上主義を批判してきた経緯から、バイデン次期大統領は民主党左派へ配慮せざるをえず、ウォーレン上院議員指名の可能性は低くないとも言われている。この場合、金融規制に限らず、経済政策全体が左傾化するリスクがあるため、財政赤字は膨張、「ドルの過剰感」は強まる話になる。その点からも円高リスクであろう。 一方、勝利演説で分断ではなく団結を強調した以上、あからさまに挑発的な人選も控えられるとの期待もある。ブレイナード理事は日本にとってはうれしくない人選でもウォール街に象徴される金融市場にとっては歓迎されるとの下馬評であり、財務次官出身(でかつ女性)という経験も勘案すればベストな人選にも思われる。いずれにせよ、円高を恐れる日本にとってはバイデン次期大統領誕生に並んで重要な政治材料と考えて差し支えないだろう』、「日本にとっては」、「うれしくない」「ブレイナード理事」も、「ウォール街に象徴される金融市場にとっては歓迎される」のであれば、「ウォーレン上院議員」よりはましなのだろう。

第三に、11月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏による「コロナ再拡大でも株価絶好調の「嫌な理由」」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/254600
・『日本を含めた世界中で新型コロナウイルスの感染が再拡大している。にもかかわらず、株式市場は絶好調だ。実は、コロナ禍が深刻な間は株価の落ち込みを心配する必要がないというおかしな状況に陥っている。そしてそれは、コロナによる死者や失業者を「肥やし」にしてエリート層が富むともいえるような、恐ろしき格差拡大の構図を生んでしまっている。コロナと株価の奇妙で恐ろしい関係を解説する』、興味深そうだ。
・『感染拡大「第1〜3波」が同時発生 コロナの先行きは楽観できない  新型コロナウイルスの感染が再拡大している。 わが国では一般的に「第3波」の流行と捉えられているようだが、地域によっては1日当たりのコロナ感染者数が過去最高を更新している。重症者向けの病床の占有率は今のところ、感染拡大が顕著な地域でも30%前後で余裕があるようにもみえるが、じわりと増えている。感染者と重症者は指数関数的に増加する可能性があり、全く安心はできない。 おそらくは、気温の低下と「Go Toトラベル」「Go Toイート」キャンペーンの影響で北海道での感染が拡大しており、北海道は札幌市で外出自粛の要請を行うに至っている。東京都、大阪府、神奈川県、兵庫県など都市部の感染者数も高水準だ。 海外の感染拡大はもっと深刻だ。欧州でもコロナ感染が再拡大している。これは、大きな「第2波」と呼べるだろう。英国やフランスのように、部分的にロックダウン(都市封鎖)に踏み切る国もあり、この段階に至ると経済的な影響も大きい。 そして、何といっても米国は「第1波」が沈静に向かわないままコロナの感染が継続的に拡大している。感染者数・死者数ともに突出した世界一だ。 目下、世界の1日当たりの新規感染者数は4月のピークを上回っている』、日本では、「第3波」の渦中にある。
・『株式市場では「コロナ終了」なのか? ニューヨークダウは史上最高を更新中  一方、コロナなど終わったかのような様相を呈しているのが、内外の株式市場だ。 米ニューヨーク市場のダウ工業株30種平均は、11月16日には2万9950ドルと3万ドル目前まで迫っていて、史上最高値を更新中だ。また、日経平均株価は、11月17日に一時2万6000円台に乗せる場面があった。こちらは、史上最高値は遠いものの、29年ぶりの高値である。 最近の株価上昇に対しては、米製薬企業のファイザーやモデルナによるコロナワクチンの良好な治験結果報道、米大統領選挙の終了による不確実性解消、7〜9月期の国内総生産(GDP)成長率の好結果、企業の業績見通しの改善、といった理由が並ぶ。 しかし、ワクチンは効果の持続性や副作用等の確認前の段階であり、今後の経過が良好でも実用化から効果を発揮するまでには相応の時間を要する。 また米大統領選挙は、民主党のジョー・バイデン氏の勝利が僅差だった。加えて、米議会選挙でも共和党が善戦していることから、今後の政権運営に関しては、むしろ不確実性が拡大したというのが実態ではなかろうか。 7〜9月期のGDP成長率の好結果は大きく沈んだ4〜6月期からのリバウンドに過ぎないし、前四半期の落ち込みを十分取り戻すものでもない。企業業績も同様だ。 もちろんワクチン開発は当面の好材料なのだが、株高の真因は、むしろコロナの経済に対する悪影響にこそある。なぜかというと、コロナによる悪影響が解消するまで、金融緩和とこれを補強する財政政策が継続すると見込めるからだ。 もともと現在の金融・財政政策は、3〜4月のコロナのインパクトが最大の時に策定されたものだが、これが維持されたまま経済活動が部分的ではあっても再開され、企業の業績見通しは底打ちした。感染状況は必ずしも改善しなくとも、実体経済が「コロナ慣れ」する一方で金融政策は超緩和的なままなので、株価は上がるという理屈だ。 加えて、日本銀行ばかりではなく米連邦準備制度理事会(FRB)も、先の期間まで政策金利をゼロ%で維持することを確約するフォワードガイダンスに踏み切った。また、クレジットリスクのある社債も買っているので、金融は超緩和状態にある。 そして、コロナの感染状況が悪化すると、これに、財政的な後押しが加わると期待できるのだ。 米国の株式市場を代表する、いわゆる「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)」やマイクロソフトは、コロナによる「巣ごもり需要」や「テレワーク」のニーズを吸収して概ね好業績であり、金融緩和を背景に株価が上昇している。これらの会社に勤めていて、自社の株式やストックオプションを持っている幹部社員(社内のそこそこ広い範囲に及ぶ)は大いに潤っているはずだ』、彼らが「大いに潤っているはず」なのは確かだ。
・『コロナが深刻であり続ける方が株価は高い理由  今や、株価は(特に米国で)金融的なバブルのコースに入っている。そして、金融的なバブルが終わるのは、金融の引き締めが行われる時だ。株式市場にとって実は、コロナ問題がすっかり解決して、金融・財政政策が正常化する時が怖い。 米国ではハイテク企業に職を持っていたり、多額の株式を持っていたりする米国のエリート・富裕層は、無保険だったり貧困だったりしてコロナにかかりやすく、かつ死亡しやすい人々がコロナに苦しんで死亡したり、失業したりしているような状況を肥やしにして、大いに富んでいる――。幾らか図式化しすぎかもしれないが、そうともいえるような状況が生まれ、コロナによって格差が拡大している。 他方、日本の株価は、東京証券取引所第1部上場銘柄の平均像で、株価収益率(PER)が26倍、株価純資産倍率(PBR)が1.5倍、配当利回りが2%という状況だ。まだ水準自体の割高を心配するほどの状況ではないが、米国の株価が崩れるときには連れ安することを覚悟する必要はある。 特に、米国株式がバブル的なのは気にかかるが、前述のようにバブルが弾けるのは金融が引き締まるときだ。嫌な安心の仕方だが、投資家はコロナが深刻な問題であるうちは安心していていいという状況にある。 相場の問題なので読者自身で判断してほしいが、筆者個人は、「バブルに乗って(株式を)買えとは言わないが、持ち株を売るのはまだ早い」というくらいの状況だと判断している』、「嫌な安心の仕方だが、投資家はコロナが深刻な問題であるうちは安心していていいという状況にある」、確かにその通りだろう。
・『コロナ感染再拡大における個人の「経済対策」とは?  コロナの感染拡大地域が全国に広がる中でも「Go Toトラベル」を見直さないとする政府の行動から見て、コロナを理由に経済活動を止めないとする強い方針を感じる。経済停止には、自殺やうつ病の増加など命と健康に関わる悪影響があり、経済活動を止めない方針は必ずしも悪くない。しかし、感染は拡大し、重症者用の病棟も使用率が上がっているのだから、各種の活動のリスクは上昇している。 個々の国民としては、キャッチフレーズのトップに「自助」を掲げる総理大臣の下、しばらくはコロナの感染が拡大する環境の中で、自己責任で経済活動に励む覚悟が求められているということだ。これが、善しあしを論ずる以前の現実であり、目下の生活の前提条件だ。 主に経済的な問題を考えるときに個人はどうしたらいいだろうか。 「経済」と言いながら、健康を一番に挙げるのは気が引けるが、各自の体力や持病・年齢などに応じて、自分がコロナにかからないように気をつけることが、経済面でも一番重要な対策だろう。「サラリーマンは体が資本」などと言われる通りだ。丁寧に手を洗おう。 健康の次に重要なのは、たいていの人にとっては仕事と収入だろう。業種や勤める会社、勤める形態、自営業の場合は顧客の状況などによって個人差があり、その差はコロナで拡大しているだろうが、自分の職の安定性を冷静に見積もりたい。「危ない」と思う方は、早めに副業や転職などの準備に取りかかっておきたい。いずれも、活動を早く始める方がうまくいきやすい。 また、再びテレワークが増加する可能性があるので、テレワークに関する環境(部屋など)やツール、自分のスキルについて、投資を行うことを検討するといい。例えば、オンラインで営業活動を行うことを考えると、通信の質や画像・音声なども重要だし、ツールの使い方や話し方などによって大きな差がつくことが容易に想像できる。 資産の運用面では、まず「流動性」に注意したい。コロナで収入が急減するような場合、換金できる資産を持っているか否かは重要だ。預金や上場株式、投資信託などは、即日ないし多少時間がかかっても数日で換金できるので、流動性上の不安が少ない。 他方、不動産や生命保険は流動性の点で劣る。換金に時間や手間がかかったり、仲介手数料やペナルティーなどの費用がかかったりする場合が少なくない。自分の資産の大きな部分を固定しがちな不動産投資には慎重であるべきだ。また、金融機関にとって販売時の手数料収入が投資信託より大きい貯蓄性の生命保険(主に外貨建て)などは、熱心にセールスされるだろうが、運用商品としては不適切なのでやめておきたい。 積み立て投資などをしている方は、淡々と積み立てを続けるのがいいだろう。株価にはその時々の情報が反映されているので、「株価が高いから今買うのは不利だ」ということはないのが原則だ。 問題は、先に説明した「バブル」との付き合い方だが、適切な売買タイミングを見極めることはプロにもアマにも等しく困難だ。「自分にとって適切なリスクの大きさだ」と思える金額の投資であれば、今後、株価が急上昇するようなことがあっても、じっと持っていていい。 傾向として、「良くない結果になりやすい」投資行動は、株価が大きく下げたときに株式を売り切ってしまって、その後に株式を買うチャンスを逃すパターンだ。今後、意外に早くバブルが弾けて株価が急落した場合には思い出してほしい。 バブルとの付き合い方は難しい。難しいことを前提条件とすると、自分にとって適切な金額のリスク資産を、株価が上がっても下がっても、じっと持ち続けることが無難な正解になりやすい』、「バブルとの付き合い方は難しい。難しいことを前提条件とすると、自分にとって適切な金額のリスク資産を、株価が上がっても下がっても、じっと持ち続けることが無難な正解になりやすい」、その通りなのだろう。なお、これまでは「Go Toトラベル」を見直さないと頑な姿勢を採ってきた菅政権は、新規感染者の急増、新型コロナ分科会から感染リスクの高い状況に焦点を絞った対策を行うべきだとの提言を受けて、今日、感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止するなどの措置を漸く踏み切ったようだ。
タグ:東洋経済オンライン ダイヤモンド・オンライン 山崎 元 株式・為替相場 唐鎌 大輔 (その9)(リスクオンでもドル安円高 いつまで続くのか JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏に聞く、「株高・債券高・ドル安」が当面の基調となる必然 視界不良の中 決定的なエッセンスを見極める、コロナ再拡大でも株価絶好調の「嫌な理由」) 「リスクオンでもドル安円高、いつまで続くのか JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏に聞く」 中長期でドルが下落していく構造がある 円高ではなくドル安の場合はじっくり進む。急激な動きではないだろう。年内は1ドル=102~105円、来年は後半に1ドル=100円割れとみている 「「株高・債券高・ドル安」が当面の基調となる必然 視界不良の中、決定的なエッセンスを見極める」 論点がかなり散らかった状態になっており そこで論点を整理してみたい 大きな流れは「株高・債券高(金利低下)・ドル安」 「低金利の長期化、巨額財政赤字」で「ドル過剰感」 金利上昇でもドルは大して買われず どちらの候補も日本にとってはあまり嬉しくない未来が予見 ドル安志向の強さで知られるブレイナード氏 2014年6月から今年(2016年)1月までのドル相場上昇は FF金利にして200ベーシスポイントの利上げに相当 ウォール街はブレイナードなら歓迎 ウォーレン上院議員」よりはまし 「コロナ再拡大でも株価絶好調の「嫌な理由」」 感染拡大「第1〜3波」が同時発生 コロナの先行きは楽観できない 株式市場では「コロナ終了」なのか? ニューヨークダウは史上最高を更新中 コロナが深刻であり続ける方が株価は高い理由 嫌な安心の仕方だが、投資家はコロナが深刻な問題であるうちは安心していていいという状況にある コロナ感染再拡大における個人の「経済対策」とは? バブルとの付き合い方は難しい。難しいことを前提条件とすると、自分にとって適切な金額のリスク資産を、株価が上がっても下がっても、じっと持ち続けることが無難な正解になりやすい これまでは「Go Toトラベル」を見直さないと頑な姿勢を採ってきた菅政権は、新規感染者の急増、新型コロナ分科会から感染リスクの高い状況に焦点を絞った対策を行うべきだとの提言を受けて、今日、感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止するなどの措置を漸く踏み切ったようだ
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