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おもてなし至上主義 [経済政策]

今日は、4月6日付けで取上げたクールジャパン戦略に関連して、おもてなし至上主義を取上げたい。
まずは、1月13日付け東洋経済オンライン「「おもてなし」礼賛は日本人の思い上がりだ 観光立国を名乗る前にやるべきこと」を紹介したい。そのポイントは概ね以下の通り。
・訪日外国人は1300万人を突破、日本政府はこの数を2020年に2000万人、2030年に3000万人にまで引き上げる計画
・しかし、日本の観光業収入が日本の輸出額全体に占める割合はわずか1.8%、これはOECD加盟34カ国中最下位。観光立国への道は遠い
・「訪日外国人数の目標設定などは、日本の組織が好きな数字合わせでしかない。一体何のために観光客に日本に来てもらうのか。その土地におカネを落としてもらうという原点を見失っていないか」(文化財の保存・修理で国内最大手の小西美術工藝社の社長、デービッド・アトキンソン、英国出身の元銀行アナリスト)
・観光地としての日本のキラーコンテンツは神社仏閣などの文化財だ。だが、その周辺にお金が落ちて、魅力を高めるための再投資ができるような仕組みができていない
・たとえば東京から出雲大社を訪ねても、数万円の交通費がかかるばかりで、地元に落ちるおカネはせいぜい数千円単位。これでは交通機関が儲かっているだけということに
・日光駅周辺の店舗などではクレジットカードがほとんど使えない。数年前にできた観光案内所も外見が立派なだけで、英語の案内も少なく、パンフレットも僅か。「寺社の中にも解説がほとんどない。”来る前に勉強してこい”とでも言いたげだ。これで『おもてなし』などと言えるのか」とアトキンソンさんはあきれる
・失明しているが東京外国語大学で教鞭を執るスーダン人の国際政治学者、モハメド・オマル・アブディンさんは、「几帳面で腰が低い日本人の性格は好き。だけど、頭の固さは困ったもの」。「マニュアル化した企業のシステムが、融通を効かなくしている」と指摘。JRの駅で、駅のタクシー乗り場がわからなかったので、駅員に案内と付き添いを頼んだところ、「会社のルールでできない」との返答・・・私見では、この例での駅員の対応は適切で、これを取上げた東洋経済記者のセンスが疑われる
・ビジネスとなれば、「おもてなし」の良し悪しはお客が決めるもの。自慢するものではないだろう
・一方で、日本のサービス業の生産性が低いのは過剰サービスのためとの見方もある。何がどこまで求められているかの見極めも必要だ。他国の例も広く見て、自分の立ち位置を再確認する作業が欠かせない
・NHK放送文化研究所が1973年から5年ごとに行っている「日本人の意識」調査では、2013年時点で「日本人は他国民と比べて、極めて優れた素質を持っている」と答えた人の割合は67.5%に達した。前回調査と比べて跳ね上がっており、過去のピークである70.6%(1983年)に迫る水準。他国の長所を謙虚に受け入れる日本の強みが失われかけているとすれば心配
・日本には「おもてなし」礼賛に限らず、自国の美点をほめたたえる書籍、番組があふれている。だが、そこに本当に他国と比較し、数字を踏まえた議論がどこまであるか。日本に長く暮らす外国人の辛口のエールにこそ耳を傾けたい
http://toyokeizai.net/articles/-/57728

次に、デービッド・アトキンソン氏が5月21日付け東洋経済オンラインに寄稿した「英国人、「おもてなし至上主義」日本に違和感 わざわざ海外に「もてなされ」に行きますか?」を紹介しよう。そのポイントは概ね以下の通り。
・新刊『デービッド・アトキンソン新・観光立国論』(東洋経済刊)の中で、正しい観光政策を採れば、日本はGDP成長率8%を達成できる
・日本の「観光立国」には、それを阻むいくつかの弊害。それらの弊害の中から、特に注目を集めている「おもてなしで観光立国」という考え方について解説
・今や、日本の観光政策を語る際に必ず出てくるのが、「おもてなし」という言葉。「おもてなしで観光立国」という感じで、地方から政府まで、もはや「おもてなし」はスローガンのように用いられているという印象すら受ける
・外国人観光客が「おもてなし」だけのために、大変な出費や長期休暇といった対価を払うかといえば、ちょっと考え込んでしまう
・フランスは約8470万人の外国人観光客が訪れる世界有数の観光大国ですが、「おもてなし」のレベルは低いという印象で、中でもパリの人々の「おもてなし」が悪いという評判は、欧州でも非常に有名
・「おもてなし」は観光大国の必須条件ではない。諸外国の観光資料を分析すると、ほとんどの国がホスピタリティを自国の魅力として明記しているが、どの国もその国ならではの「おもてなし」が存在するとアピールするのは、当たり前
・日本ほど、「おもてなし」を観光戦略の中心に据える国はない。ほとんどの国は上から数えて半分以下、7つ魅力を並べたらせいぜい4番目か5番目という位置づけ
・外国人観光客はあくまで、自然や文化、歴史などの、観光資源を楽しみにやってくる。「おもてなし」は「あったほうがいいけど、なくても致命的ではない」程度の特徴でしかない
・実は、日本の「おもてなし」は、外国人観光客にとっては必ずしも「おもてなし」になっていない可能性
・日本の「おもてなし」の2つの特徴は、「無償」で、米国のようなチップといった打算はない。さらに、客などに求められてやるというものではなく、あくまで「自主的に、自分の頭で考えて行う」
・ただし、文化や価値観、考え方の違いで、別の評価が下される可能性も
・チップも含めた米国のサービス価格と、日本のサービス価格が、ほぼ同じだと仮定、たとえば、米国で食事30ドル、チップ5ドルのサービスは、日本では35ドル。チップが当たり前の国に住んでいる人なら、当然そう考える。すると、チップの有無は、価格の構成比の違いになる
・米国では、客がサービスのよし悪しを判断してチップを支払うが、サービスが悪ければそれについての対価を払わないという拒否権を、客が持っていることになる。日本は、サービスの対価は価格に含まれているので、客にはサービスのよし悪しを価格に反映させる権利がない。これは、価値観の違う外国人からすると、いいサービスを前提とした性善説に基づいているように感じられる
・日本の「おもてなし」は、日本人同士のものとして成立。日本人同士であれば、価値観がある程度近いため、「自主的に、自分の頭で考えて行う」ことも可能
・世界には242の国と地域があり、72億人もの人が生活。全員の求めるものを「自主的に、自分の頭で考える」ことなど、できるはずがない。これは、日本人にはできないということではなく、どの国の人でも無理
・実際、訪日した外国人は、よりレベルアップしてほしいというポイントも指摘。観光立国を考えるのであれば、部分的に外国人のニーズに合わせて、「おもてなし」を調整する必要。日本人同士がよいと思っていることを、外国人もよいと評価するとはかぎらない
http://toyokeizai.net/articles/-/70079

誠にもっともな指摘である。自己満足的な「おもてなし至上主義」にひたることなく、こうした外国人の視点も取り入れて、外国人観光客への様々な障害を地道に取り除いてゆく努力が求められているといえよう。
タグ:クールジャパン戦略 おもてなし至上主義 「おもてなし」礼賛は日本人の思い上がりだ 観光立国を名乗る前にやるべきこと 訪日外国人 日本の観光業収入が日本の輸出額全体に占める割合 1.8% OECD加盟34カ国中最下位 「訪日外国人数の目標設定などは、日本の組織が好きな数字合わせ その土地におカネを落としてもらうという原点を見失っていないか デービッド・アトキンソン キラーコンテンツは神社仏閣などの文化財 その周辺にお金が落ちて、魅力を高めるための再投資ができるような仕組みができていない クレジットカードがほとんど使えない 観光案内所も外見が立派なだけで、英語の案内も少なく、パンフレットも僅か 寺社の中にも解説がほとんどない モハメド・オマル・アブディン おもてなし」の良し悪しはお客が決めるもの。自慢するものではない サービス業の生産性が低い 過剰サービスのため 自分の立ち位置を再確認 NHK放送文化研究所 「日本人の意識」調査 日本人は他国民と比べて、極めて優れた素質を持っている 他国の長所を謙虚に受け入れる日本の強みが失われかけているとすれば心配 英国人、「おもてなし至上主義」日本に違和感 わざわざ海外に「もてなされ」に行きますか? デービッド・アトキンソン新・観光立国論 観光立国 阻むいくつかの弊害 おもてなしで観光立国 フランス 世界有数の観光大国 、「おもてなし」のレベルは低い 「おもてなし」は観光大国の必須条件ではない 日本ほど、「おもてなし」を観光戦略の中心に据える国はない 自然や文化、歴史などの、観光資源を楽しみにやってくる 日本の「おもてなし」は、外国人観光客にとっては必ずしも「おもてなし」になっていない可能性 無償 自主的に、自分の頭で考えて行う 文化や価値観、考え方の違いで、別の評価が下される可能性も 米国では、客がサービスのよし悪しを判断してチップを支払う サービスが悪ければそれについての対価を払わないという拒否権 サービスの対価は価格に含まれているので、客にはサービスのよし悪しを価格に反映させる権利がない 日本の「おもてなし」は、日本人同士のものとして成立 全員の求めるものを「自主的に、自分の頭で考える」ことなど、できるはずがない 部分的に外国人のニーズに合わせて、「おもてなし」を調整する必要
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