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新安保法制(その13)軍需産業への傾斜 [外交]

一昨日以降の新安保法制の続きで、今日は(その13)軍需産業への傾斜 を取上げよう。

幾度となく引用するコラムニストの小田嶋隆氏が、9月18日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した秀逸なコラム「やけ酒を呷る覚悟はあるか?」のポイントを紹介したい。
・10月1日を期して、防衛庁の外局として「防衛装備庁」という新たな役所が発足することが、15日の閣議で決定したのだそうだ
・《1800人体制で防衛装備品の研究開発や調達、輸出を一元的に管理し、コストの削減を図る。自衛隊の部隊運用業務は自衛官中心の統合幕僚監部に集約し、内部部局の運用企画局は廃止する。中谷防衛相は記者会見で「新たな組織の下で、防衛省・自衛隊がより能力を発揮し、適切に任務を遂行できるようになる」と語った。》と、読売新聞は書いている
・なるほど。不意打ちを食らった気がしているのは、単に私の現状認識が甘かったということなのであろう
・思えば、つい1週間ほど前、日本経済団体連合会(経団連)が、武器など防衛装備品の輸出を「国家戦略として推進すべきだ」とする提言を公表したというニュースが伝えられたばかりだった
・ページ検索をしていただくと分かるが、「軍需」という言葉は一言も出てこない。すべて「防衛」で置き換えられている。「現在、国会で審議中である安全保障関連法案が成立すれば、自衛隊の国際的な役割の拡大が見込まれる。自衛隊の活動を支える防衛産業の役割は一層高まり、その基盤の維持・強化には国際競争力や事業継続性等の確保の観点を含めた中長期的な展望が必要である。」 
・なんという臆面の無い言及であることだろうか。 安保関連法案に反対する世論が高まり、議事堂を囲むデモに関するニュースが連日紙面を賑わしているこの状況下で、こういう我田引水の「提言」をいけ図々しくも公表してしまえる経団連の神経の太さというのか、自信の大きさにあらためて驚愕させられる
・彼らは、安保関連法案が成立し、日本の軍需産業がスタートを切る日のことを既に織り込み済みの事実としてものを考えている。そのうえで、現状を分析し、未来を予測し、経営計画を立案し、あまつさえ政府に対して国家戦略の変更を提言することまでやってのけている
・結局、カネの出入りをベースにものを考える人間は、人の生き死にを基本に考えを進めている人間よりも、はるかに具体的な計画を立案することができるということなのであろう。それが、どんなに生命を毀損するプランであっても、だ
・思うに、今週中にも成立が見込まれている安保関連法案は、6月に成立済みの改正防衛省設置法と、ひとつのセットであると見なすべきだ。してみると、安倍政権と経団連も、ひとつのタッグとして見るのが妥当だ。つまり、2014年の4月に、「武器輸出三原則」が、「防衛装備移転三原則」という名称に改められた時点で、すでに今日あることは決定していたということだ
・なんだか空しくなる。「武器輸出三原則」の見直しは、「武器」を「防衛装備」、「輸出」を「移転」と言い換えただけの、ただの言葉の遊びではない。これは、明らかな国策の変更だ。私たちの国は、すでに、官民一体となって、武器輸出を「国家戦略として推進」するべく舵を切っている。そういうふうに考えなければならない
・安保関連法案のための外堀は、とっくの昔に、埋まっている。いまこうしてあることは、総選挙を通じて私たちが政権に現状の議席を与えた時点で、既定の方針になっていたということだ
・この先、自衛隊(←この名前も、遠からず「国防軍」に改められるのであろう)が、実際に海外での戦闘行為に参加することになるのかどうかはともかく、われわれの産業界は、これまで手付かずだった新しい市場を開拓するべく、すでに、動き出している。たぶん、日本経済は、その、戦後日本が自制してきた魅惑的な産業分野からの収益抜きには未来を思い描くことができなくなって行くに違いない
・「死の商人」という言葉を安易に振り回すつもりはない。 ただ、兵器はアルコールに似ている。客に酒を供することを始めた喫茶店は、それまでとは別の種類の店になる。その変化は、好むと好まざるとにかかわらず、不可逆的だ
・酒を出すことによって手に入る利益は、酔客が引き起こす面倒事とワンセットになっている。逃れる術は無い。 しかも、一度でも酒を出すことで代金を得た店は、二度と酒を出す前の静かな店に戻れない。もちろん、酒を出すことによって失われた客も、二度と帰ってこない。蛙がおたまじゃくしに戻れないのと同じように、アル中のオヤジは二度と再び紅顔の美少年に戻ることができない。まあ、当たり前の話だが
・現在審議中の安保関連法案の主たる問題は、それが、そもそも憲法に違反していることだ。現状を見るに、違憲であれ何であれ、法案は、どっちに転んだところで、いずれ近日中に成立する。 と、違憲だと考える学者が何百人いたところで、ひとたび国会で成立した法律は、少なくとも違憲であることが証明されるまでの間は、効力を発揮し続ける
・もしかすると、法案が成立したことによって生じる混乱が、かえって政権の足を引っ張る結果を招くかもしれない。が、政権運営が多少流動化したところで、ひとたび成立した法律が、いきなり無効になるものでもない
・ということはつまり、この先にやってくる選挙で、よほど劇的な転換が無い限り、安保関連法案は、わが国の近未来を、確実に変えて行くことになるわけで、そうである以上、われわれは、安保関連法案が効力を発揮しはじめた後の自分の国の動き方について、いまから覚悟を固めておかなければならない
・今回は、その先の日本について考えようと思っている
・戦闘行為に参加するのが目的で、そのために防衛装備(平たくいえば「武器」)を整える必要があるということなのか、防衛装備を充実させることが目的で、そのための手段として戦闘行為の想定が要求されているのかは、実は、はっきりとはわからない
・が、いずれが目的でどちらが手段であるのだとしても、両者(武器と戦闘)は、事実上は、一体のものだ。  武器が戦争を引き起こすのか、戦争が武器を要求するのかは誰にもわからない。魚が泳ぐために水があるのか、水があるから魚が泳ぐのかもわからない。はっきりしているのは、水がなければ魚も存在しないということだけだ
・こういうことを言うと、いわゆる「リアリスト」を自認する人たちが 「安保関連法案が整備されたからといってただちに戦闘参加が実現するわけではない」 「兵員の確保が要求されることと、徴兵制が現実化するというお話はまるで次元が違うぞ」 「武器の所持や輸出がそのまま戦争を意味すると思うのはおサヨク様お得意の妄想としか言いようがありませんね(笑)」 「戦争に備える法整備を整えることと、実際に戦争をすることが別の話だということをどうしても理解できないイマジンさんたちにはまったく困ったものだよ」 「武器の代わりに花束を持ってればシリアも板門店も無傷で通過できるというのが9条信者のお花畑思想なわけだよ」 てな感じのツッコミを入れてくることになっている
・無論、戦争ができる態勢を整えることと、戦争に参加することは別の話だ。そんなことはわかっている。   ただ、戦争ができる態勢を整えることが、戦争参加への重要な一歩であることはまぎれもない事実だ
・拳銃を所持することと、その拳銃で誰かを射殺することは、全米ライフル協会が何万回も繰り返しコメントしている通り、まったく別なお話ではある。 が、拳銃によって他人を射殺し得るのが、拳銃を所持している人間に限られるということもまた事実ではあるわけで、すなわち、拳銃を所持している状態が、拳銃を所持していない状態に比べて、他人を射殺する危険性の高い状態であることは、誰が指摘するまでもなくはっきりしているということなのである
・私が懸念しているのは、安保関連法案が成立することで、ただちに戦争にまきこまれるとか、いきなり徴兵制が施行されるとか、そういうことではない
・とりあえず心配なのは、ひとつには、憲法が正規の改正手続きを踏まずに改変されることによって、その効力(と「法の支配」という大切な原則)を失うことであり、もうひとつは、「戦争」を想定した法体制が、ただちに戦争それ自体を誘発しないまでも、「戦時体制」(←小津安二郎が「バカなヤツらが威張る国」と呼んだ体制)を招き、「戦時経済」(軍需産業が不可欠な雇用と市場を握る経済)を呼びこむかもしれないことだ
・このふたつの懸念は、すぐそばにあるものだ
・軍需産業は、非常に大きな利益をもたらす。その利益は、一般の商品市場から得られる利益とは次元の異なるものだ。 というのも、一国の存亡を左右するツールである兵器は、コストを超えた存在だからだ
・そういう点で、兵器は、医療に似ている。 末期がん患者をかかえる家族のうちの少なからぬ人々が、怪しげな代替医療に高額の代金を支払うのは、患者の生命がコストを超えたものだからでもあるし、その種の医療が恐怖をベースにした産業だからでもある
・兵器は、その種の呪いを含んでいる。 しかも、弾薬には使用期限が設定され、武器自体は日進月歩の無効化過程の中にある。その点でも医薬品に似ている
・いや、置き薬の行商は、期限切れの薬品を無料で廃棄して入れ替えてくれるが、弾薬の製造メーカーは、期限切れになった弾薬を廃棄(あるいは訓練や小競り合いによる「消費」)して入れ替えるだけで、定期的な利益を得ることができる
・また、兵器は、仮想敵国が装備している兵器との相対的な均衡において意味を持つ装備でもある。ということは、敵国が装備を一新したら、こちらも装備を一新しないと、兵器が兵器である意味を持たなくなる。   矛は、敵がより強い盾を構えた瞬間に攻撃力を失う。一方、盾もまた、敵側の矛がより強い攻撃力を獲得した時点で防衛力を喪失する。ということは、敵味方に分かれた矛と盾は、永遠に相手を上回るために装備を更新し続けなければならないわけで、すなわち軍需産業は無限の買い替え需要をあらかじめ約束されているのである
・「いまどきXPやVistaじゃハッカーの思うつぼですよ」と言われたが最後、買い替えは必須の予算項目になる。 となると、OSの買い替えに伴ってアプリもメモリも買い替えなければならなくなる。ヘタをすると、CPUやマザーボードにさかのぼってすべてのシステムの全面的な買い替えを余儀なくされる
・思うに、経団連が、軍需産業に前のめりなのは、経団連という組織が、製造業中心の非常に偏った運営で動いていることと無縁ではない。 以下に紹介するリンクは、伊藤忠商事の中興の祖であり、退任後は民間初の中国大使として活躍した丹羽宇一郎氏のブログだが、氏はこの記事の中で、経団連の会長・副会長総勢19人のうちに、小売業・サービス業出身の人が一人もいないことを指摘しつつ、日本のGDPのうちの18%を占めるに過ぎない製造業出身の者ばかりが影響力を行使している経団連のガバナンスを「激変する世界経済の中で、日本経済の中核組織である経団連は旧態依然たる状態です。あえて言えば、今の経団連は組織として劣化してきており、周回遅れというか、時代遅れになっています。ぜひとも是正してほしいのです。」と評している
・「周回遅れ」というのは、非常に鋭い指摘だと思う。日本最大の経済団体である経団連が、いまこの時期に、政府に対して、「国家戦略」として、軍需産業への傾斜を提言していることは、戦後日本の経済が平和を享受することで繁栄してきたことを踏まえて考えるに、異様な変貌ぶりと申し上げるほかに言葉が無い
・あるいは、退潮久しい日本の製造業にとって、夢を見るに足るフロンティアが、もはや、軍需産業の中にしか見いだせないということなのかもしれないが、それにしても、あんまり軽率な突撃ではないか。 まさかとは思うが、酔っ払っているのだろうか。
(原文にはリンクがあるので、興味のある方は参照されたい)
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/091700011/?P=1

いつもながらの鋭い秀逸なコラムで、新安保法制成立後の軍需産業への傾斜を面白おかしく描いている。
「リアリスト」たちへの皮肉っぽい反論もさすが。拳銃所持をめぐる米国での対立に絡めた論理展開も読ませる。喫茶店での酒を出すことによる変質、兵器と医療のアナノジーや、兵器の買い替え需要を、パソコンのOSのバージョンアップに譬える点など、ネタの豊富さには脱帽である。
日本の経済社会の今後の変質には目をこらしていく必要がありそうだ。
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