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村上ファンドへの強制調査(その2)立証ハードルの高さ。村上氏が設置した第三者委員会報告 [社会]

村上ファンドへの強制調査については、昨年12月3日に取上げたが、今日は、(その2)立証ハードルの高さ。村上氏が設置した第三者委員会報告 である。

先ずは、1月16日付け週刊東洋経済「特集 村上強制調査」を紹介しよう(▽は小見出し)
・11月25日にNHKが強制調査に入ったとの報じのをきっかけに、全国紙も連日のように報道。だが、12月4日に村上氏がHPで「法を犯す意図も理由もない。私の理念にも反する」と強く反論すると、犯人扱いするような報道はぴたりと止み、その後は強制調査についても報道されず。監視委員会が疑っているのは、14年6月27日と7月15日の2日間における女性向けアパレル大手TSI・HD株の取引。
▽焦点はこの2日間のカラ売り
・6月27日に20円安の673円。村上氏はC社を使って29万株をカラ売り。取引終了後、B社はA社から97万株を、C社はA社から49万株を夫々ToSTNeT取引で買う。取引価格は終値の6%安と7%ルールの範囲内。取引でB社は1500万円、C社は3000万円の利益を得たが、A社は本来得られたであろう4500万円を得ることができず。3社では利益は相殺。この後、B・C社は借りたTSI株を金融機関に返している。
▽7月16日のカラ売りも構造は6月27日と同一
・7月16日の取引は、TSIの第1Q決算の好調で買いが殺到したが、終値は7円安(?)の714円。村上氏はD社を使って56万株をカラ売り。取引終了後、A社はD社に517万株をToSTNeT取引で売る。単価670円と終値の6%安。D社だけみると、株価下落で利益。しかし、A社を含めた2社で見ると、A社は本来得られたであろう4500万円を得られなかった一方で、D社は同額の利益。6月27日と違う点は、A社には8500万円の利益が実現していること。一連の取引で、A社の保有株はゼロに、D社には138万株残ったが、この日以降に市場で売却。
▽相場操縦と言う見立ては正しいか
・監視委員会の見立ては「カラ売りで売り浴びせることでTSI株の取引が活発であると見せかけ、他人の売りを誘い、TSI株株価を意図的に下げ、後で買い戻して利益を得た」。
・村上氏の法的代理人の渥美洋子弁護士(法律事務所ヒロナカ)によれば、保有している現物株を売るのではなく、カラ売りしたのは、議決権移動をTSI側に見られたくなかったため。村上氏は逆日歩を恐れ、売り急いでいた。2日間の売りへの関与率は5割超と、監視委員会が問題視。ただし、他の日の関与率も高く、この2日間だけが異常といえるほどではない。もともと村上氏の取引には”爆買い・爆売り”という際立った特徴。「後で買い戻して利益を得た」との見立ても、成立ち難い(A社とB・C・D社とで利益は相殺)。
・ToSTNeTでA社が売ったのは、各社の利益再配分。節税策と疑われる面もあるが、これら関係会社には全て税務上の繰越損失があるので、利益を移し替えなくても節税効果は出る。村上氏にとって税メリットは取るに足らず。TSI株は10年以上手掛けてきた因縁の銘柄だが、村上氏が提案した自社株TOBをしないことで、撤退を始めていた。代わりに、アコーディア株取得を本格化。
▽強制調査後の続報は殆どが誤り
・借名口座を使ったとの報道は誤り。「終値関与」との報道も、2日間の最後の10分間で村上氏以外の数少ない売り注文は、ほぼ全てがアルゴリズム取引で、「他人の売りを誘った」との見立ては成立せず。監視委員会は「立件に向け自信満々」と伝えられるが、刑事責任を問うのは容易ではなさそうだ。
▽株式売買の過半数がアルゴリズム取引(「一般の投資家がつられて売買した」という犯罪の構図を描くのは無理があるかも知れない。監視委員会は「アルゴリズム取引については勉強中」。
▽「全体として売買を見ないと判断を誤る」(郷原信郎)
・相場操縦は違法か合法かの線引きが非常に難しい。株価の変動や関与率だけを基準にすれば、大口の株取引の殆どが該当。村上氏のようなアクティビストの場合、提案が受け入れられなければエクジットのために大量の売却をすることになり、関与率は高くならざえるを得ない。
・相場操縦の成立要件について、最高裁判例は「誘引目的説」を採り、投資者にその相場が自然の需給関係によって形成されていると誤認させて売買取引に誘い込む目的の有無を判断基準にしているが、「誘引される可能性を認識していた」だけで目的があるとされるのでは、成立範囲を限定する意味はない。ほかの投資者が誘引される現実的な可能性が売買注文などによって客観的に裏付けられる場合に限定すべき。
・私は2006の村上ファンド事件で、ライブドアがニッポン放送株を大量に取得するとの情報を得た後にニッポン放送株を買った事実をインサイダー取引と捉えた検察を批判。全体として見るとインサイダー取引の構造ではないのに、ライブドアによる大量取得の前に株を買った事実だけを切り取ってインサイダー取引の要件に当てはめようとした検察の構成に無理。控訴審ではわずかな範囲の違反しか認定されず、一審の実刑判決が覆ったのも当然の結果。
・インサイダー取引に対する規制も、一般投資家と機関投資家では意味が違う。株式売買を職業とする機関投資家は、業務としての売買をやめる訳にはいかない。確たる証拠も合理的な根拠もなく疑いを持たれ、当局の摘発を受けることがあるとすれば、職業の継続自体が困難になりかねない。経営者に緊張感を持たせるうえで重要な存在であるアクティビストに対して相場操縦による摘発が濫用されると、その活動自体が否定されることになりかねない

次に、4月9日付け週刊東洋経済「村上強制調査 「相場操縦には当たらない」 第三者委員会がシロ認定」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽家宅捜索の録音を基にまずは令状を復元
・村上側の依頼で発足した第三者委員会(委員長は元最高検察庁の刑事部長の宗像紀夫弁護士)は、3月25日、証券取引等監視委員会(SESC)に、「村上氏のしたことは相場操縦には当たらない」とする分厚い報告書を提出。容疑は、女性向けアパレル大手のTSI・HD株の相場操縦。同氏が10年以上も投資。問題視しているのは、2014年6月27日と7月16日の取引。
・膨大な板情報を解析 相場操縦容疑を全否定(第三者委員会は嫌疑をことごとく否定。株式売買専門家3人による分析でも、「村上氏の取引に不自然さはない」と結論。第三者委員会は、「過去の全ての相場操縦事件では違法取引が必ずあるのに、村上氏の件では違法取引がない」、他人を誤解させようがないので、「誘因目的の存在を確認することは極めて困難」。
▽「カラ売りをやるとカネが動きますもの」(担当調査官がお粗末な発言(省略))
▽村上氏への強制調査は慎重さを欠いた公算大
・法的代理人は、弘中淳一郎氏と渥美陽子弁護士。この2人に依頼したということは、法廷で徹底的に争うつもりではーーとSESC職員は感じただろう。相場操縦容疑で第三者委員会が設置されたのは過去に例がない。村上氏は、SESCと事実認識、法的擬律、事件の成否について鋭角的な対立状態にあり、SESC側が主張を受け入れる気配がなく膠着状態にあるので、打開するために、第三者委員会を日本弁護士連合会のガイドラインに沿って設立。今回のような「売り」による相場操縦の例は皆無。

第三に、上記とは異なる視点から、4月4日付け闇株新聞「墓穴を掘った? 村上世彰氏が設置した第三者委員会の報告書」を紹介しよう。
・昨年(2015年)11月25日に金融商品取引法違反(相場操縦)の疑いで証券取引等監視委員会の強制調査を受けた村上世彰氏が、その後に自ら設置した第三者委員会(委員長=宗像紀夫・元東京地検特捜部長)のまとめた「相場操縦に当たらない」との調査報告書を、3月25日に証券取引等監視委員会に提出していたようです。
・これを受けて各報道機関も、あたかも村上氏への疑いが晴れたかのような報道をしていますが、大変に誤解を招く報道なので解説しておきます。
・まず第三者委員会とは、読んで字のごとく当事者と直接利害関係のない「第三者」で構成されるという意味ですが、その調査報告書が公式に効力を持つわけでも何でもありません。
・ただ2011年の大王製紙・巨額資金不正引き出し事件やオリンパス・巨額損失隠し事件のあたりから、当該会社と直接利害関係のない専門家(弁護士や会計士)が事件を調査して報告書を提出することが流行となり、それが社会的にも(時には捜査当局にも)公正かつ正確な調査・報告であると受け止められて現在に至ります。
・しかしこの第三者委員会とはあくまでも当該会社がメンバー選出も含めて設置し、具体的な調査内容を依頼し(調査してはいけない内容もしっかりと伝え)、もちろん(安くない)報酬も支払います。つまり第三者委員会の調査・報告とは、どうしても依頼者(当該会社)の意向を反映したものになります。
・最近の例では、2015年7月に提出された東芝の第三者委員会報告書が、あとになってからその委員が事前に東芝に調査対象から外すべき事例(具体的には子会社・ウエスティングハウスの減損)についてお伺いを立てていたことまで露呈しています。2015年11月20日付け「とうとう出てしまった東芝・第三者委員会の出来レース」に書いてあります。
・村上氏に話を戻します。証券取引等監視委員会の刑事告発を担当する特別調査課の強制調査を受けた(つまり刑事事件の容疑者として捜査される可能性の高い)村上氏が、あくまでも個人の立場で第三者委員会を設置し、その代表に元・東京地検特捜部長の大物ヤメ検を据え、「相場操縦に当たらない」との調査・報告書が作成されたというだけの話です。
・本誌は、以前から「物言う株主」としての村上氏(だけではありませんが)の行動には全く賛同していません。どんなに綺麗ごとを並べても所詮は会社財産をかすめ取るか、持ち株を高く買い取らせる目的しかないからです。
・しかし今回の強制調査の容疑とされる相場操縦は、単に持ち株(あるいは借株)を「ちょっとたくさん売却しただけ」としか取れず、いかにも無理筋であるとも考えていました。
・そこへこの第三者委員会の調査報告書ですが、これにはいくつかの重大な問題があります。そう書いてくると、いったい本誌は村上氏を擁護しているのか批判しているのか?と言われそうですが、ここは「はっきりと批判」しています。
・最大の問題は、本来は捜査機関(この場合は証券取引等監視委員会と東京地検特捜部)が方針を決め証拠を集め刑事事件として着手するシステムになっています。このシステムが国民にとって好ましいかどうかはともかくとして、勝手に第三者委員会(繰り返しですが当事者と直接の利害関係がない人物で構成されるという意味しかなく公式権限は何もありません)を設置し、自分が不利とならないと結論づけた調査報告書を報道陣に公表してしまったところです。
・確かに世間一般に受け止められている第三者委員会のイメージと、委員長が大物ヤメ検であることとあわせて、村上氏は自身をシロと印象づけて捜査当局を牽制するつもりでしょうが、全くの逆効果と考えます。  捜査当局とすれば、まだ着手前の段階で「あなた方の捜査は見当はずれですよ」と言われたようなものだからです。本誌の経験でも、いくら大物ヤメ検でも「あれこれ」口を出されると捜査現場に煙たがられるだけで、効果はあまりありません。
・つまり村上氏は「墓穴を掘った」と感じます。 そもそも今回の容疑である相場操縦とは、金融商品取引法や相場実務に照らし合わせるとかなりの無理筋と本誌も考えているため、こんな第三者委員会の調査報告書を先に公表するのではなく、堂々と捜査段階で主張すればよかったと考えます。
・まあその段階では「シナリオも証拠も都合よく固めらており手遅れになる」と考えたのでしょうね。これも確かにその通りですが、今後の成り行きに注目しましょう。2015年11月26~27日の「村上世彰らを相場操縦の疑いで強制調査 その1」、「同 その2」も参考にしてください。(既に12月3日のこのブログで紹介)http://yamikabu.blog136.fc2.com/blog-entry-1694.html

どうも、村上氏を立件するのは、東洋経済、闇株新聞とも「無理筋」と考えているようだ。確かに、こんなことで立件されたら、アクティビスト活動は成り立たなくなってしまう。監視委員会がいまだに「アルゴリズム取引については勉強中」としているのは驚きだ。こんなことでは、市場の「監視」は殆ど期待できない。東洋経済での郷原氏の見解は、説得力がある。
第三者委員会の捜査当局への効果については、闇株新聞は逆効果とみている。ただ、最近の捜査当局の姿勢をみると、当局に都合のいい情報をマスコミにリークすることで、社会の中に「有罪間違いない」とのムードを醸成していくのが通例となっている。村上氏としては、闇株新聞が指摘する当局への逆効果も織り込んだ上で、マスコミや社会に対してアピールするところに狙いがあったのではなかろうか。
その後の捜査当局は音無しを続けているが、起訴に踏み切るのかどうかを注視したい。
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