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燃費不正(その4)不正の病根、日産の「真の狙い」 [企業経営]

燃費不正については、5月17日に取上げたが、スズキも仲間入りしたことで、今日は、タイトルから三菱自動車を外し、燃費不正(その4)不正の病根、日産の「真の狙い」 として取上げよう。

先ずは、健康社会学者の河合薫氏が5月17日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「絶望の現場が“自死”し、燃費偽装が生まれた 責任逃れ会見と社長の父の放言に透ける不正の病根」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・「担当部長がやった」「子会社がやった」と繰り返すトップたちの会見は、なんだか無性に腹が立った。関係ない私が憤ったところでどうなるもんでもないのだが、今回は、三菱自動車の燃費偽装を巡る記者会見を見て、ふと思い出した5年前の出来事を書こうと思う。
・「私ら技術系の人間の頭の中にあるのは『良いものを作ろう』っていうことだけなんです。でも、今はそれだけじゃダメ。そういったこともウツの社員が多いことに関係してるかもしれません」 こう話し出したのは、製造業の50代の男性である。メンタルを低下させる社員が増え、「ストレスとのつき合い方を話してほしい」との依頼だった。
・当時はやたらと製造業などの現場の人たちを対象とした講演会が多く、現場(工場などの生産現場)に足を踏み入れる度に、無性に胸が熱くなったのを記憶している。 そこで働く人たちの実直さが肌にビンビンと刺さり、 「日本という国は、こういう人たちに支えられているんだよなぁ」 と感動したのだ。 そんな“現場”の1人が、件の男性だった。白いつなぎに身を包んだ彼は、研究開発チームの課長さん。某大手自動車メーカーの技術者である。 では、さっそく“現場の声”を、お聞きください。
▽「暗闇の中を全速力で走れ!って言われてるみたい」
・「本来、開発って『いついつまで』と期限をきられて、できるものではありません。試行錯誤を何度も何度も繰り返し、失敗を検証して、また試して。そうやって新しいモノが産まれるんです。でも、今は期限ありきです。すると過剰な長時間労働になる。私もそうですけど、もともと技術系の人間って、仕事が好きなんです。基本、マジメだし。家に帰るのもめんどうだって、車で仮眠を取ったり。よくないですよね」
・「昔は現場の仕事に集中して、『良いものを作る』だけで良かった。でも、今はマーケットのニーズを踏まえてやらなくてはなりません。顧客価値、市場価値、社会価値を理解しないとダメ。でも、そういう発想も知識も技術者にはありませんから、すごいストレスになる。暗闇の中を全速力で走れ!って言われてるみたいです」
・「人数もずいぶんと減らされました。40代前後の社員の負担が大きくなっているように思います。ひとりで抱え込ませないように、積極的にコミュニケーションをとるように言ってるのですが、みんな自分のことに必死で他人のこととかかまってられない。悪循環です」
・「会社はモチベーションを上げろ!の一点張りです。実は今日、河合さんには、ストレスとの付き合い方だけじゃなく、モチベーションの上げ方も話していただけると助かります。 今回の講演会もモチベーションのことを話してもらうってことで、上から承諾もらったんです。勝手なことばっかり言ってすみませんが、みんな期待しているんでよろしくお願いします」 以上が、今、私が思い出せる彼とのやりとりである。
▽リストラ、兼務…製造の現場へのしわ寄せ
・さきほど「当時は製造業などの現場の方向けの講演会が多かった」と書いたが、今思えば、さまざまな現場で問題が顕在化し始めた時期だったのだと思う。 年功序列で賃金の高い40代以上の現場の方たちがリストラされ、 「うちの会社の技術は、工場で生まれました。技術の人たちの汗の結晶です。でも、今はすぐに数字に反映されない労働力は評価されません。それに対してどうすることもできない自分の力のなさに辟易しています」 と、やるせない気持ちを話してくれた“労働組合の委員長さん”。
・「社内試験を受けて他部署との仕事と兼務しろって。それができなきゃ、新人並みに給料下げるって言うんですよ。技術一筋でやってきた輩が、この歳になって営業だの経理だのできるわけがない」 と、会社が求める変化に戸惑っていた生産現場の“職人さん”。
・「現場の人たちの扱い方が難しい。会社としては採算が取れるかどうかが大前提なのに、現場の人はなかなか妥協してくれない。『上の指示』という切り札を出してやっとです。骨が折れます」 と、現場の頑さを嘆いていた“部長さん”。 ……いろいろな立場の人たちが、それぞれの思いを話してくれたのである。
▽急速に低下する技術者の「やりがい」と「忠誠心」
・2011年に日本労働研究雑誌に寄稿された、「日本の技術者──技術者を取り巻く環境にどの様な変化が起こり、その中で彼らはどの様に変わったのか」(同志社大学教授中田喜文氏、同大学特別研究員宮﨑悟氏)というタイトルの論文には、1980年代から2000年代初頭までの現場の変化が詳細に分析されている(以下、抜粋)。
+自動車製造業に従事する技術者の数は、1995年をピークに減少傾向にある。
+米国では自動車製造業に従事している働く人たちのうち、技術者が占める割合は10.1%。一方、日本では約半分の5.4%。
+技術者の質(技術者1000人当たりの生産性)を、特許数を指標に日米で比較すると、1990年代中盤以降も日本の特許数は着実に上昇を続け、米国の水準を遥かに凌駕する高さを誇っている。 注:ここでの「技術者」は建築及び情報処理技術者をのぞく。特許数は延出願数、延登録数、実質出願数の3指標。
+技術力の高さが経済価値の創出につながっているかを、GDP10億ドル当たりの延出願数(世界各地の国で出願・審査が完了し、登録された数)で見ると、日本の特許は米国の5分の1~6分の1の経済価値しか生み出していない低さだった。
+技術者の「仕事へのやりがい」と「企業への忠誠心」を1994年と2005年で比較すると、どちらも急速に低下していた。
・これらの結果をかなりシンプルかつ乱暴にまとめると、 「日本の製造業って、技術者はめちゃくちゃ少ないんだけど、少数精鋭でメチャクチャ頑張ってる! 特許もたくさん取った! なのにさぁ~経営陣がそれを十分に生かしてないってどうよ? こんな職場で、やりがいも忠誠心もあったもんじゃないっしょ?」 ってことだ。

・裁量権がない、仕事の要求度が高い、能力に対して報酬が低い――。 冷たいストレスの雨が降り続くだけ。雲の切れ間から元気になる光も差しこまない。がんばってもがんばっても報われない。そんな悲惨な世界に閉じ込められながらも、2000年代の技術者たちは必死で踏ん張っていた。
・で、今。企業間格差が生まれている。異常に気付いた会社は現場に光を当て、異常が常態化した会社では、現場の人たちの生きる力が萎えた。 2014年度に精神疾患を理由に労災申請した人数(1456人)、支給決定件数(497件)は共に過去最多で、業種別では、「製造業」 が請求件数・支払決定件数ともにトップだったと報告されているのだ。
・三菱自動車の偽装問題では、会見の翌日、日本テレビの取材で「本社から子会社に不正の指示があった」との報告書をまとめていたことがわかったと報じられた。 報告書には、「発売時に燃費が一番でなくてはならない」と、2012年の会議の席で当時の開発本部長が発言し、子会社の管理職は、「過去の経験から目標達成は厳しいと認識し、再三の目標の引き上げに疑問を持っていた」と語ったと記されているという。
・2013年5月にeKワゴンの開発秘話がテレビ放送されたとき、三菱自動車技術センターで開発責任者の方は、「何とか目標燃費のリッター29kmに届きたい」と語り、最後の最後でその目標を達成した瞬間が映し出されていたけど、あのときあの現場にいた“技術者”の方たちは、どんな思いだったのだろう。
・「(不正を行った従業員は)軽い気持ちで出したんじゃないか」  「心根が悪いわけではない」  「燃費不正問題は、愛社精神が少し行き過ぎた程度の問題」  「燃費なんていうのは、営業トークのようにちょっと良く見せるようなもの」  「購入者で文句を言っている人はいない」  「そもそも燃費なんてみんな気にして乗っていない」 三菱グループの帝王と呼ばれ、三菱自動車の相川哲郎社長の父でもある三菱重工相談役の相川賢太郎氏は週刊新潮の取材に、こんな放言を連発したが、帝王はいったいどんな声を聞いていたのだろうか。
・現社長の相川哲郎氏は、「ギャランΣがかっこよく思えた」から三菱自動車に入社し、エリート街道をまっしぐらに進んできた生え抜きの社長だが、彼は“現場”の人たちの声にならない空気を、きちんと感じとっていたのだろうか?
▽そういう時、人は“消えよう”とする
・不正は、「もの言えぬ風土のせい」と誰もが口を揃える。だが、ものが言えないことが真の問題ではない。「言っても無視するトップ」が問題なのだ。 データを改ざんした子会社の当時の管理職は、「燃費目標に達成できない」と報告したところ、「都合の良いデータだけを使えばいい」と言われたそうだ(日本テレビの報道による)。
・どんどんとつり上げられる燃費目標に疑問を持ちながらも、必死で、ふんばっていた。どうにかしよう、と。でも、どうにもならない、もう無理と伝えたのに、「都合のいいデータだけ使えばいいじゃないか」だなんて……。私だったら、グレる。
・ものを言って無視されたときの屈辱は、ものを言えないとき以上にしんどい。 問題を解決しようというダイナミックなエネルギーが失せ、絶望するのだ。 絶望した人間は、自暴自棄の感情に支配される。 「自分はいったい何のために努力していたんだ?」 と、自分の存在意義すらわからなくなり、群衆の中で息をひそめるのである。
・かつてオーストリアの心理学者で医師のヴィクトール・E・フランクルがその著書『夜と霧』(みすず書房)の中で、自分の存在意義を見いだすことができず、自分の意思で行動しても、発言しても、それが何の役にも立たない、それでも、そこで生きるしかない、という状況になった時、人間は“群衆の中に消えようとする”と説いていたように、だ。
・私はパジェロでスキーに行くことに憧れ、初めて自分で車を買うとき、GTOは候補の一つだった。 三菱の車は強くて、かっこよかった。だが、その陰で、いや、その数年後から、“現場”人たちの強さ、かっこよさは会社に吸い上げられていたのかもしれない。
・本田宗一郎氏は、世界各地の工場を作業着で訪れ、食堂で冷め切った食事を出す料理長に「こんなメシを従業員に食わせて、いい仕事ができると思っているのか!」とカミナリを落とした。当時主流だった昼夜2交代制を、「昼間やって、翌週に真夜中に仕事して、身体を壊したらどうするんだ!」と、連続2交代制(午前6時30分~午後3時10分/午後3時20分~午後11時30分)を初導入したことは広く知られている。 現場の環境にこだわったのは、そこで働く人を“人”として尊重したから。当然ながら、それを使うお客さんのことも……。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/051300051/?P=1

次に、スズキの不正も踏まえた5月20日付け現代ビジネス「自動車メーカーはなぜ「不正の誘惑」に負けるのか? 不毛な「カタログ燃費競争」と国交省の「罪」 消費者置き去りの制度的欠陥」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽不正をしようと思えば、いくらでもできる
・「今回の不正はあってはならないこと。仕組み(自己認証制度)の根幹を揺るがす不正だが、再発防止のためにも仕組み自体を見直す必要がある。そのため、国土交通省でもタスクフォースのチームができている」 日本自動車工業会の西川廣人会長(日産自動車代表取締役CCO<チーフコンペティティブオフィサー>)は19日、就任会見でこう語った。「今回の不正」とは、相次いで発覚した三菱自動車やスズキの燃費データ不正測定問題のことだ。
・西川氏も指摘するように、今回のような不正が起こった背景には、制度の欠陥がある。加えて、過剰な「カタログ燃費競争」も不正を誘発した。業界内には「制度の不備を分かっていながら見過ごしてきた国土交通省の責任も重い」といった声も出ている。
・まず、自動車の自己認証の制度について簡単に説明しよう。 自動車メーカーが新車を生産・発売する場合、型式指定が必要となる。それを取得するためには、メーカーが提出したサンプルの車について保安基準などを国が審査して型式指定後、それを得たメーカーが自社で保安基準などを改めて確認し、完成検査終了証を発行する仕組みだ。この制度によって、工場から出荷する新車は車検を受けたものと見なされる。
・国の審査は、国土交通省の外郭団体である自動車技術総合機構が屋内試験場にある「シャシーダイナモ」と呼ばれるローラ上の機械で行う。安全や環境性能が確認されるが、燃費や排ガスもここで確認された値が販売時のカタログに記入される。 実際の路上を走る場合には、空気抵抗などがかかるため、シャシーダイナモにメーカーが予め計測した走行抵抗値などのデータを入力して、試験が行われる。
・今回の三菱自動車の不正は二つだ。一つは抵抗値の計測方法が道路車両運送法に定められたもの以外で行ったことと、もう一つは複数の計測データの平均値を取るべきところを、燃費が良くなるように小さい値を意図的に選んだことだ。
・この仕組みは、メーカーが計測したデータに不正がないという「性善説」の上に成り立つものである。利点は行政手続きの簡素化である。型式審査は変更分も含めると年間に約4000件ある。メーカーの申請数値を一つひとつ確認していたら、行政の肥大化にもつながりかねないからだ。 ただ、不正しようと思えばいくらでもできる仕組みでもある。
▽「不正の誘惑にかられる制度」
・実態について、筆者が自動車メーカーの現役エンジニアやOBを取材すると、概ね次のような回答が返ってきた。 「許されることではないが、不正の誘惑にかられる制度。うちもかつては不正をやっていたと見られるが、今は絶対にやっていない。国土交通省は不正に薄々気づいていたはずだが、見て見ぬふりをしていた」
・自動車開発の中枢に関わる関係者によると、「試験データをよくするため、テスト用の車の鋼板を薄くしたり、試験用車だけピストンの設計を変えて摩擦を少なくしたりしていた」という。市販では得られない特殊な燃料を使ったり、試験車両だけエンジンの制御システムのソフトウエアを書き換えたりすることもあるそうだ。  また、不正の業界用語も残っており、市販車では絶対に装着しない、摩擦抵抗が少ない試験用の特殊なタイヤのことを「チャンピオンタイヤ」と呼ぶそうだ。
・こうした実態から見て、「三菱自動車の燃費データ不正問題は氷山の一角」と指摘する関係者もいるほどだ。要は、どこのメーカーも「たたけば埃が出てくる」ということだろう。
▽プリウスのカタログ燃費は日米で18キロも違う!
・日本ではカタログ燃費を過度に競う風潮も不正を誘発しているのではないか。例えば、エコカーを代表するトヨタ自動車のハイブリッド車「プリウス」のカタログ燃費はガソリン1リットル当たり40・8キロで、これが日本では最高だ。ところが米国では「プリウス」のカタログ燃費は22・8キロと表記される。
・その理由は、日本のように机上の空論的試験データで得られた数値をカタログに記入することが認められていないからだ。高速走行したケースなど実走行に近いデータを勘案してカタログに通知が記入される。その方が消費者には親切だ。
・日本メーカーは「プリウス」の日本版カタログ燃費がターゲットの一つにされ、各社は開発競争で凌ぎを削り、経営者から開発陣に圧力がかかる。 一方で、トヨタのように研究開発費が1兆円を超えて資金が潤沢なメーカーばかりではない。あってはならないことだが、研究開発費のない会社がカタログ燃費競争に参加したら、簡単に不正に手を染めてしまうのも心情的には理解できる。
▽自動ブレーキでも過剰な競争が
・ホンダが大規模リコールを起こし、伊東孝紳社長が退任に追い込まれた一因も、トヨタのハイブリッド車のカタログ燃費を意識すぎる余り、無理な開発スケジュールを技術陣に強いたことで品質管理が疎かになったからだ。
・カタログ燃費競争は、消費者目線が欠けている面も否めない。 日本自動車工業会もカタログ燃費と実燃費に20~30%の大きな乖離があり、それが消費者にとって問題であることを認め、会報誌「JAMAGAZINE」(2013年6月号)で「乗用車の燃費特集」をしている。
・この中で、国交省が審査して出したカタログ燃費以外を営業目的で用いることは「景品表示法」に基づく「自動車産業における表示に関する公正競争規約」に違反する、と説明している。景品表示法は消費者庁の主管だ。消費者行政にも課題があると言えよう。
・こうした不正の誘惑にかられる制度である以上、国土交通省は市販車の抜き打ちテストなどによって事後チェックを強化すべきだが、行われていない。だから、今回の不正の責任の一部は国土交通省にもある。
断っておくが、これは不正をしたメーカーを擁護しているわけではない。制度に不備があっても不正をしてはいけないのは当然のことだ。
・不毛な燃費開発競争だけではなく、現在は自動ブレーキでも過剰な競争が展開されているそうだ。これも国土交通省の外郭団体で認定する試験でカタログ上の性能が競い合われている。 「メーカーによっては『テストスペシャル』と呼ばれる試験時だけに自動ブレーキがよく機能するソフトを搭載しているところもある」と、あるメーカーのエンジニアは打ち明ける。 これは独フォルクスワーゲンが試験時だけに排ガスを抑制するソフトウエア(ディフィートデバイス)を搭載した発想と同じだ。
・これでは、自動ブレーキは事故を減らして消費者の安全を守るという本分が忘れ去られ、メーカーや技術者の自己満足のために開発が行われているように見える。
・今後、自動車産業では人工知能(AI)の力を借りた自動運転の開発競争が激化するだろう。AIは人間の頭脳を超える能力を持つ面もあるので、安全面で車の性能は向上するだろう。一方で人間がAIを制御できなくなる事態もあり得る。 開発陣にはより一層の倫理観が求められる時代が来ている。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48707

第三に、経済ジャーナリストの町田徹氏が5月17日付け現代ビジネスに寄稿した「三菱自に巨額出資した日産「真の狙い」 〜世界シェア拡大より大事な「切り札」とは」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽「アウトランダーPHEV」という決め手
・どういう成算があるのだろうか――。 先週木曜日(5月12日)、燃費偽装で経営破たんが取り沙汰される三菱自動車に対して、「コストキラー」カルロス・ゴーン氏の率いる日産自動車が救いの手を差し伸べて世間をアッと言わせた。
・救済策の柱は、日産が2370億円を投じて三菱自の新株を取得し、資本提携に踏み切ることである。 資本提携によって、世界第4位とはいえ上位3社に大きく水をあけられていたルノー・日産グループが一気に上位との差を縮める道を開いたと、新聞やテレビはやや興奮気味に報じている。確かに、同グループの最大の弱点だったアジア市場での販売力を強化できる面はありそうだ。
・だが、ゴーン日産は、もっと別の算盤を弾いているとみるべきだろう。その鍵を握るのが、日欧で最も売れているプラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」の存在だ。 2018年以降、米国カリフォルニア州などで始まる新たな排ガス規制を視野に入れると、三菱自が誇るアウトランダーPHEVのパワーユニットは、決め手を欠いていたルノー・日産グループの救世主になるポテンシャルを秘めているのだ。
▽日産が迅速に出資を決めた背景
・「この提携は広範囲に協力関係を拡大するものであり、両社にとってまさにウィンウィンの内容。大きなシナジー効果と成長のチャンスを約束するものです」――。 日産と仏ルノーのCEO(経営最高責任者)も兼務するゴーン日産社長は12日、三菱自への出資を明かす緊急記者会見の冒頭で、こう強調して胸を張ってみせた。
・その柱は、日産が保有株数で三菱グループ御三家(三菱重工業、三菱商事、三菱東京UFJ銀行)合計を上回る三菱自の筆頭株主になることだ。 そのために、軽自動車4車種の燃費偽装の公表翌日(4月21日)から提携発表前日(5月11日)までの出来高の加重平均で算出した株価(1株当たり468円52銭)で、新規に発行される5億660万の三菱自株を取得するという。 不祥事の発覚直前まで、三菱自の株価は800円以上していた。将来、三菱自が再建に成功すれば、今回の出資は割安な投資だったという評価を得ることになるかもしれない。
・また、この出資により、日産の三菱自への出資比率は34%となり、日産の意に沿わない重要な決定に対して拒否権を発動できるようになる。
・ゴーン日産が迅速で思い切った出資に踏み切った背景として、新聞やテレビが指摘したのは、ルノー・日産グループの世界シェア拡大に向けた布石という構図だ。 2015年(暦年)の自動車の世界販売台数は、第1位のトヨタ自動車グループが1015万台、第2位の独フォルクスワーゲングループが993万台、そして第3位の米ゼネラル・モーターズが984万台である。 ルノー・日産グループは852万台と、第4位に着けているとはいえ、上位3社に100万台を超す大差を付けられていた。ここに107万台の三菱自が加われば、一気に上位3社と肩を並べる規模になる。
▽真の狙いは排出ガス規制への対応
・確かに、世界シェアを意識している面はあるだろう。特に大きな貢献が期待できるのは、アジア市場だ。三菱自は全販売台数の9割以上を海外で販売している会社だ。その中でもアジア市場向けは3割を占めている。 「ゴーン日産の目には、三菱自の海外販売を支援している三菱商事の存在も魅力的なものと映っている」(日産OB)らしい。
・だが、「真の狙いは別のある」と指摘する自動車関係者もいる。それが、世界各地で一段と強化されることになっている排出ガス規制への対応だ。 例えば、米国では10州が自動車メーカーに一定比率以上のエコカーの販売を義務付けているが、2018年実施のカリフォルニア州を先頭に、従来型のハイブリッド車をエコカーから外すことになっている。
・メーカー各社は、ハイブリッド車よりも温暖化ガスの排出が少ない燃料電池車(FCV)や電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)の販売にこれまで以上にシフトする必要に迫られているのだ。 日産と言えば、早くからEVの「リーフ」を市場に投入して販売に力を入れてきたが、必ずしも満足な成果をあげていない。今後の新エコ車の販売合戦を有利に進めることも難しいとの見方が根強い。
・リーフは、1回の充電で走行できる航続距離が280㎞と比較的長いものの、バッテリーの残量が無くなると走行できないEV車固有の弱点を抱えているし、小型車なので車体が小さく米国で人気車になりにくいという事情もある。
・これに対して、アウトランダーPHEVは米国でもなかなか人気があるSUV(スポーツ用多目的車)だ。しかも、1回の充電での航続距離が60.8kmと、ライバル車であるトヨタ の「プリウスPHV」(26.4km)を大きく上回っている。 加えて、ハイブリッド車としてバッテリーが切れた後もガソリンを燃やして走行することが可能である。EV車のように外出先での充電スタンドの有無を心配しないでよいのである。
・自動車業界では、アウトランダーPHEVのパワートレインの主要部分が三菱電機製であることは有名だ。  それゆえ、ゴーン日産は、「三菱自を完全子会社として飲み込むのではなく、あえて三菱自への出資比率を34%に抑えることにより、三菱自を三菱グループとの合弁会社として、内外の新エコ車競争で三菱電機などからの協力を得やすくする狙いもあったのではないか」(自動車業界関係者)とみられている。
▽再建は容易ではない
・日本企業を巡るM&A案件では、ごく最近も、台湾の鴻海精密工業が支配権の取得に拘った挙句、傘下に収めた途端に、買収前の公約を翻して、シャープに厳しい人員削減や経営陣の退任を迫る騒ぎが起きたばかり。
・その一方で、日産の三菱自に対する出資は、今までのところ、シャープのケースとは対照的に、「支配ではなく、補完・シナジー関係の強化を狙うゴーン流の特性がよく表れている」と総じて好意的に受け止められている。
・ただし、客観的に見て、三菱自の再建は容易ではない。 日産による出資が明らかになる前に、新聞、テレビ、通信社が競って報じていたように、少なくとも、燃費偽装の関連だけで1年間に約1500億円の特別損失が三菱自に発生する見通しだ。 これは、野村証券が三菱自の言い分に基づいて試算したものだ。勘案されているのは、燃費のカタログ掲載値と実際との差額のガソリン代の補填費用(1台当たり4.8万~9.6万)、エコ税制の追納分の補填費用(同1~2万円)、そしてユーザーへのお詫び金(同1~5万円)などである。
・これ以外に、独フォルクスワーゲンがディーゼル車の排ガス不正に伴って米国で義務付けけられたように、偽装車の買い取りを求める訴訟が続出しても不思議はない。 仮に問題の軽自動車4車種の平均的な新車の販売価格を130万円とし、その半分の65万円で、対象の62万5000台すべてを買い取るとすると、約4000億円の資金が必要になる。 石井国土交通大臣は4月22日の記者会見で、買い取りについて聞かれ、「それも含めて誠実に対応していただきたい」と注文を付けており、事態は予断を許さない。
・三菱自車の不正によってエコ税制で不利な扱いを受けたライバルメーカー車のユーザーから賠償を求められる訴訟が相次ぐリスクもある。 発端になった軽自動車4車種だけでなく、問題が他の車種や輸出車に広がる懸念も残っている。実際、早くも、米国の当局から追加の調査や情報提供の指示が出ているという。
・16年3月期の決算短信をみると、三菱自の今年3月末の現預金残高は4533億円、純資産はほぼ7018億円あるので、目先の資金ショートの懸念はない。 とはいえ、徹底的な補償・賠償を迫られるリスクに加えて、消費者の三菱自離れが起きる懸念もあり、経営が深刻な危機に陥らない保証はない。それが、三菱自の置かれている状況である。
・ゴーン日産の出資が目論見通り割安なものとなるのか、それとも無駄金に終わるのか。事態は予断を許さない。
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/48662

河合氏は、現場の技術者が直面している厳しい状況を解説した上で、『不正は、「もの言えぬ風土のせい」と誰もが口を揃える。だが、ものが言えないことが真の問題ではない。「言っても無視するトップ」が問題なのだ』と指摘する。確かにそうした面は否定できないが、トップは現場に妥協することなく、あるべき姿に近づけさせるべく、時には無理を言うことも求められる。ただ、東芝の「チャレンジ」にしろ、三菱自の場合にしろ、無理な指示は、コンプライアンス違反につながるリスクを孕んでいる。やはり、現場を裏面でフォローアップする努力が必要なのだろう。
第二の記事では、日本の性善説に立った自己認証制度の欠陥が指摘されている。「チャンピオンタイヤ」、「デストスペシャル」など、背筋が寒くなるような実態だ。自動車技術総合機構が全てを検査するのでは行政の肥大化を招くだけなので、メーカーの自己認証に対し、サンプル的に事前告知なしで検査することで、自己規律の確立を促す必要があるのだろう。「プリウスのカタログ燃費は日米で18キロも違う!」 (米国では)「日本のように机上の空論的試験データで得られた数値をカタログに記入することが認められていないからだ。高速走行したケースなど実走行に近いデータを勘案してカタログに通知が記入」、こんなことを許している国土交通省の罪は重い。「自動ブレーキでも過剰な競争が起きている」というには、空いた口が塞がらない。自動車業界は圧倒的な政治力を持っているとはいえ、これでは政府不信を増幅するだけだ。
第三の記事で、カリフォルニア州などの新排ガス規制では、ハイブリッド車もエコカーから外されるというのでは、プラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」は日産にとって確かに魅力的な存在だ。ただ、三菱自動車の「経営が深刻な危機に陥らない保証はない」ので、当面、目が離せないようだ。
タグ:チャンピオンタイヤ 5年前の出来事 複数の計測データの平均値を取るべきところを、燃費が良くなるように小さい値を意図的に選んだこと 燃費偽装の関連だけで1年間に約1500億円の特別損失 日本の特許は米国の5分の1~6分の1の経済価値しか生み出していない低さだった リストラ、兼務…製造の現場へのしわ寄せ 再建は容易ではない 自動車技術総合機構 従来型のハイブリッド車をエコカーから外すことになっている 決め手を欠いていたルノー・日産グループの救世主になるポテンシャルを秘めているのだ 自動車メーカーはなぜ「不正の誘惑」に負けるのか? 不毛な「カタログ燃費競争」と国交省の「罪」 消費者置き去りの制度的欠陥 2018年以降、米国カリフォルニア州などで始まる新たな排ガス規制を視野 抵抗値の計測方法が道路車両運送法に定められたもの以外で行ったこと 型式指定 プラグインハイブリッド車「アウトランダーPHEV」 日本の製造業って、技術者はめちゃくちゃ少ないんだけど、少数精鋭でメチャクチャ頑張ってる! 特許もたくさん取った! なのにさぁ~経営陣がそれを十分に生かしてないってどうよ? こんな職場で、やりがいも忠誠心もあったもんじゃないっしょ?」 氷山の一角 燃費不正 三菱自に巨額出資した日産「真の狙い」 〜世界シェア拡大より大事な「切り札」とは 町田徹 国交省が審査して出したカタログ燃費以外を営業目的で用いることは「景品表示法」に基づく「自動車産業における表示に関する公正競争規約」に違反 制度の不備を分かっていながら見過ごしてきた国土交通省の責任も重い 自動ブレーキでも過剰な競争が 日本のように机上の空論的試験データで得られた数値をカタログに記入することが認められていないからだ。高速走行したケースなど実走行に近いデータを勘案してカタログに通知が記入される プリウスのカタログ燃費は日米で18キロも違う 絶望の現場が“自死”し、燃費偽装が生まれた 責任逃れ会見と社長の父の放言に透ける不正の病根 急速に低下する技術者の「やりがい」と「忠誠心」 シャシーダイナモにメーカーが予め計測した走行抵抗値などのデータを入力して、試験が行われる 河合薫 、過剰な「カタログ燃費競争」も不正を誘発 メンタルの労災申請が最も多いのは製造業 日経ビジネスオンライン 性善説 自己認証制度 今はマーケットのニーズを踏まえてやらなくてはなりません。顧客価値、市場価値、社会価値を理解しないとダメ。でも、そういう発想も知識も技術者にはありませんから、すごいストレスになる 現代ビジネス どこのメーカーも「たたけば埃が出てくる」 (その4)不正の病根、日産の「真の狙い」 不正の誘惑にかられる制度 不正をしようと思えば、いくらでもできる 40代前後の社員の負担が大きくなっている スズキ 三菱自動車
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