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アメリカ大統領選挙(その4)「対立軸の崩壊」、「トランプ流ポピュリズムの行方」 [世界情勢]

アメリカ大統領選挙については、4月3日に取上げた。トランプとヒラリーの一騎打ちで固まったようだが、今日は、固まる前の情報を含め、(その4)「対立軸の崩壊」、「トランプ流ポピュリズムの行方」 として取上げよう。

先ずは、在米の作家の冷泉彰彦氏が、5月21日付けでメールマガジンJMMに寄稿した「[JMM898Sa]「混迷する大統領選、壊れつつある対立軸」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・現時点、つまり2016年5月中旬時点での米大統領選の構図を簡単に説明するとどうなるでしょう? とりあえず、共和党はドナルド・トランプ候補以外が降りてしまう中で、民主党はヒラリー・クリントン対バーニー・サンダースの争いが続いています。勿論、サンダース候補が予備選で勝利する可能性はほぼゼロなのですが、とりあえず現時点での選挙戦の構図ということは、この「3名」の立ち位置と言いますか、相互の関係をどう説明するかという問題になると思われます。
・まず、一般的な見方としては、ヒラリーという「中道やや左派」の候補を、「左派ポピュリスト」のサンダースと、「右派ポピュリスト」のトランプが、左右から挟み撃ちにしているという構図があります。 これを少しひねったものとして、サンダースとトランプは「格差社会を意識する中で、自分が下の階層であるか、または下の階層になるのではという不安感を抱えた層」であり、一方のヒラリーという人は「格差を生む現在の社会構造の代弁者」だという見方があります。もっと単純化して、富裕層を代表するのがヒラリーで、貧困層を代表するのがサンダースとトランプだという人もいます。
・勿論、ヒラリー陣営としてはそんな言い方は心外であって、自分たちは内政も外交も含めた「全領域に関して実現可能な政策」を掲げているし、何よりもオバマ政権の発展的な継承をしようとしているのは間違いありません。それ以前の問題として、ヒラリーの政策も十分に再分配を意識しており、決して富裕層優遇の政治を志向しているわけではありません。
・ですが、アメリカ社会全体から見ると、そうした階層との関連で印象付けられてしまっている、これは否定できない事実です。階層別というと身も蓋もない感じがしますので、もう少し丁寧な言い方をするのであれば、「オバマの8年」について大きな不満のない層がヒラリー支持、大きな不満があるがカルチャー的には左派の層はサンダース、同じく大きな不満があって、更にカルチャーとしてもアンチ・エリート、アンチ知性といった「味付け」を好む人はトランプ支持ということになるかもしれません。
・とにかく、色々な解説が可能であり、アメリカの中でも様々な分析があるわけですが、同時にこのサンダース現象とトランプ現象に関しては、まだ良くわからないところがあるのも事実です。何よりも、この両者については、多くのアナリストや政治家は、ここまでの勢いになることを全く予想していなかったわけで、その意味で選挙戦の展開の予測も外れる中では、分析もグラグラするのは仕方がないというところもあるのかもしれません。
・ですが、一つだけハッキリしていることがあると思います。そこにあるのは従来型の「民主党」対「共和党」の対立軸が壊れつつあるということです。
・では、その先にはどんな対立軸が待っているのかということについては、まずは2016年11月の大統領選本選がどのような「論争の軸」によって戦われるのかということを見る必要があります。私も含めて、多くの「予測」が外れてばかりいた、この半年間を反省するのであれば、本選結果を見ないと何も言えそうもありません。勿論、その本選の論争軸がそのまま新時代の対立軸になるとは限りませんが、少なくとも11月の本選のプロセスとその結果が、今後の時代に与える影響は大きいでしょう。
・そんなわけで、新しい時代の対立軸というのは、まだ見えない部分が大きいわけですが、今回はその前に「既成の対立軸がどう壊れつつあるのか?」という問題を考えてみたいと思います。難しいテーマであり、勿論、決定的な見解に到達しているわけではありません。ですが、この議論は今から始めておかないと、時代の変化に遅れてしまうように思うのです。
・では、まず共和党(保守)の持っていた対立軸、あるいはイデオロギーについて見てゆこうと思います。  まず共和党が長い間中核のイデオロギーとしてきた「小さな政府論」が、大きく揺さぶられ、崩壊の危機に瀕しています。何よりも、トランプのポジションというのは、「保護貿易による国内雇用の確保」であり「従来は民主党の大票田だった退役軍人への手厚い保護」や「健康保険制度の拡充、最低賃金の増額、富裕層増税、公的年金への公的な保証」といった、まるで「民主党の大きな政府論」そのものであるような主張から成り立っているからです。
・勿論、トランプの場合は「話芸と政策」の関係が大変に不透明であるわけで、実際に本選になったり、仮の話ですが大統領に就任した場合には、どんな政策を打ち出してくるのかは「また別の問題」なのかもしれません。ですが、とりあえず現状ということで言えば、トランプの主張は「小さな政府論」に関するほぼ全面的な否定と見るべきでしょう。
・これは、2010年以来の共和党を牛耳ってきた「ティーパーティー」や、その前のブッシュ政権が目指した起業家による「オーナーシップ社会」という思想が破綻したということも意味しています。勿論、課税への抵抗感をベースに小さな政府を目指す動きは依然としてあり、単にそこに「原籍は都市部の民主党」的なトランプ派が乱入してきただけ、選挙戦の初期にはそうした見方もできたわけですが、現時点ではやはり母屋を乗っ取られつつあるからです。
・もう一つは、「軍事タカ派」という立場に距離を置いているということです。トランプの場合は、オバマの8年だけでなく、ジョージ・W・ブッシュの8年も、否定しており、要するに国際紛争に関して「世界の警察官としての介入」ということ自体に、極めて消極的です。言葉の上では、ISには「じゅうたん爆撃」だとか「戦術核で潰す」といった劇画調の強硬姿勢を示しますが、話を全部聞くとアフガン戦争もイラク戦争も「失敗」だとして否定しているのです。
・更にアメリカの保守に伝統の「社会価値観」についても、極めて穏健と言うより従来の保守の姿勢をほぼ捨てるような姿勢があります。例えば、同性婚や生命倫理などでは、NY出身だけあって非常にリベラルですし、銃規制に関してだけは妙に保守的ですが、どこまで本気かは分かりません。もっと言えば、平気でローマ法王にケンカを売るなど、極めて無宗教的な姿勢も顕著で、この辺も当初はプロテスタントの宗教保守派の反発を買った理由だと思います。
・その一方で、民主党の動きは少し違うように見えます。サンダース現象の核にあり、そしてヒラリーも傾斜しつつある政策の核にあるのは、再分配の強化であり、これは大きな政府論に他なりません。では、伝統的な民主党のイデオロギーと全く変わらないのかというと、理念的には同じですが、政治的には大きな違いがあるように思います。
・20世紀のアメリカ民主党というのは、共和党との間で振り子の両端を行き来する国策の一端を担っており、再分配や歳出拡大を行うといっても、「ケインズ理論的な発想でどうしても景気浮揚のために必要」であるか、そうでなければ「共和党政権下の緊縮財政によって出来た財政の余裕の範囲」でカネを使うという「大きな枠」の中で動いてきたわけです。
・ですが、今回の「ポスト・オバマ政権」を狙うサンダースやヒラリーの政策は、そうした根拠、あるいは歯止め、財源といったものは非常に脆弱です。むしろ、景気が大きく崩れる危険性を抱えている時期に、更に歳出を拡大するという「爆弾」を抱えた政策と言えます。実はこの点に関しては、トランプの姿勢も非常に似ているのですが、それはともかくとして、「政権担当能力のある民主党」にしては、ここまで「ズブズブ」な「大きな政府論」というのは珍しいし、対立軸の崩壊ではないにしても、逸脱であることは間違いありません。
・民主党に取っての「軸の変化」の第二は、社会価値観における理想主義的な少数者擁護の姿勢についてです。勿論、少数者の人権に敏感であることで、アメリカを理想主義の実験場にしたいというイデオロギーには変化はないと思います。ですが、オバマの8年を通じて、アフリカ系の大統領がホワイトハウスの主であることが当たり前になり、更に同性婚が合憲化された中で、この「少数者の人権」という問題における「フロンティア」が消えつつあるということがあると思います。
・勿論、ヒラリーも、サンダースも「人権」の立場から、例えばトランプの「壁」構想にしても、「入国禁止」政策にしても激しく批判しているのは事実です。また、LGBTの権利保護ということでは、「T」すなわち「トランスジェンダー」の子どもたちに関する学校でのトイレ使用問題が政治課題になっているということもあります。
・ですが、言い方は工夫すべきであるものの、8年前のアメリカと比較すると、状況に改善が見られることは事実であり、その分だけ「フロンティア消滅」に近い現象、つまり政治的な求心力として弱体化しているということは言えるでしょう。
・一点だけ、オバマ時代に十分に改善が進まなかった問題として、銃規制の問題があります。この点に関しては、ヒラリーは政策として掲げていますし、反対にトランプは銃保有の権利擁護を主張していて、主張が正面からぶつかっていますが、では、大きな争点になるのかというと、そうでもないようです。
・銃の問題に関しては、サンダースが「山がちなヴァーモント州が地元」ということから、NRA(全米ライフル協会)に近い人物、つまり銃規制には消極的ということが言われていますが、これもサンダースが特異な存在というよりも、左右の対立構図において銃の問題が大きな争点にはなりにくいということを象徴していると言えます。
・民主党の対立軸の中で深刻な崩壊に瀕しているのが「リベラル・ホーク」と言われる介入主義です。その原型は、二度の世界大戦を戦ったこと、そして冷戦期における朝鮮戦争とベトナム戦争を戦った中で確立し、冷戦終結後もコソボ、ソマリア、あるいはアルカイダへの局所的攻撃などを継続してきたわけです。
・オバマの8年においても、例えばアフガン戦争の継続というのは、単に911への報復というだけでなく、「失敗国家」と言われたアフガニスタンの再生を目指すという理想があったわけですし、「アラブの春」の支持というのも、少なくとも民衆の支持による政府の正当性を支えれば地域は安定するという思想には、同じような「リベラル・ホーク」の考え方があったわけです。 この「リベラル・ホーク介入主義」というのが破綻しつつあります。何よりも、イラク、アフガン、シリアにおける軍事的な作戦は、ほとんど全て失敗しています。また「アラブの春」に関しても、ほとんど上手く行っていないからです。
・ヒラリーの場合は、リビアのカダフィ政権崩壊のプロセスにおける軍事外交上の対応が批判を浴びているわけですが、一連の「アラブの春」において最も変則的なプロセスを辿ったのはエジプトです。エジプトの場合は、まずムバラク政権がまあまあ平和的なデモで打倒されて、大統領の公選が行われたのですが、自由経済と民主主義を代表する有力候補が出なかったために、低投票率の下でムルシーという同胞団系の政権が出来てしまいました。このムルシーは独裁的でイスラム色の濃い憲法改正を企図したことから、軍がクーデターを行い、アメリカはこれを黙認しました。
・そのクーデターでできたのが、シシ政権ですが、では、親欧米の開発独裁が再現されるかというと、そうではなく、シシ政権は中ロに接近していったのです。こうなると、オバマ政権の失態という以前に、「自由と民主主義の十字軍」を自認したアメリカ民主党の軍事外交方針というのが、全く機能していないわけです。
・つまり、オバマ政権が掲げた「多様性、自由と民主主義」といった価値観を大義として、諸国の問題に介入しても、結果的には、その価値観の普及にはならないわけであり、要するにポスト冷戦時代の「リベラル・ホーク」という介入主義は全く結果を出していないわけです。
・介入主義の行き詰まりだけでなく、自由と民主主義という民主党のイデオロギーの中核にある価値観も、徹底ができていません。特にオバマの8年を通じて、中国とロシアとの関係には悩まされ続けているわけですが、ここでも「より開かれた社会へ、国際ルールに即した体制へ」と両国が脱皮してゆくために、効果的なプレッシャーやメッセージを送り続けるということが出来ていません。
・その結果として、トランプの共和党とはまた別の形で、民主党の、例えばサンダースの運動に、そして若者を中心とした「アンチ・ヒラリー感情」の中にも、新たな孤立主義の匂いが感じられます。 そう考えると、サンダース支持派の思想に見られるものは、「なりふり構わぬ再分配」「理想主義の地平線は積極的に目指さない」「リベラルホーク的な介入主義へは極めて懐疑的」という独特の思想であると位置づけられます。
・勿論、これは「オバマの8年」の陰画であり、その意味ではトランプ現象とはパラレルだとも言えますが、イデオロギーの核において危機が進行しているということでは、共和党とは、また別の意味で深刻な状況と思います。これからの大統領選は、この「対立軸の崩壊」という観点から見ていくことが重要であると思います。

次に、5月15日付けのロイター「トランプ版ポピュリズムは勝利するか」を紹介しよう。
・共和党の大統領候補指名を確実なものとしたドナルド・トランプ氏は、「ポピュリスト」と呼ばれる。だが彼は、政治的な文脈で言う「ポピュリスト」、つまり経済的格差に対して激しい非難を浴びせる類の人物ではない。彼はそうした他のポピュリストが誰一人やらなかったことを成し遂げた。トランプ氏は大衆文化の分野でたいへん好評だったポピュリズムを、政界で振るわなかったポピュリズムに接ぎ木したのである。
・これこそが彼の成功の秘訣(ひけつ)かもしれない。 米国の大衆文化が生まれたのはアンドリュー・ジャクソン大統領の時代だった。大衆はエリート主義の文化に真っ向から挑戦し、その挑戦は今もそのまま続いている。
・ポピュリズムは政治よりも文化の世界で台頭した。その理由の一つは、民主主義的な憧れを政治の世界で実現する方がはるかに難しいからである。平等主義が称揚される米国にあっても、富裕層は依然として権勢を振るっている。そこで普通の米国民は、自分たちにできる範囲で権力を握ることにしたのである。
・クズのような小説が人気を博した1830年代から、クズのようなテレビ番組が高視聴率を獲得する2010年代に至るまで、大衆文化全般に対して、「大多数の人はたいして賢くも洗練されてもいない」という上から目線の分析が行われてきた。基本的には、大衆がクズを愛するのはもっと良いものを知らないからだ、というわけだ。
・もう少し「上から目線」でない説明もある。こうした低所得層向けのエンターテインメントが大受けするのはエリートがそれを嫌うからに他ならない、というものだ。つまり、両親が渋い顔をするのが分かっているからこそ、ティーンエージャーが大音量でラップミュージックを聴くようなものだ。 ある意味では、この一つのエンジンによって米国の大衆文化すべてが動いている。知識人が眉をひそめればひそめるほど、一般大衆は彼らの言う「クズ」を愛した。大衆文化とは常にアウトロー文化なのである。
・これは単なるスタイルの話ではなく、本質的なものだ。米国の大衆文化のほとんどはポピュリズムであり、肝心なのはエリートたちの文化を吹っ飛ばすか、少なくともチクリと針を刺すことである。チャーリー・チャップリンであろうが、マドンナであろうが、ビル・マレーであろうが、権力者対アウトサイダーという構図はいつの時代も変わらない。それこそが大衆文化の魅力である。
・庶民の上に君臨して威張り散らす者を、大衆文化は庶民に代わって糾弾する。典型的な例を知りたいなら、マルクス兄弟が「オペラは踊る」で作り出したカオスを考えるだけで十分だろう。 マルクス兄弟のグルーチョのように、トランプ氏は破壊の象徴である。グルーチョは横柄さ、エリート主義、自己満足、そして無関心などをやり玉に挙げた(その悪役を引き受けた女優がかわいそうなマーガレット・デュモントだ)。彼は、自分より社会的に高い地位にある人々が幅をきかせる場にカオスを生み出したのである。
・それでも、米国の政治はまた別物である。もちろん広範な庶民を代弁すると自称するポピュリストも存在した。なかでも最も著名なのは、おそらくウィリアム・ジェニングス・ブライアンだろう。彼は、1896年、1900年、そして1908年と3度にわたって民主党の大統領候補指名を獲得した。3度ともに敗れたのは偶然ではない。
・実際、しばしばトランプ氏が比較されるジャクソンを別にすれば、米国にポピュリストの大統領が存在したことはない。ポピュリストはとにかく大統領選とは相性が悪い。 ポピュリズムが国政レベルで失敗してきたのは、一つにはエリート層が米国の政治プロセスをがっちりと守ってきたからだ(今やトランプ氏がその警備を出し抜いてしまったのだが)。しかしこれには、もっと深い、米国民の精神性に根差した原因も考えられる。
・米国の政治は、階級闘争というよりも、むしろ階級を乗り越えることを主眼としている。共和党も民主党も社会的流動性を高めることを公約に掲げている。金と権力は、庶民にとってねたみというよりも希望の対象なのだ。アメリカンドリームとは、つまるところ、「自分もあのようになれる」という考え方である。ああいう大富豪たちがやってきたとされる奮闘努力をすれば、誰でも同じようになれるという話である。
・「努力の末の成功」は、超党派的な米国気質の根本である。しかし、特に共和党は「自分もあのようになれる」という発想を後押しすることがうまい。ポピュリズムがめったに勝利を収めないのはそのためだ。「自分もあのようになれる」精神の前では、ポピュリズムは腰砕けになってしまう。成功の方法という点で、この2つは相互に排他的なモデルなのだ。
・自他ともに認める大富豪であるトランプ氏は、当然ながらこの「自分もあのようになれる」という政治的姿勢を放棄していない。彼の選挙運動においてもこの考え方は健在だ。健在どころか、トランプ氏はむしろこれを積極的に強調しているとも言える。彼の所有するビル、ゴルフ場、プライベートジェット、そして元スーパーモデルの妻を見れば一目瞭然だ。米国の「勝ち組」が手にした戦利品というわけである。
・しかし、トランプ氏にとっては、そういったものが自分の魅力なのではない。それは、彼という人間を信頼すべき根拠なのだ。トランプ支持者は、彼が億万長者であるから応援しているわけではない。彼らは、トランプ氏が計算や礼儀を抜きに、自分の思った通りのことを率直に言葉にするからだと言う。
・トランプ氏は本質的に爆弾を投げ込む人間だ。そしてこの国では、大衆文化のなかで、つまり小説、映画、テレビ番組などのなかでエリート層を敵に回している限り、そうした爆弾を投げ込む人間は深く長く愛される。そこで生じるのは現実的な破壊ではなく、米国民の多くが一度は夢に見る仮想の世界の混乱なのである。そのような意味で、米国民は保守的なのだ。
・しかし、「自分もあのようになれる」式の政治がかつてのようには機能していない本当の理由は(それがつまり、今年に入って共和党主流派が失速した理由の一つだ)、米国民がそうした発想の信ぴょう性をますます疑い始めていることにある。
・社会の流動性は低い。賃金はもう何十年も低迷を続けている。調査結果を見れば、聖なるアメリカンドリームがその影響力を失いつつあることは明らかだ。人々は、宝くじに当選しない限り自分たちが富を築くことはできない、と思い始めている。
・トランプ氏はそれを承知しているようだ。彼は政治の世界ではなく、ポピュリズムの最も豊かな土壌である大衆文化の世界から登場した。彼が大言壮語を吐くトークショーでは、彼の裏をかくこともパワーで圧倒することも誰にもできず(彼は「交渉の技術(The Art of the Deal)」の達人だった)、自分におもねる者には「クビだ」と宣言することで、テレビの世界で権力者としての評判を確立した。 トランプ氏は「体重800ポンドのゴリラ」、つまり圧倒的な大物であり続けている。しかし、これが重要な点なのだが、彼は庶民的かつニヒルに振る舞っている。こういったポーズこそ、彼の批判者の多くが毛嫌いする側面だ。
・トランプ氏の辞書に社交辞令は存在しない。大衆文化のポピュリストたちは皆そうだ。彼らは自分たちを妥協する人間だなどと思っていない。トランプ氏は自らの勝利を強調しているが、実は自分たちが勝ち組だとさえ思っていない。彼らは、権力層の破壊者を自任しているのだ。
・ある意味で、大統領候補としてのトランプ氏は、映画「トランスフォーマー」シリーズを製作した、派手なアクションで鳴らすマイケル・ベイ監督に似ている。トランプ氏も何かを吹っ飛ばすのが大好きなのである。少なくとも彼は間違いなく共和党を吹っ飛ばした。恐らく、米国政治の言論も巻き添えにして。
・豪腕指導者としての大言壮語と政界とは無縁な庶民としてのアピールを巧みに組み合わせるトランプ氏は、独裁的ポピュリストである。もちろん、そんな表現があるとすれば、それは形容矛盾である。しかし彼は、もう一つ別の形容矛盾、「エリート主義のニヒリスト」という特質を持っているのかもしれない。
・結局のところ、トランプ氏はアンドリュー・ジャクソン大統領の再来にはなり得ないだろう。彼は政治家というよりは映画の登場人物、そう、眉をしかめた、いかがわしいグルーチョ・マルクスになってしまう可能性が高い。そして、彼にあざけられるのは米国の権力層なのである。
*筆者は「An Empire of Their Own: How the Jews Invented Hollywood」、「Life: The Movie: How Entertainment Conquered Reality」の著者。現在はエドワード・ケネディ上院議員の伝記を執筆中
http://jp.reuters.com/article/column-trump-populism-idJPKCN0Y40IF

第三に、5月31日付けJBPressが英ファイナンシャルタイムズ紙の論説を転載した「右派ポピュリズムを打破する方法 トランプ氏の台頭を招いたエリート層の失敗」を紹介しよう。
・先週の本欄で論じたように、ドナルド・トランプ氏の台頭はエリート、特に(ただし、これに限られるわけではないが)共和党のエリートが失敗を重ねてきたことの表れだ。 トランプ氏は、人々の攻撃性や怒りがほとばしる道を作ることに成功している。これは特に目新しい戦術ではない。これまでにも数々のデマゴーグ(扇動者)がこの方法で権力を握ってきた。しかし、デマゴーグは問題の答えを示さない。それどころか、事態をさらに悪化させてしまう。
・事態はこれ以上悪化しようがないと思っている人が多いようだが、それは間違いだ。米国だけでなく世界中で、事態は今よりもっとひどくなり得る。トランプ氏が危険なのはそのためだ。同氏は米国の成功の礎(いしずえ)が何であるか、全く理解していないのだ。
・トランプ氏は右派のポピュリストだ。ポピュリストは制度を軽んじ、専門的な技術や知識を退け、その代わりにカリスマと無知を持ち込む。右派のポピュリストは外国人も非難する。トランプ氏はその上に「ディール(取引)」というゼロサム的なものの見方も持ち込んでいる。
・どの国においても、ポピュリズムの妄想が広まることには不安がつきまとう。例えばイタリアでは、間違った考えを持った人たちに笛吹きの役目を果たす能力をシルビオ・ベルルスコーニ氏が持っていたために、改革の20年間が失われてしまった。しかし、米国のほうが問題は深刻だ。なぜなら米国は、法的拘束力のある関与に立脚した永続的な制度を広めることにより、今日ある世界を形作ってきた国だからだ。
・これは米国が超党派で成し遂げたことであり、それによる結果には特に顕著なものが2つある。
・第1の結果は、米国が強力な同盟国を有していることだ。中国にもロシアにもそのような同盟国はない。この2カ国はお互いを信頼し合ってもいない。米国に同盟国があるのは米国が非常に強いからでもあるが、それ以上に重要なのは、米国が信頼できる国だからだ。
・第2の結果は、米国が永続的な関与を受け入れていることだ。その明らかな事例は、米国の貿易促進の取り組みに見受けられる。米国が貿易を促進してこなければ、ここ数十年における多くの新興国の進歩は起こり得なかっただろう。
・世界を商取引の枠組みで考えるトランプ氏が米国の大統領になったら、同盟関係も制度も切り捨ててしまう恐れがある。もしそんなことになれば、今日の経済・政治の秩序は打撃を受けるだろう。下手をすれば崩壊するかもしれない。
・トランプ氏やその支持者たちは、米国がこれまでの取り組みや約束を反故にしても無傷で逃げおおせると思っているのかもしれないが、それは間違っている。米国の言うことなど聞くだけムダだということになってしまったら、何もかもが、それも悪い方向に変わってしまうことだろう。
・米国の信頼性に対するトランプ氏の無関心はこれにはとどまらない。米国は世界で最も重要な金融資産、すなわち米国債の供給者だ。米国の財政状況は悪化しているため、注意が必要になっている。そんな状況にあって、緊縮財政指向だと思われている党の大統領候補になりそうな人物は果たして何を提案しているのだろうか。
・税政策センター(TPC)の試算によると、トランプ氏の(非常に逆累進的な)税制の提案が実行に移されれば、連邦政府の債務は基本的な予測に対して対国内総生産(GDP)比で39%増加するという。これについては大規模な歳出削減が1つの対応策になるかもしれないが、トランプ氏は、だまされやすい支持者たちにそのことは説明していない。
・あるいは米国債のデフォルト(債務不履行)が選択されるかもしれない。何しろ、債務を「もてあそぶのが好き」だと公言している人物だ。米国債を割引価格で買い戻すことさえ考えている。だが、そうした「あそび」は、米国がアレクサンダー・ハミルトン初代財務長官以来築き上げてきた信用を台無しにし、世界金融市場を壊滅させてしまうだろう。
・トランプ氏は、米国の信用や世界の安定を破壊する政策だと分かっていながら、それを公約にするふりをしている――との説もある。しかし、もしそこまで不誠実な人物だとしたら、彼の限界はどこにあるのだろうか。愚かさなのか、それとも冷笑なのか。そのどちらかだとしたら、どちらの方が悪いだろうか。
・決して確実ではないが、トランプ氏が本選挙で敗れる可能性はまだかなりある。そうなるかどうかは、民主党のバーニー・サンダース氏が独立系候補としての出馬を決断するか否かに左右されるかもしれない。しかし、トランプ氏が本選挙で敗れれば、この問題はすべて片がつくのだろうか。議論の余地はあるものの、答えは恐らくノーだろう。
・確かに、ポピュリストの盛り上がりはひとまず収束するかもしれない。だが、収束しない可能性もある。無理からぬことだが、世界経済で米国が果たしている役割の正統性は、米国内では損なわれてしまったからだ。
・それは世界金融危機のせいでもあるが、多くの米国人の暮らし向きがここ数十年良くなっていないためでもある。これは米国だけの問題ではない。ブランコ・ミラノヴィッチ氏は近著「Global Inequality(グローバルな不平等)」で、アッパーミドル・クラス――高所得国の中間層と低所得層がその大半を占める――はここ数十年、暮らし向きが比較的芳しくないと指摘している。
・またプリンストン大学のアン・ケース教授とアンガス・ディートン教授によれば、米国では白人の中年男性の死亡率や罹患(りかん)率が自殺、薬物依存、アルコール依存などのために相対的に悪化している。これは間違いなく、白人の中年男性というグループの人々が自暴自棄になっていることの反映だ。
・個人の成功が尊ばれる文化において失敗するのはつらいことだ。このグループの人々がトランプ氏を支持するとしたら、それは自棄になっていることの表れであるに違いない。トランプ氏は彼らのリーダーとして、成功の象徴となっている。筋の通った解決策は一切提供しないが、スケープゴートはちゃんと用意している。
・右派のポピュリズムを打倒しようというのであれば、それに代わるものを用意しなければならない。ダートマス大学のダグラス・アーウィン氏によれば、貿易保護主義はニセ薬だ。2000年から2010年にかけて製造業で失われた雇用の85%超は、生産性の向上が原因で失われたものだという。
・効き目のある政策としては、最低賃金の引き上げとともに、勤労所得に対する気前の良い税額控除の導入が挙げられるだろう。英国での実績を見る限り、この2つを組み合わせて実施するとかなり高い効果が得られる可能性がある。不法移民に対する怒りも理解できる。これについては、密入国した労働者の雇い主を確実に厳しく罰するべきだろう。
・米国の銀行はこれまでに2000億ドルを超える罰金を支払ってきた。しかし、銀行の経営者や従業員が懲役刑を受けた例はほとんどいない。この事実と、(必要だった)金融業界救済とが相まって、この世のシステムは不正直なインサイダーによって搾取されているとの見方が生まれ、世間に広まっている。
・もっと根本的なことを言うなら、高所得国において、グローバル化とハイテク化で富を得た勝ち組は負け組に対して責任を感じていないように見受けられる。減税だけですべてが解決するはずはない。何と言っても、システムの正統性はエリートの働き次第であり、そのエリートの働きぶりがお粗末なのだ。
・米国が制度と同盟の両方に関与してきたことは正しかった。開放的でダイナミックな世界経済と、大体において協力的な大国間関係とを生み出したことは、今なお偉大な功績だ。しかしエリートたちの強欲さ、無能さ、無責任さのために、ポピュリストが大変な勢いを得てしまった。
・トランプ氏の台頭はいわば病気の一症状であり、同氏がこの病気をさらに悪化させることは疑いようがない。もし手遅れでないのであれば、この病気のもっと効果的な治療法を見つけなければならない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/46972

冷泉氏が指摘するように、トランプ氏が小さな政府論を全面的に否定、「軍事的タカ派」と距離をおき、社会価値観では従来の保守の姿勢をほぼ捨てる一方、ヒラリ側も大きな政府論で、リベラル・ホークとされる介入主義が破綻しつつある、というのでは、確かに「対立軸の崩壊」もうなずける。
ポピュリズムについて、ロイターが、『トランプ氏は大衆文化の分野でたいへん好評だったポピュリズムを、政界で振るわなかったポピュリズムに接ぎ木したのである』、さらに「独裁的ポピュリスト」であり、「エリート主義のニヒリスト」という形容矛盾を抱えているという指摘は極めて興味深い。
ファイナンシャルタイムズ紙の指摘も鋭く面白い。『デマゴーグは問題の答えを示さない。それどころか、事態をさらに悪化させてしまう』、『ポピュリストは制度を軽んじ、専門的な技術や知識を退け、その代わりにカリスマと無知を持ち込む』、『トランプ氏が米国の大統領になったら、同盟関係も制度も切り捨ててしまう恐れがある。もしそんなことになれば、今日の経済・政治の秩序は打撃を受けるだろう。下手をすれば崩壊するかもしれない』、『米国債のデフォルト(債務不履行)が選択されるかもしれない』、とは恐ろしいご託宣だ。しかも、トランプ氏が本選挙で敗れても、『ポピュリストの盛り上がりはひとまず収束するかもしれない。だが、収束しない可能性もある。無理からぬことだが、世界経済で米国が果たしている役割の正統性は、米国内では損なわれてしまったからだ』、になるとさらに恐ろしい。ポピュリズム台頭の背景となった「エリートたちの強欲さ、無能さ、無責任さ」は本当に罪作りなことだ。
6月9日の日経新聞によると、トランプ氏対クリントン氏の対決が確定したとのこと。一時は、優勢が伝えられたクリントン氏も、メール問題で苦戦しているらしい。11月の本選挙まで目が離せそうもなさそうだ。
タグ:ロイター アメリカ大統領選挙 冷泉彰彦 JBPRESS メールマガジンJMM (その4)「対立軸の崩壊」、「トランプ流ポピュリズムの行方」 [JMM898Sa]「混迷する大統領選、壊れつつある対立軸」from911/USAレポート 従来型の「民主党」対「共和党」の対立軸が壊れつつある 「小さな政府論」が、大きく揺さぶられ、崩壊の危機 トランプのポジション 「民主党の大きな政府論」そのものであるような主張 「軍事タカ派」という立場に距離 「社会価値観」についても、極めて穏健と言うより従来の保守の姿勢をほぼ捨てるような姿勢 深刻な崩壊に瀕しているのが「リベラル・ホーク」と言われる介入主義 自由と民主主義という民主党のイデオロギーの中核にある価値観も、徹底ができていません 対立軸の崩壊 トランプ版ポピュリズムは勝利するか トランプ氏は大衆文化の分野でたいへん好評だったポピュリズムを、政界で振るわなかったポピュリズムに接ぎ木したのである 米国の大衆文化のほとんどはポピュリズムであり、肝心なのはエリートたちの文化を吹っ飛ばすか、少なくともチクリと針を刺すことである ポピュリストはとにかく大統領選とは相性が悪い エリート層が米国の政治プロセスをがっちりと守ってきたからだ 本質的に爆弾を投げ込む人間 米国民の多くが一度は夢に見る仮想の世界の混乱 独裁的ポピュリスト 形容矛盾 エリート主義のニヒリスト 英ファイナンシャルタイムズ紙 右派ポピュリズムを打破する方法 トランプ氏の台頭を招いたエリート層の失敗 人々の攻撃性や怒りがほとばしる道を作ることに成功 デマゴーグは問題の答えを示さない。それどころか、事態をさらに悪化させてしまう ポピュリストは制度を軽んじ、専門的な技術や知識を退け、その代わりにカリスマと無知を持ち込む 米国が強力な同盟国を有していることだ 米国が永続的な関与を受け入れていることだ トランプ氏が米国の大統領になったら、同盟関係も制度も切り捨ててしまう恐れがある。もしそんなことになれば、今日の経済・政治の秩序は打撃を受けるだろう。下手をすれば崩壊するかもしれない 非常に逆累進的な)税制の提案が実行に移されれば、連邦政府の債務は基本的な予測に対して対国内総生産(GDP)比で39%増加 米国債のデフォルト(債務不履行)が選択されるかもしれない トランプ氏が本選挙で敗れれば ポピュリストの盛り上がりはひとまず収束するかもしれない。だが、収束しない可能性もある。無理からぬことだが、世界経済で米国が果たしている役割の正統性は、米国内では損なわれてしまったからだ 効き目のある政策としては、最低賃金の引き上げとともに、勤労所得に対する気前の良い税額控除の導入 エリートたちの強欲さ、無能さ、無責任さのために、ポピュリストが大変な勢いを得てしまった
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