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日銀の異次元緩和政策(その21)「総括的な検証」をめぐって [経済政策]

日銀の異次元緩和政策については、9月15日に取上げたが、今日は (その21)「総括的な検証」をめぐって である。

先ずは、財務省出身で慶応義塾大学准教授の小幡 績氏が9月26日付けNEWSWEEK日本版に寄稿した「日銀の今回の緩和を名付けてみよう──それは「永久緩和」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・今日の追加緩和は、追加緩和なし、という解釈が主流のようである。そんな馬鹿な。 意見がほぼ同じであると思っているBNPパリバ証券の河野龍太郎氏も、今回は予想通り追加緩和はなかった、と述べている。
・確かに、テーパリング(量的緩和の縮小)と解釈されないように、日銀の黒田東彦総裁は最大の注意を記者会見で払った。そこが今回の山場であっただろう。記者会見での質問はテレビ東京の大江麻理子アナウンサー、読売新聞の越前屋知子記者が頑張っていて、アベノミクスの女性活躍はここでは実現されていたが、終盤のテーパリングじゃないんですか、という別の記者による、人畜無害のようなとぼけた声の質問の罠に、黒田氏はもっとも慎重に対処していた。
・今回の措置で緩和縮小と受け取られかねないのは、量が減る可能性があることと、10年超の金利、超長期債の利回りがどうなるか不透明で、大幅上昇もありうることだ。
▽緩和縮小は永久にできない
・10年超の金利を上昇させ、イールドをこの領域で立たせることと、国債買い入れ総量を減らすのが、今回の一つの目的ではある。しかし、テーパリングと思われてはいけないので、最大限のサービス、10年物の金利のターゲットはゼロ%として、ほぼ現状維持とした。これで、テーパリングの可能性があり、緩和縮小じゃないか、と解釈されないようにしたのだが、そうなってしまうと、要は緩和とは金利であるから、長期金利はほぼ永久に0%に張り付くことになる。なぜなら、安定的にインフレ率が2%を超えるまで、緩和を続けるという、もう一つのサービスをしてしまったからだ。これは、超長期金利の上昇で引き締めという解釈に対して、以前よりもコミットメントが強い、長期に低金利を約束する強力な措置で、超長期金利の上昇を抑える効果があると主張できるようにした可能性がある。
・しかし、この2%超のコミットメントは強すぎる。これが今日の素晴らしい枠組みを台無しにしてしまった可能性がある。 【参考記事】日銀は死んだ 【参考記事】中央銀行は馬鹿なのか  なぜなら、2年で2%は無理であることはもはや明らかだが、同時に、通常の経済状態において、2%超が継続することが想像できないことも明らかだからだ。今後、財政破たんによる名目金利上昇はあり得ても、インフレ率上昇はあり得ないから、永久に緩和を縮小はできない。すると、長期金利は永久にゼロ%となる。
・これまでは、いつか出口が来るものだと思っていたが、今回の枠組みを素直に解釈すれば、テーパリングだろうが、国債の買い入れ額がいくらになろうが、10年物の金利は永久にゼロ%なのであり、「永久緩和」になってしまう。
・額から金利にシフトしたのはいいが、それは金融緩和の限界から抜け出すためであるにもかかわらず、緩和縮小と思われないため、市場の解釈にビビって、長期金利をゼロとし、強力な時間軸政策を復活させたため、出口を抹殺してしまったのである。 したがって、これは絶対に緩和拡大である。もし、以前はいつか出口を目指すと日銀が真面目に思っていたのならば。
・もう一つの解釈は、2%まで緩和を続けるのならば、出口はない、それは現体制が崩壊したときだ、だから、どうせ現在の枠組みでは出口はない、だから、今日、出口がなくなったのが明白になったからと言って、何も変わっていない、というものだ。 これは確かにその通りだが、一つだけ問題がある。現体制が崩壊したときに、次の体制では、出口を目指す可能性があったわけだが、その場合の具体策は、金利ターゲット、もしくはイールドカーブコントロールしかなかったからだ。 すなわち、現体制の崩壊後の選択肢を、現体制によって費消されてしまい、次の策がなくなってしまったのだ。 残されているのは、あからさまに、長期金利ターゲットをゼロから0.2%にします、という金利引き上げ、最も直接的な引き締めしか選択肢が残されていないからだ。
▽国債暴落まで続く
・そして、これはインフレが起きない以上、財政破たんあるいはその懸念による国債暴落のときしか、実行することはできないだろう。 したがって、現在の枠組みは、財政破たんまで継続することが決まったのである。 こうなると、ヘリコプターマネーを否定したところで、結果は同じ、財政破たんによる国債暴落までは、過剰金融緩和の病から抜け出せない、ということなのだ。
・私は、今回のレジームチェンジを高く評価するが、ちょっとしたマーケットへのサービス(あるいは恐怖)のために、これは追加緩和となってしまったし、その追加緩和とは、これまでのどの追加緩和よりも強烈で、すなわち、最も後戻りができない状況に追い込まれてしまったということだ。これまでの追加緩和は、木内委員がいうように量をもとに戻せば済んだからだ。それでも金利を低く維持すればよかったからだ。
・いまやその道は存在しない。 永久緩和。 日銀は最後の河を渡ってしまったのである。 もちろん、理論的には橋を渡すことはできる。 長期金利ターゲットを引き上げる勇気を持つことだ。 それができなければ、永久緩和。 それが新しい現実だ。
http://www.newsweekjapan.jp/obata/2016/09/post-10_1.php

次に、同じ小幡 績氏が10月2日付けNEWSWEEK日本版に寄稿した「米経済学者のアドバイスがほとんど誤っている理由」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・<日本にアドバイスするアメリカの大物経済学者は、なぜ間違ったことばかりを言うのか。日銀には、「永久緩和」以外の選択肢はない> (ベン・バーナンキ前FRB議長も7月に日本を訪れた。写真は、2009年)  経済学者にとっては、いつまでも問題があるとされる日本経済は格好の評論の的だ。 ただし、ノーベル賞経済学者ポール・クルーグマンなどの引退した学者は言わずもがな、様々な著名実力経済学者まで、日本経済への提言、特に金融政策に関する提言は、的外れなものがほとんどだ。それはなぜなのだろうか。
▽ヘリマネなど持ち出すのはいい加減な証拠
・第一には、まじめにやっていないからである。 これはセミリタイアの方々に多いが、現役の方にも一部存在する。要は、他人事であり、また日本の論壇、経済学者を見下しているのである。だから、よく調べもせずに、勝手な、雑なことを言うのだ。 例えば、ヘリコプタマネーという政策をまじめに論ずることは、まともな経済学者ではありえない。しかし、一部の米国経済学者は、他に手がないならやってみたらよい、と言う。それは無責任に適当に言っているからなのだ。彼らが、米国で、FED(米連邦準備理事会)にヘリコプターマネーでもやってみたら、とは絶対に言わない。  【参考記事】日銀の今回の緩和を名付けてみよう──それは「永久緩和」  【参考記事】日銀は死んだ
・第二に、日本経済の現状認識が間違っているからだ。 日本に来てみて、経済が豊かなのに驚いた、と多くの経済学者、経営者が言う。報道されている日本経済は、もはや破綻寸前、という認識が広がっているのが問題だ。1998年は、そういう面はあったと思うが、それでもそれは不動産関連の不良債権処理が問題で、バブル構造から抜け出せない構造不況業種(本当は構造の問題ではなく、バブルに乗りすぎただけなのだが)への債権が徐々に劣化していっただけのことで、銀行セクターを除けば、日本経済は破綻することはなく、根本はしっかりしており、銀行が復活すれば、復活できる力は維持していたのだ。
・現在は、それとは比べ物にならないどころか、経済は順調で、長期成長力が落ちているのは事実だが、それは世界的な現象、経済の歴史上、無限に成長を続けることはあり得ないから、受け止めるしかない。それが深刻だと捉えるとしても(いや、むしろ、そう考えるからこそ)、それを政策で対応しようなどというのは間違いで、不可能なことに全力で取り組めばコストだけが残る。ましてや、それを金融政策で何とかしようというのは、経済学の常識からも、一般的な常識からもあり得ない。
・第三に、やはり学者だからだ。 これは悪い意味の学者、ということで、理論上の大問題、学問上は大問題であるために、熱くなりすぎて、世の中がどうなろうと、その「異常な」知的好奇心から、問題を解明するために、実験してみたくなるのだ。 だから、ベン・バーナンキFED議長でさえ(ノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマンでさえ?)、ヘリコプターマネーなどという、奇策を議論してみているのだ。もちろん思考実験であって、実行を考えているまともな人はいないはずだが、興奮しすぎた学者は何をしでかすかわからないところもある。まあ、理解せずにやってしまう政治家よりはましだが、それをもたらすかもしれない思考実験は危険なので、個人的には控えた方がよいと思う。
・第四に、アドバイザーの誤謬だ。 アドバイスをするからには、取り入れられるために、あるいは自分が取り立てられたいために、さらには、取り立てられなかった恨みを晴らすために、目立つ必要がある。そのとき、これで一気解決、という処方箋を提示したくなる。 これは人情としてはわかるが最も迷惑な話だ。自己の欲望のために、日本経済を犠牲にされてはかなわない。
・第四の要素は、日本にいる経済学者の方が強いのであるが、第三と第四の要素は、自己の欲望であるために、米国のことになれば、まともな学者のピアプレッシャーもあるため、ある程度自粛される(恨みを晴らすためのクルーグマンは別だが)。日本のことならお気楽に話せるということだ。
・少し具体的に議論しよう。 日銀の今回の金融政策への批判を行っているある学者の提言は、賃金を一律10%上げるように政府が強制しろ、というものである。目を疑った。その学者は、成長戦略が大事だから、規制緩和をしろ、というのが結論としての提言なのだが、規制が経済を阻害するなら、強制的な賃金上昇は、経済を破壊する。全部上げれば中立的だ、という幻想、机上の空論を言っているのに気づかないのは、確信犯なのか。 もし確信犯でないとすれば、知的好奇心の誤謬に陥っているのであり、どうしてもインフレにならない、それならインフレにする理論的な提言をしよう、ということなのだろう。
▽無理に賃上げをすれば店員が消える
・しかし、もちろん、現実的には、実行不可能であるし(実行不可能な政策提言というのは非常に便利だ、実行されないから誤りが明らかにならない。しかし、そう思っていたら、リフレ政策も実行されたし、ヘリコプターマネーのリスクまで出てきた)、短期的な景気も、長期的な成長力も悪化させ、経済を破壊する政策であるが、物価が上がれば何でもよい、物価を上げることだけが目的ならば、確かに、その狭い目的には適合的な政策提言であろう。学生の政策提言コンテストなら佳作ぐらいにはなりそうだ。
・もちろん、これは理論的にも誤りで、インフレにはなるが、経済は破綻する。賃金を無理に上げれば、人から機械、AIに置き換える、という供給側の対応により、失業率は急上昇し、需要サイドからいけば、人々は人件費がかからないサービスに移行するだろう。スターバックスに行くのは夢のまた夢となり、セブンイレブンのコーヒーを飲むことになろう。ローソンも店員がいれるのではなく、セルフに移行するだろう。
・実際、このような賃金調整が必要なところでは、調整は行われており、人手不足の都心部の外食チェーンなどの時給は10%から20%上がっている。それが経済であって、政府が賃金を10%上げて経済がよくなるとは、経済学の教科書にすら、どこにも書いていない、机上の空論としても誤りの政策だ。
・また、日銀の今回の金融政策の枠組みの変更が悪い理由は、これでは緩和にならない、というものだ。  これも確信犯なのか、単なるレトリックなのか、わからないが、それが日銀の狙いだから、批判にすらなっていない。 今、日本経済に緩和拡大は必要がないし、金融市場の状況からすれば、何としても緩和縮小、国債買い入れ拡大の縮小(減速)を行わなければならない。だから、日銀の今回の量から金利へというのは、もちろん正しく、日銀は、政策に対して責任を持っているだけに、最後の一線は何としても死守する意思をみせたのは高く評価できる。
▽永久に緩和をやめられなくなった日銀
・ただ、実際に死守できるかは、難しいところもある。つまり、今回の政策の枠組み変更は、国債買い入れは縮小したいが、経済への影響として、金融引き締めと思われてはいけないので、国債を買い増すことで景気を良くする、と言ってきた政策から、国債を買い増すことは減らすが、景気には中立的だ、という政策に移行したことをなんとか主張したい、という執念の政策である。この執念をわたくしは高く評価するし、日銀はさすがだと思うのだが、実際には、引き締めではない、ということのために、長期金利をゼロに固定してしまい、しかも、それをほぼ永遠に続ける、インフレ率が2%を安定的に超えるまで続ける、と約束してしまったために、緩和を永久にやめられないことになってしまったことが問題だ。
・私が「永久緩和」と名付けたこの政策は、現状では、セカンドベスト、日銀としては、ナイフエッジのようにこれしかないのであり、素晴らしいが、それでも、結局、この緩和の出口はないことがはっきりしてしまった、という問題点がある。
・ただ、日銀が恐れたのは、経済に対しての悪影響よりも、株価や為替が暴落(円は上昇)することで、実体経済は二の次だった。実際には、実体経済はそれほど悪くはないし、金利が上がっても0.1%程度であれば実質的な影響はゼロなので、要は、投機家の亡霊を恐れていたということだろう。
・したがって、日銀は、これでは異常に緩和しすぎたことへの歯止めとしては力不足という経済をよくわかった専門家からの批判、経済に関心のない相場師たちの暴動は恐れていたはずだが、一流の経済学者から緩和にならないから駄目だと言われるとは思わなかったし、言われても、あまりに的外れなので相手にはしないだろう。
・現実的に最大のポイントは、なぜそこまでしてインフレ率2%を達成しなければならないのか、という問題に尽きる。インフレ率が1%よりも2%の方が良い理由はいくつかあるが、しかし、それはどんな犠牲を払ってでも実現しなければならないことではないことは議論の余地がない。したがって、そのトータルのコストベネフィットを議論せずに、ただ2%を実現するための提案は、どんなものであっても問題外なのである。
・そして、最大の問題は、インフレ率が高めの方が望ましい、2%あるいは3%の方が望ましいという、この数百年で初めて出てきた議論の、学問的にも、現実経済においても重要なポイントは、長期的な成長率の低下により、望ましい実質利子率(経済学の今の流行で言えば中立利子率:現状で景気が減速も加速もしない利子率、あるいは需給がバランスする利子率)がマイナスに落ち込んでいるから、名目利子率がゼロ以下では弊害があり、ゼロが長期的な水準としては下限であるならば、インフレ率が高くないと、望ましい実質利子率に到達できない、というところだけがポイントなのである。
・実際、米国経済学会においては(あるいは、その中の少なくともまともな人々だけは)、この点だけが大きな議論となっており、テクニカルな金融政策、ましてやヘリコプターマネーは、極東の未開の地の日本で行われている呪術として面白い話題となっているに過ぎない。 ローレンス・サマーズ元米財務長官の長期停滞論が正しいのか、所詮、短期的な生産者の都合として供給過剰になったのをなんとか需要で解消してもらいたいという、実体経済バブル後の処理の願望なのか、もちろん後者はわたくしの意見であるが、という論争が必要なのであって、日銀の金融政策は、もはや実質的には議論する余地はないのである。
http://www.newsweekjapan.jp/obata/2016/10/post-11_1.php

第三に、元銀行員で経営コンサルタントの小宮 一慶氏が10月4日付け日経Bpnetに寄稿した「手詰まり感強い日銀「総括検証」 黒田総裁は最前線に取り残された司令官か」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・9月20日、21日に開かれた金融政策決定会合で、日銀は異次元緩和の「総括的な検証」を発表しました。  日銀の黒田東彦総裁は、当初からの目標である「インフレ率2%」が実現できなかった理由として、(1)原油価格の下落(2)消費増税による消費の冷え込み(3)中国を中心とした新興国経済の減速などを挙げています。目標達成までには遠く及ばず、「粘り強く金融緩和を実施する」と発言しました。つまり、当面は達成が難しいということです。 
・この検証とともに、日銀は「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入を決定しました。何やら複雑な名前ですが、結局のところ、どこに着目すればよいのでしょうか。 今回は、金融政策の変更点と見極めのポイントについて解説します。
▽異次元緩和の勝敗を分けるのは「円相場」
・26日の読売新聞に、こんな川柳が載っていました。「黒田節 だんだんわかりにくくなり」。私もまさにその通りだと感じます。 今回決定した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」について説明する前に、「結局、金融政策が成功か失敗かを分けるのはどこなのか?」という点から解説したいと思います。
・結論から言いますと、ここだけ見ておけばいいというポイントは「円レート」です。円安に振れるかどうかが、日本経済を短期的にリカバーできるか否かの分かれ目になります。長期的には、以前から何度も指摘しているように、実効性のある成長戦略が打ち出されるかどうかです。
・円相場の推移をチェックする前に「法人企業統計 営業利益」を見てください。15年10-12月期まではプラスを維持していましたが、16年に入ってから1-3月期が前年比マイナス1.8%、4-6月期はマイナス7.1%と2四半期連続でマイナスとなっていますね。  この主な原因は、円高が進んだことです。円相場の推移を見ますと、16年1月は1ドル=118.25円。マイナス金利をスタートさせた2月は115.02円。それからもどんどん円高が進み、8月には101.27円まで高騰しています。9月29日現在も101円台です。 これによって、輸出産業を中心に業績が落ち込んだというわけです。
▽なぜ日銀は長期金利を上げようとしているのか
・例えば、トヨタ自動車は、今期の為替レートを当初は1ドル=105円に設定していましたが、想像以上に円高が進んだことで、102円に修正。営業利益の予想も、前年比43.9%減の1兆6000億円に下方修正しました。 あくまでも「短期的」ではありますが、日本企業の業績がリカバーするかどうかは、円安に振れるかどうかに懸かっていると言えます。
・それを踏まえた上で、今回の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の解説に入ります。新たに変更された主なポイントは二つあります。
・一つは長期金利(新発10年国債利回り)が0%になるように誘導するということです。 なぜ、日銀はそんなことをやろうとしているのでしょうか。 「新発10年国債利回り」を見てください。長期金利を代表する金利ですが、マイナス金利政策が始まった2月以降はずっとマイナスになっていますね。短期金利は日銀の政策によりマイナスに誘導していますが、長期金利は、日銀が大量に国債を買うこともあり、国債の値段が上がったことで、利回りがマイナスという状態になったのです。
・中央銀行は、通常は短期金利を目標に誘導するだけで、長期金利は市場実勢に任せるものです。その長期金利がマイナスとなった状態が続いていたのです。  これが、銀行や生命保険会社の収益を損なう大きな要因になっているのです。どういうことなのでしょうか。
▽金融機関を苦しめるマイナス金利政策
・そもそも、マイナス金利政策は民間金融機関から極めて評判が悪いものでした。これは、2月16日以降、金融機関が日銀に持つ日銀当座預金に預けられるお金にマイナス0.1%の金利をつける(つまり、金利を取る)という政策ですが、これに伴って銀行の貸出金利が低下し始めたのです。 「国内銀行貸出約定平均金利」は落ち込みが続いており、7月には1.033まで低下しています。一方で、資金を調達する時に発生する「調達金利」は元々ほぼゼロですからそれほど下がりようがないので、金融機関の貸出しによる収益は減少し続けているわけです。
・貸出しに回しても儲からない。さらに、地方銀行や信用金庫は、元々貸出先がない。では株を買えばいいかといえば、先にも触れたように、企業業績が悪化しているために損をする恐れがある。じゃあ国債を買って運用しようかとすれば、「新発10年国債利回り」がマイナス金利になっているわけですから、満期まで持ち続ければ確実に損をするわけです。 もはや、銀行にとっては、収益源を片っ端から奪われているような状況なのです。
・収益の悪化に苦しんでいるのは、銀行だけではありません。生命保険会社も同じです。生命保険会社は、契約者から保険料をもらって長期で運用するのが通常で、そのかなりの部分を長期債で運用しています。長期金利がマイナスになってしまっては、確実に損失となってしまいます。
・このように、マイナス金利政策のデメリットは民間金融機関の収益を大幅に圧迫したのです。私も地方の金融機関の複数の幹部からマイナス金利の導入後に「嘆き」を何度か聞きましたが、民間金融機関からの非難が強まり、日銀も対策を講じなければならなくなりました。民間金融機関の収益の悪化を放置し続ければ、金融政策自体が成り立たなくなりますからね。
・そこで、「民間金融機関への配慮」もあり、長期金利を持ち上げる(10年の金利を0%に誘導)ことを政策に盛り込んだというわけです。そもそも、長期金利がずっとマイナスというのは異常です。
▽もはや「持久戦」に突入した異次元緩和政策
・続いて、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」のポイントの二つめは、金融政策の期限を決めていないということです。もはや「持久戦」に突入したのです。先にも述べましたが、これは言い換えれば、物価上昇の見通しが立たなくなったということです。 異次元緩和がスタートした13年4月当初、「15年3月までにマネタリーベースを倍にします」と言っていました。それによりインフレ率を「2%」に持ち上げようとしたわけです。実際マネタリーベースは倍以上になりましたが、結局、いまだにインフレ率も目標に遠く及ばず、景気を浮揚させることもできていません。13年度、14年度は消費税増税の影響を除き、消費者物価指数は0.8%ずつ上昇しましたが、15年度は0%となり、最近ではマイナス0.5%にまで下落しています。デフレが再度強く懸念される状況となっているのです。
・「異次元」とまで言われた政策で、当初は効果が出たものの、息切れしていることは明らかです。極端な表現かもしれませんが、私は、異次元緩和のやり方は太平洋戦争当時の日本と非常によく似ている気がしています。  太平洋戦争で、日本軍は最初に真珠湾を奇襲し成功しました。当時の連合艦隊司令長官であった山本五十六は、それをきっかけに早期講和を望んでいましたが、戦線がどんどん拡大されていきました。  その後、日本軍は補給路が断たれて危機に陥ります。戦線を拡大するだけ拡大して、補給路を失ってしまったのです。現在の状況でいえば、成長戦略という補給路を失った金融政策と言えるのではないでしょうか。日銀の黒田総裁は、南方戦線に取り残された最前線の司令官のように私には思えます。もはや撤退もできない状況なのではないでしょうか。
▽新たな金融政策に市場はどう反応したか
・今回の金融政策決定会合の後、円レートはどのように反応したでしょうか。長期金利を0%に上げることが発表された時の市場の反応は、結局「円高」でした。なぜ円が買われたのでしょうか。ヒントは「日米の金利差」です。 金融政策決定会合とほぼ時を同じくして、米国でも連邦公開市場委員会(FOMC)が行われました。そこでは、「年内には利上げするが、今回は上げません」という、イエレン議長の発表がありました。 市場は、「米国で利上げが行われず、日本は長期金利を上げていこうとしていくわけだから、日米金利差が縮まるだろう」と考えて円買いが進んだのです。
・しかし、これは日銀にとっては予想外の動きだったのではないでしょうか。金融政策決定会合翌日の22日の秋分の日に、金融庁、財務省、日銀幹部が一堂に会し、国際金融市場に関する臨時の3者会合を開きました。これは裏を返せば、わざわざ休日に集まらないといけないほど想定外の円高を放置できなかったということではないでしょうか。 その後の記者会見で、財務省の浅川雅嗣財務官は「投機的な動きが継続するようならば、必要な対応を取らざるをえない」と発言しました。あまりにも円高が進めば為替介入もありうるという「口先介入」をやったわけです。ですから、このところの円レートは100円台に張り付いたように推移しているのです。
▽今回の金融政策で日本の景気は反転するのか
・今回の新たな金融政策によって、「物価目標2%」に達することはできるのでしょうか。もっと言えば、日本経済を浮揚させることはできるのでしょうか。私は、極めて難しいと思います。金融機関が少し助かっただけの話で、それが景気反転の引き金になるとは思えません。
・短期的に金融政策が功を奏し、日本経済が浮揚するかどうかのポイントは、先にも触れましたが「円安に振れるかどうか」です。 このまま何事も起こらなければ、円安に振れることは難しいでしょう。ただ、米国が利上げを始めれば、日米の金利差が開いて円安に動く可能性があります。それがいつになるかというと、11月のFOMCは大統領選直前であることを考えると、実際に利上げに踏み切るのは12月ではないかと市場の多数は見ています。
・ただ、米国の利上げがその後どれくらいのペースで行われ、また、どれだけの影響を生み出すかは、少々微妙なところです。イエレン議長は、これまでも「利上げをする」と繰り返してきたものの、昨年12月の利上げ以降、米国経済や世界経済の状況もあり、今年は一度も実施できていません。市場としては、米利上げに対する過度の期待が遠のいてしまっている部分がありますので、どれだけ為替相場が動くかは分かりません。
▽マイナス金利が今後どれだけ深掘りされるか
・もう一つ注意すべき点は、マイナス金利が今後どれだけ深掘りされるかということです。今回の金融政策は、はっきり言えば「緩和策」というよりは、長期金利を上げるという「引き締め策」です。これは、緩和の限界が近づいていると言い換えることもできます。しかし、先にも触れたように、物価はデフレ傾向を呈しています。日銀としては何もしないというわけにはいきません。
・すでに日銀は手詰まりではありますが、その中で唯一、「マイナス金利幅を広げる」という手段は残しています。今後は量的緩和を続けながら、マイナス金利幅を拡大させていくのでしょう。 ただ、本コラムでは繰り返し説明しているように、これだけでは景気浮揚効果はほとんど期待できません。黒田総裁も、今回の総括で「成長戦略」へ言及していましたが、金融政策は、所詮「カンフル剤」です。異次元緩和の初戦で勝利しても、成長戦略という補給路がない限り、長期的な成長は望めません。
・最前線に取り残された司令官の孤軍奮闘を後押しできるのか、それとも見殺しにするかは成長戦略次第です。安倍晋三首相は、今の臨時国会を「アベノミクス加速国会」と銘打っていますが、日本経済の将来を見据える上でも、規制緩和などの本物の成長戦略を打ち出せるかどうかに注目です。
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/129957/092900084/?P=1

小幡績氏の「永久緩和」とは言い得て妙である。『安定的にインフレ率が2%を超えるまで、緩和を続けるという、もう一つのサービスをしてしまった』、は確かにサービスのし過ぎだ。『財政破たんによる国債暴落までは、過剰金融緩和の病から抜け出せない』、というのは恐ろしいことだ。『日銀は最後の河を渡ってしまったのである』はその通りだ。『米経済学者のアドバイスがほとんど誤っている理由』、はこれまで私が疑問に思っていた疑問を、見事に解いてくれた。日本を無責任な彼らのモルモットにしてはならない。
小宮氏の解説は、金融に余り詳しくない人にも理解し易く書かれているので、紹介した次第である。ただ、円レートを極めて重視している点には、若干の違和感を感じる。最後の『最前線に取り残された司令官の孤軍奮闘を後押しできるのか、それとも見殺しにするかは成長戦略次第』、との指摘はその通りである。
国債の10年ものの利回りは、5日でもマイナス0.065%と、日銀の目標の0%とはまだかなり下回っており、長期金利誘導は上手くいってないようだ。
明日の金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を!
タグ:Newsweek日本版 日銀の今回の緩和を名付けてみよう──それは「永久緩和 財政破たんによる国債暴落までは、過剰金融緩和の病から抜け出せない 永久緩和 2%超のコミットメントは強すぎる 安定的にインフレ率が2%を超えるまで、緩和を続けるという、もう一つのサービスをしてしまったからだ 10年物の金利のターゲットはゼロ% 緩和縮小は永久にできない 小幡 績 (その21)「総括的な検証」をめぐって 日銀 異次元緩和政策 最後の河を渡ってしまったのである 米経済学者のアドバイスがほとんど誤っている理由 ベン・バーナンキ前FRB議長 、ヘリコプタマネーという政策をまじめに論ずることは、まともな経済学者ではありえない 日本経済の現状認識が間違っているからだ まじめにやっていないからである やはり学者だからだ。 これは悪い意味の学者、ということで アドバイザーの誤謬 賃金を一律10%上げるように政府が強制 確信犯でないとすれば、知的好奇心の誤謬に陥っているのであり 最大のポイントは、なぜそこまでしてインフレ率2%を達成しなければならないのか、という問題に尽きる 小宮 一慶 日経BPnet 手詰まり感強い日銀「総括検証」 黒田総裁は最前線に取り残された司令官か 異次元緩和の勝敗を分けるのは「円相場」 もはや「持久戦」に突入した異次元緩和政策 日銀の黒田総裁は、南方戦線に取り残された最前線の司令官のように私には思えます。もはや撤退もできない状況なのではないでしょうか 最前線に取り残された司令官の孤軍奮闘を後押しできるのか、それとも見殺しにするかは成長戦略次第
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