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トランプ新大統領誕生(その6)(米軍を撤退させても日本の防衛に穴は開かない、トランプ勝利の精神風景、バブル化したトランプ景気) [世界情勢]

昨日に続いて、トランプ新大統領誕生(その6)(米軍を撤退させても日本の防衛に穴は開かない、トランプ勝利の精神風景、バブル化したトランプ景気) を取上げよう。

先ずは、軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が11月17日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「トランプが米軍を撤退させても日本の防衛に穴は開かない」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・11月8日の米国大統領選挙でドナルド・トランプ氏(71)が意外な圧勝をしたことは米国民衆の現状への不満の根深さを示した。国際情勢への無知を露呈した暴言の連発と言動の品の無さには共和党の幹部達もあきれはてて支持を取り消し、米国のメディアのほとんどがクリントン支持を表明する中、失業や貧富の格差拡大に怒る大衆は現状打破の希望を彼に託した。
・これには十分な予兆があって、2011年9月から数千人がウォール街を占拠する「99%の乱」が起き全米各地に波及していた。米国では1%の人々が資産の34.6%を握っているから、そうでない99%の人々の怒りがウォール街などでの座り込みに顕れたのだ。米国では上位20%の人々が資産の85.1%を保有している。過去30年間で物価高を差し引いた実質所得が向上したのは人口の5分の1の上位20%だけ、次の20%はおおむね横ばい、残りの60%は減少したのだから、ただでは済まない情勢だった。
・こうなった一因はレーガン政権(1981?89)の時代に、それまで11%?50%だった所得税率を15%と28%の2段にしたことだ。低所得者の税率を上げ、高所得者は減税し、「小さい政府」を唱えて福祉を削る一方、国防予算を増大した。 また米国では相続税が掛かるのは、1人が残す遺産が543万ドル(5.7億円)以上の場合で、夫婦間の相続税は無いから、父母がそれぞれ5.7億円を子に残せば11億円以上が無税になると言われる。これでは資産格差が広がるのも当然だ。
・さらには生命保険金の受取りも無税だから富豪は巨額の保険を掛けたり、財団を作って資産を寄付し、子供が理事となって運用する、などの抜け道が設けられている。トランプ氏もまさにそうした手法で不動産業の父親から資産を受け継ぎ、今年9月の「フォーブス」誌の調査では、37億ドル(約3900億円)までに増やしたが、過去18年間国税の支払いを合法的な「節税」で免れていたとも報じられている。
・彼は没落する下位中産階級や白人貧困層の憎悪の対象の1人となってもおかしくないように思われる。むしろそういう人々は「公立大学無償化」など、やや社会主義的政策を唱えた民主党のバーニー・サンダース上院議員を支持する方が筋だろうが、米国の大衆は「力強い成功者」にあこがれるのだろう。
・彼は大衆の怒りを移民や自由貿易など、国外に向けて人気を博し、自分もその一員である既成勢力(エスタブリッシュメント)に挑戦する姿勢を演じて選挙では成功した。 彼の選挙戦での発言は、国際問題に無知、無関心な米国の大衆が快哉を叫ぶようなことを、脈絡もなく実現性も考えずに羅列したにすぎず、雑多な果物の切り端にワインをかけたフルーツポンチに似ている。誇大広告だから就任すればあまり実行はできず、彼に投票した人々はいま以上に絶望しそうだ。4年後の大統領選挙ではさらに排外的、強権的な候補者が出現しかねない、との危惧を感じずにはおれない。
▽日本が100%負担をするなら米軍将兵は日本の傭兵に
・日本に関してトランプ氏は「日本は牛肉に高い関税を掛けている。こちらも日本製品に高い関税を掛けよう」とか「日本は不公正な貿易で米国人の職を奪っている。安倍は殺人者だ」「日本に駐留する米軍経費は100%日本に支払わせる。条件によっては米軍を撤退させる」などと叫んでいた。これらは1980年代“ジャパン・バッシング”の時期に言われたことを蒸し返しているだけだ。
・彼は日本が在日米軍関係の経費をどれ程負担しているか、全く知らないのだろう。今年度予算で防衛省は基地労働者2万3000人余の給与1458億円、民有地の地代、周辺対策、漁業補償などに1852億円、電気・水道料金249億円、建設工事などに206億円、米海兵隊のグアム移転や厚木基地から岩国基地への空母艦機械の移転に1794億円など、5566億円を出すほか、他省庁が昨年度米軍基地がある地方自治体に出した基地交付金が388億円で合計すると5954億円になる。
・その外にも国有地を無償で米軍に貸している推定地代が、地方自治体などに貸す場合の安い地代で計算しても、昨年度で1658億円で、これも含めると日本側の負担は7612億円に達する。在日米軍の人員は昨年9月末で5万2060人だから米軍1人当たり1145万円の出費だ。
・米国の在日米軍関係の支出は約55億ドル(約5800億円)で、その大部分は人件・糧食費、一部が艦艇、航空機などの燃料やそれらの維持費だ。もし日本が100%負担をするなら、米軍将兵は日本政府から給料を貰うことになり傭兵化する。「自衛隊の指揮下に入るのかね」との冗談も聞かれる程だ。
・そもそも「日米地位協定」の24条では、日本は施設・区域(国有地)を無償で貸し、民有地なら地代を払うが、それ以外のすべての経費は「合衆国が負担する」と決まっている。だが米国はベトナム戦争後財政難に陥り、さらにドルの価値が360円から約180円へと下落したため、基地労働者の賃金はドルでは突然2倍になり、永年勤続の日本人警備主任の給料が米軍の基地司令より高い、という珍事態も起きた。
・このため日本政府は基地労働者の諸手当を肩代わりすることにし、1978年度に62億円を分担した。その根拠を聞かれた金丸信防衛庁長官は「知り合いがお金に困っている時には思いやりを示すのが人情」と答えたため「思いやり予算」の名が付いた。
▽ガイドラインズに書かれた「一義的責任」の意味
・これは堤防の一穴で、米軍は次々に基地労働者の給与の全額や、水道・電気料金の負担、基地内の施設の建て替え、新築などを要求、「海兵隊に沖縄から出て行って欲しいなら移転費を出せ」とも求められ、今日の負担に膨れ上がった。
・日本では「米軍に守って貰っている」との誤解が擦り込まれているから、こうした要求を安易に呑むのだが、韓国やかつての西独と異なり、実は直接日本の防衛に当たっている米軍は皆無だ。米第7艦隊の空母1隻、巡洋艦3隻、駆逐艦8隻などは横須賀を母港とし、揚陸艦4隻、掃海艦4隻が佐世保を母港としているが、第7艦隊は西大平洋とインド洋を担当海域とし、アラビア海など各地に出勤する。日本も裨益しているとしても、他の多くの諸国も同様だ。
・沖縄の海兵隊の戦闘部隊である第31海兵遠征隊約2000人は第7艦隊の陸戦隊(第79機動部隊)として揚陸艦に乗って巡航し、騒乱の際の在留米国人の救出や災害派遣に当たり、有事には上陸部隊の先鋒となる。沖縄を防衛しているわけではなく、そこを待機場としている。
・米空軍は嘉手納に40余機、三沢に約20機の戦闘機を配備しているが、日本の防空は1959年以来、全面的に航空自衛隊が担当しており、米空軍機は中東などに交代で派遣されることも多い。米議会では「米本土の基地に戻し、そこから出せばよい」との論も出るが、国防省当局者は「日本が基地の維持費を出しているから、戻せばかえって高くつく」と答弁している。
・「日米防衛協力のための指針」(ガイドラインズ)は、その核心である「日本に対する武力攻撃が発生した場合」の「作戦構想」として英文では「日本は日本国民及び領域の防衛に引き続き一義的責任(プライマリー・リスポンシビリティ)を有す。……米軍は自衛隊の日本防衛を支援、補完する」としている。自衛隊は防空、弾道ミサイル防衛、周辺海域での船舶の保護、陸上攻撃の阻止、撃退などに「一義的責任」を有すると決め「必要が起れば陸上自衛隊が島の奪回作戦を行う」とする。
・自衛隊が日本の防衛に「一義的責任」を負うのは当然とも言えるが、言わずもがなの語句を入れているのは、もし米軍が何もしなかった場合でも「一義的責任はそちらにあると書いてあるではないか」と言えるようにしたと考えられる。これでは日本で「では何のために米軍に基地を貸し、莫大な補助金まで出すのか」との疑問が出るから、邦訳では「自衛隊は一義的責任を負う」の個所を「自衛隊は主体的に実施する」とごまかしている。このガイドラインズは自衛隊がすでに日本防衛の能力と責任を持っている実態を追認したものだ。
▽自暴自棄になった相手に抑止力は通用しない
・もしトランプ氏が言うように米軍が撤退しても、純粋、あるいは狭義、の日本の防衛に大穴があくことはないが、攻撃能力を示して相手に攻撃をさせない「抑止」はどうなるか、も考えねばならない。 だが抑止戦略は相手が「反撃を受けるから攻撃は見合わせよう」と考える理性的判断力を持つことを前提としている。冷戦時の米ソ間では「相手も自殺行為はすまい」との最少限度の信頼感はあったから、相互核抑止が成り立った。北朝鮮が崩壊の渕に立ち、指導者が「死なばもろとも、ある物は使ってしまえ」と自暴自棄の心境になれば抑止は効果がない。
・仮に第2次朝鮮戦争が起き、通常戦力が衰弱した北朝鮮が核ミサイルを発射するなら、まず韓国軍と在韓米軍の指揮中枢や基地、補給拠点10数個所、次いで朝鮮半島に出動する在日米軍の基地やグアム島の基地を狙う公算が大きい。もし米軍が日本から撤退していれば、限られた数の核弾頭(当面は10数発)を横須賀、横田、佐世保、三沢、岩国、嘉手納などに向ける意味はなくなる。
・もしトランプ氏が米軍を撤退させれば日本にとっては
 (1)沖縄の基地問題は解消する
 (2)政府は年間6000億円近い経費分担を免れる
 (3)北朝鮮の核の脅威は減少する というメリットが生じるだろう。
・現実には米国はすでに冷戦終了後、欧州、韓国の駐留部隊を大幅に削減しており、財政状況や「アメリカ・ファースト」の国民感情からも、海外関与は減る方向だろう。だがその海軍は他のすべての国の海軍が束になっても勝負にならない程の絶対的優勢だ。米国は将来も世界的制海権を保持し、戦略的には島国である米本国の安全と国際的発言力を確保しようとするだろう。西大平洋で制海権を保つには、横須賀、佐世保の2港および空母の入港中に艦載機が使う岩国飛行場は不可欠だ。ハワイ、グアムは背後に工場地帯がなく、艦船の整備、修理能力に乏しい。
・米海軍にとり、中国海軍は地上基地戦闘機の行動半径(約1000km)から出れば処理容易な標的でしかなく、対潜水艦作戦能力も無きに等しい。世界最大の貿易国である中国はインド洋、太平洋の長大な通商航路を米海軍に対抗して守ることはまず将来も不可能で、経済が拡大し、海外の資源と市場に依存すればするほど、世界的制海権を握る米国とは協調する他ない形勢だ。
・米国も3兆ドル以上の外貨準備の大半をウォール街などで運用する中国からの融資、投資に依存していて、急速に拡大する中国市場の確保を目指す。米国が将来仮に日本の海軍基地の管理権を海上自衛隊に返還しても、米海軍がそれを利用できることは極めて重要な国益だ。米海軍は英国、イタリア等ではその国の海軍の基地を使っている。
・もしトランプ氏が「米軍を日本から撤退させるぞ」と脅すなら反対せず、「結構なお話ですな」と応じればよい。やがて相手は「なんとか海軍だけでも置かせてほしい」と下手に出て、日本は「守ってもらっている」のではなく、タダで置いてやり、光熱費まで出している気前の良い家主の立場に立てるだろう。トランプ氏が「米軍撤退」を言えば、それこそ日本にとって「トランプ・カード」(切り札)になる。ただし、追随が習性となっている外務官僚や安倍首相にその度胸があれば、の話だ。
http://diamond.jp/articles/-/108204

次に、精神科医の和田秀樹氏が11月22日付け日経Bpnetに寄稿した「トランプ勝利の精神風景」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽やはりアメリカというのは一つの国ではない
・大方の予想を覆し、ドナルド・トランプ氏が大統領選を制した。 ただ、実際、どのくらい「大方の予想を覆した」のかは、私は怪しいという気がしている。確かに、その日の開票結果で、東京の市場は大荒れしたが、ニューヨークの市場は恐ろしく冷静で、むしろ株価は上がっている。その後も、現在のところ、株価は堅調に推移しているし、財政赤字などの懸念で、ドルが売られるどころか、むしろドル高が続いている。隠れトランプが予想外に多いことは織り込み済みだし、そんな無茶苦茶な政策をやらないだろうと、市場が見ているように思えてならない。
・さて、この選挙結果をどう見るかだが、私の率直な印象は、やはりアメリカというのは一つの国ではないということだ。  今回の選挙でもう一つニュースになったことに、得票数では、ヒラリー・クリントンのほうが多かったということがある。これは、2000年の大統領選挙でブッシュ・ジュニアがアル・ゴアに勝った選挙以来のことであり、その前は1888年の選挙ということだから、めったにあるものではない。 ただ、ゴア対ブッシュのときと共通するのは、西海岸と東海岸の北部では、民主党候補が勝ち、中西部などそれに挟まれたアメリカの海に面していない州では、ほとんど共和党が勝っている。
▽ビル・クリントン政権以降に分断が加速
・こういう傾向は、ここしばらくのアメリカの大統領選挙ではずっと続いていることで、私がアメリカ留学中の1992年にビル・クリントンがブッシュ・シニアに大勝した際も、私の住むカンザス州では(その上のネブラスカ州も、その下のオクラホマ州も)共和党が民主党に勝っている。
・当時は、ぼつぼつ、シリコンバレーでIT企業が勃興を始めていた時期ではあったが、今ほどの勢いもないし、金融工学などと言われて、国際金融業者がアメリカ経済を引っ張る勢いになったのは、ウォール街の代理人と言われたクリントン政権以降の話であるから、アメリカの経済は、まだどこも悪かったのだが、その中でも中西部は悲惨だった。
・その当時、なぜ貧しいものの味方(勝ち組の味方に民主党がなったのは、クリントン政権以降とされている)の民主党に、貧しい人が多い中西部の人間が投票しないのかを非常に不思議に思っていたが、日曜日に礼拝に行くのが当たり前(そのせいでショッピングモールはガラガラだった)の超保守的地域では、生活を助けてもらうより、ホモセクシュアルを認めるような考えの人は許せないという気風が強かった。あるいは、経済で外国に勝つより、軍事で勝つほうが大事という強面(どこかの総理大臣に似ている気がするが)のほうが受けたようだった。
・その後、ITで西海岸の経済が潤い(現実にもともとはLAがいちばん栄えていたのに、今は西海岸の北部のほうが明らかに景気がいいし、素敵な高級レストランも多い)、金融業で東海岸(と言ってもニューヨークの周りだけで、昔、南部と言われていた地域はさっぱりだが)が潤うようになると、その分断は余計にひどくなった。
▽日本のマスコミが言うほどトランプ勝利に意外性はない
・クリントン以降、民主党は労働者の政党というより、エリートの味方のように思われるようになったが、実際にITエリートや金融エリートが経済を引っ張ってくれるのだから、大統領選挙では強い。ただし、それに対する反発もあって、発展から取り残された地域では、大統領選挙でも共和党が勝つし、国会議員の選挙でも強いので、議会は共和党優位が続いている。
・余談になるが、私が留学した当時、日系企業は、雇用を支えてくれる上に、アメリカのドメスティックな会社より雇用条件がいいために、アメリカ人に好意的に思われていたし、日系企業の進出していた地域は親日的だった。それで、日本がアメリカで影響力を持ちたいのなら、スーパーチューズデーの選挙が行われる州に、日系企業の支社や、工場を移すべきだと私は主張したことがある。まったく相手にされなかったが、今でもそれを信じている。
・トヨタは、カリフォルニアからテキサスに北米本社機能を移すそうだが、中西部の人口の少ない州に移ってくれれば、その州だけでも親日州になるはずだ。それがスーパーチューズデーの州ならと思ってしまう。そういう州が10くらいあれば、親日派の人しか大統領になれないようになる。しかし、日本人の多くは西海岸と東海岸しかアメリカと思っていないようだ。
・ということで、流れとしても、共和党の強いところで共和党が勝ったという点でも、日本のマスコミが考えていたほど、トランプの勝利に意外性はない。
▽エリートと反エリートの分断が顕著に
・意外性はないのだが、やはり節目が大きく変わった点がある。 それは、アメリカに、保守対リベラルではない別の分断が起こったということだ。 要するに、エリート対反エリートである。
・アメリカは日本人が考える以上に学歴社会である。 頭のいい人に対する素直な敬意があるし、逆に知的レベルが低い人間はバカにされる。日本では、英語の読み書きを犠牲にして会話重視の英語教育が行われているが、アメリカでは、しゃべれるだけでまともに読み書きができない人はバカにされ、一生低賃金労働に甘んじないといけなくなる。会話が下手でも読み書きのレベルや知的水準の高い学者はものすごく尊敬される。
・そして、教育に十分な費用を払い、また勉強もしてきた高学歴者は、高い収入を得、高い社会的地位を得て当然と思われる。バラク・オバマ大統領にしても、黒人であったことばかりが注目されるが、クールと思われたことが最大の勝因だった。 そういう国で、高い知的レベル、学歴レベルのIT技術者や起業家、あるいは金融エリートたちと、まじめに働くブルーワーカーたちの生活水準や雇用の安定の差がどんどん広がっていったのだ。
▽製造業を切って金融業やITを優遇したビル・クリントン
・クリントンは、アメリカが取ってきたドル安容認政策をドル高政策に切り替えたことでも知られる。アメリカの場合、とくに工業製品の競争力が落ちてくることに対して、ドル安で対応してきた歴史がある。  昔は1ドル360円だったわけだが、クリントンの就任の10年前の1982年には1ドルが約250円だった。クリントン就任の1992年にはそれがその半分の126円程度になっていた(年平均値)。クリントン政権でも前半はドル安が進み、95年の4月には81円台にまで円高が進んだが、98年の8月には147円を超えている。
・ドルが安くなると製造業や農家は助かるが、国富は減ってしまう。またドルに先安感があると、外国からの金がドルに向かわない。ドルを高くしたほうが海外から金を引き寄せることができるとクリントンは踏んだのだろう。また、ITなどはいったんデファクトスタンダードになると通貨の高い安いに左右されない。要するに製造業を切って、金融業やITに「選択と集中」をしたということだ。
・それから先もアメリカ経済のトレンドはほとんど変わっていない。 そして、エリートとそうでない者、地方と都会の格差はどんどん広がっていった。 ただ、9.11のテロが起こったり、黒人の大統領が誕生したりで、アメリカとしての結束が重視されたり、皆保険も含めて、国民に多少の希望がもたらされたりで、その不満が、少なくとも大統領選挙での分断という形で表面化することはなかったようだ。
▽ヒラリーはエリート臭ムンムンのセレブマダムに見えた
・しかし、今回の大統領選挙では明らかに、不満が「都会」のエリートに向かった。  予備選挙で、トランプ氏が予想外の圧勝をしたわけだが、共和党のエスタブリッシュメントの候補者たちは、中西部の保守的な地域で、むしろ目の敵にされた。 民主党の予備選でも、社会主義者を自認し、大卒とはいえ、大工から身を起こしたバニー・サンダースが最後まで善戦した。
・私がアメリカ留学中にクリントンの夫の選挙があったのだが、当時は、若くてハンサムだが、どこか田舎臭い、小さな州の知事というイメージだったが、今回のヒラリーは、エリート臭ムンムンのセレブマダムにしか見えなかったのだろう。 もちろん、エリートへの怒りだけではない。やはりアメリカ人にとって大統領選挙は自分たちも参加できるアメリカン・ドリームの実現の場なのだろう。それによって、アメリカが変えられると信じている。つまり、変化をもたらしてくれそうな人を望んだと言える。
・そういう点ではイギリスの欧州連合(EU)離脱と同じ文脈と言えそうだ。 今後、金持ちも含めた大減税をやるということになっているが、これで余計に格差が拡大するようなら、右から左に大旋回して、次期大統領はサンダースということだってあるかもしれない。
▽変化の希望がない格差社会はあきらめしか生まない
・むしろ、私は今回の選挙結果をみて、日本人の臆病さのほうが気になった。  安倍政権は、成立して4年になろうとしているが、多少の失業率の改善を除いて、大きな経済成長にいたっていないし、新産業もほとんど生まれていない。そして、非正規雇用の増大と貧富の格差、都会と地方の格差は確実に広がっている。最近になって、田中角栄の再評価ブームが起こっているのも、角栄政権時代に、いろいろな意味で格差が縮小し、経済が拡大していったことへのノスタルジーがあるのだろう。
・にもかかわらず、国民はもっとダメになるのを恐れて、選挙では圧倒的に安倍自民党が強い。 もちろん、民進党を含め、格差社会への不満のはけ口の政党がないという問題もある。 小池都知事人気をみても、変えてくれそうならものすごい支持が集まるというのにだ。
・日本国民が変化を恐れるのか、それとも、その受け皿がないから変化のさせようがないのかはわからないが、変化の希望がない格差社会は、あきらめしか生まない。  対GDP比で先進国の中でもっとも少ない生活保護支出だというのに、生活保護バッシングが起こったように、不満のはけ口が、より弱者に向かう構造がなんとなく定着しつつある。  イギリスのEU離脱に続き、トランプ当選に驚くより、日本でも「変化」を求めるうねりが強まってくれることを願ってやまない。
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/column/15/306192/112100045/

第三に、ジャーナリストの堀田 佳男氏が11月30日付けJBPressに寄稿した「すでにバブル化したトランプ景気、いつ暴落? ドッド・フランク法廃棄に沸く金融業界だがリーマンの二の舞も」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・予想外のことなのか――。 ドナルド・トランプ次期大統領(以下トランプ)が誕生してから、金融市場は好況に沸いている。円相場は対ドルで113円まで円安が進み、米株式市場もダウ平均、ナスダック総合指数ともに過去最高値をつけた。 トランプが勝てばトランプショックが世界を覆い、不況に陥ると予想していた専門家の見立ては見事に外れた。ほとんどの人はトランプ勝利も予想できず、2度にわたって読みが外れたことになる。
・そういう筆者も「ヒラリー勝利」を今春から予想し、外した1人である。 個人的なことになるが、スカパーのテレビ番組で9月、「ヒラリーが負けたら坊主になる」と宣言した。投開票日に同じ番組に出演する機会があり、筆者は本番中に有言実行。スタジオに来ていた床屋さんに坊主にしてもらった。
▽トランプ当選後に株価急騰
・それはともかく、金融市場の活況はどうみたらいいのか。来年の米経済はどうなるのか。 トランプの当選直後から、市場の活況は機関投資家による見切り発車的な売買によるものと言わざるを得ない。まだ政権発足前であり、実体経済が伴っていない。1月20日の就任後に反転する可能性がある。
・ただトランプ政権になってからの米経済は「意外に悪くないかもしれない」との期待がある。 真っ先に指摘したいのが、ドッド・フランク法の廃棄である。ドッド・フランク法というのは米国がリーマンショック後、金融業界の暴走を食い止めるため、規制を強化するためにできた法律だ。 オバマ政権の遺産だけに、トランプは同法を廃棄すると宣言している。
・金融関係者にとっては、もちろん規制が緩和される方が好ましい。手足を伸び伸びと自由に動かせる方が新たな金融商品が生まれやすくなり、市場の値動きも活発になる。連邦議会の上下両院ともに共和党が多数党になったことから、同法の廃棄は現実味を帯びている。
・ただ実際のドッド・フランク法が成立した2010年7月以来、2300ページに及ぶ長大な法律はすでに「歯が抜けた状態」になっている。 オバマ大統領にしてみると、規制を強めて大手金融機関に好き勝手にさせないとの意図があったはずだが、金融業界の実態はいまやリーマンショック前と同じような形相を呈してさえいる。
・ニューヨークの米大手金融機関のファンド運用マネジャーが現状を説明してくれた。 「ドッド・フランク法は、金融業界に大量のレンガが投げつけられたような衝撃がありました。山ほどの規制が降り注いできたからです。しかしそれで金融機関は衰退しましたか?」 「5年以上が経ち、リーマンショック以前よりも肥大化し、強大になりました。もう潰せない状態です」
▽ドッド・フランク法廃止に沸き立つ金融業界
・というのも、ドッド・フランク法は理念的には規制で業界を縛りつける内容だが、法律の細部が複雑なため施行から数年経っても規制が及ばなかった部分があった。その間に金融業界は政治力を使って巧みに規制をかわしてきたというのだ。
・そうした中で、トランプはドッド・フランク法を廃棄しようというのだ。目指すものは金融規制緩和と減税であり、1980年代に経済成長を遂げたロナルド・レーガン政権時代を踏襲するものだ。 当選後、トランプのウエブサイトには選挙中と同じ規制緩和の文言が踊っていた。 「ドッド・フランク法を新しい政策に置き換えて、経済成長を促し、雇用を拡大していく」 
・過去1年半のトランプの遊説内容と同じで、新しい政策の詳細には言及がないが、同法を廃棄するとのニュースに米金融界が期待しないわけがない。前述のファンド運用マネジャーが述べる。 「ドッド・フランク法の規制遵守には少なからずコストがかかった。だがそれがなくなれば必然的に金融機関の収益は上がるし、仕事はしやすくなる」
・トランプの同法廃棄の公約は、短期的に金融機関だけでなく市場を活気づかせる結果になっている。 ブッシュ政権時代、規制を緩めて金融機関の思うままにビジネスをさせたことでリーマンショックを引き起こし、社会格差を拡大させた教訓は決して忘れるべきではないだろう。
・経済面でのさらなる注目点はやはり環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)である。 安倍晋三首相が日本時間11月18日、ニューヨークでトランプと会談してTPPの重要性を説いたはずだが、米国側のTPP離脱はトランプの本気度を示すものであり、ドッド・フランク法廃棄と同じでぶれが見られない。
▽すでに屍となったTPP
・トランプが笑顔で安倍氏の話に耳を傾けたとしても、自身の離脱決意は揺らがない。トランプの中で、TPPはすでに死んでいる。 12カ国で交わす条約より二国間貿易交渉の方が交渉しやすいはずである。それがトランプ流だ。トランプは自叙伝『トランプ自伝:アメリカを変える男』で書いている。 「一番望ましいのは優位に立って取引(交渉)することだ。もっと良いのは、相手が必要とするものを持つこと。そして1番良いのは、相手がこれなしでは困るというものを持つことだ。この優位性をリバレッジと呼ぶ」
・安倍氏との会談で、トランプはいかに日本と優位に交渉を進めるかを算段して臨んだはずだ。ただ安倍氏の方からわざわざニューヨークにやって来て、「会いたい」と言った時点で、トランプに交渉の主導権は握られたと思って間違いない。 トランプは安倍氏からTPPの話を聞きはしたが、廃棄を取りやめるつもりなど最初からないのだ。
・今後米国がTPPに参加するとしたら、日本に法外な要求をつきつけてくる時だ。「それが呑めなければTPPはやはり廃棄だ」という論理で交渉してくるだろう。安倍氏にトランプを上回る交渉力があるだろうか。
・ただトランプは最初から保護主義政策を信奉する人物ではなかった。昨年から何度も米国で取材する中で、筆者はトランプが「私は基本的には自由貿易主義者だ」との言葉を聞いている。かつては自由貿易を信じていたのだ。 周囲のアドバイザーの忠告に耳を傾けて、保護主義へ傾いていったと思われる。選挙目的だけでなく、いまは米国にとって保護主義が得策との結論に達したのだ。
・トランプに影響を与えた物の筆頭がウィルバー・ロス氏だ。親日派としても知られ、ニューヨークの「ジャパン・ソサエティー」という団体の会長も務めている。現在78歳だが、トランプ政権の商務長官として名前が挙がっている。 彼も以前は自由貿易論者だった。いつしか北米自由貿易協定(NAFTA)に反対し、TPPを含めた自由貿易に反対するようになる。 日本の新聞の記事にロス氏は自由貿易主義者という記述があった。誤りである。
▽保護主義で世界貿易は減少へ
・首都ワシントンにあるシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所のギャリー・ハウバウアー上席研究員によれば、「ロス氏とトランプ氏は貿易政策では同じ考え方を共有している。ただロス氏の方がより強い保護貿易主義者だ」ということだ。
・さらに貿易交渉の米側代表となる通商代表(USTR)には、ダニエル・ディミッコ氏の起用が有力視されている。ノースカロライナ州シャーロット市に本社を置く世界最大の電炉製鉄メーカーであるニューコア社の会長だ。 トランプには選挙中から貿易政策の相談役としてそばについていた。現在は政権移行チームの一員である。 ディミッコ氏ももともと自由貿易論者だったが、対中国には厳格な規制をかけ、米企業の利益が最優先されるべきとの立場に変わっている。
・トランプの周囲にはいま、メキシコ国境の壁だけでなく、保護主義という壁を巡らせる顧問やアドバイザーがついている。 保護主義が続けば、中長期的には貿易総量が減り、インフレ率が上がり、経済活動が鈍化するという流れになる宿命にも思える。 金融市場がトランプ景気で活況を見せるのはいまだけなのかもしれない。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48508

田岡氏の記事にある 『日本側の負担は7612億円』と、『米国の在日米軍関係の支出は約55億ドル(約5800億円)』と米国側の負担を既に上回っていたとは、初めて知り、驚いた。「日米防衛協力のための指針」(ガイドラインズ)で、『邦訳では「自衛隊は一義的責任を負う」の個所を「自衛隊は主体的に実施する」とごまかしている』、というのは日本の官僚お得意の「誤訳」だ。『ハワイ、グアムは背後に工場地帯がなく、艦船の整備、修理能力に乏しい』、というのは確かにその通りで、米国側にとってこれらが完備した日本の重要性は極めて大きいようだ。日本も思い切って、『「トランプ・カード」』を切るべきだろう。
和田氏が指摘する 『製造業を切って金融業やITを優遇したビル・クリントン』、『ヒラリーはエリート臭ムンムンのセレブマダムに見えた』、『トランプ当選に驚くより、日本でも「変化」を求めるうねりが強まってくれることを願ってやまない』、というのはその通りだ。
堀田氏の記事にある 『ドッド・フランク法を廃棄しようというのだ』、は国際的にも大変なことだ。ユーロ圏ではリーカネン報告書、英国ではヴィッカーズ委員会報告書により、銀行の業務範囲を規制したばかりだ。米国が廃棄ということになれば、ユーロ圏や英国も追随しないと、米銀への競争力が維持できなくなってしまう。リーマン・ショック以降、時間をかけて築き上げてきた国際的な銀行規制が改めて「仕切り直し」となってしまう。トランプ新大統領だけでなく、ウォール街の大銀行からも廃棄への圧力はあるだろうが、FRBなど監督当局は、なんとか規制の枠組みだけは残そうと抵抗するのではなかろうか。今後、金融監督という一見地味ではあるが、銀行行動を左右する重要分野であるだけに、大いに注目される点だ。
タグ:銀行の業務範囲を規制したばかりだ ヴィッカーズ委員会報告書 リーカネン報告書 保護主義で世界貿易は減少へ 金融関係者にとっては、もちろん規制が緩和される方が好ましい ドッド・フランク法の廃棄 すでにバブル化したトランプ景気、いつ暴落? ドッド・フランク法廃棄に沸く金融業界だがリーマンの二の舞も 日本でも「変化」を求めるうねりが強まってくれることを願ってやまない 国民はもっとダメになるのを恐れて、選挙では圧倒的に安倍自民党が強い 安倍政権は、成立して4年になろうとしているが、多少の失業率の改善を除いて、大きな経済成長にいたっていないし、新産業もほとんど生まれていない。そして、非正規雇用の増大と貧富の格差、都会と地方の格差は確実に広がっている 本人の臆病さのほうが気になった ヒラリーはエリート臭ムンムンのセレブマダムに見えた 製造業を切って金融業やITを優遇したビル・クリントン エリートと反エリートの分断が顕著に ビル・クリントン政権以降に分断が加速 トランプ勝利の精神風景 日経BPnet 商務長官として名前 和田秀樹 日本にとって「トランプ・カード」(切り札) 日本は「守ってもらっている」のではなく、タダで置いてやり、光熱費まで出している気前の良い家主の立場に立てるだろう ハワイ、グアムは背後に工場地帯がなく、艦船の整備、修理能力に乏しい 自暴自棄になった相手に抑止力は通用しない 邦訳では「自衛隊は一義的責任を負う」の個所を「自衛隊は主体的に実施する」とごまかしている 「日米防衛協力のための指針」(ガイドラインズ) 思いやり予算 米国の在日米軍関係の支出は約55億ドル(約5800億円 トランプが米軍を撤退させても日本の防衛に穴は開かない (その6)(米軍を撤退させても日本の防衛に穴は開かない、トランプ勝利の精神風景、バブル化したトランプ景気) ウィルバー・ロス 新大統領誕生 ドッド・フランク法廃止に沸き立つ金融業界 BPress 堀田 佳男 日本側の負担は7612億円 ダイヤモンド・オンライン トランプ 日本が100%負担をするなら米軍将兵は日本の傭兵に 田岡俊次
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