電気自動車(EV)(その5)(中国巨大電池メーカー「CATL」の実力を垣間見る テスラしのぐ世界最大の生産能力へ、英ダイソン EVの電池革新でトヨタに挑戦 自動車産業の秩序を壊す新星の登場、テスラは苦境から脱出できるか マスク氏は「名経営者」に非ず) [科学技術]
電気自動車(EV)については、3月1日に取上げた。今日は、(その5)(中国巨大電池メーカー「CATL」の実力を垣間見る テスラしのぐ世界最大の生産能力へ、英ダイソン EVの電池革新でトヨタに挑戦 自動車産業の秩序を壊す新星の登場、テスラは苦境から脱出できるか マスク氏は「名経営者」に非ず)である。
先ずは、日経BP出身でオートインサイト代表の鶴原 吉郎氏が3月13日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「中国巨大電池メーカー「CATL」の実力を垣間見る テスラしのぐ世界最大の生産能力へ」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/264450/031200087/
・『現在、世界最大の自動車用バッテリー工場は、米テスラがパナソニックと共同で米ネバダ州に建設中の「ギガファクトリー」である。一部が完成し、2017年1月からバッテリーの生産が始まったが、その生産能力は最終的に年間35GWhという膨大なものになる予定だ。これがどのくらいの規模かというと、例えば2017年10月に日産自動車が発売した最新のEV(電気自動車)「リーフ」用の電池なら、87万5000台ぶんに当たる・・・2010年に初代が発売されて以来のリーフの累計生産台数は2018年1月に30万台に達したということで、これは世界のEVで最も多い。ギガファクトリーの生産能力は、この累計生産台数の3倍近いリーフ向け電池を1年で造ってしまうことになる・・・小型セダンの「モデル3」の量産を軌道に乗せるのに現在テスラは苦しんでおり、2020年に計画どおりの生産が可能かどうかは、なお流動的だ』、『ところが、CATLが現在進めている生産能力の拡張は、このギガファクトリーを上回るものだ。ロイター報道によれば、2020年のCATLの生産能力は、合計で50GWhに達するという。これまで中国の自動車用バッテリーメーカーで最大だったのは中国BYDだったが、2020年にはCATLがBYDを抜き、現在世界最大の韓国LGも凌いで世界最大の自動車用バッテリーメーカーに躍り出るとBloombergの報道は伝えている』、なるほど(なお、GWhとは100万KWH=10億WH)。
・『中国は断トツのEV大国 このBloomberg報道によると、2020年における自動車バッテリーメーカーの上位10社のうち5社、上位5社に限れば3社を中国メーカーが占めるようになる。世界の自動車用バッテリー生産量の、実に3/4を中国が占めるようになると予測されているのだ。この背景にあるのが、中国における電動車両の急速な増加である。日本ではあまり知られていないことだが、中国はここ数年で世界最大のEV大国にのし上がった。その生産・販売台数は桁違いで、2017年にはEVとPHEVの販売台数の合計が、実に77.7万台に達した。同じ年の欧州での販売台数はEVとPHEV(プラグインハイブリッド車)の合計で27.8万台・・・、米国での販売台数は約20万台で、中国は断トツの世界最大市場である。ちなみに日本国内のEVとPHEVの販売台数の合計は約5万6000台で、中国の1/14程度に過ぎない。 中国は世界最大の自動車市場であり、年間の自動車の販売台数は2017年で2887.9万台(中国汽車工業協会調べ)と、同年の日本の523.4万台の5.5倍もある。それにしても、販売台数全体に占めるEV+PHEVの比率は日本が1%程度なのに対して、中国では2.7%程度と日本の3倍近い。しかも、上海や北京といった都市部での販売台数比率は・・・2016年で7%前後に達している。EVやPHEVといった先進的な環境車両の販売台数比率が日本よりも大幅に高いということに驚く読者も多いのではないだろうか』、私も恥ずかしながら驚かされた口である。
・『その原動力になっているのは中国が推し進める「新エネルギー車(NEV)」政策である。中国はEV、PHEV、FCV(燃料電池車)を新エネルギー車と位置付け、都市部でNEV専用のナンバープレートを割り当てたり、通常のエンジン車だとオークションが必要なナンバープレートをNEVでは無料にしたりして、通常は困難な新車の購入がNEVなら可能になる特典を持たせている。 また、EVやPHEVは中国でも通常のエンジン車より割高だが、NEVに対しては中央政府および地方政府から多額の補助金を支給することによって、購入を後押ししている。その補助金の額は、EVの場合で航続距離により2万~4万4000元(1元=16円換算で32万円~70万4000円)、PHEVの場合で2万4000元(同38万4000円)に上る』、確かに優遇ぶりは突出している。
・『2025年には700万台の新エネルギー車を販売へ こうした措置を講じた結果、NEVの販売台数は2015年以降急速に伸び、それまで世界最大のEV市場だった米国をあっさり抜いて2015年以降は世界最大のEV大国になった。しかし、これはまだ序章に過ぎない・・・中国は2020年には新エネルギー車の販売台数を200万台、2025年には700万台、そして2030年には1000万台に引き上げるという非常に野心的な目標を掲げている』、他にも公共事業など財政圧迫要因があるなかで、多額の補助金政策をいつまで続けてゆけるのだろうか。
・『中国がこのように野心的な目標を掲げている狙いは何か・・・単に大気汚染を解決したいのであれば、工場やトラックから排出される有害物質の規制を強化すればいいはずだ。また乗用車についても、一足飛びにEVに行くのではなく、日本ではすでに広く普及しているHEVを中国でも拡大すれば、排ガスの量は減り、クルマに使われる燃料も少なくて済む。 それでも、HEVを拡大する政策を中国が採らないのは、HEVの土俵で勝負しても、先行する日本には勝てないと悟っているからだ。そこで、日本や欧州でもまだ量産化してから日の浅いEVの土俵であれば日本をはじめ欧米など自動車先進国に勝てる可能性があると踏んでいるのだ。中国がHEVを新エネルギー車の対象としなかったのにはこういう背景がある』、『中国は、2025年までの自動車産業の育成計画として「自動車産業の中長期発展計画」を2017年4月に公表した。この計画では現在の中国を「自動車大国」ではあるがコア技術やブランド力はまだまだ弱いと分析している。これを10年間かけて技術力を向上させ、「自動車強国」に躍進させるとしている。 そして自動車強国になるためのコア技術としてパワートレーン、変速機、カーエレクトロニクスといった従来からの技術に加えて、電池、モーターなどの分野で2020年に世界の先端レベルに達するように世界トップ10の新エネルギー車メーカーを数社育成すると表明している。つまり新エネルギー車政策をテコにして技術力・ブランド力でも世界一流の自動車強国へと発展させることを政策目標として掲げているのだ。EVは、環境問題解決の手段としてよりも、自動車産業を発展させるためのキーテクノロジーとしての意味合いが強い』、さすが計画経済色が残る中国だけあって、やることが極めて戦略的だ。
・『もともとは日本の技術 CATLは、もともとはAmperex Technology(ATL)という香港のリチウムイオン電池メーカーが自動車用電池部門を別会社化したものであり、そのATLは、TDKが2005年に買収して電池生産子会社化したものだ。製造しているリチウムイオン電池も、TDKが開発したリチウムポリマー電池をベースにしている。つまり、CATLの電池技術は元をたどっていくとTDKに行き当たるわけだ。 ただし・・・同社が使っている技術はリチウムポリマー電池ではなく、正極に低ニッケル濃度の低い3元系材料(ニッケル、マンガン、コバルトの酸化物)、負極にグラファイトを用いるという標準的な構成のものだった。もっとも、中国の自動車用電池は、正極にリン酸鉄を使ったものが多いので、そういう意味では日本的な材料といえるかもしれない。 ここから先はやや専門的になって恐縮なのだが、Liang氏の講演のテーマはこれからの電池材料トレンドということで・・・2025年にはマンガン・ニッケルの酸化物にリチウムの酸化物を混合した正極材料と、シリコン+グラファイトの負極を組み合わせることで、現在のリチウムイオン電池が4V程度などを5V程度に高電圧化してエネルギー密度を現在の1.6~1.7倍にまで向上させたい意向だ。電圧を5Vまで高めると現在使われている電解液は分解してしまうので、新たな組成の電解液が必要になるが・・・「どんな材料なのか?」という会場からの質問は「トップシークレットだ、それを言ったらクビになる」とユーモアを交えながらかわしていた。 今回発表した材料系自体は特に目新しいものではなく、例えば先に紹介した5Vのリチウムイオン電池の考え方についても、日本ではすでに5年以上前から開発発表の例がある。トヨタ自動車が2020年代前半の実用化を目指していると言われる全固体電池についても、Liang氏の発表では実用化時期を2030年以降としており、発表を聞いた限りではあるが、日本はまだ5年程度はリードしているという印象を受けた』、リチウムイオン電池はもともとは日本の技術とのことだが、日本はまだリードしているというので、一安心した。
・『ただ中国は先に紹介したNEV政策の中で、中国製の電池を搭載していないNEVは事実上NEVとして認定しないと見られており、内外の完成車メーカーは中国国内の電池メーカーから電池を購入すべく、その選定を急いでいる。CATLは、日欧のメーカーが電池購入を検討する際の有力候補の一つで、大工場の建設も今後の需要増をにらんでのことだ。日欧の完成車メーカーとのやりとりを通して、その技術力は今後急速に高まっていくと考えられる』、中国が国産優先策を採るのであれば、CATLの競争力は市場規模の巨大さと相俟って、日本メーカーを大きく引き離す可能性が強いと思われる。こんな不公正な競争を強いられる日本メーカーはたまったものではないだろう。
次に、3月20日付け日経ビジネスオンライン「英ダイソン、EVの電池革新でトヨタに挑戦 自動車産業の秩序を壊す新星の登場」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/032000807/
・『独創的な掃除機やドライヤーで知られる英ダイソンがEV(電気自動車)に参入することを表明した。切り札は現在のEVで主流のリチウムイオン電池の弱点を克服する画期的な「全固体電池」。だが、全固体電池には実用化に向けた課題があった。電池としての基本性能であるエネルギー密度や出力密度がリチウムイオン電池と比べて低いことだ。EVに搭載した場合に高い性能を発揮できないなら、リチウムイオン電池を置き換えるのは難しい。 そんな全固体電池で先行し、画期的な成果を生み出しているのがトヨタ自動車と東京工業大学だ。共同研究において、一般的なリチウムイオン電池の2倍のエネルギー密度と3倍の出力密度を実現できる全固体電池を試作。試作品は安定性が高く、実用化されている電池並みの高い耐久性を備えているという。この電池をEVに搭載した場合、わずか3分程度で充電できる可能性がある。 さらに東工大は液体の電解質に匹敵する高いイオン伝導率を持つ新たな固体電解質の材料も発見。固体電解質は、高価なゲルマニウムの代わりに、安価で汎用的なスズとケイ素を使って実現できるという。 7月上旬、これらの成果が米科学誌に掲載され、全固体電池への関心が一層高まった。7月下旬には「トヨタが22年にも全固体電池を搭載するEVを発売する」と報じられた。本誌の取材に対し、トヨタ自身も「20年代前半の実用化を目指している」と認める。同電池の開発ではトヨタ自動車が先行するが、ダークホースの登場が業界を揺るがしている。「家電ベンチャーのダイソンがEVへの参入を決めたのには驚いた。とりわけ(同社がEVに搭載する予定の)『全固体電池』に強い関心を持っており、実現できるなら本当にすごいことだ」。こう話すのは日本のある自動車メーカーの経営トップだ。 2020年までにEVを発売する・・・英ダイソンが大胆な計画を明らかにした。同社の16年12月期の売上高25億ポンド(約3750億円)に迫る20億ポンドを投資。自動車業界の出身者を含む400人以上の専門チームを結成して、すでに開発を進めている』、あのダイソンまでが本格参入とは面白くなってきた。
・『同社がEV向けに革新的な電池も開発している・・・全固体電池。現在、世界で販売されているEVの大半が搭載するリチウムイオン電池が抱える様々な課題を解決する「夢の電池」として期待されている。 まず安全性が高い。現在のリチウムイオン電池は、正極から負極の間のイオンの通り道となる電解質に可燃性の液体を使う。このため液漏れが起きると発火しやすく、安全を確保するために厳重な対策を施す必要がある。 これに対して、全固体電池は電解質に固体を使うため液漏れが起きない。揮発成分はほぼないため、発火しにくい。さらに固体電解質は硬いため、短絡(ショート)が起きる可能性も低い。 満充電まで数分程度・・・現状のEVは、日産自動車の「リーフ」を例に取ると、家庭用の200V電源で満充電まで8時間、急速充電器で約80%の充電までに30分程度かかる。これが全固体電池の場合は数分程度に短縮できるとされる。さらに固体であるために設計の自由度が高く、高温や低温で出力が低下しないという利点もある』、なるほどまさに「夢の電池」だ。
・『だが、全固体電池には実用化に向けた課題があった。電池としての基本性能であるエネルギー密度や出力密度がリチウムイオン電池と比べて低いことだ。EVに搭載した場合に高い性能を発揮できないなら、リチウムイオン電池を置き換えるのは難しい。 そんな全固体電池で先行し、画期的な成果を生み出しているのがトヨタ自動車と東京工業大学だ。共同研究において、一般的なリチウムイオン電池の2倍のエネルギー密度と3倍の出力密度を実現できる全固体電池を試作。試作品は安定性が高く、実用化されている電池並みの高い耐久性を備えているという。この電池をEVに搭載した場合、わずか3分程度で充電できる可能性がある。 さらに東工大は液体の電解質に匹敵する高いイオン伝導率を持つ新たな固体電解質の材料も発見。固体電解質は、高価なゲルマニウムの代わりに、安価で汎用的なスズとケイ素を使って実現できるという。 7月上旬、これらの成果が米科学誌に掲載され、全固体電池への関心が一層高まった。7月下旬には「トヨタが22年にも全固体電池を搭載するEVを発売する」と報じられた。本誌の取材に対し、トヨタ自身も「20年代前半の実用化を目指している」と認める』、出力密度の低さの問題をダイソンがどう乗り切るのか、については説明がないが、なんらかの解決策を開発中なのだろう。
・『「リチウムイオン電池は量産技術が確立されており、大規模な投資により生産効率が高まっている。まだ量産が始まっていない全固体電池の生産性を評価するのは難しい」(自動車産業と車載電池に詳しいコンサルタント) 今年1月、米EVメーカーのテスラはパナソニックと共同で巨大なリチウムイオン電池工場「ギガファクトリー」を稼働させた。米ネバダ州にある同工場は、1カ所で15年時点の世界中のリチウムイオン電池の生産量に匹敵する生産能力を実現する。 生産する電池は、EVだけでなく、家庭、オフィス、工場向けの蓄電池にも供給。規模のメリットを追求することで、調達コストを低減し、生産性を向上させる。テスラは同様の巨大な電池工場を世界各地で10~20カ所建設する考えだ。 EVの心臓部の電池を巡り、激化する覇権争い。新興ベンチャーと業界の盟主が火花を散らす構図は過去の常識にとらわれていては競争を勝ち抜けない時代を象徴している』、面白い時代になったものだ。なお、今日に日経新聞は、「パナソニックがギガファクトリーでリチウムイオン電池と並んで生産する予定の太陽電池については、テスラへの独占供給やめ外販へ」と報じた。
第三に、元銀行員で法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が7月31日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「テスラは苦境から脱出できるか、マスク氏は「名経営者」に非ず」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/175966
・『テスラの財務内容と マスク氏の言動には問題がある 4月1日、ある経営者のつぶやきが市場参加者を驚かせた。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が、エープリルフールで“テスラが経営破綻した”とツイートしたのである。 昨年末頃から、ニューヨークの株式市場では同社の経営不安が高まっている。背景にあるのは、同社の新型セダン“モデル3”の生産の遅れやモデルSのリコール発生から、同社の財務内容が悪化するとの懸念だ。 7月に入り、テスラの経営不安はさらに高まっている。特に、テスラが部品会社に返金を要請したことは、同社の資金繰り悪化への懸念を高めた。完成品メーカーがサプライヤーに値下げを要請することはある。しかし、すでに支払った代金の返金を求めることは前代未聞だ。 市場参加者の間では、テスラがサプライヤーに“寄付”を求めなければならないほど、経営が行き詰まっているとの見方もある。経営の持続性への懸念は日増しに高まっている状況だ。当面、テスラの資金繰り悪化への懸念は高まりやすいだろう』、今日の日経新聞夕刊では、マスクCEOの株式非公開化についてのツイッター発言で、同氏を米国証券取引委員会(SEC)が召喚したと伝えた。エープリルフール発言は大目にみたとしても、これは許せなかったのだろう。それにしても、部品会社への返金要請とは、資金繰り危機とみられてもいたしかたない。
・『冷静に考えると、テスラには大きな可能性がある。高性能の電気自動車の実用化や、高速地下交通システムの実現に向けた取り組みなど、新しい発想を実現して成長を目指すマスク氏の発想は、多くの注目を集めている。 問題は、同社の財務内容とマスク氏の言動だ。 同氏はアナリストからの質問を「クールじゃない」と一蹴し、不興を買ったことがある。経営に不安を感じる市場参加者に冗談を飛ばすのも、苦し紛れのごまかしに見えてしまう。マスク氏が経営トップの座に居続ける間、同社の経営は一段と厳しさを増すと考える専門家もいる』、その通りだ。
・『科学的な技術などを実用するための方法、手段を用いて、従来にはない、新しいモノやサービスを生み出してきた。この点で、マスク氏は希代のイノベーター・・・といえるだろう。 マスク氏が生み出してきた企業を見れば、同氏がテクノロジーの実用化への“野心”に駆られていることがよくわかる。 1998年、同氏は、オンライン決済大手ペイパルの前身となるX.comを創業した。2002年には、宇宙への輸送を可能にするスペースX社を設立した。翌年には、テスラが創業された。 こうした起業のヒストリーを見ると、同氏は新しい発想を実践してより大きな価値の創造に駆られた人物と評することができる。その発想は成功や成長への野心や血気を意味する“アニマルスピリッツ”を体現している。まさに、マスク氏は起業家だ。 中でも、テスラは社会に大きなインパクトを与えた。 なぜなら、同社の電気自動車が従来の自動車にはない満足感を人々に与えたからだ。初期のモデルである“テスラ・ロードスター”は英ロータス社の車体にバッテリーを搭載した電気自動車だ。その、化石燃料を用いないクリーンさや加速性能が人々に評価され、テスラ・ロードスターはヒットした。 これは、従来の自動車の車体とバッテリーをはじめとするテクノロジーを結合させた“イノベーション”の良い例だ。環境負担の軽減などを理由に、各国で電気自動車の開発が注目されてきたこともあり、パナソニックやトヨタがテスラとの提携に乗り出した。 こうした動きは、マスク氏の発想を抜きにして考えることはできない。同氏が新しい発想を用いて従来にはないモノやコンセプトを実現したいという野心が、テスラの設立につながった。それが、各国の大企業をも巻き込んだバッテリーや電気自動車の開発につながっている。マスク氏の発想こそがテスラの成長を支えてきたのである』、確かにマスク氏は“アニマルスピリッツ”の塊りのような稀有の人物だ。
・『ロードスターに続いてテスラが発表したのがセダン型の“モデルS”だ。同社にとって想定外だったのは、2018年3月に、パワーステアリング系の不具合によって、モデルSのリコールが発生したことだ。その上にモデル3の生産の混乱、遅れが重なり、経営悪化への懸念に拍車がかかっている。 マスク氏はIoTの技術を使い、モデル3の生産を自動化しようとした。しかしこれが思うように進んでいない。テスラは方針を修正して人手を確保し、生産を軌道に乗せようとしているが、これも思うようにいっていない。完成車が作れない以上、収益は確保できない。その状況が続くと、テスラのキャッシュ(およびその同等物)は枯渇するだろう。 資金繰りの悪化が続くと考える市場参加者は増えている。 なぜなら、テスラの技術への不安が残っているからだ。自動運転技術も含め、問題の再発防止策がどのような状況であるかは不透明な状況にある。その中で、新型モデルの生産が混乱をきたしている。この状況では、金融機関も融資などに慎重にならざるを得ないだろう。 特に、22日、米紙報道でテスラが部品メーカーに支払った代金の一部の返還を求めていることが明らかになったことは、テスラの資金繰りが想定以上に悪化しているとの見方を高めた。そのため、多くの市場参加者がテスラ株を格好の空売り銘柄として扱っている。 要は、マスク氏は経営判断を誤った。それがテスラの経営不安の最大の原因だ。同氏の中で、成長を求める気持ちが先走り過ぎたのだ。モデルSのリコールはパワーステアリングのボルト腐食という、基本的かつ致命的な問題だ。それだけに、後続モデルの性能への不安も根強い。生産の混乱も発生する中でモデル3にどれだけの需要があるか、同社の経営に不安を感じる株式の専門家は多い。 見方を変えれば、マスク氏は、問題解明よりも、自らの野心に基づいてモデル3の生産を優先した。マスク氏は生産が進まないことにいら立ち、エンジニアを怒鳴りつけているとの報道もある。テスラの経営に混乱が生じていることは明らかだ。その結果、生産プロセス確立のためのコストが増え、キャッシュフローが圧迫されている』、問題点の指摘は的確だ。
・『イノベーターは名経営者とは同義ではない マスク氏は電気自動車を用いた高速の地下移動システムを考案するなど、新しい取り組みへの野心を燃やしている。それは、付加価値を生み出し、企業と社会の発展には欠かせない要素だ。問題は、実力のあるイノベーターであるマスク氏が、優れた経営者であるとは限らないことだ。ヒット商品を生み出す能力と、経営者に求められる資質は異なる。 一般的には、テスラ株の急落は、資金繰りへの懸念に影響されたとの指摘が多い。 踏み込んで言えば、その状況をもたらした原因は、マスク氏の意思決定、言動だろう。・・・企業は社会の公器だ。経営者には、従業員や消費者、株主など、さまざまなステークホルダーの満足度を高めることが求められる。それは、自分のこだわりや野心に基づいて、新しいテクノロジーの実用化を目指すこととは異なる。大局観を持って、組織全体が進むべき方針を示すことは、経営者に欠かせない資質である。この認識がマスク氏には欠けているように感じる。 マスク氏に求められることは、自らの率直な物言いを改め、ステークホルダーからの信頼感を高めることだ。果たしてそれができるか。長くしみついた自らの行動様式を改めることは、口で言うほど容易なことではない。 これまでの言動を同氏が続けるのであれば、テスラの経営不安は高まるだろう。その結果、同社の信用力が低下し、資金繰りはさらに悪化するかもしれない。組織の士気を高めるためにも、生産管理の専門家の意見などを仰ぎ、モデル3の生産計画を軌道に乗せることが必要だ。 その意思決定を下すことができるか否かが、マスク氏の評価を分けるだろう。突き詰めて言えば、マスク氏は技術などの開発に専念し、マネジメントは経営のプロにゆだねる選択肢もあるだろう。テスラの経営不安を払拭し、経営を安定させるためには、それくらいの決断があって良い』、「マネジメントは経営のプロにゆだねる」ことが出来ればいいが、ワンマンのマスク氏には難しいのではなかろうか。サウジなどからの資金で株式を非公開化(いわゆるマネジメント・バイアウトMBO)しようとの苦肉の策は、市場から注文をつけられなくなるだけに、居心地はよくなるかも知れない。しかし、資金調達はテスラが通常の生産活動にも重大な問題を抱えているだけに、容易ではない可能性がある。米SECの召喚まで出てきては、さらにこじれる懸念もある。当面、目が離せない状況が続くのではなかろうか。
先ずは、日経BP出身でオートインサイト代表の鶴原 吉郎氏が3月13日付け日経ビジネスオンラインに掲載した「中国巨大電池メーカー「CATL」の実力を垣間見る テスラしのぐ世界最大の生産能力へ」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/264450/031200087/
・『現在、世界最大の自動車用バッテリー工場は、米テスラがパナソニックと共同で米ネバダ州に建設中の「ギガファクトリー」である。一部が完成し、2017年1月からバッテリーの生産が始まったが、その生産能力は最終的に年間35GWhという膨大なものになる予定だ。これがどのくらいの規模かというと、例えば2017年10月に日産自動車が発売した最新のEV(電気自動車)「リーフ」用の電池なら、87万5000台ぶんに当たる・・・2010年に初代が発売されて以来のリーフの累計生産台数は2018年1月に30万台に達したということで、これは世界のEVで最も多い。ギガファクトリーの生産能力は、この累計生産台数の3倍近いリーフ向け電池を1年で造ってしまうことになる・・・小型セダンの「モデル3」の量産を軌道に乗せるのに現在テスラは苦しんでおり、2020年に計画どおりの生産が可能かどうかは、なお流動的だ』、『ところが、CATLが現在進めている生産能力の拡張は、このギガファクトリーを上回るものだ。ロイター報道によれば、2020年のCATLの生産能力は、合計で50GWhに達するという。これまで中国の自動車用バッテリーメーカーで最大だったのは中国BYDだったが、2020年にはCATLがBYDを抜き、現在世界最大の韓国LGも凌いで世界最大の自動車用バッテリーメーカーに躍り出るとBloombergの報道は伝えている』、なるほど(なお、GWhとは100万KWH=10億WH)。
・『中国は断トツのEV大国 このBloomberg報道によると、2020年における自動車バッテリーメーカーの上位10社のうち5社、上位5社に限れば3社を中国メーカーが占めるようになる。世界の自動車用バッテリー生産量の、実に3/4を中国が占めるようになると予測されているのだ。この背景にあるのが、中国における電動車両の急速な増加である。日本ではあまり知られていないことだが、中国はここ数年で世界最大のEV大国にのし上がった。その生産・販売台数は桁違いで、2017年にはEVとPHEVの販売台数の合計が、実に77.7万台に達した。同じ年の欧州での販売台数はEVとPHEV(プラグインハイブリッド車)の合計で27.8万台・・・、米国での販売台数は約20万台で、中国は断トツの世界最大市場である。ちなみに日本国内のEVとPHEVの販売台数の合計は約5万6000台で、中国の1/14程度に過ぎない。 中国は世界最大の自動車市場であり、年間の自動車の販売台数は2017年で2887.9万台(中国汽車工業協会調べ)と、同年の日本の523.4万台の5.5倍もある。それにしても、販売台数全体に占めるEV+PHEVの比率は日本が1%程度なのに対して、中国では2.7%程度と日本の3倍近い。しかも、上海や北京といった都市部での販売台数比率は・・・2016年で7%前後に達している。EVやPHEVといった先進的な環境車両の販売台数比率が日本よりも大幅に高いということに驚く読者も多いのではないだろうか』、私も恥ずかしながら驚かされた口である。
・『その原動力になっているのは中国が推し進める「新エネルギー車(NEV)」政策である。中国はEV、PHEV、FCV(燃料電池車)を新エネルギー車と位置付け、都市部でNEV専用のナンバープレートを割り当てたり、通常のエンジン車だとオークションが必要なナンバープレートをNEVでは無料にしたりして、通常は困難な新車の購入がNEVなら可能になる特典を持たせている。 また、EVやPHEVは中国でも通常のエンジン車より割高だが、NEVに対しては中央政府および地方政府から多額の補助金を支給することによって、購入を後押ししている。その補助金の額は、EVの場合で航続距離により2万~4万4000元(1元=16円換算で32万円~70万4000円)、PHEVの場合で2万4000元(同38万4000円)に上る』、確かに優遇ぶりは突出している。
・『2025年には700万台の新エネルギー車を販売へ こうした措置を講じた結果、NEVの販売台数は2015年以降急速に伸び、それまで世界最大のEV市場だった米国をあっさり抜いて2015年以降は世界最大のEV大国になった。しかし、これはまだ序章に過ぎない・・・中国は2020年には新エネルギー車の販売台数を200万台、2025年には700万台、そして2030年には1000万台に引き上げるという非常に野心的な目標を掲げている』、他にも公共事業など財政圧迫要因があるなかで、多額の補助金政策をいつまで続けてゆけるのだろうか。
・『中国がこのように野心的な目標を掲げている狙いは何か・・・単に大気汚染を解決したいのであれば、工場やトラックから排出される有害物質の規制を強化すればいいはずだ。また乗用車についても、一足飛びにEVに行くのではなく、日本ではすでに広く普及しているHEVを中国でも拡大すれば、排ガスの量は減り、クルマに使われる燃料も少なくて済む。 それでも、HEVを拡大する政策を中国が採らないのは、HEVの土俵で勝負しても、先行する日本には勝てないと悟っているからだ。そこで、日本や欧州でもまだ量産化してから日の浅いEVの土俵であれば日本をはじめ欧米など自動車先進国に勝てる可能性があると踏んでいるのだ。中国がHEVを新エネルギー車の対象としなかったのにはこういう背景がある』、『中国は、2025年までの自動車産業の育成計画として「自動車産業の中長期発展計画」を2017年4月に公表した。この計画では現在の中国を「自動車大国」ではあるがコア技術やブランド力はまだまだ弱いと分析している。これを10年間かけて技術力を向上させ、「自動車強国」に躍進させるとしている。 そして自動車強国になるためのコア技術としてパワートレーン、変速機、カーエレクトロニクスといった従来からの技術に加えて、電池、モーターなどの分野で2020年に世界の先端レベルに達するように世界トップ10の新エネルギー車メーカーを数社育成すると表明している。つまり新エネルギー車政策をテコにして技術力・ブランド力でも世界一流の自動車強国へと発展させることを政策目標として掲げているのだ。EVは、環境問題解決の手段としてよりも、自動車産業を発展させるためのキーテクノロジーとしての意味合いが強い』、さすが計画経済色が残る中国だけあって、やることが極めて戦略的だ。
・『もともとは日本の技術 CATLは、もともとはAmperex Technology(ATL)という香港のリチウムイオン電池メーカーが自動車用電池部門を別会社化したものであり、そのATLは、TDKが2005年に買収して電池生産子会社化したものだ。製造しているリチウムイオン電池も、TDKが開発したリチウムポリマー電池をベースにしている。つまり、CATLの電池技術は元をたどっていくとTDKに行き当たるわけだ。 ただし・・・同社が使っている技術はリチウムポリマー電池ではなく、正極に低ニッケル濃度の低い3元系材料(ニッケル、マンガン、コバルトの酸化物)、負極にグラファイトを用いるという標準的な構成のものだった。もっとも、中国の自動車用電池は、正極にリン酸鉄を使ったものが多いので、そういう意味では日本的な材料といえるかもしれない。 ここから先はやや専門的になって恐縮なのだが、Liang氏の講演のテーマはこれからの電池材料トレンドということで・・・2025年にはマンガン・ニッケルの酸化物にリチウムの酸化物を混合した正極材料と、シリコン+グラファイトの負極を組み合わせることで、現在のリチウムイオン電池が4V程度などを5V程度に高電圧化してエネルギー密度を現在の1.6~1.7倍にまで向上させたい意向だ。電圧を5Vまで高めると現在使われている電解液は分解してしまうので、新たな組成の電解液が必要になるが・・・「どんな材料なのか?」という会場からの質問は「トップシークレットだ、それを言ったらクビになる」とユーモアを交えながらかわしていた。 今回発表した材料系自体は特に目新しいものではなく、例えば先に紹介した5Vのリチウムイオン電池の考え方についても、日本ではすでに5年以上前から開発発表の例がある。トヨタ自動車が2020年代前半の実用化を目指していると言われる全固体電池についても、Liang氏の発表では実用化時期を2030年以降としており、発表を聞いた限りではあるが、日本はまだ5年程度はリードしているという印象を受けた』、リチウムイオン電池はもともとは日本の技術とのことだが、日本はまだリードしているというので、一安心した。
・『ただ中国は先に紹介したNEV政策の中で、中国製の電池を搭載していないNEVは事実上NEVとして認定しないと見られており、内外の完成車メーカーは中国国内の電池メーカーから電池を購入すべく、その選定を急いでいる。CATLは、日欧のメーカーが電池購入を検討する際の有力候補の一つで、大工場の建設も今後の需要増をにらんでのことだ。日欧の完成車メーカーとのやりとりを通して、その技術力は今後急速に高まっていくと考えられる』、中国が国産優先策を採るのであれば、CATLの競争力は市場規模の巨大さと相俟って、日本メーカーを大きく引き離す可能性が強いと思われる。こんな不公正な競争を強いられる日本メーカーはたまったものではないだろう。
次に、3月20日付け日経ビジネスオンライン「英ダイソン、EVの電池革新でトヨタに挑戦 自動車産業の秩序を壊す新星の登場」を紹介しよう。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/032000807/
・『独創的な掃除機やドライヤーで知られる英ダイソンがEV(電気自動車)に参入することを表明した。切り札は現在のEVで主流のリチウムイオン電池の弱点を克服する画期的な「全固体電池」。だが、全固体電池には実用化に向けた課題があった。電池としての基本性能であるエネルギー密度や出力密度がリチウムイオン電池と比べて低いことだ。EVに搭載した場合に高い性能を発揮できないなら、リチウムイオン電池を置き換えるのは難しい。 そんな全固体電池で先行し、画期的な成果を生み出しているのがトヨタ自動車と東京工業大学だ。共同研究において、一般的なリチウムイオン電池の2倍のエネルギー密度と3倍の出力密度を実現できる全固体電池を試作。試作品は安定性が高く、実用化されている電池並みの高い耐久性を備えているという。この電池をEVに搭載した場合、わずか3分程度で充電できる可能性がある。 さらに東工大は液体の電解質に匹敵する高いイオン伝導率を持つ新たな固体電解質の材料も発見。固体電解質は、高価なゲルマニウムの代わりに、安価で汎用的なスズとケイ素を使って実現できるという。 7月上旬、これらの成果が米科学誌に掲載され、全固体電池への関心が一層高まった。7月下旬には「トヨタが22年にも全固体電池を搭載するEVを発売する」と報じられた。本誌の取材に対し、トヨタ自身も「20年代前半の実用化を目指している」と認める。同電池の開発ではトヨタ自動車が先行するが、ダークホースの登場が業界を揺るがしている。「家電ベンチャーのダイソンがEVへの参入を決めたのには驚いた。とりわけ(同社がEVに搭載する予定の)『全固体電池』に強い関心を持っており、実現できるなら本当にすごいことだ」。こう話すのは日本のある自動車メーカーの経営トップだ。 2020年までにEVを発売する・・・英ダイソンが大胆な計画を明らかにした。同社の16年12月期の売上高25億ポンド(約3750億円)に迫る20億ポンドを投資。自動車業界の出身者を含む400人以上の専門チームを結成して、すでに開発を進めている』、あのダイソンまでが本格参入とは面白くなってきた。
・『同社がEV向けに革新的な電池も開発している・・・全固体電池。現在、世界で販売されているEVの大半が搭載するリチウムイオン電池が抱える様々な課題を解決する「夢の電池」として期待されている。 まず安全性が高い。現在のリチウムイオン電池は、正極から負極の間のイオンの通り道となる電解質に可燃性の液体を使う。このため液漏れが起きると発火しやすく、安全を確保するために厳重な対策を施す必要がある。 これに対して、全固体電池は電解質に固体を使うため液漏れが起きない。揮発成分はほぼないため、発火しにくい。さらに固体電解質は硬いため、短絡(ショート)が起きる可能性も低い。 満充電まで数分程度・・・現状のEVは、日産自動車の「リーフ」を例に取ると、家庭用の200V電源で満充電まで8時間、急速充電器で約80%の充電までに30分程度かかる。これが全固体電池の場合は数分程度に短縮できるとされる。さらに固体であるために設計の自由度が高く、高温や低温で出力が低下しないという利点もある』、なるほどまさに「夢の電池」だ。
・『だが、全固体電池には実用化に向けた課題があった。電池としての基本性能であるエネルギー密度や出力密度がリチウムイオン電池と比べて低いことだ。EVに搭載した場合に高い性能を発揮できないなら、リチウムイオン電池を置き換えるのは難しい。 そんな全固体電池で先行し、画期的な成果を生み出しているのがトヨタ自動車と東京工業大学だ。共同研究において、一般的なリチウムイオン電池の2倍のエネルギー密度と3倍の出力密度を実現できる全固体電池を試作。試作品は安定性が高く、実用化されている電池並みの高い耐久性を備えているという。この電池をEVに搭載した場合、わずか3分程度で充電できる可能性がある。 さらに東工大は液体の電解質に匹敵する高いイオン伝導率を持つ新たな固体電解質の材料も発見。固体電解質は、高価なゲルマニウムの代わりに、安価で汎用的なスズとケイ素を使って実現できるという。 7月上旬、これらの成果が米科学誌に掲載され、全固体電池への関心が一層高まった。7月下旬には「トヨタが22年にも全固体電池を搭載するEVを発売する」と報じられた。本誌の取材に対し、トヨタ自身も「20年代前半の実用化を目指している」と認める』、出力密度の低さの問題をダイソンがどう乗り切るのか、については説明がないが、なんらかの解決策を開発中なのだろう。
・『「リチウムイオン電池は量産技術が確立されており、大規模な投資により生産効率が高まっている。まだ量産が始まっていない全固体電池の生産性を評価するのは難しい」(自動車産業と車載電池に詳しいコンサルタント) 今年1月、米EVメーカーのテスラはパナソニックと共同で巨大なリチウムイオン電池工場「ギガファクトリー」を稼働させた。米ネバダ州にある同工場は、1カ所で15年時点の世界中のリチウムイオン電池の生産量に匹敵する生産能力を実現する。 生産する電池は、EVだけでなく、家庭、オフィス、工場向けの蓄電池にも供給。規模のメリットを追求することで、調達コストを低減し、生産性を向上させる。テスラは同様の巨大な電池工場を世界各地で10~20カ所建設する考えだ。 EVの心臓部の電池を巡り、激化する覇権争い。新興ベンチャーと業界の盟主が火花を散らす構図は過去の常識にとらわれていては競争を勝ち抜けない時代を象徴している』、面白い時代になったものだ。なお、今日に日経新聞は、「パナソニックがギガファクトリーでリチウムイオン電池と並んで生産する予定の太陽電池については、テスラへの独占供給やめ外販へ」と報じた。
第三に、元銀行員で法政大学大学院教授の真壁昭夫氏が7月31日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「テスラは苦境から脱出できるか、マスク氏は「名経営者」に非ず」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/175966
・『テスラの財務内容と マスク氏の言動には問題がある 4月1日、ある経営者のつぶやきが市場参加者を驚かせた。テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が、エープリルフールで“テスラが経営破綻した”とツイートしたのである。 昨年末頃から、ニューヨークの株式市場では同社の経営不安が高まっている。背景にあるのは、同社の新型セダン“モデル3”の生産の遅れやモデルSのリコール発生から、同社の財務内容が悪化するとの懸念だ。 7月に入り、テスラの経営不安はさらに高まっている。特に、テスラが部品会社に返金を要請したことは、同社の資金繰り悪化への懸念を高めた。完成品メーカーがサプライヤーに値下げを要請することはある。しかし、すでに支払った代金の返金を求めることは前代未聞だ。 市場参加者の間では、テスラがサプライヤーに“寄付”を求めなければならないほど、経営が行き詰まっているとの見方もある。経営の持続性への懸念は日増しに高まっている状況だ。当面、テスラの資金繰り悪化への懸念は高まりやすいだろう』、今日の日経新聞夕刊では、マスクCEOの株式非公開化についてのツイッター発言で、同氏を米国証券取引委員会(SEC)が召喚したと伝えた。エープリルフール発言は大目にみたとしても、これは許せなかったのだろう。それにしても、部品会社への返金要請とは、資金繰り危機とみられてもいたしかたない。
・『冷静に考えると、テスラには大きな可能性がある。高性能の電気自動車の実用化や、高速地下交通システムの実現に向けた取り組みなど、新しい発想を実現して成長を目指すマスク氏の発想は、多くの注目を集めている。 問題は、同社の財務内容とマスク氏の言動だ。 同氏はアナリストからの質問を「クールじゃない」と一蹴し、不興を買ったことがある。経営に不安を感じる市場参加者に冗談を飛ばすのも、苦し紛れのごまかしに見えてしまう。マスク氏が経営トップの座に居続ける間、同社の経営は一段と厳しさを増すと考える専門家もいる』、その通りだ。
・『科学的な技術などを実用するための方法、手段を用いて、従来にはない、新しいモノやサービスを生み出してきた。この点で、マスク氏は希代のイノベーター・・・といえるだろう。 マスク氏が生み出してきた企業を見れば、同氏がテクノロジーの実用化への“野心”に駆られていることがよくわかる。 1998年、同氏は、オンライン決済大手ペイパルの前身となるX.comを創業した。2002年には、宇宙への輸送を可能にするスペースX社を設立した。翌年には、テスラが創業された。 こうした起業のヒストリーを見ると、同氏は新しい発想を実践してより大きな価値の創造に駆られた人物と評することができる。その発想は成功や成長への野心や血気を意味する“アニマルスピリッツ”を体現している。まさに、マスク氏は起業家だ。 中でも、テスラは社会に大きなインパクトを与えた。 なぜなら、同社の電気自動車が従来の自動車にはない満足感を人々に与えたからだ。初期のモデルである“テスラ・ロードスター”は英ロータス社の車体にバッテリーを搭載した電気自動車だ。その、化石燃料を用いないクリーンさや加速性能が人々に評価され、テスラ・ロードスターはヒットした。 これは、従来の自動車の車体とバッテリーをはじめとするテクノロジーを結合させた“イノベーション”の良い例だ。環境負担の軽減などを理由に、各国で電気自動車の開発が注目されてきたこともあり、パナソニックやトヨタがテスラとの提携に乗り出した。 こうした動きは、マスク氏の発想を抜きにして考えることはできない。同氏が新しい発想を用いて従来にはないモノやコンセプトを実現したいという野心が、テスラの設立につながった。それが、各国の大企業をも巻き込んだバッテリーや電気自動車の開発につながっている。マスク氏の発想こそがテスラの成長を支えてきたのである』、確かにマスク氏は“アニマルスピリッツ”の塊りのような稀有の人物だ。
・『ロードスターに続いてテスラが発表したのがセダン型の“モデルS”だ。同社にとって想定外だったのは、2018年3月に、パワーステアリング系の不具合によって、モデルSのリコールが発生したことだ。その上にモデル3の生産の混乱、遅れが重なり、経営悪化への懸念に拍車がかかっている。 マスク氏はIoTの技術を使い、モデル3の生産を自動化しようとした。しかしこれが思うように進んでいない。テスラは方針を修正して人手を確保し、生産を軌道に乗せようとしているが、これも思うようにいっていない。完成車が作れない以上、収益は確保できない。その状況が続くと、テスラのキャッシュ(およびその同等物)は枯渇するだろう。 資金繰りの悪化が続くと考える市場参加者は増えている。 なぜなら、テスラの技術への不安が残っているからだ。自動運転技術も含め、問題の再発防止策がどのような状況であるかは不透明な状況にある。その中で、新型モデルの生産が混乱をきたしている。この状況では、金融機関も融資などに慎重にならざるを得ないだろう。 特に、22日、米紙報道でテスラが部品メーカーに支払った代金の一部の返還を求めていることが明らかになったことは、テスラの資金繰りが想定以上に悪化しているとの見方を高めた。そのため、多くの市場参加者がテスラ株を格好の空売り銘柄として扱っている。 要は、マスク氏は経営判断を誤った。それがテスラの経営不安の最大の原因だ。同氏の中で、成長を求める気持ちが先走り過ぎたのだ。モデルSのリコールはパワーステアリングのボルト腐食という、基本的かつ致命的な問題だ。それだけに、後続モデルの性能への不安も根強い。生産の混乱も発生する中でモデル3にどれだけの需要があるか、同社の経営に不安を感じる株式の専門家は多い。 見方を変えれば、マスク氏は、問題解明よりも、自らの野心に基づいてモデル3の生産を優先した。マスク氏は生産が進まないことにいら立ち、エンジニアを怒鳴りつけているとの報道もある。テスラの経営に混乱が生じていることは明らかだ。その結果、生産プロセス確立のためのコストが増え、キャッシュフローが圧迫されている』、問題点の指摘は的確だ。
・『イノベーターは名経営者とは同義ではない マスク氏は電気自動車を用いた高速の地下移動システムを考案するなど、新しい取り組みへの野心を燃やしている。それは、付加価値を生み出し、企業と社会の発展には欠かせない要素だ。問題は、実力のあるイノベーターであるマスク氏が、優れた経営者であるとは限らないことだ。ヒット商品を生み出す能力と、経営者に求められる資質は異なる。 一般的には、テスラ株の急落は、資金繰りへの懸念に影響されたとの指摘が多い。 踏み込んで言えば、その状況をもたらした原因は、マスク氏の意思決定、言動だろう。・・・企業は社会の公器だ。経営者には、従業員や消費者、株主など、さまざまなステークホルダーの満足度を高めることが求められる。それは、自分のこだわりや野心に基づいて、新しいテクノロジーの実用化を目指すこととは異なる。大局観を持って、組織全体が進むべき方針を示すことは、経営者に欠かせない資質である。この認識がマスク氏には欠けているように感じる。 マスク氏に求められることは、自らの率直な物言いを改め、ステークホルダーからの信頼感を高めることだ。果たしてそれができるか。長くしみついた自らの行動様式を改めることは、口で言うほど容易なことではない。 これまでの言動を同氏が続けるのであれば、テスラの経営不安は高まるだろう。その結果、同社の信用力が低下し、資金繰りはさらに悪化するかもしれない。組織の士気を高めるためにも、生産管理の専門家の意見などを仰ぎ、モデル3の生産計画を軌道に乗せることが必要だ。 その意思決定を下すことができるか否かが、マスク氏の評価を分けるだろう。突き詰めて言えば、マスク氏は技術などの開発に専念し、マネジメントは経営のプロにゆだねる選択肢もあるだろう。テスラの経営不安を払拭し、経営を安定させるためには、それくらいの決断があって良い』、「マネジメントは経営のプロにゆだねる」ことが出来ればいいが、ワンマンのマスク氏には難しいのではなかろうか。サウジなどからの資金で株式を非公開化(いわゆるマネジメント・バイアウトMBO)しようとの苦肉の策は、市場から注文をつけられなくなるだけに、居心地はよくなるかも知れない。しかし、資金調達はテスラが通常の生産活動にも重大な問題を抱えているだけに、容易ではない可能性がある。米SECの召喚まで出てきては、さらにこじれる懸念もある。当面、目が離せない状況が続くのではなかろうか。
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