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欧州(その7)(欧州で心配な「借入需要急増と銀行の貸し渋り」 ECBの「貸出態度調査」に現れた不穏な兆候、EUコロナ債で亀裂あらわ メルケル首相が妥協した理由、浜矩子「EUで表面化した『4対3対2』の深刻な対立構図 対コロナ復興共同基金合意も喜べず」) [世界情勢]

欧州については、1月6日に取上げた。今日は、(その7)(欧州で心配な「借入需要急増と銀行の貸し渋り」 ECBの「貸出態度調査」に現れた不穏な兆候、EUコロナ債で亀裂あらわ メルケル首相が妥協した理由、浜矩子「EUで表面化した『4対3対2』の深刻な対立構図 対コロナ復興共同基金合意も喜べず」)である。

先ずは、7月23日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「欧州で心配な「借入需要急増と銀行の貸し渋り」 ECBの「貸出態度調査」に現れた不穏な兆候」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/364710
・『異例の5日間にわたる協議を経て、EU(欧州首脳会議)首脳会議はついにコロナショックで疲弊する加盟国に支援を行うための復興基金設立で合意した。経験則にならえば、おそらく実際に運用する段階でまたひと悶着あるのではないかと筆者は踏んでいるが、とりあえずは「夏休み前に決着」と啖呵を切って、そのとおりにまとめた議長国のメルケル独首相はさすがといえる。とはいえ、復興基金は確かに重要な論点であるものの、欧州の経済・金融情勢が抱える問題は多数ある。 そもそも、今回のようにEUの政治が議論に時間を費やせるのはECB(欧州中央銀行)が必死の政策対応で現状を支えているからだ。拡大資産購入プログラム(APP)や緊急パンデミック購入プログラム(PEPP)の下、未曽有の国債購入によって利回りを押さえているからこそ、復興基金による財政措置がまとまらなくても大きな混乱が起きなかったのだ。 7月上旬、ラガルドECB総裁はフィナンシャル・タイムズのインタビューで復興基金を「本当のゲームチェンジャー(a real game-changer)」と形容したが、これは「これ以上、金融政策に依存しないでほしい」という本音の裏返しだと筆者は思う。「中央銀行」から「政府」へのバトンタッチは今のEUが抱える最大のテーマになっており、その代表格が復興基金の円滑な設立と稼動という位置づけかと思われる』、確かに「ECBが」「未曽有の国債購入によって利回りを押さえているからこそ、復興基金による財政措置がまとまらなくても大きな混乱が起きなかった」、今後「復興基金の円滑な設立と稼動」すれば、「「中央銀行」から「政府」へのバトンタッチ」が進む形になるのだろう。
・『「貸出態度は厳格化、借入需要は急増」の怖さ  しかし、復興基金の稼働は2021年からであり(財源は2021年のEU予算)、目先の問題に対する処方箋にはなりえない。この点、別の問題として7月16日の政策理事会後の会見で複数回出てきた「政策効果失効に伴う崖効果(the fear of a cliff effect)」というフレーズにも目を向けたい。これは、今年7~9月期以降、主要国において政府の融資保証制度が失効するに伴って域内銀行の融資態度が厳格化することを懸念したフレーズだ。 復興基金はもちろん重要だが、各国政治が判断を誤ることで域内の与信環境が急激に悪化する展開のほうが、当面のユーロ圏にとっては現実的な脅威といえる。 筆者がそうした論点に注目するのは、7月14日、ECBが公表した「貸出態度調査(2020年7~9月期、Bank lending survey (BLS)」を見て危機感を感じたからだ。調査は6月5~23日、計144行を対象に実施されたものであり、コロナショック(とりわけ経済活動の自粛)を受けた金融システムの状況を把握するにあたっては適切な時期に実施されている。 調査で注目されるのは、企業向けの貸出基準に厳格化の兆候が出始めたことだ。今年6月までの欧州銀行の企業向け貸出態度は落ち着いているが、次の四半期(7~9月期)については急激に厳しくなるとの調査結果が示されている。しかも、リーマンショック直後とは異なる動きとして企業の借入需要も相当大きなものになっていることがわかる。 こうした動きに関してECBは調査報告書の中で「強い緊急流動性ニーズ(strong emergency liquidity needs)」や「ロックダウンに備えた予防的な流動性バッファー(precautionary build-up of liquidity buffers)」、そして「新しいコミットメントラインを引く動き」の結果だとしている。 もちろん、調査期間中にはターゲット型長期流動性供給(TLTRO3)が空前の規模(約1.3兆ユーロ)で供給されているため(筆者記事『ECBは政策金利のマイナス幅を実質的に拡大』参照)、調査結果が示すよりも企業金融まわりの切迫感は薄れているかもしれない。しかし、図のような「貸出態度の厳格化」と「借入需要の急増」が同時並行する状況は企業の連鎖破綻を予感させる非常に危うい構図である』、「「貸出態度の厳格化」と「借入需要の急増」が同時並行する状況は企業の連鎖破綻を予感させる非常に危うい構図」、その通りなのだろう。
・『「守り」の資金需要には限界がある  容易に想像がつくように、「借入需要の急騰」は決して前向きな動きではない。企業買収や設備投資といった「攻め」の資金需要ではなく、運転資金という「守り」の資金需要であって、一言でいえば急場しのぎの資金が求められている。 企業が運転資金を理由に借入需要を強める動きはリーマンショック直後や欧州債務危機時にも見られたが、今回の動きは過去とは比較にならない大きな震度で起きている。経済活動が制限されれば、企業の売り上げは立たなくなるので資金の流出が続くことになる。 そのため、銀行からの迅速な借り入れが必要になるわけだが、経済活動の制限が続くかぎりは「穴の空いたバケツに水を入れる」のと同じである。ロックダウンとは企業(や家計)にそれほどまでに厳しい環境を強いる政策なのだということを明らかにしてくれる調査結果といえる。) 新型コロナウイルの感染拡大に関し、第2波、第3波が到来するのか、しないのか。筆者には知る由もないが、一部ではロックダウンはほとんど感染抑止に寄与しなかったという声もある。しかし、「寄与しなかった」では済まされない政策であることは知っておきたい。ここまで見てきたように、ロックダウンは企業からひたすらキャッシュを奪い、金融システムに相当の負荷をかける政策である』、「「守り」の資金需要」は後ろ向きの「資金需要」なので、応じる金融機関も慎重になる筈だ。
・『現実的でバランスの取れた防疫政策を  第1波はかろうじてしのいだものの、はたして2度目、3度目のロックダウンに企業部門が耐えられるのかは、まったく確証がない。なお、今回は企業向けを中心とした与信環境を見たが、家計の住宅ローン向け貸出態度なども厳格化の方向にあることを忘れてはならない。 感染拡大防止策は人命に直結する施策であり、当然尊重されるべきものだ。しかし、大手金融機関の経営不安や破綻などのシステミックリスクが極大化した場合、それもまたリーマンショック時のように実体経済への大きなダメージとなって跳ね返ってくる。感染防止策で命を救えても、経済が死んでしまっては結局同じように悲惨な結末になる。 そうしたことを念頭に現実的でバランスの取れた防疫政策が取られることを切望する』、同感である。

次に、7月28日付け日経ビジネスオンラインが掲載した在独ジャーナリストの熊谷 徹氏による「EUコロナ債で亀裂あらわ、メルケル首相が妥協した理由」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/072700189/?P=1
・『EU(欧州連合)は、これまでタブーだった共同債を例外的に発行して異例の「借金」を行うという歴史的な措置に踏み切る。だが新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で激しい被害を受けた国々に対する援助金は、欧州北部の国々の反対のため、大幅に減らされた。首脳会議が一時決裂の崖っぷちに立たされた事実は、新型コロナ危機という緊急事態においても、一部の国々が欧州の連帯ではなく自国の利益を優先する現実を浮き彫りにした』、「歴史的な措置」の裏面とは興味深そうだ。
・『戦後最大の支援パッケージ  「Deal!(合意した!)」。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は、このメッセージを7月21日午前5時31分(ブリュッセル現地時間)にツイッターで発信し、27人のEU加盟国首脳たちが合意にこぎ着けたことを全世界に知らせた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領も「今日は、歴史的な日だ」と語った。 確かに合意内容は画期的である。約1兆8240億ユーロ(約220兆円)の支援パッケージは、第2次世界大戦後の欧州で最大の額だ。このうち1兆740億ユーロ(約130兆円)はEUの今後7年間の予算枠の中から前倒しで支出する。その中にはデジタル化や地球温暖化を防ぐための投資など、欧州の経済成長を促進するための支出も盛り込まれた。残りの7500億ユーロ(約90兆円)は、新型コロナ危機がもたらした経済的損害の悪影響を緩和するとともに、将来のパンデミックに対する抵抗性を強化するための「復興基金」だ』、EUでは金融政策は一本化されたが、財政政策は各国バラバラだったので、この「復興基金」での合意は確かに画期的だ。
・『EUが初めて「借金」し「共同債務同盟」に至る道ひらく  この基金のユニークな点は、EUが一種の共同債を初めて発行して、国債市場で「借金」を行い、7500億ユーロを調達することだ。EUがこのような形で資金を調達したことは、今まで一度もない。 これまではEU加盟国が個別に国債を発行して、借金をしてきた。EUという豊富な資金力と高い信用性を持つ大所帯が国債を発行すれば、各国がばらばらに借金をするよりも、はるかに有利な条件(つまり低い利回り)で資金を調達できる。多くの南欧諸国では新型コロナ危機のために財政状態が悪化しているので、これらの国々が個別に国債を発行しようとすると、投資家は高い利回りを要求するかもしれない。その意味で、EUが南欧諸国に代わって資金を調達すること自体が、すでに間接的な支援策である。 EUは2028年から30年かけてこの借金を返済する。そのために新しい税金を導入する予定だ。例えばリサイクルできないプラスチックに対する課税や、デジタル取引税、二酸化炭素の削減努力が十分でない国が輸出する製品に対する気候関税などを検討している。EUは、いわば「共同債務同盟」に至る前例を作ったわけである』、その通りだ。
・『7500億ユーロの復興基金が最大の難関に  だが、この復興基金は首脳会議が難航する最大の原因となった。当初EUは7月17日(金曜日)からの2日間で会議を終える予定だった。ところが実際には交渉が一時膠着状態に陥り、合意に達するまでほぼ4日間かかった。約100時間のEU首脳会議は、過去最長である。なぜ復興基金をめぐる議論が、交渉を難航させたのだろうか。 復興基金のアイデアを最初に打ち出したのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とマクロン大統領だった。両氏は5月18日に初めて、EUが5000億ユーロを国債市場で調達する構想を公表した。この提案は、世界中の金融市場を驚かせた。その理由は、過去に「EUの共同債」に反対していたメルケル首相が、態度を180度変えてEUが借金することを容認したからだ。 なぜドイツは過去において、「EUによる国債市場での資金調達」にかたくなに反対してきたのか。イタリアやスペインは、ユーロ圏加盟国が共同で国債を発行するユーロ共同債(ユーロ・ボンド)、もしくはEUによるコロナ共同債(コロナ・ボンド)の発行を求めていた。ユーロ・ボンドかコロナ・ボンドを発行すれば、イタリアやスペインにとっては資金調達コストが現在より少なくなり(つまり債権者に払う利回りが低下し)、借金をしやすくなる。マクロン大統領も、「欧州の政治的団結を深めるためには、EUによる資金調達が必要ではないか」として、イタリアやスペインの立場に理解を示してきた』、「メルケル首相が、態度を180度変えてEUが借金することを容認」、には驚かされた。
・『驚愕!メルケル首相が「EUの借金」を容認  だがドイツにとって、ユーロ・ボンドやコロナ・ボンドは禁忌(タブー)だった。万一イタリアやスペインが債務を返済できなくなった場合、ドイツなど他の国々が返さなくてはならない債務が増える可能性があるからだ。 これは、欧州通貨同盟を規定するリスボン条約に違反する行為だ。リスボン条約は、いわゆる「ノーベイルアウト条項」によって、欧州通貨同盟の加盟国が他の国の債務を肩代わりすることを禁じている。 1990年代にドイツ国民は、マルクを廃止してユーロを導入することに消極的だった。ドイツ国民が欧州通貨同盟への参加にしぶしぶながら賛成したのは、当時のヘルムート・コール政権が「イタリアなどの債務をドイツが肩代わりすることは絶対にない」と保証したからだ。つまりユーロ・ボンドやコロナ・ボンドは、1990年代に当時のコール政権が国民に対して行った約束を反故(ほご)にする可能性を含んでいる。これが、メルケル首相が共同債の発行をかたくなに反対してきた理由だ。 だがメルケル首相は、「新型コロナ危機は欧州にとって、第2次世界大戦以来最大の試練であり、被害を受けた国々に手を差し伸べる必要がある」として、リスボン条約の第122条が定める「緊急事態条項」の適用に例外的に同意した。第122条は、大規模な自然災害のような緊急事態が起きたときに、EUが特別な援助措置を実施することを認めている。 しかも独仏の提案によると、復興基金の5000億ユーロは、返済不要の援助金として「贈与」することになっていた。援助金は全ての国に支払われるが、イタリアやスペインなどパンデミックによる被害が大きかった国々への支払額を、他国に比べて多くする。この背景には、過去のユーロ危機において、EUの救済機関から得た融資を返済するのに南欧諸国が苦労し、一部の国が国家破綻の瀬戸際まで追い詰められた苦い経験がある。 EUは独仏の提案を採用し、復興基金の枠を7500億ユーロに拡大。このうち5000億ユーロを返済不要の援助金、2500億ユーロを融資にすることを提案した。援助金は、保健医療体制の充実など、将来のパンデミックに備える特別のプロジェクトに回す義務がある。政府の歳入として、公的年金の補填など他の用途に回すことは、許されない』、「メルケル首相は、「新型コロナ危機は欧州にとって、第2次世界大戦以来最大の試練であり、被害を受けた国々に手を差し伸べる必要がある」として、リスボン条約の第122条が定める「緊急事態条項」の適用に例外的に同意した」、「メルケル首相」にとっては、「イタリアやスペイン」で反EUの動きが強まるのを防止するため、苦渋の決断だったのだろう。
・『「倹約家の国々」の頑強な反対  独仏そしてEUの「大盤振る舞い」とも言うべき提案は、イタリアやスペイン政府を大いに喜ばせた。だがEU首脳会議の決議は、全会一致である必要がある。EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、メルケル首相、マクロン大統領の前に、アルプス山脈の北側に位置する「倹約家の国々」が立ちはだかった。 オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデン、フィンランドの5カ国は、「5000億ユーロもの各国の市民からの血税を、イタリアやスペインなどにプレゼントするのは危険だ。コロナ対策以外の目的に流用される危険がある。贈与額を減らして、経済構造改革などの条件付きの融資の部分を増やすべきだ」と主張した。 「倹約家の国々」は、7500億ユーロのうち、スペインやイタリアなどに贈与する額を5000億ユーロから3500億ユーロに減らすように要求した。 反対派の急先鋒(せんぽう)は、オランダのマルク・ルッテ首相だ。オランダは、来年3月に総選挙を控えており、現状では野党である右派ポピュリスト政党が依然として高い支持率を得ている。このため、ネオリベラル路線の保守政党「自由民主国民党(VVD)」を率いるルッテ首相は、新型コロナ危機に臨んでEUが南欧諸国に対して過度に寛容な態度を示すと、右派ポピュリストに追い風となると危惧したのだ。 独仏対「倹約家の国々」の対立には、大国と小国の間にある軋轢(あつれき)がくっきりと表れている。オーストリアのセバスティアン・クルツ首相は「これまでは独仏が提案をすると、他の国は文句を言わずに従うのが通例だった。しかし、そのような状況は受け入れがたい」と述べ、これまで堅実な財政運営を行ってきた小国の意見も尊重されるべきだという態度を打ち出した』、「首脳会議」が「約100時間」と「過去最長」になったとは、よほどの激論が交わされたのだろう。
・『返済不要の援助金を大幅に減額  首脳会議には、一時険悪な雰囲気が漂った。マクロン大統領が2回にわたってテーブルに拳を打ち付けて、オランダなど「倹約家の国々」に対する怒りをあらわにした。あるとき、クルツ首相の携帯電話に電話がかかってきて、同首相が会議室から外に出て電話を受けようとした。するとマクロン大統領は「ほら見ろ。彼にとって、首脳会議などどうでもいいんだよな」と言って、クルツ首相を露骨に批判した。 メルケル首相も、7月19日時点では交渉が決裂する可能性すら示唆していた。 長いトンネルに光明が見えたのは7月20日の月曜日。EUと独仏は、返済不要の援助金を5000億ユーロから3900億ユーロ(約48兆円)に減らす譲歩案を提示した。オランダなど「倹約家の国々」は、EUに毎年払っている拠出金を減らすことを条件に、3900億ユーロという額を受け入れた。 この結果、返済不要の援助金は、独仏の提案より1100億ユーロ(約13兆円)、22%減ったことになる。 万一EU首脳が合意に失敗していたら、「EUは100年に1度のパンデミックという緊急事態においても、加盟国を助けるための方法をまとめることができない」というメッセージを、世界中の金融市場に送ることになっていたはずだ。これは、コロナデフレをさらに悪化させる危険を含んでおり、EUとしては是が非でも避けたい事態だった。このため独仏は、援助金減額という苦杯を飲み干したのだ』、「独仏」が「援助金減額という苦杯」を飲んででも、「合意」を優先したのは賢明だった。
・『交渉難航は、EUの亀裂を露呈  決裂という最悪の事態は免れたものの、欧州の北部5カ国がEUと独仏の提案に頑強に反対して早期合意を妨げた事実は、大国と小国、欧州北部と南部の間を走る亀裂の深さを浮き彫りにした。もしも今回の会議が決裂し、EUが復興基金の設置に失敗していたら、イタリアやスペイン、フランスなどで右派ポピュリスト政党への支持率が再び高まっていた可能性もある。イタリアの市民の間では、オランダやオーストリアが復興基金案に横やりを入れたことについて、怒りの声と不満が強まっている。筆者のイタリア人の友人は「EUには落胆した。英国がEUを離脱した理由が、よく分かる」と怒りをぶちまけていた。 筆者が5月以降の流れを見ていて興味深いと思ったのは、これまで「倹約家」のグループに属していたドイツが初めて、南欧諸国に「寄り添った」ことだ。ドイツはユーロ危機においても一貫して、歳出削減や国営企業の民営化など厳しい緊縮策を南欧諸国に要求してきた』、確かに「ドイツ」の変身の背景を知りたいところだ。
・『メルケル首相が南欧諸国に寄り添った理由  この「転向」の理由は、パンデミックの特殊性にある。メルケル首相は、「イタリア、スペイン、フランスで多数の死者が出て、経済的な打撃が大きくなったのは、これらの国々の政策運営が悪かったためではない」と語っている。 EU統計局によると、今年1~3月期のイタリアの実質GDP(国内総生産)は4.7%、スペインでは5.2%も減少した。これはドイツのGDP減少率(2.2%)を大幅に上回る。 その理由は、新型コロナウイルスの感染者や死亡者数がドイツよりも多かったために、ロックダウンがドイツよりもはるかに厳しかったからだ。例えばイタリアでは、感染者増加のスピードを抑えるために、食料品など生活必需品に関係のある業種以外の企業は営業を一時禁じられた。ドイツではそのような措置は取られなかった。このため加盟国の経済状態の間に、格差が生じつつある。 EU統計局によると、2019年のイタリアの公的債務の累積残高はGDPの134.8%と、ギリシャに次ぎユーロ圏で2番目に高かった。ドイツのメディアでは、新型コロナ危機の影響で、イタリアの債務比率が近く160%に達するのではないかという臆測が流れている。EUは、今年のイタリアのGDPが前年比で約11%も減ると予測している。 2019年末の時点で、イタリアの公的債務残高は2兆4098億ユーロ(約300兆円)で、ギリシャ(3311億ユーロ)の7.3倍だった。ギリシャは小国であるがゆえに、EUなどの緊急融資によって救うことができた。だが、万一イタリアの財政状態が急激に悪化した場合、救済には莫大な金額が必要になる。 ドイツ、そしてEUは、新型コロナ危機が第2のユーロ危機になることを、絶対に避けなくてはならない。ロックダウンが緩和されると、各国間の被害の違いがあらわになる。経済的損害が比較的軽微なドイツに対し、イタリアやスペインの有権者の間で怨嗟(えんさ)と羨望の声が強まり、右派ポピュリスト政党にとって追い風になる可能性もある。このためメルケル首相は、「EUによる資金調達」および「コロナ対策費の返済義務免除」という本来使いたくなかった特別なカードを切ったのだ。 メルケル氏は来年首相を辞任して、政界から引退する。ドイツでは、パンデミックという危機の最中だけにメルケル続投を望む声も出ているが、同首相は「続投はあり得ない」と何度も断言している。 今回メルケル首相がマクロン大統領の路線に同調して、南欧諸国に対して寛容な姿勢を見せた背景には、緊縮策に固執する「鉄の女」ではなく、欧州の連帯と団結を重視する人道派の政治家として、16年間の首相生活を終えたいという同首相の願いもあったのかもしれない』、「緊縮策に固執する「鉄の女」ではなく、欧州の連帯と団結を重視する人道派の政治家として、16年間の首相生活を終えたいという同首相の願いもあった」、その通りなのかも知れない。

第三に、8月6日付けAERAdot「浜矩子「EUで表面化した『4対3対2』の深刻な対立構図 対コロナ復興共同基金合意も喜べず」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2020080500020.html?page=1
・『経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。 四・三・二。現下の欧州連合(EU)事情を眺めていたら、この三つの数字が頭に浮かんだ。すなわち、「北欧ケチケチ四人組」、「南欧ラテン系三人組」、「東欧国粋二人組」だ。 7月21日、新型コロナウイルスによる打撃からの復興に向けた共同基金についてEU27カ国が合意した。4日間におよぶマラソン協議を経て、総額7500億ユーロ(約92兆円)の復興基金創設で話がまとまった。関係者たちは、協議が決裂することなく合意にいたったことを大いに自画自賛している。だがそもそも、決裂も視野に入れておかなければいけなかったところが、情けない。 協議がもつれる中で、上記の四人組と三人組の対立が鮮明になった。四人組がオランダ・オーストリア・スウェーデン・デンマークだ。三人組はイタリア・スペイン・ギリシャである。コロナの打撃が大きかった三人組は、基金の原資をEU共同債で調達すべしと主張した。基金からの支援金は、もっぱら返済義務無しの贈与にしてくれとも要請した。このいずれに対しても、四人組が強い拒否反応を示した。 最終的には、共同債についても返済不要補助金についても、それなりの折り合いをみた。だが、そこにいたるやり取りは、相当にけんか腰のものだった』、この記事を取上げたのは、「東欧国粋二人組」について知りたいためだ。
・『けんかの爪痕が残ってもいる。四人組は、共同債の発行は今回限りだとしている。これがEUの財政統合につながることは断固許さない構えだ。支援金の払い出しについても、四人組の要求で、国々に拒否権が付与された。被支援国が怪しげなカネの使い方をしている。そう見た国は、払い出しに待ったをかけられることになった。三人組への四人組の不信感は深い。 別の角度から基金合意に影を落としたのが、東欧国粋二人組である。ハンガリーとポーランドだ。EUの行政機関である欧州委員会は、基金からの受益要件として、民主主義と法の支配の順守を明記したかった。だが、国粋二人組の抵抗によって、この要件は極めてあいまいなものにとどまってしまった。 まとまったことを祝うのか。内なる亀裂の露呈を嘆くのか。統合欧州の対コロナ復興基金は、なかなか評価が難しい』、「支援金の払い出しについても、四人組の要求で、国々に拒否権が付与された」、今後も実際の払い出しで紆余曲折もありそうだ。「ハンガリーとポーランドだ。EUの行政機関である欧州委員会は、基金からの受益要件として、民主主義と法の支配の順守を明記したかった。だが、国粋二人組の抵抗によって、この要件は極めてあいまいなものにとどまってしまった」、「東欧国粋二人組」の強権支配は目に余る。EUとして、強く出ることも可能だった筈なのに、「極めてあいまいなものにとどまってしまった」とは残念だ。
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