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障害者施設(その1)(「やまゆり園事件」で植松被告に死刑判決 差別的主張による自説は曲げず、「津久井やまゆり園」 事件から4年  再生に向けた現在の取り組みとは) [社会]

障害者施設については、これまでは「相次ぐ警察のミス」として、2016年8月15日、10月5日に取上げた。今日は、タイトルを変更して、(その1)(「やまゆり園事件」で植松被告に死刑判決 差別的主張による自説は曲げず、「津久井やまゆり園」 事件から4年  再生に向けた現在の取り組みとは)である。

先ずは、第一審の判決を受けて、本年3月17日付けダイヤモンド・オンラインが事件ジャーナリストの戸田一法氏による「「やまゆり園事件」で植松被告に死刑判決、差別的主張による自説は曲げず」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/231826
・『神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で2016年7月、入所者ら45人を殺傷したとして、殺人罪などに問われた元職員植松聖被告(30)の判決公判が16日、横浜地裁で開かれ、青沼潔裁判長は求刑通り死刑を言い渡した。障害者に対する差別的な偏見が大量殺人の動機とされた過去に例を見ない事件。植松被告は最終意見陳述でも重度障害者への差別的な考えを主張した上で「どんな判決でも控訴しない」と自説を曲げなかった』、やはり確信犯だったようだ。
・『起訴内容を全面的に追認  判決によると、植松被告は16年7月26日未明、やまゆり園に入所する男女19人を刃物で刺すなどして殺害。ほか24人に重軽傷を負わせたほか、職員2人も負傷させた。 弁護側は「大麻の使用による精神障害が原因」と無罪を求めていたが、青沼裁判長は刑事責任能力を認め起訴内容を全面的に追認した。 公判で事件を振り返ってみたい。 初公判が開かれたのは1月8日。植松被告は黒いスーツで出廷し、起訴内容を問われ「(間違い)ありません」と全面的に認めた。 その後、証言台の前で「皆様に深くおわびします」と謝罪し突然、口元に手を運び、暴れ出した。警備担当の職員4人が制止し、青沼裁判長は休廷を宣言。再開時は被告人不在で審理が進められた。 植松被告の行動は右手の小指をかみ切ろうとしたためと判明し、閉廷後に記者会見したやまゆり園の入倉かおる園長は「事件の時と同様『何と浅はかな、愚かなヤツなのか』としか思えなかった」と憤った。 1月10日の第2回公判では自傷行為を防ぐため、手袋を着けて出廷させられた。そして、事件の状況が検察側から語られる。 職員の供述調書によると、夜勤の職員を拘束し、入所者に「喋(しゃべ)れるか」を聞き、殺害するかどうかを決めていた。 途中で植松被告の意図を察知した職員が「喋れる」と答えると、自分で判断するように。「こいつらは生きていてもしょうがない」「あいつは殺さないと」などとつぶやいていたという』、これではどうみても確信犯そのものだ。
・『愛する家族を突然奪われた無念  死因は多くが首を刺されたもので、抵抗した際にできる防御創が手を貫通している犠牲者がいたことなど、強い殺意があった状況も明らかにされた。 1月15日の第3回公判は遺族の調書などが紹介された。「美帆さん」。青沼裁判長は被害者特定事項秘匿制度に基づき「甲A」としてきた犠牲者を、遺族の意向を踏まえ実名で審理することを明らかにした。 調書は神奈川県警や横浜地検が作成。「物事をまったく理解できなかったわけではない」「短い言葉なら話せた」と述べるなど、植松被告の「意思疎通ができない重度障害者を殺した」という主張と反する内容も含まれていた。 犠牲者の女性(当時60)の弟は「痛かっただろう、怖かっただろうと思うと、胸が張り裂けそうになる」「被告が悔い改め、厳罰に処されることを望む」とする供述が明らかにされた。 第4回公判が開かれた1月16日は、検察側が負傷した入所者24人全員の家族から聞き取った内容を朗読。「テレビに事件の映像が映ると布団をかぶって見ないようにする」など、トラウマになっている様子が紹介された。 この日までに犠牲者19人全員の遺族の供述調書が朗読された。「苦労はあったが、ちょっとした変化を見守るのは幸せだった」「生まれ変わってもまた私の子どもに生まれてほしい」――。愛する家族を突然奪われた無念を語った。 また「障害者差別に憤りを感じずにいられない」「殺されるような悪いことをしたのか?と問いたい」。憤りとやるせなさが交差していた心境が明かされた。 1月17日の第5回公判は植松被告の元交際女性が証人として出廷。14年当時は「散歩している入所者を見て『かわいい』と話していた」が、翌年には「あいつらは人間じゃない」と否定的な発言が多くなったと証言した。 そして事件を起こすことをほのめかされ「刑務所に入るよ」と指摘すると、植松被告は「世間が賛同して出てこられる」「俺は先駆者になる」と言い放ったという。 女性は植松被告について「重度の障害者とコミュニケーションをとるのが難しく、給料も安く、何のために働いているのか分からなくなったのではないか」と職場環境の問題についても語った』、遺族の願い「被告が悔い改め、厳罰に処されることを望む」のうち、「悔い改め」ることはなかったようだ。
・『従来の主張を曲げることはなかった  1月20日の第6回公判では、教員を目指していた植松被告が薬物を使い、障害者を差別する言動をするようになるなど「別人のよう」と戸惑う友人の声が紹介された。 事件の5カ月前、電話やLINEで「重度障害者はこの世に必要ない」「抹殺すべきだ」と賛同を求め、疎遠になる友人が多くなった。 植松被告の被告人質問が行われたのは1月24日の第8回公判。植松被告は「刑事責任能力を争うのは間違い。(自分に)責任能力はある」と弁護人の主張に異議を唱えた。 さらに「意思疎通できない人間は安楽死させるべきだ」と主張。弁護人が「重度障害者でも、家族は愛している」と指摘したが、植松被告は「国から金と時間を奪っている限り守るべきではない」と強弁した。 第10回公判は2月5日に開かれた。犠牲者の遺族が「なぜ殺さなければならなかったのですか」と問い、植松被告は「社会の役に立つと思ったから」と乾いた声で答えつつ、謝罪の言葉を口にした。 心境を「遺族の方と話すのは心苦しい」と述べつつ「できることで一番、有意義だった」と従来の主張を曲げることはなかった。 2月6日の第11回公判では、被害者参加制度に基づき、遺族や負傷者の家族、職員の代理人弁護士が質問した。 その中で、植松被告は犯行計画を両親に明かしていたことを告げ「悲しむ人がたくさんいる」といさめられていたことを明かした。 犠牲者の代理人弁護士は両親との関係について「愛されて育てられたと思うか」と問い、植松被告は「手をかけてもらい、不自由なく生活してきた」と回答。「あなたが殺されたら両親はどう思うか、考えたことはあるか」との質問には「ありません」と応じた。 美帆さんの代理人弁護士が「美帆さんの存在を喜ぶ家族がいた」と指摘すると、植松被告は「喜んではいけない」と、ここでも差別意識は変えなかった』、「植松被告は犯行計画を両親に明かしていたことを告げ「悲しむ人がたくさんいる」といさめられていた」、「両親」は「いさめ」るだけでなく、警察に通報すべきだったろう。被告の「差別意識」は完全に優性思想に基づくもののようだ。
・『一切の後悔も反省もない様子  2月7日の第12回公判では、植松被告を精神鑑定した医師が出廷。大麻の使用による障害や中毒、人格障害であるパーソナリティ障害を認定した上で、「犯行に影響はなかったか、(あっても)小さかった」と証言した。 そして2月17日の論告求刑で、検察側は「19人もの命を奪い、単独犯として類を見ない。計画的で生命軽視は顕著だ。自らの正当性を主張し続け、更生の意欲も可能性もない」「死刑を回避すべき要素はなく、むしろ悪質性は際立っている」と指弾し、死刑を求刑した。 2月19日の最終弁論。弁護側は「精神障害による心神喪失状態で、被告人は無罪が言い渡されるべきだ」と主張した。 そして、植松被告は聞くに堪えない障害者差別発言を繰り返した上で「どんな判決でも控訴しない」と主張した。 植松被告は一切の後悔も反省もないように見える。そして、ネットでは支持する投稿がある。 それが、怖い』、「植松被告は一切の後悔も反省もないように見える」、このようななかでの死刑執行は、本人のヒーロー錯覚を強めるだけで意味がない。もともと私は死刑廃止論者だが、それを別にしても、後悔・反省をしてから執行すべきだろう。「ネットでは支持する投稿がある」、日本社会の優性思想は根強いようだ。

次に、7月30日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した医療ジャーナリストの福原麻希氏による「「津久井やまゆり園」 事件から4年 、再生に向けた現在の取り組みとは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/244299
・『神奈川県相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園(社会福祉法人かながわ共同会)」は、元職員だった植松聖死刑囚が45人を殺傷した事件後、5年目を迎えた。津久井やまゆり園での利用者支援の実態を検証する動きと、仮移転している同園芹が谷園舎での現在を紹介する』、興味深そうだ。
・『津久井やまゆり園の施設の実態を検証する動きの中で出てきたこととは  植松死刑囚が「意思疎通が取れない障害者(名前・住所・年齢を言えない人、植松死刑囚独自の考え方)はお金と時間を奪うからいらない」と殺害したことについて、一連の裁判では犯行に至るまでの経緯が多少明らかにされたが、それは傍聴席の人にとって、まったく納得できるレベルではなかった。 判決文に「自分自身が障害者施設で勤務していた経験を有していたこともあって」「その考えは被告人の体験を踏まえて生じたものであって」などと書かれたことから、津久井やまゆり園は利用者に対してどのような支援をしていたか、同園での日常が注目されている。 例えば、元利用者の話を紹介しよう。 神奈川県在住の平野泰史さんは、2014~2018年まで(事件直後を除く)、津久井やまゆり園に次男の和己(かずき)さん(30歳)を入所させていた。津久井やまゆり園は家族が面会に来ても、施設内部(居室や共同リビングなど)に入れないという。 そこで、殺傷事件後の2018年、平野さんは和己さんがどのような日常を送っているかを知りたいと思い、日々の生活の様子が書かれた記録を園から取り寄せた。その内容を見たところ、昼間、和己さんがあまり活動していない様子をうかがえた。 平野さんはこう話す。 「入所時の園からの説明では、日中活動として、毎日、作業棟へ行くと聞いていました。しかし、行動記録からは週2〜3回、午前9時半から約1時間程度でした。健康な成人として、昼間は体を動かすことが当然と考えているため園に申し入れをしました」 和己さんは2歳のとき、熱性けいれんによる呼吸停止を起こし、集中治療室で30日間の治療を受けたが障害が残った。いまは、成人男性として親離れして生活するために、入所施設で介護職の支援のもと過ごしている。 津久井やまゆり園では、事件が起きた2016年7月の記録には、日々の生活について「(職員が運転するマイクロバスに乗せてもらって)ドライブへ行く」「DVDを見て過ごす」と記載されていた。このほか「居室で排尿」「他人の服を着る」「浴室から、なかなか出てこない」「落ち着きがない」などの問題行動についてだけ記録されていた。 そこで、2018年、社会福祉法人同愛会の入所施設「てらん広場」へ移ったところ、週4日朝9時半~17時まで同法人の作業所「リプラス」で働くようになり、平野さんは「和己さんの心身に変化が見られるようになった」と話す。 7月26日、神奈川県相模原市では「津久井やまゆり園は誰のものか」(主催:津久井やまゆり園事件を考え続ける会)のテーマでシンポジウムが開かれた。登壇した東洋英和女学院大学大学院(人間科学研究科)の石渡和実教授は「入所施設の職員ほど、知的障害者に地域での暮らしができるわけがないとあきらめている、その思い込みが支援の質を低下させています」と発言した 作業所では、スーパーから廃棄されるプラスチックを用いた本格的なリサイクル事業をしている。平野さんは和己さんの近況について「昔は細身で体力もなかったが、体がガッチリしてきました。作業に専念することで行動障害が減り、脳も活性化されたためか、話すことが変わってきたのです。息子にそんな作業ができると思っていなかったので、妻と驚いています」と話す』、別の施設に移った「障害者」の状況が大きく改善したのは、「やまゆり園」では入所者に寄り添った介護というよりは、一律の突き放した不適切な介護だった可能性がある。
・『神奈川県では県内知的障害者施設の日常を検証する動きに広がった  昨年、神奈川県の窓口に「やまゆり園の利用者に不適切な支援の疑いがある」と情報が寄せられた。このため、神奈川県では指定管理施設としての基本協定に基づく県による同園への随時モニタリングだけでなく、第三者委員会として外部の有識者の視点から深く分析する必要があると判断し、黒岩祐治知事が園の利用者支援の実態を検証する委員会(「津久井やまゆり園利用者支援検証委員会」)を設置した。 委員には、國學院大學教授で弁護士の佐藤彰一氏、上智社会福祉専門学校特任教員の大塚晃氏、植草学園大学副学長(元毎日新聞論説委員)の野澤和弘氏の3人が就任した。 いずれも重度障害者の家族を持つだけでなく。長年、知的障害者・児の権利擁護に取り組んできたことでよく知られている。 複数人の県庁職員が園作成の直近5年間にわたるさまざまな記録など(*)を精査し、3人の委員が検討した結果、5月、中間報告書が公表された。その報告書では、津久井やまゆり園における利用者支援の実態として、「利用者に長期間にわたって居室施錠や行動制限をしていたことへの疑い」「身体拘束の理由やそれを複数人で検討したかどうかの記載がないこと」など、数々の指摘が挙がり、障害者施設における利用者支援に関心のある人を中心に波紋が広がった。 同園の母体となる法人組織(かながわ共同会)のガバナンス体制、および、津久井やまゆり園を指定管理者とする県の関与が乏しかったことも取り上げられていた。 だが、新型コロナウイルス感染拡大に伴って、同園職員からのヒヤリングを実施できないまま公表された内容には誤りや誤解を招く記載もあったという。検証委員会の動きは、通常の指定管理の基本協定の枠組みでなく、県も「随時モニタリングと検証委員会の取り組みは別です」と言うばかりで、園から申し入れする機会がなかった。 同園支援部の山田智昭部長はこう話す。 「中間報告書の内容は園内で共有しています。また、ご指摘事項は県からの随時モニタリングで聞かれるたびに、現場へ再確認しながら回答しています。それらはわれわれが足りなかった部分、例えば『24時間の居室施錠を長期間にわたり行っていた事例』などは、特に記録の不十分さがあったことで事実とは異なる部分があり、改めて記録の重要性を認識しています」 このほかにも、「身体拘束をせざるをないときは『切迫性』『非代替性』『一時性』の3要件のすべてを満たす必要があるにもかかわらず、会議記録から一つでも該当すればよいと認識していたこと」という中間報告書の記載は誤りという。 山田部長は「会議で身体拘束について職員の意識を深める話し合いの場面で、『3要件のどれに現場が苦慮しているか』を質問したり、『特に、非代替性においては、さらに検討してほしい』と現場に指示を出したりしていた部分が、中間報告で(前述のように)記載されていました。検証委員会のヒヤリングに期待していたこともあったのですが……」と説明する。 また、どうしても支援が難しい人の場合、最終的には居室施錠の可能性があるかもしれないため、園はあらかじめ家族に同意を取ることもある。だが、報告書には「1年以上、身体拘束を行っていないにもかかわらず承諾書を取り続けていた事例もあることから、漫然と身体拘束が行われていたと考えられる」と記載された。 *平成27年度(2015年度)~令和元年度(2019年度)までの5年間、園利用者23人の個人に関する資料(フェイスシート、アセスメントシート、個別支援計画書・評価表、個人記録、身体拘束にかかる資料、個別支援マニュアル)、会議および委員会等に関する資料(園内危機管理委員会、リスクマネジメント委員会、虐待防止委員会、強度行動障害支援検討委員会等10種類の会議や委員会)、事業計画、要領、ガイドライン等に関する資料(利用者の身体拘束等行動制限取り扱い要領、利用者の安全確保における行動制限<身体拘束>についてのガイドライン、行動制限マニュアル等)』、「同園のやり方」にはかなり問題があっただけに、「同園職員からのヒヤリングを実施できないまま公表された内容には誤りや誤解を招く記載もあった」、「同園職員からのヒヤリング」は必須事項で、「「新型コロナウイルス感染拡大」は言い訳にはならない。
・『入倉かおる園長はこう話す。 「確かに、過去、園として不十分な部分もあり、身体拘束に頼らざるを得なかった事例もありました。その事例に対して園全体で情報を共有し、時間をかけて改善策について話し合っています。例えば、早番が帰って夜勤が入る前の時間帯などは手薄になることがあったため、他のホームから応援を出すなど、体制を立て直し、身体拘束をせざるを得ない状況を回避するようにしています。このため、近年、ほとんどの利用者は居室施錠することはなくなりました」 また、冒頭の平野さんの事例については「入所施設の日中活動にはいろいろな考え方があり、職員を多く配置して活動に取り組ませる施設と、うちのような寮内の生活リズムを整えることを支援の中心に置いている施設があります。ご家族のご要望にお応えできなかったと感じています」と話す。 この中間報告をめぐっては、5月18日の神奈川県議会定例会(厚生常任委員会)で、県の担当課長が「報告書は公表しない。記者会見もしない」「検証委員会は発展的改組するため廃止する」という趣旨の内容を発言したため、報告書に関心を持っていた人、および、障害者団体などの間で「検証しないまま、委員会を廃止するのか」と批判や誤解を招いた。だが、もともと、3月の同委員会ですでに今後は県内施設の利用者支援を検討する方向で部会を設置し、年内に報告書を取りまとめる予定になっていたという。 検証委員会の委員の1人だった野澤さん(前述)は検証報告書について、こう指摘する。 「津久井やまゆり園、および他施設を検証していくことは、日本の障害者施設の在り方、特に虐待をなくすための最大のチャンスです。いま、この検証を丁寧に深いところから掘り下げないと、日本の障害者福祉は再び“闇の時代”に戻ります」 近年、障害者虐待防止法によって、入所施設内での隠れた虐待が表に出るようになった。知的障害者の行動障害(暴力・自傷・他害など)は、支援者や環境に問題があるからにもかかわらず、あたかも本人が悪いと思われ、身体拘束という力で押さえつけられてきた。障害者虐待防止法では身体拘束を厳しく規制し、「切迫性」「非代替性」「一時性」の3要件が満たされなければ虐待に当たるとされている。だが、現場ではダブルスタンダード(施設内でのルール)が横行していると聞く。それを表に出して改善しなければ、また力で抑えることを容認する現場になってしまう。「闇に戻るとはそういう意味です」と野澤さんは説明する。 入所施設の支援のスキルでは、全国のロールモデルとされる社会福祉法人北摂杉の子会の松上利男理事長は「身体拘束はゼロにできます。仕方ないと言うのは“支援放棄”です」と話す』、「県の担当課長が「報告書は公表しない。記者会見もしない」「検証委員会は発展的改組するため廃止する」、驚くべき対応だ。「「津久井やまゆり園、および他施設を検証していくことは、日本の障害者施設の在り方、特に虐待をなくすための最大のチャンスです。いま、この検証を丁寧に深いところから掘り下げないと、日本の障害者福祉は再び“闇の時代”に戻ります」、その通りだ。神奈川県の対応には首を傾げざるを得ない。
・『障害者を支援する日常で模索される「意思決定支援」の取り組みとは  一方、津久井やまゆり園では、神奈川県が策定した「ともに生きる社会かながわ憲章」の理念実現を目指すため、着実に歩みを進めている。 事件翌年の2017年、県は同園再生に向けた基本的な考え方を公表し、障害者団体や有識者からヒアリングを実施後、障害者施策審議会に部会を設置した。そこでの審議を経たうえで「津久井やまゆり園再生基本構想」を策定し、いまは、特に構想の3本柱の1つ「利用者の意思決定支援」に注力している。 事件で同園の建物が大きな被害を受けたことから、当初は利用者が「今後、どこでどのように住むか」を決めるために始まった取り組みだった。だが、先を見通す想像力やコミュニケーションに障害のある利用者がどこに住むかを自分で決められるようにするためには、日常生活のいろいろな場面での意思表出と職員がそれをキャッチする力の育成が必要になる。 そこで、職員はまず「利用者を知ること」に、いままで以上の時間をかけるようになった。 例えば、言葉を話せない利用者が日常で「あー」「うー」と発していることには、どういう意味があるのか、深く探っていくようになった。職員が利用者の意思表出に応えていくようにしたという。その結果、「人を呼んでいる」「おむつを取り替えてほしい」「おなかがすいた」などのニーズを職員に伝えていることが分かってきたという。 さらに、職員と利用者が日常のやりとりを繰り返していくなかで、利用者に「言葉を発していいんだ、意思を表明していいんだ」と意識が芽生え、積極性にもつながってきたそうだ。 同園支援部意思決定支援担当の押田誠一郎課長は、こう説明する。 「意思決定支援の取り組みは、私たちのこれまでの支援の延長上にあるものですが、時間がかかったり、試行錯誤したりする面が多く、当初は手探り状態でやらされ感もありました。ところが、利用者と向き合い、意思決定支援とはこういうことかという実感が積みあがることによって、それがやりがいや楽しさにつながってきたという声をよく聞いています」 高齢者や障害者への支援は「~させていただく」「~してあげる」という気持ちから始まりがちだが、その関係性は間違いで、「障害があってもなくても同じ人間で、その対等な関係性において差別や権利侵害はあってはならない」が根本にある。それは相手を知ることから始まり、それが生活の中で本人らしく生きるための意思決定支援となり、権利擁護につながる。 入倉園長は「私たちの取り組みすべてがその人の権利を守ることになります」と話す。 津久井やまゆり園では惨事の記憶を乗り越えるために、職員が一丸となって、利用者の笑顔を増やす日常を作り出している。 なお、事件の責任を津久井やまゆり園に求める人は少なくないが、事件と園の支援実態による植松死刑囚の障害者観の形成との因果関係を明確にすることは難しい。社会的責任や道義的責任を求める声は理解できるが、現時点で園に法的責任は発生していない。 季刊福祉労働編集長(NPO法人共同連顧問)の堀利和さんはこう指摘する。 「やまゆり園事件を通して、障害者の入所施設におけるさまざまなことが顕在化されました。それは誰かだけに責任を求めることではなく、私たち関係者が無意識のうちに事件を作り出してしまったものです。それがいま、ブーメランのように一人ひとりに戻ってきているからこそ、私たちはこの課題を考え続けています」 近年のほかの凶悪事件の有りようを見る中、私はたまたま津久井やまゆり園で事件が起きただけで、今後、全国どこの障害者・高齢者施設でも類似の事件が起こりうる可能性はあると考える。それだけ、私たちの社会における優生思想は根深いからだ』、「津久井やまゆり園再生基本構想」の「利用者の意思決定支援」は、なかなかよさそうだが、今になって出てきたのには、これまでは問題があったということだろう。「「やまゆり園事件を通して、障害者の入所施設におけるさまざまなことが顕在化されました。それは誰かだけに責任を求めることではなく、私たち関係者が無意識のうちに事件を作り出してしまったものです。それがいま、ブーメランのように一人ひとりに戻ってきているからこそ、私たちはこの課題を考え続けています」、との反省はなかなか重い課題だ。「障害があってもなくても同じ人間で、その対等な関係性において差別や権利侵害はあってはならない」、との考え方が、一刻も早く根付くことを期待している。
タグ:障害者施設 ダイヤモンド・オンライン 戸田一法 (その1)(「やまゆり園事件」で植松被告に死刑判決 差別的主張による自説は曲げず、「津久井やまゆり園」 事件から4年  再生に向けた現在の取り組みとは) 「相次ぐ警察のミス」 「「やまゆり園事件」で植松被告に死刑判決、差別的主張による自説は曲げず」 求刑通り死刑を言い渡した 植松被告は最終意見陳述でも重度障害者への差別的な考えを主張した上で「どんな判決でも控訴しない」と自説を曲げなかった 起訴内容を全面的に追認 愛する家族を突然奪われた無念 被告が悔い改め、厳罰に処されることを望む 従来の主張を曲げることはなかった 植松被告は犯行計画を両親に明かしていたことを告げ「悲しむ人がたくさんいる」といさめられていた 一切の後悔も反省もない様子 「植松被告は一切の後悔も反省もないように見える」、このようななかでの死刑執行は、本人のヒーロー錯覚を強めるだけで意味がない もともと私は死刑廃止論者 それを別にしても、後悔・反省をしてから執行すべき 福原麻希 「「津久井やまゆり園」 事件から4年 、再生に向けた現在の取り組みとは」 津久井やまゆり園の施設の実態を検証する動きの中で出てきたこととは 「やまゆり園」では入所者に寄り添った介護というよりは、一律の突き放した不適切な介護だった可能性がある 神奈川県では県内知的障害者施設の日常を検証する動きに広がった 同園職員からのヒヤリングを実施できないまま公表された内容には誤りや誤解を招く記載もあった 「同園職員からのヒヤリング」は必須事項で、「「新型コロナウイルス感染拡大」は言い訳にはならない 県の担当課長が「報告書は公表しない。記者会見もしない 「検証委員会は発展的改組するため廃止する」 「津久井やまゆり園、および他施設を検証していくことは、日本の障害者施設の在り方、特に虐待をなくすための最大のチャンスです。いま、この検証を丁寧に深いところから掘り下げないと、日本の障害者福祉は再び“闇の時代”に戻ります 障害者を支援する日常で模索される「意思決定支援」の取り組みとは 「津久井やまゆり園再生基本構想」の「利用者の意思決定支援」 「やまゆり園事件を通して、障害者の入所施設におけるさまざまなことが顕在化されました。それは誰かだけに責任を求めることではなく、私たち関係者が無意識のうちに事件を作り出してしまったものです。それがいま、ブーメランのように一人ひとりに戻ってきているからこそ、私たちはこの課題を考え続けています 「障害があってもなくても同じ人間で、その対等な関係性において差別や権利侵害はあってはならない」
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安倍政権のマスコミへのコントロール(その15)(産経新聞32回 NHK22回に朝日新聞は3回…官邸が進める露骨な「メディア選別」の弊害〈dot.〉、質問に答えない安倍首相を共犯者メディアが守る戦後75年の“報道事変”〈dot.〉、「最後まで安倍政権の印象操作にメディアが加担」 元NHK記者の立岩氏、記者会見のあり方を批判) [メディア]

安倍政権のマスコミへのコントロールについては、7月27日に取上げた。今日は、(その15)(産経新聞32回 NHK22回に朝日新聞は3回…官邸が進める露骨な「メディア選別」の弊害〈dot.〉、質問に答えない安倍首相を共犯者メディアが守る戦後75年の“報道事変”〈dot.〉、「最後まで安倍政権の印象操作にメディアが加担」 元NHK記者の立岩氏、記者会見のあり方を批判)である。

先ずは、8月6日付けAERAdot「産経新聞32回、NHK22回に朝日新聞は3回…官邸が進める露骨な「メディア選別」の弊害〈dot.〉」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2020073100012.html?page=1
・『台本どおりの進行があらわとなり、“台本”営発表と揶揄された首相記者会見。首相官邸に権力を一極集中させる安倍政権は、メディアにこれまでの取材慣例の限界も突きつけている。 【アンケート結果】テレビを見ていて信用できないと思う人1位は? 朝日新聞政治記者として取材現場に精通する新聞労連委員長・南彰氏の著書『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)から、一部を抜粋・改編してお届けする。 第2次安倍政権は、官邸主導でこれまでの取材の慣例を大きく変えていった。 安倍官邸は2013年1月、歴代内閣が自粛していた単独インタビューを積極的に行う考えを官邸記者クラブに伝えた。 「単独インタビュー」への歯止めは、首相がメディアを選別しないための慣例だった。テレビは官邸記者クラブに加盟するNHKと民放の在京キー局に、ローテーションに従って順番に出演する。テレビに単独で出演した際には、ほぼ同時期に新聞・通信社のグループインタビューに応じていた。 しかし、記者クラブに所属しないネットメディアやフリーランスなどの活躍が広がるなか、官邸記者クラブのメディアだけで首相の取材機会を独占することの合理性を見いだすことが難しくなっていた。 また、民主党政権の広報を担った元官邸スタッフも、「首相がテレビに出演して国民に訴えたくても、テレビ局は次期首相のインタビューの方がニュース性が高いとみて、やろうとしない。記者クラブメディアの都合で、首相の発信が封じられていた」と不満を持っていた。官邸側にそうした旧弊の矛盾を突かれたのである。 官邸記者クラブ側は、メディアの選別や会見回数の制限をしないよう求めたうえで官邸側の提案を受け入れたが、約束が履行されたのは、政権発足当初だけだった。 第2次安倍政権が発足してから、20年5月17日までに行われた首相単独インタビューの回数だ。 1.産経新聞(夕刊フジ含む) 32回 2.NHK 22回 3.日本テレビ(読売テレビ含む) 11回 4.日本経済新聞 8回 5.読売新聞 7回 6.毎日新聞、TBS、山口新聞 5回 9.月刊Hanada、テレビ東京、テレビ朝日(BS含む)、共同通信、ウォール・ストリート・ジャーナル 4回 産経新聞系が突出している。ちなみに朝日新聞は3回だ。 安倍首相の単独インタビューで最も象徴的だったのは17年5月3日、憲法記念日にあわせて、自衛隊の存在を9条に明記するなどの改憲案を示し、20年に改正憲法を施行する考えを読売新聞の単独インタビューで表明したものだ。 その後の国会で自民党改憲草案との整合性について問われると、「私は内閣総理大臣として(予算委に)立っており、自民党総裁の考え方は読売新聞に書いてある。ぜひそれを熟読して頂いてもいい」と言って、野党の質問をかわす材料にも使われた』、「安倍官邸は2013年1月、歴代内閣が自粛していた単独インタビューを積極的に行う考えを官邸記者クラブに伝えた。「単独インタビュー」への歯止めは、首相がメディアを選別しないための慣例だった」、「単独インタビュー」を通じた支配の歴史は「2013年1月」に始まったようだ。「首相単独インタビューの回数」をみると、お気に入りメディアか否かでの格差がこれほど大きいとは、改めて驚かされた。
・『日常的な取材機会の減少  そもそも、我々が報道などで目にしていた「ぶら下がり取材」はどのような経緯で始まり、その機会は失われたのだろうか。 小泉純一郎氏が首相となり官邸入りした2001年4月26日夜、小泉首相は記者に囲まれると、「君たちが番の人たちか。よろしくね」と言って、首相番記者全員と握手。「歩きながらは話さないけどね。時々、立ち止まって話すよ」と宣言した。 それまで官邸や国会では、歩いている首相の横に立って自由に質問ができた。そのルールを改め、政権側と官邸記者クラブが取り決めを交わし、原則1日2回、昼と夜に場所を決めてぶら下がりに応じる方式が導入された。最高権力者に対し、日常的に疑問を尋ねる公の取材機会が確保されていた。肝心なことは、官邸側が発信したいときにだけぶら下がりが設定されるのではなく、何を質問するかにかかわらず、日常的に取材機会が設けられていたということである。 そうした国民との回路を閉じていったのは、皮肉にも記者会見のオープン化などを進めてきた民主党政権の菅直人内閣だった。 菅政権は2010年6月9日、明確な理由を示さないまま、ぶら下がり取材を1回に減らし、月に1回程度記者会見を開く案を内閣記者会に提示。2011年3月11日の東日本大震災、福島第一原発事故を受けて、菅首相は災害対応に集中するため、ぶら下がり取材を当面見合わせることを官邸記者クラブに伝えた。同年9月に後を継いだ野田佳彦首相はそうした菅内閣の判断を固定化する』、「国民との回路を閉じていったのは、皮肉にも記者会見のオープン化などを進めてきた民主党政権の菅直人内閣だった」、原発事故後であれば、取材制限はやむを得ないが、早くも「2010年6月」に提示したとは、初めて知った。
・『12年12月16日の総選挙の結果、安倍晋三氏が首相に返り咲いた。第1次政権時代に「カメラ目線」などと揶揄され、前任の小泉首相の存在に苦しんだ安倍首相にとっても、民主党政権が取材の回路を閉じたことは幸運であっただろう。「悪夢のような」と主張する民主党政権のルールをそのまま踏襲することになった。 日常的なぶら下がり取材で質問する機会を失ったうえに、単独インタビューを解禁したことによって、記者クラブが培ってきた「公」の取材機会は加速度的に減っていった。グループインタビューやぶら下がりや記者会見などの「公の取材機会」の本来の良さは、取材機会を設定するために、為政者との事前調整が少ないことにある。単独インタビューだと、首相側に応じてもらうために、個別のやりとりが必要になるからだ。 メディア環境の変化も、安倍官邸の報道対応の追い風になった。 安倍首相は17年10月の衆院選の公示直前、インターネット放送の「AbemaTV」に出演した。選挙期間中のテレビ報道は各党を平等に扱うのが基本だが、「AbemaTV」は政治的公平を定めた放送法4条の枠外にある。 安倍首相にとっては、森友・加計学園問題などが噴出し、同年7月の東京都議選では歴史的大敗を喫するという苦しい状況だったが、「安倍さんにがんばっていただかないと日本は経済も立ち行かなくなるし、それから北朝鮮からも守れないし、外交も歴代の総理大臣でこれだけやった方いないですよ」などとゲストに持ち上げられるなか、1時間にわたって自説をアピールすることができた。 その後の自民党の広報戦略などを考える会議では「いくら新聞とかテレビでやっても効果がないので時代遅れ」「AbemaTVにくいこむべきだ」と話し合われていた。 安倍官邸は、メディア環境の変化を利用しながら、既存の新聞・テレビを通さず、直接、国民・市民に訴えかける手法を磨くことに余念がない。 都合の悪いことに答えず、情報を隠そうとする。民主主義社会において許されないことだが、権力者の悲しい性でもある。プロパガンダ(政治的宣伝)を強める権力者に対して、メディアがどのように対抗するのか。権力監視の意思と、社の枠を超えた連帯が問われている』、「安倍首相にとっても、民主党政権が取材の回路を閉じたことは幸運・・・「悪夢のような」と主張する民主党政権のルールをそのまま踏襲することになった」、「取材制限」は党派を超えて、政権にとっては好都合なようだ。 「日常的なぶら下がり取材で質問する機会を失ったうえに、単独インタビューを解禁したことによって、記者クラブが培ってきた「公」の取材機会は加速度的に減っていった」、「プロパガンダ(政治的宣伝)を強める権力者に対して、メディアがどのように対抗するのか。権力監視の意思と、社の枠を超えた連帯が問われている」、同感である。

次に、8月13日付けAERAdot「質問に答えない安倍首相を共犯者メディアが守る戦後75年の“報道事変”〈dot.〉」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/dot/2020081100026.html?page=1
・『事前に記者から質問を集め、想定問答を読み上げるスタイルに批判を浴びてきた安倍晋三首相の記者会見。8月6日の広島での会見では、事前通告のない質問をする記者を官邸職員が妨害して制止。ついに質問妨害が、実力行使に発展した。新著『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)の著者で、朝日新聞政治記者として取材現場を知る新聞労連委員長・南彰氏が、特別に寄稿した。 ついに質問妨害が、実力行使に発展した。 原爆投下から75年を迎えた8月6日。広島で行われた安倍晋三首相の記者会見での出来事だ。 首相側は事前に準備された4つの幹事社質問への答弁の「台本」を読み上げて、15分あまりで記者会見を一方的に打ち切ろうとした。 首相の正式な記者会見は49日ぶり。官邸記者クラブ(内閣記者会)は、幹事社以外の質問にも応じるよう、首相側に求めていた。待ちわびていた記者から次々と声があがり、安倍首相が「節目、節目で会見をさせていただきたい」とその一部にだけ答えて、終わろうとしたときだ。 「ダメだよ、もう。終わり、終わり」 質問を続けていた朝日新聞記者が官邸報道室の職員に制止され、腕をつかまれたのだ。 この記者は自席から冷静に質問を重ねていた。その質問内容はどのようなものだったか。 「なぜ50日近く十分に時間を取った正式な会見を開かないんでしょうか」「(今日の会見時間は)十分な時間だとお考えでしょうか」「(国会の)閉会中審査には出られるのでしょうか」 いずれも国民・市民の疑問を反映したまっとうなものだった。それを制止してきた官邸側の対応は、「報道の自由」や国民・市民の「知る権利」を侵害する行為だった。 官邸側は朝日新聞の抗議に対し、「速やかな移動を促すべく職員が注意喚起を行ったが、腕をつかむことはしていない。今後とも、記者会見の円滑な運営を心掛ける所存」(報道室)と妨害行為を正当化した。菅義偉官房長官は翌7日の記者会見で、職員が記者の体に触れた有無を繰り返し問われると直接は否定せず、「腕をつかむことはしていないと(報道室から)報告を受けている」という間接的な言い回しで逃げ切ろうとした。 腕をつかまれたのか否か、という水掛け論にして、うやむやにしようとしたのである。しかし、質問中の記者に近寄り、「ダメだよ」と制止するだけでも十分な妨害行為であり、そこが本質である。官邸の主張は、テレビ朝日の女性記者に対する財務事務次官によるセクシュアルハラスメントが発覚した時の対応とそっくりだった』、「「ダメだよ、もう。終わり、終わり」 質問を続けていた朝日新聞記者が官邸報道室の職員に制止され、腕をつかまれたのだ」、「質問」は「まっとうなものだった。それを制止してきた官邸側の対応は、「報道の自由」や国民・市民の「知る権利」を侵害する行為だった」、「官邸報道室」の対応は、信じられないような暴挙だ。
・『新聞労連も7日に官邸に抗議する声明を出したが、驚いたのは、産経新聞が8日付朝刊に掲載した1面コラム「産経抄」だ。 「官邸側が高圧的に都合の悪い質問をやめさせたような印象を受けるが、実際はどうだったか」 筆者はそのように疑問を投げかけ、「報道室は4問のみ受け付けると告知していた」「空港への移動時刻が迫っていた」「腕をつかんだことも否定している」といった官邸側の主張を列記。朝日新聞や毎日新聞の記者が安倍首相に食い下がって質疑に挑んだ例をあげて、「マスコミは性悪だ」「底が浅すぎて、下心が丸見え」と中傷したのだ 記者が様々な角度から質問をぶつけ、見解を問いただすことは、為政者のプロパガンダや一方的な発信を防ぎ、国民・市民の「知る権利」を保障するための大切な営みだ。しかし、官邸の記者会見を巡っては近年、事前通告された質問だけで終了したり、官邸の意に沿わない記者の質問を妨害したりすることが繰り返されてきた。 東京新聞の望月衣塑子記者の質問中に、上村秀紀・官邸報道室長(当時)が7~8秒ごとに「簡潔にしてください」などと妨害行為を行っていたのが象徴的である。そして、緊急事態宣言を理由に狭めた「1社1人」という人数制限を宣言解除後も続け、望月記者らの参加自体も封じるようになっている。 こうした「報道の自由」や「知る権利」の危機において、官邸記者クラブが結束して対抗することを妨げてきた正体を示したのが、8日付の産経抄だ。このコラムに守られるように、9日に行われた長崎市での首相記者会見では、官邸側は事前に準備された幹事社質問の2問に答えただけで打ち切った。まるで戦前の「大本営発表」のようだった。 8月6日から9日にかけて起きた出来事は、記者会見で「質問できない国」になっている内側を描き、嘘や強弁がまかり通る政治の現状に警鐘を鳴らした前著『報道事変』と、そうした政治権力と共犯関係に陥っているメディアの存在を描いた新著『政治部不信』の同時進行を象徴する出来事だった。原爆死没者を追悼し、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現を願う広島・長崎にとって特別な日に起きたことはあまりにも悲しい。 第2次世界大戦中、準統制団体である「日本新聞会」のもとで記者登録制が敷かれ、自由な報道や取材活動が大きく制限された。1942年3月に策定された「日本新聞会記者規定」では、「国体を明確に把持し公正廉直の者」が資格条件になっていた。こうして政権に疑問を差し挟む記者が排除され、報道は「大本営発表」に染まった。日本メディアは政権の「共犯者」となり、多くの国民・市民の平和な生活と人権を打ち砕いたのである。75年前の戦争に思いをはせる8月。この過ちを決して繰り返してはいけない』、「記者が様々な角度から質問をぶつけ、見解を問いただすことは、為政者のプロパガンダや一方的な発信を防ぎ、国民・市民の「知る権利」を保障するための大切な営みだ」、「緊急事態宣言を理由に狭めた「1社1人」という人数制限を宣言解除後も続け、望月記者らの参加自体も封じるようになっている」、本来、声を上げるべき記者クラブも、「産経抄」にみられる御用新聞体質の産経新聞もメンバーなのでは機能し難い。現在は「大本営発表」に近くなっている。安部政権が代わっても、こうしたメディア対応が続くとみておくべきだろう。

第三に、8月29日付け京都新聞「「最後まで安倍政権の印象操作にメディアが加担」 元NHK記者の立岩氏、記者会見のあり方を批判」を紹介しよう。
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/347977
・『安倍晋三首相は71日ぶりに開いた記者会見で退陣を表明した。今回の記者会見について元NHK記者でジャーナリストの立岩陽一郎氏に聞いた。 安倍政権のさまざまな問題や課題を追及して深めることなく、「花道会見」になってしまった。最後まで安倍政権の印象操作にメディアが加担させられたといえる。特にNHKの関わりは重大だろう。 今回は多くの記者が質問したが、問い直しや記者同士が連係して深掘りするような追及がなく、「儀式」のようだった。例えば政府内で議論が進む「敵基地攻撃能力」について首相の考えを聞くべきではなかったか。人々の期待に応える記者会見にはならなかったと思う。 政権の私物化の問題など、安倍首相にとって厳しい質問もいくつか出たが、安倍首相は答えなかった。 本来なら、ある記者の質問を首相がかわしても別の記者が「その点をもう少し説明して」などと追及して問題を深めることができるが、安倍官邸は記者を1社1人、質問も1人1問などと制限している。当局の統制を受け入れている官邸記者クラブの責任も問題だ。 私は記者としてイランのテヘランに駐在中、大統領府の記者会見にも出席したが、当局が記者の身ぶりまで制限するようなことはイランでもなかった。 首相記者会見は本来、記者が人々を代表して最高権力者と向き合う場のはずだが、官邸記者クラブはそれができていない。内閣広報官が記者の質問に制限を加えるなど、本来あってはならない。権力とメディアの関係が現状のままでは、政権が代わっても問題は続くだろう』、「安倍政権のさまざまな問題や課題を追及して深めることなく、「花道会見」になってしまった。最後まで安倍政権の印象操作にメディアが加担させられたといえる」、「当局の統制を受け入れている官邸記者クラブの責任も問題」、「権力とメディアの関係が現状のままでは、政権が代わっても問題は続くだろう」、手厳しい批判で、同感である。
タグ:小泉純一郎 京都新聞 マスコミへのコントロール AERAdot 安倍政権の (その15)(産経新聞32回 NHK22回に朝日新聞は3回…官邸が進める露骨な「メディア選別」の弊害〈dot.〉、質問に答えない安倍首相を共犯者メディアが守る戦後75年の“報道事変”〈dot.〉、「最後まで安倍政権の印象操作にメディアが加担」 元NHK記者の立岩氏、記者会見のあり方を批判) 「産経新聞32回、NHK22回に朝日新聞は3回…官邸が進める露骨な「メディア選別」の弊害〈dot.〉」 朝日新聞政治記者 新聞労連委員長・南彰氏 『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書) 安倍官邸は2013年1月、歴代内閣が自粛していた単独インタビューを積極的に行う考えを官邸記者クラブに伝えた。「単独インタビュー」への歯止めは、首相がメディアを選別しないための慣例だった 「首相単独インタビューの回数」をみると、お気に入りメディアか否かでの格差がこれほど大きいとは、改めて驚かされた 日常的な取材機会の減少 「ぶら下がり取材」 原則1日2回、昼と夜に場所を決めてぶら下がりに応じる方式が導入 そうした国民との回路を閉じていったのは、皮肉にも記者会見のオープン化などを進めてきた民主党政権の菅直人内閣 安倍首相にとっても、民主党政権が取材の回路を閉じたことは幸運 「悪夢のような」と主張する民主党政権のルールをそのまま踏襲することになった 日常的なぶら下がり取材で質問する機会を失ったうえに、単独インタビューを解禁したことによって、記者クラブが培ってきた「公」の取材機会は加速度的に減っていった プロパガンダ(政治的宣伝)を強める権力者に対して、メディアがどのように対抗するのか。権力監視の意思と、社の枠を超えた連帯が問われている 「質問に答えない安倍首相を共犯者メディアが守る戦後75年の“報道事変”〈dot.〉」 事前に記者から質問を集め、想定問答を読み上げるスタイルに批判 「ダメだよ、もう。終わり、終わり」 質問を続けていた朝日新聞記者が官邸報道室の職員に制止され、腕をつかまれたのだ それを制止してきた官邸側の対応は、「報道の自由」や国民・市民の「知る権利」を侵害する行為だった 記者が様々な角度から質問をぶつけ、見解を問いただすことは、為政者のプロパガンダや一方的な発信を防ぎ、国民・市民の「知る権利」を保障するための大切な営みだ 緊急事態宣言を理由に狭めた「1社1人」という人数制限を宣言解除後も続け、望月記者らの参加自体も封じるようになっている 「産経抄」にみられる御用新聞体質の産経新聞もメンバー 現在は「大本営発表」に近くなっている。安部政権が代わっても、こうしたメディア対応が続くとみておくべきだろう 「「最後まで安倍政権の印象操作にメディアが加担」 元NHK記者の立岩氏、記者会見のあり方を批判」 安倍政権のさまざまな問題や課題を追及して深めることなく、「花道会見」になってしまった。最後まで安倍政権の印象操作にメディアが加担させられたといえる 当局の統制を受け入れている官邸記者クラブの責任も問題 権力とメディアの関係が現状のままでは、政権が代わっても問題は続くだろう
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ソーシャルメディア(その7)(テラスハウス 木村花さん ネット炎上を「使える」と利用したフジテレビ、「制作側の強要なし」 フジテレビが検証報告…「テラハ」問題、SNSの「中傷被害撲滅」が一筋縄でいかない理由 ツイッタージャパンの笹本社長に聞いた、スタバも!広告主「フェイスブック離れ」の原因 少なくとも430社が1カ月間広告出稿を停止) [メディア]

ソーシャルメディアについては、6月7日に取上げた。今日は、(その7)(テラスハウス 木村花さん ネット炎上を「使える」と利用したフジテレビ、「制作側の強要なし」 フジテレビが検証報告…「テラハ」問題、SNSの「中傷被害撲滅」が一筋縄でいかない理由 ツイッタージャパンの笹本社長に聞いた、スタバも!広告主「フェイスブック離れ」の原因 少なくとも430社が1カ月間広告出稿を停止)である。

先ずは、6月6日付け文春オンライン「テラスハウス 木村花さん ネット炎上を「使える」と利用したフジテレビ」を紹介しよう。
https://bunshun.jp/articles/-/38254
・『「嬉しい! でも、私なんかが出ていいのかな……」  恋愛リアリティ番組「テラスハウス」(フジテレビ系)への出演が決まり、喜びながらも戸惑っていたプロレスラーの木村花さん。笑顔の報告から8カ月後、彼女は22年の短い生涯を閉じることに――。 花さんは元プロレスラーの母・木村響子さんとインドネシア人の父親との間に横浜市で生まれた。高校を中退後、母の後を追うようにプロレスの道に進む。 母子を良く知るライターの須山浩継氏が明かす。 「花は表には出さないけれど努力家で、『個性が出るから』と自らヒール的な立場を選んだ。『テラハ』には自分の意思で出演したと聞いています。中学の時に沖縄でアイドル活動をしたこともあり、プロレス以外でも人前に出たいという気持ちがあったのでしょう」 花さんが昨年9月から出演していた「テラスハウス」は、“台本のない恋愛リアリティショー”として2012年から放映。だが、「週刊文春」は14年に「ヤラセ」や「セクハラ」が横行していた内情を報じている。 「15年からNetflixでも配信を始めて以降、SNSの反応をかなり意識しながら番組作りをするようになった。そういう意味で、花さんが起こした“あの事件”は制作側にとって“ラッキーな出来事”だったのです」(番組関係者)』、「「テラスハウス」は、“台本のない恋愛リアリティショー”として2012年から放映。だが、「週刊文春」は14年に「ヤラセ」や「セクハラ」が横行していた内情を報じている」、かなり長い歴史がありそうだ。
・『コスチューム事件「怒りすぎてしまって……」  “あの事件”とは3月31日に配信された「コスチューム事件」のこと。花さんが「命と同じくらい大事」という試合用コスチュームを同居する男性メンバーが誤って洗濯、乾燥し、着られない状態になったのだ。 「放送直前、花から『今度、コスチュームのトラブルが出る。演出じゃなくて本当にあったことだけど、怒りすぎてしまって……』と、気に病んだ様子で打ち明けられました」(古い友人) 放送では激怒する花さんが「ナメんのもいいかげんにしろよ」「何か言えよ」と男性に詰め寄り、帽子を取って投げ捨てる様子が流れた。その直後から花さんのSNSには〈お前も悪い〉〈暴力ありえない〉といった声が殺到し、炎上した。 しかし、この“反響”を受けた制作陣は二の矢、三の矢と“燃料”を投下する。 「制作側としては、花さんは数字が稼げる“使える”キャラでした。その後、女性出演者との会話で、花さんが『私、そんな悪いことした?』と反論して号泣する未公開動画も配信しました」(前出・番組関係者) 次々と出される動画に、SNSでは〈ブス〉〈消えろ〉〈キモイ〉などの罵詈雑言があふれた。やがて花さんは〈生きててごめんなさい〉などとネガティブな投稿を繰り返すようになる』、「この“反響”を受けた制作陣は二の矢、三の矢と“燃料”を投下する」、「制作陣」がさらに煽ったとは悪質だ。
・『自殺が後を絶たないリアリティ番組  「悪役はキャラだけで、本当の花は涙もろい繊細な子。5月に保護猫を引き取り、『からあげ』と名づけて可愛がっていた。中傷なんて無視すればいいのに真面目に一つ一つ見て心を痛め、ここ1カ月はふさぎ込んでいました」(前出・友人) こうしたリアリティ番組は海外でも人気だが、出演者の自殺が後を絶たない。 「昨年、英国の番組では、浮気していないことを嘘発見器で証明しようとして失敗し、婚約者と破局した63歳男性が自殺。韓国でも14年、29歳の女性が『番組が放送されたら韓国で暮らせなくなる』と母親に告げ、撮影現場で自殺した。制作側は出演者のSOSに気づかず、映像の面白さを追求してしまうのです」(放送ジャーナリスト) 「テラハ」では山里亮太らMC陣が、出演者について「怖いね〜あの子は」「クソみたいな奴らがいなくなってよかった」などと発言し、視聴者を煽ることもあった。ITジャーナリストの篠原修司氏はこう語る。 「テラハのように、芸能人のMCが出演者に辛辣なコメントをする構成では、視聴者も『こいつは叩いていいんだ』と勘違いしてしまう。SNSでダイレクトに誹謗中傷できる今の世の中で、炎上が予想される動画を配信した制作側が、演者のフォローをちゃんとしていたのか疑問です」 フジテレビに見解を問うと「番組にご出演されたことが話題になり、中にはSNS上で心ないコメントがあったことを非常に残念に思います」と回答。 5月23日、花さんは〈愛されたかった人生でした〉〈ばいばい〉とSNSに投稿した後、命を絶った』、海外では「自殺が後を絶たないリアリティ番組」、「「テラハ」では山里亮太らMC陣が、出演者について「怖いね〜あの子は」「クソみたいな奴らがいなくなってよかった」などと発言し、視聴者を煽ることもあった」、これはやはり番組自体の問題のようだ。

次に、7月31日付け読売新聞「「制作側の強要なし」、フジテレビが検証報告…「テラハ」問題」を紹介しよう。
https://www.yomiuri.co.jp/culture/20200731-OYT1T50263/
・『フジテレビの番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーの木村花さん(22)が亡くなった問題で、フジテレビは31日、番組の制作過程に関する検証報告を公表した。木村さんは、番組内での言動がSNSで中傷されて悩み、自殺を図ったとみられるが、検証報告では「制作側が出演者に対して、言動、感情表現、人間関係等について指示、強要したことは確認されなかった」と、不適切な行為を全面的に否定した。 検証は、社内の責任者を中心とした内部調査を軸とし、弁護士らも加わった。制作スタッフや出演者ら計27人に聞き取り調査した。 この問題では、制作スタッフが木村さんに対し、SNSでの炎上を狙って、他の出演者をビンタするよう指示したとの疑いも指摘されている。検証報告では、そうした行為を指示・強要したり、それを聞いたりしたという証言はなかったとした。また、SNSの炎上は視聴率上昇に結びつかないとして「そのような動機を持つことはない」と反論した。 一方、SNSでの激しい中傷への対応については、「批判的なコメントが出演者にどれほどの心的苦痛を与えているか、しっかりと把握するべきだった」との考えを示した。また、木村さんが精神的に不安定になった後の心のケアについても、専門家への受診を勧めていたなどとしつつ、「ケアの在り方、健康状態についての認識について、結果的に至らぬ点があった」と、反省する見解を明らかにした』、「フジテレビ」の内部調査なので、番組のあり方に対する反省は一切ない驚くべき居直り報告だ。
・『今回の検証報告は、外部の独立委員による「第三者委員会」によるものではない。フジテレビは検証報告の中で、「却かえって適切な証言を得られなくなる可能性もある。内部調査が望ましいと考えた」と理由を説明している。 木村さんの母、響子さん(43)は読売新聞の取材に、「突然、検証報告が出てきてびっくりした。内々の調査で済ませ、謝罪もなく納得できない。花のために真相の究明を求めていく」と語った。すでに放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に人権侵害を申し立てている』、やはりBPOに審査してもらうべきだろう。

第三に、6月21日付け東洋経済オンライン「SNSの「中傷被害撲滅」が一筋縄でいかない理由 ツイッタージャパンの笹本社長に聞いた」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/357784
・『女子プロレスラー・木村花さんの死をきっかけに、ツイッターなどのSNS上での誹謗中傷を問題視する動きがいっそう強まっている。国では罰則を含む法規制強化に向けた議論も進み始めた。個々の事業者や業界団体による自主規制とどうバランスが取られるのかが注目される。 世界に目を転じれば、アメリカではブラック・ライブズ・マター(黒人差別撤廃に向けた運動)やトランプ大統領発言などを巡り、ツイッター上での健全な議論の在り方が問われ続けている。5月にはツイッター社がトランプ氏の投稿に対し、誤解を招くおそれのある情報を含むとして「誤情報警告ラベル」を表示。トランプ氏はこれに対抗し、SNS企業に与えられている免責による保護を制限する大統領令に署名し話題となった。 新型コロナウイルス感染拡大という世界的な危機を経て、SNSをはじめとするネットサービスにおいてはその「役割」と「責任」、両方が今まで以上に広がったといえる。サービス事業者はこの現実にどう向き合うのか。ツイッタージャパンの笹本裕社長に聞いた(Qは聞き手の質問、Aは笹本氏の回答)』、興味深そうだ。
・『恣意的な運用は行っていない  Q.木村花さんの件をどう受け止めていますか。 A:非常に心を痛めている。場の健全性を担保することはSNSを運営する企業にとって一丁目一番地の課題だ。わが社はもちろん、業界全体で直視しなければならない。 ツイッターでは悪意あるツイートに対し、グローバルで共通のポリシーを基に対応を行っている。「日本法人では(ツイートやアカウントの削除において)恣意的な運用を行っているのでは」という憶測も飛び交っているが、決してそのようなことはない。何をもって「表現の自由」とするかなど、前提条件を日本法人で独自に解釈することすらない。 一方でこの共通のポリシーも、世界情勢の変化に合わせてアップデートし続けている。直近では、相手の人間性を否定するような言葉使いを禁止対象に含めるため、ヘイト行為に関するルールを刷新した。また、展開する各国で法制度が異なる面もあり、そういった違いへの個別の対応は行っている。 Q:ツイッターにおける誹謗中傷の実態をどう把握していますか? A:ケースによる違いがあり一概には言えない。ただ、外部の研究などで明らかになってきているのは、(攻撃的な内容を含め)繰り返しツイートしているのはごく少数の人だということ。大半のユーザーが健全に使っているわけだ。スパム的なもの、悪質なものに対しては当然、当社側での対応も進めているが、「ブロック」「ミュート」など、嫌なものを自分のタイムライン上で非表示にできる機能も設けているので、自衛の手段として使ってほしい。 Q:不適切なツイートに対する施策や体制は? A:サービスを展開するどの国でも、24時間365日の監視体制を敷いている。人力に加え、AI(人工知能)を用いた検知も強化中だ。殺害予告や脅迫行為のような直接的な表現のツイートには、アカウント凍結などの強制対応をすぐに行っている。 ただ、発言者と受け手の関係性や前後の文脈で、誹謗中傷に当たるのか判断が分かれるケースも多い。「嫌い」とか「死ね」とか、ネガティブなワードを含むツイートであっても、建設的な批判だったり、仲のいい友人同士の戯れだったりする場合もある。 逆に、一見問題なさそうに見えるツイートが、言及された人を深く傷付けることもある。不適切性の調査や判断にかかる時間もまちまち。レスポンスタイムを早めることは重点項目の1つに置いている』、「24時間365日の監視体制を敷いている。人力に加え、AI(人工知能)を用いた検知も強化中だ」、ただ、「発言者と受け手の関係性や前後の文脈で、誹謗中傷に当たるのか判断が分かれるケースも多い」、確かに難しさがありそうだ。
・『日本でも「警告機能」を早く導入したい  Q:具体的な解決策はありますか。 A:誹謗中傷被害を未然に食い止める策として、アメリカ国内では5月から試験的に、利用者が投稿ボタンを押す前に“警告”を出す機能を導入している。 木村さんの件や、今アメリカで起きているブラック・ライブズ・マターを巡っても言えることだが、一時的な衝動で憎悪むき出しのツイートをしてしまったり、よく調べずに批判を書いてしまったりする人は少なくない。そういう人に「あなたの投稿で他人を傷つける可能性はないか」と語りかけ、冷静に再考してもらうのがこの機能の狙いだ。 今のところ運用はアメリカ国内に限定されており、どのような情報を基にアラートを出すかもテストを続けているところ。こういう機能を早い段階で日本でも展開できればと思う。 もちろん、日本でもさまざまな機能を追加している。昨年9月からは、自分のツイートへの返信について、ユーザー自らが選択して非表示にできるようにしている。発言の本来の意図を損ねる返信に対処するのが目的だ。さらに今年5月からは、個々のツイートに返信できる人を3段階(全員、フォローしている人だけ、指定している人だけ)で設定できる機能も設けた。これらもぜひ活用してほしい。 Q:アメリカのトランプ大統領の投稿に「誤情報警告ラベル」がついたことで話題となりましたが、どのような基準で運用されているのでしょうか? A:前提として、このような警告ラベルはトランプ氏の発言以外にもいろいろな適用例がある。たとえツイッターで定めるルールに違反するツイートであっても、公共の利益に照らして閲覧を認める場合がある。稀ではあるものの、こうしたケースには対象ツイート上に告知を表示することで対処を試みている。 トランプ氏の発言に関しては、リーダーとしての性質上、非常に大きな影響力がある。その発言が物議を醸したり、さまざまな議論や討論を招いたりする可能性もある。また、今後大統領選挙を迎えるにあたっては「この人がこういう発言をしている」というそれ自体が貴重な情報にもなりえる。利用者が自分たちの国を代表するリーダーに対してオープンに公の場で意見したり、説明責任を問うたりできることは重要だ。 トランプ氏以外のものだと、例えば新型コロナ関連で科学的根拠が証明されていない情報などにもこのラベルを表示することがある。フェイクニュースや、意図的な操作によって誰かに被害をもたらす可能性のあるコンテンツは今後も注視していく』、「日本でも「警告機能」を早く導入したい」、改善は積極的にやってほしいものだ。
・『言論統制のような事態は望ましくない  Q:日本国内でも法規制強化に向けた議論が進行しています。 A:一事業者の立場で国の方向性に口を出すつもりはないし、各国で定められた法規制を遵守して運営を行っていくのも大前提だ。ただ、過度な規制が言論統制のような事態につながるのは望ましくない。 負の面が指摘される一方で、検察庁法改正案を巡る議論のような、ツイッターという自由な言論空間ならではのムーブメントも多く起こっている。疑わしいもの、見苦しいものを完全に排除することは、社会をよりよくすることに必ずしも貢献しないのではないか。 Q:一方で、現行のプロバイダ責任制限法では、情報開示請求をする側に大きな負担がかかり、匿名の加害者より実名の被害者が低い位置にいるといえます。 A:繰り返しになるが、われわれとしては各国の法制度に基づいて運営するということに尽きる。国が開示請求のプロセスをもっと簡単にしていくというのであれば、もちろん会社としてそれに対応していく。プロセスが難しいことや時間がかかることが指摘されているのは承知しているが、法制度を超えた開示対応をすることにもリスクはある』、やはり「プロバイダ責任制限法」を、「情報開示請求をする側に大きな負担がかか」らないように改正してゆくべきだ。
・『いい行動も悪い行動も、起こしているのは人  Q:新型コロナの感染拡大で、リアルに代わってサイバー空間でのコミュニケーションが一段と拡張した中で、今後もツイッターに注がれる目はさらに厳しくなりそうです。 A:サイバー空間特有の問題が噴出しているのか、それともリアル世界で起きていた問題がサイバー空間でも展開されているのか……。これは皆さんがどう思うのか問いたいところでもある。 いい行動も悪い行動も、実際に起こしているのは人。人なくしてプラットフォームが存在する意味はない。中傷被害に対処するために、プラットフォームとしてできることを探っていくのはもちろんだが、それ以前に、人間の行動、思考そのものをもっと学んで、解明していかなければならないと思っている。 トランプ氏がサインした大統領令などをとっても、ツイッターのような言論プラットフォームが向き合わなければならない課題は非常に難しいものだと感じる。(大統領令が)現実のものとなれば、自由な言論を侵食し、未来を脅かす可能性があると思う。そしてこういうことはアメリカ以外の国でも十分起こりえる。 新型コロナで世界が混乱する今、SNSの可能性と課題、両面がより顕在化してきたと感じる。ツイッターとして健全化に向けた取り組みを強化するとともに、今後は業界団体やさまざまなステークホルダーを通じた議論や情報共有も深めていきたい』、先ずは、「アメリカ」での「大統領令など」の動きを注目していきたい。

第四に、7月3日付け東洋経済オンラインが掲載したジャーナリストの瀧口 範子氏による「スタバも!広告主「フェイスブック離れ」の原因 少なくとも430社が1カ月間広告出稿を停止」を紹介しよう。
・『アメリカ時間7月1日から1カ月の間、少なくとも430社がフェイスブックへの広告出稿を停止する。フェイスブックは企業側とギリギリまで交渉を続けていたとされるが、最終的には広告主を納得させられなかった。 430社の中には、よく知られたグローバル企業や若者に人気の企業も多く含まれる。一部を挙げると、コカ・コーラ、ユニリーバ、スターバックス、アディダス、リーバイス、マイクロソフト、フォード、フォルクスワーゲン、ホンダ、パタゴニア、ブルーボトルコーヒー、ザ・ノースフェイス、REI、ベライゾンなどだ』、超有名企業が多いようだ。
・『ヘイト的書き込み放置に反感  広告ボイコットの動きは6月半ばから始まった。差別や偏見に反対する名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League)、全米有色人種地位向上協議会(NAACP)など数組織が、フェイスブック上でヘイト的な書き込みが放置されていることを批判し、広告主にフェイスブックと傘下のインスタグラムへの出稿をボイコットする「Stop Hate for Profit」を呼びかけたのだ。 フェイスブックは、利益優先のためにヘイト、偏見、人種差別、反ユダヤ主義、暴力に関わる投稿を削除せず、直近では白人警官に首を押さえつけられて死亡したジョージ・フロイド氏事件を発端として始まったプロテスターを暴力者とする内容の投稿がそのままになっていることなどを挙げた。 当初企業側の反応は鈍かったものの、みるみるうちにボイコットは勢いを増した。7月1日時点で434社が加わっているが、その数はまだ増えそうだ。フェイスブックの売上高約707億ドル(2019年12月期)の98%は広告収入とされ、広告主のこうした動きを無視するわけにはいかないはずだ。 フェイスブックは、同社プラットフォーム上での書き込みへの対応に関してこれまでもたびたび非難を浴びてきた。2017年にはミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャに対する大虐殺がフェイスブックを通じて扇動された。2019年には、ニュージランド・クライストチャーチでモスクを襲った犯人が、その襲撃をフェイスブックでライブストリームしたのがしばらく放置された。 先のフロイド氏の事件でも、抗議デモに関する陰謀説や誤情報が放置されているばかりか、デモ参加者に対する攻撃を呼びかける扇動的な動きもあるが、それを削除しないと指摘される。 フェイスブックへの批判は、対処が遅いことに加えてはっきりとした方向性を打ち出さないことにも向けられている。この手の批判を受けた際に、マーク・ザッカーバーグCEOや同社幹部から出てくるのは、「情報の正誤を判断する立場にはない」とか「言論の自由を守る」と言った発言だ。 書き込むのはユーザーであって、プラットフォーム自体はその場を提供しているだけというスタンスと言えるが、それを逆手に取ったような目に余る投稿があふれる中、最大規模のSNSであるフェイスブックが明快な姿勢を示さず断固とした処置をしないことには、どうしても疑問や不信感が巻き起こるのだ。 確かに同社は誤情報(フェイクニュース)に関しては、第3者組織による判断を加えてコメントをつけている。またヘイト的な書き込みについては、AIを利用して90%は削除しているとする。だが、その第3者組織の中に極右組織が加わっていたり、ファクトチェックの対象から政治家を除外していたりするため、一貫したポリシーを感じられないのだ』、「第3者組織の中に極右組織が加わっていたり」、驚くべき偏向した姿勢だ。
・『フェイスブック社内でも不満  実は、同社は内側、つまり社員からも抗議を受けている。トランプ大統領がフロイド氏に関連した抗議デモに対して、「略奪には発砲で応える」と訴える書き込みを5月29日に行ったが、これがそのまま放置されていることに対して、5000人以上の社員が「政治家による言論の自由はもっと監視すべき」という意見を出している。同じ内容のツイートに対して、ツイッターが「暴力を賛美している」として、すぐには閲覧できないようにしたこととは対照的だ。 実際、ほかのSNSはよりはっきりとした姿勢を示している。ツイッターは、トランプが郵送による投票について投稿した5月のツイートに対しても、ファクトをチェックするようにユーザーに呼びかけ、数々のリンクをつけた。 レディットは、ヘイトやハラスメントを禁止したユーザールールに頻繁に違反するとして、トランプ・ファンのアカウントを削除。アマゾンのトゥイッチもトランプのアカウントを一時的に中止。「メキシコはレイピストをアメリカに送り込んでいる」とトランプが発言した過去のビデオを再掲載したためだ。スナップチャットは、セレブ扱いのセクションでのトランプのアカウント掲載を取りやめ、ユーチューブは極右運動家や白人至上主義者のアカウントを禁止した。 こうした中、フェイスブックは6月末に過激派の反政府運動ブーガルーに関連した200アカウントを禁止したものの、ほかのSNSの動きの前ではトランプに対する腰折れた姿がなお一層際立つのだ。 さて、広告ボイコットを受けて、ザッカーバーグCEOは6月26日に社員とのミーティングでいくつかの方針を示したのだが、それもまた不信を増すものになっている。 内容は、ヘイト的な発言や表現が使われた広告は禁止すること、11月の大統領選挙に向け投票に関する投稿や投票を妨害するような内容にはラベルをつけることなどだが、加えてフェイスブックのルールに違反する内容でも重要な政治的人物による投稿は、「報道価値あり」とラベルをつけてサイトに残す、というのだ。ヘイトへの対処が限られている上、ヘイト的行動を刺激するようなトランプの投稿はそのままにされるということである』、「ヘイト的行動を刺激するようなトランプの投稿」は「「報道価値あり」とラベルをつけてサイトに残す」、とは「ザッカーバーグ」らしい対応だ。
・『広告主は800万社もある  NAACPはこれに対して声明を発表。「ヘイトへの無策に対する抗議にフェイスブックは音痴な返答しか返さず、NAACPは憂慮している。フェイスブックは言論の自由を支持すると言うが、これはヘイト・スピーチがはびこるのを許しているに過ぎない」とし、ヘイトに対する方針が単に広告に適用されるだけで、多数のユーザーグループや投稿に言及していないと批判した。 フェイスブックの担当者が大手広告主との折衝にギリギリまで臨んだり、ザッカーバーグCEOが近く広告主との話し合いに応じるとしており、ここ数日は広告主からのプレッシャーを意識した動きは見られる。だが、今後本当の意味でフェイスブックが断固とした姿勢を表明するかどうかは、まったく不明だ。 しかも、いくら大手広告主がボイコットしても、広告収入には大きく響かないという見方もある。フェイスブックの広告主総数は、何と800万社以上に上る。それと比べると、ボイコットに参加した430社は取るに足らない数だ。しかも、広告トラッキングを手がけるパスマティックスによると、トップ広告主100社の出稿による収入は全広告収入の6%にとどまり、70%以上の広告収入は小規模なビジネスによるものという。イメージとしてはダメージがあっても、フェイスブックの懐は痛まない、というのが現実のところなのだ。 広告主の中には、ボイコットを1カ月と定めず、フェイスブックの対応次第で再開するというところもあれば、11月の大統領選挙後まで出稿を停止すると発表したところもある。コロナ禍、フロイド事件、大統領選挙と、アメリカは今社会的に非常に不安定な環境にある。だからこそ、確固とした対処を望みたいところだが、空振りに終わるのかもしれない』、「フェイスブックの広告主総数は、何と800万社以上に上る。それと比べると、ボイコットに参加した430社は取るに足らない数だ。しかも、広告トラッキングを手がけるパスマティックスによると、トップ広告主100社の出稿による収入は全広告収入の6%にとどまり、70%以上の広告収入は小規模なビジネスによるもの」、これでは「ボイコットに参加した430社」の影響は、残念ながら取るに足りないようだ。「ザッカーバーグ」の生意気な顔はどうやら変わりそうもないようだ。
タグ:東洋経済オンライン 読売新聞 ソーシャルメディア 文春オンライン (その7)(テラスハウス 木村花さん ネット炎上を「使える」と利用したフジテレビ、「制作側の強要なし」 フジテレビが検証報告…「テラハ」問題、SNSの「中傷被害撲滅」が一筋縄でいかない理由 ツイッタージャパンの笹本社長に聞いた、スタバも!広告主「フェイスブック離れ」の原因 少なくとも430社が1カ月間広告出稿を停止) 「テラスハウス 木村花さん ネット炎上を「使える」と利用したフジテレビ」 「テラスハウス」は、“台本のない恋愛リアリティショー”として2012年から放映。だが、「週刊文春」は14年に「ヤラセ」や「セクハラ」が横行していた内情を報じている コスチューム事件「怒りすぎてしまって……」 この“反響”を受けた制作陣は二の矢、三の矢と“燃料”を投下する 自殺が後を絶たないリアリティ番組 「テラハ」では山里亮太らMC陣が、出演者について「怖いね〜あの子は」「クソみたいな奴らがいなくなってよかった」などと発言し、視聴者を煽ることもあった 「「制作側の強要なし」、フジテレビが検証報告…「テラハ」問題」 放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に人権侵害を申し立てている 「SNSの「中傷被害撲滅」が一筋縄でいかない理由 ツイッタージャパンの笹本社長に聞いた」 恣意的な運用は行っていない 24時間365日の監視体制を敷いている。人力に加え、AI(人工知能)を用いた検知も強化中だ 発言者と受け手の関係性や前後の文脈で、誹謗中傷に当たるのか判断が分かれるケースも多い 日本でも「警告機能」を早く導入したい アメリカ国内では5月から試験的に、利用者が投稿ボタンを押す前に“警告”を出す機能を導入 言論統制のような事態は望ましくない 瀧口 範子 「スタバも!広告主「フェイスブック離れ」の原因 少なくとも430社が1カ月間広告出稿を停止」 430社がフェイスブックへの広告出稿を停止 ヘイト的書き込み放置に反感 (NAACP)など数組織が、フェイスブック上でヘイト的な書き込みが放置されていることを批判し、広告主にフェイスブックと傘下のインスタグラムへの出稿をボイコットする「Stop Hate for Profit」を呼びかけた フェイスブックは、利益優先のためにヘイト、偏見、人種差別、反ユダヤ主義、暴力に関わる投稿を削除せず、直近では白人警官に首を押さえつけられて死亡したジョージ・フロイド氏事件を発端として始まったプロテスターを暴力者とする内容の投稿がそのままになっている ニュージランド・クライストチャーチでモスクを襲った犯人が、その襲撃をフェイスブックでライブストリームしたのがしばらく放置 マーク・ザッカーバーグCEOや同社幹部から出てくるのは、「情報の正誤を判断する立場にはない」とか「言論の自由を守る」と言った発言 第3者組織の中に極右組織が加わっていたり フェイスブック社内でも不満 ヘイト的行動を刺激するようなトランプの投稿」は「「報道価値あり」とラベルをつけてサイトに残す フェイスブックの広告主総数は、何と800万社以上に上る。それと比べると、ボイコットに参加した430社は取るに足らない数だ。しかも、広告トラッキングを手がけるパスマティックスによると、トップ広告主100社の出稿による収入は全広告収入の6%にとどまり、70%以上の広告収入は小規模なビジネスによるもの
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アベノミクス(その35)(コロナ禍のドサクサで進む「成長戦略実行計画」は 日本を破滅させる、検証アベノミクス:海外の回復期に重なった幸運=木内元日銀審議委員、新聞テレビは言わない…日本は「デフレではない」と言える これだけの理由 政府にダマされてはいけない) [国内政治]

安倍首相の辞意表明を受けて。今日は、アベノミクス(その35)(コロナ禍のドサクサで進む「成長戦略実行計画」は 日本を破滅させる、検証アベノミクス:海外の回復期に重なった幸運=木内元日銀審議委員、新聞テレビは言わない…日本は「デフレではない」と言える これだけの理由 政府にダマされてはいけない)を取上げよう。前回は5月30日に取上げた。

先ずは、7月31日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した室伏政策研究室代表・政策コンサルタントの室伏謙一氏による「コロナ禍のドサクサで進む「成長戦略実行計画」は、日本を破滅させる」を紹介しよう。
・『7月17日に閣議決定された「成長戦略実行計画」。この内容を詳細に見れば、コロナ禍に乗じたショックドクトリン(惨事便乗型資本主義)に過ぎず、「この際に日本を都合よく変えてしまおう」と言わんばかりの計画が盛りだくさんの状態である。ただの「日本経済社会の破壊計画」ともいえるもので、決して日本国や国民のためになるものではない。その理由を解説する』、「コロナ禍に乗じたショックドクトリン」、とは言い得て妙だ。
・『「新しい働き方」の狙いは人件費削減 「労働環境の悪化」の粉飾  新型コロナウイルスの感染者がどこで何人増えたというニュースが、毎日速報で流され、それに人々が翻弄される、そんな状況がもう何カ月も続いている。地方に行けば、東京から来たというだけで店から追い出されるという話も聞く。家族から1人でも感染者が出ればその地域には住めないとおびえ、警戒する人も少なくない。 そうした状況を奇貨として「この際に日本を都合よく変えてしまおう」と言わんばかりの計画が決定され、実行に移されてようとしている。 それは、いうまでもない。7月17日に閣議決定された「成長戦略実行計画」である。本稿ではその中身について、主なものを取り上げつつ、何が問題なのかについて解説したい。 まず、最初に出てくるのが「新しい働き方」の名目での、副業・兼業、そしてフリーランスの推進。一応「環境整備」とは書いてあるが、推進のための「環境整備」であるので、推進と変わらない。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、メディアを通じてテレワークの推進が叫ばれている。 実態はさておき、さもそれが「当たり前」であるかのように言われるようになり、それにつれて「成果報酬」や「ジョブ型雇用」の導入が盛んに提言されるようになっている。成果を出せば報酬が上がる、時間や場所に縛られない働き方ができると、積極的評価がメディアやネットを賑わせているが、その目指すところは、ずばり、人件費削減だ。 要は経常利益を上げ、株価を吊り上げ、株主配当を増やすためのコスト削減の一環ということだが、それを確固たるものとするため、本業では賃金は減るかもしれないが、その分を副業で補えるようにしてやる、という名目で「副業」という名の低賃金労働を創出しようというのが真の狙いだろう。 フリーランスは言うに及ばずで、賃金面のみならず、社会保障コストも企業側が負担しなくて済むのでこれも広い意味での人件費削減の一環だ。 これをして「新しい働き方」とは、ただの「労働環境の悪化」の粉飾である。 当然のことながらこれは「株価の上昇」という意味での成長には寄与するかもしれないが、国全体としての成長には寄与するどころかデフレに貧困化、地域の衰退を進めるだけで、全く寄与しないと言っていいだろう』、「副業」や「フリーランス」などの「「新しい働き方」とは、ただの「労働環境の悪化」の粉飾である」、同感だ。
・『プラットフォーマーがもうけるための環境整備にすぎない  次に出てくるのが、決済インフラとキャッシュレス関係だ。銀行以外の送金を可能に、銀行・証券・保険商品を一度の登録により、ECサイトで取り扱うことができるように(先の通常国会で成立した「金融サービスの提供に関する法律」で可能に)、キャッスレス決済プラットフォーマーが利用事業者に入金する際の振込手数料の引き下げ、ノンバンクの全銀システムへの参加の許容などが列挙されている。 これは端的に言って、決済インフラという名のキャッスレス決済プラットフォーマーや関連するプラットフォーマーがもうけるための環境整備であろう。 一方で、キャッスレス決済インフラを利用する加盟店の利用手数料については、政府がガイドラインを作成してその引き下げを促すのみ。 要はやっているフリ、中立的立場に見せるためのアリバイ作りということであり、こうしたことからも「フラットフォーマー寄り」であることは明らかである。 さらに、自治体公共料金のキャッシュレス化までも踏み込んでいる。公共料金も金融機関中心の徴収に割り込んで、おこぼれを頂戴しようということであろう。これでは成長戦略というよりも、むしろ「特定の企業にとっての新市場の創出」である。 つまるところ、成長するのは関連する「特定の企業」だけであって、この国の成長にはつながらない、かえって地方公共団体などの負担が増えるだけである。それを成長戦略に入れるなど、どこまでこの国の政府は狂っているのか、それを了承する与党はどこまで狂っているのか、と思わざるをえない。 その次に出てくるのは、最近お決まりの「デジタル」関係だ。「デジタル技術の社会実装を踏まえた規制の精緻化」では、自動車の完成検査のAI化などに関し、「従来の完成検査員による完成検査と比較して、AIなどを活用した検査のレベルが同等以上であることを確認できれば、完成検査員を前提とした規制を見直す」としているが、安全性を軽視した単なるコスト削減策、つまり人件費削減策に過ぎないことは明らかである』、「決済インフラとキャッシュレス関係」では、「決済インフラという名のキャッスレス決済プラットフォーマーや関連するプラットフォーマーがもうけるための環境整備であろう」、「デジタル」関係でも、「安全性を軽視した単なるコスト削減策、つまり人件費削減策に過ぎないことは明らか」、このような乱暴な政策が「成長戦略」とは、笑わせる。
・『一部の「プロ」投資家にしかメリットがない  「フィンテック/金融分野」では、「プロ投資家対応として、顧客の取引履歴データ等の分析を進め、投資家としての能力と関連性のある項目を特定できれば、プロ投資家規制について、当該項目を踏まえた規制へと見直す」とあるが、要は投資家規制の緩和である。 一部の「プロ」投資家にとってはメリットがあるのだろうが、さらに投機市場化させ、金融を不安定化させるのみならず、多くの個人資産が投機マネーに変身させられ、毀損させられるおそれさえあるのではないか。ここからは株主資本主義を飛び越えて、金融資本主義、R・ドーアの表現を借りれば「金融が乗っ取る」経済への道を更に突き進もうという意図しか見えない。 建築分野についても同様で、「建築基準法に基づく建築物の外壁の調査について、一級建築士等によるテストハンマーを使って打診する方法と比較して、赤外線装置を搭載したドローンを用いて、同等ないしそれ以上の精度で問題箇所を検出する性能を確認できれば、規制をドローン活用でも代替可能とするよう見直す」とこちらも安全性よりもドローンの活用を優先したいらしい。 この国はどこまで壊れていくのか。 そしてその次、「オープンイノベーションの推進」。毎度お馴染みのスタートアップ企業に対する投資促進税制に、「日本企業の企業文化を変革するきっかけとして、政府では、新興国企業との連携による新事業創出を『アジアDXプロジェクト』として推進」だそうだ。「企業文化を変革」というが、なぜその必要があるのか。またそれがこのアジアDXプロジェクトとどう関係があるのか?  そもそもスタートアップ企業に投資をすることとオープンイノベーションはどう関係があるのか?端的に言って、無関係である』、関係業界の要望を、実効性を問わずに、無理やり並べただけのようだ。
・『株主資本主義を進化させる「スピンオフを含む事業再編の促進」  「スピンオフを含む事業再編の促進」などは最悪である。 そこには、「既存企業がイノベーションを成功させるためには、(1)新規事業の実験と行動(知の探索)と、(2)既存事業の効率化と漸進型改善(知の深化)の両者を同時に行う「両利き経営」(オライリー&タッシュマン〈2016〉)が必要との指摘がある」とした上で、「大企業をはじめとする既存企業が「両利き経営」を行いやすくするため、(1)スタートアップ企業のM&Aなどによる連携促進や、(2)スピンオフを含む事業再編の環境整備を図る必要がある」とし、スタートアップ企業の買収を軸に事業再編、つまり経営を経常収支が増えるように効率化しろとしている。 要するに株主資本主義を進化させろということだ。 さらに、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、産業構造の大きな変化を伴うものと考えるべきであり、企業は、事業ポートフォリオの見直し、ノンコア事業の切り出し、両利き経営を一層進める必要がある。特に大企業については、企業価値向上のために、事業再編を積極的に行っていくことが重要である」としている。 なぜ新型コロナの感染拡大が産業構造の大きな変化を伴うのか、全く根拠は示されていない。ただのイメージ論であろうが、コロナ禍でぼんやりとした不安が蔓延しているところ、それを悪用してイメージ論でもさも事実であるかのように刷り込もうということであろう。 企業価値向上のための事業再編とは、とりもなおさず株主様のためのものであって、わが国の成長とは無関係。事業ポートフォリオの見直し然り、ノンコア事業の切り出し然りである。要は短期的に利益を生まないか、産んだとしても小さい事業は切り捨てろ、ということ。これではイノベーションもへったくれもないし、株主価値が成長するだけで、やはり我が国経済の成長には寄与しない。 そして、「このため、スピンオフを含む事業再編を促進するための実務指針を策定し、企業に対応を促すとともに、事業再編等の円滑化を図る立法措置を検討する。」と、なんと政策的に、新たな法制措置をもって株主資本主義の更なる推進を後押しするのだそうだ。こうした誤った考え方を改めさせなければ、我が国のイノベーション、技術開発のタネは完全に潰えてしまうだろう。そんなことも理解できない、こちらもR・ドーアの言う「洗脳世代」の官僚や国会議員は後を絶たないが』、知日派の英国人社会学者の「R・ドーア」は、「幻滅 〔外国人社会学者が見た戦後日本70年〕」で、「親日家」から「嫌日家」へ変わった理由として、、米国のビジネス・スクールや経済学大学院で教育された日本の「洗脳世代」が、官庁や企業や政党で少しずつ昇級して、影響を増して、新自由主義的アメリカのモデルに沿うべく、「構造改革」というインチキなスローガンの下で、日本を作りかえようとしてきたことが大きな原因、としている
https://www.amazon.co.jp/%E5%B9%BB%E6%BB%85-%E3%80%94%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%AD%A6%E8%80%85%E3%81%8C%E8%A6%8B%E3%81%9F%E6%88%A6%E5%BE%8C%E6%97%A5%E6%9C%AC70%E5%B9%B4%E3%80%95-%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%83%AB%E3%83%89%E3%83%BB%E3%83%89%E3%83%BC%E3%82%A2/dp/4865780009
・『白タク合法化とその拡大に向けた「蟻の一穴」  その次のモビリティ(「交通や人の移動」と書けばいいのに)のところでは、こんな内容まで含まれている。 「一般旅客自動車運送事業者が協力する自家用有償旅客運送制度の創設」として、「一般旅客自動車運送事業者が委託を受ける等により実施主体に参画し、運行管理を含む運行業務を担う事業者協力型自家用有償旅客運送制度を創設する地域公共交通活性化再生法の改正法が成立したところであり、本年中に運用を開始する」と記載されているが、要は地方の交通空白地帯への柔軟な交通サービスの提供に名を借りた、実質的な「白タクの合法化」である。 別の言い方をすれば、白タク合法化とその拡大に向けた「蟻の一穴」である。 この関連の国交省の説明資料を読めば、交通弱者だけではなく、訪日観光客まで対象に入れられている。そんなにこの国の安心安全を滅却させ、地域を衰退させたいのか。 さらに、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を踏まえた対応」では、補正予算の内容を一部踏襲しつつ、「ライフスタイルの急激な変化」や「テレワークや宅配サービス等は使い続け、元には戻らない」といった、根拠が薄弱なことをまことしやかに述べた上で、「ポスト・コロナの社会にマッチした業態変換を後押しする施策、規制改革」の検討などを進めるとしている。 「業態変換」や「規制改革」という結論ありきで新型コロナウイルスの感染拡大を利用しているとしか考えられない。ここまで来ると、もうただの「日本経済社会の破壊計画」である。 しかし、これだけ盛りだくさんであり、まとめて報道されることはほとんどない。せいぜい個別の事項について「針小棒大」に特集が組まれる程度であろう。 それでありえもしない虚構の未来を妄想し、こうした計画にもろ手を挙げて賛成していては自分たちの首を締めるだけだ。読者諸氏にはこれを機に問題意識を持ち、反対や疑念の声を挙げていただきたいところである。 本来であれば、まずは国会議員がそれをやらなければいけないはずなのだが……』、こんな荒っぽい「成長戦略」は、新首相の手でよりましなものになることを祈るばかりである

次に、8月26日付けロイター「検証アベノミクス:海外の回復期に重なった幸運=木内元日銀審議委員」を紹介しよう。
https://jp.reuters.com/article/abenomics-kiuchi-idJPKBN25M09F
・『元日銀審議委員の木内登英氏は、ロイターのインタビューで、歴代最長政権となった安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」について、海外経済の回復基調とタイミングが重なる幸運に支えられたものだったと総括した。 木内氏は、安倍政権が定義のはっきりしない「デフレ」からの脱却を最優先課題に掲げたことを問題として指摘。相対的に経済が安定している時期に、財政健全化や金融緩和の正常化に動かなかったことで、足元のコロナ禍で政策の選択肢を狭めてしまったと語った。 木内氏は2012年から17年まで日銀審議委員。現在は野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストを務める。審議委員時代は、16年1月のマイナス金利の導入に反対するなど黒田東彦総裁による金融政策運営をけん制する役割を果たした』、「木内氏」は「黒田東彦総裁による金融政策運営をけん制する役割を果たした」のは、確かだ。
・『<海外発の「ラッキー」が支えたアベノミクス> 木内氏はアベノミクスについて、「政策効果ではなく、海外から来たラッキーがあった」と指摘。「アベノミクスの成果であると考えられていたもののかなりの部分は、世界経済の回復の追い風によるものだ」と話した。安倍政権下で株高・円安が急ピッチで進んだが、「世界経済の順風がなければ短期間でしぼんでいた」と述べた。 2012年12月に発足した第2次安倍政権では、麻生太郎副総理・財務相がデフレ脱却担当を兼務。大胆な金融緩和、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」でデフレからの脱却を目指した。木内氏は、デフレには正確な定義がなく「政治的な要素が強い目標だ」とした上で、それを目標の「中心に据えたことが問題だった」と述べた。 木内氏は、1930年代の世界恐慌後に押し寄せた激しい価格下落と経済活動の縮小が継続する「真正デフレ」(木内氏)と比較。安倍政権下では実質GDP(国内総生産)の成長が続き、コアCPI(消費者物価指数)もプラス圏で推移するなど経済・物価情勢の深刻度は浅いにもかかわらず、「デフレリスクを過大に喧伝(けんでん)した」と語った。 経済が相対的に安定する中でも財政健全化に着手せず、金融政策の正常化を進めなかったことで、新型コロナウイルス禍で大規模な対策が必要な今になってしわ寄せが来たと指摘。「国難に際して、金融・財政面からの対応ののりしろが小さくなってしまった」と述べた。 また、働き方改革、教育改革、地方創生など、安倍政権は多くの政策課題を打ち出したが、木内氏は「毎年テーマが変わっていったことが問題だ」とし、「効果が出ないうちに次のテーマに行ってしまうと、『やっている感』は出るが経済的な効果は出にくい」と述べた』、「「デフレリスクを過大に喧伝・・・経済が相対的に安定する中でも財政健全化に着手せず、金融政策の正常化を進めなかったことで、新型コロナウイルス禍で大規模な対策が必要な今になってしわ寄せが来たと指摘。「国難に際して、金融・財政面からの対応ののりしろが小さくなってしまった」、「安倍政権は多くの政策課題を打ち出したが・・・「効果が出ないうちに次のテーマに行ってしまうと、『やっている感』は出るが経済的な効果は出にくい」」、手厳しい批判で、同感である。さらに言えば、異次元緩和で金融・財政政策に対する信認が失われ、長期管理急騰、財政破綻のリスクも抱え込んでいる。
・『<給付金で産業構造の転換を>  木内氏は「第3の矢(成長戦略)を通じた経済の効率化という政策が圧倒的に不足していた」と指摘。新型コロナの感染拡大を機に、デフレ脱却のための需要創出から経済効率を高める政策への転換が必要だと強調した。デジタルガバメント構想とキャッシュレス化の推進、東京一極集中の是正、サービス業の生産性向上の3つを具体的な政策課題に挙げた。 新型コロナで飲食・宿泊業は特に大きな打撃を受けた。木内氏は「競争力を失ってしまう中小零細企業も出てくるので、他の業種に転換させる手伝いをする政策が必要だ」とし、給付金により産業構造の転換を促すことが必要だと述べた。「生産性の向上がうまくいけば、実質賃金の上昇率が上がる」と話した。 *インタビューは25日に行いました』、「給付金で産業構造の転換を」、真剣に検討すべきだろう。

第三に、8月26日付け現代ビジネスが掲載した経済評論家の加谷 珪一氏による「新聞テレビは言わない…日本は「デフレではない」と言える、これだけの理由 政府にダマされてはいけない」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75125?imp=0
・『新型コロナウイルスの影響で景気が大きく落ち込んでいるにもかかわらず、ガソリン価格が急騰している。同じく壊滅的な打撃が予想されていた不動産業界でも、マンション価格が高騰するなど予想とは逆の動きが目立つ。 日本ではデフレが続いていると喧伝されているが、アベノミクスが始まって以降、基本的に物価は上がる一方であり、下落したことはほとんどない。 政府がいくら「デフレ」「デフレ」と叫んだところで、モノやサービスの価格が上がっており、生活が苦しくなっていることは、日々の買い物を通じて理解できたはずだ。価格というのは経済のバロメーターであり、文明社会に生きる人間にとっては生存本能に直結した概念といってよい。私たちはもっと価格に敏感になるべきだ』、「デフレ」については、第二の木内氏も似通った見方だ。
・『ガソリン、絶賛値上がり中  資源エネルギー庁の石油製品価格調査結果によると、2020年8月17日時点のレギュラーガソリンの平均価格は1リットルあたり135.6円だった。7月27日時点では132.3円だったので、1カ月で3.3円も上昇した計算になる。実はガソリン価格はこのところ上昇が続いており、12週連続で値上がりという状況だった。 ガソリン価格は基本的に原油価格に連動するといわれているが、原油価格と完全に同じ動きをするわけではない。たいていの場合、原油価格が下がったほどにガソリン価格は下がらない。実際、今回のコロナ危機でも1月から5月にかけて原油価格は約32%下がったが、ガソリン価格は17%しか下がらなかった。原油価格が上がる時にはガソリン価格も同じように上がってしまうので、消費者は損をした感覚になるだろう。 ガソリン価格がそれほど下がらないのは、国内石油事業者の利益確保という事情が存在するからである。ガソリンの消費が一定と仮定すると、原油価格が下がった分だけ小売価格も下げてしまうと、事業者の利益が減ってしまう。このため、価格が下がっても小売価格は同率では下がらないことが多い。 経済が拡大を続けている状況であれば、競争が激しくなるので原油価格との連動性はより高まるが、国内市場は縮小が続いており、各社が健全に競争できる環境にはない。事業者は利益を上げる必要があり、むやみに価格を下げるわけにはいかないのが実状だ。 不景気であるにもかかわらず、価格が下がらないどころが、激しく上昇する製品すらある。代表的なのはマンションと自動車だろう』、「ガソリン」の値上がりはやや特殊要因で、一般化してみることは出来ない。 
・『マンションと自動車の価格は上がりっぱなし  不動産経済研究所によると2020年7月における首都圏マンションの平均販売価格は6124万円と前年同月比で7.9%も上昇した。実はマンション価格というのは、近年、ほとんど下がったことはなく基本的に価格の上昇が続いている。今から約20年前の2000年時点における平均販売価格は4034万円となっており、リーマンショックのごくわずかな時期を除いて毎年のように価格が上がり、今では1.5倍になった。 自動車の販売価格も同じである。トヨタ自動車の1台あたりの平均販売価格は334万円だが、2000年当時は248万円だった。約20年で自動車価格は1.35倍に上昇したことが分かる。 日本はこの間、不景気でデフレが続いていると説明されており、実際、日本人の平均年収は下がる一方だった。国税庁の調査によると、全給与所得者を対象とした平均年収は2000年時点では400万円だったが、2018年は372万円まで下落している。1年以上勤務した給与所得者についても461万円から441万円と大幅ダウンだ。 確かに私たちの給料についてはデフレだったが、その間、マンション価格や自動車価格はうなぎ登りに上昇している。このような乖離が生じている原因は日本と諸外国の経済成長の違いである。 日本では経済成長が止まっているが、それは国内だけの話であり、過去20年で諸外国は経済規模を1.5倍から2倍に拡大させており、それに伴って物価も上昇している。自動車は典型的なグローバル商品であり、各国市場で価格差はほとんどない。いくら日本人の賃金が下がっているからといって日本だけクルマを安く販売することは不可能だ。 マンションは不動産なので国内でしか売られない商品だが、それでも価格が上がってしまうのは資材価格の影響である。世界経済が拡大すれば、建設資材の争奪戦となるので資材価格は高騰する。資材価格が上がった分だけ、デベロッパーは販売価格を上げざるを得ないので、日本人の所得とは無関係にマンションの価格は上がっていく。日本がいくらゼロ成長だとしても、海外が成長する限り、輸入品の価格は上昇する』、「日本」は「ゼロ成長」だけでなく、異次元緩和に伴う円安により他国に比べ貧しくなったことも留意する必要がある。
・『日本は決してデフレなどではない  物価全体で見ても、2000年との比較で食品は13.0%、外食は13.6%、電気代は18.3%、ガス代は24%、上下水道は14.7%、履物類は7.9%、交通費は9.1%と軒並み値上げになっている。大幅にマイナスになっているのは飲料や娯楽など一部の分野でしかない。ちなみに物価全体の動向を示す消費者物価指数(総合)については2000年との比較で2.7%上がっており、決してマイナスではない。 大半の商品やサービスの価格が上がっていることは、日々の生活の中で価格についてしっかりとした感覚を持っていれば認識できたはずだ。デフレが続いているという政府の説明が実態と違っていることも容易に理解できたはずである。 政権は基本的に現在の景気低迷を自らの責任にしたなくないので、不景気について不可抗力のように説明する傾向がある(これはある程度は仕方ないことだが)。デフレというのは、本来、不景気の結果として観察される現象であるにもかかわらず、デフレなのだから不景気であるといった本末転倒な説明を行い、一部の国民はそれを真に受けていた。 こうした刷り込みの影響は凄まじく、筆者は以前から物価は下がっていないという記事をしばしば書いているが、こうした記事に対しては「コイツは頭がおかしいのか」といった罵詈雑言が飛んでくるのが現実であった。おそらくこうした罵声を浴びせている人は、本当にそう信じ込んでいるのだろう(日々買い物はしないのだろうかという疑問は残るが)。 このような、現実とは正反対の、ある種の妄想に基づいて世論が形成されているのだとすると、これほど恐ろしいことはない。では、こうした状況を打開するためにはどうすればよいだろうか。少々、精神論的な話になってしまうが、私たちは人間としての本能を取り戻す努力が必要であると考えている』、「デフレなのだから不景気であるといった本末転倒な説明」は、異次元緩和政策にもつながり、日銀は中央銀行としても節度を完全に放棄した。
・『日本人は人間としての本能を失っていないか?  現代社会に生きる人間にとって市場経済はすべての土台となる存在である。私たちにとって市場というのは、野生動物たちにとってのセレンゲティ(タンザニアに広がる大平原)のようなものであり、市場動向に敏感であることは、ある種の生存本能といってよい。自分がいくらの金額を稼ぎ、モノの値段がいくらなのかを知ることは、生きるために必須の知恵といってよい。 ところが、小難しい知識ばかりが先行し、「デフレ・マインド」「GDPギャップ」などという政府や識者の言葉を聞いて分かった気になってしまい、自分の目で確かめることもせず、思考停止に陥ってしまう。あえてマクロ経済の用語を使って現状を説明するならば、不景気によってGDPは成長せず、賃金も上がっていないものの、海外経済の影響で物価は上昇しているので、デフレではなく不景気下のインフレ、つまり一種の「スタグフレーション」に近い状態ということになる。 しかしながら、そのような教科書的な知識など持ち合わせていなくても、街に出て五感をフル活用すれば、物価が上がって生活が苦しくなっていることなど、たちどころに理解できたはずである。 生活実感と経済指標が乖離しているという主張も同じ文脈で解釈できる。 近年、経済指標は悪くないが、これが生活実感に結びついていないという主張をよく耳にするようになったが、これも原則としてはあり得ないことである。タイムラグこそあれ、経済指標と生活実感は必ず連動するものであり、生活が苦しければ、それは必ず指標に反映される。事実、物価や賃金の動向は私たちの生活が苦しいことを如実に物語っている。 私たち日本人は、あまりにも従順に飼い慣らされ、人間としての本能を失いかけてはいないだろうか。経済を動かすのは政府でも経済学でもなく消費者の行動である。人間としての生存本能にもっと敏感になるべきだし、そうでなければ本当の意味で経済を復活させることなどは到底、不可能である』、「一種の「スタグフレーション」に近い状態」、その通りなのかお知れない。「人間としての生存本能にもっと敏感になるべき」、とはいうのはキレイ事にすぎず、雇用や所得環境の悪化に苦しむ個人には夢のような話なのではなかろうか。
タグ:ロイター ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス アベノミクス 加谷 珪一 室伏謙一 (その35)(コロナ禍のドサクサで進む「成長戦略実行計画」は 日本を破滅させる、検証アベノミクス:海外の回復期に重なった幸運=木内元日銀審議委員、新聞テレビは言わない…日本は「デフレではない」と言える これだけの理由 政府にダマされてはいけない) 「コロナ禍のドサクサで進む「成長戦略実行計画」は、日本を破滅させる」 成長戦略実行計画 コロナ禍に乗じたショックドクトリン(惨事便乗型資本主義)に過ぎず 「新しい働き方」の狙いは人件費削減 「労働環境の悪化」の粉飾 「副業」や「フリーランス」などの「「新しい働き方」とは、ただの「労働環境の悪化」の粉飾である」 プラットフォーマーがもうけるための環境整備にすぎない 成長戦略というよりも、むしろ「特定の企業にとっての新市場の創出」 決済インフラという名のキャッスレス決済プラットフォーマーや関連するプラットフォーマーがもうけるための環境整備 安全性を軽視した単なるコスト削減策、つまり人件費削減策に過ぎないことは明らか 一部の「プロ」投資家にしかメリットがない 株主資本主義を進化させる「スピンオフを含む事業再編の促進」 R・ドーア 「幻滅 〔外国人社会学者が見た戦後日本70年〕」 米国のビジネス・スクールや経済学大学院で教育された日本の「洗脳世代」が、官庁や企業や政党で少しずつ昇級して、影響を増して、新自由主義的アメリカのモデルに沿うべく、「構造改革」というインチキなスローガンの下で、日本を作りかえようとしてきた 白タク合法化とその拡大に向けた「蟻の一穴」 「検証アベノミクス:海外の回復期に重なった幸運=木内元日銀審議委員」 海外発の「ラッキー」が支えたアベノミクス デフレには正確な定義がなく「政治的な要素が強い目標だ」とした上で、それを目標の「中心に据えたことが問題だった デフレリスクを過大に喧伝(けんでん)した」と語った。 経済が相対的に安定する中でも財政健全化に着手せず、金融政策の正常化を進めなかったことで、新型コロナウイルス禍で大規模な対策が必要な今になってしわ寄せが来た 安倍政権は多くの政策課題を打ち出したが、木内氏は「毎年テーマが変わっていったことが問題だ」とし、「効果が出ないうちに次のテーマに行ってしまうと、『やっている感』は出るが経済的な効果は出にくい」と述べた 給付金で産業構造の転換を 「新聞テレビは言わない…日本は「デフレではない」と言える、これだけの理由 政府にダマされてはいけない」 ガソリン、絶賛値上がり中 マンションと自動車の価格は上がりっぱなし 「日本」は「ゼロ成長」だけでなく、異次元緩和に伴う円安により他国に比べ貧しくなったことも留意する必要がある 日本は決してデフレなどではない 日本人は人間としての本能を失っていないか? 「人間としての生存本能にもっと敏感になるべき」、とはいうのはキレイ事にすぎず、雇用や所得環境の悪化に苦しむ個人には夢のような話なのではなかろうか
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安倍外交(その7)(ボルトンが回顧録で暴露 トランプと“外交のアベ”の嘘八百、日本がインドネシアに500億円の支援を決定 高速鉄道とコロナの裏切りで募る不信感、日本に外交戦略見直しを迫る 香港の中国化・韓国の朝鮮化・ロシアのロシア化) [外交]

安倍外交については、昨年9月17日に取上げた。久しぶりの今日は、(その7)(ボルトンが回顧録で暴露 トランプと“外交のアベ”の嘘八百、日本がインドネシアに500億円の支援を決定 高速鉄道とコロナの裏切りで募る不信感、日本に外交戦略見直しを迫る 香港の中国化・韓国の朝鮮化・ロシアのロシア化)である。

先ずは、本年6月26日付け日刊ゲンダイ「ボルトンが回顧録で暴露 トランプと“外交のアベ”の嘘八百」を紹介しよう。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/275113
・『昨年9月にトランプ米大統領に解任されたボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録「それが起きた部屋」が、安倍政権を直撃している。“外交のアベ”のお粗末な実態を次々に暴露しているのだ。 ボルトンが「トランプと最も個人的な関係を築いている」と評する安倍首相は、本の中に100回以上も登場。米朝首脳会談を巡るやりとりにはア然だ。昨年2月のハノイ会談は物別れに終わり、「内閣の最重要課題」に掲げる拉致問題でトランプに支援を求める安倍首相にとっても、気が気でない状況だったはずだが、4月末に訪米した安倍首相はトランプをベタ褒めしていた。 安倍は文在寅とはほぼ正反対の見解をトランプに示した。トランプが「ハノイで席を蹴った評価は高いんだ」と言うと、安倍は「結果は前向きなもの。席を蹴ることができるのはアナタだけ」と同意。「制裁を維持し、安易に譲歩しないことが大切です」と繰り返し強調した。安倍が「時間はわれわれの味方」と言うと、トランプも「その通り」と応じた> 直後の会見で安倍首相は「次は私自身が、金正恩委員長と向き合い、解決する」とお決まりのセリフ。本当に2人は似た者同士。政権浮揚しか頭にないのがよく分かる』、拉致被害者横田めぐみさんの父親が、拉致解放を眼にすることなく亡くなったのは、「時間はわれわれの味方」との認識の誤りを示している。「次は私自身が、金正恩委員長と向き合い、解決する」はまたも空証文だったようだ。
・『1カ月後の5月、令和初の国賓として再来日したトランプは安倍首相に緊張が続くイランとの“橋渡し”を依頼。ボルトンは当時をこう振り返る。 <失敗に終わる可能性が高い役割を安倍に押し付けたのは明らかなように思えた。安倍は注目を高めるため、イラン訪問を大阪G20サミット前の6月中旬と考えていた。トランプ訪日前、一足先に日本で会った安倍は「トランプの頼みでイランに行く。役に立てる見込みがある」と強調した。私はこのアイデア自体がひどいと思っていたが、とても口にできなかった> G20の2週間前、安倍首相は勇んで「41年ぶりの首相訪問」に臨み、最高指導者のハメネイ師と会談したが、「トランプ氏は意見交換するにふさわしい相手ではない」と突っぱねられる大失敗だった』、「私はこのアイデア自体がひどいと思っていたが、とても口にできなかった」、との「ボルトン」発言は、当然としても、外務省は「安倍首相」の積極姿勢を忖度して、「“橋渡し”」成功の可能性について事前レクチャーしてなかったのだろうか。
・『「特攻隊の生き残り」が大好物  トランプは安倍首相の父親の安倍晋太郎元外相が「特攻隊の生き残り」というエピソードを好み、支持者向け集会でもなぜか話題にしている。 ボルトンは<日本人がいかにタフか、とりわけ安倍がタフかを説明するのに使っていた>とし、こう書いていた。 <トランプはある時、「安倍の父親は天皇のための任務を遂行できなくてガッカリしていたんだぞ」と言った。父親がカミカゼ特攻を成功させていたら、安倍がこの世に存在しないことに気が付いていないようだった> なんだか切ない……』、やはり「トランプ」はこの程度の人物のようだ。それに乗せられていた「安部」も同類だろう。

次に、8月25日付けデイリー新潮が掲載した産経新聞出身でマレーシア在住ジャーナリストの末永恵氏による「日本がインドネシアに500億円の支援を決定 高速鉄道とコロナの裏切りで募る不信感」を紹介しよう。
https://www.dailyshincho.jp/article/2020/08250558/?all=1&page=1
・『7月20日、日本政府はインドネシア政府の要請を受ける形で、20億円の無償資金協力と最大500億円の円借款を決定した。名目は新型コロナウイルスの感染症対策および医療体制支援で、円借款は金利0・01%で償還期間は15年だ。東南アジア情勢に詳しいジャーナリストの末永恵氏は、この“思いやりODA”に疑問を呈する。 8月23日現在、人口およそ2億7000万人のインドネシアのコロナ感染者数は15万1498人、死者数は6594人(新規感染者2037人)。発表値をそのまま信用できないとはいえ、5倍以上の人口を抱える中国の感染者数が8万9645人、死者数4711人であることを鑑みると、アジア地域で最悪レベルを更新中だといえよう。しかもインドネシアのこの公表値は少なく見積もられている指摘もあり、現地有力誌『テンポ』は「(実際の)死者数は約5倍」と報じている。 8月に入っても1500人から2000人を超える勢いで連日右肩上がりで増え続けるコロナの感染者と犠牲者数は、ジョコ・ウィドド大統領(以下、ジョコウィ大統領)政権の最大かつ最も困難な政治課題となっている。現地紙『コンパス』が先月発表した国民アンケートでも、約90%が「政府や閣僚のコロナ対策に不満を抱いている」と答えていた。だからコロナ支援を目的とした日本からの巨額ODAは、政府にとって願ったり叶ったりだろう。対東アジアや東南アジアなどへのODAを審査・担当する外務省国別開発協力第一課の渡邊滋課長は、インドネシアへの支援の意義を次のように筆者に語った。 「感染拡大防止への援助は、インドネシアの社会、経済回復を助けるとともに、日本への感染輸入予防や緩和においても重要だ。今回のコロナの緊急支援による同国への資金協力は、ODAの利率も最低レベルで、ほぼ無償と言っていい。2000社を超える日系企業が展開する同国の経済を下支えすることは、日本経済にとっても有益だ」 今回のODAに関しては、日本が最大出資国であるアジア開発銀行(ADB)との協調融資で、同銀行からもさらに15億ドルが拠出されることになっている。同銀はコロナ支援で、アジア10ケ国への融資を計画しており、インドネシアは正式決定した最初の国になる。 だが、日本とインドネシアの間にはこんな因縁もある』、「“思いやりODA”に疑問」、どういうことだろう。
・『コロナ、鉄道でのしっぺ返し  詳しくは3月30日配信の拙稿「新型コロナの感染源は日本人――インドネシア政府がついた姑息過ぎるウソの顛末」記事を参照いただきたいが、今年3月、ジョコウィ大統領は「国内初のコロナ感染者の感染源が日本人である」との発表を行った。後でまったくのデマであることが判明したわけだが、この政府の嘘により、子供を含めた在インドネシア邦人の多くが、現地でいわれのない差別やハラスメントを受ける被害にあったのだ。 この問題では、在インドネシア日本大使館の石井正文大使が声明を発表したほか、茂木敏充外相が「インドネシア政府に在留法人の安全確保と差別やハラスメントの再発防止を要請した」と衆院外務委員会で発言するなど、外交問題に発展してもいる(なお、インドネシア政府のウソを暴いた私の記事に対して、在日インドネシア大使館から記事の撤回を求める抗議をいただいた)。 因縁はコロナだけではない。日本と中国が受注合戦を繰り広げたジャワ島の高速鉄道建設計画では、「土壇場でちゃぶ台をひっくり返された」(現地の日系企業幹部)形で、2015年に中国案が採用された。しかも「日本がODAの公的資金を投じて行った地質などの調査結果を、インドネシア政府が中国政府に漏洩したという疑惑もある」(先の企業幹部)。 こうしたインドネシアの“親中反日”の動きについてくわしくは、拙稿「『コロナ第一号患者の感染源は日本人』 インドネシアが流したウソの裏に“反日・親中”」(3月31日配信)に譲るとして、高速鉄道計画は中国が受注するも、遅々として進んでいない。今年5月末には地元メディアが「(ジョコウィ大統領が)中国主導の高速鉄道計画に日本を参加させたい意向を表明」と報じている。あれから3か月、日本政府関係者に取材すると「現地の報道後、一度、打診のようなものはあったが、それ以来、要請も何も一切、来ていない」という。 実は“日本へのラブコール”が報じられたと同時に、中国と分担する工事費のインドネシア分の予算が超過されたことも取り沙汰された。日本への要請表明は、日中の二国を天秤にかけることで、中国からさらによい条件を引き出すための「漁夫の利」の画策などではないかと、私は見ている。 もし仮に中国主導の計画に日本が参画すれば、コスト負担だけでなく、日本の技術やテクノロジーが盗まれてしまう懸念もある。また、ジャワ島の高速鉄道は、中国から南シナ海を通り、マラッカ海峡を経てインド洋から欧州大陸へ抜ける一帯一路の「六廊六路多国多港」といわれる重要ルートの一つで、言い換えれば、「一帯一路」の生命線ともいえる重要なプロジェクトだ。中国から中央アジア、さらに欧州に至る陸路の「一帯」と、中国、東南アジア、スリランカ、中東、欧州、東アフリカに至る海路の「一路」からなる世界を中華圏が支配する――習近平主席が掲げるそんな政治的戦略構想に、結果的に日本が協力してしまう恐れもあるのだ。。 いずれにせよ、高速鉄道をめぐる一件は、日本人にインドネシアに対する“猜疑心”を植え付けさせた。“あれだけ巨額の支援をして裏切るのか”というものである。一帯一路の支持を早々に表明し、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)にも東南アジア諸国で先陣を切って参加を表明したインドネシアを「日中のライバル意識を利用し、最終的に自国に有利な展開にもっていく」(日本政府高官)と評する声もある』、「ジョコウィ大統領は「国内初のコロナ感染者の感染源が日本人である」との発表を行った。後でまったくのデマであることが判明したわけだが、この政府の嘘により、子供を含めた在インドネシア邦人の多くが、現地でいわれのない差別やハラスメントを受ける被害にあった」、酷い話だ。「ジャワ島の高速鉄道建設計画では、「土壇場でちゃぶ台をひっくり返された」・・・形で、2015年に中国案が採用された。しかも「日本がODAの公的資金を投じて行った地質などの調査結果を、インドネシア政府が中国政府に漏洩したという疑惑もある」、こんな中国寄りの「ジョコウィ大統領」に「「“思いやりODA”」を供与するとは、安部政権のお人好しぶりもここに極まれりだ。
・『日本からの資金がもたらした腐敗政治  外務省によると、日本が1958年から実施しているインドネシアへのODAは、累計5兆7134億円におよぶ(2018年度)。内訳は有償資金協力として累計5兆685億円、無償資金協力として2821億円、技術支援協力が3628億円だ。これは日本のODA供与先としては、第2位の巨額援助国となっている(2016年度まではインドネシアが最大援助国だった。現在の1位はインドで、累計6兆150億円)。 たとえ無償を謳う支援であっても、それに見合う見返りがなくては、税金を投じる意味がない。実際、日本のインドネシアに対するODAは、これまで開発援助に参画した日系企業に巨額の利益をもたらした。その一方で、日本からの資金が、1960年代から30年に亘り長期独裁政権を敷いていたスハルト政権の汚職と腐敗を巨大化させる要因の一つにもなった。 スハルト体制は俗に、インドネシア語から由来する「KKN体制(汚職:Korupsi、癒着:Kolusi、縁故主義: Nepotisme)」と呼ばれる。これは、国の富の半分を1%の超富裕層が牛耳る、腐敗政治の象徴的な呼称である。スハルト政権末期の97年時点で、日本のODA供与額は3兆3302億円で、中国の2兆383億円を抜いて、世界一だった(ODA白書)。 KKN体制を日本のODAがいかに支えたかは、たとえばスハルト大統領の長女で社会相を務めた実業家、シティ・ハルディヤンティ・ルクマナ(通称トゥトゥット)氏の生活に見て取れる。彼女は日本のODAで建設されたジャカルタ市内の有料高速道路を管理する民間企業の筆頭株主に就き、長年にわたり、巨額の蓄財を得たとされている。諸外国からの援助資金を独り占めして食い物にしたあげく、インドネシア経済を破綻に導いた「スハルト・チルドレン」の中心的人物の一人だ。 かつては中国も日本からの巨額ODAを受け、今日の世界第2位の経済大国の礎を築いた(日本国民の血税が中国に投じられたわけだが、中国はその資金を“中国からの”ODAとして、アフリカ諸国などに使っていたことは有名だ)。約40年間にわたる中国への供与は18年に終了したが、拠出額も累計で3兆6500億円ほどだったことを鑑みると、これまでいかに日本がインドネシアに手厚い支援を行ってきたか、わかるだろう。そしてそれだけの資金が、腐敗政治の一助となっただけではなく、高速鉄道やコロナの時のような“恩をあだで返す”仕打ちを、インドネシアは行ってきたといえる。インドネシアへこれ以上の支援が必要か、再考の余地は本当にないだろうか』、巨額の「資金が、腐敗政治の一助となっただけではなく、高速鉄道やコロナの時のような“恩をあだで返す”仕打ちを、インドネシアは行ってきた」、日本政府のODA政策は全くのザルだ。
・『既存の支援にも疑問符が  すでに計画が進行している日本の公的支援についても必要性を疑う声がある。 たとえば、西ジャワ州チレボン県で進められている石炭火力発電所拡張計画。過去に丸紅などの出資で建設された発電所の近くに、新たに出力100万キロワットの大型発電所を新規建設するという計画で、インドネシアや韓国の現代建設といった大手企業とともに、最大出資者として丸紅、さらには東京電力グループや中部電力らが参画している。こちらは国際協力銀行(JBIC、財務省が管轄)が資金援助を行っているが、昨年末、地元の知事や現代建設のゼネラル・マネージャーらが、4700万円の贈収賄容疑で逮捕された。ほかに約15億円の用途不明資金疑惑もあり、検察の捜査が進んでいる。 さらに、ODA事業で行われている同州インドラマユ県での石炭火力発電所拡張計画。こちらもやはり、中国資本で建設された既存施設の隣に新たな発電所を計画しているもので、現在、日本の国際協力機構(JICA)を通じ、すでにコンサルなど含む専門的基礎調査などにおよそ7億円(エンジニアリング・サービス借款)が貸与されている。これに加え、計画全体への円借款申請が待たれている状況だ。 オランダのアムステルダムにも拠点を構え、日本のODA開発事業に詳しい国際環境NGO「FoE Japan」の委託研究員・波多江秀枝氏は、こんな懸念を表明する。 「中国主導で進められたインドラマユ県の計画でも、地元の知事が汚職で逮捕されました。海外の援助を受けたプロジェクトがインドネシアで進められるとき、もたらされる資金が現地の汚職の源になりがちです」 スハルト時代の汚職の構造は今日でも健在――ということか。この点、先に登場いただいた外務省国別開発協力第一課の渡辺課長は、 「公的資金が汚職や腐敗に流用されないよう厳選な審査をする。審査次第では、ODA供与は見送る可能性がある」としている。もっとも波多江研究員は、「インドネシア国有電力会社(PLN)は、電力不足に陥ると主張していますが、現在すでに電力過剰の状態であり、また同社の資料を基に分析すると、逆に今後10年ほどは30%から45%の供給過剰になります」と、先の2つの拡張計画が、そもそも不要であるとも指摘。実際、世界的に「脱炭素化」が進む中、大量のC02を排出する火力発電所の建設支援を行うことで日本が世界から批判されており、支援には負の側面もある。またインドラマユ県では、発電所が出す粉塵によって周辺住民の健康被害への懸念が報告され、現地では裁判沙汰になっている。 こうしたODAに“上乗せ”する形で、今回、日本はインドネシアにコロナ支援を行うわけである。が、同時にインドネシアの国営製薬会社ビオ・ファルマは、中国のシノパック・バイオテック社とコロナワクチンの共同開発を進めてもいる。8月4日には、量産体制に入る準備を進めていると、インドネシアの国営企業相が発表した。ここでも日中を手玉にとろうという魂胆が透けて見えないだろうか。 日本がインドネシアにODAを始めて62年。今年7月には世界銀行がインドネシアを上位中所得国として認定した。日本がODA対象の基準にしている一人当たりの国民総所得(GNI)も大幅に上昇しており、そろそろ独り立ちできる頃ではないだろうか。それでも支援するのであれば、高速鉄道の同じ轍を踏まないよう、そしてわれわれの血税をドブに捨てないよう、さらには日中関係の“足元”を見透かされないよう、日本政府や関係各省には肝に銘じてほしい、と願うばかりだ』、同感である。

第三に、7月22日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元外交官で日本総合研究所国際戦略研究所理事長の田中 均氏による「日本に外交戦略見直しを迫る、香港の中国化・韓国の朝鮮化・ロシアのロシア化」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/243088
・『日本を取り巻く環境の激変 東アジアの安全保障を左右  昨今、日本を取り巻く環境が大きく変わったことに認識があるだろうか。 激変は新型コロナの感染問題はすでに起こりつつあった地殻変動を加速化し、東アジアの安全保障に大きな影響をもたらしている。 日本ではイージス・アショアの配備を断念したことに伴い日本への攻撃に対する「敵基地攻撃能力」の保有問題が議論されているが、あまりに唐突で矮小化された反応だ。 まず日本に必要なことは外交安保戦略の抜本的見直しであり、その前提としての日本を取り巻く安全保障環境が大きく変わり悪化していることを認識する必要がある。 具体的には「香港の中国化」と米中対立、韓国の「朝鮮化」、ロシアの「ロシア化」、「アメリカ・ファースト」への対応をどうするかだ』、「日本を取り巻く安全保障環境が大きく変わり悪化」、その通りだ。
・『香港「中国化」で米中対立決定的 国安法はゲームチェンジャー  中国による香港への国家安全維持法の直接導入は、ゲームチェンジャーだと思う。 今後、「一国二制度」の下、高度な自治と自由な資本主義を認められていた香港が急速に中国化していくことが懸念される。 中国政府は相当な覚悟を持ってこの行動に出たのだろう。 昨年、続いた香港民主化を求める大規模デモは強権の介入なく収まらず、また9月に予定される香港立法会の選挙を、民主派が圧勝した昨年の区議会選挙の二の舞とすることはできない、と考え、新型コロナ感染拡大でデモが規制されている今の状況に乗じて一気呵成に国安法導入を進めたと考えられる。 今後、もし国安法が中国国内と同じように運用されれば、国際的にも約束された「一国二制度」は崩壊するだけではなく、法の支配という民主主義の根幹を犯すことともなりかねない。 そして、自由な市場として外国の投資を集め国際金融センターである香港は徐々にその利点を失うことになる。 こうした懸念を持つのは、国安法がコモン・ローに基づく香港の法的枠組みを超え、法解釈の最終権限は中国全人代常務委員会にあることや、法の運用・実施に中国治安機関が関っているからだ。 香港が中国と同じような監視社会となり、法の厳密な手続きによらないで拘束・逮捕が行われるとすれば、自由な資本主義の基盤が損なわれることになる。 こうした香港の「中国化」に米国が強く反応するのは十分理解できる。 多くの人が、トランプ大統領の対中強硬策は自らの再選を助けることになるからではないかとみる。もちろんそういう面はあるが、それ以上に、米国が危機感を強めているのは、ここで民主主義諸国が明確で強力な対抗措置を取らないのであれば、中国の行動を認知してしまうばかりか、今後の中国のさらなる強硬な行動を許してしまうことになりかねないと認識しているからだ。 米国は、今後、どの程度強硬に中国に対峙していくつもりなのか。 7月14日に大統領の署名によって成立した香港自治法で、香港の自治の侵害に関わった中国、香港当局者を特定し、これらの人物と取引をする金融機関にも制裁を科することが可能となった。また大統領令により関税や査証などの面での香港への優遇措置も撤回された。 いずれにせよ今後の展開は、中国が国家安全維持法の運用をどのようにしていくかが鍵となる』、米国の「対中強硬策」は「トランプ大統領」だけでなく、米国議会も含めた全米規模のものなので、「大統領選挙」の結果如何を問わず、当面続くだろう。
・『米国は「中国排除」強める 日本の対中戦略は?  中国の現実の行動次第で米国の制裁の程度は変わってくるだろう。 米国の制裁も一定の準備期間を経て発動され、制裁の程度は香港の立法会の選挙に当局の強権的な介入がどう行われるかにもよるのだろう。 そして、米国の制裁措置に対して中国はさらなる対抗措置を取ろうとするのだろう。 この問題は台湾にも波及する。 台湾は香港への国家安全維持法の導入を「一国二制度」の終焉とみて、ますます独立傾向を強めていくのではないか。 台湾の香港人を受け入れようとする動きに対し、中国は戦闘機を台湾海峡に飛ばし牽制をしている。蔡英文総統は事あるたびに米国との連携の強化を図っていくだろう。 一方で中国は台湾に対しては軍事的な脅しを行うことを躊躇しないだろうし、中台問題は軍事的緊張の拡大に容易につながる。 香港問題や台湾問題は米中関係のホットスポットだが、それを離れても米中対立は今後、一層激化するだろう。 米国は中国の南シナ海での行動は「不法」であると断じ、米国艦隊の活動を強化している。ファーウェイをはじめとする中国ハイテク企業の米国政府調達からの排除に動いており、こうした中国企業と取引を持つ企業も調達から外す措置を取るという。 米国の「中国排除」の動きは中国の対抗措置を招くだろうし、米中間の経済相互依存関係は大きく崩れていく可能性がある。 安全保障を米国に依存し、一方で中国とは経済的な相互依存関係が大きい日本がどのような対中戦略を持つのか。それは日本の将来を左右する。習近平国家主席の国賓訪問を論じる前に考えなければいけない課題だ』、日本の産業界への影響も大きいだけに、難問だ。
・『韓国の「朝鮮化」「反日」噴出、強まる可能性  北朝鮮による開城の南北連絡事務所の爆破は、韓国に対する揺さぶりだったと考えられる。 昨年のハノイで行われた米朝首脳会談での非核化交渉の頓挫以降、制裁緩和などを期待する北朝鮮は米朝交渉の道筋に戻ることを望んだと思われるが、米国は当然のことながら非核化に向けた実務的な詰めなくして進展は図り得ないという従来の方針を変えず、事態は停滞した。 そして北朝鮮では今年初旬から新型コロナウイルスの感染が拡大したと考えられており、中朝国境が閉鎖され物資の流入が途絶えたことで北朝鮮への経済的ダメージは相当なものだったのだろう。 現状打開を目指して打った手が、南北交流の象徴である南北連絡事務所の爆破だった。 北朝鮮の「瀬戸際政策」の常だが、こうした行動に出れば韓国は焦り、米国をとりなす行動に出るとの思惑が北朝鮮にはあったのではないか。 韓国の文在寅政権にとって「南北共存」は一丁目一番地の基本政策だ。文政権の特色は、「86世代」と呼ばれる60年代に生まれ、80年代の民主化運動に関わった左派色の強い進歩派の人々が政権中枢を構成していることだ。 対外関係についても、朝鮮半島は常に大国により脅かされてきたとして「自立」を望む意識が強く、このため潜在的には「反米」「反日」であり、「親北」といえるだろう。 韓国はこれまで北朝鮮との関係が緊迫すると、安全保障を担保する必要性から日米との連携を重視し、米韓同盟を維持する必要性を認識する動きを見せたが、歴史問題を抱える日本に対しては、「反日」の意識が時に過剰に噴出する。 一方で中国については、歴史的にも圧倒的な存在だったことから反中とは言い切れない微妙な意識がある。また、韓国経済にとっての中国の圧倒的重要性からしても中国を阻害するわけにはいかないという意識も強い。 過去、廬武鉉政権が「米中をブリッジする」と提唱し、また文政権の一部高官が「米国か中国かを選ぶことができる」と発言したことからも分かるように、米国と自由民主主義という価値を共有する同盟国でありながら、この点を重視することなく、米国と中国を同列で論じることを躊躇しない。 このような韓国進歩派の考え方は保守派とは相いれず、韓国内の保革分断が、対北朝鮮政策も含めさまざま局面で対外政策の揺らぎをもたらしてきた。 だが総選挙では進歩派が圧勝したこともあって、文政権の対北融和政策は変わっていない。文政権の民族自立の意識は北朝鮮とも相通じるものがある。極論すれば韓国も「朝鮮化」しているということもできよう。 だが「朝鮮化」した韓国は日本にとって扱いにくい存在だ。 北朝鮮との間の拉致問題も日本と北朝鮮の関係をどうしていくのかという大きな絵柄の中で考え、機会をとらえていかないと解決が難しい。拉致問題の解決が最重要である位置付けは変わらないにしても、「重要だ」と叫んで一向に前に進んでいかないのはあまりに空しい』、「米国と自由民主主義という価値を共有する同盟国でありながら、この点を重視することなく、米国と中国を同列で論じることを躊躇しない。 このような韓国進歩派の考え方」、我々には理解し難い点だ。「「朝鮮化」した韓国は日本にとって扱いにくい存在」、困ったことだ。
・『ロシアの「ロシア化」 領土問題解決は遠のく  ロシアは7月初旬に憲法改正を行い、事実上、プーチン大統領が2036年まで大統領の座にとどまることを可能にした。 プーチン大統領は2000年から2期8年大統領職にあり、その後、首相に転じたが、2008年の憲法改正後、1期6年に延びた大統領に2012年に再登板し、2024年までが任期になっていた。 今回の憲法改正で大統領の任期がリセットされ、2024年から最大2期12年、大統領にとどまれることになった。 プーチン大統領にしてみれば首相だった時期に自らへの反対勢力が強くなったことが念頭にあり、そのため今度は“終身大統領”であることをあらかじめ明らかにした上で独裁色を強めるということだろう。 さらに憲法改正では、ロシア領の割譲を禁じることや同性婚を認めないなどの保守色が強い項目が盛り込まれた。ロシアの大国主義が色濃く反映された憲法改正だ。 日本政府はこの動きに対して単に関心の表明にとどめているが、果たしてロシア憲法にある「領土の割譲の禁止」と、日本が求める北方領土の返還が相いれるのかどうかは、はなはだ疑問だ。 ロシアはサイバーでの選挙介入などで欧米諸国との関係は極めて悪化しているし、逆に中国との関係の緊密化は着々と進んでいる。 日本は北方領土問題に何の成果もなく、むしろ交渉に対するロシアの立場が後退しているようにみえる状況でロシアとひたすらに首脳会談を積み重ねていくことがよいのか。 その前に対ロ戦略を見直すべきなのではないか』、同感である。
・『「アメリカ・ファースト」の行方 “トランプ後”に備える必要  こうして東アジアをめぐる状況が一段と変わり始めているなかで、トランプ大統領が掲げる「アメリカ・ファースト」は日本にとっても、東アジア地域にとっても問題が多い。 トランプ大統領にとって「アメリカ・ファースト」を具現するものは、中国との競争に勝利することに加え、輸出を伸ばして貿易拡大の利益を確保すること、また米国からの武器調達を含め防衛負担の増大を同盟国に求めることであり、これを実現していくために地域多国間の枠組みを離れて二国間の取引に持ち込むことだろう。 トランプ大統領は、これまで中国や日本、韓国との貿易合意、米軍駐留経費について韓国の負担の飛躍的拡大や日本からの巨額の武器調達に成功し、またTPPからの撤退にとどまらずAPEC、東アジアサミットなど地域協力を軽視してきた。 トランプ大統領が再選に成功した場合、このような政策がさらに深掘りされていくことになる。だが、現在の米国国内の状況を見る限り、トランプ再選の可能性は高くない。 日本は民主党のバイデン候補が勝利する場合に備えて対米戦略の練り直しを行うべきだろう。 その際にはこの地域の安全保障環境が大幅に変化している一方で、少子高齢化で大きな成長を望めず中国という巨大マーケットとの相互依存関係が必要なことなどを総合的に勘案することが重要になる。 新型コロナウイルス感染が一刻も早く収束することを願いたいが、コロナ後の日本を待つ情勢は決して容易なものではない。 この4つの要因以外にも日本を脅かす要因はいろいろある。当面は経済回復が最大の課題になるのだろうが、経済の回復を迅速に進める上でも周辺環境の安定は必須になる。 そのための包括的な戦略が重要である』、「日本は民主党のバイデン候補が勝利する場合に備えて対米戦略の練り直しを行うべき」、その通りだ。もはや「安部外交」で浮かれている段階ではない。
タグ:日刊ゲンダイ ダイヤモンド・オンライン 安倍外交 デイリー新潮 田中 均 (その7)(ボルトンが回顧録で暴露 トランプと“外交のアベ”の嘘八百、日本がインドネシアに500億円の支援を決定 高速鉄道とコロナの裏切りで募る不信感、日本に外交戦略見直しを迫る 香港の中国化・韓国の朝鮮化・ロシアのロシア化) 「ボルトンが回顧録で暴露 トランプと“外交のアベ”の嘘八百」 ボルトン前大統領補佐官(国家安全保障担当)の回顧録「それが起きた部屋」 「時間はわれわれの味方」との認識の誤り 「次は私自身が、金正恩委員長と向き合い、解決する」 私はこのアイデア自体がひどいと思っていたが、とても口にできなかった 外務省は「安倍首相」の積極姿勢を忖度して、「“橋渡し”」成功の可能性について事前レクチャーしてなかったのだろうか 「特攻隊の生き残り」が大好物 末永恵 「日本がインドネシアに500億円の支援を決定 高速鉄道とコロナの裏切りで募る不信感」 日本政府はインドネシア政府の要請を受ける形で、20億円の無償資金協力と最大500億円の円借款を決定 “思いやりODA”に疑問 コロナ、鉄道でのしっぺ返し ジョコウィ大統領は「国内初のコロナ感染者の感染源が日本人である」との発表 後でまったくのデマであることが判明したわけだが、この政府の嘘により、子供を含めた在インドネシア邦人の多くが、現地でいわれのない差別やハラスメントを受ける被害にあった ジャワ島の高速鉄道建設計画では、「土壇場でちゃぶ台をひっくり返された」 2015年に中国案が採用された。しかも「日本がODAの公的資金を投じて行った地質などの調査結果を、インドネシア政府が中国政府に漏洩したという疑惑もある 日本からの資金がもたらした腐敗政治 日本が1958年から実施しているインドネシアへのODAは、累計5兆7134億円 資金が、腐敗政治の一助となっただけではなく、高速鉄道やコロナの時のような“恩をあだで返す”仕打ちを、インドネシアは行ってきた 既存の支援にも疑問符が 「日本に外交戦略見直しを迫る、香港の中国化・韓国の朝鮮化・ロシアのロシア化」 日本を取り巻く環境の激変 東アジアの安全保障を左右 「香港の中国化」と米中対立、韓国の「朝鮮化」、ロシアの「ロシア化」、「アメリカ・ファースト」への対応をどうするかだ 香港「中国化」で米中対立決定的 国安法はゲームチェンジャー 米国は「中国排除」強める 日本の対中戦略は? 安全保障を米国に依存し、一方で中国とは経済的な相互依存関係が大きい日本がどのような対中戦略を持つのか。それは日本の将来を左右する。習近平国家主席の国賓訪問を論じる前に考えなければいけない課題だ 韓国の「朝鮮化」「反日」噴出、強まる可能性 米国と自由民主主義という価値を共有する同盟国でありながら、この点を重視することなく、米国と中国を同列で論じることを躊躇しない。 このような韓国進歩派の考え方 「朝鮮化」した韓国は日本にとって扱いにくい存在」 ロシアの「ロシア化」 領土問題解決は遠のく 日本は北方領土問題に何の成果もなく、むしろ交渉に対するロシアの立場が後退しているようにみえる状況でロシアとひたすらに首脳会談を積み重ねていくことがよいのか。 その前に対ロ戦略を見直すべきなのではないか 「アメリカ・ファースト」の行方 “トランプ後”に備える必要 日本は民主党のバイデン候補が勝利する場合に備えて対米戦略の練り直しを行うべき
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欧州(その7)(欧州で心配な「借入需要急増と銀行の貸し渋り」 ECBの「貸出態度調査」に現れた不穏な兆候、EUコロナ債で亀裂あらわ メルケル首相が妥協した理由、浜矩子「EUで表面化した『4対3対2』の深刻な対立構図 対コロナ復興共同基金合意も喜べず」) [世界情勢]

欧州については、1月6日に取上げた。今日は、(その7)(欧州で心配な「借入需要急増と銀行の貸し渋り」 ECBの「貸出態度調査」に現れた不穏な兆候、EUコロナ債で亀裂あらわ メルケル首相が妥協した理由、浜矩子「EUで表面化した『4対3対2』の深刻な対立構図 対コロナ復興共同基金合意も喜べず」)である。

先ずは、7月23日付け東洋経済オンラインが掲載したみずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌 大輔氏による「欧州で心配な「借入需要急増と銀行の貸し渋り」 ECBの「貸出態度調査」に現れた不穏な兆候」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/364710
・『異例の5日間にわたる協議を経て、EU(欧州首脳会議)首脳会議はついにコロナショックで疲弊する加盟国に支援を行うための復興基金設立で合意した。経験則にならえば、おそらく実際に運用する段階でまたひと悶着あるのではないかと筆者は踏んでいるが、とりあえずは「夏休み前に決着」と啖呵を切って、そのとおりにまとめた議長国のメルケル独首相はさすがといえる。とはいえ、復興基金は確かに重要な論点であるものの、欧州の経済・金融情勢が抱える問題は多数ある。 そもそも、今回のようにEUの政治が議論に時間を費やせるのはECB(欧州中央銀行)が必死の政策対応で現状を支えているからだ。拡大資産購入プログラム(APP)や緊急パンデミック購入プログラム(PEPP)の下、未曽有の国債購入によって利回りを押さえているからこそ、復興基金による財政措置がまとまらなくても大きな混乱が起きなかったのだ。 7月上旬、ラガルドECB総裁はフィナンシャル・タイムズのインタビューで復興基金を「本当のゲームチェンジャー(a real game-changer)」と形容したが、これは「これ以上、金融政策に依存しないでほしい」という本音の裏返しだと筆者は思う。「中央銀行」から「政府」へのバトンタッチは今のEUが抱える最大のテーマになっており、その代表格が復興基金の円滑な設立と稼動という位置づけかと思われる』、確かに「ECBが」「未曽有の国債購入によって利回りを押さえているからこそ、復興基金による財政措置がまとまらなくても大きな混乱が起きなかった」、今後「復興基金の円滑な設立と稼動」すれば、「「中央銀行」から「政府」へのバトンタッチ」が進む形になるのだろう。
・『「貸出態度は厳格化、借入需要は急増」の怖さ  しかし、復興基金の稼働は2021年からであり(財源は2021年のEU予算)、目先の問題に対する処方箋にはなりえない。この点、別の問題として7月16日の政策理事会後の会見で複数回出てきた「政策効果失効に伴う崖効果(the fear of a cliff effect)」というフレーズにも目を向けたい。これは、今年7~9月期以降、主要国において政府の融資保証制度が失効するに伴って域内銀行の融資態度が厳格化することを懸念したフレーズだ。 復興基金はもちろん重要だが、各国政治が判断を誤ることで域内の与信環境が急激に悪化する展開のほうが、当面のユーロ圏にとっては現実的な脅威といえる。 筆者がそうした論点に注目するのは、7月14日、ECBが公表した「貸出態度調査(2020年7~9月期、Bank lending survey (BLS)」を見て危機感を感じたからだ。調査は6月5~23日、計144行を対象に実施されたものであり、コロナショック(とりわけ経済活動の自粛)を受けた金融システムの状況を把握するにあたっては適切な時期に実施されている。 調査で注目されるのは、企業向けの貸出基準に厳格化の兆候が出始めたことだ。今年6月までの欧州銀行の企業向け貸出態度は落ち着いているが、次の四半期(7~9月期)については急激に厳しくなるとの調査結果が示されている。しかも、リーマンショック直後とは異なる動きとして企業の借入需要も相当大きなものになっていることがわかる。 こうした動きに関してECBは調査報告書の中で「強い緊急流動性ニーズ(strong emergency liquidity needs)」や「ロックダウンに備えた予防的な流動性バッファー(precautionary build-up of liquidity buffers)」、そして「新しいコミットメントラインを引く動き」の結果だとしている。 もちろん、調査期間中にはターゲット型長期流動性供給(TLTRO3)が空前の規模(約1.3兆ユーロ)で供給されているため(筆者記事『ECBは政策金利のマイナス幅を実質的に拡大』参照)、調査結果が示すよりも企業金融まわりの切迫感は薄れているかもしれない。しかし、図のような「貸出態度の厳格化」と「借入需要の急増」が同時並行する状況は企業の連鎖破綻を予感させる非常に危うい構図である』、「「貸出態度の厳格化」と「借入需要の急増」が同時並行する状況は企業の連鎖破綻を予感させる非常に危うい構図」、その通りなのだろう。
・『「守り」の資金需要には限界がある  容易に想像がつくように、「借入需要の急騰」は決して前向きな動きではない。企業買収や設備投資といった「攻め」の資金需要ではなく、運転資金という「守り」の資金需要であって、一言でいえば急場しのぎの資金が求められている。 企業が運転資金を理由に借入需要を強める動きはリーマンショック直後や欧州債務危機時にも見られたが、今回の動きは過去とは比較にならない大きな震度で起きている。経済活動が制限されれば、企業の売り上げは立たなくなるので資金の流出が続くことになる。 そのため、銀行からの迅速な借り入れが必要になるわけだが、経済活動の制限が続くかぎりは「穴の空いたバケツに水を入れる」のと同じである。ロックダウンとは企業(や家計)にそれほどまでに厳しい環境を強いる政策なのだということを明らかにしてくれる調査結果といえる。) 新型コロナウイルの感染拡大に関し、第2波、第3波が到来するのか、しないのか。筆者には知る由もないが、一部ではロックダウンはほとんど感染抑止に寄与しなかったという声もある。しかし、「寄与しなかった」では済まされない政策であることは知っておきたい。ここまで見てきたように、ロックダウンは企業からひたすらキャッシュを奪い、金融システムに相当の負荷をかける政策である』、「「守り」の資金需要」は後ろ向きの「資金需要」なので、応じる金融機関も慎重になる筈だ。
・『現実的でバランスの取れた防疫政策を  第1波はかろうじてしのいだものの、はたして2度目、3度目のロックダウンに企業部門が耐えられるのかは、まったく確証がない。なお、今回は企業向けを中心とした与信環境を見たが、家計の住宅ローン向け貸出態度なども厳格化の方向にあることを忘れてはならない。 感染拡大防止策は人命に直結する施策であり、当然尊重されるべきものだ。しかし、大手金融機関の経営不安や破綻などのシステミックリスクが極大化した場合、それもまたリーマンショック時のように実体経済への大きなダメージとなって跳ね返ってくる。感染防止策で命を救えても、経済が死んでしまっては結局同じように悲惨な結末になる。 そうしたことを念頭に現実的でバランスの取れた防疫政策が取られることを切望する』、同感である。

次に、7月28日付け日経ビジネスオンラインが掲載した在独ジャーナリストの熊谷 徹氏による「EUコロナ債で亀裂あらわ、メルケル首相が妥協した理由」を紹介しよう。
https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00023/072700189/?P=1
・『EU(欧州連合)は、これまでタブーだった共同債を例外的に発行して異例の「借金」を行うという歴史的な措置に踏み切る。だが新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で激しい被害を受けた国々に対する援助金は、欧州北部の国々の反対のため、大幅に減らされた。首脳会議が一時決裂の崖っぷちに立たされた事実は、新型コロナ危機という緊急事態においても、一部の国々が欧州の連帯ではなく自国の利益を優先する現実を浮き彫りにした』、「歴史的な措置」の裏面とは興味深そうだ。
・『戦後最大の支援パッケージ  「Deal!(合意した!)」。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は、このメッセージを7月21日午前5時31分(ブリュッセル現地時間)にツイッターで発信し、27人のEU加盟国首脳たちが合意にこぎ着けたことを全世界に知らせた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領も「今日は、歴史的な日だ」と語った。 確かに合意内容は画期的である。約1兆8240億ユーロ(約220兆円)の支援パッケージは、第2次世界大戦後の欧州で最大の額だ。このうち1兆740億ユーロ(約130兆円)はEUの今後7年間の予算枠の中から前倒しで支出する。その中にはデジタル化や地球温暖化を防ぐための投資など、欧州の経済成長を促進するための支出も盛り込まれた。残りの7500億ユーロ(約90兆円)は、新型コロナ危機がもたらした経済的損害の悪影響を緩和するとともに、将来のパンデミックに対する抵抗性を強化するための「復興基金」だ』、EUでは金融政策は一本化されたが、財政政策は各国バラバラだったので、この「復興基金」での合意は確かに画期的だ。
・『EUが初めて「借金」し「共同債務同盟」に至る道ひらく  この基金のユニークな点は、EUが一種の共同債を初めて発行して、国債市場で「借金」を行い、7500億ユーロを調達することだ。EUがこのような形で資金を調達したことは、今まで一度もない。 これまではEU加盟国が個別に国債を発行して、借金をしてきた。EUという豊富な資金力と高い信用性を持つ大所帯が国債を発行すれば、各国がばらばらに借金をするよりも、はるかに有利な条件(つまり低い利回り)で資金を調達できる。多くの南欧諸国では新型コロナ危機のために財政状態が悪化しているので、これらの国々が個別に国債を発行しようとすると、投資家は高い利回りを要求するかもしれない。その意味で、EUが南欧諸国に代わって資金を調達すること自体が、すでに間接的な支援策である。 EUは2028年から30年かけてこの借金を返済する。そのために新しい税金を導入する予定だ。例えばリサイクルできないプラスチックに対する課税や、デジタル取引税、二酸化炭素の削減努力が十分でない国が輸出する製品に対する気候関税などを検討している。EUは、いわば「共同債務同盟」に至る前例を作ったわけである』、その通りだ。
・『7500億ユーロの復興基金が最大の難関に  だが、この復興基金は首脳会議が難航する最大の原因となった。当初EUは7月17日(金曜日)からの2日間で会議を終える予定だった。ところが実際には交渉が一時膠着状態に陥り、合意に達するまでほぼ4日間かかった。約100時間のEU首脳会議は、過去最長である。なぜ復興基金をめぐる議論が、交渉を難航させたのだろうか。 復興基金のアイデアを最初に打ち出したのは、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とマクロン大統領だった。両氏は5月18日に初めて、EUが5000億ユーロを国債市場で調達する構想を公表した。この提案は、世界中の金融市場を驚かせた。その理由は、過去に「EUの共同債」に反対していたメルケル首相が、態度を180度変えてEUが借金することを容認したからだ。 なぜドイツは過去において、「EUによる国債市場での資金調達」にかたくなに反対してきたのか。イタリアやスペインは、ユーロ圏加盟国が共同で国債を発行するユーロ共同債(ユーロ・ボンド)、もしくはEUによるコロナ共同債(コロナ・ボンド)の発行を求めていた。ユーロ・ボンドかコロナ・ボンドを発行すれば、イタリアやスペインにとっては資金調達コストが現在より少なくなり(つまり債権者に払う利回りが低下し)、借金をしやすくなる。マクロン大統領も、「欧州の政治的団結を深めるためには、EUによる資金調達が必要ではないか」として、イタリアやスペインの立場に理解を示してきた』、「メルケル首相が、態度を180度変えてEUが借金することを容認」、には驚かされた。
・『驚愕!メルケル首相が「EUの借金」を容認  だがドイツにとって、ユーロ・ボンドやコロナ・ボンドは禁忌(タブー)だった。万一イタリアやスペインが債務を返済できなくなった場合、ドイツなど他の国々が返さなくてはならない債務が増える可能性があるからだ。 これは、欧州通貨同盟を規定するリスボン条約に違反する行為だ。リスボン条約は、いわゆる「ノーベイルアウト条項」によって、欧州通貨同盟の加盟国が他の国の債務を肩代わりすることを禁じている。 1990年代にドイツ国民は、マルクを廃止してユーロを導入することに消極的だった。ドイツ国民が欧州通貨同盟への参加にしぶしぶながら賛成したのは、当時のヘルムート・コール政権が「イタリアなどの債務をドイツが肩代わりすることは絶対にない」と保証したからだ。つまりユーロ・ボンドやコロナ・ボンドは、1990年代に当時のコール政権が国民に対して行った約束を反故(ほご)にする可能性を含んでいる。これが、メルケル首相が共同債の発行をかたくなに反対してきた理由だ。 だがメルケル首相は、「新型コロナ危機は欧州にとって、第2次世界大戦以来最大の試練であり、被害を受けた国々に手を差し伸べる必要がある」として、リスボン条約の第122条が定める「緊急事態条項」の適用に例外的に同意した。第122条は、大規模な自然災害のような緊急事態が起きたときに、EUが特別な援助措置を実施することを認めている。 しかも独仏の提案によると、復興基金の5000億ユーロは、返済不要の援助金として「贈与」することになっていた。援助金は全ての国に支払われるが、イタリアやスペインなどパンデミックによる被害が大きかった国々への支払額を、他国に比べて多くする。この背景には、過去のユーロ危機において、EUの救済機関から得た融資を返済するのに南欧諸国が苦労し、一部の国が国家破綻の瀬戸際まで追い詰められた苦い経験がある。 EUは独仏の提案を採用し、復興基金の枠を7500億ユーロに拡大。このうち5000億ユーロを返済不要の援助金、2500億ユーロを融資にすることを提案した。援助金は、保健医療体制の充実など、将来のパンデミックに備える特別のプロジェクトに回す義務がある。政府の歳入として、公的年金の補填など他の用途に回すことは、許されない』、「メルケル首相は、「新型コロナ危機は欧州にとって、第2次世界大戦以来最大の試練であり、被害を受けた国々に手を差し伸べる必要がある」として、リスボン条約の第122条が定める「緊急事態条項」の適用に例外的に同意した」、「メルケル首相」にとっては、「イタリアやスペイン」で反EUの動きが強まるのを防止するため、苦渋の決断だったのだろう。
・『「倹約家の国々」の頑強な反対  独仏そしてEUの「大盤振る舞い」とも言うべき提案は、イタリアやスペイン政府を大いに喜ばせた。だがEU首脳会議の決議は、全会一致である必要がある。EUのウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、メルケル首相、マクロン大統領の前に、アルプス山脈の北側に位置する「倹約家の国々」が立ちはだかった。 オーストリア、オランダ、デンマーク、スウェーデン、フィンランドの5カ国は、「5000億ユーロもの各国の市民からの血税を、イタリアやスペインなどにプレゼントするのは危険だ。コロナ対策以外の目的に流用される危険がある。贈与額を減らして、経済構造改革などの条件付きの融資の部分を増やすべきだ」と主張した。 「倹約家の国々」は、7500億ユーロのうち、スペインやイタリアなどに贈与する額を5000億ユーロから3500億ユーロに減らすように要求した。 反対派の急先鋒(せんぽう)は、オランダのマルク・ルッテ首相だ。オランダは、来年3月に総選挙を控えており、現状では野党である右派ポピュリスト政党が依然として高い支持率を得ている。このため、ネオリベラル路線の保守政党「自由民主国民党(VVD)」を率いるルッテ首相は、新型コロナ危機に臨んでEUが南欧諸国に対して過度に寛容な態度を示すと、右派ポピュリストに追い風となると危惧したのだ。 独仏対「倹約家の国々」の対立には、大国と小国の間にある軋轢(あつれき)がくっきりと表れている。オーストリアのセバスティアン・クルツ首相は「これまでは独仏が提案をすると、他の国は文句を言わずに従うのが通例だった。しかし、そのような状況は受け入れがたい」と述べ、これまで堅実な財政運営を行ってきた小国の意見も尊重されるべきだという態度を打ち出した』、「首脳会議」が「約100時間」と「過去最長」になったとは、よほどの激論が交わされたのだろう。
・『返済不要の援助金を大幅に減額  首脳会議には、一時険悪な雰囲気が漂った。マクロン大統領が2回にわたってテーブルに拳を打ち付けて、オランダなど「倹約家の国々」に対する怒りをあらわにした。あるとき、クルツ首相の携帯電話に電話がかかってきて、同首相が会議室から外に出て電話を受けようとした。するとマクロン大統領は「ほら見ろ。彼にとって、首脳会議などどうでもいいんだよな」と言って、クルツ首相を露骨に批判した。 メルケル首相も、7月19日時点では交渉が決裂する可能性すら示唆していた。 長いトンネルに光明が見えたのは7月20日の月曜日。EUと独仏は、返済不要の援助金を5000億ユーロから3900億ユーロ(約48兆円)に減らす譲歩案を提示した。オランダなど「倹約家の国々」は、EUに毎年払っている拠出金を減らすことを条件に、3900億ユーロという額を受け入れた。 この結果、返済不要の援助金は、独仏の提案より1100億ユーロ(約13兆円)、22%減ったことになる。 万一EU首脳が合意に失敗していたら、「EUは100年に1度のパンデミックという緊急事態においても、加盟国を助けるための方法をまとめることができない」というメッセージを、世界中の金融市場に送ることになっていたはずだ。これは、コロナデフレをさらに悪化させる危険を含んでおり、EUとしては是が非でも避けたい事態だった。このため独仏は、援助金減額という苦杯を飲み干したのだ』、「独仏」が「援助金減額という苦杯」を飲んででも、「合意」を優先したのは賢明だった。
・『交渉難航は、EUの亀裂を露呈  決裂という最悪の事態は免れたものの、欧州の北部5カ国がEUと独仏の提案に頑強に反対して早期合意を妨げた事実は、大国と小国、欧州北部と南部の間を走る亀裂の深さを浮き彫りにした。もしも今回の会議が決裂し、EUが復興基金の設置に失敗していたら、イタリアやスペイン、フランスなどで右派ポピュリスト政党への支持率が再び高まっていた可能性もある。イタリアの市民の間では、オランダやオーストリアが復興基金案に横やりを入れたことについて、怒りの声と不満が強まっている。筆者のイタリア人の友人は「EUには落胆した。英国がEUを離脱した理由が、よく分かる」と怒りをぶちまけていた。 筆者が5月以降の流れを見ていて興味深いと思ったのは、これまで「倹約家」のグループに属していたドイツが初めて、南欧諸国に「寄り添った」ことだ。ドイツはユーロ危機においても一貫して、歳出削減や国営企業の民営化など厳しい緊縮策を南欧諸国に要求してきた』、確かに「ドイツ」の変身の背景を知りたいところだ。
・『メルケル首相が南欧諸国に寄り添った理由  この「転向」の理由は、パンデミックの特殊性にある。メルケル首相は、「イタリア、スペイン、フランスで多数の死者が出て、経済的な打撃が大きくなったのは、これらの国々の政策運営が悪かったためではない」と語っている。 EU統計局によると、今年1~3月期のイタリアの実質GDP(国内総生産)は4.7%、スペインでは5.2%も減少した。これはドイツのGDP減少率(2.2%)を大幅に上回る。 その理由は、新型コロナウイルスの感染者や死亡者数がドイツよりも多かったために、ロックダウンがドイツよりもはるかに厳しかったからだ。例えばイタリアでは、感染者増加のスピードを抑えるために、食料品など生活必需品に関係のある業種以外の企業は営業を一時禁じられた。ドイツではそのような措置は取られなかった。このため加盟国の経済状態の間に、格差が生じつつある。 EU統計局によると、2019年のイタリアの公的債務の累積残高はGDPの134.8%と、ギリシャに次ぎユーロ圏で2番目に高かった。ドイツのメディアでは、新型コロナ危機の影響で、イタリアの債務比率が近く160%に達するのではないかという臆測が流れている。EUは、今年のイタリアのGDPが前年比で約11%も減ると予測している。 2019年末の時点で、イタリアの公的債務残高は2兆4098億ユーロ(約300兆円)で、ギリシャ(3311億ユーロ)の7.3倍だった。ギリシャは小国であるがゆえに、EUなどの緊急融資によって救うことができた。だが、万一イタリアの財政状態が急激に悪化した場合、救済には莫大な金額が必要になる。 ドイツ、そしてEUは、新型コロナ危機が第2のユーロ危機になることを、絶対に避けなくてはならない。ロックダウンが緩和されると、各国間の被害の違いがあらわになる。経済的損害が比較的軽微なドイツに対し、イタリアやスペインの有権者の間で怨嗟(えんさ)と羨望の声が強まり、右派ポピュリスト政党にとって追い風になる可能性もある。このためメルケル首相は、「EUによる資金調達」および「コロナ対策費の返済義務免除」という本来使いたくなかった特別なカードを切ったのだ。 メルケル氏は来年首相を辞任して、政界から引退する。ドイツでは、パンデミックという危機の最中だけにメルケル続投を望む声も出ているが、同首相は「続投はあり得ない」と何度も断言している。 今回メルケル首相がマクロン大統領の路線に同調して、南欧諸国に対して寛容な姿勢を見せた背景には、緊縮策に固執する「鉄の女」ではなく、欧州の連帯と団結を重視する人道派の政治家として、16年間の首相生活を終えたいという同首相の願いもあったのかもしれない』、「緊縮策に固執する「鉄の女」ではなく、欧州の連帯と団結を重視する人道派の政治家として、16年間の首相生活を終えたいという同首相の願いもあった」、その通りなのかも知れない。

第三に、8月6日付けAERAdot「浜矩子「EUで表面化した『4対3対2』の深刻な対立構図 対コロナ復興共同基金合意も喜べず」」を紹介しよう。
https://dot.asahi.com/aera/2020080500020.html?page=1
・『経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。 四・三・二。現下の欧州連合(EU)事情を眺めていたら、この三つの数字が頭に浮かんだ。すなわち、「北欧ケチケチ四人組」、「南欧ラテン系三人組」、「東欧国粋二人組」だ。 7月21日、新型コロナウイルスによる打撃からの復興に向けた共同基金についてEU27カ国が合意した。4日間におよぶマラソン協議を経て、総額7500億ユーロ(約92兆円)の復興基金創設で話がまとまった。関係者たちは、協議が決裂することなく合意にいたったことを大いに自画自賛している。だがそもそも、決裂も視野に入れておかなければいけなかったところが、情けない。 協議がもつれる中で、上記の四人組と三人組の対立が鮮明になった。四人組がオランダ・オーストリア・スウェーデン・デンマークだ。三人組はイタリア・スペイン・ギリシャである。コロナの打撃が大きかった三人組は、基金の原資をEU共同債で調達すべしと主張した。基金からの支援金は、もっぱら返済義務無しの贈与にしてくれとも要請した。このいずれに対しても、四人組が強い拒否反応を示した。 最終的には、共同債についても返済不要補助金についても、それなりの折り合いをみた。だが、そこにいたるやり取りは、相当にけんか腰のものだった』、この記事を取上げたのは、「東欧国粋二人組」について知りたいためだ。
・『けんかの爪痕が残ってもいる。四人組は、共同債の発行は今回限りだとしている。これがEUの財政統合につながることは断固許さない構えだ。支援金の払い出しについても、四人組の要求で、国々に拒否権が付与された。被支援国が怪しげなカネの使い方をしている。そう見た国は、払い出しに待ったをかけられることになった。三人組への四人組の不信感は深い。 別の角度から基金合意に影を落としたのが、東欧国粋二人組である。ハンガリーとポーランドだ。EUの行政機関である欧州委員会は、基金からの受益要件として、民主主義と法の支配の順守を明記したかった。だが、国粋二人組の抵抗によって、この要件は極めてあいまいなものにとどまってしまった。 まとまったことを祝うのか。内なる亀裂の露呈を嘆くのか。統合欧州の対コロナ復興基金は、なかなか評価が難しい』、「支援金の払い出しについても、四人組の要求で、国々に拒否権が付与された」、今後も実際の払い出しで紆余曲折もありそうだ。「ハンガリーとポーランドだ。EUの行政機関である欧州委員会は、基金からの受益要件として、民主主義と法の支配の順守を明記したかった。だが、国粋二人組の抵抗によって、この要件は極めてあいまいなものにとどまってしまった」、「東欧国粋二人組」の強権支配は目に余る。EUとして、強く出ることも可能だった筈なのに、「極めてあいまいなものにとどまってしまった」とは残念だ。
タグ:欧州 東洋経済オンライン 日経ビジネスオンライン 過去最長 AERAdot 熊谷 徹 唐鎌 大輔 (その7)(欧州で心配な「借入需要急増と銀行の貸し渋り」 ECBの「貸出態度調査」に現れた不穏な兆候、EUコロナ債で亀裂あらわ メルケル首相が妥協した理由、浜矩子「EUで表面化した『4対3対2』の深刻な対立構図 対コロナ復興共同基金合意も喜べず」) 「欧州で心配な「借入需要急増と銀行の貸し渋り」 ECBの「貸出態度調査」に現れた不穏な兆候」 「ECBが」「未曽有の国債購入によって利回りを押さえているからこそ、復興基金による財政措置がまとまらなくても大きな混乱が起きなかった」 「復興基金の円滑な設立と稼動」すれば、「「中央銀行」から「政府」へのバトンタッチ」が進む形に 「貸出態度は厳格化、借入需要は急増」の怖さ 「貸出態度の厳格化」と「借入需要の急増」が同時並行する状況は企業の連鎖破綻を予感させる非常に危うい構図 「守り」の資金需要には限界がある 現実的でバランスの取れた防疫政策を システミックリスクが極大化した場合、それもまたリーマンショック時のように実体経済への大きなダメージとなって跳ね返ってくる。感染防止策で命を救えても、経済が死んでしまっては結局同じように悲惨な結末になる 「EUコロナ債で亀裂あらわ、メルケル首相が妥協した理由」 戦後最大の支援パッケージ EUでは金融政策は一本化されたが、財政政策は各国バラバラだったので、この「復興基金」での合意は確かに画期的だ EUが初めて「借金」し「共同債務同盟」に至る道ひらく EUは、いわば「共同債務同盟」に至る前例を作った 7500億ユーロの復興基金が最大の難関に 約100時間のEU首脳会議 メルケル首相が、態度を180度変えてEUが借金することを容認 驚愕!メルケル首相が「EUの借金」を容認 新型コロナ危機は欧州にとって、第2次世界大戦以来最大の試練であり、被害を受けた国々に手を差し伸べる必要がある」として、リスボン条約の第122条が定める「緊急事態条項」の適用に例外的に同意した 「倹約家の国々」の頑強な反対 返済不要の援助金を大幅に減額 「独仏」が「援助金減額という苦杯」を飲んででも、「合意」を優先したのは賢明 交渉難航は、EUの亀裂を露呈 メルケル首相が南欧諸国に寄り添った理由 緊縮策に固執する「鉄の女」ではなく、欧州の連帯と団結を重視する人道派の政治家として、16年間の首相生活を終えたいという同首相の願いもあった 浜矩子「EUで表面化した『4対3対2』の深刻な対立構図 対コロナ復興共同基金合意も喜べず」 「北欧ケチケチ四人組」 「南欧ラテン系三人組」 「東欧国粋二人組」 支援金の払い出しについても、四人組の要求で、国々に拒否権が付与された ハンガリーとポーランドだ。EUの行政機関である欧州委員会は、基金からの受益要件として、民主主義と法の支配の順守を明記したかった。だが、国粋二人組の抵抗によって、この要件は極めてあいまいなものにとどまってしまった
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バブル崩壊(日本の銀行に未来はあるのか――バブル崩壊からポスト平成へ 30年を振り返る、平成金融危機で大手銀行が破綻した3つの理由 元日銀幹部が語る、大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」いまだからウラ話を明かそう!) [金融]

バブル崩壊については、2018年12月9日に取上げた。久しぶりの今日は、(日本の銀行に未来はあるのか――バブル崩壊からポスト平成へ 30年を振り返る、平成金融危機で大手銀行が破綻した3つの理由 元日銀幹部が語る、大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」いまだからウラ話を明かそう!)である。

先ずは、昨年2月15日付けYahooニュースが掲載した元銀行員で作家の江上 剛氏による「日本の銀行に未来はあるのか――バブル崩壊からポスト平成へ、30年を振り返る」を紹介しよう。
https://news.yahoo.co.jp/feature/1230
・『平成の30年間に大きく変化した業界はさまざまあるが、銀行は最たるものだろう。地価がピークを迎える中で平成に入り、株価もピークを迎えたが、バブルはまもなく破裂。「失われた20年」へと進んだ。その後、銀行は大規模な再編を余儀なくされた。銀行を内外から見てきた作家の江上剛氏が、銀行がたどってきたこの30年を振り返る』、興味深そうだ。
・『売った買ったというだけで、数億円の儲け  1989(平成元)年は12月に史上最高の日経平均株価3万8915円を記録した年です。このころ、大手の都市銀行で何が行われていたか。第一勧業銀行(現・みずほ銀行)に在籍していた私が思い出すのは、土地転がし(転売)です。当時、行員の多くは、土地を購入するお客さんのための融資(貸出金)の申請書ばかり書いていました。 内実はひどいものでした。「20億円」という貸し出しの稟議書が回ってきても、行内を右から左に流し、中身の精査をしない。お客さんはその融資で得た資金で土地を買ったかと思うと、その1週間後にはもう転売している。売った買った、売った買ったというだけで、数億円の儲け。 何かおかしなことが起きている。でも、そのときには、まだ多くの人は、それが破裂するような「バブル(泡)」だとは思っていない。そもそも平成元年には「バブル」という言葉はまだ使われていなかったのです。 作家・江上剛氏は平成の始まりをそう振り返る。江上氏が第一勧銀に入行したのは1977(昭和52)年。1989(平成元)年から2003(平成15)年までの15年間を本店や支店で過ごし、退職後の15年間は、作家として小説で銀行や企業のドラマを描いてきた。 一方、その30年間で銀行は大きく姿を変えていった。1989(平成元)年には13の都市銀行が存在したが、現在メガバンクと呼ばれる3行に統合された。1989年当時はあぶくのように膨れ上がる「株価」と「地価」に対応するように、多くの銀行が膨大な額を日々貸し出しては、経済を動かしていた。そのピークが1989年12月29日(大納会)で、翌1990年以降、2003年4月まで株価は下がり続けていく。平成の始まりこそが「バブル崩壊」であり、「失われた20年」と呼ばれるデフレの始まりでもあった。江上氏は、そのバブルの責任は平成が始まる数年前の銀行にあったという。 私が入行したころの銀行はどこの都銀でもやっていることに変わりがなく、大蔵省(現・財務省)銀行局の指導のもと、いわゆる「護送船団方式」で経営をする体制でした。 ところが、80年代半ば、関西に主な基盤を置く住友銀行(現・三井住友銀行)が融資部門と営業部門を一体化したような業務本部体制という仕組みをつくって、ものすごく業績を上げだした。要は、融資に伴う審査を簡素化して、貸し出しやすくした。その好業績で関東にも住友銀行の店舗は広がりだした。これを見て、他の銀行も「大変だ」となって同じようなこと──ゆるい審査での融資をしだした。それがバブルの始まりでした』、「住友銀行」による「融資部門と営業部門を一体化」が「バブルの始まり」というのは確かだ。
・『「これはもうあかん」  1990(平成2)年以降、都銀が絡んだ不正事件が複数明らかになっていく。 1991(平成3)年9月の富士銀行(現・みずほ銀行)赤坂支店で起きた不正融資事件。同事件では、赤坂支店の課長が架空預金証書を発行し、それを担保に不動産業者27社などが15社のノンバンクから総額7000億円以上の額を引き出していた。あるいは、同年8月に発覚した大阪の料亭の女将に2兆円以上が融資された巨額詐欺事件、同年7月のイトマンという中堅商社に住友銀行が3000億円以上を融資したにもかかわらず、闇に消えたイトマン事件。 だが、とりわけ銀行員たちをおびえさせたのは殺人事件だ。1994(平成6)年9月14日早朝、住友銀行名古屋支店の支店長が何者かによって射殺された。江上氏もあの事件は衝撃だったと語る。 それまでにも兆候として、危ない事件は起きていました。頭取の家に銃弾が撃ち込まれたり、大阪本店のロビーに首を切った鶏が投げ込まれたり……。でも、この名古屋の射殺事件で融資に関わっていたような暴力団が表で動きだし、ついに被害者が出た。「これはもうあかん」と思いました。一方で、銀行員による犯罪も次々と増えていった。銀行員の一人として、「バブルが崩壊した」と実感したのはこのころでした。 私自身は1990(平成2)年に本店人事部、1994(平成6)年には広報部に配属されたため、銀行内で起きている不祥事はいや応なく知ることになる。それまで聞いていたのは印紙代をごまかすような数千円台のささやかな不正だったが、人事部に来てみたら、幹部クラスが「浮き貸し(職員が地位を利用して、勝手に貸し付けること)」などをしているのがわかる。パワハラも多かったし、業務で追い込まれて失踪したり、自殺したりというケースもあった。毎日のように不祥事がありました』、確かに「人事部」や「広報部」では、「不祥事」対応に追われたのだろう。
・『相次ぐ金融機関の破綻  平成最初の10年の終わりが来るころ、銀行・証券会社などが相次いで破綻しはじめる。1997(平成9)年、都市銀行だった北海道拓殖銀行が経営破綻、四大証券の山一證券が自主廃業した。翌1998(平成10)年には金融再生法が成立し、公的資金での一時国有化などが制度化されると、破綻した日本長期信用銀行や日本債券信用銀行は外資系ファンドなどに譲渡されることになった。こうした銀行・証券会社の連鎖的な破綻は日本中に衝撃を与えた。 1995(平成7)年には、個人向け住宅ローンを扱うノンバンクの住宅金融専門会社(住専)7社が抱え込んだ負債に6850億円の公的資金の注入が閣議決定された。銀行マンとして、江上氏も他人事とは思えなかったという。 私のいた第一勧銀では総会屋事件という大きな問題がすでに火を噴いていたんです。だから、他社の破綻は「対岸の火事」と単純に切り分ける気持ちにはなれなかった。 と同時に、こういう状況の金融機関をどこまで助けるべきなのかと疑問にも思っていました。それまでは自分たちの業績を上げることだけに狂奔して、その結果バブルを招いた。ところが、それらが不良債権化した段階になって、公的資金(税金)で助けてくれと言いだした。それは都合のいい話だろうと。 昔から銀行は「社会の血液」という言い方があり、社会的使命があるとされてきました。しかし、振り返ってみれば、本当に銀行は社会的使命を担っていたかと問われると疑問があります』、「本当に銀行は社会的使命を担っていたかと問われると疑問があります」、同感である。
・『効率化で利益を出すように  平成が10年を超えた1999(平成11)年以降、銀行をめぐる環境の変化は深まっていく。都銀は膨大な不良債権の処理を視野に、コスト削減や規模の経済性を目して、合併・再編を進めていく。第一勧銀は富士銀行や日本興業銀行とともにみずほ銀行とみずほコーポレート銀行(2002年)、旧財閥の三井系さくら銀行と住友銀行は三井住友銀行(2001年)など、最終的には3行のメガバンクに統合されていった。 そうして合併などで外形を変える一方、内部の営業活動としては、銀行は「貸し渋り」(新規融資を拒否)、「貸し剥がし」(融資の返済を求め、他行に頼るよう要請)など自社を守る営業行為が横行し、問題視されていた。銀行もまた、自らが生き残ることだけで精いっぱいだったと江上氏は振り返る。 バブルまでの銀行は、企業への貸出金で競争し、その利息で利益を上げるという方法でした。ところが、それからの銀行は合併して、リストラして、効率化することで利益を出すようになった。ただ、これは銀行の役割が変わっていったという感じはありました。 私自身、2000(平成12)年に高田馬場支店長、翌2001(平成13)年に築地支店長と転じていたら、その第一勧銀が統合されてみずほ銀行となった。私は合併には賛成していなかったんです。不良債権処理もそうだし、内部の年次主義の見直しなど、やるべきことはまだ山積みでした。そうした問題を宿したまま合併に逃げてしまうと、きっと合併する3行の中でも問題が起きると思った。そうしたら案の定、みずほでは開業初日にオンラインでのシステム障害が起きました。 でも、なにより問題だったのは、(銀行の不良債権処理のために取引先企業に出資を求めて)「奉加帳を回した」こと、つまり、「財務上の課題を一掃するため」という1兆円の増資です。私がいた築地支店で、中小企業は1000社くらいが不良債権で苦しんでいました。にもかかわらず、銀行がお金を集めている。これはどう考えてもおかしい。それで「私は支店長としてできない」と拒否した。それで、銀行も辞めることにしたんです。 江上氏は2003(平成15)年3月にみずほ銀行を退職。まもなく日経平均は当時史上最安値の7607円を記録したが、りそな銀行に1兆9600億円の公的資金が投じられることが決まると、これ以上銀行は潰さないというメッセージと受け取られ、その後、経済は回復していった。 当時、企業再建などの分野では、政府出資の産業再生機構のほか、コンサルティングファームや国際会計企業などが活躍する一方、企業は従来の銀行に依存していた融資という形での間接金融から、社債や株式といった証券市場などの直接金融へと資金調達手法を徐々に変化。さらに内部留保をためて、自前の資金で投資をしていく方向へとシフト。企業の銀行に対する依存度は次第に減少していった。 本来、企業再建などは銀行が指導するという役割があったと思うんです。ところが、当時、銀行はその役目を果たさず、自分の利害得失ばかり主張していた。大規模な企業再建の案件でも、公のために汗を流すのではなくて、結局自分のところの不良債権をどれだけ減らすか。銀行員同士で自分の損をどれだけ減らすかのことばっかりだから、なかなかまとまらなかったものもあるでしょう』、「奉加帳を回した」「1兆円の増資」に反対して銀行を辞めたのは大したものだ。金融庁は「増資」で強引なやり方があれば、処分すると公言していたが、みずほからの働きかけがあったためか、なしのつぶてだ。
・『金融政策の出口戦略がない  しばらく景気がよくなったと思ったら、2008(平成20)年に米国でリーマン・ショックが起きる。そこでまた、日本の市場は収縮してしまう。 その後でいうと、やはり日本銀行のゼロ金利の影響が大きいと思います。銀行にとっては、金利が安くなって資金調達コストが低くなったことで、一時期の景気回復には一定の効果はあったと思うんです。 問題は、そういう政策をとったときに、いつどのようにやめるかという出口戦略ができていないことです。戦争と同じで、どう終わらせるのかが見えていない。だから、それが恒常状態になったら、低収益のまま何をしたらよいのかとなる。 そして、保険や投資信託など目先の手数料が取れるものに行員を走らせている。そうした流れの中で、スルガ銀行は不動産融資に注力し、不正行為まで働いて貸出金を増やした。これも不正が発覚する前は、当時の金融庁長官はスルガ銀行を持ち上げるような発言をしており、むしろ評価される話だった。いわばバブルを招いた大手銀行と似たようなことが行われていたわけです』、日銀の緩和政策は、「出口戦略ができていない」だけでなく、その後、異次元緩和という未踏の政策にまで踏み込んでいる。「当時の金融庁長官はスルガ銀行を持ち上げるような発言」、金融庁もいかに見る目がないかを露呈した。
・『金融の新潮流と銀行の未来  2010年代半ばには、ブロックチェーンやAIを駆使したフィンテック、クラウドファンディングや多種多様な決済サービスの勃興など、金融の世界の新たな潮流が急激に世界的に広がりだす。江上氏はこうした新技術や新サービスの台頭と広がりは、銀行の役割を必然的に変えていくだろうと予想する。 3年ほど前、子ども食堂をやろうとしている団体に取材に行きました。善意の人たちだけど、お金がなく、運営費に100万円を必要としていました。そういう団体が銀行に行って融資をお願いして、銀行からお金を借りられるでしょうか。それはできません。「いくら儲かりますか」「担保はありますか」と聞かれても、団体が答えられるわけがないからです。調達したのは、クラウドファンディングでした。要するに、こうした草の根の融資に限れば、従来の銀行の役割は終わりつつあるということです。 資金需要はさまざまあるんです。自主映画の制作、スタートアップ企業、地方の花火大会……。そうした資金の支援に対しての報酬も、ふるさと納税じゃないけれど、地元のお米や花火大会の招待券といったもので対応していて、お金を出すほうも喜んでいる。あるいは、アジアで広がっているように、少額を出資するマイクロファイナンスのような形態の金融機関も出てきている。日本の銀行が従来の視点でやっているかぎり、そうしたニーズは見えないし、銀行に未来はないでしょう。 平成最後の10年間で広がりだした新しい技術は目下、銀行でも各種導入されはじめている。だが、江上氏は、ただ導入するだけでは意味がないと語る。過去に銀行が引き起こしたバブルを学び、数々の過ちを繰り返さないためには、もっとも基本的な部分──個々の銀行員の活動や倫理的な理解が必要だと指摘する。 フィンテックというと、まったく新しい異次元の技術と構える人も多いでしょう。でも、中身は金融です。金融の原点というのは資金調達であって、その手法が増えたということ。そのうえで、銀行員はもっと自分の足を動かして社会と接するべきだと思います。 銀行の根幹である融資というときに、いまビッグデータやAIを使っていくやり方が重視されています。しかし、そうしたデータは当たり前ですが、すべて過去のものであって、この先のことがわかるわけではありません。今日業績がよくても明日不祥事が起きて、一気に焦げ付いてしまうなんてことは、よくあることです。 ですから、そういう判断はやはり人間、銀行員がすべきことなんです。なによりあらゆる金融機関が同じようなデータを集め、同じようなAIを使っていったら、みんな同じ判断になってしまう。 「この会社の製品・サービスを理解できているか」「この会社の雇用はどんな役割があるか」「この会社の社会的存在はどんなものか」……。そうした高次の判断は銀行員がすべきです。 やはりどんな時代であっても、銀行に倫理や哲学は大事で、それが業務に反映されることが銀行の存在意義につながっていくのだと思うのです。堅苦しいかもしれませんが、平成の30年を振り返ると、そんな基本的な結論に落ち着きます』、「銀行に倫理や哲学は大事で、それが業務に反映されることが銀行の存在意義につながっていく」、同感である。

次に、昨年4月23日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した元日銀幹部でいちよし経済研究所アドバイザーの和田哲郎氏による「平成金融危機で大手銀行が破綻した3つの理由、元日銀幹部が語る」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/200630
・『平成がまもなく終わりを迎える。金融業界の約30年間で最も大きなトピックだったといえるのが「平成金融危機」だろう。大手をも破綻へと導いた深刻な金融危機は、なぜ誰も防げなかったのか。金融危機真っただ中の当時、日本銀行幹部を務めていた和田哲郎氏がその原因を分析し、二度と金融危機を起こさないための教訓を語る』、「和田哲郎氏」の見解とは興味深そうだ。
・『180もの金融機関が破綻 平成金融危機で何が起きていたか  今から20年ほど前、日本は未曽有の金融危機の中にあった。金融危機は国民経済の安寧を脅かすものであり、再び起こしてはならない。 しかしながら、時間の経過とともに人々の記憶は風化しつつある一方、金融環境は厳しくなってきている。本稿は、金融危機の再発を回避するため、金融危機から学んだ教訓をとりまとめたものである。 教訓を語る前に、そもそも金融危機で何が起きていたか、レビューしておきたい。 平成になると、日本でも金融破綻がはじまり(注1)、平成前半に180もの金融機関が破綻した。その数もさることながら、三塚博大蔵大臣(当時)が「つぶさない」と明言していた大手銀行も3行破綻した。大手銀行の破綻は、日本はもとより、海外でも例を見ないものであった。 1997年11月4日、三洋証券のコール市場でのデフォルト(債務不履行、注2)をきっかけに、11月15日に都市銀行(以下都銀)の一角を占める北海道拓殖銀行(以下拓銀)が、11月24日には四大証券の中でも伝統ある山一證券がそれぞれ破綻した。その後長期信用銀行(以下長信銀)の日本長期信用銀行(以下長銀)が1998年10月に、日本債券信用銀行(以下日債銀)が同年12月に、相次いで破綻した。 (注1)1991年7月に東邦相互銀行(本店所在地、愛媛県)が破綻し、初の預金保険機構・資金援助が発動された。なお、本稿では、金融破綻を原則預金保険機構の資金を用いて処理したケースを指す。 (注2)コール市場は、金融機関間で日々の貸借等を行うマーケットで、ほとんどが無担保のオーバーナイトもの。このマーケットは信用を前提としており、同市場でのデフォルトにより、マーケットは大混乱に陥った。 1997年11月の拓銀、山一證券の破綻から2000年前後の大規模な公的出資(注3)が行われるまでの間が、金融危機の最も厳しかった時期であった。バブル崩壊による地価の下落に歯止めがかからず、不良債権は増加の一途をたどり、こうした中で貸し出しの引き当て、償却が多額に上り、自己資本は軒並み減少した。また預金は流出し、資金繰りが悪化した。預金流出については全国レベルで、大手銀行を含め、取り付けが広範化した。資金繰りの悪化は、外貨でも発生し、ジャパンプレミアムが拡大した。 ジャパンプレミアムの推移(リンク先参照) こうした状況の下で、金融機関は企業等に対し、貸し渋り(新規約定、既契約のロールオーバーを行わない)、貸し剥がし(期限前返済を求める)を行うなどクレジットクランチ(信用収縮)が激化した。このため、企業等も設備投資等の支出を抑制したことから、日本経済は長いデフレのトンネルに入っていった。 前述の大規模な公的出資により、金融危機はようやくピークアウトした。その後、システミックリスクへの対応が図られたことで、金融システムの安全策が完成した(注4)。2003年2つの金融機関がその適用を受けた。具体的には、2003年5月りそな銀行の資本増強(公的出資)、同年11月足利銀行の特別公的管理(一時国有化)である。本件処理を最後に金融危機は終焉した。 このように金融危機からの脱却の背景として公的資金の投入が挙げられるが、換言すれば公的資金の投入の遅れが金融危機を招いたのである。 (注3)1999年3月から2002年3月にかけて、早期健全化法に基づき32の金融機関に対し、8兆6053億円の公的出資が行われた。 (注4)2000年5月、預金保険法が改正され、システミックリスク(わが国または地域の信用秩序維持に極めて重大な支障が生じる惧れがある「危機的な事態」)に対応して、内閣総理大臣、内閣官房長官、内閣府特命担当大臣(金融担当)、金融庁長官、財務大臣、日本銀行総裁をメンバーとする「金融危機対応会議」は以下の例外的措置を講じることができることとなった。(預金保険法第102条第1項)。  第1号措置 資本増強  第2号措置 ペイオフコスト超の資金援助  第3号措置 特別危機管理)』、「長銀」や「日債銀」は金融再生法による国有化だったが、「拓銀」は、そうした破綻法制が何もないなかでの破綻処理だっただけに、大混乱を招いた。大蔵省が接待問題で批判されるなかで、大蔵省は自らの力を示すために、わざと手を打たなかったのではとの批判もあった。
・『金融機関を破綻へ導いた3つの事由とは  なぜ平成前半の時代に、大手銀行までもが相次いで破綻するほど深刻な金融危機が起きてしまったのか。金融危機はマクロ的なものであるが、出発点にあるのはミクロの金融破綻である。それでは、大手銀行を中心とする破綻事由と問題を以下で具体的に見ていく 第1に経営者の問題、端的には「ワンマン経営」(同族経営も同様の問題)である。破綻した金融機関には、経営トップが長期にわたって務める、あるいは息のかかった後継者を中心に経営を固めるといった共通点がある。ワンマン経営で問題なのは、行内のコミュニケ―ション不足が進み、情報が均霑しなくなるということである。部下は意見具申を躊躇して指示待ち姿勢になり、経営トップは重要な意思決定を先送りした。こうした中で不良債権は著増した。 拓銀は、もともと大蔵省OBが頭取を務めていた、しかし1977年五味彰氏が生え抜き2人目の頭取になったことを皮切りに、1983年鈴木茂氏、1989年には山内宏氏といったプロパーの頭取が就任。長銀の杉浦敏介氏(日本勧業銀行、現みずほ銀行入行)は、1971年から1989年にかけて頭取、会長を務めた。日債銀は、1969年勝田龍夫氏(日本興業銀行、現みずほ銀行を経て入行)、1982年頴川史郎氏が頭取に就任。足利銀行の向江久夫氏(プロパー)は1978年から1997年にかけて頭取、会長を務めた。いずれもワンマン経営で知られた人物だ。 第2に、収益拡大のための「ボリューム指向」である。経営者のワンマンな手法も手伝って、ボリューム拡大の大号令をかけ、ノンバンク経由を含め、不動産向け融資拡大に傾注した。収益を増やすということは、リスクをとることであるが、右肩上がりの土地神話の下で不動産融資はリスクが低いものと考え、ボリュームを追求した。この結果が、不良債権の山である。 拓銀はもともと不動産向け融資に積極的とはいえない銀行であったが、業容は他の都銀に水をあけられる一方、地銀上位行の追い上げを受けていた。そこで1990年に策定した「たくぎん21世紀ビジョン」に沿って、悪名高きインキュベーター(企業成長・不動産開発支援)を積極的に推進した。 長銀、日債銀は、高度成長期に長期の設備資金等を供給するため、長期信用銀行法に基づき設立された。しかし、低成長期に入り、設備資金需要が後退、また証券市場の発達もあり、制度の歴史的使命は終わっていた。そこで両行は系列ノンバンクをも活用しつつ、不動産融資を拡大した。 足利銀行は元々堅実な銀行であったが、バブル期に系列ノンバンクも活用し、不動産融資を拡大した。 第3に「流動性の急速な枯渇」である。破綻した金融機関はバブル期に融資を大幅に拡大したが、ファンディングは金利が高く、大口の市場性預金等に依存する先も少なくなかった。このため、市場等で経営に関する悪評が立つと、資金繰りが急速に悪化した。外貨調達も厳しく、外貨資産を処分売りするしかなかった。流動性管理は、普段から経営トップが留意すべきテーマである。 拓銀は、1997年9月に北海道銀行との合併破談後、預金が道外を中心に流出した。11月4日に三洋証券がコール市場でデフォルトを起こすと、同行はコールの取り入れが困難化し、同14日準備預金の積み最終日に所要額を積めずに破綻した。 長銀は1998年10月住友信託銀行との合併話が破綻した後、資金繰りが悪化した。加えて、長銀処理の対応が、国会の場で堂々議論が行われたため、長銀の資金流出が加速し、同行の一時国有化に関する法案(金融再生法)が成立した11日後、ついに長銀は破綻した。そして2ヵ月後、日債銀も破綻、長銀と同じく一時国有化された。 足利銀行は1997年秋、取り付けにあっているが、一時国有化の際は、取り付けは発生しなかった。なお、同行は公認会計士から繰延税金資産の過大計上を指摘され、資本不足となって破綻した』、「長銀処理の対応が、国会の場で堂々議論が行われたため、長銀の資金流出が加速」、問題は「資金流出」よりも優良取引先が逃げ出したことで、資産内容が一気に悪化したことである。破綻処理にはスピードも重要なのに、「国会の場で堂々議論」というのは余りに稚拙な金融行政だった。。
・『「地価は右肩上がり」という土地神話こそ、金融危機の根本原因  では一方で、マクロ的に捉えた、金融機関を破綻へと導いた金融危機発生の根本原因は何だったのだろうか。 当時、金融当局は、日本では地価が右肩上がりという土地神話があり、もし地価が下落したとしても一時的で、いずれ戻ると考えていた。地価が戻れば、銀行収益も持ち直すので、銀行への公的資金投入は不要であると結論づけた。 だからこそ金融機関側も、地価はいずれ戻ると考え、不良債権処理を先送りしようとした。また、公的資金投入となると当局の経営への介入が強まるのではないかとして二の足を踏んだのだ。 こうした地価に対する情勢判断や将来への見通しの甘さと、それによる公的資金の投入の遅れが、金融危機を発生させた根本原因である』、ただ、金融機関にはもともとの収益力は高いので、時間をかければ自力で処理可能であったことも事実である。ただ、海外投資家の目がそうした悠長な処理を許さなくなったので、「公的資金の投入」で一挙に整理する必要が出てきたとみるべきだ。
・『平成の金融危機から学ぶ4つの教訓  このような国民生活の安寧を脅かすような金融危機は、今後二度と引き起こしてはならない。平成の金融危機から得られる教訓を、ここでは4つにまとめて記しておきたい。 第1に、地価をはじめとする経済事象については、正確な実態把握と的確な情勢判断および先行き見通しの策定が重要である。そのうえで意思決定を行うべきだ。 データを解析し、何が起きているかを判断し、その背景について検討を行う。次に予測が当たっていたかのチェックである。予測が外れた場合は原因を追求する。その過程で判断ミスの事実とその原因がわかる可能性が高い。 日本の地価については、地価神話は誤りであり、明らかにバブルであった。バブルはいつかは崩壊する。バブルの崩壊であれば、値戻しすること自体わからない。バブルでの値上がりは理屈がないので、上がった分はすベて下がると考えた方がよい(注5)。 地価の推移(リンク先参照) 第2に、有事に備え、対応策の準備をしておくこと。古今東西の研究は不可欠である。日本では昭和恐慌の際「昭和銀行」という受け皿銀行が設立されたほか、県が地元地方銀行に公的出資を行った(注6)。米国では大恐慌の際、FDIC(1933年、連邦預金保険公社―預金保険制度)、RFC(1932年、復興金融公社―公的出資)が設立された。こうした機能等は平成金融危機にすべて取り込まれ、活用された。 また有事対応として、シミュレーションが必要であるが、標準形のみならず、最悪のケースも想定しておくことが重要である。 第3に、行動である。問題先送りはサボタージュと観念する。変化の予兆を感じたら、行動を基本とする。これは、トップが判断することであるが、常日頃から情報、とくに都合の悪い情報がトップに伝わるよう、風通しの良い組織にすることが重要である。 第4に、アカウンタビリティ(説明責任)である。行動は国民、株主、市場等にタイムリーに説明される必要がある。それによって、関係方面の信頼を得られるようになるのだ(注7)。 (注5)地価(公示地価。大都市[東京、大阪、名古屋]圏、商業地)の動向を見ると、1986年から1991年にかけて大幅に上昇(これがバブル)した後、1992年以降2005年まで13年連続して下落した。2006年にようやく上昇に転じたが、2008年リ-マンショックの発生を機に再び下落に転じた。 (注6)群馬銀行、岩手銀行、宮崎銀行では、現在でも県関係の出資が残っている。 (注7)1990年代後半までは、金融機関の経営情報等(引き当て・償却をはじめとする決算、不良債権情報等)は大蔵省のルールに基づき、同省に報告、承認を受ける扱いであった。しかし金融庁が設立され、会計機構、会計基準が民間に移行し、決算承認・償却証明制度が廃止されるなど国民・市場ファーストのコーポレートガバナンス近代化が急速に進んだ』、現在では日本でも「最悪のケースも想定しておく」、ストレスチェックが一般化している。

第三に、本年4月24日付け現代ビジネスが掲載した大蔵省出身で嘉悦大学の高橋洋一教授と共同通信記者出身で名古屋外国語大学教授の小野一起氏の対談「大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」いまだからウラ話を明かそう!」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/71463?imp=0
・『かつて銀行員(バンカー)は花形の職業だった。中でも、大蔵省(現・財務省)との折衝を行うMOF担(モフタン)は、エリートバンカーの象徴としてもてはやされた。しかし、そんな銀行員と大蔵省当局との「癒着」が明るみに出たのが1990年代のノーパンしゃぶしゃぶ事件だ。逮捕者まで出す一大騒動に発展した同事件こそが、いまに続く銀行大波乱時代の幕開けとなったのだ。 いまや銀行不要論まで飛び出すまでになった現代、そもそも銀行はどうしてここまで「凋落」してしまったのか。その源流はこの事件にさかのぼることができるともいえる。そこで今回は、当時大蔵省に在籍した元大蔵官僚で、安倍晋三首相のブレーンとしても知られる嘉悦大学の高橋洋一教授と、新作小説『よこどり 小説メガバンク人事抗争』で、メガバンクの実像に独自の切り口で迫った小野一起氏が対談。知られざる「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」のウラ側とメガバンクの未来像を語り明かした――』、興味深そうだ。
・『向島で遊んでいた人たち  小野 日本の銀行史を振り返ると、1990年代後半にいよいよ不良債権問題が限界を迎えました。97年には北海道拓殖銀行が破綻、山一證券も自主廃業に追い込まれました。そして98年には日本長期信用銀行の経営破綻、一時国有化されることになりました。 高橋 私の感覚では、私が金融検査をした93年、94年の状況を考えると、よく拓銀や長銀が4年ももったなと感じます。もっと早く潰しとけば楽でした。公的資金の注入額も少なくて済んだはずです。 小野 やはり問題を先送りしたいという構造が、銀行、大蔵省、政治の中にあった。三者一体の先送り構造が、問題を深刻化させましたね。 高橋 不良債権については先送りの意識もあったでしょうが、大蔵省の幹部はただ単に理解不足だったと思います。そもそも私は繰り返し不良債権問題処理のために、銀行に引当金を積み増す必要があることをしっかり説明しましたけど、その当時の銀行局の幹部はちんぷんかんぷんな顔をしていました。 向島で銀行員と一緒に遊んでいるだけで、ちっとも勉強していなかった。せめて、遊んでいる合間に、少しぐらい勉強するのが普通だと思いますけどね。本当に遊んでいるだけだった(笑)。 小野 簡単に儲かるシステムが永続するという風に、銀行員も大蔵官僚も思い込んでいた。というか、思い込みたかったってことでしょうね。 高橋 銀行局の幹部のその後の役人人生はみんな不遇だよね。そりゃそうでしょ。遊んでいるだけだって、バレちゃったから』、「MOF担」は、銀行検査の日程や対象店舗を事前に入手したり、銀行不祥事を銀行局に報告したりするため、青天井に近い予算を使って、接待攻勢をかけるのが主な任務であった。「私が金融検査をした93年、94年の状況を考えると、よく拓銀や長銀が4年ももったなと感じます。もっと早く潰しとけば楽でした。公的資金の注入額も少なくて済んだはずです」、との高橋氏の述懐はその通りなのだろう。
・『ノーパンしゃぶしゃぶ事件の舞台裏  小野 ノーパンしゃぶしゃぶ事件と呼ばれた大蔵省を舞台とする接待事件が明るみに出たのは1998年です。東京地検特捜部に大蔵官僚らが逮捕され、当日の三塚博大蔵大臣や松下康雄日銀総裁が引責辞任する展開になりました。ここで、銀行と大蔵省の癒着構造が暴かれることになったわけです。 これがきっかけで、大蔵省から銀行と証券の関連業務が分離され、金融監督庁(現金融庁)ができ、大蔵省は財務省になりました。大きな転換点でしたね。 高橋 ノーパンしゃぶしゃぶ事件は、ある意味で傑作でした。大蔵省の内部調査で、銀行や証券会社と遊びまくっていた官僚の実態が明るみにでた。私は、接待にはあまり行かなかった方なんですよ。でも、その内部調査が本格的に始まると、いろんな先輩から電話がかかってきた。『高橋くん、何月何日だけど、俺たち、接待されたりしていないよね』って。 そういう確認の電話があった。でも、私からすれば行っただろ〜って(笑)。要は、内部調査に対して、接待されたって言わないでくれってことでしょう。おかしくなっちゃいましたよ。そもそも年中、接待されていた人が、まったく接待されていないっていうウソは無理があります。私が黙っていても、接待漬けにされていた人は内部調査でバレてしまいましたね。 小野 そう言えば証券局総務課の課長補佐の人も逮捕されました。彼は先生の……。 高橋 そうです。彼は私の後任です。 さすがに後任が逮捕されたのはびっくりしました。結局、私と何が違っていたかは興味がありましたね。なぜ、彼が逮捕されて、私はセーフだったのか。どこまで、やったら東京地検に逮捕されるのか。ちなみに彼は独身だった。だから、土日はずっとゴルフの接待を受けていた。その見返りに証券会社に様々な便宜を図ったってことになり収賂罪が成立しちゃった。 私はすでに結婚していました。そんなこともあって、接待の数が全然違うということだったらしい。でも独身だったら同じように接待漬けになっていた可能性もあった。そう考えると人生は、恐ろしいです』、高橋氏の「後任」は「独身だった。だから、土日はずっとゴルフの接待を受けていた。その見返りに証券会社に様々な便宜を図ったってことになり収賂罪が成立」、「人生は、恐ろしいです」、実感がこもった述懐だ。
・『接待の数と金額  小野 それは危なかったですね。省内調査を参考にしながら検察が、接待の数や金額なども考慮して、逮捕まで踏み切るかを判断していたということでしょうか。 高橋 その辺の特捜部の基準は、よく分からないですね。ただ、あの時は、特捜部の狙いは証券局長だと思われていた。だから彼は気楽な気持ちで特捜部に行って事情聴取を受けたのに、帰ってこなかった。『ちょっと行ってきます』って感じで、机の上もそのままだった。かなり衝撃的でしたよ。 小野 当時の証券局長って長野庬士さんですよね。 高橋 そうそう。特捜部は、長野さんを捕まえたいがために、部下の彼から事情を聴こうとした。当時は大蔵省内でそう受け止めた人が多かったですね。彼は総務課企画官なので、長野さんの予定を把握できる立場にあったから捜査線上に浮かんで、そのまま逮捕された可能性もあると思います。 小野 でも一方で、長野さんはスーパー優秀な大蔵官僚だったというイメージもあります。 高橋 それはその通り。長野さんは圧倒的にできる人でした。接待を受ける人って、実はできる人なんです。銀行や証券会社もできない人を接待しても意味がない。長野さんは、仕事をバンバンやる人だった。 小野 だから、97年に山一證券の自主廃業の際には、長野さんが中心になって問題を処理していましたね。 高橋 そうです。ただ、ちょっと別の角度から話をすると、証券会社の破綻処理は、預金がないから気楽といえば気楽なんですよ。証券会社を潰したところで、持っている株券を返せばいい。それだけなんです。株券などの顧客の資産は分別管理されていますから、株券が投資家に戻ってこないことはないです。 小野 それに対して銀行が破綻すると大変です。金融システムが揺らいでしまいますから』、「証券会社の破綻処理は、預金がないから気楽といえば気楽なんです」、その通りだろう。
・『銀行がつぶれるとどうなる…?  高橋 銀行が潰れると、決済が止まってしまう。企業や個人で資金のやり取りができなくなる可能性が出てくるわけです。これは、経済活動に影響が出ちゃう。それに、多くの企業が銀行から融資を受けている。日々の資金繰りを銀行からの融資に依存しているから、銀行の機能が停止してしまうとパニックが起こるわけです。 小野 企業の場合は健全な経営をしていていも、銀行が破綻した余波を受けて資金繰り破綻してしまうかもしれない。これは大変な問題です。 高橋 そうなんですよ。連鎖的に企業が潰れちゃう可能性があって、銀行が破綻する場合、政府はより慎重な対応が必要になります。 小野 政府は、金融システミックリスクを考えながら問題を処理しないといけない点に難しさがあります。 高橋 それはそうなんですが、あまりシステミックリスクって言い過ぎるのも問題ですよ。1つの銀行からしか融資を受けていないという企業はあまりありません。だから、多くの銀行が一気に潰れなければ案外大したことはない。 小野 そう言えば、北海道拓殖銀行は、公的資金注入もなく、国有化もなく、そのまま経営破綻してしまいました。 高橋 あれはひどかったですね。 小野 複数の銀行からお金を借りている企業が多いと言っても、北海道においては拓銀の存在感は非常に大きかった。拓銀が潰れたことが引き金となって北海道経済はしばらく低迷が続きました。 高橋 そんなこともあって、ゆっくり処理を進めたのかも知れません。私の感じだと、93年か94年に潰れてもまったく不思議ではなかった。北海道の銀行なのに関西の会社にまで融資をしていた。これはひどい状況でした。経営はガタガタですよ』、「拓銀が潰れたことが引き金となって北海道経済はしばらく低迷が続きました」、その通りだ。
・『金融ビッグバンの「本当の意味」  小野 この時期に不良債権問題が火を噴き、銀行や証券会社の経営が揺らぎ、接待汚職で大蔵省からは逮捕者まで出ました。その一方で1996年に橋本龍太郎首相は、「フリー、フェアー、グローバル」を標ぼうする金融ビッグバンを推進、思い切った金融の自由化に舵を切りました。 高橋 金融ビッグバンは、いずれはやらなければならなかった。金融の自由化を進めて、グローバルな基準に合わせないと日本経済は立ち行きません。ただ本音を言えば、こんなドタバタしている時に金融自由化を進めることもないだろうとも思っていました。 小野 当時、橋本龍太郎首相の秘書官をやっていた江田憲司(現衆議院議員)さんが主導していたという話を聞きました。接待問題で大蔵省が弱体化しているタイミングで、経産省主導で金融ビッグバンが導入された印象もありますね。 高橋 そういう側面もあったかも知れません。大蔵省は金融機関の経営問題で手いっぱいで、金融ビッグバンを考えている余裕はありませんでした。それを江田さんたちがうまく橋本首相を使って実現したという側面もあったでしょう。 小野 産業界からは、グローバルにビジネスをしていく中にあって金融機関の使い勝手を良くするために金融の自由化が求められえていた面もあります。一方で、こうした金融の自由化が銀行の合併などの再編を後押しする格好になりました。 高橋 金融機関のほうももう合併しないと生きていけなくなっていましたよ。あんまり余計なこと言わなくても自然に再編が進むしかなかったと思いますけどね』、「大蔵省は金融機関の経営問題で手いっぱいで、金融ビッグバンを考えている余裕はありませんでした。それを江田さんたちがうまく橋本首相を使って実現したという側面もあったでしょう」、あのタイミングでの「金融ビッグバン」が行われたことの説得力ある説明だ。
・『銀行の「生命維持装置」  小野 98年に、経営破綻した日本長期信用銀行の場合は、一時国有化され公的資金で債務超過の穴埋めをしました。その一方で翌年の99年には、まだ経営破綻していない多くの大手銀行に予防的に公的資金を注入、税金の力で銀行バランスシートの健全性を高める施策を打ちました。 高橋 それは拓銀の経験で、経営破綻は日本経済に与えるダメージが大きいことが学習されていたからでしょう。予防的に公的資金を注入して、銀行が経営破綻するリスクが軽減できるならそのほうが良いという判断ですね。 小野 2008年のアメリカのリーマン・ショックの時にも感じたのですが、結局リーマン・ブラザーズという巨大な証券会社を潰さないとアメリカでも金融機関に公的資金を入れるのは難しかった。なぜ巨大な銀行や証券会社だけが政府に救済してもらえるのかという国民の不満を抑えるのは、政治的には難しいですよ。リーマン・ブラザースが潰れて世界的な経済危機が起きて、『金融機関は公的資金で救済しないと、国民の生活も大変なことになる』という学習と理解がないと金融機関に公的資金はなかなか注入できません。 そういう意味では拓銀や長銀が破綻して大変なことになったという認識があって初めて、その他の大手行に公的資金を注入できたという印象があります。 高橋 率直に拓銀と長銀は潰しやすかったですね。93年か94年の私の資産査定では、すでに破綻状態でしたから。生命維持装置外せば終わるというわかりやすい世界です。  小野 生命維持装置を外して長銀を潰すことで、金融システミックリスクが起こると大変なことになると世論を説得することができたわけですね。 高橋 長銀は長期信用銀行って独特な銀行で、普通の商業銀行とは違うからシステミックリスクは実は大きくないんですよ。長期信用銀行の預金口座で決済している企業もそう多くはなかったと思います。それに長期信用銀行は日本に特有な銀行で、制度的に長く存続できる金融機関でなかったのです。 というのも5年の利金債で調達して、それよりさらに長い期間の貸し出しを企業にしていた銀行なんですよ。こんな銀行は、日本にしかない。金融自由化の中ではとてもじゃないが生き残れない仕組みでした』、「長期信用銀行は日本に特有な銀行で、制度的に長く存続できる金融機関でなかった」、同感である。
・『銀行ビジネスはどんどん細っていく  高橋 実際、理財局時代に私は『長期信用銀行はいずれなくなります』と理財局の幹部に言いました。幹部は目を白黒させていましたがね。 でも、いま歴史を振り返れば長銀も日債銀も潰れたし、興銀も合併してみずほフィナンシャルグループになって、長期信用銀行をやめた。やはり無理だったんですよ。大蔵省は興銀にだけは政府保証債の主幹事で圧倒的な独占的地位を与えていたから、少し長く生き延びられたけれど、長銀と日債銀はあっという間に潰れました。 小野 僕は1989年に社会に出ましたが、その時は興銀や長銀はトップクラスの人気でした。普通の銀行やメーカーに就職する連中とは違うというプライドを持っていましたね。 高橋 長信銀に関わる話で私が大蔵省の中で、褒められた話があるんです。大蔵省は財政投融資の資金でずっと長信銀が出している金融債を買っていたんです。ただ、私が理財局にいる時、この金融債を投資先から外したんです。 あのまま金融債に投資していたら長銀と日債銀が破綻した時に、政府は大きな損失を抱えることになりました。そうなっていたら、大蔵省は相当格好悪かったと思いますよ。 小野 考えてみると社債のようなものを銀行が出して企業に融資をするならば、企業が直接社債を出して資金調達すれば良いという話になりますよね。 高橋 その通りです。金融機関というのは、企業と市場や預金者の間に入って儲けるのが基本です。でも、これは市場化が進むと基本的には儲からなくなりますよ。ビジネスとして成立しなくなる。 小野 インターネットで情報が公開されて、情報の非対称性がなくなり、市場の高度化が進めばどんどんビジネスが細っていきますね。 高橋 そうです。だから、間に入って鞘を抜いて儲ける仲介ビジネスは、いずれできなくなりますよ。これは金融に限ったことではありません、これは、今日のキーワードですね』、「高橋氏」が「私が理財局にいる時、この金融債を投資先から外した」、とは先見の明がある。
・『「3メガバンク」だって安泰ではない  小野 銀行でいえば、かつては金利や店舗が規制された世界で確実に儲けられる仕組みがあった。それが、どんどん規制が外れていくプロセスで、利益が細っているわけですね。 高橋 長信銀がなぜ滅びたのかをきちんと理解すれば、これから中抜きがどんどん進むことを予測できなければいけない。あと銀行の人たちは不良債権問題で危機に陥った時、もっと知恵を出して、どうやって付加価値を生み出すかを考えないといけなかった。私にはいまの銀行員はさぼっているように見えます。 小野 ただ、大手銀行の再編がガーッと進みました。かつては大手20行体制でしたが、今や3大メガバンクとりそなグループ、それに三井住友信託の体制になりました。 高橋 3大メガバンクの体制も危ういと私は思っていますよ。 間に入って鞘を抜いているビジネスをしている限り、これから大変です。それから小野さんの出身業界のマスコミも、同じでしょう。インターネットを通じて、いろんな人が情報発信している。それで新聞や雑誌が売れなくなるのと一緒じゃないですか。 小野 それはその通りです。面白ものを作って、付加価値を生まなければ、マスコミも中抜きされて、将来を描けなくなるでしょうね』、「間に入って鞘を抜いているビジネス」には将来性がないというのは同感だ。「付加価値」をどうつけてゆくのかの勝負のようだ。
タグ:高橋洋一 江上 剛 yahooニュース バブル崩壊 ダイヤモンド・オンライン 現代ビジネス (日本の銀行に未来はあるのか――バブル崩壊からポスト平成へ 30年を振り返る、平成金融危機で大手銀行が破綻した3つの理由 元日銀幹部が語る、大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」いまだからウラ話を明かそう!) 「日本の銀行に未来はあるのか――バブル崩壊からポスト平成へ、30年を振り返る」 売った買ったというだけで、数億円の儲け まだ多くの人は、それが破裂するような「バブル(泡)」だとは思っていない 「住友銀行」による「融資部門と営業部門を一体化」が「バブルの始まり」 「これはもうあかん」 相次ぐ金融機関の破綻 本当に銀行は社会的使命を担っていたかと問われると疑問があります 効率化で利益を出すように 奉加帳を回した」「1兆円の増資」 金融政策の出口戦略がない 当時の金融庁長官はスルガ銀行を持ち上げるような発言 金融の新潮流と銀行の未来 銀行に倫理や哲学は大事で、それが業務に反映されることが銀行の存在意義につながっていく 和田哲郎 「平成金融危機で大手銀行が破綻した3つの理由、元日銀幹部が語る」 180もの金融機関が破綻 平成金融危機で何が起きていたか 「拓銀」は、そうした破綻法制が何もないなかでの破綻処理だっただけに、大混乱を招いた 金融機関を破綻へ導いた3つの事由とは 第1に経営者の問題、端的には「ワンマン経営」 長銀処理の対応が、国会の場で堂々議論が行われたため、長銀の資金流出が加速」、問題は「資金流出」よりも優良取引先が逃げ出したことで、資産内容が一気に悪化したことである 「地価は右肩上がり」という土地神話こそ、金融危機の根本原因 平成の金融危機から学ぶ4つの教訓 ストレスチェックが一般化 小野一起氏 「大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」いまだからウラ話を明かそう!」 向島で遊んでいた人たち 向島で銀行員と一緒に遊んでいるだけで、ちっとも勉強していなかった 私が金融検査をした93年、94年の状況を考えると、よく拓銀や長銀が4年ももったなと感じます。もっと早く潰しとけば楽でした。公的資金の注入額も少なくて済んだはずです ノーパンしゃぶしゃぶ事件の舞台裏 「後任」は「独身だった。だから、土日はずっとゴルフの接待を受けていた。その見返りに証券会社に様々な便宜を図ったってことになり収賂罪が成立」 「人生は、恐ろしいです」 接待の数と金額 銀行がつぶれるとどうなる…? 拓銀が潰れたことが引き金となって北海道経済はしばらく低迷が続きました 金融ビッグバンの「本当の意味」 大蔵省は金融機関の経営問題で手いっぱいで、金融ビッグバンを考えている余裕はありませんでした。それを江田さんたちがうまく橋本首相を使って実現したという側面もあったでしょう 銀行の「生命維持装置」 銀行ビジネスはどんどん細っていく 私が理財局にいる時、この金融債を投資先から外した 「3メガバンク」だって安泰ではない
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米中経済戦争(その13)(米国か中国か 究極の踏み絵を迫られる金融機関 対中金融制裁法成立で米中経済圏は完全に分離へ、米中対立が先鋭化する中で 日本が絶対に失敗してはいけない対応とは、習近平のオウンゴールで 中国の「経済」と「先端技術」が後退する…! むしろ米中対立の「歩留まり」に留意を) [世界情勢]

米中経済戦争については、8月2日に取上げた。今日は、(その13)(米国か中国か 究極の踏み絵を迫られる金融機関 対中金融制裁法成立で米中経済圏は完全に分離へ、米中対立が先鋭化する中で 日本が絶対に失敗してはいけない対応とは、習近平のオウンゴールで 中国の「経済」と「先端技術」が後退する…! むしろ米中対立の「歩留まり」に留意を)である。

先ずは、8月6日付けJBPressが新潮社フォーサイト記事を転載した共同通信社特別編集委員の杉田弘毅氏による「米国か中国か、究極の踏み絵を迫られる金融機関 対中金融制裁法成立で米中経済圏は完全に分離へ」を紹介しよう。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61545
・『「予想より厳しい内容」(欧州大手銀行幹部) 「こんなに早く制裁法ができるとは思わなかった」(米上院スタッフ) そんな驚きを呼んでいるのが、米国の対中金融制裁法「香港自治法」である。米中関係のプロたちの反応からは、先端技術に加えて、通貨の面でも米中切り離し(デカップリング)が急速に進むのではないか、という憶測が浮上する。 香港自治法は7月14日にドナルド・トランプ米大統領が署名し、成立した。しかし、この法ができあがった背景やもたらす意味は、まだ十分理解されていない。あらためて法の成立の裏舞台や今後予想されるインパクトを考えてみたい』、「香港自治法」「成立の裏舞台や今後予想されるインパクト」、とは興味深そうだ。
・『ドル決済の禁止は国際企業への死刑宣告  香港自治法は2つの段階からなる。第1段階は、「一国二制度」で認められた香港の自由や自治を侵害した人物や団体に制裁を科すこと。第2段階は、そうした個人法人と取引がある金融機関を、米ドルの決済システムから締め出す、というものだ。 個人や団体への制裁は、米国入国ビザの発給停止と、米国内にある資産の凍結である。これは米国と敵対する国の指導者や高官、軍関係者に対するよくある制裁であり、国務省が90日以内に制裁対象者リストをつくる。中国政府幹部は米国に不動産などの資産を持ち、子女を米国に留学させているから、これだけでも発動されれば痛いはずだ。 香港に対する強硬措置を指揮してきた韓正副首相(香港担当)、香港政府トップの林鄭月娥行政長官、クリス・タン香港警察処長らが国務省リスト案に入っていると報じられた。もちろん香港政策のトップは習近平国家主席だが、それは米国による本格的な宣戦布告となるから、まだ入っていない。 さて問題は、金融機関をドル決済から締め出す第2段階の制裁だ。 国務省が制裁対象者リストを最終作成した後30日から60日以内に、財務省が制裁対象者と「かなりの額の送金」業務を行った金融機関を、制裁対象と決める。 その制裁内容だが、米金融機関からの融資・米国債の入札・外国為替取引・貿易決済の禁止、資産の移動禁止、商品・ソフトウエア・技術の輸出制限、幹部の国外追放――などである。特に外国為替取引、貿易決済の禁止はドル決済を禁じるものであり、ドル金融システムからの追放を意味する。 ドル決済は、ニューヨーク連邦準備銀行など米国の金融機関を通過することから米国の管轄権の下にあるため、どこの国の銀行であろうとも、米法の適用を受ける。 だからドル決済の禁止は、基軸通貨ドルが持つ力をフルに発揮した制裁だ。しかもドル決済は依然世界の貿易・投資の大半を占めるから、その禁止は国際企業にとって「死刑宣告」でもある。 こうしたドル制裁を米国は、北朝鮮、イランやベネズエラなどに対して発動してきたが、中国のような世界第2の経済大国の取引に関連して発動するのは初めてだ。米国が中国に対して、「ルビコンの川」を渡ったことがよくわかる』、「ドル決済は依然世界の貿易・投資の大半を占めるから、その禁止は国際企業にとって「死刑宣告」でもある」、「ドル制裁を」「中国のような世界第2の経済大国の取引に関連して発動するのは初めて」、ずいぶん思い切った措置発動だ。
・『洗い出し作業を怠ると途方もないツケが  香港自治法が定める金融制裁には注意点がいくつかある。 まずは制裁対象となるのが、米中だけでなく日本を含めて世界中の金融機関であることだ。香港はアジアの金融センターであり中国マネーの窓口だから、名の知れた銀行は事業を展開している。 このためこの法が議会を通過した7月2日以降これらの銀行は、顧客の中に制裁対象、つまり香港の民主化運動を弾圧した当事者がいるかどうか、いる場合には預金や送金などのビジネスを打ち切るべきかの検討を始めた。 制裁対象者が家族の名前や代理人を使って銀行に預金を持っている可能性もあるから、疑惑の完全払拭は気の遠くなるような作業となる。この洗い出し作業は、日本の金融機関も例外なく進めなければならない。 かつて『ニューヨーク・タイムズ』は、温家宝前首相一族による27億ドルの蓄財を報じたことがあるが、預け先は中国の銀行だけでなく外国の金融機関の場合も多い。 洗い出し作業を怠ると、そのツケは途方もない。 かつてイランに送金業務を行った欧州最大手「BNPパリバ銀行」が米制裁法違反をとがめられ、89億7360万ドルもの罰金を米国に支払った。ほかにも英「スタンダードチャータード」が16億7900万ドル、英「HSBC」が19億ドルなど、法外な罰金や和解金を米当局に支払っている。日本のメガバンクも摘発され、巨額を支払った』、「この洗い出し作業は、日本の金融機関も例外なく進めなければならない」、これは金融機関にとっては、膨大な負担だ。
・『米国か中国か、究極の踏み絵を迫られる  次に、制裁が米国の恣意性を帯びる点だ。 香港自治法が問題視する「かなりの額の送金」とは、どれほどの金額だろうか。米財務省の金融制裁担当部署である外国資産管理室(OFAC)は、「かなりの額の送金」について、量、頻度、性格、銀行幹部が知っていたかどうか、制裁逃れを狙った隠蔽性があるかどうかなどで判断するという。だがどれも抽象的な表現であり、米政府のさじ加減次第となる。 3つ目の注意点は、米国の香港自治法と中国が6月30日に施行した香港国家安全維持法の両法を守る事業展開が不可能である、という点だ。 米国の制裁を回避するために中国当局者との金融取引を停止すれば、それは香港国家安全維持法が禁止する「外国勢力との結託」による反中国行為となってしまい、今度は中国当局に訴追される。 米国の香港自治法も中国の香港国家安全維持法も、違反すれば外国人であっても罰すると定めている。ということは、金融機関は香港や中国ビジネスから撤退するか、あるいはドル決済システムからの締め出しを覚悟して中国と取引を続けるという、究極の踏み絵を迫られることになるのだ」、これは大変だ。特に、米国籍のHSBCは「香港」での発券銀行として大きな存在感があるので、どちらを選択するか大いに注目される。
・『11月までには制裁が発動される可能性  4点目は予想より早い制定であることだ。 米議会は昨年11月、香港の民主化運動弾圧の当局者に資産凍結の制裁を科す「香港人権・民主主義法」を成立させた。 だが、中国による国家安全維持法が予想より早く施行され、中国の強硬姿勢が露わになったことから、米国も金融制裁という強力な武器を急いで使わざるを得なくなった。今後は、いつ第1段階の個人・団体に対する制裁、そして第2段階の金融機関に対する制裁が始まるかが焦点となるが、米国の制裁専門家は「予想より早いだろう」と見る。 参考になるのは、米国のウイグル人権法による制裁発動だ。ウイグル人権法は、中国が新疆ウイグル自治区で100万人以上のイスラム教徒を強制収容するなどの人権弾圧を行っているとして、資産凍結や米国入国拒否の制裁を定めたものだ。 この法律は今年5月末に議会を通過、6月17日にトランプ大統領が署名し成立した。その3週間後の7月9日には、自治区トップの陳全国共産党委員会書記らに対し制裁を発動している。スピード感がある。 香港では9月に、議会である立法会の選挙がある。民主派の候補者はあらかじめ立候補資格を認められない可能性があり、その時が制裁発動の1つのタイミングであろう。 また11月3日の大統領選を前に、トランプ大統領は新型コロナ被害に憤る米国民にアピールするためにも、対中強硬策に踏み切る必要がある。11月までには制裁が発動される可能性があるとみておいた方がよさそうだ』、「11月までには制裁が発動される可能性がある」、ということであれば、「大統領選」の結果を待つという戦略も通用しそうもなさそうだ。
・『議会に尻を叩かれた大統領  そして5点目は、議会が主導したことだ。提案者のクリス・バンホーレン上院議員は、「ホワイトハウスは香港問題に極めて生ぬるいのでこの法をつくった」と述べている。 ジョン・ボルトン前国家安全保障問題担当補佐官が回顧録で明らかにしたように、トランプ大統領は香港のデモについて「私は関わりたくない」と述べ、関心は薄かった。このため、議会がホワイトハウスの尻を叩くために立ち上がったという構図だ。 香港自治法は、上下両院とも全会一致で可決し、議会の総意としてつくった法だ。条文には、大統領が制裁見送りを決めても議会が3分の2の賛成で決議を可決すれば、見送り決定は覆されるとある。また、国務省リストに1年間、財務省リストに2年間掲載されれば、制裁が自動的に科される。 こうした法の厳格さを見れば、トランプ大統領が再選に失敗し、ジョー・バイデン政権が誕生しても、中国に対する金融制裁などの強硬策は変わらないと覚悟すべきだろう』、「バイデン政権が誕生しても、中国に対する金融制裁などの強硬策は変わらないと覚悟すべき」、HSBCだけでなく、多くの西側金融機関にとって、「中国」ビジネスは大きなメシの種になっていたがけに、頭が痛い問題だ。
・『ウイン・ウイン通用せず  ここ数カ月の米国による対中政策は、異なる次元に入った。 7月13日にはマイク・ポンペオ米国務長官が、中国の南シナ海での行動を「完全に違法」と踏み込んで宣言し、ベトナム、フィリピンなどの肩を持った。米国は、南シナ海の軍事拠点化を進める中国を批判しつつも、領有権については特定の立場を取らずに当事者間の話し合いでの解決を主張してきたが、それを転換したのだ。中国が「譲れない核心的利益」とする南シナ海での主権を明確に切り捨てたのだから、中国は猛反発だ。 ほかにも習近平主席への「全体主義の信奉者」との個人攻撃、ヒューストンにある中国領事館閉鎖命令などで、中国の神経を逆なでしている。「華為技術(ファーウェイ)」包囲網もさらに締め上げている。昨年5月に同社を安全保障上のブラックリストであるエンティティー・リストに指定した米商務省は、1年後の今年5月15日には、米国由来の半導体技術を外国企業がファーウェイに輸出することも禁止した。 8月からは国防権限法に基づき、ファーウェイや「ZTE」、「ハイクビジョン」など5社と取引がある外国企業を米政府調達から締め出すことが始まる。 米国は同盟国への圧力も強め、英国がファーウェイの排除を決めるなど、米英カナダ、オーストラリア、ニュージーランドによる機密情報共有の枠組み「ファイブ・アイズ」+日本・インドの連携で、中国先端技術企業をデカップル(切り離し)する動きが着々と進んでいる。 もちろんグローバル経済の中で米中デカップルなど果たして可能か、といった疑問がわく。またドイツやロシアなど大陸欧州の実力国家は米国に同調しないだろう。 しかし、今年5月に発表された米国家安全保障会議(NSC)の戦略文書「米国の対中戦略アプローチ」は、米中関係を「体制間競争」と定義している。これは経済、軍事、技術などだけでなく、政治体制(民主主義か強権主義か)や価値観を含む全面的な対立に米国がゲームを格上げしたことを意味する。香港やウイグル問題など、中国の内政問題を正面から取り上げる理由はそこにある。 こうなると、中国が好んできた「ウイン・ウイン」、つまり両者の主張の真ん中で決着させるというルールは通用しない。「デカップルはあり得ない」といった国際経済の常識が通用しない時代であるとの認識が必要になる』、「ドイツやロシアなど大陸欧州の実力国家は米国に同調しないだろう」、とはいっても、米国は「踏み絵」を迫る筈で、どこまで抵抗できるかは疑問だ。
・『「米中」2つの経済圏ができあがる  制裁は、いったん始まると解除が難しい。中国は香港をかつてのような自由都市に戻すことなどしないだろう。そうなると米国の対中制裁は半永久的に続くことになる。中国も米国の対中強硬派議員らに制裁を科しており、米中の制裁合戦は終わりそうにない。 中国も半導体技術の国産化やデジタル人民元の導入準備の本格化など、米国による先端技術やドル制裁に備えている。それはファイブ・アイズを中心とする米国の海洋国家圏域に対して、中国はユーラシア大陸に広がる「一帯一路」を圏域にする動きと平仄が合う。そうなると、ドルを基軸とする米経済圏と人民元の中国経済圏ができあがることになる。 米国の金融制裁が、そんな近未来の秩序づくりのキックオフとなるかもしれない』、「「米中」2つの経済圏ができあがる」、金融市場のグローバル化も一時の夢だったのだろうか。

次に、8月18日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した法政大学大学院教授の真壁昭夫氏による「米中対立が先鋭化する中で、日本が絶対に失敗してはいけない対応とは」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/246088
・『先鋭化している米中の対立  ここへ来て、日増しに米中の対立が先鋭化している。11月の大統領選挙を控えたトランプ政権は、香港の人権問題や南シナ海の領海問題、5G通信などのIT先端分野で中国への圧力を高めている。 米国の厳しい対中政策に引っ張られる格好で、日英豪などが中国に対する懸念を表明した。5G通信インフラの整備から、中国のファーウェイ製品を排除する国も増えている。米国の圧力に対して中国は報復措置などで応酬し、世界の2大国のパワーのぶつかり合いが鮮明化している。 米国が対中強硬姿勢を強める背景には、共和党保守派を中心にオバマ前政権が中国の台頭を許した反省や批判がある。リーマンショック直後に発足したオバマ政権は、経済運営に注力せざるを得なかった。その間隙(かんげき)を縫って中国は海洋進出を強化し、一方的に南シナ海の領有権を主張するに至った。 さらに、広大な人民元流通圏の整備プロジェクトである“一帯一路(21世紀のシルクロード経済圏構想)”を推進した。 それが覇権国・米国の地位を脅かしている。 足元、経済成長の限界や新型コロナウイルスの発生によって、それまで盤石にみえた習近平国家主席の支配基盤はやや不安定化しているようだ。米国をはじめとする自由主義陣営からの圧力に対して、共産党指導部は強く対応しなければならず、これから米中の摩擦はさらに激化するだろう。日本は、米国との関係に加えてアジア・欧州各国との連携を強化して米中の対立に対応することが必要になるはずだ』、「オバマ前政権が中国の台頭を許した反省や批判がある」、同感である。
・『オバマ前政権の対中政策を批判する米保守派  近年、米国の共和党保守派は、先述したようにオバマ前政権が中国の力を見誤り、米国の地位が脅かされていると懸念を強めてきた。就任当初のオバマ氏は、どちらかといえば中国との協調を重視した。その背景には、米国経済の立て直しのために中国との関係を安定させ経済の安定につなげる意図があっただろう。結果的に、オバマ政権は中国の台頭を許すことになった。 リーマンショック後、中国は投資によって経済成長を人為的に高め、世界第2位の経済大国にのし上がった。中国は公共事業などで景気を支えつつ“中国製造2025”の下で人工知能(AI)などIT先端分野の競争力を高めた。また、中国は軍備を拡張しアジアやアフリカ地域の新興国に関係強化を求め、国際社会への影響力を強めた。 米国の保守派はその状況に危機感を強めた。彼らにとって、トランプ大統領が中国に対する強硬姿勢をとったことは重要だ。それが、岩盤のようなトランプ大統領の支持につながっている。保守派にとってオバマ前大統領の対中政策の「負の遺産」を取り除けるのはトランプ氏以外に見当たらないというのが本音だろう。 その一つの取り組みとして、トランプ大統領は中国のSNSへの規制を強化している。2017年に中国は国家情報法を制定し、個人や企業は国家の情報活動に協力しなければならない。香港の民主活動家がSNSを通じて海外と結託したとの理由で逮捕され、新疆ウイグル自治区では公安当局が監視カメラ網を用いて人々の行動を監視し、拘束している。 中国のIT機器、アプリの使用は米国にとって安全保障にかかわる問題であり、トランプ政権は中国の“ティックトック”や“ウィーチャット”との取り引きを禁じる方針だ。 実際に中国のアプリなどが米国から締め出されると、米国企業にはかなりの影響が生じる。 典型例はアップルだろう。アップルストアから中国企業のアプリが除外されればiPhoneへの需要は低下するだろう。そのほかにも、中国が米国企業の活動に制裁を科す、あるいは反米感情の高まりからiPhoneなどの販売に下押し圧力がかかることも想定される』、「“ティックトック”」は米国オペレーションの売却を迫られている。
・『国際社会が懸念表明を始めた中国の人権問題  そうした負の影響が想定されるにもかかわらず、米国が対中圧力を強めていることは冷静に考える必要がある。人々の自由を尊重してきた米国にとって、中国が人々の自由への渇望を力ずくで抑えていることは容認できない。 日英などの主要先進国も中国への懸念を表明し、国際社会における対中世論は変化し始めた。それは、自由主義陣営と、それに対する国家主義の強化に邁進する中国との軋轢(あつれき)が高まっていることにほかならない。 米国が懸念しているのは、漢民族による支配を重視する中国の価値観が他国に広がることだろう。香港、チベット、新疆ウイグル自治区などでの人権抑圧は国際社会からの非難を浴びている。それでも、中国共産党政権は強制的に人々を従わせようとしている。それは、経済成長の限界を迎えた上に新型コロナウイルスが発生したことによって、共産党政権の支配体制がやや不安定になったことを示唆しているといえるだろう。習近平国家主席は、米国に強硬な姿勢で応じざるを得なくなっている。 懸念されるのは、アジアやアフリカ各国における中国の影響力が拡大したことだ。コロナショックの発生によって世界経済は低迷し、パキスタンやアフリカ諸国が中国に債務の減免を求めている。中国もそれに応じる意向を示しているが、実際に返済期間の延長などが約束されるとなれば、中国は支援と見返りに各国にこれまで以上の服従を求めるだろう。その結果として、中国がアジアやアフリカ地域への影響力を追加的に強め、当該国の資源や個人情報などのデータを手に入れる展開は軽視できない。 仮に中国の影響力が強まれば、中国国内だけでなくアジア・アフリカ地域では人々の不平・不満が高まり、政情が不安定化することもあるだろう。そうなると、世界経済全体の安定にはかなりのマイナス影響がある。それに加えて、米国が中国の行動を放置したとの批判が高まり、米国の優位性がこれまで以上に不安定化する可能性も軽視できない』、「パキスタンやアフリカ諸国が中国に債務の減免を求めている・・・実際に返済期間の延長などが約束されるとなれば、中国は支援と見返りに各国にこれまで以上の服従を求めるだろう。その結果として、中国がアジアやアフリカ地域への影響力を追加的に強め・・・アジア・アフリカ地域では人々の不平・不満が高まり、政情が不安定化することもあるだろう。そうなると、世界経済全体の安定にはかなりのマイナス影響がある」、恐ろしいような悪影響だ。
・『熱を帯びる米中の対立構造  今後、米国を中心とする自由主義陣営と、共産党の一党独裁体制の維持と強化を目指す中国の激突は一段と苛烈(かれつ)なものとなる可能性がある。米国は、中国の影響力の拡大を何とかして食い止めたいと考えているはずだ。 当面、中国の共産党指導部は、国内支配と海外への影響力拡大のために米国に対抗せざるを得ない。米国は技術やソフトウェア面で中国を抑えようとしているが、中国のAI開発力は世界トップクラスだ。共産党政権は、公共事業の積み増しや補助金政策によって当面の景気を支えつつ、先端分野の競争力を引き上げることによって米国の圧力を跳ね返そうとするだろう。それは共産党の求心力の維持と社会監視の強化にも重要だ。 わが国は、米中の対立先鋭化に対応しなければならない。わが国は中国の人権抑圧を容認してはならず、民主主義国家として人々の自由を尊重する姿勢を明確にしなければならない。 その上でわが国は、安全保障面では米国との関係を基礎としつつ、そのほかの外交面ではEUやアジア新興国などとの関係を強化する必要がある。それは、数の面から対中包囲網を形成することにつながる。 足元、アセアン各国は中国への不安を強めている。世界経済のダイナミズムの源泉として期待を集めるアジア新興国とわが国が関係を強化することは、トランプ政権との通商摩擦などに直面するEUとの連携強化に有効だ。わが国がアジア各国やEUとの経済連携を推進することは、経済面から対中包囲網を整備することにつながる。また、わが国が米国に対して主要国との連携の重要性を説き、国際社会の安定に向けた協力を求めるためにも、そうした国際連携は強化されるべきだ。 それによってわが国は、多数決のロジックに基づいて中国により公正な姿勢を求め、経済的な利得を目指すことができるだろう。さまざまな懸念や問題があるものの、中国が世界最大の消費国であることは無視できない。 わが国は国際世論を味方につけながら、是々非々で自国の立場を確立しなければならない時を迎えている』、その通りだが、気になるのは、「習近平」主席の国賓訪日について、自民党外交部会は中止を申し入れたが、政府としてはいまだに見解を明らかにしていないことだ。やはり政府としても、招待取消しを上手い大義名分で申し入れるるべきだろう。

第三に、8月21日付け現代ビジネスが掲載した元外交官・外交評論家の河東 哲夫氏による「習近平のオウンゴールで、中国の「経済」と「先端技術」が後退する…! むしろ米中対立の「歩留まり」に留意を」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74995?imp=0
・『米中対立が、高まっている。トランプは、中国ByteDance社が米国で展開するビデオ・プラットフォームのTikTokは、情報を中国に転送するから危険だとして、米企業への売却を促すとともに、ByteDanceは売却代金の一部を米国庫に納めるべきだと言明している。 このままでは米中は、貿易・投資・技術面で、相手国企業の接収など仁義なき戦いに至りかねない。現代の国際社会に土足で上がり込もうとする感のある中国を抑えるのは賛成だが、抑えて抑えきれるものだろうか? 筆者は、経済関係を断絶する必要は毛頭ないが、けじめをつけて、絞るべきところはきちんと絞る。それは可能だ、と思う。検証してみよう』、「ByteDanceは売却代金の一部を米国庫に納めるべき」、ここまでくると近代国家にあるまじき不当な要求だ。
・『米国はどこまで本気なのか?  中国との対立は、米国の総意になっていない。 もともとオバマ政権時代には南シナ海におめおめ人工島=軍事拠点を作らせてしまったし、尖閣防衛についてもへっぴり腰だった。 トランプが中国叩きを続けるのは、「中国製品に米市場を奪われ、職も失った」と感じている中西部の白人労働者向けのサービスだ。彼は中国の危険性などは認識しておらず、自分の再選に中国叩きを使うことしか考えていない。 今、彼の一部側近、そして軍は、トランプの中国叩きに乗じて、軍事・技術・資金等あらゆる面で中国を封じ込めようとしているが、トランプは再選されれば中国と握手することだろう。バイデンが当選しても、中国との過度の対立にはブレーキがかけられ、気候変動、核拡散防止などの問題の方に注意が向けられることだろう。 つまり米国の尻馬に乗って中国を叩くのは程々にしておかないと、はしごを外されることになる、ということだ』、「トランプは再選されれば中国と握手することだろう。バイデンが当選しても、中国との過度の対立にはブレーキがかけられ、気候変動、核拡散防止などの問題の方に注意が向けられることだろう。 つまり米国の尻馬に乗って中国を叩くのは程々にしておかないと、はしごを外されることになる」、元外交官らしい深い読みだ。
・『とりあえず米国が狙っていること  中国は既に世界2位のGDPを持つ。中国に行くと、その高層ビルの数に圧倒される。中国の貿易量は世界2位で、日本にとっても中国は輸出相手として2番目だ。この中国を世界から切り離せるのか?  昔、共産主義ソ連を作った革命家レーニンはうそぶいたことがある。「見てろ。資本家の連中は今に自分達を絞首刑にするための縄を、俺達に売りにやってくるよ」と。 西側はソ連に対して「縄を売る」ことはなかったが、中国に対しては1990年代後半から資本と技術をつぎ込み、中国の低賃金労働者に自社製品を組み立てさせ、それを自分達が輸入するやり方を大々的に続けた。 外国企業による輸出は今でも中国の輸出全体の40%程度を占め、2018年でも年間3518億ドルもの貿易黒字を中国にもたらしている。 2000年代にはこの貿易黒字と直接投資合わせて、年間30兆円分を越える外国資本が中国に流入して、中国の急成長のシード・マネーとなった。 中国共産党は、国民の低賃金労働と外国の資金・技術に乗って、今や世界中の先端技術企業の買い占めをもくろみ、軍を強化しては周辺への拡張戦略に出ているのである。西側は、自分達をつるすための縄を中国に売ってきたのだ。 今、米国や西側諸国は中国との関係をすべて切るのではなく、「絞首刑の縄」、つまり自分たちの安全を脅かすようなものは渡さないことに注力している。 米国は中国企業に国内の通信インフラを牛耳られるのを防ぐためにZTE社、ファーウェイ等を閉め出したし、半導体を中心に軍事転用可能な先端技術の対中流出を止めようとしている』、「米国や西側諸国は中国との関係をすべて切るのではなく、「絞首刑の縄」、つまり自分たちの安全を脅かすようなものは渡さないことに注力している」、面白い捉え方だ。
・『中国半導体産業の脆弱な足元  焦点は「半導体」と言うか、センサー等個々の目的を持ったマイクロ・プロセッサー=超小型回路、それも最先端の性能を備えたもの、そしてこれを製造することのできる機械にある。半導体は、現代の産業のコメと言われるもので、多くの製品、そして兵器の性能、競争力を左右するが、中国はまさにこの分野でまだ後れているからだ。 半導体は千差万別、そしてそれを製造する工程は何段階にも及び、それぞれの段階でいくつもの種類の機械が必要である。 それぞれの半導体については、パソコンのプロセッサーがインテル、スマホのものが米国のクアルコム、英国のアーム、自動運転などに不可欠の「目」センサーはソニー、工場のAI化に不可欠なセンサー・システムについてはボッシュ、キーエンス等々、そして半導体製造機械では米国のアプライド・マテリアルズ、オランダのASML、日本の東京エレクトロン等、圧倒的なシェアを持つ企業が、世界で既に確立している。 クアルコムやキーエンスは自分の工場を持たず、他社に生産を委託しているが、そうした電子製品の生産を受託する企業は台湾で発達しており、ホンハイ(アップル社の製品組み立てを受託)、TSCM(クアルコム社の製品生産を受託。工場は主として台湾にあるが、中国のファーウェイ社からも受注している)などは押しも押されもせぬ世界規模の大企業になっている。この体制を破ることは、中国にはできない。 だから中国のGDPは世界2位だと言っても、実は世界中から資金、技術を受けての上のことで、これを絞られた場合、どこまで自力で成長できるかは、まだわからないのだ。 2019年でも中国は半導体を1000億ドル強も輸入していて、自給率は15%程度と言われる。だからこそ習近平指導部は、中国経済の自立化をはかる「中国製造2025」計画で、半導体の自給率を70%にまで高めることを目標に据えたのだ。 伸びているところもある。「紫光集団」系の長江存儲科技は4月、世界の大手に追いつく128層の「三次元NAND型フラッシュメモリー」の開発に成功しているし、台湾の人材が作った民営の中芯国際集成電路製造(SMIC)は半導体製造受託企業=ファンドリーとして急伸。アップル製品組み立て受託にも成功して、台湾のTSCM等を追い上げている』、「中国のGDPは世界2位だと言っても、実は世界中から資金、技術を受けての上のことで、これを絞られた場合、どこまで自力で成長できるかは、まだわからない」、その通りだ。
・『対中先端技術規制は可能  しかし、問題は山積している。中国は党・政府主導、つまり役人がビジネスを決めるので、多くのことがちぐはぐになる。 福建省では晋華集成電路(JHICC)(国営)が6000億円相当あまりを投じて大規模な半導体生産工場を建設したが、米国が半導体製造装置の輸出を止めたために、もぬけの殻となっている。 装置を輸入しても、技術要員を外国に依存するケースが残っている。武漢の液晶パネル工場ではコロナ禍後、生産を再開しようとしたが、日本人技術者が日本に引き上げたままで稼働が遅れている。 民営のファーウェイはもっとまともなビジネスをしているように見える。傘下の海思半導体社の製品は「世界トップクラス」で、ファーウェイ社のスマホに搭載する半導体の5割は内製だと言う。 しかしこれも内実は、英国のアームに設計を、台湾のTSCMに製造を依存したものだし、新型スマホ「Mate30」も部品の3割は日本製である。中国経済は、実はまだ脆弱なのだ。 今のように経済がグローバル化していると、中国に先端技術が渡るのを完全に止めるのは無理だろう、という声もある。確かにその通り。米ソ冷戦時代も、ココム(共産圏への先端技術輸出を規制した、西側諸国間の紳士協定)破りは絶えなかった。 しかし米政府の規制をかいくぐった企業は、多額の罰金を科されることになる。それが第3国の企業であっても、米国はその企業の米国内での取引を禁じ、ドルの使用さえ禁じることができるので、そのリスクを冒す企業は少ないだろう。 それに、冷戦時代の名残で、先端技術の輸出は多くの国が自前で規制している。先端技術が中国に渡るのを規制するのは、可能なのである』、なるほどそうなのだろう。
・『細り始めたカネと技術の流入  中国は、先端技術面での後れを、外国企業を買収することで克服しようとしてきたが、米国や日本はもちろん、ドイツでさえロボット技術最先端のクーカ社を買収されて以来、中国のカネに警戒的な姿勢に転じている。 「中国人は多数が米国に留学しているから、技術、マネジメントの双方で進んだものを中国に持ち帰るだろう」と言われるが、それは一般化していない。米国に留学した高度な知識を持つ中国の人材の多くは、米国での就職を選んでいる。今後、トランプ政権による圧力で、これら研究者が中国に帰還しても、能力を十分発揮できる環境は中国にあるまい。 中国は何でもカネで手に入れようとしてきたが、そのカネも次第に手に入りにくくなっている。2018年、中国には約1400億ドルの直接投資が流入し、貿易黒字は3518億ドルに及んだが、後者の60%程度をたたき出していた対米貿易黒字がこれから減少していくと、中国は恒常的な経常収支赤字国に転落するだろう。 これまで米国の投資銀行等は「中国経済の将来性」を吹聴しては、中国企業の米株式市場上場を受け持って大儲けをしてきたが、米国当局は、中国企業の経理は透明性に欠けるとして規制する方向に転じた。2019年中国企業が米国での上場で調達できた資金は僅か35億ドルで、前年から61%減少している。 米国上院は共和・民主超党派で、軍人の年金基金FRTIBに、資金を中国株に投資するのを再考するよう呼びかけている。この基金の資産総額は5780億ドルに及ぶ。 そして香港が金融ハブの機能を停止すれば、ここで上場して外貨を手に入れていた中国企業は困窮するだろう。2018年の中国企業のエクイティファイナンスのうち、香港での調達額は42%、IPOに限れば55%に及んでいるからだ』、米国内での上場も、不正会計の横行で厳しく審査される方向だ。「香港での調達額」難と合わせ、資金調達の道は厳しくなるだろう。
・『西側は中国なしでやっていけるのか  では、西側は中国なしでやっていけるのか? 中国は多くの国にとって主要な貿易相手国になっている。家電製品も文具製品もmade in Chinaのものがなくなると、我々の生活は成り立たない。中国市場を失うと、多くの国は輸出の20%以上を失うことになるだろう。 中でも米中は相互依存性が高く、中国はその貿易黒字の60%を米国相手に稼いでいたし(2017年)、米国で売られている家電製品、日用品、文具など、自動車をのぞく多くのものがmade in Chinaになっている。 しかし米国はパソコン、スマホはベトナムからの輸入を急増させているし、ゴープロは米国向け製品の生産を中国からメキシコに移転した。 そして日本の場合、対中輸出のうちかなりの部分は、中国市場向けと言うよりは、中国で自社製品を組み立てている日本、そして欧米、台湾の企業向けのもので、多くは最終製品に組み込まれて米国やEUに再輸出されている。 これら工場が例えばベトナムや米国やインドに移転すれば、日本はそこに輸出するので、総輸出量は減らない。中国市場で消費される分は、日本から輸出、あるいは中国国内で生産を続ければいい。2018年、日本製造業の対中直接投資累積額は8.8兆円あったが、ASEAN諸国では12.5兆円もあったのだ。中国が日本経済の死命を制するわけではない。 中国は太陽発電パネル、風力発電設備、ドローンなどで世界市場を席巻し、最近では製薬業の成長も著しい。これは別に規制する必要はない。ビジネスの競争の話しである。 衣料用染料やリチウムのように、製造・加工時の環境汚染基準が緩かった故に、中国が世界で高いシェアを持つ品目があり、中国が西側に対して持つ切り札だと言われるが、レアアースは他の場所でも豊富にあるし、代替材料もある』、概ねその通りだが、日本企業にとって、大きな「中国国内市場」を失うとすれば、深刻な痛手だ。
・『大げさなファーウェイ5G覇権説  5Gについては、大げさな議論がまかり通っている。 それは、ファーウェイの5G製品を拒むこととすれば、西側は5Gの普及で中国に大きく後れてしまう、というものだ。これは、5Gとは何か、ファーウェイの製品はその中でどういう意味を持っているのか、を調べずに虚しい議論をしているのである。 5Gとは大量の情報を瞬時に伝達、瞬時に分析して対応を瞬時に指令し返す技術である。ファーウェイは、このうち送受信と伝達のインフラ作りに特化した企業で、集めた情報を処理して自動運転を可能にするような技術――5Gで最も難しく最も利益の上がる分野――はファーウェイではなく、内外の自動車企業等がしのぎを削っているところなのである。 しかも5G通信のインフラはファーウェイの独占ではなく、かつて世界の電話・電信インフラを牛耳っていたフィンランドのノキアや、電機業界で大手のスウェーデンのエリクソンも大きなシェアを持っている。 ファーウェイは、5Gがまだ雲をつかむような話でいる段階なのに、「これが5G用です」と言って、割安の設備を各国に売りつけているに過ぎない。中国の青年はポルノを瞬時にダウンロードできると言って喜ぶだろうが、将来、遠隔医療や自動運転などで5Gが実用化される時、ファーウェイの今の規格では使い物にならないかもしれない。 中国ではサプライ・チェーンが整っているし、人材も豊富だから、工場をなかなか移転できない、という声もある。 しかし、1990年代末に西側企業が中国に工場を作った時には、サプライ・チェーンは不在、つまり西側企業が使えるような部品を納期を守ってきちんと納入してくれるような企業は皆無だったから、西側企業は部品企業も本国から連れて行ったのである。 そして今では何でもすぐ作ってくれることになっている深圳でも、品質基準が日本と違い、こちらの要求通りのものが出て来ないというような問題がある(「深圳に学ぶ」藤岡淳一)』、「ファーウェイは、5Gがまだ雲をつかむような話でいる段階なのに、「これが5G用です」と言って、割安の設備を各国に売りつけているに過ぎない」、ビジネスとしては巧みなやり方だ。ただ、「将来、遠隔医療や自動運転などで5Gが実用化される時、ファーウェイの今の規格では使い物にならないかもしれない」、それは「ファーウェイ」の口車に乗せられたユーザーの責任でもある。
・『西側の懐はまだまだ深い  それでも1つ、ひそかな懸念がある。それは米国、西側が先端技術、特にAI技術で中国に競り負けるのではないかということである。 中国はロボットの生産も急増させ、2025年までに国産のシェアを7割に高めようとしている。中核部品である小型精密減速機では日本のハーモニック・ドライブ・システムズに依存してきたが 、最近では中国のリーダードライブ社が台頭。中国で2割以上のシェアを占めるに至っている。 先端技術と言えば「シリコン・ヴァレー」だが、最近ではその勢いは衰えている。GAFA等「鯨」の住処となったせいで、家賃、賃金が高騰する等、スタート・アップに優しいところではなくなった。 これに比べて深圳は、デジタルとモノの技術開発が共存し、安全基準などの規制がゆるいために、新規製品の開発は非常に容易だと言われる。 中国に軸足を置くTESLA社は128種類もの部品の生産を深圳の企業に生産委託したし、シリコン・ヴァレーの企業自体が深圳とヒト、モノ、カネの面で交流を深めており、その様は目をみはるほどだと言われる。 しかし、西側の懐は深い。 日本は電子部品・素材のいくつかで、未だに世界首位の座を確保しているし、半導体製造装置でも上位を維持している分野がある。 米国では、シリコン・ヴァレーは硬直化しても、MITを擁するボストン地域が再び活発化しつつあるし、ヒューストン、フェニックス、デトロイト、ピッツバーグ、そして首都ワシントン郊外など、様々な分野でのハブがひしめいている。市場経済の活力は、指令経済に勝つだろう』、「「シリコン・ヴァレー」だが、最近ではその勢いは衰えている」、「深圳は、デジタルとモノの技術開発が共存し、安全基準などの規制がゆるいために、新規製品の開発は非常に容易だと言われる」、「ボストン地域が再び活発化しつつあるし、ヒューストン、フェニックス、デトロイト、ピッツバーグ、そして首都ワシントン郊外など、様々な分野でのハブがひしめいている」、まではその通りなのだろうが、「市場経済の活力は、指令経済に勝つだろう」、は筆者の希望的観測に過ぎないようだ。
・『米国債・ドルの運命が中国の手中に?  米国人が中国との過度の対立を自戒する時持ち出すのが、「中国は米国国債を大量に保有している。つまり米国に多額の資金を貸してくれているのだ。中国を怒らせたら、何をされるかわからない」ということだ。 そこは、米国は心配し過ぎで、米国債を大量に売って困るのは、むしろ中国の方なのだ。そんなことをすれば中国元のレートが跳ね上がって輸出ができなくなるだろう。それに、多額の外貨を保管する手段は、米国債以外にない。 最近では、「世界通貨は人民元に交代する」という見出しがマスコミで踊るが、これは販売部数を増やすための掛け声のようなものだ。誰も信じてはいない。 なぜか? まず中国の金融当局が、本音ベースでの人民元の国際化、つまり資本取引の自由化をする気がない。自由化すれば、中国国内の資本は海外に大量に流出して(他ならぬ中国のエリートが、公金を横領してはドルにして、米国の自分の隠し口座に送る)人民元の暴落と国内のインフレを呼び起こすだろうからだ。 中国は「デジタル人民元」を発行する準備をしている、と言われる。しかしこれは、国内での国民監視、徴税には役に立っても、例えば湾岸諸国が中国に、これまで通りドルでの石油代金支払いを求めてくるなら(多分そうなる)、「デジタル人民元」は国際貿易の決済にはほとんど使われまい』、「人民元の国際化」、「デジタル人民元」については、同感である。
・『中国は米国農家を倒産させるか?  中国が米国農産物の輸入を止めると、米国の農家が困って、トランプ批判に回るだろうという声もある。 確かに米国は2016年に214億ドルの農産物を中国に輸出していたが、2018年には中国が米国産大豆の輸入関税を大幅に上げたため、91億ドルに激減している。 しかし、これで米国中西部の農家が倒産したという話しは聞かない。 米国では、大豆だけ作っている農家はあまりなくて、種々の作物を組み合わせているので、大豆が駄目なら他のものを増やせばいいのである。 従って米農産物のグローバルな輸出額は2018年、むしろ微増しているし、中国は大豆消費の約9割を輸入しているので、米国大豆をブラジル産などで簡単に代替もできない。 大豆不足は国内の豚肉価格上昇を招くこともあり、中国は米国産大豆に対する追加関税を2019年7月には撤廃して輸入量を回復させている』、なるほど説得力がある。
・『中国経済の上辺ではなく中身を見ろ  西側や日本では、中国経済の話になると圧倒されて、へっぴり腰になる人が多い。大袈裟な報道や、見せかけの数字に圧倒されているのである。 たとえば、中国政府は電気自動車(EV)生産を振興し、これで西側企業を圧倒しようとしているが、中国企業は政府助成金を得るため、「何ちゃったってEV」を濫造。2019年には国産EVの発火事故が7件明らかになっている。多分、電池に問題があるのだろう。 寧徳時代新能源科技(CATL)のように、自動車用電池の生産では世界一にのし上がった大企業もあるが、助成金のおこぼれを狙う急造メーカーが乱立して事故を起こしているのだ。 「科学技術の研究論文の数や質で、中国は日本を抜き去り米国に迫っている」という報道がある。しかし、中国の科学者は論文掲載の数を争いがちで、その質には問題があることが多い。盗作、偽作が多い上に、金を払えば掲載してくれる悪質な雑誌が多い。 日本の国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の調査によると、引用回数の多い中国人研究者の論文でも、研究者が実績作りのために相互に引用し合っているケースが見られたという。 欧米研究者との共同研究が多く、そのため西側の専門雑誌に論文が掲載されるケースが多いのも、カネで実現している面があるだろう。 中国は、米国のナスダック市場の向こうを張って、2019年にはスタート・アップ向けの「科創板」なる新市場を上海に創設したが、初めの熱気はすぐに冷め、取引は低調に終始している。 「中国経済の有望さ」の証左として、スタート・アップの数が急増していることが指摘されている。しかしこれも、政府が2014年に「大衆創業・万衆創新」政策を打ち出して、助成金を増やしたことがブームを過熱させているのである。 新卒毎年700万人のうち、20万人が創業に走り、1日約1万6000に達する起業ラッシュとなったが、うまくいっているものはごく少数である』、「引用回数の多い中国人研究者の論文でも、研究者が実績作りのために相互に引用し合っているケースが見られた」、初めて知った。ただ、「欧米研究者との共同研究が多く、そのため西側の専門雑誌に論文が掲載されるケースが多いのも、カネで実現している面があるだろう」、「カネで実現している面がある」、は粗雑だ。
・『中国はオウン・ゴールで後退する  習近平は、中国経済のうわべを本物と取り違え、覇を唱えるのを急ぎ過ぎた。経済を知らず、ものごとを見せかけの力と大きさだけで判断したからだ。 中国は米国の虎の尾を踏んで技術とカネをしぼられ、これまでの成長モデルは逆回転をし始めている。義和団のような混乱の時代さえ招きかねない。 経済成長のためのシード・マネーを稼いできた外資系工場が、これから次第に本国や第3国に移転していくと、中国経済は大きな打撃を受けることになるだろう。 輸出業で働くのは1億人。その家族と関連サービス業従業員も入れると、4億人もいると推計されている。アップル1社だけでも、中国経済への年間貢献の規模は240億ドルと見積もられており、150万人の労働者がアップル製品の組み立て、250万人がアプリの開発に携わっていると見られている。 だから、中国を世界経済から完全に切り離すという、無理なことをする必要はない。一部の先端技術の対中流出、資本の過度の流出を抑えていけば、世界と中国は節度のある協力関係を続けていくことができるだろう』、「中国はオウン・ゴールで後退する」、成長が共産党政権を支えていただけに、政治が不安定化する懸念がある。「中国を世界経済から完全に切り離すという、無理なことをする必要はない。一部の先端技術の対中流出、資本の過度の流出を抑えていけば、世界と中国は節度のある協力関係を続けていくことができるだろう」、妥当な見解だ。
タグ:ダイヤモンド・オンライン JBPRESS 真壁昭夫 現代ビジネス 杉田弘毅 新潮社フォーサイト 米中経済戦争 (その13)(米国か中国か 究極の踏み絵を迫られる金融機関 対中金融制裁法成立で米中経済圏は完全に分離へ、米中対立が先鋭化する中で 日本が絶対に失敗してはいけない対応とは、習近平のオウンゴールで 中国の「経済」と「先端技術」が後退する…! むしろ米中対立の「歩留まり」に留意を) 「米国か中国か、究極の踏み絵を迫られる金融機関 対中金融制裁法成立で米中経済圏は完全に分離へ」 ドル決済の禁止は国際企業への死刑宣告 「ドル制裁を」「中国のような世界第2の経済大国の取引に関連して発動するのは初めて 洗い出し作業を怠ると途方もないツケが 米国か中国か、究極の踏み絵を迫られる 11月までには制裁が発動される可能性 HSBCは「香港」での発券銀行として大きな存在感 議会に尻を叩かれた大統領 ウイン・ウイン通用せず 「米中」2つの経済圏ができあがる 「米中対立が先鋭化する中で、日本が絶対に失敗してはいけない対応とは」 先鋭化している米中の対立 オバマ前政権の対中政策を批判する米保守派 国際社会が懸念表明を始めた中国の人権問題 熱を帯びる米中の対立構造 河東 哲夫 「習近平のオウンゴールで、中国の「経済」と「先端技術」が後退する…! むしろ米中対立の「歩留まり」に留意を」 米国はどこまで本気なのか? トランプは再選されれば中国と握手することだろう。バイデンが当選しても、中国との過度の対立にはブレーキがかけられ、気候変動、核拡散防止などの問題の方に注意が向けられることだろう。 つまり米国の尻馬に乗って中国を叩くのは程々にしておかないと、はしごを外されることになる とりあえず米国が狙っていること 米国や西側諸国は中国との関係をすべて切るのではなく、「絞首刑の縄」、つまり自分たちの安全を脅かすようなものは渡さないことに注力している 中国半導体産業の脆弱な足元 対中先端技術規制は可能 細り始めたカネと技術の流入 西側は中国なしでやっていけるのか 大げさなファーウェイ5G覇権説 ファーウェイは、5Gがまだ雲をつかむような話でいる段階なのに、「これが5G用です」と言って、割安の設備を各国に売りつけているに過ぎない 西側の懐はまだまだ深い 米国債・ドルの運命が中国の手中に? 中国は米国農家を倒産させるか? 中国経済の上辺ではなく中身を見ろ 中国はオウン・ゴールで後退する 中国を世界経済から完全に切り離すという、無理なことをする必要はない。一部の先端技術の対中流出、資本の過度の流出を抑えていけば、世界と中国は節度のある協力関係を続けていくことができるだろう
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介護施設(老人ホーム)問題(その5)(老人ホーム倒産が過去最多 入居者襲うリスク 入居時の預かり金が戻らない可能性も、相次ぐ老人ホーム閉鎖 “終(つい)の住みか”で何が?、すべては創業者の死からはじまった…「ニチイ学館MBO」衝撃の顛末 投資家とステークホルダーが置き去りに…) [社会]

介護施設(老人ホーム)問題については、昨年6月23日に取上げた。今日は、(その5)(老人ホーム倒産が過去最多 入居者襲うリスク 入居時の預かり金が戻らない可能性も、相次ぐ老人ホーム閉鎖 “終(つい)の住みか”で何が?、すべては創業者の死からはじまった…「ニチイ学館MBO」衝撃の顛末 投資家とステークホルダーが置き去りに…)である。

先ずは、昨年8月29日付け東洋経済オンラインがAERA dot.記事を転載した「老人ホーム倒産が過去最多、入居者襲うリスク 入居時の預かり金が戻らない可能性も」を紹介しよう。
https://toyokeizai.net/articles/-/299487
・『大金を預けて入った老人ホームが突然、閉鎖されたとしたら……。お金は戻らず行く当てもなく、途方に暮れるばかり。こんなことが実際起きている。老人福祉・介護事業の倒産件数は2019年上半期で過去最多。ずさんな経営や人手不足もあって行き詰まる施設がたくさんある。いま老人ホームが危ない』、興味深そうだ。
・『深刻化する老人ホームの人手不足  老人福祉・介護業界の関係者を驚かせた大型倒産が今年あった。関東地方の37カ所で老人ホームを運営していた「未来設計」(東京)が1月、東京地裁に民事再生法の適用を申請したのだ。負債総額は約54億円で、民間調査会社の東京商工リサーチによると、有料老人ホーム経営会社としては過去2番目の規模となる。負債のなかには利用者が入居時に支払った「預かり金」も含まれており、その対象は約1500人、約34億円に上った。 未来設計は、福岡市の社会福祉法人のグループ会社創生事業団の傘下で再生を目指している。関係者によると、前オーナーのもとで実態は大幅赤字だったのに粉飾決算が行われていた。前オーナーへの年間2億円を超すような高額報酬や、前オーナー関連会社への不適切な支払いなどもあったという。創生事業団は前オーナーらを詐欺容疑で刑事告訴するとともに、損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。 老人ホームの運営会社が粉飾決算をし、実態が伝わらないまま倒産したとなれば入居者は浮かばれない。今回の倒産では、創生事業団が経営を引き継いだこともあって、入居者が追い出されることはなかった。創生事業団側の弁護士事務所の担当者によると、「退去する人も一部にいたが、多くの入居者が以前と同じ条件で残っていただいている」という。 しかし、預かり金の大部分が戻ってこない可能性がある。入居時に支払った額は1人当たり単純平均で200万円強になる。 「公益社団法人・全国有料老人ホーム協会」が、いざという時に500万円まで肩代わりする入居者生活保証制度もあるが、今回の倒産事例では適用になる可能性は低い。創生事業団が経営を引き継ぎ入居を続ける人が多いため、「施設の全入居者が退去せざるを得なくなり、入居契約が解除された場合」という条件に該当しないためだと、協会は説明する。預かり金が消える入居者にとっては、そう言われても釈然としないだろう』、「実態は大幅赤字だったのに粉飾決算が行われていた。前オーナーへの年間2億円を超すような高額報酬や、前オーナー関連会社への不適切な支払いなどもあった」、飛んでもない話だ。「創生事業団が経営を引き継いだこともあって、入居者が追い出されることはなかった」、とはいえ、「預かり金の大部分が戻ってこない可能性がある」、「有料老人ホーム」には会計監査や情報公開の義務付けが必要だろう。
・『問題は人手不足のみならず、経営難も…  経営難で老人ホームを退去せざるを得なくなったケースもある。福岡県行橋市の社会福祉法人「友愛会」は6月、福岡地裁行橋支部に自己破産を申し立て、手続きが開始された。負債総額は約6億8千万円。昨秋には職員への給与が滞納状態となり、昨年11月末にはパートを含む26人の職員のうち8人が辞めた。水道料金も払えない状況で、運営が厳しくなっていた。28人いた入居者全員は、別の複数の施設に移ったり、家族に引き取られたりした。 経営破綻(はたん)したのは、市内のほかの施設との競争が激しく、入居者が定員割れしていたことが大きい。友愛会では介護支援専門員の勤務実態の偽装なども行われていた。運営を監視してきたはずの行橋市役所は、経営悪化を早い段階で察知し食い止めることができなかった。市は昨年末に介護保険法や社会福祉法に基づき改善命令を出したが、友愛会は改善の報告をしないまま自己破産を選んだ。 財務状況の実態はいまもわからない部分があり、市の担当者は、「預かり金を払った入居者以外にもいろいろな債権者がいる」と話す。預かり金の大半が回収できない可能性がある。 東京商工リサーチによると、これら2件を含めて、今年1~6月の上半期に倒産した老人福祉・介護事業は55件。前年同期に比べ10件増え、上半期としては過去最多となった。倒産件数は増加傾向だ。 「小規模事業者の人手不足が深刻さを増し、経営環境が一層厳しくなっている」(東京商工リサーチ情報部の後藤賢治さん) 業種別では訪問介護事業が32件、有料老人ホームが5件となっている。有料老人ホームは件数そのものは訪問介護事業より少ないが、経営規模が大きいところが目立ち、影響を受ける入居者は多い。 老人福祉・介護事業は、高齢化で市場が拡大し、大手から中小まで多数の業者が参入している。入居者の獲得競争は激しく、施設の職員の人手不足も深刻だ。 全国ホームヘルパー協議会が昨秋、事業者に対して実施したアンケートでは、人手不足に悩む実態が浮き彫りになった。課題をたずねたところ(三つまで回答可)、「募集をしても応募がない」(88.0%)、「給与が低い」(30.5%)、「効果的な募集方法がわからない」(24.0%)といった回答が並ぶ。 「早朝や夜間の人材が不足している」ことや、「高齢化が深刻で数年後が不安」と若い職員の不足を訴える事業者もいる。「人材の確保・育成・定着のための資金がない」といった声もあった。 資金力のある一部の大手は人材を確保できても、多くの事業者は人手不足を解消しにくい。介護業界の関係者はこう指摘する。 「介護現場ではサービスの質が求められています。人材育成を含めて一定の投資が必要。大手ならローテーションを組んで職員を研修に参加させることもできますが、小規模な事業所ほど人のやり繰りは難しくなります。資金力のない事業者は経営環境がますます厳しくなります」』、中小事業者の経営環境は厳しくなる一方だろう。
・『有料ホームを選ぶときのポイントは?  さて、私たち入居者にできることは何か。老人ホームの淘汰(とうた)はますます進んでいく。監視するはずの行政も頼りにならない。大金を払って終(つい)のすみかを決めるときには、納得できるまで業者側に説明を求める。いったん入居しても、サービスが低下するなど問題があれば、すぐに家族や専門家に相談する。 有料老人ホームの選び方について、東京都福祉保健局はこうアドバイスする。 家族や友人らが訪ねやすいか、近くに商店街などが整っているか、立地に注意する。入居率やスタッフの平均勤務年数なども確認し、複数のホームで比較。赤字が膨らんでいないかどうかなど、経営状況も自らチェックしよう。不利な情報でもきちんと情報を開示するところが望ましい。 いまは老人ホームがいつ閉鎖されてもおかしくない時代。最後まで自分のことは自分で守るという姿勢が求められている』、「経営状況も自らチェック」できるようにするためにも、ますます前述の会計監査や情報公開の義務付けが必要だ。

次に、昨年10月3日付けNHKクローズアップ現代+「相次ぐ老人ホーム閉鎖 “終(つい)の住みか”で何が?」を紹介しよう。
https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4336/index.html
・『利用料が比較的安いことなどからニーズが急増している「住宅型有料老人ホーム」。しかし、昨年度、倒産などの理由で廃止届を出した件数が、全国で少なくとも355に上ることが分かった。 突然閉鎖が決まり、入居者が退去させられた福岡市のホームを取材すると、経営スキルに乏しい業者が次々と新規参入している実態や、介護報酬の仕組みが経営を圧迫している構図が見えてきた。“終の住みか”で何が起きているのか、介護制度のゆがみを検証する。 出演者 新田恵利さん (タレント) 高野龍昭さん (東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科准教授) 武田真一 (キャスター)』、NHKが考える「介護制度のゆがみ」とはどんなものなのだろう。
・『30室が満室 人気の施設で一体何が?  この春倒産した、福岡市の住宅型有料老人ホーム「リリーゆたか」。設立されたのは3年前です。1か月の料金は、およそ12万円。入居者にとって負担が少なく、スタッフの雰囲気もよいと、人気だったといいます。 なぜ、突然閉鎖したのか。経営者に話を聞きたいと、弁護士に取材を申し込みました。 「リリーゆたか」代理人弁護士「『取材については、お断りさせて下さい。』と聞いています。体調不良と聞いています。」 取材班「施設が閉鎖に至った理由は?」 「リリーゆたか」代理人弁護士「それは、私の口からはコメントできない。」 取材班「どういった理由から?」 「リリーゆたか」代理人弁護士「依頼内容に関する守秘義務があるので、お答えできません。」 経営者の話が直接聞けない中、関係者が取材に応じました。 建物のオーナー「奥の方でレクリエーションとか、食事をしていただいたりですね。」 リリーゆたかが借りていた建物のオーナーです。閉鎖する直前まで、30ある部屋は満室だったといいます。しかし…。家賃をおよそ9か月分、滞納していたといいます。 建物のオーナー「入居者も皆さん入ってくれていましたし、売り上げ自体も、マイナスどころかすごく伸びていたので、なんで家賃が払えないのか。再三社長にも伝えてはいたけれど、全く答えがないまま、ずっと。」』、「30ある部屋は満室だったといいます。しかし…。家賃をおよそ9か月分、滞納」、とは不可解だ。やはり、前述のように情報公開の義務付けが必要なのだろう。
・『“施設から在宅へ”「住宅型」が急増  住宅型有料老人ホームとは、どういうものなのか。介護が必要な高齢者が暮らすには、特別養護老人ホームなどの施設に入る場合、そして、自宅などにいながら、外部の事業所から介護を受ける場合とがあります。国は社会保障費を抑えるため、施設を大幅に増やすのではなく、在宅介護の方針を推し進めてきました。 こうした中、需要が高まっているのが住宅型有料老人ホームです。基本的には、入居者に個室と食事を提供します。1か月の料金は、平均およそ12万円。比較的安いこともあり、自宅での暮らしが難しい高齢者の受け皿となっているのです。介護サービスが必要な場合は、自宅と同様に外部の事業者を利用します。自治体に届け出さえすれば設立できるので、さまざまな業種からの参入が相次いでいます。そのため7年で3倍に増えています』、「住宅型有料老人ホーム」が、「さまざまな業種からの参入が相次いでいます。そのため7年で3倍に増えています」、参入障壁を低くするのはやむを得ないが、前述のように会計監査や情報公開の義務付けは必須の条件になる筈だ。
・『倒産した「住宅型」経営の実態は?  リリーゆたかの経営者は30代半ばの男性。美容師や宅配寿司チェーン店の店長などを経て、介護事業に参入しました。 会社が自己破産を申し立てた際の、陳述書を入手しました。設立した時の思いについて、こう記されていました。 “お年寄りの方々を自分の理想通りに介護して、老後の新しい暮らしを提供できるということに大変魅力を感じました。” 経営者は、一体どんな運営をしていたのか。閉鎖する直前まで働いていた介護職員が話を聞かせてくれました。 「リリーゆたか」元介護職員「社長が事務所に来ることは、1日に下手したら10分、15分だけ。一番は社長への不信感。」 設立の理念と実際の運営は、大きく異なっていたといいます。 「リリーゆたか」元介護職員「面談の時に言われたのは、『年間の売り上げが今これくらいで、来年の今頃にはこれくらいになるように計画してて』みたいなことをバンバン言われて。だけど、利用者のことに対しては何も言っていなかった状況ではあります。」 陳述書には「自らの経営スキルが足りなかった」とも記されていました。 “いきなり経営者となることは、金銭的、能力的に不安があった。” “人件費について、設立当初の見通しが甘かったのだと思います。” 会社は人件費などが想定以上に膨らみ、6,400万円以上の負債を抱えて倒産するに至ったとしています』、「経営者は30代半ばの男性。美容師や宅配寿司チェーン店の店長などを経て、介護事業に参入」、「介護」の素人なので、「会社は人件費などが想定以上に膨らみ、6,400万円以上の負債を抱えて倒産」、大いにありそうなケースだ。
・『相次ぐ新規参入“ロマンはあったけど…”  今、経営が立ち行かず、売却を検討する介護事業者が増えています。 「背景1つ目が、競争の激化。経営が悪化して、廃業・売却をせざるをえない状況になっている。」 介護事業の売買を支援する会社のセミナーです。最近、異業種から新規参入した企業による売却の相談が増えているといいます。 この日相談に訪れたのは、住宅型有料老人ホームに参入したIT関連会社の経営者です。 売却を検討している経営者「もう1つの会社が忙しいというのが正直あって、このまま両方とも同時に進めていくのが、今の現状だと難しい。」 介護事業M&A支援会社 常務取締役 速水健史さん「他業種から参入した方が始めてみて、思った以上に手間がかかるということで、本業ではない中で片手間にやるのであれば、やっぱり利益が出ないので、本業に専念しようということで撤退するケースが増えています。」 事業から撤退した元経営者が、その教訓を生かしてほしいと取材に応じました。もともと保険会社に勤めていたこの男性。29歳の時、住宅型有料老人ホームを設立し、僅か2年で売却したといいます。 住宅型有料老人ホーム 元経営者「初期投資が一番安く開設できたのが、住宅型有料老人ホームを選んだ理由。『誰でもできる』イメージが根づいて。」 住宅型はさまざまな設備を設置する義務はなく、既にある建物を改修して作ることもできるため、一般的に初期投資を低く抑えられます。そして多くの場合、経営者は介護事業所も設立して、そこから介護サービスを提供しています。収入の大きな柱は2つ。入居者からの利用料と、介護サービスを提供して国や自治体から支払われる介護報酬です。一方、主な支出は介護職員などに支払う人件費です。 住宅型有料老人ホーム 元経営者「よく、『右手にロマン、左手にそろばん、背中に我慢』って言っているんですけど。ロマンはあったんですよ。高齢者にこんなことしたい、あんなことしたい。ロマンはあったと思うんですけど、そろばんがおろそかで。安易な計算のもとでやっていたので、売り上げは良かったんですけど、出て行くお金も(多く)収益と費用が近いぐらいのもので、利益が出ていなかった。」』、「もともと保険会社に勤めていたこの男性。29歳の時、住宅型有料老人ホームを設立し、僅か2年で売却」、早目に撤退したのは、さすが元金融マンだ。
・『“終の住みか”を追われて…  倒産したリリーゆたかの入居者たちは、その後どうしているのか。 別の施設に移った75歳の女性です。 生活に支障が出ていました。脳梗塞で右半身にまひがあるこの女性。リハビリのさなかに退居を余儀なくされたといいます。 娘「本当に頭に来ていますね。何でもまた一から練習しないといけない。寝起きのしかた、トイレに行くまでの歩く道。覚えるのが結構大変なので。」 「リリーゆたか」元入居者(75)「もう、ずっと、ずっと、ずっと、居たかったけどね。はがいかね(はがゆいね)。はがいかとよ。」 武田:自宅でお母様を介護されている新田恵利さん。突然「老人ホーム出て行け」って言われたら戸惑うと思うんですけれども。 ゲスト新田恵利さん(タレント)新田さん:急に出て行けって言われても、本当に困りますよね。まだうちは在宅で、兄と2人で回ってるので家で見てますけども。でも、兄か私のどっちかがちょっと体調壊したりしてギブアップしたらば、もう母はやっぱり施設に預けるしかないので、本当にああいうのを見てると、ひと事ではなくて。やっと見つけて入った。でもたった2年で「出て行け」って言われたら、もうどうしていいか分かんないですよね』、確かにその通りだろう。
・『求められる“経営スキル”と“介護の知識”  武田:介護問題に詳しい高野さん。住宅型有料老人ホームが、倒産したり廃業したりしている。これなぜなんでしょうか。 ゲスト高野龍昭さん(東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科准教授)高野さん:実はですね、高齢者の介護サービスの経営というのは、結構スキルが必要なものでして。一つは高齢者の介護に対する知識が必要だ。経営スキルだけではなくって。ところが、そういう規制の緩い住宅型有料老人ホームの場合は、高齢者介護に必ずしも詳しくない人が設立をして経営をしようとする。そうすると、ビジネスとしてはなんとか成り立たそうとするのでしょうけれども、高齢者の特性に応じた介護が提供できるような体制を整えていないとか、そういうことで人の配置だとかがうまくいかない。それで経営が立ち行かなくなる。もう一つはですね、高齢者に対して丁寧な介護サービスをしたいという思いがある人たちが住宅型有料老人ホームを設立している。経営のスキル、ビジネスのスキル、ここが足りない人たちが参入をしてきている。それで経営が立ち行かないというパターンもあると思います。逆に言うと、ビジネスのスキルもあって、高齢者の特徴とか介護に対する認識がすごく深い方が経営している住宅型有料老人ホームは、きちんとした経営がされて、事業も存続している』、「ビジネスのスキルもあって、高齢者の特徴とか介護に対する認識がすごく深い方が経営している」ようなところは、残念ながら少ないのだろう。
・『「住宅型」急増の背景は?  武田:どれくらい増えているのかということなんですが、特別養護老人ホームは現在1万件余りあります。住宅型有料老人ホームというのが、ぐぐっと増えていまして、この7年で3倍近くにもなっているんですね。この急増している背景というのは、どういうことですか。 高野さん:特別養護老人ホームの整備をしますと、例えば施設整備費などに関して、本来は行政が作るべき施設ですので、公費、税金で補助金が相当投入されます。その税金の財政負担が大きくなるということもあって、特別養護老人ホームはあまり増やさない。一方で、規制が緩い住宅型有料老人ホームが、結果的にその受け皿となって増えてきている。こういう背景があると思いますね。 さらに、住宅型有料老人ホームが増えているもう一つの理由が、「参入のしやすさ」です。特別養護老人ホームなどの施設に比べ、開設するにも自治体への届け出だけ。設備に関する義務や人員の配置にも、明確な基準はありません。 武田:高野さん、こんなに基準が緩くて、どうしてなんだろうとか大丈夫なのかなっていうふうに思ってしまうんですけれど。 高野さん:住宅型有料老人ホームは自宅なので、自分で選んで入所するものですし、例えば、職員がそこに何人いるかとか、建物がどれくらいの広さでどういう設備がなきゃいけないかということに関しては、国があえて規制をしていない。そこの部分は、間口が広がった、いい部分ではあるんですけども。逆に先ほど申し上げたように、経営が困難になるような事業所も出てきているという意味で、課題にはなっているということですね。 新田さん:でもやっぱり必要だからこれだけ増えてきているっていうのを考えると、まあ不安はあるけれども、どうしてもやっぱり必要だから預けたい。そこで受け入れてもらえるなら、しかたがないのかなっていう気もしますよね』、「新田さん」の最後の発言は無責任過ぎる印象だ。
・『介護報酬が経営を圧迫?  急増する住宅型有料老人ホーム。現在の介護報酬の仕組みが、経営を圧迫している実態も見えてきました。 入居者30人が暮らすホームです。平均年齢は88歳。ほとんどの人が、ここを“終の住みか”と考えています。 入居者「安心しております。ずっと暮らしたいですよ。死ぬまで。」 施設長の古田嚴一さんです。入居者30人のうち、20人が要介護3以上。さらに、生活保護を受けている人が半分以上います。 5段階に分けられている要介護度。3以上の多くは、食事や排せつなどに介助が必要な人たちです。 さらに、自宅で独り暮らしをしていて生活が困難になった人の受け入れを、行政から頼まれるケースもあるといいます。 施設長 古田嚴一さん「何とかしてあげたい。やっぱりどこでも断られている人が多くて。うちが断れば、どこに行くんだろうという心配はあります。」』、ラストリゾートのようになっているところもあるようだ。
・『介護報酬ではまかなえない!?現場の苦悩  こうした入居者が多いことが、経営を困難にしているといいます。 男性(89)「ズボンがない。」 89歳の男性です。要介護度は5。生活保護を受けています。 介護職員「ぬれてる。」 男性(89)「汚しちゃってな。すみませんな、朝から。」 男性は毎晩必ず失禁をしてしまいます。そのため、シーツの洗濯や部屋の掃除が毎日欠かせません。 取材班「どうして青いシートを敷いている?」 介護職員「おしっこが漏れちゃって、この布団が湿ったら臭いが取れなくなる。」 掃除や洗濯だけで、3時間以上かかります。 しかし、これらの日常的な介助は無償で行っています。一体なぜなのでしょうか。介護報酬は要介護度に応じて、施設が得られる上限額が決まっています。 要介護5のこの男性の場合、上限額はおよそ36万円。男性は毎日、起床と就寝の際に介助を受けています。さらに、週5回デイサービスを利用しています。これらで介護報酬は36万円の上限に達してしまいます。そのため、それ以上の介助は本人が自己負担するしかありません。しかし、男性は生活保護を受けているため支払うことが難しく、無償で行わざるをえないのです。 人件費に換算すると、月におよそ10万円がホームの持ち出しになるといいます。こうしたことなどから、赤字が年間600万円以上に達したこともありました。 このホームでは、創意工夫で効率的な介護の方法を編み出してきました。 介護職員「防水シーツ。失禁とかされて、車いすがぬれてしまって。そのために、これを使うといいんです。」 車いすを直接洗う手間が省けるようにと、職員が考えました。 こうした積み重ねで、少人数の職員でも介護できる体制を整え、赤字を脱却しています。 施設長 古田嚴一さん「本当にどこまでやれるか、不安はあります。常に知恵を絞って、生き残っていかなきゃと思いますね。まだまだ増える高齢者に対して、国はサポートしてくれるのではないかと期待する部分はあるけど、どうしてもそこが逆行してきている感じがしますね。」 浮かび上がってきた介護制度のひずみ。どうすればいいのでしょうか?』、「要介護5のこの男性の場合、上限額はおよそ36万円。男性は毎日、起床と就寝の際に介助を受けています。さらに、週5回デイサービスを利用しています。これらで介護報酬は36万円の上限に達してしまいます。そのため、それ以上の介助は本人が自己負担するしかありません。しかし、男性は生活保護を受けているため支払うことが難しく、無償で行わざるをえないのです」、そこで「防水シーツ」で効率化するような知恵も必要なのだろう。
・『浮かび上がる介護制度のひずみ  新田さん:本当に創意工夫でもしないとやっていけない。でも、あの車いすの防水シート、母が車いすに乗って、トイレ間に合わなかったりとか量が多くて漏れちゃったりした時に、敷いてある座布団を洗ってたんですけど、それよりはやっぱり防水シートの方が。 武田:ただ、やっぱり本来はこういう努力をそんなにしなくても、成り立たなきゃいけないわけじゃないですか。現在の介護報酬の仕組みで、経営が成り立たない。これ、どう受け止めたらいいんでしょうか。 高野さん:国全体で高齢者介護にかかる費用が伸びている。これからも伸び続けると予測されてる。従って、その伸びを抑制する必要があるという政策を、国がとらざるをえないということなんですね。 もう一つはVTRにも出ていましたように、月額36万円で、独り暮らしの人が夜間も介護が必要。そうした状態を支えるには、実は足りないというのが介護サービスの実践現場では常識なんですね。在宅でなぜ介護ができているかというと、実際にはご家族が同居されていて夜間の介護をしてくれていたり、ちょっとしたイレギュラーな事態に対応してくれていたりするので、この金額でなんとか収まっている。ところが、住宅型有料老人ホームというのは、夜間は誰もいない。昼間の介護サービスが提供されても、いろんな問題が起こった時に対応できないから、入居している住宅型有料老人ホームがどこからもお金が出ないとはしても、入居を継続するために支援をせざるをえない。 新田さん:何かやっぱりね、自分の親だから夜見ててもいいというか、夜見ようっていう気もありますけど、こういう住宅だと外部の方っていうか、他人が見てくれるわけじゃないですか。それをやっぱり無償でっていうのは、その方々はとっても大変だなって。 高野さん:VTRに出てきて非常に気がかりだったのは、生活保護の人が多く入所されている。住宅型有料老人ホームが引き受けてくれた。それは大変頭の下がることではあるんですが、本来、所得の低い人たちで介護が必要だっていうことになれば、まずはセーフティーネットとして、特別養護老人ホームに入居しやすい仕組みを作る。一方で、所得があったりだとか、もっと自由な生活を自分の選択でしたいという場合に、住宅型有料老人ホームが選べる。こういう順序立て、優先順位にしなければ、その逆が起きると矛盾が。住宅型有料老人ホームに全部しわ寄せが来るってことになってしまう』、確かに持続可能な仕組みに変えてゆく必要がありそうだ。
・『“終の住みか”をどう保障?国の見解は  武田:何より終の住みかを、これからどのように保障していくのかということを、厚生労働省に尋ねてみました。文書での回答を得ました。「2020年代初頭までに介護施設などを、およそ50万人分増加することを目標として整備を進めている」。さらに、「多様な住まいの提供が重要と考えており、倒産の防止を含め、施設が適切に運営されるよう、指導を徹底していく」。 こういう回答だったんですけれども、高野さんこれどうお読みになります? 高野さん:今、介護が必要な要介護高齢者が大体660万人ぐらい。2025年に、それが771万人になるという推計があるんですね。この50万人分増加で本当に足りるのかどうか。この検証は一つ必要だろうと。それから後段の部分の回答に関しましては、実は今、高齢者向けの介護が必要な人、介護が必要でない人も含めて、制度上の住まいというのが無数に、制度的にあるわけですね。専門家レベルでも、どういう人たちがどういう住まいに入ったらいいのか。交通整理すら難しいような状況になっています。その中でさらに、多様な住まいを増やすっていうことが、本当に国民にとって分かりやすい政策なのかどうなのか。 武田:「どんな施設があるのか」とか、もうだいぶ分かってらっしゃる? 新田さん:いや、徐々には分かってきてますけれども。でもやっぱり、きちんとした名称、今日の住宅型有料老人ホーム、そういうのが本当にいっぱいありすぎて、分かってるようで分かってないというのが正直なところなので、これ以上増えたら、本当にどう情報を整理していいか分からなくて』、実態調査すら行われてないとは、行政の怠慢だ。調査結果が国費投入を増やすことを恐れているのだろうか。
・『ホームを選ぶポイントは  武田:そんな中で、私たち利用者は数ある施設の中からどういう基準で選べばいいのかということで、高野さんに挙げていただきました。 まず1つ目「安さ・きれいさだけで決めない」。そして「複数見学して話を聞く」と。 高野さん:単に話を聞くってことも大事なんですけども、施設長の人がどういう考えをお持ちか、あるいはどういう経歴を持ってる人か。例えば、一定程度、責任のある介護サービスの経営の経験もありつつ、高齢者の介護の現場の経験もある。思いもきちっとしっかりしている。こういう人だと、ある程度安心できるかもしれません。 武田:それから3つ目に、厚生労働省のホームページの中に「介護サービス情報公表システム」というサイトがあります。 高野さん:チェックする時によく見るのは、職員の勤続年数が長い短いというのがあります。当然、職員の勤続年数が長いところの方がきちんとやれているのかなとか、あるいは職員に対する研修の仕組みだとか、その辺りのサポートをどのようにやっているのかということを見ていただくと、選択の材料になると思います。 新田さん:情報を得て、選ぶっていうことを考えなきゃいけないなって。ただ何となくいいんじゃないんだろうか、見に行ってみる、話聞いてみるっていうんではなくて、もうちょっと深く勉強した方がいいなって、今日感じました』、「情報を得て、選ぶっていうこと」、前提となる「情報」の信頼性を高めるためにも、前述のような会計監査や情報公開の義務付けが必要だ。

第三に、本年8月20日付け現代ビジネスが掲載したジャーナリストの伊藤 博敏氏による「すべては創業者の死からはじまった…「ニチイ学館MBO」衝撃の顛末 投資家とステークホルダーが置き去りに…」を紹介しよう。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75013?imp=0
・『介護大手「ニチイ学館」のMBO  経営陣が参加する買収)が、8月17日に成立、近く上場廃止となる。 ニチイ学館が、米投資ファンドのベインキャピタルと組んで、MBOを実施すると発表したのは5月8日。 TOB(株式公開買い付け)期間は、3度延長され、7月31日にはTOB価格が1670円に引き上げられ、大株主のエフィッシモ・キャピタル・マネージメントの同意も得て、成立は確実視された。 しかし、最終日の早朝、日経ビジネスオンラインが「1株2000円のTOB価格を提示するファンド」を公表。同日、株価はTOB価格を超えて終了。 翌日、1748円の年初来高値を付けたが、ニチイ学館が午前11時過ぎ、「82%の応募が集まった」としてMBO成立を表明、株価は沈静化し、終値は1664円だった。 MBO成立までの顛末を振り返ってみよう』、MBOはとかく経営側に有利で、少数株主の利益は踏みにじられがちだが、今回はどうなのだろう。
・『すべては会長の死からはじまった  すべては、昨年9月、創業者の寺田明彦氏が、会長のまま、83歳で亡くなったことから始まった。三度の結婚を経験した明彦氏は、親族に約200億円の株式を残した。相続税を支払うには持ち株を処分するしかないが、市場で売却すれば株価は暴落、かつ大株主としての地位も失う。 その相続対策としてMBOを打ち出したのがベインキャピタルだった。 世界に約1000人の社員を抱えるプライベートエクイティファンドで、84年の設立以来、約1050億ドル(約11兆5500億円)の資産を運用してきた。日本代表の杉本勇次氏は、ニチイ学館の社外取締役である。 そのスキームは、ベインキャピタルが約270億円を出資して受け皿会社を設立。同社が、みずほ銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行、野村キャピタル・インベストメントから986億円を上限として借り入れ、決済資金とする。TOB価格は、5月7日の終値価格に約37%のプレミアムを乗せた1株1500円だった。 もともとMBOは、少数株主の権利を、大株主が金銭で奪い、収奪するもの。「締め出し」を意味するスクイーズ・アウトと呼ばれるが、ニチイ学館は露骨だった。 公開買付者は、社外取締役のファンドなので中立性に疑義がある。しかも親族は相続税の支払いの後、公開買付による手取金の一部を再投資して大株主の座を保持するのだから自己都合というしかない』、「ニチイ学館」側のやりたい放題のようだ。
・『MBOに噛み付いた香港ファンド  このMBOに噛みついたのが、香港ファンドのリム・アドバイザーズ・リミテッドだった。 5%未満の少数株主として、MBO決定プロセスの公正さを問う内容の書簡を送ったものの、「期日までの面談が叶わなかった」として、6月11日、報道関係者にニチイ学館への質問状を公開した。 リム社は、ニチイ学館の適正価格が公開買付価格の1500円を60%上回る2400円としたうえで、昨年6月、経済産業省が定めた「公正なM&Aの在り方に関する指針」に抵触していると批判した。 具体的には、「指針」が推奨する「マジョリティ・オブ・マイノリティ条件(買収者と利害を持たない少数株主からの過半の支持を得ること)」は設定されておらず、「マーケット・チェック(対抗買収者の提案機会の確保)」もなかった。 社外取締役が買付者となって、低過ぎる公開買付価格で、公平性を担保することも、「指針」を考慮することもなく、MBOに踏み切った』、「香港ファンド」の言い分はもっともらしいが、何故もっと早くから主張しなかったのだろう。
・『MBO不成立には時間が足りなかった  ニチイ学館はリム社の訴えを無視したが、マーケットは公正性に対する疑義や、コロナ禍で株価が低迷している最中に、「納税のために株式を現金化、支配権も維持したいとの創業者親族の思惑により、株価低迷を奇貨としてMBO案が推し進められたのではないか」というリム社の主張に反応、適正価格2400円という提示もあって株価はTOB価格を上回り続けた。 ニチイ学館は締切を2度、延長のうえ、7月31日、買付価格を1670円に引き上げ、締切を8月17日とした。この価格と非上場化後の再投資という条件を好感した約12%を持つ大株主のエフィッシモが、前述のように応募を決めたことで、成立の条件は整った。だが、水面下でもうひとつの動きがあった。 一度目の締切延長の後、世界8拠点で投資事業を行うベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)が、創業家に「公開買付が成立しない場合」を条件に、「ご賛同いただいた場合には、7月7日終値である1636円を22.2%上回る2000円にて本公開買付を実施する用意があります」と、提案した。 文書送付は、7月中、三度に及んだが、創業家株主は、相続税支払い原資をベインキャピタルに頼っていることもあり、ベインとの契約上、BPEAとの協議や面談に応じることはなかった。 この水面下のアプローチが表面化したのは、創業家のひとりが、「MBO決定プロセスや低過ぎる公開買付価格に不信感を持っています」として、文書を作成のうえ、BPEAの「2000円でのアプローチ」を日経ビジネス記者に伝えたからだ。冒頭のように、それが17日早朝、スクープ配信された。 ただ、MBOを不成立させるには時間が足りなかった。MBOを推奨するニチイ学館は、森信介社長や創業家の寺田剛副社長、他の創業家を合わせ約19%の応募を決めていた。加えて約12%のエフィッシモ。TOB成立の下限の約42%は目前だった。 また、17日が最終日とあって、機関投資家は応募を機関決定、一般投資家も応募を決め、TOB用の証券口座を開設した人がほとんどで、当日のキャンセルは可能だとはいえ、そこに至らない投資家が多かった』、「BPEA」の「提案」は「MBOを不成立させるには時間が足りなかった」、「創業家株主は、相続税支払い原資をベインキャピタルに頼っていることもあり、ベインとの契約上、BPEAとの協議や面談に応じることはなかった」といった裏事情までは分からなかったためだろう。
・『創業家は「強い憤り」  ただ、MBOが成立したとはいえ、強引なスクイーズ・アウトゆえ、締め出された株主が黙って手をこまぬいているとは思えない。寺田剛副社長など創業家役員は、TOBの対案を提示されていたのに、一般投資家にその存在を開示しなかった。 前述の創業家は、「ニチイの株主の皆様の利益が不当に害されていることに強い憤りを覚えております」という。ニチイ学館には訴訟リスクが発生している。 また、創業家の資産管理会社で、約25%を持つ明和は、TOBの対象ではなく、TOB完了後、会社売買の形で受け皿会社に譲渡されることになっているが、その価格は1株1670円より高く設定されているという。取引形態が違い「公開買付価格の均一性に反しない」とはいうものの、一般投資家からすれば、「再投資の確約」と合わせ、ダブルスタンダードだろう。 介護と医療を柱に売上高3000億円を誇るニチイ学館は、事業規模もさることながら3万7000人の従業員を抱え、地域社会に根を張ったステークホルダーの多い会社である。その企業が、95年の株式店頭登録で創業者利得を得て、今度は相続税対策で株主の「締め出し」を、さまざまなダブルスタンダードを駆使して行う。 その顛末は書き留めるべきだろうし、このまま何事もなく終わるとは、とても思えないのである』、「強引なスクイーズ・アウトゆえ、締め出された株主が黙って手をこまぬいているとは思えない」、今後の展開が楽しみだ。
タグ:問題 東洋経済オンライン 老人ホーム 介護施設 現代ビジネス 住宅型有料老人ホーム 伊藤 博敏 NHKクローズアップ現代+ AERA dot. (その5)(老人ホーム倒産が過去最多 入居者襲うリスク 入居時の預かり金が戻らない可能性も、相次ぐ老人ホーム閉鎖 “終(つい)の住みか”で何が?、すべては創業者の死からはじまった…「ニチイ学館MBO」衝撃の顛末 投資家とステークホルダーが置き去りに…) 「老人ホーム倒産が過去最多、入居者襲うリスク 入居時の預かり金が戻らない可能性も」 深刻化する老人ホームの人手不足 関東地方の37カ所で老人ホームを運営していた「未来設計」(東京)が1月、東京地裁に民事再生法の適用を申請 福岡市の社会福祉法人のグループ会社創生事業団の傘下で再生を目指している 前オーナーのもとで実態は大幅赤字だったのに粉飾決算が行われていた。前オーナーへの年間2億円を超すような高額報酬や、前オーナー関連会社への不適切な支払いなどもあった 預かり金の大部分が戻ってこない可能性 「有料老人ホーム」には会計監査や情報公開の義務付けが必要 問題は人手不足のみならず、経営難も… 福岡県行橋市の社会福祉法人「友愛会」は6月、福岡地裁行橋支部に自己破産を申し立て 今年1~6月の上半期に倒産した老人福祉・介護事業は55件。前年同期に比べ10件増え、上半期としては過去最多 有料ホームを選ぶときのポイントは? 経営状況も自らチェック 「相次ぐ老人ホーム閉鎖 “終(つい)の住みか”で何が?」 昨年度、倒産などの理由で廃止届を出した件数が、全国で少なくとも355に上る 30室が満室 人気の施設で一体何が? 福岡市の住宅型有料老人ホーム「リリーゆたか」 30ある部屋は満室だったといいます。しかし…。家賃をおよそ9か月分、滞納していた “施設から在宅へ”「住宅型」が急増 倒産した「住宅型」経営の実態は? 会社は人件費などが想定以上に膨らみ、6,400万円以上の負債を抱えて倒産 相次ぐ新規参入“ロマンはあったけど…” “終の住みか”を追われて… 求められる“経営スキル”と“介護の知識” 「住宅型」急増の背景は? 介護報酬が経営を圧迫? 介護報酬ではまかなえない!?現場の苦悩 要介護5のこの男性の場合、上限額はおよそ36万円。男性は毎日、起床と就寝の際に介助を受けています。さらに、週5回デイサービスを利用しています。これらで介護報酬は36万円の上限に達してしまいます。そのため、それ以上の介助は本人が自己負担するしかありません。しかし、男性は生活保護を受けているため支払うことが難しく、無償で行わざるをえないのです 浮かび上がる介護制度のひずみ “終の住みか”をどう保障?国の見解は ホームを選ぶポイントは 「すべては創業者の死からはじまった…「ニチイ学館MBO」衝撃の顛末 投資家とステークホルダーが置き去りに…」 介護大手「ニチイ学館」のMBO ベインキャピタルと組んで、MBO すべては会長の死からはじまった 公開買付者は、社外取締役のファンドなので中立性に疑義がある。しかも親族は相続税の支払いの後、公開買付による手取金の一部を再投資して大株主の座を保持するのだから自己都合というしかない MBOに噛み付いた香港ファンド リム・アドバイザーズ・リミテッド MBO不成立には時間が足りなかった ベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA) 「BPEA」の「提案」は「MBOを不成立させるには時間が足りなかった」 創業家株主は、相続税支払い原資をベインキャピタルに頼っていることもあり、ベインとの契約上、BPEAとの協議や面談に応じることはなかった 創業家は「強い憤り」 強引なスクイーズ・アウトゆえ、締め出された株主が黙って手をこまぬいているとは思えない
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ASEAN(その1)(闇に消される東南アジアの民主活動家たち、マレーシアの権力闘争の長期化で 高まる民族衝突リスク、ゴールドマン 4100億円支払いで和解 1MDB汚職巡り) [世界情勢]

今日は、ASEAN(その1)(闇に消される東南アジアの民主活動家たち、マレーシアの権力闘争の長期化で 高まる民族衝突リスク、ゴールドマン 4100億円支払いで和解 1MDB汚職巡り)を取上げよう。

先ずは、6月18日付けNewsweek日本版「闇に消される東南アジアの民主活動家たち」を紹介しよう。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/06/post-93702_1.php
・『<タイで、ラオスで、失踪する反体制派──手を携えて自由を奪う各国政府の弾圧の魔の手からは、亡命しても逃れられない> 突然失踪し、永遠に消息を絶った活動家や反体制派、口にしてはならないことを口にした不運な市民──彼ら「ロス・デサパレシドス」の存在は、中南米の歴史に記された血まみれの汚点の1つだ。時には何年もたってから遺体で発見されることもあるが、その多くはいつまでたっても行方不明のままだ。 愛する者が殺害されたなら、家族は少なくとも嘆くことができる。だが姿を消したままの場合、何も分からないことに家族は最も苦しむ。アルゼンチンでもグアテマラでも、ロス・デサパレシドスの家族の話からは、分からないという痛みが数十年前の失踪時と同じ生々しさで続いていることが感じられた。 ロス・デサパレシドスという呼称は「強制失踪」の被害者、または「失踪者」と訳すことができるが、こうした客観的で法律用語的な表現では、あの恐怖を正確に描写できない。あえて言えば「失踪させられた者」だが、これも多くの場合は単なる婉曲表現だ。 「失踪させられた」という言葉によって言いたい(とはいえ証明できない)こととは、ある人が拉致され、おそらく暗殺されたということ。その犯人は通常、自国政府だ。 中南米政治におけるロス・デサパレシドスの悲劇は今や、東南アジア政治の特徴にもなりつつある。 ラオスの社会活動家、ソムバット・ソムポンが2012年、首都ビエンチャン市内の検問所で停止させられた後に行方が分からなくなった事件は広く知られている。何が起きたのかはいまだに不明だが、ラオス政府との対立が原因だと推測するのが妥当だろう。 今年6月4日には、著名なタイ人民主活動家のワンチャルーム・サッサクシットが、亡命先のカンボジアで失踪した。両国で抗議活動を巻き起こしているこの事件は、著名ジャーナリストのアンドルー・マクレガー・マーシャルらの主張によれば、タイのワチラロンコン国王本人が命じ、治安対策責任者の指揮の下で実行されたという』、「中南米政治におけるロス・デサパレシドスの悲劇は今や、東南アジア政治の特徴にもなりつつある」、有難くない伝播だ。「著名なタイ人民主活動家のワンチャルーム・サッサクシット」「失踪事件」では、「タイのワチラロンコン国王本人が命じ、治安対策責任者の指揮の下で実行された」、事実であれば、王制を揺るがしかねない事件だ。
・『広がる抑圧の相互依存  ワンチャルームだけではない。2014年の軍事クーデター以来、亡命先で「強制失踪の被害者になっている」タイ人反体制派は少なくとも8人に上ると、国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは最近の報告書で指摘する。 報道などによれば、ラオスでは2016年以降、タイ人反体制派5人が失踪したとみられる。そのうち2人の遺体は、胃にコンクリートが詰まった状態でメコン川で発見された。 タイ人活動家がラオスで失踪する一方、ラオスの反体制派もタイで姿を消している。昨年8月にバンコクで消息を絶った民主派活動家、オド・サヤボンもその1人だ。 これらの事例から明らかなように、活動家や民主化を求める反体制派は自国内で行方不明になっているだけではない。失踪は外国でも起きており、多くの場合は地元政府が共謀している。 現に、カンボジア政府はワンチャルームの失踪事件の捜査について、はっきりしない態度を見せている。カンボジアの独立系メディア、ボイス・オブ・デモクラシーが6月5日に掲載した記事で、内務省のキュー・ソピーク報道官は政府による捜査は行われないと示唆した。 「タイ(当局)が自国市民の拉致について苦情を申し立てた場合は(捜査を)する」と、ソピークは発言。「タイ大使館から苦情の申し立てがないなら、何をすべきなのか?」 6月9日になってカンボジア政府は態度を翻し、捜査の意向を表明した。ただし、ワンチャルームは2017年から同国に不法滞在していたと、政府側は主張している。 カンボジアやベトナム、ラオス、タイはそれぞれ、抑圧的な政府の支配下にあるだけではない。これらの国は今や、市民の抑圧に当たって相互依存関係にある。 各国は他国から亡命してきた反体制派の所在を特定しており、一説によれば、他国の工作員が入国して亡命者を拘束するのを黙認している。その結果、安全な亡命先を求める反体制派は東南アジアを離れることを迫られている。 抑圧的政府の立場で見れば、これは賢いやり方だ。 大半の民主活動家や反体制派には、故国からそれほど遠くなく、より安全なシンガポールや台湾、韓国に拠点を移すだけの経済的余裕がない。彼らの多くが選ぶのは近接する国へ逃れる道だ。それなら何かあればすぐに帰国できるし、同胞に交じって暮らすこともできる。タイには大規模なカンボジア人コミュニティーが存在し、ラオスには多くのタイ人が、タイには多くのラオス人が住んでいる』、「カンボジアやベトナム、ラオス、タイはそれぞれ、抑圧的な政府の支配下にあるだけではない。これらの国は今や、市民の抑圧に当たって相互依存関係にある。 各国は他国から亡命してきた反体制派の所在を特定しており、一説によれば、他国の工作員が入国して亡命者を拘束するのを黙認している。その結果、安全な亡命先を求める反体制派は東南アジアを離れることを迫られている」、こんな有難くない連携が行われているとは、驚かされた。
・『もう隣国も安全でない  だが反体制派が隣国で安全を確保できない(または安心できない)環境をつくり出すことで、東南アジアの抑圧的政府は彼らをより遠くへ追いやろうとしている。 航空機でしか行けない場所なら、帰国は簡単に阻止できるし、同国人との交流は容易でない。反体制派亡命者なら誰もが知るように、外国にいる年月が長いほど、とりわけ距離が遠いほど、故国の一般市民や現実とのつながりは失われていくのが常だ。 昨年11月、カンボジア救国党(CNRP)の指導者サム・レンシーは、フランスでの4年間の亡命生活の後に帰国を宣言して大きな話題になった。空路を諦め陸伝いにカンボジアへの入国を目指したが、同国のフン・セン首相の要請を受けて、近隣国も入国を拒否。民主化運動を率いようとするサム・レンシーの帰国阻止にフン・センが成功したのは、地域内で民主主義が芽生えることを望まない隣国政府の協力のおかげだ。 要するにインドシナ半島ではもはや、活動家や反体制派は安心して暮らせなくなりつつある。この地域から遠く離れること。それこそが、多くの者にとって唯一の安全な選択肢かもしれない。 タイで、ラオスで、失踪する反体制派──手を携えて自由を奪う各国政府の弾圧の魔の手からは、亡命しても逃れられない> 突然失踪し、永遠に消息を絶った活動家や反体制派、口にしてはならないことを口にした不運な市民──彼ら「ロス・デサパレシドス」の存在は、中南米の歴史に記された血まみれの汚点の1つだ。時には何年もたってから遺体で発見されることもあるが、その多くはいつまでたっても行方不明のままだ。 愛する者が殺害されたなら、家族は少なくとも嘆くことができる。だが姿を消したままの場合、何も分からないことに家族は最も苦しむ。アルゼンチンでもグアテマラでも、ロス・デサパレシドスの家族の話からは、分からないという痛みが数十年前の失踪時と同じ生々しさで続いていることが感じられた。 ロス・デサパレシドスという呼称は「強制失踪」の被害者、または「失踪者」と訳すことができるが、こうした客観的で法律用語的な表現では、あの恐怖を正確に描写できない。あえて言えば「失踪させられた者」だが、これも多くの場合は単なる婉曲表現だ。 「失踪させられた」という言葉によって言いたい(とはいえ証明できない)こととは、ある人が拉致され、おそらく暗殺されたということ。その犯人は通常、自国政府だ。 中南米政治におけるロス・デサパレシドスの悲劇は今や、東南アジア政治の特徴にもなりつつある。 ラオスの社会活動家、ソムバット・ソムポンが2012年、首都ビエンチャン市内の検問所で停止させられた後に行方が分からなくなった事件は広く知られている。何が起きたのかはいまだに不明だが、ラオス政府との対立が原因だと推測するのが妥当だろう。 今年6月4日には、著名なタイ人民主活動家のワンチャルーム・サッサクシットが、亡命先のカンボジアで失踪した。両国で抗議活動を巻き起こしているこの事件は、著名ジャーナリストのアンドルー・マクレガー・マーシャルらの主張によれば、タイのワチラロンコン国王本人が命じ、治安対策責任者の指揮の下で実行されたという』、「タイ」の「王制」は比較的上手くいっているとされてきたが、暗殺事件を関与していたのが、公になれば、「王制」維持も難しくなるリスクを冒したとは、ある意味で追い込まれているのだろう。
・『広がる抑圧の相互依存  ワンチャルームだけではない。2014年の軍事クーデター以来、亡命先で「強制失踪の被害者になっている」タイ人反体制派は少なくとも8人に上ると、国際人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは最近の報告書で指摘する。 報道などによれば、ラオスでは2016年以降、タイ人反体制派5人が失踪したとみられる。そのうち2人の遺体は、胃にコンクリートが詰まった状態でメコン川で発見された。 タイ人活動家がラオスで失踪する一方、ラオスの反体制派もタイで姿を消している。昨年8月にバンコクで消息を絶った民主派活動家、オド・サヤボンもその1人だ。 これらの事例から明らかなように、活動家や民主化を求める反体制派は自国内で行方不明になっているだけではない。失踪は外国でも起きており、多くの場合は地元政府が共謀している。 現に、カンボジア政府はワンチャルームの失踪事件の捜査について、はっきりしない態度を見せている。カンボジアの独立系メディア、ボイス・オブ・デモクラシーが6月5日に掲載した記事で、内務省のキュー・ソピーク報道官は政府による捜査は行われないと示唆した。 「タイ(当局)が自国市民の拉致について苦情を申し立てた場合は(捜査を)する」と、ソピークは発言。「タイ大使館から苦情の申し立てがないなら、何をすべきなのか?」 6月9日になってカンボジア政府は態度を翻し、捜査の意向を表明した。ただし、ワンチャルームは2017年から同国に不法滞在していたと、政府側は主張している。 カンボジアやベトナム、ラオス、タイはそれぞれ、抑圧的な政府の支配下にあるだけではない。これらの国は今や、市民の抑圧に当たって相互依存関係にある。 各国は他国から亡命してきた反体制派の所在を特定しており、一説によれば、他国の工作員が入国して亡命者を拘束するのを黙認している。その結果、安全な亡命先を求める反体制派は東南アジアを離れることを迫られている。 抑圧的政府の立場で見れば、これは賢いやり方だ。 大半の民主活動家や反体制派には、故国からそれほど遠くなく、より安全なシンガポールや台湾、韓国に拠点を移すだけの経済的余裕がない。彼らの多くが選ぶのは近接する国へ逃れる道だ。それなら何かあればすぐに帰国できるし、同胞に交じって暮らすこともできる。タイには大規模なカンボジア人コミュニティーが存在し、ラオスには多くのタイ人が、タイには多くのラオス人が住んでいる』、「広がる抑圧の相互依存」、「反体制派」にとっては住み難い世界になったようだ。
・『もう隣国も安全でない  だが反体制派が隣国で安全を確保できない(または安心できない)環境をつくり出すことで、東南アジアの抑圧的政府は彼らをより遠くへ追いやろうとしている。 航空機でしか行けない場所なら、帰国は簡単に阻止できるし、同国人との交流は容易でない。反体制派亡命者なら誰もが知るように、外国にいる年月が長いほど、とりわけ距離が遠いほど、故国の一般市民や現実とのつながりは失われていくのが常だ。 昨年11月、カンボジア救国党(CNRP)の指導者サム・レンシーは、フランスでの4年間の亡命生活の後に帰国を宣言して大きな話題になった。空路を諦め陸伝いにカンボジアへの入国を目指したが、同国のフン・セン首相の要請を受けて、近隣国も入国を拒否。民主化運動を率いようとするサム・レンシーの帰国阻止にフン・センが成功したのは、地域内で民主主義が芽生えることを望まない隣国政府の協力のおかげだ。 要するにインドシナ半島ではもはや、活動家や反体制派は安心して暮らせなくなりつつある。この地域から遠く離れること。それこそが、多くの者にとって唯一の安全な選択肢かもしれない』、「安全」を重視して「遠く離れ」れば、「反体制」活動を諦めさせられる。こうした「抑圧的」な連携の体制は、当面、崩れる要素はなさそうだ。

次に、7月2日付けダイヤモンド・オンラインが掲載した在バンコクジャーナリストの小堀晋一氏による「マレーシアの権力闘争の長期化で、高まる民族衝突リスク」を紹介しよう。
https://diamond.jp/articles/-/241955
・『香港がイギリスから中国に返還された日の翌日1997年7月2日は、タイの通貨バーツが、米ドルに連動するドルペッグ制から変動相場制に移行し、アジア通貨危機が始まった日である。それは間もなくアジア各国に波及し、一斉にアジア売りが始まる。バブル後遺症からの回復を目指していた日本経済にも影響し、「失われた20年」とされる長期経済低迷に突き進むきっかけともなった。震源地の一つマレーシアでは、当時のマハティール首相が独裁色を強め、側近だった副首相の首を取る政変まで起こっている。あれから23年。同国では今も変わらぬ政治家たちが終わらない権力闘争を続け、混迷の度合いを強めている』、「マレーシア」は、先の記事にあった「抑圧的」な国々とは異なり、立憲君主制を採っている。
・『同性愛の罪で禁錮9年の判決  アジア通貨危機時、マレーシアの第4代首相にあったマハティール氏は当時71歳。81年に首相に就任して以来すでに16年が経過していた。 歯に衣着せぬ弁舌は欧米の首脳をも時にたじろがせ、日本の高度経済成長に学ぶ「ルックイースト」政策や21世紀初頭での先進国入りを目指す「ビジョン2020」を推し進める姿は、20世紀最後の東アジアの奇跡とさえ称賛された。 ヘッジファンドによる空売りに対しても公然と立ち向かい、国際的な投資家として知られるジョージ・ソロス氏を名指しで非難。「通貨の巨額売買は不道徳」として、アメリカ的価値に対する「アジア的価値」を唱えて喝采を浴びた。 同氏が唱えたアセアン諸国に日中韓などを加えた東アジア経済協議体構想は、その後のアジアを含む各種経済共同体構想にも強い影響を与えた。 だが、足元の政権内では政策の根幹をめぐって後継者との激しい権力争いが常態化。当時のナンバー2だったアンワル副首相兼財務相の首をすげ替える強権が発動されていた。 アンワル氏は国際通貨市場からの信頼回復が先決、より一層の市場開放と協力関係が必要だと主張。これに対しマハティール氏は、通貨政策も含め自らの統制下に収めて危機を乗り越える自国第一主義を唱えていた。 他方、アンワル氏による政権批判も次第にエスカレート。98年5月のジャカルタ暴動を契機に後にインドネシアのスハルト政権が崩壊すると、矛先は政権の権威主義体制やマレー人に対する就労就学などをめぐる優遇政策にも向けられていった。 運動は「レフォルマシ(改革)」と呼ばれ全国に拡大すると、マハティール首相は一気に反攻に出る。国内治安維持法違反でアンワル氏を逮捕し、決別は決定的となった。 それだけでは済まされなかった。マハティール氏は、アンワル氏にイスラム教で禁じられている同性愛の罪に問わせ、禁錮9年の実刑を負わす。 このような政治生命を根こそぎ絶つ手法に、国際社会はクアラルンプールで開催予定だったアジア太平洋経済協力会議(APEC)への出席中止をちらつかして抗議をしたが、取り付く島も見せなかった』、「マハティール氏」が「ジョージ・ソロス氏を名指しで非難」、「アメリカ的価値に対する「アジア的価値」を唱えて喝采を浴びた」、私の記憶にも鮮明に残っている。だが、いまだに実権を振るっているとは、驚きだ。
・『非マレー人の支持で下院第2党に  その後、マハティール氏は2003年まで首相を務め、いったんは退任するが、後任の選考に強い影響力を残すなど実質的には院政を続けた。 次代の第5代首相アブドラ氏は自らの内閣で副首相だった人物。マハティール氏が推し進めたシンガポールとの連絡橋「コーズウェイ」架橋計画を凍結しようとすると、あっさりと首にするなど強権ぶりは健在だった。 一方、アンワル氏は獄中にあって、妻ワン・アジザ氏が新党となる多民族政党を結成。これが現在の国会で野党陣営の中核政党「人民公正党(PKR)」の前身党となっている。 PKRは、マレーシア社会を構成するマレー人、華人、インド人が等しく価値を共有していく社会のあり方が党是。非マレー人を中心に強い支持を得て、現在は下院第2党の地位にある。 ペナン州出身のアンワル・イブラヒム氏は現在72歳。マラヤ大学在学中の70年代に「マレーシア・イスラム青年運動」を立ち上げ、4万人を超える反汚職闘争運動を指揮した人物で知られる。 この頃すでに政府のマレー人優遇政策を批判。汚職の撲滅と民主化を訴えている。日本で言えば、その姿はちょうど同じ時期に活動し、東大安田講堂を占拠した全国全共闘連合の山本義隆議長に重なる。 そのアンワル氏を82年に政界に一本釣りしたのがマハティール氏だった。独立後から政権与党にあったマレー人の民族政党「統一マレー人国民組織(UMNO)」に迎え入れ重用した。 知名度もあったアンワル氏は瞬く間に出世の階段を駆け上がり、やがて第1期マハティール政権(81年~03年)でナンバー2の副首相に。通貨危機の直前には休暇中の首相に代わって臨時代理を務めるなど、一時は後継確実と見られていた』、なるほど。
・『マハティール氏と倒閣運動で共闘  そのアンワル氏が獄中での服役後に、再び政治の表舞台に登場できたのは、皮肉にも18年5月の総選挙で政権交代を実現、首相に返り咲きを果たしたマハティール氏によってだった。 国王の恩赦により出獄した同氏は第2期マハティール政権の支持を表明。このとき、ワン・アジザ氏が新政権の花形として副首相で迎えられた。 マハティール氏が20年の時を越えてアンワル氏に歩み寄ったのは、かつて自らが率いた政権政党UMNOの総裁ナジブ首相(いずれも当時)を権力の座から引きずり下ろす必要があったからだ。 第2代首相を父に持つナジブ氏は、マハティール氏から支持を取り付け09年に第6代首相に就任。ところが、その後は同党の看板政策だったマレー人優遇政策「ブミプトラ(土地の子)政策」を見直すなど、次第に反マハティール色を強めていった。 この後に、ナジブ政権時の政府系ファンド「1MDB」をめぐる巨額資金流用疑惑が表面化。これをきっかけにマハティール氏は倒閣運動に一気に傾斜していく。 現職を倒すためには、依然として国民人気の高いアンワル氏の力が必要だった。世論に対しても、2年後をめどにアンワル氏へ政権禅譲するとの公約を表明していた。 ところが、間もなくその2年がたとうというのに一向に態度を表明しなかったのがマハティール氏だった。下院補選を経て議員復帰(18年10月)していたアンワル氏も業を煮やし、今年2月、11月までには退任するよう異例の声明を出す事態となった。 マレーシア初の政権交代が達成されたばかりだというのに、政権与党は一人の老政治家のきまぐれによって早くも瓦解の危機にひんしていた。 これを好機として一気に動いたのが、現首相を務めるムヒディン氏らかつてのマハティール氏の部下たちだった。連立を組み替え、対立するマハティール、アンワルの両氏をともに政権から遠ざけた』、「マハティール氏」のみならず、「マレーシア」の有力政治家は皆、相当の策士のようだ。「1MDB」については、次の記事で詳しくみたい。
・『右傾化で高まる民族衝突リスク  こうして、アジア通貨危機以来23年にも及んだマハティール氏を一つの軸とする権力争いは、プレーヤーを新たに加え次局面へと移っていった。節目であることに間違いはない。 しかし、これで“マハティールなるもの”が終わったわけではない。7月10日に95歳となる同氏が3度目の復活を狙っているとの見方もある。 そして、それ以上にマレーシア政治に深刻に顕在化してしまった民族問題を我々は知っておく必要がある。 マレー人、華人、インド人などから成るマレーシアは、総人口に占める人口比がそれぞれ55%、26%、8%と主要3民族で9割を占める多民族国家。イギリスからの独立以来、3つの民族を代表する政党が国会にバランス良く議席を確保して連立政権を組んできた。 有権者はそれぞれの政党に原則として投票するものの、支持政党が行き過ぎた場面では投票先を都度変えるなど臨機応変的な投票行動が作用し、政治の安定をもたらしてきた。 例えば99年総選挙では、獄中にあったアンワル氏に同情するマレー人票が野党に流れたが、政治の不安定化を嫌う華人票が政権党に投票しUMNOが薄氷の勝利。最終的にマレー人優遇政策の緩和にもつながっている。 08年や13年の総選挙でも、右傾化してきたマレー人優遇政策に嫌気がさした非マレー票が野党に流れるなど大躍進につながったが、いずれも僅差で与野党伯仲を実現している。安全弁の発動こそが、マレーシア政治の安定の証しだった。 こうした中で近年、勢力を伸ばしてきたのが、アンワル氏が総裁を務めるPKRなどの多民族政党だ。若年層を中心に党員を拡大しており、現在の下院では3分の1強がこうした政党の議員たちだ。 一方、人口最多ながら賃金が安いままのマレー人の民族主義化も勢力を強めている。2月から3月にかけての政変で成立したムヒディン政権も、大半がイスラム教を信仰するマレー人政党の議員で構成されている。57年にマラヤ連邦として独立して以降、政権内に非マレー人政党がほぼ存在しない初めてのケースとなる。 学生運動出身のアンワル氏は、自身はイスラム教徒でありながらも、穏健な世俗派で知られる。獄中で著した著書の中で同氏は「寛容の文化は、東南アジアのイスラムの特質である」と述べ、イスラムのマレー人に対し強く自制を求める。 著書は「アジア的価値」についても言及している。氏はそれをアジア社会の「専制的な慣行」の方便としたり、人間の「基本的権利」や「市民の自由」を否定する口実にしてはならないとも説いている  マレーシアでも例外なく、閉塞感漂う現代社会においては右傾化一辺倒の危険な主張が礼賛されやすい傾向にある。自国第一主義、マレー人優遇政策の台頭はその典型だ。 かつてマハティール氏が政権にありそれを口にしたとき、アンワル氏のような穏健派の存在や有権者の投票行動が抑制する機能がこの国には残っていた。 だが、政権与党がイスラム一色で占められた今、代替となるものが容易には見つからないのは極めて憂慮すべき事態だ。 69年にマレー人と華人が衝突した「5月13日事件」では200人近い死者が出る惨事となった。この頃すでに政治家に転じていたマハティール氏も、間もなく学生運動に進むことになるアンワル氏も、それを目の当たりにして同じ景色を見ていたはずだ。現在の政治的危機を生んだ当事者として傍観は許されないだろう』、「閉塞感漂う現代社会においては右傾化一辺倒の危険な主張が礼賛されやすい傾向にある。自国第一主義、マレー人優遇政策の台頭はその典型だ。 かつてマハティール氏が政権にありそれを口にしたとき、アンワル氏のような穏健派の存在や有権者の投票行動が抑制する機能がこの国には残っていた。 だが、政権与党がイスラム一色で占められた今、代替となるものが容易には見つからないのは極めて憂慮すべき事態」、他民族国家の微妙なバランスを如何に維持していくか、注目したい。

第三に、7月24日付け日経新聞「ゴールドマン、4100億円支払いで和解 1MDB汚職巡り」を紹介しよう。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO61910410U0A720C2EA4000/
・『マレーシア政府は24日、政府系ファンド「1MDB」の汚職事件に関連し、米金融大手ゴールドマン・サックスから39億ドル(約4100億円)の支払いを受けることで同社と合意したと発表した。 マレーシア検察は1MDBの債券発行の際に当局に提出した書類が投資家を欺く内容だったとして、ゴールドマンの子会社などを起訴していた。今回の和解で検察は起訴を取り下げる見通しで、ゴールドマンとの争いは決着する。 マレーシア政府の発表によると、ゴールドマンは25億ドルの現金のほか、資産回収を通じて14億ドルを支払う。ゴールドマン以外から回収した分も含め、マレーシア政府が1MDB関連で回収した資産は45億ドル超に達する。1MDB事件では45億ドル超の資産が不正に流出したとされており、政府は大半の資産の回収にメドをつけたことになる。 ゴールドマンは2012年から13年にかけて、1MDBが発行した合計65億ドルの債券を引き受け、約6億ドルの手数料収入を得ていた。マレーシア政府は調達した資金が不正に使われた点を重くみて、手数料収入以上の金額をゴールドマンから回収することを目指し、水面下で交渉を続けてきた。 政府は24日の声明で「マハティール前政権時にゴールドマンが提示していた17億5千万ドルを大幅に上回る金額で合意できた」と成果を強調した。ムヒディン首相も「政府は今後も1MDB関連の資産回収を続ける」と述べた。 ゴールドマンは早期決着をはかるため、巨額の支払いによる和解に応じたとみられる。 マレーシア政府との和解でゴールドマンは懸案の解決に一歩前進した。同日公表した声明で「今回の問題で重要な教訓を学んだ。経験を糧に改善していく」と述べた。マレーシア政府に支払う金額については引当金を積んでおり、今後の決算への影響は軽微としている。 今後の焦点は米司法省との和解協議だ。18年11月、司法省は資金流出に関与したゴールドマン元幹部らを起訴した。起訴された元バンカーのうち、ティム・ライスナー氏は有罪を認め、金融界から追放された。ゴールドマンは法人として有罪を認めるかどうかで司法省と交渉を続けている』、「米金融大手ゴールドマン・サックスから39億ドル(約4100億円)の支払いを受ける」、との「合意」は、信じられないほど巨額の和解金だ。「ゴールドマン」にはまだ「米司法省との和解協議」が残っているようだ。ただ、「調達した資金が不正に使われた」点については、この記事だけでは不明だ。
タグ:日経新聞 ASEAN ダイヤモンド・オンライン Newsweek日本版 (その1)(闇に消される東南アジアの民主活動家たち、マレーシアの権力闘争の長期化で 高まる民族衝突リスク、ゴールドマン 4100億円支払いで和解 1MDB汚職巡り) 「闇に消される東南アジアの民主活動家たち」 中南米政治におけるロス・デサパレシドスの悲劇は今や、東南アジア政治の特徴にもなりつつある 著名なタイ人民主活動家のワンチャルーム・サッサクシット」「失踪事件」 タイのワチラロンコン国王本人が命じ、治安対策責任者の指揮の下で実行された 広がる抑圧の相互依存 カンボジアやベトナム、ラオス、タイはそれぞれ、抑圧的な政府の支配下にあるだけではない。これらの国は今や、市民の抑圧に当たって相互依存関係にある。 各国は他国から亡命してきた反体制派の所在を特定しており、一説によれば、他国の工作員が入国して亡命者を拘束するのを黙認している。その結果、安全な亡命先を求める反体制派は東南アジアを離れることを迫られている もう隣国も安全でない 小堀晋一 「マレーシアの権力闘争の長期化で、高まる民族衝突リスク」 同性愛の罪で禁錮9年の判決 アジア通貨危機時 マレーシアの第4代首相にあったマハティール氏は当時71歳。81年に首相に就任して以来すでに16年が経過 「ルックイースト」 ジョージ・ソロス氏を名指しで非難。「通貨の巨額売買は不道徳」として、アメリカ的価値に対する「アジア的価値」を唱えて喝采を浴びた 非マレー人の支持で下院第2党に マハティール氏と倒閣運動で共闘 右傾化で高まる民族衝突リスク マレー人、華人、インド人などから成るマレーシアは、総人口に占める人口比がそれぞれ55%、26%、8%と主要3民族で9割を占める多民族国家 3つの民族を代表する政党が国会にバランス良く議席を確保して連立政権を組んできた 閉塞感漂う現代社会においては右傾化一辺倒の危険な主張が礼賛されやすい傾向にある。自国第一主義、マレー人優遇政策の台頭はその典型だ。 かつてマハティール氏が政権にありそれを口にしたとき、アンワル氏のような穏健派の存在や有権者の投票行動が抑制する機能がこの国には残っていた。 だが、政権与党がイスラム一色で占められた今、代替となるものが容易には見つからないのは極めて憂慮すべき事態 「ゴールドマン、4100億円支払いで和解 1MDB汚職巡り」 米金融大手ゴールドマン・サックスから39億ドル(約4100億円)の支払いを受けることで同社と合意 マレーシア政府が1MDB関連で回収した資産は45億ドル超 米司法省との和解協議」
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