東洋ゴム免震事件

今日の日経新聞は、「東洋ゴム工業の免震装置の性能データ改ざん問題で、同社は、４月までの調査で安全性が確認できなかった12都府県の22棟について、震度６強から７程度の地震が発生しても倒壊の恐れはないと発表。同社は154棟に設置した計約３千基の免震ゴムを２年以内に全て取り換えるとしている」と伝えた。

この問題では、同紙は5月4日付けで、「東洋ゴム、再び製品偽装　教訓の風化どう防ぐ　紙上座談会」と題して、同社では2007年にも断熱パネルで耐火性能の偽装が発覚、当時の社長が引責辞任。偽装の根を断ち切れなかった組織上の問題を、概ね以下のように指摘。
・（国広弁護士）今回の不正は1990年代から子会社の技術者主導で繰り返されてきた。これまで企業の不祥事が起きるのは経営中枢や財務、営業の現場とされ、技術部門は無縁だと根拠なくみられてきたが、それは誤りだ。本件やＪＲ北海道のレール点検数値改ざん問題などをみると、企業経営の主流から離れた部門や子会社で、特に技術分野に潜むリスクが増していると感じる
・（古野啓介ＪＰリサーチ＆コンサルティング社長）自動車部品の国際カルテルが厳しく摘発されていることもあり、本体のタイヤ事業ではコンプライアンスが強化されていただろう。だが免震装置用ゴムは主要事業でないため、製造する子会社にまで順法意識が浸透しなかったのではないか。日本企業の海外子会社にも同様のリスク
・（内田和成・早稲田大学大学院教授）今回の問題は東洋ゴム固有のものではなく、どこの会社でも起こり得る。今のようにコンプラがうるさくなる前に起きたことだからだ。多くの会社でこういうことが起きていたのではないか
・（国広）親会社の東洋ゴムの主力は売上高3000億円超のタイヤ事業であり、免震装置用ゴムは子会社の同７億円の事業でしかない。親会社にとっては、こんな傍流部門にカネや人の手をかける意義や必然性を見いだせず、品質管理や監査が手薄になっていた可能性
・（古野）米国の犯罪研究者が動機、正当化、機会の３つを「不正の３原則」と呼んだ。今回、動機は営業からのプレッシャー、正当化は「会社のため」という理由付けだ。機会はデータを１人の社員が扱い、複数の社員によるチェックがきかないことで生まれた。いずれも個人の利益目的でやっているわけではない。会社全体の問題としてとらえるべきだ
・（内田）断熱材の偽装が07年に発覚した時には免震偽装の問題は既に起きていたので、発生自体を防ぐことは不可能。大事なことはトラブルが起きた時、ウミは一度で出さないといけないということだ。07年の時点で、似たようなことが社内で起きているのではないか、と考えるべきだった。問題を洗い出したうえで「断熱材の問題は氷山の一角でした」と示すことが必要だった

また、建築＆住宅ジャーナリストの細野透氏は、SAFETY　JAPAN4月30日号で「続報3─マンション各社を動揺させた「東洋ゴム免震事件」、施工者と設計者が工場で全数調査しても見抜けない理由」と題して、より専門的な角度から概ね以下のように指摘。
・大臣認定はなぜ機能しなかったのは、①工場では基準通りに製造できていなかった。②東洋ゴムはISO9001（品質マネジメントシステム）に合格していたが、工場では品質管理が正しく行われていなかったーーためとして、大臣認定制度のシステム設計に致命的な欠陥
・施工者と設計者が工場で全数調査する決まりになっているが、全製品の書類を調べるだけだ。肝心の実物検査に関しては、製品の一部を抜き取って、その姿と形を眺める程度に過ぎない。病院に例えると、レントゲン検査をする訳ではない
・品質（機能性）が劣る東洋ゴムの製品をコストパフォーマンスの観点から採用したように見える。「安物買いの銭失い」
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/sj/15/150245/042800010/?P=1

同氏が、同じメディアの4月28日で、「続報2─マンション各社を動揺させた「東洋ゴム免震事件」、マンション住民を待ち受ける３つの難題」では、概ね以下のように指摘。
・免震装置の製作には時間がかかるため、東洋ゴムだけでは対応しきれない。そのため競合メーカーで製造能力に優れたブリヂストンにも製作を依頼しているが、製品を納入するまでに最長では数年かかるという見通しも
・工事は難しく、マンション入居者は一時退去する必要。東洋ゴム工業は好業績なので負担能力は十分
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/sj/15/150245/042700009/?P=1

このように、今回の問題は東洋ゴム工業固有の問題ではなく、どこでも起こり得る問題であるとすれば、大臣認定制度の改善は急務だろう。幸い、同社の負担能力には問題がなさそうなのが、せめてもの「救い」といえるのかもしれない。明日は金曜日なので休む予定、明後日にご期待。

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