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新国立競技場問題(その6)重大な安藤忠雄の責任 [社会]

昨日に続き、新国立競技場問題(その6)「重大な安藤忠雄の責任」を取上げたい。昨日は「決定過程の政治面」を取上げると予告したが、これは明日に回すこととする。

7月16日付けSAFETY JAPANに建築&住宅ジャーナリストの細野透氏が寄稿した「新国立無駄遣い─安藤忠雄氏が見逃したザハ案の金食い虫リスク」のポイントを紹介しよう。
・「新国立競技場の無駄遣い功労者」としては、下村博文文部科学相と日本スポーツ振興センター(JSC)の河野一郎理事長、建築家の安藤忠雄氏
・安藤忠雄氏は国際コンペの審査委員会で委員長として、イラク出身で英国に設計事務所を構える女性建築家ザハ・ハディド氏の設計案を強く推薦
・審査結果が公表された後に持ち上がった、建設計画の見直しに関する会合には、知らんぷりを決め込んでいます
・安藤氏は初め大阪の新進建築家として知られていたのですが、「元ボクサー」「独学」「闘う建築家」などのイメージと、分かりやすく歯切れのいい言葉遣いで日本を代表する建築家に登り詰めた。当時の石原慎太郎東京都知事にも信頼され、依頼された「2016年東京オリンピック誘致計画」のための基本デザインの骨格は「緑の回廊」
・これは東京湾埋立地の「海の森」、皇居・北の丸公園、明治神宮外苑、明治神宮内苑、代々木公園、青山通りや表参道などの街路樹から構成。残念ながらこの誘致計画は実現しませんでしたが、基本デザイン自体は高く評価
・安藤氏は引き続き、東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会の評議会委員を務め、自他ともに認めるかたちで新国立競技場コンペの審査委員長に就任。しかし2012年11月15日に女性建築家ザハ・ハディド氏の設計案を選定したことが、一転して今日の苦境を招く原因に
・安藤氏が世間から追求されている主な理由は以下の7点。①ザハ・ハディド氏の設計案を強く推薦し、最優秀に選んだこと。②ザハ案が巨大すぎる事実を見抜けなかったこと。③ザハ案が「明治神宮の森」「神宮の森」「東宮御所の森」「皇居の森」と続く貴重な緑と都市景観を破壊する事実を見抜けなかったこと。④国立競技場の改修案の可能性を検討しなかったこと。⑤コンペの審査基準に総工費が1300億円とされていたのに、その後にザハ案が3000億円以上になると判明したこと。⑥コンペの条件設定の確認を怠ったこと。⑦見直しに関する会合に出席しなかったこと
・詳しく説明すると、①「ザハ案が最優秀」では何がまずいのでしょうか。常識がある建築関係者なら、「ザハ氏の設計は大きなリスクがある」ことを誰でも知っています。  普通、柱は真っ直ぐですし、壁は垂直ですし、床は水平。しかしザハ氏は柱を曲げたり、壁を斜めにしたり、床を傾けることが得意。そのため工費がどんどんアップするし、工期もどんどん延びるため、途中で破綻するケースが多いため「アンビルドの女王」として知られています。要するに競技場が建たなくなるリスクが大きいのです
・今回、工費アップと工期延長の原因となっている「キールアーチ」は、例えていうと壁が斜めになっているような構造。欧米に多いアーチは円を半分に切ったような形で、これなら費用は余りかかりません。しかしキールアーチはとんでもない金食い虫なのです
・安藤氏は審査委員長です。しかも、わずか4人しかいない東京大学特別栄誉教授です。「ザハ案はリスキー」とひと言だけ説明すればよかったのです
・文部科学省やその天下り先である日本スポーツ振興センター(JSC)の面々は、本能的にリスクをとるのが嫌いですから、今回のようなドタバタ劇は起こらなかったのです。しかし肝心の安藤氏は、そのザハ案を強く推薦
・「日本の閉塞的な状況を打ち破る意味でも、ワールドカップやオリンピック、そして壮大なスケールのエンターテイメントができることを期待している」。 「最優秀案は相当な技術力が必要である。これが日本でできるとなれば、世界へのインパクトがある。材料、工法、構造技術、設備技術について、日本の優秀さを世界にアピールできて、世界中の人たちから注目を集めることができたら素晴らしい」
・安藤氏は日本の建築界を支えているゼネコン、サブコンが疲弊している事態から、目を背けているだけではないのでしょうか
・②「ザハ案が巨大すぎる事実を見抜けなかったこと」の原因は審査委員会の救いがたいミスによるもの。ザハ案は敷地をはみ出していた。 これに関しては、建築家の槇文彦氏が「提出する資料に模型が含まれなかった」として厳しく批判。模型を提出させていれば、誰でもひと目で分かるのに、なぜそうしなかったのでしょう。大いなるポカミスとしかいいようがありません
・③「ザハ案が神宮の森と都市景観を破壊する」。これも不思議。そもそも安藤氏自身が、「2016年東京オリンピック誘致計画」の基本デザインとして、明治神宮内苑や明治神宮外苑の「緑の回廊」を打ち出していたはずです。自分が設計する場合には「緑の回廊」を守るけれど、ザハ案なら「緑の回廊」を破壊してもいいということなのでしょうか。誰がどう考えても矛盾
・この問題に関しては、日本学術会議の環境学委員会から2015年4月に、「神宮外苑の環境と新国立競技場の調和と向上に関する提言」が発表されています。その要旨は、1915年から約1世紀をかけてようやく豊かに育ち、日本における風致地区の第一号に指定された外苑・内苑の森が、ザハ案によって無残にも寸断されてしまう、というものです
・各メディアは最近、「新国立競技場は次世代の借金を押しつける負のレガシー(資産・遺産)である」として、批判を強めています。けれどもそれに加えて、東京都民が営々と築きあげてきたレガシーの森が、あっさり切り倒されてしまうのです
・④「国立競技場の改修案の可能性を検討しなかった」ことも残念です。安藤氏自身は提唱した「緑の回廊」を守る最善の策は、国立競技場を改修して、仮設スタンドを増築すれば済んだのではないでしょうか。  そして安藤氏が、「これが日本でできるとなれば、世界へのインパクトがある。日本の優秀さを世界にアピールできて、世界中の人たちから注目を集めることができたら素晴らしい」とコメントすれば、日本が緑を守ろうとした先見性にすべての人が納得したはずです
・⑤「コンペの審査基準に総工費が1300億円とされていたのに、その後にザハ案は3000億円以上になると分かったこと」については、安藤氏には、ザハ案のような難しい構造物の総工費を概算する能力はありません。そもそも工期や総工費を判断する作業は、技術専門委員および事業主であるJSCの役割。そういう意味では、総工費と工期について安藤氏の責任を追及するのは、無理がないわけではありません
・しかし視点を替えて、⑥「コンペの条件設定の確認を怠ったこと」に的を絞ると、やはり安藤氏は責任を免れることができません
・歴史を振り返って見ると、大規模な建設プロジェクトを国際コンペ方式で進める場合には、常にトラブルが発生。その代表例がシドニー・オペラハウスです。建築家ヨーン・ウツソン氏が設計したこの建物は、独創的な形状と構造設計の難しさなどのため工事は大幅に遅れ、1959年に着工したにもかかわらず、竣工は14年後の1973年にずれ込みました
・このようなトラブルを避けるためには、コンペを実施する前に、専門家に参加してもらって「コンペの条件」をきちんと詰める必要があります。安藤氏は海外コンペにも多数参加しているので、経験が豊富だったはずなのに、なぜその作業を怠ったのでしょう。審査委員長の最大の仕事はコンペの条件を設定することなのです
・さてシドニー・オペラハウスは、工期が大幅に遅れ工費が大幅にアップしたにもかかわらず、完成後はシドニーのみならずオーストラリアのシンボルとして親しまれています。また最も新しい世界遺産として知られています
・これに対して新国立競技場は、着工する以前から国民の批判を浴びて、完成する前から負の遺産とウワサ
・それにもかかわらず、安藤氏は⑦「見直しに関する会合」に出席していません。  コンペから約10カ月経った2013年8月、建築家の槇文彦氏が日本建築家協会機関誌「JIA MAGAZINE」でザハ案の問題点を指摘。そして翌9月7日に東京オリンピック・パラリンピック招致が決定したため、建築界の内部でザハ案を見直さなければならないという空気が一気に高まりました
・しかし安藤氏は見直しに関する会合には知らんぷりを決め込みました。そのあおりを受けて、他の審査員が嫌々ながら会合に代理出席する形が続いたため、安藤氏に対する批判が急速に高まりました
・安藤氏が好んで口にしていたのは「元ボクサー」であり、「闘う建築家」という生き方。しかし安藤氏は「闘う」どころか、逃げ出してしまったのです。「闘う建築家」が逃げたらどうなるのでしょう。長年の安藤ファンは失望し、あきれ果て、やがて「逃げた建築家」として見放すようになりました
・揚げ句の果てには、「無駄遣い功労者」の一人である下村博文大臣からも、7月10日の記者発表の席で、「堂々と自信を持って、なぜザハ案を選んだのか発言してもらいたい」と批判される有様です。要するに「逃げるとは卑怯ではないか」と責任転換され、人身御供にされてしまったのです
・それに対して安藤氏は7月11日、日本テレビ系の「ウェークアップ! ぷらす」に、「コンペの与条件としての予算は1300億円であり、応募者も認識している」「デザイン決定後の基本設計や実施設計には、審査委員会はかかわっていない」というコメントを寄せました。 また最終的な計画概要の2520億円という金額に関しては「何でこんなに増えてるのか、分からへんねん!と驚いていた」そうです。そんな安藤氏が7日の有識者会議を欠席した点に関して、司会者は「しゃべりたい気持ちは満々らしいが、周囲から止められているらしい」と聞いているとしています(スポーツ報知)
・私は建築ジャーナリストとして安藤忠雄氏のファンでしたので、「逃げる建築家」の姿には深く失望していますが、今は私情を離れて、真剣に同氏の責任を問わなければならないと考えています
・その最も大きな理由は、三人の「無駄遣い功労者」、すなわち下村大臣とJSCの河野一郎理事長と安藤氏のうち、総工費と工期の問題を解決する能力を持っていたのは、安藤氏ただひとりだったためです。  安藤氏が逃げないで問題に立ち向かっていれば、建築界の支持を得て、何とかなったかもしれないのです。これに対して下村大臣と河野理事長には、そもそも問題を解決する意欲も能力も誠意もありません
http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/sj/15/150245/071500016/?P=1

上記の「無駄遣い功労者」のうち、下村大臣と河野理事長は単なる「使い走り」で、2人の背後にいる上記には登場しない森元首相の「功労」の方がはるかに大きいように、私には思える。
建築家といっても、デザインと構造に分かれるので、上記の「安藤氏には、ザハ案のような難しい構造物の総工費を概算する能力はありません。そもそも工期や総工費を判断する作業は、技術専門委員および事業主であるJSCの役割」は、専門家らしい指摘だ。ただ、そうは言っても、審査委員長であるからには、「コンペの条件設定」の責任があり、コストについても他の専門家の意見を聞くなりして精査する責任があるのではあるまいか。
明日は、「決定過程の政治面」を取上げる予定である。
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