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アベノミクス(その3)新3本の矢など [経済政策]

アベノミクスについては、前回は9月30日に取上げた。
今日は、以前にも紹介した元大蔵官僚で早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が、新3本の矢や、経済の現状について、ダイヤモンド・オンラインに寄稿した2つの記事である。

10月1日付け「安倍内閣“新3本の矢”は経済政策失敗の目くらましだ」のポイントは以下の通り(▽は小見出し)。
・安倍晋三総理大臣は、新しい3本の矢を放つとした。これは、「金融緩和政策から足を洗う」という政府の政策転換の表明だ。2%のインフレ目標は、政府にとって重荷になっている
▽金融緩和政策からの撤退が明白に表明された
・安倍晋三総理大臣は、9月24日、総裁選出後初めての記者会見を行なった。その中で、「本日からアベノミクスは第2ステージに入る」とし、(1)国内総生産(GDP)600兆円、(2)出生率1.8、(3)介護離職ゼロという新しい3本の矢を放つとした
・この中に、金融緩和政策や2%のインフレ目標は入っていない。これまでアベノミクスの金看板だった金融政策は、第2ステージでは消えたことになる。マクロ政策(金融緩和政策や財政拡大政策)からの撤退は、すでに6月の成長戦略(「日本再興戦略」)の中で、「デフレ脱却を目指して専ら需要不足の解消に重きを置いてきたステージから、人口減少下における供給制約の軛を乗り越えるための腰を据えた対策を講ずる新たな『第二ステージ』に入った」という形で示されていたが、それがより明確な形で表明されたことになる
▽転換の理由は、経済政策失敗から国民の目をそらすこと
・マクロ政策から撤退する理由として、それが失敗したからだとは、もちろん言っていない。安倍総理は、これまでの経済政策の成果に言及し、「(経済情勢は)もはやデフレではないという状態まで来た。デフレ脱却はもう目の前だ」と述べた
・しかし、次項で述べるように、消費者物価上昇率はマイナスになっている。多分、今年いっぱい程度はこの状態が続くだろう。そして、さまざまな指標が経済の停滞を示している。今回の政策転換の本当の理由は、これまでの経済政策の失敗から国民の目をそらすことだ
・安倍内閣が政権を取って以来、円安が進行して企業の利益が増加し、それによって株価が上昇した。アベノミクスの支持者は、これが成果だと言うだろう。しかし、円安による企業の利益は、健全なものとは言えない。しかも、円安によって本来期待される輸出増大効果は実現していない
・したがって、私は株高がアベノミクスの成果を表すことにはならないと思う。株価の上昇は所得分配の悪化をもたらすだけであり、日本経済を回復させるものでも、回復の結果でもない
・ただ、それにもかかわらず、投機家や経済界が株高を支持してきたことは間違いない。株価こそが安倍内閣の経済政策に対する信頼をつなぎとめてきた
・ところが、その最後の砦が崩れつつある。8月末以降の株価下落は、アベノミクスにとって深刻な事態である。しかも、次項で見るように、インフレ目標は実現に程遠い。したがって経済政策論議をマクロ経済の問題から引き離すことが必要と考えられているのである
▽間違いが明白になった2%目標 日銀はハシゴを外された
・政府がいま最も触れたくないのは、「2%インフレ目標」だろう。 原油安を背景に、日本銀行が目安とする生鮮食品を除いた消費者物価(コアCPI)の前年比上昇率は、2015年8月にはマイナスに落ち込んだ(図表1参照)。 消費者物価は、輸入物価の動向で大きく影響を受ける。その半面で、国内の需給関係にはほとんど影響されない。だから、簡単に予測できる
・図表2に示すように、輸入物価の変化がほぼ半年程度の時間遅れを伴って、対前年比で10分の1程度の規模で、消費者物価指数の変化となって現れる。最近の状況を見ると、円安による物価上昇効果が薄れ、そのかわりに原油の影響が明確になっている。このために消費者物価の伸びがマイナスになったのだ
・15年秋の消費者物価上昇率がマイナスになるだろうことは、拙著『2040年問題』(第2章、ダイヤモンド社、15年)ですでに予測したところだ。  輸入物価指数の最近の対前年比はマイナスなので、消費者物価指数前年比も、少なくとも今年いっぱい程度は、マイナスの状態が続くだろう。したがって、日銀の目標は達成できない
・ただし、これは、日本経済にとっては望ましいことだ。とくに原油価格下落は、明らかに望ましい事態だ。国民にとって望ましい事態が日銀の目標に反するという事態は、なんとも説明に窮する
・一方、円安の影響で食料品価格が上昇するという傾向が明確に表れている。食品については確かにデフレ脱却が実現しつつある。しかし、その結果、何が起こっているかといえば、買い控えだ。そして、これが消費全体の伸びを抑制する
・問題は、2%目標を実現できるかどうかではない。「物価が上がれば経済が活性化する」という基本的な考えが誤っていることである
▽GDP600兆円の実現には物価の安定・消費増加が不可欠
・GDP600兆円は実現できるだろうか?もちろん、想定する数字を操作すれば、どのような結果を示すこともできる
・実際、内閣府による「中長期の経済財政に関する試算」(2015年7月)によると、「経済再生」ケースでは、21年度におけるGDPは、616.8兆円となる。ただしこれは、18年度からの実質成長率が継続的に2%を超えるとか、17年度の消費者物価指数が3%になるなど、かなり非現実的な想定を置いた上での結果である。この数字は、GDP600兆円が実現できそうであることを示すものではなく、逆に、それがいかに難しいかを示すものだ。  実際、より現実的な見通しである「ベースラインケースケース」では、試算の限界である23年度までにGDPが600兆円を超えることはない。20年度では552.1兆円だ
・過去の実績を参照すれば、GDP600兆円の実現はかなり困難と考えざるをえない。 日本の名目GDPは、1990年以降(2007年を除いては)510兆円未満だ。リーマンショック後は、14年まで500兆円未満の状態が続いた(図表3を参照)。 IMFの予測では、日本のGDPは今後成長すると予測されているものの、20年においても534兆円である
・成長のパターンも重要だ。公共投資を増やすことによって政策的に成長率を押し上げるのも、原理的には可能である。ただし、現実に重要なのは、GDPの約6割を占める個人消費を増やすことだ
・現実の経済では、消費税率引き上げに伴う反動減の影響一巡後も、個人消費は低迷を続けている。最近では、先に述べたように、食料品などの物価上昇が原因だ。  だから、個人消費を増やすには、物価を安定させることが必要であり、そのためには、金融緩和を停止する必要がある。  政府部内にも、円安・物価高は望ましくないので、2%のインフレ目標は望ましくないとの意見が出てきているようだ
▽金融緩和の巨大なコスト  いま必要なのは追加緩和ではなく出口戦略
・2013年に金融緩和を導入したときの論理から言えば、いまインフレ率が低下し株価も下落しているのだから、追加緩和が必要ということになるだろう。実際、10月末の追加緩和を予測する声もある。しかし、そうしたことをしても、成果は得られないだろう
・中国で株価対策をとったにもかかわらず、株価の下落を阻止できなかったのと同じことが起きる。だから、追加緩和をしても政策に対する信頼が低下するだけのことである。  多くの人は、追加緩和がないと金融政策の効果がないような錯覚に陥っている。しかし、金融緩和政策は現に継続中なのであり、追加緩和が行なわれなくても、大量の国債購入が実行されていることに注意しなければならない
・これによって、市中に存在する国債が品薄になる。また、国債発行に対する制約がなくなる。そして、財政規律が弛緩する。実際、来年度予算に対する要求は膨れ上がっている
・また、日銀に巨額の国債残高が積み上がる。仮に金融が正常化して金利が上昇すれば、巨額の損失が発生する
・金融緩和のこうしたコストを考えると、いま必要なのは、追加緩和でなく、緩和政策の出口を探ることである
▽生産性向上のための構造改革はどこに消えた?
・今年の6月に発表された「日本再興戦略」では、生産性の向上が必要であるとした。この認識は正しい。しかし、今回の安倍総理大臣の会見では、それはどこかに姿を消してしまった
・新しい技術によって新しい可能性が開けている。それを現実化するためには、参入規制を緩和する必要がある。これができるかどうかが、日本の将来にとって大きな意味を持つのだが、そうした議論はなくなってしまった
・いまひとつ興味深いのは、「日本再興戦略」では、人工知能やビッグデータなどかなり高度な技術について言及されていたのだが、それが今回は消えてしまったことだ。年金機構の情報漏出問題が明るみに出て、日本のサイバーセキュリティは人工知能やビッグデータを使うにはあまりにお粗末であることが露見したことの影響だろうか?
・一昨年の成長戦略では、コーポレイトガバナンスが重要だと強調されていた。しかし、ガバナンスの最先端の仕組みを備えていると言われた東芝で、不正経理事件が発覚したため、コーポレイトガバナンスという言葉は、どこかに吹き飛んでしまった
・生産性の向上こそ構造政策の柱である。それを実現する具体的な手立てが、流行語を追いかけるだけで、このようにコロコロ変わるのでは困る
▽見えない社会保障制度の方向性 出生率引き上げより移民を検討すべき
・「需要政策から構造政策へ」ということの実態は、マクロ政策の効果が怪しくなったので、社会保障や出生率の問題にすり替えようということだ
・社会保障制度への取り組みが必要なことは、誰でも認める。ただし、それは、「介護離職ゼロ」というような狭い範囲の問題ではない
・問題は、社会保障制度全体としていかなる方向を目指すかだ。とりわけ、需要を所与として負担増加を求めるのか、それとも負担を抑えて需要をそれに合わせるのかについての基本戦略が必要である。この2つは財政収支という点からいえば同じだが、政策の内容はまったく異なる方向のものだ。負担増加を求めるとすれば、どこまで求めるかが問題だ
・安倍総理大臣は、出生率を引き上げるという。出生率が上昇するのは、望ましいことである。しかし、それによって経済問題が解決されるわけではない。これが何らかの政策を行なっているという免罪符に使われては困る。  雇用情勢が好転していると言うが、その実態は、若年者労働力の減少による人手不足の顕在化だ。労働力不足が問題であるのであれば、まず何よりも、移民を検討すべきだ
▽消費税率を10%に引き上げても財政再建目標は達成できない
・もうひとつの重要な課題は、消費税率の引き上げである。2017年4月からの消費税率10%への引き上げについて、前記の会見で安倍総理大臣は、「リーマンショックのようなことが起こらない限り、予定どおり実施する」と述べた。ここには、つぎの2つの問題がある
・第1は、予定どおりの引き上げが行なわれるかどうかに、まだ不確実性があることだ。税率の引き上げが行なわれなくても、直ちに財政赤字が拡大するわけではない。しかし、財政再建に対する政府の基本的な姿勢を示すという意味で、これは重要なのである
・第2は、消費税率を10%にしたところで、財政再建目標は実現できないことだ。しかも、政府は財政再建目標としてプライマリーバランスを用いているが、財政再建の問題は、プライマリーバランスの問題だけではない。 すでに日本国債の格付けは引き下げられている。それが進んで日本経済に対する信頼が失われ、日本売り的な資本流出が生じれば、日本は破たんするだろう
▽これまでの経済政策に関する「中立的第三者評価委員会」が必要だ
・いま必要とされるのは、思いつき的キーワードを乱発することではない。まず、これまでの経済政策についての客観的な評価が必要だ
・金融緩和は、本当は何を目的にして行なわれたのか?そして実際にはどのような効果を発揮したか?これらが不明なまま、2年間半が過ぎてしまった
・税制面では、法人税減税を行った。その効果の検証も必要である。また春闘に介入して賃金を引き上げようとしたが、実質所得ははかばかしく増加せず、消費も増加しない。設備投資も増加しない。輸出も増加しない。結局のところ、これまでのGDP成長は、消費税増税前の駆け込み需要と財政拡大によって実現しただけのことなのである
・経済財政白書は、本来は以上のような問題に関して客観的な評価を示すべきだ。しかし、実際には、政権に気を使って、その役割を果たしていない
・最近では、「中立的第三者評価委員会」がはやりだが、そうした評価が最も必要とされるのは、政府の経済政策ではないだろうか?もっとも、本来なら、国会の委員会がその役割を果たすべきなのであるが
http://diamond.jp/articles/-/79221

次に、経済の現状について、10月8日付け「日本経済の現状は悪化ではない、もともと悪かった」のポイントを紹介しよう(▽は小見出し)。
・鉱工業生産指数や在庫指数の動きから判断すると、7~9月の実質GDPもマイナス成長になる可能性が高い。重要なのは、これが単に短期的な景気変動の問題であるというよりは、構造的な問題であることだ。消費税増税前の駆け込み需要や財政支出の増加を除外すると、ここ数年、実質GDPは横ばいだった
▽低下を続ける鉱工業生産指数
・鉱工業生産指数が低下を続けている。経済産業省が9月30日に発表した8月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は、前月比で0.5%低下した。低下は2ヵ月連続である。これを受けて、生産の基調判断は「一進一退で推移している」から「弱含んでいる」に変更
・図表1に示すように、最近の鉱工業生産指数は、消費税増税直前の14年1月の103.2をピークとして、低下傾向にある。15年1月には一時的に102.1まで上昇したが、これを除くと停滞気味であり、今年夏以降は明確に下落。経済産業省の製造工業生産予測調査の8月の予測では、8月は前月比2.8%の上昇が見込まれていた。しかし、実際には、上述のように低下になったのだ
・予測調査によると、9月は前月比0.1%の上昇、10月は同4.4%の増産計画になっている。これから計算すると、7~9月期の鉱工業生産指数は97.2となり、4~6月期の98.3に比べて1.09%の低下になる。  4~6月期の生産指数は、1~3月期の指数に比べて1.44%の低下。したがって、仮に予測調査どおりであれば、生産指数は2期連続の低下になるわけだ
・鉱工業生産指数は、実質GDPと強く相関。実際、4~6月期の実質GDP成長率は、季節調整済み前期比年率1.2%減であり、鉱工業生産指数の低下率1.44%とほぼ同じ値だった。これから判断すると、7~9月の実質GDPは、1%程度のマイナス成長になる可能性がある
▽在庫が積み上がっているのは「意図せざるもの」の可能性が高い
・実際には、状況は、上で述べたより悪くなる可能性がある。それは、在庫指数が非常に高い水準になっているからだ。 在庫指数は、図表2に示すように、2014年の春以降上昇傾向にあり、15年8月には114.1になった
・リーマンショック後の在庫指数の動きを見ると、08年12月に119.8に達したが、それ以後は低下し、09年4以降は110を下回っていた。8月の指数は、09年3月以降の最高値だ
・在庫投資には、「意図した在庫投資」と「意図せざる在庫投資」がある。前者は、将来の売り上げ増を見込んで積極的に生産を増やし、在庫を増やすものである。それに対して後者は、生産したものの売り上げが伸びないため、在庫が積み上がってしまう結果発生するものだ
・在庫の統計だけを見ている限り、どちらであるかを判別することは難しい。ただ、最近における在庫投資は、以下に述べることから明らかなように、「意図せざる」在庫増であると考えられる。つまり、売り上げが伸びないために、結果的に在庫が積み上がってしまうのである。  そうだとすれば、将来、生産調整を行なうことによって在庫を減らさざるをえなくなる
▽高い在庫はいずれ生産減で調整される 日本経済は時限爆弾を抱えている状態
・生産指数と在庫指数のここ数年の動向は、つぎのように要約することができる。13年には、消費税増税を予測して買いだめ需要が発生し、生産が増加した。そして、在庫も減少した。しかし、14年4月に消費税増税が実施された直後からは、これが逆転し、生産調整が始まって、生産指数が低下した。しかし、売り上げが伸びなかったため、在庫は増加した。14年の秋頃に在庫指数が頭打ちになったため、生産調整も一時的に終わった。 しかし、14年冬頃から生産が増加したため再び在庫が増加し、そのため最近では再び生産調整が行なわれている
・上で見たように、現在の在庫の水準はかなり高い。だから、かなりの生産減を行なわないと、適正な在庫水準に戻すことができない。 こうした見方が正しいとすれば、前記経産省の製造工業生産予測調査のように9月、10月に生産指数が増加に転じるかどうかは、きわめて疑わしいと言わざるをえない
・すでに述べたように、生産予測調査通りになったとしても、7~9月期の鉱工業生産指数は対前期でマイナス成長になる。いま述べたように9月、10月の生産指数が増加に転じなければ、15年全体がマイナス成長になる可能性を否定できない。そうなれば、14年から2年間引き続いてのマイナス成長ということになる
・仮にプラス成長となっても、それは在庫投資の増加によって引き起こされている見かけ上のプラス成長となる可能性が強い。在庫はいつかは適正な水準まで引き下げざるをえない。つまり、日本経済は時限爆弾を抱えているようなものだ
・日本銀行が10月1日に発表した短観(全国企業短期経済観測調査)によると、在庫水準判断DIは、大企業・製造業、中小企業・製造業とも「過大」超が、6月調査に比べて拡大した。これは、上で述べた動きと整合的だ
▽企業景況感の悪化と株価崩壊は日本経済の長期的問題の表れ
・こうした状況を背景として企業の景況感も悪化。日銀短観を見ると、つぎの通りだ。  景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた値は、代表的な指標とされる大企業の製造業でプラス12ポイントとなり、6月の調査から3ポイント低下して、3期ぶりに悪化した。先行きについても2ポイント悪化すると見込まれている。また、中小企業では、製造業が横ばいで0ポイント、非製造業が1ポイント悪化してプラス3ポイントとなった
・以上で見たように、多くの指標が経済の停滞ないしは悪化を示している。そして株価も下落している。これまで経済政策がうまくいっていたように見えるのは、株価が上昇を続けていたからである。しかしその株価も崩壊したのだ
・次項で述べるように、もともと日本経済の実態は良くなかった。それにもかかわらず株価が堅調だったために、そうした実感が持てなかったのである。世界的な株価下落の影響を受けて、日本の株価上昇もバブルに他ならないことが明確になったわけである。そして、現在の経済の実態が、多くの人にとって明らかになりつつある
・世界的な株価の下落の原因は、中国の成長率低下だと言われる。中国の成長率低下は事実だが、それが先進国経済にさほど直接的な影響を与えるわけではない
・これは、アメリカの金融緩和で資金を供給されていた投機が、アメリカ金融正常化によって終わったことによるものである。投機によって株価が上昇していたにすぎなかったのだ。それが新しい均衡に向かいつつある
・本稿の最初でGDP成長率が今後もマイナスになる可能性が高いと述べた。 しかし、ここにきて急に状況が悪化したのではなく、もともと悪かったのである。2013年頃の経済成長を支えたのは、金融緩和ではなく公共投資と、消費税増税前の駆け込み需要であった
・重要なのは、これまで述べた動きが、単に短期的な景気変動であるだけでなく、日本経済の長期的な動向の現れであることだ。経済の停滞や落ち込みの原因を中国経済の減速に押し付けるのでなく、日本経済の構造自体に問題があることを認識すべきである
▽これまでGDPを支えたのは駆け込み需要と政府支出
・GDPの推移を見ると、図表3のとおりだ。四半期のGDP(年率換算)は、12年には515~520兆円程度だったのが、13年には525~530兆円程度へと10兆円程度押し上げられた。つまり、アベノミクスによって10兆円程度押し上げられたように見える
・しかし、民間最終消費を見るとそうではない(図表4)。12年も15年もだいたい305兆円で変わりはない。むしろ若干落ち込んでいる。13年における民間最終消費は、消費税増税前の駆け込み需要に影響されている。増税直前の14年1~3月期にはそれが明確に発生しているが、それだけでなく、13年を通して駆け込み需要が消費を押し上げていたと考えることができる
・消費支出は、13年において駆け込み需要で一時的に増えただけであり、それを除けば、東日本大震災からの復興以来、現在に至るまでほとんど変わっていないのである。 そして、このような消費の動きが、図表1、2における生産指数と在庫指数の動きに対応
・では、GDPを押し上げたのは何だったのだろうか? それは財政支出の増加である。図表5に見るように、それまでは120兆円程度であったものが、安倍晋三内閣成立後は125兆円程度となっている。この増加が、ほぼ最初に見たGDPの押し上げ効果に対応
・政府支出の内容を見ると、政府消費と公共投資のいずれも増えている。前者は高齢化の進展に伴って医療サービス等が増加していることを示している。これは将来も継続するだろう
・企業収益が増加したため法人税が増加し、また金融緩和政策による金利低下で国債費が低く抑えられているため、財政拡大は、いまのところ財政収支の悪化となっては現れていない。しかし、それらの条件が失われれば、急速に財政赤字を悪化させるだろう
▽追加緩和要請は株価引き上げを望むもの 実体経済の改善には効果はない
・経済停滞を背景として、金融政策の追加緩和に対する要請が強まっている。 しかし、実体経済の改善が目的であれば、緩和を行なったところで、効果はない。追加緩和を求めるのは、経済活動の活発化を望むからではなく、株価の引き上げを求めるからであろう
・実際、10月1日の日銀短観発表のときには、景況感が悪化したため追加緩和が行なわれるとの観測が広がって株価が上昇するという、きわめて奇妙な事態が発生した。 また、金融緩和の内容として、国債の購入の増加というよりは、ETF購入の増加が求められていることも、目的が株価上昇であることを示している。公的年金資金や日銀による買い上げで株価を維持するというのは、末期的な状況としか考えられない
・財政支出を増加させれば、2013年においてそうなったように、GDPを押し上げることが可能だ。ただし、そうしたことを行なっても、長期的な観点から日本経済を改善することにはならない。これは、短期的にGDP成長率を高めるだけで、財政赤字拡大という問題をもたらすだろう。前述のように、現在では財政赤字は問題にならないが、長期的にはきわめて深刻な問題となる
・日本経済の低成長は構造的な問題であり、金融緩和や財政拡大によっては対処できない。  それに対処するのに必要なのは、GDP600兆円というような数字を根拠もなく打ち上げることではない。産業構造を転換させることによって経済構造を変えることである。現在の日本経済にとって必要なのは、そのことだけであると言っても良い
http://diamond.jp/articles/-/79638


野口氏や浜氏をよく取上げる理由は、政府に遠慮なく、ズバリと切り込む面白さがあるからである。銀行系や証券会社系のエコノミストは、新聞やテレビなどのマスコミと同様に、政府への遠慮が強過ぎて、あまり参考にならない。
野口氏の記事のなかでも、「第2ステージ」の新3本の矢は、「経済政策失敗の目くらましだ」、「間違いが明白になった2%目標 日銀はハシゴを外された」、「金融緩和の巨大なコスト  いま必要なのは追加緩和ではなく出口戦略」、「これまでの経済政策に関する「中立的第三者評価委員会」が必要」との指摘は鋭い。
ただ、「出生率引き上げより移民を検討すべき」には違和感がある。出生率引き上げは、効果が経済に出てくるまでは20年近くかかるため、当面の対策にはならないが、長期的な対策としては必要だ。また、移民については、国際的要請に応える必要性からはある程度前向きに検討すべきだが、成長促進策として本格的に推進するのは、社会的摩擦も考慮し、慎重に対応すべきと思う。
タグ:金融緩和の巨大なコスト 日銀はハシゴを外された 日本経済の現状は悪化ではない、もともと悪かった 8月末以降の株価下落 最後の砦が崩れつつある 介護離職ゼロ 第二ステージ いま必要なのは追加緩和ではなく出口戦略 生産性向上のための構造改革はどこに消えた 円安による企業の利益は、健全なものとは言えない これまでの経済政策に関する「中立的第三者評価委員会」が必要 経済政策失敗から国民の目をそらすこと 在庫が積み上がっているのは「意図せざるもの」の可能性が高い 日本のサイバーセキュリティ 実体経済の改善には効果はない 追加緩和要請は株価引き上げを望むもの 本経済の長期的問題の表れ 企業景況感の悪化と株価崩壊 日本経済は時限爆弾を抱えている状態 高い在庫はいずれ生産減で調整 低下を続ける鉱工業生産指数 見えない社会保障制度の方向性 不正経理事件が発覚 東芝 人工知能やビッグデータを使うにはあまりにお粗末 GDP600兆円の実現には物価の安定・消費増加が不可欠 「物価が上がれば経済が活性化する」という基本的な考えが誤っている 消費者物価指数前年比も、少なくとも今年いっぱい程度は、マイナスの状態が続くだろう 間違いが明白になった2%目標 深刻な事態 株高がアベノミクスの成果を表すことにはならない 投機家や経済界が株高を支持 本来期待される輸出増大効果は実現していない コーポレイトガバナンスが重要だと強調 アベノミクス 新3本の矢 批判 安倍内閣“新3本の矢”は経済政策失敗の目くらましだ 金融緩和政策からの撤退が明白に表明 出生率1.8 国内総生産(GDP)600兆円 ダイヤモンド・オンライン 野口悠紀雄
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