SSブログ

国家主義的経済政策:安倍首相の携帯料金引下げ検討指示(その2) [経済政策]

国家主義的経済政策:安倍首相の携帯料金引下げ検討指示については、昨年9月23日に取上げたが、今日は(その2)である。

先ずは、昨年12月26日付けダイヤモンド・オンライン「「端末0円」終了?2016年の携帯料金はどうなる」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・安倍晋三首相の鶴の一声で始まった、携帯電話の通信料金の値下げ議論。2015年9月に行われた経済財政諮問会議で「家計における通信料金の負担が増加している」と指摘されたことで、総務省が携帯電話会社に対して、通信料金の値下げを要請しようとしているのだ。
・とはいえ、政府が民間企業の料金設定に介入するというのは、やや乱暴な感がある。そのため、総務省としてもあの手この手で安倍首相のメンツを保ちつつ、国民の支持を得ようと画策している。 しかし、携帯電話会社も、料金値下げは営業収益に大打撃を与えかねないだけに、抵抗は必至だ。
▽国際的には高くない日本の通信料金
・携帯電話会社に対して、「日本は世界に比べて料金が高い」と指摘できれば、総務省としては話が早い。だが、総務省が調べたデータによれば、先進国で比較した場合、日本は平均レベルの通信料金に収まっている。
・このデータがあることで「日本の通信品質を考えれば、日本の料金は決して高くない」(ソフトバンクグループの孫正義社長)と、携帯電話会社が真っ向から反論しているのだ。
・さらに、通信料金に関しては、14年にNTTドコモが音声通話定額制やユーザーの利用状況に合わせた新料金プランを導入。他社も追随している。また、15年にもKDDIが音声通話定額制のライトプランを開始し、他の2社も後追いするなど、「ユーザーのために料金プランを常に考えてきている。総務省の議論は理解に苦しむ」(田中孝司・KDDI社長)という意見にもうなずけるほど、各社はそれなりに料金値下げの努力を続けてきた。
・そこで、総務省が指摘したのが、キャッシュバックや端末の大幅値引きに関する問題点だ。 店頭では、「実質0円」といった売り方がされており、端末代金を負担しなくても新製品が買えるような施策が展開。また、携帯電話会社を乗り換える人には「キャッシュバック」として数万円の現金や商品券が渡されることがある。
・そこで総務省は「頻繁に端末や携帯電話会社を乗り換える人だけが得をする。同じ端末を使い続ける人が支払っている通信料金が、それらの割引原資になっており不公平感がある」という指摘をし始めた。
・この問題点は08年ごろから取り上げられ、当時も総務省が改善するように指針を出していたが、一向に状況は変わらない。なぜなら、日本のユーザーは毎月の通信料金が高くなっても、端末代金が安い方を求める傾向にあるからだ。
・もともと、一昔前は携帯電話の端末代金といえば「1円」や「0円」が当たり前であり、端末代金に何万円も支払うという発想が日本人には希薄なのだ。
・ただ、今回ばかりは総務省としては本気のようで、携帯電話会社に過度な端末の値引きやキャッシュバックをやめさせ、いままで値引き原資にしていたコストを、通信料金の割引に回すことで、全体的な通信料金の引き下げを求めていく方針のようだ。総務省では、端末の値引きに関して、上限額を設定する案も検討しているという。
・もし、端末の値引きが規制されるようなことになれば、16年は端末の売れ行きが落ちることが予想される。
・これまでは、10万円近くする最新スマートフォンも端末の値引きがあったからこそ、購入することができた。しかし、16年以降は値引きが規制されることで、気軽に購入するのは難しくなる。家族4人でまとめて新機種を買おうと思ったら、それこそ何十万円という出費を余儀なくされるのだ。
・これにより影響を受けるのが端末メーカーだ。現状、ソニーやシャープ、京セラ、富士通といった日本メーカーがスマホ市場で生き残っているが、売れ行きが下がることで、撤退するメーカーが出てきてもおかしくない。
・その点、アップルの「iPhone」は、携帯電話会社3社で販売競争が過熱していたり、新製品を購入する際に、それまでの端末を下取りしてくれるなど、「iPhoneなら買っておいて安心」という状況にある。アップルも多少、影響を受けるだろうが、日本メーカーの方が死活問題となりそうだ。
・そんな中、日本メーカーが活路を見いだしているのが、格安スマホ市場だ。 いま、格安スマホ市場は「ガラケーからスマホにしたいが料金が高い。しかし、格安スマホなら手が届くかも」と思うガラケーユーザーを取り込もうと必死になっている。
・いまでもガラケーを使っているユーザーにとって、重要なのが「安心感」だ。そのため、格安スマホを買おうとするユーザーの多くが、名前を知っている日本メーカー製のスマホを購入していく傾向が強いという。
・格安スマホ市場では中国や台湾、韓国などの海外メーカー製の安価なスマホが多数、売られている。しかし、これからスマホデビューするユーザーとしては、「知らないメーカー」はどんなに安くても避ける傾向にある。
・そのため、日本メーカー製が「ブランド力もあり、防水性能も備えるなど、かなりの人気」(格安スマホ事業者幹部)だという。 いまではソニー、シャープ、京セラ、富士通と日本メーカーは全て格安スマホ市場向けに端末を投入している。このほど、東日本旅客鉄道(JR東日本)も格安スマホの人気を考慮して、モバイルSuicaが使えるように環境を整備しているところだ。
▽端末が買いにくくなり官製不況が始まる
・しかし、端末メーカーは安心できない。何しろ、格安スマホ市場が伸びてはいるものの、現状では全体の4%程度しかない。また、格安スマホの販売台数も「全体で月間5万台ほどしかない」(端末メーカー幹部)と極めて少ない。
・一方で、端末メーカーとしては、携帯電話会社に納品する際、それこそ数十万台を一括で購入してくれる。端末を納品すれば、それで手離れとなるが、格安スマホの場合は、自社でプロモーションや修理対応などもしなくてはならず、メーカーとしての負担が大きい。格安スマホ市場にもいばらの道が待っているのだ。
・携帯電話会社としても、格安スマホ市場が盛り上がってしまうのは痛手であり、自社で通信料金を引き下げれば収益にも影響を及ぼす。端末メーカー、携帯電話会社、双方にとって状況は良くない。
・何より、ユーザーとしても16年以降、新製品が買いにくくなることは間違いない。あとは、携帯電話会社が渋々、通信料金値下げに応じるまで、待つしかなさそうだ。
・いずれにしても総務省の議論で、端末の買い方や料金プランが大きく変更され、さらにユーザーにとって分かりにくく複雑になることが予想される。ユーザーにとってばら色の値下げは期待できそうになく、携帯電話会社や端末メーカーが疲弊するだけの「官製不況」で終わる可能性が高そうだ。
http://diamond.jp/articles/-/83599

次に、9月17日付けグノシーがJBPressへの池田信夫氏による寄稿を転載した「「電波ビッグバン」で携帯料金は大幅に下がる 周波数オークションで新産業が生まれる」を紹介しよう(▽は小見出し)。なお、JBPressでは2頁目以降は有料会員限定となっているが、グノシーでは全文が見られる。
・経済財政諮問会議で、安倍首相が「携帯電話料金の家計負担軽減が大きな課題だ」として高市早苗総務相に料金引き下げの検討を指示したと報じられ、通信各社の株価が大幅に下がった。
・「賃上げ要請」に続いて今度は「値下げ要請」と、安倍首相の統制経済好きは困ったものだが、確かに日本の携帯電話料金は世界的にみても割高だ。世界の主要都市のスマートフォン料金を比較すると、アメリカ、ドイツの次に高い。これが家計を圧迫し、他の家計消費は減っている。
▽地上波テレビの浪費している巨大な「空き地」
・しかし通信料金を決めるのは通信会社であって、政府ではない。彼らが毎年3社合計で2兆5000億円も利益を出しているのは、同じ業者の寡占状態になって、価格を談合でつり上げているからだ。その原因は、新たに割り当てる電波がないからではない。電波は空いているが、役所が使わせないのだ。
・2011年までテレビの地上波放送はVHF帯でやっていたが、デジタル化するとき、それをすべてUHF帯(470~710MHz)に移行することを総務省が決めた。この移行には1兆円以上のコストがかかるため、放送業界は反対したが、総務省は「2011年7月に電波を止める」と決め、放送業界に3000億円以上の補助金を出して停波を強行した。
・その結果、電波の止まったVHF帯はほとんど使われず、それを埋めるためのNOTTVは、1000億円近い累積損失を出して経営が破綻している(参考:「赤字の『マルチメディア放送』はなぜ続くのか」)。
・さらにひどいのは、UHF帯だ。ここで使われる周波数はNHKと民放の7~8チャンネルなのに、13~52チャンネルの40チャンネルも割り当てられ、ほとんどが使われていない。例えば表1は茨城県のチャンネル割り当てだが、7チャンネルの中継局をばらばらの周波数に割り当てて40チャンネルもふさいでいる。
・表の記号が中継局(G=NHK総合、E=教育、N=NTV、T=TBS、F=フジ、A=テレ朝、V=テレ東)、何も書いてない部分が放送局に割り当てられながら使われていない周波数(ホワイトスペース)だが、なぜこんなもったいない割り当てをしているのだろうか?
▽「電波ビッグバン」で周波数は倍増する
・これはアナログ時代の名残りである。昔は、例えば日本テレビが水戸と高萩で同じ周波数を使うと、両方の電波を受信する地域では混信して干渉が起こるので、別の周波数を使う必要があった。
・しかし地上デジタル放送では干渉が起こらないので、例えばNHK教育は全国で13チャンネルを使ってもいい。これはSFN(同一周波数ネットワーク)という日本の独自技術で、南米などに売り込み、全国で同じ周波数を使って放送している。この南米方式を日本でも使えば、中継局を大幅に整理できる。
・具体的には、中継局をSFNを使って集約し、残りの周波数を開放すればいいのだ。茨城県の例でいうと、表2のように20~52チャンネルの約200メガヘルツは完全に空く(一部はローカル放送に使っているが、これは無線インターネットに切り替えればいい)。
・200メガヘルツというのは、現在の携帯キャリアの帯域をほぼ倍増する電波ビッグバンである。これを開放するには、免許を競売にかける周波数オークションが望ましい。日本でも民主党政権が電波法を改正して、オークションが可能になった。中継局を集約するコストはわずかなものだから、新規参入業者が負担すればいい。
・問題は免許料だが、2008年に行なわれたアメリカの700メガヘルツ帯(約100メガヘルツ)のオークションでは、落札価格は総額196億ドル(2兆3500億円)だった。これをGDPで比例配分すると、日本で200メガヘルツをオークションにかけると1兆2000億円が国庫に入ると予想される。 
・しかし「免許料が料金に転嫁されて値上げになる」というのは逆だ。オークションを実施しているEU(ヨーロッパ連合)の平均より日本のほうが料金は高い。料金を決めるのは免許料ではなく、競争条件なのだ。
・日本よりはるかに広い国土で4社しかキャリアのないアメリカでは、日本より料金が高い。日本の半分の人口で4社が競争している(うち1社はオークションで新規参入)イギリスでは、オークションで高い免許料を取ったが、料金は日本の7割程度である。
▽電波行政は最大の「岩盤規制」
・「輪転機ぐるぐる」で華々しくデビューしたアベノミクスだが、残念ながら金融政策は大して役に立たなかった。インフレ目標は達成できないばかりか、所得が増えないので輸入インフレが家計を圧迫している。
・首相も気づいたように、成長のフロンティアを広げるには「岩盤規制」を壊して新しいビジネスチャンスを創造するしかないのだ。電波行政は、最強の岩盤規制である。電波法が改正された後もオークションは先送りされ、日本ではいまだに一度も実施されていない。
・これは政治力の強いテレビ局が競争を恐れてオークションを阻止してきたためだが、今どき新しい周波数をテレビに使う企業はない。これからは電波の用途は無線インターネット以外にありえない。つまりオークションで新規参入するのはテレビ局の競合他社ではなく、スマートフォンなのだ。
・むしろ衰退産業のテレビ局がオークションで帯域を落札し、ブロードバンドの新サービスを実施してもいい。アメリカの700メガヘルツ帯も、既存業者が落札した。今は狭い帯域でたくさん基地局の必要な既存キャリアにとっても、帯域が広がれば料金を下げる余地が出てくる。
・1兆円を超える免許料は財政危機に苦しむ安倍政権にとっても朗報だが、オークションの目的は国庫収入ではなく、競争促進だ。欧米ではオークションによって新しいキャリアが参入し、既存業者の談合を破って低価格・新サービスを出してきた。
・ソニーやパナソニックのような電機メーカーが免許を獲得し、独自サービスを開発して世界に売り込むことも考えられるし、楽天やDeNAのようなベンチャーが自前の帯域でイノベーションを実現することもできる。
・以上は技術的には10年前から分かっており、新しい技術開発は必要ない。テレビ中継局の引っ越しだけで電波が2倍になり、巨大な新産業が生まれる。これがアベノミクスをよみがえらせる最大の「第3の矢」だと思うが、どうだろうか?
https://gunosy.com/articles/abrvw

携帯料金の国際比較では、2つの記事のニュアンスは異なっているが、第一の記事のリンク先のグラフで見る限り、前者の表現の方が適切なようだ。
総務省が「携帯電話会社に過度な端末の値引きやキャッシュバックをやめさせ、いままで値引き原資にしていたコストを、通信料金の割引に回すことで、全体的な通信料金の引き下げを求めていく方針」なのは、次善の策としてはやむを得ないが、本来は周波数オークションなどの「電波ビッグバン」が本筋の対応策だ。
電波干渉が起こらない地上波デジタル放送になっても、干渉を前提にしたアナログ 放送の枠組みのまま放置した結果、地上波テレビは浪費している巨大な「空き地」があるとの指摘は初めて知った。南米ではSFN(同一周波数ネットワーク)という日本の独自技術を活用して効率的な電波利用をしているのに、「本家」の日本が無駄遣いしているとは、もはや「喜劇」といえよう。
既に電波法改正で、周波数オークションも可能になっているのに先送りされているのは、「政治力の強いテレビ局が競争を恐れてオークションを阻止」しているためだとすると、これは厄介な問題だ。傘下にテレビ局を抱える大手新聞も、無視を決め込んでいるのであれば、推進する主体がないままだ。「電波行政は最大の「岩盤規制」」との指摘は誠に重い。
タグ:国家主義的経済政策 安倍首相 携帯料金引下げ検討指示 ダイヤモンド・オンライン 「端末0円」終了?2016年の携帯料金はどうなる 国際的には高くない日本の通信料金 音声通話定額制 ユーザーの利用状況に合わせた新料金プランを導入 キャッシュバックや端末の大幅値引きに関する問題点 頻繁に端末や携帯電話会社を乗り換える人だけが得をする。同じ端末を使い続ける人が支払っている通信料金が、それらの割引原資になっており不公平感 携帯電話会社に過度な端末の値引きやキャッシュバックをやめさせ いままで値引き原資にしていたコストを、通信料金の割引に回すことで、全体的な通信料金の引き下げを求めていく方針 端末の売れ行きが落ちることが予想 影響を受けるのが端末メーカー 端末が買いにくくなり官製不況が始まる グノシー JBPRESS 池田信夫 「電波ビッグバン」で携帯料金は大幅に下がる 周波数オークションで新産業が生まれる 安倍首相の統制経済好き 地上波テレビの浪費している巨大な「空き地」 電波は空いているが、役所が使わせないのだ VHF帯はほとんど使われず UHF帯 地上デジタル放送では干渉が起こらない SFN(同一周波数ネットワーク)という日本の独自技術 南米などに売り込み 「電波ビッグバン」で周波数は倍増 電波行政は最大の「岩盤規制」 電波法が改正された後もオークションは先送り テレビ中継局の引っ越しだけで電波が2倍になり、巨大な新産業が生まれる
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0