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中台関係(その1)台湾総統選挙 [世界情勢]

台湾に関連して昨年12月9日に、中台首脳会談 を取上げた。今日は、中台関係(その1)台湾総統選挙 である。

先ずは、ジャーナリストの福島香織氏が1月18日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「台湾総統選“圧勝”蔡英文の「真の敵」 大陸の圧力と誘惑と空の国庫と、いかに戦うか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ちょうど台北にいるので、台湾の総統選について報告しよう。 華人国家において、初の女性総統が登場した。民進党候補の蔡英文が689万4744票を得て、国民党候補・朱立倫381万3365票をダブルスコアで制した。
・300万票という台湾史上最大票差での大勝の背景は、現馬英九国民党政権の失政、ひまわり学運で再燃した「台湾アイデンティティ」の盛り上がり、朱立倫国民党候補のやる気のなさ、そして中国側が本格的な妨害工作をしなかったことなどがある。
・さらに言えば、投票日に問題になった韓国アイドルグループTWICEの台湾出身メンバー、ツゥイこと周子瑜の公開謝罪ビデオ事件が、決定的な追い風となった。ひょっとして韓国の芸能事務所は、ひそかに台湾民進党を応援していたか、と疑うほどの絶妙なタイミングだった。
・立法院(国会)選挙については民進党単独過半数は難しいのではないか、という下馬評だったが蓋をあけてみると、民進党は113議席中、68議席、国民党35議席とあわやこちらもダブルスコアになりそうな勢いで緑(民進党カラー)が圧勝。しかも、ひまわり学運の参加者らが結成した新党「時代力量」が5議席獲得、親中派政党で宋楚瑜総統候補率いる「親民党」の3議席を抑えて、第3党に躍り出た。建党30年足らずの圧倒的多数の与党に、昨年結党したばかりの生まれたて政党の第3党躍進と、台湾国会の様相が大きく変わった。
▽蔡英文とはどういう人物か
・この民進党を圧勝に導いた蔡英文とはどういう人物なのか。私が彼女の姿を最初に生で見たのは2001年、大陸委員会主任委員(閣僚)時代の記者会見に出席したときだと思う。流暢な英語を話す女性エリート官僚然としたクールな印象を持った。
・1956年8月、台湾屏東県の客家の名家の血筋に生まれる。出生地は台北市中山区だ。祖母はパイワン族の末裔という。彼女の生まれたころは、まだ台湾の大金持ちは一夫多妻(側室)の風習が残り、兄弟姉妹は11人。うち兄の1人は日本国籍を取得し日本で暮らすとか。末っ子の蔡英文は、お嬢様として大事に育てられ、台湾大学法律学部生時代はマイカーで通学していた2人の学生のうち1人だったという。1980年に米国コーネル大学ロースクールで学位を取り、続いて英国ロンドン政治経済学院に留学し、「不平等貿易の実践とセーフガード」をテーマに研究。1984年に博士学位を取り、米国の弁護士資格と中華民国の弁護士資格を取った。
・大学教授時代を経て、李登輝政権時代、請われて行政院経済部国際経済組織の首席法律顧問となったのが政界に足を踏み入れるきっかけとなった。GATTとWTOの台湾加入交渉に関わったほか、李登輝とともに台湾と中国が特殊な国と国の関係であるとする「一辺一国論」の起草にも関わる。
・陳水扁政権1期目の2000年から2004年は行政院大陸委員会主任委員となり、この時の世論調査では最も満足度の高い閣僚として評価された。この時「小三通」と呼ばれる、中国台湾間の春節時期の直行便を含む中台直接交流が大きく進んだ。
・陳水扁政権2期目の2004年から民進党に入党し、立法委員(国会議員)に比例6位で当選。2006年から行政院副院長(副首相)となり、この時の仕事ぶりも世論調査で高い評価を得た。
▽敗北から4年、生真面目に「団結」
・2008年の総統選で代理党主席の謝長廷候補が惨敗すると、世論の評価の高い蔡英文が台湾初の女性党主席となる。だが、党員歴の短い若き女性党主席は台湾特有の儒教的女性蔑視、年少者蔑視もあって、長らく党内分裂状態に悩まされる。
・それでも2012年の総統選では初の女性総統候補として健闘。80万票差で現職・馬英九総統に惜敗する。
この時の敗因は、中国の後方援護と米国の投票日直前になっての馬英九政権支持表明が大きかったと言われている。事前の世論調査での支持率はずっと民進党がリードしていただけに、国民党の底力を見せつけた格好だった。蔡英文は敗戦の責任をとって、党主席を辞任した。
・この敗北から4年、蔡英文にとっては、空中分解しかけていた党内団結に腐心する日々であったという。  こうした来歴から見ると、彼女は非常に頭脳明晰な学者肌に近い官僚肌の実務向き人物である。また、バランス感覚もよい。だが政治家に求められる"オーラ"に欠けるとも言われてきた。また、あまりにクリーンで生真面目なため、台湾政界を渡っていくためにある程度必要な腹黒さや駆け引き、米国への媚の売り方が足りないとも言われていた。2012年の総統選は明らかに、米国に気にいられなかったことが重要敗因の1つだと分析されてきた。だが、この敗戦後の4年間、彼女はやはり生真面目に、対米関係を研究し、党内の年上の政治家たちにも気を使い、演説テクニックも目をみはるほど向上している。
・2014年になって馬英九政権に対する失望、反感が若者を中心にますます広がっていった。3月18日から24日間にわたって立法院を学生たちが占拠したひまわり学運が、台湾政治の潮目を決定的に変えた。このひまわり学運が求める台湾の方向性とは、中台急速接近の阻止、国会の機能回復、そして何より「台湾アイデンティティ」の再度の盛り上がりだろう。
▽「ツゥイ公開謝罪」と台湾アイデンティティ
・この頃から党内でも、「一辺一国論」起草者の蔡英文しかいない、という待望論が盛り上がってきた。5月の民進党主席選挙で93%以上の圧倒的な得票率で蔡英文は党主席に返り咲き、総統候補となった。
・台湾アイデンティティとは「私は台湾人であって中国人ではない」という意識であり、台湾の核心的価値は民主である、という意識である。
・投票日に明らかになった、ツゥイの公開謝罪問題は、まさしくこの台湾人アイデンティティ問題にからむ。ツゥイは韓国美少女アイドルグループTWICEのメンバーだが、韓国のテレビ番組で、彼女が台湾出身をアピールするため中華民国旗(青天白日旗)を持ったシーンが、大陸のファンからものすごい反発を買った。大陸ネットユーザーを中心にTWICE不買運動、中国テレビ出演反対が呼びかけられ、所属事務所の株が急落、65億ウォン相当が蒸発した、と報道された。そして事務所の判断か、中国当局の圧力かは分からないが、選挙投票日当日、この騒動の責任をとる形でツゥイの公開謝罪ビデオが流された。
・ビデオでツゥイは憔悴した表情で「中国はただ1つだけです。(台湾)海峡の両岸は一体です。わたしは終始、自分が中国人であることに誇りを感じています。1人の中国人として外国で活動しているとき、行いの間違いによって、両岸のネットユーザーの感情を傷つけました。とってもとっても申し訳ないと感じています。そして恥じ、やましさを感じています。私は中国での一切の活動を休止することを決めました。真剣に反省しています。もう一度、もう一度みなさんに謝ります。ごめんなさい」と頭を下げたのだった。
・このビデオは投票日当日、何度も台湾のテレビで流され続け、投票者に「中国の脅威」と「台湾アイデンティティ」を再認識させた。そして「青天白日旗」は国民党徽章の入った中華民国旗であるが、なぜか票は緑の民進党に流れた。それは馬英九国民党政権があまりに親中的だったからだ。
・このことからも分かるのは、民進党が本当のライバルとして戦っていたのは国民党ではなく、中国であったということだろう。蔡英文は当選後の勝利演説でもこの事件に触れて「私が総統になった日には、誰一人として自分のアイデンティティを理由に謝罪をする必要がないようにします」と訴えていた。「台湾を団結した国家にする責任がある!」という宣言に表現されるように、彼女が目指し、台湾有権者が望むのは、政党や派閥による内政のいざこざではなく、国家としての団結であり、それは中国に対する危機感から発するという見立ては間違ってはいない。
・ひまわり学運から発した時代力量が5議席を取り第3党に踊り出たことも注目する必要があるだろう。日本でも人気のあるヘビィメタルミュージシャン、フレディ・リムが創設に関わったことでも知られるが、フレディ自身はかなりはっきりした独立派である。ただ、時代力量は独立という言葉ではなく建国と言う言葉を好んで使う。それは、台湾は一度も中国の属国になった覚えはない、という理論武装らしい。党主席の黄國昌、フレディら5人も国会に送り込まれたということが、今の台湾の若者の気持ちを反映しているといえるだろう。
▽習近平の強権と空の国庫、どう対処?
・そういう意味で、これから総統となった蔡英文が戦わねばならない敵は非常に強大ということになる。有権者としては、中国の経済的政治的影響から脱出してほしいという希望がある一方で、すでに台湾経済で圧倒的存在感を誇る中国の影響力から台湾が距離をとろうとすることは口で言うほど簡単ではない。しかも、習近平政権は胡錦濤政権ほど甘くない。胡錦濤政権は台湾統一という言葉を発せず、ただひたすら中台経済関係強化に努めた。だが、習近平政権は台湾総統府にそっくりな建物を攻略する軍事訓練を堂々と行う。今後、どのような圧力(あるいは誘惑)を台湾にしかけ、それに蔡英文政権はどう対応するか。
・さらに言えば、馬英九政権時代にすでに台湾財政は破綻寸前で、国庫は空の状態で政権を引き渡されると言われている。中国経済もクラッシュ寸前なので、台湾に流れた大量の中国マネーが一気に引き揚げられると、台湾バブルも崩壊する。世界同時不況と言われる中で蔡英文が台湾経済を軟着陸させることができるかどうか。
・経済が悪化し、有権者の生活が明らかに苦しくなれば、次の選挙では今回の選挙の裏返しのような形で惨敗しかねない。
・日本にとっては、地政学的にも、台湾に国家としてのアイデンティティを持ち続けてもらえれば、アジアにおける中国覇権の野望にブレーキをかけるという意味で、韓国よりもよいパートナーになれるだろう。蔡英文政権の台湾ならば、日本が経済関係と外交関係を強化していく選択に迷う必要はないと思うのだが、どうだろうか。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/218009/011700028/?P=1

次に、若手の中国研究者の加藤嘉一氏が1月19日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「蔡英文陣営が大勝した台湾選挙は“中国民主化”に何をもたらすか?」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽蔡英文主席率いる民進党が大勝した台湾総統選挙・立法委員選挙の意義
・(冒頭の選挙結果は省略)
・本稿では、本連載の核心的テーマである中国民主化研究という視角から、今回の歴史的な台湾選挙が対岸・中国の“民主化”プロセスにもたらし得るインプリケーションを3つの観点から書き下しておきたい。ここで、私があえて“歴史的”という言葉を使うのは、中台関係が経済・人文面だけでなく、政治的にも“促進”されているかのように見える状況下における国民党の大敗、および華人社会で初めて民主化を実現した台湾が、今回の選挙を経て、華人社会で初めて女性総統を誕生させたという文脈を意識するからである。
・なお、本稿はあくまで同選挙が中国共産党統治下にある対岸の政治動態に与え得る影響や要素に絞って議論を進める。したがって、なぜ国民党が大敗したのか、なぜ民進党が躍進したのか、蔡英文という政治家はどんな人間かといった内政的要因、あるいは同選挙がアジア太平洋地域の地政学にもたらし得るインパクトは何かといった外交的要因には原則触れず、別の機会に譲ることとする。
・1つ目の議論に入る導引として、拙書『中国民主化研究』(ダイヤモンド社、2015年7月刊)の第三部「外圧」第12章“台湾と中国人”で指摘した、次のパラグラフを引っ張っておきたい。
・若者世代を中心とした台湾人は、「中国とこういう付き合い方をするべきではないか」「中国と付き合う過程で法治や民主の枠組みを着実に重んじるべきではないか」といった市民としての欲求を訴えている。中国との付き合い方という文脈において、法治・自由・民主主義といったルールや価値観を守るべく、市民社会の機能を駆使しつつ、自らの政府を徹底監視し、自覚と誇りを持って奮闘する過程は、対岸の中国が民主化を追求する上でポジティブな意味合いを持つ。
・なぜなら、台湾が中国と付き合うなかで、政治体制やルール・価値観といった点で中国に取り込まれる、すなわち台湾が“中国化”していくことは、中国共産党の非民主主義的な政治体制が肥大化しながら自己正当化する事態をもたらし得るからだ。その意味で、同じ中華系に属する社会として、民主化を実現した歴史を持つ台湾、そしてそこに生きる人々が果たす役割は大きい。(394~395頁) 
・1つ目のインプリケーションは、「今回、国民党の大敗および民進党の躍進という形を以て幕を閉じた台湾選挙は、中国共産党の統治プロセスに健全で動態的な圧力を加えるという意味で、ポジティブな長期的インパクトをもたらす」ということである。
・今回の選挙を対岸の中国共産党指導部は、一種の諦念と最後の期待を抱きつつ眺めていたであろう。選挙キャンペーンにおけるかなり早い段階から蔡英文の勝利が予想されており、焦点は立法院における議席数に向けられていた。国民党の朱立倫は「そもそも当て馬で、彼のミッションはあくまでも立法院で民進党に過半数を取らせない」(国民党幹部)ことにあった。結果は見ての通りである。これから“完全執政”する民進党と向き合っていかなければならない共産党指導部の諦念は緊張に、期待は失望に変わったに違いない。
・俗に“中国寄り”と言われる国民党政権は、昨年11月にシンガポールで馬英九・習近平会談を実現させた。センシティブな政治的課題を巡って立場や認識の相違が存在するなかで、両岸指導者を向きあわせた根拠は、「1つの中国」政策に関する“九二コンセンサス”と呼ばれる産物であった(同会談および九二コンセンサスを巡る両岸の認識ギャップについては、連載第64回「習近平・馬英九会談実現の背景にある動機と懸念」参照)。
▽中国に対する健全な圧力の発生 「九二コンセンサス」はどうなる?
・一方で、俗に“中国とは距離を置き、中国との関係構築には慎重・強硬的になる傾向がある”と言われる民進党は、九二コンセンサスを認めていない。そして、私が判断するに、蔡英文は5月20日に総統に就任してからもこのコンセンサスを(少なくとも公に)認めたり、支持したりすることはないであろう。「両岸は共に1つの中国に属し、台湾は中国の一部である」という定義を加える中共側のスタンスに、「台湾の国号は中華民国であり、台湾は自由民主主義を擁する国家である」という認識を持つ民進党サイドが同調する可能性は、限りなくゼロに近い。
・もっとも、両岸関係を安定させることを(この点を呼びかける米国との関係維持という観点からも)重視する蔡英文としては、九二コンセンサスを公に否定したり、それに反対したりすることもないであろうが。
・いずれにせよ、少なくとも政治的に見れば、蔡英文・民進党サイドとの関係づくりに中国共産党は悪戦苦闘するに違いない。台湾選挙の前後、蔡英文陣営の動向を追っていたが、同氏は随所で台湾が自由と民主主義を重んじる“国家”であることを呼びかけ、「尊厳、団結、自信を持った新しい台湾」の到来を告げていた。たとえば、次のセンテンスには、私から見て、蔡英文が政治体制や価値観という観点から中国を牽制し、かつ中国と台湾が“異なる”ことを暗示する姿勢が如実に体現されている。
・「私たちは国際社会に対して改めて告げた。民主主義の価値が台湾人の地に深く流れていることを。民主主義に基づいたライフスタイルが、2300万人にとっての永遠の堅持であることを」(1月16日、選挙結果が出た後の国際記者会見にて)
・往々にして自由民主主義を持たず、人権を軽視したり、国民の自由な言動を抑圧することを以て国際社会、特に西側社会から批判される中国共産党としては、自らが政治的に関係を維持・発展させたい対象である台湾の新しい指導者からこのように告げられることは、圧力になるかどうかは別として、少なくとも心地よくはないであろうし、警戒心や嫌悪感を強めるであろう。それでも、「両岸関係を安定的に発展させること」は台湾にとってだけではなく、中国にとっても対米関係を安定的にマネージする上での政治的基礎になる。仮に中国が台湾を武力で“解放”などしようものなら、米中関係は極度に悪化するであろうし、中国は国際社会から制裁を受けることになる。
・したがって、習近平国家主席率いる中国共産党としても、蔡英文率いる民進党との関係を安定的に推し進めていかざるをえない。この一点に関して、私は“健全な圧力”という解釈を加えている。中国共産党が異なる政治的スタンスや価値観を持った相手と良好な関係を構築していくことはポジティブであるし、それは“The Great challenge”になるであろう。
・視点を転換して現状や展望に考えを及ぼせば、民進党という俗に対中強硬的と呼ばれる相手とも良好な関係を構築できれば、それは中国共産党が国内外で少なくとも以前よりフレッシュなイメージを与えることになるに違いない。私は、そのプロセスは中国の広義における国益に符合すると考える。
▽中国とどんな距離感で付き合うか? 市民社会の成熟度を感じる選挙結果
・2つ目のインプリケーションは、「華人社会初のデモクラシーである台湾が、その公正で自由な選挙を通じて政権交代をしたという事実は、台湾の政党政治の成熟性という意味からもポジティブであると同時に、今回多くの小さい党が出現し、一部が台頭したという事実は台湾における市民社会の成熟性をも示している」ということである。
・このインプリケーションの重心は中国と同じ“華人社会”である台湾の政党政治と市民社会が民主主義を発展させるという文脈のなかで、成熟度を向上させたことに見い出せる。
・そもそも、この現象を生み出した根本的な背景は良くも悪くも“中国の台頭”にある。中国が不透明だが着実に台頭する過程において、国民党は警戒心や恐怖心を強める台湾市民の心情を考慮して中国とは適度な距離を置かなければならない状況に直面し、民進党はそれでも中国との関係を重視する台湾市民の利益を考慮して、中国に適度に近づかなければならなくなる。
・要するに、「中国とどのような価値観を持ってどのような距離感で付き合うか」が最大の焦点である台湾の政治が中道的になっていく傾向が、近年生まれている。それはそれで現状として受け止めるべきであるし、今回蔡英文は自らの政治的スタンスを若干中国寄りに修正したことによって(具体的には“九二コンセンサス”を承認はしないが反対もしなくなったこと)、“中間層”を取り込むことに成功したと言われている。逆に国民党は中国との距離の取り方に“失敗”し、先行きが見えない経済情勢も重なって惨敗した。
・そんな中、“政治の中道化”に満足できない、どちらかと言えば極端な政治的立場・主張を抱く人々が新たな政党を設立し、今回の選挙に挑んだ。そこには、台湾の国家としての団結を掲げる「台湾団結連盟」や、中国との統一を掲げる「中華統一促進党」などが含まれるが、何と言っても注目すべきは、2014年3月、国民党政権が中国とサービス貿易協定を拙速に締結することに学生や若者が立ち上がり、反対した「太陽花学生運動」(日本では「ひまわり学生運動」とも呼ばれる)のリーダーたちが中心となって結成した政党である「時代力量」の躍進である。
・民進党が側面的に支持してきた同党は、今回5つの議席を獲得している。この結果は、国会運営を有利に進めたい民進党にとっても追い風となるに違いない。そして何より、「時代力量」の台頭は、台湾が中国との付き合い方というバッファー(緩衝地帯)を通じて、若い世代による市民運動が民主政治に実質的かつ直接的なインパクトをもたらしたことを意味している。
・もう1つ指摘しておきたいのが、国民党陣営(俗に“藍”陣営と呼ばれる)でもなく、民進党陣営(俗に“緑”陣営と呼ばれる)でもない、両党の対立や争いの超越を訴える“第三勢力”として、親民党の宋楚瑜主席が157万票(得票率12.84%)を獲得し、2012年時の36万票から大きく躍進した事実である。
・この点も、「藍と緑という2大陣営という枠組みでは、多元化する利益や価値観の欲求、とりわけ若年層のそれを体現できなくなっている」(国立台湾大学・何明修社会学教授)台湾政治が、これまでの枠組みを超えて、市民たちの多元化する欲求をより立体的に反映する形態に近づこうとしている現状を示すインディケーターであると、解釈できるだろう。
▽対台湾ナショナリズムはなぜ中国の民主化にとって不利なのか?
・そして3つ目のインプリケーションが、「中国で不健全に蔓延・高揚する対台湾ナショナリズム、およびそれに対する共産党のガバナンス力の欠如と脆さは、台湾社会・市民、特に若い世代の対中感情を悪化させ、両岸社会が真摯に向き合い、付き合うプロセスを阻害し、結果的に中国民主化プロセスにとって不利に働く」ということである。
・台湾選挙の前日、台湾の有権者を震撼させた「周子瑜事件」がこの点を赤裸々に露呈している。 韓国のアイドルグループ「TWICE」で活躍する台湾の周子瑜氏が、韓国のテレビ番組に出演した際、韓国の旗と台湾を実質的に統治する中華民国の旗を掲げた。その後、中国で活動する他の台湾人タレントに「台湾独立派」であると公に“告発”され、同グループが中国で予定していたテレビ出演がキャンセルされるなどしていた。
・中国における経済的利益を守るためだったのだろう。事態を憂慮した韓国のプロダクションが、台湾選挙前日の1月15日にあるビデオを公開した。そこには、弱冠16歳の周氏が、両手で1枚の用紙を握りしめ、そこに視線を落としながら読み上げ、「中国は1つしかありません。海峡両岸は一緒なのです。私はいつも中国人であることを誇りに思っています」と言って謝罪する、うつろな姿が映っていた。
・様々な憶測または“陰謀論”が交錯していることもあり、詳細や背景については触れないが、結果的にこれを見た台湾の有権者、特に「台湾がそもそも自らの政府、領土、国旗を持つ主権国家だと信じて疑わない環境で育った若者たちは、海外で中華民国の国旗を掲げることすら許されないのかという驚きと怒りを覚えたのは間違いない」(台湾行政院スタッフ)。
・私は、この事態が選挙前日という微妙なタイミングで起こったことにより多くの票が民進党に流れた、と言われる政局よりも、これによって、これまで国民党が自らの政権的基礎、中国共産党と関係を構築する上での政治的根拠としてきた“九二コンセンサス”というロジックが実質崩壊し、両岸が政治対話を促進する上での辻褄が合わなくなる可能性のほうが重要だと考えている。国民党は九二コンセンサスを掲げる過程で台湾の有権者たちを「一個中国、一中各表」、つまり、「中国は1つだが、各自がそれぞれに述べ合うこと」というロジックで説得してきた。
・ただ、今回の事件によって、「台湾は中国と付き合う過程でいかなる場所でも中華民国の国旗を掲げることが許されない」=「それぞれが述べ合うことが許されない」という印象や認識が台湾社会の間で広がってしまった。台湾でテレビや新聞、インターネットをチェックしていたが、まさに1月16日前後は、選挙そのものの動向を伝える報道以外は「周子瑜事件」一色という具合であった。蔡英文も、この事件を受けて、勝利演説において、「この国家を団結させ、壮大にさせ、対外的に一致を図ることが私にとって最も重要な責任である」と主張した。これから、蔡英文はこれまでよりも中国に対して警戒的・敏感的・抵抗的になる世論をバックに、対中政策を進めていかざるを得なくなるということである。
・何がこの事態をつくり上げたのか? 私が判断するに、まさに中国国内で排他的・攻撃的・狭隘的に高揚するナショナリズムであり、それを前に立ち往生し、体制内で健全な対応策を打てずにいる中国共産党の在り方である。実際に、対台工作を担当する中国国務院台湾事務弁公室は、この事件を受けて相当アップセットしていた。
・ 「当然、我々が望む事態ではない。両岸関係を壊しかねない事件だ」 1月16日の太陽が沈む前に、同弁公室の幹部は私にこう語った。
▽「周子瑜事件」が投げかけた教訓 中国共産党に求められる選択肢
・それでも、中国のインターネット上では周氏を「台湾独立派」と非難する世論が収まらない。それに対して、台湾ではそんな“中国”の状況に反発する世論と、台湾人としての尊厳を打ち砕かれたというショックが収まらない。そして、「両岸は1つの中国に属する。台湾は中国の一部である」というロジックで国内的にプロパガンダを進め、それを武器に台湾との政治関係を発展させてきた中国共産党は、目の前にある事態に対して何もできない。間違っても「いや、実は台湾では異なる解釈が存在する。対岸には対岸の言い分がある」とは言えないからだ。
・ 「じゃあなぜ習近平は馬英九と会ったのだ? 根拠は九二コンセンサスだったのではないのか?」という民衆からの逆襲をくらうことになってしまう。私から見て、中国の“有権者”たちは聡明で、頭の回転が早く、身の回りの事態に常時クリティカルに反応する習性を備えている。
・中国共産党指導部には、自らの核心的利益である台湾問題を安定的にマネージするという観点から、国民に“真実”を説明し、国内で高揚するナショナリズムを真っ当に緩和させていくという選択肢も理論上はある。仮にそれでも世論が収まらない場合、残された退路は、“担当者”が責任を取るべく辞任し、日本で言うところの内閣を改造することであろう。政権の正統性は、そうやって未来に引き継がれていく。ただ、中国共産党にそれらの選択肢はない。
http://diamond.jp/articles/-/84788

ツゥイの公開謝罪問題(二番目の記事では「周子瑜事件」)が投票前日夜に放映されたようで、今回の民進党の圧勝もうなずける。国会を占拠した「ひまわり学運(同「ひまわり学生運動」)から発展した時代力量が、民進党のサポートがあったとはいえ、5議席を獲得し、第3党に躍り出たとは驚きである。日本での安保法制審議の時に活躍した「シールズ」の諸君は、参院選でどうするのだろうか。
2012の総統選では、直前に米国政府が馬政権支持を表明したことが、民進党の敗北の一因になったらしいが、これは当時の民進党に根強かった独立論を嫌ったためかも知れない。今回、米国政府の立場が触れられてないのは、中立を守ったことを示唆している。
中国政府、台湾新政権、双方にとって、これからの対応は微妙な手綱さばきが求められることになるだろう。新たな中台関係をどのように構築していくのか、大いに注目したい。
なお、福島香織氏が、終わりの部分で日本に台湾への接近を求めているが、これは元産経新聞記者らしい指摘で、私は中国を刺激することがないように、これまでの中立姿勢を維持すべきと考える。
タグ:中台関係 台湾総統選挙 福島香織 日経ビジネスオンライン 台湾総統選“圧勝”蔡英文の「真の敵」 大陸の圧力と誘惑と空の国庫と、いかに戦うか 初の女性総統 蔡英文 朱立倫 台湾史上最大票差 敗北から4年、生真面目に「団結」 2012年の総統選 80万票差で現職・馬英九総統に惜敗 中国の後方援護 米国の投票日直前になっての馬英九政権支持表明 立法院を学生たちが占拠 ひまわり学運 ツゥイ公開謝罪 台湾アイデンティティ 韓国のテレビ番組 中華民国旗(青天白日旗) 大陸のファンからものすごい反発を買った 選挙投票日当日 ツゥイの公開謝罪ビデオが流された 投票者に「中国の脅威」と「台湾アイデンティティ」を再認識 民進党が本当のライバルとして戦っていたのは国民党ではなく、中国 習近平の強権 空の国庫 台湾財政は破綻寸前 加藤嘉一 ダイヤモンド・オンライン 蔡英文陣営が大勝した台湾選挙は“中国民主化”に何をもたらすか? 中国の“民主化”プロセスにもたらし得るインプリケーション 中国共産党の統治プロセスに健全で動態的な圧力を加えるという意味で、ポジティブな長期的インパクトをもたらす 九二コンセンサス 台湾の政党政治の成熟性という意味からもポジティブ 台湾における市民社会の成熟性 台湾の政治が中道的になっていく傾向 中国で不健全に蔓延・高揚する対台湾ナショナリズム、およびそれに対する共産党のガバナンス力の欠如と脆さは、台湾社会・市民、特に若い世代の対中感情を悪化させ、両岸社会が真摯に向き合い、付き合うプロセスを阻害し、結果的に中国民主化プロセスにとって不利に働く “九二コンセンサス”というロジックが実質崩壊
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