SSブログ

アメリカ大統領選挙(その2)冷泉彰彦、小田嶋隆両氏の見解 [世界情勢]

アメリカ大統領選挙については、昨年12月13日に取上げたが、スーパー・チューズデーを過ぎた今日は (その2)冷泉彰彦、小田嶋隆両氏の見解 である。

先ずは、在米の作家の冷泉彰彦氏が3月5日付けのメールマガジンJMMに寄稿した「[JMM887Sa]「共和党の非常事態、『トランプ降ろし』の可能性を検証する」from911/USAレポート」を紹介しよう。
・3月1日(火)の「スーパー・チューズデー」を受けて、共和党は非常事態に陥っています。一部には "too late" つまり「今更、遅すぎる」という声もあるのですが、とにかくドナルド・トランプが大統領選における共和党の統一候補になる可能性が強まったことで、ワシントンの上下両院における共和党議員団、各州知事以下の地方政治家、そして全国の支持者たちは「パニック」状態となっています。
・興味深いのは、メディアの反応です。まずTV各局の中でも、こうした政治的な話題については、何と言っても「24時間ケーブル・ニュース・ネットワーク」の出番です。この「ケーブル・ニュース」ですが、政治的な色分けができていて、左派に近いMSNBC、中道左派で左右両派を意識しているCNN、そして保守のFOXニュースという違いがあるとされています。
・この中で、一番盛り上がっているのはCNNです。不謹慎な言い方かもしれませんが、面白がっていると言っても良く、例えばトランプ支持者のアナリストを、民主党系と共和党系のアナリストが叩くうちに、叩いている同士もケンカになるというような「カオス」を演出して、キャスターがそれを苦笑しながら「さばく」といった番組を一日中やっているわけです。
・では、一番深刻なのはどこかというと、それはFOXです。保守系の視聴者を常に意識して番組作りをしているFOXですが、トランプの躍進、そして保守本流のパニック状態という状況を受けて、キャスターたちは、まるで「お通夜」のような顔で放送しているという印象が否定できません。
・新聞界にも似たような状況があります。『NYタイムス』や『ワシントン・ポスト』も、勿論トランプ批判記事を沢山載せていますが、それよりも一番激しく、そして一番危機感を持って「トランプ指名」の可能性について批判しているのは、保守系の『ウォール・ストリート・ジャーナル』だったりするのです。
・ワシントンの政界からは、文字通り「パニック」としか言いようのない動向が伝わってきています。例えば、軍事保守派で鳴らす長老のリンゼイ・グラハム議員がいい例です。グラハム議員は、「スーパー・チューズデー」の前の状況では、「(共和党の統一候補が)トランプになるのか、クルーズになるのかというのは、まあ射殺されるか、毒殺されるか選べというようなモノだよ」と放言していたそうです。クルーズ議員が、2010年に当選して上院に来て以来、ハプニング的に予算を潰したり好き放題に活動してきたクルーズ議員には辟易していたからです。
・それにしても「射殺されるか、毒殺されるのか」というのですから、クルーズ候補を、トランプ候補並みに嫌っていたわけですが、そのグラハム議員は、ここへ来て「クルーズ議員への一本化もやむを得ない」ということを言い始めているそうです。老練な政治家らしい、立ち回りの敏捷性といえば、それまでですが、一面では「そこまで思い詰めている」ということでもあるのでしょう。
・後は、議会共和党のライアン下院議長が、「最終的に共和党の指名を獲得した候補は尊重する」という言い方をしていて、様々な憶測を呼んでいます。ライアン議長はトランプと会ったらしいとか、電話で話をしたらしいといった噂が飛び交っていますし(事実ではないようですが)、そもそもこの発言についても、予備選に勝ったらトランプを認めるという意味なのか、それとも別の意味なのか色々なことが言われていました。
・ワシントンの動きが、そうした「雑音と憶測」で成り立っているとすれば、一方で堂々と「トランプ降ろし」を公言した人物がいます。前回2012年に共和党の予備選を勝ち抜いてオバマと戦ったミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事、その人に他なりません。 ロムニー氏は、3月3日にユタ州のソルト・レイク・シティーで会見を開いて「トランプはインチキ (fraud) でありニセモノ (phony)」という強い口調で非難したのです。「ビジネスでの成功もウソ」「トランプの内政は恐慌を招き、トランプの外交はアメリカを危険に晒す」というのですから、これは宣戦布告です。トランプ候補への批判をしただけでなく、共和党全体へ向けて「トランプ降ろし」を広く呼びかけたものと言えます。
・これに対しては、早速、グラハム議員の盟友であり、ロムニー氏同様「元大統領候補」でもあるジョン・マケイン議員が同調する内容のコメントを出しています。マケイン議員に関しては、ベトナム戦争でハノイで捕虜になった際に、拷問に耐えたエピソードが有名です。これに対してトランプは「捕まって捕虜になった人間が、どうして英雄なのか?」という暴言を吐いていることもあって、絶対に「許せない」と思っているようです。
・ワシントンの状況ですが、共和党の議員にも3種類があるそうです。当選回数が多く、選挙区での地盤が盤石な議員は、基本的に「何も恐れずにトランプ批判や、トランプ降ろし」ができる、これは分かります。一方で、当落線上の議員にも2種類があって、選挙区事情として、相手の民主党の候補と競っている場合には「トランプと一緒にされると票が逃げる」という恐怖があるわけです。ですが、その選挙区での「予備選でのトランプの集票力」が強い場合は、「トランプに逆らっては選挙に勝てない」という不安があるわけで、そうした政治家は動揺しています。
・現時点で、上下両院で「ハッキリとトランプ支持」を打ち出している議員が数名出て来ていますが、その背景には、こうした選挙区事情があるようです。中でも大物は、アラバマ州選出のベテラン、ジェフ・セッションズ上院議員(94年から5期連続当選)でしょう。自分は今回改選ではないのですが、選挙区の中のトランプ支持票を無視できないとして支持を打ち出しており、党内では「袋叩き」状態です。
・つまり、トランプというトランプ支持層の勢いにおびえて、党内から「トランプ支持」へという「造反」が出るなど、党内でヒビ割れが始まっているということも言えます。4日の金曜日あたりから、共和党の「党内内戦(Civil War)」という表現も目立つようになりました。
・ちなみに、セッションズ議員の外に、共和党の中で全国的な知名度のある政治家で、これまでトランプ支持を打ち出している人物としては、サラ・ペイリン元副大統領候補(元アラスカ州知事)と、クリス・クリスティ現ニュージャージー州知事の2名が挙げられます。
・このうち、ペイリンについては、2010年の中間選挙で「ティーパーティー躍進」を演出したのがピークで、どうやら「神通力」は消えているようです。今回、地元であるアラスカ州で、トランプを勝たせることができず、クルーズに大差をつけられたというのは、致命的でしょう。
・クリスティ知事に関しては、トランプの「副大統領候補狙い」という憶測も囁かれていますが、要するに「今回はヒラリーに負けてもいいから、2020年に向けてトランプ支持派の票を仕込んでおこう」という見方が正当ではと思われます。一方で、トランプ陣営としては、6月7日の「最後の総取り予備選」で、カリフォルニアの次に代議員数が多い、ニュージャージーを取るために、彼を抱き込んだという見方が順当でしょう。
・そんなわけで、ワシントンでも、全国レベルでも共和党内から「トランプに乗るしかない」という層は出てきてはいます。ですが、これは一部であり、依然として「トランプは許せない」から「トランプ降ろし」をしなくてはという声が日に日に強まっているのは事実だと思います。
・本稿が配信される3月5日(土)には、CPACという有名な「保守系政治家の年次大会」があります。トランプは、当初はここでスピーチをする予定でしたが、本稿の時点では「ドタキャン」ということになりました。参加した政治家から集中砲火を浴びる危険を察知して、スルーしたという見方が囁かれています。
・改めて確認しておきますが、共和党の本流として、トランプが「許せない」というのには極めて具体的な理由があります。それは、以下のようなトランプの発言を列挙してみれば明白と思います。 「国内雇用を守るためにTPPはぶっ壊す」 「イスラエルとパレスチナのケンカについては中立の立場」 「シリア情勢は、盟友のプーチンに任せる」 「日本、韓国、サウジ、ドイツには米軍基地の維持費を払わせる」 「中国、日本、メキシコとの貿易赤字には大ナタを振るう」 「(共和党の敵視している中絶医院の)プランド・ペアレントフッドは支持」 「医療保険については、入らない自由を認めるが、必要に応じて拡充する」 「中産階級への大減税をやる。財源確保のために文部省と環境庁をぶっ潰す」 「イラク戦争は間違い」 「911を防止できなかったのはブッシュのせい」 その他に、有名な「メキシコ国境に万里の長城」とか「不法移民とその子どもの強制送還」「イスラム教徒の入国禁止」「ISIL支配地域は絨毯爆撃してやる」といった、暴言の類についても、現在に至るまで撤回をしていません。
・要するに、「小さな政府論」「米軍の世界戦略」「中東におけるアメリカの中長期戦略」「自由貿易」「社会価値観上の保守主義」といった共和党の党是の部分を、ほとんど「ぶっ壊そう」としているわけですから、共和党の政治家の多くとしては看過できないわけです。
・さて、ロムニー発言で、にわかに現実味を帯びてきた「トランプ降ろし」ですが、現時点では5つの作戦があると言われています。 
・1つ目はちょっと作戦とは言えないものですが、要するに「敗北主義」です。これは、政治家の間では正面切って議論されているのではないのですが、共和党支持者の中で、例えばウォール街の一部とか、特定の業界など歴史的に共和党政権を支えてきた支持層の中では、かなり出てきた考え方です。どういうことかというと、「今回はヒラリーで良いじゃないか」というのです。 要するに、ブッシュ、オバマと続いた21世紀初頭のアメリカ社会の現状維持と、現在の世界秩序といった価値観を前提にすると「トランプよりヒラリーの方がはるかに自分たちの価値観に近い」というわけです。特にグローバル企業の関係などからは、「ヒラリー陣営に献金してトランプ政権を阻止してもらうほうがいい」という声が出てきています。 さすがに「共和党として民主党に負けてもいい」というのは極端ですが、では、そうではない「共和党としてのトランプ降ろし」については、どうでしょうか?
・2つ目は、極めてオーソドックスな「対抗馬の一本化」です。党内の穏健派からは、2月中はルビオ候補への一本化工作を促す声が大きかったわけですが、今回の「スーパー・チューズデー」の結果が出てからは、前述のグラハム議員のように、「この際だから代議員数でトランプに次いで2位のクルーズ候補に一本化も」という声も出てきています。 ですが、3月3日に行われたFOXニュース主催の「共和党TV討論」では、トランプを囲んで、ルビオ、クルーズ、ケーシックがお互いに一歩も譲る気配はありませんでした。それぞれに、こんな「大荒れの選挙戦」つまり「一寸先は闇」という中では「もしかしたら自分も大統領になれるかもしれない」という本人と周囲の計算が成り立つわけで、そんな中では、現時点ではどうしても「一本化」というのは難しそうです。
・3つ目は「とにかくトランプの過半数獲得を阻止」するという作戦で、これには2段階があります。まず、現在の3人、つまりルビオ、クルーズ、ケーシックの3候補が走れるところまで走り続けるという案です。これは、3月3日にロムニー氏が会見で明かした作戦なのですが、「どうせ早期の一本化はムリ」なので、3人がそれぞれ得意な州、特に勝者総取りの州で勝って行って、トランプの過半数、つまり「マジックナンバー1237の獲得を阻止する」という作戦です。 具体的には、フロリダ(3月15日、代議員数99で勝者総取り)はルビオ、オハイオ(同じく3月15日、代議員数66で勝者総取り)はケーシックに票を集中させるという具合です。とにかく、7月の党大会の時点で、トランプが「1位だが過半数は獲得できていない」という状況に持ち込むのが目的です。 そうなれば、党大会の会場で第一回投票を行って「過半数の勝者」が出ない、その瞬間から多くの代議員は「自分の州の予備選結果」から解放されて「自由投票」になります。歴史的に「ブローカード・コンベンション」と呼ばれる事態です。そこで様々な形で「談合(フロア・ファイト)」が行われ、トランプを外して他の「まともな」候補を統一候補に指名することが可能になるというわけです。
・4つ目は、「過半数阻止作戦」の第2段階で、色々と策を弄しても「党大会の前に」トランプが過半数を確保しそうな場合の対策です。具体的には、3月15日のフロリダにしても、オハイオにしても、何らかの一本化工作ができずに、現在の情勢の延長で予備選が行われると、トランプが勝って「代議員を総取り」してしまいます。そうしてトランプが一つ一つ取っていくと、限りなく過半数に近い代議員数を獲得していく可能性があります。 その場合に天王山になるのは、6月7日のカリフォルニアです。ここは代議員数172と圧倒的に大きく、しかも「勝者総取り」州です。ここだけは何としても渡さない、そうすればトランプを「1位だが過半数は取れていない」という状況に持ち込める可能性があります。マジックナンバーの1237には、ギリギリのところで到達させないというわけです。 そこで、「カリフォルニアでだけ勝てる無所属候補」を立てるという作戦が堂々と語られています。カリフォルニアで強そうな、例えばロムニー氏自身や、アーノルド・シュワルツネッガー氏などの名前が取り沙汰されています。もっともシュワルツネッガー氏は、オーストリアからの移民で、「生まれながらの米国市民」ではありませんから、憲法上は合衆国大統領にはなれません。ですが、カリフォルニア州の憲法と公選法の解釈では、何らかの独自政党を名乗って選挙で勝てば、その政党の名前でカリフォルニアにおける代議員の総取りはできて「トランプの過半数代議員獲得を止める」ことが可能という説もあるようです。 ただ、そもそも「大統領になる資格」特に「出生地の問題」については、トランプという人はうるさいわけです。彼に言わせれば、オバマも、マケインも、クルーズも資格なしというのですから、シュワルツネッガーを立てた場合は、却って勢いづく危険はあるでしょう。ですから、この作戦に関しては、ロムニー氏への待望論が非常に大きくなっています。
・5つ目は、そこまでの様々な策を弄しても、全てが失敗して「トランプがマジックナンバーである代議員数の1237を取って共和党の統一候補になった」場合への備えです。政界には、そうなったらトランプを担ぐのが「憲政の常道」という声もあります。実際に3月3日のTV討論では「もしもあなた以外の人がマジックナンバーを取って統一候補になったら支持するか?」という質問があり、トランプは「俺が負ける?そんなバカな」などと言っていましたが、そのトランプを含めて4人共「イエス」と言わされています。 ですが、それはあくまで「タテマエ」であるわけです。先ほど確認したイデオロギーの問題というのは、非常に根深いからです。特に、アメリカの大統領選というのは、毎回が巨大な「同時選挙」となっています。今回も「下院全議席」と「上院の3分の1」、そして知事以下の地方選挙も同時に行われるわけですし、州によって必要な場合には住民投票も同時に行われます。 その同時選において、共和党系の候補の多くは「トランプを大統領候補に担いで」の選挙戦では、「戦えない」のです。先ほど検討したように、余程のキャリアがあり、また地盤がしっかりしていて、党ではなく「自分の名前で戦える」候補はいいのですが、それ以外のケースでは非常な困難が生じます。つまり、自分の政見とは全く違うことを言っている候補が同時に自分の党から大統領選に出ているということになるからです。 そうした場合に備えて、予め「保守系無所属」の「大統領候補」を準備しておくというのが、この5番目の作戦です。要するに、共和党の議員や知事などの各候補は「トランプは支持しない」として、堂々と「無所属の本流候補」を支持して自分の選挙戦を戦うというのです。そうしないと選挙にならないというわけです。 但し、この「無所属候補」擁立には、色々と制約があるようです。というのは、大統領選といっても、具体的な選挙の手続きは各州の憲法や公選法に規定されており、そこでは「候補」の名前を投票用紙に記載する(バロット・アクセスと言います)のには、手続きが煩雑、ハッキリ言って「やりにくく」なっているのです。    この点に関しては、被選挙権の制約だということで、アムネスティから勧告を受けているというのですが、それはともかく、各州では「直近の知事選(または直近の大統領選)の投票総数の1%から3%の署名」を集めないと、ダメということになっています。 この「バロット・アクセス」のための署名ですが、締め切りが決まっていて、多くの州では8月になっています。ですが、テキサスは5月9日までに約8万、ノース・カロライナは6月9日までに3万9千の署名が必要とされています。全国では合計で3万の署名が要求されており、しかも「自由な市民運動のための署名」ではなく、各選法の規定により実施されるので手間がかかるようです。 この点に関しては、実務的に不可能という説もあり、一方で、既存の泡沫政党から「名義貸し」を受ければ手続きを簡略化できる州もあるとか、諸説入り乱れているのが現状です。この「別候補作戦」というのは、そんなわけで、やや非現実的ですが、そんな作戦まで議論されるぐらい「パニック」が進行しているというわけです。
・少々詳しくお話をしましたが、以上はまだ「序の口」であって、もしかしたら飛んでもない「ウルトラC」が出てくるかもしれません。いずれにしても、共和党の相当な部分が本気で「トランプ降ろし」を検討しているのは否定できない事実であり、それが3月3日のロムニー演説で一気に明るみに出たというわけです。 とりあえず、本稿の時点では、5日(土)のカンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、メイン、6日(日)のプエルト・リコ、8日(火)のハワイ、アイダホ、ミシガン、ミシシッピ、12日(土)のグアム、ワシントンDCと続く一連の予備選、党員集会が迫っています。
・ですが、この11地区については「勝者総取り」ではありません。2位でも代議員の獲得が可能であり、そのために「一本化しないとトランプが総取りする」という事態にはなりません。問題は前述したように、3月15日(火)以降です。ここからは全部ではありませんが、総取り州が増えてきます。共和党に「何かが起きる」とすれば、まずは、この3月15日までの期間が注目されます。

次に、たびたび引用しているコラムニストの小田嶋隆氏が3月4日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「トランプという「いやがらせ」」を紹介しよう。
・ここしばらく、アメリカ合衆国(以下アメリカ)の大統領候補指名選挙に注目している。 振り返ってみれば、前回のオバマさんの時も、その前のブッシュさんがゴアさんと接戦を演じた選挙戦の折りも、熱心に経過を追いかけていた記憶がある。
・で、いつの間にやらアメリカの選挙システムや州単位での票読みの特徴や、民主党と共和党の主張の違いならびに支持母体の変遷などなどについて、雑多な知識をかかえこんだ変なおじさんになっている。
・今回の大統領選についても、自分としては珍しく、こまごまと勉強している。 アメリカ政治のアナリストになりたいとか、人前に出ていっぱしの解説をカマしたいとか、そういう野心を抱いているのではない。
・ただ、興味と関心のおもむくままにバックナンバーを掘り出しにいったり、雜誌の特集ページをクリップしたり、各方面の資料を収集しているうちに半可通になってしまったということだ。
・感触としては、サッカーにハマりはじめた当時の感覚に近い。 お気に入りの選手のプロフィールを暗記して、世界各国にあるリーグのチーム名とそのチームが拠点を置いている都市の名前をマトリックスにハメこんで、フラッグの模様とチームカラーを頭に叩き込む。私はたぶん、その種の、体系を為さない知識を拾い集めるみたいにして暗記する過程そのものが好きなのだと思う。で、そうやって頭の中に詰め込んだ知識を、一から順番に並べてみせてテーブルの向こうに座っている人間をびっくりさせるみたいな厄介なマナーを、どうしてもあきらめきれなかったりしている。まあ、イヤなオヤジです。
・ただ、サッカーの場合でも同じことなのだが、然るべきカリキュラムに沿って勉強したわけでもなければ、芝の上で実際にプレーしたわけでもない素人が、ただただ量としての知識だけを頭の中にひたすらに溜め込んでいる状態は、実は、色々な意味で使いモノにならない。
・私の場合で言うと、原稿で失敗するのは、そういう、自分がなまじの知識を持っている分野である場合が多い。 素人の臆断は、薄っぺらであることを免れ得ない。
・が、それはそれでかまわない。 書き手が謙虚な姿勢と素直な書き方を心がけてさえいれば、無知そのものが、そんなにひどい結果を呼び寄せることはない。書いている内容がうまく展開した場合には、結果として、素人ならではのまっすぐな疑問を投げかけることができる。そうなればしめたものだ。もちろん、これは分野にもよることだし、一概には言えない話なのだが、とりあえず、正しい疑問を投げかけることのできている原稿は、時に、正しい答えを提示している原稿よりも、読者を魅了することもあり得る。
・ところが、書き手が、テーマについてあらかじめある程度の情報を持っているケースでは、彼は、虚心にテーマに向かいにくくなる。と、出来上がってくる原稿は、薄っぺらな上に小生意気で、しかもあらかじめの偏見から外に出ようとしない、始末に負えないものになったりする。
・アメリカ政治について、いま、無警戒に思うところを書くと、おそらく、私は、この半年ぐらいの間に色々なところから仕入れてきた知識を、右から左に受け売りするタイプの、どうにも説教くさいテキストを生産することになるはずだ。 できれば、それは避けたい。
・なので、ここでは、ドナルド・トランプ候補が共和党支持層の間で高い人気を得るに至った理由と、そのトランプ人気の盛り上がりを、ほんの半年前まで、ほとんどすべての専門家が予測できていなかった理由に絞って、自分なりに考えたことを原稿にしてみたいと考えている。私の分析が当たっているのかどうかは、たいした問題ではない。というよりも、どうせ当たっていない。
・大切なのは、当たっているのであれ外れているのであれ、いまアメリカで起こっていることについて、自分が活用できる限りの情報と知力を駆使して考えてみることだ。 というのも、いまアメリカで起こっていることは、いずれなんらかの形で、わが国の政治や外交や社会のあり方に、巨大な影響をもたらすに違いないからだ。
・私がこの10年ほど、アメリカから目が離せなくなっている理由も、つまるところ、あれこれと目先を変えた切り口で伝えられてくる日々の政治報道よりも、アメリカの大統領選の結果の方が、実質的な影響力という意味ではむしろ重要であるかもしれないことを、私自身が肌で感じ取っているからなのだと思っている。
・実際、民主党と維新の会の合流の帰趨や、参院選に向けた各党の政策スローガンや、アベノミクスの成否は、いずれも半年内外の時間的射程しか持っていない瑣末な話題に過ぎない。それに比べれば、アメリカ経済の行方や、アメリカ大統領選の結果や、アメリカ社会の変化は、どれをとっても、この先10年の日本の国策を変えるに足る、はるかに重要な問題をはらんでいる。
・たとえば、トランプ氏が大統領になったら、TPPは無事だろうか。普天間基地の移設は、現状の方針のまま粛々と進むのだろうか。普天間どころか沖縄に駐在している米軍そのものが撤退する可能性さえ出てくるのではなかろうか。集団的自衛権も、安保条約も、果ては、憲法さえも、どういう方向に転ぶことになるものなのか、皆目見当がつかない。
・ヒラリー・クリントン氏が大統領に就任している形で迎える近未来とて、すべてがわれわれの思惑通りに進むとは限らない。TPPはもちろん、外交も、国防も、北朝鮮や中国との関係も、微妙な力加減の変化で、ひっくり返るかもしれない。
・そう考えれば、やれ民主党の新しい名前がどうしたとか、国会答弁で誰がどんな失言をやらかしたかみたいなニュースより、退屈したオヤジは、スカパー経由で海外リーグのサッカーに熱中するみたいにして、CNNの大統領選中継にかじりつくことになる。当然の流れではないか。
・実際、CNNの放送は、3割かそこいらしか聴き取れない英語のハンデを差し引いても、それでもなお、すべてが予定調和の中で進行している日本の地上波放送のニュースショーよりはずっと面白い。私は主にそっちを見ている。いまは、同時通訳がつくチャンネルもあるし、BBCもあればCSの24時間ニュースもある。
・トランプ氏の人気については、何人かの海外の専門家が、トランプ氏への支持である以上に、現状への怒りの表明だという見方を繰り返し述べている。 で、日本の専門家も徐々にその見方に沿う流れになっている。 私も、大枠ではそう思っている。
・ただ、この見方は、穏当なようでいて、実はあまり多くを説明していない。 というのも、「この結果はA氏の人気そのものではなくて現体制への反発を反映したものだ」  「この選挙結果はB党への支持ではなく現状への不満のあらわれと見るべきだ」 という言い回しは、政局や政治情勢を分析することになっている専門家が、自分の予想をハズす度に繰り出されてきた万能フレーズみたいなもので、サッカーの解説で言うところの
「決定力不足が課題ですね」 ぐらいな頻出便利用語とそんなに遠いものではないからだ。
・ただ、アメリカ国内を超えた、世界全般のここしばらくの雰囲気から推し量るに、排外主義を唱える政治家が一定の人気を得るタイミングに来ていることは動かしがたい事実だと思う。 トランプさんは排外主義だけサッカーの解説で言うところの「決定力不足が課題ですね」 ぐらいな頻出便利用語とそんなに遠いものではないからだの候補者、ということでもない。経済格差の問題や医療制度にも独自の考え(いずれも、現状から考えれば、野党である共和党候補の政策であることを差し引いて考えても無茶な話ではあるが)を打ち出しているし、発言のいちいちに尖ったユーモアがあったりして、たしかに人気者になるだけの資質は備えている。
・とすれば、「現状への強烈な不満」を糾合するキャラクターとしては、うってつけなのであろう。敢えて言えば、トランプ氏の活躍によって現状の政治を担う人々に「いやがらせ」ができれば、支持者としてはそれで満足なのかもしれない。
・私が今回の選挙戦を見ていて感じるのは、アメリカのこれまでの大統領選挙を支えていた「枠組み」というか、「お約束」の部分が、かなりの部分で崩壊しているように見えるということだ。 民主党は、なんとか主流派の推すクリントン氏で落着することになりそうだが、それでも、一時期は、ほかの民主党候補を押しのけて、社会民主主義者を自称するアウトサイダーであるバーニー・サンダース氏が優勢を伝えられるほどの接戦に持ち込まれていたりした。もちろんトランプ氏は、共和党の主流とはほど遠い候補だ。
・そういう意味で、ここまでの指名候補争いは、民主、共和両党の党内での主流派争いというよりは、党員と局外者による前例の無い戦いになっている感じがある。 つまり、民主、共和両党ともが、米国民の多数派の民意を吸い上げる装置として、機能しなくなっているということだ。
・これは、わりとおそろしいことだ。 アメリカみたいな巨大国家をこれまで200年以上にわたって支えてきた2つの政党が、思うように選挙戦のための候補を按配することができなくなって、市井の一言居士みたいな男の進出を許している。
・ということは、選挙というブラックボックスは、それを支えている政治勢力が制度疲労に陥るや、すべての関係者にとって意想外の結果をアウトプットする装置になるということだ。
・トランプさんの言っていることがどこまで妥当で、打ち出そうとしている政策やプランが、アメリカや国際社会にとってどれほど有益であるのかという点を考えて投票する有権者が多数派を占めているのであれば、おそらくトランプ氏がそのまま大統領になることは無い。
・が、そういうこみいった話とは別に、「人間としての正直さ」だったり、「痛快さ」だったり、「カネを稼ぐ男としてのたくましさ」だったり、「反射神経の鋭さ」だったり「打てば響くアメリカンジョーク配給者としての得点の高さ」で投票する人たちの比率が高まれば、彼は相当数の票を集めることになる。
・私は、トランプ氏と橋下徹・前大阪市長を同列に並べるつもりはないし、彼らが同じタイプのキャラクターだと決めつけるつもりもないが、この二人が政治家として人気を高めるに至った経緯には、共通するところがとても多いと思っている。
・内向きになっている国なり自治体の有権者は、通常の意味で言う政治家ではなくて、外の世界に毅然と対峙するタイプの、悪く言えば排外的な、良く言えばたくましい、戦闘的なリーダーを求めるようになる。 相手が誰であれ、戦闘的なリーダーはたくましく見える。
・優柔不断であったり、煮え切らなかったり、妥協的だったり、ダブルスタンダードに見えることの多い調整型の政治家よりは、決然としていて、断固としていて、毅然としていて、秋霜烈日な専横型の経営者の方がリーダーとして格上に見えるのは、リーダーを選ぶ側の人々が、代表者よりもボスを、上司よりも上官を、仲間よりも父を求めている時に起こる現象で、結局、既存の政治的な枠組みが溶解しはじめていたり、階級的な怨念が噴出口を求めてさまよっていたり、外部からやってくる何かが伝統的な社会の秩序を混乱させているように見える時、われわれは、排外主義を選択しがちだということなのかもしれない。
・トランプ氏への支持が、必ずしもトランプ氏の政治的メッセージそのものに向けられたピンポイントの支持ではなくて、より広範な社会的な怨念や政治的な怒りを反映した現状に対する「NO」であるという分析は、結果があらわれつつある現状から振り返る限りにおいて、当を得たものだと思う。
・が、より大切なのは、ここで言われている「怒り」なり「怨念」なりに対応する適切な政策を、共和党が用意出来ていなかったことについての分析だろう。
・同じことは、日本の政治についても言える。 《日本経済新聞社とテレビ東京が2016年2月26~28日にかけて行った電話世論調査(RDD方式)によると、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を「評価しない」と答えた人は50%で、「評価する」の31%を大きく上回った。内閣支持率は47%で、前回16年1月の調査から横ばい。--略---》  ごらんの通り、「アベノミクス」への評価がここへ来て急激に低下しているにもかかわらず、内閣支持率の方は下がっていない。ということは、野党の側がアベノミクスに代わる有効な経済政策を打ち出せていないということだ。
・現状に不満があるのだとして、で、既存の野党にはもっと不満があるのだとしたら、人々はどうするだろうか。普通に考えれば、そのまま無気力に与党に投票するか、投票そのものを棄権することになる。
・が、ここにトランプ氏のような、政策や政治的メッセージそのものの上ではともかく、不満を糾合し、怒りの矛先を集め、怨念に出口を与え、わかりやすい敵を提示することで感情を煽ることのできる候補者が登場したらどうだろうか。 私は、アメリカの選挙の結果を眺めながら、何年後かのうちの国で起こるかもしれない、もっといやな出来事に思いを馳せている。 内容は詳述しない。 どうせ妄想なのだし。 ジョーカーが最後まで出てこないことを祈っている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/174784/030300034/?P=1

冷泉氏のメールマガジンは、アメリカの現在の雰囲気が、実況中継のように伝わってきて興味深い。特に、保守系のFOXニュースのキャスターたちが、「まるで「お通夜」のような顔で放送している」は笑ってしまった。
トランプ氏の暴言を改めて読むと、確かに現状に不満を持った国民には痛快に映る言葉のオンパレードだ。同氏が「共和党の党是の部分を、ほとんど「ぶっ壊そう」としている」ことは確かだ。トランプ氏が最終的に大統領になるとは思えないが、仮になったらアメリカのみならず、世界も大混乱に陥るだろう。小泉元総理は「自民党をぶっ壊す」としたが、自民党は安部独裁色で現在は以前にも増して強力になった。
小田嶋氏は、例によって自虐ネタと鋭い分析満載で、これも大いに読ませる内容だ。『(国内政治ネタは)半年内外の時間的射程しか持っていない瑣末な話題に過ぎない。それに比べれば、アメリカ経済の行方や、アメリカ大統領選の結果や、アメリカ社会の変化は、どれをとっても、この先10年の日本の国策を変えるに足る、はるかに重要な問題をはらんでいる』は、正にその通りだ。トランプ人気を「現状への怒りの表明」との内外の専門家の解説は、『サッカーの解説で言うところの「決定力不足が課題ですね」 ぐらいな頻出便利用語とそんなに遠いものではない』、トランプ氏と橋下徹・前大阪市長が『政治家として人気を高めるに至った経緯には、共通するところがとても多いと思っている』などの指摘には、思わず膝を叩いてしまった。内向きになっている国なり自治体の有権者が、排外的、戦闘的なリーダーを求めるようになる、との指摘も面白い。排外主義は、欧州のポピュリスト政党の躍進とも共通するようだ。
ただ、最後の部分にある『何年後かのうちの国で起こるかもしれない、もっといやな出来事』、『ジョーカー』には、思わず身が引き締まる思いがしている。それを私はファシズムではないかと考えている。
タグ:アメリカ大統領選挙 (その2)冷泉彰彦、小田嶋隆両氏の見解 スーパー・チューズデー 冷泉彰彦 [JMM887Sa]「共和党の非常事態、『トランプ降ろし』の可能性を検証する」from911/USAレポート 共和党は非常事態 保守のFOXニュース キャスターたちは、まるで「お通夜」のような顔で放送 リンゼイ・グラハム議員 トランプになるのか、クルーズになるのかというのは、まあ射殺されるか、毒殺されるか選べというようなモノだよ ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事 トランプはインチキ (fraud) でありニセモノ (phony) ジョン・マケイン議員 「トランプに逆らっては選挙に勝てない」という不安 上下両院で「ハッキリとトランプ支持」を打ち出している議員が数名出て来ています 共和党の「党内内戦(Civil War)」 クリスティ知事に関しては、トランプの「副大統領候補狙い」という憶測 トランプの発言 国内雇用を守るためにTPPはぶっ壊す イスラエルとパレスチナのケンカについては中立の立場 シリア情勢は、盟友のプーチンに任せる 日本、韓国、サウジ、ドイツには米軍基地の維持費を払わせる 中国、日本、メキシコとの貿易赤字には大ナタを振るう 中産階級への大減税をやる。財源確保のために文部省と環境庁をぶっ潰す イラク戦争は間違い 911を防止できなかったのはブッシュのせい メキシコ国境に万里の長城 不法移民とその子どもの強制送還 イスラム教徒の入国禁止 ISIL支配地域は絨毯爆撃してやる 共和党の党是の部分を、ほとんど「ぶっ壊そう」としている トランプ降ろし 現時点では5つの作戦 敗北主義 対抗馬の一本化 とにかくトランプの過半数獲得を阻止 小田嶋隆 日経ビジネスオンライン トランプという「いやがらせ」 半年内外の時間的射程しか持っていない瑣末な話題 アメリカ経済の行方や、アメリカ大統領選の結果や、アメリカ社会の変化は、どれをとっても、この先10年の日本の国策を変えるに足る、はるかに重要な問題をはらんでいる 現状への怒りの表明だという見方 専門家が、自分の予想をハズす度に繰り出されてきた万能フレーズ サッカーの解説で言うところの 排外主義 アメリカのこれまでの大統領選挙を支えていた「枠組み」というか、「お約束」の部分が、かなりの部分で崩壊 党内での主流派争いというよりは、党員と局外者による前例の無い戦いになっている感じ 民主、共和両党ともが、米国民の多数派の民意を吸い上げる装置として、機能しなくなっているということだ アメリカみたいな巨大国家をこれまで200年以上にわたって支えてきた2つの政党が、思うように選挙戦のための候補を按配することができなくなって、市井の一言居士みたいな男の進出を許している 制度疲労 トランプ氏と橋下徹・前大阪市長を同列に並べるつもりはないし、彼らが同じタイプのキャラクターだと決めつけるつもりもないが この二人が政治家として人気を高めるに至った経緯には、共通するところがとても多い 内向きになっている国なり自治体の有権者 外の世界に毅然と対峙するタイプの、悪く言えば排外的な、良く言えばたくましい、戦闘的なリーダーを求めるようになる 日本の政治 野党の側がアベノミクスに代わる有効な経済政策を打ち出せていない トランプ氏のような、政策や政治的メッセージそのものの上ではともかく、不満を糾合し、怒りの矛先を集め、怨念に出口を与え、わかりやすい敵を提示することで感情を煽ることのできる候補者が登場したらどうだろうか 何年後かのうちの国で起こるかもしれない、もっといやな出来事に思いを馳せている ジョーカー
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0