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ドイツ銀行はどうしたのか?(その2)ドイツ銀シニア債買い戻し、元凶の「AT1債」とは [世界経済]

ドイツ銀行はどうしたのか?については、2月11日に取上げたが、今日は (その2)ドイツ銀シニア債買い戻し、元凶の「AT1債」とは である。

先ずは、Neil Unmack氏が2月15日付けロイターに寄稿した「コラム:ドイツ銀シニア債買い戻し、投資家が断るべき理由」を紹介しよう。
・ドイツ銀行が投資家に対して、絶対断るべきであるような提案をしている。同行は12日、50億ドル相当の無担保シニア債を公開入札で買い戻すと発表した。買い戻しが大規模になれば、ドイツ銀には自由に使える資本が多くなる。
・しかし同時に同行の存続性に関して投資家が確信を持てないことを示す恐れがある。シニア債の価格が今後反発する可能性を考えれば、投資家は買い戻しに応じずに様子を見た方が得策だろう。
・銀行が債券を買い戻す理由は多々ある。ドイツ銀の場合は強気のメッセージを発信したいという思いと、ちょうど良い機会がめぐってきたことが重なった。世界経済の先行き懸念や、同行が自己資本強化のために発行した債券の一部について利払いを中止するのではないかとの観測から、シニア債は価格が急落した。これに対してクライアン共同最高経営責任者(CEO)は、経営基盤が頑健だと強調した。
・ドイツ銀はこれらのシニア債を買い戻すことで多少の利益を得られる。一部のシニア債の利回りが高水準、つまり価格が額面を下回って推移しているからだ。投資家としても、ドイツ銀が取引実勢に色を付けた買い取り価格を提示したという点で、悪くない話に見えるかもしれない。例えば2021年償還債は11日時点で額面の約92%の価格で推移していたが、提示額は額面の94.4%となっている。
・それでも投資家がここで売ってしまうのは、かなり近視眼的な取引になるだろう。1週間前、同じ債券は額面の97%前後だった。
・今の市場環境では大規模な債券の取引が難しく、一部の資産運用会社が資金流出に苦しんでいることも、投資家にとっては売るべき理由になる。だがもしもドイツ銀への信頼を持っていて、2週間前に比べて経営の存続に疑いを強める根拠はないとするなら、シニア債は同行の買い戻し提示額などすぐに上回る価格になるとみるべきだ。
・ドイツ銀と債券保有者双方にとって最適な結果は、買い戻しが低調な規模にとどまることだろう。 それはつまり、債券保有者は現在の市場価格が示唆しているよりもドイツ銀を信頼している証しとなる。シニア債の買い戻しというのは論理的には妥当な動きだが、今回のケースでは買い戻しが予定額に達しないことこそが好結果と言えるかもしれない。
http://jp.reuters.com/article/deutsche-bank-bonds-breakingviews-idJPKCN0VO02L?pageNumber=1

次に、2月26日付け日経ビジネスオンライン「欧州銀行を襲った信用不安の元凶「AT1債」とは ビジネスモデルを変えられなかったツケ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・2月16日から日本銀行が導入したマイナス金利は、事前の予想を覆すイベントであり、その政策効果を見極めるためには当面の時間が必要だろう。その将来を考える上で参考になりそうな欧州では、マイナス金利の実施からすでに1年以上が経過するが、必ずしも中銀の思惑通りの政策効果が現れている訳ではない。むしろ銀行セクターの減益や赤字決算を契機に、マイナス金利が銀行収益を著しく悪化させたという見方が再び強まっている。
・まず、マイナス金利が欧州金融機関にもたらした影響について振り返っておこう。 ユーロ圏の銀行においてマイナス金利の導入以降、貸出で伸びているのは家計向け貸出の殆どを占める住宅ローンであり、法人向けは伸び悩みを見せているのが現状だ。さらに家計の金融資産に占める有価証券投資比率を確認しても、マイナス金利が導入された2014年6月の前後1年間に大きなポートフォリオリバランスは無く、個人が積極的に預金から投資へシフトする様子は確認されていない(2013年第2Q:29.5%、2014年第2Q:29.8%、2015年第3Q:29.3%)。
・むしろ個人や企業は、マイナス金利導入以降、見通しの不透明さからキャッシュを保持したいというインセンティブが強くなったといわれる。
▽スイスでは法人・富裕層から利子徴収を開始
・マイナス金利導入国の1つであるスイスでは、銀行の資金利ざやの低下に何とか対応するため、大手行を中心に法人預金・富裕層向け預金の利子徴収を開始するケースも散見される。
・その一方、中小規模の銀行は苦しくても他行よりも有利な預金金利を設定し、預金獲得競争を実施せざるを得ない。コストを強いられる分、経営体力が低下していることに違いないが、マイナス金利導入以降も大手行の預金量は減少傾向にある一方、地域金融機関の預金量は逆に増加するなどの状況も確認されている。
・スイスの銀行セクターはもともと住宅ローン貸出の占める割合が大きく、マイナス金利は住宅価格をさらに押し上げた要因になったといわれている。かつては、低金利・ユーロペッグを背景に、スイスフラン建ての住宅ローンが東欧諸国(ハンガリー、ポーランド等)などにおいても広く利用されていたなど、その認知度は自国に留まらない。
・さらに、スイスと同様にデンマークやスウェーデンも住宅ローン貸出が急増しており、マイナス金利継続が住宅価格の過熱化につながる恐れもある。特にスウェーデンでは深刻な住宅バブルに見舞われており、家計部門の債務残高は過去最大を記録している。
・このためスウェーデン中銀が家計部門の過剰債務問題に警告を発している。さらにデンマークでも同様に家計の過剰債務問題に直面しており、マイナス金利の住宅ローンも出現。住宅価格高騰に歯止めが掛からない状態が指摘されている。
▽マイナス金利が増幅させたAT1債の信用不安
・そんな中、2016年2月には、欧州金融機関の信用不安を巡る報道が世界を駆け巡った。その引き金となったのは、「偶発的転換社債(CoCos=ココス)」と呼ばれる債券に対する信用不安。原油価格の再下落や世界経済が景気後退に向かうかもしれないという心理不安とあいまって、世界の株式市場に動揺が広がった。AT1債とも呼ばれるCoCosとは何で、なぜ今回の世界的な動揺につながったのか。その背景にはマイナス金利の影響もあるのだが、順を追って説明していきたい。
・欧州では、国際的な金融機関の自己資本規制「バーゼルIII」実施を契機に2014年から2015年にかけて、CoCos(AT1債)と呼ばれる債券の発行が急増した。当時、英国やドイツ、スイスの大手行がバーゼルIIIのレバレッジ比率規制の強化に伴う基本的項目であるTier1資本の不足への対応を急いでいた。しかしながらバーゼルIIIのルールも分かり辛い上に、過去の劣後債や優先出資証券と同じ利回りでは、投資家への魅力は乏しいと言わざるを得ない。
・そこで、CoCosの利回りは通常の債券よりも相当高い部類に設定されている。当初は銀行の資本調達手法としてはその資本設計思想やリスク評価の難しさから、投資に慎重な姿勢も見られていたが、次第にCoCosは債券の利回り不足に悩む機関投資家からの投資が増えていった。ユーロ圏やその周辺国がマイナス金利や量的緩和を導入して以降はその傾向がさらに強まった。
・加えて、2016年1月からスタートしたEUの銀行再建・破綻処理指令(BRRD)や2015年11月に金融安定理事会(FSB)がその詳細を発表した総損失吸収能力(TLAC)により無担保シニア債も損失吸収債券となることへの不満も、CoCosへの投資を促した。これは損失リスクがある「無担保シニア債」が、AT1債と比較して利回り水準が低すぎるために、AT1債への投資が優先されたことが原因にある。
・結果的に、消去法のような形で増え続けたAT1債への投資だが、懐疑的な見方は従来からあった。AT1債は、普通株式等Tier1比率が5.125%を下回った場合に元本削減や株式転換させる仕組みを内包する必要がある。そのリスクプレミアムに加えて、商品特性を浸透させることを目的に、従来発行された同等の返済順位の資本性証券より高い利率が付いている。このため、本当にこの高利率を支払い続けられるのかという意見は多かった。
・また銀行が実際に(公的資金注入等で)破綻した場合の債務の返済順位についても、懸念材料が指摘されている。普通株式等Tier1比率のフロアー(銀行が最低保持する必要がある資本)である4.5%の前に5.125%の元本削減や株式転換のトリガーが引かれると、発行体が存続するために、本来は返済の優先順位の高いデットの投資家の利払いがエクイティ投資家より先に停止する形になる。
・バーゼルIII規制上の(その他Tier1である)AT1債の設計では、発行銀行が一定の利益を下回ると、まず初めにクーポンの任意停止を判断、その後、普通株Tier1比率が5.125%を下回った場合に元本削減もしくは強制株式転換される仕組みとなっている。
・発行銀行はクーポンの支払い停止判断に関して完全な裁量を保持している一方、支払停止が発行銀行の債務不履行を意味するわけではない。「AT1債のクーポン支払い停止は事実上の債務不履行」という誤解が広がり、今回の欧銀株式急落による市場混乱につながった。
・投資商品としてかなり複雑な上、これを理解している投資家でも、次のステップでは株式に転換され希薄化することへの不安心理が増幅し、欧銀の株式(特に決算が悪いドイツ、英国、スイスの銀行)は大きく売られることとなった。
・さらに、各行が定めたバーゼル規制資本のバッファー(資本保全バッファー、カウンター・シクリカル・バッファー)においても、普通株式等Tier1比率の求められる最低所要水準を下回った場合、AT1債のクーポンや株式配当、変動役員報酬等に対して、支払いに制限が設定されていることも混乱に拍車をかけた。
・ただしバッファー自体、2016年から2019年までの段階的な実施でかつ多くの欧銀がバーゼルⅢ規制資本対応として資本増強を行っていたため、投資家はこの資本不足を懸念した訳ではないといえる。
・むしろ、真の懸念は、AT1債のクーポンは、欧州各国別(の会計基準で)設定されている分配可能額の範囲内から支払わねばならないことであり、利益が一定水準を下回ることでクーポンが停止されることを問題視したことだ。
・この一定水準の利益(分配可能額)は公表されておらず、かねてから透明性の欠如がAT1債の発行に関して指摘されていた。利益水準の多寡によりAT1債がいつクーポン停止になるかが不明であったため、減益、赤字決算を発表した欧銀に対する信用不安が加速することとなった。
▽不安の連鎖は解消しつつあるが…
・今回の一連の騒動を受けて、急遽、欧銀は、今期の分配可能額やAT1債のクーポン可能額等を発表し火消に躍起となった。ただし、欧銀も3月上旬には最終的な決算数値が発表されることで、分配可能としたクーポンが本当に支払われるか分かることとなる。予想外の引当金や追加損失などの状況に注意が必要となるであろう。また4月下旬に発表される第1四半期の収益状況においても、来年度以降支払い可能とされていたAT1債のクーポンの支払が可能か否かも注視する必要がある。
・AT1債は複雑な仕組みで投資家に損失を負わせる可能性もあり、適合性原則の観点から英国では個人向け販売が禁止されている。結果的に欧州のAT1債の主力の投資家は、ロンドンの金融街(シティ)のヘッジファンド等となっている。ただし、結果的に良くわからないから売却するという不安の連鎖は、サブプライムローン問題の二の舞ともいえる。
・当時は、サブプライムローンが全く含まれていない証券化商品の流動性スプレッドが大幅に拡大したことが問題となった。当時の教訓から、AT1債の問題が引き金となる無用な信用不安の連鎖には注意を払う必要があると同時に冷静さも求められるといえよう。
・欧州銀行の株式の売却が加速したのは2度と銀行が公的資金で救済されないのではという不安も一因といえる。公的インフラである銀行を救わないという判断は、金融安定化という意味ではマイナスの側面が強いという意見もシティでは未だ優勢である。
・無論、欧州のマイナス金利が銀行の資金利ざやを低下させ、銀行経営を苦しくさせたという見方に対する異論は少ない。金融危機以降、欧銀は収益性を強化させるために、投資銀行部門のリストラを強化していたが、高額年収のスタッフを多く抱えている点に変わりはなく、想定していた収益を上げられていなかったのが実情である。
・現在の欧州銀行は、ビジネスモデルの改革を図るというよりは、利上げの時期をひたすら待っていたというのが適切な表現であり、FED(米連邦準備委員会)の利上げにECB(欧州中央銀行)や日銀が追随しないことが明らかになると、収益性についての疑問が再度浮上しつつある状態だ。シティでは2015年には再度大規模なリストラが実施されていたが、欧銀は不採算部門から撤退した後に続く収益性の高いビジネスモデルを見つけられてはいない。どの銀行もウェルスマネジメントビジネスの拡大を狙っているが、米銀ほどの成功モデルを確立できていないのが実情であろう。
・今回の欧州銀行株急落の原因は、様々な要素が絡みあった結果といえる。マイナス金利による収益悪化、規制強化による銀行経営の行き詰まり、過去の不正に対する訴訟費用などが重なりAT1債への信用不安が引き起こされたといっても過言ではない。決してCoCosへの理解度不足や偏った報道だけが、その理由とはいえないことに留意する必要がある。
・今回の反応により、金融危機後に資本増強や規制強化を図り金融機関をより堅牢なものにしていたにもかかわらず、欧州銀行セクターは未だ脆弱であるとの懸念が改めて認識された。リーマン・ショック後に初めて銀行システムの健全性に対する不安が浮上し、金融危機の新たな局面に入ったとの見方までも議論されているのは興味深い事実であろう。
・ECBの次回会合(3月10日開催予定)でドラギ総裁は、マイナス金利幅の拡大を含む追加緩和を検討することを示唆している。さらなるマイナス金利幅拡大に伴い、欧銀が新しいビジネスモデルを見つけ危機の連鎖を断ち切れるかに市場は注目している。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/185821/022400002/?P=1

今日はいずれも、かなり専門的な内容になったが、欧州銀行をめぐる市場の混乱を伝えているので、取上げた次第である。シニア債買い戻しは、ドイツ銀行が資金繰り的には余裕があること、銀行が相場水準を割安と判断していることを示すとともに、過度に安値になった社債を買い戻すことで、ドイツ銀行にも利益をもたらすものである。最終的な結果がどうなったかについては、まだ報道はないようだ。
「AT1債」については、前回も触れたが、どうやら規制当局が想定した以上の混乱を市場にもたらしたようだ。機関投資家といえども、極めて複雑な商品性を必ずしも十分に吟味せずに、利回りに惹かれて買っているらしいことに、驚かされた。日本でも「適格機関投資家」のなかには、運用のプロが全くいないお粗末な投資家もいたことが、年金消失のAIJ事件で明らかになった。これと、機関投資家の中心であるロンドンのヘッジファンドを同列に比較することは出来ない。機関投資家である以上、自分たちが理解できない商品には手を出すべきではないというのが建前論だが、むしろ、ヘッジファンドにも理解できないような複雑な商品を認めた規制当局により大きな問題があるのかも知れない。
タグ:最適な結果は、買い戻しが低調な規模にとどまることだろう 損失リスクがある「無担保シニア債」が、AT1債と比較して利回り水準が低すぎるために、AT1債への投資が優先されたことが原因 スイスでは法人・富裕層から利子徴収を開始 欧州金融機関にもたらした影響 CoCosは債券の利回り不足に悩む機関投資家からの投資が増えていった 金融安定理事会(FSB) 貸出で伸びているのは家計向け貸出の殆どを占める住宅ローン 法人向けは伸び悩み スイスと同様にデンマークやスウェーデンも住宅ローン貸出が急増 そのリスクプレミアムに加えて ドイツ銀行はどうしたのか? 商品特性を浸透させることを目的に 主力の投資家は、ロンドンの金融街(シティ)のヘッジファンド等 英国では個人向け販売が禁止 最低所要水準を下回った場合、AT1債のクーポンや株式配当、変動役員報酬等に対して、支払いに制限が設定 株式に転換され希薄化することへの不安心理が増幅 投資商品としてかなり複雑 本来は返済の優先順位の高いデットの投資家の利払いがエクイティ投資家より先に停止する形になる 従来発行された同等の返済順位の資本性証券より高い利率 総損失吸収能力(TLAC)により無担保シニア債も損失吸収債券となる Tier1資本の不足への対応 偶発的転換社債(CoCos=ココス) 銀行再建・破綻処理指令(BRRD) マイナス金利が増幅させたAT1債の信用不安 マイナス金利 欧州銀行を襲った信用不安の元凶「AT1債」とは ビジネスモデルを変えられなかったツケ 日経ビジネスオンライン 額面の97%前後 1週間前 提示額は額面の94.4% 債券保有者は現在の市場価格が示唆しているよりもドイツ銀を信頼している証しとなる 買い戻しが低調な規模にとどまることだろう 最適な結果 一部の資産運用会社が資金流出に苦しんでいる 多少の利益を得られる シニア債は価格が急落 強気のメッセージを発信したいという思い 50億ドル相当 公開入札で買い戻す シニア債 ドイツ銀行 コラム:ドイツ銀シニア債買い戻し、投資家が断るべき理由 ロイター (その2)ドイツ銀シニア債買い戻し、元凶の「AT1債」とは
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