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イタリア金融危機(英国のEU離脱の国民投票のデジャブ?) [世界経済]

今日は、イタリア金融危機(英国のEU離脱の国民投票のデジャブ?) を取上げよう。

先ずは、7月30日付けロイター「欧州銀ストレステストでモンテ・パスキ最悪、直前に再建案発表」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・欧州銀行監督機構(EBA)は29日、銀行51行を対象とした健全性審査(ストレステスト)の結果を公表した。審査では経済へのショックが3年間続いた場合の各行の中核的自己資本(コアティア1)比率を試算。結果はイタリアの大手銀行モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)がマイナス2.44%で最下位だったほか、アイルランド、スペイン、オーストリアの銀行も下位に並んだ。
・EBAのエンリア会長は声明で「これまでに相当程度、資本を積み増す動きがみられたが、健全だと宣言できるまでには至っていない」と指摘。「取り組む課題は依然として残っている」との認識を示した。 今回の審査では、合格、不合格の判定は行わなかったが、アナリストは昨年の基準(5.5%)を目安と見ている。モンテ・パスキのほか、アライド・アイリッシュ銀行がこの目安に届かなかった。
・7%を維持できる銀行数も注目されていた。スペインのバンコ・ポピュラール、アイルランド銀行、オーストリアのライファイゼン・バンク・インターナショナル(RBI)は6.62%、6.15%、6.12%といずれも7%を下回った。 また下位12行には伊ウニクレディト、ドイツ銀、独コメルツ銀、英バークレイズなども含まれている。
▽モンテ・パスキ、再建計画発表
・モンテ・パスキはストレステストの結果発表直前に、資本増強や不良債権売却を柱とする再建計画を発表した。再建計画の下、モンテ・パスキは総額50億ユーロの増資を実施するほか、92億ユーロ(103億ドル)の不良債権を売却する。 ウニクレディトは、当局とも協力しながらさらなる対応が必要かどうか見極めたいとしている。アライド・アイリッシュ銀行は根本的な再建策をすでに打ち出しており、現在は持続的な黒字の状態と説明した。
・PwCのアンソニー・クルイジンガ氏は「個別行の成績を見ると確かに悪い内容だが、全体としては、欧州の銀行は危機再発に対して耐性を持っていることが示され、一定の安心材料になった」と指摘した。 KPMGのスティーブン・ホール氏は「欧州の銀行の損失吸収能力が以前よりは高まったことが示されたが、収益性や投資家の銀行株への投資意欲をめぐっては、明らかに懸念が残る」との見方を示した。
http://jp.reuters.com/article/europ-stresstest-idJPKCN1092OE

次に、イタリアの不良債権問題をより幅広い角度から分析したものとして、三菱UFJリサーチ・アンド・コンサルティング(MURC)の7月26日付けレポート「ギリシャ危機に隠れていたイタリアの不良債権問題~欧州金融不安を回避するために求められる柔軟な対応~」の詳細版の2頁目以降を紹介しよう。
1.14 年秋頃から燻ぶり始めたイタリアの不良債権問題
・足元でイタリアの不良債権問題に注目が集まっている。そもそもこの問題は、14 年10 月にEU(欧州連合)が公表した銀行のストレステスト(健全性検査)の結果の中で、第三位のモンテ・パスキと中堅のバンカ・カリジェの資本不足が指摘された頃から燻ぶり始めていた。その後、ギリシャの経済危機やユーロ圏離脱騒動などを受けてこの問題に対する投資家の関心は薄らいだものの、事態は着実に悪化していた。
・BOI(イタリア中央銀行)によれば、16 年3 月時点においてイタリアの銀行とCDP(預託貸付公庫)が抱える不良債権の金額は3,331.6 億ユーロに上り、貸付金残高に占める不良債権比率は実に16.4%に達している。さらに不良債権の構成を見ると、その大半(58.8%)が破綻先であり、回収が見込めない債権である。
・国際比較の観点から見ても、イタリアの不良債権問題は深刻である。IMF(国際通貨基金)の『国際金融安定性報告書』によれば、15 年末のイタリアの不良債権比率(対貸付金残高比率)は18.0%とキプロスとギリシャに次ぐ高水準である(図表1)。経済規模が同程度で同様に不良債権問題が深刻化していたスペインでさえ、最悪期(13 年末)の不良債権比率は9.4%である。このことからも、イタリアの問題の深刻さがうかがえる。
・こうした問題の悪化を受けて、16 年4 月、不良債権の政策的処理を進めるための基金である「アトランテ」が、官民の共同出資によって設立された。もっとも、その資金規模(42.5 億ユーロ)では事態の改善には不十分ではないかと、投資家は不信感を徐々に高めていった。こうした中で、英国の国民投票を受けてリスク回避志向を強めた投資家が、次の火種になり得る要因として、イタリアの不良債権問題に再びフォーカスを当てたのである。
2.問題をエスカレートさせたガバナンスの弱さ
・不良債権問題がエスカレートした背景には、第一にイタリア景気の悪化がある。イタリアの実質経済成長率は12年から3年間マイナスが続いた。こうした景気悪化を受けて融資先の資金繰りが悪化したことが、多額の不良債権が生じる直接的な要因になった。
・もっとも景気の悪化だけでは、イタリアの不良債権問題が深刻化した理由を説明することはできない。より構造的な問題として、特有の所有形態に基づく銀行のガバナンスの弱さという論点がある。不良債権問題の象徴的存在であるモンテ・パスキなど大手行の多くは、90年代初めに民営化が進められた旧国営銀行にその源流がある。この民営化に際して、当時のイタリア政府は「財団(Fondazioni)」と呼ばれる非営利団体の設立し、それを完全民営化までの株式の時限的な受け皿として機能させようとした。その後の法改正(94 年銀行法、98 年シアンピ法)で財団の機能縮小が図られたりしたものの、実態としては特定の有力財団が複数の銀行の有力株主として今でも機能している(図表2)。
・こうした財団は、銀行による出資要請に応じる等して銀行財務の安定化に貢献した。反面で、銀行の取締役会や監査役会に多くの役員を送り込み、銀行経営に強い影響を与えてきた。Jassaud(2014)によると、イタリア最大の金融機関であるウニクレディットの場合、13年5月時点において、財団形式を採る投資家が保有する同行の株式は9%に過ぎなかった。にもかかわらず、財団形式を採る投資家からは取締役会の役員の84%が選出されていた(図表3)。なお財団は、単一の銀行のみならず複数の銀行に対して出資をするとともに、出資先の銀行間でも株を持ち合うなどして複雑な所有関係も構築していた。そしてこうした財団は、地方の政治勢力とも近く、ゆえに縁故に基づく融資も横行していたとされる。債権の回収可能性よりも融資先との地縁や血縁を優先する銀行の経営体質をもたらしたガバナンスの弱さが、不良債権問題をエスカレートさせたと考えられる。
・加えて、イタリアの不良債権問題の難しさは、こうしたガバナンスの弱さを反映するように、企業向けローンで事態が深刻化しているということにある(図表4)。問題が最も深刻なモンテ・パスキの『年次報告書』によると、15年時点における企業向けローンの不良債権比率は実に31.0%にも上っている。図表5は、産業部門ごとの不良債権比率を足元のイタリア(16年3月)と最悪期のスペイン(13年12月)とで比較したものである。スペインと比較した場合、イタリアでは製造業や建設業の不良債権比率が高いという特徴がある。
・スペインの不良債権問題は、基本的には住宅・建設バブルの崩壊に伴うものであった。そのため、市況が回復すれば不良債権が処理しやすい構造であった。また住宅ローンや建設ローンの担い手が貯蓄銀行(カハ)に限定されており、一般の商業銀行は財務体質の悪化は軽かった。他方でイタリアでは、製造業の不良債権比率の高さが物語るように、不良債権問題が産業全体に拡散している。
・さらにイタリアの場合、その産業構造を考慮に入れれば、企業向けローンは中小企業向けが圧倒的な割合を占めていると推察される。1件当たりの融資金額が小さいことや、利害関係者の数が多く調整が難航することから、不良債権の回収はスペイン以上に困難であると考えられる。事実、BOIの調査(Carpinelli et al, 2016)によれば、2011年から14年の間に銀行が行った不良債権処理26万件のうち、清算が91.9%(金額ベースでは74.0%)に上り、再建は8.1%(同26.0%)にとどまっている。
3.政治問題化する不良債権問題
・イタリアの不良債権問題は極めて深刻であり、銀行単位での処理には限界がある。アトランテなどバッドバンクの資金規模を拡充し、銀行からとりあえず不良債権を切り離す必要がある。銀行のガバナンスの改善も当然必要であるが、それは中長期的な課題と言えよう。
・バットバンクの資金を積み増すためには、イタリア政府による追加的な財政出動が必要になる。ただ健全財政路線を堅持したいEUにしてみれば、追加的な財政出動は容易には受け入れ難い。他方で政府としては、IMFからの指摘を受けたこともあり、銀行の資本体力を強化するために公的資金注入(ベイルアウト)を実施したいところである。もっとも、徒なベイルアウトはEUのBRRD(銀行再生・破たん処理指令)で定められたベイルイン(預金者や投資家、銀行自身が経営再建のために損失を負担すること)の原則に反する。仮に例外規定(32条4項)が認められてベイルアウトが可能になっても、今後の財政運営へ対するEUの干渉は強まるだろう。
・こうした中で警戒されることは、不良債権処理を巡りEUからイタリア政府への干渉が強まることで、イタリア国内における政治不安が強まってしまう危険性である。EU各国では反EU反緊縮の流れの中で民族政党が勢力を増しているが、イタリアでもそれは同様であり、極右の「五つ星運動」が台頭している。五つ星運動の支持率はレンツィ首相が率いる与党民主党の支持率に拮抗しており、また16年6月にはローマ市長選で五つ星運動の候補が勝利した。
・イタリアでは16年10月、上院の権限を縮小することの是非を問う国民投票が行われる。レンツィ首相は下院に優先権を与えることで政権が安定すると主張している。もっとも、この国民投票が首相への信認投票という性格を強めている。こうした中で、不良債権処理を巡るイタリアとEUとのやり取りは国民投票に大きな影響を与えよう。首相がEUに対して弱腰の対応を取れば、支持率はさらに低下し、国民投票で提案が否決されるかもしれない。提案が否決された場合、首相は辞職する方針を示している。そうなれば政局が一気に不安定化する。
・なおベイルインが適用された場合も、政治不安が深刻化してしまう恐れがある点にも留意しなければならない。日米独と比較すると明らかなように、イタリアの銀行は債券による資金調達の比率が高いが、これは一般の預金者が銀行債を購入しているからでもある(図表6)。したがって、ベイルインに伴い銀行債を保有している一般の預金者にも損失負担を迫られることになる。そのため、レンツィ政権やEUに対する有権者の不満が高まり、それがさらに民族政党の台頭を許すことになりかねない。
4.欧州金融不安につながるリスクも
・さらに警戒されることは、イタリアの不良債権問題が本格的な銀行不安に転じて、欧州の金融システム不安につながるリスクである。ドイツ銀行など経営不安がささやかれている銀行を中心に資金繰りが悪化し、金融不安の波がユーロ圏に広がる可能性もある。ECB(欧州中央銀行)による金融緩和の限界が意識される中で、公的資金注入など財政による金融システム安定化政策が弾力的に行われないならば、欧州の金融システムは危機的状態に陥るかもしれない。
・さらにイタリアの不良債権問題が中東欧の金融システム不安につながり、それがさらにユーロ圏の金融システムを動揺させるという経路も懸念される。イタリア首位のウニクレディットは、傘下のHVB、バンク・オーストリアを通じて中東欧向けに多額のエクスポージャーを抱えている。第二位のインテーザ・サンパオロも、ウニクレディット程ではないにせよ、中東欧向け事業を営んでいる。イタリア本国で資金繰りが悪化した場合、ウニクレディットやインテーザ・サンパオロの中東欧向け事業に悪影響が及ぶ可能性が高い。なお中東欧には、イタリア以外にもドイツやオーストリア、フランスの大手銀行も進出し、事業を営んでいる。そのため、中東欧で金融システム不安が生じれば、自ずとユーロ圏の金融システムの安定性が脅かされる構造になっている。
・こうした最悪のシナリオを回避するためには、イタリア政府が不良債権処理や公的資金注入をより弾力的に行えるよう、EUが歩み寄る必要があるだろう。ユーロ圏第三位の大国であるイタリアで銀行不安が生じている事実を勘案し、EUには原理原則にとらわれない柔軟な対応が求められる。
http://www.murc.jp/thinktank/economy/analysis/research/report_160726.pdf

ロイターの単なるニュースだけでは、問題の経緯や背景が分からないが、MURCのレポートは要領よくまとめている。『IMFの『国際金融安定性報告書』によれば、15 年末のイタリアの不良債権比率(対貸付金残高比率)は18.0%とキプロスとギリシャに次ぐ高水準である』、というのは、イタリアの金融システム全体としても確かに深刻な事態だ。しかも、『完全民営化までの株式の時限的な受け皿として機能させようとした』「財団」が、『複数の銀行の有力株主として今でも機能している』、『債権の回収可能性よりも融資先との地縁や血縁を優先する銀行の経営体質といったガバナンス構造の弱さ』、は否定すべくもない。しかも、『製造業の不良債権比率の高さが物語るように、不良債権問題が産業全体に拡散している』のでは、処理は簡単ではない。
ベイルインについては、『イタリアの銀行債は機関投資家だけでなく、多くの個人投資家が保有している。昨年末にイタリアの地銀の破綻処理を行った際には、新たな破綻処理ルールの開始に先駆けてベイルイン原則を適用したところ、巨額の損失を被った年金生活者が自ら命を絶つ悲劇を招いた』(第一生命経済研究所、EU Trends 7月6日)、といった事情を踏まえれば、原則を棚上げにして、やはり公的資金注入(ベイルアウト)せざるを得ないだろう。まして、『16年10月、上院の権限を縮小することの是非を問う国民投票が行われる・・・この国民投票が首相への信認投票という性格を強めている。こうした中で、不良債権処理を巡るイタリアとEUとのやり取りは国民投票に大きな影響を与えよう。首相がEUに対して弱腰の対応を取れば、支持率はさらに低下し、国民投票で提案が否決されるかもしれない。提案が否決された場合、首相は辞職する方針を示している。そうなれば政局が一気に不安定化する』、というのはまるで英国のEU離脱の国民投票のデジャブというのは、言い過ぎだろうか。唯一の幸いの綱は、元イタリア中央銀行総裁で、現在は欧州中央銀行(今日は、イタリア金融危機(英国のEU離脱の国民投票のデジャブ?) を取上げよう。

先ずは、7月30日付けロイター「欧州銀ストレステストでモンテ・パスキ最悪、直前に再建案発表」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・欧州銀行監督機構(EBA)は29日、銀行51行を対象とした健全性審査(ストレステスト)の結果を公表した。審査では経済へのショックが3年間続いた場合の各行の中核的自己資本(コアティア1)比率を試算。結果はイタリアの大手銀行モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ)がマイナス2.44%で最下位だったほか、アイルランド、スペイン、オーストリアの銀行も下位に並んだ。
・EBAのエンリア会長は声明で「これまでに相当程度、資本を積み増す動きがみられたが、健全だと宣言できるまでには至っていない」と指摘。「取り組む課題は依然として残っている」との認識を示した。 今回の審査では、合格、不合格の判定は行わなかったが、アナリストは昨年の基準(5.5%)を目安と見ている。モンテ・パスキのほか、アライド・アイリッシュ銀行がこの目安に届かなかった。
・7%を維持できる銀行数も注目されていた。スペインのバンコ・ポピュラール、アイルランド銀行、オーストリアのライファイゼン・バンク・インターナショナル(RBI)は6.62%、6.15%、6.12%といずれも7%を下回った。 また下位12行には伊ウニクレディト、ドイツ銀、独コメルツ銀、英バークレイズなども含まれている。
▽モンテ・パスキ、再建計画発表
・モンテ・パスキはストレステストの結果発表直前に、資本増強や不良債権売却を柱とする再建計画を発表した。再建計画の下、モンテ・パスキは総額50億ユーロの増資を実施するほか、92億ユーロ(103億ドル)の不良債権を売却する。 ウニクレディトは、当局とも協力しながらさらなる対応が必要かどうか見極めたいとしている。アライド・アイリッシュ銀行は根本的な再建策をすでに打ち出しており、現在は持続的な黒字の状態と説明した。
・PwCのアンソニー・クルイジンガ氏は「個別行の成績を見ると確かに悪い内容だが、全体としては、欧州の銀行は危機再発に対して耐性を持っていることが示され、一定の安心材料になった」と指摘した。 KPMGのスティーブン・ホール氏は「欧州の銀行の損失吸収能力が以前よりは高まったことが示されたが、収益性や投資家の銀行株への投資意欲をめぐっては、明らかに懸念が残る」との見方を示した。
http://jp.reuters.com/article/europ-stresstest-idJPKCN1092OE

次に、イタリアの不良債権問題をより幅広い角度から分析したものとして、三菱UFJリサーチ・アンド・コンサルティング(MURC)の7月26日付けレポート「ギリシャ危機に隠れていたイタリアの不良債権問題~欧州金融不安を回避するために求められる柔軟な対応~」の詳細版の2頁目以降を紹介しよう。
1.14 年秋頃から燻ぶり始めたイタリアの不良債権問題
・足元でイタリアの不良債権問題に注目が集まっている。そもそもこの問題は、14 年10 月にEU(欧州連合)が公表した銀行のストレステスト(健全性検査)の結果の中で、第三位のモンテ・パスキと中堅のバンカ・カリジェの資本不足が指摘された頃から燻ぶり始めていた。その後、ギリシャの経済危機やユーロ圏離脱騒動などを受けてこの問題に対する投資家の関心は薄らいだものの、事態は着実に悪化していた。
・BOI(イタリア中央銀行)によれば、16 年3 月時点においてイタリアの銀行とCDP(預託貸付公庫)が抱える不良債権の金額は3,331.6 億ユーロに上り、貸付金残高に占める不良債権比率は実に16.4%に達している。さらに不良債権の構成を見ると、その大半(58.8%)が破綻先であり、回収が見込めない債権である。
・国際比較の観点から見ても、イタリアの不良債権問題は深刻である。IMF(国際通貨基金)の『国際金融安定性報告書』によれば、15 年末のイタリアの不良債権比率(対貸付金残高比率)は18.0%とキプロスとギリシャに次ぐ高水準である(図表1)。経済規模が同程度で同様に不良債権問題が深刻化していたスペインでさえ、最悪期(13 年末)の不良債権比率は9.4%である。このことからも、イタリアの問題の深刻さがうかがえる。
・こうした問題の悪化を受けて、16 年4 月、不良債権の政策的処理を進めるための基金である「アトランテ」が、官民の共同出資によって設立された。もっとも、その資金規模(42.5 億ユーロ)では事態の改善には不十分ではないかと、投資家は不信感を徐々に高めていった。こうした中で、英国の国民投票を受けてリスク回避志向を強めた投資家が、次の火種になり得る要因として、イタリアの不良債権問題に再びフォーカスを当てたのである。
2.問題をエスカレートさせたガバナンスの弱さ
・不良債権問題がエスカレートした背景には、第一にイタリア景気の悪化がある。イタリアの実質経済成長率は12年から3年間マイナスが続いた。こうした景気悪化を受けて融資先の資金繰りが悪化したことが、多額の不良債権が生じる直接的な要因になった。
・もっとも景気の悪化だけでは、イタリアの不良債権問題が深刻化した理由を説明することはできない。より構造的な問題として、特有の所有形態に基づく銀行のガバナンスの弱さという論点がある。不良債権問題の象徴的存在であるモンテ・パスキなど大手行の多くは、90年代初めに民営化が進められた旧国営銀行にその源流がある。この民営化に際して、当時のイタリア政府は「財団(Fondazioni)」と呼ばれる非営利団体の設立し、それを完全民営化までの株式の時限的な受け皿として機能させようとした。その後の法改正(94 年銀行法、98 年シアンピ法)で財団の機能縮小が図られたりしたものの、実態としては特定の有力財団が複数の銀行の有力株主として今でも機能している(図表2)。
・こうした財団は、銀行による出資要請に応じる等して銀行財務の安定化に貢献した。反面で、銀行の取締役会や監査役会に多くの役員を送り込み、銀行経営に強い影響を与えてきた。Jassaud(2014)によると、イタリア最大の金融機関であるウニクレディットの場合、13年5月時点において、財団形式を採る投資家が保有する同行の株式は9%に過ぎなかった。にもかかわらず、財団形式を採る投資家からは取締役会の役員の84%が選出されていた(図表3)。なお財団は、単一の銀行のみならず複数の銀行に対して出資をするとともに、出資先の銀行間でも株を持ち合うなどして複雑な所有関係も構築していた。そしてこうした財団は、地方の政治勢力とも近く、ゆえに縁故に基づく融資も横行していたとされる。債権の回収可能性よりも融資先との地縁や血縁を優先する銀行の経営体質をもたらしたガバナンスの弱さが、不良債権問題をエスカレートさせたと考えられる。
・加えて、イタリアの不良債権問題の難しさは、こうしたガバナンスの弱さを反映するように、企業向けローンで事態が深刻化しているということにある(図表4)。問題が最も深刻なモンテ・パスキの『年次報告書』によると、15年時点における企業向けローンの不良債権比率は実に31.0%にも上っている。図表5は、産業部門ごとの不良債権比率を足元のイタリア(16年3月)と最悪期のスペイン(13年12月)とで比較したものである。スペインと比較した場合、イタリアでは製造業や建設業の不良債権比率が高いという特徴がある。
・スペインの不良債権問題は、基本的には住宅・建設バブルの崩壊に伴うものであった。そのため、市況が回復すれば不良債権が処理しやすい構造であった。また住宅ローンや建設ローンの担い手が貯蓄銀行(カハ)に限定されており、一般の商業銀行は財務体質の悪化は軽かった。他方でイタリアでは、製造業の不良債権比率の高さが物語るように、不良債権問題が産業全体に拡散している。
・さらにイタリアの場合、その産業構造を考慮に入れれば、企業向けローンは中小企業向けが圧倒的な割合を占めていると推察される。1件当たりの融資金額が小さいことや、利害関係者の数が多く調整が難航することから、不良債権の回収はスペイン以上に困難であると考えられる。事実、BOIの調査(Carpinelli et al, 2016)によれば、2011年から14年の間に銀行が行った不良債権処理26万件のうち、清算が91.9%(金額ベースでは74.0%)に上り、再建は8.1%(同26.0%)にとどまっている。
3.政治問題化する不良債権問題
・イタリアの不良債権問題は極めて深刻であり、銀行単位での処理には限界がある。アトランテなどバッドバンクの資金規模を拡充し、銀行からとりあえず不良債権を切り離す必要がある。銀行のガバナンスの改善も当然必要であるが、それは中長期的な課題と言えよう。
・バットバンクの資金を積み増すためには、イタリア政府による追加的な財政出動が必要になる。ただ健全財政路線を堅持したいEUにしてみれば、追加的な財政出動は容易には受け入れ難い。他方で政府としては、IMFからの指摘を受けたこともあり、銀行の資本体力を強化するために公的資金注入(ベイルアウト)を実施したいところである。もっとも、徒なベイルアウトはEUのBRRD(銀行再生・破たん処理指令)で定められたベイルイン(預金者や投資家、銀行自身が経営再建のために損失を負担すること)の原則に反する。仮に例外規定(32条4項)が認められてベイルアウトが可能になっても、今後の財政運営へ対するEUの干渉は強まるだろう。
・こうした中で警戒されることは、不良債権処理を巡りEUからイタリア政府への干渉が強まることで、イタリア国内における政治不安が強まってしまう危険性である。EU各国では反EU反緊縮の流れの中で民族政党が勢力を増しているが、イタリアでもそれは同様であり、極右の「五つ星運動」が台頭している。五つ星運動の支持率はレンツィ首相が率いる与党民主党の支持率に拮抗しており、また16年6月にはローマ市長選で五つ星運動の候補が勝利した。
・イタリアでは16年10月、上院の権限を縮小することの是非を問う国民投票が行われる。レンツィ首相は下院に優先権を与えることで政権が安定すると主張している。もっとも、この国民投票が首相への信認投票という性格を強めている。こうした中で、不良債権処理を巡るイタリアとEUとのやり取りは国民投票に大きな影響を与えよう。首相がEUに対して弱腰の対応を取れば、支持率はさらに低下し、国民投票で提案が否決されるかもしれない。提案が否決された場合、首相は辞職する方針を示している。そうなれば政局が一気に不安定化する。
・なおベイルインが適用された場合も、政治不安が深刻化してしまう恐れがある点にも留意しなければならない。日米独と比較すると明らかなように、イタリアの銀行は債券による資金調達の比率が高いが、これは一般の預金者が銀行債を購入しているからでもある(図表6)。したがって、ベイルインに伴い銀行債を保有している一般の預金者にも損失負担を迫られることになる。そのため、レンツィ政権やEUに対する有権者の不満が高まり、それがさらに民族政党の台頭を許すことになりかねない。
4.欧州金融不安につながるリスクも
・さらに警戒されることは、イタリアの不良債権問題が本格的な銀行不安に転じて、欧州の金融システム不安につながるリスクである。ドイツ銀行など経営不安がささやかれている銀行を中心に資金繰りが悪化し、金融不安の波がユーロ圏に広がる可能性もある。ECB(欧州中央銀行)による金融緩和の限界が意識される中で、公的資金注入など財政による金融システム安定化政策が弾力的に行われないならば、欧州の金融システムは危機的状態に陥るかもしれない。
・さらにイタリアの不良債権問題が中東欧の金融システム不安につながり、それがさらにユーロ圏の金融システムを動揺させるという経路も懸念される。イタリア首位のウニクレディットは、傘下のHVB、バンク・オーストリアを通じて中東欧向けに多額のエクスポージャーを抱えている。第二位のインテーザ・サンパオロも、ウニクレディット程ではないにせよ、中東欧向け事業を営んでいる。イタリア本国で資金繰りが悪化した場合、ウニクレディットやインテーザ・サンパオロの中東欧向け事業に悪影響が及ぶ可能性が高い。なお中東欧には、イタリア以外にもドイツやオーストリア、フランスの大手銀行も進出し、事業を営んでいる。そのため、中東欧で金融システム不安が生じれば、自ずとユーロ圏の金融システムの安定性が脅かされる構造になっている。
・こうした最悪のシナリオを回避するためには、イタリア政府が不良債権処理や公的資金注入をより弾力的に行えるよう、EUが歩み寄る必要があるだろう。ユーロ圏第三位の大国であるイタリアで銀行不安が生じている事実を勘案し、EUには原理原則にとらわれない柔軟な対応が求められる。
http://www.murc.jp/thinktank/economy/analysis/research/report_160726.pdf

ロイターの単なるニュースだけでは、問題の経緯や背景が分からないが、MURCのレポートは要領よくまとめている。『IMFの『国際金融安定性報告書』によれば、15 年末のイタリアの不良債権比率(対貸付金残高比率)は18.0%とキプロスとギリシャに次ぐ高水準である』、というのは、イタリアの金融システム全体としても確かに深刻な事態だ。しかも、『完全民営化までの株式の時限的な受け皿として機能させようとした』「財団」が、『複数の銀行の有力株主として今でも機能している』、『債権の回収可能性よりも融資先との地縁や血縁を優先する銀行の経営体質といったガバナンス構造の弱さ』、は否定すべくもない。しかも、『製造業の不良債権比率の高さが物語るように、不良債権問題が産業全体に拡散している』のでは、処理は簡単ではない。
ベイルインについては、『イタリアの銀行債は機関投資家だけでなく、多くの個人投資家が保有している。昨年末にイタリアの地銀の破綻処理を行った際には、新たな破綻処理ルールの開始に先駆けてベイルイン原則を適用したところ、巨額の損失を被った年金生活者が自ら命を絶つ悲劇を招いた』(第一生命経済研究所、EU Trends 7月6日)、といった事情を踏まえれば、原則を棚上げにして、やはり公的資金注入(ベイルアウト)せざるを得ないだろう。まして、『16年10月、上院の権限を縮小することの是非を問う国民投票が行われる・・・この国民投票が首相への信認投票という性格を強めている。こうした中で、不良債権処理を巡るイタリアとEUとのやり取りは国民投票に大きな影響を与えよう。首相がEUに対して弱腰の対応を取れば、支持率はさらに低下し、国民投票で提案が否決されるかもしれない。提案が否決された場合、首相は辞職する方針を示している。そうなれば政局が一気に不安定化する』、というのはまるで英国のEU離脱の国民投票のデジャブというのは、言い過ぎだろうか。唯一の幸いの綱は、元イタリア中央銀行総裁で、現在は欧州中央銀行(ECB)総裁となっているマリオ・ドラギ氏の存在だ。レンツィ首相と密かに連絡を取りながら、有効な策を練っていることに期待したい。
タグ:ロイター 最下位 ストレステスト アトランテ イタリア金融危機 (英国のEU離脱の国民投票のデジャブ?) 欧州銀ストレステストでモンテ・パスキ最悪、直前に再建案発表 欧州銀行監督機構(EBA) モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ(モンテ・パスキ) 再建計画発表 総額50億ユーロの増資 92億ユーロ(103億ドル)の不良債権を売却 三菱UFJリサーチ・アンド・コンサルティング(MURC ギリシャ危機に隠れていたイタリアの不良債権問題~欧州金融不安を回避するために求められる柔軟な対応~ 14 年10 月 IMF(国際通貨基金) 『国際金融安定性報告書』 イタリアの不良債権比率(対貸付金残高比率)は18.0%とキプロスとギリシャに次ぐ高水準である 不良債権の政策的処理を進めるための基金 官民の共同出資 ガバナンスの弱さ 90年代初めに民営化が進められた旧国営銀行にその源流 「財団(Fondazioni)」と呼ばれる非営利団体の設立し、それを完全民営化までの株式の時限的な受け皿として機能させようとした 特定の有力財団が複数の銀行の有力株主として今でも機能している ウニクレディット 財団形式を採る投資家が保有する同行の株式は9% 取締役会の役員の84%が選出 財団は、地方の政治勢力とも近く、ゆえに縁故に基づく融資も横行 債権の回収可能性よりも融資先との地縁や血縁を優先する銀行の経営体質をもたらしたガバナンスの弱さが、不良債権問題をエスカレートさせたと考えられる スペインと比較した場合、イタリアでは製造業や建設業の不良債権比率が高いという特徴 銀行の資本体力を強化するために公的資金注入(ベイルアウト)を実施したいところである EUのBRRD(銀行再生・破たん処理指令)で定められたベイルイン(預金者や投資家、銀行自身が経営再建のために損失を負担すること)の原則に反する 後の財政運営へ対するEUの干渉は強まるだろう 極右の「五つ星運動」が台頭 16年10月、上院の権限を縮小することの是非を問う国民投票 この国民投票が首相への信認投票という性格を強めている 案が否決された場合、首相は辞職する方針を示している。そうなれば政局が一気に不安定化する イタリアの不良債権問題が本格的な銀行不安に転じて、欧州の金融システム不安につながるリスク イタリア政府が不良債権処理や公的資金注入をより弾力的に行えるよう、EUが歩み寄る必要 ECB)総裁
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