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アメリカ大統領選挙(その6) [世界情勢]

アメリカ大統領選挙については、7月13日に取上げた。2か月以上経った今日は、(その6) である。

先ずは、米政治ニュース「Calbuzz」編集人のフィリップ・トラウンスタイン氏が9月17日付け東洋経済オンラインに寄稿した「ヒラリー「健康問題」が選挙に影響しない理由 大統領選では透明性より大事なことがある」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・米国の歴史において、大統領や大統領候補の健康に関心が集まったことはかつてない。たとえば、フランクリン・ルーズベルトはポリオによって足が不自由になり、第二次世界大戦では車椅子に乗って戦っていたのだが、当時、それを知っていたのはごく一部の政治関係者たちだけだった。ちなみに、ルーズベルトは1944年に行われた第4期選挙の90日後に死亡した。
・1963年にジョン・F・ケネディ(実は副腎機能不全を患っていた)は1963年に暗殺された後、有権者やメディアにとって現職大統領の健康は大きな関心事となったが、それでも大統領候補者の健康問題が、有権者の判断材料になった例はいまだかつてない。ジョージ・ブッシュが1992年に、当時の総理大臣、宮沢喜一氏の公式晩餐会で吐いた後に気絶したときでさえ、それは「不運なできごと」ととらえられ、再選へのリスクにはならなかった。
▽「健康問題」なぜここまで大きくなったのか
・ところが9月11日、民主党大統領候補のヒラリー・クリントンが米ニューヨーク市で開かれた同時多発テロ式典中に倒れたことは、予想以上に大きなニュースとなった。今となれば、式典前にクリントンが非定型肺炎と診断されたことをメディアに知らせておくのが賢明だったかもしれない。しかし、彼女は熱中症と水分不足で倒れそうにまるまで病気を「隠す」道を選んだのである。
・事態が必要以上に大きくなった責任はクリントンの選挙事務所にもある。式典に居合わせた人が倒れ掛かっているクリントンの映像を公開してから2日経つまで病名を明かさなかったからだ。そのせいもあるのかもしれない。それ以来、米メディアは著名政治アナリスト、ローレンス・オドネルの言葉を借りれば「おかしくなってしまった」。
・そもそも、クリントンの健康はさほど心配するほどのものではない。それより深刻なのはメディアが今回の一件を「透明性」の問題と扱っていることだ。つまり、クリントンが健康や、そのほかの問題についてオープンでないことが問題だとしているのだ。
・正直これほどばかげた話はないだろう。考えてみてほしい。対抗馬のドナルド・トランプがどれだけ透明性が高い候補者なのか。彼は年収などを記した確定申告の公開を拒否し続けているし(クリントンは過去30年分を提出済み)、いかにイスラム国を倒すかについても詳細な説明を避けている。もちろん、自身の医療記録を出すことも拒んでいる。
・つまり、メディアがクリントンの健康問題を取り上げるのは、「透明性」の名の下にクリントンを批判することによって、報道のバランスを保っている、と見せ付けようとしているからにほかならない。
・さて、今回の件が選挙結果に影響を与えることはあるだろうか。現時点では、その可能性は限りなく低い。クリントン支持者たちが、彼女の健康問題や透明性を理由に、トランプ氏に寝返ることはないからだ。同様に、トランプ支持者たちが、そう簡単にクリントン支持者に変わることもありえない。なぜなら、医療保険や外交、女性の権利から銃規制に至るまで候補者2人の政策があまりにも違うため、ちょっとやそっとのことで自分が支持する候補者からは離れられないからだ。
▽候補者の健康状態はそれほど重要ではない
・過去に米国の有権者が大統領を決める際、候補者が大統領の仕事をするのに身体的、あるいは健康面で適しているか、ということに基づいて投票を行った、あるいは、しようとしていた、という事実は見当たらない。それよりは候補者の精神的成熟度や経験、あるいは性分が大統領に課された仕事に適しているかどうか、のほうがずっと重視されてきた。だからこそ、多くの有権者だけでなく、著名な共和党国家安全の専門家たちまでもがトランプに対して大きな懸念を抱いているのである。
・足元の支持率を見ていると、大統領選は非常に接戦になっている。これまでの大統領選を見ても、国全体の投票においてはどちらかが大差をつけて勝つことはない。しかし、米国の大統領選は、一般投票によって選ばれる538人の「大統領選挙人」の投票で、過半数(270人)以上を獲得して初めて勝つことができる仕組みになっている。
・選挙人は、各州の人口などに応じて一定数が割り当てられており、クリントンがカリフォルニア州の55人を獲得するのはほぼ間違いない(ほとんどの州では一般投票で首位になった候補がその州の選挙人をすべて獲得できる)。一方、トランプがテキサス州の38人の選挙人を勝ち取るのも同じくらい確実だ。今のところ、選挙のデータ分析を行っている専門家によると、過去4回ないし5回の選挙で民主党候補を支持した州では、クリントンが大きなリードを保っているようだ。
・ゆえに今年の選挙は、フロリダ州やペンシルベニア州、オハイオ州、ミシガン州、ウィスコンシン州といった、大統領選のたびに勝利政党が変わる「スイング・ステート」が主戦場となることは間違いない。そして、こうした州の候補者たちが重視するのは当たり前だが、雇用や経済、国家安全や候補者の性格などであり、間違っても候補者の健康や「透明性」ではないのである。
http://toyokeizai.net/articles/-/136290

次に、在米作家の冷泉彰彦氏が9月24日付けのメールマガジンJMMに寄稿した「「トランプ当選の可能性、その深層に何があるのか?」from911/USAレポート:トランプ当選の可能性、その深層に何があるのか?」を紹介しよう。
・米大統領選は、投票日まで45日を切り、非常に重要な局面に入ってきています。 そんな中、トランプ候補とヒラリー候補の支持率はいつの間にか拮抗してきていました。それも、かなり深刻な状況になってきています。例えば、政治サイト「リアル・クリアー・ポリティクス」によれば、最新の「世論調査の全国平均」では、まず支持率の単純平均値で、 ヒラリー・クリントン・・・46.2%  ドナルド・トランプ・・・・43.2% と僅差となっています。この支持率の平均が僅差になるというのは、実はこれまでもありました。ですが、問題は、実際の選挙制度である「州ごとの選挙人数予測」です。こちらに関しては、ヒラリーの方が「いわゆるブルーステート」を完全に抑えたばかりか、中道州(スイング・ステート)は「総取り」の構えだったのです。
・ですが、ここへ来て状況が変わってきました。中道州のデータがどんどん変わっているのです。現時点では、最終的に当選するために極めて重要な中道州のうち、 フロリダ州・・・・・・トランプ45.0%対ヒラリー44.9% オハイオ州・・・・・・トランプ45.0%対ヒラリー43.2% ノースカロライナ州・・トランプ43.5%対ヒラリー41.7% ネバダ州・・・・・・・トランプ42.8%対ヒラリー40.5% アリゾナ州・・・・・・トランプ40.4%対ヒラリー38.2% ということで、僅差ではありますが、トランプがリードしてきています。その結果として、仮に現時点での情勢を踏まえて「選挙人(エレクトラル・カレッジ)」の集計を行うと、 ヒラリー・クリントン・・・272人 ドナルド・トランプ・・・・266人 とほとんど拮抗しているという集計が出ています。この数字ですが、一部の専門家の中には、非常に稀なケースとして「ネブラスカ州で、特殊ルールにより選挙人数が割れる」などの現象によって最終的な獲得選挙人数が「269対269」で同数になる可能性を指摘する声もあります。
・ちなみに、このネブラスカですが、(メイン州も同様)州の代議員が「勝者総取り」ではなく、下院議員の選挙区の動向によっては、1人もしくは2人が「州全体の判断とは別の投票」をする可能性があるのです。そうした「州の票数が分割される」ことで、通常は理論上あり得ない「両者同数」になる可能性が取り沙汰される、そのぐらいに情勢が拮抗しているのです。
・その場合ですが「大統領は下院が、副大統領は上院が選ぶ」という規定があります。 その場合は、現在の下院は共和党が優勢ですからトランプになる可能性がありますが、もしかすると、そこでは様々なドラマが生まれるかもしれません。ちなみに、この「下院の院の職権としての大統領選出」については、議員1人1票ではなく、両院の各衆議院団で1票)」ことになります。そんな可能性が取り沙汰されるぐらい、拮抗してきているというのです。
・さらに言えば、トランプ陣営は「選挙不正の可能性がある」と現時点で吠えており、仮に僅差で敗北ということになると、2000年の「ブッシュ対ゴア」の選挙の際に発生した「フロリダ再集計」のような悪夢が蘇るかもしれません。
・一体何が起きているのでしょうか? 昨日アップした、Newsweek日本版のブログでは、私なりに4点理由を挙げて整理してみました。 1点目は景気の不透明感。 2点目はテロと安全保障に関する不透明感。 3点目はヒラリーが、トランプ叩き「しか」しないという選挙戦術の弊害。 4点目はトランプの「コアのファンを裏切らない」巧妙な戦術。 というまとめ方です。テクニカルにはその説明で全てがカバーできると思います。
・ですから、この「トランプ人気浸透」という現象は、英国における「BREXIT」と同じように、「現状打開」のためには「一度何もかもぶっ壊したい」というような情念が感じられる、そのような解説が可能です。
・これに加えて、アメリカ社会の場合は一つの顕著な、そして恐ろしい現象が進行しているという見方も必要に思います。 それは、21世紀に入ったアメリカが「本当の意味での先進国型経済」になっていったという問題です。つまり日本で言うIT、そして金融、バイオ、製薬、宇宙航空といった先端産業における開発と経営により、世界を牽引するという経済です。
・この全く新しい経済には2つ特徴があります。1つは、徹底的に研究開発もしくは経営に特化した高度知的労働が中心になるということであり、2つ目としては、それ以外の大量生産機能は国際分業における最適地へ移動させるということです。
・その結果として、よく言われるのが格差の拡大です。今回の大統領選でも、トランプ陣営だけでなく、民主党左派のサンダース陣営がこの点を強く訴えていました。ヒラリー候補も、そのサンダース支持派との政策調整を経て、公立大学の一部無料化や大型の公共投資など格差是正や再分配を含む「大きな政府」政策を掲げています。
・では、格差社会の進行に伴って、格差是正や再分配に積極的なヒラリー陣営はどうして苦戦するのでしょうか? また伝統的な「小さな政府論」を捨てたといっても、格差是正には熱心でないトランプ候補がどうして支持されるのでしょう? もっと言えば、格差に関して言えば「トップ1%」に属するのは間違いない大富豪一族であるトランプ・ファミリーがどうして憎悪の対象にならないのでしょうか?
・それは、アメリカの有権者の深層心理の中に一つの認識が生まれているからだと思います。それは「この国では知的労働しか評価されないし尊敬されない」という絶望と怒りの感情です。これは世界に一般的な現象かもしれませんが、特にアメリカでは今回「トランプ現象」として暴走しているわけですが、そこには2つの要因があると思います。
・1つは、アメリカにおける「知性」という問題です。日本と比較対照をしてみると分かりやすいのですが、日本の場合は「真に知的な人は一種の世捨て人」として「経済的には必ずしも報われない」という形で、知性と経済的成功、あるいは知性と社会的地位は奇妙な格好で分離されています。 大きな企業グループを指導する経営者が演歌好きであったり、大富豪が余り知的でない金ピカな豪邸を建てたりするカルチャーは、以前ほどではないですが日本には残っています。反対に、知の巨人だとか、一流の学者と呼ばれる人は社会的には地味な存在であって、それで自他共に納得したりしているわけです。
・ところが、アメリカの場合の「知性」というのはかなり違います。例えば、シリコンバレーの指導的な人々は、一流の知性の持ち主ですが、同時に経済的にも巨大な成功を収めています。その結果として「成金趣味」に走ることもなく、洗練されたライフスタイルと慈善事業などを手がけたりするわけです。 一方で、例えば「ナスカーの自動車レース」が好きだったり、プロレスやカントリー音楽が好きで、スポーツバーで騒ぐとか、中西部だと狩猟の解禁日にはワクワクして「鹿撃ち」に出かけるようなグループがあるわけです。従来は、そうしたグループも製造業や、サービス業などで安定した収入を得、社会的にもプライドを保つことができたわけですが、現在は違います。
・そうした社会の変化の結果、「多様な人々が対等な存在として共存する」というアメリカ社会に一種の「カルチャー的な階層」が濃厚になってきたということがあります。この現象は、勿論90年代から出てきたわけで、それが2000年代には「ブッシュ時代の草の根保守」という形で、軍事タカ派的なカルチャー、あるいは宗教保守派的なカルチャーとして析出していたわけですが、2010年代に入って「これは知性の階層化である」という本質が「バレてしまった」ということがあると思います。
・2つ目の問題は、これに「政治的正しさ」や「人種」の議論が重なるということです。例えば、アップルのクックCEOが自身でもゲイであることをカミングアウトして、LGBTの人権問題に熱心に取り組んでいるように、そして他でもないオバマ大統領の存在が人種のヒエラルキーに楔を打ち込んだように、現在の「知的階級=富裕層」というのは、多様性の共存という「勝手なカルチャー」を錦の御旗として掲げている、そう見られているわけです。
・その結果として、「高卒以下の白人ブルーカラー層」というのは、時代のトレンドから取り残され、完全に「見下され、バカにされている」という被害感を持つに至っています。例えば、トランプ陣営には「ブロンドの白人女性」がたくさん参加していますが、これはトランプ支持の男性(本人を含む)が「そうした女性が好き」であるというよりも、「ビヨンセ・ノウルズや、ミシェル・オバマが最も格好いい女性だ」という時代にあって、「ブロンドの白人女性」というのが「理不尽なまでにバカにされてきた」ということへの怨念と言いますか、裏返しの表現としてあるように思います。
・つまり、白人が優越感を持っているので差別に加虐的な快美感を持っているのではなく、白人であること、無学であることが「理不尽なまでに徹底して差別される時代」であり、同時に経済的成功からも見放されたグループとして鬱屈している、そこが今回のトランプ現象の核にあるものだということです。
・そうした怨念が核にあるということが、「政治的正しさ」への反発も伴っていることの理由です。トランプやその陣営は、選挙戦を通じて「暴言」を吐いては炎上を繰り返しています。ですが、そこには明確な理由があるのです。 例えば、今週はトランプの長男、ドン・トランプ・ジュニアが「移民というのは毒入りのキャンデーのようなもの」だとして「山盛りになっている中には2つか3つ毒入りの粒が入っている」という暴言ツイートをして物議を醸しました。  これこそ正に典型的な例ですが、それは「本当に移民が毒だと言いたい」のではないと思います。そうではなくて「もしかしたら弊害があるかもしれない移民や難民の受け入れ」を「善なる行為」だとして推進する「オバマ的、ヒラリー的な知的富裕層」のカルチャーが、自分たちの名誉を蹂躙し、自分たちをバカにし尽くすために「政治的正しさ」を掲げている、そのことに何としても反抗したい、そこに情念の核があり、具体的な言動はあくまでその「名誉の争奪戦」における比喩に過ぎないと考えるのが正当と思います。
・そうなると、そこには「非知性の名誉」という問題が横たわっていることが分かります。トランプの暴言は、暴言による中傷や迫害によって対象を傷つけ、発言者が加虐的な喜びを得るためのものではなく、「政治的正しさ」を掲げ「知性と名誉と富」を独占してきたオバマ的なるもの、ヒラリー的なるものへの激しい抵抗の表現と理解すべきなのだと思います。
・勿論、アメリカの分厚い中道層には、そうした感情論や怨念とは無縁の常識ある層は巨大なものとして存在します。ですが、経済の停滞感が、この中道層においても、ジワジワと「ヒラリー路線では自分は成功から疎外される」という被害感を感じる部分が増えているのだと思います。
・この問題ですが、ヒラリーは分かっていないと思います。アメリカの富裕層、知的階層においてはそんなにちゃんと理解はされていないのです。それは、彼等の中に骨の髄まで「人間は皆平等」だという感覚が浸透しており、自分たちが知らず知らずのうちに「非知性の名誉」を否定してきたことへの反省はないからです。
・勿論、この点に関していえば「反省しない」ことで「堂々と批判をする」という姿勢が「庶民の名誉に対等に向かい合う」ことであった、少なくとも90年代までのアメリカではそうでした。ですが、現代はかなり違うように思います。やはり、ヒラリーは難しいところに立っているのです。
・例えばですが、9月9日にヒラリーが「トランプ支持者の半分」は "basket of deplorables" だという発言をしたのは、その時点では「ネタ」として話題になっただけでしたが、その後、ジワジワと効いている、それもヒラリーに不利になるような形で浸透しているようにも思われます。この表現ですが、イディオムとして確立した表現ではなく、ある種ヒラリーのアドリブのようで、意味としては「残念な人々の集まり」という感じでしょうか。  もっとザックバランに意訳するのであれば「ジャガイモを入れておくような貧相なカゴ一杯に盛られた、嘆かわしいダメな連中」というような感じです。日本なら「大炎上」というところですが、アメリカでは実にアッケラカンとしていて、トランプ陣営では早速「ヒラリーは、あなたを残念な人と言っている」キャンペーンのCFを思い切り流しました。バトルステートのペンシルベニアなどでは、相当の頻度で「投下」されていました。
・そんなわけで、この「トランプ支持者の半分は "basket of deplorables" だ」という発言は、正に、「非知性の名誉」に対して挑戦してしまったわけで、図らずも現在進行形でアメリカに起きている問題の「虎の尾を踏んだ」格好になっています。私はだからといって「白人の非知性的なグループ」に対して、ヒラリーが低姿勢になればいいというようには思いません。この名誉の問題というのは、そう簡単な話ではないからです。
・ここで、突然具体的な話になりますが、そうではなくて、とにもかくにも「景気と雇用の先行きに安心感を与える」というのが、最も重要だと思います。ヒラリーの夫のビルは、1992年の選挙において "It's economy. Stupid!" (「経済が全てだよ、バーカ」)というスローガンで、全米に旋風を巻き起こしました。実はそんなに政策の中身はなかったのですが、この構造は今でも変わらないと思います。
・そうなのです。経済が全てというのは基本であり、たぶん、そこで説得力を出せるかどうかが、勝敗を決するように思います。今週、連銀は9月の利上げを見送りましたが、同時に年内の利上げは否定しませんでした。その何とも不透明な景況感の中、具体的な信頼感を打ち出せないと、ヒラリーの選挙戦は混迷を深める危険性があります。 以上のような観点を持ちながら、来週月曜日(26日)の第一回TV討論を待ちたいと思います。

第三に、9月28日付けJBPressがFinancial Times記事を転載した「「トランプ大統領」という国際秩序への脅威 激しやすく、衝動的な最高司令官が招き得る大惨事」を紹介しよう。
・米国大統領候補のドナルド・トランプ氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛していることは、意外でも何でもない。両者とも権威主義的な傾向があり、多国間の約束を軽視し、生々しい力の政治を志向するところも共通している。特に重要なのは、政治の理念よりも損得を重視する点だ。取引は国際的なルールや共通の価値観に縛られず、狭い意味での国益によって形作られる。
・プーチン氏は、旧ソビエト連邦の崩壊という屈辱を晴らしたいと思っている。片やトランプ氏は「米国を再び偉大に国にする」と公約している。プーチン氏とバラク・オバマ米大統領との個人的な関係が良好でないのは、超大国の均衡という幻想に酔いしれることをオバマ氏が厳しい言葉で拒んでいるからだ。恐らく、トランプ氏の方がロシアの心理をよく理解しているのだろう。プーチン氏を決断力のある強い指導者として褒めたたえることを決してやめない。
・クレムリンに取り入るのは、共和党の大統領候補だけではない。欧州諸国のポピュリストたち――マリーヌ・ルペン氏率いるフランスの国民戦線(FN)、ファシスト政党のヨッビク(ハンガリー)と黄金の夜明け(ギリシャ)――もモスクワに敬意を表している。プーチン氏のシンパは左派にもいる。英国労働党のジェレミー・コービン党首は、ロシアの失地回復政策をとがめるよりも米国の「帝国主義」を糾弾する方がしっくりくる。
・最近まで、外交政策分野のエスタブリッシュメントたちは、ヒラリー・クリントン大統領の誕生に対応する準備をひそかに進めていた。トランプ氏が候補者になったことは悪夢であり、投票日翌日の11月9日には間違いなく醒めると考えていた。しかし、ムードは変わった。世論調査における両候補の差が縮小したことから、共和党も民主党も、トランプ氏が米軍の最高司令官になったらどうなるかを想像し始めたのだ。
・米軍の将軍たちがたたく軽口――核攻撃の許可を出す道具、いわゆる「核のフットボール」については、トランプ氏に手渡す前に回路の基板を外しておこう、というもの――は、以前ほどには笑えなくなった。
・今では、「シャイ」なトランプ支持者が世論調査に応じていないかもしれないとか、クリントン氏に反感を抱く中道派が棄権するかもしれないとか、労働者階級の白人がエリートを罰すると決断し、高い教育を受けた白人、ヒスパニック系、アフリカ系の3グループが手を結ぶオバマ氏の必勝パターンを打ち砕くかもしれない、といった不安が語られている。またトランプ氏の虚言癖、女性嫌い、そして人種差別についての説得力のある証拠を目の当たりにして、「彼は本気でそんなことを言っているわけではない」と答える人があまりに多い。
・世界のほかの国々がそろって認識しているのは、世界のほぼどこにおいても重要な国は米国だけだという事実だ。もはや1990年代の「超大国」ではなくなっているとはいえ、激しやすく衝動的に行動する米大統領が大変な災難を起こす可能性があることを考えるとぞっとする。
・そのため、この国のチェック・アンド・バランスのシステムがトランプ氏を押しとどめてくれるだろうと考えて自分を納得させようとする人が、首都ワシントンには大勢いる。ただ、筆者が先日いろいろな人と交わした会話から判断するに、この取り組みは成功していない。
・気分屋のトランプ大統領は危機の最中に怒り出すのではないか、という不安があることは明白だ。ロバート・ゲーツ元国防長官(共和党)は、トランプ氏は「最高司令官には不向きだ」と簡潔に語っている。実際、先日ニューヨークで起きた爆弾事件への反応はそのパターンに合致していた。米国は「連中をこてんぱんにやっつけなければ」ならない、そして「向こうでは大々的にやらねば」ならないと語ったのだ。ちなみに、「連中」とは誰のことかは曖昧なままで、「向こう」は中東を意味している。
・また、これ以上に大きな危険がトランプ氏の撤退公約には潜んでいる。すなわち、さまざまな貿易協定を破棄し、中国に対して貿易障壁を作り、気候変動問題に対処するための「パリ協定」やイランとの核合意も認めず、東アジアと欧州の安全を保障する責任も放棄するといった公約だ。 同氏の政策は矛盾だらけだが、好戦的な孤立主義は一貫している。米国は誰とも組まない、というわけだ。これを「超リアリズム」だと呼ぶ向きもあるが、「危険だ」と表現する方が適切だろう。
・現代の世界の秩序――1945年に成立して冷戦終結後に拡大された、自由でルールに基づくシステム――は、前例のない緊張にさらされている。グローバル化は後退している。英ディッチリー財団米国支部がニューヨークで開催した会議で、米国のある高名な老政治家は、世界がこれほど多くの動乱や危機に一度に見舞われた時代を自分は知らないと述べていた。 このリストには、聞き覚えのある項目が並ぶ。プーチン氏は欧州の国境線を書き換えようとしており、中東は炎に包まれている。欧州諸国の連帯にはひびが入り、ジハード(聖戦)という名のテロが拡大し、専制主義が社会的多元主義に挑戦している。中国は南シナ海の現状に異議を唱えており、それを受けて近隣諸国が軍備を再び強化しつつある。先進国ではポピュリストが民主主義の砦を攻撃している。
・こうした状況に対するトランプ氏の答えは、米国の撤退だ。同氏は壁を作りたいと思っている。太平洋に広げた安全保障の傘にも疑問を呈している――ということは、日本と韓国は自前の核兵器を持つべきなのだろうか。またトランプ氏は、北大西洋条約機構(NATO)による欧州防衛の信頼性も低下させている――ということは、バルト3国にロシアの軍隊が入ってきても、米国は黙って見ているだけなのだろうか。
・こうした答えにはいずれも、米国の安全は同盟と国際秩序によって守られているという意識が完全に欠落している。
・世論調査の結果を信じるなら、トランプ氏は大統領選挙戦でクリントン氏の勢いをもぎ取ったことになる。だからといって、11月8日の投票日にトランプ氏が勝つとは限らない。大統領選挙人団の構成を見ると、トランプ氏をホワイトハウスに導く道は非常に細い。また、今後はテレビ討論会も3回行われる。
・だが、考えられないことが、すでに起こり得ることになった。我々はこの上なく心配すべきだ。トランプ式の孤立主義に傾くことを認めるゆとりは、米国にも世界にもないのだから。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47977

第一の記事にある『メディアがクリントンの健康問題を取り上げるのは、「透明性」の名の下にクリントンを批判することによって、報道のバランスを保っている、と見せ付けようとしているからにほかならない』、との指摘はなるほどと思わされた。
冷泉氏が指摘するように、選挙人による投票結果が「両者同数」になった場合には、『「大統領は下院が、副大統領は上院が選ぶ」という規定があります』、のは確かだが、上下両院の共和党議員のなかには、トランプ嫌いもいるとすれば、必ずしもトランプが選ばれるとは言えない可能性もあるのではなかろうか。『「トランプ人気浸透」という現象は、英国における「BREXIT」と同じように、「現状打開」のためには「一度何もかもぶっ壊したい」というような情念が感じられる、そのような解説が可能です』、さらに『アメリカの有権者の深層心理の中に一つの認識が生まれているからだと思います。それは「この国では知的労働しか評価されないし尊敬されない」という絶望と怒りの感情です』、『白人が優越感を持っているので差別に加虐的な快美感を持っているのではなく、白人であること、無学であることが「理不尽なまでに徹底して差別される時代」であり、同時に経済的成功からも見放されたグループとして鬱屈している、そこが今回のトランプ現象の核にあるものだということです』、『アメリカの富裕層、知的階層においてはそんなにちゃんと理解はされていないのです。それは、彼等の中に骨の髄まで「人間は皆平等」だという感覚が浸透しており、自分たちが知らず知らずのうちに「非知性の名誉」を否定してきたことへの反省はないからです』 などの鋭い指摘は説得力がある。
第三の記事にある『クレムリンに取り入るのは、共和党の大統領候補だけではない。欧州諸国のポピュリストたち・・・もモスクワに敬意を表している。プーチン氏のシンパは左派にもいる。英国労働党のジェレミー・コービン党首は、ロシアの失地回復政策をとがめるよりも米国の「帝国主義」を糾弾する方がしっくりくる』、との指摘には驚いた。プーチンの強気の1つの要因なのだろう。『(トランプ氏の)答えにはいずれも、米国の安全は同盟と国際秩序によって守られているという意識が完全に欠落している』、『トランプ式の孤立主義に傾くことを認めるゆとりは、米国にも世界にもない』、との指摘はその通りだ。
なお、初回のTV討論の結果は、9月29日付けロイターによれば、「クリントン氏に軍配、約6割が大統領選討論会で勝利と回答」と、ひとまず安心できる内容だった模様である。
明日の金曜日は更新を休むので、土曜日にご期待を!
タグ:東洋経済オンライン アメリカ大統領選挙 冷泉彰彦 JBPRESS 核のフットボール (その6) フィリップ・トラウンスタイン ヒラリー「健康問題」が選挙に影響しない理由 大統領選では透明性より大事なことがある 米国の歴史において、大統領や大統領候補の健康に関心が集まったことはかつてない クリントンの健康はさほど心配するほどのものではない 深刻なのはメディアが今回の一件を「透明性」の問題と扱っていることだ メディアがクリントンの健康問題を取り上げるのは、「透明性」の名の下にクリントンを批判することによって、報道のバランスを保っている、と見せ付けようとしているからにほかならない 今回の件が選挙結果に影響を与えることはあるだろうか。現時点では、その可能性は限りなく低い 大統領選は非常に接戦になっている JMM 「「トランプ当選の可能性、その深層に何があるのか?」from911/USAレポート:トランプ当選の可能性、その深層に何があるのか?」 トランプ候補とヒラリー候補の支持率はいつの間にか拮抗 中道州のデータがどんどん変わっているのです 「両者同数」になる可能性が取り沙汰 「大統領は下院が、副大統領は上院が選ぶ」という規定 景気の不透明感 テロと安全保障に関する不透明感 ヒラリーが、トランプ叩き「しか」しないという選挙戦術の弊害 トランプの「コアのファンを裏切らない」巧妙な戦術 「トランプ人気浸透」という現象は、英国における「BREXIT」と同じように、「現状打開」のためには「一度何もかもぶっ壊したい」というような情念が感じられる、そのような解説が可能です アメリカが「本当の意味での先進国型経済」になっていったという問題 アメリカの有権者の深層心理の中に一つの認識が生まれているからだと思います。それは「この国では知的労働しか評価されないし尊敬されない」という絶望と怒りの感情です 「これは知性の階層化である」という本質が「バレてしまった」ということがある 政治的正しさ 人種」 現在の「知的階級=富裕層」というのは、多様性の共存という「勝手なカルチャー」を錦の御旗として掲げている、そう見られているわけです 高卒以下の白人ブルーカラー層」というのは、時代のトレンドから取り残され、完全に「見下され、バカにされている」という被害感を持つに至っています 白人が優越感を持っているので差別に加虐的な快美感を持っているのではなく、白人であること、無学であることが「理不尽なまでに徹底して差別される時代」であり、同時に経済的成功からも見放されたグループとして鬱屈している、そこが今回のトランプ現象の核にあるものだということです 、「政治的正しさ」への反発も伴っている 「非知性の名誉」 、「政治的正しさ」を掲げ「知性と名誉と富」を独占してきたオバマ的なるもの、ヒラリー的なるものへの激しい抵抗の表現と理解すべきなのだと この問題ですが、ヒラリーは分かっていないと思います。アメリカの富裕層、知的階層においてはそんなにちゃんと理解はされていないのです。それは、彼等の中に骨の髄まで「人間は皆平等」だという感覚が浸透しており、自分たちが知らず知らずのうちに「非知性の名誉」を否定してきたことへの反省はないからです Financial Times 「「トランプ大統領」という国際秩序への脅威 激しやすく、衝動的な最高司令官が招き得る大惨事 ドナルド・トランプ氏がロシアのウラジーミル・プーチン大統領を称賛 ・プーチン氏は、旧ソビエト連邦の崩壊という屈辱を晴らしたいと思っている トランプ氏は「米国を再び偉大に国にする」と公約 ・クレムリンに取り入るのは、共和党の大統領候補だけではない。欧州諸国のポピュリストたち もモスクワに敬意を表している プーチン氏のシンパは左派にもいる。英国労働党のジェレミー・コービン党首は、ロシアの失地回復政策をとがめるよりも米国の「帝国主義」を糾弾する方がしっくりくる ロバート・ゲーツ元国防長官(共和党)は、トランプ氏は「最高司令官には不向きだ」と簡潔に語っている トランプ氏の撤退公約 好戦的な孤立主義は一貫 現代の世界の秩序 は、前例のない緊張にさらされている こうした状況に対するトランプ氏の答えは、米国の撤退 こうした答えにはいずれも、米国の安全は同盟と国際秩序によって守られているという意識が完全に欠落している
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