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資本市場(その1)(資産運用会社の利益相反取引、運用商品ワースト3) [経済政策]

今日は、資本市場(その1)(資産運用会社の利益相反取引、運用商品ワースト3) を取上げよう。

先ずは、ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長の安東泰志氏が9月16日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「最高裁判決を検証!資産運用会社の利益相反取引にメス」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・去る9月6日、最高裁第三小法廷にて、今後東京が国際金融センターたり得るかどうかにも大きく影響する極めて重要な判決が下された。もし、今回の実質的な上告人逆転勝訴の判決がなければ、「日本の資産運用会社は投資家の利益を守らなくてもいい」というに等しい地裁・高裁の判決が確定してしまうところであった。実は、筆者が代表取締役の会社が、この裁判の当事者(上告人)であったので、今回の事案について検証し、実務の参考に供したい。
▽「利益相反天国」の日本 筆者は警鐘を鳴らしてきた
・筆者は、連載第21回で利益相反天国と言っても過言ではない日本の現状に警鐘を鳴らし、連載第55回の末尾では、本事案についての高裁の判断に苦言を呈した。また、先月掲載された連載第72回では、東京がアジアナンバー1の国際金融センターになるためには投資家の利益が守られなければならないことを強調した経緯にある。
・今回の事案(平成27年(受)第766号)は、既に最高裁判所のHPで判決文が公開されているほか、請求すれば、誰でも固有名詞を含む全記録を閲覧できる。しかし、表面的にはややわかりづらいので、以下に事案の概要をかいつまんで説明する。
・本件の全スキームは、図1(1-1~1-4)の通りであり、少し複雑である。そこで、詳細は図1に譲るとして、こういう複雑なスキームを組んだ結果として何が行われたのかを説明する。 まず、Y1社は、投資ファンドの運営会社である(本件の場合、投資ファンドは商法上の匿名組合が使われたので、この投資ファンドの運営者のことを、法律的には「営業者」と呼ぶ)。そして、Y2氏はY1社の代表取締役として、この投資ファンドの運営を行なっている。H社は筆者が代表取締役の会社(上告人)で、Y1社が運営する投資ファンドに3億円(のちに一部解約して2億5000万円)出資した。ちなみに、筆者がY1社の運営する投資ファンドに出資した理由は、Y1社の代表者であるY2氏が筆者の昔の上司であり、「たくさんのベンチャー企業に投資をして若い人を助けてあげたい」と虚偽の説明を受け執拗に口説かれたからだった。それまで筆者は、Y2氏は元上司であり良い人だと信じていた。
・ところが、実際に行われたのは、図1のスキームを通して、「Y2・Y3兄弟が僅か200万円で買い取った実家のパソコンリサイクル事業を、Y2が運営するこの投資ファンドに1億5000万円で売り付け、Y2・Y3個人が1億4800万円の売却益を得る」というものであった。ちなみにY1(Y2)は、そのような案件をやっていながら、「管理報酬」という名目でこれ以外に3000万円を手にしている。
・この取引は、「投資ファンドの運営者が、自分が持っている実家の事業のボロ株を、自分が運営する投資ファンドに高値で買い取らせ、投資家の資金を自らの懐に流し込む」という典型的な利益相反取引であり、どこから見ても、業務上横領、ないし、詐欺と言われても仕方がないものである。
▽金融リテラシーがゼロ 地裁・高裁裁判官が招いた悲劇
・この投資ファンドは、毎年1回決算書を送る義務を負っていた。ところが2年目からそれが遅れ気味になり、しかも、決算内容は、投資した時点の投資簿価がそのまま記載されているだけのもので、投資先の名前さえも記載されていないものであったため、投資家である筆者は、まさか投資損失が出ているなどとは想像もしていなかった。
・ところが、ファンドの期日近くになって、筆者はY2から、投資資金がほぼゼロになっている旨を告げられた。その数週間前に、損失が1円もないことになっている決算書を手にしていた筆者は驚愕し、Y2に対して説明を求めたが、のらりくらりとかわされ、結局上記のようなスキームであったことがわかったのは、ファンドが期限を迎えた頃である。
・筆者は、スキームが判明した後、利益相反取引による損害は投資家が負担すべきものではないとの考えから、やむを得ず東京地方裁判所に損害賠償請求をすることとなった。 ところが、裁判は一貫して被告(Y1社・Y2・Y3ら)のペースで進む。裁判所での尋問記録やメールなどの各種証拠から、原告(筆者が代表取締役のH社)が当該スキームの内容を知ったのは、投資が行われた時点ではなく、投資ファンドの運用期間が終了する時点であったことは火を見るより明らかなのに、被告は、自筆のノートのような漠然としたものを証拠として、「原告は予めこの投資に同意していた」などと強弁し、裁判所も漫然とそれを認めてしまう。
・さらに、被告は、「商法上、匿名組合には利益相反取引を禁ずる条文はない」「本件契約書にも利益相反取引を禁止する文言はない」ことを根拠に、具体的には「被告Y1社のような匿名組合の営業者は、投資家に対する忠実義務を負うものではない」「利益相反取引を行なう場合でも、投資家に対する説明義務や承認義務を負わない」と強弁し続けた。投資家に忠実義務を負わない投資ファンドなど、世界中を見渡しても聞いたことがない。
・常識的に考えれば、どういう理由があろうと、投資家から預かったお金を自らの懐に流し込むという行為、つまり「着服」自体、投資ファンド業界では到底考えられない詐欺まがいの行為であり、世界的に見ても、またどんな投資家であろうと、そんなことを許すはずがないのだが、驚くべきことに、裁判官にはこれが全くわからないようだった。
・そして、地裁は、Y2・Y3らがわずか200万円で買った株式(しかもその後も赤字だったため、純資産は200万円未満)を、その数ヵ月後に1億5000万円で投資ファンドに売った取引について「合理性を欠くものではない」のだから、「Y1社(投資ファンドの運営者)の行為には善管注意義務の違反があったとは認められない」と判示した。 そして高裁も、基本的にそのスタンスを踏襲した。
・要するに、裁判官は、契約書に「利益相反取引を禁ずる」と明記されていない限り、投資ファンドの運用者が投資家の資金を着服しても、それが「合理性を欠くものでない」限りは善管注意義務違反にはならないというのだ。 余談だが、純資産が200万円を下回る株式に1億5000万円の価格をつけるには、多額の「のれん代」を計上しなければならない。そして図1のスキームでは、「のれん代」の計上(図1-4)は会計規則に違反する粉飾であり、合理性など全くない。まさに裁判官の金融リテラシーのなさが招いた悲劇と言ってよかろう。
▽明らかな法令違反と断じた最高裁の判断
・本件は、「契約書に明記していない場合でも、投資ファンドの運営者(匿名組合の営業者)ないしその関係者が、投資家の利益と相反する取引をすることは、法令に違反するか、または、匿名契約上の義務違反にあたるか」「投資家の利益と運営者(営業者)またはその関係者の利益が相反する取引につき投資家の承諾を得る義務を運営者(営業者)は負わないか」という法令解釈を巡って最高裁に上告された。
・確かに商法上の匿名組合は、利益相反取引禁止を明確に定めていない。しかし、投資家のお金を預かる匿名組合契約の営業者は、営業から生じる利益を最大化するように営業を行なう義務を負っていることは商法535条からも明らかであり、営業者が自己の利益を実現するために利益相反取引を行なうことは理屈上できないだろう。また、会社法428条では取締役が利益相反行為によって会社に損害を与えた場合は無過失の賠償責任を負うとしている。
・最高裁は、まず、本件が利益相反取引に相当することを認めた。図1のような複雑なスキームを組んだことによって、Y2・Y3らからの株式の買い取りは、一見すると投資ファンドが直接行ったのではなく、その間にY3が代表取締役を務める別会社Dが介在することから、表面的には利益相反取引についての当事者間の合意があり違法ではないように見える。 しかし最高裁は、「本件売買契約の買主であるD社の利益・不利益がY1社(投資ファンド)を通して上告人(投資家)の利益・不利益となることから、本件売買契約の売主であり被上告会社の関係者であるY2及びY3との間に実質的な利益相反関係が発生する」と認定した。どんなに複雑にスキームを組んでも投資家と運営者の間に実質的な利益相反があれば利益相反取引だとする見解は妥当だ。
・その上で、本件に多額の出資を行っていることなどから、「上記一連の行為は上告人の利益を害する危険性が高い」とし、「被上告会社(投資ファンドの運営者)が上記一連の行為を行なうことは、上告人(投資家)の承諾を得ない限り、営業者の善管注意義務に違反するものと解するのが相当である」とし、更に、スキームの詳細についての承諾がなかったことを認定し、承諾の有無を審理判断していない原審の判断には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があると断じた。
・また、本件には善管注意義務違反がある以上、投資ファンドの運営者(Y1社)たちが損害賠償義務を負わず、その取締役Y2も会社法429条1項(役員がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う)に基づく損害賠償義務を負わないとした原審には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるとした。
・さらに、木内道祥裁判長の補足意見にて、投資ファンドによる利益相反取引の場合に、投資家の承認を得るべき内容は、譲渡価格を含む譲渡内容など、取引の個別具体的な事項であることも明示された
▽東京が国際金融センターであるためには「投資家の利益が第一」
・筆者は、連載第72回で、東京がアジアナンバー1の国際金融市場になるための条件の1つとして、「投資家の利益が第一」というポリシーを明確にして東京に世界から資金や人材が集積するようにすべきだと主張した。東京が国際金融市場たるには、資産運用業者の育成や誘致が必要だ。そのためには、東京の規制や監督が、受託者責任に重きをおいてなされることが大事だろう。投資家に対する忠実義務、善管注意義務が果たされ、投資家の利益が第一に守られる市場でなければ、東京に資金は集まらない。
・筆者がかねてから問題視しているように、日本は、利益相反取引に甘い国である。今回の裁判では、危うく投資ファンドの運営者が投資家のお金を着服するような行為が正当化されるところであった。幸い今回の最高裁の判例も公開されており、今後は裁判の上でも重要な指針となろうが、東京を国際金融センターにするためにも、行政も司法も、もう少し国際標準を意識して利益相反取引に敏感であっていただきたいと願うばかりだ。
http://diamond.jp/articles/-/102071

次に、経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎 元氏が9月21日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「金融庁がダメ出しする運用商品ワースト3」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽正しい投資の普及に熱心な金融庁
・先般、金融庁から「平成27事務年度版金融レポート」が発表された。森信親氏が長官に就任して以来、金融庁が従来のやや金融業界寄りの立ち位置を、顧客寄りに修正したこともあり、なかなか面白いレポートになっている。 同レポートの最大の読み所は、現在の日銀の金融政策による低金利の銀行経営・金融システムへの影響や、いわば従来の金融行政のやり残しである地方銀行の経営に関する見解などにあるのだが、今回は、「個人投資家から見て」金融レポートのどこを読み、どう生かしたらいいのかをご紹介しよう。
・森長官が掲げる「フィデューシャリー・デューティー」(概念はいいが、馴染みにくい外来語なので、キャッチフレーズとしてはイケていないと思う)の旗印の下、金融機関の悪行や、ダメな運用商品が、顧客である投資家の立場から分析されているので、投資家は是非このレポートをダウンロードして、該当箇所を読んでおきたい。
・該当箇所は、「II.金融行政の重点施策に関する進捗・評価2.活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保(1)国民の安定的な資産形成の促進:『貯蓄から資産形成へ』」(44ページから70ページ)である。項目の立て方からして、「安定的な資産形成」が実現しておらず、市場の「公正性・透明性」に問題があると、金融庁が認識していることが伝わってくる。
▽レポートで槍玉に上がる ダメ商品、ワースト3
・さすがの金融庁も、現在の法令の下で合法的に売られている商品を、「ダメだから買わない方がいい」と直接言っている訳ではない。しかし、金融レポートの記述をよく読むと、金融庁が、この商品は投資家のためになっていないと考えていることが「滲み出てくる」ようにレポートは書かれている(と、筆者は読んだ)。
・以下、筆者の解釈であることをお断りしておくが、金融庁がレポートでダメな商品であることが分かるように例示しているのは、(1)毎月分配型投資信託、(2)個人年金保険(特に外貨建てのもの)などの貯蓄性保険商品、(3)ラップ運用(特にファンドラップ)、の3つだ。いずれも、売れ筋の商品・サービスであるが、これらが「ダメ!」であることについては、筆者も全面的に賛成する。
・さて、どのようにダメだと言っているのか、レポートに当たってみよう。 投資信託ビジネスの手数料稼ぎを問題視する姿勢は、金融庁において、昨年から明確だ。今年のレポートでも、p60「規模(純資産額)の大きい投資信託の概況」として、日米の純資産額の大きな投信上位5銘柄の属性を表にして比べて、日本の投資信託の手数料がいかに高いかを際立たせて見せている。販売手数料は、日本が平均3.20%、米国が0.59%である。また、信託報酬は日本が平均年率1.53%、米国が0.28%だ。また、親切にも過去10年平均の収益率が載っており、日本は?0.11%、米国は5.20%、つまり、日本の大型投信は手数料が高くて、収益率が悪いのだから、全くいい所なしだと印象づけられている。
・米国の大型ファンドにインデックスファンドが多いことを知っていての比較であるから、金融庁も意地悪と言えば、意地悪だ。しかし、この意地悪は、投資家にとってそのまま「親切」であり、金融庁が指摘する「特定の種類の資産(特定の国の不動産、特定業種の株式等)に限定した、テーマ型のアクティブ運用商品」のようなものを買ってはいけないことが分かる。
・また、「銀行における投資信託販売の状況」(p62)の項目では、「銀行においては、ここ数年、投資信託の販売額や販売手数料等の収益は拡大を続けている一方、投資信託の残高は伸びていない」という事実を指摘し、「今なお、いわゆる回転売買が相当程度行われていることが推測される」と解釈し、「投資信託が短期的なリターンを狙う回転売買の商品として使われ、長期的な資産形成に資する商品としては十分活用されていないといった状況」だと嘆いている。 仰るとおりと言うしかない。
・もっとも、日銀のマイナス金利政策の影響で、銀行は投資信託販売による手数料稼ぎにいっそう傾斜する可能性があり、今後、販売額・手数料・残高の全てが伸びるような事態にならないとも限らない。個人にとって、マイナス金利政策の最大の弊害は、悪質な投信の販売(加えて悪質な保険の販売)に拍車が掛かることだろうと、筆者は心配している。
(1) 毎月分配型投資信託
・毎月分配型投資信託に対して、金融レポートは、本文中で直接ダメだと名指ししている訳ではないのだが、金融庁が、「営業現場における販売姿勢」を説明するために掲げているアンケート結果のグラフ(p64)とその説明を見ると、意図は明らかだ。 アンケート結果について、以下のように説明している。「顧客の運用方針にかかわらず、販売会社は、主として収益分配頻度の高い商品を提案しているとの結果となった」(p63)、「一般に、利益を分配せずに再投資する方が投資効率は高くなるとされている。当面現金を必要とせずに中長期での資産形成を考えている顧客も含め、一律に収益分配頻度の高い商品を提案する場合が多いということは、販売会社において、必ずしも顧客のニーズに沿った対応が取られていないことの一つの証左ではないかとも考えられる」(p63)。
・確かに、「将来の資産形成を目的とした中長期的で安定的な資産運用をしたい」という顧客の53%に対して、「収益分配頻度の高い商品」が売られている。 毎月分配型投信に代表される収益分配頻度の高い商品は「将来の資産形成」には不向きだという、事実上のダメ出しだと受け取っていいと筆者は思う。
(2) 貯蓄性保険商品(特に、外貨建て一時払い保険)
・せめて、販売手数料を開示すべきだという金融庁と、収益にとってマイナスになるので開示は嫌だという、地銀を中心とする銀行業界とのやりとりが話題になっている外貨建ての個人年金保険などの貯蓄性保険商品についても、金融庁はレポートで取り上げている。
・まず、「銀行における金融商品別の手数料収益を、販売額以上に、保険の占める比率が高く推移している」(p66)という事実を挙げ、この理由を「一時払い保険の販売手数料が、投資信託等の金融商品と比べ、高めに設定されていることが挙げられる」(同)と説明している(暗に、投資信託以上のボッタクリ商品だと言っている)。
・投資家としては、この説明だけで、この種の保険を避ける方がいいということが分からなければならない。  加えて、金融庁は、一時払い外貨建て保険に対してとどめを刺す。 さて、この種の商品は、(外貨建ての)保険料全額の最低保障部分と、元本保証のない投資信託により運用される変額部分、さらに外貨建ての死亡保険で構成されている。
・レポートは「このパッケージ商品を構成する外国債券と投資信託、(掛け捨ての)死亡保障を別々に購入・契約することでも、このパッケージ商品と同等の経済効果を得ることが出来る」と述べて、この裁定パッケージと、市販の豪ドル建て一時払い保険の顧客における支払いコストを比較している。 結論は、3商品による裁定パッケージの方が「10年で10%程度低くなることがある」とのことだ。
・同内容の経済効果を、別の商品の組み合わせによって合成し、コストを比べるやり方は、金融商品の評価全般に使える考え方であり、例えば、確定拠出年金の商品ラインナップにあるバランスファンドが、明白に選ばない方がいい「地雷」であることが分かったりするので、有用な方法だ。 それにしても執念深い(その分、投資家には親切な)比較であるが、一時払い外貨建て保険は「はっきり不利な商品なのだから、止めておきなさい」と言っている、と筆者は解釈する。
・また、レポートは、保険会社が金融機関代理店に対して、販売サポートとして、販売手数料の上乗せキャンペーンや募集人(販売員)向けのインセンティブ供与を「幅広く実施」していることも問題視している。「こうした販売サポートは、多くの保険会社(商品提供側)と金融機関代理店(商品販売側)の間で実施される中、付与競争の様相を呈しており、最終的に、顧客が支払う保険料を上昇させる要因の一つとなっている」と述べているが、正しい分析だろう。 顧客の犠牲の下に、こうした競争が行われているのであり、心ある学生が読むと保険会社にも、銀行にも就職したくなくなるような記述(で、かつ現実)だ。
(3) ラップ口座(特にファンドラップ)
・さて、近年、金融庁が投信の回転売買に厳しくなったことに対する、金融業界の次の一手の一つがラップ口座、特に、投資信託を運用対象とするファンドラップだった。ラップ口座は、現在、残高が急激に伸びている。2016年3月末時点で5.8兆円あり、投資信託残高(92兆円)の6%の水準に達しているという。
・金融庁のラップに対する批判は、オーソドックスに「運用コスト」に向けられている。 レポートによると、ラップの手数料と投資対象商品の信託報酬を合わせた、ファンドラップの顧客が負担する手数料は平均で年間2.2%に達するという。
・これに対して、一般の投信の手数料を販売に3%、信託報酬で1.5%とすると、「4年を超えて投資を継続する場合、ファンドラップの方が一般の投資信託よりも保有コストは高くなる計算となる」(p69)との計算をレポートは示している。
・端的に言って、どちらもダメなのだが、ファンドラップの手数料は何とも高いということだ。 付け加えるなら、外貨建て資産の売買の際の為替手数料や、債券の売買価格などを使って、実質的な手数料をさらに仕込むことができ、ラップの手数料と信託報酬以上の手数料をむしり取られることが、対面営業型の証券会社ではあり得るようなので、ご注意されたい。
・また、金融庁は、ファンドラップについて、運用対象の投資信託が、系列の投資運用業者によって設定されたものであることを指摘し、加えて、「当該助言会社の大半が系列会社となっている等、選定プロセスの透明化に向けた取り組みはいまだ途上にある」(p63)と述べている。 投資家は、ファンドラップは、コストが高いし、プロセスが不透明だから近づかない方がいい運用サービスだ、と認識するのが素直で適切だ。
▽金融庁が推進する分散・積立・長期投資
・毎月分配型投資信託、外貨建て一時払い保険、ファンドラップのいずれも、「買った(あるいは、契約した)」とか「勧められた」と頻繁に聞く商品・サービスであるが、いずれにも一切近づかない方がいいとはっきり述べておきたい。
・なお、金融庁は、レポートを見る限り、分散投資、積立投資、長期投資を推進しようと考えており、積立投資を前提として非課税期間20年を設ける「積立NISA」を構想中だとも報じられている。 長期投資でリスクが縮小する、あるいは、積立投資が有利だと認識しているとすれば、金融論的には間違いだが、運用益非課税の制度を使って、国民、特に資産形成世代に対して幾らかまともな投資を普及・啓蒙しようという意図は前向きに評価したい。
・ただ、金融レポートでも挙げられている通り、金融資産の大きな部分を保有しているのは高齢者であり、彼らを適切に保護するための対策には、もう一歩以上の踏み込みが必要だろう。 金融庁の一層の頑張りに期待したい。
http://diamond.jp/articles/-/102234

安東氏はバイアウトファンドを経営するプロ中のプロである。同氏が、昔の上司から口説かれたとはいえ、このような典型的な金融詐欺に引っかかったことに、まずは驚くと同時に、同氏が恥をしのんで経緯を執筆したことに敬意を表したい。『「利益相反天国」の日本』、というのは全く同感である。現在でこそ、大型M&Aのアドバイザーは売り手側と買い手側、それぞれにつくのが常識化しているが、中小型案件では、必ずしも分かれずに、実質的に双方代理に近いことをやっているケースもあるようだ。確かに、これでは東京は国際金融センターにはほど遠いと考えざるを得ない。本件訴訟での、地裁、高裁の裁判官の金融リテラシー欠如には、改めて驚かされた。最高裁で高裁判決が棄却され、再審理となり、安東氏の実質勝利になったから良かったようなものの、審理した最高裁裁判官も地裁、高裁の裁判官の判断のひどさを感じたのであれば、こうした民事訴訟を扱う裁判官への研修をするべきだろう。
山崎氏の記事にある現在の金融庁が、『貯蓄から資産形成へ』を目指してやろうとしている改革の方向性には、私も全面的に賛成だ。かつては、『貯蓄から資産形成へ』のスローガンだけが独り歩きするだけで、仕組みの改革を伴ってなかったが、投資信託の組成者や売り手が得ていた暴利を暴き、より公正な仕組みにして行くことは、喫緊の課題だ。顧客の利益を最優先にするフィデューシャリー・デューティー(受託者責任)とはいっても、これまでは投資信託を組成する会社は、大手銀行や証券会社の子会社が多く、親会社の利益を優先させていたという利益相反が、ここでも大手を振っていた。そこで、手数料開示を通じて、本来のフィデューシャリー・デューティーに沿った行動を促そうという方向は適切だ。この分野で日本がガラパゴス状態から脱するためには、思い切った改革が必要だ。
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