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日本企業のコーポレート・ガバナンス問題(その8)出光創業家の乱2 [企業経営]

日本企業のコーポレート・ガバナンス問題については、8月19日に取上げたが、今日は、(その8)出光創業家の乱2 である。

先ずは、山口利昭弁護士が8月25日付けでビジネス法務の部屋に掲載した「出光興産の統合抗争は本当に「創業家の乱」なのか?」を紹介しよう。
・あいかわらず経済紙は「出光創業家の乱」を詳細に報じているようで、野次馬としてはとても興味深く騒動の進展を見守っておりますが、交渉自体が止まっているのでしょうか、新しい動きがみられないようです。そして、どの新聞、雑誌をみても「創業家VS現経営陣」の対立構図は変わっていないように思えます。
・さて、今年5月に拙ブログエントリー「創業家の絡む経営支配権争いには二つの顔がある」を書きまして、流星さん他、常連の皆様にいろいろと有益なご示唆をいただきました。私の経験上も、「創業家対現経営陣」という表向きの抗争の裏で、実は社内の主流派対反主流派という内部抗争が背景にあり、そのまた背景にメインバンクや従業員組織があったりして会社が一枚岩ではないところをステイクホルダーに露呈してしまったケースがありました。ここまで膠着状態が続いてるところをみると、ひょっとして出光興産さんのケースでも、背景には統合賛成派と統合反対派の激しい対立があるのではないでしょうか?社内の情報は、反対派から大株主である創業家に筒抜けになっているのではないかと想像してしまいます。
・そういえば8月16日の朝日新聞ニュースによりますと、出光興産さんは15日に臨時取締役会を開催して、社外取締役さんや監査役さんに対して、統合に向けた手続きに問題はなかった旨を説明した、と報じられていました。しかしこの報道が事実ならば、かなり違和感を覚えます。会社の統合に向けた手続きは、会社にとってまさに重大な経営判断のプロセスなので、タイムリーに社外取締役さんや監査役さんがそこに関与していなければおかしいはずです。
・ときどき重要なM&Aの情報拡散を防止するために、ごく一部の経営陣のみで話を進め、社外取締役さんには意思決定の直前に説明をする、ということはありえます。しかし、自社の統合問題は支配権の移動に関わる重要な経営方針に関わるわけですから、いまになって社外取締役さん、監査役さんに事情説明がなされたということは、かなり不自然な形で隠密裡にコトが進められていたのかもしれません。かりに創業家側から社外取締役さんや監査役さんに「株主との対話」の一環として、「社外役員の意見が聞きたい」との要望が寄せられていたとしても、その疑念は拭いきれないところです。
・マスコミ的には「お家騒動」「創業家の乱」といった構図を描くほうが読み手にもわかりやすく、またドラマチックなわけですが、会社としては社内抗争は企業価値を低下させることになるために、ぜひとも表沙汰にはしたくありません。こういった創業家の乱、創業家内のお家騒動といわれる事件は、もっと根が深く、取材する気が失せるほとにドラマとしてのおもしろみに欠けるストーリーというのが現実の騒動の姿なのではないかと。
http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/2016/08/post-3d2e.html

次に、10月4日付け日経ビジネスオンライン「出光販売店の不信を招いた創業家代理人の言動 なぜ販売店すべてが恩義のある創業家へ反対の立場をとったのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・出光興産と昭和シェル石油の合併計画に出光創業家が反対している問題で、出光興産系の販売店で組織する「全国出光会」が仲裁に乗り出した。出光会が9月26日に開いた臨時理事会で、合併の推進および話し合いの再開を創業家側と現経営側の双方に求めることを決議した。
・出光会からすると苦渋の決断だった。メンバーには「創業者の出光佐三氏と酒を酌み交わしながら議論し、出光を発展させてきた」「家に佐三氏が訪ねてきて、子どもだった私を膝の上に座らせてくれた」など、出光家への思いが強い人が多い。佐三氏の息子である昭介氏に矢を向けるような行為はしたくなかった。
・実際に出光会ではこれまで創業家側と経営側の応酬を静観していたが、水面下では変化が起きていた。メンバーの中から合併推進を強く求める声が徐々に広がっていたのだ。そのきっかけを作ったのは創業家側の代理人を務める浜田卓二郎弁護士だった。
▽「お取引先様」扱いに憤慨
・8月ごろ、出光の販売店に浜田氏からハガキが届いた。内容は「『出光創業家』Facebookアカウント開設」というタイトルで、公開している合併反対理由などの文書が箇条書きで示されていた。宛名には個人名がなく「代表取締役社長 殿」と書いてあった。ある販売店オーナーは語る。「名前も調べていないし、ハガキが届いていない販売店もあった。ずさんな印象だ」。
・さらに追い打ちをかける出来事があった。創業家側が8月に出光の取締役に送った文書の内容だ。文書には「会社の経営にとっても社員にとっても、また多くの株主様やお取引先様に対しても多大な迷惑をかけることになります」という部分がある。
・販売店の多くがこの「お取引先様」という部分に憤った。「大家族主義を掲げる出光にあって、販売店は取引先ではない」「昭介氏の名前を筆頭に書いてあるが、本当に昭介氏が書いたものならこうした言い回しはしない。浜田氏が書いたものだ」といった声が販売店間で行き交った。
・こうした経緯や、会見で浜田氏が出光といずれも取引のあるイランとサウジアラビアの関係性を反対理由に挙げた発言から、「出光を理解していない人物が介入している。その影響を受けた創業家側が経営権を握れば経営が立ち行かなくなる」と不信感が芽生えた。その後、全国の販売店から合併推進を求める声が相次ぎ、出光会としても現経営側に立つという立場を表明するに至った。
・ある販売店は「創業家側は対立する現経営側に説得されて話し合いに応じたという形ではメンツがつぶれる。家族の一員である販売店の説得に応じたという形で折り合ってほしい」と語る。具体的には、現役の出光社員であり、昭介氏の次男でもある正道氏による仲立ちを期待する声が高まっている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/100300449/?P=1

第三に、10月25日付けダイヤモンド・オンライン「出光・昭シェル統合延期、創業家以外は全員不幸に!?」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・出光興産と昭和シェル石油は、出光創業家の経営統合反対を受けて、統合延期を決めた。創業家の揺さぶりによって、両社には足並みの乱れさえも見え始めている。 事実上の降参宣言だった。経営統合を目指していた石油元売り業界シェア2位の出光興産と同3位の昭和シェル石油が、出光創業家の反対を押し切って経営統合は進められないと判断。経営会社発足を延期すると発表したのだ。
・出光は、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェル(RDS)が保有する昭シェル株式のうち33.24%を取得した後、臨時株主総会を開催し、経営統合の承認を得て、2017年4月に昭シェルとの統合会社を発足させる予定だった。
・だが、統合の“拒否権”を握る出光創業家が反対のままでは、臨時株主総会での承認は得られない。会社側には創業家を説得し、翻意させる以外に手段はなく、統合時期未定とせざるを得なかった。
・しかし、石油製品需要は右肩下がりとなることが確実だ。人口減や低燃費車の普及で、ガソリン需要は今後5年間平均で、年2.5%減で推移すると予測されている。 縮小する市場でどう生き残り、国のエネルギー安定供給に資するか。この危機感は所管する経済産業省も強く抱いており、再編は国の後押しもあって進められてきた。
・そうして15年7月に決まったのが出光・昭シェル経営統合だったが、今年6月、出光の定期株主総会で創業家が反対を表明したことで雲行きが怪しくなった。 それ以降は出光経営陣と創業家がそれぞれ主張をぶつけ合い、事態は混迷。結局、出光経営陣が創業家を説得できず、今月、統合延期となったのだった。
▽昭シェル株譲渡をめぐって見え始めた見解の相違
・「婚約発表後にゴタゴタしたカップルがうまくいくわけがない。もうご破算でしょう」 事態の行方を見守っていた石油元売り業界や金融・証券業界では、すでに“婚約解消”という認識が大勢だ。実際、そう思わざるを得ない要素が幾つもある。
・その一つが月岡隆・出光社長の現状認識の甘さだ。記者会見で月岡社長は、経営統合に理解を得られるよう、創業家の説得を続けるとし、「必ずやご理解いただけるはずだ」と力説した。根拠は「(出光の)販売店各社から創業家に対して、経営陣と経営統合へ向けて話し合ってほしいという書簡が届けられており、創業家は重く受け止めるはずだ」というもの。
・だが、これは希望的観測にすぎず、甘いといわざるを得ない。そもそも、すでに3カ月間、経営陣と創業家は正式な話し合いの機会を設定できていない。それに、創業家側はそんな月岡社長の言葉を気にも留めていない。 「販売店のご心配は受け止めますが、販売店は月岡社長に合併が最善だと説得され、思い込まされているだけ」(創業家代理人の浜田卓二郎弁護士)
・もう一つが、昭シェルの反応だ。すでに昭シェルの労働組合の一つである全石油昭和シェル労働組合は9月中旬、「出光興産との経営統合を白紙に戻せ」という要求を経営陣に提出。社内では「組合の言う通りだ」と公然と話す管理職もいるという。昭シェル社員に一気に遠心力が働いているのだ。
・さらに、出光・昭シェル両社の足並みの乱れも見え始めている。 現在、出光によるRDS保有の昭シェル株式取得について、公正取引委員会が審査しており、取得可となる公算が大きい。取得可となった時点で、創業家が統合反対の立場を変えていなかった場合、昭シェル株式は出光へ売却されるかどうかについて、出光と昭シェルの見解が微妙に違うのだ。
・昭シェルは、株式取得は経営統合を前提としており、経営統合の見通しが立たないままで出光が株式だけ取得することは「あり得ない」(亀岡剛・昭シェル社長)との認識だ。つまり、単なる出光の子会社になることは受け入れられないということだ。 ところが出光は「株式取得はRDSと当社との話で、予定通り株式取得する」(広報部)考えだ。
・昭シェル社内からは「その場合は、RDSと出光、昭シェルの3社で、昭シェル株の行方を協議すべき」という声も上がるが、協議開催は確約されていない。 一方、いわばごね得となった創業家は、依然として出光・昭シェル経営陣が示している5年で500億円という統合効果を凌駕する具体的な成長戦略は示していない。  浜田弁護士は「販売政策やベトナムなどの海外事業からの撤退も含めて再検討すべきという考えはあるが、あくまで創業家は株主であり、経営統合以外の成長戦略を考えるのは月岡社長以下、経営陣だ」と話す。確かにそうだが、会社を成長させようという意欲や責任感がまるで感じられない。
・市場環境はいや応なしに厳しくなる。このまま統合が延びれば、出光創業家以外の、両社関係者全員が不幸になるだけである。
http://diamond.jp/articles/-/105655

山口弁護士は、単なる「創業家の乱」ではなく、『もっと根が深く、取材する気が失せるほとにドラマとしてのおもしろみに欠けるストーリーというのが現実の騒動の姿』、ではないかと指摘している。確かに、その通りなのかも知れない。
第二の記事では、創業家代理人の浜田弁護士の言動が、販売店の不信を招いたと指摘する。確かに、「大家族主義を掲げる出光」なのに、販売店に対し「お取引先様」と呼びかけたことに、販売店は、「取引先ではない」と憤ったというのは、あり得る話だ。大蔵省出身で元国会議員の浜田弁護士はやはり上から目線で、販売店への配慮が不足していたためだろう。
第三の記事では、結局、“婚約解消”となる可能性が強いようだ。ただ、RDSからの株式取得をどうするのかは未決着で、さらに今後、出光や昭シェルがとのよう生き残っていくかは未解決のままだ。それにしても、辞退をここまでこじらせた出光の月岡社長の責任は重大だ。
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