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トランプ新大統領誕生(その8)(トランプ大統領で金融業界は復活できるのか、「北方領土と沖縄」が日米関係に与える変化、トランプ次期政権3つのリスク) [世界情勢]

トランプ新大統領誕生については、12月1日に取上げた。今日は、(その8)(トランプ大統領で金融業界は復活できるのか、トランプが火をつけた21世紀の南北戦争、「北方領土と沖縄」が日米関係に与える変化、トランプ次期政権3つのリスク) である。

先ずは、マネックス証券 執行役員の大槻 奈那氏が11月21日付け東洋経済オンラインに寄稿した「トランプ大統領で金融業界は復活できるのか 金融規制緩和が国際的潮流になる可能性は?」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・2016年の金融市場はさまざまなサプライズがありました。とりわけ、英国民はEUからまさかの離脱を選択、米国民は次期大統領にまさかのトランプ氏を選びました。背景には先進国の低成長、グローバリズムによる急速な変化があり、人々は不確かな未来に怯えているようです。これから、金融市場はどうなるのか。世界経済と金融市場に切り込む新連載「女子アナ4人組、金融市場を駆け巡る」を開始します。「アナ」は「アナ」でも、「アナリスト」。金融市場分析のプロフェッショナル4人――マネックス証券執行役員の大槻奈那さん、ソニーフィナンシャルホールディングス執行役員の尾河眞樹さん、ニッセイ基礎研究所上席研究員の伊藤さゆりさん、SMBCフレンド証券チーフマーケットエコノミストの岩下真理さんが交替で執筆します(毎週月曜日に掲載)。新連載第1回は大槻さんです。
・「高い目標を設定し、手にするまで押して押して押しまくる」 次期アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ氏の「取引の極意」だ("Art of the Deal"より、筆者訳)。困難を極めた選挙戦を勝ち抜いたトランプ氏の弁だけに説得力がある。 その突破力を、今、誰よりも期待しているのはアメリカの金融関係者だろう。トランプ氏が次期大統領に決まってから、ほぼ最弱セクターだった米国の金融株は復活した。時価総額は12%、約13兆円も上昇している。
▽最も高くついた法律?「ドット=フランク法」
・最大の要因は、トランプ氏の大統領移行チームが、ドッド=フランク法を「dismantle(解体する)」と宣言していることであり、大幅な金融規制の緩和が期待されている。まだ共和党は合意しているわけではない。にもかかわらず、この一言が金融機関の価値を引き上げる、ドッド=フランク法とは何なのか。
・ドッド=フランク法は2010年に成立し、翌年施行された。リーマンショックに象徴される金融危機の時に金融機関を税金で救済したことで批判された米国政府が、金融機関に安全安心な運営をするよう徹底的に義務づけたものだ。提案者は、米議会上院のクリス・ドッド氏と下院のバーニー・フランク氏である。 条文は1000ページにもわたり、難解な法律用語に耐えて毎日6時間ずつかけたとしても、読破するのに1カ月以上かかると揶揄された。ドッド=フランク法の順守のためのコストはほかのどの法律よりも高くついたといわれる。2010年の成立から2016年までの6年間で360億ドル、約3.7兆円に上ったという試算もある。
・しかしなぜトランプ氏が、ある意味マニアックな金融規制をやり玉に挙げるのだろうか。 ドッド=フランク法は、金融機関の資産、負債、資本など、あらゆる側面で網をかけるものだ。例えば、資産サイドでは、貸出の大口規制、自己勘定売買やファンド投資の原則禁止。負債サイドでは、資金状況の日次管理や、資本の上乗せ、ストレステストに基づく配当制限などなど。こうした金融の健全性を重視する規制は、金融機関に融資や投資の基準の厳格化を迫るため、企業の成長を阻害する。
・90年代以降、経営する会社が何度となく経営危機に見舞われたトランプ氏は、円滑な金融機能の重要性を痛感しているはずだ。金融規制緩和を唱えた背景には、クリントン氏への対抗上の必要性や様々な支援者との関係など選挙に配慮した面もあるだろうが、厳しすぎる規制に対する疑念は本心ではないか。
▽「トリレンマ」で景気サイクルに合わない
・それにしても、ドッド=フランク法が施行されてからわずか5年である。この法律のおかげで金融機関の健全性が保たれているという面もある。大幅改定はどこまで必要なのだろうか。
・一般に、「規制」と「貸出」、「金融機関の利益」の3つの関係には、金融業界に独特の「トリレンマ」がある。トリレンマとは、3つのことがお互いに矛盾し、同時には成り立たないことを指す。例えば、国際金融の世界では、「為替レートの安定」「自由な資本移動」「独立した金融政策」の3つは同時には成立しないという「国際金融のトリレンマ」が存在する。
・金融業界のトリレンマとは、「貸出やリスクテイクの拡大」、「資本力強化による健全性の向上」、「株主資本利益率(ROE)の向上」である。この3要素は原則として同時には成立しない。例えば、貸出でリスクを増やせば、ROEは上昇するかもしれないが、資本が足りなくなる可能性がある。健全性のために増資をすればROEは下がる。 この3つのバランスは、景気や世の中の趨勢(すうせい)によって変化する。金融危機後は、健全性向上が世論の要求であり、当局の至上命題だった。その時期にできた金融規制が、国際規制バーゼルⅢであり、米国のドッド=フランク法である。欧州でもCRD IV(資本要求指令第4版)という独自の規制ができた。
・しかし、いま米国の民衆が求めているのは、健全性よりも成長だ。2009年には行き過ぎたリスクテイクを糾弾された金融機関だったが、資本の積み上げで健全化が進んだ。これに伴い、金融機関の健全性は、一般国民にとってそれほどの関心事ではなくなっている。むしろ、既定路線を歩むお行儀のよさよりも、多少やんちゃでも、リスクをとって成長を後押しするという役割が金融機関に求められつつある。大統領選の結果もそのような民意を反映したものといえるだろう。
・このように、トランプ氏の金融規制緩和の動きは、タイミングとしても合理的だ。このため、筆者は今後、米国でヘッジファンドやプライベート・エクイティ投資、合併規制などについて、見直しがあり得ると予想している。ただ、これはあくまで米国内の動きだ。三菱UFJフィナンシャルグループのように米国の業務が大きい場合を除き、邦銀へのメリットは大きくない。
▽邦銀にとっても救世主になりうるか?
・株式市場関係者は、トランプ政権は国際規制に対しても猛威をふるってくれないだろうかと期待するのではないか。しかし、そちらのハードルは高そうだ。金融危機後の国際規制の強化は、既に8合目まで来ている。総仕上げとして、年末には資本比率計算方法の大幅改定が決まる予定だ。
・もっとも、来年以降議論される予定の"大物"も残っている。現在、リスクゼロとされている国債に対する規制の厳格化である。現実となったら金融機関には死活問題であるし、国債を保有しにくくなれば各国の財政運営にも悪影響をもたらしかねない。
・これらにトランプ新政権が強く異を唱えれば、方向性が修正される余地も残っているだろう。あるいは、バーゼルⅡの場合のように、決定した国際規制について米国内での実施を先送りにする可能性もある。国際規制を決めるBIS(国際決済銀行)のルールには、厳格な罰則規定はないため、日本もひょっとしたら米国の流れに便乗することができるかもしれない。
・「私は物事を大きく考えるのが好きだ」と、トランプ氏は前述の自叙伝で語っている。金融規制緩和に手を付けるなら、"大きく"考えて、米国内だけでなく、国際規制にも手を広げてくれないだろうか――。トランプ新政権に対する金融業界や市場関係者の熱い視線は続きそうだ。
http://toyokeizai.net/articles/-/145694

次に、作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏が12月15日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「北方領土と沖縄」が日米関係に与える変化 佐藤優が予想するトランプ大統領のスタンス」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・来年1月20日、米国でトランプ大統領が誕生する。日米関係にはどのような変化が生まれるのか。5人の論客との対談をまとめた著書『秩序なき時代の知性』を上梓した、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が2つの大きな影響を予想する。
▽世界を席巻したトランプ大統領誕生の衝撃
・国際社会の秩序が大きく変化しつつあります。2016年11月8日に行われた米国大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ候補が民主党のヒラリー・クリントン候補(元国務長官)を破って当選したことは、その最たる例です。
・<米大統領選で当選を確実にしたトランプ氏は9日未明(日本時間同日午後)、ニューヨークで支持者に向けて勝利演説した。民主党のクリントン前国務長官から電話を受けたことを明かし、「我々すべてを祝福した」と話した。 「すべての米国民のための大統領になる」「米国でこれまで忘れられてきた人々は、もう忘れられることはない」と語りかけた。 また「米国は分裂の傷を乗り越え、団結すべき時だ」とも呼びかけた。 「ビジネスの経験を生かし、米国に貢献したい」とも主張し、内陸部の都市や高速道路などのインフラの整備を誓った。>(2016年11月9日「朝日新聞デジタル)
・この結果に日本、EU(欧州連合)、オーストラリアなどはショックを受けています。なぜでしょうか? それはこれらの諸国は、現在の国際秩序が続いたほうが、国益にかなうと考えているからです。 他方、現在の国際秩序が抜本的に変化したほうがいいと考えているロシア、中国、北朝鮮、イランなどはトランプの当選を歓迎しています。
・トランプ氏は政治家としての経験がまったくありません。従って、過去の経緯や国際法に関する知識が不可欠である外交について、同氏はこれから猛勉強をするでしょう。一部、極右派の立場に寄り添うような閣僚人事を発表していますが、トランプ氏が大統領に就任する2017年1月20日の後、具体的にどのような外交政策を展開するかについては、本人も現時点では決めていないと思います。しかし、「チェンジ(「変化」)を公約に掲げたオバマ政権よりも、はるかに大きな変化がトランプ大統領の下で起きることは間違いないと思います。
・日本との関係では、北方領土と沖縄の2点で変化が起こる可能性があります。 第1の北方領土交渉について、12月15日に山口県長門市で安倍晋三首相は、ロシアのプーチン大統領との首脳会談を予定しています。この会談では、歯舞群島と色丹島のロシアから日本への引き渡しを定めた日ソ共同宣言(1956年)を基本に北方領土問題が動くのではないかと見られています。そうなると日米間で深刻な問題が生じます。
・歯舞群島と色丹島が返還され日本の施政が及ぶようになれば日米安保条約第5条の適用範囲になり、この両島に米軍が展開することが可能になります。そのような事態が想定されるならば、プーチン大統領が歯舞群島と色丹島の引き渡しに応じることはありません。それだから、安倍首相としては、返還後の歯舞群島と色丹島の「非軍事化」を宣言し、米国が両島に展開しないという枠組みを作ることに迫られています。
・ロシアに対する厳しい姿勢を取るクリントン氏が大統領に当選したならば、日露関係の改善に水を差してきたと思います。具体的には、「安倍政権がロシアのプーチン政権に譲歩して歯舞群島と色丹島への米軍の展開を認めないならば、米国は尖閣諸島の共同防衛を約束しない」というような牽制球を投げてくる可能性がありました。
・これに対して「米国は世界の警察官になるべきでない」と主張するトランプ氏ならば、「棲み分け」的な価値観に基づいて、返還後の歯舞群島と色丹島に米軍が展開しないという安倍政権の立場を容認すると思います。
▽沖縄県の翁長知事はトランプ当選を歓迎
・第2にトランプ大統領の下で沖縄の米海兵隊問題についても、地元の沖縄県民の大多数と民主的手続きによって選出された翁長雄志知事が、普天間飛行場の閉鎖と辺野古新基地建設に反対しているという現実を重く見て、これらの基地を保持することにトランプ政権が固執しなくなる可能性があります。 普天間飛行場が閉鎖され、沖縄県内にその代替施設ができないとなると、機動的な移動手段を持たない海兵隊が沖縄に駐留する合理性がなくなります。その結果、海兵隊は沖縄県外に出て行かざるをえなくなります。そうなると海兵隊が使用する高江のヘリパッドも必要なくなります。現在、日本の中央政府と沖縄の間に存在する深刻な懸案がトランプ大統領の出現によって大きく変化する可能性があります。翁長知事もトランプ当選を歓迎しています。
・<トランプ氏が米大統領選で勝利したことを受け、翁長雄志知事は9日、記者団に、来年2月ごろに訪米する意向を示した。トランプ氏周辺に接触し、辺野古新基地建設問題に関する県の考えを直接説明したいと述べた。 翁長知事は「沖縄の基地問題がどういうふうにいくかわからないが、いわゆる膠着状態の政治はしないのではないか。どのような対応を取るか、期待しつつ注視していきたい」と述べ、日本政府と膠着状態に陥っている辺野古問題の解決に期待感を示した。トランプ氏宛ての祝電で、面会を申し入れることも明らかにした。訪米は、トランプ氏が2017年1月20日に大統領に就任し、関係閣僚が決まる2月ごろとしている。>(2016年11月10日「琉球新報」)
・トランプ氏の種々の暴言から、この政治家に危険があることは、翁長知事もよく理解しています。そのうえで、「世界の警察官になるべきでない」というトランプの姿勢を沖縄は最大限に利用すべきというプラグマティツクな姿勢を取っているのです。
http://toyokeizai.net/articles/-/149671

第三に、在米の作家の冷泉彰彦氏が12月17日付けのメールマガジンJMMに寄稿した「「トランプ次期政権、3つのリスク」 from911/USAレポート」を紹介しよう。
・新政権への「移行作業」ですが、国務長官候補にエクソン・モービルCEOのレックス・ティラーソン氏が決定して、ほぼ陣容が固まりました。陣容が固まることで、政権の問題点も見えてきました。今回は3つの大きな懸念について整理してみたいと思います。
・1番目は、思い切り「プロビジネス」つまり産業界の利害に沿った政権という様相を呈していることです。産業界といっても、基本的にはこの政権の場合は「まんべんなく」ということではなく、独特のアプローチがされています。 まず石油業界の利害が濃厚に反映されています。国務長官候補のティラーソンは国際石油メジャーの経営者、更にエネルギー長官にはリック・ペリー・テキサス州元知事ということで、極めて石油シフトが濃厚です。そしてEPA(環境)長官にはスコット・プルイット。この人は、オクラホマ州の検事総長(州のアトーニー・ジェネラル)で、環境問題に関しては、企業側の人物。パリ協定には反対で、温暖化理論も否定しています。
・また、労働集約型産業の代表とも言える外食業界から、労働長官にアンディ・パズダーという人物が内定しています。この人は中部中心の「ハーディーズ」と西海岸中心の「カールス・ジュニア」というハンバーガー・チェーンを展開している会社の経営者で「最低時給15ドル」運動に対する強硬な反対派です。つまり労使の利害調整をする労働長官に、経営側の人物、しかも外食産業で労働分配を抑制する立場だった人物を充てている訳です。
・どうしてこんなに極端な人事になったのかというと、何よりもオバマの「アンチ」を志向しているという方向性が露骨に見えます。オバマ時代に「冷や飯を食っていた」部分にスポットライトを当てる、そしてオバマ政権の方針の正反対を試すというわけです。
・まずエネルギー政策ですが、オバマの時代には大きな変化がありました。その中では、何と言っても脱石油つまりエネルギーの多様化を大きく進めたことです。世論受けする再生可能エネルギーも推進しましたが、同時にジョージア州のヴォーゲル3&4という原発の新規建設を許可していますし、またシェールの掘削とプロセッシングについては、オバマのエネルギー革命と言っていいような規模のものとなりました。
・その結果として、中東やベネズエラなどからのエネルギー輸入への依存率が大きく低下していますし、何よりも国際的なエネルギー価格が安値安定するに至っています。 こうした中で、消費者にはガソリン価格の安定という恩恵があり、また航空業界など原油価格に敏感な業種の場合には、現在は非常に有利な環境でビジネスを進めることができています。
・そうした「革命」の「行き過ぎ」を是正するということを、トランプ政権として大きなテーマに据えているのは明らかです。
・一方で、金融に関してはオバマの時代は、就任直前に起きたリーマン・ショックと、それに続く金融危機を重く見て「投資銀行に過度なリスクを取らせない」という規制を強化したわけです。片方では、不況脱出のために猛烈な流動性供給を取らせながら、妙なバブルは発生しないように厳格な規制をする、そのためにガイトナー、ルーの2代の財務長官は、バーナンキ、イエレンの2代のFRB長官と緻密な政策を展開して来たわけです。これもトランプ政権は「ひっくり返す」ことになりそうです。
・また、雇用や労働という観点からすると、「移民を制限してアメリカ人に職を回す」ということと、「空洞化を抑制する」一方で、(もしかすると)「オバマケアを一部解体して、保険をつけない分だけ雇用をし易くする」とか「最低賃金を抑制して雇用を増やす」という、これまた「オバマ政策のひっくり返し」が志向されているようです。
・問題は、この「全部オバマの裏返し」という政策パッケージが機能するかという点です。上手く行くようだと、バブル経済に近い格好で株価が上昇して、グローバル金融という産業が大きく息を吹き返す、エネルギー価格が上昇して良い意味でのインフレ効果が発生する、そうしたトランプ・エコノミーの「トリクルダウン」に加えて、保護主義と移民抑制で国内の米国人の雇用が増えるというストーリーになるのだと思いますが、本当に可能なのかという点です。
・トランプ支持派の経済アナリストからは「トランプはウォール街のエリートを使って、虐げられた層を救済する」などという期待も出ていますが、果たして現実的なのでしょうか? この経済政策、一部では「トランポノミクス」という言い方もされているわけですが、これが成功するには一定の条件が必要です。まず「株高が継続する」「国内消費が堅調」「原油がある程度の高値誘導に成功」「バブル崩壊が起きない」というような条件が揃っている中で「より一段高い好況感が共有される」と同時に「オバマ時代には達成できなかった生活実感としての雇用の戻り」が実感されなくてはなりません。
・特に、中部を中心とした「製造業が衰退し、雇用が失われた地域」で明確な「回復の実感」が出てくるかどうか、そこに大きな注目がされると思います。そのためには、単に強制力としての空洞化阻止や、保護貿易ということだけでなく、グローバルな基準から見て「著しく低くはない最低の製造業の生産性」を実現することが必要になってきます。
・ですが、製造業だけでなくサービス業においても「自動化・省力化」による生産性の追及が続く中では、雇用の創出をそうした「トランポノミクス」で実現できるのかは、非常に難しいのではないでしょうか。例えばITの加速度的なイノベーションというのは、12月14日に「トランプタワー」で行われたトランプ次期大統領とシリコンバレーの経営者たちによる「サミット会議」でも「関係改善」が方向性として示されたように、トランプといえども逆らうことはできません。
・そんな中で、再分配や最低賃金増額といったリベラル的な強制力を否定し、大企業主導の自由経済プラス若干の保護主義、そして何よりもバブル経済への誘導という手法は、かなりリスキーなアプローチに見えます。いずれにしても、その姿が明確になり、新年からは始動して行くことになる訳です。
・2つ目の危険というのは、トランプ一家が経営している「家業」としての「トランプ・オーガニゼーション」という企業経営の問題です。利害相反の懸念が払拭できない中、どのような解決策を実行してくるのか、この問題の処理を誤るようですと、政権が「即死」することもあり得るだけに、非常に気になります。
・この件に関しては、そもそも11月の大統領選の以前には、トランプ自身は「自分が当選して大統領になったら長女のイヴァンカに家業を継承させる」という方針を示していました。ところが、当選後に様々な政策と人事が動き出してみると、イヴァンカと夫のジャレッド・クシュナーの夫婦は側近中の側近として手放せなくなった訳です。
・そこで今度は「息子のドン・ジュニアとエリックに継がせる」というようなことを言っています。ところが、14日の「シリコンバレー経営者サミット」には、イヴァンカ夫妻だけでなく、ドン・ジュニアとエリックも出てきたわけで、これには猛烈な批判が巻き起こりました。 つまり、シリコンバレーの企業トップを集めた場に、子どもたちを勢揃いさせたというのは、仮にビジネスを担当する子供がその中にいた場合は、明らかに父親の威光を利用して、例えばIT企業にトランプ系のホテルやリゾートを使わせるといった効果を計算していると思われても仕方がない訳です。そうした利害相反、利益誘導というのは、大統領とその一家には絶対にあってはならないのです。
・ということで、一時は「一家がその持ち株を全部信託に入れる」という「ブラインド・トラスト」方式で何とかなるという説もあったわけですが、それでは透明性と独立性は十分ではないということから、現時点では専門家の見方としては「一族全員が全てを売却」というのが不可避だろうということになっています。
・問題は、ほとんど最初から本当は「一族全員が全持ち分を売却」という答えが出ているにも関わらず、何だかんだ言って先延ばしにしているという点です。また、この「利益相反問題」に関しては、12月15日に大きな記者会見を行って全部スッキリさせると予告されていたにも関わらず、この記者会見は延期となりました。  ということで、この問題は現時点では未解決であり、政権発足時までにクリアーになっていないと、最初から大きな「つまづき」の原因ともなる可能性があります。
・原因としては、トランプ本人あるいは子どもたちが「利害相反」の概念と実務をよく分かっておらず、弁護士や会計士などの説得を十分に咀嚼できていないので時間がかかっているという可能性があります。あるいは、個人で大きな案件を決済してきたトランプには、公開会社(90年代にはそうだった時期もありますが)ではない「トランプ・オーガニゼーション」の資金繰りなども個人的に判断してきた可能性があります。
・本人が言うのは、「ほとんど毎年のように国税(IRS)とは見解不一致で税務調査を受けてきた」というのですが、それは個人所得税だけでなく、法人としてもそうかもしれないのです。また複雑な担保やローンの条件など、色々な債権債務が絡まっている可能性もあります。つまり「第三者に全てを譲渡」することが、テクニカルに難航している、あるいは本当に第三者に売ろうとして債権債務を清算すると「意外に価値が低い」とか「実際は債務超過」といった可能性もゼロではありません。違法性のある取引や担保差し出しなどが露見する危険、あるいは明確な脱税が露見する危険もあります。
・勿論、こうした「売却がテクニカルに難しい」というのと「売却すると過去の問題が明るみに出てしまう」という問題は、程度の話であるわけです。大なり小なりそうした問題はあるわけですが、仮に大きな問題が浮上すれば大きなダメージになりかねません。また、仮に「十分に解決しないまま」で政権が走り出せば、それこそ「金脈疑惑」ということで、民主党の罠に落ちていく可能性もあるわけです。
・3つ目の危険は軍事外交ですが、この問題については次回に詳しくお話することにしますが、国務長官に指名されたレックス・ティラーソン氏は、ロシアのプーチン大統領にも近い人物とされています。そんな中で、米国とロシアの枢軸というような関係が徐々に濃厚になっているわけです。また、本稿の時点ではシリアのアレッポにおける反政府勢力はほぼ壊滅という状況になっています。
・この新しい観点からは、例えば中東に関しては、次のような外交方針が浮かび上がってきます。シリアはアサド政権で安定してくれればいい、化学兵器の使用犯罪も、自国民虐殺も許容する、ただし、その原則はここだけで適用することにして、他の国や地域に関しては「別の現実路線」で安定させる、つまり理念としての原則は放棄するが、不介入、他人任せ、独裁での秩序維持というのは、当面の国益になるというのがトランプの中東外交の原則「その1」。
・それから、イラン制裁復活で少なくともイランから国際石油市場への供給は細めて、 何とか原油高へ持っていく、ロシアは地政学上イランに近いので、これは米国の役割であり、最終的に原油価格の高止まりに成功すれば、ロシアも悪い気はしないし、サウジも安心する。これが原則「その2」。
・という構図なのだと思います。イランが弱まれば、ヒズボラも弱体化して、イスラエルもアサド政権も喜ぶし一石二鳥という計算もあるでしょう。問題は、そうなると親イランのイラク現政権が困るという問題があります。仮に追い詰めすぎるとイラクが不安定化するし、スンニ派の善玉を仕立てるにも軍人の中にはISに行った部分も多いので、難しいでしょう。
・その場合は、イラクについてはシーア派主導を認めるという、これまた無原則なご都合主義になるのかもしれません。そんな「丸投げ作戦」で上手く行くのかというと、行かなければ行かないなりに原油価格が上がるのでオーケーというようなアナーキーな計算もあるかもしれません。
・ロシアと中東ということを考えただけでも、色々な懸念が出てくるわけで、例えば台湾と中国の問題に関しては、更に別の連立方程式が浮かび上がりつつあります。原油高誘導ということと、空洞化阻止ということから考えると、当面の米中関係は冷却という答えも出てくるわけですが、仮にアメリカでバブル経済を加速させるとしたら、2016から17年という「現在の世界」においては中国マネーの問題は無視できないわけで、完全に敵視というわけには行かないと思います。
・ただ、一つだけ言えるのは、トランプ政権の外交というのは、レーガンの反共とか、 クリントン・ブッシュ・オバマの「自由と民主主義」というような「理念的なストーリー」をほぼ完全に捨てているということです。 そのことの意味というのは非常に大きいわけで、仮に「超大国である米国が理念的メッセージを一切発信しなくなる」という事態になっていった場合には、国連という場も、あるいはG7という場も一気に機能不全になることが考えられます。
・国際社会が「理念」ではなく「各プレーヤーの打算」で動くようになった場合に、調整が仕切れなくなって部分的に紛争が発生する危険が増加することは避けられません。「トランポノミクス」というのは、あくまで平和が大前提である一方で、「理念的なもの」を否定してかかる「トランプ流」のアプローチが、世界を不安定化させていくわけです。
・いずれにしても、「財界主導の経済」 「利害相反問題」 「軍事外交」という3つの分野にリスクを抱えたまま、新政権発足まで約1ヶ月という時点となりました。

大槻氏が指摘するように、『大統領移行チームが、ドッド=フランク法を「dismantle(解体する)」と宣言』、現実の政策でもそのように展開してくるとなれば、欧州としても競争上、CRD IV(資本要求指令第4版)の適用を再検討せざるを得なくなる。BISのバーゼルⅢも米国では適用しないとなれば、日欧の当局を巻き込んだ大騒ぎになるだろう。米国株式市場はそうした規制緩和を織り込んでいるようだが、金融危機後、長い年月をかけて日米欧当局が検討してきた新規制を、本当にぶっこわすとすれば、まさに「蛮勇」といえよう。
佐藤氏の記事にあるように、日ロ関係や沖縄問題にとっては、トランプが追い風になりそうなことは、唯一、喜ばしいことだ。
冷泉氏が指摘するように、『問題は、この「全部オバマの裏返し」という政策パッケージが機能するかという点です』、『「トランポノミクス」・・・が成功するには一定の条件が必要』、そのような条件の達成は極めて困難だろう。「トランプ・オーガニゼーション」での「利益相反問題」は、トランプにとって確かに難問だ。 「理念」をやたらに振り回すのも問題だが、それを一切捨て去って、 『国際社会が「理念」ではなく「各プレーヤーの打算」で動くようになった場合に、調整が仕切れなくなって部分的に紛争が発生する危険が増加することは避けられません』、というのも困った問題だ。
政権移行チームのメンバーもだいぶ固まってきたようなので、チーム内での真摯な議論を期待したいが、トランプが他人の意見を「聞く耳」を果たしてどれだけ持っているのだろうか。
タグ:順守のためのコストはほかのどの法律よりも高くついたといわれる ・ドッド=フランク法 条文は1000ページ ▽「トリレンマ」で景気サイクルに合わない トランポノミクス」 つ目の危険というのは、トランプ一家が経営している「家業」としての「トランプ・オーガニゼーション」という企業経営の問題 利害相反の懸念 トランプ 新大統領誕生 国際規制に対しても猛威をふるってくれないだろうかと期待するのではないか。しかし、そちらのハードルは高そうだ 欧州でもCRD IV(資本要求指令第4版) トランプ新政権が強く異を唱えれば、方向性が修正される余地も残っているだろう 見直しがあり得ると予想 佐藤優 トランプ氏の「取引の極意」 大槻 奈那 高い目標を設定し、手にするまで押して押して押しまくる 東洋経済オンライン トランプ大統領で金融業界は復活できるのか 金融規制緩和が国際的潮流になる可能性は?」 (その8)(トランプ大統領で金融業界は復活できるのか、「北方領土と沖縄」が日米関係に与える変化、トランプ次期政権3つのリスク) 大統領移行チームが、ドッド=フランク法を「dismantle(解体する)」と宣言 資本力強化による健全性の向上 貸出やリスクテイクの拡大 、「規制」と「貸出」、「金融機関の利益」の3つの関係には、金融業界に独特の「トリレンマ」がある 3要素は原則として同時には成立しない 株主資本利益率(ROE)の向上 いま米国の民衆が求めているのは、健全性よりも成長 沖縄県の翁長知事はトランプ当選を歓迎 冷泉彰彦 「「北方領土と沖縄」が日米関係に与える変化 佐藤優が予想するトランプ大統領のスタンス 現在の国際秩序が抜本的に変化したほうがいいと考えているロシア、中国、北朝鮮、イランなどはトランプの当選を歓迎 現在の国際秩序が続いたほうが、国益にかなうと考えているからです 日本、EU(欧州連合)、オーストラリアなどはショック トランプ氏ならば、「棲み分け」的な価値観に基づいて、返還後の歯舞群島と色丹島に米軍が展開しないという安倍政権の立場を容認 日本との関係では、北方領土と沖縄の2点で変化が起こる可能性 1番目は、思い切り「プロビジネス」つまり産業界の利害に沿った政権という様相 金融に関してはオバマの時代は、就任直前に起きたリーマン・ショックと、それに続く金融危機を重く見て「投資銀行に過度なリスクを取らせない」という規制を強化 3つの大きな懸念 まず石油業界の利害が濃厚に反映 これもトランプ政権は「ひっくり返す」ことになりそうです JMM 「「トランプ次期政権、3つのリスク」 from911/USAレポート 問題は、この「全部オバマの裏返し」という政策パッケージが機能するかという点です オバマ時代に「冷や飯を食っていた」部分にスポットライトを当てる、そしてオバマ政権の方針の正反対を試すというわけです これが成功するには一定の条件が必要 害相反、利益誘導というのは、大統領とその一家には絶対にあってはならないのです 大企業主導の自由経済プラス若干の保護主義、そして何よりもバブル経済への誘導という手法は、かなりリスキーなアプローチ 3つ目の危険は軍事外交 何とか原油高へ持っていく、ロシアは地政学上イランに近いので、これは米国の役割であり、最終的に原油価格の高止まりに成功すれば、ロシアも悪い気はしないし、サウジも安心する。これが原則「その2」。 「理念的なストーリー」をほぼ完全に捨てているということです 理念としての原則は放棄するが、不介入、他人任せ、独裁での秩序維持というのは、当面の国益になるというのがトランプの中東外交の原則「その1」。 国際社会が「理念」ではなく「各プレーヤーの打算」で動くようになった場合に、調整が仕切れなくなって部分的に紛争が発生する危険が増加することは避けられません
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