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安倍政権の教育改革(その4)(「こども保険」、「教育国債」) [国内政治]

昨日に続いて、安倍政権の教育改革(その4)(「こども保険」、「教育国債」) を取上げよう。

先ずは、慶應義塾大学教授の土居丈朗氏が4月3日付け東洋経済オンラインに寄稿した「「こども保険」と「教育国債」は、何が違うのか どちらを優先し、どう費用を負担するのか」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・3月29日、自民党の財政再建に関する特命委員会(委員長・茂木敏充政務調査会長)の下に設けられた「2020年以降の経済財政構想小委員会」(小泉進次郎小委員長代行、村井英樹事務局長)は、幼児教育無償化の財源を社会保険料で賄う「こども保険」を創設する提言を公表した。
・同小委員会は、本連載の記事「進次郎氏らが掲げる社会保障の将来像を読む」でも触れたように、「こども保険」だけを議論する場ではない。この小委員会は、高齢者偏重でなく全世代型社会保障の実現をうたっている。ただ、目下自民党内で教育財源確保に関する議論が進められており、その文脈での提言である。
・提言内容は、厚生年金加入者には保険料率を0.2%(本人負担0.1%、事業主負担0.1%)上乗せし、国民年金加入者には保険料を月160円加算する形で財源を徴収、年間約3400億円を確保したうえで、小学校就学前の全幼児(約600万人)に年6万円を給付(現行の児童手当を増額)し、幼児教育・保育の実質無償化の第一歩とする、というもの。
・新制度導入後、医療・介護改革を進めて医療・介護の保険料負担の増加を抑えるとともに、こども保険を拡大させ、最終的には厚生年金保険料率の上乗せを1%(本人負担0.5%、事業主負担0.5%)まで引き上げ、国民年金保険料の加算を月830円まで増やして、財源を年間1.7兆円確保し、実質的に幼児教育・保育の完全無償化を目指す、という。
▽「こども保険」は財源を先送りしない
・「こども保険」の提言には、社会保障給付が高齢者に偏っている現状を変え、若年世代にも恩恵が及ぶ給付を新たに設ける考えが盛り込まれている。 また、将来を担う子どもの育成のための費用負担を、国債発行により将来に先送りするのではなく、親世代が保険料という形で負担して責任を全うするという観点も含まれている。これは、国民は増税を忌避する気持ちが強いのに対し、毎年の社会保険料の引き上げについては是認する傾向がある点にも着目したといえる。
・特に、自民党内での教育財源確保に関する議論では「教育国債」という案が出ており、「こども保険」にはその対案という意味合いがある。「教育国債」は大学などの高等教育の無償化に必要な財源を国債発行で賄うというものである。これまでも、教育予算を含む経常的経費のために国債は発行されており、これは赤字国債と呼ばれている。
・赤字国債を発行して財源を賄えば済む話なのだが、2020年度の財政健全化目標(国と地方の基礎的財政収支黒字化)達成のためには、赤字国債のみならず建設国債も含めて国債発行の抑制が求められているところである。「教育国債」は、いわば赤字国債の一部について教育予算として使途を特定するとともに、財政健全化を目標とした国債発行抑制の枠から外したいという下心が透けて見える。
・ちなみに文部科学省は、幼児教育から大学までの授業料無償化に必要な年間の追加予算額を、幼児教育7000億円、私立小中学校分数百億円、高校3000億円、大学3.1兆円と試算している。
▽「教育無償化」は利害が錯綜し予算拡大志向
・教育無償化は自民党が長年議論しており、今に始まった案ではない。しかし、必要な財源額が大きいことや、給付型奨学金の導入など文教予算で他に優先する事項があったことなどから、これまで実施を前提とした議論は深まってはいなかった。しかも、教育無償化といっても、幼児教育を先に無償化するのか、高等教育を先にするのか、自民党内やその背後にいる圧力団体も含めて利害は錯綜しており、同床異夢の状態である。
・かつ、不思議なことに、同じ文教予算でも、教職員定数の議論では、定年等の減員により予算が減る分を別の形で増員して予算を振り向ける、といった予算組み替えの発想があるのだが、教育無償化に関しては予算を組み替えて全体としては予算が増えないようにするという発想は皆無に等しく、財源を新たに増やしてそれを投入する、という予算拡大志向が強い。
・「教育国債」の賛同者は、国債で賄って教育に費やしても、子どもたちが大人になって稼ぐようになったら税金を払うので、それを財源に国債を償還できる、と聞こえのよい説明をする。しかし、「教育国債」は、いわば子ども世代が世代全体で負う有利子奨学金のようなものである。
・今ある有利子奨学金は、在学中にはもらうだけで直接おカネを支払う負担はない。しかし、卒業後には稼ぎに応じて利子をつけて借りた奨学金の返済をすることになる。日本学生支援機構が公表する有利子奨学金の返済状況を見ても、延滞したり返済免除されたりする人が看過できない比率で存在する。そのうえに「教育国債」を発行すれば、まるで「第2の有利子奨学金」の返済負担までも、今の子どもたちの将来に負わせる羽目になる。
・しかも、「教育国債」で賄ったおカネをまずは高等教育の無償化に充てようとする案があるが、今の大学の実情を考えると問題が多い。日本にある私立大学の約45%は、学部単位でなく大学単位で定員割れを起こしている。さらに、私立大学の30%弱は、学生の就職率が80%以下(全国平均は86.6%)である(週刊東洋経済臨時増刊『本当に強い大学2016』に基づく)。
・それだけ大学が過剰だともいえ、このままだと、高等教育の無償化は大学経営の救済策と誤解されかねない。高等教育を無償化する前に、大学が学生の素質を伸ばす教育を行える改革に本腰を入れて取り組むべきだろう。
▽「こども保険」はなぜ「増税」でなく「保険」なのか
・他方、「こども保険」はどうか。「こども保険」に対する最大の批判は、そもそも「保険」といえるのか、ということである。小委員会の提言では、子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクを社会全体で支えるための保険と位置づけている。しかし、子どもがいない世帯やすでに子どもを育て終えた世帯にとっては、保険料だけ負担させられても確実に給付がないという意味で保険とはいえない、という批判がある。
・ただ、それを言い出せば、自らが要介護状態になるリスクに備えた介護保険でも、原則として要介護認定は受けられず自らは介護サービス給付を受けない40~64歳の第2号被保険者も保険料を払わされている事実がある。
・確かに、保険料という形でなく所得税として負担を求めるという考え方なら、この保険か否かの議論は避けられる。しかし、増税よりは毎年の社会保険料の引き上げのほうを是認する国民が多いということに鑑みた政治的な判断があるのかもしれない。現にこの十年来、所得税はほとんど増税していないが、毎年のように保険料率は平均して0.2%ほど引き上げられ続けている。保険料なら少子化対策として使途が限定される。
・保険料として課すとしても、年金保険料だと原則60歳以上の高齢者には負担を求めないことになり、世代間格差の是正につながらないとの見方もある。そこで、高齢者も負担している医療保険(国民健康保険や後期高齢者医療制度)の保険料に上乗せすればよいとのアイデアも出てこよう。ただ、財政制度上厄介なのは、年金保険料は国の会計に入ってくるが、医療保険料だと地方自治体の会計に入る。そこから国が全国レベルで給付するとなると、実務的に面倒になる。
・小委員会が提示した最初の導入案は、厚生年金保険料に0.2%上乗せするというものだ。子育て支援といえども負担増であることは変わらない。その負担増は酷だと見る向きもある。しかし、本人負担の雇用保険料率は、2015年度から2017年度にかけて、0.5%から0.3%へと、0.2%引き下げられている。もし「こども保険」で保険料を上乗せするとしても、雇用保険料率の引き下げが相殺される程度のものといえる。ちなみに、こども保険の上乗せ保険料(本人負担分)は、年収400万円の人は月240円程度である。
・「こども保険」提案は、こうした意味で、わが国の社会保障の姿や負担のあり方をどうするか、あらためて考えさせるものといえるだろう。
http://toyokeizai.net/articles/-/165749

次に、みずほ証券チーフ。マーケットエコノミストの上野泰成氏が4月4日付け日経ビジネスオンラインに寄稿した「難点が多すぎる「教育国債」というアイデア 財政事情の悪化、世代間の不公平などの懸念も」を紹介しよう(▽は小見出し)。
▽「教育国債」構想が自民党内で浮上
・使途を教育に限定した「教育国債」構想が自民党内で文教族を中心に浮上しており、プロジェクトチーム(PT)が5月の大型連休明けをめどに提言をまとめるという。公明党もPT設置を決定。野党である民進党にも「子ども国債」という同様のアイデアがある。
・ことの発端は、安倍首相が1月20日の施政方針演説で、「誰もが希望すれば、高校にも、専修学校、大学にも進学できる環境を整えなければなりません」と述べたことだとされている。日本維新の会が憲法改正による教育の無償化を主張していることをにらみ、憲法改正論議を加速させようとする狙いも、自民党内のそうした動きには含まれているという。
▽「教育国債」は赤字国債の一類型にすぎない
・だが、財政法第4条が規定しているのは、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない。但し、公共事業費、出資金及び貸付金の財源については、国会の議決を経た金額の範囲内で、公債を発行し又は借入金をなすことができる」ということ。これに当てはまらない(建設国債ではない)以上、「教育国債」という名前の新しい国債は結局のところ、赤字国債の一類型にすぎないことになる。
・大規模な長期国債買い入れによって日銀が長期金利を需給面から低位に押さえ込んでいるため、債券市場の健全な価格形成機能が損なわれており、「悪い金利上昇」という財政への警告シグナルが出てこない。そうした中で財政規律が緩んでいることが、こうした構想の浮上によって、間接的に示されていると言えるだろう。 この「教育国債」という構想に内在している主要な問題点は、以下の通りである。
▽問題点1 財政事情がさらに悪化
・(1)国の借金がさらに増えて、すでにきわめて悪くなっている財政事情がさらに悪化する。文部科学省の試算によると、大学など高等教育の無償化に約3兆1000億円、現在は所得制限がある高校無償化の完全実施に約3000億円、幼稚園・保育園など幼児教育の無償化に約7000億円、合計で4兆円を超える財源が必要になる。
▽問題点2 大学などに進学するか否かで不公平が発生
・(2)「教育国債」の償還財源(税金)は広く国民が負担することになるので、子どもが大学などに進学する(している)世帯とそうでない世帯の間に不公平が発生する。ちなみに、高等教育機関への進学率(就学率)(過年度卒を含む)、すなわち18歳人口(3年前の中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者)に占める大学・短期大学入学者、高等専門学校4年在学者及び専門学校入学者の割合は、80.0%。うち大学が52.0%である(2016年度学校基本調査)<■図1>。時代の流れとともにずいぶん高くなってきたものの100%というわけではない。保険料を徴収する方式をとる場合にも、こうした不公平が生じてしまう。
▽問題点3 子の世代へ教育費負担を「ツケ回し」
・(3)突き詰めて言えば現役世代(親の世代)から将来世代(子の世代)への教育費負担の「ツケ回し」だという強い批判を浴びやすい。将来不安ゆえに若年層では支出抑制・貯蓄積み増し意欲が根強いとされているが、そうした傾向が強まることにもなりかねない。
▽問題点4 大学の淘汰が進みにくくなる
・(4)本来であれば進むはずの少子化時代における大学の淘汰が進みにくくなる可能性がある。「そもそも、大学などの授業料無償化は、学生の支援だけでなく、学生の確保に苦労している私立大学などへの『補助金』的要素がある。このため、自民党内でも『大学の淘汰を進める方が先』との声も出ている」という(3月10日 毎日新聞)。
▽人口減少トレンドを放置したままでは、メリットに限界
・筆者の持論に沿ってさらに踏み込んで言うと、日本経済(特に地方経済)の長期見通しが悲観に傾斜せざるを得ない最大の要因は人口(特に生産年齢人口)の減少という「数」の問題であって、「質」の問題ではない。人口の減少トレンドを放置したまま、若年層の「質」を学力の面で高めようといくらサポートしても、経済全体にもたらされるメリットの総量には限界があるだろう。
・また、国の支援によって高等教育機関への進学率をさらに高めることが労働生産性の向上に着実につながり、それが日本経済の潜在成長力を底上げするという保証はどこにもない。大学教育の現場から聞こえてくるのは、数十年前と比べた場合の学生の「質」の低下である。数学の基礎ができていないため高校の学習内容を大学であらためて教える必要があった、講義ノートをしっかりとる能力が欠けている、課題を出すと「コピペ」だらけで文体も統一されていないものが多数提出されたなど、クォリティーが下がったことを示すエピソードは枚挙にいとまがない。進学率をどうこうするよりも、そうした現実をまず是正するのが先決ではないか。
▽「あれも必要」「これも必要」では、借金が膨らむだけ
・むろん、経済的理由から進学をやむなく断念する若者をできるだけ少なくするための支援措置を拡充することに、筆者は賛成である。やる気のある学生を増やすことは、大学教育のレベルアップに間違いなく貢献するだろう。だが、奨学金制度の拡充を含め、そうした措置はすでにいくつかとられている。それでも足りないようなら、実情を把握しやすい地方自治体の判断などで、ケースバイケースで対応すべきだろう。
・また、教育関連費用の比率が日本は他国より低いという指摘がある。これに対しては、「だから借金をしてでも予算全体の規模が膨らむことはやむを得ない」といった結論に安易に飛びつくのではなく、「予算全体を原則として同規模に据え置いた上で、政策の優先度に応じた予算配分(付け替え)で対処する」のが望ましいと、筆者は考えている。家計のやりくりに引き付けて考えればわかりやすい。「あれも必要」「これも必要」という家族の声に押されて借金をしまくりながら支出を増やすよりも、借金を返済する原資でもある所得の制約を念頭に置いたうえで、何を買うかの取捨選択を行うというのが、普通で妥当なありようだろう。
▽消費税率引き上げ、予定通り実施と見る者は多くない
・日本の財政規律は、明らかに緩んできている。2019年10月に再延期された消費税率の8%から10%への引き上げが予定通り実施されるとみている市場関係者は、さほど多くないように見受けられる。東京オリンピック・パラリンピックが終わった後に日本の景気は勢いを弱める可能性が高く、株価がそれを見越して開催前にも下落を始めると予想される中、景気をさらに下押ししかねない選択を安倍首相がするとは考えにくい。それまで国会で説明してきた消費税引き上げ再延期の条件をあっさり捨て去り、再延期を決めたのは「新しい判断」によるものだと説明した首相発言のインパクトは、少なくとも筆者には、かなり強かった。
・むろん、財政規律が緩んでいるという見方に債券市場参加者が傾いても、すでに述べたように、値動きの中から「警告シグナル」が発信されることはまず考えられない情勢である。「教育国債」や消費税の問題について、マーケットに身を置いているエコノミストである筆者が考えを巡らせる際には、一種の空しさがどうしても漂ってしまう。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/033100088/?P=1

第三に、明治大学公共政策大学院教授の田中秀明氏が4月4日付け東京財団 税・社会保障調査会に寄稿した「【寄稿】こども保険の怪~教育・保育の充実に名を借りた格差拡大策だ」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・先般、自民党の「2020年以降の経済財政構想小委員会」が、社会保険料を上乗せ徴収し、幼児教育・保育の無償化の財源とする「こども保険」の創設を提言した。教育・保育の重要性を提起したことは評価するが、こども保険は教育国債よりはいくぶんましといった程度のものである。
・こども保険は幼児教育・保育の無償化が目的であり、そもそも疾病や長寿といったリスクをプールするものではなく、保険とは名ばかりだ。それは、本来であれば一般財源(税)で賄うべきところ、それが難しいので、保険料であれば国民が負担しやすいと考えた詭弁だからである。
・こども保険を考えた自民党の小委員会の政治家たちは、現在の社会保険料がいかに逆進的で問題があるかを理解していない。こども保険として更に保険料率を引き上げれば、不公平や格差が拡大するだろう。民主党政権が開始し自公政権に引き継がれた社会保障・税一体改革では、社会保険料の問題がほとんど議論されていない。政府が隠しているからだ。本稿では、日本の社会保険制度の問題を概観し、教育・保育の財源のあり方を議論する。
▽こども保険のどこが「保険」か
・最初に、こども保険の仕組みを簡単に説明する。サラリーマンの場合、本人と事業者それぞれが所得に対して0.1%の保険料を年金保険料等に上乗せして毎月払う(国民年金加入者は月160円程度)。これで約3,400億円の財源を確保し、小学校入学前の子ども(約600万人)に対して児童手当を1人月額5千円加算する(あるいは年収360万円以下の世帯の保育料を無料化する)。更に、保険料率を0.5%(国民年金加入者は月830円)に引き上げることにより約1.7兆円を確保し、児童手当を月2.5万円上乗せして幼児教育・保育を実質無償化するという。
・小委員会の資料は、こども保険の導入目的として、「年金、医療、介護には社会保険があるが、喫緊の課題である子育てに社会保険がない→『全世代型社会保険』の第一歩として、子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクを社会全体で支える」ことを挙げている。そして、こども保険・消費税・教育国債の3つを比較して、こども保険は、負担が逆進的ではない、給付と負担の関係が明確、保険料率が低い限り経済への影響が少ないなどのメリットがあると説明する。
・もっともらしく聞こえるが、この説明にはほとんど理屈がない。「リスク」という言葉を使っているが、集めたお金を、子どもを持つ全世帯に配分するだけであり、リスクをプールするものではない。これが保険になるのであれば、生活保護、教育格差などあらゆるリスクに対して税金ではなく保険料で対応すべきことになる。保険料は所得課税の一種であるが、法人税や個人所得税などの所得課税は、消費課税と比べて経済に対してマイナスの影響が大きいことは経済学的に立証されている(貯蓄に対してマイナスの影響を与えるから)。子どもを持たない世帯には負担だけを求めて給付がないので、負担と給付の関係は何ら明確ではない。「全世代型」と言いながら、高齢者には保険料の負担を求めないのは全く矛盾している。最も大きな問題は、保険料の逆進性が強いことである(所得の高い人ほど負担割合が少ない)。
▽不公平な社会保険制度の実態
・社会保険料の逆進性を説明する。図1は、年金保険料の所得に対する負担率を所得階級別に見たものである。第1号とは国民年金保険加入者、第2号は厚生年金保険加入者(事業主負担を除く)である。第2号は、900万円程度までは、負担率は所得に対して定率であるが、それを超えると逆進的になる。これは月収が約60万円(28年10月分以降の水準)を超えると、保険料が頭打ちとなり、所得がいくら増えても保険料は増えないからである。第1号は、極めて逆進性が強い。国民年金保険料は、原則として、所得に関わらず、1人1月1万6,490円(29年度)と定額だからである(低所得者への減免制度はある)。それゆえ国年加入者の半分弱(2014年度末で47.9%)が満額の保険料を払っていないのだ。なんと年収が200万円でも1億円でも保険料は同じである。 - See more at: https://tax.tkfd.or.jp/?post_type=article&p=314#sthash.t4SpHx4g.dpuf
・図2は、医療保険の負担率を示しているが、医療保険料は、サラリーマンの負担も逆進的である。それは、大企業の健康保険組合加入者の所得は高い一方で保険料率が低いからである。市町村が運営する国民健康保険料は、所得割に加えて加入者均等割りなどがあり、逆進性が強い。国年と同様に滞納や減免が多く、決められた保険料を納めていない者が4割にも達する。ここでは省略するが、雇用保険や介護保険も逆進的である。消費税も逆進的であるが、所得税・住民税と併せて見れば、所得に対して累進的である。
・ 政府は、「国民皆年金」とか「国民皆保険」と言っているが、国年などで4割も保険料を払っていない現実を見れば、それは欺瞞であることがわかる。
・厚労省は、保険制度は給付と負担がリンクするので規律が働き、自律自助の仕組みであると説明するが、これも実態とは全く違う。基礎年金、国民健康保険、後期高齢者医療制度、介護保険などには、一般財源と他制度からの移転財源(特にサラリーマンが払う保険料)が大量に投入されており、負担と給付がリンクしていない。国保などは、保険料が歳入全体の2~3割程度に過ぎない。これは主に低所得者を助けるための再分配であるが、問題は、負担のルールが加入する保険制度によって異なるため不公平であること、貧しい若者が豊かな高齢者を支えていることである。
・例えば、基礎年金の半分は一般財源で賄われているが、非正規の若者が払った消費税が上場企業のOBの基礎年金に充当される一方、彼らは保険料を十分に納めていないので、年金給付は少ない。これが公平と言えるだろうか。
・日本はこれまで小さな政府と言われてきたが、年金や医療など社会支出は、対GDP比約24%に達している(2011年、OECD統計)。これはイギリスやオランダなどと同様の水準である。社会保障にお金を使っている一方で、日本の貧困率や格差はOECD諸国の中でアメリカに次ぐ高い水準となっている。費用対効果が悪いのだが、その主な理由は、先ほど説明した社会保険制度にある。こうした社会保険制度の実態を考えれば、こども保険で更に保険料を徴収することがいかに問題かがわかるだろう。
▽教育や保育は一般財源で
・こども保険の問題を指摘したが、教育や保育を今のままでよいと言っているわけではない。最近の実証研究により、教育効果を高めるためには高等教育では遅く、幼少期の教育が子どもの将来の能力を左右することがわかっている。他方、近年格差や貧困などで子どもを取り巻く環境は厳しい。特に、親の学歴や所得が低いことから、その子どもが十分な教育を受けられず低所得にとどまる「貧困の連鎖」は深刻な問題である。
・貧困の連鎖は断たなければならないが、果たして、こども保険のような補助金による一律的な負担軽減がそれに効果的だろうか。そもそも、児童手当への加算なので、幼児の教育・子育てに使われる保証は何らない。教育は、学校だけの問題ではなく、家庭や地域環境などが複雑に影響する。単にお金を出せば教育格差が是正できるとは思えない。北欧のように国民が高負担を許容するのであれば無償化も一案であるが、その前提がなく財源が限られている日本では優先順位を考えなければならない。
・こども保険は、「子どもが必要な保育・教育等を受けられないリスクを社会全体で支える」、「幼児教育・保育の負担を軽減する」などと説明しているが、教育・保育の一体何が問題で、それをどうすれば解決できるのか、具体的な説明は全くない。無償化は手段であり目的ではない。兆円単位の保険料を国民に新たに負担させて事業を実施するには、最初の提案としても、あまりに無責任だ。
・教育・保育の財源は、逆進性の強い保険料で賄うのではく、一般財源によって賄うべきである。税金であれば、基本的には、所得に応じた負担となる。こども保険を提案した自民党の小委員会の議員に申し上げたいのは、まずは政府の中で教育・保育に予算を重点化するように関係者を説得するとともに、国民の理解を得るように努力することだ。予算の配分は政治そして国民の政策の選好を表しており、これを変えることこそが政治の仕事である。小委員会の報告書でも、「社会保険料を横断的に議論する新たなフレームワークを設定し、医療介護の給付改革とこどものための財源確保を同時に進める」と指摘している点は評価できる。まさに保険料の逆進性の問題を国民に説明し、財源確保に努めてほしい。
・OECDの最近のレポート(FOCUS on Inequality and Grwoth,2014)によれば、格差の拡大(1985~2005年)によって、1990~2010年の間に成長率が累積的に低下しているという。日本の成長率の低下幅は約5%になっている。それは、貧困によって教育などの人的投資が不十分なことに起因している。
・少子高齢化が進む日本において教育や保育の重要性は論をまたないが、他方で、厳しい予算制約や教育は家庭の責任という考え方が強い国民意識がある中で、何をすべきか真剣に議論する必要がある。教育は一律的な財政支援で効果が出るとは思えない。同じお金を使うならば、例えば、家庭で自立的に学習するためのきめ細かい指導、放課後や夏休み期間中の補修、母子家庭への様々な支援、保育士の待遇改善などの方が効果的ではないか。
・端的に言って、今般のこども保険は、見かけは美しいが、国民に兆円単位の負担増を求めて何を達成するのか曖昧で、かつその負担方法が逆進的である。こども保険はこどもをだしにした選挙目当てのばらまき政策と言ってもよいだろう。選挙を左右する高齢者には負担を求めないことがその証左だ。 - See more at: https://tax.tkfd.or.jp/?post_type=article&p=314#sthash.t4SpHx4g.dpuf
https://tax.tkfd.or.jp/?post_type=article&p=314

土居氏は、『「教育無償化」は利害が錯綜し予算拡大志向』として、「教育国債」には後ろ向きで、さらに 『高等教育を無償化する前に、大学が学生の素質を伸ばす教育を行える改革に本腰を入れて取り組むべきだろう』、と指摘しているが、この点はその通りだ。ただ、「こども保険」には前向きのようだ。
上野氏は、「教育国債」の問題点を具体的に指摘しており、その通りだと思う。
田中氏は、「こども保険」を、 『こどもをだしにした選挙目当てのばらまき政策』、として徹底的に批判している。 『教育・保育の財源は、逆進性の強い保険料で賄うのではく、一般財源によって賄うべきである』、というのは正論だ。こうした筋の良くない政策が、自民党で大手を振って議論されているとは、困ったものだ。新聞などの報道も通り一遍で、問題点が明瞭になっていないのも困ったものだ。
タグ:人口減少トレンドを放置したままでは、メリットに限界 赤字国債の一部について教育予算として使途を特定するとともに、財政健全化を目標とした国債発行抑制の枠から外したいという下心が透けて見える 集めたお金を、子どもを持つ全世帯に配分するだけであり、リスクをプールするものではない。これが保険になるのであれば、生活保護、教育格差などあらゆるリスクに対して税金ではなく保険料で対応すべきことになる 問題点4 大学の淘汰が進みにくくなる 「こども保険」は財源を先送りしない 「2020年以降の経済財政構想小委員会」 自民党の財政再建に関する特命委員会 教育や保育は一般財源で 小泉進次郎小委員長代行 「あれも必要」「これも必要」では、借金が膨らむだけ 問題点3 子の世代へ教育費負担を「ツケ回し」 「こども保険」と「教育国債」は、何が違うのか どちらを優先し、どう費用を負担するのか 東洋経済オンライン 問題点2 大学などに進学するか否かで不公平が発生 問題点1 財政事情がさらに悪化 「【寄稿】こども保険の怪~教育・保育の充実に名を借りた格差拡大策だ こども保険のどこが「保険」か 現在の社会保険料がいかに逆進的で問題があるかを理解していない 東京財団 税・社会保障調査会 土居丈朗 (その4)(「こども保険」、「教育国債」) 田中秀明 「教育国債」は赤字国債の一類型にすぎない 憲法改正論議を加速させようとする狙いも 「教育国債」は大学などの高等教育の無償化に必要な財源を国債発行で賄うというものである 日本維新の会が憲法改正による教育の無償化を主張 難点が多すぎる「教育国債」というアイデア 財政事情の悪化、世代間の不公平などの懸念も 日経ビジネスオンライン 上野泰成 安倍政権の教育改革 本来であれば一般財源(税)で賄うべきところ 最も大きな問題は、保険料の逆進性が強いことである 不公平な社会保険制度の実態 「教育無償化」は利害が錯綜し予算拡大志向 増税よりは毎年の社会保険料の引き上げのほうを是認する国民が多いということに鑑みた政治的な判断 高等教育を無償化する前に、大学が学生の素質を伸ばす教育を行える改革に本腰を入れて取り組むべきだろう 高等教育の無償化は大学経営の救済策と誤解されかねない こども保険は幼児教育・保育の無償化が目的であり、そもそも疾病や長寿といったリスクをプールするものではなく、保険とは名ばかりだ 「全世代型」と言いながら、高齢者には保険料の負担を求めないのは全く矛盾している 大学が過剰 私立大学の30%弱は、学生の就職率が80%以下 私立大学の約45%は、学部単位でなく大学単位で定員割れを起こしている 教育財源確保に関する議論では「教育国債」という案が出ており、「こども保険」にはその対案という意味合いがある 厚生年金加入者には保険料率を0.2%(本人負担0.1%、事業主負担0.1%)上乗せし、国民年金加入者には保険料を月160円加算する形で財源を徴収 こども保険はこどもをだしにした選挙目当てのばらまき政策と言ってもよいだろう 幼児教育無償化の財源を社会保険料で賄う「こども保険」を創設する提言 教育・保育の財源は、逆進性の強い保険料で賄うのではく、一般財源によって賄うべきである
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