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暗号通貨(仮想通貨)(その2)(メガバンクの仮想通貨、成功のカギは他行への送金コスト、「値上がり期待」だけの仮想通貨ブームの不健全、ビットコインは中銀の終わりの始まりか) [金融]

暗号通貨(仮想通貨)については、2月25日に取上げたが、今日は、(その2)(メガバンクの仮想通貨、成功のカギは他行への送金コスト、「値上がり期待」だけの仮想通貨ブームの不健全、ビットコインは中銀の終わりの始まりか) である。

先ずは、早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄氏が5月11日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「メガバンクの仮想通貨、成功のカギは他行への送金コスト」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・メガバンクが発行する仮想通貨を一般の人々が使える日が近づいている。これが広く使われるようになれば、社会に大きな影響を与えるだろう。以下では、それが成功するための条件は何かを検討する。最も重要なのは、他行預金保有者への送金コストをどれだけ低くできるかだ。この点でビットコインと競争するためには、変動価格制を導入する必要があると思われる。
▽銀行が独自に仮想通貨発行 来春から一般の利用に
・三菱東京UFJ銀行が、今年の5月1日から独自の仮想通貨「MUFGコイン」の実証実験を始めると、4月30日付の朝日新聞が伝えた。読売新聞なども同じニュースを伝えた。 それによると、5月に役員ら200人で始め、年内で全行員約2万7000人が行員同士の送金や行内のコンビニでの支払いなどに使えるようにする。  そして、来春には一般向けに発行する方向だ(これまでは今秋としてきたが、先送りした)。
・もし一般の人が使えるような仮想通貨が発行されれば、世界で最初のケースとなる可能性がある。それが広く使われるようになれば、日本の通貨と金融の世界は大きく変わるだろう。通貨・金融にとどまらず、経済活動全体に大きな影響を与えると考えられる。
・<どれだけ広い範囲での送金に使えるか> これが成功するかどうかについて、いくつかのポイントがある。 第1は、どれだけ広い範囲での送金に使えるかだ。 ビットコイン型の仮想通貨の場合には価格が変動するので、値上がり益を期待して保有することもかなりある。つまり、取引に使えなくても、ビットコインを保有する需要はあるわけだ。 ところが、メガバンクの仮想通貨の場合には価格が固定されているので、保有しているだけでは意味がない。送金に使って初めて意味がある。 その場合、限られた数の保有者の間で割り勘の清算のようなことをしているだけでは意味がない。 さまざまな相手への支払い手段として使えて初めて利用価値が高まる。
・<取引コストをどこまで下げられるか> 成功のための第2の条件は、取引コストだ。これには、いくつかの側面がある。 第1は、現実通貨からの入金コストである。現在でも、ビットコインの取引所が指定した銀行からの入金であれば、ビットコインを購入する手数料はゼロである。MUFGコインの場合も、三菱東京UFJ銀行の預金を用いて購入するのであれば、多分手数料はゼロに設定されるだろう。 なお、ビットコインの場合には価格変動が激しいので、ビットコインで受け取った後、直ちに現実通貨に転換することが要請される場合がある。しかし、MUFGコインの場合は、価格変動がないので、コインのまま保有していても、損失を被る危険はない。
・第2のコストは、仮想通貨の送金コストだ。前回述べたように、現在でも、同一取引所の異なるアカウント間のビットコイン送金であれば、手数料ゼロのサービスが提供されている。MUFGコインの場合も、MUFGのウォレット(仮想通貨用の口座)間の送金であれば、多分、手数料はゼロに設定されるだろう。 ただし、大量の送金要求による攻撃からシステムを防御するために、ごくわずかの手数料を課す可能性もある。
▽普及のカギを握るのは他行の預金者への送金
・ところで、当然のことながら、MUFGのウォレット間の送金(つまり、三菱東京UFJ銀行の預金口座保有者間の送金)だけでは、利用価値は限定されたものとなる。 他行口座保有者への送金も可能とされなければならない。この場合のコストはどうなるだろうか? これが、第3のコストである。 以下で述べるように、このコストがどの程度の水準になるかが、最も重要だ。それは、他行預金保有者への送金をどのようなシステムで処理するかに依存している。
・他行預金保有者へ送金する仕組みとしては、まず、MUFGコインを円に転換して三菱東京UFJ銀行の口座に出金し、それを他行に口座振替で送ることが考えられる。しかし、これでは、現在のシステムとほとんど変わらないものになってしまう。 送金のコストは、現行の他行送金コストとなるので、かなり高くなる。  これでは、仮想通貨を用いる意味はない。ビットコインとの競争で勝つことはできないだろう。
・<他行預金保有者への送金コストで、利用者の範囲が決まる> 以上で述べた2つの問題(利用者の範囲とコスト)は、密接に関連している。 なぜなら、同一銀行のウォレット間であれば、コストをかなり低くすることも可能だが、それだけでは利用価値がない。利用価値を高めるには、他行のウォレットへの送金が可能である必要があり、そうした取引がなされるためには、そのコストを低める必要があるからである。
・冒頭に述べた新聞報道によれば、三菱東京UFJ銀行の実証実験は、主として同行内での取引にかかわるものであるように思われる。そのことは大事だが、本当に重要なのは、他行との取引なのだ。他行との関係をどのようなものとするか、それが最大の問題である。 言うまでもなく、これは三菱東京UFJ銀行だけでコントロールできる問題ではない。
・<他行も仮想通貨を発行する必要> 他行預金保有者への送金問題を解決するには、他行も仮想通貨を発行している必要がある。そして、MUFGコインを他行コインに交換できるようにする必要がある(受け取り者は、それを円に転換して、自分の銀行口座に出金する。あるいは、コインを持ったままでもよい)。 そうすれば、コストを現行より引き下げられるだろう。また、利用時間等の面でも、現在より使いやすくなるだろう。  時間がたてば、そうしたことになるだろう。実際、みずほフィナンシャルグループも三井住友銀行も、仮想通貨を発行する計画を持っている。ただし、そのタイムスケジュールはまだはっきりしない。
▽最大の問題は仮想通貨間の交換手数料
・最大の問題は、仮想通貨間の交換の手数料がどうなるかだ。 この問題は、仮想通貨の価格について固定価格制を取るかどうかに依存する。 現在考えられているように固定価格制を取ると、日銀ネットを用いて、現在の銀行間決済と同じ仕組みで、銀行間で資金を移動させることが必要になる。
・そうなる理由を説明しよう。 その前に、現在の銀行間の口座振替を見よう。A銀行とB銀行があるものとし、A銀行からB銀行への振り込みが、その逆の取引よりも多かったとしよう。その場合、A銀行の預金残高は減り、B銀行の預金残高が増える。これは、A銀行が日本銀行に持つ当座預金の残高が減り、B銀行の当座預金の残高が増えることによって行なわれる。この取引は、日本銀行が運営する日銀ネットによって行なわれる。
・仮想通貨を用いる場合も、これと同じことだ。 銀行が発行する仮想通貨は、銀行にとって負債である。預金者が預金を用いて仮想通貨を買うと、銀行のバランスシートで、預金が減って同額だけ仮想通貨が増える。 A銀行の仮想通貨保有者が、これをB銀行の仮想通貨に交換して、B銀行の預金保有者への支払いにあてるとする。受け取り者は、仮想通貨をB銀行の預金に出金するとしよう。すると、B銀行の預金が増える。 結局、A銀行の預金残高が減り、同額だけB銀行の預金残高が増えるわけだ。これは、現在の銀行間の口座振替と同じように、日銀ネットで処理される。
▽変動相場制にすれば コストを下げられる
・変動価格制であれば、価格が調整して、B銀行仮想通貨に対する需要とA銀行仮想通貨に対する需要は同じ額になる。だから、資金を銀行間で移動させる必要はない。しかし固定価格制では、B銀行の仮想通貨に対する需要がAの仮想通貨への需要より多いという場合が生じ、すでに述べたように銀行間の資金移動が必要となり、日銀ネットに依存せざるをえなくなるのだ。 現行のシステムを使うため、手数料の引き下げには限界があるかもしれない。
・この手数料がどの程度になるかが、仮想通貨利用者数に影響するだろう。 もしこの手数料が1%を切れば、クレジットカードの場合より安くなる。また、前回述べたことを参照すれば、ビットコインよりも有利になる可能性もある。そうなれば、多くの人が銀行の仮想通貨を導入し、利用が拡がるだろう。しかし、そうしたことになるかどうか、現在のところ、判断ができない。 銀行が発行する仮想通貨が成功するかどうかは、この点にかかっている。
・<仮想通貨の取引ができるためには変動価格制がよい> この問題は、外国為替取引の場合と同じである。固定為替レート制において日本とアメリカを考えた場合、貿易収支で日本がアメリカに対して黒字を記録すれば、資本収支においてアメリカから日本に資金を移動させることが必要になる。  しかし、この問題は、変動価格制にすれば回避することができる。日本の黒字が大きくなれば、円高になって貿易収支が縮小するからだ。
・異なる銀行の仮想通貨は、理想的には、外国為替の変動相場制と同じように、変動価格で交換できるようにすべきだ。 つまり、現在のビットコインとその他の仮想通貨の交換と同じようにする。そうすれば、日銀ネットのような銀行間送金システムに依存する必要がなくなり、完全に仮想通貨の世界の中で取引が行なわれる。そして上述の手数料は、かなり引き下げられる。 なお、メガバンクの仮想通貨の場合には、価格を変動させたとしても、相対価格はそれほど大きく変動することはないだろう。 ただし、円との間の相対価格はかなり変わる可能性がある。これはメガバンク仮想通貨の供給スケジュールがどのようになるかに関連しているので、供給スケジュールを調整することによって、価格変動を抑えることができるかもしれない。
http://diamond.jp/articles/-/127468

次に、上記記事の続きとして、同氏が7月6日付けダイヤモンド・オンラインに寄稿した「「値上がり期待」だけの仮想通貨ブームの不健全」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ビットコインなどの仮想通貨の価格が暴騰している。多くの人が仮想通貨を保有するのは、顧客や利用者が増えるほど価値が高まるネットワーク効果の観点から望ましいことだ。 しかし、日本の場合には、「値上がり期待」での購入がほとんどだと考えられる。仮想通貨の価格変動は激しく、暴落の危険もあることに注意が必要だ。
▽価格高騰、昨年初めの6倍に 日本での購入増が原因
・今年1月5日の本欄で、「2017年は仮想通貨とブロックチェーンの年になる」と述べた。実際にその通りのことが起きている。 ビットコインの価格は、今年初めには1BTC=1000ドル程度だったが、6月11日には2962ドルまで上昇した。昨年1年間で2倍以上に値上がりしたので、昨年初めから見ると6倍程度に値上がりしたことになる(図表1参照)。 このような値上がりを示す金融資産はめったにないから、強い関心が集まるのも当然のことだ。
・これまでビットコインの価格が上昇したのは、中国での購入増加によることが多かった。しかし、今回の価格上昇は、日本での購入増加によるものといわれる。その原因は、資金決済法によって仮想通貨に一定の地位が認められたことだとされている。 このような仮想通貨ブームをどう評価すべきだろうか?
・私は、多くの人が仮想通貨に関心を持ち、仮想通貨を保有すること自体は、歓迎すべきことだと思う。 なぜなら、それによって通貨としての仮想通貨の利便性が増すからだ。通貨が通貨として機能するには、多くの人が受け取ってくれないといけない。そして、受け取り手が増えるには、多くの人が保有していることが必要だ。 通貨に関しては、このような「ネットワーク効果」が非常に顕著に働く。
・これまでの日本では、人々が保有していなかったから、仮想通貨を受け入れる店舗が少なかった。そして、受け入れる店舗が少ないから、人々は保有しなかった。このような悪循環に陥っていたのだ。 この状態が、いま変わろうとしているのである。 後で述べるように、現実の経済における仮想通貨のシェアは、著しく小さい。これが変わることが期待される。
▽暴落があり得るこれだけの理由 需要面の変動のみで決まる価格
・しかし、この数ヵ月間の日本の「仮想通貨ブーム」を全面的に肯定するわけにはいかない。 なぜなら、多くの人の購入動機は、「送金手段として用いること」ではなく、「値上がり待ちでの保有」にあると考えられるからだ。 この事態に対しては、警告を発する必要がある。
・日銀券などの現実の通貨では、金融政策によって通貨の供給量が調整される。外国の通貨に対する価格(為替レート)があまりに大きく変動した場合には、当局が為替市場に介入して安定化を図る。 それに対して、ビットコインを含めて多くの仮想通貨の供給のスケジュールは、あらかじめ決められている。 供給スケジュールが決められているので、ビットコインなどの仮想通貨の価格は、需要面の変動のみによって決まる。これが現実の通貨や株式などと大きく違う点だ(注)。 (注)供給スケジュールが固定されているのは、ビットコイン型の仮想通貨の特徴であり、すべての仮想通貨がそうであるわけではない。例えばメガバンクが発行する仮想通貨の場合、発行量は変動し、価格が円に対して固定されるようになると考えられる。価格が固定されるので、値上がりを目的とする人は、メガバンク発行の仮想通貨に関心を持たないかもしれない。
・供給を調整できる場合に比べて、ビットコインの価格変動は、大きくなるのである。 また、仮想通貨の残高は、現実の通貨に比べると、非常に少ない。これも、価格変動を大きくする要因だ。 また、仮想通貨の場合、どこが適正な価格かについて、指標がない。これも、これまでの資産と違う点だ。
・株価や土地であれば、将来発生する収益の予想値を適切な割引率で現在の価値に直したものが、適正な価格の基準であると考えられる。これが、現実の価格を評価するメドあるはアンカー(よりどころ)になる。  しかし、ビットコインの場合には、こうした基準は考えられない。 ビットコインの適正価格がどのくらいかについての試算が、いくつか行なわれたことがある。しかし、多くの仮定に基づいた計算にすぎず、あまり当てにならない。
・さらに、ビットコインの場合には、差し迫った問題として、「スケーラビリティ(拡張性)とハードフォーク(強制的分岐)の問題」がある。これはやや技術的な問題だが、重要だ。これについては、別の機会に述べる。  以上のような事情があるので、ビットコインの価格暴落は十分に起こり得る。 そうなると、日本人の関心が一挙に冷えてしまうかもしれない。そして、2014年頃にそうであったように、ビットコインを危険なもの、胡散臭いものとして遠ざけてしまうかもしれない。
・そうなれば、ネットワーク効果が逆向きに働き、ビットコインを送金に用いる動きがストップしてしまうかもしれない。こうした事態が起こることが危惧される。 なお、ビットコイン型の供給スケジュールが望ましいという意見もある。例えば、経済学者のミルトン・フリードマンは、マネーストックの伸び率は一定値に固定すべきだと主張した。
▽ビットコインを使った新しいビジネスに関心が向かうべきだ
・しばしば、「仮想通貨には価値の裏づけがない」と言われる。しかし、送金のコストが安く、全世界にほぼ瞬時に送金できるということの意味は、非常に大きい。それこそが、仮想通貨の価値を支えているものだ。  そうした機能を多くの人が認め、関連サービスが数多く供給されるようになれば、仮想通貨の価値はさらに上昇する。
・ビットコインの送金コストの大部分は、現実通貨との交換を行なう際に生じる。仮にビットコインの利用者が広がり、「ビットコイン経済圏」が形成されれば、現実通貨への交換は必要なくなるから、コストはさらに低下する。 われわれは、このような方向を目指すべきだ。
・ところが、先に述べたように、日本ではどれだけ値上がりするかに関心が集まっており、ビットコインを使ってどのような新しいビジネスができるかといったことに議論が進まない。これは残念なことだ。 技術開発や新しいサービスの開発は他国に任せ、それによる利便性の向上をビットコイン価格上昇という形で待つだけでは、いかにも情けないではないか。日本もビットコインシステムの発展に貢献することを考えるべきだろう。
・もし仮想通貨としてビットコインしか存在せず、かつ、人々が送金手段としての優れた特性を認めたとする。その場合、ビットコインの供給スケジュールでは,供給量の増加が4年ごとに半減していくので、価格は上昇するだろう。この価格上昇は、健全なものだ。 ただし、仮想通貨はビットコインだけではない。さまざまな仮想通貨間の激しい競争がある。また、メガバンクや中央銀行が仮想通貨を発行すれば、ビットコイン型仮想通貨の競争相手になるだろう。だから、ビットコインの価格がどうなるかは分からない。
▽日本での時価総額は3000億円 通貨としての比重はまだ非常に低い
・現実の通貨に比べれば、仮想通貨のウエイトは、まだ非常に低い。 図表2や図表3に示すように、ビットコインの時価総額は、約400億ドル(=4.5兆円程度)だ。これは全世界での数字である。日本の国民総生産(GDP)は世界のGDPの約6.5%なので、この割合で計算すれば、日本では約3000億円ということになる。  それに対して、通貨残高は、日銀券だけで約100兆円である(日本銀行調査統計局、マネタリーベース参照)。3000億円に比べれば、300倍以上ある。まるで比較にならない。
・日本銀行が今年の2月に発表した「決済動向(2017年1月)」によると、電子マネーの決済額が2016年に、はじめて5兆円を突破した。 発行枚数は3億2862万枚、残高は2541億円となっている(なお、1件当たり決済金額は991円)。 このデータは、プリペイド方式のうちIC型の電子マネーが対象となっている。具体的には、楽天Edy、Suicaなどの交通系、WAON、nanacoだ。なお、交通系については、乗車に利用されたものは含んでいない。 
・プリペイド方式の電子マネーは1回使えば発行者に回収されてしまうため、転々流通する仮想通貨の場合の「残高」とは意味が異なるのだが、単純に比較すれば、ビットコインの残高は、電子マネーの残高とほぼ同じレベルにまで成長していると言える。
http://diamond.jp/articles/-/134335

第三に、日銀出身で早稲田大学院教授の岩村充氏が6月19日付けロイターに寄稿した「オピニオン:ビットコインは中銀の終わりの始まりか=岩村充氏」を紹介しよう(▽は小見出し)。
・ビットコインは、その設計上の限界から、仮想空間における最大の貨幣ソリューションとはなり得ないものの、「枯れた技術」を用い、国家や中央銀行が支配する通貨の世界に、独自の生態系を作り出して見せた点において、「コロンブスの卵」と呼べる存在だと、岩村充・早稲田大学大学院教授は語る。
・今後、追随する他のソリューション(アルトコインやデジタル銀行券)が、現在のビットコインに足りない「価値安定」に力を入れていけば、将来的に中銀による通貨発行の独占が崩れる可能性もあるという。 同氏の見解は以下の通り。
▽ビットコインの潜在力
・ビットコイン登場の最大の意義は、中銀の提供する通貨(銀行券)とは異質の「価値のよりどころ」を有する貨幣ソリューションが、仮想空間において存在し得ることを証明した点だろう。 実は、その要素技術自体は長年にわたって試されてきた「枯れた技術」だ。基本的には権利者確認に暗号技術を用い、権利量確定にブロックチェーン(分散型台帳)と呼ばれる仕組みを応用している。
・ただ、誰にでもできそうなことでも、最初に行うのは難しい。やってみせたら、アルトコイン(代替的コインを意味するalternative coin)と総称される追随者や模倣者が次々と現れたことが、ビットコインを「コロンブスの卵」たらしめている所以(ゆえん)だろう。 通貨としてのビットコインの強みは、独自の価値の源泉を持っていることだ。Suicaなど、いわゆる「電子マネー」とはそこが違う。電子マネーは、円やドルなどの既存通貨の価値の容れ物であり、新たに価値を作り出しているわけでない。一方、ビットコインは、そうした外からの価値の取り入れをせず、「マイニング(採掘)」と呼ばれる行為に価値の源泉を見いだしている。具体的には、取引の正しさを証明したマイナー(採掘者)には、その報酬として、新たなビットコインが与えられる。
・分かりやすく言えば、採掘費用が市場価格を作り出しているという意味では、ビットコインは金や銀に近い。ビットコインの場合、主な費用はマイナーの電気代と言えよう。銀行券が国家信用本位制ならば、ビットコインは電気代本位制とでも呼べるものだ。
・このように自ら価値の源泉を持つビットコインは、理論上、円やドルと同じように独立した金融システムを構築できることになる。決済用途だけでなく、金利が生じて預金や貸し出しに使うことも、SuicaのようにICチップ型電子マネーにすることも可能だ。冗談のような話だが、実物コインのような姿にして流通させることも難しくはない(実際、すでに実物を作った企業も存在する)。
▽「暗号通貨」の課題と限界
・ただし、今のビットコインの「出来の悪さ」では通貨として人々の信頼を維持することは難しいだろう。理由は、2100万BTC(ビットコインの通貨記号はBTC)の総発行上限に向かって生成速度が固定(4年に1度の割合で半減)された設計になっている点だ。 こうした硬直的な供給スケジュールの下では、ビットコイン価格が上がればマイナーが集まりマイニングが難しくなって価格がさらに上がり、下がればマイニングへの人気離散から価格がさらに下がるという意味での価値不安定化は避けられない。実際、すでに乱高下を繰り返している。
・設計者である「サトシ・ナカモト」の真意は分からないが、要するにビットコインは「投機向き」の資産なのだ。アルトコインとも呼ばれるビットコインの追随者たちが通貨の世界で存在感を高めようとするのなら、この出来の悪さを修正する必要がある。 なお、私は、ビットコインやアルトコインを「仮想通貨」と呼ぶのは適切ではないと考えている。プルーフ・オブ・ワーク(作業証明、POW)を伴うという共通項で言えばPOW型の通貨、あるいは「クリプト・カレンシー」という英語を直訳して「暗号通貨」と呼んだ方がすっきりする。
・円やドルもそうだが、通貨にはそもそも「仮想」の要素がある。仮想というのなら、法制度によって主要通貨との交換が可能とされる国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)をそう呼んだ方がずっとすっきりする。また、通貨供給量を増やせばインフレになるという主張などは、円やドルなどの通貨も、裏付けとなる価値実体を持たない、つまり「仮想」だと思っているようにも感じられる。それに対して、膨大な電気代の対価として生成されるビットコインは、ずっと実物貨幣に近い。
・ただ、マイニングを価値の裏付けにするPOW型の通貨には泣きどころもある。それは、金や銀と同じく、採掘コスト(この場合は電気代)が貨幣の供給費用そのものとなってしまうことだ。一方、銀行券は、国債その他の資産を中銀が買い入れるだけで発行される、いわば「ただ乗り」の信用貨幣だ。歴史の中でも、実物貨幣は信用貨幣に取って代わられてきた。同じことが、デジタル空間でも起こる可能性は高いだろう。
▽デジタル銀行券の可能性
・具体的には、デジタル化された銀行券が、ブロックチェーンによるP2Pネットワーク上でやり取りされるようになれば、ビットコインやアルトコインを押しのけていくのではないか。 ただ、ビットコインたちが今後も果たしていく役割を過小評価すべきではない。コロンブスの航海は、行き着いた先の米大陸の状況を一変させたが、同時に欧州の社会も大きく変えた。ビットコインたちも、既存の金融世界に対して同じ役回りを演じることになるだろう。
・その先には、円やドルをデジタル化してブロックチェーンで送るだけでなく、例えばA銀行が自社の資産を価値の源泉としてAマネーなるデジタル銀行券を発行するような時代も来るかもしれない。 突飛な発想に思われるかもしれないが、そもそも円やドルにしても、最初は金や銀に価値を紐(ひも)付けて出発したのだが、その後、金や銀とのひも付けを止めて、発行体である政府と中銀との関係性を価値の根拠とする信用貨幣として独り立ちしていった。例えば、1Aマネー=1円としてスタートしたデジタル銀行券も、Aマネーへの評価が定着したら、自らの信用だけに基づく貨幣へと発展することも可能だろう。
▽中銀の役割はどう変わっていくか
・かつてハイエクは、通貨を国家のコントロール下に置かず、その発行と流通に「競争」を導入すべきだとの考えを示したが、今まさにそうした可能性について頭の体操をすべき時だろう。 これまで国家は国民に対し、その地域的支配力によって強制的に自国の造幣局や中銀が発行する貨幣しか使用できないように強制してきた。ところが、ビットコインは、そうした通貨流通に対する国家の地域的支配力に風穴を開けてしまった。それはまだ小さな穴だが、徐々に広がっていく可能性が高い。
・無国籍通貨であるビットコインたちを規制するためには、世界政府が必要だが、それは夢物語だ。各国が懸命に規制で取引を制限しようとしても、穴をふさぐことはできないだろう。 また、銀行券をデジタル化して、ブロックチェーンで送るようになれば、少なくとも小口の決済や送金では、全銀システムはもとより、日銀ネットも不要になる。そうした決済システムを通じて業務を運営してきた中銀も、その影響力に限界を感じ始めることになるだろう。
・さまざまな通貨の選択肢がある世界では、中銀も現在のように、「インフレを起こす(通貨価値を下げる)から、今のうちに消費した方がいい」といった景気対策としての金融政策は志向しにくくなるはずだ。そのロジックは今の通貨発行独占でこそ通用するが、ハイエクが描いたような貨幣発行競争の下では、より価値の安定している他の貨幣ソリューションに人々は向かうはずだからだ。
・つまり、通貨の選択肢が増えれば、中銀は通貨の価値を貨幣保有者のために安定させるという「利用者本位の行動原則」に戻らなければならなくなる。ハイエクはその世界を主張していたのだと思う。
*本稿は、岩村充氏へのインタビューをもとに、同氏の個人的見解に基づいて書かれています。
*参考文献:岩村充著「中央銀行が終わる日 ビットコインと通貨の未来」(新潮社「新潮選書」)
 (聞き手:麻生祐司)
*岩村充氏は、早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。1974年東京大学経済学部卒。日本銀行企画局兼信用機構局参事を経て、1998年より現職。近著に「中央銀行が終わる日 ビットコインと通貨の未来」(新潮社「新潮選書」)。「電子マネー入門」(日本経済新聞社)「貨幣の経済学」(集英社)「貨幣進化論」(新潮選書)など著書多数。
http://jp.reuters.com/article/opinion-bitcoin-mitsuru-iwamura-idJPKBN19707N

野口氏の第一の記事で、 『他行預金保有者へ送金する仕組みとしては、まず、MUFGコインを円に転換して三菱東京UFJ銀行の口座に出金し、それを他行に口座振替で送ることが考えられる。しかし、これでは、現在のシステムとほとんど変わらないものになってしまう。 送金のコストは、現行の他行送金コストとなるので、かなり高くなる』、 『異なる銀行の仮想通貨は、理想的には、外国為替の変動相場制と同じように、変動価格で交換できるようにすべきだ。 つまり、現在のビットコインとその他の仮想通貨の交換と同じようにする。そうすれば、日銀ネットのような銀行間送金システムに依存する必要がなくなり、完全に仮想通貨の世界の中で取引が行なわれる。そして上述の手数料は、かなり引き下げられる』、との指摘は確かにその通りだが、現在想定されているMUFGコインは、「1コイン=1円」と固定価格となっているので、ここを変える必要があろう。
同氏の第二の記事で、 『日本ではどれだけ値上がりするかに関心が集まっており、ビットコインを使ってどのような新しいビジネスができるかといったことに議論が進まない。これは残念なことだ。 技術開発や新しいサービスの開発は他国に任せ、それによる利便性の向上をビットコイン価格上昇という形で待つだけでは、いかにも情けないではないか。日本もビットコインシステムの発展に貢献することを考えるべきだろう』、というのは正論である。
岩村氏の記事で、 『円やドルもそうだが、通貨にはそもそも「仮想」の要素がある。仮想というのなら、法制度によって主要通貨との交換が可能とされる国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)をそう呼んだ方がずっとすっきりする。また、通貨供給量を増やせばインフレになるという主張などは、円やドルなどの通貨も、裏付けとなる価値実体を持たない、つまり「仮想」だと思っているようにも感じられる。それに対して、膨大な電気代の対価として生成されるビットコインは、ずっと実物貨幣に近い』、との指摘はその通りだ。 『ただ、マイニングを価値の裏付けにするPOW型の通貨には泣きどころもある。それは、金や銀と同じく、採掘コスト(この場合は電気代)が貨幣の供給費用そのものとなってしまうことだ。一方、銀行券は、国債その他の資産を中銀が買い入れるだけで発行される、いわば「ただ乗り」の信用貨幣だ。歴史の中でも、実物貨幣は信用貨幣に取って代わられてきた。同じことが、デジタル空間でも起こる可能性は高いだろう。 具体的には、デジタル化された銀行券が、ブロックチェーンによるP2Pネットワーク上でやり取りされるようになれば、ビットコインやアルトコインを押しのけていくのではないか』との大胆な予測は、あり得るシナリオとして念頭に置いておく必要があろう。
タグ:暗号通貨 (仮想通貨) (その2)(メガバンクの仮想通貨、成功のカギは他行への送金コスト、「値上がり期待」だけの仮想通貨ブームの不健全、ビットコインは中銀の終わりの始まりか) 野口悠紀雄 ダイヤモンド・オンライン メガバンクの仮想通貨、成功のカギは他行への送金コスト 三菱東京UFJ銀行 MUFGコイン 来春には一般向けに発行する方向 どれだけ広い範囲での送金に使えるか 取引コストをどこまで下げられるか 普及のカギを握るのは他行の預金者への送金 他行預金保有者への送金コストで、利用者の範囲が決まる 他行も仮想通貨を発行する必要 最大の問題は仮想通貨間の交換手数料 変動相場制にすれば コストを下げられる 「「値上がり期待」だけの仮想通貨ブームの不健全 価格高騰、昨年初めの6倍に 日本での購入増が原因 これまでビットコインの価格が上昇したのは、中国での購入増加によることが多かった 今回の価格上昇は、日本での購入増加によるものといわれる。その原因は、資金決済法によって仮想通貨に一定の地位が認められたことだとされている 暴落があり得るこれだけの理由 需要面の変動のみで決まる価格 株価や土地であれば、将来発生する収益の予想値を適切な割引率で現在の価値に直したものが、適正な価格の基準であると考えられる。これが、現実の価格を評価するメドあるはアンカー(よりどころ)になる。  しかし、ビットコインの場合には、こうした基準は考えられない 日本ではどれだけ値上がりするかに関心が集まっており、ビットコインを使ってどのような新しいビジネスができるかといったことに議論が進まない。これは残念なことだ。 技術開発や新しいサービスの開発は他国に任せ、それによる利便性の向上をビットコイン価格上昇という形で待つだけでは、いかにも情けないではないか。日本もビットコインシステムの発展に貢献することを考えるべきだろう 日本での時価総額は3000億円 通貨としての比重はまだ非常に低い 岩村充 ロイター オピニオン:ビットコインは中銀の終わりの始まりか=岩村充氏 現在のビットコインに足りない「価値安定」に力を入れていけば、将来的に中銀による通貨発行の独占が崩れる可能性もあるという ビットコインは、そうした外からの価値の取り入れをせず、「マイニング(採掘)」と呼ばれる行為に価値の源泉を見いだしている。具体的には、取引の正しさを証明したマイナー(採掘者)には、その報酬として、新たなビットコインが与えられる。 円やドルもそうだが、通貨にはそもそも「仮想」の要素がある。仮想というのなら、法制度によって主要通貨との交換が可能とされる国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)をそう呼んだ方がずっとすっきりする 膨大な電気代の対価として生成されるビットコインは、ずっと実物貨幣に近い マイニングを価値の裏付けにするPOW型の通貨には泣きどころもある。それは、金や銀と同じく、採掘コスト(この場合は電気代)が貨幣の供給費用そのものとなってしまうことだ 一方、銀行券は、国債その他の資産を中銀が買い入れるだけで発行される、いわば「ただ乗り」の信用貨幣だ。歴史の中でも、実物貨幣は信用貨幣に取って代わられてきた。同じことが、デジタル空間でも起こる可能性は高いだろう デジタル化された銀行券が、ブロックチェーンによるP2Pネットワーク上でやり取りされるようになれば、ビットコインやアルトコインを押しのけていくのではないか さまざまな通貨の選択肢がある世界では、中銀も現在のように、「インフレを起こす(通貨価値を下げる)から、今のうちに消費した方がいい」といった景気対策としての金融政策は志向しにくくなるはずだ。
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