TPP問題(10)(「対中包囲網のはずが逆に乗っ取られる」中国がこのタイミングでTPP加盟を申請した狙い 日本は米国に早期復帰を求めるべき、中国のTPP加盟申請は本気 議長国日本の役割は「門前払い」か) [外交]
TPP問題については、2017年1月15日に取上げたままだった。中国、台湾の加盟申請を受けた今日は、(10)(「対中包囲網のはずが逆に乗っ取られる」中国がこのタイミングでTPP加盟を申請した狙い 日本は米国に早期復帰を求めるべき、中国のTPP加盟申請は本気 議長国日本の役割は「門前払い」か)である。
先ずは、9月27日付けPRESIDENT Onlineが掲載した法政大学大学院 教授の真壁 昭夫氏による「「対中包囲網のはずが逆に乗っ取られる」中国がこのタイミングでTPP加盟を申請した狙い 日本は米国に早期復帰を求めるべき」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/50292
・『中国、台湾が相次いで加盟を申請した背景は 9月16日、中国商務省は“環太平洋経済連携協定(TPP)”への加盟を、現在の事務国であるニュージーランドに正式に申請した。その背景には、中国が、日米豪印や欧州各国がインド太平洋地域での連携を強化する動きに揺さぶりをかける狙いがある。 一方、中国の加盟申請後の22日、台湾も加盟を正式に申請した。台湾は中国と対立している。両国の加盟申請によってTPP交渉は、中国・台湾の対立が持ち込まれ複雑化している。中国の申請によって、TPP加盟国の中に中国との関係を重視する国が増える可能性がある。それは、国際世論における台湾の発言力維持にマイナスだ。台湾はその展開への危機感を一段と強め、申請を急いだとみられる。 本来、米国のバイデン政権はTPPへの復帰を目指して、自由で公正な貿易、投資、競争に関する多国間連携の強化に取り組むべきだった。しかし、トランプ前政権の離脱以降、米国の対TPP姿勢がはっきりしない。中間選挙を控える中、バイデン政権が多国間の経済連携にエネルギーを振り向けることも難しい。 その状況下、本年のTPP議長国であるわが国は、是々非々の姿勢を明確に示してTPPの根本的な目的とルールを加盟国、米欧各国などと共有し、今後の交渉議論の環境を整えなければならない』、「中国」外交は実に巧みだ。
・『もともとは米国による”対中包囲網“だったが… もともと、TPPの目的は米国を中心にした中国包囲網の形成にあった。時系列で米国の対中姿勢を確認すると、2013年に米オバマ政権(当時)の国家安全保障担当大統領補佐官だったスーザン・ライス氏が米中の“新しい大国関係”を機能させる考えを表明した。それが中国に南シナ海での軍事拠点の建設など対外進出を強化する口実を与えたと考える安全保障などの専門家は多い。その後、フィリピンやベトナムなどが領有権をめぐって中国と対立し始めた。 中国の対外進出に直面したオバマ政権は、対中包囲網の整備に動いた。その象徴がTPPだ。オバマ政権はTPP交渉をより重視し、関税の撤廃、知的財産の保護、国有企業に関する補助金政策などに関して加盟国間でルールを統一し、より効率的、かつ公正な経済面での多国間連携を目指した。政府調達に関する内外企業の差別を原則認めないこともTPPに含められた。 米国にとってTPPは、経済を中心に安全保障面からも対中包囲網を整備し、自国を基軸国家として経済のグローバル化を進め、そのベネフィットを得るための取り組みだったのだ』、「オバマ政権のスーザン・ライス氏が米中の“新しい大国関係”を機能させる考えを表明した。それが中国に南シナ海での軍事拠点の建設など対外進出を強化する口実を与えた」、「中国の対外進出に直面したオバマ政権は、対中包囲網の整備に動いた。その象徴がTPPだ」、「オバマ政権」の対中政策のブレは酷いものだったと改めて思い出した。
・『なぜこのタイミングでの申請だったのか ところが、2017年1月に事態は一変した。トランプ前大統領がTPP離脱を表明した。それによって米国を基軸とする経済、安全保障面からの対中包囲網というTPPの性格は弱まった。その後、2020年11月に中国の習近平国家主席がTPP加盟を積極的に検討すると表明した。 TPPから離脱した米国は、日豪印との外交・安全保障の枠組みである“クアッド”を整備した。9月15日には、英豪と新しい安全保障の枠組みである“AUKUS(オーカス)”も創設した。 その直後に中国はTPP加盟を正式に申請することによって、安全保障面、外交、経済面で米国との関係を重視するアジア各国などに、自国の巨大な市場を開放する姿勢を示して揺さぶりをかけたい。マレーシアやシンガポールが中国の加盟申請を歓迎したのは、中国の影響力の大きさを示している。その上、9月22日には台湾がTPP加盟を正式に申請した。今、TPPは大きな変化の局面を迎えている』、「中国はTPP加盟を正式に申請することによって、安全保障面、外交、経済面で米国との関係を重視するアジア各国などに、自国の巨大な市場を開放する姿勢を示して揺さぶりをかけたい」、心難いばかりに巧みな外交だ。米国のお粗末な外交と好対照だ。
・『市場開放の姿勢を国際世論に印象付けたい 中国と台湾の対立は深まっている。イメージとしては、緊迫感が高まる台湾海峡のように、TPPは中国と台湾の対立激化の縮図と化している。 経済運営面から考えたTPPの意義は、多国間で競争などのルールを統一し、より効率的な生産要素の再配分を目指すことだ。しかし、中国が最も重視することは違う。それは、共産党政権の体制維持だ。そのために中国はTPP加盟申請によって国際世論を揺さぶりたい。 中国は思慮深く9月16日の申請タイミングを見定めたと考えられる。中国は簡単にTPP加盟が承認されるとは考えていないはずだ。それよりも、中国はTPP陣内に対中批判の考えを持つ国が増える前に申請を行い、切り崩しを図りたかった。 AUKUS創設の翌日である9月16日の申請は、中国が米国に対抗し、市場開放を進める姿勢を、より鮮明に国際世論に印象付けることに役立つだろう。また、その日は台湾の正式な申請前でもあった。米国の同盟国であるわが国の議長国としての任期も残り少ない。2022年には中国を歓迎したシンガポールがTPP議長国につく。国際世論に揺さぶりをかける、その上で2022年以降のTPP交渉環境を追い風にするために、9月16日はベストなタイミングとの判断が習政権にあったはずだ』、確かに「ベストなタイミング」での申請だ。
・『TPPが新たな中台対立の舞台に その結果、台湾は中国に先を越された。蔡英文政権が対中関係を重視する国が増える展開への不安をいっそう強めたことは容易に想像できる。中国がTPP加盟国を揺さぶり、結果的に切り崩される国が増えれば、国際社会の中で台湾の立場は一段と不安定化する恐れがある。その展開を阻止するために、台湾は急いで申請作業を進めただろう。台湾には、半導体分野などで連携を強化するわが国が議長国であるうちに申請し、今後の加盟交渉を勢いづける狙いもある。 今後、中国は経済面での結びつきが強い国に働きかけ、台湾との交渉に慎重に臨む、あるいは避けるよう求めるだろう。それに台湾は反発するだろう。対立が激化する中国と台湾が国際世論への働きかけを強める結果、TPP加盟国が経済運営ルールの統一と遵守などに論点を集中して加盟交渉に臨むことは難しくなるだろう』、「台湾」が「中国に先を越された」のは、重大な手落ちだ。
・『議長国日本は是々非々の姿勢で臨むべき 中国と台湾の対立が持ち込まれた結果、TPPは複雑化した。複雑化するTPPの論点を経済・安全保障面からの対中包囲網の整備に再度集中させるには、米国のTPP復帰が必要だ。今後のTPPの展開には、米国の復帰の可能性が高まるか否かが決定的な影響をもたらすだろう。 そのために、わが国は議長国としての残り少ない任期を活かすべきだ。わが国は議長国として多様な利害を調整しておかなければならない。ポイントは、TPPの当初の目的に基づき、全加盟国が合意したルールを堅持しなければならないという是々非々の姿勢をわが国が明確に国際世論に示し、賛同を増やすことだ。それは、今後のTPP交渉が議論される大まかな道筋を示すことと言い換えてもよい。台湾はそうした展開を期待しているだろう。 今後、中国は産業補助金など共産党政権の体制維持に関わる項目に関して、例外事項をTPP加盟国に認めさせようとするだろう。コロナ禍によって経済が傷ついたアジアや南米の新興国にとっても、例外措置の導入は魅力的に映る可能性がある』、「わが国は議長国としての残り少ない任期を活かすべきだ。わが国は議長国として多様な利害を調整しておかなければならない。ポイントは、TPPの当初の目的に基づき、全加盟国が合意したルールを堅持しなければならないという是々非々の姿勢をわが国が明確に国際世論に示し、賛同を増やすことだ」、その通りだ。
・『米国の復帰を求め続けなければならない ただし、TPP加盟交渉は全会一致でなければ正式に開始されない。オーストラリアやわが国の存在を考えると、中国の揺さぶりがすぐにうまくいくとは考えにくい。しかしながら、やや長めの目線で考えると、マレーシア、来年の議長国のシンガポールなどの歓迎姿勢によってTPPのルールや制度が変化、弱体化する恐れはある。 そうした展開を念頭に、わが国は中国が求めるだろう例外事項の設定を受け入れない姿勢を明確に国際世論に示す。その上で、既存の加盟国にとどまらず、世界経済のサプライチェーンと成長面で重要性が増すアジア新興国、米国、欧州各国などとTPPの意義を共有すべく連携を目指す。それはTPPの目的とルールの堅持と、それを尊重する加盟申請国との交渉進行を支える。 それに加えて、わが国はバイデン政権や米国の経済界にTPPの意義を伝え、復帰を求め続けなければならない。それが経済、安全保障面からの対中包囲網や加盟国の競争、雇用などのルール統一というTPP本来の目的の発揮と、中長期的なわが国経済の安定と実力の向上に欠かせない』、「わが国はバイデン政権や米国の経済界にTPPの意義を伝え、復帰を求め続けなければならない。それが経済、安全保障面からの対中包囲網や加盟国の競争、雇用などのルール統一というTPP本来の目的の発揮と、中長期的なわが国経済の安定と実力の向上に欠かせない」、その通りだ。
次に、9月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの山田厚史氏による「中国のTPP加盟申請は本気、議長国日本の役割は「門前払い」か」を紹介しよう。
・『中国、台湾が相次いでTPP加盟を申請 環太平洋経済連携協定(TPP)に中国が正式に加盟を申請した。 音頭とった米国が国内の風向きが変わって離脱。主役不在の間隙を突く中国の動きに議長国・日本はうろたえる。 中国の動きを見て台湾も加盟を申請し一段と対応は難しくなった。 「中国にTPPは無理だ」「米国を牽制する政治的アクションではないか」などと本気度を疑う見方が少なくないが、自ら主導してRCEP(地域的な包括的経済連携協定)とTPPを合体させ、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)へと発展させる大きな戦略があるという。 アジア太平洋を舞台に、自由貿易よりも中国封じ込めを狙った安全保障の枠組み作りが進む中で、地域の安定を考えればTPPで中国を「門前払い」をすることが得策なのかどうか。 国内に目を向ければ、自民党総裁選ではどの候補からも骨太なアジア太平洋戦略は聞こえてこない。米中の間で日本はどう針路を取るのか。新政権には待ったなしの課題のはずだ』、「自民党総裁選ではどの候補からも骨太なアジア太平洋戦略は聞こえてこない」、寂しい限りだ。
・『日本は「真剣に受け止めていない」 政府系の中国研究者が警告 中国が「TPP加盟申請」を発表する直前、日本政府に警鐘を鳴らす論文が発表されていた。 「中国のCPTPP参加意思表明の背景に関する考察」(9月11日)と題して、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)の政策レポートに載った40ページの論文だ。 「中国側の本気度とTPP枠組みを主導した日米の受け止め方には落差がある」と冒頭から問題を提起。「TPP枠組みの要求する内容は中国の体制と矛盾する項目が多いと考えられているため、実現の可能性が極めて低いアクションであるという予見があり、真剣に受け止めていない印象がある」と、政府のゆるい姿勢に疑問符を投げかけた。 RIETIは経産省の外郭団体、筆者は中国経済を専門とする渡辺真理子学習院大教授ら4人で、TPP参加へと動く中国の真意や問題点を分析している。 習近平主席が昨年11月、「TPP加盟を積極的に検討する」と表明したとき、政府もメディアも半信半疑だった。 「閉鎖的で統制だらけの中国がTPPに加入するのは難しい」「日米主導で進むアジアでの貿易や投資の枠組み作りに揺さぶりをかけているのだろう」という見方が支配的だった。 RIETI論文は、こうした見方を退け、「オバマ大統領がTPP12の締結に動き始めると、中国は独自のイニシアティブをスタートすると同時に、米国の動きに沿うような調整も行う、二面作戦に出ていた」と指摘。 TPPに対して入念な準備作業を進めてきた中国の取り組みを紹介している』、「TPPに対して入念な準備作業を進めてきた中国の取り組みを紹介」、初めからヘソを曲げていたと思っていたが、「二面作戦」で「入念な準備作業を進めてきた」とは初めて知った。
・『アジア太平洋の自由貿易圏作り 外圧テコに国内改革目指す 「独自のイニシアティブ」とは一帯一路構想だ。中央アジア・中東から欧州へと進む膨張政策である。 そしてもう一つの「米国の動きに沿うような調整」は、自由貿易・開放経済への対応だ。 中国が国内の市場開放に応ずるだけでは受け身になる。外に乗り出してアジア太平洋に自由貿易圏(FTAAP)を作り、共存共栄を図り中国が中核的役割を担う、という戦略だ。 周小川・前中国人民銀行総裁ら経済改革派がこの路線を進めてきた、という。国際ルールを受け入れ、外圧をテコにして旧態依然の国内制度を変革するという狙いもあるようだ。 中国は2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟、国際ルールに沿う開放体制に取り組んできた。2010年代半には、WTO内のルール作りに参画するようになり、主要ポストに人材を送るようになった。今では「WTO改革」を主張する主要国である。 次に狙いを定めたのがRCEPだ。 ASEAN10カ国が2011年に提唱した地域の経済連携で、日本、韓国、中国が乗り出し「ASEAN+3」で協議が始まった。 中国の影響力が強まるのを警戒する日本はオーストラリア、ニュージーランド、インドを招き入れASEAN+6の枠組みに広げた。やがて人口で中国を抜くインドを加えて中国の力を薄めようとしたが、インドは経済自由化を一気に進めれば中国からの輸入や投資が急増することを恐れ途中で離脱。日本の思惑は空転した。 RCEPは昨年11月、最終合意にこぎつけ、15カ国が署名した。人口22億人超、GDPや貿易額で世界の3分の1を占める経済圏が来年1月に発効する。 ここにTPPを重ねればアジア太平洋に広がる巨大な共同市場が生まれる。 中国は、「米国の世界支配」は経済や軍事力だけでなく、国際機関や国境を越えたルール作りで発言権・指導力を持ち、米国に都合のいいルールを世界秩序にしていることにある、とみている。 論文は、TPP加入の狙いを「国際的なルールメイキングへの協力の強化、域外適用法制の整備による防衛体制の構築、という意図があり、2021年から25年にかけて、この動きを本格化しようという意図がうかがえる」(抜粋)と指摘している。 TPP加盟申請は「ちょっかいを出す」といったヤワなものではなく、パラダイムシフトを視野に置いた世界戦略というわけだ』、「TPP加盟申請は「ちょっかいを出す」といったヤワなものではなく、パラダイムシフトを視野に置いた世界戦略」、なるほど。これは手強そうだ。
・『中国が「抱える「3つの課題」 国有企業問題で指導部内に緊張関係 だが一方で、中国には「超えなければならない課題」が内在することは確かだ。 政府補助を受けている国有企業や労働慣行、電子商取引の3部門で「TPP基準をクリアできるか」という問題を抱えている。 中国の急成長を担ってきたのは民間企業だ。国有企業は雇用を吸収し、地域では欠かせない存在だが、非効率で、さまざまな政府支援によって支えられている。 TPPは国有企業への過剰な支援を禁止し、民間と対等な競争条件を求めている。 国有企業改革を巡っては、中国の指導部の中で「企業の公平性」を主張する改革派と、「国家の安定性」を重視する保守派の緊張関係が背後にある。「対等な競争条件」を急ぐと、政権内部の暗闘を招きかねない。 労働を巡る問題はさらに微妙だ。 TPPは、労働者が労働組合を選択できる自由を求めているが、中国では、労組の全てが中華全国総工会に加盟し統制を受けている。「労働組合の結成の自由」は共産党の指導体制とぶつかりかねない。「強制労働」が疑われる新疆ウイグル問題などの難題もある。 電子商取引では、中国はソフトウエアの鍵ともいえるソースコードの開示を求めたり、データの国外持ち出しなどを制限したりしている。TPPは当局による過剰な監視や統制を原則として認めていない。情報やデータは、国家の安全保障と絡むだけに問題は複雑だ』、「TPP基準」は多少弾力的にするべきだが、安易に緩めるべきではない。
・『「門前払い」が日本の役割? 排他性はTPPの価値を落とす RCEPの場合は、共同経済圏を創るため、例えば日本ならコメのように、各国が抱える国内調整が難しい品目を対象に例外規定を設けているが、TPPはより高いレベルの自由化を求めている。 中国を排除するために「厳しい自由化基準」を盾にすることもできる。 西村康稔経済再生担当相は「中国がTPPの極めて高いレベルのルールを満たす用意があるのか、しっかり見極める必要がある」。梶山弘志経産相も「全てのルールの受け入れを用意できているか、見極めが必要」と語った。 不参加の米国に忖度し日本が門前払いの役割を演ずるつもりのようだが、遠く離れた英国には加盟を認め、近隣の中国を排除すればTPPは経済圏としていうより政治ブロックへと変質するだろう。 中国が加盟するRCEPがまもなく誕生する中で、米国も中国もいないTPPは無用の長物になる恐れがある。排他性は自由な貿易や投資の経済圏をやせ細らせるだけだろう』、「遠く離れた英国には加盟を認め、近隣の中国を排除すればTPPは経済圏としていうより政治ブロックへと変質するだろう」、確かに重要なポイントだ。
・『経済より安全保障重視の危うさ 分断の象徴「QUAD」「AUKUS」 経済連携の時代は終わったのだろうか。 始まりはEU統合だった。国境を越えるヒト・モノ・カネが経済に活気を与え、相互に依存しあう国と国との関係は戦争を回避する平和の土台であることが確認された。 その流れはアジアに及び、アジア共同体構想などが模索され、APEC(アジア太平洋経済協力)ができた。米国が加わり21カ国・地域の大所帯になって、アジア共同体はかすんだ。 そして経済的な同盟として米国中心のTPPと中国を軸とするRCEPがそれぞれ生まれた。この20年、こうした地域の経済連携を軸にアジアは投資が集まり成長した。 流れを変えたのが、米中対立だ。 ビジネスを軸とする地域連携より、安全保障を優先する同盟関係が前面に出た。時代は、統合から分断へと動いている。 米国はアフガニスタンから軍を引き、カネと力を中国との競争へと注ぐ。相互依存を前提としたサプライチェーン(物流網)が見直され、デカップリングと呼ばれる「切り離し」があちこちで起きている。 さらに、日本、インド、オーストラリアを束ねQUAD(日米豪印協力)を立ち上げた。海洋安全保障を掲げ、インド洋で合同海洋演習を行い自衛艦が参加した。 24日、ワシントンで行われたQUAD首脳会議にはバイデン大統領が呼び集めた対面形式の会合に4首脳がそろい、中国とは名指しはしなかったが、対中国に対する連携強化を印象付けた。 もう一つの対中安全保障の枠組みは、「AUKUS」だ。 米英豪による軍事面の協力関係で、米英はオーストラリアに原子力潜水艦の技術を供与し、核を配備して中国牽制に当たらせるという挑発的な構想が明らかにされた。 アングロサクソンの軍事同盟である』、なるほど。
・『薄っぺらい「中国脅威論」 米中双方をいさめる役割を アジアは平和を前提とする経済連携から、一触即発の緊張をはらむ対中安全保障優先へと変わろうとしている。 そんな中でTPPも変質し、中国をブロックすることが日本に役目となろうとしている。アジア太平洋の経済的繁栄というTPPの大義はどこへ行ったのか。 「こういう時こそ、中国と腰を据えて向かい合い、TPP基準をクリアできる国内改革の後押しをする交渉が必要ではないか」。アジア・中国を見てきた経産省OBはいう。日本の国益は「平和な中で安定したビジネスを続けること」ではないのか。 対立を乗り越え、決裂を回避するのは、交渉相手と「人間としての信頼」が欠かせない。経済交渉でも外交でもそれは同じだ。信頼のパイプをどれだけ持っているか、その厚みが国家の安全保障でもある。 薄っぺらな中国脅威論は誰もが語るが、このままいけば日本は戦争に巻き込まれるかもしれない。世界は「経済連携」から「軍事ブロック」へと動いている。その危うさを感じてか、バイデン大統領や習近平主席も、電話首脳会談やファーウェイ問題の手打ちなど緊張緩和に動いている。 アジアでは来年1月にRCEPが動きだす。これからを遠望すれば、中国も米国も参加するアジア太平洋経済圏が望ましい。中国の加盟申請はチャンスだ。相互依存は平和の原点だ。バイデン大統領を説得して引き寄せる。忖度して「門前払い」が役割と心得るようではスケールが小さい。 日本は米中の間に入って、双方をいさめ説得する。それくらいの構想力のある政治家が現れてほしい。 自民党総裁選の後には総選挙がやってくる』、「中国も米国も参加するアジア太平洋経済圏が望ましい。中国の加盟申請はチャンスだ。相互依存は平和の原点だ。バイデン大統領を説得して引き寄せる。忖度して「門前払い」が役割と心得るようではスケールが小さい。 日本は米中の間に入って、双方をいさめ説得する。それくらいの構想力のある政治家が現れてほしい」、同感である。
先ずは、9月27日付けPRESIDENT Onlineが掲載した法政大学大学院 教授の真壁 昭夫氏による「「対中包囲網のはずが逆に乗っ取られる」中国がこのタイミングでTPP加盟を申請した狙い 日本は米国に早期復帰を求めるべき」を紹介しよう。
https://president.jp/articles/-/50292
・『中国、台湾が相次いで加盟を申請した背景は 9月16日、中国商務省は“環太平洋経済連携協定(TPP)”への加盟を、現在の事務国であるニュージーランドに正式に申請した。その背景には、中国が、日米豪印や欧州各国がインド太平洋地域での連携を強化する動きに揺さぶりをかける狙いがある。 一方、中国の加盟申請後の22日、台湾も加盟を正式に申請した。台湾は中国と対立している。両国の加盟申請によってTPP交渉は、中国・台湾の対立が持ち込まれ複雑化している。中国の申請によって、TPP加盟国の中に中国との関係を重視する国が増える可能性がある。それは、国際世論における台湾の発言力維持にマイナスだ。台湾はその展開への危機感を一段と強め、申請を急いだとみられる。 本来、米国のバイデン政権はTPPへの復帰を目指して、自由で公正な貿易、投資、競争に関する多国間連携の強化に取り組むべきだった。しかし、トランプ前政権の離脱以降、米国の対TPP姿勢がはっきりしない。中間選挙を控える中、バイデン政権が多国間の経済連携にエネルギーを振り向けることも難しい。 その状況下、本年のTPP議長国であるわが国は、是々非々の姿勢を明確に示してTPPの根本的な目的とルールを加盟国、米欧各国などと共有し、今後の交渉議論の環境を整えなければならない』、「中国」外交は実に巧みだ。
・『もともとは米国による”対中包囲網“だったが… もともと、TPPの目的は米国を中心にした中国包囲網の形成にあった。時系列で米国の対中姿勢を確認すると、2013年に米オバマ政権(当時)の国家安全保障担当大統領補佐官だったスーザン・ライス氏が米中の“新しい大国関係”を機能させる考えを表明した。それが中国に南シナ海での軍事拠点の建設など対外進出を強化する口実を与えたと考える安全保障などの専門家は多い。その後、フィリピンやベトナムなどが領有権をめぐって中国と対立し始めた。 中国の対外進出に直面したオバマ政権は、対中包囲網の整備に動いた。その象徴がTPPだ。オバマ政権はTPP交渉をより重視し、関税の撤廃、知的財産の保護、国有企業に関する補助金政策などに関して加盟国間でルールを統一し、より効率的、かつ公正な経済面での多国間連携を目指した。政府調達に関する内外企業の差別を原則認めないこともTPPに含められた。 米国にとってTPPは、経済を中心に安全保障面からも対中包囲網を整備し、自国を基軸国家として経済のグローバル化を進め、そのベネフィットを得るための取り組みだったのだ』、「オバマ政権のスーザン・ライス氏が米中の“新しい大国関係”を機能させる考えを表明した。それが中国に南シナ海での軍事拠点の建設など対外進出を強化する口実を与えた」、「中国の対外進出に直面したオバマ政権は、対中包囲網の整備に動いた。その象徴がTPPだ」、「オバマ政権」の対中政策のブレは酷いものだったと改めて思い出した。
・『なぜこのタイミングでの申請だったのか ところが、2017年1月に事態は一変した。トランプ前大統領がTPP離脱を表明した。それによって米国を基軸とする経済、安全保障面からの対中包囲網というTPPの性格は弱まった。その後、2020年11月に中国の習近平国家主席がTPP加盟を積極的に検討すると表明した。 TPPから離脱した米国は、日豪印との外交・安全保障の枠組みである“クアッド”を整備した。9月15日には、英豪と新しい安全保障の枠組みである“AUKUS(オーカス)”も創設した。 その直後に中国はTPP加盟を正式に申請することによって、安全保障面、外交、経済面で米国との関係を重視するアジア各国などに、自国の巨大な市場を開放する姿勢を示して揺さぶりをかけたい。マレーシアやシンガポールが中国の加盟申請を歓迎したのは、中国の影響力の大きさを示している。その上、9月22日には台湾がTPP加盟を正式に申請した。今、TPPは大きな変化の局面を迎えている』、「中国はTPP加盟を正式に申請することによって、安全保障面、外交、経済面で米国との関係を重視するアジア各国などに、自国の巨大な市場を開放する姿勢を示して揺さぶりをかけたい」、心難いばかりに巧みな外交だ。米国のお粗末な外交と好対照だ。
・『市場開放の姿勢を国際世論に印象付けたい 中国と台湾の対立は深まっている。イメージとしては、緊迫感が高まる台湾海峡のように、TPPは中国と台湾の対立激化の縮図と化している。 経済運営面から考えたTPPの意義は、多国間で競争などのルールを統一し、より効率的な生産要素の再配分を目指すことだ。しかし、中国が最も重視することは違う。それは、共産党政権の体制維持だ。そのために中国はTPP加盟申請によって国際世論を揺さぶりたい。 中国は思慮深く9月16日の申請タイミングを見定めたと考えられる。中国は簡単にTPP加盟が承認されるとは考えていないはずだ。それよりも、中国はTPP陣内に対中批判の考えを持つ国が増える前に申請を行い、切り崩しを図りたかった。 AUKUS創設の翌日である9月16日の申請は、中国が米国に対抗し、市場開放を進める姿勢を、より鮮明に国際世論に印象付けることに役立つだろう。また、その日は台湾の正式な申請前でもあった。米国の同盟国であるわが国の議長国としての任期も残り少ない。2022年には中国を歓迎したシンガポールがTPP議長国につく。国際世論に揺さぶりをかける、その上で2022年以降のTPP交渉環境を追い風にするために、9月16日はベストなタイミングとの判断が習政権にあったはずだ』、確かに「ベストなタイミング」での申請だ。
・『TPPが新たな中台対立の舞台に その結果、台湾は中国に先を越された。蔡英文政権が対中関係を重視する国が増える展開への不安をいっそう強めたことは容易に想像できる。中国がTPP加盟国を揺さぶり、結果的に切り崩される国が増えれば、国際社会の中で台湾の立場は一段と不安定化する恐れがある。その展開を阻止するために、台湾は急いで申請作業を進めただろう。台湾には、半導体分野などで連携を強化するわが国が議長国であるうちに申請し、今後の加盟交渉を勢いづける狙いもある。 今後、中国は経済面での結びつきが強い国に働きかけ、台湾との交渉に慎重に臨む、あるいは避けるよう求めるだろう。それに台湾は反発するだろう。対立が激化する中国と台湾が国際世論への働きかけを強める結果、TPP加盟国が経済運営ルールの統一と遵守などに論点を集中して加盟交渉に臨むことは難しくなるだろう』、「台湾」が「中国に先を越された」のは、重大な手落ちだ。
・『議長国日本は是々非々の姿勢で臨むべき 中国と台湾の対立が持ち込まれた結果、TPPは複雑化した。複雑化するTPPの論点を経済・安全保障面からの対中包囲網の整備に再度集中させるには、米国のTPP復帰が必要だ。今後のTPPの展開には、米国の復帰の可能性が高まるか否かが決定的な影響をもたらすだろう。 そのために、わが国は議長国としての残り少ない任期を活かすべきだ。わが国は議長国として多様な利害を調整しておかなければならない。ポイントは、TPPの当初の目的に基づき、全加盟国が合意したルールを堅持しなければならないという是々非々の姿勢をわが国が明確に国際世論に示し、賛同を増やすことだ。それは、今後のTPP交渉が議論される大まかな道筋を示すことと言い換えてもよい。台湾はそうした展開を期待しているだろう。 今後、中国は産業補助金など共産党政権の体制維持に関わる項目に関して、例外事項をTPP加盟国に認めさせようとするだろう。コロナ禍によって経済が傷ついたアジアや南米の新興国にとっても、例外措置の導入は魅力的に映る可能性がある』、「わが国は議長国としての残り少ない任期を活かすべきだ。わが国は議長国として多様な利害を調整しておかなければならない。ポイントは、TPPの当初の目的に基づき、全加盟国が合意したルールを堅持しなければならないという是々非々の姿勢をわが国が明確に国際世論に示し、賛同を増やすことだ」、その通りだ。
・『米国の復帰を求め続けなければならない ただし、TPP加盟交渉は全会一致でなければ正式に開始されない。オーストラリアやわが国の存在を考えると、中国の揺さぶりがすぐにうまくいくとは考えにくい。しかしながら、やや長めの目線で考えると、マレーシア、来年の議長国のシンガポールなどの歓迎姿勢によってTPPのルールや制度が変化、弱体化する恐れはある。 そうした展開を念頭に、わが国は中国が求めるだろう例外事項の設定を受け入れない姿勢を明確に国際世論に示す。その上で、既存の加盟国にとどまらず、世界経済のサプライチェーンと成長面で重要性が増すアジア新興国、米国、欧州各国などとTPPの意義を共有すべく連携を目指す。それはTPPの目的とルールの堅持と、それを尊重する加盟申請国との交渉進行を支える。 それに加えて、わが国はバイデン政権や米国の経済界にTPPの意義を伝え、復帰を求め続けなければならない。それが経済、安全保障面からの対中包囲網や加盟国の競争、雇用などのルール統一というTPP本来の目的の発揮と、中長期的なわが国経済の安定と実力の向上に欠かせない』、「わが国はバイデン政権や米国の経済界にTPPの意義を伝え、復帰を求め続けなければならない。それが経済、安全保障面からの対中包囲網や加盟国の競争、雇用などのルール統一というTPP本来の目的の発揮と、中長期的なわが国経済の安定と実力の向上に欠かせない」、その通りだ。
次に、9月29日付けダイヤモンド・オンラインが掲載したジャーナリストの山田厚史氏による「中国のTPP加盟申請は本気、議長国日本の役割は「門前払い」か」を紹介しよう。
・『中国、台湾が相次いでTPP加盟を申請 環太平洋経済連携協定(TPP)に中国が正式に加盟を申請した。 音頭とった米国が国内の風向きが変わって離脱。主役不在の間隙を突く中国の動きに議長国・日本はうろたえる。 中国の動きを見て台湾も加盟を申請し一段と対応は難しくなった。 「中国にTPPは無理だ」「米国を牽制する政治的アクションではないか」などと本気度を疑う見方が少なくないが、自ら主導してRCEP(地域的な包括的経済連携協定)とTPPを合体させ、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)へと発展させる大きな戦略があるという。 アジア太平洋を舞台に、自由貿易よりも中国封じ込めを狙った安全保障の枠組み作りが進む中で、地域の安定を考えればTPPで中国を「門前払い」をすることが得策なのかどうか。 国内に目を向ければ、自民党総裁選ではどの候補からも骨太なアジア太平洋戦略は聞こえてこない。米中の間で日本はどう針路を取るのか。新政権には待ったなしの課題のはずだ』、「自民党総裁選ではどの候補からも骨太なアジア太平洋戦略は聞こえてこない」、寂しい限りだ。
・『日本は「真剣に受け止めていない」 政府系の中国研究者が警告 中国が「TPP加盟申請」を発表する直前、日本政府に警鐘を鳴らす論文が発表されていた。 「中国のCPTPP参加意思表明の背景に関する考察」(9月11日)と題して、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)の政策レポートに載った40ページの論文だ。 「中国側の本気度とTPP枠組みを主導した日米の受け止め方には落差がある」と冒頭から問題を提起。「TPP枠組みの要求する内容は中国の体制と矛盾する項目が多いと考えられているため、実現の可能性が極めて低いアクションであるという予見があり、真剣に受け止めていない印象がある」と、政府のゆるい姿勢に疑問符を投げかけた。 RIETIは経産省の外郭団体、筆者は中国経済を専門とする渡辺真理子学習院大教授ら4人で、TPP参加へと動く中国の真意や問題点を分析している。 習近平主席が昨年11月、「TPP加盟を積極的に検討する」と表明したとき、政府もメディアも半信半疑だった。 「閉鎖的で統制だらけの中国がTPPに加入するのは難しい」「日米主導で進むアジアでの貿易や投資の枠組み作りに揺さぶりをかけているのだろう」という見方が支配的だった。 RIETI論文は、こうした見方を退け、「オバマ大統領がTPP12の締結に動き始めると、中国は独自のイニシアティブをスタートすると同時に、米国の動きに沿うような調整も行う、二面作戦に出ていた」と指摘。 TPPに対して入念な準備作業を進めてきた中国の取り組みを紹介している』、「TPPに対して入念な準備作業を進めてきた中国の取り組みを紹介」、初めからヘソを曲げていたと思っていたが、「二面作戦」で「入念な準備作業を進めてきた」とは初めて知った。
・『アジア太平洋の自由貿易圏作り 外圧テコに国内改革目指す 「独自のイニシアティブ」とは一帯一路構想だ。中央アジア・中東から欧州へと進む膨張政策である。 そしてもう一つの「米国の動きに沿うような調整」は、自由貿易・開放経済への対応だ。 中国が国内の市場開放に応ずるだけでは受け身になる。外に乗り出してアジア太平洋に自由貿易圏(FTAAP)を作り、共存共栄を図り中国が中核的役割を担う、という戦略だ。 周小川・前中国人民銀行総裁ら経済改革派がこの路線を進めてきた、という。国際ルールを受け入れ、外圧をテコにして旧態依然の国内制度を変革するという狙いもあるようだ。 中国は2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟、国際ルールに沿う開放体制に取り組んできた。2010年代半には、WTO内のルール作りに参画するようになり、主要ポストに人材を送るようになった。今では「WTO改革」を主張する主要国である。 次に狙いを定めたのがRCEPだ。 ASEAN10カ国が2011年に提唱した地域の経済連携で、日本、韓国、中国が乗り出し「ASEAN+3」で協議が始まった。 中国の影響力が強まるのを警戒する日本はオーストラリア、ニュージーランド、インドを招き入れASEAN+6の枠組みに広げた。やがて人口で中国を抜くインドを加えて中国の力を薄めようとしたが、インドは経済自由化を一気に進めれば中国からの輸入や投資が急増することを恐れ途中で離脱。日本の思惑は空転した。 RCEPは昨年11月、最終合意にこぎつけ、15カ国が署名した。人口22億人超、GDPや貿易額で世界の3分の1を占める経済圏が来年1月に発効する。 ここにTPPを重ねればアジア太平洋に広がる巨大な共同市場が生まれる。 中国は、「米国の世界支配」は経済や軍事力だけでなく、国際機関や国境を越えたルール作りで発言権・指導力を持ち、米国に都合のいいルールを世界秩序にしていることにある、とみている。 論文は、TPP加入の狙いを「国際的なルールメイキングへの協力の強化、域外適用法制の整備による防衛体制の構築、という意図があり、2021年から25年にかけて、この動きを本格化しようという意図がうかがえる」(抜粋)と指摘している。 TPP加盟申請は「ちょっかいを出す」といったヤワなものではなく、パラダイムシフトを視野に置いた世界戦略というわけだ』、「TPP加盟申請は「ちょっかいを出す」といったヤワなものではなく、パラダイムシフトを視野に置いた世界戦略」、なるほど。これは手強そうだ。
・『中国が「抱える「3つの課題」 国有企業問題で指導部内に緊張関係 だが一方で、中国には「超えなければならない課題」が内在することは確かだ。 政府補助を受けている国有企業や労働慣行、電子商取引の3部門で「TPP基準をクリアできるか」という問題を抱えている。 中国の急成長を担ってきたのは民間企業だ。国有企業は雇用を吸収し、地域では欠かせない存在だが、非効率で、さまざまな政府支援によって支えられている。 TPPは国有企業への過剰な支援を禁止し、民間と対等な競争条件を求めている。 国有企業改革を巡っては、中国の指導部の中で「企業の公平性」を主張する改革派と、「国家の安定性」を重視する保守派の緊張関係が背後にある。「対等な競争条件」を急ぐと、政権内部の暗闘を招きかねない。 労働を巡る問題はさらに微妙だ。 TPPは、労働者が労働組合を選択できる自由を求めているが、中国では、労組の全てが中華全国総工会に加盟し統制を受けている。「労働組合の結成の自由」は共産党の指導体制とぶつかりかねない。「強制労働」が疑われる新疆ウイグル問題などの難題もある。 電子商取引では、中国はソフトウエアの鍵ともいえるソースコードの開示を求めたり、データの国外持ち出しなどを制限したりしている。TPPは当局による過剰な監視や統制を原則として認めていない。情報やデータは、国家の安全保障と絡むだけに問題は複雑だ』、「TPP基準」は多少弾力的にするべきだが、安易に緩めるべきではない。
・『「門前払い」が日本の役割? 排他性はTPPの価値を落とす RCEPの場合は、共同経済圏を創るため、例えば日本ならコメのように、各国が抱える国内調整が難しい品目を対象に例外規定を設けているが、TPPはより高いレベルの自由化を求めている。 中国を排除するために「厳しい自由化基準」を盾にすることもできる。 西村康稔経済再生担当相は「中国がTPPの極めて高いレベルのルールを満たす用意があるのか、しっかり見極める必要がある」。梶山弘志経産相も「全てのルールの受け入れを用意できているか、見極めが必要」と語った。 不参加の米国に忖度し日本が門前払いの役割を演ずるつもりのようだが、遠く離れた英国には加盟を認め、近隣の中国を排除すればTPPは経済圏としていうより政治ブロックへと変質するだろう。 中国が加盟するRCEPがまもなく誕生する中で、米国も中国もいないTPPは無用の長物になる恐れがある。排他性は自由な貿易や投資の経済圏をやせ細らせるだけだろう』、「遠く離れた英国には加盟を認め、近隣の中国を排除すればTPPは経済圏としていうより政治ブロックへと変質するだろう」、確かに重要なポイントだ。
・『経済より安全保障重視の危うさ 分断の象徴「QUAD」「AUKUS」 経済連携の時代は終わったのだろうか。 始まりはEU統合だった。国境を越えるヒト・モノ・カネが経済に活気を与え、相互に依存しあう国と国との関係は戦争を回避する平和の土台であることが確認された。 その流れはアジアに及び、アジア共同体構想などが模索され、APEC(アジア太平洋経済協力)ができた。米国が加わり21カ国・地域の大所帯になって、アジア共同体はかすんだ。 そして経済的な同盟として米国中心のTPPと中国を軸とするRCEPがそれぞれ生まれた。この20年、こうした地域の経済連携を軸にアジアは投資が集まり成長した。 流れを変えたのが、米中対立だ。 ビジネスを軸とする地域連携より、安全保障を優先する同盟関係が前面に出た。時代は、統合から分断へと動いている。 米国はアフガニスタンから軍を引き、カネと力を中国との競争へと注ぐ。相互依存を前提としたサプライチェーン(物流網)が見直され、デカップリングと呼ばれる「切り離し」があちこちで起きている。 さらに、日本、インド、オーストラリアを束ねQUAD(日米豪印協力)を立ち上げた。海洋安全保障を掲げ、インド洋で合同海洋演習を行い自衛艦が参加した。 24日、ワシントンで行われたQUAD首脳会議にはバイデン大統領が呼び集めた対面形式の会合に4首脳がそろい、中国とは名指しはしなかったが、対中国に対する連携強化を印象付けた。 もう一つの対中安全保障の枠組みは、「AUKUS」だ。 米英豪による軍事面の協力関係で、米英はオーストラリアに原子力潜水艦の技術を供与し、核を配備して中国牽制に当たらせるという挑発的な構想が明らかにされた。 アングロサクソンの軍事同盟である』、なるほど。
・『薄っぺらい「中国脅威論」 米中双方をいさめる役割を アジアは平和を前提とする経済連携から、一触即発の緊張をはらむ対中安全保障優先へと変わろうとしている。 そんな中でTPPも変質し、中国をブロックすることが日本に役目となろうとしている。アジア太平洋の経済的繁栄というTPPの大義はどこへ行ったのか。 「こういう時こそ、中国と腰を据えて向かい合い、TPP基準をクリアできる国内改革の後押しをする交渉が必要ではないか」。アジア・中国を見てきた経産省OBはいう。日本の国益は「平和な中で安定したビジネスを続けること」ではないのか。 対立を乗り越え、決裂を回避するのは、交渉相手と「人間としての信頼」が欠かせない。経済交渉でも外交でもそれは同じだ。信頼のパイプをどれだけ持っているか、その厚みが国家の安全保障でもある。 薄っぺらな中国脅威論は誰もが語るが、このままいけば日本は戦争に巻き込まれるかもしれない。世界は「経済連携」から「軍事ブロック」へと動いている。その危うさを感じてか、バイデン大統領や習近平主席も、電話首脳会談やファーウェイ問題の手打ちなど緊張緩和に動いている。 アジアでは来年1月にRCEPが動きだす。これからを遠望すれば、中国も米国も参加するアジア太平洋経済圏が望ましい。中国の加盟申請はチャンスだ。相互依存は平和の原点だ。バイデン大統領を説得して引き寄せる。忖度して「門前払い」が役割と心得るようではスケールが小さい。 日本は米中の間に入って、双方をいさめ説得する。それくらいの構想力のある政治家が現れてほしい。 自民党総裁選の後には総選挙がやってくる』、「中国も米国も参加するアジア太平洋経済圏が望ましい。中国の加盟申請はチャンスだ。相互依存は平和の原点だ。バイデン大統領を説得して引き寄せる。忖度して「門前払い」が役割と心得るようではスケールが小さい。 日本は米中の間に入って、双方をいさめ説得する。それくらいの構想力のある政治家が現れてほしい」、同感である。
タグ:TPP問題 (10)(「対中包囲網のはずが逆に乗っ取られる」中国がこのタイミングでTPP加盟を申請した狙い 日本は米国に早期復帰を求めるべき、中国のTPP加盟申請は本気 議長国日本の役割は「門前払い」か) PRESIDENT ONLINE 真壁 昭夫 「「対中包囲網のはずが逆に乗っ取られる」中国がこのタイミングでTPP加盟を申請した狙い 日本は米国に早期復帰を求めるべき」 「中国」外交は実に巧みだ。 「オバマ政権のスーザン・ライス氏が米中の“新しい大国関係”を機能させる考えを表明した。それが中国に南シナ海での軍事拠点の建設など対外進出を強化する口実を与えた」、「中国の対外進出に直面したオバマ政権は、対中包囲網の整備に動いた。その象徴がTPPだ」、「オバマ政権」の対中政策のブレは酷いものだったと改めて思い出した。 「中国はTPP加盟を正式に申請することによって、安全保障面、外交、経済面で米国との関係を重視するアジア各国などに、自国の巨大な市場を開放する姿勢を示して揺さぶりをかけたい」、心難いばかりに巧みな外交だ。米国のお粗末な外交と好対照だ。 確かに「ベストなタイミング」での申請だ。 「台湾」が「中国に先を越された」のは、重大な手落ちだ。 「わが国は議長国としての残り少ない任期を活かすべきだ。わが国は議長国として多様な利害を調整しておかなければならない。ポイントは、TPPの当初の目的に基づき、全加盟国が合意したルールを堅持しなければならないという是々非々の姿勢をわが国が明確に国際世論に示し、賛同を増やすことだ」、その通りだ。 「わが国はバイデン政権や米国の経済界にTPPの意義を伝え、復帰を求め続けなければならない。それが経済、安全保障面からの対中包囲網や加盟国の競争、雇用などのルール統一というTPP本来の目的の発揮と、中長期的なわが国経済の安定と実力の向上に欠かせない」、その通りだ。 ダイヤモンド・オンライン 山田厚史 「中国のTPP加盟申請は本気、議長国日本の役割は「門前払い」か」 「自民党総裁選ではどの候補からも骨太なアジア太平洋戦略は聞こえてこない」、寂しい限りだ。 「TPPに対して入念な準備作業を進めてきた中国の取り組みを紹介」、初めからヘソを曲げていたと思っていたが、「二面作戦」で「入念な準備作業を進めてきた」とは初めて知った。 「TPP加盟申請は「ちょっかいを出す」といったヤワなものではなく、パラダイムシフトを視野に置いた世界戦略」、なるほど。これは手強そうだ。 「TPP基準」は多少弾力的にするべきだが、安易に緩めるべきではない。 「遠く離れた英国には加盟を認め、近隣の中国を排除すればTPPは経済圏としていうより政治ブロックへと変質するだろう」、確かに重要なポイントだ。 「中国も米国も参加するアジア太平洋経済圏が望ましい。中国の加盟申請はチャンスだ。相互依存は平和の原点だ。バイデン大統領を説得して引き寄せる。忖度して「門前払い」が役割と心得るようではスケールが小さい。 日本は米中の間に入って、双方をいさめ説得する。それくらいの構想力のある政治家が現れてほしい」、同感である。
2021-10-04 18:03
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